追加戦士になりたくない黒騎士くん (クロカタ)
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第一部
追加戦士にされたくない


キョロ (・.・ )( ・.・) キョロキョロ

……よし。

約4年ぶりのハーメルンでの投稿になります。

いつのまにか色々な技術が増えて、ちょっぴり実践してみたいと思いオリジナルの短編という形で投稿いたします。

注意:ネタ要素多めです。
追記:いつの間にか長編になっていました。
追記2:流れるコメント作り直しました(2023/09/15)


 俺はワルモノだ。

 子供の頃に色々あって、このクソッたれな世の中と、能天気に生きているやつらの横っ面に蹴りをいれるために生きてきた。

 研究所で破棄されるはずだった変身スーツを盗んだ後は、それを身に着けてさんざん悪いことをしてきたものだ。

 

 だが、この平和な世の中に生きてるやつらもただでやられているわけでもなかった。

 危険な怪人を作り出す妙な組織が現れはじめたことで、政府も妙な組織を作ったのだ。

 

「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」

「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」

「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」

 

「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」

 

 と、まあ、こんな口に出すのも恥ずかしい登場台詞を何回も決める戦隊ヒーローじみた変態共だ。

 どこのニチアサだ。

 なんで全員女なんだ。

 男女比崩壊どころの騒ぎじゃないぞ!

 どうせなら仮面ライダーにしてほしかったわ!

 

 だが、怪人という存在が現れ、不安定になっている今の社会へのアピールもあったのだろう。

 グッズも売られたし、色々と特集もされていたりしていた。

 俺としてはそんなふざけた奴らに負けるはずがないと思っていたが、これがどうも中々に強かった。

 一対一なら、俺の方が強かったが奴らは三人集まると俺と互角かそれ以上の強さになるのだ。

 

 で、結局俺は最後の最後にそいつらに負けた。

 

 別組織のボス、というより怪人を打倒したあと、正真正銘の最後の戦いを繰り広げた末に俺は、ジャスティス連中に敗北したのだ。

 そこで俺は自ら持参した自爆装置で死ぬはずだった。

 ……死ぬ、はずだったのだが―――、

 

「くっ! 俺を殺せ!!」

「えぇ、なんで?」

 

 どういうことか俺は、ある施設の部屋に閉じ込められていた。

 俺の前には、赤い髪をポニーテイルにさせた女がおり、椅子に座りながらさっきからこっちを笑顔で見ている。

 そう、俺は捕まってしまったのだ。

 用意した爆弾も自称理系のブルーがあっさり解除しやがった。

 その後は他の捕獲された怪人たちと同じように、監獄へ送られるかと思ったが、俺が閉じ込められたのはもっとおかしなところだった。

 

「どうして俺を拘束してないんだ!!」

「必要ないでしょ? 無抵抗の人には攻撃しないのは分かってるし」

「ぐ、ぐぅぅ……!」

 

 しかも拘束すらもしてないとは危機管理が杜撰すぎるだろ。

 いっつも独房に遊びにくる感覚で来てるんだぞ、こいつ……!? 誰かこいつに俺が犯罪者だって教えてやってくれよ……!

 

「俺をこんなところに閉じ込めてなにが目的だ! レッド!!」

「何度も言ってるでしょー。貴方を仲間にするために決まってんじゃん。あと、レッドじゃなくて私は新坂(あらさか) 朱音(あかね)。アカネって呼んでくれると嬉しいな」

「誰が呼ぶか!! 友達か!!」

「私は友達だと思ってるけど」

 

 少なくとも戦友と呼べる期間はあったが友達だった時はない。

 俺の悪態に微笑ましい様子で受け流した彼女は人差し指を立てる。

 

「私が名前で呼ぶから、カツミくん」

「ふざけんな! 俺は許可してないぞ!!」

「じゃあ、ブラックナイト? 黒騎士? それとも本名の穂村克己くん?」

「くっ……!」

 

 にやにやと俺のヴィランとしての名を出すレッド。

 捕まったせいで俺の身元は完全にバレてしまっている。

 報道で俺の本名が出ている訳ではないのが、幸いだが……。

 

「そもそも、どうして俺を監獄に送らないんだ!!」

「……えっ」

 

 そんなこと言われるとは思っていなかった、といいたげな顔をしたレッドは数秒ほど思考した後に明るい笑顔を浮かべる。

 

「だって君、いいやつじゃん」

なんでそんなこというんだよ……

 

 混じり気のない本音に思わずか細くなった声が震える。

 おかしいだろ。

 なんでこいつこんな目で見てくるの?

 

「え! だって、前にビルが倒壊したときは私達と一緒に助けてくれたし」

「それはお前らとの戦いに横やりをいれられて、仕方なく共闘しただけだ。勘違いするな」

 

 本気の戦いに水を差された上に、ビルまで爆破するとは。

 口には出さないが、あの周辺には行きつけの弁当屋があったのだ。

 俺の食生活のためには失ってはいけない場所だった。

 

「敵の強化怪人に負けそうになったときは助けてくれたし」

「お前らを倒すのはこの俺だからな」

 

 というより、あの程度のやつに負ける方がどうかしてる。

 一時は我がライバルの弱さに呆れたほどだ。

 

「そもそも私達が出る前まで一般人を守ってくれたのは君じゃん」

「なんでそんなことしなくちゃならないんだ。俺はただ襲い掛かってくるアホな連中を倒してただけだ」

「うんうん」

 

 だいたい、なんであの組織のやつら率先して俺ばかりを狙ってくるんだよ。

 ワルモノなら味方とは言わないが同業者みたいなもんだろ。

 本当に意味が分からん。

 

「イエローの弟くんと妹ちゃんのこと守ってくれたし」

「ふん、成り行きだ。そうでなくてはなんであんな京都弁と大阪弁をはき違えた似非関西弁の身内など守るか」

 

 あの時はクソガキ共がわらわら近づいてきてどれほど面倒だったか。

 クソ、俺の財布の中身を根こそぎ奪いやがって。

 次会った時は覚悟してほしいものだ。

 

「俺の両親は小さい頃に死んだ」

「君、突然そういう反応に困ることを言うよね」

「だから俺と同じ子供を増やすとか……なんか、違うだろ」

 

 俺がしたいのはそういうやつじゃないんだよ……!

 

「やっぱいい人じゃん」

「美学を持っているんだよ!!! ぶっ殺すぞ!!」

「きゃー」

 

 わざとらしく悲鳴をあげたレッドに息を乱す。

 こ、こいつ……! なんでもかんでもいい人判定くれやがって……!

 

「そもそも私達、同じ学校だよね?」

「あれは世を忍ぶ仮の姿だ。それにもう俺は退学してる」

「ううん、休学中だよ?」

「えっ、嘘……」

 

 なんで休学中なの?

 俺、捕まったから普通退学だよな?

 

「ほら、いい人!」

「いや、なんでだ」

 

 とんでも理論すぎる。

 マジでこいつ頭がおかしいんじゃないのか?

 

「ねえねえ、仲間になろうよぉー。なっちゃいなよぉー」

「嫌だ! お前らの仲間になるくらいなら死を選んだ方がマシだ!! 死ね!!」

「こらっ! そんな言葉は安易に使っちゃ駄目だよ!」

 

 普通に怒られた。

 あれ、同い年だよな?

 

「ハッ、しかし残念だったな。仮に、仮に俺がお前らの仲間になったとしてこの社会は認めるかどうかな!?」

 

 どちらにせよ俺の評価は悪人から揺らぐことはない。

 そんな気持ちも込めて言い放つと、レッドはおもむろに部屋に備え付けられているパソコンを手に取り、カタカタと操作し、それを俺に見せてくる。

 

「え、じゃあ、見てみなよ。君、一般人からもワルモノとして見られてないよ」

「ハッ、バカだろお前。さんざん破壊活動をしてきた俺がそんな目で見られていないはずが―――」

 

 出されたサイトは、ニムニム動画か。

 えーと、動画名は《皆で見る黒騎士くんの活躍》。

 動画を開くやいなや、特殊なスーツに身を包んだ俺の姿と、コメントが流れてくる。

 

 

✕▶

くそわろたw  悪ぶっているけどなんだかんだで助けてくれる人だ
時代が追い付いた檀黎斗

あ、光堕ちした黒騎士君だ さっさと正義の味方に堕ちて♡

LOVE&PEACE勢エボルト

意見を聞いてくれるスウォルツ

反省のできる天津垓

あ、悪ぶってる人だ
 黒騎士くーん!  怒涛の色文字に草

II
00:12/9:64

 

 

「お前らの世界がおかしい」

「もう、照れちゃって。可愛いなぁ」

 

 照れてはいない。

 絶望はしているけれども。

 

「それにツムッターも」

 

 続けてパソコンを操作した奴がツムッターの画面を見せてくる。

 なに、なぜ《黒騎士》がトレンド化しているんだ……!?

 ありえん、どういうことだ?!

 なにか悪い夢でも見ているのか俺は……!?

 得体のしれない恐怖に包まれながらも、俺は震える指でトレンドの黒騎士をクリックする。

 

レッド@戦隊ヒーロー

@@AKARED_JCAKR

X月X日

#黒騎士くん

#面会

#という名の勧誘

今から黒騎士くんの面会いってきまーす!

今日はどういうお話が聞けるのかなー。

とっても楽しみ!

156 

aa4554a

♡ 99672

aa a

イエロー@戦隊ヒーロー

@Huthu_JCYE

X月X日

返信先 レッド@戦隊ヒーロー活動中

お買い物行ったら、私もいくでー

 

aaa

♡4323

aa a

ブルー@戦隊ヒーロー

@Rikei_JCBE

X月X日

返信先 レッド@戦隊ヒーロー活動中

自主訓練後に向かいます(`・ω・´)ゞ

 

aaa

♡ 2344

aa a

 

 

 

「お前らのせいじゃねぇか!!」

「うん!!」

「嬉しそうにするな!?」

 

 すっげぇ力強い頷きだな!

 なぜ面会なのにこんな嬉しそうなんだよ、こいつは。

 しかもこの流れだと、イエローもブルーもくるじゃん!

 

「それにほら、君のスレもたくさん乱立してるし」

「やめろ! 見せなくてもいい!!」

「そう? 面白いのになぁ」

 

 残念そうにしながらパソコンを元の位置に戻すレッド。

 世間一般の認識がおかしいだけで、俺はおかしくなんかないはずだ。

 

「報道だって、俺が捕まって喜んでたじゃねぇか……!」

「あ、それ。多分、やっと公式な立場で活動してくれるから喜んでいるんだと思うよ」

「チクショウ!!」

 

 頭を抱えるしかない。

 どうしてこんなことになった!?

 

「大体、俺はお前らに負けてここに捕まってんだぞ!!」

 

 そう、俺が今いるのは収容所。

 しかしただの収容所ではない。

 ここは、ジャスティスクルセイダーの本部なのだ。

 そこの地下の特別監視室で、俺は囚われているのだ。

 

「だって、しょうがないじゃん。カツミ君、ずっと旧式のチェンジャー使ってたんでしょ? あれ、私達の使う最新式よりも格段に性能が低いのに、装着者への負担がものすごいやつなんだよ?」

「だからどうした」

「君の身体は、ボロボロのはずだったんだもん。なのに頑張って捕まえてみたら全然平気ってどういうこと? 君を助けるために、本当の本当に辛い思いをしてボコボコにしてやったのにさ……」

「少しくらい罪悪感とか感じないのかな……?」

 

 なんでこの女、ものすごく沈痛な顔して凄まじいことを口にしているのだろうか。

 しかし、全然気にしたことはなかった。

 だから、戦闘中に「それを使うのはやめてー!」とか「死にたいの!?」って言われていたのか……。

 

「それに、君ってヒーローの素質あるし!」

「ふざけんな」

「もう、口ではそんなつんけんしちゃってさー」

 

 マジで無敵かこいつ。

 全く口喧嘩とかで勝てる気がしないんだけど。

 

「おいーっす、きたでー」

「おじゃまします」

 

 そうこうしているうちに、俺の閉じ込められている部屋にものすごく気軽な様子で二人の少女が入ってくる。

 見るからにそれっぽい、青みがかった黒髪のボブカットの少女と、三つ編みの髪の茶髪の少女だ。

 

「来やがったか……! ブルー、イエロー!!」

「ブルーじゃない。日向 葵(ひなた あおい)

「あんたも分からんやつな。私はイエローじゃなくて、天塚 きららって名前があるの。いい加減覚えてくれぇや」

 

 むすっとした顔でそう言い返してくるブルーと、呆れた顔のイエロー。

 ブルーはともかくとして、イエローの顔にイラっとした俺は、とりあえず煽ることにする。

 

「うるせえ、似非関西弁が! キャラ個性のつもりだろうが、それ全然下手くそだからな!」

「なんでそんなこというの!? 酷くない!?」

 

 こいつになら口喧嘩で勝てる。

 レッドとブルーは、なんというか真正面から攻撃が吸収されているような感じがするので苦手だ。

 

「きららは普段はちゃんと喋ってるよ。変になるのは変身してる時と、君に会う時だけど」

「葵!?」

「やっぱ無理に個性出してんじゃん」

「う、うるさいよぉ!!」

 

 まさか本当にキャラ付けとは思わなかった。

 あれか、正体を隠すためとかそういう感じか。

 意外によく考えててびっくりしたぜ……。

 

「まあまあまあ、落ち着いて」

 

 イエローと俺を窘めたレッドは、椅子を用意しながら俺へと話しかけてくる。

 

「ここまで君がワルモノではないと言ってきたわけだけどさ。世間的には君は犯罪者なんだよ」

「当然だな。むしろそうでなくちゃ困る」

 

 いくら勘違いされてもそれは変わらない。

 なにせ、俺はスーツのプロトタイプを盗んだし、それを無断で着用した危険人物だからな。

 

「でも君は一般人からも人気があるの。当然、私達と同じくらいにね」

「当然じゃないよね? 全然、おかしいよな?」

 

 否定する俺の言葉を華麗にスルーしたレッドは続けて言葉を発する。

 

「私達、君にはとても感謝しているの。ピンチの時とかいつも助けてくれたり、私達がいない世界を守ってくれた。私がヒーローになったのも、君が理由なんだよ?」

「え、なにそれ聞いてな―――」

「最近、不穏な流れを感じるの。新たな悪の気配を。もしかしたら、前の敵以上の強さかもしれない。私達だけじゃ勝てないかもしれない。だけど、君が仲間になってくれさえすれば、そんな心配はなくなるんだ」

 

 レッドが背もたれに背中を預けるようにビビっている俺と視線を合わせる。

 

「それに、君と共闘したときはいつも安心できるの。ああ、もう勝てる気しかしないって。力でもなく、君は私達の精神的な助けにもなっているんだ。だから――」

 

 彼女は目を細め、俺に笑顔を向けた。

 その顔はいつも彼女が振りまく、愛嬌のあるヒーローの笑顔ではなかった。

 

「絶対に、逃がさないから」

「……」

 

 うっすらと開けられた目は全く笑ってはいなかった。

 助けを求めるようにイエローとブルーの方を見ても、ただニコニコと笑っているだけで、より一層不気味さが増してしまった。

 この時点で、彼女たちがこの施設から俺を逃すつもりなんてないことを悟るのであった。

 




基本性能で大きく劣るプロトタイプのスーツで上位互換が相手でも一対一ならボコボコにしてくる黒騎士くん。
呉島主任かなにかかな?


Twitterのコメントマークとリツイートマークを表示できないアクシデントもありましたが、ハーメルンでしかできないような書き方ができて楽しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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一般人から見た黒騎士(掲示板回)

ちょっと手直して二話目です。
今回は掲示板回となります。

・ネタ多め
・掲示板
・黒騎士くんのおおまかな紹介。
・一般人からの認識

世界観としては現代にヒーローが現れてから一年が経ったという設定となります。


233名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士って悪いやつだろ。

なんでこんな世間で騒がれてんの?

 

234名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

まあ、普通に見れば危険なスーツ着たやばいやつだからな。

控えめに見ても犯罪者だ。

 

でも、やったことが善人すぎるからなぁ。

 

235名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士くん語録貼りますか?

 

「お前らを倒すのは俺だろ!! 俺以外に倒されるんじゃねぇ!!」

 

236名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

「そんな状態のお前らを倒しても勝ったことにならないんだよ。さっさと帰って寝てろ!!」

 

237名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

「ククク、ぶち壊してやる。この世の中を」(敵怪人を殴り飛ばしながら)

 

238名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

登場するごとに語録を増やす黒騎士君。

 

239名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

悪いことしようとしているのか分からないけど、なんやかんやで助けてるからな。

それか怪人の方が優先して黒騎士君に襲い掛かっているし。

 

スーツ優先で狙うようにされてのか分からんけどね。

 

240名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

特撮オタからすれば、あれだよ。

黒騎士君は別方面のエモさを開拓した追加戦士だぞ。

 

241名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

・最後まで仲間にならない代わりに、ちょくちょく一緒に戦ってくれる。

・しかも息がばっちり合う。

・なんだかんだで相手を認める潔さ。

・敵のボスを倒した後に、真の最終決戦。

 

なんだろう、この……仲間になってほしいけど、そう簡単になびいて欲しくない複雑な想いを具現化したようなキャラだよな。

 

242名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

分かりみが深すぎる。

 

みんな黒騎士くんはジャスティスクルセイダー入り希望してるけど、黒騎士くんは黒騎士くんオンリーの方がいいと思うの。

 

なんかその……戦隊入りは違うよ!!

彼は仮面ライダータイプなんだ!!

力を合わせるんじゃなくて、力のない人たちのために孤独に戦う戦士なんだ! よ!!

 

243名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

やっぱり犯罪者だろ。

評論家とかめっちゃ悪く言ってるじゃん。

 

244名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

そりゃ言うだろ。

だって犯罪者なんだから。

 

でも、それとは別に話題になる存在ってことだよ。

 

245名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

悪く言ってるのはアレだぞ。

政府公認のジャスティスクルセイダーも批判してた奴らだぞ。

あいつらいなかったら今頃、日本が世界地図から消えてたくらいやべーんだぞ。

 

246名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

>>242

ちょっと分かるかも

ジャスティスクルセイダーが出る前の人知れず(なんか率先して襲ってくる)怪人と戦ってた頃の黒騎士くんを考えると、そっちもいいよね。

 

日本消滅爆弾とか控えめにいってもやべーもんな。

まあ、それもジャスティスクルセイダーと黒騎士くんの協力もあって防がれたけど。

 

247名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

怪人とか一年前は絶対にいない存在だと思ってたからなぁ。

本当にびっくりしたけど、戦ってくれる人がいてよかったわ。

黒騎士君は一番最初のヴィランであり、影のヒーローだもんなぁ。

 

248名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

日本消滅爆弾とか、すっげぇ昔の仮面ライダーの時みたいなネーミングセンスだな。

 

249名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

それはそうと、黒騎士君ってどうしてあんなに不幸を背負わされるような過去を想像されるんだろうな。

 

250名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

そりゃ、言動とかそういうのでイメージがついちゃったからだろ

 

251名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

「俺の親は、もういない!」とか言ってたしな

あと声が、まだ十代の子供の時点で相当な闇を背負ってる。

 

252名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

前、公式で発表されたけど黒騎士くんの装着してるスーツってあれなんだな、ジャスティスクルセイドの強化スーツのプロトタイプ。

性能自体は完成品の強化スーツに大きく劣り、負荷も凄いんだって。

 

……それで、ジャスティスクルセイド三人相手に優勢に戦ってたとかやばくね?

 

253名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君は呉島主任かなにかかよ?

武器も最新鋭でもなんでもないし、マジで意味不明な強さだわ。

 

254名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

素で強すぎるんだよなぁ。

敵怪人と戦った時は、ハイパー無慈悲でワープも許さず爆散させたからな

 

255名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

強化スーツ自体、特殊な素質がないと着れないらしいからなぁ。

そういう意味でも黒騎士君は、想定外の存在っぽい。

 

256名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

捕まった後も命に別状はないらしいってのもすごい。

人体実験の被験者疑惑も出てるから、さらに闇要素が供給されてしまった。

 

257名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

色んなところで阿鼻叫喚の嵐だった黒騎士君自爆未遂も相当だよな。

 

最終決戦で敗北した直後に、一人で自爆しようとしたやつ。

あれで黒騎士くんの精神状態が危険な状態だってことが判明した。

 

マジであの時の台詞はやばかった。

ガツンと頭をぶん殴られた気分だった。

 

258名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君の身の上がかなりやばいことを察したのがアレだよね。

黒騎士君がライナー呼ばわりされるようになった原因の一つだし。

 

259名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

「俺は、もう満足だ。思い残すことはなにもない……」

「やめてくれ、やめてくれよぉ……!」

「止めるな! お願いだ止めないでくれ!!」

「離せ! 俺は、この、やめろぉ!!」

「殺せ、殺せよぉぉ!! 負けた俺に生きている価値なんて……!!」

「この世に俺の居場所なんてどこにもっ……」

「どうして俺を死なせてくれないんだぁ……!!」

 

260名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

バカやめろ。

当時マジで衝撃だった台詞を貼るのはやめてくれ……!

 

261名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

お茶の間を凍り付かせた公式最後の姿がやばすぎる。

報道してる方も予想外すぎただろ。

黒騎士くんとの戦闘が今までが、エンターテイメントじみた戦闘だったし。

 

262名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君を曇らせたいサドの変態にも目をつけられてんだよなぁ。

 

263名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

ナイトォォォォ!! ナイトォォォォ!!

 

264名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

頼む… 静かに…

 

265名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

どうして俺を死なせてくれないんだ……

 

266名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

光の黒騎士を地獄に引きずり込むのはやめてさしあげろ

 

267名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君スレに高確率に出てくるライナーネタに草

 

まあ、こうでもしないと精神保てないのは分かる。

 

268名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

多分、黒騎士君は謎の力とレッド達の手によって生かされ続けると思う。

ライナーと同じだねっ!(暗黒微笑)

 

269名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

創作だと高確率で光堕ちして死ぬんだゾ

 

なお、レッドとのカップリングSSの八割は死別エンドかブルーかイエローに寝取られる奴だゾ

 

270名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

前から疑問でしかないけど、レッドかわいそすぎん?

あの子、めっちゃ健気そうじゃん。

すっげぇレッドに合ってる子だと思う。

 

271名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

レッドと黒騎士くんって曇らせ甲斐がありそうだしなぁ。

 

272名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

尚、ツムッターでは友達感覚で黒騎士君の面会に行っている模様。

 

273名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

ジャスティスクルセイド4人目のメンバーだから当然じゃん。

 

274名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

ローさんを麦わらの一味の仲間扱いするな(フライング)

 

275名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

え、レッドと黒騎士君は中学生の頃からの親友じゃなかったっけ?

ついこの前も二人は一緒に怪人と戦ってたじゃないか。

皆、どうしたんだ?

 

276名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

また脳内に本人の知らない記憶が流れてる……。

 

277名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

タッパと尻のデカい女がタイプの混乱の元がきたな

 

278名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

一時期は変な難癖つけられて雌蛸も湧いてたからな……。

 

279名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

雌蛸(男)

 

280名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

実際、一緒に戦ってほしくはある。

守ってもらっている側からすれば、ジャスティスクルセイダーと黒騎士くんのタッグはすげぇ安心できるから

 

281名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

そこが難しいんだよな。

少なくとも黒騎士くんは人類の味方のつもりもないし、ジャスティスクルセイダーと仲良くしようとも思ってもいない。

 

天然だから守ってしまうだけだし。

 

282名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

仲間ではないけど、好敵手ではあるだろ。

 

283名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

幼馴染(マイブラザー)。

貴方は私と幼馴染で一緒の学校に通った友達だったよね。

親友(マイブラザー)

一緒に砂場で遊んだ時も、家族で一緒に旅行にいったときも親友だったね。

それなのに、どうして敵同士なの?

私の恋人(マイブラザー)

貴方の手はもう冷たい。

もう、あの輝かしい思い出は、二度と元には戻らない。

 

284名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士くん洗脳ヤンデレレッドコピペ怪文書という誰もかもを曇らせることしかないもんをあげるのをやめろぉ!

 

285名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

>>283

なんで捏造された記憶の中でもバッドエンドなんだよ!?

本当にかわいそうだろ!!

これ書いた奴、頭東堂かよ!!

 

286名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

そもそもレッド以外からの好感度も普通に高いからな黒騎士君

 

287名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

颯爽とピンチに駆けつけてくるナイトやぞ。

本人は真面目に悪役ムーブしてるつもりだろうけど。

 

288名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

本人だけだよな。

悪役だと思ってんの。

そういう天然なところもウケてるところだと思うけど。

 

289名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

テレビとかスマホ見てれば分かるもんなのにな。

なんで捕まるまで分かってなかったんだろ。

 

290名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

知らんふりしてたとかありえそう。

自分の人気を理解した上で、あんな天然ムーブかましやがったとかもありえそう。

 

291名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

そもそもパソコンもスマホもテレビもなかったんじゃね?

 

292名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

あっ……(察し)

 

293名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

さらなる闇深要素を加えてくるのはやめろぉ!?

 

294名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

ライナァァァァ!!(歓喜の雄叫び)

 

295名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

強盗もやってないんだよなぁ。

本当に困窮していたとして、あれだけ強いのにやろうとしなかった時点で大分善人だろ。

 

よく考えたらスパイダーマンかよ……。

 

296名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

どうしているんだろうなぁ、黒騎士君。

 

297名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

特例でジャスティスクルセイドの本部で確保されてる。

かなり異例だけど、まあ、プロトスーツを着てた副作用がないか調べるためだし、しょうがなくはある。

 

298名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

情報に関してはレッド達がツムッターとSNSで投稿してくれるからなんとなくは分かるんだよな。

 

299名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

本人達めっちゃ楽しんでるからな。

レッドとイエロー曰く、黒騎士君はちょっとドジなシベリアンハスキーみたいな人らしい。

 

300名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君の素顔も確認しているだろうし正直、羨ましくは思うな。

 

301名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

最終決戦時にマスク割れしてたけど、目つき悪いけど顔は悪い方ではなかったぞ。

 

302名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

顔よりもリアルマスク割れに感動して見てなかったわ。

 

303名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

その後の自爆の下りで絶句したけどな(白目)

 

304名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

黒騎士君が、レッド達に詰め寄られてものすごく抵抗しているのが容易に想像できるのが面白い。

そういうとこだぞ(豹変)

 

305名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

今、JC達が黒騎士くんの更生を頑張っているんだ。

帰ってこい! 黒騎士君!! 君の居場所は光の中にしかないんだ!!

 

306名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

いや、黒騎士くんアウトサイダー派もいるぞ!!

黒騎士くんに仲間なんていらない! このまま孤独に戦ってこそヒーローだよ!

 

307名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

本当にどうなるんだろう。

黒騎士くん、形式上は犯罪者だし扱いとか難しそう。

 

308名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

このまま表に出てこない可能性もあるが、それもまあ本人のためにもなりそうだ。

 

309名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

追加戦士になってくれねぇかなぁ。

 

310名無しさんとヒーロー投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

頼もしすぎる味方になるよな。

戦闘力やばすぎるし。

 

 

 

 

 

 

「どういうことなんだぁぁぁ!!」

 

 監視部屋に備え付けられたパソコンで見つけた掲示板が色々な意味で酷すぎた。

 

「あ、見たんやね。どう、面白いでしょ」

「一ミリも面白くねーよ! 地獄だよ!!」

 

 先にこの部屋を訪れていたイエローが上機嫌に訊いてくるが冗談じゃない。

 

「くそっ! 俺は一般人にも舐められているのか……!」

「舐められているというか、同情されてるだけだと私は思うんやけど」

「く、おぉぉぉぉ……」

 

 黒歴史やら、もう取り返しのつかない過去の自分のやらかしをまざまざと見せつけられた俺は、しばらく頭をかかえることしかできなかった。

 




黒騎士君を巡る論争は、『孤独なヒーロー派閥』と『戦隊パーティ入り派閥』、それに加え『もう休ませていいんじゃないか派閥』などで分かれています。

自爆前後の台詞は、ヤケクソになっていたことと、内心で押し隠していた自分も意識していない本音が溢れだしてしまった感じです。
なお、近くにいたレッド達にその日一番のダメージを与えて今に至る模様。


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黒騎士、動画を見る



今回は流れるコメント+α回となります。


 ジャスティスクルセイダーの本部に収容された俺は、外に出ることはできない。

 まあ、俺は犯罪者なのだから当然の対応なのだが、それ以外のここでの俺の扱いに問題がありすぎた。

 最初こそは俺が一人で住んでたボロアパートよりマシだなと思っていたんだ。

 ここには、普通に冷蔵庫もあるしクーラーもあるし、なんだったら今まで自分で持つことのなかったパソコンまで置いてあるのだ。

 最初の一日くらいは収監生活を満喫していたわけだが、それ以降はそんなこと思う余裕なんて欠片もなかった。

 

 あのジャスティスどもがやってきたのだ。

 

『あっ、この部屋ちょっと味気ないからサボテン置くね』

 

 勝手に人の独房にサボテンを置きやがったレッド。

 

『勉強に必要かなと思って教科書とかノートもってきたでー』

 

 普通に文句もいえないようなもんを持ってきてくれたイエロー。

 

『ここ、本を置いていく。読んでもいいよ』

 

 ちらちらと期待するように俺を見ながら空っぽの本棚に本を勝手に置いていくブルー。

 そんなことを繰り返しているうちに、俺の収容部屋は、とても犯罪者が住むようには思えない生活様式に溢れたオサレ感漂うそれっぽい部屋にリフォームされてしまったのだ……!

 俺の独房はお前らの暇つぶしの場所じゃないんだぞ!!

 ふざけやがってぇ! あいつら、俺が怒ってもにこにこしているだけなんだぞ。

 

「……俺を嘗めやがってぇ……!」

 

 昼間は奴らは来ない。

 まあ、この時間も監視されているので下手な真似をせずに以前、レッドに教えてもらったニムニム動画を見る。

 勿論、暇つぶしのためではなく、自分が世間でどのように見られているかのチェックである。

 

「酷い……酷すぎる……」

 

 動画を見て数秒で心が折れかける。

 恐らく一般人が撮ったであろう撮影だが、その内容はジャスティスクルセイダーが敵怪人の罠にはまり絶体絶命のピンチに陥っている場面である。

 

『レッド! こんな雑魚にいつまでも好き勝手にやられるんじゃねぇ!!』

『く、黒騎士くん……』

『ジャスティスクルセイダー。お前達を倒すのは、こんな奴らじゃない。ただ一人、この俺だぁ!!』

 

 なんで俺こんなことしたんだろ。

 後から見て、猛烈に死にたくなりながらも、それ以上に酷いコメントを見て絶望する。 

 

 

✕▶

ゼロワンゼロワンゼロワン……(幻聴) 理想的なライバルムーブだァ……   これもう告白だろw
すっげぇ強い敵が、敵のまま味方になって強さ維持してるやべーやつ

なんだこの主人公!?  これでヴィランってマジ?www

wwww

普通にかっこいいwww バッタよりゴリラだろウルフ 敵幹部に拳で殴り勝つ男

劣悪性能の旧式スーツで無双しだすの何度見ても草すぎるわ

こんなんされたらそら味方にしたいと思うわwww 勝利確定BGMきたな

II
00:08/8:55

 

 

「誰が主人公だぁ!?」

 

 思わず両手で机を叩きそうになるが、なんとか堪えて深呼吸をする。

 ジャスティスクルセイダーは結構ピンチになる。

 三人が揃えば、かなりの強さを誇る彼女達だが、相手も俺ほどではないが並みの悪い奴らではない。 

 

「……くっ」

 

 絶対にあいつらの前では言わないが、ジャスティスクルセイダーとの戦いは俺にとっても中々に楽しかったのだ。

 だからこそ、奴らの力を知っているし、それをうまく発揮できず本来倒せるような相手に負けてしまうあいつらがただただ不甲斐なく思えて仕方がなかった。

 

「くそぅ! でもライダー扱いされて嬉しく思う自分がいるのも悔しい!!」

 

 駄目だ、こう思っているようではこの画面の先にいる連中と同じだ。

 俺はワルモノだ。

 一時の感情に流されてなんかいない。

 俺は、俺の美学と流儀でこれまで活動してきたのだ。

 

「でも、客観的に自分の動きを見るのはいいな」

 

 なんだかんだで主観的な戦闘しかしていなかったので、こういう感じに見れるのはまた違って面白い。

 相手は幹部怪人っていったけど、超能力的なものが強いだけだったからなぁ。

 それだけならいくらでもやりようはあった。

 

✕▶

めっちゃボコボコにしてんじゃん……。 まっくのうち! まっくのうち!  これはゴリラwww

なんか相手かわいそうになるくらいつえーな

まあ、対怪人戦闘のプロだしな……。  裏でも人知れず戦っているだろうから、むしろ慣れたもんよ

相手が特殊系なのが運の尽き そもそも技すら出させてくれないのが酷い

スカッとするなwww

まあ、相手オゾン層破壊しようとしたからこうなって当然  強すぎィ!!

毎回毎回、怪人がやらかそうとする規模がデカすぎてワロエナイ

 

II
01:37/8:55

 

 とりあえず超能力出す隙を与えないようにしながらひたすらに殴りまくった。

 当然、相手も手下を呼んできたが、それを片手間に処理しながら距離を空けずに殴りまくる。

 運がよかったということもあるのだろうが、結局は復帰したレッド達の加勢もあって、幹部怪人を倒すに至ったわけだ。

 

「さて……見ないようにしてたわけだが……」

 

 動画の上にある文字の羅列に目を向ける。

 そう、まだ動画とコメント以外に問題があるのである。

 

黒騎士くん ジャスティスクルセイダー みんなのおもちゃ  

悪役ぶりたい年頃 ? ヴィラン界のベジータ ? 物理のやべーやつ ? 

ハイパー無慈悲 ? 神回 日刊日本の危機 ?

 

 動画の内容も酷いが、その上もかなりやばかった。

 心の中になにかが削られるような錯覚に陥りながら、なんとか文字の羅列を頭にいれる。

 

「なんだこれは……これは俺か、俺のことを言っているのか……!? い、いいい、意味が分からない」

 

 タグというのは分かる。

 動画のアピールポイントとかをアレするアレだろ?

 タグが飽和しすぎて、ぎゅうぎゅう詰めじゃん……。

 みんなのおもちゃってなんだよ……子供向けアニメとかそういうものなのか? 意味が分からな過ぎてすっげぇ困る。

 

「ん? 今、新しく追加された……?」

 

 新しくタグが書き込まれたことに気付き、そちらを目で追ってみる。

 

4人目の正義の戦士 ?

 

「って、違うわァ!!」

 

 思わずパソコン画面にツッコミをいれる。

 誰が四人目の戦士だこの野郎!!

 なった覚えもねぇし、なるつもりもないわぁ!!

 

「あぁ、もうどうしてこうなった……!」

 

 思わず椅子の背もたれに体を預けよりかかる。

 目元を押さえながら、これまでの自分の行いとか、諸々を思い返しますます疑問に考えてしまう。

 

「ねえ、起きてる?」

「うおおおおおおお!?」

 

 突然、隣からの声に驚き椅子から転げ落ちる。

 見上げると、なんともいえない表情で俺を見下ろしているブルーが立っていたではないか。

 

「お、おおおおま、お前ぇ! 無言で入ってくるな!!」

「無言じゃないよ。ちゃんと失礼しますっていって入ったよ」

「まずはノックをしろォ!! 常識ないのか!?」

 

 しかも事後承諾じゃん。

 いや、そりゃ俺はここに捕まっているから拒めるわけでもないんだが。

 

「お前、まだ学校じゃ……」

「終わったよ? ほら」

 

 ブルーが指さした時計を見れば、既に17時を回っていた。

 いつの間にかかなりの時間、パソコンを利用していたらしい。

 

「くっ、俺の自由時間が終わった」

「そうだね。私達の時間だね」

「本当に面の皮が厚いな、お前……」

「そう? ありがとう?」

 

 嫌味も通じやしない。

 これならイエローの方がまだ接しやすいまである。

 だが、こいつはこいつで基本物静かなので、どっこいどっこいといったところか。

 

「なあ、ブルー」

「ん?」

 

 いつの間にか部屋に設置されていたソファーに座り本を読み始めたブルーに話しかける。

 

「俺って世間じゃどう思われているんだ?」

 

 その質問にブルーは、本を閉じて悩む素振りを見せる。

 そこまで悩むほどのものか? と、逆に驚いていると、不意に彼女はこちらを振り向いた。

 

「優しくて、天然で……変な人」

「へ、変な、人……」

「うん」

 

 本当に意味が分からない。

 俺は、ワルモノとして戦ってきたはずだ。

 その間に偶然、怪人に襲われ続けただけなんだ。

 自分の認識と、周囲の食い違いに、混乱しながら俺はまた額に手を当て唸ることしかできなかった。




流れるコメント&タグ回でした。

タグは、フォントと枠線色と背景色などで作れます。
やり方によっては、もっと再現することもできるかもしれません(笑)


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黒騎士、答えて書いて、困る。

アンケート(物理)回です。
途中、注釈をいれましたので見ていただければ、より楽しんでいただけると思います。


 どうやら俺は精神面がどこか病んでしまっているらしい。

 自覚はまったくないのだが、自爆後の自分の取り乱しようとか、無意識に口から飛び出してしまった言葉を考えると、あながち間違いではないのかもしれないと思ってしまった。

 

「だからといって、本当に受けさせるとかここの奴らはお人よしなのか……絶対に、俺とは相いれないな」

 

 頭を抱えながらテーブルの上に置かれている用紙を見る。

 俺の担当医を名乗る女性から渡されたアンケートなのだが、これがまた曲者なのだ。

 

「あの人、どう見てもレッド達や俺と同年代だよな」

 

 すっげぇ怪しいんだけど。

 いや、なにが怪しいのか分からないんだけど。

 

「……」

 

 無意識に心を許してしまいそうな感じがする。

 もちろん、俺は未だに誰も心を開いていないし、開くつもりもないので絆されたりはしない。

 

 

メンタルチェックアンケート

 

今回、貴方の精神状態を調査するため紙媒体でのアンケートを行うことが決定しました。

質問にできるだけ正直に答えるようにお願いしますが、気分を害された場合や、質問の意図が理解できないようであれば無記入でも構いません。

アンケートの結果は、担当医である白川(しらかわ) 伯阿(はくあ)にのみ伝えられます。

 

 

Q1.貴方は今の生活に不満がある。

□はい  □いいえ

 

Q2.ジャスティスクルセイダーは貴方にとってどのような存在か? 以下の空欄にご記入ください

 

 

 

Q3.貴方の言うワルモノとはどのようなものを指すのですか? 以下の空欄にご記入ください。

 

 

 

Q4.プロトスーツを着用した直後、なにか精神や身体に異常はありましたか?

 □はい □いいえ

 

Q5.Q4にて“はい”と答えた場合にのみお答えください。

  具体的にはどのような異常が感じられましたか?

 (例:苛立ち、暴力的感情に支配される、など)

 

 

 

Q6.あなたが戦ってきた“オメガ”以外の最も強かった怪人はなんですか?(複数可)

 

 

 

Q7. ジャスティスクルセイダー以外の組織からの勧誘、接触などはありましたか?

 □はい □いいえ

 

Q8.Q7にて“はい”と答えた場合にのみお答えください。

 どのような組織ですか? 分からなければ特徴などを空欄にご記入をお願いします。

 

 

 

Q9.貴方の好きな食べ物はなんですか?

 

 

Q10.貴方の好きな本はなんですか?(ジャンルのみでも可)

 

 

Q11.ジャスティスクルセイダーのメンバーの中で誰が最も好印象ですか?

 

□レッド □ブルー □イエロー

 

Q12.貴方はジャスティスクルセイダーに入りたいと思いますか?

 

□はい □YES

 

以上、ご協力ありがとうございました。

次の問診にて今回の診断結果を参考にさせていただきたいと思います。

 

 

 

 

「ん……?」

 

 

 はたり、と手に持った紙を一度机に置き、眉間を揉む。

 おかしいな、見間違いかな?

 今明らかにメンタルとかそういうのとは関係のない異物な質問が紛れ込んでいたんだけど。

 気のせいか、と思いもう一度目を通しても―――その内容は現実のまま変わらなかった。

 

「なんか、後半おかしくない……? ねえ、おかしいよな? おい! 絶対これ途中でレッドとかの手が入ったろ!! おい白川ァ!!」

 

 前半は普通だったよ?

 まあ、相手からしたら気になるのも分かる。

 このアンケートを作った張本人、今部屋のカメラからこちらを伺っているであろう白川を呼び出す。

 すると、すぐにスピーカーから明るい少女の声が響いてくる。

 

『はぁい、カッツん! アンケートにはちゃんと答えてね!』

「誰がかっつんだ!? なんかおかしいだろ、これ!」

『おかしくないわー。心理テストなの』

 

 そうかぁ、心理テストなんだ。

 だったら、しょうがなくないだろたわけが……ッ!

 

「こんなのが心理テスト……?」

『そうよ、これも意味のある心理テストよー。だから正直に答えてくれないと駄目ね』

「心理テストってだけで騙されると思うなよ……? 俺、そこまでバカじゃないぞ?」

 

 なんだかんだで独学でスーツの修理とかしてたし。

 いろんなところで脳筋呼ばわりされてたけど、別に殴った方が手っ取り早いから別に頭が悪いってわけじゃないからな?

 

『答えたくないなら無記入で構わないわよー』

「……ハッ、ならそうさせてもら―――」

『かっつんは、恥ずかしくてかけないようだし』

 

 ……脳裏に浮かぶは、あのジャスティス連中。

 空欄の目立つアンケートを覗き込み、一様に悪意の欠片のない笑顔を向けてくる奴らの顔。

 

「えぇ、あんなに邪険にしてたのに照れてるんだぁ」

 

「まあ、そんなにいいたくないなら? 私も? 別に構わへんけどね? えへへ」

 

「まったくもって素直じゃない。でもらしいといえば、らしい」

 

 こんな恥辱耐えられない。

 ただでさえ、俺の立場はかたなしなのにこれ以上俺の尊厳を削らせて溜まるか……!

 

「できらぁ!!」

『頑張ってね~』

 

 例え、想像でも奴らに俺が照れているという憶測すら抱かせてはならない……!

 白川の声を無視しペンを取った俺は、アンケートに書き込み始める。

 

「今の生活? 立場には不満だらけだが、この部屋の生活に関してはない」

 

 よって“いいえ”!

 

「ジャスティスクルセイダー!? 対等に戦える好敵手!!」

 

 それ以外の感情は多分ない!

 

「俺にとってのワルモノ……」

 

 正直に書く必要はない。

 嘘でもいい、のだが、ここは少し真面目に書いておくべきだろう。

 いつまでも俺のことを勘違いされては困るからな。

 中々の文を書き、次へと移る。

 プロトスーツを着た時に異常があったか?

 ……。

 いや、特にないな。

 その後普通にスーパーに買い物もいってきたし、それからも全然不調はない。

 

「強かった怪人か……オメガ以外となると……」

 

 怪人たちの大ボス、オメガ。

 やつは日本列島そのものを宇宙へと浮き上がらせ、外宇宙へ進出しようとした怪人を生み出す怪人。

 奴がなにを思ってそのようなことをしようとしたのかは理解できないが、そのバカげた計画を未然に防いだ今となっては分かりようもない。

 ……それ以外となると。

 

「えぇと、際限なく電気を食べるナメクジ怪人。あいつと戦った時は死ぬかと思ったな」

 

 まあ、ある意味で俺の悪徳が冴えわたったというべきか。

 夜中、都心の発電所付近で電気食ってる奴を見つけて戦闘になっちゃったんだよなぁ。

 つーか、目撃者は殺す! 的ないきおいで襲い掛かってきたので応戦したわけだが、マジで強かった。

 

「まさか貯えた電撃の分だけ肉体を再生する上に、パワーも底なしだったもんなぁ」

 

 ちょうど発電所から電気をかなり吸い上げた状態だったので相手のコンディションはほぼほぼマックスだった。

 幸い、スーツのアーマーは電気を通さない絶縁体仕様だったので―――、

 

治るんなら、電気なくなるまで殴り続ければ勝つじゃねーか!!

『ぴぎぃぃぃぃ!?』

 

 とりあえず、倒すまで殴り続けた。

 んで、電気をすっからかんにして真っ黒な姿になった怪人を追い詰めたわけだが、奴はまた電気を蓄えようとしたのか、巨大化しながら発電所に突っ込んだ。

 だが、俺に殴られ続けたせいか、身体が崩壊しかけていたナメクジ怪人は大量の電力に身体が耐え切れず―――そのまま破裂し、息絶えたのだ。

 

「……フッ、怪人の行動とはいえ、あの騒ぎで大規模な停電が起きたからな」

 

 ある意味で俺と怪人、はじめてのコンビネーションの賜物といってもいい。

 いや、本当に強かったな、ナメクジ怪人*1

 

「まさしく、俺史上、最大最悪の悪事だぜ……」

 

 怪人死んじゃったけど。

 しかし、再生怪人としては破格の強さだったな。

 マジでピンチだったし。

 

「あとは……実体のない幽霊怪人とか。超能力系は基本、遠距離じゃなけりゃ脅威じゃなかったしなぁ。あ、触れると強制的に笑わせてくるやつとかやばかったな。俺は笑えなかったけど」

 

 まあ、ジャスティスクルセイダーが出る前に倒したやつらならこれくらいだろ。

 ……つーか、あいつらが襲ってくるから俺も満足に動けなかったし、本当に怪人って面倒な存在だったわ。

 俺がこうなったのもあいつらのせいなんじゃね?

 とりあえず、書ける名前を書いて次に移る。

 

「勧誘? ……あったな」

 

 路地裏を駆けていると、見るからに怪しい真っ黒コートの男が話しかけてきたんだよな。

 当時は怪しい宗教勧誘だと思って、無視したのだが今思えばあれがそうだったのかもしれない。

 

邪悪(かいじん)は地の底から、正義(きゅうさい)は宇宙から、か」

 

 男が口ずさんでいたフレーズを思い出しながら、その特徴などなどを書き込んでいく。

 まあ、こんなもの真面目にとられることはないだろうけどな。

 俺もとらなかったし。

 

「さて、あとは軽い気持ちで書き込むか」

 

 一度、背伸びをした俺はある意味で鬼門である質問へと意識を集中させる。

 ……本当に、なんで俺こんなところでアンケートなんてやっているんだろうな。

 


 

メンタルチェックアンケート

 

今回、貴方の精神状態を調査するため紙媒体でのアンケートを行うことが決定しました。

質問にできるだけ正直に答えるようにお願いしますが、気分を害された場合や、質問の意図が理解できないようであれば無記入でも構いません。

アンケートの結果は、担当医である白川(しらかわ) 伯阿(はくあ)にのみ伝えられます。

 

 

Q1.貴方は今の生活に不満がある。(はい、か、いいえ、に◎をつけてください)

□はい  ◎いいえ

 

Q2.ジャスティスクルセイダーは貴方にとってどのような存在か? 以下の空欄にご記入ください

俺を倒して見せた好敵手。

あの戦いで負けたことに関しては、思うところはなにもない。

 

Q3.貴方の言うワルモノとはどのようなものを指すのですか? 以下の空欄にご記入ください。

誰にも奪われない。奪わせない力を持って、好きに生きているやつ。

少なくとも、俺にとっては今生きている現実に自由なんてものはなかったから、黒騎士になった。

後悔はしていない。

 

Q4.プロトスーツを着用した直後、なにか精神や身体に異常はありませんでしたか?

 □はい ◎いいえ

 

Q5.Q4にて“はい”と答えた場合にのみお答えください。

  具体的にはどのような異常が感じられましたか?

 (例:苛立ち、暴力的感情に支配される、など)

 

 

 

Q6.あなたが戦ってきた“オメガ”以外の最も強かった怪人はなんですか?(複数可)

ジャスティスクルセイダーが活動する前に倒したやつの中から、

電気ナメクジ怪人、幽霊怪人、マグマ怪人、笑わせ怪人、なんかアルファとか名乗ってた怪人

 

 

Q7. ジャスティスクルセイダー以外の組織からの勧誘、接触などはありましたか?

 ◎はい □いいえ

 

Q8.Q7にて“はい”と答えた場合にのみお答えください。

 どのような組織ですか? 分からなければ特徴などをお願いします。

黒いコートを着た怪しい男。

邪悪は地の底から、正義は宇宙から、と謎の言葉を呟いていた。

 

Q9.貴方の好きな食べ物はなんですか?

カレー(甘口)、ハンバーグ 、オ.ムライス

 

 

Q10.貴方の好きな本はなんですか?(ジャンルのみでも可)

推理もの

 

 

Q11.ジャスティスクルセイダーのメンバーの中で誰が最も好印象ですか?

 

□レッド □ブルー □イエロー ◎特になし!!

 

Q12.貴方はジャスティスクルセイダーに入りたいと思いますか?

 

□はい □YES ◎いいえ!!

 

以上、ご協力ありがとうございました。

次の問診にて今回の診断結果を参考にさせていただきたいと思います。

 

 


 

 後日、いつもの如く勉強したり筋トレしたりと退屈な時間を過ごしている俺の元に、最早馴染みの顔となりつつあるレッド達が部屋へとやってきた。

 

「あ、カツミ君、今日たまたまハンバーグ持って来たんだけど、食べる?」

 

 おもむろにお皿にのせられたハンバーグを持ってくるレッド。

 

「え、マジ嘘、奇遇やわぁー。私もなぜかカレー持って来たから、食べてーな」

 

 大きな鍋を担いで(!?)カレーを持ってくるイエロー。

 

「ちょうど私も推理ものの本を持って来たから食べて?」

 

 そして、前二人につられて本を食わせようとしてくるブルー。

 ある意味で予想通りで予想外の行動をしてくるジャスティス共に、これ以上になく俺は頬を引き攣らせる。

 

「分かってたけど、お前ら露骨すぎだろぉ!」

 

 もっとさりげなく隠す努力をしてくれよ!?

 なんか、もう別の意味で怖くなってきたんだけど!?

 

*1
正式名『電食怪人ナマコデンキ』 怪人首領オメガにより生み出された無制限に電撃を溜め込むことができるすごいやつ! 放っておけば世界中の電気を吸いつくしてしまうぞ!! 幹部クラスなので普通に強いぞ!!




こういう方式も色々とできそうで楽しい……。
テスト形式にすればめちゃイケの抜き打ちテスト回のようなこともできそうですね。

エネルギー供給兼貯蔵役を担っていたオメガ産ガチャUR怪人のナマコデンキ。
彼があまりにも早い時期に黒騎士くんに爆発四散されたことで、地味に怪人サイドが大打撃を受けたという意味不明な事態が起こってしまいました。

そら、怪人に目の敵にされるわ……(白目)


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黒騎士、テレビを見ない理由とクイズ対決

シリアスタグをつけました。

後半、緑色の台詞がありますが、その部分に読み上げ機能を使ってみるのもおすすめです。
注釈には、前回同じく怪人の解説などを入れました。

前半と後半の温度差がすごい……。


 いつも見る夢だ。

 

今日未明、———行きの旅客機が墜落。

 

 暗い、瓦礫に溢れたとても狭い空間の中で、おれは生きていた。

 鼻をつく匂い。

 上から滴り落ちてくる、雨水だけがおれの命を繋ぐ。

 

救出活動を開始、生存者の捜索を試みる。

 

 おれを、見ている。

 生気を失った二つの視線。

 あの優しかった表情も目も、苦悶に満ちたものへと変えておれを見続けている。

 おれは目を背けることができなかった。

 からだは瓦礫に挟まれ、ほとんど動くことができなかったからだ。

 

死者多数、生存者は絶望的か。

 

 くるしい。

 もうやめて。

 ようやく、この地獄から解放される。

 

墜落から三日後! 瓦礫から七歳の子供が救出!

 

 一人だけ、生き残ってしまった。

 おれいがい、みんな、いなくなってしまった。

 

奇跡の子、絶体絶命の瞬間からの救出劇!

 

「カツミくん! 当時の状況を教えてほしいんだ!!」

 

やめて。

 

「いったいあの場でなにがあったんだい!? カツミくん!!」

 

ほうっておいて。

 

「黙ってないでなにかを言ってくれ!!」

 

テレビ なんて だいっきらいだ。

 

「亡くなったご家族について、なにか一言を!?」

 

もう だれとも かかわりあいたくない。

 

「なぜ答えてくれないんですか! 我々には真実を伝える義務があるんです!!」

 

なんで おれ 生きているんだろう

 

 

 

「大丈夫だよ。大丈夫……」

 

 ふと、誰かのはっきりとした声が聞こえた瞬間、俺を取り囲み言葉にならない言葉をなげつけてきた黒い人影の姿が掻き消えた。

 次に何者かに抱きしめられているかのような感覚。

 意識が浮上し、気だるい感覚に顔を顰めながら目を開けると、目の前には嫌味なくらい整った顔が―――、

 

「あ、起きた? 大丈夫?」

「レッド……?」

「うん」

 

 昼間椅子で眠ってしまっていたのか。

 それでいつもの悪夢を見て、うなされているところをレッドに抱きしめられたということか。

 ……。

 状況を全て理解した俺は、おもむろに立ち上がり、トイレへと駆けこみ扉を閉める。

 

「あ、照れてるのかな?」

 

 そんな呑気な声が聞こえているが、俺は苦悶の表情を浮かべたままその場で膝をつき―――、

 

「おうろろろろろ!?」

「「「えええええええ!?」」」

 

 胸からこみ上げ、吐いてしまう。

 トイレから出て冷蔵庫の水を飲み口内を潤していると、唖然とした様子のレッド達が俺を見ていることに気付く。

 ……よく考えれば悪いことをしてしまったな。

 さすがにさっきのはないか。

 

「いや、悪い。俺の正直な気持ちが。気にするな」

「気にするよ!? 正直な気持ちって言葉が付け加えられた時点で、私の心はボロボロだよ?! 吐くことないと思うんだけど!! ……美少女の抱擁だよ!?」

「自分で言うか……? 普通」

 

 すっげぇ性質悪いな。

 まあ、俺が普通に学校行ってた時は普通に人気者だったから、間違いはないんだろうな。

 俺には通じないが。

 

「まあ、正直、ざまぁないとは思ったわ」

「うん」

 

 同じ部屋で見ていたイエローとブルーも中々に酷いことを言っている。

 口を尖らせたレッドは、彼女達をジト目で見る。

 

「貴女達って味方だよね……?」

「場合によっては最大の敵に回るで」

「調子に乗るなよ、レッド。いつまでもリーダーでいられると思うな」

「友情崩壊!?」

 

 ブルーとイエローに睨まれ落ち込むレッド。

 最早、こいつらが勝手に部屋に入り浸っている事実にはツッコむ気力も湧かない。

 胡乱な視線を三人に向けていると、奴らは一つのテーブルを三人で囲みながら何かをしていることに気付く。

 

「で、なにしてんの?」

「え、クイズ大会」

「本当になにしてんの?」

 

 俺の閉じ込められている部屋でやることじゃないよね?

 しかしクイズ大会っていうわりにはテーブルに出されているのはノートパソコンだけだ。

 

「問題はどこにあるんだ?」

「いや、音声プログラムを組んで読んでもらおうかなって」

「無駄に多芸だな……」

「理系ですから」

 

 心なしかドヤ顔のブルー。

 そうだな、俺の爆弾解除するほどだもんな。

 それが理系の力かどうかは分からんけど。

 

「ね、カツミくんもクイズやってみる?」

「はぁ? 嫌だよ。俺はお前らと馴れ合うつもりはねぇんだ」

 

 こいつらは俺をジャスティスクルセイダーにいれようと思っているが、俺は絶対に入らん。

 例え世間がなんと言おうとも、この俺だけは絶対に、絶対に絶対に入ってやらない。

 

「もしかして、負けるのが怖い?」

「は? は? なんつったお前」

うわちょろ……いや、そこまでクイズを避けるってことは苦手なんかなぁって」

 

 煽るような口調のイエローに口の端が痙攣する。

 この俺がクイズごときで?

 負けるのを恐れる?

 ……。

 

「やってやろうじゃねーか! 俺が負けたら、なんでも言うこと聞いてやるわ!!」

「……よし、録った

「じゃ、私達が負けたら、ご飯奢ってあげるよ」

「めちゃくちゃ高いの奢らせてやる……!」

 

 出前とか食ったことないから、楽しみだぜ……!!

 

「もうちょっと待って、すぐに問題を作るから」

 

 なんだかんだで受けてしまったが、まだまだ問題が出来上がるまで時間がかかるようだ。

 ブルーはパソコンで問題を作っているとして、回答者は、俺とレッドとイエローの三人か。

 四つ目の椅子に座りながら、俺は心理戦を仕掛けるべく、二人に話しかける。

 

「この勝負を受けたことを後悔しろよ……! 俺はな、クイズ怪人を倒したほどの男だからな……!!」

「え、なにその弱そうな怪人。強いの?」

 

 出した問題を現実化させるという、概念そのものを操る怪人*1だ。

 不正解だと、絶対に避けられないペナルティを下してくるのが厄介だったな。

 

「どうやって倒したん?」

「超遠距離からの投石で頭のクエスチョンマークをぶちぬいてやった」

「それは、クイズに勝ったと言えるのかな……?」

 

 一度真正面から戦ったのはいいが、正解しても大したダメージを与えられるわけじゃなかったし。

 それじゃあ、正解した一瞬の隙をついて範囲内から脱出して、倒した方が早かった。

 

「それじゃあさ、幽霊怪人ってどうやって倒したの?」

「お前ら、さも当然のようにアンケートの内容を知ってんだな」

 

 秘匿義務はどうしたんだよ……。

 

「え、だって白川ちゃんにのみ見せるって書いたけど、白川ちゃんが喋っちゃいけないとは書いてなかったし」

「いや、医者の秘匿義務とかあんだろ。なに俺が悪いみたいに言ってんだよ……」

 

 おかしいだろ、常識的に。

 ……なんで俺がこいつらに常識を語らなきゃならないんだよ……!!

 

「まあまあ、教えてーな。ぶっちゃけ、君のアンケートのせいで上の人達、頭悩ませるどころじゃないことになってるからさ」

「……。はぁ、しょうがない。後で同じアンケートをされるのも嫌だしな……」

 

 ため息をつき、幽霊怪人について説明する。

 

「幽霊怪人ってのは物理攻撃も効かないかわりに、相手からも攻撃することができないやつだったんだよ」

「へぇ、結構楽そうなあい――」

「その代わり、日本ホラーさながらの精神攻撃をしてくる」

 

 一瞬にしてレッドの顔が青くなる、レッドなのに。

 ……正直、こいつにはあまりいい印象がない。

 だが下手に隠すとこいつらの場合、すぐに勘づいて鬱陶しく心配してくるから正直に話しておこう。

 

「奴は戦ってる相手の心を覗き込んで、記憶に刻み込まれた死別した人間に化ける」

「……すっごい性質が悪いね」

「それが能力だからな」

 

 降霊術っぽい感じだ。

 感情、性格、仕草、全てを真似て、相手を精神的に追い込み、弱り切った魂を抜き取り力とする。

 相手はそんな奴だった。

 

「まあ、俺には効かなかったけど」

「え、でも、カツミ君の時って多分……」

「ああ、家族だったよ」

 

 そんな顔をするな、鬱陶しい。

 

「別に。あの程度の恨み言なんて、俺には効かなかっただけだ」

「そ、そうなんだ……」

 

 皮肉な話だが、怪人としての姿だとあらゆる攻撃が効かない無敵なやつだが、人に化けると実体を持っちまう。

 大抵は、死別した人間に再会して取り乱してしまって攻撃どころじゃないが……。

 

「あいつら、死人に化けてる時は実体があったからな。そのままぶん殴って簡単に倒せたよ*2

「私、幽霊苦手だから戦わなくてよかったぁ……」

「うんうん」

 

 ……今度、欲しい物リストにホラー映画って書いておこ。

 レッドとイエロー避けに、大音量で流して追い払えるか試そう。

 

「笑わせ怪人は? あれって結構な被害があったよね」

「私も知ってる。突然、意味もなく笑い出した人が沢山で出て、交通事故とかもたくさん起こったり、一時は都心の機能が停止するくらいの騒ぎに発展したんだっけ?」

 

 そこまでの騒ぎになっていたのか。

 いや、奴の能力を考えるとおかしくはないのか。

 

「笑わせ怪人の能力は単純。奴に触れられた人間は、生きていた中で最も“幸せ”だった瞬間を強制的に思い出させられ、多幸感のあまり笑っちまうんだ」

「へぇ、能力だけならなんか優しそうな力やね」

「それだけならよかったんだがな。厄介なのは、触れられた人間からも、効果が伝染するってところだ」

 

 そのやばさにすぐに気づいたのはブルー。

 パソコンからこちらへ顔を上げた彼女は、顔を青ざめさせる。

 

「……え、それって……街中で肩とかぶつかっても移るってことだよね?」

「その通りだ。だから、被害が大きく広がった」

 

 脳裏によぎるのはピエロ姿で笑顔を振りまく怪人の姿。

 軽快な動きですれ違う人々の肩に触れていきながら、笑顔を増やしていった奴の姿は出来の悪いホラー映画に出てくるような得体のしれない恐ろしさがあった。

 

「効果は多分、笑わせ怪人が生きている間ずっと。その間、どんなことをしても絶対に笑いは収まらない」

「……な、なんだか怖いね」

「そうじゃなけりゃ、怪人じゃないだろ」

 

 笑わせる、ただそれだけなら良かった。

 笑った人間は喜び以外の感情を剥奪され、言葉を交わすこともできなくなってしまう。

 ……つーか、どうして俺ばっかり襲われたのかなぁ。

 クイズ怪人は範囲内に巻き込まれただけなんだが、こいつと幽霊怪人は明らかに俺を狙って来たんだもんな。

 

「どうやって倒したん?」

「……。まあ、触れられる前に始末しただけ。戦闘力自体はそれほどでもなかったし。お前らでも楽勝だよ*3

 

 単純に触れられても笑えなかっただけだけど。

 どいつもこいつも面倒くさいやつらばっかりだ。

 まあ、俺としては電撃ナメクジ怪人が一番厄介だったけど。

 

「でけたよ」

 

 と、怪人のことを話している間にクイズが出来上がったようだ。

 パソコンを操作し、俺達を見たブルーは、レッドとイエローに視線を送ってから俺を見る。

 

「ルールは単純。答えが分かったら、答えを口に出す」

「おう」

「はっきり、思いを籠めてね」

「なんで……?」

「そうじゃなきゃ伝わらないから」

 

 え、別に操作するのはお前でパソコンが答えの是非を決めるわけじゃないよな?

 意味深な確認をするブルーに首を傾げている間に、クイズが始まる。

 

「これから、ジャスティスクルセイダー主催、ドキドキワクワクのクイズ大会を始めます」

 

「無駄に凝ってんな……」

「ボイスは、きりたんとゆかりの二種類用意してる」

「誰……?」

「嘘でしょ、カツミくん……!?」

 

 なぜそこで驚かれるのかも分からないんだが。

 でも、パソコンが喋るってのはすごいな……。

 ここに来るまで持っていなかったから、こういうのを見ると時代の進歩というのを理解させられるな。

 

「あとこういうのもある」

「アオイ様ばんざい。アオイ様はジャスティスクルセイダーの真なるリーダー」

「ちょっと? やっぱり狙ってるよね、リーダーの座!?」

 

 ツッコむレッドを無視してブルーは続けてパソコンを操作する。

 すると、再び、パソコンから音声が流れてくる。

 

「条件の確認をいたします。アカネ様、きらら様の勝利で、カツミ様への命令権を獲得。カツミ様の勝利で敗者が彼に食事を奢る、または作る権利を獲得。出題されるクイズの答えが分かり次第、口頭でマスター、アオイ様に伝え、正解すれば1ポイントとなります。以上、よろしいでしょうか」

 

 異論はない。

 なぜか奢る項目に、飯を作るって条件が追加されてる気もしないが気にするほどでもない。

 

「では、クイズを開始いたします。第一問」

「よーし、頑張るぞー」

「やったるでー」

 

 これもジャスティスクルセイダーとの戦い。

 誰が一番賢いのかを教えてやるぜ……!!

 

「ジャスティスクルセイダーのリーダー、レッドの苗字は新坂(あらさか)、さて下の名前はなーんだ?」

 

 ……。

 ……、……。

 

「ねえ、ちょっと待って?」

 

 一瞬頭が真っ白になったが、え、なに? なんでこんなこいつらにとって答えが分かり切った問題を?

 聞いて分かるほどの異常事態に隣のレッドを見ると、彼女は苦悶の表情のまま頭を抱えている。

 

「なんて難しい問題なんだろう……!? レッドの本名っていったい……!? 誰なの?」

「お前の名前だよね? ねえ、なんで知らないふりしてんの!? 白々しいことこの上ないんだけど!!」

 

 いきなり記憶喪失!?

 明らかにわざとっぽく悩みだすレッドは、俺の反応を見るとさらにわざとらしい素振りで驚く。

 

「あれっ!? もしかしてカツミ君、答えが分かっているの!? なら、言ってみてよー!」

 

「わぁぁ~すごい。さすがはクイズ怪人を倒した男。さらに見直したわぁ」

 

「渾身の問題をもう分かるなんて、さすがは黒騎士。やるね」

 

 まるで示し合わせたように動き出すイエローとブルー。

 ここで俺は自分が嵌められたことを悟る。

 

「お、おおお、おま、お前ら、ま、まさか最初から――」

「なんのこと? あ、問題は全部で三問だよ。君なら全問正解できるかもしれないね」

 

 サンモン? 三問!?

 流れからして、こいつらの下の名前を呼ばなくちゃならねぇじゃん!?

 

「こ、こんな勝負は無効だ!! 俺はやめる!!」

「駄目だよ」

 

 椅子から立ち上がろうとした俺の肩を両サイドに座っていたレッドとイエローが押さえつける。

 普段の彼女達からは想像できない力と、凄みに立ち上がることができなくなる。

 

「言ったよねぇ、負けたらなんでも言うこと聞くって」

 

「まさか、あんな啖呵切ったのにやめるなんて……言わへんよなぁ」

 

「もし勝負を放棄したらその時点で負けだから」

 

 なにこいつら怖くない……?

 怪人よりも狡猾なことしてくるんだけど。

 

「言うことを聞いてやるなんて、言ってないぞ。そ、そんな証拠はどこにもないしな!!」

 

 こうなったら意地でも条件を踏み倒して逃げてやる。

 こんなことで監視カメラの映像をとってくるはずがないだろうし、ここで抵抗し続けていればこいつらもきっと諦めるは―――、

 

やってやろうじゃねーか! 俺が負けたら、なんでも言うこと聞いてやるわ!!

 

 ブルーが操作したパソコンから俺の声と思わしき音声が鳴り響く。

 これは、イエローの挑発に乗って、勢いで口にした言葉……。

 

「お前らそれでもヒーローかよぉ!?」

 

 思えば俺は三人集まったこいつらに苦戦させられていた。

 それが今の状況でも同じだとは……。

 

「……ハッ!?」

 

 よく考えたらこれって勝っても負けてもこいつらに得しかないんじゃ!?

 ジャスティスクルセイダーは、かなりの高給っぽいだろ。

 命張ってんだし、そら沢山給料とかもらえるはずだ。

 そんな奴らに、出前程度払うのは訳ないはず。

 対して、俺はどうだ。

 勝つには、こいつらの下の名前で呼ばなければならない。

 負ければ、ジャスティスクルセイダー入り以外のことをなんでも聞かなければならない。

 どちらも選んでも、地獄。

 ならば―――、

 

「答えは、アカネ……!」

 

 よりリスクの少ない勝つ方にするしかない。

 口に出してから、自分の中のなにかが大きくすり減ったような感覚に苛まれる。

 くっ、こいつらと慣れ合わないように、名前で呼ばないようにしてきたのに、こいつらこんな卑怯な手を使ってくるとか信じられねぇ……!!

 

「せいかーい。よくできましたぁ♪」

 

 このパソコンを今すぐぶっ壊してジャンクに変えてやりたい。

 でも、きっと高いのでしない……! 我慢する……!

 隣にいるレッドは、俺が名前で呼んだのを聞いたのか、暫し呆然とした後に不意に頬を赤く染めた。

 

「え、い、いや、なんかいざ呼ばれるとそのすっごいドキドキするねっ! え、えへへ……や、やっぱまだレッドでいいよ。照れちゃうし」

「お前、マジぶっ殺すぞ!?」

 

 ここまできてその反応はないだろぉ!?

 両頬に手を当て照れるレッド。

 顔に熱を感じながら怒りをぶつけようとすると、その前に反対側のイエローが俺の肩に手を置いた。

 

「さあ」

「次の問題、やろうね」

「第二問」

 

 クイズはまだまだ終わらない。

 後、二問も残っているパソコン画面を見た俺は、絶望の表情を浮かべるのであった。

*1
正式名『はてな怪人クエッチョン』 戦闘力が低い怪人だが、その能力は自身を中心とした半径500メートルの人間に解答者としての役割を強制的に与え、無理やりクイズ勝負を挑んでくるぞ! 問題に正解すればクエッチョンにダメージを与えられるが、不正解の場合、絶対不可避の即死級の罰を範囲内の人間すべてに連帯責任という形で払わせてくるんだ!!

*2
正式名『写魂怪人フユーレ』幽霊であるこいつは、あらゆる攻撃にも干渉されない対人間に特化させた無敵の怪人! 相手の記憶を読み取り、死別した最も関わりの深い人間に化け、精神的に追い詰め弱り切った魂を食らい力にするぞ!! 化けた後の状態でも攻撃が通じず干渉することはできない!! だが、記憶を読み取ったフユーレの精神にショック(トラウマ)を与えることができれば、実体を現し干渉することができるようになるぞ!! ※このことは倒した黒騎士自身も理解していない

*3
正式名『催眠怪人スマイリー』能力は本体が生存し続ける限り、触れた人間と、その対象を介して伝染させた人間の喜びの感情を暴走させること! 幸せな記憶を見せ、それ以外の感情、思考を阻害してくるやばいやつ!! スマイリーの能力に制限はないので、放っておけば世界中が笑顔に包まれてしまうぞ!! 能力の範囲も合わせて幹部クラスだ!!




黒騎士くんの過去の一部とテレビを見ない理由でした。
こんな過去を持つ黒騎士くんの心を開かせるには、これくらい押しが強くないといけない難易度。

感想欄で指摘され、読み上げ機能に気付いて素で驚きました。
きりたんボイスで読み上げてくれるとか、ハーメルンすごすぎる……。


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三色戦隊、お説教と今後の計画(レッド視点)

箸休め回となります。
今回はレッド視点となります。


 最初に彼と遭遇した時は、中学三年生の頃。

 学校を出るのが遅れ、急ぎ足で塾に向かう途中に近道をしようとして狭い路地に入りこんだ私は―――その先で怪人と遭遇した。

 

「———おやおやおやぁ、まぁさか、人間に見つかるとは露ほども思いもしませんでしたぁ」

 

 怪人の存在は黒騎士よりも早く都市伝説として噂されていた。

 人を影から襲う怪物。

 出ては消え、出ては消え、を繰り返すことからその存在が完全に認知はされていなかったものの、その犠牲者は確実に私達の日常を蝕むほどに増えていた。

 そして、その時の私の目の前に現れたのは、ガスマスクのようなものを被った四本腕の男であった。

 

「はじめまして、お嬢さん。私は大気怪人ガスエアーと申します」

 

 逃げなきゃ、そこまで思考し後ろを向いて走り出そうとした私だが、一歩も踏み出すこともなく私の身体は地面へ倒れ伏すことになった。

 

「が、ぁ、たす……ぁ」

 

 息ができなかったのだ。

 いや、かすかに呼吸はできている。だけど、私が意識を保っていられる最低限の呼吸を強制されているような感覚だった。

 そんなあべこべな状況に混乱し、喉を押さえもだえ苦しむ。

 

「あらあらあら、苦しそうですねぇ。ほとんど息ができませんか? 安心してください、真空にはしていませんからぁ。じわり、じわりと、息ができなくなっていく恐怖を見せていただくためには、加減が必要ですからねぇ」

「ぁ、かは……」

 

 苦しい。

 明確な死に、絶望し涙が止まらない。

 そんな私の顔を覗き込んだ怪人は、まるで高揚したような笑顔を浮かべた。

 

「あぁ、いい! とてもいい!! でも、しかし、まだ、一人では駄目だ!! もっと見たい!! もっと味わいたい!! あぁ、そのためには、たくさん玩具が集まる場所が必要ですねぇ……」

 

 今思えば、危険だったのは私だけじゃなかったのだろう。

 この怪人は空気に干渉することができる怪人。

 こいつがしようとしていたことは、その能力を利用した大量虐殺。

 

「駄目だ、もう耐えらない。ここら一帯の空気を全て―――」

「よぉ」

 

 私でも怪人でもない第三者の声。

 その声に真っ先に反応した怪人は、声のする方に振り向いた。

 

「貴様! 黒き―――」

 

 だが、その次の瞬間には、ぱんっ! という軽い音の後に、私は呼吸ができるようになっていた。

 水中から地上に戻ったように、懸命に呼吸をしながら顔を上げると、目の前にいた怪人が頭を失い、そのまま地面に倒れ伏していた。

 

「俺を狙ったやつじゃないのか? ……どちらにしろ同じか」

 

 怪人の代わりに立っていたのはまるで、男の子が見るアニメやとくさつに出てくるようなスーツを着た男の人。

 彼はその手に持ったボールのようなものを地面へと投げ捨てる。

 

「ひっ!?」

 

 それは先ほど、私を苦しめて悦に浸っていた怪人の生首であった。

 人間とは異なる、まるでおもちゃのようなそれに声を上げて怯える私に、男がようやく気付く。

 

「あ、あああ、あの、その……」

 

 月明かりに照らされた彼の姿は、私が思っていた以上にメカメカしいものだった。

 全身を覆う真っ黒なスーツに、横長の複眼が目立つ頭部全体を覆う仮面。

 肩、胸部、足、腕には無理やり後付けしたようなプレート、塗装が剥げたそれは鈍色の光を反射させ、肩と胸部の左部分には、剥き出しになったコードやパイプなどが伸びていた。

 そして、右胸部には、『0(ゼロ)』という数字が刻み込まれていた。

 ―――まるで、未完成のものを無理やり、強化させたようなその姿に、私は目を奪われた。

 

「……誰だ」

「え?」

 

 私に声をかけようとした彼だが、なにかを感じ取ったのか後ろを振り向いた。

 彼の視線の先―――古い家電が積み上げられた場所の上に、一人の髪の長い少女が座り込んでいた。

 

「こいつがやられるとき、助けに来なかったな? お前はなんだ?」

「私は中立さ。人間にも怪人にも味方しない。だけれど、君のことは好きだ」

 

 突然の告白。

 しかし、彼は―――今となってはドン引きしたように拳を構え、殺気を強めた。

 少女は、両手を掲げ降参するようなそぶりを見せながら苦笑する。

 

「はじめまして、私はアルファ。私は君と友達になりにきた。どうか、末永くよろしくね」

 

 綺麗な、まるで絵画の世界から出てきたような現実離れした容姿の女の子。

 だが、どういうことだろうか。

 彼女の口にした名前も、その一目で印象に残る容姿すらも思い出せない。

 彼と少女がなにかを話していたが、言葉は聞こえず、私の記憶はそこでぷっつりと途切れてしまっていた。

 


 

 

 それが、私と彼、黒騎士ことカツミ君との出会いだった。

 多分、彼の方は覚えていないだろうけど、間違いなく彼は私の命の恩人だった。

 

「アカネ、アカネ!」

「うぅ?」

 

 ……どうやら、眠ってしまっていたようだ。

 

「なにやってんの、社長室、ついたよ」

 

 エレベーターの壁によりかかりうたた寝をしていた私を、きららが起こしてくれる。

 イエローとして活動するときは、変な関西弁を使う彼女だが、こういう普通の日常を生きる時は普通に喋ってくれる。

 まあ、私達からすれば結構混乱するんだけどね……。

 

「社長、なんの話だろうね」

「また変なギャグでも考え付いたんじゃないの?」

 

 ジャスティスクルセイダーの本部。

 一般人には知られていない此処は、表向きは世界的な企業の所有する建物として、政府に守られている場所である。

 その企業の社長こそが私達をジャスティスクルセイダーとして任命し、そのスーツを作り出した稀代の天才科学者、金崎(かねざき) 令馬(れいま)である。

 今日は、そんな人に呼び出されて本部最上階近くの社長室に来ている訳だが、本当にどんな御用なのだろうか。

 

「失礼します。ジャスティスクルセイダー、招集に応じ罷り越しました」

 

 扉の前でそう口にするとひとりでに扉が開かれる。

 すると、社長室の真ん中には、学校で使われている机と椅子が三つ置かれており、その前にホワイトボードが用意されていた。

 

「来ましたね、皆さん」

「社長……なんですか、これ」

「ンゥシャラップッ!」

 

 やたら腹の立つ発音と共に声を発しながら、私達の前に出てきたのは金髪をオールバックにさせた痩身の男。

 KANEZAKIコーポレーション社長、金崎 令馬。

 彼は普段の変態的な行動とは、異なる真面目な様子で私達の前に出てきた。

 その姿は、どういうことか学校の教師のようなちょっと地味目な服装の上に白衣を纏っている。

 

「先生はとても怒っています」

「は、はぁ……?」

 

 先生? だから、見るからに教師っぽいコスプレをしているのかこの人は。

 常に形から入る人だから不思議ではないけど、今回はいったいどんな用なのだろうか?

 少なくともスーツは無断使用していないし、怒られる心当たりはない。

 

「お前達、彼を騙して名前を呼ばせるのは駄目だろ……さすがの先生もドン引きだ」

「「「……」」」

 

 心当たりがありすぎた。

 用意された机に私達がつくと、社長は悩まし気な様子でホワイトボードの前に立った。

 

「言い訳を聞こう」

 

 ここは私が言っておこう。

 三人でやりはしたが、私がリーダーだから。

 

「頼んでも、名前で呼んでくれないし、こうなったら切っ掛けだけでも作ればいいかなって……」

「気持ちは分からなくもないが、それをするには悪手だったな」

 

 ぐっ、と正論を言われ言葉に詰まる。

 悪いことをしたのは自覚していた。

 でも、距離を詰めるにしてもまずは名前を呼んでもらわなきゃいけないと思って、少し無茶をしてみようと考えたのだ。

 

「彼はよくも悪くも、悪意には敏感だ。よりにもよって、君達からそうされるとは思っていなかったから、少なからずショックを受けているはずだ」

「……カツミ君」

 

 つまりは、一応の信頼をされていたということになる。

 彼にした仕打ちに私達は一様に落ち込んだ。

 

「だがあの強引さは悪くはなかった。彼の心を開くには、それくらいの強引さも必要なのは当たっていたんだ」

「間違っていたのは、やり方ですか?」

「その通り。口ではつんけんしてても、彼は無理に突き放したりはしない。つまり、彼はツン8:デレ2の割合で君達に対応していることになる……!」

 

 ホワイトボードに書き込みながら社長はそう説明してくれる。

 しかし、素直に喜べない部分もあった。

 

「で、でも、うなされた彼を抱きしめたときは吐かれたし……」

「いや、あれはナイスプレイだった。あの時の対応はアレで間違いはなかった」

 

 間違いではなかった?

 嫌がられて嘔吐されるのって相当やばいような気がするんだけど。

 

「あれはお前のせいで吐いたんじゃない」

「……ぇ」

「彼が夢にうなされた後は、いつもああだ。だから彼のメンタルケアが必須なんだ」

 

 胸が締め付けられるような感覚に苛まれる。

 決して、自分が吐かれるほどに気持ち悪がれたわけではない安堵ではなく、彼の身に起こっている異常への焦燥感であった。

 異常なほどにうなされていた。

 幼い子供のように、寝言で誰かに助けを求めていたのだ。

 

「いったい、カツミ君の過去になにがあったんですか?」

 

 私がそう訊くと、社長は悩まし気な顔で顎に手を当てる。

 

「彼の過去はこちらとしても調査は済んでいる。だが、それをお前達に教えることは絶対にできない」

「ッ……なぜですか!?」

「間違いなく、お前達は彼に同情するからだ。その境遇、仕打ち、悲しみに共感し、これまでとは変わった視点で彼を見てしまう。彼と関わることになる君達に、そうさせるわけにはいかない」

 

 それほどの、ものなのか。

 彼と戦った最中でもどれだけのものを背負っているのか分からないほどだった。

 

「それでは駄目なのだ。お前達は同情で彼と仲良くしたいのか? 傷の舐めあいをしたいのか? 違うだろう。……だが、そこまで聞きたいと思うのなら、相応の覚悟をしておけ。七歳の頃の彼が見た地獄は、ネットなどで囁かれているような、おふざけ程度のものの比じゃない」

 

 無言になる私達。

 ここで彼の過去を聞くのは簡単だが、社長の言う通りだ。

 私達は私達の意思で、彼の心を開かなければならないのだ。

 

「まあ、彼のバイタルと機嫌自体はその後の出前の高級肉寿司で全回復したんだけどな」

「「「えええええ!?」」」

「いや、お前らがお詫びもかねて頼んだんじゃないか。というより、一緒に仲良く食ってただろ」

 

 ここまで説教しておいて、カツミ君の方は肉寿司で機嫌直っちゃうの!?

 い、いや、確かに出前という存在自体にウキウキしていた節はあったけれども!? 食べてる時は、ぶすっとした表情で食べていたよ!?

 空気そのものをぶち壊す社長の言葉に、私達は椅子に座りながらずっこけそうになる。

 

「さて、お説教も終わったことだしそろそろ私も元の感じに戻るとしよう」

 

 面倒くさそうに白衣を床に放り投げた彼は、オールバックにさせた金髪を崩しいつものおちゃらけた風体へと戻る。

 

「先日、彼の身体検査を行った。彼をパンツ一丁にひんむいて調べてやったんだ」

「ぱっ……!?」

 

 顔を赤くさせる私達。

 いつもの調子に戻るなり、また変なことを口にしはじめた……!

 

「結論を言うなら、彼はいたって普通の人間だ。生い立ちこそは不幸ではあるが、彼の肉体が変質しているような事態は起こってはいない。私としては、最悪怪人化くらいはしているかなと予想していたが……まったく、本当に不思議な人間だよ、彼は」

「そんな、冗談でも怪人化だなんて言わないでください……」

 

 怪人化なんて冗談じゃない。

 彼は絶対に違う。

 そういう意味を籠めて睨みつけると、社長は飄々とした様子で肩をすくめる。

 

「謎が解けない方がもっと恐ろしいだろ。なにせ、理由が分からないんだからな」

「ちょっと社長! その言い方はないと思います!!」

「イエロォッ! 私が不真面目な時は似非関西弁で話せ! 没個性すぎて見分けがつかんっ!」

「うぅ、ひどい……」

 

 ここに来て初めて喋ったきららに、指を突きつけ関西弁を喋るように強要させる社長。

 もう何度も見たやり取りだが、なにかこだわりがあるのだろうか……?

 

「———私が人生の全てと才能を懸けて作り出した人体拡張強化スーツ。略してジャスティスチェンジャーは見事、怪人という脅威へと対抗する力にすることに成功した」

「全然、略せてないんやけど」

「その甲斐もあって政府と連携し、ジャスティスクルセイダーを組織として作り出し、スーツに適合する人間を健康診断を偽造したテストにより見つけ出したのが、お前達だ!!」

 

 やってることが本当に悪の組織なんだよねぇ。

 隠して行う理由も分かるが、この人がやっていると一気にマッドサイエンティスト感が増すというか。

 

「だがジャスティスチェンジャーは三人の力を一つに束ねるものだとすれば、黒騎士、否! ジャスティスチェンジャー試作ゼロはその以前の段階、強大なエネルギーを一つのスーツで制御するためのもの!! 故に、三人で負担を分けるはずの機能を、一人でこなさなければならないのだ!!」

 

 勢いに乗った社長はペンをとりながらホワイトボードに文字を書きなぐっていく。 

 

「だがしかぁし!! そもそもプロトスーツはそのような出力を引き出せるものではなく、逆に次世代型のスーツ一着にも劣る性能にまで落ち込んでしまった。———つまりは、欠陥品!! 失敗作なのである!!」

 

 大きい出力を出すためのスーツなのに、出せない?

 あれかな、一般自動車にスポーツカー用のエンジン詰め込んだって感じなのかな?

 

「だからこそ、私は断腸の思いで処分を決意した。したはずなのだが、どういう女神の悪戯かプロトスーツは当時中学生の子供、穂村カツミの手に渡ることになった!!」

 

 そう、彼は中学生の頃から既に戦い始めていた。

 本格的な戦闘は高校からになるのだろうが、それを含めても異常の一言に尽きるだろう。

 

「だが、彼はなぜ性能を引き出せる!! なぜ怪人を倒せる!! なぜリスクもなしに扱い続けていられる!! 私はどうしても、その秘密が知りたい!! そのためなら極寒の海を全裸で泳ぐくらいのことを厭わないくらいの覚悟がある……!!」

 

 どういう覚悟だよ。

 なんで、貴方がそんな覚悟を決める必要あるんですか。

 完全にマッドサイエンティストモードになった社長。

 彼はひとしきり叫んだ後に急に落ち着きを取り戻した。

 

「と、いうことで近いうちに、彼にスーツを着てもらって能力値の測定を行うことになった」

「「「……はぁ!?」」」

 

 なにをあっさり言っているんだこの人は!

 

「既に彼には許可をもらってある。ずっとあそこにいたから、室内でもいいから歩きたかったんだろう。すぐに了承してくれたよ。まあ、私の作った新スーツは断られてしまったけどね、ハッハッハ」

 

 用意周到すぎる社長に開いた口が塞がらない。

 

「あと、今日はみんなに伝えようと思ったことがあるんだ」

 

 続けて畳みかけるようにこちらへ社長が振り向く。

 彼は社長室のテーブルの上にあった用紙を私達へと見せる。

 それは、以前行ったアンケートの内容であった。

 

「このアンケートの結果だが、政府の指示で公開することになった」

「え、公開……しちゃうんですか?」

「ああ、加えて君達が彼から聞いた怪人の内容についても追記した上でね。だが、一部情報はこちら側で消しておく。あれには少しばかり厄介な案件が隠れているからね」

 

 言葉も出ない私達に、社長は続けて言葉を発する。

 

「政府としても黒騎士の功績を無視することはできない。お前達は、ピンとこないようだが……彼がアンケートで記した怪人は、日本だけではなく世界規模で厄災をもたらすことのできる危険な怪人だった」

「「「……!」」」

 

 スマイリーなら分かる。

 だけど、他のナメクジとかもそうなの……?

 

「彼の生存と、性格の一部を公開するには、あのアンケートの内容が中々に都合がいい。あぁ、これも彼には了承をもらったよ」

「彼が了承、したんですか?」

「断ることはできないと悟られてしまったよ。だが、先を考えればこれも彼のためになるだろう」

 

 社長が机の上の紙を手に取り、眺める。

 

「……お茶目なところもあるから、女性人気も増えるかもしれないな! なっはっは!!」

「言動がオヤジすぎるわ……」

 

 下品に笑う社長に辟易とするが、彼はそれでも不敵に笑う。

 

「俺の正直な気持ちを言うとすれば、彼は是が非でも味方に引き込みたい。なにせ、この国を守る戦士は未だに三人しかいない。君達が倒れれば、後はないんだ」

「でも、オメガは……」

「ああ、倒されたさ。だがな、それで本当に終わると思うか?」

「……」

 

 社長の言葉に閉口する。

 その不穏な可能性は私も感じ取っている。

 まだ戦いは終わっていない、まだ続いている、と。

 

「だからこそ、彼の力が必要だ。そのために彼と親交を交わし、好感度を上げるのだ……!! ジャスティスクルセイダーよ……!!」

「真面目な話題ですよね……?」

「一気に、チープさが出てきたね」

「台無し」

 

 そんな指令を出すときみたいなノリで言われてもどうすればいいのか分からない。

 私達の物言いに、あっさりとキレた社長は机に身を乗り出しながらこちらを指さしてくる。

 

「やかましい!! 最悪、お前らがしっぽり誘惑すれば事足りるだろ!!」

 

 しっぽッ!?

 とんでもない下ネタに顔に熱が昇る。

 

「あんた本当に最悪やな!! セクハラやぞそれ!!」

「あー、もう、ちょっーと下ネタ言ったくらいでセクハラってもう!! 本ッ当、今の社会って面倒だわー!!」

「面倒なのはあんたやろぉ!!」

「その似非関西弁やめてくれへん? ぷっっぷぴぃー!」

 

 きららの声を真似るように裏声を出した上で、自身の鼻をつまみ愉快な音を鳴らす社長。

 ブチィッ! と隣できららから何かが千切れるような幻聴が聞こえた。

 

「今この場でおどれの背骨ェ引き抜いたるわぁぁ!!」

「きらら! ここで怒ったら相手の思う壺だよっ!!」

「仁侠映画みたいになってる! 仁侠映画みたい!」

 

 変身チェンジャーに手を伸ばすきららを私と葵で全力で止める。

 こんな下ネタ大好きの社長だけど、人類の救世主扱いされてる重大な人なのだ。

 




アンケートで 燃 料 投 下。

こんな感じで襲ってくる怪人を日常的にちぎっては投げしてた黒騎士くん。
何気に、変身状態の初の描写となります。

そして、キャラ個性しかない社長の登場。
真面目な時が珍しいくらいに、いつもはふざけまくっています。
立ち位置を特撮キャラに例えると、“激走戦隊カーレンジャー”に登場するダップがわりかし近いかもしれません。


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始まる議論と小さな異常(掲示板)

掲示板回です。

・ネタ多め。
・議論アリ。
・暴言アリ。

以前、読みにくいと感想欄でご指摘がありましたので、スレ形式を簡略化してみました。



 

メンタルチェックアンケート

 

今回、貴方の精神状態を調査するため紙媒体でのアンケートを行うことが決定しました。

質問にできるだけ正直に答えるようにお願いしますが、気分を害された場合や、質問の意図が理解できないようであれば無記入でも構いません。

アンケートの結果は、担当医である白川 伯阿にのみ伝えられます。

 

 

Q1.貴方は今の生活に不満がある。(はい、か、いいえ、に◎をつけてください)

□はい  ◎いいえ

 

Q2.ジャスティスクルセイダーは貴方にとってどのような存在か? 以下の空欄にご記入ください

俺を倒して見せた好敵手。

あの戦いで負けたことに関しては、思うところはなにもない。

 

Q3.貴方の言うワルモノとはどのようなものを指すのですか? 以下の空欄にご記入ください。

誰にも奪われない。奪わせない力を持って、好きに生きているやつ。

少なくとも、俺にとっては今生きている現実に自由なんてものはなかったから、黒騎士になった。

後悔はしていない。

 

Q4.プロトスーツを着用した直後、なにか精神や身体に異常はありませんでしたか?

 □はい ◎いいえ

Q5.Q4にて“はい”と答えた場合にのみお答えください

  具体的にはどのような異常が感じられましたか?

 (例:苛立ち、暴力的感情に支配される、など

 

 

 

Q6.あなたが戦ってきた“オメガ”以外の最も強かった怪人はなんですか?(複数可)

ジャスティスクルセイダーが活動する前に倒したやつの中から、

電気ナメクジ怪人、幽霊怪人、マグマ怪人、笑わせ怪人、なんかアルファとか名乗ってた怪人

 

 

Q7. ジャスティスクルセイダー以外の組織からの勧誘、接触などはありましたか?

 □はい □いいえ

 

Q8.Q7にて“はい”と答えた場合にのみお答えください。

どのような組織ですか? 分からなければ特徴などを空欄にご記入をお願いします。

黒いコートを着た怪しい男。

邪悪は地の底から、正義は宇宙から、と謎の言葉を呟いていた。

 

 

 

Q9.貴方の好きな食べ物はなんですか?

カレー(甘口)、ハンバーグ 、オ.ムライス

 

 

Q10.貴方の好きな本はなんですか?(ジャンルのみでも可)

推理もの

 

 

Q11.ジャスティスクルセイダーのメンバーの中で誰が最も好印象ですか?

 

□レッド □ブルー □イエロー ◎特になし!!

 

Q12.貴方はジャスティスクルセイダーに入りたいと思いますか?

 

□はい □YES ◎いいえ!!

 

以上、ご協力ありがとうございました。

次の問診にて今回の診断結果を参考にさせていただきたいと思います。

 

 

別紙にて、Q6に記述された怪人についての解説。

 

 

 


 

 

451:ヒーローと名無しさん

 

とんでもない起爆剤が投下されたな

とにかく、黒騎士君の好きな食べ物の尊さに憤死した奴らと、好きな食べ物を深読みして闇を抱いて勝手に憤死するという尊い犠牲を経たわけだが……。

コレまずはどこから考察していけばいいんですかね?(キレ気味)

 

452:ヒーローと名無しさん

 

はい猫被り乙。

かまととぶってんじゃねぇぞこの犯罪者が。

 

なにが、ハンバーグだ。

クソガキかよ。

 

あのまま自爆して死んでればよかったのに。

 

453:ヒーローと名無しさん

 

まず判明したワルモノの定義にびっくりさせられた。

これ悪ぶってんじゃないんだな。

自由に生きようとしていただけなんだよな。

 

多分、それが悪いことって思いこんだのは周りの環境に影響されてる可能性がある。

 

454:ヒーローと名無しさん

 

少なくとも黒騎士くんにとっては奪われる環境に置かれていることは当たり前だった。

自分は善人のはずなのに、奪われてばっかりだったから、ワルモノになろうと思った。

 

455:ヒーローと名無しさん

 

口ぽかーんってなるわこれ。

これ、あれだな。

勿論、天然も入ってるけど、なんというか納得する。

 

456:ヒーローと名無しさん

 

自分が勝利者じゃないって自覚したら精神崩壊してキャンディ欲しがってそう……。

 

いや、好きなものが子供っぽいのって……、たしか両親はいないって言ってたよな?

 

457:ヒーローと名無しさん

 

こいつ危なすぎだろ。

書いてることとやってることの差異が激しすぎるんだよ。

 

こいつが、表に出てきたら誰が止められるんだ?

ジャスティスクルセイダーだって、ギリギリでようやく倒せたんだぞ。

 

しかも旧式のそれもアンティークじみた装備相手にだ。

なんでこの危なさが分かんねぇの?

 

怪人を簡単に始末できる奴が、人間を害さないって保証はないだろ。

そもそも、こいつ犯罪者でヴィランだぞ。

 

458:ヒーローと名無しさん

 

なんだぁ、てめぇ……

 

459:ヒーローと名無しさん

 

>>457

言い方は最悪だけど一理ある。

あくまでどちらの立場とも言えないけれど、たしかに黒騎士くんは危なすぎる。

 

ジャスティスクルセイダー以外の抑止力がない。

彼が本気で暴れたら、多分誰も勝てない。

怪人を倒し続けたことで、彼自身が本物の怪人になるんじゃないかって恐怖がある。

 

460:ヒーローと名無しさん

 

いやいや、よく考えてよ。

ジャスティスクルセイダーが出てくる前に現れた怪人。

 

あんなの財団案件のケテルクラスのヤバい奴らでしょ。

それをたった一人で倒してきたのは誰?

 

まずは彼本人の危険度より、彼がいなくなってしまった危険度の方を考えるべきじゃないの?

たしかに、危険なのは分かるよ?

でも、彼一度も人に危害加えてないよ? 少なくとも記録上では。

 

461:ヒーローと名無しさん

 

こんなの作り話じゃないの?

スマイリーだって、すぐに鎮静化されたし大したことないじゃん

信者乙。

そんなに黒騎士様を崇め奉りたいなら、他所でやってくれよ。

気持ち悪っ。

 

462:ヒーローと名無しさん

 

で、ででででたー

すぐ信者認定するやつ。

 

463:ヒーローと名無しさん

 

なら作り話じゃないって証拠でもあんの?

誰がこんなクソみたいな創作信じるってんだよ。

 

説明してみろってんだ。

 

464:ヒーローと名無しさん

 

お前が信じないかどうかは俺が決めるとするよ

 

465:ヒーローと名無しさん

 

は? 意味わかんね。

 

466:ヒーローと名無しさん

 

そうとも言えるし、そうでもないと言える。

 

467:ヒーローと名無しさん

 

サム八語録でシャドーボクシングさせようとすんのはやめなさい。

 

468:ヒーローと名無しさん

 

政府がなんの裏付けもなしに、これ貼ると思ってんのか?

 

ちゃんとれっきとした裏付けがあっから情報開示したの。

 

ソース貼ってやるから黙って読んでろ。

httds:XXXXXXX/XXXXXX/XXXXXX

 

469:ヒーローと名無しさん

 

これ作り話じゃない。

だって、俺黒騎士がスマイリー倒すところ見てた。

てか絶賛、能力にかかって爆笑してた。

 

470:ヒーローと名無しさん

 

字面だけ見ると面白いけどなぁ

 

471:ヒーローと名無しさん

 

楽しい。

それ以外の感情が見つからない。

現実が見えてるのに、頭の中によぎるのは今はいない愛犬を可愛がっていた光景。

 

とにかく、笑うしかない。

俺の周りの人達も、みんな笑ってた。

誰かに肩がぶつかれば、笑顔がどんどん伝染していって、正気を保っているのかさえ分からなかった。

スマイリーは鼻歌を歌ってた。

 

「みんなハッピー、笑えばハッピー、

みんなが笑顔になればなにも怖くない。

誰が死のうと笑顔で吹き飛ばそう。

僕はスマイリー、

君もスマイリー、

みんなに笑顔を届けるピエロなのさ」

 

スマイリーは簡単に鎮静化された?

あんな恐ろしい化物にただの人間が勝てるはずないだろ。

 

472:ヒーローと名無しさん

 

スマイリーを題材にして映画を作ろう(震え声)

 

473:ヒーローと名無しさん

 

なんつー恐ろしい怪人だ……。

黒騎士くんは、倒したんだよな?

追記には、触れられる前に倒したって書いてあったし。

 

474:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士は能力を食らってたよ。

この目で見た。

 

彼はスマイリーの能力が効いてなかった。

泣きながら笑っている俺達に囲まれながら、彼は少しも笑ってなんかいなかった。

 

スマイリーは、すごく動揺していた。

お前は人間だろ! って、怯えてさえいた。

 

そのまま彼はスマイリーを簡単に倒してしまった。

今では、本当に感謝してる。

彼と出会う機会があるのなら、ありがとうって伝えたい。

 

475:ヒーローと名無しさん

 

これって黒騎士くん怪人疑惑?

それとも、黒騎士くんには幸せな思い出すらもないってこと?

 

476:ヒーローと名無しさん

 

スマイリー本人が人間認定してるから多分違う。

 

477:ヒーローと名無しさん

 

生物には絶対に効く類の能力だろうから、怪人じゃないにしても効かないとおかしいって認識だったんじゃないか?

なのに、黒騎士くんには効かなかった。

 

つまり、そういうことなんだろうなぁ。

 

478:ヒーローと名無しさん

 

笑顔にする怪人を、怯えさせるヴィランか。

なんかしゅごいシチュエーション。

 

479:ヒーローと名無しさん

 

これってもしかして、俺らが想像しているより黒騎士くんの闇って深い可能性あるよな。

 

480:ヒーローと名無しさん

 

覚悟の上

 

481:ヒーローと名無しさん

 

クイズ怪人のゲームに巻き込まれたけど、本当に怖かった。

頭の上にヘルメットを被せられて、それからクイズ怪人の言葉が聞こえてきて、選ばれた一人の回答者がクイズをしないといけないって。

 

勝ったら、クイズ怪人にダメージを与えるか、脱出できるかのどちらか。

一度でも負けたら、連帯責任で全員殺されるって。

 

482:ヒーローと名無しさん

 

強制的に範囲内の人間に解答者としての役割を与えるって、拒否権ないなら相当やばいぞ。

しかも、一人間違えたら連帯責任で全員死亡とか、絶対に勝たす気がない。

 

見た目と違ってすっげぇ邪悪な怪人だ。

どうやって、そいつ倒されたんだ?

 

483:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士さんが投げた石に当たって倒されちゃった

 

484:ヒーローと名無しさん

 

ごめん草

 

485:ヒーローと名無しさん

 

邪悪な割に紙耐久かよwww

 

486:ヒーローと名無しさん

 

言葉にするだけならそうだけどさぁ!

黒騎士くん、能力範囲外の何百メートルも離れたところから、投擲してピンポイントで当ててるんだぞ!!

 

487:ヒーローと名無しさん

 

え、なにそれ……

 

488:ヒーローと名無しさん

 

あっ、そういうことか。

クイズ怪人を攻略する解答がそれだったんだな。

 

まさしくクイズに勝ったわけだ。

 

489:ヒーローと名無しさん

 

解答(物理)じゃん……。

 

490:ヒーローと名無しさん

 

クイズ怪人でさえこれだもんな。

電気ナメクジ怪人の時は、本格的に黒騎士を非難する流れができてたけど、あの敵の死骸、科学的に調べたら電気の貯蓄量が異次元レベルって判明して激震が走ったよな。

だから、あのまま放っておけば大停電どころじゃない、大惨事になってた。

 

491:ヒーローと名無しさん

 

当時すごかった。

みんな、黒騎士くんのことヤバい奴って認定してて……。

肝心の黒騎士くんは仮面越しで分かるくらいにドヤ顔だったけど。

 

492:ヒーローと名無しさん

 

悪いことができてうれしかったんやろなぁ。

なお、その後、ナメクジ怪人の死骸調べられてそいつの危険性が学会で発表されて掌クルーされた模様。

 

まあ、掌ひっくり返してよく考えると五倍もっとヤバいことしてたわけだが。

 

493:ヒーローと名無しさん

 

科学者からも一般人からも一番理解されなかったのはナメクジ怪人の倒し方という理不尽

 

494:ヒーローと名無しさん

 

お前が! 死ぬまで!! 殴るのを!! やめない!!

 

を、実行した。

で、死んだ。

 

495:ヒーローと名無しさん

 

それで本当に死ぬやつがあるか

ってことを実行して完遂しちゃうあたり脳内筋肉太郎だわ。

 

496:ヒーローと名無しさん

 

考察によると、黒騎士君がナメクジ怪人を殴って電気を発散させる。

   ↓

黒騎士君のスーツが電気を吸収し、パワーに変える。

   ↓

またナメクジ怪人を殴る

   ↓

電力吸収を繰り返していたらしいぞ。

 

元からジャスティスクルセイダーのスーツには、電気をエネルギーに変換させる機能がついてるって話からの仮説。

本人の体力気力? そんなもの知らん。

 

497:ヒーローと名無しさん

 

多分、一番科学に喧嘩売ってんの怪人じゃなくて黒騎士くんだと思うの。

 

498:ヒーローと名無しさん

 

これ普通だったら電力吸いすぎて、スーツの方がパンクするけど、

投稿された監視カメラの映像を見るかぎり、フルパワーで殴り続けてエネルギー回復しながら消費し続けてる可能性があるんだよな。

化物すぎる。

 

499:ヒーローと名無しさん

 

一つ訂正。

ナメクジ怪人と呼んでいるが、あれはナメクジじゃない。

海洋学者の俺には分かる。

あれは、ナマコだ。

二度と間違えるんじゃねぇ。

 

500:ヒーローと名無しさん

 

ナマコ兄貴出てきて草

ナマコの論文書いてそう。

あなたの兄弟、黒騎士に爆散させられましたよ。

 

501:ヒーローと名無しさん

 

男の風上にもおけねぇナマコだぜ。

刺激が欲しいなら、モツ吐き出すくらいの気概を見せねぇと。

 

502:ヒーローと名無しさん

 

か、かっこいい……。

 

503:ヒーローと名無しさん

 

ごめんなぜかツボッたwww

ナマコこの野郎、ふざけんなwww

 

504:ヒーローと名無しさん

 

幽霊怪人とかやばくね?

あれ、死んだ人に化けて精神攻撃してくるんだろ?

 

505:ヒーローと名無しさん

 

半天狗なら、お奉行様が出てきそう

 

506:ヒーローと名無しさん

 

それじゃあ幽霊怪人が正義側になっちゃうだろ! いい加減にしろ!!

 

507:ヒーローと名無しさん

 

無惨様と兄上なら、縁壱が単独顕現してくる。

 

508:ヒーローと名無しさん

 

パパ黒みたいに体乗っ取りそう(小並感)

 

509:ヒーローと名無しさん

 

この異常者め(震え声)

 

510:ヒーローと名無しさん

 

話ぶった切るようで悪いけど、素朴な質問をしていい?

 

「なんか   とか名乗ってた怪人」ってなに?

 

笑わせ怪人の右隣にあるやつだけど。

誤植?

 

511:ヒーローと名無しさん

 

なんかとか名乗ってた怪人?

 

512:ヒーローと名無しさん

 

なんかとか名乗ってた怪人って名前なんだろ。

間に空欄あるし、なんも書いてないから、もしかして空白怪人かもしれない。

 

513:ヒーローと名無しさん

 

いや、今までの怪人からすると、これそのものが名前の可能性があるな。

 

514:ヒーローと名無しさん

 

さすがに意味のないものは載せないだろうし。

もしかしたら、政府側も、これ「なんかとか名乗ってた怪人」って認識してるのかも。

 

515:ヒーローと名無しさん

 

じゃあ、間違いってやつだな!

 

516:ヒーローと名無しさん

 

最後の卑しい三色戦隊の質問に対して、黒騎士くんが自分から選択肢作っちゃうの面白すぎる。

 

517:ヒーローと名無しさん

 

分かりみ




自分でもよく分かりませんが、なぜかナマコ兄貴がお気に入りになりました。

暴言を入れると過激化しないようにするの難しい。
前半457の黒騎士否定派の意見も間違っていないのも難しいところ。


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力の正体、怪人の再来(レッド視点)

レッド視点となります。



 カツミくんの能力測定。

 それは、彼が変身した状態で多数の仮想エネミーと戦闘を行いながら、そのバイタル、能力値をデータとして記録することだ。

 その場所は本部の地下に作られた大型の演習場。

 私達も自己訓練のために利用するその場所に、彼は立っていた。

 

『……え、えぇ、すごいお金かかってそう……。こ、ここって地下だよな。俺だけ未来世界にタイムスリップした気分だ……』

 

 演習場の壁は設定によってその景色を変えることができる。

 今、彼が予防接種に連れていかれた子犬みたいに挙動不審になっている景色は、どこかの炭鉱跡地のような、草木もないまっさらな砂地である。

 

「黒騎士としての彼の中身は我々にとってブラックボックスに等しい」

 

 今、私達がいるのは演習場を上から見渡せる階に作られた部屋。

 横に大きく広いこの場所には、10人ほどの人員と、私達ジャスティスクルセイダーのメンバー三人。

 そして、この測定をものすごく待ち望んでいた男、私達の司令であり科学者であり社長の、金崎 令馬がいた。

 

「お前達のスーツには、バイタル、エネルギー出力、装備者の体調を遠隔で管理するシステムが搭載されている。だが、プロトスーツ……否、ジャスティスクルセイダー試作ゼロ号のスーツにはそれがない」

「どうして?」

「つけるのを忘れていたからだ」

 

 その場にいた全員の視線が社長へと集まる。

 私達ではなく、いつもサポートしてくれる人たちの呆れた視線を向けられても、彼の自信に満ちた顔は歪まない。

 

「その装置を以てすれば、お前達の3サイズでさえ―――待て、冗談だ。だから、ショックガンを人に向けるな。あれだぞ? それは最大出力だとものすごく痛い……アッ、イエロー? そのきゅぃぃぃぃんって音はアレだね? 最大出力かな?」

「「「……」」」

 

 このようなおふざけは日常茶飯事であるので私達はため息を零しながら、護身用に持たされている玩具のような見た目の銃『ショックガン』をしまう。

 

「フッ、私はお前らには異性としての興味など欠片も抱いていないわ」

「お前はもっと言い方がないんか!!!」

「私を人間と一緒にするな」

「その時々する、自分が人間じゃないアピールなんなの……?」

 

 並みの人間とは一緒にしないで欲しいという意味か。

 

「さて、おバカ共の邪魔も入ってしまったが……さあ、カツミくん。準備はできてるかな?」

『ん? ああ、できてるよ、レイマ』

 

 ……。

 

「「「は?」」」

「確認しておくが、脱走はしないように。なんだ、お前達。鬱陶しいぞ、話は後にしろ」

 

 煩わしそうに、しっ、しっ、と私達を追い払った社長は、マイク越しに彼へと話しかける。

 

「君のスーツはなるべく元のままに修理したが、その際にこちらで変身を強制解除させるプログラムを組み込んだ。君が脱走しようとする素振りを見せれば、こちらはすぐにそれを作動させる」

『オーケー、分かってる』

「なら、よし。ではこちらの合図で変身してくれ」

 

 マイクから口を離した彼は、唖然としている私達の方を向く。

 

「で、なんだ?」

「なんで貴方が名前で呼ばれているの……!?」

「金で買ったん……?」

「洗脳……?」

「今、お前達が私のことをどんな目で見ているのか分かったよ」

 

 カツミ君は、社長をレイマ、下の名前で呼んでいたのだ。

 いや、目上の人に対する呼び方では決してないけど、下の名前ですら無理やり呼ばせないと呼んでくれない私達を考えると、異常極まりない話である。

 

「はぁぁ、これだからクソ雑魚戦隊ジャスティス恋愛経験ナインジャーが。見ていて悲しくなるよ。お前らの青春は全て、怪人と黒騎士と共にあるのは分かっているが……」

「そうなってるのは、あんたのせいやろ……!!」

 

 文句はない、文句はないが、なんだろうこの釈然としない気持ち。

 

「映画だ」

「は?」

「私は彼の欲しいものリストを用意し、映画を送っているのだ」

 

 思いもよらない話に考えがまとまらない。

 え、なんで映画で呼び捨てになるの? ラブコメ映画でも見させたの?

 

「ちょうど私も映画が好きでね。この私自ら手渡しているうちに、まあ、当然仲もある程度良くなる。基本的に、彼は昼時間に、運動・勉学、軽くPCを弄っているくらいだったからな。他の時間もあった方が彼の精神的にもいいと思い、映画などを送るようになったのだ」

「「「……」」」

「ちなみに私は一研究者として接しているので、彼には私がスーツ製作者であることは知られていなぁい」

 

 こ、この社長……!

 自分がスーツを作った人だと、彼に知れたら絶対に普通に接することがないことを理解している……!

 

「社のスタッフのほうも、よかれと思って色々と差し入れもあげているんだ。さすがに常識の範囲内に留めておいてはいるがな。……もういいか? 早く測定を始めたいのだが」

 

 ちらちらとマイクを見た彼は、私達がなにも喋らないところを見てそれを取る。

 やはり、私達をライバル意識しているから、仲良くなることにも難しいところがあるのかな……。

 うぐぐ、絶対諦めないからね……!

 

「待たせたな。変身してくれ」

『ああ』

 

 画面に映し出された彼の姿を見る。

 彼は腕に嵌められた黒色の時計のような腕輪『プロトチェンジャー』を胸の前に掲げ、その側面のボタンを連続して三度押す。

 チェンジャーの発動と共に周囲に特殊なフィールドが展開され、粒子化されているスーツが彼の首から下を覆い、その上から頭全体を覆う仮面が装備される。

 私達の変身ならここまでで終わりだが、彼の変身はまだ終わらない。

 彼はさらにそこから、増設されるように鈍色のプレート、胸部の装甲などが装着されていく。

 

CHANGE——PROTO TYPE ZEROォ……

 

 ノイズがかったシンプルな音声と共に変身を完了させた彼は、自身の調子を確かめながらこちらへ手を振ってくる。

 ……彼が変身するところを初めてみたけれど、最初の変身プロセスは同じだけれど、その後が違う。

 私達は一つの手順で変身を完了させるが、彼の方はもうひと手間加えているようにも見える。

 

「彼のスーツを測定しているところだが、どうだ?」

 

 社長がスタッフの一人に声を投げかける。

 

「エネルギー出力、バイタル値、他共に安定しています。プロトスーツのデータを考えると、異常な数値です」

「なるほど、やはり適合値そのものがずば抜けている訳か。プロトスーツ自体の性能は……私が想定していた本来の性能を引き出している……!?」

 

 モニターを食い入るように見つめた社長は、一旦冷静になるように深呼吸する。

 

「落ち着け……考察は後だ。……仮想エネミー、レベルは最大」

「了解。仮想エネミーレベル10。……数はどうします?」

「手始めに10体だ」

 

 スタッフがコンソールを入力すると、カツミ君の前に人型のロボットが現れる。

 今では簡単に倒せるけど、最初の頃は私達はあれに散々ボコボコにされたなぁ。

 遠い目をしながら、画面を見ていると社長がマイクを手に取った。

 

「カツミ君、試しに相手をしてみてくれ。レベルは最大、君には物足りないかもしれないが頼む」

 

 軽く手を振って了承した彼は、仮想エネミーを前にして軽くその場を飛ぶ。

 準備運動をするかのように、軽いリズムを刻み飛んでいた彼は―――、

 

「なっ!?」

「どうした!?」

 

 スタッフの女性が驚愕の声を上げる。

 その声に驚くと同時に、画面から何かが砕ける音が響く。

 見れば、足を振り切った彼が二体のロボットを両断しているではないか。

 

「出力、一瞬で限界値を超えました! いえ、元に戻ってる……? あ、また限界値を……」

 

 彼が戦っている画面とスタッフの見ている画面を見比べる。

 彼が敵に攻撃する度に、ぐんッ! という勢いで目盛りが振り切ってはゼロに戻る。

 正直、この画面がどういう値を測定しているのか分からないが、それでも異常なことが起きているのは分かる。

 

「……もっと、エネミーを出せ」

「は、はい?」

「出すんだ!!」

 

 社長が興奮やらなにやらで震わせた声に頷き、さらに仮想エネミーが出現する。

 最初の十体を全て倒し終えた彼は、新たに現れた仮想エネミーを目にして、首を傾げた後に―――地面が爆ぜるほどの勢いで飛び込み、最前列にいるロボットの肩部分に着地、そのままサッカーボールを蹴るようにロボットの頭を蹴り砕いた。

 パァンッ! という軽い音と共に頭部を失うロボット。

 壊れた味方に目もくれず、周囲のロボットは腕を構えて、ペイント弾を放つ。

 

『ふん!』

 

 足元を蹴り、その場を移動した彼が拳を突き出し、ロボットの胸部を貫く。

 それを盾代わりにさせながら、彼はとてつもない速度で仮想エネミーを拳と蹴りで破壊していく。

 

「ロボットがおかしみたいに砕かれていく……」

「やっぱり、強いわ。カツミ君」

「敵の時はあれが飛んできたもんね」

 

 そんな光景をある意味で見慣れていた私達はそんな反応を返していたが、社長とスタッフたちは皆一様にせわしなく手元を動かし続けている。

 

「プロトスーツは欠陥機ではなく、単純に真の力を引き出す者が現れていなかっただけ……? 出力も0か100、いいや、違う。これは0から限界値をぶっちぎってそれ以上の力を無理やり引き出している……? いや、たしかにプロトスーツは実験機だからこそ、その耐久性も耐熱性も最も高い。スーツの自己修復機能を用いれば壊れることはほとんどないはず……だが、それでもあそこまでの出力が……だからこその適合値か!! しかし待て、いくら限界値を超えられるとしても、必ずアラートが出るはずだ……その機能はプロトタイプではつけたはずだ」

「しゃ、社長……?」

 

 なんか近くでものすごいブツブツ呟いている社長。

 恐る恐る声をかけようとすると、彼は鋭い視線を向けてくる。

 

「ンゥシャラップ! うるさい、今この私の脳をフル回転させながら考察しているのだ!!」

 

 なんだかすごい慌ててる。

 ものすごい勢いで仮想エネミーを破壊しまくっているカツミ君を凝視した社長は、不意にはっとした表情を浮かべて顎に当てていた手をだらんと下げた。

 

「あ、そうか……、そういうことだったのか。ありえなさすぎて、考えもしなかったが……彼は自分の死を恐れていないから、全力で前に踏み込めるのか……」

「……え?」

「ん、いや、忘れてくれ。失言だった」

 

 心当たりがないわけじゃない。

 彼は私達に捕まる時、自爆しようとしていた。

 持って来たのはオメガのアジトに保管されていた爆弾だったけれど、なぜ彼がそれを使おうとしたかなんて考えたくもなかった。

 

「恐らく、最初からだ」

「え?」

「彼がプロトスーツを着ていたのではない。プロトスーツが彼に着られていた。下僕が主を害せないことと同じで……彼は、プロトスーツの完全な適合者だったのだ。だからこそ、その機能をフルスペックで扱えてしまう……」

「つまり、どういうことですか?」

 

 すると、ぐるん! とこっちを向いた社長が両手の握りこぶしを掲げ訴えかけるように声を上げる。

 

「私が彼に作るべきだったスーツはジャスティスクルセイダー四号じゃなくて、プロトゼロ二号だったんだよ!」

「意味が分からないんですけど!」

「分かれよ地球人!!」

 

 ものすごい理不尽なことを言われてしまった。

 私達じゃなくて、彼のスーツそのものを改良したほうがいいってこと?

 そう疑問に思っていると、近くで興奮していた社長にさらなる異変が起こる。

 

「うぃ、うぇへへへぇ!! よぉやく謎が解けたぞ黒騎士ぃ!! 否、カツミ君!! 君は最高の装着者だァ!!」

「う、うわぁ、トリップしてる……」

「成人男性が恍惚の顔してるのマジできついわ……」

 

 変な笑い声をあげる社長にドン引きする。

 それほどスーツに愛情を注いでいるということにもなるが、それを含めてもきつい。

 

「う、うぅ、ありがとう。私の作ったプロトスーツを使ってくれてぇ……!」

「今度は泣きだした……」

「もうこのオッサン怖すぎだわ……」

「情緒不安定すぎる……」

 

 もう色々と台無しな気分だよ……。

 でも、なんというべきか戦っている時のカツミ君はどこか生き生きしているような気がする。

 思い切り身体を動かせているからだろうか。

 

「外出許可とかもらえればいいんだけど、それはやっぱり無理なのかなぁ」

 

 彼の素顔は知られていないはず。

 最終決戦でマスクが割れて一部は知られているだろうが、口元も鼻も見えていないだろうからバレる心配はないはずだ。

 

『怪人警報発令!! 怪人警報発令!! ジャスティスクルセイダー出撃準備!!』

「「「!?」」」

 

 頭上から響いてくる耳をつんざくような警報と、振動するジャスティスチェンジャー。

 驚きのあまり、社長を見ると彼も驚いたような表情を浮かべている。

 

「おいおい、よりにもよってここで来るか! 全く、空気の読めない怪人だ!! 感動が冷めてしまったじゃないか!!」

「社長! もしかして、またオメガが!?」

「いいや違う。これは……」

 

 懐から取り出した端末を取り出し操作し、この事態を把握した彼は呆れたように額を押さえる。

 

「お前達にも話しただろう。一年半前、政府(・・)が当時、まだ正体不明の存在だった黒騎士に一時的な協力を持ちかけた時の事件を」

「え、秘密裏に行われたってあの……?」

「ああ、奴が目覚めた。大地の上にいる限り“無敵”の厄介なやつ」

 

 カツミ君が映っている画像が別のものへと切り替わる。

 どこか分からない海の映像。

 その中心の海面から浮き上がる大量の水蒸気と―――その中に見える、水面に立つ人影のようなもの。

 

「マグマ怪人!! 黒騎士が太平洋にぶち込んだアレが力を取り戻して浮上してきているのさ!!」

 

 数カ月ぶりの怪人の出現。

 日常が、平穏が危険に塗り替えられていく感覚。

 久しぶりのその感覚に耐えながら、私達は戦う意思を固める。




荒ぶる社長回でした。
カツミはプロトスーツを屈服に認められたので、理想的な状態で性能を発揮できるようになっていた感じです。

前話、マグマ怪人の名が黒線で消されていた理由については、
政府が非公式な存在である黒騎士くんと協力体制を結んだ怪人事件ということと、まだ完全に倒されていない怪人だから、という理由がありました。


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閑話 マグマ怪人攻略戦

本日二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらからどうぞー。

過去話。
黒騎士くんが政府と協力してマグマ怪人と戦ったお話。

主人公以外の人物の視点となります。


《一年と五ヵ月前》

 

 怪人とは、組織の一部にしか知らされていない未知の脅威のはずだった。

 銃や爆薬では足止め程度しかならない化物。

 約半年前に出現が確認されたソレは街中で暴れまわり、多くの死傷者を出してその姿を消してしまったが、一度だけの出現に留まらず何度もその姿を現し人類に殺意を向けてきた。

 今となっては、多くの一般人が怪人の存在を知り、恐怖している。

 だが怪人発生から数ヵ月後が経った頃、とんでもない怪人が日本国内で姿を現した。

 

 

 この作戦は不可能をそのまま書類に移し込み隊員の顔面に叩きつけたようなものだった。

 KANEZAKIコーポレーションとかいう大企業が用意したとかいう謎の最新鋭、大型ヘリによる、長距離運搬任務。

 運ぶ荷物が普通だったらまだマシだったんだが、失敗すれば自分達だけではなく日本そのものが危険に晒される任務だ。

 これで怖気づかないはずがない。

 今、今日触れるばかりの最新鋭のヘリを動かさなきゃならない同僚は、生きた心地がしないだろう。

 

 全てが謎だらけだ。

 本来なら、絶対に通るはずのない外部の企業からの干渉を受けていること自体が異常でしかなかった。

 

 だが、異常事態がそのような疑問を挟む余地を抱かせなかった。

 新たに現れた怪人は、マグマのような体表を持つ人型の生き物。銃弾も爆弾も、あらゆる火器も通じることはなかった。

 偉い学者さんの見解によると、この怪人は地上からエネルギーのようなものを吸い取って自分の力にしているらしい。

 だから、攻撃を食らっても再生するし、無尽蔵に近いエネルギーで攻撃し続けることもできる。

 

 絶対に倒せない怪人。

 

 この状況を重く見た政府は、予想だにしない行動に出た。

 国内で噂されている怪人を多く倒す正体不明の仮面男―――黒騎士に怪人の討伐若しくは無力化を依頼したのだ。

 

「目標地点まで距離、約三〇〇〇!!」

 

 眼下に映る広大な海。

 遥か遠くから聞こえるように錯覚する同僚の声が答える。

 作戦は佳境に入った。

 ここで、しくじってしまえばここまでの努力も、資金も、何もかもが無駄になる。

 

「———下ではどうなっているんだ……! なあ、黒騎士さんよ……!!」

 

 ヘリの下部に取り付けられたワイヤーの下には正方形型のコンテナが釣らされていた。

 中の広さが六畳ほどの規格のものと比べ、小さなそれは多重に装甲で固められ、どんな攻撃にでも耐えられるほどに堅牢に作られていた。

 だが、防ぐのは外からの攻撃ではなかった。

 ドゴォ!! という何かを殴打するような音が響き、コンテナが左右に揺れる。

 

「ぐ……!」

 

 取っ手に捕まり、振動に耐える。

 同僚が懸命に姿勢制御をしてくれているが、一つ間違えばワイヤーが切られコンテナは真っ逆さまだろう。

 しかし、そうしている間もコンテナ内からは連続して何かがぶつかり合う音が響く。

 

「くそ、本当は二人だけじゃないのに……!」

 

 本来はもっと大人数で作戦に当たるはずだったのだ。

 だが、マグマ野郎が暴れてヘリに乗るはずだった隊員達が重傷を負い、ヘリに乗れるのが俺達しかいなくなってしまった。

 それでも、任務を続けなければならない状況だった。

 

「彼は大丈夫なのか!?」

「分かるはずがないだろ!! コンテナから脱出しようとする奴を押さえるために、自分も中に入ったんだぞ!?」

 

 あんなのと同じ空間にいれば瞬く間に消し炭になってもおかしくない。

 だが事実、あのコンテナからは依然として戦いが続いている。

 打撃を繰り返し、コンテナに開けられた僅かな隙間からは、風が吹き込まれる音と、時折炎が噴き出しては消えていく。

 彼の纏うあのスーツのおかげかは分からない。

 だが、まともじゃない。

 あんなの、空想の中でやるような戦いだ。

 

「ッ、目標地点到着!」

「了解!!」

 

 俺は手元に持っているスイッチのカバーを取り外し、ヘリ下方のコンテナを確認する。

 まだ中では戦っている音が響いている。

 秒読みを口にしながら、指に力を籠め―――スイッチを押す。

 

「———投下!!」

 

 タイミングに合わせてコンテナの下部を遠隔操作で開き、中にいる怪人を海面へと落とす。

 

「オオオオオ!!」

 

 まるで大地のような唸り声と共に、煙に包まれたなにかが海面へと落下していく。

 確認できた水しぶきは一つのみ。

 どこだ!? 一緒に落ちたのか!? 確認できないぞ!!

 同僚のパイロットが焦りを孕んだ声をかけてくる。

 

「彼は! 彼も落ちたのか!?」

「姿、確認できない!!」

「よく探せ!!」

 

 ここまで来て見捨てるとか冗談じゃないぞ……!!

 焦燥しながら、海面を凝視していると、ヘリの扉を開けて身を乗り出した俺の足元に、黒い手甲に包まれた手が現れる。

 

「うぉ!?」

 

 ヘリの扉から上ってきたのは黒いスーツに身を包んだ男、黒騎士と世間で呼ばれている彼であった。

 その身体から煙を噴き出しながら、足を投げ出すように扉の縁に座り込んだ彼は、大きなため息を零した。

 

「あぁー、死ぬかと思ったー」

「まったく、心配したんだよ。もう」

 

 どこからともなく現れた少女が黒騎士の隣に座る。

 さして、その様子を気にせずにようやくあの怪人を深海に落としたことに安堵する。

 

「大変だった? でもやったじゃん。まあ、君ならこれくらいできても不思議じゃないもんね」

 

 ……そうだ、一応の安全確認をしなければ。

 俺も周囲と黒騎士の様子を見て、なんの異常もないことを確認しつつ声をかけてみる。

 

「君、大丈夫……なのか?」

「……ええ、あの、お疲れさまでした。お互いに大変でしたね………」

 

 ———子供だ。年は中学生か? 高校生に上がった頃だろうか?

 仕草と声からして、なんとなくそれを理解した俺はなんとも言い難い感情に苛まれる。

 上はこのことを知っているのか?

 彼が、黒騎士と呼ばれた人物が子供だということを……?

 

「さすが私の見込んだ黒騎士さん。そうでなくっちゃ」

アルファ、うるさい纏わりつくな、鬱陶しい」

「うりうり~」

 

 仲のいい二人を見ていると、先ほどの激闘を忘れ和やかな心境になる。

 緊張が解けたはずみもあって、思わず声をかけてしまう。

 

「仲睦まじいな。まるで恋人同士じゃないか」

「いいえ、恋人同士。言ったでしょ?」

「———ああ、そう言っていたな。君達は恋人だったんだ。うん、上官から聞いていたんだ」

 

 ははは、こりゃ変なことを聞いてしまったな。

 状況が状況の後だ、安堵のあまり笑みが零れてしまう。

 

アルファ、やめろ」

「はいやめまーす。彼とはお友達なの、だからここに一緒にいるんだよ?」

「ああ、そういえばそうだったな。すまない、忘れていたよ」

 

 少女に頷く。

 少女と黒騎士が“お友達”だということは、上官からもしっかりと聞いていたからな。

 記憶もちゃんとあるし、間違いない。

 ……そうだ、肝心なことを忘れていた。

 

「あのマグマ野郎は……倒したのか?」

 

 少女を睨む黒騎士に怪人が倒せたかどうかを確認する。

 

「いえ、今はアレは倒せないようです」

「待ってくれ、それでは……」

「今は倒せませんが、次には対策を立てられるはずです。その時に、また俺を呼んでください。さすがに、自分の住んでいる国を滅ぼされちゃたまらないですから」

 

 あんな恐ろしい敵にもう一度立ち向かってくれるというのか。

 近くにいただけで、怖気づいてしまった自分が情けなくなってくるな。

 

「ありがとう。君のおかげで俺達は助かった」

「……い、いえ、そういうつもりで動いたわけじゃありませんから」

「照れてる? もしかして照れてるのかな?」

「……ッ」

 

 彼が右手で少女をどけようとする。

 俺は彼の右手になにかがついていることに気付く。

 彼の前腕を握りしめるようについている、黒い罅割れたな―――、

 

「それ、腕か!?」

「あ、奴の腕……のようです。どうやら掴みかかられた時に捥ぎってしまったようで……必要ですか?」

 

 怪人の生態を研究するとかで貴重なサンプルにはなるだろうが……。

 まさか、よりにもよってあのマグマ野郎から腕をもぎ取ったのか?

 バリバリと、簡単に右腕から腕を引きはがした彼は、煤を落としながら立ち上がろうとして―――不意に、海面へと視線を落とす。

 

「……少し、ここで待ってもらってもいいでしょうか?」

「え、なにを――」

「あいつ、まだ上がってくるようです」

「ッ!!」

 

 咄嗟に私も彼の視線の方を見る。

 

『ウオオオ!!! アァァァァァス!!!!』

 

 海面から溺れるように顔を出すのは、溶岩が黒く染まったような外殻に包まれた怪人。

 無理やり水面に浮かび上がっているのか!?

 いや、あの様子じゃ落ちるまで時間の問題のはずだ。

 

「放っておけば、このまま海底まで真っ逆さまに落ちていくだろうけど……」

「ふふふ、ちゃんとやらなきゃいけないことはわかっているようだね」

「……お前の予想通りだなんて、癪に障るけどな……」

 

 無言のまま海面を見る彼。

 どことなく不安を抱いた俺は、とりあえず声をかけようとするが、それよりも速く彼は右手に持っていた怪人の腕を握りなおす。

 

「次に備えるべきだ。次にこいつと戦うために……」

「うん、その通り。その腕を使うんだ。それなら、彼も溶かせない」

 

 自身の持つ怪人の腕を見つめる彼。

 思わず声をかけると、彼は仮面に包まれた顔をこちらへ向ける。 

 

「俺が戻ってこなかったら、ここから離れてください」

 

 彼は行く気だ。

 先ほど、あんなに疲れ切るまで戦い続けたのに。

 得体が知れない存在だ。

 だが彼は断じて、怪人ではない。

 不器用な優しさを持った子供だ。

 

「いや、ここで待っている! 絶対に君も帰ってくるんだ!!」

 

 自分の立場関係なしに思わず口にしてしまった言葉。

 ある意味で責任問題になる言葉にしまったと思うが、それを言われた彼は、仮面越しではあるがとても驚いているのが分かった。

 

「いってらっしゃーい」

「……いってきます」

「いつも学校に行くときは返してくれないのに……これは大きな進歩だね」

「……お前に言ったんじゃねぇよ……」

 

 最後に何かを呟いて彼がヘリから飛び降りた。

 海面で暴れる怪人の上に落下した彼は、そのまま右腕に持っていた怪人の腕を黒く染まったその胴体へと叩き込んだ。

 海中へ深く沈んでいく怪人と黒騎士。

 戦闘の衝撃で海面にまで伝わる衝撃。

 焦燥のまま、彼の姿を見逃さないように海面を凝視する。

 

「やっぱり、やっぱりやっぱり……君しかいない」

 

 すぐ隣からの少女の声が聞こえる。

 異常はない。

 この大型のヘリには俺と同僚の二人しか乗っていないんだ。

 だから、この少女がいても、不思議じゃないんだ。

 だって彼女は、黒騎士のお友達なんだから。

 

「……アレ?」

「———おい! 彼が上がってきたぞ!! こちらで確認できた!!」

「え、あ、い、今引き上げる!!」

 

 海面から上がってきた彼の姿を確認し、急いで縄梯子を準備する。

 

「——ふふ」

 

 こうして、困難を極めた作戦が終わりを告げた。

 黒騎士と政府が協力体制を結んだ事実は隠蔽されてしまったが、彼と共に戦ったことは我々にとっても意味のあったことだと、今でも信じている。




ムテキでもノックバックはある。(小説版)
怪人を特製コンテナに詰め込んで大地から離した上で、太平洋沖の深海に落とすというのが作戦でした。
黒騎士くんは一緒にコンテナに入って怪人に脱出されないように殴りまくっていました。



ヘリにいた人数? 黒騎士くんをいれて三人です。
女の子? 顔も声も思い出せませんが、たしかに黒騎士くんのお友達です。
上官? ちゃんと上官の方も許可を出していました。

おかしいところは、なにもないはずです。


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マグマ怪人対策会議(レッド視点)

感想欄を見ていたら、プロトスーツのキャラが大抵酷いことになってて面白すぎる。
いいぞもっとやれ

カツミ君視点でもよかったですが、最後の部分をやりたくてレッド視点にしました。



 マグマ怪人。

 カツミ君が当時の自衛隊と協力してようやく撃退することができた強力な怪人。

 推定で幹部クラスかそれ以上の怪人と見られていて、政府と本部の中でもトップシークレットに位置する存在でもある。

 私達は怪人と戦う立場にいるから当然、未来で戦うかもしれないマグマ怪人について知っていたわけだが、まさかこのような形で関わることになるとは思いもしなかった。

 

「すまないね。形式上、君に手枷をつけることになってしまって」

「いや、気にしてないよ、レイマ。むしろこの方が安心する」

「そういうところが君の変わったところだ。はっはっはっ」

 

 作戦会議をするブリーフィングルームに向かう最中、手枷をしたカツミくんと先ほどまでキャラを乱しに乱しまくっていた我が組織の社長が、通路を歩きながら雑談を交わしていた。

 

「おや、おやおや、どうしたのかな? そんな親の仇を見るような目でこぉの、私を見て?」

「「「……!」」」

 

 さらに煽ってくるのかこの社長は。

 緊急事態なのでいちいち怒ってはいられないので、そのまま堪えていると、なにを思ったのか人一人分くらいの距離を空けて歩いていたカツミ君が話しかけてくる。

 

「勘違いするなよ」

「え?」

「俺はお前らの仲間になるつもりはないから、名前を呼ぶつもりはないんだ」

 

 そう言葉にして、彼はそっぽを向く。

 

「……別に、お前らのことを嫌ってるわけじゃない」

「か、カツミく~ん……!」

「ええい、調子に乗るな! 離れろ!」

 

 追い返されながらも足は止めない。

 

「でも、マグマ怪人かぁ。カツミ君でも倒せなかったってことは相当強いんじゃないの?」

「ああ、基本的に大地にいると無敵だ。最悪、奴の能力を使えば日本なんて簡単に崩壊させられるらしいからな」

 

 カツミ君の言葉に対して驚きもせずにため息をつく。

 きららも葵も同じような反応だ。

 

「……やっぱり、例に漏れず幹部級はそのくらいの力は持っているよね。私達が負けそうになった。大気怪人……オゾン層奪おうとしたアレ……私はトラウマもあって、すごい怖い敵だったよ……」

 

 私の呟きに反応したのはきららと葵であった。

 二人もなにかを思い出すように遠い目をする。

 

「私達の時も大変だったわなぁ。光食怪人グリッター*1。あれ、一週間日本だけずぅっと夜やったもん。私なんて、電撃やら視力やらも奪われたし、大変やったわー。てか、あいつ無駄にヒーローっぽい姿してんのが面倒くさいわ」

「あとあれも凄かった。ろうそく怪人*2。弱そうかと思ったら、とんでもない能力であやうく死ぬかと思った」

 

 一つとして楽な戦いなんてなかった。

 多分、カツミ君が助けてくれた戦いにも同じことが言えるだろう。

 

「私が評価しているのは我が親友カツミ君だけではない。お前達も同様にスーツを扱える装着者なのだ。……誇っていいのだぞ?」

「さらっと親友呼ばわり……」

「そう言われると素直に誇れんわ……」

 

 きららと葵のツッコミを華麗にスルーした彼は、フッと笑みを浮かべる。

 

「お前達ならば、マグマ怪人にさえ立ち向かえるだろう。なにせ、それが人類の希望、ジャスティスクルセイダーなのだからな」

 

 そこまで決めて歩き始める社長。

 こう良く分からないところで決めるところは毎回変わらないなぁ。

 

「まあ、俺はお前達のおかげで怪人に狙われずに済んでいたからな」

「カツミ君は、その間は何してたの?」

「……細かいところは忘れた。覚えてねぇよ」

「覚えてない? 言いたくないだけ?」

「や、マジで覚えてない。まあ、三日前の朝食を思い出せないとかと同じ感覚。気にするほどのもんじゃねぇよ」

 

 まあ、本人がそういうのならそうなんだな。

 さして悩んだ様子もないし。

 そんな会話をしているうちに、ブリーフィングルームへと到着する。

 部屋には既に、ジャスティスクルセイダーの活動を支援してくれているスタッフさん達がおり、プロジェクターで映し出された画面には、移動を開始しているマグマ怪人の姿がある。

 

「では、諸君。全員揃ったな。ここは本部開発主任の私が、指揮を任されることとなった。……事態は急を要するので早速本題へ入ろう」

 

 何気なく自身が社長であることを隠しながら、プロジェクターを操作する。

 ズームされるのは白い蒸気に包まれながら海上を移動しているマグマ怪人の姿だ。

 

「対象は海上をゆっくりと移動しながら日本へ向かっている。目的は、侵略、それか国土の崩壊。大地からエネルギーを吸い取り操る奴にかかれば、日本という小さな島国などものの数時間で崩壊させることも容易だろう」

 

 映し出されたのはマグマ怪人の移動ルートと、到着してしまった場合に起きる惨劇。

 日本に亀裂が入り、砕け散っていくところを見せた上で、社長はパンッ! と手を叩いた。

 

「だが、前回そうしなかったのは当時のここにいる黒騎士、カツミ君を含めたこの国の人々の尽力があったからだろう。ならば、私達も彼らと同じように手を取り、協力し、事態の解決に当たる。政府は既に、事態の解決のために協力する方向にある」

 

 彼の言葉にスタッフが頷いていく。

 ここにいる人たちはずっと私達を支えて来てくれた人だ。

 なので、マグマ怪人のような事態の解決に当たってきたこともあり、こういう状況にものすごく強い。

 この場の誰も諦めていないことに満足そうに頷いた彼は、次にカツミ君へと視線を向ける。

 

「では、カツミ君。最も近くで彼と戦った君に奴とどう戦ったのかを説明してもらっても構わないかな?」

「……分かった」

 

 手枷をしたカツミ君が社長の代わりに前に出る。

 再びマグマ怪人の移動を映し出したプロジェクターを見ながら、彼はやや緊張した面持ちで―――やや、助けを求めるように私の方を向いた。

 

「お、おい、なにも悪いことしないから、スーツ着てもいいか?」

「なんで……?」

「スーツなしでこんな人前で話したことないんだよ。素顔を見られることに慣れてない」

 

 え、なにそれ、かわいい。

 恐らく、隣の二人も頭に電撃が走ったようにそう思ったことだろう。

 しかしさすがにここで変身させるのは大問題だし、あ! なにか顔を隠せるものでもあれば―――、

 

「これを使ってくれ」

 

 不意に社長がカツミ君に仮面のようなものを手渡す。

 それは、モロ黒騎士のデザインのされたおもちゃのような仮面で、逆にこっちがびっくりしてしまう。

 

「黒騎士くん仮面だ。偶然、この部屋に置いてあってな。よければ使ってくれ」

「感謝する、レイマ」

「フッ、気にするな」

 

 彼が被って前に出ると、室内にどよめきが走る。

 当然だ、と思いつつなぜあんなものを持っていたのかを社長に尋ねる。

 

「あの、なんであんな仮面を? いつ作ったんですか?」

「商品開発部のマーケティングをこの部屋で行ってな。その一環で、あそこにいる社員が黒騎士くん仮面を作ったんだ。あれは、ここに置き忘れていたものだ」

「ツッコミどころがありすぎるんですけど」

「弟と妹が欲しがりそうやねぇ」

 

 私達の武器とか装備とかをリデザインした玩具や商品が売られていることも知っていますよ?

 まさか、カツミ君のまで売ろうとしているのか?

 そう考えるとこのどよめきは、別のどよめきを現しているかのように思える。

 

「えぇと、まず一つ言えること。それはマグマ怪人が大地にいる限り無敵だということです。それは皆さん……ご存知のようですね」

 

 普通に敬語で話してくれてびっくりした。

 そういえば、今まで彼が話したのを見たのは私達か社長か白川ちゃんだけだった。

 やっぱり、根はいい人なんだなぁって思う。

 過去になにかがあっただけで……。

 

「こいつは大地から力を吸い取り、自分の力にする。それは電撃ナメクジ怪人と同じですが、あれと違うのは奴は地に足がついている限り、エネルギーが供給される。つまり地球にエネルギーがある限り、不滅とも言えるでしょう」

 

 とんでもない怪人だ。

 幹部クラスは大抵そのような一癖も二癖もある能力を持っているが、マグマ怪人はストレートに強い。

 だが、その分やりようはある。

 

「当時、戦闘する以前からそのことは分かっていました。なので、何重にも重ねられた装甲を組み合わせた特注のコンテナと、最新鋭のヘリを用いてマグマ怪人を太平洋沖の深海に落とすという作戦を取ることになったんです。……地上から離してしまえば、地球からの供給もなくなりますからね」

 

 するとスタッフの中から手を挙げるものがいる。

 彼が頷くと、書類を確認しながら立ち上がった男性スタッフは質問を投げかけた。

 

「どのようにしてコンテナにマグマ怪人を? 入れた、のは分かっていますがその部分の詳細は書かれていなかったので」

「無敵ではありますが衝撃が通らないことはなかったので、攻撃し続けてのけぞらせながら無理やりコンテナに詰め込みました」

「なるほど、やはり殴りまくった、ということですか?」

「え、ええ?」

「では、怪人と共に中に入ったのも熱を発散させるためにあえて密閉空間での一対一の戦闘をしたということですね?」

「そ、その通りです」

 

 満足した様子で座る男性スタッフ。

 ……スタッフの理解が深すぎない……?

 困惑した様子の彼は、とりあえずコンテナに閉じ込めた怪人を深海に落とした下りまでを説明すると、プロジェクターへと振り返る。

 

「……すみません、この画像。もっとズームすることはできますか?」

「はい。可能です」

「ありがとうございます。やっぱりあった……。これ、この怪人の胸のところ、なにか刺さっているでしょう?」

 

 ズームされた画像を見れば、たしかに怪人の胸部になにかが突き刺さっている。

 あれは、なんだ? 思わず首を傾げると、彼はやや安堵した様子でソレを指さした。

 

「これは奴の腕です。深海に落とす際に、もぎ取った腕を胸に突き刺したんです。運悪く核には当たりませんでしたが、あそこが奴の弱点となりうるでしょう」

「「「はぁ!?」」」

 

 さすがにその場にいた全員の声が重なる。

 腕をもぎとった!? 胸に突き刺した!? 君、前の戦いの時点でそこまで追い詰めていたの!?

 

「前回は無敵でしたが、そうではない。事実、胸部あたりのエネルギー値が低いはずです」

「……彼の言う通りです。主任!」

「ならば、奴が胸部の傷を癒すその前に叩くぞ! こちらも対マグマ怪人に備えたアレを全力で使う!」

 

 いっきに慌ただしく動き出す室内に、彼は仮面を取りながら疲れたようなため息を零す。

 

「お前ら強いから、大丈夫だろ。じゃ、頑張れよ。俺は独房で作戦の成功を祈っておいてやる」

「……一緒には、戦えないの?」

「マグマ怪人が怪我してなきゃ戦っていたが、あれは倒せない敵から、倒せる敵になったんだ。お前らなら確実にやれるはずだ」

 

 そう言って近くの二つ空いた椅子の一つに座る彼。

 たしかに彼の言う通りだと思うが、こうまで頑なに拒むのは何か他にも理由があるのだろうか。

 

「あ、もしもし。こっちは作戦固まったからそっちに送……なんだと?」

 

 すぐ近くで端末で連絡をしていた社長が、珍しく焦ったような声を漏らす。

 

「しかし彼は―――ッ、……はい……分かりました」

「……なにかあったんですか?」

「ヴァアアアア!! 地球人! こっちの事情を考えろぉぉ!」

 

 デスボイスと共にばしーん、と豪快に端末を床に叩きつけ砕き割る社長。

 そのあまりの声に驚く、スタッフたちを無視した彼は、同じように驚きに目を丸くしているカツミ君の前に近づく。

 

「すまないが、カツミ君」

「ど、どうした、レイマ? え、なに地球人って、あんた宇宙人なの? ははは」

「そんな些末なことはどうでもいい!! ……カツミ君、政府からの要請だ。君も作戦に参加してほしい、と」

 

 社長の言葉にきょとんとするカツミ君。

 

「いや、なんでだ」

「彼らは前回の君の活躍とマグマ怪人の恐ろしさを知っているからな。確実性も考慮して、全力でマグマ怪人の討伐に当たりたいのだろう。……もしもの事態がないとは限らない。……すまないな」

「……分かった。分かったって。お前が謝るなよ」

 

 重いため息をついた彼は、そのまま立ち上がりこちらへ歩いてくる。

 

「しょうがねぇ」

「……うん」

「まあ、久しぶりに暴れられるって考えれば悪くない。やるぞ、ジャスティスクルセイダー」

 

 半ば強制的に一緒に戦うことになってしまった。

 こちらとしては不本意ではあるが、彼の助力が頼もしいことには変わりはない。

 対マグマ怪人、これまで通りに気を引き締めて戦わなくちゃな。

 


 

 私達は基本的に出撃するその前に変身を完了させる。

 街中で変身するようなことは稀だ。

 あったとしても必要に迫られた時にしかしない。

 このご時世、変身したところを見られれば簡単に広まってしまうし、無用な騒ぎを避けるために私達はあらかじめ変身を完了させてから現場に向かう。

 今回もそれが同じだった。

 

『UNIVERSE!!』

 

 前に軽く掲げたジャスティスチェンジャーに指を押し当て、認証プロセスを起動させる。

 カツミ君のチェンジャーと異なる音声が鳴り響いた後に独特の待機音声が流れだす。

 

『Loading N.N.N.Now Loading → Loading N.N.N.Now Loading →』

 

 リズム感溢れる待機音に合わせ、口元にチェンジャーを近づけた私達は最後の——音声認証での変身の合図を口にする。

 

「変身!」

『Flame Red! Acceleration!!!』

 

 チェンジャーを中心に特殊なフィールドが形成される。

 粒子化されたスーツと仮面が、私達の身体を覆う。

 腕部に装着されたジャスティスチェンジャー。

 それぞれの腰に装備された武器。

 赤、青、黄、三色の色をメインとした私達が変身を終えると同時に、最後の音声が鳴り響く。

 

『CHANGE → UP RIGING!! SYSTEM OF JUSTICE CRUSADE……!!』

 

 改めて聞くとプロトスーツと比べて音声が盛りだくさん過ぎる。

 これだけで社長がやりたい放題しているのが分かるが、そしてなにより、このスーツのなにが酷いって―――、

 

「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」

「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」

「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」

 

「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」

 

 この台詞をやらないとマスクにアラートが鳴るからだ。

 なにやら、スポンサーだとか自分の趣味とかで社長がつけさせた機能なのだが、初変身以降は人前でやったことはない。

 というより、人前で変身しないので必要ないはずなのだが、それでもやらなくてはいけないのは本当に辛い。

 ポーズをやり遂げた後、隣で既に変身を終えていたカツミ君―――黒騎士がやや引いた様子で私達を見ていることに気付いてしまう。

 

「お、お前らそれ恥ずかしくないの……? 特撮ならまだしも……」

「「「……」」」

「……あ、なんか、ごめんな? ……いや、ちょ……無言で泣くなよ!? 仮面で分からないけど!」

 

 いざ言われてしまうと猛烈に泣きたくなってくる。

 マグマ怪人倒したらあとで絶対この機能とってもらおう。

 あのにやつき面の社長の顔を思い出しながら私はそう決心するのであった。

 

*1
正式名『光食怪人グリッター!』光を食べることができる怪人で見た目はジャスティスクルセイダーと似たヒーローの恰好をしており、当時は多くの人々に5人目の仲間と思われていたぞ! だがその本性はやはり怪人! 光ならなんでも食べられるので一週間日本だけが昼なのに夜のようになってしまっていた!! 瞳に反射する光を食べることで相手の視力を奪ったりできるので凶悪な能力を持つ幹部怪人の一人でもあるのだ!!

*2
別名『鬼ごっこ怪人モスーノ』見た目は大きな蝋燭に手足が生えたような姿をしているが、その能力は強力!! モスーノが認識した複数の人間を自身の作り出した幻想世界に閉じ込め鬼ごっこを強制させるぞ!! 鬼にされたプレイヤーの頭には火のつけられた蝋燭が取り付けられ、モスーノを捕まえることができず蝋燭が全て溶けてしまったらプレイヤーは問答無用で死を強制されてしまうのだ!! 見た目の割に本体も恐ろしく強い上に足が速いぞ!! こいつも幹部クラス!!




変身音は多少適当でしつこくて演出もくどくてダサくても許されるっておばあちゃんが言っていました(責任転嫁)

幹部怪人は基本理不尽だったり、攻略方法が難解なのが多いですね。



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歴戦の戦士と感情を得た怪人

いろんなところにアルファが出没してる……(白目)

序盤は、怪人視点。
それから先は黒騎士くん視点となります。



 わたしは生み出されたその瞬間から、怒りに満ちていた。

 

 何者でもない自分、地球の名を持つ自分。

 自分の意思こそが地球の意思。

 

人間を滅ぼせ 我らの悲願の成就のために。

アルファのために

アルファは死んだ どこにもいない。

だがアルファの子供がいる。

生まれるべきではなかった 怪物。

やつがこの時代のオメガを選び出すその前に殺せ

その存在を絶対に許すな。

 

 

 この私を作り出した怪人。

 狂気と理性の狭間を生きる怪人首領オメガと呼ばれる存在から下された命令は人類の掃除。

 生命の怪人、魂を創造し、操り、あらゆる存在の生命すらも掌握するあの方の命令は、絶対に逆らうことは不可能だ。

 命令された通り、人類を滅ぼす。

 そのためにわたしは大地へと降り立った。

 

『ウオオオ!!! アァァァァァス!!!!』

 

 だが、わたしは失敗した。

 地球に寄生する虫けらどもと、異様な強さを持つ人間によって、わたしは深い海の底に落とされた。

 落ちる最中に見えたのは、自身を暗闇へと叩き落とす恐ろしい黒い男の姿だった。

 

『アァァス……』

 

 遥か、深海の奥底で力を蓄えているその間に既に怪人首領は倒れた。

 自身を突き動かす命令は既に存在しない。

 ならば、無作為に暴れて人類を減らそうか。

 手近な大陸を壊そうか。

 

『アァァァ……ス』

 

 惑星怪人アースとして、

 地球という星の力をその身に受ける怪人として、

 星を食い物にする人間を、その使命のままに滅ぼそうかと、考えた。

 だが、しかし。

 

『クロォ……キシィ』

 

 何者でもないわたしが初めて抱いた怒り以外の感情。

 あの黒い戦士に対するどうしようもない恐怖と、地球の代弁者である自らを堕とした敵への憎悪。

 それは、紛れもない虫けらと断じたたった一人の人間へわたしが抱いた明確な人としての感情であった。


 

 海上に浮かぶ船。

 その上に乗った俺とジャスティスクルセイダーはスーツ姿のまま、マグマ怪人がやってくるであろう水平線の先を見据えていた。

 

「これ作るのにいくらぐらいかかったんだ……?」

「億は余裕で超えると思う。もしかしたら何十億じゃ済まないかも。しゃ……主任が謎技術で造ったって話らしいし」

 

 見た目は小型船舶なんだけど、その実態はまるで異なる。

 まさしく対マグマ怪人専用の“決戦場”とも言える。

 

「本当に装備とかいらないの?」

「いまさら拳以外使えん」

「え、で、でもすごいよ、これ! 色んなもの溶断できちゃうんだよ!!」

 

 チェンジャーから飛び出した柄をレッドが引っ張ると、赤熱した刃が特徴的な西洋剣が出てくる。

 形状からしてもマグマ怪人にも溶かされず、攻撃も食らわせられるやばい剣。

 明らかに女子高生が振り回してはいけないものだが、これがレッドの主武装である。

 

「レッドやめーな。彼は武器なんぞいらない拳一つで怪人と戦ってきた男や」

 

 かくいうイエローは両刃の斧を肩で担ぐように持っている。

 電撃タイプなのにパワー全振りなのがこいつだ。

 

「でも、黒騎士の新武器はちょっと気になるかも」

 

 丸みを帯びた青色の銃を二つ持ったブルーが、それの調子を確かめている。

 時折、二つの銃を合体させてライフルのような形状にさせている謎技術を見せている。

 

「……」

 

 やはり慣れない。

 こいつらとこうやっているのは。

 いつもは途中からしょうがなく助けに入る感じではあったが、今回は最初から味方なのだ。

 不本意でしかないが、たしかにもしもの事態を考えるのなら俺もいたほうがいい。

 

『そろそろマグマ怪人が到着する。すごいスピードだ。できるだけ注意を引くように』

「「「了解」」」

「ああ」

 

 マスクに直接聞こえてくる通信に頷き、水平線を見る。

 

「ッ、なんだ?」

「敵が来るよ? どうしたの?」

「いや、なんか見られているような気がして……」

 

 ……気のせいじゃない。周囲を気にしながらも、水平線へと視線を戻すと小さな黒い点と白い蒸気のようなものが徐々に見えてくる。

 それは揺れる波を無視しながら、真っすぐに俺達のいる船へと向かってきていた。

 赤く赤熱した外殻を持つ怪人、マグマ怪人。

 カメラで見た通り、その左腕は元あった位置ではなく胸部分に突き刺さっているな。

 

「クロキシィィィィィ!!」

 

 思いっきり呼ばれたな、俺が。

 かなりのスピードで海の上を滑るように移動するマグマ怪人を目にしたレッドは訝し気に俺を見る。

 

「ねえあれ、君の名前を呼んでるよ?」

「……あいつ意思があったのか? まあ、怪人じゃそれほど珍しくないだろ」

「むしろ、喋らない方が怖いわ」

「分かる」

 

 さすがに修羅場を潜っているだけあってこの状況でもビビったりはしないようだ。

 なんだ、頼もしくなったじゃ……。

 

「いやいやいや……」

 

 そう思ってしまったらダメだろ。

 俺は仲間になるつもりはない。

 それだけは絶対に譲ってはいけない約束なんだ。

 ん? 約束ってなんだ? いや、違うな、決めているんだ。

 

「クロキシィィィ!!」

「……バカの一つ覚えみてぇに叫びやがって……」

 

 気づけば既にマグマ怪人は距離50メートルほど近くにまでやってきていた。

 突如としてその動きを止めた奴は、ぐつぐつと海面を沸騰させながら、どこにあるか分からない目で俺を睨みつけてくる。

 

「一年と半年ぶりだな。どうだぁ? 胸の傷は痛むかぁ?」

「ギ、ィィ!!!」

「怪人相手には悪人みたい……」

 

 ぼそっとレッドが何かを呟いているが、挑発しつつ奴の調子を確かめる。

 恐らく海底火山かなにかで力を蓄えていたのだろう。

 エネルギー量は恐らくMAX。

 だが、ここは大地の上でもなんでもねぇからその力を減らし続けることはできるし、なによりあの胸の傷からエネルギーが常時漏れ出しているので、前以上に速く追い詰めることができるだろう。

 

「また深海に送ってやるよ。今度はそのどてっぱらに穴を空けてな」

「がぁぁ!!」

 

 怒りに呑まれたマグマ怪人がその手から溶岩を放つ。

 すぐさま俺達は、小型船舶から飛び降り―――そのまま海面の上に立つ。

 別にそのまま海面に立っている訳ではない。

 

『では、対マグマ怪人潜水艦。ジャスティスマリーン! 浮上!!』

 

 仮面内部から聞こえるレイマの声。

 轟音と共に、今立っている足場が徐々に浮上していき、視線の先にいるマグマ怪人を巻き込み、足場が上昇し一つのフィールドとなる。

 海水が甲板から流れていく音が響きながら、困惑しているマグマ怪人に笑みを向ける。

 

「対マグマ怪人対策の潜水艦……らしいぞ? 大地に立たせて駄目なら、海に立たせればいいってな」

 

 ジャスティスマリーンと名付けられた潜水艦の上部の形状は、どちらかというと空母のそれに近い。

 その決して広いとはいえないフィールドには、マグマ怪人への対策が施され、数分程度ならば奴が放つマグマにも耐えられるらしいという代物だ。

 とりあえずは、奴を戦いの場へ誘き寄せた。

 後は攻撃あるのみだ。

 

「さて、やるか」

「私とイエローと黒騎士くんで前衛」

「腕がなるでー」

 

 右手で握りしめた剣を構えるレッド。

 ぶんぶんと斧を振り回すイエロー。

 

「ブルーが射撃での支援、よろしくね」

「合点承知のすけ」

 

 そして、軽く二丁拳銃を構えたブルー。

 いつもの陣形に、今日は最初から俺が組まれているわけだが……基本的にあっちは三人で合わせるので、俺は俺で流れに入りこめば問題はない。

 

「だがら、どぉした」

「?」

「おまえ らが いくら愚かにも策を講じようとも、この地球の化身であるわだしをだおすことは、できない」

 

 よく喋るようになったな。

 力のまま暴れるようになっていた頃の奴とは違って大分賢くなっているようだ。

 

「づぎは、あそこの虫どもだ。つぎはもっとおおきなむし共を焼き尽くして、殺しづくして、絶滅させてやる」

「……随分と自信があるようだな」

「わだじは、惑星怪人アース! 地球の代弁者。おまえらはこの地球に必要、ない!」

 

 代弁者ときたか。

 今までの怪人もご高説を並べてきたわけだがこいつは相当だ。

 事実かどうかは分からないが、どちらにしてもこいつを野放しにする理由がない。

 

「だが、くろきし、わだじはおまえを殺」

「うるせえ!」

「シィぎぃ!?」

 

 熱量を放つ顔面に跳び膝蹴りを叩き込み、ぐるん! と一回転させるように吹っ飛ばす。

 びたーん! と甲板に全身をうちつけたマグマ怪人……否、惑星怪人アースは、怒りのままに全身の温度を上げ始める。

 

「後悔ずるなよ、わだじは不死身だ」

「御託を並べてばっかりやなぁ! 地球さん!!」

 

 電撃を纏いながら、吹っ飛ばされた方向に回り込んだイエローが大きく構えた斧をアースの胴体に叩き込み、そのままこちらへと飛ばす。

 俺が拳で迎え撃つ前に、レッドの剣が奴の外殻を斬り飛ばす。

 

「……意外と脆いね! 地球!!」

 

 一瞬で返す刃で怪人の背を切りつけ、さらに突き刺す。

 亀裂の入った左肩の関節から刃が飛び出し、血液のように溶岩が溢れ出る。

 俺のスーツもジャスティス共のスーツも特別製。

 普通では考えられない力で、守られている。

 

「オオオォォ!!」

「わわっ!」

 

 さらに熱量を上げて立ち上がり、アースがレッドを追い払う。

 

「隙あり」

「がっ、が、ががが!?」

 

 奴の足元に滑り込んだブルーが胸部の弱点に連続して、水色のエネルギー弾を叩き込んでいく。

 

「惑星怪人とかスケールでかすぎぃー……」

「危ねーぞ」

「わひっ!?」

 

 ブルーへ繰り出された高熱を纏った足を蹴り、攻撃を逸らす。

 さらに突き出された右腕を腕でいなしながら、アースと睨み合う。

 

「俺だけだったら、まだ話が違ったんだろうが」

「クロキシィィ!!」

「生憎、今回も一人じゃないんでね!!」

 

 迫りくる溶岩を拳でいなしながら、一気に懐に入り六度ほど拳を叩きつける。

 拳の衝撃で後ろに飛びそうになったところで背後からレッドとイエローが剣で斬りつけ、こちらへ跳ね返ってきてはぶん殴る。

 

「オ、ォ……!」

 

 なんとか堪えたところブルーのエネルギー弾が襲い掛かる。

 相手に意識的な休みをさせない連携攻撃。

 ジャスティスクルセイダーの連携を繋ぐ役割を担いながら、間断なく攻撃を与えていく。

 

「そいや!」

 

 俺の蹴りで地面に叩きつけたところを、再度イエローが掬い上げるように振るった斧で吹き飛ばされ、その先でレッドの剣により叩き切られる。

 さらに攻勢に出ようとすれば、ブルーの射撃が的確に視界、弱点、足元へと直撃し無理やり動きを止められ、もう一度先ほどと同じループが繰り返される。

 

「この一体感、いいなぁ」

「無駄口を叩くな。レッド」

「はーい!」

 

 頭上から隕石のように降り注ぐ溶岩へ向かってレッドが跳躍。

 そのまま縦に振るった剣で真っ二つに切り裂く彼女に、思わずため息をつく。

 

「……やっぱ、お前らもつえーよ。俺がいなくても」

 

 伊達に一年間戦ってきたわけじゃない。

 たしかに、何度か俺が助けはしたが、敗北を経験するごとに彼女たちはそれを糧にしてさらに強く、たくましくなっていった。

 アースが地上におらず、胸に大きな傷を負っている点を加味したとしても、相手は並みの怪人よりも遥かに強い。

 それを相手に優勢に戦えている時点で強い。

 

「オオ、オオオ!!」

「うわぅ!?」

「これはまずいなー」

「一旦離脱ー」

 

 さらに熱量を上げはじめるアース。

 彼女たちが離れるということは、ジャスティススーツでは耐えられないほどの熱量なのだろう。

 すると、俺達の耳にレイマとオペレーターをしている女性の声が聞こえてくる。

 

『惑星怪人アースの周囲の温度上昇し続けています!! 距離10メートル内は……2965℃!? 依然上昇中!!』

『惑星怪人ってのもあながち間違いじゃなさそうだ!! この上昇値……! こりゃ太陽の表面温度に迫る勢いだ!! さっさとなんとかしないとその足場も危ないぞ!!』

「なら俺だな」

 

 床が溶解しかけた奴の周囲に飛び込む。

 前回の戦いの時、あのコンテナの中で行われたソレは、一対一の殴り合いではなく、ただ無造作に力を振るうこいつの攻撃を避けながらひたすらに俺が殴り続けるというものでしかなかった。

 今の状況も、俺がするべきことは依然変わりない。

 

「ふんっ!!」

 

 右腕を躱し、拳を鋭く顎に命中させ、次にその足を蹴りで崩す。

 怯んだところで、可能な限り殴る。

 反撃したところでクロスカウンター気味に反撃。

 

「ガァァ!!」

 

 それでもなお無理やり飛び掛かってこようとするアース。

 だが、俺の背後から飛んできたレッドの剣が亀裂の入っていたアースの肩を貫通する。

 

「おぉぉっし!! 当たったよぉ!!」

「よくやったレッド!!」

 

 怯んだ勢いのまま、さらに拳を叩き込み奴のエネルギーを一気に削り取る。

 

「ギ、ヒッ……!?」

 

 奴の声と雰囲気から感じるのは、明確な恐怖。

 あの機械的に溶岩をまき散らしていた怪人とは思えないものだ。

 だが情けなどかけるはずがない。

 拳を固め、止めを刺す―――!!

 

「ぶふうぅぅぅぅぅ!!」

「なっ!?」

 

 煙幕!?

 突如として口から白い煙を拭いたアース。

 煙をはらいながら追撃を行おうとするが、その先には奴はいなかった。

 

「「「逃げた!?」」」

「は?」

 

 唖然としたまま奴の気配のする方を見れば、この船から脱出したアースが海面を滑りながら日本へとまっすぐ逃げようとしている姿が視界に映りこむ。

 

「大地に、大地にづきざえすればぁ……!」

 

 逃げる? 逃げたのか?

 野郎、とうとう手段を選ばず日本を破壊するつもりだな。

 脳裏に浮かぶのは一年と半年前の記憶。

 多くの人が奴の犠牲になり、大怪我をしたあの戦い……。

 

『奴は弱っている! ジャスティスクルセイダー! とどめをさせ!! ファイナルウェポンの使用を許可す――って、カツミ君! なにをしようとしているんだ!?』

 

 大きく助走距離をとった俺にレイマが声を上げる。

 

「ちょ、カツ……黒騎士君!? ど、どうするつもり!?」

「とどめは私達に任せるんや!」

「奴を始末する。今度は、確実に」

 

 あのふざけた地球野郎は俺が始末する……! 絶対に許さん……!!

 日本へと向かって行く奴を目にし、迷いなく助走をつけて甲板から海へと飛び込む。

 スーツの身体能力に任せ、海原を蹴りながら海上を走る。

 

『海を走った!? いや、君ならば不可能はないだろう!! さすがは君だァ! ウェ、ウェへへァァ!! 君の新しいスーツの構想がドバドバ湧き上がってくるぞぉぉ!!』

『主任!! ちょっとうるさいから黙っててください!!!』

『はい、ごめんなさい……』

 

 怒られて素直に落ち込むレイマ。

 オペレーターの女性は、そのまま海面を走る俺へと声を投げかけてくる。

 

『黒騎士君!! 惑星怪人アースの核は胸の真ん中から左に10㎝ほどズレた小さな球体です!!』

「了解!!」

 

 核の場所は分かった。

 懸命に海面を滑っていくアースの背中へ追いつき、その拳を固める。

 

「皮肉なもんだなぁ!!」

「ッ!?」

「感情を得て弱くなるなんてなァ!!」

 

 海面を跳躍、そのまま大きく拳を振り上げた勢いのままアースを殴りつけ、海水へと叩きつける。

 奴が足元に作り出した溶岩が冷えて固まった場所に背中を激突するが、そのままもがく奴の肩を掴んで頭突きを食らわせた勢いのまま、言葉を叩きつける。

 

「お前と戦った人たちは、立ち向かったぞ!!」

 

 一年半前、なし崩し的に一緒に作戦を共にすることになった自衛隊の人達。

 他にも多くの人が覚悟して、お前と戦う覚悟を決めていた。

 彼らは俺のようなワルモノとは違い、日本のために、家族を守るために戦った。

 それは、俺には絶対にできないことだ。

 

「よりにもよって、お前は俺達に背を向けて逃げやがったなァ!!」

 

 だが、こいつは逃げた。

 よりにもよって、まだ日本を害する意思を持ったまま、俺達から逃げた。

 

「あの人たちは、命を懸けてお前と戦った!! なのに、追い詰められたお前は逃げるのか!! ふざけやがってこの腰抜け野郎!!」

「……わだじは惑星怪人アース!! お前だぢを絶滅ざぜる!! わだじは惑星怪人アース!! お前だぢを絶滅させる……代弁者ぁ……ッ!!」

「テメェが人間をムシ呼ばわりする資格なんてねぇんだよ!!」

 

 壊れたテープのように恐怖の籠った声で同じ言葉を呟き、顔を赤熱した右手で掴まれる。

 至近距離の高熱でアラートが鳴るが、それに構わず掲げた手を手刀の形へと変える。

 

「その出来損ないの心臓はいらねぇよなぁ!!」

 

 そのまま渾身の力で放った抜き手を怪人の胸へと突き刺す。

 かつて俺がこいつの左腕を突き刺した僅か左にあるソレを掴み取った俺は、奴の身体に足を掛けながら力づくでそれを抜き取った。

 

「———ァ」

 

 瞬間、アースの身体は真っ白に染まりボロボロと崩れ落ちていく。

 無言のまま手の中の小さな……ピンポン玉ほどの心臓を握りつぶした俺は、この騒動の終わりに思わずため息をついた。

 

「はぁ、戻るか……。……ッ!」

 

 何か、空気を振動させる音。

 海の音に混じってその音を聞いた俺は、足元の溶岩が固まったソレを割り砕き、手ごろな石を空中へと放り投げる。

 するとなにもない空間にパァンという音が響き渡り、なにかが落ちる。

 

「……水色の……なんだこれ? オペレーターさん、なんですかこれ」

『ドローン!? なぜこんなものがここに!?』

 

 空と海の色にカモフラージュされているように塗装された『どろーん』と呼ばれる機械。

 

「アアァァァ!? ドローンが!?」

「はい……?」

 

 こちらに流れ着いたそれを拾いながら首を傾げていると、この場にそぐわない呑気な悲鳴が聞こえてくる。

 声のする方を見れば、一隻の漁船が漂っているではないか。

 

「やっば見つかったっ!」

「逃げるが先っしょ! うおおおおお!! 生放送めっちゃやばい!!」

「さっすが怪人戦! これで俺達有名人だ!」

 

 なんだあいつら……?

 一般人、だよな? たしかこの海域は封鎖されているはずなのに……。

 俺の視線に気づいたのか、そそくさと逃げようとするボートだが、その直後に―――彼らを追ってきたとみられる自衛隊の船が取り囲む。

 

「うわああああ!?」

「だから言ったんだよ!!」

 

 あれよあれよという間に拘束される彼らを見ながら首を傾げるしかなかった。

 本当になんなんだあいつらは?

 

『……あーあ、こりゃ大変だぞ』

「どうした? レイマ」

『日本との距離も近いせいか電波が届いてしまったのか。全く、愚かなことをしてくれたものだ……』

 

 本当にどうしたのだろうか?

 なにがあったか未だに分からないが、とてつもなく落胆しているレイマ。

 

『この戦いが世間にバレてしまった』

「……はい?」

 

 分かりやすく話してくれる彼に、俺はまた呆気にとられた声を返すしかなかった。




※この作品はSF作品なので沖合でも生放送はできます(謎理論)
彼らは無駄な運を発揮して忍び込み、無駄な運を発揮して戦闘の余波を逃れて生放送をお届けていました。

実は惑星怪人だったマグマ怪人くんでした。
恐怖を知ってしまったので、精神面でも弱体化しています。

あっけなく敗北してしまった理由については、弱体化していたことに加え一年間死闘を潜り抜けてきたジャスティスたちと、二年間ソロで怪人をぶった倒しまくっていた黒騎士くんのベテランチームじゃ相手が悪すぎたというのもあります。


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戦いから一ヶ月後 前編(色々回)

本日二話目の更新となります。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。

今回はちょっと特殊で四段階に分けられています。

1、流れるコメント
2、記者会見
3、記録映像
4、掲示板

となります。

※記者会見の内容を見直して、部分的に書き直すことにしました。
舞台装置としてヘイトを集めすぎてしまったので、大きな修正を行います。


「見てください! これが怪人とヒーローの戦いでーす!!」

「俺らマジ命がけでここにいるから、その意を汲んでね!!」

「うおおおお! 臨場感すげぇ!! ここまで熱いのがくる!!」

 

✕▶

こいつら自分が何しているのか分かってんのか!?

無駄に豪運で草 笑ってる場合じゃねぇ逃げろ!! 黒騎士くんいるじゃん!!

こんなんじゃ俺、人類守りたくなくなっちまうよ……

相変わらずの黒騎士くんすぎるwww ドローンも改造したやつっぽい

こいつら多分漁船盗んでる。 船舶免許すら持ってない可能性すらある

盗まれた船の持ち主さんかわいそう…… ああああ  逃げろよ!www 絶対こいつら捕まるだろ

相手なんの怪人だ? 終わったな 

なんで黒騎士くんいんの!? ジャスティスクルセイダー復活!?

 

II
00:12/9:64

 

《記者会見、音声記録》

記者A、秘匿されていた怪人、アースとはどのような存在なのですか?

 

―――彼の怪人の存在を秘匿した理由につきましては、第一の理由としては惑星怪人アースという怪人は、日本そのものを短時間で崩壊させる力を持つ存在であることです。

―――その登場も、活動を短時間で察知できたことは我々にとって幸運なことでした。

 

記者C、もしアースの発見が遅れた場合、どのような事態が引き起こされていましたか?

 

―――恐らく、この日本そのものが崩壊していたことでしょう。

―――信じられないかもしれません。

―――しかし、これまでの怪人という恐ろしい存在を知っている皆様なら、その可能性がゼロではないことをご理解いただけるでしょう。

―――我々には、手段を選んでいる状況ではなかった。

 

記者A、なぜ黒騎士が自衛隊と共に作戦に当たったのですか?

 

―――惑星怪人アースには既存の重火器による攻撃が通用しなかったことが大きな理由となります。

―――黒騎士、と呼ばれた彼は非公認の存在ではありますが数多くの怪人との戦闘を経験している者であり、我々としても苦肉の策として彼に協力を仰ぎました。

 

記者B、彼の年齢が十代半ばという事実は把握しておりましたか?

 

―――いいえ。

―――我々がその事実を知ったのは騒動の後でした。

―――……私も……当時は、驚きました。

 

記者A、プロトスーツの件ですが、政府は未だ彼に罪を問うつもりでいるのですか?

 

―――この場で明言しましょう。

―――様々な憶測が飛び交っておりますが、彼のプロトスーツ盗難の件は既に企業側が訴えを取り消しております。

―――怪人との戦闘の余波につきましては、彼の責任を問いません。

―――未だ疑いの目が向けられることは理解しております。

―――彼の行動には、目に余るものがあることも認めます。

―――しかし、これだけは信じて欲しい。

―――彼は、一度たりとも我々に攻撃の矛先を向けたことが、ないということを。

 

記者B、先日の戦闘では、なぜ黒騎士が作戦に参加を? 彼は現在、監視中だと……。

 

―――もしもの事態に備えてのことです。

―――相手は、怪人。

―――これまでのようにどのような手段で攻撃してくるか分からない。

―――だからこそ、ジャスティスクルセイダーの助けとして、彼にも作戦に参加してもらったのです。

―――政府からの要請という形での参加なので、彼の意思ではありません。

 

記者C、貴方がたは黒騎士の正体を既に把握しているのですか?

 

―――……。

―――はい。

―――ですが、個人情報の観点につきまして彼の情報を明かすことはできません。

 

記者A、惑星怪人アースに関する作戦資料、映像、音声記録。またジャスティスクルセイダー本部が保管する映像記録を開示するという情報は事実なのでしょうか?

 

―――はい。

―――秘密が公となった今、国民の皆様には知ってもらいたい。

―――日本の危機に、立ち上がった人々がいたということを。

―――彼らの力があってこそ、今の私達がいることを……知ってほしい。

―――……我々も相応の責任を取る所存です。

 


 

録画記録【20xx.05/21.07:13:32:22】

 

「今日から協力させていただくことになった……えーっと、黒……騎士って呼ばれてます。名乗ったことがないから恥ずかしいなこれ……」

 

「彼がマグマ怪人との戦闘に参加してくれる。正体を明かさないということが条件だ。彼は対怪人戦のエキスパート、我々より遥かに怪人との実戦経験に溢れている。身分が不明ではあるが、状況が状況だ。協力するように」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「……まあ、見ての通り我々が想像していた以上に人間らしい人物だ。……私個人の意見ではあるが、信頼してもいいと思う。では早速会議に移ろう。事態は一刻を争う」

 

 

録画記録【20××.05/21.08:22:45:97】

 

 

「マグマ怪人は大地にいる限り、無敵、という話を聞きましたが……これはなんですか? カメラ?」

 

「ああ、これは記録のために残しているんだ。……君が拒否するなら映さないが」

 

「いえ、気になっただけなので。えぇと、話の続きですね。恐らく、相手がエネルギーを吸収するのは大地に足が触れている間で、その時は攻撃が効かない。それなら――」

 

「だから、足から離れさせてしまえばいい? それは無茶だ。アレには現代兵器が効かないんだぞ」

 

「効かなかったとしても衝撃は伝わるはずです。先ほど、映像を確認しましたが、攻撃は効きはしませんでしたがその衝撃で僅かに後ろにのけ反っているのが見えました。それを利用し、なにか箱のようなものに閉じ込めて……ヘリに積んで海に落とす。そうすれば、奴の力を大幅に割くことができるかもしれません」

 

斎藤さん、いけると思いますか?」

 

「……上に掛け合ってみるか。だが、あれを動かすのは至難の業だぞ。どうする?」

 

「俺があの怪人の相手をします」

 

「できるのか?」

 

「やってみます。自信は、ないですが」

 

「そこは嘘でもできると言って欲しかったな。……冗談だ、目に見えて落ち込むんじゃない」

 

「すみません……」

 

「「「ははは!」」」

 

 

録画記録【20××.05/22.04:47:68:79】

 

「誰かと話していたのか?」

 

「ああ、いえ、独り言です。……だから纏わりつくなって……!」

 

「戦いは間近だが……。君は、怖くないのか?」

 

「……あまり、怖いとは思ったことはありません」

 

「死ぬのも?」

 

「……はい」

 

「……黒騎士くん、君は……年はいくつだ?」

 

「15歳です。……あ、これ録画してます?」

 

「あ、ああ、すまない。消そうか?」

 

「いえ、大丈夫です。ああ、俺のバカ……今度から気をつけろよな……

 

「……子供だな。親御さんは心配していないのか?」

 

「いいえ、もういませんから」

 

「……すまない。配慮ができていなかった」

 

「いえ、いいんです。安藤さんはご家族は?」

 

「ああ、妻子が、な。今は別居中だが……」

 

「生きているならどうとでもなりますよ」

 

「そうだと、いいな」

 

「……」

 

「……」

 

「……俺、必ずマグマ怪人、なんとかしてみますから。貴方も家族のこと、絶対に諦めないでくださいね」

 

 


 

325:ヒーローと名無しさん

 

とりあえず激動の一か月だったと他人事ながら思う。

一か月前の惑星怪人討伐事件

 

アホな一般人がジャスティスクルセイダーと黒騎士君の戦闘を生放送をして暴露。

撮影した当事者は拘束され、そのあとどうなったかはまだ分からないが、まあ無傷ではいられないだろうなぁ。

 

326:ヒーローと名無しさん

 

政府も思い切ったことしたな。

一年と半年前の対惑星怪人アースとの戦いから、一か月前の戦いの情報も公開するだなんて……。

 

情報過多すぎて多方面が混乱しまくったわ。

 

327:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん怪人とジャスティス戦隊以外には敬語って初めて知った。

しかも当時15歳という事実に、心が震えた。

 

328:ヒーローと名無しさん

 

15歳で色々背負いすぎだろ……。

録画記録見て、なんで逃げ出したアースにマジギレしたのかよく理解できた。

 

329:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんルイズコピペというこの世の悍ましいものの粋を集めた呪いの文書が出てしまったこと以外は、俺の周りでは平和だったゾ

 

330:ヒーローと名無しさん

 

怖気(突然の死)

 

331:ヒーローと名無しさん

 

相手が地球の名前持った敵とか意味わからん敵すぎるし。

能力も日本に特攻効きまくってやばいってもんじゃなかった。

 

地球のエネルギーを吸い取って大地にいる限り無敵とかなんだよそれ……。

そんな相手とよく立ち向かえたな、自衛隊。

 

332:ヒーローと名無しさん

 

なんで一部怪人連中ってクソみたいな能力してんだろうなぁ。

殺意高すぎてなんで人類滅んでないん?ってレベルでやばい……。

 

333:ヒーローと名無しさん

 

そりゃジャスティスクルセイダーと黒騎士くんが頑張りまくっていたからだよ。

 

334:ヒーローと名無しさん

 

正直、黒騎士反対派だったが、しょうがねぇんじゃないかと思う。

だって割と日本どころか世界規模の危機だったんでしょ?

さすがに自分の命までどうでもいいとは言えないから、黒騎士と陸自の人達の尽力があって今があると思ってる。

 

335:ヒーローと名無しさん

 

実際その通りだよ。

彼らがいなければ、日本は終わってた。

 

336:ヒーローと名無しさん

 

色々、すごかったなぁ。

 

337:ヒーローと名無しさん

 

大袈裟でもなんでもなく黒騎士くんいなけりゃ一年半前に日本終わってたしな。

いや、他の件でもそうなんだけど。

 

怪人たちが日本滅ぼそうとするのになにか理由があったんかな?

なんか認識的にいやに攻撃範囲が広い気がするんだけど。

 

338:ヒーローと名無しさん

 

あの黒騎士くんの顔面飛び膝蹴り チェキータさん並みの躍動感あって好き

 

339:ヒーローと名無しさん

 

リ ベ ロ エ ー ス バ ー ン

 

340:ヒーローと名無しさん

 

夢特性はやめなされ……。

 

341:ヒーローと名無しさん

 

当時の状況はマジで絶望的だったらしいよ。

いつアースが日本壊しにくるか分からないし、現代兵器が奴には通用しない。

黒騎士くんを呼び出したのも政府にとっての苦肉の策だったっぽい。

 

342:ヒーローと名無しさん

 

一見無謀な作戦を立ててたけど、実際やってみたら

ゴリゴリの肉弾戦だったという罠。

 

343:ヒーローと名無しさん

 

マグマ怪人って時点で強キャラすぎる……。

強すぎて序盤で処理されるけど、こいつはマジでやばすぎる……。

 

344:ヒーローと名無しさん

 

惑星怪人「エネルギー供給されてるから無敵なりぃ」

黒騎士くん「殴りまくってノックバックさせてコンテナにぶちこんでやる」

黒騎士くん「地上から離してエネルギー源ぶっちぎってやる」

 

頭おかC

 

345:ヒーローと名無しさん

 

惑星怪人「むむむ、こんなコンテナ溶かしてやるなりぃ」

黒騎士「コンニチワ!!」

惑星怪人「ファ!?」

黒騎士「溶かす暇与えないために目的地まで殴りまくってやるぜ!」

 

(電撃ナメクジ怪人の)経験が生きたな。

 

346:ヒーローと名無しさん

 

でも黒騎士くんは別に怪人でもなんでもないんだよなぁ。

てか、今回の資料で疑惑自体吹っ飛んだわ。

 

347:ヒーローと名無しさん

 

ワルモノの定義が判明した以上、普通にしているといい子。

自衛隊の人との会話が悲しすぎる。

 

本気で黒騎士くんの過去が気になってきた。

多分、俺達が想像している以上にえげつないもんが飛び出してくるんだろうけど。

 

348:ヒーローと名無しさん

 

まあ、このスレもこんな落ち着いているのはあと少しだけだろうな。

すぐに過激なのが湧いてくる。

 

349:ヒーローと名無しさん

 

今回の騒動で大分印象が変わったよな。

礼儀正しいのは、本当に予想外だった。

 

350:ヒーローと名無しさん

 

普段がバーサーカー過ぎるんだろ。

怪人相手にすんなら基本的にあらゆる手段を使って殴りにいく。

 

351:ヒーローと名無しさん

 

滅多に一般人と関わらない。

 

352:ヒーローと名無しさん

 

だからナマコだって言っているだろ。

なんでお前らナメクジって呼ぶんだ。

 

こりゃモツワタが煮えたぎってくるぜ……!

 

353:ヒーローと名無しさん

 

ナマコ兄貴いい加減しつこい。

もっとやって♡

 

354:ヒーローと名無しさん

 

前、マスコミが無理やり止めてインタビューしようとした時はちょっとおかしかったよ、黒騎士君。

らしくなく、慌てた様子で逃げてった。

 

相手、めっちゃ美人のインタビュアーさんだったのに

 

355:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんって美人に弱い……?

 

356:ヒーローと名無しさん

 

その話知ってる。

てか、報道されたよね。

 

なんかわたわたしててかわいかった(小並感)

 

357:ヒーローと名無しさん

 

レッド曰く、黒騎士くんはテレビも見ていないし、パソコンも持っていなかったらしい。

 

だから芸能人とかそういう方面に疎いんじゃないの?

 

358:ヒーローと名無しさん

 

原始人かな?

 

359:ヒーローと名無しさん

 

だから脳筋だったのか……!

 

360:ヒーローと名無しさん

 

最近は映画をよく見てるらしいな。

 

361:ヒーローと名無しさん

 

本人ワルモノって自覚しているらしいけど、プロトスーツ盗まれた側が問題にしてないって明かされた時点で犯罪者じゃなくなってんだよな。

まあ、すっげぇ不審者ではあるんだけど。

 

362:ヒーローと名無しさん

 

会見の人、めっちゃ感情移入してた感じがしてたな。

まあ、黒騎士君年齢的に子供の部類だからしょうがなかったんだろうけど。

 

でも、黒騎士くん個人で異常な武力を身に付けているから、警察の捕縛の対象にはなっていたみたいだよ。

 

でも怪人と戦えるのは黒騎士くんだけだったから、実行はされたけど本気じゃなかったらしい。

 

363:ヒーローと名無しさん

 

現場も色々大変なんだなぁ。

 

364:ヒーローと名無しさん

 

怪人が出たら一般人じゃなすすべがない。

黒騎士くんを怖がる声があるのは理解できるけど、今回の資料とか録画映像とかを見て印象を変えてくれると嬉しいな。

 

365:ヒーローと名無しさん

 

なんかみんな、今回の戦いについて語ってないじゃん。

そっち語ろうぜ。

 

 




※内容をマイルドなものに変えました。
お騒がせして申し訳ありません。

後編は完全な掲示板方式になる予定です。


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戦いから一か月後 後編(掲示板)

今回も掲示板回となります。

感想欄の内容をちょっとずつ掲示板に反映? して盛り込むのも楽しい……。

今回は初心に立ち返って書いてみました。
今回も例に漏れずネタ要素多めとなります。


365:ヒーローと名無しさん

 

なんかみんな、今回の戦いについて語ってないじゃん。

そっち語ろうぜ。

 

366:ヒーローと名無しさん

 

過去の戦闘記録は自衛隊員の撮影記録だけど、一か月前の記録はあれだな。

ジャスティスクルセイダーと黒騎士くんのマスクのカメラの録画映像なんだな。

 

367:ヒーローと名無しさん

 

共闘した経緯も黒騎士くんの意思じゃなかったんだっけ?

 

368:ヒーローと名無しさん

 

今回は政府の要請って書いてある。

前回の戦闘で嫌というほどあの怪人の恐ろしさを知っているから、黒騎士くんを戦わせたんだろうけど……一部の一般人がなぁ。

 

369:ヒーローと名無しさん

 

怪人戦は再生数稼げるからな。

本人の命は保証しないけど。

 

370:ヒーローと名無しさん

 

あっさりと追加戦士にならないあたり、黒騎士くんは俺達のこと分かってる。

 

371:ヒーローと名無しさん

 

ああいうのは本格的になんとかしねーと駄目だぞ。

勝手に頭ツッコんでガチで怪人の犠牲になった奴もいるのに、未だに虎視眈々とやろうとしているのがマジで意味不明。

 

372:ヒーローと名無しさん

 

本人としては不本意っぽいな。

前のアンケートでジャスティスクルセイダーに悪感情はないけどライバル視しているし、なんなら認めてる。

てか、ある意味で黒騎士くんが一番の理解者まである。

 

今回の黒騎士君視点の映像の台詞を見ると、ジャスティスクルセイダーに自分は必要ないと思い込んでいるかもしれん。

 

373:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの怪人に対しての煽りスキルが高すぎるんだよなぁ。

 

374:ヒーローと名無しさん

 

怪人と一番多く戦った人間だからな。

そりゃ煽りスキルも高くなる。

 

375:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーって強いんだよな。

大衆向けな姿にされてるし、なんならイベントとかに出てるけど、それでも戦闘力自体はそれぞれ高い。

 

376:ヒーローと名無しさん

 

一年経ったベテランの戦隊並みの貫禄はついてきたしな。

 

377:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーの基本戦術は三人でボコって最後は超兵器で消し炭にするってやつだから、脳筋度でいえば黒騎士君に劣らないぞ。

見た目が可愛くて華やかでさわやかなだけで誤魔化されるけど、十分にやばい集団

 

378:ヒーローと名無しさん

 

バスターゴリラ三人衆やぞ

 

379:ヒーローと名無しさん

 

ブルーちゃんはアーツゴリラだろいい加減にしろ!

 

380:ヒーローと名無しさん

 

イエローの似非関西弁感スコスコのスコティッシュフォールド

 

381:ヒーローと名無しさん

 

パワー全振り型電撃斧使い。

マイティ・ソーかなんかかな?

 

382:ヒーローと名無しさん

 

あれキャラづくりのつもりで、本当は普通の喋り方らしいな。

 

かわいい

 

383:ヒーローと名無しさん

 

公式プロフィール見るに料理上手がある時点で安定してる。

個性ないけど、個性ある子だよな。

 

384:ヒーローと名無しさん

 

ブルーちゃんのマイペース感もいい

 

385:ヒーローと名無しさん

 

プロフィールの和菓子好きってのがなんか、その、いい。

 

386:ヒーローと名無しさん

 

当 然  読 書 家

ツムッターの黒騎士君に推理小説差し入れてた話すこ

 

387:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんに目がいきがちだけど、ジャスティスたちも個性の塊なんだよな。

なんていったって、声が可愛いし。

 

388:ヒーローと名無しさん

 

 

 

ねえ!!!  レッドは!!!?

 

 

 

389:ヒーローと名無しさん

 

あっ(ガチ忘れ)

 

390:ヒーローと名無しさん

 

レッドは生まれる時代が違えば、稀代の人斬りになっていたって言われるほどの剣の達人やぞ?

 

391:ヒーローと名無しさん

 

海外兄貴姉貴たちからはブラッドサムライって呼ばれてるんやぞ

 

392:ヒーローと名無しさん

 

レッドのスーツが赤い理由を知っているか? 怪人の返り血で赤くなっているんだ……

 

393:ヒーローと名無しさん

 

紅一点(意味深)は格が違う

 

394:ヒーローと名無しさん

 

レッドちゃんの黒騎士くんへの懐きようはなんだかハラハラする。

 

395:ヒーローと名無しさん

 

擁護する気ねぇだろ!!

 

396:ヒーローと名無しさん

 

不憫枠とバーサーカー枠でポジション確立されてんの笑うわ

 

397:ヒーローと名無しさん

 

でもメンタル的な強さはレッドが一番だな。

一年鍛えられたチームの主柱になってる

 

398:ヒーローと名無しさん

 

今回のアース戦はその集大成みたいな戦闘だった。

レッドとブラックが攻撃の起点。

イエローが電撃で相手の動きを封じて、斧でスタンを取る。

ブルーが間髪入れずにエネルギー弾ぶつけて怯ませ、隙を作る。

 

四色戦隊に相応しい戦いだなぁって思った。

 

399:ヒーローと名無しさん

 

アースもめっちゃ強い怪人なのにほぼなすすべなかったもんな。

 

400:ヒーローと名無しさん

 

さらっと四色目のブラックにされてて草

 

401:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君はブラックじゃないよ。

怒るよ?

 

402:ヒーローと名無しさん

 

やべぇぞ、孤高の戦士ガチ勢だ!

 

403:ヒーローと名無しさん

 

私から見たら、スーパー戦隊と仮面ライダーのコラボだ! よ!!

スーパー戦隊VS仮面ライダー!

 

なんだかんだいって最後に協力して巨悪を倒すやつ!!

 

404:ヒーローと名無しさん

 

たしかにその通りだ。

その意見には、感嘆とさせられる。

 

見事だよ。

 

でも、

 

見事すぎて気に入らないね!

 

405:ヒーローと名無しさん

 

誰かディケイド呼んできて!!

ヤンデレストーカーのホモがこっちに来てる!!

 

406:ヒーローと名無しさん

 

突然ラスボス化したやつがきたな

 

407:ヒーローと名無しさん

 

ハッ!!(霊力バシューン)

 

408:ヒーローと名無しさん

 

ディケイド呼んでも絶対に嫌がって来ないだろ。

 

409:ヒーローと名無しさん

 

>>407

タケル君は偉いな……

 

それに比べてガイム!!

 

410:ヒーローと名無しさん

 

コウタさんなんも関係ないのに本郷さんに怒られてるの最高に理不尽で草

 

411:ヒーローと名無しさん

 

ネタが分からないからやめてくれ……。

 

412:ヒーローと名無しさん

 

話を戻すようで悪いんだけど、

ひいき目なしで連携できてるよね。

 

413:ヒーローと名無しさん

 

でもやっぱ黒騎士くんのスーツって耐熱性とか耐久性とかずば抜けてんのかな?

アースの熱放射とかものともせずに殴りにいってたし。

 

414:ヒーローと名無しさん

 

温度3000倍超えてたらしい。

 

 

415:ヒーローと名無しさん

 

え、3000倍なの?

3000℃じゃなくて?

 

416:ヒーローと名無しさん

 

これはやってしまいましたねぇ。

普段なに書き込んでいるか丸わかりですよ。

 

417:ヒーローと名無しさん

>>414

うわああああああああ!?

 

418:ヒーローと名無しさん

 

あの私がおかしいのか分からないんだけどさ。

周囲が3000度近い怪人に近づいてボコスカ殴れるのっておかしくない?

 

おかしいよね?

いろんな科学に喧嘩売ってるよね?

しかもその前に一緒のコンテナでランデブーして小一時間一方的に殴っていたとか?

 

419:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんなら正直、なにしてもおかしくない。

 

420:ヒーローと名無しさん

 

当然のように海面走ってたし。

フィジカルでなんとかできることならできるだろ

 

421:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんのアース戦まとめ。

 

・作戦開始までアースを一人で足止めして時間を稼ぐ(推定6時間)

・ノックバック利用してアースをコンテナに詰めいれる。

・脱出を防ぐために自身もコンテナに入り、殴り続ける(推定2時間)

・その間、左腕をもぎ取る。

・落下させた後、浮上してきたアースに落下致命を食らわせ、もぎとった左腕を胸に突き刺す。

 

422:ヒーローと名無しさん

>>

 続き

 

・一年半後、突き刺した左腕で弱体化。

・黒騎士君へのトラウマで精神的にも弱体化。

・黒騎士君、ジャスティスクルセイダーとの連携で、アースを殴りまくる。

・3000度近い極限空間に入りこみ殴りまくる。

・逃げたアースにぶちぎれて海を走る。

・心臓をぶっこぬいて止めを刺す。

 

423:ヒーローと名無しさん

 

なんなのこの人……(畏怖)

 

424:ヒーローと名無しさん

 

やったことがマジで超人すぎる。

次の戦いの布石作って、本当にそうなるって……。

 

425:ヒーローと名無しさん

 

まさか黒騎士くんモツ抜きするとは思わなかった

 

426:ヒーローと名無しさん

 

アーカードさん並みの抜き手心臓ぶっこ抜きが鮮やかすぎるぅ……。

 

427:ヒーローと名無しさん

 

あれが怪人じゃなかったら間違いなくR指定なんだけどな。

 

428:ヒーローと名無しさん

 

あの場面って黒騎士くんぶちぎれてたの、一生懸命戦ったJCに背を向けて逃げたから怒ってたことなんだな。

 

429:ヒーローと名無しさん

 

違うぞ。

前回の戦いで命をかけて戦った自衛隊の人達のことを考えてキレたんだぞ。

当時、関わった人たちは溶岩操るやばい怪人を相手に逃げずに立ち向かって戦ったのに、当のアースは変な使命感語り出した上に、自分が死にそうになったら逃げ出すクソ野郎になったからな。

 

430:ヒーローと名無しさん

 

いきなり喋り出して、惑星怪人って名乗りだすからな。

当の黒騎士くんたちはさして驚きもせずに、ほーん、って反応だったけど。

 

431:ヒーローと名無しさん

 

犠牲者も少なからずいたからな……。

現場指揮してた方……。

 

432:ヒーローと名無しさん

 

当事、作戦に参加してた自衛官さんが娘さんと手を繋ぎながら礼言ってくれていたのが胸に刺さった。

 

433:ヒーローと名無しさん

 

お願いだから君は過去の黒騎士君と陸自の連携見てきて。

見ろ(豹変)

 

434:ヒーローと名無しさん

 

海面走って変な笑い出てたけど、黒騎士くん視点の台詞で滅茶苦茶怒りが伝わってくるのいいよね……。

 

435:ヒーローと名無しさん

 

「お前と戦った人たちは、立ち向かったぞ!!」

「あの人たちは、命を懸けてお前と戦った!! なのに、追い詰められたお前は逃げるのか!!」

 

感情剥き出しの言葉だから、本心って分かるのがすごい……。

 

436:ヒーローと名無しさん

 

冷静に考えると地球を司る怪人に潜在的な恐怖を植え付けたんだけどな。

 

437:ヒーローと名無しさん

 

前の戦いの時点で腕捥いで、さらに胸のど真ん中にそれをぶち込んでいるんだぞ。

誰だって怖くなるわ。

 

438:ヒーローと名無しさん

 

レッドとイエローと一緒にキャッチボールやってたなぁ。

ボールは怪人でグローブはどっちも拳と武器だったけど。

 

……仲良くなったね(白目)

 

439:ヒーローと名無しさん

 

ダキバのクソつよ紋章なみの拘束力だったなアレ。

アースも強かったんだろうが、相手が悪すぎる。

 

例えるならラスボス戦を終えた主人公勢と、作中で格を一切落とさなかった前作主人公のチームだからな。

メンタルに関して言えば一番強い時期だ。

 

440:ヒーローと名無しさん

 

今朝、公式サイトで黒騎士くんがなんであんなに強いのか判明してたぞ。

新情報すぎてまだ広まってないだろうけど。

 

441:ヒーローと名無しさん

 

確認してこよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

600:ヒーローと名無しさん

 

プロトスーツの完全適合者ってなんだよ……。

フルスペックで性能引き出せるから、ジャスティスクルセイダー三人分のパワーがあるって普通にヤバすぎる。

 

601:ヒーローと名無しさん

 

本格的に代わりがいなくなっちゃった……。

人体実験疑惑もなくなり、ガチで天然のスーツ完全適合者とは恐れ入った。

 

602:ヒーローと名無しさん

 

そら大事にするわな。

モルモットにするって説もあったけど、モルモットにする以前にそれ以上の最高の装着者が実戦経験積みまくって捕まったんだから、モルモットにする必要性そのものがなくなっちゃった。

 

603:ヒーローと名無しさん

 

あんな時代の先を行くオーパーツになんで完全適合してんの?

てか、開発主任曰く、スーツの性能が無理やり引き出されてるとか、どう考えても現状でファースト後半のアムロみたいになってる……。

 

604:ヒーローと名無しさん

 

つまり適合者以外には、拒絶反応起こして命吸い取るあぶねースーツが、完全適合者の黒騎士くんには拒絶反応どころか屈服させられて尻尾振るくらいクッソ従順になってるってこと?

 

その上、無理やり性能引き出させられて悲鳴を上げている?

しかもその悲鳴も嬉しいものかもしれない?

 

605:ヒーローと名無しさん

 

擬 人 化 不 可 避

 

606:ヒーローと名無しさん

 

またレッドが敗北してる!!(未来予知)

また寝取られてる!!(予定調和)

 

607:ヒーローと名無しさん

 

無機物にすら敗北するのか……(困惑)

 

608:ヒーローと名無しさん

 

こんな情報回していいのか?

 

609:ヒーローと名無しさん

 

多分、政府にも確認とっているだろうから、情報を小出しにしているんじゃないか?

黒騎士くんの異常さとか重要性をゆっくり理解してもらうためとか。

 

610:ヒーローと名無しさん

 

とにかくこの情報でまた大荒れするだろうなぁ。

 




レッド達のこともちょっとだけ掘り下げました。
バーサーカー属性追加。
ブルーとイエローは幾分真っ当なのにレッドだけなんか扱いがネタキャラになってしまう謎。


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黒騎士、いつもの日常

本日二話目の更新となります。

第十二話 『戦いから一か月後 前編」についてですが記者会見の部分をまるごと書き直しました。
表現をマイルドかつ、個人的にはよりちゃんとした描写ができたかなと思いますので、見ていただければと思います。


※恐らくですが、フォントが機能していないかもしれません。



「オメガはね。そこまで特別な意味を持たないってことは、前にも言ったよね? カツミ」

 

 耳元で声がささやく。

 目を覚ますことができない。

 

「私が見つけて、選ぶ。それが君だった」

 

 目を開ける気力がない。

 ただ、微睡みと現実の曖昧な境界を行ったり来たりしながら、囁かれる言葉を認識していく。

 

「別に選ばれた人が強くなるわけじゃないのに……ただ、その人の意思で私の能力を受け付けなくなるだけなのに……」

 

 頭をなにかが包み込む。

 

「私を、守るためなんだよね? でも、君と話せないのは……とても寂しい」

 

 彼女が俺を抱き寄せたと気づいたときには、彼女は耳元で囁いた。

 

「私はアルファ。君は、私のオメガ。この短い、ほんの少しだけ許されたこの時間は、私のもの」

 

 意識が深海に沈み込むように落ちる。

 深く、暗い海底に背中が着くような感覚と共に―――一気に現実へ引き戻されるかのように俺の意識は引き上げられる。

 

「———ッ!!」

 

 途端に目が覚めた俺がベッドから起き上がると、そこは暗い独房の中であった。

 いつのまにか物で溢れた、最早閉じ込めるための部屋には思えない、そんなおかしな場所。

 

「アルファ……」

「いつも、君のそばにいるよ」

 

 彼女の名を呟く。

 彼女の声が聞こえたような気がした。

 俺が殺したのに。

 彼女は人に仇なし、俺が殺した。

 そのはずだ。

 記憶の齟齬を無理やり納得させ、額を手で押さえる。

 

「……最近は、あまり悪夢を見なくなったな」

 

 悪夢も見ることが少なくなったし、あまり吐かなくもなった。

 これは、いい兆候なのだろうか。

 

「……寝よ」

 

 大きな欠伸をしながら俺はもう一度ベッドに横になり瞳を閉じる。

 惑星怪人アースとの戦闘から約一か月が過ぎた。

 その間に、なぜか俺はパソコンの使用できるサイトなどが制限されたりしたが、まあ、その分映画を見る時間もできたので個人的にはそれほど不自由はなかった。

 

 


 

「お前らって友達いるの?」

「いるけど……なんで?」

「なら、どうして休日の午前からこんなところにいるんだよ」

 

 今日は土日で休日。

 なので、昼間っからここに来ているレッドとブルーに呆れながらそう言い放つ。

 

「君が死んでいないかを見に来てる。一人にしておくと死んじゃいそうだから」

「俺はウサギかなにかなの……?」

 

 そこまで精神的に虚弱に思われてんのかな……。

 

「そういえばイエローはどうしたんだよ」

「きららなら、ここに来る途中に厨房によって、昨日作って冷やしたお菓子持ってくるって」

「あいつ、なんなの……?」

 

 イエローの料理の腕は認める。

 が、なぜここにお菓子を作りにくる……!

 あの妹と弟、否、クソガキ共に作ってやればいいものを……!

 

「あ、そうだ! 外出許可だよ! 聞いた?」

「はあ? 外出許可?」

「うんうんうん!」

 

 すごいこくこくと頷くレッドに胡乱な目を向ける。

 外出許可……ああ、昨日、レイマが言ってたやつか。

 

「カツミ君、外出できるんだよ!」

「……そっか、いってらっしゃい。土産、頼んだぞ」

「ちーがーうーのー!」

 

 俺は自分が一つも犯罪を犯していなかった事実に打ちひしがれていたのだ。

 ここはジャスティスクルセイダーの本拠地、すなわちスーツが作られたところだが、彼らに好意的に見られている俺の訴えは取り消すよなぁ。

 それに加えて、あのなめくじ怪人の大停電も実はおとがめなしだとか、最初に変身した時から色々吹っ切れて活動していたのに……。

 

「どうせ俺は、真っ白白すけの白騎士くんだ……」

 

 しかし、騒ぎを起こしたことに加え、精神的に未だに不安定と言われたのでまだここにいるようだ。

 まあ、レイマも俺の住んでいるところを知っていたのだろう。

 あのオンボロアパートよりもこっちに住んだ方が、俺としても気持ちが楽だ。

 

「監視付きだけど、外に出れるんだよ? 嬉しくないの?」

「いや、ぶっちゃけここにいる方が楽だし……ここ映画見れるし」

「おいしいスイーツが食べに行けるんだよ!?」

「スタッフさんが差し入れてくれるし」

「く、ぬぬぬ……!」

 

 するとなにを思ったのかスポーツバッグから雑誌のようなものを取り出すレッド。

 ぱらぱらとソレをめくった彼女は、なんか菓子らしきものを俺に見せてくる。

 

「そうだ! ここ! お店限定の三色わらび餅!」

「それ私も食べたい……」

 

 レッドの見せた雑誌にブルーも食いつく。

 ……あっ。

 

「あ、それもスタッフさんからもらったぞ」

「君、スタッフさんから餌付けされてない!?」

「それ一時間待ちの有名店のだよ!?」

 

 マジかよ。

 なら後でちゃんとお礼を言っておかないと。

 

「あ、そうだ。今日は暇つぶしの為のゲームを持って来たんだよ」

「なんだよ、ゲームボーイアドバンスか? それともDSか?」

「いつの時代のゲーム……? これこれ、じゃーん!」

 

 なにを持って来たのかスポーツバッグからレッドが取り出した長方形の物体を取り出し、何かを並べていく。

 お、これはもしや噂のPF3かと思い目を輝かせた俺がテーブルを見ると―――、

 

      

        

        

         

      

 

 ……。

 

「もっと古いところじゃねーか! アナログの極致じゃん!?」

「うん。カツミ君、こういうのが好きかなって」

「いや、一応ルールは分かるけどさぁ。分かるけどさぁ!! もっとPF3とかそういう最新式のものがよかったんだけど!?」

「!?」

 

 大体、なんで将棋!?

 もっとトランプとか花札とか色々あるじゃん!

 

「……カツミ君」

「なんだブルー、今俺は大事な話を―――、」

 

 くいくいと俺の服の裾を引っ張ったブルーが、なにやら強張った顔のまま話しかけてくる。

 

「PF3は大分前」

「えっ?」

「今はもうPF5の発売が決まってる……!」

 

 え、PF3は時代遅れ?

 しかもPF4を飛ばしてもうPF5まで出るのか?

 

「う、嘘だ。は、ははは、ブルー、俺をからかうのはよしてくれよ……」

「もういい、やすめ! カツミくん……!」

「いや、将棋しようよー」

 

 そ、そそそそ、そうだ。

 今は将棋をやって心を落ち着けよう。

 すぐさま椅子に座り将棋の盤面を見てから、ふとある可能性を考える。

 

「お前ら、グルじゃないよな?」

「「はい?」」

 

 そう、こいつらは前のクイズ勝負で不正ギリギリのとんでもないことをしてくれたのだ。

 あの後、肉寿司とかいうこの世のものとは思えないほどの美味しさの飯を食べなければ、こいつらを許さなかったくらいには根に持っている。

 

「いやいや、しないよ。将棋でどうやってするの?」

「お前達が……」

「私達が?」

「俺に目潰しをする」

「物理!?」

 

 驚きに目を丸くするレッドだが、すぐにいつものように明るい笑みを浮かべる。

 

「私も将棋は一、二回くらいしかやったことないよ? 今度は純粋に勝負できればいいかなって思って持って来たんだよ」

「……ほ、本当に俺を騙さないか?」

「……いや、あの、本当にごめんね? 今回は大丈夫だから、ほら、巣穴から出ておいで」

 

 軽くトラウマな俺に苦笑しながら手招きするレッド。

 本当に正々堂々でやるんだよな?

 それなら俺も安心して、勝負に挑めるぜ……!

 

「卑怯な手を使わなければこっちの勝ちは決まったようなものだぜ!! 覚悟しろレッド! お前が駒を握れる日は今日限りだァ!!」

「(なんか威勢のいい小型犬を相手してるみたい……)」

「(かわいい……)」

 

 威勢を飛ばしつつ、対局開始。

 ぱち、ぱち、ぱち、と淀みなく駒を動かしていきながら静かに時間が過ぎていく。

 この盤面を見れば分かる。

 奴は素人だ……!

 とりあえず進める駒を適当に動かしているのがその証拠……!

 勝てる。

 この勝負、俺の勝ちだ! ジャスティスクルセイダー!!

 

 

「おまたせー。お菓子持って来たよ」

 

 部屋に場違いなほど明るい声の少女が入ってくる。

 茶ぱつの髪を三つ編みにさせた彼女、イエローは項垂れたまま反応しない俺を見て首を傾げる。

 

「って、あれ? どうしたん? カツミ君、そんなうなだれて……」

「……」

 

 今はこの甘い菓子の匂いですら分からない。

 俺の眼下には将棋の盤面。

 

「お前の番だ」

「ま、待ったアリにする?」

「情けは無用だ。やってくれ」

 

アカネ持ち駒:歩歩歩歩歩銀銀角飛金桂

       

       

      

   

   

      

      

      

       

カツミ持ち駒:歩歩歩歩桂

 

「え、えと、王手」

 

 レッドが竜馬を摘まみ、銀を取る。

 ただでさえ多い持ち駒が増え、王手を刺される。

 

アカネ持ち駒:歩歩歩歩歩銀銀角飛金桂銀

       

       

      

   

   

      

      

      

        

カツミ持ち駒:歩歩歩歩桂

 

 逃げ場なし、頼れる配下は一人を除いて皆捕虜にされる。

 こっちにゃ歩と桂馬しかねぇ。

 せめて、お前らだけでも敗残の兵として生き延びてくれ……。

 虚ろな目で手元の歩と桂を見つめる。

 

「ど、どうする? カツミ君……?」

 

 マジかよ、こいつナチュラルに強いんだけど!?

 初心者なのは疑わない。

 だが、意味のない一手が最善手に昇華して、油断していたボディに直撃させてくるんだけど!!

 俺、結構こういうゲームとか自信あったんだけど、どういうことなの!?

 

「お、おおお、俺の、負けです……!」

 

 屈辱の敗北宣言。

 しかし、ここで負けを認めない方がみじめなので大人しく負けを認める。

 

「あれ。なんだろう、すごいいけない気持ちになってくるんだけど……」

「アカネ、なんか人前で見せちゃいけない顔になってるんやけど、大丈夫?」

 

 普通に負けた。

 ……負けはしたが、普通に楽しかったな。

 思えば、こういう遊びをしたのは久し―――ッ。

 

「……」

 

 久しぶりの、はずだ。

 一瞬、ぼやけた視界を押さえながら顔を上げる。

 ものの見事に追い詰められた。

 さすがは、ジャスティスクルセイダーのリーダーとでもいうべきか……。

 

「私、ちょうどリバーシ持ってるんだけど、みんなやる?」

「なにがちょうどなのか全く分からないんやけど……」

「やるやるー」

 

 なんだかいつも通りに騒がしくなってきたな。

 煩わしいくらいの、いつもの光景。

 いつしか、そんな状況にいることに慣れてしまってきているわけだが……俺は、ここにいてなにか変わってきているのだろうか。




折角、将棋盤の再現を作ってはみたものの、滅茶苦茶つらかったので二度とやらないと思います(白目)
リバーシの盤面も作ってました(小声)


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試作品とメディカルルームの一時


前話の隠し要素に気付いた人は本当にすごい。
見つけた方が出てこなければ、当分は隠したままでしたが今回の話を合わせてヒントを公開します。

アルファの文字色は白で統一されております。



 今日はなにやらデータを取るために変身しなければならないようだ。

 レイマに呼ばれ、地下の修練場へやってきた俺は、彼から渡された『プロトチェンジャー』を腕に取りつける。

 二年間、共に戦ってきた相棒だ。

 

『さあ、カツミ君。試作装備のデータを取る。チェンジャーは腕に嵌めたかな?』

「もう装備はついているのか?」

『もちろん、抜かりはない。多少の勝手は違うだろうが心配はない。……では、装着してみたまえ』

 

 いつものようにチェンジャーの側面のボタンを連続して三度押す。

 ジャスティスレンジャーの変身とはかなりプロセスが異なるらしいが、彼女たちは変身の際に認証を二段階行っているらしいので、ああいう感じらしい。

 俺のは誰でも変身できるがその分危ないといった感じだ。

 

CHANGE——PROTO TYPE ZEROォ……

 

 そんなことを考えている間に変身を完了させる。

 いつもと変わらないスーツかと思いきや、各部に色々なものが追加されているではないか。

 

「両腕と両足、それに首元か。なんだかバイクのマフラーみたいだな」

 

 なんかすごいゴテゴテするようになってしまった。

 

『それは余剰エネルギーを放熱、推進力にする機構だ』

「余剰エネルギー?」

『君は常に限界を超えたエネルギー出力で敵を粉砕するが、その際に発揮されるエネルギーにはどうしても無駄が生じてしまう。今、君のプロトスーツに取り付けられたそれは、それを最大限に生かす試作品なのさ』

 

 つまり、無駄になるはずだったエネルギーを別のところに使う感じか。

 試作ということは、次のプロトスーツに搭載されるって考えてもいいんだよな?

 

『プロトスーツは君に完全適合しているが、君のために作られたものではない。常に限界を超えることができる君には、その能力に応じた機能、武器を詰め込むべきだ』

「それが、これか?」

『ああ、間違いなく、君専用の装備になるだろう』

 

 まだ自分のスーツが作られるということに現実味がない。

 幾分か今、自分が置かれている状況に前向きになろうとしている今なら、スーツの変化も受け入れることができるかもしれない。

 

『では、まずは動いて確かめてくれ』

「了解」

『危険があれば、即座に分離させる』

 

 いつものように動き出す。

 一瞬だけ出力を上げたその瞬間、腕、足、首元に外付けされた機構が発動し、白色のエネルギーが尾のように伸びる。

 

「おお!」

『うん、成功だな! さすがだ。では、無理のない程度に動いてくれ!』

 

 その場を飛び出し、加速するままに駆ける。

 いつもは一瞬の加速による慣性を利用していたが、これは加速がずっと続いていくような感じだ。

 地面を走り、壁を蹴り、天井を走り、あらゆる場所を足場にしながら高速移動を続ける。

 

「この加速は……!」

 

 ウィィィィン!!と、首から伸びる白い尾がマフラーのように揺らめき、加速を促す。

 

『では、軽く仮想エネミーと戦闘してくれ』

 

 スライドした地面から人型のロボットが出現する。

 目視と同時に、飛び蹴りを繰り出してから減速せずに次のロボットの首を粉砕し、流れるようにすれ違うエネミー全てを処理する。

 一瞬で、出現した仮想エネミーを処理したところで、ようやく足を止める。

 

『計測結果は?』

『仮想エネミー、2.31秒で沈黙。……圧巻の性能ですよ』

「すっげぇなぁ、これ」

 

 全身に取り付けられた追加パーツが、放熱するかのように煙を吐き出すと、そのままプロトスーツから分離するようにボロボロと地面へと落ちていく。

 

「え、こ、壊しちゃったぞ!?」

『心配するな。こちらで分離させただけだ。これ以上は君の動きそのものに耐えられないからね』

「そうなのか……よかった……」

 

 壊したらすっごい悪いしな……。

 しかし、これで試作なのか? 今の時点でも相当やばい性能をしていると思うんだけど。

 

『プロトスーツに取り付けられたそれは未だ未完成。私が理想とする数値の三割にも満たない。だからこそ、これから作るであろうスーツは……我々の想像を超える最高傑作になるだろう』

 

 まだ、俺達が必要になるのだろうか。

 正直、俺としてもまだ戦いがあることを予感してしまっているが、それにしてもレイマは急いでいるようにも思える。

 

『君の戦闘を構想に取り入れたジャスティスクルセイダーの強化装備も並行して作っている。これからに備え、油断せずにこの地球(・・)の平和を守っていこう』

 

 明るくそう言葉にしたレイマ。

 スピーカーの奥からスタッフさん達の笑い声が聞こえてくるあたり、彼も人望のある大人なのは間違いないようだ。

 

『それじゃあ、次をお願いしようかな。特撮オタクの大森君、次の装備を射出したまえ』

『特撮オタクは余計! です!! では、黒騎士くん、次の試作装備を送りますのでお願いします』

「はい、分かりました。……あ、この前の三色わらび餅、ありがとうございました」

『! いえいえいえ、喜んでもらえてなによりです』

 

 大森さんにお礼を言いつつ、演習場の壁から出てきた箱からアタッシュケースを取り出す。

 台に置き、ボタンを押して開くと煙と共にケースが開き、試作装備が出てくる。

 

『……お前、いつか駄目な男に貢ぎそうだな』

『駄目な人には貢いでいません。これはいつもありがとう的な想いを籠めて送っているだけなの、でッ』

 

 入れられた武器を取り出す。

 手甲? なんかメリケンサック的なものもついているし、俺の武器なのかな?

 

『その割には目の色が怪しい気配を放っているんだけどなぁ、25歳独し――』

『主任、その口溶接させられたい?』

『ごめんなさい……』

 

 結構、色々あるな。

 レッドとブルーとイエローのものもあるということは、あいつらが学校行っている間に、俺が彼女たちの分の新武器のテストをするってことか。

 まあ、ここに住まわせてもらっているようなもんだしな。

 

 

 

 試作兵器のテストをした後、俺はレイマに言われ担当医である白川伯阿のいるメディカルルームへと訪れていた。

 俺とそう変わらない年頃といった彼女は、手元の用紙に文字を書き込みながら、いつものように俺に質問を投げかけてくる。

 

「さあて、かっつん。昨日はよく眠れた?」

「眠れてる」

「ご飯はたくさん食べてる?」

「しっかり食べてる」

「運動はしてる?」

「毎日三時間のトレーニング」

「———」

 

 同じような内容の質問を毎回する。

 それに辟易としながら真面目に答えていくと、彼女はやや安堵したように手元のバインダーを机に置く。

 

「良好良好。精神的にも安定しているっぽいし、これなら外出許可も早く出せるんじゃないかな?」

「別に外に出たいってわけじゃないんだが」

「出るべきだと思うよ? かっつんはちょっと他のことに無頓着すぎる」

 

 無頓着……無頓着なのか?

 自分でも自覚していないが、そこまで外に魅力があるかどうか分からない。

 もうスーツを着なくていいならそれでいい。

 だけど、その後どうするのかだなんて……本当に考えもしていなかった。

 

「そんなに人と関わることが怖い?」

「そんなことはないけど……」

「そうだよね。君が怖いのは、自分が関わった人間が酷い目にあうことだもんね」

「……」

 

 動揺してしまう。

 まるで心が見透かされるような感覚に顔を上げると、俺と白川の視線が合う。

 

「だから、自分の使命が終わった時、死ぬつもりだった」

「! いや、俺は―――」

「それとも別の誰かのために死ぬつもりだった?」

 

 違う、という声が出ない。

 どういうことだ。

 間違いなく違うはずなのに、肝心の言葉が出てくれない。

 

「君は自覚しているのかどうか分からないが……君の心が不安定な理由は過去の影響もあるけど、それだけじゃない」

「……」

「少なくともオメガと戦った後。あそこまで心が強かった君が、ただ一度の敗北であそこまで打ちのめされるのは、ちょっと不自然に思えた」

 

 オメガと戦った後、俺はすぐにジャスティスクルセイダーと戦ったはずだ。

 疲労のあまりその間になにが起こったかはよく覚えていない。

 なにも起こっていないはずだ。

 俺は、負けて錯乱して自分の押し隠した本心を口にしてしまっただけの、はずなんだ。

 

「君にとって、衝撃的ななにかが後押ししたのかな?」

「分からない。俺にも……覚えてないんだ……」

「……そっか。ごめんね、変なことを訊いてしまって。あー、くそ、本当にごめん。あまり踏み込むんじゃなかった。ようやくいい方向に向かってくれているのに……」

 

 髪をがしがしと乱暴に梳いた白川が気まずそうに謝ってくる。

 別に謝るほどのことはされていないし、俺も怒ってなんかいない。

 ただ、自分のことが少しだけ分からなくなった。

 

「君の場合、私から偉そうに言えるわけじゃないんだけど……もうちょっと大事なものの幅を広げた方がいいと思うよ?」

「……考えて、みる」

「頷いてくれるだけでも上々だ。さあ、かっつん。なんか適当にお菓子でもつまんで時間でも潰そうじゃないか」

 

 そう言った白川は、人目につかない足元の戸棚から菓子のようなものを取り出そうとする。

 しかし、それと同時にメディカルルームの扉が開き、誰かが入ってくる。

 

「やっべ……ん? おや、どうしたんですか? ここに来るなんて珍しいじゃないですか」

「少し彼に話があってね。……席を外してもらってもいいかな? あとなぜ、私を見るなり、隠そうとした菓子を広げだす?」

 

 やってきたのはレイマだ。

 金髪の痩身の男で、ちょっと変わった性格をしているが気のいい人物の彼が、なぜここに?

 俺にケーキのような菓子を渡した白川が退出すると、レイマは先ほど彼女の座っていた椅子に腰を下ろす。

 

「カツミ君、俺は今まで君に隠していたことがある」

「宇宙人だって?」

そっちではない! ……いいか、私はな。ジャスティスクルセイダーの司令であり、KANASAKIコーポ―レーションの社長であり、君と彼女たちのスーツを作り上げた開発主任なのだ」

 

 ……。

 

「ふーん」

「ふーんて、怒らないのか?」

「いや、むしろ怒られるのはスーツ盗んだ俺の方だろ。むしろレイマにはよくしてもらっているから、怒る理由はないよ」

「君は純粋すぎる!?」

「レイマ!?」

 

 椅子から転げ落ちたレイマがその場で三回転ほど、床を這いずる。

 ひとしきり満足したのか、服を整えながら彼は立ちあがる。

 

「すまない。取り乱した」

「お、おう……」

 

 斬新な取り乱し方だ。

 なんか、レイマも話しかけにくそうにしているし、まずはこっちから話を振っておくか。

 

「あのさ」

「む、なんだ?」

「新しいスーツを作るって言っただろ? プロトスーツは、どうなるんだ? もしかして破棄とか……しちゃうのか?」

 

 俺の質問に一瞬きょとんとした表情を浮かべたレイマ。

 すぐに笑みを浮かべた彼は、ゆっくりと首を横に振る。

 

「そんなことするはずがないだろう。むしろその逆、プロトスーツの核となるエナジーコアは新しいスーツへと受け継がれていくんだ」

「エナジーコア?」

「ジャスティスクルセイダーと君のスーツの中心部と言える部分さ。これがあって初めてスーツは力を持つ」

 

 スーツの中心部か。

 なにかしら特殊な素材が使われていると思っていたが、まさかそんなSF映画みたいなものがあったとは……今さらながら驚きだな。

 

「エナジーコアは、人間の適性でのみ発動する。プロトスーツに使われたコアと君との相性は最高なんてものじゃない。むしろ、プロトスーツのコアでなければ意味がないんだ」

「なるほど……」

「だから、君の心配は杞憂なのさ」

 

 ……良かった。

 プロトスーツには愛着があるのでそのコアが新しいスーツにも使われるようで良かった。

 

「……ようやくカメラの映像は切れた。本題に入ろう」

 

 自身の時計を目にしながらレイマは懐から、なんらかの資料を取り出す。

 それを数秒ほど見つめて、大きく深呼吸をした彼は真面目な様子で俺と顔を合わせる。

 

「カツミ君。今から質問をするけど、気分を害さないでほしい」

「あ、ああ」

 

 なんだろうか改まって。

 レイマの真剣な表情に、なにかしらの大事な話だと察した俺は身構える。

 彼が最初に見せた資料は、どこかで撮ったであろう写真であった。

 

「ジャスティスクルセイダーが活動しているその間。君は怪人以外の何かと戦ったはずだ」

「……? なんのことだ?」

「……やはり忘れさせられているか。さすがだな」

 

 写真に視線を向ける。

 そこには、人の姿をした機械のようななにかが粉砕されている。

 血液のような青い液体と部品が周囲にまき散らされており、近くには千切れたコートのようなものと、帽子がある。

 

「邪悪は地の底から、正義は宇宙から、だ」

「その、言葉は……」

 

 俺があの路地で聞いた黒コートの言葉じゃないか。

 なぜそれを今?

 

「黒いコートを着た彼らは、ある存在を探して地球にやってきた。……それを君が倒した」

「……いえ、倒してないぞ? 俺はそのまま無視してその場を去った」

「いや、認めなくてもいいんだ。これは、あくまで確認なんだ」

 

 レイマが俺の両肩に手を置く。

 

「君がアルファに選ばれたのは知っている」

「……ッ!?」

「だからこそ、君が殺したと知って驚いた。だが他の人間は彼女の名も、その名前も認識することができなかった!!」

 

 あのアンケートで、彼女のことを知ったのか?

 いや、口ぶりからしてもっと前から……?

 

「彼女の生存を確認するためにあのアンケートを公表し、世間の反応を見た。彼女は間違いなく生存し、どこかにいる」

 

 その言葉で視界が曇り頭に僅かに鈍痛が走る。

 くっ、なんだ? 駄目だ、思い出すな……!

 

「……ッ、アルファは俺が倒した。それ以上でもそれ以下もない。俺が、彼女を……」

「ああ、君の行動は何一つ間違ってはいない! その認識のままでいい!  だが、ここにいるのならば、これだけは聞かせてくれ! アルファ!」

 

 レイマの視線は俺には向いてはいなかった。

 周りを見渡し、ここにはいないはずの何者かを探しているようだった。

 

「いつ、宇宙(そら)から奴ら(正義)は来る!? 私は間に合うのか!? この地球を破滅の運命から救うことができるのか!?」

 

 

「分かった」

 

「教えるから」

 

「彼から、手を放して」

 

 


 

「社長、そろそろ部屋に戻ってもいいかなって……えぇ……」

 

 どうやら白川が戻ってきたようだ。

 俺と談笑していたレイマは、彼女に気付くと笑みを零しながら振り返る。

 

「ああ、いらっしゃい白川君。どうだい? 今、カツミ君と映画談議に花を咲かせていたわけだが、君もどうかな? 今、ちょうど『宇宙人ポール』という映画について話していてね。次はスタートレックでも――」

「別に構わないんですけど……なんか大事な話でもしていたんじゃないんですか?」

「この話こそが大事な話だよ」

 

 ドヤ顔のレイマにげんなりとした顔になる白川。

 彼女は今度は俺の方を向く。

 

「かっつん、本当にそうなの?」

「ああ、ここに来てからスーツの話と、映画の話をしていたくらいだぞ」

「……本当みたいね」

 

 なにを疑っていたのだろうか。

 事実その通りなんだが。

 軽く首を傾げると、ふとレイマが椅子から立ち上がる。

 

「あれ? レイマ、行くの?」

「ああ、君達との会話は有意義だった。私もそろそろ仕事に戻らねばならないからな。後は頼むぞ、Dr.白川ッ!」

「さっさと出ていけ、変態野郎」

「なんでそんな酷いこというの……?」

 

 落ち込みながら退室していくレイマ。

 彼を見送っていると、目の前に座った白川がやや訝し気に俺を見てくる。

 

「どうした?」

「いや、なんかさ。……大丈夫?」

「? いや、なにが? 俺は全然平気だぞ」

「……そう、かっつんがそういうんなら、いいんだけど」

 

 何か言いたげな様子の白川。

 彼女が何を心配しているのか分からないが、レイマはなにもおかしなことはしていないはずだ。

 まあ、映画談議についてはもう少しやってみたかったけどな。




地味な重要回。
社長は影でめっちゃ頑張ってる人でもありました。


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ジャスティスクルセイダーについて(掲示板回)

今回は掲示板回となります。
主にレッド達のエピソードがメインとなります。


801:ヒーローと名無しさん

 

いつも黒騎士くんの話題ばっかりだし、たまにはジャスティスクルセイダーについて話そうぜ。

 

802:ヒーローと名無しさん

>>782

じゃあ、黒騎士くんの登場シーンでインパクト高かったのって

「フンッ! ハァッ!! ジャスティスクルセイダー! なぜ戦わない!!」

 

っていう奇跡のニアミスマコト兄ちゃん台詞でいいかな?

 

803:ヒーローと名無しさん

 

初邂逅時にジャスティスクルセイダーの決めポーズ見た黒騎士くんに「え、なに、お前らそれ恥ずかしくないの……?」っていう素で引かれるやつを忘れちゃいけないゾ

 

804:ヒーローと名無しさん

 

後方追加戦士面でレッド達の戦いを見守ってたエピソード好き。

今になって本人の性格を考えると、心配で見守っていたんだろうなぁって想像できるのもいい。

 

805:ヒーローと名無しさん

 

当時はバッシングとかあったね。

黒騎士くんの流行に乗っかったコスプレ集団って言われたし。

まあ、見た目からして黒騎士くんのスーツと似通ってたから無理もないわ。

 

806:ヒーローと名無しさん

 

実際は、黒騎士くんのスーツの次世代型。

一つの力を三人で分けて危険を減らした上で、運用できるようにしたやつ。

 

807:ヒーローと名無しさん

 

三人とも女の子だったのが驚いた

 

808:ヒーローと名無しさん

 

話題性抜群だったな。

実際に活動すると、普通に怪人を倒せるくらいにバカ強いし。

 

809:ヒーローと名無しさん

 

今もそうだけど、広告塔としても優秀。

でも、中の子達を出さないのはちょっとなぁって思う

 

810:ヒーローと名無しさん

 

そらそうだろ。

正体バレなんかしたらやばすぎだろ。

 

麻痺しているけど、ジャスティスクルセイダーの中身はアイドルでも芸能人でもないんだぞ?

命を懸けて私達を守っているヒーローなんだぞ。

 

811:ヒーローと名無しさん

 

CMには出てたけどね。

まあ、存在を認知してもらうって目的もあったんだろうけど。

 

812:ヒーローと名無しさん

 

仮に正体バレしてもスーツなしの戦闘力も高いだろ。

そうじゃなきゃ戦隊ヒーローやってられん。

 

813:ヒーローと名無しさん

 

現代の剣豪レッド

剛力剣闘士イエロー

精密機械ブルー

 

これでもまだ可愛い異名なのが面白すぎる。

 

814:ヒーローと名無しさん

 

女の子につける異名じゃなさすぎる……www

 

815:ヒーローと名無しさん

 

人間をぬいぐるみに変えるっていう怪人パペット*1が出た時、マジギレしたレッドが剣を引き抜いたら戦闘員含めて怪人が八つ裂きにされたからな。

レッド自身も半分くらいぬいぐるみ化してたけど、それでも始末しにいってたわ。

 

そのせいでバーサーカーレッドって呼ばれたり、その界隈で人気になったりしたけど。

 

816:ヒーローと名無しさん

 

レッド「……」ザクザクザク!!

パペット「……」瀕死

 

817:ヒーローと名無しさん

 

ぬいぐるみ怪人なのに血も出るからレッドのスーツが赤く染まっていくんだよね……。

 

818:ヒーローと名無しさん

 

怖いけど、あの怒りも当然のものだぞ。

あのぬいぐるみ怪人、幼稚園とか小学校とか率先して狙ってたからな。

 

奴が暴れた後は、傷だらけのぬいぐるみだけが残っているっていう胸糞っぷり。

 

819:ヒーローと名無しさん

 

正直よくやってくれたと思ったよ。

パペットも言動も人の神経逆なでするようなやつだったし。

 

820:ヒーローと名無しさん

 

優しい子なんだけどなぁ。

悪即斬が基本だから、怖い部分もある。

 

821:ヒーローと名無しさん

 

大体初見殺しな怪人サイドに問題があると思うんですが……。

 

822:ヒーローと名無しさん

 

イエローも相当。

光食怪人グリッターの時とか。

 

823:ヒーローと名無しさん

 

ああ、ガチで全部真っ暗になったアレか。

日本もとうとう終わりかって思ってたわ……。

 

824:ヒーローと名無しさん

 

あいつアホだわ。

最初、追加ヒーロー名乗って近づいてきたんだぞ。

 

黒騎士君に

 

825:ヒーローと名無しさん

 

 

826:ヒーローと名無しさん

 

おバカさんかな?

 

827:ヒーローと名無しさん

 

うっかりなら運が悪すぎる……www

 

828:ヒーローと名無しさん

 

よりにもよって怪人ジェノサイダー黒騎士君に行くあたりアホなんだよなぁ。

 

829:ヒーローと名無しさん

 

まあ、予定調和の如く黒騎士くんにボコボコにされて逃げたグリッターは、今度は正しくレッド達に近づいた。

 

しかも人間態のイケメン姿で。

 

830:ヒーローと名無しさん

 

それは許されないわ。

 

831:ヒーローと名無しさん

 

基本、黒騎士くんにしか親愛な反応を示さないレッド達は騙されなかったけどな。

本性表す前に、全力攻撃で瀕死の重症を負わせられたのは笑ったけど。

 

まあ、問題はその後なんだけど。

 

832:ヒーローと名無しさん

 

日本から昼間が消えるとか誰も想像できんわ。

光食って再生とかマジでクソ怪人だったわ。

 

833:ヒーローと名無しさん

 

おまけにイエローはマスクに移る光と一緒に両目の視力も奪われたからな。

 

834:ヒーローと名無しさん

 

え、マジで!?

真っ暗だから分からなかったけどそんなことになってたの!?

 

835:ヒーローと名無しさん

 

すぐに戻ったけどな。

あれは酷い事件だったね……。

 

836:ヒーローと名無しさん

 

グリッターは視覚以外で相手の場所を察知する能力があったから、基本光さえ奪えばあらゆる敵に有利に戦えるやばいやつだった。

 

イエローの視力を奪って調子に乗るグリッター。

最初に瀕死にされた恨みを晴らそうとしたのか、イエローの家族を殺す宣言。

イエローの中の何かが切れる音。

 

次の瞬間、グリッターの首は胴体から離れ離れになってた。

 

837:ヒーローと名無しさん

 

どゆこと?

 

838:ヒーローと名無しさん

 

イエロー「オラァ!! どこにおるんや、おどれコラァ!! クソァ見えん!!」ブンブンブン!!!!

 

グリッター「……」瀕死

 

839:ヒーローと名無しさん

 

幹部怪人名乗ってた割にはあっさり死んだけど、その後光が戻ったのは良かった。

 

840:ヒーローと名無しさん

 

その前までクイック呼ばわりされてたイエローも見事バスターゴリラになったな

もしくは仁侠イエロー。

 

841:ヒーローと名無しさん

 

仗助かな?

 

842:ヒーローと名無しさん

 

流れ的にブルーのも挙げるか

 

843:ヒーローと名無しさん

 

ブルーのもあんの?

 

844:ヒーローと名無しさん

 

平等怪人バラサン*2ってやつの話。

 

845:ヒーローと名無しさん

 

たしか範囲内の人間を閉じ込めて、その全員の力を均一化するってやつだな。

それってレッドとイエローと分断されて、一般人と一緒にブルーがショッピングモールに閉じ込められたやつじゃん。

 

もしかして当事者?

 

846:ヒーローと名無しさん

 

あれ、関係者が頑なに話したがらないけど大丈夫なのか……。

 

847:ヒーローと名無しさん

 

当事者。

モールに買い物に行ってたら能力に巻き込まれてブルーの近くで見てた。

なんか体が重くなってびっくりしたけど、あれ子供とか赤ん坊の能力とかも込みで平均化されるらしいから、マジでやばい怪人だった。

 

バラサンは影響受けないし。

 

848:ヒーローと名無しさん

 

例に漏れずのクソ怪人だわ。

勝ったのは分かるけど、どうやって?

 

849:ヒーローと名無しさん

 

変身した状態でもブルーの力は影響を受けていたらしいから、ブルーはおもむろにホームセンターで素材かき集めてランボー真っ青な殺意マシマシのトラップ作った。

 

850:ヒーローと名無しさん

 

は?

 

851:ヒーローと名無しさん

 

マジ?

 

852:ヒーローと名無しさん

 

閉じ込められた人たちの人手も借りてえぐい罠作って、バラサンを放送で誘き寄せる。

んで、誘導とか煽りをいれて次々と罠にかからせ、戦闘不能になって能力を解いたところでエネルギー弾で止めをさしてた。

 

853:ヒーローと名無しさん

 

こ、工作女子かぁ(震え声)

 

854:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの両親ってランボーって呼ばれたり、高槻って苗字じゃない……?

 

855:ヒーローと名無しさん

 

当時、唖然としながら訊いてみた。

 

Q、どうしてこんなものが作れるんですか?

 

ブルー「ホームアローンで見た」

バラサン「……」(瀕死)

 

856:ヒーローと名無しさん

 

文句のつけどころがなくなった。

 

857:ヒーローと名無しさん

 

安易にソウって言わないあたりガチっぽい

 

858:ヒーローと名無しさん

 

ホームアローンかぁ。

納得せざるをえないわ……。

 

859:ヒーローと名無しさん

 

知れば知るほど黒騎士君と同類だよなぁ。

ジャスティスクルセイダー。

 

色々な面で。

 

860:ヒーローと名無しさん

 

怪人サイドからすれば三対一って結構不利らしいから避けようとはしていたな

 

861:ヒーローと名無しさん

 

分断用の怪人とか用意するガチっぷり。

 

862:ヒーローと名無しさん

 

実際、三対一は卑怯って言った怪人もいたし

 

863:ヒーローと名無しさん

 

勘違いするな! 俺達は1の力を5分割して戦っているだけだ!!

 

って、赤い人が言ってた。

 

864:ヒーローと名無しさん

 

給料19万3000円のレッドじゃん。

 

865:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーの場合、その通りだからなぁ。

 

866:ヒーローと名無しさん

 

なお、黒騎士君も文字通りのスペックで怪人を撲殺しまくっていた模様。

 

867:ヒーローと名無しさん

 

分割されていない一つの力をフルスペックで扱ってくるやべーやつだって判明したもんな。

 

868:ヒーローと名無しさん

 

中身も聖人疑惑が出てるし、この先彼がどうなるか気になりすぎる。

 

869:ヒーローと名無しさん

 

疑惑じゃないゾ

 

870:ヒーローと名無しさん

 

自由と平和のために戦ってんだよなぁ。

 

871:ヒーローと名無しさん

 

プロトスーツ「ざぁこ♡ ざぁこ♡」

 

872:ヒーローと名無しさん

 

即堕ちプロトスーツちゃん!?

 

873:ヒーローと名無しさん

 

公表数日で擬人化イラスト化されたプロトスーツちゃん!?

 

874:ヒーローと名無しさん

 

可能性の獣(無機物)じゃん

 

875:ヒーローと名無しさん

 

おう早く黒騎士くんに装着されるんだよ

 

876:ヒーローと名無しさん

 

なお他の奴が装着するとガチで命削られる模様

 

877:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんには屈服してんだよなぁ……。

 

878:ヒーローと名無しさん

 

現在進行形で某所で大量にイラスト化されてんの酷すぎる

 

879:ヒーローと名無しさん

 

やっぱみんな求めるもんは同じなんやろうなって。

 

880:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーの公式サイトの管理人ってノリがいいよな

司令でもあるし、開発主任でもあるらしいし、すごい人だ。

 

881:ヒーローと名無しさん

 

この二年の疑問への答えが出たのに、その後が酷すぎる。

まさか黒騎士くんもプロトスーツが擬人化されてるなんて夢にも思わんだろ。

 

882:ヒーローと名無しさん

 

分かる。

なんか文章が面白い。

どことないネタキャラ感がある。

 

883:ヒーローと名無しさん

 

まさか当時はレッド達のプロフィールが公開されるとは思わんかった

 

884:ヒーローと名無しさん

 

ファッション宇宙人の管理人だろ。

 

885:ヒーローと名無しさん

 

天才とバカは紙一重の擬人化って呼ばれてんの面白い

 

886:ヒーローと名無しさん

 

なお、黒騎士君と仲がいい

映画貸し借りするくらいに仲がいい

 

887:ヒーローと名無しさん

 

レッド達が嫉妬のあまりツムッターしたエピソードがなぁwww

 

888:ヒーローと名無しさん

 

あの時だけレッドの文面がヤンデレみたいになってて分かりやすかった

 

889:ヒーローと名無しさん

 

なんで、どうして?

黒騎士くん

なんで指令の名前を呼んで私のは呼んでくれないの?

 

890:ヒーローと名無しさん

 

スーツだけじゃなく指令にも寝取られてる……?

 

891:ヒーローと名無しさん

 

かわいそうはかわいい

 

892:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君的にはライバルを名前で呼びたくないっていう考えがあるっぽいね。

 

893:ヒーローと名無しさん

 

変になれあおうとしないの、警戒心の強い大型犬っぽい。

かわいい。

 

894:ヒーローと名無しさん

 

シベリアンハスキーイメージって明言されちゃってるから余計にな

 

895:ヒーローと名無しさん

 

なんだかんだで仲良くやっているのは和む

 

896:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーも戦い続きだったから普通に生活してほしい。

 

897:ヒーローと名無しさん

 

怪人はもう全部倒しただろうから心配いらんだろ(フラグ)

 

898:ヒーローと名無しさん

 

いつか黒騎士君の普段の様子とか出してくれへんかな

スーツ姿でもいいし。

 

899:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんVtuberデビュー!?

 

900:ヒーローと名無しさん

 

それ多方面が大騒ぎするやつや……

 


 

「皆、怪人との戦いは命がけ!」

 

 パソコンの画面の中で、スーツ姿のレッドが明るい声でしゃべっている。

 軽快な音楽に合わせて歩き出した彼女に、やや遅れてイエローとブルーがやってくる。

 

「そう! だけど私達も諦めない!」

 

「でも、私達だけの力じゃ駄目なんだ」

 

 やや棒読みのイエローと、相変わらずマイペース気味な台詞を口にしたブルー。

 そんな彼女たちに子供達が集まってくる。

 子供達に囲まれながら、その手にいつの間にかストローが刺されたパックのジュースを持ったレッドが、それを大きく掲げる。

 

「漲る力に」

 

「カルシウム!」

 

「みんなで飲んで笑顔になろう」

 

 わぁぁぁ! とテンションを上げる子供達。

 それに合わせ、やけくそ気味にレッドが叫ぶ。

 

「さあっ! いっくよぉ!!」

 

「「「ジャスティスココア!」」」

 

 レイマに勧められ、ジャスティスクルセイダーのCMとやらを見た俺は、無言のまま眉間を押さえる。

 

「わあ、楽しそうだねー」

「……なぁ」

 

 背後には三人の気配。

 その場から動かない彼女達に振り返った俺は、やや引いた様子で声をかける。

 

「お前ら、これ恥ずかしくないの……?」

「「「うわああああ!?」」」

 

 あ、やっぱり恥ずかしかったんだ……。

 その場で膝から崩れ落ちる三人を目にした俺は、思わず憐憫の眼差しを向けてしまうのであった。

*1
正式名『ぬいぐるみ怪人パペット』自身が放った特殊なビームを受けた対象をぬいぐるみへと変えてしまうぞ! ぬいぐるみになった後も本人の意識と痛覚もあり、それを用いてレッドを挑発したことから彼女の逆鱗に触れてしまったぞ!

*2
正式名『平等怪人バラサン』限られた範囲に人々を閉じ込め、そのうちにいる人々の能力を均一化させてくるぞ!! 子供、赤ん坊も能力の範囲にあることから、場合によっては子供以下の身体能力になることもある!! なお、怪人本人は能力の影響を受けないことから、強気で攻撃してくるぞ!




幹部級ではないけど、卑劣すぎるパペット。
能力はそこそこ強いけれど、小物すぎるバラサン。
幹部級で能力も強いけど、お調子もののグリッター。

全員能力の強さに慢心して負けました。
……追い詰められたレッド達が逞しすぎる。


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白川伯阿と映画

フォント職人さん、すごい……。
使わせていただきます……!



 基本的な俺の一日のサイクルは決まってる。

 午前中は運動、勉強、そして午後にはほぼローテーションでやってくるジャスティス共との関わり。

 その合間の時間に俺はレイマやスタッフさんに勧められた映画や海外ドラマを見ているのだが……今日ばかりは少し違っていた。

 

「なあ、白川」

「んー?」

「なんでお前ここにいんだよ」

 

 なぜか俺の担当医である白川がここにいるのだ。

 俺から一人分の間隔を空けてソファーに座った彼女は、その白い髪を後ろに一纏めにくくりながら独房に備え付けられたプレイヤーを起動させようとしている。

 

「そりゃあ、暇だからに決まっているじゃないか」

「えぇ……」

「私のするべきことは社員の精神的なケア……なんだが、この時間帯は皆働いていてね。暇だから来てしまったよ」

「帰れ、クビにされるぞ」

「なにかあっても君のメンタルケアをしていたで、説明がつくよ。ねー、ちゃんとお菓子持って来たんだからいいじゃないかー」

 

 お菓子で俺を釣れると思うなよ?

 スタッフさんからはご厚意でいただいているだけなんだぞ?

 

「しかし、君も愛されてるねぇ」

「なんでだ?」

 

 なにやらスマホを手にとり何かを見ていた白川が楽しそうに話しかけてくる。

 愛されているとは?

 

「ツムッターと呼ばれるアプリさ。彼女たちが呟くのは君のことばかりだ。ほら」

 

レッド@ 戦隊ヒーロー活動中 

#黒騎士くん

今日も黒騎士くん、元気でした!

 

2344 49877 ♡100025 

イエロー@戦隊ヒーロー活動中やで

#黒騎士くん

#勉強会

勉強教えるはずが

逆に教えられてびっくりしたわぁ。

私も頑張らなきゃ

 

2322 37754 ♡77543 

ブルー@戦隊ヒーロー活動中

#黒騎士くん

#犬騎士くん

今日の黒騎士くんU・ω・U

【画像】

 

4498 68855 ♡111999 

 

 レッド、イエロー、ブルー、と順番に見せられ思わずため息を吐く。

 

「俺の観察日記かよ……」

「まあ、一般人が求めているものだから。ある意味彼女達のおかげで一定の情報が提供されているんだろうね。しかし、この犬の画像……ふふ、似てる」

 

 レッドとイエローはまだしも、なんで犬の画像が張られてんの?

 白と黒の毛並みの……なに? このむすっとした可愛げのない顔。

 こいつの飼ってる犬かなにかか?

 

「……まあ、いいか」

「おや、いいのかい?」

「お前の言った通り、これはジャスティスクルセイダーとしての情報提供らしいからな。レイマに推奨されてるなら、あいつらはそれに従わなきゃならないだろ。俺も、そこまで目くじら立てて怒るほどのものでもないし」

「……鈍いなぁ。まあ、君の場合、しょうがないけどね」

 

 しかし、ツムッターとやらはそこまで楽しいものなのか?

 俺はスマホなんてものは持ったこともないし、ツムッターのことも小耳に聞いて知っているだけではあるが。

 

「それより、なにか映画でも見るのかい? 私は君の生活サイクルを知っているから、この時間に遊びに来たわけなんだけど」

「確信犯かよ……」

 

 ……しょうがないか。

 ため息をつきながら、どれを見ようか選んでみる。

 昨日、レイマとスタッフさんから渡されたのは三枚の映画だ。

 ……いつも通り、映画を一言で紹介する付箋が張られているな。

 

 どれにする?

1,戦う凄腕会計士!!『ザ・コンサルタント』

 2,戦闘! 戦闘! 戦闘!『ドラゴンボール超 ブロリー』

 3,心温まるラブストーリー 『デッドプール』

 

 基本、紹介された映画に外れはないからな。

 一つ目がレイマのおすすめで、他のはスタッフさんからか。

 彼のは基本、外れがないからちょっと冒険してみたいな。

 

 どれにする?

 1,戦う凄腕会計士!!『ザ・コンサルタント』

2,戦闘! 戦闘! 戦闘!『ドラゴンボール超 ブロリー』

 3,心温まるラブストーリー 『デッドプール』

 

 アニメにしてみよう。

 ドラゴンボールは微妙に知ってるし。

 あれだろ、かめはめ波とかで有名なやつだろ?

 

「ん? 中身が違うぞ?」

 

 パッケージを開いてみると、中身が違う。

 なんだこれ『アイランド』……?

 ああ、間違って入れてしまったんだな……。

 

「まあ、これでいいか」

 

 二つ目のやつを選び、再生させる。

 そのままソファーに戻りテレビを見る。

 普段、それ以外にしか用がない画面に光が映り込み、映画が始まる。

 

「なにかけたのー?」

「アイランドってやつ」

 

 どういう映画かは分からない。

 結構前の映画だが、おすすめしてくれたなら内容の心配はしなくてもいいだろう。

 

「それじゃ、私は隣っと」

 


 

「ねえ、かっつん。もし自分の分身とかいたらどう思う?」

 

 映画も佳境に入った頃だろうか、不意に白川がそんなことを訊いてきた。

 

「なんだよ、藪から棒に」

「いや、そういう映画を見てるんだし」

「……」

 

 たしかに、映画はクローンという題材を用いたものであった。

 多少のアクションはあるけど、その内容に色々と考えさせられるものもあることから、白川がそんな質問をしてきた気持ちもよく分かる。

 

「別に、俺の分身なら俺の立場にとって代わろうだなんてバカなこと考えないだろ」

「ははは、まさしくその通りだ」

 

 俺に成り代わろうとするなんて、こっちから全力で止める。

 記憶も持っていないなら猶更だ。

 

「もしかしてこれ、メンタルチェックの一環かなにかか?」

「いいや、そんなつもりはないよ」

 

 白川はどこか感慨深そうな目で映画を見ている。

 こちらに視線は向いていない。

 

「私も同じ立場だったら絶対にごめんって思うよ。てか、実際そうだったし」

「白川お前、クローンとかそういう類のやつだったの!?」

「言葉の綾だよ……?」

 

 な、なんだ言葉の綾か。

 たく、危うく勘違いするところだったわ。

 

「……」

「……」

「私には姉がいるらしいんだ」

 

 突然、彼女はそう呟く。

 思わず白川を見ると、彼女はなんの感情も感じさせない無機質な目を前へと向けている。

 

「義理の姉みたいなものだけどね。でも……ものすごく、出来が良すぎた姉らしい」

「お前も俺達と同年代で医者やってんだから、十分にすごいと思うんだが」

「私、年齢誤魔化してるよ」

「エ!?」

「これ、秘密にしておいてね」

 

 にしし、と人懐っこい笑みを浮かべた彼女は口元に人差し指を当てる。

 まさか、年齢を誤魔化しているってことは、この幼さで俺達よりも年上ってことなのか?

 びっくらこいた……。

 

「で、私は姉とは全然見た目も違うし、姉と比べれば持ってる能力も劣化に劣化を重ねたもの……なんだ。だから、親にはがっかりされちゃって」

「……。あまり、その、姉と顔を会わせたこともないのか……?」

「……ふふ、生まれてこのかた顔を会わせたこともないよ。今も見つけられていないし、多分私からじゃ顔を会わせることもできないんじゃない?」

 

 複雑な家庭環境……!?

 

「それは、なんというか……」

「気遣わなくてもいいよ。あっちも私の存在なんて知らないし、その方がいい。家族にも色々な形があるんだ」

「……そう、だな。その通りだ」

 

 思えば、白川のことはあまりよく知らないな。

 初対面の時から、いきなりかっつん呼びをする無礼な奴ではあったが、なんだかんだで世話になっている身だ。

 せめて話し相手になれればいいが……。

 

「私は姉には会ったこともないし、顔も見てない。会おうとは思ったことはあるけど、結局願いは叶わなかったよ」

「……会えると、いいな」

「そうかな? もし会っていたら、何をするか分からないかもしれないよ?」

「お前は、そんなことしないだろ」

 

 俺の言葉に、どういうことか白川は笑う。

 嘲りとかそういうものではない、純粋におかしそうに笑ってる。

 

「あ、あはははっ! あぁ、もう、なんでこんなに喋っちゃうんだろうなぁ。この映画のせいかな? あぁ、おかしいなぁ……」

「白川……?」

 

 瞳に浮かんだ涙を拭い、ひとしきり笑った白川は脱力するようにソファーに背を預ける。

 

「知ってるかな? 私、君がここに捕まった時と同じくらいのタイミングでここに入ったんだ」

「え、そうなのか? てっきりずっと前からいたもんだと思ってた」

「思ったよりも新顔なんだよー、私?」

 

 にしてはレッド達も親しそうな様子だったな。

 初対面からあだ名で呼んでくるあたり、俺とは違って人との距離の詰め方が巧いのだろう。

 すると、映画が終わったのかエンドロールが流れ始める。

 

「終わったようだね。……ちょっと怖い映画だった。本物と偽物、どちらが正しいのかを考えさせられたよ」

「戻るのか?」

「ああ、少し休憩しすぎた。怒られる前に戻るよ」

 

 立ち上がった白川が扉へと向かっていく。

 

「正直、ここに入ってどうなるかと思っていた。私には生きる目的もなにもなかったわけだしね」

「白川……」

「そんな顔をしないでよ、かっつん。私はね、君のことは気に入っているんだ。またね、姉さん

「ッ!? 君は……」

 最後の言葉は、唇だけは動いて声は聞こえなかった。

 思わず首を傾げてしまうと、そのまま笑みを零した白川は、独房から出ていく。

 部屋に残っていたのは、エンドロールと共に流れる音楽だけであった。

 




※作中の選択肢については、演出のようなものです。

Q、それぞれ映画を選んだらどうなっていたか?
1、普通に楽しんで見る。
2、黒騎士君がちょっとだけ影響される
3、前半は気まずくなったりするが、納得して楽しめる。

特殊選択肢
『アイランド』:白川が自身の秘密の一部を明かす。


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受け入れ、変わりゆくもの

勢いで書きあげたので更新します。

カツミ、外出回となります。
今回はほのぼのですね!!


 それは、ある意味で勇気を出した決断とも言えた。

 

「え、カツミくん、外出許可に応じてくれるの!?」

「声がでかい。……あー、まあ、白川に言われてな。俺も外に出るべきだなって……考え直した」

 

 あまり外に出ることに気乗りはしなかった。

 だが、そろそろ俺も自分の過去と折り合いをつけて、前を向いていかなければならない。

 

「こ、こりゃ一大事だよ! 急いできららと葵に伝えなくちゃ!」

「んな大袈裟な……ただ外に出るだけだろ」

「一大事だよ! 怪人が出た時以上に一大事なの!!」

「お前、それ悪口だからな?」

 

 もう赤ん坊が初めて歩いたくらいの勢いでイエローとブルーに連絡を取ろうとするレッド。

 

「……あ」

 

 自分が自然と笑みを浮かべていることに気付き、思わず頬に手を当てる。

 楽しみ、だと思ったのか?

 自分でもよく分からない。

 


 

 外出許可が出た当日。

 俺は、ジャスティスクルセイダーの三人に連れられ本部の外へと出ていた。

 レイマの許可が出るのは分かっていたが、政府からもすんなり許されるとは思いもしていなかった。事実上俺は犯罪者ではなくなってしまったが、個人としての脅威は見過ごせないはずだ。

 ……まあ、あまり考えないようにしよう。

 俺が深く考えても意味がないだろうからな。

 

「しかし……」

「「「……」」」

 

 前にレッドが歩き、後ろからブルーとイエローが二人並んで歩いている。

 俺を三角形にするように囲む彼女達に、周りの怪しむような視線が集まっている。

 ……。

 

「ちょっとお前ら、そこの路地裏」

「え、どうしたの?」

「なにかあったん?」

「うん?」

 

 恥ずかしさのあまりにパーカーのフードを被った俺は、とりあえず近くの路地裏に移動した後に、先ほどからずっと思っていたことを口にする。

 

「護衛対象かッ!!」

 

 三人で囲むとか意味わからんって!

 多少、常識に疎い俺でも分かるよ!?

 だって悪目立ちしてるもん!!

 

「逆に目立つからやめろよ! そういうの!! 別に逃げないって!!」

「い、いやぁ、だって何があるか分からないし……も、ももし怪人が現れたら? 君、チェンジャー持ってないし」

「まさかのお前らも普通に遊んでなかった疑惑……!?」

 

 そういえばこいつらも怪人との戦いの時も忙しかったし、俺が捕まった後も俺のところに入り浸りだったから、こいつらほとんど……! 

 

「かわいそう……!」

「なんでだろう。こういう形で同情されると納得いかないんやけど」

「私達の青春を君に投資したんだよ?」

 

 ブルーがめっちゃ重いことを言っている……。

 彼女の言葉を聞き流しつつ、俺は照れくさい気持ちになりながら頬を掻く。

 

「あー、お前ら見張るのはいいけど、今日はそういうの忘れてくれよ。怪人は……いないんだからな」

 

 そう、もう怪人はいないのだ。

 そう自分に言い聞かせた俺は、自分の腕に『プロトチェンジャー』がないことを確認する。

 黒騎士としての俺は、必要ない。

 今日は普通の一般人として過ごしたっていいじゃないか。

 

「……遊ぶなら遊ぼうぜ。俺、そういうどこかに行くの久しぶりだから教えてくれよ」

 

 ぎこちなく笑いながらそう言うとレッド達は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。

 

「「「うん!」」」

 

 あまり外で遊ぶということはしてこなかった。

 少なくとも七歳以降は、誰かと遊ぼうだなんて気分には絶対にならなかった。

 俺を引き取った親戚と名乗った人たちは、俺を徹底的に邪魔者扱いしていたから、遊ぶおこづかいも、玩具もなにも与えられていなかった。

 

『愛想のない子。気持ち悪いわ』

『表には出さないようにしろよ』

 

 自分の子供達に近づけさせないようにし、中学生になると追い出すように一人暮らしをさせた。

 俺としてもその方が気が楽だった。

 遺産もなにもかも奪われても、ろくな食事を与えられないとしても、それでも一人の方がよかったんだ。

 

『助 け て カツミ』

『苦 し い……』

 

 もう家族なんてごめんだった。

 

『な ん で、助 け が こ な い の……』

『もう 駄目 だ が、あ……』

 

 家族なんていらなかった。

 

『見 て な い で 助 け な さ い よ!!』

『お前 だ け が、クソ、げほっ、がぁ !!!』

 

 救出される直前にこと切れた両親は、その死の間際まで自身の死に恐怖し、錯乱し生きている俺に怨嗟の言葉を吐き続けた。

 目と鼻の先だった。

 ベルトとシートに身体を挟められ、微塵も身動きができない俺の、小さな手が届きそうな位置に、父さんと母さんがいたんだ。

 例え、目を背けたとしてもその息遣いが、声が、吐き出される血の飛沫が、いやというほど現実を叩きつけてきた。

 眠ることを許してくれなかった。

 愛されてはいたのだろう。

 だが、そんなものは死の間際になればどこまでも薄っぺらく仮初のものだった。

 

「——だけど」

 

 それはもう過去の話、なんだよな。

 

「カツミ君、あの映画だよ!」

「……なにが?」

 

 我に返ると、レッドがどこかを指さす。

 すると映画館と呼ばれる建物の上に、何らかの映画のポスターが張られている。

 

「これ面白いって話題の映画。君が好きかなって」

「おう、なんだ? 個別の部屋で見るのか? こういうのって」

 

 人の多い通りを歩きながら映画館へと足を運びながら、そう口にするとイエローが苦笑しながら俺の肩を叩く。

 

「違うよ。大きなスクリーンで見るのが映画や」

「そうなのか……」

 

 想像ができないが凄いんだな。

 ……なんか世間知らず過ぎて逆に恥ずかしくなってきたぞ。

 後でこういう方向のことも知識だけでも覚えておくべきだな。

 

「お金は大丈夫なのか?」

「うん。今回は社長が持ってくれるって」

 

 レイマ、太っ腹だな……。

 どうやらすぐに映画が始まるのか、チケットを買った俺達は上映されるという映画を見ることになった。

 イエローの言う通り、大きなスクリーンで見た映画は迫力が段違いであった。

 内容は、俺に合わせてくれたのかSFアクションものであった。

 主人公が戦い、囚われのヒロインを助ける。

 そんなありきたりなストーリーであったが、それでも戦闘シーンの多彩さと二転三転するストーリーは、見ている俺達を飽きさせることなく、進んでいった。

 

「面白かったねー」

 

 あっという間の二時間を映画館で過ごした後、俺達は近くのカフェに移動し、軽い昼食を食べていた。

 

「なんか注文する時、生温かい視線を向けられたけど、なんだったんだ?」

「あ、あはは、なんでだろうかなー」

「私にも分からんなぁ」

「知らぬ存ぜぬ」

 

 ブルーだけ黙秘って言ってない?

 気のせい?

 なんかレッド達三人を見た後、俺の方を見てにっこりされたんだけど。

 

「それよりもさ、これからどうするん?」

「カツミ君が行ったことない場所でしょ? なら、ゲームセンターとか?」

「それいいね。あと、本屋とかは?」

「バッティングセンター!」

「ボウリング!」

 

 各々で俺を連れて行こうとする場所を考えてくれる三人。

 手元の冷たいお茶のいれられたコップに触れる。

 指先に感じる冷たい感覚は、今目の前の光景を幻ではないと言ってくれている。

 

「あの、ありがとな」

「……ど、どうしたの? 突然、お礼なんて……」

「な、なんや、いきなりむず痒いな……」

 

 思わず口に出た感謝の言葉に自分でも驚き、すぐに納得する。

 もっと早く言うべきだったのかもしれないな。

 俺は変われた。

 スーツを盗んだあの日から、ずっと黒騎士として生きてきた。

 他の生き方なんて考えもしなかったし、俺が負ける日は死ぬ日とも考えていた。

 だが、それをこいつらが止めてくれた。

 

「アカネ」

「!!? い、いいいい今、私の名前を……!?」

 

 驚きろれつが回らなくなったレッド、アカネに笑みを零してから、もう二人へと視線を向ける。

 

「きららに、葵だったな」

「な、ななな、なにゃ……」

「よ、呼ばれた……!?」

 

 ……驚きすぎだろ。

 きららと葵の驚き様に素に戻りかけながらも、視線をやや斜めに逸らしながら続きの言葉を口にする。

 

「今日までありがとな」

「カツミ君……」

 

 今、生きているからこそこう思える。

 考えていられる。

 

「お前達がいてくれるなら、俺も前を向いて生きていられそうだ」

「……君が望むなら、私達はいつだって支えるよ」

「うん。私達、もう仲間やし」

「頼まれなくても、お節介焼いてきたし。これからも焼くつもりだよ」 

 

 ああ、そうだな。

 お前らはずっと俺に対してお節介ばっか焼いてきたんだよな。

 

「今なら、お前らの仲間に……追加戦士になってもいい、そう思えるんだ……」

 

 煩わしいと思っていたそれは、少しずつ俺の中の何かを変えてきた。

 それが何かは俺自身も理解できなかった。

 今でも分からない。

 だけど、その変化はきっといいもののはずだ。

 

「良ければだけど、俺と友達に――」

 

 それから先の言葉を口にしようとしたその時、不意に何かが唸るような音が空から響き渡ってきた。

 俺も含めてアカネたちが立ち上がり、空を見上げる。

 “何かが来る”

 俺達の戦士としての勘が警鐘を鳴らしている。

 

地球人諸君に告げる

 

 正体不明の声が響き渡ると共に、空に大きな亀裂が走る。

 

『地球人諸君に告げる

 

 徐々に日本語へと変化していく。

 それに伴い、ソレが空間を裂きながら姿を現す。

 

『地球人諸君に告げる』

 

 はっきりと、そう日本語で言い放たれる声。

 雲を突き破り降りてきた全長300メートルを優に超える宇宙船。

 幾重にも重なる声に、この都市にいた全ての人々の視線を集めているだろうソレは、大きく変形する。

 

『我々は、星を渡る正義の使徒、セイヴァーズ』

 

 構造上、不可能にも思える変形。

 船体の前面は上半身に、スラスターと思える部分は下半身へと変化。

 

戯れ(ゲーム)は全て水泡に帰した。滅ぶはずだった種よ』

 

 十数秒かけて巨大なロボットへと変形した宇宙船は、勢いよく地上へと降り立った。

 

『邪悪は既に滅び、我々の栄誉は消え失せた』

 

 足元の建物を踏みつぶして着地したロボットはその存在を、脅威を知らしめるように両腕を大きく掲げる。

 悲鳴を上げる者、恐怖のあまり動けない者。

 恐慌した人々が走り出す。

 

『まったく、嘆かわしい』

 

 変形が終わっても尚、声は響き続ける。

 見下しと嘲りを籠めた声の主は、生物的だった。

 

『この生存競争(ゲーム)に勝ち抜いた部外者(人間共)よ』

 

『だが、心配するな』

 

『我々が管理してやる』

 

『隷属せよ』

 

 

 俺達のいるカフェから見える場所に光の柱が落ちる。

 光り輝く柱の中から、五人の男女が姿を現す。

 機械的な鎧を纏ったそいつらは、皆、手首にチェンジャーのようなものを巻いていた。

 

「ふむ、さてアレはどこかな?」

「近くにはいるようだねぇ。でも、データ通り酷い星。空気も汚いし、文明レベルも下の下の下。こんなところが私達の対戦相手を滅ぼしただなんて信じられなぁい」

 

 真ん中の長身の男の隣にいる淡い光を放つ髪の女性が、何かを話している。

 男は一度、凄惨な笑みを浮かべると周囲にいる人間を見回した。

 

「ならば、適当に殺せば出てくるだろう。ボルク、スピ、マルカ、変身しろ」

 

 この距離ではなにを言っているかは聞こえない。

 だが、嫌な予感がする。

 顔の半分が機械に覆われている男が、下劣な笑みを浮かべ長身の男に声をかける。

 

「クッ、いいのか? こんなさっさと暴れて」

「我々が正義。ならば、邪悪にとってかわった奴らも、まさしく邪悪だ」

 

 前に出た二人の男と一人の女が、腕を前に突き出し構えを取る。

 それはまるでジャスティスクルセイダーの変身と似ていた。

 

トロフィー(アルファ)を受け取りに来たぞ、プレイヤー諸君」

 

『INVASION START!!』

 

 鳴り響く音声。

 その音と共に、三人の異星人は光へと包まれた。




さらっと過去明かし。
カツミの両親は救助する寸前まで生きていました。

そして、ついにやってきた宇宙からの正義の使者。
勝手に正義名乗っているだけで、やってることは侵略者と変わりません。
むしろもっと性質が悪いかもしれません。
アルファはトロフィー。

敵はこれくらい身勝手で理不尽な理由の方がいいかなと思い、このような設定にしました。

これから先を書くのが楽しみ……。


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侵略者、怒る 騎士

ずっと書きたかった回でした。
書けて満足です。

なおこの先の話も書きたいシーンありまくりの模様。


 現れた謎の敵が変身して、すぐに反応したのはアカネ達であった。

 青、紫、緑、それぞれ別々の色への変身を遂げた宇宙人たち。

 それらがその手に持つ武器を、逃げようとする市民へ向けると同時に、彼女たちは躊躇なく人前での変身を行ったのだ。

 

『『『CHANGE → UP RIGING!! SYSTEM OF JUSTICE CRUSADE……!!』』』

 

「皆、行くよ!」

「あんなん放っておけるか!」

「楽しい時間を邪魔して、許さない」

 

『お、あれがそうか!』

「私達でやっちゃおっか!」

 

 戦闘が始まる。

 だが、今の俺にはプロトチェンジャーがないのは理解しているので、フードを深くかぶってカフェの外へと飛び出し、逃げ惑う人たちへと声を張り上げる。

 

「皆、あっちだ! あっちに逃げるんだ!! 急げ!!」

 

 がむしゃらに逃げても危険すぎる。

 建物を影にさせながら一般人の避難誘導をする。

 

「くそ、なんなんだよ、あいつら!」

 

 あれが宇宙人だってのか!?

 レイマとは全然違いすぎるぞ!!

 やっぱりレイマは地球人じゃん!!

 自分でも訳の分からないことを考えながら、ひたすらに逃げる人たちを誘導し続けると、目の前で男の子が転ぶのを見つける。

 

「大丈夫か!? ……立てる?」

「だ、だいじょうぶ、でもお母さんと……」

「ケント!」

 

 すぐに踏みつぶされないように男の子を助け起こすと、すぐに母親らしき女性が駆け寄ってくる。

 

「急いで逃げてください! ここが戦場になるかもしれませんから!」

「あ、ありがとうございます! 貴方も早く、逃げて!!」

「タイミングを見て俺も逃げます! 行って!!」

 

 背後からジャスティスクルセイダーと宇宙人が戦う音が響き続けている。

 あいつらがそう簡単に負けるはずがない。

 そう信じているが、一抹の不安は残る。

 

「俺達の変身に似ていた……」

 

 奴らの変身は俺達と同じようなチェンジャーを介した変身であった。

 もしかすると、あれは俺達と同じ技術で作られたものなのだろうか?

 だとすれば、その力は―――、

 

「……戦いの音が消えた……?」

 

 戦闘が終わったのか?

 思わず現場に向かおうとするが、今の俺にはプロトチェンジャーはない。

 行っても加勢どころか足手まといになってしまうだろう。

 

「あの変態に持たされた。使って」

「……」

 

 数秒ほど逡巡した後、やっぱり様子だけでも見に行こうと決意する。

 例え、変身できなくてもあいつらの安否を気遣うことくらいは……って、あれ!?

 

「———プロト・チェンジャー!? なんで俺の腕に!?」

 

 こ、こここここれって勝手に持ち出して怒られたりするやつじゃないのか!?

 いつの間にか手首に取り付けられた「プロトチェンジャー」に驚愕する。

 

「……いや、気にしている暇はない!!」

 

 なにが起こっているかはよく分からんがこれで変身できる。

 フードを被ったまま側面のスイッチを三度押し変身を行う。

 

CHANGE——PROTO TYPE ZEROォ……

 

 一瞬で変身を完了させると周囲で逃げようとしていた一般人が俺の姿に気付き、足を止める。

 

「え、黒騎士!?」

「黒騎士君がここにいるの!?」

「嘘!?」

「皆さんは早く逃げて! ここは戦場になりますから!!」

 

 周りに声を張り上げ、俺はアカネ達の元へと向かう。

 看板や壁を足場にして全力で街中を駆け抜け、彼女たちの戦う場へたどり着いた俺の視界に―――信じられない光景が映り込む。

 

「お前ら!!」

 

 地面に倒れ伏すアカネ、きらら、葵の姿。

 皆一様に変身が解除されており、同じようなスーツを着た奴らに足蹴にされていた。

 

「な、中々にやばかったな、こいつら」

「だけど、やっぱり蛮族には違いないでしょ」

「アレがなければ危なかったかも」

 

 青と緑と紫の、パチモンじみた姿の戦士達。

 ジャスティスクルセイダーのスーツのそれとは異なるのは、身に纏ったアーマーと取りつけられた装備の違いしかない。

 だが、その振る舞いはヒーローから遠くかけ離れ、まさしく宇宙からやってきた侵略者に他ならない。

 

「テメェら、今すぐその足をどけろ」

「……ほう、面白い。今度は時代遅れの骨董品がやってきたぞ」

 

 長身の男、見た目は人間の姿をした鬱陶しいそうな長い金髪の男が、俺の登場に気付く。

 

「アクス、あれは?」

「うわっ、コアナンバー000-1ですよ、あれ。あれも盗まれたやつですねぇ。なんでアレ、使って平気なんでしょ? 実験成功記録は皆無なのに」

 

 淡い光を放つ髪の女が、スカウターみたいなもんで俺を見る。

 

「大した事ないです。あれ、あの三人だけで楽に処理できますよー」

「ふぅん。ボルグ、スピ、マルカ。お前達は、先ほどの失態がある」

 

 俺を無視し三人のパチモン戦士共に話しかけるロン毛野郎。

 レッド達に目を向けると、彼女たちは怪我こそしているようだが、命にかかわるような怪我を負っていない。

 だが、どうしてチェンジャーをつけているのに変身しない……?

 

「……ならば、どうだ? あの骨董品を倒した者には、ボーナスをやろう。早い者勝ちだぞ」

「え、あんな奴倒すだけでいいのかよ!」

「こんな楽なことないわねぇ!!」

「んじゃ、私が一番乗りね」

 

 遊び感覚……?

 戦いの最中に浮かれる宇宙人共に一種の不気味さのようなものを抱き、次に猛烈な怒りを湧き上がらせる。

 なにを言うか興味があったが、どうやらその時間も無駄だったようだな。

 こいつらはゲーム感覚で侵略しにきた舐め腐った奴らだ、なら、さっさと現実を見せてやる。

 

「カツミ君! こいつらは変身を――」

「黙ってろよ下等生物」

「ぐぅ……!?」

 

 紫のパチモン戦士がレッドの身体を蹴る。

 彼女の苦悶に満ちた表情を目にすると同時に、怒りが一気に最高点にまで振り切った。

 

「さあ、次の相手はおまッ――」

 

 レッドを足蹴にしている紫色の戦士の胸を拳で打ち砕き、その胴体を貫通させる。

 

「———え?」

 

 躊躇はない。

 ジャスティスクルセイダーをここまで追い詰める相手だ。

 手加減も何もなく一瞬で息の根を止めるべく、その機械に包まれた心臓を抜き取り握りつぶす。

 

「は? ボル――」

 

 隣で砕け散った仲間を見て硬直する女の胸倉を掴み、その頭部に連続して拳を叩き込み破壊する。

 

「ボルク!? スピ!? あんたらなんで死んでんの!?」

「お前ら。弱いじゃねぇか……!」

 

 弱すぎる……!? なんだ? なんでレッド達がこの程度のやつらにやられたのか!?

 ありえない!! はっきり言って、怪人の方がもっと手ごたえがあったはずだぞ!!

 

「あ、あんなガラクタスーツにあんな性能が!」

 

 機械的な銃をこちらに向けてくる青の女戦士。

 躊躇なく青いビームが放たれるが、そのどれもが遅く狙いが雑すぎる。

 

「素手で弾いた!? 生物そのものを融解させる攻撃なの―――」

 

 手刀でビームを弾き飛ばしながら、踏み込みと共に接近しそのまま殴り飛ばす。

 当たる直前に銃で防御されてしまったが、当分は起き上がってこれないだろう。

 

「ブルーの方がもっと陰湿で厄介だったぞ」

「そ、それ悪口……」

「お前も元気そうだな」

 

 とりあえず、人質にされないように優先的に助けた。

 まだ動けるようなら、ここから離れてほしい、……!?

 

「……!」

 

 防御に構えた腕に衝撃が走る。

 軽く数メートルほど後ろに下がると、ロン毛野郎がその無駄に長い足を地面へと下ろしていた。

 ……中々の威力だな。

 

「私はベガ」

「知るか」

 

 名乗りすら無視し、即座に潰しに行く。

 

「残念だ。私とお前では戦うフィールドそのものが違うのだ」

 

 奴に殴りかかろうとしたその時、何かが身体とスーツの間に割って入るような感覚に苛まれる。

 一瞬の違和感と共に、スーツからエネルギーを感じられなくなり強制的に解除される。

 生身になってしまった俺の手首から解除されたプロトチェンジャーが零れ落ちる。

 

「なっ!? 変身が―――!?」

 

 無理矢理変身が解かれた!?

 そう認識すると同時に頭を掴まれた俺は、男の膝蹴りを食らう。

 無防備な状態で殴られ、地面に倒れ伏す俺の背中に男の足がのせられる。

 

「ああ、君は厄介そうだ。戦えば俺もただではすまないだろう。だが悪いな。私達の技術を使う方が悪いんだ」

「お前ら、まさか変身を……」

「どこから盗んだかは知らないが、これは我々の扱うスーツとエネルギーは同じなようだ。それでは干渉してくれと言っているようなものだろう? しかも識別出力が同じとは……作った者はマヌケかな?」

 

 だからジャスティスクルセイダーは負けたのか……!!

 変身が無理やり解かれてしまえば、彼女達も俺もただの人間に過ぎない。

 普通に戦ってこいつらに勝てるとしても、生身ではさすがに無理だ……!!

 

「でも、すごいですよ。一瞬で三人を無力化してましたよぉ!! この子、私もらっていいですか!? できれば実験台とか、個人的な趣味で飼いたいんですが!!」

「いいや駄目だ」

「そんなぁ!?」

 

 目に悪い光を放つ女が俺をジロジロと観察し、指さしてくる。

 嫌な予感しかしない。

 せめて、アカネ達でも逃がす時間を稼げればいいが……!!

 

「この人間、我々の仲間に加えよう」

「それいいですね! きっと、強いプレイヤーになることでしょう!!」

 

 ———なんだと?

 誰がお前らの仲間になるか!! そう叫ぼうとするが、それよりも先に俺の首が掴み上げられる。

 

「……ぐ、ぁ」

 

 片手のみで俺の身体を持ち上げたベガ。

 首が締まり、息がまともにしににくくなるが、それでも相手は構わずに俺に話しかけてくる。

 

「こいつはオメガだ」

「!?」

「さあ、お前は始まりを終わらせる者か? 秘密を守る者か? どちらかな?」

「……ッ」

 

 何言ってやがんだ、こいつ。

 誰がオメガだと……!?

 訳の分からないことを……!!

 

「アルファはどこにいる?」

「俺が、殺した」

「はぁ、そんなことが聞きたいんじゃないんだよ。地球人、私はな、無駄なことが嫌いなんだよ。だから、手間を取らせるんじゃ、ない!」

 

 腹部に蹴りが入る。

 衝撃に顔を顰めながらひたすら耐えると、奴がさらに俺に蹴りを入れてくる。

 俺が事実を言っていることには変わりはない。

 だから、どれだけ拷問を受けようとも答えは変わらない。

 アルファは死んだ。

 俺がこの手で殺し―――、

 

「カツミ!」

 

 

「! ほーら、出てきた」

 

 不意にベガが何もない空間に縄のようなものを伸ばす。

 いきなり何をする、と思ったが次の瞬間には、その伸ばした光の縄に一人の少女が捉えられるのを目撃する。

 

「動揺して尻尾を出したな? やはりこいつが大事だったか。我々にすら気付かせないほどの力とは……全く以て進化とは度し難いものだな」

「……くっ、うっ……」

「だが、まあ、ここまで愛情深い個体はこれまでいなかったぞ」

 

 光を帯びた縄で引きずり出された黒髪の少女。

 彼女の登場により封印された俺の記憶が蘇る。

 彼女と共に過ごした記憶。

 俺から記憶を消し、彼女の安全を守ると決意した夜のことを。

 次々とあふれ出す記憶に混乱する。

 

「アルファ、どうして逃げなかった……!」

「だって、君が死んだら……君が死んだら、意味がないんだよ……」

「それでお前が傷つくようなことになったら意味がねぇだろ!!」

 

 記憶を消させたのはアルファを守るためだったはずだ。

 もしもの、こういう俺が追い込まれた状況で、俺が死ねば奴らはアルファを見つける手段はなくなる。

 そのはずだったのに……!

 

「随分と可愛い顔をしているじゃないか。どうやら、トロフィーとしての価値以外もあるようだな」

「……ッ」

 

 縛られ、地面に倒れ伏すアルファの顎を掴み、彼女の顔を確認したベガが勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「アルファは確保した。これで人間共は我々の思いのままだ」

「じゃあ、この後はどうしますか? 船に戻って街とか破壊しちゃいますか?」

 

 船、あの変形ロボットか。

 やっぱりあれが奴らの母船なんだな!!

 

「いや、いやいやいや、それでは面白くない。どうせこの星の科学力では、我々の戦略宇宙船のシールドを抜けもしないだろう。だからこそ、面白い余興を思いついたんだ」

「面白い余興、ですか?」

「コアナンバー000-2をこちらに転送させろ」

 

 ベガの言葉に驚きの表情を浮かべた後に、どこか恍惚とした、まるでこれから起きる何かを楽しむような笑顔を浮かべるアクスと呼ばれた女が、腕に取り付けられた何かを操作し始める。

 

「アルファ、今からお前のオメガが我々の同胞となる瞬間を見せてやろう。いや、もしかすると死ぬかもしれないがな」

「……ッ、カツミは、お前らの味方になんかならないし……死なない……!」

「人間だから死ぬんだ。いや、死んだとしても死体は有効活用するので、別にどちらでも構わんがね」

 

 俺の背中を押さえつけながら勝手なことをほざくベガ。

 いったい、こいつは何をするつもりなんだ……!!

 

「アクス、持ってこさせたか?」

「ええ。貴方のお望み通り、例の生体ツールを」

 

 光と共にアクスの手の中に現れたのは正方形の白い箱。

 その側面の一部は網状になっており、そこからは何かこの世の生物ではない、機械で構成された何かが入っていた。

 

『———ッ、———ッ!!』

「おー、おー、怖い。私達にですら牙を剥く凶暴さですからねぇ」

「開けろ」

 

 箱が空けられ飛び出したのは掌サイズのオオカミのようななにか。

 黄色い目が特徴の、背中に角の生えた全身が真っ白な機械で形作られたオオカミは、ケースから飛び出すとそのままベガに襲い掛かる。

 奴は無理やりその手でオオカミを掴み取り、変形させるとそれを長方形型のバックルのような形状へと変える。

 

「000-1のエネルギーコアに対応しているのなら、こちらとしても相応の試練を課そうじゃないか。なにせ、元は姉妹だっていう話だからな」

「て、めえ……!」

 

 今度は胸倉を掴み持ち上げられる。

 

「こいつは、宿主の命を吸い取り力にする生体ベルトだ。名付けるとしたら……『ダストドライバー』ってところかな? うまく適合すればお前は我々の操り人形となり、これから一緒に楽しく、星狩り(ゲーム)をしていくんだ。———光栄だろう?」

 

 手の中で震え続けるバックルを見せつけたベガを、睨みつけるも奴は怯まずにこちらに声を投げかけてくる。

 

「手始めに、人間狩りからさせてみようか? 同族で狩りを学ぶのも我々全員が通った道だからな」

「……ッ!」

「まあ、その前に……君は生き残れるかどうかが先か」

 

 ベガが勢いよく俺の腹部にバックルのようなものを押し当てた。

 瞬間、光の帯が俺の腰に纏わりベルトへと変わると、バックルのレバーが勝手に動き出し、何かが発動した。

 


 

 変身を解除されなければ勝てるはずの相手であった。

 しかし、相手はどう見ても私達と同じ技術を用いた敵。

 私達だけではなく、カツミ君も同じように生身に戻され追い詰められてしまい絶対絶命の危機に陥っていた私達は、今まさに絶望の光景を目の当たりにしていた。

 

「ぐ、ぅぅ、が、ァァ!!」

 

 カツミ君の腹部に装着された銀色のバックル。

 それは赤い電撃を伴いその身体を蝕むかのように襲い掛かり、彼が苦悶の声を漏らす。

 

「「「カツミくん!!」」」

 

 かろうじて立ったまま苦しみに悶えながらも彼は、私達と少女の姿を見る。

 痛みに顔を顰めながらも、目に力を宿した彼は歯を食いしばり痛みに耐えているのだ。

 

「カツミ、そんな! いやだ!!」

 

 次に、光でできた縄で縛られながらも必死で声をかけようとするアルファと呼ばれた黒髪の少女を目にしてから、この状況で場違いな穏やかな笑みを浮かべた。

 

「カツ……ミ」

 

 彼は目を瞑った。

 痛みに悶えるのをやめ、大きく深呼吸をした。

 

EAT KILL AL……ジ………ジジ

 

 一瞬鳴り響いた音声にノイズが走り、淀んだ赤い電撃がバックルへと吸い込まれていく。

 その代わりに溢れだしたのは金色の暖かなエネルギーが、彼の身体を一瞬にして覆う。

 

『PERFECT!!』

 

 その音声と共に、その場に全くそぐわない荘厳な音楽が流れだす。

 まるで何かの誕生を祝うかのような、力強い音楽に私達だけではなく侵略者たちも困惑した様子を見せる。

 

『ALL→ALL→ALL→ ALMIGHTY!!!』

 

 彼の身体を光が包み込み、複数のアーマーが空中で構成され浮かぶ。

 

『THE ENEMY OF JUSTICE……』

 

 金属音を立てながら装着されていくアーマー。

 しかし、最後に残された三つのプレートが赤、青、黄と彩られ、それらは遅れて胸部へとスライドするように装備される。

 

『『『TRUTH FORM!!!』』』

 

 複数の声が重なる音声の後に全身から排出するように煙を噴き出し、変身を完了させた彼の姿は、黒とは正反対の白色で構成されていた。

 黒色のボディースーツの上側から取り付けられたアーマー。

 額から上へと延びる三本の角と、黄色の複眼の下に刻まれた涙を表現するようなライン。

 腕、肩、胸、足のアーマーは薄く、胸部の右アーマーに刻まれた赤、青、黄色のプレート。

 全体的に痩身なイメージを抱かせる彼の姿に、私達は呆然とするしかなかった。

 

「……素晴らしい! ああ、もちろん信じていたとも!! 君がしっかりと装着してくれることをな!!」

 

 無言のまま掌を見つめる彼に、拍手をしながらベガが親し気に近づく。

 彼は、洗脳されてしまったのか……?

 

「……嫌だ。嫌だよ……」

 

 彼が、敵になるなんて。

 だって、さっきまであんなに楽しく、笑い合っていたのに……。

 泣きそうになりながら、手を伸ばす。

 仮面を動かした彼がこちらを見る。

 

 ―――その涙を流しているかのように見える複眼から伝わる彼の意思は、死んではいなかった。

 

「さあ、これから君も私達の仲間だ!! 手始めに君の仲間をその手で――」

「うるせぇ」

「は?」

「うるせぇっつってんだよ!!」

 

 白い戦士の身体が光の粒子に包まれる。

 瞬間、とてつもない挙動で加速した彼の拳が、最低最悪の侵略者へと牙を剥いた。




負けイベを強化イベにする男。
黒騎士くんが白騎士くんになりました。
変身音はカツミの精神的な成長に合わせたことで最終感溢れるものに。

アルファ関連はあっさりでしたが、後に補足する予定です。

(゜言゜)「全て食らい……(EAT KILL AL……)」
 ↓
(๑˃̵ᴗ˂̵)b「……イイ!!(PERFECT!!)」

ダスドラちゃんの反応は大体こう。
プロトスーツちゃんは衣替えのためしばらくお休みとなります。


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力を束ねて、戦いの決着

たくさんの感想ありがとうございます。
いつも、楽しく読ませていただいておりますm(__)m

今回はレッド視点となります。
あえて、タイトルにはつけませんでした。



 大きな閃光が、ベガとアクスへと襲い掛かる。

 しかし、その拳は彼らへと到達する寸前に暴発し、直撃することなく彼らを吹き飛ばしただけだったけれど、それでも彼らの恐怖を煽るのに十分なほどの不意打ちであった。

 

「い、いきなり何を!?」

「まさかとは思ったけど、こっちにも完全適合!? 洗脳はどうしたの!?」

「……いきなりだから調子が掴めねぇ。……プロトスーツとは勝手が違う」

 

 異星人の変身アイテムをその身に受け、それでもしっかりとした自我を保っていたカツミ君は、警戒するベガとアクスを一瞥した後に捕まっていた少女へと歩み寄り、光り輝く縄を素手で引きちぎる。

 

「アルファ、逃げろ」

「カ、カツミ……」

「逃げろ!! 約束を忘れたのか!!」

「……ッい、いやだよ! 一緒にいるっていったじゃないか!! だから、私、ずっと近くに――」

「行け!!」

 

 アルファ、と呼ばれた彼女はカツミ君の剣幕に叱られた子供のように目を瞑った後に、その場から駆け出し一瞬でその姿を消してしまう。

 彼女の姿を見送ったカツミ君は、前を向き直ると拳を鳴らしながらベガたちへと向かって行く。

 

「随分と変な格好にさせてくれたなァ、この野郎……!」

「な、なぜ……! ありえん!! 洗脳されていないだと!? 下等種族の人間ごときに破られるものではないのだぞ!!」

 

 カツミ君には、洗脳が効かなかったのか?

 その事実に驚愕するベガではあったが、すぐに余裕を取り戻す。

 

「だが、変身したところでこちらで解除してしまえば意味はない。アクス」

「りょ、了解……」

 

 腕の端末を操作するアクス。

 さっきと同じように変身を強制的に解除させるつもりだ……!?

 

「……ッ!? 解除できない!?」

「どういうことだ!?」

「ダストスーツのエネルギー出力が書き換えられたんですよ!! ベルトそのものが私達の干渉を拒絶した!?」

 

 解除、されていない?

 慌てふためくアクスに、ベガも動揺を隠しきれないようだ。

 

「コアに意思が残っているとでもいうのか!? そのような理屈――」

「話は終わったか?」

 

 傍目に分かるほどの怒気を放つ白い戦士。

 周囲の空間を捻じ曲げているように見えるほどの錯覚を見せる、彼の怒気にベガとアクスは顔を青ざめさせる。

 

「なら、そろそろ攻撃してもいいんだよな?」

 

 地面が爆ぜ、とてつもない勢いでベガへと襲い掛かる。

 彼の怒りを目の当たりにした男と科学者らしき女は、即座にチェンジャーを起動させ、戦士の姿へと変わる。

 私達が戦った戦士達とは異なる、銀と金の戦士。

 アクスが変身した金の戦士は、その掌をカツミ君へと向け何かを作りだそうとする。

 

「じゅ、重力空間でこのサルを―――」

「うるせぇ!!」

「ぐおっぷぇ!?」

 

 しかし、目にも止まらぬ速さで蹴り飛ばし、彼は銀色のスーツと鎧を身に着けたベガへと殴りかかった。

 その速さはプロトスーツを遥かに超えており、パワーそのものも格段にアップしているように見えた。

 

「テメェ、勝手に地球にきて何するつもりだったんだァ!?」

「舐めるな! 人間風情が!! この私専用に強化された星級装備を超えられると思うな!! 強化(アップグレード)!!」

 

 戦いながらベガのスーツに装甲が追加され、さらに武器も装備されていく。

 

「お前のは所詮古代兵装(アンティーク)!! 時代遅れの鉄くずごと―――」

「ごたごたうっせぇんだよ!!」

 

 彼は追加された装甲ごとベガの頭を殴りつける。

 いくら装甲を増やしたとしても、彼のパワーを前に言葉を失うベガ。

 

「つまらねぇ御託を並べやがって!! 口だけ野郎が!!」

「がっ、ぐ、おべっ!?」

「無駄に頑丈なのも腹が立つ!!」

 

 理不尽すぎる言葉と共にベガの肩のアーマーをシールドごと引きちぎり、さらに追加されていく前に彼に攻撃を加えていく。

 その姿は黒騎士として怪人を一方的に倒してきた彼の姿となんら変わりはなかった。

 

「や、やめっ……」

「なぁにがゲームだ! プレイヤーだ!! 出遅れてやってきた癖してなにイキがってんだこの野郎が!!」

「が、ぼが!?」

「前々からテメェらには、言いたいことが沢山あったが!!」

 

 腕を掴み上げ、そのまま何度も地面へ叩きつける。

 バウンドするように身体を跳ねさせたベガはその衝撃と激痛に、つい数分前の様子からは考えられないほどの絶叫を吐き出した。

 

「が、ああああああ!? うわああああああ!?」

「だが、それも!!」

 

 部品と青い血をまき散らすベガを空中へと放り投げ、彼は大きく拳を振りかぶり―――、

 

「忘れたから、殴りながら思い出すことにする!!」

「げばっ!?」

 

 ———力の限りに、殴り飛ばした。

 地面を削りながら、数十メートル吹き飛んだベガ。

 

「あ、圧倒的すぎるよ……」

「あれ宇宙人の装備だから……じゃないよね?」

「多分……」

 

 私もきららも葵もぽかーんと口を開けて、傷ついた体を押さえながらその場で見ていることしかない。

 続けて彼が追撃しようとすると、なぜか足を止めた彼が額を押さえる。

 なんだ? まさか、またなにかしらの攻撃を彼に……!?

 

「……ッ、随分親切なベルトだなぁ! 頭に直接使い方を教えてくれたようだ……!」

「バカな……!? そ、そのような機能は――」

「教えてくれたなら、使うしかないよな……!」

 

 カツミ君がバックルに手を伸ばし、側面のスライドを一度引っ張った。

 すると、バックルへと変えられたオオカミのような何かが歓喜の叫び声を挙げるかのように咆哮を響き渡らせた。

 

 FLARE RED!! →OK?』

 

 まるでその回答を押すように、さらにバックルの上部分のボタンを軽快に叩いた。

 

『CHANGE!! →TYPE RED!!』

 

 無駄にテンションの高い電子音声の後に、胸部の三色のプレート全てが赤に染まり、その部分を中心に伸びる黒いラインに赤色のエネルギーが流れ、全身に満ち溢れる。

 炎の力を身に着けた彼は、拳を鳴らしながら身体を機械で修復させているベガへと歩くように近づく。

 

「食らえ!!」

 

 放たれたのは肩部のショルダーキャノンと両腕に取り付けられたビームのようなもの。

 射線上にあるものを全て融解、消滅させながら突き進んだ攻撃は、全てカツミ君に直撃するが―――、

 

「こ、攻撃が効かない……!? ふざけたレベルのバリアを……!!」

 

 ———その攻撃は、彼の歩みを邪魔することさえできず空しく弾かれてしまうだけであった。

 攻撃を食らいながらも無視し、そのままベガの前にまで接近する。

 カツミ君は大ぶりに振り回した腕を彼の首に叩きつけ、力の限りに地面へと叩きつけた。

 

「フンッ!!」

「ガッ、アアァ!?」

 

 クレーターができるほどの威力を食らったベガは故障したように全身にスパークが走り出す。 

 三度バックルを叩いた彼がその掌をベガへと向ける。

 

「地球へようこそ!! 歓迎してやるよォ!!」

『DEADLY!! TYPE RED!!』

 

「そ、そんな! やめろ!! いや―――」

 

『FLARE EXPLOSION!!』

 

 すると、彼を中心に炎を形どったエネルギーが集まり、凝縮された後に空へと昇るほどの爆発を引き起こした。

 周囲に爆発はまき散らさず、むしろなんらかの力で相手の周囲にのみ熱と衝撃を凝縮させた一撃。

 

「わ、私の色しゅごい……なにこれぇ……?」

「なんだか、やりたい放題だねぇ」

「アカネ、きらら、衝撃のあまりキャラが迷走しちゃってる……」

 

 痛む身体を引きずりながら見ていることしかできなかった私は、ただただ唖然とすることしかできなかった。

 それほどまでに白い戦士、いや、白騎士へと変わった彼の力は私達の想像を遥かに超えていたのだ。

 

「こっちに来なさい!」

「ッな!?」

 

 不意に肩を掴まれ、こめかみに何か硬いものが着きつけられる。

 

「……ッ、この化物!! 今すぐ、変身を解除しなさい!! さもなきゃ、こいつが死ぬわよ!!」

「駄目、カツミ君! 言うこと、聞いちゃ……」

 

 先ほどカツミ君に殴られたあっち側のブルーだと気付くが、それ以上に自分が人質になってしまったことに絶望を抱く。

 このままでは彼の邪魔をしてしまう。

 なら、私の命を投げ出してでも―――、

 

「今、そいつを離せば命だけは助けてやる」

「は? あんた嘗めてんの? 人質がいるこっちが優利に決まってんでしょ?」

「……」

「……ッ、こ、この、ふざけやがって!!」

 

 冷静極まりないカツミ君の言葉に、私のこめかみに当てられた銃がカツミ君へと向けられる。

 あらゆるものを溶解させる銃。

 それを目の当たりにした上で、彼は捕まっている私から視線を逸らさない。 

 

「心配するな。お前も、きららにも、葵にも怪我はさせない」

「あ、あああああ!!」

『CHANGE!! →TYPE BLUE!!』

 

 恐怖のあまり青い戦士が放ったエネルギー弾はカツミ君へと直撃するが、それらは彼の身体を通り過ぎるように後方へと消えていく。

 まるで水のように青く透明な姿になった彼はそのまま実体に戻ると、再度バックルを操作し黄色の力を纏う。

 

『CHANGE!! →TYPE YELLOW!!』

 

 一瞬の閃光。

 ただそれだけで私はカツミ君に抱きかかえられていた。

 状況が分からず、先ほどまで自分がいた場所を見ると、そこには心臓にあたる部分に穴を空けた青い戦士が、既にこと切れていた。

 

「心配かけた。ごめん」

「カツミ君、だよね?」

「ああ、なんだか分からんが洗脳されてもないし、命も吸われてないぞ」

 

 良かった……けど、やっぱり君は規格外すぎるなぁ。

 抱きかかえられた私は、きららと葵の近くに下ろしてもらう。

 

「さて、後は……」

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「……しつこいな、まだ生きていたのか」

 

 彼が振り向いた先には、半壊状態の姿となったベガがクレーターから這いずり出ていた。

 息を乱し、ほぼ半分死んでいるような状態に見えるが、それでも奴の目にはとてつもない憎悪が宿っていた。

 

「後悔するなよォ……! サルがァ……!」

「ありがとよ。こんないいスーツくれて」

「……ッッ!!!」

 

 ビキビキと部品をまき散らしながら彼は残った腕に残されたチェンジャーに顔を近づける。

 

「ッ、俺を船に転送させろォ!! 宇宙船でこいつを殺す!!」

「やれるもんなら、やってみろよ!!」

 

 勢いのまま彼がバックルのスライドを四度引っ張る。

 ッ、赤、青、黄と続いて四番目!? この次にどういう強化が待っているの!?

 

『THE ALMIGHTY!! →OK?』

「……」

 

 他とは異なる重なった声による認証に、彼はバックルを叩く手に躊躇を見せる。

 不自然なほどの静けさが訪れる。

 数秒ほどの、短い沈黙の後に、彼は肩から力を抜いた。

 

「この力は、お前達にもらったものだ」

「え?」

「俺は、ようやく前に進める。ただ戦うだけの黒騎士だった俺は……お前達に、人間にしてもらったんだ。ありがとう……本当に、それしか言葉が思い浮かばない」

 

 ちょっと待って。

 どうして、今なの?

 突然、静かに言葉にする彼に、私もきららも葵も異変に気付く。

 

「なんで今そんな……こと言うの? やめてよ……」

「今しか言えないからな」

「……だ、駄目!!」

 

『CHANGE!! →TYPE…』

 

「後は頼んだぞ、アカネ」

 

『UNIVERSE!!』

 

 こちらを振り向かずにそう言葉にした彼はそのままバックルを叩き、黄金色の光を纏いながら光に呑み込まれるベガへと向かって行った。

 カツミ君が光の柱に包まれて、遠い場所に立っているロボットの胸部へと吸い込まれていく。

 

「帰ってきてから、伝えてよ……! なんで、最後の別れみたいに言うの……!!」

 

 彼が消えたその場で泣き崩れる。

 彼はベガと共に宇宙船へと乗り込んだ。

 そこで、今度は大勢の敵と戦っている。

 

「アカネ、見て……」

「!」

 

 葵が指さした方を見れば、都市に立つロボットに異変が生じているのが見えた。

 まるで内側から爆発するように胸部の一部が破壊され、そのまま露出した内装から見える金色の光が、続けて爆発を引き起こしている。

 

『———ッ ———ッ!!』

 

 彼の声が聞こえる。

 この星を救うために、死力を尽くしている彼の声が。

 その直後、胸部の中心で大爆発が起こりロボットの身体から力が抜け、その前の空間に大きな亀裂が生じる。

 それが、奴らがここにやってくる際に利用したワームホールのようなものと気付く。

 ロボットは機能を失い、倒れ伏すように―――そのままワームホールの中へと消えていった。

 

 

 ———彼は、帰ってはこなかった。

 残ったのは、彼が用いていた『プロトチェンジャー』と彼が今日まで住んでいた多くの物で溢れた独房しか、残されてはいなかった。

 

 


 

「ねえ、ちょっと、なんなのさ。引っ張るのはやめてよ……」

『ガオ!』

 

 なんで私、こんなことになっているんだろうなー。

 仕事を辞め、世界が終わる前に放浪の旅でも出ようかなーっと思った矢先に、変な生物に見つかり、今は白衣の裾を引っ張られながら、どこかの雑木林へと連れられている。

 

「てか、君なんの生き物なの? あの宇宙船の残骸かなにかなの? 勘弁してよぉ、私、そっちには関わってないから分からないの。修理とか、知識ないから専門外なんだよー」

 

 もう、勘弁してよ。

 私の正体も危うくなってきたし、彼が行方不明になって空気に耐え切れず職場辞めてきたのに、また関わらせるの?

 てか、この生物なんなんだよ。

 手乗りオオカミとは言うけど、モロ機械だし力も私程度じゃ抗えないくらいに強いんだけど。

 それともこの世界にこういうロボットがいるの?

 

「はぁ……」

 

 彼、死んじゃったのかな。

 思ったよりも自分は彼のことを気に入っていた事実に、地味に打ちひしがれながらもこれ以上にない大きなため息を吐く。

 この気持ち、多分、これから一生引きずりそう。

 そう確信しながら歩いていると、不意に白衣を引っ張る力が弱まる。

 

『クゥーン……』

「はぁ、ようやく止まってくれたよ……。……ッなんだ、これは!?」

 

 目の前の雑木林は、残骸へと変わり果てていた。

 まるで空からなにかが勢いよく落下したかのように、へし折られ、折り重なりながら異様な光景を作り出していたのだ。

 な、なにがあったんだここで……?

 凄まじい光景に唖然としていると、私の白衣から口を離し、ぴょんぴょん跳ねながらどこかに辿り着いたオオカミが、なにかに声を投げかけていることに気付く。

 その声は、弱々しく、誰かを心配しているようにも思えた。

 

「て、おいおいおい!!」

 

 誰か、人が倒れている。

 そんな状況に陥る人間なんて一人しか知らない私は、柄にもなく焦りながら急いで木を上り―――その顔を目にする。

 

「……スゥ……スゥ……」

「なにやってんの、かっつん……?」

 

 見つけたのは林の中でなぎ倒された木を背にしながら呑気に眠っている彼であった。

 服には血が滲み、傷だらけの彼を目にして、私は一瞬どうしていいか分からずその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 




アルファもジャスティスクルセイダーもみんな曇らせて第一部終了。
なお、第二部からもっと曇ることになる模様。

赤はパワー
黄はスピード
青はゲル化

……バランスは取れているなッ!
全ては宇宙由来の超技術と適正高すぎのカツミ君が悪い。


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閑話 正義

今回は閑話、
黒騎士くん改め、白騎士くんが敵宇宙船に乗りこんだ後の話となります。

前話でボコボコにされ、逃げ惑うベガさん視点でお送りいたします。


 アルファとオメガ。

 それは星に生きる生命体に埋め込む特殊な因子により目覚める二つの雌雄個体を差す。

 アルファは全に影響する能力を。

 オメガは個に影響する能力に目覚める傾向が多く、我々は目的を以て星の生命体同士で“共食い”をさせる。

 オメガの因子を持つ者は凶暴だ。

 本能のままに、その星のものを食らい脅威に貶めようとする。

 その習性を利用することで、オメガの力を最大限にまで伸ばし、ようやく我々と矛を交える資格を得る。

 

 オメガの力が強大であれば確保。

 弱ければ処分、その星を初期化しもう一度オメガとアルファの因子を投与し、次の収穫まで待つ。

 我々、『セイヴァーズ』が所属する組織はそうしてランクの低い星を狩ってきたのだ。

 

 容易い、侵略だと思っていた。

 これまでの命令を無視し、秘密裏に地球と呼ばれる星の知的生命体を手中に収めようと考えた。

 弱く、文明レベルの低い星。

 そこに生まれ落ちたアルファもオメガも大した存在ではないだろうと予想していた。

 事実、我々が星のスキャンをかけたところ本来のオメガも、人間に倒され滅ぼされていた。

 

―――この程度の生命体ならば、いける。

 

 その星のアルファもオメガも既に息絶えてはいたものの、アルファは子を成し、新たなアルファを作り出していた。

 それは親の力を遥かにしのぐ異常個体。

 同じ人類に対する強力無比な精神干渉を得意としていた。

 異種族である我々すら欺くほどの能力だ。

 他の同業者すら潜在的に欺くこともできるしいいことづくめだ。

 ―――アルファも捕えれば、より簡単に都合の良い奴隷が手に入るはずだった。

 手に入る、はずだった。

 

「テメェゴラァ逃げんじゃねぇぇェェ!!!」

「ひっ、ひぃぃ!?」

 

 あのアルファが選んだのはオメガのはずだった。

 だが、その因子を微塵も持ち合わせていない、ただ特殊個体のアルファに選ばれただけの人間に過ぎなかった。

 ただの人間だった。

 適性が高いはずの、人間だった。

 だが、この状況はなんだ?

 奴を、我々のセイヴァーズの戦力が集中する宇宙船内に誘き寄せた直後、レーザー兵器によりハチの巣になるはずだった奴は、依然として船内で暴れながら必死で逃げるこの私を追いかけていた。

 帰還と同時に装着した足が今にも壊れそうだ……!!

 

「侵略者!?」

「侵略者だ!!」

「テメェらが侵略者だろ!! いいからそこどけ!! ベガァァァ!!」

 

 既にこの船は地球にはない。

 ワームホールにより、機能を失った宇宙船ごと我らが味方が多く存在する外宇宙の本拠地へと送られたのだ。

 だが、それでも奴は襲い掛かる同胞たちの攻撃をものともせずに、未だに船内で暴れまわっている。

 

「テメェ、コラァ!! どけぇ!! 全員宇宙人かこの野郎!! いや、お前らからしたら俺も宇宙人かァ!!」

「「ぎゃああ!?」」

 

 なんだあの人間なんだあの人間なんだあの人間!!

 機械化し、恐怖すら忘れたこの身体に寒気と身体の震えが止まらない。

 白い悪魔。

 その身に黄金色の光を纏った奴は、動くだけで周りの兵士達を残骸へと変える。

 

「既にこの宇宙船は外宇宙へと転移した!! 貴様にもう帰る場所はないぞ!!」

「うるせぇ!! 死なば諸共、貴様ごとこの宇宙船爆破して周りごとぶっ壊してやるわァァァ!!」

「ンヒッ」

 

 想像するのも恐ろしいことを口にする。

 マズイ。

 ワームホールを通ってやってきたのはよりにもよって、“あの方”がいる本部だ

 そんなところで爆発など起これば、死よりも恐ろしい罰が下される。

 

「捕まえたぜ……!!」

「しまッ」

 

 一瞬の恐怖に硬直してしまい、その隙を狙われ私の身体は掴まれてしまった。

 奴が拳を振り上げ、私を破壊しようとする。

 ここで終わりか―――!?

 その時、私と私を掴む奴の周りが暗闇に包まれる。

 

「は? どこだここ?」

 

 ごとりと、上半身だけとなった私が落とされる。

 いつの間にか周囲は船の中ではなく、別の場所へと変わり果てていた。

 広大な空間。

 足元には黒色の硬質な床、

 その先には、階段と光に照らされた玉座に、そこに膝を組みながら座っている誰か。

 

「が、あ……そ、そんな……」

 

 まさか、あの一瞬で船団内部に転移させられたのか……!?

 玉座に座っているあの方が立ち上がる。

 そのまま、はっきりとした足音を響かせながら歩み寄ってきたのは―――青い肌を持つ女性であった。

 

「……はい?」

 

 紺色の長い髪、黒く染まった瞳にその場でひれ伏したくなるほどの美貌。

 右肩にかけるように白い布をドレスのように巻いた彼女を目にした瞬間、怖気が止まらなくなる。

 ま、間違いない……あの方だ……。

 初めて見るが、間違いない。

 

「は、肌が青い……?」

『ほう、面白い生命体がこの船に舞い込んだようだ』

「……?」

 

 地球人である奴にはあの方の言葉は通じない。

 首を傾げる奴に、あの方は手元にワームホールを作り出すと、そこから一冊の書物を取り出し、ぱらぱらとそれに目を通す。

 時間にして数秒。

 すぐに本を閉じ、後ろに放り投げると共にワームホールへと投げ捨てたあの方は軽いため息をついた。

 

「——地球の言語か。単純だな」

「……え」

「これで合っているか?」

「お、オッケー……」

 

 呆然としながら奴が頷くと、あの方は満足そうに玉座のしたの階段へと腰かける。 

 

「よく来た、侵入者。私は退屈しているんだ」

「……あんたが次の敵か?」

「……そうだ? 向かってくる勇気があれば、かかってくるといいぞ?」

 

 その時、私の身体が軋みながら地面へと叩きつけられる。

 見えない何かに押し潰されているのではなく、あの方の威圧感によりそうさせられていることを悟りながら、必死に意識を繋いでいく。

 

「が、うぁ……」

 

 能力も何も使われていない。

 圧倒的な存在感。

 殺気と圧力が形となって、全身へと襲い掛かり私の身体を地面へと縫い付ける。

 

「……」

 

 な、なんで、立っていられるんだあの化物……!

 本当に地球人なのか……!?

 素知らぬ様子であの方と向かい合っていた奴は、無言のままその場を走り出しあの方へと向かって行く。

 

『CHANGE!! →TYPE…』

『UNIVERSE!!』

 

「ハァァ!!」

「!」

 

 跳躍し拳を振り上げる奴を目にしたあの方は、その唇の端を吊り上げた。

 見惚れるような、これ以上にない楽しみを見つけたかのように喜色の表情を浮かべた彼女は、パチン、とその指を鳴らした。

 瞬間、彼女を中心に星空のような球状の空間が彼女自身と奴を飲み込む。

 

「な、なんだ……?」

 

 一瞬にして姿が見えなくなるあの方と地球人。

 だが、数秒と立たないうちに球状の空間は消え去り―――、

 

「———ガァ!?」

 

 ―――中から現れたダストドライバーを身に着けた地球人は、そのまま血まみれの姿で地面へと叩きつけられた。

 私が、なすすべもなくやられた奴を、ここまで一方的に……!

 奴の纏うスーツは罅割れ、割れたマスクからはその素顔が露わになっていた。

 血だまりに倒れる男の傍らには、その右手を赤く濡らす“あの方”が立っておられた。

 

「地球人の時間に換算すると、56時間34分57秒、か」

「く、がはっ……!」

 

 止めを刺すのか……!

 期待を込めて状況を見守っていると、あの方は見下ろしていた奴をその両手で抱き起こした。

 

「ありがとう。本当にありがとう……貴様はいい戦士だ」

「ッ!?」

 

 その白い装いが汚らわしい赤い血で汚れることをいとわずにあの方は奴を抱きしめる。

 慈悲すらも感じさせるその抱擁。

 だが、それでも奴は敵意を失わずにその拳を振り上げた。

 

「もういい、ここで命を落とすには惜しい」

 

 あの方と目を合わせた奴は、まるで何かに固められたように動けなくなってしまう。

 声すらも出せないのか、途切れた声を漏らした奴を横に寝かせ、その頭を自身の膝に乗せながら、あの方は朗らかに笑う。

 

「楽しませてもらった。この私をその場から動かし、あまつさえ手を出させるなど、星将序列内でも何人いるやら……」

 

 玉座の階段に広がる異常すぎる光景に、私は気が狂いそうになる。

 これは、悪夢か。

 分からない。

 自身に辛酸を嘗めさせた奴が、あの方に―――ッ!!

 

「肉体の水質変化も見事。だが存在固定の類の技を理解していなかったようだ。……それはちょっと残念。速さも力も及第点ではあるが、危機察知能力、経験に基づく攻撃予測は中々のものだ」

「ふ、ざ、け…………ぁ」

「でも最後のはよかった。とても、とてもよかった。拳による暴威。完成された暴力。あれはまさしく……私が正面から受けるべきだった攻撃ではあるが……それは、貴様には失礼に当たることだったことから、真正面から打ち砕かせてもらった」

 

 マスクを素手で引きちぎるように剥ぎ取り、そのまま露出した髪を撫でつける。

 カラン、と破片が無造作に転がる音が響く。

 

「だが満点だ。素晴らしい。こういうのを採点が甘すぎるというのだろうが、こればかりは譲れない。なによりこの私に向かってくるという点で+100点だ。本当に素晴らしい……」

「……が、はっ、ごほっ」

「しかし、無謀ではない。その素養もあるのだろう。経験も積んでいるのだろう。足りないのは、人数か? 仲間か? 装備か? ふふふ、あらゆるものが足りていないな」

 

 圧倒的な力を見せられた後であろう奴は、依然として変わらず抵抗の意思を見せようとする。

 

「睨むな、睨むな。死に体でも気丈な奴だ、そんな目で見られるとより愛おしくなってしまうではないか……」

 

 微笑みながら奴の頬に手を添える。

 

「このまま私好みに育てるのもいい。だが違う、そうではないな。それだけでは遊び心がない。そうさな……」

 

 あの方が手を目の前の空間へと向ける。

 どこかへ繋がっているワームホール。

 その先の光景を確認したあの方は、奴の襟をつかむように持ち上げた。

 

「元いた星に帰してやろう」

 

 ワームホールの前に掲げた奴に指を向ける。

 

「私の一撃に耐えられたら、な」

 

 その瞬間、スーツを纏っている奴の胴体に見えない衝撃のようなものが叩きつけられた。

 吐き出された血が、笑みを浮かべたあの方の青い肌へと付着させ―――そのまま奴はワームホールの奥へと消えて行ってしまった。

 あの方は、自身の頬に付着した血を口に含みながら、楽し気に笑う。

 

「地球の初期化は取り消そう。あの星に興味を抱いた」

 

 その場に誰もいないのにそう呟くあの方の視線が、地面に倒れ伏す私へと向けられる。

 まるで、今私の存在に気付いたように驚いた表情を浮かべ、その後にため息をついた。

 

「星将序列335位 ベガ 識別派閥『セイヴァーズ』」

「お、お待ちください……! わ、私はまだ―――」

「強さこそがこの世の理」

 

 指先がこちらへと向けられる。

 

「敗北者に、正義の名は必要ない」

 

 視界が霧散する。

 自身がバラバラになる感覚に苛まれながら、微かにその声を耳にする。

 

「私達が集う場に名はない。―――強さこそが我々を形作る基準(正義)に他ならない」

 




強化イベント後に、強制ラスボスエンカで負けイベを強制される主人公でした。
グランドジオウどこかで見たような……。

そして、遭遇した青肌系ラスボス。
プレッシャーで白騎士くんが尻込みしてたら、すごくしょんぼりした後に一瞬で始末しにきてました。
男性か女性のどちらかで悩みましたが、オメガが男ですし偏った部分は社長に補ってもらえばいいかなと思い女性にしました(無慈悲)


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閑話 アルファ

閑話。
アカネ視点となります。

今回は次話と合わせて二話で一つの話みたいな感じとなります。




『後は頼むぞ、アカネ』

 

 そう言い残してカツミ君は、帰ってはこなかった。

 ベガと他の宇宙人を倒して、宇宙船を壊してワームホールに呑み込ませどこかへ消し去ってしまった彼は、私達の元に帰ることなく、数日が過ぎてしまった。

 

「……」

 

 目の前に現れる仮想エネミーをその手に持つ剣で切り裂く。

 

「……」

 

 動かなくなるロボット。

 次々と溢れる仮想エネミー。

 それを目にすると同時に走り出し、的確に急所を貫き横に薙ぎ払う。

 

「……」

 

 私が弱かったからだ。

 私が弱かったから、いつまでも彼に頼り切りだから彼は帰れなかった。

 彼が、命を懸けることになってしまった。

 だけど、一番悲しかったことは、彼にそのような選択肢を選ばせてしまったことだ。

 

「君は、変われたって言っていたけど、私達は変えられなかった……!」

 

 どうして、自分の命を投げ出そうとするの?

 君がいなくなって、悲しむ人がたくさんいるんだよ?

 この思いは、酷く身勝手なものなのは分かっていた。

 彼は、そうすることでしか事態を解決できないからそうした。

 そうしなければ、あのロボットは街を破壊したし、そうなればどれだけの人が犠牲になっていたか分からない。

 

「君が、帰ってこなくちゃ、駄目じゃん……!」

 

 息を乱しながら、最後の一体を両断させる。

 私の背後には、百を超える仮想エネミーの残骸が転がっていた。

 

「追加、お願いします」

「……やりすぎだぞ、レッド」

 

 追加の仮想エネミーを頼もうとすると一人の男が現れた。

 金髪の長身の彼は、表情を険しくさせながら私を見ている。

 

「怪我がまだ癒えていないだろう」

「……私のことは放っておいてください」

 

 彼に背を向けそのまま出ていこうとする。

 しかし、そうはさせまいとばかりに、彼は私に声を叩きつけてくる。

 

「そんなことをしても、彼は帰ってこない」

「ッ、彼は生きています!!」

 

 思わず感情的になり叫ぶも、彼はさほど動揺しない。

 

「ああ、生きているとも」

「……!!」

「彼が、ホムラ・カツミがそう簡単に死ぬものか。いくら世間がそう報じていたとしても、私はその事実を認めはしない」

 

 彼が私に端末を投げ渡す。

 そこには、フードを被った少年が金色の光に包まれ変身する姿が映り込む。

 

「彼の戦いは開示された。お前達の素顔も、彼の素顔も秘匿されたままな。一部の噂では彼は死んだと、そう言われているが……そんなものは、耳に入れる必要のないくだらない妄言に過ぎない」

 

 彼の姿が純白の仮面の戦士へと変わる。

 その直後に、彼は異星人に牙を剥き、圧倒的な力で攻撃しにかかる。

 

「そうです、よね。カツミ君のことなら、きっと相手の宇宙船から本拠地に乗り込んでそのまま大ボスに喧嘩売って帰ってきてもおかしくないですもんね……」

「さ、さすがに“アレ”を相手にそれは無理だと思うが……まあ、どうやら立ち直れたようだな」

 

 立ち直れたかどうかは分からない。

 だけど、少しだけ希望が持てたかもしれない。

 すると、渡された端末に通信が入る。

 とりあえず社長に差し出すと、彼はやや表情を顰めながら応答する。

 

「なんだァ!! 今、辞めちゃったDr.白川の代わりにメンタルケアをしている最中だぞ!! 空気を読め!!」

「すごい大声じゃん……」

 

 なんだかすごく台無しな気分だ。

 だが、このアホっぽさが社長なんだ。

 しかし、スタッフさんからの連絡だろうか?

 社長の話が終わるのを待っていると、ふと、彼の表情が一変し焦りを孕んだものに変わる。

 

「……なに、追い返すな!! 今すぐその少女を彼がいた独房に案内しろ!! ああ、そうだ!!」

 

 通信を切った社長は酷く動揺していた様子だった。

 なにか起こったのか? そう思っていると、彼は私へと向き直る。

 

「すぐにイエローとブルーを呼べ!」

「え、ど、どうしてですか?」

 

 私の質問に、彼は動揺したまま答える。

 

「……彼の生存を知っている者が来た」

 


 

 私達が彼のいた独房へと足を運ぶと、そこには既に一人の少女がいた。

 アルファ、そう呼ばれていた黒髪の可愛い女の子。

 私達とそれほど年の変わらない少女は、ずずずー、とストローでジュースを飲みながら椅子ではなく彼の眠っていたベッドに座っていた。

 その場には既に思いつめた様子の社長が席に座っている。

 

「———カツミは生きている」

「確かか、アルファ」

「うん、確かにそれは感じる。多分……この地球に戻ってきていると思う」

 

 戻って来てるの……!?

 きららと葵と顔を見合わせた私達は、急いでテーブルの席につく。

 

「場所は分かるのか?」

「この日本の……いや、県内にいる。それ以上の詳しい場所は分からない。…でも、彼は確かに生きている」

「……ならば、どうしてここに戻ってこない? 囚われているのか? いや、県内にそのような施設は確認されていない……ならば病院か……?」

 

 とにかく、彼が生きていることが分かったんだ。

 その事実にひたすら安心しながら、私はベッドに座っている少女、アルファに話しかけてみることにする。

 

「あの、アルファちゃん……だよね?」

「なにかな、レッド」

「君はいったい、なんなのかな?」

「カツミのパートナー」

 

 ビキッ、というヒビが入る音。

 

「……私は、怪人オメガの番い、アルファの娘。アルファと名乗っているってことについては……まあ、そう本能づけられていたって感じかな」

 

 彼女は自分のことを話した。

 自身が、アルファと呼ばれた存在だということ。

 強い認識改変の能力を持っていること。

 今まで、ずっとカツミ君の傍にいたということ……って、うん?

 

「ずっと?」

「うん。ずっと」

「ここにいる時も?」

「ずっと」

「「「……」」」

「貴方達が私と同じように彼相手に四苦八苦している姿は面白かったよ」

 

 にこり、と煽るようにそう口にしてくるアルファに、再度ビキリという音が鳴る。

 それはきららと葵も同じように、笑みこそ浮かべているが、その目は全く笑ってはいなかった。

 

「お前ら座れぇ!! いいか! お前らが本気で暴れると、私が死ぬぞ!! 分かっているのかァ!!」

「なんでそんなに強気で言えるのあんた……?」

「弱さゆえの護身……」

 

 とりあえず気分を落ち着けながら席に腰を下ろす私達。

 額に浮かんだ汗を拭った社長は、こちらをチラチラと警戒しながらアルファへと視線を向ける。

 

「なぜ能力を使っていない」

「宇宙人にバレるかもしれないから。多分、相手は私の力を感知するなんらかの手段を持ってる。……いつも、カツミに守ってもらっていたから、大丈夫だったけど……彼がいない今は、私は無力なんだ」

 

 アルファの言葉に社長が納得した様子を見せる。

 

「確かに、ありえない話ではない。元より、空からやってくるものにはお前の能力が効きにくいものがあるからな。アルファやオメガの能力を無力化する術を持っていても不思議ではない」

「社長はこの子のことを知っていたんか?」

「ああ、私は宇宙人だからな」

 

 そうなんだ、宇宙人なんだぁ。

 ……。

 

「「「……え?」」」

「前から言っていたぞ。信じていないとは、まったく薄情な奴らだ」

「事実だよ。この変態、私の認識改変を一部だけ無効化してたから」

 

 い、いやいやいや……!

 アルファの言葉で事実だと確定するが、これまでの言葉で宇宙人だと思うはずがない。

 

「冗談だと思ってましたよ」

「虚言癖かと思うてました」

「言葉には重さが伴う」

 

「凄まじく失礼だな、お前ら」

 

 大きなため息をつく社長。

 宇宙人という存在に侵略を受けたからこそ信じられるが、まさか日常的に言っているジョークが本当だったとは……。

 それじゃあ社長は人間に力を貸してくれる宇宙人ってことなのかな?

 そうじゃなきゃスーツとか作ってくれないだろうし。

 

「私は、セイヴァーズとかいうふざけた連中とは別の、上の派閥に所属していた科学者だった」

「なんか語り出したで」

「……非道すぎる組織と、一番上のやつが武闘派で怖すぎて嫌になってコア持って逃げ出した!! 終わり!!」

 

 なんか長話しそうなところをきららの言葉に拗ねて、すぐに終わらせてしまった。

 簡潔すぎて分かりやすいけれど、後で詳しく聞かせてもらうべきかな……。

 ん? そういえば、アルファってどこかで見覚えが……。

 

「あ―――!?」

「なんだレッド! のど自慢なら他所でやれ!!」

「違うよ! アルファちゃん、私と会ったことあるでしょ!!」 

 

 そう言うと彼女は不思議そうに首を傾げる。

 

「私が黒騎士に助けられた時、なんか話しかけてたよね!」

「……あっ、もしかしてあの時の……」

「うん、そうそう」

「おもらししてた子?」

「ッ」

 

 別人の話だ。

 断じてそのような事実はないが、この社長ときららと葵はそう思わないだろう。

 無言で立ち上がる私の肩を社長ときららが押さえ込む。

 

「お、おおお落ち着けレッド!!」

「やめーや、アカネ。で、やってしもたんか?」

「まあ、無理もないよ……。今の話は忘れる」

「違うよ!? 事実無根だよ!? 窒息して死にかけたりはしたけど!!」

 

 ただでさえネットで散々な扱いされてるのに仲間内で変な気遣いされるとか耐えられない。

 一刻も早く誤解を解いてもらわなければ。

 

「窒息? あ……あの子か。君がレッドになっていたんだねー」

「ほ、ほら、別人だよ! ……おい、きらら、葵、なんで残念そうな顔をするんだ!」

 

 友達だよね私達!?

 

「認識改変を全て解いたのか?」

「いいや、多分その時の私は探し人が見つかって、警戒が緩んでいたんだろう。だから、アカネはすぐに私のことを思い出せた。過去に起こった改変は変えてはいないよ」

「変わった事変は自然に元に戻ることはない、か」

 

 ……凄まじい能力だな、とは思う。

 ようするにこの子が命じれば、その思考も行動も全てそれが当然だと思ってしまうようになってしまう。

 

「私は迂闊に能力を使うことができなくなった。だから、君達に保護を求めようと思うんだ」

「受けるしかないだろうな。君が捕まれば、まさしく人類は終わりだ。かといって君が死ねば、地球は用済みとなり、もっと酷いことが起きるかもしれないだろう」

 

 先日の侵略で奴らがアルファちゃんを狙っているのは分かっている。

 なら、彼女を攫うために同じようにやってきてもおかしくはない。

 

「ならば、我々のするべきことは決まったな! まずはカツミ君の捜索! お前達は次の戦いに備えて傷を癒し、訓練に励め!! そして、こぉの銀河級にすんごい最強無敵のてんっさい科学者の私はお前達とカツミ君のために新たな力を作り出す!!」

「「「はい!!」」」

「返事や良し!! ならば私はこの爆上げテンションMAXのまま研究室へ向かう!!」

 

 そう言い残して社長はそのまま独房から出ていこうとする。

 

「待って」

「ムッ、なんだ!」

「白川伯阿は、いないの?」

 

 その質問の意図が分からないのか社長は首を傾げつつ答える。

 

「社内のどんよりな空気に耐え切れずにやめてしまったよ」

「そう、なんだ……ああ、いや、それならいいんだ……」

「……? 話は終わりか! ならば、今度こそ私は行く!! お前達は親睦を深めるなり、キャットファイトでもなんでもしているがいい!! ヴェァーハッハッハッ!! カツミくんがあのパチモン戦士共を倒してくれたおかげでいい感じの無傷のエナジーコアが手に入ったからそちらも、お前らの装備に組み込むぞォ―――!!」

 

 カツミ君の無事が分かって、社長も元気を取り戻したのだろう。

 ああ見えて、私達と同じくらい心配していたんだろうし……。

 彼が、生きている。

 しかも、この世界にいて近くにいてくれるなら、見つけられるのは時間の問題だろう。

 

「彼が安心して戻ってこれるように、私達も頑張らなきゃね」

「うん、次に会うときは彼もジャスティスクルセイダーの一員やからな」

 

 このまま彼に頼り切りになるわけにはいかない。

 今度は私達がカツミ君を助けられるように強くなっていかなくちゃ。

 

『今なら、お前らの仲間に……追加戦士になってもいい、そう思えるんだ……』

 

 私達が彼と関わってきた時間は、記憶は無駄なんかじゃなかったんだ。

 共に過ごした時間もなにもかもが、全て彼の心に留まり、彼の心の扉を開かせた。

 

「友達、か」

 

 あの侵略者が来る前に彼が口にしようとしていた言葉は、私達はちゃんと覚えている。

 ……今度こそは、彼と本当の友達になりたいな。

 

「はやく、カツミに会いたいなぁ……もう、私のことを忘れさせずに一緒にいれるのに……」

 

 アルファも再会を待ち望んでいるようだ。

 いいや、ここにいる私達も、社長も、スタッフも、彼の無事を願う人々が待っている。

 彼の、地球を救ったヒーローの帰還を……。




アルファがジャスティスクルセイダーに合流しました。
彼の帰還をみんなが心待ちにしております。

次話 白川の視点となります。
すぐさま更新いたします。


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閑話 シグマ

連続投稿となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

今回は白川視点となります。


 私は作られた命だ。

 母から生まれたわけではない。

 年齢を重ねて成長したわけではない、人間でも怪人のどちらにもなれなかった異物だった。

 生まれた時は、どのような状況だったか。

 

『お前は、アルファではない』

 

『お前はアルファにはなれない』

 

『何者にもなれないクズだ』

 

『二度とその顔を見せるな』

 

 オメガ、そう呼ばれていた父が作り出した私は失敗作であった。

 アルファが生み出した娘。

 オメガが作り出した命である私。

 母と同じくアルファと名乗った彼女の力は、あらゆる生物に対して認識を変えさせてしまう恐ろしいもの。その気になれば人類さえも一瞬で滅ぼすことのできる能力。

 それを、父は自身の『命を操る』能力で作り出そうとしていたのだ。

 結果的に、一番の成功例は私だけだった。

 

『アルファに劣る失敗作、シグマ。それが貴様に相応しい名だ』

 

 最終決戦間際に生み出された私。

 利用もされず、頼りにされることもなく、ただ自身の父であるオメガがジャスティスクルセイダーと黒騎士に倒される光景を見ていることしかできなかった。

 

 本来は、父は無敵のはずであった。

 命の怪人。

 魂そのものを操ることのできる彼は、怪人だけではなく生者の魂すらも操ることができていたのだ。

 その気になれば、視界内の魂を抜き取り一瞬にして敵対者を殺すことができた。

 だが、そうしないのは―――彼らの中に、見えない協力者、アルファがいたからだ。

 

 父はアルファの存在を恐れていた。

 あの子が自身にとっての弱点であることを知っていたからだ。

 認識できていなければ、魂を掌握することもできない。

 見えなければ、能力も使えない。

 そうして、父は本来の力も発揮することを許されずに討たれた。

 

 正直、悲しいか悲しくないかで言われれば悲しい。

 能力で作り出された命だが、親には変わりない。

 だが、殺された復讐をしたいかでいえば……正直、それはずっと分からないでいた。

 

 ジャスティスクルセイダーを憎んでいるのか。

 黒騎士を憎んでいるのか。

 姉さんを憎んでいるのか。

 それが、自分でもよく理解できていなかったのだ。

 

『白川伯阿です。えーっと、医者です』

 

 まあ、怪人の要素を併せ持つ私は頭がよかった。

 知識はネットと図書館で学習し、ほぼほぼ習得。

 ついでに言えば、アルファの認識改変能力をほんのちょっぴりだけ持っていた私はそれを利用し、無意識での好感度、信用度を上げるように操作し、必要な書類も偽造し、ジャスティスクルセイダーの本拠地への潜入を可能とさせたのだ。

 それからの日々は私にとっても、奇妙に感じられた。

 人間の世界を学び、勉強しながらの日常。

 年相応の学生達のジャスティスクルセイダー。

 重い過去を背負いながら、人々を守るために活動していた黒騎士こと、穂村克己くん。

 なんか微塵も私を疑う素振りを見せない自称宇宙人……というより、本当に宇宙人っぽい変態社長。

 彼らと関わっていくうちに、自然と私自身も変えられていっているような……そんな錯覚に陥った。

 

「ねえー、かっつん」

 

 今、目の前にはベッドに寝かせられたまま眠っている穂村克己がいる。

 病院には連れていけない。

 なぜかそう思った私は、自分の能力を使い医療に用いる道具などを借り受け、彼に処置を施した。

 

「部屋まで借りることになっちゃったよー。君のせいで」

 

 マンションのそこそこ広めの部屋。

 未だ殺風景な部屋で、規則正しい寝息を立てている彼にため息をつく。

 彼のことはまだ本部には知らせていない。

 本当は知らせるべきだったんだけど、なぜか伝えたくないって気持ちになってしまった。

 まあ、私はもうあそことは関係ないから別に伝える義務もないんだろうけど……。

 

『ガオ』

「ん? あ、あいだだだ!? わ、分かった。包帯を変える時間だね……もう、乱暴だなぁ」

 

 ベッドに頬杖をついて彼の顔を眺めていると、ぴょんと頭に飛び乗ってきた手乗りメカオオカミが、私の頭に爪を立ててくる。

 このかっつんにしか懐かないいぬっころは本当に私に対する扱いが無礼すぎる……!!

 彼の身体に巻いた包帯を外しながら、傷の具合を確認する。

 

「治りかけてる。……君の力?」

『ガオ!』

 

 どうやらそのようだ。

 なにやら時折噛みついて、エネルギー的な何かを流しているからな。

 恐らく、治癒能力を促進させているのだろう。

 

「……。いったい、君は何と戦ったんだ……?」

 

 彼をあの雑木林で見つけて三日が過ぎた。

 だが、話に聞いていた以上にかっつんの身体には夥しいほどの青あざに打撲。

 それに、拳と思われる跡が刻み込まれていた。

 今は異常な速さで治りかけているが、彼を運んだ当初はもう大変だった。

 

「……」

 

 おもむろに彼の首に手を伸ばす。

 強く握りはせずにあくまで添えるだけ。

 父の仇。

 そう思いながら、軽く触れてから……苦笑しながら手を戻す。

 

「違うよなぁー」

 

 恨みはもうない。

 彼と関わって、彼を知った。

 それだけで私はもう許してしまっていた。

 

『グルル……』

「か、噛みつかないでね……?」

 

 目ざとく察知したオオカミくんが私を狙ってる……!?

 あと少し手を引っ込めるのが遅かったらその鉄の牙で食いちぎられていたかもしれないと考えると嫌な汗が流れる。

 

「———ん」

「!」

『!』

 

 彼が目覚めたようだ。

 椅子を頭側にずらして、彼が起き上がるのを待つ。

 すると薄っすらと目を開いた彼は、窓から差し込む明かりを手で遮りながら上半身を起こそうとする。

 慌てて彼の背を支えて起こし、調子を尋ねてみる。

 

「目が覚めたんだね。調子はどう?」

「……」

 

 私の顔を見てきょとんとした様子のかっつんは、首を傾げる。

 

「君は、誰だ?」

「……へ? え?」

 

 ……ははぁ、この前記憶喪失系の映画見たからそのネタを振っているんだね?

 

「ふふ、私は君の恋人さ」

「……ッ!? そう、か……すまない……」

「……あれ?」

 

 なんか思ってた反応と違う。

 ものすごく沈痛な面持ちを浮かべながら自己嫌悪に陥っているのだけど。

 

「俺は、誰なんだ……?」

「じょ、冗談きついよ。かっつん、笑えないよ……?」

「冗談じゃないんだ。……俺の名前はかっつんって名前なのか?」

 

 全てを忘れるタイプじゃなく、自分のことについて忘れる記憶喪失なのか?

 常識とかその辺は残っているようだし、どこまで常識が残っているのだろうか。 

 

「俺に、君みたいな恋人がいただなんて。それを……忘れてしまうなんて、俺はなんてやつなんだ……」

「じょ、冗談! じょーだんだよ!! 君の言葉が冗談だと思って、私も嘘をついたの!!」

「そ、そうか……」

 

 心なしか残念そうにするかっつん。

 なにムキになっているんだ私は……!

 こちとら生後半年の赤ちゃんだぞ。

 赤ちゃんに無理をさせるんじゃない……!!

 

「うぐ!?」

「ど、どうしたの?」

 

 突然自身の肩を抱きしめ震える彼に、駆け寄り背中を摩る。

 幼少期のトラウマが蘇ってしまったのか!?

 

「わ、分からない。なぜか青い肌の女性が身動きのできない俺に膝枕を……」

「そういう願望でもあるの……?」

「安心してしまった自分がいることが……怖い」

 

 安心しちゃったんだ。

 深層心理による願望ってやつかな?

 

「まさか、あれが俺の、母さん……?」

「絶対に違うから妄想に現実を見るのはやめようね? ……ほら、水でも飲んで落ち着いて」

「ありがとう……。喉も乾いていたし、すごくお腹も空いているんだ……」

 

 用意しておいたコップに水を注ぎ彼に差し出す。

 それを一気に飲んだ彼は、お腹を押さえる。

 当然だろう。

 一応、点滴こそはしていたが彼は食べ物らしい食べ物を口にしていなかったわけだからね。

 すると彼にメカオオカミがじゃれつくように飛び込む。

 

「わわっ、なんだこいつ、ははは、かわいいなぁ」

『クゥーン』

 

 こいつ、悪魔みたいに嫉妬深いのにかっつん相手には子犬のようなじゃれついて無邪気さを見せてくるんだけど。

 なんで家主の私がヒエラルキー最下層にいるわけ……?

 

「……君はいったい、誰なんだ? 恋人なのは冗談なんだろう……?」

「わ、私は……」

 

 なんて答えればいい?

 医者です? それとも一般人です?

 

「白川 伯阿」

「しらかわ はくあ……」

 

 この時点で嘘をついた。

 私はシグマ。

 アルファを模して造られた欠陥品。

 怪人にも人間にもなれない半端者。

 

「君は……。……ッ」

 

―――このまま、かっつんの記憶を戻してもいいのだろうか?

 

 彼は自身の命を懸けて宇宙船の母船を破壊するために乗り込んだ。

 彼の死生観は、この数カ月を経ても根本自体は全く変わっていないのだ。

 なら、その切っ掛けとなる記憶も、なにもかもを忘れている今なら、彼も普通の人間としての人生を送れるのではないか……?

 

「俺が、なに?」

 

 しかし、何を言えばいい?

 君は元々は黒騎士って呼ばれたスーパーヒーローとでもいえばいいのか?

 逆に信じてもらえないだろ、ソレ。

 返答を待つ彼と、彼の腕の中で目に怪しい光を放ち始めるメカオオカミ。

 なぜか、意味の分からないことで追い詰められた私は―――、

 

「君の、姉だよ……」

 

 ショートした頭のまま続きの言葉を口にした。

 ……。

 ねえ、何言ってんの私!?

 ねえ、何言ってんの私!?

 嘘の上塗りしてどうすんのさ!?

 むしろ私、生後半年の一歳未満だよ!?

 それなのになんで姉になろうとしているのぉ!?

 

「姉、さん? そうか……なんだかしっくりくるような気がする」

 

 なんで君はしっくりきちゃうのさ!?

 ねえ、刷り込まれないで……?

 最初に見た顔を親と認識しているみたいな目で私を見ないで……!

 

「姉さん、心配をかけてごめん」

「……」

「姉さん? どうかしたのか? ……顔が赤いけど……ハクア姉さん?」

 

 連続で姉さんと呼ばれなんだか不思議な感覚に陥る。

 なんだろう、この人生(半年)で味わったことのない感覚は。

 

「うん、気にしなくてもいいよぉ」

 

 生後半年の私、人生の岐路に立たされた結果、見事欲望に屈っする。

 私もアルファとして造られた身。

 どうしてもオメガを探してしまう本能にあったのかもしれない。

 ジャスティスクルセイダー。

 姉さん。

 すまん……ッ!! 彼を君達の下に帰せなくなりそうだ……!!




記憶喪失ルートとなります。
シグマちゃんが善意と欲望の間に苦悩することになるルートでもあります。

オメガ戦はアルファを味方につけないとムリゲーというやばさ。
地球産のアルファとオメガがどいつもこいつも化物すぎる……。


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閑話 事件後の反応(掲示板回)

最後の閑話となります。
掲示板回。


121:ヒーローと名無しさん

 

映像公開されたけど、とんでもねぇもんが出てきたな

レッド達の変身アイテムとドローンとかで撮ったやつかこれ?

 

加工とかされてるから。レッド達と黒騎士くんの姿は分からないけど……こんなことが起こってたんだな

 

122:ヒーローと名無しさん

 

怪人の次は宇宙人。

しかも滅茶苦茶侵略する気満々だったとかやべー

 

123:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん……

 

124:ヒーローと名無しさん

 

うっ……(´;д;`)

 

125:ヒーローと名無しさん

 

彼は地球を守って……

 

126:ヒーローと名無しさん

 

もう誰も黒騎士君のこと悪く言わないから、帰ってきてくれよ……。

 

127:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君の心はジャスティスクルセイダーが継いでいくから……。

 

128:ヒーローと名無しさん

 

お前らさ、一つ言っておくけどさ。

 

あの程度で黒騎士くんが死ぬと思ってんのか?

 

129:ヒーローと名無しさん

 

一瞬で目が覚めたわふざけんな。

そうだよ、死ぬはずないだろ。

あの黒騎士くんがだぞ。

 

130:ヒーローと名無しさん

 

たかがワームホールに吸い込まれたくらいで死ぬような生命体じゃないだろ。

 

131:ヒーローと名無しさん

 

形だけの黙とうは終わり終わり

 

132:ヒーローと名無しさん

 

この掌返しよ。

 

133:ヒーローと名無しさん

 

普段の行いが壮絶すぎるのが悪い。

 

134:ヒーローと名無しさん

 

今回の黒騎士くんのやったこと。

 

・プロトスーツ状態で侵略者共三体を一瞬で無効化

・内二体は完全破壊

・敵のチートにより強制変身解除されピンチに

・謎の変身アイテムを屈服させ変身

・侵略者をボコボコにし、巨大ロボットに単身乗り込み破壊し返り討ちにする。

・恐らくその後、敵本拠地に殴り込む

・まだ帰ってきてはいない

 

135:ヒーローと名無しさん

 

いつもの黒騎士くんじゃん(麻痺)

 

136:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーも頑張った。

ただ相手が舐めプしておいて、負けそうになったら変身解除させるやつだったのが悪い。

 

変身解除が卑怯なわけじゃない。

問題は、それを最初からやらずにゲーム感覚で戦っているのが最高にムカつく

 

137:ヒーローと名無しさん

 

むしろ黒騎士くんってどうやったら死ぬんですか?(無垢)

 

138:ヒーローと名無しさん

 

モザイクというか黒塗り表情だったけど黒騎士くん、やっぱり子供だった。

それで敵のなんか変な装置つけられて大変なことに……。

 

139:ヒーローと名無しさん

 

大変なこと(誇張無し)

 

140:ヒーローと名無しさん

 

強制変身からの暴走からの洗脳。

 

だと思っていた侵略者共の顔はお笑い種だったぜぇ……。

 

141:ヒーローと名無しさん

 

どう見ても宇宙人由来のアイテムが仮面ライダーの変身アイテムで草が生えますよ。

CSMかな?

地球人にプレゼントしてくれたのかな?

 

142:ヒーローと名無しさん

 

まさかプロトスーツちゃんが黒騎士くんを寝取られるとは。

心が躍るなぁ。

 

143:ヒーローと名無しさん

 

ダストドライバーちゃんとかいう、無機物ヒロインのライバルきたな。

 

144:ヒーローと名無しさん

 

既にダスドラちゃんの擬人化がイラスト化されている異常事態。

公表から一週間も経ってないんやぞ?

 

145:ヒーローと名無しさん

 

そりゃ創作意欲にハザードトリガーぶっこまれたらそうなるわ。

アンコントロールスイッチだわ。

 

146:ヒーローと名無しさん

 

あの異星人共が言っていたダストドライバーってさ、多分プロトスーツちゃんと同じタイプのやつだろ。

つけたらリスクしかない危険しかないやつ。

部分的にピー音入って詳しい部分は分からなかったけど、やつらはあれで黒騎士君を洗脳しようとしてたってことでいいんだよな?

 

147:ヒーローと名無しさん

 

これで私達は 本当の友になった。

(ノットリゴースト!)

 

148:ヒーローと名無しさん

 

エヴィバディ! ジャンプ!!

 

149:ヒーローと名無しさん

 

普通ならその場で暴れまわったり、催眠受けてジャスティスクルセイダーと殺し合う悲痛すぎる状況になるはずだった。

黒騎士君が普通の人間だったらの話だけど。

 

150:ヒーローと名無しさん

 

宇宙製のベルトをつけられた!!

なんか特になにもなかったし、完全適合して変身してやったぜ!!

 

どういうことなの……。

 

151:ヒーローと名無しさん

 

一瞬苦しんだけど、一瞬で適合して変身した黒騎士くんはマジでなんなんだろうな

無機物に好かれる波動かなんか出してるの?

 

152:ヒーローと名無しさん

 

実は宇宙人だって聞いてもむしろ納得する。

 

153:ヒーローと名無しさん

 

地球生まれの天然完全適合者だ。

覚えておけ

 

154:ヒーローと名無しさん

 

地球人全員が黒騎士くんだと思われる発言はやめろぉ!!

 

155:ヒーローと名無しさん

 

変身音と能力がやばすぎて草も生えん。

オールマイティってなんだよ……。

 

156:ヒーローと名無しさん

 

ダストスーツちゃん即落ちどころじゃない速度で堕ちてるのがもうやばすぎる。

あれ絶対 EAT KILL ALL して、異星人と周りの人間全員にDIE SET DOWNして、OH! YEAR!! だろ。

 

157:ヒーローと名無しさん

 

PERFECT!!(好き!!!)

 

気のせいかな、俺にはそう聞こえた。

 

158:ヒーローと名無しさん

 

実際、さっきまで侵略者共だったものがあたり一面にころがっていたからな

 

159:ヒーローと名無しさん

 

誰が聞いてもそうだろ

 

160:ヒーローと名無しさん

 

難攻不落のプロトスーツちゃんをメスガキにした黒騎士君だぞ。

異星人由来のスーツだろうが黒騎士くんにかかれば速攻で分からされるわ。

 

161:ヒーローと名無しさん

 

その通りだけど例えと字面が酷すぎるだろぉ!!

 

162:ヒーローと名無しさん

 

ダストスーツ名称からしてあれだわ。

使ったやつの命を駄目にするか、ごみ箱的な意味を籠めて、ダストって呼ばれているんだろうな。

多分、ふるい分けの道具か処刑用でもあったんじゃないの?

 

話しぶりからしても誰も装着できたことないから、同じように危ないプロトスーツちゃん装着してる黒騎士君で試したっぽい。

 

163:ヒーローと名無しさん

 

なんか意思もあったっぽいから、虎視眈々と牙を磨いていたのかもしれない。

ただお眼鏡に適う奴が今までいなかっただけで

 

164:ヒーローと名無しさん

 

あの侵略者バカなの?

普通に船連れ込んで洗脳すればいいものを勝手に強化アイテムくれるの。

 

サウザーなの?

 

165:ヒーローと名無しさん

 

もっと酷い

 

166:ヒーローと名無しさん

 

変身音途中で変えて、待機音声作り出すくらいだ。

あの侵略者共の困惑した様子からして、多分今までなかったやつだ。

 

167:ヒーローと名無しさん

 

もう祝え! って感じの荘厳な待機音からの最終感。

黒騎士くんは白騎士くんになってしまったんだよなぁ

 

168:ヒーローと名無しさん

 

すげぇ圧倒的に侵略者のリーダー格ボコボコにしてて逆にびっくりした

 

169:ヒーローと名無しさん

 

イキリエイリアンだろあいつ。

装備の性能に頼りっきりで戦闘経験とか皆無なやつ。

 

170:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんとジャスティスクルセイダーは現場で鍛え上げられた超ベテラン。

そもそも黒騎士くん状態でも普通に勝てた疑惑もある。

 

171:ヒーローと名無しさん

 

敵がとんでもねぇクソ野郎だってことあって胸がスカッとした。

なにがゲームじゃこっちは瞬瞬必生してんだぞボケェ

 

172:ヒーローと名無しさん

 

宇宙のハイエナ共だよ

宣言からして、怪人騒動に出遅れたやつら。

 

173:ヒーローと名無しさん

 

管理してやるとか何様だよ。

 

174:ヒーローと名無しさん

 

あの侵略者共って学者とかその道の人の見解によると、

怪人を使って蟲毒的なことをさせていた。

そこで、奴らが現れ戦い、勝てば栄誉となる。

それか強い生物を味方にし、戦力を増強させる。

 

で、支配した星の生物を隷属させていた……って話らしい。

 

175:ヒーローと名無しさん

 

プレデターから誇りを奪ったような奴らだな。

いっぱしの正義気取ってるのが腹立つ。

 

176:ヒーローと名無しさん

 

いや、プレデターさんも敬意は持ってくれるけど、基本オーバーテクノロジーで殺しにかかってくるし……。

あ、AVPシリーズのスカーくんとクリーナーさんは好きです(鋼鉄化)

 

177:ヒーローと名無しさん

>>174

加えて補足すると、

怪人騒動も全部侵略者が原因っぽい。

地球で怪人を育て成長しきったら、ゲーム開始。

 

まあ、そのゲームにはバグキャラがいたわけだが(愉悦)

 

178:ヒーローと名無しさん

 

傍から見ると本当に痛い奴らだよ。

しかも肝心の怪人は、部外者呼ばわりしてる人間のジャスティスクルセイダーと黒騎士くんに倒されているし、あいつら後からやってきて、イキリちらしているようなもんだ

 

179:ヒーローと名無しさん

 

長文多くなったな。

それだけ鬱憤が溜まる敵だったわけだが。

 

180:ヒーローと名無しさん

 

あれの何がふざけてるって色だと思うんよね私!!

姿だけ戦隊もののパチモンだ! よ!!

 

金銀紫青緑ってなんなんだよ!!

ふざけやがって、色くらいバランスとれよ!!

なんか、色のバランス考えないで「俺この色にしよーっと」的にそれぞれ好き勝手に色を選んだみたいな色は!!

 

でも白騎士くんはスーパーベストマッチだから許しちゃうぅ♡

 

181:ヒーローと名無しさん

 

しかも負けそうになったらあいつら強制変身解除してくるからな

それで黒騎士君もジャスティスクルセイダーも倒された

 

182:ヒーローと名無しさん

>>180

特撮姉貴コワイ……と、思ったら速攻で堕ちてて草

 

183:ヒーローと名無しさん

 

それが無かったらジャスティスクルセイダーだけでも勝ててただろうしな。

あの子達の最終兵器、えげつないってレベルじゃないし。

 

黒騎士くんなんて一瞬で二人破壊してたし、実力自体は大したことないと思う。

 

183:ヒーローと名無しさん

 

狩り気分で地球に来て負けそうになったらチート頼りだすとか、本当にふざけてる。

この星に住む私達の命すらもモブキャラとしか見てなかったよ、多分。

 

184:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーは一分も経たないうちに追い詰めていたし、普通に勝ててた

 

185:ヒーローと名無しさん

 

変身解除されれば黒騎士くんも中身はどうしようもなく人間だからな。

まあ、それも人間アピールみたいなものだったんですけどね!

 

186:ヒーローと名無しさん

 

アホな宇宙人がアホな自尊心で触れちゃいけない奴にアホなことして自分の首を絞めたのがあの結果よ。

 

187:ヒーローと名無しさん

 

負けイベかと思ったら強化イベとはたまげたなぁ。

 

188:ヒーローと名無しさん

 

パーフェクト!!

オール・オール・オール・オールマイティ!!

ジ・エネミーオブジャスティス……

トゥルースフォーム!!

 

完全に光に堕ちた変身音ですよ、くぉれは。

 

189:ヒーローと名無しさん

 

もう正義に対する殺意が隠しきれていない……。

 

190:ヒーローと名無しさん

 

正義の敵ってフレーズもジャスティスクルセイダーみたいな正義じゃなくて、正義を語る悪的な意味合いをかねているのも姿からして分かる。

なにせ、ジャスティスクルセイダーそれぞれの色がスーツに入っているんだもの。

 

191:ヒーローと名無しさん

 

レッド達が黒騎士くんを変えられたってことだもんな。

能力もレッド達の色になぞらえた力だったし……

 

192:ヒーローと名無しさん

 

4段階目はUNIVERSE。

市販の玩具の音声が正しければ、ジャスティスクルセイダーのを最後として扱っているんだよね……。

エモい……。

 

193:ヒーローと名無しさん

 

まさしく最強の友情フォームだったんだな

 

194:ヒーローと名無しさん

 

タイプレッド :エネルギーバリア、パワーアップ

タイプイエロー:スピードアップ

 

タイプブルー :ゲル化

 

……ねぇちょっと待って!?

一つ明らかにおかしいのが混ざってる!!

 

195:ヒーローと名無しさん

 

弾が全部奴の身体を突き抜けてしまうぞ!!?(絶望)

 

196:ヒーローと名無しさん

 

もう誰も勝てない(震え声)

 

197:ヒーローと名無しさん

 

もうあいつだけでいいんじゃないかな

 

198:ヒーローと名無しさん

 

ゲル化とか一番もらっちゃいけない能力だろ!!www

 

199:ヒーローと名無しさん

 

ただでさえ強いやつが、最強形態もらう。

だからお前、呉島主任かよ!!

カチドキもらう感覚でやべぇ形態になってんじゃねぇよぉ!

 

200:ヒーローと名無しさん

 

少なくともブルーはゲル化なんてしませんでしたよ……。

殺意しかないトラップつくったり、相手の急所とか偏差射撃で確定クリティカル狙ってくるくらいしかしてきませんよ?

 

201:ヒーローと名無しさん

 

ブルーなんだからスタープラチナみたいな精密機動性とかじゃないのかよ……。

 

202:ヒーローと名無しさん

 

こう見るとブルーも大概なんだよなぁ。

黒騎士君もそう言ってたし。

 

203:ヒーローと名無しさん

 

変身後はもうあれですよね。

ダストスーツが嬉々として力貸しまくってて草ですよ。

しっかりと使い方説明してくれるなんて忠犬すぎる。

 

204:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くん、パワー発揮する前から圧倒していたけどさらにぶっ壊しにかかってたな。

てか、白騎士くん絶対軟禁生活中にブロリーの戦闘スタイルと、ジョン・マクレーンの煽りスキルを入手してるわwww

 

205:ヒーローと名無しさん

 

「が、ああああああ!? うわああああああ!?」

 

あの悟空さですら聞いたことのない悲鳴上げた攻撃だもんなぁ……地面びたーん……。

 

206:ヒーローと名無しさん

 

マクレーン分かるわ。

煽りに磨きがかかってる。

 

207:ヒーローと名無しさん

 

「地球へようこそ!! 歓迎してやるよォ!!」

「ありがとよ。こんないいスーツくれて」

 

そのままイピ〇イエーって言いそう(小並感)

 

208:ヒーローと名無しさん

 

硬くて速くて無敵で強いやつを全部混ぜるのはおかしい

 

209:ヒーローと名無しさん

 

>>207

プロトスーツ「……(´;д;`) 」

 

210:ヒーローと名無しさん

 

いいとこどりしてるからな……。

ゲル化もおかしいけど、他二つも十分に強すぎる。

 

211:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君! プロトスーツちゃんは今泣いているんだぞ!!

いいぞ! もっとやれ!!

 

212:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん、早く帰ってきてほしいな。

 

213:ヒーローと名無しさん

 

表舞台に上がらなくてもいいから、戦いとは無縁な生活をしてほしい

 

214:ヒーローと名無しさん

 

異星人来なけりゃそうなっていただろうしなー

そう考えるともう戦ってほしくないわ

 

215:ヒーローと名無しさん

 

みんな、待ってる

 

 




別方向の信頼を勝ち取っている黒騎士くん改め白騎士くんでした。
生存は疑っていないが、心配はされている感じですね。

次回から、第2部開始となります。
私自身、書くのがとても楽しみです。


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第二部
記憶のない彼は


明日を待ち切れずに更新。

第二部開始となります。
第一話! って感じのイメージで書いてみました。


 どうやら俺は記憶喪失のようだ。

 過去の記憶はほとんどない。

 ただ常識とかはちゃんと身についているようで、なにをしてもいいか駄目かは理解できる。

 

「かっつん、お腹空いたー」

「ハクア姉さん。今できるから着替えなよ」

 

 居間からそんな声が聞こえてくる。

 白川克樹(しらかわかつき)

 それが俺の名前らしい。

 ハクア姉さんは事故で記憶を失った俺の手当てをしてくれた命の恩人で、近くの病院に勤務している看護師さん。

 記憶を失った俺の世話をしてくれた恩人であり、家族だ。

 

「ハクア姉さん。普段が三歳児みたいなんだから、朝くらいちゃんとしてくれよ」

「うぐ……ま、まあ、私一歳児未満だからね。しょうがないしょうがない」

「全然、しょうがなくないだろ」

 

 のそのそと着替えながら朝食が並べられたテーブルに移動する姉さんの近くに、布で包んだ弁当箱を置いておく。

 

「はい、お弁当。全部手作りってわけにはいかないけど」

「いいのいいの……中身はなに?」

 

 料理はこの一か月で覚えた。

 正直、まだうまくできているとは言えなくて、半分くらいは冷凍食品とかそのへんだ。

 記憶を失う前はあまり料理をしていなかったのかもしれないが、それは今から覚えていけばいい話だ。

 

「自信作、日の丸弁当だ」

「白米に梅しか入ってないじゃん!?」

「ははは、冗談だよ。ちゃんとしたやつだよ。さ、早く朝ごはん食べようぜ」

 

 俺も食べてバイトに行かなきゃならないし。

 姉さんに紹介されてなきゃ、このまま養われるだけだったからな。

 さすがにそれは嫌だったので、少し無理を言って働く許可をもらったのだ。

 ……なぜか働く場所を姉さんに指定されてしまったが、まあ、普通にいいところなので気にすることでもない。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさんでしたー」

 

 朝食を食べ終え、姉さんも俺もそれぞれ準備を始める。

 

「ねえ、かっつん」

「ん?」

「今、楽しい?」

 

 準備をしている俺に、突然そんなことを訊かれ首を傾げる。

 もしかして、記憶がない俺を気遣ってくれているのだろうか。

 それなら心配は無用だ。

 

「はは、変な姉さんだな。楽しいに決まっているよ。ま、記憶はないけどねっ!」

「……っ。う、うん、そうだよね。それなら……いいんだ……うん」

 

 一瞬、表情を陰らせる姉さん。

 ……早く、心配させないように記憶を戻さなくちゃな。

 そう決意して、鞄を持つ。

 

「じゃ、俺は先にバイトに行くから」

『ガァオっ!』

「おっと、お前を忘れてたな。シロ」

 

 持っているカバンに入りこんだのは、機械っぽい見た目の手乗り犬『シロ』。

 白いし何よりかわいい人懐っこい奴だ。

 だけど、こいつが普通のロボットじゃないのは分かっているので、人前には出ないように言っている。

 

「あ、い、いってらっしゃーい」

「いってきます」

 

 姉さんに返事をして扉から外に出る。

 俺が記憶喪失になってから三ヵ月。

 元あった記憶がなんだかは分からないが、きっと前の俺もそんな風に生きていたのだろう。

 


 

 俺がバイトしている場所は住んでいるマンションからそう遠くない場所にあるカフェであった。

 コーヒーとサンドイッチがおすすめというシンプルでオーソドックスな店ではあるが、ちょうどいいくらいにお客さんがやってくる場所でもあった。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二人です」

「二名様ですね。では、こちらの席へご案内します」

 

 来店した二人の女性をテーブル席に案内してから水を差しだしつつ、他の仕事をしつつお客さんからの注文を待つ。

 混雑しない程度に客が入るゆったりとした雰囲気の中、メニューを見ている女性客の声が聞こえてくる。

 

「黒騎士くん、まだ見つからないらしいね」

「中の子、高校生くらいの年齢って話でしょ? ……なんだか、かわいそう」

「今度、宇宙人が来たらどうするんだろう……」

 

 黒騎士、か。

 テーブルを拭く手を思わず止める。

 なんだか、俺が目覚める前にとんでもない事件が起きたらしいけど、それを止めたのが黒騎士という人物だったらしい。

 その事件に巻き込まれて記憶喪失になってしまったらしいけど、まあ、その黒騎士って人のせいじゃないから特別になにも思うことはない。

 他人事ではあるけど、ただ、生きているといいなとは思うな。

 

「すみませーん」

「はーい」

 

 どうやら呼ばれたようだ。

 お客さんの声に応え、そちらへ向かう。

 働かせてもらっている立場としてはしっかりと働かなくちゃ。

 

 

 

 昼間とは違い、客足がほとんどなくなる夕暮れ時。

 一通りの仕事を終えた俺は最後に食器を拭いていた。

 

「最初、お前を雇うのは反対だった」

 

 この店を経営するマスターが突然、そんなことを口にした。

 洗った食器を拭いていた俺はその手を止めて、換気扇の近くで煙草を吸っているマスターにジトーっとした視線を向ける。

 

「はっきり言いますか、普通」

「最初って言っただろ。目くじら立てるな」

 

 マスターというだけあって、清潔感のある黒を基調とした服を着ており、その頭にはバンダナを巻いている彼は、ふーっ、と白煙を吐く。

 

「なんかマスターってそれっぽいって思っているから煙草吸ってる感じですよね」

「バカ野郎。煙草だけじゃねぇぞ、コーヒーもこだわっている。そこそこ人気なんだからな」

「知ってますよ」

 

 彼の言葉に苦笑しつつ、手は休めない。

 

「……。白川姉が来た時のお前といったら、まるで姉離れできねぇ子供だったからな。少しでもふざけたこと言ったら、クビにしてやろうとも思っていた」

「記憶喪失で、不安だったんですよ」

 

 実際、外に出るのも怖いという気持ちもあった。

 誰かに会ってしまうのが怖い。

 もし、前の自分を知っている人がいたらなんて言われるのか。

 今の自分を否定されるのか。

 それが、なぜかすごく怖かったのだ。

 

「記憶喪失ねぇ……俺には想像もできんが、どんな感じなんだ?」

「うまくは言えませんが、なんというか……心にぽっかりと穴が空いている感じです」

 

 自分でもよく分かっていないが、とりあえず口にはしてみる。

 

「自分はなにかを思い出さなくちゃいけない。でもそれがなんなのか、なんで思い出せないのかが分からないんです。でもずっともやもやした気持ちがずっと、今でも続いている感じです」

「……辛いか?」

「いいえ、全然。ハクア姉さんと、マスターが気にかけてくれますからね」

「ハッ、ゴマすりがうまい記憶喪失者だな」

 

 俺の冗談に苦笑したマスターは携帯灰皿で煙草を消す。

 そのまま換気扇を回したまま、バーカウンターの椅子に座った彼は、こちらに話しかけてくる。

 

「今更、そんなやつがいるのは驚いたが……あれだな。過去の記憶のお前は過去でしかねぇってことだ」

「……はい?」

 

 思わず聞き返してしまう。

 

「お前はお前だろ。お前の名前はなんだ?」

「え?」

「いいから、答えろ」

 

 人差し指で肩を軽く突かれる。

 俺の名前。

 姉さんに教えてもらった、俺の、名前。

 

「白川、克樹(かつき)

「だろ? ならそれでいいじゃねーか。……無理して過去を思い出す必要なんてねぇだろ。お前はお前なんだからな」

 

 俺は、俺……か。

 それでいいな、と思う反面。

 姉さんの心配する表情が頭に思い浮かぶ。

 

「でも、いつまでもハクア姉さんに心配をかけるわけには……」

「そうか? 俺にはお前が記憶が蘇ることを……いや、なんでもねぇ。忘れろ」

「?」

 

 小声で何かを呟いた後、話を切り上げたマスターはそのまま立ち上がる。

 丁度俺も食器拭きが終わったので、その場から離れると、彼は腕をまくりながら冷蔵庫から食材を取り出し始めた。

 

「っし、まかない作ってやる。白川姉にも持って行ってやれ」

「え、いいんですか!?」

 

 ごはん作ってくれるんですか!?

 しかも姉さんの分まで……! ありがたい……!

 

「……すごい喜びようだな」

「はい! 食費カツカツなので!! ハクア姉さん、めっちゃ食べるんで!!」

「それ暗に給料上げろって言ってんのか? なあ?」

 

 賄いを作ってくれることに浮かれながら、席へと座る。

 働いてから約二カ月たつが、この職場はとても充実していると心の底から思えた。

 


 

「ハクア姉さん、喜ぶだろうなぁ」

 

 バイトが終わり、暗くなった道を歩く。

 周囲に人気はなく、街灯に照らされた夜道を歩きながら俺は、マスターに包んでもらった弁当箱を持ちながら姉さんの待つマンションへと続く道を歩いていた。

 

「俺は、俺か」

 

 マスターに言われた言葉を思い出す。

 たしかに、今生きているのは俺なんだ。

 前の記憶もないし、いつ目覚めるかも分からない。

 それなら、気にするだけ無駄かもしれない。

 

「……よっし、明日からも頑張るぞー!」

 

 俺は、とても恵まれている。

 家族思いの姉に、気遣ってくれるマスターもいる。

 今の日常に不安なんて一つもない。

 

「ん?」

 

 誰かが道の先にいる?

 壊れかけているのか、点滅を繰り返す街灯の下に女性がいることに気付く。

 よく目を凝らすと、深く被ったフードからは日本人離れした桃色に近い“淡い”髪が見えているが……コスプレイヤーさんかなにかだろうか?

 なんだか腕につけている金色の時計みたいなものもおかしい。

 

「———はぁい、探しましたよぉ」

 

 女性は俺を誰かと間違えたのか、こちらに手を振ってくる。

 人間違いかな?

 少なくとも俺の記憶では会ったことはないし、もしかすると記憶を失う前の俺を知る人かもしれない。

 

「ど、どなた……ですか?」

「……忘れた? 忘れたんですか? この私を? 全てを台無しにしておいて?」

「だ、台無し!?」

 

 も、ももももしや俺大変なことをこの人にしてしまったのか!?

 思わず動揺すると、くすくすと笑った女性はその頭にかぶっていたフードを外す。

 

「私ですよぉ、アクスちゃんですよぉ! ほらぁ、三ヵ月前に会ったぁ」

 

 フードの下の露わになった顔は、少し不気味だった。

 なんといえばいいか、生き物の顔というよりは人形じみていて、瞬き一つもしないのだ。

 顔だけは親しみやすい雰囲気をしているが、その目もそれ以外の雰囲気が危険な予感を抱かせる。

 

「あれれ? もしかして本当に記憶を失っているんですかぁ?」

「き、記憶喪失なんだ。ごめん、君のことは知らないんだ。よければ、君と何があったか―――」

 

 言葉を言い切る前に、俺の傍に何かが横切った。

 べちゃりとマスターが作ったまかないがいれられた弁当が真っ二つになり地面へと落ちる。

 

「許せません。許せませんねぇ……忘れた、ですってぇ? ふざけてますよねぇ……」

 

 女性の姿にノイズが走る。

 なんだ? なにかの手品か? まずい、なんだか分からないがまずい……!

 いつでも逃げられるように後ずさりしていると、俯いていたアクスと名乗った彼女が勢いよく顔を上げた。

 

「私をこんな目に遭わせて、なぁに普通に生きているんですかぁ!!」

 

 女性の姿にノイズがぼやけ、その内側が露わになる。

 顔の半分の皮がなく、その下には機械のようになっており、その腹部は様々な部品が無理やり詰め込まれたような姿に、俺の思考は一気に恐怖へと塗り替えられる。

 

「ホログラムが解けてしまいましたねぇ、でももうどうでもいい! 我慢できない!!」

「ひっ」

「殺す。殺してやるぅぅ」

『INVASION START!!』

 

 剥き出しの機械の目をギロリと向けた女性は、左手に取り付けられた時計のようなものに触れる。

 瞬間、その姿が変わり―――禍々しい装甲をつけた金色のスーツを纏う。

 その金色のスーツでさえ、ところどころ部品や歯車が突き出し、その目の部分もバイザーに覆われず機械の顔が俺に殺意を向ける。

 怪人。

 戦隊ヒーローのような面影はあるが、間違いなくそれは怪人であった。

 

「死ねええええ!!」

 

 金色の怪人の手からなにかが放たれる。

 それを前にして動けないでいると、俺のバッグから飛び出したシロがその全てを弾き、守ってくれた。

 

「し、シロ!」

『ガァオ!!』

「に、逃げるぞ!!」

「逃がしませんよォォ」

 

 急いでシロを抱えて走り出そうとすると、腕を掴まれる。

 万力のような力で腕を潰されそうになりながらも、俺の身体は反射的に動き出した。

 

「お、おおおお!!」

 

 膝を蹴りバランスを崩したところに、顔面に膝蹴りを入れる。

 腕から手が離れ、相手が呻いている間に、俺は急いでその場から走り出す。

 

「喧嘩なんてしたことないのにっ……クソ!」

 

 自分があんなに動けたことに驚きながら、逃げる。

 姉さんのいるマンションの方向には逃げられない。

 なら、公園なら人気もないし隠れる場所もあるはずだ。交番もその先にあるし、公園でやり過ごしてからそっちに逃げ込もう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

『クゥーン』

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 公園の遊具の中に逃げ込みながら呼吸を整える。

 かなり全力疾走で走ったけど、思ったよりも疲れてなくて逆にびっくりする。

 

「な、なんなんだよ、あの化物……まさか、あれが怪人なのか?」

 

 よりにもよってどうして俺を狙ってくるんだ。

 意味が分からない。

 

「どうして……」

――戦え

「ッ!?」

――戦え

 

 不意に幻聴が聞こえてくる。

 周りを見ても誰もいない。

 直接、俺の頭の中に響いてくる声に、恐怖を抱く。

 

「だ、誰……」

「見ーつけたぁ」

「ッ、あぐっ!?」

 

 遊具の入り口からそんな声が聞こえると同時に、胸倉を掴まれ公園の真ん中へと放り投げられる。

 地面に叩きつけられた痛みに呻いていると、俺の首に怪人の手がかけられ持ち上げられる。

 

「ぐ、うぁ……」

「記憶を失えばこんなもんですかぁ? やはり、下等な生物ですねえ!!」

『ガウ!!』

 

 首を絞められている俺を助けるべくシロが怪人に飛び掛かろうとするが、すぐに殴られ地面へと叩きつけられる。

 

「生体デバイスごときが、変身した私に勝てるとほぉんきで思っているんですかぁ?」

「シロ……!」

「貴方はこれからしぃっかりといたぶってやります、よ!!」

 

 無造作に投げ飛ばされ地面を転がる。

 このまま、死ぬなんて納得できるはずがない。

 朦朧とする視界に、俺に寄り添ってくれるシロの姿が見える。

 罅割れて、スパークすらしているのに俺を気遣ってくれている……。

 

「負けて、たまるか」

 

―――そうだ

 

 頭の中で、また声が響く。

 俺を後押しするように、煽るような声に従い立ち上がる。

 

―――戦え

 

「言われなくても、やって、やる」

 

―――叫べ

 

「戦ってやる!!」

 

 こちらに近づいてくる怪人に声を振り絞り叫ぶ。

 瞬間、シロがその声に反応し、雄叫びを上げる。

 その瞳が黄色く光ると俺の腰に黄色いベルトのようなものが巻かれ、跳躍と共に変形したシロが、その身体を変形させ俺の掌に収まる。

 

―――貴様は、それでいい

 

 手元に収まったシロを見て、怪人を見る。

 なぜか自分がこれからどうすればいいのかを理解できてしまう。

 だが、そんな疑問はどこかに消えた。

 

「……なにがなんだか、分からない。お前がどうして俺を狙うのか、殺そうとしているのかさえも!!」

「あはっ、今更そんなこと―――」

「だけど―――」

 

 変形しバックルとなったシロを軽く掲げ、その側面のスイッチを押す。

 同時に、罅割れたシロの表面が弾き飛ぶように吹き飛び、輝くような銀色の姿へと変わる。

 

「俺がするべきことは分かった!!」

『AWAKENING!!』

 

 その声と共に勢いよくバックルをベルトへと横から勢いよくはめ込む。

 瞬間、バックルを中心にして不思議なフィールドが形成される。

 

『DUST→→→LUPUS DRIVER!!!!』

 

 まるで元から手順を知っているかのように体が動き、軽快な動作でバックルの上を叩く。

 

「変身!!」

『FIGHT FOR RIGHT!!』

 

 瞬間、俺の身体の首から下を黒いスーツが覆い、フィールド内に白色のアーマーが形成される。

 それらは次々と身体に装着されていき、最後に頭を覆うように分解されたヘルメットが構築され、すっぽりと覆うことでその変身を完了させる。

 

『SAVE FORM!!! COMPLETE……』

 

 最後に、そう音声が鳴り響き変身が完了する。

 怪人の金色の光沢に映り込むのは―――白の仮面の戦士であった。




どう足掻いても戦う運命にあったカツキくんでした。
最初の敵は、ベガの仲間の金色戦士となります。

ダストドライバー改めルプスドライバーへと名前が変わりました。
ベガと戦った時のてんこもりフォームは、カツミがレッド達との絆があってこそ実現した姿なので、記憶を失った状態では扱うことができなくなっております。

カツキくんは、記憶がないことからプロトスーツ時代のような殴り一辺倒ではなく、それ以外の戦い方を使わされることになります。


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戦いの終わりとはじまり

記憶喪失後の初戦闘となります。
黒騎士くん時代とはかなり異なる戦い方になりそうですね。


『SAVE FORM!!! COMPLETE……』

 

 身体に力が溢れる。

 先ほどまで、怪我で痛んでいた体も今はなんともない。

 俺の姿に、恐れ慄く怪人アクスを目にしながら、まず抱いたのは驚きであった。

 

「な、なんだこれ! えぇ、姿が変わってる……! 角も三本ある!」

 

 両手で頭に触れながら自身の身体を確認する。

 黒を基調とさせたインナーに白いアーマーが外付けで装着された姿。

 バックルには変形したシロが嵌め込まれており、明らかに今の自分の姿が普通のものではなかった。

 

「こ、これなら、行ける!!」

 

 なにがなんだか分からないが、これなら戦える。

 そう言葉にすると、混乱していた怪人も我を取り戻したようで怒りに震えながらこちらへ殴りかかってくる。

 

「記憶がないくせに戦えるはずがないでしょ!!」

「ふんっ!!」

 

 軽くステップを踏み、拳を突き出す。

 相手の拳が到達する前に繰り出された一撃は、怪人の胸部に叩き込まれのけ反らせることに成功する。

 ———いける!

 

「テメェ、さっきまでよくも好き勝手にやってくれたなぁ!!」

 

 普段、絶対にしないであろう荒々しい言葉と共に、自然と動き出した両腕が怪人を連続で殴りつける。

 拳に伝わる鈍い衝撃。

 はじめて喧嘩もするのに。

 怪人という生き物か分からないなにかを殴っているはずなのに、俺はそれに慣れてしまっていた。

 

「……ッ!?」

 

 なんだ?

 なんでだ?

 俺は、戦い方を知っている。

 やみくもに拳を突き出したその時、不意に顔を上げた怪人が俺の手を掴んだ。

 

「なっ!?」

「弱くなりましたねぇ。その程度のパンチじゃ、私は倒せませんよぉ?」

 

 怪人の右腕の肘あたりからコードのようなものが伸び、電撃を帯びる。

 それを目にして嫌な予感を抱くが、時すでに遅く、それは勢いを伴って俺の身体に叩きつけられた。

 

「おおう!?」

 

 胸部の装甲から火花が散り、後ろへ吹き飛ばされる。

 地面を転がりながら、起き上がり胸のあたりを確認するが胸部が傷ついただけでなんともない。

 痛くはない。

 痛くはないのだが、俺の拳が効いてないのか!?

 

「ど、どうすれば……」

 

――そうではない。

 

「な、謎の声!?」

 

 また聞こえたのは謎の声。

 もう聞こえない幻聴とばかり思っていたが、もしかすると……。

 

「まさか、シロ!? お前なのか!?」

 

 返答はない。

 だが、いつも俺と一緒にいるのはシロだ。

 もしかすると、ピンチになった俺を助けるためにテレパシーを送ってくれているのかもしれない。

 全てに説明がついてしまうぜ……!

 

「なぁにを余所見しているんですかぁ?」

「は? え、えええ、なにその武器!?」

 

 奴がいつの間にか取り出したのは剣のようなチェーンソーのような武器。

 ぎゃりぎゃりと高速回転させながらそれを無造作に振るう怪人の攻撃を慌てて避けながら、苦し紛れの蹴りをその背中へと叩きつける。

 

「———がっ!?」

「え?」

 

 ビキ!! という部品が砕ける音と共に、怪人がその場から吹っ飛んだ。

 10メートルほど弧を描くように地面を飛んだ奴は、そのまま地面に叩きつけられ苦しみながら呻く。

 

――貴様の武器を知るんだ

 

「俺の、武器?」

 

 ……パンチより蹴りの方が強いのか?

 自身の足を軽く掲げてみると、なんだか右足だけデザインが少し違うように見える。

 脛や踵の部分に排気口のようなものがついているという変化だけだが。

 

『LUPUS DAGGER!!』

「……ん? だがぁ? おおお!?」

 

 バックルから音声が鳴り、手元に光が溢れる。

 それはなにか棒状のものを形作り、俺の手に収まる。

 

「これは……」

 

 普通のナイフよりも二回りほど大きいソレは、刃に当たる部分に縁を黄色いエネルギーのようなものが流れている。

 持ち手の部分は片手で取り回しがしやすい形状となっており、それは普通のナイフとは明らかに異なる武器であった。

 ルプスダガーって言っていたよな?

 まさか、これで戦えってことか?

 

「ハァァァ!!」

「わ、ちょ、ちょっと!?」

 

 いつの間にか復帰した怪人がチェーンソーを振り回す。

 慌ててそれを構えながら防御すると、ギャイン!! という音を立ててチェーンソーをはじき返し、その刃そのものを破壊してしまった。

 こちらの武器には、傷一つない上に刃に走る光はさらに強いものへと変わっていた。

 

「一撃で……!? なんですかその武器は!?」

「俺も知らないよ!! ……ッ!!」

 

 頭になにかが流れ込んでくる。

 これは、こいつの使い方? 戦い方?

 ベルトが、教えてくれるのか?

 

「ふざけてるんですか、あんたはぁぁ!!」

「……」

 

 一瞬で逆手に持ちかえたダガーを上に振るい、掴みかかろうとした右腕を斬り飛ばす。

 数秒ほど静寂が流れ、空に打ち上げられた右腕が地面に落ちた音で、怪人はようやく我に返り青色の液体を零しながら呆気にとられる。

 

「は? あ? がっ!?」

 

 さらに一歩踏み込み、斜めから一撃、切り返しに一撃。

 連続して繰り出されるダガーは特徴的な甲高い金属音と大きな火花を散らせ、怪人は痛みに悶えながら後ろへと倒れる。

 

「使い方が、分かった」

 

 これはこうやって使うものなんだな。

 ベルトから直接このダガーの使い方を学び、実践する。

 

――いいぞ 分かってきたじゃないか

 

「シロ……!」

 

 自分の戦い方はなんとなく理解できた。

 ダガーで近接攻撃を行い、蹴りで打撃を与えダメージを与える。

 自身のスペックを改めて、認識し深呼吸をした俺は、半狂乱になりながら立ち上がる怪人を見据える。

 

「あああああ!! 許さない許さない許さない!!」

「……」

 

 消え去った右腕の代わりにコードを伸ばし、武器にさせた怪人。

 このまま、なんらかの遠距離攻撃をしながらこちらへ突っ込んでくるのだろう。

 その正体は、恐らく肩に見えるキャノン砲のようなものだ。

 

「スゥー」

 

 思考を切り替え、感覚を鋭敏化させる。

 空気を切り裂き迫るエネルギー弾。

 それをダガーで斬り落とし、避けながら怪人を迎え撃つ。

 

――無駄を省け

 

 突き出される腕を避け、触手を手で軽くいなす。

 一歩だけ後ろに下がり距離を取り、相手の間合を把握する。

 

――感覚を研ぎ澄ませろ

 

 身体を軽くスウェーさせ掴みを避ける。

 ムキになる怪人の顔に軽く拳を叩きつけ視界を奪う。

 

――気勢を削げ

 

 すれ違いざまにダガーで脇腹を斬りつけ、返しの刃で肩のキャノン砲を破壊する。

 

――的確に攻撃を当てろ

 

 さらに回転するようにダガーを叩きつけ部品と火花が散り、怯んだところに勢いをつけた横蹴りを入れる。

 

――ふふ いい子だ

 

「が、ああ、ぁぁぁ……!? クソ、なんで、データでは常に優利なのに……!!」

 

 やはり蹴りの威力は拳よりも高いのか怪人は大きく後ろへ吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられ、呻きながらも立ち上がったやつはギリギリと機械音を鳴らしながら、なにか技を繰り出そうとしている。

 

「重力弾で圧し潰して、やる……!!」

「……!」

 

 ダガーを構えて迎え撃とうとすると、また頭になにかが流れ込んでくる。

 ———。

 これは、そうか!!

 そうすればいいんだな!! 

 

――仕上げだ

「ああ! これで、終わりにする!!」

 

 ナイフを投げ捨てバックルを操作する。

 上部のボタンを連続で三度叩き、必殺技を起動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 右足が赤い電撃に包まれ、排気口からは煙が噴き出す。

 力を解放し、一時的に全身に力が漲る。

 

「しねぇ!!」

 

 奴が攻撃を放つと同時に、右足の踏み込みと共に前方へと飛び出す。

 眼前には奴の放った漆黒色のエネルギー弾、しかしそれに対する恐怖はない。

 その全てを駆け抜け、回避し怪人の前へと迫り――、

 

「ふんッ!!」

「あぐぅ!!」

 

 その身体を空へと蹴り上げる。

 ここで爆発させれば何が起こるか分からない!!

 なら、空で!!

 

「行くぞ、シロ!!」

 

 全力のジャンプで奴の高さを上回り、キックの体勢へと移る。

 それと同時に右足と背面の装甲から白色のオーラが噴出し、急加速させながらその蹴りが怪人の胴体ど真ん中へと叩き込まれる。

 

「ハァァァァ!!」

 

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

「そ、そんな、また、わだじは――」

 

 とてつもない衝撃により、怪人の胴体のど真ん中をぶち抜く。

 その勢いのまま地面へ滑るように着地した次の瞬間、一瞬遅れて後方で大爆発が起きた。

 

「……ととっ」

 

 地面を削りながらようやく止まった俺は、後ろを振り向きながら怪人を倒したことを確認する。

 空中で起きた爆発の煙はまだ残っており、からからと部品などが落ちてきていた。

 あれは、倒してもよかった怪人なのだろうか?

 

「俺の過去を、知っていた感じだったな」

 

 詳しく聞きたかったけれど、こっちが殺されたんじゃたまらないけど……それでも手掛かりにはなるはずだった。

 とりあえず、変身を解こうと思いバックルに嵌め込まれたシロに触れてみる。

 すると、俺の考えを分かってくれたのかひとりでにバックルから外れてくれる。

 

「お?」

 

 身体を覆う白いアーマーが粒子へと変わり、次にアンダースーツが分解され元の服装に戻る。

 全裸にならなくて良かった、という地味な心配もなくなったところで、足元にいるシロを抱え上げる。

 

『ガウ!』

「ありがとな。シロ。俺がピンチの時も声をかけてくれてありがとう」

『? クゥーン! ガウ!!』

「はは、飛びつくなよ。ん?」

 

 不意に足元に何かが落ちてくるのが見える。

 光を放ったビー玉のようななにか、それを拾ってみると、何を思ったのか俺の腕の中にいたシロがそれに噛みつき、飲み込んでしまった。

 

「何やってんの!?」

『ガウ』

「いや、ガウ! じゃなくてそんな危ないもの食べたらだめでしょ! ほら、ぺっ、しなさい、ぺっ!!」

 

 ぶんぶんとシロを振り、吐き出させようとしていると、ふと、警察のサイレンのような音が近づいてきているのが聞こえる。

 それに伴い、周囲の建物がざわざわとしていることにも気付く。

 

「……やっば、さすがに騒ぎになっちゃったか! 帰るぞ、シロ!」

『ガウ!』

 

 こんな状況にいたらまずい。

 俺は記憶喪失だし、怪人と戦っていただなんて信じられるはずがない。

 それに、シロのことがバレれば離れ離れになってしまうかもしれない。

 実験などに使われたら最悪だ。

 


 

「よし、シロ。さっきのことはハクア姉さんには内緒だぞ?」

『ガウ』

 

 マンションの住んでいる部屋の前で、シロと目を合わせるように掲げた俺は自分に言い聞かせるように、シロに言い聞かせるように口にする。

 ハクア姉さんにはただでさえ心配をかけているんだ。

 俺が、死にかけたと知ったら、倒れてもおかしくない。

 それだけは絶対に避けなければ……!

 

「分かったら、頷いて」

『クゥン』

「よし、なら入ろう」

 

 互いに頷いた俺はシロをカバンに戻し、マンションの扉を開ける。

 

「ただいまー!」

 

 いつものようにやや大きめに声にすると、ぱたぱたと駆けだすような音と共に、姉さんが廊下へと飛び出してくる。

 

「かっつん……」

「ど、どうした? そんな顔して」

 

 なんかものすごく信じられないって顔をされているんだが。

 帰る時間もそこまで遅くなっていないし、心配される部分はないんだが……。

 そう思っていると、何を思ったのかこちらへ駆け寄ってきた姉さんが、俺に飛び掛かってきた。

 

「おわぁ!? ど、どうしたハクア姉さん!?」

「……ッッ……」

「時折ある、心細くなるアレ!?」

 

 不意に抱き着き、腕に力を籠めた姉さんに困惑するしかない。

 十秒ほどそうしていると、不意に姉さんが俺を見上げるように顔を上げた。

 

「ねえ! かっつん、今までどこにいた!?」

 

 姉さんはどこか必死な様子だ。

 とりあえず、嘘をついていない感じで言おう。

 あらかじめ言い訳は考えてある。

 

「え、ま、マスターのバイトから帰ってきたところだけど」

「本当に!? 嘘をついてないよね? 嘘ついたら怒るよ!!」

 

 すごいぷんぷん怒っているじゃん……。

 涙目にすらなっている姉さんに驚きながら、なにかあったのだろうと察する。

 

「……なにか、あったの?」

「……来て」

 

 姉さんに手を引かれ、リビングへと連れていかれる。

 やはりというべきかまだ夕食を食べていなかったようで、テーブルの上にはなにも置いていないようだ。

 その反対にソファーとテレビが置いてあり、そこには―――、

 

『新たなヒーロー出現!? 公園に登場した黒い影!!』

 

「……は?」

 

 そんなニュースの見出しと共に、どこかのマンションの上階からスマホかなにかで撮ったような映像が流れていた。

 呆気にとられた声を漏らす俺を、姉さんが鋭い目で見ていることに気付きつつ、流れてくる映像に目を向ける。

 

 

「ハァァァァ!!」

 

『BITING! CRASH!!』

 

 

 空に打ち上げられた怪人が、月明かりに照らされた仮面の戦士に打ち砕かれている光景に、俺はなんとも言えない顔になった。

 すっげぇ、音声も拾われてんじゃん……。

 てか、俺の声、微妙にノイズがかって聞こえているんだね……初めて知ったよ。

 変身した姿自体は月明かりとその影で鮮明にはなっていない。

 暗闇に映える黄色い複眼、身体に流れる白色のライン、それらが際立ち幻想的な姿をした戦士に、俺は思わずあんぐりと口を開けるしかなかった。

 

「え、なにあれ……」

「本当に知らないの……?」

「知らない……」

 

 撮られていたことなんて……。

 情報化社会って怖い……。

 今まで気にもしていなかったが、この時初めてそう思い知るのであった。




戦い方はスタイリッシュ気味に。
白騎士君は基本のルプスフォームはダガーと蹴り主体となります。
拳? もうステがほぼ極まっているので伸ばす必要はないと判断されました(誰に?)

正しく読み上げてくれるように、必殺技音声にふりがなを振ってみました。


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心を震わす衝動

昨日に引き続いての更新となります。
前話をご覧になっていない方はまずはそちらをー。

今後はフリガナをつける方向で行きます。
好評であれば、過去のものにもつけていきます。


月明かりバックとかOSRポイント高い これ黒騎士くんの可能性ある? シルエットだけじゃ分かんねぇwww

ゼロワンゼロワンゼロワン……(幻聴) 仮面ライダーやんけ!

エターナルのコスプレだろこれwww さあ、地獄を楽しみなぁ!

嫌いじゃないわ!! コスプレじゃ怪人は倒せないんだよなぁ

黒騎士くんじゃないだろ、だって頭使った戦い方してる 黄色い複眼と微妙に見える角がエターナル

知能あるから黒騎士くんじゃないな! おかえり!!

 

「むむむむ……」

 

 なんか見られてる。

 ものすっごい見られてる。

 パソコンとにらめっこをしていた姉さんが、おもむろに俺に訝しむような視線を向けてきている。

 どういうわけか知らないが、ものすごい視線を感じながら、前を向いた俺はソファーに座りテレビを見る。

 

「なんか大変なことになってるなー」

『ガウ』

 

 抱えたシロが呑気に一声鳴くが、テレビの方ではもう正体不明の戦士についてすごい話題になっていた。

 まさかあそこで撮られているとは思わなかった。

 幸い、鮮明な姿は映されていなかったけれど。

 

「ねえ、かっつん」

 

 すると、今度は隣にまで移動してきてソファーに座ってくる。

 今日は俺も姉さんも仕事が休みなのだが、今日に限っては気まずい雰囲気が部屋を支配していた。

 

「本当に、昨日はどこにも寄り道してないよね?」

「いやいや、してないよ」

 

 あぁ、でもマスターのまかないがなぁ。

 弁当箱ごと壊されちゃったのが申し訳なかった。

 帰りに処理はしておいたけど、後で弁当箱を弁償していかなきゃ。

 

「じゃあ、どうしてシロがこんな綺麗になってるの?」

「え、なんか脱皮した」

「脱皮!? するの!?」

「うん」

『ガウ!』

 

 脱皮なのだろう。

 罅割れていたけど、なんかはじけ飛んで綺麗になったし。

 

「姉さんは昨日からどうしたの? なにか気になることもあったの?」

「んふ!? ど、どどどどうしてそう思うのかなー?」

「いや、その反応だよ。推理披露された犯人よりも動揺してるじゃん」

 

 近くの公園で起こった事件だし心配になるのは無理もない。

 俺にとって唯一の家族が姉さんであると同時に、姉さんにとっての唯一の家族は俺みたいなものだからな。

 自分のことばかり考えずに、ちゃんと考えておかねばならない。

 

「……休みだし、街に買い物でもいく?」

「え? なんでかな?」

「いや、気分転換にって。嫌なら別にいいんだけど」

 

 俺の突然の提案に姉さんは少し思い悩むように腕を組む。

 数秒ほど悩んだところで、彼女は顔を上げる。

 

「よし、行こう」

「ほぼ悩んでなかったよな」

 

 どうやら行くようだ。

 今は午前九時半頃か。なら、街に着くころには店が開いているかな。

 


 

「ハクア姉さん、なんで俺だけ眼鏡やら帽子を被らなきゃいけないんだ?」

 

 宣言通りに姉さんと一緒に街に向かうことになった。

 当然、肩にかけるタイプのバッグにはシロも一緒にいる。

 しかし、毎回思うことだがなぜか街に行くときは俺は、伊達メガネと帽子を被らされる。

 帽子のつばに触れながらそう訊いてみると、こちらに振り返った姉さんは答えてくれる。

 

「外に行くならそっちの方がかっこいいかなーって」

「そ、そうかなぁ?」

「うんうん。……バレないようにしなくちゃなぁ……」

 

 少し照れていると、ふと道の先にひとだかりができていることに気付く。

 あ、この先は昨日戦った公園がある場所か。

 しまったな、駅に行くにはあそこを通らなきゃいけなきゃいけないのを忘れていたぞ。

 

「なんか封鎖されてるね」

「多分、怪人の残骸とかを処理しているんじゃないかな? 勝手に持ち出して問題にならないように」

「すごい。よく知ってるな、さすがハクア姉さん」

「え、う、うん。えへへ……」

 

 公園の周りにはテープと立ち入り禁止という看板が立っている。

 今日は日曜なので、ここで遊ぶ子供たちには申し訳ないことをしてしまったな……。

 

「ッ!?」

「おわっ、またか。ハクア姉さん」

 

 そんなことを考えていると、なにを思ったのか姉さんが腕に飛びついてくる。

 やや引っ張るように移動しはじめた彼女に驚く。

 

「ちょ、ど、どうしたの……」

「い、いやぁ、ちょっと人通りが多いから早く移動しようかなって」

「まあ、確かに多いけど……ん?」

 

 困惑しながら周りを見ていると、人混みから少し離れたところに三人の少女がいることに気付く。

 俺達と同じ年頃の女の子は、誰かを探しているのかしきりに周囲をきょろきょろと探している。

 

「あの声は、絶対に彼だ。私には分かる」

「どこなの……どこ……? ここ……?」

「この理系ダウジングで……周囲30メートル以内に反応!?」

 

 なんだあのやべー子たち。

 ものすごく剣呑な目をしながら、周りをきょろきょろしてる。

 スパイ映画で、主人公を血眼で探す人達みたいだ……。

 

「は、はやく行こっ!」

「あ、ああ」

 

 姉さんに手を引かれながらその場を離れる。

 ……どこかで、会ったことがあるような気がするなぁ。

 

 

 街へは電車で10分ほどで到着した。

 今日が日曜なこともあって、街は多くの人で賑わっていた。

 駅から出て、街中を歩きながら最初にどこに行くか姉さんに尋ねてみる。

 

「最初にどこに行く?」

「うーん、そこらへんはよく考えてなかったなー。別に服が欲しいわけじゃないし。家具とか見に行く?」

「あ、いいね。そのついでに弁当箱買ってもいいかな?」

「いいけど、どうしたの? 無くしたの?」

 

 マスターからもらった弁当箱を駄目にしてしまったことを説明する。

 

「マスターのまかないを道中駄目にしたの!?」

「あははー、うん。そう」

「昨日の怪しい返答は私にそれを隠すためだったのかー! このー! 食べ物の恨みは恐ろしーぞー!」

 

 ぽかぽかと背中を殴りつけてくる姉さんに苦笑しつつ、そのまま移動を開始する。

 それから、家具専門店に入って一通り家具を見に行ったり、そのついでにマスターへ弁償する大きめの弁当箱を買う。

 まあ、家具に関しては中々に値段が張るのでその場で買うということはなかったが、そこそこ楽しかった。

 

「次は電気屋でも行く?」

「その前に早めにご飯食べちゃわない? お昼時は混むだろうし」

「それもそうだね。……うん? かっつん、鞄にいるシロがなんか自己主張してる」

 

 ホントだ。

 カバンの口を開けるとひょこ! とシロが顔を出し、頭である方向を指し示す。

 そちらを見ると大き目な店があり、そこにはバイクなどが展示されているのが見えた。

 

「ん? バイクが見たいのか?」

『ガウ!』

「同じロボットだから興味があるのかな?」

 

 こくり、バッグの中で頷くシロ。

 さすがにあれは買えないけど、見るだけなら大丈夫そうだな。

 

「かっつん、免許持ってないよね?」

「当たり前だろ。記憶喪失だぞ」

「自信満々で言うことじゃないよね」

 

 でもシロが見たいっていうならな。

 もしかしたら将来的に乗るかもしれないし、男心に興味がないわけじゃない。

 シロが外を見れるようにバッグの口を少し開けて店へと入る。

 一風違った空気のある店内に呑まれそうになりながら、展示されているバイクを眺めていく。

 

「やべぇ高い」

「非売品もあるみたいだし、すごいお店に入っちゃったね」

 

 どれも軽く何百万もするやつだ。

 ま、まあ、どうせ俺は買わないし?

 冷やかしにきただけだから?

 

『ガオ!』

「ん? ここか?」

 

 すると、鞄の中にいるシロが、小さく一鳴きする。

 その声に足を止めると、俺の前には一台のバイクが置かれていた。

 

「CBR1000RR……? おお、かっこいい……」

「見た目がシャープだねー」

 

 黒と流線型のボディ。

 まさにライダーとバイクの一体化を突き詰めたシンプルかつ大胆なデザインに目を奪われる。

 これも非売品。

 展示用のバイクってことか。

 

『ガウ』

 

 ひょこり、とカバンから小さな頭を出したシロが、黄色い目からなにかを放出する。

 それは、バイクの下から上までをスキャンすると、もう用はなくなったとばかりにカバンの奥へと引っ込んだ。

 

「シロ、今、なにかスキャンしなかった?」

『ガーゥ』

「……まあ、いっか」

 

 別に盗むとかしてないし大丈夫だろう。

 ……大丈夫だよな? なにか影響を与えることしてないよな?

 ちょっとだけ不安になりながら、姉さんと一緒に一通りバイクを見てから店を出る。

 

「結局、見てみたいだけだったのかな?」

「分からない。まあ、シロは結構大人びた一面あるからね」

「……そうなの?」

「ああ」

 

 戦いの最中に凛々しい声でアドバイスしてきてくれるし。

 普段がのんびりしているし、今は鞄の中でお腹を上にして眠っているけど、年齢的には年上には思える。

 

「さあ、お腹空いてきたな」

「そうだねー。なに食べる?」

 

 たくさんの人で溢れた道を歩く。

 家族連れ、カップル、友達同士などなど、多くの笑顔で溢れている。

 その光景を見て、なぜか無性に嬉しくなる。

 俺はここまで感傷深い性格だったか? と思う一方で、その感情を受け入れる。

 

「———ッ」

 

 しかし、その時不意に頭の中に音が鳴る。

 リィィン、という鈴の鳴るような音。

 耳鳴りではない、頭に直接語り掛けてくるようなソレに思わず顔を顰める。

 

「かっつん、どうしたの?」

「いや、頭になにか音が……」

 

――来たぞ

 

「ッ!?」

 

 シロの声が頭に響く。

 カバンを見れば、ちょうどシロがその口から顔を出していた。

 それと同時に、俺達からそう遠くはなれていない場所に光の柱が落ちる。

 

「な、なんだ……!?」

「あれは、もしかして……」

 

 光の柱の先は見えない。

 だが、その光が収まると、そちらにいた人達は恐怖の叫び声を挙げながら一様にして逆方向へ―――俺と姉さんのいる方向へと逃げ出していく。

 俺達も逃げようとしたが、それよりも早く人の波が俺と姉さんへとぶつかり、離れ離れになってしまう。

 

「かっつん!?」

「ハクア姉さん! ッ、駅前で!!」

 

 せめて合流する場所を口にしながら、人の波に呑まれる。

 音が収まらない。

 それどころか、ずっと強くなっている。

 

――やるべきことは、分かっているはずだ

「俺に、戦えっていうのか……!」

 

 昨日みたいに!?

 命を懸けて、やれっていうのか!?

 独り言に近い言葉を口にしながら、通りの端の壁に押しやられると、少しの沈黙の後に再び声を投げかけられる。

 

――貴様以外に 誰が戦える?

 

「……ッ、でも、怖いんだ……」

 

 昨日みたいに戦わなければならないのか?

 命をかけて? 昨日はそうするしかなかったが、今は無理だ。

 

――戦うのではなく 守れ

 

「え?」

 

――怖いだろう。恐ろしいだろう

――だが、それでも……

 

 顔を上げ、光が落ちた先を見る。

 人の波の先にいるのは、長身の人ではないなにか。

 異形の姿をしたそいつは、機械と生物を合体させたような奇怪な姿をしており、正体不明な言語を吐き出しながらその手に持った大剣を振り回している。

 

――家族が 大切なのだろう?

 

 手に力が籠る。

 

――何も失いたくないのだろう?

 

 震えた足で立ち上がる。

 

――ならば立ち上がれ

――貴様にしか できないことだ

 

「……ああ、その通りだ」

 

 ここで尻込みなんかしていられない。

 あれは敵だ。

 頭に訴えかける音が、本能がそう伝えている。

 

「シロ、行くぞ」

『ガオ!!』

 

 カバンから飛び出したシロを掴み、バックルへと変形させ人混みへと入る。

 光と共に腰にベルトが巻き付かれながら、真っすぐ人の波に逆らい、進んでいく。

 すれ違う人全員が、俺の顔を見ている場合じゃない。

 それ以上に、あの、この先にいる何かが恐ろしいんだ。

 

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 バックルを差し込み、獣の唸り声と音楽を合わせた待機音が鳴り響く。

 軽く深呼吸をした後に、俺はバックルを叩く。

 

「変身……!」

FIGHT(ファイト) FOR(フォァ) RIGHT(ライト)!!』

 

 俺の身体が光に包まれたことで周囲の人も異変に気付き、その足を止める。

 その時には既に俺の顔、全身は黒のアンダースーツに包まれ、空間に形成された白いアーマーが連続して装着されていく。

 

SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 変身を完了させ、光の柱が落ちた場所へと辿り着く。

 周囲で逃げ惑うだけだった人々はその足を止め、呆然となにかを呟いている。

 

「もしかして……」

「嘘……」

「来てくれた……!」

 

 その声を気にしている余裕のない俺の視線の先には、大きな生物的な意匠をこらした剣を持つ角の生えた怪人がそこにいた。

 サイボーグと言うべきか、身体の半分を機械で構成されたそいつは、俺を見るなりその頬を歪に歪めた。

 

OMAEWO KOROSEBA JYORETUGA AGARU

 

 何を言っているか理解できない。

 ただ、その剣の切っ先を向けてきていることから、敵なのは理解できた。

 

「早く、逃げてください」

「え?」

「ここは俺に任せて、皆さんは逃げてください」

 

 静かな俺の言葉にざわつきを見せる人々。

 そりゃ呆然とするよな、と自嘲気味に笑いながら俺は空気を大きく吸って後ろに振り向きながら叫ぶ。

 

「早くッッ!!」

 

 その大声に我に返った何人かがその場にいる人々に逃げるように促す。

 後ろが動き出したことを音で確認した俺は、目の前のサイボーグ怪人と戦う決意を固めながら前へと歩み出す。

 

「シロ、武器」

『LUPUS DAGGER!!』

 

 手にダガーを握りしめる。

 サイボーグ怪人は、肩に大剣を担ぎながらこちらでも分かるような笑みを浮かべる。

 

seisyoujyoretu458i arugosu zakaru da

 

 名乗りでも上げたのだろうか。

 だが、地球の言葉とすら思えない言葉は、俺には届かない。

 

nanda yowasoudana omae

「誰も殺させない」

hagotaega aruto iina

「俺が、お前を倒す」

 

 この俺の出せる力を以て。

 瞬間、前触れもなく怪人の振るった大剣が迫る。

 それを最小限の挙動で避け、逆手に握りしめたダガーをその腹部へ突き刺す。

 

「ッ!?」

「……」

 

 戻した大剣の横薙ぎをダガーを盾にさせ、後ろに跳びながら受け止める。

 衝撃を緩和しているのに通る衝撃に驚きつつ、後転しながら立ち上がり、再度突撃を試みる。

 

hun!!」

 

 再度、横薙ぎに振るわれる大剣。

 侮られているのか? その場で軽く跳躍し、大剣の刃を足場にして奴の頭上を越えて跳躍した俺は、そのまま奴の首の後ろにダガーで斬りつける。

 

gaaaa!?」

 

 動きを最小限に。

 最短距離で相手に攻撃を届かせる。

 首を押さえ、半狂乱になり剣を振り回す奴の姿をみて頭の中で相手の挙動を記憶し、間合を把握する。

 

「……」

raaa!」

 

 腕の力はこちらが下、体格差もある。

 だけど、こっちの方が小さく小回りも利く!

 懐に入りこみ足を切り裂き、バランスを崩させ、今度は空いた脇腹に深くダガーを突き刺し、そのまま連続で三度ほど突き刺す。

 どうやら生身の部分ではなく機械だったようで独特のスパーク音を響かせる。

 相手の膝を蹴り砕きながら、相手の生身がどれほどかを観察する。

 

ooooo!!」

 

 すると、奴が機械に包まれた腕をこちらに向けようとする。

 ジャギン! となんらかの筒状の兵器へと変形する腕を目視してから、踏み込みと共に側面からダガーを突き刺す。

 

「その腕もなにか仕掛けがあるな?」

「!?」

 

 突き刺したまま、肩の部分までを切り裂く。

 さらに近距離からの回し蹴りを叩き込み、サイボーグ怪人の巨躯を後ろへと蹴り飛ばす。

 めぎぃ、という音と共に、きりもみ回転しながら成すすべなく地面へ叩きつけられる怪人に、軽く息を吐きだす。

 

「……思ったより、戦えているな」

 

 やはり昨日のアドバイスが効いているのだろう。

 でなくちゃ、俺がこんなに戦えているはずがないからな。

 

「よし、止めだ」

 

 バックルに手を当て必殺技を発動させようとしたその時、起き上がったサイボーグ怪人の胸の部分がぱかり、と開く。

 その中から覗いたのは、九つの円筒型の何か。

 それがミサイルだと理解した直後に、奴は激怒の表情のまま無造作にそれを放った。

 

「ッ、こんなもの!」

 

 誘導式ではないのか、迫る三つのミサイルを切り裂き無効化させる。

 これで終わり――、そう思った直後に俺のいる場所の近くから子供の泣き声と、他のミサイルの音を捉える。

 そちらを見れば、電柱の影に隠れて泣いている男の子と、そこへ落ちようとするミサイルが――、

 

「———ッ!」

 

 考えるよりも先にその場を飛び出し、男の子を庇うようにミサイルに背中を向ける。

 背中に走る衝撃と轟音。

 それを歯を食いしばりながら受け止めた俺は、視界で怯えている男の子に声をかける。

 

「……大丈夫?」

「……う、うん! ぁ、ありがとう!!」

 

 こくり、と頷く男の子の頭を撫で立ち上がる。

 背中への衝撃は少なくない。

 じわりとした痛みが広がるが、血は出ていないはず。

 

「……」

 

 振り向いた先には、なんとか立ち上がろうとしているサイボーグ怪人の姿。

 その目は恐怖に怯えてはいるが、未だにその手に持っている大剣からは手を離そうとはしていない。

 

ko konnatokorode owareruka!!」

「なにしにここに来たのか、分からないが!!」

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 必殺技を発動させ、右手に持ちかえたダガーを構える。

 バックルから右手のダガーへとエネルギーが流れ込み、刃の黄色の光が赤い光を放ち始める。

 

aa aaaa!?」

 

 苦し紛れに放たれるエネルギー弾を全てダガーで切り裂く。

 赤い電撃が迸り、さらに切れ味と威力を増したダガーを強く握りしめ――、

 

「ここには、俺がいる!!」

BITING(バァイティング)! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 そのままサイボーグ怪人の胴体を切り裂き、両断させる。

 一瞬の静寂の後に、断末魔もなく爆発を引き起こす奴の姿を確認する。

 

「か、帰ってきたんだ!」

「黒騎士くん!!」

「ありがとう!!」

 

「!?」

 

 すると、建物にいた逃げ遅れた人達が一斉に喜びの声を上げる。

 それはいい。

 それはいいのだが、誰が黒騎士だって?

 

「お、俺は黒騎士って名前じゃない!? 誰かと勘違いしているんじゃないのか!?」

 

「そんなこと言うあたり黒騎士くんじゃん!」

「ひねくれ具合と反応が同じ!」

 

 どういう認識されているんだ黒騎士って。

 俺は素直だから全然当てはまらないし、そもそも違う。

 この状況に困っていると、不意に空に大きな影が横切るのが見える。

 それは、大きなヘリコプターに似た乗り物であり、側面にジャスティスなんちゃらとかいう三色のロゴマークが貼られている。

 

「な、なんだかよく分からないけど、逃げよう!!」

 

 予想より大事になってきたので全力で逃走する。

 人々を守る決意を固めたはいいが、自分の正体がバレていいとは思っていない。

 なので俺はここらでドロンさせていただく!!

 

「待って!! 貴方に話が―――」

 

 上のヘリコプターからそんな声が聞こえたが、俺はそれを無視してその場からの逃走を図るのであった。

 まずは変身を解いて、姉さんと合流しなくちゃな!!

 


 

 変身を解くのに一時間くらい時間がかかった。

 もうどこに行っても見つかるし、逃げられないから一か八か変身を解いた後野次馬に扮することで、なんとか逃走に成功した俺は、そのまま急いでハクア姉さんとの合流場所に決めていた駅へと辿り着く。

 人で溢れたそこを懸命に探していると、街案内の看板の近くで体育座りをして座っている姉さんの姿を発見する。

 特徴的な白い髪ですぐに分かった俺は、急いで彼女に駆け寄る。

 

「姉さん!」

「か、かっつん……」

 

 俺の顔を見て安心したような表情になった彼女は、すぐにその表情を曇らせる。

 

「大丈夫、だった?」

「な、なんとかね。姉さんは怪我とかしてないよな?」

「怪我は、してない。あの後すぐに人混みから抜け出せたから」

「そっか、よかった……」

 

 心底安堵する俺に姉さんは何か言いたげな様子を見せる。

 きっと、怖い体験だったはずだ。

 俺とは違って、姉さんにとってああいう存在を間近で見るのは初めてだから怖くなってもしょうがない。

 

「ハクア姉さん、その……」

「ううん、帰ろう。私、疲れちゃった」

「……そうだね。帰りに夕飯の食材でも買っていこうか」

 

 ぎこちなく笑った姉さんは、俺の言葉に頷いてくれる。

 人で溢れかえる駅を歩く。

 周囲は妙な熱気に包まれてはいるが、この場を去る俺達にとっては関係のないことだ。

 

「やっぱり、駄目……なのかな」

「ん?」

「ううん、なんでもない」

 

 思いつめた様子の姉さん。

 そんな彼女を横目に見ながら、俺は迷う。

 俺は、昨日と今日、命がけの戦いを行った。

 一つ間違えば、自分の周りも命を落としかけない戦いだ。

 

「……明かす、べきか」

 

 いつまでも隠し通していられることじゃない。

 なら、姉さんが気付く前に俺から明かすべきだな。 

 




躊躇する主人公を叱咤する謎の声。
戦いのアドバイスもしてくれるし、まるでエボルトみたいだぁ頼れるお師匠さんですね。

今回現れたサイボーグ怪人の名前はアルゴス・ザカルさん。
強さ的にはベガよりも弱い宇宙人で、星将序列は458位となります。


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揺れ動く方面

【前話の侵略者言語について】
範囲選択して右クリック→……し、知ってた(震え声)

指摘がありましたのでタグを追加させていただきました。
・戦隊ヒーロー
・仮面ライダー

今回は二部構成
前半は、ハクア視点。
後半は、レッド視点となります。


 かっつんと私は宇宙からの侵略者による騒ぎに巻き込まれた。

 逃げ惑う民衆の波に呑み込まれ、離れ離れになってしまったけれど、そのすぐ後に『白騎士』が出た、という大きな誰かの声が響いた。

 

「うっそ、来てるの!?」

「やっぱ、昨日のあれがそうだよ!」

「なんで白くなってんのか分からないが、黒騎士だぜ!」

 

 何度も世界を救ったジャスティスクルセイダー以上に有名かもしれない黒騎士。

 そんな彼のことを知る人間は多く、彼の出現を訝しむ者はいたが、疑う者はあまりいなかった。

 騒動はジャスティスクルセイダーが到着する前に終わり、白騎士は今まさに彼女達と一般市民に追われて逃げ回っているらしい。

 かっつんは、集合場所にまだこない。

 心のどこかで彼ではない、という淡い希望を抱いていた。

 あの白騎士と呼ばれた誰かは彼ではなく、中身は別の人だと。

 

……嫌だ。

 

 すぐにそう思ってしまう。

 彼には、もう戦ってほしくない。

 この三ヵ月通りに、戦いから離れた穏やかな生活をずっとしていればいいじゃないか。

 

……嫌だ。

 

 一人になりたくない。

 もう彼を騙すようなことをしたくない。

 彼は既に記憶を取り戻しているのだろうか?

 記憶を取り戻した上で、私といてくれているのだろうか?

 それとも、記憶を取り戻していないのに戦っているのだろうか?

 分からない。

 基本、どんな可能性もカツミ君ならありえてしまうのが怖い……!

 

「ハクア姉さん」

「はっ……」

 

 不意に声をかけられハッとする。

 手には茶碗とお箸を持っており、今が自宅に帰り夕飯を一緒に食べている時だと気付く。

 真っ白な白米の上には、赤色の麻婆がのせられており、辛そうな見た目と豆腐の良い感じの味がイイ感じにマッチして、ご飯が進む。

 とりあえず無意識に口に米と麻婆を口にいれていると、目の前の席に座っているかっつんが心配するような目で私を見ていた。

 

「調子悪いのか? いつも三杯は食べるのに一杯と半分しか食べてないじゃないか。やっぱりおかずのチンジャオロースと麻婆の味が濃すぎたか? それとも辛すぎたか? 目分量豆板醤はさすがに無謀が過ぎたかもしれないけど……!」

 

 なんだかものすごく食べる人みたいな扱いをされているのは納得いかない。

 生後一年未満の赤ちゃんの成長期だぞ。

 とりあえず、おかわりのお茶碗を差し出しておく。

 

「おかわり」

「姉さん……!」

 

 どこか嬉し気に傍の炊飯ジャーから米をよそるかっつん。

 なんか、私料理とか全然できないせいで、この一か月で大分上達させてしまったわけだけど……すまん。

 とりあえず、差し出された茶碗をテーブルに置き、水で喉を潤す。

 

「……。姉さん。俺、なんか変身できた」

「ふーん」

 

 ……。

 ……、……!?

 

「ぶふぅ!?」

 

 あまりにも突然すぎるカミングアウトに驚きのあまり水を噴き出す。

 それは対面にいるかっつんの顔面に勢いよく拭きつけられ、ぴちゃぴちゃと彼の顔から水滴が落ちる。

 

「……ご、ごごっごごめん!」

「いや、いいんだ。そりゃ驚くよな。えーっと、タオルタオル……」

「は、はい! これどうぞ!」

 

 すぐ近くの手拭いを差し出し顔を拭いてもらう。

 

「それで、変身できたって……やっぱり昨日と今日の?」

「ああ。やっぱり隠し事をするのは駄目だと思ったから、ハクア姉さんには話すよ」

 

 ナチュラルにメンタルにダメージを受ける。

 過去の事件が無ければこういう素直で心優しさを表に出してくれる性格になるはずだったと思うと、ものすごく沈痛な心持ちにさせられてしまう。

 かっつんの話によると、彼は昨日、正体不明の怪人に襲われたらしい。

 戦隊ヒーローじみた金色のスーツをきた女怪人、多分それは三ヵ月前の戦いでかっつんが蹴散らしたやつだとは思うけれど……まさか、復讐を考えてやってくるだなんて……。

 

「大変だったね……」

「でもシロのおかげで助かったんだ。なんかベルトぎゅいーんって巻かれて、シロが変形してバックルになってさー」

 

 なんで、彼の記憶が戻ってないことを喜んでいるんだ、私は……!

 でも彼が変身をしなければならなかった状況に追い込まれてしまったのは確かだ……。

 無事で本当によかった……安堵のあまり胸を撫でおろす。

 

「だからさ、これから今日みたいな奴らが出たら俺が戦うって」

「駄目だよ!!」

 

 彼の言葉に思わず立ち上がり否定する。

 食器が揺れ、彼が驚きの目で私を見上げる。

 ハッと我に返った私は、椅子に座り直しながら隠し切れない動揺の言葉を口にする。

 

「そんな危ないこと、してほしくない……」

「……そ、そうだよな。ごめん、勢いで無責任なこと言って。反省してる……」

 

 どうして、かっつんは戦わせられる運命にいるのだろうか。

 昨日と今日も、巻き込まれただけだ。

 それなのに、どうして……。

 

「……ハクア姉さん、夕食後にパソコン貸してくれるか?」

「え、どうして?」

 

 不意の言葉に疑問を投げかけてみると、彼はやや険しそうな顔で腕を組んだ。

 

「黒騎士とやらについて調べてみる」

 

 それはある意味で、私にとっては絶望的な言葉であった。

 彼が、自分の過去の、黒騎士のことを知る。

 それは彼が自身の記憶を取り戻す大きな切っ掛けになってしまうと思ったからだ。

 


 

『テメェ、この野郎!! ふざけやがってぇぇぇ!!』

 

 激昂した黒騎士が怪人をぶん殴る。

 

『うるせぇ!!』

 

 激昂した黒騎士がアースの顔に膝蹴りを入れる。

 

『ククク、その程度かぁ! おい!!』

 

 怪人の攻撃を頭突きで弾き飛ばしながら嘲笑う黒騎士。

 

『笑顔にできねぇ身体にしてやる!!』

 

 スマイリーの胴体を腕で刺し貫く黒騎士。

 

『ハッハァ! その腕は必要ねぇだろうな!』

 

 掌握怪人*1の腕をもぎ取る黒騎士。

 

『そっちがレーザー怪人なら投げ返してやるわァ!!』

 

 飛んできたレーザー*2を掴み取り、どういうわけか投げ返す黒騎士。

 

 

「……」

 

 パソコンの前で彼は動画を見ている。

 動画の一番上に表示される最も見られた動画、しかも総集編のような形で黒騎士が怪人を相手に暴虐を尽くしているものだ。

 まずい、黒騎士としての記憶は彼のものだ。

 こんなものを見ては彼の記憶が―――、

 

「フッ……周りの人がなにを言ったかと思えば……」

「か、かっつん?」

 

 パソコンの画面から目を離した彼は、呆れた様子でため息をつく。

 

「俺じゃないよ。この人」

 

 いや君だよ? とでかかった声を理性で堪える。

 こころなしかドヤ顔の彼に困惑する。

 

「こんな野蛮で、口の悪くて、乱暴なやつが俺? そんなわけあるはずないじゃん」

「え、えぇ……」

「それに戦い方も野蛮すぎる。なんで拳で相手撲殺しようとしているんだよ。正直、一緒にされるのは逆に恐ろしくてかなわないね。……まあ、それで助けられた人がいるのは事実なのは分かってるけど」

 

 やれやれと肩をすくめる彼。

 ここまで自分自身を卑下しだすとなんだかなんとも言えない表情になってしまう。

 

「声だって全然違うだろ?」

「え、そ、そうかなぁ……」

「そうだよ」

「……そうかも」

 

 だから意思が弱すぎだろ私!! 欲望に撃ち負けすぎだろ!!

 てか、自分で聞く声と他人から声を聞くと実は違って聞こえる現象で勘違いしてる!?

 

「なんで俺がこの黒騎士と同じ扱いをされるのか分からないけど、今度戦うときは――」

「かっつん」

「はい、なんでもありません……」

 

 彼はもう戦うべきじゃない。

 だってもう十分戦ったし、これ以上彼が命をかける必要もない。

 あの宇宙人だってジャスティスクルセイダーがいれば十分以上だ。

 

「ううん……」

 

 それは理由の一つにすぎない。

 私は、一人にはなりたくなかった。

 例え、偽りの姉弟関係だとしても私にとっては、この空間はこれ以上になく大切な空間になってしまっていたのだから。

 


 

 白騎士と呼ばれる新たな変身ヒーロー。

 それは、私達、ジャスティスクルセイダーにとっても衝撃的な存在であった。

 最初は、月明かりを背に金色のスーツを纏った怪人を、その蹴りで穿つ光景。

 その次が、街の中に現れ宇宙からの侵略者を倒した彼の姿。

 すぐに彼だと分かった。

 その戦い方、姿すらも大きく異なってはいたけれど、それでも遠慮すらない戦い方と巻き込まれた子供を身を挺して守るその姿は黒騎士君の時のカツミ君を思わせた。

 

「謎のヒーロー、白騎士の存在とその姿を確認できたわけだが、彼のスーツの由来は間違いなく宇宙由来のもの。それもプロトスーツに用いられているエナジーコアと同種の危険極まりないものだ」

 

 ジャスティスクルセイダー本部、ブリーフィングルーム。

 そこに集められた私達とスタッフの前で、プロジェクターに映し出された月夜を背景にしている白騎士を指し示した社長は、険し気に声を漏らす。

 画像は切り替わり、その手に持つダガーで宇宙人を切り裂き爆散させた彼。

 

「戦闘力は高く、初見の怪人を相手にほぼ一方的に、慈悲もなくとどめを刺した」

「「「……」」」

 

 全員が無言になる。

 彼の変身した姿は、頭の三本角もバックルのデザインも、その以前の決戦に見せた三色の色を持ち合わせた姿とは異なる、装備を削り落としたかのような姿をしている。

 

「って、どう見てもカツミくんやないかーい!!」

 

 ババァーン! とノリツッコミの如く映し出された映像を叩く社長。

 まあ、どう見てもカツミ君だ。

 むしろ彼以外に誰がいるだろうか。

 

「声を聞けばわかりますよ?」

「仕草で分かりますやん」

「第六感で既に分かっていた」

 

「俺はお前達が時々怖くなる。いや、マジで」

 

 社長がやや怯えた様子を見せながら、話を続けようとする。

 

「だがなぜ、彼は我々の下に戻ってこない?」

「この際、単独で自由に動こうと思っている……とか?」

「……いや、それはないだろう。彼は戦闘自体は荒々しいが賢い。そんな彼がわざわざ自分の正体を知られている上で、あのような行動をするだろうか?」

 

 首を捻る社長。

 彼なら、ここに戻ってくるはずなんだ。

 それも……三ヵ月……三ヵ月もどこをほっつき歩いていたのだろうか。

 

「極めつけはこの言葉だ」

 

 

「お、俺は黒騎士って名前じゃない!? 誰かと勘違いしているんじゃないのか!?」

 

 

 映し出された映像と音声。

 それは、あの場にいた人達から投げかけられた言葉に彼が反応した時であった。

 

「彼が意地になって否定している可能性は十二分にある。むしろ、この人間味のある反応でクローン説は消えた」

「このいじっぱりな感じはカツミ君ですからね……」

 

 声が加工されているようにされているが、間違いなく彼の声だ。

 

「ついでに言うなら、機材を用いたチェックにも体格、抑揚、微細な癖などを総合すると93%で彼本人だということも確定している」

「……でも、戻ってこないんやね」

「そうなのだ。それが、我々が考えうる最悪の可能性だ」

 

 苦々しい顔をした社長が言い淀む。

 分かっている。

 分かっているからこそ、今ここで言葉にしてほしい。

 

「彼が、記憶を失っている可能性があることだ」

「「「……ッ」」」

「彼の戦闘方法が変わっていることに加え、あのスーツそのものの性能が落ちていると言うことは、それだけの要因があるということ。……仮に、あのベガとの戦いに見せた姿がお前達との絆が形になった形態だというなら……今の姿に説明がつく」

 

 彼は私達のことを忘れてしまっている。

 その事実は、私達の心に大きな影を落とす。

 苦しい……。

 あの、日々を、忘れられているだなんて……。

 

「主任! きっと記憶喪失となって次第に自分の力に目覚めていき、いずれは最強に――」

「スタッフ! 無自覚に不安を煽ろうとする大森君を外につまみ出せ!」

「なぁ、離せ! 私は大森だぞ! 離せぇ!」

 

 ……大森さん、水を得た魚のように元気になっている。

 秘密裏にカツミ君に貢ぐお菓子などを差し入れていたようで、しばらく放心状態になり仕事だけに熱中していたので、今は物凄く元気だ。

 ……そうだ、生きてくれている。

 その事実が明確になっただけ、前進だ。

 

「アルファはどうしてる?」

「塞ぎこんでいましたが、彼に気付くと元気になりました」

「……彼女ならば認識を改変して外に出ていただろうが、同時に侵略者も現れたからな……」

 

 社長の言葉に私は首を横に振る。

 

「いえ、実際そうして出ていこうとする前に、私が手刀で気絶させました

「お前、なんなの……?」

 

 社長だけではなくスタッフさんにまでドン引きされてしまった。

 

「一瞬認識改変され、アルファちゃんが誰だか分からなかったんですけど。自分の感覚を信じました」

「マジでなんなの……?」

 

 起きると同時に戻してくれたらしいけど、びっくりしたなぁ。

 あれが認識改変を食らう感じか。

 きららと葵が後から来なかったら、気絶したアルファを放って部屋から出ていたかもしれない。

 

「宇宙からの侵略者に対するセンサーが完成していない今、我々には迅速な対応が急がれる。……恐らく、今後とも宇宙人はやってくるだろうからな」

「戦いが、また始まるんですか?」

「ああ、アルファを狙っているのかは定かではない。だが、あの侵略者の言語をこの私が解読した際、驚くべき事実が発覚したのだ」

「驚くべき、事実?」

 

 首を傾げると、社長が手元の端末を操作し映像を切り替える。

 サイボーグ的な姿を持つ宇宙人が、相対する白騎士としてのカツミくんに何か話しかけていた。

 

seisyoujyoretu(セイショウジョレツ)458i() arugosu zakaru(アルゴス ザカル) da()

 

「せいしょうじょれつ?」

「私が所属していた組織の、力の序列分けだ。名もなき組織(アンノウン)。あらゆる種族の猛者が集まるその中でこいつは458番目に強いということだ。恐らく、あのベガもそれに連ねる者だったはずだ」

 

 社長が所属していた組織……。

 今度は、そこが相手となるのか?

 

「問題は次だ」

 

OMAEWO(オマエヲ) KOROSEBA(コロセバ) JYORETUGA AGARU(ジョレツガ アガル)

 

 カツミ君を殺せば序列が上がる!?

 いったい、どういうこと!? なんで命を狙われるならまだしも、なんでそんな景品みたいに……!!

 

「正直、私も混乱している。序列を引き上げるとは、名もなき組織(アンノウン)において、その頂点に立つ者のみが許していることだ」

「ラスボスってこと?」

「ラスボスなんぞという可愛い言葉で収まるような相手ではない。まさしく、絶望が形となった超越存在だ。あれは絶対に相対するな。すれば、確実に命はない」

 

 社長の声には緊張と怯えの感情が込められていた。

 それだけ、相手は恐ろしい存在だというのか?

 

「だが、そのおかげで地球は首の皮一枚が繋がった状態で生きながらえている。私の憶測によればな」

 

 大きななにかが動こうとしているのは分かる。

 だけど、どのようなことが起きたとしても私達がするべきことは決まっている。

 

「希望はまだある。じきにお前達の強化装備も完成する!!」

「!」

「もう、あのような汚らしい兵器などに変身を解除されんし、負けはしない……!」

 

 変身を無理やり解除されたことは社長のプライドを大きく傷つけたらしい。

 それはもう必死な様子で新作のスーツを作った後に強化アイテムまで続けて作り出したのだ。

 

「既にお前達に渡してある『ネオ・ジャスティスチェンジャー』は一つの力を三分割していた従来のスーツとは異なり、お前達三人それぞれがエナジーコアを有し、さらにその力を一つに合わせることも可能となった。つまり、プロトスーツ以上の性能を引き出すことが可能となったわけだ」

「使用した感じ、問題ないです」

「フッ、当然だ。それに加え、強化アイテムを使えば敵なしだ」

 

 自信満々な笑みを浮かべた社長。

 しかし、その表情はすぐに沈痛なものになる。

 

「……これもプロトチェンジャーのデータのおかげで実現したが……」

「社長……」

「早く、彼に戻ってきてほしいものだ。立場抜きにしても彼は友であり、私の理想を実現する最高の装着者だからな」

「……私達も、同じ気持ちです」

 

 そのためにはまずは彼から話を聞かなければ。

 場合によっては、多少強引な手を使うかもしれない。

 ……まるで、一人で戦っていた黒騎士の彼に戻ってしまったみたいだ。

 

*1
正式名「掌握怪人ハンデス」自身の視界を基準として、その手で掴み取った空間を圧縮する怪人! 掴み取ったあとはそこには抉り取られたようになにもなくなるぞ!

*2
正式名「レーザー怪人ビィム」目標に直撃するまで決して消えないビームを放つぞ! 威力も抜群! 黒騎士くんは掴んで投げ返したぞ!




現代の剣豪レッドはやはり違った。
多分、一番びっくりしたのはアルファでした。

姿からして即バレのカツキ君でした。
当の本人は過去の自分を全否定にしてボロクソに言う模様。


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新メニューと赤の姿

今回はカツキ君視点となります。



 街中で怪人が出てから約一週間が過ぎた。

 その間は特に何事もなく、空から侵略者も怪人も出てくることなくおだやかな日常を送ることができた。

 今日は平日のバイトをして、あくせくと働いているところではあるが、いかんせんお昼ごろ前のカフェというのは人が入らないものだ。

 恐らく、これはこのカフェの立地も関係しているんだと思う。

 カフェ『CIRCINUS(サーサナス)』。

 店が立ち並ぶ都会と住宅街の真ん中くらいの位置に存在している店。

 広くもなく狭くもなく、かといって息苦しさを感じさせない奇妙な居心地の良さを抱かせてくれる、知る人ぞ知る……というのが俺の個人的な感想だ。

 

『白騎士特集と黒騎士との類似点について専門家たちが考察!』

『廃棄された家電製品が跡形もなく姿を消す怪事件!!』

『ジャスティスクルセイダー、白騎士については未だに言及せず!!』

 

「なんだか色々と起こっているなぁ」

 

 俺は黒騎士でもなんでもないのに、世間が俺をそう言っている。

 なーんか納得いかないなーと思っていると、不意に俺に声がかけられる。

 

「おい、カツキ。新メニューのアイデアを考えるのを手伝え」

「俺がですか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。従業員、お前一人しか雇ってねぇんだぞ」

 

 とりあえず誰もいない間に軽く掃除をしていると、キッチンで下ごしらえをしていたマスターがそんなことを言ってきた。

 

「結構、お馴染みのメニューでやっているんですから追加しなくてもいいんじゃないですか?」

「バカ野郎。お前、いつまでもコーヒーとお馴染みメニューだけで乗り切れると思うなよ。いくら俺のコーヒーの評判がいいからといって、それだけで経営が成り立つわけじゃねぇんだ」

「前から思うんですけど、どうしてコーヒー自慢をしてくるんですか?」

 

 正直ここのメニューは少ないとは思うが、そのシンプルさが結構好きなんだよなぁ。

 

「このメニューを見てみろ」

「? はい」

 

 渡されたメニューに目を通すと、前に姉さんと食べに来た時から変わりのないシンプルな内容が記されていた。

 

 

MENU

 

Launch

・サンドイッチ ……¥490

ハム、チーズ、ツナ、タマゴからお好きな組み合わせをお選びいただけます。

 

・ナポリタン  ……¥500

昔ながらのシンプルなナポリタン。

 

・オムライス  ……¥700

ふんわりオムレツでチキンライスを包み込んだ一品。

当店イチオシメニューとなります。

 

・トースト   ……¥400

シュガー、チーズ、イチゴジャム、タマゴ、ハムエッグからお好きなものをお選びいただけます。

 

・朝食セット  ……¥500

シュガートースト+目玉焼き+サラダ+コーヒー

※朝限定

 

Coffee

・ブレンドコーヒー ……¥390

当店自慢!!

(アイス/ホット)

 

・カフェオレ   ……¥430

(アイス/ホット)

 

Drink

・コーラ      ……¥250

・オレンジジュース ……¥250

・ウーロン茶    ……¥250

 

 

 

「シンプルすぎでは?」

 

 まず第一の感想がそれだった。

 うわ、安い良心的と口に出そうだったが、時折俺と姉さんも利用しているので値段を上げさせるわけにもいかないので、それは口にはしなかった。

 

「具体的には?」

「写真とか貼ってみたらどうですか? 写真があるとどんな料理が来るかお客さんにも分かりやすいと思いますし」

「……なるほど」

 

 ふむふむと頷くマスター。

 写真とかで分かれば、頼みやすいし外れもなさそうだ。

 

「他にも日替わりランチとかやっているんですから、別に増やす必要はないと思うんですけど」

「いや、やっぱり変化が欲しいんだよ。なんかないか? 俺的にはハンバーグあたり増やせればいいんじゃないかと思うんだが」

 

 変化かぁ。

 そこまで挑戦的なものはできないだろうし……マスター側の都合を考えて材料が幾分か共通しているものがいい。

 うーん。

 

「それじゃあ……お子様ランチとかどうですか?」

「お子様ランチぃ? ここで子供向けメニューか? なんでだよ」

 

 いや、なんか心の中で真っ先に浮かんだものを口に出しただけなので特に理由はない。

 

「なんとなくです」

「記憶喪失のお前が言うと意味深に聞こえるな。その図体でお子様ランチ食ってたとかないよな」

「まさか。ありえませんよ」

「だよな。……しかしお子様ランチねぇ。案外悪くはねぇかもしれねぇな。子供が来たがりゃ親が連れてくるしな。ハンバーグとオムレツとも合わせて作れるんで、そこまで試行錯誤が必要なわけじゃねぇ……よし、今度メニューに追加してみるか」

「そんな簡単にいいんですか?」

「こういうのは変に悩むより客の反応待った方がいいだろ」

 

 俺を見たマスターが人差し指を立てる。

 

「新しいもんは手元にあったら使っていくべきだ。そうでなきゃ持っている意味がないからな」

 

 たしかに。

 そう思っているとさっそく試作的に作ろうとしているのか、マスターが材料を取り出し始める。

 これなら明日明後日あたりには看板のメニューに名前を連ねているかもしれないな。

 

「そういえばよ」

「はい?」

「白川姉が一時ここで働いていたのは知ってるか?」

「え、ハクア姉さんが? ここで?」

 

 てきぱきとタマゴを割るマスターの言葉に驚く。

 聞いていなかったけど、姉さん、ここで働いていたんだ……。

 

「事情があってうちに転がり込んでてな。……あ、その時はお前もいたんだぞ?」

「俺もいたんだ……」

「まあ……白川姉にも色々あったってことだ。その時はとんでもねぇクソガキだったけどな」

 

 その時を思い出しからからと笑うマスター。

 

「お前と違って愛想も良くねぇし、すぐに辞めてパソコンやら図書館に籠ってばっかだったよ」

「看護師になるために勉強していたのかな?」

「……。そうだろうなぁ」

 

 奇妙な沈黙の後に肯定するマスター。

 ふと、こちらを振り向いた彼はバーカウンターに座っている俺を見る。

 

「今は念願かなったってところか?」

「……なんで俺を見て言うんです?」

「いや、気にするな。……家族の形は人それぞれってことだ」

 

 そう言って彼はまた前へと向き直る。

 

「今のうちに言っておくが、俺はお前達(・・・)の事情をある程度知っている」

「……? はい、それは俺も分かっていますけど。……こうして記憶のない俺を雇ってくれる時点でそうですし」

「……素直すぎるってのは困りものだな。はは」

 

 ……? ちょっと時々、マスターの言っていることが分からない。

 そんなことを思っていると、不意に頭の中にいつしか聞いた音が鳴り響き始めた。

 

「ッ」

 

 頭に直接鳴り響く鈴の音。

 額を押さえながら、それに耐えていると店の奥の方からぴょんぴょんと跳ねながら機械のオオカミ、シロがやってくる。

 

『ガウッ!』

「シロ、ここに来たら駄目だっていったじゃないか……」

『クゥーン……』

 

 音が強くなる。

 まるで、どこかに行けと。

 戦えと、そう言っているようにどこかに俺を導こうとしている。

 

――また 出たぞ

 

「……」

 

――貴様の 平穏を脅かす脅威が

 

 聞こえてくるシロの声。

 また、あの宇宙人みたいのが出たのか?

 

「俺が行かなきゃ、駄目なのか?」

 

――無理をする必要はない

 

「で、でも……」

 

――貴様がそうしたければ そうするがいい

 

 ……シロは、厳しいな。

 俺が行かなければたくさんの人が傷つくことになるかもしれない。

 なんとかする力があるのに、それをせずに見て見ぬふりをすることはしたくない。

 

「マスター……ちょっと、俺……外、出てきます」

「は? 別にいいけど、昼時までに戻って来いよ」

「はい……」

 

 強くなる頭の音に道行かれながら店の外へ出る。

 

「でも、どこにあいつらは……」

『ガウ!』

「ん? どうしたシロ?」

 

 突然、一声鳴いたシロは俺を見上げた後に、人気のない路地へと顔を向ける。

 すると何を思ったのかその小さな口を開け―――藍色の光を口から放った。

 

「ええええ!?」

『ガオオオ!』

 

 すると俺が変身する時と同じように、空中に現れたいくつもの部品が組み合わさり、いつか見たバイクの姿が組み上がる。

 

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!!』

 

 こ、これはCBR1000RR!?

 全体的に白と黒のツートンカラーで塗装されたそれは、先日見たバイクよりも未来的なフォルムをしており、前に当たる部分には変身した時の俺の頭についた三本の角を模したものが取り付けられている。

 まさか前にスキャンした理由はこれのためか!?

 

『ガオ!』

「の、乗れっていうのか? でも俺無免許だしいくら変身できても道交法は守らなくきゃ……って、ひ、ひっぱるな! わ、分かったって!」

 

 頭の音にも促されているような気がし、とりあえずバイクに乗ってみる。

 またがると同時に、俺の頭にフルフェイスのヘルメットが虚空から分解された状態で現れ、勝手に装着される。

 

「うわ、近未来。……やっぱり使い方が分からな……分かっちゃったよ」

 

 一瞬で頭に使い方が流れ込み、ハンドルを回しエンジンからキュィィィン! という音を鳴らす。

 仕方がない……! ここまで来れば腹を括るしかない……!!

 

「シロ!!」

『ガウ!!』

 

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 ベルトを装着し、バックルを嵌め込んだ後にバイクを走らせる。

 一瞬でトップスピードに移ったそれは、既存のバイクとはかけ離れた加速と操縦性を見せながら大通りを走り始める。

 

「変身!」

FIGHT(ファイト) FOR(フォァ) RIGHT(ライト)!!』

 

 バイクを操作しなから変身をさせ、スーツとアーマーを纏う。

 フルフェイスのヘルメットから仮面を纏った俺は、そのままハンドルに力を入れ、バイクを跳躍させる。

 

「周りには、迷惑をかけない!」

SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 変身を完了させると同時に、ハンドルに設けられたボタンを押し、システムを起動させる。

 瞬間、前輪と後輪から光の粒子が溢れだしそれが半透明の道となって『ルプスストライカー』は空を走る。

 

「———光の柱……!」

 

 空を駆ける俺の視界に映りこむ光の柱。

 十数キロ先のソレを確認した俺は、さらに加速させながら目的地へと真っすぐ、最短距離を進んでいく。

 


 

 光の柱と共に現れた怪人がいたのは、街のど真ん中であった。

 肥え太った、大きな図体を持つ二体の怪人。

 黒に近い灰色の身体と、鬼のような角が特徴的な奴は、口から毒のようなものを吐き出しながら周囲に大きな被害をもたらしていた。

 

「あいつ……!」

――今回は二体だ 気をつけたほうがいい

 

 その姿を確認した俺は減速せずに地上へと着地し、そのまま必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

――は?

 

BITING(バァイティング)! ATTACK(アタァック)!!』

 

「先手必勝ォ!!」

hyo!?」

 

 トップスピードで怪人に迫った俺は、そのまま前輪のブレーキをかけ、赤い電撃を纏った後輪をその顔面に叩きつける。

 真正面から食らったそいつは斜め上に吹き飛ばされた後に成すすべなく爆発する。

 

a anija!? so sonnabakana……」

「残るはお前だけだ」

 

 地面を焦がしながら停止させたバイクから降りながら、肥大化怪人と相対する。

 

――……ふ、ふふ

 

 さっきのは双子かなにかだろうか?

 一人がやられてショックを受けているが、相手は嬉々としながら街の人々に危害を与えようとしていた怪人。

 心は痛みはするが、同情はしない。

 

「ッoreha seisyoujyoretu303i!! demogoru!! anija no katakiwo———」

「うるさい!!」

 

 再度、必殺技を起動させ跳躍と共に蹴りの態勢に移る。

 やつは驚愕の面持ちのまま名乗りを上げようとしているようだが、そもそも言葉通じないし時間の無駄なのでこのままさっさと終わらせる!!

 

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

omae huzake———」

 

 叩き込まれるエネルギーを纏った蹴り。

 それは奴の胴体に直撃し、エネルギーを叩きつける。

 直撃! たしかな手ごたえにそう思ったその時、俺の蹴りを受けたはずの俺の足が掴まれる。

 

hanasiha saigomade kikeeeeee!!」

「ぐあ!?」

 

 足を振り回され背中から叩きつけられる。

 とてつもない衝撃に呼吸ができなくなりながら、咄嗟に自分の足を掴む相手の親指を蹴り、逃れる。

 

seisyoujyoretu nannte doudemoii!! korosu!! korositeyaru!!」

「ッ」

 

 俺の身長の二倍以上高い巨躯が襲い掛かってくる。

 幸い、動きは遅い。

 リーチはあっちの方が長いだろうが、それでも俺の方が早い。

 俺を掴もうとする手を避け、その脇腹に蹴りを叩き込む。

 

「滑る!?」

 

 しかし、その蹴りは奴の身体を覆う異様な弾力と粘液により滑り、衝撃が吸収されてしまった。

 ならばと思い、ダガーで斬りつけてみるも刃が相手の内側にまで届かず、有効な一撃を与えられない……!

 

mudada!!」

「あぐっ!?」

 

 滑り、態勢を崩したところでその両腕で掴まれ、持ち上げられる。

 奴のとてつもない腕力に、スーツのアーマーがめきめきと悲鳴を上げる。

 鬼のような形相と共に、口を開けた奴はそのまま口からなにかをダガーを持つ右腕へと叩きつけてくる。

 

「ぐおおお!? 汚い!?」

 

 吐き出されたなにか、毒のようなものは一瞬で固まってしまう。

 奴は続けて、肩と胴体にもそれを吐きつけ、どんどんこちらの身体を固めてしまう。

 このままではまずい! そう予感した俺は、唯一動かせる右足を力いっぱい、奴の身体に叩きつけ、その反動で拘束から脱出する。

 

nigasukaaaa!!」

「ッ、と!!」

 

 着地した俺に叩きつけられる張り手を避けながら、どうするか考える。

 蹴りも通じない。

 ダガーも内まで通らない。

 というより、固められた毒で動きにくいったらありゃしない。

 倒せるとしたらルプスストライカーの必殺技だけだろうが、相手はもう食らってくれるはずがない。

 

「なにか、奴に通じる武器があれば……」

OK(オーケー)!』

「え?」

 

 突然、バックルからのオッケー宣言。

 すると、バックルの目が赤青黄と信号のような点滅を見せ始める。

 

SALVAGE(サルベージ)…→SALVAGE(サルベージ)…→SALVAGE(サルベージ)…』

 

 攻撃を避ける間にそんな音声が鳴り響く。

 なんだ? シロがなにかをしているのか!?

 

COMPLETE(コンプリート)!!』

 

「……! そうか! ありがとう、シロ!!」

 

 頭に流れ込んでくる新たなベルトの使い方。

 それを認識し、奴から大きく距離を取った俺は、固められていない右腕でバックルの側面のレバーを一度動かす。

 すると、バックルからこれまでとは異なる新たな音声が鳴り響いた。

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

「オッケー!」

 

 思わず返事しながらバックルの上のボタンを軽快に叩く。

 瞬間、俺の身体から炎が溢れだす。

 あふれ出した炎は、身体を固める毒も溶かし、こちらに張り手を食らわせようとした奴の手も焼き焦がした。

 

na!?」

 

『CHANGE!! SWORD RED!!』

 

 炎と共に白色のアーマーは真紅に染まる。

 腕を振るい、炎を払いながら大きく前に踏み出した俺は、炎に包まれた右腕を怪人の胴体へと叩き込む。

 

「ハァ!!」

ga!?」

 

 一撃、また一撃と連続で拳を食らわせ、無理やり怪人を後ろへと引かせる。

 

「この姿は、パワーがあるな……!」

 

 それに加えて、強力な熱もある!!

 拳を振り切り、引き戻しながら右腕を虚空に向ける。

 

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー)!!』

 

 右手に現れたのは、片刃の長剣。

 機械的なそれを握りしめながら、怪人へと目を向けるとやつは怯えと敵意に満ちた表情を浮かべながらこちらへ飛び掛かってきた。

 

「さあ、リベンジだ……!」

 

 こちらも全力で前に踏み出し、奴へと剣を振り上げる。

 一瞬の交錯。

 奴の腕を紙一重で避け、一度は通じなかったその脇腹へ赤熱する剣を叩きつけ―――一瞬にして内部まで焼き焦がす。

 

ga aaaaa!?」

「終わりに、する!!」

DEADLY(デッドリィ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

 

 これ以上、勝負は長引かせない!!

 必殺技を発動させ、バックルから剣を持つ右腕にエネルギーを送り込む。

 灼熱の炎を立ち上らせる剣。

 それを両手で握りしめた俺は、そのまま眼前にいる奴目掛け振り下ろす。

 

「セェェイ!!」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 放たれた炎の斬撃は怪人の身体を一瞬にして炎に包み込み、次の瞬間には爆発を引き起こした。

 跡形もなく消えたその場を数秒ほど確認した俺は、その場に座り込みながら重いため息を吐きだす。

 

「……つ、疲れた……」

――よく頑張った いい子だ

「ありがとう……」

 

 労いの言葉を素直に嬉しく思っていると、頭上に大きなヘリがやってくる。

 ……あのジャスティスなんたら、俺みたいに怪人の発生を察知できるのか? 遅れたといっても凄まじい速さなんだが。

 

「とりあえず、逃げるか」

 

 そう思い立ち上がると、ひとりでに動いたバイクが俺の元にやってくる。

 ……。

 いや、もうなにも言うまい。

 とりあえず、バイクの頭? 頭っぽい部分を撫でた後に跨り発進させる。

 

「さあ、まずは追跡を撒かなきゃな! 行くぞ、シロ!!」

 

 キュイィィィンン! と返事をするように音を鳴らしバイクを走らせる。

 尋常じゃない速さで道を走り始める、それを操りながら―――俺は、今更になってこのことが事件となって姉さんの目に入ってしまう事実に気付き、仮面の中で絶望の表情を浮かべてしまうのであった。

 




バイクを手に入れたことで一気に捕まりにくくなった白騎士くん。
なお、透明化もあるという多機能ぶり……。

今回の敵は、星将序列303位のデモゴル君でした。
兄のモルデル君は地球を滅茶苦茶にしようとしていたところを、主人公の初手バイク技で確殺されてしまいました。

序列が微妙に高いのは二人で一人の強さだったからですね。


……そろそろ日本語喋ってくれる敵を出したい(切実)


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白騎士くんについて(掲示板回)

今回は掲示板回となります。


111:ヒーローと名無しさん

 

本 人 確 定 

 

112:ヒーローと名無しさん

 

間違いねぇ、あの殺意と行動が直結した攻撃は黒騎士くんだ……!

つまり白騎士くんの正体は黒騎士くんだったんだよ……!

 

113:ヒーローと名無しさん

 

ナ、ナンダッテー!?(知ってた)

 

114:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君、エターナルかと思ったらアマゾンズみたいなことしてるじゃん……

 

115:ヒーローと名無しさん

 

今どきひき逃げアタックはやばすぎる

いや、厳密にはトップスピードからの後輪殴りつけみたいな感じだけど

 

116:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君じゃないけど黒騎士君だよ

戦闘スタイル変わってるから本人じゃないって人もいたけど、あの手段の選ばなさは黒騎士くんそのものだ。

 

117:ヒーローと名無しさん

 

バイク必殺技は強すぎる。

ライダーブレイクしかり、ファイナルベントしかり……

 

118:ヒーローと名無しさん

 

あれ倒された描写で近いのアマゾンズじゃん!

爆発したけど、跡形も残らない点も含めてアマゾンズじゃん!

 

119:ヒーローと名無しさん

 

今回の戦いはピンチになったと思ったらいきなり強化されたなぁ。

黒騎士→白騎士→赤騎士って、やっぱり本人ですよね?

レッド意識してますよね? これ

 

120:ヒーローと名無しさん

 

これレッド大勝利では?

 

121:ヒーローと名無しさん

 

わた……やっぱり最高最善の王道ヒロインはレッドなんだよ!!

 

122:ヒーローと名無しさん

 

バイクからフォームチェンジまで見せてくれるってもう黒騎士くん仮面ライダーでは?

むしろそれ以外の何物でもないのでは?

 

123:ヒーローと名無しさん

 

剣気がにじみ出てますよレッドさん

 

124:ヒーローと名無しさん

 

辻斬りブラッドが来たな

 

125:ヒーローと名無しさん

 

見える見える(ブルーとイエローにマウントとって悦に浸っている姿が)

 

126:ヒーローと名無しさん

 

でもこれ流れ的にブルーもイエローも……

 

127:ヒーローと名無しさん

 

剣のデザインかっこいいなぁ。

エンジンブレードみたい。

 

ついでに言うならバイクもWのやつみたい……。

 

128:ヒーローと名無しさん

 

エターナルかと思ったらバイクがダブルだった。

ダブルだと思ったらアギトだった。

アギトかと思ったら龍騎だった。

 

平成ライダーの歴史は豊潤すぎる……!

 

129:ヒーローと名無しさん

 

超越感覚だな。

まあ、色的にはレッドで炎で剣なんだけど。

 

130:ヒーローと名無しさん

 

今の白騎士くん状態では倒せないから、新しくフォームチェンジを作り出したって感覚なのかな?

そもそも白騎士くん状態の戦闘スタイルがキックとダガー組み合わせたものなのが、黒騎士くんとの大きな違いだよね。

 

なんというか、頭を使う戦い方になっていたというか。

 

131:ヒーローと名無しさん

 

二回目の戦いはダガーで的確に急所突き刺しまくってびびったゾ。

初手みぞおち刺しと、脇腹三度刺しとか確実に始末しにかかってやばすぎる。

 

132:ヒーローと名無しさん

 

地味に蹴りで相手の足砕いてたもんな。

今回の戦いでは、相性が悪かっただけだけど。

 

133:ヒーローと名無しさん

 

相性悪いけど、初手で一体爆散させるとは誰も思いもしないやろ……。

 

134:ヒーローと名無しさん

 

その後、不思議なことが起こって新フォームも獲得してるし、白騎士になってからヒーロームーブが凄すぎる。

 

135:ヒーローと名無しさん

>>130

黒騎士くんは頭使ってるぞ。

結果的に殴った方が一番手っ取り早いって言う最適解を常に出し続けているだけで

 

136:ヒーローと名無しさん

 

殴れば相手は死ぬ。

これ以上に無くシンプルかつ知性に溢れた戦法だと思う

 

137:ヒーローと名無しさん

 

初手必殺とかいうやべーことする白騎士くんも大概ではあるぞ。

ハイパームテキくらいしか許されていないのに、一体は倒したからな。

 

138:ヒーローと名無しさん

 

侵略者の口ぶり的に「兄者ァァァァ!!」って叫んでるのが分かるのが酷い

 

139:ヒーローと名無しさん

 

地球攻めに来たのが悪い

 

140:ヒーローと名無しさん

 

環境汚染しにきたようなもんだからな、今回の侵略者。

 

141:ヒーローと名無しさん

 

基本初見殺しのクソ性能の怪人どもと比べれば今のところ侵略者の方が優しいわ

だって、あいつらしっかり名乗りっぽいのあげてくれるし、理不尽な概念攻撃飛ばしてこないもん。

 

142:ヒーローと名無しさん

 

思い返すとベガも怪人には手も足もでないくらいに弱かったと思う。

あいつクイズ怪人にすら勝てないだろ。

だって宇宙人に地球のクイズが解けられるはずがねーもん。

 

143:ヒーローと名無しさん

 

もしかすると、怪人どものやばい強さって侵略者を相手にすることを視野にいれていたかもしれんね

 

144:ヒーローと名無しさん

 

怪人がバリバリ活動していた頃は、毎日が危機だったぞ。

日刊日本の危機とか言葉が作られるくらいに地獄だった。

 

145:ヒーローと名無しさん

 

適当な怪人の名前挙げてもえぐいもんな

 

146:ヒーローと名無しさん

 

金魚怪人*1は? あいつそんなに強くなかっただろ

 

147:ヒーローと名無しさん

 

あいつの能力範囲内に足を踏み入れると、巨大金魚鉢にいれられるんだぞ。

効果範囲も地味に広いし普通の人間なら何もできずに溺死だ

 

弱い方ではあるけど

 

148:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんとイエローのタッグで倒したんだよな。

黒騎士くんが拳でイエローの斧を殴って推進力に変えてぶった切るって感じで

 

149:ヒーローと名無しさん

 

パワー系とパワー系で殴る戦法よ

 

150:ヒーローと名無しさん

 

つぶらな眼怪人*2は?

 

151:ヒーローと名無しさん

 

始めに黒騎士君と遭遇した時点で負けが確定した。

てか、一部怪人は即殺されたせいで能力が分かってない。

 

152:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君影でたくさん倒してそうだもんなー

 

153:ヒーローと名無しさん

 

強制クソゲーに持ち込んでくるあたり領域展開かなと思ってしまう。

 

154:ヒーローと名無しさん

 

一度目の怪人はベガの部下

二度目の侵略者は機械モヒカン男。

三度目の侵略者は図体のでかい肥大化怪人。

 

直接攻撃しかしてこないし、なんかうーんって感じがさせられるな。

 

155:ヒーローと名無しさん

 

お前ら慣れすぎだろ。

別に黒騎士とジャスティスクルセイダーが強いってだけでお前らが強くなったわけじゃないんだぞ?

弱そうに見えても、侵略者がやばいことには変わらねぇわ。

 

156:ヒーローと名無しさん

 

たしかに

みんな最近ちょっと勘違いしてるよな。

 

157:ヒーローと名無しさん

 

なにが凄いって黒騎士君、ジャスティスクルセイダーが到着する前に怪人を倒しちゃってるってことなんだよな。

速さ云々じゃなくて、なんかすぐに見つけてくるって感じで。

 

158:ヒーローと名無しさん

 

アギトっぽいからなにか感じ取ったりしてんじゃね?

黒騎士くんなら何しても不思議じゃないけど。

 

159:ヒーローと名無しさん

 

やっぱり、記憶喪失なのかな……

 

160:ヒーローと名無しさん

 

皆が敢えて触れないでおいた話題を……

 

161:ヒーローと名無しさん

 

・戦闘スタイルが違う。

・言動が気持ち爽やか

・ジャスティスクルセイダーに興味を示さない。

 

可能性は高い。

 

162:ヒーローと名無しさん

 

それでも、今も戦っているんだよな。

記憶喪失だとしても。

 

163:ヒーローと名無しさん

 

私個人の感情としてはもう戦ってほしくなかったよ。

ましてや、記憶喪失になってまで

 

164:ヒーローと名無しさん

 

一週間前の騒ぎの時、実は怪人がいた現場にいたんだけどね。

建物の中に取り残されて避難が間に合わなくて、ビビりながら二階から見ていたけど、黒騎士君は記憶を失っても黒騎士くんだったよ。

身を挺して子供を守っていたし。

 

165:ヒーローと名無しさん

 

記憶を失ってもヒーローなんだよなぁ

 

166:ヒーローと名無しさん

 

記憶を失ってまで戦ってほしくないんだけどな……。

戦ってもらわなきゃいけないのは分かるけど、黒騎士くんの中の子が十代だということを忘れちゃいけない。

 

167:ヒーローと名無しさん

 

・推定17歳。

・二年間を怪人との戦いに費やす。

・笑顔になれない過去持ち。

・両親は既にいない。

・自分が死んでもいいと思ってる。

・異星人の侵略をほぼ一人で解決し、行方不明

・三ヵ月後、存在が確認されたが本人は記憶喪失になっているかもしれない。

・性格は礼儀正しく、人のために怒れる心優しい少年。

 

168:ヒーローと名無しさん

 

この事実に俺は吐きそうになった。

てか、吐いた。

 

169:ヒーローと名無しさん

 

安心しろ、私も罪悪感のあまり吐いた。

 

170:ヒーローと名無しさん

 

やめろ やめてくれ……

 

171:ヒーローと名無しさん

 

彼がいったい何をしたって言うんです……?

 

172:ヒーローと名無しさん

 

一気にみんなを地獄に引きずり込むのはやめろぉ!!

 

173:ヒーローと名無しさん

 

記憶喪失はまだ推測にすぎないけど、それ以外の時点で辛すぎる

 

174:ヒーローと名無しさん

 

なんでヴィラン堕ちしないんだ……?

 

175:ヒーローと名無しさん

 

ヒーローだからだよ。

理屈じゃないぞ、多分。

 

176:ヒーローと名無しさん

 

覚悟決まりすぎて見ているこっちがSAN値減るやつや……。

 

177:ヒーローと名無しさん

 

悲しすぎる……。

 

178:ヒーローと名無しさん

 

でも黒騎士くんだよね!

って言われて、ものすっごい否定する姿は黒騎士くんだなって思った(理不尽)

 

179:ヒーローと名無しさん

 

分かる。

そういうところだぞ(豹変)

 

180:ヒーローと名無しさん

 

あの黒騎士くんが記憶を失うほどのことがあったってことだよな。

やっぱり宇宙船と一緒にワープして敵の本拠地にいったのかな?

 

181:ヒーローと名無しさん

 

それはそれで帰ってきている事実がやばすぎるんだが……。

 

182:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんのことだからそのままラスボスに殴りかかってもおかしくないのがなぁ。

 

183:ヒーローと名無しさん

 

戦闘中にシロって何度も言ってますよね

新しい女かな?(ゲス顔)

 

184:ヒーローと名無しさん

 

しんみりした雰囲気に起爆剤を投与するのはヤメロォ!

 

185:ヒーローと名無しさん

 

シロとはなにものなんだ……

 

186:ヒーローと名無しさん

 

バイクじゃね?

なんか、ひとりでに動いていたし。

 

187:ヒーローと名無しさん

 

あれマジで欲しい。

空も走れるし、光学迷彩つきなんだぞ。

 

188:ヒーローと名無しさん

 

てか、ジャスティスクルセイダー来るの遅くね?

いつも侵略者が倒したあとに出てくるじゃん。

 

189:ヒーローと名無しさん

 

あれは到着する黒騎士くんがおかしいだけで、ジャスティスクルセイダーはめっちゃ早く来てるぞ。

少なくとも十分以内には到着してる。

 

190:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルも地球の平和を守っているんだぞ。

感謝こそすれど文句を言うべきじゃない。

 

191:ヒーローと名無しさん

 

正直、白騎士くんの戦い方すこ

 

192:ヒーローと名無しさん

 

拳とは違った強引さと滅茶苦茶さがある

 

193:ヒーローと名無しさん

 

また侵略者は来るのだろか?

 

194:ヒーローと名無しさん

 

マーベル世界並みに地球危機に陥りすぎでは……?

 

195:ヒーローと名無しさん

 

レッド「白騎士君が私と同じ色になってたの♪」

ブルー「……」ブチッ

イエロー「……」(#^ω^)

 

196:ヒーローと名無しさん

 

シ ビ ル ウ ォ ー 不 可 避

 

197:ヒーローと名無しさん

 

割とガチで戦闘力高いから誰が勝つか分からないという

 

198:ヒーローと名無しさん

 

スーツも強化されたらしいし、余計手が付けられないぞ……。

てか、今の白騎士くんよりも確実に強い。

 

199:ヒーローと名無しさん

 

ベガ戦はしょうがないからな……。

あれは負けイベのようなものだ。

 

200:ヒーローと名無しさん

 

忘れちゃいけないのが、本気モードの黒騎士君を三人で倒したのがあの子達ってこと。

間違いなく、あの時の黒騎士君は全力だったし、JCも全力だった。

 

 

 

*1
正式名「金魚怪人カバチ」自身の認識する範囲内にいる敵を、特殊な空間に転移させる! そこは大きな金魚鉢を形どった場所であり、放っておけば溺死してしまうぞ!!

*2
正式名「まなこ怪人アイ」目を合わせた対象を強制的に催眠状態にし、その動きを封じるぞ!! 一対一では無類の強さを誇るが、最初に遭遇した黒騎士君の背後からの奇襲によりなすすべなく倒されてしまったぞ!!




本人がいくら隠そうとも、隠しきれない黒騎士君の容赦の無さでした。
そして、予定調和のように勝ち誇るレッドェ……。


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焼肉と再会(レイマ視点)

前の掲示板回と一緒に出せばよかったと今更後悔。

初の社長視点となります。


 私、金崎令馬は宇宙人である。

 力こそが全て、そのような理屈がまかり通る組織で科学者をしていた私は、組織が行っている残虐極まりない所業と、組織の頂点に立つ者との相対により、脱走者として逃げ出すことを決意した。

 持ち出すことのできたコアは二つだけ。

 一つは、プロトスーツに使われたもの。

 もう一つは、ジャスティススーツに使われたものだ。

 それらを持って私は地球という辺境の惑星へと潜り込み、密かに組織に対抗するスーツを作っていた。

 外宇宙の脅威とこの私が宇宙人だということは、既に政府に説明しており、友好な関係を築くことができた。

 それから、準備を整えオメガの作り出した怪人を相手取り、来るべき侵略者たちとの戦いに備えていたわけだが―――、

 

「想定通りにいかないものだ」

 

 侵略者はやってきた。

 しかし、予想を超えてアホ丸出し連中がやってきたことに驚きながらも、その結果カツミ君が行方不明という事態が生じた。

 まさか記憶喪失になっているとは思わなかった……。

 いや、今はそれよりも先日の戦いからレッドがものすごくウザい方が問題だった。

 

『えへへ~、やっぱりカツミ君は分かってるよねぇ。私の色だなんて』

 

 本当にうざいことこの上なかった。

 イエローとブルーの殺気にも似た視線を向けられながら、頬に手を当てていやんいやんしてる奴は、どのような言葉を投げかけても意味はなさなかった。

 

『え、羨ましいの?』

 

 無敵かこいつってくらいに無敵だった。

 そして、果てしなく鬱陶しかった。

 

「さて、と」

 

 現在私は秘密裏に会社を抜け出して、ある場所にやってきていた。

 丈の長いコートで身分を隠し、顔を上げた私の視界に映りこんだのは、二文字の漢字であった。

 

焼肉

 

「ここだな」

 

 私は焼き肉を食いにきたのだ。

 地球の飯は素晴らしい。

 宇宙の半生(はんなま)のゲテモノ生物よりも遥かに美味い。

 現在、作業室では死んだように眠るスタッフたちがいるが、そんな彼らを出し抜き一人だけで私は焼き肉を食べる。

 

「フッ、部下を出し抜いて食う飯は美味い……」

 

 誰にも邪魔させない。

 誰が、今の私を邪魔できるというのか。

 ネクタイを緩めながら、扉を開き中へ足を踏み入れる。

 従業員に案内され一人用のテーブルへと案内された私はコートを脱いだ後に、メニューとにらめっこをする。

 

「いいの? 焼肉で」

「いいよいいよー。それで許すから、一緒に食べようよ」

「まあ、ハクア姉さんがそれでいいなら」

「~♪」

 

 不意に目の前に二人の男女が横切る。

 聞き覚えのありすぎる声に思わず顔を上げるが、既に二人は奥の座敷席の方へ行ってしまった。

 

「いや、まさかな。そんなはずがない」

 

 疲れているのだろう。

 このような場所にカツミ君がいるとは思えん。

 それこそ、天文学的な数値と言えるだろう。

 今はそれよりも注文だ。

 宇宙人でも腹が空くのだ、腹が空いた私は何をするか分からん。

 

「あ、すみませーん」

 

 店員さんを呼び注文をする。

 テーブルに置かれた水を一口飲み、ほっと一息つく。

 

「……記憶喪失か」

 

 カツミ君が記憶喪失なことは確実だろう。

 彼は恐らく、宇宙船から本拠地へと転移したはずだ。

 そこで、彼の身になにかが起こった。

 

「ルプスドライバー……」

 

 プロトスーツと同じエナジーコア。

 姉妹とも呼ばれるそれと見事適応した彼の戦闘力は、私が理想とする次世代プロトスーツ『TYPE1(タイプワン)』に迫る性能を見せた。

 無から有へ。

 0から1へ。

 進化そのものの名を冠する新スーツと比べ、能力の特異性ではあちらが上回るが、それ以外の部分ではきっと異なるだろう。

 なにせ、カツミ君が使うことを想定しているからな。

 まさしく、なにが起こるか予想がつかないスーツになるはず。

 

「……」

 

 私はあえて政府にもジャスティスクルセイダーとスタッフたちにも隠していることがある。

 それは、相手がその気になれば簡単に惑星を破壊することができ、人類を白紙化できるということだ。

 手を下さずともそれが可能。

 本来なら、そうなるはずだった。

 だが、どういうわけか、相手は段階的に序列を上げながら星将を投入してきている。

 

「なにか、作為的なものを感じてしまうな」

 

 黒騎士、否、白騎士を倒せば星将序列が上がる。

 それを許すのは組織の頂点に立つ彼女のみ。

 もしや、彼女がカツミ君に目をつけた? 可能性はないとは言えない。

 時空に干渉する超越存在が、種族的にも劣る地球人に目をつける理由としては、カツミ君の特異性とその常軌を逸した精神力が考えられる。

 

「……ま、まっさかぁ、ないない……うんうん」

 

 さすがにカツミ君でもあの怪物に気に入られるような行動はしていないだろう。

 頭に浮かんだ考えを否定しながら、もう一度手元の水を口に含む。

 

「む?」

 

 すると私の前を一人の少女が横切る。

 特徴的な白い髪は忘れるはずもない、元部下の姿を見つけた私は思わず声をかけてしまう。

 

「白川君?」

「!? しゃ、社長、どうしてここに……!?」

 

 なぜかものすごく驚かれてしまった。

 いや、当然だ。

 私は社長だからな。

 

「飯を食いに来ているからに決まっているだろう」

「……一人焼肉?」

「おい、なんだその憐れな人を見る目は。君も一人じゃ――」

 

「ハクア姉さーん、そこで立ち止まってどうしたんだー?」

 

「んひっ!?」

「ねえさん……?」

 

 変な声を出して肩を震わせる白川君と、座敷から聞こえてくる少年の声。

 男連れ!? いや、姉さん!? だとすれば弟か……。

 

「白川君……姉弟プレイでもしているのか?」

「ッ!? あ、ああ、あんた頭おかしいんじゃないかな……!?」

「フッ、冗談だ。君も弟くらいはいてもおかしくはない」

 

 あくまで私も彼女もプライベート。

 お互いにそこまで踏み込む必要もないし、そもそも私の思考は焼き肉一色なのでそちらの思考に割くリソースは既に残されてはいなぁい……!

 だがしかし、白川君の弟君か。

 

「どれ、元上司としてあいさつでも」

「い、いいんです! 私の弟、人見知りなんで!! 社長を見たら吐きます!!」

「それは失礼ではないか……?」

 

 泣いちゃうぞ……?

 変態と罵られたことは数あるが、そういう生々しい感じのことを言われると普通にショックである。

 

「で、では私はこれで!」

「あ、ああ」

 

 そそくさとその場を離れていく白川君。

 やはり元職場の上司とあって気まずいものもあったのだろう。

 ……もしかして嫌われていたのか?

 もしかして、カツミ君にも実は煙たがられていて、内心でウザいと思われていた!?

 

「タン塩、カルビ、ライスのセットです」

「あ……ありがとうございます」

 

 そんな思考に陥っているうちに頼んだものが来てくれたようだ。

 いただきます、そう言葉にして早速タン塩を焼いていくと、不意に懐にいれてある端末が振動を鳴らす。

 

「……なんだ。げ……」

 

 開発部の大森くんからだ。

 パソコンの前で気絶したように眠る彼女からの連絡に私は嫌な予感を抱く。

 もしかすると不測の事態かもしれない。

 ため息を零した後に応答する。

 

「レイマだ。どうした?」

『主任、今どこにいるんですか?』

「社長室だが?」

 

 息をするように嘘を吐き出す。

 すると不気味な沈黙の後にカタカタと端末を操作する音のようなものが聞こえる。

 

『嘘ですよね?』

「……。嘘じゃないぞ」

『呼吸音から貴方が嘘をついていることは分かっております。そしてその環境音、焼肉ですね?』

「ヒェ……」

 

 リアルタイムでスキャンをかけてきただと……!?

 なんという技術と才能の無駄遣いだ……! 気のせいだろうか、大森くんの周囲で呪詛のような声が聞こえる。

 それが開発チームのメンバーの声と気付き、SAN値がゴリッと削れるが、それでも私は気丈に立ち向かう。

 

『まさか、一人で勝手に場を抜け出して一人焼肉とは、いいご身分ですねぇ……!』

「しゃ、社長だからな」

『フフフ』

「ははは」

 

 互いに笑ってない笑い声をあげる。

 じわり、と額に汗が滲む。

 な、なぜ地球人は精神的に追い詰められると恐ろしさが増すのだろうか。

 普通、弱るのではないか? 死地に活路を見出す、これがサムライ……?

 

『戻ったら覚悟しておけよ。開発チーム一同、貴方の帰りを待つ』

「アッ」

 

 底冷えするような呟きの後にブツリと消える連絡。

 暫しの沈黙。

 一度目を瞑った私は、覚悟を決めながら傍らの箸を掴む。

 

「よし、食べるか!」

 

 帰ってからのことは帰ってから考えよう。

 私は自身の精神を保つために先ほどの通信のことを忘れることにするのだった。




プロトスーツの次世代型は「TYPE1」となりました。

専門以外は基本ポンコツな社長。
シグマちゃんはカツキ君と割り勘で焼肉を楽しみました。

もしかしたら、本日中にあと一話更新できるかもしれません。


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思わぬ共同戦線(イエロー視点)

本日三話目の更新となります。

第三十話  白騎士君について(掲示板回)
第三十一話 焼肉と再会

を、見ていない方はまずはそちらをお願いします。 

今回はイエロー視点でお送りします。


 白騎士、彼が姿を現してから一か月が過ぎた。

 彼が赤い炎の姿に変わった後に、新たに二体の侵略者が現れ彼に敗れていった。

 星将序列378位ジャケェと呼ばれる、エイリアンタイプ侵略者。

 そして、その次は356位のグルゥーと名乗った人型の侵略者。現れた二体は直後に、カツミ君……白騎士に倒された。

 赤い炎を扱う剣士。

 ダガーを操り蹴りを主体とした戦いを得意とする白い戦士。

 彼の力は、一戦一戦ごとに洗練されていく。

 私達の出る幕はほとんどなかったとはいえ、相手がオメガが生み出した怪人どもと比べると、どうにも見劣りしてしまうことは確かであった。

 

『やっぱり赤。使っちゃうよなー。うんうん。これってやっぱり心の奥ではってやつだよねっ!』

 

 まあ、それはそれとしてカツミ君がアカネと似た力を使っていることに彼女はとてつもないウザさを見せていた。

 私と葵、それに加えてアルファちゃんもキレかけたが、当の本人は全く堪えた様子もなく余裕の表情を見せるだけだ。

 

「はぁ」

「きらら姉、どうしたの? ため息なんかついて」

 

 手を繋いでいる妹が私を見上げて気遣ってくれる。

 今日は今年で小学四年生になる妹、ななかと一緒にこの子のための文房具を買いに街に繰り出したのだ。

 既に文房具は購入して、あとは両親と弟にケーキでも買っていこうと、していたわけだ……どうやら、内心のため息が漏れだしてしまったようだ。

 

「ううん、ちょっとね」

「黒騎士兄に会えないから?」

「そうかもしれない……」

 

 以前、色々あってななかと弟のこうたは黒騎士時代のカツミ君と関わることになっていた。

 まあ、迷子になって慌てふためいた二人に偶然彼が居合わせていただけなんだけど、その時のことは今でも覚えている。

 

『イエロー! このひっつくガキをなんとかしろ!! なにを笑っているぅ!!』

 

 普段はあんなに強気なのに、妹たち相手にたじたじになっている彼に思わず笑ってしまったものだ。

 そんなこともあり、彼が悪い人ではないことを確信したのが始まりではあるが、彼が記憶喪失だと判明してからというもの、一度も彼に接触できたことはなかった。

 

「あのバイク反則すぎるよぉ……」

 

 空も飛ぶし突然消えるし。

 いくらヘリでも空をマッハに近い速度で自由に駆けるバイクを追跡することは不可能だ。

 明らかにこの星のものではない技術に肩を落としてしまう。

 

「話せればなんとかなるんだろうけど……」

 

 私達が現場に駆けつける頃には彼は既にその場にはいない。

 いたとしても私達の声を無視して逃げて行ってしまう。

 侵略者の接近を察知するセンサーが完成するまでは、私達は後手に回るしかない……が、彼が迅速に侵略者を倒しているおかげで街の人々に大きな被害が出ていないことも事実だ。

 

「きらら姉には頑張ってもらわなくちゃ」

「頑張るけど、なんで?」

「私もこーたもまた会いたいから。今度は素顔で」

 

 私がヒーローとして活動していることを家族は知っているが、カツミ君の名前までは教えていないからなぁ。

 いつか教えてあげたいけど、今は無理だろう。

 

「あ、ケーキだ。みんなに買っていこうよ」

「そうだね」

 

 ななかに笑いかけながら、ケーキ屋へと足を運ぶ。

 しかし、その時――私達のいる場所からそう遠くない場所に光の柱が落ちる。

 

「——ッ」

 

 あれは、侵略者が用いるワープの光!

 もしかしてこの近くに奴らが現れるのか!?

 私はすぐにななかの手を取りながら、この場を離れようとする。

 

「きらら姉! 私は一人で逃げられるから大丈夫!」

「ななか!?」

「きらら姉は他にやるべきことがあるでしょ!!」

 

 そう強く訴えかけられ驚く。

 スマホも持っているし、いざという時になにをするべきかは事前に伝えてある。

 

「分かった。もし何かあったらすぐに私に連絡するんだよ!」

「うん、きらら姉も気を付けて」

「いってくる!!」

 

 強く頷いたななかからは離れて、近くの路地へと足を踏み入れる。

 左の袖を拭い『ネオ・ジャスティスチェンジャー』を出した私は、そのまま指を押し当て変身を開始させる。

 

UNIVERSE(ユニヴァース)!! ADVANCE(アドヴァンス)N・E・O(ネ オ)!!!』

 

 独特な待機音が流れる。

 左腕のチェンジャーを口元に運び、第二の音声認証を行う。

 

「変身!」

THUNDERT(サンダー) YELLOW(イエロー)!! ACCELERATION(アクセラレーション)!!!』

 

 瞬間、特殊なフィールドが展開され、私の身体を黄色いスーツが覆っていく。

 ものの数秒ほどで頭を含めた全身を仮面とスーツで覆うことで、変身を完了させる。

 

CHANGE(チェンジ) → UP(アップ) RIGING(ライジング)!! SYSTEM OF(システム オブ) JUSTICE(ジャスティス) CRUSADE(クルセイド)!! VERSION(バージョン)2.0!!』

 

 新たに改良されたジャスティススーツ。

 以前の三倍以上の性能に引き上げられたそれを纏い、私は急いで光の柱が落下した場所へと向かう。

 

「あ、イエローだ!」

「コスプレじゃない!?」

「本物!?」

 

「通してくださーい!」

 

 目立つのはいつものことなので、逃げる人々の間を走って光の柱が落ちた場所へと辿り着く。

 そこでは既に戦闘が繰り広げられていた。

 

「フワぁぁ―――!?」

 

 胸部の装甲から火花を散らしながら吹き飛ばされる赤いアーマーを纏った白騎士と、痩身な身なりの宇宙人。

 ごろごろと地面を転がりながら起き上がった彼は、ウサギのように長い耳と、爪のような手甲を両腕に嵌めた宇宙人を睨みつけた。

 

『ワガハイハ セイショウジョレツ287イ キヌト ダ!!』

「速くてびっくりした……相変わらず何言っているか、分からないな……」

 

 社長に組み込んでもらった異星人の言語の翻訳機能がちゃんと作動しているようだ。

 相手は、星将序列287位のキヌト、見た目は毛のないウサギを人型にしたような不気味な姿だ。

 恐らく、既にこの場で結構な戦闘を繰り広げたのだろう。

 彼と侵略者が戦っている空間の壁は傷だらけで、地面にはガラスの破片などが大量に落ちていた。

 

「炎で!」

 

 片刃の剣から炎をあふれ出して攻撃を当てようとするも、相手は目にも止まらぬ速さでその全てを避け、さらに白騎士に痛烈な蹴りを浴びせようとする―――が、

 

「慣れてきたぞ、この野郎!!」

『ナ!?』

 

 速度に反応した彼がその手に持った炎に包まれた剣を前へと突き出す。

 だが、相手の反応もそれなりにあるのか、ギリギリ攻撃を避け、彼から大きく距離を取った。

 

「……どうやらスピードに特化した侵略者のようやね」

 

 これまでになかったカツミくんと侵略者との戦いへの介入。

 それに思うところがないわけではないが、まずは目の前の相手をなんとかせねばならない。

 

「ッ、新手か!!」

「え!?」

 

 何を思ったのかダガーを手にした彼が私へと攻撃を仕掛けてきた。

 彼に驚きながらチェンジャーから両刃の大斧『ネオ・ジャスティスアックス』を引き抜いた私は、ダガーを斧の柄で受け止め、力技で押し返す。

 

「な、なんてバカ力だ……!?」

 

 後ろにのけぞった彼が戦慄したような声を漏らす。

 

「女の子になんてこというんや!?」

「ご、ごめんなさい……。て、敵じゃないのか!?」

 

 彼が記憶を失っている事実を叩きつけられながら、私は斧を持ち直す。

 恐らく彼は、最初に戦ったアクスと私達のスーツのデザインが似通っているから勘違いしてしまったのだろう。

 

「私は君の味方だよ」

「そ、そうなのか? ありがとう! 助かる!!」

「……」

 

 素直すぎひん?

 思わず内心までも似非関西弁になってしまうほどの衝撃だ。

 これ、普通に接触すれば協力し合え……、……!

 

「不意打ちとはやってくれるわぁ」

 

 話している最中に攻撃を仕掛けてきた毛のないウサギを人型にさせたキヌトの爪を、斧で防ぐ。

 ガキィーン! と甲高い金属音が鳴ると共に、斧を振り回すが相手は軽々と避けて距離を取る。

 

『ナニモノダ』

正義の味方(セイギノミカタ)

 

 社長が作ったこちらからの翻訳機が作動していることも確認。

 私の言葉を自動的にあちらの言葉に変換し、音声として発したことに相手が驚くのが分かる。

 

『イエロォ!! 既に現地にいるのか!?』

「ただいま交戦中。白騎士もすぐ近くにおり、協力を持ちかけるつもりです」

『了解した! こちらでサポートする!』

 

 社長に通信を送った後に私は横目でカツミ君……白騎士へと視線を送る。

 

「白騎士くん、私も協力するから一緒に戦わへん?」

「て、手伝ってくれるのか……?」

「勿論や。同じ地球を守る仲間だからね、私達……」

「そうか……! ありがとう!」

 

 無茶苦茶素直だけど、なんだか複雑な想いに駆られてしまう。

 人を助ける心は変わらない。

 だけど、彼は私のことなんて覚えていないし、その性格もまるで違う。

 その事実を叩きつけられながら、無意識に斧を持つ手に力が籠る。

 

「あいつは目にも止まらないくらいに速いんだ」

「君はどうやって戦ったん?」

「出会い頭に背中にダガーを刺して、しがみつきながら殴ってたんだ。落とされちゃったけどね……」

「へ、へぇ……」

 

 前言撤回。

 やっぱりこの子カツミくんだ……!

 記憶なくても、最初の攻撃の遠慮の無さからしてカツミ君だ。

 

「あの攻撃に対抗するには、どうすれば……」

OK(オーケー)!』

「え、シロ!? またやってくれるのか!?」

 

 彼のバックルから意思の籠ったかのような音声が発する。

 オオカミの黄色い目は次第に赤、青、黄と点滅を始める。

 シロというのは、バックルのメカオオカミの名前だったんだ……。

 

SALVAGE(サルベージ)…→SALVAGE(サルベージ)…→SALVAGE(サルベージ)…』

 

 というより、これはまさか今の赤い姿に変身したときみたいに新たな形態を生み出そうとしているのではないか? 速い相手に対抗するといったまさに、電光石火の雷に決まっている。

 つまりは私だ。

 ちょっと、いやかなり期待した視線を向けていると、待ちきれなかった怪人が動き出そうとするのを察知する。

 すぐさま斧を彼の前に突き出し、キヌトの攻撃を阻いてみせる。

 

「彼はやらせんよ、私が相手や」

『ッフザケヤガッテェェ!!』

 

 その場で跳躍し、一瞬で高速移動を行い視界から消えるキヌト。

 どうやら私から始末するつもりのようだ。

 

「き、黄色さん!」

「イエローや。君のこと、今度こそ守るから」

「……? あ、ああ!」

 

 周囲の壁と建物の側面を蹴り、縦横無尽に動き回る相手。

 文字通り目にも止まらない速さであるが、そんな相手これまでに何度も何度も戦ってきた上に、もっと恐ろしいやつを倒してきた。

 おもむろに斧を上に振り回し、頭上からの爪をはじき返す。

 

『ミモシナイデ……!?』

「甘すぎるわぁ。この程度の速さで私を倒せると思うてるんか?」

 

 軽々と片手で斧を振り回し、四方から迫る攻撃をはじき返していく。

 私に生中な攻撃は効かないと判断したのか、私から一定の距離を取った相手は、おもむろに爪の装備された手をこちらへ向けると、まるでミサイルのように爪を連続で放った。

 

『クラエ!!』

「だぁかーらぁ!!」

 

 目前へと迫る爪に、思い切り斧を振り上げ電撃を纏わせる。

 そのまま力強く、地面へと斧を叩きつけた瞬間、私の前方へ扇状の電撃が放たれ、飛んできた爪を全て叩き落としてしまった。

 敵の姿はいつのまにかいない。

 

「まあ、不意打ちやろうなぁ」

『!?』

 

 黒騎士としての彼の攻撃は、生半可なものではなかった。

 彼の攻撃は恐ろしかった。

 最後の戦いは、文字通りの、お互いが本気で力を出し尽くしたもの。

 私の中では怪人と戦う以上に最も苦戦した戦いだと断言できるものだったのだ。

 

「遅い」

 

 側方から突き出される爪を首を傾けて避けながら、短く持った斧の刃を腹部に叩きつける。

 軽く後ろへ吹き飛んだ奴が立ち上がろうとした時―――、

 

COMPLETE(コンプリート)!!』

 

 そんな音声が響き渡り、白騎士くんがゆっくりと立ちあがる。

 で、できたんかな……私の、色……。

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!!』

 

 彼がバックルを叩くと録画されていた映像と同じ音声が溢れ出る。

 

SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!! → OK(オーケー)?』

「はえ?」

 

 あれ、なんでそこでブルーなの!?

 私ちゃうの!? 驚愕のまま動揺していると、怒りの形相を浮かべた侵略者が捨て身じみた加速のまま、カツミくんへと飛び掛かった。

 危ない!?

 そう叫ぶ前に、彼が突き出した手が正確にキヌトの爪が装備された腕を掴む。

 完全に動きを見切らなければ不可能な挙動に相手が驚く暇を与えないまま、彼は反対の手で相手の顔を殴り、そのまま蹴りで無理やり距離を取らせた。

 

『CHANGE!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

 

 赤色に染まった装甲が青色へと変わる。

 水を弾くようにさせて形態変化を完了させたカツミ君は、右手を掲げるとその手に武器のようなものを出現させる。

 

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)!!』

 

 手に納められたのはハンドガン型の青色の銃。

 葵の持つそれと微妙に似たその銃を、握りしめた彼はその照準を敵侵略者へと向ける。

 

『ハッ! ジュウ ナゾニ アタルカ!!』

 

 加速を用いてその場から消える奴に、彼は銃口の先を虚空へと向けてエネルギー弾を放つ。

 空中での炸裂音。

 その次の瞬間には、肩を押さえた侵略者が地面に倒れもだえ苦しんでいるではないか。

 

「白騎士くん、これは」

「精密射撃です。この形態の俺は、どうやら目と手先が器用になるようです」

 

 ……なんやそれ。

 まんま葵じゃん!

 なんで私じゃないの?

 ねえ? どうして? 

 なんでなん……?

 

「もう俺は狙いを外さない」

『マグレアタリガ ナンドモツヅクト オモウナ……!』

 

 彼が照準を構え、連続してトリガーを引けば何もない空中に連続して何かがぶつかり、侵略者の痛みに悶える叫び声が響く。

 これはもう、私が出る幕はないかなぁ。

 そう察していると、相手は勝負に出たのか真正面に現れカツミ君目掛けて私に放ったものと同じ爪でのミサイルを放ってくる。

 

「狙いは、外さない」

 

 慌てる様子もないまま照準を合わせ機械的にトリガーを連続で引いていく。

 三秒もしない間に爪を全て、外すことなく撃ち落とした彼は、その左手にいつの間にかダガーを握りしめていた。

 

LUPUS(ルプス) DAGGER(ダガー)!!』

 

 ルプスダガーと呼ばれた武器をリキッドシューターに装着させ、銃剣のようにさせた。

 まるで、それが本来の姿と言わんばかりに、ダガーの刃の黄色い光は青色へと変化させたのを確認し、彼はそのまま呆然とするキヌトに銃口を向ける。

 

CONNECT(コネクト)! LUPUS(ルプス) POWER(パワー)!!』

 

 まだ戦う意欲があるのか、そのまま動き出そうとする奴だが、それよりも先にカツミ君が放ったエネルギー弾が直撃する。

 

『ガッ、ク、ヤメ、ガァ!?』

 

 機械的にゆっくりと歩み、距離を詰めながらキヌトの動きを阻害するかのようにエネルギー弾を叩き込んでいく。

 ある程度の距離にまで彼が近づくと、その手に持った銃に取り付けられたダガーを連続してキヌトに叩き込み、そのまま吹き飛ばした。

 

「ここに来る時、女の人や子供を優先して狙おうとしただろ」

『……ッ』

 

 火花と共に地面を転がる奴を目にした彼は、そのままバックルを三度叩き、必殺技を発動させる。

 バックルから流れ出したエネルギーが両手で構えたリキッドシューターへと集められていく。

 

DEADLY(デッドリィ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

 

「俺はお前を、許さない!」

 

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) BREAK(ブレイク)!!』

 

 放たれた大きなエネルギー弾はキヌトを呑み込み、一瞬の静寂の後に大きな爆発を引き起こした。

 跡形も、その残骸すらも残らないほどの威力に驚きながら、私は安堵するように肩の力を抜いている彼に近づいた。

 

「あの、白騎士くん」

「ありがとうございます。俺だけじゃ、駄目だったかもしれなかった」

 

 そんなことはない。

 彼が誰よりも早くここに辿り着いていなければ、被害はもっと酷くなっていたはずだ。

 ……目覚めた力が葵なことには納得がいかないけれども。

 まずは彼にジャスティスクルセイダーの本部にまで来てくれるかどうか交渉しなくては。

 

――今回は粗削りだな まだまだだ

「はは、シロは手厳しいなぁ」

――貴様に それだけ期待しているということだ

「え?」

「いや、なんでもないです。……あ」

 

 この場にはいない誰かの声に反応するかのように苦笑する彼に、違和感を抱く。

 一瞬呆然としている私を他所に、彼は突然立ち上がり頭を抱えた。

 

「……やっば! そろそろ帰らなきゃ。また姉さんに怒られる……!!」

「は?」

 

 姉さん?

 彼に家族上の姉はいなかったはずだ。

 義理の? まさかこの短期間で?

 呆然の後に、混乱させられた私にぺこりと深々とお辞儀をした彼は、そのまま空間に出現させたバイクにまたがり走り出そうとする。

 

「イエローさんですね。次に一緒に戦う時があったら、またよろしくお願いします!」

「あ、う、うん。待って、君にお姉さんがいるの!?」

「……あー、しまった。はい。います。実の姉で、大切な家族なんです……」

 

 照れくさそうにそう言葉にした彼はそのままバイクを走らせ、空へと駆け上っていった。

 一瞬にしてその姿が見えなくなったことに、気づきながらも頭の処理が追い付かなかった私は、軽いめまいと共に近くの街灯に背中を預ける。

 

「実の、姉? まさか、ありえない……」

 

 記憶喪失の彼に付け込み、姉になった何者かがいるのか?

 なんだそれ羨ましい

 許されざる行為だ。

 姉なら、私の方がお姉ちゃんだぞ

 彼が記憶のないことをいいことに、きっと好き放題しているはずだ。

 私ならそうしてる

 いったい、それは誰だ……!

 どういうつもりで、彼の家族と名乗ったんだ……?




銃ライダーは近接が強い(偏見)
二番目のフォームチェンジは、精密さと射撃が得意なブルーでした。

今回の敵は序列287位のキヌトくん。
イエローがいなければ中々にいい勝負ができていたはずですが相手が悪すぎました。

真の姉属性持ちのイエローが、姉を騙る謎の人物に対抗心を抱きました。


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狡猾さ、恐るべき形態

ギャグ回のはずでしたが、なぜかこっちの話に。
ルプスフォーム、三つ目の形態のお披露目ですね!(暗黒微笑)



 最近、侵略者が襲ってくる数が増えたような気がした。

 それに、少しずつ強くなっているとも思える。

 いったい、侵略者はどういう目的で地球を狙っているのか、その目的は依然として理解できないが、それでも俺は戦わなければならなかった。

 そうしなければ、戦うことのできない多くの人が犠牲になってしまうから。

 

kono tikaraha!? nanda nanimono nanoda!?」

3nin gakaridazo!?」

uwaaaaa!?」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 相変わらず何を話しているか分からない宇宙人の一体を、炎の剣で両断させる。

 痩せ細った骸骨のような姿をしたそいつは、炎に包まれ俺の眼前で爆発し、視界は炎に包まれる。

 

CHANGE(チェンジ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)!!』

 

 瞬時にショットブルーに切り替え、青い装甲を纏い水を払いまき散らされた爆炎をかき消した俺は、振り返ると同時に手に出現させたリキッドシューターを、二人目の宇宙人、頭が青い炎に包まれた宇宙人へと向ける。

 

ku kurunaaaaa!!」

「……」

 

 掌から放たれる炎。

 歩いて近づきながら、こちらに迫る前にその全てをエネルギー弾で撃ち落とす。

 ルプスダガーと連結させ、銃剣とさせたそれを腹部に突き刺し、必殺技を発動させる。

 

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) STINGER(スティンガー)!!』

 

ya yame!?」

 

 ダガーを突きさされもがく宇宙人に密着させたリキッドシューターから圧縮されたエネルギー弾が放たれ、その身体を大きく吹き飛ばし―――壁に激突すると同時に、青色の粒子を広げながら消滅する。

 残るは一体。

 バックルのスライドを一度指で弾き、白い装甲のセーブフォームへと戻る。

 

CHANGE(チェンジ) SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!!』

 

 形態変化をさせながらビームらしき攻撃を、リキッドシューターに取りつけたダガーで防御するように弾く。

 

hi!? ki kiiteinai!!」

 

 俺に背を向けどこかに逃げようとする。

 三体目のイカのような上半身を持つ宇宙人。

 逃げるなら、最初から侵略なんかしようとしなければいいものを……!!

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 その手に持ったリキッドシューターを投げ捨て、三度目の必殺技を発動。

 強化された脚力のまま背を向ける宇宙人に向かって大きく跳躍し、必殺の蹴りを放つ。

 

「ハァァ!!」

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

gya——!?」

 

 恐怖に歪んだ顔を見せた奴が振り向いた瞬間、その胴体にエネルギーが纏った蹴りが叩きつけられる。

 衝撃により後ろへ蹴り飛ばされた奴は、空中でビリビリと電撃をまき散らすと地面に落ちる前にその身体を爆発させた。

 

「はぁー」

 

 蹴った反動で後ろに跳ぶように着地した俺は、緊張を解くように軽く息を吐きだす。

 いつまで続くんだ、これは。

 近くに一人でやってきた『ルプスストライカー』に跨りながら、俺はその場を走り出す。

 

「ん?」

 

 今、なにか視線のようなものを感じた気が……。

 

「……気のせいか」

 

 多分、一般人だろう。

 空からの侵略者が現れてから一か月と半月。

 戦いは、終わる気配を見せずそれどころか苛烈さを増していた。

 


 

 

「すみません! 遅れました!」

「おーう。そこまで混んでねぇから大丈夫だぞー」

 

 怪人を倒した後、すぐにバイトへと戻る。

 急いで手を洗いエプロンを着た俺は、いつもの業務を始める。

 

「カツキ君、最近忙しそうだねー」

「ははは、色々ごたついてしまいまして」

 

 常連のお客さんと軽く会話をしながら、テーブルを拭く。

 時間帯的には来る人も決まっているので、自ずと顔見知りも増えてしまう。

 眼鏡をかけたスーツ姿の男性は、穏やかに微笑みながらコーヒーを飲む。

 

「おうおう、こいつは忙しくしてるぜ。バイトを抜け出すこともしばしばだ」

「す、すみません……」

「まったくだ。あーあ、もううちが潰れたらどうしてくれるんだ」

 

 ややオーバーな仕草で肩をすくめるマスター。

 本音で言っている訳でもなく、普通に茶化すように言ってくれている彼に苦笑を返しているとカランカラーン、と扉のベルが鳴り、店に新たなお客さんが入ってくる。

 

「いっらしゃいませー」

 

 入ってきたのは紫色の髪の男性であった。

 長髪の男は、手に紙袋のようなものを持っており、カウンターの席に座った彼は荷物を足元に下ろす。

 彼に水の入ったコップを差しだした俺は、いつものように話しかける。

 

「ご注文が決まりましたらお呼び――」

「いや、まさか君のような人が彼だとは思いもしなかったよ」

「はい? 彼……?」

 

 男がこちらに顔を向け、にやりと笑う。

 

「白騎士、さ」

「ッ!!?」

「場所を移そうじゃないか。ここじゃ、ねえ?」

 

 まさか、こいつも宇宙人なのか……!?

 正体が知られた……!? いや、それ以上にここはマズイ!!

 男に無言で頷いた俺は、シロのいる鞄をこの場に持ってくるついでにマスターに声をかける。

 

「すみません、ちょっとこの人が話があるっていうんでちょっと外に行きます」

「はあ、またかよ。……まあ、それならしょうがねぇか。早めに戻ってこいよー」

「はーい」

 

 平静を装いながら男と一緒に外へ向かう。

 扉に手をかけて外に出ようとしたところで、俺の前に見慣れた白い髪の少女が現れる。

 

「姉さん……!?」

「あ、かっつん。早めにお昼休みとれたからきたんだー。……どこかに行くの?」

「あ、ああ。大丈夫、すぐに戻るから。ハクア姉さんはここで待っていてくれ」

「? うん。分かった」

 

 首を傾げながらも店に足を踏み入れる姉さん。

 余計にここで戦いを起こしてはいけないと思いながら、俺と宇宙人と思われる男はそのまま道を歩いていく。

 

「さて、ここらでいいかな」

「なに、を」

 

 不意に男はなんらかの装置を起動させる。

 瞬間、俺と男を包み込むように暗闇が発生し、次の瞬間にはどことも知れない空間に連れてこられる。

 周囲には、男以外に十人ほどの様々な姿の武装した宇宙人がいる。

 

「彼らは、私の配下の者だ。皆、星将序列200番台の猛者たちだ」

「……お前は、誰だ」

「ははっ、いや、失礼」

 

 紫色の前髪に触れながら、余裕の表情のまま男は自己紹介をする。

 

「私はユルガ、星将序列201位をさせてもらっている者だ」

「……」

 

 星将序列とはなんだ。

 さも、こっちが知っているように序列とか言っているが。

 

「201位? それは低いのか? 高いのか?」

「勿論、高いさ。ああ、言葉が通じていなかったんだな。それは失敬」

 

 まさか今までなんか名乗り上げていたそれも関係しているのか?

 毎回、数字だけ聞こえていたのでなにかと思ったが……。

 

「星将序列というのは、100位からその力の質も、能力も大きく異なっていくんだ。だから、それから下の序列は正直、実力差もほぼないピンキリだ」

 

 つまり101位から下はほぼ変わらないってことか?

 なんで、それを俺に話すのだろうか。

 正直、興味なんてないのだけど。

 

「だから、無条件での序列の押し上げはまさしく破格なことなんだ」

「俺を倒せば、上がるってことなのか?」

「その通り!」

 

 正解、とばかりに指を差すユルガ。

 

「君が昼間倒したのは私の部下だ。星将序列……えぇと忘れたからいいか。まあ、彼らに発信機を仕込んでもらい、君の位置を割り出した。それほど難しい話ではなかったよ」

「……お前らも、そいつらと同じことになるとは思わなかったのか?」

 

 もう聞いていられるか。

 バックルからシロを呼び出し、変身しようとする。

 さっさと倒して、店に戻らなければ―――!

 

「君の働いている場所に爆弾を仕掛けた」

「……は?」

 

 変身を行おうとしていた手が止まる。

 ばく だん?

 

「半径500メートルを焦土にさせるものだ。爆発すれば、その付近にいる命は軽々と消滅するだろうねぇ。あ、これはそのボタンだ!」

 

 おもむろに取り出した緑色のスイッチ。

 手で握るタイプのそれをこれみよがしに見せたユルガは、なんの躊躇もなしにそのボタンを押した。

 

「おっと! 今、間違えて押してしまった! 君の家族も友人も全員なくなってしまったようだ!!」

「……!?」

「ははは、冗談だよ。本物はこっちだ。でも君が抵抗すれば、私は迷いなく押すよ?」

 

 変身をすれば爆発させる。

 あの場にはマスターも姉さんも、他の人達もいる……!

 

「さあ、その物騒なそれを置いて、私達に殺されてくれたまえ。白騎士くん」

 

 大人しく従うしかない。

 バックルへと変えたシロを地面に落とす。

 それと同時に、宇宙人の一人がその拳で俺の腹を殴りつけた。

 

「ぐっ……」

「変身できなきゃ、その程度かァ、おい」

「おいおい、気が早いぞ。ギャダ」

「仲間を殺されてんだ。しっかりといたぶってやらなきゃ気が済まねぇよ!」

 

 そっちから地球に攻めに来ておいて何を言ってんだ……!

 腹を押さえながら立ち上がろうとすると、目の前の宇宙人が牙をのぞかせた歪な笑みを浮かべる。

 

「どちらにしろ、お前達は終わりだってんのにバカな奴だなぁ」

「……!」

 

 姉さんを、失うわけにはいかない。

 たった一人の家族なんだ。

 また、あの時みたいに家族を失うわけにはいかない。

 

「あの、時?」

 

 あの時?

 あの時ってなんだ?

 俺の今の家族は姉さんだけだ。

 それ以上に、誰か、いるはずもない。

 

「———ぁ」

 

 頭が痛い。

 まるで、記憶の奥底をなにかで抉られるような感覚と共に、俺の頭に思い浮かんだのは―――俺の、知らない記憶であった。

 

『なんで あんたが 生きてるのよ』

『おまえが かわりに 死ねば』

 

 目と鼻の先で呪いの言葉を吐きながら息絶える両親。

 先に、父さんが死んだ。

 その次に、助けられるちょっと前に、母さんが死んだ。

 俺に、ありったけの憎悪を叩きつけてきて、死んだ。

 そして、心無い言葉を浴びせるたくさんの誰か。

 奇跡の子とはやし立て、欲しくもない言葉も口にする見ず知らずの誰か。

 

気味の悪い子

気にするな どちらにせよ 追い出すんだ

必要なのは 金だけだ

 

 俺を余所者として受け入れた、二つ目の家族。

 これが、俺の記憶?

 こんなものが、俺の記憶なのか?

 ふざけるな。

 こんなもの、家族でもなんでもない。

 俺の家族は―――、

 

――私の可愛い カツミ

――貴様の姉は いったいどこにいるんだろうなぁ?

 

「……あ、あ……あ」

 

 この記憶に、悪夢の中にハクア姉さんの姿はどこにもいなかった。

 そのことに気付いてしまった俺は、猛烈な悪寒に襲われる。

 殴られた痛み以上に、心が引き裂かれそうになる。

 嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!!

 

「——嘘だ」

 


 

 相手はただのガキだ。

 それも、十数年ぽっちしか生きていないガキ。

 いくらその強さで星将序列の者を倒したとしても、あくまでその心は年相応に弱く、少し弱点を突けば壊れてしまう。

 私の予想通りに、白騎士と呼ばれ浮かれていた奴は無力化した。

 

「……」

「さあ、あとは君を始末して序列を――」

 

 ゆらりと立ち上がった奴の腰に音もなくベルトが装着される。

 

「おいおい、いったい何をして……!」

 

 それに驚く間もなく、ひとりで(・・・・)にバックルが動き出し、ベルトに装着される。

 漆黒に染まったバックルのオオカミの瞳から、黒い煙が溢れだしその身体を包み込む。

 

AXE YELLOW(アックス イエロー)……ジジ……ERROR(エラー)!!

 

 ……ッ!?

 ノイズがかった音声が鳴り響く。

 

WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!!』

 

 危険を周囲に知らしめるかのように、アラートが鳴る。

 それに伴い、周囲の温度が低くなったような、背筋が凍り付くような悪寒に苛まれる。

 

「な、なんだ? なにが起きている!?」

 

 データにない変身。

 それも、明らかに異常さを感じさせるもの。

 

ENDLESS(エンドレス) RAGE(レイジ)!! WEAR(ウェアァ) DEATH(デス) WARRIOR(ウォーリアァ)!!』

 

 黒い煙から現れたのは、漆黒の複眼を闇夜に光らせた、闇の戦士。

 赤い稲妻を纏い、不気味な音声を未だに鳴らしながら、奴の周囲に浮かんだアーマーが空中で歪みながら、装着されていく。

 

EVIL(エビル) BLACK(ブラック)!!  HAZARD(ハザード)FORM(フォーム)!! 』

 

 ゆらりとその場に立っていた奴は、まるで感情を感じさせないような仕草でじろりとこちらに視線を向けた。

 

EAT(イィト) KILL(キル) ALL(オォル)……』

 

 その瞬間、最も近くにいた配下の星将序列243位のギャダの頭が消え失せる。

 悲鳴を上げる暇もないまま崩れ落ちる彼から、黒い戦士へと目を向けると―――奴は軽く掲げた右腕で掴んでいた首だけとなったギャダの頭を、見せつけるように地面へと落とした。

 なにをしたのか理解が及ばない。

 我々の、理解を遥かに超える化物に、この場にいる全員が恐怖に怯えだす。

 

「ハ」

 

 くぐもった声が仮面から響く。

 

「ハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

 なんの感情もない、いや、まるで無理やり感情を引き出したように嗤う黒い戦士を目にし私はようやく気付く。

 私は、目覚めてはいけない何かを、目覚めさせてしまったことに。




悪夢でしかない記憶のみを思い出してしまった彼が目覚めた、善意を失った黒騎士フォーム。
音声もてんこもりにしておきました(親切)

この話を書いた後に、ユルガ君をベガ君の兄弟に設定しておきました(無慈悲)


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黒騎士は止まらない

本日二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

ベガ戦の時になるはずだった暴走フォームは強めのルプスフォームが暴走するくらいのパワーでした(ベガたちは普通に倒されますが)

今回の暴走フォームは、主人公の悪の感情とラスボスとの戦闘経験によりもっと悪い方向に強化されています。


 現れた黒い戦士。

 不気味に嗤いながら、強く足元の首を踏みつぶした奴を目にした俺は、即座にその手に持ったスイッチに沿えた指に力を籠める。

 

「動くな! 爆弾が作動す――」

 

 ———待て、なぜ、やつの手にスイッチが?

 それに、あの手は? 誰のだ?

 恐る恐るスイッチを持つ手元を見ると、手首から先が存在していなかった。

 

「あ、あああ!?」

INVASION(インベイジョン) START(スタート)!!』

 

 即座に変身し、全身に装備を纏い臨戦態勢へと移る。

 スイッチを握りつぶし、破壊した黒い戦士は全く感情を感じさせない素振りでこの場にいる仲間達の顔を確認すると、なんの躊躇もなくバックルを叩く。

 

HAZARD(ハザード)(ワン)!!!

 

 その音が鳴った瞬間、仲間の一人が黒いオーラに囚われ宙へと浮き上がる。

 

「な、なんだ!? か、身体の自由が!! ユルガッ!?」

「ヒュンラ!?」

 

 奴の手が黒いオーラに包まれる。

 まずい、そう判断した時には遅く、黒いオーラに包まれた仲間は黒い戦士目掛け引き寄せられるように向かって行ってしまう。

 

「い、いやだ!? こんなところでッ、ああああ!?」

GRAVITY(グラビティ)!! FINAL(ファイナル) BLOW(ブロウ)!!』

 

 引き込まれ、奴が軽く前に掲げた拳に自分から激突し、黒いオーラと共に粉々に砕け散ってしまった。

 星将序列200番台の者が一瞬にして、粉々に砕け散り消滅する姿を目にした者は、恐怖に震えながらも黒い戦士に攻撃を仕掛けようとしている。

 

「この! 死ね!!」

 

 繰り出される武器での攻撃。

 レーザーとエネルギー弾を用いた攻撃は、棒立ちの奴の身体には届かず、その寸前で見えない壁のようなものに遮られ通ることはない。

 

「な、なんだよ、こいつ! 攻撃が、通じな」

 

 黒い戦士の身体が黒い煙に包まれ、その姿を消す。

 一瞬にして消えた奴に動揺した次の瞬間には、一人の背後に無音で現れその首が斬り落とされる。

 

「しゅ、瞬間移動だと……!? い、いや、今のは違う!!」

 

 ワームホールだ……!

 単体でワームホールを作り出し、それを使っている!?

 全員が恐怖のまま攻撃を繰り出していくが、奴は連続でワームホールを作り出しながら移動を続けながら、一人、また一人とその拳で倒していく。

 ふと、動きを止めた奴は、どこか不満そうに自身の拳を握りしめると、再び仲間の一人に殴りかかる。

 

「大人しく、死ぬはずだったのによォ!」

「……」

「がぼ!?」

 

 首に抜き手を叩き込み、宙に浮いたところで右拳を三度、心臓に叩きつける。

 私にも分かるほどに動きを遅くさせ、手加減をしながら攻撃を加えた奴は、ほぼほぼ死にかけている仲間の胴体に強烈な横蹴りを叩きつける。

 そのまま、地面に叩きつけられたそいつの頭を踏みにじる。

 

カハッ、クハハハ……!

 

 肩を震わせ、奴は愉悦に身を震わせ、何度も何度も息絶えた仲間の亡骸を踏みつぶす。

 誰も、言葉を発することもできなかった。

 戦う意思すらなくしかけ、恐怖に震える私達に、ぐるんっ! と首を動かし、次の標的を奴は見定める。

 

「ひっ!?」

 

 逃げ出そうとする一人の前にワームホールで移動し、そのまま両足を一瞬にして叩き潰す。

 

「が、ああ、や、やめてくれ!!」

ハ、ハハハハ!! アハハハハハ!!

 

 機械で作られた腕を引きちぎり、足を叩きつけた奴はまるで楽しむかのようにその拳を振るっていく。

 明らかに手加減をし、遊びながら破壊を繰り返していた奴を目にした私は心底震え上がる。

 

「ば、化物……」

 

 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 ちぎり取られた腕の処置を終えながら、手首のツールを操作し、武器を転送させる。

 

「重力反転砲だ……! これなら、お前のような化物も終わりだ!!」

 

 大型のキャノン砲を肩に担ぎ、重力弾を黒い戦士へと放つ。

 奴はワームホールで逃げるそぶりを見せないまま、首を傾げ、バックルを二度叩く。

 

HAZARD2!!

 

 今更、この攻撃は避けられまい。

 重力弾は相手を捉え、反転する重力波により相手を粉砕する兵器……!

 奴がおもむろに右手を前に掲げた瞬間―――まるで、破裂するように重力弾が消え去り、それ以上の大きさの重力弾が呑み込んだ。

 

GRAVITY(グラビティ)! FINAL(ファイナル) IMPACT(インパクト)!!』

「は?」

 

 ———ありえない。

 ただの力で重力弾を消し去ることはできない。

 こいつの力は、重力そのものを操っているのか?

 呆然としたまま奴を見れば、少しの感情を見せないまま私以外の部下へと攻撃を仕掛けに向かっていた。

 

「に、逃げなくては……」

 

 こいつは、我々では手に負える相手ではない。

 あの方は、それを分かっていないのか!?

 背後で悲鳴を上げ、一瞬にして刈り取られていく仲間に背を向けたまま転移装置を発動させる。

 

「よし、転——」

 

 装置を起動させようとした時、自分のもう反対の手が消え失せていることに気付く。

 機械化され、電気を散らす腕に喉を震わせると同時に、私の左足から感覚が消え失せる。

 

「……」

「あ、……あああ……」

 

 左足を砕かれ、地面に倒れ伏す私を黒い戦士が見下ろす。

 なんの意思も感じられない黒い複眼を目の当たりにし、恐怖の声を上げる。

 奴が腕を振り上げ、黒いオーラを纏わせる。

 死ぬ、ここで死ぬ!

 腕で顔を隠し、泣き叫ぶ。

 

「……」

 

 しかし、衝撃が来ない。

 なんだ? こ、攻撃されないのか?

 疑問に思いながら腕を解くと、そこは先ほどまでいた場所とは別の光景が広がっていた。

 

「え?」

 

 そこは、暗闇に包まれた空間であった。

 足元は赤く、周囲がどれだけの広さがあるか分からない、そんな場所の先に―――階段とその上に君臨するように置かれている玉座を見つける。

 玉座には優雅に足を組み、腰かけている女性がいた。

 

「あ、ああ……」

 

 こ、ここは、間違いない。

 “あの方”が、私を救ってくださった。

 最上の美。

 あらゆるものに勝る美貌を持つ、彼女はひれ伏す私を見下ろし、冷笑を浮かべる。

 

「素晴らしい」

 

 お褒めの言葉に、思わず歓喜に打ち震える。

 どういう理由かは分からないが“あの方”が褒めてくださった。

 この宇宙を統べる絶対強者。

 序列という枠組みすらも意味を成さない最強の存在。

 そんな“あの方”の賛辞の言葉に

 

「まさか、私の術を模倣するとはな」

「え?」

「地球からここまで“追ってきたか”」

 

 顔を上げて気付く。

 あの方は、私のことなぞ見てはいなかった。

 それどころか存在にすら気付いていないかのように、その視線は私のすぐ後ろへと向けられていた。

 

「……」

「ひっ……あぁ……」

 

 音もなく、背後に立っている黒い戦士。

 恐怖のあまりその場で無様に地を這う私に、奴がその掌を向けた瞬間、身体が引き寄せられる。

 

「うぐ!?」

 

 首を掴まれ宙づりにされる。

 どうして、ここまで、さっきまでここに来ていなかった、はずなのに……!?

 

「さあ、止めを刺すがいい。その後に、お楽しみの時間としようじゃないか」

 

 楽し気に声を弾ませる、あの方の声。

 もがく余裕がないほどに強く絞められた首に悶え苦しむ私を、ジッと見つめた奴は空いている手でゆっくりとバックルを叩き始める。

 

HAZARD(ハザード)1(ワン)!!

 

 一度目。

 

HAZARD(ハザード)2(ツー)!!

 

 二度目。

 

HAZARD(ハザード)3(スリー)!!

 

 三度目、その後も連続して叩く。

 バックルが光を帯びるごとに、赤い電撃が迸りながらも奴は駄目押しとばかりにバックルを叩いた。

 私は、ただその時を待つしかなかった。

 

BLACKHOLE(ブラックホォール)!!』

 

 エラー音と共に歪な音声へと切り替わり、独特の重低音がベルトから鳴る。

 私の身体が発生した重力で浮き上がり、空中に固定され身動きすらもできなくなる。

 

DEADLY(デッドリィ)! LIMIT(リミット) OVER(オーバー)!!

 

 奴の全身から黒い煙と赤い電撃が漏れ出し、その全てが奴の右足へと集まる。

 直視することそのものが悍ましくなるほどのエネルギー。

 それをたった一人の力で振るった黒い戦士はそれを私目掛けて―――、

 

BLACKHOLE(ブラックホール)!!』

 

「あ……あ……」

 

FEVER(フィーバー)!! CRASH(クラァッシュ)!!!』

 

 赤黒いエネルギーを纏った横蹴りを叩き込んだ。

 音もなく繰り出された一撃により、全身の空間が歪められ、粉々にされながら自分の存在が削り取られていく。

 気絶することすら許されず、その感覚を叩きつけられた私の意識はゆっくりと虚空へと消えていく。

 

「さあ、やろうじゃないか」

 

 機械化された肉体に残された知覚が“あの方”の姿を捉える。

 自ら玉座を降り、友人を迎えるように腕を広げた“あの方”に黒い戦士は無言を返したまま、さらに黒いオーラを纏い始める。

 

HAZARD3!!

 

「あぁ、やはり貴様は挑戦者だ。私は幾星霜の時を経て貴様と出会ったのだな……」

 

 黒い戦士がワームホールと共に飛び出す。

 “あの方”が作り出した星の文様を描くオーラが広がる。

 それらがぶつかり合う光景。

 それが、私が最後に見た景色であった。

 


 

「これは夢だ、カツミ」

 

 朧げな視界に誰か、がいる。

 横になっている俺を見下ろし、その手で俺の頭を撫でるように触れている誰かがいる。

 

「怪我は癒した。服も元通り。なにも、お前は思い出すことはなかった」

 

 深く、子供に言い聞かせるような言葉。

 頭にもやがかかったように、ボーっとしたまま彼女を見上げる。

 

「ふふふ、心配するな。爆弾も私が回収した」

 

 青い肌の、ものすごく綺麗な人だ。

 

「今回も素晴らしい戦いであった。やはり貴様は私の期待をいい意味で裏切ってくれるな」

 

 額に手を置かれる。 

 冷たいその手に妙な心地よさを抱きながら安心してしまう。

 

「カツミよ、強くなれ」

 

 声を響かせた人は、ゆっくりと俺に言葉を投げかけてくる。

 

「私は貴様のことを、気に入っているのだからな」

 

 そのまま抱き寄せられる。

 抵抗する気も起きない。

 そもそも、抗う気持ちもないし、この状況を俺は無条件で受け入れてしまっていた。

 意識が、再び深海へ落ちていくのを感じながら、俺は再び目を閉じる。

 


 

「かっつん、起きた?」

 

 次に目を開けた時、そこにいたのは姉さんであった。

 少し不安そうな様子で、俺の額に手を置いている彼女に思わず呆気にとられた声を漏らす。

 

「ハクア、姉さん?」

 

 目を覚まし起き上がる。

 どうやら、眠っている俺に姉さんは膝枕をしていたようだ。

 しかもおまけに頭を撫でられるという恥辱もされていたとなると、弟としてはこれ以上になく恥ずかしい思いにさせられる。

 

「ちょっと、恥ずかしいからやめてくれよ……」

「照れちゃって、このこのー」

 

 額を押さえる俺を、からかうように肘で突く姉さんに苦笑する。

 ふとそばを見れば、シロもすやすやと眠っている……機械なのに……。

 

「あれ、どうして公園なんかに……」

「どうしてって、いつまでも君が帰ってこないから探しに来たんじゃないか。そしたら君が公園のベンチで眠っていたから……もう、びっくりしたんだよ?」

「……そう、か。なんか急な眠気に襲われて……」

 

 寝る前のことを思い出せない。

 あれ? あの男と何を話していたんだ? いや、そもそもどうして話そうとしたんだっけか?

 

「……」

 

 なにか嫌なことと、いいことどっちもあったような気がする。

 それがなにかは分からないけれど、なぜかそう思ってしまった。

 

「かっつん?」

「……とりあえず、マスターに謝りにいってくるよ」

「あ、かっつんが倒れてたって言ったら、休みにしてくれたよ」

「……」

 

 すみません、本当に。

 明日はしっかりと真面目に働かせてもらいますから……!

 

「帰りに食材でも買って帰ろうか」

「そうしよっか」

 

 俺の家族は、今は姉さんだけ。

 それは変わらない。

 

「かっつん?」

「あの、さ」

 

 立ち止まった俺に姉さんが振り返る。

 自分でもどうして立ち止まってしまったのか分からなかった。

 

「ハクア姉さんは、姉さんだよな? 家族、なんだよな?」

「……勿論だよ。もしも……ううん、たとえ、血が繋がっていないとしてもその事実は変わらないよ」

「そっか……なら、よかった」

 

 例え、記憶が蘇った後でさえも……変わらない。

 少なくともこの三ヵ月の間は、俺達は紛れもない家族だった。

 その事実は誰にも歪めることのできない事実だ。




黒騎士(ラスボスに)止められました。

ハザードフォームまとめ。
・ハザード1:引き寄せ置きパンチ。
・ハザード2:重力系エネルギーボール。
・ノーモーションでワームホール移動してくる。
・過剰出力でブラックホール発動
・悪感情を増大させられているので残虐
・ど こ ま で も 追 い か け る。

どういうわけか(ラスボスさんのせいで)、悪い記憶だけ思い出したことで目覚めた姿なので、今後は出ないかと思われます。


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三色娘+α(レッド視点)

今回はレッド視点となります。


 カツミ君が記憶喪失だということは確定した。

 きららが彼と共闘し、実際に彼が本物と確かめたことから、記憶を失っていることは分かった。

 その話し合いも含めて、私達はいつもの部屋に集まったわけだが、ちょっと話題が逸れて今は別の会話をしていた。

 

「ま、なんと言われようが私が最初に変身されたことには変わりはないから」

「順番は関係ない。私の方が使用頻度は高いはず」

 

 彼の変身形態のバリエーションはどう見ても私達の武器と属性によるものだ。

 それはつまり、彼が記憶を完全に忘れている訳ではないことを意味する。

 加えて言うなら、最初に別形態に変化したものが最も印象に残るということでもあるはずだ。

 睨み合う私と葵。

 我関せずとした様子で、腕を組み目を瞑っているきらら。

 そんな混沌とした状況の中、同じ席に座っていた黒い髪の少女は呆れたため息を零した。

 

「君達、そんなことで張り合って悲しくないのかな?」

 

 ジト目で私達のやり取りを眺めているアルファ。

 見れば見るほど同性から見ても美少女な彼女の呟きに、私達は肩をすくめる。

 

「こういうことでしか、話せないからだよ?」

「他になにを話せるの?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 なぜか私達の顔を見て顔を青ざめさせられる。

 いったい、どうしたのだろうか? まったく理由が分からないなぁ。

 

「あのさ、そんなしょーもないことよりも、ずっと重要なことがあるんよ」

 

 すると、腕を組んでいたきららがそんなことを口にする。

 

「よく言うじゃん。ノー実装イエロー」

「同情するけど、僻みはよくない」

「私、もうイエロー呼びやからね?」

「「……」」

「ねえ、これ本当に大丈夫!? 君達、本当に仲いいのかな!? 驚くほどの空気の重さなんだけど!?」

 

 ものすごくいたたまれない様子を見せる彼女に、さすがにやりすぎたかと思う。

 とりあえず剣呑な雰囲気を納め、笑みを交わす。

 

「まあ、冗談はここまでにして」

「うんうん、私達仲良し」

「そうやねぇ」

 

 一瞬で和やかな空気になった独房内。

 アルファは、お人形さんのように端正な顔を疲れさせながらベッドに倒れる。

 

「うぅ、もうやだよぉ、カツミぃ、会いたいよぉ……」

 

 あざとい。

 もう見た目の可愛さと仕草からして、あざとすぎる。

 

「アルファちゃんって同性に嫌われそうな性格してるよね」

「それって言外に私のこと嫌っているってことにならない?」

「……」

「無言はやめて……?」

 

 笑顔のまま首を傾げる私に声を震わせるアルファ。

 嫌いではない。

 嫌いではないが、気の抜けない相手でもある。

 色々な意味で。

 

「さて、話の続きやけど……私が言いたいのは、姉のことや」

「「……」」

「カツミ君の姉を名乗る不届き者がいる」

 

 先日、きららがカツミ君本人から聞き出したような

 

「記憶喪失の彼に刷り込みをさせるなんて……」

「しかも姉を名乗って家族になるなんて……」

 

「「その手があったか……!」」

 

「時々、君達の思考の飛躍が恐ろしくなるよ。私ですら、そんなこと考えつかなかったよ……?」

 

 私ときららの呟きにアルファがドン引きした様子を見せる。

 しかし、葵はそれほど気にした素振りもなく、掌を前に掲げる。

 

「いや、私後輩ポジを狙っているから別にって感じ」

 

「少しも後輩感出してなかったよね……?」

「カツミ先輩は、私の先輩ですから」

「突然、要素出してきたじゃん……このファッション理系……」

 

 今更……? 多分、カツミ君、普通に同級生だと思っているんだけど。

 そういえば、最初に普通に話すようには言っていたから時々葵が一つ年下だという事実を忘れてしまう。

 

「あわよくば、同級生だからいいかなって」

「きらら、この子腹黒いよ!! 私達が卒業した後に狙ってるよ!!」

「うわああああ!? もう三年やぁぁ!?」

「こっちは現実を見てる!?」

「なにこの惨状……」

 

 卒業後の進路やなにやらを想像し頭を抱えるきらら。

 実際、ジャスティスクルセイダーとしての活動によって貯金的にはとんでもない額があったりするが、やはり大学には行きたい。

 そういう思いがあるが、今の侵略者が来るような状況ではそれも難しいかもしれない。

 

「ふ、普段、君達。学校とかはどう抜け出しているの?」

「え、チェンジャーで光学迷彩化して、あとは立体投影したホログラムが代わりに授業受けてる」

「大丈夫なのそれ……?」

「余程のことがなければ大丈夫だよ。クラスに協力者がいるし」

 

 もしホログラムがバレそうになってもフォローしてくれるようにしている。

 彼女たちの尽力もあって私達はジャスティスクルセイダーとして動けていると言ってもいい。

 

「あ、私の能力使ったらもっと簡単に授業を抜け出せ――」

「もし認識改変しようとしたら、気絶させるからね?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ものすごい怯えようを見せるアルファ。

 そこまで怖いことしたかなぁ。

 

「気軽に能力を使ったらダメだからね。いくら相手がアルファちゃんを狙っているかどうか分からないといっても、もしもってことがあるからね」

「いや、分かっているよ。ここのことと、ここにいる人たちが悪い人じゃないのは知っているし。信頼してないわけじゃない。でも……」

 

 言い淀んだ彼女が続けて言葉を発する。

 

「いつになったら、カツミを元に戻してくれるのかなって……」

「……私達も同じ気持ちだよ」

「オメガは、アルファを終わらすための存在でもあるから、彼には私の力が通じない。彼が自分自身から許可を出さない限りは……」

 

 現状で彼の記憶を元に戻す方法は分からない。

 無理やり記憶を思い返すようなことをすれば、逆効果であることを社長に言われているために迂闊に刺激することもできない。

 それに……今の彼は、明るくて……記憶を戻さないほうがいいなんてことも、ありえるし。 

 

「あのさ……」

「おーぅ、お前ら寂しい青春を送っているようだなー!」

 

 すると力強いノックの後に、社長が独房へと入ってくる。

 彼の手には大きめの端末が握られており、彼はそれを操作しアルファに見せる。

 

「お前の言う通り、先日数時間だけ時空に乱れが生じた。もしかするなら、彼はまたどこかへ連れ去られていたのかもしれない」

「……やっぱり……」

 

 一週間ほど前、またカツミ君の気配が消えてしまったらしい。

 気配は数時間ほどすると戻ってきてくれたようだが……またカツミ君は敵の宇宙船に連れていかれてしまったのだろうか?

 そう考えるとものすごく不安になってくる。

 

「この件についてはより入念な調査をしておく」

「分かった」

「もうすぐ侵略者の接近、転移を予測する装置も完成する。色々と思うところもあるだろうが、お前達も耐えるように」

 

 私達が遅れている現状は変わらない。

 今は焦らず、ただ待つしかない。

 

「それとお前達が使うビークルを作ることになった」

「ビークル? 乗り物のことですか?」

「その通り。お前達のエナジーコアで動くものだから、それほど作ること自体は難しくない。カツミ君のバイクと同じようなものだと認識してくれればいい」

 

 彼のアレと同じか。

 彼を追うこともそうだが、それがあれば移動も楽になっていいかもしれない。

 

「まあ、そこまで小型なものではない。いずれはカツミ君のようなバイク型も作れればいいが、現状は無理だ」

「武器は?」

「勿論だ。操縦者であるお前達それぞれに応じた武器を内蔵させる予定だ」

 

 もしもの時は乗り物に乗ったまま奇襲できるということか。

 そう考えていると、ふと何かを思い出した社長が顔を上げる。

 

「ああ、そういえばこの前、部下達を出し抜いて一人で焼肉に行っていた時の話なのだが」

「なにやってんのあんた……?」

「偶然、白川君と会ってな。ハハハ」

 

 白川ちゃんと?

 比較的新しく入ったスタッフで、カツミ君の精神的なカウンセリングをしていた子だ。

 あの騒動の後に辞めちゃったはずだけど、社長が会っていたのか。

 

「彼氏連れだったぞ」

「「「「!?」」」」

 

 なぜかアルファまでも驚いているが、まさか白川ちゃんに!?

 思いっきり動揺する私達に社長が噴き出すように笑いを堪えた。

 

「うっそぴょ~ん! 恋愛経験ナシンジャーズが一丁前に危機感を抱いているじゃなーい! ぷっぷぴぃー!!」

「「「……!!」」」

「お、落ち着いて! たしかにむかついたけど、変身するのはやりすぎだって!!」

 

 アルファに感謝するんだね……。

 無言のまま座る私達に一瞬で元の調子に戻った社長は肩をすくませる。

 

「まあ、弟連れではあったがな。意外にもブラコンというやつらしい」

「白川ちゃん弟がいたんやねぇ」

「意外……。プライベートなこと、全然話さなかったけれども」

 

 がばりとベッドから転げ落ちるアルファ。

 普段から考えられない驚くほどの機敏さで立ち上がった彼女は、呆然とした様子で何かを呟く。

 

「は、え? どういうこと?」

「どうしたの? アルファちゃん」

 

 かつてないほどに動揺したアルファが頭を抱える。

 いったいどうしたのだろうか?

 

「ね、ねえ、変態」

「なんだ? あと、いい加減変態呼びはやめてくれないか? この四カ月ずっと変態呼ばわりなんだが」

 

 地味に傷つく社長を無視し、彼女は言葉を続ける。

 

「し、白川伯阿に弟はいないはずなんじゃないのかな?」

「……なんだと?」

 

 え? 弟がいない?

 アルファは白川ちゃんについてなにか知っているのか、と思っていると、つい先ほど話していたことを思い出す。

 姉を名乗る謎の人物。

 あの騒動の後に退職した白川ちゃん。

 

「本当に、その弟は、彼女の弟だったの?」

 




まだ疑惑の段階ですが、シグマも怪しいと思われはじめましたね。

アルファに恐怖を刻みつけたレッド、
後輩ポジを狙うブルー、
密かに姉ポジを狙うイエロー、
そして、ツッコミと化したアルファでした。

もしかすると、今日中にもう一話更新できるかもしれません。


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100番台、夜の侵略者

本日二話目の更新となります。
前話 三色娘+α(レッド視点)を見ていない方は、まずはそちらをお願いしますm(__)m



 記憶を失う前、俺は何をしていたのだろうか、と考えることはよくある。

 俺はどのような人間で、どのような人達に囲まれていたのか。

 無性にそれが気になる時もあるし、ふとした拍子に妙な空しさが胸の中を占める。

 もしかすると、俺って記憶を失う前も結構寂しい人生を生きていたんじゃないかって考えてしまう。

 

「今日の仕事はここまででいいぞ」

「あ、はーい」

 

 季節も夏に近づき、徐々に日が暮れる時間も遅くなっていく。

 夕焼け色に染まった空を見つつ、片づけを始めた俺はふと、お客さんの目の届かない厨房に置かれている写真立てを見る。

 

「あの、マスター」

「なんだ?」

「マスターって自衛隊に入っていたんですか?」

 

 写真には迷彩っぽい服と帽子を被ったマスターが、同僚と思われる人たちと一緒に撮ったと思われる写真がある。

 それを興味深げに見ていると、彼は気まずそうにしながら、曖昧に頷く。

 

「あー、元だよ。元。一年からそこらくらいにやめたんだがな」

「どうしてですか?」

「どうしてってお前……まあ、それだけのことがあったからだよ」

「何があったんですか?」

 

 そう尋ねてみるとどこか逡巡するような素振りを見せる。

 数秒ほどの沈黙の後に、彼は首を横に振る。

 

「大したことはねぇよ。オラ、こっちは明日の仕込みやら色々あんだよ。さっさと帰れ」

「わ、分かりました。また明日もよろしくお願いします」

「……ああ、そうだ。待て」

「はい?」

 

 不意に呼び止められる。

 

「常連によ、ちょっと人手を欲しがっているやつがいたんだが、どうかって思ってな」

「バイトですか?」

「ああ、少し体力を使うみてぇだからお前くらいがいいんだと」

「……怪しい仕事じゃないですよね?」

 

 そう言うと、マスターは目を丸くした後にからからと笑いだす。

 

「んなわけねーだろ。そうだったら俺が紹介するはずねぇだろ。着ぐるみのバイトだよ」

「めっちゃ体力仕事じゃないですか……」

「そうだよ。だから若い奴がいいんだよ。まあ、まだ夏じゃねぇからそれほど苦でもないだろ」

 

 それくらいの仕事ならいいかな。

 体力には自信があるし。

 一応、返事は保留にした後に改めてマスターと別れて、外に出る。

 外の街並みは、夕焼け色に染まっておりその中をのんびりと歩いていく。

 

「今日は怪人とか出なかったな。よかったよかった」

 

 侵略者は基本的に昼間に出る傾向が多い。

 なので、この時間帯になればもう出てくることはほとんどないはずだ。

 

『ガーゥ』

「こんな狭いところにいてもらってごめんな、シロ」

 

 カバンからひょこりと顔を出したメカオオカミ、シロにそう言うとふるふると首を横に振る。

 なんだか前以上に感情豊かになってきているな。

 やっぱり、学習とかしているのだろうか?

 

「さて、姉さんももうすぐ家についている頃だろうし、夕ご飯、何を作ろうかな」

 

 まあ、まずは食材を買いにスーパーに行かなきゃならないか。

 ……。

 

「いつまで、こんな日常を送っていられるんだろうな」

 

 ふと、そんなことを一人呟いてしまう。

 なぜか地球にやってくる侵略者。

 戻る気配のまったくない記憶。

 後者はともかく、前者の場合は俺のせいで侵略者が来ていると考えてもおかしくはない。

 もしかしたら、この先俺のせいで姉さんも、周りにいる人たちも巻き込んでしまうかもしれない。

 

「———ッ」

 

 今日聞きたくはなかった頭に響く鈴の音。

 今から、侵略者がやってくる。

 それを強く知らせてくるそれに大きなため息をついた俺は、近くの路地へと駆けこみ、バックルに変形したシロをキャッチする。

 

「今日も、やるしかないか」

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 どんな時でも侵略者は現れる。

 安易な考えを抱いていた自分に呆れながら、俺はいつものように白い戦士の姿へと変身をするのであった。


 

 ルプスストライカーに乗り、光の柱が現れたところに到着した時には、既にその場所は惨憺たる状況へと変わっていた。

 ひっくり返された車。

 大きな爪のような傷跡が刻まれたコンクリートの地面。

 これまでとは違い、獣が現れたようなそれを目にしながら現場に着地しバイクを止める。

 

「シャァァァ!!」

「!」

 

 背後から何かが飛び掛かる音を察知し、一瞬でバイクを反転させて後輪で弾き飛ばす。

 地面に叩きつけられたそいつは、もがき苦しみながらもすくりと立ち上がり、よだれを垂らしながら俺を強く睨みつけた。

 

「人型の、獣?」

 

 灰色の毛に包まれた猫科に似た怪物。

 胸部、足、腕には拘束具のような機械的なベルトが装備されており、胸部には189という番号が刻まれていた。

 

「189? やっぱり数字になにか意味があるのか?」

 

 数字に疑問を抱きながら周囲を確認する。

 既にこの付近の人々は避難しているようだが、まだ逃げ遅れている人がいてもおかしくはない。

 いつも通りに、この……獣……いや、猫か? 猫怪人を手早く倒そう。

 

「ジャッ!」

「速ッ!?」

 

 とてつもない脚力で襲い掛かってくる猫怪人。

 咄嗟に取り出したルプスダガーで振るわれる爪をはじき返すが、その力は強く押し返されそうになる。

 

「ブルーか!? いや、駄目だ! パワーが足りない! なら!!」

RE:BUILD(リ:ビルド)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

 

 バックルを叩き、白から赤へと形態を変化させる。

 炎に包まれた装甲に一瞬驚いた様子を見せる敵だったが、それもあくまで一瞬で、果敢に襲い掛かってくる。

 

CHANGE(チェンジ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー)!!』

 

 炎に包まれた剣を握りしめ、連続して振るわれる爪を防御する。

 これなら力負けはしない!!

 

「ハァ!!」

「ジャアアア!!」

 

 だが、相手も強い!

 これまでの知性のあった敵とは違い、相手はその本能のままにこちらを倒そうと飛び掛かってくる。

 その瞳には、憎悪と怒りしかない……!!

 

「オラ!!」

 

 剣を左手に持ち替え、炎を纏わせた拳を叩き込む。

 のけ反った様子を見せながらも、奴が前のめりに攻めようとしたところにさらにもう一撃叩き込む。

 

「——ッ、ガガァァ!!」

「ッなんだと!?」

 

 瞬間、奴の両手両足の拘束具のようなものが解放されるように弾け飛ぶ。

 その変化に驚くと同時に、奴の姿が目の前から掻き消え、俺の背中に強烈な衝撃が走りそのまま吹き飛ばされる。

 

「ぐああ!?」

 

 なんだ!?

 奴の速さも、その力も一気に跳ね上がった!?

 回転するように立ち上がり、周囲に目を向けるも奴の姿は捉えられない。

 

「さらに速くなるのか!! ぬぉお!?」

 

 肩のアーマーに爪を叩き込まれ、火花が散る。

 この速さ前のひょろひょろウサギ怪人よりも速い!?

 ショットブルーで捉えられるだろうが、近距離戦闘では逆に分が悪くなってしまう。

 

「一か八かショットブルーの瞬時変身でとどめを刺してみるか」

NO(ノー)!』

「ん?」

 

 突然否定してくるバックル。

 これまでとは違った明らかな反応に首を傾げると、また猫怪人の爪が直撃地面をゴロゴロ転がる羽目になる。

 

COMPLETE(コンプリート)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

「いつつ……え、なに新フォーム?」

 

 アックスイエロー?

 え、いつできたの!? いつもみたいにサルベージとかしないのか!?

 

「まあ、やってみるか!!」

 

 猫怪人の爪を受け流しつつ、バックルに手を掛ける。

 横のスライドを三回動かし、新たなフォームへの変身を開始させる。

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)→ OK(オーケー)?』

「勿論だ!!」

 

 軽快にボタンを叩いた瞬間、俺の周囲に雷が落ちる。

 雷はこちらに近づこうとしていた奴の身体を吹き飛ばしながら、俺のアーマーに当たりその色を明るい黄色に染めていく。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 腕を払い雷をはじき返す。

 ——使い方は既に覚えた!!

 なら、後はこいつを倒すだけだ!!

 

「ジャ!!」

 

 怒りに満ちた様子の奴がその爪を俺に叩きつける。

 金属音と共に激突したそれを真正面から受け止めた俺は、その状態からパンチを繰り出し奴を吹き飛ばす。

 

「!?」

「効いてるぞ。やせ我慢しただけだ。フッ!!」

 

 腰を低く構え、前へ飛び出す。

 瞬間、全身に電撃が纏われ周囲の時間が遅くなるような感覚に襲われる。

 その感覚のまま、驚きの目で俺を見た猫怪人の腹部を殴り、さらに殴り飛ばされた先に回り込み、蹴りを叩き込む。

 

「バランスの赤に、テクニックの青。んでもって力と速さの黄色ってことか」

 

 だけど、こいつは周りに人がいるところでは使えないな。

 見れば俺が移動している間は普通に電撃がまき散らされているようだし、余波で凄いことになっている。

 

「だけど、今は思う存分に動ける!!」

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)!!』

 

 右手に現れた片刃の大斧。

 ライトニングクラッシャーを両手で持ち、再び電撃を纏い高速移動をする。

 

「ハァァ!!」

「ジャァァ!!」

 

 同時に動き出し、互いが互いを追って攻撃を交わしていく。

 だが条件が同じとなれば、パワーで勝るこっちの方が強い!!

 加速に合わせ、すれ違いざまに斧をその胴体に叩きつける。

 

「ジャ!?」

「まだまだ!!」

 

 さらに加速し、斧を叩き込み体力を削り取る。

 奴が膝をつき、逃げられないように追い詰めてから俺は、斧を放り投げてから必殺技を発動させる。

 

「悪く思うなよ……!!」

DEADLY(デッドリィ)!!  AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 発動と同時に全身に電撃が迸り、右足にエネルギーが凝縮されていく。

 奴が立ち上がり、高速で移動する前に瞬時に強烈な横蹴りを奴の胴体に食らわせていく。

 

「ギィ!?」

 

 さらに先回りし、その背中を蹴り上げ空へと打ち上げる。

 そのままさらに電撃の力を集め、チャージさせた後に跳躍し、全力での必殺技を繰り出す!!

 最初に一撃を繰り出し、その反動を用いて着地し、さらに跳躍して蹴る。

 それを連続して繰り返し、最大の一撃を放つ!!

 

「「「ハァァァァァァ!!」」」

 

LIGHTNING(ライトニング)!! FULL(フル) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 全力の高速移動により、連続キック。

 自身が十数人に増えているように錯覚させながら、最後に上からのキックを猫怪人へと叩きつけ、そのまま着地する。

 

「……よし、これで……ん?」

 

 爆発が、起こらない?

 すぐに振り返ると空中では強烈な熱を放った猫怪人の身体に異変が起こっていた。

 なにかが、膨れ上がるようにして、胸部を覆っていた最後の拘束具が壊れようとしている。

 

「な、なんだ!?」

「ギィ、ギィィァァァ!!!」

「ッ!!」

 

 バキィン!!! と音を立てて拘束具が砕け散った瞬間、猫怪人が大きな光に包まれる。

 熱と風に耐えた俺の視界には、信じられない姿へと変貌した猫怪人が映り込む。

 

ジャァァァ……!

 

「巨大化とかアリかよ……」

 

 大型のバスほどの大きさにまで巨大化した猫怪人。

 否、四足で移動する巨大な獅子の怪物へと変わり果てたそいつを見て、俺は暫し呆然とするしかなかった。

 

ジャア!!

 

「ッ、おい待て!! どこいくつもりだ!! クッ!!」

CHANGE(チェンジ) SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!!』

 

 俺に目もくれずにそのまま街中を走り出す怪物。

 あの図体で暴れられたらマズいぞ……!

 セーブフォームに戻した俺は、すぐにルプスストライカーを呼び、走り出しながら俺は今度こそ奴を倒すべく追跡を行う。




斧ライダーは強い(脳筋)
周りを気にする必要がなければ雑に強いイエローフォームが一番です。

100番台からは巨大化怪人の登場となります。
素の実力も高く、中々に耐久力もあるので侮れない相手となります。


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巨大生物と赤の恐怖

前回から続いて怪物戦となります。


 巨大な怪物が道路を全力で走っている。

 幸い、周辺の人の避難はされているようだが、それでも奴がいつ人のいる場所に向かうか分からない。

 俺はルプスストライカーで奴に追いつきながら、ショットブルーへと変わり右手に持った銃を放つ。

 

「こっちだ!」

CHANGE(チェンジ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)!!』

 

 バイクを走らせながら、放たれたエネルギー弾は怪物の頬に当たるがあまり効いた様子はない。

 やっぱり、奴に有効な攻撃を与えるにはイエローの力じゃないと無理だ。

 

「ギィジャァ!!」

 

 奴が蹴り飛ばした車が吹き飛び、近くで避難を急がせているパトカーへと向かって行く。

 その近くには警察官の方がいることに気付き、リキッドシューターを打ち込み、直撃しかけた車を別方向に吹き飛ばす。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 バイクを止めて声をかければ、驚きの表情を浮かべた男性警察官の一人が呆然と頷く。

 

「あ、ああ……」

「この先の道にいる人たちを避難させてください!! あと、人通りの少ない道ってありますか!?」

 

 警察の人ならここらの道に詳しいはずだ。

 確証のない考えだが、警察官の一人は立ち上がりながら道路の先を指さした。

 

「それならここから三キロほど先に建設途中の高速道路がある!」

「ありがとうございます!!」

 

 三キロ先か!

 なら、全力で急げばまだ間に合うはずだ!!

 バイクを全力で走らせ、空を駆けながら怪物のいる場所へと先回りする。

 

「奴はまっすぐ走っている。……なら、一瞬だけこっちに敵意を向かせれば誘き寄せられるかも」

 

 空から奴の姿を確認しながら考えを纏める。

 リキッドシューターの火力じゃ心許ないが……。

 

UPDATE(アップデート)!!』

「うわっ!? どうした!?」

 

 バイクから今度は声が聞こえる。

 ……っ、これは新しい機能!?

 バックルから新たな能力の扱い方を教えてもらった俺は、ハンドルの側面に現れた青色のボタンを押す。

 

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!! ARMY(アーミー) BLUE(ブルー)!』

「ん? おおお!?」

 

 するとバイク後部に部品のようなものが現れ、側面に何かが組み上がっていく。

 まるでミサイルランチャーのような形状へと変わったそれを目にし、男心に感嘆の声を上げてしまう。

 

「これならいける!」

 

 エンジンを回し、全力で怪物へと下降する。

 目視で奴を誘き出す道を確認した俺は、そのまま側面のミサイルを放つ。

 上のカバーが開き、そこから上方へ向かって大量のミサイルが打ち出され、怪物の背に直撃していく。

 リキッドシューターとは異なる威力に悶絶した怪物は、ようやく俺に意識を向ける。

 

「よし! もっとミサイルを!!」

EMPTY(エンプティ)!』

「……え!?」

PURGE(パージ)……』

「落ちたぁ―――!?」

 

 続けて放とうとするとそんな音声と共に、側面の装備が地面へと落とされバイクの色も元に戻ってしまう。

 もしかして、使い捨てとかそういうのだった……?

 たしかに、威力が凄かったけれど……いや、ここで我儘なんて言ってられない!! このまま奴を引き付けて人のいない高速道路に入るぞ!!

 

「よし、そのまま来い!」

「ガァァ!!」

 

 通行止めの標識が貼られている看板にジャンプして入る。

 後ろから怪物が追ってくる気配を感じつつ、俺は一瞬だけ全力で前に進み距離を無理やり離す。

 

「チャンスは一度だけ、すれ違い様の一撃」

――ここが決め時だぞ

「ああ、やってみせる……!」

 

 それが失敗したら泥仕合だ。

 最悪、黒騎士みたいに真っ向から殴り合いして倒すしかない。

 だが、これ以上周りに被害を出さないためにも、ここで、一瞬で始末するしかない。

 

「あそこが行き止まりか」

 

 高速の行き止まりが見え、その寸前で滑るようにバイクを止めた俺は、電撃を司る形態———アックスイエローへと姿を変えさせる。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)!!』

 

「来い……!」

 

 ライトニングクラッシャーを構え、二百メートル先からやってくる奴の姿を視界に移し込む。

 できるかどうかは、この際考えない。

 やるといったら、やる。

 そう気合を込めて、バックルから必殺技を発動しようとした―――その時、俺の頭上にいつも見るヘリが現れる。

 

「イエロー、ブルー、手順はさっきので。うん、よろしく」

「え?」

 

 俺から十メートルほど先に現れたのは、赤いスーツを纏った誰かであった。

 女性なのは分かる。

 しかし、全身とその顔さえもスーツと仮面に覆われているからか、正体が分からない。

 彼女は俺を見てなにか言いたそうにするがすぐに前に向き直り、その手に持った長剣を大きく構えた。

 

「……」

 

 すると怪物と俺達のちょうど真ん中ほどに見覚えのある黄色いスーツの少女、イエローさんが降りる。

 彼女はまるで準備体操でもするかのように、ぐるぐると腕を回しながら怪物を迎え撃とうとしているが、大型バスの大きさの怪物と彼女じゃ明らかにサイズが違いすぎる。

 

「あ、危ない!」

「大丈夫」

 

 静かな声で赤い人が呟く。

 怪物がイエローさんに食らいつこうとし思わず目を背けそうになったその時———、ヘリの中から放たれた青色の閃光が一瞬にして怪物の四肢を撃ち貫いた。

 そちらを見れば、ヘリの側面に腰かけた青いスーツを着た人が狙撃銃のような武器を構えている姿が映り込む。

 リキッドシューターを遥かに上回る威力で、狙撃し、貫いた……のか?

 

「ぶい」

「動きの阻害に成功、ナイスだよブルー。次、イエロー、よろしく」

「まぁかせといてぇ!!」

 

 バランスを崩し勢いのまま倒れようとする怪物に、どういうわけか走り出したイエローさんがその大斧を下から突き上げるように振り上げた。

 この距離でさえ眩く感じるほどの電光を放った彼女の一撃は、あれだけの巨体を持つ怪物の身体を空高く打ち上げた。

 

「……えっ?」

――ほう

 

 思わず空を見上げてしまう。

 放物線を描くようにこちらに落ちてくる怪物を目にした赤い人は、剣を腰だめに構えたまま動かない。

 

「まずい……!」

 

 咄嗟に斧を持ち直し必殺技を放とうとした瞬間、とてつもない突風が赤い人を中心に吹き荒れる。

 透明な何かが空へと放たれ、一瞬にして消え失せる。

 なにかが起きた。

 しかし、それが分からない。

 明らかな異変にそちらを向けば、既に剣を振り切り、何かを払った赤い人の姿があった。

 

「討伐完了っと」

 

 瞬間、こちらに落下しようとしていた怪人は一瞬でバラバラに切り刻まれ血の雨がその場に降り注いだ。

 べじゃりと、俺の頭に血の塊がぶつかり一瞬だけ視界が真っ赤に染まる。

 

「は? え……え?」

 

 慌てて複眼を擦り周りを見れば、怪物の破片はそのまま消滅しながら落ちていくが周囲は怪物の血に彩られ、どう言い繕っていても大変なことになっていた。

 

「なにこの人たち怖すぎる……」

 

 初めて抱くタイプの恐怖であった。

 強すぎるということもあるが、何より赤い雨に打たれながら何事もなかったかのように背伸びをしている赤い人が怖すぎる。

 なんなのこの人。

 俺もソードレッド極めればこんなことできるの?

 いや、できる気がしない。

 多分、前世は剣豪か人斬りか何かだったのだろう。

 明らかにこの時代に生きる人の雰囲気じゃない。

 

「ふふふ!」

「ひぇ……」

 

 ぐるん、とこちらに振り返ったレッドがこちらへ駆け寄ってくる。

 とても嬉し気な様子だが、その手に握られている長剣と、血まみれの姿に喉が引き攣りを起こしたような声を零してしまう。

 

「はじめまして! 私、レッド!」

「……」

――……こいつは ひどいな

 

 明るい声で話しかけてくる赤い人、レッドと名乗った少女にまともに返事を返すことができない。

 なんだ? 俺は今からここで捕まるのか?

 だ、駄目だ、俺がいなくなったら姉さんはどうする!!

 一人でちゃんとしたご飯も作れないんだぞ!! 朝も起きれないし、掃除も本当にたまにしかしない!!

 俺が帰らなきゃ、姉さんは安心できないんだ……!

 

「ずっと君に会いたかったんだ」

「そ、そうなんですか……」

「会えて、本当に嬉しいよっ!!」

 

 俺を捕まえるため?

 それとも戦うため?

 今の精神状態で戦ったら確実に負ける自信がある。

 

――かわいそうに 怯えているな

――逃げてもいいんだぞ?

 

 シロもそう言ってくれているので、逃げよう。

 さりげなくルプスストライカーを発進できるようにする。

 

「あれ? どうして帰ろうとしているのかな?」

「ご、めんなさい!」

「イエローから聞いたよ。お姉さんのところに帰るんだって?」

 

 家族関係を探られている!?

 心臓を握られたような感覚に晒される。

 いや、待て。

 この人たちは怪物を倒してくれたんだ。

 怖がりはすれども、邪険にしていいはずがない。

 そう、全ては俺が怖がっているだけで、目の前の彼女もいいひ―――、

 

「お姉さんによろしく伝えておいてね!」

 

「……」

 

 俺は迷いなくバイクにまたがりその場を走り出した。

 なぜかよく分からないが怖くなったし、泣きそうになった。

 

『え、なんで逃げちゃったの!? って、痛い!? なんで蹴るの!?』

『あんたバカか! この人斬りブラッド!! そんな血まみれで物騒な姿のあんたを見れば誰でも逃げるわ! こんのボケェ!!』

『勇を失ったな、レッド。もう、散体しろ』

 

『あだだだだ!? ちょ、叩かないで!?』

 

 後ろで騒ぐ声が聞こえるがもう家に帰りたかった。

 なぜか、あの人たちの前に立つと心がざわつくし、妙な感覚に襲われるのだ。

 

「まさか、俺の記憶か……?」

 

 俺は彼女達にやられたことがあるのか……?

 それとも、別の感情か?

 分からない。分からないけれど、もしかすると俺の過去をあの人たちは知っているのかもしれないのか?

 


 

 汚れたシロをちゃんと洗ってあげた後になんとかマンションに戻った俺は、なんだかすごく疲れたような気分になりながら玄関の扉を開ける。

 すると、すぐに姉さんがこちらに駆け寄ってくる。

 

「おかえり、かっつん! 大丈夫だった!? ……って、すごいげっそりしてる!?」

「ハクア姉さん……」

 

 もう怪人との戦いも疲れたし、その後も色々な意味で疲れた。

 テレビも映画とかちょっとしたニュースしか見ないし、あの三人って結構有名なのかな?

 

「とりあえず夕飯を作りながら話すよ」

「無理しないでよ? なんなら私が作っても……」

「姉さん、人には向き不向きってものがある。いいんだ、俺に任せてくれ」

「優しさでこんなにダメージ受けることある……?」

 

 とりあえず冷蔵庫から材料を取り出していく。

 その際に、ふと姉さんにレッドから聞いた言葉を伝えておく。

 まあ、他意はないんだろうけど……一応ね。

 

「あのさ、レッドって人に会ったんだけどさ」

「ぅぇッ……その人がどうかしたのかな?」

「いや、良く分かんないけど、ハクア姉さんによろしくだって」

「ンヒュッ!?」

「?」

 

 なんだ今の声?

 ふと、そちらを見るといつも通りの姉さんがそこにいる。

 

「全然知らないよ? うん」

「そう? いや、そうだよな。ごめんな、変なこと聞いちゃって」

「……ま、まずいよぉ、どうしよぉぉぉ

 

 懸念も消えたことだし、料理に集中するか。

 米を研ぎながら俺は、いつも通りに夕食を作り始めるのであった。

 




ナチュラルに斬撃を飛ばしはじめるレッドでした。
黒騎士くんがしていた前作主人公ムーブを今度はジャスティスクルセイダーがやるという……。

奇跡的に全てのコミュニケーションに失敗するレッド。
久しぶりに会うから、すごくテンパっていたと供述しております。


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やらかしレッドの反応(掲示板回)

本日二話目の更新なので前話を見ていない方はまずはそちらをお願いしますm(_ _)m

今回は掲示板回となります。
掲示板が連続で続くと飽きが入ってしまうと気づきましたので、途中にちょっとした工夫をいれてみました。

今回も例に漏れずネタ要素多めとなっております。


現代の侍

エボルトが支配できなかった女

チワワの皮を被ったバケモノ

記憶のない子に圧迫面接

ブラッド族第一王女

怒涛の赤文字に草   やばすぎなんだよなぁ

女子力の欠如

18禁ヒーロー

助けてライダー! www 血みどろの戦隊ヒーローとかやばすぎだろ!!

 


161:ヒーローと名無しさん

 

本性表したね!

 

162:ヒーローと名無しさん

 

やはりレッドは別世界からタイムスリップした武蔵ちゃんなのでは?

 

163:ヒーローと名無しさん

 

世界よ、これが日本だ

 

164:ヒーローと名無しさん

 

巨大化怪人の話題が完全にかっさらわれているのがwww

 

165:ヒーローと名無しさん

 

巨大化怪人とレッドどっちが怖い?

答えはもう分かり切っているだろォ!!

 

166:ヒーローと名無しさん

>>163

日本を修羅の国にするのはやめろよ!

最近本当に勘違いしている外国の人がいるんだから!!

 

167:ヒーローと名無しさん

 

こいつ新選組にいたら間違いなく後世に名を残してたぞ

 

168:ヒーローと名無しさん

 

いつの間にか飛ぶ斬撃身に着けてる。

黒騎士くんと同じく物理に喧嘩売ってる……。

 

169:ヒーローと名無しさん

 

スーパースローでも微かに動いているのが見えるくらいらしいから、マジでとんでもない動きしてる。

具体的には黒騎士くん時代の白騎士くんよりも速いって考察。

 

170:ヒーローと名無しさん

 

イエローとブルーも大概なことしているんだけど。

やっぱジャスティスクルセイダーは頼もしすぎるなぁ(白目)

 

171:ヒーローと名無しさん

 

怪獣出たときはマジで終わったと思ったけど、そんなことはなかったぜ!!

 

172:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんも頑張った。

被害最小限にするため怪物誘導してたし。

 

173:ヒーローと名無しさん

 

到着が遅れるジャスティスクルセイダーのために時間稼ぎしてくれたようなもんだからなぁ。

彼の活躍を忘れちゃいけないゾ!

 

174:ヒーローと名無しさん

 

俺はね、イエローフォームについて語りたかったんだ

それがこの祭りよ(白目)

 

175:ヒーローと名無しさん

 

俺は、正直イエローフォームがベンケイ並みのクソつよフォームで安心したぜ

 

176:ヒーローと名無しさん

 

レッドフォーム( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

ってなると思ったら、本物がとんでもないことしだして困っちゃいますよ。

 

177:ヒーローと名無しさん

 

レッドの赤は敵の血の色ってのは大分前から言われてたしな

 

178:ヒーローと名無しさん

 

これで本人は一般家庭生まれらしいという矛盾

 

179:ヒーローと名無しさん

 

ナチュラルボーンバーサークサムライ……?

 

180:ヒーローと名無しさん

 

某所でブラッド族扱いされてて草ァ!

 

181:ヒーローと名無しさん

 

やーい! エボルト、お前の妹チミドロブラッドー!

 

182:ヒーローと名無しさん

 

兄に苦手意識あるエボルトに特攻入れるのやめてあげて!(もっとやれ!)

 

183:ヒーローと名無しさん

 

なにその戦万に対する歪んだ愛情だけ表面化して増幅させたブラッド族。

うちは一族かよ。

こわい(小並感)

 

184:ヒーローと名無しさん

 

超高速の斬撃で切り刻むとかホントにやべーことしかしないやつだな……

 

185:ヒーローと名無しさん

 

前までもそうだったけど、基本レッドの戦闘後はモザイクだらけなのがやばすぎる。

こいつやっぱり18禁ヒーローだよ!

 

186:ヒーローと名無しさん

 

それじゃあまるで黒騎士くんの残虐ファイトは違うみたいじゃないか!

 

187:ヒーローと名無しさん

 

毎回モザイク入るのがなぁ。

剣に炎って王道なのに、どうして斬撃に特化しちゃっているんだろ

 

188:ヒーローと名無しさん

 

レッド「斬った方が燃やすより楽じゃん」

 

189:ヒーローと名無しさん

>>188

割と本人が言いそうなことを……

 

190:ヒーローと名無しさん

 

まあ、怪物倒した後も問題なんだけどな!!

 

 


 

こんなん草 白騎士くん怯えてるじゃん! www

やめろレッド!! 周りモザイクだらけwww

真っ赤だから意味ねぇんだよなぁ(恐怖)

白騎士くん逃げて! 怖気(即死) ヤンデレ怖い

尻尾振った犬みたいに近づいてくるの微笑ましい←口の周り血だらけの狼の間違いだろ

まずその手の剣をどっか置けよ!www 震えてる白騎士くんかわいい

仕草はかわいいんだけどなぁ やばすぎるwww

約四カ月ぶりの再会だなぁ ヤンデレ属性獲得してて草も生えない

蝉ドンされて逃げられなくさせられそう(恐怖)

 


211:ヒーローと名無しさん

 

記憶喪失らしい黒騎士くんに血をぶっかけた後に、自分も血まみれになりながら迫ってくるの控えめに言ってホラー過ぎない?

 

212:ヒーローと名無しさん

 

本人めっちゃウキウキしてたもんな。

 

213:ヒーローと名無しさん

 

飼い主見つけた犬みたいに上機嫌に近づいて話しかける。

なお、姿は真っ赤(誇張無し)

 

214:ヒーローと名無しさん

 

ほんとそういうとこだぞ……

 

215:ヒーローと名無しさん

 

顔は見えないけどそぶりからしてドン引きしているのが分かるからな、白騎士くん。

てか、記憶喪失後は正統派ヒーローな性格してるから、なおさら絵面が酷い。

 

216:ヒーローと名無しさん

 

傍目ではヤンデレに迫られているようにしか見えない。

いや、実際そうかもしれんけども

 

217:ヒーローと名無しさん

 

レッドヤンデレSSが増えるな

 

218:ヒーローと名無しさん

 

正直、好き。

諦めずに白騎士くんにアタックしていってくれ

 

219:ヒーローと名無しさん

>>217

もうあるだろ!!

 

220:ヒーローと名無しさん

 

なぜか病みルートの方がハッピーエンド率が高い闇だぞ

 

221:ヒーローと名無しさん

 

この玩具にしているようで、逆にこっちが玩具にされているような黒騎士くんとレッドの暴れっぷりが楽しい

 

223:ヒーローと名無しさん

 

レッドこれ会えた嬉しさのあまり自分の見た目に気付いてないのかな?

可愛い(啓蒙獲得)

 

224:ヒーローと名無しさん

 

こういう残念な子ってかわいいよね。

血まみれじゃなければ……!

 

225:ヒーローと名無しさん

 

四ヵ月ぶりだもんなぁ。

別れがあれだったし、ある意味しょうがないのでは?

 

226:ヒーローと名無しさん

 

イエローと共闘したときはあんなに和やかな雰囲気だったのに……。

 

227:ヒーローと名無しさん

 

本人もこんがらがってそう

 

228:ヒーローと名無しさん

 

これ、即時帰宅して避け続ける白騎士くん側にも責任はあるのでは……?

 

229:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君のガチ怯えがやばすぎる

 

230:ヒーローと名無しさん

 

なに言ったんだろうなぁ

音声は公開されてないし、レッドと白騎士くんの周りは血まみれモザイクだし。

 

231:ヒーローと名無しさん

 

さっきまで怪物だったものが あたり一面に転がっている

 

232:ヒーローと名無しさん

 

そんなのいつものことだろ

 

233:ヒーローと名無しさん

 

温厚な白騎士くんが迷わず逃げるくらいだから、身元特定しようとしたんじゃないか?

 

234:ヒーローと名無しさん

 

身元というより居場所じゃない?

そっちに関しては把握しているだろうし。

どこにいるかって感じ

 

問題なのはそれを白騎士くんにとって初対面のレッドが聞いてくることなんだよなぁ。

 

235:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんからしたらガチ恐怖でしかないの笑う

いや、俺らはレッド達がどれだけ黒騎士くんに関わっているのか知っているけども。

 

236:ヒーローと名無しさん

 

致命的なすれ違いが発動してる可能性もあるのも想像できて面白い

 

237:ヒーローと名無しさん

 

レッドはもっと反省して(辛辣)

そして折れずにもっとアタックしろ(熱血)

 

238:ヒーローと名無しさん

 

やることは変わらない。

黒騎士くんにしてきたことをもう一度すればいいだけだ

 

239:ヒーローと名無しさん

>>238

それ滅茶苦茶辛いやつやん……

そう考えると、JCの面々も辛いんだなって考えてしまう

 

240:ヒーローと名無しさん

 

さすがリーダーは個性豊かだ(白目)

 


 

www やっぱ期待を裏切らねぇわレッド

逃げたwww そら逃げるわな! 俺も逃げるもん!!

イエローとブルーにどつかれてるレッドに草ァ!

やっぱバーサーカーじゃん! www 「なんだこの女ァ」 ←貴方の妹です

これ白騎士くんトラウマじゃないのか……? こんなん俺でも逃げるわww

その絡み方は駄目だろ!www

やっぱ白騎士くんがヒロインじゃん!  反省しろレッド

どうしてここまで放っておいたんだ!!  www 感動の再会だなぁ

白騎士くんモテモテでよかったね(白目)白騎士くん全力疾走で草

 


 

301:ヒーローと名無しさん

 

まさかの白騎士くん全力逃亡

 

302:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士時代すら見れないぞあんなの

 

303:ヒーローと名無しさん

 

当のレッドはきょとんしているだけなのがもう……

 

304:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんを脅したとなれば過激派が黙ってませんねこれは……

かくいう私もその一派だ。

 

305:ヒーローと名無しさん

 

一度も振り返らないのが無性にツボッたわwww

 

306:ヒーローと名無しさん

 

レッド許さん……!

女子力皆無のバーサーカーめ!

 

307:ヒーローと名無しさん

 

よくも白騎士くんを……!

このヤンデレレッドめ!

 

308:ヒーローと名無しさん

 

一瞬で過激派が生えてきおったわ……。

 

309:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんが記憶を失った今、地球で最も強いレッド相手になにかできるやつなんておるのか?

 

310:ヒーローと名無しさん

 

>>304~307

レッド「許さない。よくも私をここまで虚仮にしてくれたね? ●してやる……」

 

レッド「●してやるぞ>>305」

 

311:ヒーローと名無しさん

 

過激派といってもそんなバカなことせんだろ。

 

312:ヒーローと名無しさん

>>310

305「!!?」

 

313:ヒーローと名無しさん

 

レッドが悪堕ちしたら連鎖的にブルーもイエローもそうなるわけですからね。

黒騎士が記憶失っている今、誰が止められるかって話ですよ。

 

314:ヒーローと名無しさん

 

レッドをボコボコにしてるイエローとブルーがいるなら大丈夫かなって思う

 

315:ヒーローと名無しさん

 

無茶苦茶キレてたもんな……。

いや、そらキレるわ

 

316:ヒーローと名無しさん

 

あのマイペースなブルーでさえ、レッドの尻を足蹴にしてたからな。

 

317:ヒーローと名無しさん

 

レッドは少しうっかりなところがあるからなー

 

318:ヒーローと名無しさん

 

よしんば好感度が下がっていなかったとしても次は警戒されそう

 

319:ヒーローと名無しさん

 

その時はレッドは縛ってイエローかブルーが来るだろ

幾分かまともだし。

 

320:ヒーローと名無しさん

 

どっちもキレたらとんでもないことするのは共通するけどな

 

321:ヒーローと名無しさん

 

いっそのこと社長が出たほうがいいんじゃないか?

 

322:ヒーローと名無しさん

 

顔も明かされていないがかなりのやり手だしな。

黒騎士くんとも仲良かったらしいし、まだ安心感がある

 

323:ヒーローと名無しさん

 

ヒロインポジのジャスティスクルセイダーより、社長の方が信頼感あるのどういうことなの……?

 

324:ヒーローと名無しさん

 

ファッション宇宙人じゃなかった疑惑も浮上しているし、本当に話題に欠かない人だよ。

 

325:ヒーローと名無しさん

 

普段からカミングアウトしているせいでいまいち信じられないんだよ!

 

326:ヒーローと名無しさん

 

どちらにせよ地球にとって一番の功労者であるから疑う余地はないっていうね……

 

327:ヒーローと名無しさん

 

まあ、始まりはある程度好感度マイナスからスタートした方がいいっていうし、これからよ。

これから。

 

328:ヒーローと名無しさん

 

個人的にはレッド達には頑張ってもらいたい。

白騎士くん一人だけじゃ辛いから

 

329:ヒーローと名無しさん

 

汚名挽回のチャンス来い!

 

330:ヒーローと名無しさん

>>329

ネタなのかこれ……?

それともちゃんと分かってて使っているのか……?

 




掲示板+流れるコメント回。

なんだかんだで応援されたりするレッドでした。




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怪物を打ち倒す者

ついにやってしまった回。
今回は主人公視点となります。


「この力は、お前達にもらったものだ」

 

 夢の中で誰かがそう呟く。

 満足したように、もうなにもいらないとばかりの感情が溢れだす。

 

「俺は、ようやく前に進める。ただ戦うだけの黒騎士だった俺は……お前達に、人間にしてもらったんだ。ありがとう……本当に、それしか言葉が思い浮かばない」

 

 周りは暗く。

 目の前に顔が分からない誰かがいる。

 泣いている。

 泣きながら、“俺”ではない誰かの顔を見上げている。

 

「なんで今そんな……こと言うの? やめてよ……」

 

 彼はなにをしようとしているのだろうか。

 分からない。

 ただ、同じ視点を共有しながら“俺”はそれを理解できてはいない。

 

「後は頼んだぞ、アカネ

 

 誰かの名前を呟き、視界は暗くなる。

 これはいったい、誰の記憶なのだろうか。

 この、胸の内で騒ぎ立て、何かを欲しがるようなざわつきが収まらない

 

 

「……」

 

 目を覚まし、ベッドから起き上がる。

 いやにリアルな夢だった。

 今のはもしかして、俺なのか?

 記憶を失う前の、なにかが有った時の記憶。

 

「今日は、休みか」

 

 前の、あのレッドと名乗る少女と会った時から変な夢を見るようになった。俺じゃない俺が何かをしているそんな夢だ。

 誰と話しているのかは分からない。

 でも、誰かとご飯を食べたり、ゲームをしたりとか、そんなありふれた楽しい記憶だった。

 


 

 今日は俺も姉さんも仕事が休みだった。

 本来ならどこかに出かけたり買い出しに行ったりするのだろうけど……。

 

「雨だねぇ」

「雨だ」

 

 外の天気は生憎の雨模様であった。

 ザー、という雨が降りしきる音が響いている。

 そんな外の音を聞きながら、俺は姉さんから借りたパソコンを使い、ある動画を再生していた。

 

「子供達を元に戻せ。お前の言葉なんて聞くか。このまま、お前には、一言だって話させない」

ガッ、ギ、ヒィ!?」

 

 ぬいぐるみ姿の怪人を切り刻むレッド。

 その身体の半身はぬいぐるみのように変化させながらも少しも引くことはない。

 

「外道の言葉には耳を貸さない!」

背後から……卑怯、な

 

 柔道着のようなものを纏った怪人*1の背後から剣を突き刺すレッド。

 

「やっちゃうよ! 黒騎士くん!」

「俺に命令するなぁ!!」

ろ、ロックできな―――!?」

 

 件の黒騎士が殴り飛ばした錠前のような頭を持つ怪人*2をすれ違い様に三枚に卸すレッド。

 

「切り裂けないなら殴ればいいだけじゃん!」

ゲフッ、ちょ、やめ、ごぶ!?」

 

 剣の柄で泥でできた怪人*3の顔面を叩きまくるレッド。

 ジャスティスクルセイダー。

 それが彼女がリーダーを務めるチーム。

 その遠慮のない戦闘法は、誰から教えられたのだろうか。

 どこか、以前に見た黒騎士を思わせるソレに、俺は思わず目を瞑る。

 

「かっつん、見るならもっと別の動画の方がいいと思うけど……。それバイオレンスすぎるよ、モザイク多めだし……」

「いや、これが視聴数が多いし……もう、見るべきものもみた」

 

 サイトを閉じ、軽く呼吸を吐き出し椅子に背を預ける。

 

「俺は、駄目だな」

「え? ど、どういうこと……突然どうしたの?」

「野蛮だとか、そういう綺麗ごとを言っている場合じゃないんだ」

 

 レッド、初対面で恐ろしいと感じた人物は俺が戦う前から、もっと強い怪人たちと戦い続けていた。

 そんな彼女の歩み寄りに勝手にビビって、逃げ出してしまった自分を情けなく思う。

 

「ちゃんと話していればよかった」

「かっつんの話を聞く限り、あそこで逃げてもしょうがないと思うんだけど……」

「姉さん、慰めの言葉はいらない……!!」

「そういうつもりはないんだけども……」

 

 たしかに全身血まみれで怖かったけれど、それ以外に怖がる要素はあまりなかったはずだ。

 強いて言うならば、その強さ。

 俺はそれに恐怖し、同時に―――、

 

「憧れてしまった……!」

「かっつん、病院行こう!!」

 

 どうやら取り乱してしまったようだ。

 姉さんの声に我に返った俺は、組んだ手を見つめる。

 

「俺は、弱い」

「もしかして、ジャスティスクルセイダーと比べてる? それは当然だよ、君はまだ戦い始めたばっかりなんだから……彼女たちは、対怪人戦のエキスパート、生半可な戦いを経験していないから」

「それは、言い訳にはできないんだ」

 

 重々しくそう呟く。

 彼女たちは強いが、俺のようにすぐには駆けつけることができない。

 俺が彼女達に接触し、協力すれば―――、

 

――それは おすすめしない

――まだ 信頼できはしないだろう?

 

 いや、協力することはできないな。

 彼女達の強さは確かだが、どれだけの組織にいるのか分からないのだ。

 迂闊に信用して、囚われることになったらシャレにならない。

 なにより、姉さんが狙われるかもしれないので、まだ完全に信用はできない。

 

「一番早く駆けつけられるのは俺だけなんだ。その間に怪物が人を襲わないようにしなくちゃならない。せめて、ジャスティスクルセイダーの人が駆けつけるまで、時間を稼げればいいんだけど……」

「……。……今日は雨だし……」

 

 不意に外を見た姉さんは、どこかしょうがなさそうに笑う。

 

「一緒に考えよっか。一人より二人の方がいいアイディアも出るだろうし」

「……ありがとう」

『ガウ!』

「ごめん、君もいれて三人だな。シロ」

 

 今の俺にできることは限られている。

 なら、限られた範囲でなにができるかを考えていかなければならない。

 

「現状で怪人は倒せる。倒せるんだけど、この前の猫怪人みたいに巨大化するような奴が現れたらどうしようかなって」

「巨大化する前に倒すってのはリスキーすぎるかな? この前もオーバーキル気味に攻撃していたし、どうあっても巨大化する敵が出そうな気がする」

 

 巨大化されると街に大きな被害が及ぶ。

 それなら姉さんの言う通り巨大化させないことが一番の方法なんだろうが、それが難しいのも事実だ。

 

「……それか、怪人を人気のない場所に移動させるってのはどうかな?」

「いい方法だけど、どうやって運ぶかだよなぁ」

『ガウ!』

「ん? おお!?」

 

 俺と姉さんが唸ると、不意にシロの目が輝き宙に立体映像のようなものが映し出される。

 そこにはルプスストライカーと、なにやら追加装備らしき項目が追加されている。

 

「おおー、アイアンマンみたいだ」

「謎技術だね……」

 

 俺と姉さんは感嘆としながらテーブルの上に浮き上がったホログラムを見つめる。

 試しにルプスストライカーに触れてみると、感触こそないがまるで手に収まるかのように俺の手に合わせて動き出す。

 

「玩具みたいだな。触れられてないけど」

「かっつん、これは?」

「ん?」

 

 姉さんが空中に浮かび上がった赤、青、黄の色のついた箱を指さす。

 その一つを指でつまむようにして引き寄せると、そこには文字が刻まれていた。

 

「これは、アーミーブルー? 前に怪物に撃った奴だな」

 

 その一つにARMY BLUE と書かれている。

 それに触れてみれば、箱から飛び出したホログラムがアーマーへと変化し、ルプスストライカーを取り巻くように配置される。

 後部の車輪の傍に浮いている装備は、先日実際に使ったミサイルポッドだ。

 というと、あれではまだ未完成だったのか?

 それとも改良を施せる余地があるということか?

 

「アサルトレッドにバインドイエローだってさ。それぞれに変形できるんじゃないかな?」

「……これを使えば、怪人を人のいない場所に連れていけるんじゃないか?」

 

 残り二つの箱をそれぞれ開き、追加装備の内容を確認する。

 赤い、速さに特化させたようなバイクと、前面にU字磁石のような突起が取り付けられたバイク。

 それらを確認し、俺はイケると確信する。

 

「シロ、パソコンから地図の吸い出しとかできる?」

『ガゥ?』

「怪人が出没してる地域と、その周辺。できることならもっと広ければいいけど」

『ガァーゥ!』

 

 俺の声に応えるように鳴いたシロは尻尾からケーブルを伸ばし、その端子をパソコンへと接続させる。

 するとパソコンの画面が早回しのように変わり、地図データがシロへとコピーされていく。

 

『ガゥ』

「よしよし、よくやってくれた」

「なんだか、本当に謎マシンだよね。この子……、あ、あぁ、睨まないでよ……」

 

 無言で姉さんを見るシロをなだめながら、頭の中で作戦を組み立てる。

 あとは、俺自身の問題だ。

 

「できることが多すぎて、他のことをおろそかにしていたのかもしれないな」

「どういうこと?」

「つまり―――ッ」

 

 そこまで言葉にしようとして頭に鈴の音が響いてくる。

 ……丁度いいタイミングで来たな。

 まったく、来てくれないならそれでいいものを……。

 

「ハクア姉さん、また来るみたいだ」

「かっつん……。どうして、君だけに侵略者が来るのが分かるの?」

「分からない。……分からないけど、俺がやるしかないんだ」

 

 姉さんの悲しそうな顔に、申し訳なく思いながら俺はバックルへと変形させたシロを手に持ってそのまま外へと向かう。

 外は未だに雨が降りしきっているが、そんなことこれからやってくる異星人には関係はない。

 あいつらが、人々に危害を与える前に俺は、俺のやるべきことをする。

 

「変身」

 


 

 雨に打たれながらルプスストライカーで辿り着いた場所は、どこかの商店街のど真ん中であった。

 相手は、先日の猫怪人と似た拘束具を全身に取り付けられた、トリケラトプスに似た人型怪人だ。

 その肩には169という番号が刻み込まれており、そいつは猛牛のように店に突っ込んでは破壊を繰り返している。

 

「ヴァアアア!!」

「……ッ」

「きゃああ!」

 

 トリケラ怪人が体当たりをしようとしている先には、二人の親子。

 母親に守られるように抱きしめられた女の子が悲鳴を上げる姿に、咄嗟にバイクで体当たりをしかけて怪人を吹き飛ばす。

 

「逃げるんだ! 早く!!」

 

 親子を逃がした後に、ルプスダガーを出現させてトリケラ怪人と相対する。

 

「これ以上、させない!」

「ヴァ!!」

 

 白色のアーマーを纏った姿、セーブフォームのままトリケラ怪人の体当たりを避けルプスダガーを叩き込む。

 大きな火花を散らせ怯んだ奴に、回し蹴りを叩き込む。

 

「ヴァアア!!」

「見た目通りに硬いか……! ぐぁ!!」

 

 近距離からの体当たりを食らい今度はこちらが吹き飛ばされる。

 イエローフォームは駄目だ。

 まだ避難していない人が多すぎる。

 

「いくらスーツが強くても、俺が弱いんじゃ意味がない……!」

 

 立ち上がる。

 今までスーツの性能に助けられてきた。

 ピンチになっても、スーツが新しい力を目覚め、作り、俺はそれに頼って勝ってきたのだ。

 それだけでは駄目だ。

 あのジャスティスクルセイダーの彼女たちのように、俺自身も戦わなければならない。

 

「……ふぅ」

――最初の助言は覚えているな?

「ああ、もちろん、忘れていない」

 

 軽く吐息を吐き出し、ルプスダガーを小さく構える。

 自身の長所を見極め、効率よく扱い、最大の一撃を決める。

 

「ヴァアア!!」

 

 地面が爆ぜるほどの勢いで突撃をしてくるトリケラ怪人。

 その突進を前にして、軽く横に移動した俺は、全力の蹴りを奴の角に当たるように繰り出す。

 

「ヴァ!?」

「相手の気勢を削ぐ」

 

 ルプスダガーを連続で斬りつけ、怯ませる。

 

「無駄を省く」

 

 その上から回し蹴りを一撃、横蹴りを一撃、さらに後ろに下がり呻いたところで追いうちの蹴りで壁へと激突させる。

 セーブフォームの蹴りでさえも奴相手に堪えた様子はない。

 さらに怒りに燃え飛び掛かってくる奴の動きを冷静に見極め、回転して避ける過程でバックルを三度叩き、ダガーを持ち替え必殺技を発動させる。

 

BITING(バァイティング)! SLASH(スラッシュ)!!』

「フン!!」

 

 がら空きの胴体にカウンター気味にいれられた突きは直撃と同時にオオカミ状のエネルギーへと変化させる。

 

「ヴァァァ!?」

 

 腹部に亀裂を走らせながら後ろへ転ぶトリケラ怪人を一瞥し、ルプスストライカーへと乗り込む。

 

「頼むぞ、シロ!」

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!! BIND(バインド)YELLOW(イエロー)!』

 

 ルプスストライカーの前面に上から被せるような黄色いアーマーが取り付けられる。

 U字磁石のような角を拡張させたソレは、間に電撃が走っている。

 ルプスストライカー拘束形態。

 角の矛先をトリケラ怪人へと向け、そのまま全力でアクセルを回し体当たりを食らわせる。

 

「ヴァァァ!?」

 

 U字の角に挟み込まれたトリケラ怪人は、強烈な磁力によってその場に固定される。

 さらに迸る電撃が流れ込むことから、常に奴の身体は痺れ続ける。

 

「行き先を案内してくれ!」

 

 空へと駆けのぼりながらシロにマッピングを頼む。

 視界に映し出される地図、その案内に従いながら全力で目的地へと向かう。

 

「ヴァ、ヴァアア!!」

「ッ、そりゃあ暴れるよな!!」

 

 拘束されながらも全力でもがくトリケラ怪人にハンドルを持っていかれそうになるが、それでも気力で耐える。

 それでも暴れた奴が伸ばした腕をこちらに叩きつけようとするが―――、

 

CHANGE(チェンジ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー)!!』

 

 瞬時にソードレッドへと変身し、赤熱化した灼熱色のアーマーで相手を怯ませながら、左手に出現させた剣で運転しながら奴を切りつける。

 空中で火花を散らせながら、ルプスストライカーは着実に目的地へと続いていく。

 

「ここだな!」

 

 人気のない港。

 そこに到着し、地面に着地すると同時に急ブレーキをかけトリケラ怪人を前方へと吹き飛ばす。

 ごろごろと地面を転がりながらも立ち上がった奴を前にし、フレイムカリバーを地面へと投げ捨てる。

 

「ここなら、巨大化されても問題ないはずだ」

「ヴァ、ヴァァァ……!」

 

 猛牛と同じように地面を蹴り、体当たりをしようとするトリケラ怪人を前にして、俺はバックルをゆっくり三度叩く。

 発動する必殺技。

 大きく腕を引き絞るように構えた俺は、燃えあがる炎を宿した拳を握りしめる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

 

「ヴァアア!!」

「狙う場所は一つ……!」

 

 猛烈な勢いで突進してくる相手。

 今度は避けないし、逃げない……!

 相手の突進の勢いさえも利用し、必殺技の威力を最大限にまで引き出す……!

 

「———今だ!」

BURNING(バァーニング)!! FIST(フィスト)!!』

 

 身を低くさせるようにして角を避け、全力で繰り出された拳は的確に、亀裂の入った腹部へと叩き込まれる。

 相手の突進の勢いも相まって腹部でとてつもない衝撃が発生し、そのまま大きく後ろへ———海の方へと吹き飛ばされていく。

 

『ヴァアア!!』

 

 拳の衝撃で全身に亀裂が走り、その拘束具を弾き飛ばしながら海面へと落下。

 数秒後に大きな爆発が引き起こされ、海水が舞い上がるが、どちらにしろ雨が降っているのでどれが海水か雨なのか分からない。

 

『ヴィ、ヴァァァァ!!!』

 

 その様子をジッと見つめていると、すぐに海面から先ほどよりも大きなトリケラ怪人が現れる。

 巨大化した奴は、俺を憎悪の目で睨みつけながら海面を進み、こちらへやってこようととする。

 こちらもイエローフォームで応戦しようとして―――、すぐにそれをやめる。

 

「そりゃ、そうなるよな。同じ拘束具きてたんだから。だけど――」

 

 頭上で何かが飛んでくる音が近づいてくる。

 ヘリではない、もっと速い何か。

 それは、トリケラ怪人の頭上から急降下するように現れると、ガトリングじみた量の青色のエネルギー弾を浴びせかけた。

 

「お前の相手は、俺じゃ……って、え?」

 

 え、ヘリじゃない……? なにその超兵器……?

 かっこつけようとして驚いたその時、空から赤、青、黄色の三色の飛行機が降りてくる。

 それらはトリケラ怪人を包囲するように囲みながら、エネルギー弾での攻撃を繰り出している。

 

「……えっ?」

 

 一つ一つは軽自動車ほどの大きさ。

 赤は尖ったようなフォルムで、青色がなんか武器とかたくさん積んでそうな大きい感じ。

 黄色がもう、飛行機にでっかい刃物を取り付けたような目立つ形状をしている。

 少なくとも、それがジャスティスクルセイダーの乗り物だということは理解できたが。

 

「なにあれぇ」

 

 知らないよ?

 え、なんであんなアニメの世界から出てきたような兵器が飛び出してくるの?

 おかしくない!?

 

『フォーメーション! レッド1!』

 

 そんなレッドの声と共に赤色の飛行機から円形の特殊なフィールドが展開される。

 

『了承』

『オッケーや』

『皆、やるよ!!』

『『『合体!』』』

 

「……ガッタイ? エ? ガッタイ?」

――非効率だな なにか意味でもあるのか?

 

 一つ軽自動車ほどの大きさほどの三つの飛行機。

 そのうち二つの、青色と黄色の飛行機からは、操縦者らしきイエローさんと、恐らくブルーと思わしき人がボードとバイクらしき乗り物と共に分離するが、それ以外はレッドの飛行機を中心にして形作られたエネルギーフィールドに引き寄せられ、合体していく。

 

『ヴァアア!!』

「おっと、させへんよ」

「合体途中で攻撃は駄目」

 

 合体を邪魔しようとするトリケラ怪人を分離したそれぞれの乗り物に乗ったイエローとブルーが妨害していく。

 イエローさんが空飛ぶボードで、ブルーが俺とちょっと違う空飛ぶバイクか?

 その一方で、レッドの乗る乗り物は次第に、赤い上半身と青の下半身、両腕を黄色で配色された大きさ10メートルほどの巨人へと変形する。

 変形を完了させた巨人は、トリケラ怪人の前へと盛大な水しぶきをあげながら着地する。

 

パワードアーマー!! ジャスティスロボ!!!!

 

 現れたのは人型の巨人。

 頭部にあたる部分がないがそれでも重厚な雰囲気を感じさせるロボットは、メリケンサックに包まれた拳をトリケラ怪人へと叩きつけ、破片やら色々なものをまき散らす。

 ただの一撃で二本の角を叩き割られ、海面に倒れ伏すトリケラ怪人。

 

「え、めっちゃ強い……」

 

 まるでレッドの戦闘力のまま大きくなったみたいじゃん……。

 あのようなロボットが普通に動いている事実に俺はただ震えることしかできなかった。

 

「嘘だろ……?」

 

 もう、震えが止まらない。

 いや、感激している部分があるのだろうが、ジャスティスクルセイダーの得体の知れなさがやばすぎる。

*1
正式名『技巧怪人テクニカ』一度目で見た相手の動きや技術をコピーしてしまうぞ! 使った技術はいくらでも自分のものにすることができるので学習されれば危険な相手だ! 人間の姿で道場破りを起こし大量の怪我人を出していたが、不意打ちには対応できなかったようだ!!

*2
正式名『錠前怪人ロック』自身が触れた者に錠前を取りつけ概念的に固めてしまう怪人! 思考にすらもロックをかけることが可能ではあるが、怪人を斬ることしか考えていなかったレッドと怪人を殴ることしか考えていなかった黒騎士くんには意味がなかったようだ!!

*3
正式名『汚泥怪人ドロドロ』名の通り泥で身体を構成された怪人だ! 斬撃もエネルギー弾も通じず本来なら打撃も効かない怪人だが、レッドの炎を宿した打撃の前になすすべなく倒されてしまったぞ!!




ついにやってしまったロボット。
イメージ的にはトランスフォーマーか、アムドライバーという作品に登場するパワードスーツ?の変形などをイメージしております。

あまり大きくしすぎると被害やら規模そのものが滅茶苦茶になってしまいますからね……。


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白黒と邂逅

ちょっと遅れての更新となります。
前回の続きとなります。


 巨大化した怪人の前に現れたレッドが操る合体ロボは圧倒的なパワーを振るった。

 ロボットとは思えない、人間のような滑らかな動きから繰り出される一撃は容易くトリケラ怪人の外皮を砕き、抉り取るほどの威力を発揮する。

 

「この白亜紀の亡霊が!」

「ヴァァァ!!」

 

 ただしその台詞が色々と酷かった。

 ロボに乗っているからか普段からそうなのかは分からないけど、とにかく酷かった。

 

「最後に残ったその角をへし折ってやる……!」

「ヴィギィ!!」

 

 かろうじて残った一本の角を砕き折るレッド。

 さらにその角を掴み取り、トリケラ怪人に刺し追い打ちをかける徹底っぷり。

 侵略者に対する欠片の慈悲も感じさせない戦闘にただただ唖然とするしかない。

 

「オプティマスプライムかなにか……?」

 

 この前、姉さんと見た映画で同じようなシーンあったよこれ……。

 正義の味方なのにえげつない戦いばっかりするあたり、レッドだなこれ。

 ドン引きはすれども、しかしその力は俺も見習うものもある。

 イエローさんとブルーもそうだが圧倒的な技量とパワーで敵をなにもさせずに倒すやり方は、俺が目指すべき一つの道だとすら思えた。

 

「初めまして」

「わぁ!?」

 

 いつの間にか隣から話しかけられびっくりする。

 咄嗟に距離を取ってそちらを見てみれば、そこには近くにバイク型の乗り物を着地させていた青いスーツを着た少女、ブルーが俺を見ていた。

 

「は、初めましてブルー、さん」

「さん付けはしなくていいよ、先輩」

「先輩……?」

「あっ……」

 

 なにやらしまったと言いたげに口に手を当てるブルー。

 先輩? なんだ言い間違えなのか?

 この反応からして目の前のブルーは俺のことを知っているのか?

 え、え? どういうことだ? 俺はこの子の先輩かなにかだったのか?

 ぐるぐるとそんな疑問を頭に浮かんでいると、ブルーは続けて言葉を投げかけてくる。

 

「この前はレッドがごめん」

「い、いや、逃げた俺の方が悪いし」

「レッドには後でお仕置きをしておいたから反省していると思う」

 

 お仕置きされたんだ……。

 ちょっと戦隊内での闇のようなものが見えてびっくりする。

 この前の件については、実際それほど気にしていないし、自分の力を見つめなおすいい機会にもなった。

 って、いや、違う!

 なんで俺はこんな呑気に話しているんだ!

 

『図体だけがでかくなってもォ!』

 

 レッドのそんなドスの利いた声と悲鳴を上げる怪人の声を聞き、我に返った俺は急いでルプスストライカーに乗る。

 ブルーが止める様子はない。

 

――少し趣向を凝らしてみようか

「……シロ?」

 

 シロが何かを喋ったことは分かったが、何を喋ったかは聞き取れなかった。

 思わずバックルを見てしまうと、レッドが戦っている海の方で異変が起こっていることに気付く。

 咄嗟にそちらを見れば、トリケラ怪人の背中に現れた丸い輪っかのようなものから何か注射器のような物体が、刺さるのが見えた。

 

「なんだ、あれは……」

「ワームホール……?」

 

『ヴァアアアア!!』

 

「ッ!?」

 

 輪っかが消えると同時につい先ほどまで攻撃されるだけだったトリケラ怪人の身体に異変が生じる。

 再生し、さらに強く伸びた二本の角に、背中から新たに二つの腕。

 最初よりも明らかに強化された姿で再生したトリケラ怪人は、さらにその背中に生えた突起を空へと飛ばし、地上にいる俺達へと向かって落としてきた。

 

「ブルー!」

「心配いらない」

 

 瞬時にショットブルーへとフォームチェンジさせ、リキッドシューターで降り注ぐ突起を撃ち落とす。

 俺以上の精密さと冷静さで的確に目標を打ち抜いているブルーに感心していると、電撃を纏いながら俺とブルーの間に割って入ってきたイエローさんが、電撃を纏わせた斧を大きく振るった。

 

「そぉぉい!!」

 

 電撃で軒並みの突起を破壊したイエローさんはそのままボードから俺達の前に飛び降りる。

 破壊を免れた突起は、俺達の周囲の地面に突き刺さるように落下していくが……近くで見ればかなり大きい。

 

「また会ったなぁ、白騎士くん」

「あ、ああ。それよりレッドは大丈夫なのか? 敵が強化されたように見えるが」

「まあ……レッドなら大丈夫やろ」

 

『壊す部位が増えた!? えーい! ならばこうだぁ!』

『ヴァァァ!?』

 

「……ほら」

「あー、うん。大丈夫そう」

 

 ジャギィン!! と前腕から赤熱するブレードを展開させたレッドの操るロボットが、強化されたトリケラ怪人の腕の一つをバターのように切り落とす。

 やっぱりあのえげつなさは見習うものがある。

 手段は別として、俺に足りないのはああいう“雑さ”なんじゃないかと思う。

 

「……む?」

「……ブルー、気づいてる?」

「もちろん」

 

 俺と同じくイエローさんとブルーが周囲に目を向け、武器を構える。

 周りに落ちた十数本の突起全てから気配を感じる。

 フォームチェンジするべくバックルに手を当てた瞬間、まるでタマゴが割れるように突起が罅割れ、その中から巨大化する前のトリケラ怪人が次々と生まれてきたではないか。

 

「「「「ヴァァァ……」」」」

 

「奇妙な生き物やなぁ」

「さっきの注射のせいかもね」

「……一体も逃がすことはできない」

 

 最早、消化試合のようなものだが、それでも一体たりともこいつらを逃がすわけにはいかない。

 周りにブルーとイエローがいるが、彼女達二人ならばイエローフォームでも問題はないはずだ。

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)→ OK(オーケー)?』

 

 音声の確認を取り、バックルを叩く。

 電撃をまき散らしながらアーマーが黄色く染まり、アックスイエローフォームへの変身を遂げる。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)!!』

 

 手で払う動作で目の前のトリケラ怪人たちに電撃をぶつけながら、その手に片刃の大斧、ライトニングクラッシャーを握りしめる。

 

「ドヤ顔でこっち見ないで、うざい」

「え、そんなことしてへんよー。……さて、私達も倒しにいくとしますか」

 

 イエローさんとブルーのやり取りを聞き流した俺は、電撃を纏い加速させながらトリケラ怪人への攻撃を開始させる。

 すれ違い様に一閃。

 振り向きざまに縦に斧を叩きつけ、吹き飛ばしながら側方から突っ込んでくる別個体の突進を避ける。

 

「ヴァ!!」

 

 パワーとスピードが高いこのフォームならトリケラ怪人に優位に戦える!

 イエローさんとブルーの方を確認するが、当然彼女たちも俺以上にうまく立ち回っており、イエローさんに至っては俺と同じような加速法でトリケラ怪人を次々と葬っている。

 

「……俺も負けていられないな」

DEADLY(デッドリィ)!!  AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 必殺技を発動させ、腰だめに構えた斧を両手で握りしめる。

 周囲にいる四体のトリケラ怪人が一斉に攻撃を仕掛けると同時に、黄色く染まったオーラが巨大な刃を形成し、一瞬にして周囲の四体を真っ二つに切り裂き、爆散させる。

 

「ヴァァァ!!」

「……ッ」

 

 必殺技を繰り出した直後に背後から襲い掛かる三体の別個体。

 咄嗟に振り向き対応しようとすると、別方向から飛んできたエネルギー弾が、一瞬で三体のトリケラ怪人の頭部を貫通する。

 目の前で一瞬で葬られた怪人を目にして驚く俺に、エネルギー弾を放ったブルーがサムズアップを向けてくる。

 

「ヒーローは助け合い、だよ」

「あ、ありがとう……」

 

 ブルーに礼を口にしつつ、俺は不思議な感覚に苛まれていた。

 いや、元よりこの感覚はさっきから感じていたんだ。

 ジャスティスクルセイダーがこの場に来てから……だけど、今のこの記憶の奥底を揺るがしてくるこれは俺の失われた記憶に関係するものだ。

 

「ッ」

 

 視界にノイズがかかり、目の前の光景とは別のなにかが映し出される。

 断片的に見せられる、戦いの記憶。

 早回しのようにそれらが頭に思い浮かんでは、それが消えていく。

 

「や、やめろ!! ぐわぁ!!」

「貴様、黒騎士!!」

「アァァァス!!」

「お前が、お前がいなければァァァ!!」

「理不尽のごんぐぶふぁ!?」

 

 人ではないなにかの怨嗟の声。

 死に間際のそれらに(ダレカ)は拳を振るい止めを刺してきた。

 

「な、なんだ……!? 誰なんだ、俺は……!?」

 

 だが、全ての怪人の顔が塗りつぶされている。

 誰が誰を倒したかも理解できない。

 濁流のように流れてくる記憶に頭を抱える俺に好機と思ったのかトリケラ怪人が攻撃を仕掛けてくる。

 

「うるッせぇ!!」

 

 動きの止まった俺に突進を仕掛けてきたトリケラ怪人を真正面から斧でぶん殴る。

 いくらアックスイエローでも正面からの突撃を受け入れられるはずがない―――しかし、俺が繰り出した斧は黒いオーラを伴い、トリケラ怪人へと激突しそのまま爆散させてしまう。

 

「なっ、これは……」

――いいや 違う

――それの進化に先はない

「が、ぁぁ」

 

 また記憶が溢れだす。

 今度は戦いとは異なる光景。

 怪人の怨嗟の声ではない、他愛のない日常の記憶。

 

 いつも誰かが近くにいたような気がする。

 

 鬱陶しいくらいにお節介なやつがいた。

 

 自分の個性のなさを気にするへんなやつもいた。

 

 物静かだが、時折意味の分からないことをするやつもいた。

 

 顔はぼやけて見えない。

 その声も、なにもかもが分からないが俺は―――大事ななにかを忘れてしまっていたことに気付いてしまったんだ。

 

CHANGE(チェンジ) SAVE(セーブ) FORM(フォーム)!!!』

 

 バックルが強制的にセーブフォームへと変身させる。

 気付けば、俺の左手には先ほどまで握られていなかった黒いグリップのようなものが握られている。

 頭に流れ込んでくるイメージと共に、側面のボタンを押し、グリップから銀色のアタッチメントを発動させる。

 

――あぁ……

――そうだ それでいい

 

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 グリップから音声が鳴り、それを大きく構えた俺はそのままなんの躊躇も無しにシロの―――バックルの側面の窪みに鍵を差し込むように接続させる。

 

BLACK(ブラック) & WHITE!!(ホワイト)!!』

 

 二つに重なる音声が鳴り響き、自身を中心に特殊なフィールドが二重に形成される。

 

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

 

 セーブフォームで覆われていた白いアーマーがはじけ飛ぶように消え去り、その上から新たなアーマーが作り出され、金属音と共にはめ込まれていく。

 白のアーマーの隙間を覆うように黒いアーマーが嵌め込まれ、最後に腰回りを覆うようなマントが纏われたところで変身が完了する。

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 自身の掌を見つめる。

 ちゃんとした記憶を思い出したわけではない。

 俺が誰かも分からない。

 誰と話していたのかも分からなかった。

 

「……それでも」

 

 俺は、どうやら記憶を思い出さなければならないようだ。

 そうしなければならない。

 記憶に映り込んだ誰かを思い出したい。

 

「姉さんに、話を聞こう」

 

 そのためにさっさとこの場をなんとかする。

 周囲にいるトリケラ怪人を一瞥し、数を確認する。

 六体、か。

 

DEADLY(デッドリィ)!! WHITE(ホワイト) SIDE(サイド)!!』

 

 バックルを三度叩き、一つ目の必殺技を作動させる。

 ファンファーレのような爽やかな音声が響き、蹴りの態勢に移る。

 

「ヴァァァ!!」

LUPUS(ルプス)! FIRST(ファースト) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 近くで威嚇する一体に白いエネルギーを纏った蹴りを叩きつけ、一撃で粉砕する。

 セーブフォームより格段に性能が上昇している。

 ならば、と思い今度はバックルに接続されたグリップの側面を押し、さらなる必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! BLACK(ブラック) SIDE(サイド)!!』

 

 右拳に黒いオーラを纏わせ、左手を敵へと向ける。

 

「ヴァッ!?」

GRAVITY(グラビティ)! SECOND(セカンド) KNUCKLE(ナックル)!!』

 

 黒いオーラに包まれた二体のトリケラ怪人がこちらに吸い寄せられ、そのまま拳を突き出し粉砕させる。

 

「白騎士くん、その姿は!?」

「大技を出す、離れてて!!」

 

 グリップを叩いた上に、さらにバックルを三度叩き重ねて必殺技を発動させる。

 

BLACK(ブラック)!→ WHITE(ホワイト)!→ DEADLY(デッドリィ) LIMIT(リミット)OVER(オーバー)!!』

 

 その場で跳躍し、一瞬で残り三体のトリケラ怪人の上空に転移する。

 そのまま右足から黒色のエネルギー弾を蹴り放つ。

 中空へとぴたりと留まったソレは、トリケラ怪人のみを空中へ引き寄せ、磁石のように一纏めに固める。

 

「ハァァァ!!」

 

 腰のマントを翻し、蹴りの態勢に移り加速と共にエネルギー弾諸共、三体のトリケラ怪人へ蹴りを叩き込む。

 

DOUBLE(ダブル)!! FEVER(フィーバー) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 繰り出された蹴りはそのままトリケラ怪人三体を一瞬に消滅させる。

 着地と同時に確実に怪人を倒したことを確認した俺は、改めてレッドの方へと目を向ける。

 

『選んだ星が悪かったね……!!』

『ヴァ、ヴァァァ……』

『私の手で、引導を渡す……!』

 

 トリケラ怪人の胸をブレードが伸びた右腕で心臓ごと貫きとどめを刺しているレッド。

 なんだか色々と壮絶な光景を見てしまった気分にさせられてしまった。

 

「……大丈夫そうだな」

 

 心なしか声を震わせそれを確認し、ルプスストライカーに乗った俺はその場を離れる。

 声をかけてくるブルーとイエローの声に申し訳なく思いながら、一応バックルのシロに話しかける。

 

「シロ、発信機は取り付けられてないよね?」

『YES』

 

 なぜか発信機に嫌な記憶があるような気がする。

 覚えてはいないけれど。

 追跡される危険がないならこのまま帰ろう。

 


 正直な気持ち、記憶を思い出すということに関してはそこまで必死になってはいなかった。

 マスターの言葉もあったけれど、家族のいる生活に満足していたからか記憶を思い出す必要はないかなと思ってしまっていたからだ。

 だけど、俺には記憶を思い出して会わなければならない誰かがいた。

 それを知ったことで、俺は今一度自分の記憶と向き合う覚悟を決めた。

 

「まずは姉さんと話さなくちゃな」

 

 変身を解き、雨を避けながら帰る場所であるマンションに戻る。

 扉を開けると、いつも出迎えてくれる姉さんの姿がどこにもないことに気付く。

 

「ただいまー。姉さん、いる? ……うん?」

 

 知らない靴が二つある。

 一人は高そうな黒い靴と、女性用のスニーカーっぽい靴だ。

 お客さんかな? 今までそんなことなかったはずだなぁ、と思いながら居間へと足を踏み入れる。

 

「お、おかえりぃ、かっつん……」

「ハクア姉さん、えっと……ただいま」

 

 やや引き攣ったような顔で俺を出迎える姉さん。

 しかしいたのは姉さん一人だけではなかった。

 そこには―――、

 

「やあ、君が白川くんの弟くんかな?」

「……」

「はじめまして、レイマだ。それで、こっちの子がアルファだ」

 

 金髪の男と、黒い髪の女の子。

 そんな二人を前にしていた姉さんは、この世の終わりのような顔をしていた。

 ……いったい、この状況はどういうことなんだ……?




フォント選びが大変だった回でした。
ハザードフォームには成長性はないので、ちょっと変更させたラスボスさんでした。

社長が白川宅に来ていることは、レッド達には知らされていません。


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真実と介入(ハクア視点)

前回からの続きとなります。
視点は、ハクアです。


 かっつんが戦いに向かった後はいつも不安だ。

 彼が帰ってこなかったらどうしよう。

 彼が怪我をしたらどうしよう。

 彼の記憶が戻ってしまったら、どうしよう。

 そんな考えばかりが頭の中をぐるぐると回り他のことに手がつけられなくなる。

 なぜ、彼が戦わなければならないのだろうか。

 彼は、黒騎士として十分に戦ったはずなのに、記憶を失うくらいにまでに戦った……はずなのに。

 

『怪人が来ると、音が聞こえるんだ。俺を呼ぶみたいに』

 

 普通じゃない。

 少なくとも以前までの彼にそんな能力はなかったし、黒騎士時代の記録を思い出してもそんなことはなかったはずだ。

 これではまるで、なにか見えない存在が彼を戦いに駆り立てているようではないか。

 

「……はぁ」

 

 テーブルで頭を抱えたまま思わずため息を零してしまう。

 ……そろそろ、テレビをつければ彼が怪人と戦っていることを報道されている頃だろう。

 気休めにしかならないが、その姿を確認しよう。

 そう思い立ち上がろうとしたところで、ピンポーンと扉の方からインターホンの音が聞こえてくる。

 

「……誰かな?」

 

 配達かなにかかな?

 ついこの前日用品を頼んだ記憶があるのでもしかしてそれかもしれない。

 そう思い、手に持ったリモコンをテーブルに戻し、扉へと駆ける。

 

「はーい」

 

 チェーンをかけたまま扉を少し開ける。

 

「グッドアフタヌーン、白川君」

「……えっ」

 

 扉の隙間からヌゥ、と滑らかな動作で顔を見せたのはかつての私の職場の社長、金崎令馬であった。

 あまりにも予想外すぎる彼の登場に一瞬唖然とした私に、彼は静かな様子で声をかけてくる。

 

「用件は分かっているな?」

「……え、えぇと……はい」

 

 大人しくチェーンを外し、社長を招き入れる。

 しかし、彼一人かと思いきやもう一人、誰かがいることに気付く。

 黒い髪の、もんのすごい可愛い子だ。

 一瞬、誰かと思ったが目を合わせた瞬間、その雰囲気と自分と波長が合うような感覚でようやく目の前の少女が誰なのかを悟る。

 

「姉、さん」

「本当に、妹……なんだ」

 

 顔を見合わせお互いに無言になってしまう。

 かっつんの周りにこの子がいるのはなんとなく分かっていた。

 だけど、私には姉の姿に気付けるほどの力がなかったし、そういう挨拶程度で済ませるはずだった……けど、まさか、今日こんな形で顔を合わせることになるなんて思いもしなかった。

 

「「……」」

「おい、気まずい家族関係なのは理解しているが、早くいれてくれ」

 

 社長に促され、二人を中へと入れる。

 どうして?

 どうしてここに来た?

 どうやってバレた?

 そんな考えを頭に浮かべながら、コーヒーを淹れた私はお茶菓子と共にそれを社長と姉の前に差し出す。

 

「あ、え、姉さん、砂糖とミルクは?」

「じゃ、じゃあ、もらおうかな」

 

 気まずいなんてレベルじゃない。

 実の姉妹じゃないのは私もあっちもよく分かっているはずだ。

 

「では、遠慮なくいただこう」

 

 当の社長は驚くほどの空気の読めなさを発揮させながら、カステラを二口で食べる。

 そのままコーヒーで流し込んだ彼は、ほっと一息ついた後に居心地が悪いどころじゃない私に声をかけてくる。

 

「白川克樹。今の彼はそう名乗っているようだな」

「……うん」

「喫茶店サーサナス。そこでバイトをしており、客からの反応も上々。コーヒーとオムライスも美味しかった」

 

 さらっと食べに行っていることはスルーしてもいいのだろうか?

 姉さんも驚愕の視線を送っているのだが。

 

「そんな彼の姉を名乗る……白川伯阿。君の正体は何だ?」

「!」

 

 姉から私がただの人間ではないことを訊いたのだろう。

 ここまできてしまっては隠しても意味がない。

 

「私は、オメガが最後に生み出した生命体……シグマ」

「父が、君を?」

「貴女を再現するために作られた……人間でも怪人でもない、半端者さ。だから、本当の意味での姉妹じゃなくて……クローンの方が正しいかもしれない」

「私の、クローン」

 

 私の持つ能力についても話しておく。

 姉さんの持つ力ほど強くない、認識改変の力。

 

「なるほど、つまりは君にも微細な認識改変が備わり、この私すらも欺きジャスティスクルセイダーの本部に入りこんでいたということか」

「いや、社長には効かなかったから、単純に貴方が気付かなかっただ―――」

 

「この私すらも欺いたということか……!」

 

 認めたくないんだ……。

 まあ、この人スーツ開発とか会社経営やらなにやら忙しいってレベルじゃないだろうし。

 一社員をそこまで知るということはないのだろう。

 むしろ、名前を一人一人覚えていることの方がすごい。

 

「アカネ達は君達がここにいるのは知らないの?」

「ああ。彼女たちがここを知れば何をするか分からんからな。特にレッド」

「特にレッドは」

 

 社長と姉さんにここまで言われるあたりなぁ。

 すると、社長は目の前にあるテレビのリモコンを手に取る。

 

「少しテレビをつけてもいいかな? そろそろジャスティスクルセイダーの新ビークルによる怪人攻略戦が始まっている頃だろう」

「あ、ああ、どうぞ」

 

 社長がテレビにリモコンを向ける。

 するとテレビにニュースの生放送と思われる映像が流れる。

 

『このッ、角ナシのトカゲ野郎め!』

「雨が降りしきる悪天候で行われた一戦。雨雲を切り裂き天から現れた赤色の巨人は、宇宙からの侵略者に牙を剥くゥ!!」

 

『弱いぞォ!!』

「貴様の血は、このレッドの血化粧だ。そう主張するように腕を増やした侵略者へ猛攻を繰り出し続ける我らがヒーロー! あっ、今更ですが、幼いお子様には大変ショッキングな映像ですのご視聴をお控えください!!」

 

『そら、どうしたの! 立ち上がりなさい!!』

「フッハッ、どうした怪人、なぜ立ち上がらない! その程度で侵略者を名乗れるのか! 大きさで上回らなければ勝てないのか! まるでそう言わんばかりにレッドが……脳天に一撃ィィィ!!

「テレビはつけなくてもいいな。うん」

 

 執拗に顔面を殴り倒れたトリケラ怪人を蹴り飛ばす赤いロボットに、慣れたように実況しているレポーターという映像が映し出されたが、それもすぐに社長の手によって切られる。

 相変わらずあの番組だけ、他と違ってやってることがプロレス中継なんだよなぁ。

 

「大森君、レッドにいますぐ顔面破壊大帝ムーブはやめろと言え!! え、あれはレッドマン!? どちらでもいいよ! え、カツミ君がファングでジョーカーな、クロエボ!? すまない、宇宙語はさっぱりだ! 後で日本語で説明してもらおう!!」

 

 恐らく本部に通信をしていた彼がそれを切り、大きなため息をつく。

 気まずい沈黙が部屋を支配する。

 

「カツミが記憶喪失になってるのって、君のせいなの?」

「違う!」

 

 姉さんの言葉にやや感情的になりながら否定する。

 びくっ! と姉さんがびっくりしていることにやや申し訳なく思いながら、彼を見つけた時の状況を説明する。

 

「かっつんを見つけたときは、彼がいなくなって……私が会社をやめた後……だよ」

「ふむ、カツミ君を見つけて辞めたわけではないのだな?」

「辞めてなければ、君達の元に連れて行ったかもしれませんね。……でも、私も彼がいなくなったときは、その、消沈していましたし……いっそのこと、放浪の旅にでも出ようかなって……」

「失恋したOLみたいな自暴自棄っぷりだな」

 

 とんでもない偏見を口にしている社長を睨む気力もない。

 

「今、かっつんが使っている変身アイテムに意志があって、それにつれてこられて……気絶してる彼を見つけて、私が治療しました」

「ダスト……いや、ルプスドライバーか。それに見つかった場所というのは近辺で確認された雑木林の破壊痕がカツミ君が落下した形跡だろう」

 

 険しい表情で思考に耽る社長。

 

「……あの破壊はベガ達が襲撃した際に生じた破片によるものかと思えば、落ちた角度と破壊の威力からしておかしな点が見られていたが……うぅむ、やはり自力で戻ってきたということなのか……?」

「それは、私にも分かりません」

 

 あれほどの衝撃で落ちて生身で無事でいられるはずがない。

 なので、多分変身した状態で落ちてきたんだろうけど……。

 

「彼はどれほどの怪我を?」

「全身に打撲。それと……彼の身体に拳のような跡がいくつも刻みつけれていて」

「……拳だと? 男か? 女のものか?」

「大きさからして女性だと、思います」

「なっ―――!?」

 

 何かに思い至ったのか社長は顔を青ざめさせる。

 

「まさか、いや、ありえない。だが奴ならば彼をこの星に帰すことも容易だ。なぜ? まさか……そういうことなのか?」

「変態?」

「社長?」

「変態と社長をずらして言うのはやめろ……。このことについては、後に考える。……記憶喪失になったカツミ君は、最初から君を姉と認識していたのか?」

 

 するとさっきまで弱気な様子だった姉さんの目が鷹のように鋭くなる。

 ある意味で一番触れてほしくなかった質問をされてしまった私は、挙動不審になりながら視線を横に逸らす。

 

「わ、私は……」

「嘘は駄目だよ?」

「……うぅ」

 

 羞恥心に駆られ、顔が熱くなりながら言葉を絞り出す。

 

「私は、記憶喪失の彼に……自分が姉と名乗りました」

 

「いや、なんでだ」

「本当になんでなの?」

 

 当然の疑問に声が詰まる。

 だが、その答えを言葉に出すのは難しい。

 

「なぜカツミ君と姉弟プレイに興じていた? 君の趣味か?」

「訊き方おかしくない!? なんでいかがわしい言い方にするんですか!!」

「いかがわしいことをしていた疑いがあるからだ!!」

 

 そ、そそそ、そんなことは断じてしていない……!

 しかし、ここで正直に話さないとただでさえ姉を名乗った不審者だ。

 私は取り調べを受けている人のような心境になりながら、言葉を絞り出す。

 

「で、出来心だったんです……」

 

 余計に怪しくなってしまった……!

 だけど、続ける。

 

「わ、私、家族とかよく分かってなくて、父は私を生み出した後、牢屋に放ってそれ以降は会うこともなかったし……会おうと思った姉も、全然姿は見えなくて……」

「うっ……」

 

 家族というものは分からなかった。

 知識では知っているが、それだけだった。

 

「待て、オメガに生み出されたと言ったな? 君は何歳だ?」

「大体、生後十か月くらいだと……思います」

 

 落ち込みながらそう言葉にすると途端に社長と姉さんが気まずい顔になる。

 

「わ、わぁ、私、二歳と少しくらいだから年が近いね」

「あ、ああああ、安心しろ。私は1546歳だ。バランスは取れている」

 

 一番バランスを崩しているの貴方だと思うんだけど。

 しかし、先ほどとは違いものすごく可哀そうな子を見るような視線は、ちょっと耐えられない。

 

「その時、記憶喪失ならそのままでいいかもしれないって。……彼は、もう戦わなくていいと思ったから……」

「そうか、君はカツミ君の過去を知っていたな。嘘を吹き込むのは褒められたことではないが……彼の場合は、記憶喪失であった方が幸せなのかもしれない」

「……」

「……いや、これはどちらが正しいということではないか。記憶についてはカツミ君の意思に委ねられることだ」

 

 無言になる姉さんを横目で見た社長は首を横に振りながらそう言いなおす。

 

「本当は、かっつんを戦わせたくないんです……」

「では、なぜ彼は今……」

 

 私は今彼の身に起こっていることは社長と姉さんに話す。

 誰かに呼ばれるように、侵略者の接近を察知して向かって行ってしまうこと。

 時折、シロと名付けたバックルの声を聞き、会話をしていること。

 ぽつり、ぽつり、とそう言葉にしていく私に、彼は訝し気な顔をする。

 

「仮説は立てられる、が。最も手っ取り早い方法は彼の記憶を戻すことだ」

「……戻せるんですか?」

「アルファの認識改変を用いれば可能だ。そうだろう?」

「できるけど……カツミが許可してくれなきゃ無理だよ……?」

 

 姉さんの言葉に社長が頷く。

 

「そう、だからこそ、これは彼の意思に委ねなくてはいけない。記憶を戻すか、戻したくないか。難しい選択になるが……それを彼に問わなければならない」

 

 かっつんが記憶を取り戻す。

 そう考えると、猛烈な寒気を抱く。

 今日までの日々が彼にとって偽物だと気づいたら、どんな顔をされるのか。

 私が恨まれるのはいい。

 でも、なにより彼自身のことが心配だった。

 

「心配するな、白川君。アルファの認識改変ならばこの四カ月の記憶を失うわけではない。……まあ、記憶を失った彼には怒られるかもしれないが、君のことを嫌うほど心の狭い男ではない」

 

『ただいまー。姉さん、いる?』

 

「ッ」

「カツミの、声だ」

 

 掠れた声を漏らす姉さんと、肩を震わせる私。

 彼が帰ってきた。

 それは、彼の記憶が戻ることを意味している。

 その事実に打ちのめされそうになりながら、私はぎこちない笑顔を浮かべ、居間にやってきた彼を迎えた。

 

「お、おかえりぃ、かっつん……」

「ハクア姉さん、えっと……ただいま」

 

「はくあ? ねえさん? そういうものもアリか……

 

 小さい声で姉さんがそんな怖いことを呟いていたのは気付かないようにしておこう。

 


 

「なるほど。つまりそのアルファさんってのが俺達の義理の姉で、その保護者が金崎さんか」

 

 帰ってきたかっつんにはそのような形で説明した。

 彼の過去を知っている二人、そして記憶を戻す方法を知っている特別な職についていると。

 普通ならば信じられないが、変身やら侵略者やらで何が起こるかおかしくない現在を生きている彼にとって、怪しくは思いはすれどそこまで警戒されることはなかった。

 

「アルファ姉さんでいいよ」

「レイマでいい」

 

 驚くほどの自然さで姉呼びを要求する姉さんに戦慄する。

 そんな彼女にかっつんは目を丸くした後に、困ったように笑う。

 

「えぇと、アルファ姉さん? これで……いいかな? なんか照れくさいな……」

「……」

「おい、アルファ。ここでお前が駄目になってどうする……!」

 

 呆気なく撃沈した姉さんである。

 そんな彼女を見てため息をついた社長は、私の隣に座るかっつんと向き直り真剣な様子で話しかける。

 

「我々には君の記憶を戻す手段がある」

「……はい」

「君が必要とするならば、記憶を戻す前に君の正体、行ってきた情報などを開示する所存ではあるが――」

「受けます」

 

 迷いもなくそう言葉にした彼に思わず息が止まる。

 

「俺が記憶を失っていることで苦しんでいる人がいるかもしれない。それなら、俺は記憶を目覚めさせる方を選びます」

「いいのか? 君の過去は……」

「俺には、ハクア姉さんが、いますから。もしもの時は大丈夫です」

「——かっつん、あのね……!」

 

 顔を上げて自分が本当の姉ではないことを明かそうとした私だが、こちらを見た彼の目を見て言葉が出なくなる。

 黒い、強い意志の籠った瞳。

 ……ああ、気づいているんだ。

 その上で私を姉と呼んでくれていたのか。

 今更、そのことに気付き身体から力が抜ける。

 

「記憶を失っても、君の根底は変わらないか。……アルファ、頼む」

「うん、分かった」

 

 トリップから立ち直ったアルファが席を立ち、かっつんの元へと歩み寄る。

 彼女にかっつんが身体を向けると、ゆっくりと視線を合わせて彼の頭に手を添える。

 

「……カツ……キ、私の干渉を受け入れて」

「え?」

「頷いて」

「あ、ああ、受け入れる」

 

 アルファの認識改変が発動する。

 これで彼の記憶が元に戻る。

 少し前は恐怖でしかなかったが、今は違う想いで見れるような気がする。

 十数秒ほどの沈黙の後、アルファはやや焦りの混じった表情で彼の頭から手を離した。

 

「———できない……」

「なんだと」

「記憶を戻せないの……ッ! 誰かに、邪魔されて……!!」

「誰かだと!? それは一体―――」

 

 立ち上がった社長と私が取り乱すアルファに歩み寄ろうとすると、彼女は何を思ったのか先ほどから無言のかっつんに掴みかかったではないか。

 

「お前は、誰だ!! カツミの中で何をしている!!」

「アルファ、落ち着け!! え、悪霊とかそういうやつなのか!?」

「カツミになにをさせるつもりだ!! 答えろ!!」

 

 瞳に涙を浮かべてそう訴えるアルファに、彼は依然として俯いたまま反応を示さない。

 さすがにおかしいと気づき、私もかっつんに話しかけようとしたその時、音もなく動き出した彼の手がアルファの首を掴み、宙へと持ち上げた。

 

「う、うぁ……」

「かっつん!? なにやっているの!!」

「邪魔だ」

 

 首を掴まれ吊り上げられた姉さんが、突き飛ばされる。

 咄嗟に姉さんを受け止め、信じられない行動をしたかっつんを見上げ、言葉を失う。

 

「この星のアルファもまた特異な存在のようだ。些か興味を惹かれるが、この子ほどではないな」

 

 黒い瞳の彼じゃない、青色の目。

 普段のかっつんから想像できない、どこか妖艶さの伴う笑みを浮かべた彼はゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「今、とてもいいところなんだ。いずれ記憶は戻すが、それは今じゃない」

 

 彼ではない。

 別の誰かが、彼の身体を動かしている。

 その事実に私と姉さんは言葉を失うが、それ以上に驚愕していたのは社長であった。

 

「そんな、まさか……! 貴様が……彼の記憶を……!」

「大儀であった。星将序列元61位。悪魔の科学者ゴールディ。貴様の尽力により私は求めていた存在を見つけることができたよ」

『ガァゥ!!』

 

 青い瞳の彼にシロが牙を剥き出しにして飛び掛かる。

 そんなシロを片手で掴み上げた彼は、手になんらかの力を発動させると、それに合わせて腰にベルトが装着される。

 

「フッ、まあ、いい」

 

『DOMINATE……』

 

 おもむろにベルトにバックルを嵌め込むと、これまで聞いたことのない重々しい音声が鳴る。

 

WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!!』

 

 アラートが鳴るが、それに構わずひとりでにバックルが作動し変身を始めさせる。

 彼の周りを黒い煙のようなものが溢れだし、その姿をどんどん包み込んでいく。

 

ENDLESS(エンドレス) RAGE(レイジ)!! WEAR(ウェアァ) DEATH(デス) WARRIOR(ウォーリアァ)!!』

 

「そんな、カツミ……」

「なんだその変身は……!?」

 

 禍々しい声と彼の身体は青色のボディスーツと仮面に包まれる。

 スーツにはまるで星空のような光に包まれていくが、それすらも煙に包まれ―――彼の姿ごと一瞬で消えてしまう。

 

EVIL(エビル) BLACK(ブラック)!!  HAZARD(ハザード)FORM(フォーム)!! 』

 

 次の瞬間には空間に突如として現れたワームホールと共に、真っ黒な禍々しい姿となった仮面の戦士が現れた。

 

POWER IS JUSTICE……

 

「なるほど、私だとこういう姿になるのか。くくく、面白い」

 

 最後の声と共に変身を終わらせた彼は、興味深げに自身の手を見るとくつくつと笑みを零した。

 しかし、おもむろに空中に手を翻すと、空間に黒い穴のようなものを作り出した。

 その先には、暗闇に包まれた空間と、明かりに照らされた玉座が存在しており―――その席には、目を閉じ愉悦の笑みを浮かべている青い肌の女性が座っていた。

 

「「「ッ」」」

 

 女性を目にした瞬間、私と姉さんは叩きつけられるように床に屈服させられた。

 唯一、社長だけが膝を突きながらも抗っているが、それも長くは続きそうにはない……!

 

「「褒美をとらす」」

 

 振り向いた彼が社長に言い放つ。

 その言葉に合わせ、奥の青肌の女の声も重なる。

 

「「私の名はルイン。この名、しかとその魂に刻みつけるといい」」

「待て! どこに連れていくつもりだ……!!」

 

 社長の怒声に怒ることもなく、上機嫌に彼―――否、彼女は答えた。

 

「「なに心配するな。すぐに帰してやろう。——少しばかり記憶を弄んだ後にな」」

 

 ワームホールへと足を踏み込み、彼は女性の元へと移動する。

 ルインと名乗った女が彼を迎えたところで、ワームホールは閉じられ、身体を押し潰そうとしていた重圧が消える。

 

「あ、ああ、カツミ……」

「かっつん……」

「まさか、万に一つもないと思っていたことが現実になるなんて……」

 

 彼が巻き込まれているなにかは、私達の想像を遥かに超える異常な事態だということを私は、この時嫌というほど理解させられてしまうのだった。




ハザードは出ないと言ったな、あれは嘘だ(ごめんなさい)
ラスボスさん専用フォームという謎のくくりで復活。

今回は社長関連でも情報が多く出ましたね。


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今後の方針と新たな同居人

箸休め回となります。
前半はレッド視点。
後半が主人公視点となります。


 私達が怪人と戦っている間、社長とアルファは白川ちゃんの自宅へと向かっていたらしい。

 シグマ、オメガに生み出された存在である白川ちゃん。

 彼女によって見つけられたカツミ君は、記憶喪失の弟として過ごしていたらしく、私達との共同戦線の後、マンションに帰った彼と社長とアルファが遭遇した。

 それから先に、彼の記憶を目覚めさせようとしたわけだが、そこで問題が生じてしまった。

 

「結局のところカツミ君はこちらに戻された。傷一つなくな」

 

「「「……」」」

 

「操作されていた記憶は、記憶を戻すやり取りについて。それ以外は特に変わりはなかった」

 

 ブリーフィングルームにいる私達は、社長が語った内容のあまりの情報量の多さに言葉を失うしかなかった。

 

「とりあえずその青い肌の人を斬ればいいの?」

「それで万事解決やな」

「私の先輩……」

「落ち着け、オプティマスブラッド、仁侠イエロー、似非後輩ブルー。敵はあまりにも強大すぎる。本来なら地球という星の生物を塵とすら認識しない超越存在だが……なにがどういうわけか……うぅむ」

 

 言い淀み腕を組む社長。

 なにを答えにするか迷っているようだ。

 

「恐らく、名もなき組織(アンノウン)の首領、ルインはこの地球という舞台の上でカツミ君を鍛えようとしている」

「は?」

「なんやて?」

 

 首を傾げる私ときらら。

 今まで段階的に強い宇宙人が攻めてきたのは彼を鍛えるためってこと?

 でも、なんのために……?

 首を傾げる私ときららだが、顎に指を当てた葵が口を開く。

 

「なるほど、育成ゲームの要領で彼の記憶……いや、戦闘経験(レベル)をゼロにして自分好みのビルドにしようとしたんだ」

「その理解度は逆に怖くなるが、その通りだブルー」

「でも腑に落ちないのは、どうして彼……あっ、先輩なの?」

 

 わざわざ先輩と言い直し、後輩キャラを思い出す葵。

 自分好みに……育てようと。

 なにそれ度し難い。

 カツミ君をなんだと思っているんだ。

 

「分からん。可能性があるとすれば、ルインは―――力こそが世の理、正義と考えている存在だ。その強さは……我々の想像すら及ばない次元にある」

「そんなにすごいんか?」

「星将序列。あれに奴は位置されてはいない。序列を定めるまでもなく、誰も奴には勝つことができないからだ。『変わることのない頂点』『美と破壊の女神』『時空を統べる者』例え序列一桁でさえも、彼女をその場から移動させられるかどうか怪しい」

 

 俗にいうラスボスというやつか。

 それに時空を統べるということは、時間とかも操れるってことかな?

 

「少なくとも私の知る限り奴を少し驚かせた程度でじゃ、あそこまで執着されん。それだけの何かを、カツミ君は奴に見せてしまったと言うことになる」

「……あの、今更だけどなんでそんなの知っているんですか?」

「私は星将序列元61位だ。それで、話を戻すが――」

「「「いやいやいや!?」」」

 

 三人でツッコミをいれる。

 さらりと言っていたがものすごいとんでもない言葉を口にしていた。

 

「はぁ、まったく私が宇宙人なのは話しただろう? スーツが敵方のデザインと似通っている時点で察してくれてもいいだろうが」

「私達が驚いているのは、あんたの序列のことや……!」

「スーツ開発者であるこの私、金崎レイマこと、ゴールディは宇宙で名をはせた悪魔のてんっっさい科学者だ。……ある日、自分の発明がパクられ、粗悪品を広められた上に、ルインが銀河の枠を超えたやべーい存在だったことにドン引きして、命からがら逃げだした逃亡者が私だ」

「えぇ」

「因みに、その頃のルインは子供だったが、その時点で誰も太刀打ちできなかったぞ」

 

 ものすっごい早口で言われてしまった。

 情報量が多すぎることしか言わないなこの人……。

 

「でだ、俺は追っ手を巻き込んで自爆……という体でちゃっかり脱出して地球に逃げ込んだ。まあ、その際に怪我を負い自ら戦うことが難しくなった」

「だから、普段はへなちょこなんだ……」

「それは前からだ」

 

 前からなんだ……。

 やはり元々はスーツを着て戦うタイプの人なんだろうか。

 いや、それよりも―――、

 

「どうすれば、彼を救えるんですか?」

 

 やはりそのラスボスとやらを倒すしかないのか。

 ならば、どのようにして倒しにいくか。

 私の質問に、社長は肩を竦める。

 

「いや、救うもなにも今のところは方法もなにもないぞ?」

 

「「「は?」」」

「むしろ、ようやくこの地球が初期化されていない理由にも納得がいった。ここにカツミ君がいるからだ。彼がここにいるから、ルインは星を滅ぼさない」

 

 あっけらかんとそう言葉にした社長に私達が呆気にとられる。

 

「今まで黙っていたが、ルインがその気になれば地球のような小さな星は一瞬で滅ぼされていてもおかしくはない」

「フリーザみたいなやつやな……」

 

 あっさり地球滅亡案件……。

 いつも通り過ぎてあまり驚きはない。

 

「だがしかぁし! どういう経緯か分からんが、カツミ君はとても、とても! 気に入られている!! それこそ意味が分からんくらいに!!」

「い、いきなり大きな声を出さないでくださいよ……」

「今後は段階的に星将序列に属する宇宙人がやってくるだろう!! カツミ君を成長させるために! この地球という星を見極めるために!!」

 

 突然テンションを振り切らせた社長に驚く。

 私達に気付かないまま、彼は拳を握りしめながら続けて熱弁を始める。

 

「もうカツミ君を戦いに巻き込まないようにすることはできん!! 何故なら、既にルインの影響下に彼がいるからだ!! だが、奴が止めるのは恐らく無理やり記憶を蘇らせようとする行為のみ!! つまり、それ以外なら何をしてもオッケーとなる!!」

「え、い、いいんか? そういうことしても……」

「相手は強い奴と戦いたいだけだから、我々が強化されるのは大歓迎しているようなものだ!!」

 

 なんとなくだけど、ものすごく傍迷惑な存在だと言うことは分かった。

 ……ん?

 

「つまりは、このままカツミ君……白騎士とジャスティスクルセイダーが協力関係を結んでもいいってことですか?」

「その通りだ。過度な干渉は控えるべきだろうが、カツミ君の利になることとなれば奴も何もしてこないはずだ。……してこないよな?

 

 そこで怖気づいちゃうあたり社長なんだよなぁ。

 でも、これからはカツミ君と協力関係を結ぶということでいいんだよね……?

 

「今後は変身せずとも交流することも許す。場合によっては彼を本部に招き、スーツの測定も行うことになるだろう」

「でも、記憶はないんやろ……?」

「彼の記憶喪失は普通のものではない。彼の記憶が封じられた場所を箱に例えるなら、それを出し入れする権利はルインが握っている。……いずれは記憶を全て戻すだろうが、その時は戦いが激化する時だ」

 

 彼の記憶が自発的に戻る可能性は低い。

 しかし、それなら彼の記憶が元に戻ったとしても白川克樹としての記憶がなくなることはないということになる。

 

「あ、レッドにはいくつか禁止事項を設ける」

「……うぅ」

「そんな泣きそうな顔をしても駄目だぞ」

 

 当然とばかりの視線を向けられてしまう。

 あの時のことはすごく反省しているし、ブルーにもイエローにも滅茶苦茶怒られた。

 アルファにもものすごく―――、

 

「……あれ? アルファちゃんは?」

「? そういえば、おらへんな」

「話がすごすぎて気付かなかった……」

 

 気づけばアルファがどこにもいないことに気付く。

 思えば、この場に最初からいなかったような……。

 

「ああ、アルファなら白川宅に居候することになったぞ」

「「「は?」」」

 


 

 この家に居候が増えることになった。

 俺と姉さんの義理の姉にあたる新不破 黒江(あらふわ くろえ)、愛称アルファさんという人だ。

 俺と姉さんとほとんど年が違わない人らしいが、ちょっと訳ありでここに住むことになったらしい。

 先日知り合ったレイマ曰く「ホームステイ」らしい。

 見た目はものすごく美人な日本人なんだけれど、どういうことなんだろうな?

 

「ごめんな、アルファ。手伝わせるようなことをしちゃって」

「いいんだよ。居候させてもらっているんだから。ハクアも起こしてこようか?」

「ああ、頼むよ」

 

 最初は新不破さんと呼ぼうとしたわけだが、敬語も呼び捨てもいらないし、愛称で構わないというらしいので普通に話すことにしている。

 

「今までハクアを起こしていたのは君なの?」

「ん? ああ、そうだよ?」

「ふーん……」

 

 にこりと微笑み首を傾げた彼女は、そのまま姉さんの眠っている部屋へと向かう。

 突然一人同居人が増えてしまったわけだが、日常にはそれほど影響はしなかった。

 俺自身も特に思うところもなく、どこか慣れたような心境で、この生活をすぐに受け入れた。

 

『ガゥ』

「……シロ」

 

 テーブルに飛び乗り声をかけてくるシロに笑いかける。

 椅子に座りながら、俺は目を閉じる。

 

「貴女は、誰だ」

 

 シロを抱え、一人でそう呟く。

 するとなにかの存在を心の中で感じ取る。

 

――ルインだ

「ルイン、さん?」

 

 呟き、頭の中に聞こえてくる声に応える。

 今まで平然と受け入れていたが、ふとした時に俺はこの声の異質さに気付いた。

 いや、気づかされたのか。

 

「どうして、俺を助けてくれるんだ?」

――そうする必要があるからだ

「……ありがとう、いつも俺に助言とかくれたのは、貴女でしょう?」

――フフフ、礼など必要はない 貴様自身の力で乗り越えたのだ

 

 こんなこと、誰にも言えないよなぁ。

 俺に話しかけてくる謎の存在がいただなんて。

 姉さん心配性だから、絶対病院とかに連れていかれる。

 

――少しずつ 私の干渉も減っていく

「そう、なのか?」

――ふふふ そう寂しがるな 時が来れば な

 

 慰めるようなその声に俺は顔を上げる。

 

「それって――」

「かっつーん! 姉さんがぶって私を起こしてきたんだけど!? どういうことなの!?」

「いや、寝ぼけて抱き着いてこようとしたからびっくりしちゃって」

「絶対それ以外の理由だぁ……」

「なにか言ったかな?」

「イイエッ! ナニモ!」

 

 居間に頭を押さえた姉さんとアルファが入ってくる。

 そこで声は途切れたことに気付き、一瞬唖然とした俺は思考を切り替えて二人の姉へと意識を向けるのであった。

 

「ああ、そういえばマスターに連絡しておいたから」

「アルファのこと?」

「そうそう。なんだかんだで受けてくれそうだよ。……社長も援助するらしいしね……

 

 テーブルにつき納豆をかきまわし始めた姉さんに答える。

 

「え? 私のこと? なにが?」

「アルファ、レイマから聞いてないのか?」

「う、うん」

 

 まあ、今日の話じゃないから今から伝えておくか。

 アルファの保護者はレイマってことらしいし。

 

「社会勉強として、君も俺と同じところでバイトさせられないかって」

「……へ?」

 

 呆気にとられた顔をするアルファ。

 社会勉強をさせてやれ、というレイマのお願いではあるがバイト先に知り合いが増えるのは俺としても嬉しいことなので、彼女には頑張ってほしいな。

 




新不破という無理やりすぎな苗字……。
今後は社長とジャスティスクルセイダーのバックアップもされつつ戦うことになります。


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初仕事と変化

主人公視点となります。
アルファに関しては、主人公が記憶喪失中は彼をカツキと呼びます。


 金崎令馬と名乗った男は、なんというべきか不思議な人であった。

 見た目はちょっと近寄りがたい外国人という印象を受ける彼だが、その実話しやすく名前で呼ぶのにそこまで時間がかからなかった人柄だった。

 そんな彼から頼まれたことは、アルファの社会勉強として彼女にバイトをさせることであった。

 なにやら彼女は箱入り娘というものらしいので、働くということを経験させたいとのこと。

 

「ねえ、カツキ。そのマスターって人はどんな人なの?」

「いい人だよ。ちょっと態度はぶっきらぼうだけど、面倒見のいい人。……口に出したら不貞腐れちゃうけどね」

 

 早朝、姉さんを職場に見送った後、俺はアルファと共にマスターのいる店の前へと訪れていた。

 既にマスターにアルファのことは伝えており、あとは面接のようなものをするだけだが、当のアルファは少し緊張しているにように思えた。

 

「不安?」

「正直。でもカツキも一緒ならいいかなって」

「ははは」

 

 一人じゃないから安心できるか。

 正直、心境としては俺も同じ気持ちだ。

 

「じゃ、入ろうか」

「うん」

 

 気持ちを落ち着けたところで店内へと足を踏み入れる。

 すると、中には既にバーカウンターに座り、暇をしているマスターの姿を見つける。

 頭に巻いたバンダナに清潔感のある服。

 

「おう、来たか」

「おはようございます」

「……あっ」

 

 彼が、やや目つきの悪い目をこちらへ向けるとアルファがそんな驚いたような声を上げた。

 マスターも訝し気な様子で首を傾げる。

 

「え、知り合いなのか?」

「……あ、いやぁ、勘違いだったみたい。あ、あはは……この人ヘリにいた人じゃん……

 

 他人の空似ってやつか。

 

「はじめまして、新不破黒江です」

「新藤だ。マスターと呼べ。……白川姉から事前に話を聞いているが、お前ら本当に複雑な家庭環境だな、オイ」

「ハ、ハクアの義理の姉です」

「俺にとっての義理の姉でもありますけどね。ははは」

「……」

 

 なぜか黙り込んでしまったアルファ。

 マスターは軽いため息をつくと、あらかじめ用意していたのかエプロンをアルファに投げ渡す。

 

「わっ……っと」

「愛想よくしろよ。白川姉は仏頂面でまともに接客もできなかったからな」

「が、がんばります……」

「カツキ、しっかりと見ておけ」

「了解です」

 

 とりあえずはちゃんと認められたようだ。

 俺も荷物を置いてエプロンを取りに行こう。

 ……今日だけは怪人には現れてほしくはないな……!


 

「あらー、新人さん? 可愛いわねー」

「ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」

 

「ねえねえ、この後時間ある?」

「ごめんなさい、もう先約がありますのでー」

 

「アルファ、会計をお願いしてもいいかな?」

「あ、カツキ! うん! 任せてっ!」

 

「お会計お願いしまーす」

「はい」

 

 アルファは想像していた以上によく働けた。

 それこそ最初の俺以上にだ。

 初めてのバイトとも思えないほどだったし、お客さんの軽口も笑って受け流すあたりすごいと思えた。

 

「思ったよりもやるじゃねーか、お前の友達」

「え? 友達ではありますが、姉ですよ?」

 

 客足が落ち着いた頃、マスターが感心した様子で俺に声をかけてくる。

 少し違和感のある言い方にそう答えると、彼は首の後ろをさすりながら一瞬不思議そうな顔をする。

 

「ああ、そうだったか?」

「大丈夫ですか?」

「年寄り扱いするんじゃねぇ。俺はまだ30代だ。……ん?」

 

 マスターが店内へと視線を向ける。

 俺もそちらを見ると、どうやらまたアルファが男性客に口説かれているようだ。

 

「あー、止めてきます」

「いや、いい。見てろ」

「?」

 

 マスターに止められ、状況を見ていると依然として変わらない笑みを張り付けたアルファは、なぜか俺の方を見て一言二言交わすと恭しくお辞儀をしながらその場を離れる。

 当の男性は消沈した様子でコーヒーを飲んで黄昏ていた。

 

「あしらうのが巧いな」

「一途ですので」

 

 そう言葉にするアルファに笑みを噛み殺すマスター。

 箱入り娘とは聞いていたが、これは思っていた以上に心配はないんじゃないか?

 

「……ッ」

――来たぞ

「ルイン、さん……」

 

 頭の中に声が聞こえる。

 それと同時に鈴の鳴るような音が、二重に響いてくる。

 今までとは違う。

 

「ッ、カツキ……音が聞こえるの?」

「アルファ、どうしてそれを……いや、それより……マスター、ちょっと、外に出てもいいですか?」

 

 音を我慢しながらマスターにそう言うと、彼は眉間に皺を寄せ苦々しい表情を浮かべる。

 

「……ああ、行ってこい。そこらへんほっつき歩いて怪我すんなよ」

「分かりました。アルファ、後は頼む」

「……うん」

 

 影からやってきたシロを確認し、俺は外へと向かう。

 扉を出る際に、アルファがスマホのようなものをポケットから取り出すのを一瞬、見えながら俺は頭に鳴り響く音に任せて目的地へと走り出すのであった。

 


 

「あああ!! クソォ!! なぁんで侵略者はこっちの事情を知らずにポンポン現れるんだァァァ!!」

 

 セーブフォームに変身し、ルプスストライカーで空を爆走しながら怪人が現れるであろう方向へと突き進んでいく。

 直線方向に白い輝きを放つ柱が二つ(・・)

 以前と同じように、二体の怪人が現れたことに驚き、その被害を想像し身の毛もよだつような感覚に陥る。

 この前のように出会い頭にルプスストライカーで倒して―――いや!

 

「片方が巨大化したらどうする……!?」

 

 それじゃあ、状況がもっと悪くなる。

 バックルを叩きかけた腕を止め、そのまま現れたであろう怪人のいる場所へとバイクを止める。

 

「サメと、タコ!?」

 

 そこでは二体の怪人が周りのものそっちのけで喧嘩していた。

 大きなサメの頭を持つ怪人と、タコの触手を上半身に持つ怪人。

 どちらも人型のそれではあるが、ものすごく険悪な様子で噛みついたり、殴り合っていた。

 

「え、えぇー」

「シャァァク……!」

「ヌォォォ!!」

 

 どちらの拘束具に刻みつけられたナンバーは、サメ怪人が156、タコ怪人が155と書かれている。

 俺の登場そっちのけで喧嘩する二体の攻防は苛烈で、逃げようとした人々も困惑の眼差しを向けている。

 な、なんだ? これはどうすればいいんだ?

 そもそもどうしてこの怪人たちは喧嘩しているんだ!?

 

「あ、あの、喧嘩は駄目だぞ! サメとタコ、同じ海の生き物じゃないか!」

「シャァ!」

「ヌォォ!」

「うわー!?」

 

 二体の怪人の間に割って入ろうとすると、頭突きと触手でぶん殴られ思い切り吹き飛ばされる。

 見た目から想像もできない攻撃に近くの建物の壁に叩きつけられ、そのままびたーん! と地面に身体を叩きつけられる。

 人々からは悲鳴と、そこはかとない「あちゃー」という声が上がる。

 

「白騎士くん!」

「だ、大丈夫かね!?」

「は!? え、大丈夫です! す、すみません……」

 

 衝撃に悶える俺に、まだその場にいた人達が駆け寄ってくる。

 色々な意味でびっくりしているところを二人の男性に助け起こされていると、一人の女性が遠慮気味に話しかけてくる。

 

「あ、あの、白騎士君、タコはサメを食べることもあるらしいから、仲良くすることは難しいかもしれないよ?」

「そ、そうだったのか……! ありがとうございます! あ、早く逃げてください! あれも巨大化するので!!」

 

 人々を逃がしながら驚きの事実に感嘆とする。

 タコとサメはそんな関係にあったのか……!

 だが、あのまま共倒れしてくれれば―――、

 

「シャァァ!!」

「ぬォォォ!!」

 

「いや、待て、あいつらなんで拘束具自分で壊そうと……!!」

 

 睨み合ったまま自身の拘束具を壊し巨大化を試みようとする二体に呆気にとられる。

 こんな場所で二体同時に巨大化して暴れまわれば大変なことになる。

 俺は迷いなく、バックルを叩き必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

「お前ら! いい加減に!!」

 

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

「しろぉぉぉ!!」

 

 助走と共に飛び蹴りを放つ。

 

「シャァ?」

「ぬぉ?」

 

 まずはサメ怪人に一撃を見舞い、その後に蹴りの反動を用いて反転。

 そのまま空中で加速し、タコ怪人へともう一撃を叩きつける。

 悲鳴をあげながら大きく吹き飛ぶ二体の拘束が壊れていないことにホッとした俺は、しょうがないとばかり左手に黒いグリップを出現させる。

 

「———これで! ……っ!」

 

 空から風を切り裂く音が聞こえてくる。

 その音がなんなのかはっきりと理解した俺は、引き寄せたルプスストライカーに跨り、エンジンを発動させる。

 

「よし!」

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!! BIND(バインド)YELLOW(イエロー)!』

 

 ルプスストライカーをバインドイエローへと変化させ、そのまま急発進。

 全速力の突撃と共にタコ怪人へと体当たりを叩き込み、U字型の角と電撃で挟み込みながら空へと駆けあがる。

 

「そっちは任せるぞ!」

 

 空へと舞い上がるルプスストライカーと三体の飛行機がすれ違う。

 

『ネット起動! フカヒレにしてやる!』

『鮫漁の開始やー!』

『シャーク怪人VSオクトパス怪人の一戦は見たかったけど、それはそれ』

 

 これまでよりも圧倒的に早い移動でやってきた、ジャスティスクルセイダーは、三角形を形作る陣形と共にエネルギー上のネットを展開し、サメ怪人を掬い上げ別の場所へと飛んでいく。

 

「彼女達なら大丈夫だ!」

「ヌォォぉ!」

「俺は、こっちだ!!」

 

 ルプスストライカーから電撃を放ち、タコ怪人を痺れさせる。

 そのままシロのマップによる案内に従い、街から十数キロ離れた森林跡地へと奴を運んで行く。

 

「オラァ!」

 

 目的地に到着し、停止と同時にタコ怪人を吹き飛ばした俺はバイクから降りながら、バックルの側面を一度スライドさせアックスイエローフォームへの変身を完了させる。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)!!』

 

 電撃を払い片刃の斧、ライトニングクラッシャーを手元に出現させる。

 地面から立ち上がったタコ怪人は上半身の触腕を一斉に伸ばし、強烈な打撃を放ってくるがそれらを全て身に纏う電撃で焼け焦がし、斧で切り裂く。

 

「その拘束を剥ぎ取る」

DEADLY(デッドリィ)!!  AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 必殺技と同時に溢れだしたエネルギーを斧に流しながら、タコ怪人へと近づいていく。

 地面を引きずるようにさせたライトニングクラッシャーから眩いばかりの電撃が内包されていく。

 あの触腕を恐れる必要はない。

 無駄なスピードも必要ない。

 確実に、無駄なく相手を屠れる一撃を放つ。

 

「ヌォォォ!!」

 

 怖気づきながらも、タコ怪人は黒い墨を吐き出してくる。

 それは、俺の装甲へと触れると、連続して爆発を引き起こすがそれらを全て我慢して、耐えながら―――眼前に迫った奴に、雷の力が込められた斧を上から叩きつける。

 

「フンッッ!!」

LIGHTNING(ライトニング)!! FULL(フル)SLASH(スラッシュ)!!』

 

 問答無用とばかりに脳天から叩きつけられた斧はタコ怪人を内側から焼き尽くし、そのまま大きな爆発を引き起こした。

 咄嗟に離れ拘束から解放された奴の身体が空中に浮きあがり、膨張し始める。

 

「……やっぱりか」

『ヌォォォォォォ!!』

 

 人型からかけ離れ、腕も八本以上に増えた巨大なタコへと変貌を遂げたタコ怪人を見上げため息をつく。

 

『ヌォ!』

「ッと」

 

 繰り出される巨大な触腕をその場で転がり避け、立ち上がりと同時に斧で切り裂く。

 だが切り裂かれた腕は瞬時に再生し、元通りになってしまう。

 

「高速再生か!」

――倒す方法は 分かっているな?

「再生できない威力で叩く!!」

 

 力いっぱい振り上げた斧をぶん投げ、タコ怪人の頭に突き刺す。

 頭から青色の血を噴き上げ、苦しむ奴の隙を突き、俺は左手に黒色のグリップ『グラビティグリップ』握りしめる。

 

「こいつで!」

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 バックルにトリガーを嵌め込み、新たな姿への変身を遂げる。

 白と黒のアーマーが金属音と共に全身に嵌め込み、最後に裏地が白色に染められた黒いマント腰に纏い、アナザーフォームへの変身を完了させる。

 

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 見た目の変化に臆することなくタコ怪人が触腕を繰り出してくるが、左手を掲げ不可視の重力で押し潰す。

 アナザーフォームは重力とセーブフォームの力を混ぜ合わせたようなもの。

 

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

 

 そして、右手に現れた大型の銃を握りしめる。

 白を基調としたデザインの上から黒いカバーとアタッチメントを取り付けたような見た目の銃身の下部分には、刃のような部分が取り付けられている。

 それを動きを止めた触腕へと向け、エネルギー弾を放つ。

 ショットブルーとは異なり精密射撃はできないが、それ以上の威力を持つソレは、容易くタコの触腕をちぎるように吹き飛ばしていく。

 

『ヌォォ!!』

「まだまだ!」

 

 さらに数を増やして襲い掛かる触腕。

 それを目にすると同時に、握りしめた銃のグリップ部分を銃身と直線になるように動かし、大剣のような形状———ソードモードへと変え、それを横薙ぎに振るう。

 それだけの一撃で刃からオーラ状のエネルギーが放出され、触腕が次々と両断されていく。

 

「ハァァ!!」

 

 こちらから怪人へと接近し、次々と触腕を切り裂き跳躍と同時にタコ怪人の胴体部分を切りつける。

 閃光と共に黒いオーラが迸り、タコ怪人に大きなダメージを与える。

 

「これで、とどめ!!」

GRAVITY(グラビティ)!!』

 

 振り返ると同時に、グラビティバスターをガンモードに変形させる。

 そのままバックルからグラビティグリップを取り出し、側面の窪みに勢いよく差し込み、武器単体での必殺技を発動―――両腕で構えたそれを呻いているタコ怪人へと向ける。

 

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

FINISH(フィニッシュ)!! IMPACT(インパクト)!!』

 

 トリガーを引くと同時にとてつもない衝撃に、吹き飛ばされないように踏ん張る。

 ガンモードから放たれた黒と白の入り混じった大きなエネルギー弾は、タコ怪人の吐き出した墨すらも一瞬でかき消しながら直撃する。

 

『ヌオオオオオ!?』

 

 真正面から受けたタコ怪人は、一瞬の硬直の後に大きな爆発を引き起こした。

 跡形もなく消滅したことを確認した俺は、構えていたグラビティバスターを下ろして、溜息をつく。

 

「今回もなんとかなったよ」

――それでこそだ もう一体の方も倒したようだぞ

「……分かるのか?」

 

 それなら、安心だな。

 まあ、彼女たちは俺よりも強いし疑う余地はない。

 

「俺も、負けられないな……」

――……フフ その意気だ

 

 ルインさんの声を聞きながら、俺はルプスストライカーに乗り込む。

 今からでもカフェに戻ろう。

 アルファも入ってきたわけだから、クビにされてもおかしくないけれども……。

 俺ってサボりがちってレベルじゃないしなぁ。

 

「……しかし、タコって鮫を食べることがあるんだ……」

 

 意外な豆知識を知ってしまったな。

 そんな他愛のないことを考えながら、俺はバイクを走らせマスターとアルファのいるカフェへと戻るのであった。




タコとサメのチョイスについてはなんとなくです。

主人公の所在が分かったことで、侵略者の登場もジャスティスクルセイダー側もいち早く察知できるようになりましたね。


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抜け駆けと招待

合流回となります。


 タコ怪人を倒し、急いでカフェに戻りバイトを再開させることができた。

 アルファのバイト初日も順調といった結果で終わり、二人でマンションに戻った頃には姉さんも既に帰ってきており、それから三人での夕食を食べることになった。

 

「KANAZAKIコーポレーションに招待された? 誰が?」

「私達」

「え、俺も?」

 

 自分を指さすとアルファがこくりと頷く。

 

「うん。へん……レイマが招待してくれたんだよ。貴方に大事な話があるんだってさ」

「大事な話……その内容は、アルファは知っているのか?」

「うん」

「あー、私も知っている」

 

 ハクア姉さんまで……。

 KANAZAKIコーポレーションといったらテレビをあまり見ない俺でもよく知っている大企業じゃないか。

 乗り物関係から食品まで広い分野の商品を扱っているところなので、海外でも名前が知れているって話だ。

 

「まさか姉さんの前の職場って……!」

「あー、そうだね。そこで働いていたんだ……」

「……すまない、ハクア姉さん……!」

「あ、いや、なんでいきなり謝るの!?」

 

 突然謝罪の言葉を口にする俺に慌てる姉さん。

 だが、そんなすごいところで働いていたことを初めて知った俺としては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「俺の記憶喪失のせいで大事な仕事を辞めることになって……!」

「ち、違うよ! かっつんが記憶喪失になったのは―――」

「俺、なんでもするから……」

「……ナンデモ?」

「うぉっほん!!」

「ハッ!?」

 

 なぜかアルファが大きな咳ばらいをする。

 それにハッとした顔になった姉さんは慌てながら、言葉を続ける。

 

「私が辞めた後だからっ! かっつんのせいじゃないよっ!」

「……そう、なのか?」

「嘘じゃないよ。ちょっとショックなことがあって辞めちゃっただけなんだよ……」

 

 そういうことだったのか……。

 しかし、そんなすごい職場をやめるくらいのことって考えただけでも相当だな。

 ……いや、わざわざ訊かなくてもいいだろう。

 いくら家族だとしても全てを明かさなくちゃいけないわけじゃないしな。

 

「ちなみにレイマはそこの社長だよ」

「……え、マジ?」

「うん、大マジ。名前が金崎令馬でしょ?」

 

 た、たしかに……。

 え、俺ってそんなすごい人と話していたのか?

 

「まあ、とにかく、三人でKANAZAKIコーポレーションの本社に行ってみようよ」

「ちゃ、ちゃんとした服装で行った方がいいかな?」

「気にしなくてもいいと思うよ。そういうことを気にする人じゃないからね」 

 

 たしかに初めて会った時も親しみやすい人だったな。

 俺の過去を知っていた人ということもあって、信用しているけど……。

 

「それじゃ、明日のバイト終わりに行ってみようか。ハクア姉さんは休みだろ?」

「そうだね。私は時間まで家で待っているよ」

 

 決まりだな。

 しかしKANAZAKIコーポーレーションか常に時代の最先端を歩いていく大企業。

 見学という意味でも楽しみだな。

 


 

「で、お前と新不破はKANAZAKIコーポレーションに招待されたっつーわけか」

「そうなんですよね……」

 

 タコ怪人との戦いの翌日。

 変わらずアルファと共にカフェへのバイトを行っている最中、ふとマスターにこの後行こうと思っているKANAZAKIコーポレーションについての話題を話していた。

 

「でもそんな人が、俺と知り合いだったなんて……記憶を失う前の俺っていったいどんな人間だったのかますます謎ですよ」

「……さーな。まあ、人の縁ってのはよく分からねぇもんだからな」

 

 夕暮れ時にさしかかり人気の少なくなったカフェ内で椅子に座っていた俺とアルファに、マスターは続けて言葉を発する。

 

「人間生きてりゃ思いもしない奴に会うこともある」

「マスターにもそういう経験があるんですか?」

「俺か? ははは、そりゃもう日常茶飯事だわ」

 

 さすがに冗談なのかカラカラと笑いながらそういうマスターにつられて笑う。

 アルファは、やや引いたように笑っていたけれど。

 

「俺が言いたいのは、そういう縁を大事にしておけってことだ。いや、ホント。なにが起こるか分からないからな」

「ものすごく実感が籠っているのは分かります」

「だろ?」

 

 そんな和やかな会話を続けているとふと、店内の扉が鈴の音と共に開かれる。

 お客さんだ。

 立ち上がろうとするアルファに自分がやるといい、俺がお客さんへと近づく。

 初めて来るお客さんなのだろう。

 肩ほどまでに伸びた青みがかった髪と、制服が印象的な少女だ。

 

……本当にいた。……はじめまして」

「あ、はじめまして。一名様ですか?」

「……うん」

 

 時間的に学校帰りだろうか?

 カバンも持っているあたり、それっぽい。

 とりあえず、窓際の席へと案内すると彼女はメニューを見始める。

 

『なぁ!?』

『お、なんだ、知り合いか?』

 

 アルファの驚く声が聞こえるが、とりあえずコップに注いだ水を差しだすと、既に頼むものを決めたのか女学生は俺を見上げ人差し指を立てる。

 

「マティーニを一つ」

「ここカフェですけど……」

 

 しかも未成年ですよね……?

 ややドヤ顔の女学生に困惑する。

 

「冗談、コーヒーと新メニューのショートケーキを一つ」

「……ははは、面白いお客さんですね」

「よく言われる」

 

 無表情だけど中々に感情豊かなお客さんのようだ。

 苦笑しつつテーブルカウンターにいるマスターに頼まれたメニューを伝える。

 

「マスター。コーヒーとケーキを」

「フッ、やるな。最初にCoffeeとは分かってんじゃねぇか……」

「なぜに無駄に発音よく……」

 

 さっそくコーヒーを淹れはじめたマスターを見ていると、ふと先ほどまで座っていたアルファが、先ほどのお客さんと話していることに気付く。

 アルファの知り合いなのだろうか?

 様子からしてそれっぽいけれど……。

 

『いいお店だね』

『なんでここにいるの……? まだ場所は知らされてなかったよね?』

『絞り込み。あと理系ダウジングと、直感』

『もうやだこのブルぅ……』

 

 仲が良さそうだな。

 義理の姉であるので、ちゃんと仲のいい友人がいてくれてよかったと内心で安堵する。

 カウンターの前で銀色の丸いトレーを持って待っていると、マスターがコーヒーとケーキを用意する。

 

「コーヒーとケーキです。注文は以上でよろしいでしょうか?」

「うん、くるしゅうない」

 

 やや疲れたような顔をするアルファと入れ替わるようにケーキとコーヒーを差し出すと、独特な返事がかえってくる。

 

「あ、待って」

「はい?」

「ちょっと、話し相手になってくれない?」

 

 その場を離れようとすると呼び止められる。

 話し相手……? 今までそういうお客さんがいなかったわけではないけど。

 ふと、店内を見回すと目の前の彼女以外にお客さんはいない。

 

「あー、自分でよければ。そこまで面白い話もできませんけど」

「面白いかどうかは私が決めることにするよ」

「? そう、ですか?」

 

 独特な台詞を口にする人だなぁ。

 そんなことを思いながら立ったまま会話を行う。

 

「座ってもいいよ?」

「いえ、仕事中ですから」

「……そう」

 

 さらりと店長を見ると特に気にしていないようだ。

 むしろ、こういう交流を推奨するような人だから文句は言われないか。

 昨日のアルファに対してのナンパは別として。

 

「良い雰囲気のお店だね。初めてきたけど、気に入っちゃった」

「それはなによりです。初めてというと……遠くの方から来たんですか?」

「そこそこ。帰りの駅の途中で降りるから、ちょっと冒険してみようと思って」

 

 へぇ、冒険かぁ。

 物静かな雰囲気とうって変わってアグレッシブなんだな。

 

「それじゃあ、ここに入ったのもその一環で?」

「ううん。ダウジングで来た」

「ダウジング……?」

 

 どういうことだ? 全く意味が分からんぞ。

 なぜここでダウジングが出てくるんだ……!?

 たしかダウジングって探し物とかを見つける時に使うやつだよな……?

 い、いかん、ここで動揺を顔に出して相手を不快な思いにさせるわけにはいかん……!

 

「は、ははは、なら探し物は見つかりましたか?」

「うん、ちゃんと見つけた」

 

 そう言ってケーキを口にする女学生。

 その後も適度に雑談を交わしながら静かな時間が過ぎていく。

 

「ごちそうさまでした。会計、お願いしてもいい?」

 

 立ち上がった彼女に頷き、会計へと移動する。

 

「お会計650円です」

「はいなっと」

 

 会計を済ませた彼女は俺と視線を合わせるとにこりと微笑む。

 

「美味しかった。また来る」

「ははは、ご来店をお待ちしております」

 

 気に入ってくれてなによりだ。

 微笑みながら店から出ていこうとする彼女を見送っていると、ふと扉に手をかけた彼女がこちらを振り返る。

 

日向(ひなた)(あおい)

「はい?」

「私の名前、覚えてて」

 

 それだけ言って彼女は外へと出て行ってしまった。

 日向葵さんか。

 なんとも不思議な雰囲気を持つ人だったな。

 

「なあ、カツキ」

「なんですか? マスター」

 

 振り向くと頭を抱えるアルファとなんとも言えない顔をしているマスターの姿が。

 

「お前って変な女を引き寄せる体質かなにかなのか?」

「……ははは、面白い冗談ですね」

「冗談じゃねぇんだけど」

 

 少なくとも、俺にそういう自覚はない。

 

「……まあいいや、そろそろお前ら上がっていいぞ」

「え、でもまだ……」

「用事があんなら早いに越したことはねぇだろ。どうせ、この時間帯は人も入らねぇんだ」

 

 マスターの言葉に遠慮気味に頷きながら俺とアルファは、バイトを上がることになった。

 じゃあ、次は姉さんと合流してKANAZAKIコーポレーションに向かうとするか……。

 


 

 KANEZAKIコーポレーションのビルは俺が想像していた一回り以上に大きなビルであった。

 大きな建物に委縮しながらも中へと入ると、まず最初にアルファが受付の女性に何かを見せる。

 すると、慌てふためいた受付の人がどこかに電話を繋ぐと、あれよあれよとあっという間に最上階の社長室へと通されてしまった。

 あまりにも一瞬の出来事に俺は唖然としてしまっていたが、一方で姉さんとアルファは特に驚きもしていなかった。

 エレベーターで最上階に辿り着くと、目の前に社長室と思われる広い部屋。

 すると姉さんがおもむろに社長室の扉を軽く叩いた。

 

「社長、来ましたよー」

「ハクア姉さん! そんな失礼な……」

『入ってくれ』

 

 これでいいの……?

 自動で開かれる扉に唖然としていると、扉の先に椅子に座っているレイマの姿があった。

 彼のいるテーブルの前には、三つの椅子がある。

 

「よく来てくれた。緊張せずに座ってくれ」

「あ、はい」

 

 とりあえず座ると彼は意を決したような表情で口を開く。

 

「君が来てくれたことを嬉しく思う」

「は、はあ。あの、どうして俺をここに?」

「そのことについてだが……これから重要な話をする、よく、聞いて欲しい」

 

 重要な話と聞いて緊張してしまう。

 な、なんだ?

 ここまで招待されてなにを話すんだ……!?

 

「カツキ君、いや、白騎士」

「!? な、なんで……」

「KANAZAKIコーポレーション社長は世を忍ぶ仮の姿!! その正体は大きく異なる……!!」

 

 突然立ち上がったレイマがテーブルのボタンらしきものを押す。

 すると、窓に勢いよく黒いシャッターがかけられ、室内に赤、青、黄の三色の光が溢れだす。

 

「え? え? え?」

「私の正体は、ジャスティスクルセイダー総司令なのだ!!」

「え、えええええ!?」

「なにこの茶番」

「この下りいるのかな……」

 

 ジャスティスクルセイダーの総司令がレイマだったなんて。

 驚き慌てふためく俺にちょっと上機嫌になったレイマは、続けて社長室の側方にある扉を指さす。

 

「そしてぇ!! 今こそ君に明かそう!! ジャスティスクルセイダー! その正体を!!」

「な、なんだってぇー!?」

 

 あのジャスティスクルセイダーの正体まで明かすのか!?

 扉ががちゃりと開かれ、そこから三人の少女が現れる。

 

「この演出必要かな……」

「いや、逆に恥ずかしいわこんなん……」

「……フッ」

 

 赤い髪をポニーテイルにさせた子と、茶色がかった髪を三つ編みにさせた子。

 そして―――、

 

「彼女達こそがジャスティス――」

「あれ? 日向さん?」

「クルセ……なんだと?」

「あ、奇遇だね」

「「は?」」

 

 まるで時間が止まったような静寂がその場を支配する。

 微笑を浮かべ、俺に手を振ってくる彼女に呆然としながら手を振り返していると、不意に日向さんの隣にいる二人が、彼女の肩と頬を掴む。

 

「葵、お前抜け駆けしたな?」

「そら、あかんわ。あかんよなぁ」

「ふむぅ、ふむむむぅー」

 

 前髪で顔が隠れて顔は見えないが、このドスの利き具合からしてあれがレッドだろう。

 もう一人は、よく声を聞けばイエローさんだってのは分かる。

 もしかしたら、日向さんがブルーだったのか……?

 すごい偶然だなぁ……。

 

「社長」

「ァッ、ハイ……」

「ちょっと私達は葵に話があるので席を外します」

「ええよね?」

「どうぞお好きに……」

「ふもふももー」

 

 じりじりとレッドとイエローさんに引きずられていく葵さん。

 彼女たちの姿が見えなくなってもなお、社長室には気まずいどころではない空気が支配するのであった。

 




謎ダウジングと直感でカフェに辿り着いたブルーでした。
相対的にイエローが一番まともという……。



完全に忘れていましたが私、Twitter始めていました。
マイページにてアカウント名、URLを書かせていただきました。


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歓迎と新ビークル(レッド視点)

今回はレッド視点となります。


 カツミ君がジャスティスクルセイダーの本部であるKANAZAKIコーポレーションにやってきた。

 今回、彼をここに招いたのは協力の取りつけと、彼の状態を確認するため。

 彼を自分好みに育てようとする度し難いラスボスに彼がどれだけの影響を受けているか、それを確かめるというのも目的の一つだ。

 そうして彼を社に招き、社長のやりすぎな演出により私達が正体を現すはずだった。

 

「で、葵、どういうこと?」

「ここを使った」

 

 トントン、と指で自分の頭を指さす葵。

 そこはかとなくイラっとしながら先を話すように促す。

 

「白騎士の逃走経路をデータで算出し地図に載せる」

「うん」

「人間の思考は根本的なもので本能に固定されるから、追跡を撒こうとする彼の移動ルートから微細な傾向、向かう方向を限定させ、彼がどの方向に向かっているかを確定させる」

 

 全然分からんないんだけど……!

 これ理系なの? 私の知る理系とは全然違うんだけど。

 

「そこから彼が拠点にしているであろう大まかな場所を予測。初めて白騎士が確認された公園付近であることから、その周辺に彼がいると見て、理系ダウジングを行った」

 

「ちょっと待って、いきなり話がオカルトに入ったよね……!? おかしいよね!?」

「それ理系やないやん! オカルトやん!!」

 

「フッ、分からないかな? バーサーカーブラッドグラディエーターイエロー

 

 瞬間、きららの手が葵の頬を掴む。

 驚きに目を見開く葵に私は目を細めながら笑みを浮かべる。

 

「次、その名前を口にしてみろ。私達、貴女になにをするか分からないよ?」

「おう、口に気をつけぇや。いてこますぞ?」

「ふぁーい、ふぃをふゅけまーふ」

 

 社長なら怖気づくが葵は全く堪えた様子はない。

 当然だ、彼女も私達と共に修羅場を潜り抜けた猛者。

 多少の脅し程度でビビる程度ならとっくの昔に死んでいたことだろう。

 

「科学を突き詰めるとオカルトに行きつくものなんだよ?」

「怖い。怖いよ、きらら。この子マジで言っているよ」

「それで実際見つけているあたり怖すぎる……」

 

 何者なんだこの子。

 少し前は理系被れだったのにどうしてこうなった。

 

「それで、カツミ君……あっ、カツミ先輩が働いているバイトに客を装い潜入して、ちゃっかり彼に話し相手もしてもらって親睦を深めて名前を教えて颯爽と帰ったわけだけど」

「やりたい放題じゃん……」

「抜け目がないわ……」

「アルファも彼と同じところで働いてたよ」

 

 ピシリ、と空気が凍る。

 へぇ、アルファがねぇ、いつの間にか白川ちゃんのところに住んで同じところでバイトしているとは。

 

「アカネ、とりあえず社長室に戻らない?」

「そうだね。社長も説明していると思うし、私達の自己紹介もしなきゃね」

 

 葵に出し抜かれたことは業腹極まりないが、今日は大事な日だ。

 しっかりと自己紹介をし、彼との協力関係を盤石なものにしないと。


 

 社長室に戻ると、社長がカツミ君にジャスティスクルセイダーの活動について説明していた。

 ここでは全てを説明することができないので、あくまで簡単にだがそれでも彼は真面目な様子で話を聞いている。

 そんな彼に近づいた私達は改めて自己紹介をする。

 

「はじめまして、私はレッドの新坂朱音。よろしくね、カツキ君!」

「私は天塚きらら、分かっているかもしれへんけど、私が君と一緒に戦ったイエローや」

「昼間に会った私がブルー」

「あ、はじめまして、俺は白川克樹と申します」

 

 彼の口から白川という苗字が飛び出し私達の動きが一瞬止まる。

 私ときららがアルファの背中に隠れている白川ちゃんをじろりと見ると、彼女は顔を青ざめさせながら上擦った声を零す。

 姉を名乗る上に苗字も名乗らせるなんて羨ましいけしからん。

 

「まさか、ジャスティスクルセイダーが俺とそう変わらない年頃の子だとは思いもしなかったよ。新坂さんもとんでもない強さだったし」

「あ、あの時はごめんね……」

 

 あの巨大化怪人を倒した際に起きた悲劇。

 うっかりして血まみれのまま彼にいつもの調子で話しかけるなんて普通じゃなかった。

 後で散々説教されて反省したわけだが、やはり本人には謝らなくてはいけない。

 しかし、カツミ君は驚いた表情を浮かべた後に、柔らかく微笑んだ。

 

「いいんだ。怖かったのは事実だけど、君達のおかげで危険な怪人が倒されたんだ。怖かったけれど、あの攻撃は見事だった。怖かったけれど親し気に話しかけてくれたのも同じ立場として歩み寄ってくれたんだよな。怖かったけど」

「カツキくん……!」

「ねえ、今怖かったって何回言った?」

「四回」

「恐怖刻みつけられとるやん……」

 

 彼の恩情に涙を流しそうになる。

 記憶を失う前とは性格も全然違うけれど、こういう人を気遣う優しさは間違いなく彼のものだ。

 

「俺の方こそ、今まで好き勝手に戦ってすまない」

「ううん、君のおかげで侵略者の被害を未然に防げたんだよ」

 

 登場を予期することのできない侵略者の出現を誰よりも早く察知し対応していたのは他ならない彼だ。

 責める謂れなどあるはずがない。

 

「レッド、感動に打ち震えるのは後にしろ。まずはこの場を移動するぞ」

「どこかに行くんですか?」

「ああ、ジャスティスクルセイダー、真の作戦本部だ。諸君! エレベーターに乗りこめぃ!!」

 

 大仰な素振りでエレベーターを指さす社長。

 彼の言葉に頷いたカツミ君は、白川ちゃんへと振り向いた。

 

「じゃあ、ハクア姉さん、行こうか」

「ヒュ!? う、うん、そ、そぉだねぇ」

 

 白川ちゃんがちらちらとこちらを見ているが私ときららは変わらず笑顔だ。

 にも関わらず、これ以上なく顔を青ざめさせた彼女はカツミ君と共にエレベーターへと向かって行く。

 

「あ、社長。この人数で行くのも無理があるので二回に分けていきましょう」

「そうやねぇ、その方が安全やし」

「安全第一」

 

 私達の突然の提案に社長が首を傾げる。

 

「え? いや、我が社のエレベーターはこの人数程度―――」

「……?」

「分けていこうか! ウン!」

 

 私達の無言の圧力に一瞬で屈した社長。

 

「じゃあ、社長はカツキくんとアルファちゃんと一緒に向かってください」

「あ、ああ」

「その後は私ら三人と、白川ちゃんと一緒に下に向かいますので」

「ヒッ!? か、かっつん! わ、私も一緒に「かーつきっ! 一緒に行こ!」……ぁっ」

「わっ、押すなよ。アルファ」

「私もいるぞ。……私もいるからな?」

 

 そう言って早速エレベーターに乗り込んだカツミ君の姿が社長たちと共に消える。

 アルファは後だ。

 エレベーターの起動する音に絶望の表情を浮かべる彼女の肩に手を置いた私ときららは、ゆっくりと言葉を発する。

 

「ハクアネエサン? その呼び方までは知らなかったなぁ。白川ちゃん」

「さ、ハクア(あね)さん。話、聞かせてもらいましょか?」

「ひんっ……」

「同居生活について後で洗いざらい吐いてもらう」

 

 事情は聞いている。

 彼女の生い立ちを考えればそれもしょうがないと思えるが、やはり話は聞いておかねばならない。


 

 ジャスティスクルセイダーの本部は本社の地下に存在する。

 そこに向かうにはスタッフと私達の持つ専用のカードキーがなければならず、それ以外の社員には存在を秘匿されているのだ。

 白川ちゃんに尋問お話をしながら地下に降りた私達は、エレベーター入り口で待っていたカツミ君達と合流する。

 

「ハクア姉さん、どうした?」

「慣れないエレベーターに酔っちゃったみたい。だ、だだだ大丈夫」

「そうか? ははは、意外と子供っぽいんだな。……その割には、猫みたいに震えているんだけど……」

 

 まだ話は終わっていないが今はこれぐらいでいいだろう。

 そのままエレベーターから移動していると、先頭を歩く社長が不意に声を発する。

 

「カツキ君、君の変身アイテムは持って来ているかね?」

「はい。シロ」

『ガウ!』

 

 彼の持っているカバンからメカじみた小さなオオカミが顔を出す。

 ……ベガに無理やりバックルをつけられた時と同じ変身アイテム、見た目の色こそは変わっているが間違いなくそれは敵が所有していたものだ。

 

「やはり、意識を持っているか。失礼、それ……いいや、その子を私に見せていただいても構わないかな?」

「うーん、シロ大丈夫?」

 

 抱えたシロと呼ばれたメカオオカミと目を合わせるカツキ君。

 なんだかペット感覚に驚くが、ふと私とシロの目が合うと、怯えたような声を上げて大人しくなってしまう。

 

『クゥーン』

「大丈夫みたいです」

「では」

 

 シロを受け取った社長は謎の眼鏡をかけるとぐるりと全体を見回す。

 

「スーツの素体は私の試作品のコピーか。あのアンポンタン共め。適正関係なくこの子を無理やり装着させていたのか? だからこそのゴミ箱(ダスト)か。そりゃキレても無理はない。コアには命があるというのに……なんとも、度し難い連中だ」

『ガゥ』

 

 ぶつぶつと何かを呟いた後に彼はすぐにカツミ君にシロを返した。

 

「後で戦闘記録の方を確認してもいいだろうか? ああ、安心してくれ。下手に手を加えるようなマネはしないさ」

「それなら、いいのですが……」

「信用してくれていい!! なにせ私は社長だからな! 契約も約束も地球も何もかも守り通す男だ!! フハハハ!! さあ、ついてきてくれぇ!!」

 

 いつもよりちょっとだけ増しな笑い声をあげた社長がそのまま通路を進んでいく。

 すると、最初に彼は最近新しく作られた『ビークル整備室』の扉を開ける。

 

「ここがジャスティスクルセイダーの所有する三機のビークルを保管、整備を行う空間だ」

「おおお……かっこいい……!」

「そうだろうそうだろう」

 

 広い空間の中にはそれぞれ赤、青、黄、のビークルが並んでいる。

 私達が巨大化怪人との戦いのために用いる乗り物であり、三タイプの合体形態を持つオーバーテクノロジーの塊みたいな兵器である。

 

「それなのに、そこの実践主義の羅刹共は最初から合体しろなど、声無しで合体させろなどロマンの欠片も持ち合わせない奴らなのだ。それだからムードもなにも分からないKY女子なのだ」

 

 カツミ君の前だぞ私……!

 社長をしばくのは後……!

 衝動を理性で押さえ込む私達だが、その一方でカツミ君の視線は私達のビークルの隣へと向けられる。

 

「こっちはなんですか? この、白色と黒色、二つある乗り物は」

 

 白い大きなアーマーを思わせるビークルと、私達と同じ飛行機型のビークルの二機。

 それらに目を向けた社長は、カツミ君の肩に手を乗せる。

 

「白い方は君のものだ。……まだ調整が済んではいないがな」

「え?」

「ホワイト5。君のバイクと合わせることで真価を発揮するビークルだ」

「あの、黒いのは……」

「あれも君のではあるが……今は、違う」

 

 社長はカツミ君へと向き合う。

 

「元々、我々は君と協力関係を結ぶつもりであった。君はジャスティスクルセイダーと同じく、人類、否、地球という星の希望であるのだ」

「そんな、大袈裟な……」

「大袈裟なものか。……いやマジで

 

 思わず口調を崩す社長にカツミ君は困惑する。

 ここでボロが出ると、またカツミ君が記憶操作をされてしまうので、それとなく先へ向かうように促そう。

 

「社長、先に行きませんか?」

「あ、ああ、そうだな。その通りだ。ブリーフィングルームに移動しよう。まずはそこで話でもしよう」

「は、はい」

 

 これからブリーフィングルームで正式に彼に協力を結ぶ。

 そうなれば、連携も取りやすくなるし、協力して侵略者を倒すこともできるようになる。

 その場を移動し、廊下へ向かう。

 その最中、私の視界でカツミ君の持つ鞄からシロがどこかへ飛び出すのを目撃する。

 

「ん? どうしたの? アカネ」

「アルファちゃん、今シロがどこかに行かなかった?」

「見てないけど……どこかに行ったの?」

「かっつんが呼べば来ると思うよ?」

 

 それもそうかな?

 彼の変身するためのアイテムでもあるし、彼が呼べばすぐに駆け付けるだろう。

 特に気にせずに部屋を後にし、廊下へと出る。

 

「さて、次に向かうブリーフィングルームでは君のために用意したカードキーと連絡用の端末を……どうした? カツキ君?」

「……ッ」

 

 廊下を出ると同時にカツミ君が右手で頭を押さえる。

 すぐさま彼に白川ちゃんが駆け寄ると、彼女は焦った様子で私達を見る。

 

「これから侵略者が来るって! それもたくさんらしい!!」

「ええい、昨日の今日だぞ!! ジャスティスクルセイダー出撃準備!! カツキ君は……!」

「俺も、現場に向かいます! 先導しますからついてきてください!」

「ならば、白川君とアルファは彼を地上へと案内してくれ!」

 

 なぜか先ほどいたビークルの保管庫から飛び出してきたシロを手に取り、走り出すカツミ君達。

 私達も瞬時に思考を切り替え、ビークルのある部屋へと戻り、出撃の準備を行う!!

 私ときららが、それぞれのビークルに飛び乗ると葵が何かに気付く。

 

「……あ」

「どうしたの? 葵?」

「なくなってる……」

「なくなってるってなにが?」

 

 青いビークル『ブルー2』に乗り込んだ葵の指さした方向を見て私もきららも言葉を失う。

 

「おい、どうした! 早く出撃しろ! 敵は待ってはくれないぞ!!」

「社長……あの、カツミ君に作ったビークルが……」

「あれはまだ調整中でまだ動かせ―――って、ない!? 二機とも!?」

 

 つい先ほどまで存在していた白いアーマー型のビークルと黒い飛行機型のビークルの二つが、どういうわけか消えてしまっていたのだ。

 あ、もしかしてカツミ君のシロが食べちゃった……とか?

 

「NOOOOOO!?」

 

「と、とにかく出動するよ!」

「そ、そうやね!」

「出撃ー」

 

 変身を行いながら私達は、そのままドッグから地下を通ってそれぞれ別の場所から地上へと飛び出すのであった。

 

 




|M0)シロ「その白と黒のビークルは…俺が飲み込んだ」

ジャスティスクルセイダーは皆仲良しです。
次回、ちょっと特殊な侵略者が来るかもです。


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100位と10秒、そして頂点

書きたい部分まで書いたら長くなってしまいました……。
2分割してもよかったのですが、長い方がお得感があると思ったのでそのまま更新させていただきます。

前回の続きから。


 初めてのジャスティスクルセイダーとの正式な共闘。

 それに胸が躍らないはずがない……!

 これまで疑念を抱いていた彼女達を信じ、共に戦うことは俺にとっては初めてのことだ。

 だからこそ、今の俺は心に余裕を持って戦いに臨むことができている。

 

「白騎士君、もっと早く行ける!?」

「ああ! なら、こいつだ!」

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!! ASSAULT RED(アサルトレッド)!!』

 

 ルプスストライカーの後部にロケットエンジンのような機構が追加され、急激な加速を得る。

 そのままジャスティスクルセイダーの飛行機と共に、亜音速で夜空を突き進むこと数秒―――視線の遥か先に、五本の光の柱が現れるのが見える。

 

「五本だと!?」

 

 つまり侵略者が五体もくるってわけか!?

 しかもまた街中のど真ん中とは、相変わらず現れる場所が最悪だ!

 

「司令! 敵怪人、5体!! 周辺の避難を全力で行わせて!! ここは戦場になる!! はい!? 十分!? 五分でやってください!! ブルー! イエロー! 着地と同時に怪人の足止め! 避難が終わるまで時間を稼ぐよ!!」

「あいよ!」

「了解」

 

 レッドがすばやく指示を出し、俺のバイクの隣に並ぶ。

 ルプスストライカーからロケットエンジンユニットをパージさせ、粒子へと変えながらレッドの声に耳を傾ける。

 

「白騎士君もいけるかな!」

「任せろ!」

GRAVITY(グラビティ)!!』

「それは周りに被害出ちゃうからまだ駄目!」

 

 し、しまった、浮かれてフルスロットルで戦うところだった。

 グラビティグリップを左手から消し去り、バイクから飛び降りる。

 着地と同時にバイクから降りると、視線の先には鎖でつながれた四体の拘束された怪人と、一人の宇宙人型の怪人が立っている。

 

「おおっと、待ちたまえよ」

「ッ」

 

 言葉を話した!?

 いや、喋る怪人はいたにはいたが明確に地球の言葉を話す奴は初めてだ。

 警戒しながら、背後の鎖に繋がれた怪人に目を向けるとそれぞれが立ったまま眠ったように沈黙している。

 見る限り、獅子のような頭を持つ人型の怪人と、そのまま大きな蛇の怪人。

 そして悪魔のような角が生えたやつと、背中に翼が生えた怪人か……。

 拘束具の番号は、188、143、141、132ってところか。

 

「そして……」

「地球という蟲毒を勝ち抜いた人間達か、確かに面構えが違うなぁ」

 

 蝉のような頭をしたメタリックな宇宙人。

 その手には巨大化怪人に繋がれた鎖が握られており、一目で気に入らない奴という印象を抱く。

 

「我を忘れ、獣となり果てたオメガとも異なる。まさしく異質な存在か」

「何者だ」

「星将序列100位“星吸いのセギラ”。今宵は甘美なる狩りを楽しも――」

 

 その瞬間、怪人の首が斬り飛ばされる。

 レッドが剣を振り斬撃を飛ばしたと認識した時には、飛ばされた首がゴトン! と地面へと落ちる。

 

「……」

「レッド、手ごたえは?」

「あった、けど。倒した感じはしない」

 

 は!? 思わずレッドの方を見ると身の丈を超える長剣を軽々と振った彼女が依然として警戒した様子で、前を向いていた。

 

「……レッド!? まだ相手がなにか話そうとしてたんだけど!?」

「白騎士君、敵にはね。言葉で催眠をかけてくる奴とかもいるから気をぬいちゃいけないんだ」

「!? た、たしかに……」

 

 これまでが見境なく暴れるようなやつだったからその可能性を除外していた。

 さすがはジャスティスクルセイダーだ……。

 戦いに対する姿勢が俺とは全然違う……!

 

「レッド、再生してる」

「はぁ……」

 

 心底面倒くさそうにするレッドが、宇宙人セギラへと目を向ける。

 飛ばされた首が灰になると同時に、頭を再生させた奴は信じられない奴を見るような目で俺達を指さす。

 

「と、とんでもないやつだな! いきなり攻撃するやつがあぱ!?

 

 また次にレッドの斬撃が怪人の首を刎ねる。

 次の瞬間には、またその場に無傷の怪人が現れるがその顔はこれ以上にない焦りに満ちていた。

 

「無駄だってのが分からないのか! 俺は不死身———」

「あのさぁ。なんで私達に話を聞いてもらえると思っているの?」

「ぎ、きさ」

「狩り気分で来たら、当然自分が狩られる覚悟くらいはあるよねぇ?」

 

 言葉を最後まで喋り切れずに首が飛ぶ。

 

「お前達は地球を侵略しに来た。私達はお前達を倒す」

「くぷっ!?」

「それ以外になにかあるの? 降参するなら巨大化怪人を引き連れてくるはずがないし、交渉するなら無駄な話はしない」

「ふざけッ」

 

 続けて再生し、なりふり構わず飛び掛かるセギラ。

 その手に怪しい輝きが灯されていることに気付きすぐに迎撃しようとすると、とんでもない早撃ちでブルーがセギラの腕と足の関節を撃ち抜き、地面へと叩き落とす。

 

「すごいなぁ」

―貴様も 見習うといい

―よい 手本だぞ?

 

 ルインさんの声に頷く。

 そうしている間にも攻撃は続いていく。

 

「ま、待て――」

「待たんわ」

 

 その次の瞬間には、首が消え元に戻るがすぐにその上からイエローが斧で叩きつぶす。

 さらに再生しようとする奴を目視したイエローはそのまま無言で、斧を振り下ろし攻撃し続ける。

 鎖に繋がれた怪人たちを動かす暇もないまま、電撃と斬撃で攻撃され続ける敵を見据えながら、レッドはブルーに話しかけていた。

 

「ブルー、どう見る?」

「相手は確実に死んでる。でも、死んでいないのは残機があるからだと思う」

「その根拠は?」

「不死身ならあんなに焦らない」

「言えてる」

 

 ブルーの考察を聞き、顎に指を当てたレッドは次に俺を見る。

 正直、圧倒的すぎて手持無沙汰だ。

 頼もしすぎるぞ、ジャスティスクルセイダー。

 

「白騎士君はなにか気付いたことはある?」

「気づいたこと、か。近づいて手で君に触れようとしていたから……なにかしようとしていたんじゃないか?」

「触れられたらアウト系ね。順当に見て生命力を吸い取る系かな? んー」

 

 その場で場違いな間延びする声で背伸びをするレッド。

 

「ようやく地球産怪人っぽくなってきたじゃん。この理不尽さ、久しぶりの嫌な感じ。二度と味わいたくなかったよ」

「レッド、大丈夫なのか?」

「うん。任せて。こういう相手は慣れてるから。慢心は絶対にしないけど」

 

 まさしく潜った修羅場が違う、か。

 この場において俺は学ぶ側だということをよく理解させられる。

 

「ガァァァ!!」

 

 轟音が鳴り響く。

 軽く後ろに跳ぶようにこちらに戻ってきたイエローに、セギラを見ると再生する奴の周りには動き出した四体の怪人がいる。

 

「手段は、選ばん!」

 

 近くの仲間を盾にするようにしてレッドの斬撃を防いだセギラはそのままその隣の怪人を掴み取り、あろうことか怪人同士を融合させた。

 

「四体の怪人を混ぜ合わせ、さらに強く! 強靭に! 凶暴化させる!」

 

 苦しみ、もがきながら一つになっていく四体の怪人たち。

 混ざり合い、無理やり一つの生物へと変えさせられる彼ら。

 

「酷い……」

「無理やり、融合させたんだね……」

 

 4体の巨大化怪人は敵だ。

 だが、理性もなく、意志すらも剥奪された彼らは元はちゃんとした自分の感情を持っていたはずだ。

 もしかするなら本当は戦うような存在ですらなかったのかもしれない。

 俺達と同じように侵略された人たちなのかもしれない。

 それを、あんな風に……。

 

『ギ、ギィァァァ!!』

 

 それは、雄叫びというより悲鳴のようだった。

 獅子と山羊の頭、背中に生えた大きな翼に、蛇の尾。

 合成怪獣とでも呼ぶべきだろうか。

 これまでの四倍近い質量を持つ怪獣の出現に、レッド達の判断は早かった。

 

「白騎士くん! 私達があの怪獣の相手をする!」

「……ああ、あの野郎は俺に任せろ」

「ッ……黒……いえ、任せたよ!!」

 

 ビークルを出現させ、それに乗り込むレッド達。

 

「パワータイプなら私や! フォーメーション3!」

「OK!」

「了解」

「「「合体!!」」

 

 ローラースケートのような足を覆うアーマーのようなものを纏ったレッドと、バイク型のビークルに乗ったブルーが分離し、上半身が黄色で構成された巨人が現れる。

 

「いっくぞぉぉ!!」

 

 赤色の腕に形作られた鎌状のエネルギー刃と共に巨大化した怪人へと立ち向かう。

 そんなイエローの攻撃を補助するように空を飛ぶレッドとブルーが援護を加えていく。

 

「ッ、優先目標からわざわざ向かってきてくれるとはな」

「……!」

 

 俺は自分の相手に集中しよう。

 序列100位というからには、それ相応に強いってことだ。

 さっきジャスティスクルセイダーたちにボコボコにされていたけど。

 

「俺も!」

CHANGE(チェンジ)!! SWORD RED(ソードレッド)!!』

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー)!!』

 

 剣を握りしめ踏み込みと同時にセギラに剣を叩きつける。

 肩に叩き込み炎が溢れだす剣に奴の表情が苦悶に歪むがそれに構わず必殺技を発動させる。

 

「ぐ、あ、お前もかよ……!」

「セェイ!!」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 力の解放と同時に剣を振り切り、セギラの身体を炎と共に切り裂く。

 傷口から炎をあふれ出させるセギラ。

 だが、苦悶の表情から途端に笑みを浮かべた奴は、そのまま俺に強烈な拳を叩きつけてきた。

 

「ッ」

「ようやく、俺も本領が出せる……! 様子見なんてするんじゃなかったぜ……!!」

「な……!?」

 

 奴の身体は痩身のメタリックな姿から、大きく様変わりしていた。

 全身に浮き上がった銀色の装甲に、腕、背中から伸びた生物的な触手と蟲のような鎌。

 まるで複数の生物を掛け合わせたようなその姿に、どことなく嫌悪感のようなものを抱きながら、俺は立ち上がる。

 

「この姿になれば、あの小娘共にも遅れを取ることはない」

「……最初から油断して負けそうになったのはお前だろ」

「……」

「……」

「……殺す!!」

 

 こちらに飛び掛かってくるセギラ。

 その速さはその自信に違わず早く、なんとか剣で防御するも腕が痺れるほどの衝撃が伝わる。

 

「ッ」

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 バックルを操作し、力と速さに特化させたアックスイエローフォームへと変身。

 そのまま電撃と共に高速移動を行い、奴の背後に回り込み蹴りを叩き込む。

 

「中々の速さだが」

「!」

 

 後ろを見ずに足を掴まれた!?

 驚愕に奴の頭を見れば、まるで昆虫のような複眼が奴の頭の側頭部に作られており、なんとも不気味な姿へとさらなる変貌を遂げている。

 

「気持ち悪っ!?」

「生命の進化だ。それが分からないとは、価値観の違いとは度し難いなぁ。人間」

「ぬぉ!?」

 

 掴まれた足からなにかが吸収される。

 これは、スーツのエネルギーを吸収しているのか!?

 

CHANGEDOWN(チェンジダウン)……SAVE(セーブ) FORM(フォーム)

「強制的にセーブモードに落とされた……!?」

 

 その吸収量はすさまじく、一瞬にしてセーブモードに戻される。

 このままじゃ変身解除される! 咄嗟に出現させたルプスダガーを肩に投げつけ、拘束を脱出する。

 

「迂闊だったなぁ。お前のエネルギーは上物だ」

「……そうやって、他の生き物からも吸い取っているのか?」

 

 酔っているのか? さきほどと比べ上機嫌になったセギラは自身の腕を大きく広げる。

 

「フフフ、俺はな、取り込んだ生命エネルギーの分だけ能力を持っているんだ」

「取り込んだ生命だと?」

「力に長けた種族、速さに長けた種族、それらの生命体をこの身に取り込めば取り込むほど、俺はどこまでも強くなる。ここまで説明すれば、愚鈍なお前でも分かるな?」

 

 悪辣な能力だ。

 エネルギー吸収スピードの速さからして、十秒触れられれば動けなくされてもおかしくはない。

 ジャスティスクルセイダーならそもそも触れさせずに倒せたのだろうが、俺の取った手段が悪手だったということか。

 

「そこらの、それこそ地球人程度の矮小なエネルギーでは何十億吸収しても満足にはならないけどな! この星の生命体の質は低すぎる。この俺が取り込む価値もない、クズ以下の命だよ」

「……」

 

 無言で立ち上がり、左手にグラビティグリップを出現させる。

 

「他人のエネルギーを使うのは勝手だけど、それで他人の命をクズ呼ばわりするのはムカつくな……!」

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 バックルの側面にグリップを嵌め込み、黒い煙と共にアナザーフォームへの変身を完了させる。

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 黒いアーマーの上から白いアーマーが展開されると同時に、強化された脚力のまま全力で奴の顔面に蹴りを叩き込む。

 

「ギッ、なぁ!?」

 

 のけ反った奴の肩からルプスダガーを抜き取りさらに切り裂く、

 この形態なら問題はない。

 

「ッ、調子に、乗るな……!」

「……」

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

 

 近づかれる前にガンモードにさせたグラビティバスターを右手に出現させ、至近距離でエネルギー弾を叩きつける。

 触れられないように触手をダガーで切り裂き、動きを削いでいく。

 エネルギーを吸い取っているからか再生し続けていくが、それ以上の攻撃を重ねていけばいいようだ。

 

「ハッ!」

 

 銃口部分で腹部を叩きルプスダガーを垂直に肩に突き刺した後に、のけぞり後ろに倒れた奴を見下ろしたままグラビティバスターをソードモードへと変える。

 必殺技は使わない。

 このままエネルギー切れまで切り続ければ始末できる。

 

「どうせ、不死身っつっても上限はあるんだろ? なら終わるまで攻撃し続ければいいだけだ」

「ま、待て!」

 

 レッドの言葉通りに相手の言葉を聞かずにグラビティバスターを振り下ろす。

 

「やめ て」

「ッ! な、に?」

 

 セギラに当たる直前、奴の胸にあたる部分から現れたのは、角の生えた男の子の顔。

 銀色の、奴の身体から飛び出したその子は苦しみもがきながら、俺に助けを求めてきた。

 

「たす けて」

「くるしい よ」

「コロ シテ」

 

 次々と現れる異星人の子供と思わしき顔。

 振り下ろしかけたグラビティバスターの刃を止める。

 まさか、こいつはエネルギーじゃなく命そのものを―――、

 

「ハァ!! バカだなァ、お前!!」

「ッ!?」

 

 躊躇する俺を前に、突然立ち上がったセギラがその腕で俺の首を掴んだ。

 しまった、そう思った時には既に遅く、首からエネルギーが吸い取られていく。

 

「ぐ、が……!」

「エネルギーを吸い取られたやつはな、もう死んでんだよ!! あんな芝居に騙されるなんてなぁ!!」

「……ッ! 子供も、殺したのか!!」

「ああ!? エネルギーになりゃ女も子供もジジィもババァも変わらねぇよ! みーんな、俺の栄養源だ!!」

 

 アナザーフォームから白いエネルギーのみが消えていく。

 白いアーマーが消滅し、全身が真っ黒な、焦げた色へと変わり果てた俺の首から手を離した奴は、さらなる高揚感に打ち震えた。

 

「は、はは! なんだこのエネルギーは!? 素晴らしい!! 濃度で言えば上位クラスに匹敵するぞ!? あの方が最優先目標とするのが分かるエネルギーだ!!」

「……が、は」

 

 変身は解除されない。

 力が失った気配もない。

 だが、その代わりに俺の内側に溢れだしていくのは、絶望とは別のまた違った感情であった。

 

「いや、待て。だがおかしい、吸い取れたのは白いエネルギーだけだ。黒い、のは……」

「が、ああああ!!」

 

 身体から荒れ狂うような衝動が溢れだす。

 たがが外れたなにかが黒い煙をあふれ出し、身体を包み込み始める。

 覚えのない、しかし心を揺り動かすような憎悪に突き動かされそうになる。

 

「なんだ、これ……!」

 

 セーブモードの力で抑え込まれていたなにかが溢れだしている!?

 今にも黒い煙に意識を支配されそうになりながら、必死に意識を保つ。

 

―大丈夫だ

―きっと できる

 

 ルインさんの声。

 その声に自分を奮い立たせ、胸の奥を掻きむしる衝動に立ち向かう。

 

「まさか、その白いエネルギーが、お前の力を押さえ込んでいたのか……!?」

 

 勝手にバックルに伸び動き出そうとする手に力を籠める。

 ……ふざけるんじゃ、ねぇぞ……!!

 こんな力に振り回されて、どうすんだよ……!!

 力と根性で、腕を無理やり上に掲げ、固く拳を握りしめる。

 

「フゥンッ!!」

AMAZING(アメイジング)!!』

 

 拳で自身の胸を殴りつけオーラを吹き飛ばし、意識を保ち気合で制御する。

 瞬間、歓喜するかのようにバックルから音声が鳴り響く。

 

COMPLETE(コンプリート)! TIME(タァイム)! HAZARD(ハッザァァァドッ)!!』

 

 白いアーマーが消え去り、黒い薄い装甲に包まれた姿のまま、肩で息をした俺は目の前のセギラを睨みつける。

 しかし、この形態も長くは持たないと悟る。

 

COUNT(カウント) START(スタート)!!』

10(テン)!!』

 

 秒読みが始まると同時に、奴の目の前に瞬間移動をし、その顔面に拳を叩きつける。

 吹き飛んだ先にさらにワープし、その脇腹に蹴りを叩き込む。

 

9(ナイン)!!』

 

 原理は分からん。

 ただそう思い浮かぶだけで黒い渦に包み込まれる。

 

「ッ、あの方と同じ、なぜその力を!?」

8(エイト)!!』

 

 腕を機械の銃へと変えた奴が大量のエネルギー弾を放ってくるが、それを目の前に作り出したワームホールが飲み込む。

 

7(セブン)!!』

 

 その次の瞬間にはセギラの側面に作り出したワームホールから奴自身が放ったエネルギー弾が飛び出し、奴を攻撃する。

 火花を散らしながら吹き飛んだ奴は地面を転がりながら立ち上がると、そのまま俺に背を向けて逃げ出そうとする。

 

「が、こ、これは俺の攻撃!?」

6(シックス)!! ……5(ファイブ)!!』

「こ、こんな化物と戦っていられるか!!」

4(フォー)!!』

 

 視線で奴の姿を追い、掌を向ける。

 瞬間、奴の前に現れたワームホールが動き出し、そのまま呑み込み俺の前に強制的に転移させる。

 

3(スリー)!!』

「な、あ、ああ!?」

2(ツー)!!』

「お前は、絶対に、逃がさない」

DEADLY(デッドリィ)!! HAZARD(ハッザァァァドッ)! TIME(タイム)OVER(オーバー)

 

 俺は迷いなく目の前に現れ、宙に浮かび上がった奴に黒い煙を纏った拳を叩きつける。

 

1(ワン!)!!』

 

「オラァ!!」

10 COUNT(テン カウント)!!』

KNUCKLE(ナックル)! FEVER(フィーバー)!!』

 

 空中で叩きつけられ、悲鳴を上げることもできないまま勢いのまま吹き飛ばされたセギラ。

 しかし、奴の身体は俺から離れた地点で固定されるように黒い球体に閉じ込められ、身体を崩壊させながら身動きを封じられる。

 

「が、な、なんだ!? さ、再生する傍から、身体が……」

 

「はぁ、はぁ……」

CHANGE(チェンジ) SAVE(セーブ) MODE(モード)

 

 身体から力が抜け、強制的にセーブモードに戻されてしまう。

 バックルのグラビティグリップも消え、これ以上のフォームチェンジが無理なほどに疲弊した俺は、それでも立ち上がり、重力の檻に囚われている奴を睨みつける。

 

「最後の、仕上げだ……! クソ野郎……!!」

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 震える腕でバックルを三度叩き、セーブフォームの必殺技を発動させる。

 俺の行動を目にしたセギラは、恐怖に歪んだ顔で必死に声を上げる。

 

「待て、やめろ! 身体が崩壊する! し、死にたくない!! まだ、俺は上に――」

「だからどうした! 誰かの命をなんとも思わない奴が!!」

 

 そのまま全力で跳躍し、蹴りの先をセギルへと向ける。

 空中で加速し、蹴りが奴の身体のど真ん中へと叩きつけられる。

 

「命乞いなんてするんじゃねぇ!!」

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

「が、ああああああ!?」

 

 そのまま電撃と共に重力と奴の身体ごと蹴り穿ち、着地する。

 背後で奴の断末魔と共に、爆発が引き起こされたのを確かめた後に、俺は身体から力が抜けるように地面に膝をつく。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……」

 

 これまでとは違う、恐ろしい敵だった。

 能力も強かったが、あんな卑怯な手を使ってくるなんて……。

 

「レッド達は……」

『そいやぁ! まだまだこっちは元気やで!』

 

 いつのまにか山羊の頭が潰された巨大化怪人の胴体に腕のエネルギー刃を叩きつけた黄色い巨人。

 側方に回ったブルーがバイクから大量のミサイルとエネルギー弾を放ち、巨大化怪人のバランスを崩し―――首を露出させたところで、上空からとてつもない勢いで落下してきたレッドが高く振り上げた長剣を振り下ろし、その首を叩き落とした。

 

「わ、わぁ……」

 

 すごいなぁ。

 巨大化怪人四体分くらいの大きさあるのに、ロボットに乗らなくても首落としてる……。

 俺も、まだまだだな。

 

「はぁ……」

「ハッハッハ、実に見事!」

「ッ!!!?」

 

 すぐ後ろからの声。

 まったく、気配すらも感じ取れなかったその声に、反射的にルプスダガーを右手に握りしめたまま後ろへ突き出す。

 しかし、振り向く間もなく、背後から伸びた手が俺の腕を掴み取る。

 

「言葉は通じているな? いやはや、地球の言語は実に久しぶりだ」

「誰だ、あんたは」

「なるほど、いい面構えだ。仮面で中身は分からんが」

 

 ……はい?

 いたのは甲冑のような重装甲の鎧に身を包んだ誰か。

 全身を白色の鎧に包まれたそいつの背中と腰部分には、機械的な鞘に納められた刀に酷似した武器が二つ携えられており、見た目からしても普通ではない。

 一部、ジャスティスクルセイダーのスーツのデザインと似通った点はあるが、目の前のこいつも侵略者なのか……?

 

「……ハッハッハッ、心配するな、こちらに戦う意思はない」

「どういう、ことだ?」

 

 疲労していながらも睨みつける俺に、どこか砕けた笑みを零した何者かは、ゆっくりと俺の手を離す。

 その雰囲気と明らかに異質な雰囲気からして、ただものじゃない。

 

「先の戦い、実に見事。ほれ、これをやろう」

 

 おもむろに何かを差し出される。

 それは、なにやら包みにいれられたキャンディのようなもの。

 いや、宇宙人がキャンディくれるとかあるのか?

 

「え、あ、ありがとう、ございます?」

「うんうん、素直でよろしい。安心しろ、人間の味覚でもちゃんと味がするものだ」

「は、はぁ?」

 

 がしがし、とマスク越しに頭に手を置いてくる男。

 ものすっごいぐわんぐわん頭を揺らされ、困惑するしかない。

 なんなんだこのやべぇ人。

 こんなに友好的な雰囲気を醸し出しているのに、さっきからセギラ以上の危険ななにかばかりを感じてしまう。

 

「あの子が目をかけるのもよく分かる。いや、今この時ですら見ていらしているのか」

「なにを……」

「全く、貴女様は幼いころから身勝手すぎますぞ?」

指南役のジジィがよく言う

様子見にしては 干渉しすぎだぞ

「ハッハッハ!! これは失礼!」

 

 なにがおかしいのかからからと笑う男。

 そこで怪獣を倒し終えたレッド達が、この場に降りてくる。

 

「っ!」

 

 レッドが剣を振るい不可視の斬撃を飛ばす。

 しかし、それは鎧の男が軽く振るった手にとりあっさりといなされる。

 

「これは、まだまだ伸びるな。よい剣だ」

「……イエロー! ブルー! こいつ、さっきのやつとは比べ物にならないくらいに強い……!」

「見極めも早い。逸材に巡り合えたようだな、ゴールディ」

 

 構えるレッド達にどこか嬉し気な様子を見せる男。

 敵意はない。

 だからこそ、恐ろしい。

 これまでとは全く異なる、ただそこにいるだけで体の芯から底冷えするような気配を放つ男の底がまるで見えない。

 

「力を磨け、地球の守護者達よ。お前達の“星”は未だ輝きを知らず」

「な、に?」

 

 男を見上げる。

 仮面の奥に輝く二つの目はたしかに俺達へと向けられていた。

唖然とする俺を見下ろした男は、愉快気に笑いながら機械的な鞘から刀を引き抜く。

 

 

「この星の守護者であり、我々が好敵手と見定めたお前達に最大限の敬意と敵意を以てして、我が名を名乗ろう」

 

 鞘と一変して原始的且つ、綺麗な刃紋を描く刀。

 水に濡れたような怪しい光沢を放つ刃が月の光を反射させ、得体の知れぬ静かな威圧感を放った男は、その刀を緩く握りしめる。

 

「我が名は星将序列一位“ヴァース”」

 

 いち、い? 待て、一位だって!?

 待てよ、それじゃあいきなり一番強いやつが現れたってことか?

 そう名乗った男は、くすりと笑う。

 

「まあ、寂れた老人には過ぎた肩書ではあるがな」

 

 男、ヴァースの刀を持つ腕がブレた次の瞬間には、背後の空間に切れ込みが入り――その先に別の景色が現れる。

 空間の先には、こちらをジッと見据えている数えきれないほどの視線を感じる。

 そのどれもが一筋縄ではいかない雰囲気が込められており、あれがこれから俺達が戦わなければいけない“敵”だと認識する。

 

「理不尽に抗え、強敵に打ち勝て、力こそが我らの基準(正義)。お前達の道理を通したければ、ここにいる私を含めた上位者(ランカー)を打ち倒せ」

「ッ、待て!」

「それだけが、お前達の正義を示すたった一つの方法。……期待しているぞ?」

 

 空間に足を踏み入れ、最後にそう言葉にした男はそのまま消えてしまった。

 残されたのは、徐々に粒子となって消えていく巨大怪獣と、その戦いによって破壊された瓦礫だけであった。

 

 




シロヾ(*´∀`*)ノ「AMAZING!!(すごいっ!)」

今回起こったことが多すぎるので3つにまとめると、
・星将序列100番内に突入
・10秒限定でハザードフォームが使えるようになった(使用後は強制的にセーブフォーム)
・星将序列1位は、渋くてノリのいい強キャラおじさん。

瞬瞬必生で書いているので白騎士くんのビークル戦闘はなしになりました(白目)
ノリと勢いで書いているからこういうことになるんだ……。


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掲示板と至高の姿(レッド視点)

掲示板+レッド視点となります。


241:ヒーローと名無しさん

 

毎回思うんだが、どうしてJCの社長って戦闘映像を公開してくれるんだ?

年齢制限はしているのは分かるけど。

 

242:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダー強すぎ問題

地球の未来は安泰だな!

 

243:ヒーローと名無しさん

 

公開しているのは脅威が身近に迫っているって知らせる意味あるって公式に書かれてたぞ。

あと、変に騒ぐ人たちが出ないようにする予防線みたいなものもあると勝手に思ってる。

 

244:ヒーローと名無しさん

 

みんな!!

白騎士君が! 黒騎士君になったんだだ! よ!!

ファングでジョーカーで、クロエボみたいなことになってるけど!!

 

あれは黒騎士くんだ! よ!!

 

245:ヒーローと名無しさん

 

蟲毒の戦士ガチ勢があらぶっていらっしゃる……

 

246:ヒーローと名無しさん

 

十秒限定でワームホール使い放題とか

 

247:ヒーローと名無しさん

 

「今日がお前達の命日だ」(幻聴)

 

248:ヒーローと名無しさん

 

>>245

割と誤字かどうか分からん間違いはやめろぉ!

 

しかし、ブラッド族の女と、黒い白騎士くん……なんだお似合いじゃん!

 

249:ヒーローと名無しさん

 

なんかだんだんと白騎士くんから、黒騎士くんの片鱗が出てきていて怖くなってくる。

怪人も強くなっているし、地球は大丈夫なのかな……。

 

250:ヒーローと名無しさん

 

フォームチェンジしたり十秒間限定変身したり本当に色々してれるな白騎士くん

次の強化は悪堕ちフォームだな?(慧眼)

 

251:ヒーローと名無しさん

 

やめてくれよ……

 

252:ヒーローと名無しさん

 

あまり適当なこと言うとブッコロスゾ?

 

253:ヒーローと名無しさん

 

サメ怪人とタコ怪人の喧嘩をアホなこといって仲裁しようとした白騎士くんだぞ?

どうやったら悪堕ちするんだ

 

254:ヒーローと名無しさん

 

珍しい白騎士くんのドジ話すこ

 

255:ヒーローと名無しさん

 

あれあのまま放っておいたら合体してシャークトパス化していたんだろうか……?

 

256:ヒーローと名無しさん

 

サメとタコって絶対狙っただろアレ

 

257:ヒーローと名無しさん

 

映画化不可避

白騎士くんVSシャークトパス!!

 

258:ヒーローと名無しさん

 

本当にやりそうだからやめてほしい(絶望)

 

259:ヒーローと名無しさん

 

現実でやってるのに映画にもするのか……

 

260:ヒーローと名無しさん

 

これ、もしかして悪堕ち回避フォームじゃねぇかな?

めっちゃ危ない煙出てたし、それなぜか力技で吹き飛ばしたし

 

261:ヒーローと名無しさん

 

そんな考察も出てたな

既に悪堕ちフォーム経験済みで、それを白い力で抑え込んでいた。

相手怪人がエネルギー吸い取ってパワー解放で、暴走しかけてた。

 

262:ヒーローと名無しさん

 

突然出てきたハザードトリガーもどきは制御装置だった……!?

 

263:ヒーローと名無しさん

 

あ、セーブフォームってそういう……

 

264:ヒーローと名無しさん

 

なんでこの子、悪堕ちフォームを気合で乗り越えられるんだ……?

 

265:ヒーローと名無しさん

 

成長率Aだからな

きっと謎の力が働いているのだ

 

266:ヒーローと名無しさん

 

そろそろプロトスーツに戻って欲しいな

 

267:ヒーローと名無しさん

 

てか思いっきりハザードってなっているし、もしかしなくてもやばかったのでは?

 

268:ヒーローと名無しさん

 

必殺技のあとに高笑い聞こえてきそう(小並感)

 

269:ヒーローと名無しさん

 

みんな話題にしようとしないので、俺が出す。

ジャスティスクルセイダーは相変わらずでしたねぇ!!!

 

270:ヒーローと名無しさん

 

みんなスルーしていたことを……!

 

271:ヒーローと名無しさん

 

いや、だって相変わらずモザイクじゃん

 

272:ヒーローと名無しさん

 

ロボットまで出してきたのにとどめはスーツでやるやべー奴の話するの?

 

273:ヒーローと名無しさん

 

殺られる前に殺すという至極単純な戦法をしただけで完封できたのはずるい

 

274:ヒーローと名無しさん

 

地球を守ってんだよなぁ

そら、手段を選んでられねーわ

 

275:ヒーローと名無しさん

 

地球産の怪人が初見殺しと理不尽の権化だったのが悪いだろこれ

 

276:ヒーローと名無しさん

 

今回も中々の相手だったらしいけどな

エネルギー吸収と、吸い取ったエネルギーで自己再生。

死んでも死なないあたり、一般地球産怪人くらいの力はあったと思うぞ

 

277:ヒーローと名無しさん

 

インベーダーみたいなやつだったけどな

胸糞悪いやつだ

 

278:ヒーローと名無しさん

 

それでどれだけボコボコにされようとも可哀そうとも思わなくなったな

侵略者かわいそうとか言う奴もいなくなったし

 

279:ヒーローと名無しさん

 

あれ、やられた動物型巨大怪獣に、萌えを見出した人の声だから、元からかわいそうとも言われてなかったぞ。

むしろ私からすれば、鎖で動物型怪人をつないだうえに子猫ねして合体させたことで、キレたわ

 

280:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんやられそうになってハラハラした

 

281:ヒーローと名無しさん

 

>>子猫ね

こねこねって言いたかったのかな?

動物好きの気配が隠せてない……。

 

282:ヒーローと名無しさん

 

レッド達の問答無用さは怖い

でも黒騎士君並の安心感があるのは事実だ

 

283:ヒーローと名無しさん

 

地味に白騎士くんとレッド達が同時に現れたからついに合流できたのかな?

 

284:ヒーローと名無しさん

 

記憶喪失の件もあるし、JCはどんな立ち位置で動くんだろう

 

285:ヒーローと名無しさん

 

今公式見てきた

中途半端に動画が切れてることも気になったが気のせいか

 

286:ヒーローと名無しさん

 

一緒に戦うってことは、またレッド達のツムッターに元気が戻るのかな?

 


 

 

「なにやってんの、葵?」

 

 戦闘から三日が過ぎた午前中。

 私達ジャスティスクルセイダーの三人と、アルファは修練場のモニター室に集められていた。

 これから始められるであろうことを考えながら、無言でスマホを凝視している葵を不思議に思い質問してみると、のほほんとした顔の彼女は顔を上げる。

 

「エゴサ」

「えぇ……?」

「ヒーローの嗜み」

「嫌だよ、そんな嗜み……」

 

 私もたまにやるけど今することじゃないと思うよ?

 あまり見ると気分落ち込むし。

 

「ツムッターも見てるけど……あの一位のことはバレてないみたい」

「まあ、そうだね。避難は完全にさせていたし」

 

 星将序列第一位。

 まさしくあれは怪物だ。

 今の私達では太刀打ちできるか怪しいほどに強い。

 

「強化アイテム、かな。使うことはないと思っていたけど」

「そうだね、必要になるかもしれない」

 

 変な関西弁をなしにきららが頷いてくれる。

 今までの侵略者の強さからして必要ないと思っていた強化アイテム。

 これから先の戦いを予想するなら、私達のパワーアップは必須だ。

 

「……そういえばアルファちゃん、白川ちゃんは? さっきここに来てたよね?」

「ハクアなら本部の仕事に戻るための手続きをしてる」

「戻って来てくれるんだね。白川ちゃん……」

 

 まあ、カツミ君がここに来てくれるならここで働く方がいいか。

 彼女は正式な医者ではないらしいけれど、その知識量とアルファに似た能力からしてここにいたほうが安全だ。

 私達からも話もしやすくなるし。

 

「彼の住まいも変わらず、か」

 

 彼は変わらず白川ちゃんの家に住むことにはなった。

 極力、日常に変化を与えるのは好ましくないという社長の言葉と、ラスボスと精神的ななにかで繋がっている彼に迂闊な影響を与える危険性を考慮してのことらしい。

 

「アルファちゃんはどうするの?」

「私はカツミと同じところでバイトだよ? ふふん、羨ましいだろう?」

「「「……」」」

「ごめんなさい……」

 

 私達の無言の圧力にあっさりと屈服するアルファ。

 次の休日、三人でカフェに突撃するからその時覚悟していなよ?

 

「おおう、お前達! 相変わらず内輪もめが好きなようだな恋ナインジャーズ!!」

「略されるとすっごいイラっとするんでやめてくれません……?」

 

 そこでばばーん! と勢いよく扉を開けた社長とスタッフたちがブリーフィングルームに入ってくる。

 

「あれ? 大森さんは?」

「彼女は今回の測定に不参加だ」

「……え、なぜですか?」

「カツミ君との出会い頭にな。テンション振り切って……」

「あー、アカネみたいやなぁ」

「まるでレッドくんみたい」

「ちょっと私を引き合いに出すのはどうかと思うんですけど!」

 

 てか、大森さん何しているの……?

 彼女のまさかの行動に驚いていると、修練場を映し出すモニターに一人の少年が歩いてくる。

 カツミ君だ。

 腰にはベルトを巻いておらず、その代わり腕には新型の『プロトチェンジャー』をつけている。

 

「今回はテストに協力してくれてありがとう、カツキ君」

『いえ! こちらもお世話になっている身ですから!』

 

 マイクからの社長の声に明るい彼の声が返ってくる。

 

「彼、よくプロトチェンジャーをつけてくれましたね」

「あくまでテストの一環だ。ルインの反応を確かめるということが真の目的だ。奴が動き出す線引きを見極めなくては、迂闊にカツミ君と関わることはできないからな」

 

 そういう意味ではここまではこれといった干渉はされていないと言える。

 

「プロトチェンジャー、彼がつけていると懐かしいですね……」

X(エーックスッ)プロトチェンジャーだ! 間違えるな!! この私の最強無敵の最高傑作だぞ!!」

「どういうこだわりなんですか……?」

「こだわりなんてものではない!! 私の全てを詰め込んだのだ!! だが、決して完成はしない!! 常に進化の可能性を模索し続けるそれこそが測定不能! すなわちXである!! その一環でシロと同じくコアの意識が表面上に出てしまった疑惑があるが!! そんなものは些末な問題!!」

 

 入れ込みようがすごいな……。

 それだけあの変身アイテムが凄いのだろう。

 プロトスーツの純粋なパワーアップって時点でやばいのに、これ以上に強くなるのかぁ。 

 

「シロはどうしたんです?」

「あの子はこの時間だけこちらで預かっている。きっちり了解をとって戦闘記録のコピーをさせていただいている」

「え、了承してくれたんですか?」

「あれは主想いだからな。きっちりと同じ目線に立って説明すれば理解してくれたよ」

 

 シロって私を見る時だけ怯えたような反応をされちゃうんだよな。

 やっぱり血まみれの私で怖がらせちゃったのかな?

 

「……カツキ君、腕時計型の変身アイテムの側面に指を添えて変身してみてくれ」

『はい! え、えぇと、こう……かな?』

 

 彼がチェンジャーの側面のボタンを押すと認証が開始される。

 その様子を注視した社長は、やや険し気な表情を浮かべる。

 

「……私の予想では、今の彼では使いこなすことはできないだろう」

「え? どうしてですか?」

「見れば分かる」

 

 モニターを見るとチェンジャーで作り出された空間にいるカツミ君が驚いた様子で自身の腕を見ている。

 

『オカエリナサイ!!』

『あ、え、ただいま?』

 

 ……ん? んん?

 

「ねえ、社長、完全に話しかけてますよね?」

「……え、マジで? え? 嘘、意志はあるのは知ってたけど喋るようになったの……?」

「社長あんたなんでそんなことも知らんの!?」

「し、仕方ないだろう!! 古代に製造されたエナジーコアはオーパーツどころの代物ではないんだぞ!!」

 

 それを知りながらスーツに組み込むって中々にやばいのでは?

 突然喋り出したプロトチェンジャーに思いっきり困惑する彼に、プロトチェンジャーは続けて対話を試みていく。

 

『カツミ! マッテタ!!』

『俺はカツキだよ? 人違いだよ?』

『チガウ! カツミ!!』

 

「か、かかかカツキくん! 次の変身フェーズに突入してくれ!」

 

『あ、はい!』

 

 あ、危なかった……。

 このままではまた彼の記憶が操作されるような事態になるところだった。

 すると、彼を中心に展開されていたフィールドに、星のような模様が現れ、そのまま加速するように回転していく。

 

ARE YOU READY(準備はいい?)? →NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

「へ、変身!」

 

TYPE 1! ACCELERATION!!(行こう! 至高のその先に!!)

 

 明らかに異質な、英語に被せるように日本語が重ねて聞こえてくる。

 彼の身体を黒を基調としたアンダースーツが覆う。

 そこから、また首回り、両腕、両足、胴体に洗練された装甲が覆っていく。

 

EVOLUTION!!(進化!!) STRONG!!(最強!!) INVINCIBLE(無敵!!)! SUPER(最高!!)!!

 

 これでもかというほどの分かりやすい言葉の羅列。

 明らかに社長の熱意と趣味が詰め込まれたそれは、さらに音声を鳴り響かせた。

 

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

 

 装甲の隙間から煙を噴き出させ、変身を完了させた彼の姿はプロトワンの面影を残しながら、洗練されていた。

 黒いスーツの上に、身体の動きを邪魔させない銀の装甲。

 首に襟のように形作られた機構と、背面側に作られた噴出口。

 白騎士のそれとは異なり、シンプルさを極めたその姿に、思わず息を呑んでいると―――冷静さを取り戻した社長がマイクに声を発する。

 

「試しに動いてみてくれ。軽くだ、かるーく」

『え、ええ、分かりました』

 

 彼が軽く身を屈むと、スーツに光が包まれ首元の機構へと集まっていく。

 光はゆっくりと放出され、赤色のマフラーを思わせる形へと変化し、風になびくように後ろへ伸びる。

 

「いくぞ……!」

 

 彼が飛び出した、その瞬間そのあまりの脚力と放出に彼の足元の地面と背後の瓦礫が吹き飛ばされる。

 一瞬にしてその場から消えた彼は次の瞬間には、修練場の壁―――にいつの間にか展開されていたマットに激突していた。

 

「フワァァ――!?」

 

 ぼよーんと、弾かれ転がるカツミ君。

 け、怪我はしてないようだ……よかった。

 でも、早すぎて全然見えなかった……。

 あれで軽くって本気で動いたらどうなるの……?

 

「あれは、カツミくんのために作られたものだ」

「でも彼は……」

「全てを思い出し、自身の死をいとわずに前に踏み込むことができる彼だけが使えるようにしたのだ。今の記憶を失ったカツミ君では……やはり、まだ扱うことはできなかったようだ……」

 

 もう一度モニターをみる。

 ただ踏み出すだけで壊された地面。

 彼が、本当の記憶を取り戻したら、いったいどれほどの性能になるのだろうか……。

 それを想像した私は、ぞくりとした武者震いのようなものを感じながら笑みを浮かべてしまう。

 

『カツミ! オモイダシテ!!』

『う、うーん……』

『ズットタタカッテキタ! イッショニ!』

 

「それはともかくとしてぇ!! いますぐXプロトチェンジャーをカツミ君から引きはがすぞぉ!!」

 

 プロトチェンジャーの健気さは可愛いと思うけれど、ちょっと今記憶を戻されるとラスボスも来て厄介なことになるからやめてほしい!!




※変身音内の訳は雰囲気とか諸々の理由で一部大分異なっております。

本当は喋らせるはずがないプロトチェンジャーでしたがゼロワンのAIちゃんを見て、気が変わりました。
白騎士くんが武器+能力だとすれば、黒騎士くん一型はパワーとスピードを極めに極めたフォームとなりますね。


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振り返りと姉妹(レッド視点)

今回はレッド視点です。
総集編回(のようなものです)


 Xプロトチェンジャーは、記憶のない彼ではまだ使いこなせない代物であった。

 だがいつか解放されるであろう彼の記憶が戻れば使えると考えれば、それほど悲観する必要はない。

 しかし、一つ問題があるとすれば、それはXプロトチェンジャーに存在するエナジーコアに秘められた意思が表面化してしまったことだ。

 それは片言ではあるが地球の言語を口にし、記憶のない彼に精一杯語り掛けた。

 

『……ツーン』

 

 現在は、カツミ君が住んでいた独房で私達はテーブルのケースにいれられたプロトチェンジャーを囲み、彼女? との対話と説得に取り組んでいた。

 社長曰く、プロトチェンジャーのコアの精神性は子供に近いというので、下手な大人よりも私達が説得した方がいいとのこと。

 

『ジャスティスクルセイダー、キライ』

「いやいや、なんで?」

 

 もう最初から好感度が低い時点で駄目な気がするが、とりあえず理由を聞かなくては。

 

『カツミ、イジメル』

「いじめてないよ!」

『カツミ、タオストキ。サンニン。ヒキョウ』

「えっ、戦いに卑怯もなにもないと思うんだけど?」

『……』

「……」

 

 なぜかプロトちゃんだけではなく、その場にいるアルファにまでもドン引きされてしまった。

 きららと葵は引いてはいなかったが「そこで正直に言うか……?」的な目で見られてしまった。

 

「ねえ、プロトちゃん。分かってくれないかな? 今、カツミ君の記憶が戻ると危ないの」

『アブナイ?』

「うん。今、彼はね。とっても強い敵と精神が繋がっているらしいの。だから、今彼が記憶が目覚めてしまうと……その人にまた記憶を消されることになるの」

『……』

「だから、今は彼を助けながら待つしかないの」

 

 いつかは記憶が戻る。

 だけど、私達のことを覚えていない彼を見ているのはプロトちゃんも、私達も辛い。

 

『……ワカッタ。ガマンスル』

 

 なんだかすごい申し訳ない気持ちにさせられるのはなんなのだろうか?

 コアなのにものすごい子供みたいな反応をされることに罪悪感を抱いてしまう。

 

「ね、ねえ、それじゃあ、ジャスティスクルセイダーじゃなくて私達個人のことはどう思っているのかな?」

『レッド、ズウズウシイ』

「……」

 

 一瞬で撃沈されたんですけど。

 プロトちゃんから見て私は図々しい女だったの……?

 

『ブルー、ヘンジン』

「人はそれを個性という」

『イエロー……。……。……ゲンキ』

「たった一言なのに、こんなに傷つくことある……?」

 

 きららが一番ダメージを負うことになってしまった……!

 変な関西弁以外にもきららは十分にキャラが立っているから大丈夫だよ!

 

『アルファ、キライ』

「えっ、なんで……?」

『カツミガ、ミエナイコトヲイイコトニ スキホウダイ シテタ』

「「「……」」」

「ひんっ」

 

 認識改変を用いて逃げようとしたアルファの首に手刀を添える。

 がたがたと震えるアルファを取り囲むようにした私達に、彼女は涙目で俯きながら声を絞り出す。

 

「出来心だったんです」

「斬るか……」

「アカネ、落ち着いて。まずは尋問が先や」

「なんとなく、気まぐれにだけど、銃の手入れをしたくなってきちゃった」

 

 テーブルにチェンジャーから取り出したブルー専用のハンドガンを分解しては、布巾で磨き始める葵。

 これからアルファを尋問し、色々と吐かせようとしたところで、チェンジャーに通信が入る。

 

『ジャスティスクルセイダー+α! 今すぐ私の研究室に集合!!』

 

 そんなドでかい声と共にぶつりと通信が切れる。

 

「なんだろう?」

「研究室って珍しいよね」

「新装備ができたのかな?」

「……ほっ」

 

 なんかアルファが安心したような顔をしているが別に忘れたわけじゃないからね?

 君がカツミ君になにをしていたのか聞き出すからね?

 あえてそれを口に出さずに、私達は社長がいつも作業をしている研究室へと向かうのであった。

 


 

「よく来たな。空いている席にでも座ってくれ」

 

 社長専用の研究室は中々に広い。

 様々な機材や試作品などが置かれており、そこに社長がいた。

 

「ああ、Xプロトチェンジャーは持って来たか?」

「あ、はい」

「どうだ? レッド達とコミュニケーションは取れたか?」

『……』

 

 社長の声を無視するプロトちゃん。

 声すらも返してもらえない社長は、地味にショックを受けたような顔をする。

 

「やっぱり、プロトスーツを処分しようとしたことを怒っている……!?」

「あー、そりゃ怒るわなぁ」

「違うんだ! 処分するのはプロトスーツだけでエナジーコアはちゃんと抜き取るはずだったんだ……!」

『……』

 

 それでも尚プロトちゃんは無言。

 それに一層にショックを受けながらも社長はゆらゆらと立ち上がると、なんらかの機械を操作し、空中にホログラムのような映像を映し出した。

 映し出されたのは、どこかの誰かの視点のようなもの。

 

「社長、これは?」

「カツミ君の視点だ。正確に言うのならば、シロに記憶されていた戦闘記録のようなものだ。これは、ベガとの戦いの後、敵宇宙船に乗り込んだ彼の戦いの……その一部だ。Xプロトチェンジャーも見たほうがいい」

 

 

『ベガァァ!! テメェ、待てコラァァ!!』

『ヒィィィィ!?』

 

 

 サイボーグの身体に車輪のようなものをつけたベガを追いかけるカツミ君。

 宇宙船らしき部品で組み合わされたような場所を破壊しながら駆け回る彼の姿は、私達にとって見慣れた黒騎士としての姿だった。

 しかし、その姿にもノイズが走り、映像が飛ぶ。

 

「だがこの時点で記憶されている映像はかなり破損が目立ってな。修復出来て数分ほどであったが……」

 

『フフ、いい子だ。その調子だぞ?』

『ッ、とんでもねぇ奴だな!!』

 

『フハハハ!!』

『ハ、ハハハ!!』

 

『この時間を終わらせたくない。貴様もそうだろう?』

『んなこと思うゴハァァァ!?

「ん? 貴様もそう思ってくれているようで安心したぞ」

 

『地球人の時間に換算すると、56時間34分57秒、か』

『ぐ、がはっ……』

 

『このまま私好みに育てるのもいい。だが違う、そうではないな。それだけでは遊び心がない。そうさな……』

『元の世界に帰してやろう』

 

 ルインの一撃を叩きつけられた彼は、ワームホールを潜り地球へと戻される。

 空に開いた穴が閉じ、彼の身体がどんどん地上へと落ち、彼が見つかったという雑木林へと落ちていく。

 

「「「……」」」

「つまりは、彼は敵船で大暴れした後にベガと戦い、ルインと遭遇し戦闘に発展。奴と、約二日間戦い続け、滅茶苦茶気に入られてしまったことになる」

 

 カツミ君、本当に何しているの……!?

 とんでもなく強いラスボス相手に二日間も戦い続けるとか、そんなの――、

 

「そんなの気に入られるに決まっているじゃん……!?」

「やっぱり、規格外やわ。黒騎士くん時代のカツミくん……」

「お腹とか空かなかったのかな……」

 

 どうやって帰ってきたと思ったけど、逆に送り出されてきたとは……。

 相手も相当カツミ君のことを気に入っているようだ。

 ……そもそも、あのとんでもないパワーを秘めた、ベガ戦の彼を片腕だけで倒せる時点で、別次元の強さを持っていることは確定だ。

 

「この事実を知った時、私は現実を受け止めきれずに一人焼肉に行くほどに動揺してしまった」

「ただ飯食べに行っただけやん」

「後で、大森さんにチクッとこ」

おいマジでやめろ。……衝撃的な事実ではあったが、ルインはカツミ君を成長させるために星将を送り込んでいることは確定した。敵がわざわざ彼を強くしてくれるなら、それでいい」

 

 今私達にできることは成長する彼をサポートし、同時に私達も強くなることだ。

 そのために自己鍛錬を忘れないようにしなくちゃな。

 

「さて、この戦闘記録には彼が白騎士として活動し始めた時のことも記録されてある。今まで彼の現状を知ることのなかったXプロトチェンジャーに、教えるがてらに彼がこれまでに変身したフォームについておさらいしてみよう!」

『シロキシ?』

 

 不思議そうな声を発するプロトちゃんに、社長は新たな映像をホログラムとして投影させる。

 

 

『俺がするべきことは分かった!!』

AWAKENING!(アウェイキ二ング)!』

DUST(ダスト)→→→LUPUS DRIVER(ルプスドライバー)!!!!』

 

 

「まず最初に、記憶喪失の彼が初めて変身をした姿、セーブフォームだ。戦った敵は、ベガ戦の残党、アクス。彼に復讐を行おうとしたが、覚醒したセーブフォームの力に敗れ去った」

「この姿は、蹴りとダガーで戦うんですよね?」

「その通りだ。恐らく、この時点でルインの“教育”は始まっていたのだろう」

 

 映像は切り替わり、マンションの上の階から映し出された時のものになる。

 月を背景にし、アクスを蹴りで穿つその姿は、まさしく彼の白騎士としての始まりとも言える。

 

 

「ハァァァァ!!」

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

 

「必殺技はバイティングクラッシュ。身体能力を向上させ、エネルギーを纏った蹴りで相手を砕く強力な技だ。その後も結構な頻度で使われている技でもある」

 

 その時は彼は白川ちゃんにも内緒で戦い続けていたんだよね。

 まさかの彼自身から明かされたってところはカツミくんらしいけど。

 

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

「オッケー!」

『CHANGE!! SWORD RED!!』

 

 

「そして次は……形態変化だ。セーブフォームが通用しない敵と相対した彼が目覚めた“赤”の姿。そしてレッドがウザがらみしてくるきっかけとなった忌々しいフォームだ」

「そこまでウザくはなかったはずですよ?」

「あんたそれ本気で言ってるの……?」

「神経を疑う」

「自覚した方がいいよ……?」

 

 ここまで言われるとかよほど羨ましかったようだ。

 ふふん、どんなにあとでブルーとイエローが出てこようが初の形態変化はこの私、レッドがいただいたのだ。

 

「ソードレッドの力は剣と炎。最もバランスがいいフォームであり、カツミ君にとっても使い勝手のいい姿だと推測できる」

 

 

「セェェイ!!」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 

「必殺技のバーニングスラッシュは、あらゆる敵を切り裂き内部から燃やし尽くすのです……!」

「……いや、なんでお前が説明するの……?」

 

 社長の代わりに必殺技の説明をしておく。

 こればかりは譲れなかったので、満足した。

 次の映像は順当に青色の姿への変形へと移る。

 

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!!』

SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!! → OK(オーケー)?』

「はえ?」

『CHANGE!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

 

 

「ちょぉ!? なんで私のマヌケな声が入ってんねん!!」

「マヌケな声を出すお前が悪いんじゃい!! ……ショットブルーは精密な動きと射撃を得意とするフォーム。その正確さは高速で動く敵すらも捕捉できるほどだ」

「ぶい」

 

 葵が自信満々にピースする。

 この時の戦いでは、きららが偶然その場に居合わせたんだったなー。

 妹のななかちゃんが巻き込まれなくて本当によかった。

 

 

DEADLY(デッドリィ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

「俺はお前を、許さない!」

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) BREAK(ブレイク)!!』

 

 

「必殺技はアクアフルパワーブレイク。凝縮させたエネルギー弾を相手に叩きつけるスゴイ技だ。撃破率100%、レッドとは違うのですよ、レッドとは……」

「いや、だからなんでお前まで私の説明を奪う……?」

 

 フッ、ショットブルーはすぐにフォームチェンジされちゃうからそうなっているだけだから別に気にしない。

 それじゃあ、次はイエローだね。

 そう思っていると、ホログラムにノイズが走る。

 

AXE YELLOW(アックス イエロー)……ジジ……ERROR(エラー)!!

 

 

「ん? 映像が荒いな……暫し待て」

 

 首を傾げた社長がかたかたと端末を動かす。

 数秒ほどすると、映像は鮮明なものになり、初の百番台のライオン型の異星人を前にしてイエローフォームになる場面が映し出された。

 

 

RE:BUILD(リ:ビルド)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)→ OK(オーケー)?』

「勿論だ!!」

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 

「イエローフォームはパワーとスピードを兼ね備えた強力な姿だ。だがそのあまりの力に周囲に被害が及ぶ可能性があることから、変身できる状況が限られるフォームでもある」

「高速移動に斧での攻撃で、相手をボッコボコにできる一番カツミ君向けのフォームやね」

 

 レッドが扱いやすいバランス型。

 ブルーはテクニック型。

 イエローは、パワーとスピードに特化させた型。

 なんだかんだでしっかりと役割は分けられているんだよね……。

 

 

「「「ハァァァァァァ!!」」」

LIGHTNING(ライトニング)!! FULL(フル) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 

「よしっ、必殺技は――」

「ンゥ必殺技は、ライトニングフルクラッシュ!! 高速移動による多連続キックにより相手を確実に粉砕する超強力な技だ! 斧での攻撃もあるので攻撃面に特化させた形態とも言えよう!!」

「なんで私の台詞だけ取るの!?」

「社長にもプライドというものがあるのだ!」

 

 根に持ちすぎだろ、とは思いつつ連続で蹴りが叩き込まれ爆散する怪人を見る。

 この後、巨大化して私達が出るんだよね……。

 そして血まみれになった私が……うぅ。

 

 

BLACK(ブラック) & WHITE!!(ホワイト)!!』

 

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 

「アナザーフォーム。重力を操る特殊な姿だが……これには謎が残されている」

「謎?」

 

 黒いアーマーの上からさらに被せるように白いアーマーを被せられた戦士。

 風になびく腰のマントと、これまでとは違った重厚な雰囲気からして異質とも思えるフォームでもある。

 

「これは私の端末で撮った映像だが……」

 

 

「フッ、まあ、いい」

『DOMINATE……』

 

 

 目を青く光らせたカツミ君が、社長とアルファと白川ちゃんの前で変身している光景。

 これは、まさかカツミ君がラスボスに乗っ取られた時の……?

 彼の姿が黒い煙に呑み込まれ、禍々しい姿へと変身していく。

 

 

ENDLESS(エンドレス) RAGE(レイジ)!! WEAR(ウェアァ) DEATH(デス) WARRIOR(ウォーリアァ)!!』

 

EVIL(エビル) BLACK(ブラック)!!  HAZARD(ハザード)FORM(フォーム)!! 』

 

POWER IS JUSTICE……

 

「なるほど、私だとこういう姿になるのか。くくく、面白い」

 

 

「ルインがカツミ君の身体を乗っ取って変身した姿と酷似している。……恐らく、奴の影響を受けた姿を、押さえ込み、彼が扱えるようにさせた姿をアナザーフォームというのだろうな」

『コイツガ カツミヲ……』

 

 アナザーフォームの力は強力だった。

 重力を操り、相手を一方的に蹂躙するほどだ。

 あと……多分、社長の考えは間違いではないと思う。

 なにせ、最近の戦いでそれに近い姿に彼はなっていたからだ。

 

 

「フゥンッ!!」

AMAZING(アメイジング)!!』

 

COMPLETE(コンプリート)! TIME(タァイム)! HAZARD(ハッザァァァドッ)!!』

 

COUNT(カウント) START(スタート)!!』

 

 

「この姿はお前達にとっても記憶に新しいだろう。名付けるならば、アナザーフォーム・タイムハザードと言うべきか。十秒限定で、重力操作のその先——ワームホールを自由自在に作り出すことのできる常軌を逸した姿だ」

「相手の怪人がカツミ君の白い力を奪い取ったから、なってしまったんですよね?」

「ああ。本来なら暴走するのだろうが……フッ、彼はものの見事にものにしてしまったようだ」

 

 十秒間限定だが、そのデメリットに見合うほどのパワーだ。

 十秒経つと強制的にセーブフォームになって、パワーも著しく弱ってしまうらしいけれど。

 

「以上がカツミ君の……白騎士の持つ力だ。どうかな? Xプロトチェンジャー……いや、プロトよ」

『ワタシモ オナジコト デキル』

「いいや、君がそれをする必要はない。なぜならば、既に君は私の最強無敵の最高のスーツだからだ」

『!』

「カツミ君の記憶が戻れば、君は本来の力を発揮することができる。……その時は、まさしく最強だ」

 

 自信に満ち溢れた社長の言葉にプロトちゃんは驚いた反応をしているように見えた。

 数秒ほどの沈黙の後に、プロトちゃんは遠慮気味に社長に話しかけた。

 

『イモウトニモ カテル?』

「……妹とは?」

『ワタシト オナジコア』

「……あ、あれぇ、本当の姉妹だったの? こう、同時期に作られた的な姉妹じゃなくて?」

『ウン』

 

 妹? って、もしかしてルプスドライバーのメカオオカミのこと!?

 本当の姉妹だったの!?

 

『カツミ イモウト二 トラレタ』

「気持ちは分かるよ、プロトちゃん……! 妹ってやつはいつの間に溢れ出てきて大変だよもう……!」

 

「よく分からない共通点が……」

「これは昼ドラの予感」

「見たことあるの葵……?」

 

 白川ちゃんという突発的に現れた義妹? 妹を持つアルファが滅茶苦茶共感している。

 ……これってプロトちゃんとシロを会わせるのってマズくないかな?

 絶対なにか起こるでしょ、これ。

 




第二部話数的にも丁度いいので総集編回でした。
それぞれのフォームをプロトに見せつつ振り返りました。

(予定通りに進めば)次回からいくつか閑話を挟みつつ、第三部に入るかと思います。


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閑話 戦いに備えて

今回は閑話となります。



 俺はまだまだ弱い。

 最近、それをものすごく実感させられてしまっている。

 ジャスティスクルセイダーの力に頼り切りじゃ駄目だ。

 

「難しいな……」

 

 彼女たちは歴戦の戦士だ。

 地球で現れた怪人と倒してきたその実力と経験は俺を遥かに上回る。

 だからこそ、レイマから彼女達の戦いのデータがいれられた端末をいただき、現在自室でそれを見ていた。

 

『テメェ、どこにいるブルー!!』

『あー……そうだね。そっちにいるかも』

 

 端末に映し出されたのはブルーの戦闘だ。

 平等怪人バラサンと呼ばれる怪人との戦い。

 一定の空間にいる人々の能力を全て平均化させる恐ろしい能力を持つ敵を相手に、ブルーは一般人と共に戦っているのだ。

 

「平均化された力で……ほぼ生身の力、なんだよな?」

 

 彼女の視界にはモニターのようなものが映し出しており、そのモニターの先にいる天秤のような頭をした怪人をジッと見つめている。

 弱体化しているのに、怪人を手玉に取ってるし、すごいな……。

 

『どこにもいねぇぞコラァァァ! ぶっ殺してやるかんな! 俺の力で平均化されたお前らは俺にとっちゃ、人間のガキみてぇなも―』

『今』

『ぶごろっしゃぁぁー!?』

 

 瞬間、怪人の傍にあるボトルが爆発し釘が一斉に飛び出す。

 それを食らい後ろに吹き飛ばされた怪人は怒りのままに叫ぼうとして、上から洗剤のようなものが落下し、さらに怪人を転ばせる。

 

『オオオ、どこにいんだこの野郎ォォ!! 放送室か!? あぁ、そうだよなぁ!!』

『そうとも言えるし、そうでもないと言える』

『どっちだコラァァ!!』

『お前は物事を焦りすぎる』

『焦ってねぇ! ぶっ殺す!!』

『そうとも言えるし、そうでもないと言える。まだまだ心眼が足りないな、怪人。どう見えるか(・・・・)だ』

 

アアアアァァァ――!?

 

 すげぇ、怪人を煽って冷静さを奪っている。

 怒りに震え、また洗剤で足を滑らせて転んだ怪人は、近くの棚に頭をぶつけ罠とは関係のない荷物の襲撃を受け、倒れ伏す。

 ブルーの視界に映りこんでいるのは放送室ではなく、ショッピングモールのフードコートのテーブルの光景。

 かき集めてきた道具で罠のようなものを作っている民間人と、カメラの映像を映し出すモニター。

 そして、ブルー自身も手元のドライバーで罠のようなものを作りながら、一人で暴れている怪人を見据えている。

 

「……うわ、こいつちょっろ」

「ブルーさん、言われたとおりに作りました!」

「ありがとう。それじゃあ、二階の洋服店に仕掛けに行こうか。あと予定した道以外を踏まないように、オイルとか洗剤撒いてあるから、決まったルートを進んで」

「か、怪人と遭遇したら……ど、どうしますか?」

 

 怯えた女性の声にうーん、と思い悩んだ仕草を見せた彼女はモニターを見てから声を発する。

 

「見つからないよ。だって、今とりもちトラップに引っかかって身動きとれなくなってるし」

 

 モニターの先では、白いモチとノリ……とついでに小麦粉まみれになりながら地面をのたうち回る怪人の姿。

 地面を滑りながら身体を打ちつけた怪人は怒りの叫び声を挙げている。

 

『ガァァ!! ブルゥゥ! 殺すゥゥ!! 殺してやるぅぅぅ!!』

「もうちょっと煽っとくか……爆発して死ぬのに? 意味ないよ』

『アアアアァァァ!?』

 

 満足そうに頷いたブルーはやや引いた様子の女性を見る。

 

「まあ、しばらくは大丈夫。ここを任せていい? こいつが降りてきたら連絡して。もし、ここに来たら次の拠点に移動。道具は二の次、命を最優先で」

「「「はい……」」」

 

 返事は返ってくるが、その場にいる人々の表情は明るくなく、恐怖と不安に歪んでいる。

 その時の彼らが置かれていた状況がそれほどまでに厳しいということは、彼ら自身がよく理解していた。

 

「不安に思う気持ちも理解できる。この私も初陣の時は同じ気持ちだった」

 

 不安の見え隠れする人々の前に立つブルー。

 彼女の視界には怪人と戦うために立ち上がった人々がいる。

 その中には、俺と同じくらいの歳の学生や、中学生も。

 

「だが、先を往く者がいれば後を続く者がいる。その一人が私だ。ここにいる私達は皆同じ力を持つヒーローだ。ならば、私にできて皆にできないことはないはず」

 

 一瞬で周囲の人々を惹きつける言葉。

 思わず俺すらも聞き入っていってしまう。

 

「今日、私達が屈するようなことがあれば平等怪人バラサンはさらに多くの人々を殺そうとする。怪人を止めなければならない」

「「「……!」」」

「皆に多くを求めていることは分かっている」

 

 俯き、それでも顔を上げたブルーは強く握りこぶしを握りしめる。

 

「だが、自由の代償は高い。これまでもそうだった。私は喜んで代償を払う」

「ブルーさん……!」

「そうだ、私達も戦えるのよ……!」

「ん? この演説って……」

 

 彼女の言葉だけで人々は生気を取り戻していく。

 弱気になった心を鼓舞させ、力へと変えた彼女は続けて言葉を吐き出す。

 

「私一人だけだとしてもヒドラを止める……!」

「「「……ヒドラ?」」」

「……あっ」

 

 一瞬の静寂。

 よく分からないが七割ほどの人が呆気にとられた表情を浮かべブルーを見るが、当の彼女は緩みかけた拳を再び握りしめ、そのまま上へと突き出した。

 

では、諸君。向かおう。団結こそが力だと怪人に見せつけてやろう!!」

「「「お、おー!!」」」

 

 そのまま立ち上がったブルーは手作りのトラップが詰められた籠を持つ。

 完全に統制の取れた一般人を引き連れた彼女に、一人の男性が話しかけてくる。

 

「ブルーさん、あの、どうしてこんなことできるんですか?」

「ホームアローンで培った勇気と知識」

「あっ、はい。それと、さっきのってキャプテンアメリカのウィンター……」

「さあ、出発だー!!」

 

 そこで映像を切る。

 レッドもイエローさ……いや、さん付けしなくてもいいって言われたんだな……ジャスティスクルセイダーの戦闘はどれも怪人に好き勝手をさせないという意思が強い。

 しかし……。

 

「ホームアローンとはなんだ……? シロ、知ってる?」

『クゥーン』

 

 どうやら知らないようだ。

 あんな恐ろしい罠を作り出すほどのものだ。

 きっと並みのものではない。

 本? いや、ブルーの口ぶりだと特殊部隊だとかそういう方面で教えられるものなのかもしれない。

 今度、聞いてみよう。

 

「……さて、と」

 

 ベッドから起き上がり、シロと向き合う。

 今の俺には足りないものだらけだが、それは一つずつなんとかしていこう。

 まず一つ目の問題は今の装備が敵に通じなくなってきたことだ。

 

「シロ、俺がなれるレッド、ブルー、イエローの変身形態と武器のホログラム、出せるか?」

『ガオ』

 

 シロの目が光ると同時に宙に浮きあがるのは、白、赤、青、黄とそれぞれの色に染まった変身した俺の姿とそれに際して装備される武器だ。

 フレイムカリバー、リキッドシューター、ライトニングブレイカーに、ルプスダガーだ。

 

「とりあえず、これをもう一つずつ出せるように複製できる?」

『ガオ』

 

 どうやらできるようだ。

 あとは単純に、これからの怪人戦闘でこれらのフォームは些か火力不足になってしまうことだが。

 それはどうするべきか。

 ずっとアナザーフォームで戦い続けられるとは思ってはいない。

 

「武器が弱いんじゃなくて、俺の使い方が悪いか」

―あの小娘共と手合わせしてみるといい

「ルインさん?」

―よい経験になるはずだ

 

 いきなり声が聞こえてきてびっくりしたぁ。

 本当に何者なんだろうか、この人は。

 

「ジャスティスクルセイダーとの手合わせか……お願いしてみるか」

 

 申し訳ないが、これからの激化する戦いを考えると俺も無関係ではいられない。

 レイマに頼んでみようと考えていると、ふとホログラムの隅に気になる表示を見つける。

 

NEW!

 

【??? COLLAR(カラー) SYSTEM(システム)43%

 【・??? GRIP(グリップ)

 

SAVE(セーブ)→???? FORM(フォーム)78%

 【・???? ARROW(アロー)

  【↳???? RED(レッド)

  【↳???? BLUE(ブルー)

  【↳???? YELLOW(イエロー)

 

【???? ?????? FORM(フォーム)3%

 

 

 

 なんとかカラーと下に書かれているのは、二色に組み合わされたアーマーの戦士。

 もう一つはセーブフォームのアーマーに装飾のようなものが施され、ついでに鋭角なアーマーが追加された姿。

 ホログラムでどのような姿かはよく分かっていないが、新しい武器もあるようだし、なんらかの姿なのだろう。

 

「……ま、まあ、なんだか分からないがまだまだ新しいフォームが追加されていくってことか?」

『ガウ!』

「違う? え、じゃあリニューアルって感じ?」

 

 こくこくと頷くシロ。

 シロも色々してくれて本当にありがたいな。

 

「ん? こっちはなんだ?」

 

 スーツの下にもう一つ項目を見つける。

 それは他とは違い、スーツの姿は出てこず詳細が分からない。

 

 

TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス) ??? FORM(フォーム)100% 

 【・??? SABER(サーベル)

 

 

「シロ、この100パーセントのは? もう変身できるの?」

『ガウ!』

 

 今度は首を横に振られてしまう。

 変身できないのか? 条件が揃っていない……とか?

 

『ガゥ!』

 

 するとまた新たに画面が切り替わる。

 ホログラムで映し出されたのは、二機の見覚えのありすぎるビークルであった。

 

「……あっ」

 

 そういえばシロがビークル二機を食べちゃったって話だったんだ……!

 しかも微妙に形とか変わっているし、バイクと合体したりロボットにしたりしているんですけど……!

 も、元のままに返せなくなってしまった……!

 

「ど、どどど、どうしよう……」

「かっつーん、いるー?」

「ん!? あ、ああ、どうぞ」

 

 扉をノックする音と声に答えると、扉を開けて顔を出してくる。

 

「どうしたの?」

「いや、最近色々あったから少し話そうかなって思って……って、かっつんなにそれ!?」

 

 姉さんがシロから出ているホログラムを見て驚愕する。

 白いロボットと黒いロボット。

 リバーシのように反転し、戦闘法を変えるソレは俺がいつもするフォームチェンジとは異なる、もっとやばいものだ。

 

「……シロが、食べちゃったロボットだ」

「ごめん。そんな拾い食いしちゃったみたいに言われても……」

 

 とにかく、後でレイマに相談するとして部屋を出た俺は居間へと移動する。

 

「そういえば、姉さんはKANAZAKIコーポレーションに再就職したんだよね」

「あー、うん。そうだよ。かっつんが本部でお世話になるみたいだからね。社長の推薦もあってすんなり元の職に戻れたよ」

「メンタルケアとかそういう関係の医者だっけ? 会社にそういうのがあるのって知らなかったけど、すごいよな」

「は、ははは、うん。そ、そうだねー」

 

 これで帰る時間も休日もほとんど変わりないのだからすごい。

 一体、どういう仕事をするのか分からないけど、社長であるレイマの推薦があるということはそれほど重要な立場ということだろう。

 

「ふぁー、良く寝たー」

 

 すると、休日をいいことにソファーで昼寝していたアルファが起き上がる。

 目をこすりながら起きた彼女は、俺達のいるテーブルにやってくる。

 

「昼間から眠っているとあまりよくないぞ」

「大丈夫大丈夫。寝る子はよく育つっていうし」

「それは子供に当てはまる諺だぞ……」

 

 間延びした様子でそう言葉にするアルファに苦笑する。

 さて、日も暮れてきたしそろそろ夕飯の準備でもするか。

 

「……いつまで、こんな日常を続けられるか……」

 

 平和な一時。

 だが、それが長くは続かないことを僕は知っている。

 それを守るために、壊させないために僕……僕達は戦わなければならない。

 

「そのためには、自分にできることをしていかなくちゃな」

 

 肉体面はマスターが元自衛隊所属というので彼からトレーニングの秘訣を聞き、技術面ではジャスティスクルセイダーに教えを乞う。

 新装備、新フォームに関しては現状ではどうにもならないのでこればかりは何か変化が起きるまで待つしかないな。




前半で真面目にふざけまくるブルーでした。

そして(予定通りに進めば)お出し予定のフォームの情報をば。
しかし、ノリと勢いとフィーリングで話を進めることが多いので、突然急造フォームなどをぶっこむかもしれません。


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閑話 焦がれる者

今回も閑話。
ルイン視点となります。


 退屈。

 齢3歳の頃、この手で銀河を手中に収めていた父を手にかけた時、なんの感慨もなく心に浮かんだ感情がまさしくそれであった。

 生まれながらにしての頂点。

 王としての覇道を歩むことを決定づけられた私にとって、強いということは酷く当たり前でつまらないことであった。

 だからこそ、この私の生みの親である父と戦った。

 酷くつまらなかった。

 こんなものが宇宙を統べていたのか?

 この程度の強さで、覇者を名乗っていたのか?

 親への情なんてものはなく、ただそういう感情しか浮かばなかったのだ。

 

『貴女様に忠誠を誓いましょう』

『おお、美しい……』

『我が力、その全てを貴女様に捧げよう……!』

 

 頭を入れ替えるように組織の頂点の座についた私の元には、力に魅入られ、取り入ろうとする有象無象がやってくる。

 私は、とても、とてもとても退屈してしまっていた。

 私の前には既に敵はなく。

 挑戦してこよう者も存在しない。

 

 ただ意識を向けるだけで心身ともに弱き者は自ら膝を突き、頭を垂れる。

 

 戦う意思もなく、慈悲を乞う者もいた。

 

 地面に這いつくばりこの私を怪物と罵り、自らその命を絶つ者さえいた。

 

『……あんたが次の敵か?』

 

 心のどこかに諦めもあったのだろう。

 現れた地球の言葉を口にする白い鎧を纏った男も、この私の力に恐れおののき挑むのを躊躇い逃げ出すだろう、と。

 この私に背を向けた瞬間に、消し去ってくれよう。

 半ば冷めた目で、白い鎧に包まれた奴に意識を向ける。

 

――だが、男は何事もなかったかのように立っていた。

 

 膝を屈することもなく、この私の意識と殺気を向けられても尚、この私の目を強き眼差しで睨み返してきたのだ。

 筆舌に尽くしがたい期待が私の胸を占めた。

 

『CHANGE!! →TYPE…』

『UNIVERSE!!』

『ハァァ!!』

 

 それどころか、臆せずに攻撃を仕掛けようとする気概すらもあった。

 この身に抱くことのなかった感情が心を支配する。

 それが、歓喜に打ち震えることだと気付くのにそう時間はかからなかった。

 目を見て確信する。

 一矢報いるという愚かな希望を見出した瞳ではない。

 彼我の実力差を理解できずに攻める瞳でもない。

 奴は、自身の勝利を疑わず、それ以外の思考を省き、ただ闘争のためにその拳を振るう。

 無謀?

 蛮勇?

 否、極めて否。

 そのような言葉で片付けられるような者でさえ、私の前では立ち上がることはなかったのだ。

 それがどれほどの衝撃か。

 思い返したとしても、形容できない驚きと歓喜の中で戦いは幕を開けたのだ。

 

 放たれる炎の脅威は私の右腕を使わせた。

 

 その身を液体に変える術は私に術を使わせた。

 

 雷の速さは容易く重力を振り切り私を動かした。

 

 私の拳を受けたはずの肉体は四散せずにさらに躍動する。

 

 金の光を放つ姿は重力の奔流をその拳で打ち砕いた。

 

 幾百幾万と地面に叩きつけられ這いつくばろうと、決して折れず諦めることのない心。

 

 壊れず、全力で殺そうとしてくれるその目が、その意思が、どれも心地の良い記憶として私の脳髄へと刻まれたことだろう。

 二度目に行われた戦いも良かったが、やはり意思と強さが伴った一度目の黄金の姿が最も充実した時を過ごせた。

 

「フッ」

 

 掌を前に掲げ、精神を繋げる。

 目の前の空間にカツミを通した視界の映像が現れ、レッドと呼ばれる長剣を持った小娘と、彼が手合わせを行っている光景が映し出される。

 

『白騎士! 立て!! 怪人は待ってくれないよ!!』

『オ、オオオオオ!!』

 

 幾重にも重ねられた斬撃を前にして、彼は赤色の姿のまま剣を振るう。

 未だ未熟な身であるが、一つ、また一つと成長していくその姿に小さく笑みを零す。

 

「その調子だ」

 

『どうした! 君には守りたいものがあるんじゃないのか!!』

『ウ、ォォ!!』

 

 彼が両腕で振り下ろした剣を片手で握りしめた剣で受け止めたレッドが、彼の腹部に蹴りを叩き込む。

 その力に呼吸を吐き出しながら、壁に背中から叩きつけられるカツミ。

 それでもなんとか立ち上がった彼は、バックルを三度叩き炎を纏った斬撃を前方へと飛ばす。

 

『ハァァ!!』

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 放たれる炎。

 それを目の前にしたレッドは少しの恐怖も抱くことなく、前へと飛び込む。

 炎を真正面から切り裂き、接近した奴はそのまま驚きに動きを止める、カツミの剣の刃を半ばから断ち切るように切り裂いた。

 

『お、折れたぁー!?』

『斬ったんだよ? そう難しいことじゃない』

 

『いや、何言ってんだレッド……構造的にカツミ君の剣の方が固いんだぞ……』

 

 斬り飛ばされた刃が地面と突き刺さるように落ちたところで、レッドは声を張り上げた。

 

『まだ君は本気を出していない!! 相手を斬ることを躊躇っている!! その甘えはいつか君自身を壊してしまう!!』

『おいィィィィィィ!? 今、彼の自信を壊しているのはお前だぞレッドォォォォ!!』

『社長は黙っていてください!! 今、彼に必要なのは慈悲でも優しさでもない!! 敵を打ち倒す強い意志!! ———それを理解させる敗北、屈辱を彼は経験していない!!』

 

 強い意志の籠った瞳のままカツミを見下ろすレッド。

 その様子に私は口の端を吊り上げる。

 

『なら、私が泥をかぶってでもそれを君を理解させなければならない!!』

『……お前、黒騎士に変な影響受けすぎだぞ……?』

 

 真正面からの敗北を、記憶を失ったカツミは経験していない。

 この私との戦いの記憶は消していることから、彼は苦戦したことはあれど負けたことは一度たりともないのだ。

 だからこそ、それを理解し、実行してくるレッドはある意味で都合の良い存在でもあった。

 

『なにを躊躇っているの!? 君には守りたいものがあるんじゃないの!?』

『……ッ』

『それは嘘だったの!? 君には私に勝つという意思が感じられない! 勝てない前提で戦っているようじゃ、この先の戦いでは生き残れない!!』

『……いいや! 違う!!』

 

 折れた剣のまま斬りかかるカツミ。

 途切れかけた戦意が戻っていく。

 

『ここで、君を倒す!!』

『いいよ! 君らしくなってきた!! なら私ももう一段階ギアを上げていくよ!!』

『上等!!』

 

 レッドの動きが文字通りに一段階上昇しカツミの視界が再び荒れる。

 訓練は順調に進んでくれているようだ。

 この調子で、ブルーとイエローもやってくれれば文句はなしだ。

 

「楽しそうですな」

「ああ、とても楽しいぞ」

 

 玉座に坐する私の傍らに一人の老人が現れる。

 短く切りそろえた白髪の腰にカタナと呼ばれる剣を携えた男、ヴァースは、私が目にしている光景に笑みを零す。

 

「貴様が遊び相手になれば、私も退屈せずに済むのだがな」

「それは無理なご相談でございます。貴女様と戦うのに、この老骨には厳しすぎる」

 

 肩を竦めるヴァース。

 いつもの台詞に辟易としながら、玉座に背を預け足を組む。

 

「それにですな、私では貴女様を満足させることは不可能でしょう」

「……まあ、そうだろうな」

「私の力は良くも悪くも不変なるもの。いくら刃が届こうとも、変化を求める貴女様の御心を満たすことはできませぬ」

「……ふん」

 

 星将序列一位となればその実力は私が認めるほどだ。

 私が変わることのない頂点だとすれば、ヴァースも同じく父の時代から既に過去順位の変動がない男だ。

 これ以上成長することのない完成させた強さを持つ男、それが一位(ヴァース)

 

「ヴァース、貴様は地球に興味を惹かれるものがあったか?」

「ふむ。貴女様が目にかけている少年が――」

「私のだ」

「はっはっはっ、勿論理解しておりますとも。そうですなぁ、じゃすてぃすくるせいだぁ、というチームが面白い」

 

 たしかに面白い。

 ゴールディが作り出したスーツを纏う者達。

 

「ゴールディはかつてお前が目をかけていた者だろう?」

「ええ、あの程度で彼が死ぬことはないと分かっていたのですが、まさか地球に逃げ込んでいるとは露とは思いもしませんでした。……もしや、私の過去の話を聞いて向かったのかもしれませんね」

 

 手元の古びたカタナの柄を目にし、ヴァースは感慨深そうに口にする。

 

「あれらもまた成長するでしょう」

「だろうな」

 

 今の時点で序列上位に組み込む戦闘力を誇っている。

 地球とは本当におかしな星だ。

 生物脅威度も最低。

 宇宙に未だ進出していない程度の文明。

 しかし、その星に住む実力者は、星将序列上位に容易く食い込めるほどに強い。

 まさしく、地球は一種の特異点のような場所だ。

 

「地球とは文明レベル、生物脅威レベルこそは他の星には格段に劣りますが、それゆえに強さとは別の方向に技術を発展していると言えましょう」

 

 ヴァースの言葉に興味を抱き、無言で話の続きを促す。

 

「例えるなら食事でしょうか?」

「はぁ?」

「我々にとっては食事とは、体力、傷を癒すためのものでしかありません。その根源には、宇宙という空間に適応するために“味”ではなく“効率”と“多様性”を求めた結果とも言えるでしょう」

「なるほど……」

 

 理には叶っている。

 多くの星に生きる生命体は宇宙に進出し、他の資源を見つけ出す。

 だが地球という星は星内部の“資源”をやりくりし、固有の文化を形成させているのだろう。

 

「星将序列072位の彼も興味を示しておりましたよ」

「ああ、奴か」

「既に地球におります」

 

 勿論、既に把握している。

 

「どの者から動き出すだろうな」

「皆、好戦的です。だが順番は弁えるようですね」

「楽しめ、と私は口にしたからな」

 

 戦いを楽しめ。

 序列二桁の者の反応は様々。

 だが、その多くは地球に存在する強者との戦いを臨もうとした。

 

「ああ、そういえば、貴様には子供がいただろう? アレはどうするんだ?」

「義理の、でございます。精神的に幼い未熟者であり、いかに序列067位といえども此度の戦いには不向きでございます」

 

 こいつにしては珍しく顔を顰めさせる。

 その様子を愉快に思いせせら笑う。

 

「貴女様に心酔しておられます。それはもう、かなり」

「貴様は違うのか?」

「お望みならば」

 

 冗談めかして言うヴァースに煩わし気に手を振る。

 こいつに今頃、心酔されるなど気持ち悪いどころの話ではない。

 

「現状に満足してしまった戦士に成長する余地はありませぬ」

「貴様が相手ではしょうがない話だろう?」

「皮肉に聞こえますな。ハッハッハ」

 

 序列に満足し、現状維持に甘んじるというのならその程度の存在なのだろう。

 ヴァースには悪いが、アレに見どころらしい見どころはない。

 それを奴も分かっているのか、宙に映し出された光景を目に移し、声を発する。

 

「憧れを抱くのは悪ではありません。力への情景を抱くことで、追いつき、打ち勝ちたいと願う欲を抱く。だが、地球の戦士は貴女様を憧れの対象ではなく、戦うべき相手と認識した。それがまるで必然と言わんばかりに」

「そう褒めてもくれてはやらんぞ」

「ハハハ、それは残念ですな」

 

 ひとしきり笑ってみせたヴァースは、その後に小さくため息を吐く。

 

「アレは心が弱い。自身の限界を想像し、先に踏み出す覚悟もない臆病者です」

「クッ……手厳しいな」

「期待をしているということです。アレにはゴールディが残した傑作の一つを渡してはおりますが、未だその性能を発揮できてはいない。現状の白騎士と呼ばれる彼ならまだしも、じゃすてぃすくるせいだぁには太刀打ちすることすら不可能でしょう」

 

 そこまで口にした奴はここにきて唸る。

 

「向かわせてみましょうか」

「クク、いいのか? 死ぬぞ? 奴らは敵に慈悲は与えんぞ」

「その程度の器ならば、それまで。こと序列における戦いにおいては親としての私情は挟まないと決めておりますので」

「私としては、どうでもいいことだがな」

 

 序列上位と戦い経験を積み、力をつければそれでいい。

 ……新たな楽しみもできたことだしな。

 

一型(タイプ・1)か」

 

 由来不明の双子のアルファの肉体と魂を元に、禁呪法の御業により作り出したコア。

 扱う者の命を吸い取る悪魔を魅了してみせた彼のために作られた黒い戦士の登場は、私の心を大きく揺れ動かした。

 

「あぁ、待ち遠しい……」

 

 まだ早い。

 我慢しろ。

 共に戦う仲間も十分。

 武器も増える。

 まだまだ強くなる。

 幾百年も待ち焦がれた好敵手。

 だが、それ以上にこの時が、これから待ち望む時の刻みがとてつもなく遅く感じてしまう。

 




星将序列072位というギャグ枠を運命づけられたキャラ。

レッドが実戦を想定したガチ訓練。
ブルーはデータと効率に基づいて訓練。
イエローは褒めて伸ばしてくれる。

バランスは取れていますね(節穴)

今回で50話となりましたので次回から第三部が始まります。


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第三部
着ぐるみと、幕開け


第三部開始です。
今回はちょっと長めとなります。


 最後に起こった怪人騒動から一か月が過ぎ、季節は夏真っ盛りとなった。

 それまでに怪人は空からやってこずに、俺はレッド……アカネさん達との模擬戦闘を繰り返し行いながら、いつ怪人がやってくるか分からない緊張の日常を送っていた。

 

「……うーむ」

 

 いつもは喫茶店でバイトをしている時間ではあるが、今俺がいるのは駅をいくつか乗り継いだ場所にある遊園地のある建物の中である。

 スタッフ専用の裏手で、渡された着ぐるみと被りもの。

 

「まったく、この状況はどうしたものだか……」

 

 以前、マスターから話は聞いていたわけだけど、まさかこんなバイトを任されるとは思いもしなかった。

 困惑したま着ぐるみを持って立ち尽くしていると、一人の眼鏡をかけた男性が顔を出してくる。

 

「いやぁ、ごめんね、カツキ君。急に着ぐるみを任せている人が急用で来れなくて困っていたんだよ」

 

 カフェの常連客でありマスターの友人の雨宮さん。

 なにやらこの遊園地? テーマパークに関係する仕事をしているらしく、そんな彼に助っ人をお願いされてしまったのだ。

 

「いえ、俺は構いませんけど……こういう仕事って専門の人がやるべきなんじゃないですか? ここテーマパークですし、デパートとは勝手が違うんでしょう?」

「そうなんだけどねぇ。何分、急だったし……はぁ」

 

 着ぐるみを着るとだけ聞いていたが、それもその場所を代表するイメージキャラクターの一人として着ぐるみを着なくてはならないのだ。

 予想外どころの話じゃない。

 

「もう一度説明するね」

「あっ、よろしくお願いします」

「基本的に喋らなくても大丈夫。小さいお子さんには、優しく対応してあげてね。写真をお願いされた時も同じ。それと……」

 

 雨宮さんが真面目な表情のまま俺へと話しかけてくる。

 

「長くても30分以上は着ぐるみのままでいないこと。必ず休憩をとって水分補給を忘れないように。着ぐるみの中にボトルを取り付けられるから、凍らせた飲み物とかを常備しておいてね」

「了解です」

「あ、やばい、って思ったらすぐに室内に戻ること。今日、君の傍にいる新不破さんに冷却スプレーを持たせるから、着ぐるみと被り物の隙間から冷やしてもらってね? ……子供の夢を守ることも大事だけれど、なにより命が優先だ」

 

 神妙に言ってくる雨宮さんに頷く。

 とりあえず、tシャツとハーフパンツの上から着ぐるみを着て、凍らせたペットボトルを入れた後に被るものを持ってアルファが待っている部屋まで移動する。

 

「お待たせ」

「じゃーん、どう、これ?」

「うん?」

 

 部屋に入るなりアルファが、パークの人が着ている制服のようなものを見せてくる。

 子供に親しみやすい明るい色の服に、つばのついた帽子。

 

「似合ってる、ぞ?」

「ありがと! そういう君も似合ってるよ!」

「褒めているのか? それ。おっと、シロか」

 

 アルファと一緒にいたシロがカバンから飛び出し、着ぐるみの中に入ってくる。

 丁度、着ぐるみの内に開いた飲み物をいれるスペースに入りこんだ。

 

「シロ、ここじゃ熱くなるぞ?」

『ガオー』

 

 どうやらかまわないようだ。

 まあ、嫌になったらすぐに出てくるだろう。

 そう納得し、俺はアルファと共に、開園の時を待つ。

 なし崩し的にアルファもこの手伝いに参加することになってしまったが、まあ、俺にとっても彼女にとっても初めての経験になるので、雨宮さんに迷惑をかけない程度に頑張ろう。

 


 

 この遊園地のイメージキャラクターの一体。

 ひねくれオオカミのクロロくん。

 デフォルメ化された愛嬌のある黒いオオカミの頭を持つそれを担当することになった俺は、夏の炎天下の下で開演したテーマパークの中に立ち、お客さんをもてなしていた。

 

「クロロくん! 写真撮って!」

「では、私が撮りましょうか?」

「あっ、よろしくお願いします!」

 

 親子連れのお客さんに写真を一緒に撮ってもらうようにお願いされる。

 アルファがカメラを受け取り、俺が着ぐるみとして写真を撮ってもらう。

 

「ありがとー!」

 

 はにかむ男の子に手を振りながら、見送る。

 近くに人がいないことを確認したアルファは、声を潜めながら着ぐるみの中にいる俺へと話しかけてきた。

 

「ねえ、カツキ。熱くないの……? 物凄く熱いよ……?」

 

 今日は晴れ。

 まだ七月中旬で本格的には熱くはなっていないが、それでも着ぐるみの中は今頃地獄になっているだろう。

 しかし、この時の俺の着ぐるみは少しばかり事情が違った。

 

「どうやらさ、シロがクーラー代わりになってくれているから、めっちゃ涼しいんだよね」

『ガウ』

 

 着ぐるみの中からシロを見ると、冷たい風を送り込んでくれるこの子と目が合う。

 涼しいけれど、かといって寒すぎないちょうどいい塩梅で温度を保ってくれるので、逆にこの中の方が快適という不思議なことになっている。

 

「……ちょっと、手入れていい?」

「どうぞ」

 

 周りを確認したアルファは後ろに回ると首と胴の隙間から手を入れてくる。

 明らかに外気よりも冷たく涼しい、着ぐるみの中に彼女は真顔のまま、前に回り込んでくる。

 

「私も中に入っていい?」

「ははは、一人しか入れないだろ」

「……」

「……冗談だよな?」

 

 真顔なんだけど。

 ……ッ、ちょ、入りこもうとすんな!

 胴と頭の隙間から頭だけを突っ込もうとするんじゃない!!

 

「クロロだー」

「!!」

「わっぷ!?」

 

 子供が近づいてきたことに気付き、アルファを引きはがし隣へ立たせる。

 あ、危ねぇ。

 危うく子供の夢を壊すところだったぜ……!

 俺は身振り手振りでクロロを演じ、近づいてきた女の子と、後から遅れてやってくる母親らしき人物を迎える。

 

「わー」

 

 すると突然女の子が着ぐるみに抱き着いてくる。

 半歩ほど下がりやんわりと受け止めると、女の子は驚きの顔で母親へと振り返った。

 

「ママ! なんか、ひんやりしてる!」

「ふふふ、リンナ。クロロさんを困らせちゃ駄目よ?」

「はーい! ごめんなさい!」

 

 礼儀正しい子だなぁ、と思いながら離れる少女と被り物の目線を合わせて頭を撫でる。

 それで満足したのか、にんまりとした笑顔を浮かべた少女は俺から離れ、別の方向を指さす。

 

「ねえ! 次、あそこ行きたい!」

「そうねぇ。パパが戻ってきたら行きましょうか? 今、飲み物を買いに行ってくれているから」

「うん! ばいばい、クロロー」

 

 母親に手を繋がれその場を離れる少女。

 少し離れると、父親らしき男性が飲み物を持って駆け寄り、そのまま少女が指さした方向へと歩いていく。

 ……。

 

「カツキ。大丈夫?」

「……ん? 心配いらないよ。言っただろ? この中は涼しいんだって」

「そういうことじゃないけれど……」

「?」

 

 それよりさっきの女の子が向かった先ってアトラクションではなく、なにか広いステージのある場所だったような気がしたけど……。

 

「あっちのステージでなにかやっているのか?」

「多分、ヒーローショーじゃないかな?」

「ヒーローショー?」

 

 ここでもやるんだ。

 地味に初めて知ったので普通に驚く。

 

「この遊園地のオリジナルヒーロー、アニマル戦士ウルフブラックと、悪の怪人サメーンとの戦いだってさ」

「なんでそんなに知っているんだ?」

「パンフレットに書いてあったのを見た」

 

 なるほど。

 アルファの記憶力の凄さは分かっているので、普通に納得してしまう。

 どんどん人が集まっていっているし、これからショーが始まるのかな?

 

「なあ」

「「!」」

 

 またもや声をかけられる。

 今度は子供ではなく、どこかいかつい風貌の男だ。

 派手な柄のシャツに、スウェット。

 まるで適当に見繕った服を着たとても遊園地に遊びに来るような服装ではない男は、サングラス越しに俺達を見ながらこちらへ近づいてきた。

 

「あんたら、ここのモンか?」

「そうですが? なにか?」

 

 応対するアルファだが、様子からして警戒しているのが分かる。

 男はさほど気にしないまま、何を思ったのかポケットからパンフレットを取り出し、アルファに見せる。

 

「ここらで、こいつが出るのはどこだ?」

「ウルフブラック……ですか?」

 

 男は面倒そうに頷く。

 

「こいつに会いてぇんだ」

「それなら……そちらへ真っすぐに向かった先でショーが行われます」

「……」

 

 無言でショーが行われる場所を見る男。

 顎に手を当て、数秒ほど思案した彼は、どこか歪んだ笑みを浮かべる。

 

「こりゃ、都合がいいな」

 

 そのまま男は俺達を無視してショーのする場所へ向かって行く。

 俺とアルファは顔を見合わせる。

 

「不審者?」

「かもしれない」

 

 いや、まだそう考えるのは早計だ。

 ただのヒーローショー好きの人という可能性も捨てきれない。

 人を見かけで判断してはいけない……!

 

「一応、確認しにいこうか?」

「ああ、何かあってからじゃ遅いから、いつでも警備員を呼べるようにしておいてくれ」

「了解」

 

 アルファに連絡を任せつつ、俺達はヒーローショーが行われるであろうステージのある広場へと向かう。

 距離的にはそこまで遠くではないので、すぐに広場へと到着するがその場にはたくさんの子供達と、保護者である親たちが設置された椅子に座り、ショーの始まりを心待ちにしていた。

 

「人が多いね」

「俺はさりげなく動かないと、目立つからな……」

 

 あくまで園内を歩き回る着ぐるみとして動きながら、先ほどの男の居場所を確認する。

 ……人ごみに紛れて見えないな。

 どうしたものか、と思っていると不意に、ステージの両端から大きな音と共に煙が噴き出し、ショーが始まってしまう。

 湧き上がる子供達。

 鳴り響くヒロイックなBGM。

 それと共に、五人ほどの敵役の怪人が現れる。

 

『げっへっへっへ、ここは我々、海鮮団が乗っ取ってやった!! お前達は人質だぁ!!』

 

 ……海鮮丼?

 いや、違うか。

 アニマル戦士がヒーローなら怪人は海関係なのだろうか?

 サメーンという名前からして、見た目がサメだし。

 あのサメ怪人と比べると、大分可愛い顔をしているけども。

 

『み、みんな大変! 悪の組織海鮮団にショーが乗っ取られちゃった!! このままじゃみんなが危ない!!』

 

 司会のお姉さんが出てくる。

 アルファと同じ制服を着た司会のお姉さんの声に、子供たちはざわつきながらもハラハラとした様子を見せている。

 ヒーローショーというのは初めて見るが始まりが唐突だなぁ。

 

『待てぇ!』

 

 効果音と声。

 再びステージから煙が吹き上がり、一人の黒いスーツを纏った男が出てくる。

 お、登場だ。

 ここで名乗りを上げるのかな?

 

『そぉい!!』

『ぐはぁぁぁ!?』

 

 と、思ったら問答無用でサメーンに跳び蹴りを繰り出した!?

 いや、当ててないから演技なのは分かるがそれでいいのか!?

 

『俺はアニマル戦士、ウルフブラァック! 邪悪なる海の藻屑共よ! 今すぐ俺に倒されるか、人質を解放してから俺に倒されるかどちらか選べ!!』

 

「なぁ、これヒーローショーだよな?」

「黒騎士くんリスペクトしてるねこれ……」

 

 言動が完全にヒーローのそれじゃないんだけど。

 子供に見せてはいけないタイプのヒーローなんだけれど!

 いったいどうなってやがるんだこのヒーローショーは……!?

 そんなやり取りを交わしていくうちに、ヒーローショーは滞りなく進んでいく。

 言動以外は内容も子供向きで、大人でも楽しめる内容になっている。

 

「……ん?」

 

 数分ほど見て、そろそろ自分の仕事に戻ろうとしたその時、客席の真ん中を無理やり割って入るように出てくる、先ほどの怪しげな男の姿を見つける。

 夢中になっている子供すらも突き飛ばし、ステージの前に出た男にようやく周囲は異常に気付く。

 まず最初に動いたのは司会のお姉さんであった。

 

「ほ、保護者の方でしょうか!? まだショーの最中なので――」

「うるせぇ」

 

 司会のお姉さんを突き飛ばした男は、ステージへと昇りウルフブラックへと近づく。

 客席から悲鳴が上がる。

 ———、あいつ、もしかして……!!

 

「ッ、アルファ、ジャスティスクルセイダーに連絡してくれ!」

「分かった!」

 

 嫌な予感を抱いた俺は、その場を走り出す。

 

「クックックッ、テメェが黒騎士とかいう奴か」

「な、なんだね君は! 子供が楽しむ場に何の用だ!!」

「用はお前にだよ」

 

 男の姿に罅が入り、その姿が大きく変わる。

 燃え盛るように逆立った髪に、両腕を銀色の装甲で固めた異星人じみた姿。

 特に右腕は二回りほど大きな装甲と機械に包まれており、どう見ても人間とは言い難い姿へと変わり果てた。

 侵略者か……!!

 

「さあて、始めようぜ。もうこっちは準備ができてんだからよォ……!」

「……ッ、み、皆さん! 逃げてください!!」

 

 怪人を目の前にして恐怖に声を震わせながらもステージ前にいる人々に逃げるように促すウルフブラック。

 そんな彼に手を伸ばそうとする奴。

 だが、そんなことはさせない。

 

「ふぅん!!」

 

 その場で思い切り跳躍し、全力の飛び蹴りを男の背中へ叩きつける。

 前に思い切り飛んだ男と向き合いながら前に出た俺に、ウルフブラックの人は驚きの声を上げる。

 

「く、クロロくん!? そんなに武闘派だったの君!?」

「ここにいる人たちの避難をお願いします!!」

「あ、ああ!!」

 

 黒騎士に用があったのかは分からないが、こんなところで戦いなんて起こさせるわけにはいかない。

 最悪、着ぐるみの中で変身を完了させてからルプスストライカーで別の場所に移動するしか。

 

「どうやら、テメェだったようだなァ。同じ場所にいたもんで勘違いしてしまったようだ」

 

 着ぐるみをきた俺の登場に呆気にとられる周囲の人たちであったが、相手が侵略者だと気づいた彼らの行動は早かった。

 すぐに子供達を連れてその場を移動しようとする。

 ……この際、仕方ないこの場にいる人たちには正体がバレてしまうが、ここで隠して犠牲を出すよりかはずっといい。

 

「おかげで間違えたやつと、やる羽目になることだったぜ……。だが、丁度いい」

 

 逃げる人々を一瞥した大きな腕の怪人は、右腕を掲げる。

 カシャンとスライドした拳に出てくるのはなにかしらの宝玉のようなもの。

 ッ、すぐに変身しなくてはマズイ!!

 着ぐるみの中で変身を行おうとしたその時、宝玉が夥しい光を放つ。

 

「ッ!? ここは!?」

 

 次の瞬間には俺がいる場所はステージの上ではなく、どことも知れない広大な空間の中にある直径二十メートルほどのリングのような場所に立っていた。

 これは、闘技場か!?

 リングの外側の異空間を見れば空中に透明な風船に包まれているなにかを見つける。

 

「……な……」

 

 透明な風船の中にいるのは先ほどまでヒーローショーを楽しんでいた子供達であった。

 皆、眠ってはいるが、今にも割れそうな風船の下には真っ暗な空間が広がっているだけで、もし割れでもしたら助からないと即座に理解した。

 

「俺はよ、殴り合いが好きなんだわ」

「……」

 

 俺が立っている場所の端で腕を組み佇んでいる腕の怪人を見る。

 機械に包まれた腕を見る限り、サイボーグなんだろうが……この星の人間とは異なり、その肌の色は赤色に近い。

 

GORUNESU(ゴルネス)。地球の言語じゃ訳せねぇが、こいつは俺の星の儀式みてぇなもんでよ。二人の戦士、二人の最も大切とする者を生贄として、それを賭けて戦う。ここはそのための空間だ」

「今すぐ、子供達を解放しろ」

「でよ、こいつはちょっと俺用に作り変えたもんで……生贄にさせるのは、こっちで選べるようにしたんだわ。俺は自分の命、お前は自身の命と、ここにいるガキどもの命を賭けているわけだ。どうだ? 嫌でも本気になるだろう?」

 

 強制的に自分と戦わせるために、人質を取るということか。

 それも範囲内にいる子供全てを異空間に連れていき、誰にも邪魔をさせないようにさせる。

 

「お前を倒せば、子供達は解放されるんだな?」

「言っておくが俺が武器と認識するもんは使わない方がいいぞ?」

 

 被り物を外し、バックルを腰に巻く。

 手に握りしめたシロに、なにか銀色の帯のようなものが巻き付く。

 

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 瞬間、この空間にアラームのような音が鳴り響き、宙に浮かび上がった数字の3が2へと変わる。

 

「なんだ……?」

「あーあ、言っただろ? 武器は使わねぇ方がいいって。武器を一回使うごとに一カウント。あれがゼロになったら……あの閉じ込められた子供はどうなるんだろうなぁ?」

「……ッ」

 

 こいつ……!

 迂闊に武器を使うこともできないということか。

 だが、変身しなければ戦えない。

 

「ッ、変身!」

 

 バックルにシロを差し込み変身を開始させる。

 黒いアンダースーツ、白いアーマーを装着させていきながら、慣れ親しんだ姿―――セーブフォームへの変身を遂げる。

 

『FIGHT FOR RIGHT!!』

『SAVE FORM!!! COMPLETE……』

 

 煙を噴き出し、変身を完了させた俺に、腕の怪人が揚々とこちらに近づきながら獰猛な笑みを浮かべる。

 

「俺の名は、星将序列099位“供物決闘のジァウル”!! さあ、正々堂々真正面からの殴り合いとしようぜぇ!!」

 

 99位ということは前のセギラよりも強いのか。

 一つ違うだけでどれほど実力が異なるのかは理解できないが、どちらにしろ俺のやることは変わりない。

 加速と共に、大きな右腕を振るおうとするジャウルを冷めた目で見ながら、俺は左手を掲げる。

 

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 人命がかかっているので、さっさと終わらせる。

 左手にグラビティグリップを出現させ、アナザーフォームへの変身を行おうとする。

 

2→1

 

 カウントが減る。

 次に武器を使ったら子供達の命は危ない。

 だが、これで倒せば―――、

 

「「「あ、あああああ!?」」」

 

 透明なシャボン玉に電撃が走り、子供達を傷つける。

 悲鳴をあげる彼らに、フォームチェンジを行おうとした手を止めジャウルを睨みつける。

 

「ッ、なにをした!?」

「言い忘れたなぁ! 二回目以降は、子供に電撃が流れるんだった!! まあ、死ぬほどじゃねぇし、滅茶苦茶痛いだけだぜ!! ハハハッ、そいつを使うのをやめれば電撃はきえるがどうする……?」

「……ッ」

 

 グラビティグリップを消し去ると奴の言う通りに電撃が消える。

 気絶しながらも苦しみの悲鳴を上げた子供達の表情も、元に戻ったことを確認していると――、

 

「なぁに余所見してんだコラァ!!」

 

 眼前に近づいていたジャウルの拳が迫り、フィールドの端の壁に叩きつけられる。

 両腕でガードしたおかげでダメージこそは少ないが、こいつ……!

 

「俺はなァ!!」

 

 目と鼻の前にまで迫ったジャウルがその拳を連続で叩きつけてくる。

 一撃一撃が凄まじいもので、防御する度に衝撃が響いてくるが、それでも奴は手を緩めずに嘲笑の言葉を叩きつけてくる。

 

「武器も持てず、何もすることのできない奴を殴り殺すのが大好きなんだ!!」

「……」

「子供はいいなぁ! 人質にすれば無関係なガキでも勝手に守ろうとしてくれるんだもんなぁ!! 俺の土俵で戦ってくれるし、本当に都合のいい存在だァ!!」

 

 とどめ、と言わんばかりに振り下ろされる右拳。

 大きく改造され、肘からブースターのような炎を迸らされたそれに、俺は迷いなく掌を突き出し、真正面から受け止める。

 

「はっ?」

 

 呆気にとられるジャウルの髪を掴み、膝蹴りを顔面へと叩き込み後ろへ下がらせる。

 

「く、うおおおお……」

「殴ることが好きでも、殴られるのは嫌いみたいだな」

 

 無傷の腕のアーマーを確認しつつ、腕を回す。

 一か月前の俺ならもしかするなら負けていたかもしれないが、一か月経った俺は違う。

 

「まさか、この一か月なにもせずにただお前達を待っていたと思っているのか?」

 

 ジャスティスクルセイダーと一緒に訓練してきたんだぞ?

 

『いいよォ、その調子! 限界を超えて!! まだまだいけるはずだよぉぉ!!』

 

『相手の仕草、動きを観察し、無意識に守っている部分を見つける。つまり、直感力を磨くのです』

 

『君はよく頑張っているなぁ。今の攻撃もすごく良かったし、次はもっとうまくいける。だから……一緒にがんばろ?』

 

 苛烈な訓練で実力を引き上げてくれるレッド。

 理論と直感を両立させて教えてくれるブルー。

 基礎からしっかり優しく教えてくれたイエロー。

 どれも種別こそ違えど、しっかりと俺を強くさせてきた。

 

「フッ」

 

 拳を避け、蹴りを一撃。

 苦し紛れの頭突きに肘を当て、さらに膝蹴り。

 相手の動きを予測、小技を入れて混乱を差し込みつつ、威力の高い蹴りで確実に相手の力を削っていく。

 だが、さすがは序列99位。

 その耐久力は並みのものではない。

 

「どうした? 殴るのが好きなんだろう?」

「は、はは!」

「同じ土俵で戦えば、自分が勝てると思ったら大間違いだ」

 

 半歩横にずれて、拳を避けた俺はそのまま腕と首を巻き込むように、右腕で引っ掛け地面へと叩きつける。

 硬い地面に背中から打ちつけられ、バウンドする奴の背中を蹴り、お返しとばかりに反対側の壁へと激突させる。

 

「ァ、ガァァ!!」

 

 青い血液をまき散らしながら、赤い肌から炎を噴き上げるジャウル。

 それが奴固有の能力なのだろうか?

 触れるのは危険と判断し、バックルを一度軽快に叩きながら繰り出される手を避ける。

 

「テメェ、は!!」

 

 生身部分から吹き上がる炎。

 振り向きざまに回し蹴りで散らしながら、さらにもう一度バックルを叩く。

 

「ただ俺に殴られてりゃ――」

 

 最後に鋭く、刺し貫くように放った拳をジャウルのみぞおちに繰り出した後に―――三度目を叩く。

 必殺技の音声が鳴り響く。

 赤から、金色の電撃へと変わったエネルギーが、バックルから足へと流れ込む。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 無言のままのけぞったジャウルを見据え、エネルギーが込められた横蹴りを奴の胴体ど真ん中に叩き込む。

 

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

 吹き飛ばさず、その場に立ち尽くすジャウルから足を引き戻す。

 蹴りが効かない――そう思い込み、一瞬笑みを浮かべた奴だが、蹴りが直撃した部分から罅が入っていったことにその表情を恐怖へと変える。

 

「ッ、嘘だろ……俺は99位だぞ。ここまで上がるのに、何百年かかったか……」

「……卑怯な手を使って、だろ?」

「ハッ、ハハ、違ぇねぇ……」

 

 罅から黄金色の光を漏れ出しながら、ジャウルは絶望の顔を浮かべ、腹部を押さえる。

 

「あばよ、この、化物……」

 

 最後にその言葉を呟いた後に、ジャウルを中心に爆発が巻き起こった。

 その爆発の余波に巻き込まれながらも、奴の消滅を確認すると、周囲の空間がどんどん元に戻っていく。

 

「……倒せたか」

 

 厄介な能力を使う敵だったな。

 今後もこんな奴が現れると思うと気が滅入ってくる。

 透明なシャボン玉に包まれた子供達も徐々に地面へと降りていくのを確認した俺は―――ふと、自分の姿と、近くで煤だらけになっているクロロ君を見つけ、顔を青ざめさせる。

 

「やばばばば!?」

 

 このままじゃ白騎士としての俺の傍にクロロ君の生首が転がっているやべぇ光景になってしまう。

 慌てて変身を解いた俺は、着ぐるみの姿のままクロロ君の被り物を被る。

 それと同時に、俺と子供たちが閉じ込められていた空間が解除され、周囲には警察の方々と、最早見知った顔のジャスティスクルセイダーの三人の姿がそこにあった。

 

「「「……」」」

「……」

 

 煤だらけの被り物をしている俺を見て、三人はなんとも形容できない反応をされてしまう。

 ま、まずい!? 俺はここでバイトするということを説明はしたが着ぐるみの仕事をするとは言ってはいない!

 アルファは説明してくれたのか!? レッドは怪人には手加減しない!?

 勘違いされたらたまったものではない!

 声を出す!?

 いや、こんなところで普通に喋ったら園内で着ぐるみが地声で喋り出すことになってしまう。

 それでは雨宮さんに申し訳がたたないことに……!

 なにかしら、打開策を……はっ!?

 

「ボっ、ボクはクロロだよ、怪人じゃないよっ!!」

 

 出せる限りの裏声を出すと、周囲に気まずい沈黙が支配する。

 猛烈な羞恥心に駆られながらも、近くで呆然とした様子の警察の人たちに地面に寝かせられている子供達のことを話す。

 

「子供達をいますぐに安全な場所に、早く!!」

「あ、ああ! しかし君は……」

「そんなことより今はもっと重要なことがあるでしょう!!」

「着ぐるみに諭されるとは……いや、確かにその通りだ!」

 

 ハッと我に返る人々と、この場にやってくる保護者達。

 時が動いたように動き出す状況と、未だに無言でこちらを見ているジャスティスクルセイダーを気にする。

 

「く、クロロくんが……怪人を倒した……!?」

「……ん?」

 

 不穏な呟きを聞いたような気がする。

 やや焦げ臭い被り物の中でため息をついていると、俺の元にレッド達がやってくる。

 彼女達のおかげで周りの人が近づいてこないのは安心できるが……あっ、アルファがいた。

 後で、合流しなくちゃな。

 

「ねえ、カツキ君」

「レッド、アルファから聞いてたか……」

「ううん、仕草と声で分かってたけど」

「そうか。……ん?」

 

 なんか今おかしな言葉が混じっていたような。

 

「怪人は倒したの?」

「ああ、光の柱も使わずに現れたから驚いたよ。後でシロから記録を提出する」

「なら、安全ってことね。私達も戻らなきゃならないけど……」

 

 ん? なんだ?

 やけに期待を込めた雰囲気の三人に首を傾げると、レッドはチャンジャーからスマホのようなものを取り出す。

 

「ねえ、この後一緒に写真撮ってもらってもいい? あと抱き着いても大丈夫?」

「待って、レッド。司令に許可を。公式のコラボとしてやろう」

「クロロくん、弟と妹が好きなんや」

 

「君達はもっと他人の目を気にしろ! ヒーローだろ!?」

 

 事態がもっとややこしくなるじゃん!

 君達、そんなクロロ君好きだったっけ!?

 

 

 その後。

 幸い、白騎士としての自分が戦っている場面を誰も見なかったわけだが、後日煤だらけの頭のクロロ君とジャスティスクルセイダーの写真が、公式ブログにて掲載されてしまうのであった。

 怪人はどこかへ消えた、という話で終わり、着ぐるみにいた俺も、巻き込まれた子供達も無事だったということで一先ずは事件は終わりを迎えた。

 しかし、一部の人々はクロロくん怪人倒した疑惑とか滅茶苦茶なことを言っていたりして、地味に大変なことになりかけたのはまた別の話だ。




99位は強制的に自分の有利なステージに引きずり込む能力持ちでした。
レッド達の英才教育を受け成長した主人公には、及びませんでしたが普通に厄介な敵でしたね。


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変化と兆し

前半は掲示板回となります。

その後は主人公視点でお送りします。


171:ヒーローと名無しさん

 

ク ロ ロ 君 怪 人 単 独 撃 破 説

 

 

割とガチで可能性あるでコレ

 

172:ヒーローと名無しさん

 

クロロくんの人すごいなぁ。

やっぱり、そういう方面の仕事をする人って体力面とかすごいんだろうか

 

173:ヒーローと名無しさん

 

アクターさんなら分身したり、強者立ちとかしたりするゾ

 

174:ヒーローと名無しさん

 

公式コラボ実現してて草

これ、クロロ君人気に火が付くぞ。

 

175:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダーにやられないように裏声出して存在アピールしてたのかわいい

 

176:ヒーローと名無しさん

 

割とあれクロロ君にとって一番のピンチだよ。

レッドの飛ぶ斬撃で問答無用で首と胴がお別れすることになっていただろうし。

 

177:ヒーローと名無しさん

 

サーチ&デストロイがレッド達の基本戦術だし、本当に危なかった

 

178:ヒーローと名無しさん

 

単独撃破説はともかくとして怪しいよな

 

179:ヒーローと名無しさん

 

大学で声質調べてもらったら、黒騎士くんの声と63%くらい近いって結果が出たぞ

 

180:ヒーローと名無しさん

 

ファ!? 本人の可能性があったんか!!

 

181:ヒーローと名無しさん

 

マジかよwww

 

182:ヒーローと名無しさん

 

クロロくんが黒騎士くんだった……?

あんなにかわいいのに、残虐ファイトが得意だなんて幻滅しました。

 

レッドのファンやめます。

 

183:ヒーローと名無しさん

 

な私関無

 

184:ヒーローと名無しさん

 

レッドはともかくクロロ君を嫌いにならないで

 

185:ヒーローと名無しさん

 

マジかよレッド最低だな

 

186:ヒーローと名無しさん

 

 見レス

 らッレ

 れドは

 てに

 る

 

187:ヒーローと名無しさん

 

レッド「これは命令だよ。私のファンになりなさい」

 

188:ヒーローと名無しさん

>>186

ヒェ……

 

189:ヒーローと名無しさん

 

赤い悪魔きたな

 

190:ヒーローと名無しさん

 

レッド最高! レッド最高! さあ、お前もレッド最高と言いなさい!!

 

191:ヒーローと名無しさん

 

声音同じってことは身元が判明したってこと?

クロロ君の中の人が白騎士くんなら大騒ぎってレベルじゃないと思うけど。

 

192:ヒーローと名無しさん

 

どっかの知りたがりが問い合わせたけど、当日のクロロ君の中の人は急用で別の人になっていたらしい。

その別の人ってのも助っ人みたいなもので、誰だか分からないんだと。

 

193:ヒーローと名無しさん

 

代理の人だったんだな。

なんか不必要に白騎士くんの正体探ろうとする人いるのはどうかと思うが。

 

194:ヒーローと名無しさん

 

まあ、知っていたとしても俺なら隠すわ。

恩を仇で返すようなマネしたくないし。

 

195:ヒーローと名無しさん

 

そりゃ知りたくなるだろ

どんな顔してるのかおがみたいものだ。

 

196:ヒーローと名無しさん

 

政府とジャスティスクルセイダーが黒騎士君が行方不明の時、どうして顔を公表して探さなかったのか冷静に考えた方がいい。

それだけの理由があるってことだし、なによりジャスティスクルセイダーを含めて彼らは俺らの命を守ってくれているんだからな。

 

黒騎士くん時代からもそうだけど、見返りとかないだろうし。

 

197:ヒーローと名無しさん

 

駄目だと分かってても接触しようとする奴がいるだろうなぁ。

 

198:ヒーローと名無しさん

 

変に付き纏われて、相手側の侵略助けることになるのは目に見えているし。

あと当然、政府から対策されているだろうから、下手に知ろうとすれば何が起こるか分からないのも怖い。

 

199:ヒーローと名無しさん

 

マーベル作品とか見ると顔バレするのって結構やばいからな。

有名どころの映画だと、自宅にミサイル打ち込まれたりしてたりしたし。

 

200:ヒーローと名無しさん

 

黒(白)騎士くんのまとめコピペ貼る?(アークライザー)

 

201:ヒーローと名無しさん

 

貼らせない……!(ゼロツー!)

 

202:ヒーローと名無しさん

 

そもそもさ、なんかクロロ君の中の人が白騎士くん本人みたいに話すけれど、偶然声質が似たような人かもしれないだろ?

 

203:ヒーローと名無しさん

 

怪人に立ち向かえる人なんて白騎士君かジャスティスクルセイダーくらいしかいないだろ

その三人も現場にいたわけだし。

 

204:ヒーローと名無しさん

 

クロロくん新ヒーロー説……?

 

205:ヒーローと名無しさん

 

頭だけ煤だらけなのがジワジワくる。

 

206:ヒーローと名無しさん

 

怪人はどうなったか分かっていないし、クロロくんも戦った様子も感じられず、むしろ頭が煤だらけになっている。

これは面白いことになってきましたねぇ。

 

207:ヒーローと名無しさん

 

単純に白騎士君がヤベーイ姿のワームホールで来てくれて即殺しただけでは?

まあ、一番良かったのは子供達が全員無事だったことだ。

 

208:ヒーローと名無しさん

 

ク ロ ロ く ん に 中 の 人 な ん て い な い

 

209:ヒーローと名無しさん

 

アッハイ

 

210:ヒーローと名無しさん

 

今、公式見てきたけどさ。

クロロくんジャスティスクルセイダーと写真撮っているんだな。

 

レッド抱き着いてねこれ?

 

211:ヒーローと名無しさん

 

これは策略家

 

212:ヒーローと名無しさん

 

着ぐるみの体で抱き着くあたり卑しい女だブルー

 

213:ヒーローと名無しさん

 

中身が白騎士くんではないと、ただのクロロくん好きな人。

中身が白騎士くん本人だと分かってやっていると、策士。

 

どちらともとれるから厄介すぎる……www

 

214:ヒーローと名無しさん

 

イエローのちょっと恥ずかしいので手だけ繋ごう感がイイと思っているのは私だけでいい

 


 

 この一か月で変わったこと。

 それは喫茶店でのバイトの日数を一日減らしたことだ。

 別に遊ぶ時間が欲しくてそう願いだしたわけではなく、理由はもっと別なことからだ。

 

「行くよ、カツキ君!!」

「ああ、来い!」

 

 赤いスーツを纏ったレッド。

 しなやかな動きで、剣を操りこちらへ迫る彼女の姿を目にした俺は、セーブフォームの姿のままルプスダガーを右手に握りしめ彼女を迎え撃つ。

 

「はぁぁ!!」

 

 未だに目で追うことすら難しい高速の斬撃。

 レッドの動きを予測、自分の感覚を信じながら逆手に握りしめたルプスダガーを盾のように構えて弾いていく。

 

「……ッ」

 

 防げている、が。

 それで喜ぶほど俺はバカじゃない。

 ここまで、この一か月努力したとしても俺はまだレッドの本気を引き出すことはできていない。

 レッドの剣が戦闘時のように赤熱していれば、俺は今頃バラバラになっていたくらいに、彼女は強い。

 

「フンッ!!」

 

 一つの斬撃を後ろにいなすように弾く。

 何度も繰り返した斬撃だ。

 癖くらい見抜ければ、これくらい……!!

 

「今だ……!」

「狙いはいい。だけど、甘い」

 

 ッ、いつの間に剣を引き戻―――、いや! まずい!!

 体勢を崩したはずなのに、瞬きした次の瞬間にはレッドは剣の刃に手を添えるようにさせ、刺突の態勢に移っていた。

 これから繰り出される一撃に顔を青ざめさせ、ダガーを胸の位置に構える。

 

「シッ」

 

 突きを繰り出し、突き出した姿さえも確認できないほどの動き。

 認識する瞬間すら目視できずに衝撃で後ろに吹き飛ばされた俺は、地面を転がりながら変身を解除させられる。

 

「はぁー、駄目だったかー」

 

 地面に転がされるのも何度目だろうか。

 数えるのも億劫になるくらいはされているけども。

 

「大丈夫? カツキくん」

「ああ、心配ない」

 

 同じく変身を解除させたレッド、アカネさんが俺に手を差し伸べてくれる。

 その手に応じながら、身体を起こした俺に彼女はやや申し訳なさそうな顔をする。

 

「ごめんね、こんな手荒な方法しかできなくて」

「どうして謝るんだ? むしろ謝るのは俺の方だ」

「え、どうして?」

「……俺はまだ君の求める基準には達していないんだろ? それくらい分かるぞ」

 

 そう言うとアカネさんは目を丸くさせ、なんとも複雑そうな表情を浮かべる。

 

「君を、死なせたくないから」

「分かっているよ。そのために本気でやってくれてるんだからな」

 

 そうでなければ葵もきららさんも俺に訓練を施してくれる理由にはならない。

 これから戦わなければならない以上、ありがたいことこの上ない。

 

「……上に戻ろっか? そろそろお昼だし食べに行かない?」

「ああ、それなら姉さんと外の店に食べに行くから、一緒に行くか?」

「うん」

 

 そうと決まれば行くか。

 アルファは今日はバイトだし、きららさんも葵さんも用事でいないから三人で食べに行くことになるな。

 姉さんのおすすめの定食屋というらしいので、俺としても楽しみだ。

 修練場を出て、通路へと出ると上の階でデータを取っていたレイマが待っていた。

 

「レッド、前から言っているがあまりやりすぎるな。カツキ君はお前と違って繊細な少年なんだぞ」

「まるで私が繊細じゃないみたいな言い方はやめてください」

「……。いや、見方を考えればお前も繊細なのかもしれないな。手段が蛮族極まりないし、乙女というにはアマゾネスすぎるが」

「撫で斬りにしますよ?」

 

 笑顔でそう言い放つアカネさんに一瞬狼狽えるレイマ。

 すぐに我に返り気を取り直すように咳払いすると、こちらへと向き直る。

 

「ああ、カツキくん。つい先ほど、君の戦闘データを確認したが、一瞬出力が異様な上がり方を見せてな。後で、シロに何か起こっていないか検査させてもらってもいいだろうか?」

「構わないですよ。シロもそれでいいよな?」

『ガゥ』

 

 足元でついてきたシロが頷く。

 ここにいる間にシロも随分と馴染んだようだ。

 そのまま自然とレイマと通路を歩いていると、ふと書類に目を通していた彼が訝し気な顔をする。

 

「いや、しかし。最近の大森君はよく働いてくれるなと思ってな」

「大森さんって、開発チームの優秀な人材って社長が自分で言っていたじゃないですか」

「うむ、そうなのだが……」

 

 ぱらぱらと書類をめくった彼は首を傾げた。

 

「報告書などの文章に少しばかり違和感のようなものがあるんだよなぁ」

「違和感?」

「そこまで気にするほどでもない。大森君自身も普段通りではあるし、杞憂なのだろうが……うぅむ、まあ、気にするほどでもないか」

 

 首を横に振った彼は書類を纏める。

 大森さんか……初めて会ったのは、ここに来てからそう経っていない頃だな。

 

「大森さんはいい人ですよ? 初対面の俺に良くしてくれるし」

「「……」」

「この前なんてお茶菓子もいただいてしまって。今度、なにかお礼をしようと思いまして」

 

 なぜに無言なのだろうか。

 なんともいえない顔をされてしまい、俺も首を傾げるしかない。

 

「ま、まあ、我が社のスタッフ共々最近は調子がいいということだ。いざという時のバックアップもしっかりしていることだし、お前達も心配する必要はない。……おっと、そろそろ次の作業に移らねばならないか。では、また」

「お仕事、頑張ってください」

 

 レイマも忙しいんだなぁ。

 手を振り、この場を去っていく彼を見送りながら、俺はアカネさんへと振り向く。

 

「じゃ、ハクア姉さんのところに行こうか。アカネさん」

「ず、ずっと気になっていたけど、アカネでいいよ。同い年だし、一つ年下の葵は呼び捨てでしょ?」

「君がいいっていうなら……」

 

 なんだろうか、なんかむず痒いな。

 なぜか照れてしまいながら視線を斜めに向ける。

 

『後は頼んだ、アカネ』

 

「……ッ」

 

 声が聞こえたような気がした。

 覚えのない俺の声。

 

「どうしたの?」

「あ、い、いや、なんでもない。それよりお昼時が過ぎる前に行こうか」

「? そうだね」

 

 幻聴か何かだろうか?

 もしかすると、記憶を失う前に俺はアカネと会っていたのか?

 


 

 時間帯的に昼時からズレていたので定食屋はそれほど混んではいなかった。

 

「こんなところがあったんだ」

「安いし沢山食べられるからいい場所だよ」

「私も初めてくるなー」

 

 そこそこ人通りのある路地にある昔ながらという感じがする定食屋に、俺、姉さん、アカネが入る。

 テーブル席に三人で座りメニューを見ると、そこにはサバ味噌定食、とんかつ定食、カレーなどなどバリエーションに含んだ料理の名前が並んでいる。

 

「……ねえ、かっつん、アカネ」

「ん?」

「どうしたの?」

「あれ、大森さんじゃない?」

 

 姉さんの潜めた声に店の角よりの席を見ると、そこにはメニューをこれ以上になく険しい表情で見つめている大森さんの姿を見つける。

 やや暗めの茶髪に眼鏡、なにより白衣という目立つ服装を着ているので間違いなく大森さん本人だろう。

 メニューを見ては、周りの壁に貼り付けられているお品書きに視線を移しては思い悩む。

 

「孤独のグルメみたいな悩み方してるね……」

「あっ、隣の席の人の料理を凝視して、またメニューを見て首を捻っている……」

 

 なんだか話しかけちゃいけない雰囲気だ。

 すると、頼むものが決まったのか、彼女は軽く手を上げた。

 

「すみませーん」

「はいはーい」

 

 定食屋のおばさんがやってくる。

 大森さんは、メニューに指を添えながら頼み始めた。

 

生姜焼き定食……ごはん大盛」

「はい、生姜焼き定食ごはん大盛」

「それと揚げ豆腐きんぴらごぼうと……あそこに書いてある“だし巻き卵”って……」

「ああ、ちゃんとやっていますよー。大根おろしと食べると美味しいって評判なんです」

「あ、じゃあ、それを一つ」

「はい、揚げ豆腐にきんぴらごぼう、だし巻き卵ですねー」

 

 おかず三つも頼むとかすごいな……。

 姉さんと同じく見た目の割に沢山食べる人なんだ。

 ……いや、彼女の仕事を考えるとそれくらい食べなきゃもたないということもあるのだろう。

 

「でも、全然こっちに気付かないね」

「すごい満足そうに座って水を飲んでる……」

「俺達も決めよう」

 

 といっても、俺もほとんど候補は絞っているようなものだが。

 普通にとんかつ定食にしよう。

 姉さんもレッドも決めたようなので、定食屋のおばさんを呼ぶ。

 

「あら、白川ちゃん。彼氏さんかい?」

「はえっ!? え、えーと」

 

 姉さんとは顔見知りなのか、おばさんは俺の方を見てそんなことを口にした。

 いきなりそんなことを言われ、姉さんは顔を赤くさせ狼狽えているので、俺から訂正しておこう。

 

「ははは、弟です。今日は姉に紹介されてここに来たんです」

「弟くんだったのかい? それじゃあこの子は、沢山食べるから君も大盛にしたほうがいいかな?」

「あ、それじゃあ、俺も大盛で――」

「カツキ君、白川ちゃん」

 

 メニューを手に取り頼もうとしたところでアカネが声をかけてくる。

 どうしたと思い、彼女の方を向くと、その手に嵌められているジャスティスチェンジャーに光が灯っていることに気付く。

 それは、怪人が現れたという合図。

 俺と姉さんはそれをすぐに察すると、すぐに立ち上がる。

 

「ごめんなさい! 急いで仕事に戻らなくなったから、また後で食べに来ます!!」

「構わないよ。急ぎのようなんだろう? 早く向かわなきゃ」

「ありがとうございます!!」

 

 気前よく手を振ってくれるおばさんに俺も頭を下げつつ、出ようと―――する前に、石像のように動かず腕を組み待っている大森さんに声をかける。

 

「大森さん!」

「むう? ……げぇ!?

 

 なぜか俺の顔を見て驚かれてしまった。

 本当に気付かれてなかったのか……?

 

「緊急招集です!」

「……。……あ、後で行きます。すぐに追いつきますから……!」

 

 ぎこちなく返事を返した彼女に首を傾げながら、店を出て本部へと走って向かう。

 


 

「ただいま到着しました、レッドです!」

「レイマ、怪人が出たって本当か!?」

 

 アカネと姉さんと共にブリーフィングルームへと移動するとその場にはレイマとスタッフの皆さんがおり、皆せわしない様子で動き回っていた。

 

「ああ、事実だ。十分前に街のど真ん中で宇宙からやってきた怪人が現れた。じきにブルーもイエローもやってくるが、とりあえず座ってくれ」

 

 彼に促され座ろうとしたところで、ふと近くで作業をしている女性を見つける。

 暗めの茶髪に眼鏡をかけた白衣姿の女性――大森さんの姿に俺は首を傾げる。

 

「あれ? 大森さん?」

「はい? なんでしょうか? カツキ君?」

「さっき定食屋にいましたよね? 走ってここにきたんですか?」

へっ!? ……あ。……は、はい! そうなんですよー! もう全力疾走してついさっきここに来たんですよ! あ、あはははー!」

 

 そ、そうなのか……。

 まあ、ここの職員というからには近道とかも色々知っているのだろう。

 特に気にすることもないので納得していると、目の前のモニターに映像が映し出される。

 

「現在、現れた怪人は破壊行動に移さず、ただ街の一画を占拠している」

「暴れたりはしてないんですか?」

「ああ。数は三体。その全員が序列100位以内と予測しているが……恐らく、お前達が駆けつけてくるのを待っているのだろうな」

 

 三体……か。

 モニターを見ると、三体のうち二体は左右対称の似たような姿をしたサイボーグ型の戦士だが、もう一体は全身を機械で形作られた何かのように見える。

 すると全身機械の一体が、おもむろにガシャン、と口に当たる部分を開く。

 

 

『白騎士ぃぃぃ!! この俺と尋常に勝負しろぉぉぉぉぉ!!』

 

 と、機械なのになんとも男らしい言葉が飛び出してきた。

 つまりは、なんだ?

 今回の相手は、最初から俺と戦うことが目的だったってこと?

 




一人だけ孤独のグルメしてた大森さん(仮)。

シグマの時もそうでしたが身内のことになると、結構節穴になる社長でした。



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進化と激闘

お待たせしてしまい申し訳ありません。
前回の続き、主人公視点となります。


 ジャスティスクルセイダーと共にルプスストライカーに乗り現場へと向かう。

 異星人が現れたのは真昼間の都市の中。

 光る柱も出さずに現れた奴らは、暴れず、ただ街中に立っているだけで、どうやら俺達の到着を律儀にまってくれているらしい。

 その時点でこれまでとは明らかに異なる怪人だ。

 

「待ちわびたぜ、白騎士、ジャスティスクルセイダー!」

 

 俺達が到着するなりそんな声を上げたメタリックな装甲を纏った機械の男? は腕を組んだまま満足そうに頷いた。

 武器に手をかけているレッド達を見つつ、ルプスストライカーを降りる。

 

「俺は星将序列50位“双星ジェム”だ!」

 

 無言のままレッドとブルーが攻撃を叩き込む。

 飛ぶ斬撃とエネルギー弾を前にして、余裕の様子の機械の男。

 しかし、彼が動くと思えば、その隣にいたもう二体の人型の機械が盾になるように動き出し、バリアーのようなものを張る。

 

「防いだ……!?」

 

 レッドとブルーの攻撃を!?

 いきなり50位に飛んだだけはある……!

 なんて余裕の表情を見せるんだ、あの機械男は……!

 

「……」

「「なにをアホ面を晒しているのですか? 避けるそぶりくらい見せてください」」

「ハッ!?」

 

 二体の声がぴったりと重なり、余裕のまま動かないジェムに投げかけられる。

 目の光を点滅させながらハッとした顔を浮かべた彼は、驚きのまま自身の機械の身体に触れる。

 

「うお、いきなりだな! 全然反応できなかった! 今死んでたぞ、俺!」

「「手練れを相手に油断しすぎでは? だから貴方はいつまで経っても姉君の影から逃れられないのです」」

「いやぁ、辛辣だなぁ! でもやっぱりジャスティスクルセイダーは俺では無理だ!! 地球、恐ろしいなおい!」

 

 ジェムが男のような姿をしているなら、彼を守るもう二体は女性のような姿をしていた。

 アンドロイド、というやつなのだろうか?

 そのどちらも声も同じ。

 話しかけるタイミングすらも同じで、双子というよりは同じ個体にも見える。

 

「油断大敵、うーん、地球の言葉は面白い。興味をそそられるよ。……後、五体くらい君を連れてきた方がよかったかな?」

「「否定。どれだけ連れて来ようとも結果は変わりません」」

「君が言うのならそうなのだろう! しかし、これが地球か! 記録で地球の怪人とやらを拝見させていただいたが、まさしく異常な星だ!」

 

 ……なんなんだこいつは……?

 俺達を前にして笑っていることもそうだが、敵意がない。

 

「白騎士君」

「……どうした、レッド」

 

 通信機能を用いて声をかけてきたレッドに答える。

 

「私達があの二体の相手をする」

「……リーダー格じゃないのか? 君達なら……」

「真ん中の奴より周りの二体の方が強い。今の君じゃきついかもしれない」

 

 そこまでの相手か。

 アナザーフォームならチャンスはあるけれど、こんな街中で使う姿じゃないし、タイムハザードに至っては十秒間限定で、変身後に強制的にセーブフォームに戻されてしまう。

 

「さて、じゃあ、俺は当初の予定通りに白騎士を相手にしようか」

「「了解しました。では、私達は破壊活動を行いつつ、ジャスティスクルセイダーとの戦闘を」」

「頼んだ。まともに戦うなよ?」

 

 ———ッ、破壊活動だと!?

 ジェムの言葉の直後に、二体の女性型アンドロイドの肩部分から、ビーム砲のようなものが飛び出しビルへと放たれた。

 ビームは拡散し、ビルへと向かっていく。

 

「ブルー!」

「全部は無理だけど……!」

 

 二つの銃を構えたブルーが連続でエネルギー弾を放つ。

 レッドとイエローも飛ぶ斬撃と、電撃を放ちながらビーム砲を落としていくが、撃ちもらしたビームのいくつかがビルや建物に直撃し、爆発を引き起こす。

 

「やー、あれを九割方撃ち落とすか! もう褒めるところしかなくて劣等感湧くなコレ!!」

「「では、出撃します」」

「ああ、行ってこい。壊されるなよ、MEI(メイ)。お前は壊れても大丈夫だが、壊されるのは極力見たくないからな」

「「了解。マスター」」

 女性型のアンドロイドがさらに変形し、背中にブースターのようなものが出現する。

 二体同時に同じ方向に飛び出し、その二体をレッド達が追う。

 

「白騎士君! そいつを!」

「ああ、任せろ!!」

 

 爆発音と金属音を背にしながら、俺はジェムと向き合う。

 奴は戦う素振りも見せずに、俺を観察するように複眼の中で光る眼を細めた。

 

「さあ、少しだけ君とお喋りをしようか」

「……!」

「そうか? なら、戦いながらしよう」

 

 接近し叩きつけるように振るうダガーを、相手は杖のような武器で受け止めながらそう言葉にする。

 

「今のうちに言っておくけど、いいかな?」

「……なんだ」

「俺、負けそうになったらすぐに逃げるから」

「ハァ!?」

 

 驚き声を上げると、ジェムはからからと笑みを浮かべる。

 ッ、動揺を誘われるな!

 冷静になり、ダガーを持ち替えながら連続で振るい、蹴りを繰り出す。

 

「おおっ!」

 

 奴は杖を盾にして蹴りを受け、そのまま後ろへ跳ぶ。

 衝撃を逃がし着地しながら、大仰に腕を広げてみせた彼に俺は言葉にできない不気味さを抱く。

 

「見て分かると思うが、俺個人は序列50位としての実力はない。高く見積もっても75位ほどだ」

「それでも、強いだろう」

「いいや、弱いさ。お前がアナザーモードになれば成すすべなく俺は敗れることになるだろう。アックスイエローも怪しいし、とにかく君に本気で戦われるのは俺としても中々にきついのだ」

 

 アナザーフォームもアックスイエローも知られている……!

 間違いなく、こいつは対策してここに立っている。

 そのためにこいつは……。

 

「その物騒な姿にさせないために、お前を人の多い都市に誘い出した。地球人の危機に対する意識が低いのか分からないが、まだ周囲にぼちぼちと生命反応があることから、逃げていない者もいるだろう」

「……!」

「おおっと、怒るなよ。怒りはお前を別人に変えてしまうぞ?」

 

 本当にやりにくい……!

 これまでの異星人とは違う。

 こいつは俺達のことをちっとも侮っていないし、街を破壊することもあくまで手段としてしか考えていない。

 だからこそ、厄介だ。

 

「そもそも、序列30から70位ほどまでは明確な力の差はほとんどないからな。得手不得手やら、色々あって序列が分けられているが、相性によって逆転することも多々ある」

「目的はなんだ……! 俺を殺すためか!」

 

 奴の言葉を無視し、怒鳴りつける。

 それに物怖じせずに、相手は肩を竦める。

 

「いや、いやいやいや、それは違う。以ての外だ」

「ッ!」

「お前を倒すことは俺にとって必ずしもいいことではない。正直、同情しているよ」

 

 ここまできて話をややこしくするのか!

 俺はバックルをスライドさせ、ソードレッドへとフォームチェンジする。

 

CHANGE(チェンジ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー)!!』

 

「ハァァ!!」

 

 炎を纏わせた剣を叩きつけ、杖を両断させる。

 

「うおお!? 出力が上がってる! さすがに成長速度が違うな!!」

 

 真っ二つになった杖を捨てたジェムが手元に光と共に剣のようなものを転送させる。

 それを片手で持ち、俺の振るう剣と打ち合う。

 

「俺はな、手伝いに来たんだよ」

「どういうことだ!」

「お前を強くしてやるって言っているんだ!」

 

 駆動音と共にジェムの身体に光が走り、その力が急激に増幅される。

 力でソードレッドを上回った奴は、そのまま俺を押し返し、剣を叩きつける。

 

「ッ」

「あとは、そうだな。……命乞いだよ」

「誰にだよ!」

「お前にさ!」

 

 ちっともそうしているようには見えないんだけどな!

 剣を背後に流すように受け止め、そのまま柄を胴体に叩き込む!!

 

「意味が分からないんだよ!」

「ハハッ、そりゃそうだよな! あぁ、今の力でもこれか!」

 

 力で上回れるのなら技で上回ればいい。

 剣を受け流し、フェイントを入れながら剣戟を交わしていく。

 

「正確に言うのならお前にではない。いや、見方を変えるならお前にか? まあ、どちらでも同じか」

 

 一人で首を傾げながらも、奴は人差し指を立てる。

 

「つまりまとめると、お前を強くしてやるから命だけは見逃してほしいってことになる」

「だから、なにを言っているんだ! お前は!!」

「悪い話ではない。一つ問題があるとすれば、お前が成長しなければ、お前自身とこの星の命そのものが終わることになるがな」

 

 ッ!!

 

「そして――」

 

 武器を投げ捨てた!?

 驚きながら無手となった奴に攻撃を繰り出そうとすると、不意にジェムの機械の身体に黒いエネルギーが溢れだし、その動きが掻き消える。

 瞬間、俺の身体にとてつもない衝撃が襲い掛かり、背後の建物に背中から激突する。

 

「俺は弱いと言ったが、その姿のお前よりは強いぞ?」

「ぐ、ぐッ……!」

 

 明滅する視界。

 首を振りながら立ち上がり、ジェムを睨みつける。

 

「さあ、俺の命のために成長してくれよ! 白騎士!!」

「ふざけるな! ……ッ!」

 

 コンクリートの地面が爆ぜ、ロケットのような速さで殴りかかってくるジェム。

 その動きには先ほどまであった正確さも、精細さも欠け、ただ相手を殴殺するための拳に全てを注がれていた。

 

「やば……!」

 

 その場で地面を転がり回避しながら焦る。

 なんだ、この速さは!?

 真っすぐ、俺に突っ込んでくるだけなのに理不尽なくらいに速い。

 これまでの回りくどい言動から想像できない真っすぐな拳は、容易く俺の防御を貫き、身体に衝撃を叩きつける。

 

「ッ、ラァ!!」

 

 吹き飛ぶ前に剣の柄を叩きつけ、拳の軌道を無理やり変える。

 だがそれでも止まらない。

 まるで、肉食獣のように獲物に食らいついたら離さず、絶対に攻撃を叩きこもうとするその意思は、並みのものなんかじゃない……!!

 

「あぁ、とんでもない挙動で動くなァ! このデータは!!」

「なん、だと……!!」

「戦闘データさえあれば、俺はそいつの動きを模倣(コピー)することができる。なにせ機械生命体だからな」

「その動きは、お前のものじゃないのか!」

「その通りさ。俺はインテリだからな! 肉体を鍛えるのではなく、頭に叩き込むのさ!!」

 

 槍のように放たれる正拳突き。

 その一撃は容易く装甲に罅を入れる。

 

「こいつはある地球の戦士の映像データから戦闘パターンを解析したもの。だが、これはどれだけ模様(コピー)したとしても46%の再現が限界だ!!」

 

 これで、46%!?

 本物は一体、どれだけ――、

 

「それ以上の再現を行おうとすれば」

「ッ!!」

「こうなる!!」

 

 30メートル以上離れた距離を一瞬で詰めたジェムの拳が、防御に構えたフレイムカリバーをあっさりと粉砕し、胴体に直撃する。

 アーマーが割れ、骨が軋む音と共に、俺の身体は遥か後方の建物をいくつも貫通し、地面に叩きつけられる。

 

「がはッ……!」

 

 どこかの地下を転がりながら、変身が強制的に解除される。

 手元に転がったシロを見ると、その機械の身体のいたるところに罅が入っていた。

 

「シロ、大丈夫か!? お、おい……!」

『ガウ!』

 

 え、鳴き声はすっごい元気そうじゃん……。

 痛みに悶えながら瓦礫の中で立ち上がった俺の前に、ジェムが現れる。

 しかし、奴が攻撃のために繰り出した右腕は歪に折れ曲がり、スパークが迸っている。

 

「ほら、ものの見事に腕が壊れてしまった。機械の俺ですらこれなのに、地球人は戦闘に特化した生命体かなにかなのか?」

 

 そのまま右腕を切り離した奴は、次の瞬間には同じ形状の右腕を転送し、入れ替えるように嵌め込んでしまった。

 

「機械生命体ならではだろう? 生身と違い取り換えが利くんだ」

「……ッ!」

「素顔でははじめましてか? ああ、安心するといい。ここには地球人の目もなく、カメラも存在していないぞ?」

 

 絶体絶命だ……!

 まだ変身できる余地はあれども、あの力に俺は勝てるのか?

 一か八か、アナザーフォームで……いくしか……! いや、駄目だ。ここで暴れたら建物ごと崩壊する恐れがある。

 

「さて、どうする? 変身は解除されてしまったが、まだ続けるかな?」

「ここで終わりにしたら、お前は誰も殺さないのか?」

「……」

 

 一瞬の沈黙の後に、ジェムは声を張り上げる。

 

「いいや、勿論。侵略するさ! 俺達は、悪い侵略者だからな! 悪逆非道の限りを尽くし、お前達地球人を血祭りにあげてやるのだ!」

「……なら、ここで終わりにできるはずがないだろ……!!」

 

 変身を行おうとして、罅だらけのシロが視界に映りこむ。

 ———、ごめん、こんな目に遭わせて。

 でも、もう一度、俺に力を貸してくれ……!!

 

「また、頼むぞ。相棒」

『LUPUS DRIVER!!』

 

 シロをバックルに差し込み、特徴的なメロディーが流れだす。

 そのままいつも通りにバックルを叩こうとして――目の前のジェムの立ち姿が、別の誰かと重なる。

 黒い仮面を被った漆黒の戦士。

 剥き出しになったパーツに、どう見ても敵のような姿をしたそいつは、俺の目を仮面越しに真っすぐと見つめているだけで、何も言葉を口にしない。

 

「……」

 

 “黒騎士”の幻影は何も口にはしない。

 ただ、俺を指さし、霧のように姿を消してしまった。

 幻かそれともジェムの行った策かどうかは分からない。

 だけど、不思議と恐怖はなくなった。

 

「変身!」

 

 バックルを叩く。

 その衝撃にシロの罅割れた外装がはじけ飛び、銀と金入り混じった姿へとバックルとベルトが変化する。

 

SAVE(セーブ)BREAK(ブレイク)!!

 

 セーブフォームとは異なる音声と共に、エネルギーフィールドと共にアンダースーツとアーマーが展開される。

 

FIGHT(ファイト) FOR(フォー) RIGHT(ライト)!!』

CHANGE(チェンジ) YOUR(ユア) DESTINY(デスティニー)!!』

 

 白いアーマーと仮面が全身を覆うところまでは変わらないが、その上からさらにアーマーの縁を覆うように金色の装飾が施されていく。

 

BREAK(ブレイク) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 見た目に大きな違いはない。

 しかし、それ以上の力を俺は感じ取る。

 

「お前を、超える!」

「そうこなくちゃなぁ!!」

 

 俺と、ジェム。

 同時にその場を飛び出し、繰り出された飛び蹴りと拳が閑散とした地下で激突する。

 

 




黒騎士(幻影)「俺を超えてみろ……!」
白騎士くん「(´・_・`)……?」


自称インテリアンドロイドのジェム。
本体ではなく、作ったものが強いタイプなので、本人の実力は序列70位前後。
しかし、黒騎士君再現時は戦闘力が大きく跳ね上がります。


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考察と覚醒(ジェム視点)

今回はいつもとは違い敵の視点からお送りします。

前半は、ジェムが攻め入る前の回想のようなもので、後半にて前話からの続きとなります。


「あ、コレ絶対勝てんわ」

 

 地球に存在する映像記録を閲覧し、星を守る戦士達の戦いを目にした俺は開口一番にそう言葉にした。

 はるばる太陽系にまで宇宙船でやってきて、映像を見ることが最初にするのはどうかと思うが、最初にこの映像を確認しておいて本当によかったと思える。

 

「弱音ですか? 自信家の貴方様にしては珍しい」

「俺は自信家じゃない。できることを当然のようにしているだけだよ」

 

 宇宙船の中枢で情報を閲覧している俺の元に、MEIがやってくる。

 この俺の最高傑作にして、戦闘以外もなんでもそつなくこなしてくれる可憐で万能すぎる機械生命体な彼女に、俺は、腕を組み悩まし気に唸る。

 

「で、俺が忠誠を誓う組織の頂点様が次に侵略を指示した星についてだが……」

 

 星将序列二桁に言い渡された突然の指令は、地球の戦士をターゲットにした闘争。

 倒せば序列の繰り上げと、可能な限りの褒賞を得られるという破格なもの。

 

『地球という舞台の上で、星将序列として恥じることのない戦いを楽しむがいい』

 

 ただ、それだけ伝えられたが、それではいそうですか侵略します、と行動に移せるほど俺は簡単な頭をしていなかった。

 なにか確実に裏がある。

 地球という小さな星に我々が干渉するだけの価値があるのか?

 それだけの敵がいるのか?

 なぜ、あの方が命令してまで序列二桁の者を向かわせる?

 

「調べた結果、この星には特筆して希少な資源はなにもない。文明レベルも低く、我々のような他の生命体を認識していない」

「では、侵略は容易いのでは? それこそ序列下位でも十分に可能かと」

「お前も記録を見てみろ」

「了解」

 

 MEIの目の光が連続して点滅する。

 ほんの数秒で情報を閲覧し終えた彼女は、珍しく困惑した様子で首を傾げた。

 

「文明レベルが低いはずなのに、ゴールディ氏の強化スーツを纏っている? これはいったい……」

「悪魔の科学者ゴールディの潜伏先は地球ということだ。賢い男だよ。脅威レベルの低い星ならば、他の序列からの目も向けられないからな。……個人的に会えないものか……」

 

 強化スーツという驚異的な発明を成した科学者は、ある時を境にその姿を消した。

 彼が姿を消したその後は、劣化コピー品……いや、良く言えば誰でも扱える程度に劣化させたスーツが、現在の序列44位から出回り始めた。

 当時の俺は、序列にも入っていないミニマムアンドロイドだったが、それでも技術力のみで序列二桁に上がりつめた彼を尊敬していたのだ。

 

「同じ科学者としては、敵味方云々を抜きにして語り合いたいところだ」

「きっと喧嘩になられます」

「意見の食い違いを起こしてこそ、実りのある議論を生み出せるのだ。世辞も肯定もいらない、俺は批評してもらいたいんだよ」

 

 ……話が逸れたな。

 

「こいつ、こいつがやばい。やばすぎる」

「黒騎士、と呼ばれる戦士ですか」

 

 映し出された黒騎士。

 戦闘方法は単純で、ただ殴るだけ。

 だが、そんな単純な戦闘方法が最適解になってしまうほどのパワー。

 困難を押し通す身勝手さを秘めたその姿に、俺は恐怖と畏敬の念を抱いた。

 

「ゴールディの強化スーツに適合した生命体は恐ろしく少ない。そもそも強化スーツとは、意志を持つエナジーコアをスーツという枠組みに組み込み、その力を最大限に稼働をさせることを目的として造られたものだ。今出回っているスーツに内蔵されている人造コアとは比べ物にならないほどに、自分勝手だ」

「私のようにですか?」

「そうだな。意思を持っているという点では、君と同じだ」

 

 意思があるということは、当然好き嫌いもあるということだ。

 人を選び、装着するに値しない者の命を削り取り、最悪の場合その命すらも奪ってしまう恐ろしい兵器。

 

「アルファはコアに、オメガは獣に、ですか」

「悪辣だ。自身を律しきれなかったオメガは力に溺れ獣に成り下がり、オメガを失ったアルファは、物言わぬコアとなって使い潰される」

 

 序列100番台の獣たち(ナンバーズ)

 自我を失い、星を食いつくす獣と化した彼らは拘束具により自由を奪われ、兵器として扱われる。

 その姿は憐れ以外の何物でもない。

 

「……まあ、組織に属する者としては俺に憐れむ資格などないのだがな。……とにかく、問題はスーツだ」

 

 序列内でも、ゴールディの手により作り出された強化スーツを纏える者は限られている。

 真っ先に思い浮かぶのは、一位のヴァース様であるが。

 

「地球で確認された意思を持つコアは三つ。ジャスティスクルセイダーと呼ばれる三人の戦士のリーダー、レッドのスーツ、黒騎士のプロトスーツ、彼と同一人物である白騎士のスーツだ」

「そのようですね。二つのコアに適合していることは珍しいのでは?」

「相変わらず目の付け所がいいな。さすがは俺の最高傑作」

 

 とりあえず、レッドと呼ばれる戦士は戦い方が怖かったので少ししか見ていないが、黒騎士と白騎士については非常に興味深いどころの話ではない。

 

「ゴールディが盗み出したコアナンバー00—1と、地球を担当していたベガが彼を手駒にするべく取り付けたコアナンバー00—2は偶然にも、出どころは同じコアだった。それも、太古から存在するいわくつきのものだ」

 

 映像を宙に映し出す。

 そこには戦闘を行っている黒騎士と白騎士の姿が映し出される。

 

「黒騎士は現状警戒に値しない。なにせ記憶を失っているらしいからな。……いや、俺個人としては本当に安堵したのはマジでここなんだよ」

 

 地球で生まれ落ちた怪人。

 地球のオメガにより作り出されたソレらは俺から見ても怖気が立つような能力を持つ者ばかりだ。

 

「地球やばいぜマジで。もうヤバすぎて、なんで地球担当のアホ共は気付かなかったのかってレベルでヤバすぎだ」

「データによれば、『セイヴァーズ』は半ば放置していたと」

「どうせ、地球のオメガが弱いせいで地球人に負けたと思い込んで、甘く見ていたんだろう。……地球のオメガは、確実に我々の存在に勘付いていた。その上で我々と戦うための準備を行っていたわけだ」

 

 アルファの能力か? 既にその個体が死んだ今となっては分からないが、記録に残っている“概念”そのものに干渉しうる怪人たちに攻められたとなれば、痛手は免れなかっただろう。

 

「地球の戦士達は、星将序列二桁クラスの怪人との戦闘経験を幾度も重ねてきた者達。いわば戦闘に特化させたやべー奴らだ。侮りを抱いてかかれば、次の瞬間には死だ」

「修羅の星か何かですか?」

「蟲毒により完成させられた地球の希望。俺達からすれば最大最強の脅威だ」

 

 感謝する点があるとすれば、地球のオメガの野望を止めたことか。

 映像で残っているような面倒な能力持ちの怪人の相手をしたくねーわ。

 なんだよ、電撃ナメクジ怪人って。

 機械系の俺の天敵じゃねーかよ、あー怖っ。

 

「とにかく、現状気をつけなくてはならないのは、白騎士だ」

 

 黒騎士がいたとすれば、俺は地球に降りた体で適当に観光して時間を潰して帰っていたことだろう。

 だって相対して勝てそうな存在に見えないし、そもそも脅威度で言えばジャスティスクルセイダーも同じか、それ以上にやばいので会いたくない。

 

「彼は成長している。それも急激な速さで。いや、違うな、元の姿を取り戻すように。自分の足りない部分を補っていくように、異常な成長を遂げているのだ」

「確かに驚異的な力ではありますが、勝つ方法ならばいくらでもあるはずでしょう?」

「そうだ。ただ勝とうと思えば、地球という星の地表を遠距離から戦略兵器で燃やし尽くせばそれでいい。だが、それで倒せなかったら? 彼らの怒りは、こちらへ向けられると思うと俺は震えが止まらなくなるよ」

 

 手を翻し、三つのタイプの白騎士の姿を映し出す。

 白と黒が混ぜ合わさった姿“アナザーフォーム”

 アナザーフォームから派生する“タイムハザード”

 白を基調として三色の色を持つ姿“トゥルースフォーム”

 

「断言しよう。トゥルースフォームは、星将序列10位以内に食い込むほどの力がある。とにかくやばい」

「貴方様の姉君ほどに?」

「やめろ。俺に言わせるな、アレはどこで聞き耳を立てているか分からないんだぞ」

 

 顔から血の気が引く、機械なのに。

 これが脂汗か……! とアホなことを考えながら、次に映像を移し替える。

 

「ベガが初めて白騎士に“ダストドライバー”を取り付けたその日、彼はその溢れんばかりの力を以てして、戦略級の宇宙戦艦の内部を蹂躙しながら、我らが本拠地に単独で攻撃を仕掛けた」

「死すらも恐れないとは、このことを言うのですね」

「その後、奴は“あの方”と交戦した……と、推測している」

「……」

 

 黙り込むMEIに気持ちは分かるとばかりに頷く。

 あくまで証拠はない。

 だが、それに値する状況証拠は揃っている。

 

「順序立てて説明しよう。第一の根拠は、彼が地球に戻っているということだ」

「宇宙船のワープ機能で戻っただけでは?」

「その可能性も勿論ある。第二の根拠、彼の記憶がなくなっていることだ。……ああ、分かっているよ。これも彼が無理な進撃の影響で記憶喪失になっているだけということもある」

 

 あくまでその可能性も考えている。

 そのために、この後の根拠も説明していかねばならない。

 

「ここからは俺の予想も入ってくるが、次に変身した彼は能力のほぼ全てを失っていた。それはなぜか? 単純に力を喪失しただけならばそれでいい。……しかし、それが意図したものならばどうする?」

「……あの方が、そう仕組んだと?」

「少なくとも俺はそう考えている」

 

 俺の考えが正しければ、今行われている地球侵略は茶番に成り下がるだろう。

 なにせ、あの方は星将序列を当て馬にさせて、白騎士を成長させようとしているのだからな。

 

「段階的に上げて送り込まれる序列の者達。彼の実力に合わせて、時には少々上回る程度の敵と戦い、都合よく、成長し進化していく。極めつけには、アナザーフォームのワームホールを作り出す能力だ」

 

 まさしく、これはあの方の用いる“技”

 あらゆる世界を繋ぎ、破壊する超常の御業。

 それを白騎士は、特に疑問もなく扱ってしまっている。

 

「……なぜそのようなことを?」

「期待されているからだろう。……わざわざ、黒騎士とは異なる戦い方をさせているんだ」

 

 純粋に気に入ってしまったという線も考えられる。

 もしくは惚れてしまった……とか? いや、それはないか、うん。

 我々が見ていない空間で、彼があの方に何を見せたのかは理解できない、が、この推論が正しいと仮定すれば俺達の立場は非常に危ういものとなる。

 

「ここで重要なのは、我々星将序列は白騎士のための当て馬でしかないことだ」

「倒してしまえば問題ないのでは?」

「いいや、それでは駄目だ。ジャスティスクルセイダーが単純に強すぎて無理ということもあるが、それでは“あの方”の怒りがこちらに向かう可能性がある」

 

 プロトスーツ時代の黒騎士の時点でとてつもない強さを秘めていたのだ。

 だが、あの方が記憶を消してまで彼を育てる理由は、自分好みの戦士に作り変えることか、それと合わせて拳以外の戦闘方法を経験させようという腹積もりだろう。

 

「その1、あの方は白騎士の様子を逐次見守っている。その2、白騎士を倒すことに成功してしまった場合のリスクが高すぎる。その3、かといってこちらが負ければ、白騎士に温情を掛けられたとしてもジャスティスクルセイダーには確実に止めをさされる。……ああ、笑ってしまいそうなほど捨て駒扱いだな」

 

 これから取るべき行動は俺の運命を左右するといってもいいだろう。

 大人しく戦って死ぬか、一か八か勝利のために本気で戦い、あの方の怒りを買うか。

 

「なら、うまく立ち回るだけだ」

「と、いいますと?」

「俺が白騎士を強くさせる。んで、成長させた後は良い感じに負けてリタイヤ。それで“あの方”も満足だし、俺達も生き残れるってわけさ」

 

 そのためにもまずはMEIの戦闘形態の量産と、他ならぬ俺が戦ったという事実を見せるために作戦を練らなければな。

 白騎士を成長させるトリガーはなんとなーくわかっている。

 

「さあ、黒騎士の動きを再現できる我が肉体を作るとするか」

 

 なるべく早く行動に移らないとな。

 組織も一枚岩じゃない。

 これを機に頂点様に牙をむこうとしている奴もいるし、地球側に寝返るやつもいるかもしれない。

 なにより最悪なのが、それすらも“あの方”は楽しんでいるということだ。

 


 

「成長させる、といったが本当にとんでもないなぁ! 白騎士!!」

 

 金色の装飾が施された姿、ブレイクフォームへと変身を遂げた白騎士の一撃は、再現した黒騎士の拳と互角以上の力を発揮させ、この俺を地上へと弾き飛ばした。

 あちらも同じく吹き飛ばされたが、問題なのはこの短時間の劣勢の中で急激な進化を遂げたということだ。

 

「ブレイクフォーム! まさしく殻を破ったな!」

 

 もしくは、セーブモードとしての上限を壊してみせた姿。

 俺を追うように地上に飛び出した白騎士。

 溢れんばかりの敵意を目にし、俺は今一度機械の肉体をさらに酷使させる。

 

「ハァ!!」

「ッ」

 

 真っすぐに突き出された拳が奴の腕で防がれる。

 先ほどまで圧倒することができた黒騎士の突破力に、今の白騎士は抗ってみせる。

 

POWER(パワー)koujyou(向上) siteorimasu(しております)

「具体的な数字は!?」

 

 脳内で聞こえてくる声にサーチをかけてもらうように願い出る。

 デキルダケハヤクネ!

 

imanoanatadehakatemasen(今の貴方では勝てません)

sugusama(すぐさま) sokujinoridatuwosuisyousimasu(即時の離脱を推奨します)!!】

 

「くっそ使えねぇAIだなぁ!!」

 

menntenannsu(メンテナンス) AI(エーアイ) desunode(ですので)

 

「いつも変な部品混ぜてごめんなぁ!!」

 

 そういえば、メンテナンスAIに任せているんだったわ!

 肝心のMEIは全システムをジャスティスクルセイダーとの戦闘に割いているせいで、こちらに最低限のサポートしかできていない。

 だが、このパワーの上がり方からして新たな形態の特性は純粋な基礎性能の向上か!

 恐らく、今のままでは序列二桁星将序列との戦闘についていけないがために、自ら進化を遂げてみせた!

 

「だが、お前が戦う相手も、またお前だぞ!!」

 

 再現率を引き上げる。

 機械の肉体が悲鳴を上げる。

 一歩踏み出す度に、全身から電撃が迸り宙に金色の残滓を放ちながら、俺の肉体は確実に破壊へと向かっていく。

 

「ハァァ!!」

「オラァ!!」

 

 白騎士も俺と同じく、しかし別の原理で金の粒子を放つ奴と拳と蹴りを交わす。

 本来、俺の戦闘方法は、戦闘特化型ボディにインストールさせたMEI軍団によるものだ。

 自分で戦うことなどもっての外だ。

 だが……!!

 

「だが、こうでもしないとな!!」

 

 “見ている”。

 白騎士を通して、この戦いをあの方が見ている。

 ならば、俺の目論見は成功だ。

 

「だが、そう簡単に勝ちは譲らん!」

「……お前は、強い!!」

「強いのはお前の方だろう!!」

 

 嫌味かぁ?

 何度目かの拳を全力で叩きつけようとすると、奴が全力で前に踏み込み――ー俺の右腕が半ばから斬り飛ばされる。

 腕を振り切った白騎士の手には、三日月状の武器が握られていた。

 ソレの持ち手の両端の部分に、金色の刃が存在するおかしなものだ。

 

「だけど、負けるわけにはいかない!!」

BREAK(ブレイク) ARROW(アロー)!!』

 

 ———弓か!

 即座に検索を終え、その武器の正体を見極めた俺は腕を取り換えるため、後方に跳び下がる。

 しかし、奴はおもむろに左手に持ち替えたそれの中央に存在する取っ手を、つがえた矢を引くように構え、指を離すと同時に、白いエネルギー状の矢を放った。

 

「ッ」

 

 猛スピードで放たれた一矢をギリギリで避けるが、続けて連続で放たれた矢の一つが脇腹へと突き刺さる。

 小規模の爆発とともに吹き飛びながら、それでも立ち上がり、残った左の腕で奴へと殴りかかる。

 

「ォ、オオオ!!」

 

 柄にもなく熱くなっている。

 もうここで負けていいはずなんだ。

 だが、そうしない理由も、俺には理解できていた。

 

「もう戦うのはよせ! お前は……!」

「ここにきて、ふざけたことを言うんじゃねぇ!!」

「ッ、ああ、そうかよ!!」

 

 不完全な駆動を繰り返した機械の肉体は崩壊しかけていた。

 それを相手も理解していたのだろう一瞬躊躇した素振りを見せながら、奴はそのまま弓の刃を巧みに振るい、俺の身体に斬撃を叩きつける。

 

「グ、オ、オォォ……」

「命乞いをするんじゃないのかよ……!」

 

 こいつは甘い。

 黒騎士と同一人物ではあるのだろうが……いいや、無慈悲なのは怪人にだけで本来はこの性格なのかもしれない。

 甘っちょろいやつだ。

 どうしようもなく、哀れでもあるが――気に入った。

 

ジ……ギ……躊躇、するなよ……!!」

「……ああ」

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 ショートして動かない肉体。

 まるで痛々しいものを見るように、悲痛な声を零した奴が自らのバックルを叩き必殺技を発動させる。

 バックルから金色の光が溢れだし、奴の腕を伝って弓へとエネルギーが流れ込んでいく。

 

BREAK(ブレイク)! ARROW(アロー) CHARGE(チャージ)!!』

 

 静かに放たれた光速の一矢。

 それは、俺の胸部へと一直線に叩き込まれ、身体の内側を粉砕し、今にも爆発することを予感させた。

 だが心配はない。

 いや、割とピンチなのだが、ここまでボコボコにされること以外は計画通りなのだ。

 

お待たせしました。マスター

 

 その軽やかな声と共に、俺の頭は横から飛んできたMEIに鷲掴みにされ、爆発する肉体から無理やり切り離される。

 一体だけ隠していた隠密特化型ボディのMEIにより一命をとりとめた俺は、頭だけになりながら唖然とした様子の白騎士に揚々と声を投げかける。

 

「頭だけ取れたー!?」

「フハハハ! 残念だったな白騎士! 実のところ俺は頭さえ残っていれば割と無事なのだァ!! では、やりたいことも終わったのでさっさと帰るぞ!!」

了解

「あと、ちょっと俺の持ち方が雑じゃないか? なぁ?」

 

 頭を鷲掴みにするのはどうなんだ?

 さりげない不満を口にしていると、MEIは何も口にせずに宇宙船への転移の準備を進める。

 

戦闘を行っていた二体は既に破壊されました

「……速くねぇか? 想定していたより5分速いんだけど」

このままここにいれば、確実に始末されます

 

 怖すぎないかジャスティスクルセイダー。

 心底震えながら俺とMEIは転移を行い、宇宙船へと帰還する。

 

「ふぅ、死ぬかと思った」

生首だけだと、愉快な見た目ですね

「誉め言葉として受け取っておく」

 

 あんな存在が地球にいるとは恐れ入る。

 だが、目的は果たした。

 これで序列50位としての戦闘は終わったので、後は自由だ。

 今の時点であの方に殺されていないのがその証拠だろう。

 

……マスター

「おう、なんだ」

ただいま、転移反応を確認いたしました。この宇宙船に、星将序列七位——マスターの姉君がいらっしゃっております

 

 ……。

 ……、……。

 

「嘘だろ……?」

 

 ここにきて、厄介ごとに巻き込まれるの?

 俺? 首だけなんだけど!?




ブレイクフォームの専用武器は弓。
うまく立ち回った先に、理不尽でトラブルメーカーの姉に急襲されるジェム君でした。


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口喧嘩と必勝法

今回はギャグ&ブルー回。

前半はブルー視点。

中盤からは主人公視点となります。


 私達、ジャスティスクルセイダーが学校に通っている理由は、普通の人間としての生活を忘れないようにするためだ。

 少なくとも私、日向葵はそう思っている。

 怪人との苛烈な戦いは人間性を削り、その思考を鬼へと変える。

 レッドであるアカネあたりは完全に普段の生活と、戦闘時の気持ちの切り替えができているあたり異常だ。

 イエローのきららは、家族というメンタルケアがいることから精神的な心配はない。

 私は……まあ、精神的に図太いと小さい頃から言われているので、それほど自分が変わったという自覚はない。

 例え、戦いの中に身を置いたとしてもだ。

 

「葵ってさ」

「なんぞ」

 

 平日の昼休み。

 夏休みを目前にさしかかり休みまでに学業を惰性的に過ごしている私に、同じクラスの友人、天花 緑(あまはな みどり)が手作り弁当なるものを口にしながらそんなことを聞いてきた。

 

「変な子だよね」

「……今更?」

「自覚あったんだ……!?」

 

 緑っぽい黒髪を後ろで一つに結ったミドリは衝撃に打ち震える。

 

「葵って不思議ちゃんどころじゃないし」

「いやいや、私、理系だから」

「それ毎回言っているけど、キャラ付けのつもり?」

「なってるでしょ?」

「なってないよ!? あんたどんどんオカルト方面に向かっていってるじゃん!!」

 

 オカルトも突き詰めれば立派な科学なのだ。

 なぜ、それが分からない。

 

「まったく、これだからトーシローは」

「すっごいイラっときたんですけど」

 

 私もお腹が空いたので、鞄から布にくるまれたタッパーを取り出す。

 そこにはサンドイッチが綺麗に並んでおり、タマゴサンド、ツナサンドなどシンプルなラインナップに彩られている。

 

「あれ、いつもと違うね」

「行きつけのカフェで作ってもらった」

「買ったんじゃないの?」

 

 聞いてくれるのかな?

 ならば、話そう。

 

「フッ、行きつけの店のバイトの人がサンドイッチを作る練習をしてる情報を掴んだの」

「あー、葵が気になっているって人の……」

「で、その人にお願いしたの」

「うん」

「それで、練習のためのサンドイッチを作ってもらうことに成功した」

「図々しいよね? 恥を知れよ」

 

 酷い言われようだ。

 これが、私の友達の姿なのか……?

 

「図々しいかどうかは私が決めるとするよ」

「……それでも……!!」

「……」

「……」

「やめよっか」

「そうだね」

 

 ネタも振りすぎれば不毛なのだ。

 サム八語録は無敵ではあるが、負けないから無敵であって勝つから無敵であるとは限らないのだ。

 先ほど購入した紙パックのジュースにストローを突き刺しながら、昼食を食べる。

 

「これを私のマブダチの先輩二人に見せて煽ってやろうと思ったけれど、獣のごとく襲い掛かってきそうと理系シックスセンスが発動したのでやめておいた」

「どうしよう、ツッコミどころが多すぎて捌ききれない……!?」

 

 きららは割とふざけてくれるからいいけど、アカネが本気になれば私も本気にならざるを得ない。

 ジャスティスクルセイダーは仲良しではあるが、それは時と場合で変わる時もあるのだ。

 

「先輩達と仲いいのってどうなの? 私はそんなに知らないんだけど」

「アカネ先輩は王道負けヒロイン。きらら先輩は、眼鏡取ると美少女に変わるタイプのヒロイン

「ねえ、ギャルゲで例えるのやめてくれない?」

「緑は主人公の友人タイプで電話十回くらいするとルート解放される――」

 

 無言のまま緑から振り下ろされる手刀を甘んじて受ける。

 かよわい女の子なので暴力には弱いのだ。

 

「あんたって本当に、変! 私達とは違う生き物みたい!」

「そこまで言うか」

「世間一般の同年代と比べて、なんかズレてるじゃん」

 

 そのようなことはありえない。

 緑の言葉に呆れ、肩を竦める。

 

「なにを言う。漫画とかアニメとか小説とかも好きだよ」

「範囲が広すぎるし、その内容がネタに振り切っているのもどうかと思う。……じゃあ、好きなゲームなによ? パズル系?」

「ブラボ」

「なんッで! 女子高生がブラッドボーンを推してんのよ! その時点でおかしすぎるわ!!」

 

 知ってる緑も相当だと思うんだけど。

 ツッコミ疲れたのか、水筒からお茶を一気飲みした緑は椅子に座り直す。

 

「アホなことを除けば、あんたは天才だと思う。アホだけど」

「二度も言ったー」

「何度だって言いたいわ」

 

 そこまで言うか。

 呆れた様子の緑は机の頬杖をつく。

 

「まあ、まだこういう話ができるうちはあんたも大丈夫そうね」

「私はいつだって変わらないよ。どんな状況でも」

「……本当に、気を付けてよね。あんたがいなくなったら、結構寂しくなるんだから。あんたが席からいなくなる度に色々しなきゃいけないこっちの身にもなりなさいよ」

 

 友人であり、校内の協力者の一人。

 それが緑だ。

 いつも心配をさせていることを申し訳思いながら、私は私らしく答える。

 

「緑」

「ん?」

「私以外に友達いないの?」

 

 さすがに勢いの乗った拳は避けた。

 冗談もほどほどにしないと痛い目を見る。

 また一つ、私は賢くなった。

 

「そういえばさ、あんたはどう思ってるのよ」

「どうって?」

 

 周りを一旦確認した緑が声を少し潜めて話しかけてくる。

 

「黒騎士が記憶喪失になってるってこと。私達は末端だから知らされてないんだけど、事実なのよね?」

「事実だよ。でも、今はそれほど気にしてないかな」

「え、そうなの?」

 

 記憶がなくなったわけじゃない。

 記憶をどこかに仕舞われてしまっただけなのだ。

 いずれは戻されると明言されているのなら、今の彼と絆を育めばそれでいい。

 

「私のやることはいつだって変わらない」

 

 敵を倒す。

 倒して、誰かの平和を守ることだ。

 サンドイッチの最後の一切れを口に放り込んでいると、腕に着けている腕時計型のチェンジャーが微細な振動を繰り返していることに気付く。

 ……どうやら、侵略者は私達に平穏を送らせてはくれないようだ。

 

「はぁ。緑、後は頼むよ」

「気をつけなさいよー。ま、こっちはこっちでなんとかしておくから」

「うーい」

 

 荷物を緑に託し、その場を走り出す。

 異星からの侵略者も怪人もこっちの都合を考えずにやってくるのは同じ。

 そこが一番厄介なところだ。

 


 

 また新たな侵略者がやってきた。

 一緒にカフェで働いていたアルファの知らせを受けた俺は、マスターに申し訳なく思いながらバイトを途中で抜け出し、現場へと向かう。

 途中でジャスティスクルセイダーの三人と合流し、到着したのは都会から少し離れた海岸であった。

 港とは異なり、白い砂浜が広がった場所に着地した俺達を待っていたのは、一人の異星人。

 

「やあやあ、待っていたよ」

 

 角のようなものが生えた目が真っ白な男。

 その手には本のようなものを抱えており、様相からして人間に近い様に見えるけれど、気配は全く異質だ。

 

「ッ!」

 

 レッドが無防備に立っている男に、飛ぶ斬撃を放つ。

 真っすぐに首へと飛んで行った斬撃だが、それは男の前に現れた不可視の壁のようなものにぶつかり、砕け散ってしまう。

 

「おっと、今の私に攻撃しても無駄だよ? 既にここは私の領域だからね」

「……」

「言葉を交わすつもりはない、と。それじゃあ駄目だ。君達にはこの私の分野で戦ってもらわなければならない。生憎、私は君達のように粗暴で野蛮な種族ではないからね」

 

 男が指を鳴らした瞬間、俺とレッド達の周囲が暗闇へと包まれる。

 これは、99位の時と同じ……!?

 

「相手にルールを押し付ける系だよ……あー、もう本当にこういう能力使うやつ嫌いだよ」

「相手の条件で勝たなきゃいけないのも面倒やしね……」

「めんど……」

「反応が呑気すぎやしないか君達!?」

 

 レッド達にツッコミをいれていると暗闇に包まれた空間に、フィールドのようなもの向かい合うように設置された四つの証言台のようなものが出現する。

 昔の時代を舞台にした映画で、裁判の時に見るような台。

 それを見て首を傾げると、その一つの前に俺達をこの空間に巻き込んだ男が暗闇から現れる。

 

「改めて自己紹介を私は星将序列077位“問答のケフカ”。知識の探究者であり、叡智を司る私ですが、今回は侵略者らしく私の土俵で、私の戦い方で皆様と相まみえたい所存であります」

 

 恭しくお辞儀をしながら証言台のような台に足を乗せる。

 すると台はひとりでに浮き上がり空中に固定される。

 

「この空間は私を含めて一切の攻撃は無効とされます。原理を教えたとして理解できるとは思ってもいませんので、固有の術を持っていると思ってくださっても構いません」

「……いちいち癪に障る言い方をするね」

「当然です。私は高度な知識を司る高次元の生命体。一方の皆様は、地球という限られた星に生きる者。持っている知識の格が大きく異なりますから」

 

 見下されているのは分かるけど、言い方が回りくどいな。

 とにかく俺達は物理的な攻撃を相手に向けることができない。

 ただそれは相手も同じはずだ。

 

「私の力は特定の“ルール”に準じた言葉の争いとなります。相手を同じ言語を用い対等な勝負の元、弁論を以てして勝敗を決めます」

「こっちが勝ったら?」

「生きて出られるのは、私か皆様のどちらかとなります」

 

 ケフカが手を掲げると、空中に五つの棒のようなものが現れる。

 五つに区切られたソレは、格ゲーの体力ゲージのように俺達とケフカの頭の上に出現する。

 

RED                 

BLUE                    

YELLOW               

WHITE                

 

 WHITEって俺のことか?

 たしかに白騎士って呼ばれてはいるけど。

 

「今回、掲げたルールは“悪口”とさせていただきます」

「わるぐち? は、悪口?」

「ええ。相手を罵り、打ち負かされれば頭上のゲージを徐々に失い、なくなれば発言権を失います」

 

 な、なんだそりゃ……。

 お、俺、悪口なんてあまり言ったことないし自信がないんだけど。

 

「え、えぇ、わ、私、人に悪口なんてあまり言ったことないんだけどなぁ」

「?」

 

 ちらちらとこちらを見ながらそう言ってくるレッドに首を傾げる。

 

「あんた怪人にいつもなんて言って切り刻んでいるか思い出せや」

「口汚いオプティマスブラッドじゃん」

「うぐっ……」

 

 するとレッドの頭上の体力ゲージが二つ分減り、残り三つになってしまった。

 味方の攻撃でも普通にダメージ受けているんだが!?

 自身の体力に気付いたレッドが、慌てた様子でケフカに叫ぶ。

 

「ちょっとどういうこと!?」

「えぇと、既に勝負は始まっておりますので、味方の悪口も攻撃と見なされますので気を付けてください」

「そういうことは早く言ってよ!? 最初からダメージ受けた状態から始まることになったんですけど!!」

「さすがに味方から攻撃される例はなかったので……いえ、あの……正直、普通に引いています」

「……ッ! ……!!」

「レッド、駄目だ! ここでは攻撃は通じないからっ!」

 

 とりあえず剣を引き抜こうとするレッドを止めつつ俺達は証言台へと上がる。

 すると宙に浮かんだ台は、空中で横一列に連結し、ケフカと向かい合うような形状へと変化する。

 並びは……レッド、イエロー、ブルー、俺の順番か。

 

「うわぁ、遊戯王の初期デュエルフィールドみたい……」

「え、なんて?」

 

 隣のブルーの呑気な呟きに驚きながら、ケフカへと意識を戻す。

 

「では、始めようか」

「四対一……ううん、三対一やけど、そっちはええんか?」

「ねぇ、なんで私を省いたの? ねえ?」

「別に構いません。何人来ようが私には関係がありませんので」

 

 これ、後でレッドのフォローをしておいた方がいいかもしれない。

 さすがにこの扱いはかわいそうだと思いながら、静かにこれまで体験することのなかった言葉を用いた勝負が始まる。

 

「では、手本を見せるために私からさせていただきましょう」

 

 本を抱えながらケフカがその視線をレッドへと向ける。

 

「この星では貴女はヒーローらしいですね」

「そうだよ、バーカ」

「なのに貴女は……ぷふっ」

「切り刻むぞ」

 

 途端に殺気立つレッドにイエローとブルーが頭を抱える。

 お、驚くほどに煽り耐性がない……!?

 まだ体力が削れてないけど、これまずいんじゃないか……?

 

「えぇと、オプティマスブラッド?」

「!?」

「危険度レッド?」

「……ッ」

「人斬りブラッド?」

「くっ……」

「これ、仮にも女性につける異名ではありませんねぇ」

「う、うぅ……」

「情けとして明言しませんが、貴女本当に女性としての意識を持っているんですか?」

 

 レッドの体力ゲージが一瞬で一になった!?

 肩を震わせたレッドはそのまま、やけくそとばかりに薄ら笑いを浮かべるケフカに叫ぶ。

 

「……ば、バーカ! バーカ! バァーカ!!」

「レッド。これ以上は話さない方がいい。スケットダンスのボッスンみたいになってるから」

「お、お前なんか物理で戦えば一瞬で撫で斬りだよバーカ! バーカ!!

「レッド、もうええ! ええんや! 喋らなくてもいい!!」

 

 な、なんて強敵だ……!? 

 あのレッドをここまで追い詰めるやつを初めて見たぜ……!!

 これは油断してかかっていい相手じゃない。

 レッドは実質、敗北しているから後は俺達で頑張らなきゃならない。

 

「レッド、あんたの無念は晴らしたる! 今度はこっちから攻撃や……!」

「どうぞ、かかってきてください。無個性さん」

「……」

 

 なんでイエローの体力が減ったぁ!?

 本当になんでだ!? やべぇなこの相手!?

 

「へ、へぇ、やるやんか。だけど、調子に乗るのもそこまでや!」

「え、すみません。ちょっと私の知る日本の言語とは異なるので聞き取れませんでした」

「……。調子に乗るのもそこまでだよぉ!!」

「あ、戻すのですか。まあ、所詮それだけのキャラ付けに過ぎないんですね。……呆れたものです」

 

 イエローの体力がものすごい勢いで削られていく!

 まだ何もしていない俺が言うのもなんだが、君達ダメージ負いすぎだろ!?

 

「レッドやブルーと比べても地味なんですよね。貴女、勝っているのはふくよかさくらいですね」

「いや、勝っているというより、むしろ邪魔なくらいやけど」

「グフッ、持つ者特有のテンプレ台詞……!?」

「なんで君がダメージを受けるんだブルー!? おかしいだろぉ!!」

「その邪魔さを得られなかった者もいる……!」

 

 い、意味が分からん!

 胸を押さえダメージを受けるブルーに驚愕する。

 さっきの流れでどうして君がショックを受けるんだ……!

 

「ま、まずい……」

 

 レッドが残り体力1。

 イエローが残り2。

 ブルーが残り4。

 俺が、依然として無傷。

 こ、こうなったら俺が頑張るしかない……!!

 

「他愛ないですねぇ、ジャスティスクルセイダー。では、次のブルーを手早く片付けて、最後に白騎士を料理してやりましょうか」

「ほう、この私を手早く、ね」

 

 なぜかここで既に1ダメージ受けているブルーが得意げに笑う。

 謎の自信だが、なにか秘策でもあるのだろうか?

 いや、ブルーは謎の口喧嘩の強さを持っているような気がする。

 

「期待外れもいいところです。噂に聞くジャスティスクルセイダーがここまで駄目な連中とは、これでは別の惑星の知恵を持つ生命体に勝負を挑む方がどれだけ有益か……」

「……」

「ブルー、貴女のことも調べましたよ。冷酷無比な狙撃手。意味不明な言動と、機転で――」

「フッ」

 

 嘲るような、失笑するような笑みを浮かべたブルーに、僅かに眉を吊り上げるケフカ。

 

「私達を見下していた割には、よくもまあ調べてきたようだね」

「情報収集をしてはいけないと?」

「そうまでは言わないさ。しかし、疑問に思ってしまっただけだよ」

 

 人が変わったように余裕の素振りを見せ腕を組んだブルー。

 

「高次元の知生体を自称するのなら、どうして私達の情報を事前に集める? そのようなことをせずとも君達は容易くこちらの思考を上回ることができるはずだ。なぜそうしない? できれば理由を教えてくれないかな?」

「なぜ、それを貴女に話さなければならないのですか?」

「多弁は偽り、沈黙は肯定。疑問に対して疑問に答えることは、図星を突かれたことを意味する。……そうか、なるほど理解したよ」

 

 な、なにが?

 なにを理解したんだ?

 首を傾げる俺達にブルーはケフカを指さす。

 

「恐ろしいのだろう? 私達が」

「ありえない!!」

「囀るなよ。これは言葉の勝負だろう? 勝負を仕掛けた君が激昂してどうする? それにほら……」

 

 次にブルーが指さしたのはケフカの頭上。

 彼の頭の上の体力ゲージは、一つ減っていた。

 

「一つ減っているぞ?」

「~~~ッ!!」

「恐ろしいと感じることを恥じる必要はない。安心するがいい、叡智の侵略者よ。それは同じ生物として抱く普通の感情だよ」

「同じ、生物だと……!! この私を、お前達と同列の生命体と見なすのか!!」

「ほら、また一つ減った」

 

 激昂し、また一つゲージが減り残り三つ。

 ハッとした顔を浮かべたケフカは、それでも怒りに肩を震わせながらブルーを睨みつける。

 

「まさか、この私を怒らせて……!」

「騙したつもりはないさ。君が勝手に怒りだし、君が結果墓穴を掘っただけのこと。『私は悪くない』

 

 さらに一つ減り、残り二つ。

 す、すげぇ、ここまで相手を煽るなんてすごい。

 

「ブ、ブルー、だよな?」

「うん」

「なんか人が違くない?」

「藍染ムーブしてるから。あとちょびっとクマー」

「???」

 

 アイゼンとは誰だ……? クマーとはなんだ……?

 ブルーに聞いてみても意味が分からないままでいると、何を思ったのかブルーはおもむろにチェンジャーを操作し、変身を解除させる。

 

「ブルーなにしてんの!?」

 

 静かにしていたレッドが慌てた様子で声を上げる。

 元の姿に戻ったブルー、葵はあっけらかんとした声を発する。

 

「こっちのほうがいいかなと思って」

「いやいやいや、変身解いたら危ないやろ!?」

「もしもの時は、白騎士君が助けて」

「いや、助けるけども!!」

「なら大丈夫」

 

 なぜに変身を解く必要が……!?

 そんな衝撃的な行動を目の当りにしていると、ケフカは深呼吸をし落ち着きを取り戻す。

 

「確かに、貴女は他のアホ二人とは違うようだ。だがもう油断はしない。これからは、こちらが調べた弱点を突き追い詰め――」

「ク、ククク」

「なにが、おかしい」

 

 やけに様になる悪役っぽい蠱惑的な笑みを浮かべた葵。

 素顔を晒しているからか妙に様になっている姿のまま、続きの言葉を叩きつけた。

 

「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ?」

「……なん、だと?」

 

 呆然としたケフカの声に、笑みを吊り上げた葵はそのまま困ったように肩を竦める。

 

「訊き返すとは、高次元の存在とはよほど耳が悪いようだ。だが生憎、私は同じ言葉を繰り返すほど余裕のある人間ではなくてね」

「黙れ……」

「おや、これは言葉の勝負ではないのかな? 黙っては勝敗はつくことがない。それでは君の目的を達成できないだろう?」

「……ッ!!」

 

 歯を噛みしめ踏みとどまるケフカ。

 その様相を目にした彼女は畳みかけるように口を開く。

 

「知識は無限に存在する。例えそれをどれだけ得たとしても、天に立つことにはならない。私も、君も、誰もがその場に立つことなどありえない」

「……なんたる不遜……!! それは、“あの方”への愚弄に他ならない!!」

「つまらない。所詮は、諦めた者。成長を諦めた者に歩みを進める資格はない。ましてや、“勇気”を以てこれから歩み続ける私達を止められる道理はない」

 

 か、かっこいい……。

 滅茶苦茶なことを言っているのに、凄みと口調とかで異様な説得力を持たせる葵の言葉に思わず聞き入ってしまう。

 

「敗北者である君にこの星の格言を一つ教えてあげよう」

 

 気づけばケフカの残りの体力ゲージは一つだけとなっていた。

 それを一瞬だけ見た葵は、とどめを刺すように指を突き付け——―最後の言葉を言い放った。

 

「向上心のないものはバカだ」

「ぐ、あ、ぁ……」

 

 夏目漱石!?

 勝手に星の格言にまで押し上げられてしまった台詞に驚愕していると、ケフカの身体がぐにゃぁぁ、と歪み始める。

 その一撃によりケフカのゲージがゼロになる。

 崩れ落ちる彼に、薄ら笑いを浮かべたブルーはさらに言葉を続けた。

 

「天を見ず、下を見るしかない地を這う虫には適切な表現だろう? 星将序列077“問答のケフカ”」

 

 ケフカの身体の崩壊に合わせて周囲の空間が崩れるように、元の海原の景色を映し出していく。

 

「そんな、私がこんなところで……」

「よし……ごほん……『お前』『なんだかギャグ回で倒されそうな敵みたいだな(笑)』

「こんなふざけた変な奴にぃぃぃぃぃ!?」

 

 そんな断末魔と共にケフカは消滅する。

 自分達も負けたらああなっていたのかと、改めてぞっとした心境になる。

 周囲の空間も元に戻ったところで、俺は葵が変身を解除していることに気付き、ハッとした顔になる。

 

「シロ! バイクとヘルメット!!」

『ガウ!』

 

 シロに出してもらったヘルメットを葵に投げ渡す。

 さすがに今から変身したら素顔を見られてしまう可能性があるので、このまま移動してしまおう。

 出現させたバイクにまたがり、ヘルメットを被った彼女に声を投げかける。

 

「乗れ、ブルー!」

「オーケー。まあ、今回は私が一番活躍したからね。アディオス、レッド、イエロー」

「「ちょ、待っ」」

 

 急いでその場を走り出し、空へと走り出す。

 生身の葵に気を使い、ほどほどのスピードを出しつつ光学迷彩機能を用いて姿を消す。

 

「私、すごかったでしょ?」

「ああ!」

「ふふふ……」

 

 しかし、口喧嘩で勝負を持ちかける異星人がいるとはなぁ。

 これはいよいよ直接的な攻撃力以外も重要になってくるかもしれないな……!!

 




※ブルーはその場のノリと勢いで煽っているだけです。

ブルー活躍回でした。
どうしてこういう変な言動のキャラをスラスラ書けるようになってしまったのか……。


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常連と姉

前半は主人公視点
後半はジェム君視点でお送りします。


 度々思うことだけれど、俺はよくここで働かせてもらっているなぁと思う。

 仕事中に抜け出すことも多いし、なんなら迷惑もかけてしまっているのにマスターは俺を辞めさせることなく、変わらずに雇ってくれている。

 

「ねえ、カツキ」

「うん?」

 

 最近は異星人がやってくることが多いので、今度こそは真面目に仕事をしようと意気込んでいると、ふとアルファが声をかけてくる。

 俺と同じくバイト時のエプロン姿の彼女は、遠慮気味に口を開く。

 

「カツキってペットとか欲しい?」

「ペット? アルファは欲しいのか? うちはマンションだから多分無理なんじゃないかなぁ」

「いやいや、そういう直接的な生き物じゃなくて……あー、なんというか喋るぬいぐるみみたいなやつとか、そういう感じのやつ」

「ぬいぐるみ?」

 

 どういう意味だ?

 ちょっと分からないが、アルファはそういうぬいぐるみが欲しいのだろうか?

 年齢的に別におかしくはないけれど、どういうことだろうか。

 

「いいんじゃないかな。バイトで溜めて買うつもりなの?」

「う、ううん。この前、プロトチェンジャー使って変身するように頼まれていたでしょ?」

「ああ、そうだね。もしかして、AIっていうとあの子のこと?」

「うんうん」

 

 店内に人がいないのを確認してからそう言ってきたアルファの言葉に思い至る。

 今は行方不明の黒騎士の着ていたスーツの改良版を試してほしいと言われ、つけてはみたが俺では全く操ることができなかったアレか……。

 その際に、腕時計型の変身アイテムに懸命に話しかけられたのを覚えている。

 

「君と話したがっていてさ。……その、どうかなって」

「全然構わないぞ」

「本当? よかった。なら後でレイマに話してみるよ」

 

 プロトチェンジャーか。

 またうちが賑わしくなりそうだな。

 

「おーおー、仲睦まじくて結構。だが客がいねーからって手を休めんじゃねーぞー」

「分かっていますよ」

 

 厨房の方で食材の確認などを行っていたマスターが顔を出してくる。

 話はするが、手を動かしていかなきゃな。

 

「ったく、お前はアレだな。最近、調子に乗ってんじゃないか?」

「どうしたんですか、急に」

「いや、最近、急に知り合った小娘共が来るようになったじゃないか。他人の浮いた話ほど面倒な話はないんで、さっさと馬に蹴られるかなんかしてくんねぇかって常々思っているんだが」

「そんなこと思っていたんですか、貴方」

 

 にやにやとしてそう言っているので冗談なのだろう。

 すると、無言で聞いていたアルファが、にやりと笑いマスターへと声をかける。

 

「マスターだってモテモテじゃん」

……もしかして喧嘩売ってんのか?

「きゃー、こわーい」

 

 声を震わせるマスターに、ささっ、と俺の後ろに隠れるアルファ。

 俺を盾にしないで欲しいなと思いつつ、マスターが最近、誰にモテているのかを思い出して苦笑する。

 

「は、ははは、あの人は悪い人じゃないと思うんですけど……」

「ざけんな。俺は生まれてこのかた、あんなに恐ろしい生物と遭遇したのは二番目だと思っているぜ……」

 

 一番目はなんだろうか?

 地味にそこが気になる。

 すると、不意にカフェの扉が鈴の音と共に開かれる。

 お客さんだ、と思いながらそちらを向くと、そこにはつい先ほどまで話していた人物がやってきていた。

 

「また来ちゃったわー」

「ゲェ!? 来やがった!?」

 

 入ってきたのは身長2メートルより少し下くらいの身長の大男。

 筋肉質な身体と、紫のシャツと赤のズボンというド派手な服を着た男性が躍動感溢れる挙動で店内へと足を踏み入れる。

 

「こんにちわ、サニーさん」

「こんにちわ! 相変わらず礼儀正しくて私嬉しくなっちゃうわ!!」

 

 オネェというべきか、服装もそうだが言動も性格もインパクトが強すぎて胃もたれしそうになるこの人は、通称サニーさん。

 本名は分からず、そう呼んでくれと言われたから呼んでいる、一か月ほど前から結構な頻度でカフェに来てくれている常連さんだ。

 

「ははは、そこまで驚くことですか?」

「ええ! 私の職場の人たち、みんな挨拶しないの! 全員スルーなの!!」

 

 三日に一度くらい来てくれるので、見た目のインパクトと親しみやすい人柄ですぐに覚えることができた。

 俺としても話しやすい人物なので、挨拶を交わしていると、ふとサニーさんの視線が俺の後ろへと向けられる。

 

「あら、アルファちゃん! またカツキ君の後ろに隠れちゃって! カワイイ!!」

「ぐるるるる……!!」

 

 サニーさんがやってきてから俺の背中に隠れて威嚇しているアルファ。

 いつもにこやかにお客さんに対応する彼女だが、相手がちょっと変わった人なので警戒しているようだ。

 

「こら、お客さんの前だぞ。すみません、いつもアルファが……」

「フフフ、気にしていないわ。小さなことを気にしないことが立派なレディよ」

「男じゃん……」

「ん? 何か言ったかしら?」

 

 ぐるんと振り返ると、ふいっと俺の背中に隠れるアルファ。

 そんな様子に苦笑しながら、サニーさんはいつも座っているカウンターテーブルまで移動する。

 

「アルファ、怖がりすぎじゃないか?」

「本能的に無理」

「動きにくいからしがみつかないで欲しいんだが……」

 

 とりあえずメニューと水を差しだすべく、アルファにしがみつかれたまま移動する。

 

「マスターも相変わらずのイケメンね」

「おいやめろよ気持ち悪ぃ……さっさと頼むもの頼んでお祓いされろよ」

「私、妖怪じゃないわよ?」

「巨漢のオネェとか妖怪以外のなんだと思ってんだよ」

 

 ドン引きした様子のマスターの毒舌に、サニーさんは笑顔を崩さない。

 

「そんなこと言って、照・れ・屋・さ・ん」

「カツキ!! 塩持ってこい!! 業務用でいい!!!」

「だ、駄目ですって! 相手はお客さんですからっ!!」

「ええい、お客様はミュータントだ!!」

 

 どういう理屈ですか!?

 顔を青ざめさせ塩を取りに行かせようとするマスターを止める。

 とりあえず、彼を厨房に移動させ俺が代わりにカウンターテーブルの前に立つ。

 

「すみません、お騒がせしてしまって」

「こっちが騒がせたようなものだから、謝らなくてもいいわよ。じゃあ、いつものお願いしてもいいかしら?」

 

 ブレンドコーヒーのアイス、それがサニーさんが最初に頼むメニューだ。

 コーヒーはマスターにしか淹れられないので、彼に注文を伝える。 

 数分ほどで、アイスコーヒーがサニーさんの前に差し出される。

 

「フフフ、私、ここのコーヒーのファンになっちゃったの」

「豆オンリーで出すぞ、化物」

「乙女はいつだってけだものなの」

「……。言ってやれ、カツキ」

 

 なんで俺に丸投げされたんですか?

 

「マスターも口では言わないけれど、自慢のコーヒーを褒められて喜んでいますよ」

「まぁ」

 

 声を潜めてそう言うと、サニーさんはニコニコとした笑顔で頷いてくれる。

 それに合わせて未だに俺の後ろにいるアルファは、子供のように裾を引っ張ってくる。

 

「あら、嫉妬しちゃって。そんなに睨まなくてもカツキちゃんは狙ってないわよ?」

「信じられない……」

「だって私の心はマスターに向いているんだもの」

「うっ……」

 

 マスターが顔を青くさせて厨房に逃げ込んだ……!?

 その様子にサニーさんは苦笑する。

 

「あまりからかうと可哀そうですよ」

「フフフ、反応が面白くて、ついね」

「マスターも、ああ見えて純粋な人ですから」

 

 サニーさんも分かっててからかっているんだろうけど。

 ふと、そのまま会話が途切れて静かな時間が流れていく。

 相変わらずアルファは俺から離れないのは、どうかと思うけれども。

 

「最近怖いわねぇ、異星人の侵略」

 

 数分ほど経ったくらいでサニーさんがそんなことを呟くように俺に言ってきた。

 

「そうですね……早く、終わって欲しいと思います」

「同感よ。私もあまり好きじゃないし」

 

 憂いを帯びたような顔で水滴が浮かぶコップに視線を落とす。

 

「みーんな、戦いなんて忘れて、おもしろおかしく過ごせればいいのにね」

「ははは、そうだったらどれだけよかったことか……」

「考え直してくれないかしら。ねぇ? ……駄目かしら?」

 

 ちょっと違和感のある尋ね方に疑問を思う。

 しかし、それほど気にすることでもないので普通に返事を返す。

 

「相手が考え直して、戦いをやめてくれたら万々歳ですよ」

「……。そうね、私もそう思うわ。やっぱり、カツキちゃんって凛々しいわね! 正直、嫌いじゃないわ……!!」

「いや、どういう話の流れですか」

 

 いきなりテンション振り切ったな。

 彼の声に驚いていると、いつの間にかコーヒーを飲み終えたのかサニーさんが立ち上がる。

 

「それじゃ、長く居座るのも悪いし、ここらでお暇させてもらおうかしら。ごちそうさまでした。お会計、お願いね?」

「あ、はい」

 

 いつも通りお会計を済ますと、サニーさんはにこりと微笑みながら俺とアルファを見る。

 

「カツキちゃん、アルファちゃん。また来るわ」

「はい。またのご来店をお待ちしております」

「ウゥゥ……!」

 

 まだ唸っているのかアルファ。

 君は、警戒心の強い子犬かなにかか。

 最後まで濃い人のまま、店内を後にするサニーさんを見送った俺は、一息つく。

 

「やっぱり不思議な人だな。サニーさんって」

「怪しい人だと思う」

「こら、失礼だぞ。あといつまでもしがみついているんじゃない」

「きゃうん」

 

 アルファを引きはがしながら気を取り直して、バイトの仕事に勤しむ。

 もうすぐ昼時なので、その前に色々と準備をしなくてはな。

 


 

STANDARDSUIT(スタンダードスーツ)№1078 roruauto(ロールアウト)

doutai setuzoku(胴体接続) ohayougozaimasu masuta(おはようございます マスター)

 

「ああ、おはよう。ようやく身体が出来上がったか。 ……出来上がってしまったか」

 

 首と胴体が繋がり、全身の感覚を取り戻す。

 覚醒した白騎士との戦いで肉体の大部分を失い首だけとなってしまった私だが、数日ほど時間を要すれば新たなボディを作ることは容易い。

 本当なら、目的も達成して万々歳なはずなのだが……。

 

「お体の調子は?」

「快調だよ、MEI。……それで、船内の状況はどうなっている……」

「姉君が滞在なされている区画は、予想通りの有様となっております」

「クソォ、あの電気生命体がァ……!!」

 

 映し出される区画の映像に目を落とすと、通路が焼け焦げ、この俺が選び、中には自らデザインし配置させた拘りのインテリアすらも目も当てられない有様になってしまっている。

 

「やはり予想通り、専用スーツを着ていなかったか……!!」

「姉君曰く、可愛くないから着たくない、だそうです」

「ぐ、うぅぅぅ……! 俺は機械! 機械でできているので心を乱されたりはしないぃぃぃ……!!」

 

 あの姉はここに来るたびに無自覚にこの船を滅茶苦茶にしていくからな……!!

 船の動力には近づかないという最低限の常識こそは守っているが、それ以外は自由気ままに船の中を散策し、無自覚に周囲に破壊をまき散らしていく、まさに生きる災害のような存在。

 

「マスターの復活に気付いたようです。近づいてきます」

「MEI、ボディは?」

「対姉君用の特殊防雷スーツとなっております。姉君がその気になれば意味をなしませんが、普段の余波ならば耐えられます」

「よぉっし……」

 

 俺のボディも同じ仕様なので準備はできている。

 数秒もしないうちに、ビリッ、という弾ける音と共に、目の前に突如としてエネルギーで体を構成させた人型の何かが現れる。

 

『ジェム、復活してくれて嬉しいぞぉ!! あぁ、もう首だけとなって可哀そうだったお前の姿はものすっごい憐れだったし、相変わらず不自由な身体を持っているなぁって軽く優越感に浸ったりした直後に、普通に心配になって、今日の今日までネリネりと船の中を歩き回りながらお前の復活を待っていたんぞぉ!!』

「と、とりあえず、俺から離れてくれレアム。壊れる、俺が」

 

 相変わらず返答を待たずに話し続ける姉だ。

 返答を待つその時間すらも、彼女にとっては億劫なほどに退屈なのは分かっているが、その話している内容は俺にとって劣等感をビシバシと刺激していく。

 相変わらずの傍若無人っぷりだな、こいつ……!!

 ビリビリと電撃を受けるボディに冷や汗ならぬ、冷やオイルを流しながら相対する。

 

「とりあえず、周りに電撃をまき散らすのをやめろ」

『あれれ、まき散らしてた? ここって私の実家感覚だから全然気にしてなかったわ』

「……」

 

 この姉をぶん殴れたら……!! ぶん殴れたらよかったのに、そうしたら電撃で壊れるのは俺の方だ……!!

 姉、レアムは、意思を持つ電撃である。

 なぜそのような肉体を持つことになったと説明するとなると、俺と姉が肉体を失う時にまで遡る。

 目の前で傍若無人っぷりを発揮する姉から現実逃避すべく、俺は脳内に過去を思い起こす“回想プログラム”を発動させる。

 

 

『フハハ! これでこの星は無限のエネルギーを手に入れることになァる!! お前達は誉ある人柱となるのだァー!!』

 

 大雑把な経緯を省くと、俺と姉のいた星は爆発してなくなった。

 別に侵略されたとかそういう理由ではなく、星にいた悪の科学者が生命体そのものをエネルギーへと変えるという控えめに言って、外道的な実験に失敗したからである。

 ついでに言うなら、俺と姉はその実験体だった。

 

『ジェム、逃げろ! 私を置いて!!』

 

 姉が被検体として選ばれ、大掛かりな機械に身体を取り付けられ実験が始まり、速攻で異変が起きた。

 電撃をまき散らしながら周囲を破壊する姉の姿に研究者たちは逃げ出し、俺も姉に吹き飛ばされながら急いでその場を逃げ出した――が、宇宙船に乗り込み、逃げ出す際に研究所が星すらも飲み込むほどの爆発を引き起こし、大多数の脱出艇を巻き込み、宇宙の藻屑へと消えた。

 

『こ、ここまでか……』

 

 勿論、俺の乗り込んだ船も例外ではなかったが、俺は肉体の四割を喪失させる大怪我を負いながらもなんとか生きながらえた。

 最後の力を振り絞り、思考及び脳内のデータを端末にコピーした俺は、元あった肉体を諦め、機械の肉体を持って新しく“生まれ直した”。

 まあ、そういう意味では俺は本人ではなくコピーのようなものだ。

 仮初の命と言われればその通りだが、本体は満足して逝ったのでそこらへんはあまり考えないようにしている。

 

『ジェム! 私だぞ、私!! レアムだ!』

 

 そんなこんなで急造の機械の肉体を用い、星の瓦礫を集めながらなんとか生きながらえていると、突如としてガス状のエネルギー体となった姉が現れ二度目の死を経験しそうになった。

 俺は機械の身体に。

 姉は、意志を持ったエネルギー体に。

 それぞれ元の肉体を捨て、異様な姿へと変化した俺達は、色々あって今の地位に納まることになったのだ。

 

 

kaisoupuroguramu(回想プログラム) syuurou(終了)

 

 つまり、肉体を失い、どういうわけかエネルギーでその意思を構成させた存在こそが、この姉である。

 生きる上で必要なものは存在せず、ただ空中にたゆたう僅かなエネルギーさえあれば、決して死ぬことのない規格外のエネルギー生命体、星将序列七位“双星のレアム”

 意思を持つエネルギー体である、姉の力は星一つを容易く破壊し、単独での宇宙間移動も可能な出鱈目な存在である。

 機械である俺にとっても天敵同然で近づきたくないのだが、これでも血を分けた姉弟なのでそういうわけにもいかないのだ……。

 

「レアム、頼むからスーツに入ってくれ」

『それよりさ、ジェム』

「聞けよ……!!」

『ジャスティスクルセイダーは強かった? 白騎士は強かった?』

 

 単刀直入すぎる話題に、それが目的かと察する。

 俺が地球で彼らの戦いを挑むと知り、その結果を聞きに来たのだろう。

 

「強いよ。でもまだあんたが出張る時じゃない」

『まだ? まだってことはさ……』

 

 電撃で構成された体から、さらに電撃が迸る。

 まるでレアムの高揚を現すかのように周囲を焼け焦がすその威力に、眩暈を覚える。

 

『私と戦えるくらいに強くなるってこと?』

「……ああ」

『そっか。ふふん』

 

 で、電撃を納めてくれたか……。

 まあ、嘘は言っていないし、地球が後々大変なことになるかもしれないが、それは白騎士かジャスティスクルセイダーがなんとかしてくれるだろう。

 

「じゃあ、俺とMEIは別の銀河の観光に向かうから、後は好き勝手に――」

『ジェムぅ、そんな堅いこと言うなよー。私達、姉弟だろ?』

「ふざけるなぁ!! お前のせいでここの修理をしなければならないんだぞぉ!! 頼むから、俺に干渉しないでくださいお願いします……」

「必死ですね、マスター……」

 

 この姉は星将序列七位の化物である。

 例え、地球の電撃ナメクジ怪人であってもこいつの持つ膨大なエネルギーを吸い取り切る前に、消滅させられるくらいにデタラメな存在だ。

 それより上の連中が六人もいることに、現実味がなくなってくる。

 

『それじゃあ、私の身体作って』

「脈絡がないな。おい。だから、お前の傍迷惑な電撃をまき散らさないスーツは作ったと」

『ジェムのセンスは嫌いだ。ゴテゴテしてるし、全然可愛くない』

 

 ……今、こいつなんつった?

 

「ふざけんな、クソ姉ェ!! この俺の造形美を愚弄するかァ!!!」

「お、落ち着いてくださいマスター!?」

 

 このシャープなボディに詰め込まれたロマンに、多機能な武装の数々!!

 無駄を最大にまで省き、機械としての魅力を詰め合わせた俺の作品たち……!!

 それを嫌いの一言で片づけるとは、例え姉だとしても許さんぞォォォ!

 恐れている姉にさえも食って掛かる俺だが、そんな怒りをものともせずに奴はふわふわと宙に浮く。

 

『近いうちに地球に行くから地球人に似せた生体スーツを用意しておいて』

「聞いてない!?」

『ジェムは話が遅すぎる。私はもうお願いはした。なら、後は実行することだけが私の望みだよ?』

「く、う、おおおおお!!!」

 

 弟は姉には逆らえない。

 例え、機械になったとしてもその事実は覆らない。

 俺は、オイルの涙を流しながら、研究室へとダッシュで向かっていく。

 

『もう三位が遊びに行っているらしいからなー、私も出遅れないうちに行っておきたいなー』

 

 やはり、レアムは俺にとって最大の障害だった……!!

 

「マスター、できれば私の分もお願いします」

「え、なんで……?」

「……」

「いや、可愛く首を傾げても誤魔化せないぞ。え、まさか、お前もそのボディ嫌だったの? MEI!?」

 

 死闘を乗り越え、平穏は訪れたはずだ。

 しかし、まだその平穏を享受するにはやらなければならないことがたくさんあるようだ……!!




戦闘なし回でした。

地味に壮絶な生い立ちのジェム君。
未だに姉と絶縁していないのは、なんだかんだでお願いを聞いてしまう彼の性格のせいとも言えます。

姉は肉体を持たないエネルギー体となります。
性格も傍若無人ですが、普通に動くだけでも強力な電撃をまき散らすので非常に傍迷惑な存在です。


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日常の戦いと、青の戦士

お待たせしました。
今回はいきなり戦闘から始まります。



 侵略者の猛攻はいつだって突然だ。

 こちらの都合を考えず、平穏を一瞬で打ち崩していく。

 昼夜問わず人々を危険にさらしてくる侵略者の出現。

 今回は、人々が寝静まっているであろう深夜に、侵略者の大規模な襲撃が行われた。

 

「「「白騎士ぃぃ!!」」」

 

 星将序列71位“三叉のアル・ムル・ガル”

 街中で現れるなり、そう名乗った赤、白、黒の三色の身体を持つ侵略者は、戦いが始まると同時に三体に分裂し、俺へと襲い掛かってきた。

 

BREAK(ブレイク) ARROW(アロー)!!』

 

 手の中に刃のついた弓、ブレイクアローを出現させた俺はルプスダガーとの二刀流で赤い個体をすれ違い様に切り裂く。

 斬撃は確実に赤いやつを両断し、真っ二つにしたはずだが、そいつはスライムのようにぐにゃりと身体を動かし胴体を繋げてしまう。

 

「ぬふふ!! この俺に斬撃は効かないのでアール!!」

「隙だらけだムル!」

 

 今度は白い個体が触手のように伸ばしてくる。

 それをダガーで切り裂き、持ち替えた弓からエネルギー状の矢を放つ。

 しかし、それは腕を大きく広げた白いやつに直撃すると、エネルギーが霧散して弾かれてしまう。

 

「矢を弾いた……!?」

「小賢しい飛び道具ムルねぇ……!! ガル!!」

「ガルガルガル!!」

 

 最後の黒い個体。

 獣のように四足で動くそいつが牙を剥き出しにして飛び掛かってくる。

 事前に察知し、噛みつきを回避しながらその腹部に蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 

「ガァル!!」

「無傷か……!」

 

 攻撃が通用しない。

 三対一という状況も厄介だが、それ以上に厄介なのが頭上にあるアレだ。

 

「もっと焦るでアール!」

「焦燥しろでムル!!」

ガルガルガルガルガルガルガル!!(お前が手間取っているその間に!!)

 

「「「この都市は滅ぶぞぉ!!」」」

 

 空から落下してくるは巨大な人型の巨人。

 全長、100メートルを超えるそれが、ブースターやら何やらで加速しながら大気圏から落下してくるその姿を見据えながら、俺は軽い焦燥を抱く。

 

「星将序列88位!!“巨人バーゴル”でアル」

「操縦者の存在が不可欠な、意思無きロボだムル!!」

ガルガルガルガルガルガル!(なので落として武器にしてみました!!)

 

「アルだのムルだのガルだのうるさいな!?」

 

 どいつがどいつだか分かりやすいが、語尾にわざわざつけるのはしつこすぎると思う。

 ———ッ、とにかくこいつらを早く倒さないとまずい!!

 

「お前らが色で耐性を持っているのは分かってんだよぉ!!」

 

 赤アルは斬撃。

 白ムルが射撃。

 黒ガルは打撃。

 それぞれの攻撃に完全な耐性を持っているのは、さっきの戦闘で理解しているのでその弱点を突く!!

 飛び掛かってきたガルに、ブレイクアローの斬撃を叩きつけ、切り捨てる。

 

「次!!」

「残念、外れアル!!」

「ガルゥ!!」

「なっ!?」

 

 背後から振り下ろされた爪が肩のアーマーに直撃する。

 ダメージこそは受けないが、たしかに耐性を超えて攻撃できたはずだ!!

 

「見当違いアル!」

「ムールッルッル!!」

「ガルガル!!」

 

「め、面倒くせぇ……!!」

 

 こいつらの攻撃は進化したブレイクフォームの防御力の前では脅威ではないが、ひたすらに面倒だ。

 このままアナザーフォームで、いや、これを使うには余力を残さなくてはならない!!

 

『カツキ君、敵異星人のスキャンを完了した!』

「司令!」

 

 マスク内で聞こえるレイマの声に応える。

 最近ようやく俺もジャスティスクルセイダーと同じように本部との通信ができるようになった。

 俺の視界データから、相手の怪人の弱点が分かればいいのだが……。

 

『君の考えは間違ってはいない!!』

「いえ、でも攻撃が効いてません!!」

『当然だ!! なにせ奴らは――』

 

 マスクの視界の色が変化する。

 サーモグラフィのように緑色の視界に包まれた先では、三体の侵略者の色がそれぞれを映し出される。

 

『姿を入れ替えて戦っているのだ! 姿と語尾で印象付けて耐性の入れ替えを誤魔化している!!』

「な、なんだってー!?」

 

 まさかそんな子供騙しみたいな手だとは……!?

 いや、確かに語尾と姿で、思考が固定されていたことは事実だ!!

 

『なのでこちらから色をつけてしまえば問題ない!! さあ、攻勢に出ろ白騎士!!』

「了解!!」

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 バックルを叩き、必殺技を発動させる。

 金色のエネルギーがバックルから足へと流れ込む。

 

「蹴りは俺達には効かないアール!!」

 

 腕を鎌のように変形させ、突っ込んでくる赤アル。

 だが俺の視界には、奴の色は黒――つまりは、打撃を無効化する姿だ。

 それを分かっていた俺は手で鎌をいなし、逆の足で赤アルを後ろに蹴り飛ばしながら、後方から触手を伸ばそうとしている白ムルへと、一度の跳躍で肉薄する。

 

「ムルっ!?」

「お前が斬撃の耐性だな!!」

「な、なぜバレッ」

 

BREAK(ブレイク)! POWER(パワー)!!』

BITING(バァイティング)! CRASH(クラッシュ)!!』

 

 

 繰り出された回し蹴りが、白ムル……否、赤アルの首へ直撃し地面へ叩きつけられ爆発する。

 視界が一瞬炎に包まれるが、手を休めている時間はない!

 バックルの側面のレバーを一度動かし、フォームチェンジを行う。

 

NEXT(ネクスト)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

 

「次はお前だ、黒いの!!」

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

 

 バックルを軽快に叩き、身に纏う白いアーマーを真紅へと変化させる。

 周囲に溢れだした炎をその身に吸収し、新たに変化した姿は、ブレイクレッドフォーム。

 剣を振る右肩から腕にかけて金の装飾が施されたアーマーが覆い、左肩からは赤い火の粉を散らすマントを伸ばした形態。

 

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー) (ツー) !!』

 

 手に片刃の剣。

 フレアカリバーⅡを握りしめ、打撃耐性を持つ黒ガルを狙う。

 

「させるかァ!!」

「お前は後!!」

「ぐはぁ!!」

 

 振り向かずに炎に包まれた裏拳を叩きつけ、赤ムルを吹き飛ばす。

 いちいち、一体ずつ相手にしなきゃいけないのは面倒だが、このまま何もさせずに勝負を決める。

 

「う、うおおおおおお!!」

「やっぱり普通に喋れたなぁ!! お前!!」

 

 四足状態からそのまますくりと立ち上がった黒ガルが鋭利な触手を伸ばしてくる。

 それを大きく振り回した剣で焼け焦がし、全て切り裂きながら、躊躇なく次の必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

「ハァァ……!!」

 

 両手で握りしめた剣を縦に構える。

 燃え盛った炎が空へと昇り、巨大な剣を形成させる。

 

BREAK(ブレイク) POWER(パワー)!!』

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

「ムル、逃げ——」

「ぬぅん!!」

 

 力に任せ剣を振り下ろし、10メートル離れた場所にいる黒ガルを両断し炎で一瞬で塵へと変える。

 爆発すらも引き起こさず、消滅した黒ガルを目にした赤アルは、その姿を白へと戻しながら、しりもちを突き、震えながら俺を見上げる。

 

「ま、負けを認める!! だ、だから命だけは!!」

「ッ!! なら、あれを止めろ!!」

 

 勝手なことを、と思いながら剣を突きつけながら空から落下しようとするロボを止めるように命令する。

 しかし、帰ってきたのは無理という言葉だ。

 

「あ、あれの中には誰もいないんだ! だから、破壊するかそのまま落下するしか道は……」

「もういい!! 司令、このまま作戦を続行するしかないそうです!!」

『ああ、まったくふざけたおバカ共だ!! 予備のプランすらも用意しないとはァ!! カツキ君、タイミングはこちらへ知らせる!! 君は――』

 

 そこで一旦言葉を切り、大きく息を吸ったレイマは続きの言葉を言い放つ。

 

『アナザーフォームへの変身を許可する!!!』

「了解!!」

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 空を見上げると同時に、手に出現させたグラビティグリップを起動させ、バックルへとはめ込む。

 周囲にエネルギーフィールドが出現し、アナザーフォームへの変身を開始させる。

 

BLACK(ブラック) & WHITE!!(ホワイト)!!』

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

 

 黒いアーマーの上から、白いアーマーが金属音と共にはめ込まれる。

 避難はほとんど終えているので、ここならばアナザーフォームを存分に使うことができる……!!

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

「よっし!! いつでもいいですよ!!」

 

 まだ白ムルがいることを確認し、バックルに拳を添える。

 視線の先は空ではなく、一際大きなビルの屋上に見える――青色の巨大な砲塔。

 

『ジャスティスクルセイダー! ビークル専用に組み上げたファイナルウェポンの使用を許可する!! あのデカブツにぶちかましてやれ!!』

『『『了解!!』』』

 

 射撃に特化させたブルーの合体形態は、人型ではなく巨大な砲塔。

 レッド達の持つコアのエネルギーを収束して放たれるその威力は、どれほどかは想像もつかないが、彼女たちの力を信じるなら、きっと成功してくれるはずだ……!!

 

『美味しいとこ、全部持っていくよ!!』

『ぶっ壊れろやぁ!!』

『照準は任せて、狙い撃つ』

『『『シュート!!!』』』

 

 砲塔から赤、青、黄の三つの色が混ざり合った巨大なエネルギー弾が放たれる。

 それは今まさに雲を突き破り、都市へ落下しようとするロボへと直撃し――、音もなく爆発する。

 数秒後には、地上にいるこちらにまで轟音と爆風が吹き荒れていく。

 

「破壊しましたか!」

『ああ、成功だ!! さあ、次は落下してくる残骸の排除だ!!』

「了解!!」

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

 

 空から落ちてくる大きな瓦礫を見据え破壊していく。

 ロボの大部分は破壊されたが、それでも落ちてくる破片は危険なので、危険な大きなものはこちらで破壊していかねばならない。

 

「そこ!」

 

 グラビティバスターをガンモードにさせながら次々と瓦礫を打ち落としていくが、やはりキリがない。

 レッド達もこちらに向かって来てくれているが、このままじゃ間に合わないことを悟った俺は、グラビティバスターを横に投げ捨て、グラビティグリップを押し込むように叩き、バックルを叩く。

 

COMPLETE(コンプリート)! TIME(タァイム)! HAZARD(ハッザァァァドッ)!!』

「十秒間しかないけど、それで十分だ!!」

 

 再度バックルを一度叩き、カウントを開始させる。

 

COUNT(カウント) START(スタート)!!』

10(テン)!!』

 

 十秒間限定の姿、タイムハザード。

 白のアーマーを消し去り、黒一色となった俺はそのままワープで空へと転移し、落下していく瓦礫を視界に納めると同時にワームホールを用いて、一か所に集めさせる。

 

3(スリー)!!』

「いける!!」

2(ツー)!!』

 

 無理やり一纏めにさせた瓦礫を再度、巨大なワームホールに転移させ空へと押し上げる。

 頭上を見上げた俺は、そのまま必殺技を発動させた後に、両腕を構える。

 

 DEADLY(デッドリィ)!! HAZARD(ハッザァァァドッ)! TIME(タイム)OVER(オーバー)

 

 両腕に黒いエネルギーが集める。

 先ほどの彼女たちの一撃には及ばないが、それでも瓦礫程度は破壊できる威力はあるはず!!

 

10 COUNT(テン カウント)!!』

ENERGY(エナジー)! FEVER(フィーバー)!!』

 

 バレーボールほどのエネルギー弾を空へと打ち上げ、瓦礫の塊へと直撃させる。

 エネルギー弾は、黒煙のような爆発を引き起こし、瓦礫を完全にこの空間から消滅させたことで、宙へと霧散していく。

 

「ッ、やっば!」

 

 アナザーフォームが強制的に解かれる前に地上へとワームホールを使って戻っておく。

 その直後に強制的にルプスフォームへと戻され、強烈な疲労感が身体へと襲い掛かる。

 

CHANGE(チェンジ) BREAK(ブレイク) MODE(モード)

「……ふぅ……」

 

 着地すると同時に軽く息を吐き出す。

 

『よくやってくれたカツキ君!』

「やってくれたのはレッド達ですよ」

『君の尽力あってのことだ。突然の事態によく対応してくれたな』

 

 いきなり空に落下してくる巨大ロボットが現れたときは驚いたけれど、なんとかなったな。

 しかし、安堵するにはまだ早い。

 俺は、背後から襲い掛かってきた白ムルの攻撃をルプスダガーでいなし、その横腹に蹴りを叩きつける。

 

「ぐぅッ!!」

「……。まだ、戦うつもりなのか?」

「疲労しているお前なら……!! 仇を、仇をォ……!!」

 

 攻めてきたのはそっちだろう、とは言わなかった。

 理屈とか関係なしに、相手は俺に憎悪の感情を向けてきている。

 

「分かった。最後までやろう」

「……う、オオオ!!」

 

 恐らく、相手も俺に勝てないことを理解しているのだろうが……それでも、戦わなければいけない理由があるのだろう。

 手加減はしない。

 そういう意味を籠めてダガーを構えると、相手は恐怖の声を上げながらこちらに飛び掛かってくる。

 迎え撃ち、カウンターを食らわせようとすると――ー、側方から高速でやってきた何かが白ムルを蹴り飛ばした。

 

「ガフゥ!?」

「ッ!? 誰だ!!」

 

 白ムルの代わりにその場に立っていたのは、青色の戦士であった。

 ブルーのようなスーツとは異なり、黒のスーツの上から光沢のあるクリアブルーのアーマーを纏った、戦士は白ムルを蹴り飛ばした足を引き戻した。

 

syuutaiwosarasuna(醜態を晒すな)

「な、なぜ、今回は俺達の戦いのはずだぞ!!」

syousyahasudenikessita(勝者は既に決した)

 

 異星の言語。

 マスク内で翻訳されたその声を聴きながら目の前の青い戦士に警戒を抱く。

 

『嘘だろ、あの強化スーツは……!?』

「司令……?」

『VERSION:REGULUSだと!? 適応する者がいたのか!?』

「レグルス……?」

 

 指令の驚きの声に首を傾げると、青い戦士はおもむろに俺と同じようなバックルに手を伸ばし、斜めに突き出しているスイッチをその手で押した。

 

PUNISH(パニッシュ) → L・E・O(レオ)

 

 腕を大きく引き絞った青い戦士の手に鋭角なオーラが纏われる。

 足場が炸裂するほどの脚力で前に飛び出した奴は、そのまま一瞬で白ムルの眼前へと肉薄した後に、その腕で相手の胴体を貫いた。

 

isagiyokutire(潔く、散れ)

REGULUS(レグルス) EXECUTION(エクスキューション)……』

「が、あぁ……?」

 

GAME(ゲーム) OVER(オーバー)ァ……』

 

 血のような青色の飛沫が溢れだし、腕が引き抜かれる。

 次の瞬間には、地面に倒れ伏し粒子となって消えていく白ムルを一瞥もしないまま、青い戦士の視線は俺へと向けられる。

 ……ジャスティスクルセイダーのスーツと似ているけれど、違う。

 俺のようにアーマーが取り付けられていることもそうだし、なにより侵略者と思われる奴がそれを着ていることが一番の問題だ。

 

「星将序列67位“コスモ”」

「……」

「君の存在を、ボクは許さない」

 

 指を刺され、そう宣言される。

 男か女かも判別できないノイズがかった声に一層に警戒し構えを取った俺に、コスモと名乗ったそいつは、腕についた青い血を地面へと払う。

 すると、ここに来る時に見せた高速移動を用いて、その場から駆け出しどこかへ消えてしまった。

 

「司令、追跡は……」

『すまない。こちらでも足取りは追えなかった。クッ……まさか過去の作品を使われるとは、こうなるなら断腸の思いで破壊しておくべきだったか……うぐぐぐ……とりあえず、一旦通信を切る。君はその場を離れて、本部に戻ってきてくれ』

「了解」

『戻り次第、君に渡したいものもある』

 

 レイマが通信を切ったことを確認し、溜息をつく。

 あれが過去に彼が作ったものかどうかは分からないが、相手が明確に俺を狙っているとなれば……気をつけなくちゃな。

 

――気を抜けなくなるな、カツキ

「ええ……」

――だが、お前なら大丈夫だ

「ははは、気休めでも嬉しいですよ」

――気休めなものか、いつも言っているだろう?

 

 内から自然と聞こえてくる声に応える。

 

「お前は強くなる」

 

 耳元から囁かれる声。

 そんな声に思わず後ろを振り向くも、そこには誰もいない。

 あるのは、人気のない静寂に包まれた街並みだけがそこにあった。

 

「……行くか。シロ」

『……ガウ』

 

 出現したルプスストライカーに跨り、空を走りその場を後にする。

 俺の日常は、いつだって侵略者との戦いにあった。

 時々、逃げ出したいとも、戦いたくないとも思うことがあるけれど、それでも俺は戦い続けなくてはならないんだ。




新しい戦士、コスモ登場回でした。
今後は謎加速を使うかは未定です。

このキャラを出すことは決定していましたが、コスモの性別自体は決めておりませんでしたのでアンケート機能を用いて決めたいなと思います。

初めてアンケート機能を用いるので、なにか不手際がありましたら申し訳ありません。
今回の話から投票を開始させていただきます。


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プロトと、嫉妬心

アンケート結果により、コスモは女の子となりました。
たくさんの投票、本当にありがとうございましたm(__)m

キャラ設定とストーリーも結果に沿ったものへと進むことになります。
アンケートの方は締め切らせていただきます。

前半が主人公視点。
後半がコスモ視点となります。


 “俺”の人生は、他の人と比べてあまりいいものではなかった。

 境遇もあまりいいものでもない。

 周りにいる人たちも、あまりいい人達ではなかった。

 

『俺は、必要とはされていなかった』

 

 両親の代わり、のような人たちは俺を追い出したがっていた。

 引き取った俺を邪魔者扱いして、俺がいないところでは悪態をついて、俺の前では話しかけもせずに無視を決め込んでいた。

 家族じゃない人たちとの生活。

 歩み寄ろうとしたことをすぐに諦めた俺も悪いのかもしれない。

 

『俺は、生きていてもよかったのか?』

 

 死んだ両親の記憶。

 記憶にべっとりと張り付けられたそれが、いつも夢に出てきたせいで、楽しい思い出もなにもかもが全て無意味なものに思えて仕方がなかった。

 正直、一人になれて助かった。

 例え、押し込められた場所が目も当てられないオンボロアパートだったとしても、一人になれればそれでよかった。

 まるで生きたまま死んでいたようだ。

 

『プロト、スーツ? なんじゃこりゃ』

 

 それを見つけたのは、まるで誰かの声に導かれるように俺はどこかの建物に入り込んだ時であった。

 特になにも考えずに、誰かが助けを求めていた気がしていた。

 誰かが俺を呼んでいる泣き声が聞こえていた。

 

『呼んだのは、お前か?』

 

 招かれたその先。

 暗闇に包まれた空間に、置かれたスーツ。

 それに触れた瞬間、俺の凍り付いた心に、これまで感じることのなかった熱が溢れだした。

 

「ッ!?」

 

 目を覚まし、身体を起こす。

 気だるい感覚に身を任せながら、俺は嫌な汗をぬぐいながら額を押さえる。

 

「ッ……な、なんだ……今の、夢……」

 

 誰の……俺の、記憶か!?

 思い出したくない、でも思い出さなければ……!!

 そんな相反する衝動に駆られながら、ベッドから降りた俺は、そのまま部屋内の冷蔵庫へと歩み寄り、いつも通り水を手に取る。

 乾いた喉を潤し、平静を取り戻したころで俺はようやく今いる場所が自分の部屋ではないことに気付く。

 

「……そうか、俺はここで寝ていたんだな……」

 

 深夜に侵略者の襲撃があってジャスティスクルセイダーの本部に泊まることになったんだよな。

 それでどういうことか、この部屋で寝るように勧められたわけだけど……。

 

「どう見ても独房だけど、そうとは思えない見た目なんだよなぁ」

 

 鍵こそかけられていないが重厚な扉が取り付けられた部屋。

 しかしその内装は、まるでたくさんの差し入れが持ってこられたようにもので溢れている。

 本や、勉強道具、映画、それにサボテンまでもが置かれいるのもびっくりだ。

 

『カツキ!』

「……ん? ああ、そうだね。君もいたんだった」

 

 テーブルに置かれた台に差し込まれたスマホのような機械。

 そこから、少女のような声が聞こえてきたことに一瞬驚く。

 

『おはよっ! よく眠れた?』

「おはよう、プロト。ちょっと微妙かな、ははは」

 

 深夜、本部に戻った直後にレイマに紹介された、携帯端末型AIの『プロトちゃん』というらしい。

 プロトチェンジャーで話しかけてくれた声と同じらしく、本当に生きている人のように受け答えできるすごいAIだ。

 

『二度寝する?』

「いいや、起きるよ」

 

 前よりも流暢に話していることに、成長速度の速さを改めて認識する。

 

「大分、話し方が自然になったな」

『頑張ったの! カツキのために!!』

「そうなのか……ありがとな」

『嬉しい!』

 

 ものすごい自然に受け答えしてくれるな……。

 すると、そんなプロトのいるテーブルの上に、オオカミ型のロボット、シロが飛び乗ってくる。

 

『ガウ!』

『むっ! 来たなー!』

 

 なにやら険悪な様子。

 声が波紋のように映し出させるプロトに、ぴょんぴょんと近づいたシロは何を思ったのか、尻尾でプロトを倒してしまう。

 

『や、やめろぉー!』

「こらっ、シロ! 駄目だろ!!」

『ガオ!! ガオォー!』

 

 なぜか言い訳するように鳴くシロ。

 どんな理由があっても、いじわるは駄目だぞ。

 

『わたしが姉なのにー!?』

『ガウァ――!! ガウガウ!!』

『ぬるま湯!? 温室育ち!? うわー、尻尾で叩くのはやめてー!?』

 

 また喧嘩を吹っ掛け始めるシロを引きはがしながらため息をつく。

 どうやら、シロとプロトの相性は悪いかもしれない。

 シロはいつも俺の傍にいてくれるし、プロトはハクア姉さんからアルファに任せておくべきかな……。

 

「時間は、朝の八時か」

 

 今日は幸い、バイトも休みなので急ぐ必要はないだろうけど、とりあえず着替えだけは済ませておこう。

 部屋の中の棚から着替えを取り出し……って……ん?

 

「なんで俺、着替えの場所が分かるんだ……?」

 

 ……俺は以前ここにいた時があったのか?

 

「まさか、これが葵の言っていた理系シックスセンス……?」

『違うと思うの……』

 

 そういえば昨日、レイマが貸し出してくれた服があったな。

 寝巻用のジャージに着させてもらったものと、部屋着用のジャージがあるので部屋着用の方に袖を通し、手早く着替える。

 すると、丁度いいタイミングで扉がノックされる。

 

「かっつん、よく眠れた?」

「おはよー」

 

 やってきたのは姉さんとアルファだ。

 アルファは姉さんと同じ場所で眠っていたようだ。

 

「おはよう。正直、戦いの後だから眠れたとは言えないかな」

「え、大丈夫?」

「ははは、大丈夫。一応は眠れたし、そこまで深刻な感じじゃないから」

 

 一瞬、悪夢じみた夢を思い出し頭から振り払う。

 

「あ、そうだ」

「「?」」

 

 俺はテーブルの上に置いていたプロトを二人に見せる。

 

「この子がプロトだ。二人はもう知っているのかな?」

「うん。カツキと会わせる前に何度も話しているからね」

『アルファ、私、友達』

「そうだったのか……」

 

 へぇー、仲がいいんだな。

 すると興味が惹かれたのか姉さんがプロトへと歩み寄る。

 

「わ、私は白川ハクア。えぇと、プロトちゃん?」

『ハクアは嫌い』

「ええええ!? なんで!?」

『つーん……』

 

 なぜに姉さんが嫌いなんだ?

 特に悪いことはしていないのに。

 

「姉さん、プロトになにかしたのか?」

「い、いやいや!? なにもしてないよっ! ……心当たりがないわけじゃないけど……」

 

 ちらりと俺を見る姉さんに首を傾げる。

 まあ、これから仲良くなっていけばいいだけの話だ。

 それはそうと、プロトと仲がいいというなら……。

 

「アルファ、プロトのことは君に任せるよ」

「あ、い、いいけど……プロト?」

『え? ど、どうして? カツキ……?』

「シロと喧嘩するからな。もし壊されたら大変だ」

 

 シロが誤って壊してしまったらレイマにも悪いし、なによりプロトも可哀そうだ。

 そういう考えでプロトはアルファに任せることになった。

 すると、静観していたシロが姉さんの肩に飛び乗る。

 

「ん? どうしたの、シロ? って、あたっ!? なんで頭をつつくのさ!? え、プロトの方を向けってこと!?」

『ガルー』

 

 つんつんと頭を口で突かれ、涙目でアルファと向かい合う姉さん。

 アルファとプロト、姉さんとシロという対照的な組み合わせだな。

 

『アルファァァ……』

「そ、そんなこと言われてもどうにもならないよっ……」

『ガルー』

「あ、ちょ、いたた!? 肩に爪が食い込んでるよ!?」

 

 そろそろシロの方を叱るか。

 いくら相棒でもやっていいことと悪いことがあるからな。

 

「シロ、それ以上やると俺も怒るぞ?」

『ガル……』

 

 感情が豊かになるにつれて、行動できることも増えていったがその分やっていいことと駄目なことを教えていかなくては。

 しゅんと落ち込むシロを姉さんから受け取っていると、ふと空腹にお腹を押さえる。

 

「……お腹空いてきたな……」

「なら、食堂に行こうよ。ここ、ちゃんと朝食メニューとかやってるし」

「すごいな、なら行ってみよう」

 

 昨日の戦いの後から何も食べていなかったからな。

 てか深夜だったし、寝ている最中だったし食べるとか関係ないんだけども。

 


 

『お前がヴァースの子か。また随分と幼いな』

 

 齢にして10になった頃、ボクは自身が仕えるべき絶対の主との出会いを果たした。

 姿は見えず、暗黒に包まれた玉座から見下ろした“あの方”はその声のみでボクに語り掛けてくださった。

 

 理解が及ぶことの敵わないほどのお力。

 

 姿は見えずとも、魅入られる存在感。

 

 ただその存在を認識しただけで、あらゆる有象無象の頂点に君臨なさっていると確信できていた。

 

 思えばこの瞬間からボクは魅入られていたのだろう。

 強制されることもなく地に膝を突き頭を垂れたボクは、御身に意識を向けていただけている事実に至上の喜びをかみしめていた。

 

『ぎ、義理の父でございます。ボ……私など、父上の技量の足元にも及ばない未熟者です……』

『そう自分を卑下するでない。さて……』

 

 玉座を包んでいた暗闇が晴れ、そこから青い肌を持つ女性が現れる。

 それが“あの方”の姿と即座に理解した私は、高揚と畏怖に身を震わせる。

 

『楽にするがいい。少しばかり話そうではないか』

『ハ……ハイ……!』

 

 序列二桁であろうとも、このお方の姿を見ることなどほとんどない。

 ましてや、そのお名前を知る者も、一握りいるかどうかだ。

 全てが謎に包まれた、あのお方の正体の一端に、ボクは声を上ずらせながらも頷いた。

 

『中々の潜在能力を秘めているようだ。あのジジィが目にかける理由も分かる』

 

 ゆっくりとした足取りで玉座を降り、こちらにまで歩み寄ってきた彼女は跪くボクを見下ろしそう呟く。

 

『さて、お前は星将序列を得て、どうする?』

『どうする、ですか?』

『心配するでない、ただの興味本位だ』

 

 強くなってどうしたいのか……。

 これまでは、滅びゆく星からボクを救ってくださった父上の恩義と期待に応えるため、研鑽を重ねてきた。

 だが、今この時からはボクの行動原理は大きく変わりつつあったのだ。

 

『貴女様のために力を振るう覚悟であります……!』

『……。ほう、それは勇ましいことだ』

 

 短い沈黙の後にそう返した“あの方”。

 この命は自らのものでは非ず。

 今生の全てを、主に捧げるためのもの。

 

『励むがいい』

 

 肩に手が置かれる。

 冷たい手の感触に身体を震わせるボクに、“あの方”は静かに冷徹に語り掛けてくださった。

 

『期待しているぞ、コスモ』

『ぁっ……はいっ!!』

 

 どれほどの喜びだったことか。

 序列の名を持たない頃の自分が、“あの方”に認識された。

 父を通して、ボクを見てくれた。

 たったそれだけの事実が、嬉しかったのだ。

 

 

「……日が昇ったか」

 

 どうやら暫し眠ってしまっていたようだ。

 座ったままの状態から立ち上がり、どこかの屋上から眼下の景色を見下ろすと、地球という星特有の街並みが視界に映りこむ。

 

「おかしな星だ……」

 

 地球人の姿は、奇しくもボクに限りなく近いが、その文明のレベルはあまり良いとは言い難い。

 しかし、そのような場所にあれだけの強さを持つ奴らがいるとは……。

 

『ギャーオ』

「うん?」

 

 ボクの足元に青色の生物型の機械がすり寄ってくる。

 その子を手に平に乗せ、視線を合わせる。

 

『ギャオー!』

「おはよう、レオ。警戒ご苦労さま」

 

 唯一の相棒であり、戦うための道具。

 かの有名な悪魔の科学者、ゴールディが心血を注いで作り出した傑作強化スーツの一つ。

 “LEGULUS DRIVER”

 

「……集合時刻か。変身して移動するか」

 

 持ち込んだ端末を確認したボクは、手の中でレオを変形させ、変身工程を開始させる。

 起動と同時に、腰にベルトが巻き付き変形させたレオ――バックルを、上からはめ込む。

 

『L・E・O』

 

 全身をゼリー状のエネルギーが包み込み、それらがスーツ、アーマーを形作る。

 

BELIEVE(ビリーブ) IN(イン) JUSTICE(ジャスティス)!!!』

 

 あふれ出す力を押さえ込むように、上から装甲を重ねて、ボクという戦士を完成に近づけていく。

 

WILD(ワイルド) FORM(フォーム) COMPLETE(コンプリート)……』

 

 エネルギーが血潮のように弾け飛ぶ。

 幾重にも重なった青色の装甲から空気を吐き出し、変身を完了させたボクは肩を大きく回しながら、手元の端末を操作し、専用のビークルを出現させる。

 

L・E・O(レオ) CHASER(チェイサー)

 

 空間から現れた青色のレオを模した空中に浮かぶバイク型のビークル、レオチェイサーに跨ったボクはそのまま空を駆けて、目的地へと走り出す。

 

「……!」

 

 透明化し、空を駆けながら思い出すは昨夜、遭遇した戦士。

 地球の守護者の一人、白騎士。

 可能性を秘めた戦士と父上が評していたが、その評価は誤りなどではなかった。

 

『コスモよ。我らが主は、白騎士にご執心のようだぞ』

 

 地球に向かう前に、珍しく見送りにやってきてくださった父上のお言葉。

 父としてではなく、星将序列一位として口にしてきたソレは、ボクの心を激しくかき乱した。

 

『名を教え、白騎士を導こうとしている。お前はどうだ? その地位に甘んじている場合か?』

 

 胸の内がかき乱される。

 

『期待しているぞ、コスモ』

 

 その言葉が、記憶が鮮明なものとなって思い起こされる。

 あの方の興味は、ボクには向けられていない。

 どこぞとしれない、辺境の星に住む一人の地球人へと向けられている。

 

『私を、そして“あの方”を失望させるな、娘よ』

 

 握りしめたハンドルに力を籠め、さらにビークルを加速させる。

 

「白騎士ぃ……!!」

 

 認められるか……!!

 ボクはまだ、失望されていない!!

 激情を理性で押さえ込みながらもボクは指定された目的地へと到着する。

 

「……ここか」

 

 ビークルから降り、周囲を見渡す。

 地球人の寄り付かない古びた倉庫が立ち並ぶ区画。

 周囲にいくつもの反応があることから、ここが呼び出された場所なのだと気付く。

 

「やあ、67位! 元気そうだねぇ!」

「!」

 

 声に振り返ると、そこには制服に身を包んだ少女が立っていることに気付く。

 腰には刺々しく不格好なベルトが巻かれており、その真ん中の宝玉――コアには怪しい意志のようなものが感じられた。

 

「ヒラルダ。なんだよ、その姿……」

「なんだって、そりゃあ、地球人の身体を借りているのさ」

 

 くるり、とその場を回った少女の目には光がない。

 星将序列46位“贄のヒラルダ”

 その悪辣な特性と戦闘力を聞き及んでいたボクは冷たい視線を奴へと向ける。

 

「地球人は、身体が弱くてね。気をつけないとうっかり殺してしまうから大変だよ」

「……悪趣味な」

「あははは! そりゃ、生きたままコアにされたらこうなって当然じゃん! できれば私としては、君の肉体を奪いたいところだけどねー」

「言ってろ」

 

 反吐が出る。

 意識を表面化させたアルファの末路の一つがあれだとは……。

 気づけば、倉庫内にちらほらとボクと同じ、序列持ちがやってくる。

 ある程度見知った顔もいれば、見たことのない奴もいるが、全員が序列二桁の実力者、さすがに30位以上はいないようだけど……。

 

「それで、どうしてボク達は呼び出されたんだ?」

「うーん、多分あれじゃない? 今後の戦いについてじゃない?」

 

 集められたのは序列30位から下の者達。

 それも地球で順番待ちをしている面々だ。

 

「集まったようだね、諸君」

 

 すると、倉庫内で声を発した男の姿を見つける。

 円形のマスクを被った厚手のスーツを纏った大男は、ボクを含めた全員を見回す。

 

「072とジェム君が来ていないようだが、彼らはどうしたのだね?」

 

 そう呟き首を捻りながらも、大男は顔も見えないマスクから声を発する。

 

「よく集まってくれた。俺は星将序列044位“ガウス”。君達には悪魔の科学者といった方が分かりやすいかね?」

 

 悪魔の科学者ガウス。

 ゴールディの強化スーツを、コピーし汎用性を高め流通させた奴だっけかな?

 ボク自身、他の序列のものに詳しいわけではないが、その悪名だけは良く知っている。

 

「此度は、今後の侵略において、ある提案をしようと思い。お前達を呼び寄せた」

 

 静観するボク達に満足そうに頷いたガウス。

 彼は手元の道具を地面に放り投げ、空中に映像を映し出す。

 

「この星を守るジャスティスクルセイダーと白騎士の力は本物。これまでの侵略と同様のやり方では、奴らを排除することすら不可能」

「なら、どうするのさー」

 

 楽し気に、場の空気を壊すようにヒラルダが野次を飛ばす。

 まるでそんな野次が飛ぶのを分かっていたかのように、大仰に腕を広げた奴は仮面の奥で不快な声を漏らした。

 

「同盟を組もうというだけの話だ。力を合わせて、皆で足並みを揃えて侵略をしようじゃないか」

「……くだらない」

 

 明らかに、同盟以外の目的を感じさせるガウスの提案にボクはそう吐き捨てる。

 ボクに視線が集まるのを感じながらも、背を向けその場を離れる。

 同盟を結ぶ者がいるだろう。

 ジャスティスクルセイダーは、それだけの強敵なのも理解できる。

 

「ボクが戦う相手は、一人だけだ……!!」

 

 今回のボクの目的は、白騎士だけだ。

 他のことなんて、どうでもいい。

 

『———コスモ』

「!!??」

 

 その場を離れ、隠れ家に戻ろうとしたところで声が頭に響いてくる。

 この声を、聞き間違えるはずがない!!

 

「な、なぜ!? 貴女様がボクなんかに!?」

『自身を卑下するでない。そう言っただろう? コスモ』

「はい……はいっ……」

 

 耳に手を当て、しきりに頷く。

 なぜか、どうして、という疑問がぐるぐると頭の中を回るが、あの方が直接ボクに語り掛けてくる事実がなによりもボクの思考を優先させた。

 

『白騎士と戦うつもりなのだな』

「……その、通りでございます。出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません」

 

 止められてしまうのか?

 ボクの醜い嫉妬心など承知しているはずだ。

 自然と身体を震わせるボクに、あの方は驚くほど穏やかな口調で語り掛けてくる。

 

『我が名はルインだ』

「ぇ?」

『些か不公平だと思ってな。お前にも我が名を授けてやろう』

「ぁ、あ……」

 

 驚きに声を失う。

 そんなボクの反応を楽しむように、あの方……ルイン様は語り掛けてくれる。

 

『白騎士とお前、どちらが強者であるか。証明してみるがいい』

「しょう、めい……」

『期待しているぞ、コスモ』

 

 その言葉を最後に、ルイン様の声は途切れた。

 呆然とその場に立ち尽くす。

 心の奥底で溢れてきたのは、白騎士への怒りなどではなく、かつてないほどの喜びの感情であった。

 

「ボクが、証明……する……」

 

 ルイン様のために、白騎士を打ち倒してボクの価値を示すんだ……。




嫉妬に駆られたコスモちゃんを激励してくれるルイン様は本当エボルトいい人。

頑張って流暢に喋れるようになったプロトと、宿主乗っ取り型ベルトの登場回でした。


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監視と急襲

お待たせしました。
今回は主人公視点となります。


 本格的な夏となって、蒸し暑くなってきた頃。

 バイトが休みの俺はアルファと一緒に、姉さんのいるKANEZAKIコーポレーションへと足を運んでいた。

 

「今日はお前達に重大なミッションがある!!」

 

 その際に、俺はレイマに呼び出されブリーフィングルームへと呼び出された。

 俺以外にその場にいるのはきららだけしかおらず、葵もアカネもその場にはいない。

 

「……他のメンツはどうした!?」

「アカネは夏期講習。葵は後で遅れてくるらしい」

「お前らのヒーロー意識の低さにびっくりだわ!! このナインジャーめが!!」

 

 きららの言葉に威勢よく叫んだレイマは次に俺の方を見る。

 

「カツキ君、さっきアルファも来ていたはずだが……」

「えーっと、アルファは軽い熱中症になってしまったようで……今はハクア姉さんのところに……」

 

『うぅ、あたまいたいー』

『アルファ、貧弱だなー』

『プロトうるさい……』

『ちゃんと寝てなよー、もう』

 

 この炎天下に慣れていなかったようだ。

 今は姉さんのいる医務室で横になっているようだから、後で向かってあげなくては。

 

「う、うぅむ。それでは仕方ないな……」

「ちょっと私とカツキ君の扱い違すぎひん……!?」

「シャァラップ! ……まあ、二人いれば十分、むしろ好都合か」

 

 するとテーブルに腰かけたレイマが顔の前で指を組む。

 深刻そうな雰囲気を醸し出した彼は、そのまま言葉を発する。

 

「大森君の様子が変なのだ」

「「変?」」

 

 大森さんが? なんで?

 首を傾げる俺ときららに、レイマが頷く。

 

「なんというべきか、最近は仕事が出来すぎているというか……前は、仕事のできる変人だったのに、今では仕事のできるキャリアウーマンな部分も出てきているというか……」

「めっちゃ失礼すぎひん?」

「さすがに大森さんが可哀そうなような……」

 

 社長から見てそんなにおかしいのか?

 

「なので、君達には大森君の異変の謎を調べてほしい!!」 

「いや、社長が調べればええやん」

「俺は避けられているからな。何故か」

「嫌われとるやん」

「俺は嫌われてない!!!」

「いや、必死か」

 

 大森さんに異変か……でも確かに心当たりはないこともない……。

 

「二日前、大森さんからお菓子の差し入れをいただきましたけど……あと、ついでに連絡先も交換しました」

「まだ貢いでんのかあの特オタァ!!」

「レイマ!?」

「カツキ君、知らない人から食べ物もらったらダメだって言われてるやん」

「大森さんって言ったよな俺!?」

 

 その場でテーブルを叩くレイマに、さも当然のようにおかしなことを言いだすきらら。

 いったい二人ともどうした!?

 夏の暑さに参っているのか!?

 

「午後に改めてお礼を言いに向かったんですけど、なんか大森さんちょっと機嫌が悪くなっていたんですよね」

「大森君はいつも機嫌が悪いぞ?」

「社長の前では、の間違いやん」

「大人が泣く姿を見せてやろうか? 見るに堪えんぞ?」

 

 睨み合う社長ときららの仲裁をしつつ、話を続ける。

 

「その後、休憩時間でいただいたお菓子を一緒に食べたらすぐに機嫌もよくなって……もしかしたら、日常生活に悩みとかを抱えているとか、そういうものかもしれません」

 

 大森さんは、俺がここに来た時から親切にしてくれている人だからな。

 レイマの頼みだから、というわけではなく純粋に力になってあげたい思いもある。

 

「とりあえず、彼氏ができたという事実はないことは確実だな」

「え、いや、どうしてですか?」

「君は……知らなくてもいいことだ」

 

 なんか諭されてしまった。

 とにかく、俺ときららは今日、大森さんの異変を調べることになってしまった。

 一日や二日で分かるとは全く思えないんだけど、そこらへんはレイマも分かっているのだろうか?

 

 あの後、俺ときららはブリーフィングルームから出て、大森さんと他のスタッフたちのいる研究室へと足を運んでみた。

 大森さんは暫し席を外しているようなので、まずは研究室内にいる数人のスタッフから話を聞いてみることにした。

 

『大森? ああ、最近ちょっと変わったよな。なんというか、最近元気というか』

『仕事中に、菓子のつまみ食いをすることが多くなった』

『同じ仕事量してるのに、大森だけいやに平気そうなんだよなぁ』

『まあ、仕事にはなにも問題はないし、別に気にしなくてもいいと思います』

 

 やはり他のスタッフたちも大森さんの変化に気付いているようだ。

 次の人に話を聞きながら、俺はメモに話の内容を書き綴る。

 

「最近の彼女ねぇ。なんだか二重人格みたいに性格が変わっているのよねぇ」

「二重人格? 具体的にはどのような感じで?」

「いつもの大森と、なんかいやに静かでクールな感じの大森って感じ。あと普段は小食なのに、前に一緒にカフェにいったら、もうどんどん頼んでびっくりしたわー」

 

 成長期かしらねー、とぽやぽやした様子で呟くスタッフさんに頷く。

 ふむ、二重人格疑惑か。

 ……もしや侵略者の魔の手が……?

 いや、それならもう既に動き出していてもおかしくないはずだ。

 

「それはそうとカツキ君、今公式の白騎士くんグッズの商品展開に関わっているのだけど、それについて話をさせて――」

「え?」

「今忙しいので、その話は後にしてくださいねー」

 

 首を傾げるときららに腕を引かれ、その場から移動させられる。

 いったい、どうしたんだ……?

 

「商品展開ってどういうこと?」

「グッズというものはね、カツキ君。誰でも欲しがるものなんよ……」

「そうなのか……むっ!」

 

 研究室に入ってくる影にいち早く気付いた俺は、きららの手を軽く引いて、近くのテーブルの影へと隠れる。

 

「ど、どどど、どうしたの!?」

「シッ、大森さんが来た。静かに」

 

 なぜかすごくビックリしているきららから、入ってきた大森さんへと視線を戻す。

 欠伸を噛み殺した彼女は、眠そうな様子でデスクへつき、作業を始める。

 

「真面目に仕事してる……」

「そうだな……」

 

 その様子を影から覗き見る。

 彼女は真面目にパソコンと向かい合っており、なにもおかしな様子はない。

 

「こういうのってスパイ映画みたいでワクワクするな……!!」

「なんのスパイ映画なん?」

「スパイキッズ」

「予想の斜め上すぎるわ……!? 私達生まれてないよ……!?」

 

 楽しい映画だったな……!

 後ろから伺う限り、大森さんは真面目に仕事をしているだけだ。

 

「なんか、異常はなさそうだな。というより、今俺達がしていることが異常なのでは?」

「……そうかも」

 

 レイマに頼まれているとはいえ身内とも言える大森さんを調べることになるとは……。

 彼も大森さんのことを心配しているのだろうか?

 ……ん?

 

「なんかしきりに時間を気にしているな」

「そわそわもしてるなぁ」

 

 ちらちらとデスクの上に置かれた時計を目にしている。

 途端に作業に集中できていないのか、挙動不審になる大森さんに首を傾げていると、彼女の前に置かれた時計がピピピ、と小さなアラームを鳴らす。

 いや、正確にはアラームが鳴った瞬間に、それを止めた大森さんがカバンから何かを取り出し、華奢な見た目からは想像もできない挙動で席を立ち、どこかへ向かっていった。

 

「え、大森さん!?」

「どこ行くん!?」

 

 突然の行動に驚く俺ときららに、近くに座っているスタッフが声をかけてくる。

 

「昼だからだよ。なんか最近、昼になるとものすごい早さで飯食いに行くんだ」

「そういえば、お昼時……」

「お昼ご飯食べにいったんか……」

 

 そこまでお腹が空いていたのだろうか?

 ……なんだか、俺の知る大森さんとは本当に印象が違うな。

 もうちょっと調べてみるべきと判断した俺は、きららと共に大森さんを追う。

 

「いや、待って大森さん歩くのめっちゃ早ない!?」

「み、見失うな!」

 

 すれ違う人を減速もせずに避けて歩く大森さんを小走りで追いかけるが、その差は狭まることはない。

 どれだけの速さかは知らないが、あそこまで急ぐなんてどれだけお腹が空いていたのだろうか。

 

「み、見失ったわ……」

 

 ついには上階の社員食堂にまでやってきたわけだが、彼女の姿を見失ってしまった。

 とりあえず、人が混みだす前に二階のテラスへ移動し、そこから一階の食堂テーブルを眺めながら大森さんを探すことにしたが……あっ!

 

「きらら、あそこにいたぞ!」

「あ、本当だ! お弁当広げてる!!」

 

 二階のテラスから一階の食堂のテーブルに座っている大森さんの姿を見つける。

 なにやら、目立たない場所で食べるようだが……ん? 食堂で頼まないで弁当箱を取り出した……?

 

「ほう、駅前の弁当屋“鈴峰”の毎20食限定の夏の彩り尽くし弁当ですか……」

「「ん!?」」

 

 俺ときららの隣からの声。

 驚きながら振り返ると、そこには菓子パンと牛乳を両手に持った葵が口元をもぐもぐさせながら、下を覗き込んでいた。

 

「まさか、あれを入手できる者がいたなんて……大森さんも、中々の曲者」

「葵、あんたいつここに……?」

「ん、ついさっき」

 

 ものすごい自然に溶け込んでたな……。

 その菓子パンとパックの牛乳は自前に買ってきたものだろうか?

 

「きらら、どうしてこんな面白いミッションに私を呼ばなかった?」

「いや、遅れてきたのあんたや。てかどこいってたんや」

「暑かったので朝10時までクーラー効かせた部屋で重役睡眠かまして、カツキ君のカフェに行って来たけど休みだったので、来てやったのだ」

 

 え、サーサナスに行ったのか?

 それは悪いことをしたな。

 

「あ、ごめん。言ってなかったな、今日マスターが私用で休みになってたんだよ」

「ううん、全然気にしてない。……きらら、この埋め合わせはきっちりしてもらうぜ」

「あんた、今日こそしばいたろかぁッ!」

「お、おおおお、落ち着け!! その手に持った椅子をどうするつもりだ!?」

 

 二階のテラスに置いてある椅子を軽々と持ち上げるきららを羽交い絞めにして止める。

 嘘だろ!? この子、力つっっよ!?

 

「騒ぎを起こしたら大森さんに気付かれちゃうからダメだって!?」

「フゥー! フゥ―!! フゥ―!!」

「謝るから、これで落ち着いて」

 

 するとどこからともなく取り出したもう一つの菓子パンの袋を開けた葵が、怒りを鎮めているきららの口にパンを押し込んだ。

 

「むぐぐ……」

「さて、大森さんはどうしているかなって……」

 

 スマホを取り出し、カメラのズーム機能を用いて大森さんの様子を伺う葵。

 きららは、不貞腐れたようにもぐもぐとパンを食べており、俺はなんだかドッと疲れた気分になりながら、改めて自分たちの状況を考えて、肩を落とす。

 

「ふむふむ、大森さんは米とおかずを計画的に食べるタイプと見た。今、大森さんの頭の中に浮かんでいるのは、どのようにご飯とおかずを効率よく合わせて食べるかという思考に他ならない……」

「いるんか、その情報?」

「普段の大森さんはそこまで几帳面じゃない」

「社長もそうだけど、あんたら大森さんに対して失礼すぎやろ……!!」

 

 ここまで言われる大森さんとは……?

 普通にいい人だと思うんだけどなぁ。

 ……いっそのこと、普通に話してみればいいのでは?

 こんな隠れて探るようなことしなくても大森さんなら教えてくれるだろうし。

 そうと決まれば、ポケットから取り出したスマホで大森さんへの電話を試みる。

 

「昼ごはん中に申し訳ないけど……」

 

 コール音の後に、すぐに電話に出る音が鳴る。

 

『はい、もしもし! 大森です!!』

「ああ、大森さんですか? すみません、お昼時に」

『あ、あ、いえ! まだ食べていないので大丈夫ですよ! カツキ君!!』

 

 明るい声で出てくれた大森さんとの会話を試みる。

 

『電話をかけてくれるなんて珍しいですね……!』

「いえ、最近大森さんの様子がおかしいと聞きまして、レイマも気にしているようですし、何かあったんですか?」

『あー、いえ! 特に心配はいりませんよ! 私は私のままですから!!』

 

 やはり心配は杞憂だったようだ。

 口ぶりからして様子がおかしいということも自覚しているようだし、このことをレイマに伝えて今回のミッションはしゅうりょ――、

 

「……エっ?」

『どうしましたか?』

 

 スマホを耳に当てながら欄干によりかかり、一階にいる大森さんのいる席を見下ろして、言葉を失う。

 

「電話をして……ない?」

『いえ、していますけど?』

 

 今話しているけど、下にいる大森さんは電話すらせずに黙々と弁当を食べている。

 にこやかにすら、話していない。

 

「……」

『あ、あれぇ? カツキくーん? おーい?』

 

 誰だ。

 この電話の先にいるのは誰だ?

 それとも下にいる大森さんは誰だ?

 

「あ、あはは、すみません……後で伺います……」

『あ、はい』

 

 声を震わすのを耐えながら電話を切る。

 

「そ、そっかぁ……今は夏なのか……夏、なんだよな……」

 

 いるはずのないもう一人の大森さん。

 レイマの疑問も、これまでのちぐはぐな証言も全てが繋がった。

 

「二人とも!!」

「ひゃ!?」

「ん?」

 

 俺の声に下を伺っていた二人が驚きながらこちらを見る。

 こ、こここ、これはアカンやつだ……!!

 

「これ以上、このことに関わるのはやめよう……!!」

「ど、どうしたんや!? 顔、真っ青やけど!?」

 

 こ、これは言っていいのか?

 言った時点でたたり的なのが来ないとは限らない。

 どう口にしていいか混乱していると、きららと葵の手首に巻かれているジャスティスチェンジャーに光が点滅する。

 

「よっしゃぁ! 侵略者をぶっ倒しに行くぞ……!!」

「いつになくやる気や……?」

「なにがあったの……?」

 

 侵略者の出現に、ここぞとばかりにその場を走り出す。

 伝えるならば、レイマに言うべきだな……!!

 少し様子を見て、俺の身に何も起こらなければレイマに相談しよう!!

 


 

 侵略者の出現を察知してすぐに俺達は、それぞれの変身を済ませた後にビークルに乗り空を駆ける。

 

『今回の侵略者は三体!! どうやら徒党を組んできているようだ!!』

「「了解!」」

「ああ!」

 

 今回は三体……?

 今まで複数体の時もあったが、序列持ち三体となれば中々に厄介なことになりそうだ。

 とりあえず大森さんのことを忘れて、これからの戦いに集中しよう。

 そう考えていると、俺達の元に夏期講習で離れていたレッドが合流する。

 

「レッド、合流したよ!」

「やっとか赤点レッド」

「遅いでー」

「赤点じゃないよ!? これでも成績は良い方だよ!? それより、今回の敵は三体なの?」

「どうやら、そのようだ!!」

 

 目的地に向かいながら情報共有を済ませる。

 被害が出る前に倒す!

 いつものように気合を込めて、前方へ加速しようとしたその時――バックルのシロが俺に警告を促す反応が頭に届く。

 その瞬間、側方から透明な何かが俺のバイクに激突する。

 

「ぐぁ!?」

 

 激突した何かはそのまま俺の乗っているバイクごと、真っすぐに突き進む。

 四体目の侵略者か!? それにこいつは……。

 

「あの時の青い奴!?」

「……」

 

 俺と似たバイクのようなビークルに乗っている青い戦士、星将序列67位のコスモってやつか!?

 このまま、どこかへ連れていかれると判断した俺は、追ってこようとしてくれるレッド達に声を張り上げる。

 

「こいつは俺に任せて、レッド達は他の怪人を!!」

「……ッ! 分かった!!」

 

 レッド達が先に向かったことを確認し、俺はバイクにブレーキをかけ、無理やり体当たりをかましてきたそいつから距離を取る。

 依然として青い戦士は俺と同じ空を飛ぶバイクで追ってくる。

 

「ッ、なんだ! お前は!!」

BREAK(ブレイク) ARROW(アロー)!!』

「お前の相手は、このボクだ!」

L・E・O(レオ) GUNSWORD(ガンソード)!!』

 

 俺は刃のついた弓を、相手は青色の銃と剣が一体化した武器を取り出し、バイクの上で斬り合い、射撃を交わす。

 火花が散り、エネルギー弾が飛ばされ、それを切り払う。

 パワーはブレイクフォームと互角……いや、あっちの方が少し高いくらいか!

 

「ハァァ!!」

PUNISH(パニッシュ) → L・E・O(レオ)

「ッ」

 

 いきなり必殺技だと……!!

 バックルを手で押し込み、必殺技を起動させ始めた奴に会わせて俺もバックルを叩く。

 

「ならこっちもだ!!」

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 コスモの足には青色の炎のようなオーラが、俺の右足には黄金色の光が纏われる。

 亜音速のまま空を駆けた俺達は、そのまま一旦大きく距離を取った後に――バイク同士向かい合うよう突っ込みながら、加速する。

 

「お前は、一体俺になんの用なんだよ……!!」

 

 このまま何もしなければ衝突する。

 漠然とそんなことを考えながらもさらに加速し続け、距離が狭まると同時にバイクから跳躍し、蹴りの態勢に移る。

 しかし、それは相手も同じであった。

 

「白騎士ィィィ!!」

REGULUS(レグルス) EXECUTION(エクスキューション)……』

 

「ハァァァ!!」

BREAK(ブレイク)! POWER(パワー)!!』

BITING(バァイティング)! CRASH(クラッシュ)!!』

 

 空中で激突した蹴りが、稲妻のような轟音を立てる。

 蹴りを撃ちあいながら、光が溢れだす。

 その光景を間近で目撃した俺は、この相手がこれまでとは明らかに異なる“敵”であることを予感せずにはいられなかった。




カツキ君、ホラー体験ををする。
そして、早速コスモちゃんの襲来となりました。


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激戦と目覚め

今回は主人公視点。
前回からの続きとなります。


 空中で激突した蹴り。

 火花と閃光をまき散らしながら互いに拮抗した一撃は、コスモに直撃することなく同時に俺の身体を吹き飛ばした。

 

「ぬおおおおお!?」

 

 地面に叩きつけられ、ごろごろと転がりながら立ち上がる。

 ここは、住宅街か!? しまった、こんなところに降りたら被害が……!!

 

『カツキ君!! 無事か!!』

「え、ええ、なんとか!!」

『相手は君と同じか、それに近い能力を備えている!! かつて私が作ったものだが、明らかに奴専用に弄られているからな!!』

 

 かつてレイマが作ったスーツ。

 それも、かなりの強さを持つらしいということは、あの戦闘の後に訊いていたけど……まさかここまでだとは。

 俺と同じく吹き飛ばされたコスモが、視線の先で立ち上がる。

 周囲は住宅街。

 異変を聞きつけて、人の姿もちらほらと見える。

 

「……場所を変えないか?」

「うるさい!!」

「ッ、全員この場から離れてください!!」

 

 ガチャン、と剣と銃が合わさった武器を剣の形にさせたコスモが斬りかかってくる。

 すぐさまルプスダガーを取り出し、振り下ろされる剣を流すように弾く。

 

「本気で戦え、白騎士……!!」

「お前の目的はッ、なんだ!!」

「最初から言ってる!!」

 

 振り下ろし、一歩踏み出して距離を詰めてからの横薙ぎ、後ろに半歩足を引いてからの刺突。

 流れるように放たれる連撃を見極め、ルプスダガーで捌く。

 

「「……!!」」

 

 強いな……!!

 青の戦士、コスモの戦い方は……なんというべきか、綺麗なものであった。

 型に嵌った王道的な戦いとでも言うべきなのだろうか?

 

「まさに、積み重ねた技術ってことか……!!」

 

 剣道や空手のように、あらかじめ反復し、身に着け研ぎ澄ませた技術を実践で活用したその戦い方は、俺がこれまで模擬戦を交わしてきたレッド達とは異なる戦い方だ。

 

『怪人戦で型なんて括ってたら覚えられるし。え? 武術の経験? ないよー』

 

『戦い方なんて変身してから身に着けたからなぁ』

 

『小4の時に射的が得意だった。ぶい』

 

 その時、改めてジャスティスクルセイダーの面々が規格外なのだと理解した。

 なぜか、そう言うと三人そろって微妙な顔をされてしまったけれども。

 

「周りには被害を出せない! なら!!」

 

NEXT(ネクスト)! BREAK(ブレイク) BLUE(ブルー)!! → OK(オーケー)?』

 

 バックルをスライドさせ、フォームチェンジを行う。

 白色の装甲が青色へと変化し、水が弾ける音と共にブレイクブルーフォームへとの変身を遂げる。

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) BLUE(ブルー)!!』

 

 感覚が強化され、コスモが振るう剣を避け鋭い横蹴りを叩きつける。

 

「あぐっ!?」

 

 地面を転がり、苦悶の声を上げるコスモ。

 彼? 彼女? に追撃を加えようとしたところで、背後にいる人々の気配に気づく。

 

「な、なんだ、撮影……!?」

「いや、違うよこれ! 早く逃げなきゃ!!」

 

 ッ、ここで戦えば被害が大きくなる。

 

「シロ! 広い場所を探してくれ、人がいないところを!!」

『ガゥ!』

「やったなぁ!!」

「チィ……!! 相手は待ってくれないか!!」

 

 起き上がったコスモがその手に持つ銃をこちらに向け、弾を連射する。

 実弾か……! 避ければ後ろの人に当たる。

 掌を開き、迫る銃弾の全てをブレイクブルーの超感覚で捕捉、認識し全て手で掴み取る。

 それを地面に投げ捨てながら、後ろの人々に逃げるように叫ぶ。

 

「巻き込まれる前に、早く逃げてください!!」

「は、はい!」

「戦う場所なら、近くの市民球場が今、誰もいませんからっ!!」

「! ありがとうございます!!」

 

 市民球場か! シロもすぐに見つけてくれた!

 まずは、どうやってそこまでこいつを連れていくってことだが……!!

 

「まずは戦わないとな!!」

LIQUID(リキッド) SHOOTER(シューター)(ツー)!!』

 

 手に出現させたリキッドシューターⅡを構え、強化されたエネルギー弾を連続して放つ。

 

「ぐっ、この……!!」

 

 攻撃を食らいながら後ろに怯んだコスモは、ベルトの側方から何か鍵のようなものを取り出し、バックルへと突き刺した。

 

「その程度の攻撃を!!」

LOADING(ローディング)→→ ARMOR(アーマー)GRIM(グリム)

 

 音声が鳴った次の瞬間には、コスモの身体の周囲に小規模のエネルギーフィールドが展開され、新たに追加されたアーマーが全身の各部に取り付けられる。

 

「俺と同じ!?」

『いいや違う! 君がフォームチェンジ……すなわち属性と特性を変える変身ならば、レグルスは装備換装! 新たに装備を転送させ、能力を拡張させる!!』

 

 青い装甲の上からマントのように被せられた外套。

 右腕に集中して黒いアーマーが装着されると、その手の中には柄の長い大鎌が現れ、風切り音と共に大きく振るわれる。

 

「姿を変えられるのが、自分だけかと思ったか!!」

『気をつけろカツキ君!! バージョンアップされた性能は私にとっても未知数だ!!』

「ッ!」

 

 奴は、そのままエネルギー弾を切り裂きながら、不自然な加速と共にこちらへ攻撃しにくる。

 そのまま姿が掻き消え、目の前に現れる。

 

「ッ」

 

 胸部のアーマーを一閃され、火花が散る。

 速さに特化させた形態か……!!

 でもこの感覚に優れた形態なら……!!

 

「ふんッ!!」

「ッ!!」

 

 タイミングを合わせて、左手のダガーで、上段から振り下ろされる大鎌を受け止め、近距離からのエネルギー弾を放つ。

 驚異的な反射速度で避けられ、高速移動によりまたその姿が掻き消える。

 

「俺にも見えているぞ」

「それはボクも同じ!!」

 

 周囲を高速で移動するコスモ。

 その場を移動しながら銃を構え、狙いを定める動きを予測して銃を放つ。

 

「……」

 

 感情に任せて振られる大鎌。

 シロに頼み、ここから最も近い戦いやすい場に奴を誘導する。

 

「どうしてッ、本気で戦わない!!」

「なにを!」

「あの白黒の姿が一番強いんじゃないのか!!」

 

 アナザーフォームのことを言っているのか……!!

 あれをこんな住宅街で使えるはずないだろ!! 肉弾戦ならまだしもグラビティバスターの射撃だけでも、簡単に家屋を吹き飛ばす威力なんだぞ!!

 

「お前の都合で相手が戦ってくれると思うな!!」

「なに……!!」

 

 握りしめたダガーを振るい、腹部を切りつける。

 しかし相手も攻撃を受けながら無造作に大鎌を振るい、俺に攻撃を当ててくる。

 

「ぐっ」

「あぅ」

 

 アーマーから火花を散らせる。

 視界明滅、頭を振り我に返ると大鎌に紫色のオーラを纏わせ、必殺技を放とうとする

 

PUNISH(パニッシュ) → L・E・O(レオ)

「食らえ……!」

 

 相手の姿が幻影のように消える。

 敵を見失った次の瞬間、目と鼻の先に現れたコスモが俺の肩に大鎌の刃を叩き込む。

 

GRIM(グリム) EXECUTION(エクスキューション)……』

「がッ……!!」

「ボクは、ボクの価値を証明しなくちゃならないんだ……!!」

 

 肩に走る激痛。

 じわりと血が滲むような感覚に苛まれながら、大鎌の柄を掴む。

 

「なっ!?」

「かかったな?」

DEADLY(デッドリィ)!! BREAK(ブレイク) BLUE(ブルー)!!』

 

 動きを止めたコスモの腹部にリキッドシューターⅡの銃口を押し当て、必殺技を発動させる。

 気づいたようだが、遅い!!

 

「とりあえずぶっ飛べ!!」

BREAK(ブレイク)! POWER(パワー)!!』

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) BREAK(ブレイク)!!』

「うぐぅ!?」

 

 真正面から攻撃が直撃し、コスモの身体は遥か先までエネルギー弾と共に吹っ飛んでいく。

 その様子を確認し、すぐに追いかけようとするが肩の傷の痛みに足を止める。

 

「シロ、アーマー部分だけでもいい。覆ってくれ」

『ガゥ』

「ああ、ありがとう」

 

 ぶっとばした方向には市民球場があるはずだ。

 相手はまだまだ戦う余地がある。

 ルプスストライカーを呼び出し、それに跨った俺は、コスモが飛んで行った方向へとバイクを走らせる。

 

「よ、よくもやったなぁ……!! 白騎ひぶ!?」

 

 バイクで走り、すれ違い様に胴体を引っ掻けるようにして走る。

 そのままトップスピードで、一瞬で目的地にまで到着した俺は、そのまま野球場と思われるグラウンドの真ん中の地面にコスモを叩きつける。

 

「ぐっ!?」

 

 俺もバイクから降り、砂煙が舞い上がった奴の方を無言のまま伺う。

 ダメージは、俺と相手もあまり変わらない。

 まだ戦えるし、奥の手も隠しているのだろう。

 

――相手はお前と同じタイプの戦士だ

「……」

 

 内心で囁いてくるルインさんの声に頷く。

 俺と同じ、スーツを着た戦士。

 その在り方はレッド達のものよりもシロを纏った俺に近い。

 

――相手は侵略者だ。

「分かって、ます」

――なら、これまで通り、やることは同じだ

 

 侵略者を倒す。

 

――この地球のために。

 

 侵略者の危険に晒される人々のために。

 

――さぁ、奴を倒すんだ。

――息の根を止めて、民の平和を取り戻せ。

 

 やるべきことはこれまでとは変わらない。

 相手が侵略者である以上、情けをかける理由もないし、放っておけば人に危害を加えるからだ。

 なにかあってからじゃ遅い。

 

「でも……」

 

 今回の敵には何か違和感のようなものがある。

 これまでの敵とは異なり、他の人間を害するというより、俺そのものに戦いを挑んでいるみたいなそんな感覚だ。

 

「ここで、やめないか?」

「……ッ!!」

 

 自然と俺はそんな言葉を口にしていた。

 特に理由はない。

 ただ、俺は目の前のコスモと、少し前に戦った双星のジェムを重ねていた。

 戦う目的そのものが他の侵略者とは違う。

 なにかに必死になろうとしているコスモの姿は、まるで何かに見てほしいような……そんな子供のような必死さがあった。

 

「ふざ、けるな。ボクを、憐れんでいるのか……? よりにもよって、お前が?」

「いや、そんなつもりは……」

「ボクにはそう聞こえたんだよ……!!」

 

 頭を掻きむしるように仮面に爪を這わせるコスモ。

 その怒りに反応するように、ベルトの獅子が瞳に怪しい光を集めていることに気付く。

 

「あ、あああ!! ふざけやがって、ふざけやがって!! ボクもルイン様の名前を呼ぶことを認められたんだ! お前と同じだ!!」

「なにを、言っているんだ?」

「戦え、白騎士!! ボクと、本気で戦え!!」

 

 名前? 誰のを? 何かを口にしたように見えたが、声だけが俺の耳に入ってこない。

 感情の発露。

 怒りと憎悪のままに、ベルトから翼の形をさせた鍵を取り出しそれをバックルの獅子へと差し込む。

 

「期待に応えなくちゃ……そうじゃなきゃ、ボクなんかに意味はない……!! 戦う意味も、生きている意味さえ……!!」

 

LOADING(ローディング)→→ARMOR(アーマー)EVIL(エビル)!!!』

 

「そのためだったら、この命さえも惜しくはない!!」

 

 纏っていたアーマーが消え去り、一瞬だけ元の青い戦士の姿に戻るコスモ。

 しかしその次の瞬間には、背後に現れた機械的なコウモリの翼に包まれ――新たなアーマーを纏った姿で現れる。

 左腕全体と、全身の各部を覆う禍々しい緑の鎧。

 右手の中に現れた、機械化されたようなマスケット銃に似た武器。

 それをぐるんと振り回し、銃口をこちらに向けてきたコスモに、俺は対話を諦める。

 

「やるしか、ないのか!!」

GRAVITY(グラビティ)!! 』

 

 握りしめたグラビティグリップをバックルに差し込み、アナザーフォームへの変身を開始する。

 放たれる強烈なエネルギー弾が、作り出したエネルギーフィールドにぶつかり、罅をいれていくが、それでもなおアーマーが展開されては、身体に装着されていく。

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 黒のアーマーの上にさらに白のアーマーを纏った姿、アナザーフォーム。

 変身を完了しても尚、コスモはその手に持つ長銃を構え、なんらかの技を発動させる。

 

EVIL(イビル)!! 1000 BULET(サウザンドバレット)!!』

 

 コスモの背後に現れる百を優に超える半透明の長銃。

 その銃口が全てこちらへ向けられ、一斉にエネルギー弾が放たれる。

 

「ハァァ!!」

「……」

 

 軽く掌を掲げ、銃弾の全てを俺に触れることなく止め、地面へ落としていく。

 十数秒の集中砲火。

 その全てを無傷でしのぎ切った俺を見て、コスモが愕然とした様子で銃口を僅かに下へと下げる。

 

「そん……な、ま、まだ!!」

EVIL(イビル)!! EXECUTION(エクスキューション)!!』

 

 必殺技として放たれた、エネルギーを纏わせた銃弾。

 ブレイクフォームならば、避けるそぶりを見せていたが、この姿になったからにはもう意味はない。

 

「……」

 

 六発放たれたそれを掌で叩き落としながら、一瞬で奴との距離を詰め——その手に持つ長銃に触れ破壊する。

 

「う、ぐぅ、ッ、このっ!」

 

 苦し紛れに繰り出された回し蹴りを回転して避けると同時にバックルを三度叩く。

 前を振り向き、コスモと相対すると同時に白いオーラを纏わせた拳を叩き込む。

 

DEADLY(デッドリィ)!! WHITE(ホワイト) SIDE(サイド)!!』

「しまっ――」

LUPUS(ルプス)! FIRST(ファースト) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 カウンター気味に繰り出された拳が、コスモの胴体へと直撃。

 拳から解き放たれた白いエネルギーが一瞬にして、コスモの全身へと襲い掛かり衝撃が後方の空間へ貫通する。

 

「が……ぁ」

 

 地面に膝を突くように崩れ落ちながら、コスモの変身が解かれる。

 拳を引き戻しながら、戦闘が終わったことに安堵していた俺だが、変身を解除したコスモの姿に驚く。

 

――この程度か、まあ、妥当なところだろうな

「……女……の子?」

 

 地面に倒れたのは、真っ黒い外套を身に纏った少女であった。

 顔はフードと緑色の前髪で見えないが、その華奢な見た目でまだ年端もいかない少女と判断した俺は、予想外の正体に驚く。

 ……とりあえず、レイマに連絡しよう。

 

「司令、星将序列067位コスモの無力化に成功しました」

『こちらでも確認した。……レッド達の方ももうすぐ片がつきそうだ。君は、その娘が目を覚まして逃げないように見張っておいてくれ』

「了解」

 

 一応、出来る限りの手加減はしたがそれでも相当な一撃を食らわせてしまった。

 それだけコスモという戦士が強かったこともあるが……。

 

「……シロと、似ているな」

 

 とりあえずまた変身されても困るのでバックルだけはこちらで持っておくか。

 そう思い、少女のベルトの獅子の顔を模したバックルに手を伸ばした――その瞬間、前触れもなくバックルから赤い電撃が走りだす。

 

「———ッ」

「……!」

 

 その場を飛び、コスモから距離を取る。

 

「なんだ?」

 

が、ぁ、があああ……!! う、あああああああああ!!!

 

 倒れ伏した彼女の腰につけられたベルトが赤い電撃を全身へと走らせる。

 電撃に苦しむように身体を痙攣させた少女のバックルが、悲鳴のような音声を上げる。

 

――ほう、これはこれは……

「お、おい、大丈夫か!」

 

WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!!』

 

 危険を現すように耳障りな警告音が鳴り響く。

 なにかやばい……!

 臨戦態勢を解かないまま、拳を構える。

 

WILD(ワイルド)! WILD(ワイルド)!! WILD(ワイルド)!! WILD(ワイルド)!!!

 

 まるで何かの目覚めを知らせるような音。

 倒れたまま、腕も使うことなく突然起き上がった少女はまるで何かに操られるように、その手を動かそうとする。

 

『まずい! 暴走状態だ!! カツミ君! 今すぐ、彼女を止めてくれ!!』

「は、はい!!」

 

 俺の名前を間違うほどに慌てたレイマの声に、すぐに行動に移るべく前へと飛び出す。

 

「……へ、ん、し、ん」

WAKE UP(ウェイク アップ)!!!』

 

 ッ、間に合わない!!

 ひとりでに空中に浮き、バックルに嵌め込まれた獅子の頭が青の混じった漆黒色に染まり変身を開始させる。

 一瞬の明滅と、ヘドロのようにあふれ出した泥がコスモの身体を包み込み、その姿をまた別のものへと変える。

 

COME ON(カモン)!!』

 

DEVASTATING(ディヴァステイティング!) RAMPAGE(ランペイジ)!!』

 

GREAT(グレート) BEAST(ビースト)!! FALL(フォール) INTO(イントゥ) DESIRE(ディザイア)!!!』

 

 近づいた俺に黒いヘドロの間から腕が突き出され、見えない力に後ろに吹き飛ばされる。

 同じ場所に戻された俺が、コスモのいた場所を見ればそこには――、

 

ARMOR:ZONE(アーマー ゾーン)!! JOKER(ジョーカー) FORM(フォーム)!!!

 

 青いアンダースーツと黒いアーマーに身を纏った戦士が立っていた。

 獅子ではなく、まるでピラニアを連想させる刺々しい外見。

 なにより目を引くのは、充血したように赤く染まった複眼。

 

『なんだ、この……姿は……』

「司令、どうしますか……! 相手……かなり、やばいです」

『……戦闘、続行だ』

 

 了解、と呟く前におもむろにコスモの腕がゆらりと動き出し、バックルを叩く。

 

GENOCIDE(ジェノサイド)!! →JOKER(ジョーカー)!!!』

「ッ!?」

 

 必殺技の発動と同時にこちらへ向かってくるコスモ。

 その動きは、彼女の動きとはかけ離れて、野性的で乱暴極まりない。

 だが、それは先ほど以上の脅威と認識した俺は、すぐさま必殺技を発動させ攻撃を相殺させようとする。

 

「来いッ!!」

「……」

 

 拳を構え、迎え撃つ。

 手加減なんてできる相手ではなくなった。

 ここで始末するつもりで、全力で!!

 

JOKER(ジョーカー)!! EXE(エクス)—』

 

 互いの攻撃で接触しようとする――その瞬間、背後に現れた穴のような何かがコスモの全身を呑み込んだ。

 

「へ!?」

 

 一瞬にして目の前から消えたコスモに呆気にとられながら周囲を見回し、警戒するも、彼女の禍々しい気配はどこにも感じられなくなってしまった。

 な、なんだ……?

 どこに行ったんだ?

 

「……司令」

『……すまない。こちらでもコスモの反応を追えなかった。奴は……否、彼女はその場にはいない』

「……」

 

 最後の悪意と、俺に対しての憎悪を凝縮させたような姿。

 まともに戦っていないが、あれは危険だ。

 周りに対する被害の危険度もそうだが、なによりコスモ本人の命さえも壊しかねない姿だと、一目で理解させられた。

 

『ガゥ……』

「ああ、シロ、分かってる」

 

 コスモだけではない。

 シロと同じバックルのライオンも、苦しみ泣いているようにも思えた。

 

『ッ、カツキ君!!』

「はい?」

『すぐにレッド達の方へ来てくれ!! 現れた三体の怪人が一斉に巨大化した!!』

「今すぐ場所を教えてください!! すぐに向かいます!!」

 

 とにかく今は、侵略者への対処か。

 戦闘自体はレッド達だけで事足りるだろうが、俺は俺で街への被害を押さえるという役目もある……!!

 




コスモ暴走回。
コスモはものすごく面倒くさい性格をしている敵って感じに描写させていただきました。

彼女の戦闘力についてですが、ブレイクフォーム時点なら主人公とはほぼ互角。
しかし、アナザーフォームを使われるとスペック差で通常時のコスモでは勝ち目はなくなります。

レオドライバーの変身パターンは、ライガーゼロの換装をイメージとなります。


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偽りと発覚

アークドライバー予約しました(挨拶)

前半がコスモ視点。
中盤から主人公視点となります。


 ボクは白騎士に負けた。

 それも、完膚なきまでに。

 白と黒の入り混じった姿の奴の強さは、星将序列二桁に名を連ねたボクさえも軽くあしらい、その拳の一撃で変身を解除するにまで追い詰めた。

 

 悔しい。

 

 身を裂くような悔しさがボクの心を埋め尽くした。

 嫉妬、怒り、憎悪、まるでボクを憐れむように、理解できないものを見るように見下ろした奴がただひたすらに憎かった。

 

『力に、呑み込まれないで』

 

 誰かの、声が聞こえた。

 知らない声だけど、ずっと一緒に聞いていたような、そんな声だ。

 

『貴女は、貴女。惑わされないで……!!』

 

 誰かの声が苦しみに悶える。

 痛みに耐え、それでも必死に届かせていた声は、また別の声にかき消される。

 

本能のままに暴れよ

偉大なる獣よ、地に堕ちよ

殺せ、奴を殺せ

奴が、ボクの敵だ

壊せ、壊し尽くせ

 

 それは、ボクの口から零れる怨嗟の言葉。

 ボクの意思とは関係なしに溢れだしていくにつれて、黒いヘドロのようななにかが全身を包み込んでいく。

 身動きがとれない。

 声も出せなくなってきた。

 底の無い沼に突き落とされたように、身体が動かせずただ恐怖に叫ぶことしかできなかった。

 

「面白いが、それだけだな。やはり行き止まりか」

 

 声が、聞こえる。

 うっすらとぼやけて見える視界。

 

「……ぁ」

 

 意識が浮上し、視界には赤色の床が広がる。

 瞳から零れ落ちた涙をぬぐいながら身体を起き上がらせる。

 怪我は、してない。

 白騎士に食らわされた攻撃の痛みもない。

 

「なん、で」

「目覚めたようだな?」

「ッ、ルイン様!?」

 

 頭上からの声にすぐに跪く。

 ここは、ルイン様のいる玉座の間……!!

 な、なぜ地球から遥か遠く離れたこの場所にボクがいる!?

 

「面白い進化をしたようだな。コスモよ」

「し、進化……?」

 

 玉座から私を見下ろしたルイン様は、薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「お前は、力に呑まれ暴走状態に陥ったのだ。力のままに暴れ、身を滅ぼしかけたお前を私がこの場に連れてきた」

「……! も、申し訳ありません!!」

「謝る必要はない。私としても非常に興味深いものであったからな」

 

 そう言葉にして玉座から降りたルイン様はゆっくりと階段を降り、ボクの前に立ち頬に手を添える。 

 

「コスモ、お前には期待をしているんだ」

「……ルイン、様」

 

 ボクと視線を合わすように膝を折るルイン様。

 夢のような状況に理解が追い付かず、まともに言葉すら発することのできないボクに、ルイン様は慈母のような笑みを浮かべる。

 

「私と初めて顔を合わせた時の言葉、覚えているな?」

「は、い」

「その言葉は、今も変わっていないな?」

 

“貴女様のために力を振るう覚悟であります……!”

 勿論、忘れるはずがない。

 

 ボクはこのお方のために力を振るうと決めた。

 その忠誠を、今このお方はボクに求めてくださっている。

 

「意思は変わっておりません。ボクの力は、貴方様の為に……!!」

「……ふむ、そうか、お前の忠臣ぶりには唸らされる」

 

 頬から手を離したルイン様はそのまま立ち上がり、ボクを再び見下ろす。

 

「此度の戦闘では残念な結果に終わったな」

「……不甲斐ない姿をお見せしてしまい、申し訳ありません」

「コスモ」

 

 頭を垂れるボクの名を呼ぶルイン様に、顔を上げる。

 

「私はな、お前をかっているんだ。それこそ白騎士以上にな」

「ぁ……ぇ」

「あまり私を失望させるな。白騎士、勝てない相手ではなかったはずだ。ん?」

 

 笑みを浮かべたルイン様に、ハッとしたボクはすぐに返事を返す。

 

「……は、はい! ボクはもっとやれます!!」

「そうだろう? そうでなくては面白くない」

 

 勝てない、相手ではない。

 そうだ、その通りだ。

 ルイン様がこう言ってくださるんだ。

 きっと、なにか勝つ方法があるはずだ。

 

「ならば、どうすればよいか分かっているな?」

「暴走したその姿を、ものにしてみせます……!!」

 

 ボクはもっと強くなれる。

 強くなって、白騎士に打ち勝てば認めてもらえる。

 

「では、この私自らが手ほどきをしてやろう」

「よ、よろしいのですか!?」

「ああ、忠義者への褒美というやつだ」

 

 あぁ、なんという身に余る光栄……!!

 ルイン様がその手から、星を思わせる暗黒を作り出し、周囲へと押し広げる。

 空間を、果ては時間すらも歪ませる絶技。

 それをこの目で見て体験することができるなんて……。

 

「さて」

 

 周囲が星が煌めく、空間で満たされたところでルイン様が階段に腰かける。

 

「心して掛かるがいい」

「は、はい!!」

 

 未知に対する恐怖はなかった。

 今、この身を突き動かすのは、忠誠心。

 ただそれだけを原動力とさせながら、ボクは命をかけた鍛錬に身を投じる。

 


 

 侵略者が手を組み戦いを挑んできた。

 ジャスティスクルセイダーの前に現れた三体の侵略者は皆、序列68位、71位、52位を名乗り、全員が巨大化するタイプの侵略者であった。

 その全員がしっかりとした自我を持ち、巨大化した後も理性的な戦いを行ったことには驚かされた。

 

「今後は侵略者たちも徒党を組み、襲撃してくるのだろう」

「コスモも、そうなのでしょうか?」

 

 レイマが普段作業をしている研究室に俺は訪れていた。

 彼と向き合うように椅子に座った俺の疑問にレイマが答える。

 

「いや、レグルスの装着者は協力というよりは独断で動いていると見てもいいだろう。君に対して異様なまでの戦意を見せていたからな……」

「本気の俺と戦おうとしていましたね」

「君を打ち倒すことそのものが目的だったのだろう。だが結果的に、アナザーフォームにより打ち倒された……はずだった」

 

 現れた黒い姿をした戦士。

 一目見ただけで、危険さが分かるその姿と戦うことがなかったのは、いいことなのだろうか。

 それとも、あの場でなんとかするべきだったのかは俺にも分からない。

 

「調べた結果。あの姿は、君のアナザーフォーム、タイムハザードに近いエネルギー値をしていることが判明した」

「と、いうと」

「あの姿は、君に酷似した姿と言える。ただ、力が制限されていない危険な姿という問題があるがな」

 

 俺と、似た姿か……。

 確かにシロと似たベルトだったしなぁ。

 

「それに、私はアレと似た変身を目にしたことがある」

「……そうなんですか?」

「ああ」

 

 一瞬俺を見た後悩まし気なため息を零したレイマは、腕を組む。

 

「……そういえば、君はどうしてここに? 話ばかりしてしまっている私が言うのもなんだが」

「実は、相談があります」

「君が相談とは珍しい。……聞こう」

 

 これはレイマにしかできない相談だ。

 というより、本当は誰に相談していいか分からないものだったが、彼女の様子が変わらない以上俺も動かなくてはいけない……!

 

「大森さんの、ことなんです」

「そうか、とうとう大森君がやらかしたか……まったく、あの特オタいつかはやると思っていたが、とうとう君に迷惑を――」

「いや、違いますよ……!?」

 

 なんか大森さんが何かを俺にした前提で話を進められそうになる。

 いや、大森さん自身は何も俺にしていないから全然違いますからね?

 勘違いしそうになるレイマに、俺は先日、きららと共に大森さんを調べた際に俺だけが知った事実を説明する。

 大森さんが二人いるかもしれない、という不可思議な話を。

 

「と、いうわけなんです」

「お、おおおお、大森君が、二人存在しているだと? あ、あああ、ありえん!?

「レイマ!?」

 

 椅子から転げ落ちるレイマに駆け寄ると、彼は震えながらも立ち上がる。

 

「幽霊だと……! そんなものの存在は私は信じない……! 大体、魂が質量を持って存在すること自体意味不明なのだ……! い、いや、しかし、それならばこれまでの大森君の奇行にも説明がついてしまう」

「俺は、ドッペルゲンガーの類ではないかと思っています」

「超常現象だと!? そんなものこのてんっさい科学者は認めんぞ!」

 

 しかし、事実なのだ。

 俺もこの一週間、さりげなく大森さんの様子を確認してみたが、彼女は時間帯によって性格が切り替わっているように見えた。

 

「二人の大森さんは午前と午後で入れ替わって仕事を行っています」

「分かるのか……?」

「性格が違いますから、なんとなく」

「なんでうちのスタッフがその変化に気付いてないんだ!? 節穴すぎるだろぅ!? いやそれは私もか!?」

 

 頭を抱えるレイマ。

 いや、大森さんが二人いるなんて思いもしないから分かるはずもない。

 俺が気付けたのは本当に偶然なのだ。

 

「確かめてみよう。カツキ君、今は午後だが……」

「はい。今日は冷静で沢山食べる方の大森さんです」

「言われてみると、冷静で沢山食べる大森君はおかしいな……」

 

 ちゃんと確認したので間違う心配はない。 

 でも確かめるとはいったい……。

 

「もう一人の大森君は美食家と見た。ならば、美味い飯屋に連れていくと誘えばいい」

「おお……!」

「フッ、近頃、職場を抜け出してこっそり行こうと思った店があってな。そこで大森君の正体を探る!」

 

 こっそり行こうと思ったのはどうかと思うけど、作戦としてはいい。

 

「手伝ってくれるか、カツキ君……!」

「え、俺も行くんですか?」

「心細いから来てくれ」

「切実ですね……分かりました」

 

 さすがにレイマに丸投げして終わりにするわけにはいかないか。

 もしかしたら、幽霊と戦うことになるかもしれないし、戦える人が必要だ。

 

「幽霊か……」

 

 幽霊は怖いけれど、それ以上に嫌いだ。

 どうしてそう思うのかは俺にもよく分からないが、多分、記憶を失う前から俺は幽霊が嫌いだったのだろう。

 

「そうと決まればさっそく誘いに行くぞ……!! 一緒に来てくれカツキ君ッ!!」

「はいッ!」

「どんと来い! 超常現象!!」

 

 とにかく、まずは大森さんの正体を見極めなければな。

 なぜか俺も後ろについていきながら扉を開き、同じ研究室にいる大森さんのいるデスクへと近づいていく。

 そこには、カタカタと素早くキーボードを叩いている彼女の姿が見える。

 

「真面目に仕事をしているな。いつもの大森君と変わらない手際の良さだ」

 

 その呟きを聞いていると、ふと大森さんがキーボードの隣の白い箱のようなものから何かを取り出し、口に運んだ。

 あの魚のような形をした食べ物は……たいやきかな?

 

「むぐぐ、たいやき。黒いあんもいいけど、白いあんも嫌いじゃないなー。美味しい」

 

 すごい上機嫌だ……!!

 そこで、静かに歩み寄ったレイマが座っている大森さんの傍に立ち、咳ばらいをする。

 

「コホンッ」

「むぐ!? しゃ、シャチョウ!?」

 

 レイマとその後ろにいる俺を見て、目を丸くさせる大森さん。

 そんな彼女に、レイマはやや声を震えさせながら、明るく声を投げかける。

 

「最近、君の仕事への真面目ぶりには頭が下がる思いだな。大森君」

「は、はぁ……」

「そこでだ。その仕事への姿勢と社への貢献を評価して、君に褒美をやろうと思ってな」

「じゃあ、給料上げてください」

「……」

 

 思いのほか強めの要望が来た……!?

 思いっきり狼狽えるレイマに心配する視線を送る。

 

「きゅ、給料ではなくてだな。この場にいるカツキ君に、今晩夕飯をご馳走するという話になってな。日頃、頑張ってくれている君も誘おうと思ったのだ」

「ご馳走とは?」

「いい、お好み焼き屋を知っていてな。あぁ、別のところがいいなら」

「行きます」

「え?」

「行きます」

 

 即答……!?

 考える間もなく答えた大森さんに逆に驚く。

 これは食いしん坊というべきなのか、美食家というべきなのか……。

 とりあえず、大森さんから離れた俺達は、安堵に胸をなでおろす。

 

「……うん?」

「どうした、カツキ君。後ろになにかあるのか――」

「社長」

 

 いつの間にかレイマの後ろに研究室内にいるスタッフさん達がいる。

 彼らはどこか怖い笑顔を浮かべながら、レイマの肩を掴んだ。

 

「ど、どうしたんだ君達? まだ業務時間内だぞ?」

「「「……」」」

「無言!? いや、なにか言われないと私もなー! 分かんないんだよなー!」

「「「……」」」

「頼むから、無言はやめてくれ、怖い。怖いから……」

 

 無言の圧力にレイマが呻く。

 研究室の扉が開かれ、今度はアカネとハクア姉さんが入ってくる。

 

「かっつんここにいたんだ」

「あ、カツキ君、今時間あるかな? ちょっと模擬戦をしない? ……ん? 皆、どうしたんですか?」

 

 無言でレイマに詰め寄るスタッフたちに気付き不思議そうに首を傾げるアカネと姉さん。

 

「社長、私達が仕事してるとき、一人で抜け出してご飯食べてましたよね」

「しかも、そこそこ高いやつ」

「一人で」

「たった一人で」

「私達は、ぱさぱさのカロリーメイトくらいしか食べていないのに」

 

 も、ものすごい圧がスタッフさんから……!?

 笑顔で口にされるそれに、彼は肩を落とす。

 

「分かった……君達にも飯を奢ろう」

 

 屈した!?

 スタッフさん達の笑顔に屈したレイマ。

 その言葉を待っていたとばかりに笑みを浮かべそれぞれの仕事に向かっていく皆さん。

 その様子を不思議そうに見ていた姉さんとアカネにも、レイマは話しかける。

 

「この際、お前達も参加してもいいぞ」

「え、どこに? なににですか?」

「この私がお前らにも飯を奢ってやると言っているのだァ――!?」

 

 端末を取り出し、予約を取りにいくレイマ。

 そんな彼を見て、大人って大変なんだなーと思うのであった。

 


 

 夜になり、予想外の大所帯で店へ向かうことになった。

 さすがにスタッフの人数が多すぎるというので、大森さん以外の方たちは別の日に食べることとなったらしく、今日はジャスティスクルセイダーの三人と、ハクア姉さんとプロトが参加することになった。

 

『関西生まれのきららは、こういうの得意でしょ』

『関東生まれだよっ! あと得意ってなに!? やるけど!!』

『おかん、私の明太もちをはよう焼くのです』

『誰がおかんだよっ!?』

『えぇと、豚玉、イカ玉、もちチーズに、あとは……』

『ハクア、君どれだけ食べるの……? あ、きらら、私達の方もよろしく』

『私、一人しかいないんだよ!?』

 

 ふすまを隔てた一室で楽しそうにお好み焼きを焼いている彼女達。

 その一方で、俺とレイマ、そして大森さんのいる部屋は……。

 

「……」

「……」

「……」

 

 胃がねじ切れそうなほどの重い沈黙に包まれていた。

 ものすごく気まずそうな様子で、しきりにコップの水を口に含んでいるレイマ。

 必然的に、お好み焼きを作る役割を任された俺。

 そして無言のまま出来上がっていくお好み焼きを凝視している大森さん。

 

「どうぞ、大森さん、レイマ」

「ありがとう」

「すまないな……」

 

 出来上がった豚玉をお皿にのせて大森さんとレイマに差し出す。

 次の生地を鉄板に入れ、焼きながら二人の様子を確認する。

 というより、この焼き方でいいのか? 店員さんにお願いして代わりに焼いてくれないだろうか。

 

「いただきます」

 

 お好み焼きを食べ始める大森さん。

 生地が焼ける音と、隣の部屋から聞こえてくる声だけが聞こえる中、奇妙な食事が始まってしまった。

 

「君は何者だ」

 

 !? 切り出した!?

 ものすごいタイミングで話を始めたレイマに生地をひっくり返しながら戦慄する。

 

「……なんの、ことでしょうか?」

「大森君、本人ではないのだろう? 既に分かっている」

「……」

「だが、悪意がないのは理解している。なに、私も社長であり、科学者だ。君が社に不正なアクセスをしたわけでもないし、おかしなことをした様子がないことも把握している」

 

 大森さんの正体。

 ドッペルゲンガーなのか……!?

 それともまさかの忍者!?

 普通に双子とかもありえるのか……!?

 

「私は大森です」

「姿、恐らくDNAすらも大森君……否、大森真奈(おおもりまな)と同じなのだろう。だが、性格の時点で大きく異なっている。フッ、私達をここまであざむくとは……」

「貴方の目は節穴そのものなことは、周知の事実ではありますが……」

「おっと、その毒は普段の大森君と同じだな……」

 

 声を震わせ狼狽えるレイマ。

 しかし、さすがに大森さんも動揺しているのか視線をせわしなく揺らしている。

 

「だ、だが、既に君の正体を暴く秘策を立てている……」

「それは……」

「フッ、そろそろ分かる」

 

 レイマが不敵な笑みを浮かべると、俺達のいる部屋のふすまが開かれる。

 入ってきたのは、今テーブルについている大森さんと容姿が瓜二つな——しかし、私服を着た大森さんが笑顔でやってきたのだ。

 

「呼ばれてきました大森でーす! いやー、まさか社長の癖にドケチな貴方がご飯奢ってくれるなんてびっくりですよー。じゃあ、私、豚玉とビールを――って、え?」

 

 部屋の状況を見てフリーズする大森さん(推定本物)

 元気よく入ってきた彼女を見て、頭を抱える大森さん(推定偽物)

 

「あれ、私やらかした?」

「マナ……なにやってんだよ……もぉぉぉぉ……」

 

 どうやら大森さんが脅されているとかそういうわけではなさそうだ。

 きょとんとしている彼女に、レイマは大きなため息をつく。

 

「これが秘策だ」

「あー、もう降参だ!」

 

 口調を崩した大森さんが両腕を上にあげる。

 

「敵意はない。だから攻撃はしないでくれ!」

「あ、あの! 社長!! この子は敵とかそういうのじゃなくて……その……」

「とりあえず、目の前のものを食べたら外に出るぞ。まったく、一体なにがどうなっているのか……」

 

 大森さんが大森さんを庇っているというおかしな光景に、眩暈を感じる。

 本当にどういうことなんだ?

 目の前の存在は、一体何者なんだろうか?

 




正体発覚回となります。

ルインがコスモにかけた台詞の9割以上が心にもない言葉でした。
白騎士君と比べて、育成方針が雑すぎる……。





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裏切りの侵略者

前回の続きとなります。


 二人の大森さんと共に俺とレイマは店の外に出ることになった。

 その際、レイマはハクア姉さんに自身の持つカードを渡して出て行ったので、会計に関しての問題はなさそうだったが……。

 

「隣の部屋を見て驚いたのだが……」

「はい?」

「白川くんってあんな食べるの……? 鉄板を埋め尽くすほどのお好み焼きが作られた上に、皿が積み重ねられていたんだが」

「育ち盛りらしいですからね。はは」

「恐るべし、一歳児……」

 

 なにやら戦慄しているレイマと共に少し歩いた先にある大きな公園へと足を運ぶ。

 大きな公園なようで、ウォーキングコースなどで使われる広さの公園へと移動した俺達は、街灯に照らされた場所で立ち止まり、二人の大森さんへと向き直る。

 

「では、話を聞こうか」

「ナツ、どうする……?」

 

 ナツ? もう一人の大森さんはナツと呼ばれているのか?

 おどおどしている大森さんの視線にもう一人の大森さん……否、ナツはため息を零す。

 

「白状するしかないだろう」

「でも貴方が……」

「ここまできたらしょうがない。受け入れる」

 

 軽く深呼吸をしたナツは、意を決したような顔と共に俺とレイマを見る。

 

「私は、グラト。星将序列072“飢餓のグラト”」

「「!?」」

「マナがナツと呼んでいるのは、私の序列が72位だからだ」

 

 星将序列……!?

 まさかの正体に俺とレイマが驚く。

 

「ま、待ってください! え、えーと、確かにこの子は星将序列とかいう傍迷惑な侵略者の一人ですけど、今は違うんです!」

「違う? いったいどういうことだ。大森君」

「彼は……えーと、友達なんです!!」

 

 友達……侵略者と友達になったの!? 大森さん!?

 すると、勢いのままに言葉にした大森さんが、続けて声を発する。

 

「始まりは、一か月と少し前です」

「割と最近ではないか」

「私は、いつものように家でティータイムアロマキャンドルに興じながら、海外ドラマを見ていた時……」

「いや、マナ。その時のお前は缶ビールつまみで、B級サメ映画を――」

「見ていた時の話です……!!」

 

 ……今のグラトの呟きは聞かなかったことにしよう。

 ちらりとグラトを睨みつけた大森さんは話を続ける。

 


 始まりは、いつものように疲れ切って自宅に帰った夜のことでした。

 最近流行りのウォーキングデッド? 確かそんな名前だったよね……? の続きを見ながら気分を落ち着け日頃のストレスを解消している時に、彼はやってきたのです。

 

「くぅーっ! やっぱり仕事の後はこれだなーっ!」

「動くな」

「ひぇ!?」

 

 いつの間にか背後にやってきた侵略者。

 そいつの目的は、ジャスティスクルセイダーの本部で働いている私に成り代わり、情報を盗み出すためだった。

 

「大森真奈! 悪いが、お前にはここで死んでもらう!!」

「いやぁぁぁぁ!?」

 

 他人に化ける能力を持っていた彼は、私に成り代わるために私を殺そうとしたのです。

 肌白い男の姿から、私そっくりに変身した彼から逃れようとするけど、相手は人の力を超えた怪物。

 私のようなか弱い女の子には太刀打ちできるはずもなく、すぐに首を掴まれ止めをさされそうになってしまいました。

 

「終わりだ……!」

「うぅ……」

「悪く思うなよ……ん?」

 

 吊り上げた私の首を掴む手が放された。

 彼の視線の先には、テーブルの上にのせられた、用意されたおつまみがのせられていたのです。

 

「……これはなんだ」

「え、なにが……?」

「これだ。なんだこれは」

「スルメ……だよ?」

「食べ物?」

「食べ物」

「……言っておくが、この私に毒は効かないぞ?」

 

 そう言葉にしながらスルメを口に運ぶ。

 すると、彼は目を見開きながら驚愕に打ち震えました。

 

「なんだこれは、噛めば噛むほど味が出てくる!? 地球人はこんなものを食べているのか!?」

「え、スルメ程度で……?」

「程度、だと……!?」

 

 それから、私は冷蔵庫やらコンビニからで食べ物を持って彼に食べさせました。

 え? お金? 生きるか死ぬかの瀬戸際にいたらお金なんて紙屑ですから、糸目はつけませんでした。

 持って来た食べ物全てをあっという間にたいらげた彼は、暫し腕を組んだ後に、緊張した面持ちで座っている私に向けて、言葉を言い放つ。

 

「侵略、やめる」

「えっ?」

 

 聞き間違いかと思い聞き返してしまいました。

 恐らく、この時の私は呆気にとられた表情を浮かべていたことでしょう。

 

「侵略やめる」

 

 まさか、ただご飯食べさせただけで侵略をやめるとは思いもしなかったから。


 

「こうして私とナツの奇妙な生活が始まりました」

「……大体は間違っていないな」

「ちょっっっっと、待ってください……!!」

 

 駄目だ、理解が追い付かなかった……!?

 経緯を話してもらっても意味が分からん!?

 大森さんが危険な目に遭っていたのは分かった。

 それは理解できたけど、そこから先が問題だ。

 

「どうして食べ物で心変わりするんだ……!?」

 

 そこが一番よく分からない!

 最早、頭を抱える俺の肩に、先ほどから沈黙していたレイマが手を乗せてくる。

 

「正直、気持ちはよく分かる」

「分かるんですか!?」

「ぶっちゃけ地球外の食べ物は、基本的にマズイ。いや……そもそも、食に味を求めるという考えそのものすらなかった。芸術性の欠片もない、長方形の粘土のような保存食。無味無臭のガムのような食感の栄養食。水に苦味と生臭さを混ぜ込んだ栄養水。……あの味を知っている身として言わせてもらうと、食に関する感動はとてもよく理解できる」

 

 すげぇ語るじゃん……。

 レイマに軽く引いていると、話はまだ終わっていないのか今度は思い出に浸るように瞳を閉じた。

 

「フッ、私の舌が初めて“美味い”と認識したものは、皮肉にも先せ……ヴァースに押し付けられた飴玉だったか……今となっては懐かしい話だ」

 

 遠い目をするレイマ。

 宇宙の食事事情が少し心配になってしまっていると、グラトがレイマに声をかける。

 

「……分かるのか? ゴールディ」

「分かるさ。同じだからな。君も地球の食文化に魅入られた一人だ。変身能力から察するに、君はグルゥトゥ星の生き残りだろう?」

「流石は、元61位というべきか……」

 

 観念したとばかりに近くのベンチに腰掛けたグラトは、地面を見つめる。

 

「グルゥトゥ星に住む我々は、食べれば食べるほど力を増す特殊な性質を持つ……ということは知っているか」

「ああ。資料で目にした時がある」

「……。ただ食べられればいい、とだけ考える同胞の中で私は異端だった。食べれば食べるほど強くなるのだから、そう考えてもおかしくはないが……私は、食に味という概念を求めた」

「そして、ついにこの地球を見つけたというわけか」

 

 レイマの言葉にグラトが頷く。

 

「皆、食欲に呑み込まれその身を壊し、果ては自身の星までもを食らいつくした。だが、私は理性という力で己を律し、誘惑を振り払いながら己の目的を成し遂げようとした。……だからこそ、マナには感謝している」

「ナツ……」

「普段がだらしなく、私の用意した菓子を白騎士に渡しに行く馬鹿者でもあったが……」

「そういう貴方だって私の給料勝手に使い込んで、飯食いに行っているでしょうが……!!」

「「……」」

 

 お、大森さん同士が睨み合っている……!?

 と、止めようかと思いおどおどとしていると、腕を組んで考え込んでいたレイマが首を傾げた。

 

「む、気になったのだが、なぜグラトは大森君の代わりに職場に出ていたんだ?」

「あ、そ、それはあのですね! 海よりも谷よりも深い事情が――」

「マナに頼まれただけだ」

「ぎくっ……」

「……ほう」

 

 レイマの目に光が走る。

 俺はなんとなく事情を察したので、何も言わないことにする。

 

「働かざる者食うべからずという言葉がこの地球にあるらしくてな。地球の美味たる食べ物を得るためには、この私も働いて賃金を稼がなければならないと知り、マナの仕事の半分を肩代わりすることになった」

「なるほど……」

 

 ぐるんっ! とレイマの視線が大森さんへと向けられる。

 

「大森ィ……無垢な侵略者騙して仕事サボるとはいい度胸だなぁ……」

「出来心だったんです……」

「正座しろ! 正座!!」

 

 その場で正座させようとする彼に慌てて止めにかかる。

 ここに人が通らないと限らないし、誰かに動画や写真でも撮られたら大変なことになる!?

 

「ま、まあ、大森さんも怖い目に遭っていたんですし……正直、それまで気付けない俺達も悪かったことですし……」

「……うぐっ……」

「か、カツキくん……!」

 

 下手をすれば大森さんは殺されていたかもしれなかったのだ。

 

「とにかくグラトに対する処遇についてだが……こちらで監視をつけることになるだろう」

「殺さ、ないのか?」

「我々は殺人集団ではない。こちらに害する意思がなければ、我々も手は出さない。こちらに協力する意思があるというのならば、ある程度の生活の補助はするつもりだ」

「……感謝する」

 

 戦うようなことがなく正直安心している。

 これまで会ってきた侵略者のほとんどが殺意剥き出しで襲い掛かってきたからな……。

 そういう意味では、グラトという存在はこれからの状況を変えるカギになるかもしれない。

 

「これで一件落着か……」

「あ、じゃあ、私さっきのお店に戻りたいです。まだ何も食べてないので」

「それは私もだ。あの程度では腹が膨れん。……白川君が、どれだけ暴食の限りを尽くしているかも不安なので、店に戻るとするか」

 

 とりあえず先ほどの店に戻るために歩き出す。

 しかし、その時前方から誰かがこちらへ近づいてきているのが見える。

 

「ほっ、ほっ」

 

 ……どうやら、夜にランニングをしている人のようだ。

 暗闇の中から走ってきたのは灰色のパーカーを着た少女。

 暗いからか、どこか瞳に光がない少女に、ちょっと怖くなる。

 

「こんばんわー」

「あ、こんばんわ」

 

 こちらに微笑み、軽く挨拶をしてくれた少女に反射的に挨拶を交わす。

 こんな時間に危ないな、と思いながらすれ違ったその時……。

 

――……逃げ、て

 

 頭に響いてきた誰かの声。

 猛烈な悪寒を感じ取り、背後を振り向く。

 振り向いた先の視界では、歪んだ笑みを浮かべた少女がその手に持った丸みを帯びた長方形の物体を俺に突きつけようとしている姿が映り込む。

 咄嗟に物体ごと手を掴み、腰に取り付けられそうになったソレを止める。

 

「カツキ君!?」

「ッ!? お前は……!?」

 

 何者かの襲撃に気付いたレイマとグラトが驚きの声を上げる。

 俺は、少女とは思えない力に抗いながら、突き出されたソレを見て驚愕する。

 

「ッ、な、なに……?」

「ざーんねんっ。惜しかったなぁ」

 

 伸ばされた手に持たれていたのはバックル、のようなもの。

 棘のついた緑と赤の入り混じった不気味な色合いをしたソレを、突き出した見知らぬ少女は歪んだ笑みを浮かべながら、俺から一歩離れる。

 

「あと少しでSランクの宿主を手に入れられたのに」

「ッ」

 

 触れたバックルから手が離れると同時に、心がかき乱されるような感覚に陥る。

 喉が渇いたと錯覚するほどの寂しさ。

 胸の奥底で煮えたぎるような怒りと、何かを焦がれ、心を引き裂くような形容しがたい感情に、無意識に目から涙が溢れ出る。

 

「ッ、泣いている……? 誰が?」

「……。は? え、嘘でしょ……今ので……?」

 

 袖で乱暴に涙を拭った俺に、少女は呆気にとられた表情を浮かべる。

 

「ッ、シロ!!」

『ガオ!』

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!』

 

 近くにいてくれているシロが草陰から飛び出し俺の手に収まる。

 ベルトが出現したことを確認し、バックルを嵌め込み、ボタンを叩き変身を開始させる。

 

BREAK(ブレイク) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

「レイマ!」

「ああ既に、レッド達を呼んだ!!」

 

 仕事が早い!!

 なら俺はここで守りに徹して援軍を待つ!!

 変身し、アーマーに包まれた拳を握りしめる俺を目にした少女はその場にそぐわない笑顔を浮かべる。

 

「いいなー、嫉妬しちゃうなー。私はこんな様(・・・・)なのに、君はそうなんだー。いい宿主に恵まれてるなー」

「その身体は、お前の身体じゃないな?」

「そこまで分かっちゃうんだ。もしかして、声も聞いちゃったのかな? あ、そっかぁ、だから気付かれちゃったんだぁ」

 

 嫌な感じはあのベルトからしかしない。

 それ以外は、むしろ生身は……地球に住む人間そのものだ。

 

「はじめまして、私は星将序列46位“贄のヒラルダ”でっす♪」

 

 そう名乗った少女、ヒラルダの手には俺にとりつけようとしていたバックルが握られていた。

 それを出現したベルトに嵌め込んだ彼女は、ぺろりと自身の指先を舐める。

 

「いっつも適当にやってるけど……今回だけは、ちょっと味見でもしようかな。裏切り者も始末しなきゃいけないし」

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)

 

 少女の声と同じ音声がバックルから流れる。

 ドッ、ドッ、ドッ、という心臓の鼓動に似た不気味な音声が流したヒラルダが、掲げた手をバックルへと添える。

 

「変し……うん?」

「?」

 

 変身を行おうとして背後を振り向いた彼女に、構えかけた手を止める。

 視線を追ってみると、そこにはボロボロの外套に身を包んだ、新たな人影が現れていた。

 頭に被ったフードの隙間からは、無造作に伸ばされた長い緑色の髪が見える。

 

「あれ、もしかしてコスモ? うわぁー、見違えたなー。ねえ、どうしたの?」

「……」

「……。あー、はいはい。分かったよ。今回は貴女に譲ることにする」

 

 ベルトからバックルを外したヒラルダは、降参するように両腕を上に掲げながら後ろへと下がる。

 コスモ、だって?

 でも、前に変身を解除した時はあそこまで髪が長くなかったはずだ。

 ゆっくりと前に歩み出たコスモと呼ばれたそいつは、ゆらりと右手を上げ、立てた指をレイマの後ろに立っているグラトへと向けた。

 

「星将序列の恥さらしめ……ルイン様への忠誠を忘れた不届き者に、裁きを下す」

「……なん、だって?」

 

SIN(シン) LEGURUS(レグルス) DRIVER(ドライバー)

 

 青色から黒色へと塗り替えられたバックルがひとりでにコスモの腰へと装着される。

 獣が爪を立てるような不快音がバックルから響き、コスモの足元から黒いヘドロのようなオーラが溢れ出てくる。

 

WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!! WARNING(ワーニング)!!』

 

 鳴り響く警告音。

 彼女はそれを意に介さないまま、迷いなく掌で押すようにバックルを起動させる。

 これは、前と同じ……!?

 黒い泥のオーラに全身が包まれた彼女に俺はその手にグラビティグリップを取り出し、変身を開始させる。

 

GRAVITY(グラビティ)!!』

COME ON(カモン)!!

 

 俺の青いエネルギーフィールドと、コスモの緑色のエネルギーフィールドがぶつかりあい、衝撃波と電撃を周囲へまき散らす。

 

BLACK(ブラック) & WHITE!!(ホワイト)!!』

DEVASTATENING(ディヴァステイティング!) RANPEGE(ランペイジ)!!

 

 重なるように鳴り響いていく音声。

 コスモはヘドロのようなオーラが身体に纏わりつきアーマーの形状を成していき、俺は空中に浮かび上がったアーマーが金属音と共に全身へとはめ込まれていく。

 

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

GREAT(グレート) BEAST(ビースト)!! FALL(フォール) INTO(イントゥ) DESAIRE(ディザイア)!!!

 

 フィールドがぶつかりあい、拮抗しながらアーマーの展開が終了していく。

 

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

ARMOR:ZONE(アーマー ゾーン)!! JOKER(ジョーカー) FORM(フォーム)!!!

 

 最後に余剰により生じたエネルギーが弾ける。

 アナザーフォームへの変身を完了させた俺の前に現れたのは、青いアンダースーツの上に、黒い禍々しいアーマーを纏わせた戦士。

 凶暴な印象を抱かせる頭部のマスクと、鋭利な形状へと変わった両手の爪と、腕に取り付けられた刃。

 まるで、身体そのものを武器へと進化させた相手に得体のしれない悪寒に襲われ、前に飛び出すと同時に拳を振るう。

 

「ッ」

「……」

 

 次の瞬間には、コスモが突き出した拳と俺の拳が激突する。

 破裂音が響き、腕に衝撃が伝わる。

 相手が微動だにしていないことに驚きながら、回し蹴りを叩きつけると、アナザーフォームで格段に強化されたはずの攻撃が、片腕のみで止められる。

 

「確信したよ」

「!」

「ボクは、お前よりも強い。ずっと、強い」

 

 強い踏み込み。

 認識できたのはそこまでで、次の瞬間俺の上半身に凄まじい衝撃が叩きつけられ、後方に吹き飛ばされる。

 殴り飛ばされたのか!? 反射的に腕を防御に使っていなければ危なかったな……!!

 地面に手をつき立ち上がりながら、後ろにいるレイマたちへと声をかける。

 

「レイマ!! グラトと大森さんを連れてここから離れてくれ!!」

「了解した!!」

 

 相手の狙いは俺と、裏切り者と呼ばれたグラトだ!

 

「かかっ、くひっ……あは……はぁ……!」

 

 力に酔いしれるように自身を抱きしめ笑い出すコスモ。

 まともじゃない……! なにかされたのか!?

 だけど、持っている力は本物だ……!

 

――コスモ

「ええ、ええ……分かっています。ルイン様

――うむ

「倒します。倒してみせます。裏切り者も、白騎士も全員葬ります!!!」

――ああ、見ているぞ

 

 独り言を呟くコスモ。

 誰かと通信しているのかと警戒していると、俺の頭にルインさんの声が響いてくる。

 

――強敵だぞ。

――今のお前では勝てない相手だ。

 

 断言する声に顔を顰める。

 この声は、今までの戦闘で間違ったことを口にしていない。

 そう言うほどに、目の前のコスモは驚異的な敵へと成ってしまった。

 

「それでも、俺は戦います!! 誰が相手だろうとも!!」

――!

 

 勝てないから逃げる?

 そんなことをしてどうなる!!

 俺が戦うことをやめて、誰かが傷つくことなんてあっていいはずがない!!

 

――ああ、私の可愛い、カツキ。

――死力を尽くして、活路を見極めろ。

――その末に、私の想定を超えたお前だけの道があるはずだ

「はい!!」

 

 両足を地面に打ち付け、構えを取る。

 この俺の後ろにいる人たちも、誰も傷つけさせやしない!!

 




主人公だけじゃなくちゃんとコスモにも話しかけてくれるルイン様でした。
本当に鬼畜優しい。

食べ物だけで裏切った序列072位のグラト君でした。
食べ物が絡まなければ割と常識人。


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悪魔と呼ばれた科学者(レイマ視点)

今回は社長視点でお送りします。

前半がちょっとした過去回想。
中盤からは、前話の続きからとなります。


 星将序列61位“悪魔の科学者ゴールディ”と呼ばれていた頃の私は、傲慢で自信に満ち溢れた愚かな性格をしていた。

 まあ、天才だったことは事実だろう。

 他の追随も許さないほどに賢かった私は、平の研究員だった身で自作のスーツを作り上げ、その性能と戦闘力、そして将来性を後に先生と仰ぐ“ヴァース”に評価され、星将序列を持っていない身から一気に序列61位へと繰り上げられた。

 その時の私は、ものすごく調子に乗っていた。

 自身の科学力と発想を評価され、柄にもなく舞い上がっていたのだ。

 

『誰もが、実現することの不可能な最強の“鎧”を作り上げる』

 

 肉体の枠を超え強大な力を“身に着ける”というごく単純な目的のために、研究と実験を繰り返していた。

 その一環で作り上げた三つの傑作と、一つの失敗作。

 

 VERSION:SAGITTAEIUS(サジタリウス)

 

 VERSION:LEGURUS(レグルス)

 

 VERSION:LIBRA(ライブラ)

 

 VERSION:VIRGO(ヴァルゴ) 

 

 サジタリウスは、この私専用の強化スーツ。

 ライブラは唯一適合してみせた“ヴァース”に師と仰ぐ彼に友人として贈ったが、レグルスは適合者が現れることなかった。

 スーツを作っている時点では、なぜ強化スーツが適合者をえり好みするのかその理由を分かっていなかった。

 その理由の大部分が強化スーツに用いているエナジーコアに由来しているのが分かっていたが、それ自体はただの意思を持つエネルギーとしか、私は漠然としか理解していなかったのだ。

 

 ただの興味本位だった。

 エナジーコアとは、なんなのか?

 どこからやってきたものなのか?

 知的探求心のままに、私はエナジーコアを調べてしまった。

 ……調べて、しまったのだ。

 

『なんだ、これは……』

 

 解析し、濃縮されたエネルギーの壁を突破した先に映し出された映像は、地獄そのものであった。

 破壊されている惑星。

 虐殺されていく星の生命体。

 その視線の主である少女は、悲しみに暮れたまま捕獲され、その末に物言わぬエネルギー体、エナジーコアにされてしまった。

 

『ふざけるな……!』

 

 この事実がどれほど私にとって衝撃的だったか。

 意思を持つエネルギー体、という認識に過ぎなかった。

 だがその実態は、“アルファ”と呼ばれた能力に目覚めた生命体を生きたままコアとさせる、悍ましい所業により生成されたものであった。

 思えばここで私は、自らの地位と、組織に不満を抱いていたのだろう。

 研究さえできればいいという考えは既になかった。

 地位と、知識を生かし、組織の内部を調査すると、すぐに私が星将として所属している場所がどのような所業を行っているのかが判明した。

 

 星の管理。

 アルファとオメガの選別。

 侵略と破壊。

 そして、頂点に君臨する絶対的な強者の存在。

 

 どれだけ自身が愚かかということを理解させられた。

 私は自身の研究に没頭するあまり、事実から目を背けていたのだ。

 気づいたときには既に遅く、私の背信にいち早く気付いたかつての上司であった研究者、ガウスによりサジタリウスが盗まれ、粗悪品のスーツが序列内に出回ってしまった。

 

 粗悪品とはいえ、誰にでも扱えそれなりに戦力の向上を可能にさせるスーツだ。

 自身の発明が卑劣な所業に使われる。

 そのような事実はあってはならないと決起し、単身でガウスの研究室をサジタリウスごと爆破し、それ以上の改良、強化をできないようにさせ逃亡を行った。

 

『ゴォォォォルディィィィ!!』

『フハハハ!! さらばだ! パクリ野郎!! この俺の研究成果は誰にも渡さんぞォ!! ヴェ、ヴェェェッッハッハッ!!』

 

 自身の傑作を破壊したこと以上に、元は肉体を持って生きていたコアであるサジタリウスを破壊しなくてはいけなかったことをひたすらに悔やむしかなかった。

 本格的に組織から抜け出し、裏切り者として追われる身となってしまった。

 強化スーツと、研究室に保管していた二つのエナジーコアを持ちだし逃亡を図った私は、どこか組織から身を隠せる場所へと向かうことにした。

 追っ手に関しては、軽々と撒けると思っていた。

 その時点までは。

 

『すまないな、ゴールディ』

『先生……!?』

 

 まさかの追手が先生と呼び、父のように慕った男“ヴァース”であった。

 重厚な鎧を纏った強化スーツ“VERSION:LIBRA”を身に纏った彼は、私の乗る宇宙船の前に現れた。

 

『貴方は組織の所業を知っているのですか!?』

『然り』

 

 胸に抱いたのは失望か、はたまた喪失感か。

 信じていた者に裏切られた私に、ヴァースは静かに刀の柄に手を添えた。

 

『この一刀にて、お前の運命を決する』

『———ッ!』

『生か死か、それを決めるのはお前自身。……それが、お前に師と呼ばれた私にできるせめてもの情けだ』

 

 私は迷いなく船を自爆させた。

 彼が攻撃を放つその意味を理解した上で、より高い生存確率を選んだのだ。

 爆発が引き起こされたその瞬間、宇宙船が空間ごと両断させられる。

 身体に突き刺さる破片を、肉体を焼き焦がす炎を無視しながら、たった二つのコアを持ちだした私は、あらかじめ転移先の座標をセットさせた小型ポッドへと乗り込み――ー爆発内での強制転移を行い、その場からの逃走を成功させた。

 

『備え、なくてはな』

 

 転移した先には、青い星。

 口から血を吐き出しながらなんとか意識を保たせた私は、確固たる決意を固めながら青い星へと降り立つべくポッドを操作させた。

 


 

 

 禍々しい仮面の戦士へと変身を遂げたコスモと、アナザーフォームへと変身したカツミ君。

 向かい合う二人を目にした私は、彼の邪魔にならないように大森君とグラトを逃がすべくその場から離れようとする。

 

「グラト、大森君を連れて逃げるぞ!」

「そうした方が良さそうだ。あの戦いに、私程度が援護に入っても死ぬだけだ」

 

 レグルスが暴走している今、コスモの戦闘力はカツミ君のアナザーフォームを上回っていてもおかしくはない。

 しかし、レグルスの変身者は数日前とは別人すぎる……!!

 いったい、なにをされたら暴走状態のまま変身させようとする無茶なことをするようになるんだ……!!

 

「逃げちゃだめだよ?」

「わひっ!?」

 

 しかし、一瞬大森君から目を離した瞬間に、彼女の背後にいつの間にか現れた少女――ヒラルダが、大森君の首に右腕を回しながら、左腕に趣味の悪いデザインのバックルを見せつけながら、悪戯をした子供のような笑みを浮かべていた。

 

「大森君!?」

「マナ!?」

「動かないでねー。君達が何もしなければ、なにもしないから♪」

 

 恐らく、肉体を乗っ取るタイプの侵略者。

 それも意識を表面化させたアルファが強化スーツとしての力を持っていることから、高い戦闘力を有していることは間違いない。

 

「お前、アルファだな」

「そうだよ? よく分かったね」

「……その肉体の元の人格は、生きているのか?」

 

 ベルトとして寄生し、人格を乗っ取る。

 今、宿主となっているのは年端もいかない少女だ。

 

「勿論、生きているよー。ずっと泣いてて鬱陶しいくらい」

 

 こちらにとっては人質を取られている状態なわけか……。

 後で身元を確認すべく胸ポケットのペン型のカメラでヒラルダの顔を撮影しておく。

 

「貴方がゴールディね。こっちじゃ貴方は有名人よ」

「当然だろう! 私だぞ!」

「……思ったより自己主張の激しいバカなのは分かったけど、今はあっちの戦いを見て楽しもうよー」

 

 なぜバカ呼ばわりされるのか分からないが、ヒラルダが見るように促した方向を見る。

 

「私、強化スーツ開発者の貴方の解説が聞きたいなー」

「あ、あわわわわ……」

「くっ」

 

 大森君が人質に取られている以上、迂闊なことはできないか。

 ……こういう時こそ、私自身が戦闘できればいいのだが……!!

 

「ガァァァ!!」

「ッ」

 

 雄叫び、そして激突音。

 それを耳にしカツミ君へと視線を戻す――前に、私の視界内に、木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされてくるカツミ君の姿が映り込む。

 そんな彼を追うようにし、暗闇を切り裂くように青い軌跡を走らせたコスモが獣のような挙動と共に襲い掛かる。

 

「白騎士ィィ!!」

「……ッッ」

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

 

 その手に白と黒の大剣を出現させた彼が、叩きつけられた腕の一撃を受け止める。

 しかし、真正面から攻撃を受け止めることを難しいと判断したのか、後ろに逸らすように攻撃を受け流した彼は、そのまますれ違いざまに大剣の一撃を胴体へと叩きつける。

 

「あはっ!」

「!?」

 

 アナザーフォームの強力な一撃。

 まるで効いた様子もなく、彼の腕を掴み取ったコスモはそのまま力任せに、彼に頭突きを叩き込む。

 理性も効率性もない、本能に任せた戦い方。

 そして、攻撃に対しての耐性と再生能力。

 

「痛みを感じていないのか!!」

「この忠義の前にはねぇ! 痛みなんか、感じていないのと同じなんだよ、白騎士!!」

「意味が分からん!!」

 

 グラビティバスターを両手で握りしめたカツミ君が、嵐のように迫る連撃を防いでいく。

 

「死ねっ、死ねっ! 白騎士!!」

JOKER(ジョーカー): ARM BLADE(アームブレイド)

 

 ジャキン! と光と共に右の前腕に出現する魚のヒレのような刃。

 手刀を叩きつけるように腕を振るい、グラビティバスターの刃に腕を打ち付け火花を散らしたコスモは、そのまま左手を添えて、グラビティバスターごとカツミ君を押し込む。

 

「これが、ボクの力なんだ……お前とは違う……ルイン様に選ばれたボクだけの力だ……」

「……っ!」

 

 コスモのパワーは完全にカツミ君のアナザーフォームを上回っている……!!

 押し付けられた腕の刃が彼の肩に接触した瞬間、コスモは力任せに腕を引き、彼のアーマーごと肩を切り裂く。

 

「ぐっ……まだ!!」

 

 肩の負傷を無視した彼だが、瞬時にグラビティバスターをガンモードへと切り替え、コスモの胴体にエネルギー弾を撃ち込み、後ろへと退かせる。

 肩で息をしながら、肩を押さえた彼はその場を動くことのできない私達に気付く。

 

「レイマ! どうして、まだ……!? ヒラルダ、お前……」

「名前、憶えていてくれたんだー。嬉しいなー。カ・ツ・キくん」

「大森さんを離せ……!」

「今は駄目だよ? ほら、余所見していていいの?」

 

「あ、ははは!!」

 

 タガが外れたような笑い声を上げながら襲い掛かるコスモの攻撃を、カツミ君が受けとめる。

 腕の刃と、大剣が甲高い金属音を上げながらぶつかりあう光景を目にしたヒラルダは、目を細める。

 

「醜いなぁー。コアがかわいそう」

「あれは、どうしてああなった?」

「さあ? 前はもっと弱かったけど、ちょっとは強くなったみたいだけどなー。苦しんでる声が聞こえないのかなー」

 

 序列内の仲間かと思ったがそこまでではないのか?

 せめてもの情報を引き出せれば……このままでは、俺は役立たずだ。

 

「社長、ナツ! 私のことはいいから逃げてください!!」

 

 ヒラルダに捕まりながら大森君がそんなことを叫んだ。

 顔を青ざめさせ、恐怖で足を震わせた彼女を見た私とグラトは、表情を顰めさせる。

 

このバカちんがァ――! 君をこの場に残して宿主にでもされたら、後々厄介なことになるに決まっているだろうが!! よく考えてものを言えぇ!!」

「マナ、ドラマの見過ぎだ! そいつは人間に寄生するんだぞ!! お前が死んで済むという相手じゃない!!」

「えええ!? 勇気出して言ったのになんで怒られるの!?」

「喧しい人達だなー……」

 

 身体を乗っ取られでもしたら厄介だが、それ以上に大森君は我々の仲間。

 見捨てる選択肢はない。

 だが、それと同時に我々には打つ手がない。

 

「おおおお!!」

「無駄な抵抗ばかりだねぇ!!」

 

 白のアーマーに罅を刻みつけながら、彼は果敢にコスモへと挑みかかっていく。

 グラビティバスターをガンモードにさせたエネルギー弾を放つ彼を前に、コスモは軽く後ろへと飛ぶと、背後に作り出した黒い渦に入り込みその姿を消す。

 

「ワームホールだと!?」

 

 単体でワームホールを発現させたのか!?

 まさか、タイムハザードの能力まで有しているとは……!!

 姿が消え、周りを警戒するカツミ君の側方に、コスモが現れ彼の左肩に蹴りが直撃する。

 

「ぐっ」

 

 肩の骨が折れたのか、だらりと左肩を脱力させながらも彼は着地する。

 グラビティバスターを投げ捨てながら、バックルを叩く。

 

COMPLETE(コンプリート)! TIME(タァイム)! HAZARD(ハッザァァァドッ)!!』

 

 十秒間限定のフォーム、タイムハザード。

 白いアーマーを消し去り、黒い姿となった彼は動ける右腕を構えながら、コスモへと向かう。

 

COUNT(カウント) START(スタート)!!』

10(テン)!!』

 

 ワームホールを作り出すと同時に、コスモもワームホールへと入り、別次元の戦闘を開始させる。

 互いに同じ能力を持つ者の戦い。

 空中に現れては消えていく、二人。

 

7(セブン)!!』

「「ハァァァ!!」」

 

 この私の目を以てしても目まぐるしく動く戦いは、恐ろしく速い。

 だが、今のカツミ君は左腕を負傷している……!!

 その差はとてつもなく大きい……!!

 

5(ファイブ)!!』

 

「ハ、ァハハ!!」

WILD(ワイルド)1!!

 

 バックルを乱暴に叩いたコスモが空に転移すると同時に腕の刃を赤熱させながら、連続の転移を用いてカツミ君目掛けて落下し――、サメが獲物を食い破るように腕を叩きつけ、強烈な斬撃を刻みつけた。

 

SLASH(スラッシュ) EXECUTION(エクスキューション)!!

「ッッッッ!!!」

 

 血煙が舞い、地上へと叩きつけられながらも立ち上がるカツミ君。

 それでも尚、立ち上がって見せた彼は振るえる腕で、バックルを叩き最後の必殺技を発動させた。

 

「ま、だ」

DEADLY(デッドリィ)!! HAZARD(ハッザァァァドッ)! TIME(タイム)OVER(オーバー)

 

「ハハッ! 無駄な足掻きを!!」

WILD(ワイルド)3(スリー)!!』

 

 全エネルギーを集中させた右拳を構えるカツミ君に、足にエネルギーを集めたコスモが飛び蹴りの態勢に移る。

 消耗しているカツミ君とは裏腹に、強大なエネルギーを放ちながら襲い掛かるコスモ。

 

「終わりだァ! 白騎士ィィ!!」

「今だ!!」

10 COUNT(テン カウント)!!』

 

 彼が掌を前に突き出すと蹴りを繰り出すコスモの前にワームホールが作り出される。

 

「なっ!?」

 

 勢いのままワームホールに入り込んだコスモが転移された先は、カツミ君の背後。

 地面に蹴りを叩きつけた奴に振り向いた彼が、全力の拳を遠心力に任せて振り下ろした。

 

「オラァ!!」

KNUCKLE(ナックル)! FEVER(フィーバー)!!』

 

 力に任せたコスモとは異なる、経験に裏打ちされた策に、コスモは完全に不意をつかれた……!!

 ギリギリまで引き付け、圧縮されたエネルギーが込められた拳がコスモへと突き進む。

 

「……ッ……」

 

 ———しかし、その拳がコスモに届くことはなかった。

 拳が叩きつけられようとしたその時、彼の身体から漆黒のオーラが消えてしまったのだ。

 一瞬の光に包まれた彼は、初期フォームのブレイクフォームへと戻されてしまう。

 

「ここ、までか……!!」

「ッ、このぉぉぉっ!!」

 

 身体が負荷に耐え切れずタイムハザードが強制解除された?!

 攻撃が中断され、疲労で今にも倒れそうな彼を目にし、我に返ったコスモはそのままエネルギーの纏った回し蹴りを彼の胴体へと叩きつけた。

 

JOKER(ジョーカー) EXECUTION(エクスキューション)!!

「がッッ……」

GAME(ゲーム) OVER(オーバー)……』

 

 胴体へと叩き込まれた一撃により、彼のマスクの一部が砕き割れる。

 地面を転がりながら、倒れ伏した彼に私達が駆け寄ろうとするが、それよりも先に技を放ったコスモがワームホールを介してやってくる。

 

「ボクは、勝ったんだ」

 

 変身が解けないまま、地面に倒れ伏すカツミ君の身体を奴は足蹴にする。

 声を震わせた奴は自身の顔に手を当て、喜びに打ち震えた。

 

「ふ、あ、ははっ……やった! やったんだ!! これでボクは認められたんだ!! お前を倒した!! 倒したんだ!! これで……これで……」

「……」

「これで……なんだ……?」

 

 ……? コスモの動きが止まった?

 不意に我に返ったように、倒れ伏したカツミ君から足を引き、後ろに下がった奴は混乱したように頭を押さえる。

 

「……ボクは、勝ったのか……? こんなものが、勝利なのか? 力で勝っているにも関わらず、一瞬の差でボクは負けてたのに……?」

「……」

「あ、ああ、なんで、何をしたんだ? 何がしたかったんだボクは……? こんな力に頼って、何をしたかったんだ……? レオ? どこにいるんだ? レオ? 君の声が聞こえない……」

 

 ど、どうしたんだ?

 突然、錯乱しはじめたんだが……。

 

「あーらら、無理な強化で自分を見失いそうになってる。かわいそー」

 

 愉快気に笑うヒラルダ。

 状況が変わり、私もグラトもどうするべきか分からず困惑していると、気絶し、倒れ伏したはずのカツミ君が立ち上がろうとしているのが見えてしまう。

 

「……」

「どうして、立ち上がるんだ……? お前は、もう立てないはず、なのに……」

 

 割れたマスクから彼の素顔を見れば既に彼の瞳は意識を保っていない。それにも関わらず、戦う意思を見せる彼の姿に、コスモがやや怯えの混じった声を漏らす。

 唯一動く右手を彼が掲げると、その手に光と共に掌サイズの何かが現れる。

 

「……」

MIX(ミックス)!!!』

 

 グラビティグリップとは異なるアタッチメントを手にした彼が、右手で掲げたそれのスイッチを押す。

 すると、アタッチメントに二つの表示がルーレットのように動き出し、それぞれが赤、青、黄、黒、と別々に動き出す。

 もう一度スイッチを押すと同時に停止し、“赤”と“青”二つの色が表示される。

 

RED(レッド)!!』BLUE(ブルー)!!』

SWORD(ソード) & GUN(ガン)!! MIX MUCH(ミックス マッチ)!!』

 

 この場に来て新しい戦闘形態だと!?

 さらなる進化を遂げようとした彼が、バックルに新型のアタッチメントを接続しようとする。

 

「……」

「カツミ君……!?」

 

 しかし、その挙動は叶わず変身が解けてしまった彼は、その場で崩れ落ちてしまった。

 既に限界を超えていたんだ。

 呆然とするコスモと倒れ伏したカツミ君を目にしたヒラルダは、一人上機嫌のまま私とグラトへと視線を戻す。

 

「さーて、この後どうする? コスモは戦意喪失しているわけだけど、私はどうしようかなー」

「見るべきものは見たんじゃないのか?」

「大人しく帰るとは口にしていないし」

 

 確かに、それは分かっていた。

 だが、もう心配はいらないだろう。

 彼が自身が傷つくことをいとわず、その命すらも賭けたたった数分で――現地球最強の守護者達がやってくる時間を稼いで見せたのだから。

 

「! おっと!!」

 

 何かを察知したヒラルダが大森さんの首に回していた腕を外し、その場から飛びのく。

 次の瞬間、奴がいた場所に二発の小型のエネルギー弾が撃ち込まれ、地面に風穴を開ける。

 

「躊躇なく急所を狙ってきたっ! こりゃ、やばいねっ! さっさと逃げよっと!!」

 

 人間の身体を乗っ取っているとは思えない身体能力で、その場から消えるヒラルダ。

 自由の身となった大森君をグラトに任せた私が、カツミ君の方を見ると、その場には既にカツミ君の状態を確認しているイエローとレッドの姿があった。

 

「イエロー、彼は……」

「生きてる。でも早く治療しなくちゃ……」

「……」

 

 血にまみれ倒れ伏した彼の状態を確認し、生きていることを確認した彼女は未だにその場を動いていないコスモへと振り向き――、かつてないほどの怒気と殺意を放った。

 

「お前か」

「ッ!」

 

 敵意に反応したのかその手に刃を作り出し、ワームホールと共に攻撃を繰り出そうとするコスモ。

 それを目にしたレッドは小さく腰を下げ、剣の柄に手をかけ——、目にも止まらないほどの抜刀と共に、ワームホールを叩き割り、その先にいるコスモの肩を縦に切り裂いた。

 

「ッッッ!? な!?」

 

 プロトとは別の、もう一つのコアに選ばれし適合者、レッド。

 ただの地球人の少女だった彼女は幾度の死線を潜り抜けた末に、戦闘における天性の才覚を覚醒させた、この私ですらもドン引きさせるスーパー地球人の一人。

 

「目障りだから、さっさと消えろ」

 

 続けて振るわれる不可視の斬撃。

 ワームホールすらも容易く、両断、破壊して見せる彼女の攻撃にさらなる混乱に追いやれられたコスモは、その場からの逃走を選んだ。

 かろうじて発動させたワームホールでその場から消え失せた奴を確認したレッドは、剣を取り落としながら彼へと駆け寄る。

 

「か、かかかカツミ君!? い、イエロー、本当に大丈夫なの!?」

「分からんわ!! 私に聞かれても!! 司令!! 早く、こっちに!!」

「わ、わわわ、分かっているわぁ!! 安心しろ!! 私は科学者だ!! 応急処置くらい朝飯前だぁ!!」

「今、夕飯後ですけど」

「わーってるわ!! このナインジャーズが!!」

 

 先ほどの緊迫した状況とは裏腹にあたふたとし始めるレッドとイエロー。

 シロが護ってくれたのか、大きな傷は肩だけで後は軽傷だけであるが、それでも油断ならない状態であることは確かだ。

 

「応急処置なら、私にもできる」

「グラト? 可能なのか?」

 

 大森君と共にやってきたグラトがカツミ君に手を掲げ、なんらかのオーラを放つ。

 それを浴びたカツミ君の表情は、徐々に穏やかなものへと変わっていく。

 

「蓄えたエネルギーを彼に与えた」

「大丈夫、なのか?」

「美味しいものを食べれば、いずれは溜まる。美味しいものを食べれば

 

 言外に催促された気もしなくもないが、これで彼の状態は安定したか……。

 後は怪我を悪化させないように応急処置を施しながら――ー、

 

「大森さんが二人……!?」

「嘘やん……」

「なるほど、生き別れた双子と……」

「後で説明するからお前達は静かにしてろ……!!」

 

 そういえばこいつらにも大森君のことを説明しなきゃいけなかったんだ……!

 




さらっとアナディケのオーロラ技もどきを使いだす主人公でした。

このタイミングでレイマの過去について描写させていただきました。
名前のみ登場した強化スーツについては、全部出せるかどうかはかなり怪しいかもしれません。


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変態と、過去の失言

お待たせしました。

前半がコスモ視点。
後半はハクア視点となります。


 白騎士にボクは勝利した。

 力で上回り、奴に最大の攻撃をぶち当て気絶にまで追い込んだ。

 ボクの力で勝った。

 そのはずだった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 暗い路地。

 湿気に満ちた陰鬱な雰囲気を醸し出す、その場所で変身を解いたボクは、ジャスティスクルセイダーのレッドに切り裂かれた肩を押さえていた。

 

「どうして……」

 

 この胸に渦巻く不安と疑念が晴れることはない。

 勝ったはずなのに、これでルイン様に認められるはずなのにちっとも嬉しくはないんだ。

 それどころか、喜びとは異なる焦燥にも似た感情だけがボクの胸を占める。

 

ボクは勝ったのか? 

倒したはずだ

あれを勝利と言えるのか?

勝ちは勝ちだ

本当に?

なんの不満がある。

そう言い切れるのか?

勝ち方に拘るなんて今更だ。

ボクを倒す寸前にまで追い詰めた。

結果が全てだ。

その一瞬の差で僕は勝っただけにすぎない。

立っていたのはボクだ。

 

 ルイン様との修行の結果、力を引き出した。

 力が無限に溢れてくると思えるほどの全能感。

 なんだってできる。

 なにをされても許される。

 これまで抑圧してきた衝動のままに暴れたボクは、その果てに自分の持つ力に疑問を持ってしまった。

 

「ボクは、こんな戦いをしたかったわけじゃ……!!」

 

 技術もなにもない獣同然の戦い方。

 だがその一方で白騎士は、経験と技術でボクと渡り合った。

 相手は憎き怨敵……のはずなのに、ボクの心に浮かんだ感情は、憎悪とはまた別の感情だった。

 

「くっ、うぅ……」

 

 肩の傷がうずく。

 それほど深くはないけど、傷口からは血が滲んでいる。

 ボクは、懐から注射型の鎮痛剤を取り出し、肩へと突き刺す。

 

「……ッ」

 

 ジャスティスクルセイダー。

 地球の守護者と呼ばれている者達の力は、はっきり言って異常だ。

 下手をすれば、星将序列30番台か、それ以上の実力を有している可能性ある。

 

「ルイン様……ボクは、どうしたら……どうしたら、いいんですか……」

 

 ボクの問いにルイン様は答えてくださらない。

 空しくボクの声が響いたことにうなだれながら、壁に背を預ける。

 

「分かりません……ボクは、今の自分が正しいのか……分かりません……」

 

 地面に座り込み、膝を抱える。

 レオは、変身を解いてもなお物言わぬベルトの一部となり、沈黙し続けている。

 

「それは貴女が自分の本心を誤魔化しているから」

「……ッ!」

 

 ボク以外の何者かの声に立ち上がる。

 咄嗟にベルトを構えて見せると、そこには派手な服装に身を包んだ変態がそこにいた。

 

「へっ、変態!?」

「変態とはご挨拶ね。通りすがりの乙女よ

「乙……女……?」

 

 何者だ……?

 謎のふてぶてしさと共に腕を組んだ得体のしれない乙女を名乗る男は、ボクが背を預けている壁とは反対の壁に移動し、向かい合うように背中を預ける。

 

「私はサニー。星将序列に名を連ねる女傑とは、私のことよ」

「……。な、なんの、用だ」

 

 こ、こんな衝撃的すぎる見た目なやつはいただろうか……?

 なんか、普通に怖い。

 警戒を露わにするボクにサニーと名乗った男は、肩を竦める。

 

「観光よ」

「は?」

「か・ん・こ・うよ。私、別に戦いに来たわけじゃないの」

「なにを、言ってる……?」

 

 まさかそんな理由で?

 ルイン様の指令はどうするつもりだ?

 きっと、マヌケな顔になっているであろうボクに、サニーはくすくすと笑みを浮かべる。

 

「今日はそうね。貴女のことが気になって話しかけようかなって思ったの」

「ボクを殺しに、きたのか?」

「ふふっ、そんなことするわけないじゃない」

 

 おどけたように肩を竦めるサニーに毒気が抜かれる。

 ヒラルダのように人を小ばかにしたような雰囲気じゃない。

 まるで、温かい明かりのような穏やかな声と雰囲気に、ボクは不思議と警戒を解いてしまう。

 

「ヴァースったら。子育てが下手ねぇ。不器用っていうのかしら?」

「……ッッ」

 

 父の名を親しみを込めて呼ぶ。

 その事実だけで、ボクは相手が遥かに格上の序列だと認識する。

 軽く歩み寄ってきた彼が、煤汚れたボクの頬を懐から取り出したハンカチで拭う。

 相手が序列が遥か上の格上だと察して、動けないでいるボクにサニーは微笑ましそうに笑う。

 

「あら、怪我をしているじゃない! 大変、女の子なんだから怪我を放っておいちゃだめじゃない!」

「え、あ、ちょ!? おい! やめ!!」

 

 一瞬で外套を剥ぎ取られ、傷を診られる。

 血が止まっているが、信じられないほどに綺麗な切り傷に我ながらびっくりしていると、サニーが治療用のキットを手元に転送させ、傷の手当をしてくれる。

 抗えない強引さに、ただ成すすべなく治療されるしかない。

 

「余計なおせっかいをするなぁ!」

「嫌ならどけてみなさい。言っておくけど、私序列一桁よ?」

「嘘!?」

「嘘じゃないわよー」

 

 予想を遥かに超えた上の存在に素っ頓狂な声が漏れる。

 父を含めた序列一桁――精鋭中の精鋭であり、まさしく全宇宙から選び出された超常の戦士達。

 その中の一人が、サニーというのが本当なら、なんで序列67位のボクなんかを気にかけるんだ、こいつは……。

 

「白騎士ちゃんに勝った気がしない?」

「! ……見て、いたの?」

「私、あの子達の大ファンなの。むしろ、応援しちゃってるかも」

「……裏切って、いるの?」

「フフ、中立なだけよ」

 

 ボクではなく、倒すべきはずの白騎士を応援していた……のか?

 胸の奥底で粘りつくような嫉妬心が溢れ出る。

 

「どうして、勝ったと思えないか分かる?」

「……」

 

 それが分かれば苦労しない。

 無言のボクに治療用のスプレーを吹き付けたサニーは、呆れたため息を漏らす。

 

「貴女の戦う理由はなに?」

「認められたい……から」

「はい、だめー」

「あうっ……!? な、なにするんだ!」

 

 額に衝撃が走る。

 ボクの額をサニーが指で弾いたと気付きながら、その威力に額を押さえる。

 

「戦う理由を、他人に依存させてどうするのよ」

「……依存……なんかじゃ……」

「貴女は戦う相手を見ていたの? 貴女と真っ向から戦う白騎士ちゃんの姿を見ていたの? ただ自分のために倒される敵としか見ていなかったんじゃないの?」

「違う……」

「はい、うそー」

「またっ!?」

 

 また額を小突かれ涙目になってしまう。

 

「貴女は誰も見ていなかった。認められたいって思いだけで、白騎士ちゃんと、そのバックルと……他ならぬ自分自身さえもね」

 

 ボクは戦うべき相手の白騎士を見ていたのだろうか?

 レオと向き合えていたのだろうか?

 それさえも、分からない。

 ボクは、ボクが分からない。

 

「貴女は戦いに余計なものを持ち込みすぎているのよ。ごりっごりに固めまくって、あなた自身が身動きを取れなくしてしまっている」

「……」

「一度、荷物をぜーんぶ放り投げてみたら? 貴女に必要なのは遊び心、お堅い心を解して、柔軟に物事を考えられれば、世界が変わって見えるわよ?」

 

 放り投げるって、そんな無茶苦茶な。

 唖然とするボクにサニーは人差し指を立てる。

 

「近いうちにもう一度、白騎士ちゃんと戦ってみなさい。それで答えが分からなかったら……その時は、私もとやかく言うつもりはないわ」

「もう、一度……」

「……はい、治療終わりっ! 我ながら完璧な仕上がりねっ!」

 

 肩の傷を治療し終えたサニー。

 無言で外套を羽織ったボクは、なんとも言い難い表情を浮かべる。

 

「さーって、それじゃあ私はそろそろ行くわね」

「どこに……?」

「行きつけのカフェよ。一緒に来る? 私の推し、いるわよ?」

「こ、断る……」

 

 あら残念、と呟いたサニーはそのまま路地から光が差し込む通路へ向かおうとして、不意にこちらを振り返る。

 

「貴女が信じる神様は本当に正しい存在なのかしら?」

「え……?」

「神様が全てを決めるわけではないわ。彼の目覚めは近い。貴女は……どうかしらね」

 

 手を振りながらどこかへ歩いていくサニー。

 その大きな背中に畏怖の感情を抱きながら、ボクは冷たい壁に背を預けて目を瞑る。

 

「……」

 

 バックルを取り出し、物言わぬレオと目を合わせる。

 ボクのせいで心を閉ざしてしまった、相棒。

 

「ねえ、レオ。ボクは……どうすればいい……?」

 

 声をかけても、いつもの反応は返ってこない。

 その時、僕は力を得るためにどれだけ大切な存在をないがしろにしてしまった事実を、意識しレオを胸に抱きしめながら静かに涙を流すのであった。

 


 

 私がお好み焼きを食べている間に強敵と戦っていた彼は、大怪我をして入院してしまった。

 相手は、先日戦ったという青い戦士。

 さらに強くなったそいつを相手に、彼は懸命に戦い社長と大森さんを守っていた。

 

「かっつん……」

 

 病室の個室で静かな寝息を立てて眠っているかっつん。

 彼の負った傷は深くはあったけれど、命に別状はない。

 肩の傷と、全身の打撲を考えると大怪我だけれど、前に記憶喪失の彼を見つけた時の傷の方がもっと酷かった。

 

「すぅ……すぅ……」

「まったく、姉さんは……」

 

 アルファはかっつんがこの部屋に移された時から全く彼から離れようとはしなかった。

 彼の寝ているベッドに身体を預けて眠っているアルファに、タオルケットをかけながら、私は軽く吐息をつく。

 

「疲れてる? 白川ちゃん」

「……大丈夫。きららは?」

「私も平気。護衛としてここにいるけど、全然退屈じゃないし」

「……そっか」

 

 私の隣にあたる位置に座っていたきららの言葉に頷く。

 かっつんの正体が敵の一人にバレた。

 彼が今、戦えないと知ればその隙を狙って襲ってくる侵略者がいるかもしれないので、ジャスティスクルセイダーは護衛としてこの場にいてくれているのだ。

 

『カツミ……』

『ガウ……』

 

 彼の枕もとには喋る端末であるプロトと白色のメカオオカミ、シロが付き従っている。

 彼がここまでの傷を負うことは、あまりなかった。

 黒騎士と呼ばれていた時でさえも、彼は組織のバックアップを受けていないにも関わらず、ほとんどの戦いで変身解除にすら追い込まれることはなかった。

 

「私、なにもできてない」

 

 独り言をつぶやき、気分を落ち込ませる。

 私は戦いに向かうかっつんのために、何かできているのだろうか。

 

「無理になにかをする必要ないと思うよ?」

「そうは言うけど」

「帰りを待ってくれる人がいれば、それだけで、ありがとう、って気持ちになるんだ」

「きららもそうなの?」

「私はいつもそう思っているよ」

 

 きららには、弟や妹を含めた家族がいる。

 彼女にとってはそれが、家に帰る理由の一つになっているんだ。

 

「……きららってさ」

「うん?」

「普通だよね。いい意味で」

「褒められてる気がしない……」

 

 がっくりと肩を落とす彼女に苦笑する。

 キャラ付けのために変な関西弁を使っている子ではあるが、普通にいい人なのだ。

 

「本当に、アカネと葵とは違くて安心する……!!」

「二人、私の前になにかしたの?」

「……」

「あっ、いいわ。察した」

 

 とりあえず、寝ているかっつんは私とアルファで守り切ったと言っておこう。

 付き合いも長いからか、何が起こったのか大体を察したきららはため息を零す。

 

「カツミ君、早く元気にならないかな」

「シロが力を与えてくれているから怪我自体はすぐに治ると思う」

『ガウ』

『私も、その能力欲しい……』

 

 どこか誇らしげなシロに羨ましそうな声を零すプロト。

 きららの言う通り早く元気になって目覚めてくれればいいな……。

 私としてはそれだけで嬉しい。

 

「……なんか最近、ちょっと寒くなってきたよね」

「分かる。夏真っ盛りなのに、妙に気温が低いんだよね」

「……」

「……」

 

 病室で無言のままの時間が過ぎる。

 ふと、ボーっとしていた私の頭に、一つの疑問が思い浮かぶ。

 

「きらら。ジャスティスクルセイダーでさ、誰が一番強いの?」

 

 なんだかんだで気にすることのなかった疑問だ。

 この場にアカネと葵がいれば、間違いなく自分だと答えが分かり切っている質問でもある。

 

『一番強いの? 私……かな?』

『遠距離からズドンすればいけるいける。え、直感で避ける? SOA(そんなオカルトありえません)

 

 と、まあ、こんな回答が飛んでくるだろう。

 しかし、きららはそんな我の強い回答はせずに普通に考えてくれる。

 

「んー、状況によるかなぁ。一対一で勝負したとしても互角だし」

「普通だ……」

「何言っても普通っていうのはやめてくれない!?」

 

 いや、そうとしか思えなくて……。

 

「プロト、いいかな?」

『私を弄ぶ気?』

「どこで覚えてきたのそんな言葉?」

 

 訳の分からない知識を蓄えたプロトに軽い衝撃を受けながら、端末を手に取る。

 

「きらら、調べてみてもいい?」

「えぇ、やめた方がいいと思うよ? 不毛だし」

「暇つぶしにもなるし」

 

 とりあえず『ジャスティスクルセイダー』で検索してみる。

 

 ジャスティスクルセイダー 強すぎ

 ジャスティスクルセイダー ブラッド

 ジャスティスクルセイダー 敗北者

 ジャスティスクルセイダー 白騎士くん

 ジャスティスクルセイダー 黒騎士くん

 

 予測変換もなんか一部酷いなぁ。

 試しに強いを押して検索してみると、丁度いいサイトを見つけたので見てみる。


 

 

791:ヒーローと名無しさん

 

ランク付けを最新版にしてみた。

 

SS 黒騎士くん(オールマイティ) 二期ジャスティスクルセイダー(3人)

S  黒騎士くん(ブチギレ) ジャスティスクルセイダー(三人)

A  黒騎士くん(ノーマル) 二期レッド(ブラッド) 二期イエロー 二期ブルー

B  レッド ブルー イエロー 白騎士くん(ブレイク)

C  白騎士くん(セーブ)

 

ジャスティスクルセイダーは怪人編と、侵略者編で戦闘力爆上がりしてるから二期って表示で差別化してる。

異論は認める。

 

792:ヒーローと名無しさん

 

まあまあ、妥当でびっくりした。

 

793:ヒーローと名無しさん

 

こう見ると白騎士くんってまだまだなんだな

 

794:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんが弱いんじゃなくてジャスティスクルセイダーがやばすぎるだけ定期

 

795:ヒーローと名無しさん

 

さすが一年戦い続けた戦士達は違うなぁ(白目)

 

796:ヒーローと名無しさん

 

ヒロインランキング貼る?

 

797:ヒーローと名無しさん

 

やめなされ……(慈悲)

 

798:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんは、こうげき特化からとくこう特化として成長しているだけだから

 

799:ヒーローと名無しさん

 

まあ、白騎士君の強さ的にはBくらいが妥当だな。

成長性はA(超スゴイ)くらいあるだろうけど。

 

800:ヒーローと名無しさん

 

レベルダウンさせて種族値振り直している感じだゾ

記憶が戻れば、そのまま前の記憶分加算されて、ぶっ壊れになる可能性がある。

 

801:ヒーローと名無しさん

 

殴り一辺倒から武器と属性攻撃使いこなすようになったなー。

 

802:ヒーローと名無しさん

 

一位 ルプドラ

二位 プロドラ

三位 司令官

四位 イエロー

五位 ブルー

 

803:ヒーローと名無しさん

 

>>802

なんのランキングが明言されていないのに分かってしまう理不尽。

 

804:ヒーローと名無しさん

 

司令官は男だろいい加減にしろ!!

 

805:ヒーローと名無しさん

 

無機物ツートップとかどういうことなの……

 

806:ヒーローと名無しさん

 

司令は公式で黒騎士くんの友人だし、公式とツムッターの情報から見ても黒騎士くんからの好感度も高かったからな。

 

807:ヒーローと名無しさん

 

そもそもこのランキングおかしいだろwww

 

 

 

 

プロトドライバーちゃんが二位に落ちてるのはおかしいだろ

 

808:ヒーローと名無しさん

 

貼るなと言ったのに……(愉悦)

 

809:ヒーローと名無しさん

 

イエローええやろ!!

絶対素で喋ると可愛いやつやろ!!

 

810:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの不思議ちゃんキャラすこ

でも順位には納得してしまうんジレンマ

 

811:ヒーローと名無しさん

 

イエローは庶民派かわいい。

ブルーは不思議かわいい。

 

これは差別化がしっかりできていますね。

なんだかんだで、ジャスティスクルセイダー人気は計り知れない……。

 

812:ヒーローと名無しさん

 

ねぇ

 

 

 

 

誰か一人忘れてない?(アークドライバー!)

 

813:ヒーローと名無しさん

 

ねえ

 

 

 

 

レッドは?(エボルドライバー!)

 

814:ヒーローと名無しさん

>>812

>>813

 

ひぇっ

 

815:ヒーローと名無しさん

 

(;0m0)<ウワァァァァァァァ!?

 

815:ヒーローと名無しさん

 

あ、アークが唯一ラーニングできなかった女だ!

 

816:ヒーローと名無しさん

 

毎回レッドの扱いがラスボスなの草

 


 

「……たしかに、見ない方がよかったかも」

「でしょ?」

 

 アカネの扱いが中々に凄まじいことになってる。

 まあ、あの子はやりすぎちゃうところがあるし、ある意味でしょうがないんだろうけど。

 

『私、二番目……』

『ガウ♪』

『あ、煽りよる……』

 

 人知れずショックを受けているプロトを、かっつんの枕もとに戻しておく。

 

「きららは、四位だったね」

「いやなにが……?」

「四位の女だったんだよ。社長が三位だった」

「なんの順位付けか分からないけど、あの社長に負けている事実が酷く私の心を傷つけるんだけど!?」

 

 見事なツッコミをみせるきらら。

 ああ、常識人だからツッコミも任せられているんだなーと、今更ながらにその事実に気付く。

 

「むっ!」

「あ、アルファ、起きた?」

「……。カツミが起きる……」

 

 前触れもなく目を覚ましたアルファが、かっつんの顔を覗き見る。

 すると、彼女の言う通りに彼が、目を薄っすらと開いた。

 

『カツキ! だいじょ――』

『ガウぅ!』

『落とすなああぁぁぁぁ!?』

 

 げしっとシロに蹴られベッドの下に消えていくプロト。

 床に落ちる前に受け止めながら、目を覚ましたかっつんへと視線を戻す。

 

「ここは……アルファ?」

「うん、よかった……起きてくれて……」

 

 安堵の表情を浮かべるアルファを見て首を傾げるかっつん。

 どうやら、寝ぼけているようなので、ナースコールボタンを押した後にちゃんと状況を説明しておこう。

 

「かっつん、ここは病院だよ」

「まだ安静にした方がいいよ。傷もまだ治ってないから」

「ハクア姉さん、きらら? ……そうか、俺は、あの後気絶したのか……いつつ……ははは」

 

 肩の痛みに顔を顰めた彼は、力なく笑う。

 

「なんだか、記憶を失った俺が初めてハクア姉さんと顔を合わせた時を思い出すなぁ」

「!? そ、そうだね……」

「……」

「……」

 

 アルファときららの視線をすごい感じる。

 い、一刻も早く話題を変えねば……!!

 ただでさえ、記憶喪失の彼の姉を名乗ってしまった一歳児という事実を蒸し返されるのは私の精神衛生的に悪すぎ——、

 

「最初は恋人だなんて言うから、本当にびっくりしたよ。ははは」

「……。え、そうなんだ。もう、ハクアも悪戯好きなんだから。ねぇ、きらら」

「そうやねぇ。本当にびっくりするわぁ」

 

 にこやかに笑みを交わすアルファときらら。

 かっつんも穏やかに笑っているが、私から見た二人の目は決して笑ってはいなかった。

 

「おう、白川ちゃん。後で顔貸してくれや」

「お話しようか。ねえ? ハクア」

『これからの会話を録音して、アカネと葵にも聞かせよう』

「ンヒッ」

 

 懐かしそうに笑うかっつんとは裏腹に、私はあらゆる意味で追い込まれてしまうのであった。

 なんで私あんな冗談を言ってしまったのだろう……!!

 私は、これから待っているであろう取り調べを想像して心底身体を震わせるのであった。




今回は戦闘なし回でした。
サニーさんの立ち位置がだんだんと美味しいものになっていく……。


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新スタッフと脅威

申し訳ありません。
少し更新が遅れてしまいました。

今回は主人公視点となります。


 コスモとの戦闘で怪我を負って入院していたが、目覚めてから一週間ほどで退院することができた。

 なにやらシロのおかげで怪我も早く治るようになっていたらしく傷もほとんど完治させた俺は、ジャスティスクルセイダー本部のブリーフィングルームに呼び出されていた。

 

「なんか寒かったね、かっつん……」

「ああ。とても夏とは思えない肌寒さだ」

「私なんて上着着ることになっちゃったよ……」

 

 ここまで来る間の道中は、夏とは思えないくらいに肌寒かった。

 Tシャツでいられないこともないくらいだが、太陽が照っているとは思えないくらいに気温が低く、ニュースでも近年でも類を見ない寒波に見舞われているとのこと。

 

「あ、おはよっ! 皆!」

「今日は寒いなぁ。風邪とか大丈夫だった?」

「エアコンで、朝凍え死ぬかと思った」

 

 同じタイミングでやってきたアカネ、きらら、葵に挨拶をしながら席へと座ると、その後にスタッフの皆さんとレイマがやってくる。

 レイマの隣には灰色の髪色の大森さんと、いつもの黒髪の大森さんがいた。

 恐らく、灰色の髪の大森さんが先日、俺達に正体を明かした星将序列を名乗ったグラトなのだろう。

 

「まずは皆に改めて紹介しよう。彼はグラト。元々は私と同じ星将序列持ちの宇宙人ではあるが、なんやかんやで我々に協力してくれることになった」

「はじめまして、になるのかな? グラトだ。よろしく頼む。好きなものは美味しいものだ」

 

 灰色の髪の大森さん、グラトは、ぺこりと頭を下げて挨拶してくれる。

 スタッフさん達はざわざわと驚きを露わにさせながら、どこか気まずそうに座っている本物の大森さんを見ている。

 

「彼はこれまで大森君の代わりに職場で働いていてな。皆も疑問に思っていたように、最近の大森君の変化については彼と彼女が入れ替わりながら仕事をしていたからだ」

「大森ェ……」

「道理でおかしいとおもったら……」

「ある意味でいつも通りの大森で安心した」

「いつもの大森すぎるだろ」

 

「お前達、私のことなんだと思ってるの!?」

 

 皆の大森さんの認識よ。

 その後、大森さんへのペナルティを課すという件はあったものの、グラトの存在は普通に? ……うん、普通にスタッフさん達に受け入れられ、話はまた別なものへと移り変わる。

 

「序列46位を名乗った侵略者、贄のヒラルダについてだ。彼女に関しては、グラトの証言によって凡その正体はつかめている」

 

 モニターに映し出されたのは、コスモと戦う前に俺に接触してきた少女だ。

 

「ヒラルダの本体はルプスドライバーと似たバックルだ。それで地球人の身体を乗っ取り、自由に動き回っているという訳だが……」

 

 レイマがヒラルダの映像と、もう一つ同じ顔をした学生服を着た少女の写真を映し出す。

 

「彼女は風浦 桃子(かぜうら ももこ)。二カ月前から行方不明となっている大学生だ。……今はヒラルダに意識を乗っ取られている極めて厄介な状況に陥っているが、なんとしてでも助けなければならん」

 

 ヒラルダに不意を突かれかけた時に聞こえた声は、風浦桃子さんのものだったのか……?

 どうして俺にその声が聞こえたのかは分からないが、今もその人は泣いていて……助けを求めている。

 

「……葵、危うくこの子を撃つところだったね」

「そうだね。……でも、あの場で最も厄介な敵は彼女だと判断した」

 

 アカネの言葉に葵は腕を組み深刻な面持ちでそう呟いた。

 

「彼女、多分、私達と同じくらい強い。序列46位ってところも疑わしい思う」

「確かか? ブルー」

理系の名に懸けて」

「一気に信憑性がなくなったね……」

「あんた理系かぶれのオカルトマニアやん……」

「祟るよ?」

 

 強敵ばかりだな……。

 少なくともコスモ以上の敵がこれからも俺達の前に立ちはだかるかもしれない。

 

「そのためにも……シロ」

『ガウ!」

MIX(ミックス)!!』

 

 瞳を光らせたシロから、新たな装備『ミックスグリップ』が出現する。

 

「そのミックスグリップのデータも取らなくてはな」

「ですね。どんな力を持っているかは頭では理解できているんですけど、やっぱり実際に使ってみなくちゃ始まらないですし」

 

 グラビティグリップより一回りほど大きなそれは、レバーのような持ち手が取り付けられており、それを引いて押すとルーレットのように二つの表示が変化し、赤、青、黄、黒の中からそれぞれ別の色を映し出す。

 

「……」

『MIX!』

『RED!』『YELLOW!!』

 

 赤と黄の二つの色を表示させると、レバーの持ち手のボタンを押す。

 

『SWORD & AXE! MIX MUTCH!!』

 

 認証をしたかのようにさらになる音声。

 それに構わず、もう一度レバーを引いて押して、ルーレットを回す。

 

『MIX!』

『RED!』『BLACK!』

 

『MIX!』

『BLUE!』『YELLOW!』

 

「カツキ君、めっちゃボタン押してないか……?」

 

 無言でグリップを回し、ルーレットを作動させている俺にレイマが訝し気に見てくる。

 ハッと、我に返った俺はグリップから手を離す。

 

「いえ、なんというか……どんな組み合わせがあるのか個人的に調べていくうちに楽しくなっちゃって……」

「かっつんの部屋から聞こえてきてた音はそれだったんだ」

 

 あれ、部屋から音が漏れちゃっていたのか。

 しまったな……これからは不用意に鳴らさないように気をつけないと。

 

「……マナ。お前もいつもふと思いだしたように、しゃべるおもちゃを鳴らしていたな? あれと同じだろ」

「ナツ、私のプライベートを口にしないで!?」

 

 グラトの言葉に大きな反応をする大森さん。

 そんな声に驚きながら、ミックスグリップを消してもらおうとしていると、不意に葵が興味深そうに俺の手元を見ていることに気づく。

 

「カツキ君。私もそれで遊べる?」

「ん? 別にいいけど」

 

 葵にミックスグリップを渡す。

 すると、おっかなびっくりとした動きで葵はレバーを動かす。

 

『RED!』『BLACK!』

「あっ……」

「これはのーまっち」

「ちょっとどういうこと葵……?」

 

 なにやらアカネが反応を示したが、それに構わずレバーを引く葵。

 

『BLUE!』『BLACK!』

『GUN & GRAVITY!! MIX MUTCH!!』

 

「フッ……これが本当のベストマッチ。ありがとう、満足した」

「お、おう……?」

 

 なにが満足したのか分からないが、楽しんでくれて何よりだ。

 相変わらず不思議なことをするなぁと思いながら、ミックスグリップを消す。

 

「さて、次はカツキ君のミックスグリップのデータ取りだ。全員、修練場へと……」

 

 俺達を含めたスタッフにレイマが指示を出そうとしたその時、彼の持っている端末が音を鳴らす。

 失礼、と口にしながら端末へと目を向けたレイマは、やや嫌そうな顔をしながら通話に出る。

 

「レイマだ。……なんだと、北太平洋沖に? それは確かか? ……今すぐ端末にデータを送ってくれ。こちらで対応に当たる」

 

 ただならぬ雰囲気。

 一瞬で空気が張り詰めるのを感じながら、俺は通話を切りPCを操作し始めたレイマの言葉を待つ。

 彼は、深呼吸をした後に全員を見回し声を上げた。

 

「政府からの緊急要請が来やがったので対応に当たることになった」

「緊急要請!?」

 

 PCを操作した彼はモニターに映像を作動させる。

 そこには衛星写真と思われる上から取られた画像が映し出される。

 なんだこれ? 白い渦に囲まれた……大きな、建物?

 

「北太平洋に正体不明の建造物が出現した」

「建造物……?」

「衛星に映し出された映像を解析した結果、あれは氷で作り出されたものだ。周囲をとてつもない冷気の壁で覆われ、船も入ることすら困難なことになっている」

 

 北太平洋沖……!?

 そんなところでなにが起こったんだ!?

 まさか、今日の寒さも侵略者の仕業なのか!?

 

「社長。環境に影響を与えるタイプですか?」

「この寒さもそれのせいっぽいなぁ」

「惑星怪人アースっぽいやつだね」

 

 毎回思うけど、アカネ達のこの慣れた雰囲気がものすごいベテラン感がある。

 相手がとんでもない相手だと思えるが、それ以上にこの三人が頼もしく思えてしまう。

 ……でもその一方で、まずは相手の存在を明確にしなければ。

 

「周囲一帯の気温は氷点下を優に下回るほどだ。見たところ、冷気を下げているだけの力ではなく、この日本全土に影響を与えるほどのもの。……グラト、星将序列に思い当たる能力を持つ者はいるか?」

「私自身、全ての序列持ちの能力を知っている訳じゃないが……心当たりはある」

 

 レイマに尋ねられたグラトが険しい面持ちで答える。

 

「星将序列32位“凍土のアリスタ”。自らの星すらも凍てつかせた厄介なやつだ。だけど、厄介なのは能力だけで本体はそれほど強くないはず」

「ありがとう。……相手の正体が分かったことは朗報だが、もう一つ問題がある」

 

 もう一つの問題……?

 首を傾げていると、レイマがさらに画像をズームさせる。

 大きな氷で作り出された大地の上に、いくつか大きな何かが映り込んでいる。

 あれは……なんだ? 建物、というには少しばかり生物的な形をしているけど……。

 

「敵は一体だけではないことだ。冷気の檻に包まれた空間内に、大型の侵略者の影を複数確認した」

「今回も複数の侵略者が相手ということですか……」

「そういうことになる。加えて氷で形作られた島は、生半可な装備では一瞬で凍てついてしまうほどの極限環境だ。ジャスティスクルセイダーでは、炎を司る能力を有するレッドのみが活動可能となっている」

 

 そこまでの環境なのか……。

 まるであの白い冷気の壁の内側だけが氷河期みたいになっているな。

 これまでとは明らかに違う、個々人ではなく環境そのものに強い影響を及ぼす侵略者……どう戦うべきか。

 

「じゃあ、私が上空からの自由落下で単独潜入して、凍土のなんとかの首を断ち切ってきます」

 

 あ、それ結構いい考え——、

 

「落ち着け。薩摩ブラッド」

「そーやよ。落ち着いて。アカネ」

「血に飢えるのはまだ早い」

 

 同意しようかと思ったらレイマときららと葵に一斉に止められて閉口する。

 

「いや、落ち着いてますけど……?」

その落ち着きが恐怖でしかないんじゃい……!! ……はぁ、お前ならできなくもないかもしれないが、不測の事態があってもおかしくないので、その案は却下だ」

「……ならどうするんですか?」

「カツキ君のブレイクレッドフォームならば、お前と同じく極寒の中でも行動できる」

 

 今回の作戦の要は俺とアカネということか。

 病み上がりではあるが、俺達の代わりはいないのでやるしかない。

 

「加えて、ビークル内ならば外の環境に影響されることはない。ジャスティスロボも改良を重ねて、三人で乗れるようにしているから、今回はその機能を使うことになる」

「レイマ、俺はどうします?」

「君は、シロが食べちゃったビークルが使える。シロとこの私で君専用に改良バージョンアップさせた強力なビークルではあるが、君ならば使いこなせるだろう」

 

 俺もアカネ達みたいな大きな乗り物を操ることになるのか。

 ちょっと子供心にワクワクしてしまうが、今はそんな弛んだ気持ちを抱いている訳にはいかないので、気を引き締めて事態に臨む。

 

「作戦の詳細については船で決めるとしよう! 既に船の手配はしてある!! 総員、ジャスティスマリーンへと乗船し、侵略者掃討作戦に出る!!」

「「「はい!」」」

 

 レイマの声に合わせ俺達も返事をして、行動を始める。

 ……ジャスティスマリーンってのは確か、本部が所有している潜水艦のことだよな?

 

「かっつん」

「うん? どうしたんだ。姉さん?」

 

 アカネ達についていこうとすると、不意に姉さんに呼び止められる。

 どこか言い淀むように視線を俯かせた彼女は、そのまま絞り出すように声を発する。

 

「ちゃんと、帰って来てね……」

「……。ああ、分かってる。俺がハクア姉さんを一人にするわけないだろ?」

「……うん」

「じゃ、いってくる!」

 

 俺には帰る場所があるのだ。

 だからこそ、絶対に生きて帰らなければ姉さんを悲しませることになる。

 それだけは絶対に嫌なので、さっさと侵略者を倒してこなければな……!

 

「アルファ、君も留守番じゃないの?」

「私もついていく。大丈夫、船にいるから」

『私もいるよー』

 

 プロトを抱えたアルファ。

 彼女がついてくることを少し危なっかしく思いながら、俺はジャスティスマリーンへと向かうべく通路を進んでいく。

 相手は環境すらも変える力を持った敵と、たくさんの大型怪獣。

 厳しい戦いになることを予感しているが、それでも俺達は絶対に負けられない。




次回で、本当はもっと早く出すはずだったビークルの登場となります。
ジャスティスマリーンも惑星怪人以来ですね。


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巨 大 合 戦

今回は主人公視点でお送りします。
前回の続きからとなります。


 ジャスティスマリーン。

 それはジャスティスクルセイダー本部が所有する潜水艦。

 宇宙を舞台にしたSF映画で見るような鋭角化されたデザインの船の上部には、空母のような甲板が広がっており、俺とジャスティスクルセイダーを含めた4人は、視線の先に存在する光景を目にして感嘆の声を上げていた。

 

「あれが、“氷の大地”を覆う冷気の壁か……」

「この距離でも大分気温が低いね」

「この寒さは2.5北海道くらいはあるね」

「葵、北海道行ったことあるの……?」

 

 視線の先に見えるのは竜巻のように渦巻く白い壁。

 空に昇る冷気の壁は、その奥に存在する氷で形作られた大地と侵略者を守るように外敵の侵入をこれでもかと拒んでいる。

 現在、俺達は変身した状態のまま海面に浮上したジャスティスマリーンの甲板にいるわけだが……本当にとんでもない規模の侵略者が来たな。

 

『近づけるのはここまでだろう。ビークルを出す』

 

 マスク内でレイマの声が聞こえると、甲板の床が展開され下から三機のビークルが現れる。

 よし、次は俺だな。

 

「シロ、まずはバイクを頼む」

『ガウ!』

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!!』

 

 何もない空間から現れる白と黒の二色のバイク。

 それに跨った俺は、事前にレイマから受けた説明の通りにシロに次のビークルを出してもらう。

 

「それじゃあ、次をお願い」

『BLACK Ⅳ! WHITE Ⅴ!』

 

 バックルのシロの瞳から緑色の光線が飛び出し、バイクから十メートルほど離れた空間に新たなビークルを二機、出現させる。

 一つは黒い外殻を固めて、ステルス機に似た形状の飛行機。

 もう一つが、ジャスティスクルセイダーたちが乗っているビークルと似た白い車のような乗り物だ。

 

「……よし」

 

 “ホワイト5”の白い方の車体の後方部分が扉の上に開くと同時に俺はアクセルを回し、ルプスストライカーを発進。

 そのまま、車体の後方部分の開いたハッチにルプスストライカーを飛びこませ、バイクとビークルを合体させる。

 

「……」

 

 一瞬視界が暗闇に包まれるがバイクのハンドルを中心とした視界に光が溢れると、周囲の景色と環境のデータを算出した数字の羅列が表示される。

 初めてのドッキングで少々不安もあったけれど……これは、予想を超えて男心をくすぐってくれるな……!

 

「レイマ……!」

『皆まで言うなカツキ君! ああ、私もちゃんと分かっているとも……!』

「ああ……!」

 

 レイマと感動を分かち合いながら、思考を目の前のビークルへと向ける。

 

『カツキ!』

「プロト、そっちは大丈夫か?」

『平気だよ!』

 

 黒い方のビークル、ブラック4から聞こえてくる声に応える。

 今回の作戦はビークルを用いてあの冷気の壁を強行突破し、内に潜む侵略者を倒す電撃作戦。

 そのためには、不測の事態に備えて全てのビークルを用いて解決に当たるという結論に至ったレイマが、超高性能AIであるプロトにブラック4の操縦を任せるという話になったのだ。

 

『それじゃあ、今度はこっちからドッキングするね!』

「頼む」

 

 プロトの操作によって動き出したブラック4が、ルプスストライカーを内蔵したホワイト5を上から覆うように合体する。

 前面にキャノン砲、側面にロケットエンジンのような機構が追加され、二つのビークルの合体により唸り声のようなエンジン音が周囲に轟く。

 

DOCKING(ドッキング) PATTERN(パターン) (ワン)!』

LUPUS(ルプス) GIGANT(ギガント)!! VEHICLE MODE(ビークルモード)!!』

 

 ルプスストライカーから、ルプスギガントか……。

 見た目からしてどんな壁も乗り越えていけそうな迫力があるな。

 

「カツキ君のビークルは大型だね」

「弟が好きそうやなぁ」

「バットモービルみがある。すこ」

 

『さあ、全員ビークルには乗ったか!』

 

 こちらの準備が終えたことでレイマが通信機越しに声を張り上げる。

 レッド達も既にビークルに乗りこんでおり、全員が作戦を開始させる準備を整ったようだ。

 

『これより作戦を開始させるが! あの冷気の壁の奥は磁場の大きな乱れがあることから、通信もままならない可能性が高い!! 内側の状況も衛星からの画像以外は碌にない! だからこそ、お前達が中に入ってすることは単純!!』

 

 中の状況が分からない。

 どんな敵が待ち受けているのかもほとんど不明。

 しかし、それでもレッド達も、レイマも怖気づくことはなかった。

 

『暴れてこい! それがこれまでお前達という戦士を見てきた俺ができる最適な指示だ!! この豊かな星を侵略し、遊び場にする馬鹿どもを倒してこい!!』

「「「「はい!!」」」」

『作戦開始!!』

 

 作戦開始の合図と共に俺はアクセルを回し、白と黒のビークルを発進させる。

 これまでとは比べ物にならない加速と共に甲板から飛び出した ルプスギガントは、ジャスティスクルセイダーが駆るビークルと並びながら冷気の壁へと突撃する。

 

『ジャスティスクルセイダー! カツキと私のビークルの後ろについて!』

「こいつなら、どんな壁でも突き進める!!」

 

 さらに加速させ、冷気が吹き荒れる空間をものともせずに突き進む。

 外の気温の数値がさらに下がっていくのを目にしながら、勢いのまま進めていくと――、ごう! というけたたましい音と共に、冷気の嵐を抜けて、その奥の空間へと侵入を成功させる。

 

「……これは……!」

「氷の、城?」

 

 冷気の壁の内側に存在するのは、まさしく氷の大地であった。

 直径、数キロはある広大な空間の中央には白銀色に輝く城のようなものが存在しており、吹雪に見舞われた空間の中で。

 

「レイマ! 通信、繋がっていますか!?」

『———』

「やっぱり通信はできないか。……レッド! このまま――」

『生体反応確認!! カツキ、上!!』

 

 瞬間、空を飛ぶルプスギガントの上に影が差す。

 頭上が暗くなったことに、嫌な予感を抱いた俺は、咄嗟に横にハンドルを切った――、その瞬間、先ほどまでルプスギガントのいた位置に、何か巨大な鳥のようなものが垂直に落下するような突進を仕掛けられる。

 

「ッ、なんだ!?」

ギャァァァォ!!

 

 咄嗟に眼下へとモニターを移動させてみれば、映り込んだのは羽毛に身を包んだ鳥のような、恐竜のような巨大な怪鳥の姿。

 

「ぷ、プテラノドン!?」

「いや、鳥やろ!」

「違うね。あれはアルゲンタヴィスだよ。史上最大の鳥類の一種。年代的には――」

「うんちくはいいから、迎撃するよ! 皆、散開!!」

 

 大きく旋回し、続けての体当たりをしかけてきた巨大鳥を、俺達は散開する形で回避する。

 すれ違い様に見えたのは翼に取り付けられたプレートに刻まれた『114』という数字。

 星将序列114位か!

 こいつが主力であるはずがない!! なら――、

 

「レッド!!」

「分かってる! 巨大怪獣は一体だけじゃない!!」

 

 吹雪が弱まり、視界が開けていく。

 すると、俺達の周囲にはいくつもの空を飛ぶ影と、地上でこちらを睨みつけている巨大怪獣の姿を目にする。

 

『カツキ、囲まれてる!』

「そうみたいだな……!」

 

 こちらの襲撃を予期されていたことは分かっていたが、この数とは。

 全ての怪獣がこちらを伺うだけで攻撃はしてきてはいない。

 

獣共よ。我が領域へ足を踏み入れる侵略者が現れた

 

「! 声……」

 

この凍土のアリスタの領地に許可なくやってくる愚かな侵略者よ。愚行である

 

 宙に停滞しながら状況を伺っている俺達に、そんな声がこの空間に存在している城から響いてくる。

 空気を振動する男の声に、俺達だけではなく怪獣たちも耳を傾ける。

 

塵殺せよ、蹂躙せよ。お前達の楽園を守るために、悪しき侵略者を殺せ

 

「侵略者、だって?」

 

 どの口で、そんなバカげたことを口にしているんだ。

 悪しき、侵略者? 侵略してるのはそっちの方だろう。

 胸の内に、普段の自分では考えられないほどの激情が湧き上がってくる。

 

お前達のために。故郷を追われ、手にかけてしまったお前達の罪を贖うた———』

 

 思わず、手元の武器を発動しかけたその瞬間、遥か数キロ離れた氷の城に吹雪とは異なる風が吹く。

 それは一瞬にして吹雪を切り開き、空白を作り出すと同時に――城の上部を斜めに切り裂いた。

 

「えっ」

 

 驚くのも束の間、次の瞬間には連続して放たれた青色の閃光と、電撃を纏った斧が雷鳴と同時に直撃し、この距離からでも分かるほどの轟音を響かせる。

 

『えっ』

 

 俺とプロトが呆然とした様子で、レッドの乗っているビークルを目にする。

 そこには空中に停滞させたビークルの上に立っていたレッドが、その手に持っていた赤熱色に輝く剣を納刀していた。

 

「逃げ足と無駄口だけは一人前だね」

 

 その隣では銃を構えたブルーと、武器を放り投げたイエローが傍目で分かるほどの殺気を放ちながら、城の方を睨みつけている。

 

「お前達の妄言は聞き飽きたよ?」

「さっさとかかってこい。時間の無駄や」

「面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやる」

 

 そのままビークルに戻った三人を目にして、少しばかりボーっとする。

 

「流石は俺が認めたジャスティスクルセイダーだ……」

『カツキ……?』

 

 自然と口に出した言葉に自分で驚く。

 目の前でレッド達がしたことに驚いた。

 けど、どこか俺の中では彼女たちはそれくらいしてもおかしくない、という思いがあった。

 

『う、腕が……お、おおお前達!! その侵略者共を殺せ!!』

 

 慌てたように声を漏らすアリスタに我に返る。 

 すると、周囲にいた巨大怪獣たちは、獰猛な唸り声をあげ臨戦態勢へと移る。 

 

「最初からそうすればいいのに……白騎士君! いけるかな!」

「あ、ああ!! 勿論!!」

「なら、君には空の敵を任せる!!」

「任せろ!!」

 

 俺の声と共にジャスティスクルセイダーが怪獣が跋扈する氷の大地へと向かっていく。

 

『フォーメーション! レッド1!』

 

 レッドのビークルを先頭に合体を開始させる。

 当然、怪獣たちも邪魔しにかかるが、三人の息のあった操縦技術はその追随も許さない。

 

『フッ飛ばしていくでぇ!!』

『今日の私は一味違っていく』

『『『合体!』』』

 

 三機のビークルが一つとなり、一体の巨人へと姿を変える。

 赤の巨人は、白銀の煙を浮き上がらせながら大地へ降り立ち——、

 

パワードアーマー!! ジャスティスロボ!!!!

 

『なにを突っ立っている!!』

 

 一番近い位置にいるティラノサウルスっぽい巨大怪獣をぶん殴り、氷山へと叩きつける。

 ガギャン!! という駆動音と共に歩み寄ったジャスティスロボに半狂乱になった怪獣が襲い掛かるが、それを意に介さずに、尻尾を掴んでティラノサウルスを振り回し、蹂躙し始める。

 

『獣にすらなれないお前達に私達が負ける道理はない!!』

「が、ガギャ……!?」

『この時代に取り残された化石風情が!! ジャスティスシールド!!』

 

 腕に展開したエネルギーシールドで、敵を殴り倒しているジャスティスロボ。

 そのあまりのやりたい放題さに、周りの怪獣も怖気づくように及び腰になってしまっている。

 ……あっちは大丈夫そうだな。

 負けるイメージが全然湧かないし、嫌な予感すら抱かない。

 

「なら、今度は俺の番だな……!」

「ギャーオ!!」

 

 周囲を飛び回る巨大怪獣たち。

 鳥に似た姿のものもいれば、空を泳ぐように飛ぶサメのような個体もいる。

 

「ギャァァァオ!!」

『カツキ、左斜め後方』

「よし!」

 

 後方からの体当たりを避け、鳥型の後ろに取りつく。

 当然、このルプスギガントにも攻撃用の装備はある!!

 

ARMY(アーミー) BLUE(ブルー)!』

 

 ミサイルポッドを展開させ、一斉に放つ。

 

「発射!!」

「シャァァ!!」

『右側方!』

「了解!!」

 

 思いっきり横に回転させながらサメ型の怪獣の攻撃を回避。

 そのまま前方のキャノン砲を向け、五発の砲弾を叩きつける。

 

「シャ、シャァァ……!?」

 

 口から煙を上げたサメが落下していく。

 まずは一体!

 

『まだ来る!』

「数は!」

『いっぱい!!』

「分かりやすい!!」

 

 その場に留まらず、全速力で前へと突き進む。

 だんだんと操作に慣れてきた!!

 

「ガガガギャァ!!」

「んぐ!?」

 

 激突音。

 突進してきた怪鳥の羽根が掠り、振動が走る。

 さっきとは別の個体! ジェット機のように翼から炎を噴き出しながら吹雪の中を飛ぶ炎の鳥を目にした俺は、知らず知らずのうちに笑みを浮かべる。

 

「ハッ、やりやがったなこの野郎!!」

『やっちゃえカツミ!』

「やるぞプロト!!」

『~~ッ!! う、うん!!』

 

 ルプスギガントで炎の鳥を追いかける。

 微かに見えた序列は49位!! あれは他と違って別格!!

 

「ギャーオ!!」

 

 だが炎の鳥を追う俺達の前に、最初に攻撃を仕掛けてきた怪鳥が割って入る。

 いい度胸だ!!

 

「プロト! 分離、行くぞォ!!」

『うん!!』

 

 一瞬にしてブラック4とホワイト5を分離。

 それに面を食らったのか、一瞬だけ動きを止める怪鳥。

 勢いのまま、俺はホワイト5からバイクを射出させ、フォームチェンジを行う。

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

FLARE(フレア)CALIBER(カリバー) (ツー) !!』

 

「食らえ鳥野郎!!」

 

 瞬時にブレイクレッドへ。

 ルプスギガントから射出させ最高速度へ達した俺は、手元に出現させたフレアカリバー2をぶん投げる。

 

「ギャ!?」

 

 鳥野郎の頭へと突き刺す!

 痛みに悶える鳥野郎目掛け、全力でバイクを走らせた俺は、バックルを勢いよく叩き必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

 

 ルプスストライカーが炎に包まれ、前輪にエネルギーが集約。

 炎の軌跡を空へと刻みつけながら、流星のように突き進んでいく。

 

BREAK(ブレイク) POWER(パワー)!!』

BURNING(バァニング)!! BREAK(ブレイク)!!』

 

「野郎! ぶち破ってやる!!」

 

「ギ、ェェ!?」

 

 痛みに悶える鳥野郎の胴体に全力の体当たりを叩きつけ、打ち砕く。

 光の粒子となって鳥野郎を砕け散らせた俺は、ルプスストライカーと共に、先回りしたホワイト5に再度乗り込み、炎を纏う鳥と相対する。

 

「ガギャァ……!!」

 

 炎の鳥の周りには子分のように巨大怪獣たちが控えており、どうやら奴がこいつらをまとめているようだ。

 あの数と、奴相手では今のままではじり貧だ。

 ならば!! ボスを叩く!!

 

「戦闘特化形態でケリをつける!! シロ! プロト!!」

DOCKING(ドッキング) PATTERN(パターン) (ツー)!! → OK(オーケー)?』

『認証!』

 

 先ほど分離したブラック4が上半身部分へと変形。

 鋼色の拳に白色に染まる空間で輝く赤い複眼、翼からジェットを噴出させながら、俺が乗っているホワイト5と合体し、最後に両足を変形させたことで合体を完了させる。

 

LUPUS GIGANT(ルプスギガント)!! →SKY MODE(スカイモード)!!』

 

 空中戦特化のルプスギガント!

 人型となって、一気に加速してみせたルプスギガントはその勢いのままに火の鳥へと大きく振るった銀色の拳を叩きつける。

 

「ガァ!!」

「来るかァ!!」

 

 怯みながらも翼から炎をバーニアのように噴出させ、その鋭利な嘴での突進を繰り出してくる。

 それを真正面から嘴を掴むように受け止め、こちらもジェットを最大限にまで稼働させてみせる。

 

「ガ、ギグァァ!!」

「ぬ、ぬぐぐぐ!!」

 

 大きさはあちらが上。

 だが、だがそれでも、このルプスギガントは俺だけの力で成り立っているわけじゃない。

 

「オオオ!!」

「ッ!?」

 

 ついには突進を止め下から殴りつけるように拳を繰り出し、頭を後ろへのけ反るほどの力で殴り飛ばす。

 嘴の破片がまき散らされ怯む炎の鳥。

 すぐさま、奴を守りに向かう怪獣たちだが……!!

 

「させるかよ!!」

『全砲門展開!!』

ARMY(アーミー) BLUE(ブルー)! ALL(オール) WEAPON(ウェポン)!!』

 

 肩、胴体、脚部、背部の翼に装備・展開させたミサイルポッド。

 前腕部からガコンッ! という音と共にせりあがるガトリング砲。

 最後に両肩と胸部に展開させたレーザーキャノンの照準を、炎の鳥の取り巻きへと向け、全てをロックオンさせていく。

 

『全部捉えたよ!』

「全弾ぶち込む!!」

『GIGANT! FULL BURST!!』

「オラァ!!」

 

 一切の躊躇もなく全装備を放つ。

 ミサイルにビーム、そしてエネルギーで形成された弾丸が、空を飛ぶ怪獣たちへと殺到し撃ち落としていく。

 残弾のことは考えなくてもいい。

 全ての怪獣を落とすつもりで、全力で放ち続ける!!

 

「ガ、ガガギャァ!!」

「当然、お前が来るよなぁ!!」

 

 ミサイルの直撃を受けても尚、炎と共にこちらへ向かってくる炎の鳥。

 他とは明らかに力の質が異なる奴ならば、拡散した攻撃を耐えて向かってくるのは分かっていた。

 

「ガギャァァァ!!」

 

「残念だったな! 俺達の方が、強い!!」

CONNECT(コネクト)!! DEADLY(デッドリィ) LUPUS GIGANT(ルプス ギガント)!!』

 

 バックルで必殺技を発動させる。

 瞬時に最高速度にまで加速したルプスギガントの拳に、黒色のエネルギーが纏われる。

 

「食らえ!!」

GI()! GI()! GI()! GIGANT(ギガント)!!』

BIG(ビック) KNUCKLE(ナックル) FINISHER(フィニッシャー)!!』

 

 避ける間もないほどの速度で、拳が炎の鳥の脳天へと直撃させ――ー強制的にエネルギーを流し込み、内部で爆散させる。

 連鎖するようにその巨体を爆発させていきながら炎の鳥が、粒子となってその身体を消していく。

 

「まだ、戦いは終わってない。空にいる残りを――」

「ギャッ、ギャッ!!」

「バオォォ!!」

 

 逃げた!? いや、これは地上に向かっている!?

 まだ撃ち落とされていない十体ほどの怪獣が地上にいるレッド達の方へと降りていく。

 慌てて、俺もルプスギガントを操り、レッド達のジャスティスロボが見える位置にまで降りていくと、そこには――、

 

『ジャスティスパンチ!』

 

 棘のついた拳で怪獣の胴体を貫き、とどめを刺しているレッド達の操るジャスティスロボの姿。

 真っ白い大地を夥しい怪獣の血の跡で染めながら、粉々になって消えていく怪獣を地面へと打ち捨てた彼女は、空から降りてくるルプスギガントに気付く。

 

「カツキ君! 無事だったんだね!」

「ああ、でも、地上に怪獣が集まってきている!」

「こっちも怪獣の反応が私達から離れているのを確認した! ん? いや、これって一つの場所に集まっている……?」

『皆、城があった方向!』

 

 プロトの声に、二体のロボが同じ方向を向く。

 そこには、先ほどまで俺とレッド達と戦っていた怪獣たちが、一つに合わさっていく光景があった。

 以前の序列100位の奴の時とは、大きく異なる規模の巨大怪獣同士の合体。

 

『オ、オオオオオ!!!』

 

 最終的に四足の肉塊の怪物へと姿を変えた元は怪獣だった怪物は、空間そのものを震わすほどの咆哮を上げる。

 既に大きさはジャスティスロボの三倍を優に超え、最早二本足ですら立っていられないほどの質量で、地面を踏みしめている。

 

「いくらなんでも、デカけりゃ勝てるって話でもないでしょうに……!」

「どうする? このままじゃ逃げられるかもしれんよ?」

 

 もし、この氷の大地を作り出している奴が逃げて、そして人のいる場所で能力を使えば大変なことになる。

 それこそ何十、何百万人の命を簡単に奪えてしまうほどだ。

 

『オオオ、オオオ!!』

「ッ、とにかくやるよ! カツキ君!!」

「ああ!!」

 

 獰猛な唸り声を上げる合成怪獣を前に、ジャスティスロボとルプスギガント再び戦闘態勢に移る。

 まずはこの巨大な怪物を倒さないと駄目か……!!




敗北を経て、少しだけ変わってきた白騎士君でした。

そして、ようやく白騎士君のビークル回。
スカイモードは射撃特化だけど殴りも強い謎性能でした。


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混ざり合う力

お待たせしました。

ゼロワンが最終回だったのでこの時間帯に更新させていただきました。
前回からの続きとなります。


 巨大怪獣が合体した怪物。

 多数の種類の生物が合わさったその姿はレッド達の乗っているジャスティスロボよりも遥かに大きく、その四肢を氷の大地に突き刺しながらも敵対している俺達に憎悪と苦痛に歪む瞳を向けてきていた。

 その姿は、脅威というより痛々しい。

 

オオオッ

「ッ」

 

 背に生えたサソリを思わせる巨大な棘のついた尻尾が鞭のようにしなり、俺の乗るルプスギガントへと迫る。

 飛行しながら、旋回と加速を使いこなしながら尾の一撃を回避し、両腕のガトリング砲を連続して放つが、それも奴の再生能力の前には意味がない。

 外皮そのものは特別硬いわけではないが、その常軌を逸した再生能力の前には多少の傷は即座に再生されてしまう。

 

『カツキ! 背中の棘が!!』

「チィ!」

 

 怪物の背中の棘の根元に火花が散る。

 ミサイルのように棘が空を飛びこちらへ迫るそれらを、撃ち落としながら対処していくと眼下の怪物に向かっていく赤いロボットの姿が映り込む。

 

「醜い怪物が! 死ねぇ!!」

 

 レッドが操るジャスティスロボが前腕から伸ばした赤熱する刃を怪物の胴体へと突き刺し、滅多切りにし始める。

 血がジャスティスロボの赤い装甲をさらに深い赤色に染めていく。

 

「レッド!? そろそろ帰ってきて!?」

「なんと……醜い顔だ……」

「ブルーも引っ張られてる……!?」

 

 倒せる相手だ。

 動きも遅いし、速さもそうでもない。

 このまま戦っていればいずれは確実に勝てる相手だろうけど、俺達が戦うべき本命はこいつじゃない。

 

「ジャスティスクルセイダー! こいつは足が弱いぞ!!」

「右の前足に火力を集中させる!! イエロー! 武器を!!」

「はいなっと」

 

 レッドに声をかけ、空から下降しながら怪物の顔と足をロックオンし、翼に展開させた誘導型のミサイルを打ち出す。

 連続して誘爆したミサイルは足元から爆発し、怪物の視界を阻害させる。

 それと同時に、勢いと共に飛び込んだジャスティスロボが、エネルギー状の刃を発生させた斧を怪物の大きな足へと叩きつけ、その真ん中から斬り飛ばした。

 

『オオオ!! オオオ!!』

「レッド! 今がとどめを刺すチャンスだ!!」

「うん!」

 

 体勢を大きく崩し、地響きと共に転び頭を地面へと叩きつける怪物。

 その頭に、ジャスティスロボが電撃を纏わせた両刃の斧を叩きつける――が、返ってきたのは肉が裂ける音ではなく、硬い何かに激突する音であった。

 

「これは!」

 

 何かを察知したのか、その場から離れるジャスティスロボ。

 怪物を見れば、明らかに先ほどとは異なる姿へと変貌しているのが見えた。

 

「氷の、鎧?」

 

 いつの間にか怪物の身体を覆っていたのは、氷の鎧であった。

 その巨体を覆う刺々しい氷の装甲は、怪物の断ち切られた足を補うかのように足の形を成し、無理やりに怪物を立ち上がらせた。

 背には、氷と肉で形づくられた翼までもができており、空まで飛べるようだ。

 

ガ、オォォ、オオオ!!』 

 

 肉塊同然の怪物が、今や鎧と冷気を纏っている。

 さらに力が増していると見ただけで分かる強化だが……さすがにアレは厄介そうだ。

 

「凍土のなんちゃらがこいつを強化したみたいだね……!」

「それじゃあ、本体が近くにいるかもしれへんね。ブルー、索敵は?」

「もうやってる。……周辺の気温を空間別に識別、相手の能力からして一番気温が低い場所に隠れているだろうから……っと、見つけた」

 

 周辺の環境を調べたブルーがルプスギガントにもデータを送ってくれる。

 視界内に映し出されたのは、この氷の大地で最も寒く、吹雪が酷い場所。

 恐らく、そこに倒すべき敵がいる。

 

「だけど……」

 

 その丁度間に立ちふさがるように怪物がいることが問題だ。

 あれを倒している間に、逃げられてしまう。

 いや、よしんば逃げないとしても、倒してしまったら逃げてしまうだろう。

 

「プロト!」

『なに?』

「レッド達に力を貸してあげてくれ!!」

 

 俺の声にプロトは、数秒ほど静かになる。

 暫しの沈黙の後に、意を決したようにプロトが声を発する。

 

『分かった! ジャスティスクルセイダー!!』

「うん!?」

『追加の合体するから!!』

「ええ!? 今!?」

 

 ルプスギガントが分離し、飛行機型のブラック4と車型のホワイト5に分かれる。

 ホワイト5からバイクで飛び出し、氷の大地へと着地した俺は、背後の空間でジャスティスロボの周囲を旋回する二機のビークルを見る。

 

DOCKING(ドッキング) 5(ファイブ) COLLAR(カラー) FORMATION(フォーメーション)!!』

 

「———! なるほど! そういうことだね!! イエロー! ブルー!!」

「任せとき! エネルギーフィールド展開!!」

「各部接続一時解除・姿勢制御・エナジーコア連結を確認」

 

 ジャスティスロボを基本としたまま、パーツごとに分離したブラック4の翼部分が背部に、上半身の各部にブースターとミサイルポッドが金属音と共に装着される。

 左腕には二連装のガトリング砲、右腕には大口径のエネルギー砲、胸部、肩部を守るようにホワイト5から分離されたアーマーに覆われていく。

 

 

ビークル合体!!

 

SUPPER JUSTICE ROBOT

スーパージャスティスロボ!!!!

 

 

 大地に降り立ったのは、五つの色を持つ巨大ロボット。

 その背に黒色の翼を新たに携えた巨人は、右腕から金属音と共に剣を展開させながら、怪物と相対する。

 

「ここからが本番だぞ」

 

 ドスの利いた声と共に巨人が怪物へと襲い掛かる。

 ガトリング砲を連射させながら、真正面からの突撃をかましたレッド。

 

「弱いぞォ!!」

 

 怪物が繰り出す冷気攻撃そのものを無視しながら力任せに右腕のブレードを頭へと突き刺し、そのまま同じ腕に装備されているエネルギー砲をゼロ距離から叩き込み始める。

 怪物の頭部が弾け、肉片と血がスーパージャスティスロボの表面を赤く彩っていくが、それでも怪物は息絶えず頭を振るいながらロボを振り払う。

 

「ブルー!!」

「右腕部エネルギー砲パージ。ウィングボックス開封“拡散EN砲”」

 

 役目を終えたエネルギー砲が右腕からパージされる。

 一旦距離を取ったスーパージャスティスロボの翼に装備されたコンテナの一つが破裂し、内側から先ほどパージされた装備よりも大きなエネルギー砲が現れる。

 右腕を翼へと回し、新たなエネルギー砲を装備させたスーパージャスティスロボは、もう一度怪物を殴りつけ——、

 

「寄せ集めの合体ごときが!!」

 

 近距離からの射撃を叩き込んだ。

 常軌を逸した攻撃に、巨体であるはずの怪物の身体が大きく揺らぐ。

 

「力を合わせた私達に敵うはずがない!!」

「オオオ!!」

 

 煙を噴き出しながら頭部を再生させた怪物が、その幾重にも枝分かれした舌を空を飛ぶスーパージャスティスロボへと向ける。

 それらをブレードの一振りで切り落とし、手で掴み取る。

 

「その舌を切り取ってやる!!」

 

 そのままジェットの加速と駆動に任せて、舌を力任せに引き抜き地上へと投げ捨てる。

 

「行くよ、カツキ君!! 君と一緒ならこの程度の怪物楽勝だよ!!」

『カツミはいないよ』

「なんで!? え、じゃあ、今プロトちゃんだけなの!?」

『ウン』

「すっごい不満そう!?」

 

 彼女達ならば大丈夫だろう。

 俺は、凍土のアリスタとかいう侵略者を倒す。

 

「待ってろよ……!!」

 

 戦闘が始まった時から不思議な高揚感が俺の身を包んでいる。

 以前からこうだったか。

 それとも今回の戦闘からそうだったのかは、分からない。

 ただ悪くない気分だった。

 

「……」

 

 記憶は戻って来ていない。

 でも、なにかが変わったような気がする。

 俺が自覚していないなにかが。

 

「ここか」

 

 背後で戦闘音が響いてくる中、到着したのは一層に吹雪が酷い場所。

 周辺気温を見れば、ブレイクレッドフォームでなければ即座に活動限界に至ってしまうほどの極限環境の中を、俺は炎を纏わせたフレアカリバーⅡを振るい、周囲の吹雪を薙ぎ払う。

 

「まさか一人で来るとはな、地球人」

「——」

 

 声が聞こえると同時にルプスストライカーのアクセルを全力で回し、声のする方へ体当たりを叩きつける。

 しかし、その体当たりは声を発したであろう人物、全身を半透明の氷で形作られている男に防がれる。

 

「本当に地球人というのは無礼だな」

「……」

「私は凍土のアリスタ。全てを凍てつかせ、星を飲み込むオメガ。他の失敗作とは違う、完璧なそんざ――」

 

 話を聞くまでもなく、俺は全力の蹴りを氷の壁へ叩きつける。

 一撃で氷に罅が入り、割れた破片が奴の頬を傷つける。

 

「ッ、まだ話は終わっていないと」

「ゆっくり話していてもいいぞ。その間にお前にはくたばってもらう」

「情報とまったく性格が違うじゃないか!」

 

 慌てた様子のアリスタが手を翻す。

 すると、俺の周囲にいくつもの気配が現れる。

 

「!」

 

 周囲から何かが飛んでくると察知し、その場を飛び下がると先ほどまで俺のいた場所には氷で作られた剣のようなものが突き刺さっていた。

 それを投げつけてきたのは……。

 

「氷の人形?」

 

 氷で形作られた武器を持った人型の兵士。

 それらは意志を感じさせない瞳で俺に武器を向けている。

 

「我が忠実な(しもべ)だ。この環境にいるかぎり、私は私兵をいくらでも作ることができるんだ」

「……いくらでも?」

「ああ。だから君は、力尽きるまでずっと戦っているといい。ああ、そこらの雑魚と一緒にするなよ? 人形たちは序列でいうと50位くらいの強さを持っているから」

 

 お喋りな野郎だな。

 壁から離れ、もう一振りのフレアカリバーⅡを出現させ二つの剣を手に持ち、周囲を見る。

 際限なく現れる氷の兵隊。

 普通なら怖いだとか、勝てるか、とか不安になるわけだがこの時、俺はそんな心配など微塵も抱かずにただただ心を落ち着けたまま、相手の動きを待っていた。

 

「やれ!!」

 

 号令に合わせ、四方から襲い掛かってくる氷の兵隊たち。

 俺自身も動き出すと同時に、手近な二体を炎の剣で切り裂く。

 

「燃えろ、ブレイクレッド……!!」

 

 この生物が生きていくことすら困難な冷気の中で、身に纏う赤の姿は際限なく炎を吹き上がらせる。

 自身の限界を想像すらしていない懐かしい感覚を胸に宿しながら、迫る氷の兵隊を悉くを溶かし、切り裂く。

 

――そうだ、戦い続けろ

 

 拳で人形の胴体を貫き、液体へと還らせる。

 次の人形がやってくる。

 

――その先にお前の求める強さの形がある。

 

 剣を投げつけ、突き刺さると同時に柄を握りしめ、周囲を纏めて薙ぎ払う。

 次の人形がやってくる。

 

――お前ならできる。

 

 無限に湧き続ける人形。

 耳元で囁き続けるルインの声。

 無心のまま、ひたすらに氷の人形を破壊しては繰り返していく。

 

――まだ限界には程遠いだろう?

「うるせぇ!!」

――!

「ルイン!! 俺の限界を決めるのは、お前(貴女)じゃねぇ!!(じゃない!!)

 

 怒る理由はなかった。

 それでも声を荒らげてしまいながら、それでも戦いを続けていく。

 しかし、それでも数の差で圧倒されている事実は変わらない。

 次々と破壊、復活を繰り返しながら襲い掛かってきた人形は、雪崩のように俺へと押し寄せ——いつしか、数えきれないほどの人形に囲まれていた。

 

「押し潰せ!!」

 

 アリスタの声により全ての人形が飛び掛かってくる。

 迎撃しながらも押し寄せてきた奴らが群がってきて、視界が一時的に制限される。

 

「ふ、ははは!! 威勢がいいのは最初だけじゃないか!! 押し潰されてくたばるのはお前の方だ!!」

 

 奴は気づいてはいない。

 この身から溢れる炎が氷の人形を近づけてさえいないことを。

 奴が気付けるはずもない。

 この俺の腕の中で輝く、強さの証を……!!

 

MIX(ミックス)!』

 

 手の中に出現させたミックスグリップを発動させ、周囲に群がる光の人形の全てを蹴散らす。

 二つの色の特殊なエネルギーフィールドが展開された中心に立った俺は、

 

RED(レッド)!』YELLOW(イエロー)!』

SWORD(ソード) & AXE(アックス)! MIX(ミックス) MUTCH(マッチ)!!』

 

「限界は、俺が決める!!」

 

 頭の横に構えたミックスグリップをバックルの右側へと差し込み、新たな姿への変身を試みる。

 二色のエネルギーフィールドが赤と黄色の二重模様へと変わり、それらは混ざり合っていく。

 

THE() POWER(パワー) TO(トゥ) MIX(ミックス)!!』

 

 宙に浮きあがった二色のアーマー。

 右側の赤、左側の黄と、斜めに区切るように色別されたアーマーはパズルのように組み合わされていく。

 

ALL(オール) TOGETHER(トゥゲザー)!!』

 

 頭部に新たに追加される角。

 肩、腕、胸部に増設されたアーマー。

 腰に装着された二色のマント。

 

MIX(ミックス) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)! YEAH(イエェェイ)!!』

 

 ミックスフォーム。

 二つの属性を組み合わせ、大幅な強化を経た新しい姿。

 

「そのような虚仮脅しを!! もう一度囲んで倒せ!!」

 

 俺の姿を目にしたアリスタは動揺しながらも人形に指示を出し、襲い掛からせようとする。

 使い方は既にシロに教えてもらった。

 後は、この場で真の力を発揮すればいいだけの話だ……!!

 

LIGHTNING(ライトニング) CRUSHER(クラッシャー)Ⅱ!!』

 

 右手に出現させた斧“ライトニングクラッシャー”を力任せに振るい、電撃と――炎を溢れださせる。

 

「二つの色で二つの力!! そして、そのパワーも大幅アップ、だ!!」

 

 全身から電撃が迸り、炎による熱気が近くにいる氷の人形を触れもせずに破壊。

 さらにフレアカリバーⅡも左手に出現させ――アックスフォーム由来の高速移動で、次々と人形を破壊しながらアリスタへと着実に進んでいく。

 赤の姿の炎、黄の姿の雷の力。

 それらを合わせた力と武器の威力は、これまでとは一線画したほどにまで強化されていた。

 

「さっさと片付ける……!」

 

 ミックスグリップのボタン部分を一度押してから、バックルを叩く。

 

DEADLY(デッドリィ) MIX(ミックス)!!』

RED(レッド)! YELLOW(イエロー)!  DUAL(デュアル)POWER(パワー)

 

「ハァァ!!」

 

 勢いのまま空高く跳躍し、勢いのままに地面に斧を叩きつける。

 

『 MIX(ミックス)! DUAL(デュアル) BLOW(ブロウ) !!』

 

 地面を電撃が伝い、空気を炎が焼き尽くす。

 広範囲に渡って電撃と炎が放射状に放たれ、吹雪と共に人形を一掃される。

 

「人形では俺は倒せないぞ」

「ッ、舐めるな!」

 

 氷の壁の内側に引きこもっていた。

 アリスタが姿を現し、その半透明の身体をさらに氷で覆っていく。

 両腕は槍のような鋭利な矛へと変わり、全身を氷柱のような鋭利な氷の鎧に身を包ませたアリスタは、二回りほど大きくなりながら、俺の前へと着地する。

 

「この姿になった私を見た者は、誰一人として――」

「悪いが」

 

 この期に及んでまだ無駄な言葉を交わそうとする奴に力の限りの斧を叩きつける。

 それを両腕の刃で受け止めるアリスタに、俺は静かな声で語り掛ける。

 

「お前の口上なんて興味ない」

「き、貴様……!!」

「とっとと、くたばれ」

 

 こいつがその気になれば地球という星を容易く滅ぼすことができる。

 寒さで生き物は凍え死に、生き延びたとしても食料そのものが駄目になる。

 ここで逃がさず、確実に葬る。

 

「蛮族が!!」

 

 力負けしたアリスタがその身に斧の一撃を受けながらも後ろに下がると、吹雪と共に姿を隠しながら高速で動きはじめる。

 俺自身も全身から電撃を迸らせながら、その場で高速移動を行い攻撃を仕掛けてくるアリスタと高速移動下での戦闘を開始させる。

 

「俺からしてみれば、侵略してくるお前の方が蛮族なんだよ……!!」

「ただ搾取されるだけの星の猿が!」

 

 数度の激突。

 その刹那に動きを見切り、斧をアリスタに投げつけ怯ませた後に飛び膝蹴りを顔面へと叩き込む。

 

「ガッ!?」

「その侮りと慢心で、お前は終わるんだよ!!」

BREAK(ブレイク) ARROW(アロー)!!』

 

 斧の後に出現させたブレイクアローの刃とフレアキャリバーの二刀流を連続で斬りつけた後に、ミックスグリップに手を伸ばし、グリップ部分を引いて押し込む。

 ミックスグリップのルーレットが回転し、新たな色を決定させる。

 

COLOR CHANGE(カラー チェンジ)!!』

RED(レッド)!』BLUE(ブルー)!!』

 

 黄色だった部分が青色のアーマーへと変化。

 感覚が鋭敏化し、敵の姿をしっかりと視認しながら、両手に取り出したリキッドシューターを放ち追撃を与える。

 本来青色のエネルギー弾を放つリキッドシューターは炎を纏い、その威力と弾速も大幅に強化されている。

 

「く、くそ!」

 

 全身に罅をいれたアリスタ。

 俺を相手に分が悪いと判断したのか、能力で吹雪を強化し視界を遮りながらの逃走を試みた。

 

「逃がさないぞ」

 

 青の姿で遠ざかるアリスタの姿を補足し続けていた俺は、出現させたルプスダガーをリキッドシューターに接続させる。

 

CONNECT(コネクト)! LUPUS(ルプス) POWER(パワー)!!』

 

 銃に炎を纏わせ、接続されたダガーの矛先をこちらに背を向け逃げるアリスタへと向け――ー引き金を引く。

 瞬間、接続部分から炎で作られた鎖を伸ばしたルプスダガーが高速で射出され、既に数百メートル以上距離を離していたアリスタの胴体を貫いた。

 

「ァ、アアアア!?」

 

 アリスタの悲鳴が木霊して聞こえてくることを確認し、炎の鎖を引き寄せる。

 火花を散らしながら引き寄せられていくアリスタを視界に映しながらも、スーパージャスティスロボと氷の鎧を纏った怪物との戦いも佳境に入っていることを確認する。

 

「こっちも終わりにする……!」

COLOR CHANGE(カラー チェンジ)!!』

RED(レッド)!』BLACK(ブラック)!』

 

 グリップを引いて押し込み、赤と黒の姿へと変える。

 力に任せて、リキッドシューターとルプスダガーを繋ぐ鎖を引き寄せ、空へとアリスタを打ち上げながら、一切の躊躇もなく――必殺技を発動させる。

 

DEADLY(デッドリィ) MIX(ミックス)!!』

RED(レッド)! BLACK(ブラック)!  DUAL(デュアル)POWER(パワー)

 

 グリップを押し込み、バックルを三度叩く。

 右半身を炎が、左半身を黒いオーラに覆われながらも、左手を宙へと浮かぶアリスタへと向ける。

 

「なっ、か、身体が、能力も……!? そ、存在そのものを固定したのか!?」

 

 重力で奴を空中へと縫い留めながら、ゆっくりと左足を後ろに引く。

 深紅に染まった右足に炎のエネルギーが凝縮し、その場を軽く跳躍———ワームホールでアリスタの頭上へと転移しながら全力の蹴りを放つ。

 

「お、お前も、オメガなのに……なんだ、なんなんだ、お前はぁぁぁ!!」

「ただの人間に決まっているだろうが!! これでッ、とどめだ!!」

 

  M I X  

     D U A L

          B R E A K

 デ ュ ア ル ブ レ イ ク

 

 胴体のど真ん中に蹴りが直撃。

 凝縮された炎のエネルギーが炸裂し、その全ての衝撃を叩き込まれたアリスタは炎と共に内側から爆発。

 

「……倒したか」

 

 地面に着地し、後ろを振り返りながら吹雪が完全に止んだことに気づく。

 この氷の大地を覆っている冷気の壁も徐々に消えてきていることからアリスタを倒して、能力が解除されたのだろう。

 

『永きに渡る苦しみ、その苦痛から! 今! 解き放つ!!』

『オ、オオオ!!』

 

 レッド達の方ももうすぐ決着がつきそうだ。

 氷の鎧も消え失せ、追い詰められた怪獣と、止めを刺そうとするスーパージャスティスロボを目にしながらそう考えていると――、

 

「ックション!」

 

 くしゃみが出てしまう。

 心なしか寒気に襲われた俺は身震いをしながら首を傾げる。

 

「うぅ、風邪引いたかも……」

 

 とりあえずは今回の侵略も防げた。

 あとは、船に戻って温かい飲み物でも飲みたいところだ。

 




必殺技演出にゼロワン感を出してみました。
なるべく文字が崩れないように調整しましたが崩れていたらごめんなさい……。

スーパージャスティスロボ。
見た目のイメージとしてはジェットファイアーと合体したオプティマスみたいなものです。


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お見舞いバトルと白騎士(?)

半日常回です。
今回はアカネ視点でお送りします。


 冷気を操る侵略者、凍土のアリスタによる影響はかなりのものであった。

 日本だけではなく他の国にまで奴の冷気による干渉による一時的な環境の変化が起きてしまっており、夏にも関わらず肌寒い日が続いたり、体調を崩す人などが続出したのだ。

 これはこれで大した被害じゃないと思われるかもしれない。

 まあ、実際、アリスタを倒さなかった場合の事態を考えれば、大分マシな状況だと思う。

 しかし、だ。

 つまりなにが言いたいのかというと……。

 

 カツミ君もアリスタの冷気被害の影響を受けて風邪を引いてしまったのだ。

 

 そもそも彼は病み上がりだったのにあれだけの戦闘をしたのだ。

 体調を崩してもおかしくはない。

 当然、私達もものすごい心配しているわけだが……ここで一つ問題がある。

 

「じゃあ、責任を以てこの私がカツミ君のお見舞いに向かうのでよろしく……!」

「ちょいまち、ブラッド」

「待てよ、ブラッド」

 

 本部の一室へと集まっていた私達は、誰がカツミ君のお見舞いに向かうかを話し合っていた。

 三人で行くのはさすがに迷惑がかかるんじゃないかってのは分かっていたので、私以外の二人が出し抜く前にこうやって話し合う機会を設けたのだ。

 

「私はリーダーだよ?」

「負けヒロインのね」

「おい、今、なんて言った?」

「ぴゅるる~♪」

 

 聞き捨てならないことをボソリと呟いた葵を睨みつける。

 素知らぬ顔で下手くそな口笛を吹いた葵はそのまま、親指で自身を指さした。

 

「先輩方。ここは後輩である私がシチュエーション的に最高だと思う」

「似非後輩が何かほざいてる」

「ゲームのやりすぎだよ?」

「マジ? アオイ、キレそうだわ」

 

 無表情のまま、頬を膨らませてぷるぷる震え始める葵。

 この何をするか分からない葵を行かせるほうがずっと危険だ。

 

「きららはなんか、危ない」

「分かる」

「なんで……?」

 

 唐突に話を振られ本気で訳が分からないといった顔をするきらら。

 この子、自分に個性がないとか思っているようだが、全然そんなことはないのだ。

 少なくとも今の時点でも大分目立っている。

 

「色々大きいし……間違いがあったらいけないし」

「そのビッグボインは犯罪だよ」

関係ないでしょ!? なんで私の時だけアダルトな方向で危険視されなきゃいけないの!?」

 

 葵が親の仇を見るような視線を送り、きららは顔を真っ赤にさせながら自分の身体を隠す。

 あざとっ……!?

 駄目だ、こいつは一人で今のカツミ君に向かわせるわけにはいかない。

 母性に悪魔が爆誕してしまう。

 

「今は幾分か熱も下がって寝ているらしいけど、まだ治ったわけじゃないって白川ちゃんが言ってたから、無理をさせるわけにはいかないの。分かった? きらら?」

「いや、私なにも喋ってないし、なにもしていないんだけど」

 

 現在、カツミ君は白川ちゃんとアルファのいるマンションで療養している。

 その周囲には彼の護衛を担当する人たちと社長が作った設備(・・)があるので、心配はないが……もし、不測の事態が起きてしまわないように、私達の誰か一人がついて行った方がいい。

 それを決めるために話し合っている、のだが――これが一向に決まらない。

 

「分かった。それじゃあ、ここに来るまで買ってきたお見舞いの品で決めよう」

「多分、決まらないと思うけど」

「私が勝つのは理系の神の思し召し」

 

 とうとう意味分からない神様を崇めだした葵に首を傾げながら、それぞれが持って来た品を持ってくる。

 

「きらら、なにそれ」

「えっ、おかゆの具材……。アルファちゃんも白川ちゃんも料理得意じゃないって言ってたから」

 

 エコバッグにいれられた具材。

 ある意味で予想できていたが、さすがに手強い。

 

「アカネは?」

「桃缶とか、消化にいいやつだね」

「……」

「なんでそんなに意外そうな目で私を見るの……?」

 

 無言で目を見開かれたんだけど。

 ちょっと失礼じゃない? きららは私をなんだと思っているの?

 釈然としない気持ちになりながら、葵の方を見ると彼女の前には……うん?

 

「葵。一応聞いておくけど……なんでそれ?」

「ネギ」

「「……」」

 

 いや、名前を聞いたわけじゃなくて、どうしてそれをチョイスしたのか聞いたんだけど。

 とりあえず……。

 

「きらら、葵からネギを奪い取っておかゆの具材に放りこんどいて」

「りょーかい」

「ネ、ネギー!?」

 

 首に巻くようにするだろうけど、なんだか嫌な予感がしたので没収させておいた。

 首に巻くことが目的なんだよね? 葵? 私はそう信じてるよ?

 

「じゃあ、私かきららのどっちかが行くことになったわけだけど……」

「そうだね。私かアカネのどっちかだけど」

「ネギあります……」

 

 ええい、うるさいぞ葵。

 そもそもネギオンリーしか持ってこない時点で貴女の敗北は決定していたようなものだ。

 結局は、私達三人でお見舞いに行くことになってしまったが……まあ、全員で部屋に入らなければ大丈夫だろう。

 

「……うーん、白川ちゃんもアルファちゃんも電話に出ない。取り込み中かな?」

 

 スマホに連絡が通じないことに疑問に思いながらしまう。

 まあ、時間を置いて連絡すればいいか。

 

「前の戦いでさ」

「うん?」

「カツミ君。ちょっと昔に戻ってたよね」

 

 きららの言葉に私と葵は無言になる。

 昔、とは彼が黒騎士と呼ばれていた頃の話だろう。

 あらゆる敵を拳で打ち倒す戦士。

 厄介な能力が相手だろうとも、愚直なまでの力技で突破し、敵を穿つその姿にまだ戦士として未熟だった私達は何度も助けられた。

 そんな彼の影を、前の戦いで“白騎士”に見た。

 

「カツミ君は帰ってくる」

 

 厳密にはもう帰ってきているのだろう。

 でも、今は目覚めてはいないだけなのだ。

 

「彼が帰ってくるまで、私達が……私が頑張らなくちゃね」

 

 思い出すは、金色の光を纏って転送されていく彼の姿。

 もう二度と、あのような思いはしたくはない。

 彼にそんなことをさせないためにも、二度と負けないためにも私達はもっと強くなっていかなければならないんだ。

 

「そのために、ルインとかいうストーカーを倒さなければならない」

「優先事項だね」

「許すまじ」

 

 そもそもルインがカツミ君の記憶を消しているからこんなややこしい状況になっているのだ。

 彼が力を見せてくれたおかげで地球は存続しているが、その代わりにカツミ君が囚われの身になっていたとか、笑えなさすぎる。

 彼が元に戻ったら、一気に攻勢に出るつもりだ。

 それだけの力が、カツミ君にある。

 

「だから――」

『ジャスティスクルセイダー!! 出撃だ!!』

 

 私達のいる部屋に社長の声が響く。

 どこか焦ったようなその声に、同時に立ち上がった私達はその場を走り出しながら出撃準備を行う。

 

「社長! 侵略者ですか!」

『相手はカツミ君を狙ってきた!!』

「ッ!!」

 

 彼を狙って来たのか!?

 それなら社長の焦り様にも納得がいく。

 でも、取り乱していないのならまだ彼は無事だと言うことだ。

 

『攻撃そのものはこちらの防護シールドによって完全シャットアウトし、逆に電磁ネットにより雁字搦めに固めてやったが、それも時間の問だ――んん!?』

「どうしました!?」

『白騎士が、出てきた……』

「カツミ君がですか!?」

 

 今、体調最悪なのに……。

 いくら彼でも風邪を引いている状態で侵略者と戦うのは難しいはずだ。

 瞬時に変身を行い、ビークルに飛び乗った

 なら急いで——、

 

『いや、違うのだ。すまない、私も困惑しているんだが……』

「もったいぶらずにはよ言ってください!! 彼は大丈夫なんですか!?」

 

 一瞬の躊躇いと、通信越しの周囲のざわつき。

 まさか彼になにかあったのか……? だとしたら、正気でいられない自信があるけど……。

 

『女、なんだ……』

「「「は?」」」

 

 オンナ? どういうこと?

 

『今、チェンジャーを通してこちらの映像を映す』

 

 ビークルの画面端に現場の状況が映し出される。

 そこには、予想を超えた映像が映し出されていた。

 

 

『な、なんで私が変身してるの~!?』

『待てやゴラァァァ!! 白騎士ィィ!!!』

『ンヒッ!? お、おおお追いかけてくるぅ!?』

『ガウ!!』

『あう!? シロ、電気流さないで!? 戦う! 戦うからぁ!!』

Σ(シグマ) SABER(サーベル)!』

『わ、私が護るんだ! や、やるぞぉ!!』

 

 

 そこには怒り心頭の頭に角が生えた馬の頭を持つ異星人に追いかけられている白騎士の姿。

 しかし、明らかに違うのは、白騎士の姿。

 カツキ君の体形ではない、細く女性っぽい姿の上からそのまま白騎士のアーマーを纏った何者かは、泣き言を口にしながらその手に持つレイピアのような武器を馬頭へと向ける。

 

「……」

「……」

「……」

『仮面もアーマーも、姿は白騎士そのものだが性別が変わっているのだ!!』

 

 どういうことなの!?

 緊急事態だけれど、まったく状況が分からないよ!?

 声と体格と素振りで、カツミ君じゃないのは丸わかりだけど……!?

 

「これでカツミちゃんとガールズトークできるね」

「ブルーが正気を失ってる!?」

「それは元からでしょ!? 急いで現場に向かおう!!」

 

 一瞬で白騎士君ないし、白騎士ちゃんを受け入れたブルーをスルーし、私達はビークルを加速させる。

 いったいなにが起こっているのか全然分からないけど、とりあえず大変なことが起きていることだけは分かった!!

 




白騎士くんが女の子になりました(嘘)
なにもしてないのに危険視されるイエローと、単純にやべーやつなブルーでした。

次回、少しだけ時間を遡ってハクア視点から始める予定です。


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一角獣、再来する恐怖

お待たせしました。
今回はハクア視点となります。


 朝いちばんに起きる彼がいつもより遅い時間にリビングへやってきた時、彼の異変に気付いた。

 見るからに顔色が悪く、どこか足取りがおぼつかない。

 一応、医者としての知識を持っていた私が、彼が風邪を引いているという事実に気が付くことに、そう時間はかからなかった。

 バイトに行こうとする彼を慌てて止めた私と姉さんは彼をベッドへと寝かし付け、社長とマスターに連絡するべく端末を手に取った。

 

「体調も落ち着いてきたけど、熱はまだまだ下がらないね」

 

 体温計を確認し、静かな寝息を立てている彼の額に濡らしたタオルを置く。

 彼の枕もとには、彼を心配するシロがおり、どれと視線を交わしつつ私は部屋を後にする。

 

「ハクア、カツミの様子は?」

「静かに眠ってる。今は寝かせてあげよう」

「……うん」

 

 リビングのソファーには膝をかかえて座っている姉さんと、テーブルの上で充電されているプロト。

 私も姉さんの隣に移動しながら、ぼんやりとしながらテレビへと視線を移す。

 これといって面白い番組がやっているというわけではないけれど――、

 

【先日、環境に急激な変化を及ぼした異星人との戦闘についての新情報が公開されました】

 

「うん?」

 

 新情報? もしかして凍土のアリスタとの戦闘の動画も公開されたのだろうか。

 どうやらその通りらしく、テレビ画面には先日の戦闘の一部が切り取られた映像が映し出されていく。

 

 

『獣にすらなれないお前達に私達が負ける道理はない!!』

「が、ガギャ……!?」

『この時代に取り残された化石風情が!! ジャスティスシールド!!』

 

「野郎! ぶち破ってやる!!」

「ギ、ェェ!?」

 

 

「ねえ、アルファ、チャンネル変えていい?」

「い、いいよー」

 

 こんな映像をお茶の間に流していいのか疑問でしかない。

 少なくともここで五歳児以下の私達が見ることになってしまったんだけど。

 てか、なんでよりによってレッドとかっつんがあらぶってる場面が抜き出されてるの!?

 それから、ドラマの再放送を見ながらゆったりとした時間が過ぎる。

 

「姉さんはさ、どうやってかっつんと出会ったの?」

 

 ふと、気になっていたことを聞いてみることにした。

 アルファと呼ばれた少女と、黒騎士と呼ばれていたかっつんはどうやって出会ったのか。

 そこらへんを私はよく知らないから聞いてみたいと思った。

 

「うーん、運命、かな?」

「……」

「や!? いや、違っ、だから掴みかかろうとしないで!? 別に茶化してないからぁっ!」

 

 軽くイラっとした私が掴みかかろうとすると、姉さんは抵抗しながら焦ったような声を上げる。

 違うとはどういうことなんだ。

 

「カツミと会った時、私って生まれたばかりみたいな状態だったからさ。一応、ハクアと同じように一般常識とかすぐに身に着けたわけだけど……ちょっと面倒な習性を持ってたんだよ」

「習性?」

「アルファの本能ってやつ? 自分のオメガを探そうとする本能のまま、ふらふらーっとね」

 

 そんな散歩するみたいな言い方で……。

 クローンに近い私とは違ってそういうこともあるんだ。

 

「だから、カツミを……黒騎士の姿の彼を見たときすぐに分かった。彼が私にとっての“オメガ”なんだって」

「それって、分かるものなの?」

「ハクアもそうでしょ?」

 

 さも当然のように言ってくる姉さんに面を食らう。

 そんな私におかしそうに笑った姉さんは、抱えた膝を解いて私を見る。

 

「貴女も少なからず私と同じ力を持っているんだからさ。……そうじゃなければ、カツミを自分の弟にしようとなんてしないし」

 

 ……それを蒸し返されるとなにも言えなくなる。

 私は無意識にかっつんを自分のものにしようとしていたってことなの?

 いやいや、まさかそんな……。

 

「私はずっと黒騎士として戦ってるカツミを見てきた」

「かっつんは、どうして戦ってたの?」

「本人もよく分かってなかったと思うよ? ただ悪いことがしたかったみたいだけど、彼の悪いことってそういうものじゃなかったし」

 

 困ったように笑う姉さんに、私もつられて笑う。

 彼の悪人の定義は、私もよく知っている。

 怪人に襲われていたのもほとんど自分から襲い掛かったわけじゃなかったらしいから、単純に迎え撃っていただけだもんね。

 

「彼は私の“オメガ”だけど、その力はない……はず。でもあるとすれば、それは“共感”だと思う」

「共感?」

「人でない私達の心に共感してくれる。怒りも、悲しみも、寂しさも……ね」

 

 そうであってほしい、と私はそう思った。

 彼の持つ力が戦いばかりではなく、他者を理解することのできる優しい能力であってほしいと、心の底から思ってしまった。

 

『私が一番最初』

 

 その時、充電されていたプロトがそんな一言を発する。

 その音声に姉さんの笑みが凍り付く。

 

『アルファより、私の方が先に見つけてもらった』

「プ、プロト? 君と私では話が違うよね?」

『暗い研究室で、泣いてた私を見つけてくれた。カツミだけが私の気持ちを理解してくれた。ちゃんと使ってくれたの』

 

 機械音声だからか息継ぎなしでそう語るプロトに姉さんが気圧される。

 しかし、それにムッとした姉さんがプロトに言い返そうとした――その時、轟音と共に私達のいるマンションが大きく揺れた。

 

「「!?」」

 

 音が聞こえてきた方向はかっつんのいた部屋だ!!

 私とプロトを手に取った姉さんはすぐさまかっつんのいる部屋へと駆けだす。

 

「かっつん!」

「カツミ!」

 

 部屋に入ると彼は未だに目を覚ましていないようだ。

 しかし、彼の部屋の窓の外に青色のエネルギーフィールドが作り出されており、そのフィールドには長い鋭利な棘のような物体がいくつも絡みついていた。

 耐衝撃用のエネルギーフィールド!?

 あれが発動したってことは、今このマンションは攻撃を受けているということだ。

 

「プロト! 電磁ネットは!?」

『もう発動してる』

 

『ウオオオ!! なんだコリャァー!!』

 

 外から聞こえる何者かの叫び声。

 その声の聞こえる方を見下ろせば、電気を帯びた網目模様のロープになにかが雁字搦めに絡まっている光景が映し出された。

 角の生えた馬の頭を持つ人型の生き物。

 あれは間違いようもなく、侵略者という異形の存在であった。

 

「い、急いで連絡しなくちゃ……ッ」

 

 再び轟音が響き、私達のいるかっつんの部屋の壁から、エネルギーフィールドを突き破った角が飛び出し、天井へと突き刺さる。

 ドリル状にねじ曲がった角。

 あんなもの当たったら、まず命はない……!!

 

『白騎士ィ!! お前はここにいるんだろう!! さっさと出てきやがれぇぇぇ!!』

「っ、あんな大声で……」

 

 ここにかっつんが住んでいることが一般人にバレてしまう……!

 電磁ネットの半分を角で引き千切りながら怒号を上げる馬面怪人。

 そのまま再びこちらに角を射出しようとしたその時、かっつんの護衛のためにマンションで待機していたジャスティスクルセイダー本部に所属する構成員が、窓から身を乗り出し肩に抱えた銃型のガジェットを一斉に怪人へと放つ。

 

「彼に手を出させるな!! 電磁ネットガンで動きを止めろ!」

「トリモチエナジーバズーカァ!」

「我々は侵略には屈しはしない!」

「弱らせる!!」

 

 特殊部隊さながらの射撃で馬面怪人に動きを止めることを主眼に置いたガジェットを浴びせ始める。

 あ、あれなら時間を稼げるはずだ。

 とりあえず、かっつんをベッドから廊下へと移動させながら、ジャスティスクルセイダーの到着を待つ。

 

「ハクア、姉さん……プロト、いったいどうした?」

「かっつん……」

 

 これだけの騒ぎだ。

 さすがに目を覚ましてしまった彼は、ボーっとした表情のまま私と姉さんを見てから、壁に穴をあけられ破壊された自分の部屋を見る。

 いけない、と思いすぐさま自分の身体でかっつんの視界を遮る。

 

「だ、大丈夫。ちょっと姉さんがおかゆを盛大にこぼして部屋の掃除をしてただけだから、かっつんはそのまま寝てていいよ」

「うぇ!? あ、あぁ、うんそうだよ」

 

『雑魚が鬱陶しいんだよ! 白騎士! 白騎士はどこだァァ!!』

 

「……来たんだな、奴らが」

 

 慌てて取り繕うとするが、馬面怪人の怒号ですぐにばれてしまう。

 顔を赤く、どう見ても本調子からほど遠い彼がふらつきながらも立ち上がろうとするのを止める。

 

「そんな身体で戦えるはずがないじゃん!」

「大丈夫だ。アルファ、任せておけ」

「私はハクアだよ!? 私と姉さんの区別もついてないじゃん!」

「私とハクアを間違えるって相当だよ!?」

 

 絶対ダメな感じじゃん!

 それでも私達の制止を振り払い戦いに赴こうとするかっつん。

 しかし、やはり体調が悪いのかそのままバランスを崩してしまう。

 

「やっぱり駄目だよ……」

「カツミ、今は大人しくしてよう? すぐにジャスティスクルセイダーが来てくれるから」

「いや、駄目だ。間に合わない」

 

 彼の呟きと同時に、何かが破られる音が響く。

 それがエネルギーフィールドが完全に破壊された音だと気付き、いよいよ私達は追い込まれたことを悟る。

 

「二度と……目の前で家族を失ってたまるか……」

「かっつん……?」

 

 朦朧とした様子の彼がうわごとのように呟く。

 まさか、封印された記憶が戻ってきている? いや、これは……違う。

 彼自身自分の呟きを自覚した様子はない。

 記憶の混濁……? どちらにしろ、こんな状態のかっつんを戦いに向かわせるわけにはいかない。

 

『ガウ……』

「シロ、かっつんを戦わせないで」

 

 傍らでかっつんを心配そうに見上げているシロに話しかける。

 かっつんのことを大事に思っているなら、シロは彼を危険にさせるようなことはしないはず。

 彼と私の顔を、交互に見た機械仕掛けのオオカミは、何を思ったのかぴょんぴょん、と彼を支えている私の元までやってくる。

 

『ガウ!』

「え、どうしたの? シロ」

 

 不意にシロの瞳が輝く。

 瞬間、私のお腹あたりに銀色の光が巻き付き、ベルトの形へと形成される。

 

「へ?」

『ガウ!』

「シロ、お前……なにを……」

 

 次に私の左手首に腕時計に似たデバイスも巻き付けられる。

 それは奇しくも、アカネ達や黒騎士が用いるチェンジャーと似た見た目をしていたものであった。

 

Σ(シグマ) CHANGER(チェンジャー)!!』

 

「ちょ、な、なんで私にベルトとチェンジャーが!? シロ、どういうこと!?」

『ガァゥ!!』

「ハクア!? プロト! シロは何て言ってるの!?」

『お前も一応適合者だからいける! ……って、そうなのシロ!?』

 

 いきなりベルトと腕時計を取り付けられ、困惑する私に向かって跳躍したシロがバックルへと変形する。

 反射的に右手でシロを手に取ったその瞬間、私の頭にソレの使い方が流れ込む。

 

「———」

 

 頭に思い浮かぶままにバックルをベルトへとはめ込む。

 

LUPUS(ルプス)DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 私の周りに白いエネルギーフィールドが形成される。

 同時に、左手のシグマチェンジャーがフィールドに干渉し、独特の待機音声と幾何学的な文様を浮かび上がらせる。

 

Loading(ローディング) N.N.N.(ナ ナ ナ)Now(ナウ) Loading(ローディング) → Loading(ローディング) N.N.N.(ナ ナ ナ)Now(ナウ) Loading(ローディング) →』

 

 エネルギーの波動に合わせ、左手のシグマチェンジャーを前に掲げた私はそのまま自身に引き寄せると同時に───側面のボタンを押し、変身を開始する。

 

「変身……!」

Σ(シグマ) CHANGE(チェンジ)

 

 私の身体を特殊なスーツが身を包む。

 

I(アイ) WAS(ワズ) BORN(ボーン) TO(トゥ) PROTECT(プロテクト) YOU(ユー)!!』

CHANGE(チェンジ) → UP(アップ) RIGING(ライジング)!! SYSTEM(システム) OF(オブ) Σ(シグマ)……!!』

 

 かっつんと同じ白騎士としての姿。

 細部に新たなアーマーを増設させながらも、最後に胸に“Σ”という文字が刻まれたことで、変身を完了させる。

 

TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス) Σ(シグマ) FORM(フォーム)!!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 白騎士のように装甲の隙間から煙を噴き出し変身を終え───私は我に返った。

 

「な、なんで私が変身してるの!?」

『ガウ!』

「わ、私に戦えっていうの!?」

 

 生まれてこのかた喧嘩なんてしたことないんだけど!?

 ぺたぺたと白騎士? となった自分の身体を触りながらパニックに陥っていると、マスク内の視界に今、私達のいる場所に近づいてくる何かの反応に気付く。

 

「ち、近づいてる!?」

「ね、姉さん、今すぐ変身を解いてくれ……」

「か、かっつん……」

「姉さんを危険な目に遭わすわけにはいかな……い」

 

 今にも気を失いそうなかっつんを見て我に返る。

 ……いつも彼が戦っていてばかりだ。

 私はそんな彼を見送ることしかできないし、なにもしてあげてない。

 

「アルファ、かっつんを頼めるかな」

「ハクア? 貴女まさか……」

「ちょっと……時間稼いでくる……」

「後ろ向き!? あっ、ちょっと待っ――」

 

 姉さんの返答を待たずに私は扉へと駆けだす。

 スーツのおかげで体に力が満ちているから、今なら怪人程度の足止めもできるはずだ。

 覚悟を決めながら扉を勢いよく開け放ち、外へと飛び出すと――、すぐ目と鼻の先の距離に、馬面の怪人の姿が映り込む。

 

「うわああああ!?」

「へぶっ!?」

 

 咄嗟に振り回した張り手を頬に叩き込み、マンションの廊下から地上へと突き落とす。

 悲鳴と共に落ちていく馬面怪人を目にしながら、私は早鐘を撃つ心臓を押さえる。

 び、びっくりしたぁ……!? こ、こんな近くまで来てるなんて思いもしなかった……。

 

『ガウ!』

「え、ここから飛び降りろって!? た、高いし階段で降りようよ!」

『ガァゥ!!』

「あう!? わ、分かった、分かったよ!」

 

 馬面怪人を追撃すべくここから飛び降りろと催促してくるシロに、思わず拒否すると私の身体にびりっとした静電気のようなものが流し込まれる。

 思わず変な声を出して悶絶しながら観念した私は、意を決してマンションから飛び降りる。

 

「わあああ――ー!?」

 

 十数メートルの高さからなんとか着地し、バランスを崩しかける。

 あ、あの馬面はどこだ……?

 道路に落ちたはずの馬面怪人を探して周囲を見回していると――、

 

「テメェが白騎士かァ! さっきはよくもやりやがったなぁ!!」

 

 道路沿いの茂みから馬面の怪人が勢いよく姿を現した。

 

「で、出た!?」

「俺は星将序列83位!“一角のニコラ”!! 意外と元気そうじゃねーか、白騎士ィ!!」

 

 こ、こいつかっつんの体調が悪いことを知ってて襲い掛かってきたのか……!!

 性別そのものが変わっていることに気づいていない様子だけど……とにかくやるしかない。

 

「へへ、弱ったテメェをぶっ殺してよぉ。俺ァ、なりやがってやるぜぇ……!!」

「うわ、三下」

「ぶっ殺す!!」

「ひゃっ!?」

 

 鋭利な頭の角をこちらに向けながら体当たりを仕掛けるニコラ。

 その体当たりを転がりながら避けると、背後の壁に角が直撃し――爆発するように壁そのものが崩れ落ちる。

 

「……」

「避けたな、次は当てるぜ……!」

 

 私は迷いなくその場から駆け出した。

 少なくとも戦闘経験皆無の私じゃ、戦えるか分からない。

 

「あ、逃げるんじゃねぇ!!」

 

 もうなんでいきなりこんな状況に陥っているんだろう!!

 

「な、なんで私が変身してるのぉ~!」

「待てやゴラァァ!! 白騎士ィィ!!」

「ンヒッ!? お、おおお追いかけてくるぅ!?」

 

 で、でもこのまま逃げて時間を稼げばアカネ達がやってきてくれるはずだ。

 そう思い後ろを確認すると、二コラは周りの建物を破壊しながら私を追ってきていることに気づく。

 破壊されていく車と建物。

 幸い、まだ人が集まって来てはいないけど……このままじゃ。

 

「ガウ!!」

「あう!? シロ、電気流さないで!? 戦う! 戦うからぁ!!」

 

 シロにも電流を流され、戦う意思を決める。

 仮面の戦士として戦うからには、周りを見て戦わなくちゃならない。

 かっつんは、いつも周りのことを考えて戦っていたんだ。

 なら、私だって……!!

 

Σ(シグマ) SABER(サーベル)!』

「!」

 

 バックルのシロから音声が流れると、左腕のチェンジャーから剣の柄のようなものが飛び出す。

 それを握り、勢いよく引き抜くとカトラスのような歪曲した白色の剣が現れる。

 柄部分には、ダイヤルのようなものが存在するその剣を握りしめた私は、もう一度覚悟を決めながら剣を握りしめる。

 

「これなら……!!」

 

 使い方はもう理解した。

 あとは、立ち向かうだけだ。

 

「わ、私が護るんだ! や、やるぞぉ!!」

 

 かっつんを、そして彼が護っている人達を私が護る。

 

「ハッ、剣を使うのか! なら、俺も!!」

 

 二コラが自身の頭の角を掴み、引き抜く。

 角はそのまま再生し、引き抜かれた角は剣のような形状へと変わり、その切っ先が私へと向けられた。

 ———私に、戦いの経験はない。

 だけど、彼の、彼女たちの戦いは見てきた。

 右手で握りしめた剣を構え、軽く左手を添える。

 

「くたばれ、白騎士!!」

「ッ」

 

 内から湧き上がる恐怖を押し殺し、縦に振るわれる剣を斜めに逸らす。

 そのまま流すように二コラの腹部の位置に沿えた剣を、すれ違い様に振るう。

 刃が火花を散らし、二コラが呻く。

 相手は序列83位。

 かっつんやジャスティスクルセイダーがこれまで戦ってきた敵と比べれば……!!

 

「使い方なら、分かるよ!!」

 

 振り向きざまに横薙ぎを一閃。

 さらに二撃斬撃を見舞い、流すように構えたシグマサーベルのダイヤルを、左手で回すように弾く。

 ダイヤルの表示が炎のマークへと変わり、刀身に炎が噴き出す。

 

MODE(モード) FLARE(フレア)!!』

「てぇい!!」

「グゥ!?」

 

 振るわれた炎の剣は防御されるが、噴き出された火炎が二コラを焼き焦がす。

 呻いたところで、さらに追撃をいれ、もう一度ダイヤルを弾く。

 

MODE(モード) THUNDER(サンダー)!!』

「痺れちゃえ!!」

 

 切っ先から電撃が伸び、相手を痺れさせる。

 シグマセイバーは一本で複数の属性を操ることのできる武器!!

 さすがに倒すまではいかないけど……って、ん!?

 

「が、ぁぁぁ……」

「あ、あれ……? 弱くない……?」

 

 ……もしかして、ここまで来るのに相当消耗してる?

 社長がかっつんのために用意した過剰なまでの防衛システムのおかげかもしれない。

 

「た、倒せるなら、倒す!!」

 

 シグマサーベルのダイヤルに左手を添え、ダイヤルを一段階ずつ回転させていく。

 

FLARE(フレア)!』

THUNDER(サンダー)!』

AQUA(アクア)!』

GRAVITY(グラビティ)!』

LUPUS(ルプス)!!』

ALL(オール) ABILITY(アビリティ)!! →ALL(オール) ABILITY(アビリティ)!! →』

 

「なにこれ、うっさ……!?」

 

 喧しい音声を鳴らし始める剣を大きく構え、ニコラに止めを刺すべくシグマサーベルの柄の引き金を引く。

 

Σ(シグマ)!! ALL(オール) ABILITY(アビリティ) SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 五つの色が交じり合ったエネルギーは、一つの斬撃へと変化。

 そのまま呻くニコラへと振り下ろされ、その身体ごと奴の身体を飲み込んだ。

 断末魔すら上げずに、やられた相手のことが気になったけど……さすがにもう大丈夫だろう。

 

「……こ、怖かったぁ……」

 

 シロのサポートがなければきっと恐怖で足がすくんで動けなかったことだろう。

 かっつんはいつもこんな状況で戦っているんだよね……。

 

ハ、ハハハ!!

「ッ」

 

 爆発したはずのニコラがいる場所から聞こえる声。

 その声に我に返りサーベルを構えると、必殺技を受けた奴はその身体を肥大化させながら、耳障りな笑い声をあげていた。

 

俺の真の力は“超”巨大化! 元の姿はあくまで仮のものに過ぎない!!

「巨大化……!?」

ただの巨大化ではないぞ、その十倍の質量に増える俺を止められる者は誰も――ー

 

 瞬間、空から流星のように降り注いだ長剣がニコラの頭部へと突き刺さった。

 

『——あへ?

 

 思わず私すらも呆然とすると、音もなくニコラの頭に着地した赤い戦士が、長剣の柄を掴み取る。

 そのまま言葉もなく長剣が消え失せ、いくつもの糸のような光が空中に走る。

 

あ、がががが!?

 

 糸のように見えた何かは微かに見えた“斬撃”だと気付いたときには、ニコラの身体は血袋のように爆発していた。

 周囲に夥しい赤色をまき散らし、ついでに私のスーツすらも赤色に染めた彼女――レッドは、再生する余地すらなくなったニコラを一瞥もせずに、こちらへ振り返った。

 

「大丈夫!? 白騎士ちゃん!?」

 

 ……。

 ……、……。

 

「ダ、ダイジョーブ」

「大変、震えてる……気持ちは分かるよ。初めての戦いだったもんね……大丈夫、アルファから話は聞いてるから」

 

 私が怖いのは君だ。

 とは、口が裂けても言えなかった。

 今回の変身でかっつんの気持ちはよく分かったけれど、何気に一番よく理解できたのはレッドのえげつなさと怖さだったと私は思う。




シグマフォームの登場。

シグマフォームはベルトとチェンジャーの同時発動型。
第二部序盤の『戦いの終わりと、始まり』にて食べちゃったコアも合わせて使っているので、何気に高スペック。


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囮と、歪な願い

今回は前回からの続き、
アルファ視点となります。



 ハクアが変身して侵略者との戦いに身を投じた。

 予想外どころの話ではなかったけど、それ以上に心配だった。

 

『アルファ、カツミが……』

「意識を保てなかったようだね。今は無理をさせないようにしよう」

 

 なんとか彼をベッドに戻しながら、布団をかける。

 今、私にできることはこれくらいしかない。

 能力も侵略者には効果が薄いし、私という存在が知られてしまわないように能力も制限がかけられている。

 

「プロト、私も変身できない?」

『アルファが私を着たらバラバラになって死んじゃうよ……?』

「マジ?」

『マジ』

 

 普段どれだけやばいスーツ着てたのカツミ……?

 強化プロトスーツの異常さを改めて認識しながら、外の轟音に目を向ける。

 

「あれは、アカネのビークル……」

 

 空に見えるのは赤い飛行機。

 微かに見えるそれから、なぜかレッドの姿になっているアカネが飛び出し、おもむろに鞘から引き抜いた長剣を地上へと投げつけた。

 

「うん……?」

 

 そのままビークルを蹴り、空中で加速し一瞬でその姿を消し――その次の瞬間には、侵略者の血しぶきのようなものが空高く舞い上がる。

 

「うわぁ」

『うわぁ』

 

 相変わらず別の意味でメディア受けしそうな戦い方しているなぁ、と思いながら彼女の介入で事態が解決したことを察する。

 

「……ハクアの存在もちゃんと感じるから、大丈夫か」

『うん。シロの方も確認した』

 

 同じ力を持つ者同士の感覚というものだろうか?

 その感覚でハクアが無事なことを確認した私は、心の底から安堵しながらカツミの顔を見る。

 

「私も、なにか君にできることがあるのかな……」

 

 君が黒騎士と呼ばれていた時は、ただ傍にいることが君のためになると思っていた。

 孤独を共有する者同士。

 孤独だった彼を、孤独にさせないようにするためにしていた。

 でも、今はなにもできていない。

 私は、今のままで本当に――、

 

「こーんにちわっ」

「ッ!?」

 

 背後から迫る気配に気づくことができなかった。

 その声に咄嗟に振り向こうとすると、私の口元に何者かの指が差し込まれ声が上げられないようにされる。

 

「あふぁ!?」

「はい動かないでねー」

 

 いつの間にか背後に立っていたきつい桃色――ショッキングピンクのアーマーに身を包んだ仮面の戦士は、私の身体にサソリの尻尾のような機械的な触手を私に巻き付け、拘束する。

 床に倒れたまま身動きのできなくなった私は呆然としながら顔を上げる。

 

「だ、誰だ!?」

『アルファ!?』

「貴女がこの星のアルファ? わぁ、可愛い子」

 

 私が見上げた仮面の戦士はおもむろにバックルをベルトから外して変身を解く。

 そこには先日、ブリーフィングルームの話題に上がった女性――、

 

「風浦、桃子……!?」

「あら、この身体の名前、もう分かっちゃったんだ。君に会えただけでも、雑魚を囮に使った甲斐はあったかな?」

 

 まさか、さっきの侵略者はこいつがここに来るための囮だったの……!?

 なら、早くプロトに助けを求めるように――、

 

「ああ、それとこれは壊しちゃおっか」

『ッ』

「プロト!」

 

 靴でプロトのいる端末を踏みつぶされる。

 画面が粉々に砕け、破片を飛び散らせる端末に思わずプロトの名を呼ぶ。

 

「本体のコアは別かな? あそこまで意思が表面化しているのも、彼のおかげかなー」

「よくも、プロトを……!」

「別に死んでないからいーじゃん」

 

 本来の身体の持ち主由来のものか、人のいい笑顔を浮かべた“ヒラルダ”は拘束された私をしゃがんで見下ろし、頬を突いてくる。

 

「むぐぅ……!」

「貴女は運がいいよねー。いいオメガを見つけられてー」

「ふみっ、ふむっ!?」

「私なんてアレだよ? 裏切られたんだよ。酷いよねー」

 

 無遠慮に頬を突かれて情けない声を漏らしてしまうけど、ヒラルダの言葉に内心で驚愕する。

 裏切られた……!?

 他の星にもアルファとオメガの仕組みがあることは知っているけど、この子に寄生しているアルファだったバックルは、自分のオメガに裏切られたの!?

 

「羨ましいなぁ、本当に。なんで私は、貴女じゃないんだろ」

 

 その声に籠められた感情には重さがあった。

 軽薄な振る舞いからは考えれない、心底そう思うようなそれに私は思わず顔を上げると、いつの間にか私から離れたヒラルダは、ベッドで眠っているカツミの傍にいた。

 

「一度、ちゃんと顔を見たいと思ってたんだよね、しらかわ、かつきくん。いや、ほむらかつみくんかな?」

「カツミに近づくな!!」

 

 声を荒らげても、楽しそうに口角を歪めたヒラルダはカツミの頬に手を添える。

 

「このまま彼を奪ったら貴女はどんな顔をするかな?」

「ッ……!」

「あはははっ! じょーだん、さすがにそこまで悪趣味なことはしないよ。だからさぁ、そんな泣きそうな顔しないで? 私がワルモノみたいじゃん」

 

 何がしたいのかまるで分からない。

 一つ言えるのは、このヒラルダという侵略者はとてつもなく性格が悪いということだ。

 そうでなきゃ、こんな嗜虐的な笑みを浮かべるはずがない。

 

「カツミの身体を、乗っ取るつもり……!」

「え、無理だよ。だって彼にドライバーつけたら、負けるのは私の方だもん」

「……は?」

 

 予想外の言葉に私は怒りも忘れて呆気にとられる。

 ヒラルダは、どこか思いつめるようにカツミを見つめながら言葉を発する。

 

「支配力? うーん、そんな強制的なものじゃないね。相性っていうのかな? 多分、彼に私をつけたら、絆されちゃうんだろうなーって確信がある」

「……」

「あ、だからといって殺すつもりはないよ? 少なくとも戦い以外ではね。今日は単純に、この子を間近で見たかっただけだし」

 

 私には、ヒラルダがなにをしたいのかまるで理解できなかった。

 ただ間近でみたいだなんて、それは味方を一人犠牲にしてまですることなの?

 

「どうして、なんの、ために……」

「だって、初めてなんだもん」

 

 あっけらかんな反応を示したヒラルダが私を見る。

 その瞳をよく見れば、様々な負の感情が蠢いているような……真っ黒い目をしていた。

 

「誰にも口にしたことのない本心を理解されたのは」

「……ッ!」

 

 声色が変わる。

 雰囲気すらも軽薄なものから、無表情へ。

 

「ずっと泣いているんだよ? 言葉にすらできない怒りに身を焼かれながら、私は道化を演じ続けている。この命の温かさのないベルトと、借りものの身体で」

 

 ヒラルダが、要領を得ない言葉を並べる。

 感情を感じさせない、不気味な静かな雰囲気を纏った彼女は不意に、カツミを見下ろし頬を緩ませる。

 

「彼に私の心を覗かれた時、衝撃だった。歓喜の思いが心を占めた。でもね、でもね、違うんだよ。見つけてもらうのが遅すぎたんだよ」

「遅すぎる……?」

「救われるなんて今更だよ。だからさ、私を壊すなら、彼がいいなって」

「ッ!?」

 

 なん、だって……!?

 壊すって、まさかヒラルダの目的は!!

 

「私の悪夢を終わらせるなら、私のことを見てくれた人がいい。あの方でもなく、序列上位でもなく、ジャスティスクルセイダーでもなく、私の終わりはオメガの手によって下されなくてはならないんだよ……」

 

 ヒラルダが求めているのは自己の破滅。

 特定の誰かに壊されることを望む性質の悪いもの。

 それに……カツミが選ばれてしまった……!

 

「ふざけないで! そんな勝手な考えで、カツミを……!!」

「あはは、駄目だよ。もう決めたことだからさ。諦めて無様に見ていなよ。貴女は私と同じ(・・・・)“なにもできないアルファ”なんだから」

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)

 

 いつのまにかベルトに腰に巻いていたヒラルダが、一瞬にして変身を行う。

 

BE(ビィ) STEEPED(スティープド) IN(イン) VISE(バイス)……』

 

 毒々しい煙が彼女の身体を覆い、私を拘束した姿と同じ姿へと変わる。

 ショッキングピンクの鋭利なアーマーに、身体の各部を覆う、煙を噴き出す銀色のパイプ。

 右前腕に、サソリの尻尾を思わせる鋭利な突起を出現させたそいつは、最後にパイプから煙を噴き出したことで変身を完了させる。

 

SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリィィィム)!!

POLLUTION(ポリューション)……』

 

「あぁ、やっぱりこの姿が一番落ち着くなー」

 

 その目に良くない色と鋭利な禍々しい外見の姿となったヒラルダ。

 面白がるように肩を竦めた彼女は、不意に背後の窓を見てからからと笑いだす。

 

「あははっ、そろそろ気付かれたころだから、宣戦布告は終わりにするよ。それじゃあねー」

FEAR(フィアー) STEAM GUN(スチームガン)

「待……!」

 

 その手に現れた片手で持てるサイズの銃を軽く振るいながら引き金を引く。

 思わず身構えてしまったが、銃口から噴き出したのはピンク色の煙。

 それがヒラルダの身体を包み込むと彼女の姿は煙と共に消え、その場には拘束が消えた私と、カツミだけが残された。

 

「カツミ……」

 

 彼の共感によってもたらされるものが、必ずしもいいことだけではない。

 中には、ヒラルダのような常軌を逸した思考を持つ、存在すらも引き寄せてしまう。

 

「カツミ、早く、私を思い出してよぉ……」

 

 弱り切った心のままに、思わず零れてしまった声。

 その声に応えてくれるのは、この場には誰もいない。

 他ならぬ、彼さえも。

 




破滅願望持ちの上に、認めた相手にしか壊されたくないピンク色のやべー奴、ヒラルダでした。
彼女が今の姿になったのは、オメガを含めた周りに裏切られ生贄に捧げられたからです。

見た目のイメージは多分一番分かりやすいかもです。


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最悪の脅威は過去からやってくる

前話のヒラルダの仮面ライダー名乗りはちょっと評判? が悪かったようなので修正させていただきました。

前半は掲示板方式

後半はコスモ視点となります。


711:ヒーローと名無しさん

 

白 騎 士 君 女 の 子 説

 

712:ヒーローと名無しさん

 

多方面に混乱まき散らしすぎだろ

 

713:ヒーローと名無しさん

 

TS……そういうのもあったのか……!

 

714:ヒーローと名無しさん

 

某所で一周回って悟り開いてるやべー奴らが大発生してるぞ

白騎士トライアングルしちゃってる

 

715:ヒーローと名無しさん

 

夏休みだからなぁ

 

716:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君が実は白騎士ちゃんだったとかこんなんもうファンになっちまうよ……

 

717:ヒーローと名無しさん

 

なんでこいつら白騎士君=白騎士ちゃんだと思っているんだ……

 

718:ヒーローと名無しさん

 

>>715

もう九月だぞ

夢から覚めろ

 

719:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君はなんなの?

水をかけると女の子になっちゃう系?

 

720:ヒーローと名無しさん

 

呪いで女の子になっちゃう系かもしれない

 

721:ヒーローと名無しさん

 

侵略者に女の子に変えられちゃった説

あると思います。

 

722:ヒーローと名無しさん

 

プロドラ擬人化イラストで有名な海月ナマコ先生がツムッターでウミウシ化してるの草

 

723:ヒーローと名無しさん

 

ナマコとウミウシって大体同じだろ。

ナメクジとナマコはまだしも

 

724:ヒーローと名無しさん

 

相互フォローしてる海洋学者の方のナマコ兄貴を召喚しようとするな

 

725:ヒーローと名無しさん

 

海月ナマコ先生のツムッター文書

 

おいおい、なんだよ白騎士ちゃんって。

こんな新要素出して来たら、描くなって方が無理だろ。

性癖のバーゲンセールかよちくしょうめ!

でも、プロドラちゃん擬人化イラストしか描かない誓いを立てた手前、それをやったらもう今後ナマコを名乗れなくなってしまう……!

 

726:ヒーローと名無しさん

 

>>725

次ツイート

 

じゃあ、今日からウミウシになります。

はじめまして、海月ウミウシですウシ。

今から白騎士ちゃんイラスト書きますでウシ。

 

727:ヒーローと名無しさん

 

最高に意味不明で草

 

728:ヒーローと名無しさん

>>725、726

 

いったい……どういうことだ……?

先生はナマコとウミウシのなんなんだ……?

 

729:ヒーローと名無しさん

 

啓蒙が高すぎる……(畏怖)

 

730:ヒーローと名無しさん

 

真面目な話、中身別人だろ。

街中の戦闘だったし、早速動画でUPされてるの見たけど明らかに戦闘慣れしてない

 

731:ヒーローと名無しさん

 

不謹慎だけど、めっちゃあたふたしてるの可愛かった(小並感)

 

732:ヒーローと名無しさん

 

スペックに振り回されながらの慣れない戦闘って感じで、ライナーフォーム思い出した

 

733:ヒーローと名無しさん

 

シグマサーベルはめっちゃうるさかったけどな

ヘイセイバー並みにやかましいわ。

 

で、DXシグマサーベルは玩具はいつ出るん?

 

734:ヒーローと名無しさん

 

あの装着者ぶっ殺すベルトだったルプドラが認めるって相当だから、白騎士君の関係者って線が濃厚だと思う

 

735:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君って家族いるのか……?

あの様子じゃ天涯孤独なもんだと思ってたけど

 

736:ヒーローと名無しさん

 

そもそもジャスティスクルセイダーと指令以外に白騎士君が仲良くできる存在ってまるで明かされてないからな。

そう考えると、あの司令の情報の出し方がうますぎる。

 

多分、戦闘情報の公開もそういう細かい情報を隠すためのカモフラージュだと思ってる。

 

737:ヒーローと名無しさん

 

うわそういうことか。

流石宇宙人汚い。

 

738:ヒーローと名無しさん

 

ということは、ヒロインランキングに隠された刺客が存在する……?

 

739:ヒーローと名無しさん

 

ブルーとイエローが圏外に!?(予定調和)

レッド……! 順位が!!(確定未来)

新たに現れた一位が強すぎる!!(未来予知)

 

740:ヒーローと名無しさん

 

さすがにルプドラとプロドラを超える奴らは出てこんだろ(慢心)

 

741:ヒーローと名無しさん

 

怪人がマンション攻撃しながら白騎士呼んでたから、あのマンションに白騎士君住んでた可能性が高い

ついでにいうなら、ジャスティスクルセイダーの使う武装っぽい武器で怪人を足止めしてた人達が待機してた。

 

742:ヒーローと名無しさん

 

マジかよwww

 

743:ヒーローと名無しさん

 

場所特定とかマズすぎるだろ……。

侵略者以外の奴らが身元特定しようとしてくるぞ……。

 

744:ヒーローと名無しさん

 

そういうのはマジで黙っていよう

 

745:ヒーローと名無しさん

 

正体が気になるのは分かる。

でも、それを明かしても面倒事しか起こらないことをよく理解しよう。

 

746:ヒーローと名無しさん

 

話をぶった切るようで悪いけど、白騎士ちゃんに恐怖を植え付けたレッドの話はしないの?

 

747:ヒーローと名無しさん

 

過去最悪の切り出し方だぞお前!!

 

748:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君とお揃いの血化粧をしてやっただけやぞ

 

749:ヒーローと名無しさん

 

この日本人ヒーロー見るたびに、なんかの斬撃インストールしてんだけどどうなってんの……?

完全に第二の黒騎士君と化してる。

 

750:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君の代わりになるために頑張ってるだけの女の子なんだよなぁ

 

751:ヒーローと名無しさん

 

みんなネタにするけど、これほど頼もしいヒーローいない。

まあ、怖いのは同意する。

 

752:ヒーローと名無しさん

 

知り合いっぽいから、初戦闘であろう白騎士ちゃんをカバーしにいった結果ああなっただけだから(震え声)

 

753:ヒーローと名無しさん

 

夏休みを台無しにしてくれた氷宇宙人にぶちぎれたブルーとイエローも同じくらいやばいんだけどね

 

754:ヒーローと名無しさん

 

あの侵略者の時、白騎士くん黒騎士くんみたいになっててびっくりした

 

755:ヒーローと名無しさん

 

あまりこういうのもなんだけど、そろそろ白騎士君も正体を隠しきれなくなってきたなって。

多分、身近な人で勘づいている人とかいると思う。

 

756:ヒーローと名無しさん

 

もし、大々的に正体が明るみに出たらどうなるんだろうか

 

757:ヒーローと名無しさん

 

意外と中身は普通かも。

厨二患った子って線もあるし。

 

758:ヒーローと名無しさん

 

正体がバレるにしても白騎士くんにとって一番ダメージの少ない感じがいいなぁ。

誰も彼が苦しむのは望んでない。

 

759:ヒーローと名無しさん

 

辛い過去なんてなかったとか割とありそう

 

760:ヒーローと名無しさん

 

それはそれで本人の黒歴史になりそうだから、オッケーだな!

こちらとしてはそれで悶える黒騎士くんを見てみたい。

 


 

 白騎士が凍土のアリスタとの戦いで新たな力に目覚めたらしい。

 それをヒラルダから聞いた時のボクの心情は、どのようなものだったか。

 ボクが奴を追い詰めた時に目覚めた力。

 その力で、序列30番台を圧倒し、容易く倒して見せたことは、即ち奴が今のボクと同等の力を持っていることを意味していた。

 

「……」

 

 同じ星将序列に呼び出され、地球人の住む都市の地下通路を進む。

 先の見えない真っ暗な道を、ひたすらに進みながらボクは、頭の中で渦巻いている疑念を思い浮かべる。

 

 “戦う理由を、他人に依存させてどうするのよ”

 

 星将序列一桁を名乗る謎の変態、サニーの言葉が頭から離れない。

 戦う理由を依存させてなにが悪い。

 しかし、そう思う一方でどこか彼の言葉に納得している自分がいる。

 

「ボクが戦う、理由」

 

 白騎士への対抗心、嫉妬。

 自分の内から湧き上がる感情のままに、ボクは白騎士を目の敵にしていたはずだ。

 だけど、あいつは戦士だった。

 勝ち目がないはずの戦いに、たった数瞬の活路を見出し勝利を手繰り寄せようとした。

 それがどれだけボクの心を大きく揺るがしたことか。

 

——悩んでいるな、コスモよ

「ッ、ルイン様……申し訳ありません」

 

 脳裏に聞こえてくるルイン様にハッと我に返り謝ってしまう。

 

——お前はどうしたい? このまま白騎士を殺すのか?

「……」

——価値を示すのか?

 

 戦い前までは白騎士を殺すつもりだった。

 でも、今となってはただ奴を倒しても意味がないとさえ思えた。

 

「分かり、ません」

——……。ほう?

 

 ルイン様への返答を濁して返すなんて本来ならあっていいはずがない事態だ。

 この場で処される覚悟をするも、ルイン様はどこか楽し気な様子で声を返す。

 

「ボクは、白騎士を殺します。ですが……ただ倒すだけでは違う」

——ふむ

「奴の全てを上回り、万に一つの勝機すらも与えずに勝ちたい。その場の運に任せた勝利ではなく、誰もがボクの勝利を疑わない事実が……欲しいのです」

 

 まぐれの勝利なんていらない。

 ボクは自分自身が納得できる“勝ち”がいい。

 

——好きにするがいい

「え……?」

——それが、お前が選ぶ道ならば私からこれ以上言うことは何もない

「ルイン、様?」

 

 その言葉を期にぴたりと声が聞こえなくなってしまった。

 失望、されてしまったのだろうか……。

 ……無理もない、あれだけの醜態を晒してしまったんだ。

 

「汚名は、武勲にて濯ぐ……」

 

 戦って誉れある勝利を手に入れればいい。

 心の内の焦燥を押さえ込みながら、ボクは通路の先を歩み———指定された区画、今となっては研究所へと改造された地下空間へと到着する。

 そこにはいくつもの大型のカプセルと、なんらかの機械が稼働しており、その前には大柄な体を持つ男が立っていた。

 

「遅いぞ。67位」

「ボクに何の用だ。ガウス」

 

 星将序列044位“贋作のガウス”

 星将随一の科学力を持つこいつに呼び出されたボクは、奴の横柄な態度に軽い苛立ちを覚えながらさっさと要件に移るように促す。

 

「なに、次のこの私の作戦に君を参加させてやろうと思ってな」

「……ボクに協力を申し出ているのか?」

「いや、いやいやいや、それは違う」

 

 大仰な仕草で球体に包まれた頭を横に振ったガウス。

 相変わらず顔の分からない金魚鉢男だな、と思いながら辟易とした気持ちになる。

 自身の発明のために、平気で他人の発明を奪う男。

 それが悪名高いガウスの本質だ。

 

「此度の我が計画には、観客が必要だ!」

「それがボクだと? ボクはお前の操り人形になるつもりはない」

「勿論、それは分かっているとも! だが、お前はあの憎き友、ゴールディの傑作を持つ適合者! ならば、資格は十分以上にある!!」

「言っている意味が分からない」

 

 だからどうした?

 そもそもガウスはスーツの適合者でもなんでもないだろう。

 むしろ、コピー品を広めた張本人のはずだ。

 

「67位、お前は白騎士と戦いたまえ」

「……ッ!?」

 

 ある意味でボクが今望んでいることを口にするガウスに心が揺れる。

 

「ジャスティスクルセイダーは、私が足止めをしてやろう。君はその闘争のままに、思う存分に白騎士と殺し合え」

「なにが、目的だ」

「言っただろう? 観客が必要だと」

 

 まったく何を言っているのか分からない。

 観客? それがボクとでもいうのか?

 

「この私のスーツを含め、ゴールディの傑作スーツが集うのだ。ならば、お前もいたほうがいい」

「……お前の?」

「ああ、その通りだ」

 

 ガウスが背後のカプセルの一つを開く。

 そこにはケースに納められたくすんだ金色の強化スーツが存在していた。

 二つの角に、ところどころが機械で覆われたソレは、紛れもなくゴールディが作ったであろう強化スーツだった。

 

「サジタリウス。かつて、奴が私のラボ諸共破壊を行おうとした強化スーツ。ああ、ああ、奴の苦渋に塗れた顔を見れるかもしれないと考えると、溜飲も下がると言うのだ……!!」

「……」

 

 なるほど、だからボクを誘ったわけか。

 まだ裏があるようだけど……いいだろう。

 

「分かった。乗ってやる」

「君ならば、そう言うと思っていたよ」

「でも、ジャスティスクルセイダーはどうする。適合者ですらないお前がスーツを纏ったとしても、アレに太刀打ちできるとは少しも思えないけど」

 

 辛辣なようで事実だ。

 まさしく、あの三人の地球の戦士は強い。

 

「よくぞ聞いてくれたァ!!」

 

 ボクの言葉に大仰な反応を示した奴はガウスは、背後の空間に納められた複数のカプセルを覆うシールドを解除させた。

 その内側に納められていたのは———ボクの知らない怪物の姿であった。

 少なくとも星将序列にも、他の星の生物でも見たことがない複数の怪物は、特殊な液体のいれられたカプセルに浮かびながら目覚めの時を待っているようにも思えた。

 

「なんだ、これは……」

地球の怪人(・・・・・)

 

 ……なんだって?

 

「これが、地球の怪人なのか……? どうやって、再生させた?」

「なに、どこの星にでも禁忌に触れようとする科学者がいるようだからな。この地球も例外なく、怪人の体組織、血液を保管している非公認の組織(・・)があったので……そこから奪ってきただけのことだ」

 

 さも自慢げに語るガウスが、ナメクジのようなぐにゃぐにゃとした体表を持つ怪人のカプセルへと触れる。

 その隣にも数個のカプセルが存在しており、その全てに地球の怪人がいるようだ。

 

「あとは、この私の技術を以てすればクローンを作ることなど造作もないことだ。生前と同じく、強く、速く、特異な力を持つ異形の怪物たち……ああ、ああ、楽しみだぁ」

「……イカレてる」

「イカレてなければ、科学者などなれはしないさ! しかし、最も苦労したのは実体のない怪物だ!! いやはや、ここまで存在そのものが曖昧な怪人がいるとは思いもしなかった!! 能力もとても、ユニークなんだ!! ああ、まったく死者に化ける(・・・・・・)怪人とは凄すぎる!!」

 

 正直、異常なテンションについていけないので、ボクは了承だけしてその場を離れることにした。

 ボクが離れても高笑いを続けるガウス。

 ……地球の怪人とやらがどれほどできるか、ボクも分からないけど、今度の戦いはボクにとっても激しいものになりそうだ。

 

——手筈通り事を進めろ、期待しているぞ?

「ええ、ええ!! お任せください!!」

 

 しかし本当に、騒がしい奴だな。

 あいつが味方で大丈夫なのか……?




蘇る過去の強敵達……!

ようやくここまで来ました。
ここから大きく物語を動かしていける……かも。


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触れてはならない、記憶 前編

お待たせしました。
主人公視点となります。


 本当に自分が嫌いになりそうだ。

 自己管理のできていない俺のせいで、ハクア姉さんが戦うことになってしまった。

 なんとか怪人を撃退できたとしても、姉さんが危ない状況に身を置いていたことは事実。

 もうこんなことが起こらないようにするべきだ。

 

『わ、わわっ』

 

 侵略者の襲撃から一週間後。

 住んでいるマンションが侵略者に把握されてしまったということで、俺と姉さんとアルファはジャスティスクルセイダー本部に一時的に住むことになった。

 その際に、なぜか俺にあてがわれた部屋が以前、泊まることになった独房に似た場所だったけれど……まあ、そこに関しては妙に落ち着くから文句はない。

 現在は、修練場で白騎士としての姿になっている姉さんを複雑な心境で、モニター越しで見ていた。

 

「白川君の変身はどうやら、君と似た機構を持っているようだね」

「似ているということはどこか違う部分があるんですか?」

「彼女が変身で用いているコアは、二つ。シロのエナジーコアと、もう一つの量産型のコアだ」

 

 量産型の、コア?

 そんなものシロは一体どこから……って……あっ。

 

「最初に俺が侵略者を倒した時、出てきたコアをシロが食べちゃった時があったんですけど……もしかして、それかもしれないです」

「アクスと呼ばれた侵略者が装着していたコアだな」

 

 今、この場にはジャスティスクルセイダーの面々はおらず、数人のスタッフさんとレイマしかいない。

 しかし、アクスか。

俺にとっては色々と印象深い敵ではあったな……。

 

「アクスは、なぜか俺に恨みを持っていたんですよね……。今になっても分かりません。もしかすると、俺は記憶を失う前から、今みたいに戦っていたんでしょうか?」

「それは……こちらにも分からない。少なくとも、白騎士という戦士が確認されたのは、アクスとの戦いが最初だった」

 

 そりゃそうか……。

 でも、あのアクスが俺に向ける憎悪は生半可なものではなかった。

 その執念には、そうさせるだけの何かがあったんだと思う。

 

「話を戻そう。白川君の白騎士、シグマフォームは二つのコアを用いてこそいるが、そのエネルギー供給は量産型コアが中心となっているようだ」

「それってつまり……」

「その気になれば、シロというバックルなしでも変身が可能ということだ」

「レイマ」

 

 思わず彼の名を呼ぶ。

 切羽詰まった俺の声に、彼は安心させるように微笑む。

 

「フッ、白川君を戦わせるつもりはないさ。何より、彼女はあの戦闘民族ナインジャーズと違い、選んだのではなく、そうせざるを得ない状況で戦うことになってしまったからな」

「そう、ですか……」

「今は、単純にデータを取っているだけの時間に過ぎないから安心するといい」

 

 そう言われて俺もようやく肩の力を抜く。

 

「しかし、シロの複製技術には驚かされるな。まさかジャスティスクルセイダーのスーツに酷似したチェンジャーを作り出してしまうとは……」

「さすがは、地球外の技術ということでしょうか?」

 

 データ取りをしていた大森さんの声に、レイマは首を横に振る。

 

「いいや、大森君。これはシロ独自の能力と言ってもいいだろう。吸収、再構築。その繰り返しにより、装着者の弱点を補い、強化していく……凄まじい、ベルトだ」

 

『シロォ———!? ちゃんとやるから、あうっ!? 電流流さないでよぉ!?』

 

「シロ自体は白川君にはドSではあるけれども」

 

 悶えながら動く姉さんにハラハラとさせられる。

 後で、シロに姉さんに意地悪をしないように言っておくべきだろうか。

 腕を組んで思案していると、隣にいたスタッフさんが不意に何かを差し出してきた。

 

「カツキ、食べるか?」

「え、あ、はい。ありがとうございます。グラトさん」

 

 たいやきのいれられた紙箱を差し出してくれた元侵略者のグラトさん。

 大森さんに化けていた彼だが、今や俺達に協力してくれる頼もしい存在になっている。

 そんな彼から、たいやきを一つ受け取り、お礼を口にする。

 

「気にするな。お前が倒れれば、地球を守る戦士が少なくなる」

「……そう、ですよね」

 

 俺がいなくなれば、ジャスティスクルセイダーだけが戦うことになってしまう。

 実力的に自分が下にいることは分かっているが、彼女達に負担がいくようになってしまっていいわけじゃない。

 

「……ん? いや、すまない。プレッシャーを与えたつもりはないんだが……とにかく、食べるといい。甘味はいいぞ、心に余裕をもたらしてくれる」

 

 グラトさんの言葉に頷いた俺は、たい焼きを食べる。

 口いっぱいに広がる餡の甘い味を堪能しながら、モニターを見守る。

 

「あー!? ナツ、それ後でカツキ君に差し入れようと思ってたたい焼き!!」

 

 すると、グラトさんの隣で作業をしていた大森さんが、彼の食べているたい焼きに気づき声を上げる。

 え、これ俺に差し入れされるものだったの……?

 当のグラトさんはきょとんとした表情の後に、肩を竦める。

 

「私のかと思ったぞ。マナ、言っただろう? 冷蔵庫に入っているもの、デスクの上に置いてある食べ物には名前を書いておけと」

「別々のデスクになったんだから、私のでしょ!? 絶対分かってて食べたよね!?」

 

 ま、まあ、とりあえずは大森さんもグラトさんと変わらず仲良くしているようだ。

 二人のやり取りを見て苦笑していると、レイマが俺に声をかけてきた。

 

「カツキ君。プロトのことだが……」

「あ、一週間前の騒ぎで端末が壊れてしまったんですよね。あの子が無事なことは知っていますけど……大丈夫なんですか?」

「ああ、勿論だ。記お……データが失われているというわけでもないからな。同じ端末にインストールすれば、そのまま元通りさ」

 

 しかしな、と少しばかりバツが悪そうな顔をした彼は傍らに置いていたケースから、アカネ達がつけているチェンジャーに似た黒い腕時計を見せてくる。

 

「プロトが拗ねてしまってな」

「拗ねる?」

「なにもできずに壊されてしまったことにショックを受けて、君の傍にいると言って聞かないんだ。……私としても君の身の安全を確保するために、白騎士とは別の変身アイテム(・・・・・・)を持たせることにした」

 

 これは、以前変身に用いたXプロトチェンジャー……?

 

「でも俺はこれを十分に扱えなかったんですけど」

「あくまで最後の手段ということにしてくれ。使うとしても、その場からの逃走に用いればこれほどうってつけの装備はない」

「な、なるほど……」

 

 たしかにこのスーツの力を考えれば逃げに徹するだけでも十分な力だよな。

 納得しながらXプロトチェンジャーを腕に巻くと、すぐにピコーンと画面に赤い光が点灯する。

 

『カツキ……』

「プロト、大丈夫?」

『……君を、守る』

 

 ……なんだかすごい思いつめちゃってるな。

 風邪で寝込んだのは俺のせいなのに。

 それほど侵略者に襲撃されたことは、プロトにとってショックなことだったのか。

 後で、この子と話す時間を設けたほうがいいか。

 

「そろそろ訓練を終わらせるとするか。白川君もグロッキーだし」

『お腹空いた……!』

「あ、姉さん……!? グラトさん、ちょっとたい焼きいくつかもらってもいいですか!?」

「構わん」

「元から貴方のじゃないでしょ……」

 

 動いてお腹が空いてしまったのか変身を解除しぐったりとしている姉さんに気づいた俺は、たい焼きを二つほどをいただき、急いで修練場へと向かうのであった。

 


 

 空腹で倒れかけた姉さんにご飯を食べさせた後、俺は自分の部屋代わりとして住むことになった独房っぽい一室へと戻った。

 構造は独房っぽいが勿論鍵も閉められていないし、部屋の中にはサボテンやブルーレイなど、様々な物で溢れている。

 散らかっているという訳ではないけど、なんというべきか……ジャスティスクルセイダーの本部にあるとは思えない暮らしに溢れた部屋だ。

 

「……なにやってんの、アルファ」

「……」

 

 部屋に入るなり、アルファがベッドで仰向けのまま眠っている。

 部屋を間違えたってことはないだろう。

 と、すれば俺を待ってそのまま眠ってしまったということだろう。

 

「まったく、しょうがないな」

 

 軽くため息をつき、苦笑しながらアルファに布団をかけると、それで起こしてしまったのか彼女は薄っすらと目を開ける。

 

ぅん……あ、カツミだー……

 

 まただ。

 気にしないようにはしていたけど、時折俺はカツミと呼ばれる。

 誰かと勘違いされているのか、それとも本当にその人と俺が似ているのか分からない。

 

記憶が、戻ったんだね……よかったぁ

「……は?」

 

 記憶が、戻った?

 寝ぼけたアルファの口から飛び出した言葉に一瞬頭がフリーズする。

 記憶を失う前の俺を知っていることは別に不思議ではない。

 でも……、俺の名前そのものが違っているのはどういうことだ。

 

ずっと、私のこと忘れてたから……

「俺が、カツミ……?」

……えへへ、何言っているの? カツミは、カツ……ミ

『アルファ!!!』

……よ?」

 

 声を上げるプロト。

 後ずさりする俺にアルファはようやく我に返り、勢いよく起き上がる。

 その表情は、知られてほしくなかった秘密を知られてしまったような……そんな顔をしていた。

 

「カ、カツキ、これは、ち、違くて……!!」

「俺は、記憶を失う前は誰だったんだ……? ッ」

 

 眩暈がする。

 なにか、頭の内側から溢れだそうとしてくる感覚に陥る。

 その場で膝を突き、頭を抱える。

 

——丁度いい

「……ッ?」

 

 不意にルインさんの声が頭の中で響いた次の瞬間、腕に取り付けられたXプロトチェンジャーが点滅し、本部内に侵略者が現れたことを知らせるサイレンが響き渡る。

 侵略者が、現れた。

 一瞬で頭を冷やした俺は、深呼吸をした後にしどろもどろになっているアルファに向かい合う。

 

「アルファ、別に俺は怒ってるわけじゃない」

「……うん」

「なんとなくだけど、君が俺のために隠しているのは分かってる。……でも、この騒動が終わったらちゃんと教えてくれ」

「……分かった」

 

 ……よし。

 思考を切り替えて、侵略者との戦いに集中するべく、そのまま出撃準備を進める。

 


 

 

『やあやあ、はじめまして地球人諸君! 私の名は星将序列44位のガウス!! 今日は君達を人質に取ることにした!!』

 

『危機感の薄い諸君はあまり状況が理解できていないだろう! しかし、そんな諸君にも私は懇切丁寧に分かりやすく説明してやろう!!』

 

『この街の中央、半径500メートル以内に存在する地球人を閉じ込めた』

 

『未だ命の心配はしなくてもいい。君達は人質ではなく、目撃者だ!!』

 

『これからの宇宙史の歴史に残る戦いの目撃者として、彼らを誘き出す餌として諸君には役割を全うしてもらおうじゃないか!!』

 

 

 

 

『あのパクリ野郎! ラボ爆破するだけじゃ懲りなかったのかァ!!』

「レイマ! 現場はどうなっていますか!?」

 

 ルプスストライカーを走らせ空を駆けながら状況を確認する。

 事前情報では、都市の中央に位置する区画を、侵略者は占拠しその上で特殊なフィールドを張っていると聞いたけど……。

 

『相手は、君達を誘き出そうとしているようだ!』

「人質は!?」

『今は被害が確認されていない! しかし、我々が到着しなければ奴は躊躇なく虐殺を開始するだろう!!』

 

 なら、罠も承知で向かっていかなければならないということか。

 厳しいけれど、それでも行かなくちゃな……!!

 

「白騎士君!」

「レッド!」

 

 ここでレッド達が合流する。

 

「……」

 

 もしかして、彼女達も俺の名前のことを知っている?

 ふと、そんな疑念を抱くが、今はそんなことを考えている場合ではないのは分かっているので、さらにバイクを加速させ現場へと向かう。

 場所は遠くない。

 目視できる位置にまで接近すると、そこには——黒いドームに覆われた街が見える。

 

「ブルー!」

「私が撃つ」

 

 先頭に飛び出したブルーがエネルギー砲を放ち、ドームに穴をあけてそこに飛び込む。

 ドームの中は暗闇に包まれており、その代わり眼下には街灯と街の明かりだけが目立っている。

 

「……嫌な暗闇やな。ものすごく覚えがあるわ」

「奇遇だね、私もだよ」

 

 レッドとイエローの呟きを聞きながら、一際明かりの大きな場所に降り立つ。

 

『じゃ、ジャスティスクルセイダーだ!!』

『白騎士もいるぞ!!』

『た、頼む!! 頑張ってくれ!!』

『は、離れるぞ!!』

『いけぇ! 白騎士くーん!!』

 

 俺達の到着にドームに囚われ、逃げることのできない人々が大きなざわつきを見せる。

 

「早くこのドームをなんとかしよう」

「だね。そのためにもまずは、目の前の敵をなんとかしなくちゃ」

 

 円状に広がった空間に3人の人影の姿が確認できる。

 二人は黒色の外套を着ているが、青い刺々しいスーツを纏っているそいつには、俺にとって因縁深い相手だった。

 

「コスモ」

「来たね、白騎士」

 

 かつて敗北を喫した相手。

 俺の到着を待っていたかのように腕を組み、立っていた奴の背後———建物に取り付けられた大きなモニターに、くすんだ金色のスーツに身を包んだ何者かが映り込む。

 

『あのスーツは、サジタリウス……!?』

「司令、あのスーツを知っているんですか?」

『知っているもなにも……そうだな、借りパクされたものを相手の家諸共爆破して処理したと思ったら、劣化改造されてまた出てきたという感じだな……!!』

 

 つまりどういうことなんだ……?

 レイマも混乱しているのか、それともそれほどの衝撃があるスーツなのか分からないが、油断していい相手ではない。

 

『ようやく来てくれたなァ! 白騎士、ジャスティスクルセイダー!!』

「お前がガウスだね」

『この場に現れない非礼を詫びよう、恐るべき戦し———』

 

 言葉を言い終える前に、レッドが剣を振りビルのモニターを叩き割る。

 破片すら散らさずに、綺麗にモニターの機能のみを停止させるが、その隣のモニターにガウスの姿が映り込む。

 

『フハハ! 私程度の矮小な存在が出たとて、その刃がこの身を切り裂くことは分かり切っているので、ここから話させてもらおう!!』

 

 揚々と喋り出すガウスに、剣呑な気配を放つレッド達。

 今にも攻撃を始めそうな彼女達に俺も合わせるように努めていると、どこからか雷のような音が響く。

 それに合わせ、周囲の街灯も、ビルを彩る光が点滅していく。

 

「……なんだ?」

 

 何かが近づいてくる。

 漠然とした予感を抱いていると遠くに見えるビルの隙間の暗闇から、光を放つなにかがやってきていることに気づく。

 夥しい電撃をまき散らしながらやってきたそいつは、コスモの立っている場所へと降り立つ。

 

「シュルルル……!」

 

 見た目は手足の生えたナメクジのような生物が、ゴム製のスーツを纏っている。

 とても強そうには見えない見た目だが、それは見た目だけで伝わってくる強さは、とてつもないものだ。

 

「ッ、レッド、こいつもしかして……」

「うん、そうだね。つまり、後ろにいるやつらも、私が知っている()かもしれない」

『ご名答!! ではご紹介しよう!!』

 

 ガウスの声に合わせ、コスモの背後に佇む二体の侵略者が外套を取り去り、その姿を露わにさせる。

 一体は、宙に浮遊する煙のようなナニか。

 もう一体は、俺やジャスティスクルセイダーと似た姿の戦士。

 

『光食怪人グリッター! 君達、ジャスティスクルセイダーが倒した地球の怪人さ!』

「……」

 

 グリッターって、たしかイエローが倒したっていう地球の怪人だよな!?

 まさか、地球にいた怪人が蘇ったとでもいうのか!?

 驚愕のままイエローを見れば、彼女は手に握りしめる斧に力を籠めながら、言葉を発さないグリッターを睨みつけていた。

 

「あのクソボケ、生き返ったんか……!」

「イエロー、汚い言葉は駄目。レッドみたいになっちゃうよ?」

「ねえ、自然な流れで私の言動が汚いみたいな言い方やめてくれない?」

 

 さらっとツッコミをいれたレッドがガウスの方を見る。

 

「でも、本人の精神までもは再生できなかったみたいだね?」

『いいや、しなかっただけさ。少なくとも性格に問題のある怪人はね』

「……厄介だね」

 

 俺は地球の怪人についての知識は浅いけど、グリッターと呼ばれる怪人とジャスティスクルセイダーの戦闘については良く知っている。

 お調子者で詰めが甘い印象を受けたグリッターの性格を理解した上で、その精神を再現しなかったというのは……中々に厄介とも言えるだろう。

 

「そっちの怪人は?」

『生憎、作った私も名前は分からないんだ。黒騎士にでも聞けば分かるのではないかな? ん?』

「……そう。じゃあ、誰も分からないってことね」

 

 もう一体の怪人は、ふわふわと周囲を見回すと、こちらにピタリと視線を止めジッと見つめてくる。

 

「見られて、いる……?」

 

 なにがかは分からない。

 漠然とした嫌な予感を抱きつつも、ガウスの耳障りな演説が続いていく。

 

『そして、もう一体の恐るべき怪人! 電気ナメクジ怪人!!』

「シュルルル!! ジャバァァァ!!」

 

 その身に溢れる電撃を迸らせるナメクジ怪人。

 あまりの電撃に周囲の電子機器が煙を噴き上げ、ビルの明かりが点滅を繰り返す。

 あいつは精神がそのままなのか分からないが、ものすごく怒ったような様子で———なぜか、俺を見ている。

 

『おやおや、どうやら君に因縁のある相手のようだぞ。白騎士』

「……なんだと?」

『フフフ……』

 

 意味深に笑みを浮かべたその瞬間、前触れもなく動き出した煙のような怪人が俺達の前に現れる。

 青い、煙。

 それはゆらゆらと膨張と収縮を繰り返しながら、その煙の奥にある剥き出しの瞳を怪しく輝かせる。

 即座に攻撃を開始する俺達が、その攻撃は全て奴の煙の身体を素通りし———輝いた瞳の先が俺へと向けられる。

 

『さてさて、なにが出るかな』

「白騎士君!」

 

 ガウスの愉悦に満ちた呟き。

 それと同時に、煙の怪人と俺の間にレッドが割って入り———彼女が怪人のなんらかの攻撃の影響下に晒された。

 

「レッド!!」

 

 咄嗟に彼女を引き寄せ、怪人から距離を取る。

 ッ、攻撃そのものが素通りしたせいで油断してしまった……!

 バカか俺は……!!

 

「大丈夫か!」

「役得!」

「大丈夫……?」

「フッ、なんともないよ。……あの煙の怪人、もしかして……」

 

 自信なさげに尋ねると、やや声を上ずらせたレッドが立ち上がる。

 どうやら、平気なようだけど、あの煙の怪人がなにか知っているのか?

 コスモと二体の怪人はまだ動いてはいないけど……。

 

『ァ、ア、ァ……』

「ん?」

 

 煙の怪人の青い煙が赤く脈打ち、何かの姿に代わろうとしている。

 煙はそのまま肉塊へと変化し、人型へと変わっていく。

 

『さあ、見せてくれ! 最も親しい者の死を再現する悪辣の極みを! 死者を冒涜する悍ましき怪人よ!』

 

「……ブルー、イエロー。あれ、前に彼が言っていた怪人っぽい」

「物理攻撃無効系だね。いや、それ以前の問題としては……」

「レッドがなんの記憶を見られたか、やね」

 

 変化する最中の恐ろしさと不気味さに周囲にいる人々が言葉を失い、ジャスティスクルセイダーも迂闊に攻撃しようとはしない。

 そのまま肉塊は完全な人型へと変化し、服すらも着たそいつは、俯いたまま言葉を発する。

 

「俺は、言ったよな」

 

 黒い髪の、シャツの上に黒いパーカーと、下にジーンズを着た普通の男。

 顔を見せずに俯いたそいつの呟きは、どういうことか声そのものが拡張され、この場にいる全ての人間に声を届かせていた。

 

アカネ(・・・)

「「「……ッ!!」」」

 

 驚愕のまま声を失う。

 レッドの本名を知っている。

 男が顔を上げる。

 その顔は、俺にとって最も知っている顔であった。

 

「おれ……?」

 

「後は任せるって言ったのに、どうして地球はこの様なんだ? 教えてくれ、アカネ、きらら、葵」

 

 周囲にいる人々の視線に晒される俺と同じ素顔。

 そいつは、親し気な様子でレッド達へと語り掛ける。

 

「俺が命を懸けたのに、まだ地球は危機に瀕している」

 

「どうしてだ?」

 

「お前達は肝心なところで大事なものを取りこぼす」

 

「この地球も」

 

「人々も」

 

「俺も」

 

「どうして、俺に命を賭けさせたんだ?」

 

 意味が……意味が分からなかった。

 命を賭けさせた? この俺はなにを口にしているんだ?

 手に持っているダガーを取り落としながら、レッド達を見ると、彼女たちは動揺一つ見せずにジッと、もう一人の俺と敵の姿を目にしていた。

 

『なるほど、レッド。つまりはお前の中では彼は死んだ者と思っているようだな』

「……」

 

 揚々とガウスが無言のレッドに言葉を投げかける。

 その声になぜか周囲の一般人が大きな動揺を見せるが、それでも彼女は反応しない。

 

『残酷だなぁ。本人は傍にいるのに、君はそう思っていない(・・・・・・・)みたいじゃないか』

「……」

『あの半年前の騒ぎで命を賭して侵略を防いだ彼に対する認識がそれとは……いやはや、嘆かわし——』

 

 無音で振り切られた剣が視界に映るモニター全てを叩き割り、その機能を停止させる。

 全てのモニターを沈黙させた彼女は、静かな動作で剣を鞘に納めるが、俺としては冷静になんてなれるはずがなかった。

 

「レッド、どういうことだ……!? なんで、俺があそこに……死んだって……」

「白騎士君」

 

 静かに口にされた言葉。

 その言葉に我に返ると彼女は、俺の肩に手を置く。

 

「大丈夫。君は君だ」

「え……?」

「きっと、混乱するかもしれないけど言っておくよ。私は君が死んだ人だなんて思ってない。これは、私にとっての戒めだったの」

 

 動き出す二体の怪人。

 それにブルーとイエローが迎撃に向かう。

 混乱したまま俺も加勢に向かおうとすると、頬に添えられた手でレッドの方を向かされる。

 

「いなくなった君の代わりに戦おうって、どんなことを言われても、どんなに怖がられようとも、絶対にこの地球を守ろうっていう決意のつもりだったの」

「……決、意?」

「うん。だから、私は戦う。これからも地球のためにも……そして君が戦うことのないように、戦う」

 

 そう言葉にした彼女が俺から離れ、その手に持つ剣を引き抜く。

 向かう先は俺の姿をした怪人。

 ……。

 ああ、そうだよな。

 まだまだ混乱する部分はあるけど、それは後で考えればいいよな。

 

「レッド」

「うん?」

「俺だからって遠慮しなくていいからな……!」

「うん……うん、分かった!」

 

 俺の姿がバレてしまったからにはもうしょうがない。

 いつかはそうなるかもしれないと覚悟していたからな。

 近づいてくるレッドを目にした俺の偽物は、むかつくぐらいに俺と同じ自然な笑顔を浮かべる。

 

「アカネ、まさか俺を攻撃——」

 

 瞬間、レッドが振るった赤色の鞘が俺の偽物の側頭部へと叩き込まれ、その身体をビルの側面へと叩きつけた。

 ……あの、遠慮しないでって言ったけど、なんか……自分が攻撃されてるみたいで普通に嫌だな、これ。

 

『黙れ』

『アカネ、酷い、じゃないか……また、俺をいじめるのか?』

『お前が、私の名を口にするな』

———(父さん)———(母さん)みたいに……?』

『……ッ』

 

 レッドの戦闘が始まったところで、俺は気分を落ち着けるように深く深呼吸をする。

 地球の怪人はジャスティスクルセイダーに任せよう。

 俺の相手は、ここに来た時点からもう決まっている。

 

「待たせたな、コスモ」

「……こんな形での戦いになるとは思っていなかったけど、仕方ない」

 

 青い戦士、コスモと相対する。

 奴の目的は俺と戦うことだってのはなんとなく分かっていた。

 だからこそ、それ以上の問答は必要なかった。

 

「始めよう」

MIX(ミックス)!』

RED(レッド)!』BLUE(ブルー)!』

 

「こちらもそのつもり!」

COME ON(カモン)!!

 

 出現させたミックスグリップを起動させ、コスモもバックルに力を籠め黒と青のオーラを纏う。

 互いにフィールドを激突させながら、戦いが始まる。

 




ナメクジ怪人さんがめっちゃシャウトしていたのは、自分の名前がナメクジ怪人だとずっと間違われて呼ばれていたからです。

主人公、ジャスティスクルセイダー、一般人に同時に影響を与える能力対象はレッドでした。
一番のトラウマを刺激されて内心では滅茶苦茶怒ってます。


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触れてはならない、記憶 中編

お待たせしました。
今回も少し長めとなります。

序盤は別視点となります。


 暗闇の帳が下ろされた都市。

 摩天楼が立ち並び、人工の淡い光に照らされたこの牢獄の中で、今いくつもの戦いが起きている。

 ジャスティスクルセイダーと地球の怪人の戦い。

 白騎士とコスモの戦い。

 その様子をビルの屋上から座って眺めていた私は、内心の躍動を押さえ込む。

 

「面白いことになってるわねぇ」

 

 身に纏うは桃色のアーマーに、緑の複眼。

 手の中のフィアースチームガンを弄びながら、この戦いの観戦に徹していたわけである。

 

「いいわねぇ。不安定な心っていうのは。見ていて惚れ惚れしちゃう」

 

 数々の真実に心を乱しながらも、その根幹は微塵も揺らがない精神性。

 自分の戦う敵を見定め、覚悟を決めるその速さ。

 戦士としてはまだまだ甘いが、そこがいい。

 なにせ、その甘ささえも彼が目覚めてしまえば関係ないからだ。

 

「これからが楽しみ。ああ、早くゴーサインがでないかなぁ」

 

——貴女は、いったいなにがしたい?

 

「んー?」

 

 内からの声に首を傾げる。

 そのまま屋上のダクトに寝そべりながら、聞こえてくる声に一人で返事をする。

 

「泣きわめくのはやめたのかしら? モモコ」

 

——質問に答えて。

 

 私が乗っ取った地球人の人格、風浦桃子。

 年齢は19。

 適当に適合率が高かったので乗っ取ってみたが、

 

「憧れの黒騎士本人と遭遇して、まさか希望が湧いちゃったとか?」

 

——……。

 

「まさかの年下でびっくりしてたわねぇ」

 

 図星のようだ。

 彼女は今、自身の身体を動かす感覚を遠ざけられ、第三者からの視点で物を見ているような状態だ。

 そんな状態で何ができるわけもないけど……まあ、暇な時の話し相手にするくらいには有能だろう。

 なにより、独り言が減る。

 それは大いに大歓迎だ。

 

「でも私、貴女のおかげで助かっちゃった。あのまま彼にベルトをつけてたら、私どうなっていたか分からなかったもん」

 

——……ッ

 

「貴女の咄嗟の抵抗が自分の首を絞めることになるなんて……本当にかわいそう」

 

 カツミに私の本体を不意打ち気味に取り付けようとした時、モモコはなけなしの力を振り絞り声を上げた。

 どういうわけか、その声が彼へと届き、奇襲に気づかれてしまったが、彼の相性を考えるとピンチどころの話ではなかったことを理解させられてしまったわけだ。

 

——私、諦めないよ。

 

「あー、嫌だ嫌だ。順応性の早い生命体ってのは本当に面倒ねぇ。もっとこう、精神的に弱って来てくれれば私も楽なんだけど」

 

 本当に分かりやすい地球人だ。

 しかし、モモコの考えはあながち間違ってはいない。

 ジャスティスクルセイダーたちが私を引きはがす術を見つけることができれば、モモコを救うことができるかもしれない。

 でも、そううまくいくとは限らない。

 

「もしかしたら、貴女は私と一緒に殺されちゃうかもしれないわよ?」

 

——それは、ありえない。

 

「どうして言い切れるのかしら?」

 

——だって、彼らはヒーローだから。

 

「はぁ?」

 

 素っ頓狂な答えに呆けた返事を漏らす。

 なーに言ってんのかしら、この子。

 ヒーローだから? そんな確実性のないことを信じているのか?

 

——彼らは皆が知ってる、正義の味方だから。

——貴女は絶対に彼らに敗れる運命にあるって、私は確信してる。

「……くっさ。寒気がしたわ。そういうの虫唾が走るわね」

 

 モモコの意識を奥へと仕舞いこむ。

 あーあ、気分が悪くなっちゃった。

 これからが楽しくなるのに、もう本当に嫌だなぁ。

 

「さーて、いつ私の呼び出しが来るんでしょうねぇ」

 

 右腕から伸びるかぎづめのように折れ曲がった棘から滴り落ちる“毒”を目にしながら笑みを浮かべ、彼が戦っている場を見る。

 私の出番はもう少し。

 それから先、どうなるのかが本当に楽しみでしかたがない。

 


 

MIX(ミックス) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)! YEAH(イエェェイ)!!』

 

ARMOR:ZONE(アーマー ゾーン)!! JOKER(ジョーカー) FORM(フォーム)!!!

 

 変身の完了と同時に飛び出した俺とコスモが街中で激突する。

 ビリビリと衝撃をぶつけ、パワーで拮抗するこちらに、奴は喜びを思わせる吐息を吐き出す。

 

「ふっ、くっ……! これで力は互角になったなァ! 白騎士ィ!!」

「その姿になると、テンションが様変わりするな……!!」

 

 手の中にフレアカリバーⅡを出現させ、振るう。

 相手も腕に鋭利なカッターのような刃を出現させ、防御しながら近接戦を繰り広げていく。

 ギャリギャリと生々しい金属音を響かせ、剣とアームカッターが削り、弾き合う攻防。パワーはあちらが若干上だが、速さと技量はほぼ互角。

 

「なら、ここで決め手になるのは……!」

 

 手数の多さ!!

 幾度の斬撃、それらを受け、いなしながら一歩下がると同時に、相手の視界に隠すようにした左手にリキッドシューターⅡを出現させ、振り向きざまにそれをコスモへと打ち込む。

 

「ッ、なに!?」

 

 咄嗟に腕で防御し後ろへ下がりコスモに連続して銃を放ちながら、フレアカリバー II を投げ捨てその流れでミックスグリップを回しフォームチェンジを行う。

 

COLOR CHANGE(カラー チェンジ)!!』

YELLOW(イエロー)!』BLUE(ブルー)!!』

 

 半身のアーマーが赤から黄色へと変わる。

 即座に右手にライトニングクラッシャー II を握りしめながら、高速移動。

 電撃と共に、コスモの防御の上から斧を直撃させる。

 

「あぐっ、このぉ!!」

「ぐっ」

 

 すれ違い様に腕を掴まれ、力任せに振り回された後にビルの壁に叩きつけられる。

 背中の衝撃を我慢しながらビルの中で立ち上がると——、

 

「お返しだァ!!」

「!」

SLASH(スラッシュ) EXECUTION(エクスキューション)!!

 

 青い液状のオーラを放つアームカッターから放たれる三日月上のエネルギー刃。

 こちらも必殺技で撃退する……!

 

DEADLY(デッドリィ) MIX(ミックス)!!』

YELLOW(イエロー)! BLUE(ブルー) DUAL(デュアル)POWER(パワー)

 

『 MIX(ミックス)! DUAL(デュアル) SHOOT(シュート) !!』

 

 電撃を纏ったリキッドシューターⅡから連続してエネルギー弾が発射され、エネルギー刃とぶつかり合い、そのまま相殺させる。

 必殺技同士の激突に生じた煙を突き破りながら、間髪を容れずにコスモが襲い掛かってくる。

 

「ボクはお前を、殺す!!」

「どうしてそこまで俺を殺したい!!」

「ボクが、ボクであるためにだ!!」

「それで殺される俺の身にもなってみろ!!」

 

 ビルの間の空間を飛ぶコスモに、黄色の力を用いて壁を蹴り、地を駆け、高速移動を繰り返しながら戦闘を繰り広げていく。

 

「ハァァ!!」

「アァァ!!」

 

 激突の度に電撃と青いオーラが空間を満たす。

 

「ボクは、ボクの存在意義を証明するんだ!! そのためなら、この命惜しくはない!!」

「ッ、存在意義、だと……!!」

 

 なんだ、それは。

 頭の中から形容できない感情が溢れだす。

 一気に視界が血走りそうになるのを理性で押さえながら、俺はライトニングクラッシャー II をコスモへ投げつける。

 電撃を貯め、回転と共に繰り出された一撃を腕で防いだ奴に———一瞬で肉薄した俺は、その胴体に力の限りに突き出した“拳”を叩き込む。

 

「嘗めやがって……!!」

 

 手元に斧を引き寄せながら、地上へと降り立ち、立ち上がったコスモを見下ろす。

 

「テメェはいちいち他人に見てもらわねぇと、自分が生きてるか死んでるか分からねぇバカなのか!! あぁ!?」

「なんだと……!!」

「そのままどっちつかずでいてぇなら、お望み通りに俺が引導を渡してやる!!」

 

 衝動のままにミックスグリップを回す。

 ルーレットが回り、新たなる形態へと変身する合図を鳴り響かせる。

 

COLOR CHANGE(カラー チェンジ)!!』

YELLOW(イエロー)!』BLACK(ブラァック)!』

 

 アームカッターを受けながらフォームチェンジし、黄色と黒の姿に。

 考えうる限りの力に特化したフォームだが、相応に危険な力であると漠然と理解していた俺は、全身に電撃を纏わせながら勢いのままコスモへと攻撃を仕掛ける。

 ライトニングブレイカー II を片手で振り回し、避けたところに、空いた左手を向け———その手にグラビティバスターのガンモードを出現させ、引き金を引く。

 

「デタラメな……!?」

「どうした、さっきの威勢はどうしたァ!!」

「ッ、うるさい!! そんなに武器を振り回して!!」

WILD(ワイルド)1!!

 

 アームカッターを延長させ、ワームホールで至近距離に出現し、手刀のように俺の肩にアームブレードを叩きつける。

 青い液状のオーラがチェーンソーのようにアーマーを削り猛烈な痛みに顔を顰めながら、繰り出された腕を右手で掴みとる。

 

「なッ!?」

「なに驚いてる? 来ると分かっていれば、防げるに決まってんだろ」

 

 動揺に肩を震わすコスモの胴体に構えたグラビティバスターの銃口を突き付ける。

 そこでようやく自分の状況に気づき、逃げ出そうとするコスモだが、至近距離からの砲撃を受け後ろに吹き飛ばされる。

 

「く、くそ!!」

 

 バカの一つ覚えのようにコスモが作り出したワームホールに入り込む。

 立ち止まる俺の周囲を、連続しての転移を繰り返すコスモ。

 どうやら、冷静に俺を追い詰める算段のようだが、こちらもワームホールを操ることができるということを忘れている。

 

 照準もつけずにグラビティバスターを誰もいない真正面へと構える。

 次のワームホールへ転移しようとするコスモの眼前に、俺が作ったワームホールを割り込ませ(・・・・・)、そのまま俺の目の前へと強制的に転移させる。

 

「あっ、なん———!?」

「使い方を知っているってことは、その破り方も知ってるってことだよ」

 

 二撃目の直撃。

 コスモのアーマーに罅が入り、奴は地面を転がる。

 銃口から煙を吹かせるグラビティバスターを地面へと投げ捨て、粒子へと変えながら周囲へと意識を向ける。

 

『それ以上、彼を汚すな。粉微塵にしてでも消してやる……!!』

『たかが視界を奪っても、おどれの薄汚い気配と、電磁センサーが生きてれば問題あらへん』

『君って、ナマコに似てるって言われない? あ、ごめんやっぱナメクジだったわ』

 

 苦戦はしているようだ。

 彼女達をしてあそこまで戦っているということは、相当な相手だ。

 

「まだ立つか? コスモ?」

「ふざける、な……!」

 

 執念のまま立ち上がろうとするコスモ。

 罅だらけの痛々しい装甲を目にして、バックルにいるコスモが微かに震えたような気がした。

 ……こいつは、敵なのだろう。

 でも……。

 

「君は、ここにいるだろ」

「は?」

「どうして、君自身が自分のことを認めてあげないんだ?」

 

 なぜ、コスモが知りもしない誰かに自分を認めてもらいたいのかその理由は分からない。

 その手段が俺を殺すという物騒なことだということも、分からない。

 しかし、俺には誰かに認めてもらいたいと願うコスモ自身が、自分のことを認めていないと思えてしまった。

 

「ボク、は……」

 

 我に返ったコスモが、構えかけた腕を下ろす。

 困惑するようにさせた奴が、何かを俺に口にしようとしたその時、突然コスモの身体に青い電撃が走る。

 

「が、あ、ああ……!?」

「どうした!?」

 

 電撃を受け、苦しみだすコスモ。

 その尋常じゃない叫び声に呼応するように、アーマーが禍々しいオーラを放ち始める。

 

——ご苦労、コスモ

「ぁ、ぁああッ!?」

 

 バックルに罅が入る。

 表面だけではない、深部に刻みつけるかのように見えるソレは、取り返しがつくようなものには見えない。

 

「い、嫌……嫌だ。このままじゃ、レオが……」

——私のカツミのために、よくここまで働いてくれた。

「そ、そんな……や、やめて、ください……るい……」

——潔く、散るがいい

 

 震えながら動いた手がバックルを押し込み、コスモの意思を無視した必殺技を起動させる。

 ———ッ、なにが起こっているのか分からないが、止めないとまずい!!

 

WILD(ワイルド)3(スリー)!!』

 

DEADLY(デッドリィ) MIX(ミックス)!!』

YELLOW(イエロー)! BLACK(ブラック)!  DUAL(デュアル)POWER(パワー)

 

 コスモが跳躍し、アーマーを崩壊させながらの飛び蹴りを放つ。

 俺はそれに合わせ重力を司る黒いオーラと電撃を纏いながら、回転蹴りで迎え撃つ。

 

 

ジ ョ ー カ ー

J  O  K  E  R

エ ク ス キ ュ ー シ ョ ン

E  X  E  C  U  T  I  O N

 

あ、あああ!

 

  M I X  

     D U A L

          B R E A K

 デ ュ ア ル ブ レ イ ク

 

「ッ、オオオ!!」

 

 互いの必殺の一撃がぶつかり合い、黒い火花が空間を満たす。

 

「フンッ!!」

 

 しかしそれでも一歩も引かず、回し蹴りを振り切った俺は強制的にコスモの態勢を崩すと同時に、彼女の腰のベルトを掴み———力任せに引きはがす。

 

「ぬぐぐ、このぉ!! オラァ!!」

 

 ベルトが無理やり引きはがされると同時に変身が解け、地面へと落下するコスモを受け止めた俺は、まず生きているかどうか確認してからその場に寝かす。

 

「……生きている、か」

 

 頭からすっぽりとローブで覆って顔も判別できていないが、とりあえずは息があるようだ。

 この場に置いていくわけにはいかないし、このまま……。

 

『ガウ!!』

「わ!?」

 

 突然、コスモから剥ぎ取ったバックルが動き出し、獅子の姿となって気絶しているコスモへと駆け寄る。

 そ、そういえばシロと同じタイプのバックルだったな、と思っていると、ふと青い獅子の目が光ったかと思えば、コスモの眠っている空間にワームホールを作り出し、そのまま彼女をどこかへ転移させてしまった。

 

「……いや、これは仕方がないか」

 

 現状で、彼女に構っている場合ではない。

 まずはレッド達の援護に出て、地球の怪人たちを。

 

「はぁい、カツミ君♪」

「ッ!?」

 

 声に振り向く前に、背中に痛みが走る。

 背中の装甲の隙間から何かを注入され視界に眩暈を生じさせながら地面に膝を突く。

 

「コスモとの戦いで結構消耗しちゃったみたいね。それとも油断しちゃった?」

「ヒラルダ……!!」

 

 何もない空間から姿を現した桃色の仮面の戦士。

 一瞬誰か理解できなかったが、その声ですぐに分かった。

 ヒラルダは、右手から滴る毒の爪に手を添えながら、動けない俺を見下ろす。

 

「どうせ、毒はすぐにバックルが解毒しちゃうだろうけど、私の仕事は一応完了ねっ!」

「良くやった。ヒラルダ」

 

 ヒラルダの前に転送されてやってきたのは、どこかくすんだ金色のスーツを身に纏った男、先ほどモニターに映っていた侵略者、ガウス。

 その背後には、さらに五体(・・)

 外套を被った黒づくめが控えており、その三体にガウスは命令を下す。

 

「では、足止めをしろ」

『アァァス』

「……いや、お前は私の護衛だ」

 

 外套を取り払った三体の人影。

 全身を溶岩のような岩の身体で構成された怪人。

 嵐のように渦巻いた四肢を持つ怪人。

 両腕、頭にビーム砲のようなものを取り付けた怪人。

 そのうちの二体が、今戦っているジャスティスクルセイダーへと向かっていく。

 

『レーザー怪人!? ……惑星怪人に空気怪人だと!? そんなもののクローンまで作り出していたのか!!』

「ようやく通信が回復したようだな。ゴールディ。ここは久しぶり、というべきかな?」

 

 いつの間にか途切れていた通信が回復し、レイマの声がマスク内に響く。

 その声をガウスも聞こえているようだ。

 

『サジタリウス、そんな姿に……!!』

「君のスーツ、実にこの私に馴染むよ」

『……ッ、この生産力皆無のパクリ星人がァ……!! 盗人がいけしゃあしゃあと!! サジタリウスに何をした!!』

「時間稼ぎに付き合うつもりはない。大方、白騎士……いや、ホムラ・カツミの回復の時間を稼ごうとしているのだろう? それくらいは分かるさ」

 

 ほむら、かつみ? 俺のことを言っているのか?

 聞き覚えのない名前、だが、どういうわけかその名前が俺の中でしっくりきてしまう。

 ……まだ、身体を動かせない。

 だんだんと身体のしびれが抜けていく感じはするが、今戦ったら間違いなく俺は負ける。

 

「さて、ここからが本当の目的だ。ヒラルダ、報酬だ。面白いものを見せてやろう」

「じゃあ、見せてもらおうかしら?」

 

 軽くその場を離れたヒラルダが、瓦礫に腰を下ろす。

 

「有象無象の地球人も見ているな。ああ、まさにこれは絶好のタイミングといえるだろう」

 

 なにをするつもりだ……?

 膝を突く俺に、近づこうともしないガウスの隣に———先ほどまでレッドと戦っていた俺の姿になった怪人が現れる。

 

「今日ここで、私は死ぬだろう」

「な、に?」

「私は私の科学に限界を感じていた。ああ、ゴールディの言う通り、私は贋作を作るのが得意な卑怯者だ」

 

 突然、何を……?

 

「だからこそ、私は自分の死に意味を求めた。これまで君達に無意味に滅ぼされてきた有象無象の侵略者とは違う……意味のある死を。そのための君だ」

 

 意味の分からないことを口にするガウス。

 ヒラルダが、自身の頭に人差し指を向けくるくると回している素振りを見せて笑っているあたり、味方の彼女からしても正気の沙汰ではないようだ。

 

「このような機会を与えていただき、感謝しかない。この身命を賭け、これから成し遂げる所業はきっと貴女様の御心に残ることでしょう。全く以て、この身に余る光栄だ———ルイン様」

「……は? ルイン?」

 

 どうして、ここで彼女の名前が出てくる?

 疑問にこそは思っていた、頭の中で聞こえてくる謎の声。

 それがどうして、ガウスの口から……。

 鈍器で頭を殴られたような衝撃に、思考を停止しかけながらもかろうじて、ガウスに声を投げかける。

 

「俺に、なにをさせるつもりだ?」

「君を目覚めさせるだけだよ。———やれ」

 

 不定形の青い煙の中の目が俺を睨みつける。

 光を帯びたそれが、幾度も点滅すると同時に———先ほど、レッドの記憶を読み取った時とは異なる、異変が生じる。

 

『ガ、ァ、アア!?』

「深層の記憶を読み取れ、幽霊怪人。その人間の奥底に眠る闇を、心の傷を開け」

 

 二つに分裂した幽霊怪人と呼ばれたそれが、地面に落ちる。

 どちゃり、と地面に落ち俺の仮面になにか水のようなものを飛ばす。

 

『ッ、カツキ君!! 見てはいけない!! 今すぐ、目を閉じろ!!』

 

 耳元で聞こえるレイマの声がどこか遠いように感じる。

 顔に触れ、手に触れた液体を見て、声を震わせる。

 

「血……?」

 

 右目の複眼にこびりついた赤い血。

 駄目だ。

 これ以上、見てはいけない。

 思い出しちゃいけない。

 見るな。

 見たら、戻れなくなる。

 俺が、俺でいられなくなる。

 

「がっ、はっ、はぁ……」

 

 呼吸ができない。

 息を吐き出すばかりで吸うことができずに地面に倒れ伏し、変身が解ける。

 アカネ達の俺を呼ぶ声と、この空間に閉じ込められた一般人の悲鳴が聞こえる中、地面に這いつくばった俺は……あの時の状況(・・・・・・)と同じまま、目の前に堕ちた———二人の生きた人間を視界にいれてしまった。

 血に塗れ、憎悪の瞳を向ける、父さんと、母さんの顔を。

 

 


 

 カツミ君の姿に化けた怪人。

 あれが彼から聞いた幽霊怪人というものなのだろう。

 対象の死別した者に化け、その人物本人そのものになりきり怨嗟の声を聞かせる悪辣極まりない怪人。

 彼は、簡単に倒したとこともなげに言っていたけど……とてもそうは思えなかった。

 どれだけ切り裂いても、倒せない。

 感覚的に、命そのものが別の場所にあるような感覚を抱きながら、目的を怪人の討伐から足止めへと変えていると、また新たな怪人が現れる。

 

「貴様の相手はこの俺だ……!」

 

 新たに現れた怪人は、私にとってはある意味因縁の深い怪人だった。

 空気怪人———かつて、地球のオゾン層を破壊しようとした脅威の存在であり、一時はジャスティスクルセイダーを追い詰めた“幹部怪人”。

 幸い、もう一体現れたレーザー怪人は、葵の戦闘スタイルとは相性が良く、まだこちらが劣勢に追い込まれたわけではないが……この大気怪人は、好きに暴れさせると周囲に閉じ込められた人々の身に危険があるため、集中して相手をしなければならなかった。

 

「俺はお前達に倒されたらしいが!! 奇跡は二度も起きはしないぞ赤いの!」

「私達のこれまでは、奇跡の一言で片づけられるほど温くはない!!」

 

 空気怪人が繰り出す空気を用いた攻撃を、剣で断ち切り無効化させる。

 もうこいつの弱点は分かっている。

 

「空気を操るなら、真空を作り出せば防御できないでしょ?」

「ッ!?」

 

 剣を鞘に納め、軽く身をかがめる。

 

「——覚悟」

「戯言を!!」

 

 0から100へ。

 黒騎士君のそれを模倣し、私独自の“技”として収めた技法を最大限に発揮させる。

 

「———」

 

 音もなく地を踏み込み、剣を抜き放つ。

 刹那すらも超える一閃。

 

「……」

 

 空気怪人の背後に着地し、塵一つついていない剣を払い鞘に納める。

 ようやく怪人が私の位置に気付くが……既にこの戦いは終わっていた。

 

「ハッ、どこを斬って———」

「いいえ、もう終わりだよ」

「な……は?」

 

 空気怪人の身体が頭から斜めにずれる。

 斬撃は空気を介在する余地すらも与えず、大気怪人を頭から真っ二つにし、確実に大気怪人の命すらも切り裂く。

 

「ば、化物……」

 

 真空が空気を引き込み、内側から大気怪人の身体が爆散する。

 完全に消滅したことを見届けた私は軽く呼吸を吐き出し、再び気を引き締める。

 ……きららと葵の援護に向かわなくちゃな。

 

『ジャスティスクルセイダー!! 早くカツミ君の援護に向かえぇ!!』

「ッ」

 

 かつてないほどに感情を乱し、声を荒らげる司令の声を耳にし、すぐに行き先をカツミ君へと向ける。

 カツミ君に危機が迫っている……!

 司令の焦燥の意味を即座に理解した私は、その場を跳躍し彼の元に向かう。

 

「白騎士君!!」

 

 変身が解けている!?

 地面に倒れもがき苦しんでいる彼にすぐさま駆け寄ろうとすると、それを邪魔するようにサソリの尾に似た機械的な鞭が行く手を遮る。

 抜刀と共に斬撃を飛ばすも、禍々しいピンク色の戦士が手に持った銃で弾き飛ばす。

 

「そこをどけ!!」

「あら、怖い」

 

 問答無用で剣を振るってみせるがピンク色の戦士、ヒラルダはそれを受け止める。

 ……強い。

 葵の言った通り、序列通りの強さじゃないね、こいつ……!!

 

「でもこれからがいいところなのよ? 邪魔しないでくれない?」

「———」

 

 言葉を交わす暇すらも惜しみ、最優先でヒラルダを斬り捨てようとする。

 しかしその時、彼から離れた場所にいる汚らしい黄金のスーツを纏った侵略者、ガウスが腕を大きく広げ声を上げる。

 

『さあ、注目せよ! お前達がヒーローと呼んだ男の正体を!! 大衆が望んだその秘密を!!』

 

 声と共に空間そのものに倒れ伏すカツミ君が映し出された映像が投影される。

 

『ご存知だろうか!! 10年前にこの日本を騒がせた“奇跡の子”穂村克己を!! たった一人生き残ってしまった少年を!!』

 

「奇跡の、子?」

 

 彼の正体を明かすつもり!?

 倒れ伏した彼の前にいる血にまみれた二人の人間の姿に気づく。

 地面に血だまりを広げ、ひしゃげた腕と足を見せた人間の姿にこの場にいる一般人を連想するが、すぐに僅かに残ったその気配が幽霊怪人のものだと察する。

 

「あれは……」

彼の過去(・・・・)よ」

 

 つまりあの姿は、カツミ君が死別した誰かだってこと?

 でも、私達が知る限りあんな人達見たことも……いや、死別した人間ってことはもしかして彼の両親か!?

 彼の過去のことは聞いていない。

 彼と仲を深める上で、必要がなかったし知らなくてもいいと思っていた。

 

『どうして、お前だけが、生きている!!』

『あんたが死ねば良かったのに!!』

 

「……え?」

 

 実の親から彼へと吐きつけられたのは憎悪の言葉であった。

 

「う、嘘だ……お前は怪人だ……俺の、両親はそんな……」

 

 カツミ君の悲痛な呟きに、彼の両親は血で汚れた顔をさらに歪める。

 

『貴方が一番よく分かっているでしょう?』

『俺達はずっと、お前の死を願っていた』

『思い出しなさい』

『思い出せ』

 

「黙れ、お前達は偽物だ!! 俺の心を乱すな……!!」

 

『貴方はハンバーグが好きだったわね』

『カレーも』

『お子様ランチも』

『優しい子だった』

『子供だった貴方はよく笑う子で怪我が絶えなかったわね』

『大事な一人息子』

 

 ……ッ!

 それは……それは、彼が好きな食べ物。

 なんの他愛のない食べ物の好みのはずだったそれが、今ではただただ痛々しく、悲しい事実だったことを今になった現実として叩きつけられる。

 言葉を失う彼に、穏やかな表情から一転して歪んだ笑みを浮かべた肉塊はさらに声を荒らげる。

 

『でも、あの時からは違った!!』

『私達は、貴方が助かる直前まで生きていたのに!!』

『奇跡の子ともてはやされて楽しかったか!?』

『お前が代わりに死んでしまえばよかったのに!!』

『この悪魔が!!』

『私達はずっと痛かったのに!!』

『目の前でそれを見て楽しかったか!?』

『死にゆくさまを見て、なにもしなかった!!』

 

 怪人の言葉ではない。

 これは、彼が実際に言われた言葉も混じっている。

 

「違う、俺は……」

 

『また泣くのか!』

『泣いて、私達が楽になると!?』

「俺は……」

 

『お前なんて息子じゃない』

『産まなければよかった』

 

 その言葉が決定的だったのか、彼の身体から力が抜ける。

 その場にいた誰もがその衝撃的な事実に目を背け、口を閉ざす中———不意に、彼が何事もなかったかのように立ち上がろうとする。

 

「来た。彼が、帰ってきた。あぁ、ようやく見れるのね」

 

 ヒラルダの恍惚に満ちた声。

 その言葉の意味はすぐに理解できた。

 だけど、喜ぶ気になんてなれなかった。

 

「はぁぁ」

 

 頭をガンガンッと雑に叩きながら立ち上がった彼は、特有の目つきの悪い目を目の前の両親の姿をした怪人へと向ける。

 

「……相ッ変わらず。胸糞悪い、怪人だな。なんでまた生きてんだ?」

『カツミ、貴方は———』

「うるせぇ、さっさとくたばれ亡霊が」

 

 なんの躊躇もなく、幽霊怪人を踏みつけ止めを刺す。

 踏みつけられた人間の姿をした怪人が煙へと戻り、断末魔を挙げて宙へと霧散していく。

 豹変。

 穏やかで、優しい性格をしているカツキ君とは正反対の性格と剣呑な雰囲気を纏った彼を私達は知っていた。

 

「あぁ、クソ。頭が痛ぇ。なんなんだここは? 変身が解けてる?」

 

 彼は頭を押さえながら周囲を見回す。

 その瞳は、穏やかなカツキ君の目ではなく、私達が良く知る特有の目つきの悪さを内包していた。

 

「マグマ野郎にナメクジ野郎も前に倒したばっかなのに……てか、戦隊? は? 訳が分からん」

 

 髪をかき上げた彼の腰のベルトからシロが弾かれる。

 それに気づかず、ゆっくりと近くの怪人だけ(・・)を見回した彼は、大きな溜息をつく。

 

「アルファ!! どこにいる!!」

 

 その声に応えるものは誰もいない。

 私達以外に誰も知ることのない名に、この場にいる人々がざわつきを見せる。

 いや、そもそも彼の様子そのものがおかしい。

 

「……。いつもどこかしらにいるアルファもいない……? 本当にどうなってんだ?」

 

 まさか、ショックで記憶が混濁している……?

 それじゃあ今の彼はどこまでの記憶を持っているの……!?

 

「目覚めたか、黒騎士よ」

「……誰だ、あんた」

「おや、記憶が混濁しているようだね」

 

 そんな彼にガウスが話しかける。

 カツミ君の反応に興味深そうなそぶりを見せたガウスは、大仰に手を翻す。

 

「私は君の敵だよ。さあ、黒騎士、今すぐ——」

「ああ、もういいわ」

「……なに?」

「襲い掛かってくんなら、誰が来ても同じだ」

 

 どこか辟易とした様子で彼は、左腕を掲げる。

 自身に引き寄せた左手に巻き付けられたXプロトチェンジャーを構え、側面のボタンを躊躇なく押す。

 

ARE YOU READY(準備はいい?)? 』

 

「うん?」

 

 プロトスーツとは異なる音声に首を傾げる。

 不思議そうにぐるりと真新しくなったチェンジャーを見た彼は、特に何も考えずに頷く。

 

「……まあ、いいか」

 

NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

 

 瞬間、彼を中心にエネルギーフィールドが広がる。

 力強く歓喜に満ちたプロトのその声で、戦いにおいて最も強く、慈悲のなかった彼が復活したことを確信する。

 しかしある意味、それはさらなる混沌を呼ぶことを予感せずにはいられなかった。




(一番やさぐれていた時期の)主人公復活!!
尚、主人公の秘密が明かされた事により、現在多方面が阿鼻叫喚の模様。


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触れてはならない、記憶 後編

お待たせしました。
アカネ視点となります。


 あらゆる怪人をその拳で打ち倒してきた驚異の存在。

 彼が今、その記憶と共に目覚めようとしていた。

 

TYPE 1! ACCELERATION!!(行こう! 至高のその先に!!)

 

 彼の復活を祝うように躍動し、重なるように鳴り響く音。

 弾み、歓喜に満ちた歌声を奏でる少女の声。

 暗闇に包まれた周囲に一際、目立つ星空を彩るエネルギーフィールドを展開させた彼の体に黒を基調としたアンダースーツが装着される。

 頭部を黒い仮面が覆い、周囲に粒子化されたプロトゼロを思わせるアーマーが出現。

 そのさらに上に銀色のアーマーが二重に展開されたことで、彼の“変身”が行われる。

 

EVOLUTION!!(進化!!)

STRONG!!(最強!!)

INVINCIBLE(無敵!!)!!』

SUPER(最高!!)!!』

 

 重厚な金属音の後にアーマーが装着、組み込まれる。

 腕、脚部、背中、首回りに被さる銀色の襟型の機構が装着。

 ゼロから1へ。

 無から有へ。

 始まりにして、至高の姿へ変えていく彼に怪人は怯え、その場にいる一般人さえも魅入られてしまっている。

 

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

 

 漆黒の複眼が深紅に染まり、胸部アーマーに“1”という数字が刻まれたことで光が弾け変身を完了させる。

 現れたのは漆黒と銀の戦士。

 かつて、地球に生まれ落ちた怪人のその一切合切を拳で打ち破った驚異の戦士、黒騎士は闇夜の中で怪しく輝く赤い複眼をゆらりと動かしながら、自身の両手に視線を落とす。

 

「……なんかいつもと違うな」

『私は私だよ、カツミ』

「ん? 今、なにか声が……」

『空耳ダヨ』

「……なんだ空耳か」

 

 この天然さはカツミ君だ……!

 自身のアーマーの変化を気にしながらも、両腕を軽く伸ばした彼はつま先で地面を叩き——一瞬にしてその姿を消す。

 

「っ!」

 

 見えるのは闇夜を切り裂くように空間に残される赤い光の残滓。

 その先へ、すぐに視線を追うと———金色のスーツごと腹部を粉砕され、その上半身を宙に舞わせているガウスの姿が視界に映り込む。

 

「———え?」

 

 自分が破壊されたことにすら気づかず、機械の部品をまき散らした宙を舞うガウス。

 彼が先ほどいた場所には、一瞬にして左腕をもがれたもう一体の地球の怪人“惑星怪人アース”がおり、その背後にアースの左腕を無造作に捨てたカツミ君の姿を見つける。

 汚れ一つすらついていない黒いスーツ。

 その首元に装着された銀色の機構からは、まるでマフラーを思わせるような深紅のエネルギーの帯が伸びていく。

 

『ふ、ふる、フルスペックのプロトワン!! あぁ、まさしくあれこそが黒騎士の究極の姿!! 極めた物理はあらゆる超常現象を破壊する最強で最高の力!! ヴェハハハァ!! 深紅のマフラーは貴様ら侵略者の命の終わりを告げる導火線だァ———!! ひゃっはぁー!!』

『主任気が散るから黙っててください!!』

『レイマ、静かにしないとお前を食うぞ』

『はい、ごめんなさい……』

 

 私もうるさいと言おうとしたが、大森さんとグラトに怒られ一瞬で静かになる。

 しかし、社長のいう通りとんでもない性能だ。

 スーツを着た私でさえ、動きを見ることができなかった……。

 

「なんか、いつもより思いっきり動けるな」

 

『エッ、いつもより?』

 

 耳元で今の光景を見ている社長の唖然とした声が聞こえる。

 口には出さなかったけれど、プロトゼロの時点で彼の能力はスーツの性能を凌駕していたってこと……?

 

『ア、アァァス!?』

 

 大地からエネルギーを吸い取り、残った腕を赤熱化させたアースが背中を見せているカツミ君に襲い掛かろうとする。

 その様子を見た私は、我に返りながら声を上げる。

 

「っ、危ない!! 黒騎士君!!」

「……?」

 

 背中を向けたまま裏拳を突き出し、アースの腹部の一部分をさらに粉砕させた彼が、驚いた様子で私を見る。

 

「お前、敵じゃないのか?」

「やっぱり、記憶が……」

「は? どういう……。……!」

 

 顔を上げた彼に襲い掛かる影。 

 夥しい電撃を纏うナメクジ怪人、ビィム、グリッターが同時に彼に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「ハッ、いくつか見ねぇ顔もいるが、んなことどうでもいい!!」

「ビィィィッムッ!!」

「ジィィィ!! ギィィ!!」

 

 ビィム怪人の両腕と頭から光線。

 ナメクジ怪人から落雷と見間違うほどの電撃が放たれる。

 ……ッ、あの威力はまずい!!

 カツミ君の姿に魅入られているヒラルダを無視し、まずは一般人に向けられる被害を防ぐ!!

 

「ブルー! イエロー!! 一般人に被害がいかないようにして!!」

「あいよ!」

「オーケー」

 

 攻撃を叩き落すべくそれぞれが武器を構えようとすると再びカツミ君のスーツの首の部分から赤いエネルギーが放出される。

 風になびくマントのようにエネルギーを漂わせた彼がその拳を構え、加速と共に打ち放つ。

 彼へと向かう電撃とレーザーが、何もない空間で宙で霧散し、弾き飛ばされる。

 目視すら不可能なほどの“打撃”。

 

「全部、かき消した……!?」

「これが、プロトワンの力なんか……?」

 

 あれだけの広範囲に渡る攻撃すらも、消し去ってしまうなんて……。

 

「いまいち状況が分かってねぇが、とりあえず倒していいやつは分かった」

 

 腕をぐるんっ、と一回転させたカツミ君は、そのまま地面に着地しようとするナメクジ怪人を指さす。

 

「まずはテメェからだ。ナメクジ野郎」

「!?」

「お前はしつこいし、ナメクジだから念入りに始末する」

 

 ものすごい理不尽な理由だ……!?

 でもそういうところも昔の彼っぽいと納得させられながらも、彼の姿が掻き消え———先ほどからなぜか棒立ちだったグリッターの胴を殴りつけ、貫通させる。

 

「ガっ、ぁ!?」

 

 ナメクジからじゃないの!?

 まさかのグリッター狙いに驚いていると、血を吐き出したグリッターの虚ろな目に光が宿る。

 

「ひっ、あ、な、なんで俺は、ここに!? ひっ、黒騎士!?」

「……こいつも再生能力持ちか?」

 

 記憶を持っている……?

 たしかグリッターって最初にカツミ君に仲間だと騙そうとして近づいて瀕死になるくらいまでボコボコにされて、逃げ帰ったらしいけど……まさかその時の恐怖が細胞レベルにまで刻まれていたってことだろうか?

 腹部を貫かれながらもみっともなく泣き喚くグリッターに首を傾げるカツミ君だが、すかさず隙をついて襲ってくるナメクジ怪人とビィムに振り向く。

 

「単純な奴らだな」

 

 グリッターから無理やり腕を引き抜きぬいた彼が、超高速で拳を放ちレーザー怪人の頭部をレーザーもろとも一撃で粉砕。

 同時に、ナメクジ怪人の首をつかみ取りながら、さらにその拳を一度振るい、六度の炸裂音を響かせる。

 

「ジッ……ギィ……!!」

「どんだけ電撃を貯めていようが、なくなればもう治せねぇよなぁ!!」

「ぴぎぃぃぃ!?」

 

 首をつかむ手を放した次の瞬間、彼の纏う赤いエネルギーがさらに放出され、夥しい打撃音が周囲に響き渡る。

 

「ジィィィ!? ギィィィィ!?」

 

 斜めに吹き飛ぶナメクジ怪人に宙に刻まれた赤い軌跡が迫ると同時に、逆方向へと吹き飛ぶ。

 音が遅れて届いてくるほどの高速の連続打撃。

 そのあまりの脚力で空を蹴り、ジグザグに空へと上昇しながらナメクジ怪人を電撃を吸収することのできない空へと突き進む。

 

「再生能力を力技で上回るつもり……!?」

 

 あの一瞬でいったいいくつの攻撃を行っているの……!?

 今の私たちでは彼の動きさえも目で追うことは不可能だ……!

 

「う、うわあああああ!!」

「ッ、グリッター! 逃げるつもり!!」

 

 成すすべなく、電撃を弱らせながら黒ずんでいくナメクジ怪人を目にしたグリッターは悲鳴を上げてその場から逃げ出す。

 咄嗟に追おうとするも、奴は自身の周囲の光を吸い取り、暗闇に逃げ込んでしまう……!!

 しまった、逃げられた……!!

 でも、遠くにはいってないはずだから、すぐに追えば……!!

 

「ジッ、ギィ……!?」

 

「ッ」

 

 私の前に落下してくる黒ずんだなにか。

 焦げたような見た目となり果てたナメクジ怪人だったそれは、再生に使える電撃をすべて使い切ってしまったのか、さらさらと光の粒子となって消えて行ってしまった。

 ナメクジ怪人が、こんなあっさりと……。

 

「おい、もう一体の怪人は?」

 

 いつの間にか私のすぐ近くに降り立ったカツミ君が、そう聞いてくる。

 目線だけをグリッターが消えた方向へ向けると、彼はため息とともに、その姿を消す。

 

「……ふぅっ」

 

 数秒ほどで、再び彼がその場に現れるが———その手には、先ほど逃げたグリッターの頭部が握られていた。

 怪人態の姿とはいえど、見た目は戦隊ヒーローに似たグリッターの頭に、私はちょっとびっくりしながら素直に賞賛の感情を抱く。

 あの一瞬で、グリッターを狩ってくるなんて……やっぱり、私はまだまだだな……。

 

「さすがだね」

「お前ら……そこの青いのと黄色いのが敵じゃねぇことは。なんとなく分かったが……いや、まずはあのマグマ野郎を、始末しねぇと。……!」

 

 徐々に光となって消滅していくそれを捨てながら彼は、背後に腕を回し何かをつかみ取る。

 サソリの尾のようなそれを平然と握りつぶし、敵意と共に後ろへ振り返った彼の前には、毒の刃を刺そうとしたヒラルダが、透明の状態から元へと戻っていた。

 不意打ちすら意味をなさない黒騎士の戦闘力に、ヒラルダは困惑とも喜びとも思わせる声を漏らす。

 

「あ、あはは……マジでやばいね。黒騎士……想定以上どころじゃないわー」

「毒食らったらお腹壊すだろ」

 

 そういう問題!?

 

「まっず……!?」

 

 待って、彼がヒラルダを始末したら、身体を乗っ取られてる人が危ない!!

 彼が攻撃すると直感的にそう確信した私は、彼が動き出す前に声を張り上げる。

 

「待って黒騎士君!! その子は体を乗っ取られた人間なの!!」

「はぁ?」

 

 ヒラルダの鼻先で拳を止めた彼が、怪訝な声を漏らす。

 それを好機と見たのか、あらかじめ握りしめていた桃色の銃から煙を放ち、ヒラルダはその場からの逃走を図る。

 

「それで逃げたつもりかよ……」

 

 その場から完全に消え失せたヒラルダから視線を外した彼が、遥か遠方にある高層ビルの上をにらみつける。

 

「まず、その泣き声ばかりでうるせぇベルトあたりをはぎとってみるか」

 

 逃げた位置を把握しているのかビルへと向かっていこうとする彼。

 完全にヒラルダの逃走先を把握し、排除しに向かおうとする。

 

『アァァァス!!』

 

 大地が怒りの声を上げるように震える。

 黒騎士のとどめを免れ、その体を再生させた惑星怪人アースの暴走。

 周囲一帯の温度が急激に上昇し、このままではここら一帯にいる一般人の命に関わる……!!

 

「とりゃっ!!」

 

 ほぼ反射的に剣を抜き放ち斬撃を飛ばす。

 私の挙動と同時にブルーとイエローもエネルギー弾と斧の投擲を行う。

 

「アァァス」

「おい、いっちょ前によけようとすんじゃねぇよ」

 

 地面に潜り、攻撃を回避しようとするアース。

 しかし、アースの周囲に赤い軌跡がよぎった次の瞬間には背後に高速移動したカツミ君の放った蹴り(・・)が背中へと直撃し、溶岩の破片を散らしながら私たちの放った攻撃に向かうように吹き飛ばされる。

 斬撃、エネルギー弾、電撃を纏った斧。

 そのすべての直撃を受けたアースが爆発に包み込まれる。

 

『ア、ァ、ア!! ワ、我は、惑星怪人……アァァス……』

 

 すべての攻撃の直撃を受けたアースは、肩に深々と斧を食い込ませながらも地面からエネルギーを吸収し立ち上がろうとする。

 やっぱり、大地にいる限り奴は無限に再生できる……!!

 近くに、ビークルもあることだし以前と同じようにこのまま奴をもう一度海まで運んで、海底に突き落とすしか。

 

「おい、こいつ借りるぞ」

 

 ッ、カツミ君がイエローの斧を!?

 アースに突き刺さった斧を力技で引き抜いた彼が、フルスイングでアースの体を下から突き上げ———地面から浮かす。

 

「テメェは、宣言するまでもなく引導を渡してやるって決めてたんだよ」

 

 赤いエネルギーを纏った斧を片手で軽々と振り回す。

 彼の姿が瞬時にブレ、斧を振り切った態勢に移った瞬間には、アースの両腕と両足が両断され、無防備な胴体が曝け出される。

 

「オラァ!!」

 

 目にも止まらない連撃がアースの体を穿ち、その体を削り取る。

 地に接触することもできずにぼろぼろにされていったアースは、その半壊した顔面をゆがめながら声を上げる。

 

『わだじは惑星怪人アース!! お前だぢを絶滅させる……地球の、代弁者ァ……!!』

「ふざけた遺言だな。さっさとくたばれよ」

 

 斧を手放した彼がその拳を握りしめる。

 プロトワンのシステムにより放出された赤い余剰エネルギーが拳へと集約し、その色を深紅に染め上げる。

 拳という暴力を極めに極めた姿。

 黒騎士という常識外の戦士が到達した強さの極致。

 未だに、底すらも見せない彼の一撃がアースの胴体のど真ん中を穿ち、その(コア)ごと衝撃を貫通させた。

 

『ガ、ァァァァァァ!?』

 

 断末魔を上げ、爆散するアース。

 しかし、アースを貫通しても止まらない衝撃は赤い本流となって空へと突き進み、頭上を覆うドーム状の暗闇を破壊してしまった。

 ……え?

 

「えっ、なにあれビーム……?」

「あれ本人的には力籠めて殴っただけなんやろうなぁ」

「拳ビーム、ついに理系の極致に至ったんだね……」

 

 葵が意味の分からないことを言っているのは今更なので無視。

 自分の放った一撃に、自分で驚いていた黒騎士君は、ふと、我に返るとそのまま私たちのいる方向とは別の方へと歩く。

 

「あと、息があるのはお前だけだぞ」

「すさまじ、い、力、だ。黒、騎士」

 

 半壊した金色の鎧を纏った侵略者、ガウス。

 上半身と下半身を分断されてもなお、いまだに生きていた彼は、断面からスパークと部品をこぼしながら、どこか悟ったような口調でカツミ君に口を開いた。

 

「とて、つもな、い力だ。やはり、わたし、は、ゴールディには勝てな、かったか」

「……」

「しか、し、満足、だ。私は、あの方の、命令通りに……君を、目覚め、させたの、だから」

 

 ガウスの仮面の複眼から光を消し、こと切れる。

 それと同時にガウスのスーツの変身が解け、彼の左腕に時計型のデバイスに粒子が吸収されていく。

 

『卑怯な手に染めることしか手がなかった科学者、か。所業は許せんが、私は少し奴を誤解していたのかもしれないな』

 

 こと切れたガウスを目にした社長がそう呟く。

 すると、それを見届けたカツミ君が大きなため息をつく。

 

「はぁ、なにがなんだか……とりあえず、帰ろ」

 

 ッ!? この流れで普通に帰るつもりなの!?

 アルファのことを覚えていて、私たちのことを覚えていないってことは、彼が持っている記憶は私たちが活動する前の記憶の可能性が高い。

 最初に遭遇した時のカツミ君の気難しさは尋常じゃないので、ここで逃したらもっと(・・・)話がこじれる!!

 多少、彼の気分を損ねてでも話をする必要があると判断した私たちは、彼が移動する前に声をかけようとする。

 

「く、黒騎士く———」

「あ、え、なに!? ええええ!?」

 

 彼の頭上に空いたワームホール。

 そこから、悲鳴を上げた誰かがカツミ君へと落ちてくる。

 声に顔を上げ、首を傾げた彼が落ちてきた誰か———黒髪の少女、アルファを受け止める。

 

「なんだ、アルファか」

「あ、あああ、あの、部屋で君の帰りを待ってて大人しくしてたら、いきなり足元に穴が開いて、それで……」

 

 は? お姫様抱っこ?

 ……じゃなくて、あたふたとあざとさ全開な様子で言い訳をするアルファにカツミ君は首を傾げる。

 

「はぁ? んなこと言ってねぇし、お前言っても聞かねぇだろ」

「……カツミ?」

「……いや、なんかスーツの見た目変わってるから疑問に思うのは分かるが、俺だっ———ぬぐぉ!?」

「カツミぃぃぃ!!! おかえりぃ!! ずっと、ずっと待ってたよ!!」

 

 抱きついた……!?

 周囲の注目にかまわず、アルファがカツミ君の首に抱き着く。

 それに合わせて、ものすっごい勢いで写真が撮られる音が響いてくる。

 

『なんだあの美少女……!?』

『か、かわいい……』

『いったい、どんな関係なのかしら……?』

 

 どんどん混乱が広がっていっている……!?

 そんな周囲の困惑を知ってか知らずか、ひっつくアルファに困惑した声を漏らした彼が、声を荒らげる。

 

「お前まで意味わかんねぇことになってるし、まずはここを離れるぞ!!」

「うん!!」

「……なんか、いつもと比べて無邪気じゃね? 熱でもあるのか?」

 

 かつてないほどに上機嫌なアルファを持ち上げたまま彼が私たちへと振り返る。

 やや困惑しながら、言いよどむように首をひねった彼は、おもむろに片手を掲げる。

 

「あー、じゃあな、ジャスティスクルセイダー」

「え?」

「……ん? なんで俺は、お前たちを……っ」

「黒騎士くん!! あ、待って——」

 

 痛みを堪えるように頭を手で押さえた彼が、アルファを抱えたままその場を離脱する。

 抱えているアルファにケガをさせないように、建物の壁を蹴り、完全にプロトワンの性能を引き出しながら、彼は闇夜へとその姿を消していく。

 

「……司令」

『恐らくは、無理に記憶を呼び起こしたせいで二つの記憶に誤差が生じているのだろう。時間か、きっかけがあれば統合されるだろうが……いや、まずは彼の居場所を把握することが先決だな』

「わかるんですか?」

『心配するな。Xプロトチェンジャーにはちゃんと追跡装置が……追跡装置が……』

「司令?」

 

 徐々に声を弱めていく司令に声をかけると、さらに弱弱しい声が返ってくる。

 

『プロトが妨害して分からなくなっちゃった……』

「このバカ司令!!」

「変態」

「駄目エイリアン」

『私だって一生懸命がんばっているのだ!! お前らはまずはシロとガウスのつけてるチェンジャーを回収して帰ってこぉーい!!』

 

 まさかプロトが追跡装置を妨害するだなんて……。

 いや、彼の戦闘力を考えれば大丈夫なのはわかってるけど……。

 

『ガウ……』

「シロ、とりあえず本部に戻るから君も一緒にいこ?」

『ガーウ……』

 

 シロがすごい弱り切っている……!?

 とぼとぼとこちらにまでやってきたシロが、普段絶対に近づいてくれない私の掌の上に乗り、こてんと倒れる。

 機能を停止したわけでもなく、ショックを受けたようにゴロゴロとうなり始めるシロに、私も共感の気持ちを抱く。

 

「まずは同じことが二度と起こらないように、事態の収拾を急がなくちゃ」

 

 地球の怪人を蘇らせようだなんて馬鹿なことを考える侵略者が出ないように、今回倒した奴らの痕跡を全て消しておこう。

 彼の……この場を離れたカツミ君のことを考えるのは……。

 ……。

 

「アルファァ……」

「レッド、それは後でゆっくり話し合おうや」

「しっかりとした場で議論しよう」

 

 どういう目的でワームホールで彼女を連れてきたかは知らない。

 けれど、彼女が一人幸せそうな顔でカツミ君と共に私たちの前から消えたことに関しては納得していない。




天のすけの気持ちを味わったナメクジ怪人でした。

物理全振りのプロトワン。
パンチの威力が強すぎてビームを出してきます(!?)



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閑話 混沌とする掲示板

掲示板回です。
あまり過激にならないように気を遣いました。


331:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの過去えげつなすぎwww

 

 

 

吐いた

 

332:ヒーローと名無しさん

 

あの事件の子だったのかよ。

この世の不幸を全て背負ったような生い立ちしてて草も生えないわ

 

333:ヒーローと名無しさん

 

もうなにも見たくねぇ

 

334:ヒーローと名無しさん

 

まさか電波ジャックして黒騎士君の正体が暴露されるなんて

ショッキングなんてもんじゃなかった。

あれ、死の間際まで実の両親に責められてたってことでいいんだよね?

 

335:ヒーローと名無しさん

 

・黒騎士君の悪の定義

・黒騎士君の好物

・オ.ムライスという謎の訂正部分

・メディアを避けてた理由

・自爆未遂時の言葉

 

全ての謎が繋がってしまった。

奈落が広がる闇しかなかった。

 

336:ヒーローと名無しさん

 

子供舌かよ草

 

とか微笑ましく思っていた当時の自分をぶん殴ってやりたい。

 

337:ヒーローと名無しさん

 

十年前の飛行機事故は今でも覚えてる。

本当に酷い事件だった。

 

338:ヒーローと名無しさん

>>334

幽霊怪人の演技じゃなければ多分そう。

 

339:ヒーローと名無しさん

 

妄言に縋りたいし、辛いし耐えられない……

リアルでこんな心境になったのは初めてかも

 

340:ヒーローと名無しさん

 

奇跡の子ってテレビで話題になってたけど、当時放映したスタッフどんな気持ちで報道してたんだこれ?

絶対まともな精神状態じゃなかっただろ。

 

341:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君の正体発覚の後に匿名で動画が投稿されてた。

当時のメディアが七歳の黒騎士くんに話を聞こうとしてる場面。

 

直視できないくらいに酷かった

 

342:ヒーローと名無しさん

 

三日間延々と実の両親に恨み言吐かれ続けて目の前で死んじゃうってどんな地獄なの……。

 

343:ヒーローと名無しさん

 

あの動画本当に怖い。

ずかずかと詰め寄る記者達に怒りがこみ上げたけど、それ以上に無表情で淡々と事実を話す黒騎士くんが怖かった。

七歳の子供のしていい目じゃない。

 

344:ヒーローと名無しさん

 

お父さんとお母さんは最後までおれに死んでほしかったみたいです

生き残ってもひとつもうれしくなんてないです

もうおれを放っておいてください

生きてて、ごめんなさい

 

当時の記者のほとんどがやばすぎる事実と、罪悪感で心を病んで辞めた模様

 

345:ヒーローと名無しさん

 

こんなん目の前で見たらSAN値直葬やわ

 

346:ヒーローと名無しさん

 

正体発覚後は、すぐに黒騎士君の身元が調べられちゃったな。

 

もっと辛い事実が明かされてしまった。

 

347:ヒーローと名無しさん

 

まだあるの?(絶望)

 

348:ヒーローと名無しさん

 

もうやめてくれよ……

 

349:ヒーローと名無しさん

 

辛い、耐えられない……

 

350:ヒーローと名無しさん

 

事故の後、親戚をたらいまわしにされ、ネグレクト同然の扱いを受けた後に、中学二年生時点で一人暮らしを強制。

遺産の管理は親戚持ちで、黒騎士君はボロアパートに住まわされて学校に通っていたとのこと。

最低限の生活はできていたけど、趣味とかなにかに費やす分はなかったらしい。

 

351:ヒーローと名無しさん

 

これ普通性格捻じ曲がるやつじゃん……。

憎しみにあふれてもおかしくない……。

 

352:ヒーローと名無しさん

 

あぁ、だから黒騎士としてあんなに活動できたんだー

だからこそのワルモノの定義なのかー

あれだけ自分の死に無頓着だったのかー

 

クソが(直球)

 

353:ヒーローと名無しさん

 

少なくともその親戚はお咎めなしになったとしても、黒騎士君の本名から身元も特定されちゃってるし、この先後ろ指をさされながら生きることになるな。

所業に同情の余地すらないわ。

 

354:ヒーローと名無しさん

 

ろくなケアもされないまま成長して、なんでこの生い立ちからワルモノの定義があんな風になるんですか?(白目)

 

355:ヒーローと名無しさん

 

捕まった後、本部に置かれていた理由がこれだったか。

お世辞にも環境のよくないボロアパートに戻すわけにはいかないし、犯罪者扱いも絶対にできないし、自本部がベストだったんだな。

 

356:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君はテレビもパソコンもやってなかった×

テレビもパソコンも買えなかった〇

 

テレビに関しては完全に過去の経験が原因すぎる……。

 

357:ヒーローと名無しさん

 

掌ひっくり返すどころか、そのまま関節決められて地面にたたきつけられたような気持ちだわ!!?

 

358:ヒーローと名無しさん

 

こりゃ名前公表できん……。

政府の人も事情を知っていたから、あの対応だったんだなー

 

359:ヒーローと名無しさん

 

改めてみると、なんでこの子ヴィラン堕ちしてないの?

プロトスーツ手に入れたら全能感のあまり、大暴れしかねない仕打ち受けてると思うんだけど

 

360:ヒーローと名無しさん

 

元から善良な子だったんでしょ

ムカつくけど、幽霊怪人が化けた両親がそう言ってた

 

361:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんを思い出せ

多分、あれはなにも起こらなかった子供時代の黒騎士くんが成長した姿だ

 

362:ヒーローと名無しさん

 

死に際に本性というか……

精神的に追い詰められて自棄になった結果、無事に生き残った子供を責めるって考えが怖い。

 

363:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くん、素直で純粋で人当たりのよさそうな性格してたもんな……。

 

364:ヒーローと名無しさん

 

白騎士君のままでいた方が幸せだったかもしれないとかキツすぎる。

こうなるんだったら、黒騎士君に戻らずに戦いとは無縁でいてほしかったな……

多分、侵略者がそれを許さないんだろうけど

 

365:ヒーローと名無しさん

 

自衛隊員と黒騎士君の会話を見返してさらに心が押しつぶれそうになったわ

 

366:ヒーローと名無しさん

 

ん? なんて言ってたっけ?

 

367:ヒーローと名無しさん

 

俺、必ずマグマ怪人、なんとかしてみますから。

貴方も家族のこと、絶対に諦めないでくださいね

 

これ当時どんな気持ちだったんだろう。

 

368:ヒーローと名無しさん

 

自分と同じような人間を増やさないためとか?

 

369:ヒーローと名無しさん

 

なんで中学生がそんな気遣いできるんだ。

もっとわがままでいてくれ(懇願)

 

370:ヒーローと名無しさん

 

よく考えなくてもやさぐれてた黒騎士君時代に戻っても、別に悪くもなんともないんだよなぁ。

 

 


 

 

 

 

877:ヒーローと名無しさん

 

鯖落ちしたなー

 

878:ヒーローと名無しさん

 

他でも黒騎士君の話題ばっかりだからしゃーない

 

879:ヒーローと名無しさん

 

暗い話題ばかりしても気が滅入るし、レッドの戦うクソ重動機について語り合おう!!

 

880:ヒーローと名無しさん

 

やっぱり病んでたレッドの話はいいよ!

それより、黒騎士君の新スーツだよ!!

 

881:ヒーローと名無しさん

 

それよりプロどらちゃんが思いっきりしゃべってたことだぞ!!

 

882:ヒーローと名無しさん

 

謎の美少女アルファとかどうなってんだ!!

 

883:ヒーローと名無しさん

 

プロトワンの性能について語りつくしたいでござるぞ!!

 

884:ヒーローと名無しさん

 

だから、ナメクジじゃなくてナマコだってことをそろそろ白黒つけてやりたい。

 

885:ヒーローと名無しさん

 

一斉に自己主張してきて草

さっきまで暗い話題ばっかりだったもんなぁ。

 

886:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの過去も衝撃的すぎて辛かったけど、それと同じくらいその後にとんでもない情報がぽんぽん出てきたからな。

 

887:ヒーローと名無しさん

 

とりあえずまずは黒騎士くんの新スーツについてだ

ごちゃまぜにするとカオスになりすぎて議論どころじゃねぇし

 

888:ヒーローと名無しさん

 

新スーツやばかったなぁ

 

889:ヒーローと名無しさん

 

やばかったな(小並感)

 

890:ヒーローと名無しさん

 

はじまりから語彙力が喪失してるやつらがいるんですが……(困惑)

 

891:ヒーローと名無しさん

 

正直、昔の黒騎士君に戻って素直に喜べなくなったけど、あの新スーツの戦いは素直にやべぇって思ったわ。

 

892:ヒーローと名無しさん

 

公式サイトでいつのまにかスペック開示されてたけど、シンプルすぎて草生えたわ

 

893:ヒーローと名無しさん

 

人類の敵を撲殺するためのスーツ

 

894:ヒーローと名無しさん

 

プロトゼロ→超高速で思い切りぶん殴るためのスーツ

プロトワン→もっと超高速で思い切りぶん殴るためのスーツ

 

895:ヒーローと名無しさん

 

プロトゼロの強化系って散々別スレで議論されてたけど

ここまでストレートで予想をぶっちぎるもんになるとは誰も思わんわ!!

 

896:ヒーローと名無しさん

 

敵になにかされる前に殴る!

何かされても殴る!!

能力使われてもねじ伏せて殴る!!

死ぬまで殴る!!

 

相手は死んだ!!

 

最もシンプルな最適解を常に導き続けるやべーい姿

 

897:ヒーローと名無しさん

 

公式サイト引用

 

プロトスーツ時点で限界を超えて引き出されたエネルギーを、余剰エネルギーとして再利用。

全身の各部に取り付けたシステム『OVER LIMIT KUROKISHI SYSTEM』略して『OLKS(オルクス)』により、さらなる加速を促す驚異のシステムである。

全身を循環する余剰エネルギーは自然とマフラーのような形となり、現れる。

 

898:ヒーローと名無しさん

 

赤いマフラーが余剰エネルギーが形になったやつなのか。

すごいわ、システムの名前はともかく

 

899:ヒーローと名無しさん

 

特殊能力すら入る必要すらない脳筋の極致すぎる。

名前は微妙だけど

 

900:ヒーローと名無しさん

 

オーバーリミットクロキシシステムってもうちょっといい名前はなかったんですか……?

 

901:ヒーローと名無しさん

 

よく考えると、プロトスーツ時点で黒騎士くん自身がスーツの性能を凌駕してたって事実も明かされて変な笑いが出た。

え、いつもより動けるって、普段あんだけとんでもない動きしてて本気じゃなかったの……?

 

902:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士「みんな、俺はそれほど大層なものじゃない。長い長い歴史のほんの一かけらだ」

 

903:ヒーローと名無しさん

 

(信じられない生き物を見る目)

 

904:ヒーローと名無しさん

 

あんたほどの実力者がそういうのなら……(震え声)

 

905:ヒーローと名無しさん

 

唐突に黒騎士くんとレッドの関係が擦れてない兄上と縁壱の関係に見えてきたわ。

 

906:ヒーローと名無しさん

 

それレッドが化物扱いされたところ見て思っただろ!!

 

907:ヒーローと名無しさん

 

撃破スコア

ガウス     死因:通り道にいたので

ナメクジ怪人  死因:超高速でタコ殴りにされる

レーザー怪人  死因:ワンパン

光食怪人    死因:逃げたけど、逃げられなかった(諸行無常)

惑星怪人アース 死因:拳ビームで消滅

 

謎のピンク戦士 逃亡

ボクッ子青戦士 逃亡?

 

こんなものかな?

 

908:ヒーローと名無しさん

 

キルスコアが多すぎる。

めちゃくちゃ強いナマコ……じゃなくて、ナメクジ怪人とアースですら、普通に処理されるあたりとんでもない性能してるわプロトワン。

 

909:ヒーローと名無しさん

 

ピンク戦士があのレッドを足止めしてたから相当強いのは分かっているんだけど、黒騎士君が理不尽すぎてね……。

一番よくわからないのは青戦士だけど。

あれ暴走してんのか正気なのかいまいちよく分からん。

 

910:ヒーローと名無しさん

 

拳ビームってなんなんだ……

 

911:ヒーローと名無しさん

 

理系の極致だよ

分からないの?

 

912:ヒーローと名無しさん

 

空気摩擦とかあれこれを物理で起こして結果的にビームになってるだけじゃん。

 

913:ヒーローと名無しさん

 

みんなブルーに洗脳されてない?

 

914:ヒーローと名無しさん

 

今度、社長監修でジャスティスクルセイダーTシャツ出るな。

ブルーは理系Tシャツだったわ。

 

915:ヒーローと名無しさん

 

あれフォントクソダサじゃん。

前に『理系』背中に『後輩』って無駄に達筆で書かれてるし。

 

915:ヒーローと名無しさん

 

レッドTシャツ

前『斬火』

後『先手必勝』

 

イエローTシャツ

前『黄色』

後『普通』

 

これ絶対社長遊んでるわwww

 

916:ヒーローと名無しさん

 

このセンスはげんとくんかな?

 

ネタと汎用性を考えると、ブルーかイエローのが欲しいな

 

917:ヒーローと名無しさん

 

相変わらずR18な戦い。

グリッターなんて逃げた次の瞬間には生首になって再登場。

なんで黒騎士くん、ぬらりひょん星人みたいな強キャラムーブしてんの……?

 

918:ヒーローと名無しさん

 

グリッターくんは黒騎士くんがトラウマだったんだなぁ。

細胞レベルにまで刻み付けられているとか相当だわ。

 

919:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君の素顔が明かされちゃったけど、本当にイメージがシベリアンハスキーみたいなワイルド系でびっくり

変身するときの目つきの悪さがそのまんま

 

920:ヒーローと名無しさん

 

変身するとき思いっきりプロドラ喋ってたよな

 

921:ヒーローと名無しさん

 

喋るというより変身音でテンション爆上げしてた

 

922:ヒーローと名無しさん

 

公式は情報開示なしだけど、明らかにルプスドライバーと同じ意思があるっぽい

変身音声からして絶対に負けない感がしゅごい

 

923:ヒーローと名無しさん

 

ルプドラに寝取られたのをまた寝取り返すとか昼ドラじみた応酬してるの草

 

924:ヒーローと名無しさん

 

準備はいい?

 

もう誰もあなたを止められない!!

 

行こう! 至高のその先に!

 

進化! 最強! 無敵! 最高!

 

その名は TYPE1!!

 

 

もうこれヒロイン決定やん!!

 

925:ヒーローと名無しさん

 

海月ウミウシ先生がまたナマコに転生なされておるぞ!!!

 

926:ヒーローと名無しさん

 

早計すぎる。

最後の最後に刺客が出てきたんだぞ

 

927:ヒーローと名無しさん

 

謎の美少女アルファとかいう、とんでもねぇジョーカーよ

 

928:ヒーローと名無しさん

 

あの黒騎士くんが抵抗を見せないのが異常すぎる……

あの子のせいでスレが大荒れしたからな

 

929:ヒーローと名無しさん

 

言動からしてジャスティスクルセイダーと会う前まで記憶が戻っているのに、その時点からあの距離感って本当にどこに隠れていたんだってレベルだわ

 

930:ヒーローと名無しさん

 

一位が君臨してしまったなァ!

 

ブルー! ついでにイエロー!!

貴様らは圏外だ!!

 

931:ヒーローと名無しさん

 

これでまだ隠れてるとかないよね……?

 

932:ヒーローと名無しさん

 

当時の黒騎士君の正体に気づいていたっぽいし謎すぎる

 

933:ヒーローと名無しさん

 

ついでで圏外にされるイエローに草

連帯責任かな?

 

934:ヒーローと名無しさん

 

レッドは殿堂入りしてるから問題ないよね(チャキ……)

 

935:ヒーローと名無しさん

 

ブラッド、あなたはオンリーワンだ(震え声)

 

936:ヒーローと名無しさん

 

マジでどっから湧いてでてきたんだろうか

 

937:ヒーローと名無しさん

 

あの人間離れした美少女なのに、一つも話題にならないのはおかしい

絶対なんかあるぞ

 

938:ヒーローと名無しさん

 

ストーカー化したら黒騎士君をキレさせることになるぞ

 

939:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君は人にはキレない

 

だが、政府と社会はどうかな!!!?

 

940:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君の過去を知りながらそんなアホなことするやついるのかよ……。

芋づる式にジャスティスクルセイダーも敵になるまであるぞ。

 

941:ヒーローと名無しさん

 

もう黒騎士君の住んでいたらしいボロアパートに待ち伏せしてる輩がいるらしいぞ

速攻で職質受けたらしいけど

 

942:ヒーローと名無しさん

 

バカなのかな?

 

943:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士、いったいどこに……

 

944:ヒーローと名無しさん

 

政府とジャスティスクルセイダーあたりがなんとかしてくると信じたい

 

945:ヒーローと名無しさん

 

本当に遊び半分で黒騎士に近づこうとしないでほしいわ

彼のためにも

 

946:ヒーローと名無しさん

 

はやくレッドたちの記憶を取り戻してほしいなぁ。

少なくとも彼にとっては、過去とは違う思いでだったはずだから

 

947:ヒーローと名無しさん

 

そうだよなー

 

948:ヒーローと名無しさん

 

おい

 

 

そろそろナメクジかナマコかウミウシつけようぜ……!

 

949:ヒーローと名無しさん

 

ナマコ兄貴は種族を統一してから生まれなおしてきて(辛辣)

 

あ、ついでに次スレもオナシャス!!

 

950:ヒーローと名無しさん

 

この扱い……モツワタが煮えくりかえるぜ……!

 

 




オチ担当のナマコ兄貴の再登場でした。

いろいろとバレてしまった主人公。
アルファが認識改変をしていないことにはちょっとした理由があります。

後、数話ほど閑話を更新した後に、第四部へと移ります。


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閑話 きらら、激動の刻

お待たせしました。
今回も閑話となります。

前半がアルファ視点。

後半からきらら視点となります。


 カツミが目覚めたことは私にとっては、これ以上になく嬉しいことであった。

 私が選んだ人。

 今後、どのようなことがあったとしてもその事実は決して覆ることのない存在が、ようやく私のことを思い出し、連れ出してくれた事実に夢うつつな気持ちになる。

 しかし、喜んでいられるわけじゃない。

 

 カツミのことが世間にバレた。

 

 ただバレるだけなら私の認識改編でなかったことにすることができる。

 だけど、ここで問題なのが……この一連の暴露があのルインとかいうカツミのストーカーが意図して起こした計画の可能性が高いことだ。

 

「アカネ達の名前は、なんとかしたけど……」

 

 カツミに関する認識改編をすれば、止めに来る可能性が高い。

 それでまたカツミの記憶を弄ばれるのは嫌だ。

 

「……あとは、私のわがままかな……」

 

 これでカツミのことを好き勝手にいうやつはいない。

 彼をバカにする人もいなくなるし、危険だっていう人も少なくなってくれる。

 なにより、彼をあんな環境に押し込めていた現実が変わってくれるというなら……彼の過去と正体がバレてしまってもいいと思ってしまった。

 

「おぉ、すごいな……これ、時計でピッとするだけでお金が払えるぞ……。どうなってんだ……」

 

 ……当のカツミは自動販売機の前ですっごいそわそわしてるけれども……!

 あの変態社長は凝り性かなんなのかは分からないけど、カツミの新しい変身アイテム“Xプロトチェンジャー”には変身以外の様々な便利機能が搭載されていた。

 その一つが、電子マネーでの決済機能である。

 

『残高は気にしなくてもいいよ! 全部、カツミのだから!!』

「お、おう? えーと、もう一度確認するけどお前、プロトスーツなんだよな?」

『うん! ずっと一緒に戦ってきたのは私!』

 

 そして私と同じくテンションを高めて自己主張が激しくなっているプロト。

 口座については、社長がカツミのために独自の口座を用意していたらしく、そこに諸々の方面から送られた報償などが振り込まれているとのこと。

 

『彼の元あった口座? 保護者としての親戚? そんなもの既にこちらから我が社のハイパームゥテェキィな弁護士を立てて、なんやかんや色々して描写すらせずに解決済みだ!! あんな環境に彼を置いておく理由なぞどこにもないからな!!』

 

 いつのまにか彼の保護者問題もすでに解決済みになっているあたり、あの社長はやり手と認めざるをえない。

 普段がへたれで残念な印象が強いけど。

 

「アルファ」

「う、うん」

 

 フードをかぶり、路地裏の壁に背を預けながらジュースを口にしたカツミが私を見る。

 

「つまりは、だ。俺はこの三年間の記憶を忘れてて、なおかつ俺の過去が世間にバレちまったということか」

「そうなんだ……」

「最初は怪人かなんかの仕業だと考えていたが……まあ、どう見ても成長してる身体と、頭の中で残ってる知らねぇ記憶……んで、強化されてるチェンジャー見たら認めるしかねぇな」

 

 軽くため息をついた彼が自身の目元に手を置く。

 

「で、白川克樹だっけか? ずっとそう名乗ってたのか?」

「ううん。それは今日までの半年だけ。カツミが忘れているのは、カツミがカツミだった時間もだよ」

「……そうか」

 

 その相槌にどんな感情が込められていたのかは分からない。

 けど、彼なりに考えているのを察していると、カツミが飲み干したジュースの缶を握りつぶす。

 

「とりあえず、アパートを見に行くか」

「行っても意味ないと思うけど……」

「確認のためだよ。こっから遠くねぇし。……もしバレたら、よろしくな?」

「……うんっ」

 

 頼られてうれしくなりながら彼についていく。

 やっぱり、カツミはいつのカツミでも変わらない。

 

 


 

 

「なあ、アルファ」

「う、うん」

 

 カツミの家の近くに到着した。

 彼にとって見慣れた街並みは三年を経て少しだけ変わっていたが、彼がかつて住んでいたアパートはさらに大きく様変わりしていた。

 正確に言うには、外観ではなく、周囲の状況が、だが。

 

「俺のオンボロアパートが事件現場みたいになってんだけど」

「さ、さすがにこれは予想外……」

 

 カツミの住んでた古びたオンボロアパートの周囲は人で溢れており、その前には警察官らしき人々が人が入れないように立っていたり、テープを張ってたりしていた。

 まるで、殺人事件でも起きた勢いで封鎖されているアパートに、さすがのカツミも頬を引きつらせる。

 

「え、えぇ、なんでこんなボロアパートで人がごったがえすわけ……? 俺、悪いことしてるのに」

「カツミのした悪いことは、全部悪いこと扱いされてないの……」

「嘘だろ……!? スーツ盗んだりしただろ!?」

「それは製作者が訴えを取り消しちゃった」

「マジかよぉ……」

 

 人ごみのなかで額を抑えながら、カツミはアパートを離れる。

 すぐ近くの暗い路地に入ると、木箱に座りながら大きなため息をつく。

 

「まったく、タイムスリップした気分だぜ……」

「まだ思い出せない?」

「……断片的には。なんか、時系列めちゃくちゃなアルバムを見せられてるみたいだから訳わからん」

 

 まだ記憶は戻りそうにない、か。

 でも、断片的に思い出しているのはいい兆候……なのかな?

 

「だが、ジャスティスクルセイダー、その名前はなぜか知っていた」

「……カツミが一時期一緒に戦ってた……仲間だよ」

「仲間か。……俺以外にもいたんだな」

 

 少し安堵した様子のカツミになんともいえない気持ちになる。

 彼は黒騎士になっていた間、ほとんどの時間を怪人の襲撃を受けていた。

 それを考えると、自分以外の“戦える戦士”がいることは喜ばしいこと……なのかもしれない。

 

「そして、これが一番訳が分からないんだが……ハクア姉さんってなんだ? なんか記憶にない姉が俺の記憶にいるんだけど」

「ウッ……そ、それは……」

「因みに、お前をアルファ姉さんと呼んだ記憶もあるんだが。どういうことか説明してくれるか?」

 

 なんっでピンポイントでその記憶を思い出すのさ!?

 一度限りの過ちじゃん!?

 一番後回しに思い出してほしい記憶が真っ先に思い出してんじゃん!!

 

「あ、そ、そそそ、それはね? 記憶喪失になった君に姉を刷り込んだ私の義妹がいてね……あと、私は君に姉と呼ばれたくてね……」

「お前ら俺の記憶喪失でやりたい放題か!?」

「出来心だったんです」

 

 それを言われたら何も言えなくなる。

 すると、一瞬顔を顰めたカツミが頭を押さえると、その表情をどんどん青ざめさせていく。

 

「な、なんだこの記憶、見知らぬ白髪の少女を姉と、家族と認めている俺がいる……!? ハクア姉さん!? 引きずり込まれて添い寝!? かっつん!? うわぁぁぁ、お、俺はなんて恥ずかしいことをぉぉ!?」

「お、落ち着いてカツミ!! げ、厳密にはその姉と呼んでいる子は生後一歳だから!!」

「余計混乱するわ!? なんだ生後一歳の姉って!?」

 

 ……なんか聞き捨てならないことを言っていた気がするけど、まずはカツミを落ちつけよう。

 記憶の混濁で混乱するカツミをなんとか落ち着けていると、大通りの方から何者かがこちらを覗き込んでいるに気づく。

 

「……もしかして黒騎士(にぃ)?」

「「っ!?」」

 

 バレた……!

 相手は10歳前後の子供。

 咄嗟に認識改編を使おうとして、カツミに手を掴まれ止められる。

 

「無暗やたらに使おうとするな」

「……分かった」

 

 頷き、手を下すとカツミが怪人とは戦うとき以外の、落ち着いた口調で少女に話しかける。

 ……茶色に近い黒髪。

 なんだろう、この子どこかで見覚えがあるような……。

 

「君の言う通り、俺は黒騎士だけど……このことはお父さんとお母さんには内緒だぞ?」

「バレちゃいけないんだよね! 大丈夫、ちゃんと分かってるから!」

「え、なにが……?」

「黒騎士兄。もしかして、私のこと、覚えてないの?」

 

 残念そうにしゅんとした様子の少女。

 しかしすぐに誰かと重なる笑みを浮かべると、指を自身に向ける。

 

「私、天塚ななか! 一年と少し前に、弟のこうたと一緒に黒騎士兄に会ったんだよっ!」

「俺とか?」

 

 この子、きららの妹だぁぁぁ!?

 以前、カツミがイエローになし崩し的に預けられた妹と弟の世話をしたことがあったが、その一人がこの子だ!?

 

「えーっと、ごめんな。覚えてなくて」

「ううん! いいの! あ、私、こんなに背が大きくなったんだよ! もうチビでもガキじゃないよっ!」

「お、おう?」

 

 姉と違って自己主張が激しくない……?

 ものすごい勢いで、カツミも若干気おされている。

 

「おうちを見に来たの?」

「一応な。でもあんな様子じゃ、帰るに帰れなくて困っているんだ」

 

 冗談めかして笑うカツミに、きららの妹の目が光ったように幻視する。

 

「じゃあ、うちに来てよ! 泊まるとこないなら!!」

「「え?」」

 

 


 

 黒騎士、穂村克己は姿を消した。

 彼の正体。

 彼の過去。

 その全てが明かされた世間は一種の混乱状態に陥った。

 私も彼が経験した悲劇と受けた仕打ちに言葉を失った。

 楽観視は、していなかったはずだったけど、彼の過去はそれを遥かに超えて残酷すぎたのだ。

 

「カツミ君。見つからなかったな……」

 

 アカネと葵と本部で別れた私は、三日ぶりに自宅に帰る道を歩きながらため息をつく。

 

「はぁ……」

 

 カツミ君が姿を消してから二日。

 その間、私たちジャスティスクルセイダーは彼の捜索の知らせを待ち、いつでも出撃できるように備えていた。

 しかし、彼は黒騎士として活動している数年もの間、社長の捜索の手を逃れ続けた実績を持っている。

 それに加えて、傍に認識改編持ちのアルファと、社長の悪乗りと趣味で最先端技術の粋を詰め込んだプロトがいることから、普通の手段で彼を見つけることは不可能に近かった。

 

「私たちの名前を隠したのは、アルファだよなぁ」

 

 幽霊怪人が化けたカツミ君が口にした私たちの名前。

 普通なら騒動の後に、その名前が世間に広がるはずだったけれど、いつのまにかその事実を人々は忘れていた。

 これは、アルファが認識改編をした証拠ともいえる。

 

「また私たちのこと忘れちゃってるし……どうしよう……」

 

 彼の記憶がまた弄ばれている現状にとても歯痒く思う。

 もう一度、ため息をついたところで家が見えてくる。

 少し大きめの家。

 既に明かりがついていることから、両親と妹たちもいるようだ。

 

「心配されちゃったから、早く顔を見せなきゃなっ」

 

 せめて家族の前では沈んだ顔を見せないようにするべく、自身の頬を叩き気分を入れ替える。

 そのまま、玄関まで小走りでかけていき、扉をあけ放つ。

 

「ただいまー」

「あら、おかえりなさい。大丈夫だった?」

 

 中に入るなりすぐに母さんが迎えてくれる。

 既に連絡していたけど、それでも心配させないように笑顔を向ける。

 

「怪我とか全然してないし、大丈夫だよ」

「そう……でも、辛くなったらいつでも相談してね?」

「うん。ありがとう」

 

 気遣ってくれる母さんにお礼をすると、奥からなにやら妹と弟たちの騒がしい声が聞こえる。

 

「なんだか騒がしいね?」

「あっ。そうよ、きらら、貴方に紹介したいお客さんがいるのよー」

「お客?」

 

 誰だろうか?

 学校の友達かな?

 疑問に思いながら、母さんに促されるままにリビングへと向かうと———、

 

「カツミ兄! ゲームよわーい!」

「うるせぇー、こちとらゲームなんてしたことないんだよ! アルファ、なんでお前そんな上手いんだよ!?」

「私、大抵のことはそつなくこなせるから」

「くっ……もう一回だ……!」

 

「……は?」

 

 妹のななかにしがみつかれたカツミ君がアルファと、弟のこうたとスマブラに興じている。

 ……。

 ……、……。

 思わずリビングに入る扉を閉め、後ろでものすごいにこにこ笑っている母さんへと振り向く。

 

「ねぇ、どゆこと?」

「カツミ君とアルファちゃんよ? ちょっとうちで匿っちゃってるの」

「いや、いやいやいや!? 意味わかんないよ?!」

 

 ちょっと匿うってそんなスケールの問題じゃないよね!?

 社長の捜索の網をかいくぐった先が私の家って状況に混乱しているんだよ!?

 母さんは、フッ、と笑みを浮かべると観念したように両手を上げる。

 

「白状するわ。パパとママ、こういう訳ありの子を匿う展開に憧れてたの」

「知らないよぉ!? 娘に対してのほうれんそうをしっかりしてよぉ!?」

「ビックリさせたくて……」

「これ以上なく大成功だよ!? 人生で一番ビックリしたよ!?」

 

 なんで私の家族は素で私よりキャラが濃いの!?

 思わず頭を抱えたくなる状況になっていると、不意に背後の扉が開かれ———妹のななかを背中にしがみつかせたカツミ君と目が合う。

 扉はすぐ後ろだったので、至近距離で彼と向かい合う状況になり思考が停止する。

 

「!!!?」

「あ、すいません。お邪魔してます。えーと……」

「ななかのお姉ちゃんだよっ!」

 

 至近距離で固まる私に、ななかが代わりに紹介してくれる。

 少しバツが悪そうにほほを掻いた彼は、ぎこちない様子で話しかける。

 

「お邪魔してます。きらら……ん?」

 

 呟かれる名前。

 瞬間、私の脳裏によぎるのは彼を見つけた私がするべき行動であった。

 

   社長に連絡しなきゃ

アカネに連絡しなきゃ

これひとつ屋根の下では?

 葵に連絡しなきゃ

白川ちゃんに連絡しなきゃ

 

 しかし、それらは高速で流れては、一瞬で消滅していく。

 その中で私の頭に消滅することなく色濃く思い浮かんだのは“ひとつ屋根の下”という煩悩極まりない事実であった。

 

「ゆ」

 

 ……。

 ……、……。

 

「ゆっくりしていってねぇ……」

 

 勝てるはずがなかった。

 こんなん誰が逃れられるというんだ。

 すべてを察したアルファの、じとーっとした視線を受けながら、私は自分が己の欲に負けたことを悟るのであった。




煩悩に負けたイエローでした。
彼女のツッコミスキルが高い理由よ……。

次回も閑話の予定です。


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閑話 過去と現在

お待たせしました。

前半は元自衛隊員のマスターこと新藤さん視点
後半は別視点となります。


 目の前で焼き焦がされる友人だったもの。

 痛みに苦しみながらも、立ち向かった仲間たち。

 そして、そんな彼らを、俺たちの覚悟をあざ笑うように溶岩という自然の暴威を振るう怪人。

 

 マグマ怪人。

 

 昨今現れていた怪人たちとは一線を画す、自然そのものが具現化したような危険な存在と、俺たちは戦っていた。

 

 

『オォォォ!!』

 

 対マグマ怪人無力化作戦。

 KANAZAKIコーポレーションが急造で作り上げた耐熱コンテナにマグマ怪人を閉じ込め、太平洋沿岸まで運ぶ滅茶苦茶な作戦だ。

 しかし大地から無尽蔵にエネルギーを吸い上げる奴を無力化する術はそれしかないことから、実行に移された無謀な策は、まさしく綱渡りの連続の上で成り立っていた。

 

「斎藤、さん……! そんな……!!」

 

 マグマ怪人が引き起こした爆発により、俺をかばった恩師とも言える上官が目の前で破片を受けた。

 胸と腹部に深々と突き刺さった破片にあふれ出る血に、目の前が真っ白になりかける俺の肩に、目だけは闘志に燃えていた彼の手がのせられた。

 

「新、藤……! まだ、終わってないだろ……!」

「しかし……!」

 

 ヘリに乗れる人員は俺を含めて二人だけ。

 たった二人だけで最新鋭どころか、未知の技術が使われているヘリを使えるはずがない。

 そんな思いで口をつぐむと、背後で焔が空へと打ちあがる。

 

「ッ」

 

 轟音と共に振り返れば、百メートル以上離れているここでさえも伝わるほどの熱量を放つマグマ怪人を相手に、ただの肉弾戦で押さえきっている黒騎士の姿が映り込む。

 

『オォ、オオオ!!』

「……!!」

 

 雄たけびはなく、ただ怒りのままに強く拳を握りしめマグマ怪人に拳を叩きこみ続け、その足を後ろへと後退させていく。

 数時間に及ぶ“足止め”

 常人ならとうの昔に限界を超えているはずなのに、彼はその足でまだ大地に立ち、拳を振るい続けている。

 

『オ、オォ!!』

 

 近接戦闘では圧倒的に勝ってはいるのだろう。

 しかし、大地からエネルギーを吸収し、回復するマグマ怪人が相手では彼の拳は有効打にはなりえなかった。

 

「彼が、まだあの子が戦っている……!」

「斎藤、さん……」

「まだ希望はある。あとは、頼んだ」

 

 力が抜け、そのまま目を覚まさなくなった恩師の体を地面に寝かせた後、俺は自分を奮い立たせて仲間と共にヘリへと乗り込んだ。

 彼の言う通り、まだ希望はある……!

 その希望をつなげるのは、残された俺たちの役目だ……!!

 

「飛ばせるか!?」

「分からねぇよ! でもやるしかないだろ!!」

 

「えーと、たしか……ここと、ここと、ここだね。うん、多分これでいける。頑張ってね」

 

「ッ、なんだかよく分からんが飛べるぞ!!」

「いいのかそれで!? いや、とにかくこいつを飛ばしてワイヤーと連結させるぞ!!」

「了ッ解」

 

 黒く染まった空に大型のヘリが浮かび上がる。

 まだ作戦は始まったばかりだ。

 むしろ、これからが本番だ……!!

 


 

「……いけね、居眠りしちまったか」

 

 今や締め切ったカフェの椅子で居眠りをかましてしまった俺は、頭をかきながらその場を立ち上がる。

 自衛隊をやめ、逃げ場を見つけるように開いたカフェ『サーサナス』。

 開いた理由としては、ただ知り合いのツテで開けそうな店があったことと……強いて言うなら自衛隊員以外の逃げ道を探していたことだろう。

 マグマ怪人。

 かつてそう呼ばれていた怪人の侵攻は、俺を含めた多くの人間の心に傷を残した。

 

「はぁ」

 

 現在、サーサナスは閉店中である。

 理由としては、カツキ……いや、穂村克己がバイトをしていた場所だということが明かされてしまったので、面倒な客が集まるようになったからである。

 近いうちにほとぼりも覚めるし、別に金目的でカフェをやってるわけでもないので、経済的には問題は全くないのだが……。

 

「情けねぇよなぁ」

 

 マグマ野郎が蘇った。

 その映像が流れた程度で、手の震えが止まらなくなった。

 またアレが起きるのか?

 大勢の人間が犠牲になるのか?

 結局、その懸念は杞憂に終わるわけだがどちらにしてもあの夜起こった事実は世間と、黒騎士と関わった俺たちの心を揺さぶるのに十分な事件だった。

 

「黒騎士の復活……」

 

 穂村克己。

 かつて黒騎士と呼ばれていたあいつの記憶が戻ってしまった。

 本名と素性自体はあいつをこの場に連れてきた白川から聞いていたが……。

 

『マスター、ちょっとまた助けてもらってもいいかな!?』

 

 一年前、この世の全てを恨んでますって目をした小娘の口から出たとは思えない必死の言葉だった。

 それから、次は黒騎士……か。

 

「あぁ、クソ、そりゃ……辛いよなぁ」

 

 穂村克己が奇跡の子と報じられた事故については、自衛隊時代の先輩から話は聞いていた。

 子供の頃のあいつを見つけた現場は、まさしく地獄のようだった、と。

 

『奇跡の子か……生き残ったことが彼にとっての奇跡であったならよかったが……救助した時は酷い有様だったよ』

 

 隣り合うように隣接した椅子のベルトに体を縛り付けられ、さらに荷物の下敷きにされていただけの彼の目と鼻の先には……重傷を負った父親と母親が、見るもおぞましい怒りと憎悪に歪んだ顔で息絶えていたらしい。

 その話を聞いた時、嘘だと信じたくなった。

 だが、現実はそんな優しくもなく、彼の封印された記憶が掘り返されたことによりその真実が大衆へと暴露されることになってしまった。

 

「はぁぁ」

 

 あいつは今、大丈夫だろうか?

 白川からは連絡を受けて無事だってのは分かっているが……。

 

「なにかできることがあればよかったんだが……今は無理か」

 

 今日何度目か分からないため息をつきながら掃除用具を取り出す。

 ……埃が積もらねぇようにこまめに掃除をしなきゃな。

 せめて、いつでもあいつらが来れるように開店できる準備を進めておく。

 

「ガオ!」

「んん?」

 

 聞きなれない音。

 首を傾げて後ろを振り返ると、そこには青いライオンのオモチャのようなものが俺を見上げていた。

 オモチャがひとりでに動いているという事実に普通なら驚くところだが……。

 

「なんだお前。白川んところのメカか?」

「ガオ?」

 

 カツキのやつは隠していたつもりかもしれんが、あの白いオモチャっぽいベルトはバレバレだったんだよな。

 それの亜種かなにかか?

 にしては、アレと比べて大人しそうに見えるが。

 

「近くに白川でもいんのか? なら、ちゃんと飯食ってんのか聞いておいてくれねぇか?」

「ガオー!」

「……なんだ? ついてこいってか?」

 

 おうおう、なんだなんだ。

 ぴょんぴょんと器用にジャンプして移動したライオンは換気のために開けておいた窓から外へと飛び出す。

 ため息をつきながら箒を置いて外へと出る。

 外は生憎の雨模様で、曇天からぽつぽつと雨が降ってきている。

 雨で気分が滅入っていると、それに構わず青いライオンは、俺についてこいと言わんばかりに一声鳴く。

 

「ガオ!!」

「はいはい、分かったよ」

 

 傘を持っていきながら青いライオンについていくと、いきなり路地にはいり複雑な道を進み———ある暗い路地裏に俺を導いた。

 そこにいたのは白川でもカツキでもなかった。

 

「……え、誰?」

「ガオ!」

 

 路地の端に横になっている誰か。

 一見して見逃してしまいそうになるが、外套に包まれた身体が小さく上下しているのを見て死んでいるわけでもなさそうだ。

 

「あー、なんだ、これはつまりあれか? 白川と同じやつか?」

「ガーオ!!」

「俺が助けろって? ……はぁ、しょうがねぇ。分かったよ。ここで見過ごすわけにもいかねぇしな」

 

 倒れている理由は分からねぇが、このまま雨に晒しとけば死んでもおかしくねぇし。

 とりあえず病院にでも連れていこう。

 そう思い、外套に包まれた誰かを抱き起そうとすると、そのフードが外れ素顔が露になる。

 白川やカツキと近い年頃の少女。

 外套の下のSFっぽい服を着ていることが気になったが、それ以上に目を奪われたのはその髪の色。

 

「……おいおい、まさか普通の人間じゃねぇのか……?」

 

 人間離れした緑色の髪。

 それ以外は人間とほとんど変わらないが、雰囲気そのものが普通の人間とは明らかに違っている。

 

「病院連れてけねぇじゃん……」

「ガオ!」

「お前は気楽でいいよな……」

 

 また厄介なもん抱えてしまったなぁと思いながら、とりあえずこいつを幾分かマシな店の中に連れていくことにするのであった。

 

 


 

ご苦労、コスモ

 

私のカツミのために、よくここまで働いてくれた

 

潔く散るがいい

 

 

 それがルイン様からのお言葉だった。

 ボクに寄せられた期待は、捨て駒としての、白騎士を成長させるための期待で、お褒めの言葉もボクを叱咤してくださったその言葉もすべて偽りのものだった。

 自分の全てを否定されたような気分だった。

 これまでの忠誠も、献身も全て無意味と切り捨てられ、挙句の果てに敵である白騎士に助けられて……ボクは無様にも生き残ってしまった。

 

 ボクは、最初から失望されていたのだろうか?

 

 だから、こうして捨て駒にされてしまったのか。

 暗く、じめじめとした道の端に横になりながら、そんなことを思う。

 空からは雨が降りしきり、誰も人の通らない道を濡らしていく。

 そんな中で、自分の体が弱り切っている感覚を自覚しながら、それにあらがうことなく自分の死を受け入れようとする。

 

「これで、いい」

 

 ルイン様に必要とされていないなら、ボクなんて生きていない方がいい。

 瞳を閉じ、眠りにいざなわれるままに意識を閉じる。

 

「……?」

 

 しかし、どういうことだろうか。

 野垂れ死ぬはずだったのに、どうしてボクはまた生き残ってしまっているのだろうか。

 目を覚め、起き上がると布団がかけられていることに気づく。

 眠らされていたのは、この星の店と呼ばれる建物の中だというのは分かるが、どうやら今は締め切っているようだ。

 

「誰が……」

「ガオ!」

 

 傍らで聞こえる馴染みのある鳴き声。

 思わず、手元を見るとそこにはボクを見上げる青い小さな獅子がいた。

 

「……レオ? レオ!!」

「ガオォ!」

「レオ……!」

 

 これまで意識を表すことがなかったレオに思わず抱きしめる。

 もう二度と会えないと思っていたこの子にまた会えたことだけが、ただ嬉しかった。

 

「どうやら目覚めたようだな」

「ッ」

 

 この場に現れた声に、警戒を露にする。

 ベルトを出現させレオをバックルにさせようとする———が、レオはバックルにならず、跳躍と共にボクの頭を軽く小突く。

 

「あいたっ!? レオ、何するの!?」

「ガオ! ガオォー!」

 

 怒ったように小突くレオに涙目になりながら、ベルトを消す。

 一連のやり取りを見た男は、口に咥えた細い棒のようなものを袋のようなものに捨てながら、バツが悪そうに頭を掻く。

 

「あー、信じられねぇかもしれねぇが、別になにもする気はないぞ。そこの青いのにお前を助けるように言われて助けただけだ」

「……なにが目的だ」

「だから別にねぇから。白川の時もそうだが、そんな悪いことしそうな顔してるか俺?」

 

 やや気にするように自身の顔を指さす男。

 すると、そのままそいつは近くの椅子に腰かけると、ボクの方を向く。

 

「俺の名は新藤 士(しんどう つかさ)。お前は?」

「……コスモ」

 

 ボクが名前を名乗ったのは意外だったのかシンドウと名乗った男は目を丸くさせる。

 

「……随分けったいな名前だな。コードネームかなにかか?」

「ボクの名前をバカにするな……!」

「悪かったよ……。で、どうしてお前はあそこに倒れてたんだ?」

「……」

 

 シンドウの問いかけに無言を返す。

 

「お前、侵略者の一味か?」

「……だとしたらどうする?」

 

 睨みを利かせてそう言い放つと、シンドウはため息をつく。

 

「別にどうもしねーよ」

「……は?」

「俺がお前を助けたのはその青いのに頼まれたからだ。それに、お前がその気になれば俺なんて抵抗もできずに殺されるだろうしな」

 

 なんだ、こいつ。

 ここまで適当だと不気味だ。

 こういう状況に慣れているのか?

 常識的に考えておかしいだろ。

 

「ガオ!」

「おい、なんだその懇願するような目は。これ以上面倒見ろとか無理だろ」

「ガオ……」

「いや、落ち込むなよ。俺が悪いみたいになるだろ……」

 

 ボクが気絶している間にレオと仲良くなっているのも気に入らない。

 お望み通りなら、出て行ってやる。

 そう思い立ち上がって出ていこうとすると、不意にお腹が鳴り、足に力が入らなくなる。

 

「~~ッ!」

「まあ、腹が減ることは誰にでもあるからな」

「……ガオ」

 

 顔に熱がこもっていくのを感じながら、手をついた椅子に力を込めながら羞恥に悶える。

 何も食べていないから腹が鳴るのは当然だ。

 お腹が鳴るのも普通だ。

 最後に食べたのは、三日前に船に貯蔵していた固形の保存食だった。

 そう自分に言い聞かせるが、地球人の前でお腹を鳴らすという恥を晒してしまった事実は変わらない。

 

「はぁ、ちょっと待ってろ」

 

 一言もしゃべらないボクにもう一度ため息をついたシンドウは、気だるげな様子で店の奥へと言ってしまった。

 その場に残されたボクは、なにも喋る気にもなれなかったので膝を抱えるしかない。

 

「どうして、あいつはボクを助けたんだろう」

「ガオ……」

 

 気絶する刹那に見えたのはレオを僕から剥ぎ取り、無理やり変身を解かせた白騎士の姿だった。

 あいつとボクは敵同士のはずだ。

 それに、ボクは一度あいつを殺しかけた相手だ。

 それなのに、どうしてわざわざボクを助けようとしたんだ。

 

———君は、ここにいるだろ

 

———どうして、君自身が自分のことを認めてあげないんだ?

 

 白騎士の言葉が頭に浮かぶ。

 ボクの存在理由はすべてルイン様にあった。

 だから、どうしていいか分からない。

 

———戦う理由を、他人に依存させてどうするのよ。

———貴女は誰も見ていなかった。認められたいって思いだけで、白騎士ちゃんと、そのバックルと……他ならぬ自分自身さえもね。

 

 通りすがりの乙女と名乗った変態。

 サニーの忠告も併せて頭に浮かぶ。

 ボクは、誰も見ていなかったのか? ボク自身も、白騎士も、忠誠を誓ったルイン様すらも見ていなかったからこうなってしまったのか?

 

「分からない……分からないよ……」

 

 父上ならどう答えるだろうか。

 厳しいあの方ならば、今のボクが置かれた状況を自業自得と切り捨てるだろうけど……。

 

「おう、待たせたな」

「っ」

 

 悩んでいる間にシンドウがこの場に戻ってくる。

 その手に持っていたのは、皿にいれられた湯気の立つなにか。

 

「なんだ、これ」

「ん? 知らねぇのか? リゾットって食い物だ。ありあわせのモンで消化によさそうなもん作ったわけだが……まあ、食えなければ食わなくてもいいぞ」

 

 地球の食べ物になんて興味はなかった。

 レオも反応しないし、毒が入っていないことは分かっているが……うぅ、お腹がすいているのは事実。

 転送装置も先の戦闘で破壊されてるから、食料の調達もままならないので……食べるしかない、か。

 覚悟を決め、スプーンを手に取り“りぞっと”なる食べ物を食す。

 

「あっっっつ!?」

「いや、熱いのは見りゃ分かんだろ!? あー、ほら水」

 

 差し出された水を口に含み、口の中の混乱を収める。

 

「ひょ、ボクを騙したのか!?」

「どんな巧妙な騙し方だよ。それは冷まして食うもんなんだよ」

「……くっ」

 

 なぜ栄養補給のための食物を熱くするんだ。

 こんなに熱いと安定した補給ができないじゃないか。

 今度はしっかりと冷まして、恐る恐る口にする。

 

「……!」

 

 まず頭に思い浮かんだのは、父上からいただいた飴玉なるものを食した時の感覚であった。

 味覚なるものの、感覚が目覚めるような……そんな不可思議な、感覚。

 

「どうやらお気に召したみたいだな」

「ハッ!? なくなってる!?」

「いや、自分で食ったんだろ」

 

 気づけば皿から食べ物は消えていた。

 空腹感は完全に消え失せ、口の中に残る充足感に無意識で全部を食べてしまった事実に気づく。

 ……。

 ……くっ。

 

「これでボクを懐柔できると思うなよ……!」

「はぁ……?」

 

 面倒そうな表情を浮かべたシンドウは、椅子に深く腰掛ける。

 

「お前、行く当てはあんのか?」

「……ない」

 

 船にも戻れないし、ルイン様に失望された今、星将序列としての地位も失ったも同然だ。

 もちろん、地球に知り合いなんているはずもない。

 

「……二度あることは三度あるってのは本当みてぇだな」

「?」

 

 シンドウが何度目か分からないため息をつく。

 悩まし気に腕を組んだ彼は、レオとボクを順に見て口を開く。

 

「お前、ここに住んでいいぞ」

「……はぁ!?」

 

 驚くボクにかまわずシンドウは店の奥を指さす。

 

「奥に泊りがけ用のスペースがあるからな。どうせほとぼりが冷めるまで店は閉めてんだ。下手に散らかさなけりゃ自由に使っていいぞ」

「どうして、そこまでするんだよ」

「……。まあ、強いて言うなら、そうだな」

 

 数秒ほど悩んで、シンドウが顎に手を当てる。

 

「俺以上にお人好しな奴を身近で見てきたから、だな。具体的な理由は俺にも分からん」

 

 地球はおかしな星だ。

 常軌を逸した強さを持つ連中がいるし、侵略者であるボクを助け、挙句の果てに住む場所まで提供するおかしな人間までいる。

 本当に……意味が分からない星だ

 




主を助けてもらえそうな人間に助けを求めるため、単独で目覚めたワームホールでの移動を行ったレオ。
とりあえず、コスモの命を救った白騎士の気配をたどった先にマスターがいたので、彼に助けを求めた形となりました。


因みにですが、斎藤さんの名前は『戦いから一ヶ月後 前編』にて黒塗りではありますが既出しております。


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第四部
正直者と復讐者


第四部開始となります。

前半がレイマ視点。
後半から別視点となります。


 穂村克己は現在、行方不明。

 都内のカメラを用いたとしても、その痕跡さえも見つけ出すことは叶わなかった。

 三年前、黒騎士として活動していた彼の時も同じだった。

 人工的な明かりが照らす都市の裏。

 暗闇が支配する場所を自由の場としていたのが黒騎士であった。

 当時の私の心境としては“えっ、なんでプロトスーツ着てんの!?”といった混乱の中にあった。

 正直な話、コアを取り出して破棄するはずだったプロトスーツを盗まれた時点で、大事どころではない事態に発展していたのだ。

 社の研究室という厳重な警備システムそのものを存在すら感知させずに素通りし、危険物であるプロトスーツのみを持ちだし姿を消した。

 今になって思えば、プロトスーツが警備システムを自らハッキングし、自らの意思でやってきた彼を迎え入れただけだったのだろうが、そんなことも知るよしのない私の脳裏は絶望でしかなかった。

 地球外の技術であるコアを解析することは不可能なことは分かっていたが、プロトスーツそのものは適合しない人間———いや、穂村克己以外の人間が着用すればその命を吸い取る危険極まりないものだからだ。

 プロトスーツもルプスドライバーもどちらもヤンデレ拗らせたやべー奴r

 

 だからこそ、黒騎士という存在が現れたことは私にとってはこれまでの長い人生の中で最も驚愕したことの一つに分類される。

 あのプロトスーツを着て、無事。

 それも確認されるだけでほぼ毎日着用している上に、その出力は想定の数倍、否、数十倍を優に超えていたからだ。

 なので、当然彼と接触するためにこちらの技術を最大限に導入して彼を探そうと試みたがこれがどうにも難しすぎた。

 アルファの介入もあったということもあるだろうが、なにより彼の出自による人間不信と、私生活において携帯、PCなどの電子機器をほとんど用いないことから、こちらが得意とする技術での捜索がほぼ無意味と化してしまっていたのだ。

 過ぎた科学力に対するカウンターが、まさかのアナログだったとは当時の私では思いもしなかったことだろう。

 

 話を戻すとして、彼の消息についてだ。

 分かっていたが、彼を見つけることは本当に難しい。

 私の趣味と凝り性によってもたらされたXプロトチェンジャーの多機能性がここまで厄介になるとは読めなかった。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 そこまで打ち込み、私は椅子の背もたれに体を預け眉間を揉む。

 カツミ君があの場から去って三日。

 まだ彼の足取りすらもつかめない状況に若干の焦りを感じていた私は、思考をまとめるがてらに日誌を作成していたわけだが……。

 

「思い返してみても、本当に凄まじいな」

 

 彼の出自自体は特別なものはなにもない。

 にも拘わらず、彼はプロトスーツにもルプスドライバーにも完全適合している。

 それもアルファと出会う前の時点でだ。

 

「むしろ特別なのはアルファの方だろう」

 

 雌雄個体であるアルファとオメガの間に生まれたアルファ。

 本来ならば、そのようなことはありえないはずなのだ。

 

「因子は遺伝はしない、はずなのだが……」

 

 組織から逃亡する際に持ちだした資料によれば、アルファとオメガに埋め込まれた因子は、子に遺伝することは絶対にない。

 人体に移植した臓器が子孫に遺伝しないのと同じようなものなのだ。

 しかし、アルファは力を持って生まれた。

 それも認識改編という常軌を逸した能力を持って。

 

「……先代のアルファは既に死んだ、と聞いていたが……」

 

 母親の能力かなにかだろうか?

 それとも生命の神秘というやつか?

 ……そもそも、この地球本来のアルファはどのようにして死んだのか?

 

「正直、侵略者以前に怪人での謎が多すぎる」

 

 オメガはどのようにして侵略者の存在を見据えていたのか。

 先代のアルファは何者で、どのようにして死んだのか。

 

「……思考をまとめるはずが、余計に考えを増やしてしまったか」

 

 いかんいかん……。

 今はカツミ君の捜索に集中しなくては。

 

「……む?」

 

 すると、私の端末に何者かの連絡が入る。

 ふと時間を見ると、夜の22時頃。

 独り身を謳歌している私には無縁の時間に入る連絡に首を傾げ乍ら端末を開くと、そこにはジャスティスクルセイダーの普通担当、天塚きららことイエローの名が表示されていた。

 

「珍しいな」

 

 この三日間、神経をすり減らしながら捜索していたレッドたちを一旦家に帰したはずなんだが……まったく、どれだけカツミ君が心配なんだ。

 

「なんだイエロー。カツミ君はまだ見つかってないぞ」

『社長』

「……なにかあったのか?」

 

 強張った声にすぐに異変を察した私はすぐさまPCのシステムを作動させ、イエローの家の周囲に侵略者の反応がないか調べる。

 なんの反応もないことに安堵しつつ、会話を試みる。

 

「なんだ? 人生相談か?」

『いえ、違うんです。その、あの、一応連絡した方がいいかなと思って』

「なにをだ?」

 

 どうやら侵略者に襲われたとかそういう方面の話ではないようだ。

 しかし、何かが起こっているようだ。

 

『まずアカネと葵には黙っといてください』

「なぜだ?」

『ジャスティスクルセイダー内で血で血を洗う戦いが起こるからです』

「シビルウォー!?」

 

 本当になにが起こっているんだ!?

 ここまでくると何が起こっているか本当に怖いんだが!?

 

『実は、ですね。今家に——』

『おーい、きららー!』

『ひゃっ!? な、なにかな!?』

 

 男の声。

 聞き覚えのありすぎる声に、私も思考が止まりかける。

 動揺が電話を介して聞こえてくるほどに、慌てたきららは声の主に返事を返す。

 

『ん? あ、悪い。電話してたのか?』

『あ、ちょ、えっ、うん、すぐに終わるから』

『ああ、君のお母さんが呼んでいるぞ』

『うん、分かった』

「……」

『……という、わけです』

 

 状況に頭が追い付かなくなりかけたが、それでも無理やり思考を回しながら軽く深呼吸をする。

 オーケー、今イエローが信じられない状況に陥っていることは理解できた。

 

「おい、お前今家にいるんだよな?」

『……ハイ』

「アルファは?」

『います。すぐ隣で睨んでる』

 

 アルファもいるのか……!?

 どうして我が社の最新鋭の監視システムを導入しても見つけられなかったのに、イエローのうちに普通にいるんだ……!!

 

「なぜ、お前の家にカツミ君がいるんだ?」

『妹が見つけて連れ込みました』

 

 イエローの妹、アグレッシブすぎでは?

 姉より押しが強くない?

 

「……いや、お前の両親は何も言わなかったのか?」

『両親の夢は……』

「うん?」

『訳ありな子を匿うことらしいので普通に受け入れてました』

「……いや待て……どういうことなんだ?」

『私にも分かりません……』

 

 そういえば、イエローをジャスティスクルセイダーに勧誘するにあたりご両親の了解をいただいた時に、一度会ったことを思い出す。

 あの個性全開の家族内でイエローだけ普通なのはおかしいのでは?

 

「と、とりあえず、見つけたのがお前でよかった。我欲に塗れたレッドとブルーは確実に俺に連絡しないからな」

『私もできればそうしたかったです……』

 

 あの二人は絶対に俺に連絡を寄越さない確信がある。

 そしてバレたら、開き直る厄介さを見せてくるからな。

 レッドは土壇場になったら日和るが、ブルーはマジで何をやらかすのか分からん異次元の常識と思考を持ち合わせているので、絶対に油断できん。

 そもそも奴の用いる理系という名のオカルトパワーも意味不明だ。

 

「とりあえず、お前は……」

『はい。カツミ君を本部に向かうように説得———』

「いや、その必要はない」

『え?』

 

 彼をいきなり本部に連れてきても警戒されるだけだ。

 黒騎士としての彼の警戒心はよく理解しているので、下手をすればそのまま行方をくらましてもおかしくないからだ。

 ならば、彼の動向を確認できる今の状況は都合がいいのだ。

 

「イエロー、お前はそのままカツミ君を家に留まらせろ」

『い、いいんですか!?』

「報告はしろ。バレないようにチェンジャーを介したデータ通信でな」

『は、はい! っ、あふ!? アルファ!? ちょ、やめ!? お腹つつかないで!?』

 

 嫉妬にかられたアルファがイエローを小突いているようだ。

 あと、一応忠告しておこう。

 

「それと……分かっていると思うが……」

『はい?』

「襲うなよ?」

『しませんよ!?』

 

 ガチャリと、通信が切れる。

 今一度状況を確認し、思考をまとめた私はため息をつきながら椅子の背もたれに体を預ける。

 

「奇跡的な偶然ではあるが、これでカツミ君の状況は分かった」

 

 まさかイエローの家にいたとは思いもしなかった。

 ……本当に見つけたのがレッドとブルーじゃなくてよかったな。

 

「さて、こちらの問題もある程度解決した。あとは……」

 

 椅子を回し背後へと振り向く。

 研究室の壁に増設されたカプセルに入れられた一着のスーツに、金色の光り輝くエナジーコア。

 

「サジタリウス、お前はまた私に光を見せてくれるか……」

 

 二度とこの目にすることはないだろうと思っていた。

 だが、このかつて捨ててしまったこのコアが再び、私のことを認めてくれるかどうかは……この私にすら分からない。

 

 


 

 

 星将序列。

 それは組織における力の位階を意味する。

 桁が少なければ強く、さらに数字が少ないほどに強い。

 

 ———かつて、これほどまでに星将序列が減らされたことはなかった。

 

 銀河を又にかけ、支配してきた組織が今やたった一つの星のためにその戦力を崩壊させようとしている現状は異常と言える。

 しかし、それでも問題はないのだろう。

 頂点に座するルインちゃんが存在する限り、組織が滅ぶことなどはありえない。

 

「やっぱりカツミちゃんよねぇ」

 

 彼がルインちゃんという怪物を動かした。

 それにより、今の今まで停滞していた状況も動き出したのだ。

 

「まだ記憶は完全に目覚めていないようだけど、それも治るだろうし……ここからが本番ね」

 

 黒騎士としてのパワーは序列3位のこの私から見ても目を見張るほどだ。

 力と速さを突き詰め、それ以外の余分を全て捨てた彼だけに許された姿。

 でも、まだあの姿ではルインちゃんは止められない。

 

「私の暗躍にも気づかれているでしょうし、多分それも込みなんでしょうね」

 

 あの子は従順を嫌悪し、反発を好む変わった性格をしているから……。

 そういう意味ではまさしく、コスモちゃんは興味の対象にすらなりえなかったということね。

 

「レオちゃん、私が誘導したとおりにマスターのところに行ってくれたようだし。これから、あの子もいい方向に変わってくれるといいわねぇ」

『御節介が過ぎるぞ、このオカマ野郎』

 

 傍らに浮かぶ空飛ぶ鳥に似たロボットが粗暴な口調で話し出す。

 私の相棒ともいえるメカバードちゃんなんだけど、声はかわいいのに、言葉遣いが乱暴なんだから……。

 

「あら、“ヴァルゴ”。乙女はね。愛と優しさと強さとラブで構成されているのよ」

『愛二つあるだろうし、乙女じゃなくてオカマだろ』

「次、オカマって言ったら私、なにするか分からないわよ?」

 

 現在いるのは都心から離れた人気のない公園の中。

 設置された街灯の明かりのみが照らされたその場所で設置されたベンチに腰掛けながら、静かなひと時を過ごしている。

 

『そもそもオメー、どうしてここに突っ立ってんだよ』

「出迎えよ。今日は地球に来るお客さんが多いのよ。……ほら、一組目が来たわよ』

 

 公園の中心に設置しておいたビーコンから光があふれ出し、三つの人影が現れる。

 現れたのは、まばゆいばかりの金色の髪の少女———に、その襟を掴まれ引きずられている金髪の少年と、そんな少年に付き従うクリーム色の髪の少女であった。

 

「はぁい、レアムちゃん。随分とかわいらしい姿になっているじゃない」

「わぉ! サニー! 出迎えに来てくれたんだな!!」

 

 星将序列七位“双星のレアム”。

 意思を持つエネルギー体であるはずの彼女は、今や地球人に酷似した姿になっている。

 その理由は、彼女に襟を掴まれ引きずられている彼女の弟にあるのだろう。

 

「は、放せ、レアム! 俺は船に残って巻き込まれないように隠れているっていっただろ!!」

「同じバイオスーツ作ってなに言ってんのジェム! あんたが来なくちゃ、誰が私のスーツを調整するの!」

「船に帰ってくればいいだけだろうが!!」

「いやよ、面倒くさいもの」

 

 大変ねぇ。

 でも、レアムちゃんにとっては唯一の家族みたいだし傍には置いておきたいんでしょうねぇ。

 

「MEI! 見てないで助けてくれ!!」

「検索→地球の美味しいたべもの」

「味覚センサーつけるように頼んだ理由はそれなのか!?」

 

 まあ、弟くんは苦労しているみたいだけどね。

 本気で嫌がっているわけでもないし、口を挟むだけ野暮ってものね。

 

「じゃ、サニー。私たちは適当なところを拠点にするわ」

「あまり暴れないでね? 地球が壊れちゃうから」

「分かっているわよ。あ、そうそう」

 

 その場を移動しようとして、ふと振り返ったレアムちゃんは、エネルギー体の時では分からなかった勝気な笑みを浮かべる。

 

「黒騎士って強い?」

「……。ええ、ええ、とても強いわよ? 貴女とも十分以上に戦えるでしょう」

「ふふふ、ならよかった。それじゃ、ジェム、拠点探すわよー」

「なんで俺だけこんな目に遭うんだ……」

「ご主人様、これも運命かと」

 

 さらに上機嫌になった彼女がその場を離れる。

 序列上位陣がこれから地球にどんどんやってくる。

 彼らと地球の戦士たちの戦いに地球という小さな受け皿が耐えられるか怪しいけど、まあ、そこはなんとかなるか。

 

『おいオカマ、次は誰が来るんだよ』

「序列二十三位の子だけど……あら、ちょうど来たわね」

 

 姿を消していたヴァルゴの声にこたえていると、また公園の中央が光り新たな人影が現れる。

 二十三位の子は大柄な体格をしていたはずだけど……違うわね。

 別の人が来たのかしら?

 光が収まり、一人の赤い髪の青年が歩み出てくる。

 

「うん? 貴方11位の……」

「はい! こちら星将序列11位! “星界戦隊”モータルレッドです!!」

 

 星界戦隊、星と星を渡り宇宙の平和を守るはずだった(・・・)者たち。

 そのリーダーである彼が、なぜ一人でここに?

 

「この場に来るのは序列23位の子だったはずだけど?」

「第30位から第21位までの星将序列ですが……」

 

 気まずそうにほほを掻いた彼は、何を思ったのかその場で勢いよく頭を下げた。

 

「順番を待ちきれない仲間が勝手に排除してしまいました! 殺してはいないはずですが……本当に申し訳ありません!!」

「……そういうことね。駄目よ? 仲間内で争ったりしちゃ」

「肝に銘じておきます! あいつらにもきつく言い聞かせます!!」

 

 殺したな。

 表面では申し訳なさそうにしているモータルレッドだけど、彼らの悪評はよく聞いている。

 救うことを忘れ戦いに溺れた五人のならず者と、五体の機械兵団。

 表面上はまともそうではあるが、その内面は狂気に満ちているといってもいい。

 厄介な子たちが来てしまったけれど……うーん、どうしましょうか。

 

「では! 自分はいったん船に戻り出直してきます!!」

「はい。気を付けて帰ってね」

 

 思考を表情には出さずにモータルレッドを見送る。

 これは、近いうちに地球にやってくるわね。

 それも機械兵団———五機の戦略兵器を連れて。

 

『気持ち悪ぃやつらだな』

「強い者に従う。守護者の心と誇りをなくした戦士の末路よ。この星の彼女たちとはまさしく正反対の存在といってもいいわね」

『オレは、まだジャスティスなんたらの方が見込みはあると思うぜ』

「あら? カツミちゃんは貴女から見てどうかしら?」

 

 元はアルファだったヴァルゴにちょっと尋ねてみる。

 すると、肩に留まり頭を捻った彼女は、首を傾げる。

 

『基本的に適合云々は本人の素質と、コアにされたアルファの好みだ。まあ、ああいうストレートなやり方は好きだな。オレ好みだ』

「じゃあ、私からカツミちゃんに乗り換えちゃう?」

『んな不義理なマネするかよ。この悍ましい化物が』

「誰が化け物ですってぇぇ!?」

 

 オカマと言われ、化物と言われ堪忍袋の緒が切れたわ!

 乙女の顔は三度までよ!

 今から手羽先にしてやるから覚悟しなさい!!

 

「……っと、あと一人来たみたいね」

『は? だが転移の光もなにも……』

 

 直感的に来たという気配を感じ取り、公園の何もない空間の一点———風で揺れているブランコを見つめる。

 呆れた認識改編ね。

 その使い方が間違いすぎているけど。

 

「かくれんぼでもしたいのかしら? “アズ”」

「ふふふ、やっぱり一桁が相手だとバレちゃうか。サニー」

 

 空間に溶けるように現れたのは、黒髪の女性。

 カツミちゃんの隣にいた、アルファちゃんがそのまま成長したような容姿の彼女は暗闇の中にいるにもかかわらず、人の目を引き付ける美貌と、妖艶さを醸し出していた。

 まあ、乙女力(おとめぢから)は私の足元にも及ばないし、私には心に決めた推しがいるから魅入られることなんてないんですけどね……!

 それはともかくとして、彼女の行いに思わずため息をこぼす。

 

「まったく、あなたのせい(・・・・・・)で滅茶苦茶よ?」

「でも……希望は見つかったでしょ?」

「……そういう問題ではないでしょう。いつから地球にいたの?」

「うーん、十年以上……前くらいかな?」

 

 すべては彼女に与えられた異名が物語っている。

 ある意味で、彼女はこの騒動の全ての発端ともいえる存在でもあるのだ。

 しかし、今の時点で間違いなく言えることは———彼女の行った所業は、地球に住む人々にとっては“悪”だということ。

 

「どうして、この星のアルファに成りすましたの?」

「復讐よ。……でも失敗しちゃった」

 

 星将序列6位“憎悪のアズ”

 ルインを憎み、終わりのない復讐を望むアルファ。

 そして、地球のアルファに成り代わり、オメガを焚きつけた張本人こそが彼女だ。

 

「その代わり、この星で希望の光を見つけたの」

 

 朗らかな笑顔。

 その瞳の奥に、真っ暗な暗闇が広がっていることを私は気づいていた。




義理堅いオレっ子変身アイテムのヴァルゴやら、悪に堕ちた戦隊ヒーローやら、地球怪人騒ぎの元凶のアズさんの登場回でした。

そして、ジェム君は相変わらず苦労する模様。


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いつもと違う日常(イエロー視点)

お待たせしました。
今回はきらら視点となります。


 カツミ君がうちに居候する許可が出てしまった。

 

 まさかの社長に許可をいただいてしまって逆に困ってしまう。

 お父さんとお母さんが普通に受け入れているし、カツミ君もアルファも現状で泊まる場所がないからほぼなし崩し的にそうなってしまったわけだけど、私としては大混乱だ。

 喜んでいいのか、この事実をアカネと葵に知られたときにどんな目に遭わされるかという恐怖に苛まれながら、私は自室に戻り就寝することになった。

 

「———らら。……きらら」

「んぅ、ななか? もう朝ぁ……?」

 

 妹のななかに起こされ、目を開ける。

 でも、なんだろうか? 妹の声にしては男っぽいような……。

 

「おい、朝だぞ。起きないとまずいんじゃないか?」

「……」

「ん?」

「カツミクン?」

「お、おう?」

 

 私が眠っていた部屋の、ベッドの傍らに立っているカツミ君の姿を確認し、冷や水をかけられたように一気に目が覚める。

 乱れた服やら髪などを直しながら、視線をそらしている彼に声をかける。

 

「にょ!? にょうしてここに!?」

「いや、君のお母さんに起こすように頼まれて。……断ったんだけど、俺だけしか手が空いてないって言うんで……やっぱりまずかったよな?」

「ぜ……ぜんぜんそんなことないよ!」

 

 なにやってんの(よくやった!!)母さん!!

 思わず迸る相反する心の声。

 あたふたとする私に、苦笑した彼はそのまま扉に手をかける。

 

「もう目が覚めたから大丈夫か?」

「う、うん! 大丈夫!!」

「それじゃあ、アルファ達も起こしてくるから」

「が、頑張って!」

 

 あ、朝からなんて心臓に悪い出来事が……!

 母さんの指金なのは分かっている。

 とりあえず、朝食を食べるべく下の階にいる母さんの元へ向かう。

 

「母さん……!」

 

 キッチンで全員分の朝食を作ってくれている母さんの姿を見つける。

 私の気配に気づいたのか、こちらを振り向いた母さんはにこりと穏やかに微笑んだ。

 

「あら、気に入ってくれたかしら? 私の粋な計らいは?」

「少しは誤魔化そうって努力をしてよ!」

 

 確信犯かよぉ!

 これ怒っても全然意味のないやつじゃん!

 

「ねえ、本当にやめて!? こういうの一番嫌なんだけど!」

「え? やめないわよ? 毎日やるわよ?」

「その宣言、どんな怪人の殺害予告よりも恐ろしいんだけど……!!」

 

 さっきの件を毎日とか別の意味で死んじゃう。

 最初に死ぬのは理性だと思う。

 すると、お皿に綺麗に焼いた卵焼きをのせた母さんは、私の肩に手を置く。

 

「きらら。貴女は奥手で恋愛漫画に夢見てる子だし、いざというときに尻込みしちゃう足が太い子だってのは分かっているけど」

「太くないよ!」

 

 人が一番気にしていることを……!

 私の反論に一瞬、きょとんとした母さんは私の下半身に視線を落とした後に手を横に振る。

 

「いやいや、その足で太くないは無理よ」

「なにが無理なの!?」

「昨今はそういうブームが来ているから追い風だと私は思うわよ?」

「嫌だよ、そんなブーム……」

 

 こんな朝早くに母親にセクハラされた娘は私が初めてだと思う。

 

「でも、これぐらいやらなきゃだめよ。大丈夫、貴女が口ではいいつつも役得だなって思っているのちゃんと分かってるから」

「余計性質悪いよ!?」

「朝から元気ねぇ」

「ねぇ、誰のせいだと思う!?」

 

 この破天荒極まりない母親のせいだということは確かだ。

 ちゃんとこちらの思考を分かっているあたり怖すぎる。

 

「貴女あれね、好きな子に恋人できたら悔しさを表に出さないで笑って送り出して、あとで無茶苦茶後悔に打ちひしがれて静かに泣くタイプね」

「娘になんてこというの……?」

「それで、結局その人よりいい人も見つからないまま、寂しい余生を———」

「娘になんてこというの!?」

 

 思わず二回同じツッコミをしてしまった……!

 くっ、うぅ、自分でもそうなりそうなのが分かって辛くなってきた……!

 

「大丈夫、その時はね。———相手から奪っちゃえばいいのよ」

「うちの家族って真っ白なのか真っ黒なのか分からなくなってくるんだけど」

「最悪、二番目でもいいわよ?」

「親なら止めてよ!?」

 

 ものすごく軽いノリで壮絶なことを言われた気がする。

 なんだか後になって思い出しそうなので今は忘れておこう。

 すると、リビングに眠そうに目をこするアルファちゃんと、コウタをだっこし、ななかを背中にしがみつかせたカツミ君が入ってくる。

 

「起こしてきました」

「ありがとうね。もう、カツミ君起きるの早くて助かるわぁ。明日もお願いしてもいいかしら?」

「え、ええ。分かりました」

 

 微笑みながら明日も起こすことを確約させる母さんに戦慄するのだった。

 


 

 

 当然、私は昼間に学校に行かなくてはならない。

 その間、カツミ君の動向が分からないままだけど、そこは意外にもアルファちゃんが協力的だった。

 

『どちらにせよ、いつかはバレるのは分かってるし。それならまだここの方がいいから……』

 

 アルファちゃんも家の雰囲気が嫌というわけじゃないようだ。

 外出はするようだけど、連絡はしてくれるといってくれたのでとりあえずは安心できる。

 問題は……。

 

「アカネと葵にバレないようにしなくちゃ……」

 

 登校し、教室の椅子についた私は思い悩む。

 幸い、アカネは別のクラス、葵はそもそも学年そのものが違うので学校内ではバレる可能性は低いのだが、それ以外はそうはいかない。

 もしバレたら……。

 

『私たち友達だよね?』

『どうやら私たちは“親友”のようだ』

 

 と、友人であることをダシにしてカツミ君との接触を図ろうとするはずだ。

 さらにその上で黙っていた私に制裁を加えてだ。

 あの二人ならば、確実にやる。

 だって私もそうするから……!

 

「きーららっ! おはよう!」

「えあ? あ、おはよう」

 

 不意にされた挨拶を返すと、目の前にはクラスの友達、此花(このはな)灰瑠(はいる)がにへら、としたしまりのない笑顔を浮かべている。

 ジャスティスクルセイダーとは関係のない友人である彼女の登場に、肩の力を抜きながら応対する。

 

「学校、普通に再開してよかったね!」

「そうだね。しばらく休校するかと思ったよ」

「休みになるなら私はそれでもよかったけどね!」

 

 いや、さすがにこの時期に休校とかシャレにならないよ。

 ここは、カツミ君……穂村克己が在籍している学校だ。

 当然、それを突き止めた報道関係の人たちが学校に押しかけてきたのだが……なんというべきか、それはあっさりと収まった。

 

「あのインタビューの動画も上がっちゃってるし、マスコミも世間のバッシングを避けたいだろうねぇ」

「情報化社会って怖いよね」

 

 あの夜から、多くの情報がネットに広まってしまった。

 カツミ君の過去、素性など、事実から嘘までも周知のものになってしまったけど、その中で動画サイトに挙げられたあの———彼が過去に受けたインタビューの動画により、マスコミに対する批判が強くなってしまった。

 なので、今強引なインタビューや報道などをすれば割とシャレにならない事態に発展しかねないのだ。

 ……まあ、それほど黒騎士……カツミ君に同情が集まっているともいえるのだけど。

 

「まさか穂村君が黒騎士だなんてびっくりだよ!」

「え、知り合いなの?」

「同じクラスだったよ?」

「え?」

「隣の席だったよ?」

「え!?」

 

 なにそれ初耳。

 まさかの事実に食い気味になる。

 

「穂村君はねぇ。いっつも眠そうにしてた」

「そうなの?」

「うん。あと、幽霊でも見えているのか、ときどき煩わしそうに何もないところに手を振ったりしてたよ」

 

 

 アルファも学校にも来てた疑惑。

 誰にも認識されないことをいいことに好き放題してたんだね……。

 

「ハイルは彼のことどう思った?」

「んー、いいひと?」

「そんな4歳児みたいな感想……?」

 

 この子はこういう性格なのは分かるがもっとないのだろうか?

 

「でも勿体なかったな」

「なにが?」

「もっと穂村君と話しておけばよかったなってー」

「それって不純な動機じゃないよね?」

「……三割くらいあるかな?」

 

 おい。

 なんだかんだで私たちは彼が学校に通っていた時の顔を情報でしか知らない。

 ……もしかしたらもう二度とそんな一面を見ることがないかもしれないと考えると、胸が締め付けられるような思いに駆られてしまうのであった。

 

 


 

 放課後。

 学校も終わり、私はいつも通りアカネと葵と合流してジャスティスクルセイダー本部へと向かうことになった。

 正直、ボロを出さないように気を配らなければならないが、話題を避け普通に話していれば気取られることもない。

 

「分かってたけど、カツミ君……見つからないね」

「社長もお手上げらしいし、今は待つしかないかもね」

 

 事情を知っている社長が、アカネと葵に気取られないようにカツミ君の捜索状況を説明した。

 彼が私の家に住んでいるということを知っているのは一部のスタッフさん達のみで、白川ちゃんとシロには知らされていない。

 

「いつか記憶は戻るらしいし、ここは下手に取り乱さないようにしなくちゃ」

 

 健気な様子を見せているアカネも事実を知れば、ポン刀を持ちださんばかりの威圧感を放ってくるからね。

 ここで油断するようならジャスティスクルセイダーのイエローは務まらない。

 

「きららってさ将来的になにになりたいの?」

「うーん?」

 

 いつの間にか話題は進路や将来のことについて変わっていたようだ。

 将来……将来かぁぁ。

 

「正直決めてないかなぁ。アカネは?」

「私も。なんか未来のことより今の方が大変だからそこまで考えが回らない感じ」

「分かる」

 

 ほぼ溜まり場と化しているカツミ君がいた独房で時間を潰していると、話題は将来に移る。

 大学に進むつもりではあるけど、アカネのいう通り今が大変すぎるので想像もできない。

 ……そもそも侵略者共のせいで受験自体がオジャンになる可能性が出てきたのが怖すぎる。

 

「社長はここで雇ってくれるって言ってるけど、ねぇ」

「願ってもないけど、それはそれでちゃんと大学は通っておきたいって思いもあるよね」

 

 いつかはジャスティスクルセイダーが必要なくなる世界がやってくる。

 そのために戦っているわけだが、その後も当然私たちも生きていくわけだ。

 

「三年の二人は大変だね」

 

 ぽちぽちと、携帯ゲーム機で遊んでる葵にじとーっとした視線を向ける。

 葵はなんかそういう危機感とかまるでないんだよね。

 まあ、それは彼女の実家が関係しているんだろうけど。

 

「私の家、神社だから最悪そっち継げばいいし」

「いつ聞いても葵の実家に耳を疑うよね」

「理系となんの関わりもないからね」

 

 この似非後輩の実家が神社だという事実は驚愕でしかない。

 実は理系オカルトパワーって、神道パワーだったりしないのかな……?

 

「ほら、私って本気を出すと属性過多になっちゃうし」

「どういう心配……?」

「クール系巫女服後輩ってもう種族値からして600族オーバーだから。惨殺系レッドキング侍と、ノーマル系似非関西弁ビッグボインとつり合いが取れないでしょ?」

「言ってることの半分が理解できなかったけど、とりあえず殴っていい?」

 

 笑顔のまま拳を固めるアカネ。

 危機感を抱いたのか、葵は携帯ゲーム機を翻し構える。

 

「荒事はポケモンバトルで決めるって約束でしょ?」

「そんな約束一度たりともしてないししないよ! 葵は変なポケモンしか使わないからバトルしたくない!!」

「今、私のヤミラミを変なポケモンって言った? 出せよ、テメーのポケモン……!」

 

 こういうのって性格がよく出るよね……。

 ポケモンしかり、スマブラしかり。

 そういえば、昨日カツミ君はスマブラでガノンドルフを使ってたなぁ。

 ななかもコウタとも遊んでくれていたし、記憶が戻らなくてもやっぱりカツミ君はカツミ君だった。

 

「きらら、どうしたの?」

「ん?」

「なんか遠い目してた」

 

 葵の声に我に返る。

 あれ? ついさっきまでアカネとポケモンバトルをしてたんじゃ……。

 

「う、うぅ、私のポケモンたち……」

「もう倒したの……?」

「うん。初手エースを“オルガ”って名付けたいのちがけアギルダーで結構当たんじゃねぇかしてやった」

「鬼か」

「あと、アカネが手持ちポケモンを全部メスで統一しているのは知ってたから、メロメロヤミラミでメタって完封した」

「鬼か」

「ちなみに、ヤミラミの名前を“くろきしくん”にすることでアカネに精神的なダメージを与えてやった」

「鬼か!!」

 

 鬼畜の所業すぎる。

 想像以上の酷いバトルにドン引きする。

 

「きらら、なにか隠してる?」

「え、隠してないよ?」

「……ふぅん」

 

 胡乱な目で私を見た後に、再びゲームに意識を向ける葵。

 せ、セーフ? ものすごい不意打ち気味に尋ねられてびっくりしたんだけど。

 

「なんか、きらら、カツミ君……あっ、先輩が見つかってないのに元気そうなんだよね」

「そんなことないけど。そういう葵もゲームやってて平気そうなんだけど」

「私のボックス内のポケモンのニックネーム見てみる?」

「深淵に引きずり込まれそうだからやめておく……」

 

 ヤミラミにくろきしくんと名付ける人のボックスなんて見たくないわ。

 

「たしかに葵のいう通り、余裕あるよね」

 

 ここでアカネも便乗してきた……!?

 やばい、ちょっと怪しまれているかもしれない。

 

「いやいや、余裕なんてないよ。でもカツミ君が消えるのは初めてじゃないし……」

「……確かに。なーんか、今日のきららおかしいように見えたから。直感だけど」

「私の理系シックスセンスが囁くものだから……ごめんね?」

 

 こいつら怖ぁ……!?

 なんでナチュラルに感覚で私が嘘をついていることを感づいているの?

 しかも気づいたら私が一番出口から遠い位置に座らされているし……。

 

「あ、今度きららのうちに遊びに行こうかな」

「なんでぇ!?」

「え? いや、なんとなくだけど」

 

 そのなんとなくがピンポイントすぎるんだよ!?

 今、私の家に二人が遊びにきたらカツミ君のこともそうだけど、うちでもっと何をするか分からない母さんが暴走するかもしれないから怖すぎる。

 

「じゃあ、今度の休みあたりどう?」

「私、美味しいお菓子持っていく」

「え、え……で、でもぉ……」

 

 既に何回かアカネと葵はうちに遊びに来ているからここで断るのは不自然すぎる……!!

 ここでいったんオーケーして当日に家族とカツミ君たちには外出してもらうか!?

 いや、この超感覚モンスター共はなにかしらの手段で、カツミ君がいたことを把握してもおかしくない……!?

 

「それとも」

「なにか隠したいことでもあるの?」

 

 そもそもこいつら私が隠していることを確かめにこようとしている!?

 下手をしなくてもピンチに陥っていると、部屋の扉が開き誰か入ってくる。

 

「あれ、三人ともいたんだ……」

「白川ちゃん?」

 

 頭に小さいメカオオカミのシロをのせた白川ちゃんが入ってくる。

 目の下にうっすらと隈もできており、疲れているのが分かる。

 

「白川ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも……かっつんが見つかっていないし。ご飯も三杯しかおかわりできてない……」

「十分多いと思うのは気のせいかな……?」

 

 それで少ないとか普段どれだけ食べているのだろうか。

 

「私もうだめかもしれない……」

 

 そう言ってベッドに倒れた白川ちゃんは数秒ほどで眠りにおちてしまう。

 相当疲れていたんだなと思いつつ、彼女に布団をかける。

 

「……」

 

 白川ちゃんには教えておいた方がいいかもしれない。

 目の前の狼どもとは違って白川ちゃんは無害そうだし、あとで社長にかけあってみようか。

 

「ガウ」

「ん?」

 

 すると、いつのまにかテーブルの上に飛び乗ったシロがジッと私を見上げていることに気づく。

 くんくん、と鼻先を揺らして首を傾げたシロは、そのまま何もせずにちょこんとその場に座り、変わらず私を見上げている。

 ……も、もしかして嗅覚とかもオオカミ並み……?

 き、気づかれた? で、でもなにもしてこないし……。

 

「で、さっきの話の続きだけれど……」

「私たちに隠し事とか、水臭いじゃん。……ねえ?」

 

 うぐっ……結局、一難も去ってない状況なことを思い出した……!

 規則正しい寝息を立てる白川ちゃんを他所に、妙な迫力を放ち始める二人に追いつめられる。

 くっ、このまま屈するしかないのか……!!

 

「お、お前たち!! 朗報だァ——!!」

「「「!!」」」

 

 色々と覚悟したその時、部屋に社長がやってくる。

 追いつめられた私を見て、フォローに来てくれたのか……!!

 息を乱しながら部屋に入ってきた彼は、驚きの表情を浮かべるアカネと葵の方を向く。

 

「カツミ君の手がかりを見つけたぞぉ!!」

「え、ど、どこですか!?」

「え!? あ、えーと、メ、メルボルンだ!!」

「本当にどこなんですか!?」

 

 咄嗟に思いつかないから適当な国を言った感がすごいんだけど。

 

「アカネ、メルボルンはオーストラリア南東部に存在する都市だよ。常識でしょ?」

「そんな意味不明な知識マウントとられたの初めてだよ!! って、ええぇ!? カツミ君、海外にいるんですか!?」

「あ、ああ!! しかし、各地を転々と移動しているようでな!! まだ詳しい足取りはつかめていないのだ!!」

 

 なにはともあれ、これで話題は私からカツミ君の所在へと変わってくれたようだ。

 私も表向きは驚きながら安堵に胸を撫でおろしていると、ふと鞄の中にあるスマホが鳴っていることに気づく。

 

「ん? 母さんかな?」

 

 スマホを取り出すために鞄を開けると———そこには、着信を鳴らすスマホの隣に座るシロと目が合う。

 

「……あの、なんで私のカバンに入り込んでいるの?」

「ガウ」

「……もしかして、バレた?」

 

 こくりと頷くシロ。

 これは、観念するしかない。

 アカネと葵にバレなかっただけでも御の字というものだ……!

 




ブルーの実家については感想欄を見た瞬間に決めました(白状)
ブルーにどんどん属性が追加されていく……。




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カツミ、未知との遭遇

お待たせしました。
主人公視点となります。


 天塚家になし崩し的に居候させてもらうことになってしまった。

 さすがにお世話になるのは悪いとは思ったのだが、思いのほか天塚家の両親の押しが強く、なによりななかと、弟のコウタが引き留めるので頷いてしまったわけだ。

 家族に苦手意識を持っていた自分がすんなりと頷いてしまったことに、正直自分でも驚いた。

 いつもの俺なら断るはずだったのに。

 もしかして、この三年間の空白の記憶の中で俺は変わることができたのだろうか?

 自分の意識と、無意識の乖離を不思議に思いながら、俺はまた天塚家で朝を迎えることになった。

 

「……なにやってんだか、俺は……」

 

 強い要望もあって俺はコウタの部屋に布団を敷いてもらい、寝かせてもらっているわけだが未だに慣れない。

 朝の6時に目を覚まし身体を起こした俺は額を手で押さえながら、頭の中に思い浮かんでは消えていく記憶の断片を整理する。

 

「きらら、か」

 

 天塚きらら。

 俺は彼女を知っていた。

 どうして知っているのかは分からないが、悪い人間ではない。

 むしろ近しい、友人のような親近感を抱かせることに、最初は戸惑いを覚えた。

 

「はぁぁ……」

『カツミ、おはようっ!』

「ああ、おはよう。プロト」

 

 いつの間にか喋るようになっていたプロトに返事を返しながら、プロトチェンジャーを手首につけ布団をたたんだ後に立ち上がる。

 

「ガウ!」

「ん? ああ、起こしにきてくれたのか」

 

 すると、足元から白いオオカミが鳴く。

 先日、きららがどこからか持ってきた喋るオオカミの玩具。

 シロと呼ばれたそいつは、俺を見上げるともう一度呼ぶように吠えてくる。

 

「ガウ! ガウガウ!」

「あまり騒がないでくれないか? コウタが起きるから」

「クゥーン……」

「いや、落ち込むなよ……」

 

 本当にリアルな反応を返してくれるな。

 昨今の玩具はこんなにすごいのか……。

 すると、寝ぼけたコウタが布団から手を伸ばして、シロを掴むとそのまま抱き寄せる。

 

「が、ガウ!? ガーウ!」

「……微笑ましいな」

『ゴメンね、シロ……』

 

 とりあえず、俺はそろそろ起きるか。

 わちゃわちゃと動くシロに静かにするように言ってから俺はリビングへと移動する。

 

「おはようございます。コヨミさん」

 

 エプロンを着て朝食と弁当を作っている女性、コヨミさん。

 きらら達の母親であり、驚くほどあっさりと俺たちの居候を認めてくれた人でもある。

 

「あら、おはよう、カツミ君。いつも早いわねぇ」

「最近はよく眠れているので」

 

 ……いつも見ていた悪夢も、ぴたりと見なくなったしな。

 これも記憶を失う前の俺が関係しているのだろうか。

 まだきらら達を起こす時間ではないので、コヨミさんに促され朝食の席へと座る。

 

「む、おはよう。カツミ君」

「おはようございます。今日は早いですね。オウマさん」

「全く、前に言っただろう……」

 

 軽くため息をついた天塚家の亭主、オウマさんは新聞を折りたたむ。

 

「——お義父さんでいいと」

「さすがに飛躍しすぎでは……?」

 

 初対面からそう呼ぶように言われているがさすがに気恥ずかしいものがある。

 何よりその時はきららが思いっきり、オウマさんの背中をどつくという衝撃的な光景を見てしまった。

 

「時にカツミ君」

「はい?」

「男とは常に選択を強いられる生き物だ」

「はぁ……」

「しかし、選べない選択というものが人生に一度……いや、結構あることもある」

「結構あるんですね……」

 

 突然なんの話だろうか?

 すごく低い声で話すもんだから大事な話だと錯覚してしまう。

 

「そういう時はな、逆に考えるんだ。……全部選んじゃってもいいんだと」

「いや、普通に駄目だと思うんですけど」

「私は許そう」

「何を……?」

 

 謎の許可を得てしまったことに困惑しかない。

 天塚家に住む家族はちょっと変わり者揃いだ。

 しかし、その空気に妙になじんでしまったことを自覚しながら、俺はきらら達を起こしに二階へ上がるのだった。

 

 

 

 きらら達が学校に向かった後、俺とアルファは一週間ぶりに外へ出ることになった。

 極力アルファの認識改編を使わないようにするためにフードを被って家を出ようとすると———、

 

『そんな変装で外にいくなんて駄目じゃない……! 二人とも、服貸してあげるからそれを着なさい……!』

 

 と、まあコヨミさんに半ば強引に服を貸してもらい着ることになってしまった。

 俺の服はオウマさんの、アルファの服はきららから貸してもらったものだ。

 

「きららの服、大きい」

「薄目で見ると男っぽいな」

 

 大きめのトレーナーに、長い黒髪まとめてその上から帽子をかぶったアルファは、前ポケットに手を差し込みながらやや不満げな声を上げる。

 こういうのを何というのか? ボーイッシュとでも言うのかな?

 

「そういうカツミは女装させられそうだったね……」

「ウィッグを持ってこられたあたりで嫌な予感がしてたからな」

 

 ハロウィン用とか言ってたけど、なぜウィッグなんてものがあるんだ。

 俺、どう取り繕っても男なのに女装なんてしたら余計に悪目立ちしてしまうじゃん……。

 なんとか説得してオウマさんの服を借りることで落ち着いたけれども。

 

「で、アルファ、出かけるっつったってどこに行くんだよ」

「サーサナスっていう喫茶店だよ」

「喫茶店? なんで?」

 

 こいつ喫茶店になんか行く趣味あったのか?

 どこにいくにもとことこついてくるだけで、そういう店とか行かないばかりだと思っていたんだが。

 

「記憶喪失になってたカツミがバイトしてたところ。少し前に認識改編をしてカツミがそこで働いてる認識を変えておいたの」

「……じゃあ、雇ってくれた人も俺のこと忘れてるんじゃないか?」

「ううん。その人の記憶は改変してないから大丈夫」

 

 ……ということは、それなりに俺の事情を知っていたってことか?

 アルファも信頼しているようだし、ちょっと気になるな。

 

「俺はどんな風に働いてた」

「笑顔、人当たりのいい好青年、スマイル」

「……」

 

 それはきっと俺じゃねぇ……!

 しかし記憶の中ではそれっぽい記憶もあるのは事実。

 というより、料理すらも作っていたことに自分で驚いたわ。

 

 電車を乗り継ぎ、その喫茶店があると思われる街に移動する。

 そのままアルファについていき喫茶店のある場所へと向かうが……変装の甲斐あってかまだバレていないようだ。

 

「あ、カツミ、あそこだよっ」

「……やってるな」

 

 普通に営業してる。

 俺のせいで閉まっていたなんてことになっていなくてよかった。

 

「とりあえず入ってみよう」

「お、おう」

 

 アルファに促されるままに喫茶店の扉を開き、中に入る。

 イメージとしては明るいバーといった感じだろうか?

 窓際に二人用のテーブルがいくつも並び、ほのかなコーヒーの香りが漂ってくる落ち着いた雰囲気の店だ。

 

「ここがそうなのか?」

「うん。変わってなくて安心したよ。マスターもいるはずだけど……」

 

 すると、厨房と思わしき扉が開かれ小走りで誰かがこちらに駆け寄ってくる。

 真ん中にライオンの柄が描かれたエプロンを着た“少女”は俺とアルファの前で立ち止まると———、

 

「いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!!」

「「……」」

 

 ものすごいぎこちない笑みを浮かべて俺たちを出迎えた。

 ぴしり、とウェイターと思わしき少女が固まり、妙な沈黙が店の中を支配する。

 緑色の髪の変わった子だな。

 まさか、俺の記憶がないこの三年の間にファッションとかそういうブームに大きな変化が生じているのか……?

 

「ハッ!? お、おおお、お前……!?」

「ん? 俺?」

 

 我に返った少女が俺を指さしながらわなわなと震える。

 もしかして変装を見破られたのか……?

 

「う、うわああああ!?」

 

 そのまま赤くなった顔を抑え、少女はそのまま店の奥の方へ引っ込んでいってしまった。

 

「……あれがマスター?」

「違うけど、新しく雇った子かな? マスターは男の人だよ。多分、カツミも知ってる人」

「俺?」

 

 自慢ではないが俺の交友関係は限りなく狭い。

 学校でも基本話す相手が隣の席の此花(このはな)しかいなかったからな。

 

「おいおい、客目の前にしてあいつどこに行ってんだよまったく……って、んん?」

 

 気だるそうな様子で出てきたのは30代ほどの男。

 バーテンダーのような黒と白の服を着た男は、こちらを見ると目を丸くさせる。

 俺は、その男が誰なのか知っていた。

 

「新藤さん? ここでなにやってるんですか?」

 

 マグマ怪人と一緒に戦った自衛隊の人たちの一人。

 最後、ヘリに乗っていた彼がどうして喫茶店のマスターを……?

 

「……やっぱ記憶が戻ってんのか。つーか、それはこっちのセリフだ」

「え、俺ってここでバイトしていたんですか?」

「まあ、そうだな。……とりあえず座ったらどうだ?」

 

 知り合いって言ってたけど、まさかこの人だとは思いもしなかった。

 新藤さんに促されるままに席に座ると、彼は俺たちにコーヒーを差し出してくれる。

 

「あの子はどうしたの? 新しく雇ったの?」

「あー……そう、だな。お前らがいなくなったんで雇ったんだよ。まあ、さっきの様を見ればまだまだなのは分かるが」

 

 俺の顔を見るなり逃げるってある意味ショックだよな……。

 

「あいつのことは気にしなくていい。それよりお前、記憶はどこまで思い出してんだ?」

「俺が白川克樹だった頃のことは全く」

「記憶喪失になって思い出したと思ったら、また記憶喪失か。難儀な人生を送ってんなぁ、お前も」

 

 もしかして俺だって知っていて雇ってくれていたのか

 でも正体は明かしていないし、もしかしてアルファが?

 

「んで、白川には会ったのか?」

「白川? 俺?」

「いや、お前の姉だよ。まあ、義理ってのは知っているが……」

 

 記憶の中にいる姉のことか。

 記憶を失っていた俺の姉を名乗っていたことには別に怒ってはいないが……俺の中で会うべきだって思いもある。

 

「アルファ、場所は知ってるか?」

「知ってるけど……」

「じゃあ、近いうちに会いに行くか。お腹を空かせていないか心配だから……ッ」

 

 また自然に口が動いた。

 こういう自分でもよく分からない言葉が気持ち悪い。

 

「ま、お前らのことは誰にも言わねぇよ」

「ありがとうございます」

「おう、ついでに飯も食っていけ。金はいらねぇからよ」

「え、でも……」

 

 さすがにそれは悪いと口にしようとすると、新藤さんは手を軽く振る。

 

「俺たちはお前に恩があるからな。気にすんな」

「新藤さん……」

 

 厨房のある部屋へと入っていく彼を見送り、自分の手を見つめる。

 未だに俺の記憶はばらばらのままだ。

 名前も分からないやつもいるし、見覚えのない怪人を倒している記憶もある。

 

「完全に思い出してぇが……」

 

 それを思い出したら俺はいったいどうなってしまうのだろうか。

 白川克樹としての記憶と、穂村克己としての記憶を思い出して、何も起こらないはずがない。

 

「はぁ……。……ッ!」

「どうしたの? カツミ、いきなり立ち上がって」

 

 なにか、近くにいるな。

 粘りつくような悪意。

 怪人に襲撃されるときと同じ悪寒を感じ取った俺は、手元のチェンジャーを確認しながらアルファに声をかける。

 

「アルファ、ここを認識改変で“隠せ”」

「! 分かった」

「カツミは?」

「外の奴らを片付けてくる」

 

 外に出るなりこれとか……。

 ため息をつきながら店を出る。

 平日だからか、人の通りはほとんどない道を進む。

 

「……」

 

 目前の曲がり角を早足で進み、背後を振り向くと同時に俺の後をついてきていた奴の腕を掴む。

 「うわっ」という高い声が聞こえ、その緑の髪が見えると俺は思わず呆気にとられた顔になってしまう。

 

「……お前はさっきのへなちょこ店員」

「だ、誰がへなちょこだ!!」

 

 新藤さんの店で雇われていた緑髪の少女。

 いや、こいつは店を出た俺についてきただけで、店の近くにいたのはこいつじゃない……!

 

「お目にかかれて光栄だ。黒騎士」

 

 逆方向からの声。

 そちらを振り向くと先ほどまで誰もいなかった場所に、ジャスティスクルセイダーのようなスーツを身にまとった二人の戦士が立っていた。

 赤いスーツの男と青いスーツの男だ。

 

「……。お前らか、気持ち悪い視線を寄越してきたのは」

「星将序列11位“星界戦隊 モータルレッドだ”」

「———」

「で、隣の彼が同じく序列12位、モータルブルー。よろしくなっ!」

 

 ……二人だけか? 随分と中途半端な戦隊野郎どもだな。

 どこかに後三人隠れているのか?

 

「せ、星界戦隊……!? あのイカレ共が地球にいるのか……!?」

「お前、知ってんのか?」

「ハッ、い、いや、全然知らない。あんな奴ら、見たこともないぞ!」

 

 ……知っているっぽいなぁ。

 こいつも何かしら事情がありそうだが、まずは目の前の二人からだ。

 

「君が噂の黒騎士かぁ。評判はよく聞いている!」

「……」

「いやはや、他のメンバーが遅すぎて待ちきれずに会いに来てしまったよ!」

「……」

 

ARE YOU READY(準備はいい?)? 』

NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

 

 耳障りな声を全て無視して、問答無用で変身を行う。

 目の前の二人が警戒すると同時に俺の体をスーツが覆っていく。

 

TYPE 1! ACCELERATION!!(行こう! 至高のその先に!!)

 

EVOLUTION!!(進化!!)

STRONG!!(最強!!)

INVINCIBLE(無敵!!)!!』

SUPER(最高!!)!!』

 

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

 

 胸に刻み込まれる“1”の数字。

 進化したプロトスーツを纏った俺に、モータルレッドは若干の驚きの籠った声を上げる。

 

「君と俺たちがここで戦えば周囲がどれだけ破壊されるだろうね! 君は正義のヒーローなんだろ! それじゃあ、駄———」

 

 すれ違いざまにモータルレッドと名乗ったお喋り野郎の頭を手刀で落とす。

 一瞬遅れてレッドの首が落とされたことに気づいたモータルブルーの胸に拳を打ち込み、絶命させる。

 

「なら、壊される前にぶっ倒せばいいだけだろ」

「……これが、黒騎士……序列上位が、こんな簡単に……」

 

 二体の怪人の死体の傍にいる俺を呆然と見ている緑髪の少女。

 攻撃はさせてないが、一応怪我の有無だけは聞いておくか。

 

「怪我はなかったか?」

「あ、ああ……」

「まったく、なんだよ星将とか意味わかんね。……いや、待て」

 

 もう一度地面に倒れ伏したモータル共の死体を見ると、一瞬のノイズと共にそいつらは機械仕掛けの人形へと変わる。

 

「さすがだ! さすがすぎるよ! 黒騎士!!」

 

 上からの声に目を向けると、先ほど始末したはずのモータルレッドとブルーが現れる。

 空を飛ぶボードのようなものに乗った二人は、こちらを見下ろすと先ほどと変わらない調子で話し始めた。

 

「こんな簡単に俺たちの素体が殺されるだなんて思いもしなかった!」

「……」

「しかも成す術もなく……ああ、これだ! まさしく君は俺たちが求めてきた宿敵だ!」

「はぁ?」

 

 何言ってんだこいつ。

 宿敵だとか頭おかしいんじゃねぇか?

 

「この星でもそうなのだろう? ヒーローには宿敵が必要だと! つまり君が俺たち五人が力を合わす敵だ!! そうだろう? ブルー!」

Aa…… Aa…… MOU IYADA OWARASETEKURE

「そうか! 君もそういってくれてうれしいよ!!」

 

 ヒーローだと?

 まあ、俺はワルモノだから宿敵扱いされても別にどうとも思わんが、こいつが自分をヒーローと名乗ったことに妙な憤りを抱いた。

 少なくとも俺の知るヒーローはそんなことを自分で口にしたりはしない。

 必要としていたのは宿敵ではなく、平和な……誰もが笑って生きていける日常だったはずだ。

 

「今回はその前哨戦! 敗北を喫した俺たちが次の戦いへの糧にするための戦いだ!」

「……負け犬根性が染みついた似非戦隊どもが」

 

 建物を蹴り上がり、一瞬でモータルレッドの頭上へ移動する。

 いちいち反応が遅い、レッドの頭に蹴りを叩きこみ人のいない道路へとその体を叩きつける。

 

「ぐばッ!?」

「五人そろえば強いとか、そういう能力かもしれねぇが……」

 

 最初から二人で来る馬鹿ども相手に手加減をしてやる理由はない。

 再び空中を蹴り、呆然と上を見上げていた緑髪の少女の近くに着地する。

 

「おい、へなちょこ店員。お前、名前は?」

「え? ぼ、ボクはコス……い、いや、こ……小翠(こみどり) (そら)、だ」

 

 こみどりそら、か。

 変わった名前だな。

 

「ソラ、今から俺はこいつらをここから遠ざけるが、周りに被害が出ないとも言えない」

「あ、ああ」

「だから、お前が避難させろ」

「うぇ!?」

 

 返事を待たずに地面を蹴り、モータル共が叩きつけられた道路の傍へと移動する。

 移動により生じた風で砂煙をかき消すと、ひび割れた道路の真ん中にボロボロの姿のブルーと、無傷のレッドが立っていた。

 

「圧倒的な強さだな! これほどの強さの敵は今までに見たことがない!!」

「仲間を盾にしたのか」

「いや? いやいやいや、それは違うよ! 彼は身を挺して俺を守ってくれたんだ!!」

 

 ここまで来ると不気味だ。

 こいつの本体は別にあるのか?

 だとすればこの余裕に納得がいく。

 

「だからこそ俺は諦めない!! 例えこの五体が四散しようともお前に一矢報いてやる!!」

「……茶番は終わりか?」

 

 どこか芝居がかった声にいら立ちを募らせながら、拳に力を籠める。

 本体がどこにいようが関係ない。

 何度も何度もぶん殴ってその精神ごと砕いてやる。

 

「———そこまでよ」

 

 赤色の剣を取り出したモータルレッドに、拳を叩きこもうとしたその時———ズガァンッ! という発射音と共に頭上から飛来した橙色の光を放つ何かがモータルレッドへと向けて連続で飛来してくる。

 

「あ?」

 

 それは“杭”。

 とてつもない熱量を内包したそれは、反応もできないモータルレッドの胴体と両腕を貫き、地面へと縫い付けてしまった。

 加えて、俺と奴を分断するように落下し、即席のバリケードすら作ってみせた。

 

「あが、ッ!?」

「ごめんなさいね。序列上位にこんなところで暴れられると、とても困るのよ」

「さ、サニー様……!?」

 

 地面に縫い付けられたモータルレッドの傍に降り立ったのは、橙色の戦士。

 大柄な体を覆う鎧の胴体は、まるで後ろから大きな翼に抱かれているかのような姿をしている。

その頭部も片目の部分も翼に覆い隠されており、唯一露出している右の複眼は青色の輝きを放っていた。

 特に目を引いたのは、右腕に取り付けられた杭打機のような武器。

 恐らく、あれで攻撃を行ったのだろうが……。

 

「本体に意識を戻しなさい。これは命令よ」

「……了解しました」

 

 地面に縫い付けられたモータルレッドの体から力が抜ける。

 奴が戦闘不能になったことは正直どうでもいい。

 問題は今、現れた奴だ。

 

『カツミ、あいつ……』

「ああ」

 

 発射音は一つ(・・)だった。

 にも拘わらず、モータルレッドを縫い付け、即席のバリケードを作り出した杭の本数は三十以上。

 なにより、目の前にいるだけで伝わる“圧”は似非レッドと比べるまでもなく強い。

 

「はぁっ、まったく……勝手なことばかりして困っちゃうわ。よりにもよって、ここで戦いを起こすなんて正気かしら」

「おい」

「あら? ごめんなさいね、蚊帳の外にしちゃって」

 

 こちらを振り向いた橙色の戦士は、右腕の杭打機のような武器を粒子へと変えて消し去るとおもむろにその両腕を上げた。

 

「敵意はないわ」

 

 降参するように武器を消した男に俺も拳を下ろす。

 

「あら? 信じるの?」

「あんた強いだろ。それに、敵意もない」

 

 さすがに変身は解かないが。

 しかし、本当に強いなこの人。

 まともに戦えば、周囲の被害どころじゃないだろ。

 

「あんた誰だ」

「フフ、サニーよ。ま、記憶を失う前の貴方には名乗ったんだけどね」

 

 そう口にするとサニーと名乗った男の腕に取り付けられた何かが外れ、橙色の機械の鳥へと変形する。

 それと同時に彼の身体の鎧が解除され、中から大柄な男性が出てくる。

 

「……っ!?」

「ちょっと!? 変身を解除したのに、もっと警戒するって失礼じゃない!?」

「怪物!?」

「乙女よ」

「オカマ……!?」

「乙女よッッ!!」

 

 おとめ……?

 思わず構えかけた拳を下ろすと、サニーは気やすい様子で俺に近づいてくる。

 

「とりあえず、ここを離れましょう? 貴方も騒ぎはごめんよね?」

「あ、ああ」

 

 妙に馴れ馴れしくて調子が崩れるな……本当に敵かこいつ?

 若干距離を取りつつ変身を解く。

 さすがにこれだけの戦闘をしたら人も集まってくるだろうし、目の前の怪しい人の言う通りここを離れなければ。

 

「……どこに行くんだ」

「私の推しのいる喫茶店よ」

 

 ……。

 

「もしかして、サーサナスか?」

「ええ。私、そこのマスターにを盗まれちゃったの」

 

 新藤さん……まさかそっちの人だったのか……!?

 上機嫌な様子のサニーからさらに距離を取りながら、俺はマグマ怪人の時にお世話になった人の驚愕の真実に心底震えるしかなかった。

 




マスターとコスモちゃんに迫る乙女の脅威……!

モータル達も序列に見合う強さを持っているのですが相手が悪すぎました。
黒騎士君の瞬殺性能が高すぎる……。

一番好きなオカマキャラは『トライガン』に登場するエレンディラ・ザ・クリムゾンネイルさん。
強キャラすぎて好きです。




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戦う理由と変化(コスモ視点)

お待たせしてしまい申し訳ありません。
今回はコスモ視点となります。


 次元が違っていた。

 黒騎士としての力を取り戻した奴の力はボクの想像を遥かに超えるデタラメなものだった。

 星将序列上位を苦戦もなく一蹴してしまうその力。

 覆すことのできない暴虐の極致。

 まさしくそれは、ボクには決してたどり着けない境地そのもの。

 

「いつの間にか騒ぎも治まってるし、とりあえず戻るか」

 

 一応、黒騎士———穂村克己に言われたとおりに近隣に住む人間たちに危険を知らせている間に、いつの間にか事態は終わりを迎えていた。

 

「まったく、すぐに終わるんだったらボクに頼むなよな……もう」

『ガオォ!』

 

 ぴょん、と肩に飛び乗った青色のライオン、レオに視線を向けながら軽くため息をつく。

 他の侵略者の視線のことはボクも気づいてボクもレオと一緒にホムラを追いかけたわけだが、相手があの悪名高い星界戦隊だとは思いもしなかった。

 

「理想に敗れ、戦いに溺れた正義、か」

 

 星界戦隊。

 序列20位から11位に居座る五人の戦士。

 元は敵対組織だったらしいけれど序列八位に敗れた後は、どういうわけか星将序列に名を連ねることになった謎多き集団でもある。

 その所業は悪辣極まりなく、星を救う側だったそいつらは星という命を弄び、時には意味もなく侵略、蹂躙しその果てに歪みに歪んだ“正義”の名の元に粛清を下していた。

 

「ボクも、いずれはああなっていたかもしれない……よな?」

『ガーオ』

 

 力に溺れ、自分すらも見失いそうになっていたボクは、なんとか自分を取り戻すことができた。

 それはきっとボクだけの力では無理だったんだろう。

 変態……サニーの言葉に諭され、

 白騎士、白川克樹の行動に命を助けられ、

 シンドウに自分を見つめなおす時間をくれる居場所をもらった。

 

「自覚、せずには前に進めないよな……はぁ……」

 

 これまで信じていたルイン様に見捨てられ、生きる希望すらもなくなっていたはずなのに……ボクは今、こうして生きている。

 ただ一つ言えることは、今のボクには戦う目標も、理由もなにもないことだ。

 

「理不尽だらけだなぁ……」

 

 この目で黒騎士の力を見た今なら理解できる。

 ルイン様が求めていたのは盲目的な忠誠心なんかじゃなかった。

 絶対的な強さを持つあの方が求めていたものは、自身が本気で力を向けることのできる強い存在———それが、穂村克己だったんだ。

 

「本当に道化だったんだな、ボク」

 

 勝手に舞い上がって、一番の相棒のはずのレオに酷いことをして。

 挙句の果てに敵だった人間に助けられてしまった。

 父上が見たらなんと言うだろうか。

 

「なにより穂村克己がまさかシンドウと知り合いだった事実がなによりも理不尽だ……!」

 

 ま、まさか……助けてもらった礼を返すためにうぇいたーとやらを手伝ってやろうと思った矢先に、このボクの醜態を見せることになるなんて……!

 あいつ、しょっちゅう記憶喪失になったりするし、どうにかしてその時の記憶だけを消し去ることはできないだろうか。

 

「はぁ、とりあえず戻ろ……」

 

 気づけばサーサナスに到着したのは扉を開いて店の中に入いる。

 店内にはこの星のアルファと思われる黒髪の少女……というより、名前もそのまんまでアルファな少女がいた。

 

「克己? ……なんだ、違うんだ」

「悪かったな、穂村克己じゃなくて」

 

 露骨に残念そうな顔をされてしまった。

 こいつ、なんか失礼だな。

 思わずムッとした顔になっていると、店の奥からサンドイッチを乗せたお皿を持ったシンドウがやってくる。

 

「ほれ、サンドイッチでいいのか?」

「ありがとー。はじめて食べるんだよねー、これ」

「……? まあ、お代はいらねぇから」

 

 お皿を受け取り、頬を綻ばせながらサンドイッチを食べ始めるアルファ。

 その様子を確認したシンドウは、今度はボクを見る。

 

「どこほっつき歩いてたんだ?」

「……ちょっと、そこらへんに」

「……。まあ、とやかくは言わねぇよ。今度は奥に逃げ出すんじゃないぞ?」

「わ、分かってる」

 

 さっきのはまさかの最初の客が黒騎士だったからだ。

 それ以外ならきっと大丈夫だ。

 ……今度こそ、今度こそちゃんと応対してみせる……!

 すると丁度良く、背後の扉が開き鈴の音が鳴る。

 その音に即座に反応し、振り向くと同時に来客を出迎える。

 

「い、いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!」

 

 しかし———振り返った先にいたのは、橙色のシャツという派手な装いを身にまとった大柄な男、サニーと、つい先ほどまで戦っていた黒騎士、穂村克己であった。

 驚きに目を丸くする二人に、ボクは再び顔に熱がこもるのを感じる。 

 

「あ、おかえりー、克己」

「ッ!?」

 

 ホムラとアルファがそんな暢気なやり取りを交わすと、サニーが楽しそうな笑みを浮かべて親指を立てる。

 

「一皮剥けたわね……! その初々しさと照れの入った所作……嫌いじゃないわ!!」

「あ……え、あ……う、ぁぁ……」

 

 ボクは叫んだ。

 ついでに、シンドウも怪物に遭遇したように狼狽えた。

 

「テメェ、早速来やがったな、化物!!」

「久しぶりの開店だから来ちゃった。いつものお願いね」

 

 いや待て、シンドウはこいつと知り合いなのか!?

 割と親しそうな仲に見えるが、いったい……。

 

「なんでお前、ここ知っているんだ……?」

「なんでって、ここが私の推しのいるお店よ?」

 

 ……推し?

 思わずシンドウを見る。

 この店の推しといったら一人しかいないわけで……。

 

「シンドウ!? お前、こいつとデキてたのか!?」

「なんて悍ましいことを口にしやがんだ!? ねぇよ! そんな事実は存在しねぇ!!」

 

 まさかの事実に普通に引く。

 というより星将序列一桁に普通に好かれてるシンドウは何者なんだ?

 ある意味、最強の味方を手に入れていると同じなんだけど。

 

「ねえねえ、克己。これ美味しいよ?」

「……」

「なんで無視するの? ねえ、ねえってばー」

 

 無言で席に座ったホムラにアルファは必死に話しかけている。

 ……なんでこいつらこの状況でイチャついてんだ?

 なんかすっげぇ腹立たしいんだが。

 

「おい、カツキ……じゃなくて、カツミか。さっきから静かだがどうした? なんか飯でも作るか?」

「ああ、いえ、大丈夫です。その、新藤さん……」

「なんだよ?」

 

 どこか気まずい様子で視線を落としたホムラ。

 

「人の好みとか、そういうのは人それぞれなのは分かってますから……」

「おいオカマ野郎。どうやら俺はお前を葬らなければならないようだ……!」

 

 正体を隠しているとはいえ、宇宙でも上位に位置する実力者相手によく喧嘩を売りにいけるな……。

 当のサニーはそのやり取りさえ楽しそうにしている。

 

「恋する乙女は無敵で不滅、これは宇宙の共通認識なの。……やだこれ、割とシャレにならないくらい事実過ぎだったわ……」

 

 なんで自分で口にして狼狽えるという謎の反応を見せるんだ……?

 ……そもそもここにいるメンツが危なすぎる。

 黒騎士に、序列一桁の化物。

 変身したボクでさえ容易く一蹴できる怪物が揃っている。

 

「おい、コスモ。お前このオカマの話し相手になってくれ」

「え、嫌だよ。悍ましいし

「ねえ? 今、すっごい自然に私のこと悍ましいって言った?」

「それは同感だが、俺も注文を作らなきゃならねぇしな」

「流れるように同意もされたわ……!?」

 

 サニーにコーヒーを差し出した後に、厨房に引っ込むシンドウ。

 くっ、仕方ないか……ボクが恩返しのために自分から言い出したことだ。

 やるしかない。

 覚悟を決めてサニーと会話しようとすると、無言でホムラが立ち上がる。

 

「どうした? 帰るのか?」

「ソラ、少し離れてくれないか?」

「……ん? はぁ?」

 

 一瞬、自分が名乗った偽名で呼ばれたことに気づくが、離れろってなんでだ?

 言われたとおりにカウンターから離れると、元々悪い目つきをさらに鋭くさせた彼が———突然、隣に座っていた黒髪のアルファの首を掴んだ。

 

「あ、うぐ、か、克己……な、なにするの?」

「……」

 

 ……はい!?

 こ、こいついきなりなにやってんだ!?

 ボクが言うのはなんだけど、地球の常識的にもこれは駄目なんじゃないか!?

 

「お、おい、何やってんだよ!? サニー、止めろよ!」

「止める必要ないでしょ」

「はぁ!?」

 

 暢気にコーヒーを口にしているサニーに慌てた様子は見られない。

 なんでこっちは落ち着いているんだ!?

 さらに混乱するボクに、サニーは首を捕まれているアルファを指さし呆れたため息をついた。

 

「自業自得よ、自業自得。彼の逆鱗にわざわざ触れようとする方が悪いに決まってるわ」

「……悪い、オカマの星の言葉は分からないんだ。地球の言葉を喋ってくれないか?」

「オカマの星ってなによ!? 行けるなら行ってみたいわねぇ!?」

 

 それ言外に自分がオカマって認めているんじゃ……。

 いや、それよりもどうしてホムラが自分のアルファの首を掴んでいるんだ!?

 

「……どうして、こんなこと、するの?」

「お前、アルファをどこにやった……?」

 

 苦し気に、顔を赤らめたアルファ。

 僅かに引いた様子のホムラの言葉に、ボクも首を傾げる。

 

「私が、君のアルファだよ? ずっと一緒にいたのに、忘れたの?」

「違うだろ。見てくれだけ似せたくらいで俺があいつを間違うことは絶対にない」

 

 偽物……?

 苦し気に呻くが何も口にしないアルファに、業を煮やしたのか彼は服の袖を捲り変身用チェンジャーに指をかける。

 

「言わねぇなら、力づくで吐かせる。それが嫌なら本物のアルファの居場所を吐け」

「ふふふ……分かった。降参よ、こーさん!」

 

 口調を変え、明るい声で降参するように両手を掲げるアルファの姿を真似た誰かは、そのまま軽く指を鳴らすと何もない空間にワームホールを開き本物のアルファを出現させる。

 眠らされていたのか、そのまま床へ倒れかけた彼女をホムラが支える。

 

「アルファ、無事か? なにかされなかったか?」

「すぅ……すぅ……」

「心配しないで。ただ眠っているだけだからさ」

 

 解放され自由になったアルファに化けていた誰かは、変わらず無抵抗を強調するように両腕を上げている。

 しかしそれでもホムラの目には怒りが満ちている。

 

「信じられないかもしれないけど、私は敵じゃないわ」

「御託はいい。さっさと正体を現しやがれ」

「……ふふ」

 

 何者かの身体にノイズのようなものが走り、その姿が一瞬で変わる。

 黒髪のアルファを、そのまま成長させたような姿の女。

 唯一違う点を言えば、髪を後ろで結っているところだが、それ以外はほぼアルファとそっくりであった。

 

「本当に誰だ。お前、アルファみてぇな姿しやがって」

「当然よ」

 

 そいつは椅子にもう一度座る。

 そのままアルファを抱きしめるように支えているホムラに指を向けた。

 

「だってその子、私の娘みたいなものだもの」

「……は?」

「あ、でも正確にはもう一人の私? ようは成長する分裂体って感じね」

 

 目に見えて困惑するホムラ。

 にっこりと微笑んだ女はさらに言葉を投げかける。

 

「私は星将序列六位、アズっていうの」

「ぶっ!?」

 

 ろ、ろろろ、六位!?

 格上どころじゃない! 最早次元が違いすぎるほどに上位の存在がもう一人目の前にいた事実に、気絶しそうになる。

 しかも六位って誰も正体を知らないって噂のやつじゃないの!?

 

「そう構えないで、私は貴方の味方よ?」

「……」

「警戒されちゃったわねー。ま、無理もないか」

 

 依然として警戒を解かないホムラに肩を竦めるアズ。

 そんな彼らを見てため息をついたサニーは、仲裁するように間に割って入る。

 

「カツミちゃん。話は後にしない?」

「……あんたには聞きたいことがある」

「この胡散臭い女がいるところじゃ話もできないでしょ? ほら、これ私の連絡先、いつでも連絡していいからね♪」

 

 あらかじめ用意していたのか連絡先の記されたメモ用紙をホムラに手渡すサニー。

 アルファをおぶりながらそれを受け取った彼は、訝し気な様子でサニーを見る。

 

「あんたは、何がしたいんだ?」

「少なくとも貴方と敵対しようとは思っていないわ。一つの理由としては、そうね……この星とマスターのことが気に入っちゃったから?」

「……はぁ……今までぶん殴ってきた怪人とは違うのは分かった」

「今はその認識でいいわ」

 

 複雑そうな表情で頬を掻いたホムラはため息と共にボクへと振り返る。

 

「新藤さんに先に帰るって伝えてくれ」

「え、あ、ああ」

「それと……」

 

 じろり、とホムラが胡乱な目を向ける。

 

「お前の名前ってコスモなのか?」

「え!?」

「こいつとも顔見知りらしいし、なんか関係あんのか?」

 

 疑われている……!?

 別にバレても問題ないんだろうが……いや、白川克樹としての記憶が戻ったら色々面倒どころじゃない。

 少なくともあの恐ろしい赤い奴が襲い掛かってくる可能性があるのも怖い。

 

「コ、コスモはあだ名でこのオカマとは腐れ縁のようなもんだよ……!」

「……そうなのか? 疑って悪かったな」

 

 ボクが言うのもなんだけど騙されやすくないかこいつ。

 いや、第六位の変装を見破る時点で単純に騙されやすいというわけではないだろうが……天然なのか?

 

「じゃあねー、克己くん♪」

「……」

「やだ、無視されちゃった」

 

 アズを無視し、そのまま店を出ていくホムラ。

 そんな彼の後ろ姿を見送っていると、呆れた様子のサニーが未だに手を振っているアズの脳天にげんこつを叩きこんだ。

 

「いったぁーい!? なぁにするのよ!?」

「貴女の気まぐれもいい加減にしなさい」

 

 頭を押さえて涙目になるアズを見下ろしたサニーは、ため息をつきながら元居た席に戻る。

 

「だって話したかったんだもの」

「話すなら娘にでしょ」

「いえ、別にあの子に話すことはないんだけど? 私は死んだって思っているだろうし?」

「母親失格ね」

 

 サニーの棘のある言葉にアズは笑みを返しながら、組んだ手に顎を乗せる。

 

「母親というのはあくまで一番近い表現なだけよ。私は別に愛情を注いだわけでもないし、……強いて言うなら彼を支える存在を傍に置いておきたかっただけね」

「どこまで裏で手を引いているの?」

「それ以外は特に何もしてないわよ?」

 

 あっけらかんとした様子で首を横に振る彼女。

 

「あの子が克己という存在に引き寄せられたのも、オメガと見定めたのも、全てはあの子の意思。そこに私の力の一切が関与していないわ。その前は……そうね……」

 

 アズが明るい笑顔でサニーに振り返る。

 その無邪気な笑顔とは裏腹に、サニーの表情が険しさを増す。

 

「この地球のオメガを利用して、ルインを殺すための戦力を作ろうとしたくらいね」

「!?」

 

 ルイン様を殺す!?

 なんなんだこいつは!? 星将序列じゃないのか!?

 意味不明なアズの言動に驚くボクを他所に、サニーはもう一度彼女の頭にげんこつが叩きこまれる。

 頭を押さえて呻く彼女にサニーは、拳を鳴らす。

 

「それでも十分大それたことよ」

「だって、それが一番いいかなって思って。実際、序列上位レベルの怪人は沢山いたのよー? みーんな、克己に倒されちゃったけどっ!」

「もう一発、いっとく?」

「うげっ、さすがに痛いから逃げるわっ!」

 

 さすがにもうげんこつは食らいたくないのか、涙目になったアズがその場から一瞬で消える。

 いつの間にかボクとサニーの二人だけになってしまった店内だが、不意にサニーが肩を落とす。

 

「全く、あの女狐、見破られなかったら成り代わるつもりでいたわね……。油断も隙もあったものじゃないわ」

「……」

「ごめんね。コスモちゃん、こっちだけの話しちゃって」

 

 こいつらが分からない。

 ルイン様の敵なのか? いったい何がしたいんだ?

 返事を返せないボクにサニーは続けて話しかけてくる。

 

「それで、どうなのよ?」

「どうなのって……なんだよ」

「やりたいことは見つかったのかって」

 

 やりたいこと?

 そんなもの簡単に見つかるはずがない

 

「ボクはルイン様に期待すらされてなかった……」

「そうね。厳しい言い方だけど、失望もされていたと思うわ」

「……」

 

 ボクは間違っていた……のだろう。

 ルイン様がボクに求めていたものを、絶対の忠誠だと思い込んでいた。

 それが間違いだと気づかずに、ただ命令されるままに白騎士と戦おうとしていたボクは、捨て駒として利用されたのだ。

 

「戦う力はまだあるんでしょ?」

「あるけど、誰と戦うんだよ。戦って、どうするんだよ」

 

 またルイン様のために戦えっていうのか?

 あの方への憧れはまだ胸の内にあるがそれだけだ。

 今の腑抜けた負け犬になり下がったボクに、いったい何ができるというんだ。

 

『随分とウジウジした奴だな! これじゃあレグルスも苦労するぜ!』

「!?」

 

 不意にサニーのポケットからレオと同じタイプの鳥型のメカが飛び出す。

 ぱたぱたと機械の翼をはためかせたオレンジ色のそいつは、ぺしぺしとボクの頬を翼で叩くと乱暴な口調で話しかけてきた。

 

「こいつは、レオと同じ……」

「私の相棒のヴァルゴよ。貴女と同じ、ゴールディの残した強化スーツの一つね」

『オレの説明はどーでもいいんだよ!』

 

 レオと違ってすっごい粗暴なやつだな……!? 可愛い声からしてもギャップがすごい……。

 しかも普通に喋っていることにびっくりした。

 ヴァルゴの物言いに怒ってくれたのか、物陰に隠れていたレオがテーブルの上に飛び乗り、吠える。

 

『ガオ!! ガオォ!』

『ケッ、なーにがそこがいいだよ! お前が甘やかすから間違った成長をしかけたんだろ!』

『ガオ!! ガウ!! ガオォ!!』

『駄目な子ほど可愛いって……お前、その愛情は歪んでると思うぞ……?』

 

 ボク、レオに駄目な子って思われてたの……?

 今日一番の衝撃の事実に打ちひしがれそうになる。

 確かにボクは思い返してみてもダメダメだし、そう思われていてもおかしくないけど……。

 

「これからの貴女を決めるのはルインちゃんでも私でもなく、貴女よ」

「ボク?」

「そ。今までずっと誰かの言う通りに生きてきたでしょ? ヴァースもきっと貴女が自分で考えて戦う理由を見つけることを望んでいるはずよ」

 

 父上が……。

 

「いっそのこと、自分を虚仮にしたルインちゃんに目にもの見せるって気概も見せるといいかも」

「無理に決まってるだろ!」

「それは誰が決めたの?」

 

 間髪入れない指摘に言葉が詰まる。

 そんなもの、誰が決める必要もなく不可能だ。

 

「カツミちゃんは戦ったわよ。本気でルインちゃんを倒すつもりで」

「嘘、だろ?」

 

 ボクに同じことができるだろうか。

 ルイン様を前にしてその膝を屈することなく立ち向かえるか。

 

「ここで戦いとは無縁の生活をするのもいいでしょう。立ち上がって戦う意味を見つけるのも自由よ。貴女の選択の結果に、私は何も言わない」

 

 コーヒーを飲み干し、カウンターにお金を置いて立ち上がったサニーがそのまま扉へと歩き、こちらを振り返る。

 

「ただ一つ言えることは、自分に嘘をつくことだけはしないでね?」

「……」

「それじゃ、次に会う時まで答えが出ているといいわね♪」

 

 鈴の音色を鳴らしながら扉が閉まり、店内を静寂が支配する。

 ボクが戦う理由。

 最早、星将序列すらにすらも意味を見出せなくなったボクが今更なにを———、

 

「あれ!? 全員帰ったのか!?」

「シンドウ……」

 

 振り返れば両手に料理がよそられたお皿を持ったシンドウがいた。

 彼は肩を落としながらボクの前にお皿を差し出してくる。

 

「仕方ねぇ。勿体ねぇから食っていいぞ」

「……お前、ボクのことを食いしん坊か何かと勘違いしてないか?」

「いらねぇなら別にいいけど」

「誰がいらないっていった! 食べるに決まってるだろ!!」

「そういうところだと思うぞ……」

 

 戦う理由はまだ思いつけない。

 だけれど、不思議とここで生活していくうちにこの穏やかな日常がずっと続いてほしいなと思ってしまうのだった。




カツミが気づかなかったら、そのまま成り代わる気満々だったアズでした。

コスモの駄目な子ってところが可愛いと思っていたレオ。
設定上のコア達の性格が大体イロモノすぎる……。




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黒騎士が見る白騎士

お待たせしました。
前話の前書きで書き忘れてしまいましたが、
鎧武CSM発売&『鎧武外伝』新作おめでとうございます……!

箸休め回となります。
今回はちょっと新しい試みをしてみました。



 今の俺の記憶はちぐはぐだ。

 最後に鮮明に覚えているのは、マグマ怪人の野郎と戦った後くらいか。

 意味不明なことを喋る機械人間を返り討ちにしたあたりで俺の記憶は、今へと繋がってしまった。

 三年。

 その間の記憶が全然ないわけではなく、途切れ途切れのアルバムを順番関係なく見せられているような断片的な映像を見せられているようなものなので逆に混乱してしまう。

 

「いったいいつになったら俺の記憶は元に戻るのやら……」

 

 曜日的には休日にあたる日。

 俺は天塚家のリビングで自分の記憶の断片を思い浮かべ、整理していた。

 

「……白川克樹、か」

 

 到底信じられないが、記憶を失っている間の俺は人当たりのいい人間だったようだ。

 いや、本当に信じられないことにだけど、記憶の断片を見る限り認めるしかない。

 

「カツミ兄ー」

「ん?」

 

 一人考え込んでいるとリビングにきららの妹のななかと弟のこうたがやってくる。

 今日は休日なので学校が休みなのだろう。

 

「ゲーム、やろ!」

「……そうだな。いいよ、やろうか」

 

 考え込んでいるだけじゃなにも思い浮かばないからな。

 それに、今買い物に行っているコヨミさんから二人のことを頼まれたし、ここは遊びに付き合ってやるのが大人というものだろう。

 

「ななか、こうた。俺は成長する男だ……! いつまでもやられっぱなしでいられるか……!」

「「わーい」」

 

 あと個人的にこいつらにはゲームでの借りがあったのでリベンジしなくてはならない。

 先日の屈辱、忘れたわけじゃないぞ……!!

 喜ぶななかとこうたと共にリビングのテレビの前へと移動し、ゲームを開始する。

 

「俺のガノンドルフでなぁ……!」

「カツミ兄。ガノンド()フだって。いつもお姉ちゃんと同じ間違い方してる」

 

 んなことどうでもいい!

 今日こそ雪辱を果たしてみせる……!

 


 

 スマブラ、というゲームをするのは天塚家に来てから初めてのことだった。

 持ち運べたりテレビにつなげてゲームができるなんてやべぇなと思いつつ、やってきたわけだが……正直、俺は一度もななかとこうたに勝ったことがない。

 

「ドンキーで煽るんじゃねぇ!! あ、くっ埋ま……あ、また埋まっ、煽るなぁ!?

「ほらほらー」

 

 ななかの操るドンキーコングに相変わらず翻弄されまくった俺はいつものように一つも残機を削れないままに終わってしまう。

 なんでこいつらこんなに強いの……?

 

「きららには勝てるのに……」

「きらら姉はゲームあまり上手くないからねー」

 

 きららは今、呼び出しを受けたといった塾? に行ってしまったらしいが……。

 

「ちょっと休憩するか」

「えー、まだ遊びたーい」

「休憩って言っただろ? やめたりしないから安心しろ」

 

 ゲームというものにあまり触れてこなかったので、少し疲れてしまった。

 ソファーに座りなおしながら、俺はふとポケットにいれている端末を取り出す。

 

「プロト」

『なに? カツミ』

 

 プロトスーツにいた意思が喋るようになった存在、プロト。

 彼女の存在を確かめつつ、俺はあることを彼女に尋ねる。

 

「これって動画とか見れるか?」

『普通に見れると思うよ』

 

 そうか、なら……。

 今の今まで無意識に避けていたことだけど、向き合うべきだよな。

 

「じゃあ、白騎士……についての情報を出してくれ。動画、ツムッターなんでもいい」

『……いいの?』

「ああ、避けては通れないからな」

『……うん、分かった』

 

 短い沈黙の後に頷いたプロトが情報を探し始める。

 すると、俺とプロトの会話を聞いていたななかが、端末を覗き込む。

 

「カツミ(にぃ)が白騎士兄だったときのことを調べてるの?」

「ん? 知ってんのか?」

「うん。みんな知ってるよ? 動画たくさん出てるし」

 

 マジかよ。

 え、それじゃあこんな子供が戦いのアレとか見てたってこと?

 教育に悪いと思うんだけど。

 

「じゃ、白騎士兄のことが映ってる動画とか教えてあげるっ!」

「お、おう? プロト、それでいいか?」

『むぅ、別にいいけど……』

 

 端末をななかに渡すと、手慣れた様子で検索を始めてくれる。

 一分もかからないうちに見つけたのか、すぐに開いた動画を見せてくれる。

 

「はい。二ムニム動画の方」

「にむにむ……? なんだろう、聞き覚えがあるな……」

 

 首を傾げつつ動画を見る。

 なんだ……? 『白騎士必殺技&変身集』……?

 

「終わりに、する!!」

DEADLY(デッドリィ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

「セェェイ!!」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 映し出されたのは赤い装甲を纏った戦士が剣で怪人を倒している姿。

 怪人が爆発したすぐ後に、膨大な量の文字———コメントが画面を横切っていくのを見ながら、俺は呆気に取られてしまう。

 

「こいつは……」

「赤いカツミ兄は剣を使ってたんだよ?」

「他にもあるのか?」

「うん。あ、ほら、青い姿は銃なんだ」

 

 画面に意識を戻せば、今度は青い姿と銃を持って怪人にとどめを刺している戦士の姿。

 白騎士としての俺は相手によって姿を変えて戦っていたのか?

 なにそれ、面倒すぎるだろ。

 でもなにより、怖いのは……。

 

「このコメントだよ……」

 

 なにやら白と黒の姿でトリケラトプスと戦っている時の場面に流れるコメント。

 それを見て思わず頭を抱える。

 

白騎士 穂村克己  可能性の獣 黒騎士 四人目の戦士 白騎士ちゃん なぜか悪堕ちしない男?  侵略者キラー ?  もどらないで ?

 

重力操作してるwww クロエボ化とか予想できんわそんなん 特にピンチでもないのにパワーアップ……

黒騎士くんガラルの姿  草  ねえ、後ろでブラッドが怪獣殴り飛ばしてるんだけどwww 

暴走イベントを省略する男

まだ皆が黒騎士くんを待ち望んでいた時期  ここ実は記憶蘇りかけてる説

やっぱり黒騎士とは別ベクトルでやばいな白騎士  後ろのロボットが気になる人は『ジャスクルロボ集』で検索!!

やばwww 後ろにオプティマス  ヤベーイ!!!

イケメンで強いのね! 嫌いじゃないわ!!  ←どこにでも京水出てくるな……

 

「俺の名前普通に出てるじゃねぇか……」

「それはしょうがないと思うよ?」

「ああ、分かってる……」

 

 ガウスとかいう野郎に俺の情報が広められちまったからな。

 さすがにアルファに地球規模の認識改編をしろとも言えねえし、このままにするしかなかったが……やっぱり嫌だ。

 

「しかも白騎士ちゃんってなんだよ」

「白騎士兄が女の子になったやつだよ」

「……えっ?」

 

 う、嘘だといってくれ……。

 記憶を失っている間に俺になにがあったの……?

 俺が女の子になるような異常事態があったの……?

 こ、怖くて先が見れねぇじゃねぇかよ……!!

 

「ぷ、プロト、どういうことなんだ……?」

『えーっと、うーん、なんて言ったらいいんだろ……』

 

 なんで言いよどむんだ?

 もしかしたら本当に俺が女の子になって変身して戦ったのか!?

 すると再生していた動画に、白騎士と同じ……いや、体格と身長そのものが変化した白騎士が現れる。

 

 

「な、なんで私が変身してるのぉ~!」

「待てやゴラァァ!! 白騎士ィィ!!」

「ンヒッ!? お、おおお追いかけてくるぅ!?」

 

 

かわいい かあいい 白騎士ちゃんprpr

不謹慎だけどかわいい かわいい かわいい かわいいいい

俺こんなんじゃウミウシになっちまうよ……  かわいい

可愛い なんで白騎士ちゃんになってるのか分からないけどかわいい

かわいい(脳死) 白騎士くんの方がかわいい ←!!!?

この子カツミくんなんか? ここのコメントだけやばくて草 かわいい

未だに謎なのすこ 悲鳴があざとすぎてかわいい

 

「うわああああ!?」

『うひゃ!?』

 

 思わずプロトを手放しながらソファーから転げ落ちそうになる。

 幸い、プロトは床ではなくクッションに落ちて傷つくことはなかったが……なんだ今の恐ろしいコメント群は……!!

 

「わ、悪いプロト……ね、ネット怖い……」

『大丈夫。気にしないでっ!』

 

 こいつは俺なのか……?

 分からねぇ、俺には白騎士が分からねぇ……!!

 でもコメントが怖いので、ななかに変えてもらうようにお願いする。

 

「べ、別の動画にしてくれ……!!」

「? 分かった。じゃあ、フーチューブのやつにしよっか」

 

 さすがにそこまで見る勇気はなかったので変えてもらう。

 先ほどと同じようにすぐに変えてくれたななかが、また端末を俺に見せてくれる。

 

「ハァァァァ!!」

BITING(バァイティング)! CRASH(クラァッシュ)!!』

 

「セェェイ!!」

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

「俺はお前を、許さない!」

AQUA(アクア)!! FULLPOWER(フルパワー) BREAK(ブレイク)!!』

 

「「「ハァァァァァァ!!」」」

LIGHTNING(ライトニング)!! FULL(フル) CRASH(クラッシュ)!!』

 

 

「いや、色多すぎだろ」

 

 さっきも思ったけれども。

 しかもなんだろ、出てくる台詞が俺じゃない。

 やっぱり俺じゃないっていいたいけれど、記憶の中に該当する部分が多すぎて認めるしかない。

 

「く、うぅ、おおお……!」

「だいじょーぶ、カツミ兄?」

 

 今すぐその場でもんどりうちたい衝動にかられながらもなんとか耐える。

 

「これ一般人はなんて思ってんだ……?」

「下にスクロールするとコメントが見えるよ」

「……見てみるか」

 

 ななかに言われたとおりに画面を下の方へ移動させていくと確かにコメントのようなものがあるのを見つける。

 さっきの二ムニム動画とは違うな。

 


 

3426件のコメント ▽並び替え

 

通りすがりのルナドーパント 1か月前

イケメンなのね! 嫌いじゃないわ!!

まるでカツミちゃんみたいじゃないの!!

 

21334   返信

▼1221件の返信を表示

 

後輩系巫女 1か月前

自分用

2:56 レッド必殺

4:14 ブルー必殺

5:13 イエロー必殺

7:33 ブラッド大地に立つ

続きを読む

 

465   返信

▼134件の返信を表示

 

ナマコ改めウミウシ 2か月前

謎というのが白騎士ちゃんの一番の魅力だと思うウシ

でも水(ネタ)がないと干からびちゃうので、また出てきてほしいでウミウシ

 

334   返信

▼54件の返信を表示

 

一般怪人男性 1か月前

力に目覚めるというより、力を取り戻しているって解釈好き

早く黒騎士君に戻ってほしい

 

135   返信

▼24件の返信を表示

 

レッドに斬られたい一般怪人 3日前

そもそも黒騎士くんが記憶失った理由ってなんなの?

そんな簡単に記憶って飛ぶものとも思えないし、戻り方が不自然すぎる。

人為的に記憶操作されてる可能性も高いと思う。

 

54   返信

▼6件の返信を表示

 

NAMAKO魂 1週間前

本当に名前がカツミだとは……。

実質エターナルでは(゚д゚)?

 

23   返信

▼4件の返信を表示

 

ほーじ茶 1日前

過去になにもなかった黒騎士くんの姿とか言われてるけど、間違いでもなさそうなのが辛い

 

3   返信

 

使いやすいトラクローくん 二日前

京水姉貴がガチ予言して草

 

1   返信

 

 


 

 ゆっくりとコメントを読み進めていきながら、白騎士や自分がどう思われているのかを考える。

 俺の過去に関することは正直どうでもいい。

 自分の中で折り合いはついているし、特になにも思ってはいない。

 だけど、白騎士として俺は何をしてきたのか。

 どのような戦いをして、誰と関わってきたのか、それをよく知りたかった。

 

「ジャスティスクルセイダー、か」

 

 俺と一緒に戦っていた三人の戦士。

 俺は彼女たちを知っていた理由も一緒に戦っていたからだろうか?

 

「お姉ちゃんがどうしたの?」

「え、いや、ジャスティスクルセイダーって言ったから、きららじゃ……」

「あれ? カツミ兄知らないの?」

 

 きょとんとした顔のななかが動画の端に映っている黄色い戦士———ジャスティスイエローを指さす。

 

「イエローがお姉ちゃんだよ?」

「……マジで?」

「だからカツミ兄と会えたんだし! ねえ、こうた!!」

「うん」

 

 ……マジかぁ。

 衝撃的な事実ではあるが、自分でも納得している部分はあるので嘘ではないんだろう。

 ということは俺を匿ってくれていたのか?

 

「はぁ……きららにも話をしなきゃな」

「もしかして、怒ってる?」

「いや、怒ってねぇよ。むしろ感謝してるくらいだ」

 

 記憶を失っている俺をアルファと一緒に匿ってくれた時点で怒る理由はどこにもない。

 そもそも、ここに俺たちを連れてきたのはななかだからな。

 別にきららが何かをしたわけでもない。

 

「きららはどのくらいで戻ってくる?」

「んー、夕方くらい?」

「それまで待ってるか……いや、待て」

 

 時間があるならあいつと話してみるか。

 先日、遭遇した男、サニー。

 もうすぐコヨミさんも帰ってくる頃だし、午後になったら奴に話を聞きに行ってみるか。

 

「アルファは……どうするか」

 

 今、ななかの部屋で惰眠を貪っているアルファを連れていくべきか悩むが……アズのこともあるし、今日のところはこの家で留守番でもしてもらうか。

 敵ではないとは言っていたが、あいつ怪しいってレベルじゃなかったし。

 

「カツミ兄? 大丈夫?」

「ん? ああ、大丈夫だ。……そろそろゲームの続きでもやるか?」

「! うん!」

 

 まずはこいつらの機嫌を損ねないようにゲームに付き合ってやらんとな。

 いや、別に負けたのが悔しいわけじゃなくて、一人の大人として面倒を見なきゃいかねぇからな、うん。

 




白騎士ちゃん登場時のコメント群でちょっとしたトラウマを刻み込まれた主人公でした。

きららは、仲間の自宅襲撃を防ぐために意気消沈のシロと共に自主的に本部に向かった感じです。


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戦うべき相手と強化装備

お待たせしてしまい申し訳ありません。

前半がカツミ視点。
中盤からきらら視点へと移ります。


 サニーが待ち合わせ場所に指定した場所は人気のない公園であった。

 公園といっても広い自然公園の方で、休日ということでそこそこ人もおり話す場所としてはそれほどふさわしくない場所に思えた。

 

「待ってたわよー、カツミちゃん」

 

 サニーが座っていたのはなんの変哲もないベンチ。

 やってきた俺もそこに座るように促されたので、大人しく人二人分ほど空けた場所に腰を下ろす。

 

「なにか聞きたいことでもあるのかしら?」

「……お前は白川克樹としての俺を知っているのか?」

 

 まずはこれが聞きたかった。

 

「戦士としての私の顔は知らなかったわよ? 私はマスターのいる喫茶店の常連。少なくともカツキちゃんにとってはそんな認識のはずよ」

「お前は俺の正体は知ってたんだろ?」

「……ええ。そうね、知っていたわ。隠す理由もないからぶっちゃけるけど、貴方のことを観察していたの」

 

 特に驚きもなく頷く。

 しかし、解せないのはどうして俺を観察するかってことだ。

 

「深い理由までは話せないわ。その役割は私じゃないし、そこまでしちゃうと怒られちゃうから」

「怒られる? 誰にだ?」

「すぐに分かるはずよ。……少なくとも、カツミちゃんの最大の敵だということは確かね」

 

 こいつの後ろになにかいんのか?

 最大の敵だと? 口ぶりからして俺はそいつに会ったことはあるのか?

 

「ありがとう。本当にありがとう……貴様はいい戦士だ」

 

「もういい、ここで命を落とすには惜しい」

 

「ああ、私の可愛い、カツキ」

 

 ……ッ。

 突如として頭の中に響いてくる謎の女の声に動揺する。

 なんだ!? 今の記憶と声は……!! 俺に向けられて聞こえてきたのか!?

 朧げな視界だったが、膝枕……されていたような気がする。

 

「ま、まさか今の青い肌の女が、俺の姉を名乗った奴か……!?」

違うわよ!? その勘違いはちょっと刺激が強すぎるからやめなさい!!」

 

 ち、違うのか……?

 じゃあ、奴は誰なんだ……?

 混乱していると、サニーが軽く吐息をつく。

 

「貴方が記憶を思い出す時。ようやく前哨戦……いえ、この地球を舞台にした茶番が終わることになるわ」

「茶番、だと?」

「地球人の貴方達からすればたまった話じゃないわよね」

 

 困ったように微笑んだサニーは、視線をこちらから前へと向ける。

 そこには、公園の原っぱで遊んでいる一組の親子がいる。

 

「強くなれば、止められると思ってた」

「……?」

「誰よりも強くなって生き物としての枠すらも超越すれば、あの子を止められると思っていたんだけど……無理だって気づいちゃったの」

 

 何を言っているんだ?

 突然、意味不明な独白をするサニーに困惑してしまう。

 

「皮肉よね。向う見ずに強さを追い求めてたくせに、強くなったせいで次元の違いを理解させられるなんてね」

「いや、言っている意味が分からないんだが?」

「フフフ、ごめんなさいね。あまりこういうことを話せる相手がいないから、勝手に話しちゃった」

 

 ……まあ、それは別にいいんだが。

 

「つまりその星将序列を全部ぶっ倒して、その上にいる奴もぶっ倒せばそれで終わるんだな?」

「ええ、そうね」

 

 それなら話は速い。

 やるべきことが分かればそこに意識を集中することができる。

 

「お前も俺の敵になるのか?」

「……」

 

 星将序列とかいう奴ならサニーも俺たちの前に立ちふさがる可能性があるということだ。

 

「正直、敵になるつもりはないけれど……戦わないかどうかは未定よ」

「……それだけ聞けりゃ十分か」

「あら、この答えでいいの?」

「敵にならねぇなら、それでいい」

 

 戦うなら本気で相手をすればいいだけだ。

 味方になってほしいという気持ちはなくもないが……。

 

「ちょっと見た目が異次元過ぎて怖いからな……」

「さりげなく私のことディスるのやめてくれないかしら?」

「……悪い、口に出てたか?」

「やだ、この子素で私を傷つけてくる……!?」

 

 やっべ、無意識に口に出てしまったようだ。

 普通に傷ついてるサニーに申し訳なく思っていると、ふと奴の着ている独特な色の背広から機械のようななにかが飛び出してくる。

 

『なあ、そろそろオレも話していいか?』

「ええ、いいわよ。待たせちゃってごめんね」

 

 近くに人がいないか確認したサニーの声に、メカメカしい姿をした鳥は俺の目に前にまで飛んでくる。

 

「鳥が喋ってる……?」

『鳥じゃねぇ! ヴァルゴだ!! お前の持ってるチェンジャーと同じ喋るコアだぜ!』

 

 そうなの……?

 思わず腕につけているチェンジャーを見るとプロトが反応してくれる。

 

「そうなのか? プロト」

『うん。でもこんなにはっきり喋るのは初めてかも』

 

 コアとかよく分からんがとにかくプロトと同じことは分かった。

 すると何を思ったのか、ヴァルゴと名乗った橙色の鷹のような鳥は俺の顔を眺める。

 

『ふーん』

 

 すっげぇ観察されてる。

 サニーもなにも言わないけど、なんでこんなに見られてるんだ?

 それに―——、

 

「なんで怒ってるんだ……? そんなに……」

『……。ハハッ、お前はオレが怒ってるように見えるのか。安心しろ、お前には怒ってねーよ』

「お、おう……」

『お前、名前は?』

「ほ、穂村、克己」

『いい名前だな!! 登録しておくぜ!!』

 

 登録? いや待て登録ってなんだ?

 なんで額の宝石のような部分が点滅してんの?

 

『しかし、こりゃあ間違いねーな』

 

 ぶっきらぼうだが、ヴァルゴはどこか晴れやかな声で呟く。

 

『近くで見なきゃ気づかねぇが、稀にみるどころじゃねぇ存在だな。カツミ』

「はい?」

『つーか、初めて見たわ』

 

 首を傾げてしまう俺に満足そうに頷いたヴァルゴは、今度は俺の手首のチェンジャーへと降りてくる。

 

『プロト、テメェいい主を持ってんじゃねぇか』

『う、うん……ハッ!? カツミはあげないよ!!』

 

 そもそも俺は誰のものでもねぇんだけど。

 そんなプロトの反応にヴァルゴはからからと笑う。

 

『折角見つけた相棒なんだ。大事にしろよな!』

『……かつてないほど優しくされて逆に怖い!?』

 

 普通にいい人……じゃなくて、良い鳥なのか?

 でもこんな真っすぐな性格をしているやつは不思議と嫌いじゃなくなった。

 前は煩わしいくらいには思っていたはずなのに。

 

「あらあらヴァルゴ。カツミちゃんのことが気に入ったようね」

『茶化すんじゃねぇオカマの怪物』

「二重表現でけなしてくるのはやめてくれないかしら?」

 

 先日見たオレンジ色の戦士になるための変身アイテムがヴァルゴって感じか。

 そういう意味では俺とプロトと同じともいえる。

 

「今日のところは帰る」

「あら、まだ聞きたいことがあるんじゃないの?」

「夜ごはん前に帰ってくるように言われてる」

「……貴方、それわざとやってる?」

 

 ……?

 

「あ、素なのね……」

『夜ごはんて……』

 

 居候させてもらっている手前、勝手なことはあまりしたくはないからな。

 サニーもこちらの連絡先を覚えていることだし、今日のところは帰るとする。

 

「ねえ、カツミちゃん」

「あん?」

 

 椅子から立ち上がり帰ろうとする俺にサニーが呼びかける。

 

「貴方は記憶を取り戻したい?」

「当然だろ。なにより……」

 

 振り向きながら親指で自身の額を指さす。

 

「俺の中の何かが思い出せって言っているような気がするんだよ」

フフフ、求めているのはお前も同じか、カツミ

「……本当に末恐ろしい子ね。無意識に自分がするべきことを分かってるみたい」

「んなことねーよ。じゃあな」

 

 何が起ころうと記憶を取り戻すことは変わらない。

 話したい誰かがいた。

 守りたかった誰かもいた。

 そして、戦わなければならない誰かがいたのだ。

 だから、記憶を取り戻すという点については俺は決意を曲げるつもりはさらさらなかった。

 


 

 まだカツミ君をアカネと葵に会わせるべきじゃない、というのが社長の判断であった。

 単純に劇薬すぎる二人と記憶が不安定なカツミ君を合わせたら何が起こるのか分からないことに加え、世間的にカツミ君のことについて収まっていなかったのでリスクを避けるため、まだ当分は彼は私の家に居候することになっていた。

 

 本当は休日をカツミ君と共に家で過ごしたかった。

 

 しかしそれを許さないのが一番の味方でありライバルである仲間たち。

 私のぎこちないそぶりを直感で察知し確かめに来ようとする彼女たちの探りを回避すべく、私はジャスティスクルセイダー本部への招集へ赴くことになった。

 ……まあ、招集自体はかなり真面目な案件だったのは本当だけれども。

 

 星将序列十位台の者たちの出現。

 彼らの存在を聞いた元星将序列072位、現在スタッフの一員として活動してくれているグラトさんは、怯えた様子を見せた。

 

『悍ましい輩だ。強さもそうだが、その在り方は歪すぎる。序列二桁の連中でさえも彼らと顔を合わせることも嫌がるほどだ』

 

 味方すらも躊躇なく始末する不死身の五人の戦士。

 そんな彼らが今、この地球に招集しようとしている事実を重く見た社長はかねてから開発を行っていたある強化アイテムのお披露目を行っていた。

 

「侵略者との戦いが激化する中、お前たちもさらなる装備の拡張。つまり強化アイテムの運用を考えていかなければならない」

 

 以前から開発されてきたジャスティスクルセイダー専用の強化装備。

 私達三人にそれぞれ合わせたそれらは、装備するリスクはあれどもその性能は劇的にまで飛躍し、状況によっては想定以上の出力を発揮することが可能だという。

 

「ジャスティスクルセイダー拡張強化端末!! 名付けて“ジャスティフォン”だぁ!!」

 

 見た目が金色の装飾が施された黒色のスマートフォンを掲げた社長。

 

「スタッフとこの私がゾンビになりかけるほどにまで脳と肉体を酷使し作り上げたゴージャスでスーパーで最強の装備がこいつだァ!!」

 

 性能的に疑いはない。

 きっとこれで私たちは強くなれるのだろう。

 しかし、あまりにも微妙な名前に私たちは、半目で彼を睨む。

 

「それって正義とスマホを掛け合わせた名前ですか?」

「ネーミングセンスの欠如」

「正直ないですわ」

「この私のネーミングセェンスゥを理解できないとは哀れ、このナインジャーめが!!」

 

 腕時計型のチェンジャーにスマホって。

 確かに分かりにくい見た目だけど、金色は目立ちすぎる。

 

「そこらへんは安心しろ。このジャスティフォン、設定を変化させることで外装のデザインを自由に変えることができる……!! そしてこの同時開発した疑似エナジーコア搭載ドローン『ジャスティビット』に接続すれば、偵察、戦闘の補助を行ってくれる優れものだ!!」

 

 ジャスティフォンのカメラ部分から粒子と共に現れたドローン。

 アカネ専用のドローンなのか、赤色で鋭角的なデザインだけど……もしかして、私と葵のものもあるのだろうか?

 

「この血の色のドローンはアカネの?」

「うむ、その通りだ」

 

 赤いドローンを指さした葵の質問に社長が頷く。

 

「ねえ、色の例えで血の色っておかしくないかな?」

「……?」

「なんで私がおかしいみたいな目で見られなくちゃいけないの……?」

 

 キレかけるアカネを前に、私の背に隠れた葵はもう一度ドローンを見上げる。

 

「むむむ、ドローンね……」

 

 数秒ほど見つめると、自信満々な様子の社長に顔を上げる。

 

「カメラ機能は?」

「もちろん超高画質、望遠機能も完備。おまけに光学迷彩機能に、バリア展開も可能だ……!」

「パーフェクトだ社長」

 

 多機能すぎでは?

 単純な強さ以上に便利そうだ。

 

「ちょっと今日からこれ借ります」

「……待て、ブルー。お前それをなにに使うつもりだ」

「昨日理系ダウジングでカツミ君のいるであろうおおまかな場所を絞り込んだから、これでしらみつぶしに探そうかなって」

「……。興味本位……興味本位だが、どれほどまで絞り込んだのか教えてくれないか? 今、プロジェクターに地図を映し出す」

 

 僅かに緊張の混ざった社長がプロジェクターに街の地図を映し出す。

 数秒ほど地図を眺めた葵は、そのまま街の区画を指でぐるっと円を描いて指示した。

 

「確証はないけど、ここって出た」

 

 ……そこ思いっきり私の家が真ん中にあるじゃん……!!

 なにその正確さ!? 本当に葵のそれ理系なの!?

 とんでもないオカルトパワーを発揮して笑えないんだけど!!

 

「ざ……残念だが、先日カツミ君はティモールで目撃されてな」

「あのコーヒーの名産地に……!?」

「エッ、そうなの? ご、ごほん、つまりそこにはいないのでその理系ダウジングは間違っているぞ」

 

 社長が誤魔化したことでなんとか葵を止められたが、普通に今のは危なかったのでは?

 よく分からない場面で焦りながらも、話は元のジャスティフォンへと戻る。

 

「しかし、ようやく完成したジャスティフォンだが、まずはデータを取らなくてはな」

「すぐには使えないんですか?」

「使えはする。しかし実戦で投入するには不確定要素が多すぎるのだ。強くなるための装備で、逆に弱体化しお前たちを危険にさらすわけにはいかないからな」

 

 ……確かに付け焼刃ほど危険なものはないか。

 社長の言葉に納得する。

 

「すぐに実践で使えるように調整をする。私の方でもお前たちをサポートするプランは考えているから、そこも安心するといい」

「プラン?」

「私も技術顧問ばかりやっている状況じゃなくなりそうだからな。やるべきことをしなければ」

 

 何をしようとしているのかは分からないけれど、ここは社長とスタッフの皆さんに任せるしかない。

 私たちにできることは戦いに備えることだけだ。

 


 

 シロはカツミ君がいる家には戻らなかった。

 思い出してもらえないことが余程響いたのか、ぐったりとした人形のように消沈してしまったシロはそのまま白川ちゃんと同じように独房のベッドに沈んだまま動かなくなってしまった。

 しょうがないので、私だけ家に帰ることになってしまったけれど……やっぱり白川ちゃんにはちゃんとカツミ君のことを話さなければならないと思う。

 

「ちょっと遅れちゃったな。夕飯間に合うかな」

 

 家への帰路を進みながらスマホの時計を見る。

 時間は19時前くらいなので、うちなら丁度夕飯が出来上がるくらいの時間帯だ。

 

「……やっぱり、まだ不思議な感覚だなぁ」

 

 帰ったらカツミ君がいるのって。

 最初は不機嫌だったアルファも馴染んでいるようだし、社長のサポートもあることだししばらくは二人も穏やかな日常を過ごせるかもしれない。

 

「はぁ」

 

 家に帰り、靴を脱ぐ。

 一応身だしなみを整えてからリビングへと足を踏み入れ―——、

 

「ただい―——」

「あら、カツミ君見て。これね、小学生の時のきらら」

「え、ええ……」

 

 リビングで古びたアルバムを見せられているカツミ君と、テレビに映り込んだ小さい頃の私の映像が視界に映り込む。

 ……は? は? は?

 ソレ、私の、アルバム。

 なんで、それが、母さんがカツミ君に……?

 

「そ、そうですね……えーっと、か、かわいいですね……? ……ハッ!?」

 

 どこか戸惑った様子のカツミ君が私に気づく。

 すぐに周りを見た彼はどこか慌てた様子であたふたとし始める。

 しかし、今にも顔から湯気が出そうなくらいに羞恥心に苛まれた私は早足で母さんの元に歩み寄る。

 

「あ、おかえりなさい。きらら」

「母さんちょっと来てぇ!!」

「あらあら」

 

 母さんを連れ混沌の様相を醸し出すリビングから脱出する。

 まずはこの母親という下手人に全てを聞きださなければ……!!

 

「何やってるのぉ!?」

「家族の思い出を見せているのよ?」

「美化した言い方しても意味ないからね!? もう本当に何やってるの!?」

 

 なんでそんなことするの!?

 なんでそんなことするの!?

 私の剣幕を他所に母さんは不敵な笑みを浮かべ、頬に手を当てる。

 

「ななかがね、カツミ君にきららの活躍を見せたいって言ってね」

「うん……!」

「だから見せたの」

「それ多分、別の活躍だよ!? てか秘密だから見せなくてよかったよ!? 代わりに見せたのがもっと駄目な代物だったけれどもぉ!!」

 

 今、秘密をバラすべきじゃない。

 見せなかったのはいいけど、代わりに私の成長記録を見せるとはどういう了見だ!!

 カツミ君の顔見た!?

 すごく申し訳なさそうな顔をされちゃったんだけど!?

 

「大丈夫、恥ずかしいのはお母さん分かってるわ」

分かってるならやめてよぉ!? 顔も合わせられないし気まずくなっちゃうじゃん!?」

「気まずい? 相変わらず分かってないわね、きららは」

 

 フッ、と口の端に笑みを浮かべた母さん。

 そしてかつてないほどのドヤ顔と共に、ビシィッ、と指を翻す。

 

「そういうの気まずいじゃなくて、お互いが意識する(・・・・)っていうのよ?」

「……言いたいことはそれだけかな……?」

「……フッ」

 

 うまいことを言って煙に巻こうたってそうはいかないよ……!

 言っていることはちょっと事実かもしれないが、私の恥ずかしい幼少期の思い出を見せたことに変わりない。

 ここは心を鬼にして叱る。

 誤魔化せないと悟ったのか、口元に人差し指を当てた母さんは、不意にぱんっ、と手を叩く。

 

「あ、そういえば、カツミ君がきららに話があるって言ってたわよー」

「この流れで!? この流れでそれを言うの!?」

「大事な話があるとも言ってたわ。行かなくていいのかしらー? そろそろお米が炊けるから私はお夕飯の準備をするわねー」

 

 こちらが動揺している間にその場を鮮やかに離れてキッチンへと向かう母さん。

 ……くっ、私の立場上、カツミ君の大事な話というのを最初に聞いておかなければならない。

 

「か、カツミ君、大事な話ってなにかな?」

 

 リビングに戻ると既にアルバムは片付けられており、ソファーに座っていたカツミ君はせなかにななかをしがみつかせ、膝にこうたを乗せている。

 その隣ではアルファもおり、同情するような視線を私に向けていた。

 

「そのことなんだが、最初に言っておこうと思ってな」

「え? 何を?」

「俺のこと、本当は仲間として匿ってくれてたんだよな」

 

 ……はえ?

 一瞬、言っている意味が分からず呆けた声が漏れ駆ける。

 言葉に詰まり、何も言えなくなってしまった私に彼は困ったように笑う。

 

「君はジャスティスクルセイダーのイエロー……って聞いた」

「っ!?」

 

 バレてしまった!?

 けど、全然怒っていない事実に安堵しかける。

 まだ記憶は戻ったわけじゃ……ないよね? でも私の正体がバレたならいち早く社長に連絡を———、

 

「まだ思い出せないが、君のことも早く思い出せるようにする」

「あ、え……、……はぃ」

 

 ———と、思ったけどもうちょっと後でもいいかぁ。

 我ながら簡単すぎると思うけど、これに逆らえるというのならこんな状況になっていないな、と自覚してしまうのであった。

 

 





また陥落したきららでした。
そして、ジャスティスクルセイダー強化装備のジャスティフォンの登場。
あと少しで活躍させられそうですね……。


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急襲、波乱の幕開け

お待たせしました。

今回はレイマ視点でお送りします。


 ジャスティスクルセイダーのことがカツミ君にバレた。

 いや、そもそもが時間の問題であったのだろう。

 記憶を取り戻した彼が気づくか、自力で真実にたどり着くか、第三者から知らせられるか、そのどれかで気づくのは想定内だ。

 なので、バレた件に関してはイエローもその家族にも責任はない。

 この状況で警戒しなければならないのは、ルインの干渉だ。

 あのどう見てもカツミ君に異常すぎる執着を見せている奴が、なにかしない保証はない。

 

「正体判明から五日。ルインからの目立った干渉がないということは、こちらからの接触も可能とみてもいいだろう」

 

 だが、それも細心の注意を払わなければならない。

 このミッションを極秘、且つ彼と接触するのは、記憶を欠落する前のある程度見知った仲の者でなければならない。

 申し訳ないが、白川君は除外だ。

 彼女は関係性が深すぎる。

 

『か、カツミ君!! わ、私、頑張って異星人斬りまくったよ!! 斬りまくりんぐだよっ!!』

 

 レッドはメンタルとテンパり具合で、カツミ君ドン引き案件を引き起こしかねないので除外。

 

『カツミく……先輩とは実は中学校からの幼馴染だったのです』

 

 ブルーは多分、こんなやばい発言をすることが予想できるので彼女もアウト。

 ……あくまで想像ではあるが、あながち近いことをやらかすのが目に見えているやばい奴らが、地球のヒーローなのだ。

 逆を言えば、どこかしら並外れていなければ地球の守護者は到底名乗れないとも言える。

 

「逆に普通過ぎるというのも異常ともいえる」

 

 常日頃、命の危険が付き纏うジャスティスクルセイダーの活動。

 幾度となく死線を潜り、時には視力すらも奪われる危険に苛まれてもなお、変わることのない精神。

 普通と呼ばれからかわれるイエローも、ある意味でレッドとブルーと同類とも言える。

 

「……そろそろ向かうか」

 

 研究室の椅子から立ち上がり、椅子にかけていたスーツに袖を通す。

 これから、天塚家にいるカツミ君のところに向かう。

 話し合う場所ならば、他の場所もいいとは考えたが……外には人の目もあるので、やはり天塚家で話した方がいいと判断した。

 

「この私自らが出向くことになるとは……しかし、これも友として私が成さねばならないこと。すまんな、サジタリウス、お前の調整はこの後だ」

 

 研究室内のポッドに保管されている金と白のスーツ。

 それに手を添えると、ひとりでに動き出した金色の粒子が私の指先に吸い付く。

 なにかが指を通して入り込もうとしているのを察知し、すぐに手を戻す。

 

「くっ、やはり私を認めてはくれないか……。触れるだけで浸食しようとするとは……」

 

 コアを中心とした特殊な粒子金属によりスーツを生成する技術。

 厳密には違うが、分かりやすい言い方をすればナノマシンというべきか……。

 サジタリウスはジャスティスクルセイダーと黒騎士のスーツ及び、武器生成の根幹とも呼べる技術に特化したスーツ。

 以前爆破と共に消え去ったスーツから遥かにアップグレートしたが、やはり問題というものが付き纏う。

 

「これに変身するときは俺も覚悟をしなければならないな」

 

 もし全身を侵食されれば何が起こるか分からない。

 だがしかし、序列上位の侵略者たちと戦うにはジャスティスクルセイダーと黒騎士だけでは足りない。

 やれるべきことは、しなくてはならない。

 

「それが、カツミ君たちを戦いに巻き込んでしまった私の責任でもある」

 

 研究室を出る。

 夕焼け色に染まった外の景色を目に移しながら、私はカツミ君に接触すべく地上へと向かおうと……したところで、通路で白川君の姿を見つける。

 

「白川君、大丈夫か?」

「……はい」

 

 大丈夫ではないな。

 かろうじて、職務はこなしているようだが目に見えて焦燥している。

 死んだわけでもないから大げさすぎ……とは思わない。

 カツミ君は、白川君……シグマにとって初めての家族と言える存在だったのだ。

 例え、偽りのものだとしても彼女にとっては本物だった。

 

「睡眠はとっているか?」

「あまり……」

「食事は?」

「お昼は二杯くらいしか食べてません……」

 

 ……十分では?

 待て、見た目は十代後半くらいの年齢だが、実際は生後一年かそこらのはず。

 ならば、すくな……ん? 生後一年でも二杯は食べすぎではないか?

 

「シロも、君と同じく元気がないようだな」

「はい……。ずっとかっつんの動画ばかり見てぐるぐる言ってます」

「元彼との思い出の動画を見る未練たらたらOLみたいなことをしているな……」

 

我ながらとんでもない偏見だな。

 シロはイエローの嘘を見破り自力でカツミ君の元にたどり着いていたのだが、彼に全く思い出してもらえなくてショックを受けてしまった。

 普通なら共に戦った相棒の存在はすぐに思い出せそうなものだが……。

 

「かっつん、本当に見つかるんでしょうか……」

「……」

 

 正直、見ていられない。

 見た目は大人でも、精神年齢は子供だ。

 レッドとブルーと同じように雑に扱っていいわけではない。

 ……今まで止めてきたが、そろそろ教えてもいい頃合いかもしれないな。

 

「カツミ君が見つかった」

 

 そう口にすると、ややうつむき気味だった白川君が顔を上げる。

 

「ほ、本当ですか? いつもの性質の悪い冗談とかではなく?」

「冗談ではない。実は、彼が失踪してからすぐに居場所を把握していたんだ。……隠していてすまない」

「ッ……いえ、なにかしら理由があるのは分かります」

 

 ここで殴られようものなら甘んじてそれを受ける覚悟があったが、どうやら白川君も分かってくれたようだ。

 

「これから会いに行くところだ」

「そ、それなら、私も……」

「今は無理だ」

 

 カツミ君にとって白川君は一時期家族ともいえる関係だったのだ。

 それだけに白川君との遭遇が、彼にどんな影響を及ぼすか分からない。

 

「彼は未だにお前のことを思い出してはいない」

「……ぅ」

「すぐに会えるように私が手配する。それまで彼に会うのを我慢してくれ」

「……はい」

 

 頷いてくれたことに安堵する。

 白川君ならば、暴走する心配もないしこのまま待ってくれるだろう。

 そのまま彼女に背を向け、地上へ続くエレベーターへ向かっていく。

 

「待ってください」

「む? なんだ?」

「あの、かっつんは今どこにいるんですか? 海外じゃ、ないですよね?」

 

 ……。

 

「……それを知ったら……」

「し、知ったら?」

「イエローが、命を狙われることになる」

「……なんで?」

「さらば!!」

 

 これ以上質問が来るまでに小走りでエレベーターへと乗り込む。

 壁に耳あり障子に目あり!!

 どこで聞き耳をたてられているか分からないので、さっさと天塚家へと向かおう!!

 


 

 

 天塚家の家族構成は、父親の天塚黄真(おうま)、母親の(こよみ)、長女の雲母(きらら)、次女の七夏(ななか)、長男の光大(こうた)の五人家族である。

 一見して普通の家族構成に見えるが、その実態は大きく異なる。

 イエローこときららのご両親は、おおよそ一般とは異なる独特な感性を持っているのだ。

 

「……吞まれないようにしなくてはな」

 

 タクシーを用いて天塚家の家の前にまで到着した私は軽く深呼吸をした後に気を引き締め、インターフォンを鳴らす。

 記憶が未だに戻っていないカツミ君との対談だ。

 私のことを思い出していないという点はあれど、そこはイエローとアルファにより補足されているはず。

 

『はーい』

 

 声と共に扉が開かれ、私服姿のイエローが出てくる。

 彼女は俺の姿を確認すると、おもむろに後ろを確認する。

 

「なにをしている」

「尾けられてませんよね?」

「心配するな。そのようなヘマはしていない……多分」

 

 確証はない。

 だって彼女たちの行動予測するの難しいってレベルじゃないし。

 ブルーに至ってはボーボボ世界の住人って言われた方が納得するわ。

 

「私以外の家族には事情を話して外食に行ってもらいました」

「……そちらの方が助かる」

「カツミ君とアルファは中で待っています」

 

 イエローに案内され居間へと足を踏み入れる。

 そこには、腕を組んで待っているカツミ君とその隣で嫌そうな顔で私を見ているアルファの姿を見つける。

 

「カツミ君。覚えていないようだが……ここはあえて久しぶり、と言わせてもらおう」

「!」

 

 初めて会った時と同じ、こちらの様子を伺う純粋な瞳。

 やや驚いた様子の彼の前に座ると、イエローはアルファとは逆のカツミ君の隣の椅子に腰かけた。

 

「貴方が金崎さんですか?」

「レイマで構わない。敬語も不要だ」

「……レイマ、不思議と貴方のことはそう呼んでいたような気がする」

 

 ……今の彼の記憶には緩く蓋がかけられているようなものか?

 中途半端に鍵が外れているせいで、断片的な記憶が少しずつ溢れ出ている感覚なのだろう。

 記憶喪失、という症状にはあまり詳しくはないが、想定したよりは危険な状態ではないように見える。

 

「私はカネザキコーポレーションの社長、金崎令馬」

「もしかして、マグマ怪人の時にヘリを送ってくれた会社の……」

「そう、あの件には我々も関わっている」

「そうですか……」

 

 マグマ怪人……惑星怪人アースによる一度目の進撃で、初めて黒騎士という存在に近づくことができたと言える。

 ぶっちゃけるなら、マグマ怪人の脅威度がぶっちぎりでやばかったせいで、それどころではなかったせいで接触もクソもなかった。

 しかし、彼と自衛隊との交流と、マグマ怪人との命をかけた戦いを知ったことで彼が、スーツを担うに値する人間だということを知ることができた。

 

「そして、社長である裏の顔は……」

「ごくり……」

「地球の平和を守る戦士!! ジャスティスクルセイダーの総司令であり、スーツの開発者なのだ!!」

「そ、総司令!? しかも、スーツ開発者って……」

 

 カツミ君が自身の腕につけているチェンジャーと私の顔を交互に見る。

 その視線にドヤ顔で頷く。

 

「そう! 君が変身に用いているチェンジャーの開発者がこの私だ!!」

「なんだって……!? おい、アルファ、きらら、お前達が話してたよりすごい人だぞこの人!!」

「「でも、変態だよ?」」

「変態なのか!?」

 

「私は変態ではなぁい!!」

 

 アルファとイエローは私をどういう風に話したのだ!!

 いったいどこが私が変態だというのだ!! 皆目見当もつかんわ!!

 

「あの俺、チェンジャー盗んじゃったけど……」

「それは既に過去のこと!! 今やそのチェンジャーは君専用にグレェドウァップされたもの!! 君のために作った君だけにしか使えない至高のアイテムなのだァ!!」

 

 今となっては盗まれたというより、プロトと惹きあったといった方がまだ納得できる。

 

『癪だけど、彼のおかげで喋れるようになった』

「そうだったのか……」

 

 地味に癪だけどって言わなかったかプロト?

 ……まあいい、まずはカツミ君の警戒を徐々に解いていこう。

 

「じゃあ、これが強化されていたのはレイマがやってくれたのか?」

「その通り。実際に使ってみてどうだったかね?」

「イメージ通りに体が動いてくれるな。前のスーツは、だんだん動きが鈍くなっていってる気がしてたし」

 

 ……カツミ君本人がプロトゼロのスーツの性能を凌駕しつつあったということか?

 肉体的……じゃないな。

 これはスーツの適合率と見るべきかもしれない。

 

「まだ改良、否、進化する余地があるということだな。それでこそ君だ」

「……俺は、貴方とどのような関係だったんだ?」

 

 関係……関係か。

 立場としては複雑ではあるが、それほど難しいものではない。

 

「友人だよ」

「ゆう、じん?」

「地球の怪人の大本を打倒したその後、君は自らの信念、目的のために我々との最後の戦いに身を投じ、その末に敗北した」

 

 君はあの時点から先の未来を見越していた。

 宇宙からやってくる未知なる脅威からアルファを救うために、その時の彼ができる最善の手を打とうとしていた。

 例え、その身を犠牲にしてでも。

 

「それから、君はそこにいるイエローを含めた三人の戦士たちと関わることで、当たり前の日常を学んだ。もちろん、常に君の傍にいたアルファにも同じことが言える」

「……当たり前の、日常」

 

 その試みが無駄に終わったのか、それとも意味のあるものだったのかが分かるのは、君が本当の意味で記憶を取り戻したその時だけだ。

 

「……貴方は、俺にどうしてほしいんですか?」

「我々と共に戦ってほしい」

「きらら達と?」

 

 ちらりと彼が隣にいるイエローを見ると、彼女が頷く。

 

「これから地球を襲う脅威は、怪人とは比較にならないほど強大だ」

「……星将序列とかいう奴らですか」

「ああ。既に接触されていることは聞いている」

 

 星界戦隊。

 私が序列として並んでいた頃は敵対していた“正義(ルイン)の敵”だった彼らが、今や我々の敵としているという状況が皮肉としか思えない。

 だが、奴らの持つ装備や技術がジャスティスクルセイダーと同じ水準……いや、それ以上の可能性もある。

 

「アルファにもきららにも言ってはいなかったけど……俺は星将序列、その3位と6位に遭遇している」

「なんだって……!?」

「今のところは敵対する意思はないらしい。だけど、3位の方はすごく強い」

 

 一桁クラスが既にカツミ君に接触しているだと!?

 しかも敵対する意思がないとはどういうことだ? 星将序列内も一枚岩じゃないってことか?

 

「少なくともあいつより強い奴が二人以上いるんなら、今まで通りってわけじゃいかないのは俺でも分かる。それに……」

「……? 私?」

「いや……」

 

 意味深にアルファに視線を送った後に、彼は私を見る。

 

「貴方は信用できる。言葉で言い表すのは難しいけど、記憶を失う前の俺は貴方のことを信頼していたんだと思う」

「カツミ君……」

「今、はっきりと分かることはこの空白の記憶の中で“俺”は変わることができたってことだ」

 

 そう言葉にした彼は自身の掌を見つめる。

 

「あと少しで、ほんの少しのきっかけで思い出せそうな予感がするんだ。穂村克己と白川克樹としての両方の記憶を……だから、提案を受けるよ」

 

 変わることができた。

 それを彼の口から聞くことができてよかったと思う。

 それはつまり、レッド達のこれまでの献身がカツミ君にとって無駄なものではなかったという証明になったことと同じだからだ。

 

「君は純粋すぎる!!」

「レイマ!?」

 

 思わず感激を口に出してしまったが、まだ話は終わりではない。

 まずはカツミ君の記憶を戻す方法だ。

 これでまず分かるのは、アルファの認識改編で簡単に治そうとすれば、確実にルインが妨害してくることだ。

 恐らく、ルインは彼が完全な復活を遂げるチャンスを伺っている。

 そしてそれは……そう遠い未来ではない。

 

「失礼、少々取り乱した」

「お、おう……?」

「気にしなくてもいいよ。いつものことだから」

「うん、いつも変なことしてる」

『大体いつもこんな感じ』

「貴様らはいい加減、逐一私の印象を下げるのはやめろ……!! なんだ嫉妬か!?」

 

 失礼な奴らだな。

 とにかくだ。

 

「そろそろ、レッドとブルーにも会わせなければならないな」

「レッドとブルーというと、前に居合わせたきららの仲間か。……きらら、アルファ、どうした? 顔が真っ青だぞ」

「い、いやぁ、なんでもない。なんでもないよ……」

 

 正直、気持ちは分からなくもないが、彼女たちもカツミ君の身を案じていたのだ。

 一応隠していたことをフォローはするが、ある程度の制裁は覚悟しておいた方がいいかもしれないな。

 

「あの二人は———」

「ッ、レイマ」

「む?」

 

 何を思ったのか一瞬で目つきを鋭くさせたカツミ君が、窓の外を睨みつける。

 その次の瞬間、窓から見える夜空に青色の波動のようなものが広がり、大きな爆音と建物を揺るがすほどの振動が叩きつけられる。

 ———ッ、なんだ!?

 ここを狙ったものではない!! もっと遠くに起こった衝撃だが!!

 

「社長!」

「分かっている!! 今、状況を確認する!!」

 

 窓にまで歩み寄り、端末から本部へと連絡を繋ごうとするが———繋がらない。

 常に本部にはスタッフが対異星人への監視のために常駐しているため、繋がらないなんて事態はありえない。

 導かれる結論は……。

 

「本部を襲撃されたか……!」

 

 だとすれば空に見えた青色の波動は、ビルを守るエネルギーフィールドと侵略者の兵器が激突した衝撃!!

 状況を予測した私が取るべき対応は……!!

 端末をさらに操作し、チェンジャーを通しての介しての通信を繋ぐ。

 

「ジャスティスクルセイダー!! 本部が襲撃された!!」

『え、司令は大丈夫なんですか!?』

『もぐもぐ、ごくん……緊急事態ですね』

 

 レッドとブルーの返答を確認し、要請を送る。

 

「私は運良く……いや、運悪く外にいる!! 私もすぐに現場に向かうが、お前たちはスタッフの救出と敵侵略者の排除を頼む!!」

『『はい!!』』

「それと———」

 

「レイマ」

 

 いつの間にか私の隣に来ていたカツミ君の声。

 いや待って、カツミ君。

 今声をかけられると端末越しに聞こえて非常にまず―——、

 

『カネザキレイマ……なにを隠しているのかな? かな?』

臨・兵・闘・者……皆……怨……怨……怨……!

「ひぇっ」

 

 うわあああ!? 移動しながら私への怨嗟の声を飛ばしてきている!?

 ブルーに至ってはうろ覚えではないか!

 後の展開が怖いが、とりあえずは一旦通信をシャットアウッ!!

 

「俺は一足先にその本部って場所に行く」

「あ、ああ、タイプ1の速さなら可能だろう!! イエローは彼と一緒に向かえ!!」

「分かりました!! カツミ君、窓から外に!!」

 

 開けられた窓からカツミ君とイエローが外へと出る。

 塀に囲まれた庭で、二人は同時にチェンジャーのボタンを押し変身を行った。

 

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

「いけるか? プロト」

『絶好調だよ! カツミ!!』

 

CHANGE(チェンジ) → UP(アップ) RIGING(ライジング)!! SYSTEM OF(システム オブ) JUSTICE(ジャスティス) CRUSADE(クルセイド)!! VERSION(バージョン)2.0!!』

「こっちも変身完了だよ!」

 

 銀と黒の戦士、プロト1と、黄色の戦士、ジャスティスイエロー。

 一瞬で変身を完了させたイエローはそのまま左手のチェンジャーへと手を伸ばす。

 

「黒騎士くん! 私はビークルで行くから、君は先に!!」

「いや、その必要はない」

「え、必要ないって……わひっ!?」

 

 カツミ君が軽々とイエローを抱き上げた……!?

 

「こっちの方が速い。行くぞ」

「え、あ!? その、色々な意味で心の準備がって、わ、わわわ―—!?」

 

 軽く地面を跳躍し、イエローを抱えたまま空高く飛び上がったカツミ君。

 彼はそのまま空中を蹴りながら、赤い軌跡を空に刻み付けながら侵略者たちが攻めているであろう本部へと真っすぐに突き進んでいく。

 

「……我々も行くぞ、アルファ」

「きららァ……」

「嫉妬タイムは後!!」

 

 カツミ君とジャスティスクルセイダーが向かったのならまだ安心できるだろう。

 問題は……ッ、む!?

 鳴り響いた端末をすぐに手に取り、連絡を受ける。

 

「大森君か!! そっちの状況を簡潔に聞かせてくれ!!」

 

 ……。

 ……襲撃してきたのは星界戦隊だと!?

 クソッ、最悪のタイミングで最悪の奴らが来たな!!

 

「ッ、白川君が!? 単身で!? 今すぐやめさせろ!! ―——くっ、妨害されたか!!」

 

 一瞬でノイズがかかり通信が強制的に切断される。

 歯痒い気持ちを抑え込みながら、外へと飛び出した私は急いで現場に向かうための足を探す。

 

「社長! ハクアになにかあったの!?」

「分からん!! だが、予想よりまずい状況になるかもしれん!!」

 

 相手は危険な星将序列だ。

 実戦慣れしていない白川君の力じゃ太刀打ちできるはずがない。

 カツミ君、急いでくれ……!!

 




イエロー、ランキング浮上……!!

本部襲撃回。
ようやく戦闘間際まで進められました。


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全てが揃う時 1

お待たせしました。

今回はちょっと長めになってしまいました。
ハクア視点でお送りします。


 そのとき感じたのはざわつくような得体の知れない不快感だった。

 

 “恐ろしい何かがやってくる”

 

 漠然とした予感のようなものを感じた次の瞬間には、KANEZAKI・CORPORATIONのビルを衝撃が襲った。

 社長が用意していたバリアが作動し、建物こそは瓦解することはなかったけれど、地下にまで届くその衝撃に社に残っていた人たちは一種の恐慌状態に陥った。

 すぐに冷静さを取り戻した私は、途中で合流したシロと共にオペレーションルームへと駆けこむ。

 

「お、大森さん! グラトさん! これは———」

「襲撃です!! 今映像を出します!!」

「よりにもよってレイマがいない時にやってくるとは……!!」

 

 そこにはスタッフ達が社員の避難、防護システムの構築・サポートを行っていた。

 社長の代わりに大森さんがシステム面の指揮を任されているようだけど、様子からしてまずい状況なのは聞かなくても分かった。

 

「シールドバリア! 最初の一撃で七割近くエネルギーが持っていかれました!!」

「我々の……いえ、そもそも想定していたエネルギーとは別種の力です!! 次、同じ攻撃を受ければ本部は建物ごと崩壊します!!」

 

 スタッフたちの悲鳴とも思える声に大森さんと似た真っ白い髪の容姿の女性、グラトは忌々し気な様子で爪を噛む。

 

「……ッ、まずいぞ、マナ。星界戦隊の所有エネルギーはエナジーコアとは異なる代物だ……!!」

「対象の位置を補足して! 撃たれた方向を解析して、そっちにバリアを集中!!」

「敵、捉えました!! 今映します!!」

「!」

 

 暗転していた大画面モニターに本部の遥か上空に滞空している何かを映し出す。

 

「巨大な剣?……いえ、五機の衛星……?」

 

 赤色、青色、黄色、緑色、桃色の五機の衛星。

 巨大なそれらはそれぞれが機械的な剣のようなデザインをしており、見た目だけならば柄も刃に当たる部分も見られる。

 しかし、円を並ぶように配置されたそれらの中心には、混沌とした色を混ぜ合わせたエネルギーボールのようなものが作り出されており、その真下には私たちのいるビルが存在している。

 

「本部を襲った一撃は五機の敵衛星から発射されたもののようです!!」

「まもなく発射段階に移行!! どうします、副主任!!」

「……ッ」

 

 早い……!? さっきの一撃からもう次が放たれようとしているの!?

 これじゃあ、ジャスティスクルセイダーは間に合わない!!

 すると、大森さんの隣にいたグラトが、無言のまま部屋から出ていこうとしていることに気づく。

 

「グラト! どこに行くの!?」

 

 大森さんも気づいたのか、どこか慌てた様子で彼を呼び止めた。

 

「私が二撃目を阻止してくる。今の私でもアレの一撃くらいは止められるはずだ」

「死ぬ気なの!?」

「そのような問答をしている暇はない。私は行くぞ」

 

 ……あの攻撃の威力は素人の私から見ても異常なのは分かる。

 グラトさんだけじゃ無理だ。

 確実に命を落としてしまう。

 

「シロ、いける?」

「……ガゥ」

「ごめんね、かっつんじゃなくて……」

 

 私も先に行ったグラトさんを追いかける形でその場を走り出す。

 

「白川さん、貴女まで……!?」

「勝手なことしてすいません!!」

 

 もう自分だけ何もしないのは嫌だから……!!

 そういう無力感はもう何度も何度も何度も味わってきた。

 

「そんな後悔なんてしたくない……! 私は、私がしなくちゃいけないことをするんだ!!」

「ガゥ!!」

LUPUS(ルプス)DRIVER(ドライバー)!!!!』

 

 シロの目が輝くと私の腕に白色のチェンジャー“シグマチェンジャー”が光と共に現れる。

 

「へ、へんしん!」

Σ(シグマ) CHANGE(チェンジ)

 

 ぎこちない掛け声と共に通路いっぱいに光が溢れ、私の全身をスーツが覆う。

 

TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス) Σ(シグマ) FORM(フォーム)!!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 そのまま白騎士への変身を完了させ、非常階段を駆け上がるグラトさんへと追いつく。

 

「ハクア、どうして君まで来るんだ!!」

「私もなにかできることが、あるはずだから……!!」

「しかし……、くっ、口論している時間すら惜しい!!」

 

 一階へ通じる扉をけ破り、社内へと飛び出す。

 まだ人もいるけど、そもそもここからじゃ砲撃を防ぐことはできない。

 せめて、屋上に上がればいいけれど……!!

 

「先ほどの衝撃でエレベーターが停止している! このまま私が蓄えたエネルギーを解放して……」

「そうだ! シロ、バイクって出せる!?」

 

 いつもかっつんが使っているバイクなら一瞬で屋上まで行けるはず。

 私の声にすぐにバックルの瞳を輝かせたシロがその瞳から外へと向けて光線を放つ。

 

LUPUS(ルプス) STRIKER(ストライカー)!!』

RED(レッド) BLASTER(ブラスター) PACKAGE(パッケージ)!!』

 

「へ?」

 

 会社の前に現れたのは白と黒のバイクと、その少し先に現れた赤色のL字型の赤色の機械。

 一瞬、なにが現れたのか理解できなかったけれど、瞬時に頭にそれの扱い方が流れてきた。

 

「え、嘘!? そうやって使うの!?」

「な、なんだあれは? ものすごく嫌な予感がするのだが」

「じ、時間もないししょうがない!! グラトさん、後ろに乗ってください!!」

 

 グラトさんと外に出てバイクに跨る。

 この一年の人生の中で当然バイクに乗るなんて経験は皆無だけど、使い方は教えてもらったしぶっつけ本番で頑張るしかない!!

 バイクを進め、ブラスターパッケージに車輪を固定し、両側面にロケットエンジンを模した機構を取り付ける。

 

「このまま空へと打ちあがるそうです!!」

「恐ろしく不安なのだが!? 大丈夫なのかこれは!?」

「……」

「黙り込むのはやめてくれないか!?」

 

 前輪が上へと向き、そのままバイクごと縦になるように傾く。

 そのタイミングで私はアクセルを回し、全力でエネルギーを噴射し空へと舞い上がる。

 

「わあああああ!?」

「おおおおおお!?」

 

 予想以上の加速でビルの側面を突き進んでいくバイクに絶叫してしまう。

 それでもなお、必死にしがみついていたグラトさんは、息も絶え絶えな様子で私に話しかけてくる。

 

「降りている、時間は、ない!! このまま私がため込んだグルメパワーであの砲撃を相殺する!!」

「グルメパワー!? そ、それって、大丈夫なんですか!?」

「死にはしない!! だが私の蓄えたエネルギーを全て投入したとしてもそれが限界だ!! それでも、時間は稼げるはずだ!!」

「……ッ、空が!」

 

 暗雲に雷が走る。

 なにかを避けるように消えていった雲の先には、五色に輝くエネルギー弾が落ちてこようとしていた。

 それと同時に私は装備されたロケットブースターをパージし、会社の壁面を走らせながら―——勢いに任せて屋上から天高くルプスストライカーを飛び上がらせ、着地する。

 

「来るぞ!!」

 

 空から迫るエネルギー弾を見据えた彼はバイクから飛び降りながら自身の胸に手を当て上空を見据える。

 

「この星の食文化は滅ぼさせはしないぞ!! まだ私は食べたりない!! 食べたりないのだ!!」

「そんな理由!?」

「私が命を懸けるほどの理由だ!!」

 

 すっごい利己的な理由だ———!?

 でも、私も援護しなくちゃ駄目だよね!!

 

「シロ、かっつんが使ってるでっかい武器ちょうだい!!」

「ガゥ!」

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

 

 手の中に大砲のような大きな武器が現れる。

 っって、なにこれ重ぉ!? かっつん、いつもこんなの軽々と振り回してるの!?

 で、でもこれなら、グラトの助けにもなるはず!!

 

「い、いくよ!!」

Σ(シグマ) CHARGE(チャージ)!』

 

 エネルギー弾へと向けて、大砲の引き金を引く。

 グラトさんと、私の攻撃が同時に空へと打ちあがり———エネルギー弾と空中で激突する。

 

「ぬ、おおおお!?」

「わっ、うわああ!?」

 

 とてつもない衝撃と光が頭上から降り注ぎ、屋上から吹き飛ばされそうになる。

 こ、こんなのビルに直撃したら跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない……!!

 下手をすれば、一瞬で何千人の人たちを危険にさらしていたかと考え背筋が凍るような気分にさせられていると、衝撃に耐えきったグラトさんが力なく、地面に倒れ伏したことに気づく。

 

「ぐ、グラトさん!? だ、大丈夫ですか!」

「心配ない。お腹が空いただけだ」

「いや、お腹というより、干物みたいになってますけど!?」

「いいんだ。所詮、エネルギーはエネルギー……真に価値あるものは、私の味覚を通して記憶に刻まれているものなのだ……」

 

 勝手に納得して何言ってんのこの人!?

 なんだかものすごい悟ったことをいっているグラトさんに、ちょっとだけ引く。

 

「それより、早くこの場を離れよう。さすがに次の攻撃までの時間は稼げたはずだ。その間にここの人々の避難を急がせよう」

「そ、そうですね」

 

 今のグラトさんを放置するわけにもいかないし、早くこの場を離れよう。

 そう思いバイクの元にまでグラトさんを運ぼうとしたその時、頭上から五つの光の柱が私たちのいる屋上に現れる。

 

「さすがにそこまで甘くはなかったようだね」

「……」

「ジャスティスなんとかはいねぇのか? ああ?」

「ねえ、レッド! あの子がそうなの? ねえねえレッド!!」

「私、戦うのダルイんだけど」

 

 五人の、戦士。

 ジャスティスクルセイダーとは異なるスーツ。

 とても敵の組織とは思えないヒロイックな姿に一瞬呆気にとられるが、目の前の奴らが星界戦隊と呼ばれる危険な連中と理解したその瞬間、私はグラトを連れてそこから逃げ出そうとする。

 

「イエロー」

「はぁ……」

 

 だ、駄目だ!

 あいつらとは戦っちゃいけない!!

 いくら変身しても実力差くらいは分かる!!

 一人ならまだしも、あの五人を相手にするのは私じゃ無理だ!!

 

「あぐっ!?」

 

 しかし、ビルから飛び降りようとした私の背中に電撃を流されたような痛みが走った。

 そのまま屋上の床に叩きつけられた私は、全身の痺れに苦しむ。

 

「う、ぐぅ……!!」

「貫けない? へぇ、さすがはコア印の強化スーツ」

 

 何かに背中を刺された……!

 幸い、スーツそのものは貫いてはいないようだけど……泣きそうなくらいに痛い……!!

 

「ふむふむ、星将序列072位が寝返ったという情報は真実のようだね」

「……星界戦隊……!!」

「安心するといい、俺たちは別に裏切者の君を糾弾するつもりなんてないさ」

 

 私と一緒に地面に転がったグラトさんを見下ろす赤い戦士。

 頭全体を覆うマスクでその表情はうかがえないが、それがかえって何を考えているか分からなくて不気味だ……!!

 

「俺たちも同じだからさ。気持ちはよく分かるんだ」

「同じ、だと?」

「ああ、同じ。俺達は俺達を選んだ“外なる意思”を裏切り、こちら側についた。地球の言葉では、“同じ穴の狢”というものかな?」

 

 身体の痺れが抜けてきた……。

 このままこいつが悠長に長話を続けていれば、ジャスティスクルセイダーも到着するはず。

 

「しかし、誰が責められようか。誰か分からない者たちのために戦いを強いられ、得なんて一つもない」

「誰かに感謝されることもなかったしねー」

「逆に攻撃されたこともあったよな!」

 

 揚々とそう語るレッドにピンクにグリーンに、得体の知れない気持ち悪さを抱く。

 ブルーの方は変わらず沈黙しているけど、イエローの方は我関せずと周囲を見回している。

 

「だから俺たちはつく側を変えたんだ。殺されそうになっていたし、しょうがないだろう? 誰だって死にたくないし?」

「———ざ、けるな」

「ん? なになに? 聞こえないぞ?」

「ふざけるなぁ!!」

 

 弱弱しくも衰弱したグラトさんがレッドに怒鳴る。

 その剣幕に一瞬驚きの表情を浮かべたレッドに、彼は続けて罵声を叩きつける。

 

「自分を裏切ったお前達と、私を一緒にするな!」

「どういうことかな?」

「どういうこともなにも言葉通りだ! この私の食への探求心を、汚らしい承認欲求と混同させるな! 貴様たちのそういうところが私は——」

 

 グラトさん……!

 それ以上刺激しちゃ駄目!!

 

「虫唾が走る!!」

「あ、じゃあ、君はいらないや」

 

 前触れもなしに、興味を失った赤い戦士が無造作にグラトさんの胸に剣を突き刺した。

 驚愕に目を見開いたグラトさんの血が、私のマスクの右目部分にべちゃりと飛び散る。

 

「グラト……さん?」

「が、ふ……!?」

 

 刺された。

 目の前で、グラトさんの心臓に剣が突き立てられた。

 血も流さず、そのまま白い結晶のような姿へと変わっていく彼に呆然となった後に、私はすぐに我に返った。

 

「……んん? 結晶化? いや違うな、これは面白い生態だなぁ、72位だけはある」

 

 殺された。

 仲間を、殺された。

 これまで一度も感じることのなかった恐怖と震えが私の身体を襲い掛かる。

 

「あぁ、悲しいなぁ。でもしょうがないよ。俺達の敵は殺さないといけないんだ。折角、仲間になれると思ったのに……!!」

「あんなの仲間にいれてどーすんだよ!!」

「私はレッドがそれでいいなら、文句ないよ!!」

「……胸糞悪……こいつら皆、はやく死んでくれないかな……」

 

 痺れはほとんど消えてきていた。

 それでも動けない。

 彫刻のような姿に変質してしまったグラトさんを前にただただ絶望するしかなかった。

 

「さて、次は君だ!」

「……ぅ、あ……」

 

 グラトさんの死体にも目もくれずに倒れている私を見るレッド。

 駄目だ……終わりだ。

 やっぱり、かっつんがいてくれないと、私駄目だ……。

 

「そうじゃないでしょ、私……!!」

 

 かっつんは、いつもこんな中で戦ってきた。

 いつ死ぬかも分からないのに、顔も知らない誰かのためにずっと自分の身も顧みずに。

 

「時間を、稼ぐ。私に、できることをする」

「ガゥ!!」

Σ(シグマ) SABER(サーベル)!』

 

 手の中に現れたシグマサーベルを握りしめ、それを杖にして立ち上がる。

 いつまでも打ちひしがれてちゃ駄目なんだ。

 ここで死ぬ気でこいつらを足止めして、アカネ達とかっつんが来るまでの時間を稼ぐ……!!

 

「見たところ、スーツの性能は俺達と同等程度かな? 全然使いこなせてないけど、使いこなせればすぐにいい戦力になりそう」

「……こいつ、どうするのよ」

「それに、白って色がいいよね!! 俺達にはない色だ!! 仲間にしたくならないかな!?」

「……そう。……今のうちに殺してあげた方が幸せかも

 

 仲間になる……!? 冗談じゃない。

 こんな奴らの仲間になるなんて死んでも嫌だ。

 しかし、私の感情とは別に、サーベルを握る手が震えてしまう。

 

「かわいそー。怯えてるじゃん。どうする? どうする? レッド?」

「抵抗されると、邪魔になるし適度に痛めつけて、船に連れて行こうか。ピンク、頼めるかな?」

「いいよー! レッドの頼みならなんでも聞いちゃうっ!」

 

 無邪気な振る舞いと共にピンクが前に歩み出てくる。

 他の4人は後ろで見ているだけなのかは分からないけど、それでもまだ絶望的な状況には変わりない。

 

「今日は我がかつての宿敵も来てくれているからね。格好悪い姿は見せられないよ。さあ、これから地球のヒーロー、ジャスティスクルセイダーを迎え撃つ準備をしよう!!」

 

 ピンクが両手に武器のようなものを出現させる。

 それは、機械的なデザインの刃がノコギリのような形状の双剣。

 ぎゃりぎゃりと耳障りな音を立て、それでも変わらない明るさで近づいてくるピンクが、どうしようもなく怖くなってくる。

 

「痛めつけるっていったけれど、どれくらいなのかな?」

「っ……」

「腕かな? 足かな? あ、でも私、レッドが好きだから、どばーって血がたくさん出るようにしよう! そうしよう!!」

 

 なにこのやべぇやつ。

 恐怖以前に、私の正気がなくなりそうだよ……!?

 

「嫌だ……」

 

 会いたい。

 今この場にいない彼に会いたい。

 声が届かなくてもいい。

 幻覚でもいい。

 この、どうしようもない絶望的な状況にいるよりも、私は……。

 

「かっつん……助けて……」

「手元が狂うといけないから、抵抗しないでねっ!」

 

 振るわれる二刀のノコギリを前にして、サーベルを構える。

 それでも、諦めかけたその時———私の視界に赤い線のような何かが走った。

 目の錯覚、と認識した次の瞬間には、私に武器を向けようとしていたピンクの両腕の肘から先が消え失せていた。

 機械で構成された部品と、燃料のようなものを噴出させたピンクは不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ? ……私の腕は?」

 

「こいつのことか?」

「あ、うん! ところで君は誰?」

 

 両腕を失ったピンクの傍に立っていた黒い戦士が、無造作に持っていたピンクの両腕を放り投げながら——、

 

お前らの敵だよ

 

 ——強烈な蹴りを腕を巻き込みその胴体へと叩きつけ、空へと打ち上げた。

 

「あ、返し——」

もう必要ないやろ

 

 そんなピンクを上から降ってきたイエローが斧を叩きつけ、ピンクの脳天から真っ二つにし落雷と見間違えるほどの電撃で燃やし尽くしてしまった。

 

「……ぁ」

 

 目の前に立っている黒い仮面……黒騎士を見て、足の力が抜ける。

 

「おっと、無事か?」

「あ……あ……」

 

 身体を支えられ、ゆっくりと座らせられる。

 この声を間違えようもはずがない。

 

がっづんぅ……ざびしがったよぉ……

「ガッズン!? ま、まさかそれが記憶を失った俺のコードネームなのか……!? ……悪くねぇな……」

「悪くないんだ……」

 

 そういう天然なところもかっつんだぁぁ……。

 感情が抑えられず泣き出してしまう。

 我ながらみっともないと思う。

 でも、抑えきれないくらいに彼という存在が傍に居ることが嬉しかったのだ。

 

「ッ!!」

「わっ!?」

 

 私の前に立ったかっつんの腕がブレるように一瞬消え、軽くのけぞる。

 え、な、なに!?

 不思議そうに首を傾げた彼が、掌を掲げるとそこには針のような形状をした弾丸のようなものが存在していた。

 

「……なんだこれ」

「ッ、回避不能の跳躍弾を掴み取った……!?」

 

 あっちのイエローが銃のようなものを構えて驚いている。

 ということは、かっつんは攻撃を受けたってこと?

 

『直撃するまで空間に現れない攻撃だと思う! 空間の揺らぎで直撃個所を割り出―——』

「なら、直撃してから防げばいいだけだろ!!」

『そうと思ったけど、その方が速いよね!! うん!!』

 

 私がさっき食らった攻撃があれ、なの?

 今のかっつんが直撃するまで気づけなかったということは、そういう特殊な攻撃ということになる。

 ……無傷で掴み取っているけど。

 

「一応、言っておくが今の俺は無茶苦茶、ものすごく頭にきている。自分でもよく分からねぇし、我ながら理不尽だと思うが……今から、お前ら全員原型を残さねぇから覚悟しろ」

 

 弾を地面に投げ捨てぐるんと腕を回すかっつん。

 見て分かるほどの怒気を滾らせた彼は、傍で斧を肩に担いでいるイエローに話しかける。

 

「きらら、こいつらの処理は任せろ」

「う、うん! あと、今はイエローって呼んでね……?」

「おっとそうだな。悪い、気を付ける」

「えへへ……うん……」

 

 ……は?

 なんでそんな親し気?

 いつからそんな距離感狭まったの?

 きらら、君、今日まで何してた?

 

「イエロー、なにか私に言うことある?」

「あ、あれぇ、どうしたんやろ。なんか敵よりもすごい圧が後ろから……」

 

 いや、今は騒いでる場合じゃない。

 グラトさんが殺されてしまったのだ。

 その事実だけを伝えなくちゃ。

 

「イエロー、グラトさんが……!」

「それについては心配いらないって、今司令から連絡が来たから」

「だ、大丈夫って……」

「それより、今は目の前の敵に集中!!」

 

 ッ、かっつんの出現で攻めてくる様子を見せなかった星界戦隊が動きを見せた。

 レッドが背中を押すように現れたのは、緑のスーツを纏った戦士、モータルグリーン。

 そいつは棍棒のような武器から怪しい光を放つ。

 

「腐食しろ、クァ・テル———」

 

 グリーンが光の放つ棍棒を地面に突き刺し、何かをしようとする。

 な、なにか攻撃してくるの!? とにかく、防御しなくちゃ……!!

 

「——アンゲッ……!?」

「わざわざ技名、叫んで隙晒してくれるなんて、嘗めてんのか?」

 

 かっつんの呆れた声が聞こえると同時に傍にいた彼の姿が消え、グリーンの胸と頭部を消し飛ばし、レッド、ブルー、イエローの前に立つ。

 続けて間髪を容れずに振るわれる三度(・・)の拳。

 それらをかろうじて目で追い、戦慄する。

 

生身(・・)なのは一人だけか。大したことねぇな、負け犬戦隊」

「やっぱりお前は宿敵だ!! さあ、戦いを始めようじゃないか!!」

 

 ものすごい興奮した様子のレッド。

 他の二人も同じかと思いきや、ブルーは無言、イエローはその場から全力で後ろに下がった。

 

「イエロー!! まだ撤退には早いぞぉ!!」

「……ッ、や、やばかった。死ぬところだったじゃない……!」

 

 地面に膝をつき肩で息をするイエローに呆れた様子のレッドだが、見ている私からすれば未だに気づいていないレッドに呆れるしかない。

 

「あんたら、不死身だからって危機感なさすぎよ!! さっさとその風穴(・・)開けられた体を入れ替えて戻ってきなさい!!」

「———え?」

 

 レッドとブルーの胸に開けられた拳大の穴。

 それを認識したレッドはがくんと膝から崩れ落ちた。

 

「は、はは、前回よりも強化したはずなのにまだ及ばないのか。でもまだ次に―——」

「次なんてあると思ってんのか?」

「!」

 

 膝をつくあっちのイエローを無視し、かっつんは頭上を見上げる。

 遥か空には衛星のように浮かぶ、五本の剣を模し機械のようなもの。

 

「お前らの本体なんてとっくにプロトがお見通しなんだよボケ共が。つまり、こっからあの仰々しい乗り物にいるお前らの本体をぶっ倒せば、二度と復活できないってことだよなァ?」

「ま、待ってくれ!!」

今度はテメェのおうちを破壊してやるぜぇ!!

 

 どこからどう見ても悪役全開なセリフと共にかっつんが空に拳を突き出し、赤色の閃光を放つ。

 原理も何もかもが滅茶苦茶な拳により放たれたビーム。

 それらはまっすぐに空へと突き進み———、

 

HAJIKERO

 

 ———まるで何かに弾かれるように、直撃する直前で霧散してしまう。

 何が起こったか理解できない私に、かっつんが警戒するように拳を構え空を睨みつける。

 

「!」

「は、はは、そうだ。彼がいたんだった!! いや、危ないところだった!!」

 

 空からまた別のなにかが下りてくる。

 まるで階段を降りるように空気に足をかけ降りてきた新たな異星人は、黒い生物的な鎧と外套に身を包んだ……黒騎士に似た姿をしていた。

 しっかりと目視できる位置にまで降りてこようとしたその人物に、レッドはやかましく喚きたてる。

 

「彼こそは我が星界戦隊のかつての宿敵であり、今や共に戦う同胞!! 序列はち―——」

 

 不意に、空から流れ星のように落ちてきた黒色の剣がレッドの頭に突き刺さる。

 貫通し、胴体ごと真っ二つにされたレッドの傍に降り立った男に、あっち側のイエローは恐怖に震えた声を漏らす。

 

「ひ、どうして、あんたが……」

KUDAKE

 

 なんらかの言葉と共に黒い剣が光を放ち、貫いたレッドの肉体を粉みじんに分解する。

 よく見なくても……やばい奴だ。

 さっきのピンクなんてめじゃないくらいに。

 

「名を明かす必要はない。序列も明かす意味がない。それに値する者かは、私の目で見極める」

 

 剣を引き抜き、鞘に納めた黒い戦士がかっつんへと向き直る。

 

「黒騎士、同じ異名()で呼ばれる者よ」

「……あぁ? なんだ?」

「問いかけを一つ、よろしいか」

「え? あ、おう……」

 

 思ったよりも丁寧な質問に応答しちゃった!?

 なんでそういう変なところで律義さを発揮するの!!

 

「なぜ……」

 

 どんな質問が飛んでくるの……!?

 全然、分からずきららも警戒した様子を見せる。

 やや、間延びした口調でそいつは続きの言葉を口にする。

 

「剣を使わない?」

「えっ?」

 

 ……はい?

 

「黒騎士なのに」

「「「……」」」

 

 ……。

 それは、今の状況で聞くべき質問なのか逆に聞きたい……!!

 いったいこのあっちの黒騎士はなんなの……!?

 

 




作中誰もツッコまなかったことをツッコむド天然なあっち側の黒騎士でした。

星界戦隊は割とギリギリなメンツって感じです。
レッドとピンクが特にやばい……。


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全てが揃う時 2

お待たせしました。

本編に特に影響はありませんが、少しばかり前話と合わせて変更した点がありましたので、前書きにてご報告します。

・サブタイトルの表記を「前編」ではなく「1」としました。
・ルビの関係上、もう一人の黒騎士の能力使用時のフォントを変更。

今回は主人公視点となります。


 黒騎士と呼ばれている意味……!?

 んなもん俺が知るわけがない。

 なにせ、ふと気が付いた時にはそう呼ばれるようになっていたし、別にどう呼ばれようが俺にはどうでもよかったので特に疑問に思ったことはなかった。

 

「……」

「そこまで難しい質問だったか?」

 

 目の前に現れた全身真っ黒の鎧を纏った野郎は、得体が知れねぇ。

 さっきのはなんだ? 歌うようにレッドを粉みじんにしやがって。

 ……迂闊に踏み込むとやばい予感がする。

 仕方ねぇ、こいつの話に少し付き合うか。

 

「どうしてって言われても、勝手にそう呼ばれたからとしか言えないな」

 

 すると、相手の黒騎士は悩まし気な様子で腕を組む。

 

「……私と同じだ」

「お、おう?」

「……」

「……」

 

 ねえ、なんなのこいつ!?

 もう殴りかかってもいいかなこれ!?

 こういう変な空気のやつが一番やりにくいんだけど!?

 

「つーか、厳密には剣持っているから騎士ってわけじゃねぇだろ」

「そうなのか?」

「馬とか乗り物に乗ってっから、騎士って言うんじゃねえの? 大体、剣持ってるやつが騎士だったら、槍とか持ってた奴はなんなんだよ」

 

 俺もよくは知らんが。

 というより、宇宙に騎士という概念があるかどうかすら疑問でしかない。

 ……いや待て、俺はなんで敵とこんなバカみてぇな話をしてんだ?

 

「ならば、私は黒騎士だな」

「はぁ?」

「私は船を持ってる。すごく大きい」

 

 船って宇宙船のことか?

 頭全体を覆う兜で顔は見えないが、ドヤ顔を浮かべているのはなんとなく分かる。

 

「白騎士はバイクにも船にも乗ってた。ならば、同一人物のお前も黒騎士だ」

「……俺、バイクとか乗ってたの!?」

「いや、驚くとこそこ……?」

「かっつん……」

 

 そういえば、動画でもバイクに乗ってたな俺!?

 密かな憧れを記憶喪失中に叶えていたとか意味分からないことになってるんだけど。

 きららと、俺の知り合いらしき白騎士の方を見ると、頷かれているので本当のようだ。

 

「そこにあるぞ」

「え、嘘……」

 

 振り返ると、屋上には白と黒のバイクが置かれていた。

 白騎士ちゃん? とやらが乗ってきたバイク。

 

「黒騎士くん、後でいくらでも見れるから今は敵に集中しよう」

「あ、ああ、分かってる」

 

 まさかの事実に驚いちまったが、目の前の奴は敵なんだ。

 おかしな空気のせいで動揺しちまったが、もう大丈夫だ。

 

「見てるだけかと思ってたわ」

「そのようなことは一言も口にはしていない。赤いのが勝手に騒いでいただけだ」

「……あー、確かにそうだったわねー……」

 

 あっちのイエローと会話をしたあっちの黒騎士は空を見上げる。

 また何か来るな。

 頭上のアレからじゃない……空を飛ぶ飛行機みたいなものから誰かがこちらへ落下してくる。

 そのうちの一人が剣のようなものを握りしめ、眼下にいるであろう奴へと振るう。

 

「地球の戦士か。……HAJIKERO

 

 俺の攻撃を消したように、なんらかの歌の旋律で斬撃を消し去る黒騎士。

 それにさほど動揺せずに、空中で反転しながら俺の傍に降りてきた二人の戦士、レッドとブルーであった。

 

「ブルー、あれなんだと思う?」

「可能性が高いのは言葉で力を引き出すタイプ。異星由来の言語だから、解読には社長の協力が必要」

「通信が不安定な今じゃ、対策は難しいってことだね……」

 

 二人は無言できららを見つめた後に、こちらへ振り返る。

 

「また一緒に戦うことになったね。黒騎士くん」

「初対面のフリはしなくてもいいぞ。きら……イエローから、俺たちがお前たちと知り合いだってことは聞いているからな」

「「……」」

「ひんっ……!?」

 

 ……なんだ、妙な迫力があるな。

 フッ、俺と同じく怪人と戦ってきた猛者たちだから当然か。

 顔は見えねぇけど、面構えが違うんだろう。

 

「五人の、地球の戦士が揃った。黄色いの、色々と思うところがあるのでは?」

「あんた分かってて聞いて……いえ、こいつに関しては普通に訊いているのか……クソくらえって心境、これで満足?」

「特には」

「はぁ……ようやく来たわね」

 

 レッドとブルーが到着したすぐ後に、頭上の剣型の船? から四本の光が差し込む。

 俺たちの立っているビルの屋上に降り注いだ光の柱から、さっきぶっ壊したはずの四人の星界戦隊の面々が出てくる。

 

「さあ、コンティニューだぞ、皆!!」

「クソ!! 一回死んだ!!

「腕、元通りだよ! ほら、レッド! 見て!!」

「……」

 

 装備が強化されてるな。

 俺に倒されたことで一丁前に対策をしたってやつか?

 

「お前らとも話をしたいところだが、まずはこいつらをぶっ飛ばす方が先だ」

「そうだね。さっさと撫で斬りにして片付けようね」

「風穴開けて、風通しがしやすいようにしよう」

「お、おう……」

 

 俺が言うのもなんだけど発想がバイオレンスすぎじゃない?

 なんでこんなに俺みたいなこと言ってるの?

 てか、はたから見たら俺、こんなやべーこと言ってたの?

 ……まあ、いいか。

 

「じゃあ、いっちょ共同戦線といくか! ジャスティスクルセイダー!」

「うん!」

「俺はあの黒い奴を相手にする。お前らは、星界戦隊を頼む!! 後、姉さんも守ってくれ!!」

「お任せあれ……!!」

 

 サムズアップをするブルーに満足しながら、意識を黒騎士へと集中する。

 それに合わせ、星界戦隊の連中が手元に武器を出現させて、俺たちの前に立ちはだかる。

 

「どうやらいい感じにメンバーが揃ったみたいだね! これで楽しくなりそうだ!!」

「生身で戦う度胸のねぇ奴らが、一丁前に戦いを楽しもうとしているんじゃねぇよ」

 

 こいつらは船の本体のコピーに過ぎない。

 大本を叩かなければ何度も何度も蘇る気持ち悪い連中だが、それが弱点だ。

 

「死なないことが強いとでも思ってんのか? そりゃ強いんじゃねぇ、しつこいって言うんだよ」

「……君に、俺達の何が分かるんだ?」

「知らねーよ。そもそもお前らなんて眼中にすらねぇわ」

 

 言外に、星界戦隊はこれまでたたかってきた怪人と同じと言い放つと、見た目だけは陽気な雰囲気を醸し出していたモータルレッドが黙り込む。

 

「この煽り方、久しぶりに聞いてなんだか泣きそうになってくる」

「黒騎士君、いつもそうやって怪人を怒らせてたよね……」

「キレッキレやなぁ……」

「君たちの感性おかしくなってない……? 大丈夫……?」

 

 俺の相手は星界戦隊じゃない。

 むしろもっと厄介そうな黒騎士の方だ。

 ———ッ!

 始まりの合図もなく、視線を黒騎士に向けると同時に繰り出した剣と拳を激突させる。

 ジャスティスクルセイダーと星界戦隊の間でぶつかった俺と黒騎士は互いに顔を見合わせ、さらに次の攻撃へと移る。

 

「フンッ!!」

「むん」

 

 首元の噴射口から赤いエネルギーを放出、加速させながら拳を放つ。

 それだけで相手の黒騎士の身体が浮きあがり、駄目押しの横蹴りの後にその体は勢いよく別方向へと吹き飛んでいく。

 

「こっちは任せとけ!!」

「うん! 黒騎士君!!」

「なんだ!?」

「絶対、勝ってね!!」

 

 言われるまでもねぇ!!

 屋上の地面を蹴り、吹き飛んでいく黒騎士に追いつき拳を固める。

 

「お前の相手は、俺だ……!!」

「そのようだな。よろしく頼む」

 

 ……やりづらい相手だなぁ!! もう!!

 だが星界戦隊とは比べ物にならねぇほど強いし、硬いな……!!

 

「オラァ!」

 

 俺の拳を正面から防御した黒騎士は、空中を真っすぐ飛びながら近くのビルへと激突。

 勢いのままビルを貫通し、反対側から飛び出した奴を先回りし回し蹴りを叩きつけようとしたその時、俺の眼前で奴が小さく何かを呟く声を耳にした。

 

darenimo watasino sakebiha tomerarenai

 

 瞬間、俺を含めた周囲の空間が灰色へと変わる。

 

「!」

 

 今まさに戦いを繰り広げていたジャスティスクルセイダーも全てが停止し、目の前で拳を前にした黒騎士もその動きを止めた。

 ———ッ、なんだこれ!?

 一瞬の硬直に困惑していると、目の前の黒騎士の仮面の奥からくぐもった声が漏れだす。

 

ikazutiyo

 

 なんらかの言葉。

 それを言い終えると同時に止まった体が動き出した直後に、頭上から強烈な雷が俺の元へと降り注いだ。

 

『カツミ! 空間にいきなり雷撃が!!』

「……!!」

 

 一度空を蹴り、引き絞った拳を連続で放ち雷撃を消し去る。

 周りは全部動き出しているな。

 ちょっとばかし安直だが、今の能力のあたりをつけるか。

 

「時間を止められんのか?」

「……驚いたな。意識があったのか?」

 

 違うビルの屋上に着地した俺に、驚きの声を漏らす黒騎士。

 

「それほど便利なものではない。私も言葉を発すること以外、なにもできない力だ」

「よく言うぜ。それだけあれば、雷を降らすこともお手のものだろ」

 

 なんとなくだが、こいつの能力が分かってきたな。

 とんでもねぇ能力だが、やりようはある。

 

「お前が一番されて嫌なことも分かった」

「それはなんだ?」

 

 ビルの地面を跳躍し、黒騎士に拳を打ち込む。

 また時間を止められ言葉が具現化した攻撃が襲い掛かるが、それを無視してそのまま黒騎士の仮面を殴りぬく。

 

「———ッ!」

「なにも考えずに攻撃されることだよなァ!!」

 

 時間を止める、ってのは確かにやばい力だがそれだけだ。

 止まっている間に攻撃が出せない上に、その間に繰り出された攻撃が対処可能なレベルなら、それを無視して攻撃し続ければいい。

 

「確かにそれをされると嫌だな」

 

 追撃を叩きこもうとすると、奴が腰の剣を引き抜き大きく薙ぐ。

 刃以外の煙のような何かを微かに見た俺は、寸前で拳を引き―——拳圧によるビームを放つ。

 

HAJIKERO

 

 声が形となって剣に纏わりついた……!?

 奴はそれを振るうと、軽々と拳ビームをかき消し空間を蹴って斬りかかってくる。

 ……防ぐのはまずい!!

 

「ッ」

「避けて正解だ。だが——」

 

 横に飛んで避けた俺に奴が人差し指を向ける。

 すぐに回避しようとするが、それよりも先に時間が止まる感覚と共に——、

 

kyojin no ikari

 

 突如として虚空に現れた巨大な“足”が俺の身体を地上へ叩き落とした。

 

「———ッがぁッ、野郎!!」

 

 身体能力も強化してんのか!?

 なんでもありかこの野郎!!

 だが、この程度で俺が倒れると思ったら大間違いだ!!

 空を蹴り、黒騎士のいる高度まで一気に駆け上る。

 

「この程度じゃ俺は落とせねぇぞ!!」

「だろうな。その身体能力に限っては、私から見てもお前は化物だ」

 

 しかしそれでも黒騎士は向かってくる。

 剣には既になんらかの言葉が刻み込まれているようだが、それは目視で避けつつ―——、

 

「ッ」

「なに……?」

 

 側面を拳で挟み込むように受け止める……!!

 なんの歌を刻み込んだのかは知らねぇが、斬られなきゃ意味がないようだな!!

 むっ!? またこいつ時を止めようとしているな!?

 

「いちいち止めるな!! 鬱陶しい!!」

「うぐっ……」

 

 頭突きを食らわせ、剣を手放させる。

 攻撃する瞬間にいちいち時を止められるとなァ、対戦ゲーム中にポーズされるくらいにイラっと来るんだよ!!

 背後に回り込みその胴体を両断すべく回し蹴りを叩きこむが、間に剣の鞘が割り込み防がれる。

 

hurisosoge

 

 ……ッ水か!!

 一瞬の硬直の後に頭上から大量の雨が降り注ぐ。

 構わず黒騎士に攻撃を仕掛けようとするも、奴が手元に引き寄せた剣をこちらに向ける。

 

itetuke

 

 濡れた体が一瞬で凍り付き、降り注いだ雨が氷となって俺の身体を固めていく。

 

「こんな小細工で止められるか!!」

「……!」

 

 力技と腕力と気合で氷の牢獄をぶち壊し、その頭を鷲掴みにする。

 のけぞりながらも後ろに下がった黒騎士の仮面は、先ほどの拳と頭突きで半分がひび割れていた。

 

「どうしたァ! また時間を止めて歌ってみろよ、黒騎士!!」

「……歌?」

「テメェがさっきから口ずさんでいるそのみょうちきりんな言葉だよ!!」

 

 意味は分からねぇが!

 こいつの呟いたソレは現実になる!!

 そして、そいつは生き物には使えねぇ!!

 使えたら、今頃俺は死んでいるだろうからなァ!!

 

「……そうか」

「!」

 

 奴の雰囲気が変わった……!

 攻撃に出かけた足を止め、奴から距離をとる。

 俯き、だらりと腕を下げた奴はわずかに震えた声を零した。

 

「お前には歌に聞こえるんだな……?」

 

 ……歌っている自覚がなかったのか?

 いいや、そういう意味で聞いていたんじゃないな。

 

「だったら、どうする?」

「たった一言抜きだした言葉を歌と認識したんだな?」

「……?」

「私の歌を聞いて、平気でいられるんだな?」

 

 再度、確認する相手に戦いの意思が削がれる。

 なんだ? 困ってる? いや、感動しているのか?

 

「そうだ。これは歌だ。もう誰も意味を知ることのない、私の星の、故郷の歌だ」

 

 何かする前に攻撃する!!

 拳を掲げ、突撃しようとしたところでまた不自然に時間の流れが遅くなる。

 

「——ッ」

 

 ……だからお前!! それやめろってマジで!!

 相手も動けねぇのはいいが!! 肝心の口は普通に話せるのが厄介だな!

 

hutarikirino torikagode(二人きりの 鳥籠で ) omoikogareta anatato(思い焦がれた貴方と)  utai odorou(歌い 踊ろう)

 

 先ほどの一言一言の言葉ではなく、正真正銘の“歌”。

 短くも響き渡るようなその歌が響き渡ると同時に、周囲の空間に異変が起こる。

 

「なっ……」

 

 俺と奴のいる場所を中心にして、ぐるりと半透明の膜のようなものが覆ったのだ。

 それらはまるで檻のように俺たちを閉じ込めると、外と内側との空間を隔てる壁となった。

 

「ッ、閉じ込めたのか?」

「いいや、外に漏れないようにしただけだ。これで誰も私とお前の邪魔はできない」

 

 空中に足場を作り、そこに着地した奴は空を跳ねる俺を見上げる。

 その仮面の奥で何を考えているのが分からねぇのが不気味だ。

 一体、何を考えてこんなことをしたんだ……?

 

「地球に害を及ぼすことは、あの方の望まれることではない。……ついでに言うなら、今この時私もそう思うきっかけをお前が作った」

「なんだと?」

 

 足場と思われる半透明の空間に着地し、奴と向かい合う。

 

「お前は、呪われた声から紡がれる言葉を歌と言ってくれた。今までになかったことだ」

 

 壊れかけた兜を外し、宙に放り投げる。

 兜は空中で粒子となって消え、腰にまで届くほどの長髪と口元を覆うマスクが露わになる。

 

「私の声は、言葉は、歌は、あらゆるものを傷つける刃となり果てた」

 

「故郷を壊し、人を殺し、星を死なせてしまった」

 

「それでも私に残されたのは、この歌だけだった」

 

「しかし、星の歌は聞く者を災厄へと誘う。死への導きとなってしまった」

 

 独り言をつぶやき始める奴に最大限の警戒を高める。

 すると、奴の全身を覆っていた重厚な鎧の一部が弾けるように飛び出し、空中で組み合わさり奴の左右の側面を浮遊する。

 ……砲台? いや、あの形は……。

 

「スピーカー……なのか?」

 

 そもそもが鎧ですらなかったのか?

 口元を覆うマスクに指を添えるようにずらしたそいつは、薄っすらと微笑みながら吐息を吐き出した。

 

「らしくもなく緊張している。声も上擦ってしまいそうだ」

 

 兜の中でくぐもった声ではなく、澄んだ声。

 そのまま軽く息を吸い、空間そのものに響き渡ると錯覚するほどの歌声を発した。

 

tojikomerareta toriha(閉じ込められた鳥は) kodokuni huru e(孤独に震え) anatawo tukamaerudarou(貴方を 捕まえるだろう)

 

 何もない空間から大量の鳥が現れた……!?

 いや、それより驚いたのはそいつの容姿だ。

 人間離れした毛先が赤い紫色の髪に、傍目で分かるほどに端正な顔立ち。

 異星人由来なのか、右の額から頬にかけた色白の肌に花を思わせる黒色の文様が浮かんだ彼女の素顔に素で驚く。

 

「お前、男じゃなかったのか!?」

「星将序列8位、黒騎士のイレーネ」

 

 一桁ってことは、あのオカマと同等ってことか!!

 つーか、あの似非レッド“彼”とか言ってなかったか!? あいつ、こいつの正体把握してねぇのかよ!?

 

「もう一つの名は、終歌のアルファ」

「ッ、アルファだと……!」

 

 奴は僅かに上ずったように声を震わせながらこちらを一心に見つめる。

 

「ここは世界から切り離された鳥籠の中。ここで、お前に私の歌を聞かせることにした」

「……は!? なんでだ!?」

 

 聞かせることにしたって意味が分からないんだが!?

 

「一人で歌うのは寂しいからだ。ようやく見つけた聞き手、死なないで楽しんでくれると素直に嬉しい」

「お前言ってること滅茶苦茶だぞ!?」

 

 なんじゃその理不尽な理由は!?

 それならまだ俺を殺すつもりだって言われた方がまだマシなんだが!?

 そう俺が反論するより早く、黒騎士——イレーネは息を吸い、透き通るような声で歌いだした。

 

kanojyoha(彼女は) araburuoonami tonari(荒ぶる大波となり) anatawo nomikomu(貴方を呑み込む)

「っ、人の話を聞かねぇ奴だな……!!」

 

 先ほど現れ、増殖し続けた鳥が群を成し、大波へと姿を変え空間そのものを覆いつくしながら襲い掛かる。

 足場を蹴り、生き物のように無尽に広がり追いかけてみせる大波を回避、拳ではじき返す。

 

umiga are(海は荒れ ) daitigahurue(大地が震え ) inisieno kyojingatatiga mezameru(古の巨人たちが目覚める)

 

 そして周囲に大波を渦巻かせながら、その中心に巨大な人型の化物が現れ、唸り声を轟かせる。

 

「デカいだけの奴を出してもなァ!!」

 

 喧しいその頭を蹴りで吹き飛ばす。

 轟音と共に倒れる巨人。

 

「一体だけかぁ!! そんなんじゃ——」

『待って、カツミ!!』

「ん!?」

 

 周囲に渦巻いていた大波が消え失せ、ようやく周囲の視界が明瞭になると——、

 

『『『オ、オォォォ!!』』』

 

「わぁ、いっぱい……」

 

 数十体を超える巨人が俺を取り囲んでいる光景が視界に映り込んだ。

 ピンチ、というわけでもないが、面倒なのは確かだ。

 

「言葉が形になっているんじゃねぇな、これ……!!」

『歌で現実を塗り替えてる……!?』

 

 あぁ、こりゃおいそれと歌うこともできねぇな!!

 なにせ黒騎士が、イレーネが歌えば否が応でも現実になっちまうってことなんだろ!!

 

「ハッ、なら付き合ってやるよ……!! 嫌になるくらいに歌ってみせろ!!」

 

 だが、その時がテメェの最後だ!!

 取り囲む巨人たちを前にして獰猛に笑ってみせた俺は全力でその両拳を振るうのだった。

 




前編とか後編とかじゃ終わらないと悟り、数字表記に変更しました。
なんなら8位の天然設定やら能力やらも、その場のノリと勢いで決m

【星将序列8位“黒騎士イレーネ”】
『言葉の現実化』というアルファとしての能力に目覚めてしまった少女。
能力に気づかないまま暴走し、気づいた時には自らの歌で故郷の星を滅ぼしてしまったというのが彼女。
能力は、故郷の星の言語でのみ発動する。

天敵は、催眠怪人スマイリー。
自らの手で滅ぼしてしまった故郷での幸せな記憶を強制的に呼び起こし、歌えないほどに強制的に笑わせてくることから……。



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全てが揃う時 3

お待たせしました。

中盤までレッド視点、後半からは主人公視点となります。


 ジャスティスクルセイダー本部の襲撃。

 正直、想定しなかった話じゃなかった。

 相手は異星の技術を持つ存在。

 私たちの拠点を探し当てることなんて造作もないはずだ。

 驚きこそすれど、そこまでの動揺はなかった。

 

「ジャスティスクルセイダー! お前達と戦ってみたかった!!」

「……」

 

 首を狙い薙いだ剣を、同じく剣で防ぐモータルレッド。

 身の丈ほどに長い私の武器とは異なり、重厚かつ幅の広い剣を用いる奴は喜色の声を上げる。

 

「レッドに近づくなっ!」

 

 横からモータルピンクによるチェーンソー型の武器から、丸鋸のようなエネルギー波が迫る。

 一旦後ろに下がり斬撃を飛ばし、迎撃。

 後ろにいる白騎士に変身している白川ちゃんの傍にまで下がる。

 

「ッ」

 

 さっきから、なにか視界が一瞬止まるような感覚が……。

 敵の能力かなにかかな……?

 それともチェンジャーの故障……?

 

「レッド……」

「白騎士ちゃん。よく頑張ったね。君がいなくちゃ避難が間に合わなかった」

 

 問答無用で放たれた上空からの攻撃は、間違いなく本部を壊滅させるに足る威力を持っていたと社長は語っていた。

 地下のスタッフたちは無事だとしても建物とその周囲にいる人々の命を危険に晒していたはずだ。

 

「あとは私と黒騎士くんに任せて。タイミングを見て、君を逃がすから」

 

 今の状況で彼女が逃げようとすれば間違いなくこいつらは、それを狙う。

 元正義の味方だとかは知らないけど、外道に落ちたこいつらは確実にそういうことをしでかすに違いない。

 すると、モータルグリーン、モータルブルー、モータルイエローと戦っていた葵ときららも、私の居る場所にまで下がってくる。

 

「あっちはまだまだ力を温存しているようだね」

「嘗められてるなぁ。でも、今んところ厄介そうなのはモータルイエローやね」

「どこらへんが?」

「アレだけ生身や。他と違って戦い方が私たちに近い」

 

 なぜ生身なのか。

 不死身の敵はそれほど怖くはない。

 経験上、完全な不死身の怪物にはなにかしらの弱点があるからだ。

 こいつらの場合は、頭上の剣型の衛星がそうだろう。

 

「モータルブルーはそもそも戦意すらない。モータルグリーンは物質を腐食させる毒を使って来るけど、煽り耐性が低いから簡単に隙を見せる」

 

 私たちが取る戦略が固まってきたな。

 白川ちゃんを逃がして、なおかつあの船を沈める最適な方法は……。

 

「肉体を交換するインターバルを利用して、あの船を壊す」

「だね」

「おっし、やったるで」

「まずはあの五人……モータルイエローを除いた四人を同時に仕留めよう」

 

 私たちと同じように星界戦隊もビルの上に集まる。

 こちらにとってもあちらにとってもさっきのは小手調べのようなもののはず。

 

「あれを見なよ」

「……?」

 

 モータルレッドから意識を逸らさずに、屋上から離れた場所で争っているカツミ君とあちら側の黒騎士の戦いを見る。

 雷が轟き、雨が降り注ぐ、そんな天候すらも変えかねない相手に拳で拮抗状態にまで持ち込んでいる彼の姿を目にしていると、モータルレッドがどこか喜悦の混じった笑みをこぼす。

 

「黒騎士と呼ばれた者同士の戦いだ。序列一桁、我々の領分を超えた別次元の闘争があそこで行われている」

「私たちの黒騎士君が勝つ」

「それはどうかな。彼の声はあらゆる空想を実現させる“武器”だ。彼が本気になれば一瞬すらも意識を保つことはできないだろう」

 

 その時、カツミ君と敵の黒騎士が戦っている空間が、白い繭のような何かに包まれていく。

 敵の能力で彼が閉じ込められた……?

 

「俺たちはアレにやられたんだ。世界が閉じられた直後に、俺たちは意味も分からずに蹂躙された。今頃、あの中は別世界が広がっているはずだ」

「……」

 

 ……今、あっちのイエローがなにか言いたげな様子だったな。

 なんだろう、私の直感があの空間にカツミ君と黒騎士を一緒にしてはいけないと囁いている。

 別に彼の身が危険といった感じではないのに……。

 

「それで、いつになったら黒騎士くんは出てくるの?」

「……さあね」

 

 葵の問いかけをモータルレッドははぐらかす。

 あの白い繭は依然として出現し続けている。

 

「黒騎士君が負けるって? 彼は勝つよ。勝つまで立ち上がって、戦うのが彼だ」

 

 そもそも勝手に分かった気になること自体が腹立たしい。

 お前たちは心が折れて負けた、それだけのことなのに話をややこしくして本当に面倒な奴らだ。

 

「お前たちがどんな負け方をしたかなんてどうでもいい。興味もない」

 

 元は正義の味方だった?

 宇宙の平和を守るための五人だった?

 へえ、それはすごいね。

 

「でも星を侵略してる悪人のお前達は絶対に始末する」

「……俺たちの頂点にいるお方を知っていての宣言かな?」

「そのルインとかいう黒騎士君を好き勝手にしている度し難いストーカーも同じだ」

「……もしかして、君、イカれているのかな……?」

 

 どう思おうが好きにすればいい。

 腰を落とし、長剣を抜刀する構えに入る。

 

「星を繋ぎ、力を成す!! それが俺達、星界の戦士———」

 

 話を無視して、抜刀と同時に斬撃を前へと放つ。

 ———手ごたえは無し、なら次はイエローだ。

 

「イエロー、電撃」

「あいよ」

 

 イエローが電撃を纏った斧を勢いのまま振り下ろす。

 直後に雷と見間違うほどの電撃が星界戦隊へと降り注ぐ。

 

「ブルー」

「見えてる」

 

 ライフル型の武器を構えたブルーが狙いを定め、その引き金を六度引く。

 放たれる六つの閃光は、雷撃の中から飛び出そうとするブルーとピンクの腹部と両足を同時に貫いた。

 

「倒しても無駄だから特殊弾で手傷だけ負わせた」

「即死させなかったの?」

「味方に庇わせたら上々。ボディをチェンジするなら他と戦う時間を稼げる。どうせ不死身だしいちいち倒す方が損。なら、半死半生で放置した方がお得」

 

 銃のレバーを引き、空になった薬莢を排出させるブルー。

 相手は不死身に任せただけの集団。

 当然、防御に対する認識も甘い。

 

「……」

「身体の内側から凍結する……!? さ、寒い……レッド……どこ……? どこにいるの……?」

 

 そして葵の攻撃により、相手は機能しているが動けない状態まで陥った。

 ……いや、むしろこの場合は活動できるか肉体を捨てるか、判断しにくいギリギリのラインまで追いつめさせたというべきか。

 

「さすがはえげつない、ド外道ブルーだね……!」

「そういう貴女は血に溺れたクリムゾンブラッド」

「「……」」

「二人とも喧嘩しないで敵に集中せーや!! ッ!!」

 

 前触れもなくイエローの頭がのけぞる。

 なにかしらの攻撃を受けた彼女はすぐに頭を前に戻すと、ややいらだったような声を上げる。

 彼女のマスクのこめかみには、寸前で止められた弾丸が磁石で弾かれたように浮遊していた。

 

「ああ、もうっ! これ当たるまで気づけへんから鬱陶しいなぁ!!」

「地球人って化物しかいないの!?」

 

 やっぱり、モータルイエローの方は厄介だ。

 さっきの攻撃を一人だけ避けきったし、なによりあの弾は当たるまで気づけない。

 

「同じ銃使いだから、私が相手をする」

「ええの?」

「必ず当たる弾と、必ず当てる弾。どっちが強いのか試してやる」

 

 拳銃型の武器をくるくると回しながら両手に持つブルーが、モータルイエローへと歩み出る。

 なら私ときららはモータルレッドとグリーンを倒せばいいんだね。

 

「イエロー、油断しないようにね」

「分かってる」

「この後、私達から大事な話があるんだから」

「えっ」

 

 どうして黒騎士君と同じタイミングで到着したのかを、社長と一緒に問い詰めなくちゃね……?

 イエローの反応を待たずに前方へと飛び出し、長剣での刺突をモータルレッドへと叩き込む。

 

「鋭い攻撃だなぁ!!」

「……」

 

 大剣を盾のようにさせて防御されたか。

 軽く跳躍し、首を薙ぐ斬撃へと切り替える。

 

「そしてすべてが急所狙い。殺意の塊のような戦士だ」

「!」

 

 それも攻撃の軌道が分かっていた(・・・・・・)かのように防がれる。

 少しだけ驚きながら、攻撃の手を緩めずに連撃を叩きこもうとした瞬間———奴の手にしている大剣の柄部分の宝玉から光が放たれる。

 

「星を繋げ、星界エナジー!!」

 

 奴らの色が混ぜ合わさった五色の光。

 透明感のある光だったそれは、一瞬で黒く濁り強烈な衝撃波を伴って私へ叩きつけられた。

 ……ッ!

 

「ぐっ……」

 

 衝撃を堪えながら、地面に剣を突き刺し吹き飛ばされるのを防ぐ。

 ……今のはただの衝撃波じゃないね。

 

「言っただろう? 星を繋ぐと」

「斥力……?」

 

 呼吸を整えると奴の大剣の中心から不思議な力の流れが生じていることに気づく。

 ……さっきの重心が揺さぶられる感覚は、ただ吹き飛ばされた感じじゃない。

 多分、モータルレッドは重力を操ることのできる固有の能力を有している。

 

「因みにいうなら、俺たちはお前たちの動きと技を全て知っている。対処法もね」

「……」

「その問答無用の飛ぶ斬撃も予測済み。なにより、スーツそのものの性能がこちらの方が上なんだよ」

 

 私たちの戦闘データで対策を取られていた、ということね。

 今更その程度のことで驚くことでもないけど、この調子に乗った言動と素振りに静かに苛立ちが募る。

 

「……お前達、本部を破壊しようとしたんだよね……」

「? そうだよ。君たちをおびき寄せるためにね。まあ、多少は地球人には死んでもらった方が———」

「あそこには、彼の帰る場所があったんだ」

 

 彼との思い出があった。

 彼が黒騎士から人に戻ろうとしていた場所でもあった。

 だから、彼が記憶を失っている間も私たちはその場所を守って、待っていたんだ。

 それを、こいつらは破壊しようとした。

 

「楽に死ねると思わないでね……?」

「ッ」

 

 許していいことじゃない。

 地面に剣を突き立て、チェンジャーから飛び出した“柄”を握りしめる。

 “強化装備”はまだ完成していないけれど、別に剣だけが私の戦いじゃない。

 なにかを察知したモータルレッドが大剣から、また強力な斥力を放つ。

 

「あまりこういう武器は使わないんだけど」

 

 大きく引き抜いたのは身の丈を大きく超える柄と、先端に取り付けられた十字の刃。

 十文字槍と呼ばれる、刃が赤く赤熱した十字の槍を左手に持ち大きく構えた私は———勢いに任せて、眼前の空間を薙ぐ。

 一振りで、斥力の波を消し去ったソレにモータルレッドは動揺を見せる。

 

「なんだ、その槍は……」

「ただの槍だよ。この剣より重いだけの、ただの槍」

 

 引き抜いた長剣を右手に握りしめ、肩に担ぐようにして十字槍を手にしながら脱力しながら相手を見据える。

 

「レッドは剣しか使わないはず……!!」

「別に剣にこだわっている訳じゃないし、振りやすいから使っていただけで斬れれば槍でも変わらないよ」

 

 使いやすいのは剣だということもあるけれど、相手を斬れれば何を使っても変わらないと漠然とは思っていた。

 演習場で使ってみればその通りだったし、こういう“覚える”敵相手への対処にも繋がるので丁度いいとも思っていたけれど……まさか、こんな状況でそれが活きるとは思いもしなかった。

 

「切り裂き魔かなにかか君は!!」

 

 右の剣を下から振り上げ斬撃を飛ばし、さらに追撃するように大振りの槍を突き出す。

 一生懸命に斥力で弾こうとしているけど……。

 

「斬れば関係ないよね」

「ッ、星界エナジーにより生じた現象をただの技術で切り裂く……!? んな、バカなことがあってたまるか!!」

 

 斬れると確信していたから斬った。

 特に理由なんてないし、理論もなにも全く考えてない。

 空間の歪みを切り払い、槍を上からモータルレッドの大剣に叩きつける。

 

「ぐっ」

「それは悪手だよ」

 

 槍を引き寄せ、十字の刃をひっかけるように奴の肩を切り裂く。

 その上で長剣を振るいその胴体に斬撃を放つ、が直前でそれは消し去られる。

 

「この程度で!!」

「……」

 

 そうか、そもそもが仮初の肉体だから痛みを感じる必要もない相手には意味がないんだ。

 

「なら、徹底的に壊す」

 

 大剣に斥力を纏わせ、叩きつけようとするモータルレッドの動きを直感で予測し、刃を放り投げる。

 まっすぐに奴の右腕を刺し貫いた剣は、あっさりと大剣を持つその腕を切り離しした。

 

「———は?」

 

 振り下ろすはずの大剣が握りしめられた右腕が消え去り動きを止めるモータルレッド。

 その隙を見逃すはずがなく、私は十文字槍を奴の胴体へ叩きつける。

 

「工夫がない」

「がぁ!?」

「特殊能力に頼りすぎ」

「ぐばっ!」

 

 横に吹き飛んだモータルレッドのわき腹に投擲した十字槍の刃を突き刺し、壁にはりつけにさせる。

 右腕を斬り飛ばすと同時に空に舞い上がり、落下してくるモータルレッドの大剣を掴み取りながら、その切っ先を奴へと向ける。

 

「不死身と力押しだけ。対策も動きを予測してくるだけでしょぼすぎる」

「な、んだと?」

「地球の怪人以下だよ。なにより、あいつらの方がずっと悪意に満ちていて怖かった」

 

 地球の怪人は悪意をそのまま形にしたような奴らばかりだった。

 弱い人間を優先的にぬいぐるみにし、抵抗できないままにいたぶるぬいぐるみ怪人。

 斬撃も打撃も無効化する汚泥怪人ドロドロ。

 こちらの動き・剣術を見切り、技術を盗むテクニカなんていう怪人もいた。

 それと比べれば、たかが攻撃予測。

 いくらでもやりようはある。

 

「……イエローの方は」

『腐ってるのはおどれの性根や、こんのアホンダラ!! 叩いて直したるわ!! くぉらぁ!!』

『がっ、おっ、ばっ!? ぐへぇ!?』

「……さすがパワータイプ」

 

 斧を軽々と振り回しながら腐食するエネルギーを散らし、モータルグリーンをボコボコにしている。

 いいタイミングだね。

 ……ん?

 

「ッ、がああ!! こうなればこちらの強化装備を———」

「遅い」

 

 なにかを転送させようとしたモータルレッドの首を跳ね飛ばす。

 強化装備があるなら出し惜しみもせずに使えばいいものを……。

 こちらを嘗めてかかるから、なにもできずに倒されることになる。

 

「イエロー!! ビークルで船を落としに行く!!」

「了解!! ぬん!!」

「おばっ!?」

 

 雷を纏った一撃でグリーンを粉砕したイエローは近くに待機させていたビークルに乗り込む。

 目標はあの五機の船!! 最低リーダーのレッドの船さえ壊せば星界戦隊は瓦解するはず!!

 

「よし、行くよ!!」

 

 赤と黄、二つのビークルが空高く上昇する。

 このまま船まで一直せ……ッ!!

 

「イエロー!!」

「何か来る!!」

 

 空中で方向を転換した瞬間、私ときららの目の前を光を放つなにかが横切る。

 流星を思わせるその姿に目を丸くするが、なにより驚いたのは光の中に人型のなにかがいたことだ。

 

「人!? ッ、黒騎士君!!」

 

 光はまっすぐに黒騎士君と敵が戦っている白い繭に激突。

 大規模な電撃をまき散らしながら、その中へと無理やり入り込む。

 

「まさか、ここに来て新しい敵……!!」

「レッド、あの丸い卵みたいなやつの様子がおかしい!!」

 

 カツミ君と敵を覆う白い繭の内側から光が漏れだす。

 それと同時に響くのは何重にも折り重なる雷が鳴り響く音と、なにかがぶつかりあう激突音。

 

「! イエロー!」

「分かっとる!! これはまずい!!」

 

 次第にその表面に亀裂が入っていき、その次の瞬間には白い繭は爆発を伴って破裂した。

 


 

 戦闘開始からどれくらい経ったか分からない。

 一時間、あるいは数時間か……その間、俺はイレーネの歌により出現する怪物、現象と戦い続けていた。

 時間が引き延ばされている。

 確証はないが、外の時間とこの内側とでは時間の流れが大きく異なっている。

 なにより、俺はこれに近い感覚を何度か経験しているような気がしていた。

 

yasasii(優しい) anata(あなた)…… douka watasiwo(どうか 私を) wasurenaide(忘れないで)……

 

 ただただ悲しみだけを綴ってきたその歌は、いつしか明るく奴自身も楽し気な歌へ。

 相変わらず言葉の意味は分からない。

 だが歌により塗り替えられた現実が、奴の心情を表すかのように彩りに満ちていく。

 

「——もう、満足だ」

 

 気づけばこの小さな空間の中には嵐でも、巨人が踏み荒らした大地ではなく、生命に溢れた大自然が広がっていた。

 大草原に咲く花畑の真ん中で膝をつくように座り込んだイレーネは、微笑みながらこちらを見上げる。

 

「最後は、いつでも私を殺せただろう。なぜ、そうしなかった」

「さあな。俺にも分からねぇ」

「……本当は分かってる癖に。素直じゃない」

 

 最初のうちは始末するつもりだった。

 だが、自分でも分からない心の根っこの部分がそうさせなかった。

 

「俺は、弱くなったのかもしれないな」

「……冗談が巧いな。黒騎士」

 

 なぜか冗談扱いされたけれども。

 人に仇なす怪人を倒してきた。

 奴らは人間にとっての絶対の敵だったし、邪悪な奴らだったからだ。

 だがこの星将序列の連中は違う。

 俺達と似た人間性が、奴らにはある。

 

「黒騎士……私のことを、忘れないでくれるか?」

「……待て。俺の考えが纏まる前に勝手に殺されようとすんな!?」

「捕虜にするのか? 別に構わないが」

「そこは構えよ!?」

 

 もっと自分を大切にしろよ!!

 ……なんで俺はさっきまで殺し合いをしてきた奴に気を遣っているんだ!?

 意味が分からねぇし、いったい俺はどうしちまったんだ!?

 

「おい!」

「なんだ?」

 

 素直に顔を上げるイレーネに指を向ける。

 

「もう地球にちょっかいだすんじゃねぇぞ!!」

「地球には出さない」

「お、おう……嘘ついたら次は問答無用に始末するからな? 覚悟しておけよ?」

「分かった」

 

 なんだか犬みてぇだなこいつ……。

 驚くほどの従順さを見せるイレーネにちょっと引く。

 

「とりあえず、この空間を解除しろ。時間はそんなに経ってないんだろ?」

「その通りだ」

 

 なんかぐだぐだになってしまったが、とりあえずはこいつは無力化したも同然。

 ここを出たら、星界戦隊の船をぶっ壊して———ッ!!

 

「ッ」

「どうした?」

 

 頭上を見上げると同時に拳を突き出す。

 それと同時に、頭上の空間を外から突き破ったなにかと、拳が激突する。

 

「ここに来て新手か……!!」

 

 相手は、光る人間……?

 とりあえず距離を取ると、俺とイレーネの丁度間に位置するようにふわふわと浮かんでいる人型の“電気”がそこにいた。

 そいつは、電撃をあふれ出しながら座り込んでいるイレーネへと振り返る。

 

「なーに死にそうになってんのよ八位!! 選手交代よ!! 次は私の番!!」

 

 喋った、ということは意思のある何かってことか?

 少なくとも異星人であることは確定だろう。

 で、イレーネの仲間のように見えるが、当の本人はなぜか不機嫌そうだ。

 

「……チッ」

「え? 今、助けたのに舌打ちされた? ……私の電気が迸る音の間違いね!」

 

 ッ、いきなり攻撃を仕掛けてきた電撃女の攻撃を右こぶしで弾く。

 周囲に電撃が散り、歌により形作られた世界が崩れていくのを目にし、微かな苛立ちが沸き上がる。

 

「星将序列第七位 双星のレアム!! さあ、私を殺してみなさい!!」

 

 ……。

 ……、……。

 

「テメェ、いきなりやってきてどういう了見じゃこのボケがァ!!」

 

 俺が飛び出すと、奴も俺と同等の速度で動き出す。

 互いの拳が激突し、赤と金色の電撃が周囲へとまき散らしながら———お互いに弾かれる。

 

「……ッ!!」

「……ッ!? あ、はは!! ジェムのいう通りじゃない!! やっば、最高じゃん!!」

 

 拳に手ごたえがない。

 いや、正確には当たっている感じがするのだが、効いてる気がしないと言った方が正しいか。

 

「殴っても消えない!! 本気の私に近づいてもぴんぴんしてる!! なんなの貴方本当に生き物なの!? 本当にびっくり人間過ぎる!!」

「喧しい奴だな死ね!!」

「あははは!! 殴り返されるなんていつぶりかしら!! ジェムの見立ては間違ってなかったってことねぇ!!」

 

 本当に良く喋る奴だ。

 黙らせたいところだが、こいつもこいつで強い。

 

「でも、ここって狭いわよね!!」

「ビリビリうるせぇ!!」

「そうよね!! 戦うのに全然適してないわよね!!」

「オラァ、食らえ!!」

「なら、広くしましょう!!」

 

 交わす気のない言葉を吐き出したレアムとかいう電気女はそのまま空高く浮遊する。

 その両手の中に作り出された電撃を目にし、即座に抑え込むための拳を構える。

 

「さあ、爆発っ!」

 

 空間に光が満ちた———次の瞬間、夥しい電撃が空間を呑み込み空間を包み込む殻を破壊する。

 あまりある破壊の雷は外へと零れ落ちるが、それを俺は拳から放つ赤い閃光で消し去る。

 地上へ落ちようとするソレも止めようと拳を構えると、それよりも先に飛ばされた斬撃が雷を散らす。

 

「ッ、レッド達か!!」

 

 彼女たちも対処してくれるなら大丈夫だろう!!

 それなら、俺はあの電気女を——、

 

『カツミ!! 本部の屋上が!!』

「!!」

 

 目を向けた時には既に電撃が直撃し、本部の上方の一部が粉砕される。

 それと同時に俺の視界に、屋上から地上へ落下していく白い仮面の戦士の姿を目にする。

 白騎士。

 白川克樹としての俺が変身していたはずの白騎士に変身している謎の誰か。

 足を踏み外したのか、衝撃で吹き飛ばされたのかは分からないが、その姿を目にした俺はかつてない焦燥に身を包んだ。

 

「ッ!!」

 

 気づけば体が勝手に動いていた。

 こちらに迫るレアムを蹴り、空中で加速した俺は破壊された足場から地上へ落ちようとする白騎士へと手を伸ばす。

 今でも白騎士が誰だか分からない。

 でも、俺にとって大切だった誰かだった。

 

「繰り返させて、たまるかよ!!」

 

 俺は、死にゆく両親に手を届かせることができなかった臆病者だ。

 例え拒まれていたとしても、俺はあの時手を伸ばすべきだったんだ。

 ……俺にとっての家族はもういない。

 そんな機会は二度と訪れないと、そう思い込んでいた。

 

「姉さん……!!」

「かっつ……ん……」

 

 白騎士の手を掴んだその瞬間——心の奥底から記憶があふれ出した。

 

「だって君、いいやつじゃん」

なんでそんなこというんだよ……

 

 少し強引だが底抜けに明るいやつがいた。

 

「優しくて、天然で……変な人」

「くそっ! 俺は一般人にも舐められているのか……!」

 

 物静かなようで変わった性格をしているやつがいた。

 

「舐められているというか、同情されてるだけだと私は思うんやけど」

「く、おぉぉぉぉ……」

 

 下手な関西弁を使うやつもいた。

 三人が、俺という人間を変えてくれた。

 

「君の、姉だよ……」

 

 でも、どうしてあいつが俺の姉を名乗ったのか不明なのが地味に怖い。

 

 しかし、弟としての白川克樹としての人生はそれほど悪くはなかった。

 繰り返される戦いに巻き込まれはしたけれど、それでも以前の俺では考えられない明るさに満ちた生活をすることができたのだ。

 また、アカネ達とレイマに助けられながら、俺という人間は形作られていったんだ。

 

「……」

 

 穂村克己として失われた記憶と、白川克樹としての記憶が蘇り混ざりあう。

 そして最後に脳裏に浮かぶのは———、

 

「カツミ、早く、早く私のところに来い」

 

「あまり、私を焦らしてくれるな」

 

 俺が戦うべき敵の姿。

 ようやく……すべてをようやく思い出した。

 空中の瓦礫を蹴り地上に着地した俺は、腕の中にいる白騎士に声をかける。

 

「まったく、本当に世話がかかる奴だな」

「……かっつん……」

 

 白騎士の変身が解け、変身していたハクアが現れる。

 彼女は瞳を揺らしながら不安げに俺を見上げる。

 

「俺の記憶がない間に好き勝手にしてくれたな。なぁ、ハクア」

「かっつん、全部、思い出したの……?」

「ああ、全部(・・)思い出した。まったく、いつの間にか姉ができてびっくりしたけど、まさかのお前かよ」

「……騙してて、ごめん」

 

 なんで申し訳なさそうにするんだよ。

 まあ、なんで姉を名乗ったのかは普通にビビるけど、その理由を聞くのは後にしてやろう。

 

「謝ることはなにもねぇよ。……いい夢を見させてもらった」

 

 ハクアを地面に下ろし空を見上げる。

 まだ戦いは続いているし、なによりあっち(・・・)も俺を待っている。

 

「プロト、変身を解除してくれ」

『え、で、でも』

「大丈夫、心配すんな」

 

 言われるがままにプロトが変身を解除すると、俺は足元にいるシロを拾い上げる。

 掌に乗った機械の狼———シロは、どこか落ち込んだようにうなだれている。

 

「シロ、今まで忘れててごめんな」

「ガウ……」

 

 思い出せなかったことは全面的に俺が悪い。

 だが、こいつはプロトと同じ俺を支えてくれた相棒という事実は変わらない。

 

「また力を貸してくれるか?」

「……ガウ!!」

 

 こくりと頷いてくれるシロに俺も笑みを浮かべる。

 思い出した今なら、あのことも聞いておくか。

 

「シロ。あの時の屈辱、覚えているか?」

「! ガウ!!」

「そうか……そりゃ一緒に戦ったわけだし覚えているよな。よし、なら一泡吹かせてやろうぜ!!」

 

 右手を掲げ、手の中に黄金色の長方形型のアタッチメントを出現させる。

 

TRUTH(トゥルース) GRIP(グリップ)!!』

 手元でシロを変形させ、手の中に現れたグリップを側面から合体させる。

 それはオオカミの顔へと変形したシロの口にあたる部分と連結し、押し込むと同時にカバーがシロを覆うように開き———バックルそのものを黄金色へと塗り替える。

 

TRUTH(トゥルース) DRIVER(ドライバー)!!】

 

「やるぞ、シロ」

 

 バックルをベルトに差し込み、上のボタンを弾く。

 同時に軽快な音楽と同時に、音声が鳴り響く。

 

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

 

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

 

 プロトより幼い誰かの声。

 それが誰の声なんて考えるまでもなく、俺はその言葉を口ずさむ。

 

「変身……!」

TRUTHFORM! ACCELERATION!!(今こそ! 全てを一つに!!)

 

 その言葉と同時にベルトから光が溢れる。

 全ての記憶を取り戻し、俺はまたあの時と同じ姿に変わる。

 




穂村克己、完全復活。

そして、ようやくシロ側の最終フォームへの変身。
ここまで本当に長かった……。

※※※
本日、本作のスピンオフ?のようなものを投稿いたしました。

『となりの黒騎士くん』

本編で描写できなかった部分や、黒騎士の過去戦った怪人、一人で戦っていた時の彼の状況などを別のキャラの視点などで掘り下げたいなと思っています。

第一話は、はじめて現れた地球産怪人と主人公の戦いを別視点でお送りいたします。


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全てが揃う時 4

お待たせしました。

今回は少し遡ってブルーVSモータルイエローの戦いから始まります。

モータルイエロー視点でお送りします。




 星界戦隊は、既に死んでいる。

 

 正義感に溢れたレッドは、正義という邪悪に酔いしれる外道に堕ちた。

 

 笑顔を振りまいていたピンクは、かつての思い人だったレッドへの恋慕の感情以外をなくし狂える人形に変わった。

 

 思慮深く、兄貴肌なグリーンは好戦的で残虐な正反対の愚か者になり下がった。

 

 心優しくどんな時でも仲間を支える強さを持っていた私の兄———ブルーは、残虐な所業を繰り返す彼らの行いを何度も、何度も何度も何度も……目の当たりにして、心を壊してしまった。

 

 私は、どうだろうか。

 壊れることもできず、彼らの終わりを見届けるためにまだ生きている。

 反転した星界エナジーにより生成された機械で構築された仮初の肉体ではなく、生身の肉体のままで戦い続けているのは、彼らと自分は違うという意思の表れなのか。

 それは、自分でも分からない。

 

「貴女のソレ、跳躍弾っていうの」

 

 地球の守護者、ジャスティスクルセイダー。

 そのブルーとの戦闘は、有利なはずの私が翻弄されていた。

 

「狙いが正確すぎるんだよね。文字通りの必中、多分そのマスクの視界内でロックオンさえすれば当たると見た」

 

 当たっている。

 あえてそれを口に出さずに前方にいるブルーに跳躍弾を撃ち込む。

 次元の影を通り、実体化したそれは容易くブルーの身体を貫くが、同時に風船の弾ける音と共にその姿は煙のように消える。

 

「なら、対処法は簡単」

 

 また囮を撃ち抜いたか!

 撃ち抜いた囮から煙が噴出し、周囲へと拡散する。

 視界を覆うそれらを手で払いながらも、照準を向けようとするがそのどこにもブルーの本体がない。

 

『私が透明人間になればいい』

 

 側方からの光。

 それが奴の銃が放った光と判断し、避ける。

 

「挑発して私の動揺を誘おうってことね」

 

 ジャスティスブルー。

 正確無比な射撃を行う戦士。

 でも奴の恐ろしいところは意味不明な挑発と、罠で敵を翻弄し仕留める狡猾さにある。

 

当たってる。耳が痛い

「隠れてないで出てきたらどう!!」

爆発して死ぬのに? 意味ないよ

 

 声、は聞こえるがどこから聞こえているのか分からない。

 でも心配はない。

 跳躍弾は私の武器の一つでしかなく、むしろ私の本領は防御にある。

 

「効かないわよ! 地球人!!」

 

 星界エナジーにより発現するバリア。

 指定した範囲と、それから外の境界を歪めることで文字通りの絶対防御を発揮させる無敵のバリアだ。

 それにより、ブルーの放つ攻撃は全て弾かれる。

 逆を言えば、この力がなければ私は黒騎士の拳で殺されていたわけだけど……!!

 

「どこを狙おうとも、このバリアは絶対に壊せないわよ……!!」

この世界に絶対はない

「まだ言うか……!!」

 

 話が通じている気がしない。

 こちらの地球人の言語が間違っているのか?

 それともこいつがおかしいのか?

 半ば混乱しながら、その場を移動しようと足を踏み出したその時———、

 

「ッ、地雷!?」

 

 いつの間にか足元に設置されていた円形の何かが破裂———飛び出した人型のデコイの頭が私の顔面に直撃する。

 

「うぐっ、(デコイ)に吹き飛ばされた……!? あぁ、もうクソ!! また見失った!!」

 

 転がりながらも着地した次の瞬間、地面についた手がまた何かを踏む。

 ———ッ、しまッ。

 

「あぐっ!?」

 

 今度は本物の地雷型のトラップが爆発し、衝撃に体を地面に叩きつけられる。

 防御は間に合った!! まだスーツは生きている……!

 早く体勢を立て直して——、

 

「……ッ後ろ!!」

 

 僅かな足音を察知し背後を振り向くと同時に銃を放つ。

 放たれた跳躍弾は、銃口の先にいるブルーの“スーツ”のど真ん中を貫いた。

 

……なぜ……? バ……ジジッ』

 

 撃ち抜かれたブルー(・・・)から声が発せられる。

 本体を貫いた確かな手ごたえ。

 一瞬の声の後に微動だにせずに沈黙するブルーの姿に安堵する。

 

「た、倒した……」

『残念、大外れ』

「!?」

 

 貫いたはずのブルーから聞こえる声。

 安堵に胸を撫でおろした直後のそれに大きく動揺した私は、背後から聞こえる銃声に反応できなかった。

 右肩に衝撃が走り、手に持っていた武器が遠くに吹き飛ばされる。

 

「あ、がっ……!?」

 

 地面に倒れながらも弾が飛んで行った方向を見れば、そこには隣のビルから狙撃型の銃を構えた生身(・・)のブルーがこちらに銃口を向けているのが見えてしまった。

 

『貴女を殺すと面倒なことになりそうなので、痺れさせるだけにしといた。……聞きたい話もあることだしね』

 

 う、動けない……!!

 状況が全く分からない。

 どうして私が後ろから撃たれたの……!?

 

「な、なんで! 確かに、あれが本体のはず……!! 貴女が、どうしてそこにいるのよ……!!」

『スーツは囮だよ』

 

 私は奴のスーツを貫いた。

 事実、倒れた視界には未だに直立したまま動かないスーツが……。

 

「!?」

 

 いや、これはスーツじゃない!!

 スーツの右腕部分と変身に用いるチェンジャーだけが抜き取られた、むしろ抜け殻同然の……!!

 

『武器を撃つだけなら、右腕だけのスーツで事足りる。ガワで騙せればそれでよかった』

「でも、どうやってそこまで——」

『よく見なよ』

 

 奴の空っぽのスーツの内側に何かがいる……?

 すると、青い円形の機械のようなものが現れ、そこから奴の声が響いてくる。

 

『新装備『ジャスティビット』の試作機。貴女がデコイに気を取られている間に、ここまで運んでもらって……その後は、録音した音声と仕込みで貴女を翻弄したってこと』

「……録音した音声……?」

爆発して死ぬのに? 意味ないよ

 

 戦っている最中に聞こえたブルーの声。

 

『どう? 一緒に聞かなくちゃ違いが分からないでしょ? いざという時に録音しておいたんだ。……役に立つとは思わなかったけど

 

 まさか、これは奴が近くにいると思わせるための……!?

 話がかみ合わないと思っていたけれど、まさかこんな……。

 

『獲物が一番隙を見せる時はなんだと思う?』

「……勝利を、確信した……とき」

『正解。早めに決着をつけてよかった。黒騎士くんの攻撃を防ぐやつに弾当てるの面倒そうだったから』

 

 悔しいけれど、完敗だ。

 ブルーは最初からこちらを詰みにきていたんだ。

 動けない私の元に、ドローンに掴まりここに戻ってきたブルーが再びスーツを装着する。

 

「……貴方達の仲間も終わりのようだね」

「……」

 

 見上げると、あちらのレッドとイエローが奴ら専用のビークルに乗り込み船を破壊しに向かおうとしている。

 

「これで、よかったのかも……」

 

 私には終わらせる勇気はなかった。

 もしかしたら、元に戻るかもしれないとそんな淡い希望を抱いてはいたが、もう……罪を重ねすぎた。

 せめて仲間の最期を見届けようともう一度上を見上げたその時、私の視界にジャスティスクルセイダーのビークルとは別の光が映り込む。

 

「あの、光は……七位———」

 

 言葉にできたのはそこまでだった。

 流星のように落ちてきた光は、黒騎士が戦っている球体へと激突———そのすぐ後に尋常じゃない電撃を周囲にまき散らしたのだ。

 幸い、直撃こそは当たらなかったけど、飛んできた電撃が私の足場を崩しそのまま真っ逆さまに落ちていくことになった。

 


 

 身体が動けないままでもバリアは張れたのは本当に助かった。

 おかげで落下の衝撃で致命的な傷を負わず、瓦礫の下敷きにならずに済んだ。

 しかし、だからといって私の置かれている状況が好転したわけでもないし、むしろブルーが打ち込んだ特殊な攻撃のせいで動けない分最悪とさえ思えた。

 

TRUTH FORM!(この姿は) ACCELERATION!!(君のために!!)

 

 でも崩壊した建物のがれきに包まれたその空間で……私はその黄金色の光に魅入られた。

 脅威の戦士、黒騎士が生身の姿で、金色に輝くドライバーを手に今まさに変身を行っていたのだ。

 

「ふん!!」

『PERFECT!!』

 

 ベルトにバックルが差し込まれ、勢いと共に黒騎士が右手を空高く伸ばす。

 同時にかれの頭上から光の柱がエネルギーフィールドとなって展開し、さらに大きな輝きを放つ。

 力強く、喝采するような音声と声が鳴り響き、彼の身体を黒を基調としたアンダースーツが包み込む。

 

ALL(全て!)

ALL(全て!)

ALL(全て!)

ALL(全て!)

 

 全身を順に覆っていく白いアーマー。

 金属音と共にはめ込まれていく中で、空中で構成された赤、青、黄、黒の羽を模したプレートが胸部に組み込まれるように連続して装着されていく。

 

ALMIGHTY(全てを一つに!!)!!!』

 

 さらに白い鎧の淵を覆うように金色の装飾が浮かぶ。

 腰回りを覆うマントが形成されたことで、その恐るべき姿が完成される。

 

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)……』

 

『『『TRUTH FORM(トゥルース フォーム)!!!』』』

 

 殻を破るようにフィールドを吹き飛ばし、完全な変身を遂げた黒騎士———否、白騎士。

 奴は空高く掲げた自身の掌を見つめたその後に、後ろにいる白髪の女へと振り返る。

 

「……」

「……あ、あああ、姉と名乗ってごめんなさい……」

「いや、責めてるつもりはないんだが……」

「出来心だったんです……」

「計画的じゃなかったのか……」

 

 意味不明な会話。

 奴がなにかを口にしようとしたその時、空高くから光の柱と共に———新たな肉体を得たレッド達が武器を伴い攻撃を仕掛けた。

 

「ッ、やめなさい!!」

 

 咄嗟に声を発した時には既に遅く、白騎士の手に握られた赤色の剣が炎と共にレッド以外の三人を一瞬で半壊させた後だった。

 地面に落ちる半壊した仲間を目の当たりにしたレッドは、その力の差に笑みすら保てなくなる。

 

「白くなったから勝てるとでも思ったのか?」

「あ、あああああ!!」

 

 レッドがその大剣を振るう間に、白騎士はそれ以上の速さと正確さで彼の両腕を斬り飛ばした。

 ……分かり切っていた結果に、思わず呆れてしまう。

 

「……俺が剣を使うか。まったく、なにが起こるか分からねぇもんだな」

「が、ぁ……」

「お前らも、ここまで来ると哀れに思えてくる」

 

 半壊するレッドを前に白騎士がバックルの上部にあるボタンを指で叩く。

 

DEADRY 0(デッドリィ ゼロ)!!』

 

 さらにもう一度、叩く。

 

DEADLY(デッドリィ) (ワン)!!』

 

「あれがお前らを縛り付けているのか?」

 

TYPE RED(タイプ レッド)!!』

 

 バックルの側面を叩いた彼は頭上に指先を向ける。

 

「まずは目障りな船からだ」

 

ALL(オール) BREAK(ブレイク)!!』

FLARE(フレア) EXPLOSION(エクスプロージョン)!!』

 

 指先に集められたエネルギーが無音の後に空へと放たれる。

 暗闇を引き裂くように伸びる閃光。

 その一撃は、私たちの船の一つ———ピンクの船を貫いた。

 

「あ、あああああ!?」

 

 “本体”に直撃を受けたピンクが苦しみの声を上げる。

 レッドとグリーンはその異常な様子に狼狽えているけど、当の白騎士は慈悲など与えはしない。

 

「なに、バカなことしてるのよ……!!」

 

 死なないことが強いわけじゃない。

 何千、何万と繰り返されていく死に慣れすぎたとはいえ、戦っちゃいけない相手と戦おうとするのは駄目でしょ……!!

 

「白くなったわねぇ! 黒騎士!!」

「!」

 

 頭上から耳をつんざくような電撃が轟き、落下してきた七位が同時に強烈な電撃が黒騎士へと降りかかる。

 ……って、これ私まで巻き込まれ———、

 

DEADRY 0(デッドリィ ゼロ)!』

TYPE LUPUS(タイプ ルプス)!!』

 

「ふんッ!!」

 

ALL BREAK(オール ブレイク)!!』

LUPUS(ルプス)! BITING(バイティング) SLASH(スラッシュ)!』

 

 電撃が地上に落ちる前に白騎士がダガーから放ったエネルギー刃が相殺させる。

 こちらも命拾いしたわけだけど……噂通り、七位は性格も戦い方も厄介すぎる……。

 

「あいつ、厄介だな。……ハクア、怪我は?」

「だ、大丈夫」

「まずはお前を逃がさなきゃならねぇが……」

 

BLACK4(ブラック フォー)!!』

 

「ん?」

 

 突然、白騎士の前に黒色の乗り物が転送される。

 

『カツミ、ハクアを乗せて!』

「うぉ……デロリアンみたいだ……」

「かっつん、チョイス古くない……?」

 

 あれは、凍土のアリスタとの戦いで白騎士が用いた乗り物……?

 奴は後ろにいた白髪の女を抱えると、そのままソレに乗せる。

 

「ハクア、俺の姉を名乗ったことについて後で話を聞かせてもらうからな?」

「は、はぃ……」

「だから怒ってないからな?」

 

 白髪の少女を乗せた乗り物の扉が閉まる。

 空を飛び、その場を離れる乗り物を見送った白騎士はそのまま空に浮かぶエネルギーで身体を構成された女———序列七位へと向き直る。

 

「さあ、続きをやりましょうか!」

「とりあえず、テメェの相手は後!!」

 

 ぴしゃり、と言い放たれた言葉に七位の纏う電撃が僅かに小さくなる。

 全身が雷のエネルギーで構成されて表情が分からない七位が、どこか子供のように両手を握りしめる。

 

「待ちきれない! 今戦いたいの!!」

「じゃあ、後からちゃんと戦ってやるから大人しくしてろ」

「やだ」

「……」

「……」

 

 次の瞬間には跳躍した白騎士と七位が空中で激突していた。

 白騎士はその手に黄色の斧を持ちながら、電撃をものともせずに七位に攻撃を仕掛ける。

 

FLARE RED(フレア レッド)!! →OK(オーケー)?』

 

CHANGE(チェンジ)!! →TYPE RED(タイプ レッド)!!』

 

 白騎士の姿が炎に包まれる。

 爆炎を吹き上がらせた斧を振り上げただけで、空高く火柱が上がり七位を呑み込む。

 

「! こんなにすごい炎初めてよ!!」

 

 炎を吹き飛ばしながらも七位は飛び出し、電撃を放つ。

 しかしそれらは白騎士の纏う炎がバリアのように防ぎ、焼失させてしまう。

 

「な!?」

「レッドのようにうまくはいかねぇが———ッ」

 

 斧を投げ捨て剣を持った白騎士が、両手で持った剣の切っ先を七位へと向ける。

 

「これぐらいはできる!!」

 

 一瞬で炎に包まれた剣を薙ぐように振るい、幾重にも包まれた斬撃を放った。

 七位はさらに喜色の様相を見せながら、目では追えないほどの速さで斬撃を回避する。

 

「遅いわ! 全然ね!」

「なら、追いつけばいいだけの話だろ!!」

CHANGE(チェンジ)!! →TYPE(タイプ) YELLOW(イエロー)!!』

 

 光と共に白騎士の姿も消える。

 空ではいくつもの閃光が連続して走り、私の知覚外の戦闘が繰り広げられる。

 

「なん、なのよ……」

 

 あんな化物がどうして地球なんかにいるのよ。

 ジャスティスクルセイダーもそう。

 ただスーツを着ただけの人間なのに、私たちを容易く上回る強さを持っている。

 

「なんだ、イエロー。お前動けないのか」

「……黒、騎士」

「うん。黒騎士だぞ」

 

 地面から体を起こして空を見上げている私の隣に、いつのまにか黒騎士が膝をかかえるように座っていた。

 改めて見ても、むかつくくらいに顔が整ってるわね。

 軽く深呼吸をして感情を落ちつけてから彼女がここにいる理由を尋ねる。

 

「貴女が、負けたの?」

「その通りだ。とても楽しかった」

「……楽しかったって……」

 

 私たちと最初に戦った時は、そんな感情すらも抱いていなかったということか。

 複雑な心境の私を知らずか、黒騎士は膝を抱えたままぼけーっと空を見上げる。

 

「地球には手を出さないと約束させられた」

「それは……ご愁傷様」

「? 別に地球にいちゃ駄目って言われていない」

「……は?」

 

 居座るつもりなの?

 黒騎士は、頭上で白騎士と戦っている七位を見ると子供のように頬を膨らませる。

 

「もう少しで捕虜になれたのに、邪魔された」

「は?」

「七位、許さん」

 

 ……こいつはいったい何を言っているのだろうか。

 元から話が通じないタイプだったけど、今の発言はもっと理解できなかった。

 そう考えている間に、頭上での戦いに変化が見られた。

 

CHANGE(チェンジ)!! →TYPE(タイプ) BLUE(ブルー)!!』

「攻撃がすり抜けた!?」

 

 液体と化した奴が流れるように空中を滑る。

 直後に七位の身体を包み込むように纏わりつき、流体のまま七位を瓦礫のある地上へと叩きつける。

 

「っぐ!? お、おおおおう!?」

 

 さらにその上で数度、連続して地面と壁に叩きつけられた七位は、実体となった青い姿の白騎士により空へと蹴り上げられる。

 

「まだだ!!」

 

 瞬時に赤い姿へと変えた白騎士が手を大きく翻すと空中に幾重にも重なった炎剣が現れる。

 それらは全て七位へと向けられ、一斉に放たれ連鎖的に爆炎を引き起こし、空そのものが炎に包まれていく。

 

「ぷはっ!! あぁ、もうこんなに楽しいのは初めてだわ!!」

 

 それでもなお、七位も白騎士も消耗した様子を見せないままに戦いは続いていく。

 

「もっと、もっとたくさん攻撃してほしいっ!」

 

 どちらも化物だ。

 私は元から乗り気ではなかったけれど、どうしてレッドはアレに勝てると思っていたのだろうか。

 

「ああ、この命に手がかかる感じすごくいい!!」

「んなこと知るかよ!!」

「私、今ものすごく生きているもの!! 血が通っていたあの時みたいに!!」

「他の奴に迷惑かけてまですることじゃねぇだろうが!!」

 

 七位の喜ぶ姿に白騎士は心の底から面倒そうに腕を回す。

 私が言うのもなんだが、序列一桁は変人が多いと聞いていたけど、七位も例外じゃないようだ。

 

「白騎士は能力の多彩さで、黒騎士は純粋な近接能力と速度に特化しているようだ。……フフフ、白騎士はちゃんと剣を使ってる」

 

 隣でぽわぽわとした様子で白騎士から視線を外さないこっちの黒騎士も同じだけど。

 というより、剣云々はどうでもいいでしょ。

 

「面倒くさいから、お前はぶっ飛ばす!!」

「へぇ、楽しそう!!」

「言ってろ!!」

 

GRAVITY BLACK(グラビティ ブラック)!! → OK(オーケー)?』

 

CHANGE(チェンジ)! TYPE BLACK(タイプ ブラック)!!』

 

 白騎士が自身のバックルを叩くと、今度はその姿が黒へと変わる。

 あふれ出した七位の電撃と、黒い重力の波を放つ白騎士の力がぶつかり合い、戦いの場は混沌化していく。

 

DEADRY 0(デッドリィ ゼロ)!!』

 

 ダガーの一閃で道を切り開いた彼がバックルを叩き、白い力を身にまとう。

 

DEADLY(デッドリィ) (ワン)!!』

 

 二度目に鳴り響く声。

 白い力は灼熱色に。

 

DEADRY(デッドリィ) (ツー)!!』

 

 虚空に出現した銃の群れが七位を照準に捉え、一斉にエネルギー弾の雨を降らせる。

 灼熱色は、青空へ。

 

DEADRY(デッドリィ) (スリー)!!』

 

 感情をあらわにさせ稲妻を放つ七位の蹴りと、同じく雷撃を纏った斧がぶつかりあう。

 周囲に光が満ち、その力が———七位を上回る。

 

DEADRY Ⅳ(デッドリィ フォー)!!』

 

「歯ぁ、食いしばれ!!」

 

TYPE BLACK(タイプ ブラァック)!!』

 

 黒いオーラを纏った拳が下から上へと繰り出されると同時に白騎士の眼前の空間の重力が逆転し、七位のエネルギーで構成された身体が浮き上がる。

 現象すらも超越させる力の奔流を前に、私は開いた口が塞がらない。

 

「重力の檻!? 私が逃げられないほどの……!! あ、ぐッ!!」

 

 体を空間ごと固定させているの……?

 あれじゃあ、いくら七位でも逃げられない!

 

「あ、はぁっ! 存在固定! そういうのも使えるのね!!」

「笑ってられんのも今の内だぞ!!」

「笑うわよ!! だって楽しいもの!!」

 

 跳躍した白騎士が蹴りの体勢に移る。

 瞬間、七位の背後に新たなワームホールが作成され、その体ごと押し込むかのように———重力を纏った蹴りが直撃する。

 

「月までぶっ飛べ電気女!!」

 

ALL BREAK(オール ブレイク)!!』

 

GRAVITY(グラビティ) CRASH(クラッシュ)!!』

 

「ッッ」

 

 弾けるように周囲に衝撃が走る。

 七位は重力の檻に閉じ込められながらもワームホールへと叩き込まれ、その消失と共にこの地球から完全に姿を消してしまった。

 

「……」

 

 ワームホールが砕け散り、亀裂が修復した直後はあれほど轟音が鳴り響いていた戦いの場は異様なほどの静寂に包まれていた。

 

「当分、戻ってくるんじゃねぇぞ……」

 

 七位ですら、退けた。

 分かっていたことだけど、相手は想像以上の化物だ。

 例え、上位クラスであっても二桁程度の私達では元から無理な話だったんだ。

 

「さて、こっからが正念場だな……」

「……?」

 

 まだ、何かをしようとしているの?

 戦う相手はもうこの場にはいないはず。

 それにも関わらず準備運動をするように腕を伸ばした白騎士は、大きく息を吸った。

 

「スゥ……ルイィィィィン!!!

 

 空気を震わすほどの声から出てきたのは、何者かの名前。

 その名前に誰も反応する者もいないまま、白騎士はさらに声を張り上げる。

 

「見てるのは分かってんだよ!! 勿体ぶってねぇでさっさと出てこい!!」

 

 ———ルイン?

 いったい、誰を呼んでいるんだ?

 

「そういう、ことだったのか」

「黒騎士?」

「地球に拘っていた理由。なるほど、納得した」

 

 いったい、なにが起きているの? 白騎士が呼んでいるのは誰なの?

 この場の全ての人間に聞こえるほどの怒声を発した白騎士に、誰もが首を傾げる中———異変は起きた。

 白騎士のすぐ前に出現する黒い渦。

 小さく、人一人分ほどしか通れないほどのそれを私の頭が認識したその時、見えない力で押しつぶされるように私の身体が地面へと叩きつけられた。

 

「ッ、ぐ、ぁ……!?」

 

 身体が無条件に地面に吸い寄せられるように、這いつくばる。

 

「な、に……よ。こ、れ……!?」

「下手に抗うな」

 

 黒騎士は僅かに肩を震わせているだけで平気なようだが、周囲に目を移せば私だけではなく、この場にいるすべての地球人が私と同じように地面に縫い付けられるように地に伏せている。

 あのワームホールの奥から発せられるなにか(・・・)が、この場にいるすべての生き物を屈服させてしまっているのだ。

 

「生物は皆、根源的な恐怖には逆らえない」

「な、に……?」

「しかし、何事にも例外というものが存在する」

 

 黒騎士が指さした先には、白騎士だけがなんの影響を受けていないように、その場に立っていた。

 ———足音が聞こえる。

 そこまで大きくないはずなのに、はっきりと近づいてくるその音に背筋が凍るような感覚に苛まれる。

 

「あぁ、まったく、本当に愛い奴だ」

 

 鈴の鳴るような声。

 声そのものが酒気を帯びているかのように、思考を痺れさせる。

 ワームホールの先の空間から、悠然とその足で現れたのは———この世ならざる存在。

 

「この私を呼び出すなど、お前が初めてだぞ?」

 

 青い肌と、紺色の髪。

 全てを見通すような琥珀色の瞳。

 この世のものとは思えないほどの美貌と、完璧な肉体。

 

「だが許そう。それだけの価値と強さがお前にはあるのだから」

 

 白い布をドレスのように身体に巻いただけという簡素な装いでこの場にやってきた女性は、白騎士のすぐ前にまで歩み寄ると蠱惑的に微笑む。

 

「カツミ、我が愛しき宿敵よ。さあ、お前に呼ばれ来てやったぞ?」

 

 あまりにもあっさりと、私たちを、この銀河を統べる無敵の存在がこの地球という舞台に現れた。




呼ばれなくても、普通に来る気満々だったルイン様。
でも主人公に呼ばれてしまったのでウキウキでやってきました。



次回の更新は明日を予定しております。
恐らく、社長中心の視点でお送りすることになります。


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全てが揃う時 5

昨日に引き続き、二話目の更新となります。

序盤はコスモ視点、直後に社長視点となります。




 その光景を、ボクは店内に備え付けられたテレビを通して目撃していた。

 全ての記憶を取り戻した穂村克己と、彼の前に現れた女性。

 裏切られても尚、憧れと畏敬の念を向けてしまう彼女は、相対したボクでさえ見たことのない表情を浮かべていた。

 

「……っ」

 

 現場のカメラ……映像機器を通してリアルタイムで映し出された映像でさえも伝わってしまうこの重圧。

 視線を釘付けにし、あらゆる生物を屈服させる彼女の存在の強さ。

 能力や技ではないルイン様の持つ存在そのものに、生物は無条件に屈服してしまうのだ。

 

「こ、これは、まずい……!!」

 

 ボクはかろうじて膝を突く程度で耐えられているけれど、この場にいる人間は違う!

 

「あ、な、なに、これ……」

「め、目が離せない……う、うぅ……」

 

 店内にいた客も例外なく影響を受け、テーブルに突っ伏す体勢から動けずにいる。

 あの方の、ルイン様の姿を目にしただけでも弱い人間は戦うことを選ぶことすらできずに地を這うことになってしまう。

 

「な、なんじゃこりゃぁ……!!」

「シンドウ! リモコン! テレビのリモコンはどこだ!!」

「そ、そこのテーブルだ!」

 

 コーヒーカップを片手に床に倒れ伏しているシンドウ。

 コーヒーを微塵も零していない謎のプロ意識に少しばかりイラっとしながらも、なんとか腕を伸ばしリモコンを手に取りテレビの電源を落とす。

 画面が消え、身体を抑え込んでいた圧力も消える。

 

「コスモ、助かった……」

「いや……」

 

 助かってなんかいない。

 ルイン様が本気になればこんな星一瞬で消し去られてもおかしくはない。

 

「ホムラ、頼むからな……!」

 

 この状況を、あの方をなんとかできるのは現状であいつだけだ。

 こんな中途半端な形で地球を終わらせてくれるなよ……?

 


 

 星界戦隊、第八位、そして第七位の襲撃。

 それを乗り越えた直後に現れた存在を目にしたその時、私は抗えない力により膝を突くことになった。

 私はまだマシな方だ。

 彼女を直で目にした一般人全員が平伏するように地面に崩れ落ち、意識を保ったまま動けないでいるのだ。

 

「社長、この感覚……!!」

「ああ、奴だ」

 

 この場に到着したと同時に奴の存在を感じた。

 アンノウンの親玉であり、星将序列の上に立つ者、ルインがこの場にやってきてしまったのだ。

 

「カツミ、君……!!」

 

 あらゆる生物が平伏し、動きをとれない中で彼だけがルインを前にしても異常すら見えない。

 彼の強い精神か、はたまた強化スーツの恩恵か、それともまた別の要因によりルインの干渉を無効化しているかは分からない。

 だが、ルインの強い興味を引くだけのことをしているのは見ただけで分かる。

 

「呼ばれるまでもなく来るつもりだったのだがな。しかし、お前からの呼びかけとなれば私も応じずにはいられないだろう?」

「……これは、お前がやってんのか?」

 

 崩れ落ちる人々と私達の姿を目にしたカツミ君がルインを睨みつける。

 その様子からして、そもそも彼にはルインの圧力すらも感じていないことが分かるが……当のルインは困ったように肩を竦めるだけだ。

 

「別に意識してやっているわけではない。大抵の生物は私を目にしただけでこうなってしまうだけだ」

「……俺はなんともないぞ」

「本当に愛い奴だな、お前」

 

 これは割と一番ありえないと思った説が最有力かもしれん……!!

 カツミ君、君一番ありえない可能性のど真ん中を貫くってどういうことだ……!?

 

「気をつけろよ? お前の偽りのない言葉は少々刺激が強すぎる」

「は? なにが?」

 

 おかしそうに微笑むルイン。

 星将序列の面々が目にしたら卒倒しそうな光景を見せた奴は、そのまま口元に指を当てる。

 

「しかし、止めろというのなら弱める程度に留めてやろう。……あぁ、その前に……」

ようやく会えたな! このストーカー!!

 

 空から降りてきたレッドがルインへの攻撃を繰り出す。

 変身すらしていない私では、攻撃の軌跡すら見えないレベルの斬撃がルインに迫る———が、その一撃は奴に届くこともなかった。

 

「こちらの味見もしておかなければな」

「……なっ!?」

 

 レッドの剣が不可視の壁のようなものに阻まれ粉々に砕かれた……!?

 余裕をもって振り返ったルインの抜き手がレッドに迫る。

 避けることも防ぐことも叶わない一撃に割って入ったカツミ君が、手刀を上に弾くように蹴り上げる。

 

「ッ、嘘だろう……!?」

 

 異常なほどの打撃音の後に、弾かれた手刀は空気を切り裂き、夜空を割る(・・)

 空を覆う雲を真っ二つに分断してみせたルインは、無邪気に頬を緩ませた。

 

「ふふっ」

「テメェ……!!」

 

 もう一度ルインが片腕を軽く振るうと同時にカツミ君の姿がかき消え———レッドを抱えた彼がルインから離れた位置に着地する。

 一瞬遅れて、ルインの周囲の地面が強大ななにかに削りとられたように破壊されたことで、彼が先の一瞬で目に見えない攻防を繰り広げたことを理解する。

 

「か、カツミくん……」

「ルイン! こいつに手を出すな……!!」

「そう怒るな。命まで獲る気はなかった」

 

 軽く腕を動かしただけ。

 たったそれだけで異様な破壊を見せた奴は、レッドとさらにその周りを見回し口の端を歪めた。

 

「イエローとブルーは膝を突く程度か。うむうむ、上々。そしてレッド……お前も少なからず影響を受けているようだが……」

「ッ!!」

「とてもいい。地球とはいい星だな。こういうのを、粒ぞろい、とでもいうのか」

 

 品定めを、しているのか?

 私はルインの存在の強大さを知っているが、逆を言えばそれ以外を知らない。

 だからこそ、現状カツミ君にのみ執着する様子を見せる奴の思惑が全く読み取れない。

 

「……さて、力を緩めてやったぞ? このままジャスティスクルセイダー共々向かって来るか?」

 

 ……たしかに体への負荷が軽くなった。

 しかし、それはあくまで半分程度にまで下がったほどだ。

 一般人には立ち上がることすらできない。

 

「レッド、下がってろ」

「で、でも……」

「ブルーとイエローにも手を出すなって伝えてくれ。こいつは……今のお前らじゃ無理だ」

「……ッ、分かった」

 

 レッドがカツミ君の邪魔にならないように後ろへと下がる。

 強化装備さえ使わせることができれば状況は違っていたかもしれないが、肝心のそれは本部の地下で調整を施したままだ。

 今は耐えてくれ、レッド……!!

 

「よぉくも俺の記憶を好き勝手に弄んでくれたなコラァ……!!」

 

 拳を鳴らしながらカツミ君がルインの前に出た。

 彼もここで戦ったら被害が広がるのは分かっているはずだ。

 

「ああ、とても楽しかったぞ」

「俺は全然楽しくなかったわ!!」

「そういうな。記憶が戻らず、不安に思っていたお前を誰が支えてやったと思う? この私だ

「お前が記憶を奪ったんだからな……! あぁ、クソ!!」

 

 白川君の報告にあった白川克樹としての彼に語り掛けていた謎の声。

 それがルイン本人だということはこちらで薄々感づいていたが、かなり彼に入れ込んでいたように思える。

 

「一度目、俺をボコボコにしたのは俺が弱かったので別に気にしてねぇ……! だが、二度目のアレは許さん……!!」

「暴力と悪意に堕ちたお前か。あれもまた良かったな」

 

 二度目……?

 一度目は彼が記憶喪失になった件なのは分かるが、二度目とはなんだ?

 カツミ君が暴力と悪意に堕ちたなどという荒唐無稽な話があるのか……?

 

「先がない行き止まりだったことが問題ではあったが、お前のうちに秘めた残虐性をこの私だけが知ることができたのもよかった」

「子供扱いしやがって……ッ」

 

 ともかく、ルインと彼の間に我々が知らないなにかがあったことは確かのようだ。

 ……隣のアルファが闘犬みたいにグルグル唸っているのが怖いが、今はスルーしておこう。

 

「その借りもここで返してやる」

 

 ワームホールを手の中に作り出し、臨戦態勢へと移るカツミ君。

 そんな彼を前にして、無警戒に歩き出したルインは近くの瓦礫にその腰を下ろす。

 

「ふふ、勘違いするな。ここで戦うつもりはない」

「なに……?」

「言っただろう? 呼ばれたから来た、とな」

 

 確かにそうだが、この期に及んで戦う気がないだと……?

 いったい、ルインはなにがしたいのだ……?

 

「丁度いい。この星の者たちも見ていることだ。お前の質問に答えてやろう」

「……どういうつもりだ」

「なにも企んではいないさ。ただ、お前は私に問いかけたいことが山ほどあるんじゃないかと思ってな」

「……」

 

 周囲の状況を今一度確認した彼は舌打ちをしながら拳を下ろした。

 今、彼とルインが争えば、星界戦隊との戦いどころじゃない規模の戦いが起きることは明白だからな。

 ある意味で助かった、というべきか。

 

「確かに、聞きたいことがある」

「ふふ、なんだ?」

「お前らはどうして、地球を狙う」

 

 その問いかけにルインは不思議そうに首を傾げただけであった。

 ……カツミ君、君にとってその疑問は尤もなものだが違う。

 だが、それは違う。

 

「ふふ、この期に及んでまだ私の目的が地球だと思っているのか?」

「違う、のか? じゃあ、他になにが……」

 

「地球なぞ、お前がいなければとうの昔に白紙化させていた程度の星だ」

 

「……は?」

「いいか、カツミ。間違ってくれるな」

 

 動揺するカツミ君を見て、立ち上がったルインが愉快そうに声を発する。

 

「お前がいるから、この地球を滅ぼさないでいるんだ」

 

 それは、決定的な一言だった。

 予想だにしなかったルインの告白にカツミ君は動きを止める。

 

「地球という星の存在価値の大部分はお前にある」

 

「むしろ、このような星になぜ星将序列を送りこむ必要がある?」

 

「全てはお前のためだ」

 

「お前の成長が私の願いだった」

 

「私は、お前にしか興味はない」

 

 彼の耳元でゆっくりと、刷り込むように言葉にした彼女に誰もが言葉を失った。

 たった一人のために地球という星が生かされている異常な状況と、それだけの執着をルインにさせるカツミ君に、混乱が収まらない。

 

 ———地球がなぜ消し去られていないのか。

 

 その理由が、カツミ君にあることは私も予想していた。

 だがこれは……その度合いが違いすぎる。

 

「それだけだ。私にとっては十分に足る理由だ」

「……俺の、せいで……」

「お前のせいではない。むしろ滅びの運命から救い出したのはお前の存在あってのことだ。地球という小さな惑星を守っていたのは、紛れもないお前自身だ」

 

 自分のせいで人々が危険に晒された。

 例え、滅びの運命から地球を救ったとしてもその事実は彼の心に重く押しかかる。

 

「じゃあ、あれか?」

「ん?」

「俺が地球を離れてお前のところに行けば、もう地球に手出しはしないのか?」

 

 ……ッ!!

 咄嗟に声を上げようとすると、先ほどまで弱まっていた圧力が元に戻る。

 言葉も出せないほどのそれに、歯を食いしばりながら耐える。

 

「……そうか。お前ならばそういう選択を取るのか」

 

 カツミ君のまさかの言葉にルインは素に戻ったように口元に指を当てる。

 すると何を思ったのか返答を待つカツミ君の頭に手を乗せ……た?

 

「ふふ、ずっとこれがしてみたかった」

「ハッ!? 気安く触るな!!」

 

 一瞬呆気にとられた彼が手を払うが、それよりも速く奴は手を戻した。

 なんだ、今のは単に頭を撫でただけなのか?

 

「その献身は意味のないものだが微笑ましくはある。しかしな、嫌々お前を私のものにするのはつまらない」

「つまらない、だと?」

「勿体ないが、その話を受けることはないだろう」

「……」

「他の有象無象に諭され、その身を私に捧げたとしても……結果はお前の望むものではないことと知った方がいい」

「そっか……」

 

 肩の力を抜いた彼が背後のルインに振り向きざまに肘を叩きつける。

 静寂に包まれていた場に衝撃が鳴り響く。

 

「……じゃあ、お前をぶっ倒さなくちゃこの戦いは終わらねぇってことだな?」

「その通り。分かっているじゃないか」

 

 手の甲でそれを受け止めたルインは、軽く後ろに下がりながら笑みをさらに強める。

 どちらにせよ、この星の未来のためにはルインを打倒しなければならない事実は変わらない。

 いや、たとえ今の提案にルインが乗ったとしても、地球以外の星がこれからも脅威にさらされる可能性だってある。

 

「カツミ。私はお前を殺したいわけではないのだ」

「今更何言ってんだ、お前……!!」

「私を殺せるほどにまで強くなったお前と、戦いたいんだ」

 

 その言葉を期にルインは自身の背後にワームホールを作り出す。

 ワームホールに足を踏み入れた奴は、そのままカツミ君へと振り返る。

 

「戦え、強くなれ。必要なものは揃った。あとは力を高めるだけだ」

「……そっちこそ、油断してあっさり倒されねぇように気を付けるんだな」

「ふふ」

 

 睨みつけるカツミ君にルインの笑みが好戦的なものへと変わる。

 

「星将を超えて戦い続けろ、その末に私という敵が立ちはだかることになるだろう」

 

 最後にそう言い放ち、ルインは次元の先へと消えていった。

 身体を押さえつけていた圧が消え、身体が自由に動くようになる。

 

「星界戦隊も、あちらの黒騎士の姿もないな……」

 

 ルインという巨大な存在に気を取られ消えたことにすら気づけなかった。

 逃がしたのはかなりの痛手だろうが、星界戦隊の方もかなりのダメージを受けていたので当分は大丈夫と信じたい。

 

「……新たな拠点を探さなければならないな」

 

 会社は半壊。

 こっちに関してはあくまでビルの一つなので問題はない。

 問題は地下の本部だが……こちらも対策を立てていないわけではない。

 

「天才とは常に予備プランというものを備えているものだからな」

 

 暫し時間こそはかかるがすぐに立て直せるはずだ。

 あとの問題は、カツミ君への世間の認識についてだな。

 幸い、ルインが彼への執着具合……というか銀河級ヤンデレを見せたおかげで凡その事情は伝わっているが、よく情報を吟味もしない輩が彼を相手方に差し出せと要求する可能性がないはずがない。

 というより、そうなったらルインはカツミ君を我が物にした直後に、用のなくなった地球を速攻で破壊するだろう。

 

「ルイン関係の情報も公開することも、考えねばな」

 

 ただでさえ序列一桁の化物共を相手にしなくてはならない現状で、守るべき地球人から糾弾されるような事態になっては、地球滅亡コース一直線だ。

 こちらも情報をうまく使ってなんとかしてこう。

 

「……まずは、完全復活した彼と話さなければな」

 

 しかし、私は公には顔を公開していないので……。

 懐から変装用の“黒騎士くんマスク”を取り出しそれを被る。

 

「え、社長、なにそれ」

「私はいざという時のためにマスクを常備している」

「いや、なんで黒騎士の……? なんで懐にいれてるの……?」

「我が社の大ヒット商品だからだ。……だからその変態を見る目はやめろ」

 

 本来ならアルファに認識改編をしてもらえば手っ取り早いのだが、この場には既に報道関係の者が見えるので、迂闊な認識改編はするべきではない。

 マスクを被り、ルインが消えた場所を未だに見ているカツミ君へと近づく。

 

「レイマ」

「……うむ」

「こっからが、本当の始まりだ」

 

 これからより星将序列との戦いが激化していくことだろう。

 そう予感していると、ものすごい勢いでダッシュでやってきたレッドが背後からカツミ君に飛びかかる。

 

黒騎士くーん!! 全部思い出したんだねっ!!

「ぬぐっ……」

 

 反動で倒れかけた彼はすぐに立ち上がると、首にしがみついたレッドを引きはがそうとする。

 

「ええい、纏わりつくな!! 鬱陶しい!!」

「やだ!! ずっと心配かけさせたからこれくらいしても別に許され——」

 

 いつの間にかこの場にやってきていたイエローとブルーに肩を掴まれるレッド。

 一瞬でカツミ君から引きはがされたレッドは雑に地面に放り投げられ、ゴロゴロと地面を転がる。

 

「な、なにするの!?」

調子に乗るなよ、ブラッド

そうだよ、ブラッド。リーダーは私だ

 

 ブルーとイエローに見下ろされたレッドの背にさらにアルファが腰を下ろす。

 

「ぐえぇ」

椅子は喋らないでくれないかな?

「あ、扱いがより悪くなってる!?」

 

 まったく、先ほどまでの空気が台無しだ。

 しかしようやく彼がいた頃に戻ってきたとも言える。

 

「あとは屋上に取り残されたグラトを回収せねばな」

 

 グラト、グルゥトゥ星人は食したものを自らのパワーとする能力を持っている。

 自らの能力ゆえに星の全てを食い尽くし滅んだ……という話が有名ではあるが、それ以外にもグルゥトゥ星人は別の固有の能力を有していた。

 その一つが、自身の蓄えたエネルギーを結晶化させ仮死状態になるというものだ。

 

「事前に聞いておいてよかったな。……白川君もよく頑張ってくれた」

 

 ……恐らく、白川君の助力がなければグラトも結晶化に回すエネルギーを残すことができなかっただろう。

 彼女の命を懸けた頑張りも無駄ではなかったということだ。

 

「彼を目覚めさせるために大量の美味いものが必要になるが……」

 

 カツミ君の復活を祝うということでならいくらでも用意できるだろう。

 ここまで非常に長くかかってしまったが、ここに黒騎士が、穂村克己という人間が完全な復活を遂げた。

 それは我々にとって最も大きな変化と言えるはずだ。




地球人大混乱。
考察班大混乱。
掲示板も大混乱。
その中で終始、カツミとのやり取りを楽しんでいたルイン様でした。

補足するのはかなり今更ですが、ルインはアスタロットやFGOの伊吹童子のような人外肌?系のキャラクターとなります。


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発覚後(掲示板回)

ちょっと早めの更新。
今回は掲示板回となります。

少し掲示板形式の方を見やすくしてみました。


101:ヒーローと名無しさん

 

いやぁ、星界戦隊は強敵でしたねぇ!

 

102:ヒーローと名無しさん

 

まさかのレッドが槍取り出した時はビビったな

あなた、剣以外に武器つかえたの!? って驚きがすごかった。

 

103:ヒーローと名無しさん

 

どうやら斬れればなんでもいいとのこと

このレッドなんで現代人やってんですかね……

 

104:ヒーローと名無しさん

 

さすがナチュラルボーンバーサーカーブラッドは違うな

 

105:ヒーローと名無しさん

 

レッドは国盗りの英雄だった……?

 

106:ヒーローと名無しさん

 

レッド第二形態怖すぎィ!!

斬撃飛ばしてくる上にリーチの違う剣と槍を軽々振り回してくるとか恐怖すぎるwww

 

第三形態は雷でも使って来るのかな?

 

107:ヒーローと名無しさん

 

巴流を愚弄するな……!!(未来予知)

 

108:ヒーローと名無しさん

>>107

でも葦名守れてませんよね?

 

109:ヒーローと名無しさん

>>107

なにもできませんでしたよね?

 

110:ヒーローと名無しさん

 

ガチで弦ちゃん強くなったんだよなぁ

 

111:ヒーローと名無しさん

 

お、俺は……葦名の お荷物ですッ

  ブヒィッ!!

なにも……成せないっ!!

 

112:ヒーローと名無しさん

>>111

泣かないでゲンチロちゃん……

 

113:ヒーローと名無しさん

 

マタギと侍のコラボはやめてさしあげろ

 

114:ヒーローと名無しさん

 

茶番はいいから本題に移ろう

 

敵のラスボスが本当にやばい。

言葉で言い表せないくらいにやばい。

マジでどうすんだアレ

 

115:ヒーローと名無しさん

 

前スレ荒れてたからお茶を濁しただけなんだが……

 

116:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんアンチが滅茶苦茶理論振り回してスレそのものが潰されたからな

多分誰かが通報してくれたんだろうけど

 

117:ヒーローと名無しさん

 

現在判明しているルインの情報をまとめると

・敵異星人の大ボス

・ただそこにいるだけで謎の圧力で屈服させられる。

・滅茶苦茶強い(黒騎士君をボコボコにできるほど)

・黒騎士君が好き

・黒騎士君>>>超えられない壁>>>>地球

・ありえんほどの青肌美人(重要)

 

118:ヒーローと名無しさん

 

見ただけで影響出るのはやばすぎるだろ。

俺カレー食ってる時にやられたから、カレーの海で溺死するところだったわ。

 

119:ヒーローと名無しさん

 

録画したものなら大丈夫だったけど、リアルタイムの映像は問答無用で影響されるうようだね。

 

120:ヒーローと名無しさん

>>118

危うくカレーで溺死する最初の人類になるとこだったなwww

 

121:ヒーローと名無しさん

 

ラスボスが銀河レベルのヤンデレで黒騎士君にゾッコンだった件

 

全然笑えねぇ

 

122:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君厄介な人達に目をつけられすぎでは?

 

123:ヒーローと名無しさん

 

レッド(ブラッドサムライ)

イエロー(剛腕剣闘士)

ブルー(イロモノシューター)

アルファ(現状ノーマル)

プロト(無機物ヤンデレ)

ルプス(無機物ヤンデレ)

 

そして今回現れたルインと、謎の白髪少女。

伏兵が多すぎるぅ……。

 

124:ヒーローと名無しさん

 

他にもどう見てもやばい敵とか現れていたらしいしね。

敵側の黒騎士とかエネルギー生命体らしきやつとか。

 

完全覚醒白騎士くんに地球外追放キック食らったやつ

 

125:ヒーローと名無しさん

 

考察としてはあの謎の威圧ってさ

ある程度の実力OR意思の強さで抵抗できる感じなのかな?

星界戦隊とかも影響受けてたし

 

126:ヒーローと名無しさん

 

あっちの黒騎士とエネルギー生命体は情報開示待ちだな

 

127:ヒーローと名無しさん

 

あの威圧に一つ言えることは、

全くの影響なしでいられたのは黒騎士くんだけだったってこと

 

128:ヒーローと名無しさん

 

本当になんなのあの子……?(畏怖)

 

129:ヒーローと名無しさん

 

よく情報とか見てないけど

つまり黒騎士くんのせいで地球が危なくなってるってこと?

 

130:ヒーローと名無しさん

 

全然違う。

黒騎士がラスボスに気に入られたから地球が今も大丈夫なだけ

 

131:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん追放案を投げかける人は、地球滅亡RTA組だから絡むのはやめた方がいいぞ

じゃなきゃただのアホだ。

 

そもそも黒騎士くんはあの場で自分からその選択を切り出してた

 

132:ヒーローと名無しさん

 

真実知るなりすぐにそうしようとするあたりマジモンすぎるわ

 

もっと自分勝手になって(懇願)

 

133:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん背負っている運命が過酷すぎるだろぉ

普通の人生を送らせてやれよもう……

 

134:ヒーローと名無しさん

 

今気づいてゾワッとしたから

お前らにも共有させる

 

135:ヒーローと名無しさん

 

考察要素なら大歓迎だゾ

 

136:ヒーローと名無しさん

>>134

 

ルイン様登場までの事件の順番が着実に自分が表舞台に上がるための土台になってること。

 

黒騎士君の過去暴露で世間の同情を黒騎士くんに集める。

それに合わせて、記憶を完全復活させずにあえて中途半端な部分だけ目覚めさせる。

多分、黒騎士君の性格上、記憶が蘇り次第ルイン様へのお礼参りにいくと判断したから。(実際そうなってた)

そして世間の黒騎士君への認識が広まったタイミングで事件が起こり、彼の記憶が完全に復活させ満を持して登場した。

 

これにより黒騎士君が侵略者襲撃の原因でも責められにくい状況を作り出した、と考えられる。

 

137:ヒーローと名無しさん

 

ひぇっ

 

138:ヒーローと名無しさん

 

>>136

推しのために最高の舞台を用意する

これはもしかして純愛なのでは?(白目)

 

139:ヒーローと名無しさん

 

>>136

たしかに黒騎士くんの過去が広まったら迂闊に批判もできない空気が出来上がってた。

実際、自分も同情してた。

 

これ込みで計算づくなら背筋が凍るわ

 

140:ヒーローと名無しさん

 

ルイン様「推しに何かしたら地球滅ぼす」

 

徹底的に地球人を邪魔としか思ってないですねぇこれは(虚ろ目)

 

141:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君がいたから地球は破壊されなかった。

→うん

 

記憶を奪われた黒騎士君が今まで敵の思惑で敵と戦わされていた。

→ヒエッ

 

ラスボスが黒騎士君を自分好みに育てようとしていた。

→ママ……?

 

142:ヒーローと名無しさん

 

自分好みというか、今になって思うと黒騎士君に足りないものを、白騎士で鍛えさせたんだと思う

そのおかげでまた手が付けられない超戦士になってしまいましたけどね()

 

143:ヒーローと名無しさん

 

これもう下手になにかする方が悪いんじゃ……?

 

145:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君が侵略者を招いたって大声で喚き散らしてる人たちがいるけど、

それ以前に彼がいなくちゃ地球が滅ぼされていたって前提がある。

 

146:ヒーローと名無しさん

 

んんんwwwww

 

黒騎士くんがいると危険が及ぶのは間違いないでしょうwww

 

147:ヒーローと名無しさん

 

なんだぁ テメェ……

 

148:ヒーローと名無しさん

 

まーた、前スレの合戦を繰り返すつもりか?

 

149:ヒーローと名無しさん

 

んんんんwwww

黒騎士君の存在あって地球滅亡は回避できましたが今はその黒騎士君のせいで侵略者が押し寄せてきているのですぞwwww

それは変わりようのない事実ではwwww

 

150:ヒーローと名無しさん

 

なんだ口論詩か?

北欧ラップ対決かこの野郎

 

151:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんはどうしようもないだろこれ

 

152:ヒーローと名無しさん

 

んんんんwww

どうしようもないとはwwww

具体的な反論をいただけなければ拙僧返せませんぞwww

 

153:ヒーローと名無しさん

>>152

そもそも黒騎士くんは地球を守るために戦ったのにラスボスに目をつけられて今の今まで記憶を弄られてってことが明かされたんだよ?

ヤンデレに記憶操作されて四六時中脳内潜伏ストーキングされてその上、自分好みに育成されてもしていたんだよ?

 

こんなん黒騎士くんのせいとはいえないわ。

 

154:ヒーローと名無しさん

>>152

むしろ状況的に黒騎士くんの存在が地球の延命をしている状況。

そもそも怪人が出た時点で今まで守られてきた俺達が、立場が変われば掌返して黒騎士くん責めるとかマジで侵略者以下の畜生だぞ。

 

155:ヒーローと名無しさん

>>152

黒騎士君を排斥するような状況になったら、なぜか敵のはずのルインが黒騎士君の味方になる可能性があることを考えた方がいい。

いいか?

地球を救うメシア気取りで黒騎士君を捧げたら、相手は絶対に地球を破壊するぞ?

そうしっかり明言してたし、なんなら黒騎士くんにしか興味ないからだ。

 

……よく考えても意味不明な状況で地球滅亡が引き起こされるんだぞ!?

 

156:ヒーローと名無しさん

 

たしかに意味が分からなくて草

 

157:ヒーローと名無しさん

 

セイヴァーズは下位組織と考えると、元々は地球そのものがターゲットにされていたって考えられるな。

遅かれ早かれ地球が白紙化? されてたと考えると、まだ現状は黒騎士くんとジャスティスクルセイダーのいる今の状況の方が希望があるんじゃないか?

 

158:ヒーローと名無しさん

 

>>153

んんんwwwww

>>154

ンンンンwww

>>155

ンンンン~~~!

 

まさに! 正論!

 

158:ヒーローと名無しさん

 

お前それやりたかっただけだろ!!

 

159:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君アンチを装ったただの愉快犯で草

お前は本当にそういうことする。

 

160:ヒーローと名無しさん

 

おう、おめぇガッツ二つ持ちだから三回陳宮できるなあ、おい

 

161:ヒーローと名無しさん

 

どの面下げてこのスレにいるんですか?

 

162:ヒーローと名無しさん

 

薄々気づいてたけど草

 

163:ヒーローと名無しさん

 

真面目に対応して損したわwww

まあ、いい解説になったと思ってスルーしよう。

 

164:ヒーローと名無しさん

 

とりあえず神棚にルイン様のお写真を奉納しました

 

おぉ、我が神……

 

165:ヒーローと名無しさん

 

そうか

でもお前の神様はお前のことなんか見ていないと思うぞ

 

166:ヒーローと名無しさん

 

くっそ辛辣で草

 

167:ヒーローと名無しさん

 

むしろゴミクズ以下の認識だと思うゾ……

黒騎士くんにしか興味がない

 

168:ヒーローと名無しさん

 

だったらどうして黒騎士くんはあんな気に入られているんですかね……?

 

169:ヒーローと名無しさん

 

そこが考察班大混乱ポイントその1だな

まとめ記事の引用で悪いけど、そこに挙げられた考察……というより説なんだけど……。

 

・黒騎士くんがルインと縁のある存在説。(ルイン母、若しくは姉)

・黒騎士くんは最初の侵略直後の行方不明時にルインと遭遇、戦ってボコボコにされた。

・黒騎士くんをストーカーしてた厄介オタク説。

 

見て分かる通り、考察班も混乱してる。

 

170:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君をボコボコにするって割と絶望的なんだが

しかも行方不明時ってトゥルースフォームを……。

 

171:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルからの情報開示告知が出されたな

 

172:ヒーローと名無しさん

 

まだ騒ぎが収束していないうちに出してくるのか……

相変わらず有能ムーブしかしないなあの社長

 

173:ヒーローと名無しさん

 

ルインと黒騎士の邂逅と、その際に行われた戦闘……ってなんだ?

それ以外にもあるけれど。

 

174:ヒーローと名無しさん

 

多分、誤字だろうけど

最初の時点で約56時間に及ぶ戦闘記録って書かれているな。

 

 

これって誤字だよな?

そうだよな?(震え声)

 

175:ヒーローと名無しさん

 

五時間か六時間の間違いだろ。

まだ公開されてねーけど、ラスボス相手にそれだけ戦えたらそら気に入られるわな

 

176:ヒーローと名無しさん

 

五時間とかやべーな

あんなやばい雰囲気しかしない美人にそんな戦ってたんか

 

177:ヒーローと名無しさん

 

……本当に誤字ダヨネ?

 

 




主人公の記憶が全部戻ったことでシロの記録も完全復元されました。
なので公開します(!?)

次回は掲示板回+αの予定です。


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暴露後(掲示板回)

今回も掲示板回となります。
思ったよりも長くなってしまい+α部分のいれられませんでした……。

レイマによって公開された情報は
その1が、ルインとの56時間の戦闘。
その2が、悪落ち白騎士の戦闘となります。


311:ヒーローと名無しさん

 

お前ら絶対に黒騎士君を追放しようとすんなよ!?

確実に地球終わるからな!?

絶対だぞ!!????

 

312:ヒーローと名無しさん

 

うああああああああああああああああ!!??

 

313:ヒーローと名無しさん

 

そこらのホラーよりやべぇ映像やん

 

314:ヒーローと名無しさん

 

信 じ ら れ な い も の を 見 た

 

315:ヒーローと名無しさん

 

いったいなんなんだお前はぁぁぁ!!

 

316:ヒーローと名無しさん

 

本当に56時間戦うやつがいるか!

 

317:ヒーローと名無しさん

 

かつてここまでドン引きしたことはなかった

 

318:ヒーローと名無しさん

 

珍しく年齢制限されてると思ったらその2がえぐすぎるくらいにヤベーイ

 

319:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君アンチが黙り込む悪意の濃さ

おう、これが今までお前たちが叩いてきた黒騎士君の闇やぞ

 

怖いやろ

ワイも怖い(白目)

 

320:ヒーローと名無しさん

 

初 見 ラ ス ボ ス に

 

5 6 時 間 

 

戦 い 続 け る 男

 

321:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんアンチが一斉に沈黙するくらいやべぇ動画

もっと手加減しろやあの社長!!

 

322:ヒーローと名無しさん

 

クソレイドバトルにソロで挑んで56時間粘り続けて、

隠し称号もらって地球に戻される男

 

323:ヒーローと名無しさん

 

執着する理由が生半可な理由じゃなかった

これヤンデレじゃないわ。

もっと別の恐ろしい何かだわ。

 

324:ヒーローと名無しさん

 

大混乱の上に大混乱を重ね掛けする荒業やめろ!!

その1だけじゃなく、その2も同じくらいえぐいやつだわ!!

 

325:ヒーローと名無しさん

 

悪堕ちカツミくんなんて見たくなかった……

 

326:ヒーローと名無しさん

 

ワームホールってルインから学習した技だったんか

なんだこの地球人(畏怖)

 


 

 

771:ヒーローと名無しさん

 

阿鼻叫喚の情報公開から落ち着いて……落ち着いてきたな

 

772:ヒーローと名無しさん

 

その1の時系列をまとめると、

最初はセイヴァーズの巨大ロボットに黒騎士君が乗り込んだ後

転移した宇宙船の中でセイヴァーズのリーダー、ベガを追い掛け回す

その先でルインと遭遇

戦闘(56時間)

戦闘後、べた褒めされる黒騎士くん

黒騎士くん、地球に戻される。

 

で、いいよね?

 

773:ヒーローと名無しさん

 

合ってると思う

 

774:ヒーローと名無しさん

 

最後、地球の空から落ちる黒騎士くん視点のルインの台詞で地球の首が皮一枚繋がったんだな

 

775:ヒーローと名無しさん

 

つまり黒騎士くんが戦ってなければ普通にあの後、地球がなくなってた……?

 

776:ヒーローと名無しさん

 

ベガ追いかけてる時の宇宙船内部のエイリアン感がたまらん

 

777:ヒーローと名無しさん

 

まず考察を落としていこう

不謹慎ではあるけどここの感想を見たい。

 

778:ヒーローと名無しさん

>>775

それを結論付けるのはまだ早い。

前提として敵首魁が黒騎士と遭遇したのセイヴァーズがやってきた直後。

もしかすれば地球に猶予があったにも関わらず、黒騎士がその期限を早めてしまったという可能性もある。

 

あっ、別に黒騎士を非難する意図はない。

 

779:ヒーローと名無しさん

 

セイヴァーズの侵略が失敗に終わった時点で次の侵略者が来ることは決定していると思う。

どちらにせよ侵略はされていただろうし、最悪黒騎士君を欠いた状況で侵略に対応しなきゃならなくなっていた可能性もある。

結果だけを見れば、黒騎士くんのファインプレーなんじゃないかな?

 

780:ヒーローと名無しさん

 

考察をセイヴァーズ襲来時点にまで遡ってみると、

地球の怪人とセイヴァーズって敵対していたのが分かるんだよな。

 

781:ヒーローと名無しさん

 

セイヴァーズの過去映像確認すっかぁ

 

782:ヒーローと名無しさん

 

たしかに怪人を邪悪呼ばわりしてるな。

口ぶりからして地球人怪人は侵略者由来だけど、別に奴らの味方でもないってことか。

 

ここからは仮定の話になるけど

セイヴァーズは地球産怪人から何かを回収しようとしていたけど、それは黒騎士君の手によって失敗に終わった。

その何かは判明していないけど、それを巡ってまた侵略者が来る可能性があった。

 

でもセイヴァーズの大本のボスであるルインの目的はもうそれではなく、黒騎士くんそのものになっている。

結局目標が黒騎士君に変わっただけで地球が狙われている事実には変わりない。

 

783:ヒーローと名無しさん

 

それがしっくりくる。

いや、どちらにしても地球やばいじゃんよ

 

784:ヒーローと名無しさん

 

だからずっとその話をしてるんでしょ

 

785:ヒーローと名無しさん

 

どうやって地球に戻ってきたのか疑問だったけど、

まさかラスボスに返してもらったとはね。

 

786:ヒーローと名無しさん

 

いや帰し方よ。

黒騎士君、ワームホールからの自由落下でどうして記憶喪失だけで済んでるのよ()

 

787:ヒーローと名無しさん

 

今の心境

【白騎士VSルイン戦その1】

 

(動画総時間、56時間)……嘘だろ……?

(無編集版の動画part数を五度見して)……嘘だろ……?

(まとめ版視聴後)……嘘だろ……?

(【その2】視聴後)エボルトォォォ!!!

 

788:ヒーローと名無しさん

 

あの黒騎士君を片手で圧倒し続けるルインも尋常じゃないけど、

それに56時間も向かい続ける黒騎士くんが本当に化物

 

789:ヒーローと名無しさん

 

へぇ、その2はまだ見てないけど

動画時間23時間かぁ。

なんだ、その1より短いじゃん(白目)

 

790:ヒーローと名無しさん

 

悪堕ち白騎士くんとかいう恐るべき姿が待っているんだよなぁ

 

791:ヒーローと名無しさん

 

まだ見てないけどさ

56時間って誇張すぎてないか?

隠れながら戦ったとかで56時間だよな?

 

まあ、それでも異常だけど

 

792:ヒーローと名無しさん

 

ほぼノンストップでルインに殴りかかり続けるやつだぞ

早送りしてまだ十七時間目だけど、ルインの出す(即死級の)攻撃をいなしながら、ひたすらに攻撃してる。

 

793:ヒーローと名無しさん

 

冷静に考えてなんで56時間も戦えんの……?

そういうのに詳しくない自分でさえも異常に思えるんだけど

 

その2の時間が短いのって我を失っていたのが関係してたりする?

やっぱり精神面が異常なのでは?

 

794:ヒーローと名無しさん

 

ルプスドライバーの機能で補助されてる……的なことが書いてあったけど、

メンタル面は全然補助とかないですよね……?

 

795:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士になる条件

・装着者皆殺しスーツの完全適合!!

・スーツに飲み込まれない心!!

・ヴィラン堕ちしないこと!!

・チート染みた化物たちとほぼ毎日戦い続けること!!

・56時間ラスボスと戦い続ける精神力!!←NEW

 

796:ヒーローと名無しさん

 

最初の時点で無理じゃねーか!!

 

797:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルがいれば黒騎士必要ねーじゃん

的な頓珍漢なこと言った黒騎士くんアンチ息してますかねこれ……?

 

798:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君は地球が生み出した星の戦士とかじゃないよね?

 

799:ヒーローと名無しさん

 

安心してください!!

黒騎士くんは適合率が高いだけの人間です!!

 

800:ヒーローと名無しさん

 

所業が人間のそれじゃないんですけどそれは

 

801:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君は完全に一般家庭の人間だぞ

重い過去を背負って殺人スーツに完全適合した一般人だ

 

802:ヒーローと名無しさん

 

逸般人の間違いじゃねぇ……?

 

803:ヒーローと名無しさん

 

え、待ってこれ地球やばくね……?(今更)

黒騎士くん片手だけで圧倒するとか絶望しかないんだけど

 

804:ヒーローと名無しさん

 

おう、だからルイン様が親切に黒騎士君を強くしてくれたんだよ。

やったなおい(白目)

 

805:ヒーローと名無しさん

 

これもしかしたら、黒騎士君以外まともに挑んできたやつがいなかったから、こんなに執着するんじゃないのかなぁ……?

 

806:ヒーローと名無しさん

 

・大抵の生物は戦う以前に圧で戦意喪失

・絶対強者過ぎて誰も戦いを挑んでくれない

 

そんなところに現れた黒騎士君が、プレッシャーも感じずに向かってきたうえに56時間も自分を殺しにきてくれるとか……射止めてしまったなぁ黒騎士君!!

 

807:ヒーローと名無しさん

 

56時間の戦闘っつっても早すぎて微塵も見えなかったけど、

何度もふき飛ばされて地面に叩きつけられる黒騎士くんが痛々しくて見てられなかった。

 

808:ヒーローと名無しさん

 

56時間戦闘も衝撃的だったけど

その次の奴の方が個人的には辛かった

 

809:ヒーローと名無しさん

 

一撃で相手を倒せるのにそれをしない

嘲笑いながら敵をバラバラにしていく残虐さ

攻撃する場所が全て急所

 

なんだこの悪魔……

 

810:ヒーローと名無しさん

 

本人からの証言によるとその時は自分にとって悪い記憶だけを思い出させられただとか

 

あっ(察し)

 

811:ヒーローと名無しさん

 

相手方の侵略者連中が胸糞過ぎる。

爆弾ちらつかせて変身解除させてボコり始めるとか

 

……あれれ? どこかで見おぼえがある姑息な手段だな?

 

812:ヒーローと名無しさん

 

よく見れば顔もそっくりやんけ!

やらかしの系譜かなんかなの?

 

813:ヒーローと名無しさん

 

さらっと白騎士君の家族とか言ってたよね敵侵略者

彼の家族っていないよね?

 

814:ヒーローと名無しさん

 

記憶喪失黒騎士君のバイトしてたところに偶然行ったことあるけど、

姉と呼ぶ人物と仲睦まじそうに話しているのを見たことあるで

 

店長とも仲良さそうだったからよく覚えてる。

 

815:ヒーローと名無しさん

 

!!?

 

816:ヒーローと名無しさん

 

個人情報!!!!

 

817:ヒーローと名無しさん

 

姉!?

 

818:ヒーローと名無しさん

 

記憶のない黒騎士君の弱みにつけこんで

姉を名乗って合法的に姉さん呼びを強要させる

その上記憶のない黒騎士君に朝起こしてもらったり

しまいにはご飯とか作ってもらったりとか

記憶のない彼に付け込んで!!

記憶のない彼に付け込んで!!

そんな度し難い行いをさせたものがいるということですか?

けしからんッッ!!

これはけしからんですよ!!

保護しなければ!! 即刻保護しなければなりませんよ!?

 

819:ヒーローと名無しさん

 

え、え、真面目に意味分からん。

黒騎士君って兄弟とかいないはず。

いったいどこから湧いて出てきた???

 

820:ヒーローと名無しさん

>>818

飛躍しすぎて草

義理のかもしれないだろ!!

てかほとんどお前の願望じゃねーか!!

 

821:ヒーローと名無しさん

 

いや待て!!!

ま、まさか白騎士ちゃんって……!?

 

822:ヒーローと名無しさん

 

あっ

 

823:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君が抱きかかえていた謎の白髪少女って白騎士ちゃんから変身解けてたよな!?

あの怪人デストロイヤーの黒騎士君が優先して助けに行く時点でこれ当たりなのでは?

 

824:ヒーローと名無しさん

 

謎の姉を名乗る白髪美少女かぁ

ランキングが荒れるなぁ。

 

825:ヒーローと名無しさん

 

COします。

我、こういう記憶を失った子を引き取って養ってもらうのが夢でした。

 

826:ヒーローと名無しさん

 

存 在 し な い 姉

 

827:ヒーローと名無しさん

 

フォォォォォ!!!! 弟属性!!!

 

828:ヒーローと名無しさん

 

お前本当そういうところだぞ(豹変)

そういうところだぞ(天丼)

私の弟にならないか?(唐突)

 

829:ヒーローと名無しさん

 

瞬間

 

スレ民の脳内に溢れだした

 

存在しない記憶

 

830:ヒーローと名無しさん

 

———どうやら私たちは姉弟のようだ

 

831:ヒーローと名無しさん

 

お前も弟にならないか?

 

832:ヒーローと名無しさん

 

やはりお前も弟になれ黒騎士くんッッ!!

 

833:ヒーローと名無しさん

>>831

>>832

こんなんもうアネザじゃん。

 

834:ヒーローと名無しさん

 

まあ、黒騎士だって家族くらいいるでしょ

そのくらい許してあげたらいいじゃん

 

835:ヒーローと名無しさん

>>834

は? なによ貴女

黒騎士君でしょ? 馴れ馴れしくない?

まさかあんた……

 

836:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君ガチ勢が騒ぎ始めてる……

潜みすぎだろ……

 

837:ヒーローと名無しさん

 

姉なるもの大発生の瞬間である

 

838:ヒーローと名無しさん

 

白騎士ちゃんに姉属性とかこんなんウミウシに戻っちまうよ……。

 

 




発覚する存在しない姉。
全国の姉なるものがハクアをロックオン(笑)しました。

スレはもっと殺伐とさせる予定でしたが、過激な部分は修正いたしました。

次回『きらら、絶体絶命! 最大の敵は味方!!』


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暗躍、変わりゆく状況

クリ……スマス……?

お待たせしました。

最初は、きらら視点
中盤は、ジェム視点
後半は、モータルイエロー視点となります。


 襲撃から三日。

 私たちの日常はあっという間に元の姿を取り戻しつつあった。

 まず、星界戦隊に瀕死の重傷を負わされ結晶化したグラトは、翌日に社長が無理をして行った“カツミ君復活パーティ”にて出された大量の料理を前にして無事に復活を果たした。

 

『おなかへった』

『ナツがちっちゃくなってるぅぅ!?』

『省エネもーどだ』

 

 ……まあ、子供くらいの大きさになっていたけど。

 グラトにとって食べることそのものが生きること、という事実を改めて認識させられながらも彼とカツミ君の復活をスタッフと共に祝った。

 その後は社長は事態の後処理に追われている。

 半壊したビルで働いていた社員たちのケアと、場所が判明してしまった本部の代わりになる場所を用意したりだとか、聞いているだけでも大変そうなことを行ってくれているようだ。

 

『無用な心配は必要ナッシング!! この天才、あらゆる可能性を考えている天才なのだ!! 貴様らは心配せずにいつも通りの日常を過ごすがいい!!』

 

 と、まあこんな感じで私たちはなにもすることがないのだが……。

 

「辞世の句を詠め、介錯してやる」

「掟は絶対。守れておらぬぞ」

「きらら、信じてたのに。私は悲しいよ」

 

 カツミ君をうちに匿っていた事実を仲間に知られてしまった今の状況の方がやばい。

 現在いる場所は私の家の部屋。

 遊びに来るという名目でカツミ君に会いに、加えて私に天誅を下しにやってきたアカネと葵と白川ちゃんの前に私は正座をしたまま肩を震わすことしかできない。

 

「まあ、隠してたのは駄目だよねー……」

 

 三人を前に正座をしている私を気の毒そうに見ているアルファ。

 元は妹たちと住んでいた部屋なので五人いたとしても全然狭いというわけではないが、この絶望的なアウェーな状況では息苦しいことには変わりない。

 

「何言っているのかな?」

「ひょ?」

カツミ君と失踪して碌な連絡も寄越さなかった君は次だよ?

「……」

 

 笑顔のアカネの顔を見て途端に肩を震わすアルファ。

 まあ、あの子の場合はななかに見つけられなかったらずっとカツミ君と隠れているつもりだったらしいからなぁ。

 

「その前にきららだね」

「証拠は挙がっているんだよ? 彼を匿っている間、どんなイベントを経験したのか白状して」

「ぐ、うぅぅ……」

 

 バレたらもっと酷い目に遭わされる。

 一緒にゲームしただとか、朝起こしてもらったりだとか、多分その時点でこの嫉妬の権化共は私を絶対に許しはしない。

 

「出来心でした……とでも言うと思うたかァ!!」

「「!?」」

 

 突然声を荒らげる私に驚愕する二人。

 それに構わず立ち上がった私は、足が痺れて倒れかけながら指を突き付ける。

 

「あんたらも同じ立場になったら絶対私と同じことしたでしょ!!」

「それは……ッ」

「否定、できない……!?」

「いや、してよ。なんで正義の味方三人が駄目な方向で突き抜けてんのさ」

 

 図星を突かれたアカネと葵に至極真っ当にツッコむ白川ちゃん。

 

「白川ちゃんには言われたくないよね?」

「真っ先に屈した人のツッコミは違いますね」

「ごめんなさい……」

 

 そうだよ、立場が同じならきっとこいつらは同じ手段をとる。

 最早、これは確信だ。

 てか、二人の言う通り白川ちゃんもよく考えなくても私と同じことをしているのでこっち側だ。

 

「私はちゃんと社長に連絡したからね!」

「でも私たちに隠してたことは事実だよね?」

「黙っていたってことは後ろめたいって気持ちがあったからだよね?」

「はい……ごめんなさい……」

 

 一瞬で撃沈し正座しなおす。

 いくら開き直ろうとも仲間に嘘をついた事実は変えようがない。

 

「今日のために罰ゲームを用意してきたの」

「用意したものがこちらになります」

 

 料理番組のようにどこからともなく箱を取り出す葵。

 くじ引きの箱……?

 それに手を突っ込んだアカネが一つの紙を取り出し、広げる。

 

「ふふふ、これは最初からとんでもないのがきたね……」

 

 え、な、なに……?

 怯える私にアカネが紙面を読み上げる。

 

「小さい頃のアルバムをカツミ君に見せる」

「……あ、それなら別にいいよ。もう母さんに暴露されたし」

「君のお母さん大丈夫!?」

 

 まさかのアカネに心配されてしまった。

 もうそれくらいの酷い所業をされた事実に葵も珍しく引いている。

 そんなやり取りをしていると、私の部屋の扉がノックされる。

 

「あ、カツミ君? どうぞー」

「へぇ、ノックする音でカツミ君って分かるんだね……?」

「罪状を一つ追加っと」

 

 しまった……!

 ナチュラルに返事をしてしまった。

 私の声に、扉を開けたカツミ君はその手にお盆に乗せた飲み物とお菓子を持っている。

 

「コヨミさんがお前たちにだって。……なにしてんだ?」

 

 カツミ君の視線は部屋の真ん中で正座させられている私へと向けられている。

 助けを求めようとすると、それより先にアカネが彼に話しかける。

 

「ゲームしてたんだ。今はその罰ゲーム中」

「そう、なのか?」

「あ、そうだ。カツミ君、ここに居候している時、なにかあったかな?」

 

 !? い、いったいなにを……!?

 

「なにか? いや、お世話になってるだけで特になにも?」

「えー、本当にー? きららを朝起こしたとかそういうものでもいいんだけどなー」

「ああ、それならコヨミさんに頼まれてな」

 

 ぎろり、とカツミ君から見えない角度でアカネと葵の視線が向けられる。

 

「まあ、それはアルファで慣れてるから別にって、感じだったけど」

「ひんっ……」

 

 いきなり話の矛先が変わってかわいらしい悲鳴を上げるアルファ。

 私としては助かったという心境だ。

 

「こいつ、うちのボロアパートに住み着いた頃から、結構だらしなかったんだぞ? ほっといたら昼まで眠っているような奴だったんだ」

「ハクアもそうだよねぇ! カツミ!!」

「姉さん!?」

 

 これ以上の暴露を防ぐためにアルファが白川ちゃんを売り払った!?

 

「確かになぁ。記憶を失っていたとはいえ、放っておいたら駄目だって思うくらいの生活してたしなぁ。飯なんて自分で作ってなかったもんだから、俺が作ってたんだよな」

「テリョウリ?」

「……ハイ」

 

 片言のアカネに消え入りそうな声を漏らすハクア。

 やばい、私もアルファも白川ちゃんも全方位に被害が出始めている。

 

「そろそろ戻るか」

「え、もっと話そうよー」

「いや、俺までいたら狭いだろ? リビングでななかとこうたとゲームしてるし、そっちにいるわ」

「へー、何やってるの?」

 

 ゲーム好きの葵が興味津々といった様子で尋ねる。

 

「今、ボードゲーム系のテレビゲームやってんだ。なんか、ぼんびー? ってやつをつけられてさ。すっげぇ良いところなんだ」

 

 それは全然いいことじゃないよ!?

 むしろ凶兆だよソレ!?

 うわあ!? ゲーム知識ほぼ皆無だから何が起こっているか理解できていないんだ!?

 この後のカツミ君の悶絶する姿が容易に想像できてしまう。

 

「拙者、パーティゲーム大好き侍。義によって助太刀いたす」

「なんだその口調」

 

 驚くほどの決断の速さで立ち上がった葵。

 その様子を見た彼は、少し考える素振りを見せた後に私たちを見る。

 

「葵だけ来るのもなんだし、皆でやるか?」

 

 思わず顔を見合わる。

 少なくとも、たった一人で戦っていた時の彼ではこんなことは言わなかった。

 でも、記憶を完全に取り戻した彼が誰かと行動を共にすることを自分から言い出したことは、疑いようもなく彼が変わることができた証とも言えた。

 

「「「やる」」」

 

 その場にいた全員が頷いたのを見て、カツミ君が不敵な笑みを浮かべる。

 

「フッ、誰が来ようともゲームでは負けないがな……!!」

 

 いや、現状で君が一番窮地に陥ってそうなんだけれども。

 教えてもよかったけれど、なんだか面白そうだったので、あえてそれは言わないでおくのだった。

 


 

 我慢できなくなった姉がバイオスーツから飛び出して完全復活した黒騎士へと向かっていった。

 

 正確に言うのならば、かつての力を取り戻した白騎士というべきだが、今や黒騎士も白騎士、本当の意味でどちらの名を持つ戦士へと覚醒を果たした。

 まあ……強いということは分かっていたがまさかあの姉を地球外に力技で追放するまでの力だとは思いもしなかった。

 その後の、我らがボス……ルイン様と黒騎士の邂逅を見て、俺の仮説と行動は正しいことも証明された。

 

「いや、本当に早めに負けておいてよかったな。MEI」

「まさしく慧眼でした。戦う時期が少しでも遅れていれば、私も貴方様も今頃ここにはいなかったことでしょう」

 

 都市郊外の高層ビルの屋上で、俺とMEI、そしてサニー様はいた。

 俺とMEIはともかく、まさか序列3位のサニー様まで同行するとは思いもしなかったが……このお方は自由すぎる姉とは比べ物にならないほどに常識人な方だ。

 俺たちの会話にサニー様は微笑まし気な笑みを浮かべる。

 

「そうねぇ。地球の守護者たちと戦い散っていった侵略者のことを考えると、貴方が一番状況を見ていたと思うわ」

「正直、戦闘データを見た瞬間に勝てない、と思いましたね。それくらい異様な集団ですよ」

 

 例えを出すなら、地球で最初に確認されたという怪人“クモ怪人”と呼称されたそいつも序列二桁クラスの化物だ。

 六本の腕から様々な形状、粘性の糸を作り出すことで捕縛から斬撃まで多数の攻撃手段を持っていた怪人だが、そいつが力を発揮した時には都市部の一画を糸の斬撃にて細切れにするという被害をもたらしたそうだ。

 

 そんな相手に黒騎士は、初めての実戦にも関わらず圧倒しその拳でとどめを刺した。

 

 その映像を見ただけで機械の身体で感じるはずのない寒気が走ったのは今でも記憶に新しい。

 あれは本当に地球人なのかと疑いたくなるが、実際のところは俺にも分からない。

 

「サニー様はルイン様が黒騎士に……その注目していたのはご存じだったのですか?」

「ええ、知っている者がそれほど多くはなかったけれどね。私も半信半疑ではあったけれど、実際に目にすると納得しちゃったのよね」

 

 序列二桁といえども末端同然の俺でもルイン様がどれほど規格外な存在なのかはよく知っている。

 ……だが、一番ありえないと思っていた仮説がドンピシャに当たるとは……うーん。

 ……ん?

 

「来たわね」

「MEI」

「はい。バイオスーツを用意しておきます」

 

 頭上からの気配に顔を上げる。

 空で星のように輝いた光は徐々にこちらに近づいてきたエネルギー体、レアムはゆっくりと減速しながらビルの屋上へと着地してくる。

 

「んー! ようやく帰れたー!!」

「レアム様、スーツです」

「お、ありがとー!」

 

 バチバチと電撃をまき散らすレアムにMEIがバイオスーツを渡す。

 空気の抜けたマネキンのようなそれに、レアムが入り込むと一瞬にして体表が地球人のソレに近いものへと変わる。

 金色の髪に、同じく金色の瞳を持つ少女。

 エネルギー体になる前の人間だった頃の姿へ変わったレアムは、すぐにその場で大の字に寝転がった。

 

「あー!! 楽しかったー!!」

「まずは服を着ろォォォ!!!」

 

 バイオスーツに着せていなかったのはこちらの不手際だが微塵も気にしないのはおかしいだろ!!

 一切の恥じらいのないレアムに、怒ると奴は口を尖らせる。

 

「いやぁ、私常時全裸みたいなものだし、今更服ってなー。面倒くさくない?」

「前にも言ったが、地球では捕まるからちゃんと服着ろ!! つか、大抵の星では公共の場で全裸は許されてないんだよォ!!」

「ぶー」

 

 ぶつくさと言いながらMEIに渡された服に袖を通すレアム。

 こ、この姉の適当さ加減は割と肉体があった時から変わってないが……。

 

「苦労しているわねぇ。ジェムちゃん」

「はい……」

「でも微笑ましいわねぇ」

 

 楽しそうに俺とレアムのやり取りを見ていたサニー様が、服を着た彼女に声をかける。

 

「レアムちゃん、カツミちゃんとの戦いはどうだった?」

「楽しかったわ。初めてよ、あそこまで攻撃されたの。でも次は同じ技は食らわないわね。もっと長く楽しみたいもの」

 

 腰まで届く髪をゴムで括りながらサニー様と会話するレアム。

 ……、生きている実感か。

 戦闘の最中にレアムが嬉々として叫んだ声。

 エネルギー体となってしまったレアムが望んでいたものがそれだったとは……。

 いや、おかしな話でもないのか。

 不満に思っていないはずがないのだ。

 望まずに肉体を失ってしまい死んでいるか生きているか、その境界があやふやになってしまった彼女が、生きているということを実感したいというのはある意味で当然の思考とも言える。

 

「分かっていると思うけど……」

「ちゃんと理解しているって。地球は壊さない。まあ、ここの食文化とか好きになってきたし、気長にやるとする」

 

 地球で言うツインテールのような髪型にさせたレアムは、屋上の縁に腰かけ足を組む。

 妙に様になっているあたり非常にムカつく。

 

「このバイオスーツも結構気に入っていることだし」

「レアム……」

「ジェムも今度からあんな趣味の悪いゴテゴテしたものじゃなくて、こういう可愛いものばかり作ればいいのに」

 

 今なんつったこいつ。

 

「俺の作品を趣味が悪いだと! この電気ナマコ特攻生命体がァ!!」

「ご主人様、落ち着いてください!! ご主人様は喧嘩でも腕力でもレアム様には勝てません!!」

 

 なぜ俺は頼れる従者にすらボロクソに言われなきゃならんのだ!?

 くっ、事実だけに反論できない……!!

 頭脳なら絶対勝ってるのにィ……!!

 

「で、あんたもそうなの? 黒騎士(・・・)

「!?」

 

 レアムの向いた方向には、屋上の壁に背を預けるように座っている女性がいた。

 地球人ではありえない、紫色の髪に毛先が赤みがかかっている長髪と、見て分かるくらいの高めの長身。

 え、く、黒騎士? 地球の……じゃないということは……。

 

「サニー様、もしやこの方は……」

「ええ、八位のイレーネちゃんね。ついさっき到着したのよ」

 

 ということは俺だけが気づいていなかったということか。

 無理もないが、この場に序列一桁が三人も集まっている事態に、場違い感がいなめない。

 

「レアムちゃんは地球で大人しくするようだけど、イレーネちゃんはどうするのかしら?」

「んー……」

 

 ぽわー、と中空を見上げるイレーネ様。

 十秒、一分と間を空ける彼女に、おかしな空気になる。

 ようやく言葉を口にしようとしたのか、彼女はサニー様へと顔を向ける。

 

「黒騎士の名前って、カツミっていうの?」

「今その質問してなかったわよね……!? えぇと、そうね。黒騎士の名前は穂村克己って言うのよ?」

「覚えた。それで、カツミはどこにいるの……?」

「因みに聞くけど、どうするのかしら……?」

 

 再び、ぼんやりと思考に耽った彼女は今度はすぐに返答する。

 

「ちょっと捕虜になってくる」

「駄目に決まっているでしょ!? あ、貴女は私達と行動しなさい! 目を離すと大変なことをやらかしそうで怖いわ!?」

 

 ものすごい動揺するサニー様と、マイペースすぎるイレーネ様のやり取りを見てから、姉を見る。

 ……うーん。

 

「八位を見てると、レアムがまともに見えて……いや、ないな」

「ちょっとどういうこと?」

「ぐ、あ、く、首を絞めるなァ……構造は地球人と同じなのだぞォ……!」

 

 首に腕を回され閉められる。

 や、やっぱりまともではない!

 ME、MEI! た、助けてくれぃ!

 

「はぁ……イレーネちゃんも合流できたのはいいけど、問題は星界戦隊よねぇ」

「ごほっ……彼らは序列14位のモータルピンクが機能的な損傷を負ったので当分は活動できないのでは?」

「私が懸念していることはそういうことじゃないのよ」

 

 そういうことじゃない?

 レアムから解放されせき込みながら、サニー様の言葉に首を傾げる。

 

「勝利にこだわるあまり、大きな過ちを犯さないか……それが心配なのよ」

「大きな過ち?」

「極力、手は出したくないけど、場合によっては干渉する必要があるかもしれないわね」

 

 いったい、なにを懸念しているのだろうか?

 いや、あの星界戦隊だ。

 今の状況を動かそうとするためならばどんな手段を使ってもおかしくない。

 


 

 星界戦隊は20位から11位に位置する変わった序列にある。

 勿論、実力を評価され与えられた序列ではあるが、その区分は11位から15位までを私達個人の序列として扱われ、16位から20位までがそれぞれの母船である五機の“星界剣機”にあてがわれている。

 その星界剣機こそが私以外のメンバーにとっての本体であり、彼らを不死身たらしめている重要なものとも言えた。

 

「ピンクは当分無理そうね」

 

 先の戦闘でピンクは完全復活を遂げた白騎士の攻撃を受け、本体に絶大なダメージを受けた。

 その修理を任されていた私は、連結された星界剣機の船のメインルームにて、リーダーであるレッドにそれを報告していた。

 いくら狂ってしまったレッドでもこれ以上の戦闘は無意味なのは分かっているはずだろう。

 黒騎士、それにジャスティスクルセイダーは疑いようもなく強かった。

 

「地球から手を引きましょう。このまま戦っても無意味よ」

「……」

「無理に地球をどうにかしようとすれば、ルイン様の怒りを買うことになる。そうなる前に私たちはさっさとここを離れるべきよ」

 

 仮に地球を滅ぼそうとすればそれをする前にルイン様が私たちを滅することだろう。

 ……いや、既にこの会話そのものも聞いているのかもしれない。

 

「いいや、地球から手を引かない」

「……あんた、分かってるの? どう戦っても黒騎士にもジャスティスクルセイダーにも勝てないっていうの」

「それは足手纏いがいたからだろう?」

 

 ———ッ!?

 足手、纏い?

 今、レッドの口から出た言葉に動揺する。

 

「そろそろ入れ替えようかなって思っていたんだ」

「……は?」

「ああ、勿論、イエロー、君は必要な存在だ。心配することはないよ。グリーンも、先の戦いでは活躍できなかったがそれは相手が悪かっただけだ」

 

 レッドの視線が半壊した桃色の星界剣機へと向けられる。

 

「もうピンクは駄目だろう」

「……。その言葉の意味を、分かっているの?」

「なにがかな? ピンクはもう星界戦隊として役には立たないって言っているんだ」

 

 ピンクは、あんたのことが……。

 誰のためにピンクがあんなことになっているか分かっていないの……!?

 レッドは失望の目をピンクの船に向けながら、次に青色の船を見る。

 

「ブルーは親友だからずっと我慢してきたけど、彼ももう駄目だ。使い物にならない」

「あんたは……!!」

「君も見ていられなかっただろう? 狂った兄を見ているのは? ここで終わらせた方が彼のためになるんじゃないのかな?」

 

 手元に銃を転送し、その銃口をレッドへと向ける。

 意味はない。

 それは分かっていても抑えられなかった。

 

「よりにもよって、あんたがそれを言うの!! 今までバカで愚かなあんたを支えてきたはずの仲間を、あんたはゴミのように見捨てるっていうの!?」

「見捨てるんじゃない。入れ替えるんだ」

 

 どう違うって言うんだ。

 もう自分が矛盾したことを言っている自覚すらないレッドに嫌悪感しか抱けない。

 銃口を向けられても尚、私に敵意すら見せない奴はそのまま手を広げ雄弁に語りだす。

 

「ピンクとブルーの代わりを見つけよう。もっと強い奴を。そうすれば俺たちはより強くなれる。分かってくれイエロー、これも悪に打ち勝つためなんだ」

「……ッ、どの口が言うのよ」

 

 もうレッドは駄目だ。

 来るところまで来てしまった。

 自身の中でレッドの行動と言葉を決別ととらえた私は、銃の引き金を引———、

 

『もしもーし、星界戦隊の皆さん、おりますかー』

「「!!」」

 

 船に響く場違いな声。

 それと同時に船のすぐ傍に、一瞬で現れる“反応”。

 すぐに傍らのコンソールを操作し映像を映し出すと、宇宙空間から空間から溶け込むように宇宙船が現れた。

 

「君は誰かな?」

 

 レッドが返答をうながすと、すぐにモニターにあちらの船から交信を持ちかけてきた者の姿が映り込む。

 そいつは、ショッキングピンクの装甲を身にまとった、サソリを連想させる外見を持つ仮面の戦士。

 

『初めまして! 序列46位のヒラルダでーすっ! 今日は星界戦隊の入隊試験にやってきました!!』

 

 ヒラルダ……。

 先に地球に降りていた序列持ちの一人。

 あまりいい噂は聞かないが、実力を隠していることで有名な奴……だったかしら。

 どちらにしてもこちらの状況を見越したようなタイミングでやってきたからして、警戒するべき相手だ。

 

「へぇ、俺たちの会話を盗聴していたってわけか」

『はい! それだけの技術力があるので隠しませんよー! むしろアピールポイントですよねー!』

 

 取り繕ったような口調と喜色の声を発するヒラルダにレッドが笑みを浮かべる。

 

「面白い、気に入ったよ。目的は星界剣機かな?」

『ご名答でーす! さすがに船と同一化なんてキモいことはしませんが、船は欲しいので来ましたー!』

「君は本当に運がいい。こちらに招こうじゃないか」

『ありがたき幸せー!』

 

 ああ……駄目だ、もう反対しても無駄だろう。

 今のレッドは地球の戦士たちへの憎しみに憑りつかれているから、ただでさえまともじゃない判断力がさらにまともじゃなくなったようなものだ。

 だからこそ、気づけないんだ。

 

『あっ、そうだ。一つ、美味しい話を持ってきましたけど聞きます?』

「聞こうじゃないか」

 

 レッドはヒラルダの言葉の端から伝わる嘲りの笑みを理解できていない。

 あれはまさしく魔性。

 

『そちらの役立たずのブルーさんの代わりになる元星将序列の“青い戦士”ちゃんがいるんですよ! なんと、今その子もちょうど地球にいるので、仲間にしませんかぁ?』

 

 自分の実力を隠し、目的のために周りを意のままに利用する、レッドが言葉にしていた悪そのものだ。

 状況が変わる。

 ヒラルダという異物のせいで、これまで危うい均衡を保ってきたバランスが崩れる。




クモ怪人は外伝にて登場した怪人ネタとなります。

ヒラルダの登場。
星界戦隊はやばい奴を取り込んだようです。

そしてどうしても捕虜になりたい黒騎士ちゃんでした。
なぜこんなキャラになったのだろうか……?(他人事)


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ボクが生きる理由

お待たせしました。
今回はコスモ視点となります。

恐らく、2020年最後の更新となります。


 ルイン様の御心は黒騎士しか見ていなかった。

 正直、取り乱すと思っていた。

 嘘だ、と喚き散らして顔を涙で濡らして悲しみに暮れるかと思っていた。

 だけれど、その事実をボクは思っていた以上にすんなりと受け入れてしまった。

 きっと分かっていたんだろう。

 ホムラは特別だ。

 これまで戦ってきたどの生物とも異なる、力を持つやつだ。

 そんなあいつに完膚なきまでに敗北したボクは、あいつのことを認めてしまっていたのだ。

 

「……おい、おいコスモ」

「どうした、シンドウ。今は客がいないから休憩中だろう」

 

 カウンターに座り、物思いに耽っていると世話になっている喫茶店のマスター、シンドウに声をかけられる。

 

「いや、特に用はねぇけど、大丈夫かって思ってな」

「なにが?」

「なにがってお前。あの事件から黄昏てばっかじゃねぇか」

 

 ルイン様が現れた時から、か。

 ショックは受けてはいないけれど、影響は受けているということか。

 

「ボクの正体は話したよな」

「おう、性質の悪いファンだったって話だよな」

その例え次出したらぶっ殺すからな?

 

 もっと言い方があるだろ!

 事実だけど!

 

「ボクが忠誠を誓っていたルイン様は、ボクのことを見てなかった。見てたのは、黒騎士だった」

「……お前もそうだが、あいつも難儀な人生を送ってるな」

「知ってる」

 

 ホムラの過去はボクも知った。

 少し、ボクと似ていた。

 違うのは家族を失ったボクを父上……ヴァースが救ってくれたということだったけれど。

 あいつにはそんな存在も現れなかった。

 

「ボクの星は、死の運命を辿っていた」

「突然どうした?」

「いいから聞け」

 

 脈絡もなく、自分の生い立ちを話す。

 自分でも突然だと思うが、こういう気分でなきゃ絶対に話さないだろう。

 

「誰がやったわけでもなく、終わろうとしていた星の中で死を待つだけだった私は……今の父上にあたる人物に救われ、今に至るわけだ」

「星が終わるとか、スケールがついていけねぇな……。だが、実際に起こっていたことなんだよな」

 

 父上の気紛れかもしれない。

 なにか見出されたのかもしれない。

 しかし、その日救われたことについては感謝している。

 それから先の、不器用なりに父としての役割を果たそうとする父上と、序列一位として厳しく指導してくださった父上にも同じ感謝の気持ちを抱いている。

 

「だからこそ、今悩んでる」

「何を?」

「ボクはこのままで、いいのかなって」

 

 ルイン様には期待すらもしてもらえていなかった。

 きっと、父上にも失望されてしまったことだろう。

 その上でボクはこのままでいいのだろうか。

 ここで折れて、地球という星を舞台にした戦いを蚊帳の外で眺めているだけで、本当にいいのだろうか。

 

「この星は……いい場所だ」

 

 食べ物が美味しい。

 機械が前時代的で扱いにくい部分はあるが、合一化されたものではない多種多様な文化が組み合わされ、地球という星に凝縮されている。

 

「ボクには戦える力があるのに、見て見ぬふりをしていていいのか」

「……その答えは、俺は出してやれねぇな」

「うん。決めるのはボクだろ?」

「分かってるじゃねぇか」

 

 ボクは今まで生き方を自分ではない誰かに依存させてきた。

 だから、なにをするにしてもボクはいなかった。

 それを挫折を繰り返してようやく学習したわけだ。

 我ながら、愚かにもほどがありすぎるな……。

 

「とりあえず、カツミを呼び出すか」

「なんでだ!?」

 

 突然、ホムラを呼び出すとかどういう了見だ!!

 あれと今戦うとか無理とかそういうレベルじゃないぞ!?

 

「因縁があんだろ? 記憶を全部思い出したんなら、あいつも話くらい聞いてくれんだろ」

「今のあいつは大丈夫なのか!? 黒騎士時代の問答無用な部分があるんじゃないか!?」

「それこそ心配いらねーよ」

 

 通信端末を取り出したシンドウはにやりと笑みを浮かべる。

 

「黒騎士も白騎士も根本は同じだよ。口調は違うけどな、あいつが人を思いやれる人間なのは記憶を失っても変わってないんだ。……それは近くで見てきた俺が一番よく知ってる」

「……」

「お前もそれは分かってんだろ?」

 

 今、あいつと話してボクの答えが出るのだろうか。

 殺しかけた相手だし、こっちの命を救ったりするような変な人間だ。

 でも、ボクがこれからのことを決めるのに、必要なことかもしれない。

 

「分かった。ホムラと話を——」

「ガオ!!」

「ッ」

 

 その時、傍らにいたレオが危険を察知する。

 それを認識したボクは反射的にベルトを出現させ、バックルへと変形したレオで変身を行う。

 

LEGURUS(レグルス) DRIVER(ドライバー)

 

 青いアーマーがボクを包んだその瞬間、ボクとシンドウのいる喫茶店に外から放たれたエネルギー弾が直撃した。

 エネルギー弾が爆発を引き起こす前に銃剣を手にしたボクは、破片を切り払いながらシンドウを庇う。

 

「……ッ」

 

 放たれたエネルギー弾は一つのみ。

 しかしそれでも喫茶店を半壊状態にさせたそれに、怒りをこみ上げさせながら庇ったシンドウの安否を確認する。

 

「生きてるか! シンドウ!!」

「お、おおお俺の店がァァ!? コーヒーがァァ!!」

「謎のプロ意識発揮させてないで自分の心配してろ!」

 

 とにかく大丈夫そうだな。

 木片を払いながら立ち上がったボクは、武器を手にしながらシンドウを見下ろす。

 

「ホムラを呼べ! ボクは外で敵の足止めをする!!」

「ッ、待て! お前が行く必要ねぇだろ!!」

「相手の狙いはボクだ! 次が来る前にボクが出る!!」

「あ、おいッ、クソ!!」

 

 シンドウの制止を聞かずに壊れた店の窓から飛び出す。

 全力で通りを走り、人気のない広い場所へと相手を引き付ける。

 

「……あっちもそれがお望みみたいだ」

 

 後ろから何者かがついてくる気配を感じ取りながら、広い場所———公園へと向かう。

 裏切者を始末に来た誰かか?

 いや、ボクは敗北こそしたが裏切ったわけじゃない。

 ……地球人に絆されたことを気に入らないと思う輩なら仕方がないけど、それは黒騎士やジャスティスクルセイダーに狙われる危険を冒すほどか?

 

「まさか……!」

 

 そんな酔狂なことをする奴をボクは一人だけ知っている。

 相手を嘲笑いながら、自分自身すらも顧みない、イカレタ奴。

 

「ヒラルダ!! 隠れてないで出てこい!!」

 

 公園に人気がないことを確認しつつ、立ち止まったボクは声を張り上げる。

 すると、空間から溶け出すようにきついピンク色の装甲を纏った戦士が現れる。

 

「やっぱり分かっちゃうかぁ。まあ、知らない仲でもないしね」

「いったい、どういうつもりだ」

 

 正直、店を破壊されたことに頭にきている。

 居候先がなくなったこともそうだが、こんな表立って攻撃してくるなんて思いもしなかったからだ。

 

「そうねぇ。簡潔に言うにはスカウトしにきたの」

「……さっきの後で受けてもらえるとでも思ってんのか?」

「思わないわねー。でもさっきのは挨拶みたいなものじゃない」

 

 気持ち悪い。

 生物に寄生し変身を行うベルトであるヒラルダの纏う雰囲気は不気味だ。

 その気味の悪さは実力を悟らせない厄介さを秘めている。

 

「仲間に引き入れるって、どういうことだよ」

「この人たちのよ」

 

 その時、頭上から二つの柱が降り注ぐ。

 覚えのあるその光から現れたのは、赤と、緑の戦士。

 ジャスティスクルセイダーに近い姿をしたそいつら、星界戦隊のモータルレッドとモータルグリーンのその姿にボクは動揺を露にする。

 

「あれ、イエローは?」

「あいつは来ないらしいぞ」

「……ふーん、まあ、今回は彼女がいなくても問題ないか」

 

 なんで、こいつらが……!?

 まさかスカウトってボクをこいつらの仲間に引き入れようとしているのか……!?

 

「はじめまして、会うのは二度目かな? コスモくん」

「本当にこいつかぁ? 新入り、こいつ使い物になんのか?」

「いやいやぁ、潜在能力はそれなりのを備えていますよぉ」

 

 ヒラルダの奴が教えたのか!?

 いや、そもそもどうしてこの女が奴らの仲間になってんだ。

 ボクの困惑を察したのか、ヒラルダがこちらを見る。

 

「あ、私、先日星界戦隊のピンク枠になったのー。ほらっ、チェンジャーもこの通り!」

 

 これみよがしに手首につけているチェンジャーを見せるヒラルダ。

 

「前のピンクさんには眠ってもらって、今度から私がモータルピンクとして皆さんと活動しまーす!!」

「と、いうわけだ。しかし、黒騎士とジャスティスクルセイダーに敗北を喫してから、我々も戦力の増強が必要だと思ってね」

 

 モータルレッドがボクを指さす。

 

「使えないブルーの代わりに君を僕たちの仲間に引き入れようって決めたんだ」

「断る!! 誰がお前らのようなクズ共の仲間になるか!!」

 

 ボクが言えた義理ではない。 

 だけれど、こいつらのような残虐非道を絵にかいたような連中の仲間になるのは絶対に御免だった。

 

「拒否権はないよ。君、ちょうど色が青いしブルーの代わりも十分に果たせるだろう?」

「ッ」

「大丈夫! 一緒に戦えば君もすぐに俺達の仲間になれるからさ!! 共に星界の悪と戦おうじゃないか!!」

 

 モータルレッドとグリーンがその手に武器を出現させる。

 相手はクズでも序列二桁上位。

 ボクでは太刀打ちできるか怪しいけれど、ここでむざむざこいつらの仲間になってやるつもりはない。

 銃剣を構え、バックルから斜めに突き出したレバーを押し込み、必殺技を発動させる。

 

PUNISH(パニッシュ) → L・E・O(レオ)

「悪者はお前らの方だろ!!」

REGULUS(レグルス) EXECUTION(エクスキューション)……』

 

 銃口から刺々しいエネルギー弾が放たれる。

 それらは獅子の頭の形へと変わり、奴らを呑み込もうとするが———それは一瞬にしてモータルレッドが振るった大剣で消し去られる。

 

「ッ」

「んー、やっぱりジャスティスレッドがおかしいんだね。俺はやっぱり強い」

 

 モータルレッドは星界エネルギーという謎の力で引力と斥力を操る。

 その噂が事実だと再確認していると、地面に亀裂が入るほどの踏み込みで突っ込んできたモータルグリーンが両手それぞれに握りしめた戦斧を振るってくる。

 

「オラァ!!」

「……ぐっ」

 

 銃剣で斧を受けるが、それは一瞬にして腐食し金属そのものが崩れ落ちていく。

 ……ッ、武器も侵食する毒!? いや、腐らされている!?

 銃剣を手放し、もう片方の斧を避けると続けてモータルレッドが放った斥力が直撃する。

 

「う、ぐ! ま、まだだ!!」

 

 宙を飛びながらベルトに装備している“グリムキー”を取り出し、バックルへと差し込む。

 

LOADING(ローディング)→→ ARMOR(アーマー)GRIM(グリム)

 

 周囲にアーマーが浮き上がり、金属音と共に装着され頭をフードが覆う。

 同時に手の中に現れた大鎌を握りしめながら、幻影を用いた高速移動を行う。

 

「遅いよ、コスモちゃん」

「!」

 

 レッドを狙った鎌の切っ先は、間に割って入ったヒラルダが掲げたチェーンソー型の剣により防がれる。

 見切られた……!?

 

PUNISH(パニッシュ) → L・E・O(レオ)

「おそーい!」

「あぐっ……!?」

 

 近距離からの必殺技を放つ前にヒラルダがすれ違いざまにボクの胴体を薙ぎ、斬撃を叩きこまれた。

 痛みが全身を襲い、グリムアーマーが解除される。

 

「……ッ!!」

LOADING(ローディング)→→ARMOR(アーマー)EVIL(エビル)!!!』

 

「へぇ、まだ諦めないんだ」

 

 対集団戦に適したエビルアーマーを纏い。

 空中にいくつもの大型の銃を出現させ、一斉射撃を行う。

 

「うん。いいね、多彩だね」

「でしょー。まだ奥の手を隠しているんですよ」

 

 ……ッ、防がれる。

 やっぱり今のボクじゃあいつらに適わないのか!?

 この状況をなんとかするにはジョーカーフォームじゃなくちゃ……。

 

「駄目に、決まっているだろ!!」

 

 あれは間違った力だ!!

 力だけを追い求めていたせいで、ボクは大事な相棒の心を無視していた!!

 そんな力に頼って、またレオの心を失わせるような真似をするくらいなら死んだ方がマシだ!!

 

「そらそらァ!! もっと戦って見せろよ!!」

「言われなくても!!」

 

 モータルグリーンの腐食の攻撃を銃で迎撃し、寸でで斧を避けたところにマスケット銃の銃口を向ける。

 

「くたばれ似非戦隊!!」

「ぬぐお!!?」

 

 そのマスクに弾丸を叩きつける。

 衝撃と共に後ろへ飛んだグリーンに追撃を食らわせようとすると、それをカバーするようにヒラルダが腕から伸ばした機械的な尾のようなものが迫る。

 

「っ」

「よそ見はしちゃ駄目だぞー?」

 

 銃で先端から毒液が滴る尾を受け止める。

 実力的にも劣っているのに、それが三対一とかどうしようもない……!!

 尾に弾かれ地面に着地すると同時に、こちらに斥力を纏わせた剣を振り上げたモータルレッドの姿が視界に映り込む。

 

「そらっ!!」

「ぐ、うぅ……!!」

 

 真正面から大剣を受けとめると同時に上から降り注ぐような斥力に襲われる。

 スーツそのものが軋む音に耐えていると、モータルレッドが耳障りな声を囁いてくる。

 

「噂の姿にはならないのかな?」

「う、るさい……!!」

「出し惜しみしているのかな? まあ、俺たちの仲間にしたら思う存分に使ってもらうように教育するだけだけれど」

「……ッ」

「安心するといい。星界エナジーは君の全てを受け入れてくれるはずさ。だって、俺たちがそうだったんだから!」

 

 反吐が出る……!!

 なにが教育だ。勝手に人の頭をいじくって洗脳しようとしているだけじゃないか!

 ボクは震える手で、バックルを叩き必殺技を発動させる。

 

EVIL(イビル)!! EXECUTION(エクスキューション)!!』

「あ、ああああ!!」

 

 こいつらに負けたらボクは、きっとボクじゃなくなる。

 そうなったとき、ボクは地球の敵になる。

 あの喫茶店にいるおっさんと、その客も、ホムラもボクの敵になってしまう。

 力を求めていた前なら、それでもいいと思えた。

 だけど———、今はそれが心底嫌になるくらいボクという存在は変わっていたんだ。

 


 

「力を出し惜しむのはバカのすることだと思うんだよねー」

 

 こちらを見下ろすヒラルダの声に、歯をかみしめる。

 今のボクでは、こいつらには敵わなかった。

 どれだけ力を振りしぼっても、正面から打ち崩され……今はこうやって生身のまま地面を転がっている。

 

「さて、連れて行こうか」

「中々に見どころがあるかもなー。こいつは強くなるかもな」

 

 傍らには傷だらけのレオがおり、ボク自身も傷だらけだ。

 それでも立ち上がろうとするけど、近くにしゃがんだヒラルダがボクの目を覗き込む。

 

「ルイン様に裏切られたとき、どうだった?」

「な、に?」

「正直、あの時の貴女は本当に笑えるくらいに滑稽だったよ。まるで昔の私を見ているみたいで、見ていて痛々しくてねー」

 

 晴れやかな様子で口にするヒラルダを睨みつける。

 

「でもそういう健気なところって正直、好き。だから仲間にしてもっとそういうところを見ようって思ったの」

「……悪いが、期待には添えられそうにないな」

「?」

 

 地面に膝をつき体を起こしながら、ルイン様の本心に気づいた時のことを思い出す。

 今でもルイン様のことは尊敬している。

 一度たりともボクのことを見ていなかったとしても、ボクが憧れたその強さに一切の陰りはないからだ。

 

「ボクは、弱かった! ただそれだけだ!」

 

 身体が動かない……はずだけど、これまで感じたことのなかった力に突き動かされる。

 傷ついたレオを握りしめ、ふらつきながらも上半身を起こしたボクは訝し気に見下ろしてくるヒラルダに啖呵を切る。

 

「大体、お前なんかにいちいち言われなくても、ボクがどれだけ無様だったかなんて一番自分が分かってるんだよ!!」

「……えっ、自虐?」

「うるさい!!」

 

 立ち上がる勢いで拳を振るう。

 傷ついた体から打ち出された拳は、突如として金色の光を伴いながらヒラルダへと迫る。

 

「!」

 

 奴には避けられてしまったが、大きく距離をとったヒラルダの姿にボクは声を張り上げる。

 

「ああ、そうさ。今までのボクは愚かで、恥知らずで……駄目な奴だった!!」

 

 ルイン様に勝手な理想を押し付けて、失望されたバカなやつ。

 それがボクだ!!

 自分というものがなくて、誰かに言われるがままあの時を生きていたからあんな末路を辿りかけた!!

 

「でも、それでもボクはここにいる!! この星の人々に助けられて今ここにいるんだ!!」

 

 ホムラとシンドウの言葉と行動に救われた。

 慣れない喫茶店で働いた時は、初めて他人と関わることを学んだ。

 

「その事実は誰にも、お前たちにも否定できない!!」

 

 もしかするなら、ボクは戦いとは別の道を選べていたかもしれない。

 だけれど、今決意したことは違う。

 

「自分の生き方は、ボクが定める!!」

 

 拳に炎のように灯った黄金色の輝きをレオへと流し込む。

 瞬間、ひび割れたレオの装甲がはじけ飛び、金と“緑”の新しい姿へと変わる。

 

KING(キング) REGURUS DRIVER(レグルス ドライバー)!!』

 

「お前らなんぞに決められるまでもなく、ボクは既に見つけたんだよ!!」

 

 バックルをベルトへと差し込み、側面のボタンを左右同時に押し込む。

 

「変身!」

 

 高らかな咆哮と共に変身が開始される。

 それと同時にモータルレッドとグリーンが攻撃を仕掛けてくるが、それはバックルから飛び出した半透明の黄金色の獅子が食い破る。

 

「決意の咆哮を轟かせろ!! キングレオ!!」

 

『ガオォォォォォォ!!!!』

 

 獅子はボクの周囲を旋回するように駆ける。

 金色の粒子が舞い、獅子が背後からボクの身体を呑み込むことでアーマーが展開されていく。

 

COME ON(カモン)!!』

 

GREAT(グレート) BEAST(ビースト)!! AIM FOR THE STARS(エイム フォー ザ スターズ)!!』

 

 纏われるように装着されていく“緑色”の装甲。

 獅子を模した籠手、脚部、頭部の装着が完了するごとにこれまで感じることのなかった力が溢れ出てくる。

 いや、これはボクが無意識に引き出すことができなかった、レオの力だ。

 

「だけど、これからは違う!!」

 

 戦う理由は見つけた。

 なら、後は僕一人だけではなく一緒に戦おう!!

 

KING LEGURUS(キング レグルス)!!』

ORIGIN FOAM(オリジン フォーム)!!』

 

 黄金色の装飾が最後に施され、変身が完了する。

 “キングレグルス”

 それが、これまでのボクが引き出せなかったレオの真の力だ……!!




セイバーの二号ライダーとキング被りして本気で焦りましたが、別にいいかなと思い続行。
キングレオの語感がなんとなく好きです。

今話と同じタイミングで、『【外伝】となりの黒騎士くん』の方を更新させていただきました。

第三話 ナマコの見た悪夢(VSナメクジ怪人)
第四話 となりのホムラくん(他キャラ視点から見た学生黒騎士くん)

以上、昨日の更新と合わせて二話追加いたしました。


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新たな力、星界に潜む闇

あけましておめでとうございます。
今年も追加戦士になりたくない黒騎士君をよろしくお願いしますm(__)m

2021年最初の更新。
今回も前回に引き続きコスモ視点となります。



 キングレグルス。

 それは、レオとボクの新たな姿。

 これまではただ力という形でしか出すことのできなかったけれど、自分の戦う理由を見つけたことで真の力を発揮するに至った。

 

「レオ……」

 

 スーツと装甲に包まれた両腕を見て、硬く拳を握りしめる。

 ボクは、ボクだ。

 ルイン様に命ぜられたことだけをするのではなく、自分のするべきことを定めて戦っていく。

 

『ガオ!』

「!」

 

 レオの声が響くと同時にボクの頭にこの姿の能力と力の扱い方が流れ込んでくる。

 これまでになかったことに少しばかり驚いていると、こちらに突撃してくる存在を察知する。

 

「おいおい、緑色になっちまったじゃねぇか!!」

「……!」

 

 変身を終えたボクに向かって飛びかかってくるモータルグリーン。

 あらゆるものを腐食させる力を戦斧に纏わせた奴を視界に納め、“目”で見極める。

 

「オラァぁぁ!!」

 

 モータルグリーンの姿が幾重にも重なり、それぞれの道筋としてボクの視界に映し出される。

 こちらに斧を投げる姿。

 腐食の力を放つ姿。

 斧で斬りかかろうとする姿。

 示された可能性の未来は一つに収束し———最後に一つの確定した未来へと辿り着く。

 

「———」

 

 相手の動きを能力で予知し、奴が突っ込んでくる空間に拳を叩きつける。

 それと同時に誘い込まれるように移動した奴の顔面にボクの攻撃が直撃し、緑のエネルギーの光を発散する。

 

「がっ!? テメェ!!」

「未来を見通し、前提を覆す。それがレオの本当の力」

 

 真似しただけの力は必要ない。

 ルイン様と同じ力じゃなくて、僕たちだけの力で強くなればそれでいい。

 

「さっさと腐れ!!」

「もう十分不貞腐れていた!! だから、今度は前を向く!!」

 

 振るわれる戦斧を最小限の挙動で避け、さらに拳を叩きつける。

 呻き、後ずさりしながらも攻撃を繰り出そうとするモータルグリーンだが、それでも奴の攻撃そのものを予知しているボクに攻撃が届くことはない。

 

「い、いい加減にしろや!!」

 

 手に纏わせた腐食の力を身体を逸らして回避する勢いでその場で一回転バックルを叩く。

 

PUNISH(パニッシュ)KING LEO(キング レオ)!!』

 

 振り向きざまに拳に纏わせたオーラをモータルグリーンの胴体へと叩き込んだ。

 拳に凝縮されたエネルギーが、グリーンの体内を駆け巡り———衝撃が突き抜ける。

 

「なっ……!?」

FATAL(フェイタル) BLOW(ブロー)!!』

 

 一瞬の静寂の後に、エネルギーを叩きこまれたモータルグリーンは内部から破裂するように砕け散る。

 粉々に砕け散り、爆発を引き起こした奴の姿を確認したボクは———背後からの奇襲を行おうとするモータルレッドの攻撃を予測し、振り向きざまに手の中に召喚した“武器”を振るう。

 

「はぁ!!」

 

 モータルレッドが放った斥力を纏わせた刃を、その力ごと弾き飛ばす。

 大きく退いたモータルレッドはボクの手に現れた双刃の大剣を目にし、驚愕を露わにさせた。

 

「それは……」

「これがボクの新しい武器……!!」

 

 簡単に言い表すのなら、それは大剣と小剣を連結させたような武器だった。

 持ち手は両手で持てるほどに長く、刃は緑色の光を放ったそれを、持ち手を変えると同時にぐるりと大きく回す。

 そこでバックルのレオがその存在を示すかのように武器の名前を叫ぶ。

 

LION(ライオン) SABER(セイバー)!!』

 

「……レオセイバーだ!!」

「ライオンと言っているが……?」

 

LION(ライオン) SABER(セイバー)!!』

「いや、だから……」

LION(ライオン) SABER(セイバー)!!!!』

「わ、分かったよぅ!」

 

 ここで謎のネーミングセンスを発揮するレオに頬を引きつらせる。

 そ、そういえばレオはカフェのテレビで動物特集を見て、喜んでいた覚えがあるけどまさかそれのせいか!?

 

「あはは! なにそれ、ライオン剣じゃん!!」

「うっせぇぞヒラルダ!!」

「わぁ、怒られちゃった!」

 

 どう見てもレッドを当て馬にして様子見をしているヒラルダを怒鳴りつけながら、奴に意識を戻す。

 様子見ならそれでいい。

 レッドよりあいつの方が厄介だからな……。

 

「しかし、素晴らしいな!! コスモ君!!」

「……ん?」

 

 武器を構えているモータルレッドが喜ぶに身を震わせている。

 先ほどまでは気持ちが悪い敵だと思っていたけど……どうやら、その気持ち悪さは奴だけのせいじゃないかもしれないな。

 奴の姿を“目”で見て改めてその事実を確認する。

 

「それだけの力があるなら、黒騎士とだって戦えるはずだ! お互いに黒騎士に辛酸を舐めさせられた身、やっぱり仲間にならないか!?」

「……本当に、お前らの目的はそれだけなのか?」

 

 ボクの問いかけにモータルレッドは怪訝な様子で首を傾げる。

 

「俺の目的は最初から一貫している。正義を成す、それだけだ」

「聞いているのはお前(・・)じゃない」

 

 モータルレッドではない、その先にいる存在を見る。

 ようやく理解できた。

 

「お前は何者だ。どうして、そいつの身体を使っている(・・・・・)?」

お  前  は  危  険  だ

 何を言っているんだ君は?

 

 レッドの訝し気な呟きから一転して、奴は突然斬りかかってくる。

 斥力と引力、それらを併用しながら移動、攻撃を行う奴の行動を予測しながらライオンセイバーを振るう。

 

「仲間になれ! 星界の力を受け入れろ!!」

「操り人形になれって! お断りだね!!」

 

 互いの剣を激突させるたびに轟音が響く。

 力場を薙ぎ払いながら大剣の刃が逆になるように逆手に持ち替え、腰から引き抜いたエビルキーをライオンセイバーの柄、獅子の顔を模した部分に差し込む。

 

ガブッ!

LA()! LA()! LA()! LIOOOooN(ライオォーン)!!!!

 

 ……この音声後で変えてもらえないかなぁ!? 騒がしい上に、なんか変な音楽も鳴ってるし!?

 え? 駄目? くっ、うぅ、レオの感性が分かんないよぉ……!!

 泣きそうになりながら、大きく翻したライオンセイバーに光を纏わせる。

 

EAT(イート)EVIL(エビル)!!』

DELICIOUS(デリシャース)!!』

 

 大剣に纏ったエネルギーがいくつもの球状へと変化し、振るうと同時にモータルレッドへと向かっていく。

 それらはいくつも分裂し、それぞれが別の動きをしながら連鎖的に炸裂する。

 

「ッ、くっ!! がっ!?」

「まだまだ!!」

 

 いくつかの攻撃が直撃しモータルレッドにダメージを与える。

 さらに畳みかけるように刃から輝きを放つライオンセイバーを回転しながら振るい、エネルギーの刃を叩きつける。

 

「が、ああッ!?」

 

 爆発と共に全身に損傷を受けたレッドが地面を転がる。

 

「とどめを……!!」

「嘗めるなぁ!!」

 

 追撃を加えるべく、さらに攻撃を与えようとするがモータルレッドが無理やり大剣を振るい———斬撃を飛ばしてくる。

 覚えのある斬撃に攻撃をやめ回避すると、ボクがさっきまでいた場所に深く斬撃が刻み込まれる。

 

「これは……」

「ジャスティスレッドの剣技だ!! これは防げまい!!」

 

 あのレッドから技術を奪ったのか……?

 いや、不可能な話ではない。

 次々と繰り出される飛ぶ斬撃と、重力を用いた攻撃を捌きながら“目”を凝らす。

 

「あいつらを操っている奴がいる……」

 

 モータルレッドとグリーンに絡みつくように伸びているその力の先に、不定形のナニカがいる。

 星雲のようにあやふやなそれは、まるで人形を操るように奴らを操っており、その中でもモータルレッドは尋常じゃない濃度にまで侵食されているようにも見えた。

 

「なんだか分からないけど」

『ガウ!』

「ああ、まずはあいつを倒そう」

 

 飛ぶ斬撃を大剣で消し去る。

 容易く斬撃に対応したボクにレッドは驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、なぜ、いくら見えているからといって……」

「ジャスティスレッドは怖いってもんじゃなかったぞ」

 

 地球のレッドの恐ろしいところは、飛ぶ斬撃ではなくそれに乗せられた殺意だ。

 “絶対に斬る”

 言葉で言い表さなくとも、それを身体で理解させられる彼女の斬撃は、避けようと意識した瞬間にその殺意で強制的に動きを制限させられる。

 ただの気迫とも呼べるそれが、最大の武器になっているのが恐ろしいんだ。

 ぶっちゃけると、相手の攻撃を予知できるようになった今でもあいつと戦いたくない。

 だって怖いもん。

 

「そんなバカな話があるわけない!!」

「お前はそろそろ自分が操られている自覚を持て!!」

 

 一気に肉薄し、モータルレッドの胴体を蹴り空へと打ち上げる。

 ライオンセイバーを投げ捨て、必殺技を発動させる。

 

PUNISH(パニッシュ)KING LEO(キング レオ)!!』

 

 ボクの肩と背中の装甲の隙間から金色のエネルギーが放出し、マントを形成させる。

 空高く跳躍したボクは、エネルギーで作り出した足場を蹴りレッドへと迫る。

 

「このぉぉ!!」

 

 視界一面を覆うほどの斬撃と斥力。

 それらの動き、軌跡を全て予測し、最短距離を突き進みながら蹴りの体勢へと移行する。

 

「とどめ、だぁぁ!!」

 

FATAL(フェイタル) JUDGEMENT(ジャッジメント)!!』

 

「ま、また俺は負け———」

 

 胴体へと蹴りが直撃すると同時に金色のエネルギーが獅子の頭を形作り、モータルレッドの身体をかみ砕いた。

 そのままレッドの胴体を貫きながら、ボクは地面へと着地した瞬間、頭上でレッドが爆発する。

 

「……次はお前だな、ヒラルダ」

「いやー、強くなったね。コスモ」

 

 安堵はしない。

 まだ一番厄介な敵が残っている。

 当のヒラルダは公園の遊具に座りながら、暢気にこちらに手を振っている。

 

「復活するのに手間取っているねぇ」

「……どうせお前がなにかしたんだろ?」

「あはっ、バレちゃった? ちょちょーっと細工してレッドとグリーンの復活を邪魔しているんだぁ」

 

 こいつがなにをしたいのか分からない。

 愉快犯ならそれでいいけれど、問題なのはレッドとグリーンを操っていた何かの力がこいつには及んでいないことだ。

 こいつは一方的に星界エナジーとやらの力を引き出している。

 

「力に覚醒することで見えるようになったようだね」

「……」

「私は別に見えてないよ? でも分かるよ。私のアルファとしての能力の原点は、そういうものだったからね!」

 

 確信があるのか愉快気に語るヒラルダ。

 

「宇宙の平和を守る星界戦隊ぃ? 笑っちゃうよねぇ。まさか正義を成すと思っていた自分たちの大本が“悪”に由来する侵略者だったなんてねぇ」

「侵略者……?」

「正確に言うなら、星界エナジーと呼ばれる力の供給を乗っ取ったやつってことかな? まあ、どうでもいいけど」

 

 虎視眈々と機を狙っている存在がいるってことか。

 それがルイン様が支配する星将序列に紛れ込んでいた。

 ……いや、ルイン様が気づいていないはずがない。

 きっと、分かっていて放置しているのか。

 

「あぁ、でもブルーは素直に凄いと思うよ。彼、星界存在の干渉からイエローを守って“ああ”なったんだから。ああいう家族愛もいいものだね」

「御託はもういい。お前はここで始末する」

「……うーん、でもなぁ」

 

 ヒラルダがわざとらしく時計を見るようなそぶりを見せて肩を竦める。

 

「もう時間切れみたいだから帰るね」

「逃がすと思っているのか?」

「そのための星界エナジーだよ。星と星を繋ぐ力、これを使えばワームホールとは別口の転移を行えるってわけ」

 

 それと同時にヒラルダの身体が光に包まれる。

 ゆっくりと見せているのは奴の嫌がらせだろうか、それでもボクが攻撃を行おうとすると奴は厭味ったらしく手を振ってくる。

 

「ッ!」

「じゃ、カツミくんによろしくねー!」

 

 攻撃が当たる瞬間に奴の姿が消える。

 ッ、駄目だ、予知しても間に合わなかった!

 なんて性格が悪い女だ!!

 

「おい」

「ッ!!?」

 

 すぐ後ろから聞こえる声に心臓が跳ねる。

 誰だ、なんて尋ねるまでもない。

 

「進藤さんの店を爆破したのはテメェか。つまらねぇ陽動しやがって」

 

 対応を間違えれば、攻撃が飛んでくる。

 というより、今のボク緑色だから白騎士の記憶があっても分かってもらえてない……!!

 背後で剣呑な声を響かせる黒騎士———ホムラの気配に、深呼吸をして気分を落ち着かせながら変身を解除する。

 

「……ん!?」

 

 変身を解除したボクの顔を見たホムラは黒騎士としての姿のままぎょっとした様子で驚く。

 ちょっと気まずくなりながら、答える。

 

「ぼ、ボクです……」

「ソラァ!?」

 

 そういえば、ボクはコミドリ・ソラって偽名を名乗っていたんだった。

 なぜか敬語になってしまうボクにホムラは混乱した様子だ。

 ちょっとしてやったりな気分になる。

 

「は? いや、なんでお前が変身してんの?」

「いや、あのさ。ボク、コスモだよ」

「はぁ!? あのクソ面倒くさい奴がお前!?」

 

 ……。

 

「クソ面倒くさいとはなんだとこの野郎!!」

「事実だろうが! お前のせいで死にかけたんだぞ!」

「ぐっ、そ、それは、悪かったって思ってるけど……」

「お、おう……」

 

 あの時のボクは本当に弁護できないくらいに駄目だったので言い訳のしようがない。

 なんだか奇妙な空気になってしまっていると、周りを見たホムラが困ったように額を手で押さえた。

 

「人が集まってきたな。顔を見られたかもしれんから、ここを離れるぞ。シロ」

『ガウ!』

 

 黒騎士のベルトの側面に取り付けられた見慣れない箱のようなものから、レオに近い姿をしたオオカミが顔を出す。

 すると、その目から光を放つと何もない空間にバイクが転送される。

 これは白騎士がいつも乗っていたバイクだな。

 

「ほれ」

「わっと……」

 

 投げ渡されたヘルメットを受け取る。

 バイクに跨ったホムラはこちらを振り返る。

 

「乗れ」

「……強引だなぁ」

「仕方ねぇだろ」

 

 ため息をつきながらホムラの後ろに乗り、胴体に手を回す。

 なぜか集まった人だかりが妙なざわめきが立つが、ホムラはそれを気にせずにバイクを発進させる。

 バイクはあっという間に空へと舞い上がり、迷彩効果で透明になる。

 

『カツミ、乗りたかっただけだよね』

「うん」

『素直……!』

 

 チェンジャーとホムラの会話を聞きながら、ボクも話しかける。

 

「シンドウは無事か?」

「ああ。店が壊されてめっちゃショック受けてるけど。今はうちの仮の拠点に避難させてる」

「そっか、よかった……」

 

 ボクのせいでシンドウになにかあれば申し訳ないじゃ済まないからな。

 無事で本当によかった。

 

「これから向かう場所ってのも仮の拠点なのか?」

「ああ。本部はまだ準備中だが、そこに俺たちの司令塔もいる」

 

 恐らくゴールディだろうな。

 レオを作った凄腕の科学者で、父上の友人だったと聞いている。

 

「……自分を受け入れることはできたか?」

「……!」

 

 不意に話しかけられた言葉に驚く。

 そうか、こいつは白騎士としての記憶を思い出しているんだよな。

 ……。

 

「とりあえずだけど、ボクは今の自分を受け入れられた。お前にも、感謝してる」

「そうか、そりゃよかった」

「……うん」

「……。もう襲ってくんなよ?」

「しないわぁ!!」

 

 心の重荷がなくなったような感覚だ。

 それから互いに無言になりながら数分ほど空を進んでいると、目的地に到着したのだろうか、バイクが地上へと降りていく。

 着地したのはどこかの古いビルの屋上であった。

 それなりに大きいが、ほぼ廃墟同然の場所を見回しながら訝し気にホムラを見る。

 

「……なんだこのボロイ建物」

「中は綺麗だから安心しろ」

 

 こんな幽霊とか出そうなところが仮の本部とかどうなってんだ?

 そう思っていると、ボク達の立っている足元が不意に沈み、建物内へと入っていく。

 

「……どうやら本当のようだ」

「俺もここを知ったのは昨日だからな。驚くのも無理はねぇよ」

 

 頭上の穴が閉じ、明かりがともされるとボロイ外観から想像できないくらいに綺麗な内装が広がる。

 ここは整備室かなにかか? ジャスティスクルセイダーのビークルを整備しているように見えるけど……。

 

「ご苦労だった! カツミ君!!」

「!」

「ああ。レイマ」

 

 突然の大きな声に驚きながらそちらを見ると、扉から背の高い金髪の男がこちらへ近づいてくる。

 あれがゴールディか? 地球人ではないのは分かるが、どことなく変人っぽい雰囲気がするな。

 

「アカネ達は?」

「彼女たちは先ほど帰還した。君が帰ったとなればすぐにここに来るだろうな。……さて、君がコスモ君か、初めまして。私は金崎令馬、ゴールディと名乗った方が君には分かりやすいかもしれないかな?」

「……ああ」

「そして、そこにいるのがTYPE(タイプ) LEGURUS(レグルス)

「ガオ」

 

 ボクからレグルスへと視線を移したゴールディ……レイマはなにを思ったのか、床に降り立ったレオに飛びかかった。

 

「レグルスゥゥ!! 久しぶりだなぁぁ!!」

「ガオッ!!」

「ぐはぁぁ!?」

「レ、レイマー!?」

 

 驚くほどの拒絶反応を見せてレイマに体当たりを叩きつけるレオ。

 怒った様子で頬を押さえて悶絶する彼の頭の上で跳ねている。

 ……まあ、レオからしてみればこいつは、スーツに自分を組み込んだ元凶みたいなものだからなぁ、怒るのも無理はないか。

 慌てふためくホムラ達を見て、ぼんやりとそんなことを考えていると———なんの気配もなく、後ろから肩に手を置かれる。

 

「はじめまして、コスモちゃん。私、レッド、覚えているかなぁ?」

「ひぅっ……!?」

「忘れてへんよなぁ。そら、敵同士だったんやからなぁ」

「バイクで相乗りした件についてお話しようね」

 

 な、なんでこいつらこんな恐ろしい気配発しているのに近づくまで気づけないんだ……!?

 地球人ってやっぱり理不尽じゃないか!?

 というより、ホムラ、こっちに気づいて!? 助けて!?




コスモ、合流の後に今日一番のピンチに陥る。

キングレオは“見る”分野に特化した形態といった感じです。
これまで目が曇っていたコスモが、成長した姿とも言えますね。

ライオンセイバーはレオの遊び心が発揮した結果、ああなりました。
うるさいしめっちゃ楽しい武器です。


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彼を巡った居候先争い

お待たせしました。

前回から引き続きコスモ視点でお送りします。


 状況に流されてジャスティスクルセイダーの仮の本拠地に行くことになってしまったが、別の意味でピンチに陥ることになってしまった。

 ホムラはなんだかんだで敵対することはないと思っていたけれど、今はジャスティスクルセイダーに取り囲まれ、ホムラ達と共にどこかの広い部屋へと移動させられてしまったのだ。

 

「ここは我がジャスティスクルセイダーの仮拠点。外から見れば若干見すぼらしい施設ではあるが、本部の準備が整うまではここで活動することになっている」

「……それをボクに教えてもいいのか?」

「……」

「……」

 

 なぜそこで押し黙る?

 あれ、そういえば教えても大丈夫? みたいな顔をして後ろのレッド達を見るゴールディに呆れた視線を向ける。

 

「レイマ、こいつはシンドウさんを守っていたらしいからな。少なくとも敵対するつもりはないと思う。……そうだろ? コスモ」

「あ、ああ」

 

 割り切りがいいというかなんというか……。

 ボク相手によくそんな簡単に信じられるんだな。

 ……敵対するつもりはないのは本当だけれども。

 

「だが君が我々と敵対していた事実は変わらん。改めて問う。君は敵か、それとも星将序列に敵対する我々の味方か? できることなら、この場ではっきりと答えてほしい」

「……」

 

 当然、そんな問いかけが来るのは分かっていた。

 正直な気持ち、今日ボクが戦った理由は地球という星そのものではなく、自分を救ってくれたシンドウを守るためだ。

 地球を守るだとか、そういう大それた考えは全くない。

 

「ボクは、最初はホムラを殺せばルイン様に認めてもらえると思っていたんだ。ホムラが……黒騎士が目覚めた夜に死ぬはずだったけど、どういうわけか生き残ってしまった」

「ルインへの復讐のためか?」

 

 ゴールディの言葉に首を横に振る。

 

「今でもルイン様は尊敬しているし、憧れてもいる……けど、ルイン様が求めているのはそういうことじゃなかったんだ」

「……そうだな。あいつが求めてんのは従順な僕じゃなく、対等に戦える相手。……まったく、はた迷惑な奴だ」

 

 辟易したようにホムラがため息をつく。

 ボクからしてみれば、あのルイン様に執着と言えるほどに特別視されているこいつも異常と言える。

 

「ホムラに完全に負けてから、しばらくはシンドウに拾われてあのカフェに住んでた」

「うわー、私みたいな境遇送ってるじゃん。私もマスターに拾われて、しばらくあそこで住んでたんだよ?」

 

 白い髪の……たしか、ハクアと名乗ったこいつと同じなのか。

 シンドウもボクより前に同じように居候していた奴がいたって言っていたけど。

 

「それで今日、星界戦隊と戦って決めた。」

「聞かせてくれ」

「ボクは、ボクを助けてくれた地球人のために戦う。多分、そういう理由がルイン様が望んだ反逆でもあるし、ボク自身がようやく選ぶことができた生き方だと……思えたから」

 

 そこまで言葉にして、自分はこんなところで何を言っているんだろう、と頬が熱くなる。

 前は敵だった奴らの前でこんなこと言うなんてどうかしている。

 ボクの宣言に腕を組んだまま無言だったゴールディは、不意にくわっと目を見開いたかと思うとボクを指さした。

 

「そうか、ならば今日から君はジャスティスグリーンとなれ!!」

「……は?」

「そして白川君! 君もついでにジャスティスホワイトだァ!!」

「ええええ!?」

 

 突然のW任命にボクもハクアもあんぐりと口を開ける。

 は? なんで? ボクがジャスティスグリーンってどういうことだよ!!

 

「い、嫌だ!! こんな全身凶器みたいなやつらの仲間なんて無理だぞ!!」

「全身凶器……言われてるよ。きらら」

「そういう意味じゃないよねぇ!? どちらかというと、アカネの方が全身凶器だよ!」

「ねえ、私女の子」

 

 強くなった今ではジャスティスクルセイダーと互角に渡り合うことはできるだろうけど、スーツの性能以前にこいつらの戦闘技術が並外れて高いのが厄介なのだ。

 そしてそれは黒騎士を纏うホムラにも同じことが言える。

 

「ルインが敵となればいくら戦力があったとしても足りない。だからこそ、我々はこれからも強くなっていかなければならない。……そのために、戦力の増強は必須事項なのだ」

「それがどうしてボクがジャスティスクルセイダーになるんだよ……!!」

「……特に理由はない!! 強いて言うならば、グリーンカラーだからだ!!」

 

 こいつとんでもないバカだ!?

 星界戦隊と同じ思考レベルだぞ!! 悪魔の天才科学者要素どこにいった!?

 

「ボクは敵だったんだぞ! そう簡単に味方にしようとするな!!」

「私もこう見えて元星将序列、なによりお前より序列も上だわァ!」

「んなこと知ってるわ!!」

 

 同じ裏切者でも色々と違うだろうが……!!

 

「そもそもうちには星将序列持ちだったグラトがいるのだ。今更お前を味方としたとしても全く以て気にしない。むしろ、星将序列裏切者大歓迎だ」

「おかしいだろ……」

「おかしくはない。今しがた別室で絶賛落ち込み中のマスターこと、シンドウからもお前の人となりは聞いている。断言しよう、お前はいいグリーンになれるぞ、グリーン」

 

 もうグリーン呼ばわりじゃん……。

 思わず頭を抱えながら、この様子を傍観していたジャスティスクルセイダーを見る。

 

「お前らは反対じゃないのか……!?」

「いや別に。裏切られたら斬ればいいし

「さっき自分を女の子って言ってた奴の台詞とは思えないんだが!?」

 

 本当になんなんだお前!?

 割と本気で父上みたいな何気ない物騒な発言を飛ばしてくるな!?

 

「ホムラァ! お前は反対だよな!?」

「ん? ああ、別にいいんじゃないか? 進藤さんを守ってくれたんだろ?」

 

 なんでこんなに好感な印象を受けているか謎でしかないんだが……?

 

「く、うぅ、わ、分かったよ。でもジャスティスクルセイダーの枠組みに入れるのはやめろ。そもそもボクじゃ見た目が合わな———」

「ガオ!」

「見た目が合わないだろ……!!」

 

 今「合わせられるよー」と言わんばかりに自己主張してきたレオの鳴き声を遮っておく。

 

「む、仕方があるまい。ならば追加はジャスティスホワイトのみだな」

「いや、ちょっと待ってください……!!」

 

 そこで今まで黙っていたハクアが声を発する。

 

「かっつんは黒騎士って別枠だし、というより私白騎士なので、ジャスティスホワイトもいらないのでは……!?」

「黒騎士も白騎士もカツミくんのもんじゃい!! そもそもシロに作り出されたチェンジャーは、ジャスティスクルセイダーのスーツを基本として作られたものだから、君はほぼジャスティスホワイトなのだぁ!!」

「無茶苦茶すぎます!」

「戦えとは言わん!! だが、今回の本部襲撃事件のようなことが起こり、君自身が戦わなければならない状況に陥る可能性がないとは言えないだろうがぁ!!」

「!」

 

 なにがなんだか分からないが、こいつはあまり実戦経験を積んでいないのか?

 それでよく星界戦隊の前に出てこれたな……。

 

「いいか、白川君。戦う力を持つことは一種の呪いのようなものだ」

「……!」

「これはこの場にいるスーツ装着者全員に言えることだが、強化スーツを纏ってからお前たちは皆、人類の枠を超える存在へとなった。それはいわば、これまで不可能だったことを可能にする力を得たと同然だ」

 

 ゴールディの言葉に黙り込むハクア。

 

「自分にできる、可能なことならばやるしかない。状況をなんとかできる手段を持ってしまえば、否応なく行動に出てしまう。今回、それで命を落としかけたのが君なのだ」

「確かに。その通りです」

「だからこそ、君は戦う術を学ぶべきなのだ」

「……レイマの言う通りだぞ。ハクア」

 

 そこでホムラがゴールディの言葉に同意する。

 

「お前には戦ってほしくはないが、ここまで二度も変身する事態になっているからな。自分の身を守れる程度の訓練はしておくべきだ」

「かっつん……」

「お前はいつ見ても危なっかしいから用心には越したことはねぇだろ。ま、俺も侵略者が出てくるまでは結構暇だし、訓練見てやるからさ」

「……うん」

 

 なんかいやに面倒見がいいなこいつ。

 ボクの傍でとんでもない気配を発しているアルファとジャスティスクルセイダーが怖すぎるけれども。

 

「最初の話がまとまったな。あとは……今回の襲撃についての報告……いや、それはこの後でいいか」

 

 腕を組み、思考を巡らせたゴールディは再びこちらを見る。

 

「とりあえず、次は本部の話をする」

「まだできていないんですよね?」

「ああ。現在、急ピッチで作業を進めているわけだが、侵略者がそれを待ってくれるとは限らないのでこの仮の研究所を拠点としているのが現状だ」

 

 星界戦隊に壊されたって話だもんな。

 逆によくあの攻撃で地上が無事でいられたか不思議でならないけど、そういう意味でもこいつらは地球の守護者と呼ばれているのかもしれない。

 

「整備自体は問題はない。問題があるとすれば……それはカツミ君、アルファ、お前達だ」

「俺達、というと……住むところか?」

「うむ、本部が襲撃されていなければ、そこに君たちを移す手筈だったのだが……ものの見事に襲撃を受けた上に、世間に場所が明かされてしまったからな」

「俺のアパートは未だに帰れないし、もうきららの家の世話になるわけにもいかないし。どうすっか……」

 

 ……いや待て、住むところというならボクもないんじゃないか?

 

「おい、ボクも居候している喫茶店を爆破されたんだが、どうしたらいい?」

「勿論、その件も合わせてこれから話すつもりだ」

 

 シンドウからある程度の事情を聴きだしていたのか……?

 いや、そりゃ当然か。

 

「選択肢としては二つある。一つはこのビルの居住スペースに住むか、それともここではない安全な場所に住むか。後者の場合は、アルファの認識改編を多少は用いる必要があるが……」

 

 認識改編?

 それがこの星のアルファの能力なのか?

 規模によっては大したことないが、いったいどれほどのものだろうか……。

 

「……。ハクアはどこに住んでんだ?」

「ん? 私はこのビルに住んでるね。職員用の居住スペースもあって、それほど苦じゃないよ?」

「……そうか」

 

 暫し思い悩むように腕を組んだホムラ。

 彼はおもむろにアルファを見ると、やや真剣な声で話しかけた。

 

「アルファ。お前はハクアと一緒に住んどけ」

「えっ、なんでさ!? カツミ!」

「なんとなく複雑なのは分かるけど姉妹なんだろ? いや、なんか俺が弟だったっていう意味分からん過去があるけど、それ関係なしにお前らは一緒の方がいいと思う」

 

 突然の提案に慌てるアルファだが、ホムラはその真剣な表情を崩さない。

 

「ハクア、悪いが頼めるか?」

「え、そ、それは構わないけど……かっつんはどうするの?」

「俺はここには住まない」

「!?」

 

 彼の言葉にハクアとアルファだけではなくここにいる全員が驚く。

 

「ど、どうしたのカツミ、なにか理由があるの?」

「……ちょっとばかし厄介な奴に目をつけられてな。そいつが一度、お前を気絶させて成り代わろうとしやがったんだよ」

「……え?」

「時折、そいつの視線を感じるんで、お前に危険が及ばないように距離を取っておこうと考えた」

 

 成り代わろうと……って、もしかして六位のアズって名乗っていたあの女か。

 目の前のアルファとほぼ瓜二つな星将序列で、ルイン様を殺すとかいっていた……。

 

「カツミ君、その話は……」

「後でちゃんと説明する。あとは、俺とコスモの住むところだが……どうする?」

 

 話を切り替えたホムラにゴールディは唸った様子を見せる。

 

「そう、だな。本来はこのようなことをするべきではないのだが……」

「「?」」

「本部が完成するまでに、君たちにはジャスティスクルセイダー三人の家に居候してもらおう……!!」

「「!?」」

 

 居候ゥ!?

 は!? ボクが!? なんで!?

 

「なんでボクがこいつらの家に居候しなきゃならないんだ!? 適当に住むところ用意してくれれば勝手に住むわ!!」

「お前は料理も家事もあまりできないとシンドウ氏が言っていたのだが……?」

「あのコーヒー狂いがァ!!」

 

 あいつ何言ってんだ!

 実際、そうだったけれど! 仕方ねーじゃん料理なんて生まれてからずっとクソマズ栄養食しか食ってねーんだから!!

 で、でも掃除とかはレオが自分からやってくれるし……って、そういうところで駄目な子って思われてんのかボク!?

 

「さすがにそれはアカネ達に悪い。俺は別の場所でいいから———」

「カツミ君」

 

 やや申し訳なさそうな様子で断ろうとするホムラの両肩にゴールディの手が載せられる。

 

「君が思っている以上に、この提案には地球の未来がかかっているのだ」

「そこまで……?」

「それに彼女たちを見てくれ」

「?」

 

 ゴールディに促され背後を見るとそこには鬼気迫った様子でじゃんけんを行っているレッドとブルーの姿が。

 

「理系ジャンケン読み……!」

「直感ジャンケン読み……!」

「あんたら本当に地球人?」

 

「地球の戦士たちは既に乗り気だ」

「なんで……?」

 

 信じられない目で連続であいこを繰り出し続ける二人を見る。

 イエローはなぜか参加せずに遠い目をしているけれども。

 

「いや、お前ら冷静に考えろよ。男の俺がお前らの家に転がり込むとか駄目だろ。なぜかきららの家じゃ認められちまったけど、そういう常識はあるつもりだぞ」

「常に常識外れな行動と状況にしかいないカツミ君に言われたくないよ!」

「……。なんだとこの野郎!

 

 レッドの指摘に立ち上がるホムラ。

 常識外れという点では認めるしかない。

 

「だってそうじゃん! 二回も記憶喪失になった後にきららの家に転がり込むとか非常識の極みみたいなものだよ!?」

「ぐ、うぅ、確かに……!! 我ながら否定できん……!!」

 

 あ、認めるのか。

 しかしルイン様のせいとはいえ二回も記憶喪失とか宇宙でもそうそうない経験しているなこいつ。

 するとコソコソとホムラの隣に腰かけたブルーが、彼に話しかける。

 

「カツミ先輩、うち神社なんです。大きいです。広いです」

「どうした突然。てか先輩ってなんだ?」

「私、一つ年下」

「……嘘だろ……?」

 

 衝撃の事実といった様子で狼狽える彼に、ブルーは得意げな笑みを浮かべる。

 

「ふふん、先輩って呼ばれた気分はどうかな?」

「いや、なんか……お前からそう呼ばれるのは、むず痒いからいつも通りでいいぞ」

「きゅん」

「……なんだ今の音」

「ときめき音」

「なにそれ……?」

 

 この空間には変人しかいないのだろうか。

 ホムラが普通に見えるとか変身しなくても大分やばいなジャスティスクルセイダー。

 

「つーかお前、散々理系って言っておいて神社かよ」

(ことわり)系です」

「……。あれそういう意味だったのぉ……?

 

 よく分からないブルーの発言になぜか震えるホムラ。

 

「失礼、噛みました」

「絶対嘘だろ」

「神降ろしました」

(ことわり)系じゃん!?」

 

 そのやり取りになぜかものすごく満ち足りたような笑顔を見せるブルー。

 なんだこのやり取り、と思っているとそんな二人に割って入るようにレッドが歩み寄る。

 

「あ、あの……」

「え? アカネ、どうした?」

 

 しかし、さっきの様子と違ってどこか自信なさげである。

 

「私ん家、一般家庭です。あとワンちゃんがいます……」

「いや、嘘だな」

「なんでそこで嘘って言われるのか分かんないんだけどっ!!」

 

 一般家庭……!?

 それってあれだよな、この星では普通の家の生まれってことだよな?

 ……いや、意味分からん。

 今日、何回意味が分からないことになっているか知らんけど、これは本当に意味が分からない。

 

「だってお前、いや……実は剣道道場とかそういうところじゃないのか?」

「ううん、普通の家だよ」

「……やっべぇ、逆にどういう暮らししているのか気になってきやがった……!?」

「!!!?」

 

 思わぬ呟きに驚愕に目を丸くするブルー。

 もう滅茶苦茶である。

 

「なあ、コスモちゃん」

「ん? イエローか。ボクになんの用だ?」

「いや、行くところがないならうちに来る?」

「……」

 

 今一度レッドとブルーを見る。

 レッドは未だにちょっと斬られたことがトラウマだし、ブルーはなに考えているか分からない。

 

「頼む……」

「よろしくね」

 

 こいつも苦労してんだなぁ、と少し話してそれを理解できてしまうのであった。

 




どうあがいても面白い一般家庭生まれのレッド。
イエローは普通だけれど、その家族が普通じゃないという罠でした。

外伝『となりの黒騎士くん』の方も、二話ほど更新いたしました。
第五話「となりのホムラくん2」
・カツミの学生生活編その2

第六話「ハイル、二度目の不運」
・黒騎士VSクイズ怪人編


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恋慕のサジタリウス

コンプリートフォーム21のデザインが最高すぎる。
うまく言葉で言い表せませんが、ディケイドって感じがして本当にイイ……。

お待たせしました。
今回はカツミ視点でお送りします。


 アカネと葵が俺の居候先を決めるということで、二人が争うことになった。

 居候先といっても一定期間で交代するという話に落ち着いたので、俺は最初はどちらかの家に世話になった後に、もう片方の家に移動することになった感じだ。

 ……いや、そこまでするなら普通にホテルとかでいいのでは、と思ったが二人の鬼気迫った表情がちょっと怖かったので何も言わないことにした。

 俺としてはどちらが先でもいいし、別にこれまで通りきららの家に世話になってもよかったが、どうやらそれでは駄目な様で結局が決着がつくまで待つことになった。

 

『負けられない戦いが、ここにある! 行け、ドリュウズ!! モルペコにじしんだァー!!』

『残念ねこだましだペコ』

『くっ、タスキが……!? ならばもう一度じしんを繰り出せばいいだけのこと!!』

『残念こっちもタスキだペコ。所詮いじっぱりAS振りのドリュウズなどリベンジでワンパンだペコねぇ』

『ドリュウズゥゥ!?』

 

 ……いや、なんだか楽しそうにゲームで戦っていたけれども。

 とにかく長引きそうだったこともあるが、俺としてもレイマに話しておかなければならないことがあったので、彼と共に別室の研究室へと移動する。

 彼にはアルファの母を名乗る謎の女、アズについて話しておかなければならないと判断したからだ。

 


 

「アルファの母親が生きていて、しかも私が所属していた当時からしても謎だらけの存在だった星将序列六位だとぅ!?」

「ああ」

 

 アルファの母親。

 あいつが自分で母親はもう死んでいると自嘲気味に話しているのを聞いていたので、そのことは本人には隠していた。

 ……あのアズとかいう奴が本当の母親だとしても、そいつ本人はアルファにまるで興味をもっていない。

 敵じゃないとは言っているが、俺にはそれがどうにも気にいらねぇ。

 

「それは、本当なのか?」

「ああ、新藤さんの店でアルファのフリをして俺を待っていたからな。口ではからかっただけとか抜かしていたが、あわよくばアルファと成り代わるつもりだった魂胆が見え見えだった」

「……新藤氏の喫茶店は特異点か何かなのか?」

「因みにいうと、三位のサニーってやつは常連だ。俺が白川克樹だった頃も結構な頻度で通ってきているし、なんなら連絡先も知っている。……ここだけの話……」

 

 ……いや、これは言っておくか。

 後々誤解を生みそうだし。

 

「サニーは新藤さんに惚れている……!!」

「ほう、三位が新藤氏に。ならば彼には頑張ってもらって三位を味方に———」

「違うんだレイマ。サニーはだ」

「……」

「……」

「さっきの言葉は忘れてくれ。さすがに私も鬼ではない」

 

 気まずい沈黙の中で頷く。

 どうして新藤さんがサニーに推しとまで言われているのかはまったく分からない。

 いや、そういうことは宇宙人とか関係なしに詮索しちゃいけないんだろう、うん。

 

「で、そのサニーもシロと、コスモの相棒のレオみたいな変身できる動物がついてたんだよ」

「なんだって? カツミ君、その個体名は分かるか?」

「確か……ヴァルゴって名前だったな」

「ヴァッァ!?」

「レイマ!?」

 

 椅子に座ったまま垂直に飛び上がり、そのままビターン!! と床に叩きつけられるレイマ。

 その不自然な挙動に困惑するが、当の彼は痙攣するように驚きを露にさせている。

 

「ま、まさかコアの起動すら叶わず失敗作とばかり思っていたヴァルゴだとぉ!? く、むおおおおお、喜んでいいのか、危機感を抱いていいものか……!!」

「……ヴァルゴはレイマが作ったのか?」

 

 レイマが宇宙人だということは知っている。

 口ぶりからしてその星将序列と関わっているのも察した。

 

「説明していなかったな。コスモのレグルス、サニーのヴァルゴ、どちらも私の作品だ。……最後は自ら手放すことになってしまったがな」

「へぇ、それじゃあ、プロトはスーツ的には末っ子みたいなものなんだな」

『私が一番古くて強い』

『ガウ』

 

 いや、それは知らなかったけれども。

 なぜかシロまでもが反応した。

 

「は、話を最初に戻す。その六位についてだが……」

「今のところは何かしてくる気配はない、が……用心はしておいた方がいい。レイマ、このことはまだアルファには秘密にしてくれないか?」

「しかし、アズが認識改編を持っているとすれば、それに対応できるのもアルファだけではないか?」

「今のところはまだ何かしてはこないはずだ。それに……」

 

 アズとアルファは会わせていけない気がする。

 なによりアズはアルファのことには興味を抱いていない。

 ……あいつは精神的にはまだ子供みたいなところがあるからな……。

 

「……君にも考えがあるのだろう。ならばアルファにはまだ黙っておく」

「ありがとう」

「礼には及ばんさ。……これまではアルファがこの星のアルファ個体だと思っていたが……まさか母親が生きているというのなら、彼女はいったいなんなんだ……?」

「正確には、親子じゃなくて力を分けた分身のようなものらしい」

 

 アルファと同じ力を持っているという点は同じ。

 まだまだ謎が多い奴だが……また現れない限り、新しい情報は出ないだろう。

 

「新藤さんの店ってどうなるんだ?」

「……君の話を聞く限り、新藤氏も我々にとって重要な人物に違いない。白川君、君、グリーン、そして敵対しているはずの星将序列が関わっているとなれば……彼の安全のためにも、こちらの目の届く場所にいてもらった方がいい」

 

 俺としてもかなり世話になっている人だ。

 正体を知っても尚、白川克樹としての俺を雇ってくれたことは本当に感謝してもしきれない。

 

「君の正体が明かされた後は、新藤氏の店にも影響があってな。一時はアルファが認識改編でなんとかしていたようだがそれにも限度がある。……姉なる者は一人で十分だからな

「ん?」

「んんッ!! いや、なんでもない。ともかく、彼の身の安全と店については任せてくれ」

「ああ、レイマなら安心して任せられるな」

 

 新藤さんの店が壊されてサニーがどう動くのか予想できない。

 

「そういえば、記憶が戻ってから話すのはかなり久しぶりだな」

「うむ。最後に話したのは……セイヴァーズの襲撃以前だったはずだ。随分と時間がかかってしまったよ」

「……ああ」

 

 それから記憶喪失になった。

 レイマもそうだが、アカネ達にも心配をかけてしまった。

 

「本音を言うなら、白川克樹としての日常は悪くはなかった。ハクアが俺を弟だと吹き込んだことについては……まあ、あいつの身の上話と合わせて聞いたから、気にしてない」

 

 ルインが地球に現れて落ち着いた時に、改めてハクア本人から事情を聴いたのだ。

 彼女はアルファの妹に近い存在で、無意識に家族というものを求めていたから俺を弟にした、と。

 

『出来心だったんです』

『出来心で俺を弟にしたのかハクア姉さん』

『ひんっ』

『おう、どうしたハクア姉さん。顔が赤いぞ』

『あ、え、そのっ……』

『そういえば私生活ダメダメすぎて大変だったぞハクア姉さん』

『せ、責められてるぅ……!?』

 

 と、挙動不審になりながらスライムのように震えるハクアをからかいはしたけども。

 だがその時になってようやく、あの時の———彼女となし崩し的に映画を見たときの言葉を理解することができた。

 探していた姉がアルファで、自分がクローンのような存在だったってことを。

 

「記憶を失ったことはルインの企てであろうとも、君と白川君の関係は奴が想定していなかったことだろうな」

「利用はされただろうけどな。あいつ、結構な頻度で俺に話しかけてきたからなぁ」

 

 本当、お節介なくらいに日常的に話しかけてきやがって。

 信用する俺も俺だが、なにがどうしてそこまでしてくるのか理解不能だ。

 

「今は大丈夫なのだな?」

「ああ。記憶を取り戻した時点で、俺と奴のつながりは切られてる。……いや、ルインが自分から切ったというべきか」

 

 お守りはもう終わったか、それとも戦う上でフェアでやろうとしてんのか分からねぇが今度は絶対に勝つ。

 二度も虚仮にされた借りはきっちりと返さなくちゃな。

 

「アカネ達に大分心配をかけちまったな。なにか詫びでもできればいいんだが……」

「気持ちだけでいいんだ」

「いや、でも……」

「気持ちだけでいいんだ、カツミ君。なにより君の身の安全のために……!!」

 

 迫真の表情で言われてしまった。

 なぜここで俺の身の安全が脅かされるんだ?

 

「……カツミ君、君に相談があるのだが、構わないかな?」

 

 ん? レイマが相談?

 少し意外にも思えてしまうが、外ならぬ彼の頼みだ。

 

「ああ、全然かまわないぞ?」

「感謝する。まず質問だが……君は、エナジーコアの声が聞こえるのか?」

 

 エナジーコアの声?

 ……思い当たる節はあるが、俺の場合は声というより……。

 

「声じゃなくて感情……だと思う」

「ふむ?」

「俺もよく分かんねぇけど、時折敵とかエナジーコア……まあ、プロトとシロの気持ちが分かる時がよくあるんだ」

「完全適合者故の能力か、相手がアルファに限定したものかは定かではないが……。君ならば、サジタリウスの感情が分かるかもしれないな」

「サジタリウス?」

 

 初めて聞く言葉に首を傾げると、おもむろに立ち上がったレイマが研究室の奥へと続く扉を開く。

 彼に促されてついていくと、その研究室には金色のスマホ? のようなアイテムと、円形のポッドのようなものにいれられた金色のスーツが置かれていた。

 スーツはまだ未完成なのか、いくつものプラグに繋がれている。

 

「確かこれは……俺が記憶を取り戻した時に敵が着てた……やつだよな?」

「ああ。私が星将序列だった頃に着用していたスーツ、タイプ・サジタリウス。今はジャスティスクルセイダーの強化装備の補助・制御、そして司令塔を担う“ジャスティスゴールド”だ」

「レイマも戦うのか!?」

「私もいつまでも司令室に引きこもっている場合ではなくなったからな」

 

 彼自身も戦うことに驚く。

 

「といっても、過去に受けた古傷のせいで直接的な戦闘は困難なので、あくまでサポートに特化しているだけだ」

「そういうことか。……で、相談ってのはなんだ?」

 

 するとレイマが室内のPCを操作すると、ポッドのカバーが開き金色のスーツが露になる。

 近くで見るとなにやら波打つように動いている。

 

「カツミ君、君はサジタリウスが私に対してどのような感情を抱いているか調べてくれないか?」

「どうしてだ?」

 

 不可思議な相談に首を傾げる。

 

「君も知っての通り、最近までサジタリウスは敵方に渡っていた代物。当然、スーツに搭載されているエナジーコアにもプロトやシロと同じ独自の意思があるのだが……」

 

 おもむろにレイマがスーツを指先で触れる。

 するとスーツを構成している粒子が彼の指へと這い上がるように上っていく。

 すぐに手を引いたことで、粒子は彼から離れるがその表情からは若干の焦りがうかがえる。

 

「私に対して害意を持っている可能性があるのだ」

『この子に何かしたの?』

 

 腕に巻いているプロトがそんな質問を投げかける。

 

「……組織を抜ける前に、ガウスにスーツを盗まれてな。これ以上星を滅ぼすためのスーツが量産されないように……スーツごと奴のラボを爆破したのだ」

『それって嫌われて当然じゃないの?』

「ぐぅ……!? 仕方がなかったとは言わんッ!!」

 

 すると何を思ったのか突然床に仰向けになるレイマ。

 彼の突然の行動に驚く。

 

「い、いや、なにやってんだよ! レイマ!!」

「サジタリウスが私に対して憎悪を募らせているのならばッ!! カツミ君!! 君が私にスーツを被せろ!!」

「意味が分からないんだが!? 死ぬ気か!?」

 

 行動が極端すぎてなにがしたいのか分からん!!

 さすがにそんな危険なことしないし、させないからな!?

 

「この命が欲しいというならくれてやる!! しかし、それはこの戦いが終わった後だ!! 私にはまだやらなければならないことがあるのだァ!!」

『大人が五体投地でばたばたしてる』

ガオ(うわ)ガオォ(キモい)

 

 レイマ、そこまでの覚悟が……!?

 

「……分かった。このスーツの感情を調べればいいんだな」

「頼む……!!」

 

 自分からエナジーコアの感情を感じるだなんてしたことはないが、友達がここまで思い悩んでいるなら協力しない選択肢はない。

 金色のスーツへと向き合い、意識を集中させる。

 

『カツミ、本当にやるの?』

「ああ、これもレイマの、ひいてはアカネ達のためにもなるからな」

 

 ジッと、スーツを見つめていると、なんとなくエナジーコアから感情の波のようなものが伝わってくる。

 それは言葉で言い表せないような、漠然とした感覚。

 ヴァルゴを見て感じたのが燃え滾るような怒りだとすれば……このサジタリウスは……寂しさ?

 熱に浮かされたようなうわついた感情と、胸にぽっかりと空いたような悲しみ。

 ん?

 んんん?

 

「……レイマ、とりあえず立ってくれ」

「え、はい」

 

 とりあえず、このエナジーコアがどのような感情を持っているかはなんとなく分かった。

 きょとん、とした様子で立ち上がったレイマを見る。

 

「こいつは別にレイマのこと憎んでなんかいないぞ」

「エッ」

「むしろ寂しがってる。手に引っ付いたのも早く、あんたに変身してもらいたかったからじゃないのか?」

「そ、そうなのか? 勢いに鬼気迫ったものがあるからてっきり恨まれているものだと……」

 

 ……。

 まあ、危険がないのは分かるし。

 俺は金色のスーツに右の掌を押し付ける。

 

「カツミ君!?」

『カツミ!?』

 

 スーツを構成する粒子が手首まで登り止まる。

 そこで左手のチェンジャーを近づけ、プロトに話しかける。

 

「プロト、こいつの声を変換することってできるか?」

『え、で、できるけど』

「声さえ伝われば、安心するだろ?」

 

 プロトを介してサジタリウスの声をレイマに伝える。

 きっと色々と言いたいこともあるだろうし、ここでわだかまりを解消すればいい。

 十秒ほどして、チェンジャーから発せられるプロトの音声にノイズが走り、次第にその声も変わっていく。

 

『ゴール、ディ』

「サジタリウス……」

 

 それはどこか大人っぽさのある女性の声。

 地球ではなく、宇宙での彼の名を呟いたサジタリウスに、レイマも呆気にとられた声を漏らす。

 

「これまですまなか———」

ゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディゴールディ……スキ

 

 ブツッ、と電話が落ちるように声が切れる。

 

「「……」」

 

 研究室は重々しい沈黙が支配したままだった。

 確かに、嫌ってはなかったな。うん。

 プロトもシロも気まずそうにしているあたり、サジタリウスは相当な状態にあるのは分かる。

 とりあえず、粒子から手を離しながらレイマへと振り返る。

 

「よ、よかったじゃないか。レイマ、嫌われてなくて」

「カツミ君」

「これでスーツも無事に着れるな。じゃ、俺はそろそろアカネと葵の決着を確認しにいかなくちゃ———」

「カツミくぅん!」

 

 流れるように研究室を後にしようとすると、がしりと手を掴まれる。

 

「無理だ、他を当たってくれ……!」

「助けてくれ……!」

「すまんッ!!」

「カツミくん!?」

 

 鈍い俺でも分かる。

 これはマジものだと。

 そもそも話が通じる気がしない。

 レイマの制止の声をスルーし、そのまま研究室から出る。

 

『気持ちは分からないこともないかも』

「サジタリウスのか?」

『ウン。巡り合った適合者に変身してもらえないのは、悲しいことだから』

 

 ……そういうものなのか。

 

「プロトはシロやレオ、ヴァルゴみたいにメカ動物みたいな姿にしてもらわなくていいのか?」

『ガオ!』

 

 ふと、気になったことを尋ねてみる。

 他の意思のあるエナジーコアと違ってプロトは依然としてチェンジャーのままだから不自由じゃないのか?

 

『そんな機能必要としてないし、いらない』

「いらないのか?」

『このままの方が、いつもカツミの傍にいれるし』

『ガオ!!?』

 

 確かに、腕につけていればいつでも変身できるってことだからな。

 いざという時に変身できないってことにもならないし、なんならこのチェンジャーそのものが多機能なので日常的にも便利だ。

 ……さて、と。

 

「そろそろ決着がついている頃だと思うんだが……」

 

 正直、きららの家に住むことにも申し訳ないという意味で抵抗があったんだがなぁ。

 俺のボロアパートはあの状況だし、今回は彼女たちの世話になるしかないか……。

 そこまで考え、彼女たちが勝負を行っている部屋の扉を開く。

 

「な、なんだと……!? このブルーがシザリガーごときに負けるだとぉ……!?」

「いちげきひっさつ!!」

「うああああ!?」

 

 アカネに指を突き付けられ崩れ落ちる葵の姿が視界に映り込む。

 なにやってんだこいつら。

 きららもコスモも呆れた様子で見ているし……。

 

「赤い鋏のギロチンブラッド、その名はシザリガーアカネ……!?」

「プロレスラーみたいな変な異名つけないでくれるかな!?」

 

 どうやら最初はアカネの家の世話になるようだ。

 なにが起こっているのかちっともよく分からないけれども。

 

「カツミ君っ、最初はうちに決まったよ!!」

「本当にいいのか? 親御さんに相談しなくても」

「……」

「おい、まさか伝え忘れたなんてことはないよな?」

「し、心配ご無用だよ……お姉ちゃん達も許してくれるはず……」

 

 いや待て、“達”?

 達ってことはきららと同じように姉妹がいるのか?

 こいつの言う一般家庭とやらも気になるが、なんだか嫌な予感がするのだが?




アカネのシザリガーは主人公補正でハサミギロチンを当ててきます(理不尽)
最初は葵ではなくアカネの家に決まりました。
家は一般家庭でもその家族は……

次回『黒騎士くん、一般家庭を知る』

次話は明日の18時頃に更新する予定です。



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黒騎士くん、一般家庭を知る

二日目、二話目の更新となります。



 アカネが家族に連絡をとったところ、普通にOKがもらえてしまったらしい。

 割とあっさりと許可をもらったことにただただ疑問に思いながら、俺はまとめた荷物を持って仮拠点を出ることになった。

 

「なあ、アカネ。お前ん家、本当に一般家庭なのか?」

「そうだよ? お父さんが会社勤めで、お母さんが主婦。一番上のお姉ちゃんは美容師、その次のお姉ちゃんが大学生で、その下が私なの」

「……本当か? 一子相伝の暗殺剣とか継承してないよな?」

「私のことなんだと思ってるのかなぁ!!」

 

 ぷんぷん、と憤慨するアカネ。

 

「いや、だってお前、戦う度に刃物の扱いが上達していくじゃん。覚えてるか? オメガ倒した後の俺との戦い。お前、なにかに開眼したと思ったら俺のスーツ普通に切り裂いたんだからな?」

 

 マグマ怪人の攻撃にさえも耐えたスーツに切れ込みを入れられた時は冷や汗なんてものじゃなかったぞ。

 

「あの時はカツミ君も本気だったじゃん」

「そういう計画だったからな」

 

 アルファを狙う何かがいる。

 その存在を知った時、俺は怪人以外の脅威を知った。

 相手がなんなのか、どれほどの規模なのか一切分からないまま状況が動いていってしまったので、アルファを守るためにも一芝居打とうと考えたのだ。

 

「素直に助けを求めてくれれば、助けたのに……」

「お前らは信用できても、組織そのものは信用できねぇだろ。結果的にはそうした方がよかったが……アルファの力は強すぎるからな」

 

 アルファは精神面が子供っぽいが、善良なのはすぐに分かった。

 だけど彼女の能力が悪用されるようなことがあれば、大変なことになるのは予測できたので、彼女のことをバラさずに匿ってもらおうとした……のが、アルファにだけ伝えた表の計画だった。

 

「あの時の俺は……まあ、バカだったのは認める」

「自爆しようとしたこと?」

「ああ。アルファのことを知ってんのは、オメガを除いて俺しかいないからな。俺さえいなくなれば、アルファを見つけられなくなる……そう思い込んでいたんだ」

 

 俺が目をつけられたから、アルファの存在がバレた。

 オメガが倒され、その上ジャスティスクルセイダーっていう頼れる正義の味方がいるなら俺も必要ない。

 

「そのために追いつめられる必要があったが、お前らなら俺を倒せるって信じていたんだ」

「……そういう信頼は全然嬉しくないよ。私たちがどんな気持ちで君を攻撃していたことか……それに、自爆もしようとしてたし……」

「お前らを人殺しにするわけにはいかねぇだろ。……葵に止められちまったけど」

 

 今思い出してもあれ本当に理系の知識で解除したのか謎だ。

 すっげぇあっさり解かれて普通にびっくりしたんだからな、マジで。

 

「あのさ」

「ん?」

 

 ずいぃ! と立ち止まったアカネが勢いよくこちらへ詰め寄ってくる。

 端正な顔立ちと据わったその瞳に慄いてしまうと、やや低い声で彼女が声を発した。

 

「もう! 絶対!! 金輪際!! 自分の命を投げ出すような真似はしないでね!!」

「……おう」

「返事が小さい!! 帰りを待つ側って本当に辛いんだからねっ!!」

「分かったって……」

 

 ものすごい気迫に頷かされる。

 それで満足したのか、ホッと一息ついた彼女はまた道を歩き始める。

 

「あそこが私の家」

「……普通だな」

 

 住宅街にある普通の家。

 それがアカネの家であった。

 正直剣術道場みたいな場所を想像していたが、逆に驚きだ。

 

「じゃ、じゃあ、中にどうぞ」

 

 玄関を開けて中に入るように促してくるアカネに頷く。

 他人の家に入ることに相変わらず慣れていない身としては、どういう身の振り方をしていいか分からないが……とりあえず、失礼なことをしないように心がけよう。

 

「ワンッ!!」

「ん?」

 

 すると家の奥から白い毛に包まれた犬が走り寄ってくる。

 そいつは俺の足までに近づいてくると、人懐っこい目でこちらを見上げる。

 

「アカネ、この犬は?」

「その子はキナコ」

「きな粉……?」

 

 なんだか綿あめみたいな丸っこい犬なのに、名前がきな粉……?

 白いふわふわとした毛並みの中型犬……だと思うが、見たことのない犬種だな。

 いや、犬について詳しいわけじゃないけれども。

 

「サモエドっていう犬種なんだよー。かわいいでしょ?」

「わんっ!」

 

 頭を撫でてほしそうにしているので、試しに撫でてみると尻尾を揺らしながら、ごろんとお腹を見せてくる。

 どうやら撫でてほしいようだ。

 

「大丈夫かこいつ? 見ず知らずの他人にこんな無警戒ってやばいだろ」

「あはは……その子、基本的に誰に対してもそんな感じだから……」

 

 野生を忘れてやしないか?

 もう対応が初対面の人間にする犬の反応じゃないんだが。

 

「アカネ、帰ってきたのか?」

「!」

 

 キナコに気を取られていると家の奥から一人の女性が出てくる。

 アカネの母親だろうか?

 なんとなく、面影があるのが分かる。

 

「ただいま。お姉ちゃん達は?」

「もうすぐ帰ってくる。それより……」

 

 アカネの母親の視線がこちらへ向けられる。

 

「君がカツミ君か。君のことは……まあ、よく知っている」

 

 そりゃそうか。

 あんだけテレビで放映されればな。

 

「突然、申し訳ありません」

「いや、別に構わない。部屋も空いていることだしな。……私は朱音の母、新坂紫音(しおん)だ」

 

 ジッと顔を見られる。

 赤に近い紫色の髪のアカネの母親は、奇妙な沈黙の後に頷く。

 その沈黙にどうしていいか分からず気まずくなっていると、おもむろに俺の頭に紫音さんの手がのせられる。

 

「背が高いな」

「は、はぁ……」

「うちには騒がしい娘しかいないから少し新鮮だ」

「お母さん、騒がしいって加える必要ある……?」

 

 声を震わせたアカネの指摘に、しかめっ面にも見える表情を変えずにシオンさんはこちらに視線を戻す。

 

「嫌いな食べ物とかあるか?」

「いえ、特には……」

「そうか。もうすぐ夕飯ができる。ソファーにでも座ってゆっくりするといい」

「は、はい……?」

 

 軽くそう言い放ったシオンさんはそのままキッチンへと向かっていく。

 アカネに案内された先の洗面台で手を洗った後に、リビングへと案内されながら俺はアカネに先ほどの母親の反応について聞いてみることにした。

 

「……な、なぜ頭を撫でられたんだ……?」

「多分、緊張して自分でも意味の分からないことをしちゃったんだと思う」

「……なるほど、母親譲りか」

「ねえ、それどういう意味? カツミ君?」

 

 空回りするところとか。

 

「しかし、普通の家だな」

「それ何度目……?」

「実は地下に秘密の剣術道場とかは?」

「怒るよ?」

 

 冗談はともかくとして、きららの家とは違った意味で普通の一般家庭なんだなと思う。

 俺にとっては以前の家族の記憶なんてほぼ覚えてなんかはいないが……ほんの少しだけ懐かしい気持ちにはなった。

 

「「ただいまー」」

 

 すると玄関の方から二人分の声が聞こえる。

 

「チセと途中で会ったから一緒に帰ってきた……よ?」

「母さん、夕飯なに? お腹空い……た?」

 

 出てきたのはアカネに似た二人の女性。

 背の高い一人はウェーブのかかった髪で、もう一人が肩ほどまでに揃えた髪だ。

 そのどちらにも共通するのが、アカネと同じような赤みがかった黒髪というところだろうか。

 その二人の視線はリビングのソファーに座っている俺へと向けられる。

 い、いかん、ここは挨拶をしなければ……。

 

「お邪魔してます。妹さんの厚意でこの家に泊まらせていただくことになった穂村です」

「「……」」

 

 ……む、無反応……?

 まさかの反応に何かやらかしてしまったと心配になっていると、姉と思われる二人の女性は俺の隣のソファーに座っているアカネに近づく。

 

「穂村君」

「ちょっとこの愚妹、借りるね」

「え? なに? お姉ちゃん?」

 

 両脇を挟み込むように持ち上げられたアカネはそのまま部屋の角へと連行される。

 

『アカネ、人を攫って来るのはあれほど駄目だって言ったのに……』

『大丈夫。お姉ちゃんは貴女の味方だから。だから、その子を連れてきた催眠術を教えてくれないかな?』

『今、初めて姉妹の縁を斬りたいと思った』

 

 なにか話しているようだ。

 いきなり家に黒騎士である俺がいて驚いているのか?

 

『え、例の彼じゃん……!! 黒騎士くんじゃん!!』

『テレビと全然違う……!! いきなり一人にされてそわそわしてる!!』

『お願いだから変なことしないでよ!? 本当にそういうことやめてよ!?』

 

 ……姉妹同士の会話だし、聞き耳を立てない方がいいか。

 

『仕事から帰ったら家に弟がいた件』

『もしかしてあの子、私の弟なのでは? 私のじゃ……』

『身内の恥を見られる前に、殴って気絶させておくべきかな……!!』

 

 その間に膝によじ登ってきたキナコを撫でて暇をつぶす。

 ……いや、こいつ本当に外の世界で生きていけるか怪しいくらいに野生を忘れているんだが。

 

「ガオ!」

「わんっ」

 

 なにやら対抗心を抱いたシロが体当たりをキナコに繰り出すが、それは真っ白い毛並みに、ぽよーん、と跳ね返される。

 このわたあめ、驚くべき弾力性である。

 

「こら、喧嘩するな」

「ガウ……!」

「くーん」

 

 シロを止めていると、話が終わったのかアカネと共に彼女の姉二人がやってくる。

 

「はじめまして。私、新坂家の長女の紅桃(くるみ)。色の紅に、果物の桃って書いて紅桃ね。覚えてくれると嬉しいなっ」

「私は次女の椿赤(ちせ)。よろしくねー。ホムラくん、背おっきいねー」

「ほ、穂村克己、です……」

 

 有無を言わずに俺の両隣に座る二人に引き気味に答える。

 な、なんだこのきららの家で体験することのなかったアウェー感は。

 妙なプレッシャーのせいで逃げられん……!?

 

「おい喪女共。カツミ君に絡むのはやめろ」

「「娘に向かって喪女とはなんだぁぁぁぁ!!」」

 

 台所で夕食の準備をしていたアカネの母親の声に、二人は人が変わったように怒鳴る。

 どうやらこちらが素のようだ。

 

「男の影もなく、週末は同僚と飲みに出かけ、休日は昼まで惰眠を貪る。そんなお前たちの世話をしている私の身にもなってみろ。まったく……」

「……そうなんですか?」

「「がはっ」」

 

 純粋に疑問に思ったので尋ねてみると、クルミさんとチセさんは胸を押さえてソファーから崩れ落ちる。

 いや、別にそれが悪いとは思わないけれども。

 

「いいか? アカネがいくらテレビで人斬りとしての醜態を見せようとも結果が全てなんだ」

「ねえ、お母さん。今さらっと私のこと人斬り呼ばわりしなかった?」

 

 アカネのツッコミをさらりとスルーしながら、さらに言葉を続ける。

 

「今日この子は、魔法か催眠術を使って彼をここに連れてきた。その意味が分からないほど、お前たちはバカじゃないだろう?」

「「……くっ」」

「どうしてそこで私が外法以外の方法でカツミ君を連れてきたって結論にならないのかな……? どれだけ娘への信用がないのかな?」

 

 フッ、と笑みをこぼした彼女は洗った手を拭った後にアカネの肩に手を置き———優し気な笑みを浮かべる。

 

「信用しているぞ、アカネ。そしてクルミ、チセも……お前達は私の娘だからな。同性にはモテるが、男運が無いというのも私譲りだ」

「控え目に言っても美人の私がモテないのは血筋のせいだっていうの!?」

「最早、呪いだよねソレ!?」

「生まれた日からとんでもない呪い受けているんだけど私!?」

 

 三姉妹の総ツッコミにシオンさんは感慨深そうに明後日の方を向く。

 賑やかだなぁ。

 

「私も、あの人を獲得するまでとても苦労した」

「お父さんをトロフィーみたいに言うのやめない……?」

 

 中々に凄まじい会話をしている。

 もしかすると、これが一般家庭の……ひいて普通の家族としての姿なのか?

 正直に言うと、俺の家族としての記憶はほぼ覚えていないものということに加え、テレビやネットともほぼほぼ無縁の生活を送っていたので、普通の家族というものの定義がいまいちよく分かっていない。

 この前にきららの家族を見てきたが、中々変わった印象を受けた。

 

「でも……」

 

 今、アカネの家族を見ればもしかするとこれが普通なのでは……?

 こういうやり取りをすること自体自然なことだった……?

 

「ごめん、カツミ君。お姉ちゃん達が変な絡み方して」

「楽しい家族だな。……これが、一般家庭なんだな……」

「……いや違うからね? とんでもない勘違いしてるけど違うからね? ……カツミ君!?」

 

 皆まで言うな。

 他ならぬお前が一般家庭と言ったんだ。

 これで、葵の家が同じような感じだったなら——俺は世の一般家庭の定義をようやく学ぶことができると同義だろう。




明坂家の残念三姉妹でした。
唯一の癒しはキナコのみ……。

今回の更新は以上となります。
次回の更新をお楽しみに……!!


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緑の騎士は何者だ?(掲示板回)

今回は掲示板回となります。

※掲示板部分の後に、後々使うことになるかもしれないフォント・特殊効果のテストを行います。

うまく反映できるかの確認のようなものです。
ご指摘があればすぐさま対応させていただきます<(_ _)>


311:ヒーローと名無しさん

 

黒 騎 士 く ん

緑 の 戦 士 と 相 乗 り

 

312:ヒーローと名無しさん

 

未だにバイクに乗る必要があるのかとしか思わなかったわ

 

313:ヒーローと名無しさん

 

緑の戦士って誰?

ジャスティスクルセイダーにいたっけ?

 

314:ヒーローと名無しさん

 

5人目の戦士がついに

 

315:ヒーローと名無しさん

 

今のところネットに挙げられた情報だけしかないが

侵略者側にいた青い色の戦士が星界戦隊と仲間割れ? ……した後にまた変身したら緑色の戦士になって星界戦隊を倒してたらしい。

 

ちなみに記憶を失った黒騎士君が住んでたところの近くで事件が起こってたからその関係だって考察されとる。

 

316:ヒーローと名無しさん

 

仲間割れ?

 

317:ヒーローと名無しさん

 

バイクに相乗り?

は? なにそれ羨ましい

 

318:ヒーローと名無しさん

 

許さん……許さんぞ……ブルー

 

319:ヒーローと名無しさん

>318

私!?

 

320:ヒーローと名無しさん

 

敵とか味方とか考える必要ないやん

黒騎士君のバイクに相乗りする時点で我らの敵ぞ

 

321:ヒーローと名無しさん

 

存在しない姉疑惑から姉なるものが発生。

それに影響されるかのように世話を焼きたい妹派閥が名乗りを上げ

現在進行形で記憶を捏造し、コピペ量産を繰り返す存在しない幼馴染派閥の三竦みがこの短期間で出たときは正気を疑ったぜ……。

 

322:ヒーローと名無しさん

 

地獄みたいな三竦みでワロタ

 

323:ヒーローと名無しさん

 

メンタル激つよな黒騎士君がSAN値直葬しかねないやべぇ奴らの話をするんじゃない……!!

 

324:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君「おいたわしや姉上……」(ドン引き)

 

325:ヒーローと名無しさん

 

ジオウでゴーストが三人そろった時みたいだァ……

 

326:ヒーローと名無しさん

>325

それ本物いねーじゃん!!

 

327:ヒーローと名無しさん

 

現在進行形で続々と新勢力が現れてきてんの怖い……

 

328:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの属性が多方面にぶっ刺さりなのが悪い

 

329:ヒーローと名無しさん

 

敵側の戦士が地球に寝返ったとか。

でもあの青い戦士って白騎士君殺す気満々だったけど

 

330:ヒーローと名無しさん

 

すげぇメンヘラこじらせてたよな

 

331:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの周りそんなのばっかやん

むしろまともな奴の方が少ないぞ

 

332:ヒーローと名無しさん

 

カツミ君の周りヤンデレとメンヘラと変人しかいねぇ!!

逆に普通過ぎるイエローが悪目立ちしてる!!

 

333:ヒーローと名無しさん

 

やっぱり黒騎士くんに相応しいのはわた……一般家庭生まれの赤くて可愛いヒーローだよね!

 

334:ヒーローと名無しさん

 

お前のような一般家庭がいるか

 

335:ヒーローと名無しさん

 

(血で)赤くて(怪人が)可愛い(く見える)ヒーロー。

 

336:ヒーローと名無しさん

 

おはブラッド

 

337:ヒーローと名無しさん

 

お前は黒騎士くんへの想いが重すぎる

 

338:ヒーローと名無しさん

 

あ! ナチュラルに威圧に対応してルインをストーカー呼ばわりしながら斬りかかったやべーやつだ!!

 

339:ヒーローと名無しさん

 

やってることは健気系ヒロインなのに惨殺マシーンじみたチミドロ異次元斬撃が全てを台無しにしてるのが草

 

340:ヒーローと名無しさん

 

お前戦闘力高すぎなんだよ!

地球守ってくれてありがとうな!!

 

341:ヒーローと名無しさん

 

ある意味で黒騎士くんと双璧を成してるしな……。

黒騎士君も割と得体が知れないけど、レッドも相当得体が知れない感があるわ。

 

342:ヒーローと名無しさん

 

考察班の見解を引用すると

青い戦士はルインを信奉していた。

ルインの興味は黒騎士にしかなかったから、丁度いい強さの青騎士を当て馬にして成長を促そうとしていた。

結果、成長したから自爆させて始末しようとしたが、それは白騎士によって止められた。

 

その呪縛もなくなった。

それかルインへの信仰心を失った青騎士は緑騎士となって地球人側についた。

 

343:ヒーローと名無しさん

 

じゃあ蝙蝠野郎じゃん?

 

344:ヒーローと名無しさん

 

考察はあくまで考察。

事実でもないし、決めつけはよくない。

 

345:ヒーローと名無しさん

 

考察班は

『黒騎士君、怪人説!!』

『ナメクジ怪人、ナマコ説!!』

『白騎士ちゃんの正体は白騎士君TSが最有力説!!』

 

とかいうポンコツ考察するからいまいち信用できん。

どれだけ私が白騎士ちゃんに惑わされたことか。

 

346:ヒーローと名無しさん

 

心変わりしただけで黒騎士くんが味方認定するか?

みんな忘れてると思うけど、彼ほぼ初対面のグリッターを能力を使わせる暇すら与えずにボコボコにするくらい警戒心が強いんだぞ?

 

丸くなったとしても根本的な部分は変わってないと思うぞ。

 

347:ヒーローと名無しさん

 

もう動画UPされてて草

ニュースより早いとかどうなってんだよ。

 

348:ヒーローと名無しさん

 

ボクッ子最高やんけ!!

 

349:ヒーローと名無しさん

 

属性盛りすぎィ!!

 

350:ヒーローと名無しさん

 

変身音も武器の音声もうるさすぎて草

近隣に轟く勢いやんけ

 

351:ヒーローと名無しさん

 

シンプルかつ頭の中空っぽになれるライオーンすこ

 

352:ヒーローと名無しさん

 

ギリ顔は映ってないけど緑色の髪って宇宙人感パナイな

 

353:ヒーローと名無しさん

 

正直、緑騎士くんちゃんの新フォームかっこいいわ

キングフォーム感がある。

 

354:ヒーローと名無しさん

 

あの……キングとレグルスってほとんど同じ意味では……?

 

355:ヒーローと名無しさん

 

>354

キング(王)レグルス(王)

つまり王が二つで、二倍偉くて強いということだ(ゆで理論)

 

356:ヒーローと名無しさん

 

敵対していたはずの青騎士が緑騎士になって味方になった話題より、黒騎士くんのバイクに相乗りした件の方で多方面がざわつきを見せてるのが笑う

 

357:ヒーローと名無しさん

 

イエローお姫様抱っこ事件の時はもっと凄かったゾ

黒騎士君完全復活後に写真がリークされて、姉なるもの共が怨嗟の鬼になったからな。

 

358:ヒーローと名無しさん

 

ジャスティスクルセイダー内で波乱が起こったのも想像に難くないのが草なんだよなぁ

 

359:ヒーローと名無しさん

 

今、黒騎士くんってどこに住んでんの?

 

360:ヒーローと名無しさん

 

ランキング争いが激しすぎだろ

イエローが下位と上位をいったりきたりしてるぞ

 

361:ヒーローと名無しさん

 

アパートは見張られてる。

保護されてた本部は半壊。

順当に考えて社長の保護下にいるんじゃないか?

あの人……人? 変人だけど人格者だしそこらへんはしっかりしてると思う

 

362:ヒーローと名無しさん

 

存在しない姉がいるんだからその人と一緒に住んでるのでは?

 

363:ヒーローと名無しさん

 

存在しない姉……?

つまり我の家に黒騎士くんがいる……?

 

364:ヒーローと名無しさん

 

私のじゃ……

 

365:ヒーローと名無しさん

 

存在しない姉の発覚で発生した存在しない姉を名乗る異常者共

 

366:ヒーローと名無しさん

 

最早呪霊そのものだろこいつら

 

367:ヒーローと名無しさん

 

ワンチャン、住むところないことをいいことにジャスティスクルセイダーが家に招いている可能性を提言するぜ!

 

368:ヒーローと名無しさん

 

ブラッドの家族はやばそう

イエローの家族はやばそう

ブルーの家族はやばそう

 

結論、全員やべぇ家族

 

369:ヒーローと名無しさん

 

それはないだろ……とは言えないのがジャスティスクルセイダー。

いい意味でも悪い意味でも俺たちの予想をぶっちぎってくるのが彼女たちだもんな……。

 

370:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの妹がなんも反応してないから、ブルーの家には来てないぞ

 

371:ヒーローと名無しさん

 

少なくともレッドの家は危なさそう

 

372:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの妹がなにか関係あんの?

てかなんでブルーの妹?

 

373:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの妹はVtuberだからや

配信で定期的にブルーにボコボコにされて泣かされてる。

重度の黒騎士くんオタなのでもし姉が連れてきたら喜びのあまり発狂する。

 

374:ヒーローと名無しさん

 

あの子ブルーの妹とは思えないくらい感情の揺れ幅が凄いんだよなぁ

 

375:ヒーローと名無しさん

 

妹ちゃんVSブルーのポケモンバトルは神回

ブルーがメロメロ搭載型くろきしくんヤミラミで精神攻撃仕掛けてくるあたり流石だわ

 

376:ヒーローと名無しさん

 

身元とか大丈夫なのそれ?

妹から姉のブルーの正体かぎつけるやつとか出そう

 

377:ヒーローと名無しさん

 

スポンサーがKANEZAKIコーポレーションもとい社長なので全く問題ない。

あの宇宙人、特殊能力なしの敏腕で多方面に事業拡大してんのがやべーんだ。

 

378:ヒーローと名無しさん

 

社長とてつもなく有能な分、変人なのすこ

流石はランキング5位圏内や

 

379:ヒーローと名無しさん

 

社長がヒロイン扱いされてんの何度見ても笑うわ

 

380:ヒーローと名無しさん

 

ヒロインじゃなくて良心なんだよなぁ

 

 



 

※以降、後々使うかもしれないフォント・特殊効果のテストとなります。

この部分を含めてあとがきと思っていただければ幸いです。

 

こんばんわー

こんばんわー

こんわんわー^

待ってました

ばんわー

まだかな……

ゴールディゴールディゴールディ……

ワクワク^^

すたんばーい

あと5分!!

こんばんわ

地球の危機でも配信しろ

今日は寒かったですね!!

楽しみ!!

ばんわー!!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

    0:14/XX:XX
 
     
♯テスト

追加戦士になりたくない黒騎士君

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こんな感じにシークバーも再現したかった……

ブルーを一人っ子にしようとしましたが妹を増やしました(!?)
テスト部分については機会があれば活用していきたいと思います。




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夢の中のアルファ

LINE形式を最初に作った人すごすぎる
仕組みを理解するのに結構な時間をかけました。

お待たせしました。
今回はアカネ視点です。


 最初に変身した時の私はとても弱かった。

 自分を助けてくれたカツミ君、黒騎士への憧れと、怪人の危険に晒されている人たちを助けたいという一心でジャスティスクルセイダーのレッドとなり、戦いに身を投じた。

 それでも怪人は強く、毎回ギリギリの戦いの連続だった。

 

「ハッ!!」

 

 真っ黒な空間に銀閃が走る。

 宇宙を思わせる際限のない空間で、私は生身のまま赤熱する剣を構えながら眼前の女剣士(・・・)へと一心不乱に向かっていく。

 腰にまで届くほどの艶のある黒髪に赤い紅葉模様で彩られた着物。

 袖で刀を持つ手元を隠すように構えた彼女は、ゆるやかな挙動から流れるようにこちらへ肉薄してくる。

 

「剣が乱れている」

「……!」

 

 私以上の技量で繰り出される刀の振り下ろしをギリギリで回避。

 身を起こすと同時に私も剣を強く握りしめ、接近と同時に連撃を見舞う彼女に剣を合わせ迎え撃つ。

 連続してつんざくような金属音が響き、服の袖が浅く切り裂かれてしまう。

 

「回避がおざなりだ。もっと動け」

「くぅっ」

 

 かぁん! と、鍔に近い刃に刀の切っ先がぶつかり甲高い音を響かせる。

 ッ、いや、これで終わりじゃない!!

 

「気を張れ、ちと技を繰り出すぞ」

 

 これは防がなきゃまた(・・)バラバラにされる!?

 意識を集中し、ほぼ同時に繰り出される七連撃をなんとか捌く。

 

「ッ、ふぅ!!」

 

 七つ目の斬撃を防ぎ、後ろに弾かれながら地面に剣を突き刺し足を止める。

 大きく空気を吸い、自身の五体があることを確認ン……ッ!?

 

「この斬撃、覚えたか?」

「ちょ、師匠! きゅ、休憩!!」

「ならん」

 

 息つく暇も与えないとはこのことか……!

 一つも息を乱していない彼女が、凄まじい踏み込みと共に迫る。

 

 ———ッ!? 避けられない!?

 

 眼前で首めがけて振るわれる剣閃。

 回避は無理だが、剣で防げば間に合う。

 しかし、この瞬間に相対する彼女にこちらの刃を届かせる隙が生じる。

 千載一遇の好機か堅実な防御! なら私が選ぶのは……!!

 

「……ッ」

 

 私は、首元にまで迫る刃に左腕(・・)を差し込んだ。

 

「———」

 

 刃が肉を裂く熱を感じても尚、私の心は揺るがない。

 目指すは眼前の敵の首。

 翻した刃を振るい、その首を落とそうとした次の瞬間———それよりも速く私の首は左腕ごと断ち切られ、宙を舞う。

 

「あぱぁ———ッ!?」

「……はぁ。相変わらず、わらわの適合者は猪武者よなぁ」

 

 今度は痛みはない。

 されど、くるくると宙を舞う私の頭をぽすんとキャッチした彼女———私のスーツの動力源であるエナジーコアに宿る“アルファ”。

 今日この日まで私たち、ジャスティスクルセイダーを『夢』という形で鍛えてくれている存在だ。

 

「おう、聞いているのか? アカネ」

「き、聞いてます聞いてます……!」

 

 その手に綺麗な着物と不釣り合いな太刀を緩く握りしめた彼女は呆れたため息と共に首だけになった私と目を合わせた。

 この夢空間の中で生首だけになることはそう珍しいことじゃない。

 というより、割と慣れるくらいにこうなっている。

 

「ぬしはいつになったら学ぶのだろうな。そのような身を削る戦いをするのをやめろ、と」

「え、えへへ、あの朝陽(あさひ)様? いえ、師匠? さ、さっきのは咄嗟に出ちゃって……あの、身体に戻してもらってもいいかな?」

 

 いくら夢でも首だけなのは色々ときついから。

 アサヒ様は私の声をさらっと無視し、掌を軽く翻す。

 瞬間、真っ暗だった空間が、青空と自然に包まれた景色に塗り替えられ、彼女の背後に古めかしい木造の屋敷が出現し———その縁側にゆっくりと腰を下ろした。

 

「いい加減、自らを省みない戦いをするのをやめろ。何度言えば分かる?」

「分かっているけど……」

「いいや、分かってなどいない。自身と敵の首を天秤にかけ、結果的に首を取りに行く阿呆がぬしだ。あれか? ぬしはそんなに首が好きなのか?」

「別に好きじゃないよっ!?」

「おうおう。わらわは分かっているぞ、本当に好きなのは刈り取った首に詰まっている血をじゅるじゅる吸うのが好きなのだろう? この血に飢えた化生めが!

「全然分かってない!?」

 

 ものすごい遊ばれているのが分かる。

 でもこれは何度も何度も夢の中で続けてきたやり取り。

 目覚めた時には全て忘れ、眠りと共に思い出すもの。

 

「ほれ、ころころー」

「わー!? 頭を投げないでー!?」

「まるで蹴鞠のようだ。よく跳ねるし鳴いてもくれる」

 

 はっきりいってこの師匠は性格最悪だ。

 教える力と実力は確かだけど、ドSだし死なない夢空間という理由でバンバン首とか斬ってくる。

 

「わらわはぬしたちの“すーつ”の“こあ”でしかない存在。適合者であるぬしらの願いを叶えるべく、夢という形でぬしを鍛えているのだ。むしろ? 逆に? その頭を地面に埋めるくらいに感謝してほしいくらいだ。ほれほれ」

「身体の方を蹴らないで!! あう!?」

 

 げしげし、と頭を失いあわあわとしている私の身体を足で小突くアサヒ様。

 勿論、衝撃と痛みは伝わってくるし、この師匠は執拗にお尻を蹴りまくるので屈辱でしかない。

 

「どーせ、目覚めれば覚えていないのだから別にいいだろう」

「覚えてなくても屈辱なことには変わらないよ!」

「ぴーちくぱーちくとうるさいのぉ」

 

 この夢の出来事は私もきららも葵も憶えてない。

 でも、ここで戦った経験は無意識に体に刻み込まれ、怪人との戦闘で真価を発揮する。

 ……自覚がないのに強くなっているのが地味に怖いんだけどね。

 

「まったく、お前と言うやつはとことん駄目だな」

「な、なにおう!」

「ようやく意中の男を家に連れてきたと思ったら、日和って普通に寝るなぞ。呆れを通り越して笑えるわ」

 

 ぐ、うぅ。

 多分、今自室で寝ている私とは別の部屋で寝ているカツミ君のことを言っているのだろう。

 急な話ということでお父さんの部屋に敷いた布団で彼は寝ることになったのだが、どうやらアサヒ様はそれが気にいらないようだ。

 

「好いてる男に夜這いもかけられんヘタレが」

「ぐっ……」

「まったく、ようやく好機を掴み取ったというのに。そういう時に怖気づくのがおぬしたちだ。きららもぬしも全く同じヘタレだ、このバカたれ」

 

 ヘタレとバカたれで韻を踏んで罵倒された……!!

 アサヒ様は私達ジャスティスクルセイダー三人のスーツのエナジーコアを共有する存在なので、当然私と葵ときららのことも知っているし、なんなら夢を通して私達の訓練をしてくれている。

 今は葵ときららのスーツには疑似エナジーコアが搭載されているけど、スーツの機能として繋がっていることは変わりない。

 

「この調子では葵も……いや、奴の思考はわらわにも理解できんからな。なにか恐ろしいことをしでかしてもおかしくはないかもしれん」

「葵はいったいなんなの……」

 

 友達ではあるが不思議ちゃんではある。

 妹ちゃんはあんなに分かりやすい性格しているのに。

 

「とにかく、だ」

 

 アサヒ様はまた私の頭を放り投げ、先ほどまで足蹴にしていた私の元の身体に返す。

 とりあえず頭を首にはめ込んだ私を愉快気に見る。

 

「わらわも多少なりとはあの男に興味がある」

「カツミ君に?」

「うむ。本音を言うならば双子のアルファではなく、あちらの適合者になれば今とは別に愉快なことになっていただろうが……」

 

 やっぱりアルファって少なからずカツミ君に興味を向けるのかな?

 私と最初に会った時なんて速攻で撫で斬りにして夢から目覚めさせるくらいに棘のある人だった気がするけど。

 

「ぬしとの違い? 単純にやつが男だからだ」

「俗物的すぎない!?」

 

 なんか、ほら、もっと重要な理由とかじゃないの!?

 

「湿気た煎餅とかすていらどちらがいいと言われたら、普通はかすていらを選ぶだろう? それと同じよ」

「湿気た煎餅扱いなの私達!?」

 

 色々と酷すぎる……!!

 いや、そりゃあ最初から強かったカツミ君と比べたら私達なんて雑魚同然だったんだろうけど。

 地味に落ち込んでいると、アサヒ様が物憂げな顔で膝に肘をつき遠くを見る。

 

「わらわの“おめが”はとんだ疫病神だったからなぁ。存在を知った時には我を忘れて(ぬえ)になんぞ化けよって、どれだけ無辜の民草が食い殺されたことか……」

「そ、そうなんだ……」

「気分はあれだぞ? 見合いにいったら、相手が自分そっちのけで街中で人間食い殺しまくっているようなものだぞ」

「すっごい嫌だねそれ……」

 

 なにそれ悪夢過ぎる……。

 アルファとオメガについて凡そどんな関係にあるか分かってきたけど、大抵は残酷な運命しかないのかな……。

 

「こあとして、この地球に舞い戻ることになったことはわらわにとっては奇縁とも言える。わらわの代から何度、地球という星が白紙化されているのかは知らんが……此度は明らかに違う」

「さらっと地球が一度白紙化されてるって言わなかった?」

「……ぬしは本当に頭があっぱらぱーだな。わらわの名前がえいりあんと同じに見えたのかぁー? 首切りしたい欲求のせいで知能が下がっているのかぁー?」

「ぐぅ」

 

 鞘に納められた刀で頭をぺしぺしと叩かれる。

 お人形さんみたいな顔を愉悦に歪めて猛烈な勢いで煽ってくる彼女に今すぐ剣を抜いて斬りかかりたい衝動に襲われるが、そもそも素の技量で負けているので我慢するしかない。

 

「で、でも一度白紙化されてるなら、文字とか同じっておかしくない……!?」

「それが侵略者のやり方よ。時を遡らせるか、その星そのものを最初に戻すか、またそのまま破壊するか。……わらわの代に起こった白紙化は、地球の歴史そのものを遡らせるもの。恐らく、わらわがあるふぁの因子を受ける前の時代にまで時を遡らせたのだろうな」

 

 原理はよく分からないけど、そういうことができる。

 とんでもない話だと思う。

 

「しかしまあ、わらわの代は真っ先に邪魔な“おめが”を叩っ斬ってから、空からの侵略者を切り捨て、その首を晒したものよ」

「うわぁ……」

「ぬしの所業もわらわとそう変わらんからな?」

 

 ドン引きする私を呆れた様子で見るアサヒ様。

 そ、そんなことはない……はず。

 そう自分に言い聞かせていると、不意に自分の両手が半透明になっていっていることに気づく。

 

「目覚めの時のようだな」

「なんかいつもより早いな。……ハッ!? これはもしかして……!? カツミ君が眠っている私を起こしにきてくれるパターンなのでは!?」

 

 なぜかアサヒ様にかわいそうな人を見る目で見られてしまった。

 しかし、きららがそうだったのだ。

 ならば相対的に私もそうなってもおかしくないのでは?

 すると、誰かが私の名前を呼ぶ声と、身体をゆすられている感覚がしてくる。

 

「きらら、貴女から話を聞いた時はどうしてくれようかこの淫乱イエローと思っていたけど撤回する。……今日から私もそっち側だから……」

「はよ起きてやれ」

「あいた!?」

 

 べしん、と鞘で頭を叩かれる。

 それに伴い、私の身体は完全にその空間から消失し———目覚めの時を迎える。

 


 

「アカネ、アカネ……」

「う、うーん」

 

 名前を呼ばれ目を開ける。

 いつも通りの朝……ではなく、肩をゆすられ名前を呼ばれている。

 もしやカツミ君!? と顔を声のする方に向ける。

 

「か、カツミ君!?」

「はい残念!! お姉ちゃんでしたァー!!」

「!!?」

 

 そこにいたのは二番目の姉、椿赤(チセ)姉であった。

 いつもはもっと雑な形で起こしてくる姉の姿に目を見開く。

 は? は? は?

 脳内で完結しない情報に唖然としていると、姉が開けたと思われる自室の扉の前に———カツミ君が顔を出してくる。

 彼の腕の中ではぐでーっと脱力している我が家のサモエド、きなこが抱かれている。

 

「チセさん。アカネ、起きましたか?」

「うん。今起こしたからもう大丈夫だよー」

「は?」

 

 呆気にとられる私に、カツミ君がこちらを見る。

 

「おう、おはよう。いやぁ、紫音さんに起こしてくれって頼まれたけど、君のお姉さんが代わりに起こしてくれたんだよ。いい姉さんじゃないか」

「……」

「朝食もできてるから早く降りて来いよな」

「じゃ、また後でねー。カツミ君」

 

 部屋から離れていくカツミ君をにこにことした顔で見送った姉を見る。

 次第にその笑顔は、してやったりといったものへと豹変する。

 

「フハハハ!! バカめが! 私の目が黒いうちでそんな甘々イベントを起こさせるはずがないじゃない!!」

「きょ、今日で姉妹の縁は終わりじゃァァァァ!!」

「なっ、やんのかこの愚妹!!」

「乙女の純情を踏み潰した報いを受けさせてやる!!」

 

 そのまま空前絶後の姉妹喧嘩へと発展。

 何事かと聞きつけてきたお母さんに、げんこつという名の制裁を加えられるまで続けられるのだった。

 ちなみに一番上の姉、紅桃姉はできる大人アピールをしたくて慣れない早起きをしたらしいが、肝心のカツミ君はそれよりも早く起床していたことから逆に敗北感に打ちのめされていたらしい。

 ……いや、バカじゃん。

 


 

 今日は土曜日なので普通に学校も休みだ。

 ジャスティスクルセイダーの新しい拠点も完成していないので、訓練もできない。

 なので私は現在カツミ君と共に普通に家にいるわけだが、正直どうしていいか分からなかった。

 どこかに出掛けようにもカツミ君の場合変装しなきゃいけないし、社長にも許可をもらわなきゃならないからなぁ。

 

「オカピって常時オイルまみれなの……? マジで……?」

「くぅーん」

 

 いや、当の本人は録画した動物番組見て唸っているけども。

 というよりだんだん彼の膝を独占しているきなこが恨めしくなってきた。

 自分ん家の犬にまで嫉妬してくる自分がちょっと悲しくなった。

 

「はぁ」

 

 そんな彼を横目でみながら今、微かに振動したスマホを開く。

 どうやら、きららと葵から連絡がきているようなので返信していく。

 

< ジャスクル

K

カツミ君、どうしてる? 10:32

(# ゚Д゚) 10:32

 
既読2

10:34

朝起こしに来てくれた

は? 許せん。

今家に突撃しにいく

お昼はスシでいい

10:35

 
既読2

10:36

…と思ったら姉が代わりに起こしてきた

 
既読2

10:36

本当に許せない。

末代まで祟ってやりたい

K

それあんたも呪われてるやん 10:38

10:38

+□

 

「なあ、アカネ」

「んっ?」

 

 返信の手を止め、声をかけてきてくれたカツミ君を見る。

 

「壊された本部って今はどうなってんだ?」

「封鎖中じゃないかな? 一応、本部のある地下は無事だけれど、肝心の場所が一般にバレちゃったし」

「……そう、か」

 

 ? 思案するように顎に手を当てる彼に首を傾げる。

 

「じゃあ、あの地下の独房って入れるか?」

「それは……社長に聞いてみないと分かんないかな。人の目もあるし……なにか取ってきたいものでもあるの?」

「いや、それは分からないけど。俺もあそこに世話になったからな」

 

 確かに、私達にとってもあそこは特別な場所でもある。

 黒騎士を倒し、彼を閉じ込めるという名目で保護したあの部屋。

 ……私はスマホ……ではなく、手首のチェンジャーを操作する。

 

「暇だし、いってみよっか」

「大丈夫なのか?」

「君は変装すれば大丈夫でしょ。社長のことだから秘密の裏口とか用意してそうだし」

 

 あの襲撃以来私も行ってなかったことだしこれもいい機会だ。

 社長に簡単なメッセージを送り返信を待つ。

 あの人も忙しいし、多少時間はかかるだろうけど……カツミ君のこととなれば異様なやる気を見せるはずなのでそれほど待つことはないだろう。

 

「それじゃあ、きららと葵も誘ったらどうだ?」

「……」

「アカネ?」

「ウン、今連絡スル……」

 

 二人で行く流れだと思ってたとは口が裂けても言わない。

 

< ジャスクル

K

それあんたも呪われてるやん 10:38

10:38

 
既読2

10:44

カツミ君が本部の独房に行きたいって

 
既読2

10:44

あ、用事があるなら

無理にこなくていいよ^^

何をしているブラッド

さっさと準備をしろ

10:44

K

用事があっても行くけど何か? 10:44

 
既読2

10:45

この欲深共が……

+□

 

 ほぼノータイムで同時に返ってきた返信にドン引きする。

 この時間帯ならお昼も一緒に食べてきちゃうことになるな。

 まあ、人数は増えれど出かけるのは楽しいことだ。

 カツミ君に二人も来ることを伝えた後、私は出かける準備をするべく一旦部屋に戻るのであった。

 




ドS剣豪な地球由来のエナジーコアさん。
夢という形でジャスクルを鍛えていたのが彼女でした。
なお、アカネの素質は元からかなり高かった模様。

彼女の時代設定の詳細についてはまだ決めていません。


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彼なりのケジメ

ネットの接続に関して色々と問題が起こってしまい、更新の方が遅れてしまいました。
本当に申し訳ありません。

はじめはモータルイエロー視点。
中盤から主人公視点へと移ります。




 私が星界の戦士として力を授けられたのは、もう気が遠くなるほど昔のことだった。

 兄さんと私、たった二人の家族と共に滅びゆく惑星でいつ死ぬかも分からない毎日を過ごしていた時に、宇宙から囁かれるように振ってきた声。

 

 星界存在“ゼグアル”

 

 黒く、点々とした星の輝きを放つ星雲を纏った男の巨人は私たちに力を授けてくれたのだ。

 

『星界エナジーは星と星を繋げる力』

 

『宇宙は今、危機に陥っています』

 

『暴虐を尽くす巨大な悪意が宇宙そのものを呑み込もうとしている』

 

『貴方達を加えた5人の戦士ならば巨悪を打ち倒し、この銀河に平和をもたらすことができるはず』

 

 正直にいうなら、銀河の平和とかどうでもよかった。

 この地獄のような星から兄さんと出たかった。

 常に略奪と死の危険に怯えながら、生きる目的もなく屍のように生きている日常を投げ出して、こことは別の景色を見に行きたかったんだ。

 そのためなら星界エナジーを受けて誰かと戦うくらい訳ないとすら思えた。

 ……それが間違いだと気づいた時にはもう遅かったわけだけど。

 

「はぁい、イエロー」

「……何の用よ」

 

 星界剣機を繋げる母艦の研究室で一人作業を進めていた私の元に、厄介ごとを持ち込んできた禍々しい桃色の戦士が気軽な様子でやってくる。

 今は変身を解いているのか、肩に触れるくらいの髪の地球人の少女の姿だ。

 

「そう邪険にしないでよぉ。私、貴女のことは結構気に入っている方なんだよ?」

「反吐が出る」

 

 無駄に気安く接してくるヒラルダに毒づく。

 こいつのせいでピンクは危うく処分されかけた。

 その間接的な原因であり、なにを考えて行動しているか理解できないこいつに信頼なんてできるわけがない。

 レッドとグリーンはこいつを使える駒、もしくは戦力としてしか見ていないけれど……。

 

「生命維持装置はちゃんとできたのかしらー?」

 

 ヒラルダがポッドの中を覗き込む。

 光に満ちた筒に入れられたピンクは、眠ったように目を閉じている。

 

「……目覚めはしないでしょうね。どちらにしても正気を保っているかどうかすら分からないわ」

「いっそのこと死なせてあげたら?」

「……ッ!」

「わぁ、怖い怖い」

 

 睨みつけると、おちゃらけるように両手を上げたヒラルダが軽薄な笑みと共に私から離れる。

 

「何しに来たの」

「貴女にちょっと見せたいものがあってね」

「……」

「そう警戒しないでよー。今しがたできた作品を誰かに自慢したくなっちゃっただけなの」

「……作品?」

 

 ヒラルダがレッドに固有のラボを要求していたのは知っていたけど、この短期間でなにかをしたのだろうか?

 

「土台はもうできていて、後は場所だけだったんだけど……星界戦隊の新隊員になったことで都合のいいラボを貰ったからねー」

「見に行く必要ある?」

「あるあるすっごいある!」

 

 ……ここで断っても纏わりつかれそうだ。

 ため息をつきながら手元のコンソールを操作し、生命維持装置をオートモードにさせる。

 目を閉じているピンクの姿を一度見ながら、上機嫌なヒラルダについていく。

 

「さあ、ここだよー!」

 

 母艦内のワープを用いて到着した先はヒラルダにあてがわれたラボの扉の前。

 手慣れた様子で扉を開閉したヒラルダに、背中を押され足を踏み入れた私の視界に映りこんだのは———、

 

「なに、これ……」

 

 ———ラボの端から端まで並べられたポッドであった。

 中に誰か入っている……? まさかこれは生命維持装置……いや、違う。

 

「全員、死んでいるの……?」

 

 ポッドにいれられている顔にも見覚えがある。

 

「こいつらは……」

「貴方達が排除した序列30位から21位の面々ね」

「どうして、こいつらがここに……?」

 

 レッドの独断で行われた上位30位から21位の星将序列の排除。

 レッドがそれを敢行した理由は、単純に『待ちきれなかったから』というものだった。

 

「あ、私が回収しておいたの。勿体ないし後々、使えそうかなって思って」

「使えそう……?」

 

 いったい、こいつは何を言っているんだ。

 勿体ないから死体を回収したとか頭おかしいんじゃないか?

 

「他にもまだまだストック(・・・・)はあるけど、まずはこいつらってこと」

「いったい、何をするつもりなの……?」

 

 星将序列の死体を集める時点で碌なことではない。

 しかしよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに無邪気な笑みを浮かべたヒラルダは、ポケットからモータルピンクに変身する際に用いる道具、星界チェンジャーを取り出す。

 

「チェンジャーはね。星界エナジーを効率的に運用する道具であると同時に一種のろ過装置でもあるの」

「それは、知ってる。……貴女まさか!」

「そう、そのまさか!」

 

FEAR(フィアー) STEAM GUN(スチームガン)

 

 ヒラルダがその手に出現させた銃にチェンジャーのアタッチメントを嵌め込み、一番近いポッドの機械の窪みに銃口を差し込み———そのトリガーを引く。

 

「さらにさらに! ガウスから失敬した地球産オメガの怪人因子をミーックス!」

 

 ポッド内の亡骸を星雲に似た色のエネルギーと紫色の煙が満たす。

 ついには姿すら見えなくなり、次第になにかが潰れ、膨れ上がるような不気味な音がポッドから響いてくる。

 

「じゃ、お披露目ー」

 

 ヒラルダが手元の装置を操作し、ポッドを開かれる。

 すると先ほどまで屍だったはずのポッドからゆっくりと大柄な体躯の怪人が姿を現す。

 黒い甲殻のようなものを纏った人型の怪人。

 鋭利な角に、かぎづめのついた両腕。

 その黄色の光を放つ双眸にはなんの感情も映しておらず、一層不気味さを引き立たせていた。

 

「……ッ」

 

 元の面影がないほどに変わり果てたその姿を目にした私は、言葉を失う。

 

「名付けるなら、星界怪人かな? どう? 私の言葉が分かる」

「ハ……イ……」

「よしよし、じゃあ、君の主はだれかな?」

 

 星界怪人と呼ばれたそいつは凶器とも思える腕を軽く掲げると、その指をヒラルダと———その後ろにいる私へと向ける。

 

「アルジ サマ……」

「おぉ! よしよーし、いい子だね! 実験は成功! 調整がうまくいってよかったよぉ」

 

 無邪気に微笑みながら星界怪人の黒光りする頭を撫でるヒラルダ。

 従順に動く人形……にしているの?

 感覚からしてかなり強そうだけれど、まさかこんな方法で……。

 

「どう? すごいでしょ?」

「これは、なに?」

「星界戦隊が従える星界怪人……まあ、とどのつまり戦闘員だね。はー、これでようやくそれらしくなってきたー」

 

 それらしくなってきた?

 

「こんなものを作っていったいなにがしたいの……!!」

「勿論、戦いだよ!」

 

 こちらを振り返ったヒラルダは楽しそうな笑みを浮かべていた。

 地球人の邪気など感じさせないその表情に言いしれない不気味さを抱く私に、彼女は続けて声を発する。

 

「ようやく雑魚を当てて彼を成長させる茶番が終わったんだよ? それならもう遠慮しなくてもいいってね!」

 

 私の反応を待たずにヒラルダは再び後ろを振り返り、星界怪人と目を合わせる。

 

「さーて、まずはこの子がどれだけやれるか試してみようかな? 彼の新しい力も観察しなきゃいけないし、後何体かも増やしておこっと!」

 

 ……。

 私はなにもできない。

 ヒラルダの行動も、目先の目的に囚われて周りが見えていないレッドのことも。

 これから、星界戦隊はどうなるのだろうか。

 一つ分かるのが、私達……いいえ、私の行く末は決して甘いものじゃないということだけは分かる。

 


 

 思いのほかあっさりと襲撃を受けた本部へ入る許可は降りた。

 入る際に色々と手順を踏まなければいけないが、それでもあの独房へと向かうことができると分かって少しだけ俺は安堵した。

 別になにか用事があったわけでもない。

 ただ……あの場所は俺にとっても思い出深い場所でもあるので完全に封鎖される前に行っておきたかった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 待ち合わせ場所に到着し、全員で本部まで移動することになったわけだが……移動の仕方がいつぞやの時と同じように俺を中心にしてアカネ、葵、きららが取り囲むようにしていた。

 

「ちょっと待って……!」

 

 変装をしているはずなのに異様な注目を集めるフォーメーションを見せる彼女たちに待ったをかけた俺は、今一度帽子を目深にかぶりながら道の端へと移動する。

 

「これ前にもやったよねぇ!?」

「いや、カツミ君がバレないように気をつけなきゃって」

「何が潜んでいるか分からんもんな」

「私は普通に隣に陣取ってただけ」

 

 どういう思考回路だよ!

 もう悪目立ちだよ!? すっげぇ目立ってたじゃん!!

 

「俺、変装してっから大丈夫だろ!」

「いや甘いよ。声と素振りだけで君と特定するやばい人もいるからね」

「んなはずないだろ。……おい、なんでお前ら俺から目を逸らすんだ……?」

 

 え、そんな変態みたいな特技を持っている輩がいるの?

 怖すぎるんだが?

 

「とにかくさっきのじゃ逆に目立つから普通に歩こうぜ」

 

 溜息をつきつつ再び歩き始める。

 今いるのはアカネの家のある方面から電車を乗り継いでジャスティスクルセイダーの本部のあった場所へと向かっているところだ。

 現在は建物の周囲を封鎖・監視しているということで関係者以外は入ることすらできない状態にある。

 

「俺達は非常用の隠し通路から入ればいいんだっけ?」

「うん。私達も何回か使ったことがあるから大丈夫だと思う」

 

 本部近くの人気のない路地裏へと入り込む。

 太陽が差さないためか暗いが、三人は迷いのない足取りで前へと進んでいく。

 

「ここだね」

 

 封鎖されている範囲外のなんの変哲のないビル。

 葵が壁に僅かにある窪みにチェンジャーを掲げると、ピッ! という音と共に赤いセンサーの光がチェンジャーを読み取り、壁そのものがスライドし、奥へと続く通路へとつながった。

 

「おお……」

「社長が遠隔で予備電源をいれてくれたみたいだね」

「それじゃあ、行こか」

 

 隠し扉みたいなギミックに新鮮な気持ちになりながら通路へと足を踏み込める。

 やはり本部とあって地下でもかなり頑丈なつくりのようで、前の戦闘の影響で壁に罅が入ったりだとか、崩れている様子もない。

 階段を降りて、先にあるハッチのようなものを開けると……見慣れた本部の内装が視界に映り込む。

 

「こうやって入っていたのか……」

「緊急の時だけだけどね」

 

 本部は地下にあるので直接的な被害はない。

 ただある程度の重要な機材は運び出されているようで、開けっ放しになっている部屋にはなにもなかった。

 さっそく目的の場所である俺が収容? されていた独房へと向かう。

 

「……ここに入るのも久しぶりに感じるな」

 

 独房とは思えない物で溢れた部屋。

 レイマとスタッフさん達からの差し入れと、アカネ達が持ってきてくれたものがほとんどだ。

 俺が記憶喪失の時も来たことがあるけど、俺としての意識がある時に入るのとでは色々と感覚が異なってくる。

 

「……今思うとあれだね」

「どうした?」

 

 アカネの方を向くと、彼女は独房の真ん中に置かれたテーブルと椅子を指さす。

 

「椅子、最初から五つ用意されてたんだね」

「あー、そういうことか。俺がここに入れられた時からアルファはずっと傍にいただろうしな」

 

 あいつのことだから俺がここにいる間も色々と自由に本部の中を移動していたんだろう。

 ……多分、そん時は寂しい思いをさせちまったかもしれねぇな……。

 なんとなくここに居たときから使っていた椅子に座ると、なぜかアカネ達も席に座る。

 

「そういえばきらら、ソラはどうしてんだ?」

「ソラ? コスモちゃんのこと?」

 

 ……あっ、そういえばあいつの本名はコスモだったか。

 認識が偽名のままだったから改めないとな。

 

「あの子ならすぐにうちに溶け込んだで……。うん」

「まあ……そうだろうな」

 

 いい家族だったと思う。

 普通の家族というのもいまいちよく覚えていないし分からない身としては、素直にそう思えた。

 

「ななかもこうたもカツミ君が離れるって聞いて最初はぐずってたけど、今はコスモちゃんで遊……コスモちゃんとゲームするくらいには仲良しや」

 


 

「ハッハァン!! ボクが1位だこのクソガキ共ォ!! お前らこのボクを嘗めたことを後悔させてやっ、甲羅ァァァ!?」

「コス姉! おっさきー!」

「わーい」

「ガオ」

「あ、待って! それズルい! レオ! なんでお前もそんな上手っ……さっきの甲羅お前!?」

 


 

「うん……とっても楽しそうやったで……」

「そ、そうか。そりゃよかった」

 

 なんか遠い目をしているけれども。

 でも馴染んでいたようでよかった。

 

「アカネの家はどうだった?」

「賑やかだったぞ。アカネの姉二人もいい人たちだったし」

「カツミ君。あれはいい人たちじゃなくて、私欲にまみれた俗物っていうんだよ?」

「お前の姉なのに!?」

 

 ものすごい晴れやかな笑顔で姉をこき下ろしたんだけど!?

 い、いったいなにがあったんだ……?

 こ、こういう家族間の話題には触れない方がいいんだろうか?

 ……そっとしておくべきか。

 

「私には妹がいる」

「なんだ唐突に。お前ら全員、兄弟か姉妹がいるんだな」

「つまり私は姉属性も兼ね備えているということなのだよ……!!」

「……? どうあってもお前は俺の年下だろ?」

「きゅん」

 

 なんで今ときめき音なったのぉ?

 感銘を受けたように声にだしてそういった葵に素直に引く。

 

「い、妹にされてしまうぅ……」

「勝手になろうとしないでくれないかな?」

「なんて傍迷惑な奴や。ここで処した方がええか?」

 

 そしてなぜかアカネときららに小突かれている。

 この意味不明なやり取りも俺にとっては懐かしく、見慣れたものだ。

 

「……ここで色々あったな」

 

 こいつらに倒されて捕まって、この独房にいれられた。

 最初はどうなるかと思っていたが思いのほかここで過ごした日々は楽しかった。

 ……まあ、こいつらのある意味で非常識な部分には困らされたりはしたけどな。

 

「カツミ君はどうしてここに来ようと思ったの?」

「ん? いや、なんとなくだよ。特に理由はない。……いや、強いて言うなら……そうだな、俺もケジメってやつをつけようと思ってな」

 

 アカネの質問に答えようとして、ふと答えを改める。

 ここに来た理由は特にないが今だからこそ言っておくべきことがある。

 

「え、結婚?」

「はぁ?」

「……」

 

 素でそんな反応を返したら葵がテーブルに突っ伏した。

 いったい何なんだこいつ。

 左右にいるアカネときららが無表情で脇を小突き回しているけれども。

 

「……記憶が完全に戻ってからゆっくり話す暇なんてなかったからな」

「色々と騒がしかったもんね」

 

 本部の場所がバレてしまい移動を余儀なくされたこととか。

 単純に俺の住むところがなくなったとか。

 なので今ここに来てようやく落ち着いたこの三人とゆっくりと話す機会ができたわけだ。

 

「俺が記憶を失った日のこと、覚えてるか?」

 

 俺の言葉に三人が頷く。

 セイヴァーズとかいう小物共が攻めてくる前に彼女たちとしたやり取り。

 あの時は中途半端なもので結局それから先は言えずに俺は記憶を失って、こいつらに迷惑をかけてしまった。

 だからこそ今、あの時の言葉の続きを言っておく。

 あとで羞恥のあまり悶えるであろうことは自分で予想できるけれども。

 

「あの時、俺はお前たちの追加戦士になってもいいって言った。……まあ、結構共闘しているし今更だって話でもあるが。その意思は今でも変わってない」

「カツミ君……」

「まあ、なんというか……あー、なんだ」

 

 自分でもガラでもないことを言っているのを理解しているので、一気に気まずくなって視線を逸らす。

 でもここまで口にして引く方が恥ずかしいのでこのまま話していくしかない。

 

「これからよろしくなってことだ。あと、俺と友達になってくれ」

 

 照れながらそう言葉にして、アカネ達へ視線を向ける。

 すると意外にも彼女たちは若干呆けた表情を浮かべていた。

 

「嘘……」

「カツミ君が……」

「デレた……?」

「お前ら空気読めよォ!?」

 

 俺、結構頑張って言ったんだぞ!?

 まるで俺が常に素直じゃねぇみたいな反応しやがって……!!

 

「やっぱ今のなしな!!」

「えー、なしじゃないよぉ! もう私達友達じゃーん!」

「なあ、お祝いにお昼食べに行こか?」

「これ完全にルート開いたのでは?」

「いきなり馴れ馴れしいなオイ!!」

 

 どういう距離感!?

 なんか一気に距離詰めてきて逆にびっくりなんだが!?

 

「じゃあ、あれかな? 私たちが初友達ってこと」

「いや、別にお前らが初めての友達ってわけじゃないけど」

「えぇ!? 誰なの!?」

「学校で隣の席だった奴」

「!!?」

 

 まるで俺が友達が一人もいねぇみたいな言い方しやがって……!!

 俺だって友達の一人や二人くらいちゃんといたわ! ……多分。

 さっきまでの空気が台無しじゃねぇかと思っていていると、不意に俺達の腕に巻きつけられたチェンジャーが音を鳴らす。

 これは……。

 

『お前達! 侵略警報だ!! 各地に正体不明の異星人が姿を現し暴れている!!』

「数と場所は!」

『現状で五体! 場所についてはこれから座標で送る!! 各自、向かってくれ!!』

 

 異星人にとっちゃ休日なんて関係ないってか。

 まあ、それは地球の怪人だって同じだったんだ。

 今更驚くことでもないが、イラつく理由にはなる。

 

「じゃあ、行くか」

「うん!」

「せやね」

「ごーごー」

 

 椅子から立ち上がり独房から出ていく。

 最後に部屋を後にするとき、今一度部屋の中を見渡す。

 

「……ようやくこっから踏み出せたかな」

 

 怪人と戦ってきた時は、ずっと一人で戦ってきた。

 ずっとそれでいいとさえ思っていたが、今日この日までの積み重ねで力を合わせることも悪くないとも思えた。

 地球を取り囲む状況は相変わらず最悪の一言に尽きるが、それでも俺は戦い続ける。

 ———この地球を、守るために。




第百話目でようやく素直になれたかっつんでした。
第一部からここまで長かった……。
そしてヒラルダが作り出した星界怪人。
こちらもようやく戦闘員?のような存在を出せました。

ずっと前書きか後書きで書こうと思い、その都度書き忘れていましたが、
更新の度に、どの部分に“ここすき”とされているのか見るのが楽しみになっている自分がいます(笑)


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出現、星界怪人

お待たせしました。
今回は主人公視点から始まります。


 新たに出現した侵略者の数は5体。

 それも分散するように出現したそいつらは、空から降ってくると同時に無差別に周囲への破壊活動を開始したという。

 5体だけ、というコスモを加えた俺達五人と同じ戦力数になにか作為のようなものを感じるが、戦うことには変わりない。

 俺たちはレイマの指示に従い、侵略者が暴れているというそれぞれの場所へと急遽向かう。

 

「ここか!」

『目視で確認できる距離まで接近!!』

 

 空を駆けるバイク、ルプスストライカーに乗り込み目的地に到着した俺の視界には、侵略者が暴れたであろう破壊の跡が刻まれた街並みが広がっている。

 

「ハカイ……ハイジョ……」

「う、うわああああ!!」

 

 ……まずい!

 逃げる男の人を追いつめ、その鋭利な爪で切り裂こうとしている黒い異星人。

 その爪が振り下ろされる前にルプスストライカーを加速させ、ブレーキと同時に後輪での体当たりを叩きこむ。

 

「……!」

 

 衝撃に吹き飛ばされた侵略者を目にしながらバイクから降りる。

 シロにより構築してもらったヘルメットが自動的に粒子となって消え失せ、外気に晒され肌に冷たい風が撫でる。

 

「大丈夫ですか?」

「き、君は……」

 

 大きな怪我は……してないな。

 サラリーマンと思わしきスーツを着た男性を一瞥し、安否を確かめた後に意識を黒い侵略者へと向ける。

 ……こいつは、面倒そうだな。

 

「テメェ、怪人か?」

「———」

「ただの侵略者じゃねぇな。俺の知ってる怪人と同じ気配がする」

 

 確証はないが、オメガと似た気配がする。

 一切、反応せず石像のように動かない黒い外殻を持つ奴を警戒しつつ、近くにいる男性に逃げるように促す。

 

「こいつは俺が倒します。逃げてください」

「っ、ま、まだ逃げ遅れた人がいるんだ!」

「! プロト!」

『サーチをかけてみたけど、まだ逃げ遅れた人がいるみたい!』

 

 なら、迂闊に大技も出せないわけか。

 避難が完了するまで時間を稼ぐか、周りに被害を出す前に一瞬で始末するか。

 

「避難が終わるまでに俺がこいつを足止めしますから———」

「……いや、私も避難を手伝ってくる! 君も頑張ってくれ!!」

「え」

 

 俺の反応を待たずに男性がこの場から離れていく。

 黒騎士として戦っていた時とは違う反応に面を食らってしまったけれど……。

 

「……捨てたもんじゃねぇよな。この地球も」

 

 信じられないほどに他人に非情になれる人間もいれば、こういう人もいてくれる。

 なら、この場を任されたからには、ここにいる全員を守らなきゃな……!!

 

「———ハイジョ」

 

 黒い怪人の胸部が開き、ミサイルようなものが飛び出してくる。

 あれでここら一帯を滅茶苦茶にしたのか?

 当たれば危ないだろうが———、

 

『ガウ!!』

 

 ベルトのポーチから飛び出したシロが、空中でミサイルを弾き破壊する。

 それに合わせてシロを右手で掴み取った俺は、ベルトを出現させながらシロをバックルへと変形させた。

 

LUPUS(ルプス) DRIVER(ドライバー)!!』

 

「変身

 

 ベルトに差し込んだバックルを叩き、変身を行う。

 記憶の中では慣れ親しんだ白川克樹としての変身。

 多様性に含み、様々な武器を扱うことを可能としているこの姿は、タイプ1には攻撃力では劣るもののあらゆる敵と状況に対応している。

 

FIGHT(ファイト) FOR(フォー) RIGHT(ライト)!!』

CHANGE(チェンジ) YOUR(ユア) DESTINY(デスティニー)!!』

 

 追撃のミサイルをエネルギーフィールドではじき返しながら変身は続く。

 

BREAK(ブレイク) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

 

 黒のアンダースーツ、金の縁取りが施された銀のアーマー。

 それらが身体を覆い、最後に三本の角が特徴的なマスクと黄色の複眼を輝かせ———身体を包み込む金のエナジーフィールドを手で散らすように払い、完全な変身を完了させる。

 

「———ハイジョ!!」

「それしか喋れねぇのか?」

LUPUS(ルプス) DAGGER(ダガー)!!』

 

 ルプスダガーを一閃し、ミサイルを全て切り落とす。

 さらに逆手に持ち替えながら地面を蹴り、接近と同時に黒い侵略者の胴体に上から叩きつける形の横蹴りを叩きつける。

 

「———!!」

 

 脇腹の外殻を粉砕し、さらに大きくへこませながら地面へめり込むように沈む。

 青色の血を吐き出し這いつくばりながらも生きているソイツを目にし、軽く足を掲げる。

 

「……案外脆いな」

 

 痙攣しながらも起き上がろうとする奴の背中を押さえつけるように足を乗せ、バックルへと手を添える。

 

DEADLY(デッドリィ)!! TYPE(タイプ) LUPUS(ルプス)!!』

 

 悪いがこのまま止めを刺させてもらう。

 ベルトから赤と金のエネルギーが足へと流れ———異星人の背中を押さえつけている右足へと集中する。

 

BREAK(ブレイク)! POWER(パワー)!!』

BITING(バァイティング)! CRASH(クラッシュ)!!』

 

 凝縮された力が背中の外殻を踏み砕き、直接内部に破壊のエネルギーを送り込む。

 力に任せて踏み潰して背中から胴体を貫通させられた侵略者は、内部で炸裂したエネルギーを受け口から、外殻の隙間からエネルギーを放出させた後に、ぴたりと動かなくなってしまった。

 

「……ふぅ」

 

 踏み砕いた背中から足を引き抜き、出来上がったクレーターから出る。

 そこまで強いやつでもなかった。

 もしかすると戦闘員かなにかなのか?

 だとすれば、これは性能をテストさせたのかもしれねぇな。

 

『カツミはやっぱりカツミだ』

「……やけに嬉しそうだな」

 

 チェンジャーから嬉し気な声を発するプロトに首を傾げる。

 姉妹? 仲は悪いと思っていたのでシロを使うと不機嫌になると思って、どう機嫌を取ろうかって考えていたんだが。

 

『カツキの時も好きだけど今のカツミが一番』

「白川克樹も、穂村克己もどっちも俺だよ。……とりあえずレイマに連絡繋げてっ……!」

 

 背後の気配を感じ取りそちらを向く。

 見れば、確実に止めをさしてやったはずの侵略者が死に体になりながらも立ち上がっていた

 

『ガ、ァ……アァ……』

「再生持ちか? いや……違うな」

 

 再生している、というよりも内部から肉塊が溢れ出てきているような感じだ。

 黒い外殻に閉じ込められていた何かが、死と共にあふれ出し、奴の姿をまた別のなにかに変貌させようとしている。

 

『カツミ君!』

「レイマ、こっちの視界は見えているか?」

 

 ダガーを構え警戒しつつ、レイマの連絡に応じる。

 

『レッド達のいる現場でも同様の現象が起こっている!』

「あれ以上の変化は?」

 

 見たまんま暴走しているわけだが。

 お世辞にも鎧武者のように整っていた見た目から遠ざかり、今はホラーゲームのクリーチャーのような姿に変わり果てている。

 

『今のところは未知数! だがレッドが問答無用でバラバラにしたことで倒すことができたようだ!』

「……ちなみにどんな風に?」

『ほぼ同時に直撃する七つの斬撃だな……いや、本当どこであんなの覚えてくるのか私に理解できん……』

 

 相変わらずだな。

 鬼神の如き強さとはこのことを言うんだろう。

 頼もしいことこの上ない。

 

『カツミ! 避難が終わったよ!!』

「なら、手っ取り早く済ませよう」

TRUTH(トゥルース) GRIP(グリップ)!!』

 

 手の中に黄金色のアイテム———トゥルースグリップを出現させ、起動。

 バックルの側面に連結させ、グリップのカバーがバックルを覆うように展開し、その色を黄金色へと染め上げた。

 

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

 

TRUTHFORM(今こそ)! ACCELERATION!!(全てを一つに!!)

 

 ブレイクフォームが解除されトゥルースフォームを纏う。

 

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)……』

 

『『『TRUTH FORM(トゥルース フォーム)!!!』』』

 

 金属音と共に四色の装甲が胸部にはめ込まれたことでフォームチェンジを終わらせた俺に、獣のようにゆらゆらと動く肉塊の怪物と化した侵略者が襲い掛かってくる。

 

「ガ、ァァ!!」

 

 肥大化し、鋭利な爪を鞭のように伸ばし叩きつけようとする攻撃。

 それに対して棒立ちのまま炎を纏わせた腕を突き出し、問答無用で吹き飛ばす。

 動きに精彩さの欠片もなく、かといって理性がないわけでもない。

 ……こいつは、ここで終わらせてやるべきだな。

 

「……」

MIX(ミックス)!』

 

 手の中で出現させたグラビティバスターに側面の窪みにミックスグリップを差し込む。

 ガチャン、という音で接続しさらにミックスグリップをバイクのハンドルのように回す。

 

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

aaaXaaa

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

 

 シロの解析能力で相手に有効な属性と攻撃を導き出し、グリップのトリガーを引きミックスグリップに内包される属性を定める。

 止まった色は赤と黄。

 

RED(レッド)!!!】

YELLOW(イエロー)!!!】

 

 メモリに赤色と黄色の表示が浮かび、グラビティバスターの刃に炎と電撃が溢れる。

 それを両腕で大きく掲げた俺は、抑え込んだ力を斬撃と共に視線の先にいる侵略者へと放つ。

 

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

FINISH(フィニッシュ)!! IMPACT(インパクト)!!』

  ミックス    チャージ

『MIX CHARGE!!』

 

 指向性を持って放たれた斬撃は熱線となって、異星人を呑み込む。

 周囲への影響を押さえるべく、数秒ほどの放射で熱線は消え失せるが、後に残ったものはなにも存在していなかった。

 

「これだけやれば、もう立ち上がってこねぇだろ」

『反応、完全に消失。よくやってくれた。カツミ君』

「ブルー達は?」

『無事に倒してくれた。あとはこちらに任せて君はその場を離れてくれ』

「ああ」

 

 ルプスストライカーを呼び出しバイクに跨り、走り出す。

 いつまでもここにいると逆に騒ぎを大きくしちまうからな、後はレイマの言う通り現場の人たちに任せて俺はすぐにここから離れたほうがいいだろう。

 

「……ん?」

 

 地上へと上がる際、先ほど助けた男性の姿を見つける。

 彼が無事なことに安堵しながらも、避難を誘導しているその姿をしっかりと記憶に焼きつけ俺は再び前を向く。

 

「なにが、来ようとここは守る。そうだよな」

 

 侵略者共がなにかをしようとも。

 ヒラルダが何かを企んでいようとも。

 俺の戦う理由は変わらない。

 

「テメェが何をしようともな……ルイン……!」

 

 地球を守って、奴との決着をつける。

 例え、どれだけ力の差があろうとも俺の前に立ちふさがるようなら全力で戦ってやる。

 

 


 

 

 地球に落とした星界怪人は全てジャスティスクルセイダーと黒騎士、そしてコスモによって倒されてしまった。

 あんまりな結果に私は、モニターを観察していたヒラルダを見るが思いのほか彼女は余裕そうな面持ちだった。

 

「戦闘力としてはまずまずといったところだねー」

「あっさり倒されたんだけど……」

「え、そりゃ当然だよ、イエロー。そんな簡単に苦戦させられるようなら君達こんな苦労してないでしょ?」

 

 ……確かにそうだけど。

 でもこいつに正論を言われると腹が立つのはなんでだろう。

 

「星界怪人は倒されると怪人因子が暴走し、無理な進化を促そうとする。うんうん、これは良いことが判明した」

「……はぁ」

「これをうまく使えばもっと強い星界怪人を作ることもできる。うんうん」

 

 勝手に一人で納得しているヒラルダにため息が零れてしまう。

 もう私のラボに戻っていいだろうか? いや、もうここにいる意味もないし戻ってしまおう。

 無言で立ち上がり、ヒラルダのいる研究室から出ていこうとする。

 

「イエロー」

「まだ何か用?」

「これから楽しくなりそうだね」

 

 振り返った先の視界には、研究室のスペース全てを覆う星界怪人の素体が保存されているポッドが置かれていた。

 その前で薄ら笑いを浮かべて私を見た彼女は、まるで何かを待ち遠しいと思う子供のような表情を浮かべ、淡い光を放つ双眸をこちらへと向ける。

 

「……ブルーを……兄さんを人質に取っているくせに?」

「ふふふ」

 

 本当になにを考えているのか分からない。

 こいつが何をしようとしているのか、私達を利用してどこまで力を求めるのかは分からない。

 でも……ただ一つ言えることは、私はこいつのことが心底嫌いだということだ。

 




完全復活状態のかっつんはルプスフォームでプロトゼロみたいな戦い方をします。
相手を拳で粉砕するが、蹴りで粉砕するに変わっただけとも言えます(笑)

星界怪人は所詮は戦闘員なので強すぎず弱すぎずの塩梅が丁度いいと思い、このくらいの強さになりました。

もしかしたら次回は掲示板回になるかもしれません。


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五人の戦士たち(掲示板回)

ネット環境、無事直りました。
お待たせしてしまい本当に申し訳ありませんでした。

今回は二日に分けて二話ほど更新したいと思います。

本日分の更新は掲示板方式となります。


441:ヒーローと名無しさん

 

緑騎士:ライオン剣で両断!

ブルー:関節を撃ち抜き、ゼロ距離射撃で爆散!

イエロー:パワーと電撃でねじ伏せる!

レッド:問答無用の斬撃でバラバラ!

黒騎士:拳ビームで消滅!

 

相対的に緑騎士が一番まともなのでは!?

 

442:ヒーローと名無しさん

 

相手が悪すぎただけだろ

 

443:ヒーローと名無しさん

 

本当に意味分からないタイミングで襲ってきたね。

なにが目的だったんだろう?

 

444:ヒーローと名無しさん

 

ちょっと地球の怪人が暴れていた頃を思い出した。

突然暴れてくるあたり地球の怪人と似たなにかを感じたな、俺

 

445:ヒーローと名無しさん

 

なんで王道のジャスクルがどいつもこいつも敵を倒すことに手段を択ばなすぎるんですかね……

 

446:ヒーローと名無しさん

 

人命のためなら手段を択ばないのはとーぜん

 

447:ヒーローと名無しさん

 

白騎士くんとんでもないレベルの強化されてて草

 

448:ヒーローと名無しさん

 

完全体カツミ君が異様なレベルで強いのやばい

記憶が戻ったから相対的に初期フォームのルプスが超絶強化されてる

 

449:ヒーローと名無しさん

 

むしろ蹴り一発を耐えた怪人がすごいんじゃないかと思えてきたわ

実際、かなり厄介そうな敵なんだよな。

五体も同じのがいたし、もしかしたらもっと多くやってくるかもしれないし

 

450:ヒーローと名無しさん

 

今回の襲撃は謎が多かったな

地味に緑騎士が仲間として参戦しているのびっくりした

 

451:ヒーローと名無しさん

 

見た目がかなりヒロイックになったよな。

色も緑だし、とうとう五色戦隊になったんだなぁって。

 

452:ヒーローと名無しさん

 

緑と黒……?

つまりはベストマッチってことか?

 

453:ヒーローと名無しさん

 

これはヒロインランキング決まりましたねぇ!!

 

454:ヒーローと名無しさん

 

上位勢というか、特定の一個人がラスボスすぎて最早ランキング機能してないけどな(白目)

 

455:ヒーローと名無しさん

 

穂村克己は地球を滅びをもたらす悪魔だ!!

即刻追放するべき!!

これまでの侵略も全てあいつのせいだ!!

穂村克己を絶対に許すな!!

 

456:ヒーローと名無しさん

 

威力偵察っぽくもあるんだよなぁ。

そうじゃなきゃ戦力を無駄に消費したようにしか見えない。

 

457:ヒーローと名無しさん

 

ルインがやったって感じはしないあたり、別のやつなんだろうなぁって考察してみたり。

てかあの銀河級ヤンデレは黒騎士君の成長のためならある程度の破壊も許容しそう……と考えられるし、黒騎士くんに嫌われたくないって理由でそんなことはまだしないとも考えられるのがな。

 

つまりは何をするか全く分からないのが怖い

 

458:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君が地球を大事に思ってくれる限り大丈夫やで

だから彼になにもするなよ地球人^^

 

459:ヒーローと名無しさん

>>458

君はどの立場から言っているの……?

 

460:ヒーローと名無しさん

>>455

これなに?

いろんなところで見るけど

 

461:ヒーローと名無しさん

 

触れるな触れるな

 

462:ヒーローと名無しさん

 

別のスレで地球産怪人は黒騎士くんのせいで出現したとか、怪人の被害は黒騎士くんのせいだとか、謎理論かまして最終的に相手にされなくなった哀れなやつだ

 

463:ヒーローと名無しさん

 

これはスルー推奨

 

464:ヒーローと名無しさん

 

今までの侵略者と比べて機械的なんだよなー

現れた五体も見た目も同じだし、動画見る限り不安定。

 

465:ヒーローと名無しさん

 

単体ではジャスクルと黒騎士くんにとって雑魚同然のはずなんだけど

あれがたくさん出てくるとどれくらいの被害が出るのか怖い……

 

466:ヒーローと名無しさん

 

本当に地球どうなっちゃうんだろうな……

 

467:ヒーローと名無しさん

 

相変わらず社長の映像公開が早すぎるわ

緑騎士ちゃんのライオン剣がうるさすぎて笑う

 

468:ヒーローと名無しさん

 

ライオン剣で必殺技出すときに死神とか悪魔とか不吉な存在を食べる演出好き!

ヒーローになったんだなぁって

 

469:ヒーローと名無しさん

 

割とあっさりと地球の味方になって肩透かししてる。

そういうところあっさりとしているのが社長らしいというか……

まあ、戦力的に四の五の言っていられない状況なのは分かるが

 

470:ヒーローと名無しさん

 

もう完全にライオン剣で定着しているのが草なんだ

 

471:ヒーローと名無しさん

 

緑騎士って言いにくいからもうグリーンでよくない?

 

472:ヒーローと名無しさん

 

確かに みどりきし と りょくきし のどっちでも言いにくいな

 

473:ヒーローと名無しさん

 

ブルーが相手の関節全て撃ち抜いて動けなくしてるのは怖かった

 

474:ヒーローと名無しさん

 

ブルーも火力的に怪しいなぁって危惧した直後のアレは怖い

虫の足を捥ぐように無感情に機動力潰した後にゼロ距離でエネルギー弾を撃ち込み続けるところとか悪魔だったわ

 

475:ヒーローと名無しさん

そういうんだったらイエローも相手が砕けるまで斧で肉片にし続けてるのもえぐかったぞ

相手が完全に息絶えるまで電撃で焼き焦がしながらミンチにしていく様はまさに死神

 

476:ヒーローと名無しさん

 

レッドもいつも通りのブラッド

ほぼ同時直撃の七連撃で有無を言わさずにバラバラや

 

477:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルもライオン剣に食べてもらうべきでは……?

 

478:ヒーローと名無しさん

 

ライオン剣に変なもの食わせたら駄目だろ!!

お腹壊したらどうすんだ!!

 

479:ヒーローと名無しさん

 

なにしても危険物扱いのジャスクル

 

480:ヒーローと名無しさん

 

一方で黒騎士くんは大分落ち着いた印象

暴力の権化が頭脳を使って始末しにかかるスゴ味が合わさった感

 

481:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルは戦闘力とは別の恐怖がある

 

482:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルはそろそろパワー不足なのはちょっと思った。

戦っていると全然そんな感想抱けないけど

 

483:ヒーローと名無しさん

 

技術と殺気で補っているからな

多分、スーツの性能そのものは星界戦隊より低い疑惑ある

 

484:ヒーローと名無しさん

 

アップグレードされたといっても型落ちといってもいいしなー

相手もどんどん強くなっているわけだしこの先不安だ

 

485:ヒーローと名無しさん

 

プロトゼロ「……」

 

486:ヒーローと名無しさん

>>485

ヒェッ

 

487:ヒーローと名無しさん

 

現環境でも通じそうなぶっ壊れは黒騎士くんのところに帰ってください……

 

488:ヒーローと名無しさん

 

もっと壊れになっただろいい加減にしろ!!

 

489:ヒーローと名無しさん

 

君は黒騎士くんがおかしいだけでスーツ自体は型落ちどころじゃない危険物だろ!!

 

490:ヒーローと名無しさん

 

今の時点で考えてもやっぱり黒騎士くんとんでもない性能してて笑えてくる

 

491:ヒーローと名無しさん

 

強すぎて逆に考察の邪魔をしていたやべーやつ筆頭

 

492:ヒーローと名無しさん

 

あの頃はなぁ。

黒騎士君が寿命減らしながら戦ってるとか

装着者が変身する度に受け継がれる死の変身とか

人間じゃなくなっていくとか、

戦うごとに感情を失うとか色々言われてたんだよなぁ。

 

493:ヒーローと名無しさん

 

そうじゃなきゃ説明できないスペックしてたのも悪いわ

実際は適合しすぎてノーリスクどころか限界以上の性能を発揮させられていただけというね!

 

494:ヒーローと名無しさん

>>492

思い当たるベルトが多すぎる…

 

495:ヒーローと名無しさん

 

怪人キラーっぷりがすごい

 

496:ヒーローと名無しさん

 

そもそもジャスクルのスーツは機械的なイメージなんだけど、黒騎士、白騎士のスーツは完全に生物的な意思があるイメージ

だから成長もするし進化もする理不尽仕様なんだと解釈してる

 

497:ヒーローと名無しさん

 

明らかに地球怪人が大抵の侵略者よりも恐ろしい強さしているのも問題あると思う

地球って本当になんなんだ……?

 

498:ヒーローと名無しさん

 

地球より黒騎士君の中の人の方が謎だろうが

素性分かってもどうしてあんな戦闘力なのか一ミリも分かってない

 

499:ヒーローと名無しさん

 

そら強いからだろ

 

500:ヒーローと名無しさん

 

身も蓋のないこと言うなwww

 




今回は各戦闘の反応と、一般人のレッド達の装備への認識が主となっております。
実際、火力不足のジャスクルですが、本人たちはそれぞれの戦法で補っています。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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彼から語られる過去

二話目、二日目の更新となります。
前話を呼んでいない方はまずはそちらからお願いします。

序盤は主人公視点
中盤からアカネの母、シオン視点に移ります。



 黒い鎧を纏った怪人の出現から三日。

 それ以降は怪人の出現もなく静かな日常を送れているわけだが、少しばかり不気味だ。

 とりあえずはいつでも出撃できるようにプロトを身に着け、シロに周囲の空間を警戒してもらいながらも俺は変わらずアカネの家で世話になっている。

 しかし、働かざる者食うべからずという言葉もあるように、俺は天塚家と同じように———家事などを手伝っていた。

 

「……よし」

 

 早朝、キッチンで紫音さんが料理をしている音を耳にしながらアイロンをかけた服をたたんでいく。

 自分ではうまく綺麗にできているかは分からないが、私生活がだらしないハクアを姉と呼んでいた度し難い時期に何度も経験してるのでそれほど戸惑わずにできている。

 全てをたたみ終えたところで慌ただしく階段を降りてくる音が聞こえ、さきほど目覚めたであろうアカネの二人の姉たちがリビングに顔を出してきた。

 

「ねえ、お母さーん。私のコートどこー」

「それならラックに掛けておきましたよ」

「……」

 

「あれ、シャツってどこかに———」

「あ、すみません。今、アイロンかけちゃいましたけどこれで大丈夫ですか?」

「……」

 

 いや、どうして硬直するんですか。

 氷のように固まってしまった二人はそのまま巻き戻すようにリビングから引っ込んでしまう。

 

「やっぱり、いい薬になるな」

「え?」

「君は気にしなくてもいい。朝食もできてるから先に食べるといい」

「あ、はい」

 

 えらくにこにことしている紫音さんに勧められテーブルへとつく。

 すると対面の席に座っている男性、アカネの父親にあたる人物と目が合う。

 

「うちは毎朝騒がしいだろう?」

「え、ええ」

「そろそろ慣れてきたかい?」

 

 話しかけてきてくれたのは新坂家の家長であり紫音さんの夫である貞夫(さだお)さんだ。

 きっちりと整えられた黒髪と優し気な雰囲気の彼は、お茶の入った湯飲みをテーブルに置き、微笑みかけてくれる。

 本人曰く、普通のサラリーマンをしているらしいが、どんな仕事をしているかまではよく聞いてはいない。

 

「この家の男は自分一人だけだったからね。君がいるだけで大分空気が変わるよ」

「そう、ですか?」

「そうさ」

 

 穏やかに微笑む貞夫さんに首を傾げる。

 

「それに、君がここに来てくれてアカネが嬉しそうだ」

「そこは普通に反対するところじゃないですか……?」

「ははは」

 

 あちらからすれば大事な娘だろうし、よく泊まることを認めてくれたものだ。

 いただきます、と口にしてから朝食に意識を向けながらそんなことを考える。

 

「……どこぞの馬の骨を連れてくるならそうしていたことだろうね

「……んん!?

「うん? どうしたのかな?」

 

 え、いや、普段の貞夫さんから想像できないドスの利いた呟きが跳んできたような……。

 ……き、気のせいか? うん、こんな穏やかな人があんな戦闘中のレッドや俺みたいな口調で物騒なことを呟くはずないもんな……。

 

「貞夫さん。そろそろ時間じゃないか?」

「うん? あ、そうだね」

 

 すると台所にいた紫音さんが貞夫さんに声をかける。

 彼は時間を見て頷くと、椅子にかけていたスーツの上着を着ると傍らに置いていた黒いカバンを持つ。

 

「カツミ君」

「はい?」

 

 リビングから出ていく前に声をかけられる。

 

「ここが君の家だと思ってくれて構わない。……というと遠慮してしまうだろうから、あえてこう言っておこう」

 

 こちらを振り向いた貞夫さんは人差し指を立てる。

 

「僕たちは君の存在を受け入れている。それは君がこの家より前に泊まっていた天塚家も同様だ」

「……はい」

「では、いってきます」

 

 それだけ口にして彼は出勤していった。

 新坂貞夫さんはきららの父親、オウマさんと同じく不思議な人物だ。

 でも、彼の言葉に少しだけ救われている自分がいるのも確かだった。

 


 

 今でも思うことがあるとすれば、まさか娘のアカネが地球を守る正義のヒーローになるだなんて思いもしなかったことだ。

 最初はバカげた話だとも思った。

 そんな危険なことを任せられるはずがないと反対すらした。

 

 それも当然だ。

 怪人というのは平気で人間を殺すような危険な存在。

 そんな相手に運動音痴で、色々とドジっぽいところがあるあの子を戦わせるなんて考えられなかった。

 相手方———金崎レイマと名乗った胡散臭い金髪の男は、直に会った際にアカネとこちらに判断を委ねると口にしたので断ってやろうと思った矢先に、アカネがそれを受けようとした。

 

『怪人に殺されかける怖さはよく知っているよ』

 

『すごく苦しくて泣きそうで……心の底から死にたくないと思った』

 

『だから、他の人にそんな思いをさせないために私も戦いたい』

 

 普段は考えられない、確かな決意を感じさせるアカネのその言葉に私と貞夫さんはなにも口にすることができなかった。

 結局はそのままアカネは自分の意思でジャスティスクルセイダーのリーダー、レッドとして怪人と戦うことになった。

 ……世間からの評価はまあ、色々な意味で酷いものではあるけれども。

 やはり私の血、というか若い頃の性格を色濃く受け継いでしまったせいだろうか?

 

 そんなこんなもあり、アカネがジャスティスクルセイダーとして戦い続けてからそこそこの時間が経った。

 地球の怪人との戦いが終わったかと思えば、今度は宇宙からの侵略者。

 果てはルインなんぞというとんでもない女が、地球を滅ぼすかもしれない事態になったりと本当に大変なことが連続で起こっている。

 

 しかし、私にとってそれ以上に大変だと思ったことがあった。

 それは、あのアカネが家に意中の男を連れてきたことである。

 

 穂村克己くん。

 

 この地球の命運を背負う少年。

 大体一週間ほど前に一番下の娘、アカネが連れてきた彼はテレビで見た時よりもずっと大人しい印象だった。荒々しい一面は怪人と侵略者と相対している時だけ、というのはアカネから聞かされてはいたが実際目にすると、普通の礼儀正しい好青年だ。

 

「カツミ君」

「はい? なにか?」

 

 アカネ達もそれぞれの学校と職場へ行き、一気に静かになるリビングのソファーに座っている彼に声をかける。

 最近お気に入りなのか、うちの飼い犬、きなこに膝を占領されながらもぼんやりとテレビを見ていた彼は、こちらを見る。

 

「いい機会だから少し話そうかと思ってな」

「? 別に構いませんが」

「わふ」

 

 こちらのテーブルへと移動してもらい、紅茶を差し出す。

 話せる状態になったところでまず最初は話を切り出してみる。

 

「最初に言っておくが、私達は君の過去を知っている」

「それは、分かってますけれど……」

 

 彼の過去は既に侵略者に暴露されている。

 彼もそれが分かっているのか、どこか困ったように微笑みながら頷く。

 

「そこで勘違いしてほしくないのは別にアカネと私たちが同情して君をここに泊まらせているわけじゃないってことだ」

「……はい」

「これから君に尋ねることで、君を不快にさせてしまうかもしれない。その時は遠慮なく断ってもいい」

 

 神妙な様子で頷くカツミ君。

 きっと、天塚家のコヨミさんはあえて踏み込むようなことはしなかったのだろう。

 だが私は、聞いておきたかった。

 

「カツミ君。君は実の両親を憎んでいるのか?」

「……」

 

 恐らく、この類の話はアカネでは聞くことはできないだろう。 

 そもそも彼に話させる必要のないことだろうが、私としてはどうしても聞いておきたかった。

 余計な詮索と言われれば素直に引くつもりではあるが……予想に反して彼はさほど動揺もせずにゆっくりと口を開いた。

 

「そんな気持ちがないとは言い切れません。俺も少なからず死に際にあんなことを言ってきた父と母を憎んでいる部分はあると思います」

 

 無事に生き残った子供を夫婦そろって責め立てる。

 目を逸らしたくもなる壮絶な経験を経た彼の口調は、憎しみや怒りがあるというよりかはどこか悲しげでもあった。

 

「しょうがないって、ずっとそう思っていました」

「……しょうがない?」

「俺が責められるのも、気味悪がられるのも当然のことだと」

 

 この時、私は穂村克己という少年の内面を目の当たりにした。

 暗闇をそのまま落とし込んだような真っ黒い瞳をした彼の口から出てくる言葉は、どこまでも他人事のようだった。

 

「あの頃の俺は自分が両親と一緒に死ぬべきだったと思っていたんです。生き残るべきじゃなかったし、生きてまで他人に迷惑をかけたくもなかった」

 

 それは恐らく、両親からの罵倒と生還後の周囲の環境のせいもあるのだろう。

 幼い子供だった彼を寄ってたかった責め立てる大人と、そんな彼を預かったにも関わらず保護者としての責任を果たそうとすらしなかった親戚。

 彼を取り巻いていた状況は既に解決済みだろうが、それを踏まえても度し難いものだ。

 

「俺を預かった親戚も突然、あんな可愛げのない子供を育てるのも嫌になるのも分かります」

「私が口を出すべき問題じゃないが。その親戚の君への扱いは酷いものだと思うぞ?」

 

 彼の生い立ちについては何度もニュースなどで取り上げられている。

 あくまでそれも一部だけで、メディアにとっても都合の悪い部分などは省かれているだろうが、それでも壮絶なことには変わりない。

 これ以上になく心を傷つけられた少年が、なんのケアもなく放置されるような環境に置かれていいわけがない。

 心の傷は自然には治らない。

 人の優しさに触れることによってはじめて癒えていくものなのだから。

 

「あの人たちを責めるつもりはありません」

 

 彼はそれどころか申し訳なさそうな素振りすら見せながら視線を斜めに逸らす。

 

「当時の俺は自分でも不気味でした。笑わないし、泣きもしない。かといって何かをしようともしなかった」

 

 そんな子供、不気味に思わないはずないでしょう? と言われ私は肯定するわけでもなく無言を返す。

 

「あの人達に預けられて数年もしないうちに、遠ざけるために一人暮らしをすることになりました」

「……」

「元々、離れで暮らしていたようなものですけどね。それでも気味が悪かったんでしょう」

 

 ……離れで暮らしていた?

 本人は気にした様子もなく口にしていたが、七歳の子供をたった一人で家の離れに暮らさせていたのか?

 この期に及んでまだ表に出ていない事実があるのか、と沈痛な思いに駆られながらも彼の言葉に耳を傾ける。

 

「一人暮らしをするようになってから正直、気が楽になりました」

「一人になれたからか?」

「まあ、はい。……それも長くは続かなかったんですけどね」

 

 数秒ほど感慨に耽るように手元のカップを見つめた彼は、次に自身の手首につけている時計を目にして苦笑する。

 

「プロト……黒騎士としての力を身に着けてから俺の日常は大きく変わりました。怪人に襲われるようになったり、よく分かんない奴が勝手に家に転がり込んだり……」

「……力を手放そうとは思わなかったのか?」

「考えもしなかったです」

 

 カツミ君も見方によってはアカネ達と同じだ。

 自身の意思とは関係なしに力を手に入れそれで怪人と戦うことになってしまった。

 

「黒騎士として戦っていた時はいつ死んでもいいと思っていました。あの日、死にそびれた自分が今ものうのうと生きている意味がない。そう思い込んだまま戦い続けた」

「……今は、違うんだな?」

「そう、ですね。どうやら俺はちゃんと変われたみたいです」

 

 アカネ達がこの子を変えたってことか。

 私は今日この日に至るまでのアカネ達ジャスティスクルセイダーとカツミ君の関係性をあまりよくは知らない。

 しかし、一つ言えることがあるとすれば、あの子たちとこの子の間には確かな信頼と絆があるということだ。

 

「こうして話すことができてよかった」

「俺も色々と話せたのでよかったです。あまり、こういうことを話す機会はなかったものですから」

 

 それは……そうだろうな。

 少なくともこの子が自分からこういうことを話すことはないのは分かる。

 私自身、今聞いたこの話に言うことはほとんど何もない。

 なにせカツミ君の中では既に終わった過去の話でもあり、彼にとって重要なのはこれから先の未来のことなのだから。

 

「もう一つ気になっていたんだが、今の君の立場はどうなっているんだ?」

「えーっと、正直俺もよく分かってなくて。とりあえずは今の後見人はレイマってことになっているとは聞いています」

「あの社長さんか」

 

 おかしな話でもないな。

 むしろあの人物以外に誰がいるというべきか。

 親し気に名前を呼んでいることから関係も良好そうだし、私から口を出すことはない……か。

 しかし、それはそれとしてもう一つ尋ねなければならないことがある。

 

「カツミ君」

「はい?」

「アカネのことはどう思っている?」

「……? 戦友……いえ、友達ですかね。少し口に出すのは恥ずかしいんですけど」

 

 これは強敵だぞ娘よ。

 まるで若かりしときの貞夫さんを見ているようだ。

 しかし、子の幸せを願ってこその親、ここはひとつ影ながら手助けしてやらねばなるまい。

 奇妙な沈黙に支配するリビングでそう思考した私は、あらかじめ用意していた冊子を取り出す。

 

「時にカツミ君……アカネのアルバムでも見るか?」

「かわいそうなのでやめてあげてください……」

 

 ものすごく切実な言葉をもらってしまった。

 いや、なぜだ。

 

 

 




やはり親子、という話でした。
そろそろカツミ本人が過去についてどう思っているのか描写しようと思い、この回となりました。
カツミ本人は過去の出来事については克服しているという感じですね。

……もうそろそろブルー宅へ移動することになりそうです。

今回の更新は以上となります。


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新坂家から日向家へ

お待たせしてしまい義本当に申し訳ありません。
今回は主人公視点でお送りします。


 アカネの家に住まわせてもらってから一週間。

 天塚家と同じく騒がしくも楽しい日々を送らせてもらったわけだが、今日でそれも終わり今度は葵の家に移動することになった。

 実家が神社だというどう考えても普通ではない彼女の家。

 少し……というよりかなりの不安を抱えながら、荷物をまとめた俺は玄関にて新坂家の面々に見送られていた。

 

「カツミ君、一生ここに住まない?」

「私たちは君を歓迎するわ……!!」

 

 もう執念を感じるほどにアカネの姉二人に止められている。

 流石にヒモになるつもりはないので、柄にもなく気遣いながらやんわりと断りつつ、助言のようなものを送っておこう。

 

「俺が言うのはなんですけど、お二人は少ししっかりした方がいいかと……」

「「がはっ……!?」」

 

 見えない衝撃を受け膝を屈する二人。

 そんな二人を見て、晴れやかな笑顔を浮かべた紫音さんが歩み出てくる。

 

「よく言ってくれた。このバカたれ共に必要だったのはその言葉だった」

「は、はぁ……」

「ま、この子たちではないが、帰りたくなったらいつでも来てもいい」

 

 最初に会った時と同じように頭に手を置かれガシガシと撫でられる。

 ……大抵の怪人の攻撃に動じることはなかった俺だが、不思議と面を食らってしまった。

 

「わんっ!!」

「きなこもまたな」

 

 足元までやってきた犬、きなこを撫でる。

 最初からこの時までずっとなつかれたままだったな……。

 その後、改めて新坂家にお礼の挨拶を済ませた後に、見送りについてきてくれるアカネと共に家を後にした。

 

「さすがにここまで変装してるとバレないね」

「そりゃ当然だろ」

 

 時間的に夕暮れの手前くらいの時間帯なのでそこかしこに人がいる。

 姿を知られている俺が普通に出れば気づかれてしまうだろうが、当然変装しているわけだ。

 深く被ったニットキャップに口元を隠すように巻いたマフラー、冬には少し早いがこれで正体がバレることはないだろう。

 

「……そういえば記憶を失った頃に、変装してたな」

「そうなの?」

「二番目にシロで変身した日だったな。ハクアと買い物に出かける時に、変装しろって言われた」

「……へぇ、そうなんだぁ」

 

 当時は意味が分からんかったが、あれは俺の正体を明かさないようにしていたと考えてもいい。

 結果として俺はどうあがいても戦う運命にあったが、あれは彼女なりの気遣いでもあったんだろう。

 

「今思えば、どこかに出掛けたがるのもアルファん時とそっくりだったな。そういう意味でも姉妹ってやつだったんだな……」

「そうだね。似た者同士だね。……今、二人で一緒に住んでいるし、今度顔でも出しに行こうかなっ!」

 

 なんだろうか、笑顔のはずのアカネから妙な気迫のようなものが伝わってくる。

 ……まあ、いいか。

 

「あ、そういえば、その時公園で怪しい三人組を見かけたわ。まあ、お前らなんだけど」

「気付いてたの!?」

「あんときの俺記憶失ってお前らのこと知らなかったし、普通に変な三人組かと思ったぞ。一人、妙なダウジング持ってたし」

 

 それほど心配をかけさせていたとも言えるが。

 思いもよらなかったのか驚きの表情を浮かべるアカネに苦笑する。

 


 

「よくもこの私をここまで待たせてくれたものだ……」

「時間通りなんだが」

「てか、やってきたのは葵だよね?」

 

 待ち合わせの駅前に到着すると、その直後にやってきた葵に出合い頭にそんなことを言われる。

 

「私は一週間待った。アカネ、貴様に敗北を喫したその日から……!!」

「ねえ、見てカツミ君。シザリガーに屈した負け犬がなにかほざいてるよ。あははっ! 無様だねぇ!!」

「おのれぇ!」

 

 最早キャラ崩壊しながら腕をぐるぐるとさせてアカネに向かっていく葵。

 その間に入り止めながら、ため息を漏らす。

 

「おい、俺を挟んで喧嘩すんな」

「きゅん」

「ときめき音を鳴らすな……」

「じゃあ、なんの音がいい?」

「どういう思考回路ならそんな質問ができるの……?」

 

 もう異次元レベルじゃん。

 まともに会話できてること自体が奇跡くらいに次元が違う。

 

「次は私ん家」

「なあ、もうホテルとかでよくないか? さすがに他の家に迷惑をかけるのも―——」

「カツミ君。……君が来なかったらもうジャスティスクルセイダーは今日を以て解散すると思った方がいい」

「どんな覚悟でここにいるのお前……?」

「正直、葵の言うことも分かる」

 

 なんでお前も分かるの……?

 困惑するどころか葵の言葉に頷いているアカネにも困惑する。

 ……まあ、ここまで来れば仕方ないか。

 

「はぁ、分かった。ついていくから」

「ん」

 

 あちら側の家族が了承してんなら俺からは何も言わない。

 カバンを肩に抱えなおした俺は、アカネへと向き直る。

 

「じゃ、ここまでありがとな」

「次はいつ来るのかな?」

「気が早くない……?」

 

 ついさっき出たばかりなのに……?

 しかも屈託のない笑顔で言うもんだからなんとも答えにくい……。

 

「まあ、いつかな」

「次の五日ね。分かった」

「言葉って難しいなぁ、おい!!」

 

 こいつぜってぇ分かってんだろ。

 そんなやり取りを交わしながらアカネと別れ、葵についていく。

 実家が神社をやっているという葵の家。

 いったいどんな場所なのか……正直、気にはなっている。

 


 

 電車を乗り継いだ先の駅から15分ほど歩いた先に葵の実家と思われる神社があった。

 都会にあるとは思えない林に囲まれた場所に存在している神社に入ると、まず最初に歴史を感じさせる鳥居に石畳が視界に入る。

 それらの先を歩いていくと本殿があり、ここもかなり大きい。

 

「もしかして由緒正しい神社とかなのか、ここ……?」

「そうらしいね」

「なんで他人事なの?」

 

 お前ん家だよな?

 ふわふわな応答をする葵にツッコミをいれつつ、本殿の裏手から少し離れた建物へと向かっていく。

 ……多分、ここが家なんだろうが……もうこれ屋敷だよな……。

 

「どうぞ、上がって」

「おう」

 

 玄関から入るように促された先の部屋。

 そこに顰め面をした男性が腕を組み、無言のまま座っているのが見える。

 

「これはお父さん」

「え……」

「彼は前に話したカツミ君」

「うむ」

 

 それだけ説明した葵はそのまま母親を呼びに行くといって部屋を離れて行ってしまった……っておい待てぇ!!

 こんな重苦しい雰囲気の中で俺を放置していくなァ!!

 

「君がカツミ君か」

「っ、はい。今日からお世話になります」

「ああ」

 

 寡黙な人なんだな。

 最初に顔を合わせた時の葵を思い出させる。

 

「君のことは、聞いている」

「そ、そうなんですか……」

「ああ」

「……え、えーっと、どんな風に聞いているんですか?」

「それは、言えん」

 

 なんでだ……!?

 葵はいったい父親になんて話したんだ!?

 変なこと吹き込んでねぇだろうな……!?

 

「……」

「……」

 

 しかも気まずっ……。

 会話が続かず謎の居心地の悪さに別の意味で吐きそうになる。

 え、こ、これ怒ってないよな?

 よく思われてないなら別にホテル暮らしでも別にいいんだが?

 

「ん、お母さんもう少しで帰ってくるって」

「「ほっ……」」

 

 葵が戻ってきたところで、なぜか俺と同じタイミングで安堵の吐息を漏らす葵の父。

 

「カツミ君。今から部屋に案内するから玄関の荷物を持ってきて」

「分かった」

 

 座布団から立ち上がり、荷物の置いた玄関へと戻る。

 ああいう人のことを寡黙っていうのかもしれないな、うん。

 

『それで、なんでそんなに威圧感出してるの?』

『なに話していいか分からなかった……。怖い人だと思われたらどうしよう……』

『鬱陶しいからもう下がっていいよ?』

『酷い……!』

 

 しっかし、本当に広い家だな。

 きららの家も大きかったけどここはそれ以上だ。

 そのまま葵に案内され、しばらく俺が世話になる部屋にまで案内してもらったわけだが……。

 

「部屋広くないか……?」

 

 ふすまを開いて通された先の部屋は和室になっており、テーブルや座布団など先日旅番組で見た旅館の一室を思わせる光景が広がる。

 どうみても俺一人で使っていいように見えない部屋に、若干しどろもどろになりながら葵へと振り返る。

 

「元々は客間に使ってた部屋。今はあんまり使ってないから気にしなくてもいいよ」

「なんか悪いな……」

「気にしなくてもいい。ここが君の部屋になるんだから」

「……ん?」

 

 今、なんか言葉がおかしくなかったか?

 いや、間違いではないんだろうが……なんか怖いんだが。

 

「タンスは空いてるからそこに着替えとかいれるといい。夕ご飯になったら呼ぶ」

「おう、ありがとな」

 

 ともかくとして立派な部屋を貸してくれたことには感謝しなければならないな。

 というより、人生で一番広い部屋に泊まるんじゃないかってくらいに広いんだが。

 

「……なあ、プロト」

『んー?』

「広すぎて逆に落ち着かねぇ……」

『カツミ、ずっと狭いところに住んでたからたまにはいいんじゃない?』

 

 ……それもそうか。

 住めば都って諺? もあることだしな。

 大きな窓を開けると、広い庭が広がっておりこの時点でもアカネときららの家とは違うのが分かる。

 

「これも、一般家庭なんだな……」

『それは違うと思う』

 

 今まで普通の家というものを知らなかったので、こういう機会に恵まれることはかなり喜ばしいことなのかもしれないな。

 


 

「カツミ君。夕ご飯」

「分かった」

 

 荷ほどきと部屋に置かれているものを確認しているうちに夜になってしまった。

 ちょうど終わったところで呼び出してくれた葵の声に立ち上がりながら、和室を出て明かりのついた廊下へと出ると……どういう訳か葵は居間のある方とは逆へと進んでいく。

 

「ん? そっちは居間とは逆方向じゃないか?」

「妹も呼びに行くの」

 

 そういえば前に言ってたな。妹がいるって。

 てっきりこいつは一人っ子だとばかり思っていたので地味にびっくりしていた。

 

「どんな子なの?」

「私に似てる」

「おっふ……」

「……なんでそんな絶望した声が漏れだしたの……?」

 

 葵に似ているとか胃がもたれそうなんだが。

 一人ならまあ大丈夫だろうなとは思うが、二人いると考えると色々と辛い。

 俺は果たして葵×2という理不尽な現実に立ち向かえるだろうか。

 

「私に似て可愛いよ」

「そうなのか」

「……」

「照れるなら最初から言うなよ……ッ!!」

 

 こっちが反応に困るんだが?

 なんか妙にテンション高いな、浮足立ってんのか?

 そんなことを思いながら階段を上り二階へと上がると、一つの部屋の前で葵が立ち止まる。

 

「ここ」

「へぇ」

 

 二階は普通にドアなんだな。

 二階も広い造りなのかいくつも部屋が見える。

 

「じゃ、カツミ君。呼んでみようか」

「いや、なんでだ」

 

 なぜ俺に呼びに行かせる。

 見知らぬ男を部屋に入らせることも駄目だし

 

「挨拶とかしてないでしょ?」

「たしかにそうだが」

 

 そもそもこの時間になる前に教えてくれてもよかったのでは?

 

「妹の名前は蒼花(あおはな)ナオ」

「……苗字も違うのか?」

「あっ。……呼び捨てでいいよ。その方が慣れてるから」

 

 下の名前で呼ばれることを慣れている……?

 いったいどういうことだ?

 いや、こいつの妹という時点でかなりの変わり者の可能性は高い。

 

「なんか配信中って札があるんだが」

「ああ、気にしなくてもいいよ」

「“勝手に入るな”とも書いてあるんだが」

「私が許可する」

 

 暴虐がすぎないか?

 扉に掛けられた『配信中』という札を裏返す葵に首を傾げる。

 配信中ってなんだ?

 

「この部屋に入る上で絶対に守らなきゃならない掟がある」

「お、おう?」

「本名を口にしてはいけない。私の名前を口にするときはブルーと呼称すること。アカネときららも同じ」

「……わ、分かった」

 

 意味が分からんけど言う通りにしておこう。

 

「妹は独り言が多いから気にせずに話しかけてね。あと声は大きめに」

 

 独り言が多い……?

 本当に大丈夫なのだろうか。

 

「プロト、前に送ったメッセージの通りにサポートよろしく」

『……むぅ、面倒くさいけど……分かった』

「?」

 

 プロトに話しかけた葵に首を傾げていると、彼女がおもむろに扉を手に掛けた。

 

「聞こえてなさそうって時は肩を叩いて。それじゃ、レッツゴー」

 

 遠慮なく扉を開けたな、おい。

 開け放たれた扉から、少女の声が聞こえてくる。

 

「———今のところコラボはしないかな。当分は一人で進めたいし」

 

 ほ、本当に独り言を喋ってる……!?

 明かりのついた部屋でえらくごついパソコンの前で何かを話している少女の後姿を見て動揺する。

 

「武器はなにを使う? 遠距離が好きだからボウガンかな」

 

「おーい。ナオ、でいいんだよな?」

 

「お姉ちゃんは分からない。でも多分、来たら変な武器しか使わないと思う」

 

 よく見たら頭に何かをつけている。

 これは……なんだ? 両方の耳を覆うようにしているが、競技用に使う耳栓的なやつか? たしか、イヤーなんとかって名前だったような気がする。

 それじゃあ耳栓をして独り言をつぶやきながらパソコンで作業しているってことか。

 

「まさか、これが最近の学生の流行りってやつなのか……?」

『絶対違うと思う……』

 

「え……別の声? 誰の?」

 

 気づいていないようなので葵に言われたとおりに軽く肩を叩く。

 すると、やや不機嫌そうなため息と共に葵の妹は椅子を回しこちらへと振り返る。

 

「……お姉ちゃん。今、配信中だから悪戯はやめてって前に——」

「あー、ナオ、だよな?」

 

 こちらを振り向いた葵の妹は、確かに姉とそっくりな顔立ちをしていた。

 違う点があるとすれば姉と比べて長い青みがかった黒髪と、上下のジャージを着ていることだろう。

 

「もう知ってるかもしれないけど、今日からここでお世話になることになった穂村克己だ」

「……」

「……えーっと、君の姉に頼まれてきたんだけど……夕ご飯ができたって」

「……」

 

 ……微動だにしないんだが?

 俺の顔を見て石像のように固まった彼女に首を傾げながら、顔の前で手を軽く振って反応を見る。

 十秒ほどして目に光を取り戻した彼女は、絞り出すような声を発した。

 

「かつみん?」

「いや、カツミだけど」

「……」

 最初からあだ名ってすごいな。

 別段気にしないが、やはり葵の妹なんだな。

 

「……ん?」

 

 

 

□    ライブ
 
     

 

上位チャット▼

xxxxx !!?

xxxxx !!

a xxxxx は!!?

S xxxxx 黒騎士くん!??

D xxxxx 悪ふざけ……じゃない!?

E xxxxx !?

Q xxxxx 男の声!?

a xxxxx は!!!!!????

D xxxxx マジ!!?

F xxxxx !

C xxxxx

xxxxx どういうこと!?

L xxxxx えっ!?

A xxxxx なんで!?

E xxxxx この声の感じは!?

w xxxxx やb

S xxxxx さらっとカツミん呼び笑

X xxxxx

K金崎レイマ(エイリアン)

10000円

!!!?????

a xxxxx

u xxxxx やっば

io xxxxx

w xxxxx

K xxxxx いったいなにが起きてるんだ!?

H xxxxx カツミくん!?

Rジャスティスレッド

10000円

なんで出てるの!?

S xxxxx 配 信 事 故

xxxxx ほ、本人だぁ!

Yジャスティスイエロー

5000円

ブルーやったなお前

xxxxx 勢ぞろいで草ァ!!

xxxxx 黒騎士くん乱入とかあるんか……

l xxxxx 盛り上がってまいりました

A xxxxx

 

♯UTOPIA

UTOPIA:オープンワールドで歩き回る[蒼花ナオ]

 XXXXX人が視聴中
高評価低評価共有保存 …

蒼花ナオCHANNEL 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 あ、これ知ってる。

 こっちの小さいノートパソコンに映ってんのは前にななかに見せてもらった動画サイトだろ?

 なんかすごい勢いで文字が下から上に流れているが、二つも同時に使っているなんてすげぇな。 

 

「———ハッ!? ァハァン!?

「んん!!?」

 

 突然、身体を震わせてテーブルに突っ伏したナオにびっくりする。

 その際にマイクのようなものがこちらに倒れたが、彼女はそれにも関わらずまた独り言をつぶやき始める。

 な、なんだ……?

 

「お、おおお落ち着け私。ついに妄想が現実に出てきたとしてもそれは単純に私の頭がおかしくなってきただけでこの場にあの人が出てきたわけじゃない。正気になれ正気になれ正気になれ……!! リスナァァ!! 私はなにも聞こえてないし見ていない!!」

「……大丈夫か?」

 

 猛烈な独り言を口にした上になぜかパソコン画面に怒鳴り込むナオにちょっと引く。

 一応、無事か声をかけるとどこか自信のない声と共に彼女がこちらへ向き直る。

 

「……え、本物?」

「俺の偽物がいたらそれはそれで嫌なんだが」

 

 なっても理不尽な目にしか遭わないだろ。

 ルインっていうとんでもねぇ疫病神に目を付けられてるわけだし。

 

「……。え、はぁぁ!? な!? ほ、穂村さん!? なんでここに!?」

「別にかつみんでもいいぞ」

「公式!?」

 

・あああああああ!!?

・意外とノリがいいの笑う

・これ絶対姉の悪戯だろ

・草

・ブルーはそういうことする

・いいのぉ!?

・かつみんオッケー!!?

 

「あ、あのか、かっ、かっ……ァッ、カ……ァッ……カッ……ァ

 

・死にかけの悟空みたいな声出してて草

・草

・草

・配信乱入!?

・待って今来たけどどういう状況?

・え、誰これ男!?

・マジで死にかけ悟空www

・もうトレンド上がってて草

 

 なんか画面で猛烈な勢いで文字列が下から上に上がっていっているがなんなんだろうか?

 もしかしてこれがプログラミング画面ってやつ……?

 

「か、キャツミさんはどうしてここに?」

「カツミンな」

「ヒィンッ」

「……いや悪い。からかっただけだから、お、おい……本当に大丈夫か?」

 

 打てば響くくらいに反応が返ってくるので思わずからかってしまった。

 ウマみたいな悲鳴を上げてのけぞりかけながらも耐えた彼女に、この場にいる理由を話しておく。

 

「事情があって今日からここに居候させてもらうことになったんだ。……家族から聞いていないのか?」

「……。おいコラ!! バカ姉ェ!!!」

 

 唐突に扉にいる葵に怒りを向けようとするナオだが、驚くべき速度で扉が閉められる。

 なんかスマホのようなものも見えたが……どうやら扉の隙間から様子を伺っていたようだ。

 

「でも居候だなんて……そんなっ、まだ早いです!!」

「早いとか遅いとかあるのか……?」

 

・ひと昔前のラノベみたいな状況で草

・黒騎士君なら許す

・前代未聞の配信事故すぎるwww

・草

・これ配信されてるの忘れてない……?笑

・草

・草

・まったく黒騎士くんはしょうがないやつだ

・なおなおが重度の黒騎士オタ勢なのは羞恥の事実だもんな

 

「あ、あああ、あ、姉と付き合っているんですか!?」

「付き合うって……なんでだ? いや、事情があって住んでたアパートが事件現場になってて帰れなくなってな。俺は別に適当な場所でよかったんだけど、レイマ……社長に頼まれた」

「社長さんが? どうしてですか?」

「ジャスティスクルセイダー内で戦争が起きるかもしれないって……」

 

・家に帰れないって怖ぁ……

・社長苦労しすぎじゃない?

・どうしてそうなったのか分かってなさそうw

・黒騎士くんが悉く小学生みたいな思考で笑う

・え、待って辛い

・家 な き 子

・出待ち勢のせいで本人に迷惑がかかってるじゃん……

・事件現場呼ばわりは草

 

 

 さっきからちらちらと爆速で流れていく画面が気になるな。

 なんだか興味も湧いてきたので、話題を逸らすがてらナオの背もたれに手をつき、パソコン画面をのぞき込む。

 

「これがPCゲームってやつなのか……」

「ふやい」

 

 すっごい腑抜けた返事が返ってきた。

 心なしか目が虚ろなことが気になるが、とりあえず会話を交わしてみよう。

 

「へぇ、機械とかに強いんだな」

「ま、毎日触れてますから」

「俺はその辺疎いから素直にすごいと思うぞ」

「ひぃん……」

 

・ギャルに絡まれたオタクみたいな反応で草ァ!

・限界オタクと化してる……

・草

・なんでブルー宅にカツミくん怨念!!

・とんでもねぇコラボ

・どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!

・実の姉より甘やかされてて草

・草

・クール系の面影がないやんけ!!笑

・事故コラボが面白すぎる

・妹派は正しかったことが今証明されてしまった

・かっこいいクール系だったナオナオはもういない

 

「で、えへへ……カツミさんはゲームとかよくやるんですか?」

「やるのは最近になってからだな。……ん?」

 

 今、気づいたが画面に端の方になんかのキャラクターが映し出されているような気がする。

 まるで普通の人間のように口元とか顔が動いているから、アニメーションかなにかだろうか?

 

「ん、このキャラクターはなんなんだ?」

「へ、あ、えーと、もう一人の私というか……ど、どうですか!?」

「どうですか……?」

 

 なにが?

 デザイン的なあれ?

 うーん、見た目は顔とかを露出させたブルーのスーツに似ている。

 青い髪色に近未来的な装いに身を包んだ女性キャラクターを見た俺は、正直に感想を口にする。

 

「可愛い……んじゃないか? 俺は好きだぞ?」

「もう私、ここで死んでも本望です」

「なんで……?」

 

 どういう情緒……?

 ものすごい勢いで感情が切り替わっていくナオに戸惑いしか抱けない。

 しかし、ふとパソコン画面を見たナオの動きが止まり、その表情を一気に青ざめさせる。

 

「……あっ、しまった」

「どうした?」

「き、緊急事態につき本日の配信はこれにて終了ォ!! お疲れさまでしたっ!!」

 

 かたかたかたー、とすごい速さでキーボードを叩き、一息ついた彼女は妙に爽やかな笑顔と共にこちらへ振り向いた。

 

「どうしたんだ?」

「気にしなくても平気です。姉のせいで事故には慣れているので」

「お、おう」

 

 なんだろう。

 この子も葵に苦労させられてんだなぁとは思った。

 するとタイミングを見計らったのか、音もなく扉を開けて入ってきた葵がどこかドヤ顔で俺達の元へと近づいてくる。

 

「妹よ。サプライズは喜んでくれたかな?」

「カツミさん。少し席を外してもらっても構いませんか? 私はちょっとこの姉に話があるので」

「分かった」

「あれれ?」

 

 葵よ、さすがに妹に伝えていなかったのは駄目なので、素直に怒られた方がいい。

 扉の外で待っていようと考え、その場を歩きだす。

 

「あ、カツミさん」

「うん?」

「私の名前、日向晴(ひなたはる)っていうんです。ナオって名前もある意味間違っていませんけど、ここではそう呼んでください」

「おう、分かった」

 

 ……ん? この子、俺と同じように名前が二つあるのか?

 あれか? あだ名とかミドルネームとかそういうのか?

 最近の学生のブームはよく分からないけど、変わっているなぁ。




ブルー家編突入……!
ブルーの妹であるナオもといハルが最大のドッキリをかまされるお話でした。
彼女はブルーの手により何度か配信中に悪戯を仕掛けられているので慣れています。


ほぼ同じタイミングで
【外伝:隣の黒騎士くん】の最新話の方を更新させていただきます。

第七話『みんなで笑顔に』

黒騎士くんVS催眠怪人スマイリー編を今話にて登場した日向晴の視点でお送りさせていただきます。
加えて、オメガ、スマイリーについての追加の設定なども描写させていただきました<(_ _)>


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策士(ブルー)、策に溺れる

風都探偵アニメ化決定おめでとうございます……!

お待たせしました。
序盤は流れるコメント+掲示板
後半からはブルーの妹ことハル視点でお送りします。


蒼花ナオ ブルー(ジャスティスクルセイダー) バーチャルWhoTuber 黒騎士 穂村克己 ブルーの悪戯 配信事故 ? かつみくん(少年)? 蒼花ナオ惨敗シリーズ? レッド惨敗シリーズ 姉が妹になる瞬間? 

 

✕▶

ほんと草     カツミ君!?

幼 年 期 の は じ ま り

三 色 同 盟 決 裂

妹派大勝利

思 春 期 を 殺 し た 少 年

ホント突然来たからびっくりしたwww

ブルーやったなお前

な ぜ か 炎 上 し な い 女

機械音痴の黒騎士くん

 II ————

 


 

151:ヒーローと名無しさん

 

シ ビ ル ウ ォ ー 勃 発

 

152:ヒーローと名無しさん

 

情報をまとめると

 

・ジャスクル宅に居候していた黒騎士くん

・ブルーの企みによりドッキリをかまされ限界オタクと化す蒼花ナオ

・妹になった姉派

 

153:ヒーローと名無しさん

 

妹を名乗る姉はただのおかしい人なんだよなぁ

 

154:ヒーローと名無しさん

 

お泊り説が濃厚だとは予想外にもほどがある

 

155:ヒーローと名無しさん

 

カラオケ番組で本人が出てくるくらいのドッキリかまされてたな

 

156:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんガチで帰る家なくて悲しい

 

157:ヒーローと名無しさん

 

こんなことあっても出待ち勢はいるらしいからな

ほんと怖いわ

 

158:ヒーローと名無しさん

 

なんで出る度に俺たちを曇らせてくるんですかね……

 

159:ヒーローと名無しさん

 

真っ先に社長が黒騎士くんの私物とかを回収したらしいし、あのアパートにはほぼなにもないらしいんだけどね。

むしろ黒騎士くんがまだあそこに住もうとしていたことに驚いたわ。

 

160:ヒーローと名無しさん

 

この事態に社長すらも驚いているのが本当に草

ブルーはそういうところで変人呼ばわりされるんやぞ

 

161:ヒーローと名無しさん

 

蒼花ナオってよく知らないんだけどいつもブルーになにかされてんの?

 

162:ヒーローと名無しさん

 

蒼花って物静かでクールなキャラなのに姉と黒騎士くんが関わると思いっきり感情が揺れ動くから面白いんだ

 

163:ヒーローと名無しさん

>>161

ちょっと席を外した本人と成り代わってプレイするドッキリしてた。

なおなお本人とリスナーの誰にも気づかれず、ちょっとしたホラーみたいになったのが面白かったわ

 

163:ヒーローと名無しさん

>>161

成り代わりドッキリ

 

164:ヒーローと名無しさん

 

予告なしに出没してはえぐい爪痕残して去っていくのがブルーだぞ

 

165:ヒーローと名無しさん

 

ゲームでガチ勢のなおなおが変態のブルーに泣かされるのはいつものことだ

配信事故になるのも結構いつものことだが、昨日は一番やばかった。

 

166:ヒーローと名無しさん

 

姉妹仲がいいことを利用して好き放題しているからなw

 

167:ヒーローと名無しさん

 

FPS系のゲームになると途端に無双しだすし、普通のゲームやってもやってることと挙動が変態すぎて常人じゃ太刀打ちできないんだ

 

168:ヒーローと名無しさん

 

バトロワ系のゲームでチームから一人離れて単独で激戦地に降りたら

その場所に降りた他チーム殲滅してキルリーダーとってくるくらいにえぐいからなブルー

 

169:ヒーローと名無しさん

 

リアルでガンシューティングやってる人にシューティングゲームやらせたらアカン……

 

170:ヒーローと名無しさん

 

バカと天才は紙一重という言葉はブルーのためにあるようなもんだな

 

171:ヒーローと名無しさん

 

さらっとブルー用のアバター作られているあたり公認化されてる感はある

というより社長自らが作ったものだしな

 

172:ヒーローと名無しさん

 

あの社長本当になんでもできるな……

 

173:ヒーローと名無しさん

 

蒼花ナオってどうしてVをやっているんですか?

 

174:ヒーローと名無しさん

>>172

社長はエイリアンだから多芸なんだろ

 

175:ヒーローと名無しさん

>>172

そら宇宙人だから

 

176:ヒーローと名無しさん

 

何度も宇宙人アピールしているせいか全くアンチ湧かないこの社長さんよ

 

177:ヒーローと名無しさん

 

ただの有能な変人から有能で変な宇宙人になっただけだからな

 

178:ヒーローと名無しさん

 

よく考えなくても功績えぐいからな

スーツとか諸々の対怪人用の装備とか全部社長が発明したものらしいし

下手すりゃ黒騎士くん並みにえぐい

 

179:ヒーローと名無しさん

>>173

元々黒騎士のイメージアップのために社長にスカウトされたってのが本人談

ブルーの身内で機械に強いからって理由もあるらしいけど、なんであそこまで黒騎士ガチ勢なのかは本人はほとんど語らん

 

180:ヒーローと名無しさん

 

デビューしたのもジャスクル登場から半年ぐらいした頃だったなぁ

 

181:ヒーローと名無しさん

 

結構昔のゲームしてくれるから見てる

エグゼシリーズとかもう15年以上前のやつやってくれるし

 

182:ヒーローと名無しさん

>>181

なそ

にん

 

188:ヒーローと名無しさん

>>181

嘘だ…僕を騙そうとしている……

 

189:ヒーローと名無しさん

 

なぜか社長が謝罪文という名の暴露話出してて草

xxxx://xxxxxx/xxxxxxxxx

 

190:ヒーローと名無しさん

 

記憶 (復活)喪失した後はイエローのところに転がりこんでたのか

 

191:ヒーローと名無しさん

 

イエローは黒騎士君を匿っていることをレッドとブルーに秘密にしていた

 

 

_人人人人人人人人人人人人人人人_

>レッドとブルーに秘密にしていた<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

 

192:ヒーローと名無しさん

 

これあかんやつや……(怖気)

 

193:ヒーローと名無しさん

 

イエローがいつの間にかヒーロー活動で一番のピンチになってて草

 

194:ヒーローと名無しさん

 

また記憶喪失になって誰かに拾われてる黒騎士くん……

 

195:ヒーローと名無しさん

 

なんでこんな面白いことしかしないの?

 

196:ヒーローと名無しさん

 

これ最大の敵は味方ってやつでは?

 

197:ヒーローと名無しさん

 

敵側にもルインっていう最大のやべーやつがいるんだよなぁ

 

198:ヒーローと名無しさん

 

経緯だけ見るとラブコメ染みているのにその背景にいるやつらがやばすぎる

 

199:ヒーローと名無しさん

 

仲間に秘密にするの本当に草

レッドとブルーも同じことをするんだろうなって軽く予想できるのも草

 

200:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんが拾われた犬みたいな扱いで……w

これ下手すると泥沼化するのでは……?

 

201:ヒーローと名無しさん

 

イエローの身内が見つけて連れてきたって、

イエロー関係なしに黒騎士君が家にやってきてたってどうなってんの……?

 

202:ヒーローと名無しさん

 

とりあえず社長がめっちゃ苦労しているのは分かった

 

203:ヒーローと名無しさん

 

え、これ炎上したの?

 

204:ヒーローと名無しさん

>>203

してないぞ

そもそも蒼花はブルーで鍛えられているから事故慣れしている。

荒そうとしているやつはいたけどそもそも、ジャスクルが初めて出てきたころに比べれば全然炎上するうちに入らない。

 

205:ヒーローと名無しさん

 

あの頃バッシング酷かったよなー

すぐに収まったけれど、偽物扱いされてたし

 

206:ヒーローと名無しさん

 

見た目が黒騎士そっくりだったからな

実質、黒騎士のスーツをバージョンアップさせた最新型だったんだけど

 

207:ヒーローと名無しさん

 

武装皆無の装着者殺しの欠陥性能のスーツで無双する黒騎士くんが悪いって結論が出ただろいい加減にしろ!

 

208:ヒーローと名無しさん

 

家族がいるからって居候は実質ブルー大勝利ではブルー?

 

209:ヒーローと名無しさん

 

あれ……? レッドさん……?

 


 

 お姉ちゃんの悪戯には慣れているとばかり思いこんでいた。

 私に悪戯してきたりリスナーと共謀してドッキリを企てたり散々やらかしてきたけれど、ぶっちゃけそれも撮れ高になるから悪くないと思ってさえいた。

 だけど、今回は話が違う。

 

 黒騎士、穂村克己さん。

 

 地球が今、滅亡の危機にさらされている中で最も中心にいるであろう人物が姉の企てにより私の配信に乱入してきたのだ。

 当然炎上もするだろう。

 騒ぎにもなるだろう。

 現時点でなにが起こるかさえ分からないくらいに事態が混沌としているはずだ。

 だけどあえて言おう。

 

 お姉ちゃん、グッジョブ……!!

 

 一週間前から決まっていたことを私以外の家族に明かしていたことと勝手に私の部屋にカツミさんを入れたことは看過することはできないけれど、この自由すぎる姉にはナイスと言わざるを得ないだろう。

 そして本部ができるまでの間、彼はここに居候の身として生活してくれるらしい。

 思わずこの状況に浮足立ってしまいそうになるけれど、まずしなくてはならないことがある。

 

「すみません! その、色々と配信しちゃって!!」

 

 それは姉の企みとはいえ生放送という形でカツミさんの声を放送してしまったことだ。

 夕食後、ひとまず気分を落ち着けた私は姉と共にカツミさんがこれから泊まる一階の和室へと尋ね、そう切り出した。

 当のカツミさんは不思議そうに首を傾げる。

 

「ハイシン? なにか放送していたのか?」

 

 ……もしかして動画配信とかを知らない!?

 い、いや、この人の来歴を考えたら当然だ。

 むしろ解釈一致すぎて怖すぎるくらい。

 とりあえずカツミさんに、私が部屋でゲームの配信をしていたことを説明する。

 

「今ってパソコンだけで生放送とかできるのか……」

「はい……。そのせいでうちにカツミさんがいることがバレてしまって」

「なるほど。だから葵は俺に名前を呼ぶなとか言ってたのか」

 

 じとーっと私の隣でケーキを食べている姉を睨むカツミさん。

 その視線を意に介さず姉は、そのどこからやってくるか分からないドヤ顔を浮かべ口を開いた。

 

「大事な妹を驚かせたくて」

「だからってお前なぁ。ちゃんと言えば協力してたんだぞ」

「かつみんも驚かせたくて」

「お前はかつみんって呼ぶな」

「そんなっ!」

 

 ざまーみろ、と口には出さずにショックを受ける姉を見る。

 ……でも私にカツミさんをかつみん呼ばわりする勇気はまったくないけれどなぁ!

 

「じゃあ、レイマに連絡しておくか」

『その必要はないと思う』

「……どういうことだ。プロト?」

 

 わ、わあ!! カツミさんの腕に着いてる時計が喋ってる!

 姉と違うのは分かっていたけど、あれが意思を持った変身アイテムなんだ!

 極力、ジャスティスクルセイダー関連の話を詮索しないようにしていたからいざ目の前で見ると驚きと感動の感情が延々と湧き上がってくる!

 しかしここで厄介オタク感を出してカツミさんに引かれるような愚策はしない。

 私は蒼花ナオ、クールでかっこいいキャラを売りに出している配信者なのだ。

 表情筋にブレーキをかけ動かさないようにし、目の前のカツミさんとプロトさんの会話に全力で耳を傾ける。

 

『社長がなんとかするってー』

「……なんだか申し訳ないな」

『いい機会だから諸々情報を公開するつもりらしいし、そこまで気にする必要ないとも言ってた』

「なるほど」

「あ、私も同じようなメッセージを先ほどいただきました」

 

 先ほど社長さんから「心配無用! この私に任せたまえ!! それと先ほどから既読無視をし続けている君の姉に“覚悟しておけよ”というレッドとイエローからの伝言を伝えておいてくれ!!」という連絡が届いていた。

 なので私も最低限の通知だけに留めて様子見する段階に入っている。

 姉に関しては……まあ、伝えたけど特に問題にしていないようだ。

 

「あとはレイマに任せるか。最悪、アルファに助けてもらう必要があるかもしれないが……極力あいつに力を使わせたくないんだよな」

『心配性じゃない?』

「あいつに関しては心配しすぎるくらいが丁度いいんだよ。考えてもみろ、あいつ年齢的には三歳くらいだぞ。ハクアに至っては一歳だ」

『うあー』

 

 なんだかすごい会話をしているけど、アルファというのはカツミさんが記憶を取り戻した時に現れた黒髪の女の子のことだろうか?

 あのものすっごい絶世の美少女って感じで同性から見ても驚愕しかなかったけれど、年齢的に三歳ってどういうことなんだろう。

 

「……話が逸れたな。それで、その配信ってやつだけど大丈夫なのか?」

「え、なにがですか?」

「生放送ってやつだったんだろ? そんな時に俺が乱入して大丈夫だったのか?」

 

 気遣いの戦士かな?

 でもそういう気遣いをしてくれるという点で解釈一致……!!

 内心で感動しながらも務めて冷静に、かつ穏やかに彼へと返答する。

 

「いえ、全然大丈夫ですよ。視聴者さん達、みんな鍛えられているので。むしろ私としても撮れ高という意味で役得というか、もう本懐は果たしたのでいくらでも炎上してどうぞって感じでして」

「妹よ。本音が漏れているぞ」

 

 やかましいぞ姉。

 ここまで私のメンタルを強くしたのは他ならないお姉ちゃんだからな?

 

「実は私、カツミさんに会うの初めてじゃないんです」

「そうなのか? 学校で会ったか?」

「いえ、カツミさんが通っていた頃はまだ中学生だったので。初めて会ったのは、スマイリーと呼ばれる怪人の事件に巻き込まれたときです」

「……え!?」

「あれの事件に巻き込まれていたのか。そりゃ……怖い経験をしたな」

 

 隣で暢気していた姉が珍しく目を見開いて驚くのをスルーする。

 人を笑わせる悪魔、スマイリー。

 その怪人が現れた場所に居合わせていた私は、スマイリーの能力に影響され危うく死にかけた。

 ものすごく怖くて泣きそうでも笑うしかなかったそんな時に、黒騎士はやってきてくれたんだ。

 あの時起こった出来事を話すのは面接の際に社長に話した時を除いて今が初めてだ。

 

「ありがとうございます。助けてくれて」

「いや、あの時の俺は……」

「それでも貴方は私のヒーローです。だから今日までずっと応援してきたんです」

 

 私のことを覚えていなくて当然だ。

 私なんて所詮はあの場に何百人もいた命を救われた一般人の一人でしかない。

 だけど、ようやく面と向かってお礼を言えた。

 それだけでようやく私の念願が叶ったとも言えた。

 

「ね、ねえ、ハル」

「うん?」

 

 一人満足していると姉が声を震わせながら話しかけてくる。

 

「怪人の被害に巻き込まれたってなに……? 私初耳なんだけれど……」

「心配かけさせたくなくて」

 

 時期がこっちに引っ越した時だったし、心配もかけさせたくなかったから黙っていたのだ。

 多分、姉はジャスティスブルーに選ばれた頃だろうし。

 

「ハルが黒騎士くんオタクだったのってファンだったからじゃ……ない?」

「うん」

「……」

「お姉ちゃんっていいお姉ちゃんだよね! カツミさん連れてきてくれるなんて! ね!!」

 

 とりあえず、承太郎に時を止められたDIOみたいな顔をしている姉を煽っておく。

 さっきの意趣返しとしてはこれで十分だろう。

 

「妹よ、共謀しよう」

「すぐに姑息な手段に出ようとするの本当やめない……?」

 

 プライドはないのかこの姉は。

 

「私たち姉妹が力を合わせれば最強無敵だよ」

「お姉ちゃんの存在はデバフにしかならないからいらないかな」

「なんでそんな酷いこと言うの……?」

 

 こういう時の姉は割と雑に扱ってもいい。

 がびーん、とショックを受ける姉とそんなやり取りを交わしていると、そのやり取りを見ていたカツミさんが何かに気づく。

 

「……連絡か? プロト」

『うん。社長から連絡がきてるよー』

「? 繋いでくれ」

 

 うん? 社長さんから電話? なにかしらの連絡かな?

 テーブルに崩れ落ちている姉を放置し、カツミさんを見ると彼は社長さんと電話のやり取りをしていた。

 一分ほど話すと、不思議そうに首を傾げた彼が私を見る。

 

「なあ、ハル」

「きゅん」

「君もときめき音の使い手なのか……!?」

「いえ、持病の発作なのでお構いなく。それで、なんでしょうか?」

 

 危ない危ない。

 危うく内側に押しとどめていた尊い感情が爆発するところだった。

 

「レイマがさ。俺に君の配信に出てほしいって言っているんだけど、どういうことだ?」

「……はい?」

『カツミ、社長から追加でなにかデータが送られてきた。……なにこれ? 絵?』

 

 社長さん! 今の状況でそれはかなりリスキーなのでは……!?

 いや、黒騎士イメージアップのための広報担当を兼任してる身からすればある意味で当然のコラボではありますが!

 でも既に黒騎士専用アバターすらも用意しているとか、まさかこの状況を想定していたということ……!?




※社長は趣味でレッドとイエローのアバターも作っていました。

社長は、かっつん自身からのある程度の情報の開示が必要と判断したので配信という形で行うことにしました。
テレビ出演やインタビューなどはかっつんの過去的にアウトだったので。

ブルー宅訪問も終えたので第四部は終わり、次の部へと移ります。
その間に閑話の方をいくつか更新する予定です。


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閑話 “可能”のアルファ

お待たせしました。

今回は閑話、
星将序列一位、ヴァースの視点となります。


 それは俺がコスモを養子として迎える前、それこそゴールディから“ライブラ”のスーツを譲り受ける遥か過去の出来事のことだ。

 

 とおい昔の記憶。

 幾千幾万の戦いの中でひときわ思い出すのは戦鎧に身を包んだ女武者の姿。

 今でも目を閉じれば容易くその光景を思い起こせるほどの、強く焼き付いた闘争の記憶。

 地球に植え付けられたアルファとしての覚醒者。

 オメガという片割れを既に失い、ただ一人戦い続けていた奴はそれでも尚、宇宙からの軍勢を退け―——見事、この俺を引きずり出して見せた。

 

 奴は、アサヒと名乗ったアルファは強かった。

 

——刀を振るえば女の細腕とは思えんほどの斬撃を縦横無尽に繰り出し小山を切り落とした。

 

——斧を叩きつければその剛腕で青い海を二つに割ってみせた。

 

——弓から放たれた矢は雲を穿ち遥か空の敵を撃ち落とした。

 

 武器を選ばず、あらゆる戦い方で自身の敵を蹂躙していく様は明らかに他のアルファとは異なる異質な存在と言えただろう。

 

 “可能のアルファ”

 

 奴が“可能”と思い続ければあらゆる事象を可能とする力。

 できる、と確信したから一薙ぎで山を切り落とすこともできるし、海も空も穿つこともできた。

 不可能を可能にする驚異の力、のように思えるがその実、大本であるアルファの精神性・想像力に依存するものであり並大抵の者では扱うことさえ叶わない難しい能力。

 奴は己を信じる限り、絶対にその足を止めることはなかった。

 

『十二天・(まとい)

 

 戦いの最中、俺の振るった斬撃をいなした奴が刀の刃に指を添える。

 なぞられた部分から刃が朱く染まり、炎を纏った刀を構えた奴は地を蹴り神速の一撃を見舞う。

 

『———()

 

 鞘に納められた剣で炎刀を受け、弾く。

 その間に奴は俺の剣を足場にし、空へと舞い上がりさらなる攻撃を繰り出す。

 溢れる炎を一点に閉じ込め赤熱した刃。

 振るわれる度に空気を切り裂き、爆炎を迸らせながら軽々と地球という戦いの舞台を更地へと変えていく。

 

 しかし、それですら力の一端に過ぎない。

 

 納刀と共に深く構えた奴がさらなる気迫と火炎を纏う。

 奴は鞘から獄炎を抜き放つと同時に俺と奴の間に存在する物理的な距離そのものを“斬り裂いた”。

 紛れもない俺が用いる技。

 ただ一度見せただけのソレを戦いの最中に模倣して見せた奴は、迷いなく刀を振るった。

 

焔摩(エンマ)

 

 炸裂する炎を纏った一撃。

 赤い一閃は並の星将ならば成すすべなく、それこそ反応すら許さずに両断するほどの威力と速さを誇っていたほどだ。

 地球人とは思えんほどの強さと精神力。

 その斬撃を目の当たりにした俺は、内心で驚嘆と一種の畏敬の念を抱きながらも眼前の戦いに意識を向けた。

 


 

『ぬしは強いのぉ』

 

 だが、戦いもいつかは終わる。

 星将序列一桁を二人葬り、一位であるこの俺自身がやってきたことでアサヒの命運は尽きたといってもよかった。

 俺と奴は戦い、そして俺が勝った。

 鎧と着物を血に塗れさせたまま倒れた巨木に背を預けた奴は、どこか満足そうにそう呟いた。

 

『……』

『無口な男だ』

 

 沈黙で返す俺に奴は呆れたため息を零す。

 

『ぬしより強い奴が他にいるのか?』

『……』

『かはは、なにも言わずか』

 

 既に奴に戦う力はなかった。

 武器は腰に刺したなんの変哲のない刀と呼ばれる剣一つ、その身は五体が残っているものの傷つけられ放っておけばこのまま死ぬであろう状態だ。

 

『……』

 

 オメガを欠いた状況で我々が送り込んだ軍勢を幾度も撃退し、その上星将序列の上位実力者である一桁の者たちを二人も葬り、最後に俺を相手にここまで戦った。

 驚嘆に値するころであり、畏敬の念を抱くには十分なほどの戦果であった。

 このままアルファのコアとして死ぬことも許されない仕打ちを受けるのなら、いっそのことこの場で命を奪ってやることが情けなのではないか。

 そう、静かに葛藤している俺を見て奴は笑みを零した。

 

『気にするな。お前はお前の役目を果たすがいい』

『……。知っていたのか』

『わらわは“可能のあるふぁ”だ。わらわの心が折れない限りできないことは、まあ……ほとんどない。お前たちの言語程度すぐに覚えてやったわ』

 

 奴は撃退した軍勢から既に文字と、こちら側の目的すらも得ていた。

 その上で俺との戦いを真正面から受け、その末に自身の運命すらも受け入れようとしていたのだ。

 

『だが覚悟しておけよ』

『……そりゃどうしてだ?』

 

 問いかけると、血に塗れてもなお整った顔立ちに笑みを浮かべる。

 

『このわらわが大人しくお前らの傀儡になると思ったら大間違いだ。幾星霜の時を経たとしてもわらわはお前の首を獲りに向かうぞ。どのような形になってもな』

『不可能だ』

『わらわに不可能という言葉は存在せん。いや、この時点で既に“可能性”は開かれたのだ——わらわが再び、ぬしの前に立ちふさがる可能性が、な』

 

 そう言った奴はおもむろに自身の差していた鞘に納められた刀を俺に突き出してくる。

 

『そいつをやろう。最後の足掻きに律義に付き合ってくれた礼だ』

『……頂こう』

 

 差し出されたそれを受け取る。

 ただの刀だ。

 特別頑丈でもない鋼により構成された武器ではあるが紛れもなく目の前の戦士が愛用し、俺を相手にしても尚最後の最後まで折れることのなかったもの。

 

 それから奴はアルファとして、捕虜として……物言わぬコアとなった。

 それに思うところがないといえば嘘になるだろう。

 せめてもの慈悲として殺してやるべきだったか、はたまたこちらに引き込むべきだったか。

 ……そこまで考え、考えを否定する。

 奴はこちらに下るつもりはなかっただろう。

 それは、戦った俺自身がよく理解できていた。

 

 

 

「あら、珍しいわね。貴方が眠っているだなんて」

 

 そこで、意識が覚醒する。

 ……どうやら過去の思いに馳せているうちにうたた寝をしてしまったようだ。

 無意識に腰に指していた“古びた刀”を一瞥してから声の主に視線を向ける。

 

「サニーか。こちらに戻っていたのか」

「ええ、たまにはこっちにも顔を出さないとねぇ」

 

 序列3位という地位にいながら自由極まりない風体と行動をする変わり者、サニー。

 目に悪い桃色のシャツと虎柄の装いに身を包んだ奴はにやり、と不敵な笑みを浮かべる。

 

「そういう貴方はどうしたのよ。そんな無防備晒すなんて滅多にないじゃない」

「……少しばかり過去に思いを馳せていただけだ」

「興味あるわね。最強の剣士の過去。ええ、気になるわ」

 

 今更なにを言うのか。

 そもそもわざわざ話すことでもない。

 

「なに、過去の宣言がようやく現実になろうとしているだけだ」

「……もっと分かりやすい言い回ししてくれない?」

「ハッハッハ」

「このジジィ、教える気がないわね……!」

 

 やはり地球というのは俺にとっても不思議な縁のある星なのだろう。

 かつてルイン様が生まれる以前に強力無比なアルファが生まれた星。

 その星で戦った奴は、今はコアとなりもう戦うことがない……と思っていたが、まさかゴールディが選んだコアの一つが奴のものだったとは思いもしなんだ。

 

「ジャスティスクルセイダー、か」

 

 粗削りではあるが確かにレッドと呼ばれた戦士の一撃を見たその時、奴の影を見た。

 その溢れんばかりの資質と、その奥底から獰猛な敵意を向けるいつかの強敵の存在に年甲斐もなく高揚したものだ。

 

「長く生きてみるものだな。サニー」

「まるで私も年老いてるみたいな言い方やめてくれないかしら?」

「意思を持った恒星存在が面白いことを言う」

「そんな私よりえぐいジジィに言われたくないわね」

 

 軽く言葉を交わすと、不意に肩の力を抜いたサニーが腕を組む。

 

「コスモちゃん。カツミちゃん側についたようね」

「……すまんな。お前には色々と気をかけてしまったようだ」

「気に掛けるというか、貴方もっとルインちゃんに怒っていいと思うわよ? アレ、あの子今頃死んでもおかしくなかったわけだし」

 

 黒騎士への当て馬にするためにルイン様に利用された義理の娘。

 思うところがないわけではないが、俺は父親である以前に星将序列第一位だ。

 娘とはいえ私情で肩入れするわけにもいかない立場なこともあり、サニーに任せっきりになってしまったことは流石に申し訳がないとは思っている。

 

「あの子が選んだのなら俺が言うべきことはなにもない」

「不器用ねぇ」

「普段から珍妙な言葉を口にしているお前が器用すぎるんだ」

「ねえ、今私の口調バカにしなかった?」

 

 ぬぅん、と無駄に体格のいい男が詰め寄ってくる。

 

「お前の素の口調はルイン様よりも荘厳だろう?」

「私のスッピンの話はしないでって500年前くらいにいったわよねぇ!!」

「ジジィなので覚えとらんなぁ」

「このジジィ、都合のいい時だけボケやがって……!! オカマを舐め腐っているわね!」

 

 憤慨するサニーにまた笑みを零しつつ、軽く吐息をつく。

 コスモのことは気にはかけていたがそれ以上の干渉はすることはなかった。

 俺は父ではあるが、ルイン様の配下であり序列第一位なのだから。

 

「コスモはどうしている?」

「あの子はちょっと前まで私の推しに拾われてそこで居候していたわよ」

「……推し?」

「私が惚れた漢よ」

 

 ……。

 

「そうか。うまく生活できているのか?」

「意外と順応できているようね。あ、これコスモちゃんが働いてる時の動画データ」

 

「い、いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!」

 

 空間に投影されたのは地球の衣服に身を包んだ娘が顔を紅潮させながら、出迎えの挨拶をしている光景であった。

 ……見なかったことにしてやろう。

 恐らく、それが父としての情けというものなのだろう。

 

「表情から険しさがなくなっていたな」

「そうねぇ。地球は思いのほかあの子にいい影響を与えているようね」

 

 本来は俺が教えるべきことだったが、自分でも自覚している通りに不器用な性分だからな……。

 思うようには教えられん。

 

「正直に言うなら……」

「言うなら?」

「年頃の娘に“あの方はお前のことを心底嫌っている”など言えるはずがないだろう」

「……あっ」

 

 俺の言葉にサニーが察したような顔をする。

 

「あれは思い込みが激しくてなぁ。ルイン様自体、人心を惑わす魔性という性質が悪いもんがあるからそれに虜にされるものが多い。年頃のあの子では魅入られるのもしょうがない」

「聞かれているわよ?」

「今更気分を害されるほどじゃないだろう」

 

 今、ルイン様は地球の穂村克己に執心していると言ってもいい。

 そもそもあの方の精神性はほぼ見た目相応だからな。

 自身が戦うに足る存在を見つければ執心してしまうのもおかしな話でもない。

 

「これまで現れることのなかった存在か。お前としても目にかけているのだろう?」

「そうね。カツミちゃんならルインちゃんと戦えるから」

「だろうな。あの子は疑いようもなく稀有な存在だ」

 

 その身の希少性を抜きにしても、戦士としても飛びぬけて優秀だ。

 それこそアサヒと同等か、それ以上に。

 

「……んっ、地球からの連絡、ジェムちゃんね」

「地球に潜伏している序列持ちか」

「ええ、優秀な子よ。ツッコミと常識を兼ね備えているの」

 

 どういう優秀さだ、それは。

 不思議に思っている俺の前でサニーが地球からの連絡を受ける。

 

「イレーネちゃんが投げ銭について聞いていた、ですって……? ちょっと待ちな……いえ、止めなさい!  え、嘘もう始まってるの!? 他と便乗して5万でカツミちゃんを殴ろうとしてる!? 地球人って変態しかいないの!? ジェムちゃん、アホの子二人が不用意な書き込みする前に止めて! ……どっちも強いから止められない!!? ちょっと今、光速で帰るから全力で食い止めてて!」

 

 なにやら騒がしい様子で端末を切ったサニーは、先ほどの余裕のある表情から一変してこちらへ振り返る。

 

「そういうことだから地球に戻るわね!」

「いや、そもそもどうしてここに来たんだ?」

「なんだかんだ言ってもコスモちゃんのことが気になってたでしょ! じゃ、地球でまた会いましょ!」

 

 そういうやいなやサニーはその場から消える。

 なるほど、相変わらずお人好しだな。

 だがそれも奴の美徳とも言える。

 

「地球で、か」

 

 静かになった空間で思考を巡らせる。

 まだ俺が出張る時期ではないが、様子くらいは見に行くべきか。




“可能のアルファ”
・自分ができると思い込めば、それができる力。
・メンタルと思い込みが強いほど強力。
・精神が並みだと能力を発揮しきれずそれほど強くない。

さらっと父親にバレたくない姿をバラされるコスモでした。
ヴァースはルインを相手にしている時の呼称は“私”ですが普段は“俺”です。

次回、スパチャで殴られる黒騎士くん。
次話はなるべく早く更新したいと思います。


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閑話 コラボ配信回

お待たせしました。

社長視点の配信回となります。
特殊タグを結構多用しているのでその部分については注意です。

今回はちょっと長めです。


 とうとうブルーがやらかした。

 

 彼女は定期的に我が社の広報担当兼黒騎士のイメージアップを担うVtuber“蒼花ナオ”こと日向晴に配信中にドッキリをかますということを行っているわけだが、今回に限ってはその度合いが段違いにえぐかった。

 日向晴の恩人であり、デビュー当時からの推しである黒騎士、カツミ君をまさかの配信中に向かわせるという暴挙。

 その衝撃は私だけではなく多方面に及んでしまったわけだ。

 

 幸いなのはその余波が強すぎたということもあるのだろう。

 

 “黒騎士、蒼花ナオ宅に居候!”

 “スキャンダルか!? 正義の味方の裏の顔!!”

 

 などなど、炎上という名の種火に油を注ごうとする連中がいた。

 本来は私が色々と手を回して対処すべき案件ではあったが、それらはさらに上回る話題性という濁流によって、種火は燃え広がることなくあっさりと鎮火したことでその必要がなくなってくれた。

 ここはむしろ膿を焙りだしてくれたことをブルーに感謝しておくべきだな。

 この状況で不穏な動きを見せたところはきっちりとマークできた。

 

「味方のはずの地球人に妨害を受けるわけにはいかん。害意を向けてくるならば、相応の反撃をさせてもらうつもりだ」

 

 彼らは地球を守るために命を懸けて戦っているのだ。

 守られている民衆に石を投げられるなんてことがあれば、カツミ君たちが許してもこの金崎レイマは絶対に許さん。

 徹底的なイメージアップにより、人々には味方でいてもらわなければならない。

 

「ふふ。この予期しない配信事故。存分に利用させてもらおうではないか」

 

 しかしここでてんっさいマッドサイエンティストで敏腕社長である私はこの状況を利用する手を考えた。

 律義にも、ルインがこちらの本部完成まで襲撃を抑えている間に、なんやかんやで公開するタイミングを失った情報を出してやろうじゃないか。

 本来はもっと正式な形で公開するべき案件なのだが、当のカツミ君の過去を考えると下手なインタビューなどはマイナスでしかない。

 

「なのでここで黒騎士×蒼花ナオのコラボ配信という形を行う采配よ。ヴェーハッハッ!! この神の如き采配に慄くがいい視聴者共!! ぶっちゃけさらなる事故が起こる予感がするが、ピンチをチャンスにしてこそ社長たる所以!!」

「主任! うるさいので黙ってもらってもいいですか!?」

「レイマ、純粋にうるさいので静かにしてくれ」

「はい、すみません……」

 

 私の部下たちはいっつも私の大声に厳しい。

 目下の臨時拠点である廃ビルの一室にて、端末を前に機器の調整やらを行っている大森君とグラトの姿を確認した私は映像越しに移るカツミ君とブルー妹こと日向晴の姿を見る。

 こちらが行うのはブルー宅の生放送を経由して放送すること。

 本来なら本部のスタジオで配信できたのだが、生憎この仮拠点の設備は機密だらけな上に、純粋に狭いのでこのような形式をとることになった。

 

「日向君、そちらの準備はできているかな?」

『もうちょっとだけ待ってもらってもいいでしょうか?』

 

 設置したカメラ越しに確認をとる。

 カツミ君は……せわしなく機器を見回している。

 

「ブルーの妹は普通にしているけど、かっつんは緊張してるね」

「カツミ、本当に大丈夫なのかな」

 

 同じ部屋には映し出された映像を見守るアルファとハクアもいる。

 姉妹仲良く、と言うと少し変な感じにはなるが、二人並んで座っているのを見ると不思議とそっくりに見えてしまう。

 

「社長、ブルーは今もかっつんの家にいるの? また変なことしないと限らないと思うけど」

「その点は安心するといい。既にブルーはレッドとイエローに捕獲させているので、この配信に割り込む心配はない」

 

 多少のハプニングは構わないのだが、外ならぬレッドとイエローの強い要望でブルーは配信に割り込めないように捕縛されることになった。

 

『葵のバカはどこ行った!』

『捕まえ次第折檻やァ……!』

 

 それはもうものすごい気迫でブルーを捕縛しに向かっていたからな。

 最終的にはプロトに協力してもらいLINEでおびき寄せ捕まえたらしいが、その顛末は無駄な駆け引きが行われたと言っておこう。

 


 

< 日向葵

 

 
既読1

17:22

葵、いるか?

 

どしたの? 17:23
      

line、普通に使えるようになってたんだね 17:23
      

 

 
既読1

17:23

大事な話があるから本部まで来てくれ

 

大事?アカネときららも呼ぶ? 17:24
      

 

 
既読1

17:24

できれば二人きりがいい

 

くぁwせdrftgyふじこlp 17:25
      

 

 
既読1

17:34

葵?

 
既読1

17:34

どうした?

 
既読1

17:34

なにかあったのか?

 

すgにいきゅ 17:35
      

すぐに行く 17:35
      

 

 
既読1

17:35

待ってる

ずっとな

 

ふぁい 17:36
      

 

+□

 

『お、おおお、お待たせぇ……』

『ウェェルカァム……』

『いらっしゃーい』

『……。え?』

 

 ———レッドとイエローの策に嵌り、仮拠点へとやってきたブルー。

 次の瞬間には彼女は待ち構えていたレッドとイエローに捕縛された。

 椅子に座らせられ、レッドとイエローに見張られた彼女は己の失態に呻く。

 

『こ、このブルーが! 近距離パワー型共に後れを取るなどぉぉ……!! 乙女の純情を踏み潰してなにが楽しいかッ!!』

『私はお姉ちゃんに潰されたからお相子だね!』

『私も母さんになぁ。だからなーんも心が痛まへんわ』

『この羅刹共……!!』

 

 お互いがお互いをけん制し合う。

 その上で良好な関係を築けている上に、今後もその関係性が揺るがないと断言できるのはある意味ですごいとも言える。

 

『大人しくここで配信見ようねっ! 大人しくねっ!』

『そうやねぇ。これ以上の好き勝手はお天とうさまが許しても私が許さんわ』

 

 よほど日向君の配信乱入に肝を冷やしたのか、レッドもイエローも配信終了までブルーを解放するつもりはないようだ。

 

『か、カツミ君はこの件に関与しているの……!?』

『ううん、あれプロトにやってもらったから』

『よ、よかった……。あ、だから異様に返信が早かったんだ。……ハッ!?』

 

 そこでなにかに気づくブルー。

 

『本当に脅威なのは私じゃない! 我が妹こそがジョーカーなの!!』

『ハルちゃんと貴女を一緒にしないでほしいな』

『あんないい子になんてこと言うの?』

『本当なの! 信じて!!』

 


 

 ———と、こんなやり取りが別室で行われていた。

 今はレッドとイエローに見張られながら配信を見ていることだろう。

 いや、なんかキャラ崩壊したブルーが必死に訴えかけていたようだが……。

 

「主任、あちらの準備が整ったようですよ」

「ふむ、では早速開始させるか。日向君も配信には慣れているからな、こちらの段取り通りに進めてくれれば何事もなく終わってくれるはずだ」

「それフラグでは?」

 

 お黙り、大森君。

 フラグというものは壊すためにあるのだ。

 とりあえずこちらからゴーサインを出して今の今まで待機させていた配信画面を開始させる。

 

 

——皆さん、こんばんわ。

 

——KANEZAKIコーポレーション公式Vtuberの蒼花ナオです

 

——本日は予定通りに19時から配信させていただきます

 

始まった!

ワクワクしすぎて震えてきた

やばすぎ

本当に来るのか

待ってた!

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

おおおお!

来た!!!!

黒騎士くーん!!!

どうなってんだこれ

視聴数えっぐ

公式でやるのか……

□    ライブ
 
     

♯雑談

【公式:黒騎士】蒼花ナオのコラボ雑談

 XXXXX人が視聴中
高評価低評価共有保存 …

KANEZAKIチャンネル 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXX万人

 

 そうして時間通りに始まった配信。

 最初の挨拶と今回のコラボに関する注意事項などをしっかりと口にしていく。

 

『では、今回のゲストの方を紹介させていただきたいと思います』

 

 彼女の操作に合わせて配信画面にもう一つのアバターが表示される。

 黒いメタリックな頭部と角に赤い複眼。

 首に巻かれた赤いマフラー。

 モニター内のカツミ君の動きに合わせて動くそれは、私が作成した黒騎士くんアバターである。

 プロトワンをアバターとしてのデザインに押し込めた私の力作。

 それがカツミ君を通して動き出している姿を目にし若干感動していると、彼はややぎこちなく手を動かしながら画面を食い入るように見つめる。

 

『えー、穂村克己です。……って、うわ、本当に動いてる。どうなってんだこりゃぁ』

 

 彼の驚きを現すかのように赤い複眼が目を丸くするような形に歪む。

 フッ、この私が無駄にすんごい技術をつぎ込み、無駄に手をかけたそれはカツミ君の感情をそのままに表現する最高傑作だ。

 微細な顔認識機能で変わっていく表情差分に慄くがいい……!!

 

『カツミさん、今は黒騎士って名乗った方がいいですよ』

『そうだったな。……なんか蒼花って配信時だと性格違うな』

 

・!!?

・!?

・いきなり爆弾発言で草

・まるで裏では性格違うみたいな言い方ァ!

・草

 

『黒騎士さん相手だけですから。姉相手でも普段はこんな感じですよ』

『ん? 別に気を遣わなくてもいいぞ』

『気なんて全然使ってませんよ。あ、ナオで構いませんよ』

 

・強い

・つっっっよ

・ガチ勢がウキウキしてる

・全世界の姉派閥からの嫉妬を集めてるやつはちげーぜ……

・これ燃えるのでは?

 

 流石はブルーに鍛えられているだけある。

 恐れがまるでない。

 彼女がカツミ君に対する恩義を考えれば接し方も変わることも納得できる。

 

『こういう場は初めてと聞きますが、緊張していますか?』

『いや、実感がないから分からないんだよな』

『では、チャットとか見てみます?』

 

 日向君がカツミ君にPC画面を見せる。

 そこにはコメントなどが凄まじい勢いで流れており、現在進行中でその速度を増し続けている。

 

上位チャット▼

B追加戦士β

10000円

地球を守ってくれてありがとう!

Sナマコ怪人Z

40000円

初スパチャです

海月ウミナマコウシ

50000円

そろそろ両生類に進化できそうです

ENGINEER【ジェム】

50000円

またおうたきいてほしい

Bカチドキ旗

2300円

こんな形で出てくるとは、支援するしかないじゃない

Zアークわんこ

10000円

頑張れ黒騎士くん!

Mナマコ博士

10000円

食らえ黒騎士くん!

O列怪王

50000円

謝ッッッ!

B果汁サウザー%

5000円

待ってました!! 配信頑張ってください!!

Jアックスレイダー

10000円

うおおおおお!!

C通りすがりの一般人

10000円

いつもありがとう

U xxxxx

xxxxx 普通のコメの方が少ないの笑う

Pカニカマ大臣

1200円

本当に出てくれて嬉しい

Hフバーハ

10000円

この勢いに乗るしかねぇ!!

N猫です

600円

初スパチャです!

B一般怪人Z

30000円

守ってくれて感謝ッッッ!!

D xxxxx 赤すぎて草

Bほむら姉

10000円

お駄賃

 

『なあ、なんだこれ? コメントがあるのは分かったけど、画面がほぼ真っ赤なんだが』

『あー、えーっと、これは……』

 

 日向君がスーパーチャットについて簡単に説明する。

 話を聞き、こくこくと頷いていたカツミ君だが、徐々にその顔を青ざめさせながら彼女の顔と画面に映るチャット欄を交互に見る。

 

『お金? は? この赤いコメントの一万とかってお金なのか? どうなってんだよ、おい……!』

 

 キレ気味のカツミ君のその声になぜか急加速するチャット欄。

 まるで洪水を思わせる怒涛の赤スパに金銭感覚が真っ当なカツミ君が怯えだす。

 

『お、おい、やめろ。なんでそんなことするんだ!』

 

 迫真の様子で止めにかかるカツミ君。

 アバターも困り顔+冷や汗エフェクトを出しながらあたふたとしているが、そんな彼の声にさらにスパチャは加速する。

 

『ご、5万!? ふざけんな! 大金だぞ!』

 

『もっと大事なことに使えよ!』

 

『ぐぇっ、うわあああ!? 止まらねぇぞ!? どうすんだこれ!?』

 

・ずっとスリップダメージ受けてんの笑う

・スパチャでビンタ食らい続ける黒騎士くん笑

・一時間だけで家が建ちそうな勢い

・草

・愉悦

・お 金 で 鳴 る お も ち ゃ

・オラッ! 受け取れよこの野郎ォ! これで美味いもん食え!!

・まったくしょうがない弟君だね。はい、おこづかい

・こんな反応みれるならいくらでも投げつけてやりますよ

 

『な、ナオ! どうすれば止められるんだこれ!!』

『……』

 

・なおなおが満面の笑顔なの草

・滅多にこの表情しないのにずっとしてるやん

・草

・笑顔こぼれてる

・これはブルーの妹

・黒騎士君に悪戯できてなおなおも笑顔にできる

 

蒼花ナオ

30000円

あたふた代

 

『ナオ!? これお前!?』

『あ、すみません。つい……』

『そんな気軽に大金を使うんじゃない!!』

『今使わないでいつ使うんですか!!!』

『急に大声!?』

 

 止めた方がいいか? と思い日向君を見ればその表情は満面の笑みである。

 顔認識により反映された彼女の蒼花ナオとしてのアバターも同じく満面の笑み、凡そ普段の配信ではめったに出したことのないレア表情差分だ。

 

『失礼。取り乱しました』

『えぇ、怖い……』

 

 まるで地獄の釜の中身を覗いたようなカオス加減。

 しかしこれ以上は進行の妨げになるので、日向君に指示を送る。

 

『……。次に移りましょうか』

『あ、ああ』

 

 チャット欄を見て顔を青ざめさせたカツミ君は、視線を外して日向君へと向き直る。

 

『配信と言う形ではありますが、今は世間の皆さんに黒騎士さんのことを知ってもらうための場です。事前にアンケートを取り、一般の方から黒騎士さんへ聞きたいこと、知りたいことを集計したものがあります』

『俺のことを知っても何も面白いことなんてないと思うんだが』

 

・嘘だろ

・56時間戦い続ける男が面白くない……?

・存在そのものが面白いだろ君

・草

・こっちは聞きたいことだらけなんだけどな

 

『いえいえ、皆聞きたいことが山ほどあるはずですよ』

『……まあ、可能な限り答えはするが……』

 

 集まったアンケートの数はそれはもう膨大であった。

 その全てにカツミ君に答えさせることは不可能であったので、当然質問内容は厳選することになった。

 厳選基準は二つ。

 一つは大衆が求める黒騎士の実態。

 もう一つが穂村克己という人間個人を理解してもらうためのものだ。

 

『じゃあ、最初は簡単なものですね。黒騎士さんはなにかスポーツなどはやっていましたか?』

『いいや? 学生だった頃は部活なんてやる暇なかったし、スーツ着る前は喧嘩なんてやったこともなかった』

 

 そもそもカツミ君の黒騎士としての戦闘は格闘技が介在する余地はない。

 彼の戦いはジャスティスクルセイダーのように技術ではなく、人間の動きだけでは真価を発揮しきれないものにある。

 言うなれば、黒騎士は既に独自の戦闘技術を有していると言ってもいい。

 

『次行きますね。えーっと、社長。これ聞いても大丈夫ですか?』

 

・社長いるの!?

・変態エイリアン普通におって草

・この配信やばすぎだろ

・もう一人のガチ勢

 

 誰が変態だ。

 日向君が聞きたいのは恐らくあの質問だろう。

 今となっては明かしても問題ないし、彼女のことも既に知られているのでこの際明かしてしまおうという考えだ。

 

『大丈夫なようです。じゃあ、黒騎士さん』

『ん』

『黒騎士さんの着ていたプロトゼロは、どうやって見つけたのでしょうか?』

 

 プロトスーツをカツミ君が盗んでしまった一件だ。

 当時は問題になっていたが、この件は既にこちら側が問題を取り下げているので今となっては過去の話だ。

 なのでこの機会にプロトを身に着けた経緯を彼とプロトに説明してもらおう。

 

『プロト? プロトかー……んー、プロト、お前あんときのこと覚えてるか?』

『忘れたこともないよ』

 

・!!!?

・!!!

・喋った!!!?

・は!?

・!!

・普通にしゃべるの!?

・はい!!?

・声かわいい

 

『カツミが私を見つけてくれたの』

『見つけたって言ってもなぁ。俺も迷い込んだ建物で偶然お前んところに行き当たっただけだぞ』

『警備システムは私が止めたんだ』

『お前がやってたのかよ……』

 

 えっ、あの時のプロトゼロは外部機器から完全に遮断していたはずなんだが?

 その状態で我が社———私が手掛けた警備システムを遠隔で止めてたの?

 ……初耳なんだが!?

 

『貴方が近づいてきた時すぐに分かった』

『今まで誰一人としていなかった感覚だったから』

『他の人間が私を使うのは許さないけど』

『貴方だけは別』

『あの時の私の選択は間違ってなかった』

 

・ヒェッ

・これはアカンやつですわ

・怖すぎない!?

・無機物系ヤンデレやんけ……

・ひぇ

・かわいい(白目)

 

『ふーん、これからもよろしくな』

『うんっ!』

 

・草

・あっさりしすぎじゃない!?

・一瞬で浄化されてて草

・ふーんじゃないんだが!?

・なんで黒騎士くんやばい奴らばっかりに好かれるん?

 

『仲睦まじいですね』

 

・こっちはこっちで完全スルーwww

・おかしいだろ!

・視聴者を混乱させていく

・知ってたのか

・やば

・見どころしかない……

 

『あー、俺から聞きたいことがあるんだけどいいか?』

『何でも聞いてください』

『お、おう。なんで俺って黒騎士って呼ばれるようになったんだ?』

 

 その質問に食い気味に反応していた日向君は、我に返りながら首を捻る。

 確かに彼が黒騎士と呼ばれてはいるが、どうしてそう呼ばれるようになったかは誰も知らない。

 

『別に嫌ってわけじゃないんだけど、どうして黒騎士って呼ばれるようになったのかなって』

『うーん、多分見た目じゃないですか? あと分かりやすい呼び方が必要だったみたいですし。ほら、ブラックナイトとかあったじゃないですか』

『そんな呼び方もあったなぁ』

『今は黒騎士って呼び方で統一されていますけど、当時はたくさんあったんですよ。黒鉄(くろがね)、黒仮面、怪人殺し(ファントムスレイヤー)、仮面怪人とか。当時はネットなどで考察などがありましたからね。最初のクモ怪人の事件の時は正体不明の怪人扱いでしたけど、次のスズムシ怪人で黒騎士さんの姿が公で確認されるようになって続々と名前が出てくるようになってですね。電気ナメクジ怪人のあたりでいい意味でも悪い意味でも注目されるようになった感じで……あっ』

 

・ガチ勢の片鱗見せてて草

・かつみん引いてるんじゃないかこれ

・すごい語るじゃん

・リアルで早口…w

・草

・本気で詳しいの面白すぎる

・めちゃ早口で言ってる

 

『いっぱい知ってんだな』

『い、いえ、そそそそ、そんなことは。……き、気持ち悪いですよね』

『え? なんでだ? そんなに知ってるのすげーと思うぞ、俺』

『……』

 

・無知ゆえの純粋さよ

・オタクに優しい黒騎士くん……

・解釈一致

・解釈一致

・また姉派閥の恨みが集まりそう

・は? 私も甘やかしてほしいんだが?

・これで一作品作れるのでは?

 

『スマイリーの事件の後に調べてたのか?』

『はい。怪人から助けてくれたお礼をずっと言いたくて』

『それこそ気にしなくてもいいんだけどな』

 

・スマイリー?

・なおなおあの事件の被害者だったの……?

・さらっと衝撃の事実明かされたんだが!!

・ガチ勢だった理由ってまさか

・スマイリーとか笑えないやつ

 

 彼女が怪人スマイリーの被害にあったことは面接の際に聞いていた。

 カツミ君に恩があり、なんらかの形で恩返しがしたい。

 その強い意志と彼女自身のポテンシャルと配信慣れという部分で採用することになった。

 しかし、助けてもらったから恩を返したい、か……。

 それだけ、と言えば聞こえが悪いが、そこまでの行動に移せるのは驚嘆に値す——、

 

『……今正直に言っちゃいますけれど、実はあの時、黒騎士さんの素顔とか見えちゃったんですよね』

『え、マジで?』

 

 ……んん!?

 今、衝撃の声が聞こえたんだが!?

 日向君、カツミ君の素顔を知ってたの!?

 スマイリー事件の時点で!? 我々がカツミ君の名前どころか素顔を知る一年以上前の時点で!?

 

『路地裏で……それこそ目の前で変身してましたから』

『ブルーに話してなかったのか?』

『今日初めて公の場で話しました。社長にも姉にも、誰にも言ってなかったことです』

『へぇ、それが今こうして話していると運命じみたものを感じるな』

 

・ジャスクルゥ!! 内輪もめしてる場合じゃないぞ!?

・本物のガチ勢だった

・情報が完結しない!!!!???

・え、今の今まで黙ってたってことか?!

・誰よりも早く素顔を知ってたのは強すぎる

・認める、あんたより上の黒騎士オタはいない

・名実ともに世界一になってしまった

 

 ……少し気になったので、別室で配信を見ているレッド達の部屋を確認してみる。

 廊下を出てすぐの扉を少し開いて覗き見ると——、

 

『……』

『……』

『……』

 

 三人仲良く並んで見ていた彼女たちは配信画面を見つめたまま石像のように固まっていた。

 衝撃の事実に未だに情報が完結せず動けずにいるようだ。

 正直、私もそうしたい気持ちだ。

 アルファも白川君も同じ様子だったので、あえて触れずに部屋に戻りモニターへと視線を移すと、既に話題は移り変わっていた。

 

『黒騎士さんって一人っ子ですよね』

『おう、そうだ』

『ネットの噂ではお姉さんがいると言っていましたけど、その噂の真偽は?』

 

「ひんっ」

 

 近くで見ていたハクアが引き攣ったような声を漏らす。

 まあ、これは世間も気になっているし明かしてもいいだろう。

 どうせ白川君が全国の姉を名乗るやばいやつらにロックオンされるだけだし。

 

『あー……実の姉じゃねぇけど。姉になってた』

『えぇと、それはどういうことですか?』

『記憶喪失になった時にそいつが俺の姉を名乗って……一時期、そいつの弟として暮らしてただけだよ』

 

・は?

・は?

・は?

・これは度し難いですねぇ!

・は?

・は? 羨ましいんだが

・姉共が一斉に暗黒面に落ちてて草

・もう戦争では?

・は?

 

『はい?』

 

・質問した本人もキレかけてる……

・やべぇぞガチ勢がキレる!

・滅多に出さないブチギレやん

・自分で質問しておいてキレるなwww

・これだけ見ると完全にやばいやつ笑

 

 む、さすがにこれは次の話題に移った方がいいな。

 別段、白川君が全国の姉を名乗る謎勢力の怨嗟の目標になったとしても構わないのだが、あくまで配信はテンポ重視。

 早速、日向君に進行を———、

 

『記憶喪失の時はどんな生活していたんですか?』

 

「日向君!?」

 

 台本にない質問をし始めたんだが!?

 あ、あれ!? そんな込み入った質問するって書いてたっけ私?!

 

『どんな生活っつったって……バイトしたり飯作ったり、掃除したり、そんな大したことはしてないぞ』

『お姉さんと一緒にですか?』

『いや、あいつ私生活ダメダメだったんだよ。殆ど俺がやってたな』

 

・は?

・は?

・は?

・コメ欄が怖い……

・は?

・は?

・殺意に塗れてて草

 

『そこらへんはあいつとそっくりだったな』

 

「んひっ」

 

 ここでアルファが白川君と同じく声を引きつらせる。

 まさかカツミ君? これ配信だってこと忘れてる?

 この勢いでアルファのことを話すつもりか!? いや、さすがに認識改編までは話さないと思うが、今度こそ日向君に止めてもらって———、

 

『あいつ? あいつとは誰ですか? 詳しく聞かせていただいても?』

『俺が怪人と戦ってる時に家に転がり込んできたやつだ。ほら、俺の記憶が戻った時上から降ってきたやつ』

 

・無自覚で地雷踏んでいく黒騎士くんよ

・あの謎の黒髪美少女か

・もうなんでも喋ってくれるやん……

・なおなおのトーンが怖すぎる

・あの美少女の謎も明かされるのか

 

『へぇ、転がり込んだってどういうことですか?』

『そのまんまの意味。いつの間にかあのボロアパートに住み着いてたんだよ』

『住み着いていた……?』

『学校に通ってたときの友達から座敷童じゃないのかって言われて疑ったけどな。実際はそんなこともなかったわけだが』

 

・住み着く? 住み着くってなんだ?

・全然色気がないあたり、得体がしれない感があるんだけど……?

・え 怖い

・ほむらくん

・まさか怪人……?

・謎が明かされるどころか深まったんだが!?

・い、意味が分からんぞ!!

 

 ……い、意外と大丈夫そうだな。

 カツミ君も明かしていい事実はちゃんと理解しているようだ。

 

『まあ、今考えると黒騎士ん時も、白川克樹の時もあいつらがいてくれて助かっていたんだよな』

 

「カツミ……」

「かっつん……」

 

『どっちも結構なポンコツだったわけだが』

 

「「うっ……」」

 

 感動するも一瞬で撃沈するアルファと白川君。

 気づけば、カツミ君も緊張が解けて喋れているようだし、今回の配信は無事に終えそうではある。

 

『でも一緒に住んでても何もなかったんですよね?』

 

「日向くぅん!!??」

 

 肝心の日向君が暴走しはじめていないかこれ!?

 君、今日で我が社の広報担当やめたりしないよね!?

 もうなにもかもを恐れていない勢いの質問が本当に心臓に悪いんだが!?

 


 

 その後、無事……無事に配信を終えることができたわけだが、色々と世間に衝撃を与えてしまったことは否定できない。

 しかし、一般人に穂村克己という一人の人間のことを理解してもらえたというだけで上々の成果とも言える。

 ……。

 この反響を考えると、味を占めてみるのも悪くないかもしれないな。

 一応、白騎士アバターの作成と、レッド達のアバターの調整もしておくか。




スパチャで往復ビンタさせられた黒騎士くんと、配信事故を起こしすぎて鋼のメンタルになった日向晴でした。

日向の過去……怪人スマイリーの事件については並行して連載している作品『【外伝】となりの黒騎士くん』第七話にて描写させていただいております。

今回の更新は以上となります。


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閑話 配信後(掲示板回)

お待たせしてしまい申し訳ありません。
今回は掲示板回となります。

加えて、要望もありましたので後半はジェム視点のお話となります。


601:ヒーローと名無しさん

 

蒼花が恐れを知らな過ぎてやばすぎるwww

 

602:ヒーローと名無しさん

 

アンチもリスナーも一般人も姉と姉なるものも全てドン引きさせた女よ

 

603:ヒーローと名無しさん

 

炎上回避するためにリスナーが必死に止めたのにむしろもっと突っ込んでいくのやべーわ

 

604:ヒーローと名無しさん

 

炎上を爆発で消し去る荒業はやめてほしいぜ……

 

605:ヒーローと名無しさん

 

爆風消火かよ

周りに跡形も残らないやん……

 

606:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんは頭はいいけど無知なのが笑う

経緯見ると全く笑えないけれども()

 

607:ヒーローと名無しさん

 

テレビもパソもスマホもなにもかもがなかったのが明かされちゃったな

 

608:ヒーローと名無しさん

 

あの子学生時代なにして生活してたの……?

スマホもPCもないとかどうやって生きていけばいいの?

 

609:ヒーローと名無しさん

 

『≪切り抜き≫黒騎士君、スパチャ往復ビンタされる』

XXXX://XXXXXXXXXXXX/XXXX

 

610:ヒーローと名無しさん

 

もう切り抜かれてて草

怪人の攻撃された時でさえ出さなかったうめき声出してて草

 

611:ヒーローと名無しさん

 

スパチャえぐすぎて引いたけど、まあ、納得はしたな。

それだけの功績はしてるわ。

 

612:ヒーローと名無しさん

 

怪人と戦ってた頃はマジで金ももらわずに怪人倒しまわってたらしいからな

しかも親戚から最低限の生活費しかもらってなかったから下手すればもっとやばい極貧生活してた疑惑もある

 

613:ヒーローと名無しさん

 

この配信を親戚方はどんな顔して見ていたんですかねぇ(ゲス顔)

 

614:ヒーローと名無しさん

 

単純に所業が鬼畜すぎだからなぁ

 

615:ヒーローと名無しさん

 

蒼「親戚の方々についてはどう思っていますか?」

黒「別に……なんとも思ってないな。今思うと俺も不気味な子供だったからな。むしろ住む場所くれただけでも感謝してる」

蒼「一人暮らしをする前はどんな生活を?」

黒「え……なんていうんだろ。家の離れみたいなところ? 子供ながらに丁度いい広さで便利だったぞ」

蒼「……(#^ω^)」

 

ねえ、これ一人暮らしする前も隔離されていたんじゃ……?

 

616:ヒーローと名無しさん

 

一人暮らし以前も母屋から切り離された場所で一人きりで住まわされていた疑惑が出てたな。

 

617:ヒーローと名無しさん

 

10歳前後の子供を離れで暮らさせるとか異常だろ

しかも時系列的に両親なくした後って考えると、心ボロボロのまま放置したってことだろ?

 

618:ヒーローと名無しさん

 

子供にちょうどいい広さの離れ……?

かつみん、そこって小屋とか物置なんじゃ……?

 

619:ヒーローと名無しさん

 

うまく表現できないけどさ

黒騎士くんの言うそれは不気味な子じゃないだろ

大人の助けが必要な子供だと思うんだ

 

620:ヒーローと名無しさん

 

定期的に闇を供給させるの本当やめてくらさい……

 

621:ヒーローと名無しさん

 

親戚関係は黒騎士くんから別になんとも思ってない発言があったから下手に煽るのはNG

あと親戚迫害しても黒騎士くんは絶対に喜ばない。

 

622:ヒーローと名無しさん

 

あれ下手に恨まれるよりきっついぞ

だってなんとも思われてないし謝罪する機会も絶対に与えられないから生き地獄みたいなもん。

 

623:ヒーローと名無しさん

 

ちな遺産関係は社長が既に解決している

 

624:ヒーローと名無しさん

 

いつもの有能ムーブかましてんねぇ!

 

625:ヒーローと名無しさん

 

世界的大企業が抱える弁護士軍団に勝てるはずがないんだよなぁ

 

626:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君にとって重要なのは今だからな

過去のことは本当になんにも思ってないと思う

 

627:ヒーローと名無しさん

 

なおなおが正真正銘の黒騎士くんガチ勢なのは本当びっくりした

スマイリー事件の被害者とかえぐいだろあれ

 

628:ヒーローと名無しさん

 

スマイリーなぁ

色々見返したけどあの怪人、フィクションのゾンビ映画より性質悪い感染能力持ちらしいもんな

 

629:ヒーローと名無しさん

 

ナメクジ怪人と同じで人類滅亡レベルの怪人の一体って言われてるから伊達じゃない。

 

感染されると多幸感に支配されて、その上それを他人と共有したい感情を強制させられる。

これのなにが性質悪いって下手すりゃ際限なく、その上お手軽に感染が広がり続けるってこと。

 

630:ヒーローと名無しさん

 

なんで地球産怪人ってクソゲー押し付けてくるんですかね……

 

631:ヒーローと名無しさん

 

そのクソゲーを悉く打ち破ったのが黒騎士くんとジャスクルなんだよなぁ

 

632:ヒーローと名無しさん

 

アース、ナメクジ、スマイリー、グリッター、オメガとか他にもたくさんいるけど地球が無事なのが不思議なくらい危機に晒されまくっている

もう蟲毒呼ばわりされてもいいくらいだ。

 

633:ヒーローと名無しさん

 

蒼花のスマイリー関連のエピソードが全方位で初耳すぎる

今日この日のために家族にさえ教えなかったのがマジでダークホース

 

634:ヒーローと名無しさん

 

ブルーが怒りの赤スパチャしてて爆笑したわ

なお黒騎士くんにダメージがいった模様

 

635:ヒーローと名無しさん

 

レッドとイエローが背中から刺されたみたいな反応してるのもなwww

あの二人からの好感度が高いのも意外だった

 

636:ヒーローと名無しさん

 

レッドとイエローは定期的にスパチャいれるくらいにはファンだぞ

ちなみに社長は配信の度に送ってる。

 

637:ヒーローと名無しさん

 

あの社長いつ休んでいるんだ……?

 

638:ヒーローと名無しさん

 

逆に謎が増したのは黒騎士くんに姉と吹き込んだ白髪少女と、家に転がり込んだアルファってやつだよな

 

639:ヒーローと名無しさん

 

エピソードが語られていくにつれて怖くなってくるの初めてだわ

 

640:ヒーローと名無しさん

 

ワシはそれよりどんどん威圧感を増してくるなおなおの方が怖かった

 

641:ヒーローと名無しさん

 

姉か妹になりたいやべー奴らも怖いぞ

幼馴染派閥は幼少期黒騎士くん幼馴染SSという特大の闇を構築し始めてる

 

642:ヒーローと名無しさん

 

ヒェッ

 

643:ヒーローと名無しさん

 

幼少期黒騎士くんとか幼馴染程度でなんとかできるような境遇じゃないんだよなぁ

 

644:ヒーローと名無しさん

 

まんま地球滅亡ルートで草

 

645:ヒーローと名無しさん

 

いきなり出てきたと思えばずっと前からいる……

 

意味が分かってくるとどんどん怖さが分かっていくんだよね

まあ、黒騎士くんが心を許しているから大丈夫なんだろうけど

 

646:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんが普通に話せる状態ってだけでなんだか安心してる

生い立ちとか色々きつすぎるけど、ちゃんと前を向いて生きているってだけですげーと思う

 

地球は絶賛ピンチだけれど

 

647:ヒーローと名無しさん

 

アルファってオメガとなにか関係あるんかね

対になる存在だったり?

 

648:ヒーローと名無しさん

 

ガチ恋勢かどうかは判断つかんがファンとしては明確にえぐいわ

てか視聴者が聞きたいことと精神状態が明確にリンクしてて正直笑った

 

649:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんがアルファと姉のエピソード話してくれる度の

 

『でもなにもなかったんですよね???』

 

っていうクソつよ口調よ……w

 

650:ヒーローと名無しさん

 

あの配信初めて見た人は蒼花がクール系の配信者だって聞いてびっくりしそう

 

651:ヒーローと名無しさん

 

クール系大声シャウト芸Vだぞ

 

652:ヒーローと名無しさん

 

『今日は姉とゲームします』

『たまには喧嘩せずに楽しく配信したいですね』

『あああああああ!!?』

『姉ェ!! よくもこの蒼花ナオを罠に嵌めたなァ!!』

『笑うなぁ!!』

『ハッ↑ハァン↓!! どうだ苦しいか! それが私の痛みだよォ!!』

『ぐあああああああ!!?』

 

653:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの悪戯シリーズ本当おもろい

たまにやりすぎたブルーが蒼花ママに怒られるのもおもろい

 

 


 

 地球に来てからの拠点選びは俺にとっても中々に難しい作業であった。

 まずは広さ。

 これに関してはそこそこ高い家賃を払えばいい物件を見つけることができるだろう。

 現状はサニー様に黒騎士様に姉のレアム、そして俺の最高傑作であり優秀なアンドロイドであるMEIの5人のみ。

 加えて簡易的な研究室を用意するために中々の資金が必要となったが、それについてはさほど問題はなかった。

 

 あるとすれば、部屋に住む面々にある。

 

 まず最初に挙げられるのが星将序列第七位であり、我が姉レアム。

 

 バイオスーツを着た姉の自由奔放さは常人の域を超える。

 電気状態ではひたすらに周りに被害をまき散らす害悪生命体であった姉の厄介さはバイオスーツを着た後でも変わらない。

 ……いや、むしろ悪化してすらいるかもしれない。

 

『ジェムー。ちょっと甘いもん買ってきてー』

『ジェムー。お金貸してー』

『ジェムー。暇ー』

『ジェムー。お腹すいたー』

『ジェムー。黒騎士んところに戦いにいっていい?』

 

 環境汚染外来種の姉は地球にやってきたことで見事、暴虐の王と化したのだ。

 おおよそ、地球人の認識で駄目人間の条件を全て満たした最強最悪の悪魔。

 その生態は姉と言う立場を利用してひたすらに弟の俺をこき使うこと。

 当然、俺も抗おうとするのだが悲しいかな、この電気生命体はバイオスーツのままでも普通に強い……本当の本当に理不尽なくらいに強い。

 

「ぐ、が、あァァ……! そ、存在しないはずの胃が痛い……!」

 

 バイオスーツで地球人の姿に擬態はしているが中身はメカメカのロボットな俺だが今は存在するはずのない胃痛に苦しんでいた。

 先日、拠点とし始めた高層マンションの一室。

 今や専用の研究室となった場所で苦しんでいる俺に、我が助手であり最高傑作のAIを搭載した万能型アンドロイド“MEI”が茶を差し出してくれる。

 

「粗茶です」

「ああ、ありがとう……!」

 

 本人の希望もあり、今のMEIの姿は地球人と同じ姿にデザインされている。

 クリーム色のウェーブがかった髪に、緑の瞳が特徴の見た目を選んだ彼女は、どういうわけか“メイド服”と呼ばれるへんてこな衣装に身を包み家事などを行ってくれている。

 

「……どうでしょうか」

「ん、ああ、なんというべきか味覚機能に心地よい刺激を与えてくれる味だ」

「……」

「どうして不機嫌になるんだ……?」

 

 以前の機械然としたスーツの頃とは異なり、眉をへの字にさせ感情を表すMEIに困惑する。

 お、俺はなにか彼女の気に障るようなことをしてしまったのだろうか。

 

「私の姿になにか感想はありますか?」

 

 ……どう答えるのが正解なんだ……!!

 笑顔……MEIの笑顔の圧がすごい……!

 普段は俺だけに優しい理想のAIのはずなのに、だがしかし主である俺に反逆する意思を見せることはいいことだ。

 いわば0から作り上げたAIが“命”と同じ意思を持っていることに他ならないのだ。

 

「お答えくださ——」

「おっはよー」

 

 MEIの反応に困り切っていると不意に俺の研究室の扉が開けられ、目をこすりながらレアムが入ってくる。

 だぼだぼのシャツにぼさぼさの髪という見慣れた格好をした奴の手には菓子の袋が握られており、それを昼食替わりバリボリと食しているようだ。

 

「地球時間の13時だぞ。いつまで惰眠を貪っているのだお前は……!! それと歩きながら菓子を食べるなカスが床に落ちるだろうが!!」

「遅くまでゲームしてたのよ。にひひ、この私に暴言を吐いたおバカさんの住所を能力で割り出して脅してやったわ。いやー、楽しかったー」

「つまらんことで能力を使うなぁ!!」

 

 こいつ本当に地球に毒されているな!

 電気生命体になって俺を弄ぶことと破壊と闘争でしか娯楽というものを実感できなかっただけに当然とも言えるが、駄目になるスピードが速すぎる。

 

「あ、今日課金するからお金ちょうだい。あと30連で天井行くから」

「駄目だ。資金は有限だから無駄に使うな」

「えー、どっかしらから盗んでくればいいじゃん」

「無理に決まっているだろうが」

 

 なんで、と不思議そうに首を傾げるレアムにため息を吐きだす。

 

「いいか。地球のネット環境で不正な手段で金銭の類を手に入れようとすれば高確率でジャスティスクルセイダー……いや、ゴールディに察知される」

「えー、考えすぎじゃない?」

「やつは紛れもなく天才だ。いくら道化を演じていたとしてもその手腕は侮っていいものじゃないんだよ」

 

 忘れてはいけない。

 ゴールディは強化スーツを作り出した第一人者なのだ。

 技術者としては悔しいが発想力は俺を上回っている。

 そんなやつが地球で起こる不可思議な現象を見逃すはずがない。

 

「なので、俺が株やら色々と計算してあくせくと綺麗な資金を集めているのにお前と来たら……!!」

「私が悪いんじゃない。ガチャが悪いの」

 

 ……。

 

「俺の名義でスマホ解約させるぞバカ姉ェ!!」

「お、落ち着いてください! レアム様が大人しくしていらっしゃるのもそれあってのことですから!」

 

 ええい離してくれMEI!

 このわがまますぎる駄目姉は矯正してやらねば俺に未来はない!!

 しかし、MEIも姉に及ばないもののパワーは俺よりも遥かに上なので拘束を解くことができない。

 

「……はぁ。栄養を補給するか。MEI、なにか作ってくれ」

「了解しました」

「私のもお願いねー」

 

 バイオスーツは食した有機物を燃料へと変換することができるので、地球人と同じような感覚で食事もできる。

 猛烈な疲れを感じながら広いリビングに出ると、そこには既にもう一人の同居人がソファーに寝転がるように腰かけていた。

 

 序列八位“黒騎士”

 

 姉と同等の実力を持つ序列一桁。

 イレーネという名前はあるものの姉とは異なり明確な目上の人物なので、こちらも強く出れないのが本当に性質が悪い。

 先日は俺のアカウントを強引に使い別の黒騎士……穂村克己へ『スーパーチャット』5万円という荒業を行った。

 5万円。

 金銭感覚がまともな俺にとっては普通に大金である。

 

「むぅー」

 

 なにやら呻いた彼女の視線は外へと向けられている。

 青い空とビルしかない景色を、虚ろに見ていた彼女は———、

 

「歌、また聞いて欲しいなぁ」

 

 そう独り言を呟いた。

 サニー様に彼女が一人で外に出ないように注意しなければならない。

 

「カツミ。カツミ……君の名前を呼んでみたい。いっそのこと……」

「我慢してください。歌ならいくらでも聞きますから……」

 

 何かをする前に一応釘をさしておく。

 すると、気だるげにじろりと黒騎士殿の視線が俺へと向けられる。

 紫の髪の隙間から覗く星のような僅かな光を帯びた瞳に、息を呑む。

 

A()

 

 たった一言。

 それだけで空気が震える。

 その圧を目の前で受けて頬を引きつらせる俺に、黒騎士殿が間延びした声を発する。

 

「……死んじゃうけどいいの?」

「ッスー……遠慮しておきますぅ……」

 

 俺は黒騎士殿の能力の全容を知らない。

 いや、知ってはいるもののどれほどまでできるのかを理解していないのだ。

 “言葉を現実にする”

 その強力な能力は、あまりにも簡単に多くの破壊をもたらすことができるという。

 サニー様が言うには短時間の時間停止も可能という出鱈目っぷりだ。

 

「はぁ……」

 

 俺から興味を失い、ため息と共にまた青い空を眺めだした黒騎士殿に緊張を解く。

 ……黒騎士よ。

 お前はこの八位の地獄のジャイアンリサイタルをクリアしたというのか。

 敵ながらに畏敬の念を抱かずにはいられない。

 

「サニー様は……サニー様はまともなのに……」

 

 今やあの方も留守。

 その間俺が姉と黒騎士殿を見張っていなければならない。

 どんな地獄だ。

 地球から脱出して、どっかの惑星で静かな研究生活を送りたい……。




着々と地球の文化に毒されて行っているレアムでした。

そして地味にAIであるMEIに固有の意思を持たせているジェム。
彼も社長とは別ベクトルですごい頭脳の持ち主です……苦労人ではありますが。


今回の話と同じタイミングで本作の外伝『となりの黒騎士くん』の方も更新させていただきました。

第8話『戦士への第一歩』

アカネ達が初めて変身する回となります。


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閑話 それぞれの話

お待たせしました。
今回は二日に分けて二話ほど更新したいと思います。

まずは最後の閑話となります。
分量的に分割するのもアレだと思ったので短い閑話を三つほど繋げたものです。

・閑話 日向家の朝
・閑話 ジェムの受難
・閑話 風浦桃子は夢を見る


閑話 日向家の朝

 

 カツミさんとの対談配信は予想を超えた反響を生んでいた。

 これまで黒騎士としての姿と凄惨な過去についてでしか知られていなかった彼だが、今回の配信で別な印象を世間に与えられたと言えたといえるだろう。

 

 ……正直に言うなら私も暴走していたという自覚もある。

 というよりあえて立ち止まらなかった。

 

 推しを目の前にして冷静になれる者がどこにいるのか。

 

 むしろ逆に問いたいね、私は。

 

質問したらなんでも話してくれるカツミさんに限界化せずにどうしろというのか。

 

 なので私には一切の後悔もない。

 配信後のツムッターに私の意思は残しておいた。

 

蒼花ナオ@AOHANA70_KCあああああああああああ

 我が生涯に一片の悔いなし……!!

3242 3万 ♡23万 

●レッド戦隊ヒーロー活動中 @AKARED_JCAKR

返信先 @AOHANA70_KCさん

 信じてたのに……

      ♡ 

蒼花ナオ@AOHANA70_KC

返信先 @AKARED_JCAKRさん

レッドさんのことも大好きです!!

      ♡ 

●レッド戦隊ヒーロー活動中 @AKARED_JCAKR

返信先 @AOHANA70_KCさん

レッドさんのこと“も”?

      ♡ 

蒼花ナオ@AOHANA70_KC

返信先 @AKARED_JCAKRさん

……アッ

      ♡ 

 

 多少のプレミはしてしまったけれどもアカネさん的にもからかってくれたようなものだろう。

 あの人はきららさんと姉には結構遠慮しないけれど、私にとっては良い先輩でもあるし。

 というより普通にしていると同性に好かれるようなタイプなんだよね……本人には口が裂けても言えないけれども。

 とにかく、SNSで投稿した通り私には先日の配信について一片の悔いはない。

 

 

 

「ハル。なにか私とお父さんに言うことはありませんか?」

 

 訂正、怪人の事件に巻き込まれていたことを家族に秘密にしていたことをバラしてしまったことに後悔してる。

 日曜の朝食の席。

 長テーブルに座布団に座った私に開口一番に話しかけてきた母の言葉に狼狽するしかなかった。

 

「お、お母さん。この場合、プチ家出しただけでも心配されたのにその上怪人に襲われただなんて事実を知ったらきっと卒倒すると思い黙っていたんです……」

「……」

「そ、それに私、見ての通りにカツミさんに助けられたから無事で……」

「……言い訳はそれだけで十分ですか?」

「黙っていてごめんなさい……」

 

 我が家の家庭内ヒエラルキー最上位に位置する母の圧にあっさりと屈する私。

 私の言葉にため息をついたお母さんは一度、湯飲みにいれられたお茶を口にする。

 うちは他の家とは違って休日でも朝食は家族皆で食べるので、この場には私と姉に、父と母におじいちゃん、そして———先日から家に泊まっているカツミさんもいる。

 

「まあ、もう二年も前の話ですのでいいでしょう。これ以上引き合いには出すつもりはありません。カツミさんもありがとうございます」

「いえ、娘さんのことは俺も昨日初めて知ったことですから。それに俺はただ戦っていただけなので……」

「謙遜なさらずお礼くらい受け取ってくださいな。おかわり、よそりましょうか?」

「え、え? お願いします?」

 

 母の勢いに押され茶碗にご飯をよそられるカツミさん。

 現在彼は、私と姉に挟まれる形で座っているが……さっきから無言で朝食を食べている姉が不気味でしかない。

 いったい何を企んでいる……?

 

「葵、今日はやけに起きるのが遅かったですね」

「んー?」

 

 そういえばいつもきっちり決まった時間に起きる姉が珍しく寝坊していたな。

 母が起こしていたようだけど、機械並みに正確な体内時計をしている姉には珍しいことだ。

 ぐるぐると納豆をかき混ぜながら“うーん”という反応を返した姉は、特になんてことがないように答える。

 

「カツミ君が起こしに来るのを待ってた」

「えっ?」

「どうして事前に私に言っておかないの? そしたらカツミさんに行かせたのに」

「えっ?」

 

 姉と母の会話に呆けた反応をするカツミさん。

 いや、本人目の前にいるのになんでそんな打算しかない会話ができるのだろうか。

 

「き、聞き間違いか……? そうだよな……」

 

 ついには聞き間違いということで納得してしまった!?

 

「……カツミ君」

「はい。なんでしょうか?」

 

 不意にカツミさんの対面に座っている父が彼に話しかけた。

 眉間にしわを寄せ、無駄に低い声で話しかけられたカツミさんは少し身構えるように返答する。

 

「……。ここでの、生活はどうだ?」

「え? ……とてもよくしていただいて、とても助かっています」

「そうか。それはよかった」

「はい」

「……」

「……」

 

 私から見て上がり症の父が緊張しているのは分かるけれどもその絡み方はやばいと思う。

 カツミさん、会話が広がらなくてものすっごい気まずそうな顔をしているもん。

 

「お父さん、カツミ君に圧をかけないで」

「そうだよ。カツミさん困ってるじゃん」

「あなた、怖がられたらどうするんですか?」

「ひ、ひどい……」

「べ、別に気にしてませんから……」

 

 気を遣われてるじゃん……。

 どうして父は緊張すると見た目の印象が変わってしまうのだろうか。

 普段は気弱な人なのに……。

 

「カツミ君。今日の予定は?」

「予定? 予定といっても外出歩くわけにもいかねぇしな」

「それじゃあ……」

「うちにゲーム、たくさんあるよ……!」

「へぇ、面白そうだな」

 

 自然に休日の予定を決定させた……!?

 これはマズい! 乗り遅れる前に私も参加せねば……!!

 

「ハルもどうだ?」

「やります」

 

 乗り遅れるどころか手を差し伸べられてしまった。

 姉を見ればしくじったと言わんばかりの顔をしている。

 ……後でカツミさんの前でボコボコにしてやるから覚悟しておけよ姉ェ……!!

 いつもしてやられてばっかりだけど、今日の私は阿修羅すらも凌駕する存在だ……!!

 


 

 

 

閑話 ジェムの受難

 

 

 

 

ねっむ
課金したいからお金貸してー!

 

コンビニでプリン買ってきてよ
 
こいこいこい!!

当たったァー!!

どうせ機械弄ってばかりで暇でしょ?

お腹空いたー!

ごみ? ああ、そこらへん転がってるから片付けといてー

昼間から惰眠を貪るって最高!!

 

    0:56/XX:XX
 
     
♯テスト

【ノンフィクション】駄目人間の生態

 XXXX回視聴
高評価低評価保存 …

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 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数X万人

暴虐の化身

モンスターペアレンツ姉

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XXXX件のコメント ▽並び替え

 

ページONE一週間前

こ れ が 現 実

64   返信

▲6件の返信を非表示

 マロマロ

 だよなぁ。

 これが現実だよなぁ。

    返信

 

 抹茶エナジー

 危ない危ない。

 長男じゃなかったら耐えられなかったぜ。

 俺はいつまでも夢を見続けられる。

    返信

 

 Suriib

 現実の姉なんてこんなもんよ

 いや、さすがにここまで暴虐極めてないな

    返信

 

 温度K

 正直羨ましい

    返信

 

 GAOGAO

 よく弟君耐えてるな

    返信

 

 田中さんです

 廃課金中毒の姉とか恐ろしすぎるわ

    返信

 

ダブルターボ

ここまでの駄目人間始めてみた

    返信

 

激昂クルルヤック

腕力で上回られてるのが笑う

    返信

 

天のスコ

姉に夢を見てはいけない(戒め)

    返信

 

KARASHI

概要欄のモンスターペアレンツ姉のインパクトよ笑

字面から苦労具合が伝わってくる

   返信

 

ナメクジ怪人4号

見た目かわいいのが腹立つな……

   返信

 

ナメタケナイト

これ姉に無断で出してんのかな?

   返信

▲2件の返信を非表示

 AGO美

 概要蘭に許可はもらってるって書いてあるぞ

   返信

 

 電子レンジ

 ガチャを回す姉の動画で弟が稼いで

 稼いだ金で姉がガチャを回す

 永久機関が完成しちまったなァ~!

   返信

 

 SKAL

 ただの悪循環なんだよなぁ

   返信

 


 

「……ッスゥー」

 

 編集を終え、今一度投稿した動画に目を通し眉間を揉む。

 高性能レンズにより構築された我が眼球に疲労という二文字は存在しないのだが、今の理不尽な状況に置かれたせいで精神的な意味での疲れを隠せなかった。

 ———それは、サニー様の発案から始まった。

 

『そんなに資金に困っているなら動画を出してみたらいいんじゃない? 地球では流行っているらしいわよ?』

 

『そうねぇ。レアムちゃんとか動画映えしそうじゃない?』

 

『ダメもとでもやってみなさいよ。なんなら私でもいいわよ? 冗談よ。……割とマジな顔で首を横に振らないでくれる……!?』

 

 サニー様のお言葉と言えどそんな簡単に資金を稼げるはずがないと思っていた。

 しかし、資金集めの片手間にならば動画編集も容易くできることに加え、脳内メモリに姉の醜態はしっかりと記憶してあるので動画化することも容易かった。

 どうせ大した話題にもならないだろう。

 そう思い、ダメ元で穂村克己が配信に出ていた大手の動画サイトに投稿してみた……結果。

 

「地球人の金銭感覚はおかしい!!!」

「ご主人様! お気を確かに!?」

「どうして俺が真面目に金を稼ぐよりこの駄目姉のクソみたいな日常風景映した方が金になるんだ!? おかしいだろ!? ただ食って寝て課金して食って寝てるだけなんだぞ!? 異常な速度で収益化が通って……く、うおおおお、電子回路が焼けこげそうだ!!! ちくしょうめ!!」

 

 頭を抱えPCの前で悶えている俺にMEIが駆け寄ってくる。

 理解不能すぎる!

 あんな理不尽の権化がなぜ一定数の人気が集まるのが理解できん!!

 

「あのさぁ、姉に向かって失礼じゃない?」

「控え目に言っても人間性がクズなのに……!!」

「えーっと……怒っていいかな? これ?」

 

 回転椅子に座りくるくると回って遊んでいたレアムが固く握りしめた拳を向けてくる。

 多少の脅しでは俺は屈服せんわ。

 乱暴。

 金遣いが荒い。

 だらしない。

 食いしん坊。

 最早、戦闘力しか取り柄がない姉に金を投げつけるなど……地球人はおかしいとしか言えん。

 

「……ですがダメ人間とは言わずも人間性に欠点がある方は、その……尽くし甲斐があるのは事実です」

「え、待って。それ俺のこと言ってるのか? それ俺のこと? MEI! どうして目を合わせてくれないんだ!? MEI!?」

 

 MEIまさかずっと俺のことをそう思って世話してきたのか……!?

 まさかの献身の理由に地味にショックを受けながら、俺はある意味で苦痛とも言える動画編集を行わなければならなかった。

 


 

 

閑話 風浦桃子は夢を見る

 

 

 夢を見た。

 

 それは、他愛のない日常を生きる夢だった。

 地球ではないどこか。

 地球で暮らす私とほとんど違いのない人々。

 彼女には家族がいた。

 

 父は最後まで私のことを気にかけてくれた。

 

 母は私を引き渡さないように抵抗していた。

 

 兄は私と言う家族を守るために戦ってくれた。

 

 姉はずっと私の味方だった。

 

 オメガと呼ばれた彼は、私を守り一緒の人生を生きてくれるともいっていた。

 

 みんな、優しかった。

 たったそれだけのありふれた日常を幸せと思っていた夢。

 優しくて、温かい家族が大好きだった。

 

 

 

悪夢を見た。

 

 

 

 それは、日常が一瞬にして地獄へと変わる夢。

 大きな船に乗った侵略者が空からやってきて、“アルファ”の検体を回収しにやってきたことが始まりだった。

 彼女はアルファだった。

 特別な力を持つ少女。

 放っておけば周囲に危険をまき散らす怪物、化物、だと侵略者の口から星に住む人々へ……そう、語られた。

 

『娘は捧げます! だから家族だけは、家族だけは見逃してくれ!』

父は最後まで私のことを気にかけてくれた(家族として見ていなかった)

 

『私を困らせないで。貴女のような疫病神は私の娘なんかじゃない』

母は私を引き渡さないように抵抗していた(物のように扱い蔑んだ)

 

『お前なんて化物だ。さっさと解剖でもされてくたばっちまえよ』

兄は私という家族を守るために戦ってくれた(異物を嫌っていた)

 

『どうして、あんたなんかが妹になっちゃったの? 私たちのために死んでよ……』

姉はずっと私の味方だった(私のことを憎んでいた)

 

『君を捧げれば僕たちは、この星は見逃してもらえるんだ。頼む、僕達のためにその命を捧げてほしい』

オメガと呼ばれた彼は、私を守り(私を裏切り)一緒の人生を生きてくれるとも言っていた(痛めつけた後に侵略者へと生贄として捧げた)

 

 力を持っていると分かる前は普通の家族だった。

 侵略者の来訪により判明した自らの力の起源と、侵略者が求める“平和的”な交換条件。

 そのせいで彼女の家族は、星に住む人々は壊れた。

 

 平和のための生贄。

 

 ごく普通の少女の心は壊れ、抵抗することもなく侵略者たちにより物言わぬコアとなる———はずだった。

 彼女の悲しみは、行き場のない怒りはコアとなっても消えることはなかった。

 澄んだ桃色の光を放つエナジーコアには、毒々しい緑色が混じりその末に暴走してしまったのだ。

 

『あ、あ、あああああ……』

 

 侵略者の一人に取り付き、同化してその体を乗っ取った彼女。

 明らかに普通じゃない力を纏った彼女は自らを生贄にした者たちがいる故郷に舞い戻り少しの躊躇もなくその星の住人を虐殺し滅ぼした。

 

 彼女の慟哭は、

 溢れ出る悲しみは癒えることはない。

 それは呪いのように、家族の愛に裏切られた少女の心を苛み、いつしか歪んだ破滅願望へと変わっていった。

 

 

 

 

「お目覚めかな? 桃子」

———最悪の目覚めだよ

 

 悪夢から目覚めると相変わらず私の身体は私のものじゃなかった。

 暗い研究室の中、テーブルに足をのせて椅子に背中を預けていたヒラルダは大きな窓の先に見える青い地球を目にしながら苦笑していた。

 

「私の過去なんか見るなんて長く同化しすぎちゃったかな?」

———貴女が見せたんじゃないの?

「こんな私にだって触れられたくないことだってあるんだよ?」

 

 どこまでが本音か分からないけど、あんな最悪な記憶は触れらたくはないなとは思う。

 こいつは性格が悪くて私の身体を現在進行中で好き勝手に使っている最低なやつだけど、その境遇には同情する。

 

———家族に捨てられたの?

「同情してくれているの? やっぱり地球人って甘いねぇ」

 

 同情はしているが彼女の所業を許しているわけじゃない。

 こいつのおかげで私は家にも帰れず、大学にも戻れないでいるのだ。

 もしかしたら両親も私が死んでいると思っていると考えると、背筋が凍るような思いに駆られてしまう。

 

「地球人って本当に能天気。そういうのも結構好きよ」

———貴女、なんでも好きって言うよね

「そう頻繁には言わない。最近は云う頻度が増えてきただけ。節操なしみたいに言わないでくれる?」

 

 意外だけどこいつは、せいかい戦隊とかいうジャスティスクルセイダーのパチモン戦隊のイエローには結構好意的な感情を向けている。

 相手からは蛇蝎の如く嫌われているけど。

 

「心が折れないっていいことよねぇ。どんな苦難にも屈しない。一度決めたことを曲げない。それはとても素晴らしいことだと思う。ええ、本当に」

———……いきなり、どうしたの?

「私を生贄に捧げた奴ら、見たでしょ? あんなんでも私の家族だったんだ。少なくとも侵略者が来る前までは私に対して優しかったし憎まれてもいなかった」

 

 ヒラルダの口調は変わらず明るいまま。

 ううん、まるで他人事のように話しているとさえ思えた。

 

「それが、私を差し出せば平和になると唆されるとあの扱い。別に生贄に捧げられるくらいならそれでよかった。愛する家族のためなら自分の身を捨ててもいいとすら思ってた」

 

 記憶の中で幼い少女だったヒラルダの様子を思い出す。

 まだ幸せな記憶の中にいた彼女は、今の邪悪さとはうって変わってどこにでもいる普通の少女だった。

 ……宇宙人だけど。

 

「なのにあの人たち。途端に私を化物を見るように見てきて……挙句の果てに同じ化物のオメガと一緒にボコボコにして差し出すなんて……もう、絶望通り越して笑えて来ちゃったわ」

———だから、殺したの?

「右往左往する残念な頭は必要ないでしょ? でも報復されるだなんて思いもしなかったって反応は面白かった。———私の愛を裏切ったのはそっちだったのに」

 

 視線の先にある地球を見て、小さなため息を零す。

 その後に椅子から跳ねるように立ち上がった彼女は、その両腕を大仰に広げた。

 

「だから私は心が折れない人が好き。ブルーもイエローも、コスモちゃんも、ジャスティスクルセイダーも、黒騎士……ホムラカツミもみーんな大好き。貴女のことも気に入っているのよ?」

——気持ち悪い

「そういうところも好き」

 

 軽口のように彼女はそう呟く。

 

「だから私を終わらせるならそういう人がいい。そのために抵抗して抵抗して、やれること全部、全部全部全部全部やって……それを全て打ち砕いてもらって……そこまでやってようやく私は地獄に落ちることができるの」

———私も道連れってこと?

「それはどうでしょうねぇ」

 

 彼女のことは未だに理解できない。

 ただ、彼女がどうしようもなくかわいそうな人だということだけは分かってしまった。

 できることなら、こいつに……ヒラルダに対してそういう人間のような感情を持っているということを知りたくなかった。

 




日向家とジェムの話はギャグ枠
最後はヒラルダの掘り下げのようなものでした。

次回から第五部に突入します。

次の更新は明日の18時を予定しております。


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【黒騎士/白騎士】変身形態解説

【注意】こちらは本日二話目の更新となります。
こちらを先に開いてしまった場合は、本来の最新話である前話をお願いしますm(__)m。

フォーム数も増え、要望もありましたので黒騎士、白騎士限定ではありますのでフォームの簡単な解説の方を作らせていただきました。
解説ではありますが、できるだけ皆様に見て楽しめるように書いてみました。


穂村克己、変身形態一覧

 

【黒騎士】

 

№0

変身者穂村克己(ホムラ カツミ)

形態TYPE(タイプ) PROT(プロト) “0”(ゼロ)

登場初登場『第8話 力の正体、怪人の再来』

音声CHANGE——PROTO TYPE ZEROォ……

性能KANEZAKIコーポレーション代表取締社長“金崎令馬”により地球で初めて開発された戦闘スーツ。地球の資源によって開発されたこのスーツのその性能は極めて低く、あくまでコアの実験運用のための試作品として運用されるはずだった。

しかしスーツに組み込まれたエナジーコアの危険性が判明し、廃棄されかけたところで研究施設に迷い込んだ穂村克己により持ち出される。

穂村克己が装着したプロトゼロは従来の性能を大きく凌駕し、限界以上の性能を引き出すことであらゆる怪人をその拳で殴殺してきた。

 

№1

形態TYPE(タイプ) PRTO(プロト) “1”(ワン)

登場初登場『第48話 振り返りと姉妹』

参戦『第78話 触れてはならない記憶』

音声ARE YOU READY(準備はいい?)? 』

NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

TYPE 1! ACCELERATION!!(行こう! 至高のその先に!!)

EVOLUTION!!(進化!!)

STRONG!!(最強!!)

INVINCIBLE(無敵!!)!!』

SUPER(最高!!)!!』

CHANGE(その名は)TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

性能プロトゼロの正当進化形態。金崎令馬により強化を施された人類の敵を撲殺するための最終兵器。

これまでプロトゼロは碌な調整もなしに穂村克己により使用されてきたが、彼の身柄の確保により金崎令馬の手にプロトゼロが戻ったことからようやく“穂村克己専用”のスーツへと進化を遂げるに至った。

プロトワンの真の性能は能力もなにもかもを除外した究極の近接性能にあり、あらゆる障害をその“速さ”と“力”で打ち砕くことにある。

プロトワンの挙動により生じた余剰エネルギーを推進力などに変換し再利用する『OVER LIMIT KUROKISHI SYSTEM』略して“OLKS”により、全身を循環する余剰エネルギーは深紅のマフラーのような形を形成する。

余談ではあるが、その余りある速さとパワーにより繰り出された拳はスーツの余剰エネルギーと合わさり、赤い閃光となって敵へと襲い掛かる……が、この現象についてはレイマは想定していなかった。

 

 

【白騎士】

№2

形態ダストドライバー“トゥルースフォーム”

登場第19話“侵略者、怒る 騎士”

音声PERFECT(パーフェクト)!!』

ALL(オール)ALL(オール)ALL(オール) ALMIGHTY(オールマイティ)!!!』

THE() ENEMY(エネミー) OF(オブ) JUSTICE(ジャスティス)……』

『『『TRUTH(トゥルース) FORM(フォーム)!!!』』』

性能宇宙からの侵略者“セイヴァーズ”の罠にかかり捕まってしまったカツミに装着されたベルト“ダストドライバー”により変身した姿。本来は破壊衝動に任せた醜悪な戦士へと変身するはずだったが、ダストドライバーにカツミが適合したことでありえざる姿へと至った。

トゥルースフォームは彼がこれまで関わり、影響を受けたジャスティスクルセイダー3人に由来する能力を有しており、赤が炎と攻撃、黄が電撃と超スピード、青が液体化(?)といった能力を有している。

また最大稼働時“オールマイティ”状態はトゥルースフォームの全ての性能が向上し、星将序列上位を上回る力を発揮する。

 

№3

変身者白川克樹(シラカワ カツキ)

形態ルプスフォーム

登場第25話“記憶のない彼は”

音声FIGHT(ファイト) FOR(フォー) RIGHT(ライト)!!

SAVE FORM(セーブフォーム)!!! COMPLETE(コンプリート)……』

性能記憶を失った穂村克己、“白川克樹”がルプスドライバーにより最初に変身した姿。短刀型の武器“ルプスダガー”による斬撃と蹴りを主体にした戦闘を得意としている。

記憶を失っているからか記憶を失う以前の従来の戦い方をすることができなくなっており、ルプスフォーム自身の性能もそこまで高くないことから攻撃が通じない相手に苦戦することも多い。

必殺技はエネルギーを籠めた蹴りで止めをさす“バイティングクラッシュ”。

 

№4

形態ルプスフォーム“フレアレッド”

登場第29話“新メニューと赤の姿”

音声RE:BUILD(リ:ビルド)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

『CHANGE!! SWORD RED!!』

性能ルプスフォームが通じない敵に対応するために目覚めた炎と剣を用いる姿。攻守に優れたフォームであり、片刃の剣“フレアカリバー”と炎により敵を切り裂き、焼き尽くす。

ルプスフォームと比べパンチ力も強化されているので炎を纏わせた拳を主体とした戦い方も可能。

必殺技は切り裂いた敵を内側から焼き尽くす『バーニングスラッシュ』

 

№5

形態ルプスフォーム“ショットブルー”

登場第32話“思わぬ共同戦線”

音声RE:BUILD(リ:ビルド)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!! → OK(オーケー)?』

CHANGE(チェンジ)!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

性能速い敵を捉えるために目覚めた銃と精密性に特化した姿。精密な動きに優れたフォームであり、銃型の武器“リキッドシューター”によりあらゆる敵を正確無比に撃ち抜く。

ルプスダガーをリキッドシューターに連結させることで近接戦闘も行うことも可能であるが、防御面に乏しい面もあり、その真価を発揮するのは遠中距離にある。

必殺技は凝縮させたエネルギー弾を相手にぶつける『アクアフルパワーブレイク』

 

№6

形態ルプスフォーム“アックスイエロー”

登場第36話“100番台、夜の侵略者”

音声RE:BUILD(リ:ビルド)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)→ OK(オーケー)?』

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

性能強靭な敵を打ち倒すために目覚めた雷の力をその身に宿した姿。基本の4形態の中でも最もパワーとスピードに優れた形態であるが、その強力すぎる故に周囲に与える被害も大きく、街中や一般人のいる場所では使用できない。

斧型の武器、ライトニングアックスによる強力無比な攻撃と超スピードによる猛攻を得意としている。

必殺技は雷の力を込めたライトニングアックスで敵を焼き尽くす『ライトニングフルクラッシュ』

 

№7

形態ルプスフォーム“ハザード”

登場第32話“狡猾さ恐るべき形態”

音声ENDLESS(エンドレス) RAGE(レイジ)!! WEAR(ウェアァ) DEATH(デス) WARRIOR(ウォーリアァ)!!』

EVIL(エビル) BLACK(ブラック)!!  HAZARD(ハザード)FORM(フォーム)!! 』

EAT(イィト) KILL(キル) ALL(オォル)……』

性能悪に堕ちた白騎士の恐るべき姿。穂村克己としての悪夢と呼ぶべき記憶のみを思い出した白川克樹が目覚めたこの姿は、敵首領であるルインが用いるワームホールを使う。

負の側面に支配された彼の性格は残忍で相手をいたぶることに躊躇がない。

ルイン曰く“先がない姿”であり、強力な力を扱う姿であるもののこれ以上の成長を見込めないものとして、現状一回きりの変身となっている。(ルイン操作時を除く)

必殺技は疑似的に発生させたブラックフォールに相手を叩きこむ『ブラックホール フィーバークラッシュ』。

 

№8

形態ルプスフォーム“グラビティ”

→“タイム・ハザード”

登場第40話 “白黒と邂逅”

第46話 “100位と10秒、そして頂点”

音声GRAVITY(グラビティ)!! 』

BLACK(ブラック) & WHITE!!(ホワイト)!!』

EVIL(イビル) OR(オア) JUSTICE(ジャスティス)!!』

ANOTHER(アナザー) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

性能過去の一部を思い出したカツキがハザードフォームを経て目覚めた姿。強力なハザードフォームの力をルプスフォームの力で抑え込むことで安定化させた姿でもあり、その戦闘力は登場時点でのフォームを大きく上回る性能を誇っている。

専用武器であるグラビティバスターは大剣・大砲の2つに変形可能な武装であり、それらを用いた強力な攻撃もグラビティフォームの強みの一つとも言える。

また10秒限定でハザードフォームとしての力を解放し、使いこなすことを可能にさせる“タイムハザードフォーム”へのフォームチェンジも可能。

しかしこの力を使った場合、強制的にルプスフォームへ戻されてしまう弱点もある。

必殺技は重力で引き寄せた相手にエネルギーを籠めた蹴りを叩きこむ『ダブルフィーバークラッシュ』。

 

№9

形態ルプス“ブレイク”フォーム

登場第53話“進化と激闘”

音声SAVE(セーブ)BREAK(ブレイク)!!

FIGHT(ファイト) FOR(フォー) RIGHT(ライト)!!』

CHANGE(チェンジ) YOUR(ユア) DESTINY(デスティニー)!!』

BREAK(ブレイク) FORM(フォーム)!! COMPLETE(コンプリート)……』

性能侵略者ジェムとの戦いにおいて、黒騎士の力をトレースした彼に圧倒された白川克樹が覚醒したルプスフォームの純粋な強化形態。全体的な性能が向上しており、グラビティ、アックスイエローのような周囲に被害を及ぼすことなく戦闘を行うこともできる。

またフレアレッド、ショットブルー、アックスイエローもブレイクフォームという括りとして強化されている。

斬撃とエネルギー状の矢を放つことのできる専用武器、ブレイクアローは近中距離に対応した優れた装備。

 

№10

変身者穂村 克己(ホムラ カツミ)

形態ルプス“トゥルース”フォーム

登場第87話 “全てが揃う時 3”

音声TRUTH(トゥルース) DRIVER(ドライバー)!!】

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

TRUTHFORM!(今こそ) ACCELERATION!!(全てを一つに!!)

『PERFECT!!』

ALL(全て!)

ALL(全て!)

ALL(全て!)

ALL(全て!)

ALMIGHTY(全てを一つに!!)!!!』

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)……』

『『『TRUTH FORM(トゥルース フォーム)!!!』』』

性能穂村克己と白川克樹記憶の二つの記憶を完全に取り戻した彼が変身した姿。ルプスドライバーの真の姿であり、穂村克己の成長の証とも言える。

その能力は物理に特化したプロトワンとは真逆で属性・能力的な強化に秀でており、各フォームの能力をさらに強化したフォームチェンジを行うことで状況に合わせた戦法を選ぶこともできる。

またこれまでの形態で使用してきた全ての武器を召喚・使用することもでき、召喚した武器はトゥルースフォームの能力で限界まで性能を引き出されている。

現行で最も威力のある必殺技は相手を重力の檻に閉じ込め、地球外へ追放する『オールブレイク グラビティクラッシュ』

 

【白騎士:ANOTHER】

№11

変身者白川ハクア

形態ルプス“シグマ”フォーム

登場第69話 “一角獣、再来する恐怖”

音声Σ(シグマ) CHANGER(チェンジャー)!!』

Loading(ローディング) N.N.N.(ナ ナ ナ)Now(ナウ) Loading(ローディング) → Loading(ローディング) N.N.N.(ナ ナ ナ)Now(ナウ) Loading(ローディング) →』

Σ(シグマ) CHANGE(チェンジ)

I(アイ) WAS(ワズ) BORN(ボーン) TO(トゥ) PROTECT(プロテクト) YOU(ユー)!!』

CHANGE(チェンジ) → UP(アップ) RIGING(ライジング)!! SYSTEM(システム) OF(オブ) Σ(シグマ)……!!』

性能ルプスドライバーに内蔵されたコア、シロにより作り出されたサポートスーツ。第25話にて登場したアクスのエナジーコアを元にして作られたものではあるが、その性能はジャスティスクルセイダーのものよりも高い。

 元々は白騎士の戦闘を補助するために作られたスーツであることから索敵・解析能力に秀でていることに加え、専用武器シグマサーベルは多様な属性による攻撃も可能。

 必殺技はシグマサーベルのエネルギーを一気に解放させ放つ斬撃『シグマ オールアビリティスラッシュ』。




思っていた以上に文量が多くなってしまったので、とりあえず黒騎士と白騎士のみの解説となります。

一週間ほど経ったら最新話の位置から移動しようと考えていますが、冒頭に置くと初見の方へのネタバレになってしまうので第4部の閑話の後に移動させたいと思います。

本日の更新は以上となります。


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第五部
新拠点と相棒


二日目、二話目の更新となります。

最初は少し変わって新キャラの音声記録のようなもので始まります。
以降はカツミ視点でお送りします。


 “未知の探求者”とは聞こえはいいけど、僕に言わせてみればそれは暇を持て余した俗人にとっての暇つぶしでしかない。

 少なくとも僕はそうだ。

 僕は暇人である。

 音声記録をいきなりの自虐で始まるのは毎度のことだと思うが、ここは僕なりの挨拶だと思って我慢してほしい。

 

 さて、暇を持て余した探求者といえば星将序列77位“問答のケフカ”と呼ばれた者がまさにそうだろう。

 彼は自らが得た知恵と知識を用いて相対する対象との“知恵比べ”を仕掛けていた。

 彼と地球人との戦いは傍目から見れば面白い試みではあった。

 元より平等ではない勝負。

 だからこそ彼は公平性を求めるあまり知恵比べの基準を下げ“駆け引きを兼ねた罵り合い”による勝負へと切り替えた。

 結果、彼は敗北しその命を散らしたわけだ。

 これが純粋な知識における試練だったのならまだ可能性はあっただろう。

 その場合、目の前で傷ついたジャスティスクルセイダーを目にした“彼”が暴走し勝負そのものを台無しにしていた可能性があったわけだが……。

 

 まあ、この話題は長く話す必要はないだろう。

 既に終わった話であり、あくまで起こりえた可能性の一つなのだから。

 

 ここでオメガとアルファの関係性について久しぶりに記そう。

 意外にもこれの起源を知るものはほとんど存在しない。

 知的生命体に宿り能力に開花させる二つの因子は今や多くの生命体に植え付けられ、超常の戦士へと至っている。

 

 まず前提としてオメガとアルファは元は別々の生命体だということと説明しておこう。

 そして、これらの因子は本来はこの宇宙に存在することのなかったもの。

 

 なぜそんなものが今の宇宙に存在しているって?

 

 そりゃあ僕が持ちだしたものだからね。

 地球の言語で置き換えるなら外来種というべきかな?

 

 因子の起源はこの宇宙ができる三つほど前の宇宙にまで遡ることになる。

 その宇宙には、アルファの元となった生命体がいたわけだ。

 強力な力を持つ上に凶暴。

 他の生命体を食らうことで特異な能力に目覚める不思議な身体を持っていた。

 

 星を食らい生物を取り込み、一つの宇宙の時代すらも食らいつくそうとしていた者。

 それが原初のアルファ

 

 そんな存在を止めたのはオメガの根源となった者。

 穏やかな気性にアルファと比べて戦闘力に大きく劣る、一見すればまるでいいところがない彼は対話という形で荒れ狂う同胞を鎮めた。

 アルファに寄り添い、共感する。

 そんな他愛のない力を持つだけの存在が原初のオメガというわけさ。

 

 そして、だ。

 

 それらの細胞を因子として抜き出され培養されたソレが地球人が“正体不明(アンノウン)”と呼ぶ我々が強力な戦士を作り出すために星の生命体に植え付けているものだ。

 

 え? 

 

 オメガ因子を埋め込まれた生命体はその姿が怪物みたいになる?

 

 オメガの根源が穏やかなら怪物になるのはおかしいんじゃないか?

 

 結局穂村克己の正体はなに?

 

 もちろんこれらすべての答えは僕は持ち合わせている。

 が……ここはあえて次に持ち込しとしよう。

 もしかしたら次の音声記録でも僕は答えをボカすかもしれないけれど、それもまたご愛敬だ。

 

 この未来すらも見えない特異な宇宙は僕にとっては宝石の詰まった宝箱に他ならない。

 なにせここにはルイン様も、穂村克己も存在するからね。

 他の宇宙ではこうもいかない。

 

 さて、これを読んでいる誰か。

 過去の私か、はたまた別の宇宙の俺。

 それとも過去の僕かは分からないけれど、この宇宙・次元での立ち位置を名乗ろう。

 

 僕は星将序列第二位次元超越イリステオ

 

 なんてことはない、暇を持て余した未知の探求者さ。

 


 

 ジャスティスクルセイダーの本部が完成した。

 あれから数週間ほどしか経っていないのにもう本部が完成したことに驚いたが、それは俺の短いようで長かった居候生活の終わりとも言える。

 天塚家、新坂家、日向家。

 どの家にもかなり世話になってしまったが、楽しくもあった。

 短い期間でもあったが俺としても普通の家族、ということをよく知ることができたのでいい経験になったと思う。

 そして、俺にとっての新たな家になるであろう新しい本部についての場所を教えてもらいアカネ達と共に向かったわけだが……。

 

「喫茶、店?」

「喫茶店だね……」

 

 向かった先にあったのはごく普通の喫茶店であった。

 サーサナスという看板からして新藤さんの新しい店なのは分かったが、店の大きさからしてとても新しい本部には見えない。

 よくよく考えてみれば今いる場所はアカネ達の家や学校からそう離れていない場所だし、なにより周りには大きなビルもない。

 こんな場所に本部なんてあるはずがない。

 そう思っていると、店から緑の髪の少女が扉を開けて顔を出してきた。

 

「……ん? ああ、ホムラ達も来たのか」

「コスモちゃん、いないと思ったらここにいたんか」

「ボクもついさっきここに来たんだよ。そんなところに突っ立ってないで中に入れよ」

 

 ぶっきらぼうに言いながら扉を開いたコスモに頷き、俺達も店の中に入る。

 店の内装は以前のサーサナスよりちょっと広いくらいか。

 見た目の印象も明るく、客も入りやすそうだ。

 

「新藤達は二階にいる」

「へぇ、二階もあるんだ」

「客用のスペースは一階らしいけどな」

 

 壊された店は一階しかなかったからな。

 客用っつーと、二階は違う用途なのか?

 

「お、到着したようだな」

「そのようだな。諸君、よく来てくれた」

 

 階段を上がると一階と同じくテーブルと椅子が並ぶ場所にレイマと新藤さんの姿を見つける。

 新藤さんがいるのは分かるが、レイマがいるのはちょっと予想外だ。

 ついさっき淹れられたコーヒーなのか、レイマの触れているカップから白い湯気が浮かんでいる。

 

「レイマ、ここが新しい拠点なのか?」

「フッ……そうであって、そうではない、というべきかな」

「勿体ぶらないで早く教えてください」

「時間の無駄」

「ためる必要あります?」

「貴様ら空気というものを読めんのか……!」

 

 元も子もないことをいうアカネ達を睨みつけたレイマがコーヒーを飲み落ち着きを取り戻そうとする。

 

「まずはこの喫茶店、新生サーサナスについて説明しよう。皆も知っているとは思うが、彼の喫茶店は星界戦隊の襲撃によりほぼ半壊状態にまで陥ってしまった」

「あんときは流石に俺もびっくりしたな」

 

 コスモが戦った時の話だよな。

 そこらへんの落とし前は次に会った時に払わせるとして、そこからいったいどのような話になったんだろうか。

 

「こちらとしても記憶喪失のカツミ君を匿ってくれた礼を兼ねて、修繕代を出すつもりだったが……色々と見過ごせない情報があってな」

「あー、サニーのこと?」

「その通り。まさか新藤氏にホの字の序列三位が出てしまったので、彼を放置するのは危険と判断したのだ。……いろいろな意味で」

 

 正直、あいつはそこまで悪い奴ではないと思うんだけどな。

 必要になればこちらに敵対はするだろうが、新藤さんを害するような輩ではない。

 

「まさか俺のコーヒーが宇宙人すらも魅了するなんて罪すぎるな」

「罪なのは惚れられたお前じゃね?」

「確かに、罪なのは新藤さんじゃないか?」

「うっせぇぞ! 居候その2、その3!!」

 

 その1はハクアだろうか。

 俺とコスモの指摘に必死に食って掛かる新藤さん。

 

「サニーがまた新藤氏に接触してくる可能性は十分にある。そういう事情もあり、彼には我々の保護下に置いた上で以前と同じように喫茶店を経営していただくことになった」

「喫茶店もですか?」

「うむ。新藤氏の事情を置いてもここはお前たちにとっては憩いの場にもなり得るからな」

「……え、まさかこの二階って」

 

 アカネの言葉にレイマは頷く。

 

「お前達のために用意した休憩室のようなものだ。職場にそのような場所があっても息苦しいだろう? ま、ここで勉強するなり、飯を食うなり……ふむ、暇なときは新藤氏の店でも手伝うというのも手だ」

 

 まだ本部のことについて分かっていないが、ここは俺達にとってのたまり場ということになるのか。

 

「まあ、さすがに前みてぇに俺の独房にこいつらが押し寄せてくるってことになってもアレだからな」

「……」

「……」

「……」

「な、なんでこいつら残念そうな顔してんだ?」

 

 ……。まさかこいつら本部にあるであろう俺の部屋に突撃しようとしていたのか?

 無言で顔を逸らす三人にちょっと引いていると新藤さんがやや気恥ずかしそうな様子で自身の頭に手を置く。

 

「俺も、ここまで関わっちまったからにはな。協力できることがあんならできる限りするつもりだ」

「シンドウ、お前第三位を誘き出す餌にちょうどいいもんな」

「コスモ。テメーは変身ヒーローになっても皿洗いと接客係だ」

「なんでだよ!!!」

 

 思えばこの人には本当に世話になったな。

 マグマ怪人……いや、アースの時もそうだが、俺が記憶を失った時もその後も助けられてしまった。

 ……まさか俺が喫茶店でバイトをしていただなんてな。

 愛想のない俺にバイトなんて絶対に合わねーって思っていたから、今思い返すだけでも驚きだ。

 

「フッ……」

「カツミ君?」

「いや、なんでもない。レイマ、新藤さんの事情と喫茶店のことについては分かったけど、肝心の本部はどうなってんだ?」

「それを今から説明しよう」

 

 空になったカップを置き立ち上がったレイマは部屋の奥にある壁へと近づく。

 なんの変哲のない白塗りの壁の前に立ったレイマは、壁に貼られていた宣伝用のポスターへと手を添える。

 すると、なにか赤いセンサーのようなものが彼の手をスキャンする。

 その直後に白塗りの壁が扉のようにスライドしその先に白い光に包まれた空間が現れた。

 

「本部はこの先だ」

「あの、説明もなしにオーバーテクノロジーを使わないでください」

「白騎士のアナザーフォームが扱うワームホールの亜種だ。心配せずとも危険はない。地球外では転送技術はごくありふれたものだからな」

「へぇ」

 

 今までなにも考えずに使っていたが、ワームホールってそんなにありふれたものだったのか。

 あのルインが使っていたしかなり難しいものだと思い込んでいた。

 

「じゃあ、俺やルインのワームホール移動もそれほど珍しくないってことなのか……」

「違うぞ」

 

 コスモが俺の言葉を否定する。

 

「単体でワームホールを生成することが異常なんだよ。ゴールディが今使ってんのは入口と出口に目印を用意して初めて繋がってるもんだ。つーか、転送技術は大体がそうだ」

「カツミ君が使ってるのは違うの?」

「こいつは目的地まで直接ワームホールを作り出してんだよ。出口になる目印もなしにな」

 

 ……なるほど、そういう意味か。

 たしかに今目の前にあるワームホールとは違うな。

 

「つまり、カツミくんのはどこでもドアってことね」

「なあ、ホムラ。こいつ何言ってんだ」

「……その例え分かりやすいな」

「「?!」」

 

 俺でも知ってていいな。

 なぜか自分で口にした葵本人も驚いているけれども。

 

「このワームホールへの権限はジャスティスクルセイダー関係者に与えられることになる」

「質問。ハルにもその権限は?」

「勿論だ。彼女は我が社の重要な広報担当であり、世間的にも今の流行の最前線だからな。私としても彼女の存在は重宝しているのだ」

 

 それじゃあ葵の妹のハルも本部にいけるってことか。

 

「さて、ここで長話していると案内する時間がなくなってしまう。ということで新藤氏、ここには私も度々食事をしにくるのでその時に世話になる」

「ああ。そっちも頑張りなよ、社長さん」

 

 とりあえずはレイマが開いた扉から本部へと入ろう。

 新藤さんと別れ、俺達は白い光が渦巻くワームホールへと足を踏み入れる。

 

「っ」

 

 視界いっぱいに光が広がり目がくらむがそれも一瞬。

 数秒ほどで光がおさまると、俺達の前には広大な空間が広がっていた。

 屋内、ではあるのだろう。

 天井が高くドーム状に作られた建物内には数えきれないほどの扉が見える。それに伴いスタッフの人数も多く、皆忙しそうせわしなく動いている。

 後ろを見れば、俺達が出てきたと思われるワームホールの出口となる扉の枠のようなものがありそれが並列していくつも並んでいた。

 

「わぁ、広い」

「皆、制服とか着てるね」

「映画で見たことある光景だ」

「別に驚くほどの広さじゃないだろ」

 

 きょろきょろと周りを見るアカネ達を呆れた様子でを見るコスモ。

 しかしそんなコスモも、さりげなくではあるが視線だけ周りへと向けているあたり興味はあるようだ。

 

「完成して間もないからな。少し慌ただしいだろうが我慢してくれ」

「すごいな……こんな大きな施設。また地下に作ったのか?」

 

 そう尋ねるとレイマはにやりと笑みを浮かべる。

 

「いや、此度のジャスティスクルセイダー本部は地上に作った」

「こんな広い施設を? バレたりしないのか?」

「ノープロブレム。その心配は無用だ、カツミ君」

 

 俺の問いかけにレイマはおもむろに上を見上げる。

 

「“タリア”起きているか?」

『——いつでも』

 

 レイマが誰かの名を呟くと頭上から聞き覚えのある女性の声が響いてくる。

 大森さん、ではないよな。

 でも、どこかで聞いたことのあるような……。

 

『カツミ。この声、社長のスーツの声……』

「……あ」

 

 あのやべぇコアの声か。

 落ち着いた声だったから一瞬分からなかった。

 施設そのものから響いてくるその声にレイマは頷いた後に言葉を発する。

 

「外部シェルターを開いてくれ」

『かしこまりました。マイマスター』

 

 音もなく施設の外壁が上へとせりあがる。

 内側にはガラスが張られており、差し込まれている陽の光と共に外の景色が露わになっていく。

 

「……は? 山?」

 

 見えたのは青々とした木々が広がる景色。

 山奥どころではない場所に作られたドーム状の本部の外には、航空基地などにみられる倉庫などが見られるがその周りは人工物がほとんどない大自然。

 都会どころか人里離れた山奥に存在する基地に声も出せずに驚いている俺たちに、レイマは自信に溢れた様子で説明を始める。

 

「前回と同じように直接本部が狙われるようなことがあれば周囲に被害が出てしまうからな。ビークルを建造する実験場を作り変え、本部として運用できるようにしたのだ」

「山奥っていっても丸見えですよねこれ……」

「フッ、既にシールドと光学迷彩で対策はしている。地上・衛星からでは絶対にここは見つけられんさ」

 

 お、思い切ったことをしたな。

 外の景色を目にしながら俺たちはレイマについていく。

 その際に、施設の案内をされたが……ここは前の本部よりも広く機能も充実しているように見える。

 スタッフの居住スペースもあり長期の滞在もできるようだ。

 

「サジタリウスのコアとはあの後、和解してな」

『自己紹介が遅れて申し訳ありません。ジャスティスクルセイダー第二本部の管理の一部を任されているエナジーコア、タリアと申します』

 

 施設内を移動しながらレイマが先ほど会話していた“タリア”、サジタリウスについて話してくれる。

 

『ホムラ・カツミ様。プロト様。先日の件は誠にありがとうございました。お二人のおかげで私はマイマスターに自らの意思を伝えることができました』

「あ、ああ」

『気にしなくてもいいよ。同じコアだしね』

 

 前に見た彼女は相当やばい感じしかしなかったけど……今は、かなり落ち着いており年上の女性っぽい喋り方をしている。

 

「名前はレイマに?」

『ええ。マスターがこの私に……うふふ』

「……。レイマ、良かったな。いい相棒に巡り合えて」

「カツミ君。そう言ってくれるならなぜ私と目を合わせてくれないんだ? なぜ顔を背けるんだい?」

『相棒だなんて。そんなっ、まだゴールドスーツのお披露目もしていないのにっ』

 

 スーツを花嫁衣装みたいに言っているように聞こえるのは気のせいだろうか。

 もう声だけで根っこの部分は変わってないことを再認識しレイマから視線を逸らす。

 ……一応、気にかけておくべきか。

 

「レイマ。その……タリアは大丈夫、なのか?」

「私が他の女性に目移りしなければな。は、ははははは

『ゴールディ……スキ

 

 乾いた笑い声を出すレイマに、熱っぽい音声を響かせるタリア。

 ……よし、これはレイマとタリアの問題なので下手に触れないようにしよう。

 なんとなく聞いていたアカネ達もすぐにタリアのことは分かったのか、社長と彼女のやり取りを見て微妙な顔をしている。

 

「コアって変わったやつしかいないのかな」

『私は普通だよ?』

『ガオ』

『ガウ』

「こいつら自分以外は異常って思ってそうだな」

 

 コスモの呟きにプロト、シロ、レオが反応する。

 俺としてはタリアが素直にやばいと思ったんだけどな。

 

「社長、アルファとハクアは? ここにいるよね?」

「ああ、今向かっている居住スペース……カツミ君とグリーンの住む場所にいる」

「俺の住む場所か」

「グリーンって呼ぶなよ……」

 

 別に住むところをえり好みする性格ではないので寝る場所とか最低限のものがあればいい。

 前の独房とか結構いい感じの部屋だったが……アカネ達の度重なる訪問のおかげで物で溢れちまったんだよな。

 まあ、それはいい意味で俺に変化を与えた一因になっているんだろうが。

 

「別にうちにいたままでよかったんだけど。もう何年も一緒に住んでるのに」

「さらっと記憶を捏造するな」

 

 一週間とそこらだよな?

 葵、お前……それじゃあ俺が数年単位で居候している駄目人間ってことになるんだが?

 

「私達、幼馴染だったよね」

「お前みてぇな幼馴染いたら記憶喪失になっても忘れられそうにねーわ」

「……きゅん」

「今ときめく要素あったぁ……?」

 

 意味が分からんのだが……!

 頬を手で押さえて照れる演技をする葵の肩にアカネときららがその手を置く。

 

「きらら、そろそろこいつしばいていいかな?」

「奇遇やな。私も今そうしたいと思っていたところや」

「来いよ。負けヒロイン共。真の勝利者に跪き、私の輝かしい未来を目にし脳を破壊されるがいい」

「こいつら足の引っ張り合いだけは一人前だよな」

 

 いつものやり取りだなぁ、と思いながら通路を進んでいく。

 研究室などがある区画から離れたあたりで前を歩いていたレイマは進行方向を指さした。

 

「この先が君とグリーンの部屋だ」

「独房じゃないんだな」

「フッ、当たり前だろう? もう君を閉じ込める必要はないのだからな」

「そりゃそうだ」

「まだ案内する場所があるので荷物だけ置いてくるといい」

 

 レイマに頷き自分の部屋に向かっていくと、俺の部屋の隣の扉がスライドし二人の少女が顔を出してくる。

 漆黒の髪と真っ白い髪、アルファとハクアだ。

 どうやらこいつらも近くの部屋のようだ。

 

「あ、カツミ。待ってたよ」

「来たんだね。かっつん」

「おう。……隣の部屋なのか?」

「ここはハクアの部屋だよ。私は逆側のカツミの部屋の隣」

 

 ……あれ? 俺の部屋ってもう決められているのか?

 なぜかアルファとハクアに挟まれる部屋割りになってんだけど。

 首を傾げながらコスモを見れば、彼女は我関せずといった様子で空いている適当な部屋へと入っていく。

 

「まあ、記憶喪失してる時も隣と変わらん部屋だしいっか。アルファん時はそもそも部屋割りなんてねぇし」

 

 どちらにしろ部屋が変わっただけで俺の周りは変わらないって感じか。

 ……この二人は私生活が雑な部分があるのが心配ではあるが、さすがに大丈夫……だよな?

 でも三歳児と一歳児だからなぁ。 

 ……まずは荷物を部屋に放り込んでおくか。

 レイマ達も待っていることだし。

 

「……結構、広いな」

 

 開いてみれば予想の三倍くらい広い部屋であった。

 風呂もキッチンまであるのはやばいな。

 窓の外を見れば、大自然も広がっていて景観もかなりのものだ。

 

「ここが、これからの俺の家か」

 

 これからは停滞していた星将序列との戦いも激化していくだろうからな。

 

「まずはハクアに戦い方を教えねぇとな」

 

 あいつを無理に戦いに出すつもりはないが、ある程度戦えるようにしておかないとな。

 ……やることは沢山だが、一つずつ解決していこう。

 

 




新コアであるサジタリウスもといタリア。
彼女に関しては(表面上は)安定していますね。

新拠点はビルドやフォーゼ、映画などいろいろな要素を詰めてみました。

今回の更新は以上となります。



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来襲、星界戦隊

お待たせしました。
今回は主人公視点でお送りします。


 新たな拠点となる本部の案内を終えた後、早速ハクアのための戦闘訓練を行うことにした。

 場所は本部内の演習場。

 ここも以前の本部とは大きく異なり広く作られており、周りを気にせず訓練に励むことができる。

 しかしいきなりハクアに実戦形式の模擬戦闘をさせてもうまくいくはずもないので、まずは俺とアカネが見本として模擬戦闘を行うことになった。

 

「記憶喪失の君を鍛えていた頃が懐かしいよ!」

「あの時はありがとよォ!」

 

 ホログラムにより疑似的な街中の風景が映し出された演習場。

 その場所で変身を済ませた俺とアカネは、互いの武器を手にしながら攻防を交わしていた。

 現在の俺の姿はシロと共に変身した白を基本とした姿、ブレイクフォームだ。

 

「それ!」

 

 赤いスーツを纏ったアカネが自身の身の丈ほどの長剣を流れるように振るう。

 こちらもそれに合わせ逆手に持ったルプスダガーで剣を受け流しお返しとばかりに蹴りを放つが、それは後ろへ下がり避けられる。

 このまま追撃といきたいところだが……。

 

「そう甘くはいかねぇよ、なッ!」

 

 ……下がりながら返す刃で飛ぶ斬撃を放ち距離を詰めようとする俺の動きを潰す徹底っぷりだ。

 ダガーの一閃で斬撃を切り裂きながら、懐かしい気分になる。

 黒騎士時代は何度もこいつらと戦ってきたが、そのたびにこいつらは強くなってきた。

 そして、今も尚成長してくれている。

 

NEXT(ネクスト)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!! → OK(オーケー)?』

 

「なら、これだ」

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

 

 斬撃主体の姿、ブレイクレッドで迎え撃つ。

 手の中に出現させたフレアカリバーを握りしめ、剣に纏わせた炎をレッドへと放つ。

 

「赤い姿だね!」

「記憶喪失ん時はボコボコにされたが今は違ぇぞ」

 

 真っ二つに両断された炎からレッドが剣を振り上げ飛び出してくる。

 こちらも下から振り上げるように剣をぶつける。

 

「「———ッ!」」

 

 得物を弾かれるもその場に踏みとどまり、俺もアカネも一歩も後ろへ下がらず剣を振るう。

 刃がぶつかり甲高い金属音が響いていくと共に周囲が斬撃と炎が広がっていく。

 時間にして数秒ほど。

 その一瞬で数えるのも億劫なほどの剣戟を交わした俺は、大きく振り下ろされたレッドの上段の剣をステップで回避し———バックルを三度叩く。

 

DEADLY(デッドリィ)!! BREAK(ブレイク) RED(レッド)!!』

 

 さらに逃げられねぇようにレッドの腕を掴み、フレアカリバーの柄でバックルの側面を叩き必殺技を発動させる。

 

「お前ならこの程度訳ねぇだろ!」

「いぃ!?」

 

BREAK(ブレイク) POWER(パワー)!!』

BURNING(バァニング)!! SLASH(スラァッシュ)!!』

 

 フレアカリバーから炎を吹き出し、眼前の空間そのものを呑み込むほどの火炎を放つ。

 吹き飛ばされながらもギリギリで防御が間に合ったアカネを目視で確認し———さらに駄目押しとばかりにあふれ出るエネルギーにより刃を赤熱させたフレアカリバーでの一閃を叩きこむ。

 

「くぅ! こっちだって!」

「!!」

 

 やけくそに斬撃を放って俺の技を打ち消した……!?

 んな力技……、ッッ!?

 技の余波でできた煙を突き破り、一直線にこちらに斬りかかってきたアカネの攻撃をフレアカリバーで受け止める。

 

「そぉっれっ!」

 

 カイィィン! という快音が響き、フレアカリバーの刃に亀裂が入る。

 ……分かっていたがとんでもねぇな。

 それに、やっぱ剣の扱いはこいつの方が上だ。

 

「剣だけじゃないよ!」

「んん?」

 

 アカネが自身のチェンジャーに手を添え、なにかを指で挟み込むように持つ。

 彼女は手を鋭く振るい、指に挟んだそれをこちらに投げつけてくる。

 

「手裏剣!? 忍者かオメーは!?」

 

 それは、刃の部分が赤熱した十字型の手裏剣。

 見るからに物騒なもんだと分かった俺は咄嗟にその場を跳びのいて手裏剣を避けるが、地面に突き刺さった手裏剣は炸裂と同時に爆発する。

 爆発する手裏剣!? 狙いも正確とかマジでどうなってんだ!!

 

「さぁて、どんどんいくよ!」

「なんでそんな投げるのうまいんだよ! お前、銃下手くそだったはずだろ!!」

「刃物を投げるのは得意なの!」

 

 どういう理屈だそれは!? 確かにアースん時とか剣ぶん投げてたけれども!

 長剣を地面に突き刺し、両手の指に手裏剣を挟み込んだアカネは、連続して爆発する手裏剣を投げつけてくる。

 

「こなくそ! 全部撃ち落としてやるわァ!!」

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) BLUE(ブルー)!!』

 

 青の姿に変身し、リキッドシューターを出現させる。

 精密性と感覚に優れたこの姿で、嵐のように迫る手裏剣を撃ち落としていく。

 

「赤い姿のまま戦ってよー!」

「無茶いうんじゃねぇよ!」

 

 いつの間にか手裏剣から槍へと持ち替えたアカネ。

 彼女の突きをリキッドシューターの銃身で防御しながらルプスダガーで斬りつける———が、それすらもクナイのような形状の武器により防がれる。

 

「チッ」

 

 舌打ちをしながら銃撃を放つ。

 クナイを投げつけ、エネルギー弾を撃ち落としながら後ろへ下がったアカネは先ほど地面に突き刺した長剣を引き抜きながらどこか高揚した声を漏らす。

 

「やっぱり、君相手だと私の全部が出せる」

「どんだけ武器使うんだよお前……」

「それは君には言われたくないかな」

 

 いや、手裏剣に槍に今度はクナイってどこの時代に生きているんだ。

 つーか、さも当然のようにエネルギー弾をクナイで相殺するんじゃない。

 ここまで来ると逆に感嘆としてくるわ。

 

「もうちょっとやろうか」

「……そうだな」

「やっぱ、君も楽しんでるじゃん」

 

 本音を言えばそうだが、それを口にしたらつけあがりそうなので言わない。

 無言の俺にさらに嬉しそうに笑ったアカネが肩に乗せるように剣を構え、こちらに飛び出した。

 こちらもそれを迎え撃つべく、バックルを叩きながら地面を蹴る。

 

CHANGE(チェンジ)!! BREAK(ブレイク) YELLOW(イエロー)!!』

 

「ハァァ!」

「オラァ!」

 

 赤色の剣と電撃を纏った斧。

 それらの衝突は演習場を覆いつくすほどの閃光を迸らせたのだった。

 


 

「それで、ハクア」

「参考になったかな?」

 

「なるわけないよね!!?」

 

 模擬戦闘後、同じフィールド内で観戦していたハクアが疑似的に作り出された岩陰から出てきながらそんな答えが返ってきた。

 現在の彼女は白騎士……まあ、ジャスティスホワイトと名付けられた姿に変身しており、その姿はシロによってよりアカネ達のスーツの見た目に近いものになっていた。

 

「だよなぁ。さすがにやりすぎちまったようだな」

「巻き込まれると思って怖かったよ……」

 

 別にレッドと力比べをするつもりはなかったんだけどな。

 なんかこう、ノリに乗ってしまったというか。

 

「さすがにいきなりかっつんみたいな戦いはできないと思うけど、自分の力はある程度は把握できたよ」

「そうなのか?」

「うん。このスーツのスペック自体はアカネ達のスーツより高いみたい。あくまでスーツの性能に限ったことだけで技術的な部分では私はアカネ達には到底及ばないけれどね」

 

 シロが作っただけあってそこらへんは高スペックなのか。

 

「あとは解析能力に特化していることと、シグマサーベルの属性変化による多彩性を考えるとシロは私にかっつんのサポートをさせたかったんじゃないかなって」

『ガウ!』

「……どうやらそうみたいだな」

 

 バックルのシロが反応するように鳴いたのでその通りのようだ。

 

「今から私がかっつん達の戦いに入り込めるわけがないから、私は私にできることをやっていこうかなって考えたんだ」

「できることっつーと? あんまり危険なことをしてほしくないんだけど」

「まずはビークルの操縦マニュアルを暗記したんだ」

「えっ、あの分ッッ厚いのを!?」

 

 ハクアの言葉に驚くアカネ。

 俺はビークルの操縦マニュアルなんて見ていないので分からないけど、あれってそんなに取り扱い説明書長いのか?

 

「こう見えて私、頭はいいからね」

「アルファもそうだけど、そういえばお前も頭良かったな」

 

 アルファはそうだが、ハクアも物覚えがいい。

 それこそ生まれて間もなく一般常識と医療関係の知識をものにしてしまうほどだからな……。

 

「ま、今度から私はパイロットになるから大船に乗ったつもりでいるといいよ!」

「本当に大丈夫かよ……」

 

 レイマが認めているならそれでいいが……。

 なんだろうか、一時は姉として生活していたから無性に心配になってくる。

 戦える云々抜きにしてもなぁ。

 

「でもハクアちゃん、ビークルに乗れるようになったって言ってたけど何に乗るの? 私達が使ってたヘリ?」

「ううん。かっつんの“ホワイト5”を社長が空を飛べるようにグレードアップさせたやつ」

 

 あのでかい車みたいなやつを改造したのか。

 前はブラック4との合体で飛べるようにしていたが、今度はそれなしでも飛べるようになったってことか。

 

「アカネ達のビークルもグレードアップされているらしいから見てみたら?」

「うーん。そうだね。実際に使うにしても機能とか確認しないといけなさそうだし社長に許可貰って見に行ってみようか。カツミ君はどうする?」

「は? 行くが? 今すぐ行こうぜ」

「食いつきスゴイじゃん……」

 

 改造された合体ロボ。

 興味がないわけがない。

 その前に上の管制室にいるきららと葵と合流してから——、

 

『侵略警報発令! 侵略警報発令! 侵略警報発令! 侵略警報発令! 侵略警報発令!』

 

「「「!」」」

 

 頭上で警報が鳴り響き、緊急事態を現す赤い光が周囲を照らす。

 これはレイマが言っていた侵略警報ってやつか。

 っつーことは、星将序列のやつらが来やがったってことだな。

 


 

 警報の直後、総司令であるレイマからの指示で俺達は本部の格納庫へと移動することになった。

 そこにはアカネ達と俺が使っていた4機のビークルがそれぞれ格納されており、以前とは少し形が違っているように見えた。

 

「社長はここに来るように指示したけどどうするんやろ?」

「ビークルで行くのかな?」

 

 先ほど合流したきららと葵がそんな会話をする。

 俺、アカネ、ハクア、コスモも周りを見渡していると一基だけ格納されていないビークルがあることに気づく。

 

「あの白いやつは……」

 

 ホワイト5。先ほどハクアが言っていたやつだ。

 見た目も車に近い外見から太めの戦闘機のような外観へと様変わりしている。

 普通にかっこいいな、と思っているとホワイト5の開かれた後部の入り口から、レイマが出てくる。

 

「お前達! 説明している時間はない!! 早くこちらに来い!!」

 

 彼の声に従いホワイト5の後ろから中に入り込む。

 中は見た目通りにかなり広い。この前に見たスパイ映画で見た戦闘機の中身みたいだ。

 

「全員、壁の椅子に座りベルトを締めてくれ。白川君、マニュアルは覚えたと言っていたな?」

「え、あ、まあ……って、私が操縦するんですか?」

「補助は私とタリアがする。シミュレーションで十分以上の成果を上げた君ならば、この『WHITE“V”改』を手足のように操れるはずだ」

 

 ハクアが操縦することもそうだが、レイマが補助をするって……。

 

「レイマも行くのか!?」

「ああ! 私もいつまで経っても奥に引っ込んでるわけにはいかないからな!! 今日からこの金崎レイマは現場主義だ!!」

「意味が分からないんだが!?」

 

 まさかあのスーツが完成したのか?

 ……いいや、ここで問い詰めている場合じゃない。

 まずはこの戦闘機を発進させて現場に向かおう。

 

「ハクア、頼んだぞ」

「……分かった!」

 

 そう言葉にしたハクアはチェンジャーに触れて変身を行った。

 

Σ(シグマ) CHANGE(チェンジ)

CHANGE(チェンジ) → UP(アップ) RIGING(ライジング)!! SYSTEM(システム) OF(オブ) Σ(シグマ)……!!』

 

「よし、絶対に皆を現場に送り届けるよ!」

 

 白いスーツを纏い操縦席へと座った彼女は手慣れた動作でビークルを起動させていく。

 

「どうしてハクアちゃん変身したんだろ……」

「スーツの感覚補助ならば亜音速の移動に対応できるからな。加速に伴うGに関しては……そちらの説明をする時間もないので割愛させてもらう」

 

 ビークルが垂直に浮き上がり、格納庫内の扉が大きく開かれる。

 

「行きます!!」

「うむ! 『WHITE“V”』! 発進!!」

 

 レイマの声に合わせ、ハクアが手元のレバーを一気に前に倒した瞬間、猛烈な加速と共にホワイト5は空へと昇る。

 凄まじい速度だが、それにより生じる圧力も微塵も感じない。

 

「今後、異星人侵略の際にはこのWHITE“V”での出撃が主となる! こいつはこぉの私が作り上げたあらゆる場所・空間での移動を可能にさせた万能ビークル!! 目的地までひとっとびで到着し、傍迷惑な侵略者に鉄槌を食らわせる白い死神なのだぁ!!」

「……おい、ゴールディって頭おかしいのか?」

「たまにテンション振り切れるけど、いい人だから……」

 

 声を潜め話しかけてくるコスモの声に視線を逸らす。

 

「タリア。白川くんのサポートを任せる」

『お任せを。ハクア様、緊張なされているようなので心安らぐ音楽などをお聞かせいたしますか?』

「そういう方面のサポート!?」

『冗談です』

「意外と茶目っ気あるね君!?」

 

 ハクアは大丈夫そうだな。

 すっげぇ勢いで景色が変わっていくけど普通に操縦できているようだ。

 

「よしっ。……すぐに目的地には到着するだろうから、今回の侵略者について簡潔に説明する!!」

『!』

 

 今回の侵略者……。

 いったい、どんなやつなんだ?

 

「先ほど地球外に五つの宇宙船が現れた。恐らくこれは星界戦隊の船だろう」

「あの不死身野郎、性懲りもなくやってきやがって……」

「あんな目にあったのに、斬られたりないのかなぁ」

「使いまわしキャラってくらいに再登場してくるじゃん」

「船ごと粉々にすれば戻ってこれへんよなぁ」

「ボクは星界戦隊よりお前らの方が恐ろしいよ」

 

 いい加減にしてほしいところだが、あいつらだってバカじゃない。

 なにかしらの策があって出てきたはずだ。

 

「奴らだけならば対処も容易かっただろうが……今回星界戦隊はその船からいくつもの物体を街へと落下させたのだ」

「物体?」

「今、映像に出す」

 

 空間に映像が浮き上がり、現在の都市状況が映し出される。

 見えたのは、地面や建物のいたるところに突き刺さる黒い円錐状の……なんだこれ?

 

「なんですかこれ? 都市中に突き刺さっているのは分かりますけど……」

「こいつにスキャンをかければその正体も分かるはずだ」

 

 映像がモノクロに切り替わって円錐状の物体の中身が透過される。

 中には、まるで胎児のように丸くなり眠っている———数週間前に現れた黒い異星人の姿があった。

 

「これは……!? まさか落ちたやつ全部にこいつが入っているんですか!?」

「だろうな。もう一つ言うなら、これらはすぐにでも動き出してもおかしくはない。……これは私の予測ではあるが、星界戦隊は我々を待ち構えている」

「……甞めた真似しやがって」

 

 余裕の表れかそうじゃねぇかは分からんが、あれをなんとかしなきゃ大変なことになるぞ。

 

「避難は進めているが街への被害は避けられないだろう。我々のするべきことは一刻も早く、星界戦隊並びに量産型怪人を掃討することにある」

『———マスター。後30秒で侵略者・星界戦隊が占領した区域に入ります』

「分かった。私はここから指示を出す、君達は可能ならばあの量産型怪人が解放される前に星界戦隊を排除してくれ! ———頼んだぞ!!」

「「「はい!」」」

「では全員、戦闘準備!!」

 

 レイマの声に応じ、ベルトを外した俺は立ち上がりながらXプロトチェンジャーに手を添え変身を行う。

 星界戦隊自体は警戒はするが、そこまで脅威でもない。

 だが、ヒラルダとかいう桃色のやつが何をしでかすか分からないのが不気味だ。

 




基本刃物ならなんでも投げられるアカネと、サポート兼パイロットとなったハクアでした。

次回は本格的にVS星界戦隊になるかと思われます。


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来襲、星界戦隊 2

気付いたら本作品を投稿してから一年が経ってびっくりです。
月並みな言葉ですが、これからも本作品をどうかよろしくお願いします<(_ _)>


そしてお待たせしました。
前半が主人公視点
後半からアカネ視点となります。


 星界戦隊が占拠した区域に到着した俺たちが目にしたのは、数えきれないほどの円錐状の物体が建物や地面に突き刺さった都市の光景であった。

 今は人一人いないスクランブル交差点。

 一際目立つ明かりに照らされたその場所に星界戦隊の奴らが俺達を待ち構えている。

 モータルレッド、ブルー、グリーンに、ヒラルダ。

 イエローだけがいないことに疑問を抱きながら、戦闘機を操縦しているハクアにハッチを開けるように指示する。

 

「ハクア、ハッチを開いてくれ」

「分かった! 社長、一人だけ振り落とされないようにね!」

 

 だが、俺達を待ち受けようが関係ない。

 乗っているホワイト5の後部ハッチが開かれると同時に戦闘機を飛び降り、問答無用で星界戦隊の奴らを始末しにかかる。

 

「は!? ホムラ!?」

「私達も行こう!」

「せやね」

「とりあえず私は援護射撃だね」

 

 呆気にとられるコスモの声に、飛行機から援護射撃を放つブルー。

 その声と音を確認しながら空中を蹴り、プロトワンの最高加速で突き進む。

 

「ッ、黒き———」

「邪魔だ」

 

 すれ違いざまにモータルレッドの頭部を拳で粉砕し、その勢いのまま鷲掴みにしたブルーとグリーンの頭を地面へと叩きつけ、もう一度粉砕。

 ———こいつらもしかして囮か? 驚くほど手ごたえがねぇぞ。

 

「ッ、あっは!」

 

 残るは桃色のスーツを着るヒラルダ。

 こいつの対処法はベルトを引っこ抜いて憑りつかれている人を解放することだ。

 

「!」

 

 ヒラルダの目と鼻の先にまで接近しバックルに触れようとした瞬間、身体がなんらかの圧力を受けたように動かなくなる。

 周りを見ればモータルレッド達の機械の残骸から超音波のような何かが放たれ、俺を拘束していた。

 

「———あぁ?」

『カツミ、空間に干渉させて動きを止められている!』

「対処法は?」

『思いっきり動いて!』

 

 分かりやすい。

 プロトの指示通りに力任せに身体を足を動かすと、俺の動きを止めようとしていたガジェットは火を噴きながら爆発する。

 

「最高出力の星界エナジーで数秒止められるのが限界とか……」

「……」

「しかも会話する余地すらない!」

 

 もう止められないはず。

 手早くバックルを引きはがして憑りつかれている彼女を解放する。

 

「おっと! 手を出したら駄目だよ!」

 

 問答無用で無力化しにかかろうとすると、ここでヒラルダはいきなり変身を解いた。

 触れようとしたベルトそのものが彼女と同化するように消えてしまい、手を出せなくなる。

 

「!」

「これで攻撃できないでしょ? 地球人ってやっぱり甘いんだね」

 

 現れたのは俺達より少し年上に見える女性。

 ややウェーブのかかった肩ほどの長さの髪。その服装もニットとジーンズというついさっきまで街中を歩いていたのかと思わせるようなものだ。

 とても数か月行方不明になっていたとは思えない姿の彼女だが、その雰囲気は明らかに人のものではない。

 

「この姿で会うのは二度目かな? ホムラ・カツミくん」

 

 立ち止まった俺に無警戒にヒラルダが近づいてくる。

 生身のまま少しも動じた様子もない彼女は、その瞳に怪しい桃色の光を浮かばせながら下から俺を見上げてくる。

 

「私に手を出せない。だってそれが正義のヒーローなんでしょう? 桃子が言っていたよ」

 

 無言の俺にヒラルダはおちゃらけたように笑いながら手元のスイッチのようなそれを俺に見せてくる。

 

「君の足止めはできて数秒。でも、その数秒でコレを押しちゃえばいいんだよね」

「……」

「ふふっ、君ならもう分かるでしょ?」

 

 ……周りに突き刺した黒色の怪人の起動装置か。

 俺の予想通り、数秒も経たずに周囲の円錐状の物体に卵の殻のような罅が入り、黒色怪人が活動を開始しようとしてしまっている。

 

「順序の問題だよ。バラバラに星界怪人に都市を襲わせるか、私達と同時に星界怪人に都市を襲わせるか……どちらが状況的に厄介でしょうかって話」

 

 ……ぺらぺらと喋るが面倒だな、こいつ。

 ただ身体を寄生する奴じゃない。

 脳死不死身を繰り返す星界戦隊の数倍は頭が回る。

 にしては、俺を倒す気が微塵も感じられないのも意味不明だ。

 

「どちらにしてもお前らに勝ち目はない」

「そーだね。星界戦隊には少しの勝ちの目はないね」

 

 なにか企んでいやがるのか?

 ようやく俺が口を開いて上機嫌になったのか、奴は一層の笑みを浮かべる。

 

「ほらほら、なにか言ったらどうかな?」

「……風浦桃子さん」

 

 身体を乗っ取られている彼女の名を呟くとヒラルダが目を細める。

 

「桃子は喋らないよ? 今、喋っているのは私だよ?」

「辛い状況にいるのは分かっています」

 

 喋ってはいないが彼女の意識は間違いなく俺を見ている。

 そして今も尚、助けを求めている。

 

「ねぇ、私を見てよ。今目の前にいるのは桃子じゃないよ」

「もう少し待っていてください」

 

 ヒラルダを無視し彼女の視界を通して、俺を見ている風浦さんへと語り掛ける。

 あくまでヒラルダに対してはなく、風浦さんにだ。

 生きたいのか死にたいのか分からねぇ奴にいちいち構っている暇は俺にはないからな。

 

「貴女は、必ず助けます」

「……ッ、いい加減に——」

 

 これまで飄飄と人を小ばかにしたような笑みを浮かべていた奴が、初めてその表情を歪ませる。

 苛立ちと、悲しみの感情を伝わらせた奴から後ろへと下がり距離を取る。

 それと同じタイミングでアカネ達が地上へと降りてくる。

 

「モータル共は囮に使われたようだな」

「そのようだね。碌な武装もしていないから、多分次のあいつらが本命っぽいね」

 

 レッドの声と同時に空から四つの光の柱が降り注ぎ、先ほど倒したはずのモータルレッド、ブルー、グリーンにイエローが地上へと降りてくる。

 

「そう簡単に降りれると思ってんのか?」

 

 降りてくる奴らに拳を振るい、赤い閃光を放つ。

 しかしそれはモータルイエローが展開させた半透明のフィールドのようなものに防がれる。

 

「強化装備越しでこの威力って……! もうやだ帰りたい……」

「さあて、舞台は整ったな!」

「久しぶりの強化装備のお披露目だぜ」

「……」

 

 地上に降りた星界戦隊の連中は前の戦闘とは異なり、身体の各部に銀色の追加のアーマーと装備を取り付けていた。

 最も目を引くのは上半身を覆うアーマー。

 星界エナジーとやらを流動させ、虹色やら銀色やらのマーブル模様に輝いているのではっきりいって趣味が悪い見た目をしている。

 

「ヒラルダ、黒騎士の足止めご苦労! これで状況を五分に持っていけるな!」

……チッ。ええ! ですがエナジーを大きく消耗してしまったので少しの間戦闘には参加できません! なので、ここはよろしくお願いしますね!」

「ああ、任せてくれ! この強化装備があれば問題ないさ!」

 

 今すぐこいつらを潰してやりてぇところだが、もう星界怪人とやらが動き出しちまう。

 奴らを無視するわけにはいかない。

 一人だけの時は多少無理をしてでも星界戦隊どもを倒しにかかるところ……だが、今俺には信頼できる味方がいる。

 

「レイマ。黒い怪人の起動を止められなかった」

『状況はこちらでも把握している! ならば作戦は即時撃破から各個撃破へと移る! 星界戦隊はジャスティスクルセイダーに任せ、カツミ君、グリーンは、黒色怪人———星界怪人の掃討に向かってくれ!』

「了解」

 

 こいつら不死身なだけに単純に倒して無駄だからな。

 宇宙の船を狙いたいが前回の俺の攻撃を受けたからか、どうにも隠されているような気がする。

 先に人命優先で行動していく。

 

「コスモ、俺達で星界怪人の相手だ」

「は!? ボク的にもこいつらに因縁があるんだけど!?」

「レッド、イエロー、ブルー。奴らを頼むぞ」

「分かった。そっちも気を付けてね」

「聞けよ!?」

 

 背後を振り向き、腕をぐるんと回す。

 都市のいたるところに降り注いだ星界怪人。

 今からそいつらを一匹残らず殴って殴って殴りまくって殲滅する。

 それが、俺とコスモに与えられた指令だ。

 

「やるぞ、コスモ」

「……ああ! もう! やるよ! 強引なやつだなお前は!」

 

 吹っ切れたコスモに苦笑しつつ、視線の先で円錐状の物体から飛び出した黒い甲殻のような鎧を纏った怪人———星界怪人へ拳を叩きつけ、その上半身を爆散させる。

 べちゃり、と暴走する暇を与えないまま肉片へと変えた怪人の亡骸を一瞥もせずに通信を開く。

 

『カツミ君! 現在ホワイト5で逃げ遅れた人々を避難させている! その間、ホワイト5に星界怪人が近づかれないように戦えるか!?』

「ああ、大丈夫だ。こっちの心配はしなくてもいい」

『かっつん! こっちで索敵したデータを送る!』

 

 ハクアの声が聞こえると同時に視界にこの都市の地図が表示され、赤い点のようなものがいたるところに映る。

 これは、ここにいる星界怪人の分布か?

 

『役立てるかどうか分からないけど、私もここで戦うから!!』

「ありがとな、ハクア」

 

 彼女もこの戦場で戦ってくれていると再認識する。

 俺も気合入れなくちゃな。

 同じくデータが送られたであろうコスモに話しかける。

 

「コスモ。視界に映る星界怪人片っ端から始末する。逃げ遅れた人がいたら守れ」

「りょーかい。……お前のことは特に心配してないけど、あまり無茶苦茶するなよ」

「お前、本当に丸くなったな」

「……うるさい」

「俺を殺そうとした時とか凄かったぞ」

「その時の話をするなぶっ飛ばすぞ……!」

 

 俺が言えたことじゃないけどな。

 俺自身も怪人相手に一人で戦っていた頃よりは大分丸くなっている。

 だが、そんな今の自分は不思議と嫌いではない。

 軽く、深呼吸をしながら()を見上げる。

 

「よくもまぁ、こんなに量産したもんだ」

「ヒラルダの奴……」

 

 ビルの壁のいたるところに張り付いた星界怪人共。

 鎧武者を彷彿とさせるアーマーを持つ巨体が一斉にこちらに飛びかかってくる光景を目にしながら、俺は仮面の奥で苦笑する。

 

「とりあえず全員倒せばいいんだろ! やるぞ、レオ!!」

 

ガブッ!

LA()! LA()! LA()! LIOOOooN(ライオォーン)!!!!

 

 隣で鍵のようなものをライオン剣のライオンの顔を模した柄に差し込むコスモ。

 無駄に豪華なBGMと音声が流れ、ライオン剣が紫色のオーラを纏う。

 

EAT(イート)EVIL(エビル)!!』

DELICIOUS(デリシャース)!!』

 

「いっけぇー!!」

 

 コスモの周囲に生成された大量のエネルギー弾が彼女の咆哮に合わせて発射される。

 それらは複雑な軌道を描きながら、こちらへ向かってくる星界怪人を撃ち落としていく。

 

「うるさくないのか、それ」

「……」

「いや、なんか悪かった」

 

 無言で肩を震わせるコスモに色々と察しながら、意識を切り替え星界怪人へと意識を向ける。

 まだまだうじゃうじゃといるが、どれだけいようが関係ない。

 

「数揃えれば勝てると思ってるのか?」

 

 最大稼働させたプロトワンの首元から赤いオーラがマフラーのように伸びる。

 地面が陥没するほどの力で地面を蹴り、空へと飛びあがり羽虫のように落下してくる星界怪人を花火のように拳で粉砕させていく。

 一気にビルの屋上ほどの高さにまで跳躍した俺は、こちらを無機質に見上げる星界怪人に拳を振り上げる。

 

「怪人もどきの出来損ないが、調子に乗るなよ」

 

 所詮は怪人を模して造られたまがい物。

 どれだけの強さを有しようが、ただ数が多いだけでは俺達を倒すことなどできるはずもない。

 


 

 少なくとも以前までの星界戦隊の面倒な点は母艦を破壊しない限り蘇り続ける不死性にあった。

 でも今のあいつらは違う。

 強化装備と呼ばれる追加装甲を身に纏った奴らはその能力を大幅に強化させて、私達の前に現れたのだ。

 

「星界装具により、俺達の力はさらに飛躍する!」

 

 モータルレッドの周囲の空間が歪み、私達の身体が引き寄せられる。

 引力そのものを操作し、まるで奴そのものが一つの星のような影響力を持っているということか。

 

「こっちの力も増してるぜぇ!!」

「!」

 

 レッドの隣に立ったモータルグリーンが地面に手をついた瞬間、奴を中心に毒々しい緑色のガスが放出される。

 これはまずい……!

 

「イエロー!」

「分かってる!」

 

 前に出た彼女が電撃を纏わせた斧を振り上げ、こちらに迫る毒ガスを薙ぎ払う。

 しかしその際に僅かにガスが斧の刃に触れたのか、まるで酸化するように刃の部分から斧が朽ちていってしまう。

 

「わわっ!? 触れるのは駄目っぽい!」

 

 あざとい悲鳴と共に最早使い物にならなくなった斧を敵に投げつけたきららは新しい斧をチェンジャーから取り出す。

 

「ブルー!」

「合わせる」

 

 視界が広がったと同時に私は斬撃を飛ばし、葵はエネルギー弾による射撃を放つ。

 それら全てが直撃するかと思いきや、寸前で前に飛び出したモータルイエローが展開させたバリアにより私たちの攻撃は全て弾かれてしまう。

 

「……。私が引力を止める。きららは腐食性のガスの対処、葵は後方からの支援」

「任せとき」

「了解」

 

 相手の戦力を測った上で、短い指示を出し星界戦隊へと攻撃を仕掛ける。

 引力を逆に利用し突っ込んだ私に、モータルグリーンのガスが迫るがそれらはきららが放った電撃が阻み霧散させてくれる。

 

「今度こそお前を倒してやるぞ! レッド!!」

「くたばれ」

 

 また何かを喋ろうとしたモータルレッドを無視し、全力の薙ぎ払いを叩きつける。

 横並びになった星界戦隊の4つの首を同時に落とすつもりで放った一撃———だが、それらは寸前で何もない空間で弾かれる。

 

「星界装衣は能力の解釈を広げる。すなわち、今の俺は星そのものの力を持っていると同義だ。この意味が分かるかな?」

「……」

 

 背後から飛んできた葵の援護射撃すらもあっさりと身に纏う斥力で散らしたモータルレッドが揚々と語る。

 つまらない問答を交わすつもりもない。

 奴の言葉を無視し、今度はモータルレッドの脳天をたたっ斬ろうとするが、それも奴が虚空から出現させた大剣により防がれる。

 刃にすら接触せず、何もない空間で私の剣が止められてしまっているあたり、大剣そのものにもモータルレッドの重力操作能力が適用されているようだ。

 

「いいのか? 俺だけを相手にしていて」

「ハッハァ!!」

 

 横から二つの斧を掲げたモータルグリーン。

 

「相手はレッド一人だけやないで!」

 

 やや遅れて背後からやってきたイエローがモータルグリーンの斧に、自身の斧を叩きつけ弾き返す。

 武器を弾かれ大きくのけぞったグリーンを確認した私はモータルレッドとつばぜり合いをしている剣を手放す。

 

「……」

 

 振り返りと同時にチェンジャ―から柄のない短刀———匕首(あいくち)を取り出し、無防備な胴体を晒すモータルグリーンのわき腹に突き刺す。

 ……強化装備をつけていない箇所は別に防御力が上がったわけじゃないね。

 攻撃が通ったあたりレッドの斥力とイエローのバリアは、細かな防御も向いていない。

 そう観察しながら、続けて三度ほど匕首を突き刺しておく。

 

「がッ!?」

「イエロー!」

「あいよ!」

 

 私の声に腕に電撃を纏わせたイエローが、強烈な掌底をグリーンの胴体に叩きつけその体を吹き飛ばした。

 次はモータルレッドだ。

 そう思い、吹き飛ばされるグリーンを見送ることもなく私ときららはモータルレッドへと目標を変更させた瞬間———モータルレッドの持つ大剣が赤い輝きを放っていることに気づく。

 

「嘗めるな!」

「「!」」

 

 直撃はマズい。

 直感的にそう思い回避行動をとろうとした直後に、葵が放ったエネルギー弾がモータルレッドの顔面へと殺到した。

 斥力により弾かれはしたものの目晦ましとなったエネルギー弾により、奴の大剣による攻撃は大きくズレ、私ときららのギリギリ横を通り過ぎていく。

 

「一旦下がるよ」

「うん!」

 

 この前のように簡単な相手ではないことはよく分かった。

 深入りせずに葵のいる後ろにまで下がった私ときららは警戒を解かないようにしながら武器を構える。

 

「ブルー、助かった」

「気にしないで。リーダーが部下を守るのは当然のことだから」

「そんな青ざめた色でリーダーが務まるわけないじゃん」

「おいレッド顔が真っ赤だぞ」

「喧嘩はやめーや」

 

 軽口を叩きながら改めて星界戦隊の連中を見る。

 ヒラルダはカツミ君との最初の接敵でエネルギーを使い果たしたのか、まだ憑りついた人間の姿のまま。

 主戦闘はモータルレッドとグリーン。

 防御はモータルイエロー。

 一見してなにもしていないように見えるモータルブルーだけど……。

 

「ブルー! 早く癒せ!!」

「———」

 

 ただそこに佇んでいるだけのモータルブルーから青色の粒子が放出され、それが傷ついたグリーンの身体を癒している。

 ……なるほど、あれの役割は仲間の回復……いや、修理か。

 彼を先に潰しておきたいけど、その彼を守るように立っているモータルイエローがいるから攻撃が通りにくい。

 

「……さすがに面倒だね」

 

 こちらの攻撃を対策されている、ということは織り込み済みだ。

 それならいくらでも対応できるけど厄介なのはあのイエローだろう。

 この戦いに消極的なのかそうじゃないかは分からないけど、彼女は一切攻撃に回らず回復役のブルーを守ろうとしているように見える。

 

『レッド! そちらの状況はどうだ!?』

「少し時間がかかりそうです。強化装備というだけあって中々に厄介ですね」

『ならば、こちらも奥の手を出すしかないだろうな』

 

 ……ということは、ついにアレを出すということ?

 社長の言葉に察しながら、頷く。

 

『もう少し時間を稼いでくれ。一般人の避難が終わり次第、この私自らがそちらに向かう!!』

「……え、どういうことですか?」

 

 私の返答を待たずに切れる通信。

 奥の手を出すのは分かっているけど、どうして社長までこちらに来ようとしているのかちょっとよく理解できなかった。




会話が好きで、実は寂しがり屋なヒラルダに一番効くのが無視という……。
実際カツミに無視されたヒラルダは過去のトラウマも含めて結構な精神的ダメージを受けました。

今回の更新は以上となります。
これからも『追加戦士になりたくない黒騎士くん』をよろしくお願いします<(_ _)>


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来襲、星界戦隊 3

お待たせしました。

要望がありましたので主人公のスーツについての紹介? のようなものを作成いたしました。
この話の後にすぐさま更新する予定です。



前半がレイマ視点
後半からアカネ視点でお送りします。


 状況を簡潔に説明するならば現状は足止めと殲滅に徹していることだろう。

 カツミ君、グリーンは星界怪人という量産型エネミーを殲滅しつつ逃げ遅れた一般市民を守り、ジャスティスクルセイダーは強化装備を纏った星界戦隊を足止めする。

 カツミ君たちはともかく、現状のジャスティスクルセイダーではスペックでゴリ押してくる星界戦隊を倒すことは難しいだろう。

 かといって彼女たちがあっさり敗北するわけではない。

 今は市民の避難を終えるまで周囲への被害を抑えるように徹するように指示している段階にある。

 

「タリア、避難状況は!」

『周囲一帯に生体反応を確認したところ近辺にまだ逃げ遅れた市民がいるようです。向かわれますか?』

「当然だ! 白川君! 座標に向かってくれ!!」

「分かりました!!」

 

 戦闘機型大型ビークル、ホワイト5がビルの合間を縫うように加速する。

 未だに星界怪人が街中に溢れているが、奴らはカツミ君たちを目下の脅威とみなしているのかこちらに見向きもせずに彼らへと襲い掛かっている。

 

「星界怪人、か。怪人に近い細胞を持つ異形の怪物」

『サンプルを解析した結果、素体に用いられたのは地球外の生物の可能性が高いようです』

「序列にあぶれた者か、我々に排除された序列持ちの配下を“再利用”されたか……どちらにしても趣味が悪いことには変わりないな」

 

 意思なき兵隊、といえば使い勝手がいいように聞こえるがその実態は生命を踏みにじった悪辣な所業だ。

 なにより厄介なのが星界怪人はそこらの序列持ちよりも頑丈且つ高い攻撃力を有していることにある。

 

「だからこそのカツミ君とグリーンだ」

 

 スペック全振りのプロトワンと未来予知のグリーン。

 現状スペック不足のジャスティスクルセイダーでは星界怪人の殲滅は向いていないからな……。

 

「社長、到着したよ。今、ハッチを開くから誘導お願い!」

「うむ、任せておけ」

 

 思考に耽っている間に逃げ遅れた市民が隠れている屋上へと到着したようだ。

 護身用の装備で周囲の安全を確かめつつ、生体反応のある方向に声を投げかける。

 

「逃げ遅れた者がいるなら返事をしてくれ! 救助に来た者だ!!」

 

 一瞬の静寂。

 その数秒後に屋上の扉が開き、そこから5人の男女が姿を現す。

 老夫婦に若い女性に二人の子供だ。 

 少年と少女、幼い二人の子供を守るようにしている老夫婦の代わりに前に歩み出た女性が私に声を発する。

 

「た、助けにきてくれたんですか?」

「ああ! ここは危険だ!! 早く機内へ!!」

『こちらに接近する反応あり』

「ッ!」

 

 反応を察知し、装備していた銃をこちらに降り立とうとした星界怪人へと放つ。

 ッ、さすがに倒せはしないか。

 

『ハイジョ! ハイジョ!!』

「むぅ、致し方ない!! タリア!」

 

 懐から取り出したチェンジャーを腕に装着しようとしたその時、屋上に降り立とうとした星界怪人が赤い閃光に刺し貫かれた。

 一瞬の硬直。

 胴体に大穴を開け、大きく痙攣した星界怪人はそのまま空中で爆散し後からもれなく吹き飛んでしまった。

 

「カツミ君……!」

 

 目では追いきれないが彼が倒してくれたのだろう。

 ……よし!

 

「さあ、いまのうちに乗るんだ!」

「は、はい!」

 

 後部ハッチから5人が入るのを確認しホワイト5を発進させる。

 タリアの感知範囲内に生命反応は我々を除いていないので、恐らく逃げ遅れた市民はこの5人で最後だろう。

 

「わっ、しろきしだぁ!!」

「すげぇ! 本物だ!!」

「あ、あはは。もう大丈夫だから大人しく座っていてね」

 

 安全な場所に入れて緊張が解けたのか、変身し操縦席にいる白川君を見て瞳を輝かせる少年と少女。

 そんな視線に後ろを振り向いた白川君は、安心させるように手を振る。

 

「くろきしじゃない……」

「女の人? ……別の人だ」

「こんなに挫けそうなことある……?」

 

 いかんッ!! メンタル一歳児の白川君の声が震えている!!

 確かに子供達から見ればポッと出の彼女に知名度がないのは分かるけれども!!

 とりあえずは皆を椅子に座らせ、安全のためのベルトを着用させる。

 

「あ、あの! ありがとうございます!」

「礼には及ばん。一般人を守るのも我々の義務だからな」

 

 手が震え、うまくベルトを接続できない女性を手伝った際に頬が若干赤らんだが、まあ、自分のようなナイスガイに近づかれればそのような反応をされるのも無理はな———、

 

『ゴールディ……?』

 

 悪寒察知!!

 タリアの不機嫌ゲージが上がったことを感覚的に察知し、隣の少年のベルトを確認する。

 

「おじさん、くろきしの仲間なの?」

「うむ。その通りだ。いつも彼には助けられていてな。……もう大丈夫だ、我々が君たちを安全な場所まで送り届ける」

「うん!」

 

 安心させるように声を投げかけながら操縦をしている白川君の方を見る。

 空へと飛びあがったホワイト5は安全地帯に向かおうとして、不意に停止する。

 

「白川君、どうした?」

「社長。敵がこっちを狙いだしたようです」

「……!」

 

 操縦席から前方を見れば、ビルの壁面にしがみついた星界怪人の群れがこちらに敵意を向けている光景が視界に映り込む。

 これは、少しまずいな。

 どういう訳か星界怪人が我々に意識を向けてきた。

 星界戦隊に命令を受けたか、それともそうするだけの自我・知識が目覚めたかは定かではないが、あれだけの数に一斉に襲われたら、いくらホワイト5でもひとたまりもないはずだ。

 

「社長」

「む?」

 

 不意に一心に前方を見つめている白川君が声をかけてくる。

 

「ちょっと運転が雑になります」

「え、ちょっとどういうこ———」

 

 次の瞬間、白川君がホワイトファイブの船体を上に向け急上昇を行う。

 急加速に伴い身体にちょっとしたGが襲い掛かり後ろへと倒れてしまう。

 

「あだぁ!? ちょ、ちょちょちょ白川くん!?」

「……」

 

 無言!?

 ホワイト5が動き出すと同時に複数の星界怪人が跳躍と共に襲い掛かってくる。

 中には背中から露出した排気口のような穴から青色の炎を噴き出し追いかけてくる個体もいる。

 

「ッ、白川君! 今、避難所に向かうな!!」

「分かっています。こちらで対応します」

 

 私は白川君をサポートすべく、タリアに声をかけホワイト5の武装を転送させることを試みる。

 

「タリア。“1番”“6番”パッケージ転送!!」

『かしこまりました。目にもの見せてやりましょう』

 

 1番が六連装ミサイル、6番が目標を自動照準のレーザー砲。

 即座にホワイト5の上部と両翼に転送されたボックスは開封と共にパージされ、中から武装が現れ———一斉にそれらを追尾してくる星界怪人へと殺到させた。

 視界内の窓から光が点滅し、爆発音が響いてくる。

 

「わ、わああ!?」

「わたしたち、死んじゃうの……?」

「し、心配はいらない! 運転が雑になるとは言っていたが機内には特殊な重力場を生成していてな! 我々にかかるGの9割はカットされているのだ!!」

『マスターこそ落ち着いてください。幼子相手では意味が通じないかと』

 

 確かにその通りだ! 事実、ベルトをしていない私が一番テンパっている!!

 ……しかし逆を言えば九割緩和されているにも関わらずこれだけのGが襲い掛かってくるのは異常だ。

 それほどまでの速度で加速していることもそうだが、星界怪人の飛行速度も速いということになる。

 

「タリア! 照準の制御を私に回して!!」

『ハクア様。貴女は操縦を———』

「両方やる! 私だっていつまでも守ってばかりでいられないから!!」

 

 人が変わったように操縦桿を握りしめた彼女は、空いた右手でコンソールを叩きホワイト5に搭載された装備を展開させる。

 もう自らの手足のようにホワイト5を操っているな。その学習能力はまさに驚異的だ。

 操縦桿を思い切り引き上げ、ホワイト5を弧を描くように急旋回させ後方から迫る星界怪人を正面に定めた彼女は、そのまま操縦桿のトリガーを引く。

 

「食らえ!!」

 

 一斉に放たれたミサイルが星界怪人へと放たれる。

 爆炎から逃れた個体は放射し続けるレーザーカッターにより両断され、地へと堕ちていく。

 

「ハァ……ハァハァ……」

「し、白川君……? 大丈夫か?」

「はい。心配いりま———ッ、まだ来る!!」

「んん!?」

 

 何かを感じ取ったのかホワイト5を急加速させる白川君。

 またもや反動でしりもちをついてしまう私だが、その直後に衝撃がホワイト5を襲う。

 

「しつこい!」

 

 白川君は横に回転させながら操縦するという離れ業を行いながら舌打ちをする。

 機内にいる一般の方々はGの影響をほとんど受けていないが顔面蒼白である。

 い、いかん! ここは私が彼らを安心させなければ……!

 

「皆さん———」

「チッ、まだ落ちない!! さっさと! 落ちろ!! この!! 羽虫がァ!!

「白川君! 我々正義の味方!!?」

 

 過度なストレスでカツミ君出ちゃってる!?

 カツミ君とレッドはもう皆慣れているから何も言えんけど、君はそういう方向に行くのはやめてくれ!

 それともあれか!? 実年齢赤ちゃんだから影響されちゃう感じなのか!?

 

「社長! ホワイト5の強度は!!」

「えっ、確か……って、ちょっと待て、なぜ今その質問———」

『前面にエネルギーバリア展開。ハクア様、レディゴーです』

「ゴォォォォォ!!」

「白川君!? タリア!?」

 

 迷いもなく攻撃を仕掛けてくる星界怪人に体当たりを仕掛けた!?

 急加速からのエネルギーバリアに任せた体当たりは、星界怪人の身体を削り取るように吹き飛ばした。

 

「よし、この隙に離脱を———」

『ハイジョ』

『ハイジョ』

『ハイジョ』

「……ッッ」

 

 倒しても倒してもキリがない。

 いくら地に落としたとしても入れ替わるように地上から星界怪人が現れる。

 

「……諦めない」

 

 それでも尚、白川君の闘志は消えることはない。

 強く操縦桿を握りしめ、この状況を突破すべく彼女が動き出そうとしたその時———下方から伸びた赤い柱が、今まさに襲い掛かろうとした星界怪人を撃ち抜いた。

 視線を下に向けると地上から流星のように伸びた赤い軌跡がホワイト5の前で止まり———、

 

『テメェらに囮なんてことをする知能があるとはな』

 

 これ以上になく頼もしい怒声と共に深紅のマフラーをなびかせた戦士がその拳を連続で繰り出し、視界にいる半数の星界怪人をその赤い閃光を以て撃ち抜いた。

 

「かっつん!!」

『ハクア。よく頑張ったな』

「うん!」

 

 彼はそのままホワイト5の操縦席付近の装甲に手をかけた彼が、そのままこちらを伺っている星界怪人から視線をそらさずに声をかけてきた。

 

『奴ら、変な知恵をつけてきている上に妙に動きがよくなってきている』

「確かか? カツミ君」

『見てみろ』

 

 カツミ君の声に空に浮かぶ星界怪人を見ると、彼らの鎧のような外殻に罅が入りパラパラと落ちていくのが見える。

 隙間から覗き込むのは無機質然とした鎧の怪人ではなく、生物的なもの……。

 

「カツミ君、あれは……」

『地球の怪人に似たなにか……ってところだな。個体差はあるが中々に厄介だ』

 

 だとすればこの場で星界怪人を逃すようなことがあれば———ッ!

 地球産怪人の再来となる可能性があるということか……!!

 

『あれの相手は俺とコスモに任せておけ。奴らは一匹残らず始末する』

「私達はどうすればいい?」

 

 彼は強化ガラス越しに機内の私達を一瞥する。

 避難させようとしている一般人を目にした彼は、

 

『避難場所まで俺が護る。まっすぐ……迷いなく進め』

「……うん。分かった! 任せて!」

『頼んだぞ、ハクア』

 

 ホワイト5から彼が飛び降り、空を駆けながら眼前の星界怪人の殲滅へと向かう。

 彼が護衛をしているうちに白川君はホワイト5を動かし、避難場所へと一直線に進む。

 黒騎士が……カツミ君が護るというのならもう大丈夫だろう。

 私は彼の強さを信じているからな。

 

「もう安心だ。黒騎士が護ってくれる」

「……うん」

 

 不安げに俯く少年の頭に手を置き、安心させる。

 彼らは無事に避難所に送ることはできるだろう。

 だが、それで安心するにはまだ早い。

 

「ここからが正念場だな」

 

 彼らを避難場所に送り届ければ周囲の被害を気にする必要もなく我々は戦える。

 生半可な相手であればジャスティスクルセイダーだけで事足りただろうが、奴らは強化装備というフワフワした兵器を使っている上に、まだ奥の手がある。

 というより、普通に予想するなら奴らの最終兵器は空に浮かぶアレだろう。

 だからこそ、場を整える必要があったわけだ。

 

「調子に乗ってられるのも今の内だぞ。星界戦隊」

 

 ここからジャスティスクルセイダーは、彼女たちは真の力を手にすることになる。

 

「白川君。彼らを避難させたらジャスティスクルセイダーの元へ向かってくれ」

「向かってどうするんですか?」

「無論、決まっている」

 

 首を傾げる白川君に俺は笑って見せる。

 カツミ君のような荒っぽい言葉になってしまうが……。

 

「あのいけ好かない侵略者に目にものを見せてやるのだよ」

 

 久しぶりの実戦で緊張している……緊張しているが、それ以上に高揚もしている。

 今までカツミ君達に戦わせてた私がようやく自分自身の力で戦うことができることに。

 


 

 強化装備とやらは思っていたよりも面倒な性能をしている。

 私が放つ斬撃を悉く無効化している上に、レッドの引力操作により強制的な引き寄せと、力に任せた重力波による薙ぎ払い。

 グリーンによる防御不可能の腐食攻撃。

 イエローの防御特化のエナジーバリア。

 ブルーの修復能力。

 認めるのも癪だが、奴らの持つ強化装備は能力的に噛み合っている。 

 互いが互いを助け、力を合わせて敵を打ち倒すことを目的としたものなんだ。

 それこそ、私達みたいに……。

 

「そらそら! 防戦一方だぞ!!」

「……」

 

 迫る重力波を正面から受けず、刃で斜めにずらすように逸らす。

 スペックの差は歴然。

 技術で補うにはあまりにも能力が足りていない。

 それでも負けるほど(・・・・・)じゃない。

 

「イエロー、合わせるよ」

「合点!」

 

 イエローが眼前に電撃を放ち、私が斬撃を飛ばす。

 即席の合体技はあちらのイエローとレッドのバリアと斥力により防がれるが、手は止めない。

 

「無駄だよ!」

「お前達は俺らには勝てねぇんだよ!!」

 

 だからどうした。

 たかが勝てないくらいで、攻撃が通じないくらいで私達が諦めると思ったら大間違いだ。

 そんなもの一年前に何度も……何度も何度も体験している。

 理不尽な能力を操る怪人。

 奴らは予想だにしない能力で私達を翻弄し追い詰めてきた。

 

「ブルー! 煙幕!!」

「あいよ」

 

 黒騎士がいるから大丈夫?

 彼がいてくれるから負けても心配ないだなんて考えたことはない。

 私達が負けたら、誰かが命を落とす。

 そうさせないために私達は諦めずに戦い続けるんだ。

 

「レッド、私の腕に!」

「うん」

 

 ブルーが煙幕を張ったと同時に、手を差し伸べてきたイエローの手を掴む。

 そのまま彼女はパワーに任せ、私の身体は上方へ放り投げられる。

 

「……」

 

 そのまま無音でモータルブルーの背後に着地、厄介な回復役を潰すべく刺突を繰り出す。

 

「ッ兄さん!」

 

 しかしそれはブルーの傍にいたモータルイエローのバリアにより防がれてしまうけど……兄さん?

 この動かない人形のような人はイエローの兄なの?

 咄嗟に出た声なのか、動揺を露わにしたモータルイエローの張ったバリアは脆く、徐々に亀裂が入っていく。

 

「あなた、達は……どうして折れないの……?」

「折れるだけの潔さがあるなら。私達はここにはいない」

「これだけの力の差が、あるのに……」

「だから? それが負けを認める理由になるの? 私達が護っているものを諦める理由になるの?」

 

 モータルイエローの肩が震える。

 こいつがどういう感情でこの場にいるのかは分からない。

 その後ろで何も言わずに佇んでいるモータルブルーがどうして意思を感じさせないのに、自分をガラクタ扱いしている仲間を癒しているのかすらも分からない。

 

「なんで、そんなに……」

「動揺したね?」

 

 精神に揺さぶりをかけたことでバリアは壊れ、剣の切っ先がモータルイエローの胸を貫こうとする。

 

「ッ、しま———」

 

 しかしその時、動かないはずのモータルブルーが倒れるようにモータルイエローを押しのけ、代わりに刃を受けた。

 

「———あっ」

「姑息な手を使ってくれるなぁ! レッド!!」

「……」

 

 突き刺さったのは肩。

 モータルイエローに気づかれてしまったので、突き刺したままの剣を離してその場を飛び去る。

 

「……本当に嫌な気分になるよ」

 

 こいつらと戦っていると、怪人の時とは別の胸糞悪い気持ちになってくる。

 少なくとモータルイエローとブルーは他とは違う、人らしさがある。

 モータルレッドと同じような悪辣さがあれば、遠慮なく斬れるのに……本当にやりにくいなぁ。

 

「レッド、大丈夫?」

「うん。問題ない。まだまだ粘れるよ」

「あとどれくらい時間を稼げばいいんだろね」

 

 少なくともカツミ君とコスモが周辺の星界怪人を掃討するか、社長が逃げ遅れた市民を避難させるまでだね。

 それまで私達がもっと頑張らなくちゃいけない。

 

「さて、もうちょっと頑張り———」

 

 新たな剣を取り出してから星界戦隊へ向かおうとしたその時、頭上に白川ちゃんが操縦しているホワイト5が飛んできた。

 空中で停滞するように急停止したホワイト5は背部のハッチを開くと———そこから白衣を纏った金髪の男が飛び降りてきた……って、ええ!?

 

「うおおおおおお!!」

 

 落下してきた男、社長こと金崎令馬はずでーん! という音を響かせながら、足から着地するように背中から転げ落ちる。

 なんとも締まらない着地を見せた彼は、痛そうに背中を押さえながら立ち上がる。

 

「ふ、ふふ。待たせたな!! お前達!!」

「カツミ君とチェンジでお願いします」

「待ってへんで。一ミリも」

「素直に帰って欲しい」

「そう言ってられるのも今のうちだからな!! 吠え面かいても知らんからなっ!!」

 

 こちらに指を突き付けた社長はそのまま腕を組みながら星界戦隊へと向き直る。

 

「……なんだい君は」

「かつて、ゴールディと呼ばれていた者だ。この地球では金崎令馬と名乗っている」

 

 なんで生身なのに自信に溢れているのこの人……?

 簡単なエネルギー弾でもあっさり吹き飛ばされそうなのに……。

 社長の登場に、今の今まで静観していたヒラルダが歩み出てくる。

 彼女もどこか呆れた様子だ。

 

「元星将序列60位台の貴方が今更出てきたことで状況が変わるとは思えないんだけど?」

「確かに私は弱い。むしろ古傷を負っている分、肉体的には全盛期よりも遥かに弱いだろう」

「それじゃあ、時間稼ぎのつもり?」

「違うに決まっているだろう。賢い様に見えて阿呆だな、ヒラルダ」

「は?」

 

 さらに挑発した社長は懐から金と黒の時計型の腕輪———『ジャスティスチェンジャー』を取り出し、左腕につける。

 それに気づいたヒラルダは、あろうことか社長が変身する前にその手に持った桃色の銃を放つ。

 

「ッ、社長!」

「心配無用!!」

 

 咄嗟に攻撃を防ごうとした瞬間、社長の周りに金色の粒子が現れそれらは壁のようなものを形作り、放たれたエネルギー弾を防いでしまう。

 

「私は弱い。弱いが、この頭脳においては最強だ!! なにせ、天才だからな!!」

UNIVERSE(ユニバース)!!!』

 

 社長がチャンジャーの側面のボタンを押した瞬間、私達とは違う声で音声が流れる。

 

「これまで私はスーツを作り! その扱い方を教え、ただ後ろで見守ることしかできなかった!!」

 

Loading(ローディング) N.()N.()N.()Now(ナウ) Loading(ローディング) → Loading(ローディング) N.()N.()N.()Now(ナウ) Loading(ローディング) →』

 

「だが今日この日、この時から違う!! 黒騎士もジャスティスクルセイダーも! この私が教え、導く!!」

 

 待機音を鳴り響かせながら、左腕を前に掲げるように構えた社長がもう一度側面のボタンを押し込む。

 

「サジタリウス!! 戦士達の道を切り開く力を、私に寄越せ!!」

 

Anywhere(あなたと) as long as(一緒なら) I am with you!!(どこまでも!!)

Flame(フレーム) GOLD(ゴールド)! Acceleration(アクセラレーション)!!!』

 

 タリアの、歓喜とも言える声が鳴り響く。

 それに伴い、金色の粒子が社長の周囲に溢れだし彼の身体を覆っていく。

 私達に近い、全身を覆う金色の戦士へと姿を変えた彼は、その身に纏う粒子をその手で薙ぎ払う。

 

CHANGE(チェンジ) → UP RIGING!!(アップ ライジング!!) SYSTEM OF(システム オブ) JUSTICE(ジャスティス) CRUSADE(クルセイド)……!!』

 

「私は、ジャスティスゴールド!! 貴様らに引導を渡す地球の戦士である!!」

 

 眩しいほどの派手な登場のまま、星界戦隊に指をつきつけた。

 

 




頑張るハクアとついに変身するレイマでした。
次回から反撃開始ですね。

本編の更新に合わせて「【外伝】となりの黒騎士くん」の方の更新もさせていただきました。

第九話【目標は遠く】
こちらはスーツを装着して間もないアカネ達と、本編に名前の出ていない怪人、『貯水怪人』が登場するお話となります。


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来襲、星界戦隊 4

お待たせしました。
今回は二日に分けて、二話ほど更新する予定です。

今回はアカネ視点でお送りします。


 ジャスティスゴールド。

 ジャスティスクルセイダーの新たな戦士であり、社長が変身した姿。

 金を基調としたその姿は部分部分では私達のスーツと似ている部分はあるけれど、頭からつま先の全身を覆うタイプのスーツでどちらかというとカツミ君のプロトワンに近い見た目をしていた。

 右腕をシュバッと翻すと無駄にキラキラしている金色の粒子のようなものが周りに飛び散り、周囲を彩っていく。

 

「自己顕示欲つっよ」

「えらいキラキラしとるやん」

「成金ゴールド」

「私の晴れ舞台くらい黙れんのかァ!!」

 

 こちらに振り向き怒鳴ってくる社長。

 ついいつものコントじみたやり取りをしてしま———、あっちのグリーンが社長に攻撃を仕掛けようとしてる!?

 

「社長! 後ろ!!」

「むっ」

「背中ががら空きだぜぇ!!」

 

 振るわれる斧。

 その攻撃に対し社長はその場から動かず、ひとりでに動いた金色の粒子が壁のようなものを作り、斧の一撃を防いでしまった。

 

「貴様の能力の原点は生命に実りをもたらすものだろう?」

「ッ、なんだこれ!」

「だが、力に溺れた貴様は命を腐らせる外道に堕ちた」

 

 モータルグリーンに背を向けたままそう言葉にした社長がおもむろに手を掲げると宙を舞う金色の粒子が彼の手の中に集まり———見覚えのある片刃の剣へと形成し、纏わせた炎と共にグリーンに一撃を放つ。

 

「おぐっ!? そいつは白騎士の———」

「グリーン! どけ邪魔だ!!」

 

 一撃を食らったグリーンと入れ替わるように斥力を纏わせた大剣を掲げたモータルレッドが社長に斬りかかる。

 

「社長! 後ろ!!」

「フッ、貴様らは暫し休んでいろ。なに心配するな——」

 

「貧弱なのにどうして前に出てくるんですか!!」

「社長フィジカルクソ雑魚ですやん!」

「序列60位代なのになぜイキれる……?」

「貴様ら後で覚えておけよ……!!」

 

 いや、いくら新スーツでも社長自身のフィジカルが……!

 彼の制止の声に困惑しているとレッドが振るう斥力の斬撃に対し、社長は金色の粒子で楕円形の壁のような形にさせ、その攻撃を受け流してしまう。

 

「真正面から受け流した!?」

「学ぶことは貴様らの十八番だろう? だが貴様らと違うのは———」

 

 指揮を執るように指を軽く回すと、それに連動するように粒子が粒子の壁が枝分かれしモータルレッドを襲う。

 猛烈な攻撃を斥力で防御するモータルレッドだが、粒子の壁を死角にして接近した社長が、手元に作り出したカツミ君の武器———ブレイクアローで切りつけた。

 

「この私が 天 才 だということだ!!」

「ッッッ! 戯言を!!」

 

 ナルシストもここまで来れば最早怖い。

 モータルレッドの次の動きを完全に読み、ブレイクアローから矢を放った社長は瞬時に武器を大剣———グラビティバスターへと変え、渾身の振り下ろしを刻みつける。

 

「チッ……」

 

 自前の頭の良さで敵を追い詰め、多彩な武器とナノマシンで詰めに行く。

 それがジャスティスゴールドの能力。

 私達とは違う頭脳を武器にした戦い。

 

「はぁ、はぁ、ヴォェッ!! これが、我が頭脳による……戦いだぁ!!」

 

 ……当の本人は無理な運動のせいでグロッキーになっているけど。

 斬撃を腕に受けながらも後ろへ下がったモータルレッドは苛立つようにモータルブルーに腕を直させた。

 

「ジャスティスゴールドの能力は精密無比なナノマシン操作!! 我がクリエイティブな発想とデンジャラスな想像力により———我が知啓となって形成される!!」

「いや、それカツミ君の武器ですよね」

「パクリやん」

「どこがクリエイティブ……?」

「おっとぉ、恋愛クソ雑魚戦隊ナインジャーズ共が囀っているようだなぁ!! かぁッー愉快愉快!!

 

 今この場で星界戦隊ごと社長をぶっとばしてやろうか。

 ……いや、落ち着こう。

 今は戦闘中、そう簡単に心を乱してはいけな———、

 

「はっ、だがパワーは弱いぜ!!」

「当然だろう。私を後ろの地球のバグ共と一緒にするな」

 

 やっぱりぶっ飛ばすべきかもしれない。

 我ながら剣呑な気配を放っていると、モータルレッドが調子を整えるように深呼吸を繰り返しているのが見える。

 

「お前達のペースに乗ると碌なことにならない。ヒラルダ、もう戦えるだろう?」

「……。ええ、了解です!」

 

 ヒラルダがベルトを出現させて変身する。

 ……厄介なやつが戦線に復帰しちゃったな。

 ああいう搦め手大好きな輩は目を離しちゃいけないから本当に面倒だ。

 

「もう手加減もしない。いたぶる余地もなくお前達を始末する。星界戦隊の本気の力、見せてやるよ」

「本気の力か」

 

 5人揃った星界戦隊を前にしても社長は不遜な態度のままだ。

 いや、この場合余裕さえあると言ってもいい。

 

「ならばこちらもそろそろ本気を見せてもいいというわけだな!!」

「なっ!!?」

「強化装備を最初から装着してのこのこ出てくるような負けフラグを積み重ねる貴様らに本当の強化装備というものを見せてやるわ!! ジャスティスクルセイダー!!」

 

 社長の声。

 その意図を察した私達は同時にチェンジャーに手を添え、あるアイテムを手元に転送させる。

 それはスマートフォン型の金色のデバイス。

 

「強化装備の使用を許可する!!」

「「「はい!!」」」

 

 右手で持ったデバイス『ジャスティフォン』を起動させる。

 独特の待機音を響かせながら、周囲に金色のエネルギーフィールドが形成される。

 強化装備と聞いた星界戦隊が妨害のための攻撃を仕掛けてくるが、それら全てを社長の金色の粒子によって阻まれる。

 

「ヴェハハハァ!! このジャスティスゴールドの役割は脳筋共の司令塔を担う以外に、ジャスティスクルセイダーの強化装備の補助を担っている!! 貴様らのような変身途中で妨害してくるような空気の読めない輩から守るのも私の役割の仕事なのだよこぉのマァヌケがァ!!」

「ッ! うざったいなぁ!! あの人!!」

 

 守ってくれるのはありがたいけど言動が敵側なんだよなぁ。

 意気揚々と煽っている社長に呆れながらも、右手に握りしめたジャスティフォンを認証させるように———チェンジャーへとスライドさせる。

 

『Authentication:Code RED...』

『Authentication:Code BLUE...』

『Authentication:Code YELLOW...』

 

 

 

『———ここまで、練り上げたか』

 

 

 

 頭の中に響く、女性の声。

 数瞬の無音。

 その瞬間を待ちわびたような高揚すらも感じながら、私達は最後の認証を口にする。

 

「「「変身!!」」」

 

CHANGE(チェンジ)! MODE(モード):GOLD(ゴールド)!!!』

 

 認証の後にチェンジャーが変形し、新たにできた窪みにジャスティフォンを組み合わせる。

 それにより強化プロセスを完了、私達のスーツに強化装備が装着されていく。

 

「そしてこの強化装備は今この時を以てして完成される!! 装着者の素質、能力により進化・適応する武装!! 名付けてジャスティスクルセイダー・ゴールドモードだ!!」

 

 右肩、右前腕に金色の武者鎧を彷彿とさせる装甲が追加され手の中にいつも武器として使っている長剣とは異なる、大太刀が出現する。

 鍔は金、濡れたような怪しい光を放つ刀身は、私の意思を反映するかのように赤く———灼熱のような色を帯びていた。

 

「———」

 

 型にしっかりと嵌ったような感覚。

 これまで強化前のスーツに不満なんて抱いてはいなかったが、今の強化装備を纏った状態こそが自分の力を最大まで解放できると認識させられた。

 私と同じことを思っているのか、同様に強化装備を纏ったきららも葵もその変化を実感していた。

 

「これが強化装備。実によく馴染む」

 

 掌ほどの大きさの六角形のリング—――ジャスティビット。

 それらをパズルのように組み合わせシールドのように左肩に装着させた葵が、金の装飾が施された銃を手にしながら悦に浸っている。

 

「なんで私、かみなりさまみたいなん……?」

 

 一方のきららは困惑するかのように、自身の背後で円形に並ぶようにして浮かぶ帯電する黄色のジャスティビットを見ている。

 彼女自身のスーツも斧を持つ腕の装備が強化され、その背中にはブースターを思わせる鎧が追加されていた。

 

「あちゃぁ、これはマズそう。レッドさん、ちょっと足止めに使ってる星界怪人こっちに呼び寄せます!!」

「黒騎士が来るぞ!!」

「そうしている間にこっちの首と胴が分かれちゃうんですって!!」

 

 ヒラルダが手元の装置のようなものを操作すると、周囲にまだ隠れていた星界怪人が私たちの周りに集まってきた。

 

「ハイジョ」

「遅い」

 

 頭上から突っ込んできた星界怪人に軽く太刀を薙ぎ払う。

 私にたどり着くことなくバラバラに砕け散る星界怪人を目にしながら、ヒラルダを睨む。

 ———ちょっと前までは多数相手は難しかったけど、今の姿なら星界怪人なんておそるるに値しない。

 

「ここは一斉攻撃でぱっぱと星界戦隊どもを始末したいところではあるが!! 今のお前らが自由に動き出せば街が崩壊しかねん!! まずは私の指示に従ってもらおう!!」

 

 文句はない。

 カツミ君は器用に街を破壊しないように戦えるけれど、私たちはまだ強化装備を装着したばかり。

 星界戦隊を倒すことも重要だが、街を破壊してしまっては元も子もない。

 

「まずは雑魚を片付ける!! イエロー!」

「了解!!」

 

 社長の指示に従い、あざとい唸り声をあげるきらら。

 彼女の意思に合わせ背中の黄色のジャスティビットが連鎖するように電撃を帯び、その輝きを増していく。

 

「はぁ!!」

 

 あまりある磁力でその場を浮遊し、きららが空へと舞い上がる。

 彼女が浮遊するだけで誘導された電撃が星界怪人を貫き、内側から焼き尽くす。

 最もパワーがあり防御力もある彼女の新たな力は……ただ呆れるくらいにシンプルで強力無比なもの。

 

「うわぁ、ナメクジ怪人みたい」

「あんな電力の貯蓄量だけ優れた怪人と一緒にするな」

 

 社長が私の呟きを強く否定する。

 でも、あれってナメクジ怪人と同じ電撃系統だし……。

 

「あれはプロトワンの“オルクス”と同じ系統の能力。つまりは身体能力強化にあてがわれているエネルギーの余剰分が背中のジャスティビットから放出されているだけに過ぎん」

「……それってやばくないですか?」

「ああ。あのイエローは単純なパワーだけならプロトワンを上回る」

 

 ……こっわ。

 余剰エネルギーだけで星界怪人を焼き尽くしてるのにそれが副産物とかこっわ。

 殺意しかないじゃん。

 

「次! ブルー!!」

「大体分かった。任せて」

「お前の武装が一番複雑なんだが!?」

 

 社長の指示を聞く前に葵がライフル型の武器を構える。

 彼女の構えに合わせ、右肩付近に浮遊していた六角形型のジャスティビットがばらけ、四方へと飛ぶ。

 

「とりあえず撃てば分かる」

 

 躊躇なく放たれたレーザー。

 それは空間に浮遊するジャスティビットに直撃するとレーザーは六角形の穴に吸い込まれるように途切れ、代わりに近くに浮遊していたジャスティビットから、レーザーが飛び出してくる。

 放射され続けたレーザーはジャスティビットの旋回軌道に合わせ、星界怪人の身体を真っ二つに溶断する。

 

「なーるほど、これがワープ射撃ってやつね」

「う、うむ。空間と空間を繋ぎ合わせる、それがお前の青のジャスティビットの力のようだな」

「試してやろう」

 

 好奇心の塊か、と内心でツッコんでいると葵はさらにレーザーを放ち、それをジャスティビットを通して連続でワープさせる。

 その先は強化装備の性能を目にし様子見に徹している星界戦隊。

 咄嗟に前に出たイエローがバリアーでそれを防ぐ———が、そこで私が太刀による斬撃を飛ばしバリアを叩き割る。

 

「———なっ!? なにが……!?」

「イエロー、なにをしている!?」

 

 バリアを破壊され防御を失った奴らにレーザーが照射される。

 モータルイエローとレッドはレーザーを回避できたようだけど身動きのとれないブルーは胸に直撃を受け、グリーンは味方のはずのヒラルダの盾にされていた。

 

「ヒラルダッ、テメェ!!」

「守ってくれてありがとうございます!!」

 

 腕を飛ばされながらも背後のヒラルダに敵意を向けるモータルグリーン。

 こんな時に仲間割れをしている奴らに呆れていると、周囲に散らばっていたジャスティビットが一斉にヒラルダとモータルグリーンへと集まっていく。

 

「っ! 危なっ……」

 

 ギリギリで気づいたヒラルダは避けたようだけど、モータルグリーンは胴体を拘束されるようにジャスティビットに取り付かれる。

 

「ッ、んだこれ!! さっさと腐らせ―――」

Fire(ファイア)

 

 モータルグリーンを押さえつけるように密着した青のジャスティビット。

 慌てて腐食させて逃げようとする奴に、葵は自身の持つ武器の銃口に一つのジャスティビットを添え、その引き金を引いた。

 

「が、ぼぼぼぼ!?!??」

「グリーン!?」

 

 銃口のジャスティビットから密着したジャスティビットへのワープ射撃。

 放射され続けたレーザーはグリーンを貫き、さらにジャスティビットを潜りまた別のグリーンに密接したジャスティビットの出口から飛び出し——それを一瞬のうちに何重も繰り返し、グリーンの身体はバラバラに弾けた。

 

「いや、無慈悲すぎでは?」

 

 ……こっわ。

 ゼロ距離射撃の上に放射し続けて無限にレーザーくらわすとかこっわ。

 殺意しかないじゃん。

 

「蘇るつもりだよね? 分かってるよ」

 

 頭上の遥か先を見据えながら銃を構えた葵。

 まさか、宇宙の……普通じゃ届かない射程にいる奴らの船を狙い撃つつもりなのだろうか?

 葵の六角形のジャスティビットが銃口の前に直列に並んでいく。

 

「———もうコンティニューはさせない」

 

 頭上から強化装備を纏ったモータルグリーンが光と共に降りてこようとする。

 モータルグリーンではない、その先にいる“なにか”を見据えた葵は引き金を引く。

 放たれたレーザーはジャスティビットを潜っていくごとにその威力を増し、ついには細く強力な閃光と化して地球の遥か外、それもここからでは決して見えない場所へと突き進んだ。

 

「ッ、が、あああああ!?」

 

 変化はすぐにこちらの状況に現れた。

 新たな肉体を得て、地球に降り立ったモータルグリーンが苦痛の叫び声をあげ、その場で膝をついた。

 

「本体を、直接撃ち抜かれたのか!? そんな、グリーン、お前まで……!!」

 

 膝をついたまま動かなくなったグリーン。

 かろうじて機能している兄と呼んでいたブルーを呆然と抱えているイエロー。

 モータルレッドはもう二度と蘇ることのない仲間を目にし、取り乱しながら私たちに攻撃を仕掛けてきた。

 

「この悪魔どもが!!」

「ならお前たちは私たちの地球を土足で踏み荒らす癌だ」

 

 侵略をしているのはお前達だ。

 地球の平穏を脅かしているのはお前達だ。

 なにを勝手に、そんな勝手なことを口にしている。

 奴の作り出す斥力、引力も、なにもかもを一刀で断ち切る。

 

「ッッ!?」

「もう斬れるよ」

 

 流れるように正眼に太刀を振り上げ、灼熱色の軌跡を描きながら振り下ろした一撃はモータルレッドの脳天から切り裂いた。

 切断した断面から炎が溢れ出る。

 次の瞬間、炎は一瞬にして爆炎へと姿を変え、モータルレッドの部品一つすらも地上に残さず消滅しつくした。

 

「えっ、こわぁ」

「下手にビット使わないで斬撃だけでぶった切るのこっわ」

「殺意しかないやん」

 

 葵ときららよりはマシなつもりだ。

 心の底からそう思う。

 

「まだ終わってないぞ」

「分かっています。葵、さっさと奴らの船を破壊して。私はヒラルダを無力化す———うん?」

 

 上からなにかが降ってくる。

 それを気取り、上を見上げれば先ほどまでは見えていなかった“五つ”の光がこちらへ向かってきていることに気づく。

 スーツの望遠機能で見えたのは剣を模したような五隻の船。

 それらは空中で変形し、組み合わされるように合体しながら———次第にその形を人型へと変形させながら私たちの前へと降り立ってきた。

 

 

星 界 剣 神(せいかいけんじん)!!

 

 

『ジャスティスクルセイダァァァァァ!!』

 

 人型の巨人の中心部分に位置する赤色の部分。

 そこにはコードやパイプに繋がれた———機械の一部と化しているモータルレッドが怨嗟の声を私達へ向けていた。

 

『お前らも!! 力を寄越せ』

「ッ、レッド!? なにを———」

「あらあらー、とりこまれちゃいますー」

 

 星界剣神と呼ばれる巨大ロボから触手のように伸びたコードがモータルイエローとヒラルダへと絡みつき、奴らを取り込もうとする。

 ヒラルダを取り込まれるとこちらが手を出せなくなるので、斬撃を飛ばしコードを切断する。

 

『ああああ!! 何度も何度もお前たちはァァ!』

 

 完全に我を失い暴れようとする巨大ロボットの攻撃を避ける。

 さらに追撃しようとするところで、社長が金色の粒子を操りモータルレッドの視界を潰したことで私たちはロボットの全容を確認できる近くのビルまで移動する。

 

「斬る」

「粉砕してやる」

「穴あきチーズにしてやる」

「落ち着けバーサーカー共」

 

 殺気立つ私達を止める社長。

 

「先ほど白川君と大森君からあの星界剣神とやらのデータが送られてきた。やつは今、星界エネルギーとかいう危険なエネルギーをオーバーロードさせながら動かしている」

「つまり?」

「ここで不用意に倒せば都市そのものが消滅する可能性がある」

「ではどうすれば?」

「フッ」

 

 意味深に笑みを零す社長。

 そのしぐさに軽くイラっとしていると私たちの頭上を白川ちゃんが操縦している白い戦闘機———ホワイト5が通り過ぎる。

 さらに続くように5機(・・)のビークルも飛んできた。

 赤、青、黄、黒、そして金の新たなビークルの登場に社長はこちらを振り向いた。

 

「力を合わせればいい。それができる我々に敗北はない」

 ———星界戦隊との決着は近い。

 それをおのずと悟った私は社長の言葉に頷きながらビークルに乗り込む準備を進める。

 

 

 




頭脳(物理)で戦う社長と、スーツが変身者スペックに追いついたジャスティスクルセイダーでした。
なお、三人が互いに「こいつやばぁ」と思っている模様。

本編の更新に合わせて『外伝 となりの黒騎士くん』の方も更新いたしました。
第十話「となりのホムラくん 3」
外伝登場キャラクターのハイル視点のお話となります。

次回の更新は明日の18時頃を予定しております。
星界戦隊編は次回で決着となります。


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来襲、星界戦隊 5

二日目、二話目の更新となります。
前話『来襲、星界戦隊 4』を見ていない方はまずはそちらからお願いします<(_ _)>

前半はアカネの視点、
後半は別のキャラの視点でお送りします。


 空を飛ぶ六機のジャスティスクルセイダー専用ビークル。

 その中の一機であるホワイト5が両翼に展開したミサイルコンテナを伴って、街を蹂躙する星界剣神へと攻撃を仕掛けた。

 

『私が注意を引くので早く乗ってくださ———まだ私が話してる最中でしょうがァ!!』

 

 順調に染まっているなぁ、白川ちゃん。

 そんな呑気なことを思いながら手元のチェンジャーに組み込まれたジャスティフォンの画面をスライドし、私の乗騎であるレッド1をこちらに呼び出す。

 空中で旋回し、ビルの間を高速で飛行しながらこちらに迫るレッド1。

 

「止めている時間が惜しい。ならっ!」

 

 それを確認し、タイミングを見た私はビルから飛び降り、レッド1の装甲に手をかけそのままコックピットへ飛び込む。

 

「ふぅっ! さあ、行くよ!!」

『アカネってゲッターロボに乗れそう』

「なんだかよく分からないけど、人間扱いされてないのは分かる!!」

 

 葵の呟きに返事を返しながら、私達はそれぞれのビークルへと乗り込むことに成功する。

 レッド1,ブルー2、イエロー3、ブラック4は従来通りの姿をしているけどモニターに映っている金色のビークル、ゴールド6はホワイト5とは異なり、円盤型の飛行機型ビークルの姿をしていた。

 

『グリーン! ブラック4に乗り込んだか!?』

『乗ったけど、なんでボクがこの黒いのに乗らなくちゃいけないんだよ! 色的にホムラのやつだろこれ!!』

『彼には別の役目を任している!! 操縦法はレグルスの指示に従え!!』

『ガウ!!』

『あ、頭に操縦法が流れれれ……!?

 

 にぎやかだなぁ。

 

『準備は整った!! やるぞお前達!!』

『『『『はい!』』』』

『ちょ、待———』

『ガウ!』

 

 対巨大怪人を想定した合体形態。

 社長の許可を得た私達は、それぞれの配置にビークルを並ぶように移動させ合体シークエンスを開始させる。

 瞬間、緑の光が六基のビークルを光で繋ぎ、互いに引き寄せながらビークルそのものが変形していく。

 まず最初に大型のホワイト5を中心に胴体と頭部にレッド1、下半身にブルー2、腕にイエロー3が合体。

 それから追加されるようにブラック4が装備として別れ、全身の各部に取り付けられる。

 最後に円盤型のゴールド6が、レッド1の頭部と肩を覆うように接続———両腕、両足部分を覆う金の装甲が取り付けられたことで、その合体変形は完成する。

 

 

ビークル合体!!

SUPER JUSTICE ROBOT

スーパージャスティスロボ!!!!

GOLD  FORM

『『『ゴールド フォーム』』』

 

 

 地上に降り立ったスーパージャスティスロボ。

 以前よりも二回りほど巨大になった機体の感じを確かめながら、共に乗っている仲間達の声に耳を傾ける。

 

『出力、駆動系共に問題なし。いけるよ、レッド』

『でも分離による変形は前より早くできないみたいや』

『くくく、ぶっつけ本番だがやはり私の設計は間違っていなかった!! フゥッハッハッハァ!!』

『おいゴールディ!! 一人で興奮してないでちゃんとやれ!! 気持ち悪い!!』

『えっ、気持ちわ……ご、ごめんなさい』

 

 コスモちゃんに気持ち悪いと言われガチでへこむ社長。

 とにかくロボ自体は大きくなっただけで操作する感じは前とほとんど変わらないみたいだ。

 なら———、

 

『同じ条件だと思うかぁ!? そもそも地球の脆弱な資源で作られた兵器など星界剣神には遠く及ばな———』

『ふぅん!!!』

『ガッッッ』

 

 問答無用で握りしめた操縦桿を前に押し倒し、星界戦隊のロボに拳を叩きつける。

 

『れ、レッド!? ちょ、あの、やっぱりここは開発者たる私が操じゅ———』

「宇宙で暴れまわった割には操縦がお粗末だね!! こうやるんだよ!!

 

 ロボの頭部を鷲掴みにし地面に叩きつけながら、そのまま引きずり回す。

 顔の部分の装甲が削られて、その機械仕掛けの内面を剥き出しにさせた星界剣神はその怒りを露わにさせるが……そんなもの少しも怖くなんかない。

 

「外面がようやく中身に追いついたな!! 宇宙のゴミクズめが!!」

 

 前腕部から赤熱したブレードを展開させながら星界剣神へと接近する。

 相手もただやられているわけじゃない。

 全身にとりつけられたビーム砲のようなものを連続して放ち、攻撃してくる。

 

『バリア展開や!』

 

 イエローの声と共に黄色のバリアが展開され、エネルギー弾を阻む。

 同時に左腕部にエナジーキャノンが転送される。

 

『左腕部エナジーキャノン転送!!』

『エネルギーもチャージ十分。やっちゃえブラッド』

「誰がブラッドだ!!」

 

 そう叫びながら牽制のためのエナジーキャノンを星界剣神の胴体に打ち込みながら、ブレードを突き出す。

 

「その性根に相応しい醜い姿をさらけ出せぇ!!」

『ガッ、ガァァ!?』

 

 切っ先が顔部分を貫き、破片と燃料らしきものが周囲へ飛び散る。

 左腕部のキャノンをパージし、そのままの拳で殴り抜けると、星界剣神の巨体はビルに背中から激突し、白煙が舞い上がる。

 

『な、なんでこいつこんなに豹変してるんだ……?』

『近くで見るとこんなに怖いのこいつら……』

 

 コスモちゃんと社長がなんか呟いているが全然聞こえないね!

 それよりこのままこいつを倒しちゃ駄目ならどうすればいいんだろう!!

 

「社長!! こいつここで倒しちゃ駄目なんですよね!!」

『ああ、その通りだ!! 策はある!! そのためにまずはこいつを弱らせろ!! だが!!』

 

 社長が言葉を区切るとこちらのモニターに映る星界剣神の胸部部分が赤く強調表示される。

 

『その箇所は狙うな!! 狙うときは止めの一撃の時! でなければ爆発を引き起こすからな!!』

「了解!!」

『甞めるなァァ!!』

 

 怒声を挙げたモータルレッドが操る星界剣神がその手に剣のようなものを出現させる。

 巨大なエネルギーを纏った剣。

 まともに直撃すれば相当なダメージを与えてくるであろうそれを向けてきた奴はその表情をさらに歪ませ叫ぶ。

 

『俺達は、星を守ってきた!! でも俺達にはなにも残っていない!! 感謝も、なにもかも与えられることなんてなかった!!』

 

 だから奪おうって?

 与えられないなら奪って自分のものにしてやろう、と言いたいのだろうか。

 ———バカげている。

 例え、グリーンの言っていたように奴らの背後にいる何かしらの奴に洗脳されているだけだとしても、その発言は滑稽にすら思える。

 

「戦うたびにそんな余計なことを考えている時点でヒーローとして、戦士としても失格だよ」

『———なんだと』

 

 私達……ううん、カツミくんがしてきた戦いは“負けたら終わり”という戦いばっかりだった。

 少なくとも戦っている最中に見返りを貰うだなんて甞めたこと考えられるはずがない。

 そもそも、彼も私達も頼まれて戦っているわけじゃない。

 

「私達は自分で選んだ!!」

『その通りや!!』

『私はなんとなゴホンッ!!……私たちの気持ちは同じ!!』

 

 一人若干ズレたことをいう子がいたけど概ね私達の意思は合致している!!

 私達の啖呵に形容しがたい形相を浮かべたモータルレッドが、星界剣神に持たせている剣を振り上げる。

 それに合わせ、右腕を引くように構えた私は出力を上げ———前腕から伸びるブレードにエネルギーを流し込む。

 

「はぁぁ!!」

 

 同時に叩きつけた剣が激突し、周囲に衝撃を広げる。

 一瞬の拮抗を見せる二つの剣。

 でも、モータルレッドは今は一人だ。

 たった一人だけの奴なんかに、私達は負けはしない!!

 

『グゥ!! またしても、またしてもまたしても!! なぜ、俺達が負ける!! 星界に選ばれたはず、なのに!!』

 

 剣を弾き、そのまますれ違い様に胴体を切り裂く。

 装甲を深く切り裂きスパークする星界剣神にモータルレッドはそれでも苦しまぎれの言葉を吐き出した。

 

『もう、いい! このまま無様に敗北するくらいならば貴様らの守るべき都市を吹き飛ばしてやる……!!』

「社長!!」

『止めようとしていたようだがもう遅ォい!! お前らはなにも守れない!! 俺達と同じように!! 自らの理想に打ち崩さればいいんだ!!』

 

 私達の声に社長は無言のまま腕を組んでいる。

 なにも考えていない、わけではない。

 だけどもう手遅れなほどに星界剣神の内包エネルギー量が上がっていき、今にも危険な状態だ。

 

『お前らの存在を認めてたま———』

『そうか? 俺はもう認めているけどな』

 

 通信機越しか、はたまた肉声かは分からない。

 激戦の中で()の声が聞こえたその瞬間———、

 

DEADRY Ⅳ(デッドリィ フォー)!!』

TYPE BLACK(タイプ ブラァック)!!』

 

 突如として発生した重力の檻が星界剣神を縛り付ける。

 奴の前に浮かぶ、白いアーマーを纏ったカツミ君はその右手を星界剣神へと向けていた。

 

『テメェの尺度でこいつらを計れると思ってんのか?』

『黒、騎士ッッ!!』

『そりゃ無理だ。なにせ、ジャスティスクルセイダーは俺が認めた地球を守る戦士、なんだからな』

 

 プロトワンからトゥルースフォームへと変身を切り替えていた彼はその掌を閉じた瞬間、重力で拘束されている星界剣神の背後に巨大なワームホールが現れる。

 ワームホールの先に見える星が瞬く宇宙と星界剣神を背景に、彼はこちらへと振り向く。

 

『止めは任せたぞ、ジャスティスクルセイダー』

「……! うん!!」

 

 ここで社長の作戦と、彼の意図を察した私達は即座に最高火力———必殺技の使用を選択する。

 

「社長!!」

『うむ、ファイナルウェポンの使用を許可する!!』

 

 社長の許可が下りたことでジャスティスロボの肩に大型のキャノン砲が転送される。

 足裏、かかと部分から地面にアンカーを突き刺し、固定したところでエネルギーを砲台へと重点させていく。

 

「引導を渡してやる」

 

 照準は重力の檻で動けない星界剣神。

 この面倒な戦隊は、今確実に始末する!!

 それが、ある意味で彼らのためにもなる!!

 

「発射!!」

 

 収束されたエネルギーが解放、二筋のビームとなって星界剣神のコアへと直撃する。

 攻撃は直撃だけに留まらず、その巨体をワームホールへと押し込み———地球外へと追放させる。

 

『が、ああああああ、あ……あ、あああ……!?』

 

 モータルレッドの最期の叫び。

 苦痛と恐怖によるそれは、次第に悲しみを思わせるようなソレへと変わっていく。

 

『……洗脳が解けた』

「コスモちゃん?」

『クソ、胸糞悪い。用済みになったらその最期すら見届けないのか……』

 ……。

 なんとなくコスモちゃんの言いたいことは分かった。

 ルインも倒さなくちゃいけないけど、いつか星界怪人の背後にいたなにかとも戦わなければならないのかもしれない。

 そう予感していると、瓦解していく星界剣神を映し出すワームホールが消えていくその最期に———、

 

『あ  り  が とう』

 

 モータルレッドの、これまでの憎しみと激情に駆られたそれとは異なる、優しさと悲しみに満ちた声が聞こえた……ような気がした。

 幻聴かもしれない。

 あいつらはいくつもの星と人々の命を奪った奴らだ。

 だけれど、それでも奴らのことは忘れないようにしよう、と私は思った。

 

「……社長。ヒラルダとイエローは?」

『カツミ君が追っている……が、風浦桃子を人質に取られている今、捕獲するのは難しいだろうな』

「……」

 

 とりあえずは目下の危険勢力の星界戦隊の半数以上を排除できただけ十分か。

 モータルイエローも、自分から進んでなにかを破壊するような奴ではないだろうし、それほど危険視するほどでもない。

 


 

 兄さんが死んだ。

 ジャスティスクルセイダーの巨大ユニットの一撃により宇宙へと飛ばされ、その末にレッドと共に消えてしまった。

 言葉はなかった。

 ジャスティスクルセイダーへの憎悪もない。

 グリーンとレッドの死を見届けることができたんだ。

 むしろ、私にできなかったことをやってくれた彼らには逆に申し訳のない気持ちでいっぱいだ。

 ……あるのは胸を締め付けるような悲しみと、なにもできなかった自分への怒り。

 私は結局、なにもできなかった。

 兄さんを助けることも、狂った仲間達を元に戻すことも止めることもできなかった。

 

「……」

「いなくなっちゃったわねぇ」

 

 ワームホールが消えた場所の近く。

 暗い路地で地面に膝をつき、どうにもならない現実に打ちのめされている私の肩にヒラルダの手がのせられる。

 

「ヒラルダ。私は、これからジャスティスクルセイダーに捕まる」

「殺されちゃうかもよ?」

「……どうでもいい。もう、兄さんも、仲間もいないなら……私なんて……。あんたはどこにでも行きなさい。一応仲間だったから、逃がす時間くらいは稼いであげるわ」

 

 ジャスティスクルセイダーは自分を殺さないのは分かっている。

 奴らは昔の、狂う前の私達と同じで正義を志していた戦士達だから。

 

「まだ捕まっちゃ駄目よ。だってまだまだ貴方には利用価値があるもの」

「え……」

 

 ヒラルダの身体を星界エナジーが包み込む。

 それは肩に手を置かれた私も包み込み、私達は今いる場所とは別の場所に転移する。

 

「ここって……」

「私の船。いやー、飛ばされた星界剣神が地球の近くでとても助かったわ。おかげで回収も楽になる」

「回、収?」

 

 ヒラルダの船。

 いや、この前に私達を訪ねてきたものとは違く、小型船などとは比較にならないほどに大きく、奥には星界怪人が培養されたケースもある。

 これまでなにかを企んでいることには気づいていたけど、拠点すらも誤魔化しているだなんて思いもしなかった。

 

「えーっと、座標はっと……」

 

 船が動き出し、移動を始める。

 混乱した私に構わず進んでいった船は地球から少し離れた宙域で停止する。

 

「これは……星界剣機の、残骸?」

「そうそう。ついさっき破壊されたものよ」

 

 なんでこんなところに。

 まったく意味が分からない。

 

「狙いは、なに……?」

「貴方達の星界“核”」

「ッ!!」

 

 一瞬で頭の中が怒りに染まった私は銃をヒラルダに突きつける。

 奴は大して気にした様子もなく宇宙船を操縦しているが、こっちはそれどころじゃない。

 

「私達が負けることが分かっていたのね!!!」

「それはお互い様でしょ? 貴女も自分たちが勝てないことを分かっていたはず。今更、イライラするのはやめてちょうだいな」

 

 確かにそうだけど……!!

 そうだけれど……それなら……。

 

「私も、ちゃんと殺してよ……」

「……」

 

 ヒラルダに向けていた銃を床に落とし、膝をつく。

 死ぬなら仲間達と一緒が良かった。

 あの場で私も一緒に殺されていれば、こんなみじめな気持ちにならなくて済んだのに。

 

「貴女のお兄さんのことだけど」

 

 その場にしゃがみこんだ私に先ほどと変わらず声音で話すヒラルダ。

 

「ほら、貴方のお兄さんだけ蘇らなかったでしょう?」

「……どういう、こと?」

 

 兄はブルーの射撃で胸を貫かれても、代わりの肉体がやってこなかった。

 それは、まだ兄さんが活動できるからだ。

 そもそも兄さんはもうこの宇宙の藻屑になって……。

 

「ねえ、見て見てー」

「? ……ッ!!」

 

 ヒラルダがモニターに映し出した映像に信じられないものが映り込む。

 それは、星界剣機から取り出された兄さんのポッド。

 死んだように眠っている兄さんに、私はただただ呆気にとられた顔をするだけだった。

 

「私が助けておいたの。もーっと感謝してくれてもいいのよ?」

「兄、さん……」

 

 意識は戻らなくとも生きている。

 嬉しく思ってしまう反面、いっそのことレッドと一緒に……と思ってしまう自分が情けない。

 

「目的は……」

「んー?」

「本当の目的は、なに? 星界戦隊をジャスティスクルセイダーに潰させてまで、なにをしたかったの?」

「ふふっ」

 

 不敵に笑って前を向き直ったヒラルダ。

 すると船の前に、赤、青、黄、緑、桃の光を放つ五つの光の球が現れる。

 

「星界剣機に秘められるコア。ふふふ、取り出すには破壊するのが一番手っ取り早いからね」

「まさか、最初から……」

「ええ、その通り」

 

 ヒラルダが手を伸ばすと宇宙空間に浮遊していた五つの光り輝くコアが引き寄せられる。

 透過するように宇宙船の窓を通り抜けたコアは、ヒラルダが手にしていた禍々しい色のバックルに吸収され———その姿を変質させる。

 

「あは……はははは!!」

「ヒラ、ルダ?」

「あぁ、やっとだ。これでやっと私の全部が出し切れる!! もう絶対に無視なんてさせない!! させてたまるものですか!!」

 

 生物的なフォルムから星界チェンジャーに近い、機械的な見た目。

 それを掲げた彼女はこれ以上になく楽し気に———涙を流しながら、バックルを腰に装着させた。

 

VENOM(ヴェノム) SCOPIO(スコーピオォ)

「カツミ、私は貴方の心に残る毒になりたいの」

 

 不気味な音声と、光が溢れる。

 ヒラルダはこの状況の為に私達を利用していた。

 奴の言う通り、それは私も分かっていたことだ。

 でもこいつは、私を生かしてなにをさせたいのだろうか。

 ほんの少しだけ、私はこいつの行く末に興味を持ち始めていた。

 




星界戦隊との戦いはこれにて終了となります。
ほぼほぼジャスティスクルセイダーの戦力強化イベントみたいなものでした。

スーパージャスティスロボの見た目のイメージはSRXが割かし近いかなと思います。

最新話に合わせて、外伝の方も更新いたしました。
『となりのホムラくん 3』
『となりのホムラくん 4』
外伝登場キャラ、ハイル視点のお話となります。



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配信回+???

お待たせしました。
配信回です。

前半はアカネ視点。
後半からは別のキャラの視点となります。


 星界戦隊との決着。

 強化装備“ゴールドフォーム”による初めての実戦。

 それら全てを片付けた後、私達は一旦山中の奥にあるという本部にビークルで戻った後にそれぞれの家に戻ることになった。

 

「……このまま進学するのは厳しそう」

 

 部屋のベッドに横になりながらそんなことを呟く。

 学力が足りないわけじゃない。

 むしろ志望する大学への合格圏内には十分入っている。

 だけれど、この先ルインや星将序列との戦いを考えると悠長に進学なんて考えていられないのが現状だ。

 社長は『進学したいのならば、こちらでなんとかする』とは言ってくれていたものの、ルインたちはこちらの事情を理解してくれるはずがない。

 

「私に、できること……か」

 

 私に与えられた二つの進路。

 それはこのまま進学することと、KANEZAKIコーポレーションに就職という名目で“ジャスティスレッド”として活動すること。

 表向きは世界的大企業に就職という華々しいものだけど……実態はもっとやばいものだけれども。

 

「ルインを倒して、終わりじゃない……かもしれないのがなー」

 

 地球に住む人間以外にも生命体は存在する。

 これまでの侵略者のようにこちらに害意のあるものが攻めてきたとき、それに対処しなきゃいけない人員が必要だ。

 

「カツミ君は、そっちなんだよね……」

 

 彼はもう高校に通うことができない。

 勉強こそはしているようだけど、彼はあまりにも存在を知られすぎているし、なにより政府にとっても野放しにしていい人員じゃない。

 もちろんそれは悪い意味ではなく、彼自身を守るという意味でだ。

 

「……」

 

 自分の役割を投げ出すわけにはいかない。

 誰かに言われた訳でもなく、私自身が自分がなにをするべきかが一番よく分かっている。

 

「私は、ジャスティスレッドだ」

 

 地球を守る。

 カツミ君を一人で戦わせない。

 それは戦う理由を彼に押し付けている訳じゃなくて、私がそうしたいからする。

 この想いは誰であろうとも否定することはできない。

 

「……あ、そういえば、ハルちゃんの配信の時間だ」

 

 唐突に思い出しながら枕もとで充電していたスマホを手に取る。

 葵の妹、晴ちゃん。

 社長の会社の広報担当Vtuberとして活動している子で、黒騎士、ジャスティスクルセイダー関連の広報やゲーム配信や雑談などやっている。

 今の時間帯はそんなハルちゃんの配信の時間で、時間に余裕があるときは彼女の配信を見るようにしているのだ。

 

「葵と違ってめっちゃ素直だもんねあの子……」

 

 葵の妹なのにまともな感性しているし、全然不思議な行動もしていないし。

 カツミ君と過去に会っていた上に素顔まで知っていたという特大の秘密を抱えはしていたけど、私としては単純にハルちゃんの配信のファンであるので普通に配信は見ることにしている。

 

「……雑談枠? 特別ゲスト……?」

 

 なんだろう、妙な嫌な予感を抱きながら配信を開く。

 するとスマホの画面の右側にハルちゃんのアバターと……その反対側に、デフォルメ化された変身した社長のアバターが映り込んでいた。

 

 

 

 

 

「今回のゲストは金崎令馬さんです」

 

 

 

「んゥ、KANEZAKIコーポレーション代表取締役金崎令馬です」

 

 

 

□    ライブ
 
     

♯雑談

雑談回:特別ゲストの日[蒼花ナオ]

XXXXX人が視聴中

高評価  低評価 チャット  共有 保存 …

蒼花ナオCHANNEL 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 

「なにやってんだあの社長!!」

 

 ついさっきまでのアンニュイな気分が全部吹っ飛んだ。

 まだ戦闘が終わって数時間しか経ってないんだよ!?

 それがどうして今ハルちゃんの配信に意気揚々と登場しているの!?

 

 ———社長がハルちゃんの配信に出ていることは実はそこまで珍しいことじゃない。

 

 大体月に一回くらいのペースで彼は雑談枠としてやってきて、ジャスティスクルセイダーの活動や黒騎士の情報、侵略者についての見解などを配信を通じて一般の人に情報を開示している。

 その理由は、ある程度の情報を開示することで一般の人たちが私達に不満を抱かないようにするためであること。

 

「だからといって戦った直後に出てくるとかどうなの……」

 

 ネットでは既に社長が変身し戦ったという情報が流れている……というより既に社長が自ら公表している。

 なので彼が普通にゲストで登場していることに戸惑っている人もちらほらと見える。

 

『騒ぎの後ですが、ここにいても大丈夫なのですか?』

『ハハハ、その心配は無用。既に現地での調査、回収、その他諸々行っている。むしろ私が出張る方が現場の邪魔になってしまうので空いた時間を有効活用すべくこの場を設けたわけさ』

 

 無駄に精巧に作られたジャスティスゴールドのアバターが快活に笑う。

 いつの間に作ったそれに口元が引き攣りながらハルちゃんと社長の雑談に耳を傾ける。

 

『今日は色々とあった日ではあるものの、ようやく黒騎士を本部に移動させることができたわけだ』

『……』

『あ、蒼花くん? 笑顔のまま無言で返すのやめてくれない……?』

 

・黒騎士くんの居候生活終了か

・笑顔の圧がすごい

・ジャスクルと蒼花としては永遠に居候生活してほしそうだ

 

 笑顔のまま微動だにしないハルちゃんのアバター。

 共感はできるのでなにも言えないけど……うん、やっぱり居候生活はもう少し長くても良かったと私も思っていたりする。

 

『黒騎士さんは今はなにを?』

『えっ? あ、彼は戦闘後とあってか自室で休んでいるところだ』

『そうなんですか。では、どのようなお部屋に?』

『その質問は今必要なの……?』

『……?』

 

・私らとなおなおは以心伝心

・聞きたいこと全部聞いてくれるやん

・草

・では の区切りに脈絡が全くなくて草

・無言で首を傾げるなwww

・もう威圧感がすごい

 

 勢いがもう強い。

 配信者ということを忘れているのかってくらいにぐいぐいカツミ君のことを尋ねるハルちゃんに戦慄する。

 

K 穂村克己 部屋は結構広いぞ

 

『……? ……!?』

 

 チャットを綺麗に二度見したハルちゃんの目が見開かれる。

 狼狽し、動揺を露わにさせた彼女は視線を左側に向けたまませわしなく動き始める。

 

『わ、わわわわ私の配信に……!? す、すす、スパナを……ッ、邪魔だリスナー!! コメントを流すなァ!!

『蒼花くん! 君、配信者!!?』

 

 先程のクールな様子からいきなりあらぶりながらアバターを振動させるハルちゃん。

 そんな彼女を社長が冷静になだめようとする。

 

「に、偽物ではないか?」

「いえ、普通に本名でアカウントを登録しちゃっているところと、初めてコメントを書き込むから分かりやすく、かつ短く済ませようとする配慮の解釈一致。そしてなにより私の直感がこのコメントが黒騎士さんのものだと確信させています」

「君、よくブルーと似ているって言われない?」

 

 まあ、本人っぽいよね。

 偽物だとなんとなく分かるし。

 

< かつみくん

 
既読

21:11

ハルちゃんの配信見てる?

見てる 21:12
      

 
既読

21:12

コメント書いた?

書いた 21:12
      

 
既読

21:13

どんどん書いていいけど

内容には気を付けてね

分かった

気を付ける

21:13
      

 

 なんでカツミ君、LINEになると精神年齢が下がっているように見えるんだろう。

 スマホ自体不慣れだから長文を送りたがらないっていうのは分かるけれども。

 彼とLINEでやり取りすると不思議な気持ちが湧いてくる。

 

『失礼。少し取り乱しました』

『少しどころじゃなかったんだが……?』

 

K 穂村克己 くさ

 

 瞬間、ハルちゃんのアバターがまたあらぶった。

 直後にドンッッッ!! という机を叩く音、俗にいう台パンをかました彼女は声を荒らげた。

 

『黒騎士さんに安易なネットスラングを教えたのは誰だァ!! リスナァァ!!

『蒼花くん!!?』

 

・草

・草

・草

・黒騎士くんを汚したな!! 法廷で会おう!!

・草

 

 普段は物静かなのになぁ。

 いやカツミ君も言った傍からだよ。

 

< かつみくん

 
既読

21:15

草なんて単語

誰に教わったの?

他にも教えてくれたぞ

21:15
      

 
既読

21:16

教えてくれてありがと

 

 私は即座にハルちゃんにLINEで下手人を密告する。

 恐らく葵は就寝しているだろうから明日あたりには身内からの逆襲を受けることだろう。

 

『あ、蒼花くん? そこらへんで落ち着いてね? てか今日の主役私……』

『社長。安心してください。今後、リスナーにはお嬢様言葉以外を許さないようにさせます』

『え、えぇ……怖い……』

『外来語も許しません』

『コメント欄が武家屋敷みたいになってしまうのでは……?』

 

・草で候

・お草でございますわ

・いやぁー乱世乱世!

・お草生えます

・おハーブ生えますわ

 

 チャット欄がみんなお嬢様と家臣になってしまったところで社長もハルちゃんも落ち着きを取り戻したようだ。

 コホン、と咳払いした社長は今回の配信の本題へと移ろうとする。

 真剣な様子の社長に先ほどの浮かれたような雰囲気はない。

 

『今回、我々は宇宙からの侵略者。星界戦隊との戦いに勝利し、決着をつけたと言ってもいいだろう』

 

『今後はこの私も戦場に立ち、ジャスティスクルセイダー、黒騎士と肩を並べて戦っていくつもりだ』

 

『厳しい戦いになるだろう』

 

『少なくとも相手は一瞬にして星を滅ぼせる力を持つ超越存在だ』

 

 それが、私達が戦わなくちゃならない相手。

 ルインの底知れない強さは相対した私も良く知っているけど、それで諦めるほど潔くはない。

 絶対に折れずに、勝つ。

 それが地球の怪人を相手に戦ってきた彼の背中を見て学んできたことだから。

 

『断言しよう』

 

『ジャスティスクルセイダーと黒騎士は、地球のみならずこの宇宙においての唯一の希望なのだ』

 

『だからこそ、間違わないで欲しい』

 

 言葉を切り、一呼吸を置いて力強く声を発した。

 

『我々は、地球のために戦う戦士だということを』

 

 そう断言した社長は脱力するように呼吸を吐き出す。

 

『少し水分を取る。暫しミュートするが構わないか?』

『ええ、どうぞ』

『うむ』

 

 許可をもらい音声を切る素振りをみせる社長。

 でも、肝心の音声は切れておらず、社長が椅子のようなものを動かす音が聞こえる。

 

『———慣れないことを言ってしまったな。ふぅ、タリア、どうだった?』

『素晴らしいお言葉でした』

『フッ、世辞はよせ。私のような宇宙人が何をいっても胡散臭いに決まっているだろう。私ができることは、この身を粉にして彼らのために働くことしかない』

 

 多分、ミュートをし忘れたのかな?

 思いっきり普段の会話っぽい声が配信に流れちゃっている。

 自虐的に言い放った社長のコメントにチャット欄のお嬢様化が加速している。

 

『夫を立てるのはとして当然のことですから』

『……え、どうしたの突然』

『はいそうです。私が伴侶であるタリアです』

『な、なにが? 怖いんだが!? いきなりどうしたんだ!?』

 

 エナジーコアがここぞとばかりにアピールしだした!?

 タリアさん多分、ミュートできていないことに気づいている!?

 ミュートができていないことにまだ気づいていない社長を見かねて、ハルちゃんが声をかける。

 

『あの、社長、ミュートできてないですよ』

『……エッ』

 

・泣きましたわ

・名誉地球人ですわ

・地球人より地球のこと考えてますわね

・タリアってどこの女なのかしら!?

・くさ

・既婚者だったのね!? わたくしを裏切ったのね!!

・この人もなんか変なのに好かれてそうで草

 

 未だにチャットの大多数がお嬢様言葉なのが残念すぎるけど、いつまで続けるんだろう。

 てか、またさらっとカツミ君コメントしているし……!!

 その後、色々な意味でやらかしてしまった社長が錯乱するという珍事が起こったわけだが……配信後の社長の印象が「残念イケメン」「名誉地球人」「有能ポンコツ宇宙人」などなどに定着してしまったようだ。

 


 

 

 はじめて黒騎士の存在を確認した時。

 それは第一の脅威“クモ怪人”を日本という地球の島国をオメガ率いる怪人の拠点にするために送り込んだ時だった。

 『怪人事変』

 クモ怪人出現からの三ヵ月の惨憺たる破壊を世間はそう呼び、怪人という恐怖に世間は大いに恐怖した。

 このままクモ怪人のみで首都を掌握、そのままオメガから続々と生み出される怪人で日本そのものを乗っ取り、最終的な目標であるルインのいる宇宙へと進軍する———、

 

 それが当初の、私の計画のはずだった。

 

『ジャァァ!!』

『———』

 

 今でも目を瞑れば鮮明に思い出せる。

 あらゆるものを切断する糸を幾重にも張り巡らせながら襲い掛かるクモ怪人の攻撃を、その両腕で全ていなし———ただの拳の一撃で打ち倒した彼の姿を。

 胴体を穿たれ、自らの青い血に沈むクモ怪人。

 命の危機に瀕した地球人の少女を守ってみせた黒騎士と呼ばれる彼。

 黒い仮面の奥に怪しく輝く赤い目。

 青い血を滴らせる拳に、全身を覆う漆黒の鎧。

 一見して怪人のような外見を持つ彼の出現は、私にとってはまるで予期しないもの。

 

『———』

 

 困惑と高揚。

 これまでの徒労を見事に打ち砕いて見せたその存在に対してまず最初に抱いたのは怒りでも憎悪でもなんでもなかった。

 なり損ないの私を突き動かすなにか。

 彼が“そう”だと突き動かす確信めいたなにか。

 それから、私の目的は“地球を材料として戦力の増強”ではなく、黒騎士と呼ばれる戦士を知ることへと変わった。

 

「……こういうのを奇跡っていうのかしらねぇ」

 

 星界戦隊との激しい戦いが繰り広げられた都市。

 一際背の高いビルの屋上から、戦いの跡を見下ろしながら私は気分を良くする。

 彼らの強さは本物だ。

 ジャスティスクルセイダーは今日で序列一桁の領域に足を踏み入れた。

 

「素晴らしい……」

 

 彼が出てきてから事態は全て私の想い通りにならなかった。

 凶悪な力を持つ怪人は悉く打倒され、

 地球のみならず日本すらも崩壊することもなく、

 その果てに無敵の力を持つはずのオメガでさえ彼らは打倒してしまった。

 まさしくそれは、私の望んだとおり(・・・・・・)の結果……。

 

「私が、貴方達を祝福するわ」

 

 ジャスティスクルセイダーに、黒騎士。

 彼らの存在こそが私にとっての福音に他ならない。

 彼らに強くなってもらうために、どのような方法も辞さない。

 地球のためじゃなく、私自身のために。

 

「だから、ちゃんと、ルインを殺してね」

 

 一人、そう呟き私はビルの屋上に横になり空を見上げる。

 

「いつまでも見下ろせると思うなよ」

 

 奴の父親のようにただ宇宙を支配する覇者というだけならこうはならなかった。

 覇者の娘、ルインというただ一人の異常種。

 存在してはならない絶対的な強者。

 なりそこない(・・・・・・)の私はただただそれが我慢ならなかった。

 奴という存在がいることが私には不条理だ。

 だから私は憎悪する。

 そのために奴を滅ぼす。

 

「私の名はAtoZ(アズ)。“アルファ”のなり損ない」

 

 自分に言い聞かせるように言葉にする。

 胸の奥底からヘドロのように沸き上がる行き場のない憎悪を押さえつけ、私は口の端を歪ませる。

 

「彼にはまだまだ強くなってもらわなくちゃならない」

 

 足りない。

 奴と渡り合うには力が足りない。

 だからこそ、策を練る。

 

「そのために切っ掛けが必要だね」

 

 空を見上げたまま懐から取り出した端末を開き、ホログラムを展開させる。

 そこに映るのは一人の地球人の女の子。

 一見すれば黒騎士とも関係のあるはずもない、どこにでもいるような平凡な生まれのはずの彼女は———黒騎士、穂村克己にとっての重要な存在。

 

「彼の最後の日常の拠り所……利用しない手はない」

 

 怒りを買い、殺されても構わない。

 むしろ本望だ。

 私は自らの感情のままに振り回されても、成したい本懐があるのだから。




それは黒騎士くんにとっての守るべき日常であり、逆鱗。

『【外伝】となりの黒騎士くん』の過去編が少しずつ関わってきます。
その辺については本編でもある程度描写するつもりです。

次回は掲示板回になるかもしれません。


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星界戦隊戦後(掲示板回)

少し忙しくなってしまい更新の方が遅れてしまいました。
本当に申し訳ありませんでした……!

今回は掲示板回となります。
どちらかというと今回は外伝『となりの黒騎士くん』の更新の方がメインかもしれません。


111:ヒーローと名無しさん

 

強化装備に巨大ロボット合戦とか都市やべーなー…

 

112:ヒーローと名無しさん

 

もうこの世の終わりって感じがする

 

113:ヒーローと名無しさん

 

諦めるのは勝手だけどジャスクルと黒騎士くんの足を引っ張るなよ

 

114:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルの強化装備がどいつもこいつもまともじゃねぇwww

いやまともなやつが来ないことは分かり切っていたけれども

 

115:ヒーローと名無しさん

 

大量発生した怪人はグリーンと黒騎士くんが掃討したらしいね

数だけはいたから本当によかった……

 

116:ヒーローと名無しさん

 

今回の戦闘で社長参戦したけど

普通にイケメンで腹が立った

なんやねんあの変態エイリアン

 

117:ヒーローと名無しさん

 

思いっきり顔バレしちゃってたなー

そしてジャスクルからの扱いが酷すぎて笑う

 

118:ヒーローと名無しさん

 

金崎令馬スペック

・社長

・イケメン

・宇宙最高の頭脳(自称)

・天才(自称)

・ナルシスト

・フィジカル最弱

・(自称)嫁がいる

 

これくらい?

 

119:ヒーローと名無しさん

>>118

名誉地球人も追加してくれ

地球があるのはガチで彼のおかげだから

 

120:ヒーローと名無しさん

 

もう社長って時点で超能力持っているようなもんやん

 

121:ヒーローと名無しさん

 

天才は事実すぎる

スーツ開発者は伊達じゃない

 

122:ヒーローと名無しさん

 

社長がイケメンという予定調和に嫉妬で狂いそうになったわ

 

123:ヒーローと名無しさん

>>122

え、でも変態だよ?

 

124:ヒーローと名無しさん

>>122

残念エイリアンだぞ?

 

125:ヒーローと名無しさん

>>122

笑い声くっそ汚いぞあの人

 

126:ヒーローと名無しさん

 

怒涛のツッコミに草

もしかしてジャスクル本人ですか?

 

127:ヒーローと名無しさん

 

なにしても面白いのホントズルいわ

女性人気より男性人気の方が高いのも頷けるわ

 

128:ヒーローと名無しさん

 

金崎令馬

KANEZAKIコーポレーション代表取締役社長

ジャスティススーツ開発主任

ジャスティスクルセイダー総司令

 

スーツ、ロボのデザインは全て社長が手掛けた。

 

社 長 が 手 掛 け た

 

129:ヒーローと名無しさん

 

男性人気高いの分かるわ

だって趣味嗜好が完全に男の子だもん

 

130:ヒーローと名無しさん

 

残念でナルシストで笑い声が汚いのが良い感じにイケメン要素をマイナスにさせているのがもう面白い

 

131:ヒーローと名無しさん

 

ゴールドスーツがもう社長そのもの。

ナノマシン操作による万能性でジャスクルと黒騎士をサポートする徹底さよ

 

132:ヒーローと名無しさん

 

スーツといえばジャスクルの強化装備だよ

あれゲッターチームかなんかなの?

 

133:ヒーローと名無しさん

 

ブルーの強化装備は変人には絶対に渡しちゃいけない類のもんだと思うわ

トラップマスターのブルーなら絶対えぐいことに使うだろうし

 

134:ヒーローと名無しさん

 

そんなこと言うならイエローもやばいぞ

公式によるとあれ余剰出力で単純なパワーでプロトワン黒騎士くんを上回ってくるんだぜ

 

135:ヒーローと名無しさん

 

侵略者絶対ぶち殺すスーツと化してたなぁ

そんくらいじゃないと地球がピンチって時点でやべーけど

 

136:ヒーローと名無しさん

 

イエロー→余剰出力で即死級の広範囲攻撃!!

ブルー→ワープビットで敵を爆散!!

レッド→斬る

 

文だけ見ると相対的にレッドが一番普通だな!!(白目)

 

137:ヒーローと名無しさん

>>136

一番やべーやつの間違いだろ

 

138:ヒーローと名無しさん

 

レッド怖すぎだけど頼もしすぎる……

同性だけど惚れるわ

 

139:ヒーローと名無しさん

 

社長とは逆に女性人気があるレッド

なお(ry

 

 

140:ヒーローと名無しさん

 

強化装備もらう前から星界戦隊相手に極道ムーブしてるの怖いわ

いきなりドス握り出したら脇腹に三度突き刺すとか……

 

141:ヒーローと名無しさん

 

斬るとかじゃなくて刺すだもんな

相手がどれだけできるか観察した後にダメ押しに三度突き刺してシンプルに致命傷与えてくるのがもうブラッド

 

142:ヒーローと名無しさん

 

星界戦隊が可哀そうに見えてくるくらいには容赦がなかった

 

143:ヒーローと名無しさん

>>142

星界戦隊がかわいそうとか冗談言うなよ

あいつら都市に殺人怪人ばらまいた侵略者だぞ

 

144:ヒーローと名無しさん

 

同じ戦隊系っぽいけど星界戦隊は悪堕ちっぽいんだよなぁ

 

145:ヒーローと名無しさん

 

バッドエンドルート辿った戦隊感はあるのは分かる

 

146:ヒーローと名無しさん

 

ロボも普通にかっこよかったのもなんだか複雑

 

147:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルの六体合体ロボもダサかっこよかっただろ

相変わらずの残虐ファイトだけどめちゃんこ強かったし

 

148:ヒーローと名無しさん

 

操縦がレッドなのがなにもかも悪いと思う

 

149:ヒーローと名無しさん

 

乗ると性格変わるのこち亀の本田みたい

 

150:ヒーローと名無しさん

 

六機目で全長が大きくなって分離による再合体はできなくなったけどその分単体性能は最強みたいなことは公式の解説ではあったな

 

151:ヒーローと名無しさん

 

それよりレッドがビルから飛び降りて亜音速のビークルに素手で乗り込んだことに衝撃を隠せないんだが……?

 

152:ヒーローと名無しさん

 

レッド:獰猛、血気盛ん

ブルー:頭の良い変人

イエロー:でかい

 

ゲッターチームの条件は満たしているな!!

 

153:ヒーローと名無しさん

 

今回の戦いで白騎士ちゃんも参加してたらしい

 

154:ヒーローと名無しさん

 

戦闘機操縦してたってやつ?

元侵略者のグリーンも合わせていい感じに色が揃って来たじゃん

 

155:ヒーローと名無しさん

 

白騎士ちゃんもグリーンも依然として謎なんだよなぁ

白騎士ちゃんの方は黒騎士くんの姉を名乗るやべぇやつだってことは分かっているけども

 

156:ヒーローと名無しさん

 

姉を名乗る不審者もやべーやつだったってことか

 

157:ヒーローと名無しさん

 

姉を名乗る時点でやべーやつでは?

 

158:ヒーローと名無しさん

 

海月ナマコ先生、ツムッターで白騎士ちゃんの活躍の衝撃が強すぎて進化事故起こして両生類じゃなくてカタツムリになっちゃったもんね……

 


 

海月カタツムリ@umiTYUki_KUKあああああああああああ

白騎士ちゃん参戦の衝撃で進化先狂ったでつむり 

22 67 ♡456 

●海洋学者(ナマコ専門) @nAmAkO-SEn

返信先 @umiTYUki_KUKさん

両生類から遠のいてて草

      ♡ 

 


 

159:ヒーローと名無しさん

>>158

どう足掻いてもぬめぬめしてる生物に転生する海月先生ェ

 

160:ヒーローと名無しさん

 

殺し合いをしていた白騎士と青騎士が今は肩を並べて戦っているなんてなぁ

やっぱり俺らが知らないところでなにかしらあったんかな?

 

161:ヒーローと名無しさん

 

グリーンとか最初敵の時めっちゃ尖ってたけど丸くなったよな

 

162:ヒーローと名無しさん

 

単純に周りがとがりすぎて相対的にそう見えるだけでは?www

 

163:ヒーローと名無しさん

 

そらレッドや黒騎士くんらと比べたら大抵のやつらは大人しくなるやろ

そん中で存在感出してるブルーとイエローもおかしいんや

 

164:ヒーローと名無しさん

 

イエローはどうやっても普通に見えるのにな

マジでなんであんな存在感あるのか分からん

 

165:ヒーローと名無しさん

 

蒼花の配信に普通に黒騎士くんコメントしてて笑った

 

166:ヒーローと名無しさん

 

イエローは腕力だけで存在感出してきてる脳筋だからな……

 

167:ヒーローと名無しさん

>>165

また切り抜かれてたな

 

168:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん絡むと高確率でなおなおが限界オタク化して荒ぶるのすこ

 

169:ヒーローと名無しさん

 

私はかつみんが人並みのコメントができていることがただただ嬉しいよ

 

170:ヒーローと名無しさん

 

スパチャをしない理由が「やり方が分からない」っていうのがな

そらそうだと思わされたわwww

 

そしてリスナーに黒騎士くんにスパチャさせるなって荒ぶる蒼花よ

 

171:ヒーローと名無しさん

 

何度も言うけど普段の配信ではクール系なんだよな……。

仕事人みたいな雰囲気でクエストとかこなすタイプのかっこいい系の……。

 

172:ヒーローと名無しさん

 

なおなおが荒ぶるたびにずっと隣で社長おろおろしてたのも楽しかった

 

173:ヒーローと名無しさん

 

社長はわりかし苦労人ポジなのが分かったな

 

174:ヒーローと名無しさん

 

その後に黒騎士くんが覚えたての知識で250円スパチャを送って限界突破して語彙力失うまでがセット

 

175:ヒーローと名無しさん

 

それは違う。

喜びを噛みしめてるところでアルファと姉モドキにスパチャのやり方を教えてもらったってコメント見てなおなおがチベスナ顔になるまでがオチだぞ

 

176:ヒーローと名無しさん

>>175

結局社長にとって地獄になるの草

 




待望の両生類になるはずが進化事故起こしてカタツムリになってしまう海月先生でした。

……なんだこのキャラ……?


今回の更新と合わせて『外伝 となりの黒騎士くん』の方の最新話を更新いたしました。

第11話『始動! ジャスティスクルセイダー!! 1』

アカネ達が初めてジャスティスクルセイダーとして活動するお話となります。


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予想外の対談

お待たせしました。

今回は二日に分けて二話ほど更新いたします。


 ジャスティスクルセイダー第二本部。

 元々はアカネ達が乗っている合体ロボット、レッド1から連なるビークルシリーズの実験と開発が行われていた場所をジャスティスクルセイダーの第二の本部として作られた場所がここである。

 俺が住んでいる居住区画……まあ、スタッフたちが寝泊まりしている区画とはまた別の場所にあるところで今のところ俺、ハクア、アルファ、コスモの4人ほどしか住んでいない。

 

「カツミ、ここでの暮らしは慣れた?」

「いや、やっぱり広い部屋には慣れないわ」

 

 早朝、本部内の通路をアルファとハクアと一緒に歩きながらそんな会話をする。

 アルファとハクアは違うが、俺はこれから本部と繋がっているサーサナスでアカネ達と合流することになっているわけだが、特になにかするわけでもない。

 俺が独房にいれられた時のように集まって話をしたりとかする感じらしい。

 

「基本、前に住んでたアパートくらいの広さの部屋で満足してたからな。あんなに広いと落ち着かない」

 

 扉開けて中に入ったら普通に4部屋くらいあってビビったからな。

 しかも普通に広いわ、外の景色とか森とか川とかが見えるようないいところだったし、正直今でも一つしか部屋を使っていないくらいに持て余している。

 

「え、じゃあ、一緒の部屋に住んでいい?」

「駄目に決まってんだろ」

「えーなんでーなんでさー」

「ええい鬱陶しいっ!」

 

 駄々をこねながらひっついてくるアルファを押しのける。

 昔からそうだが、断っても自然とついてこようとするからな。

 

「でも私は三歳児でハクアは一歳児だよ? こんな幼い私達を一人部屋に押し込むって酷な話だと思わない?」

「一時でも俺の姉を名乗ったんならちゃんとしろや」

「ね、姉さん、私を巻き込むのはやめてよ……」

 

 途端に声を震わせたハクアが涙目になる。

 もう許しているのに本当姉関連出すと弱くなるよな。

 

「安心しろ、赤ちゃん共め。レイマに頼んでお前たちのベビーシッターを雇うことを検討しているからな」

「恥ずかしいからやめて!?」

「かっつんから見てそんなに私達ポンコツなの!?」

「冗談だよ」

 

 ポンコツなことは事実だけれども。

 さすがに人に任せるほど酷くはない……はずだ。

 いざという時は俺が頑張ればいい……うん。

 

「で、ハクアはこれからスーツのデータ取りか?」

「うん。あとビークルの新装備の確認とかその他諸々」

「すげぇな。技術者とか向いているんじゃないか?」

「私は武闘派じゃないから別の方法でかっつん達の助けになれればなって。そういう意味でも姉さんもオペレーターのやり方とか大森さんにも教えてもらうんだよね」

 

 ハクアの言葉にアルファも頷く。

 

「私は本部からほとんど離れられないから、オペレーターの仕事くらいはできるようになろうかなって」

「大森さんに迷惑かけるなよ」

「分かってるって。すぐにカツミ達の役に立てるようになるから」

 

 ハクアもアルファも滅茶苦茶頭がいいからな。

 そこらへんは全然心配していないが、あまり無理をしすぎないように気にかけておくか。

 

「……ん、ここらへんで私とハクアは別行動だね」

「おう」

「じゃ、また夜ごはんにねー」

「アカネ達によろしくね、かっつん」

 

 アルファとハクアと別れた後、俺はワープ装置のある区画に通じる道を進んでいくのであった。

 

 


 

 喫茶店サーサナス。

 ニューサーサナスとして新しく造り直されたこの店はジャスティスクルセイダー本部との協力関係を結んでおり、店舗二階は戦闘員である俺とアカネ達の憩いの場として利用されることになっていた。

 壁に隠されたワームホールから二階の部屋に入り、まず目の前に飛び込んでくるのが白を基調にした大きな丸テーブルと椅子。

 壁には店長の趣味と思われるレトロな装飾とポスターが貼られており、雰囲気も以前星界戦隊に破壊された店にかなり近いものがある。

 

「あ、おはよう。カツミ君!」

「お、来たんやね」

 

 背後のワームホールが閉じると、先についていたアカネときららが椅子に座りながら俺に手を振ってくる。

 とりあえず軽く手を振りつつ俺も席に座ると、立ち上がったアカネが一階へと続く階段に身を乗り出す。

 

「コスモちゃーん! いるー?」

 

 そう大きな声で呼ぶと、ばたばたとした足音と共にエプロンを来た緑髪の少女、コスモが顔を出してきた。

 

「開店前だぞ!! 何の用だァ!!」

「あ、コーヒー三つお願い」

「私は召使いじゃないぞ!」

「いや、コスモちゃんバイトじゃん」

「くっ、うぅ……コーヒー三つな!!」

 

 またばたばたと階段を降りていくコスモ。

 あいつも忙しい奴だなぁと思いながらも、うまく馴染んでいることに安心する。

 あの目立つ緑の髪も人前では隠しているようだし、そうそうバレることもないだろう。

 5分ほどして、不機嫌そうな面持ちのコスモがコーヒーを持ってきたところで、ようやく落ち着く。

 

「で、葵はまだ来てないのか?」

「まだ来てないよ。ハルちゃんと来るみたい」

「へぇ、晴も来るのか」

 

 葵の妹のあの子もここに来れるとは聞いていたけど、俺が思っていた以上に晴は重要な立場にいるようだ。

 広報担当っていうからには晴の……蒼花ナオという存在は世間的にはかなり名の知れているものなんだろうな。

 

「……で、今日はなんで呼ばれたんだ?」

「え、特にないけど」

 

 ……。

 

「さて、プロト、シロ。本部でトレーニングでもするか」

『そうだね』

『ガウ!!』

「待って待って!! 息抜き! ほらこうやって落ち着く機会なかったからね!!」

 

 立ち上がろうとする俺を止めてくるアカネにため息をつきつつ席に戻る。

 まあ、冗談だが。

 とりあえず葵と晴が来るまで動画でも見て時間を潰そう。

 

「なんだろう。カツミ君がスマホを弄っていると違和感がすごい……」

「自覚してるから言わんでいい」

 

 こんな小さい板切れでテレビみたいに見れること自体が驚きなのだ。

 みんなこれを普通に持てるとかマジでどうなってんだって思ったわ。

 

「カツミ君、何見てんの?」

 

 レイマによって支給されたスマホで動画を見ていると、後ろからアカネが画面をのぞき込んでくる。

 

「えぇ、なにこれ“駄目姉日記”?」

「たまたま見ていただけだ。よく分からんけど駄目な姉の観察日記らしいぞ」

「へぇ……投稿日も新しいけど結構人気なんだ」

 

 おすすめに出てきたので見ていただけなのだが、なんとなくこの駄目姉と呼ばれるこいつとはどこかで会ったような気がしてならないのだ。

 微妙に声も聞き覚えがあるような気もするし、なんでだろうか。

 

「……」

「なにか気になることでも?」

「いや、なんでもない。多分気のせいだろ」

 

 こんなアルファとハクアを遥かに下回るほどの生活力皆無な人物は会ったことがないし、できることならこれから会わないことを願う。

 個人的にはこの動画を投稿しているであろう弟の方にシンパシーを感じてしまうな。

 

「……レイマから聞いたんだけど、アカネときららは進学しないのか?」

 

 ふと思い出して椅子に座ったアカネときららにそう聞いてみる。

 二人は苦笑いしながら頷く。

 

「さすがにこの状況だしね。勉強はするけど進学はしないでここに就職って形になると思う」

「卒業したら企業戦士ってことになる感じやね」

 

 それはそれで世知辛いものがあるな。

 侵略者共のせいでアカネ達が進学できない、か。

 できることならそれよりも早く俺がルインをぶっ飛ばせればよかったんだが……。

 

「……」

「カツミ君が責任を感じることなんて何一つないよ」

「お前、俺の心でも読んでんのか?」

「君の考えていることくらい分かるよ」

 

 俺って顔に出やすいのだろうか。

 それともアカネが鋭いだけか……。

 

「おいっす」

「皆さん、おはようございます!」

 

 すると葵と彼女の妹の晴もやってくる。

 フランク極まりない挨拶をする葵と、しっかりとした挨拶をする晴に見事に常識人の差が出来上がっている。

 

「おはよう、かつみん」

「かつみんって呼ぶんじゃねぇ」

「私のことはあおいんでいいよ」

「語呂悪すぎだろ」

 

 どういう愛称なんだ……?

 もっといい呼び方あるだろ……?

 

「お姉ちゃんがいつもすみません……」

「いつも苦労してんな」

「はい。あ、カツミさん」

 

 ふと思い出したように晴に声をかけられる。

 

「姉に教えられた言語は忘れても大丈夫ですよ?」

「草とかワロタとか?」

「ガハッ……」

「晴!?」

 

 突然胸を押さえて苦しみだした晴に困惑する。

 い、いいいったいどうしたんだ!? 

 

「分かったかバカ姉。あんたのした罪深さを……」

「カツミ君を私色に染めてしまったこの罪深さよ」

「アカネさん、きららさん。この人全然反省していないようです」

「二人を味方につけるのは違くない? ねえ、ハルちゃん知ってる? 私たちは驚くほど簡単にお互いの足を引っ張るんだよ? むしろそれが一番得意といっても過言ではない」

 

 葵のことだからふざけて俺に教えた言葉なのは分かっているので日常生活では絶対に使うことはない。

 ———とりあえず、一瞬で晴の味方に回ったアカネ達に脇を小突き回されている葵を静観する。

 

「葵は進路とかどうすんだ?」

「え、卒業後は巫女系企業戦士フーチューバーになる予定」

「おう、なにも考えてねぇんだな。……おい、真顔やめろよ。え、マジで言ってねぇよな?」

 

 本当にその気じゃないよな?

 お前、いくらジャスティスクルセイダーとして働いた貯金があるからといってそんな変なことするのやめろよ。

 

「お姉ちゃん。巫女巫女ほざいてるけど神社継ぐんだったらその道の大学とか行かないと駄目なんだよ?」

「……嘘だ。私を騙そうとしてる」

「お姉ちゃんって頭いいけどさバカだよね」

 

 え、神社とかそういうのの専門の大学とかあるんだ。

 

「そ、そうだったのか……? 知らなかった」

「カツミさん。誰にでも間違いはありますから気にしなくてもいいですよ」

「アカネ、私は自分の妹が怖い」

 

 さっきの葵への罵倒はいったい……?

 ……いや、身内と他人では扱いが違うのもある意味当然ってことか。

 

「ねえ、カツミ君」

「ん?」

 

 いつの間にか以前の独房にいた時のようなやり取りを交わしていると、ふときららが思い出したように俺に話しかけてきた。

 

此花灰瑠(このはなはいる)って子、知ってる?」

「!」

 

 きららからその名前が出てきて素直に驚いた。

 同じ学校に通っていたわけだから知っていてもおかしくない。

 此花灰瑠。

 偶然、隣の席になった女子で、たまに話したりしていた程度の友人。

 

「カツミ君……?」

「……。ああ、隣の席の奴だよ。まあ、数少ない友達ってやつだな」

「友達……」

「トモダチ……」

「ともだち……」

「フレンド……」

「どうしたお前ら」

 

 晴を含めた4人が神妙な様子で復唱している。

 あれか? 俺に友人がいることが珍しいってことか?

 まあ、柄じゃないのは分かるけれども。

 

「それじゃあさ。会ってみる? カツミ君が望めば会うようにできると思うけど……あっ、勿論、社長にも話を通してね」

「いや、いいよ。俺達と関わって危険な目に遭うかもしれないからな」

 

 俺は厄介な奴らに狙われている。

 それこそ怪人がいた時代よりも。

 それに……。

 

「あいつは俺のことを覚えていないんだよ」

「……え?」

「カツミ君、それはどういうこと?」

 

 不穏な空気を感じ取ったのか不安そうな様子で尋ねてくるアカネに苦笑する。

 

「事情があってアルファの認識改編を使った。だから俺のことを覚えているはずがないってこと」

「え、でも……ハイルは……君のこと」

「隣の席だったから他よりも関わりがあったってことだろ」

 

 俺のことを覚えているはずがないのだ。

 アルファの認識改編は普通に作用した。

 ……仮に、いや、此花の記憶の改変に否定的だったアルファが此花の記憶が戻るような仕掛けをしていたとしても、俺は会うつもりはない。

 怪人が暴れていた時と同じように、今は侵略者の脅威と俺たちは戦わなければならないからだ。

 

「でもありがとな、きらら」

「……本当に会わなくてもいいの? ハイルは……」

「いいんだよ」

 

 そう言う俺にきららは心配そうに尋ねてくる。

 もう終わった話だ。

 だから———、

 

「ッ!!?」

 

 対面の席に座る()に気づき戦慄する。

 アカネ達は気づいていない。

 いや、俺だけが見えているのか……!?

 焦燥に駆られていると、一階からまたコスモが駆けあがってくる音が聞こえてくる。

 

「お、おい、お前らちょっと来い……!!」

「ん? どうしたのコスモちゃん」

「た、たた大変なんだ!!」

 

 一階でもなにかあったようだがそれどころじゃない。

 異変を悟ったアカネ達が下へ向かっていくのを見送っていると、未だに席から立ち上がらない俺にコスモが近寄ってくる。

 

「ほ、穂村!! お前も来い!!」

「後で行く」

「は!? いや、今一階にボクの父上が……序列一位が来ているんだよ!!」

「コスモ」

 

 俺は目の前の空間から目を逸らさずに言葉を口にする。

 

「今、それどころじゃない。お前は下に行け」

「ガオッ!! グルル……!!」

「レオ!?」

 

 コスモに付き従っているレオが威嚇し始めたところでコスモも異変に気付く。

 

「な、なにが……、ッ!」

「俺は大丈夫だから、早く行くんだ」

「……わ、分かった。お前も気をつけろよなっ」

「ああ」

 

 俺に誰が(・・)見えているのか察したコスモがその顔をさらに青くさせながら下の階へと降りていく。

 

「お前に噛みついていた頃とは随分な変わりようだな」

 

 彼女がいなくなり二階に俺一人だけになったところで、ようやく俺は奴に話しかける。

 

「……どうしてテメェが俺の前にいる、ルイン」

「会いたかったから。理由はそれ以外に必要か? カツミ」

 

 実体ではない。

 しかし、明らかに意思を以て俺の視界に映り込んでいる奴———ルインは、テーブルに肘をつきながら愉快そうに微笑んだ。

 今、俺の向かいの席で我が物顔で座っている奴は地球から遥か遠く離れた場所にいるはずだ。

 その程度の距離こいつには訳ねぇのは分かっているが……このルインは実体ではない。

 

「回りくどい方法でお前の視界に映り込んでいるだけだ。そろそろお前と話したいと思っていたからな」

「俺にはねぇ」

「山ほどあるくせにへそを曲げる、そういうところも愛い奴だ」

「……」

 

 こっちを見透かしたようにしているのが気にいらねぇ。

 本心を言えば確かにこいつに聞きたいことは山ほどある。

 

「一位がここに来てんのはどういうことだ? お前の指し金か?」

「いいや、私が命じたことではない。大方、義理の娘にでも会いに来たのだろうな」

「……義理の娘? コスモが?」

 

 そういえば父上がとか言っていたような……。

 マジかよ、あのやべぇ奴の娘なのかあいつ?

 白川克樹としての記憶で遭遇した序列一位ヴァース。

 会ったのは一度っきりではあるが、あいつはサニーと同じく得体が知れない。

 

「安心するといい。奴は今お前達とことを構える気はない」

「それじゃあ、あれか? お前の一番強い配下は娘の様子を見るためだけにここにやってきたってことか?」

「そういうことだ」

 

 嘘をついてはいなさそうだが、それはそれでどうなんだ。 

 あのコスモの慌てようには納得はしたが。

 

「記憶を完全に取り戻した気分はどうだ?」

「最悪に決まってんだろ。二つの記憶が別々に存在するんだぞ」

「だが、幸せだっただろう?」

 

 幸せ?

 本当になんのことだ。

 

「幼い頃に失い、体験することのなかった家族との思い出。偽物の姉とはいえシグマはお前にいい影響を与えたことだろうな」

「保護者面すんな。お前は俺の記憶を奪った張本人だろうが」

「私も正直、素直で未熟だったお前を見ているのはとても楽しかったぞ」

「マジでやめろよそういうこと言うの……!!」

 

 怖気が走るわ!!

 こいつ含めてどいつもこいつも俺の記憶喪失している間好き勝手しやがって。

 記憶が戻ってダメージを受けてんのは姉を名乗っていた奴らだけだと思うなよ!? 俺にも結構なダメージあるんだからな!?

 なにせ全部しっかり覚えているからな!!

 

「そんなことを言うために来たんならさっさと消えろ」

「今となってはお前は完全な復活を遂げ、さらなる強さを手に入れたわけだ」

 

 聞けよ。

 

「存在するはずのない双子のアルファにより作られたコア。その適合者たるお前。その奇跡とも言える可能性に巡り合えたのは私にとっては何にも代えがたい幸運とも言えるだろうな」

 

 プロトとシロのことか。

 こいつらのことはともかく俺は地球人だ。

 宇宙人の両親を持った記憶もねぇし、スーツに完全適合している点以外はなにも異様な体質もないはずだ。

 

「地球という小さな惑星に価値はない。……極論を言えば、アルファもジャスティスクルセイダーも、ゴールディもお前たちの言う名もなき組織(アンノウン)も星将序列も、お前という存在を天秤にかければ全てどうでもいい」

「巻き込むなら俺だけにしろ。回りくどいことしてんじゃねぇよ」

「ふふ、必死だな。それほどまでに地球が大事か」

 

 愉快そうに微笑むルインに苛立ちが募る。

 奴はテーブルに肘をつき顎を手に乗せ、俺と目を合わせる。

 

「お前は自分が犠牲になればそれでいいと思っているようだが、それでは意味がないんだ」

「どういう意味だ?」

「全てを捨てたとしてお前は強くなるのか? 少なくとも私にはそうは思わないがな」

「お前は俺のなにを知ってんだよ」

「知っているに決まっているだろう? 私はお前以上にお前のことをよく知っているぞ、カツミ」

「……ッ」

 

 嘘だと思えればどれだけよかったか。

 多分、こいつは白川克樹として俺と対話していた時点で俺の記憶を把握している。

 そしてこんなこと思いたくもないが、こいつは俺を本気で“理解”しようとしている。いずれ殺し合いをするであろうこの俺をだ。

 

「アルファと呼ばれる(・・・・)六位の分裂体。シグマと称されたオメガが作り出した成功作(・・・)。偶然隣の席にいたただの人間の娘。地球由来のエナジーコアの適正者達。お前は守る者がいればどんどん強くなる」

「……今度は地球そのものが人質っつーわけか」

 

 性質が悪い。

 俺が戦わなけちゃいけない理由をこいつはちゃんと理解している。

 業腹ではあるが、確かにこいつは俺のことをよく分かっているようだ。

 

「お前が俺に失望した時は諸共に地球を滅ぼすつもりか?」

「……?」

 

 きょとん、とした様子でルインが首を傾げる。

 数秒ほどして奴はおかしそうに笑いだした。

 

「ははは! 私がお前に失望だと? カツミ、そんなありえない疑問を抱く必要はないぞ?」

「ありえないだと?」

「お前が今、この私と意識を保ったまま会話している時点でありえないということに気づいて欲しいなぁ」

 

 随分と高く俺を買っているようだな。

 俺にしてみれば傍迷惑すぎるが。

 

「私の威圧に全く影響を受けないのはお前くらいだ」

「宇宙中探せば他にもいるだろ」

「フフ、誰に向かって言っている?」

 

 そういえば宇宙規模の極悪連中の親玉だもんな。

 

「なあ、カツミ。それほどまでに地球が大事か?」

「……」

「塵芥に等しい地球の生命を守りたいか?」

 

 テーブルに肘をついたルインは憎たらしい笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んだ。

 俺は無言のまま睨みつける。

 ここでキレても意味がない。

 ルインは遠隔で俺に見えるようにしているだけだし、そもそもこいつ相手にキレても喜ばせるだけなのは分かっている。

 ここは我慢してやり過ごすしかねぇ。

 

「それほどまでに地球が大事なら私を殺せるほどまでに強くなれ。お前は私の期待を裏切らないと信じているからな」

「は?」

 

 ふざけてんのか嘗めてんのかこいつ。

 瞬間湯沸かし器並みに怒りが沸騰してしまったが、もう我慢ならねぇ。

 この野郎、ここまで人を虚仮にしやがって。

 誰のせいで地球がピンチに陥っていると思ってんだ。

 半分は俺のせいとはいえ、もう半分はお前のせいじゃねぇかこの野郎。

 

「上等だテメェ……」

 

 いつまでも自分が上だと思ってんじゃねぇぞ……! 超越存在だか宇宙最強だかなんだか知らねぇが絶対に目に物見せてやるからな……!!

 ムキになっていることを自覚しながら俺は、未だに笑みを浮かべているルインを血走った目で睨みつける。

 

「その人を舐め腐ったにやついた面を二度と浮かべないようにしてやる……!!」

 

 俺の啖呵にルインはなぜか機嫌を良くする。

 

「……お前は本当に愛い奴だな」

「あ?」

「お前との対話は心地がいい。こんなにも私の感情をかき乱してくれる」

 

 椅子の背もたれに背中を預けた奴は満足した様子で俺を見る。

 散々人を煽っておいてなにを勝手に上機嫌になっているんだこいつ。

 

「駄目だな。これ以上話せば我慢ができなくなりそうだ」

「……」

 

 僅かに漏れる殺気に左手のプロトに触れる。

 すぐに殺気を収めたルインは再び俺を見る。

 

「そろそろ話を終えるとするか」

「二度とこんなまどろっこしい手を使ってくんじゃねぇ」

「ならば次は別の方法で話に来るとしよう」

「そういう問題じゃ———って、もういねぇ……」

 

 あいつ何か言われる前に消えやがった。

 肩を落とした俺はそのまま冷えてしまったコーヒーで喉を潤す。

 

「ふざけやがって」

 

 俺だって現状の力の差が分からないほど馬鹿じゃない。

 だが、戦うなら勝つつもりでいくだけだがあっちから俺を対等扱いしてくるのはなんとも納得できない。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息をついていると、背後のワームホールの扉が開く。

 そこからかなり慌てた様子のレイマが飛び出し、どんがらがっしゃーん、という音と共に近くのテーブルに突っ込んできた。

 

「レイマ!?」

「か、カツミ君!! い、今下に第一位が来ているという情報があってだな……!!」

「……そういえばそうだったな。衝撃的なことがあって忘れてたわ」

一位が来る以上の衝撃的なこととは!?? い、いや、とにかく下の階に行こう!! カツミ君!!」

「あ、ああ」

 

 ルインのインパクトが強すぎたが、一階でも同じことが起きているのを忘れていた。

 俺はレイマと共にアカネ達のいる一階へと向かうのであった。

 




もう普通に会話するだけで嬉しいルイン様でした。
主人公の悪態が微塵も効いていないどころかそれすらも楽しんでいます。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

※※※

並行して『外伝 となりの黒騎士くん』の方も更新いたしました。

第十四話『ジャスティスクルセイダーとは(掲示板)』
ジャスティスクルセイダーの初の実戦後の掲示板回となります。


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第一位との再会

二日目、二話目の更新となります。

前半がマスター視点。
後半からきらら視点に移ります。


 一度は異星人にぶっ壊されちまった店だが、社長さんの援助もありまた新しい店として開くことになった。

 前のこじんまりとした喫茶店の雰囲気も好きだったが、こっちもこっちで悪くない。

 ジャスティスクルセイダー、KANEZAKIコーポレーションのスタッフさん達も来てくれるから売り上げも安定しているし、なにより変わらずに喫茶店を経営できることに満足していた。

 

「はぁ」

「客の前でため息なんて零すなよ。まだ開店前だからいいものを」

「うっさい」

 

 なんだかんだで店の手伝いをしている異星人の小娘、コスモ。

 大分地球の暮らしに慣れてきたこいつはカウンターに肘をついて大きなため息を零していた。

 

「まったく、どいつもこいつもボクを嘗めやがって……ボクは召使いじゃないんだぞ」

「バイトだもんなお前」

「うっさい!」

 

 つんけんしてんのも変わらねぇな。

 カツミ達と関わって少しは大人しくなるかと思ったらそうでもねぇようだし。

 

「お前、上の階の奴らとうまくやれてんのか?」

「……。あの三人の女は怖い」 

「怖い? そりゃ戦っている姿は壮絶だけどよぉ。変身しなけりゃ普通の女子高生だろ?」

「普通? ハッ、笑える冗談だ……」

 

 なんだよこの反応。

 え、ジャスティスクルセイダーの三人って変身しなくても怖いのか?

 そうは見えなかったんだが。

 

「カツミとは?」

「……悪い奴じゃない。殺しかけた相手のボクを気にかけてくれるし」

「まあ、あいつは口は悪いが結構素直なところがあるからな」

 

 それは黒騎士として怪人と戦っていた時も変わらなかったわけだ。

 あんな過去を経験してんのにあんな人柄なのは奇跡以前に不可思議とさえ思えてくるほどだ。

 

「……そろそろ開店か。コスモ、扉のプレートをひっくり返してくれ」

「ああ」

 

 慣れた様子で扉のプレートを『OPEN』という文字を表にさせる。

 さて、少しずつ常連客も来る頃だし、こっちもあれこれ準備しなくちゃな……っと、思っているともう客が来たようだ。

 

「ほれ、客が来るぞ。迎えてこい」

「チッ……分かったよ」

 

 態度は悪いが素直。

 舌打ちをしながら自身の頬を両手でほぐしたコスモが後ろを振り向く。

 それと同時に扉の鈴がなり、今日一番目の客が入り———コスモが満面の笑みで迎える。

 

「いらっしゃいませ! 喫茶店サーサナスです!!」

「……む」

 

 ん? どうした?

 元気な声から一転して震えた声になったコスモを見れば、なにやら白髪の男性を前に硬直してしまっている。

 店に入ってきたのは長身の男。

 年齢は50代か60代ほどだろうか?

 オールバックにさせた白髪に整えられた髭、そして黒を基調としたスーツというピシッとした装いの男性は視線をやや斜めに逸らし気まずそうにする。

 

「あ、あ、え? ど、どうしてここに……?」

「……すまん。出直してきた方がいいか?」

「だ、だだだいじょうぶでぇす」

 

 これ以上にない震え声で白髪の男性を店内に迎え入れるコスモ。

 その顔は真っ赤に染まっている上に瞳には涙がためられているのでただ事ではないのが分かる。

 

「うまくやっているようだな」

「ハイ……」

「あー、まぁ、似合っているぞ?」

「……」

 

 ふるふると震えたままコスモがカツミ達のいる上階へと駆けあがってくる。

 いったいどうしたんだよあいつ……。

 ……待てよ、コスモの知り合いっつーことはこの老人も宇宙人ってことか?

 

「失礼。いいかな?」

「あ、はい」

 

 肝心のコスモがいなくなってしまったので俺が代わりにメニューを受けに行く。

 近くで見ると妙な凄味のある爺さんだな。

 俺も老けたらこんな貫禄のある老け方をしたいもんだな。

 

「この場所の食べ物には疎くてな。お勧めのものを頼もうか」

「ではブレンドコーヒーとケーキのセットでよろしいでしょうか?」

「ああ、それでいい」

 

 凄味はあるが話しかけづらいってわけじゃないな。

 ちょっとコスモとの関係性も聞いておくか。

 

「失礼ですが、うちの店員と知り合いかなにかで?」

「む? ああ、すまない。君には話しておくか」

 

 こほん、と軽く咳ばらいをした老人は淀みなく言葉を発する。

 

「あの子は娘なんだ。義理ではあるが」

「……あー」

 

 なるほど、これは流石にコスモに同情するわ。

 

「お父様でいらっしゃいましたか」

「娘が世話になっている」

 

 心配で様子を見に来たのかな?

 そう思っていると上階からジャスティスクルセイダーの三人娘ともう一人と……依然として顔を青ざめたコスモが降りてきた。

 ……いや、これから戦争でもするつもりなのか?

 また俺の店破壊されんの?

 


 

 私の学校の友達、此花灰瑠。

 あの子との付き合いは長い方だと思う。

 一年生の頃から知り合いだったし、当時のハイルがカツミ君の隣の席だったということも聞いていた。

 だからカツミ君自身がハイルのことを友達と口にした時は本当にびっくりした。

 え、隣の席同士で友達だなんてずるい、などと我ながら嫉妬する気持ちがなかったといえば嘘になるけど、それ以上に彼の高校生活が孤独なものじゃなかったことを嬉しく思えた。

 

 だから私はカツミ君をハイルに会わせようと思った。

 また恋敵を増やしたいというわけでもなく、二人の友人として会わせたいと考えたからだ。

 でも……。

 

『あいつは俺のことを覚えていないんだよ』

 

 事情は思っていた以上に複雑なものだった。

 ハイルはカツミ君と友達だった時の記憶を忘れている、と彼は言っていた。

 全ては語らなかったもののなにか私たちの知らない事情があるのはすぐに分かった。

 

『穂村君はねぇ。いっつも眠そうにしてた』

 

 けれど、ハイルが語ったカツミ君の話は……どこか昔を懐かしんでいるように見えたんだ。

 それ以上の話を聞く前に、下の階からコスモちゃんがやってきた。

 慌てたように私達を呼びつけた彼女は酷く動揺しながら私たちにこう言ってきた。

 

『———父上がお店に来ちゃった……!!』

 

 いや、いったいどういうことなの……?

 

 

 

 

 コスモちゃんのお父さんは星将序列第一位のあの鎧の戦士だった。

 あまりにも衝撃的すぎる事実に驚愕しながら急いで一階へと降りてみれば、たしかに店内に白髪の老人が窓際の席に座っていた。

 白髪をオールバックにさせた黒いスーツ姿の渋い老人。

 年老いた、というより磨き抜かれたと表現してしまうほどの雰囲気と見て分かるほどの強者。

 以前遭遇した時は戦闘スーツのようなものを着ていて、今は生身だけれど……正直得体が知れない。

 ただ座っているだけなのに圧倒されてしまいそうな存在感は、本気で戦おうとするカツミ君と重なる。

 

「お姉ちゃん、あの人って……」

「晴。私から離れないで」

「う、うん」

 

 この場で事を起こす気はないようだけど、一応私たち4人は第一位を監視できるカウンターへと座る。

 コスモちゃんは第一位の対面の席に座り、借りてきた猫のようにこじんまりとしている。

 

「カツミ君は降りてきてないの?」

「そういえば……。きらら、社長には連絡した?」

「うん」

 

 アカネの言葉に頷く。

 カツミ君が降りてきていないことが気がかりだけど、もう話が始まりそうだ。

 

「元気にやっているようだな」

「は、はぃ」

 

 いつもの強気なコスモちゃんからは想像できないか細い声だ……。

 

「ど、どうしてここに?」

「サニーに教えられてな。色々と世話になったそうじゃないか」

「そう、ですね」

 

 サニー、星将序列第三位。

 またしても大物が出てきた。

 シリアスな空気になる私たちだが、カウンターの前にいる新藤さんがその顔を青ざめさせながら声を潜めて私たちに話しかけてくる。

 

「なぁ、サニーの野郎がさらっと俺の店の場所を把握している事実にツッコんじゃ駄目なのか? なぁ?」

「マスター、今大事な話をしているんです」

「ちょっと静かにしてください」

「話が聞こえない」

「俺にとって死活問題なんだが……!?」

 

 今、重要なのはコスモちゃんと第一位の会話だ。

 

「父上は、ボクに失望なされましたか?」

「……」

「組織を……ルイン様を裏切り、敵であったジャスティスクルセイダーの味方をしたこと。それに、ルイン様の望みを履き違えていたこと」

 

 沈んだ表情をするコスモちゃんに意外にも一位は顔を顰めることもなかった。

 

「お前は幼いころから思い込みが激しかったからな」

「……はい」

「そも、あの方を目の当たりにすれば大抵はお前のようになって当然なのだ。失望というより、しょうがないとさえ思っていた」

 

 最初に遭遇した時のコスモちゃんは大分凶暴だったもんなぁ。

 カツミ君を問答無用で殺しにかかっていたし、思い込みが激しいということも分からなくもない。

 

「ジャスティスクルセイダーに与したことについては俺から特になにもいうことはない。だが、いつかこの俺を含めた序列上位と事を構えることは覚悟しておけ」

「覚悟しております」

「ならいい」

 

 そこで一区切りつけるようにコーヒーを口にした一位は穏やかに微笑んだ。

 

「いい顔をするようになった。余裕もなく、ただ認められたいと考えていた頃とは比べ物にならないほどに成長してくれたようだ」

「父上……」

「そのまま迷わず進むがいい。お前は運命という大きな流れの中にいる。そこで何を成すかは、お前次第ということだ」

「……はい」

 

 そこで会話が途切れ沈黙が店の中を支配する。

 敵とはいえ、ちゃんと父親をしていることに素で驚いてしまった。

 

「さて、次はお前達だな」

「「「!」」」

 

 一位の視線が私達へ向けられる。

 無意識に左手のチェンジャーに右手を添えながら、一位の反応を見る。

 

「いい加減、表に出てきたらどうだ」

 

 私達を見ながらおかしなことを言う一位に首を傾げる。

 表に出てくる? 誰が?

 ———ッ。

 不意に頭の中で“身に覚えのない記憶”が溢れ出てくる。

 眩暈と共に倒れないようにカウンターに手をつくと、アカネも葵も私と同じように額を手で押さえている。

 

「お、お姉ちゃん!? アカネさんにきららさんも大丈夫ですか!?」

「……なに、これ……!」

「夢の中の、記憶……?」

「アサヒ、様?」

 

 そうだ、私達はずっと夢の中で鍛え続けられていたんだ。

 ジャスティススーツのエナジーコアのアルファ、アサヒ様に。

 

『下手な小細工は考えるな』

 

『こじんまりと構えるなみっともない』

 

『もっとこう、でかく攻めろ』

 

『でかいのはその乳と尻だけかァ!!』

 

 結構なセクハラをされた上に夢の中でボコボコにされた記憶しかない。

 だがそれでも私たちにとっては夢の中で鍛えてくれていた師匠とも言える存在だ。

 ……そのはずである。

 

「首狩りサディスティック女武者……!!」

「精密キルマシーン弓ゴルゴ……!!」

「怪力バカ力斧お姉さん……!!」

 

 全て思い出した。

 夢の中でとんでもないスパルタ教育を施されていたことに……!!

 それぞれが夢の中の訓練を思い出し、思い思いの呼称を口にした直後、不意に隣のアカネの身体から力が抜け、私によりかかってくる。

 

「アカネ? どうしたん?」

「む、心配ない」

 

 すぐに意識を戻したアカネはそのまますくりと立ち上がると、自身の身体を見回しながら軽く背伸びをする。

 ……いや、待って、アカネじゃない!?

 

「アサヒ、様?」

「あまり表に出るつもりはなかったのだがな。だが生前のわらわを下した者がいるとなれば出るしかなかろうよ」

「あ、アカネはどうしているんですか!?」

「心配ない。了解はとっている」

 

 了解はとっているって……。

 僅かに瞳を赤く光らせたアカネはそのまま一位を見ると、口角を歪ませる。

 

「久しぶりだなぁ、ヴァースよ」

「貴様の言っていたことが現実となったな」

「わらわは虚言を吐かん。あの死合いを境に可能性は開かれ、今に至っている」

 

 そう言葉にしながら一位の前の席に近づいたアサヒ様は先に座っていたコスモちゃんにひらひらと手を振る。

 

「ほれ、ちょいずれろ緑頭」

「緑頭!? うぇ!? ど、どくから押し込むな」

 

 コスモちゃんを奥に押し込むように椅子に座ったアサヒ様は尊大に座りながら足を組む。

 うーん、尊大な態度は夢の時から変わらないようだ。

 

「本当は表に出たくなかったんだがなぁ。なんならこのまま正体すら明かさずにいたいとすら思っていた」

「そりゃ悪かった。余計なことをしてしまったようだ」

「全くだ。……故に、わらわが自分の意思で表に出てくることは最後だ。聞きたいことがあるなら今のうちに話せ」

 

 いや、なんかアカネとは思えない大人のオーラ出ているんだけど。

 気品とかそこはかとない妖艶さも出て、アカネの残念さが完全に消え失せている……!?

 

「……いや、ないな」

「む?」

「貴様の存在が確認できた時点で用は済んだようなものだ」

「……くくっ。娘もできて落ち着いたように見えても貴様は変わらず堅苦しいままだな」

 

 くつくつと笑うアサヒ様。

 一位とアサヒ様は旧知の間柄だった?

 恋人、という感じではない。

 むしろアサヒ様は敵意むき出しって感じだ。

 

「こいつらは強いぞ。いずれは貴様の命に手を掛けるほどには」

「だろうな。貴様が見出した適合者だ。そうでなくてはつまらん」

 

 そこで会話を終わらせた一位が立ち上がり、マスターへと視線を向ける。

 

「長くいれば迷惑になるだろう。さて、お代を払おう」

「い、いえ、そんな! 父上、どうせここはしけた店なので払わなくても大丈夫です!!」

 

 コスモちゃんにしけた店呼ばわりされたマスターが額に青筋を立てた。

 

「コスモの言う通りお代は結構ですよ。ちゃんとこいつのバイト代から引いておくんで」

「なんでだよ!!」

 

 マスターに食って掛かるコスモとその様子を微笑ましく見ている一位という混沌とした状況。

 さらにここで上階から社長とカツミくんが降りてくる。

 社長は息を切らしてこれ以上になく動揺しているけど、カツミ君の方は分かっていたかのように一位を見ていた。

 

「ゴールディか」

「先生……!」

「お前にそう呼ばれる資格は俺にはない。だが……壮健そうでなによりだ」

 

 続いて社長の隣にいるカツミ君を見る。

 

「会うのは二度目だな、少年」

「あんたは……」

会話(・・)は楽しんだかな?」

 

 会話……?

 一位のその言葉に一瞬目を見開いたカツミ君が大きなため息を零す。

 

「はぁ、楽しめるはずがないだろ」

「ハッハッハ、そんなことを口にできるのは君くらいのものだろうな。だからこそ、あの方は惹かれるのだろう」

「こちとらいい迷惑だよ……」

 

 愉快気に笑った一位はそのまま私たちに背を向ける。

 

「ではな、中々に楽しめた」

「父上……」

「娘の元気な姿も見れたことだしな」

 

 ごく普通に扉から出ていく一位。

 その姿を呆然と見送ることしかできなかった社長は、そのまま床にへたり込むように座る。

 

「まさかここに直接彼が来るとは……。グリーン!! どうして序列一位が父親だと言わなかった!! もう変な汗かいてしまったではないか!!」

「知ってるもんだと思ってたんだよ。あとボクをグリーンって呼ぶな!!」

知るかこんのボケェ!! あれだぞ!? 序列一位だぞ!? ルインに次ぐやばい存在がこんな気軽さで来たんだぞ!? あちらがその気ならここら一帯は撫で斬りにされるくらい大変な事態なんだぞぉ!!」

 

 大の大人が泣きながらコスモちゃんに詰め寄るんじゃない。

 割と本気で引いているコスモちゃんを庇い……あれ? 何かを忘れているような気が……あっ。

 

「アカネ!! 元に戻った!?」

 

 そういえばアサヒ様に乗り移られたアカネを忘れていた。

 すぐに彼女がいた場所に振り向くと、アサヒ様はカツミ君の前に立っていた。

 身長差からアサヒ様が見上げる形でカツミ君と目を合わせているけど、当の彼は睨みつけるような視線を向けている。

 

「……誰だアンタ。アカネをどうした」

「心配するな。わらわは“じゃすてぃすすーつ”の“こあ”だ。暫し、アカネの身体を借りて話しているだけ、もちろん本人も了承していることだ」

 

 カツミ君がジッとアサヒ様を見る。

 目を細め無言になる彼にこっちまで戦慄すると、すぐに彼は肩の力を抜いた。

 

「確かに、ヒラルダとは違うな……乗っ取ったわけじゃないな」

「わらわをあの毒婦と一緒にするでない。それとあまり見るな。アカネがうるさくなる」

 

 警戒を解いたカツミ君は気まずげに頬を掻いた。

 

「あー、はじめまして。穂村克己です」

「アサヒだ。敬称もなにもいらん。呼び捨てで構わん」

 

 あれ? アサヒ様、初めて会った時私達に敬称をつけろとか言ってなかったっけ?

 露骨な扱いの差を感じるのだけど。

 おもむろにカツミ君の頬に手を添えたアサヒ様が微笑を浮かべる。

 

「しかし、いざ目の前にしてみると不思議な存在よな」

「えっと……」

「我が“可能(・・)”が切り開いた可能性……くふふ、これも運命の一つというやつか」

 

 ……いや、ちょっと近くない?

 アサヒ様? なんかとてつもなく嫌な予感がするのですが。

 

「どれ、ヘタレなお前らのためにひと肌脱いでやることにするか」

「は?」

 

 一瞬、その時なにが起きたのか理解できなかった。

 不意にカツミ君の背中に手を回したアサヒ様INアカネがあろうことかその唇を奪……奪った!!?

 

「!?」

「む、失敗か」

 

 いや! いつの間にかカツミ君の頭にだけ白騎士の仮面が展開されている!?

 アサヒ様の行動は仮面により阻まれ失敗に終わったようだ!

 

「ガウ!!」

「ふん、嫉妬深いことだ」

 

 この場にいる全員がアサヒ様の突然の行動に驚愕していると不意に彼女の身体が脱力する。 

 元のアカネの人格に戻ったようで、ふらつく彼女を仮面を消したカツミ君が支える。

 

「おい、アカネ。大丈夫か?」

「!!??」

 

 自分が先ほどしようとしたこと。

 目と鼻の先にいるカツミ君。

 その他諸々の感情がごちゃ混ぜになったんだろう。

 

「ぎゃ……」

「ぎゃ?」

「逆に背徳感ッ」

 

 状況を把握し、目を見開き一瞬で顔を茹でだこのように真っ赤にさせたアカネは白目を剥いて気絶してしまった。

 

「あ、アカネェェ——!!?」

 

 そんな彼女を慌てて支えたカツミ君だが、私達の心境は穏やかなものではなかった。

 確かに、仮面越しはそれはそれで衝撃的なのは分かる。

 むしろ中途半端に成功してしまっているといってもいい。

 

「仮面越しといえど絶許」

「せやねぇ」

「……」

 

 正直、ここでアカネを張り倒してでも起こしてやりたいが、腹が立つことにアカネが一概に悪いとは言えない……いや、アカネも悪いなやっぱり許せんわ。

 確信犯のアサヒ様は寸前で内に引っ込むという徹底ぶりである。

 

「なんだか分からねぇがカツミも苦労してるなぁ」

「な、なんだ? どういう状況だ? まさかジャスティススーツのコアも既に意思を表面化させていたのか!?」

「ホムラ。お前一度、誰もいない場所で休んだ方がいいんじゃないか……?」

 

 まあ、とりあえずは社長にアサヒ様のことや一位のことについて報告しておかないと。

 特にアサヒ様については私たちにとってもかなり重要なことなのでしっかり説明しておこう。




やりたい放題のアサヒ様でした。
ようやく彼女の存在も知られることに。

アサヒ様憑依状態はイマジンとかが近いかもしれませんね。

今回の更新は以上となります。


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毒になりたい彼女

お待たせしました。

前半はきらら視点。
後半からはカツミ視点となります。

今回は外伝で登場したキャラが新たに登場しますが、ゲスト出演のようなものなのでご安心をー。


 ジャスティスクルセイダーにとって学校は大切な日常の一つだ。

 侵略者という驚異から地球を守る使命を背負っている私達もここではただの学生だ。

 アカネと同じように進学はしないと決めた私も、勉強こそはしているけど三年の……残り少ない学校生活を過ごしている。

 でも、最近私には気になることが……ある。

 

「きらら。食欲ないの?」

「え、いや、そういうわけじゃないけど」

 

 お弁当を手にしたまま思考に耽ってしまった私に同じクラスの友達、香織が話しかけてくる。

 

「まさかダイエット……? 食べた栄養が胸に吸収されるきららが?」

「英子。同性相手でもセクハラになるって知ってる!?」

 

 そしてもう一人、いきなりセクハラ発言をかましてきたもう一人の友人、英子に頬を引きつらせる。

 私が考えに耽っていた理由は机をくっつけたこの場にいるもう一人———此花灰瑠にある。

 3年生になってから同じクラスになった面々だが、特にハイルに関しては聞きたいことで一杯だった。

 

「どしたのきらら? そんなに私のこと見て」

「ハイルってさ。穂村克己くんと隣の席だったって言ってたよね?」

「うん、そうだよー」

 

 いや、軽っ。

 驚くほどあっさりと頷かれてしまったことに驚く。

 

「黒騎士くんの中の人ね。実は私って穂村君が黒騎士って妄想して夢小説書いていたから個人的にはジャストヒットして嬉しかったわ」

「どうしよう、きらら、香織。友達の業が深すぎる秘密をカミングアウトさせられたんだけど」

「もう手遅れすぎるから放っておきなさい」

 

 そういえば英子も香織もカツミ君と同じクラスだったんだ。

 二人もなにか知っているのだろうか?

 

「二人はかつ……穂村君となにか関わりはあったの?」

「いいや、全然。妄想ではキャラ付けしてたけど。暗い過去を持つ心の傷を抱えたまま孤独に生きる系男子とか」

「英子、笑えないからそれ」

 

 英子をハイルが窘める。

 心なしかその声は強張っているように見えるが、当の英子は気まずげな様子で視線を逸らす。

 

「いや、だって本当だとは思わなかったじゃん……」

 

 ある意味でカツミ君が学校に通っていた時点でそう考えていたならもの凄く勘がいいな。

 葵もそうだが、オタクというのは何かしらの直感に優れているのだろうか。

 

「私もあまり関わってないかなー。ハイルもそうでしょ?」

 

 話を戻すように口を開いた香織の言葉に一瞬だけ動揺を露にさせた彼女はぎこちない笑みを浮かべる。

 

「私は結構話してたよ」

「……えっ、初耳なんだけど」

「へぇ、意外ねぇ。ハイルってあまり男子に興味ないと思ってたのに」

 

 あれ? でもカツミ君はハイルの記憶を認識改編で変えたって……。

 でもどのレベルで変えたとは聞いてないしなぁ。

 

「ハイルが穂村君と話していたのって隣の席だったから?」

「それもあるけれど……」

 

 一旦言葉を区切ったハイルは懐かしむように笑みを浮かべた。

 

「友達、だったから」

 

 私達よりもずっと早く彼と“友達”だった存在。

 この子には何かある。

 そんな予感をしながら彼女の言葉を頭の中で反芻させていると、ふと思い出したようにハイルは握りこぶしを作る。

 

「でも次会ったら一度ど突いてやりたいね!」

「な、なにかあったの……?」

 

 ちょっと引きながらそう質問するとハイルは苦笑しながら口に立てた人差し指を添えた。

 

「秘密!」

 

 もしかしてだけど、この反応からしてアルファの認識改編が解けている?

 いや、彼女の能力はそれこそ“自然には直らない”ものだからそんなことがありえるはずがないけど……いったいどういうことなんだろう?

 これは社長に伝えた方がいいのか?

 カツミ君をハイルに会わせた方がいいのか?

 でもでも、そんなことしたらカツミ君がド突かれちゃうし……。

 

 そうこう思い悩んでいるうちに昼休みが終わりを迎えた。

 そのまま普通に授業を終えた私は、家には帰らずサーサナスへと向かう。

 

「来たよー」

「うぃっす」

「こんにちは! きららさん!」

 

 サーサナスの二階には既に葵とハルちゃんがおり、いつもの如く姉妹の個性が分かる挨拶を返してくれる。

 

「アカネは?」

「本部でジャスティビットの調整があるからそっちに」

「ふーん、あ、カツミ君も本部?」

 

 だったらハイルのことをもう一度聞きたいんだけど。

 だけど葵は首を横に振った。

 

「え、いないの?」

「うん。今、お出かけ中」

「一人で?」

「アルファと一緒に」

 

 お出かけ中、か。

 意外だな、葵なら例え妹がいようともついていきそうなものだけど。

 

「葵はついていかなかったの?」

「流石に私も空気くらいは読める」

「「!?」」

 

 今年一番驚いたかもしれない。

 思わず晴ちゃんと顔を見合わせてしまった私たちに葵はため息を零した。

 

「お墓参り」

「え?」

 

 呆気にとられる私に葵ははっきりと口にする。

 

「今、両親のお墓参りだって」

 


 

 両親の墓は都会から離れた霊園にある。

 自然も多く、今の時期はそれほど人気のない場所。

 これまで怪人やら異星人の侵略やらで数年単位で墓参りをできていなかったので、改めて自分の折り合いをつけるべく墓参りをしようと考えたのだ。

 レイマにも許可をもらってきたわけだが、一人だけでは向かうべきではないということで今回はアルファに一緒についてきてもらっている。

 

「……」

 

 綺麗に掃除した墓の前で手を合わせ目を瞑る。

 ここ三年間、怪人やら侵略者のこともあってここに来ることもできなくなっていたのだ。

 

「カツミはもう許してるの?」

「ん?」

「両親のこと」

 

 隣で俺の真似をするように手を合わせていたアルファがそんなことを聞いてきた。

 

「少なくともさ……あの事故が起こる前までは、いい両親だったんだよ」

「……そっか」

「そういうことだ」

 

 俺の中ではもう結論が出ていることなので恨むとかそういう時期はもう過ぎているんだ。

 アカネ達のおかげでもう夢にうなされることもないしな。

 墓を離れ、手拭いがかけられたバケツを持ってその場を離れる。

 

「いつまで戦いが続くんだろうね」

「分からん。もしかしたら、戦いそのものは終わらないかもしれないな」

 

 もしも、ルインとの戦いが終わったとしてもそれで一件落着……と楽観視しているわけじゃない。

 俺たちは……いや、地球は外にいる宇宙人の存在を知ってしまったんだ。

 同時にそれは宇宙にいる奴らも地球の存在を知ったということになる。

 もう地球はこれまで通りに宇宙人というあやふやな存在に空想していたような時代に戻れない。

 

「……私はどっちでもいいかな」

「ん?」

「私はカツミがいればそれでいいし。それ以外なにもいらない」

 

 会った時からこいつはずっとそうだったからな。

 

「私は生まれた時から一人でずっと彷徨っていた。母親がいたって認識は一応あるけれど会ったこともないし、今更興味もない」

「……」

「でもそれから当てもなく進んで、導かれるようにカツミに出会った」

「ついでにアカネともな」

 

 ぽん、とアルファの頭に手を乗せる。

 それだけで機嫌をよくする彼女に苦笑しながら、最近アカネから聞いた話を思い出す。

 俺としてはアルファと初めて遭遇した時に助けた奴がアカネだったとは思いもしなかった。

 

「もしかしたらそれも導かれた可能性の一つかもしれないね。アカネもカツミと同じように普通とはちょっと違うから」

「……家は一般家庭だったけどな」

「正直、私はまだ疑ってるよ」

 

 いや、信じられねぇけど家はマジで一般家庭だった。

 姉二人の押しの強さとか、飼い犬のきなこの懐き具合とか普通ではなかったけれども。

 

「そういえばさ、お前此花の記憶になにかしたか?」

 

 昔のことを思い出したのでついでとばかりにアルファに尋ねてみる。

 俺の質問にアルファは露骨に視線を斜めに逸らした。

 

「……な、なにもしてないよぉ」

 

 嘘つくの下手くそかおい。

 じろりと隣のアルファを見ると露骨に目を逸らして挙動不審になる。

 

「……はぁ、お前にも嫌なことをやらせちまったからな。怒ってないから安心しろよ」

「カツミ……!」

 

 今思えば俺もあまりにも自分本位だった。

 此花の気持ちもなにも考えずに記憶を消してしまったからとてつもなく申し訳ない気持ちだ。

 

「あの子。もう記憶が戻っているよ」

「幽霊怪人の影響はないのか?」

「あれは一時的なものだから影響はないよ」

 

 此花灰瑠は幽霊怪人の被害者だ。

 

 俺があのクソッタレな怪人を嫌う理由の一つがこれだ。

 俺と関わっていたからあいつは幽霊怪人の標的にされ、その精神に大きな傷を負った。

 もし少しでも俺が助けに入るのが遅かったらあいつは廃人になっていたかもしれなかった。

 

「あの時のカツミ、正しくないよ」

「……分かってる」

 

 幽霊怪人の記憶だけを消せば此花は廃人にならずに済んだのだ。

 だが、巻き込んでしまったあいつを見て……俺は、これ以上あいつと関わるべきじゃないと思い込んだ。

 だから俺はアルファに頼んで“これまで俺と関わってきた記憶”を変えさせた。

 学校では話もしたこともなく、ただ挨拶を交わす程度に顔を知っているだけの他人ということになった。

 

「あの時はごめんな」

「謝るならあの子にね」

「……そうだな」

 

 アルファにも嫌な思いをさせた。

 こいつだって好き好んで俺の友達の記憶を弄んだわけじゃなかった。

 俺が頼んでやらせたようなものだから、アルファに責任はない。

 

「……待て。どのタイミングで記憶が戻った?」

「カツミの過去が暴露された時」

 

 ……はい?

 

「考え得る最悪のタイミングじゃねぇかよォ!! 時間何時頃!? まさか夕ご飯の時じゃねぇだろうな!?」

「えぇと、うん! 夕食時くらい!!」

世の家族団欒の中で俺の過去暴露とか罪深いにも程があるだろ!! お茶の間の食欲をなくすわ!!」

 

 深く考えてなかったがとんでもねぇ時間帯に俺の正体暴きやがったなガウスの野郎。

 だとしたら、俺の正体と過去のアレを此花の両親は……、ッ!

 いや、記憶云々抜きにしても完全に俺のことに思い至っただろう。

 

「一度、会っておくべきか……?」

 

 あれこれ他人に吹聴するような奴じゃねぇのは分かってる。

 だが記憶が戻っているというなら一度、レイマに保護してもらって話だけでもちゃんとしておいたほうがいいかもしれない。

 溜息をつきながらバイク———ルプスストライカーへと到着した俺は、シロに出してもらったヘルメットをアルファに渡す。

 

「ほれ、行くぞ」

「うん」

 

 さて、サーサナスに戻って———ッ!!

 覚えのある異質な気配。

 どろりとしたそれを即座に感じ取った俺は無理やりにアルファをヘルメットをかぶせ、バイクに乗せる。

 

「わぷっ!? ちょっとカツミ! いくら私でも自分でも乗れるって!!」

「プロト。ルプスストライカーでアルファをサーサナスに」

『分かった!』

 

 ルプスストライカーから伸びた光のベルトがアルファを固定し、そのまま一人でに走り出す。

 乗っているアルファは困惑の悲鳴を上げているが、今はあいつをこの場から逃がす方が先決だ。

 

「近くにいるのは分かってんだよ。出てこい」

「なぁんで分かっちゃうんだろう」

 

 空を飛んだルプスストライカーが見えなくなったところで一人の女性が姿を現す。

 風浦桃子……に憑依している侵略者、ヒラルダ。

 妙な気配を纏わせた奴は変身もしないまま笑顔で俺の前に出てきた。

 

「タイミングを見て出てこようと思ったのになぁ」

「要件を言え」

 

 ここまでわざわざ追ってきたのか?

 下手に風浦さんの身体を傷つけるわけにもいかず警戒していると笑みを浮かべたまま、奴は俺の目の前で立ち止まる。

 

「桃子を返してあげる。」

「……は?」

 

 そう言葉にするやいなやヒラルダの身体が分裂する。

 光と共に二人に分かれたもう一人は、脱力するように地面へ倒れようとしていたので慌てて支える。

 

「っ、大丈夫ですか!?」

「……」

「ヒラルダ!! どういうことだ!!」

 

 風浦桃子をヒラルダから解放するのは俺達の目的のはずだった。

 だが、ここで解放する意味が分からない。

 

「別になにも仕込んでないよ? ちゃーんと地球人基準で規則正しい生活を送っていたからむしろ健康体だよ?」

『ガウ!!』

 

 彼女のスキャンを行ってくれたシロも問題ないと言ってくれているがいまいち信用できない。

 でも病院に連れて行かないと……!!

 

「それにもう他人に取り付く必要もなくなったんだよね。もう私は自分の身体を作って動けるってわけ」

「じゃあ、なんで風浦さんの姿のままなんだ……!!」

「え、可愛いし気にいっているから? だって私の生身の姿を再現するの昔のこと思い出して嫌になっちゃうしぃ、貴方にとって印象深い姿の方がいいでしょ?」

 

 ……笑っているが、こいつは自分自身を嫌っている?

 少なくとも俺にはそう伝わった。

 

「これで貴方も手加減せずに私と戦えるよね?」

 

 そう言葉にした奴が虚空から何かを出現させる。

 それは、俺のグラビティグリップやミックスグリップに似たアタッチメント。

 五色の注射器のような装飾が施された長方形型のそれを手にした奴は、そのまま自身の本体であるバックルを出現させる。

 

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

 

「ついに、待ち望んだこの時がきた……!」

 

 ヒラルダが手に持ったアイテムを自身の本体であるバックルに重ねるように装着させる。

 瞬間、奴からとてつもない感情のようなものが俺へ伝わってくる。

 

Let's(一緒に) go down together(どこまでも堕ちていこう)……(……)

 

 絶望に染まったヒラルダの機械的な声が発せられた直後に、接続されたアタッチメントから五つのアンプルのようなものがバックルに突き刺さり、なにかを注入する。

 それらは混ざり合い、混沌とした色へと変わり煙となってバックルから溢れだした。

 

『愛して!』——l
l——『見捨てないで』

『どうかわたしを許さないで』 

VENOM(ヴェノム) SCORPIO(スコーピオ)

l——『忘れないで』
『私を見て』——l

 

 背後に煙となって現れる巨大なサソリの怪物。

 サソリの怪物は、その煙でできた尾で自身の身体を抱きしめるように苦しみだしたヒラルダの胴体を後ろから貫いた。

 

「うっ、ぁ……あは……!!」

 

 煙の中で苦しみながらヒラルダは笑う。

 ピンクと緑の入り混じった毒々しい煙の中にいる奴の身体を鎧が纏っていく。

 黒い複眼の中で星のような転々とした輝きを放つマスク。

 丸みを帯びたアーマーに鋭利な指先が目立つ両腕に、サソリの尾を思わせる両肩の鎧。

 腰には毒々しい桃色のマントが出現し、奴がマントを翻した瞬間———纏っていた煙を払いその姿を現した。

 

MODE(モード)VENOM(ヴェノム) SCORPIO(スコーピオ)

I can't turn back now(元には戻れない)……(……)

 

「ヴェノムスコーピオ。星界エナジーは反転しアンチ星界エナジーとして私の手中に堕ちた。ふっ、ふふ、あぁ、すごくいい気分」

「……いいのかよ、それで!! そんな様で……!!」

 

 強くはなった。

 それこそ俺達とまともに戦えるほどに。

 だがその姿は、あまりにも痛々しすぎた。

 

「ようやく見てくれた」

「ッ」

「こんな様でいいの私は。こんな様で、救いようのない末路を望んでいるの!!」

「ああ、そうかよ!!」

 

 風浦さんを駐車場の日陰に横にさせた俺はベルトから飛び出したシロを掴み取る。

 出現させた金色のグリップをドライバー装着し、変身したヒラルダを睨みつける。

 野郎、好き勝手に人に願望押し付けやがって……!!

 ルインもそうだが、こいつもこいつでよォ!!

 

TRUTH(トゥルース) DRIVER(ドライバー)!!】

 

「その面倒な破滅願望ごとテメェをぶっ飛ばしてやるわ!! やるぞ、シロ!!」

 

ARE YOU READY?(いつでもいいよっ!)

 

NO ONE CAN STOP ME!!(誰にも君の邪魔はさせないから!!)

 

 シロを変形させたトゥルースドライバーを装着し変身を行う。

 こいつは死にてぇのか救われてぇのかどっちか分からない。

 ただ一つ言えることは、こいつがとんでもなく面倒で厄介極まりねぇ奴だってことだ!!

 




ちゃんと空気も読めるブルーでした。

地味にヒラルダの変身のフォント選びに苦労しました。
もし特殊タグなどがズレていたら申し訳ありません。


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同格と激怒

お待たせしてしまい申し訳ありません。

今回は主人公視点でお送りします。


 俺の前に現れた敵、ヒラルダ。

 こいつからはちぐはぐな感情が強く伝わってくる。

 “私を殺して”

 “私を助けて”

 相反する思いを真っすぐに俺へと叩きつけてくる奴に俺は非常に面倒くさい輩に目をつけられたと悟った。

 ルインもそうだが、こいつらは俺をなんだと思っていやがるんだ。

 

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)……』

 

『『『TRUTH FORM(トゥルース フォーム)!!!』』』

 

「はぁ……」

 

 溜息をつきながら変身を終えた俺は手の中にワームホールを作り出しながら上機嫌な様子のヒラルダを睨む。

 

「場所を変えるぞ。ここじゃ、風浦さんが巻き込まれる」

 

 今のヒラルダは非常に厄介な存在へと至っている。

 こいつと戦闘しながら風浦さんを守りながら戦うのは無理だ。

 ……こいつも一応風浦さんに対して思い入れみたいな感情はあるようだから、戦いに巻き込むのは本意ではないはずだ。

 

「その必要はないよー」

「……あ?」

「怒らないでよぉ。君と戦う空間は私が用意してあげるからさっ」

 

 そういうやいなやヒラルダがその掌に光を帯びた球体を作り出す。

 それは徐々に巨大化し、奴自身と地面を呑み込みながら俺へと近づいてくる。

 

【ARENA→→№31243】

 

 ……空間を作り出す技か。

 警戒しつつ球体に呑み込まれると俺の視界には、先ほどいた駐車場とは異なる光景が広がっていた。

 草一つないむき出しの大地が広がる場所。

 頭上には大空こそあるが周囲にはそり立った崖しかなく、まるでくりぬかれた大地の中に俺とヒラルダは立っていた。

 

「どう驚いたでしょー?」

「ルインの技とは違うな」

「……ちょっと、あんな時間の流れすらも超越する技と比較しないでよ」

 

 この作り出された空間と外の時間が流れる時間は同じ。

 壊そうと思えば壊せるが、相手がわざわざ風浦さんを巻き込まない場所に引きずり込んでくれたんだ。

 

「遠慮なくやらせてもらおうじゃねぇか……!!」

「今の私でどれだけできるか、試させてもらおうかな」

「そんな暇があればな!!」

 

 地面を蹴り、あいさつ代わりの蹴りをヒラルダに叩きつける。

 奴は避けることなく構えた腕で受け止め、不可視の壁のようなもので俺の攻撃を真っ向から受け止める。

 

「障壁……?」

「バリアだよ。星界エナジー由来の、ね!!」

 

 腕を跳ね上げ、俺ごと空中へ弾いた奴が取り出した桃色の銃の銃口をこちらへ向けエネルギー弾を放ってくる。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

 この程度のエネルギー弾当たるかよ。

 空中で腕を翻しながら召喚したリキッドシューターで連続で撃ち落とす。

 

「! あはは!!」

 

 フレアカリバーを召喚し掴みとりながら奴へと斬りかかる。

 腕のサソリの尾を模したような武装で剣を受け止めながらヒラルダは高揚とした声を漏らす。

 

「貴方と私って似てる」

「あぁ!?」

 

 どこがだ!!

 見た目も全部違うだろうが!!

 さらにフレアカリバーを召喚、空いた手で掴み取り炎を纏わせる。

 俺の武器による攻撃を両腕に纏わせた謎のバリアのようのもので防ぎながらヒラルダはさらに笑う。

 

「貴方が攻撃するだけで大地が割れ、風が嵐のように吹き荒れる!」

「うるせぇ! ポエムなら他所でやれ!!」

 

 力の限りにフレアカリバーをぶん投げ、代わりにライトニングアックスを手に取り大きく掲げ電撃を纏わせる。

 空間そのものを震わせる雷を纏わせたそれを眼前に叩きつけ、強烈な雷をヒラルダへと殺到させる。

 

「ッ、あ、はぁ!!」

TOUCH(タッチ!)!』

 

 バックルを叩いた?

 なにかしてくるのか……?

 

レッド   エナジー

RED ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション)

 

 数秒ほど両腕のバリアーで防いだものの一瞬で粉々に砕けるのを目にした奴はさらに笑いながら、逆にこちらへ突っ込んでくる。

 不自然に加速してくるあたり、まだまだ能力があるようだな!!

 

CHANGE(チェンジ)!! →TYPE(タイプ) YELLOW(イエロー)!!』

 

 こちらも高速移動形態へとフォームチェンジし、地面を蹴りヒラルダと攻撃を交わす。

 奴の腕とこちらの斧が何度も激突し、稲光に似た光が弾けていく。

 数度の激突の後に、再度互いの得物をぶつけるように静止した俺たちは鍔迫り合いをする。

 

「似ているところは他にもあるよ!」

「聞いてねぇ……!!」

「貴方は愛されていたんだよね」

「俺の話、聞こえているか! おい!!」

 

 まったく俺の言葉が届いている気がしないんだが!?

 こいつルインよりひでぇかもしれねぇぞ!!

 だってあいつ話は聞かねぇが俺の言葉はちゃんと聞いていたし!!

 

「愛していた実の両親に裏切られた」

 

TOUCH(タッチ!)!』

 

 ヒラルダがバックルを叩きなんらかの技を発動させる。

 

 グリーン  エナジー

GREEN ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション)

 

 緑のエネルギーがバックルから手の銃型の武装へと流れ込み毒々しい光を放つ。

 

「ッ」

DEADLY(デッドリィ) (ワン)!!』

 

 こちらも必殺技を発動し、炎を纏わせたフレアカリバーを下から上へと振り上げる。

 壁のように放った炎がエネルギーの奔流とぶつかりあい相殺するが、炎の中を潜り抜けたヒラルダが俺へと突っ込んでくる。

 

「私も同じだよ! 愛する人に裏切られるって辛いよね? 悲しいよね? 殺したくなるくらいに憎くなるよね!?」

「テメェ、俺をわざと怒らせようとしてんな?」

 

 俺の怒りを煽ってなにがしたいのか知らねぇが、お望みどおりに本気でぶっ飛ばしてやるわ。

 

GRAVITY BLACK(グラビティ ブラック)!! → OK(オーケー)?』

 

 バックルを叩きフォームチェンジを行う。

 だがそれと同時にヒラルダがこちらに手の平を向け、俺と同じようにバックルを叩いた。

 

CHANGE(チェンジ)!』

JAMMING(ジャミング)!!

『 TYPE BLACK(タイプ ブラック)!!』

 

 重力特化の形態、タイプブラックへの形態変化が強制的に止められる。

 黒に変わりつつあった姿が無理やり白へと戻された瞬間に、ヒラルダの蹴りの直撃を受ける。

 

「ッ」

「だーめっ。そんな危ない姿にさせてあげなーい」

 

 フォームチェンジが強制的に止められた!?

 バックルを見ればシロが僅かにショートしており、なにかしらの異常が起こっているのが分かる。

 

「私の毒はあらゆるものを阻害する。それは古代のアルファも例外じゃないんだぁ」

「っ」

「まっ、さすがにすぐに対処されちゃうけど嫌がらせくらいにはなるよねぇ!!」

 

「だから貴方は私と同じ。だから分かるはず!! 愛していた人に裏切られる苦しさを!!」

 

TOUCH(タッチ!)!』

HIGH(ハァイ)! TOUCH(タッチ!)!』

 

 奴がバックルを二度叩くと赤色のアンプルがエネルギーを再注入する。

 

レッド   エナジー

RED ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション) SECOND(セカンド)!!』

 

 注入されたエネルギーがバックルから腕のサソリの尾の刃へと流れ込み、先ほど同じ毒々しい光を発する。

 

「これは……!」

 

 光は肥大化し、巨大なサソリの尾を形成———そのまま俺めがけて振り下ろされた。

 即座に攻撃に対応すべくバックルを叩く。

 

CHANGE(チェンジ)!! →』

JAMMING(ジャミング)!!

TYPE(タイプ) BLUE(ブルー)!!』

 

「だーめ♡」

 

 ッ、また妨害しやがった。

 フォームチェンジを防がれそのまま赤い尾の一撃を正面から叩きつけられた俺は、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ、が!!」

 

 大地を割り、遥か後方の山までに深い傷跡を刻み付けた一撃。

 その一撃を受けながら防御に構えた腕を解きながら、立ち上がる。

 

「どう? 少しは堪えた?」

「……」

 

 不覚をとったことは事実だが、ダメージ自体は大したことない。

 だが、ここまで嘗めたことされて黙っているだなんて冗談じゃねぇ。

 

「———人が黙っていればぐだぐだと」

 

 調子に乗るのも大概にしろよ。

 人にされて嫌なことは他人にしちゃ駄目って教えられなかったのか?

 だがよォ、俺はワルモノだから普通に嫌なことしてやるわ……!!

 

「シロ、バトンタッチだ」

『……ガウ』

「悪い、お前じゃあいつと相性が悪い」

「そう簡単にできるかなぁ!!」

 

 当然、阻止しようとするヒラルダ……だが、そんなことは織り込み済み。

 グラビティバスターを取り出し、さらにミックスグリップを装填しレバーを引く。

 

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

aaaXaaa

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

RED

YELLOW

BLUE

BLACK

 

 二つのルーレットが回りだし、もう一度レバーを引き停止させる。

 シロの解析能力によりこの状況で最も適した色を導き出される。

 

BLUE(ブルー)!!!】

BLACK(ブラック)!!!】

 

 ルーレットが停止し、それぞれの属性を司る二色が表示。

 グラビティバスターに青と黒のオーラが放出、銃口へと集約されたところで———ヒラルダのいる空間へ向けて引き金を引く。

 

GRAVITY(グラビティ)BUSTER(バスター)!!』

FINISH(フィニッシュ)!! IMPACT(インパクト)!!』

  ミックス    チャージ

『MIX CHARGE!!』

 

「そんなもの、当たらな……ッ!?」

 

 拡散・追尾するエネルギーの嵐。

 銃口からいくつも飛び出したレーザーは回避するヒラルダを追尾し、直撃するごとに奴の身体を重力で縛り付けていく。

 

「攻撃じゃない!? ぐ、あぐ!?」

 

 そもそも攻撃するためじゃなく足止めのためのもの。

 重力の檻で拘束されたヒラルダを見据えながら一旦変身を解除した俺は、左手のプロトに声をかける。

 

「プロト、行けるか?」

『うん! アルファも無事に送り届けたしいけるよ!』

「やるぞ」

 

ARE YOU READY(準備はいい?)? 』

NO ONE CAN STOP ME(もう誰もあなたを止められない!!)!!』

 

 ルプスからプロトワンへ。

 変身がまだ完了していないままに、光を放つ粒子を腕で薙ぎ払いながら重力の檻に囚われたヒラルダに拳を叩きこむ。

 

CHANGE(その名は)→』

 

「勝手に俺を分かった気になって———」

 

TYPE 1(タイプ・ワン!!)!!』

 

「一緒にすんじゃねぇぞコラァ!!」

「ッ!!?」

 

 重力の檻ごと粉砕させながらヒラルダを地上へ叩きつける。

 地面にクレーターを作り出しながら激突した奴に、さらに追撃の蹴りを上から見舞う。

 ギリギリで地面を転がるように回避したヒラルダがが、結構な動揺を見せている。

 

「や、やっぱりこっちの貴方は苛烈すぎくらいだね……」

「変に対処する方が面倒だろ。特にお前相手はな」

 

 こいつ相手に変に考えて戦う方が相性が悪い。

 トゥルースフォームじゃ対策が取られんなら、プロト1でまっすぐ小細工なしで圧倒してぶん殴る方向でいけばいいだけだ。

 全身に力を籠め、首の噴出口から赤いマントのようなエネルギーを放出させる。

 そのまま力の限りに大地を蹴り———爆発するように勢いで、唖然としているヒラルダに拳を叩きつける。

 

「バリアが、一撃で!?」

「バリアを出す怪人なら地球にもいるんだよ!!」

 

 だがヒラルダのソレは怪人以上ではあるが、砕けないほどではない。

 拳に赤い光を纏わせて直接ぶん殴り、そのまま彼方まで殴り飛ばし———さらに先回りして上空へと蹴り上げる。

 

「ちょぉっとやばすぎるよね! 休憩させてよ!!」

 

 吹き飛ばされながらヒラルダが掌をこちらに向ける。

 また動きを阻害してこようとしているが、気合で我慢してぶん殴ってやる。

 そう意気込むが、ヒラルダの妨害が発動しても俺のスーツに異変が起きることはない。

 

「なっ、もう一度!!」

 

JAMMING!!

『カツミに触れるな』

 

「ひっ」

 

 プロトから発せられた声にヒラルダが自身の身体を抱きしめるように怯えた様子を見せる。

 

『もう同じ失態は繰り返さないと決めた。二度と私のせいでカツミを危険に晒さない』

 

 セイヴァーズによる強制変身解除。

 プロトにとってもあの時のことは強く印象に残っているのだろう。

 ———俺も同じだ。

 

「あの時と同じことにはならない!」

 

 ヒラルダの放つ赤いオーラを拳で粉砕。

 エネルギー弾諸共、突撃する勢いで相殺させながら奴に拳を放つ。

 

「ッ!」

「テメェの不幸を俺に重ねてんじゃねぇ!! 同情してほしいなら素直に言えや!! 別に悪いことじゃねえだろうが回りくどいんだよやり方がよォ!!」

「そんな、言い方……」

「お前、俺がそんな優しい気遣いできる奴に見えたのかァ!?」

「……」

 

 小さく頷くなよ!!

 ちょっと引き気味に頷いたヒラルダにマジかよと思う。

 こいつはちぐはぐだ。

 過去にいつまでも纏わりつかれて、前を見ることもできなくなっている。

 

「そもそも人の姿真似たままなのは嘗めてんのかお前はよぉ!!」

 

 過去の辛い記憶を思い出すから本来の自分になりたくない?

 それは結構!! だがそのまま俺の過去を煽って同情してくるのは違うんじゃねーのか!!

 

「好き勝手に……私のことも知らないで!!」

「知るかよ! 会ったのは3,4回目ぐらいだろうが!!」

 

 その程度しか遭遇してねぇのに散々俺を煽ってきたお前に言われたくねぇわ!!

 下からの蹴り上げで上空へ打ち上げられたヒラルダを見据え、全身に力を籠める。

 

「自分を語らねぇ奴が他人に理解してもらおうだなんて思ってんじゃねぇ!」

 

 全力で前へ身体を動かし、全身のエネルギーを変換させ推進力へと変える。

 プロトゼロからプロトワンになってから、さらに思う存分にスーツを動かせるようになった。

 だが、まだその先があることを俺は漠然と理解していた。

 今この隔絶された空間の中なら———、

 

『スーツが赤く……! カツミ、もっといけるよ!!』

「おうよ!!」

 

 各部から放出される赤いオーラがスーツを取り巻き、プロトワンの姿を真っ赤な色に染め上げる。

 腕、足だけではなく胴体すらも黒から赤く変貌したことに内心で驚きながらも地面を蹴り、上空へと飛び出す。

 

「な、なに、その力っ……おかしい!」

 

 大地が砕けるほどの衝撃を伴いながら瞬時にヒラルダの前に移動し止めの一撃を放とうとしたその時———周囲の空間がガラスのように砕け散った。

 

「ッ、プロト。どういうことだ!?」

『カツミの力に空間が耐えられなかったみたい』

 

 脆すぎだろ。……いや、地球で絶対にやっちゃいけない類の力の出し方はしていたか……!!

 疑似的な空間が消え去ったことで、俺とヒラルダは元居た位置、風浦さんが寝かされている駐車場へと戻る。

 

「どうやら命拾いしたね。私が」

「……」

 

 赤く染まっていたスーツが熱が冷めるように黒色へと戻っていく。

 いったいどういう原理か俺にはよく分からねぇが、この力はおいそれと地球では出せないことはよく分かった。

 

「いい経験になった。私はまだまだ力を扱いきれてない。それがよく分かった」

「いい加減に懲りろよ」

「懲りないよ。この戦いでよく分かった。私の目的は正しかったんだって、ね」

 

 そう言葉にしたヒラルダは不気味に笑う。

 全然懲りた様子がないし俺の言葉を分かった様子もない。

 この場に風浦さんがいなかったら始末できたものを……。

 

「いい体験をさせてもらったついでに忠告してあげるよ」

「……なんだ?」

「私とルイン様以外に暗躍してる輩がいるってこと。もう動き出している頃なんじゃないかな?」

「……もっと役に立つ情報寄越せや」

「ふふっ、じゃーね」

 

 なんの情報にもならない情報を吐き出したヒラルダは、煙を吹き出しその場から消えてしまった。

 追跡もできるが、まずは風浦さんだな。

 そう思い彼女を抱えながら移動しようとすると、頭上を高速で移動する赤いビークルが横切りそこから一人の戦士が降りてきた。

 

「———黒騎士くん、状況は?」

「アカネか。ヒラルダには逃げられたけど、風浦さんは確保した」

 

 アカネは本部にいたから早くここに来れたのか。

 彼女が来たことに一安心しながら、彼女のビークルに風浦さんを乗せる。

 

「戦闘の状況だけは聞いていたけど、強敵だったみたいだね」

「ああ。面倒な技を使ってきた」

 

 今回は勝ちこそしたがトゥルースフォームとはかなり相性の悪い敵だった。

 いや、プロトワンに防戦一方だったのは奴が自分の力を扱いきれていなかったからだ。

 次戦った時は同じようにはいかないだろう。

 

「それはそうと、黒騎士くん」

「なんだ?」

 

 不意にアカネがこちらを振り向き話しかけてくる。

 ……妙に面倒くさい雰囲気がするぞ。

 

「黒騎士くんのスーツが赤くなったのって……」

「は? なんか力んだら赤くなったんだよ」

 

 ……ん?

 

「いや、勘違いすんなよ?」

「え? ……ふーん、そーなんだー」

 

 本当にそう思っていなかったようで、きょとんとした表情の後にニマニマとした笑みを浮かべるアカネにしまったと戦慄する。

 しまった墓穴堀った。

 つーかなんで赤くなったんだ?

 俺も原理はよく分からんのだが。

 

「それより風浦さんは大丈夫そうか?」

「とりあえず本部で検査を受けさせた後に一般の病院に移動って感じだろうね。対応自体は怪人の時とそこまで変わらないと思う」

「……そうか」

 

 まあ、身体的なことは大丈夫そうだ。

 そこらへんはヒラルダの言葉を信じていいだろう。

 

「影で動き出している奴ら、ね」

 

 ヒラルダのあの口ぶり、妙に引っかかるな。

 なにか悪いことが起きなければいいんだけどな……。

 

 




傾き文字で色々な悪さができることを知りました。

今回、トゥルースフォームはヒラルダに対して相性が悪かった感じですね。
トゥルースフォームは万能型、プロトワンは殴り特化なので全体的には明確な差はありません。

今回の更新は以上です。


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情報整理と姉妹喧嘩配信

お待たせしました。
今回は社長視点でお送りします。


 カツミ君が星界戦隊に与していた星将序列、ヒラルダと交戦した。

 黒騎士、並びに白騎士の性能ならば難なく倒せていたはずの敵だったはずが、ヒラルダは以前とは隔絶した戦闘力を備え彼の前へ立ちはだかった。

 星将序列40位代……レッドの証言によれば実力を隠し、二桁上位クラスの力を有していた厄介な敵だった奴がさらなるパワーアップを果たしたということになる。

 

「スーツの映像を確認する限り、奴は星界戦隊の能力を備えたとみるか」

 

 それもただ集約しただけではない。

 さらに大幅に力を増し、白騎士のフォームチェンジシステムにまで介入することまで可能にさせている。

 

「……ヒラルダ。いったい何者なのだ」

 

 奴がコアにされたアルファだということは知っている。

 それもコアにされた後で独自に行動する独自の進化を遂げている。

 

「重力加速にトゥルースドライバーへのジャミング……単純な戦闘力も白騎士と同程度。うぅむ、星界エナジーについては私もそれほど詳しくはないが……」

 

 星界エナジー。

 それは星界戦隊そのものを差すものではなく、この宇宙とは別の次元に満たされたエネルギーのこと。

 正直、このエネルギーについては解明されてはいない。

 星界戦隊とは星界エナジーに選ばれた、または見出された戦士というだけで出自自体に特別な点はない。

 

「調べようにも表れる場所、時間そのものに規則性がなかったからな。この地球の星界エナジーのサンプルを確保したとしても保存できる装置すらもなかった」

 

 エネルギーそのものに大本の意思がある。

 少なくとも私はそう見ている。

 ……グリーン曰く、星界戦隊を裏から操っていた危険な存在がいると報告されているわけだから、ほぼ確実なのだろうが———ヒラルダはどうだろうか?

 

「奴はそれとは別の思惑で動いているのか?」

 

 少なくとも奴には星界戦隊の面々に見られるような精神的な錯乱は見られなかった。

 カツミ君に対して破滅的な感情は抱いてはいたが、モータルレッドのように狂ってはいなかったし、モータルブルーのように心が死んでもいなかったからな。

 

『マスター』

「タリアか」

『私見をよろしいでしょうか?』

「構わん」

 

 私の助手でありゴールドスーツの補助を任せているエナジーコア、タリアの声に頷く。

 

『ヒラルダは星界戦隊のコアを取り込んだのではないのでしょうか?』

「……ふむ」

『星界剣機と呼ばれる五つの剣から成る兵器。あれらには我々エナジーコアに似た強力な反応が五つみられました』

「破壊されたはずでは?」

『それもヒラルダの計算通りだとしたら?』

 

 ……その可能性は大いにあるな。

 あの戦いでヒラルダはうまく立ち回っていた。

 多少は身体こそ張っていたが最終的にはほぼ無傷で生き残りいつの間にかその姿を消していた。

 

「つまりは奴は五つのエナジーコアを取り込んでいる状態、ということか」

『単純に五倍ということではないでしょう。コアの力を引き出すのは装着者の素養と相性。加えて星界エナジーそのものは固有の意思すらない、ただの力の塊です』

「だがそれでも強敵だ。プロトワンでジャミングを無効化できたが、ジャスティススーツでそれができるかは分からん」

 

 カツミ君とヒラルダの戦闘データを元にしてジャミングへの対策を行わなければ。

 レッド達ならばスーツの機能が妨害された程度、なんら支障はないと思うが、これは私の沽券にもかかわることだ。

 

「……。だがそれ以上に……」

 

 深紅の色に染まったプロトワン。

 ぶっちゃけ製作者の私でさえなにが起こっているのか全然分からない。

 過剰駆動によるオーバーヒート、と片付ければそれでいい。

 実際、それも一つの原因だろう。

 

「カツミ君のエナジーコア……プロトの力か」

『彼女はとても強力な存在ですが、それは分かりかねます』

「……同じエナジーコアの君が言うのか」

『彼女も、白騎士のコアも。我々はアンノウンで製造されたコアですが、彼女たちはそもそもの起源が異なっています』

 

 そもそも双子という点だけで異常なのだ。

 同じ星に同一のアルファもオメガも同時に存在することができない。

 いくら双子とはいえ共食いが始まってしまうからだ。

 

「……謎が尽きないというのは、科学者冥利に尽きるな」

 

 カツミ君と言う可能性の塊は、いつだって私の予想の遥か上を超えてくる。

 それにほんのちょっぴりの恐怖と———技術者故の高揚が沸き上がってくるほどだ。

 

「コアといえば、ジャスティススーツだ……」

『アサヒと呼ばれるエナジーコアですね』

「ああ……」

 

 アレ……いや、彼女か。

 彼女はいつから目覚めていた?

 もしかすると最初から? だとしたらレッド達という素質のある適正者を選んだ理由にも納得がいくが。

 

「こちらから接触しようにも全く応じてくれないのはな」

『気難しい、というよりその必要性を全く感じていないようです。ですが星将序列一位と面識、ないしは好敵手と思える関係性がある時点でコア製造前はとてつもない戦闘力を持つアルファだったかと』

「先生……あの一位が敵として見据える時点で普通ではない。それにアサヒという名……」

 

 安直ではあるが地球由来のコアの可能性が高い。

 もしや白紙化された以前の地球のアルファが彼女だったのだろうか。

 それを調べる術はないが……。

 

「肝心のレッド達も皆一様に彼女を恐れていて、師として教えを受けていたということしか分からなかった」

 

 だが戦闘経験が足りないジャスティスクルセイダーが短期間であれだけ戦闘力が向上した理由には合点がいった。

 

『アサヒ様は鬼です。人の首を跳ね飛ばして、首から下を嬉々として蹴り上げるやばい人です』

 

『愉悦主義者。罠にかけた獲物をいたぶるのが好き。矢で跳弾させるやばい人』

 

『怪力お姉さんです。おしとやかに見えてセクハラもしてくる上に結構な脳筋なやばい人です』

 

 一度そう証言した三人に鏡を見せてやりたい衝動に駆られた。

 もしやそういう素養込みでレッド達三人が選ばれたんだなと確信してしまった。

 

「アサヒについてはこれ以上の追及は難しいか」

『そのようですね。それはそうと……マスター』

「む? どうした?」

『そろそろ休憩なさってはどうですか?』

 

 ふむ。

 確かに少し疲れているな。

 まだまだしなければならない案件が山ほどあるが、タリアの言う通り休憩するか。

 

「ああ、少し休息をとるとするよ」

『少し、ではなくしっかりと休憩なさってください。前回の睡眠から87時間32分35秒経過しております』

「私は宇宙人だから大丈夫なのだよ」

『……』

 

 タリアの無言の後に壁から飛び出したアームが私の周囲を取り囲む。

 アームの先端には対怪人用のショックガンや捕獲用マニュピレーターが装備されており、その先端が私へ向けられている。

 

「あの、タリア? む、無言で壁から電気ショックガンを装備させたアームを出さないでくれますか? ちゃ、ちゃんと休む! 三時間ほど睡眠をとる!!」

『六時間以上の睡眠を推奨します』

「そんな贅沢が私に許されていいはずがないだろう!? アッ、タリア!? そのウィィィンってチャージされてるショックガンはあれかね!? 最大出力かな!? わ、分かった分かった!!」

 

 くっ、健康体にされてしまう……!!

 ガシャガシャーン、と音を立てて壁に折りたたまれていくアームを見てため息をついた私は、ひとまず画面を整理しつつ―――ふと、あることを思い出す。

 

「今日はカツミ君が日向君の配信に招待された日では?」

『はい。現在、基地内の配信スタジオにて配信中です。この私とプロト様、そしてグラト様などのスタッフがついているので万が一の心配はないかと』

 

 ……まあ、よほどのことが起こらなければ事故にはならんだろう。

 それにジャスティスクルセイダー、並びにカツミ君のイメージアップのためだ。

 彼らも一人の人間と認識されるように民衆に親しまれやすい一面をどんどん見せていかなければな。

 

『あ、ですが今回は途中から葵様が乱入なされました』

「もう事件起こってるではないかぁ!」

 

 あの超絶自由人が乱入するとかもう事故が決定したようなものだぞ!?

 それに日向君は平常時はクール系配信者だが、姉が絡むと大声になるしなにより負けん気が強くなってもう大変なことになる!

 

「とりあえず配信を確認しなくては……!!」

『睡眠は?』

「この後すぐに寝るから今は許して!!」

 

 急いで動画サイトを開き、日向君のチャンネルを開くとその配信のサムネが出てくる。

 

第壱話あああああああああああ

士、襲来ああああライブ

 

「……果たしてこのサムネは大丈夫なのだろうか?」

 

 ものすっっっごい既視感。

 日向くんのテンションの高さぶりが伺えるが、なんだろうか。

 こちらもノリ良く許可こそしたが心配になってきた。

 

 

「でもお姉ちゃんって

 

「ナオも意外とズボラ」

 

基本的に駄目人間」

 

プロレスきちゃ

バチバチに殴り合ってて草

バッサリ斬られたwww

やb

黒騎士くん置いてけぼり

空気悪くない?

黒騎士くんを無視するな

おもろすぎるだろ

ズボラVS駄目人間VSダークライ

い つ も の

姉妹でお互いを蹴り落すの草

□    ライブ
 
     

♯雑談

雑談回:特別ゲストの日[黒騎士さん]

XXXXX人が視聴中

高評価  低評価 チャット  共有 保存 …

蒼花ナオCHANNEL 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 始まったとたんにバチバチに殴り合っているのだが。

 バッサリと日向君の発言を切り裂いたブルー。

 そんな二人の間で借りてきた猫のようにおとなしくなっているカツミ君。

 確実にもう一波乱やらかしている空気だァ……。

 

『あのさ、私はお姉ちゃんと違ってイメージがあるんだから適当なことを言わないで』

『まるで私が駄目人間みたいなイメージあるのやめてくれる?』

『えっ』

『……。黒騎士くん? ねえ、なんで私と目を合わせてくれないの?』

 

・これは駄目人間

・多分、種別の違う駄目さや……

・普段の言動がスピリチュアルすぎる……

 

 姉妹なんだから似ているのはある意味当然なのでは? と思うが、それは当人にしか分からないのだろう。

 というよりブルーが駄目な方向で突出している事実は変わらないのでは?

 

『つまりは私が変人という点も合わせて世間で受け入れられているということでは?』

『無敵かお前』

『かつみん、私は駄目でか弱いから養って』

『俺の迷惑を考えろ』

『そうだよね。これからは私たちの問題だね』

『無敵かよお前ぇ……』

 

・人の心がないんか?(恐怖)

・無敵すぎる

・調子に乗るなよブルー

・今からスタジオ乗り込むぞコラ

・ブルーはクール枠、そう思っていた頃がありました

・この変人なんとかできるのは君だけや

・チャット欄に怖い人湧いてるよぉ

 

『それに引き換え我が妹は……』

 

 そこで日向君を見るブルー。

 首を傾げる彼女にブルーは笑みを零す。

 

『フッ』

 

 奇妙な沈黙が場を支配する。

 その空気の中、意外と空気が読めるカツミ君が場を賑わせようとした瞬間———、

 

 

『可な

 

 笑に

 

 しが

 

 い

 

 !! 』

 

『蒼花!?』

 

・声やば

・とんでもない音圧www

・い つ も の

・なんもきこえんなった……

・鼓膜いかれるで

・草

 

 えげつない音圧を発した日向くんにびっくりするカツミ君。

 私が作り出した黒騎士くんアバターも肩を跳ねるほどの彼の驚きを正確に再現している。

 

「もう堪忍袋の緒が切れた。バカ姉、黒騎士さんの前でボロ雑巾にしてやるから覚悟しておけ」

「やってみせろよ、ナオティー」

「私が大抵のネタに乗ると思ったら大間違いだァ!!」

 

 これもう事故では?

 ……いや、いつものことか。

 こういうのをプロレスと言うのだろう。

 蒼花ナオの配信は大抵ブルーが関わると事故になるので私にとっても見慣れたものだ。

 カツミ君に気を遣いつつ、まずは事態を見守ろう。

 

「妹よ。コントローラーを取れ。ゲームで決着をつけよう」

「上等……!!」

「え、え、今からゲームすんの? どうするんだ?」

 

・ごく自然な流れだァ……

・草

・黒騎士くん完全置いてけぼりで草

・あわあわしててかわいい

・まさかの黒騎士が常識人枠www

 

「お前ら落ち着けよ! スタッフの人達困ってるし」

「え? 黒騎士君、まさか負けるのが怖いの?」

「……。やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」

 

・草

・草

・草

・イエローとレッドも投入しよう

・乗せられやすい:弟ポイント+5

・熱しやすいキャラしかいないwww

・草

・解釈一致

 

 ……。

 案外大丈夫そうだな。

 後はスタッフのグラトとタリアに任せてモニターから視線を外した私は暫しの睡眠をとるべく椅子から立ち上がる。

 その際に腰やら背中の骨がバキバキと音を鳴らす。

 

「うぅむ、自覚はしてないが結構疲労が溜まっているかもしれんな」

 

 ここはシャワーでも浴びておこう。

 そう思い移動しようとすると背後の扉が開き、大森くんが入ってくる。

 

「失礼します。おや、お休みするところでしたか?」

「む、出直さなくてもいいぞ。……風浦桃子の診断結果が出たか?」

「ええ」

 

 大森君からカルテを受け取り中身を確認する。

 風浦桃子、19歳。

 数か月の間、ヒラルダという寄生型エナジーコアに憑りつかれていた人間。

 都内の大学二年生。

 キャンパスからの帰り道にヒラルダに憑りつかれ、そのまま失踪。

 現在は解放され、この本部で後遺症がないか検査を受けている。

 

「特殊なエナジーコアに憑りつかれていただけに念入りに検査こそしたが……見たところ異常はなさそうだな」

「まだ目覚めていない、という点で心配にはなりますけど」

「軽い昏睡状態だろう。あと数日以内には目が覚めるはずだ。……あとはもう少し検査を重ねてそれでも異常がなかった場合は、都内の病院に移動させよう」

「了解です。……ご両親への連絡は……」

「当然、伝えるべきだろう」

 

 大事な家族が数か月も行方不明だったのだ。

 事情が事情だけあって彼女の周囲のサポートもこちらが負担しておかなければな。

 

「……本当に異常がなくてよかったですね」

「ああ。だがまだ楽観視はするなよ? 引き続き風浦桃子には護衛をつける」

「分かってますってー」

 

 ヒラルダに憑りつかれた地球人、か。

 奴が見出す時点でそれなりの素養はあるはずなので、それを狙った輩が出ないとも限らない。

 だからこそ一先ずは様子を見ていくしかない。




またもや荒ぶるブルー妹でした。

今回の更新は以上となります。


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異常事態と緊急事態

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

今回はあえてフォント少な目。
主人公視点でお送りします。

今回の話は『【外伝】となりの黒騎士くん』
第10話『となりのホムラくん 3』
第11話『となりのホムラくん 4』
の要素を含みます。


 ヒラルダの襲撃から約二週間が過ぎた。

 その間、本部に搬送した風浦桃子さんは本部に所属する医療スタッフにより検査を受けることになった。

 地球外の存在であるヒラルダに数か月もの間憑依されていたのだ。むしろ何かしら影響がある可能性が高いとすら思われていた。

 しかし結果は異状なし。

 ヒラルダのいう通りただ眠っているだけという状態にあった彼女は、その後都内の病院へと搬送され厳重な警備に守られその目覚めを待っていた。

 

「かっつん、異常がないっていうならもう大丈夫なんじゃないの?」

「そうなんだけどな……」

 

 現在、俺は風浦さんが入院している病院にいた。

 その場には暇を持て余していたアルファとハクアも同行しており、俺を含めて正体がバレないように軽い変装をしている。

 

「なにか心配なことでも?」

「なぜか胸騒ぎがしてな……」

 

 大きな病院とあってか平日でもそれなりに人が多い。

 幸い、完璧な変装をしていた俺の正体がバレるようなことはないが怪しまれる前にレイマに事前に教えてもらった風浦さんの病室に向かおう。

 足を止めずにそのまま受付へと足を運び、声をかける。

 

「すみません。風浦桃子さんのお見舞いに来た者ですが」

「! も、申し訳ありませんが身分を証明できるものを提示してください」

 

 職員の女性が驚きながら机の下からメタリックカラーのバインダー型の端末を俺の前に差し出す。

 手首のXプロトチェンジャーをバインダーにかざすと端末が緑の光を放ち、チェンジャーをスキャンする。

 

「か、確認いたしました。……ほ、本物だ」

 

 物珍しい視線を向けられむず痒くなりながら説明された場所へと進む。

 

「驚かれてたね」

「そりゃそうだろ。いろいろ暴露されちまってんだから」

 

 ここはジャスティスクルセイダーと繋がりのある病院らしく、必然的にそこに所属している職員と医師もジャスティスクルセイダーのことを知っているといってもいい。

 

「かっつんの場合、別の意味でも名前が知られてると思う」

「別の意味って?」

「晴ちゃんの配信」

「あの話はするな……」

 

 自分でもちょっとはっちゃけすぎたと後悔しているくらいだ。

 

「……病院にくるのも久しぶりだな」

「カツミってほとんど風邪とか引かなかったもんね」

 

 アルファの言葉に苦笑する。

 俺の場合、風邪をひいたとしても病院の世話になるほどでもなかっただけだけどな。

 少し前に俺が白川克樹だった時期に風邪を引いたがあれは地味に珍しかったりする。

 

「ハクアは少し前までは看護師だったんだっけ?」

「仕事していたのはここじゃなくてもっと小さいところだったよ」

 

 俺が記憶を失っている時期だったが実年齢一歳未満で仕事をしていたという時点でなかなかに壮絶だと思うわ。

 

「で、でも私、帰ったらかっつんがいると思ったらそれほど辛くなかったよ」

「俺をヒモみたいにいうんじゃない」

「……」

「無言になるのやめろよおい」

 

 満更でもなかったような感じ出すのやばいだろ。

 記憶喪失の時のことはちゃんと覚えているんだからな……?

 そんな会話をしている間に、風浦桃子さんの病室の近くへと到着する。

 他の患者の病室から離れたその病室の前には黒いスーツを着たガードマンのような者が立っており、彼らは俺たちの姿を見ると、無言のまま小さく頭を下げてくる。

 俺たちも軽く頭を下げながら病室の扉をノックしようとして——不意に扉が開かれ、中から白衣姿の男性が出てくる。

 

「! 君は……」

「っ」

 

 この人は……。

 間近で視線が合い動揺してしまう。

 

「そうか、君ならばここに来てもおかしくはないな」

 

 納得するようにそう呟いた彼は肩の力を抜くと優しく微笑む。

 

「風浦桃子さんはまだ眠っているけど、お見舞いはしても大丈夫。彼女のご両親もつい先ほどここに来ていたよ」

「……はい」

 

 そこで道を開けた彼に頷き、病室へと足を踏み入れる。

 事情を知らないアルファとハクアは不思議そうに首を傾げながら俺へ話しかけてくる。

 

「かっつん、今の人は知り合いなの?」

「私も知らないけど……」

「少し前に世話になってな。まさかあの人が風浦さんの担当医だったなんて思いもしなかった」

 

 世の中本当に何が起こるか分からないもんだな。

 だが、逆を言えば信頼できる人物がここにいてくれたよかったとも言える。

 

「さっきの人の苗字は此花(このはな)だ」

「え、それって……」

「ああ」

 

 アルファも気づいたのか驚いた表情を浮かべた。

 こいつは此花のことを知っているからな。その父親が今すれ違った人とくれば驚くのも無理はない。

 

「……後で此花の様子でも聞いておくか」

 

 アルファの認識改編で幽霊怪人にあった日のことは忘れているが、それでも彼女と俺が同じ学校に通っていたことは知っていたはずだ。

 あまり深く聞かずに元気にしているかどうかさえ聞ければ十分だ。

 

「まずは風浦さんだな」

 

 先に彼女の様子を確認しなければ。

 そう思い扉から病室へと入ると、ベッドで眠っている彼女の姿が視界に入り込む。

 別に重傷を負っているとかそういうこともなく、ただただ昏睡状態にあった彼女は穏やかな表情のまま眠っていた。

 そんな彼女の顔をハクアとアルファがのぞき込む。

 

「特に異常はないと思うけど……」

「カツミ、私はなにも感じない。そっちは?」

「……」

 

 なんだこの感覚。

 目の前で眠っているのは間違いなく風浦……風浦桃子さん本人だ。

 だがその一方であいつの……ヒラルダと同じ気配を感じる。

 

「でも奴じゃない……?」

 

 ヒラルダに憑依されていた名残? が残っているのか?

 それともヒラルダが風浦さんになにか……いや、あの場に限っては奴は彼女のことを気遣っていたし、いい方は悪いがこんな回りくどいことをするほど奴は風浦さんに利用価値を見出していない。

 

「カツミ?」

「変に誤魔化さずにはっきりと言うぞ。風浦さんには確実になにかが起こっている」

「気のせい……ってわけじゃなさそうだね」

 

 明確な根拠はないが確信してしまっている。

 

「でも本部で検査を受けているときはなにも感じなかったんだよね?」

「ああ」

 

 それは確かだ。

 だが、現に今眠っている彼女は妙な気配を放っている。

 ヒラルダから分離した直後はなにも起きていなかったのかもしれない。

 奴から離れるか、それとも単純な時間経過で彼女の中で何かが起きた……その可能性も高い。

 

「風浦さんが目覚めたとき、彼女本人なのかはたまたヒラルダなのかそれは俺にも分からない」

 

 だが、目覚めなくては分からない。

 助けたからには中途半端に家族の元に帰していいわけがない。

 きっちりと問題全部ひっくるめて解決して、彼女を元の生活に戻さなくちゃならない。

 

「改めてレイマに伝えとくべきだな。アルファ、ハクア。ちょっと連絡してくる」

「ん、分かった」

「私たちはここにいるね」

 

 そう断りを入れながら俺は病室を出る。

 チェンジャー越しの通信とはいえ病院内で連絡するのは憚られるので一旦外に出ようとエレベーターのある方へと向かうと———風浦さんの病室の近くで先ほどすれ違った白衣姿の男性が待っていることに気づく。

 ……多分、俺が出てくるのは待っていたのだろう。

 俺にとってもこの人は知らない人じゃない。

 

「あー、えーと。はじめましてかな。穂村克己くん」

「……お久しぶりです。先生」

「! 覚えていて、くれたのかい?」

「当時は色々と気にかけてくださってありがとうございました」

 

 名前を知ったのは一年ほど前だが、この人とは子供の頃に会っていた。

 10年前の事故———両親を失い搬送された病院で俺の担当医をしてくれた人が彼だ。

 まさかそんな人が此花の父親だとは思いもしなかったわけだが……世の中本当に分からないもんだ。

 

「あれから10年も経ったんだね」

「ええ……」

 

 両親を失った直後はただただ無気力だった。

 生きる気力もなく、どんな言葉をかけられようとも反応すらしないし、泣きもしない。

 傍から見れば本当に不気味な子供だったんだと我ながら思う。

 でも、そんな俺にこの人は励ましの言葉をかけてくれていた。

 

「君のことはずっと気がかりだった。あんな辛い体験をした君が今どうしているのか、普通の……幸せな日常を生きているのか心配だった」

「……」

「奇しくも、あの事件で君のこれまでのことを知ってしまったけれどね」

 

 ガウスが俺の過去を世間にバラしたせいでこの人にも知られちまったんだよな。

 そしてこの人の娘である此花にも。

 

「……」

「……」

 

 沈黙が流れる。

 先生も俺も何から話せばいいか分からない。

 それくらいの時間が経っているし、二年前と違ってこの場には此花がいないから余計に会話がぎくしゃくしているようにすら感じる。

 

「穂村君」

「はい」

 

 ようやく口を開いた先生に返事をする。

 

「君は今、幸せか?」

 

 先生の言葉に少しだけ考え込む。

 自分が幸せかだなんて考えたこともなかった。

 改めてここ数年のことを振り返ってみると、思いの他すんなりと答えは出た。

 

「幸せかどうかは自分でもよく分かりません。なにせ、地球がこんなことになってますから」

「……はは、それはそうだ」

「でも、少なくとも人の縁には恵まれていると思います」

 

 良くも悪くも、ではあるが。

 だがいい意味で俺は縁に恵まれすぎているくらいだ。

 

「そうか。なんというべきか、大きくなったね」

「まだ十代ですけどね」

「それでもだ。当時の君を知る身としては、君がそう言葉にしてくれることはとても嬉しいことなんだ」

 

 そういうものなのか。

 少しだけむず痒くなってしまったな。

 こんなことアカネ達の前では絶対に言えんな。

 ……そろそろ此花がどうしているか尋ねてみるか。

 

「そういえばですね」

「うん?」

 

 できるだけ怪しまれず自然に聞こう。

 まかり間違って俺が此花のストーカーみたいに思われたらやばいどころの話ではないからな。

 

「多分ですけど、俺が学校に通っていた頃に先生の娘さんと会ったことがあるんです」

「え、どういうことだい?」

 

 首を傾げる彼に続きを説明する。

 

「いえ、此花という苗字も珍しいですしもしかしたらなって。彼女にも父親が医者だって―――」

「私に、娘?」

 

 ……待て。

 なんだ、この反応。

 まるで俺が此花のことを知っていることに驚いているわけじゃない。

 嫌な予感がする。

 ここ最近の胸騒ぎが胸の中でどんどん大きくなってくるのを感じる。

 先生は困惑した……いや、無意識に青ざめたままその口を開いた。

 

 

 

「私に、娘はいないのだが……?」

 

 

 

 その言葉を最初、認識できなかった。

 数秒ほどしてようやくその異常を理解し、彼の目を見る。

 嘘をついていない、むしろいきなり黙り込んでしまった俺を気遣う彼の瞳に事態の深刻さを理解させられてしまう。

 

「先生、いったいどういう――。―ッ」

『きゃあああああぁぁ!?』

 

 背後、風浦さんのいる病室から強い思念のようなものが伝わってきた。

 気持ち悪く、どんよりとしたそれに思考を遮られながら即座に後ろを振り向くと風浦さんの悲鳴が聞こえてくる。

 それと同時に病室を開けたハクアが血相を変えて通路にいる俺を呼んでくる。

 

「ッ、カツミ!! いますぐ来て!!」

「ああ!!」

 

 此花のことも急いで調べなきゃならないがまずはこっちが先だ!!

 先生と共にすぐに走り出し、風浦さんの病室へと駆けこんだ俺の視界に映り込んだのは———、

 

「なんだ、これ」

 

 病室に置かれていた戸棚、医療機器、そして彼女自身が横になっていたベッドがフワフワと宙を浮いている光景だった。

 

「!」

 

 その真ん中で空中に浮いている自分と周りを見た風浦さんが、俺に気づき———空中で急加速し俺の胴体目掛けて頭から突っ込んできた。

 

「おぼぉ!?」

「黒騎士……くんっ、私、なにが……どうなってっ」

 

 飛び込んできた風浦さんを庇いながら後ろに倒れた俺に、彼女は混乱しながら嗚咽を漏らす。

 その開かれた彼女の双眸には、ヒラルダと似たような桃色の光が帯びていた。

 

「いったい、なにが起こっているんだよ……」

 

 此花のことを覚えていない父親。

 異様な力に目覚めてしまった風浦桃子。

 あまりにも立て続けに起こる事態に、俺はそう呟かずにはいられなかった。

 




【次回予告】
記憶を取り戻し悶々とした日々を送る少女、此花灰瑠。
そんな彼女に第六位アズの卑劣な魔の手が迫る。

悪意に晒されながらも必死に逃げるハイル。
しかし、なんの力のない無力な彼女に抗える術などあるはずがなかった。

次回、追加戦士になりたくない黒騎士くん

第125話
最 強(さい きょう) 漢 女(おと め) 伝 説(でん せつ)



次回の更新は明日の18時を予定しております。


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最 強 漢 女 伝 説

二日目、二話目の更新となります。
前話『異常事態と緊急事態』を見ていない方はまずはそちらをー。

今回は此花視点でお送りします。

時系列的には主人公がヒラルダと戦っていた時くらいです。


 彼のことを思い出したのは、あの夜のことだった。

 

 いつもと変わらない夕食時。

 病院勤めのお父さんが帰ってきて、お母さんを含めた家族三人で夕食を食べている時に映し出されたテレビに“彼”が映り込んだ。

 

「あれ? 今から天気予報のはずなんだけど……どうしたんだろう?」

 

 元の番組から切り替わるようにノイズを走らせるテレビ画面。

 リモコンを持ったお父さんがチャンネルを切り替えても映像は変わらず、私達の日常で最早見慣れた白い戦士の姿を映し出した。

 

「白騎士? ど、どういうこと?」

「さっきニュースでまた怪人が出たって騒ぎがあったが、まさかこれも関係しているのか?」

 

 都市に出たと言ってもここからかなり離れた場所だから大丈夫かと思っていた。

 でも、今テレビに映し出されているのはここ数か月、宇宙からの侵略者を相手に戦っていた正義のヒーローこと白騎士。

 そんな彼の前には不定形の煙のようなナニかが浮いている。

 

「……ぅ」

 

 その煙のような怪人を見ているだけで胸がざわつく。

 なにかに苦しむようにうずくまった白騎士の鎧が消える。

 誰もがその正体を知りたいと思っていた姿。下を向いたまま未だに顔すらも見えないけれど、私とそう変わらないほどの年頃の彼に一緒にテレビを見ていたお母さんは言葉を失っていた。

 

「まだ子供じゃないか」

 

 呆然としたお父さんの呟き。

 不意に目に悪い濁った金色の鎧を着た宇宙人が嬉々とした声を上げた。

 

『さあ、注目せよ! お前達がヒーローと呼んだ男の正体を!! 大衆が望んだその秘密を!!』

 

「やめて……」

 

 自分でもどうしてそう呟いたのかは分からない。

 でも彼の正体を明かすことはいけないことだと、なぜかそう思ってしまった。

 そしてその考えは間違いではないことを次の瞬間には無理やり理解させられてしまった。

 

『ご存知だろうか!! 10年前にこの日本を騒がせた“奇跡の子”穂村克己を!! たった一人生き残ってしまった少年を!!』

 

「———ほむら……?」

 

 彼の前で変形を繰り返していた怪人(・・)が二つに分かれ、彼の目の前に地面に落ちる。

 べちゃり、と画面越しでさえも不快な音を響かせたソレは血を地面にまき散らしながら、呆然と顔を上げた彼を憎悪に染まった瞳で睨みつけた。

 

「あ、あぁ……」

 

 私はその光景(・・・・)を知っていた。

 

「痛い……助けてくれ……」

「カツミ、アァ、貴方なのね……」

「父さん……? 母さん……?」

 

「私達はお前のせいで、死んだ!!」

「お前がいたから!!」

「代わりに死んでしまえ!!」

「そうだ!! お前が生き残ってどうなる!!」

 

 二年前のあの時と同じように両親から責められる黒騎士。

 

「俺のせいなんだよ」

 

「最初からあいつの狙いは俺だった。此花は巻き込まれただけだ」

 

「俺のせいで危ない目に遭わせる訳にいかない。こいつには、家族がいるんだ。俺と関わるせいであの人たちまで巻き込みたくない」

 

 彼は自分を責めた。

 私が幽霊怪人に襲われたのも自分のせいだと。

 そんなはずはないのに。

 

 

「怪人の記憶を消して、俺と関わった記憶を変えてくれ」

 

「此花が、今日まで俺と関わった記憶だ。勿論、その周りの人たちの記憶も」

 

 

 その末に彼が選んだ選択は私を守るためのものだった。

 

「……思い出した」

 

 なんで忘れていたんだろう。

 あの夜、訳も分からず涙した理由がようやく分かった。

 私は、ずっと守られていたんだ。

 

「ほむら、くん」

 

 私は、彼を知っていた。

 穂村克己。

 隣の席にいた大切な人で、私のヒーローを。

 


 

 

 記憶が戻ったからと言って何かできるわけがない。

 穂村君が黒騎士だったってことも今や皆が知ってしまったことだ。

 

「時間が経っても大変だなぁ」

 

 その中で穂村くん……というか黒騎士の名前を使って変なナンパをして女子の気を引こうとする輩も少なからずいたわけだが、そういう輩は黒騎士ガチ勢という闇深い人たちによって粛清された。

 

 てかうちの学校の生徒だった。

 てかその筆頭が私の親友の一人だった。

 

 これほどまでに知らずに済んでおきたかった事実はなかったと地味に打ちひしがれながらも、私の日常はこれまでと変わらず進んでいったわけだ。

 

「最近、きららが穂村くんのことをよく聞いてくる気がする……」

 

 学校からの帰路を歩きながらそんなことを口にする。

 今日の昼休みでもそうだったけど、いったいどうしてだろう?

 これまでは話題こそ出ても突っ込んだことを聞いてこなかったし、なんとも不思議だ。

 もしや業の深い親友と同じくきららも隠れ黒騎士ガチ勢なのだろうか。

 あれらの派閥は姉派から幼馴染などという名伏しがたいものに枝分かれするように分岐していると聞かされたわけだが……。

 

「まさかね……」

 

 きららの性格の良さはよく知ってる。

 あんな優しい子が、魑魅魍魎の巣窟に足を踏み入れているなんてありえないだろう。

 そのありえない可能性を即座に否定しながら私はいつもの帰り道を歩いていく。

 

「……やっぱり、無理なのかな」

 

 穂村君にもう一度会いたい。

 それが難しい話なのはよく分かっている。

 彼は今、世間に顔が知られている上に学校にも来れず、かといって彼の住んでいたアパートは今や事故現場みたいに封鎖されているんだ。

 そもそも一般ピーポーな私が簡単に会えるわけがない。

 

「でも、友達だって思ってくれていたんだよね……」

 

 私の思い上がりじゃなければだけど。

 私が記憶を忘れていてもそう思ってくれていたのは正直泣きそうなくらいに嬉しかった。

 だからこそより会いたい思いが強くなってしまうだけに———、

 

「はぁ」

 

 ———ため息が漏れてしまう。

 もうずっとこのままなのかな、とマイナスなことを考えてしまいそうになりながら、再び前を向いて歩きだそうと———、

 

 

 

「こんにちは。此花灰瑠ちゃん」

 

 

 前方から私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ふと前を見れば、えげつないくらいの黒髪の美人が立っていた。

 腰に届くくらいの黒髪に、完璧なバランスで整った端正な顔立ち。

 身長は170くらいでモデルさんみたいで、黒を基調とした服を着ていた……もう嫉妬の感情すらも湧かないくらいの女性は、私を見てにっこりとした笑みを見せた。

 

「……っ、妹、もどきさん……?」

 

 穂村くんと一緒にいた妹もどきさん。

 彼が妹と紹介した、正体不明の少女を大人にさせたような見た目の女性は、後ずさる私を見て首を横に振る。

 

「あら? あの子のことを知っているのね。意外と……彼の事情をよく知っているようでびっくり」

 

 っ、違う。

 この人は穂村くんと一緒にいた子じゃない!!

 見た目は姉妹みたいに似ていても雰囲気が危険な感じしかしない!!

 私はすぐにその場を走り出した。

 

「……ふふ、賢いじゃない」

 

 今の人が穂村君の関係者じゃないとしたら絶対碌なことにならない!

 

「まさか、私を人質に……とか!?」

 

 そんなことありえる!? と、思う一方でそんな可能性もあるなと思ってしまう。

 己惚れていなければ穂村君は今でも私のことを友達だと思ってくれている。

 もしそれが事実だとしたら嬉しいどころの話じゃないけれど、それは私は彼への人質としての価値があるということになる。

 

「た、ただいま!」

 

 とりあえず家に駆けこんで警察に電話しよう。

 鍵を開け息を荒らげながら扉を開けた私は、膝に手を突きながら乱れた呼吸を整える。

 現状、穂村君に助けを求める手段はないけれど間接的に彼のいるところになにかしらの事件が起こっていることを伝えれば可能性はあるかもしれない。

 

「な、なんなの!?」

 

 家の奥からお母さんが出てくる。

 大きな音を出して帰ったんだし慌てて来るのもしょうがない。

 

「お、お母さ――」

「貴女どうしたの!? 勝手に玄関に入ってきて!」

「え……?」

 

 勝手に玄関に……? ここは私の家のはずだ。

 私を心配する素振りを見せつつ、僅かに不審な眼差しを向けてくる母に私は声を震わせる。

 

「貴女、近くの高校の生徒よね? どうしたの? まさか通り魔に教われたとか!?」

「あ、え……」

 

 私のことを分かってない?

 なんで?

 怖い。

 得体の知れない恐怖に呂律が回らなってしまう。

 

「顔が真っ青よ!? 待ってて今警察を呼ぶから……って、どこに行くの!?」

 

 私は家を飛び出した。

 耐えられなかった。

 18年間一緒に過ごしてきた家族がまるで私を初対面の他人みたいに接してきたことが耐えられなかった。

 なにか、恐ろしいことが起こっている。

 夕焼け色に染まった街並みを青ざめた顔で走る私を、すれ違う人全員が怪訝な様子で見てくる。

 その中には見知った顔もいたけれどその人たちもお母さんと同じ、全く知らない他人を見るような視線を向けてきた。

 

「っ、そうだ。」

 

 人気のない路地の壁に背を預けながらスマホを取り出す。

 クラスメートの友人なら、まだ私のことを覚えているかもしれない。

 そんな希望を抱きながらメッセージを送ってみる。

 

< かおりん

 

17:10

かおり

わたしのこと分かる?

 

 既読はすぐについた。

 息を呑み、反応を待っているとピコンという音と共にメッセージが送られてくる。

 

誰? 17:12
      

 

 短い返事。

 ただそれだけで彼女の不信感と恐怖心が伝わってくる。

 クラスメートも私のことを忘れている。

 あの事件の後、私を含めて穂村くんのことを忘れていたみたいに。

 

「ッ」

 

 なにが起きているのかまったく分からない。

 でも誰かに忘れられることがこんなに恐ろしいことだなんて……。

 どうしていいか分からずへたり込んだ私は、泣きそうになる。

 

「見ーつけた」

「ッ!」

 

 路地裏の奥から聞こえてきたその声に顔を上げる。

 そこにはついさっき私に接触してきた黒髪の女がいた。

 

「もしかしたら長い付き合いになるかもしれないから自己紹介するわね。私はAtoZ(アズ)。貴方達の言う侵略者一味の一人よ……まあ表向きだけれど」

 

 まるで友人に接するように話しかけてきた女、アズに私は呆然と言葉を返す。

 

「みんなに何をしたの……」

「特別難しいことはしてないよ? ただ、貴女のことを忘れさせただけ」

「なんのために……っ」

 

 穂村君の記憶を忘れさせた妹もどきさんと似たようなことができるのかこの人は……!?

 思わず声を荒らげてしまう私に、うーんとかわいらしく首を傾げた彼女は人差し指を立てる。

 

「穂村克己の成長の……ため?」

「穂村くんの……!?」

「彼なら私の悲願を達成できる。そのために貴女は必要な存在だから今のうちに人質として手元に置こうと思ったのよ」

 

 頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 もう穂村君を放ってあげてよ。

 私のせいでまた彼が重荷を背負ってほしくない。

 

「貴女は穂村克己が護ろうとした最後の日常。そんな存在が自分のせいで危険に晒されたと知ったら……ふふ、どんな変化を及ぼすか予想すらできないわ」

「ッ」

「ふふふ」

 

 私に伸ばされる手。

 得体のしれない存在に身体が動けない。

 逃げても追いつかれる。

 もう、駄目なの……!?

 

「穂村くん……!」

「無駄だよ。今、彼はサソリちゃんの相手をしているからここには来れない」

 

 彼の名を口にしても助けは、来ない。

 目を閉じ来るであろう衝撃に備えていると、いつまで経ってもアズが伸ばした手が私に触れてくることはない。

 

「———邪魔しないでくれない?」

 

 目を開けると私に迫っていたアズの手を、私の背後から伸ばされた手が掴み取っていた。

 呆然としたまま後ろを見て呼吸が止まりそうになる。

 

「邪魔? 面白いことを言うわね」

 

 私の背後にいつの間にか立っていたのは、ぴっちりとしたオレンジのワイシャツに紺のジーンズを着た身長190を優に超える大男であった。

 整えられたあごひげと短い髪といういかつい風貌と裏腹に、愛嬌のある笑みを備えたその人は

 

「人の恋路を邪魔しているのは貴女でしょう? アズ」

「サニー……ッ!!」

 

 サニー、と呼ばれた男の手を振り払ったアズは一瞬だけ怒りの表情を浮かべた後に、切り替えるように笑みを浮かべる。

 

「ここで貴方が割って入ってくるなんてねぇ。どういう風の吹き回しかしら?」

「それはこちらの台詞よ。あんたなにしてるのよ。わざわざカツミちゃんの怒りを誘うような真似をしてどうするつもり?」

 

 私を庇うようにゆっくりと入ってきたオカマ口調の男。

 どうみても目の前のアズと知り合いっぽい人だが、私のことを守ってくれているようだ。

 

「あ、ああ、貴方は?」

「フッ、私はサニー。通りすがりの乙女よ」

「……」

 

 ……不審者では?

 なぜかドヤ顔でそう言ってくる彼に私は最近学校で噂になっているある話を思い出す。

 

「まさか学校で都市伝説として噂になってる“街を練り歩く巨漢オカマ”って……!?」

「そんな噂になってるの私!? どうりで最近注目を集めていると思ったわ!?」

『うっせぇぞ! オカマ!! 目の前の六位に集中しろ!!』

「わっ!?」

 

 サニーさんのポケットからメカメカしいオレンジ色の喋る鳥が飛び出してくる。

 かわいらしい声で怒鳴り散らす鳥に面を食らう。

 

「分かっているわよ。まあ、貴女のことは友人とは思っているけど、あまりお痛が過ぎるとお仕置きしなきゃならないのよねぇ」

 

 とにかくこの人は私を助けてくれたということでいいんだろうか……。

 

「でも解せないわねぇ」

「あら? なにか不思議なことでも?」

「貴女の能力を使えばこの子を意のままに操ることだってできるでしょうに。わざわざこんな性格の悪いことをする理由がどこにあるのかしら?」

「人質にも品質ってものがあるじゃない?」

 

 サニーさんの疑問に答えるようにアズが肩を竦める。

 ……品質って、言外に私もの扱いされてなかった?

 

「私の力で手駒にしたら人形みたいになっちゃうでしょ? 他人に高く売りつける物品はできるだけ完璧な状態が望ましいことと同じように人質にするそこの彼女もできるだけ穂村克己の知っている彼女(・・・・・・・)でなくちゃならないの」

「……性悪どころか、性格捻じ曲がっているわねぇ。素直にドン引きだわ」

 

 ……怖い。

 この人は私に悪意なんて持っていない。

 ただ必要なことだから、躊躇なく私を利用しようとするその異様さに私は薄ら寒いなにかを感じる。

 

「地球の戦士たちにはもっと強くなってもらわなくちゃならないもの」

 

 呟くように言葉にしたアズはその笑みをこちらに向けてくる。

 

「黒騎士、ジャスティスクルセイダー、コスモ、ゴールディ。この六人の戦力でも十分に強いけれど……奴と戦うためにはまだまだ足りない」

「……六人? 白騎士ちゃんを忘れているようだけど?」

「白騎士は穂村克己の変身した姿の一つでしょうに。そっちこそ何を言っているのかしら?」

「……ふぅん。なるほどね」

 

 白騎士って確か女の子の姿もいたはずじゃ……。

 一時期穂村君が女の子になっちゃったって思って悶々としてしまったので覚えている。

 

「時間稼ぎはもういい? 貴方も私からこれ以上の情報は引き出せないわよ?」

「これ以上にない良いことを聞いたわ。さて、これから貴女にげんこつを叩きこむわけだけど覚悟はいい?」

 

 拳を固め、はーっ、と息を吹きかけ脅すサニーさん。

 それに対し少しだけ頬を引きつらせたアズは一歩後ろに下がりながら、おもむろに片手を上げる。

 ———瞬間、後ろからサニーさんでもアズでもない別の誰かの手が私の肩を掴んで、後ろへ引き寄せた。

 

「ん、危ない」

「わっ!?」

 

 綺麗な女の人の声、それを認識すると同時に目の前のサニーさんの足元のコンクリートの地面が割れ、岩で形作られた三体の人型の怪人が彼を拘束するようにしがみついた。

 

「ナイスタイミングね、イレーネちゃん!」

「こいつを守ればいいんだな?」

 

 怪人に動きを止められながらも後ろを振り向き、私の肩に触れている顔に花のようなタトゥー? に似た文様を浮かべた紫色の髪の女性に声をかけた。

 え、よく見るとこの人の髪、毛先が赤色だ……! しかもまたもや美人だ……!!

 

「こ、今度は誰!?」

「私は黒騎士。なんだか手伝えと呼ばれたので来た。よろしく」

「あ、これはご丁寧に……って、そうじゃなくて!?」

 

 黒騎士と名乗ったところも気になったけど、それは置いといて……! それよりサニーさんが思いっきり捕まってますけど!?

 しかもあの怪人って惑星怪人アースってやつと同じ姿をしているんだけど!?

 慌てて彼の方を見れば、赤熱する怪人に掴まれながら涼しい顔をしたサニーさんがアズと相対していた。

 

「力が吸い取られるわねぇ。これが地球の怪人ってやつなのかしら?」

「惑星怪人アースは“対三位”怪人。恒星そのものな貴方の動きを封じることを目的とした怪人だから当然でしょう?」

「地球産の怪人を隠していた上にちゃっかり友人の私の対策までしてるとか悲しくなっちゃうわー……。惑星怪人ねぇ、随分御大層な名前だけれど……」

 

 そこで言葉を切ったサニーさんが空気を大きく吸い込む。

 まるで私まで吸い込まれそうになるくらいに空気を取り込んだ彼は、呼吸を止め———、

 

「フンッ!!」

 

 気合を入れるように全身に力をいれ、しがみついた三体の怪人を振り払った。

 アズの近くに叩きつけられた怪人を指さしながら、サニーさんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「いつだって私は生きとし生ける命を照らしてきた光よ」

「……」

太陽(漢女)、嘗めんじゃないわよ」

 

 もう状況が二転三転としすぎて頭の中がいっぱいいっぱいになってきた……。

 この人たちはいったいなんなんだ。

 穂村君のことを知っていそうだけど、仲間ではなさそうだけど……本当に意味が分からないよ。

 

「イレーネちゃん。ちょっとこの子たちを片付けるからその子、守ってね」

「妹の世話は得意だった。今は死んでるが」

「不安になるからそういうこと言わないでね……?」

 

 声を震わせながら前を向き直ったサニーさんが、立ち上がった三体の怪人と相対する。

 それと同時にぱたぱたとオレンジ色の機械の鳥さんが、サニーさんの傍にやってくる。

 

「やるわよ、ヴァルゴ」

『え、嫌だなぁ。お前で変身すると変な音なるんだよ』

「文句言ってないでほらっ!! 貴女着ないと被害大きくなるんだから!!」

『しゃーねーな。わーったよ化物』

「誰が化け物よ!!?」

 

 サニーさんの手の中に飛んできた機械の鳥が箱のような形状へと変化する。

 トサカにあたるボタンを逆の手で押し込むと、地球で気にいった演歌に似たメロディー響かせ、彼の後ろに半透明の壁のようなものが現れた。

 

a

PASSION   VIRGO

情熱 乙女

最 強 漢 女 伝 説

a

 

「な、なに!?」

「変身———ぬぅん!!」

 

 ドスの利いた声と共に手に持った箱を右手に現れたドリルみたいな武器に嵌めこむ。

 同時に演歌のメロディーが加速し、ヴァルゴと呼ばれた鳥さんの声が響き渡る。

 

最強(さいきょう)漢女(おとめ)伝説(でんせつ)!!!』

 

(はる)宇宙(うちゅう)彼方(かなた)から!!』

 

『やってきたるは恒星漢女(こうせいおとめ)!!』

 

(いま)こそ!! 夜明(よあ)けの(とき)!!』

 

「なにこれ!?」

「郷に入っては郷に従う、それがこの私のポリシーよ」

 

 情熱乙女ってなに!!?

 その声の後にさらに背後に映し出されたモニターが切り替わった。

 

B?N

 

最強漢女伝説

 

 

序章 夜明之刻

 

 

日輪纏大地焼尽

 

覇道阻者悉打滅

 

生涯愛生戦人哉

 

生様咲見漢女道

 

愛羅舞勇店長

 

 

星将序列三位

 

恒星顕現 太陽

 

B?N

 

 え、えぇと、ひと昔前のヤンキー文字に巻物の古文? みたいなやつにまた演歌みたいなメロディー!?

 もうやりたい放題すぎない!?

 色々ごちゃまぜすぎて混沌した状況に変な声が出てしまう……!!

 

PASSION(パッション) VIRGO(ヴァルゴ)!!』

 

 そして半透明の壁を突き破るように大きな機械仕掛けの鳥が現れる。

 その鳥は炎を纏いながら空に上がったと思うと、すぐに落下して———サニーさんの身体を翼で包み込んだ。

 とてつもない光と炎に包まれ、目をつぶってしまうが相変わらずその音声だけは聞こえていた。

 

PROLOGUE(プロロォォォグ)!!』

DAY BREAK(デイ ブレーク) FOAM(フォーム)!!』

 

 顔の半分と上半身を包み込むような翼を模したアーマー。

 右腕と一体化した杭打機に似た武器と腰のマント。

 どこか黒騎士や白騎士に似た姿に変身した彼の姿は暗い路地裏に光を照らしていた。

 

「人の恋路を邪魔する輩は、この太陽(わたし)が月に代わってお仕置きよ」

 

 サニーさんは暗闇の中を進んでいた私に夜明けを告げるように、そう眼前の敵に言い放った。




途中の縦文字についてはあまり深く考えて解読しなくても大丈夫です()

地球文化に影響されまくったパッションヴァルゴは畳をぶち破るタイプの変身でした。
最初の変身イメージはエグゼイドのそれに近いかもしれませんね。

今回の更新は以上となります。


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燃えよ漢女

お待たせしてしまい本当に申し訳ございません……!!

今回はサニーの視点でお送りします。


※後半部分に特殊タグが誤作動(?)のようなものを起こしてしまうので、本文のものから特殊タグ部分を除き、後半部分に移しました。
本編には影響の方はないのでご安心をー。



 まさかアズがこんな強引な手を使ってくるなんてね。

 私が知る彼女はもうちょっと慎重だったけれど、やっぱり状況が状況だし調子づいちゃったと考えるのは自然かしらね?

 どちらにしろアズは暴走している。

 地球怪人というアンチ星将序列を持ち出してきたのだ。

 

「貴女、お名前は?」

「えっ、此花(このはな)灰瑠(はいる)、です」

「いい名前ね!」

「あ、ありがとうございますぅ!!」

 

 それにいい返事!!

 後ろでイレーネちゃんに守られている女の子。

 カツミちゃんの同級生で隣の席にいたというそこはかとない甘酸っぱな青春ムードを感じさせる此花灰瑠ちゃんを守らなくちゃならない。

 

「その子、別に特別な力はないわよ?」

「あら? 貴女も随分と目が節穴ね」

 

 なーんも分かってないわねアズ。

 特別だとか普通だとか、そういう区別はあってないもの。

 

「この子には特別な力はない? 全くもって分かってないわ。いい? どの宇宙でもどの星でもどの時代でもどの瞬間でも———恋する乙女は皆、特別なのよ

「きっっっも」

 

 本当に気持ち悪そうな顔をしないでほしいわ。

 

「イレーネちゃん」

「なんだ」

「まだゴールディにバレたくないから、私とこいつらを切り離せる?」

「できる」

 

 イレーネちゃんが口元を覆うように巻いていたマフラーに指をかけ、隠していた顔半分を外気に晒す。

 軽く息を吸った彼女をみて、そうはさせまいと動き出そうとする惑星怪人アースだが、動き出す前に私が撃ち込んだ杭が突き刺さる。

 

「もうちょっと待っててちょうだいね。これからいくらでも相手してやるから」

 

 白煙を放つ杭打機。

 またの名を“パッションバンカー”を掲げる。

 

「フッ、この“怒々好(ドドスコ)(ラブ)注入銃(ちゅうにゅうじゅう)”に恐れ慄いているわね」

『“パッションバンカー”だ化物。武器にまで変なルビふらせんな』 

 

 軽口を叩きながら改めて敵を見る。

 惑星怪人アース。

 たった一体で星を食らいつくすことさえ可能な危険な怪人ね。

 まったく、地球のオメガは相当えげつない能力を持っていたことでしょうね。

 

anataga(貴方が) hosii(ほしい)

 

soumotometa(そう求めた)watasino(私の)kokoroha(心は)

 

kourinomeikyuheto(氷の迷宮へと)sugatawokaeta(姿を変えた)

 

 ハイルちゃんの両耳に手を当てながらイレーネちゃんが歌う。

 透き通るような声が響き、私とアズたちをイレーネちゃんの能力で作り出されたフィールドの中へと閉じ込めてくれる。

 

「綺麗ねぇ」

 

 作り出されたのは凍てつくような氷に包まれた銀世界。

 さすがの能力に舌を巻きながら眼前の怪人たちを見る。

 

「さぁて、思う存分にやってやりましょう。運動するの久しぶりなのよね」

「「「……!」」」

 

 惑星怪人から炎が噴き出る。

 私から吸い取った恒星の力———それらは周囲の氷を溶かしていく。

 そのまま炎を纏いながらこちらへ近づこうとしたところで、その体は一瞬にして私が打ち出した杭が突き刺さる。

 

「今のが見えなかったならやめておいた方がいいわよ?」

「……! ァ、アァス」

「ふぅん。再生力はそこそこあるようね。それにパッションバンカーから打ち出した杭のエネルギーも吸収してる……」

 

 徐々に突き刺した杭が体内に取り込まれていくのを目にして凡その能力の検討をつく。

 まさしく私への対策のために造られたような怪人ね。

 なら、中途半端な攻撃はエネルギーを与えるだけってことか。

 

『ま、消し去るのは簡単だろ』

「その気になればね。でも相手はアズよ。多分、あの惑星怪人は捨て駒。今までの個体も含めてね」

 

 正確に言えば、カツミちゃんが一番最初に戦った当時マグマ怪人と呼ばれた彼はプロトタイプみたいなものだろうけど。

 

「この子たちはより扱いやすくした品種改良版ってことかしらね」

 

 自我を薄く、それでいて操りやすくした恐怖を抱くことのない量産型。

 静観している私にしびれを切らしたのか三体同時に襲い掛かってくる。

 

「ちょっと能力を見ておきましょうか」

「ガァァ———、ガッ!?」

「もう串刺しにしてるけど」

 

 三体の内の一人が空中でお腹に無数の赤熱した杭を打ち込まれる。

 この攻撃を見切れない時点で大した相手ではないけれど……って、考えている場合じゃないわね!

 

「ガァァ!!」

「アァァ!!」

『触れればまた力を吸収されるぞ!』

「ノープロブレムゥン!!」

 

 あえて見逃した二体が落下と同時に放った視界いっぱいの溶岩を右腕で薙ぎ払う。

 同時に間近にまで接近し私の力を吸収しようと掴みかかってきたところで、逆につかみ返しそのまま無造作に地面へ叩きつけてやる。

 大地が裂け、岩塊が宙へと舞い上がりながらもさらにアースを振り回しもう一体へと放り投げる。

 

「ほぉっら!!」

「アァァス!!」

 

 迫る味方を殴るようにしてどかしたもう一体のアース。

 私の力———恒星の熱量を籠めた拳を突き出してきたが、私はそれを軽く突き出した左の掌で受け止める。

 それだけで熱風が吹き荒れるが、私にとってはこの程度慣れたもの。

 

「!!?」

「ちょっと嘗めすぎじゃない? (太陽)相手に」

 

 ふりほどかれないように拳を握り返す。

 そのまま思い切りのけぞった私は———ものすごぉく勢いをつけた頭突きをアースの頭部へと叩きつける。

 ガゴンッ!! という砕ける音と共にアースの頭部の半分が吹き飛ぶ。

 

「あら? 綺麗な戦いをご所望だった?」

「……ッ」

 

 私が手を握っているせいで吹き飛ばされずにいたアースが、その無機質な宝石のような瞳に微かな怒気を宿らせる。

 吹き飛んだ頭がすぐに再生しているわね。

 こういう不死性も地球産怪人の厄介なところね。

 

「さあ、強く()つわよ」

 

 アースの腕を掴んでいる右腕、それに取り付けられた変身道具“パッションバンカー”に手を添える。

 長方形型に変形したヴァルゴがはめ込まれたアタッチメントに隣接するボタンに指を添え、技を発動させる。

 

L E G A C Y

「伝 説 一 頁!!」

 

 軽快に鳴り響く地球のジャパニーズシャミセン。

 心地い音程を響かせるメロディに合わせパッションバンカーのスロットが回る。

 

B?N

  ARCTURUS

    SPICA

   REGULUS

  ARCTURUS

    SPICA

   REGULUS

  ARCTURUS

    SPICA

   REGULUS

  ARCTURUS

    SPICA

   REGULUS

B?N

 

 もう一度指を添え認証を繰り返すとスロットが停止———パッションバンカーが赤い光に包まれていく。

 

伝説一頁(レガシー) (ワン)!!』

 

『それは(そら)を支える巨人(きょじん)記憶(きおく)!!』

 

ARCTURUS(アークトゥルス)!!』

 

 赤い光の危険度を悟ったのか、その場を逃れようとするアース。

 それに構わず私は右手を離すと同時に光り輝く右拳をアースの腹部へと叩き込み、同時に襲い掛かろうとしていた他の二体諸共吹き飛ばす。

 眼前の大地が間欠泉のように吹き上がり薙ぎ払われていく。

 

「……ちょっとやりすぎちゃったかしら?」

 

 衝撃が治まった時には氷の銀世界は、溶岩と黒く焼き焦がれた大地が広がる地獄みたいな様相へと変わり果ててしまっていた。

 手加減はしたつもりだけど、やっぱり押さえないといけないわね。

 

『おい、まだ終わってねーぞ』

「……そのようね」

 

 変わり果てた大地の中で立ち上がろうとする三体の怪人。

 一応かなりのダメージを受けているようで再生速度も遅くなっているけど……それを含めても凄まじい生命力だ。

 

「吸い取ったエネルギーの放出。肉体変化……なるほど、惑星怪人と言ったものね。カツミちゃんはよく地球を壊さずにこいつを片付けられたわね」

 

 星食らいの怪物———それが惑星怪人の真の力。

 地球に出現したこの怪人をカツミちゃんが始末できたことは、本当に驚嘆すべきことだ。

 

「ガっァ……」

「ウゥ……」

「ギィ……」

 

「ん?」

 

 そこで再生を行っていた三体の惑星怪人に異変が起こる。

 普通に元の姿に再生するかと思いきや、不自然な脈動を繰り返す。

 

『おい、サニー。あれは……』

「本当に凄まじい怪人ね」

 

 溶岩のように形を崩した人型の三体は混ざり合い、三つの顔に三対の腕を持つ三面六臂の怪人へと変貌する。

 

「名付けるなら合成怪人アシュラってところかしらね! 友情感じちゃうわ!」

『笑ってる場合か!! とんでもねぇ力だぞ!!』

「ヴァァァ!!」

 

 作り出された空間が合体したアース———アシュラの力により歪む。

 その身から発せられる豪炎は地上だけではなく空気すらも歪ませていく。

 ……一つの都市なら一瞬で崩壊させてしまうほどの熱量ね。

 

「どちらにしろ危険ってことには変わりないわね。ここで始末するわよ」

 

 このまま放っておけばイレーネちゃんの作ったこの空間を壊してでかねない。

 六本の腕にとてつもない熱量の光球を作り出したアシュラがその場を跳躍しながらこちらへソレを投げつけてくる。

 

「手数が増えたわね。手だけにね!!」

『つまらねぇ冗談言ってねぇで撃ち落とせ!』

 

 パッションバンカーから杭を放ち光球を撃ち落とす。

 絶え間なく投げ込まれるそれを対処しながら、今度こそアシュラを始末するための必殺の一撃を発動させる。

 

L E G A C Y

「伝 説 一 頁!!」

 

 スロットが回転、停止。

 先ほどとは異なる力を発動させる。

 

伝説一頁(レガシー) (ツー)!!』

 

『それは勇者(ゆうしゃ)(まえ)に立ちはだかる獅子(しし)記憶(きおく)!!』

 

REGULUS(レグルス)

 

「いくわよぉぉぉぉ!!」

 

 青色の光が右拳へと宿り、雄たけびと共に空から落ちてくるアシュラを見上げる。

 空間を破壊しない! 且つ確実に始末するために一点集中!!

 

「ぬっぅぅぅん!!」

 

 接触に合わせ大きく振り回した拳がアシュラの胴体を捉える。

 拳が完全に直撃したことを感覚で理解し、その場で回転しながらエネルギーを叩きこみ続け———そのまま拳を天に振りかざすようにエネルギーを解放する。

 

奥義(フィニッシュ)! 漢気衝撃(オトコギインパクトゥッ)!!

『いやだっせぇ……』

 

 アシュラの身体を貫通する青い閃光が空へと舞い上がる。

 それが曇天がかった空を打ち払い、雲一つない青空へと変える。

 太陽の光が降り注ぐ中で拳を空へと突き上げた私の背後に、演出用に用意しておいたモニターが映し出される。

 

B?N

(こい)(まよ)ひても

道筋(みちすじ)()らすは

 

(お と) () (ウェイ)

 

B?N

 

「フッ……決まった」

 

 残心とも言える“漢女(おとめ)川柳(せんりゅう)”の発動を確認し、拳を下ろした私はアシュラの消滅を確認する。

 

『その後ろのエフェクトのやつ本当に必要か? てか五七五でもなんでもねぇよな?』

勝負とはノリがいい方が勝つ―――地球の格言よ」

『いい加減に黙らねぇかなぁ……こいつ』

 

 ヴァルゴの愚痴を笑って受け流していると戦いが終わったことを確認したイレーネちゃんが作り出した空間を解除させてくれる。

 元居た路地裏に戻ると、その場にはイレーネちゃんに後ろから抱きすくめられている“此花灰瑠”ちゃんがいた。

 

「終わった? 六位は始末した?」

「とっくに逃げられているわよ。あの子、実力隠しているから」

 

 だけど今日のところは引いてくれたでしょうね。

 あの子もバカじゃないし、私を正面から相手どろうとすることもないだろう。

 

「さて、と」

「っ、あ、あの……」

「心配しないで。私はカツミちゃんの知り合いよ」

「穂村君の……」

 

 まさかアズがこの子を狙うだなんて思いもしなかった。

 この子は正真正銘の一般人。

 カツミちゃんと友人関係があっただけの女の子だ。

 

「なにが起こっているんですか? お母さんも友達も私のことを忘れて……もしかしたら穂村くんも……」

「いえ、彼はちゃんと覚えているだろうから安心して」

 

 アズの認識改編。

 その強力な能力はエナジーコアを持つ者には効きにくい。

 効きにくいといってもシロちゃんやレオちゃんのように覚醒したエナジーコアに限定される話だけど……いえ、カツミちゃんに限ってはエナジーコア関係なしにアズの認識改編の影響を受けていないのかもしれない。

 

「本当はすぐにカツミちゃんに連絡したいけど……」

「ん、私が送っていく?」

「貴女はそのまま捕まりにいきそうだから駄目に決まってるでしょ……!!」

 

 なぜに期待を込めた眼差しで見てくる。

 でも、今のハイルちゃんの状況をなんとかできるのは同じ認識改編を有しているアルファちゃんだけなのだが……うーん。

 

「ここでこの子をジャスティスクルセイダー本部に預けるのはちょっとまずいわね……」

 

 先ほど、アズと会話して分かったことがある。

 多分、アズはあの子(・・・)の存在を認識することができていない。

 恐らく、指摘した程度では違和感すら抱くことのできないほどの強烈なものだ。

 これは間違いなく今後、重要なカギになってくるはず。

 

「だからこそ、不用意に注目させるわけにはいかないわね……」

 

 恐らく、アズはまだハイルちゃんを人質にすることは諦めていない。

 それほどまでにこの子の存在はカツミちゃんにとって大事だし、彼女の代わりになるような人はいない。

 だって、人質の候補になるであろうジャスティスクルセイダーの三人娘ちゃん達はあまりにも戦闘力と個性が強すぎるからだ。

 下手をすれば人質にとったであろうアズが痛いしっぺ返しを食らうことになる可能性だってある。

 

「よし。此花灰瑠……ハイルちゃんって呼んでもいいかしら?」

「え、か、構わないですけど……」

「申し訳ないけど、貴女はうちで匿うわ。今、貴女をカツミちゃんの元に向かわせわけにはいかなくなったの。いずれはジャスティスクルセイダー本部に貴女を送り届けるけど今は……私達の保護下にいてくれないかしら?」

 

 私の言葉に目を丸くしたハイルちゃん。

 先ほどまでアズという悪意に晒されていたのだ、むしろ私たちの存在を怪しまないはずがない。

 

「……今まで私、記憶を失っていたんです」

 

 そう考えているとハイルちゃんがぽつり、とそう口にした。

 

「穂村君は私のために記憶を消した。それが私を助けるためなのは分かっているんです。だから、記憶が戻った後も穂村君の迷惑にならないようになるべく普通にふるまうようにして……」

「……」

「今までずっと蚊帳の外だったけれど、今……彼のいる世界に踏み込めるような、そんな気がするんです」

 

 震えながらも力強い言葉を口にする彼女に自然と口元が綻ぶ。

 人の意思の輝きはどんな光にも勝るものだ。

 太陽の化身だからこそ言える。

 私は、こういう生きている人の生きる輝きが大好きなのだ。

 

「もう、我慢するのは終わり。今度は私から会いにいきます」

「決まりね」

 

 意思は決まったようなのでこの子を安全な場所に連れて行こう。

 ジャスティスクルセイダー本部以外の安全な場所———といえば非常に限られているが、私達にはとっておきの隠れ家がある。

 

「ジェムちゃんに新しい入居者が来ることを知らせておこうかしら」

「私、イレーネ。黒騎士だ」

「よ、よろしくお願いします? 黒騎士くん?」

「黒騎士だ。黒騎士さんでもいいぞ」

「は、はぁ?」

 

 ……でも大丈夫かしら?

 ジェムちゃんはともかく他の強烈な面々にこの子は馴染めるのだろうか?

 

 


 

以降、あとがき部分です。

前書きの通り、本文中の特殊タグ込みのものを後半部分へ。

文字が消えたりする特殊タグなのですが、反映されたりされなかったり不安定なのでこちらへ移します。

 

B?N

(こい)(まよ)

(みち)(すじ)()

 

(お と) () (ウェイ)

 

B?N




ノリがいいサニーの戦闘回でした。
……。
……、……。
漢女川柳ってなんだ……?



今回の更新は以上となります。


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ハイル、新天地にて

お待たせしました。

今回はハイル視点でお送りします。



 今日は色々なことが起こりすぎた。

 学校帰りにアズっていう人に誘拐されかけて、両親を含めた周りのほとんどの人間から忘れられて……またアズに誘拐されかけたところでサニーさんに助けられた。

 正直、サニーさんを信用するべきか今でも迷っている。

 体格も大きいし、服のセンスも奇抜だし、オネェ口調だしなにからなにまで怪しいところだらけだけど……悪い人ではないと思えた。

 

カツミちゃんとの出会いは、ある喫茶店から始まった。

 それはもういい天気の日でねぇ。

 話は変わるけど実は地球文化に触れるのが楽しみすぎて無一文で地球に来ちゃったの。とんだアクシデントに見舞われた私だけど、トラブルさえもチャンスに変えるのが私なのでそのままぶらり文無し地球の旅を続行したわけよ。そしたら出るわ出るわ地球産の美味しそうな食べ物や娯楽品。あれね、下手に宇宙進出していないから外宇宙由来の技術とか文化に毒されていないから地球独自の文化が発展したということでしょうね。大抵の他の惑星は現住生命体がそこまで進化していないか、既に他の知的生命体に接触して技術革新を起こしているからそういう変化とか起きていないのよね。だから、地球みたいに小さな箱の中で文化を発展してきた星ってかなり珍しいってこと。それでウキウキ気分で地球観光を楽しんでいたわけだけど、一文無しだから美味しいものもたべられなくてガックリきていたわけなの。

 もうその時のがっくり具合ときたらもう地球の流行語でマジパネェってくらいに凄かったわ。手を伸ばせばすぐに届くようなものがなかったもの。ええ、絶望したわ。絶望のあまり雨がふりしきる路地裏で座り込むくらいに絶望したわ。 ……まあ、私空腹とかあってないようなものだし全然問題とかないんだけどやっぱり美味しそうな食べ物とか見ると垂涎ものでしょ? でもね、雨にうちつけられ絶望に暮れていた私の前に推し、マスターやってきてくれたの。

 どう見ても不審者な私に傘を差して、温かいコーヒーとカレーまで食べさせてくれてもうお前にラブハートってわけよ。

 まあ、偶然そこがカツミちゃんの働く店だったからもうこれ運命では? と確信せざるを得なかった訳ね。

 記憶を失っていた頃の彼は白川克樹って名前でね。素直でいい子だったわ。でも性格そのものは違っていても彼の根本は変わっていなかったのよね。

 

 なんか語り始めたサニーさんの声を大人しく聞く。

 すっごい情報量だから、無一文で地球に来ていたことと推しを見つけたということしか分からないけれど。

 本当に衝撃的なことばかり話すからいよいよ混乱しそうになると、ちょんちょん、と私の肩が後ろから叩れた。

 振り向けば、口元までをマフラーで覆ったイレーネさんの姿が。

 

「私達、宇宙人」

「そ、それは分かります」

「サニーは厳密には違うけど、私はカツミの敵じゃない」

「ど、どういうことですか……?」

 

 すごい美人さんだし、身長も高いし着ているのも黒のジャケットにジーンズというかっこいい服で別の意味で委縮してしまう。

 言動に関してはクール系、というよりちょっと抜けているところがあるタイプなのでギャップも凄い。

 

「私はカツミに負けた」

「え、穂村くんと戦っていたんですか!?」

「私の歌を聞いて最後までちゃんと聞いてくれた」

「歌い手さんかなにかですか……?」

 

 う、歌ってなんだ? いや、意味は分かるけどどうしてここで歌?

 

「負けて約束した。地球には手出ししない」

「そうなんですか……」

 

 穂村くんって歌が上手かったんだ……。

 彼が歌っているという絵面だけでかなり愉快なことになりそう。

 

「でもカツミに手出しするのは条件に入ってなかったからここにいる」

「えぇ……」

 

 穂村君、変わった人を引き寄せすぎでは?

 いったいどういう経緯でこの人と知り合うことになったんだろう。

 

「あと、私は星将序列8位。凄い強い」

「ツヨイ」

「うん。スゴク、ツヨイ」

「……すごいんですね」

「むふん」

 

 本当に変わった人だなぁ。

 そのせいしょう序列というのがどういうものかよく分からないけれど。

 

「ハイル、いいやつ。死んだ妹に似てる」

 

 とんでもなく反応に困る評価をいただいてしまったのだけど……!?

 こ、これはとりあえずお礼を言った方がいいのかな!?

 お、怒られたりしないよね!?

 

「あ、ありがとう、ございます?」

「一緒にカツミのところに行こう」

「……ええ」

 

 志は同じようだ。

 言動がちょっと子供っぽいし大丈夫そうかな。

 ぽわわん、としているイレーネさんにちょっとだけ安心していると、隣を歩く彼女が握りこぶしを作る。

 

「大丈夫、篭絡するのは私がやる。ハイルは傍で見ているだけでいい」

「唐突に私の脳を破壊しにかかろうとするのはやめてください……」

 

 そこらへんの思考が見た目相応なことが発覚し怖気が走った。

 言動が子供っぽいと思ったら唐突に刺してきたんですけど!?

 恐ろしい子!? と、戦慄しているとイレーネさんの頭にサニーさんの手刀が入る。

 

「……痛い」

「駄目でしょ」

「冗談なのに」

「私の目を見ていいなさい。まったくもう。……さあ、ついたわよ」

 

 え、と思い前を向くと視界に、高層マンションが映り込んだ。

 都会の中でひときわ目立つ背の高い建物で、テレビとかでしか見ないような家賃とかかなり凄そうなところだ。

 

「こ、ここですか?」

「ええ。ここに居る間は貴女の安全は保障するわ。住民がちょっと……いえ、かなり個性的な子がいるけど慣れれば大丈夫だと思うわ」

「安心してください。日常的に変わった友人が傍にいるので」

「そ、そう……?」

 

 脳裏に度し難いオタクである親友のサムズアップする姿を思い浮かべながらマンションへと足を踏み入れる。

 


 

 エレベーターでそれなりに高い階にある部屋。

 そこがサニーさんのアジトと呼ばれる場所であった。

 

「ただいまー」

 

 サニーさんが部屋のロックを開け部屋の中に入ると、かなり広い空間が視界に映り込む。

 て、テレビも大きいしソファーも高級そう……。

 うわ、キッチンもすっごい大きい……。

 最早、別世界とも思える内装にビビりながら中に入ると、一人のメイド服姿の女性が顔を出してくる。

 

「お帰りなさいませ、サニー様、イレーネ様」

「ただいま、メイちゃん」

 

 メイ、と呼ばれたメイド服姿の人は私を見る。

 人形さんのような綺麗な顔立ちと、明るい緑の髪の彼女は恭しくお辞儀をする。

 

「此花灰瑠様。お話は伺っております。私はご主人様———ジェム様に仕える自立型AIのMEI(メイ)と申します」

「え、えーあい……? あ、よ、よろしくお願いします。……かわいらしい服ですね!」

 

 今ものすごくSFちっくな言語が飛び出したような気もしなくもないけど今は気にしないでおこう。

 一瞬で理解を超えてきて脳がパニくった私はなぜか目の前のメイさんのメイド服を褒めてしまった。

 いや、真面目にその道の人みたいに所作が綺麗だったし。

 

「……。ありがとうございます」

 

 お世辞だと思われたのか無表情でそう返されてしま———、

 

「自信作です。よければですが、貴方様の分も見繕いましょうか? きっと似合います」

 

 ———いや、普通に喜んでいるのかなこれ!?

 てか手作り!?

 私のも作ってくれるの!?

 え、え、いや、でも似合うって……そ、そうかなー。

 

「———来てしまったか……」

 

 と、ここで部屋の奥からもう一人現れる。

 メイさんと同じく明るい緑の髪の男性。年齢は十代後半くらいだろうか。

 

「ジェム様。こちらが此花灰瑠様です」

「ああ、分かっている」

「私の姿がかわいらしい、と仰っていただきました」

「そ、そうか? お前が嬉しいならそれでいいんだが……」

 

 どこか落ち込んだ雰囲気の男は、メイさんの言葉に困惑しながら私の傍に居るサニーさんに話しかける。

 

「サニー様。状況が状況なのは分かっていますが突然すぎるのでは……?」

「ごめんねぇ、ジェムちゃん。私としてもいきなりの事態で色々と手段を選べなかったのよ。まさかアズがこんな思い切ったことをするだなんて」

「まあ、彼女を匿う場所がここしかなかったのは分かりました」

 

 ジェム、と呼ばれた男の視線がこちらへ向けられる。

 なんというか人生に疲れ切ったような瞳にちょっと引く。

 

「俺の名はジェム。元は黒騎士、穂村克己と敵対していた戦士だ……が、今は敵対する意思はなく地球を拠点にして生活している」

「は、はぁ」

 

 ま、まさかここにいる全員が穂村君と敵対していた……なんてことある?

 だとしたらとんでもないところに来てしまったようなものなんだけど……!!

 

「心配するな。俺とMEI、イレーネ様は穂村克己と敵対することはない」

「さ、サニーさんは?」

「私は色々とするべきことがあるからちょっと断言できないのよね。でもカツミちゃんになにか悪いことをしようとは思っていないわ」

 

 サニーさんの言葉にちょっとだけ安心する。

 この人には命を助けられているからできるだけ疑いたくはない。

 

「あの、私はこれからどうしたら……」

「現状は貴女の身の安全の確保ね。まだアズが貴女を狙っているかもしれないし、認識改変で身近な人間全てが貴女のことを忘れている以上無暗に行動することもできないの」

「……つまり、まだ私は大人しくしていた方が、いいと?」

「申し訳ないけど、そういうことになるわね」

 

 いま私にできることはなにもない、と。

 いや……それは分かっていたことだ。いくら状況が変わったって私は非力な一般人だ。

 穂村君みたいにスーパーヒーローみたいな力はない。

 

「分かりました。当分の間、お世話になります」

「ええ。一応、護衛が必要ね。……ヴァルゴ」

「おう、なんだよ」

 

 サニーさんの声に彼のポケットからオレンジ色の機械の鳥さんが現れる。

 彼が変身する時も見かけたけど、本当に玩具みたいな見た目だ。……声は可愛いけど。

 

「ハイルちゃんの護衛をよろしく頼める?」

「はぁ!? なんでオレなんだよ!」

「ジェムちゃんとメイちゃんを除いたメンツで一番貴女が常識人だからよ」

「……ったく、しゃーねぇなぁ」

 

 言外にイレーネさんは常識の範疇にいないって言われたようなものなんだけれど。

 仕方がなさそうに小さな頭を頷かせた鳥さん、ヴァルゴちゃんはぱたぱたと私の肩に飛んでくる。

 

「短い間だがよろしくな」

「よ、よろしく……」

「堅苦しいのは抜きでいいぜ。砕けた方がオレも話しやすいからな」

 

 見た目がメカっぽい鳥さんなのにものすんごいコミュ力を有しているのだけど。

 あれよあれよという間に話が進んでいると、今度はジェムさんが話しかけてくる。

 

「食事、服など日用品に関することはMEIに頼れ。俺は基本的に部屋に引きこもっているんで無理に挨拶しにこなくてもいい」

「なんなりとお申し付けください。ハイル様」

「は、はい」

 

「なんだか騒がしいなー。ふぁーあ」

 

 と、ここで新たな人物が欠伸をしながらリビングへと入ってきた。

 その人物———女性を見て、私は驚きのあまり言葉を失う。

 見た目はラノベとかアニメから飛び出してきたような金髪青目のツインテール美少女。

 

「あぁ、ねむ……」

 

 『自堕落』という特徴的なだぼだぼのtシャツを着た彼女は、寝ぐせを直すこともなく私たちの前を横断し———そのまま冷蔵庫を開き、業務用の丸型アイスを取り出しスプーン片手に食べ始める。

 

「おいこら、バカ姉。一応客人の前なんだから最低限の慎みを持て」

「アイスうま」

「駄目さ加減に磨きばかりつけやがってこの駄姉……!!」

 

 待って、もしかしてこの人……そ、そうだよね?

 ツインテールに日本人離れした金髪。

 そして特徴的すぎるデザインのtシャツに、この人目をはばからない駄目人間ムーブ。

 

「あ、あのもしかして七井レアリさんですか?」

「ん、私のこと知ってんの?」

「ほ、本物だァ———!?」

 

 ここ最近話題になっている駄目人間系フーチューバーこと七井レアリ。

 普通ならば数多くの配信者の中に埋もれるだけの動画内容ではあるが、その人並み外れた美貌と駄目人間さ加減で多くの人々から注目を集めている駄目人間系美少女である。

 私もおすすめの動画とかが切っ掛けて知ることになった。

 

※画像はイメージです

□    ライブ
 
     

♯暴露配信

【姉】堕落の極み配信

XXXXX人が視聴中

高評価  低評価 チャット  共有 保存 …

JEMJEMチャンネル 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数XXXXX人

 

 

 ……まさかこんなところで会うとは思いもしなかった。

 

「すごい……業務用アイスをそのまま箱ごとスプーン突っこんで食べようとする罪深さ。身だしなみを全く考えていないズボラさ。本当に駄目さ加減が分かる……!!」

「客観的に表現されると相当な駄目さ加減だな我が姉は」

 

 まず業務用アイスをそのまま食べるという発想が悪魔的だ……!!

 この様子からして常習犯……!!

 だが見た目は非の打ち所がない美少女……!!

 これが世の理不尽と言うやつか……!!

 

「で、あんた誰?」

 

 と、そんなことを考え今日何度目か分からない戦慄をしていると、もくもくとアイスを口にしていた七井レアリさんが胡乱な目で私を見てきた。

 

「この子は此花灰瑠ちゃん。カツミちゃんのお友達よ」

「……へぇ、黒騎士の」

 

 どこか探るような視線が向けられる。

 これまでの面々からしてこの人も宇宙人なのだろう。

 

「あんたここに住むの?」

「え、ええ、まあ、そうです。お世話になります」

「ゲームとか得意?」

「え? 一応、人並みには……」

 

 どういう意図の質問なんだろうか。

 思わず首を傾げてしまっていると、にんまりと笑みを深めたレアリさんは私の手を取る。

 

「じゃあ、暇つぶしがてら付き合いなさい」

「え、な、なんでぇ!?」

「だってジェムは大人気ないし、メイは忖度するし、イレーネはアホだし、サニーは街練り歩いて変態してるし退屈していたのよねー。貴女、黒騎士の知り合いでしょ? そこのところも合わせて私の遊び相手になりなさい!」

 

「数少ない姉にぎゃふんと言える機会を見逃すとかないわ」

「申し訳ないことにげーむとやらに不得手で……」

「アホ呼ばわり……」

「ねえ、私さらっと変態呼ばわりされてなかった? 異変がないか見て回っているだけで変態呼ばわりされるの私? ……待って。もしかしたらこれいいアイディアかもしれないわね」

 

 め、滅茶苦茶だ……。

 だけどアズのような悪意は感じないし、なによりここには私の知らない穂村君のことを知っている人たちがいる。

 まだ、私はこの世界に足を踏み入れたばっかりでなにも知らないし、なにもできない。

 それでも、なにもできないなりに、できることをしていこう。

 

「これ、興味あったのよね。『ドギマギめもりある』。やろーよ」

「別のゲームにしない?」

 

 ちょっと待って、居候先に来て30分も経ってないのにギャルゲーやらされるの私?

 




サニーチームになんだかんだで馴染めそうなハイルでした。
最初のサニーの独白? をゆっくり見たい方は誤字報告機能から見れるかなと思います。


今回の話と合わせて「【外伝】となりの黒騎士くん」の方も更新いたしました。

第15話『音が消えた日 1』

外伝の方は明日も更新する予定です。


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混沌としていく状況

お待たせしました。
恐らく、今年最後の更新となります。

今回はちょっと長めになってしまいました。
きらら視点です。


 同時に起こりだした異変。

 救出した女性、風浦桃子さんの身に起きた謎の現象に、此花灰瑠という私の同級生だった(・・・・・・)少女の消失。

 前者も問題ではあるが、それ以上に後者の方が非常に事態は深刻だ。

 なぜなら同じ学校、クラスにいたはずの私自身が此花灰瑠という友達のことを完全に忘れてしまっていたことだ。

 アルファの認識改編を甘く見ていたつもりはないけれど、いざ自分の身に起こると本当に怖い能力だと気づかされてしまった。

 

「きらら、大丈夫?」

「うん。でもまだ頭が混乱してるかも」

 

 私を気遣ってくれるアカネの言葉に頷く。

 学校が終わり、そのことを聞かされた時は知らない間に自分の日常が変えられてしまっていた事実に怖気が走った。

 さすがに体調を崩すほど軟ではないつもりだったので、今はアカネ、葵と共に本部へ戻り検査を受けている風浦桃子さんのいる部屋の隣で待機している。

 

「カツミ君……」

 

 私よりもずっと深刻なのはカツミ君の方だ。

 強化ガラスを隔てた先にはベッドに寝かされ、特殊な機械でスキャンを受けている風浦さんの姿を深刻な様子で見守りながら、先ほどから一言も話さない彼にどう声をかけていいか分からなくなる。

 学校の友人であった此花灰瑠さんが狙われてしまったことを……多分、彼はそれを自分のせいだと思ってしまっている。

 

「もう、どうなってるの……」

 

 風浦桃子さんの方も深刻だ。

 彼女のいる部屋の機械、ベッドそのものはしっかりと固定されているので浮かぶことはないが、それがなければ今頃風浦さんの身に起こっている謎の現象で浮かび上がっていたことだろう。

 現に今、彼女の髪や服などが無重力空間にあるようにゆらゆらと動いている。

 

「社長、彼女の身にいったい何が起こっているんですか?」

 

 数名のスタッフと共にスキャンを行っていた社長に尋ねてみる。

 彼は一旦手を止め、悩まし気な様子で腕を組んだ。

 

「……現在、風浦桃子の身体の中で正体不明のエネルギーが発生している」

 

 正体不明……?

 それが周囲のものを浮かばせたりしているの……?

 

「タリア、データを」

『かしこまりました』

 

 社長の指示で基地内のシステムを管理するエナジーコア、タリアさんがホログラムを空中に投射する。

 映し出された人型の中心部分に虹色に輝くなにかが渦巻いている。

 

「社長、これはなんなんですか?」

「星界エナジー。星を守る戦士達、星界戦隊が用いる力だ」

「「「!?」」」

 

 風浦さんに憑りついていたヒラルダが所属していた序列二桁上位の存在。

 そんな彼らの操るエネルギーを彼女は作っている……?

 その事実に驚いていると、タリアさんが解説を行ってくれる。

 

『現在、風浦桃子様の肉体からは星界エナジーが作り出されております。本来、星界エナジーは別次元から供給される未知のエネルギー。一生物がエネルギーそのものを作り出すという現象はこれまでになかったことです』

「でも星界戦隊は普通に使っていたと思うんですけど」

『彼らもエネルギーそのものを作り出していたわけではなく、それを別次元から引き出す“核”のようなものを用いていたのでしょう。———そして現在、星界戦隊が保有していたであろう五つの核はヒラルダが所有していると考えられます』

 

 というと、風浦さんは核からエネルギーを引き出しているわけでもなく、自分で星界エナジーというものを作り出しているということなの……?

 正直、それがどれだけ凄いことかは分からないけど、風浦さんにとってよくないことだというのは分かる。

 

「肉体に害はない?」

「ない。不思議なほどにな。今起こっている現象は作り出された星界エナジーが漏れ出しているだけだろう。彼女自身の肉体に害が起こっている様子は微塵も見られない。いや、それどころか……」

「……社長?」

「いいや、今の時点で断定はできん」

 

 意味深な呟きを残す社長。

 追及しても意味がないと察していると、ガラス越しにいる風浦桃子さんが目を覚ました。

 ゆっくりと目を開け、寝ぼけた瞳で周りを見回し———浮かばないようにベッドに固定された自身の身体を見て、彼女は焦った表情を浮かべた。

 

『な、なにこれ!? ここどこ!?』

「いかんッ! これではまるで我々が悪の組織みたいなことをしていると思われる!?」

「思われるというか、絵面だけみるとそうとしか……」

 

 実際は検査していたわけだが。

 

「面識のない我々が出ても警戒されるだけだな。……カツミ君、すまないが」

「ああ、任せとけ」

 

 社長の言葉に頷いたカツミ君が隣の部屋へと進んでいく。

 その表情から彼が今、どんな感情を内に秘めているのかは全く推し量れないけれど、表面上は穏やかなように見えてしまうのがちょっと怖く感じてしまう。

 

『失礼します』

『っ、誰!?』

 

 白い扉を開け、検査室へと入るカツミ君に怯えた反応を見せる風浦さん。

 彼女の感情に呼応するように瞳が桃色に輝き、周囲の物を浮かばせようとする力が強くなる。その力でカツミ君の身体も浮かびそうになるけど……。

 

『シロ』

『ガウ!』

 

 彼の足を白色の装甲で包まれたスーツが部分的に展開し、磁力のようなもので床に張り付いた。

 浮かびかける彼と周りを見て、自分の置かれている状況をようやく認識できた風浦さんは、徐々に顔を青ざめさせていく。

 パニックになりかける彼女のいるベッドにゆっくり近づいた彼は、膝をついて視線を合わせた。

 

『ぁ、そうだ、私は……変な力に目覚めて……』

『はい。今、貴女はジャスティスクルセイダー本部で検査を受けている最中です。そのベルトも貴女を縛り付けるための拘束ではなく、安全のためのものと思ってください』

『確かに、よく見れば自分で外せる……』

 

 少し落ち着いてくれたみたいだ。

 周りの現象も少しだけ緩和しているみたいだし、彼女の精神状態で色々と変わってくるのかもしれない。

 

『まだ貴女の身に起こっていることについては不明です。……現状は命の危険はないことは確かです』

『私は、いつまでここにいればいいの?』

「……それは、分かりません」

 

 その答えは予想していたのか風浦さんは項垂れる。

 十秒ほどの沈黙の後に、震えた声で彼女はカツミ君へ話しかける。

 

『君は、ここにいてくれる?』

『……っ』

 

 一瞬、カツミ君の表情が苦し気なものになる。

 風浦さんには悪気はない。

 それどころか自分の身体に得体のしれないことが起きて不安でしかないこの状況で、唯一頼れる人間がカツミ君だけなんだから、そう願い出て自然なんだ。

 でも、カツミ君は今……。

 

『あ、あの、私、ヒラルダに憑りつかれている間、色々なものを見させられたの。星界なんとかとか、黒いゴツイ怪人が蝶みたいに孵化するところとか……』

 

 何か月もヒラルダに乗っ取られ精神的に大きな傷を負い弱り切った風浦さんがこうなってしまうのも無理ない。

 

『だから……役に立てるから、私を見捨てな———』

 

 その時、カツミ君が唐突に自分の額を殴りつけた。

 静かな検査室に響いた音に私達も風浦さんもびっくりする。

 

『だ、大丈夫!?』

『気にしないでください』

『いや気にするよ!?』

 

 額を赤く腫らしながら顔を上げた彼は慌てふためく風浦さんと視線を合わせる。

 

『絶対に見捨てません。俺も、ここにいる人たちも』

『黒騎士くん……』

『だから貴女も自分を見失わないでください。俺は、ヒラルダに乗っ取られている間も貴女の声を聞いた———貴女は強い人だ』

『っ……うんっ』

 

 それから、落ち着きを取り戻した風浦さんといくつか言葉を交わした彼はそのまま風浦さんのいる検査室を後にし、こちらへと戻ってくる。

 彼の額は赤く腫れており、それを見て心配したハクアが駆け寄って傷を見ようとする。

 

「かっつん、額大丈夫?」

「心配ねぇ。少しばかり自分に活をいれただけだ」

「でも赤く腫れてるけど……」

「……」

 

 無言でハクアに湿布を張ってもらうカツミ君。

 結構な勢いで殴りつけてたから普通に痛そうだったもんなぁ。

 

「レイマ、風浦さんは大丈夫だ」

「うむ。こちらで漏れ出した星界エナジーの抑制手段も探しておこう。……君はもう大丈夫なようだな」

「ああ」

 

 カツミ君の表情にもう思いつめた様子はない。

 幾分か肩の力を抜いた彼は脱力するように近くの椅子に腰かけ

 

「俺がここで怒りに任せて暴れてもなにも解決しない。むしろ今よりもっと状況が悪くなるだけ———なら、今は我慢するしかない」

 

 感情を押し殺した呟きの後に彼は小さく笑みを浮かべる。

 

「それにさ、餅は餅屋って言うだろ? 殴ることしかできない俺なんかよりも、すげぇことができる仲間達が今の俺にはいるからな」

「君は純粋すぎる!?」

「レイマ!?」

 

 椅子から垂直に飛び上がり、そのまま地面にびたーん!! と鯉のように叩きつけられる社長。

 控え目にいってその挙動はキモいの一言に尽きるけど……カツミ君の言葉には彼が変わったことが分かりジーンとくるものがあった。

 

「なるほど、ここは私の理系ダウジングの出番というわけだね」

「感動に水を差すな」

「あんたは座っとれ」

 

 私とアカネの制止を躱しぬるりとカツミ君の前に躍り出た葵はどこからともなく二つのL字型の金属の取り出した。

 まんまダウジングとかに使うアレである。

 

「……役に立つのかソレ」

「逃亡中のカツミ君の居場所をドンピシャで当てた」

「マジかよ……すげーなおい……!」

 

 あぁぁぁ!? カツミ君が光明を得たみたいな顔してる!?

 葵の謎行動に慣れ過ぎてダウジングで個人を特定する意味不明さに疑問を抱けなくなってる!!

 早速、映し出されたホログラムをテーブルに投影させてダウジングを始める葵。

 カツミ君はその様子を真面目な表情で伺っている。

 

「カツミ」

「アルファ、どうした? 今、葵が理系ダウジングをしているんだ」

「むるるる」

「どんな掛け声……?」

 

 かつてないほどのやる気でダウジングを行ってる葵を横目で確認し、見なかったことにしたアルファはカツミ君に視線を戻す。

 その表情はどこか強張っているように見える。

 

「認識改編を使えるの、私だけじゃないって知ってたよね?」

「! それは……」

 

 ———ッ、カツミ君は知っていたの?!

 アルファの言葉に驚く私達だけど、社長だけは知っていたのか大きな反応を返さなかった。

 つまり、これはカツミ君と社長だけに共有されていた情報ということになる。

 表情を強張らせるカツミ君に、アルファは微笑んだ。

 

「怒ってないよ。カツミがなにかを隠してることは知っていたし、問いただすつもりもなかった」

「……悪かった」

「謝らなくてもいいよ。私のためなのは分かってるから」

 

 確かにカツミ君が意味もなく隠し事をするようには思えない。

 きっと何か理由があるはずだ。

 

「……。レイマ」

「事態が動いてしまった今、話すべきだろう」

 

 社長に確認し、頷いた彼は此花灰瑠さんが全世界の人々の記憶から消えてしまった原因について語りはじめた。

 ———それは、私達にとっても衝撃的な内容であった。

 

 アルファと同じ認識改編を持つ“星将序列6位”アズと呼ばれる存在。

 アルファの母親を名乗ったそいつはカツミ君に近づいてなにかをしようとしていた。

 彼は今回の此花灰瑠が認識改編により世間的に存在を消されたこともそいつの仕業だと確信している。

 

「こんなところだな」

 

 大体の説明を終えた彼はアルファを見る。

 突然自分の母親だとかそんな話を聞かされた彼女は、ショックを受けているかと思いきや……以外にもきょとんとした表情をしていた。

 

「私って宇宙人だったんだ……」

「いや、そこかよ」

「その程度だよ。私の親への認識なんて」

 

 ど、ドライだね……。

 話を聞く限り、気絶したアルファと入れ替わろうとしたとんでもない奴だということは分かったけど。

 

「カツミの敵になるなら親だなんて関係ない。恩もなにもないし、現に今貴方を苦しめる輩に情なんて持たない。私の家族はカツミとハクアだけだよ」

「姉さん……」

「唯一感謝することがあるとすれば私という存在を生み出してくれたことだけだよ」

 

 アルファは意外と他人と身内の線引きが厳しい、というのはなんとなく分かってはいた。

 彼女にとっては他人はどこまでも他人だから平気で認識改編を使おうとするし、最初の頃は平気でアカネに認識改編を使おうともしていた。

 ……まあ、当のアカネは訳わからん理論で認識改編されながらアルファを気絶させたわけだが。

 

「此花灰瑠の変えられた認識は私が元に戻すことができるけど……」

「いいや、それはまだしない方がいい」

 

 ここで社長が声を発する。

 

「現状、此花灰瑠はアズに囚われている可能性が高い。そのような状況で不用意に記憶を目覚めさせようものなら騒ぎになってしまう」

「なら、認識を戻すのは灰瑠を救出した後……ってこと?」

「その通りだ。そのためにこちらで痕跡を見つけなければ———」

 

「くっ、ぬぅぅ……!!」

 

 なにやら理系ダウジングを行っていた葵が膝から崩れ落ちた。

 またなにかやったのかこいつ……的な視線を送っていると近くにいたカツミ君が困惑しながら声をかける。

 

「お、おい、どうした?」

「見つけられなかった……」

「そ、そうか……まあ、オカルトっぽいし別にそこまで期待してなかったが———」

「どうやらオートでカツミ君の場所を指し示すみたい……ッ」

「……おい待て、それ俺限定なのそれ? こえーんだけど」

 

 オカルト部分はちゃんと発揮されていてドン引きするカツミ君。

 本当にどういう原理なんだろうか。

 やり方を教われば私もできるようになるのかちょっと気になる。

 

「———っ!」

 

 ん? 葵の様子がおかしい。

 なにやら一瞬震えた彼女は何を思ったのかそのまま何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「ふむ。仕方があるまい」

 

 喋り方が……。

 いや、よく見ると葵の瞳の色が赤みがかった色に変わってる!?

 

「いつまでも認識改編とやらに翻弄されるのも目障りだ」

「葵……?」

「このわらわ相手に態度がでかいぞきらら。デカいのは乳と尻だけにしておけ」

「ぶっ!?」

 

 こ、このドストレートなセクハラ発言は……アサヒ様!?

 葵の口から飛び出した言葉に狼狽えているところに、アカネが驚きの声を上げる。

 

「アサヒ様、引きこもりの貴女がどうして!?」

「ふんっ」

「あべし!?」

 

 とんでもない速さの手刀がアカネの頭に叩きつけられ、床に倒れ伏す。

 そんなアカネの背中に腰おろした葵———の身体に乗り移ったアサヒ様は晴れやかな笑顔でカツミ君を見る。

 

「カツミ、壮健そうでなによりだな」

「え、ええ。あの、アカネは……」

「平気だろう。心配するほどでもないぞ」

 

 やっぱりカツミ君に対してだけなんか甘いよねこの人!?

 露骨な扱いの差にびっくりだよ!!

 よつんばいのまま椅子にされているアカネに視線を落としつつ、アサヒ様は足を組む。

 普段の残念で不思議な葵から想像もできないクール系雰囲気美人っぷりに逆に困惑してしまう。

 

「アサヒ、と呼ばれるジャスティススーツのエナジーコアか……なぜこのタイミングで表に出てきた?」

「なに、そろそろ認識改編とやらが鬱陶しくなってきたのでな。この私がこいつらの認識を変えられないようにしてやろうと思ってな」

「なんだって……?」

「ついでに此花という小娘のことも戻してやろう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は……此花灰瑠……いや、クラスメートで友達のハイルのことを思い出した……!!

 ついさっきまで会ったことすらないと思い込んでいた彼女の声と姿が鮮明に頭に浮かび上がってくる。

 

「アサヒ様、これは……」

「どうだ? 戻っただろう。今後はその認識改編に影響されないようにわらわが手を貸してやろう。つまらん能力に翻弄されるのもつまらんしな」

 

 確かに、ハイルのことを思い出した。

 これからは私達三人は認識改編の影響下にされなくても大丈夫ってこと?

 

「そんなことが、可能なのか」

「当然だろう。エナジーコアといえ元はアルファだ。能力に抗おうと思えば抗える。ある程度の“格”は必要になるだろうがな」

 

 言外に自分にはそれだけの格があると言っているようにも聞こえる。

 まあ、このデタラメ戦闘力を持つこの人? の格が低いとは微塵も思えないけれども。

 

「要件は済んだ。また内に戻るとしよう」

「対話をするつもりは……」

「ない」

 

 社長の言葉をばっさり両断したアサヒ様そのまま瞳を閉じ、内側に引っ込んだ。

 次に瞳が開けられると赤みがかった瞳は葵の元の色へと戻っていたが———当の本人はどこか残念そうにしていた。

 前のアカネみたいなのを期待していた、とか?

 ……葵ならありえる。

 

「いやどいてよ!?」

「あっ、ごめん。気づかなかった」

 

 椅子にされていたアカネの訴えに気づいて立ち上がる葵。

 でも結局は状況はまだ一つも好転していない。

 これから社長が此花灰瑠を探してくれるだろうけど、果たして見つかるのだろうか。

 

「……ん?」

 

 その時、どこからか聞きなれないメロディーが鳴り響く。

 なにかの着信音かな? 私でもアカネ達でもないし……。

 

「……え、誰?」

「俺だな」

「カツミ君の!?」

 

 そ、そりゃカツミ君も持っているから着信音くらいなるだろうけど……!!

 カツミ君が普通にスマホを操作している姿に未だに違和感がある。

 

「なんでこんな驚いた顔されてんの……?」

「カツミ君、私達以外に連絡する相手とかいるの?」

「失礼すぎるだろ。ハルとか結構送ってくるし、ななかとコータとか……お前らのご両親とかからも色々来るぞ」

「「「……え?」」」

 

 家に帰ったら家族会議が決定した。

 待って初耳。

 え? え? 私の両親がメッセージ送ってるの?

 何を? 余計なことカツミ君に言ってないよね?

 きっと同じことを考えているであろう私達を他所に、彼は先ほど入った着信に目を通し———目を丸くさせた。

 

「……サニーからLINEだ」

「序列三位からLINE!? 普通に来るのか!?」

「連絡先は交換していたからな。……馬鹿正直に送ってくるとは思っていなかったけど」

 

 だとしても敵幹部ともいっていい存在からLINEが届くことに驚きだよ!!

 いったいどういうことなの!?

 

「な、内容はなんと!?」

「今確認する」

『カツミ、皆に見れるように画面を共有しようか?』

「おう、頼む」

 

 プロトがモニターとスマホの画面を共有させ、私達にも見えるように投影させる。

 

< サニー

   /l、

   (゚、 。`フ

   」  "ヽ

  ()ιし(~)~

19:11
      

カツミちゃん

これ映えるよね

19:11
      

 
既読

20:33

突然どうした

 

 

「……カツミ君、普段どんなLINEしてるの……?」

「いや、普段というかこれは昨日突然猫の写真が送りこまれてきたんだよ。……呪いかなにかか?」

「た、多分違うと思う……」

 

 カツミ君が見ているかどうか確かめるために送った……とか?

 本題のメッセージはこの下だけど、なにがあるんだろう。

 カツミ君が画面を指でスライドさせると、下にある新規のメッセージが出てくる。

 

< サニー

   /l、

   (゚、 。`フ

   」  "ヽ

  ()ιし(~)~

19:11
      

カツミちゃん

これ映えるよね

19:11
      

 
既読

20:33

突然どうした

 

今日

 

貴方が探している情報

https://www.whotube.com

18:23
      

 

「俺が探しているって……!?」

「待ってカツミ君。社長、リンク先に罠がないか確認できますか?」

「ああ。……、普通の動画サイトだな。時間的に3分ほどの動画のようだ」

「動画? 一般に公開されているんですか?」

 

 私の質問に社長は頷く。

 ……もし、ハイルが人質にされている姿だとか、ひどい目に遭っている姿が出てきたらどうしよう。

 ありえない話じゃない。

 

「とりあえず見なきゃ始まらない。あのサニーが送ってきたんだ、悪い情報ではないと……信じたい」

 

 カツミ君がURLをタップして動画を開く。

 出てきたのは見慣れた動画サイト。

 短いロードの後に動画が表示される。

 

 

『……なにやってんの? ほら、挨拶しろ。挨拶』

 

『は、はじめましてぇ、ハイルと申しまぁす……』

 

    0:02/3:00
 
     
♯駄目人間実況 ♯新人

【3分で分かる】駄目人間のギャルゲー配信まとめ

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青春とは真逆の位置に立つ女

今日から新たなメンバー参加

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「「「「は?」」」」

 

 その場にいた全員がそんな素っ頓狂な声を発した。

 悪い予想ばかりしていたのに出てきたのは友人が、見覚えのあるツインテールの金髪美少女とゲーム実況を行おうとしている姿。

 これに困惑しない方が無理がある。

 

 

「なんだかよく分からない内にゲーム実況をやらされることになりました……」

 

 

「こ、此花……?」

「な、なぜゲーム実況?」

「この動画投稿されたのついさっき……」

「隣の金髪、最近話題になってる駄目人間系フーチューバ―じゃん」

 

 そういえば隣の子も最近よくおすすめとかで出てくる子だ……!!

 見た目の可愛さとは真逆の駄目人間さ加減で逆に人気になっている奇妙な人———という印象だったけど、今となっては普通の人間じゃないって考えも出てくる。

 

 

「本当の本当の本当になんでこんなことになったかよく分かりませんけど、とりあえずやりま……」

「ハイル」

「……なんですか?」

「お菓子持ってきて」

「は?」

 

 

 私たちの理解を超えたまま動画は進んでいく。

 3分で分かる、というか3分にまとめるように編集した動画なので場面が飛び飛びで動画が進んでいくが、微塵も頭に情報が入ってこない。

 てかハイル。

 なんで普通にゲームやってるの……?

 どういう意図なの……?

 全然分かんないよ……。

 


 

園巻わかば

………ねえ、

私のこと、君はどう思ってる?

 

 

選択してください

『大好きだ』

『友達だ』

『……』

 

「は? こんなの大好きが正解じゃん。嘗めてるじゃん」

「いえ、ここは友達ですね。まだ出会って数日なのに言葉にして伝えてこさえようとするとかやばいです」

「……そうかぁ?」

「あと恋人でもないのにいきなり大好きか聞いてくるとか普通に引きますね。よって友達が正解」

 

園巻わかば

ねえ、私のこと好きじゃないんでしょ!

気持ちだけじゃ分かんないよ!

 

 

ドンッ!!

 

「言葉にしなきゃ伝わらない系!!」

「まったく駄目駄目だなぁハイルは。代われ」

 


 

 テーブルを勢いよく叩き感情を露にさせたハイル。

 そんな彼女からコントローラーを受け取った金髪の子がロードし直して選択肢を選び直す。

 


 

園巻わかば

…………え、今なんて言ったの?

ごめん、風が強すぎて聞こえなかったよ

もういちど言ってくれない?

 

ドンッ!!

 

「耳元で叫んでやろうか!! ワカバァ!!」

「難聴系ヒロイン!?」

 


 

 なんかストレスでも溜まっていたのかな……ってくらいにノリにノリはじめたハイルが、場面が切り替わるごとに金髪の子と共に異様なテンションでギャルゲーをプレイしていく。

 

「ハイルって恋愛経験皆無だからそんなこと言えるんだよね!!」

「なんですか!? 喧嘩なら買いますよ!?」

 

「だからこの選択肢違うって言ったじゃないですか!! バカなんですか!?」

「うるせぇぇぇぇ!! 黙れぇぇぇ!!」

 

「なんだハイルお前……指示厨かぁ!!?」

「指示される貴女に問題があると思うんですけどね!!」

「なんだとこの野郎!!」

 

「うわあああああああ!?」

「わああああああああ!?」

 

 恋愛ゲームで壮絶な罵声と絶叫を繰り返すハイルと金髪の少女。

 あまりにも混沌とした動画は最後を迎え、ラスト10秒でゲーム画面ではなくハイルの姿を映し出す。

 それだけ後付けなのか、どこか緊張した面持ちで映像にいた彼女は口を開ける。

 

「私は!!」

 

「無事です!!」

 

 ———と、そう大きな声で発せられた言葉で動画は終了した。

 動画の最後だけ見るならば、ハイルは今は無事ということになる。

 

「い、いったい、どういうことなんだ……?」

 

 カツミ君の困惑とした呟き。

 普通ならすぐにでもこたえたいところだけど、これにばっかりは誰もすぐに返答することはできなかった。

 




ジェムの編集力によって感情爆発系実況者デビューを果たしてしまったハイル。
なお、何度も危険な目に遭っているのでレアムにも物怖じすることもなく結構気に入られている模様。

今回の更新は以上となります。


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閑話 星界雲器

二か月もお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
一月中はちょっとごたついててこちらの更新が滞ってしまいました。

今回は三日に分けて三話ほど更新する予定です。



前半がアズ視点
後半でジェム視点でお送りします。


「私は!!」

 

「無事です!!」

 

 

「あっはっはっはっはっは!!」

 

 さきほど投稿された動画を見て思わず手を叩いて笑う。

 まさかここまでおかしなことになるとは思いもしなかった。

 此花灰瑠を確保し損ねた時はもうどうしようかと思ったけど、中々に愉快なことになっているようだ。

 

「なるほど、よく考えたわねぇ。サニーの入れ知恵かなー?」

 

 私の認識改編の妨害を受けずに克己に安否を伝える手段として、動画を投稿するのは面白い方法だ。

 映像は残るし、なにより認識改編の影響を受けない克己に対して危険なく伝えることができるからだ。

 

「目論見は失敗したけど此花灰瑠を巻き込むことに成功した」

 

 思い通りにいかないことには慣れっこだ。元よりそういう運命に生まれてきた身だ。

 

「……でも此花灰瑠は確保したかった。クソ、サニーのやつ……あいつ好き勝手にやる癖に行動が読めないのがね。あのオカマなんなのよホント……」

 

 彼女を捕まえていれば克己を戦いに煽る算段をつけられていたはずなのに。

 その計画もパーだ。

 今、彼女はサニーに確保され、七位と八位の元にいる。

 

「八位も七位も脅威ではないけど……同時に相手取るのは面倒くさい」

 

 てか間違いなく戦っている場所が更地になるので、ジャスティスクルセイダーと黒騎士の介入を避けられない。

 混沌は大歓迎だが台無しにすることは望んじゃいない。

 

「……ルインも割って入る可能性もあるしそこも気を付けないと」

 

 面白半分で私を放置しているクソチートバグ女が克己の激情に当てられ参戦するようなことがあれば、地球どころではなく銀河の危機だ。

 比喩でもなんでもなく文字通りに一切合切が滅ぼされる。

 

「……ん?」

 

 近くに歩いてきていた小さな存在に気づく。

 人間基準で七歳ほどの黒髪の子供……だけど、その姿は普通とはかけ離れていた。

 

「あら、眠れないのかしら?」

「……」

 

 例えるのなら人の形をした暗闇。

 着ている服を除く全てが影のようなものに包まれており、その両目を覆うように頭にはベルトが巻かれている。

 

「ごめんね。起こしちゃったみたい」

「……」

「気にしなくてもいい? 気にもしてないわ。だって君は道具なんだから」

 

 椅子から立ち上がり、子供を抱き上げる。

 相応の重さを腕に感じながら、私はその子に語りかける。

 

「駄目じゃない。ちゃんと休んでいなきゃ」

 

 ここは深い、それは深い地下世界。

 広大な洞穴の中に作り出された怪人の巣窟。

 怪人の能力で創造、作り出された悪趣味な内装の通路を歩きながら私は腕の中のこの子に語り掛ける。

 

「貴女の命は私が使っているんだらもっと大事にしなさい」

「……」

 

 言葉は返さない。

 声を出す機能はあるはずだが、肝心のこの子は声を発することはしなかった。

 私が教育を疎かにしているからか、その必要性を感じていないのかもしれないが……まあ、喋られても困るだけだしどうでもいい。

 

『ヴァァァァ!!』

 

 通りがかった通路にはめこまれた透明なガラスになにかが激突する。

 ガラスを隔てた先にいる獅子のような姿をした“怪人”は理性の欠片のない表情で腕の中のこの子に敵意を向けている。

 

「まだやって(・・・)ないの? しょうがない子だ」

「……」

「ついでにやっておきなさい」

 

 そう語り掛け、この子の目を覆う目隠しをずらす。

 露になる瞳———そこから光が溢れ出て、ガラス越しにいる怪人を照らす。

 

『ギ、ヴァァァ!?』

 

 瞬間、内側から肉をあふれ出した怪人が苦しみだす。

 元の形からどんどん肉塊へと変わり、別の何かへと姿を変えていく。

 全く以てして悪趣味極まりない力だなぁ。

 

「これを貴方のお父さんは問答無用にできていたんだから恐ろしいわ」

「……ッ……ッ」

 

『ァ、アァァ……』

 

 変形の果てに現れたのは魚のような顔をした人型の怪人。

 女性型の体躯よりも大きな透明感のある尻尾をしならせた怪人には見覚えがある。

 

「音喰怪人じゃない。これは当たりを引いたね! 偉い!!」

「……」

 

 わしゃわしゃと髪を撫でまわす。

 ジャスティスクルセイダーの火事場のクソ力でやられちゃった子じゃーん!!

 第八位対策に使える怪人でもあるのがヨシ!!

 まあ、それ以外のメンツにはちょっと今じゃ力不足だけど、当たりなことには変わりない。

 怪人ガチャSR枠ってところかな。

 

「ふふ」

 

 地球のオメガが万物の生命の在り方を歪める怪物だとすれば、この子はその予備・バックアップとしてオメガ自らの手で分裂させた品種改良(・・・・)に特化した怪人といえるだろう。

 怪人しか作り変えられないし、一日にそれができる回数に制限もある。

 だがその分、より綿密な改良も可能だし、残しておいた怪人の細胞を利用することで量産も可能だ。

 

「さあて、貴方の部屋よ」

 

 通路から一つの部屋へと足を踏み入れる。

 その先にはニューのために用意した子供部屋があり、そこにはおもちゃやベッドなどが置かれている。

 とりあえずニューをベッドに寝かせ、影に包まれた漆黒の髪を撫でつける。

 

「本当に父親とは似ても似つかない」

 

 父親はまさしく怪物といってもいい姿だった。

 元々が人間かどうかすら分からないほどの常軌を逸した怪人。

 その子供とも呼べる存在がこんな小さくかわいらしい姿をしているとは誰も思いもしないだろう。

 

ν(ニュー)。貴方は優秀な失敗作よ」

 

 失敗作だからこそうまく扱えるようになった。

 それほどまでに先代の力は強力すぎて扱いにくかったんだよなぁ、うん。

 

「よく眠るといい」

「……」

 

 ニューが小さな寝息を立てたことを確認し、私は通路を出る。

 

「まったく、手がかかる。少しは私の分裂体を見習ってほしいものだわ」

 

 克己の傍にいるもう一人の私———とは名ばかりの自我を持った同じ肉体を持つだけの別人の“アルファ”。

 まあ……ただ放っておいただけで育てた覚えもないんだけどね。

 

「さて、ちょっと情報確保のために七位の動画を確認っと……ん?」

 

 端末を開き動画の続きを見ようとしたところで、通路の先に黒い渦のようなものが現れていることに気づく。

 ……んー、随分と珍しいお客さんだ。

 

「———おやおや、星界存在がわざわざ私に何の用かな?」

 

 星界存在。

 別次元に住んでいるという形のない生命体。

 意思を持った宇宙だとか星雲とか色々と言われているが、私からすれば話していて面倒くさいやつら。

 

「ゼグアルは元気?」

『奴は、いない』

「幽閉したの間違いだろう? 皮肉も分からないのかしら? 次元の寄生虫共が」

 

 星界存在ゼグアル。

 次元宇宙の平和を守ることを使命とした善の心を持つ意思……のはずが、今や隙をつかれてどっかの星の核に閉じ込められ幽閉されているマヌケだ。

 

『取引だ。α(アルファ)

「その名で呼ぶな。星雲もどきが、捻り殺すぞ」

 

 手元に白い渦を作り出し、それを黒い煙に向ける。

 渦巻く次元の穴を侵食・干渉し、その奥にいる星界存在(クズども)の存在を捻じ曲げる。

 

『———ッ、———ッ』

「私がお前らを調子づかせる理由はないんだよ? ねぇ、一応は対等な関係にしておきたいけどいい加減私の地雷を分かって欲しいなぁ」

 

 きりきり、と音を鳴らす星界存在を解放する。

 まったく学習能力のないやつらの相手をするのは本当に嫌になるよ。

 

「で、取引だって? お抱えの星界戦隊が壊滅させられて手駒がいなくなったから?」

『所詮はゼグアルが集めた寄せ集めの命』

「汚染して弱体化させた上に死んだの間違いじゃない? 挙句の果てに星界核も奪われ利用された。だから私に接触するしかない」

 

 ヒラルダっていう子だよね。

 あの子は結構強かで面白い。

 

『星界エナジーを生み出す生命体———星界雲器(ステアスピリチア)が発生した』

「!……へぇ。なるほど、だから……それで? どの星に現れたの?」

『地球だ』

 

 ……まッッッた地球かよ!

 と、内心の絶叫を抑え込みポーカーフェイスを保つ。

 

『星界エナジーを単独で生み出す奇跡。我らが待ち望んだ存在だ』

「食い尽くすの間違いでしょ? あーいやだいやだ、寄生することでしか生きられない奴らはなぁー」

 

 星界存在、とは名乗ってはいるものの本来はこいつらは別に星界とはなにも関係のない奴らだ。

 星界エナジーを食らう怪物。

 そんな厚かましい存在がこいつらなのだ。

 

『力を惜しまない。お前の目的に我々の力は役立つはずだ』

「……。それもそうよねぇ」

 

 事実、これまでの怪人じゃちょっと力不足かなぁとは思っていた。

 そんな時にこの提案。

 多少の危険はあってないようなものだし、受けてもいいかも。

 

「じゃ、協力関係結ぼっか」

 

 私の声の直後に黒い淀みから五色の光を放つ球体が吐き出され、私の手に収まる。

 

「星界核ね。ま、ちょっと小さいけどこれでも十分かな?」

『約束、違えるなよ』

「分かってる。ま、人任せにするんだから黙って見てなさい」

 

 ばいばーい、と手を振ると黒い淀みは霧散して消える。

 

星界雲器(ステアスピリチア)の発生か。つくづく唯一無二の宇宙よね、ここは」

 

 星界エナジーを自ら作り出す地球人には興味がある。

 既にジャスティスクルセイダーに回収されているという時点で、難しいどころの話ではないけど。

 

「ふふふ、いいもの手に入れたなぁ」

 

 地下に降り注ぐ作り物の光に星界核を当て、こらえきれない笑みを零す。

 これでまた色々できそうだ。

 

「新たな怪人事変を始めてみるのも楽しそう」

 

 彼らの残虐さを、地球人は忘れている頃だ。

 思い切り思い起こしてやろうじゃないか。

 

「だけど、その前に」

 

 もっと彼の戦う理由(・・・・)を増やしてやろう。

 此花灰瑠を攫う目論見が失敗し私のプランがおじゃんになった———が、この失敗を利用して次のプランを今即興で考え付いた。

 

「———」

 

 ぱちん、と指を鳴らす。

 ただむなしく音だけが響いていくけれど、今私が行った異変は———もう一人の私、克己の傍にいるアルファは気づいてたはずだ。

 

「さあ、これからの戦いは認識改変はなし」

 

 分裂体の認識改変を私の認識改変で相殺させることで、能力を広範囲に及ばすことをできなくする。

 これでもう分裂体は都合のいい認識改編を行うことができなくなり、此花灰瑠は世間から“いなくなった”まま。認識改編を使えるようにするためには妨害している私を倒さなければいけなくなるわけだ。

 

「私がこれだけしたんだ。彼らもそれ相応のリスクを負ってもらわなきゃなぁ」

 

 ま、小さな改変能力は使えるけどそれは私も同じだ。

 重要なのは大規模な認識改編はもう使えないこと。

 

「ふふふふ」

 

 道半ばで死んでも構わない。

 全てを失っても構わない。

 この私の行動が、意思が、いつかルインという絶対強者の命を刈り取る切っ掛けになればそれで満足なのだから。

 


 

 此花灰瑠が人格的にも壊滅的な姉とあそこまで打ち解けていることは正直驚きであった。

 サニー様から此花灰瑠とレアリのゲーム実況を動画として投稿しろと提案されたときは失礼にも正気を疑ってしまったが、実際にやってみれば驚きの連続であった。

 あの姉と。

 怠惰でおバカで自由人でどうしようもないほど人の話を聞かないあの姉と、コミュニケーションを取れている。

 

「楽しそうではあったな」

 

 戦いでしか自身の生きている意味を見いだせなかった姉が周りのものを壊さずにあそこまで楽しそうにしているのは珍しいどころの話ではない。

 姉に気にいられている……という意味では此花灰瑠はこちらに得難い存在になっているのかもしれん。

 弟としての言葉で言うのなら———俺の代わりに姉を御してくれる人材が現れて助かっている。

 

「ジェム様、粗茶です」

「ありがとう。MEI」

 

 メイド服に身を包んだMEIが湯飲みに淹れられた茶を差し出してくる。

 それを口に運びながら、ソファーに力なく寝ころんでいる此花灰瑠へと振り返る。

 

「いつまで落ち込んでいるんだよ」

「全国に私の全力シャウトが公開されたらこうもなります……」

 

 姉とのゲーム実況に疲れたこともあるが、動画が投稿された事実に打ちのめされているようだ。

 どうせ認識改編で穂村克己以外覚えていないんだから、気にしなくてもいいのに。

 

「気付いたのは穂村克己だけだから別にいいだろ」

「穂村くんだから駄目なんですよ!?」

「……別にいいだろ。大声ぐらいでなんだよ」

「貴方には血も涙もないんですか!?」

 

 いや、ないんだが。

 あるとしたらオイルくらいだ。

 助けを求めるように傍らに控えているMEIに助けを求めると、彼女は首を横に振った。

 

「今のはジェム様が悪いと思います」

 

 一瞬で俺のメイドが敵に回ったんだが……?

 でも、主である俺にAIである彼女が反抗してきた事実は密かに嬉しく思ってしまうな。

 

「なあ、おい。ハイル」

「なんなんですかぁ、ヴァルゴさん」

 

 そんな状況を見かねたのかサニー様をして常識人とまで言われた鳥型のデバイス、ヴァルゴが止まり木から降りてくる。

 

「まずはお前の存在をカツミに知らせられてよかったじゃねぇか」

「でもぉ……」

「あいつはお前が大声だしたくらいじゃ気にしねぇって。それとも、そのくらいでお前のことを見損なうような小さい男か?」

「……」

「違うだろ?」

「……うん」

 

 常識人だぁ……。

 え、言葉こそ乱暴だけど相手に促す形で納得させている。

 本当にゴールディが危険と称したスーツなのか……?

 

「じゃあ、しゃんとしろよ。こんなところでくじけてる様じゃいつまで経ってもあいつに近づけねぇぞ」

「……わかった」

「よし」

 

 ぽんぽん、鼓舞するように翼で頭に触れるヴァルゴに此花灰瑠が頷く。

 まともすぎて逆に普通じゃないとさえ思えてきてしまうほどの常識人っぷりだ……見た目はメカ鳥なのに。

 

「この後はどうすればいいんですか? このまま待機ですか?」

「ああ。お前は序列六位に狙われている状況にあるから下手に動かない方がいい、というのは何度も聞いたな?」

 

 憎悪のアズ。

 サニー様曰く厄介極まりない友人と称されたお方がただの地球人を狙っている状況そのものが異常とも言える、が……此花灰瑠の存在そのものが穂村克己の地雷(・・)ともなれば話は大きく違ってくる。

 彼女を失えば、穂村克己にどのような影響を与えるか分からん。

 というより考えたくもない。

 黒騎士時代の時点で序列一桁に足を突っ込んでいたような怪物がさらなる強化を経て、その上さらに怒りに任せた進化をするなんて……。

 

「とにかくまずは学ぶことを始めた方がいい」

「学ぶ?」

「今、この星が置かれている状況と、穂村克己……ジャスティスクルセイダーの敵のことを」

 

 厳密にいえば我々もその敵の区分にいるのだろうが……俺とMEI、そして黒騎士は実質的に戦闘に関わらないようにしているので範囲外だ。

 

「じゃあ、この黒騎士さんが教えてやろう」

 

 そこで椅子に座りながらぼーっと端末を眺めていた第八位、イレーネ様が此花灰瑠の肩に腕を回しながら現れる。

 突然動き出す一桁クラスにいちいち恐々とさせられる。

 

「い、イレーネ様? 失礼ながら貴女様は教えることに向いてないような気が……」

「私には妹がいた」

「それがなんの理由に……?」

「姉もいた」

「……。そ、そうですか」

 

 ま、全く意味が分からなかったが納得するしかないようだ。

 もうこれは此花灰瑠に丸投げするしかない。

 半ば諦めながら彼女を見ると、特別緊張した様子もなく自身の肩に顎をのせ脱力しているイレーネ様に声をかけていた。

 

「イレーネちゃん」

 

 イレーネちゃん!!??

 じょ、序列一桁をちゃん付けだとぉ!? 

 俺が動画を編集している間にどんなやり取りがあったんだ……!?

 

「教えてくれるのはありがたいけど、どうしてなの?」

「カツミ。ハイルと仲がいい」

「うん」

「ハイルと仲良くすると私の印象が良くなる」

「清々しいくらいに打算的ぃ……」

 

 しれっと口にしているがイレーネ様にここまで執着される穂村克己が恐ろしくなる。

 その条件が全力状態のイレーネ様と戦い生き延びるというのが理不尽すぎる。

 とにかく此花灰瑠についてはイレーネ様に任せつつ、俺たちがサポートするという形でいいだろう。

 ……と、その前に。

 

「此花灰瑠、スマホを出せ」

「え、なんでですか?」

「追跡防止のために機能を停止させる」

「今日まで大丈夫だったんじゃ……?」

 

 今日の今日まで此花灰瑠は携帯端末を持ったままだった。

 理由としては六位と穂村克己の反応を見るため、というのがサニー様の目的だったようだが、このまま持たせておくのは危険すぎる。

 

「アズの操る地球産怪人はなにをしてくるか分からない。もしかすると、物理的にスマホの電波から追跡してくる怪人もいるかもしれない」

「うっ……」

「壊すわけじゃない。機能停止させ、専用のデバイスに保管するだけだ。代わりの高性能端末も用意しているからそっちを使え」

「……はい」

 

 だてに地球産怪人の猛威に晒されたわけでもないようで、状況をすぐに理解した此花灰瑠はやや遠慮気味にスマホを俺に渡してきた。

 それを受け取り、背後の用意しておいたボックス型のデバイスにいれる。

 

「穂村君がスマホを持っていたらなぁ……」

「奴は持っていないのか?」

「多分、彼の周りにある機械って冷蔵庫とか扇風機くらいだったと思う……」

「……そうか」

 

 どんな環境で生きていたんだあいつ……。

 どこか寂しそうにデバイス内に置かれたスマホを見る此花灰瑠。

 さっき言った通り、あくまで怪人の干渉を防ぐためのものなのでデータもなにも消去しないので、手早く処理を済ませていく。

 

「……ん? 今、ぴこんってメッセージが」

「スパムというやつだろう。気にするな」

「いや、でもこれ……」

 

 デバイスに顔を近づけ、画面に映ったメッセージを見ようとする。

 

< 天塚きらら

 

K

ハイル、気づいたなら連絡して 10:43
      

 

 

「———え?」

「じゃ、機能を停止させるぞ」

 

 此花灰瑠の声の直後にブツリとスマホの画面から光が消えた。

 それに合わせ、デバイスが起動し物理的に外部から干渉できないように折りたたむように変形する。

 

「い、今! 私の友達からふっつーにメッセージが届いたのですが!!」

「なんだって? そんなはずないだろうが。お前のことを覚えている地球人は穂村克己ただ一人だけのはずだ」

「そのはずですけど、確かに来てたんです!!」

「んなバカな……」

 

 なにかの見間違いじゃないのか?

 胡乱な目で此花灰瑠を見ると、傍で控えていたMEIが軽く手をあげる。

 

「ご主人様。たしかにハイル様の端末に彼女宛てのメッセージが」

「……マジか」

 

 MEIの記録違いとは考えにくい。

 では本当に此花灰瑠にメッセージを送る人物が? 第六位の地球規模の認識改編を回避した地球人が穂村克己以外にいるとでもいうのか?

 

「……その友人の名前はなんだ?」

「天塚きらら、だけど……」

「「……」」

 

 無言になってしまう俺とMEI。

 奇しくも同時に思考回路がフリーズしてしまい、一時的に旧世代のアンティーク並みの処理能力に落ちてしまう。

 

「ありえない話ではないが、はぁぁぁぁ……」

 

 ジャスティスクルセイダーの正体は地球に潜入してからいの一番に突き止めた。

 穂村克己と同じ学校に通う三人の少女。

 奴らの正体を知った時、そのあまりの“普通さ”に戦慄したことは記憶に新しい。

 あんな……あんな宇宙でも見ないような無慈悲な戦士が普通の生活を送っているという事実はそれくらいに俺を驚かせたのだ。

 

「よく聞け、此花灰瑠」

「な、なんですか?」

「その天塚きららはな、ジャスティスクルセイダーのイエローだ」

「……、……え?

 

 俺の言葉に今度は彼女が動きを止める。

 しきりに視線を左右に揺らしながらひとしきり動揺した彼女は声を震わせる。

 

「イエローって、あの?」

「ああ」

「怪力乱神とか呼ばれてて」

「ああ」

「バスターゴリラだとか」

「ああ」

「……」

 

 そこまで口にして頭を抱える此花灰瑠。

 

「だから穂村君のこと根掘り葉掘り聞いていたんだぁぁぁ……。てっきり隠れ黒騎士くんオタクで恥ずかしいから隠していたんだろうなぁって微笑ましく思ってたのにぃぃぃ……。きららはずっと穂村君と同じところにいたんだなぁぁぁ……」

 

 なにやらブツブツと何かを呟いているが、あえてそれを聞こうとは思わなかった。

 こういうのは触れずにいた方がいいのだ。

 どうせ穂村克己が後々苦労するだけだしな。

 




劣化コピーすることで扱いやすくなったオメガの分裂体ニュー君。
そして、ついに身近にいた脅威(?)を知ったハイルでした。



次回の更新は明日の18時を予定しております。


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来訪者X/驚異の戦士

二日目、二話目の更新となります。

前半は主人公視点
後半からは別視点でお送りします。


 此花の無事を知らせる動画を確認し、なんとか混乱から立ち直った俺は改めて彼女が無事なことに安心した。

 此花はサニーが保護している。

 一応は敵方の勢力ではあるが、奴はそういう手段を用いるとは思えないし、此花を保護したのもアズの野郎から彼女を守るためだと、俺は考えた。

 ここで状況が一段落ついた———はずだったが、ここで並行して新たな問題が起きた。

 

『カツミ。私の力が、使えなくなった……』

 

 呆然と自分の掌を見てそう口にしたアルファに、俺は『やられた』と思い頭を抱えた。

 恐らく、これもアズの仕業なのだろう。

 このままでは忘れられてしまった此花の記憶を戻すことができなくなる。

 

【なんとかするためには否が応でもアズをなんとかしなきゃならない】

 

 伝えられるまでもなく俺たちは改めてアズに宣戦布告をされたというわけだ。

 心配なのは認識改編という生来の能力を失ったアルファの様子だったが———その心配はすぐに杞憂だと分かった。

 

『能力なくなって気が楽だー!!』

 

 悲壮感など微塵も感じさせないくらいに元気だったのだ。

 明るすぎるアルファの様子にカラ元気かと思い心配になってしまうが、本人的には別にそんなことは全然ないらしい。

 

『最近、ほとんど能力使ってなかったし。別になくなっても不自由はしないよ』

 

『それにこの力を使うとカツミに嫌われちゃうかもしれないから、私の中での能力の価値はそれほど高くないんだ』

 

『でもハイルの認識を元に戻せないのは早くなんとかしなくちゃね』

 

 検査室でそう語ったアルファにちょっと感動した。

 最初に会った時はいきなり部屋に押しかけて我が物顔で居座るような非常識な奴だったのになぁ。

 一応、小さな認識改編は健在らしいというところもアルファがそこまでショックを受けていない理由の一つなのだろうが……。

 

「あいつも成長しているんだな……」

「おい、穂村」

「ん?」

 

 目の前の作業をしながら横を見ると、カウンターからジト目でこちらを見る緑髪の宇宙人、コスモの姿が。

 彼女は俺と同じくサーサナスのエプロンを着ており、現在店の手伝い中である。

 

「どうした?」

「お前、普通に手伝っているけど大丈夫なのかよ?」

「……大丈夫って、なにが?」

 

 心当たりがいくつかあるがどれなんだ?

 

「色々だよ! お前の知り合いが攫われたこととか、保護した女が変な力に目覚めたとか、お前が普通にここで働いていていいのかってこととか!!」

 

 ……こいつも変わったよな。

 初めて会った時は俺を殺そうとしていたのに。

 少し微笑ましい気持ちになりながら最後のお皿を拭いて棚に戻しながら順序だてて説明していく。

 

「此花のことはサニーに任せた。お前も会ったことがあるだろ?」

「あるというか……あいつには結果的に世話になった身だぞ。ボクは」

「なら、あいつが人質なんつー真似するやつじゃないことは分かってるだろ? 少なくともサニーのところにいれば此花は安全だ」

 

 ———すぐに此花をこちらに返さずに動画という回りくどい形で情報を知らせてきたのはなにかしら理由があると考えてもいい。

 それがなんなのか分からないが、此花に関しては俺も慎重に行動しないとまずい気がする。

 あの“駄目姉”が何者なのかが唯一気になるが、此花と仲良さそうだったし危険人物ではないのだろう。

 

「アルファに関してはあいつは能力を使えなくなったことも全然気にしてねぇし、今日は一応の検査を受けているだけだから心配しなくてもいい」

「そ、そうなのか……」

 

 つーか、手伝いが終わった後、会いに来るように約束されているしな。

 そして次に俺がサーサナスで手伝いをしている理由については……。

 

「手伝いをしている理由はなんだかんだで落ち着くからだよ。深い理由はない」

「えぇ……」

「記憶を取り戻す前もサーサナスでバイトしてたからな。その時の名残りが残ってんだよ」

 

 人格は元に戻ったが白川克樹として生きてきた俺の記憶は消えていない。

 正直、バイトというものをするのは新鮮だったし楽しかったからな。

 

「マスターも許可してる」

「おうよ、人手はいくらあってもいいからな」

 

 カウンターの内側でコーヒーを淹れている新藤さんこと、マスターが俺の声に答えてくれる。

 今は朝食の時間帯が終わった頃なので店にはちょうど人がいない。

 なので、それなりの声で喋っても俺のことがバレる心配もない。

 

「でもお前の顔とか知られてるんだろ? そこは大丈夫なのか?」

「眼鏡とマスクかけて頭にバンダナまいときゃ分からないだろ」

「……それもそうか」

 

 別に店内でマスクをしても不思議でもない。

 そもそもただの喫茶店に俺がいるだなんて誰も想像できないだろうしな。

 

「はぁ、じゃあ、ボクの考えすぎってことか」

「心配してくれたのか?」

「はぁ!? んなわけないだろうがバカか!?」

 

 かぁ、と擬音がつきそうな勢いで顔を真っ赤にさせるコスモをマスターが指をさして笑う。

 

「おいおい、そんな分かりやすいツンデレ初めて見たわ」

「うるさいぞ、シンドウ!!」

 

 コスモの反応にさらに笑いながらマスターがおもむろに冷蔵庫を開ける。

 食材の確認でもしているのだろうか?

 

「っと、いけねぇ。食材いくつか足りねぇな」

「はぁ? 杜撰すぎだろ。だからオカマに好かれんだよ」

「脈絡のない言いがかりはやめろや。あー、どうすっかなぁ……」

 

 悩むそぶりを見せながら壁にかけた時計を見たマスター。

 ……まあ、足りない食材っつってもそこまでの量はないはずだろうし……。

 

「じゃ、俺が買い出しにいってきますが?」

「いいのか?」

 

 今日はここの従業員なわけだからな。

 外を出歩くにしても変装すれば全然問題ない。

 

「カツミだけに行かせるのも悪いな。じゃあ、コスモ、お前もついていってこい」

「なんでだよ!?」

「ぐだぐだ文句言うんじゃねぇよ。この居候が」

「もう居候じゃないだろ!!」

「飯はいつもここで食ってるから変わらねぇだろうが」

「ぐっ、うぅぅぅ……」

 

 まあ、マスターの飯はうまいからな。

 悔しそうに呻くコスモに苦笑しながらマスターから必要な食材のメモとお金を受け取った俺は、エプロンを外し外出用のコートとマフラーを巻き買い出しに向かう支度をする。

 

「シロ」

『ガウ!』

 

 傍で置物のようにちょこんと座っていたシロを呼んでおく。

 さて、準備もできたことだし行くか……。

 

「コスモ」

「あぁ、もう、分かったよ……」

 

 寒さも本格的になり、刺すような空気の冷たさに晒されながらも俺たちは食材を求めて街へとくりだすのであった。

 


 

 買い出しに向かったスーパーで無事に食材を買うことができた俺たちは普通に帰り道を歩いていた。

 

「まったく余計なもん買おうとすんなよ……」

「目についたんだからしょうがないだろ」

「子供かお前は」

 

 コスモが目についた菓子をとりあえずカゴに放り込み、俺がそれを戻すというやり取りはあったものの買い物自体は特に何事もなく達成できたと言えるだろう。

 ……そのせいでコスモの機嫌はななめになってしまったけれども。

 

「変なところに入ったな」

「公園だろ。通ったことないのか?」

「うん」

 

 街の中にある大きな公園、とでもいうべきか。

 近隣にすむ人たちがウォーキングや子供の遊び場にしているような広い公園の中をコスモは不思議そうに見回している。

 

「……おいホムラ、なんだアレ」

「あん?」

 

 おもむろにコスモが指を差した方を見ると、そこには黄色とピンクのコミカルな色合いのトラックが停車していた。

 普通のトラックではなくいわゆるキッチンカーというやつで、そこではクレープが売られているのが見えた。

 

「甘いもんが売ってる車」

「は? なんだそれ」

「俺も買ったことないから分からん」

 

 存在だけは知ってるが買ったことはない。

 しかし、よくも平日の昼間からやっているもんだ。しかも結構人が並んでいるし、話題の店かなにかだろうか?

 ぼーっと、そんなことを想っていると隣を歩いているコスモがチラチラとキッチンカーを見ていることに気づく。

 

「……もしかして食いたいのか?」

「は? 思ってないんだが?」

「いや、お前チラチラ見すぎだろ」

「見てないんだがぁ!?」

 

 そういう割には目線が誤魔化せていないんだが。

 なんつーか、コスモを見ているとなんか弟とか妹がいるってこんな感じなんだろうなぁって思わされるな。

 一つため息をついた俺は千円札を二枚取り出してそれをコスモに渡す。

 

「ほら、買ってきていいぞ」

「え、でもシンドウが……」

「内緒にしてやるから」

「……。し、仕方ないなぁ」

 

 一気に上機嫌になったコスモはそのままクレープを選びに向かう。

 その後ろ姿を見送った俺は、少し離れたベンチで食材の入った袋を下ろして彼女を待っていることにした。

 

「こうしていると、平和に見えちまうんだよな」

『そうだね』

 

 俺の呟きにプロトが返してくれる。

 街並みを見ているととても地球が侵略されているなんて思えない。

 だが、確実に地球は危機に陥っているし、今この時もそうしようとしている輩が紛れ込んでいるわけだ。

 

『地球はいい意味でも悪い意味でも変わろうとしているのかもしれないね』

「だといいけどなぁ」

 

 世界がどうだかとか全然分からないしな。

 だけど、侵略者が現れる前の地球に戻ることはないことは分かる。

 

『! カツミ、誰か来る』

「……ん?」

 

 黙り込んだプロトから顔を上げると、俺の座っているベンチに誰かが近づいてくることに気づく。

 

「隣、いいかな?」

「あ、はい」

 

 一人でベンチを占領するつもりはないので座っている場所を少しずらす。

 気だるげに隣に座った女性は懐から煙草の箱のようなものを取り出し———なぜか数秒ほどじっと見つめる。

 

「あー、えーっと、どうすんだこれ……」

「……?」

 

 煙草でも吸うつもりなんだろうか? なんか箱を開けようと四苦八苦しているんだけど。

 そもそもここ公共の場なんだが、駄目なんじゃないだろうか。

 

「……あー、こほんっ。そこな少年」

「え、ええ? なんでしょうか?」

 

 声をかけられてしまった。

 ようやく開けた煙草を指でつまんだその女性は続けて俺に話しかけてくる。

 

「火、持ってない?」

 

 ……これは、あれかな? 俺が草を吸っている年齢と思われたのか?

 改めて女性を見ると、年齢は……20代前半くらいだろうか?

 ファーのついたコートとジーンズ、ブーツを履いた女性。

 赤みがかかった長い髪、疲れ切った表情をしており片目を隠すように分けられた髪から覗く赤銅色の瞳はどこか淀んでいるように見える。

 いわゆるかっこいい系に分類されるであろう彼女は、どことなくアカネの母親に近い雰囲気をしていた。

 

「火……」

「すみません。俺、未成年なので持っていません」

 

 俺の言葉に女性は意外そうな顔をする。

 

「嘘、本当? ……あれ? 今日って平日だよな?」

「訳あって学校にいってなくてですね……」

「お、おう……なんか悪いこと聞いたな」

 

 箱から出していた煙草を戻し、コートのポケットにいれた彼女に若干申し訳ない気持ちになる。

 

「せっかく買ったの勿体なかったな」

「はじめて買ったんですか?」

「センチメンタルな気分になったから吸ってみようと思っただけ」

 

 どういうことだ……?

 なんだこの人、葵みたいなことを言ってきたぞ。

 独特な感性を持つ女性にちょっとだけ引く。

 

「学校にいけない理由があるのか?」

「えーと、はい」

「まあ、深くは訊かない。君とは今話したばかりだしな」

 

 妙な切っ掛けで会話することになってしまったな。

 コスモの方は……あいつ、まだ、メニュー選んでいるからまだまだ時間がかかりそうだ……。

 

「なにかあったんですか?」

「……。久しぶりにここに帰ってきてな」

「海外にいたんですか?」

「そんなところだ」

 

 久しぶりに地元に帰ったら思い出の場所とかが変わっていたりしたのかな。

 なんか旅の後みたいな雰囲気と服装しているし、きっと久しぶりに日本に帰ってきた人なんだろ

 

「そういえば、今って何年だ?」

「映画の台詞っぽいっすね。それ」

「……確かにそうだ」

 

 とりあえず今の年を教える。

 別に西暦をど忘れすることくらいおかしな話でもないしな。

 ……。

 

「今は2322年です」

「いやなんでやねん」

「えっ」

 

 ボケたのは俺だが唐突な関西弁のツッコミに逆にびっくりしてしまった。

 きららみたいなイントネーションにびっくりしてると、真顔のまま女性が俺を見る。

 

「絶対2300年とかありえないだろ」

「すみません。冗談です」

「君、冗談とか言うタイプじゃないでしょ」

 

 知り合いにボケのデパートみたいなやつがいるから結構感化されてしまったのかもしれない……。

 改めて、俺から今が何年かを聞いた女性は、妙に神妙な表情で椅子の背もたれに身体を預けた。

 

「なにもかもが違うんだな」

「違うとは?」

「いや、こっちの話。知っているものが全然違っているだけ」

 

 それはかなり衝撃的だろうな。

 

「久しぶりの日本はどうですか?」

「……平和だなぁって」

「なんか感想おかしくないですか?」

 

 俺もさっき同じようなことを言っていたけどこの人はなんかニュアンスが違うような気がする。

 

「ホムラ、しょうがいないからお前の分も選んでやったぞ……って、おい誰だ?」

 

 と、ここでクレープを選び終えたコスモが戻ってくる。

 てかなぜか俺の分まで買ってきているけど、それ絶対どっちか選べないから買ってきたやつだろ。

 やってきたコスモを見て少し首を傾げた女性はなにやら納得したように人差し指を立てる。

 

「もしかしてこの子、彼女?」

「え、いや違———」

「ち、違うわぁ! バカなこというとぶっ飛ばすぞ!!」

 

 初対面の人になんてこというんだお前は。

 慌てふためくコスモに頬を緩ませた女性はそのまま立ち上がると、俺へ振り返る。

 

「話し相手になってくれてありがとう」

「いえ、いい暇つぶしになりましたから」

 

 それ以上言葉を交わすこともなく俺の座っているベンチから離れていく女性。

 なんとなく後姿が気になって見送っていると、俺の視界にコスモが割って入ってくる。

 

「今の誰だ?」

「知らない人。特に面白い話はしてないぞ?」

「ふーん」

 

 ジト目で俺を見ながらクレープを差し出してくる。

 心なしかコスモが挙動不審気味なので俺は小さなため息をつきながら、差し出されたクレープを軽く押し返す。

 

「……いや、俺のことは気にせず食っていいぞ」

「え……そ、そうか? まあ、お前が食わないならしょうがないなぁ」

 

 そんな笑顔見せられたら、なにも食ってねぇのにお腹いっぱいになるわ。

 嬉しそうなコスモを見て苦笑した俺は食材をいれた袋を手に取り再び帰路を歩き始めるのであった。

 

 


 

 不思議な子だった。

 誰も知り合いなどいないはずのこの宇宙で、久しぶりにまともな会話というものができたような気がした。

 戯れに買った煙草をゴミ箱に放り込みながら私は近くの路地へと足を進める。

 

「……来るんじゃなかったかも」

 

 久しぶりの地球。

 壊されていない建物、大地、海。

 色鮮やかな全てが私にとって違うものに見えてしまっていた。

 精神的に疲れてしまい、思わず路地の壁に背中を預けてしまっているとコートにいれておいた通信機に連絡が入る。

 来る連絡先は一つしかないので私はさらに不機嫌になりながら通信を出る。

 

「なんだ、GRD(ガルダ)

『どうだ、久しぶりの地球は』

「私たちの知る地球じゃない」

 

 私の言葉に端末越しに愉快気な笑い声が聞こえてくる。

 それを心底不快に思いながらこのクソッたれな“AI”に悪態をつく。

 

『それは分かっていたことだろう?』

「……ああ」

 

 だけどここまで違うだなんて思いもしなかった。

 少なくとも私のいた宇宙(・・・・・・)には黒騎士なんていうやつもいなかった。

 なぜ、どうして、ここまで違うのか。

 無情な現実にどうしようもない疑問を抱きたくなるが、その答えは誰にも出せない。

 

『そもそもお前はほとんど覚えていないじゃないか』

「朧気には覚えている」

『摩耗しきった記憶は覚えているというよりこびりついているといった方が正しい』

「データがほざくな、鬱陶しい」

『元になった人物の人格は完璧にトレースしている。私の声に苛立つのなら、それはお前の問題だ』

 

 癪に障る物言いだ。

 だけど、こいつがこんな喋り方なのは長年の付き合いで分かっているので大きく空気を吐いて落ち着きを取り戻す。

 

『今のお前は地球の“敵”だ』

「……分かってる」

『分かっているならそれでいい』

 

 今更どうでもいい。

 罪悪感なんてとうになくなったし、“命を懸けて守る”なんて行いがどれだけ無責任で———愚かな行為かということを嫌と言うほど思い知っている。

 

『星将序列第10位【Code(コード)RED“X”(レックス)】』

 

 沈黙する私に言い聞かせるように私の今の肩書を口にするガルダ。

 忌々しいその声と口調に苛立ちを抱きながらも私は言葉を返すことはない。

 

『救済のためと自ら道を踏み外し、悪に堕ちた戦士、それが今のお前の名だ』

 

 端末に移したデータを空間に投影させる。

 ホログラムで空中に浮かんだ画像データを見て、私は心がざわつくような感覚に苛まれる。

 これから、地球で私が戦う……相手。

 

あおい……きらら……」

 

 声は言葉にならずただ吐息として寒空に溶けていく。

 もう呼ぶことすらおこがましいほどに悪に堕ちた自分を嘲笑いたくなりながら、私は意識を切り替える。

 

「準備しろ。ジャスティスクルセイダーを叩く」

 

 ここは私の知っている場所じゃない。

 だから、ここにいる奴らがどうなろうが私の知ったことじゃない。

 私は、私のやりたいように生きて、戦うだけだ。




地球の生活をなんだかんだで楽しむコスモと、ついに登場した第十位ことレックスさんでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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襲撃、相対する“赤色”

三日目三話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

今回はアカネの視点でお送りします。


 もうすぐ高校生活が終わる。

 今は12月だが実質的にあと一か月の学校生活をゆっくりと自覚した頃、私はこれまでと変わらない表の日常を過ごしていた。

 私ときららは表向きは卒業後はKANEZAKIコーポレーションに就職するということになっており、葵はまだ二年生なのであと一年学校に通うことになっている。

 

「はぁ、年が明けたらすぐに学校が終わっちゃうんだね」

「なんだかんだであっという間だよねー」

 

 二限終わりの休み時間に物憂げにそう呟いた私にクラスの友達、茉理(まつり)が反応する。

 オカルト研究部というラノベみたいな部活に所属している黒髪眼鏡の彼女は、葵とはまた一味違った変人だと私はいつも認識している。

 

「ねえ、見て見てオカルト新聞の最新号」

「ん?」

 

怪人解明トピック

「さかさま怪人」

 

今回解明するのはJC(ジャスティスクルセイダー)に敗北した怪人“さかさま怪人”についてだ。毎度の如く名は身体を現すという通り、あらゆるものをさかさまにするという驚異の能力を持つ怪人だ。結局は能力に適応したジャスティスブルーにより打倒された彼だが、その強さは疑うこともないだろう。

その最たる能力は位置・視界・感覚の反転によるものだろう。左右、前後、上下にいたるまで認識を反転させる彼にジャスティスレッドもイエローも苦戦を強いられた。

認識を操る怪人。見ているもの景色そのものの方向を偽ることができるこの怪人の身体能力はそれほど強くはなかった。おそらく狂わせた感覚による自滅を狙う戦いだったと考えられる。それか、その能力の無敵さゆえに肉体そのものが脆弱になり、迂闊に近づくことができなかったいう説もある。

実際、この反転怪人が倒された攻撃はほぼ一度だけ。ブルーによる無差別の爆破による爆死ということなので、能力に比重を置いたタイプの怪人というのが有力だろう。

例えばの話、彼が黒騎士と戦っていたらどのように戦うか、それは気になるところだが彼よりも早くジャスティスクルセイダーが倒してしまったことからそれは叶うことはない。

 

 新聞ともあって無駄に凝っているなぁ、と思いながらさらっと文面に目を通す。

 さかさま怪人とかまた懐かしいやつを……アレ、私達が活動してから割とすぐに出てきたやつじゃん。

 当時の私ときららは全く対応できなくて苦戦してたのを覚えてる。

 しっかし……。

 

「怪人マニアすぎてきもい」

「うわ、辛辣」

 

 怪人オタク。

 別に怪人という存在が好きなわけではなく、その生態に興味があるというちょっと変わった子。

 学者気質というべきか、変人というべきか……

 

「私は怪人が好きじゃないの。倒された怪人が好きなの」

「ゆ、歪んでるよ……」

 

 なにその死んだ怪人がいい怪人だみたいな言い方。

 

「引退した後も関わってるの?」

「だって私引退したら部員3人だけだし。合間にちょくちょく足を運んだりしてるの」

 

 むしろオカルト研究部なんていう怪しい部活に後三人もメンバーがいることに驚きしかないんだけど。

 

「ねえ、茉理(まつり)の部活の後輩にさ」

「うん」

日向(ひなた)って苗字の子いる?」

「え、もしかしてあおいっちと知り合い?」

 

 そんなたまごっちみたいなあだ名で呼ばれているの……?

 類は友を呼ぶという諺が私の脳裏によぎった。

 

「あの子からはほとんど名前を貸してもらっている状態だけど、たまに来てくれて楽しく話しているよ」

「楽しく」

「うん、楽しく」

 

 どうしよう、その内容を聞くのがものすごく怖い。

 

「ん、そろそろ先生来るね」

「あ、そうだね」

 

 時計を見て次の授業の時間が始まると気づいた茉理が自分の席へ戻っていく。

 周りがせわしなくそれぞれの席に戻る頃に、先生がやってきて授業の準備を始める。

 ……あと少しで高校の授業を受けるのも終わりかぁ。

 そんな最近考えるようになったことを思い浮かべながら、ケースからシャーペンを取り出そうとして———私の手は止まる。

 

「———ッ」

 

 何度も感じた悪寒と気配。

 それを感じ取った私は無言で立ち上がり、窓の外を睨みつける。

 

「……」

「アカネ? どうしたの?」

 

 無言で立ち上がった私に不思議に思ったのか、クラスメート全員の視線が私に集まる。

 隣の席の茉理も小声で話しかけてくるが、そんなことを気にする余裕はない。

 クラスメートがざわつく空気の中、それは教室の窓から唐突にやってきた。

 

「ヒャハハハァ!!」

 

 ガラスが突き破られ、異形が教室に飛び込んでくる。

 天井に張り付き、一瞬で教室内を見渡したソレは私に気づくと蟲ともカニにも見える醜悪な顔を歪ませた。

 

「見ツケ——」

 

 甲殻類を思わせる姿と六本の腕。

 いつか戦った覚えのある怪人(・・)は泡を吹きながら真っすぐに襲い掛かろうとしていた———が、それよりも速く私が投げつけたシャーペンが怪人の片目に突き刺さる。

 

「ギャッ!?」

 

 痛みに呻いた隙にチェンジャーに手を添え。抜き身の刀を構築、抜刀と同時に六本全ての腕と両足を切断。

 

「ガァァッッ!?」

 

 そして、怪人の胸の甲殻の隙間を通すように刀を突き刺し床に縫い付ける。

 机と椅子が、がしゃん、と音を立て倒れ、床に怪人の緑の血が弾ける。

 

「きゃあああああ!?」

「う、嘘だろ!?」

「か、怪人……!?」

 

 周囲の悲鳴を耳にしながら私はチェンジャーからさらにもう一つの刀を取り出す。

 ———スーツ用ではなく、生身の私が扱える長さの小太刀。

 赤熱した刃を持つそれを緩く握りしめ、身動きのとれない怪人に近づく。

 

「な、変身、シテない、ノニ……?」

「……」

「———アッ」

 

 さっぱりと怪人の首を撥ねる。

 私がアサヒ様から学んだ技術はスーツの恩恵じゃなくて私自身のもの。

 この程度の怪人なら不意をつけば生身で倒せる……けど。

 

「か、怪人……?」

「こ、殺した……」

「新坂さん……?」

 

 ———呆気なく終わっちゃったなぁ。

 あと少しで卒業だったのに、こんな形で終わるなんて思いもしなかった。

 怪人が飛び込んできたのは私の教室だけか。

 葵ときららの方は異変こそ感じ取っているけど大丈夫なようだ。

 

「あ、アカネ、一子相伝の暗殺剣を習得していたの……?」

「それは違うけど……ごめん、私みんなに隠していることがあったの」

 

 この子実は元気だろ。

 とちくるったことを口にする茉理にそう言い放ちながら私はチェンジャーを操作し社長に連絡を繋ぐ。

 

『どうしたレッド』

 

 チェンジャー越しの社長の声にさらにクラス内で驚きの声が上がるが構わずそのまま報告する。

 

「社長。学校で襲撃にあいました」

『なんだと!? こちらに反応はなかったぞ。無事か!?』

「一体は始末しました。ですが……」

 

 窓に近づき下を見る。

 さっきのは私への警告ついでの雑魚。

 本命は先ほどから感じる纏わりつくような殺気の持ち主。

 

「……」

 

 学校の入口近くの校庭に立っている二体の異形。

 一体は宙に浮いて座禅のようなことをしている四本腕の痩せた怪人。

 もう一体は尻尾が異様に発達した女性型の魚人みたいなやつだ。

 どちらも見覚えがある。

 

「相手は音喰怪人と障壁を出すタイプの怪人です」

『確かか?』

「一度戦った相手と、黒騎士君が戦ったやつですから」

 

 音喰怪人は厄介だなぁ。

 アレ問答無用で音を食い尽くすし、概念染みた攻撃してくるから迂闊なことはしないようにしないと。

 障壁怪人は……黒騎士君への足止めかな? この学校全体を覆うように半透明の壁が作られているのが見えるし。

 

「黒騎士君を呼んできてください。イエローとブルーは待機でお願いします」

『……分かった。ゴールドフォームも許可しておく』

「ありがとうございます」

 

 きららと葵まで正体を明かす必要はない。

 厄介とはいえど、あれくらいの怪人ならこちらで対応できる。

 そこまで思考し、通信を切った私は教壇の上で立ち尽くしている先生を見る。

 

「先生、手短に説明します。ここは怪人の能力で閉じ込められました」

「え? え?」

「皆を体育館に避難させてください。アレは私がなんとかしておきますから」

「ま、待ってください新坂さん!? 貴女は何を言って———」

 

 パニックのあまり状況を呑み込めない先生だが、あまり時間がない。

 あっちがいつまでも待ってくれているとは限らないので、手早くチェンジャーを起動させ、変身を行ってしまう。

 瞬時に赤いスーツを身に纏った私に先生も、クラスメートも言葉を失ってしまった。

 

「私はジャスティスクルセイダーのリーダー、レッドです」

「あのブラッドが……アカネ……?」

 

 今、私のことをブラッドと言ったやつ、絶対許さないからね……!!

 シリアスな空気でも台無しなことを言うクラスメートに思わずずっこけそうになりながらも、窓から飛び降りる。

 その際に強化アイテム“ジャスティフォン”を取り出し、空中での換装を行う。

 

『Authentication:Code RED...』

 

CHANGE(チェンジ)! MODE(モード):GOLD(ゴールド)!!!』

 

 強化した姿、ゴールドフォームにフォームチェンジし校庭に降り立った私は二体の怪人と相対する。

 ……無理もないけど後ろからの視線がすごい。

 クラスメートには完全に正体バレちゃったし、他からはこの学校の生徒がジャスティスレッドだってバレたようなものだ。

 

「あら、三人揃わなくてもいいのかしら?」

「……」

「うふふ、対策はばっちりってわけね。残念、貴女のかわいい声を奪いたかったのに」

 

 音喰怪人シャクテル。

 私たちがジャスティスクルセイダーとして活動を始めてからすぐに現れた魚人型の怪人。

 その能力は音を食べること。

 単純な音ではなく、概念そのものを取り込み自分のものにする面倒なやつだ。

 

「前の私は貴女に殺されちゃったらしいけど、今度はそう簡単にはいかないわよ?」

「……」

「今の私はシャクティス。失敗作とは違う新たに生まれ変わった強化体」

 

 なにがこいつらを蘇らせたのかは知らないけれど……前よりは強くなっていることは確かなようだ。

 以前はつけていなかった鎧は普通じゃない雰囲気がするし、能力も底上げされているのだろう。

 

星界雲器(ステアスピリチア)の居場所を教えなさい」

「……?」

 

 思わず「はぁ?」と言いそうになってしまった。

 なに……その、ステアなんたらっての。

 いきなり専門用語を要求してこないで欲しい。

 

「私たちの主がそれを欲しがっているのよねぇ。あんたらが匿っているって聞いたから大人しく引き渡してくんない?」

 

 とりあえず意味不明なので斬撃を飛ばしておいた。

 元より怪人なんぞの要求に応じるつもりもないし、この場で始末することは決定している。

 飛ばされた斬撃を不意に受けた音喰怪人は後ろに弾かれながら、その魚顔を歪める。

 

「貴女……!!」

 

 ……アレが着てる鎧、普通じゃないね。

 雰囲気から察するに、星界戦隊の防御に近いものがあるような気がする。

 怪人とヒラルダが手を組んだのかな?

 殺気を向け、エラのようにガチャガチャと鎧を動かす音喰怪人に先ほどから無言だったもう一体の怪人が静かに声を発した。

 

「待て、主からは星界雲器の居所を聞き出せと」

「一人くらい殺しても問題ないでしょ! こいつはここでいたぶって殺してやるわ!!」

 

 こっちは前の奴よりも堪え性がないみたいだ。

 でもちょうどいい、私がやることは最初から決まっている。

 地を蹴り、瞬時に怪人の眼前に踏み込み太刀を振り下ろす。太刀は無防備な怪人の頭部に吸い込まれたかのように見えたが、間に差し込まれたプレートのようなものに覆われた大きな尻尾に弾かれてしまった。

 

「!」

「前とは違うって言ったわよねぇ!! わっ!!

 

 音の攻撃。

 至近距離から放たれた音の衝撃波を真っ二つに切り裂き、消し去りながら次の攻撃を仕掛ける。

 

「後ろを守らなくてもいいのかしら!!」

「……」

 

 その声と同時に音喰怪人の鎧が分解し宙に浮かぶ。

 まるでメガホンのような形に変わったそれらを目にし、私は攻撃から防御へと意識を切り替えた。

 

「ぽ」

 

 強力な衝撃波が宙に浮かんだ鎧に反響する。

 それらの吐き出された声はミサイルのように分裂し、私のいる空間を爆撃していく。

 その範囲内には勿論、学校の校舎が入っておりまともに当たれば惨事は免れない。

 ———けど。

 

———切り刻め、ジャスティビット

 

 頭の中で念じ、武装を発動させる。

 瞬間、私の背後の空間で構築された光はダガーに似た刃に変わり、それらは独自に動きながら音喰怪人の攻撃を切り裂いていく。

 

「はぁぁ!?」

 

 赤のジャスティビットはブルーとイエローのソレと比べてシンプルだが、同時に最も殺傷性能を高くしている、と社長から説明された。

 

『刃物を扱うと修羅になるお前のよく分からん特性を応用し、あらゆる状況に対応することを可能にしたお前だけのジャスティビット!! ぶへぇぇはっはっは、やはり私は天才だぁぁぁ!!』

 

 やかましく解説して騒ぐ社長を思い出してげんなりとしながら私は、背後に円を作るように並べたジャスティビットを構えた。

 

「……」

 

 校舎に被害が出ないように戦わなくちゃいけない。

 今はビットで迎撃できる……けど、あまり長引かせるわけにはいかない。

 一度倒した怪人だ。

 倒し方も同じなはず。

 

「……」

 

「ぽぽぽ!!」

 

 我武者羅に吐き出される音の衝撃波を散らしながら一気に音喰怪人へ肉薄する。

 

「ハッ、さっきみたいに防いでやるわ!」

 

 また鎧に覆われた尻尾で防ごうとするけど、今度は確実に斬るつもりで柄を強く握り太刀を振り上げる。

 赤熱した刃はさらに深い赤い色へと染まり刀身そのもの燃え上がり———強固な鎧に覆われた尾をあっさりと溶断する。

 

「なっ!? きゃっ!」

 

 即座に首を———といきたいところだけど、こっちはさらに頑丈な鎧で守られているのでむき出しの腕に太刀を振るい、音喰怪人の腕を飛ばす。

 

「あーんむっ!!」

 

 腕を飛ばされながら何かを呑み込むそぶりを見せた怪人は嘲りを籠めた笑みを私に見せた。

 

「あ、はは、貴女の攻撃もらったわ!! これで貴女の攻撃は私に通らない!!」

「本当に相変わらずだね。なんにも成長していない」

 

 内心で呆れながら私は、手に引き寄せたジャスティビットを手の甲に張り付け———瞬時にクローへと変形させる。

 赤のジャスティビットの能力、ナノマシンで構成された流体金属による形状変化。

 太刀と同じく切断面を焼き焦がすエネルギーを帯びたクローは容易く音喰怪人の喉元を抉り取る。

 

「え?」

 

 一瞬、呆気にとられた声を漏らす音喰怪人だがすぐに痛みに声にならない悲鳴を上げ、もだえ苦しみはじめた。

 

「あ、が……!?」

「所詮は一度倒した怪人。弱点さえ分かっていれば対処は簡単だよ」

 

 音を司る喉が弱点なことは既に分かっていた。

 肝心の喉は鎧に守られていたけれど、少し油断を誘えばあっさりと防御が薄れてくれたので楽だった。

 

「強くなったのが自分だけだとでも?」

「こ、の……あ、がぁぁぁ!?」

 

 喉を押さえながら私に手を伸ばそうとしたところで周囲に滞空していたジャスティビットが一斉に音喰怪人の全身に突き刺さり、高熱の刃で焼き焦がしていく。

 苦痛に喚くその声は既に元の悍ましいものに戻っている。

 喉を潰したことで能力を封じたことで、誰かから奪った音も解放できたはずだ。

 後は止めをさすだけ。

 だけど、どれだけ追い詰めようとも相手は怪人。

 その息の根を止めるまでは、絶対に油断なんてできない。

 

「お、おばえぇぇ……」

「やっぱり、お前はそっちの醜い声の方がお似合いだよ」

 

 ジャスティビットの一つを手元に引き寄せる。

 ナノマシンを有するそれは瞬時に液体のように流動し———赤熱した刃を持つ斧へと変わる。

 全身を刺し貫かれ、その上焼かれながらも絶望の顔で私を見上げた音喰怪人を冷たく見下ろした私は、そのまま躊躇なく斧を振り下ろしその首を断ち切った。

 

「……次はお前だ」

 

 斧をさらに変形、太刀にさせながらその切っ先を障壁怪人へと向ける。

 こいつは壁を張り巡らせたり、刃のように飛ばして攻撃してくるやつだ。

 最期が黒騎士くんに障壁ごと破壊されとどめを刺された怪人だから、私も同じことをして始末すればいい。

 次の標的が自分になったことを理解した障壁怪人は、組んでいた両腕を解———、

 

「致し方あるまい。我が主のため、屠ってくれよ———ぅ”」

 

 ———くと同時に怪人の額から鈍色の刃が飛び出した。

 突如現れた気配に私も目を細めると、頭を貫かれた怪人はマヌケな声を漏らす。

 

「あぱ?」

 

 怪人を一気に真っ二つにして始末した何者かが何もない空間から電気が弾けるような音と共に現れる。

 光学迷彩、とでも呼ばれるような方法で透明化していたそいつは怪人の血がこびりついた片刃の剣を払った。

 

「誰?」

 

 まるで塗装が剥げたような赤黒い全身装甲を身に纏った何者か。

 そいつは無機質な動作で私を視界に納め———猛烈な敵意を向けてきた。

 

「星将序列第10位『Code(コード)——RED“X”(レックス)』」

 

 序列10位。

 男か女かも分からない加工されたその言葉を認識すると同時に私は斬りかかっていた。

 振り下ろした赤熱する刃は、そいつが構えた剣により受け止められた。

 甲高い金属音と衝撃が周囲へ放たれ、鍔迫り合いのまま互いのマスクが見える。

 

『アラサカ・アカネ。お前を殺す』

「始末されるのはお前の方だ」

 

 こいつはここで始末する。

 漠然と胸の奥底から湧いてくる妙な確信と共に私はさらに戦いに意識を沈めていく。




木っ端怪人程度なら生身で倒せるレッドさんでした。

今回の音喰怪人は「外伝 となりの黒騎士くん」第15話、第16話に登場した怪人となります。


今回の更新は以上となります。


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鏡合わせの戦い

お待たせしてしまい申し訳ありません。

前半がレックス視点
中盤からアカネ視点でお送りします。


私のいた地球で、奴らは突然現れた。

 

 “怪人”

 

 地の奥底から現れた異形の存在。

 六つの腕を持つクモのような異形を未確認生物一号、通称『クモ怪人』と呼称されたそいつは約一か月の間に日本の4割と首都を壊滅させた。

 これが始まり。

 後に『怪人事変』と呼ばれる最悪の序章だ。

 

 たった一体で人々を蹂躙していたクモ怪人の前に黒い鎧を纏った戦士が現れ、死闘(・・)の末にクモ怪人を倒したのだ。

 最初の一度の出現ではあったが誰もが絶望していた中で怪人を倒す存在は、私達に希望を抱かせるに十分な事実だったことだろう。

 

 だけどまた怪人が現れたときは、黒い戦士が現れることはなかった。

 現れない救世主の存在に人類が再び絶望の底に落とされたその時、私は怪人達に見つからないように隠れていた。

 

 生き残りが集まり怪人の猛威から逃げて、隠れる私達。

 レジスタンス、と言えば聞こえがいいかもしれないけど所詮は非戦闘員が集まっただけの……それこそ老人や子供で主に構成されるような集団だ。

 戦える力なんてないし、怪人に見つかれば死が決まっていたことだろう。

 

 絶望の日々。

 誰もが生きる希望を失い地下での生活を余儀なくされていた中で、転機が訪れる。

 それは怪人に対抗する兵器が完成したという知らせであった。

 

『私の名は、カネザキ・レイマ』

 

『怪人に、対抗する力を、持つ資格あるものを、探している』

 

『まだ、希望を捨てていない、ならば、私の元に来て、ほしい』

 

 古びたラジオから聞こえてくる“声”。

 最早、希望なんて抱くことはできるはずなんてなかったけれど、賭けてもいいと思った。

 どうせ、このまま死んだように生きているよりマシだ。

 そんな考えで、私は謎の声の人物の元へ尋ねてみることにした。

 

『私と同じバカがいるなんて、ね』

『バカはバカでも私は頭のいいバカだ』

 

 危険を冒して目的地に集まってきたのは私を含めて3人だけであった。

 アマツカ・キララ。

 ヒナタ・アオイ。

 たった三人だけ集まったメンバーに困惑してしまっていた私だけど、廃墟に隠された謎の施設にいた人物にもっと困惑させられた。

 

『集まったのは、三人、だけか』

 

 そこにいたのはカネザキ・レイマと呼ばれる全身に包帯を巻いたとてつもなく怪しい人。

 怪人との戦いで半死半生の身になってしまった彼は、私達に怪人と戦う力を見せてくれた。

 それは、武骨で黒一色の三機のパワードスーツ。

 色付けすらされていないむき出しの装甲、未完成の武装を伴って、なにもかもが未完成のソレだったが、私達にとってはそれでも構わなかった。

 

 私たち三人に共通していたのは、家族も友達も失っていたことだ。

 両親も姉妹も、兄弟も、なにもかもを怪人に奪われた。

 だから、迷いはなかった。

 私たちは怪人に復讐するため、怪人との終わりの見えない戦いに身を投じることになった。

 


 

 いつかやってくるんだろうなとは思っていた。

 怪人が私の日常を壊しにきたこと。

 よりにもよってクラスメートの前で正体を晒してしまったわけだけど、長くもったほうだと思う。

 

 私もカツミ君と同じように日常を捨てる時かもしれない。

 こういう時の対処はもう決まっている。

 社長が私の家族を保護し、私自身はカツミ君と同じ———世間に隠れる存在になること。

 

「本当に面倒なことになった!!」

 

 襲撃してきた怪人を始末し終えた後に現れた赤黒い装甲に身を包んだ戦士。

 序列10位、レックスと名乗ったそいつと私は剣戟を交わしていた。

 

「……ッ!」

『……ッ!』

 

 さっきの怪人なんて比じゃないくらいに強い。

 武器に特別なものはない。

 黄色く光る刃が特徴的な片刃の黒い剣。無骨とも言えるそれで私の武器と互角に打ち合えている時点で油断ならない相手だ。

 

「ふん!」

 

 かぃぃん! と甲高い音を鳴らし、互いの得物が弾かれ一歩分後ろへのけぞり———ながら、手元に引き寄せたジャスティビットを匕首へと変える。

 一瞬で逆手に持ったそれを握り、剣の間合いより奥へ踏み込み斬りかかる。

 

———手傷を負わせて動きを鈍らせる。

 

 しかし私の視界に飛び込んできたのは第十位の左手に握りしめられた銃。

 先ほどまで持っていなかったソレの銃口から閃光が走り、至近距離からのエネルギー弾が私へと叩き込まれる。

 

「くぅっ」

『……チッ』

 

 なんとか匕首でエネルギー弾を切り払いつつ、後ろへ下がる。

 続けて正確に放たれるエネルギー弾をジャスティビットに撃ち落とす。

 

「手癖が悪い」

『手癖が悪い』

 

 奇しくも相手と同じことを口にしながら一旦呼吸を整えていると、私の耳にきららと葵からの通信が入る。

 十位を警戒しつつ通信に応じる。

 

『アカネ!! そっちは大丈夫!?』

「こっちはまだ大丈夫。序列10位が現れたけど」

『全然大丈夫じゃないやん!!』

 

 声を潜めてツッコミをいれてくるきらら。

 

「そっちは避難できた?」

『怪人がいなくなって皆逃げられるようになったよ』

「まだ怪人がいるかもしれないから、まだそこにいて」

 

 怪人の狡猾さはよく知っている。

 油断させておいて襲撃してくるだなんて姑息な手を使ってくる可能性も考えておかなきゃならない。

 

『ブラッド。授業中に襲撃を受けて隠していた力を解放するという中高生男子の誰もが妄想するシチュを実現させて高揚するのは分かるけど、一人で無茶するのはダメだよ』

「長いし意味不明なんだけど……!」

 

 それ葵の願望だよね……?

 

「とにかく、ここはもう少し私がもたせる。黒騎士くんは——」

『レッド!!』

 

 突然社長の声が割って入ってきてびっくりする。

 

『そちらに向かっていたカツミ君だが、先ほどヒラルダに襲撃された!!』

「またあいつか……」

 

 カツミ君に付き纏っている傍迷惑な奴。

 風浦さんの身に起こっている不可解な現象にも関わっていそうな存在だからカツミ君も無視できないのだろう。

 ……カツミ君がここに来るのは難しそうだな。

 

『話は終わったか?』

「待ってくれるなんて親切だね。いつでも攻撃してくれてもよかったのに」

 

 悪態をつきつつ、太刀を構える。

 相手は手練れ、それもさっきの強化された怪人よりも格上。

 意識を乱して簡単に勝てるような奴じゃない。

 もっと意識を落とし込んで集中しなきゃ。

 

「『———!』」

 

 動いたのは同時。

 ほぼ同じタイミングで繰り出した太刀と片刃の剣が激突し、火花が散る。

 かん高い金属音が鳴り響く間もなく次の攻防に移り、刃を叩きつける。

 

「あぁ、もう!!」

 

 攻撃を交わす度に妙な違和感が付き纏う。

 スーツの性能が落ちている訳でもないし、私の調子が悪いわけでもない。

 だけど、相手が私の動きをこれでもかってくらいに先読みしてくるし、変な話、私自身もこいつの動きが分かってしまう。

 あまりにも不可思議な感覚に混乱してしまう。

 

「鏡を相手しているみたいに同じ過ぎて気持ち悪い!!」

『……』

 

 なんらかの方法で私の動きを予知している……?

 それとも単純なモノマネか? どっちにしろやりにくい……!!

 ここはこのまま技を使って攻め切るか!

 

「アサヒ様、技借ります!!」

 

 相手は星界戦隊よりも強い!! こちらも出し惜しみする理由はない!!

 右手に握りしめた太刀を後ろへ流すように構え、一瞬の溜めと共に前への踏み込み超高速の斬撃を繰り出す。

 

『———ッ』

 

 太刀を振り切った瞬間、奴へ後追い(・・・)の斬撃が襲い掛かる。

 それらをどこからともなく構築させた大盾で防ぐ十位だが、こちらはそれに構わず次の連撃で大盾をかちあげる。

 ゴォン!! という鈍い音共に跳ね上げられたところにさらに速度を上げた七連撃を繰り出す。

 

『……!』

 

 斬撃に耐え切れず奴の剣が砕け散る。

 防御手段を失い、晒される首。

 

———今なら刈り取れるッ!!

 

 曝け出された首までの軌跡。

 瞬時に最短距離をなぞるように太刀で薙ぎ払いその首を刎ね飛ばす———その寸前に十位が黒い装甲に包まれた腕を首と太刀の間に差し込んだ。

 

「なッ!?」

 

 刃が左腕に半ばまで食い込み勢いが止まる。

 腕を差し込んで斬撃を止めた!?

 それにこの感触……義手か!! 攻撃を誘われた!!

 

『そんなに私の首が欲しいか?』

 

 第十位の嘲りの声と共に奴は背中のバインダーから機械仕掛けの大斧を取り出し力任せに薙ぎ払ってきた。

 太刀を手離し後ろへ下がり避けると、奴は太刀が半ばまで食い込んだ左腕を、がしゃん、と外し新たな腕を転送と同時に装着する。

 新たな義手、藍色の光沢を帯びたその掌をこちらへ向けられ、光が収束しビームが連続で放たれる。

 

「っまず!!」

 

 咄嗟にジャスティビットで刀を二つ構築し、迫るレーザーを刀で切り裂きながら後ろへ下がる。

 続けてレーザーを放とうとする第十位に対応しようとするが、不意に奴の動きが一瞬だけ止まる。

 

『……チッ』

「?」

 

 なんだ? 今、奴は後ろを見ていた? 私の後ろには校舎しかないけど奴が攻撃を止める理由があったのか?

 疑問が浮かぶが、それは銃撃から近接戦に切り替えた十位が繰り出してきた斧の一撃に思考が阻害されてしまう。

 

「重い武器も使ってくる!!」

 

 斧の一撃一撃がまるできららみたいな力任せだ。

 さっきの銃撃の手癖の悪さも葵みたいだし、こいつは私たちの戦闘データを再現した敵かなにかなのかな……!

 

『ふんっ!!』

 

 斧の一撃で舞い上がった砂煙から、十位が跳躍———電撃を纏わせながら大斧を叩きつけようと落下してくる。

 

「迎え撃つ!!」

 

 両手の日本刀の柄を連結し、両刃の薙刀を作り出す。

 私は最大火力を纏わせたソレを回転させながら掬い上げるように迎え撃った。

 

「ッ!!」

『ッ!!』

 

 互いの武器が激突した瞬間、強烈な衝撃波が引き起こされ周囲の建物の窓ガラスが砕け散る。

 私たちも互いの攻撃の衝撃で後ろへ吹き飛ばされるが、壁に当たる前に地面に着地しにらみ合う。

 

『レッド!! 無事か!?』

「とりあえずは。……想定以上に強いです。そっちでなにか分かりますか?」

『なんにも分からん!! お前の動きをコピーした輩かと思ったがそうでもない!!』

「どういうことですか?」

『コピーではない!! まるでお前そのものだということだ!!』

 

 ますます意味が分からないんですけど。

 そういう能力か? 相手の能力を反映させる力と考えれば想像がつくけど……もしカツミ君の力が反映されたら怖いな。

 

『……強いな。さすがは地球を守り切っただけのことはある』

「お喋りをする余裕もあるようだね」

 

 こっちもバリバリ余力を残しているけど相手も同じなはず。

 ここまで戦っても全然底が見えないあたり、本当に厄介な敵かもしれない。

 

「地球を守ったのは私達だけじゃない。黒騎士くんがいたから私たちはここにいるんだ」

『……奴はなんなんだ』

「黒騎士くんのこと?」

 

 彼を知らないのか? 敵組織の幹部クラスの癖して?

 

「黒騎士くんは黒騎士くんだ」

『怪人事変で戦った黒騎士はカネザキ・レイマではないのか』

 

『私がプロトスーツ着たら大変なことになるわバカめが!?』

 

 社長の驚愕の罵声を耳にするけど、十位の質問の意図が分からなくなる。

 怪人事変でクモ怪人という最初の怪人を倒したのはカツミくんのはずだ。

 断じて社長ではない。

 

『お前は、なんのために戦っている?』

「さっきからなに? 時間稼ぎ?」

 

 あっちの援軍でも来るのか?

 でもこっちも待てば待つだけ黒騎士くんの到着が早くなるだけだけど。

 私の言葉に十位は静かに返答してくる。

 

『興味本位だ。このまま殺し合うならそれでいい』

 

 ……情報を聞き出すがてら答えてみるか。

 最初は怪人に怖い目に遭わせられる人がいなくなるようにって思いで戦っていた。

 でも、今は……。

 

「私にとって大事な人がもう戦わなくてもいいように、戦うこと」

「……」

「ん?」

 

 私の言葉になぜか黙り込む十位。

 その様子を不思議に思っていると奴は先ほどよりも小さいトーンで声を発した。

 

『こ』

「こ?」

『恋人が、いるのか?』

 

 ……。

 ……、……。

 

「……そうだよ

 

 これは相手を動揺させるための演技。

 だから私は確固たる意志で言葉は曲げない。

 我ながら声を震わせてしまっていると、私の背後から———生徒の避難を終えたきららと葵がやってくる。

 二人して着地した彼女たちは十位ではなく、なぜか私に威圧をかけてくる。

 

「レッドお前転がされたいようやなぁ」

「ブラッド無限月読食らっちゃってる?」

「この世には言い出しっぺの法則というものがあってね」

 

 使う場面全然違うけど。

 とにかく、二人が来てくれたのなら心強い。

 

「レッドへのお仕置きは後にして……さあ、覚悟しいや!! 十位!」

「私たちのいる、地球で好き勝手させない」

 

『……』

 

 きららと葵に武器を向けられた十位は武器を下ろしたまま反応を示さない。

 不自然な間に怪訝に思う私たちだが、十秒ほどしてから奴は武器をしまった。

 

『……今日のところは退く』

「させるとでも?」

『できるから言っている』

 

 そう言い放った十位の姿が空間に溶けるように消えていく。

 即座に攻撃を仕掛けるが、そのどれもが十位のいた場所を素通りし、奴の姿も気配も完全に消えてしまった。

 

「……社長」

『反応が完全に消えた、な。単純な光学迷彩ではこうもいかない。あちらもなにかしらの移動手段を利用しているのかもしれないな』

 

 逃げられた、か。

 なんというか戦っていて奇妙な感覚ばかりが付き纏う敵だった。

 

———面白い奴と戦ったな

 

「……アサヒ様?」

 

 普段まったく私とコミュニケーションをとろうとしないアサヒ様の声に耳を傾ける。

 この首狩りドS師匠のことだから絶対ろくなことじゃないだろうけど。

 

———あれがあり得た可能性、か

———戦士の末路としては哀れなものよなぁ

 

「どういう意味ですか……?」

 

 そう質問するとアサヒ様は答えることなく引っ込んでいってしまった。

 無性に悪態をつきたくなるが、そうすれば絶対夢の中でボコボコにされるので言わないでおく。

 

「それよりも問題なのが……」

「レッド、これから大丈夫?」

「身バレはヒーローが通る道だから安心して?」

 

 全然安心できないんだけど……!!

 別に正体がバレることについては私の責任だから別に文句はないけどこの後の展開を想像をするのが怖い。

 

 

 

 




戦いとは別のところで精神攻撃されまくったレックスさんでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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拡散される恐怖

二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらを。

今回はカツミ視点から始まります。


 学校で怪人からの襲撃を受けた。

 一般生徒のいる無防備な状況での襲撃、しかも相手は確実にアカネを狙っている。

 もし彼女の身になにかあったらと考え戦慄していたが……当のアカネが生身で怪人をバラバラにしたと聞いてちょっと引いた。

 現在はアカネが敵を引きつけ葵ときららが生徒の避難と護衛を行っているらしいが、俺もコスモと一緒に現地へ急行した。

 だがその最中によりにもよってヒラルダからの襲撃を受けた。

 

「ふふふっ、こっちだよ!!」

「そこをどけやァ!!」

 

 建物から建物へ跳躍を繰り返し攻撃してくるヒラルダ。

 真昼間、人の通りの多い街中での襲撃。

 前の戦いのように作られた空間ではないので無茶な攻撃もできない。

 

「嫌だね!!」

 

TOUCH(タッチ!)!』

レッド   エナジー

RED ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション)

 

 赤いエネルギーを伴いヒラルダが衝撃波を繰り出してくる。

 ッ、野郎! 街を狙って……!!

 瞬時に手の中にアクアシューターを召喚し技を繰り出す。

 

DEADRY(デッドリィ) (ツー)!!』

 

TYPE(タイプ) BLUE(ブルー)!!』

 

ALL(オール) BREAK(ブレイク)!!』

AQUA(アクア) STORM BREAK(ストーム ブレイク)!!』

 

 銃口から放たれた青く渦巻くエネルギーの奔流が街へ落ちようとしていたヒラルダの攻撃を撃ち落とす。

 街への被害を防げたことを確認し今一度ヒラルダを睨みつけると、奴はビルの屋上に着地しながらおちゃらけたように肩を竦めた。

 

「さっすが。簡単に防がれちゃった♪」

「街ばっか狙いやがって……!!」

「しかも私の干渉もシャットアウトしてるし、もう進化しちゃってるねー」

 

 レイマの補助とシロの頑張りもあってヒラルダのジャミングはもう対策済みだ。

 だがそれでも街そのものを人質にされているこの状況はまずい。

 

「正攻法でやると圧倒されるのは目に見えているからねぇ。それに―――」

「くたばれヒラルダァ!!」

「今、二対一だしっ!!」

 

 ヒラルダの背後からエネルギーのマントを噴出させながら上昇した緑と金の戦士———コスモがライオンセイバーで斬りかかる。

 斬撃を拳銃型の武器ではじき返したヒラルダはバックルに手を添える。

 

「乱暴ねぇ!!」

 

TOUCH(タッチ!)!』

ピンク   エナジー

PINK ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション)

 

 腕に纏わりつくように滲みだした桃色のエネルギーがチェーンソーを形どりながら、コスモへと迫る。

 それに対してコスモは動揺することもなく、ベルトから取り出した鍵のようなものをライオンセイバーへと差し込んだ。

 

「その攻撃は、もう視えてるんだよ!!」

 

G H O S T(ゴーストォ)

ガブッ!

LA()! LA()! LA()! LIOOOooN(ライオォーン)!!!!

 

 瞬間、コスモの姿が煙のように分裂し、ヒラルダの攻撃をすり抜ける。

 振るわれる攻撃を全て回避したコスモは煙を纏いながら、さらにライオンセイバーのトリガーを引いた。

 

EAT(イート)GHOST(ゴースト)!!』

DELICIOUS(デリシャース)!!』

 

「くらえぇ!!」

「ッ!」

 

 ライオンセイバーの刃からたくさんの人魂が放たれ、ヒラルダへと殺到する。

 直撃を受け、後方に飛ばされた奴は空中で態勢を整えながら———突き出した掌をコスモへと向ける。

 

 

JAMMING(ジャミング)!!

「あぐっ!?」

 

 コスモのベルトに干渉されたか!!

 無防備な彼女がヒラルダに攻撃される前に、重力を操りこちらへ引き寄せる。

 

「迂闊に近づくな!! お前のスーツは奴に干渉されるんだぞ!!」

「い、言うのが遅い!! それより早く下ろせ!!」

 

 話を聞いていなかったのはお前なのに!?

 ッ、あいつまだ何かしようとしているなァ!!

 

TOUCH(タッチ!)!』

ブルー   エナジー

BLUE ENERGY↴

VENOM(ヴェノム) POLLUTION(ポリューション)

JAMMING(ジャミング) UP(アップ)!!』

 

「さあこれはどうかなぁ!!」

 

 また技を発動させたヒラルダが青色の粒子を周囲に散布する。

 青色の粒子は空間を侵食するように塗り替えながら———ヒラルダの姿をいくつも作り出す。

 ただ分身を作り出したわけじゃない。

 そのどれもが形が大きく歪んでおり、出来の悪いブリキ人形のように蠢いていた。

 

 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
  
?
 

 

「なにあれキモ!?」

 

 ヒラルダの声で一斉に話し出す分身にコスモが顔を青ざめさせる。

 ジャミングと聞いてまたなにかしらの干渉をしてくるかと思ったが、これはベルトそのものではなく空間そのものに干渉して幻影を見せているって感じか……!!

 しかもこいつ……! こっちの感覚も狂わせてきているな!!

 

「黒騎士! あいつを一気に吹き飛ばせよ!!」

「奴は性格が悪い。一気にこいつらを消し去ろうとすればその攻撃そのものを街に向けるように仕向けるはずだ」

 

!

 

 わざわざ肯定してくるあたり性格が悪い。

 だが面倒なのは事実だ。

 

「ならボクが指さした方向に攻撃しろ!!」

「いけるのか!?」

「いくら奴でもボクの()は欺けない!!」

 

 ———よし、信じるぞ!!

 手の中に作り出したグラビティバスターをガンモードにさせ、グラビティグリップを装填させる。

 銃口に黒色のエネルギーを集約させ、コスモの指さした方向にエネルギー弾を放つ。

 

「あそこだ!! 外すなよ!!」

「任せろ!!」

 

 放たれた重力弾はピンポイントでヒラルダに直撃し、幻術で作られた空間を破壊する。

 両腕でエネルギー弾を防ぎ、腕の鎧をボロボロにさせながらも無事なヒラルダは笑みを零しながら俺達から離れた場所に降り立った。

 

「忘れてたよ。貴女の目が良いこと」

「ヒラルダ……!!」

「私、そんなに貴女を怒らせるような真似してたっけ? 全然心当たりないんだけどー?」

「ボクに星界戦隊をけしかけたのはお前だろ……!」

「……そういえばそうだった。でも強くなれたし、晴れてそっちの仲間になれたんだからむしろ感謝してほしいくらいじゃない?」

「~~~ッ!!」

 

 隣からぶちぶちぶち!! というキレる音が聞こえそうなくらいに苛立っているコスモを諫めながらヒラルダを見上げる。

 このまま戦っても街を人質にして被害が広がるだけだ。

 つーか、今の戦い方はこいつらしくない。

 勝つ気がねぇのはいつものことだが、今回ばかりは露骨に足止めしてこようとしている。

 

「……お前、今度は誰と手を組んだんだよ」

「えへ、分かっちゃった?」

「蛇のようにしつけぇお前がこんな意味不明な足止めをする時点で別の思惑があるのは分かり切ってんだよ。……怪人側についたのか? それとも、今レッドが戦っている十位とか?」

 

 アカネが今、十位と戦闘をしているということは既にレイマから聞いていた。

 かなりの実力者でアカネと互角以上に戦っている、だとか。

 それならこの襲撃が偶然とも思えない。

 

「正解っ! 今回、私は第十位に協力を持ちかけられて君を足止めすることになりましたー!」

 

 ぱちぱちー、とふざけた態度で拍手をするヒラルダにまたキレそうになるコスモを諫めつつ、俺は思考を巡らせる。

 つーことは狙いはアカネ達か? 俺よりも先にジャスティスクルセイダーを片付けて俺と戦おうとでもしているのか? だがそれなら怪人に敵対なんてせずに徒党を組んで戦えばもっと有利に戦えたはずだ。

 それなのに奴は怪人を殺し、アカネに戦いを仕掛けた。

 そもそもの怪人勢力と敵対しているのか定かではないが、その十位がなにをしたいのか見えてこない。

 

「十位はなにを考えている」

「知らなーい」

「……」

「怒らないでよ。実際本当に知らないんだ。姿どころか顔も見せない冷酷な殺戮者、突然序列内で頭角を現しあっという間に十位に上り詰めた頭のおかしい暗殺者の思考なんて私に分かるはずないでしょ」

 

 ヒラルダにとっても十位は分からない存在ってことか?

 不可思議な感覚だけを抱かせる十位の存在に疑問が尽きないでいると、不意にレイマからの通信が入る。

 

『カツミ君! 十位が撤退した!!』

「被害は? レッド達は無事か?」

『怪我人はなし!! レッドも消耗こそしているが無事だ!!』

 

 良かった。

 だがレッドが消耗か……彼女がそれだけ消耗する相手が十位ということになる。

 

「さて、こっちも依頼完了の連絡が来たからそろそろ帰らせてもらうわ」

「ハァ!? 行かせると———」

「待て、コスモ」

 

 コスモを手で制するように止め、ヒラルダを見る。

 星界エナジーとやらを用いた転移で移動しようとした彼女は一旦手を止めて俺を見る。

 

「もう一つ聞かせろ」

「んんー?」

「お前、風浦さんに何をした?」

「???」

 

 風浦さんの身に起こっている現象。

 それについてヒラルダに訊いておかなければならない。

 俺の問いかけにヒラルダは意味が分からないと言った感じで首を傾げた。

 

「何をしたって……特になにもしてないけど」

 

 ……誤魔化している訳でも嘘をついているわけでもない。

 じゃあ、こいつは風浦さんの身に起こったことを分かっていないのか?

 

「……ま、いいや。じゃあ、次は本気で殺し合いましょうね、カ・ツ・ミ」

 

 すぐに興味を失った奴は手をひらひらと振りながら粒子を纏い、煙のように消えてしまった。

 その場に残された俺は変身を解きながら思考に耽る。

 

「ヒラルダが何かをしたってわけじゃないのか」

「あいつなら嘘をついてもおかしくないぞ」

 

 同じく変身を解いたコスモの言葉に呻く。

 あいつ、本当に言っていることが滅茶苦茶だからな。

 それに多分気分屋なのでその場その場で言っている言葉がコロコロかわっていくのも厄介だ。

 

「遠目でアカネ達の無事を確認しておくぞ」

「え、ボク、バイト中に抜け出してきたから早く戻らなくちゃならないんだけど」

「嘘つくな。休憩中で暇してるってシンドウさんが言ってたぞ」

「くっ」

 

 油断も隙もないやつだな。

 どうせ帰りになにか買い食いしようとしていただろこいつ。

 

『カツミ君、大変だ!!』

「どうしたレイマ?」

 

 またレイマから通信が入り応答する。

 先ほどとはまた違った慌てように、またなにかあったのか? と身構えていると俺の視界に動画のようなものが表示される。

 

 それは———アカネが生身で怪人を始末している一部始終。

 

 アカネを襲撃した怪人の視界を通したものと、窓の外から映し出されたその映像に言葉を失う。

 コスモも同じ動画を見たのかドン引きしながら俺の肩を叩いてくる。

 

「うわ、おいカツミ。これやばくないか?」

「レイマ! この映像は!?」

『今しがたネットに流された動画だ!! やってくれたな怪人共ォ……!! レッドの凄まじい姿が全世界に流出してしまった……!!』

 

 アルファの認識改編が機能しない今、もうこの状況は取り返しのつかないものになってしまったということになる。

 


 

 最初に依頼を持ちかけられた時は、正直びっくりした。

 なにせ相手は星将序列10位。

 あの悪名高い謎の戦士からのものだったんだから。

 しかもその内容も滅茶苦茶で、序列一桁、最低でも二桁上位レベルの実力者でないと到底不可能な『黒騎士の足止め』という無茶ぶりの依頼だ。

 普通の頭をしているなら考える余地もなく断るくらいにはやばいものだ。

 

 まあ、私は普通の頭をしていないので嬉々として受けたんだけどね。

 

 星界エナジーを取り込み大幅なパワーアップを果たした私なら黒騎士を足止めすることができる。

 勿論、彼が本気をだされると私が一方的なサンドバッグにされるだけなので“人の多い街”をフィールドとして立ち回り、彼に本気を出されないようにしていた。

 

『あんたの無謀さにはほとほと呆れるわ』

「そんなこと言わないでよー。こっちも本当に必死だったんだからさぁ」

 

 十位との待ち合わせに指定された廃墟に先に到着した私は、一先ず別の拠点でモニターという名の助手をさせている元星界戦隊のイエローに連絡をとっていた。

 役目を終え、幾分か肩の荷が下りた彼女はしばらく眠りについたままの兄のブルーの傍で塞ぎこんでいたものの、すぐに立ち直り私の補助をするようになってくれていたのだ。

 ……まあ、そうなるように私が思考を誘導したってこともあるけど、私にとっては使い勝手のいい下僕のようなものだ。

 

『10位って何者なの?』

「序列の近い君が知らないなら私も知らないとは思わないのかな?」

『思わないわね。あんたの気持ち悪さは常軌を逸しているから』

 

 私じゃなかったら心に傷を負っていることを平気で言うなこのイエロー……。

 

「10位の正体は私も知らないんだ。てか多分、誰も知らないんじゃないの?」

『正体不明。一度も顔を晒したことのない戦士……って噂は本当なの?』

「事実だろうね。なにがどういうわけか知らないけど、アレは自身の正体に繋がるであろう痕跡の一切を残さない。私も正直、今回は驚いているんだよ」

 

 あの十位がここまで派手に動くなんて。

 だからこそ乗ったともいえるけれど。

 

「十位の獲物はジャスティスクルセイダーだろうね」

『……根拠は?』

「私と同じ匂いがする」

『おえっ』

 

 今なんで嗚咽したのかな……!? 私から吐きそうな匂いがするとでも!?

 あんまりな反応をするイエローに追及しようとすると、この廃墟に私以外の誰かが足を踏み入れる気配を察知する。

 それが誰かすぐに理解した私は笑みを浮かべながら後ろへ振り返る。

 

「やあ、十位。それともレックスとでも呼ぶべきかな?」

『どちらでも構わない。呼び名など私には最早意味のないものだ』

 

 やってきたのはフルフェイスのマスクで頭を覆った背の高い女性。

 スーツ姿ではなくほぼ生身で現れた十位に内心で驚きつつ、表に出さないようにする。

 

「言われた通り依頼は完了したよ?」

『ご苦労。報酬はそちらに振り込んでおく』

「いいや、そのことなんだけど———ッ」

 

 話を切り上げようとする十位の声に被せるように言葉を発しようとした瞬間、私の喉元に剣が添えられていた。

 十位が後少し動かすだけで首がすっぱりと断ち切られる距離。

 ———なるほど、無駄な話をするつもりはない、ね。

 でも私にはそんな脅し関係ないね。

 

「協力関係を結ぼう!」

『お前は信用できない』

「こっちは黒騎士、貴方がジャスティスクルセイダー。利害は一致しているはずだよ?」

『……』

 

 沈黙する十位。

 やっぱり私の考えは合っていたようだ。

 

『私の狙いはジャスティスクルセイダーなどではない』

「嘘だね。今日の戦闘、君はジャスティスレッドとの戦いだけに拘っていた。……おっとこれ以上深くは聞かないよ? さすがに私と君はそこまで仲がいいわけじゃないからね」

 

 興味はあるけど今十位と事を構えるほどの余裕は私にはない。

 今日だって本当にギリギリだったんだ。

 

「正直さぁ。ジャスティスクルセイダーって鬱陶しくてさぁ。このままじゃ黒騎士とも満足に戦えなさそうなんだ。だから君がジャスティスクルセイダーを狙ってくれれば、私も思う存分に黒騎士と殺し合えるわけだよ」

『なら、お前が黒騎士を相手どるということか?』

「そうなるね」

 

 暫しの沈黙の後、ゆっくりと刃を引いた十位が剣を手元から消し去る。

 ……動きも全然対応できなかったな。

 スーツなしでもとんでもない殺気をしていたし、まるでレッドみたいだ。

 アレも滅茶苦茶怖い殺気の出し方してるもんなぁ。

 

『……分かった』

「というと、契約成立?」

『余計なマネをすれば殺す』

 

 怖っ。

 噂通りに殺気をまき散らしたようなやばい奴だな。

 でも、噂以上に面白そうだ。

 

「私、貴女のことも興味出てきたんだよね」

『……』

「顔を晒さない戦士。その仮面の下にどんな表情が隠されているのか、それがものすごぉーく気になる」

『私に素顔はない』

 

 ぼそり、と呟いた十位がその場から離れていく。

 暗闇に包まれた奥へ進んでいきながら、彼女は言葉を発する。

 

『名前も、存在も、なにもかもを置いてきた』

 

 序列10位。

 その全てが正体不明の戦士と呼ばれた彼女だが、その実態は私が想像している以上に複雑で……凄惨な、私好みの生き方をしている奴かもしれない。




怪人視点の恐怖映像が拡散されてしまいました。
ある意味でアズに動画という形でやり返されたようなものですね。

次回は恐らく掲示板回となります。


今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございます<(_ _)>


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正体発覚後(掲示板回)

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

掲示板回です。


ジャスティスレッド ジャスティスクルセイダー レッド残酷シリーズ 人類最強? 赤き征裁? 正体バレ? 逸般人? 生身で怪人を倒す女?

 

✕▶

 

ヒェッ!?  普通に美人で草ァ!

恐怖映像

怪人見た瞬間豹変しとるやん……

人斬りブラッド

逸 般 家 庭 

血 祭 り

水 鳥 乱 舞

かっこいい   レッド様ぁ

 II ————

 


 

111:ヒーローと名無しさん

 

生 身 で 怪 人 を 倒 す 女

 

112:ヒーローと名無しさん

 

まさかこんな形でレッドが身バレされるとは思いもしなかった

普通の女子高生やってたのになぁ。

 

113:ヒーローと名無しさん

 

撮影方法が機械とかじゃなくて怪人視点なのが卑劣

これ奇襲かけたのレッドの正体バラすためにやったようなもんじゃん

 

114:ヒーローと名無しさん

 

怪人視点マジで恐ろしい。

襲い掛かろうとしたら片目にシャーペンが突き刺さって視界半分消えて状況呑み込む前に怪人がバラバラにされて首が刎ねられていたって言うね……。

 

115:ヒーローと名無しさん

 

怪人と戦う正義の味方

戦隊のリーダー

ポニーテイルの美少女女子高生

 

うーん、これはヒロイン()

 

116:ヒーローと名無しさん

 

生身で怪人倒したところがやばすぎるだろ……

黒騎士くんでもやったことないぞそんなこと……

 

117:ヒーローと名無しさん

 

人体改造でも受けているんだろ

でなきゃ説明がつかない

 

つまり金崎令馬とかいう侵略者は地球人を実験台にしているでQED

 

118:ヒーローと名無しさん

 

なにがQEDじゃスカタンが

レッドのアレは人間に可能な動きで怪人を卸しているだけでなにも超人的なことはしてないぞ

 

してないんだぞ

 

119:ヒーローと名無しさん

 

古武術系フーチューバ―が忖度なしで褒め称えるくらいにはすごい動きしてるらしい

つーか、目でかろうじて追える速さなのがより異質さを引きだたせてる。

 

120:ヒーローと名無しさん

 

怪人の甲殻の間を縫うように刀通したのマジで鳥肌たつわ

よく見ると斬り飛ばし方も柔らかい関節狙ってるし的確に怪人の弱いところを狙ってやがる

 

121:ヒーローと名無しさん

 

つまり人間でも怪人を倒せる……?

 

122:ヒーローと名無しさん

 

レッドと同じ動きができる自信があるならな

 

123:ヒーローと名無しさん

 

無理です……

 

124:ヒーローと名無しさん

 

「以上です!!」

「私には彼女を評価することができません!!」

「だって土俵が違いますもん!」

「試合、演舞に用いる技を磨く我々と!」

「怪人との死合を土俵とする彼女たち!!」

「それを比べること自体おこがましいじゃないですか!!」

 

スレで紹介された古武術道場師範のコメント面白くて好き

 

125:ヒーローと名無しさん

 

あんたほどの人がそういうんなら……

 

126:ヒーローと名無しさん

 

本当に生まれる時代間違ってるやつやん……

 

127:ヒーローと名無しさん

 

レッドと黒騎士が同じ高校ってところが気になる

 

128:ヒーローと名無しさん

 

人間ができる動きで怪人ジェノサイドに特化し続けてようやく倒せるって考えたら納得する。

つか戦闘経験が尋常じゃないしな

 

129:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルと黒騎士も元からグルだったとかだろ

 

130:ヒーローと名無しさん

 

なんだおめぇ陰謀論者か

 

131:ヒーローと名無しさん

 

元から知り合いで一般人を騙していたって言いたいのか?

それをする意味がまったく分からんのだけど。

 

これまでの黒騎士くんとジャスクルの関係性は嘘じゃないと思う。

だったらあんなこじれてないし、黒騎士くんの過去は実際に起こっていることで裏付けをとれちゃってる。

 

132:ヒーローと名無しさん

 

せめて黒騎士くんの過去は嘘であってほしかったなぁ

 

133:ヒーローと名無しさん

 

レッドのいる高校は元ジャスクル本部から丁度いい距離にあるからな。

憶測でいうのもアレだけど生徒の中にブルーとイエローもいるかもしれん。

 

黒騎士くんは……マジで分からん

 

134:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんはボロアパートから一番近いところとかありそう

確認したら一番近い高校だったし

 

135:ヒーローと名無しさん

 

(新しい闇を供給するの)やめてください……

 

136:ヒーローと名無しさん

 

進路すらも選ぶ余地なかったとか辛ぁ

高校も二年しか行けなかったのも辛ぁ

 

137:ヒーローと名無しさん

 

新坂アカネマジで美人だな

 

138:ヒーローと名無しさん

 

おい本名出すな

 

139:ヒーローと名無しさん

 

いくらネットに出まわっちゃったとはいえ最低限の常識は持とう

今まで俺たちの日常を守ってくれた子だぞ

 

140:ヒーローと名無しさん

 

守ってくれって頼んだ覚えないわ

 

141:ヒーローと名無しさん

 

宇宙人より話が通じないとかやべーだろ

 

@?2:ヒーローと名無しさん

 

URL:xxx://xxxxx/xxxxx

 

 

142:ヒーローと名無しさん

 

なんだこれ?

 

143:ヒーローと名無しさん

 

うわ、ここにも来たか

 

144:ヒーローと名無しさん

 

他のところにも出てる正体不明の書き込みだな

内容はレッドの個人情報。

本名、住所、高校、家族構成、全部のせられてるからあまり見ない方がいい

謎の方法で書かれてるから削除することもできない。

 

145:ヒーローと名無しさん

 

この悪意と性格の悪さは宇宙人じゃないだろうなぁ

俺たちは知ってるぞ、これは怪人のやることだ

 

146:ヒーローと名無しさん

 

怪人復活か……

再生怪人っていえば雑魚に思えるけど、ジャスクルと黒騎士くんが強くなっただけで怪人の恐ろしさと脅威は全く変わってないのが怖い

 

147:ヒーローと名無しさん

 

下手すりゃ侵略者よりやべぇのが復活しちまった

 

148:ヒーローと名無しさん

 

情報が出回ったせいでテレビでも意識高い系のコメンテーターとか湧き始めてたな。

 

149:ヒーローと名無しさん

 

子供戦わすのは常識疑いますって批判はいいけど

黒騎士くんの時は真逆のこと言ってるからマジ性質悪いと思った

 

150:ヒーローと名無しさん

 

大炎上してて草ァ!

そうだよ、今アンチなコメントして燃えない方がおかしいんだよなぁ

 

151:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんの過去発覚してさすがにバカな報道するマスコミはいなくてちょっと安心した

 

152:ヒーローと名無しさん

 

バカな発言をするやつは増えたけどなw

 

153:ヒーローと名無しさん

 

毒舌と悪口の違いが分かってないやつが多すぎるんだよ

 

154:ヒーローと名無しさん

 

これを機にレッドのストーカーとか出始めないか真面目に怖い

 

155:ヒーローと名無しさん

 

ああ、心配だな(ストーカーの方が)

 

156:ヒーローと名無しさん

 

見た目は凛とした美少女なのがな

某所で疑似餌呼ばわりされてるのは笑うがw

 

157:ヒーローと名無しさん

 

真面目な話、怪人をタイマンでバラバラにする人斬りのストーカーになりたいのか……?

 

158:ヒーローと名無しさん

 

邪な気配とか即座に察知しそう

 

159:ヒーローと名無しさん

 

そも一般人でどうにかできるような存在じゃないだろ

 

160:ヒーローと名無しさん

 

徹底主義の社長がそんな安易な隙を作るはずがねぇしな

 

161:ヒーローと名無しさん

 

赤黒の邪魔をするやつは処す

 

162:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士×レッド派閥……!?

生きていたのか!?

 

163:ヒーローと名無しさん

 

どっちにしてもレッドの矢印はもう黒騎士くんに向いているんだよなぁ

 

164:ヒーローと名無しさん

 

あまりの凛々しさに限界化する女性ファンがさらに増えたのは草

 

165:ヒーローと名無しさん

 

ヒロイン適正本当にあると思うんですよ

それ以上のインパクトが勝ってるだけで

 

166:ヒーローと名無しさん

 

住所バレしてるのマズいけどどうなった……?

 

167:ヒーローと名無しさん

 

もう社長が家族まるごと保護してるらしい

なお、レッド家は黒騎士くんアパートと同じことになった模様

 

168:ヒーローと名無しさん

 

いい加減学べよ……

 

169:ヒーローと名無しさん

 

いつもの有能ムーブ。

この状況も一応想定はされていたんだろうな

 

170:ヒーローと名無しさん

 

あたってほしくないんだけど、

これもしかしてレッドの情報流して俺ら一般人に足を引っ張ってもらおうとしてる?

 

171:ヒーローと名無しさん

 

その可能性は割とある

 

172:ヒーローと名無しさん

 

実際足を引っ張ってる恥知らずな輩もいる

 

173:ヒーローと名無しさん

 

まあ、それは極一部だけでしょ

これまでの社長が情報を小出しにしたり、諸々の立ち回りで思っていた以上の騒ぎは少なくなっていると思う。

 

174:ヒーローと名無しさん

 

いまさら正体バレくらいで掌返しするとでも思われてんのか俺らwww

 

そんなん絶対ありえんけどな

 

175:ヒーローと名無しさん

 

確かにジャスクル、黒騎士の戦いの動画を出してくれているから俺たちも怪人や侵略者との戦いがどれだけ厳しくて、大変なものかって知っているんだよな。。。

 

その大変さを知ってるから正体を知っても悪い感情を抱くこともない。

そこまで計算してやっていたんなら、社長本当に天才だな。

 

176:ヒーローと名無しさん

 

なるほど、そういうことだったのか……!!

 

177:ヒーローと名無しさん

 

さすがは社長だぜ……!!

 

178:ヒーローと名無しさん

 

勝手に上がる社長の株で草

 

179:ヒーローと名無しさん

 

よく考えてみればこれでレッドも身分を隠す生活をすることになるんだよね?

これ、黒騎士くんと同じところに住むのでは?

 

180:ヒーローと名無しさん

 

は?

 

181:ヒーローと名無しさん

 

あ”? 私の弟に手を出すのか

 

182:ヒーローと名無しさん

 

一緒に住むのはお姉ちゃんである私なんだが?

 

183:ヒーローと名無しさん

 

やはり赤は卑しい色だブルー

 

184:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士ガチ勢姉貴たちこわい……

 

185:ヒーローと名無しさん

 

幻滅しました。

社長のファンやめます。

 

186:ヒーローと名無しさん

 

レッド、身バレしたけど結果オーライとか思ってそう

 

 




勝手に上がる社長の株でした。



次回の更新は明日の18時を予定しております。


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新坂家、本部へ

二日目、二話目の更新となります。

前半アカネ視点
後半からカツミ視点となります。


 私の正体が世間にバレてしまった。

 正直それは覚悟していたことだ。

 万が一のために正体がバレてしまった時の手順を社長が用意しておいてくれたおかげで、私の家族も無事に本部に匿うことができた。

 学校も卒業間近で、どちらにせよ長い休みに入っただろうから問題もない。

 しかし、しかしだ。

 

「いや、なんで私だけこんな個人情報流出してるの!!?」

 

 いくらなんでもやりすぎじゃない!?

 ジャスティスクルセイダー第二本部内に存在するランチスペース。

 主に職員などが利用するその場所で頭を抱えていた私に、きららと葵がスマホをいじりながら話しかけてきた。

 

「よかったね、ネットじゃ美少女扱いされてるよ」

「全然嬉しくないよ!!」

「あとアカネの夢女子がたくさん増えてて草」

 

 夢女子ってなんだ。

 でも聞くのが怖いので聞かないでおく。

 

「くっ、私だったら身バレ系ヒーローの気分を味わえたのに……!!」

「冗談でもそんなこと言わない」

「あでっ」

 

 ぽかっ、と葵の頭に手刀を落とすきらら。

 こういう時、きららの常識人さに助けられるけど、同時に変に重く受け止めず茶化してくれる葵の反応で心が軽くなる。

 

「きららと葵は家の方は大丈夫?」

「私らはすぐに社長が護衛を手配してくれたから大丈夫」

「うちもいまんところ問題なし」

 

 きららの家はななかとこうたという小さい子供たちがいるので、大丈夫そうでよかった。

 

「カツミはそこらへんバレても特にダメージ少なかったけど、アカネはそうじゃないだろうから大変だよねぇ」

「今になってアルファちゃんの認識改編能力が使えなくなったことを悔やむよ……」

「多分、こうするから私の認識改編を封じたんだろうね」

 

 そう言ってカフェオレを口にするアルファ。

 現在、私の家は立ち入り禁止となっており家の中のものもほぼ全て回収させてしまっているので、家にはなにもない状態だ。

 まさか自分の家がカツミ君の住んでいたアパートと同じ状態になるだなんて思いもしなかった。

 そう思ってうなだれていると、私たちの座っている席に料理を乗せたカートを押した女性がやってくる。

 

「はい、ご注文のナポリタン、焼き鯖定食、カレー、ガスパチョでーす」

「ありがとうございます。……ん? ガスパチョ……? え、誰、頼んだ人」

「私」

 

 聞きなれない料理に葵が手を上げ、冷製スープっぽいそれを目の前に出してもらう。

 なんでそんな特殊な名前の料理を……。

 

「スペイン料理。聞いたら『あるよ』って渋い声で返ってきたから頼んだ」

「なんでそんなのあるの……」

「ここの料理長、結構な強者(つわもの)。前はチョングッチャン頼んで普通に来た」

 

 分からない料理からさらに分からない料理出すのはやめて……。

 自分の前にナポリタンが差し出されると、料理を持ってきてくれた人が不意に私の肩をぽんぽんと叩く。

 

「はい?」

「まったく、辛気臭い顔をしてるわねぇ、アカネ」

「え、椿赤(ちせ)(ねぇ)!? ここで働いてたの!?」

 

 ごく自然にこの場にやってきて昼食のナポリタンを差し出してきた新坂家次女、チセ姉が呆れたように私を見下ろしていた。

 あ……そういえば、匿われてからここで働けるように交渉してたって言ってたな。

 この様子だと話通ったんだ。

 

「こんにちはー。きららちゃん、葵ちゃん、いつも妹がお世話になってるね」

「あ、こんにちは、椿赤さん……じゃなくて、どうして貴女が働いているんですか!?」

「ん、ここで手伝いしてるの」

 

 あっけらかんとそう言うチセ姉だが、ここはジャスティスクルセイダー第二本部にある食堂。

 あの自称食通な社長が雇った確かな腕を持つ料理人が仕切る場所なので、バイトでそう簡単に入れる場所ではないはずなのだ。

 だが、実際この姉は入ってしまっている。

 

「料理修行に丁度良くてね。なんならこの騒動の後雇ってもらえるように頑張ってみようかなってまで考えてる」

「うわぁ、打算的ぃ……」

 

 わが姉ながら考え方が強かすぎる。

 たしか大学で資格とって卒業したら海外に料理修行に行くとかめっちゃアグレッシブなこと言ってたけど……。

 

「チセ姉、包丁振り回すの得意だもんね」

「ポン刀振り回すのが得意なあんたに言われたくないわ」

 

 そして長女である紅桃(くるみ)姉はハサミを振り回すのが得意である。

 意味不明なくらいに刃物に縁があるのが我ながら怖い。

 

「えーと、チセさんは大丈夫なんですか?」

 

 きららの困惑した声にチセ姉はあっけらかんとした顔で答える。

 

「全然平気だよ。噂のジャスティスクルセイダー本部に来るなんて夢にも思わなったから正直、マジかって感じ」

「大学の方は……?」

「講義はオンラインで受けられるし、単位は3年であらかた取っちゃったから平気。資格の勉強もここで十分できるし、そもそも春休みで二か月間休みだったしねー」

 

 大学の仕組みとかはよく分からないけど、チセ姉の反応を見る限り問題はないようだ。

 

「お父さんもお母さんもリモートワークで仕事こなせるし、紅桃(くるみ)姉もヘアカット系で動画出してるから収益に関しては問題ないらしいよ」

「え、あれ趣味程度って言ってなかったっけ?」

 

 お小遣い稼ぎと練習がてらにヘアカットの動画出すって半年くらい前に聞いてそれっきりだったんだけど。

 

「あー、紅桃姉も自分の動画見られるの恥ずかしいらしいから言ってなかったみたいだけど、結構人気らしいよ。最近はあんたの姉って明かされて動画視聴数も増えて登録者えぐいことになってたし」

 

 初耳なんですけど!!?

 だから昨日「感謝する妹よ」とか変な口調でお礼言われたのか!?

 

「うちの家族って結構おかしくない……?」

「「「「あんたが言うな」」」」

 

 チセ姉ならまだしも葵ときららとアルファちゃんから同時にツッコまれたんだけど!!

 

「あれ、そういえばカツミ君は? あんただけだと炭酸と糖分を抜いたコーラじゃない」

「それただの苦い水じゃん!!」

 

 考えうる限り、一番まずい飲み物じゃん!!

 素直に炭酸抜きの炭酸水って言えよ!! 妹相手に酷い言いようなんだけどっ!!

 

「カツミ君ならまだ来てないよ」

「ここにはいるの?」

「うん」

 

 彼は今、ハクアちゃんと風浦さんのいる部屋にいる。

 ……ついでに新坂家の飼い犬、きなこと一緒にいる。

 


 

 

 風浦さんの身に起こった異変から日が経ち、彼女の精神状態も大分落ち着いてきた。

 それに合わせ彼女が放出していた星界エナジーも安定したこともあり、俺はレイマに頼まれ彼女の元へたびたび足を運んでいた。

 ……アカネのこともあるが、この件に関しては俺にできることはない。

 ここはレイマとスタッフの皆さんに任せ、俺は俺のできることをしていくしかない。

 

「わんっ」

「しっ、静かに」

 

 俺の膝の上で寝転んでいる白い毛並みの犬『きなこ』に小声でそう語りかけながら、俺は病室のベッドで体を起こしている風浦さんと、傍で白衣を着て彼女と会話しているハクアを見る。

 

「風浦さん、気分はどう?」

「今のところは大丈夫、です」

 

 今までいろいろありすぎて忘れていたが、ハクアは元々カウンセラーとしてジャスティスクルセイダーに所属していた身だ。

 まあ、偽りの身分だったわけだがそれでも知識は確かなものだということは、カウンセリングを受けた俺自身が保証できる。

 

「敬語じゃなくてもいいよー。私、実年齢約一歳だからため口でも全然かまわないから」

「……」

 

 ……これ、保証できるか?

 風浦さんがものすごく助けを求めるような視線をこちらへ向けてきているんだけど。

 

「まだ不安?」

「……うん。私の身体になにが起こっているのか分からないし、これからどうなるかって考えたら……不安で不安でたまらないの」

 

 うつむいたまま自分の手首のブレスレット型の抑制装置に触れ、風浦さんが声を震わせる。

 ハクアはそんな風浦さんの手に自らの手を重ね、ゆっくりと語りかける。

 

「君の不安を解決する手段はまだ私たちにはない。だけど、不安を和らげることはできる」

「どう、やって……?」

「話をしよう」

 

 風浦さんの目を見て彼女は優しく静かな声で語りかけていく。

 

「これからしたいことでも、なんの関係のない他愛のない話でもいい。君の抱える不安、抑え込んでいる感情も全部吐き出したっていい。私たちはそれを受け入れる」

 

 ……やっぱりちゃんとカウンセラーやってるな。

 俺が記憶喪失の時も最初は同じようにやっていた覚えがあるので、そういう意味でも俺はハクアに助けられていたということになるんだな。

 

「かっつん」

「おう」

 

 名前を呼ばれ、膝にいるきなこを抱えるように持ち上げ、ハクアの隣の椅子に座る。

 アレルギーとかは事前にレイマに聞いたので問題ないはずだ。

 

「その子、かわいいぬいぐるみだ……ね?」

「くぅーん」

「……。え、本物の犬!? ぬいぐるみかと思った!?」

 

 驚くほどされるがままにしているきなこに風浦さんが驚く。

 そのまま風浦さんにきなこを渡すと、驚くほどの抵抗の無さで彼女の腕の中で落ち着いてしまった。

 

「アカネ……じゃなくて、レッドから預かってる犬なんです。名前はきなこ」

「きなこ? わたあめじゃないんだね」

「普通にそう思うでしょう? でもきなこって名前なんですよ」

「わんっ」

「……ふふっ」

 

 ようやく笑顔を見せた風浦さんがきなこを撫でる。

 それから俺も交えて他愛のない話をしたりして時間を過ごした。

 

「風浦さん、大丈夫そうか?」

 

 風浦さんのいる部屋から出て廊下を歩きながらハクアに話しかける。

 まだ不安な気持ちもあるのは分かるが、今日話した感じは良くなっているように見えた。

 

「まだまだカウンセリングが必要だよ。彼女に宿った力以前に何か月も異星人に体を乗っ取られていた時点で相当な心の傷を負っていてもおかしくないんだから」

「……そうだよな」

 

 しかも性質の悪いことに意識はちゃんとあったらしいからな。

 意識はあれど体が動かない。

 そんな状態が長く続くなんてどれだけの恐怖か想像つかない。

 

「だからこれからも話していくことが大事だよ」

「俺もできる限り協力するつもりだ」

 

 アカネ達も力を貸してくれるだろう。

 

「わんっ」

「お前もいたな」

 

 足元で一声ないたきなこに見下ろして苦笑する。

 こいつもこいつでちゃんと働いてくれたからな。

 

「アニマルセラピーもしっかり効果が出てるみたいだしね」

「正直、思っていた以上だ」

 

 言葉自体は聞いたことあるが、実際に目で見て普通に驚いた。

 

「ま、こいつがいるのは偶然みたいなもんだけどな」

 

 ここに来るなり真っ先に俺のところにやってくるもんだからアカネの母、シオンさんに昼間の世話を頼まれてしまったのだ。

 

「散歩にもいってやらなきゃな」

「本部内を歩くの?」

「いや、さすがにスタッフさんに迷惑かかるだろ。普通に外で散歩すりゃいい」

 

 俺はいつもの変装すればいいし、正体が割れているのはアカネと彼女の家族だけで犬であるきなこには関係ないからな。

 

「それにしてもお腹すいた!! お昼過ぎてるけど食べにいこっか」

「あまり食い過ぎんなよ?」

「成長期だから大丈夫!!」

 

 一歳児の食欲じゃねぇと思うんだけどなぁ。

 でもまあ、記憶喪失の頃はその食い気なところを微笑ましく思っていた身でもあることは事実。

 俺は特に咎めずにそのまま食堂へと向かうのであった。




刃物の扱いに長ける新坂姉妹でした。



今回の更新は以上となります。


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疑惑のレックス

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

ようやく納得のいく展開が書けましたので更新いたします。
今回は三日に分けて三話ほ更新する予定です。



レックス視点から始まります。


 大地が揺れ動き、海は荒れ、海面に渦巻きをつくりあらゆるものが崩壊していく。

 建造物としての役割を果たしていない半壊したビルが崩れ落ち、黒煙に覆いつくされた空を燃え上がった地表が赤く照らす。

 

『グギャァァァァァァァァァオオオオォォォ!!!!』

 

 タコのような触手、顎まで引き裂いた巨大な口、大量の複眼。

 常に形を変え、形容しがたい姿に変わり続ける怪物———オメガ。

 全長200メートルを優に超える怪人の王が、燃え盛る都市の中で宇宙(そら)に向かって雄たけびをあげる。

 

 私たちは怪人との最後の戦いに勝てなかった。

 

 肝心のオメガと呼ばれる怪人の首魁の目を潰し、追い詰めはしたがそれでも私たちは怪人共の計画を止めることができなかったのだ。

 そして、私たちの敗北はこの地球の終わりを意味していた。

 

 地球の大地から切り離され、宇宙空間へと昇っていく日本列島。

 昇っていった赤色の空には“なにか巨大な姿をした人影”と数えるのも億劫なほどの宇宙船が待ち受けるというまさにこの世の終わりのような光景が広がっていた。

 

『よかろう。地球のオメガよ。貴様を我が敵として認識しよう』

 

 しわがれた男の声に合わせ宇宙船が攻撃を始め、オメガも怪人を吐き出し迎撃をはじめた。

 終わりゆく世界。

 私は、その光景を宇宙船で呆然と目にすることしかできない。

 

 赤く染まり、滅びゆく地球も

 

 外宇宙からの侵略者も

 

 宇宙を渡る船と化した日本列島から湧き出す怪人の群れも

 

 全てがどうでもよくなってしまった。

 私にはもう守るべき存在も地球もなくなってしまったからだ。

 もう、なにを支えにして生きていいかすら分からなくなって、たった一人で絶望の底でうずくまることしかできない。

 

———お困りのようだね。

 

 全てを失い宇宙船の中で死を待つだけだったその時、声が聞こえた。

 幼い少女の声。

 私の心情とは真逆の跳ねるようなその声は、幻聴ではなかった。

 

———僕は星将序列2位……いや失敬、この世界の私は違っていたね。

 

 そう口にした声は、次にこう言葉にした。

 

———私の名はイリステオ

 

———終わりを迎える命、それならさ

 

 

———別の世界で使ってみる気はないかな?

 

 


 

『居眠りか、レックス』

「……」

 

 微睡みの中、かけられた声に目を開ける。

 視界に太陽に照らされた公園の景色と、足元に置いていた袋が映りこむ。

 

「最悪の気分だ……」

『珍しいな、お前が気を抜くなんてな』

「うるさい……」

 

 耳障りなガルドに悪態をつき、座っていた公園のベンチに背中を預け空を見上げる。

 本格的に気が滅入っているのかもしれない。

 久しぶりに目にする青い地球に、生前の親友の姿、自分とは全く異なる自分は思っていた以上にダメージがあったようだ。

 

「ここに来て、地球が青いってことを久しぶりに思い出した」

『だろうな。だがここはお前の知る地球とは異なる並行世界だ』

「何度も言われなくても分かっている」

 

 念を押して言われなくてもそんなこと最初から理解している。

 

『お前のいた地球の時間で言うなら、既に滅んでいるはずの星。だが事実、そうなっていない』

「……黒騎士か」

『アレがこの世界の特異点ともいえる存在だろう』

 

 黒騎士のことは調べている。

 私たちが活動する前に怪人を倒し続けた存在。

 黒騎士がいたことにより金崎令馬はプロトスーツを着ることなく、次世代のスーツを完成させることができた。

 大きな変化を起こした彼の名は穂村克己。

 この世界の私と同じ年頃の少年、らしい。

 

「私のいた宇宙には穂村克己はいるのか?」

『保存されたデータで確認する限りは同姓同名の者が存在していた』

「それで?」

『特筆すべき情報はない。怪人出現以前に既に死亡している。恐らく、別人だろう』

「随分と適当なことを言うんだな」

『いかに地球の記録を有する私でも限度というものがある』

 

 肝心な時に役に立たなければ同じだろ。

 全ての始まりである怪人事変で、彼が戦っていれば私の宇宙でもなにか変わっていたのだろうか。

 

「……一度、接触してみるか」

『やめた方がいい。相手は規格外の戦士、いくらお前でも殺されかねないぞ』

「そんな戦い、何度だってしてきた。今更だ」

 

 例え殺されようとも会ってみなければならない気がした。

 できることなら、戦う前にいくつか言葉を交わしてみたいとも思った。

 どうせ、いつ死んでもいい命だ。

 

『残酷な現実を言うが、こちらの宇宙はお前の宇宙よりも状況が悪い』

「ああ、分かってる」

 

 少なくとも私の知る範囲では正体不明(アンノウン)の首領はルインではない。地球崩壊直前にやってきた宇宙艦隊を率いるしわがれた声の男がそうだった。

 アレと比べればルインの方が遥かに危険だ。

 だがいくらこちらの方が状況が悪くともこちらの方がマシだ。

 

「……」

 

 さきほど購入した酒をあけやけくそ気味に口に含む。

 口の中に慣れない苦みと酒特有の香りが広がり、思わず顔を顰めてしまう。

 ……まずい。

 

『やけ酒というやつか?』

「こんなに、変な味がしたのか……」

 

 駄目だこれ。

 ちょっと全部飲むのは無理そう。いきなり焼酎からいくのは厳しかったか……。

 若干後悔しながらさらに気分が落ち込む。

 

「わんっ!」

「ん?」

 

 側方から何かがやってくる。

 即座に反応し隣を見ようとして呆気にとられる。

 なにせ私の視界に移りこんだのは、中型犬より少し大きな白い犬が私へとびかかってこようとする光景だったからだ。

 

「むぐ!?」

 

 さすがにナイフで迎撃するわけにはいかないので受け止めたが、こいつは大型犬。

 まだ大人になっていないとはいえ中々の衝撃と質量に呻く。

 

「……なんなんだよ」

「はっ、はっ、はっ!」

 

 噛みついてくる様子はない。

 むしろじゃれついてきているようなそぶりすらある。

 なぜ、こんなに懐いてくるのか普通に困惑していると、この場にまた何者かがやってくる。

 

「きなこお前っ、いきなり野生を取り戻しやがっていったいどうしたんだ!?」

 

 どうやら飼い主がやってきたようだ。

 犬を横にずらし、文句の一つでも言ってやろうと思うと、そこには以前ここで会って話をした帽子と眼鏡をかけた黒髪の少年がいた。

 

「貴女は……」

「また、会ったな」

「わんっ!!」

 

 ついこの前遭遇した帽子に野暮ったい眼鏡をかけた少年。

 数少ない、どころか唯一の知り合いとの遭遇に私はため息をつきながら犬を地面に下ろす。

 

「すみません、怪我とかないですか?」

「いや、心配ない。犬の散歩か?」

「え、ええ。たまに外を歩かせるべきかなと思いまして。……今度はお酒ですか?」

「駄目な大人を見るような目を向けるのはやめろ」

 

 事実ではあるが。

 ちらりと足元の袋に入っている酒を見て怪訝な顔をする彼。

 前はタバコで今度は酒かよ、と思われているんだろうな……。

 

「……飼い主がきたんだから離れろ」

「くぅーん」

 

 なんだろうこの犬。

 私を見上げたまま離れようとしないんだが。

 特別動物に好かれるような経験はしていない……どころかむしろ嫌われていてもおかしくないんだが。

 

「こいつ結構人懐っこいんで」

「人懐っこいの域を超えているだろ」

 

 彼から視線を落とし、私を見上げる白い犬の頭を撫でる。

 

「名前を、教えてくれないか?」

 

 無意識に訪ねてしまってから我に返る。

 あまり関わるつもりはなかったのにどうしてこんなことを聞いてしまったのだろうか。

 

「きなこです」

「……きなこ?」

「この子の名前です」

「……あ、そう」

 

 一瞬呆気に取られてしまったが流れからすればそりゃそうだ。

 

「きなこ、か……」

「わんっ」

 

 そうだ。そういえば、私の家にいた犬もきなこって、名前だったな……。

 まだ子犬だったあの子も怪人が現れなければ、今頃このぐらい大きくなってもおかしくない。

 つくづく不思議な縁だ。

 

「君の名前はなんなんだ?」

「ああ、ほむ……っ」

 

 ……ほむ?

 今度こそ彼の方を見て尋ねると、なぜか硬直する。

 さすがに無遠慮すぎたか?

 客観的に見れば私は不審者に見えるかもしれないのでこれはやってしまったのかもしれない。

 

しらか……いやこれも駄目だ……あ、新坂です。新坂克樹」

「アラサカ……?」

 

 さすがに自分の名前は憶えている。

 目の前の少年は私と同じ苗字で、元の世界で飼っていた犬と同じ犬種で“きなこ”という名前。

 先日、暴かれた情報にはなかった。

 だがここは並行世界。

 もしもの可能性に冷や汗が止まらない。

 

「き」

「き?」

「君に姉はいるのか?」

 

 その問いかけに彼は呆気にとられた後に、小さく微笑んだ。

 

「いますよ。義理ですけどね」

「義理の弟……!?」

 

 まさかのこの世界の私の義理の弟……!?

 

「ハッ!?」

 

 まさか先日の恋人がいるという発言もまさか……!? いや、義理とはいえ弟だぞ? この世界の私はどうなっているんだ!?

 だが怪人共に知られていないということは秘密裏にそうなったとも判断できるが……。

 

「かなり手がかかる姉で大変ですよ」

「興味本位で聞くが……どんな風に?」

 

 本当の本当に興味本位だが一応聞いておこうと思った。

 彼を知り己を知ればなんとやらという諺があるように、まずは私のことを知らねばならないからな。

 

「食いしん坊で」

「食いしん坊……」

「結構わがままで」

「わがまま……」

「一歳児みたいな姉ですね」

「一歳児……」

 

 これほど辛い現実が他にあるだろうか。

 並行世界の私がプライベートでは食い意地が張っててわがままで赤ちゃんみたいなやつだなんて。

 聞かなければよかった……。

 次に戦うことがあったら本気でぶったぎってやろう。

 静かにそう決意していると、少年———カツキの手首に巻かれている時計がピピピ、という音を鳴らす。

 

「……! すみません、急用ができたので帰ります」

「あ、ああ。き、気を付けて帰るんだぞ」

「ありがとうございます。きなこ、行くぞ!」

「わんっ!」

 

 内心で混乱している間にカツキはきなこと共にこの場を離れてしまう。

 

『おい、レックス。今の少年は』

「皆まで言うな、ガルド。……彼は私の義理の弟の可能性が高い」

『……』

 

 深刻さを知ってかさすがの嫌味も出ないか。

 ……本当に私の世界とは違うんだな。

 その事実を再三に渡って突きつけられなんとも言えない気分だ。

 

「そういえば、こちらから名乗ってなかったな」

 

 いや、名乗らない方が正解か。

 今の私には名乗る名前はないからな。

 

『レックス。ヒラルダからの通信だ』

「繋げ」

 

『はぁいレックスゥ~!』

 

 ため息をつきながら耳に通信機をつけると、途端にやかましい声が響いてくる。

 音声を絞っているのにもかからず響くキンキン声に顔をしかめる。

 

「何の用だ」

『さっき怪人がわらわら出現しててさ~。首都だけじゃなくていろんな場所で暴れているらしいから、この機に乗じてまた仕掛けにいこうかな……って、思って!!』

 

 怪人勢力の方はなにをするかは分からないが、この機に乗じて黒騎士と接触するのもありだ。

 場合によってはその場で殺されるかもしれないが……いや、別にそれでも構わないか。

 

「分かった。だが黒騎士と戦いたい」

『えぇ、貴女の獲物はジャスクルなんじゃ?』

「興味がある」

 

 地球を救った戦士。

 その男が持つ意思が本物かどうかを見極めてみたい。




レックスの世界の日本は船としたて地球から射出されました。

そして、カツミが最初に思いついた苗字を偽名に使ったせいでレックス側でとんでもない勘違いが起こってしまいました。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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傷だらけの戦士

二日目二話目の更新となります。
前話『疑惑のレックス』を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

前半はカツミ視点。
後半からは別視点でお送りします。


 怪人の出現頻度が増えた。

 しかもその出現場所は都市を中心とするものではなく、全国規模にまで広がるものな上に複数出現するというものだ。

 これまで戦ってきた怪人のような対応の仕方では間に合わないので、俺たちは各個撃破という形で日本全土をビークルで移動し、怪人の掃討を行うことになった。

 

「こりゃまた懐かしいやつが出てきたな……」

「チョーッス!!」

 

 ルプスストライカーで現場に到着した俺の前にいたのは、現在進行中で湖の水を吸収しているドラム缶のような怪人の姿。

 貯水怪人と呼ばれるそいつは俺の到着に気づかないまま、湖の水をすべて飲み干さんばかりに取り込み続けている。

 かなりの水量を取り込んでいるのか、目に見えて減った湖の底には魚や捨てられたゴミなどがよく見えていた。

 

「飲みすぎだ」

「チョォ!?」

 

 とりあえず俺はタイプワンの姿のまま、貯水怪人の背中を殴り飛ばし湖の中へと叩きこむ。

 凹ませたが砕いた感触はない。

 

「前のままだったら砕けていたはずなんだが……妙に金色だったのが関係してんのかな?」

『カツミ君、接敵しましたね!!』

「大森さん。あの怪人について情報お願いします。一度戦ったことはありますが能力をあまり知らないので」

 

 以前戦った時は水を吐き出す怪人だったよな? 妙に硬かったがぶっ壊れるまで殴って倒した覚えがある。

 数秒ほどの沈黙の後、モニターをしてくれている大森さんが簡単なデータを教えてくれる。

 

『相手は貯水怪人!! 水をため込む単純な能力を有していますが、吸収する範囲が広く空気中から生物に及ぶまでの水分を奪い取ることさえ可能です!!』

「放っておいたらまずそうですね」

『それと倒す際は周囲に被害が出ない場所が望ましいです!! 恐らく、あの怪人は倒されると同時にため込んだ水を開放し自爆するので!!』

「ありがとうございます」

 

 通信を繋げたまま貯水怪人を叩きこんだ湖をにらむ。

 その直後に水面が膨れ上がり、ドラム缶型の身体の至る場所から水を噴出させて空中へ浮かび上がった貯水怪人が現れる。

 

「汚らしいドラム缶が随分と小奇麗になったじゃねぇか」

「チョッ!! チョォォォウ!!」

 

 金色に輝く全身。

 水を噴出する追加された金アーマー。

 見てわかるほどの強化を得た貯水怪人は相変わらずの憎悪を込めた意思を向けると、その腹から超高圧の水を射出してきた。

 

「ふんっ」

 

 湖面と地面をレーザーのように切り裂きながら迫る水流を拳で上方に弾き飛ばす。

 ……どうやら怪人が強化されて復活したことは本当のようだが———、

 

「オマエ、チリニス———」

「金メッキ張り付けたくれぇで調子にのんじゃねぇ!!』

 

 少々強くなった程度でやられるほど、こっちは修羅場くぐってねぇ!!

 瞬時に肉薄すると同時に拳を叩きこみ空へと打ち上げ、空中を蹴って追い抜き——、

 

「シロ!!」

『ガウッ!!』

 

 ———さらに上空でスーツを切り替え、トゥルースドライバーを腰に装着する。

 

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)……』

 

『『『TRUTH FORM(トゥルース フォーム)!!!』』』

 

 トゥルースフォームへの変身を終えると同時にライトニングアックスを取り出し、下方から飛んでくる貯水怪人の胴体に叩き込み遥か遠くへ殴り飛ばす。

 さらに吹き飛ばす先にワームホールを作り出し、その出口を俺の真正面に設置———ワームホールに入り込み俺の前に再びやってきた貯水怪人の————斧の一撃により生じた僅かな亀裂に、腕を突っ込み無理やりこじ開ける。

 

「チ”ョォ!?」

 

DEADLY(デッドリィ) (ワン)!!』

TYPE RED(タイプ レッド)!!』

 

 開いた手でバックルを叩きフォームチェンジと必殺技を発動。

 赤色に染まったスーツは炎を噴き出して燃え上がる。

 

『カツミ君!? 貯水怪人を倒したらため込んだ水が———』

「テメェ余程水が大好きなんだよなァ」

 

 隙間と金のアーマーから水を噴き出し、脱出しようともがく貯水怪人。

 確かにこいつが自爆しようもんなら吸い上げた水が解放され大惨事が起きるだろうが、その程度ならどうとでもなる。

 

「なら根こそぎ燃やし尽くしてやるわァ!!」

 

ALL(オール) BREAK(ブレイク)!!』

FLARE(フレア) EXPLOSION(エクスプロージョン)!!』

 

「マタッ、チョ、マッァァァ!!?」

 

 突っ込んだ腕から炎があふれ出し貯水怪人の内側からその体を、ため込んだ水ごと焼き尽くす。

 生憎、ここは空中なので周囲への危険もないし思う存分に仕留められる……!!

 

「チョォォォ……ォ……ォ」

 

 三分ほどの放熱により灰となって消滅した貯水怪人を確認し、ワームホールを使って地上へ着地する。

 

「ふぅ……大森さん、貯水怪人の消滅を確認しました」

『お疲れ様です! こちらも確認いたしました!!』

「皆は大丈夫ですか?」

『はい。各地に出現した怪人も滞りなく掃討していますね』

 

 まあ、一度は戦った怪人だ。

 面倒な奴もいるが今更アレにやられる彼女達ではない。

 

「援護が必要なら言ってください。俺はまだ怪人がいないかここで警戒します」

『はいっ』

 

 明るい大森さんの声を聴き、通信を切った俺は周囲を見回す。

 貯水怪人が吸収した水は元には戻らない。

 ……本当なら元に戻したかったが、湖の中で貯水怪人を倒したとしてもあふれ出した水が湖近辺の街を飲み込みかねないと考え断念するしかなかった。

 

「プロト、シロ。周囲に怪人の反応はないな?」

『今のところはないよ。でも相手が相手だから油断しない方がいい』

「おう」

『ガウ!!』

 

 怪人の狡猾さはよく知っている。

 無意味に戦力を消費しているとしか思えねぇこの動きもなんらかの意味があるだろうが、人の命がかかっているとなれば動かないわけもいかない。

 

「……以前は意味分からねぇ原動力で戦ってたけどな」

『私はあの頃のカツミも好きだった』

「あまり褒められたもんじゃねぇけど。……ありがとな」

 

 ワルモノの定義、か。

 今になって思えば若気の至りどころじゃなかったぜ……。

 

『がぅ!!』

『カツミ……』

 

 シロとプロトの声に無言で目の前の空間を見る。

 瞬間、目の前に桃色の煙が現れ、そこから二つの人影が現れる。

 

「大森さん」

『カツミ、妨害されてる』

「チッ」

 

 本部との連絡を妨害されたことに舌打ちをする。

 こんな手のこんだことをする奴は決まっている。

 

「またかよお前」

「また来ちゃった♪」

 

 スーツを纏っていない人型の姿のヒラルダと、重厚な黒ずんだ赤色の鎧を纏った———レックスと呼ばれる序列10位の侵略者。

 どう考えても気軽に会いにきたわけではないメンツに大きくため息をつく。

 

「そろそろ面倒になってきたんだが」

「そんなこと言って、本当は会えて嬉しいんじゃないの~?」

「……」

「無言やめてね……?」

 

 むしろなんで嫌がられてないと思ってんだこいつ。

 普通に怖いんだが。

 俺の反応に傷ついた演技をしたヒラルダは、おちゃらけたように肩を竦める。

 

「ま、今回私が手を出すわけじゃないんだよね」

「……そっちの10位か?」

「そそ。どうしても君と戦いたいっていうからやらせてあげようかなって」

「……」

 

 無言のままヒラルダの前に出てくる十位。

 その佇まいはどこか見覚えがあるもので……ああ、確かにアカネと重なるな。

 

「さあ、約束通り私は手を出さないよ? ジャミングのおかげで後十分は援軍も来ない。思う存分に戦えるけど……」

『ここで私が黒騎士に殺されかけようがお前は手を出さない、だろう?』

「……ふぅん。それじゃあ私は観戦してる」

 

 本当に共闘はしないのかヒラルダは俺と十位がいる場所から離れ、干上がった湖の底にある突き出た石の上に腰掛けた。

 ……仲間じゃないのか?

 いったいどういうつもりなんだこいつらは。

 

「プロト」

『うん!』

 

 黒の姿“タイプワン”へと変身を切り替え、十位と相対する。

 

『戦う前に聞きたいことがある』

「あん?」

 

 十位から発せられた加工された声に怪訝になる。

 戦い方からして言葉で攻撃してくるタイプの敵ではないことは分かっているので、興味本位がてら声に耳を傾けることにする。

 俺の様子を数秒ほど確認した十位は口元に手をあてがい、仮面の口にあたる部分を外し顔の下半分を露わにさせる。

 

「……黒騎士」

 

 加工されたわけではない生の声。

 その声が怪人が出現する前、公園で話していた女性のソレと似通っていたが、すぐにそれはないと判断する。

 公園で偶然行き会った人が実は十位だったとかそんな偶然があってたまるか。

 つーか、アカネと似た声の人物が三人もいるとか笑えねぇ。

 

「クモ怪人が現れたとき、お前はなぜ戦った?」

「「?」」

 

 投げかけられた疑問に俺も、離れた場所で観戦していたヒラルダも首を傾げる。

 俺が目の前にいるにも関わらず武器すらも構えない。それどころか戦意すらも感じさせずに佇んでいる十位は、仮面の奥からただ俺を見ていた。

 

「どうしてお前がクモ怪人の時のことを気にするんだよ?」

「……興味本位だ」

「答えるつもりがねぇってことか……はぁ」

 

 侵略者からすれば過去の怪人関連の事件は既に終わったことだ。

 クモ怪人自体、はじまりの怪人なだけであり、俺が戦った理由も特に大きな意味はないはず。

 それなのに、なぜ地球人でもない十位はそれを気にするんだ?

 ……律儀に話す理由もない。

 だが、なぜか俺の口は自然と開いた。

 

「怪人が現れる前。俺が自由だと思える時間はスーツを着ているときだけだった」

「……」

「今でこそ違うが。誰も信じていなかったし、生きる目的もなにもあったもんじゃなかったからな」

 

 プロトを、スーツを初めて身に着けたときに抱いた感情は“自由だ”というものだ。

 夜の街を駆け、空を見上げる。

 ただそれだけで満足できたし、その延長であるワルモノとしての活動も本気でやっていた。

 だからこそ、俺にとっての夜の時間を脅かす異物の存在は邪魔としか思えなかった。

 

「クモ怪人を倒した理由? そんなの単純だ。俺の自由を脅かす邪魔者を排除するためだよ」

「自由……」

 

 俺の言葉を反芻するように呟いた十位。

 唯一見える口元がなにか言いたげに震えているが、奴はそれ以上口にすることなくマスクを仮面にはめ込む。

 

『感謝する。これで憂いはない』

「……そうか」

 

 お前はそうでもこっちはモヤっとしたもんが残っちまったんだけどなぁ。

 改めて見てもアカネと戦っていた時のような冷徹な雰囲気を感じさせないが、こいつが敵であることには変わりない。

 話し合いが終わった後は、戦うしかない。

 プロトワンの首元からマフラーのように赤いエネルギーが放射され戦闘態勢に入り、あちらも虚空から両刃の剣を転送しソレを構えた。

 

「……っ」

 

 やはりアカネの姿と重なる。

 いったいこいつは何者なのだろうか。

 心のどこかで引っ掛かりを覚えながらも即座に戦闘へと意識を切り替えた俺は、十位へと攻撃を仕掛けるのであった。

 

 


 

 

 自由のために戦った。

 理由こそ違えどもその根本は私たち(・・)と同じだった。

 本当に興味本位だった。

 望んでいた答えもないし、理由すらもないことを想定していたが、情報で聞いていた以上に黒騎士という人間は成るべくして成ったヒーローなんだと理解させられてしまった。

 

「ふんッ!!!」

『ッ……!!』

 

 防御に構えた二つの剣が黒騎士が繰り出した拳により半ばから粉砕される。

 殺し切れなかった衝撃が胴体のアーマーをあっさりと粉砕し、私の身体は何度も湖面を跳ねながら水しぶきと共に水中へと叩きつけられた。

 

『強いな』

『分かりきっていた状況だろう』

 

 サポートに回っているガルドの小言を耳にしながら青い空と太陽の光が差し込む水中の景色を見上げる。

 すぐに追撃に来るのは分かっている。

 ベルトから小型ビーコンを引き抜き、水中へ放り投げる。

 

『出し惜しみはなしだ。重武装でやる』

『ARMOR・PURGE【BOX:Ⅳ】を転送する』

 

 破損した全身のアーマーが解除されると同時に目の前にボックス型の装備が光と共に転送。

 機械音と同時に真っ二つに割れたボックスは変形しながら私の身体を覆う新たなアーマーへと姿を変える。

 小回りは利かないが機動力、防御、攻撃面に優れた重装備形態。

 これなら黒騎士の動きに対応できるはずだ。

 装着が完了した瞬間、前方から凄まじい衝撃が襲い掛かり周囲の水が吹き飛ばされる。

 

『ここまで出鱈目とは……』

 

 能力もなにもない蹴りだけで湖を割る、その荒業に乾いた笑いを漏らしながらバーニアを噴出させ、水中を飛び出しながら両腕から展開した剣で黒騎士へと斬りかかる。

 

「何度でもぶっ壊してやらぁ!!」

 

 ———本当に凄まじい戦士だ。

 これまで始末してきた異星人とも星将序列とも隔絶した力を有している。

 この世界の私たちが信頼しているのも無理はない。

 ただの一撃だけでこちらを粉砕してしまう拳は受けるので精いっぱい。少しでも集中が途切れれば次の瞬間には私の胴体に風穴ができていてもおかしくはない。

 

「ふんっ!!」

 

 三度目の打撃。

 それを受けた左腕のアーマーがバラバラに砕け散る。

 十秒にも満たない攻防で虎の子の重装備が見る影もなくボロボロにされ舌打ちをするが、既に黒騎士はこちらにとどめを刺そうとしている。

 だが———、

 

「ッ!!」

 

 ———とどめを刺そうとした拳を私は左腕で受け止め、そのまま捨てる。

 肘から先が砕け部品をまき散らしながら無事な方の右腕の装備を変形させ、光球を黒騎士へと放った。

 

「ッ、お前……!!」

 

 炸裂すれば半径10メートルを蒸発させるほどの熱量を込めた光弾をあっさりと拳で消し去った黒騎士は、僅かに動揺しながら後ろへ下がる。

 ……なぜ後ろに下がった? 今、黒騎士は私を殺せたはずだ。

 

「テメェはなんだ。本気で俺を殺す気があるのか?」

『なに、を』

「それになんだ、そのふざけた動きは」

 

 防戦一方の私に黒騎士はなぜか怒った。

 拳を震わせ、見てわかるほどの激怒を露わにさせた理由は……分かっている。

 

「私が、お前の仲間と同じ動きをしているからか?」

 

 同じ人物なのだから当然だ。

 だが黒騎士からすれば気分のいい話ではないはずだ。

 

「違ぇよ」

 

 ……違う?

 予想していた別の答えに困惑する。

 

「お前とレッドは全く違う」

 

『どういう意図だ? 私の分析でもほぼ一致しているはずだ』

 

 ガルドも黒騎士の言葉に不思議に思っているようだ。

 同一人物のはずなのに、なにが違うのか。

 

「レッドのコピーじゃねぇな。模倣するだけなら木っ端怪人にだってできる」

「……」

「テメェはレッドとは違う。テメェの命をいつ捨ててもいいと考えている。見た目こそ似ているが根本的に間違っているんだよ」

 

 そういう、ことか。

 本当にこの世界の私のことをよく見ているんだな。

 

「皮肉にも、似てたのは俺の方ってことか……ああ、傑作だ」

 

 自嘲気味な笑みを零した黒騎士が仮面に手を添え、複眼の奥からこちらを睨みつける。

 

「だが俄然テメェの正体に興味が湧いた」

「……っ」

「テメェ、ただの侵略者じゃねぇな? 何者だ?」

「何度も言わせるな。私は星将序列———」

「肩書きが知りてぇわけじゃねぇ。だが、言うつもりがねぇなら———」

 

 ガチン、と拳を打ち鳴らした黒騎士が獰猛な気配を纏わせる。

 

「その仮面をはぎ取ってその面を拝んでやるよ」

 

 ……正義の味方のセリフかソレ……?

 まるで悪役のような雰囲気で黒騎士がやってくる。

 その姿をどこか他人事のように眺めながら、私はなぜかこの世界にやってきたときのことを思い出していた。

 最早、百年以上も前の摩耗し忘れかけた記憶のことだ。

 

 この世界に連れてこられた時、私は真っ先に自分の命を絶とうとした。

 だが、オメガ決戦用に体内に取り込んだナノマシン———金崎令馬が死の間際に作り出した怪人王オメガの細胞と科学技術を融合させた切り札が私の自死を許さなかった。

 命を絶とうとしても宿主の危機を察知し、妨害してくるソレは私の意志とは関係なしに私を生かし続けたのだ。

 

『これを作り出してしまったことは我が生涯での二度目の過ちだ』

 

『レッド……いや、新坂アカネ。こいつを使おうとするな』

 

『人間をやめることになるぞ』

 

 金崎令馬の最期の忠告を聞かず、オメガとの決戦のために薬を取り込んでしまった私は気づいたときには怪人と同じ———化け物になっていた。

 傷ついた肉体は再生し、老化のスピードも遅くなり、あらゆる環境で生きていくことが可能になった人外と化した肉体。

 

 おまけに無理やり連れてこられた宇宙に存在していた地球の年代は1900年初期。

 私が知る時代が来るまで100年もの猶予が与えられた中、それでも私は自分の目的を見出そうとしていた。

 

『———今度こそ、地球を守らなくちゃ』

 

 この世界が元居た地球の過去か、そもそもが別世界か分からないまま途方に暮れた末に今の自分にできることをやろうと決めた。

 地球が怪人によって滅ぶ未来にあるならそれを防ぐ。

 そのために力を求めた。

 宇宙船に積まれていた金崎令馬の人格を元にした地球の記録を司る人工知能GRD(ガルド)に調べさせ、危険度の高い生命体のいる惑星に降り———それらを相手に戦い、時には殺しつくしながら力を磨いた。

 もう、今となってはいくつ殺したかも分からない。

 相手が理性のない異星人、他の星を襲うような悪い異星人だから許されるだなんて思っていない。

 地球にいた頃の記憶が薄れていくほどの殺伐とした環境の中で戦って戦って戦い続けて……いつしか無数の異星人を従える組織に勧誘され、その一員となっていた。

 

 

 ———だが、現実は想像以上に理不尽であった。

 

 

 全ての始まり、日本の人口の4割を殺しつくすはずのクモ怪人を倒す黒騎士。

 彼は私ときららと、あおいが、たくさんの犠牲を払って倒してきた怪人をたった一人だけで倒しつくしてしまった。

 

 そして現れる“ジャスティスクルセイダー”

 武骨なパワードスーツではなく、正真正銘の完成された戦闘服に身を包んだ“私たち”は黒騎士と共に次々と怪人たちを倒し———地球を救ってしまったのだ。

 

『———は?』

 

 

 その光景を目にして、最初現実を受け入れられなかった。

 黒騎士って誰だよ。

 ジャスティスクルセイダーってなんだよ。

 あんなの、私のいた地球にはいなかった。

 なんで、どうして……これじゃあ、私、なんのために……。

 

『は、はは。道化かよ……』

 

 つまり、私がやろうとしてきたことはすべて空回りで、私がなにもしなくてもこの世界の地球は救われていたのだ。

 私達と同じはずなのに、“私達”とは似ても似つかないソレに吐き気がした。

 私がこれまでこの宇宙でやってきたことはなんだったんだ?

 強くなるために殺して、殺して殺して殺して……殺しつくして、怨敵の組織の上位に連なる位置に上り詰めた私は、なんのために存在しているんだ?

 

 

「滑稽、だったな」

 

 自嘲気味に呟き、へし折れた木に背中を預ける。

 切り札の重装備は既に全部破壊され今や丸裸の状態。

 再装填した左腕の義手も握りつぶされ、無事な部分が生身しかないほどに今の私は満身創痍であった。

 

「……」

 

 使命も失い、これまでしてきたことが無意味だった事実を叩きつけられ、それでも自分の役目を見つけようとした。

 だが思いついたそれらは私じゃなくてもできるものばかりで……最後に自分が“この世界の地球の敵”に成り下がっていたことに気づいてしまった。

 本当に滑稽だ。

 地球を救うために力を求めてきたはずが、気づいたら地球に仇名す存在になっていただなんて。

 だから、せめてこの世界の私たちを強くするための“敵”になろうと考えた。

 

「きらら、あおい……」

 

 自分自身と戦うのはいい。

 だが、きららとあおいは駄目だ。

 どれだけ戦う覚悟をしていたとしても、私の目の前で死んだ二人の姿を見て、そんな二人に敵意を向けられたら……戦うことなんてできるはずがない。

 どれだけ力を磨いても、結局のところ私は中身が成長していなかった。

 

「……」

 

 力なく地面に座り込んだ私の前に、黒騎士が降りてきた。

 彼は拳を構えることなく、あろうことかその場で変身を解いた。

 

『カツミ!?』

「薄々そうだろうなって思ったら……」

 

 手首から聞こえる驚きの声を半ば無視しながら、黒騎士———穂村克己は私の元に近づき、しゃがみこむ。

 彼の手がマスクへと触れ、ゆっくりそれを外した。

 

「こんなところで何やってんだよ。アカネ」

 

 苦笑しながらそう語りかけた彼。

 身長も、年齢もこの世界の私と違うのに、彼は当たり前のように私の名を呼んだ。

 

「……違う」

 

 私とこの世界の新坂アカネは違う。

 穂村克己と友情を育んだわけではないし、今が初対面だ。

 それなのに、どうして彼はそんな目で私を見て、話しかけられるのだろうか。

 

「……私は違う」

「なんで十位になってんのかも知らねぇし、一人寂しく公園で無理にタバコ吸おうとしたり、自棄になってヤケ酒していた理由も知らねぇけどさ」

「なん、で……」

 

 決して知るはずのない情報に唖然とする私に、彼はどこからともなく取り出した眼鏡と帽子をかぶる。

 その姿は公園であった新坂克樹と名乗った少年であった。

 

「道理でシオンさんに似てるはずだよな。大人になるとあの人にそっくりだ」

「お願いだ、やめてくれ……私は、君の知るアカネじゃない」

「貴女はアカネだ。少なくとも俺にとってはそうだ」

 

 そう断言した彼は立ち上がって私に手を差し伸べた。

 

「とりあえず事情を聞かせてください」

 

 公園の時のように敬語に変わった彼を見上げ、言葉にならない感情が占める。

 私はこの手をとっていいのだろうか。

 救われても、いいのだろうか。

 震える右手をゆっくりとあげて彼の手へと伸ばす。

 

 

———いいことを思いついた

 

 

「誰だ?」

 

 伸ばされた手を止め、カツミが近くの水面をにらみつける。

 ただ青空しか映していない水面、それでも彼が警戒を露わにさせた瞬間———気持ち悪い感覚が私の身体を包み込んだ。

 

「「っ」」

 

 それは目の前の彼も同じようで不快感に顔を顰めながら変身を行おうとするが、それよりも速く彼の手首とベルトからチェンジャーとバックルが弾き飛ばされる。

 

———それはちょっと必要ないかな

 

『カツミ!?』

『ガオ!?』

 

 虚空がねじ曲がり穴へと変化していく。

 この感覚は覚えがある。

 遠い過去に経験した世界を渡る(・・・・・)感覚。

 

「なんのつもりだ……!! 二位!!」

 

 水面に映る人影。

 青と白が混ぜあった髪色の不気味な見た目の少年———星将序列第二位。

 次元を渡り歩く不明の存在は、悪意を感じさせない笑みを浮かべ手を振る。

 

———なんのつもりだって?

 

———救済だよ。

 

 

「なにを勝手なことを……!!」

「っ、吸い込まれる……!」

「あ、やばっ、早く離れればよかった!!?」

 

 その声が響いた瞬間、私とカツミ、そしてさりげなく近くで見ていたヒラルダもろとも穴に吸い込まれてしまうのだった。




次回から並行世界編が始まります。

そもそもメンタルがこれ以上にないくらいボロボロだったレックスさんでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 1

三日目三話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします<(_ _)>

今回はカツミ視点から始まり、
後半から別視点でお送りします。


 十位の正体は公園で出会った女性であり、大人になったアカネであった。

 そのことに驚きはあったが心のどこかで妙に納得してしまった。

 アカネと同じ動きをしていることもそうだが、感情の機微や自分の命を投げ出しているようなそぶりでなにかしら(・・・・・)の問題を抱えた別のアカネだと推測してみたのだ。

 普通なら荒唐無稽な推測だと思われるが同じような境遇であるハクアがいるので可能性がないとは言えなかった。

 アカネのクローンか、記憶を持つ別人かどうかは分からない。

 だが、それでも目の前の人物がアカネであるのなら助けたいと思った。

 自分の死を望んで戦っていた俺を救ってくれたアカネ達のように。

 

 だがその時、俺たちは何者かが作り出した渦に飲み込まれた。

 浮遊感と共に宙に投げ出され、一瞬の明滅の次に俺がいたのは———廃墟に囲まれた街の中であった。

 

「……どこだよここ」

 

 半壊した建物に破壊されつくした道路。

 整備すらもされていないのか割れたコンクリートの隙間からは雑草が生え、荒れつくした有様だ。

 

「プロトとシロからも引き離されたか……」

 

 いったいどこなんだ? ここは?

 侵略者が暴れた場所の可能性があるが、こんな都会で暴れられたら俺たちがすぐに止めにいくし、そもそもここの有様は何か月もこのままだって感じがする。

 

「通信する手段もねぇし、とりあえず自分の足で調べるしかねぇのか……?」

 

 ため息をつきながら立ち上がり廃墟に囲まれた街を歩いていく。

 

「……」

 

 見れば見るほど奇妙な場所だ。

 残骸や看板の文字からしてここは日本で間違いないが、だからこそこんな破壊しつくされた場所があることを知らないので解せない。

 まさか、ここは何者かに作られた世界だとか?

 侵略者にはそれぐらいのことをできてもおかしくないし、ルインなら楽勝にできるだろう。

 

「変身できねぇからな……無茶もできない」

 

 プロトとシロと引き離されたのは痛いな。

 二人とも大丈夫だろうか。

 できることならすぐに戻してやりたい。

 

「カ、カツミくん!!」

「ん?」

 

 俺の名前を呼ぶ声。

 その声の方向を見ると、そこには斜めに崩壊した飲食店だった建物の影からこちらに手招きしてくる女性の姿。

 ウェーブのかかったダークブラウンの髪が特徴的な風浦桃子さんの姿をした彼女、ヒラルダに俺は嫌な顔をする。

 

「ヒラルダ……なんだお前かよ」

「はやくこっちに来て! ここガチで危ないのよ!?」

「え、嫌だよ」

「これまでの所業のせいで信じてもらえない!?」

 

 何度も襲ってきた奴のところにいくのも怖いし。

 しかしその瞬間、大きな地響きのようなものが地面を揺るがした。

 ッ、なんだ? なにかが近くに迫ってきてる?

 

「今回は私もピンチだから早く来て!!」

「くっ、仕方ねぇな……!」

 

 とりあえずヒラルダのいる建物まで移動すると、俺の腕を掴んでヒラルダが物陰まで引き寄せ、焦ったように外を警戒し始める。

 ……どうやら変身できない俺を襲うつもりはないようだ。

 

「おい、どういう状況だよ」

「多分……私たちはどこかの次元に飛ばされたのかもしれない」

 

 別の次元……?

 普通ならそんなの信じられないのだが、このヒラルダの焦り様を見るとあながち嘘をついているわけでもなさそうだ。

 だとすれば俺達を別の次元に送り込んだのはあの声の主か?

 

「カツミ君、今変身できる?」

「……いや、シロとプロトとは引き離された」

「うぇ、マジかぁ。これはかなりまずい状況だよ」

「お前は?」

 

 尋ねるとヒラルダが自身の腕を見せてくる。

 腕からは桃色のエネルギーを放出する彼女だが、それはどこかノイズがかかったように不安定だ。

 

「私もどういうわけか力が安定しない。まともに変身もできないしもう最悪」

「俺もお前も戦えねぇってことか……」

 

 ヒラルダの言う通りまずい状況だ。

 しかし、こいつがいるってことは十位……アカネもいるはずだが……。

 

「ヒラルダ、アカネ……十位を見たか?」

「ううん、見てない」

「そうか……」

 

 合流できるなら早めにしたいな。

 この街をここまで破壊した奴らがいる中で、一人にさせるのは危険すぎる。

 さっきの地響きからしてそいつらはまだここにいて、かなり近くまできている。

 

「! 見て」

 

 ヒラルダの声に外を伺う。

 さっきまで俺がいた場所にいくつもの影が見える。

 人型ではあるが人間とはかけ離れた姿だが、見覚えがあった。

 

『ハンノウ、ココでミタ』

『シュウイヲクマナクサガセ』

 

「鈴虫怪人にレーザー怪人、だと?」

 

 俺が倒したことのある怪人だ。

 そいつらがわが物顔で街を歩き、何かを探すように目を光らせている。

 

「なるほどね、ここはそういう世界なのね?」

「……どういうことだよ」

「怪人が我が物顔でここを歩いている時点で察しがつかない?」

「……」

 

 ……この状況になって怪人が倒されていないことは、そうなのかもしれない。

 日本が……地球そのものが怪人に支配された世界。

 だとすれば絶望的だ。

 こんな怪人が徘徊する場所でほぼ生身の俺とポンコツ状態のヒラルダでは、木っ端怪人が相手でさえもきつい。

 アカネのように武器があればまだなんとかなりそうなものではあるが、それは今はない。

 

「っ、やばい。こっちを見ているわよ!」

「顔を出しすぎだバカ!!」

「ひーん、ごめんなさーい!」

 

 ヒラルダが身を乗り出しすぎたせいか、道にいる怪人共に気取られた。

 まだ完全には見つけられていないが、こっちに来るのも時間の問題だ。

 

「仕方ねぇ。お前ベルトになれるか?」

「できるかできないかでいえばできるけど……」

 

 こいつに体を乗っ取られるかもしれねぇって不安があるが。

 背に腹は代えられねぇ。どちらにしろ死んだら終わりなら多少のリスクを冒しても生き延びた方がいい。

 

「共同戦線だ」

「あ、え、いや、そ、それはちょっと……」

「ここで死んだら元も子もねぇだろ」

「……う、うぅ」

 

 なんで初邂逅で俺を乗っ取ろうとした奴が顔を真っ赤にして渋ってんだよ。

 もうまどろっこしいのでヒラルダの肩に手を置き頼み込もうとしたが、どういうわけか光に包まれたヒラルダが風浦さんの姿からバックルへと変わる。

 

SCREAM(スクリーム) DRIV(ドライバ)……ジジッ

 

「ん?」

 

 以前見た刺々しい見た目のバックルだが、全体にモザイクのようなものが包み込むとまた別の形へと姿を変える。

 

JINVERSION(インバージョン)!!』K

RE:(リバース) SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

G『!!NOISREVNII(ンョジーバンイ)H

 

 今度はえらく近未来的なデザインになったな……。

 黒を中心とした配色に緑色と濃い桃色によって彩られた機械的なバックルを眺めていると、頭になにかが流れ込んでくる。

 ———ッ、変身の仕方も分かった。

 

「嫌がっていた割になんか親切だな……さっきから無言だけど」

 

 変身の仕方を理解した俺はバックルを腰に装着。バックルの両端からベルトが腰に巻き付き、ベルト側面にカードケースのようなものが出現する。

 それを確認した俺は物陰から出て、怪人達の前に姿を見せる。

 

「ニンゲン ハッケン!!」

「ツカマエル!! ツカマエル!!」

 

「覚悟決めろよ、ヒラルダ」

 

 ベルトの側面に装着されたケースから一枚のカードを取り出す。

 サソリの紋章を背にした濃い桃色の鎧を身に着けた戦士が描かれたソレをバックルの上から差し込むと、軽快なジャズ調の音楽が周囲に流れ始める。

 

「ナ、ナンダ!?」

「ヘンナオトガスル!!?」

 

「変身」

 

 バックル上方のアタッチメントを手で傾け、装填することでカードを読み込む。

 

CHANGE(チェンジ)SCORPIO(スコーピオ)

BANTI(アンチ) VENOM(ヴェノム)!!』N

 

 右も左も分からねぇ世界に放り込まれちまったが、それでも前に進み続けるしかねぇ。

 そのためなら何度だって怪人共と戦ってやる。

 


 

 穂村克己の消失、地球でその状況を把握した瞬間、私はルインちゃんによって彼女の元へと強制的に招集されていた。

 その場にいるのは座に腰掛けるルインちゃんと傍に控える一位の姿と、宙に浮かぶ鏡に映し出された子供の姿をした第二位。

 状況から見て序列上位の私たちを強制招集したとみてもいいわね。

 

「おっと、すまないなサニー。強制召集をかけてしまったせいかお前まで巻き込んでしまった」

「全然かまわないわ。この事態については私も知りたいもの」

 

 ———やだ、ルインちゃんめっちゃ苛立っているわ。

 表面上はにこやかに見えても雰囲気がもうえぐい。

 溢れ出る威圧で空間が歪んでいるように錯覚できるほどの怒気を彼女は放っていた。

 

「やらかしたのはイリステオだも……っ」

 

 ッ、本当に面倒ねぇ。

 二位の名前を口にしようとするだけで声が不可思議な言語に書き換えられる。

 星将序列二位次元超越イリステオ

 私が唯一絶対仲良くなれないと思った人でなしだ。

 

「ま、あれだけ怒るのも無理ないわね」

 

 戦いの最中、それも面白そうな十位の秘密に迫ったときに二位は無粋すぎる横やりをいれてしまったのだから。

 しかも本当に最悪なのがカツミちゃんが無防備な状態で別の世界に放逐されることになってしまったことだ。

 

「さて、早速だがいったいどういうつもりだ?」

 

 私から視線を外したルインちゃんが鏡に映し出された子供を見る。

 彼女に見つめられても尚、二位は飄飄とした態度を崩さない。

 

「面白いものが見れると思ったから。理由はそれに尽きるよ」

「ほう?」

「序列十位。別世界のアラサカ・アカネを連れてきたのは僕だ」

 

 ……え”、あの全然話してくれない十位の子ってレッドだったの!?

 衝撃の事実すぎて思わず声が漏れそうになっちゃうけど、それでもルインちゃんは無反応だ。

 

「そんな彼女が自らの生の意味を求めて戦う姿を観察してきた。全てを失った彼女が手にすることのなかった可能性の世界でどのように進んでいくのか、穂村克己と関わりどのような道を選ぶのか非常に興味があったんだ」

「相変わらず反吐が出る性格してるわねぇ……」

 

 命を自分の娯楽のためのものとしてしか見ていない。

 それが二位の本質なのだろう。

 しかも、常に自分に被害が及ばない二次元から見ているのも性根が悪い。

 

「しかしこれでは救いがない。我ながらそう思ってしまってねぇ。だから今回の行動に出たわけさ」

「それがカツミを別世界———怪人が跋扈する地球に送り込んだ理由か?」

「あそこは別世界のアラサカ・アカネのいた世界に限りなく近い(・・)世界。微妙な違いで分かれた世界ともいえるだろう」

 

 ……救いがない、ね。

 傲慢さが隠しきれていないわね。

 

「貴方様にとって悪い話でもないはず」

「……」

「あちらの世界には地球のオメガが率いる怪人がいる。あれらの群れは非常に強力だ。穂村克己を成長させる機会としてはあの世界以上に適した場所はないはずだ。それにあの世界には貴女様のお父上もいるはず、現状勝てはしないだろうが戦わせるだけ戦わせて……が!?」

 

 揚々と言葉を並べていた二位が自身の首を抑えもだえ苦しみ始める。

 私たちのいる次元から決して手を出すことのできない二次元の世界を自由に生きる無敵の存在、それが二位の力……なのだが、そんな二位を苦しめさせるなんて芸当ができる存在は限られた者しかいない。

 一人は星将序列第一位であるヴァースと———組織の頂点に立つ絶対的な存在、ルインちゃんだ。

 

「お前の話は退屈すぎる。欠伸が出そうだ」

「が、あ、ぁっぁ……」

 

 つまらないものを見るように鏡の中で苦しむ二位に視線を向けたルインちゃんは右手の指を軽く振るう。

 それに合わせ、鏡の中にいる二位が私達と同じ三次元へと引きずりだされる(・・・・・・・)

 そのまま床に落とされた二位は、ルインちゃんの“圧”にあらがえず地面に這いつくばる。

 

「あまり理解していないようだが———」

「あっ、がっ……!?」

「誰がお前にそのような勝手を許した? 私のカツミを利用していいと命じた?」

 

 起き上がることもできず、全身の骨を軋ませながら地面に沈み込んでいく二位にルインちゃんは冷笑を向ける。

 あーらら、調子に乗り過ぎて逆鱗に触れちゃった。

 自分が安全圏にいると思い上がっちゃった罰ね。

 

「星将序列二位 イリステオ(・・・・・)

 

 ルインちゃんがあまりにも雑に二位の名前を呼ぶ。

 ノイズも意味不明な言語化もしないその澄んだ声に、二位の目が驚愕に見開かれる。

 

「万物の観測者を気取るのは勝手だが、多重次元に遍在するお前を滅ぼすことなど私にとっては造作もないことだ」

 

 別世界の二位との意識の共有。

 次元という壁そのものを超越し、絶対的な不死と化した二位でさえルインちゃんの前では限られた命でしかない。

 見ていて笑えてしまうくらいに出鱈目すぎるわ……。

 

「そもそも、お前程度にできることがこの私にできないはずがないだろう?」

 

 ルインちゃんが掌をかざすと背後に現れたワームホールに似た穴に、今まさに変身しようとしているカツミちゃんの姿が映りこむ。

 あれが別世界に飛ばされたカツミちゃんだとすれば、本当にルインちゃんは二位と同じ能力を有しているといってもいいのだろう。

 

「その気になればカツミを連れ戻す程度造作もない。その逆も然りだ」

「っ!」

「さて、どうするか」

 

 ふっ、と圧を弱めたルインちゃんはまた玉座に腰掛け優雅に足を組み、別次元を映し出す窓からカツミちゃんを眺める。

 二位は息を乱しながら起き上がることすらできていないが、ルインちゃんの視界には既に二位の姿は映ってはいなかった。

 

「いくつか段階を飛び越えてしまうが丁度いい機会だ。あの子ならば必ず私の期待に応えてくれるだろう」

 

 最早、ルインちゃんは二位を視界にすらいれていないようだ。

 ……カツミちゃんも本当に大変な目にあっているわね……。

 ハイルちゃんも心配しちゃうから、このことはちゃんとあの子に伝えておこうかしら。

 




問答無用でベルト化してしまったヒラルダと、軽くキレてたルイン様でした。

今回の更新は以上となります。


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並行世界編 2

お待たせしました。
並行世界編2 です。

今回はヒラルダ視点から始まります。


 

 穂村克己に変身されたらやばい。

 漠然とした、しかし確信ともいえる感覚でそう理解していた私は絶対にベルトとして変身しないと決めていた。

 きっとカツミ君に変身されたら私は救いを求めてしまうだろう。

 アルファとして、共にあることを望んでしまうだろう。

 それが分かっていたから、彼に変身されないようにしていたはずだったけど———いざその時になったら普通に抗えなかった。

 

『~~~~ッ』

 

 ———催眠とか魅了とか、そんな安易なものじゃない。

 むしろ私にとってはそうであった方がよかったくらいだ。

 快楽とかそういうものであったらどれだけよかったか。そういうものであれば私も全力で抵抗して、抗おうと思えたのに。

 

 彼と共に在ることに高揚し、勇気がひたすらに湧き上がるような……そんな感覚。

 後ろ向きでひたすらに罰を求めていた私の心を温かく照らす力。

 それが穂村克己の“変身”。

 アルファである私達を従えるのではなく共に()ろうとする意志の形。

 

CHANGE(チェンジ)SCORPIO(スコーピオ)

BANTI(アンチ) VENOM(ヴェノム)!!』N

 

 バックルに【アンチヴェノムスコーピオ】のアバターカードが差し込まれたことで、変身フェーズが開始。

 バックルから前方に投射された人間大のカードがカツミの身体を通過することで、カードに記された戦士へと姿を変えていく。

 黒騎士に似たスーツの上に桃色のパーツが部分的に装着され、これまでの私の変身とは異なるすっきりとした姿に変身を終えた彼は調子を確かめるように軽く自身の手を振る。

 

「っし、これなら行けそうだ」

 

 これが、変身される感覚。

 “この人と一緒ならどこまでも強くなれる”

 依存ではなく、共存。

 変身を経た今でも際限なく心から勇気が湧き上がっていく。

 これが、黒騎士と白騎士のコアが常に抱いている感覚だとすれば……ああ、そりゃああそこまで強くなれるんだろうなと納得できてしまう。

 

「やるぞ、ヒラルダ」

 

 名を呼ばれるが、返事を返す余裕もない。

 私にできることはこの感覚に流されないように抗いながら、目の前の怪人を倒すサポートをすることだ。

 

「ヘンナスガタ!!」

「オレガッオレガヤル!!」

 

 カツミ君が鈴虫怪人と呼んだやつがとびかかってくる。

 名の通り、鈴虫がそのまま人型へと変わったような醜悪な怪人は背中の翅を振動させている。

 

「シネェェ!!」

 

 鋭利なかぎづめを生やした四本腕を余裕を以て躱し、顔面に拳を叩きこむ。

 

「うるせぇ」

「ウッ!?」

 

 さらに追撃の回し蹴りを胴体に叩き込まれ大きく吹き飛ばされた鈴虫怪人は、青色の血を吐き出しながらこちらを睨みつけてくる。

 

「ナ、ナンダ、オマエェ」

「……ルプス……白い姿よりちょっと強いくらいか。なんとなく分かってきた」

「ッッ!! ビィィム!! フタリガカリダ!!」

 

 一対一は無理と悟ったのかレーザー怪人……ビィムと呼ばれたそいつが挟み撃ちをするようにカツミの後ろへ移動する。

 それに合わせ、鈴虫怪人の翅が異様な振動を見せる。

 

「リィィィィ!!」

 

 超振動による物質破壊。

 鈴虫怪人を中心に地面、建物が崩壊し粉みじんに姿を変える。

 ……。

 え、なにあれやばくない?

 

「ビィィ!!」

 

 後ろではなにかやばげにエネルギーチャージしているレーザー怪人!?

 でも相対している彼は慌てた様子を微塵も見せずに、ベルト横のホルダーから一枚のカードを取り出す。

 

「……使ってみるか」

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) MIRAGE(ミラージュ)

 

 慣れた手つきでバックルにカードを装填、発動させる。

 瞬間、カツミ君の隣にもう一人の彼(・・・・・・)が現れ、背後にいるレーザー怪人へと相対する。

 

「……。便利だな?」

「っし、俺はこっちの相手だ」

 

 分裂? 分身? ……実体のある幻術?

 私の能力と酷似した技を使うってことかな?

 

「相変わらず近所迷惑な野郎だ」

「リィィ!! キサマガチカズケバ———」

「うるせぇ!!」

 

 超振動は危険、という前提さえも無視した彼は猛烈な勢いで鈴虫怪人の顔面を蹴り飛ばした。

 躊躇もなにもない一撃に鈴虫怪人が動揺している間に、彼はカードをバックルに装填し空に手を掲げる。

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) SLICER(スライサー)!!』

 

 虚空から降ってきた黒と桃色の剣がカツミの手に収められ、すれ違いざまに背中の翅を切り裂く。

 一瞬にして散らされた自身の翅を目にした鈴虫怪人は、ようやく自分が戦っている存在の危険(・・)さを理解したのか、悲鳴に似た声を漏らした。

 

「ヒッ!?」

 

AVATAR(アバター) FINISH(フィニッシュ)!!』

「まず一つ」

VENOM(ヴェノム) IMPACT(インパクト)!!』

 

 跳躍と同時に繰り出された紫炎を纏った蹴りは逃走を試みようとした鈴虫怪人の背中を直撃し、その身体を爆散させた。

 跡形も残らず消えた怪人に目もくれずに彼はすぐに背後で戦っているレーザー怪人へ標的を変える。

 戦っていた幻影も消え、レーザー怪人もこちらを見る。

 

「試してみるか」

 

 ん? 今度のカードは色が違う。

 ! この映っている赤いシルエットは……!!

 

星界!!(セェェイカイ) CHANGE(チェンジ)!!』

RELIEF(リリーフ) RED(レッド)!!』

 

 カードの装填と同時に最初の変身の時と同じように彼の前にカードが現れ、その身体を通過する。

 黒と桃色の姿から、赤い———深紅の戦隊ヒーローへと変わる。

 モータルレッド!!?

 いや、でも呼び名が違うってことは、汚染される前の星界戦隊の姿に変身したってこと!?

 曇りのない赤色へと変わると同時に続けて、音声が鳴り響く。

 

惑星(ワクセイ)!』

再生(サイセイ)!!』

『それが星界(セイカイ)!!!

 

「星繋ぐ赤き流星!! リリーフレッド!!」

 

 ……いや、どうしたの突然?

 絶妙にダサい音声に合わせていきなり決めポーズをとったカツミ君に普通に首を傾げる。

 奇妙な沈黙が場を支配し、敵であるレーザー怪人もちょっと困ったように猫背になっている。

 

「……」

「エ、ナンダ?」

「……身体が勝手に動いただけだこの野郎!!」

「エエエ!?」

 

 突然キレた彼は不意打ち気味にレーザー怪人を殴りつけた。

 ……もしかして変身の度にヒーローだった頃の星界戦隊の名乗りをやらされる感じ……?

 

「ビィィィィ!!?」

 

 レーザー怪人が頭部に溜めたエネルギーを開放し、拡散する光線を放つ。

 それらは意思を持つように一斉にホーミングし、こちらへ迫ってくる。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

 正真正銘の宇宙のヒーローだった頃のレッドになった彼は赤色の大剣を手にし、レーザー怪人へ一直線に突撃する。

 彼が大剣を一薙ぎするだけで空間に歪みが生じ、光線が捻じ曲げられ後方に消えていく。

 

「さっさと終わらせてやる!!」

「ビィィッ!?」

 

 これは、モータルレッドの重力操作……!?

 光線を重力で捻じ曲げ、死に物狂いの一撃すらも大剣でたやすく薙ぎ払った彼は———その一撃でレーザー怪人の首を刎ね飛ばし、解放された重力波でその肉体を粉々に吹き飛ばした。

 

「……よし」

 

 今の戦いでなんとなくこの姿の力が分かった。

 この【アンチヴェノム】は不安定な星界エナジーと私自身の力を安定させるために、力を統合させずにカードとして分配し新たな力として姿を変えたもの。

 星界エナジーに内包された戦士の記憶を使うこともでき、まさに変幻自在。

 

「敵はもういないな」

 

 周囲を確認し、変身が解かれる。

 バックル状態から解放され、人型に戻った私の中にあるのは喪失感と、胸の奥に残る温かな感情。

 ……飲み込まれちゃ駄目だ。

 私はもう後戻りすることはできない。

 どれだけ居心地がよくても、勇気をもらえても、私がそのようなものを得てはいけない存在だということを忘れちゃいけ———、

 

「ヒラルダ」

「んひぃ!?」

 

 突然声をかけられて変な声が出てしまった。

 さすがにバックルにはならないが、若干距離をとりながらカツミを見ると彼は怪訝な顔をする。

 

「なにやってんだ」

「い、一度変身を許したからって勘違いしないでよね!! 私そんな軽い女じゃないんだから!!」

「……はぁ?」

「ねえ、ガチな反応やめてくれない?」

 

 ここは慌てふためいてほしかったんだけど、ガチ目の「はぁ?」にこっちがビビってしまう。

 

「ここを離れるぞ。騒ぎを聞きつけて怪人が集まってくるかもしれん」

「……そうだね」

 

 確かにまずは休める場所を確保するべきだ。

 変身できるといっても結構弱体化しているのでどれだけの怪人を相手にできるかさえ分からないのが現状だ。

 

「休める場所と、食い物と水だな。そっからアカネを探しに行こう」

「十位も探すんだ」

「当たり前だろ。まだ俺はあいつから話を聞いてねぇんだからな」

 

 そう言葉にして歩き出すカツミ君。

 迷いのない彼の後姿を見つめた後に、一度自分の手を見る。

 

「……耐えられるかなぁ」

 

 彼の陽だまりのような心に、私は異常なままでいられるのか。

 悪意の塊でいられ続けることができるのか、……っ!?

 

「「ッ」」

 

 なにかが近づいてくる。

 カツミ君も気づいたのか、顔を顰める。

 

「さっさとここを離れるぞ」

「そうした方がよさそうだね」

 

 まだどれくらい怪人が徘徊しているか分からない以上、無駄な戦闘をするべきじゃないだろうね。

 


 

「———どうやらここで戦闘があったみたいだね」

 

 身に纏うパワードスーツで地上に降り立ち、少し前まで戦闘があったであろう場所を見る。

 周囲に反応はなし。

 安全を確認しながら、パワードスーツのカバーを展開する。

 放熱と共に自身の戦闘服に接続されたプラグを外し地面に降り立つ。

 

「はぁ、()に攻め入る前に意味不明なことは起こってほしくないなぁ」

「だけど見ておかなきゃ駄目でしょ」

 

 思わず出てしまったため息に、私と同じくパワードスーツから降りたアオイは取り出した機器で周囲をスキャンし始める。

 パワードスーツの右肩部分に刻まれた“3”という青色の数字を一瞥しつつ、解析結果を待つ。

 

「戦闘痕解析……一致した。ここにいたのは光線怪人と音響怪人みたい」

『脅威値Bの怪人じゃん? なんでこんなところで戦ってたんだろ』

 

 パワードスーツから降りずに周囲を警戒していたキララがそんな疑問を口にする。

 いずれも簡単に人間を肉塊にすることができる怪人だ。

 そんな怪人が戦っていた? 

 しかもこの残骸は……。

 

「どう見ても、怪人の死体……だよね?」

「ん。どっちもここで死んでる。しかもすごいエネルギーをぶつけられて爆散してる。ウケる」

『いやウケないから』

 

 ここで、怪人と何か(・・)が戦い、怪人が負けた。

 粛清、仲間割れ、共食い、それかこちらをおびき出すための罠かのどれかだとは思うけど……。

 

「まあ、怪人の考えなんて分かりたくもないよ」

「言えてる」

『見つけ次第殺すだけだしね』

 

 そうだ。

 怪人なんてその程度の認識でいい。

 私たちの家族を、日常を奪い去った奴らにかける温情なんてない。

 

「もしかしたら……」

「アオイ?」

「私達以外に怪人を倒す人が出てきたり———」

「いるわけないじゃん。そんなの」

 

 どこか期待するような声色のアオイに思わず冷え切った声で返してしまう。

 だけどこれでいい。

 余計な希望は私たちの足かせになるし、私たちの他に怪人と戦える存在なんているはずがない。

 

「怪人は殺す。それが私たちの使命なんだから」

「……うん、大丈夫。分かってる」

 

 落ち込んだ様子で頷くアオイ。

 もうここで調べることはない。

 あとは拠点に戻って、報告を済ませなきゃ。

 

『ねえ、アカネ』

「ん?」

『第一コロニー。私達で制圧できるのかな……』

「できなくても、やるしかないよ」

 

 都市の三ヵ所に存在する怪人共の巣———コロニー。

 そこに存在する怪人たちを率いる幹部、脅威値A以上の危険な怪人と私たちは戦わなければならない。

 死ぬ確率が高い、無謀な作戦だからキララも不安なんだろう。

 だけど———、

 

「私たちに残された道はこれしかないんだから」

『……そうだね。……ごめん』

 

 どんなに絶望的な作戦でもやるしかない。

 そうじゃなきゃ文字通りの人類にとっての終わりだからだ。

 

「……」

 

 そこまで口にして私は自身のパワードスーツを見上げる。

 三メートルに届くほどの機械仕掛けのアーマーに塗装すらされていない漆黒の外観。私、アオイ、キララのそれぞれに与えられた三機のソレは右肩部分に判別用のナンバーが振られている。

 赤の“1”と右肩に記されたソレを見た私は、今一度怪人への憎悪を胸の中で溢れさせ、自身の心を冷たく———冷酷に保とうとする。

 そうしなければこんな希望のない世界では、心が圧し潰されてしまうからだ。

 

 




変身すると勝手にポーズ取っちゃう星界戦隊系の姿でした。


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並行世界編 3

お待たせしました。

今回は主人公視点です。


 怪人が闊歩する都市。

 そんな物騒な世界に飛ばされた俺は、ヒラルダと共に一時安全な場所に避難することにした。

 

「結構時間がかかっちまったが、ここなら早々バレないよな」

「いい感じの廃墟ね」

 

 場所は瓦礫に囲まれた一つの廃墟。

 比較的損壊が少なく、元はマンションだったと思われる一室はそこそこ広く、休息を取るのに丁度いい場所だ。

 ……外はもう暗くなっちまったが、休める場所を見つけられたのはよかった。

 

「窓も光が漏れないようにバリケードがされてるし、前の住人はちょっと前までここにいたっぽいね」

 

 でもちょっと狭いかもー、と文句を垂れながら埃を払ったソファーに座るヒラルダ。

 幸い、明かりはヒラルダが気紛れに持っていた宇宙製のランタン? のようなものがあったおかげで困らない。

 だが、それ以外役に立つものは持っていないようなので後は現地で調達するしかないってことだ。

 

「俺のいたアパートより広いから文句言うな」

「えぇ、どんな狭いところに住んでたのよ……」

 

 狭いなりに便利だったんだぞ。

 クーラーが壊れた夏は死ぬほど暑かったけど。

 

「ねえ、お腹空いたー」

「……」

 

 我儘を言い出すヒラルダに額を抑える。

 そんな俺の反応を楽しむようにヒラルダは続けて駄々をこね始める。

 

「喉も乾いたー」

「水ならあるだろ」

「それバケツにくんだ泥水じゃん!! なんで持ってきたの!!」

 

 威勢のいいツッコミを放つヒラルダ。

 この泥水は必要だから持ってきた。

 

「水も食いモンも欲しいならお前も手伝ってもらおうか」

「え、え? な、なに?」

「変身するぞ」

 

 困惑するヒラルダをバックルに変わってもらい、変身を試みる。

 

JINVERSION(インバージョン)!!』K

RE:(リバース) SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

G『!!NOISREVNII(ンョジーバンイ)H

 

 腰に装着し、アンチヴェノムスコーピオへの変身を完了させる。

 手を軽く払いベルトからカードを取り出そうとしたところで……頭の中で声が響く。

 

『ちょ、ちょっとなんでここで変身!?』

「その状態でも喋れるようになったのか」

 

 さっきの戦闘では全く喋れなかったらしいからな。

 一枚のカードをベルト側面のホルダーから取り出し、バックルに装填する。

 

星界!!(セェェイカイ) CHANGE(チェンジ)!!』

RELIEF(リリーフ) PINK(ピンク)!!』

 

惑星(ワクセイ)!』

再生(サイセイ)!!』

『それが星界(セイカイ)!!!

 

「ぐっ、うぅ……清らかなる桃色エナ……ぬんっ!!」

『すっごい抗ってる……』

 

 勝手に名乗りを上げようとする身体を気合で止め、軽く深呼吸をする。

 モータルピンクの真の姿、リリーフピンク。

 俺たちが戦った正義の心を忘れた奴らではないこの姿は、レッドの重力操作と同じく特有の能力を持つ。

 

「こいつになった理由は……これだ」

 

 泥水を溜めたタンクに掌をかざし、桃色のエネルギーを放射する。

 放射されたエネルギーはタンクそのものを呑み込み———浄化させる。

 水だけではなくタンクまでもが綺麗になった光景を目にしたヒラルダは、感心したような声を漏らす。

 

『なるほどねぇ。浄化がピンクの真の力ってこと』

「これで水は綺麗になったはずだ。そしてもう一つ」

 

 続けてカードを取り出し、フォームチェンジを試みる。

 

星界!!(セェェイカイ) CHANGE(チェンジ)!!』

RELIEF(リリーフ) GREEN(グリーン)!!』

 

惑星(ワクセイ)!』

再生(サイセイ)!!』

『それが星界(セイカイ)!!!

 

「豊穣万歳ッ、緑の賢じッ……はぁ、はぁ……

『もう素直に名乗ればいいのに……』

 

 こんな恥ずかしいポーズ人前でできるか!!

 若干、息を荒立たせながら緑の姿になった俺は、手にエネルギーを集め種子を作り出す。

 

「……確か、観葉植物が置いてあったよな」

『見る影もないくらいに荒れてるけどね』

 

 部屋の中に放置されていた枯れた観葉植物を引っこ抜き、部屋の真ん中に持ってきた鉢に種子を放り投げる。

 そこからリリーフグリーンの主武装である柄の長い大斧を取り出し、柄の部分で種子をいれた鉢を軽く突く。

 

『腐敗させるのがモータルグリーンならリリーフグリーンは……』

 

 柄から発せられたエネルギーが鉢に流れ込んだ瞬間、とんでもない速さで種子が成長———十秒も経たずに立派なトマトを実らせた。

 それを確認し、変身を解いた俺は摘み取ったトマトをヒラルダに渡す。

 

「ほらよ」

「あ、ありがとう」

 

 俺もトマトを手に取り口にする。

 ……見た目以上の栄養があるな、これ。

 これ一つだけで腹いっぱいになりそうなくらいだ。

 

「星界戦隊の力は星を守るためのものだった」

 

 レッドが重力、ピンクが浄化、グリーンが豊穣、ブルーが治療、イエローが防衛。

 危機に瀕した星を再生、防衛するための力をそれぞれ備えた集団。

 それが星界戦隊だった。

 

「八位に負けたからああなった……ってのは少し意味が分からねぇな」

 

 やっぱりその辺もコスモが言っていた裏で糸を引いている存在が関係しているのだろうか。

 いつかそいつらとも戦わなくちゃいけねぇと考えると、確実に始末しておくべきだな。

 まだ会ってもいねぇが毒にしかならねぇ奴らと見た。

 

「カツミ君さぁ」

「……なんだよ」

 

 こいつ、いつの間にか君付けするようになってないか? これから行動を共にするわけだろうから別にいいんだが。

 ソファーに背中を預けたヒラルダは、天井を見上げながら言葉を発する。

 

「桃子になにかあったって言ってたよね」

「ああ」

「具体的にどうなってんの?」

 

 風浦さんのことか。

 ヒラルダが地球に潜伏する際に利用していた女性。

 今は元の世界の安全な場所で守られているが、彼女を取り巻く状況は一切好転していない。

 

「私が憑りついていた時は身体に異常はなかったし、無理はさせてなかったんだよ? もしかしてメンタル的なやつ? それはまあ、悪いと思ってるけど———」

「いや、違う」

「じゃあ、なんなの?」

 

 ……言ってもいいか。

 現状で彼女の身に起こっていることは星界エナジーを放出しているということしか分かっていないわけだし。

 

「目覚めた風浦さんの身体から星界エナジーっつーエネルギーが放出されてたんだよ」

「……はぁ? え、それってどういう感じで?」

「彼女が入院していた部屋が無重力になったりだ。調べると、どうやら風浦さんの身体の中で星界エナジーが生成されるようになっているらしい」

 

 俺の言葉を聞いたヒラルダは途端に顔を青くさせ頭を抱えた。

 飄飄とした態度を取ると予想していた俺は、彼女の反応に目を丸くする。

 

「あちゃー……これは、やっちゃったかなー。桃子には悪いことしちゃったかも」

「事情を知ってんなら教えろ」

「流石に私に責任があるから素直に話すわ」

 

 こいつがここまで殊勝な態度になるということはそれだけのことが起こっているんだな。

 計画してやったことではなく、ヒラルダにとっても予想外のことなのかもしれない。

 

「私って星界戦隊のコアを取り込んだ……てのはそっちも把握しているでしょ?」

「ああ。だがそのコアは今でもお前が持ってんだろ?」

 

 風浦さんの身体にはコアなんて言う異物は存在しなかった。

 星界エナジーは彼女の身体そのものから発生している。

 

「本当はありえない話なんだけれど、私と同化している時に桃子の身体にコアが適合して……あの子そのものがコアと同じ機能を有する存在になってしまったのかもしれない」

「……。それはやばい話なのか?」

「やばいもなにも異常なんだよ」

 

 焦った表情のままヒラルダが言葉を続ける。

 

「星界エナジーは自然生成されることはない。別の次元に存在するコアでのみ作られる特別なエネルギーなんだよ」

「それを風浦さんは……」

「星界エナジーを単体で生成するなんて普通じゃない。これじゃ別次元の奴らが桃子を狙いに……っ」

 

 そこまで言葉にしてヒラルダがハッとする。

 なにかに気づいたのか、また頭を抱えて唸った後に俺を見る。

 

「ねえ、カツミ君。また現れた怪人ってさ、君たちになにか要求してこなかった?」

「要求? いや、俺は別に……いや待て、アカネが学校を襲撃されたときに、すてあなんとかを出せとか言われたらしい」

「多分、それ桃子のことを指してると思う」

 

 怪人共が求めるすてあなんとかが風浦さんだっていうのか!?

 よりにもよってなぜ怪人共が彼女を? それこそ星界エナジーとは関わりがないだろ。

 

「おかしいと思ってたんだよ。なぜか地球の怪人が星界エナジーで強化されていると思ったら、もうこっちの世界に干渉してこようとしてきただなんて」

「あの怪人の妙な強化は星界エナジーによるものなのか?」

「ええ」

 

 つまり、星界戦隊のことも含めてもう俺らに喧嘩を売ってきていたってことか。

 ……上等だ。

 怪人諸共全部ぶっ飛ばしてやらァ……。

 

『クァー、クァー!』

「ん? なんの声? 鳥?」

「……おぉ、もう来たのか」

 

 トマトを口に放り込み、玄関の扉を開ける。

 すると一匹のメカメカしい形状をした鳥が部屋に入ってくる。

 

「見てきてくれたか?」

『クァー、クァー』

 

 話しかけると羽ばたきながらコクコクと頷いてくれる。

 

「……なにそれ?」

「お前から出てきたメカフクロウ」

「メカフクロウ!!? し、知らないよそんなの!!」

 

 本人も気づいてなかったのか……。

 

「いつ出てきたの!?」

「ここを探してる時。なんか光の玉と一緒に出てきて……使い方も変身した時に分かってたからそのまま偵察に向かわせてた」

「ぐ、うぅぅぅ!! 私の意思以外が屈しちゃってるぅぅぅ……!! 尻尾振っちゃってるぅぅぅ……!!」

 

 ソファーの上でもんどりうつヒラルダを放って、メカフクロウへと向き直る。

 掌サイズのメカフクロウは手首に留まると、未来感あふれる時計に変形する。

 

「ここから、えーと……」

 

 使い方通りに時計側面に指を添え———ホログラムを投影させ、集めた情報を映し出す。

 

「周辺の地図みたいだな」

「ねえ、なんで私より使い方心得てるの? ねえ、カツミ君?」

 

 街、というより都市の全体図か? 青い立体図で見せてくれているから分かりやすいな。

 三角錐で強調されているのが俺達のいるところで、この赤い領域は……危険地帯ってところか?

 

「なるほど、怪人が集まっている場所はここってわけか」

「三か所くらいあるねぇ。ありきたりで言うなら怪人の巣ってところかな?」

 

 面倒だが、逆を言えばこの三か所をなんとかしちまえば安全が確保できるってことだ。

 いつまでも隠れているわけにはいかねぇし、元の次元に帰る目途がつくまでできることをしておかねぇとな。

 

「一番近くにあるところは……ここか」

 

 №1と書かれている怪人共の巣。

 他二つと比べて危険範囲が大きいそこを指でタップすると、さらにホログラムが現れる。

 

「……」

 

 空からの映像だろうか。

 瓦礫で作り出された巨大な巣。

 東京ドームより大きなそれは異質な雰囲気を放っており、映像はさらにその奥を映し出していく。

 

「うひゃ~。やばめな場所ね」

「ああ」

 

 まだ作られたばかりなのか?

 巣の中へと入り込み、地上に近い場所が見えるところまで行くとそこには見覚えのある怪人共と———ハチの巣のような形状をした牢獄に幽閉された人々の姿が映り込む。

 

「おっ、生存者。てかこの世界初の人間じゃない?」

「……待て、様子がおかしい」

 

 檻の中を拡大すると、閉じ込められている人々は生きる希望を失ったかのように動こうともしていない。

 だがその一方で、別の檻を映すと異様な光景が入り込む。

 

『やあ、あはははや、やめ、あははは!!!!』

『ひぃ、ひひっはははここから出しっ、はははは!!』

 

 映し出されたのは檻の中で狂ったように笑う人々。

 そのあまりの異様な光景に隣から覗き込んでいたヒラルダは息を呑む。

 

「な、なにこれ……」

「……。スマイリーか」

 

 笑顔を強制させる怪人。

 胸糞悪い怪人の情報に苛立ちが募るが、檻の外からやってきた木っ端怪人が扉を開け、笑い転がされている男性を無理やり連れだしているところを見て眉を顰める。

 

『ははっ、嫌だ、嫌だァァァ!!』

『オマエ、ツギ』

 

 笑いながら抵抗する男を無造作に放り投げた怪人は、地面でうずくまる男性の背中に———何か結晶のようなものを張り付けた。

 張り付けられた結晶は光を放ち、それをつけられた人は途端に苦しみだす。

 

『はがははは!! か、怪人に、なりたくあはははは!!』

 

 結晶から煙が噴き出し、男の身体を包み込む。

 そのまま十秒ほどして煙が晴れた時には、男はもう人間ではなかった。

 

『バァァァァァ!!!』

 

 人間を、無理やり怪人に変えさせた……のか?

 その光景を動画として目にしたヒラルダは口元を手で押さえ、顔を青ざめさせていた。

 

「ちょ、ちょっとなにこれ……笑いながら怪人にされてるの……?」

「……相変わらず人の神経を逆撫でする奴らだなァ、オイ」

 

 でも安心した。

 こっちの世界でもお前らは問答無用で排除してもいい存在だって分かったからな。

 

「ヒラルダ。悪いが、また力を貸してもらうことになる」

「……あー、もう分かった! 仕方ない!!」

 

 人間を見下し、舐め腐った怪物ども。

 今日まで調子に乗ってきたようだが———それも今日で終わりだ。

 

「徹底的にぶっ潰してやる」

 

 どこの世界に飛ばされても怪人がいたら俺のやることは変わらねぇ。

 自由を脅かすバケモノ共は全員根絶やしにしてくれる。




星界戦隊という惑星救済チーム。
それぞれが別方面でえげつない能力を有していました。


次回は明日の18時更新予定です。


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並行世界編 4

お待たせしました。
平行世界編 4

今回はアカネ(平行世界)視点でお送りします。


 レジスタンス、と言えばそれらしく聞こえるがその実は非戦闘員が大部分を占める避難所だ。

 戦えるメンツは私たち三人しかいないし、それ以外は私たちの戦闘をバックアップする金崎令馬———司令が擁する部下たちしかいない。

 だが、それでもこの場所は人類にとっての最後の砦。

 怪人に対して唯一戦える術を持つ組織なのだ。

 

「今回の怪人共のコロニー攻略作戦について話しておく」

 

 寂れた地下のとても作戦本部とは思えない薄暗い一室。

 パイプ椅子に腰かけた私たち三人の前に車椅子に乗った包帯だらけの男、金崎令馬が声を発する。

 

「怪人共は着々と支配権を広めている。今、奴らのコロニーの一つを崩さなければ我々に明日はない」

 

 このアジトだって攻められれば終わりだ。

 私たちはパワードスーツで生き残れるだろうが、非戦闘員は無残に食い殺されてしまう。

 生き残った私たちも補給ができなきゃ野垂れ死にを待つしかない。

 

「だからこそのコロニー殲滅作戦だが、これにはいくつか障害がある」

 

 司令が傍で控えている部下———たしか、大森と呼ばれた女性に目配せして黒板に文字を書かせる。

 

「単純な戦力差。普通の怪人ならばスーツでの排除も可能だが立ち回りを間違えば容易く崩される」

 

 そして、と司令は言葉を続ける。

 

「奴らは人間から怪人を作り出している。それも実験的にな」

「……ッ」

 

 人間を怪人にする。

 それも不完全な怪人として変え、まるで働きアリのように利用している。

 

「怪人にされた人間は元には戻らない」

「……司令でも?」

「……。サンプル設備さえあれば不完全な怪人を人間に戻す方法を見つけることができるかもしれん……が、それは不可能だ。我々に救う命を選ぶ余裕は、ない」

 

 冷徹に言い放ったが、私たちは司令が自分自身を責めていることを察した。

 

「そして、次の問題が……コロニーを支配する幹部クラスの怪人だ」

「幹部クラス……」

 

 物理の枠を超えた凄まじい力を有する怪人。

 私たちも一度、マグマを操る第三コロニーを支配する幹部クラスと遭遇したことはあるが、そのあまりのでたらめさに敗走を余儀なくされた。

 

「相手はなんらかの精神汚染を行ってくる怪人だ。その能力の厄介さからして脅威値Aを優に超える可能性がある」

「マグマ怪人と同等だと?」

「そうでないと信じたいが、何をしてくるのか分からないのが怪人だ。どれだけ用心しても足りないくらいだ」

 

 正確な情報はない。

 現場でそいつの対応をしなきゃいけないけれど、それ以外に方法はないのでやるしかない。

 私たちに、あとはないんだから。

 

「作戦とは言っているが、これは特攻に近い。怪人の情報もなく、物資も乏しく……我々はお前達に無理をさせることしかできない」

「……」

 

 司令が悔いるように肩を震わせる。

 本当ならこの人自身が前線で戦いたいと思っているのは私たちもよく分かっている。

 だけど、この人のおかげで今私たちがこうして生き延びれているのだ。

 

「お前達には無茶を言っているのは分かっている。だが―――」

「それ以上は言わなくてもいいです」

「元より覚悟は決めていますから」

 

 だからこの人に恨み言なんてあるはずがない。

 私たちに戦う力をくれた。

 復讐する機会をくれた。

 それだけで十分すぎるし、元より死ぬ覚悟はあるけど負けるつもりなんて毛頭ない。

 

「分かった。ならば、私たちは私たちのするべきことに尽力しよう」

 

 私たちの言葉に司令が深く頷く。

 それから大まかな作戦内容、攻略の際に装備される新武装について改めて説明したところで解散……の流れかと思っていたけど、司令からまだ話が続くようだ。

 

「今日お前たちが哨戒の際に見つけた痕跡についてだが……」

「なにか分かったんですか?」

 

 怪人同士が争ったとみられる不可思議な痕跡。

 特に気にするほどでもないと思っていたけれど、包帯に覆われた司令の表情はどこか疑念のようなものを抱いているように見える。

 

「広域センサーが捉えた生体反応は4つと記録されていた」

「じゃあ、その二体が怪人を殺したってこと?」

「……その可能性が高いが」

 

 なぜか言い淀む司令に私たちは首を傾げる。

 

「分析した結果、その場にいた二つの反応は人間だったのだ」

「「「!!」」」

 

 人間……?

 ちょっと待って、あの場にあったのは人間じゃなくて怪人の残骸だった。

 それも人間を改造したものじゃない脅威値Bの怪人だ。

 

「私たち以外の誰かが怪人を倒したってことですか……?」

「……分からん。私の知る限り、この地球で怪人に太刀打ちできるような兵器は存在しない。しかもその場にいた怪人は超振動であらゆる物質を崩壊させる怪人と、驚異的な追尾性能と破壊力を持つ光線を放つ怪人……ただの人間が敵う相手ではない」

 

 それは私たちもよく分かっている。

 だからこそ困惑してしまった私たちに司令は言葉を続ける。

 

「味方と判断するのは危険だ。この状況になるまで姿を現すことのなかった輩だ。怪人の罠という可能性が高い」

「……だけど、もし一緒に戦ってくれる存在だったら……」

「ブルー」

 

 そう、言葉を零したアオイを司令は見る。

 

「希望を抱くことは大事だ。だが、我々は常に最悪の可能性を考えて動かなければならない」

「……分かってる」

 

 アオイの気持ちはよく分かる。

 私たち以外に怪人と戦える存在がいればどれだけ心強いか。

 私とキララは目に見えて落ち込んだアオイの背に手を置いて慰める。

 

「……以上で作戦会議を終了とする。第一コロニー攻略作戦は早朝、日の出と共に行う」

「「「はい」」」

「それまで身体を休めておくように」

 

 明日の朝、戦いが始まる。

 死ぬつもりはないけれど、私も色々と覚悟しておかなくちゃ。

 


 

 第一コロニー攻略作戦前。

 まだ外が暗く、太陽が出ていない時間帯に私たちはパワードスーツが置かれる保管庫の中で、特殊なスーツに身を包みながら出撃の準備を進めていた。

 

「キララ、眠れた?」

「睡眠薬って便利だよね。アカネは?」

 

 最早、見慣れた隈を目の下に作ったキララに私は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「もしかしたら今日で死ぬかもしれないからお酒を飲んでみたの」

「うん」

「無理だった」

「駄目じゃん」

 

 未成年だけどどうせ死ぬかもしれないならいいかなと思ったけど駄目だった。

 私って結構子供舌だって自覚してしまったな……。

 

「アオイは?」

「……」

「今寝てるようだね」

 

 既にスーツを着たアオイが直立したまま眠っている姿を見て苦笑する。

 そういえば、この子は私たちよりも一つ年下だっけか。

 

「ちょっと変わってるけど、アオイもなんだかんだで妹みたいだね」

「ふふふ、そうだね」

「……ごめん」

 

 キララには妹と弟がいたことを思い出し、言葉にしてから後悔する。

 

「謝らないでよ。アカネもアオイも、皆大事な人を失ってる。それに……」

「ふがっ」

「妹は妹でも、こっちの方が手がかかるから別枠だよ」

 

 船を漕いでいる葵の頭に手を置いたキララにつられて笑みを浮かべる。

 

『揃っているようだな。作戦開始前だ。スーツに乗り込んでくれ』

 

 頭上のスピーカーから社長の声が響く。

 それに頷いた私たちはそれぞれのパワードスーツの前に乗り込む。

 

「レッド1。装着するよ」

「ブルー2。装着」

「イエロー3。装着します」

 

 ヘルメットを被り大きく広げられたハッチに背中から乗り込む。

 スーツの背中にジョイントを接続、次に胴体、両腕、両足を固定しパワードスーツと一体化する。

 ヘルメットのバイザーから動作チェックを現す項目が順番に表示され、全てが【CLEAR】と表示されたところで、私は軽く吐息をつく。

 

「落ち着かないと」

 

 これからたくさんの怪人共と戦うことになる。

 一つの油断が私だけじゃなく、アオイとキララの命を脅かしかねないほどの戦いだ。

 だが勝つことができれば私たちは怪人勢力を削ることができ、且つ物資を得ることができる。

 場合によっては新たな拠点としてコロニーを再利用する。

 

『聞こえるか?』

「問題なし」

「ばっちり」

「オッケー」

 

 ヘルメットに備え付けられたインカムから響くやや音質の悪い司令の声に頷く。

 周囲の音も結構拾ってしまうのか、司令室にいる司令の部下たちの慌ただしい声も聞こえてくる。

 

『これより、各地に待機させている全ドローンを作動させ状況を逐一伝えていく』

「普段は隠してあるやつですね」

『ああ、常に出しておくと怪人に破壊されるからな。一度きりの作戦だからこそ切れる手札とも言える』

 

 相手の場所が分かれば私たちも戦いやすいからね……。

 本当に一回きりの作戦なので無駄にするわけにはいかない。

 

『ではドローン起動する』

 

 ドローンが起動される。

 まだパワードスーツと繋げられていないのでバイザーには何も映されていないが、戦闘が始まれば―――、

 

『どういうことだ!?』

『怪人の反応が、想定の10分の1……?』

『いや、違う! 少ないんじゃない、減り続けてるぞ!!』

『怪人が、虐殺されて、いる?』

『反応複数!! これはッ、捕まった人たちのものです!!』

『それじゃあ、死んでいるのは怪人だけか!?』

 

「な、なに……?」

 

 途端に騒々しくなる司令室。

 聞こえてくるその声は、明らかに異常が起こっていることを示していて、聞いている私たちも困惑する。

 

『なんだ、これは……』

「司令!! なにか起こっているんですか!?」

『ッ、今映像を繋ぐ!!』

 

 インカムの奥で唖然としている司令に声を荒らげると、彼は慌ててこちらのバイザーにドローンで撮影されている映像を見せてくる。

 私たちの視界に映し出されたのは、予想だにしない光景だった。

 

「なんなの、これは……」

 

 最初に映し出されたのは第一コロニーに転がる怪人共の屍。

 切断、粉砕され雑に地面に打ち捨てられたそれらに私たちは声も出せない。

 怒りに任せた純粋な破壊が刻まれている一方で、その場には声もなく地面に座り込んでいる何十人もの生存者が、同じ方向を見ていた。

 

『なんだ、アレは。星将序列……? いや、スーツ……なのか?』

 

 ひび割れた(・・・・・)桃色の装甲で全身を覆った人型の戦士。

 装甲はひび割れてこそいるが消耗も負傷した様子もなく、映像越しでも寒気がするような怒りと殺気を向けたソレは、青みがかった黒髪の女の子を守るようにピエロ姿の怪人の前に立ち塞がっていた。

 

「ぁ……そんな……うそ……」

 

 その映像にアオイがか細い声を漏らした。

 映像で映し出された戦士に、生き残りであろう怪人が襲い掛かる。

 いくつもの怪人を混ぜ合わせたような統一性のない———人間から作り変えられた怪人に、その存在は左手で持っていた剣を振るう。

 恐ろしく速く、綺麗な剣閃。

 淡い桃色のエネルギーが籠められた剣により怪人が切り裂かれる。

 

「元は人間なのに、迷いなく……っ」

 

 思わず見惚れてしまいそうな斬撃だったが、それでもあれは躊躇なく……え?

 崩れ落ちた怪人からどす黒い煙が発せられ、それが抜けていき元の人間の姿に戻ってしまったではないか。

 

『怪人から人間に戻した!? 可能なのか!!?』

 

 あれは、なんだ。

 恐れすらも抱いてしまうほどの力を見せた戦士は、最後に残った幹部怪人へと意識を向ける。

 悍ましい顔を恐怖で歪ませた第一コロニーの幹部怪人は掌を前に向けるが、なにも起きない。

 

『ヒッ、アアアアァァァアアアア!!?』

 

 あの怪人が、怯えている。

 何かをしようとしているが、なにも起こらずその存在は何かを口にする。

 なにもできずに、逃げ出そうと背を向ける幹部怪人を前に戦士の姿がブレる(・・・)

 

『———、———』

 

 次の瞬間には怪人の胴体は拳で打ち貫かれていた。

 数舜遅れて、突風が戦士を中心に吹き荒れ、幹部怪人の肉体が文字通りに爆散した。 

 

「「「……」」」

 

 あまりにもあっけなく幹部怪人が殺され、静寂が支配する。

 ソレが拳についた血を払うと、ヒビ割れた装甲は次々と零れ落ち、黒の比率が多いスーツが露わになる。

 

「……」

 

 その堂々とした立ち姿に。

 怪人を慈悲もなにもなく葬る姿に。

 私の口は自然とその存在を指し示す言葉を口にした。

 

「くろ、きし……」

 

 一瞬、怪人と見間違いそうなほどの異様な存在。

 その戦士の強さと、姿は、私の心に強く焼きつけられた。




Q,なぜ桃騎士の装甲がボロボロなのか?

A,カツミがプロトワン感覚で動いたから。


今回の更新は以上となります。
次回はなるべく早いうちに更新したいと思います。


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並行世界編 5

平行世界編 5です。

今回はスマイリーに囚われたある少女の視点からです。


 私の自由は怪人に捕まったその日から消え失せてしまった。

 

 怪人と言う恐ろしい存在が人間を襲い、都市を蹂躙した。

 日本だけじゃなく世界規模で怪人は暴れまわり文字通りの世界の終わりが近づいた。

 そこに例外はなく、誰もが怪人の脅威に晒されたくさんの命が摘み取られた。

 

 だけど、普通に死ねたことは幸運なのかもしれない。

 現実に絶望して生きる必要もないし、私のように怪人にされるかもしれない恐怖に怯えて過ごす必要もないのだから。

 


 

『僕はスマイリー!! 君たちは幸運だ!! こんなわたしに捕まえられて!!』

 

 私たちを捕まえた怪人は着ぐるみのような生々しい頭をしたピエロのような怪人だった。

 スマイリー、流暢にそう言葉にした怪人は、恐怖に怯える私たちにそう話しかけてきた。

 逃げ出そうとする人もいた。

 錯乱して暴れだす人もいた。

 だけれど、その人たちは途端に狂ったように笑いだして、喉を掻きむしって息絶えた。

 その光景を目の前で見せつけられ、心を折られてしまった私たちは抵抗する力もないまま、スマイリーに囚われた。

 

『お前達には笑顔でいてほしいんだ!!』

 

 無理やり連れられた先にあったのはハチの巣状に作られたなんらかの施設。

 監獄のようにいくつもの部屋が作られたその一室に入るように命じられた私は、怪人に捕まったとは思えないその小奇麗さに驚いた。

 真っ白な内装にベッドに机といった家具に、シャワーにトイレまで備え付けられている。

 

 牢屋のような場所を想像していた私は小奇麗すぎるその部屋が不気味に思えて仕方がなかった。

 決まった時間に食べ物も水も与えられ、服もシャワーも、果ては娯楽用品など生活に必要ななにもかもが与えられた。

 その独房の中では私たちは自由にさせられていた。

 ただ一つ、外に出られないということ以外は。

 

 一か月、怪人に怯えながらその暮らしを強制させられた

 他の独房から聞こえてくる声を聞けば『怪人は実はいい存在なんじゃ』だとか『外よりも安全だ』なんて言っている人も出てきた。

 私は一か月経とうとも得体のしれない不気味さに苛まれてそんなことを考えてもいなかった。

 だって私の家族は……おじいちゃんもお父さんもお母さんも、お姉ちゃんも怪人に殺されちゃったから。どうして大切な家族を殺した怪人を良い存在なんて見れるんだろうか。

 

 まるで餌を与えられるだけのような家畜のような生活。

 そんな意味不明な生活の本当の恐怖を知ったのは、一か月を過ぎてすぐ後だった。

 

『ッ、なんだよ!! は、離せよ!! 俺をっ、どこに連れていくんだよ!!』

 

 それは、夜中の出来事だった。

 誰かが独房から連れ出されている。

 その声に目を覚ました私が、扉の―――不自然に空いた四角い隙間から外を見ると、独房前の広い空間に怪人達に無理やり連れだされた男の人が無造作に転がされている光景が映り込んだ。

 

『はぁい、ご苦労様。連れてきてくれてありがとうねぇ』

『ひっ、怪人!!?』

『スマイリーって呼んでよォ。ずっといい暮らしをさせてあげたでしょう?』

 

 私たちを閉じ込めた怪人、スマイリーは生々しい着ぐるみの頭で男を見下ろす。

 

『欲しいものはあげたでしょ? 飢えることもなかったでしょ? 心休まる夜を過ごせたでしょ? ———なら、もう思い残すことはないよねぇ?

『ぁ、な、なんで……っひ、あ、ひゃ……はははひゃははひゃあはははは!!!』

 

 狂ったように男が笑い出す。

 その表情を恐怖に歪め、それでも無理やり笑顔を作った男にスマイリーは恍惚の笑みを漏らした。

 

『ああ、その希望が絶望に変わる笑顔!! 人間っていいなぁ人間っていいなぁ!! こんなに素敵に笑ってくれるんだから!! ここまで肥やした(・・・・)甲斐があったよ』

『あはっ、ははははは!!』

『人間が家畜を育てる理由がよく理解できたよ。あぁ、これは僕もニンマリ笑顔になっちゃう!!』

 

 スマイリーの言葉で、私たちはようやく自分たちが怪人の道楽で生かされていただけだと理解できた。

 深い意味なんてなかった。

 スマイリーは私たちを見て遊んでいたんだ。

 希望を抱かせて、絶望に叩き落すため。

 

『さぁて、ここから仕上げだ』

 

 スマイリーの手に赤いなにかが握られる。

 それは、他の怪人に取り押さえられた男に押し付けられる。

 

『我が主の()。喜びに笑い狂いながら、受け入れるんだよ』

『はははは! がっ、ああああははははは!!?』

 

 男の笑みの籠った悲鳴が響く。

 結晶は男の身体にめり込み、煙を吹き出し———その煙が晴れた瞬間には男の姿は人間ではなく、昆虫と甲殻類を混ぜ合わせたような醜悪な怪人へと変わり果ててしまった。

 

 

『み んな 笑顔が い ちば ん』

 

 

 それからは真綿で首を絞めるような地獄の毎日だった。

 一人、一人と怪人に無理やり変えられる順番を待つ日々。

 いつ自分が、隣で言葉を交わしてきた人間が怪人に変えられるか。

 

 独房での暮らしが充実していることが、逆に毒にすらなった。

 自棄になる人。

 いつ怪人になるか分からないストレスでおかしくなる人。

 耐え切れず命を絶ってしまう人。

 

 私も、もう限界だった。

 

 ついさっきまで話していた人が、起きたらいなくなって怪人に変えられて。

 私たちの“価値”を確認するかのように見回ってくるスマイリーの醜悪な笑顔を向けられて。

 誰の助けもこない生き地獄で、私はもう生きる気力すらも失いかけていた。

 

「……」

 

 そして、私の順番がやってきた。

 硬く閉ざされた扉が開け放たれたことで暗い独房に外の明かりが差し込む。

 怪人が無気力な私の両腕を引きずり、独房から連れ出し———スマイリーの前に差し出される。

 

「おやおやお前は大分前に捕まえた人間だねぇ」

「……」

「最初に捕まえた人間達は怪人なのに、君は幸運だ」

 

 スマイリーが頭を掴み無理やり私と視線を合わせる。

 目を合わせないように眼を瞑るが、私の頬をスマイリーが平手で殴り、無理やり視線を合わせられる。

 頬の痛みと、口の中に広がる血の味よりも、そのぎょろりとした大きな瞳ににらまれ、枯れたはずの喉から引きつった声が溢れ出る。

 

「ひっ……」

「うぅん、いい感じに恐怖が溜められたねぇ。あぁ、恐怖に歪められた笑顔は大好きなんだぁ。見える希望があるから、その希望に裏切られた人間の顔はすごくイイ!!」

「ぁ、あ……ぁ」

 

 もう駄目だ。

 耐えられない。

 ここで、私は人間じゃなくなるんだ。

 

「さあ、早く君の笑顔を見せてく―――」

 

 スマイリーが私に掌を向けようとした———その瞬間、背後で轟音が鳴り響いた。

 その音にスマイリーは一気に不機嫌になり、私の頭を乱暴に離した。

 

「なんなんだよ、こんな時に」

 

 続く轟音。

 何かを殴り、砕き、潰すような音が連続して響く。

 ここに閉じ込められてきて一度も聞くことのなかった異様な音に、この場にいる怪人も戸惑うそぶりを見せ始める。

 

「人間たちの襲撃かな? まあ、あの程度の奴らぼくだけでも―――」

 

 その時、なにかが闇から壁を破壊する音と共に吹っ飛んできた。

 地面に叩きつけられ、ぐしゃりと生々しい音を響かせたソレは全く勢いを衰えずに壁に激突する。

 

「……は?」

 

 それは怪人の死体。

 関節が逆向きに折れ曲がり、胴体が破裂し、壁に叩きつけられた衝撃で潰されたソレにこの場にいる誰もが目を疑った。

 

「な、なんだ? っ!」

 

 破壊された壁の奥———常闇からなにかがやってくる。

 左手には細身の剣、右手に既に息絶えた怪人の首を鷲掴みにして引きずった人型の誰かは、その複眼で私と怪人を無機質に睨みつけた。

 特撮の、仮面ライダーのような姿だ。

 怪人……じゃない、体格的に男の人……?。

 

「久しぶりだなぁ、スマイリー。会いたかったぜェ」

 

 底冷えするような声。

 怒りの感情をこれでもかと詰め込んだそれにスマイリーを含めたその場にいる怪人たちは気圧されたように後ずさりする。

 

「……は、はは。わざわざ僕の前に出るとはとんだマヌケがいたもんだね」

「……」

「お前が誰だか知らないけど、気分がいいところを台無しにされたんだ」

 

 スマイリーの力は人を無理やり笑顔にするもの。

 それを食らってしまえばどんな相手も成す術はない。

 咄嗟に声を上げようとするが、ここ数か月まともに声を発していなかったせいか、私の喉からはかすれた音しか出ない。

 

「心臓が止まるくらいに笑わせてぐちゃぐちゃに引き裂いてやる!!」

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) JAMMING(ジャミング)

 

 ……あれ? 発動しない?

 彼が腰から引き抜いたカードをベルトのようなものに入れたように見えたけれど……。

 

「ど、どういうこと? わたしの能力が、僕になにをした!?」

 

 狼狽するスマイリーの声を無視し、彼が一歩踏み出す。

 

「や、やれ! あいつを殺せ!! 殺すんだよぉ!!」

 

 それだけで大きく動揺した怪人が取り乱しながら彼へと襲い掛かった。

 三十を優に超える怪人が殺到する。

 その中には人間から怪人に変えられた人たちもおり、その絶望的な実力差に思わず目を背けてしまう。

 

『ガっ、アァァ!!?』

『ヒィィ!?』

 

「え」

 

 だけど、聞こえてきたのは怪人の怯えたような声だけ。

 もう一度彼がいる方を見ると、たったひとりで怪人の大群を圧倒している彼の姿が映り込んだ。

 

『ニ、ニンゲントハチガウゾ!!』

『ヤ、ヤメッ』

『ゲバッ!?!?』

 

 左手の剣で怪人の身体をバターのように切り裂き、右手で胴体を穿ち、鷲掴みにした頭を握りつぶす。

 あまりにも単純で、圧倒的な蹂躙。

 攻撃すら受けていないのに装甲が悲鳴を上げるようにヒビが入っていくが、それに構わず彼は怪人を圧倒していく。

 

「すごい……」

 

 信じられない光景だった。

 私たちにとって怪人は絶対だった。

 どうあっても倒せない不条理で、それを前にしたらもう諦めなくちゃならない。

 だけど、あの人はそんなことお構いなしに怪人という“絶対”を打ち砕いてしまっている。

 

「ヒラルダ、やるぞ」

 

 ベルトの側面から二枚のカードのようなものがひとりでに飛び出し、彼の前に浮遊する。

 それを掴み取った彼は剣を逆手に持ち怪人を切り裂きながら、柄のカードリーダーのような部分にカードをスライドさせた。

 

CLEAN(クリーン)

GRAVITY(グラビティ)

SLASH(スラッシュ) LEAD(リード)!!】

 

 状況にそぐわない軽快なメロディーが鳴り響き、逆手から持ち直した彼が剣を構える。

 そして、彼の持つ武器に赤色と桃色のエネルギーのようなものがあふれ出す。

 

That's right(これが星界)!!】

【二色! オーラ斬り!!】

 

 その音声が鳴り響くと、彼を取り囲んでいた怪人がまるで彼に引き寄せられるように引っ張られる。

 

「ふんっ!!」

 

 そのまま彼が円を描くように剣を横薙ぎに振るい、怪人の無防備な胴体を切り裂いた。

 怪人が連続で倒され言葉も出ないけれど、それ以上に彼に倒された元は人間だった怪人の姿に驚かされた。

 

「……嘘」

 

 彼の桃色の剣で切り裂かれた元は人間だった怪人は、まるで毒素を抜き出すように黒煙を放出させて元の人の姿に戻ったのだ。

 人間にも戻らずに黒煙と共に跡形もなく消え去ってしまっている人はいるけど、それでも怪人にされた人が元に戻されている光景は衝撃的だった。

 

「……手遅れな人は駄目か。クソ」

 

 なにかを小さく呟いた彼は、苛立つように舌打ちをする。

 ものの数分であれだけいた怪人を倒してしまった彼は、スマイリーと、傍に控える怪人達を睨みつける。

 

「ようやく、テメェらだ」

 

 睨まれたスマイリーは残りの配下の怪人へと喚き散らす。

 

「ッ、なにしてるんだい!! さっさと殺せ!!」

「デ、デスガ」

「よく見ろ!! ボロボロじゃないか!! 簡単に殺せるだろ!!」

 

 怪人が同時に襲い掛かった……までは見えていた。

 だけど、瞬きした時にはもうその二体の怪人の頭は消し飛んでいた。

 

「アピャ!?」

「ギビッ!?」

 

 頭部を失い地面に倒れ伏すと同時に、一緒に襲い掛かっていた怪人にさせられた人が元に戻される。

 残る怪人はスマイリー一体。

 そこに絶望的な戦力差はもうなくなっていた。

 

「ヒッ!?」

 

 彼は赤熱した右腕を軽く振りながら、こちらへ歩いてくる。

 そしてスマイリーと呆然とする私の間で止まると……なぜか私の顔を見て驚く、

 

「……ハル?」

「え?」

 

 今、私の名前を……?

 数秒ほどこちらを見た彼は、そのまま背中を向ける。

 

「もう、大丈夫だ。よく今日まで頑張ったな」

「……ぁ」

 

 彼から発せられた声はどこまでも優しくて、もうなにも感じないと思い込んでいた私の心を強く揺るがした。

 泣き出してしまう私を守るように彼は前に踏み出した。

 

「……」

「な、なんだお前は、俺はお前なんか知らない!!」

 

 上ずった悲鳴を漏らすスマイリーが、また掌を向けて能力を使おうとする。

 だけれど、奴の笑顔にする能力は彼どころか私たちにすらかかっていない。

 

『ヒッ、アアアアァァァアアアア!!?』

 

 スマイリーは背中を見せて逃げ出した。

 その姿はものすごく滑稽で、あんなにも私たちを恐怖のどん底に叩き落した面影はない。

 あまりにも無様な姿に呆気にとられたけど、次の瞬間にはとてつもない突風を発生させながら肉薄した彼の拳がスマイリーの胴体を打ち貫いたからだ。

 

「あ、が、い、嫌だ……ボクは、死にたく……」

 

 一瞬の静寂。

 スマイリーの命乞いともとれる呟きが口にされる。

 捕まえた人たちにした仕打ちを思い出し、頭に血が上りかけたけど……彼はそれ以上の怒気をスマイリーへと叩きつけた。

 

「笑えねぇ冗談は終わりか?」

「アッ」

 

 慈悲すら与えない彼に絶望の表情を浮かべたスマイリーは、貫かれた胴体を中心にして爆散した。

 肉片すら残らず粉々になって消滅した奴の最後を見届けている彼の身に纏う桃色の装甲がぱらぱらと地面に落ちていく。

 

「……悪いヒラルダ、やりすぎた。おい泣くなよ……本当に悪かったって。……うん……うん? アイスクリーム食べたい? いや、さすがに無理……分かった! 分かったから泣くな!!」

 

 どこかと連絡でもとっているのか、頭を押さえて何かを呟きながら彼はこちらを見る。

 

「捕まった人たちは無事か?」

「は、はい……」

 

 私以外にここには捕まった人たちと……彼が怪人から人間に戻してもらった人たちがいる。

 彼は周りを一通り見てから悩む素振りを見せる。

 

「……ひとまず、今できることをしておくか」

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) MIRAGE(ミラージュ)

 

 彼が腰から取り出したカードをベルトに差し込み、何かをする。

 彼の傍になにか4つのモザイクのようなものが現れると、それは人の形になって現れる。

 

「ぶ、分身……?」

「あー、気にするな。全部俺だ」

「どういうことなの……」

 

 ますます意味が分からないよっ!!

 さすがにそんなツッコミはできなかったけど、彼以外の4人はそれぞれが別のカードを取り出してまた使おうとする。

 

星界!!(セェェイカイ) CHANGE(チェンジ)!!』

 

RELIEF(リリーフ) BLUE(ブルー)!!』

RELIEF(リリーフ) YELLOW(イエロー)!!』

RELIEF(リリーフ) PINK(ピンク)!!』

RELIEF(リリーフ) GREEN(グリーン)!!』

 

 今度は戦隊ヒーロー!?

 青、黄、ピンク、緑の姿になった彼らは、どういうわけか身体を震わせながらポーズを取り始める。

 

「癒しの青き星雲!! リリーフブルー!!」

「星々の煌めき!! リリーフイエロー!!」

「清らかなる桃色エナジー!! リリーフピンク!!」

「豊穣万歳!! 緑の賢人!! リリーフグリーン!!」

 

「……お前ら何やってんの?」

 

 突然の奇行に彼は分身した自分にそんな声を投げかける。

 そんな声に分身たちはキレ気味に返事をする。

 

「「「「分身だから抗えねぇんだよ!!」」」」

「お、おう……」

 

 いったいなにが起ころうとしているの……?

 だけど、この人は怪人の仲間じゃないことは分かる。

 不思議な力を持っていても、彼は私たちを守ってくれたし、この安心感は気のせいじゃない。

 

「それじゃ頼むぞ」

「青い俺は皆を癒す」

「黄色い俺はシールドだな」

「ピンクの俺は怪人の浄化か」

「緑の俺は食いモンだな」

 

 それぞれが四つの色を持つ彼らが何か能力のようなものを発動した、その瞬間今日何度目か分からない信じられない光景が広がる。

 まず一つ起きた変化が彼が全滅させた怪人の死体が、粒子と共に消えていったこと。

 血で汚れた地面も、それどころか今いる場所そのものが綺麗に塗り替えられていく。

 

「空に、何かが」

 

 ふきぬけの頭上を黄色いなにかが覆っていく。

 まるで映画やアニメで見るシールドのようなそれは張り巡らされると、次に小さな地響きが起きる。

 なんだ、と思い周りを見れば地面のコンクリートを貫いて成長した植物がいくつも現れ、あっという間に青々とした果実を実らせていた。

 

「……傷も、なくなってる」

 

 気付けば、スマイリーに殴られた頬の傷が癒えている。

 口の中を切った不快な感触もなく、それどころか身体の怠さも完全に消えてしまっていた。

 

「一先ずこれで大丈夫か」

 

 分身を消した彼が周りを見て頷く。

 本当に奇跡のようなことが起こってしまった。

 

「あ、あの、ありがとうございます」

「いや、それより君の方は大丈、ッ……!」

「どうか、しましたか? っ、きゃ!?」

 

 いきなり抱えられてその場を移動させられた瞬間、空からなにかが落ちてくる。

 突然のことにびっくりしたけど、また怪人が……。

 

「貴女は……」

「やはり、これは君の仕業か」

 

 空からやってきたのは赤黒い鎧のようなものとボロ布を纏ったなにか。

 見た目もボロボロで左腕もない誰かは、怪人の青い血に濡れた剣を地面に突き刺しながらこちらを見る。

 

「まさか、戦うつもりですか?」

「いや、違う。もう君とは戦うつもりも理由もない」

「そう、ですか。良かった」

 

 彼が私を降ろして、構えを解く。

 もしかして、知り合いなんだろうか。

 

「第二コロニーから援軍にやってきた怪人は全て排除しておいた。しばらく襲撃はない……はずだが、このシールドを見る限りいらない世話だったか?」

「いえ、ありがとうございます」

「……。気にするな」

 

 怪人は来ない。

 その事実に安堵していると、赤黒い人の視線が私に向いていることに気づく。

 バイザー越しに向けられるそれにちょっと怯えながら彼の後ろに隠れる。

 

「その子は、まさか……」

「……ええ」

「生きて、いたんだな」

 

 どういうわけか、声を詰まらせる赤黒い人。

 だけど、すぐに視線を彼に戻すと、凛とした声を発する。

 

「一先ずここを離れるぞ」

「は? なぜ?」

()が来る。まだ関わるには早すぎる」

「貴女が来る? まさか、ここでも……っ、分かりました」

 

 彼がこちらを振り返る。

 話自体はあまりよく理解できなかったけれど、彼が行ってしまうことは理解できた。

 

「今から、お前たちの身の安全を守ってくれる奴らが来る。ここならしばらくは食料も水も確保できるはずだ」

「怪人は……」

「あのシールドは怪人だけを阻むものだ。だから、ここにいれば安全だ」

「……」

 

 私たちを守って欲しい。

 助けてほしい。

 そんな、思いがこみ上げるけどこんな地獄のような状況を救い出してくれただけで十分だ。

 この人たちにはやるべきことがあって、私たちは邪魔になってはいけないんだ。

 

「ハル」

 

 口を閉ざした私の肩に軽く手を置いた彼は、はっきりと私の名前を呼ぶ。

 

「怪人共は俺達がなんとかする。それまで諦めるな」

「はい……!!」

 

 強く頷いた彼は赤黒い人に目配せをし、その場を跳躍し吹き抜けの天井から姿を消す。

 残された私たちはその姿を見送ることしかできなかったけれど、正直今この時点でも夢のような出来事だと思えてしまう。

 

「なんで、私の名前を知っていたんだろう」

 

 もしかしたら怪人が現れる前に会ったことがあるのかな。

 しようと思えば聞けたけれど、なんとなく彼に聞こうとは思わなかった。

 

『生存者はいますか!!』

「っ」

 

 彼と赤黒い人が出て行ってすぐに私たちのいるこの場にまた誰かがやってくる。

 怪人ではない、大きな黒い人型のロボットのようなもの。

 

『生きている人がこんなに……』

『こんなことって、本当にあるんだ……』

 

 いきなり現れた大きな人型の機械に怯える私たちだけど、その機械から聞こえる人の声に訝し気な視線を向ける。

 もしかして、このロボットが彼がいっていた助けに来る人たち……?

 その中の一つ———青いペイントが施されたロボットの胸の部分が開いて、中から誰かが出てくる。

 

「ハル!」

「……お姉、ちゃん?」

 

 大きな機械から出てきた変なスーツを着たお姉ちゃんの姿に、呆然として、次に涙がこみあげてくる。

 お姉ちゃんも同じなのか、泣きながら勢いよく私に飛びついて地面に倒れてしまう。

 

「よかったッ……もう、死んじゃったのかと……」

「私も、そうだと……」

 

 もう死んでしまったと思っていた。

 私ももう死んでもいいと思っていた。

 だけど、あの人のおかげで私たちはまた再会することができた。

 だから、今度こそは諦めずに生きよう。

 彼に言われたとおりに、この絶望に満ちた世界でも希望があるのだから。

 




力はそこまでではないけど、応用性は群を抜いている桃騎士でした。

本来のルートでは怪人化したハルをブルーが倒してます。
そして、覚悟が決まりすぎているレッドとイエローが笑いながらスマイリーに特攻をかけて倒します()

今回の更新は以上となります。


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並行世界編 6

お待たせしてしまい申し訳ありません。

平行世界編 6
今回はレイマ視点でお送りします。


 第一コロニーの制圧。

 それは、崖っぷちに立たされていた人類にとって初めて怪人に打撃を与えたことだった。

 だが、それを成し遂げたのはレッド達ではなく、鎧に身を包んだ正体不明の戦士。

 彼女たちが命を捨てる覚悟で挑むはずだった怪人を圧倒的な力で蹂躙したその存在は、新たに現れた何者かと共にどこかへ消えてしまった。

 

「……信じられん、状況だ」

 

 アジトから第一コロニーだった怪人の巣へやってきた私は、この作り変えられた場所を調査して震えた声を漏らした。

 共に調査しているスタッフ達も私と同じ心境なのか、困惑した様子だ。

 

「怪人による汚染も検知されず、それどころかこの空間は一切の穢れのない。信じられません、まるでこの場所だけ創り直されたってくらいにクリーンな場所です」

「実っている植物も見た目こそはトマトや我々にとって見慣れたものですが、その栄養価は既存のものを大きく上回っています……。しかも、摘み取った傍から次が実り始めている……」

「この空間だけファンタジーみたいなもんですよ。科学的観点から見てもお手上げすぎます」

 

 全てが異常事態。

 怪人の巣窟であり、汚染されたコロニーが今や食料、水、住処が完備された一級のアジトへと早変わりだ。

 なんだこれは、この空間だけ奇跡が起こったとでもいうのか?

 これまで、怪人に囚われてきた人々は既に解放され、久方ぶりの自由を噛み締めているが、その様子もある意味で異様だ。

 

「……囚われていた人間たちの様子は?」

「バイタル、怪人から受けた精神汚染の影響もありません。健康そのものです」

「怪人にされた人々のメンタルケアは?」

「怪人にされている間の記憶はなかったらしいです。しかし、怪人化されて時間が過ぎてしまった人々は……戻らずに消失してしまったようです」

 

 ……手遅れだった人間以外を救ってみせたか。

 だが、怪人化という手遅れな状態から元の人間に戻すという力技を行ったのだ。元に戻れなかった人々はもう人間だった部分がなくなってしまっていた……からなのだろう。

 

「司令、彼の力はエナジーコアに由来するものなのでしょうか?」

「……それに近いものがあることは分かっているが、それ以外は不明だ」

 

 謎の戦士、レッドの呟きを借りるならば黒騎士と呼ばれる存在からはエナジーコアと同一のエネルギー反応が出た。

 だがそれだけではなく、別の異なる反応も出たことから、さらに分からなくなった。

 

「あの力の根源はなんなんだ……?」

 

 怪人に汚染された環境の浄化。

 衰弱、傷ついた捕らわれた人々の手当て。

 とんでもない栄養価の果実を実らせる力。

 怪人のみを阻むシールド。

 ……一つ一つの能力だけでとんでもないものだ。

 

「……」

 

 目撃者によると彼は怪人と敵対していた。

 怪人に虐げられ、異形に変えられた人間を見て激怒し、その溢れださん怒りのままに怪人を蹂躙してみせた。

 なにより彼はここに囚われた人々のためにこの環境を作った。

 

「そして、もう一体」

 

 第一コロニー内で彼が怪人共を蹂躙している一方で、襲撃されたことを察知した第二コロニーが送り込んだ怪人の群れを排除した別の存在がいる。

 赤黒い鎧に身を包んだ女性。

 左腕がなく、鉄塊のような剣と技量のみで怪人を切り裂いたその存在もまた、怪人に仇なす存在とみてもいいかもしれない。

 

「信じて、いいのか?」

 

 ここまで怪人と敵対しているのならば信じていい、と考えてしまうかもしれないが、私の中ではある一つの予測が浮かんでいた。

 それは、彼らは宇宙を統べる侵略者が差し向けた者達という可能性だ。

 この星のアルファを確保するために怪人を掃討しているのか、はたまた人間というサンプルを得るために動いているということだってありえてしまう。

 

「私だけでも疑っておかなければ……」

 

 もう私には戦える力はない。

 五体は砕け、今では車椅子なしで満足に動けないほどに壊されつくしている。

 

「……拠点を移すなら、諸々の設備も移送するべきだな」

 

 封印しているアレも持ってこなければ。

 本来ならば我々の福音になるはずだったものだが、今では使用者を死に至らせる危険物だ。だが、それがもし怪人の手に渡りでもすれば、どうなるか予想もつかない。

 だからこそ、アレは私の管理下に置いておかなければならない。

 

「司令、どこに向かわれるのですか?」

「彼女たちの様子を確認してくる。戦いを行わなかったとはいえ、事態が事態だからな」

「それならお連れしますよ」

 

 車いすを進めようとすると、一人のスタッフが後ろから押してくれる。

 見上げると、そこには怪人出現以前から私の部下であった女性がいた。

 

「いつもすまないな。大森くん」

「それは言わない約束でしょう。貴方の頭脳が皆の頼りな上に、身体ボロボロのぼろ雑巾なんですから周りを頼ってください」

「そこまで言わなくてもよくないか……?」

 

 事実だが、そこまで言うのは酷いと思うぞ大森君。

 と、ここで通信が入ってきたので、かろうじて動く右腕で通信を行う。

 

『もしもし、こちらレジスタンス本部です。光です』

「むっ、どうした? そちらでなにか不備があったか?」

 

 レジスタンス構成員の照橋(てるはし)(ひかる)

 怪人災害の生き残りであり、レッド達の後方支援を行う構成員の一人からの通信に耳を傾ける。

 

『いえ、確認なのですが、そちらに本部を移すということで全ての機材及び物資を運ぶということでよろしいですか?』

「……まだ確定はしていないが食料などはまだ運ばなくてもいいかもしれん」

 

 ここに実る食料はかなりの栄養価に加えて、すさまじい生産力を誇っている可能性がある。

 それこそ乾パンや缶詰などより比較にならないほどに多く、それでいて味も上だ。

 ならば、道中の怪人たちに襲撃されるリスクを軽減する方を優先させるべきだ。

 

「詳しいリストはデータで送る。君たちはアジトの解体を頼む」

『了解です。……あ、それと……』

「む? どうした?」

『あの、アジトの奥にある“扉”の奥のものはどうするんですか? 中になにがあるかは分かりませんけど』

「……」

 

 “アレ”か。

 レジスタンスの隠れ家、アジトともいっていい場所の地下には開かずの扉が存在する。

 そこにはかつて私の身体を破壊したコアが封印されている。

 戦力に利用することもできず、かといって怪人に奪われる事態を防ぐために封印という手段をとったが……アレを放置してアジトを移すという判断には至れん。

 

「近いうちにアレはこちらに移動させる」

『……。中にはなにが?』

「極秘だ。知らない方がいい。あの扉の奥にあるのは危険極まりない“力”だからな」

 

 これまで働いてきたとはいえ、あのコアのことは誰にも教えるつもりはない。

 扉の奥でさえも幾重にも重ねたコンテナを溶接し、外に持ち出せないようにしているくらいに徹底している。

 そもそもそんなことをしなくともあのコアはあらゆる存在を拒絶しているようなものだがな……。

 

「運び出す際にはこの私自身と、護衛となる人員を用意する。それまでそちらで頼むぞ」

『……はい。了解しましたー!!』

 

 威勢のいい返事に頷き通信を切る。

 

「司令、あれは……廃棄したほうがいいのでは?」

プロトゼロ(・・・・・)は必要だ」

 

 最初に作り出されたスーツ。

 地球人のために作ったはずが、あらゆる存在を拒絶し死に至らせる恐ろしいスーツ。

 それがプロトゼロ。

 

「ですが、それが貴方をこんな身体にしたんですよ?」

「無理やり装着した私の自業自得だ」

 

 覚悟して行動した結果なので後悔自体はしていない。

 ……エナジーコアには意思が存在する。

 プロトゼロスーツを装着した時、エナジーコアから伝わってきた思念は怒り、憎悪、行き場のない悲しみだった。

 

「……クモ怪人との戦闘後は、プロトゼロは繭のような物質を形成し、スーツごと閉じこもってしまった。それだけ、我々に失望していたということだろう」

「あれは閉じこもるなんてかわいいものじゃないですよ」

 

 溜息と共に後ろから車椅子を押す大森君が片手で端末を操作し、私に見えせてくる。

 映し出された映像はクモ怪人を討伐した直後の映像であり、エナジーコアがプロトスーツごと変容(・・)したものだ。

 その姿はまるで繭。

 プロトスーツを構成する物質を繊維のように分解・再構築した繭は、悪意、害意、それと私が近づこうとすれば―――、

 

『————ッ!!』

 

 迎撃行動を行う。

 少女を思わせる叫び声と共に繭から溢れだした銀糸が幾重もの刃を作り出し、コアにとっての敵対者を切り刻む。

 その迎撃の速さはパワードスーツで底上げされたはずの反応速度すらも容易く上回るほどだ。

 

「脅威値測定不能(・・・・)。怪人以上に危険なものを抱え込んでどうするんですか」

「……分かっている。分かっているのだが……」

 

 保管しておくには確かにデメリットしかない。

 だが、それでも私はプロトゼロスーツを放棄する選択をとれなかった。

 理由はない。

 だが、漠然としたなにかが私をそうさせなかったのだ。

 

「……ここです」

「感謝する」

 

 そこまで会話してレッド達が休息をとっているという部屋に到着する。

 扉越しから、明るい声が聞こえてくる。

 その声に少しばかり安堵しながら、大森君にノックをしてもらい返事をもらってから、中に進む。

 

「私だ」

 

 レッド、ブルー、イエロー……そして、ブルー、日向葵の妹である日向晴。

 最も近くで彼の戦いを目撃した少女は、コアラのようにしがみつくブルーにされるがままにされている。

 ……気持ちは一応分かるが、なにをやっているんだこいつは。

 呆れる私に、椅子に腰かけていたレッドとイエローが苦笑交じりに声を発する。

 

「死んだと思っていた家族が生きてたらこうなりますよ」

「まあ、仕方ありません」

「だからといってなぁ……」

 

 なんでこいつスライムみたいに軟体動物化しているんだ。

 いや、分かっている。

 死んでいたと思っていた妹に再会できたことは確かに喜ばしいことだ。

 ブルーにとってはまさしく奇跡のような出来事に違いない。

 

「日向晴、日向君と呼ばせてもらってもいいかな?」

「は、はい。……ちょっとお姉ちゃん、いい加減離れて」

「むぐぇぅ」

 

 日向君に押しのけられるブルー。

 さすがに話ができないと思ったのかレッドとイエローにようやく引き剥がさせてもらった彼女は、椅子に座り直しながら私と向き直る。

 しかし、私を見ても怖くないのだろうか?

 見た目、完全に包帯グルグル巻きの不審者なのだが。

 

「私の見た目を怖がったりしないのか?」

「怪人に囲まれて生活していましたから……」

「すまない。配慮が足りていなかった」

 

 怪人に囚われていた間の出来事については事前に報告で目を通していた。

 まさしく腸が煮えくり返るほどの悪辣な所業。

 そして何より反吐が出たのが、スマイリーの所業に意味なんてなかったことだ。

 人間を怪人にするための下準備としての行動でなく、奴は自身の歪んだ欲求を満たすために数か月にも及んであのような所業を繰り返していたのだ。

 そもそも、人間を怪人にするだけならばコロニー内で採取した―――怪人オメガの細胞の一部と思われるものを人体に埋め込むだけで済むはずだった。

 

「……だが、その遊びで生存者が多かったのは、なんともいえんな……」

 

 スマイリーが遊んでいたからこそ不用意に怪人が増えることもなかった。

 小声で呟きながら、思考を切り替え日向君へと意識を向ける。

 

「君は唯一近くで“彼”を見た人間だ。何度も話したと思うが、質問をさせてもらってもいいだろうか?」

 

 彼女からは既にスタッフに話を聞かせているし、報告書も呼んだ。

 だが、一度実際に話を聞いてみたいと思った。

 

「分かり、ました」

「感謝する」

 

 戸惑いながらも頷いてくれた彼女に礼を言い、早速質問を投げかける。

 

「まずは……形式上、“彼”と呼んでいるが性別的にはどうなんだ?」

「声は男性でした。多分、若い人だと思います」

「ふむ」

 

 ボイスチェンジャーなどで声を変えている可能性もあるが、体つきからして男の可能性が高いな。

 

「ハルちゃん、私からもいい?」

「おい、レッド。まだ私が……」

「いいじゃないですか。私たちも聞こうと思ってたところですし」

「……はぁ、仕方ない」

 

 前線で戦うレッドとイエローは私以上に気になっているはずだからな。

 むしろ違う視点からの質問が見れるだろうから、別にいいか。

 

「黒騎士……あ、私は印象で彼のことをこう呼んでいるんだけど、彼はどんな戦い方をしていたの?」

「私もよく目で追えませんでしたけど……剣とかカードを使って能力を使っていたりして、特撮みたいにかっこよくて、本当にヒーローみたいでした」

 

 ドローンの映像で確認したが、能力が内包された特殊なカードを用いて戦うタイプ、というのが分析した結果だ。

 だが、それと同時にもう一つ恐ろしい可能性があったのが———、

 

「でも、あの人はどれだけ怪人が襲ってきても、圧倒できるくらいの暴力を持っている人だと、思います」

「暴力?」

「怪人にとってはそれくらい理不尽な存在だったんです」

 

 ———能力を使わなくともただの拳で怪人を屠っていたことだ。

 いや、むしろ私の分析では剣以上に手慣れているようにも見えた。

 ……日向君のいう通り、黒騎士は怪人相手に暴力で圧倒できるほどに強い存在。

 

「でもスーツとかボロボロだったけど、あれはどうなの?」

「彼は一度も、怪人の攻撃を食らってなかったと思います。少なくとも、私が見ていた間は」

「え、それじゃあなんで……」

「スーツのアーマーが超過駆動に耐えられず自壊したと、みるべきだな」

 

 元は黒騎士ではなく桃色の装甲を全身に纏った戦士だったのだろう。

 仮に、あれがエナジーコアを用いたスーツと仮定したとして……あのパクリ野郎の作品ではないだろう。

 粗悪品のスーツとは違い、完成度が高すぎる。

 パッと見、私の作ったスーツと遜色のない性能をしている……はずなのだが、装着者の挙動に耐え切れずアーマーが崩れ落ちている。

 挙句の果てに、振るった拳がオーバーヒートしているなんてバカげている。

 

「……人間なの?」

「人間です」

 

 やや困惑と疑いの呟きをしたレッドに日向君がそう返す。

 

「もし人間じゃなくても彼は私たちの味方だと、思います」

「ハル……」

 

 ……実際に彼を目にした彼女がこれを言うか。

 洗脳、ではないだろうな。

 悪い方で考えるのなら危機的状況を救ってもらったことで判断能力が鈍っている可能性があることくらいか……。

 もっと深く踏み込んでみるべきか。

 

「君の感覚でいい。彼からは人間味、もしくは感情のようなものが感じられたか?」

「はい。感じました」

 

 即答、か。

 やや食い気味に彼女は頷く。

 

「あの人はすごく怒ってました」

「怪人に?」

「はい。あの怪人が恐怖で震えあがるくらいに怒っていて、だけどなんて言うんでしょう……同じ空間にいた私は、全然怖くなかったんです」

 

 続きを促すと、彼女は手元を見つめながらその時の状況を思い出すように言葉を発していく。

 

「むしろ安心して、さっきまでの怖さも全然感じなくなって……出てきたときは、怪人の首根っこを引きずってきてもうホラーも真っ青な感じでしたけどね……」

 

 すごい光景そうだな……。

 そんな登場で怖さを感じさせなかったとは。

 恐らく、これまで自分を虐げてきた怪人を倒す存在が現れたことで、恐怖ではなく安堵感が勝ったと見るべきか。

 

「それに、あの人は怪人にされた人を戻せなかったことにも怒ってました。それだけじゃなくて、戦いの最中なのに悲しんでくれて……」

「……」

「だから、私はあの人が悪い存在だなんて思えないんです」

 

 彼が良き存在であってほしい。

 私もそう信じたい。

 レッド達は、どこか困惑しているような、現実味を帯びないような顔をして反応に困っている。

 無理もない。

 彼女たちは自分たちの他に怪人と戦える存在がいないと考え、戦ってきたのだ。それがこうも衝撃的なことが起これば困惑するのもしょうがない。

 

「あとは……」

 

 む? なにかを口にしようとした日向君が、閉口する。

 言い淀む彼女を心配したのか、ブルーが声をかける。

 

「ハル?」

「……ううん、なんでもない。私からは以上です」

「なにか気になることでもあったのか?」

 

 私の問いに彼女は首を横に振る。

 ……無理に聞き出すべきではないし、もう少ししてから尋ねてみるか。

 

「うむ、では次の話だ」

「なにか任務ですか?」

「察しがいいな。なに、任務といっても戦闘が関わるものではない。強いて言うなら護衛任務だ」

 

 拠点をこちらに完全に移すべく、旧拠点の物資をこちらに運び出すこと。

 そのためにレッド達の誰か一人をこちらの護衛に任せることにした。

 

「怪人が新拠点を襲撃する可能性も考え、ここには二人残す。一人が物資を運び出す際の護衛を担当することになる」

「じゃあ、私が行く」

「え、いいのアオイ?」

「今の私はやる気に満ちている」

 

 むんっ、と意気込んだブルーは数日前と比べて生気に満ちている。

 陰鬱な気配もなく、まさしくこの日常に希望を見いだしたようだ。

 

「運び出す際は私も同行することになっている」

「……え、なんで司令も?」

「私が立ち会わなければならないものもあるからな。足手纏いになるつもりはないさ」

 

 私以外の人員がプロトゼロを扱うのは危険すぎるからな。

 溶接したコンテナごと運び出す予定とはいえ、不測の事態がないとは限らん。

 ……一応、怪人共の動きが鈍っているという状況を踏まえて、何事もなく終わってくれればいいが……。




完全に人間を拒絶するようになったプロトでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 7

二日目、二話目の更新です。

平行世界編 7です。

今回はレックスさん視点でお送りします。


 私は星将序列10位、RED“X”(レックス)として黒騎士と戦い、敗北した。

 私はこの世界に必要のない異物だと、なにもする必要がない……と、それが分かれば死んでも構わないとすら考えていた。

 後悔に苛まれ続ける人生を終わらせて、死にたい。

 アオイやキララたちのいるところには多分行けないだろうけど、それでも死をまき散らすような真似をしていた私はいなくなったほうがよかったと、そう思っていた。

 

 だが、彼は私の意志とはお構いなしにこちらに歩み寄った。

 

 まさかあの少年が穂村克己本人だった事実に意表を突かれたが、それ以上に手を差し伸べられて安堵してしまった自分がいたことに驚いた。

 

 その手をとってしまおう。

 そんな甘い誘惑が私の脳裏をよぎったその時、私たちは渦に呑み込まれ意識を失った。

 

 次に目を覚ました時、そこは二度と見るはずがない景色がそこにあった。

 瓦礫が散乱し、破壊されつくした街。

 人どころか生物の気配すらも感じられないその場所に刻み付けられた破壊痕を、怪人によるものだと見間違うはずがなかった。

 第二位の仕業だ。

 私を別の世界に強引に移動させた奴が、また同じことを繰り返したのだ。

 

 それからの私の行動は早かった。

 まずは黒騎士に破壊された装備を最低限戦える状態にまで修理し、この世界に共に飛ばされたであろう穂村克己を探すこと。

 飛ばされる最中、彼の変身に用いるアイテムが取り残されたのを目撃していたので、一刻も早く彼と合流しその安否を確かめるべきだと判断したからだ。

 

 だが、こちらから探す必要もなく彼は見つかった。

 第一コロニー。

 忌々しいあの笑顔の怪人の根城で、彼は怪人を相手に蹂躙していたのだ。

 

『……』

 

 私たちにとっての悪夢の一つ。

 その場所に彼が、まるで当たり前のようにそこにいたことに。

 私の中の悪夢を、救うことのできなかった命を救っているその光景に声を発することができなかった。

 

『……私も、やるべきことを』

 

 第一コロニーの天蓋の上から、第二コロニーからやってくる怪人の群れを確認する。

 恐らく、第一コロニーの危機を知って、救援……いや、略奪しにきたのだろう。

 彼の邪魔をさせるわけにはいかない。

 私は大振りの剣を担ぎ、こちらに迫る怪人共を掃討しに向かうのだった。

 


 

「———ここまでが私が君と再会するに至った経緯だ」

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 穂村克己———カツミと合流した後、彼とヒラルダが寝床としている廃墟にいた。

 外の光も僅かに差し込まず、道具の明かりで照らされた部屋の中で、用意された椅子に腰かけた私の前で、彼は頷いた。

 

「身体は大丈夫ですか?」

「見てくれはボロボロだが、ほぼ無傷だ。左腕は……まあ、元々ないしな」

 

 世界を超える以前に私の腕は怪人にくれてやった。

 今は義手の換えも調達できないし、当分は片腕で戦闘しなくてはいけない。

 

「……すみません」

「謝るな。むしろ私からふっかけた戦いだ。満足こそすれど君を責めるつもりはない」

 

 本当に律義な子だ。

 戦っている姿はあんなに凶暴で荒々しいのに。

 だが、この礼儀正しい面も含めてこの子なのだろう。

 

「それでなんだが……」

「はい?」

「ヒラルダは、いったいどうしたんだ?」

「……」

 

 視線をソファーに向けると、カツミが気まずそうに頬を掻く。

 ソファーには身体から五色の光を放っているヒラルダが横になっており、その表情はどこか赤らんで熱っぽい。

 

「変身を解くとこうなってしまって……多分、俺のせいです」

「なにかしたのか?」

「ちょっと本気で動きすぎてこいつにかなりの負担をかけてしまいました」

「強化スーツが生身の人間の動きでこうなるってどういうことなんだ……?」

 

 少なくともここに吸い込まれる前はこいつは自分のベルトで変身する奴だったはずだ。

 それがどうしてこの短時間で、ベルトとして協力し合う関係になったのか。

 

「ふふふ、かつみくんのせいじゃないよ」

 

 と、ここでソファーのヒラルダがぼんやりと目を開け、虚空を見つめながらどこか熱っぽい声を発した。

 その声色ははっきりとしたものじゃなくて、どこかふにゃふにゃである。

 

「わたしがあなたの力に追いつけなかっただけ、だいじょーぶ、次はもっとうまくやるか……っ、かか……!」

「ん? ヒラルダ?」

 

 不意にバグったように震えだしたヒラルダが、バッと上半身を起こす。

 

「———っぶなぁぁ!!? あ、危うく心が尻尾ふるところだった……!!」

「い、いきなりどうした……?」

「カツミ君ッ!!」

 

 未だに顔色は赤いが意識はちゃんと戻ったヒラルダは勢いよくカツミを見て、その肩を掴む。

 

「今すぐ私を口汚く罵りなさい!!」

「はぁ?」

 

 いきなりなにを言っているんだこいつ。

 当然、カツミも呆気にとられた顔をしている。

 

「使えないバカスーツ、とかアホとかマヌケとか……! とにかく私がつけあがらないように口汚く罵りなさい!!」

「バカ言ってねぇで休め」

 

 付き合ってられないとばかりにヒラルダの肩を掴んで押し返し、そのままソファーに横にさせた彼は部屋に置かれていた毛布を彼女にかける。

 

「罵るわけねぇだろ。お前がこうなったのは俺のせいだ」

「で、でも敵同士だし」

「今は味方だと思ってる。少なくともこの世界ではな」

 

 そして、手慣れた手つきで濡らした布巾を額に乗せた。

 「つめたっ」と反応するヒラルダを見て、少し微笑んだ彼は近くの椅子に腰を下ろす。

 

「またお前を頼ることになる」

「……どうせ、私は変身する道具の代わりでしょ」

「———嘗めんなよ。俺はプロトもシロも、お前も変身するための道具だなんて思ったことねぇわ」

「……」

「お前が必要だ。ヒラルダ」

 

 傍目で見ているとドラマのワンシーンを見せられている気分になる。

 ドラマなんて百年近く見てないが。

 

「弱って後ろ向きなことを考えてる暇があったらしっかり寝てろ」

「……うん」

 

 そこで、大人しくなったヒラルダが口元まで毛布を被る。

 よほど疲労していたのかすぐに微かな寝息を立て始めたことを確認すると、彼は私へと向き直る。

 彼の真剣な眼差しを見て、なにを聞きたいのかを察した私は覚悟を決める。

 

「まずは、貴女のことを聞いてもいいですか?」

「……ああ」

 

 話さなくてはならない、だろうな。

 いや、隠すほうが今の状況的に駄目だ。

 この世界が私のいた世界と限りなく近い運命を辿るならば、私のことは彼に話さなければならない。

 

「私は、君のいた世界と異なる宇宙のアラサカ・アカネだ」

 

 語る、私のいた宇宙のことを。

 怪人が現れてから、地球が辿った運命のことを。

 私の宇宙には穂村克己が装着する黒騎士はいなかったことを。

 大雑把に要所だけの説明を聞いた彼は、考えを纏めるように腕を組みながら唸る。

 

「……なんて言葉をかけていいか」

「必要ない。むしろ困ってしまうからな」

 

 同情されるために言ったわけじゃなく、これからの話に必要だからいったようなものだ。

 だから、そんな顔はしないでほしい。

 

「あとは、私のことはレックスと呼んで欲しい」

「?」

「ここにもアカネがいるという理由もあるが……今更、元の名前で呼ばれるのに慣れてないからな」

「……分かりました」

 

 正直、アカネと呼ばれる度に心が揺らされるような気持ちになってしまう。

 心臓に悪いし、なにより私はRED“X”(悪人)でいた時間が長すぎた。

 

「私のことはもう終わったことなんだ。今、重要なのはこの世界の地球のことだ」

「ここは貴女のいた地球の過去、という可能性はないんですか?」

「どちらでも変わらないよ。少なくともこの世界で運命が変わったとしても、今の私には繋がっていない」

「……そういうこと、ですか」

 

 仮に私のいた地球の過去の時代だとしても、この場に私たちがいる時点で既に別の世界になってしまっているようなものだ。

 詳しい理論はよく理解していないが、こういうのを分岐とでも言うのだろう。

 

「重要なのは今日この日、君が第一コロニーを制圧したということだ」

「……やっぱりまずかったですか?」

「いや、むしろいい。よすぎるくらいだ」

 

 私たちが辿った本来の歴史よりはずっといい。

 

「本来は今日、第一コロニーを攻めるはずだったのはこの世界の私たちだったんだよ」

「……アカネ達ですか」

「ああ、不完全なスーツで戦う無謀者だよ。本来は多少(・・)の犠牲を出しながらも第一コロニーは制圧できた」

「……」

 

 多少、という単語に気づいて彼が顔を顰める。

 ああ、君が想像している通りだ。

 人質の半数は怪人に殺され、怪人化された人間も全員助けることもできなかった。

 そして———、

 

『おネェ、ちャん』

『は、る……いやだよ、そんな……ようやく会えたのに……』

『シ……な……せテ』

 

 怪人にされたあの子を自らの手で楽にさせて、アオイが心を閉ざした。

 そして、怪人の復讐にかられたアオイは怒りに任せて第二コロニーから横やりをいれてきた怪人達を殺しつくした。

 結果だけを言うならスマイリー、と呼ばれる第一コロニーの首領怪人を始末し、その後第二コロニーから押し寄せてきた怪人達も撃退することができた。

 勿論、その代償もあった。

 

「この世界の私たちは、戦わせるべきじゃない」

「……それは、どういう意味でですか?」

「この世界のカネザキ・レイマの開発した対怪人兵器は不完全なものだ。単純な出力こそは君の世界のスーツと遜色はないが、セーフティを外せば危険な状態になる」

「危険な状態?」

「装着者の生命力と引き換えに絶大な力を得ることだ」

 

 本来のスーツ……カツミの世界におけるジャスティススーツはエナジーコアを原動力としたスーツと人間を一体化させた奇跡。

 だが、この世界で作られた未完成のソレは、スーツそのものを外付けのパワードスーツに無理やり作り変え運用する不完全極まりないものだ。

 不安定且つ、セーフティそのものが緩い。

 いくらカネザキ・レイマが制限をかけていたとしても装着者本人が限界以上の力を引き出してしまう。

 

「つまり俺たちがこの世界の怪人を始末すればいいってことですか」

「……いいのか? 君は元の世界に帰りたいんじゃ……」

 

 少しも悩むそぶりもなくそんな結論を口にする彼に呆気にとられる。

 まだこの世界の私たちを戦わせたくないと話したばかりなのに……。

 

「元の世界に戻る手段がそもそも分かりませんし、なにより俺をこの世界に寄越したっつーことは、怪人と戦わせようとしているようなもんでしょう?」

「それは……そうだが」

「なら、戦いますよ。なにより―――」

 

 椅子に座った彼が自身の掌に視線を落とす。

 

「別世界でもアカネ達を見捨てるほど、俺は人でなしでないつもりです」

「……ありがとう」

 

 君が私の世界にもいてくれたら。

 そんな頭の中によぎった思考に苦笑する。

 

「それじゃあ、今後の話をしたいと思うが構わないか?」

「ええ、俺もその話がしたいと思っていました」

 

 今後、我々がどのように動くべきか。

 それを話し合う上でまずはこの先、なにが起こるかという説明をしなければならない。

 

「まず前提の話をする」

「はい」

「あと十日以内に地球は滅亡する

「……んん!?」

 

 気持ちは分かる。

 だが、冗談でもなんでもない。

 もちろんこの世界が私の知る世界ならば、という前提が入いるが。

 

「第三コロニーを守る怪人“電蝕王”をオメガが取り込み、全ての準備を終え―――日本列島は奴らを宇宙へ運ぶ箱舟と化し、地球から引きはがされる」

「……いや待て、電蝕王云々は知りませんが、日本を打ち上げようとしたことには心当たりがあります……。つーか、奴ら本当に地球を打ち上げるつもりだったのかよ……」

 

 どうやら、心当たりはあるようだ。

 それを阻止しているあたり流石だが、まずはこちらの説明を優先させよう。

 

「電蝕王は電力を食らう怪人。日本のみならず地球全土の電力を食い尽くし、人類から電力という文明の一つを奪った危険な存在だ」

「しかもナメクジ怪人もいんのかよ……」

 

 ナメクジ? あれってナマコだと思ったんだが……。

 まあ、電力の蓄え過ぎで肥大化しているし色はナマコでも実際はナメクジだったかもしれないな。

 

「打ち上げられた日本列島の先にいたのは、怪人とは別勢力の艦隊。それらとオメガが生み出した怪人の戦いが始まり……地球はあっさりと終わりを迎えてしまった」

「そして、貴女の話になると……」

 

 彼の言葉に頷く。

 かなり大雑把な説明だったが彼ならすぐに理解できただろう。

 

「残り十日あまりで世界が滅亡してしまうが、逆を言えば十日の猶予があるということだ」

「それまでにオメガを始末すればいいってことだな」

「ああ。だが、それまでに段階を踏まえてやることがある」

 

 正直、今の状態でオメガとやるのは危険だ。

 彼が変身するために必要なヒラルダは、一度の戦闘でああなってしまうし、なにより私自身が装備不足で十分な力が発揮できていない。

 

「まずは第二コロニーを支配するマグマ怪人と、もう一体の怪人の討伐」

「ナメクジに続いてまたあいつかよ……」

 

 彼は辟易した様子だが、私にとっては摩耗した今でも色濃く記憶に残っている恐ろしい怪人だ。

 あいつを倒すために……。

 

「第三コロニーを襲撃する上で奴の存在は非常に危険だ。そもそも、こちらから襲撃する以前に奴は奪い取った第一コロニーに乗り込んでくる。まずはそこで奴を倒さなければならないんだ」

「……」

「どうした? なにか気に障ったことでもあったか?」

「……。犠牲はどれくらい出たんですか?」

「っ」

 

 僅かに表情が歪んだのを見られたのか、低い声色でそう尋ねてきたか彼に言葉が詰まる。

 

「この一件でレジスタンスの八割が死んだ。そしてキララも……」

「……」

「奴を倒すために、臨界にまでスーツを稼働させて……自爆したんだ」

 

 今でも脳裏に刻み着いている。

 どれだけ攻撃しても倒せないマグマ怪人を相手に私とキララは劣勢に立たされて……。

 

『アカネ、私はここで終わるけど。後は任せたよ』

 

 彼女は自分の身を捨ててマグマ怪人と共に消滅した。

 死体もなにも残らない。一つの都市が丸ごと消え去るほどのソレを前に、私はなにもできなかった。

 

「それじゃあ、きららがそんな選択をする前に倒せばいいってことですね」

「……ああ、ああ、その通りだ」

 

 だが、今は違う。

 そんな結末にさせないために私たちは行動するんだ。

 

「君は、マグマ怪人に勝てるか?」

「正直な話、今アース……マグマ怪人の相手をするのは難しいです」

「君でもか?」

「倒せます……が、単純に相性が悪い。一応能力は封じられるが、決め手が限られています。無理やり力を引き出せば倒せますが……確実にヒラルダが今より酷いことになる」

「……今より?」

 

 なんかもう常に興奮状態みたいなヒラルダがこれ以上酷くなるとか恐ろしいんだが。

 だが、倒せないわけ……ではないのか。

 

「君の世界では、どうやって倒したんだ?」

「一度目は自衛隊の方々の力を借りてなんとか海に叩き込んで、二度目で核を抉り取って引導を渡しました」

 

 そっちもそっちで壮絶だな……。

 

「レックスさん。プロト“ゼロ”スーツはこの世界に存在していますか?」

「……カネザキ・レイマが装着したアレか。恐らく、あるはずだ。一応、心当たりもある」

 

 レジスタンス本部の地下にあった扉。

 司令は扉の奥にあるものを教えてはくれなかったが、大体の見当はついていた。

 プロトゼロスーツ。

 司令の身体をボロボロにさせた悪魔のスーツであり、カツミが最初に装着したスーツでもある。

 

「なら、まずは彼女に会いに行きましょう」

「彼女……? いや、今は無理だ」

「? なぜですか? 第一コロニーの件もありますし、俺たちが味方だと言えばレイマも受け入れてくれると思いますが……」

 

 彼の考えは間違っていない。

 あれだけの奇跡を見せたならいくら疑い深くなっている司令でも受け入れただろう。

 だが、そういう問題じゃない。

 

「今、レジスタンスに入れば確実に殺される。それが分かっていたんだ」

「……まさか、もう入り込まれて(・・・・・・)いるんですか?」

「ああ」

 

 気づけなかった私たちが間抜けだったのだろう。

 最初から怪人にとって私たちはいつでも殺せた存在で、遊び相手でしかなかったということだ。

 

「レジスタンスに入り込んでいる怪人は頭のいいやつだった。人間のように振る舞い、誰もが信用しきったところでその本性を露わにし、最悪の事態を引き起こした」

 

 人間に化け、難民を装いレジスタンスに入り、人間以上の人間らしさで友好を築く。

 そんな存在に私たちはしてやられた。

 

「さっき言ったもう一体の怪人がそいつだ。マグマ怪人襲撃と同時に奴は動き出し、私たちが出払ったアジトの中で虐殺を始めた。救援に向かったアオイがアジトについた時には、全てが終わっていたんだ」

 

 亡骸と残骸がいたるところに転がった血まみれのアジト。

 プロトゼロスーツを封印していたはずの扉が破壊され、中はもぬけの殻になっていたこと。

 そして、扉の前でバラバラになって息絶えていた誰かの亡骸。

 どんな怪人が暴れたのかは残された監視カメラ越しでしか分かっていないが、異形を以てして虐殺を行ったのは———私たちが仲間と認識していた一人の男の姿だった。

 

「いきなり現れた俺らがそいつを怪人だと言っても信じられない……ってことですか?」

「ああ。信じてもらえたとしても、その場でそいつは暴れだすだろう」

 

 だからこそ、第一コロニーでこの世界の私たちと合流するべきではなかった。

 変身を解いた瞬間に、後ろから攻撃を受けていた可能性があったからな。

 

「……とことん俺らを舐め腐ってますね。あぁ、本当に腹が立つ連中だ」

「……同感だ」

「でも、今度は違う。そうでしょう?」

 

 彼の言葉に頷く。

 もう同じことは繰り返さない。

 誰も死なせない。

 この世界が過去でも平行世界でもどうでもいい。

 

「まずはレジスタンスの膿を焙りだす。幸い、君が張ったシールドのおかげで奴は第一コロニーに入れない。なら、簡単に行動が読める」

 

 奴の目的は恐らくプロトゼロスーツ。

 レジスタンスの人々を虐殺したのはあくまでついでだろう。

 司令の性格上、プロトゼロスーツを手離さず、主要拠点になる第一コロニーに移送するはず。

 奴が狙うのはそこの可能性が高い。

 

「私が先に動くが、ヒラルダが復帰次第、君も行動開始だ。……いけるな?」

「もちろんです。こちらも情報収集の手段はありますからね」

 

 この絶望しかない結末を変える。

 多分、私だけでは無理だが、今は彼がいる。

 

「……あぁ、そうか」

 

 そこまで考えて私は、彼の世界の私の気持ちを理解する。

 まったく、あっちの私はずるいな……。

 いつも傍にこんな“希望”がいたらどんな相手でも立ち向かえたはずだ。




・寿命を削るアオイ
・自爆するキララ
・ほぼ皆殺しにされる仲間

本来の歴史は本当に救いがない世界でした。
そしてオメガにとって超重要な存在だったナマコ怪人、主人公の世界で彼が早々にやられたことはかなりの痛手でした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 8

三日目、三話目の更新となります。
今回はレイマ視点でお送りします。


 プロトゼロスーツは、旧拠点に置かれていた物資と合わせる形で移送させることになった。

 輸送トラックを五台を用いての大掛かりな移動ではあるが、勿論怪人の襲撃も危惧してブルーを護衛として連れてきている。

 レッド、イエローは襲撃された場合の防衛戦力として第一コロニーに留まってもらっている。

 

『こちらブルー、周囲に異常なしです』

「うむ、引き続き警戒を強めてくれ。異変を見つけ次第即時報告だ」

『りょ』

 

 輸送トラックの上から索敵を行っているブルーの報告を耳にし、気を引き締める。

 荷物の積み込みを終え、トラックの助手席で目的地である第二コロニーに到着するまで待っているのだが決して油断はできない。

 第一コロニーを解放した影響で、ここら一帯で怪人が出現する頻度が大きく減少した。

 放逐された木っ端怪人は現れるが、コロニーで見られるような強力な個体が現れなくなったことから我々も活動しやすくなったわけだ。

 

「嬉しそうっすね」

「……そう見えるか?」

 

 私の隣、運転席でトラックを運転している照橋君の声に首を傾げる。

 金髪碧眼に人当たりのいい性格、私に及ばないがイケメンな彼は前方を見つめながら爽やかに笑う。

 

「見えますよ。ようやく目に見えて怪人に反撃できたから、司令も嬉しいんでしょう?」

「そこまで単純ではないさ」

 

 反撃はしたが、それを行ったのは我々ではない。

 まだ怪人を倒した彼らがどのような存在なのか全く分かっていないのが問題なのだ。

 

「君はどう思う?」

「えー? そりゃあ、早く味方に来て欲しいですよ。そうすればこっちも色々と仕事に集中できますからね」

「世界の終わりに仕事か」

「上司には逆らえませんからね」

 

 また爽やかに笑う。

 もう本当に嫌味なくらいに爽やかだ。

 私の身体が満足に動けば、一度どついていたかもしれない。

 

「それ、で。今回の輸送で例のやつをのせたんですか?」

「……。なんのことだ?」

「いやいや、ここまで来て知らばっくれないでくださいよ。もう皆、察してるんですから」

 

 プロトゼロスーツのことか……。

 確かに五台のうちの一つに積んだが……いやに興味を持ってくるな。

 

「察しているなら忠告するぞ。噂を聞いてアレを使おうと考えているならやめておけ。確実に死ぬぞ」

「おお、怖っ。別にそんなつもりはありませんよ。俺はただ、知りたがりなだけですよ」

 

 ならばいい。

 アレは最早人類に対して敵意すら抱いているといってもいいからな。

 下手に手を出して惨事を引き起こすわけにもいかん。

 

「それにしてもようやく落ち着いた場所に行けそうで安心しましたよ」

「君たちには無茶をさせてしまったからな。あちらに到着次第、存分に身体を休めるといい」

「ええ。伊達川さんとのカードで負けが続いているので、今度こそ勝たないと」

「賭け事とはけしからんな」

「貴方も普通に参加してたでしょ。てか、貴方にも勝たなくちゃいけないんですからね」

 

 他愛のない雑談を繰り返しながら、私は助手席から見える―――第一コロニーを見据える。

 黄色く光るバリアに囲まれた新たな拠点。

 これまでとは一線を画すほどのインフラが整えられたその場所をどう発展させていくべきか。

 

「……でもそっか、ここにあるんですねぇ」

 

 食料の問題は当分は大丈夫……というより、なくなる気配がないのが逆に恐ろしい。

 住処に関しては忌々しいが、怪人が人間を閉じ込めるために用いた部屋を再利用することができるので、それを活用する。

 

「それじゃあ」

 

 プロトゼロスーツはどこに保管しようか。

 ……やはり保管場所は人の立ち入り難い場所がいいだろうな。

 保管次第、厳重に封印し誰の目にも届かないようにしなくては。

 

「もういいか――」

『皆、止まってください!!!』

 

 インカムからブルーの声が響き、ブレーキが踏まれる。

 危うく玉突き事故になりかけたところで急停止したトラックの中で、体勢を崩した私はぶつけた額の痛みを堪えながら、声を張り上げる。

 

「ブルー、なにがあった!?」

『前方を、見てください』

「なんだと……?」

 

 言葉に従いトラックの扉を開け、助手席に接続した車椅子ごと地面に降りる。

 舞い上がった砂煙が風で流れ、視界が鮮明になると———先頭車両の前に、一つの人影があることに気づく。

 

「……なぜ、ここに?」

 

 そこにいたのは、黒のスーツに桃色の装甲を纏った仮面の戦士であった。

 第一コロニーの怪人を打倒した謎の戦士……ッ!?

 異常事態を察したレジスタンスの構成員たちが護衛のために装備した銃を構えながら集まってくる。

 最後にトレーラーの上からパワードスーツを着たブルーが降り、装備を手に取る……が、彼が日向君を救ったためか武器を向けずにただただ困惑している。

 

「……」

 

 桃色と黒のマスクの奥から我々を見据える黒騎士。

 一人一人、確認するかのようなその視線に訝しみながら、私はレジスタンスのリーダーとして彼に接触を試みることにする。

 

「私はレジスタンスのリーダー。カネザキ・レイマ。我々は現在、重要な物資を運搬している最中だ。お前はどのような目的を以て、我々の前に現れた?」

 

 断言しよう。

 彼が殺す気ならば我々は既に死んでいる。

 ブルーはある程度は戦えるかもしれんが、妹を救った恩人と戦える精神状態ではないはずだ。

 この場にいる全員が緊張状態に苛まれていると、彼は声を発した私————ではなく、すぐ隣にいる構成員の一人、照橋君を指さす。

 

「テメェだな?」

「え?」

 

 行動の意図が読めない。

 なんのことだ、と追求しようとした瞬間、目の前にいたはずの黒騎士の姿が消え———私のすぐ隣から“ぐちゃり”という何かを貫く不快な音が発せられた。

 

「あ、が……ッ!?」

「て、照橋君……?」

 

 黒騎士が人間を攻撃した。

 混乱する頭でそれを理解するも、これまでの彼の行動からかけ離れた残虐な行為に思考が追い付かない。

 

『ッ!!』

 

 誰よりも早く我に返ったブルーが展開した装備で襲い掛かる。

 突風を巻き起こしながら黒騎士とパワードスーツが激突し、周囲にいた我々が飛ばされるが当の黒騎士はまるで分かっていたかのように剣で弾く。

 その際に胸を貫いた照橋君の死体を乱暴に地面に投げ捨てる。

 

「あの重症では、もう……」

 

 胴体に拳大の風穴があいてしまっている。

 なぜ……なぜなんだ。

 心のどこかでは黒騎士は我々の味方だと思っていたのに、なぜ……。

 

『なんで、信じようと思っていたのに……! ハルを救ってくれた君と戦いたく、ないのに……』

 

 武器を震わせながら敵意を向けるブルー。

 他の面々も黒騎士を完全に敵と見定めているが、なぜか黒騎士の視線は地面に打ち捨てられた死体から外れていなかった。

 

「葵、よそ見をするな。まだ終わってねぇぞ」

「……え?」

 

 ブルーの名前を知っている……!?

 それに、終わってないだと?

 

「レイマも、よく見ろ」

「な、なにを!! 今、お前は我々の仲間を———」

「あんたの言う仲間は、あんな奴のことを言っているのか?」

 

 彼の視線の先を追うと、胸を貫かれ絶命したはずの照橋君の身体が不気味に躍動していることに……気付いてしまった。

 まるで逆再生のように肉片が穴の開いた傷口に入り込み、一瞬で再生を済ませた彼は、大きな変貌を遂げながら立ち上がる。

 

「……まさ、か」

 

 そういうこと、なのか?

 だとすれば愚かだったのは我々の方だ。

 既にレジスタンスに入り込まれていた上に、ここまで巧妙に人間を演じる個体がいるなんて……。

 先ほどまで平気で隣り合って会話していた事実に薄ら寒い気分にさせられる。

 

「———ァ、おまえぇ……よく、も!!」

「おいおい、よりにもよってテメェかよ。“グリッター”」

 

 傍目で見るなら、黒騎士と似た姿。

 だが、細部で怪人と同じ異形の風格を見せる彼は、私の知る照橋光とは全く異なる邪悪な形相で黒騎士を睨んだ。

 

「なんで、ボクの名を……」

「テメェのような小物のやり口なんざ分かり切ってんだよ」

 

 豹変した照橋君に嘲りの言葉を叩きつける黒騎士。

 この場において、どちらが正しいかだなんて明白だ。

 私はハンドサインで皆に黒騎士の後ろに下がるように指示を出しながら、彼へ声をかける。

 

「彼は怪人だったのか?」

「ああ、奴は光食怪人グリッター。光という概念を食う怪人だ。その気になれば日中の光、果ては視力すらも奪える」

 

 概念的な光を食らうだと……?! 脅威値A並みの危険個体ではないか!!

 彼の言葉に驚いたのは我々だけではない。

 相対する照橋君……否、グリッターも狼狽えている。

 

「ありえない!! なんでボクの能力まで知ってる!!? 誰にも、オメガ様しか知らないはずなのに、どうして――」

「今から死ぬお前に教える必要があるのか?」

「……ヒッ」

 

 凄まじい怒気を発しながら踏み出した黒騎士にグリッターが後ずさる。

 そのあまりある怒気と殺気は我々にも伝わってくるが、不思議と恐ろしさは感じなかった。

 

「……チッ、最悪のタイミングだな」

 

 彼の足が止まり、第一コロニーの方を見る。

 なんだ、と思った瞬間、第一コロニーに張られたバリアに赤く輝く溶岩の塊がぶつけられ、黒煙をまき散らされた。

 あの溶岩は……。

 

『———司令!! こちら新拠点!! マグマ怪人による襲撃を受けました!!』

「なに!?」

『アカネさんとキララさんが今出撃しました!! 指示をお願いします!!』

 

 こんな時にマグマ怪人だと?!

 まるで示し合わせたような襲撃に、グリッターが笑い出した。

 

「は、はは!! どちらにしろ君たちは終わりだ!!」

「……ッ」

「本当はあの惑星野郎に構っている間に、お前らをバラバラにするつもりだったけど、もういい!! ここで暴れ――」

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) JAMMING(ジャミング)

 

「——がばぁ!!?」

 

 少女然とした音声が流れると同時に、グリッターの首を黒騎士が掴み取る。

 捕まれた首を押さえてもだえ苦しむグリッターを無視した彼は、耳元に手を当てる。

 

「レックス。アースの足止めを頼めますか? こっちの目的を済ませたら、向かいます。———レイマ」

「な、なんだ!?」

 

 あまりにも自然に名前を呼ばれ肩が跳ねる。

 

「今、仲間の一人がアースの足止めに向かった。戦っている二人にそのことを伝えておいてほしい」

「エ!? あ、ああ。分かった……」

 

 お、思っていた以上に理性的だ。

 怪人を相手に鬼神の如き動きをしていた彼のギャップにちょっとビビりながら通信を繋ぎ、彼の仲間を攻撃しないように指示する。

 

『司令ェ!! なんかでっかい剣が飛んできたんですけど!!?』

『アカネ!! 誰かここに来てるで!! あれやばいんちゃいますの!!?』

「待て待て攻撃するな!! あれは援軍だ!!」

 

 なぜかテンションが上がっているレッドと関西弁になっているイエローに急いでやってきた存在が味方だと伝えておく。

 それを確認した黒騎士は、未だに首を掴まれたまま悶えるグリッターへと意識を向ける。

 

「あとはお前だな」

「がっ、がぁ、あああ!!?」

「思い通りにいかなくて残念だったなァ」

 

AVATAR(アバター) FINISH(フィニッシュ)!!』

 

「あ、悪魔……」

「テメェがこれからやろうとしたことに比べれば些細なもんだろ」

 

 彼のベルトから右足に桃色の光が流れ込み、光を放ち始める。

 そのまま発動と共に、雑に上に放り投げられたグリッターは手を必死に振り回しながら何かをしようとして、絶望の声を上げた。

 

「光を、光が奪えな―――」

「テメェじゃこの光は奪えねぇよ」

 

VENOM(ヴェノム) SMASH(スマッシュ)!!』

 

 真っ逆さまに落下するグリッターの顔面に黒騎士の回し蹴りが直撃し、その場で小規模の爆発を引き起こした。

 グリッターは跡形もなく吹き飛び、黒騎士は白煙を払いながら軽く吐息をつく。

 

「さて、次だ」

 

 次……!? まだ怪人が潜り込んでいるのか、と身構えるが彼はこちらへ振り返る。

 今度はまっすぐに私を見ている。

 

「単刀直入に言うぞ。プロトゼロスーツを俺に渡してくれ」

「……な、なんだと!?」

 

 予想だにしない要求に声が荒ぶってしまう。

 プロトゼロは死のスーツだ。

 それを求めるなんて、普通ではない。

 

「いったい、なんのためにアレを求める……!」

「マグマ怪人を倒すためだ」

「ならやめておけ! お前が誰だか知らないが、あのスーツは着用者を殺すものだ」

「……」

 

 目の前の彼が後ろを見る。

 その視線の先は———プロトゼロスーツを載せているコンテナがあった。

 

「どこの世界でもお前は俺を呼んでいるんだな、プロト」

「……は?」

 

 その意味深な発言に思わず追及しそうになるが、それよりも早く彼が腰のバックルを取り外した。

 光と共に変身が解除され、黒髪の少年がその場に現れ、同時に外されたバックルがまた光と同時に少女へと変身する。

 怪人でも、宇宙人でもない、まさかの人間の姿に銃を構えていた全員が動揺する。

 

「に、人間!?」

「まだ子供だぞ!!」

「もう一人出てきた!?」

 

 混乱状態に陥る周囲に構わず、彼の視線はコンテナから離れない。

 彼の行動は現れた女性にとっても予想外だったのだろう。

 ものすごく慌てながら、彼の肩をゆすっている。

 

「ちょ、ちょちょカツミ君!? いきなり顔出すのは違くない!? 正体現すのは戦闘後って言ってたじゃん!?」

「ちょっと行ってくる」

「ねぇぇぇ!?」

 

 我々の驚愕を無視して、彼がまっすぐプロトゼロスーツのあるコンテナへと進んでいく。

 ……っ、い、いかん!! 衝撃的すぎて脳がフリーズしていた!! 彼が敵か味方のどっちでもあの封印を解かれると大変なことになる!!

 止めようと声を張り上げようとした———瞬間、プロトゼロスーツがいれられたコンテナが内側から(・・・・)爆ぜた。

 

「なっ!?」

 

 現れたのはいくつもの三日月状の刃を作り出した銀糸。

 それらはとてつもない速さで動き出し———この場で彼へ向けられた銃を全て切り裂いた。

 真っ二つに切り裂かれ、地面に落ちる銃にさらなる衝撃が走る。

 

『司令、これは!?』

「全員動くんじゃない!! 彼に武器を向けるな!!」

 

 下手に動かないように指示を出すが、これが正解かどうかは分からん。

 同じく装備を真っ二つに切り裂かれたブルーが困惑の声を発しているが、それ以上に私も混乱している。

 

「そんなことが、本当にあるのか……」

 

 今、エナジーコアが彼を守った?

 人類を憎悪しているといってもいいほどの敵意を向けるエナジーコアが、一人の少年を優先させた。

 その事実はあまりにも私のこれまでの常識を覆すほどのもの。

 

「待たせて悪かったな」

 

 コンテナに足を踏み入れた少年を迎え入れるように、銀糸が集まっていく。

 破壊されたコンテナから銀糸にくるまれたエナジーコアが飛び出し、少年が差し出した左腕を包み込み―――変身デバイス、チェンジャーへと姿を変える。

 

ARE YOU READY(来た!! ようやく!!)? 』

 

「いきなりで悪いがやるぞ、相棒」

 

NO ONE CAN STOP ME(誰にも渡さない!!)!!』

 

 

 少年が手慣れた手つきでチェンジャーを起動させ、変身を行う。

 チェンジャーから溢れだした光が彼の全身を覆い、幾万もの銀糸が出現と共に繭のように取り囲んでいく。

 

SLASH(切り裂け)!!』

 

CRASH(砕け)!!』

 

DESTRUCTION(破壊しろ)!!』

 

 音声が鳴り響き、繭が切り裂かれその姿が露になる。

 それは、私の知るプロトゼロスーツとは明らかに異なる姿であった。

 

CHANGE(その名は)

TYPE“X”(タイプ・クロス)!!』

 

 黒のスーツに鋭利な銀の装甲。

 赤い輝きを帯びる複眼。

 両腕の刺々しい籠手に爪。

 首元から伸びる銀色のマフラー。

 プロトゼロの面影は残しているが未完成の部分は完全になくなっており、最早完全な別の姿としてプロトクロスは誕生した。

 

「……よし、いける」

 

 変身時に感じるはずの痛みを感じている様子もない。

 もう、疑う余地すらない。

 彼はプロトゼロスーツの完全適合者だ。

 

「ヒラルダ、あとの説明頼めるか?」

「……はぁっ。しょうがない。後は任せてさっさといきなさいな」

「ありがとう」

 

 その言葉と同時に彼はその場を飛んだ。

 地面が陥没し、砂嵐が吹き荒れるほどの力で跳躍した彼は、流星のような速さでマグマ怪人が戦っている場所へ突き進んでいった。

 

「……彼は、何者なんだ」

「あの人、私のことを知ってた」

 

 パワードスーツから顔を出したブルーが私と同じ方向を見て呟く。

 こんな暢気にしている場合ではない。

 現場ではレッド達が戦っている……はずなのに、彼が向かうのを見て、得体の知れない安心感が奥底から湧き上がっていた。

 

「さて、カツミ君も行ったことだし私たちも早く行きましょ!」

「う、うむ……って、いや待てーい!! お前達は何者だァー!!」

 

 ごく自然にトラックに乗り込もうとした謎の女性に思わずツッコミをいれる。

 至極真っ当な私の疑問に彼女は面倒くさそうに肩を竦める。

 

「私は貴方のよく知るエナジーコアよ。人の形をしているけどね」

「ッ、ならば彼は」

「いいえ、純粋な地球人よ」

 

 彼が向かっていった方向を指で示し、不敵な笑みを浮かべる。

 

「でもとんでもない人よ。少なくとも銀河で一番怖い存在に目をつけられてるくらいには、ね」

 

 自信に溢れた言葉。

 その言葉を聞いた私はもう一度彼が跳躍した方向を見る。

 純粋な地球人。

 いや、そうでなくてはプロトゼロスーツは装着できない。

 しかし、だからこそ疑問を抱いてしまう、彼の知識とその戦闘経験はいったいどこからやってきたのだろうか。

 




平行世界設定。
・平行世界のグリッターはレジスタンをほぼ皆殺しにした後にプロトゼロスーツを略奪するべく接触。プロトゼロスーツの迎撃機能に触れることすらできずにバラバラにされ死亡。

・平行世界のプロトは自身の適合者が現れないことを悟り、グリッター殺害後に自己崩壊という形での消滅を選んだ。

【新形態】TYPE“X”

平行世界のプロトがクモ怪人との戦闘経験を経て自己進化した銀色の戦士。
初期のプロトゼロよりも高性能且つ攻撃的ではあるが、あくまでプロトの力のみで作られた形態なので、カツミ専用に作られたプロト1には及ばない。

今回の更新は以上となります。


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並行世界編 9

お待たせしてしまい申し訳ありません。
少し体調を崩してしまい更新が遅れてしまいました。

今回はアカネ視点でお送りします。


 マグマ怪人は強敵だ。

 マグマという生身で触れれば即死という危険な攻撃を持っていることに加えて、いくら攻撃しても瞬時に再生し消耗すらしない。

 私たちが最初に戦った時は撤退を余儀なくされ、完全な敗北を叩きつけられた怪人といってもいい。

 

 そんなマグマ怪人が私たちが新しく拠点としていた第一コロニーへと攻め入ってきた。

 黄色のシールドバリアに叩きつけられる溶岩の塊。

 脅威的なのは、黒騎士が張ったシールドの方、自然の猛威そのものの溶岩の攻撃を受けてもなお、壊されることなくコロニーにいる人々を守っていた。

 

 だけど、そう何度ももたない。

 直感的にそれを理解した私とキララは、司令とアオイが留守にも構わずパワードスーツでの出撃を試みた。

 

「私たち、ここで死ぬかもなー」

「奇遇だね。私もおんなじこと考えてた」

 

 第一コロニーを背にした私たちの前に立ち塞がる溶岩の怪人。

 数十メートル離れていても伝わってくる強烈な熱気を前にして、私とキララは軽口を交わす。

 状況はかなり絶望的だ。

 アオイは指令の護衛でこの場にはいないし、なにより相手は一度敗北を喫したマグマ怪人だ。

 とてもじゃないが、まともな方法で勝てるとは思えない。

 それに加えて———、

 

「後ろにうじゃうじゃいる」

「第二コロニー総力戦って感じかな。襲い掛かってくる気配はないのはマグマ怪人の攻撃に巻き込まれないようにするためかな?」

 

 マグマ怪人以外の怪人。

 溶岩の余波を受けないようにやや後方に控えた奴らを見てうんざりした気分になる。

 

「……それでもやるしかない」

 

 もう人類には後がない。

 この場で私たちがやられれば次は新拠点にいる人たちが蹂躙されることになる。

 そんなことには絶対にさせないために、私たちは命をここで賭ける。

 

『ヴァァァ……』

 

「っ、来るよ!!」

「うん!!」

 

 マグマ怪人が身構えるのに合わせて、私たちもスーツの出力を上げ、それぞれの武器を展開する。

 私のパワードスーツの腕部に内蔵された熱を帯びた剣が飛び出し、キララは背にマウントされている斧を装備する。

 ———ここで死ぬとしても、奴だけは道吊れにしてやる。

 この身体がどうなっても、スーツの限界を超えたとしても。

 

『アァァァァ!!』

 

 マグマ怪人がその体から溶岩を吹き出し、咆哮を上げる。

 それに合わせ、私たちが動き出そうとした……と同時に、私たちの後方からとてつもない速さで飛んできた“何か”がマグマ怪人の胴体に突き刺さった。

 

『ヴァ!!?』

『『ッ!?』』

 

 中心から外れた肩から溶岩を鮮血のように迸らせ、呻くマグマ怪人。

 ッ、あれは、剣?

 咄嗟に剣が飛んできた方向を振り返ると、誰かがこちらへ飛んでくるのが視界に映り込む。

 これ、司令に指示仰いだ方がいいよね!?

 

『司令ェ!! なんかでっかい剣が飛んできたんですけど!!?』

『アカネ!! 誰かここに来てるで!! あれやばいんちゃいますの!!?』

『待て待て攻撃するな!! あれは援軍だ!!』

 

 援軍……!? 若干パニックに陥っていると、こちらに迫っていた何者かが私たちの近くに着地する。

 轟音と共に地面に着地したのは、人間大のパワードスーツに身を包んだ誰か。

 私たちのソレよりも遥かに小型なパワードスーツを身に纏った誰かは機械音と共に着地の衝撃を和らげながら———呻くマグマ怪人を睨みつける。

 

「チィッ、外したか」

 

 全身に罅が入った赤黒いパワードスーツ。

 顔を隠すヘルメットも同じ有様で赤みがかかった髪が隙間から伸び、よく見たら左腕がない。

 まさか、コイツ……第一コロニーに現れたもう一人の謎の戦士2号!?

 

「だ、誰!?」

「戯け。話している暇がないのは見て分からないのか」

「なっ!?」

「手を出すな。死にたくなければな」

 

 なんだこいつ嫌な奴だ!!

 直感的にそう認識した私はすぐさま言い返そうとするが、私なんか眼中にないのか謎の戦士二号はマグマ怪人へと突っ込んでいく。

 

「アァァァ!!」

「ふんっ」

 

 溶岩を飛ばすマグマ怪人に躊躇なく飛び蹴りを放ち、怯んだ反動で突き刺さった大剣を引き抜き———連撃を叩きこむ。

 隻腕とは思えない鮮やかな斬撃。

 剣を扱う私とは比較にならないほどに速く、それでいて正確な攻撃はマグマ怪人を圧倒するに十分な威力があった。

 

「すごい……」

 

 力一辺倒ではない研ぎ澄まされた技術による戦闘。

 それは、まさしく私が思い描いていた戦いそのもの。

 十数秒の戦闘で全身にいくつもの裂傷を刻み付けられたマグマ怪人は、のけぞりながらも雄たけびを上げる。

 

「アァァァァス……!!」

 

 奴の声に合わせて足元からなにかが吸収されるように点滅する。

 すると、みるみるうちに奴の身体が再生し、一瞬のうちに無傷の状態に戻ってしまった。

 

「……やっぱり駄目だ。相手があのマグマ怪人じゃ……!」

「やっぱり加勢しなくちゃ!!」

 

 キララの声に頷きせめてもの加勢に出ようとすると、マグマ怪人の全身から爆ぜ、とてつもない熱気と溶岩が周囲へとまき散らされた。

 まずい、と瞬時に判断した私とキララは後方に下がりながら武器を振るい溶岩を弾く。

 

「あれ大丈夫!?」

「思いっきり溶岩に呑み込まれたんだけど!?」

 

 あれだけの攻撃、まともに食らえばただではすまない。

 そう思い、焦燥に駆られながら真っ赤に染まった大地を見据えると……白煙を引きながら一つの影が私たちの傍に飛んできた。

 

「バリアが死んだ、か。やはり今の装備では厳しいな」

 

 パワードスーツの表面にうっすらと光のようなものを纏った謎の戦士が、大剣を肩に担ぎながら苦々しい表情で立ち上がる。

 マグマ怪人は……溶岩を無理に爆発させたせいで、少しの間動けなくなっているみたい。

 

「……」

 

 口は悪いけれど、さっきの戦闘でこいつは味方と判断してもいい。

 なにより、司令も援軍って言ってたし、ここは力を合わせるべきだ。

 

「加勢するよ」

「生きて帰るつもりのないバカの手は借りん」

「ねえ、今バカって言った?」

 

 なんなのこいつゥ!!?

 初対面のはずなのにバカ呼ばわりとか失礼じゃない!?

 

「相手はマグマ怪人なんだよ!? 一人で勝てる相手じゃないのは分かってるよね!?」

「うるさい黙れはしゃぐな。お前を見ているとイライラする」

「頭かちわってもいいかな!?」

「まあまあ、落ち着いてアカネ」

 

 食って掛かろうとする私だがキララに羽交い絞めされて止められてしまう。

 なんだろう!! 普通に悪口を言われても全然気にしないけど、こいつにこんなことを言われるのはすごくイラッとするんだけど。

 怒る私を抑えながら今度はキララが、彼女に声をかける。

 

「あの、私たちが力不足なのは分かりますけど、ここは力を合わせるべきだと思うんです」

「……お前たちが命を張る必要はない」

 

 私の時とは違って、キララにはぎこちなくそう返した奴はそのままマグマ怪人へ向かっていこうと進みだす。

 

「ここは、私だけで……、……っ」

 

 ん? どうしたの?

 前に進もうとして不意に立ち止まった彼女に怪訝になる。

 どこかと通信でもしているのだろうか? 何かを聞くようなそぶりを見せた彼女は、不意に先ほどから発していた威圧を消し去り肩の力を抜いた。

 

「———来るか」

「来る? 来るって……なにが?」

 

 私の声を無視して奴は地面に大剣を突き刺し、そのまま瓦礫に腰を下ろす。

 ———まだマグマ怪人が健在にも関わらず、いきなり戦意を失った彼女に私とキララは混乱する。

 

「———ふぅ」

「いやなに落ち着いてんの!?」

「てか、マグマ怪人来てるんじゃないこれ!?」

 

「アァァァァス!!」

 

 先ほどの戦いで本気になったのか全身から溶岩を放出させたマグマ怪人がこちらへ腕を伸ばすように飛びかかってくる。

 肝心の謎の戦士は微塵も動こうとしないので、焦燥に駆られた私とキララが迎撃しようとした……その瞬間、

 

 

 ———こちらに伸ばされたマグマ怪人の左腕が半ばから撥ね飛ばされた。

 

 

 くるくると軽々と宙を舞うマグマ怪人の左腕。

 数舜置いて、血液のように溶岩が傷口から噴出し、先ほどの比でないほどの苦悶に満ちた叫び声をあげるマグマ怪人と私たちの間に“彼”はいた。

 

「いい加減にテメェの顔も見飽きてきたなァ、おい」

 

 落ちてきたマグマ怪人の左腕を掴み取った彼はその場から一瞬にして掻き消え———マグマ怪人の胴体に掴み取った左腕を突き刺し、釘を打つように拳でぶちぬき(・・・・・・)嵐を生み出さん勢いで殴り飛ばした。

 

「アァァ、ガっ、ァァァ!!?」

 

 半身を爆散させながら斜め上に飛んで行ったマグマ怪人はそのまま廃墟と化したビル群に直撃、その勢いを殺すことなく貫通、倒壊させながら吹っ飛んでいく。

 五つ目のビルでようやく勢いが止まり、そのまま倒壊するビルの瓦礫に飲まれていく姿を遠目で見送った“彼”は、赤熱する自身の拳を見つめる。

 

「核をずらしたか。生き汚ねぇ奴らしいな」

「「……」」

 

 人間常軌を逸した光景を見ると、なにも言えなくなってしまう。

 あのマグマ怪人がたった一発の拳でぶっ飛ばされるなんて、想像もしていなかった。

 

「ん?」

 

 首を傾げた彼が自身の赤熱する右腕を見ると、右腕を覆うアーマーが銀糸となってほどけた(・・・・)

 一瞬だけ彼の黒いスーツの腕が露になった直後に、銀色のマフラーから新しい銀糸が右腕を覆うように編み込まれ———新たな銀のアーマーとなる。

 また銀色の光を放つ腕を軽く振った彼は、軽く頷く。

 

「……ありがとな、プロト」

 

 元の白銀の装甲を纏った手を確認した彼は、最初に近くで座り込んでいる謎の戦士に声をかける。

 

「レックス、ありがとうございます」

「むしろ礼を言うのは私の方だ。この時に、君がいてくれることは何よりの希望だ」

 

 レックス、と呼ばれた女が穏やかな声で彼に語り掛ける。

 先ほどまでとまるで態度が違う奴の変わりように驚いていると、私たちの耳に司令からの通信が入る。

 

『お前達!! そちらの状況はどうなってる!!』

「いや、えと、あの……」

『そちらに黒騎士が向かったはずだ!! 色々ありすぎて説明とかしきれんが、とりあえずマグマ怪人とは戦闘中か!?』

 

 本当にどうして彼がここに、しかも全然違う見た目がここにいる理由が分からないし、今起こっている状況も全然理解できないけど、それでもありのままの事実を報告しておかなきゃ。

 

「マグマ怪人は、彼にぶっとばされました……」

『……えっ、うそーん』

 

 あの司令でさえも言葉が砕けるほどの衝撃。

 指令室の混乱具合を想像すると私も頭が痛くなりそうだが、それでもすぐに正気に戻った司令が声を震わせながら声を発する。

 

『と、とりあえず彼は味方だ!! 正体については依然として不明だが、それだけは確かだ!!』

「……どうして、そう言い切れるんですか?」

 

 さっきから予想外の事態ばかりが起こっているのは分かっている。

 だけど、あの疑い深い司令がここまで断言するだなんて普通じゃない。

 きっと、あっちでなにかあったんだ。

 少し言い淀む司令の返事を待っていると、彼の通信に割り込むように護衛をしていたアオイの声が聞こえてくる。

 

『彼は私たちの味方だよ』

「アオイまで……」

『詳しい事情を話すには時間がない。だけど、私を含めた皆が彼に助けられた』

 

 今までの不安だけが目立った声ではなく、確かにそう確信してそう言葉にするアオイに私は頷く。

 彼女がここまで言うのなら、これ以上私はなにも言わない。

 

『あと彼は私のことが好きなのかもしれない』

「なんて?」

『私の名前を知ってた。しかも呼び捨て』

 

 ……。

 ……、……。

 

「……司令、アオイはどうやら錯乱状態にあるようです」

「アオイ、とうとう頭が……」

『キレそう』

 

 突然恋愛脳に支配されたアオイに呆れながら苦笑する。

 彼が人間かどうか定かでないのになにを言っているんだか……。

 

『私はこのまま指令室に向かう!! 通信と映像は繋げたまま、こちらもドローンを送る!!』

「了解です」

 

 耳元から手を離し、彼を見る。

 

「通信は終わったか?」

 

 どうやら通信が終わるのを待ってくれていたようだ。

 ……あれだけの力を見せたのに、人間っぽいなこの人。

 すると、銀と黒のスーツを纏った彼が私とキララの元に近づいてくる。

 3メートルあるパワードスーツに搭乗している私を数秒ほど見上げた彼は、不意にこちらに背を向ける。

 

「後は俺に任せろ」

『え、でもまだ怪人は……』

「心配すんな。そのために今、俺がここにいる」

 

 謎に親しそうに接してくるが、不思議と不快じゃない。

 むしろあの大勢の怪人を前にしても尚、安心感が上回るほどに彼という個は圧倒的に強く思えてしまった。

 

「カツミ、来るぞ」

「ええ、分かっています。ここを彼女達を頼みます」

「ああ、任せておけ」

 

 レックスが彼の名を呼び、カツミ、と呼ばれた彼が頷いた。

 見れば吹き飛ばされたマグマ怪人を見て動揺していた怪人が、こちらへ襲い掛かろうとしている。

 百を優に超える怪人の大群。

 それを前にしても、彼は少しの動揺を見せずに前に進みだす。

 

「心配は無用だ」

『え?』

 

 彼の背中を見ていると、不意にレックスがそう口にする。

 

「彼は怪人にとっての天敵。そう運命づけられている存在だ」

「どうして、そんなことが分かるの……?」

 

 キララの言葉に壊れたマスクから見える口元を笑みで歪ませたレックスが彼へと視線を向ける。

 

「見ていれば分かる」

 

 怪人の群れの先頭にいた個体が彼に飛びかかる。

 迫る敵に彼の首元のマフラーが風になびくように広がり———先端から枝分かれするように三日月状の鎌へと変形し、空中に飛び上がった怪人をバラバラに切り刻む。

 

『LA……』

「……なるほど」

 

 続いて彼が腕を振り上げ、広げた五指を上から下へ振り下ろす。

 きん、とそんな糸が張るような音が聞こえ、後ろからさらに襲い掛かった怪人が縦に三等分にされ、地面を赤く汚す。

 あっさりと、その場からほぼ動かずに怪人を惨殺した彼は自身の手を一瞥して、恐怖に足を止めた怪人の群れを睨みつけた。

 

「———こういう力か」

 

 そして、彼は地面が爆ぜるほどの力でその場を飛びだした。

 

「えっ」

 

 見えたのは一瞬。

 彼の姿が消え、次に姿を認識したのはこちらに迫る怪人の群れの後方。

 彼の周囲に漂う銀糸が逆再生するようにマフラーを再構築した瞬間、時間が止まったように硬直していた怪人の群れは一瞬にして粉みじんに切り刻まれ、血煙と化した。

 

「っ、うそ、でしょ?」

 

 微かに見えるのは彼を中心に広がる銀の糸。

 細く、日の光で反射しないと目視できないほどに細い糸が怪人の群れを切り刻んだ。

 いや、それだけじゃない。

 彼はそのあまりある暴力で真正面から怪人を打ち砕き、完膚なきまでに破壊しつくしたんだ。

 

「……」

 

 彼の首元から伸びるマフラーが舞い上がった血煙を払うように大きく靡く。

 まるで彼の銀と黒のスーツが血で汚れることを拒むようにゆらめくソレを目にした残りの怪人は、今になって自分たちが相対している存在の異常さを理解させられたのか半狂乱に陥っていく。

 我を失って逃げ出す怪人。

 恐怖の声を上げながら向かっていく怪人。

 目の前の惨劇に呆然として動けない怪人。

 そのすべてを彼は一切の情もなく、平等に破壊しにかかった。

 

「すごい……」

「えげつなすぎ……」

『プロトゼロの完全適合者が、これほどとは……』

 

 拳で粉砕し、爪で八つ裂きにし、糸で切り刻む。

 首元から伸びる銀に輝くマフラーは幾重にも増え怪人を切り裂く刃に、ほどけるように広がった糸は怪人の身体に絡みつき、首を絞め、切断する凶器へと変わっていく。

 その圧倒的な攻撃性能にただひたすらに圧倒されてしまう。

 

『LA、LA……』

 

 金属を擦り合わせたような音。

 少女が口ずさんだ歌にも聞こえるソレが響き、彼の首元のマフラーからいくつもの銀閃が宙へ伸び、空中を屈折しながら———まだ息のある怪人の肉体へ突き刺さった。

 

「ガ、アァ!!! アアアア!!?」

 

 さらにいくつもの銀糸が針金のように突き刺さり、甲殻類を思わせる怪人の首がへし折れ、だらりと脱力する。

 しかしそのすぐ後に生物の挙動を無視した動きで、近くの怪人に攻撃を仕掛け始める。

 よく見れば他の死んだ怪人も壊れたおもちゃのような挙動で動き出していく。

 

「オマエ、ナニヲ!!」

「……ァ……ァ」

「シンデル!? ドウシテウゴク!?」

 

 怪人の死体を、操って同士討ちさせてる……?

 糸で操られた怪人が続々と立ち上がり、生きている怪人と同士討ちをし始める。

 その地獄の様相に私もキララ……モニター越しに見ている司令達が絶句している中、不意に黒騎士が動きを止める。

 

「プロト。やめろ」

『———ッ』

 

 操られた怪人の死体がぷつりと動きを止める。

 この距離でも聞こえる怒りを混ぜ込んだ彼の声に、糸が大きく乱れる。

 微かに響く声に、怯えのようなものが入り混じる。

 

「お前が怪人と同じ位置にまで堕ちる必要はねぇよ」

『……ッ。……ッ』

「捨てねぇし、嫌いにならねぇよ。……お前は俺の相棒だろ」

『……!』

「だったら信じろ。一緒に戦ってこそ俺たちだ」

 

 そう言葉にして彼は前を見据え、さらに加速した。

 瞬きする間に全ての怪人を次々と始末し、ついに最後の一体を拳で爆散させる。

 この場にいた怪人は全て倒されたけど……。

 

「……」

 

 それでも彼は戦闘態勢を解除することはない。

 どうしたのだろうか、と不思議に思うと私たちの立っている地面が大きく揺れる。

 

「……っ、地面が」

 

 明らかに普通の地震じゃない。

 キララもレックスも気づいたのか周囲の状況を確認すると、マグマ怪人が殴り飛ばされ、瓦礫の山に消えていった場所が火山のように赤く光っていることに気づく。

 

「まさか……」

 

 胴体をぶちぬかれてもまだ動くって言うの……?

 瓦礫の山はどんどん膨れ上がっていき、周囲のビルの残骸を巻き込みながら巨大な人型の姿へと変容していく。

 

『アァァァァス!!』

 

 現れたのは溶岩に包まれた巨人。

 強大な質量へと姿を変えたマグマ怪人は、憎悪と怒りを込めた眼差しを黒騎士へと向け咆哮を上げた。

 

 

 




【TYPE“X”スーツ】
・糸による切断、拘束。
・損傷したアーマーを糸にして再構成。
・マフラーによる超高速オート反撃。
・敵の死体を操る(複数可)
・糸がなくても強いし硬い近距離パワー型。

この絶対に味方ポジにいちゃいけないタイプの糸使いよ……。


今回の更新は以上となります。


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並行世界編 10

お待たせしました。
並行世界編10です。

最初はレイマ視点。
途中からアカネ視点となります。


 地響きが第二拠点を揺るがす。

 マグマ怪人の巨大な姿を窓から横目に見ながら私は指令室へ続く通路を車いすで爆走していた。

 

「オオオォォォ!!」

 

 限られた物資をやりくりして作製した高性能車椅子のバッテリーをフルに使い通路を爆走して指令室にまでたどり着いた私は、すぐさま代理の指揮を行ってくれている大森君に声をかける。

 

「大森君、状況!!」

「マグマ怪人が周囲の建造物を吸収し巨大化!! とてつもないエネルギーを発しながら動き出そうとしています!!」

「生物の範疇を超えてるだろ!!」

「は、ははは……意味わかんない……あれが生き物……?」

 

 周囲の瓦礫を取り込むことで高層ビルと同等の大きさにまで巨大化したマグマ怪人。

 赤く煮えたぎる表皮から黒煙を立ち昇らせた溶岩の巨人は、その双眸に憎悪と怒りを籠めて彼———黒騎士を睨みつけていた。

 

「ヴァァァァァァ!!!」

 

 熱をのせた風圧が周囲へ吹き荒れる。

 ただそこに在るだけで自然そのものに害を与える存在になり果てたマグマ怪人をドローン越しに目にした私は掠れた声が零れてしまう。

 

「あんなもの、どうやって倒すんだ……」

 

 あれは最早災害そのものだ。

 自然の猛威が形となって人類を脅かしている。

 

「惑星怪人アースよ」

 

 私が爆走してきた通路から黒騎士と共にいた20代前後の女性———自身をヒラルダと名乗った女性が歩いてくる。

 彼女の後ろにはブルーが見張っているが、それを全く意に介さずに指令室の空いた椅子に腰かける。

 

「今、なんと?」

「あれはマグマ怪人じゃなくて、惑星怪人アースって名前らしいわよ? 能力は地に接触している限り大地のエネルギーを吸収する……いわば地上にいる限り無敵って能力ね」

 

 なんだそのデタラメすぎる能力は……!! いや、驚くところはそこだけではない!!

 怪人が化けていた照橋くんの時のように怪人の能力と名前を知っている。

 それを今問いただしたい……問いただしたいが、それ以上に目の前の得体の知れない女性が“なぜ勝ちを確信している”かのような余裕を持っていことが気になった。

 

「彼は、勝てるのか?」

「勝つわ。だって彼は私の———ハッ!?」

 

 そこまで口にして突然ヒラルダは自身の頬を軽く叩いた。

 突然の奇行にこちらが唖然とすると、若干息を乱した彼女が顔を上げる。

 

「わ、私の好敵手なんだもの」

 

 なにやら無理やり感がすごいが全然説明になっていないぞ!

 すると、再び地響きで拠点が揺れたことで、モニターへ視線を戻す。

 ドローンの映像と、レッド達の視界を通しての映像が映し出しており、そこには雄たけびを上げる溶岩の巨人を前にする黒騎士の姿が映りこんだ。

 

 


 

「———それで終わりか?」

 

 冷たく、嘲るような声で彼が呟いた。

 赤く輝く溶岩の身体を持つ巨人へと変貌したマグマ怪人を前に彼は微塵も恐怖していない。

 それどころかあれだけの変化を見ても、冷徹な反応を返していた。

 

「アァァァ!!」

 

 その声が聞こえたのか分からないが、マグマ怪人が怒りの咆哮を上げその口を大きく開いた。

 四つに割れた口の先から見える火山の噴出孔のような穴から、赤く煮えたぎる岩塊が吐き出されとてつもない勢いでこちらへ落ちてくる。

 

「い、いいい隕石!?」

「溶岩だろ」

「どっちでも変わらないでしょ!?」

「アカン」

 

 なんでお前はそんな冷静なんだよ!!? ちょっとは命の危険感じろよ!?

 なんかもう規模がやばすぎる技を放つマグマ怪人に対して、彼は糸で斬るでも防ぐでもなく―――、

 

「ふんっ!!」

 

 ただ虚空に拳を突き出した。

 数舜遅れて音が鳴り響いた直後に拳を中心に突風が吹き荒れ、衝撃波となって———空から迫る溶岩弾を打ち砕いた。

 突風と共に赤い電撃が迸り粉砕される溶岩弾。

 その奥で溶岩を放ったマグマ怪人は、「信じられない」といった感じでその怪人顔を大きく歪ませた。

 

「……」

 

 落ちてくる残骸を糸で切り刻みながら、自身の拳を一瞥した彼はもう一度マグマ怪人を見据える。

 

「プロト、少し無理をするぞ……一緒にいけるか?」

『LA……♪』

「よし」

 

『アァァァス!!!』

 

 彼が立っていた地面が爆ぜ、その直後に遠く離れた場所にいるマグマ怪人の巨体が大きくのけぞる。

 取り込んだ瓦礫を飛び散らせながら苦悶の雄たけびを上げるマグマ怪人の姿に、一瞬にしてあそこまで移動した彼が攻撃を繰り出したことを理解させられる。

 

「司令!!」

『ドローンの映像を送る!!』

 

 目視じゃ限界があるので、待機させてあるドローンに映像を寄越してもらう。

 ここよりも近くの距離から映し出された映像には、とらえ切れないほどの速さで動いた黒騎士がマグマ怪人の巨大な腕を両断する光景が映りこむ。

 

「すごい……」

 

 相手がどれだけ大きくてもまるで関係ない。

 ただただ強い。

 

『アァァァァァァ!!』

『うるせぇんだよ』

 

 苦し紛れに溶岩をまき散らそうとしたマグマ怪人の下顎が粉々に打ち砕かれる。

 腕を振り回そうとすれば即座に断ち切られる。

 再生してもその場で削り続けられる。

 

「まだ、速くなるの……?」

 

 最早、動きそのものが銀の軌跡としてしか認識できなくなるほどの動きで攻撃し続けた彼だが、次第にその色が赤い輝きを帯びてきていることに気づく。

 黒煙で覆われた空の下で赤い軌跡が空中に描かれ、それがまるで蜘蛛の巣のように形作っていく。

 

『ガ、ァァァ!!?』

 

 気づけば、マグマ怪人の巨躯を縛り付けるように赤い光を帯びた糸が四方八方に張り巡らされていた。

 赤い光を帯びた糸は周囲の建物、ビル、地面へと伸び、どれだけマグマ怪人がその巨躯を動かそうとも少しも解ける様子はない。

 

『……よし』

 

 空中に張った糸に彼が着地する。

 再び露わにさせた彼の姿は、先ほどの銀と黒の姿からマグマ怪人よりもより赤い———深紅へと染め上げられていた。

 

『ふんっ!!』

 

 糸の足場を跳躍し、固く握りしめた拳を巨人の胴体へと繰り出す。

 アッパー気味に放たれた一撃は、ただの一撃で巨人の身体を粉々に打ち砕く。

 火山が噴火するように空へとマグマ怪人の残骸が飛び散り、上半身から崩壊していく光景を目にした私とキララはただただ茫然とするしかない。

 

「やった、の?」

「信じられない……」

「……いや、まだのようだ」

 

 レックスの声に、マグマ怪人から黒騎士へと視線を戻す。

 ! 確かに、まだ黒騎士がなにかしようとしている。

 上半身を粉々に砕かれ完全に沈黙するマグマ怪人だが、彼はそんな残骸に目もくれずにその視線を地面へと向けていた。

 

『テメェの魂胆は分かりきってんだよォ!!』

 

 その怒声と共に彼の首元のマフラーが変形し———クモを思わせる四本の銀の鋭利な脚へと変形する。

 

『ふんっ!!』

 

 そのまま地面へ四本の足を突き刺すと、彼からそう遠く離れていない地面から四肢を伸びた脚に貫かれたマグマ怪人が宙へ打ち上げられた。

 巨大だったその姿とは違って、本体は上半身がえぐれるように傷つきその奥に脈動する心臓のようなものが露わとなっていた。

 

『アァァァァァ!!?』

『臆病者らしいなァ!! オイ!!』

 

 彼が手の指を軽く曲げると、キンッ、と甲高い音が響き、マグマ怪人の身体が空中で釣り上げられる。

 ……ッ、地下から巨人を操っていたの……?

 なんて奴、下手をすれば延々と戦い続けられた可能性すらあったのか。

 だが、黒騎士には通じず完全に動きを封じられたマグマ怪人は、憎悪の感情を黒騎士へ向け、言葉を吐き出している。

 

『我は、惑星……地球の……代弁者ァ……』

『寄生虫の間違いだろ』

 

 虫のようにもがくマグマ怪人に一切の憐憫すら抱かずに罵倒する。

 罵倒に怒ったのか、マグマ怪人の身体から炎が吹き上がる。

 その抵抗を彼がギリギリと音を鳴らす掌を無理やり閉じ、マグマ怪人の身体をさらに締め上げる。

 

「ぎ、アァァ!!?」

「地球に寄生しなきゃ何もできねぇ野郎が———」

 

 全身を赤く染め上げた彼が固く握りしめた拳を引き絞る。

 彼の真紅の姿がさらに輝きを増し、溢れだした熱とエネルギーが赤雷となって溢れだす。

 

「一丁前に代弁者を気取ってんじゃッねぇ!!」

 

 突き出した拳から放たれたのは先ほどの衝撃波———ではなく、赤い閃光。

 赤い電撃と竜巻を引き起こしながら突き進んだ光線は、糸で身動きのできないマグマ怪人を飲み込み、勢いを止めることなく黒雲に覆われた空を貫く。

 

「空が……」

 

 赤い閃光に黒雲は吹き飛ばされ、太陽の光が差し込む。

 街に差し込んだ光の中心には、拳を空に突き出した黒騎士だけが立っていた。

 

『惑星怪人アース、完全消滅……です』

『なに、今の……』

『エネルギー反応なし。は、はは……ただの拳でプラズマに近い現象を引き起こしたのか……』

 

 指令室の面々の唖然とした呟きがいやに響いてくる。

 あまりにも別次元すぎる戦いを見せる黒騎士に私もキララも声を発することができない。

 映像の中では、煙を噴き出しながら深紅から元の色へ戻ろうとする黒騎士が映りこんでいるが、これからどんな展開になるのか想像するのすら怖くなってきてしまう。

 

「えぇと、私たちなにもしてないけど……これで、終わったの?」

「みたい、だね」

 

 ここで終わると思ってた。

 だけれど、こんな形で助かるなんて……ちょっとどう言葉で表していいか分からない。

 

「おい、無事か?」

「どひょぉ!?」

 

 すぐ隣から聞こえてきた声に猫のように飛び上がってしまう。

 我ながらギャグキャラみたいな驚き方をしてしまい顔に熱を感じながら隣を見る。

 そこには先ほどまで遠く離れた場所にいたはずの黒騎士の姿。

 真っ赤な装甲は元の銀色のものへと戻っており、その刺々しい外見とは裏腹に彼のそぶりはどこかこちらを気遣うようなものだ。

 

「その様子なら大丈夫なようだな」

「う、うん……」

 

 キララも同じでぎょっとした顔で、いつの間にか傍に移動してきている黒騎士を見ているが当の彼は自然体のまま、周囲を見回している。

 

「……敵はもういねぇみたいだな」

「あの、君は……」

 

 何者、と言葉が続く前に彼が右手を左手首に添える。その次の瞬間には彼の身体が光に包まれる。

 光が収まると、黒騎士がいた場所には黒髪の鋭い目をした男の子がいた。

 

「「……」」

 

 に、人間だぁ……!?

 あんな常識はずれな力を振るう黒騎士が見た目完全な人間なことに言葉も発せずに驚く私とキララを他所に、レックスが彼へ声をかける。

 

「いいのか?」

「ええ。内通者も始末しましたし、ここから合流します」

「……そう、だな」

 

 彼は味方なのか。

 ここでまた別行動なのか。

 そんな思考がぐるぐると回っていく中で、私たちの傍にいたレックスがおもむろに立ち上がったことに気づく。

 

「では、私も覚悟を決めなくては」

「……無理しなくてもいいんですよ?」

「いいや、これも私なりのけじめだ」

 

 黒騎士だった少年と言葉を交わしたレックスは、そのまま自身の頭を覆う仮面に手を伸ばす。

 カシュ、という軽い音の後に仮面が外れ赤みがかかった黒い長髪が広がり、奴の素顔が露わになる。

 

「……え?」

『なッ!!?』

 

 まるで、鏡を見ているようだった。

 年もある程度とっているし、目に隈があるし、完全に同じわけじゃない。

 だけど、レックスの素顔は……。

 

「わた、し?」

 

 私と、同じ顔。

 毎朝鏡で見てきた自分自身。

 それも成長したような姿を見せられ、困惑する私に素顔を晒したレックスがゆっくりと口を開いた。

 

「私の名はアラサカ・アカネ。こことは別の次元を生きたアラサカ・アカネの成れの果てだ」

 




プロトXでも赤くならなくちゃ撃てない拳ビーム。
これをさらに収束した上で通常技でぽんぽん撃ってくるのがプロト1です。



今回の更新は以上となります。
次話はなるべく早く更新したいと思います。


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並行世界編 11

お待たせしました。

今回はレイマ視点でお送りします。


 マグマ怪人改め、惑星怪人アースは黒騎士によって討伐された。

 スマイリーに引き続き、人類にとって快挙となる出来事のはずだが、そんなことを喜ぶ暇もなく衝撃的なことが現在、レジスタンス本部を襲っていた。

 

 謎の戦士レックスは並行世界を生きたアラサカ・アカネである。

 

 普通ならば信じられないだろう。

 だが彼女の容姿、動き、そのすべてが現在のレッドに酷似していることから安易に否定することはできなくなった。

 

「つまりは、お前は並行世界。それもこの世界と似た歴史を持つ世界を生きたアラサカ・アカネということか?」

「ああ、その通りだ」

 

 指令室。

 司令であるこの私と、レッド達三人、大森くんを含む主要レジスタンス構成員が集う部屋に、並行世界からの来訪者であるレックス、ヒラルダ……そして、黒騎士であるホムラ・カツミがそれぞれ用意された席に座っている。

 

「未来のアカネってなんだか……へぇ、これがあれになるんだ……」

「なんか真っ当に美女になってて草」

「ねぇ、なにがおかしい……?」

 

 レッド達が声を潜めて何かを話しているのをスルーし、私はレックスに問いかける。

 

「単刀直入に聞くぞ。君の世界の歴史では我々はどうなった?」

「……」

 

 レッドを成長させたような見た目のレックスが顔を顰める。

 質問に気分を害したわけではなく、私が訪ねた内容を口にするのを躊躇したように見える。

 ……彼らが介入したということは今回の戦い、本来は多くの犠牲が出ていたということだろう。

 そういう運命を知っていたからこそ、彼らは動いたのだ。

 ならば、知らなくてはならない。

 本来の……正史の我々が辿る末路を。

 

「我々のことを気にせずに教えてくれ。知らなくてはいけないんだ」

「……分かった。覚悟しておけよ」

 

 重々しく頷いたレックスはやや躊躇しながらもこの場にいる面々を見回す。

 

「アオイは怪人にされた実の妹を手にかけ心を壊し、最期はスーツの性能を限界以上にまで引き出し肉体が耐え切れず死んだ」

「……はぇ?」

 

 ブルーの呆気にとられた声に構わず彼女は次にイエローを見る。

 

「マグマ怪人との決戦でキララが自爆して死亡」

「……ひぇっ」

「潜り込んだ怪人、グリッターにレジスタンス構成員の八割が虐殺」

「……」

「怪獣王オメガの覚醒を止められず、そのままオメガは宇宙からの侵略者との戦争を始め……地球は滅亡する」

 

 お通夜みたいな空気の中、それでもレックスは言葉を発する。

 

「これが十日以内に起こるかもしれない出来事だった」

「「「……」」」

 

 絶望的じゃない?

 もう詰んでいるとかそういう問題じゃないくらいに終わっているんだが。

 いや、分かっている。

 レックス達が現れなければそのような最期を送っていてもおかしくない。

 ……だが、改めて我々が辿っていたであろう最期を聞かされると、なんとも言えん気持ちになってしまうな。

 

「私は、どうなったの?」

 

 静まり返った室内でレッドがレックスにそう尋ねた。

 我々が死んだとしてなぜレックスだけが生き残ったのか。

 外ならぬレッド自身がそれを知りたいのだろう。

 

「ここにいる私になにがあったの?」

「……。私は一人だけ生き残った」

「地球は滅んだのに、どうやって……」

「カネザキ・レイマが秘密裏に開発していた宇宙船……いや、地球の記録を残すための箱舟に乗り、私だけが生き延びた」

「あれに、乗ったのか……!?」

 

 万が一の最悪の事態に備えて、私は地球の歴史・文明・遺伝子情報を残すための船を開発していた。

 だが、それはあくまで私が乗ってきたガラクタ同然の宇宙船を作り直したものであり、私の人格を模したAIも不完全なものだったので到底実用からかけ離れていたはずだが……。

 そうか、レックスの世界の私はそこまで追い詰められていたのか。

 

「……待って、おかしくない?」

 

 レックスの話を聞いたキララがそんなことを口にした。

 

「別世界のアカネがいた地球が滅んで、アカネしか生き残っていなかったなら……ここにいる彼はいったいなんなの?」

 

 確かにそうだ。

 ここで、レックスの話に矛盾が生じてしまう。

 だがその疑問も予測していたのか、レックスはさほど動揺することなく口を開いた。

 

「一人生き残った私はある存在によりまた別の宇宙に送りこまれた。そこが、彼とヒラルダのいる宇宙だ」

「ある存在だと……?」

「星将序列第二位だ」

 

 第二位だと……!? ここで星将序列の名が出てくるとは……。

 

「その宇宙には、私の知らない地球が存在していた」

「また別の世界の地球ということか……」

 

 ということは、彼女たちがこの世界に来る前にいたのはその地球ということなのか。

 次元すら超えて生命体を送りこんでくるなんて、やはり星将序列上位陣は格が違うな……。

 だが地球が滅んだあとでまた別の地球にやってきたということは、その時の状況は我々と似ているな。

 すると、レックスが取ろうとした行動は予想できる。

 

「その時代でお前はここと同じように怪人を倒し、歴史を変えたというわけか」

「……いいや、違う」

 

 違ってた。

 ならば怪人が現れていない地球……と、考えたが穂村克己は怪人の存在をよく知っていたことから怪人自体は存在していたはずだ。

 

「私がなにをする必要もなく、怪人勢力は滅ぼされた。ここにいる彼と、こことは別の世界の私達にな」

「滅ぼされた……? あの怪人が?」

 

 いや待て、するとあれか?

 レックスがなにも介入していないのにも関わらず地球は怪人の脅威を乗り越えたということか!?

 驚愕の目で黒騎士———穂村克己を見ると、彼は少し困ったように頭に手を当てる。

 そんな彼を見かねたのか隣にいるヒラルダと名乗った女性が、意気揚々と口を開いた。

 

「彼が最初にプロトゼロを装着し、次世代スーツが完成するまでの間、たった一人で怪人を倒し続けたのよ。クモ怪人もナメクジ怪人も惑星怪人も」

「「「……」」」

 

 あれらを、たった一人で倒した……?

 しかも碌に装備もないはずのプロトゼロで?

 ……いや、先ほどの彼の戦いを見ればそれが嘘でも冗談でもないのは分かる。それほどまでに完全適合したプロトゼロスーツは常軌を逸した強さを持っていた。

 指令室内が穂村克己を見て唖然とする中、なにを思ったのかヒラルダは手首に巻いたデバイスのようなものか小さなメモリーカードのようなものを抜きだし、それを我々に見せた。

 

「信じられない? なら映像もあるわよ」

「なんだと!?」

「いや、なんであるんだよ……?」

 

 穂村克己本人もレックスも知らなかったのか驚きの目でヒラルダを見るが、当の彼女はなぜか自慢気だ。

 

「今でこそ馴れ合っているけどいずれは決着をつける敵同士。なら、貴方の情報を集めるのは当然でしょ?」

「敵同士だったの君たち……?」

「私とレックスは星将序列持ちよ。元の世界でカツミ君と戦っている間にこっちに飛ばされてきちゃったの」

 

 いやいやいや!? ものすっごい軽い感じで衝撃の情報が明かされたんだが?!

 星将序列を知らない私以外の面々は不思議そうに首を傾げているが、元43位の私からしてみれば敵勢力の存在が味方にいるという不思議な事態だ。

 

「お前たちは、彼の敵だったのか……!?」

「私はもう争うつもりはない。ヒラルダ。お前はどうだ?」

「フッ、今は一時休戦でカツミ君の味方よ。でも元の世界に戻ったらまた敵同士よ」

「望むところだぶっ飛ばしてやる」

「……」

 

 即座に返事を返した穂村克己に、ちょっとしゅんとするヒラルダ。

 よく分からんがそっちにも事情があるようだが、一つ気になったことがある。

 

「怪人勢力を倒した後でも戦いは続いているのか」

「彼の世界の地球の状況はここよりも深刻だ。星将序列が地球に送りこまれていることもそうだが、彼はよりにもよってルインに目をつけられている」

「……? ルイン?」

 

 ルイン、という名に首を傾げる。

 星将序列の関係者か? 少なくともそのような名は私は知らん。

 

「……単純に知らされていないか、この世界にいないのか……とにかく、だ。彼は元の世界に帰るためにお前たちへの協力は惜しまないつもりだ」

「元の世界に戻る方法があるのか?」

「あるでしょうね」

 

 と、ここで穂村克己が口を開く。

 彼はどこか煩わしそうに視線を横に動かすそぶりを見せながら言葉を発していく。

 

「第二位の野郎は、俺たちに何かをさせるためにここに送りこんだ。おあつらえ向きに地球が危機に陥った状況に送ってきたってことは奴は俺たちに地球を救わせようとしているんでしょう」

「……なるほど。だが、なぜそんなことを……」

「理由なんてこの際どうでもいいです。俺もこんな状況を見過ごすなんてできないですし。……あいつの思惑通りに動いていることだけは気に入らねぇけどな……

 

 ……なんというべきか、普通にいい子だな。

 惑星怪人にドギツイ悪口を言っていた姿から想像もできないくらいに理知的だ。

 

「君たちのことはよく分かった。まずは、映像を確認させてくれ。こちらの機器で使えるか?」

「規格は地球のものに合わせてあるから大丈夫」

 

 ヒラルダからデバイスを受け取り、指令室に備え付けている㍶に差し込み映像を再生させる。

 指令室のモニターに一瞬の暗転の後に映像が映し出された。

 

「あれは、クモ怪人……?」

 

 最初に現れたのははじまりの怪人。

 日本人口の4割を虐殺した最悪、クモ怪人。

 伸びる糸で建造物を切り刻み、人々を恐怖に陥れたやつの前にプロトゼロが立ちはだかる。

 この世界では私が装着し、四肢を砕き血反吐を吐きながら死闘の末勝利したが、今映像に映し出された黒騎士は嵐のように迫るクモ怪人の糸を拳で捌き——繰り出したその拳で胴体に風穴を開け、そのまま絶命させた。

 

「……なんという、ことだ」

 

 私が死の淵に瀕してまで始末したクモ怪人があんなにも呆気なく。

 完全適合したプロトゼロはここまで理不尽な強さを誇るものなのか。

 さらに映像が切り替わっていき、ダイジェストのように怪人が蹂躙されていく様がモニターに広がっていく。

 

さっきからリンリンうっせぇんだよ! 近所迷惑かッ!!

 

 真上から虫のように押しつぶされるスズムシ怪人。

 

治るんなら、電気なくなるまで殴り続ければ勝つじゃねーか!!

 

 電蝕王と呼ばれる怪人の幼体を一方的に殴り圧倒するプロトゼロ。

 頭がはてなマークの形をした怪人を投石で打ち抜く姿。

 ドラム缶の姿をした怪人を拳でぶっ飛ばし爆散させる姿。

 多くの怪人を装備もない、ただの拳で打ち砕いていく彼の姿が映し出していく中、最後に燃え盛る赤色の怪人がモニターに映る。

 

その出来損ないの心臓はいらねぇよなぁ!!

 

 そして、惑星怪人アースの心臓を抉り出す光景。

 ただただ怪人が黒騎士に殲滅されていく。

 あまりにもこの世界の絶望とはかけ離れた状況に我々も声を発することさえできなくなってしまう。

 

「……やっぱ自分で見るとなんとも言えない気持ちになるな……」

 

 これが、穂村克己。

 ……怪人の絶対的な天敵と評されることに納得がいってしまう。

 彼がいれば私はスーツを着て再起不能になることなく、クモ怪人の人類虐殺も起こらなかったということか。

 

「ここにいる彼のおかげでお前は半年の猶予を得た」

「……半年? なんの猶予だ?」

「プロトゼロの次世代型スーツ。通称『ジャスティススーツ』の開発だ」

 

 ッ、そうか! この世界では私がプロトゼロを着用したが、彼の世界では完全適合者である穂村克己が怪人を倒す役割を担ったことから私がプロトゼロの次世代スーツを開発することに成功していたのか!!

 だとすれば彼の存在の有無で地球の運命が変わっているようなものではないか……!!

 

「そして、その装着者がお前たちだ」

「え、私たち?」

「運命、とでも言うのだろうな。適合者として三人が集められることもあれば、目的も目標もなく偶然パワードスーツの着用者として集まってしまう。……これも、一種の呪いのようなものだ」

 

 アラサカ・アカネ。

 ヒナタ・アオイ。

 アマツカ・キララ。

 この三人がジャスティススーツの装着者だったとは……。

 いや、彼女たちがパワードスーツに用いているコアの適合者であったのなら納得ができる。

 

「……ねえ、穂村くん。だったよね?」

「なんだ?」

「君は、私たちのことを知っているの?」

「……」

 

 レッドの問いかけに穂村克己は無言を返す。

 その無言が否定ではなく、返答に困っているだけのものだと察したのかレッドは続けて質問を投げかける。

 

「アオイの名前も知っていたみたいだし、多分私たちのことも知っているんだよね?」

 

 確かに、穂村克己のレッド達への接し方はどこか距離が近いものがある。

 ……いや、それを言うなら私に対しても信頼のようなものが見え隠れしているので、私自身も彼にとっては見知った人物なのだろう。

 レッドの質問を聞いた彼は一度頷いた。

 

「そうだな。俺の世界にいるお前たちは……なんだ……その、友達だ」

「ともだち……」

「俺みてぇなバカ野郎を見捨てないお節介焼きだよ」

 

 これは、彼の世界ではレッド達と彼は共に戦う仲間というやつだったのかもしれないな。

 私が見ている限りでも彼がレッド達に対する言動は穏やかで親しみのあるものだ。

 

「そっちの私はどんな感じ?」

「ん?」

 

 と、ここで興味津々なブルーがそう質問する。

 彼は少し思い悩んだ様子で困ったように微笑む。

 

「変なことばかりするやつだけど面白い奴だよ」

「……」

「ん? どうした?」

 

 彼の言葉に少しフリーズしたブルーが隣のレッドとイエローを見る。

 

「ねえ、これやっぱり私のこと好きで———」

「はい、ちょっと黙ろうか葵」

「むごご」

 

 おかしい、ブルーってこんな奴だったか?

 いつもは静かで突飛な言動が少ない印象だったんだが。

 ……怪人が現れなければこういう性格だった、ということならばなんらおかしくはないが……。

 

「あ、そういえばジャスティススーツの映像データもあるよ」

「なにっ!?」

 

 ブルーの奇行を見てそんなことを考えていると、端末をいじっていたヒラルダの言葉に食いつく。

 プロトゼロの次世代型……!! その映像データを解析すれば今のパワードスーツを強化できる!! 少々どころかかなりの反則技ではあるが、人類、ひいては地球のためには見ておかねば!!

 

「再生してくれ!!」

「はいはーい」

 

 新たなメモリーカードを端末に差し込み映像が再生される。

 別世界の自分たち、ということでブルーも騒ぐのをやめレッド達とともに食い入るように画面を見つめている。

 

「……あっ」

「どうしたカツミ」

「いや、初期のあいつらの姿を見せていいのかなって……」

 

 ん? どういう意味だ?

 疑問を口にする前にモニターに赤、青、黄の三つの派手な色をした三人組が映し出される。

 

「燃える炎は勇気の証! ジャスティスレッド!」

「流れる水は奇跡の印! ジャスティスブルー!」

「轟く稲妻は希望の光! ジャスティスイエロー!」

 

「「「三人合わせて! 三色戦隊ジャスティスクルセイダー!!!」」」

 

 映し出されたのは赤、青、黄のスーツに身を包んだ三人の少女たち。

 その声からしてレッド達なのは分かるが……これはまさしく私が思い描いたプロトゼロの次世代型だ。

 なるほど、分かっているじゃないか並行世界の私。

 やはりヒーローには変身ポーズが必要だな、うんうん。

 

「あ、あぁぁぁ……」

「並行世界の私なにしとんの!?」

「こんなのってないよ……」

 

 私の感想を他所に別世界の自分たちの姿を直視できずに顔を手で覆い悶えるレッド達。

 

「あ、やっばい。ジャスクルの変身ポーズ入ってたんだった。てへっ」

「てへっ、じゃねーだろ。お前わざとだろ」

「……なかなかにクるな、これは。これが別の私の姿か……」

 

 一瞬にて混沌とした場となってしまったが、改めて理解できた。

 新たに仲間になるであろう彼らの存在は我々にとっての希望であり、切り札であるということを。

 




唐突に元の世界のジャスクルにとっての黒歴史を見せられるアカネ達でした。

プロトXとプロト1の違いについて、

【プロトX】
 限界駆動によりスーツが赤熱、ある程度は動けるが長時間は無理。
【プロト1】
 OLKS(オーバーリミットクロキシシステム)により余剰出力を赤いマフラーとして放出・推進力に変えているため赤熱化せず、常に最大出力で動き続けることが可能。

今回の更新は以上となります。


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並行世界編 12

お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

前半がレイマ視点
後半から日向ハルの視点でお送りします。


 並行世界からの来訪者である穂村克己と新坂朱音、レックスとの対話の後、情報整理のために一旦レッド達を戻らせた私は今度は穂村克己と対談を行うことにした。

 しかし、対談といってもなぜか彼の傍にはヒラルダが座っており、親の用事を待つ子供のように足をぷらぷらさせて暇そうにしている。

 ……元の世界では敵同士とはとても思えない光景ではあるが、こいつは人間ではなくエナジーコアが疑似的な生命体の姿を形どっているということなのだから驚きだ。

 その上、この世界では弱体化しており本来はこの世界の怪人以上の強さを持っているというデタラメさ。

 彼から話を聞くだけでも怪人勢力を超える怪物どもがポンポン現れる世界の地球が未だに平和を維持していることが奇跡としか言いようがない。

 

「そちらの世界では私と君はどういう関係なのだ?」

 

 並行世界の自分のことを聞くのは少し不思議な心境だ。

 私の問いかけに穂村克己……カツミ君は少しだけ悩むそぶりを見せてから微笑む。

 

「恩人……んでもって友人だな」

「友人、なのか」

「訳ありで両親もいないからそっちの方でも助けてもらったり、あとは……映画とか教えてもらったな」

 

 意外にもちゃんとしたコミュニケーションはとれているようだ。

 我ながら狂人扱いされていると思ったのだが。

 

「不愉快に思うかもしれないが……君のことを調べさせてもらった」

「? ……この世界での俺のことってわけか」

「ああ」

 

 ここまで来て信用していないというわけではないが、やはりこの世界にも穂村克己という人間が存在していたのか確認をするべきだと判断した。

 

「この世界にも穂村克己と呼ばれる少年はいた」

「いた、というと?」

「八年前の飛行機事故で亡くなっていた。……本人かどうかは分からないが……」

「……そっか」

 

 なにを思ったのか彼は視線を下に落として、安堵とも悲しみともとれる笑みを浮かべた。

 

「それだけ分かれば十分だ。ありがとう」

「……君は……」

 

 いや、あまり追求するべきではないのだろう。

 先ほどの表情からして彼が飛行機事故そのものにあっていたとしたら、その時点の生死が歴史の分岐点となっていたのかもしれない。

 ……それを今、どれだけ思考しようとも正しい答えが出るはずもない。

 だから、この話はこれで終わりだ。

 

「長話に付き合わせてすまなかった。君もしっかりと休んでくれ」

「レイマは?」

「君たちのデータを参考にしてパワードスーツの強化を行う。時間はないができる限りのことをしようと考えている」

 

 レックスの言葉通りなら猶予は一週間ほどしかない。

 この身を犠牲にしてでも人類勝利の可能性を上げていかなければ。

 

「レイマ」

「む?」

 

 早速作業に取り掛かろうとするとカツミ君が声をかけてくる。

 彼は隣のヒラルダに目を向けてからこちらを見る。

 

「身体、治せるかもしれないぞ?」

「む!?」

 

 カツミ君の突然の提案に目を見開く。

 私の肉体はプロトゼロスーツにより再起不能寸前にまで追い込まれ、今では車椅子なしでは動けないほどだ。それを治せるとは……まさか、プロトXとは別のスーツの力で……?

 

「ヒラルダ? いけるか?」

「うーん、いけるんじゃないの?」

「そういうことだ」

 

 ものすっっっごいざっくりした感じなのだが!?

 しかし、このボロボロの肉体が治る可能性があるならば試してみたい。

 戸惑いながらも了承すると彼は早速、ヒラルダの方を向いた。

 

「ヒラルダ、変身だ」

「まったくもう、今回だけだからね」

 

 彼の手がヒラルダへと伸びた———その瞬間、彼の左手首のチェンジャーから微かな光が発せられる。

 銀糸が形作った小さな鎌。

 ヒラルダの首にめがけて伸びたソレはカツミ君が突き出した右の手のひらに突き刺さっていた。

 

「ひんっ」

 

 数舜遅れて殺されかけたヒラルダの小さな悲鳴が響き、滴った鮮血がラボの床に落ちていくがそれに構わず彼は静かに声を発した。

 

「やめろ」

『———!!!!?』

「こいつがいなきゃ俺は今頃ここにはいない」

 

 い、一瞬で私のラボが修羅場に……!?

 というより、大丈夫なのか!? 掌おもいっきり貫かれているのだが!?

 

「確かにこいつは敵だ。んでもってかなりしつけぇし思い込みが激しい面倒なやつだ」

「ん? んん? あ、あれ、なにも刺されてないのに刺された痛みが……?」

「だけどな」

 

 頬を引き攣らせるヒラルダを半ば無視した彼は続けてチェンジャー……プロトXへ語り掛けていく。

 

「いつか決着をつけるが今じゃねぇ。こいつとの因縁は元の世界できっちりと片をつける。分かったか?」

『———……』

 

 傷をいたわるように引き抜かれた鎌が銀糸にほどけ、彼の傷口に触れる。

 すると、まるで逆再生するように彼の手のひらの傷が治っていき、最後には傷口そのものが縫合するように消える。

 再生……いや、目視できないほどの糸で“修復”したのか?

 

「怒ってねぇから気にすんな。寂しかったんだろ? ちゃんと分かってる」

『———……』

 

 パ、パーフェクトコミュニケーション……!!

 私から見てもものすごく面倒くさそうな性格をしているプロトXに対して完全な対話を成し遂げている……!

 

「ねえ、大丈夫?」

「は? 全然痛くねぇわ。勘違いすんじゃねぇぞ、今のはお前を助けたわけじゃねぇ」

「えへへ……」

「お前には借りがある。んでもって俺も納得した形で決着をつけてぇから、庇っただけだ。もう一度言うが……勘違いすんじゃねぇぞ」

「えへへへ!! ツンデレだ!!」

「は? ツンデレってなんだよ」

 

 カツミ君はともかくヒラルダは敵対している自覚はあるのだろうか。

 傍目で見ると構ってもらって嬉しい小動物なのだが。

 

「はぁ……レイマ、床を血で汚しちまったし治すのは掃除した後でいいか?」

「あ、ああ」

 

 どこか疲れた様子の彼の傍らで満面の笑みを浮かべるヒラルダを見て「こいつも面倒くさそうな性格してそうだなぁ」と考えまた引いてしまうのであった。

 


 

 なんだかマグマ怪人との戦いが終わってからお姉ちゃんの様子がおかしい。

 なんというか……そわそわしているというか、落ち着きがないというか、性格が怪人が現れる前に近くなっているような気がする。

 でもそれは悪いことじゃなくて良いことなのは分かっている。

 むしろ元気がなくて、自由さがないお姉ちゃんを見ている方が痛々しい。

 

「お姉ちゃん」

「ん?」

 

 マグマ怪人からの襲撃を終え、お姉ちゃんたちが拠点に戻ってきてくれた。

 拠点からマグマ怪人の攻撃が見えていたけれど本当に世界の終わりって感じの光景だった。

 空から溶岩の雨が降って、大きなビルと同じ姿に変わって……最後には赤い嵐(・・・)に吹き飛ばされた。

 遠くから見えたのはそれだけ。

 拠点にいる私たちがなにも理解できないままマグマ怪人は倒されて、お姉ちゃんたちは帰ってきた。

 怪我もなにもなく戻ってきてくれたことを嬉しく思いながら帰ってきたお姉ちゃんを迎えたわけだが……。

 

「なにかあった?」

「……なにもぉ?」

 

 嘘だ。

 露骨に目を逸らし挙動不審気味に斜め下に視線を落とした姉をジト目で見る。

 この姉のこともそうだけど、最初の拠点だった場所から帰ってきた人たちもどこかざわついた様子だったし、怪人以外のことでなにかあったのかもしれない。

 ……。

 ……あのものすごいマグマ怪人が倒されたのってもしかして……。

 

「黒騎士さんがここにいるって本当?」

「なんで知ってるの……!?」

「知らないけど、マヌケは見つかったね」

「ハッ!?」

 

 駆け引きとかする必要もなく姉がちょろくなったんだけど。

 でも本当にあの黒騎士さんが……いや、あの人の強さを考えればマグマ怪人を倒せてもおかしくない。

 むしろ納得してしまった。

 

「深くは聞かない。多分、皆に隠している理由もあることだし———」

「ハルなら会っても大丈夫そうだし、会ってみる?」

「会う」

 

 ちょろいのは私もだった。

 こちらからの配慮を一瞬で上辺だけのものにされながら、部屋を移動しだしたお姉ちゃんの後ろをついていく。

 

「私に教えていいの……?」

「今、司令に確認したら特別に許可をもらえた。……それに、ハルが一番最初に彼と接触したから」

 

 それはそうだけど……。

 でもまた会えてちゃんとお礼を言えるのは嬉しい。

 

「黒騎士さんってどんな人だった?」

「不思議な人」

 

 それはお姉ちゃんのことでは? ……とは口には出さなかった。

 多分、お姉ちゃんの不思議なところと黒騎士さんの不思議なところは全く別物だと思うから。

 

「あとこことは別の世界から来た人」

「……はい?」

「一応言っておくけど嘘じゃないよ?」

 

 そこからお姉ちゃんの口からとんでもない話が飛び出してきた。

 黒騎士さんが別の世界の地球から飛ばされてきた人で、彼は前にいた世界と同じように怪人と戦ってきたそうだ。

 他にも別の世界のアカネさんもいるし、宇宙人もいるというものすごいSFチックな話の連続で頭が混乱しかけるけど、今私たちの周りで起こっている状況もSFには変わりないのでギリギリで現実として受け入れることができた。

 

「彼はいい人。これから一緒に戦ってくれるし」

「一緒に戦ってくれるんだ……」

 

 そう聞いて、これからの怪人との戦いに希望が見えてきたような気がしてくる。

 彼の強さもそうだけど、その存在が私達にとってなくてはならないものだと漠然と感じていたからだ。

 

「あと、ハルを助けてくれた……。私は彼のことを信じる」

「……お姉ちゃん」

 

 彼がいなければ私はスマイリーに怪人にされてそのまま死んでいたことだろう。

 そう考えるだけで背筋が凍るような思いに駆られるし、もし……もしも怪人になった私がお姉ちゃんと戦うようなことになっていたら……。

 

「……考えないようにしよう」

 

 今はそんなことになっていないから、考えるだけ無駄だ。

 

「あと内緒の話だけど」

「うん?」

「私のことが好きなんだと思う」

「えーっと」

 

 ごめん、意味が分からなかった。

 話がものすっごい斜め上に飛躍して思考が三秒ほど停止した私に、こちらを振り返ったお姉ちゃんは「むふー」と言わんばかりのどや顔を浮かべる。

 

「初対面で私の名前を呼んだ。しかも下の名前」

「ごめん、お姉ちゃん。私、黙っていたけど私も初めて会ったときに呼ばれてた」

「ハルも呼ばれていたマ?」

 

 口調が崩壊する姉。

 言わなければよかったか? と内心しまったと思っていると、口元に手を当てた姉が思案顔を浮かべる。

 

「つまり家族ぐるみの付き合い……ってこと!?

 

 意味不明にメンタルが強いな……。

 謎のポジティブによりさらなる方向に思考を飛躍させた姉に逆に関心する。

 だけどそうか……黒騎士さんのいた地球では、別の私とも関わっていたってことなんだ。

 別の私のこととはいえ、ちょっと複雑だけど嬉しくもある。

 

「ん、ここだよ」

「司令さんの研究室の近くなんだ……」

 

 話している間に目的地についたのか、一見してなんの変哲のない鈍色の扉の前に立ち止まる。

 護衛も警備も誰もいない扉の前に移動したお姉ちゃんは、軽く扉をノックする。

 

『ああ』

 

 短い返事の後、すぐに扉が開かれ背の高い女性が顔を出してくる。

 え、黒騎士さんって女性だったの!? と驚いたが、出てきた女性の顔を見てさらに驚愕する。

 

「君は……」

「アカネ、さん?」

 

 いや、違う。

 アカネさんにものすごく似ているけど身長も年齢も違うように見える。

 お姉さんか誰か……? でもここは黒騎士さんの部屋だし……。

 

「君が、アオイの妹のハルか……」

「え、あ、はい……」

 

 私を見て目を丸くさせた女性は僅かな沈黙の後に、私の隣にいるお姉ちゃんに鋭い視線を向ける。

 

「……ブルー。妹をここに連れてきたのか?」

「うん。司令には許可をもらった。レックスさんはどうしてここに?」

「彼に少しばかり話があっただけだ。……私の方はもう済んだ。あとはお前たちが話すといい」

 

 そう言ってレックスと呼ばれた女性は扉を広げ、道を開ける。

 部屋の中を見ると、ベッドの傍の椅子に腰かけている黒髪の青年がいた。

 

「カツミ、君に客だ」

「ん? 誰ですか?」

 

 レックスさんの声に彼はこちらを見る。

 

「ハル?」

 

 僅かな素振りと私の名前を呼ぶ声だけで、その人が黒騎士さん本人だと分かってしまった。

 




実は無茶苦茶痛くて痩せ我慢したカツミくんでした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 13

二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

前半がレックス視点。
中盤からカツミ視点でお送りします。


 記憶にはあるが記憶にない景色。

 我ながらそう表現して奇妙な心境になってしまうが、今の状況を考えるとその表現は間違いでもない。

 私の摩耗した記憶の中で目にした第二拠点と、カツミにより人間が生活する最適な場所へと変えられたこの世界の第二拠点は構造こそ同じだが、その景色はあまりにもかけ離れたものだ。

 

「……はぁ」

 

 先ほどはカツミの部屋を訪ね今後の方針を改めて話しておいた。

 元の世界に戻る手立てを考えるのはこの世界の怪人を排除してから、ということに最終的に決まった。

 

「そこまで不安がってはいなかったな」

 

 元の世界に帰る方法と言えば簡単だが、その実は次元を超えて世界そのものを超えることだ。

 間違いなく普通の方法では無理なはずなのだが、彼は微塵も不安を抱いている様子はなかった。

 

「……カネザキ・レイマのところに向かってみるか」

 

 聞けばカツミが奴の身体を癒したらしいので、一応確認しておこう。

 奴の身体が万全なものになれば、私の装備とこの世界のパワードスーツもマシなものになるからな。

 そう考えながら通路を進んでいくと、曲がり角から見慣れた人物が現れる。

 

「……」

「……」

 

 アラサカ・アカネ。

 この世界の私自身とも言ってもいい人物の登場に私は露骨に眉を顰める。

 奴も同じような顔をしているのを見てから私は無視して先へ歩き始めるがなにを思ったのか奴は私と同じ方向を歩き出した。

 

「なんでついてくる」

「向かう方向が同じだけだよ」

「ふん」

 

 こいつもカネザキ・レイマに用があるのか。

 

「装備の無理な強化を提案するつもりか?」

「ッ」

 

 図星のようだ。

 だが分かるさ。なにせお前は私なんだからな。

 

「そうやって自己を顧みずに命を使おうとするところを見ると虫唾が走る」

「……自分もそうだったから?」

「私はお前以上にロクでもないぞ」

 

 嫌味を返したようだが、置かれていた状況は私の方がもっと悪かった。

 

「私の実年齢は100を超えている」

「えっ!? で、でも見た目は……」

 

 私の身体的な年齢は20代半ばほどで止まった。

 恐らく細胞が全盛期の時点で止まったのだろう。

 まあ、それを調べようとは思わないが。

 

「私の世界で惑星怪人アースとの戦いを終えた後、キララが死に、アオイが命を擦り減らし限界の状態を迎えていた……というのは説明したな」

「……うん」

「そんな状況で私はカネザキ・レイマが培養したオメガの細胞を元にした薬物を取り込み人間をやめた」

「っ、なん……で」

「そうするしかなかったからだ」

 

 レジスタンスは崩壊し、アオイは余命いくばくもなく、敵勢力にはオメガという親玉が健在。

 最早人類に希望は残されていない中で私に残された手段は、怪人に屈し死を迎えるか、それでも戦って犬死にするかのどちらかだった。

 

「自分の命の使い方を間違えたおかげで私は無意味に生きすぎた。結果としてカツミの敵として地球に戻り、彼に殺されるつもりだった」

「意味、分かんないよ」

「だろうな。だが……それでいい。理解できないことが正しい」

 

 ここで共感しないことで、もうここにいる私と目の前にいるアラサカ・アカネは別の未来を生きている。

 この世界がどのような結末を迎えることになろうとも、私のような怪物にはならないだろう。

 

「あの、さ」

「なんだ」

「黒騎士……カツミさんの世界の私ってどんな感じなの? 私と貴女とも違うんだよね?」

「……ああ」

 

 カツミの世界の新坂アカネ。

 私の百年の研鑽に匹敵する技量と凄まじい殺意を叩きつける剣士。

 奴の強さはスーツの性能を抜きにしても脅威だ。

 

「生身で怪人を屠る技量は私を上回るだろうな。なにがどうしてか分からないが奴は私の知らない剣技を用いて敵を切り裂く」

「あんな変なポーズしてても……」

「見た目がチープでもカネザキ・レイマが完成させた正真正銘のスーツだ。お前たちのパワードスーツ以上の性能と出力を誇る」

 

 そういう意味でも恐ろしいのはカネザキ・レイマも同じだ。

 奴は時間さえあれば非力な人間が怪人とまともに戦えるスーツを開発することが可能なのだ。

 

「あとは……」

 

 カツミの世界の新坂アカネのことを話そうとして、ふとこの世界に来る前———公園のベンチでカツミから聞かされた衝撃的な事実を思い出して閉口する。

 

「え、なに?」

 

 黙り込んでしまった私にアカネが不安そうに尋ねてきた。

 

「……聞かない方がいい」

「な、なんで? ま、まさかあんな恥ずかしいポーズをしているから!?」

「いや、それとは別だ」

「なんでそんな苦虫嚙みつぶしたような顔して言うの!? ものすごい気になるんだけど!?」

 

 同族嫌悪じみた感情を抱いているとはいえ、この事実を話していいものか。

 割と少なくない衝撃を与えてしまうかもしれないが……。

 

「本当に聞きたいのか?」

「……聞く。私のことだから」

 

 ……そこまで言うのなら仕方ない。

 

「カツミ曰くあの世界の新坂アカネは……」

「うん……」

人斬りブラッドという異名で呼ばれ」

「……」

食いしん坊で」

「……」

わがままで」

「……」

一歳児のような女、だそうだ」

「待って苦しい。想像した別の意味でやばすぎて動悸がする」

 

 衝撃の事実過ぎて足を小鹿のように震わせるアカネ。

 あまりにも自分と似てもつかない惨状に思考が追い付かないようだ。

 

「あとはカツミの義理の姉という意味不明なことにもなっている」

「弟!? 義理!? う、ううう噓でしょ!?」

「本人がそう言っていた」

 

 間違いはないだろう。

 あまりにも自分たちとかけ離れて居る別世界の自分。

 若干、その差異と恵まれている感にイラっとはする。

 

「……そろそろだな」

「義理、カツミさんが義理の弟……」

 

 言うべきではなかったか……。

 カツミの世界の新坂アカネとこの世界のアラサカ・アカネは二歳ほど年齢差があるので、年上の義理の弟という奇妙な構図が成り立ってしまうので混乱してしまったのだろう。

 ———と、そこまで思考していると丁度カネザキ・レイマのいる研究室へとたどり着く。

 未だ思考に耽っているアカネを無視し、私が先に研究室の扉を開け———、

 

「ヴェェェェッハッハッ!! 完全無欠のパーフェクトマッドサイエンティスト!! カネザキ・レイマの復活だぁぁぁ!!」

 

 ———て、見えたのはこちらに背を向け高笑いをしているカネザキ・レイマの姿。

 普段の奴を見ればそのような奇行に走るとは思えないが、今の奴の姿はもう変態以外の何者でもない。

 

 なにせ、今の奴は全裸だったからだ。

 

 全身に巻いていた包帯が解かれそれが局部を隠しているが酷い光景だ。

 

「ふははは!! 肉体が十全に活動できるならば作業効率は跳ね上がる!! このまま開発スタァァトだビャッハァァァ!!」

 

 入ってきた私に気づかず、いまだにテンション振り切っているカネザキ・レイマに冷たい視線を向けた私はそのまま扉を閉め、声に驚いたアカネに振り返る。

 

「ど、どうしたの? すごい声が聞こえたけど……」

「入らない方がいい。目が汚れる」

「本当にどうしたの!?」

 

 本当にどうでもいいものを見てしまった。

 だが、カネザキ・レイマが万全な状態になったのなら状況はいい方向に向かっているのだろう。

 ……本当に大丈夫か不安にはなるが。

 


 

 レックスに続いてアオイとハルが部屋を訪ねてきた。

 怪人に囚われていたハルが元気になっていたことに安堵しつつ、二人と話をすることにした。

 

「……葵から話は聞いたんだな」

「はい。その、あの時助けてくれてありがとうございました」

「気にすんな。こっちも助けられてよかった」

 

 正直、ハルがいるとは思いもしなかったので逆に俺の方が驚いたくらいだ。

 ある意味でハルとの遭遇でここが並行世界だって再認識できた。

 

「しかし、どっちの世界でもスマイリーの事件に巻き込まれるなんてな」

「そちらの私も、スマイリーに?」

「ああ」

 

 俺のいた世界でもハルはスマイリーの事件の被害にあっていた。

 そういう運命にあった、とでもいえば聞こえがいいが怪人の脅威に晒される運命なんて反吐が出るな。

 

「そしたら……そちらの私は……どうなったんですか?」

 

 葵も聞いてきたけどまあ気になるよな。

 特に答えられない質問ではないので普通に話す。

 

「俺が助けた……っていってもいいのかな? 今、俺のいた世界のハルは……レイマの会社専属のぶいちゅーばー? ってやつをやっているな。俺たちや葵たちのことを広めたりしてくれている」

「ぶ、ぶぶぶ、Vtuber!?」

 

 頼れる広報担当ってやつだな。

 ハルがどのようなことをしているのかはまだまだ理解しきれていないが、彼女も楽しんでやっているみたいだ。

 

「で、でも、意外でもないかもしれません。怪人が現れる前はちょっと興味ありましたから」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 言っていなかったのか葵が驚きの目でハルを見る。

 

「……私、これからどうしたらいいかずっと考えていたんです。お姉ちゃんが命がけで戦っているのに私だけのうのうと過ごしていいのかって」

「気にすることないのに……」

「ううん。気にするよ。私には戦う力もないし、スタッフの皆さんみたいにお姉ちゃんの戦いを助けられるような専門的な知識もない……でも、今カツミさんの話を聞いて少しだけ自分にできることが分かってきたかもしれないんです」

 

 彼女の言葉に俺は頷く。

 

「なら応援する」

「き、聞かないんですか?」

「お前がすごい奴なことは知っているからな。そこらへんは心配してない」

 

 呆気にとられた後に嬉しそうに笑みを浮かべるハル。

 “自分のできることをやろうとする”……か、こういうところも別世界とも同じってことか。

 スマイリーと関わる因果よりもこっちの因果の方が断然いいな。

 


 

 葵とハルが帰った後、一人残された部屋の中で俺はベッドに横になり天井を見上げる。

 今この場には俺一人と……チェンジャーにいるプロトしかいない。

 

「———別世界、か」

 

 改めてそう考えるとおかしな話だ。

 この世界の俺はあの日の飛行機事故で死ねて、ここにはいない。

 今の俺は飛行機事故を生き延びて今ここにいる。

 なぜ、そんなことになったのか。

 どっちの世界が正しいのか。

 そんな、答えの出ない疑問が頭の中で延々と浮かんでは消えていく。

 

「そうか、こっちの俺は……一緒に死ねたんだな……」

 

 それでも、きっと不幸なことなんだと思う。

 こんなことを考えている俺に、アカネ達なら悲しんで怒ってくれるかもしれないが、俺はレイマからその話を聞いたとき思わず安堵してしまった。

 ……。

 

「はぁぁ」

 

 溜息をついて体を起こす。

 ここに来てから何度も(・・・)感じる煩わしい視線にいら立ちを隠さずに頭に手を当てる。

 

「……見てて楽しいかよ。なあ、おい」

 

 一人になった部屋で呟く。

 返事は返ってこないがこの呟きは確実にやつに聞こえている。

 奴はずっと見ている。

 世界を、次元を隔てても。

 

「俺もこの世界の奴らもテメェの暇つぶしの玩具じゃねぇんだぞ。ルイン」

 

 手段が回りくどいから俺たちをこの世界に飛ばしたのはルイン本人じゃねぇのは分かっている。

 奴は面倒な手順を踏まず、わざわざ声をかけて送りこもうとするだろうからな。

 だが、今見て面白がっているのはこいつの意思によるものだ。

 

「……テメェの思い通りに動くのは気に入らねぇが、今回は乗ってやる」

 

 この世界のアカネ達を見捨てる選択なんてとるつもりはねぇ。

 乱暴にそう言い放った俺はベッドに再び横になり目を閉じる。

 

「あと鬱陶しいから常に監視すんのはやめろ」

 

 そう言葉にすると、これまで感じていた視線が消える。

 大人しく従ったことに驚きながらも俺は、身体を休めるべく就寝に努めるのであった。

 

 

———あぁ、そうだ

 

———それでいい

 

———カツミ、お前ならばきっと……




完全復活を遂げた社長と、どんな反応をされても楽しいルイン様でした。

今回の更新は以上となります。


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並行世界編 14

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
少し忙しくなってしまい更新が遅れてしまいました。

並行世界編14
カツミ視点でお送りします。


 この第二拠点に合流してから早三日が過ぎた。

 その間、俺の存在が第二拠点内に住む人々に知らされたが、俺が想像していたよりかは騒ぎにはならなかった。アカネ曰く「ここがあるのは君のおかげってみんなが知っているから」だそうだ。

 

「……ふぅ」

 

 拠点の屋上。

 穴が開き吹き抜けだった天井が補修され人の立ち入れるようになったその場所で、俺は欄干に体を預けながらそこからの景色を見据えていた。

 

「ひでぇもんだな」

 

 俺が張り巡らせたバリアの先にある町の景色。

 荒廃し倒壊したビル、最早道路とも呼べないくらいに破壊しつくされた有様を目にして思わずそう呟いてしまう。

 怪人共が跋扈する世界なんて想像もしちゃいなかった。

 だが、実際この目で見てみると……俺の世界も結構な綱渡りの末にたどり着いた未来だったのかもしれないな。

 

「いやいや、この破壊の三割くらいはカツミ君のせいでしょ」

「……うぐ」

「アースとの戦いで背の高い建物とかたくさん壊しちゃったじゃん」

「うるさい……」

 

 一人黄昏ている俺に無遠慮に声をかけてきたヒラルダに溜息をつく。

 つーか、こいついっつも傍にいるな。

 

「お前さぁ」

「なぁに?」

「元の世界に戻っても俺たちの敵になれんのかよ」

「もちろん、そのつもりだよ」

 

 本当かよ。

 俺はともかくこいつから微塵も敵意を感じねぇんだけど。

 

「仮に、仮の話私が貴方に絆されて敵対したくなくなったとしても、そんなの関係ない。そんなことは私自身が絶対に許さないから」

「……」

「信じていいよ。私は君の敵。私がそう絶対に決めているから」

 

 そこまで言うなら何も言わねぇ。

 だけど、やっぱりこいつもこいつで面倒なモン抱え込んでいるんだな。

 

「それにさ、そう簡単に私に心を開いちゃだめだゾ♪」

「いや、別に開いてねぇけど」

「ふ、ふぅーん……」

 

 開いているか開いてないかで言えばまったく開いてないぞ。

 頬を引き攣らせて挙動不審気味になるヒラルダを見て、もう一度溜息を吐いていると……不意に屋上に設置された真新しいスピーカーから「ジジッ」というノイズ音が鳴り響く。

 

「ん、そういえば今日からか」

「え、なになに?」

 

 欄干に背中を預け、スピーカーに意識を傾ける。

 そのすぐ後に軽快なメロディーが流れてくる。

 

『皆さん、はじめまして!』

 

 作業音と人のにぎやかな音だけが響く拠点内で、快活なハルの声が聞こえてくる。

 世界が崩壊する以前の音楽をかけ、彼女自身も聞いている人たちを楽しませるような話をしていく。

 

『今日からお昼の放送を任されることになりました日向ハルです! こんな世界ですけれど、少しでも皆さんに笑顔になってほしいので頑張ります!!』

 

 ラジオ、というにはあまりにも小規模だが、彼女の最初の一歩としては十分なものだ。

 

「笑顔になってほしい……か」

 

 無理やり笑顔にする胸糞わりぃことしかしねぇスマイリーの万倍はいい。

 ハルの放送を耳にしながら笑みを零すと、頭上から動物の羽ばたきと共に機械仕掛けのフクロウが目の前に降りてくる。

 

「お、来たか」

 

 ヒラルダから出てきたメカフクロウ。

 偵察から索敵まで色々と働いてくれる優れものだ。

 

『クァー、クァー!』

「おう、お疲れさん。ダイフク」

「ダイフク!? ね、ねえ、カツミ君? もしかして名前つけてる? ねぇ?」

 

 桃色のフクロウは左手首にちょこんと乗ると、腕時計型のデバイスに変形する。

 

「近辺の地形、徘徊する怪人のデータがとれたな」

『♪』

「偉いぞ」

 

 レイマに渡しても問題なさそうだな。

 再びフクロウに変形したダイフクの下顎を撫でた後に、無言でこちらをジッと見ているヒラルダに声をかける。

 

「よし。ヒラルダ、バリアを張りなおすぞ」

「……ウン」

 

 光とともにバックルになったヒラルダを腰に巻き付ける。

 俺もハルと同じように自分にできることをしていかなくちゃな。

 


 

 ヒラルダと共に第二拠点を覆うバリアを張り直し、内部の環境をもう一度整えた俺とヒラルダはレイマに呼ばれ、新しく作られた格納庫へと足を運ぶことになった。

 格納庫に向かうと先にアカネ、アオイ、キララの三人が到着しており、彼女たちは俺とヒラルダに気づくと気安く挨拶をしてくれる。

 

「カツミさんも呼ばれたんだ」

「……ああ」

 

 “くん”ではなく“さん”と呼ばれ少し動揺する。

 この世界ではアカネ達はまだ16歳なので、そう呼ばれるのは仕方ない。

 

「バリアとかありがとね」

「礼ならこいつに言ってくれ。俺は能力を使っただけだしな」

 

 ヒラルダの背中を押してアカネの前に出す。

 突然のことに驚いたヒラルダはすぐに俺の後ろへ隠れる。

 

「ちょっと、カツミ君。そういうところが……」

「は? どういうところがなんだよ?」

「……なんでもない」

 

 なんだよ。

 ぷい、と俺から顔を背けるヒラルダを不思議に思っていると、俺たちの後ろからレックスがやってくる。

 レイマが即席で作った義手にジーンズにシャツという比較的ラフな格好をしているが、やっぱりアカネの母親のシオンさんに似ている。

 

「レックスも?」

「ああ、私の装備の修理が終わったと聞いてな」

 

 俺と戦った時に壊れた装備も修理してもらったんだな。

 

「それで、あとは司令だけだけど……」

「この三日間、姿を見せずに研究室籠りっきりだったけど大丈夫なのかな」

「大量の素材が使いこまれているって話は聞いた」

 

 と、アカネ達が口にすると俺たちが入ってきた入口とは別の扉が勢いよく開く。

 全員がそこに注目すると、一つの人影が飛び込んできて———ゴロゴロと床を前転しながらさらに跳躍し、俺たちの前に着地した。

 

「お前たち待たせたなァ!!」

 

 びぃぃん、と擬音が出そうな立ち姿を見せた白衣を着た金髪の男、レイマは俺の知る世界の彼と同じ自信に満ち溢れた表情を浮かべていた。

 そんな彼の登場にアカネ達は……。

 

「「「……誰?」」」

「私だ、私!! カネザキ・レイマだよっ!!」

 

 包帯まみれだったレイマしか知らないのか彼の素顔に困惑しているようだ。

 

「司令、そんな顔だったんだ」

「ずっと包帯巻いてたから気づかなかった」

「宝の持ち腐れで草」

「反応があんまりすぎではないか……? まあ、いい。私が完全復活したことなど些末な問題でしかない」

 

 俺の知るレイマとは違い、元気にアカネ達を煽ることもなく彼は話を進めようとする。

 

「早速説明するが、まずはお前たちのパワードスーツの次世代型が完成した!!」

「三日で、ですか?」

「映像資料は十分にあったからな。猶予は少ないが可能な限りの改造は施した!! それがこちらだ!!」

 

 いつの間にか手に持っていた端末を操作し、格納庫に設置しているポッド型の機械を作動させる。

 三つあるポッドが蒸気と共に開き、そこから赤、青、黄のスーツが現れる。

 人間が乗り込むパワードスーツではなく、俺の知るジャスティススーツに近い身に纏うタイプのものだ。

 だが全体的に鎧に包まれており、戦隊スーツというよりパワードスーツを縮小化させたようなものに見える。

 

「名付けるなら……こいつは『ジャスティスアーマー』!! 見た目こそはパワードスーツよりもサイズダウンしているが出力と防御性能は既存のスーツの三倍だ!!」

「これが、私たちの新しい力……」

「メタルヒーローみたい……」

「へー、すごいね」

 

 新しいスーツに気を引き締めるアカネ、よく分からないことを言っているアオイ、そして関心するフリをしているキララ。

 三者三様の彼女たちの様子に俺は目を細める。

 

「……どうしたのカツミ君?」

「いや、なんでもねぇよ」

 

 ……やっぱり話すべきだよなぁ。

 別の世界だからあまり入れ込むべきじゃないのは分かっているが、どうにも放っておけねぇしな。

 

「我々には時間が残されていない。性能試験は最低限行い、すぐに第三コロニーの掃討に向かうことになる。相手は膨大な電力を溜めこむ電喰王ナメクジ怪人!! 奴を討伐次第、怪人王オメガを倒す!!」

「「「「はい!!」」」」

 

 むしろ短い期限でよくやったもんだ。

 最悪俺だけでカタをつけるつもりだったが、アカネ達も頼れる味方として一緒に戦ってくれるかもしれない。

 

「そしてレックス。お前の装備も修理・グレードアップさせておいた」

「ああ、感謝する」

「それとお前の装備の記憶領域に不自然な空白があったので、お前の動きを補助するサポートAIを組み込んでおいた」

「サポートAIだと? 待て、なんだそれは」

『私だ』

 

 怪訝な顔をするレックスに、この場の誰でもない第三者の声が響く。

 声の主はレックスの装備していたフルフェイス型のヘルメットからだ。

 

『私はカネザキ・レイマが作り出したサポートAI、GRD(がるだ)だ。よろしく頼むぞ』

「……勘弁してくれ」

「私の思考をトレースした超超超有能AIだ。きっと役に立つだろう!!」

 

 額を押さえうなだれるレックスと高笑いするレイマ。

 対照的な二人に首を傾げていると話は次の作戦の内容へと移っていく。

 

「オメガを倒せば、怪人との戦いは終わりか」

 

 宇宙からの敵の問題は解消されないが、まずはオメガをなんとかしねぇとな。

 


 

 作戦決行は二日後。

 かなり早急と思うかもしれないが、元より地球が滅ぶまでの時間が差し迫っているのでこちらも急がなくてはならない。

 なんとしてでもナメクジ怪人とオメガは倒さなくちゃならない。

 

「オメガの能力はヒラルダの能力で封じれば、奴は単純な強い怪人として片づけられる」

 

 俺のいた世界ではオメガはただ強い怪人として倒されたが、実際はアルファの認識改編の力でオメガの視界に俺達を認識されなくして能力の対象にならないようにしていただけだ。

 実際の能力は俺もそれほど把握してはいないが、アルファ曰く「生を冒涜する能力」ってやつらしいのでろくなもんじゃなかったんだろう。

 

「ナメクジ怪人はどうするの?」

「レックスの話を聞く限り、オメガのために電力を溜めこんだことで肥大化しているらしいからな。こっちも能力を封じればそこまで脅威でもねぇだろ」

 

 木っ端怪人も問題なし。

 大量に出てくるだろうが、戦力増加した今なら大丈夫だろう。

 諸々の話を終え、格納庫から出た俺たちはそのまま居住区に戻る。

 

「それじゃね、カツミさん」

「時間が空いたらハルに会いに来て」

「おう」

 

 アカネとアオイに返事をする。

 二人に続いてキララも別れの言葉を口にしようとするが、それよりも先に俺の方から声をかける。

 

「あー、キララ、ちょっといいか?」

「ん? どうしたの? カツミさん、私になにか用?」

 

 俺の提案に目を瞬かせるキララ。

 アカネとアオイも怪訝そうにしている。

 

「いや、お前に聞きたいことがあってな」

「別に、怪しんでるわけじゃないけど……」

 

 アカネとアオイは同時にキララに振り向きその肩に手を置く。

 

「駄目だからね、キララ」

「襲うなよ」

「ねえ、私のことなんだと思ってるの……?」

 

 こういうやり取りはどこの世界も変わらないな。

 ぷんすかと怒るキララからアカネとアオイが逃げていく。

 

「えと、ここで話すの?」

「いや……屋上とかでもいいか? ヒラルダ、先に戻っててもいいぞ」

なるほど、そういうことね。分かったわー」

 

 ヒラルダを見送った後、俺たちは拠点の屋上へと移動する。

 頭上には拠点の周囲を包むバリアがあるこの場所は、俺が知る限りほとんど人が来ない。

 秘密の話をするにはもってこいの場所だ。

 

「ねえ、いったいどうしたの? 屋上なんかに来て、秘密の話?」

「避けられているのは分かってた」

「へ?」

 

 普段と同じ明るい様子で話しかけてきたキララに話を切り出す。

 後ろの彼女が困惑した反応を返すが、構わず話を続ける。

 

「正直、ずっとお前と話そうと思ってた……けど、俺も勇気が出せないところがあった」

「あはは、どうしたの急に。もしかして告白?」

「どの口が言えるんだってな。少なくとも俺は今のお前に何かを言えるような資格はない……が、それでも言うべきだと思った」

 

 茶化すように笑う彼女に振り向き、欄干に背を預ける。

 彼女の表情は変わらず笑顔だが、俺の目で見る彼女は笑っていても笑ってなんかいなかった。

 

「なあ、キララ。お前、無理してるだろ」

「え、何言っているの? 無理なんてしてないよ」

 

 キララが俺の言葉を否定し手を横に振る。

 

「アカネはああ見えて割り切ることができる性格だ。別世界の自分のことを知ってもそれほど影響はねぇし、精神の根っこが強いやつなんだろう」

「えぇと、カツミ君?」

「アオイはハルのおかげで前向きになれている。帰りを待っている家族がいる今のあいつなら自暴自棄になることもない。……お前はどうだ?」

「……っ、あはは、何言っているかさっぱり分かんないよ」

 

 だが、キララは違う。

 お前はアカネと違って現状を割り切ることができない不器用なやつだ。

 表面上は笑顔で取り繕っても、その裏でお前はずっと泣いてる。

 

「考えすぎだよ。私は大丈夫。心配ないよ」

「マグマ怪人との戦いで自爆しようとしていた奴が大丈夫なわけじゃねぇだろ」

 

 別の世界のアオイは妹のハルを怪人にされ自暴自棄になった。

 なら、キララはどうして自分の命を投げ出すような手段に出た?

 状況的に仕方がなかった? それもあるのだろう。

 だが、元いた世界のキララを知っている身からすれば、今のキララはどうもそうは思えない。

 

「それは別の世界の私のことでしょ? さすがにそんなことしない」

「俺が来なかったらするつもりだっただろ」

「……なんで、そんなこと言うの」

 

 ずっと昔の両親が死んだ後の、生きたまま死んでいた時の俺と同じだからだ。

 表面上は笑顔で取り繕ってもその裏でお前はずっと泣いている。

 

「ここには俺とお前以外に誰もいない」

「無理してないって」

「俺は別の世界からやってきた部外者だ。吐き出しても問題ねぇ」

「だから……ッ」

「なあ、キララ」

 

 苛立ちに俺を睨みつける彼女と目を合わせる。

 ……本ッ当にこんなこと言うのは嫌だけど、こいつのために言うしかないか。

 

「お前、そのまま戦いに行ったらアカネとアオイを殺すことになるぞ」

 

 キララが俺の襟を掴み背中の欄干に押し付ける。

 されるがままの俺を見上げるようにした彼女の瞳にはこれ以上にない怒り、と涙が浮かべられていた。

 

「無理してるに決まってるじゃん!!」

 

 上っ面の笑顔をかなぐり捨てて叫ぶように訴えかけるキララ。

 

「ずっと無理してるよ!! 得体の知れないパワードスーツに乗って! 怪人と戦って!! たくさん人が死んで!! どうして普通でいられると思ってるの! 私がおかしいの!?」

「……」

「こんな世界が救われて、その後どうすればいいの? 怪人全部いなくなっても私の家族は戻ってくるの? アオイみたいな奇跡は起こらない。だって……だって……」

 

 俺の襟から手を離し、膝から崩れ落ちた彼女は小さく呟く。

 

「私の家族は目の前で、怪人に殺されたから……っ」

 

 なんとなく察していた。

 普通普通とは言いながらも、あんなにも心が強いキララがここまで打ちひしがれる理由なんてそれしかない。

 

「ねえ、カツミさん。私はこの先どう生きていけばいいの」

 

 俯きながらキララが俺に語り掛けてくる。

 

「レックスの、別のアカネの世界の私の最期を聞いて正直納得してた。ううん、それどころか羨ましいと思ったよ。だって、私は誰かの役に立てて死ねたから」

「……」

「でもこんなこと思っていたらきっとアカネとアオイにも悲しい思いもさせちゃうから……」

 

 多分、この世界のキララはアカネ達と出会った時からこうだったんだな。

 だからアカネもアオイもレイマも……レックスすらも気づけなかった。

 俺が彼女の望むような答えを口にすることはできない。

 それでも、このまま放っておくことはできない。

 

「羨ましい、か……ああ、羨ましいよなぁ。分かるよ」

「……ぇ」

 

 否定されると思ったのかキララが涙を浮かべたまま俺を見上げる。

 彼女とは視線を合わせずに、空を見上げる。

 

「俺も両親が死んだときに死ねたらよかったよ。そうなったら、俺は親に愛されていた幸せな記憶のまま終われたし、無駄に辛い思いもせずに済んだからな」

 

 きっとこの世界の俺は母さんと父さんの恨み言も罵倒も聞くことはなかったんだろう。

 一人生き残った奇跡の子じゃなくて不幸な飛行機事故の被害者の一人として終われたのだ。

 

「だけどな。それじゃ駄目なんだよ」

 

 この世界の俺は両親と一緒に死んで、もしかしたらそれが理由でクモ怪人が倒されなかったのかもしれない。

 俺一人が満足しても、俺のせいで取り返しのつかないことが起こってしまっていいわけがない。

 少なくとも今のお前が死んで喜ぶ奴なんて誰一人いないし、お前自身それを心の底から望んでいるとも思えない。

 

「なあ、キララ。こうたも、ななかも、オウマさんも、コヨミさんも生き返らない」

「……っ」

「それでも、お前にはもう何もないのか? 死んでも構わないって本気で思ってるのか? 今まで戦ってきたのは怪人への復讐のためだけで、それ以外に得たものは何もないっていうのか?」

 

 そんなことないはずだ。

 元の世界で散々普通とからかわれても、誰もが忘れてしまいそうな当たり前の優しさを持つお前が一緒に戦ってきた仲間をなんとも思っていないはずがない。

 俺の言葉に沈黙したキララは、震わせながらも声を発する。

 

「そんなこと、ない」

 

 服の袖で目元を拭った彼女は顔を上げる。

 

「私には、一緒に戦う仲間が……友達がいる」

「なら、何もないなんて自分に言い聞かせてるんじゃねぇよ」

「……うん」

 

 手を差し出し、キララを立たせる。

 これだけ気づかせてやりゃあとは大丈夫だろ。

 

「……。カツミさんは、今はどう思っているの?」

 

 屋上から出ていこうとするとキララがそんなことを聞いてきた。

 今は……というと、俺がさっき言ったことの話だよな。

 

「俺が死のうとしたら必死なくらいに止めてくれる奴らがいてくれるからな。もう、死んでもいいって思う気持ちもなくなっちまったよ」

「そう、なんだ」

「つーか、その一人が別世界のお前だけどな」

 

 どいつこいつもお節介だったが、そのおかげでバカだった俺も変わることができた。

 それは今でも感謝している。

 

「あと、なんで私の家族のこと知ってるの? け、結構親し気な感じだったけど」

 

 むしろキララだけじゃなくアカネとアオイの家族とも知り合いなんだよな。

 なぜか一時期、二人の家の居候になってしまっていたせいで……。

 

「あぁ、実は……」

 

 いや待て。

 普通に答えることもできるが……ちょっとからかってやろうか。

 葵のことを見習って重い空気を変えられる冗談ってやつを言ってみよう。

 

「……ああ、コヨミさん……お前の母親にな」

「うん?」

「お前のアルバムを見せてもらった時があるんだ」

「ちょっと待って! 詳しい話を聞かせてもらう必要が出てきたんだけど!? カツミさん!?」

「……それじゃ、俺は部屋に戻るから」

「ダッシュ!? ま、待てぇ!!」

 

 問い詰めるキララから逃走する。

 後ろから彼女が追いかけてくるが、その声色は明るいものになっていることに安心しながら———俺は全力でキララから逃げるのであった。




精神状態的には黒騎士時代のカツミに近かったキララでした。

本来の歴史では、目の前で怪人に家族を殺され、怪人化したハルをアオイが倒し結果心を壊すという悲劇が立て続けに起こったことでキララも精神的に耐えられなくなり、惑星怪人アース相手に自爆という手段を選びました。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 15

二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらー。

並行世界編 15
カツミ視点でお送りします。


 並行世界での最後の戦い。

 因縁のあるオメガとナメクジ怪人を始末して、地球の平和を取り戻す。

 その戦いの場所は怪人共の三つある最後の巣窟、第三コロニー。

 

「地球規模の電力を貯めこんだナメクジ怪人を食らう(・・・)ことでオメガは最大限の力を発揮する。そうなれば日本という島国は地球から引きはがされ、宇宙へ上がる箱舟と化す」

「そうさせないためにまずはナメクジ怪人から始末すればいいってことですね」

 

 第三コロニーへ向かう装甲車。

 その車体の屋根の上で俺とレックスは目的地までの索敵を行っていた。

 車の中にはアカネ達と一人のスタッフと———レイマ自らが運転を行っている。

 

「……君がいれば私が警戒する必要もないな」

「そんなことないですよ。貴女がいてくれるから集中できるんです」

『私もいるけど?』

「分かってるよ。拗ねるなって」

『別に拗ねてないんですけど?』

 

 今の姿はtype“X”の銀のスーツを纏い、その上にヒラルダのベルトを腰に巻いている状態だ。

 その上で装甲車の屋根の端に腰かけた俺は、あやとりをするように五指で銀糸を操り、ひたすらに索敵を続ける。

 

『今更ですけど、司令も来てもよかったんですか?』

 

 すると、耳元のインカムから装甲車内にいるアカネ達の会話が聞こえてくる。

 

『他の皆もついてこなくてもよかったのに……』

『最後の戦いになる。その戦いにお前たちを戦場に送り出した私が出なくていつ出る? 私の役目は、お前たちに自分にできる最大限のサポートを行い、五体満足で生きて帰ってもらうことだ。そのためならばどのようなリスクも負ってみせるさ』

 

 装甲車を運転しながらはっきりと答えるレイマ。

 彼に付き従うスタッフ……いや、大森さんも同じ気持ちのようだ。

 

『私も司令と同じ気持ちです。どっちにしろ負けたら終わりなんですから、できることを精一杯にやりたいんです』

『……そっか、なら生きて帰りましょう』

『死亡フラグっぽく聞こえてきて震える』

『コラ、縁起でもないこと言わないの』

 

 戦いの前だが幾分か緊張が解けてきているようだ。

 キララも大丈夫そうだし———、

 

「……」

 

 索敵のために張り巡らした銀糸に怪人が引っかかる(・・・・・)———と同時に糸で絡めとり、バラバラに切り裂く。

 どれだけ移動してもどこかしらに怪人はいるな。

 人間も全く見つけられないし、いよいよここらへんで生きている人間は第二拠点にいる人たちだけかもしれない。

 

「糸の有効範囲はどれくらいなんだ?」

「まだ慣れてないですが、半径500メートルほどです。車が走っていなければ2キロくらいまでいけると思います」

「君の存在がどれだけデタラメかが分かるな」

 

 俺がその場から動かないことと、意識を集中しなければならないって考えたらそこまで便利でもない。

 万が一、普通の人間に攻撃しないように怪人だと確信してからやらなくちゃならないし。

 

『そ、そういえばさ、カツミさん。聞こえてる?』

「ん、聞こえてるぞ。アカネ」

 

 不意に声をかけてきたアカネに答える。

 やけに上ずった声だが、なにかあったのか?

 

『あ、あのさ……』

「……どうした? なにか聞きたいことがあるなら遠慮しなくてもいいんだぞ?」

 

 最後の戦いの前の遺言とかやめてくれよ?

 それこそ前に葵に教えてもらった“しぼうふらぐ”というやつになっちまう。

 思わず緊張してアカネの返答を待つと、彼女は声を震わせながら言葉を発する。

 

『私のこと、お、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?』

「……」

 

 あまりにも予想外すぎる言葉に思考がフリーズする。

 静かに聞いていた装甲車内の面々も言葉を失い、傍で我関せずとしていたレックスが今まで見たことない焦った様子で通信越しにアカネに怒鳴る。

 

『おい貴様!! なにをバカなことを言っている!?』

「だ、だだだって、あんなこと聞かされてずっと悶々としてたんだよ!? 最後の戦いの前だからワンちゃんいいかなって、駄目だったかな!?」

『彼を困らせるな!! この馬鹿モンがッ!』

 

 ———いや、これは簡単に流していい話題じゃない。

 一見ふざけているように思えるが、これは先日のキララの時と同じアカネが精神的な意味で無理をしていたせいで言動がおかしくなってしまっただけなんだろう。

 ならば、キララの時と同じで俺が向き合ってやらなければならない……!!

 

「なあ、アカネ。お前がこの世界で色々あったのも分かる」

『へっ、あ、確かに色々あったけれど……』

「お前は元の世界でも結構図太くて、抜身の刀みたいな強さを持っていたから大丈夫とばっかり思ってたんだが……俺が間違っていた」

『君の世界の私の認識ちょっとおかしくない……?』

 

 この限られた時間で俺ができることは限られている。

 俺は、身を削るような思いで声を震わせ、恥辱に耐える覚悟を口にする。

 

「お前の……心の傷が癒えるなら、お前のことを姉と……呼んでやる……!!」

『……ねえ!? 思っていた以上に気を遣われているんだけど!? ごめん!! そこまでしなくていいか———』

「なんだったら俺を兄と思ってくれてもいいんだぞ?」

『———お兄ちゃんって呼んでいい?』

「怪人より先に始末するやつが出たね」

「戦いの前でおかしくなっているようだねぇ」

 

 キララとアオイのドスの利いた声にちょっとビビるが、それでアカネが若干正気に戻る。

 

『え、だってカツミさんって別世界の私の義弟なんじゃないの?』

「……んんん?」

 

 待って、理解が追い付かない。

 アカネはいったい何を言っているんだ……?

 

「いつ俺はアカネの義理の弟になったんだ? え、誰からそれを?」

『レックスから』

「レックス……? どういうことぉ?」

 

 なぜそんな嘘を……?

 待て、なんかレックスにそんなことを聞かれた覚えがあるぞ? まさかその時俺がアカネの義理の弟だと勘違いしたのか?

 ……いや、なんでそうなる?

 俺の困惑した様子に腕を組んだレックスが顔を逸らしながら———声を震わせる。

 

「……。まさか、違うのか?」

「いや、義理の姉はいますけど。……実年齢二歳児の」

「……と、いうことだ。儚い夢だったなアラサカ・アカネ」

『生きて帰ったら一発殴らせろぉ!! うわぁぁぁ!?』

 

 なんだかよく分からないが、レックスの勘違いから始まり、今アカネが恥ずかしい思いをしたようだ。

 俺としては戦いの前に重苦しいことにならなくて安堵したいところだが……アカネが姉とかないだろ。

 あっても妹とかそのへんだろ、変に面倒見ようとしてから回るところとか。

 

『レッドが赤っ恥をかいたところだが』

『うるさぁい……』

『到着したぞ』

 

 装甲車が止まり、俺も銀糸を引き戻し車の屋根の上で立ち上がる。

 荒廃した街中に作り出された巨大コロニー。

 元は大型の球場だったそこは今や怪人共の巣へと変わり、その様相も既存の建物とはかけ離れた禍々しいものへと作り変えられている。

 

「あれが第三コロニーか」

『最後の怪人の巣。第一、第二を大きく上回る鉄壁の要塞だが、ここを攻略できれば怪人勢力は大きく削れるはずだ』

『アカネ、スーツ装着するよ。いつまでもしょぼくれてない』

『リーダーでしょっ』

『うぅ、分かったよ!!』

 

 がこんっ、と装甲車の上部が開き、そこから新たな力、ジャスティスアーマーを纏った三人の戦士が現れる。

 全身を覆う金属に近い光沢を帯びた装甲。

 パワードスーツよりも小さく、それでいて丸みを帯びたメタリックな姿をした彼女たちはそれぞれの武器を手にしながら俺とレックスの隣に並び立つ。

 

「さて、こっちはプロト“X”は温存する。ヒラルダ、行けるよな?」

『当たり前じゃない。やっと出番ね』

 

CHANGE(チェンジ)SCORPIO(スコーピオ)

BANTI(アンチ) VENOM(ヴェノム)!!』N

 

 銀の姿から桃色の姿へと変身し、さらに剣を召喚する。

 こっからは全力の戦闘だからな、本丸のナメクジ野郎とオメガまでにプロト“X”の力を限界にまで引き出すわけにはいかねぇ。

 

「レイマ、バリアを張っておく」

『感謝する!! こちらも全力でバックアップする!!』

 

 リリーフイエローの力で周りにバリアを張っていると、装甲車の側面からいくつものドローンが飛び出し、周囲へ散っていく。

 それらを見送ってから俺は改めてジャスティスアーマーを纏った三人を見る。

 

「覚悟はできているか?」

「もちろん!!」

「目障りな怪人みんな倒して!」

「生きて帰る!!」

 

 いい調子だ。

 ならこれ以上俺からなにも言うことはない。

 

「行くぞ!! ジャスティスクルセイダー!!」

「「「うん!!」」」

 

 声と共に一斉に飛び出し、怪人の巣窟へと向かっていく。

 俺たちの接近に気づいた怪人共がアリの巣をつついたアリのようにわらわらと出てくるが、どれだけいようが関係ねぇ。

 一切合切始末して、平和な地球を取り戻してやろうじゃねぇか!!




どうあがいても妹っぽいレッドでした。
次回から怪人勢力との最終決戦に移ります。


今回の更新は以上となります。


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並行世界編 16

お待たせしました。
なんとか今年中に更新しておきたかったので間に合ってよかったです。

平行世界編16
今回はアカネ視点でお送りします。


 私たちの新しい力、ジャスティスアーマー。

 パワードスーツのような乗り込むタイプの兵器ではなく、全身に身に纏う……名前の通り鎧のような形状の装備だ。

 実戦で使うのはこの最終決戦が初めてだけど、不思議と戸惑いもなく使えてしまっている。

 

「ニンゲン!」

「クワセロ!!」

「ギィィィ!!」

 

 第三コロニーから溢れるように出てくる怪人共。

 先んじてやってくるのは虫の翅を不快に羽ばたかせた怪人が、クワガタのような顎を開き私を胴体から両断せんばかりに突っ込んでくる。

 

「今の私なら!!」

「キリキリキリィ!!」

 

 新たに作り直された両刃の剣の柄を強く握り構えた私は、踏み込みと同時に繰り出した斬り上げで顎を砕き、のけぞったところで胴体を一気に切り捨てる。

 青い血と臓物をまき散らしながら息絶えた怪人を一瞥もせずに続けて襲い掛かってくる怪人をさらに切り裂いていく。

 

「すごい……!!」

 

 これまでのパワードスーツは動きが重く、どううまく立ち回っても怪人の攻撃を受けてしまっていた。

 だけど、このジャスティスアーマーは小回りも利くしなにより私の思った通りに動いてくれる!!

 

「見える……私にも敵が見える……!」

「このジャスティスアーマーなら!」

 

 私と一緒に戦うアオイもキララもその性能を実感しながら怪人を打ち倒している。

 剣で切り裂き、斧で叩き潰し、銃で撃ち抜く。

 それでも尚、白アリのようにコロニーから溢れ出てくる怪人の勢いは止まらない———が、それでも私たちが圧し負けることはない。

 なぜなら———、

 

『レックス、装備のチャージが完了。撃てるぞ』

「いちいち言わなくていい!!」

 

 片刃の大剣で怪人をまとめて薙ぎ払った赤と錆色の戦士、レックスが機械仕掛けの左腕から幾重にも重なるレーザーを放ち、連鎖する爆発で怪人を掃討する。

 別世界の私で、百年という途方もない時間を戦いの中で生きてきた彼女の力と技量は私達を容易く上回り、怪人共なんて相手にもならない。

 そしてもう一人。

 

ENERGY(エナジー)

BARRIER(バリアー)

GRAVITY(グラビティ)

SLASH(スラッシュ) LEAD(リード)!!】

 

 桃色と黒色が入り混じった戦士、カツミさんが青、黄、赤のエネルギーを剣に纏わせる。

 炎のように溢れ、空へ立ち上るエネルギーを剣から発した彼は、そのまま力任せに振り下ろし解放した。

 

「オラァ!!」

 

That's right(これが星界)!!】

【三色! オーラ斬り!!】

 

 放たれたエネルギーは雪崩のように怪人を重力とバリアで圧し潰し、さらに青色のエネルギーでその出力を増大させながら第三コロニーの外殻に激突し、爆発を引き起こす。

 スーツの出力そのものは私達のソレとほとんど変わらないはずなのに、彼の力は私たちを上回る。

 しかも、あれで消耗を押さえているんだから本当にとんでもない人だ。

 

「さすが私のお兄ちゃんだ……」

「悲しいよ。私は戦友を一人失うんだね……」

「アカネは元から妹だったんだから欲張るのは違うよね?」

 

 長女共が嫉妬の炎を向けてくる……。

 戦いの最中なのにこんな前向きな気分で戦えるなんて今でも信じられない。

 だけれど、今の方がずっとうまく戦えているような気がする。

 

「あの穴から乗り込むぞ!!」

「っ、うん!!」

 

 なにはともあれ第三コロニー内部に突入するための風穴は開けられた。

 レックスの声に頷いた私達は先陣を切るカツミさんと共に穴の手前まで向かう。

 

「このまま一気にナメクジ野郎を叩く!!」

「でもカツミさん! このままじゃ怪人に横やりをいれられちゃうよ?」

 

 戦力的には私たちは五人しかいない。

 誰かしらここで木っ端怪人の横やりを防ぐ役割を担わなければならない。

 いっそのこと私が……

 

「たった五人だけと思うかァ!? 大盤振る舞いで行くぞ!!」

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) MIRAGE(ミラージュ)

 

 カツミさんがベルトにカードを装填すると、彼の姿が六人に増える。

 本体の彼以外の五人はそれぞれカードを取り出し、同じようにベルトに装填する。

 

星界!!(セェェイカイ) CHANGE(チェンジ)!!』

 

 けたたましく場違いな電子音声が戦場に鳴り響き、分身たちがさらに変身する。

 

「星繋ぐ赤き流星!! リリーフレッド!!」

「癒しの青き星雲!! リリーフブルー!!」

「星々の煌めき!! リリーフイエロー!!」

「清らかなる桃色エナジー!! リリーフピンク!!」

「豊穣万歳!! 緑の賢人!! リリーフグリーン!!」

 

 無茶苦茶ノリのいい口上をそれぞれ口にしていくカツミさん達(?)

 その珍妙な姿に私達だけじゃなく、自分で召喚したはずのカツミさん本人も分身たちの横で唖然としている。

 綺麗にポーズをとった分身たちだったが、その直後に頭を抱えてもだえ苦しみ始める。

 

『ぬ、ぬおおおお!?』

 

 怪人の攻撃!? と思ったけど、分身たちはすぐに武器を手元に出現させるとそれぞれが怪人へと向かっていく。

 星界戦隊……という、ヒラルダのベルトの力を使っているとは聞いているけど、本当に戦隊ヒーローみたいな見た目なんだね……。

 

「か、カツミさん? あれ……」

「言わないでやってくれ……俺も見ていて辛い」

 

 どこか悟ったような声で先を行くように促してくるカツミさん。

 と、とりあえず後ろはカツミさんの分身たちが戦ってくれるようなので私達はこのまま第三コロニー内部に入ろう。

 

「うわぁ、エイリアンの宇宙船の中みたい」

「完全に怪人の住処だね」

 

 壊した穴から入ったコロニー内は整合性の欠片もない機械と生物的な通路で作られ、見ているだけで不快感が湧いてくる。

 

「カツミさん、このままここを探すのか?」

「見たまんま迷路みたいだから普通に探すとかなり時間がかかると思う」

「いや」

 

 レックスとキララの言葉に首を横に振った彼は右手首に嵌められたチャンジャーに触れる。

 

「プロト、探せるか?」

「LA♪」

 

 彼の言葉に反応するようにチェンジャーから数えきれないほどの銀色の糸が放出される。

 通路だけではなく壁の隙間に伸びていった糸は、通路の微かな明かりに反射しながら小さく流動し、吸い込まれるように彼のチェンジャーへと戻っていく。

 

「LA……♪」

「偉いぞ。……レックス、俺が指さす方向に風穴を開けてください」

「了解した」

 

 カツミさんが指さした方向は真下。

 地面にレックスが左腕の義手を向けると、ガシャン、と機械仕掛けの義手が変形し赤色の光が収束———高熱のビームが通路の壁に放たれる。

 ビームにより壁は溶解し、赤熱した光をほの暗い風穴に残す。

 その光景を作り出したレックスは左腕の義手から放熱の白煙を放出しながら、大剣を肩に担ぐ。

 

「これでいいか?」

「この先にナメクジ野郎が———」

 

『ピギィィィィ!!!』

 

 瞬間、レックスが明けた風穴から稲光が走る。

 迫る電撃を剣で払った彼は、見てわかるほどの戦意と殺意を滾らせながら一歩踏み出す。

 

「上等だ。やる気はもう十分ってわけか? なら遠慮なくやってやろうじゃねぇか」

「え、ちょ、カツミさん!?」

「先に行ってるぞ!!」

 

 電撃が走る風穴に躊躇なく飛び降りた彼はそのままナメクジ怪人が待ち受けるであろう深淵の底へ降りて行ってしまう。

 

「ここからが正念場か」

 

 続いてレックスが飛び降りる。

 残された私たちは顔を見合わせる。

 

「司令、下の状況は?」

『彼の言った通り、電喰王は下の階層にいる。覚悟が出来次第向かってくれ』

「了解」

 

 ……覚悟なんて既にできている。

 司令に確認を取り、改めて大穴へ向き合った私達は互いに声をかけあう。

 

「……行こう」

「うん。私達でこの星を守るんだ」

「一気にスケール大きくなったけど、やることは変わらないもんね」

 

 そして、一緒に飛び降りる。

 垂直に落下しながら壁に武器を突き刺し、勢いを和らげながら下へと降りていく。

 下からは既に電撃が轟くような音と何かが破壊される音が響いてくる。

 

「ッ」

 

 真っ暗い穴から広い空間へ。

 地下にも関わらず明るく照らされた空間にはいくつものコードが張り巡らされ、その中心に大きく肥大化した怪人の姿。

 まだら模様のゴム質の表皮に背中に生える棘、腕だったであろう部分は身体が肥大化したことにより意味をなさないものになっているが、そのこれまで見たどの怪人よりも大きい。

 一瞬、ナメクジ……? と疑問に思ってしまうが、その疑問は先に降りたカツミさんが放った蹴りがナメクジ怪人の巨体に直撃したことでかき消される。

 

「デカくなっても鈍重だなナメクジ野郎!!」

『ピギィィィ!! ナメクジ、チガッ』

「ふんっ!!」

 

 カツミさんに意識が向けているところで無事に着地した私たちも攻撃に加わる。

 なにかを叫ぼうとしていたけど、斬撃が先に当たってしまい邪魔してしまったようだ。……まあ、どうせ怪人のことだからそれほど重要なことでもないから別にいいか。

 

『ピピピピギィィィ!!』

「まずっ……」

 

 なぜか先ほど以上に怒りだしたナメクジ怪人が電撃を溜めこむそぶりを見せる。

 広間すべての空間を埋め尽くすコードが点滅し、つなぎ留められたナメクジ怪人に流れ込んでいく。

 来るであろうナメクジ怪人の一撃に備え防御を構えようとした瞬間———、

 

AVATAR(アバター) SKILL(スキル)!!』

VENOM(ヴェノム) JAMMING(ジャミング)

 

『ピギッ!?』

「んな面倒なことさせると思ってんのか?」

 

 ッ、カツミさんの能力無効化!?

 集められた電撃が霧散し、ナメクジ怪人の動きが止まる。

 

「一気に片付けるぞ! ヒラルダ!!」

『私も力を貸してあげるわ!!』

 

AVATAR(アバター) FINISH(フィニッシュ)!!』

 

 彼の声に合わせ、私たちも武器の出力を上げる。

 再生する暇もなにも与えない!!

 この次の最後の敵のために余力を残してナメクジ怪人を完膚なきまで屠る!!

 

VENOM(ヴェノム) SMASH(スマッシュ)!!』

 

 全員の攻撃が同時にナメクジ怪人に直撃し、爆発を引き起こす。

 集められた電撃がコードを逆流し、周囲に爆発を連鎖させていく光景を目にしていると、とどめの蹴りを放ったカツミさんが私たちの傍に降りてくる。

 

「カツミさん!」

「能力を封じればあっけないね」

「これでナメクジ怪人は片付けられたってことでいいんだよね!?」

「……レックス」

「ああ、妙だ」

 

 ナメクジ怪人を倒したはずなのに彼とレックスは怪訝な様子だ。

 

「弱すぎる。能力を封じる以前に奴は貯めこんだ電力を使い切っていた」

「しかも俺達を攻撃するためにわざわざ貯めこもうとしてましたね」

 

 ……確かに、そうだ。

 レックスの話に聞いた電喰王と呼ばれた怪人は地球規模の電力を溜めこんだとんでもないやつだったはず。

 でも今戦ったのはそんな電撃少しも使ってこなくて、むしろさらにため込んで攻撃しようとしていた。

 

「もう、オメガがナメクジ怪人の電力を吸収しちゃったってこと?」

「いいや、それならもうオメガは地上に姿を現しているはずだ。そもそも、ナメクジ怪人を倒したはずなのにオメガが出てこない……いったい、どうなっている? こんな事態、私も知らない」

 

 レックスですら予想だにしていない状況。

 でも、怪人は確かにいるからその首領のオメガもどこかにいるはず。

 

「ッ」

「カツミ? どうした?」

 

 レックスの声にカツミさんを見ると、彼は頭上を見上げ警戒したそぶりを見せる。

 彼と同じ方向を見ても私たちがやってきた大穴が開けられた天井しかな———、

 

「全員下がれ!!」

「えっ」

「なにか来る!!」

 

 そう彼が声を荒げた瞬間、天井付近に渦巻くような白い大穴が現れた。

 空間に突如として現れた大穴から巨大な肉の塊のようななにかが落ちてくるのが見え、私たちはすぐさまその場から飛びのいた。

 

「な、なに……?」

「生き物……? でもボロボロだし、生きてるの?」

 

 ナメクジ怪人よりも大きな怪人。

 巨大な肉の塊、としか形容できないグロテクスな見た目をした怪人の身体は傷だらけで……もうほとんど死に体なのが分かった。

 

「バカな、オメガだと?」

「っ、こいつがオメガなの!?」

 

 レックスの呆然とした呟きに私たちは肉の塊———オメガを見る。

 確かにすごくでかい怪人だけど、もうほとんど死んでいるような状態だ。

 いったい誰が……!?

 

『———素晴らしい』

 

「「「ッ!?」」」

 

 

 まだ空に開いている白い渦から誰かが降りてくる。

 人間……ではない。

 眩く思えるほどの金色の髪、青い肌に琥珀色の瞳、人間では考えられないような容姿と危険な雰囲気を纏わせた男。

 黒いマントのようなローブを纏ったそいつは、その右手で白髪の女性の首を掴み上げながらゆっくりと地上に降りてきている。

 

「地球のオメガにアルファ、実に強敵だった。残念だ、お前たちが我が星将序列に加わればどれだけよかったか……」

「———ッ」

「安心するがいい。地球の妃よ」

 

 白髪の———アルファと呼んだ女性の首を離した男はその手を死に体のオメガと、そこに落ちていく女性に向ける。

 

「ハク……違う、でも、あれは……」

 

 既に致命傷を受けていたのか、胸から夥しい血を流した女性は抵抗することもできずに落ちていくしかない。

 

「オメガと共に葬ってやろう」

 

「ッ、待て!」」

 

 白髪の女性を見て、カツミ君が声を荒らげながら止めようとした瞬間、目に見えない何か(・・)が空間に叩きつけられ、衝撃波が吹き荒れた。

 

「クソッ、ヒラルダ!!」

『ええ、これはマズいわね!!』

 

 咄嗟にカツミさんがシールドを張ってくれて衝撃波が防がれたけど、それでもシールドそのものが押し出されて私たちは無理やり地上へと吹き飛ばされてしまう。

 まるで大地がひっくり返るように瓦礫が下から上へ登っていく光景を見た私は、そのあまりの力に唖然としてしまう。

 

「ッ、あれだけ深い地下に降りてたのに地上まで……!?」

「なんて威力……!!」

「なんなのあいつ……」

 

 地下から崩壊した第三コロニーの中でバリアが閉じられる。

 ここら一帯はさっきの衝撃波で崩壊してしまった。

 カツミさんのおかげで私たちには被害がなかったけど、司令は大丈夫だろうか……。

 

「司令、そっちは大丈夫!?」

『あ、ああ、なんとかな。しかし、まさか……奴が……』

 

 司令は無事なようだけど、彼もこの状況で混乱しているようだ。

 小さくなにかを口にし、動揺を露わにしている司令を不思議に思いつつ、私たちを守ってくれたカツミさんを見ると、彼は深刻そうな顔でレックスとなにかを話していた。

 

「カツミ!! 今のあいつはこの世界の……」

「……いや、ルインじゃない。それだけは確かです」

 

『おや、生きていたか』

 

「「「!」」」

 

 さっきのあいつの声……!!

 私たちが声のする方を見ると、先ほどの衝撃で崩壊寸前に陥った第三コロニーの瓦礫の上で、奴は何事もなかったかのように立っていた。

 

「テメェ、なにも———」

「我が名はザイン。星将序列を統べる者であり、侵略者」

 

 カツミさんが尋ねるよりも早く、異星人は———ザインと名乗った。

 予想外の対応にカツミさんが面を食らうのを見ながら、朗らかに笑った奴は安堵するように自身の胸に手を当てた。

 

「よかった。わざわざ地球の言語を覚えてきたが無駄にならずに済んだ。地球の現住生命体がオメガとそれに類する個体しかいないときは、しまった、と思ったよ」

 

 ———話が、通じる?

 いや、でもなんだろう、これは話が通じるというより、話をするつもりがないみた———、

 

「早速だが、消えていいぞ?」

 

 ぞわり、と総毛立つ感覚に襲われる。

 ザインが掌をこちらに向けた瞬間、誰よりも早く前に飛び出したカツミさんが見えない何か(・・・・・・)に拳を叩きつけた。

 

「ほう、反応したのか?」

 

「ッ、がッ!!」

「カツミ!?」

「カツミさん!?」

 

 彼が吹き飛ばされた!?

 マグマ怪人の攻撃をものともしなかった彼が目に見えないなにかに激突し、私たちの後ろの地面に叩きつけられ、変身が解除されてしまう。

 

「あう!?」

「レックス、ヒラルダを頼む!!」

 

 カツミさんと変身していたヒラルダも実体に戻って地面に投げ出されてしまうが、彼は起き上がると同時に左手のチェンジャーに手を添え———銀の姿、typeXへの変身を行い、ザインへ殴り掛かった。

 

「ほう、“運命(さだめ)のアルファ”の適合者か。面白い、遊んでやろう」

「ッ!!」

 

 カツミさんとザインが激突し、さらなる衝撃波が一帯を襲う。

 

「レックス、私たちは……」

「ここにいては彼の足手まといだ……!! 一旦距離をとるぞ!!」

「ッ」

 

 確かに、レックスのいう通りだ。

 オメガを殺したあいつは私達じゃ勝てないくらいに強い。

 それを理解し、歯がゆい気持ちを内心に押し殺した私たちは彼の邪魔にならないようにその場からの離脱するのであった。




地球アルファ、ルインパパ登場、プロトのアルファ名解禁など色々と明かされた回でした。

次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 17

二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

今年最後の更新です。


 地球のオメガとアルファを殺した青肌の宇宙人、ザイン。

 どこかルインと似た雰囲気をしたそいつは一方的にこっちになにかを話したかと思えば、いきなり攻撃してきやがった。

 だがその一撃は決して侮れないものだった。

 アカネ達を守るために真正面から攻撃を防いだ俺はヒラルダとの変身を強制解除され、typeXへと変身を切り替えザインに戦闘を仕掛けた。

 

「驚きだな。“運命のアルファ”に適合する生命体がいるなんて」

 

 空へ浮かび上がるザインに跳躍し、拳を叩きつける。

 繰り出された拳は見えない壁に阻まれ防がれるが、拳が激突した地点から空間に罅のようなものが走る。

 ……こいつの力はなんだ?

 

「しかも罅をいれるか。先ほど桃色の姿……あぁ、“同化のアルファ”とは比べものにならん力だ」

「うるせぇ、テメェと喋るつもりはねぇ!!」

「そうか? 私はお前にどんどん興味が出てきたのだが」

 

 バリア怪人とは違う。

 シールドとかバリアとか物理的なモンを出しているわけじゃねぇし、攻撃そのものが見えず、防いだ後でもその全容がつかめない。

 見えない何か、ではなくあらかじめそこに存在していたなにかに触れたような感覚だった。

 

「アカネ達は離れたか……」

 

 こいつ相手に出し惜しみはできねぇが、それをすればここら一帯が危険に晒される。

 アカネ達がこの場から遠ざかるのを待ちながら、俺はザインを足止めするために銀糸を放つ。

 

「プロト、力を合わせるぞ!」

「LA……!」

 

 マフラー、両腕の装甲を解し生成された銀糸は螺旋を描くように、棒立ちのザインへと迫る。

 さながら繭のように奴を包み込み、地面、建物、視界にあるすべての物体に糸を繋ぎ、奴の動きを無効化する結界を作り出した俺はそれを両腕で束ねて握りしめる。

 

「これなら……」

『糸か。原始的だな』

「ッ!」

 

 銀糸の繭が内側から爆ぜ、引きちぎられる。

 内側から体から数センチのところで見えない壁で銀糸の干渉を阻んでいるザインが笑みを浮かべて出てくる。

 

「なるほど、地球の被害を心配しているのか」

「……」

「確かに私とお前が本気で争えば惨事になるだろう。私もこれから地球を有効活用しようとしている手前、そのような無駄なことを避けたい。———ならば」

 

 悪寒を抱いた瞬間、瞬時に目の前に現れたザインの腕を防御する。

 ——ッ、ワームホールじゃねぇ……!! 瞬間移動か!?

 糸で反撃しようにもまた見えない壁みてぇのに阻まれ攻撃が届かねぇ……!!

 

「場所を変えよう。うん、それがいい」

「ぐっ……!!」

 

 防御した腕を掴まれ、後ろに押し出される。

 背後にはザインが作り出したワームホールがあり、強制的にどこかへ移動させられる。そのまま奴に突き放され、地面に叩きつけられる寸前に受け身をとり、周りを見ると———そこは白色の大地と、空一面を覆う暗黒の世界が広がっていた。

 そして背後には青く、大きな地球の姿。

 

「ここは月か……!? って、やべぇ酸素!?」

 

 普通にしてるけどがっつり酸素ねぇじゃん!!

 とっさに息を止めるが、ついさっきまで普通にしていたことを思い出す。

 

『LA……!!』

「そ、そうかお前がやってくれたのか……助かった……」

 

 本当にいつも助けられてばっかりだな……。

 とりあえずプロトXは宇宙空間に対応しているってことで問題ない。

 

「ここならば思う存分に遊べるぞ?」

「声が通じんのはどういうわけだ?」

「私の力だ。重力も地球と同じ程度にまで増やしてやっている。さあ、もっとお前の力を見せてくれ」

 

 ……ルインには似ているが、なんか違うな。

 最初の質問をすることができなかったが、一応聞いておくか。

 

「どうして地球を侵略する」

「なぜ侵略するか? うぅむ、なぜ……なぜ?」

 

 俺の質問に腕を組み思い悩むそぶりを見せるザイン。

 

「別に地球だけの話ではないからなぁ」

「……は?」

「地球程度の星はこの宇宙に溢れんばかり存在して、我々は星を隷属下に置くために侵略、時にはオメガとアルファの種を植え付け収穫しているに過ぎないだけ……まあ、そうだな」

 

 奴は腹立たしいほどの笑みを浮かべて指を立てる。

 

「あらかじめ決められていた滅びの時が来ただけだな。原住民には悪いが大人しく私の奴隷になってほしい」

「……ああ、よく分かったよ。テメェはあいつとは全く違うってことはな」

 

 ルインは自分より下の奴らに興味はない。

 それがいいってわけじゃねぇが、見下しもしねぇし蔑んだりもしねぇ。

 だがこいつは自分以外の星も生き物も全部ひっくるめて下に見てやがる。

 口だけでは悪いとは言っているがちっとも思ってもいねぇし、支配するためならどんだけ犠牲が出ても構わないと思っているようなやつだ。

 

「ここで提案がある」

「あ?」

「お前を我が星将序列に迎え入れたい。その力、潜在能力をここで散らすのは惜しい」

 

 ……こいつ、マジで言ってんのか?

 敵のはずの、侵略している側のテメェが今戦っている俺を勧誘していることに悪い意味で驚く。

 

「お前ならば第二位……いや、第一位の席を用意してもいいぞ?」

「断るに決まってんだろ。ふざけてんのか?」

 

 こいつの軍門に下ったところで地球がろくでもねぇことになるのは目に見えている。

 約束を守るようなやつにも見えねぇし、そもそも星を侵略する片棒を担ぐなんざ死んでもごめんだ。

 俺の答えにザインは残念そうに肩を竦める。

 

「そうか。お前ならば一位に相応しいと思ったのだがな。……それとも威厳のある声で勧誘した方がよかったか?」

「話は終わりだ」

「そうだな。続きは戦いながらしようではないか」

 

 余裕のつもりか、ふざけたことを抜かすザインを無視し攻撃を仕掛ける。

 こいつの能力がなにかだなんてどうでもいい!!

 いつもとやることは変わらず、全力で殴って確かめてやる!! 

 

「オラァ!!」

 

 白銀の籠手を赤熱化させながらザインに拳を叩き込む。

 キィィン!! という、また見えない壁に阻まれる音が響き渡るが構わず拳を押し込み、不可視の何かを叩き割る。

 

「私の能力を表層とはいえ砕くとは……。運命のアルファの力か?」

「うるせぇ!! くたばれ!!」

「口汚いな」

 

 ッ、砕いた傍から新しいのを張られた!?

 んなら、張られる傍から砕いていけばいいだけだ!!

 蹴りで後ろに下がり、銀糸を月面へと叩きつけブロック状に切り裂く。

 

「ふんっ!!」

 

 それを銀糸と力技で月面からくりぬき、ビルほどの大きさの岩塊をザインの頭上から叩き落としてやる。

 

「この程度じゃ効かねぇのは分かってんだよ!!」

 

 このまま圧し潰れりゃ十分。

 だが、それで足りない状況を考え、一切の手を緩めずに全身に力を籠める。

 

「全力で行くぞ、プロト!!」

 

 過剰出力による赤熱化。

 赤く装甲が染め上がり、プロトが何かに耐えるように鎧を軋ませる。

 あまり長くはこの状態ではいられねぇ!!

 一気に叩くべく、俺はザインに岩塊を食らわせた場所へ向けて、全力の拳を放つ。

 

「ふんッ!!」

 

 突き出した拳から赤いエネルギーと電撃が迸り、嵐となって月面を襲う。

 地表が弾け、岩塊が粉々に削り取られ、巻き上げた嵐が宇宙へと舞い上がっていく光景を目にしながら俺はさらに拳を見舞っていく。

 

「普通のやつならこれで終わるはずだが……」

 

 未だに嵐が吹き荒れる月面を見下ろし、静かに呟く。

 そこらの怪人や俺の知る異星人なら今ので終わりだ。

 だが、相手はルインと同じ雰囲気を感じさせる奴だ……そう簡単に———ッ、

 

「素晴らしい!!」

「……チッ」

 

 終わるはずもねぇか……!!

 岩塊を吹き飛ばし、宙に浮かぼうとしたザインに間髪いれずに拳を叩きこむ。

 拳は不可視の壁に阻まれずに奴の顔を捉え———、

 

「なっ!?」

 

 ———通り抜けた……!?

 奴の顔を殴るはずが拳はそのまま奴の身体を透過し、俺はそのまま月面に着地することになった。

 見上げると、奴の姿は先ほどと変わっており全身ボロボロで、左腕がちぎれるようになくなっていた。

 

「本当に素晴らしい!! ますます序列に迎え入れたい!! あぁ、傷つけられるだなんていつぶりだろうか!! いや……はじめてだ。すごいなぁ、いくら手加減しているとはいえ、面白いぞ!!」

 

 奴が気色の悪い声を上げると、奴の身体が逆再生するように癒えていく。

 再生能力……それも怪人以上のものか。

 しかも、あの野郎今なんて言った?

 

「手加減だと?」

「ああ、手加減だ。まともにやるとお前たちの攻撃は私には届かない(・・・・)からなぁ」

 

 これ以上のお喋りをするつもりも奴を喜ばせるつもりもない。

 再び糸を展開し、奴をつるし上げまた拳を食らわせてやる。放たれた銀糸が奴を取り囲み、一斉に襲い掛かる。

 

「もう無駄だよ」

「……!」

 

 糸が奴の身体を貫通……いや、通り抜けた?

 驚きを露わにする俺に喜色の笑みを浮かべたザインは、またもや瞬間移動じみた速度で俺の前に現れ、掌を突き出してきた。

 移動と比べてあまりにも遅い攻撃。

 逆に掴み取って、殴り返してやる———そう思い、奴の腕を掴もうとするが、伸ばした手は奴の腕を通り抜け、俺の胴体に奴の掌が直撃する。

 

「がっ!?」

 

 遅い動きから想像できないほどの衝撃が胴体を貫通し、俺の身体は背後の地面へ叩きつけられる。

 ———ッ、なんだ今のは?

 

「私の力の正体が気になるか?」

 

 瓦礫を背に倒れ伏す俺を煽るようにザインが見下ろす。

 咄嗟に糸で周囲を無差別に攻撃するが、それも奴は迫る糸も衝撃波を無視するように透過する。

 

「私と君の力の差を知らしめるために教えてあげよう」

 

 奴の言葉を無視して立ち上がり、拳を振るう。

 

「地球の言語では“ダークマター”と呼ばれているんだろう? 目に見えず、触れられない。されど存在する摩訶不思議な物質」

「……なんだそりゃ!」

「私はそれを意のままに操れるんだ」

 

 糸で縛り上げようにも奴の身体は捉えられない。

 

「生物はなぜ物に触れられる? なぜ存在しているはずの物質であるダークマターに触れられず、認識すらできない? この宇宙の半数を占めるはずのこの物質は確かに存在している。だが、それらは未だに解明されてはいない———だが、私にとってはそんなことどうでもいい」

 

 赤い姿でどう攻撃しようとも奴の本体には届かない。

 

「なにせ、私自身がソレなのだから」

 

 ザインが手を翻すと同時に不可視の力が全身に叩きつけられる。

 

「どこにでも存在するダークマターに質量と実体を与え、それらを叩きつけるだけで大抵の生物も星も簡単に砕けてしまう」

 

 マスクの中で血反吐を吐き、砕け散った装甲を再構成しながら立ち上がり、殴り掛かる。

 だが、その拳も奴の身体を通り抜けるだけ。

 

「そして、私の肉体もダークマターと同じように実体を捉えられなくすることもできる。———つまり、お前の見ている俺は、姿だけそこにあるだけの虚像だ」

「……ッ」

「まさしく宇宙を統べる力。私はこの宇宙の王になるために生まれてきたのだよ」

 

 そう言ったザインの声をまた無視し攻撃を仕掛けようとする俺の肩を奴は掴む。

 見上げた奴は嘲りと、哀れなもんを見るような目で俺を見ていた。

 

「はじめからお前に勝ち目なんてないって分かれよ。地球人」

「がっ……」

 

 腹に叩き込まれた拳から不可視の一撃が叩き込まれ、月面へと叩き込まれる。

 視界が暗転し、月の大地に飲み込まれながら吹き飛び、ようやく止まるも全身の鎧もほとんどが砕け生身もボロボロだ。

 

『LA……LA……』

「……がぁっ……くそ」

 

 プロトの……声が聞こえる。

 まだ死んでねぇよな……なら、まだ戦えるはずだ。

 なにがダークマターだ、長々と教えてくれたがちっとも理解できねぇわ。

 

「俺が、負けたら……誰が、あいつらを助けられるんだよ……!!」

 

 怪人は倒した。

 だけど、この目の前のクソ野郎を残して死んだら駄目だ。

 アカネも、キララも、アオイも、ハル、レイマもこの世界でずっと苦しんで来たんだ。

 だから、この世界のあいつらがもう苦しむことがあっちゃいけねぇんだ……!!

 

『LA……』

「大丈夫だ。悪い、もうちょっとだけ付き合ってくれ」

『……』

「プロト……?」

 

 血が目に入ったのかマスクの中の視界が赤く染まったままプロトに声をかけるが、彼女は返事をせずにただ、悲しみと何かしらの決意を決めたような感情を伝えてくる。

 これまでとは違うその感情に戸惑い声をかけようとした時、俺の前にザインがやってくる。

 

「まだやる?」

「うる……せぇ……!!」

「……いい加減しつこいな。オメガは潔く死んでくれたのに」

 

 こっちは死に体だが、まだまだやれるぞコラ。

 つーか、さっき俺に攻撃する時一瞬だけ実体だったよな?

 ———それだけ分かれば、捨て身覚悟でその愉快な頭を消し飛ばせるよなァ……!!

 

「つまらねぇ御託ほざいてねぇでさっさと来いよ。お喋りのクソ野郎が……」

「……さすがに反発ばかりの手駒はいらないか。ならお望み通り死———」

 

 奴がダークマターを操ろうとしたその時、俺の手首にあるプロトチェンジャーが眩い光を放つ。

 

「プロト……!?」

 

 光と共に俺の変身が解除され、周りに球形のバリアのようなものが現れる。

 それが宇宙空間で俺が死なないようにするためのものなのは分かるが、いったいプロトはなにを……!!

 

「なにをするつもりなのかは知らんが———ッ」

 

 光を止めようとしたザインに銀糸を絡ませた岩が殺到する。

 それが、プロトが自分の意思で行ったことだと理解しながら手首を見ると、チェンジャーからプロトのエナジーコアだけが飛び出し、さらに大きな光を放出しはじめる。

 

「プロト……?」

『カ……ツ……ミ、生……キテ……』

「ッ、やめろ!! お前、なにをするつもりだ!!」

 

 光が俺の身体を癒しているのは分かる。でもただ、治すための光じゃない。

 これはもっと取り返しのつかない光だ。

 プロトのエナジーコアに罅が入り、亀裂が大きく広がっていくがそれでもプロトは光の放出をやめない。

 

『ミツケテ……クレテ……アリガトウ』

「———ッ」

 

 そして、ガラスの割れるような音と共にプロトのエナジーコアは砕けた。

 彼女の意思が完全に消えると同時に、砕けたエナジーコアから散った光から———『プロトXチェンジャー』と『トゥルースドライバー』が現れる。

 

『カツミ!? やっと会えた!! 大丈夫!?』

『ガァーウッ!』

「……ぁ」

 

 彼女たちは俺の知るプロトとシロだ。

 さっきまでここにいた“プロト”はもういない。

 俺のために、俺のせいで死んだ。

 俺が弱かったからプロトは死を選んだ。

 また、目の前で大事な存在が死んだ。

 あの時の、事故と同じように———、

 

「ほう、“進化のアルファ”にもう一つの“運命のアルファ”か。なるほど、別世界から他のアルファを呼び出したというわけか」

 

 手元のバラバラになったチェンジャーを見つめ言葉を発さない俺をあざ笑うように、ザインは語り掛ける。

 

「そんなことをすればどうなるか分からないはずがないのに、呼び出したのがコア化されたアルファ二つだけとは……なんともまあ……無駄死にだな」

 

 

 

 ……は?

 

 

 


 

 ついさっきまで私を相手に一生懸命戦っていた“運命のアルファ”の適合者の纏う雰囲気が変わった。

 私の力を前に触れることもできずに、ただ地面を這いつくばるだけだった輩が怒ったところでどうなるとも思えないが、わざわざそれを待ってやるほど暇でもない。

 指を振るい、質量を与えたダークマターを上から叩きつけ、鬱陶しいバリアもろとも圧し潰せば終わりだ。

 

「本当に無駄だったな」

 

 アルファを犠牲にしたところで時間稼ぎ程度にしかならんとは。

 これならいっそのこと特攻でもしてくれた方が面白かったのに。

 轟音の後に砂煙が上がる。

 これで終わり、そう思い地球へ戻ろうとするが、砂煙の中で未だに光のバリアに包まれた奴がいることに気づく。

 

「……む?」

 

 攻撃を防がれた? いや、外されたのか?

 死んだ”運命のアルファ”が作り出した結界の中でうつむいた奴は、おもむろに右手を軽く掲げ———つい先ほどバラバラに砕かれた腕輪を再構成(・・・)させた。

 

「……なんだと?」

 

 運命のアルファはもう死んでいる。

 あの腕輪の中にはいない、そんなことが分からないほど奴は愚かではないはず。

 だが奴は宙に浮くもう二つのベルトと腕輪に手を添え、先ほど再構成させた腕輪と共に分解させ、新たな一つのベルトとして創り出した。

 

 PRTO(プロト)“1”(ワン)Naaaa

GEMINI(ジェミニ)X(クロス)DRIVER(ドライバー)

N TRUTH(トゥルース)aa

 

 ———なんだ、あれは。

 地球人に物体の再構成に創造能力なんてあるはずがない。

 ならば、なぜ……奴は生身でアルファの能力を自らのもののように使っている?

 黒と白、そして赤と金に彩られたベルトがひとりでに動き出し、装着と同時に起動する。

 

「……」

 

ARE YOU READY?(カツミ、やめて!!)

 

NO ONE CAN STOP ME!!(駄目! 私達でも止められない!!)

 

GEMINI!(そんな) ACCELERATION!!(制御、できない……!!)

 

 まずい。

 なにか恐ろしいことが起ころうとしている。

 漠然と、これまで抱くことのない意味不明な感情のままに、光に包まれようとする奴にダークマターを叩きつける。

 だが、なぜかすべてが奴の身体を避けていく(・・・・・)

 奴の変身を邪魔できない……!?

 まるで確定した運命のように奴の姿が変わってしまう。

 

ALMIGHTY(オールマイティ) “X”(クロス) GEMINI(ジェミニ)!!』

 

 黒い闇が奴の身体を包み込み、その肉体を覆う鎧を纏っていく。

 生物と機械、そのどちらも混ぜ込んだような光沢を放つ鋭利な外観。

 まるで祝福するように少女の声が宇宙に響き渡る。

 

ALL(全て!)』→aEVOLUTION!!(進化!!)

ALL(全て!)』→aaaaSTRONG!!(最強!!)

ALL(全て!)』→INVINCIBLE(無敵!!)!!』

ALL(全て!)』→aaaaaSUPER(最高!!)!!』

 

 両腕は黒い装甲、両足は白い脚甲を纏い、胴体、下半身は白と黒を織り交ぜた装甲に包まれる。

 頭には赤い複眼と白の三本角

 先ほどの白い姿とは明らかに違うソレにいつしか私は攻撃の手を止めてしまう。

 

THE ENEMY OF JUSTICE(戦いに終わりをもたらす)!!』

 

CHANGE(その名は)!!』

 

BクロスN

GEMINI(ジェミニ) X GEMINI(ジェミニ)

NクロスB

 

 光が収まり、奴がゆっくりと地に足をつける。

 派手さのない、白と黒の織り交ざった瘦身の姿。

 そこからは威圧感も、殺気もなにもかもが感じない。

 無機質ともいえるほどの様変わりを見せた奴に、俺は無意識に浮かんだ汗をぬぐい笑みを浮かべる。

 

「ハッ、変わったのは見た目だけか。そんなものでは……む?」

 

 動かない奴を嘲ろうとすると、次元の穴が俺と奴を飲み込む。

 移動させられた先は、ついさっきまでいた世界と異なる次元の世界。

 生物の存在しない死した宇宙に運ばれた私は、いらぬ気を利かせた配下に苦笑する。

 まったく、現序列一位が……こいつに嫉妬でもしたか?

 

「イリステオ、お節介が過ぎるぞ」

 

 この俺が思う存分に戦える場所を用意してくれたのだろうが、今のこいつ相手では必要のないことだ。

 

「期待外れでないことを祈るぞ」

 

 こちらが攻撃に出ようと奴を見ると、奴がその手になにかを持っていることに気づく。

 先ほどまでそこからも移動していなかったはずの奴が、どうやってそれを持っているのか疑問に思う前に———その手に無造作に握られた、“人の腕”に言葉を失う。

 

『『『『が、ああああああああ!!?』』』』

「ッ、イリステオ!?」

 

 少女の、男の、しわがれた老人の幾重にも重なる男女の悲鳴が宇宙———いや、次元を隔てた世界中に木霊する。

 その痛みの叫びに私は薄ら寒いなにかを感じ取り、声を震わせた。

 

「まさ、か」

 

 あれは、一位の腕か? 次元を隔てた世界に遍在する奴を、この俺に気づかせずに攻撃したのか……?

 ゴミを捨てるように半ばから切断された一位の腕を地面に捨てた奴は、赤く、血のように染まった複眼を向ける。

 

「っ」

 

 その異様さに、後ずさりする。

 奴の頭を覆う仮面の、口にあたる部分が生き物のように大きく裂ける。

 

『ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 憎悪に満ちた雄叫びが上がる。

 それを目の当たりにして、ようやく俺が抱いている感情が恐怖(・・)だということを理解させられた。

 




ジェミニクロスかクロスジェミニにするか半年間くらいずっと悩んだ結果、どっちにも読める感じにしてみました。

そして、トラウマと怒りで目覚めた最終フォーム解禁回。
ルインパパの能力についてはめっちゃ強い能力って感じでフワッと認識していただければ大丈夫です。


今回の更新は以上となります。

今年も本作を読んでくださり本当にありがとうございました。
来年もまた「追加戦士になりたくない黒騎士くん」をよろしくお願いします<(_ _)>


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並行世界編 18

遅ればせながら、あけましておめでとうございます!

そしてお待たせしてしまい申し訳ありません。
平行世界編18です。

最初はサニーの視点
中盤からザインの視点でお送りします。


 平行世界で戦うカツミちゃんが変身した新たな姿。

 憎悪に怒り、普段のあの子なら絶対に呑み込まれるはずのない感情に支配された彼が変貌したその姿に、序列三位である私も薄ら寒いものを感じざるをえなかった。

 

「なによ、あれ」

 

 見た目そのものには派手さはない。

 プロト1のような見てわかるような力強さも、トゥルースフォームのような全能感もない。

 ただそこに立っている彼は黒と白のシンプルな鎧を纏った……まるで原点に立ち返ったかのような姿をしていた。

 

「二つのコアを単純に合体させた……ってわけじゃなさそうね」

 

 カツミちゃんはルインちゃんのいる領域へと足を踏み入れてしまった。

 今、この空間に這いつくばり、切断された右腕を押さえ痛みに苦しむ二位の姿がその証拠だ。

 

「う、あぁ……僕の、僕の腕が……ッ!!」

 

 アレは自業自得。面白半分で余計な茶々を入れようとするからああなった。

 平行世界にいる同一個体の二位の腕が斬られた瞬間、意識を共有し偏在する他の二位の腕も同時に断ち切られた。

 一つの世界に存在する二位ではなく、二位という存在そのもの(・・・・・・)に攻撃を加えた。

 それは……カツミちゃんがルインちゃんと同じことができることを意味してしまうのだ。

 

「……でも」

 

 先ほどの彼の覚醒の引き金となったエナジーコア、プロトの死を悼みながら目を閉じる。

 あの状況でプロトXが出来る手段は限られていた。

 カツミちゃんが命がけの勝負に出るか、自身を犠牲にして彼が生存する運命を作り出すか。

 だから、ああするしかカツミちゃんが生き残る道はなかったのだろう。

 実際、プロト1とトゥルースフォームならばルインちゃんの父、ザインとも互角以上に渡り合えただろう。

 

「だけど、カツミちゃんは憎悪と怒りに任せた覚醒を果たしてしまった」

 

 それほどまでに彼の傷は深かった。

 それほどまでに、プロトXの献身をザインに踏みにじられたことが許せなかった。

 

「ルインちゃん……」

 

 これも貴女の想定通りなの?

 こんな悲しい覚醒が貴女の望むものだったの?

 ここまでして貴女はカツミちゃんと戦いたいの?

 貴女の望むものは彼を苦しめてまで欲しいものなの?

 同じ空間で彼の進化を目にしているであろう彼女を思考し、苦々しい感情を抱く。

 

 きっと、今貴女は笑っているのだろう。

 ようやく自分と対等な存在に成った彼に喜びを隠せていないのだろう。

 分かりきっている光景を予想しながら、目を開けた私は意を決してルインちゃんへと視線を向ける。

 

「———え?」

 

 彼女の横顔を見て、私は抱いていた傍観の感情もなにもかもが消し飛んだ。

 笑っている訳でもなく、怒っているわけでもない。

 彼女が渦に映し出されたカツミちゃんを見るその表情は、喜色でも興奮でもなく無表情……いえ、それどころかどこか呆気にとられたような顔のまま涙を流していたのだ

 

「ルイン、様?」

 

 予想外のことに傍に控えているヴァースまで驚きに目を丸くしている。

 だけれど、ルインちゃんはそんな私とヴァースを意に介さずに、頬を伝う涙を拭わずに一心に彼だけを見つめていた。

 

 


 

 

 死した宇宙に響く怒りと憎悪の雄たけび。

 その雄たけびの主は白と黒の入り混じった仮面の怪物。

 口元に開いた裂け目から真っ黒な闇を映し出した奴が尋常ではない憎悪をこちらに向ける。

 

「ッ」

 

 それに対して私が咄嗟に身構えた瞬間、前触れもなく視界が真っ暗に染まる。

 数舜して奴が私の頭を鷲掴みにしたと気づいた時には暗黒物質で透過する隙もなく、私の身体はどこぞの星の大地に背中から叩きつけられた。

 

「ハァァァ……」

「———ッ」

 

 凄まじい力だ……!!

 即座に暗黒物質により奴の手を透過させ、攻撃から逃れる。

 振り下ろされた腕が私の身体を透過し、大地へ叩きつけられ爆発を引き起こす。

 惑星の表層を弾き飛ばし、星そのものに亀裂を与えかねない威力に怖気が走るが逆を言えば今の奴は力だけが異様に上がった姿と推測できた。

 

「は、はは、驚いて損をした!!」

 

 力一辺倒でこの私を倒そうなど甘いんだよ!!

 暗黒物質化しているこの私に奴の攻撃が届くことはない。

 今一度自身の無敵さを再認識させながら掌に暗黒物質を集め、一度奴に手傷を負わせた一撃を叩きこむ。

 

「そら、受けて見ろ!! さっきの10倍だ!!」

 

 防御しようともこいつは防げない!!

 無造作に腕を振るう奴の攻撃を透過させ、これ以上ない一撃を奴の胴体へ叩きこむ。

 暗黒物質が解放され、星をも容易く貫く一撃が肉体を貫通する。

 

「ははは!! ……は?」

「……」

 

 おい、なんで倒れない?

 いや、それどころか奴は私の攻撃を受けてもなおのけぞりもしていない。

 まさか、効いていないのか?

 

「ははっ、多少防御力も上がったということかぁ! ……思い上がるなよ人間がァ!!」

 

 この力を前に砕かれなかった敵はいなかった。

 私の能力は誰にも太刀打ちされることのない無敵の力なのだ。

 それが、どこぞの矮小な星の原住民に耐えられるなんてことがありえていいはずがない。

 

Dark Matter(暗黒物質)

 

 宇宙へ手をかざし我が暗黒物質の力を行使する。

 宇宙に満ちる暗黒物質に質量を与え、星を動かし引き寄せる。

 

  見 え ざ る   流   星

miezaru ryusei!」

 

 空間に満ちるダークマターを操り不可視の物質を隕石のように降らせる。

 一撃一撃が大地を容易く割る威力、こいつで奴の力を見極めてやろう!!

 

「———」

 

 虚空から光と共に電撃を放つ黄色の斧が現れ、奴がそれを掴む。

 それを無造作に、しかし迷いのない軌跡で横薙ぎに振るわれると奴に迫った不可視の隕石の一つが両断され、斧が発する電撃に当てられ爆発が引き起こされる。

 

「一つ防いだ程度で……なに!?」

 

 片手で持てるほどの大きさの片刃の斧は突然、流体のように蠢き肥大化する。

 持ち手の柄が異様に伸び、刃も身の丈の数倍以上にまで巨大化していく異様さに怪訝に思うが、すぐにその現象の根源を理解する。

 

「物質? 分子……操作か? 進化のアルファの力か!」

 

 質量を無視した形状変化。

 生き物のように蠢き、巨大な斧へと姿を変えたそれを大きく振りかぶった奴は、一振りで迫る暗黒物質を薙ぎ払うと、力を籠めこちら目掛け大きく振りかぶりぶん投げてきた。

 

「原始的だと言っているだろう!!」

 

 殴る蹴るの次は投擲か! つくづく芸がないな地球人!!

 大きく乱回転した斧は不可視の暗黒物質を叩き割りながら、こちらへ迫る。

 しかし恐怖はない。

 なぜならあらゆる攻撃は私にとって無意味なものだから。

 

「理解できていないようだなァ!! この暗黒物質の前ではどのような脅威も無意味だということを!!」

 

 自身の肉体を暗黒物質へと変え、あらゆるものの干渉を阻む。

 いくら力を上げたとしても、触れることすらできなければ無意味!!

 回転しながら迫る斧は意思を持つようにこちらに迫るが、こんな攻撃最初から———、

 

「ッ!?」

 

 ———正体不明の悪寒。

 間近に迫った斧に得体の知れない何かを抱いた私は、無意識に作り出したワームホールに飛び込み距離を取る。

 奴からそう遠くない距離に移動した私は先ほどの高揚とは異なる得体の知れない直感に困惑してしまう。

 

「なぜ、今逃げたんだ……?」

 

 しかもワームホールで逃げるなどという無様な逃げ方をしてしまった。

 ただ斧が回転しながら飛んでくるだけの物理攻撃。

 暗黒物質で透過し無視するのが一番楽だったはずなのだ。

 自身も理解できない行動に得体の知れない危機感を抱いたその時、私の頬を伝うなにかに気づき手で触れる。

 

「……血?」

 

 私の頬から、どうして血が? 逃げる寸前に僅かに斧の剣圧が触れたのか?

 いいや、そのはずがない。

 暗黒物質と化した私に傷を負わせることなど不可能だ。

 きっとこれは最初顔を掴まれたときに生じた傷だろうな。

 

「依然として私が無敵なことには変わりない。だが!!」

 

 万全を期す!!

 周囲の暗黒物質に質量を与え、収束、圧縮させながら鎧へと形成させる。

 宇宙の暗闇と星の煌めきを鎧の形に押し込め、それらを全身に装着させていく。

 

「私の奥の手だ。これまで使うこと自体なかった代物だが、これでお前が私に手傷を負わせる可能性すら消え失せた」

「……」

 

 最後に頭部を覆い、装着を終えた私は暗黒物質で形成した刃を腕から伸ばしながら、微動だにせずにこちらを見る奴に冷笑を向ける。

 これで運よく攻撃が当たったとしても通じることはない。

 その上、この姿でも私は存在そのものを暗黒物質に変え、お前の攻撃を無視することができる。

 

「そして、さーらーに!!」

 

 目の前の空間に干渉し、奴と私の間の重力を歪める。

 瞬間移動ではなく、物理的に空間を折り曲げ敵との距離をゼロにすることで、私はその場から移動することなく奴の懐に潜り込める。

 暗黒物質により一瞬で奴の目の前に距離を狭めると同時に、腕から伸ばした刃を突き出そうとした瞬間———奴が無造作に伸ばした左手が剣が伸びる私の腕を掴んだ。

 

「……」

「ッ、なんだ。なに掴んでいるんだ。まあ、このぐらいは反応……する……か」

 

 ……待て。

 なんで、こいつ暗黒物質状態の私を普通に掴んでいるんだ?

 私は今、透過を解いていない。

 そう当たり前の疑問を抱いた瞬間、奴の右拳が私の胴体に突き刺さった。

 

「が、っぁ!?」

 

 暗黒物質の鎧を薄氷のように砕いた拳が内臓を抉りながら胴体を貫通する。

 肉体ではなく、私という存在の枠組みを直接揺るがされるような一撃に意識が吹っ飛びかける。

 

「ヴァァァァ……」

「ヒッ!?」

 

 空いた左腕が私の頭部を破壊しようと振るわれたことで、咄嗟に両腕を顔の前に置く。

 バギャン!! という爆ぜる音と共に暗黒物質の手甲を纏った両腕が弾き飛び、僅かに直撃をずらした拳が私の下あごを粉々に吹き飛ばした。

 

「ばぁぁぁ!!?」

 

 殴られた衝撃で貫かれた胴体から右腕が引き抜かれ、私の身体は宙へ投げ出される。

 

「な、なぁ、あんでぇ……!?」

 

 暗黒物質は確かに発動している。

 だが、やつは当たり前のように私に攻撃を通した。

 殴り砕かれた下あごと胴体を再生させながらふらふらと立ち上がるも、間髪いれずに再生されかけの胴体に奴の蹴りが叩きこまれる。

 

「がばぁ!? がっ、あぁぁ!?」

 

 下から上へ掬い上げるような蹴りにより、強制的に足場のある大地から宇宙へと吹き飛ばされる。

 なんとか宇宙を漂うデブリにしがみつこうとするが、伸ばした手はデブリに触れられずに透過してしまう。

 

「っ、あああ!!」

 

 先ほどから絶えず暗黒物質化していた現実を叩きつけられながら、能力を解きデブリにしがみつく。

 再生した下顎もカチカチと音を鳴らすように震え、無敵と信じた鎧も今や両腕は壊され、胴体の部分も粉々に消え失せてしまっていた。

 

「どうして、触れられるんだ!!」

 

 私の能力は確かに発動していた。

 だが、奴はまるで無意味とでも言うかのように容易く掴み、蹂躙してきた。

 まるで、奴に掴まれることが当たり前で、それ以外が不自然と感じさせるような……。

 

「ま、まさか……」

 

 奴が変身した時と同じだ。

 まるで、私に攻撃が当たることが決まっていたかのような、確定された運命に引き寄せられた感覚だった。

 だとすれば奴は———、

 

「因果律に手をかけて……」

『ヴァァァァァァ!!!』

 

 地表からの跳躍でこちらに上がってきた奴を見据えながら暗黒物質の鎧を纏い、能力を発動させる。

 

「来るな!! 近付くなぁ!!」

 

 不可視の隕石を降らせ、見えない檻に捕えようとしても奴は容易くそれを砕き、こちらへ迫ってくる。

 ———私が繰り出す、あらゆる攻撃が効いていない。

 そして奴は本来触れることのできない私に、拳を向ける。

 

「がっ、あぁ……!!」

 

 暗黒物質の力は無敵だ。

 誰にも触れられることのない、簡単に全宇宙を支配することだってできる。

 だが!!

 だがこいつは!! この地球というカスみたいな惑星からやってきた劣等種族は……!

 目に見えず、されど見える、だが触れることすら敵わない我が暗黒物質の力を———因果律を弄ぶことで、“攻撃を当てる”というありえない事象を引き寄せている!!

 

「いや!! そもそもあるはずのない(・・・・・・)可能性を引き寄せて意味はないはずだ!! だが、それならなぜ―――がぁ!?」

 

 また奴の攻撃が私の胴体を砕く。

 ———ッ、最早疑う余地はない。

 奴は暗黒物質の透過を無視し、私に攻撃を当ててきている。

 当たり前のように、そう決まっているかのように。

 だが、いくら因果律を操ったとしても、ありえない可能性を操ることなどできない。

 そんなもの存在しないものをゼロから作り出すような……も……の……。

 

「可能性を、生み出して……いる……?」

 

 まさか、私に攻撃を当てるというありえない可能性を“運命のアルファ”の力で無理やり生み出し、その上で因果律を操ることでその可能性を確定させているとでも……?

 

「そんなバカげた話があってたまるかァ!!」

 

 それはエナジーコアの力でできる領分を明らかに超えている!!

 認めたくない結論に憤慨しながら、なりふり構わず奴の周囲に質量化させた暗黒物質を作り出し、周囲から圧し潰すように奴に殺到させる。

 この程度では足止めにしかならないが!!

 

「おおおおおおお!!」

 

 ワームホールを最大出力で発生させ、渦の先に存在する惑星に暗黒物質の力を干渉する。

 この宙域に満ちる暗黒物質を全て操り、この星系で最も巨大な惑星を引き摺り出す(・・・・・)!!

 

「どちらにしろここは死の宇宙!! 重力、星の均衡が乱れたところで関係ない!!」

「……」

「木星規模の質量ならば貴様もただでは済まないだろう!!」

 

 こちらも相応の消耗はするが貴様を殺せるなら十分すぎる!! どちらにしろ暗黒物質化すれば私には影響はないしなァ!!

 暗黒物質に囲まれ、身動き一つしない奴に私はワームホールから引き寄せた惑星を叩きこむ。

 

「くたばれ!! 死ね!! 地球人!!」

 

 奴の頭上からワームホールを通って落ちた惑星が激突す―――、

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 ———激突するはずの惑星が消えた(・・・)

 あれほどの質量が瞬きもせずに一瞬にして消えた事実を呑み込めないまま、私は変わらず宇宙に浮かんでいる奴に声を荒げる。

 

「なんだ、なにをした……? 私がぶつけた星は、どこにいった?」

 

 ワームホールで飛ばしたのか? だがそんな様子はなかったはずだ。

 突如として消えた惑星に困惑する私だったが、すぐに奴の右手の中に握られているソレ(・・)に気づく。

 ソレは球体。

 掌大ほどの大きさにまで圧縮された———、

 

「……は、ははは、なんだ、ソレは……」

 

 奴は宇宙の摂理すらも無視し、星を掌ほどの大きさにまで掌握(・・)していた。

 

「ヴァァァァ……!!」

 

 意味不明な光景に唖然としていると、奴の纏う鎧に変化が起こる。

 奴の声に合わせ装甲が変色する。

 黒は赤に。

 白は金に。

 極彩色の輝きを周囲に放った奴の背部に日輪を思わせる円盤が作り出され、奴を中心に宇宙を、空間を塗りつぶしていく。

 

「さらに、進化するとでもいうのか……?」

 

 因果律を弄び、可能性を創造し、他になにをしようというんだ?

 バカげている。

 こんなものが存在していいのか?

 

「ふざ、けるな」

 

 ただそこに在るだけで空間そのものがやつの力に塗り替えられていく異様な光景を目にし———この世に生を受けてから初めて、自身が捕食される立場だということを無理やり理解させられてしまう。

 これではまるで、暗黒物質程度で最強と思い込んでいた私はいったい———、

 

「この……」

 

 ———認められるか。

 あのような不自然な存在、あっていいはずがない。

 私は恐怖と怒りで半狂乱になりながら、衝動のままに奴へと飛びかかった。

 

「化け物がああああああああ!!」

 

 動かない奴に、腕の剣が迫る。

 奴は動かない!

 動けないのか!?

 動くことができないのか!?

 なら、このまま無防備な心臓を貫くことができれば!!

 狂気の笑みを浮かべた私が奴へと剣を突き出し、刺し貫いた———と認識するも刺し貫いた剣は、私の身体は、そのまま奴を身体を通り抜ける(・・・・・)

 

「え……」

 

 今のは……私の、能力?

 奴が用いたのは暗黒物質———私だけが用いる力。

 まさかこの短い時間で学習したとでも?

 声が震え、心がへし折れる音を聞きながら、背後を振り向く。

 

「———」

 

 極彩色の円環を背に浮かばせ、赤と金の姿というさらなる進化を果たした絶望がそこにいた。

 

「ァ、あ、あぁぁ……」

 

 奴もゆっくりとこちらへ振り返り、こちらに掌をこちらに向ける。

 その瞬間、怯えた声を漏らしていた私の身体を不可視の重圧が襲い掛かる。

 間違えるはずがない。

 この重圧は、それは私が支配下に置いていた暗黒物質の能力によるもの。

 

「が、あああああ!?」

 

 私の力のはずなのに!! 私が支配していた最強の力が!!

 たった今、身に着けたばかりのはずの奴に凌駕されて支配権(・・・)すら取り戻せない!!

 自身の力である暗黒物質に完全に動きを封じられた私を見下ろした奴は背中の極彩色の円環をゆっくりと二重、三重に展開させながら浮き上がる。

 そして———、

 

「な、なにをするつもりだ!!?」

 

 ———その手に掌握した“惑星”を掌から零すように落とした。

 奴の手を離れても惑星は元の大きさに戻らず、しかしこちらに落ちていくと共に亀裂が走り、自壊していく。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 圧縮された惑星はその質量に耐え切れず、自壊、全てを呑み込む黒い渦を作り出した。

 暗黒物質すらも呑み込む極小の黒い渦が作り出した重力の奔流が空間に吹き荒れ、私の身体は成す術もなく虚無へ吸い込まれていくのであった。




今回主人公が使ったおおまかな能力
・因果律操作
・可能性の創造
・分子(?)操作
・コピー(上位互換)

現状、上澄みの上澄みなのに相手が悪すぎて蹂躙されまくるルインパパでした。


次回の更新は次話が出来次第なるべく早く更新いたします。


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並行世界編 19

二日目、二話目の更新となります。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。


 あらゆる生物は私に支配されるために生まれている、とそう思い込んでいた。

 暗黒物質という宇宙に満ちるものを操る無敵の力。

 これまでその力を破られたこともなく、自力で手傷すら与えられるものすらいなかった。

 

 だが、それは大きな思い上がりだった。

 

 暗黒物質が無敵の力だったとしても。

 私の想像を超える化け物相手では全く意味をなさない。

 

「ぁ、が、……はっぁ……!!」

 

 生きている。

 星の崩壊に生じた重力に吞み込まれかけはしたが、鎧を自ら破壊し重力の奔流に一瞬の隙間を作ることで、小さなワームホールを生成しなんとか生き延びることができた。

 だが、ようやく作れたワームホールも小さく、生存のために四肢を捨て胴体のみで逃げなければならなかった。

 

「し、死んでいた……あのままあそこにいたら……」

 

 逃げた先はどこぞと知れない惑星の中。

 生命体はなく、破滅を待つだけだった惑星は、干上がった大地と赤銅色に染められた空に支配された……まさしく今の私のような有様であった。

 そんな中で私はボロボロの身体をなんとか再生させながら、恐怖に震える身体を抑え込む。

 

「あれは、存在してはいけない……生物だ……」

 

 暗黒物質は奴の前では意味をなさない。

 なぜなら、そういう運命として確定されてしまったから。

 しかしまだ、奴のいる世界から逃れられてはいない。

 理解(わか)ってしまう。

 どれだけ逃げても、奴は追ってくる。

 それだけの憎悪と怒りを向けて、確実にこの私を殺すためにやってくる。

 

「逃げなければ、奴のいない……次元へ……どこでもいい!! イリステオ!! 私を、俺をここから逃がせ!! イリステオ!!」

 

 唯一、並行世界への移動を可能にしている序列一位のイリステオの名を呼ぶ。

 しかし、どれだけ奴の名を呼ぼうとも一位は答えない。

 ただ虚しく、私の声が響くだけだ。

 

「———ッ、ふざけるなぁぁぁぁ!! 誰がお前を一位にしたと思う!! クソ、ヴァースが、あのくたびれたジジィが離反しなければこうはならなかった!! あああああ!! クソ、クソクソ!!」

 

 どれだけ罵倒を叫んでも、返事は戻ってこない。

 残酷な現実に打ちひしがれていると、さらなる絶望の印が空に映り込んだ。

 

「あ、あ……」

 

 螺旋模様の極彩色が空に広がり、その中心に空いたワームホールから———奴が出てくる。

 赤と金、そして極彩色に輝く円環を背負った怪物。

 その絶望は、地上にいる私を無機質に見下ろすとその全身から夥しい光を放ちだした。

 

『……』

 

 遥か彼方からでも視認できるほどの光は奴の両手に集まり、青い巨大な弓のような形へと変わる。

 そして背中の円環から極彩色のエネルギーが矢を形成し、奴はそれを大きく番えた。

 

「……」

 

 リィィィン!! と、鉱物を擦り合わせた悲鳴のような音が響き渡る。

 そして、収束した光が溢れんばかりの力と共に放たれる。

 光の矢に収束されたあまりあるエネルギーは、溢れ出すように解き放たれ、惑星へ降り注ぐ破壊の雨となって大地を焼き焦がし、星を容易く貫いていく。

 

「う、うわああああああああああ!!?」

 

 ただの一撃すらも星を貫くそれを目の当たりにし跳躍と共に回避しようとするが、破壊の雨は無差別に大地に降り注ぎ、例外なく無様に逃げる私の両足を消滅させた。

 勝てない……傷を負わせることすらもできないっ!

 今は、逃げなければぁ……!

 

「さ、再生を———」

『ヴァァァァァ!!』

「ぎぃ!?」

 

 両足の再生よりも先に光線よりも速く眼前に迫っていた奴が私の頭を掴み、地上へ叩きつけた。

 

「ぐ、あ……がああああ!?」

 

 頭蓋が軋み地上に押し付けられた俺の身体が持ち上げられる。

 俺の首を掴んだ奴は、大地を焼き続ける滅びの雨をものともせずに憎悪と怒りの咆哮を上げ―――その右の手の中にエネルギーを集約させる。

 

「———」

 

 奴を中心に空間が極彩色に浸食されていく中、その右手に形作られていくのは尋常ならざるエネルギーで生成された赤い輝きを放つ光の剣

 柄も握り手もなく、ただの光の線(・・・)とさえも形容できてしまうか細い剣を握りしめた奴は迷いなくそれを振るった。

 

「あ……あ……」

 

 その斬撃に音はなかった。

 全てが破壊され、奴が立っている場所以外の全てが空間ごと塗り替えられ、崩壊していく。

 奴からしてみれば攻撃しているのではなく、力を解放しただけだったのだろう。

 

「———」

 

 死へ意識が向かっていく刹那。

 ようやくこの恐怖も、絶望も抱くことがないことを考えて———私は心の底から安堵しながら、自らの死を受け入れた。

 

 


 

 世界が、割れている。

 

 力任せに力を振るい、ザインを跡形もなく消し飛ばした俺の視界には赤黒い色に汚された宇宙と、その宇宙に刻まれた極彩色模様の斬撃の残滓が映り込んだ。

 宇宙に途方もない傷跡を残した赤い亀裂は、ひび割れどんどん広がっていく。

 それが、怒りに任せた自身がもたらしてしまった破壊の跡だと俺自身が一番理解していた。

 

「……」

 

 あれほどまで抱いていた怒りはなくなっていた。

 目の前でザインの野郎を消し去った後は、抱いていた怒り以上の悲しみと、息苦しさに、俺はその場で膝をついて途方に暮れた。

 

「……俺は」

 

 バックルが外れ変身が解ける。

 光に包まれたバックルが分解され、それぞれがプロトとシロに戻る。

 

『カツミ、大丈夫!?』

『ガウゥ!!』

「プロト……シロ……」

 

 変身している時、意識はちゃんとあったんだ。

 ただあまりの怒りでザインを殺すまで止められなかった。

 誰にやらされたわけでも暴走させられたわけじゃない。

 俺が、俺の意思で奴を始末するための力まかせにベルトの力を使ってしまった。

 プロト、シロを復讐の道具のように扱ってしまったんだ。

 

「ごめんッ。俺は、お前達も……!!」

『私たちのことはいいから!! 身体になにか異変は!?』

『ガゥ!!』

 

 そういえばザインとの戦いで大怪我をしていたはずだが治ってるな。

 身体に痛みもないし、変身する以前とそれほど変わりはない。

 

「俺は大丈夫。身体もなんともないし、全然平気だ」

『あれだけの力を使って、なんともないの……? で、でも無事なようで安心したよぉ……』

 

 よく見ると、チェンジャーとシロの形状が少し変わっている。

 それぞれに銀色の✕印の装飾が施されていて、まるで別世界のプロトのチェンジャーみたいだ。

 ……。

 別世界のプロトはもういない。

 だけど、彼女の優しさは俺の命を救ってくれた。

 

『カツミ、私たちをこの世界に呼んだのは……』

「ああ、別の世界のお前だ」

『……』

 

 プロトとしては奇妙な感覚だろうな。

 別の世界の自分が命を捨ててまで、もう一人の自分を呼びだしたなんて。

 黙り込むプロトに声をかけようと口を開きかけると———不意に俺の背後から音もなく伸びた腕が首に回される。

 

「カツミ」

「……」

 

 誰だ、なんて分からないはずもない。

 音もなく俺の首に手を回してきたルインにため息をつく。

 首を絞めるでもない、抱き着いてくるように腕を固定させたルインに俺は辟易とした反応を返す。

 傍にいるプロトとシロは突然のことに慌てふためいている。

 

「……今、お前と戦う気分じゃない」

「もちろん。ああ、分かっているとも」

 

 引き剥がすのも面倒なのでそのまま地面に腰を下ろす。

 必然的に後ろで抱きすくめる奴も座るが、今は抵抗する気力もなくされるがままになる。

 

「そういえば、なんで呼吸ができるんだ……?」

 

 ここは地球でもないし、なんなら星でもない。

 少ない足場が残されただけの宇宙空間の中だ。

 今だって、宇宙を彷徨っているだけで空気なんてあったもんじゃないはずだ。

 

「ここはお前が支配した空間だ」

「はあ?」

「お前のためにある場所が、なぜお前を殺そうとする?」

「……こんな世界、あるかよ」

 

 傷つき壊れかけた赤い宇宙。

 俺がそうしてしまった自覚がある分、納得よりも嫌悪感の方が大きかった。

 顔を顰めた俺を後ろから覗き見たルインは、首に回した腕を片方だけ解き、虚空に手を伸ばした。

 

「ここは少しばかり騒々しい。少し変えようか(・・・・・・・)

 

 空に一直線の亀裂のようなものが走り、赤と金色の織り交ざった異様な宇宙を前に、ルインは払うように手を動かす。

 すると、彼女の手の動きに合わせ宇宙がさらに(・・・)塗り替わる。

 塗り替えられたのは星々が浮かぶ黒色の空。

 先ほどとは明らかに違う静かな光景———この技を、俺は知っていた。

 

「最初に戦った時に見せたやつか」

「いいものだろう? かつては私だけに許された力だった。今は、私とお前の二人だけだ」

「壊すことしかできない俺よりも……大分マシだろ」

「……」

 

 さっきの姿になれば同じことができるだろう。

 だけど、それだけだ。

 

「運命のアルファのことは残念だったな」

「……俺のせいだ」

「ああ、その通り。お前のせいだ」

 

 俺の言葉にルインは否定せずにはっきりとそう口にした。

 

「お前のためにこの世界のコアは死を選んだ。お前がそう選ばせた」

 

 正直、はっきりと事実を叩きつけてくるルインの言葉に俺は内心で感謝していた。

 俺のせいでこの世界のプロトは死んだ。

 死を選ばせてしまった。

 それは絶対に変えることができないことで誤魔化すことのできない事実なんだ。

 

「よくやってくれた、と。よくもやってくれたなと言いたい気持ちでいっぱいだ」

「なんでだよ……」

「お前に癒えぬ傷を残した。心に残る、ということは当人にとっては得難いものだからな」

 

 なにが言いたいのかまったく理解できねぇわ。

 これまでのルインとは何かが違う。

 言葉にするのは難しいが、今のこいつには独特の圧がない。

 

「お前がさっき殺した男は私の父だ」

「ッ」

「平行世界の、とはつくがな」

「……。なんだよ、かたき討ちでもしようって……いや、そんな殊勝なことするやつじゃねぇよな。お前は」

 

 口ぶりからしてそんな感じじゃないだろう。

 むしろ、父親のことを心底どうでもいいとさえ思っているような感じだ。

 

「私は父に存在を否定された。生まれるべきではなかった、とな」

「……」

「別にそれで傷ついたわけでもなかった。だが失望はした。誰もが私と同じ視座にいない。最強と持て囃された愚かな父でさえも、私を死の間際まで忌み子と罵り無様を晒した」

 

 ———少し、俺と似ているなとは思った。

 抱いた感情もなにもかも違うが、俺とこいつの境遇は少しだけ似ていた。

 

「誰一人として私と同じ者はいない。そう諦めていた。だが―――」

 

 首に回された腕に僅かに力が籠る。

 

「カツミ。お前は私と同じになった」

「……ルイン、俺は———」

「不思議だ」

 

 俺の言葉を遮り、ルインは続けて声を発する。

 

「お前の覚醒を待ち焦がれていたんだ。その時を迎えて喜びの感情が沸き上がるはずだったが、私の中に沸き上がった感情はそれだけではなかった」

「……」

「それがなにかは私にも分からない。だが……運命のアルファを失い悲しみに暮れるお前を見ていられなくなった。……これはいったい、なんなのだろうな」

 

 知らねぇよ、とは無造作に返せなかった。

 これまでの楽しそうな声ではなく、彼女自身も少し困惑した声だったからだ。

 だが、それに対する答えは俺も持ち合わせていなかった。

 

「———っ」

 

 唐突な眠気に襲われる。

 ルインになにかされたわけじゃなく、体力的にも精神的にも限界だったのだろう。

 眠気に抗えず、閉じていく俺の目元にルインが掌を乗せる。

 

「大きな力を使ったな」

 

「疲れただろう? 今は眠るといい」

 

「心配するな。まだ元の世界には戻さない」

 

「全てが終わった地球で別れを済ませてから、お前の世界に戻してやろう」

 

 結局、ルインはなにが言いたかったのだろうか。

 だが、一つだけ分かったのは俺が怒りに任せて至った覚醒は、俺だけじゃなくルインにまで変化を与えたということだ。




最終フォーム強くしすぎか……? と一瞬悩みましたが、そもそもライダー作品にオーマジオウとかいう最強魔王がいたのでヨシ! と判断しました。


今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございます。


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並行世界編 20

お待たせしてしまい申し訳ございません……!!

平行世界編 20

今回はカツミ視点でお送りします。


 あの姿で戦っていた時、怒りの中にいた。

 意識はあったけれど目の前のザイン以外に意識を向ける余裕もなく、ひたすらに力を振るってしまっていた。

 

 理解できてしまったからだ。

 

 これだけの力を手に入れても、宇宙そのものを滅ぼす力を手にいれても———自分自身の命を投げ出す運命を選んでしまったプロトを蘇らせることができないことを。

 どんな代償を払っても、時間を戻したとしても“そうあってしまった”運命が決定づけられた彼女の命は絶対に戻ることはない。

 

 

 

「———ん」

 

 まず視界に映り込んだのは天井の明かりのついていない電灯と、窓から差し込む日の光。

 なんだ? 眠っていたのか、俺は?

 

『カツミ! 目を覚ましたんだね!』

『ガウ!!』

 

 額を抑えながら声のする方に目を向けると、ベッドの傍のテーブルにプロトとシロがいた。

 良かった無事だったか……つーか、なんだ? 身体が重いんだけど。

 

「……怠いとかじゃないな。なんか物理的に重い……」

 

 とりあえず身体を起こして改めて自分が寝ているベッドを見ると、端から俺の身体によりかかるように眠っているやつがいた。

 

「ヒラルダ、お前かよ……」

「ん、んぅ……」

 

 声をかけると目をこすりながらヒラルダが目を覚ます。

 寝ぼけながら身体を起こして俺を見ると、一瞬目を丸くさせてから……次第に目元を潤ませる。

 

「か、カツミ君……!」

「お、おい、泣くなよ」

「泣きたくもなるよ!! あれから何年経っていると思ってるの!?」

「何年!?」

 

 え、あ、おい!? え、これ俺何年も昏睡状態だった感じか!?

 それじゃああいつらはどうなった!? 無事なのか!?

 

『いや、嘘だよ』

「えっ」

 

 テーブルの上に丁寧に置かれているプロトの声に我に返る。

 嘘……嘘ってどの辺までが嘘なんだ?

 

『カツミがこの世界に戻ってきてからまだ三日しか経ってない』

「……ヒラルダ?」

 

 自分でも声が低くなっているの自覚しながらヒラルダを見ると、奴は目元を拭った後ににくたらしい笑みを浮かべていた。

 

「はい、嘘でしたー!!」

「性質悪い嘘ついてんじゃねぇぞ!? ヒラルダァ!!」

「きゃー」

「おい待て逃げるなァ!!」

 

 結構な勢いで部屋から飛び出していくヒラルダに俺は、肩を落とす。

 ……あぁ、もう起きたばかりなのに変なところで体力使っちまった。

 

「プロト、ここは……」

『カツミが飛ばされた別世界の地球。……この世界の変態から聞いたよ。カツミがなにをしていたのか』

『ガウ』

「そう、か」

 

 あらかたの事情はレイマが説明してくれたのだろう。

 

「俺がいない間そっちはどれくらい経ってた?」

『大体一週間くらい』

 

 微妙にズレがあるけど大体同じくらい日が過ぎていた感じか?

 

『カツミがいなくなって、荒れてた』

「聞くのが怖いけど、誰が?」

『みんな』

「……心配かけちまっただろうなぁ」

 

 俺のせいじゃないとはいえ早く戻らねぇとな。

 

「あの力のことは……」

『誰にも話してないよ』

「助かる。アレは……元の世界でもレイマくらいにしか話せないからな」

 

 あんな力まともじゃないのは自分でもよく理解できる。

 ザインはいけすかねぇ野郎だったが、実力は確かだった。

 それでも奴を倒すのにあそこまでの力は必要なかった。

 

『カツミ、本当に身体に異常はないの?』

「……信じられないかもしれないが……普通に元気だ」

『私を着けて。もう一回スキャンしてみるから』

 

 ベッドから手を伸ばしてプロトを装着する。

 すぐにチェンジャーから青色の光が放たれ、俺の身体を頭からつま先までスキャンする。

 

「ど、どうだ?」

『身体が変質しているわけでもないし、細胞異常もない。怪我も完治、異常もなにも……ない』

 

 あんだけの力を使ってなんだが本当に異常という異常はない。

 逆に身体がすこぶる調子がいい……なんてこともなく、以前と全く変わりない感じだ。

 

『大丈夫なら、それでいいんだけれど……』

『ガウ……』

 

 プロトとシロの心配もよく分かる。

 だけど痩せ我慢でも隠しているわけでもなく本当になんともないのだ。

 

「ま、別に腹を壊したわけでもねぇし大丈夫だろ」

「目を覚ましたんですね!! カツミさん!!」

「ん?」

 

 ドタドタと勢いよく部屋に飛び込んできたのはアカネ、キララ、アオイの三人娘だ。

 三人が無事なことに内心で安堵しつつ、苦笑した俺は頭に手を当てる。

 

「悪い。心配かけたぐぼぉ!?

「じんばいしたんですがらぁぁ!!」

「ホント、もう目覚めないとッ」

「便乗ダイブ」

 

 ま、待て!! 全然元気といえども三人でベッドに突っ込んでくるやつがあるか!?

 余程心配かけたのか泣きながら飛び込んできたアカネとキララ、そして便乗して突撃してきたアオイの衝撃に呻く。

 

「おい、お前たちいい加減にしろ」

「お、お姉ちゃん! なんてことしてるの!!」

 

 と、グロッキーになりかける俺を見かねたのか、遅れて部屋に入ってきたレックスとハルがアカネ達を引きはがす。

 

「レックス……ハル……」

「カツミ、よく無事に戻ってきてくれた」

「無事でよかった……本当に……」

 

 義手も外しているし、服装もスーツではなく普通のものを着ている。

 ということは、今は平和ってことなのか?

 アカネ達も落ち着いたところで、俺はザインに月に転移させられた後の話を聞くことになった。

 

「カツミさんがあいつと戦って消えた後……私たちは怪人の残党と戦ったの」

「あぁ、オメガが倒されてもそりゃあ怪人は残っているよな……」

 

 俺らの時も、アースが海底で生きていたわけだしな。

 じゃあ、まだ怪人の残党はいるってことか。

 

「カツミさんはザインを……倒したんだよね?」

「……。ああ、奴にはきっちりと引導を渡してやったよ。だけど……」

 

 これは、言うべきか。

 ザインと戦ってこの世界のプロトが死んでしまったことを。

 いや、言うべきだな。

 一人で抱え込んでいる姿っていうのは傍から見たら丸分かりだ。

 あの凄まじい姿のことは言えないが、せめて彼女の死を隠さないでおいてあげたい。

 

「俺のために、プロトが命を落とした」

「え、でもプロトちゃんはここに……」

『私はカツミのいた世界のプロトだよ。こっちの犬っぽいのが妹のシロ』

『ガウ!!』

 

 チェンジャーの画面を点滅しながら話したプロト。

 そんなプロトの紹介に納得がいかなかったのか、シロが前足でプロトをテーブルから叩き落す。

 

『落とすなァー!?』

「こら、喧嘩するなって」

 

 プロトをキャッチしテーブルに戻しながら、俺は精いっぱいの笑みを浮かべて彼女達へ向き直る。

 

「プロトは命を賭けて、俺の世界のプロトとシロをこの世界に引き寄せた。そのおかげでザインを倒せたんだ」

「そう、だったのか。君のチェンジャーとベルトがいたことに気づいていたが……いや、君の本来の力ならば倒せても不思議ではない」

 

 レックスは実際に戦ったことがあるから驚きは少ないようだ。

 

「カツミさん、大丈夫?」

「心配いらねぇよ。いつまでも自分を責めるのはプロトも望んでねぇはずだろうしな」

「私のここ、空いてるよ」

「だから心配いらねぇって言ってんだろ。その開いた腕はなんだ」

 

 右手を上げ、空いた空間を左手で指し示すアオイに普通に困惑する。

 なんだろう、こっちのアオイも俺の知る葵みたいなことをするようになっちまったな。

 

「ねえねえ、カツミさんも目覚めたことだし美味しいものでも食べようよ」

「そうだねぇ。私たちも今日まで忙しかったこともあるし、ここは人類勝利記念にパーティでもやっちゃおうか」

「私は肉を所望する」

「お肉なんて缶詰しかないでしょお姉ちゃん」

 

 ———よかった。

 アカネ達が、笑っている。

 こんな救いのなかった世界で俺の知っているアカネ達のように笑ってくれる彼女達を見て、俺は心の底から安心した。

 まだ怪人の脅威は残っている。

 それでも、俺は彼女達が辿るであろう滅びの運命を止めることができたんだ。

 

「カツミさ……ハッ……お、お兄ちゃんはなにが食べたい?」

「オニイチャン? ……。……あ、あぁ、そうか、呼んでいいって言ったな」

 

 突然の兄呼びにかつてないくらいに思考が止まった。

 しかしなんだろうか、今シロの目が赤く光り、プロトのチェンジャーの画面にRECという赤文字が浮き上がったのだけど。

 

「アカネ、そういうのやめぇや。カツミさん、困ってるから」

「え、カツミさんは元から私のお兄ちゃんでは?」

「記憶改竄されてるようだし一度どついた方がいいかも」

「調子に乗るなよアカネ。———真の妹はこの私だ」

「お姉ちゃんまでおバカにならないで」

 

 一人っ子だから分からねぇけど、上に兄とか姉とかいてほしいものなのか?

 

「恥とかないのかあんたは」

「妹歴が違うんだよこの長女共め!! 言っておくけど私は元来妹!! 年上のカツミさんをお兄ちゃん呼びしても許されるんだよ!! ね、お兄ちゃん!!」

「あ、あぁ」

 

 なんだろうか、アカネに何度も兄呼ばわりされるとものすごく恥ずかしくなってくる。

 これ、元の世界に戻った時しばらくアカネに接することができなくなるかもしれん。

 


 

 夜にささやかな祝勝会のようなものをするという計画を立てた後、俺は未だに指令室で忙しくしているレイマの元に足を運んでいた。

 

「む、カツミ君か。目を覚ましてくれて安心したよ」

「ええ。お互い無事に会えてなによりです」

 

 彼は指令室で一人、事後処理を行っておりモニターを見れば周囲に怪人の残党がいないか探っているようだ。

 

「君には本当に感謝している。君のおかげで、この世界の脅威は取り除かれた」

「まだ、怪人は残っていますけれどね」

「ああ。その辺についても話したいが……まずは、君がこの地球に戻ってきたときのことを話しておこう」

 

 すると、レイマは手元の使い古された端末を操作し、カメラの映像を映し出す。

 

「この映像は二日前、コロニー決戦後の広場の映像だ」

 

 場所は第二拠点内の広場。

 誰もいないその広場の中心に白い渦が発生し、それがゆっくりと横に動くと渦の中から気絶した俺が現れた。

 

「カツミ君。これはいったい……君はどうやってこちらに戻ってきたんだ?」

「……実は」

 

 ルインのことは今更隠す必要もないので話してしまおう。

 どちらにしろ、この世界にルインはいない。

 ———あいつは、一人しかいない。

 どの世界、どの時間でも、奴は一人だ。

 

「なるほど。君は私が想像していた以上の大きな使命を背負っていたのだな」

「厄介なやつに目をつけられているだけだけどな……」

「だが、そうか。私のこの世界ではザインがそうだったように、君たちの世界の頂点がルインということなのか」

 

 力そのものは明らかに違い過ぎるけどな……。

 むしろ、ルインの方が異常すぎるまである。

 

「———まあ、このことについては考えてもあまり意味はないか。よし、話を切り替えよう」

「お、おう」

 

 ぽん、と手を鳴らし映像を消したレイマが俺の方を見る。

 

「話そうと思っていたのは、我々のこれからのことだ」

「我々というと……俺も?」

「いや、これ以上君に頼るわけにはいかない。これ以上の助力を望めば、我々は君に依存してしまうことになってしまう」

 

 ———レイマも薄々感づいているんだな。

 俺がもうすぐ元の世界に帰ってしまうことを。

 思わず無言になってしまうと、彼は続けて口を開く。

 

「今後、我々がするのは怪人の掃討と、生存者の救出だ」

 

 オメガによって作り出された怪人は放逐されたままだ。

 オメガが死んで、連鎖して滅ぶわけでもない。

 

「人類は終わりに近づいている、それは変えようのない事実だ」

「オメガを倒してもか?」

「怪人の残党は残っていることに加え、地球の人類のほとんどが奴らの餌食になってしまった。我々は強化スーツで対抗できたが、それすらない場所では……人間は怪人に対して無力だ」

「……」

 

 なら、今地球に残っている人類は……。

 怪人の中にはもちろん海を越えたり、空を飛ぶ奴もいる。

 一体でもいれば一つの都市を訳もなく破壊しつくせる危険な連中が世界中に散らばったとすれば……生存の望みは低いのかもしれない。

 

「だが地球のどこかに怪人の目を逃れて生き延びている人々がいる可能性もある。……その可能性も非常に低いが、当面の我々の目標は、生存者を探すことになる」

「その後は?」

「……非常に難しい決断になるが」

 

 レイマが苦々しい表情で拳を作る。

 力を込めているからか、血管が浮き上がり青白く染まる。

 

「残り少ない人類を集め、別の世界の地球———君の世界の私に助力を頼めないかと考えている」

「! それってつまり……」

「ああ、こちらの地球から君のいる……別世界の地球へ新天地を求めるというものだ。勿論、それなりの時間がかかるだろうがな」

 

 俺のいた世界への移動!?

 まさかの予想外過ぎる考えに驚いてしまう。

 

「我々の世界と君のいる世界は隔絶したものだ。過去や未来のように相互に影響し合う繋がったものではなく、個々に独立しているものなので影響はない……はずだ」

「……でも、可能なのか? 俺たちはあっさりと送り込まれちまったが、それは能力を使った奴が厄介な能力を持っていただけだぞ」

「ああ、勿論理解しているとも。だが可能性もある」

「可能性?」

 

 なにか方法があるのだろうか?

 怪訝に思う俺にレイマは一瞬だけ迷う素振りを見せてから口を開いた。

 

「ヒラルダ。君の仲間が特殊なエネルギーを有するコア———星界核を我々に託してくれるからだ」

 

 星界戦隊の根源。

 今やヒラルダが保有する力は……あいつにとって重要なもののはずだ。

 それを俺に黙って託すという彼女の行動に、呆気にとられてしまうのであった。

 


 

 

 決戦の前、キララと話をした第二拠点の屋上。

 そこにヒラルダはいた。

 荒廃した建物が並ぶ景色を照らす夕日を眺めながら、こちらに背を向けている彼女に声をかける。

 

「……キララ達が飯、用意してるってよ」

「私も参加していいの? 一応貴方にとっての敵だよ、私は」

「……」

 

 今更なにいってんだこいつ。

 元の世界に戻る目途ができたからって変な意地でも張ってんのか?

 しかしまあ……元の世界に戻ったら実際にヒラルダとは敵同士になる。

 それは避けられないことなんだろうな。

 

『カツミ、あまり深く聞かなかったけど……』

「この世界で、俺はこいつに助けられた。お前も色々と思うところはあるかもしれねぇが、今は胸にしまっておいてくれ」

「しまう胸もないけどねー」

『格の違いを分からせてもいいかな?』

 

 けらけらと笑うヒラルダにドスを利かせるプロト。

 怪しい点滅をし始める彼女をなだめながら、俺は本題を切り出す。

 

「ヒラルダ、お前……どういう風の吹き回しだよ」

「ゴールディから聞いたんだ」

「ああ」

 

 星界核の譲渡。

 今の彼女の主力ともいえるそれをあっさりとレイマに託した理由が知りたかった。

 

「お前、俺と戦うために散々面倒くさい手回しして手に入れた力をなんであっさり手放すんだよ」

「いざ言われるとグサッと来るねー……」

 

 実際そうだろ。

 星界戦隊を倒させてまで手に入れた力だ。

 俺から見ても厄介だし、元の世界に戻って俺と戦うつもりだったヒラルダにとっても重要なもののはずだ。

 俺の問いかけにヒラルダは、欄干に背を預けながら苦笑いを浮かべた。

 

「理由の一つとしては星界核がそれを望んでいたから」

「……意思があるのか?」

「意思というより、そうあるべきであるって習性かな? とことん善玉エネルギーだよ。多分、今まで私や裏の存在に悪事に使われてきたから、その反動もあるんじゃない?」

 

 その能力の本質が星の再生と維持というものだけあって、星界エナジーは善の性質を持っているのは分かる。

 だが、ヒラルダ。

 お前のその行動には他ならないお前の意思もあるはずだ。

 

「なーんでだろうなー。正直、私でもなんでこんな良いことしようとしたのか分かんないんだ」

「……」

「君のせいってのもある。七割くらいね。……やっぱり善行って気持ちがいいね!! 悪行してる時とは別の快感があるよ!!」

「お前は悪いことして気持ちよくなるような奴じゃねーだろ」

「……ホント、そういうところだよねー」

 

 お前、気づいているか?

 この世界に来る前までのお前は悪ぶって、年不相応に振舞って……それが今じゃあなんだ?

 精神年齢幼く……いや、多分本来のものに戻ってんだぞ。

 そんなの俺じゃなくても分かるわ。

 

「いい加減自分に言い聞かせるのはやめろ。お前、どこから始まったかは知らねぇが引くに引けなくなって、自分で後戻りできねぇように悪いことしてるんだろ」

「……カツミ君は私のことなにも知らないでしょ」

「自分のことを話さねぇ奴が他人に理解されようと思うんじゃねぇ……って前にも言ったけどな」

 

 あの時と今では辿ってきた状況が違う。

 呆れながら頭を掻いた俺はヒラルダの隣に移動し、欄干に腕を置く。

 

「少なくとも俺はこの世界に来てからのお前を知ってるぞ」

「……っ、あーあ、もう。本当にそういうとこがもう!! あぁ———!!」

「いきなりどうした」

 

 両手で髪をくしゃくしゃに乱し、口元を押さえ何かを主張するようにくぐもった声をあげたヒラルダ。

 数十秒ほどでようやく落ち着いた彼女は、肩で息をしながら身体の向きを変え、俺と同じ夕日が浮かぶ方向を見る。

 

「……私さ、初めて手にかけたのが家族……だったんだよね」

「……」

「お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……の四人。みんな、私が殺した」

「理由を、聞いてもいいか?」

「アルファとして目覚めた私を生贄にしようとしていたから。暴力も振るわれたし、ありったけの罵詈雑言も叩きつけられた。———私が、アルファだったから」

 

 ヒラルダの横顔からはなにも読み取れない。

 遥か遠くを見て、自嘲気味に話すだけだ。

 

「私を裏切って、殺そうとしたやつら……だったけどさ。それでも、記憶はあるんだよ。大事な家族だった時のこととか、他愛のないことで笑った記憶とか……どこまで酷い目に遭わされても、私が家族を愛していたって事実は変えられなかった」

 

 そこまで語ったヒラルダは自嘲気味に笑いながら、俺を見る。

 彼女は笑みを浮かべていた、その内心は心を引き裂くようなどうしようもない悲しみと、胸の奥底から湧き上がる煮えたぎるような———自分自身に対しての怒り。

 

「だから、私が私を許さない。どれだけ絆されようが、貴方に心を許していようが……私自身がヒラルダという悪人を絶対に許さないの」

 

「いいぜ、それでも」

 

「———え?」

 

 こいつは俺と同じだ。

 いつまで経っても“あの日”の呪縛から抜け出せず、夢を見る度に吐いていた俺と。

 俺とは違って誰もこいつにはいなかった。

 だから、こいつは自分を責め続けて———後戻りできないようにした。

 ヒラルダの本心をようやく聞き出した今、俺のするべきことが分かった。

 

「俺がお前をぶっ倒してやるよ」

 

 俺はジャスティスクルセイダー、アカネ達に捕まって人の優しさに触れた。

 なら俺も同じことをしてやろうじゃねぇか。

 まずはこの分からず屋をとっ捕まえてやる。

 俺の宣言にヒラルダは、眼を瞬かせた後に———ここで初めて純粋な笑みを浮かべた。

 

「最高の口説き文句だね」

「は? 口説いてねぇよ、何言ってんだお前……変な勘違いすんなよな……」

「カツミ君。ねえ? カツミ君。君はもっと場の雰囲気とかそういうの学んだ方がいいと思う」

 

 今のどこが口説いてんだよ。

 ぶっ倒してやるっていってんだろ、バイオレンスすぎるだろ。




アカネのお兄ちゃん呼びに一番違和感を抱いているのは他ならない私自身という……。

平行世界編はあと一話くらいで終わりですね。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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並行世界編 21

二日目二話目の更新です。
前話、並行世界編 20を見ていない方はまずはそちらをー。


 

 俺が目覚めてから三日が過ぎた。

 その間、祝勝会やら拠点内の人々に滅茶苦茶感謝されたり、

 アオイがベッドに潜り込む珍事に遭遇したり、

 拠点内でレックス、アカネ、俺が兄妹と認識されたり、

 ハルとキララと拠点内の放送のゲストとして呼ばれたり、

 ———色々と衝撃的なことがあったわけだが俺もいつまでもここにいるわけにもいかないので、改めてレイマに帰る旨を話した。

 帰る方法は単純、ルインの名前を呼ぶだけ。

 俺としては非常に……非ッッ常に複雑ではあるが、元の世界に帰るためにはあいつの力を借りるしかない。

 多分、今の俺ならばあの姿になればできるかもしれないが、下手にあの姿になって大変なことになることも避けたい。

 

「ここらへんでいいか」

 

 第二拠点の屋上。

 なんだかんだで結構立ち寄ることの多かったこの場で俺たちは別れの挨拶を交わすことになった。

 この場にいるのはアカネ、アオイ、キララの三人とレイマにハル。

 そして俺とヒラルダとレックスの三人だ。

 

「カツミ君、本当に大丈夫?」

「あー、多分」

 

 なにもない殺風景な屋上で、一歩前に歩み出た俺は軽く息を吸い彼女の名を呼ぶ。

 

「ルイン、頼む」

 

 瞬間、俺たちの前に白い渦が現れる。

 渦の先はレンズのように景色が歪んで見えるが、どこかの街中の雑踏———この世界で見ることのない人で溢れた景色が広がっていた。

 

「この先にあるのが、君の世界か」

「レイマ」

「ああ、分かっている。データは録っている」

 

 ルインの技を科学で模倣することは不可能だが、次元と次元を繋ぐ糸口くらいは見つけ出せるかもしれない。

 

「……不思議な感覚だ」

 

 ルインの作り出したゲートのデータを取りながらレイマは、感慨深そうに口を開いた。

 

「半月前までは絶望の中にいたはずなのに、今は溢れんばかりの希望が私たちの前に広がっている」

「レイマ……」

「君たちのおかげだ。君たちが我々の運命を変え、地球を救ったんだ」

「俺だけの力じゃない。貴方が諦めなかったから、間に合ったんです」

 

 アカネ、アオイ、キララ、レイマ、そしてレジスタンスの人々。

 誰もが絶望の中で戦い続けたからこそ、間に合ったんだ。

 誰か一人でも欠けていたら、この状況はありえないものだったかもしれない。

 

「君の世界の私が、君を友と呼ぶ理由が分かった気がするよ」

「もう貴方とも友達ですよ」

「ああ」

 

 手を差し出し、レイマと握手を交わす。

 レイマにとってもこれからが大変だろうけど、彼がいるならばこの世界も大丈夫だろう。

 

「君たちもよく頑張ったな」

 

 レイマからアカネ達へと移す。

 俺の言葉に、アカネ達の瞳が潤んでいる。

 ハルなんて既に泣いている。

 

「ハル」

「はいっ」

「これからは君のような誰かを笑顔にできる存在が必要になる。ここからが正念場だぞ」

 

 オメガが死んだといっても脅威はまだそこらじゅうに残っている。

 先の見えない戦いの日々を送らなくてはいけないこの世界の人々にとって、ハルの存在は勇気を与えてくれる代えがたいものになるだろう。

 目元を拭いながら強く頷くハルに、微笑んだ俺は次にアオイへと視線を向ける。

 

「アオイ、あまりハルを困らせるなよ? まあ、なんだかんだで周りをよく見ているお前のことだ。いつだって変わらず、お前のままでいればいい」

「ありのままの私が好きって、こと?」

「ん? ああ好きだぞ」

「!!??!!」

「お、お姉ちゃんダイーン!!?」

 

 一瞬で顔が真っ赤になったアオイが直立したまま後ろへ倒れ、ハルが支える。

 

「……大丈夫か?」

「平気です。お姉ちゃんは攻撃特化すぎて防御が紙すぎただけですから……」

 

 どういうことだ?

 ま、まあ、心配はいらなさそうだし次に行くか。

 

「キララ。……もう大丈夫か?」

「うん。私はもう心配ないよ。今はここにいる皆が私の家族。ほ、本当は君もなってほしいけれどね」

「もう家族みてぇなもんだろ」

「!!??!!」

「い、イエロォォォ!? 傷は浅いぞォォ!!?」

 アオイと同じく直立したまま後ろへ倒れたキララをレイマが支える。

 ま、またか?

 

「えぇと……」

「気にするな。いや、気にしないでやってくれ」

「お、おう」

 

 家族ってのは言い過ぎたか?

 え、でも自分から家族って言ったから……。

 

「最後になっちまったけどアカネ、お前は……おっと」

 

 口に出す前にアカネは俺の胸に飛び込んできた。

 頭一つ分くらい身長差があるので、普通に受け止めるが彼女は顔を埋めたままなにも喋らない。

 

「……」

 

 なんとなく察した俺は苦笑しながら、アカネの頭に手を置きされるがままになる。

 

「うん、もう十分!!」

「いいのか?」

 

 一分ほどそうしていたアカネはパッ、と離れて照れくさそうに微笑む。

 

「堪能した!!」

「なにを……?」

「えへへへ!!」

 

 ……まあ、満足そうならそれでいいか。

 

ガァーウ(録画は?)

『完璧。……でも、この世界のアカネって私の世界よりも積極的……』

 

 なんだかんだで妹がいたらこんな感覚なんだろうなって思わされたな。

 元の世界では同い年だが、年下になるとこんな感じなんだなって。

 

「本当はこのままカツミさんの世界に行ってみたいですけど、私は私の世界のためにまだまだ頑張ります」

「一人で背負い込むなよ。いざという時は仲間を頼れ……これは俺の世界にいるお前が教えてくれたことだ」

「私が……はいっ」

 

 明るく頷いたアカネの頭に手を置く。

 ———なんか元の世界に戻ったらうっかりあっちの彼女にもこれをやりそうで怖いな。

 ……さて、一通りの別れの言葉を言えたし、後は———、

 

「カツミ」

「レックス?」

 

 ゲートをくぐろう、と口にする前にレックスが声をかけてくる。

 なんとなく彼女がなにを言うか予想できていると、レックスは俺たちから離れ、アカネ達のいる側へ移動する。

 

「私はこの世界に残ろうと思う」

「やっぱり、ですか」

「その様子じゃ気づかれていたようだな。……うん。正直、私の力は君の世界では意味を成さない。むしろいらない厄介事を引き寄せてもおかしくはないだろう」

 

 薄々そうするかもしれないとは思っていた。

 あっちに戻ってもレックスの立場は星将序列だもんな。

 離反するといっても裏切者扱いされて襲われないとも限らないし、それならこっちの世界でアカネ達に協力したほうがいいと考えても不思議じゃない。

 

「なにより、星界核の管理をこのカネザキ・レイマにだけ任せるのは不安だからな」

「え、そんなに私信用ない……?」

「監視者としてなら不老のこの身体も役に立つ。……この未熟者共の助けにもなれるしな」

 

 ……レックスも自分の目的を見つけられたんだな。

 

「それなら俺から言えることはありません。……あ、でも、お酒も煙草もあまりやらないように」

「あ、あの時は……私も少し自棄になっていて……試したけどどっちもダメだったよ。……フッ、今、思い出してもあの時君と会えてよかった。心の底からそう思えるよ」

 

 きなこが俺を貴女の元に導いた時から始まった。

 まさかこんな平行世界くんだりまで来ることになるとは思わなかったけど、それでもいい結果に終われて本当によかった。

 

「ああ、そうだ」

「?」

 

 なにかを思い出したのか、レックスがポケットから端末を取り出し片手で操作する。

 

「今から座標を送る。元の世界に戻ったら座標に隠している物を回収しておいてほしい」

「なにがあるんですか?」

 

 そう尋ねると、レックスは苦笑しながら答える。

 その笑顔はこれまで見せた表情の中で、一番柔らかい笑みであった。

 

「口煩い、お節介な……私の友人だ。できることなら君達のところに置いて欲しい」

「はい。必ず」

 

 座標を受け取って確認した俺は、その場から一歩後ろへ下がり、改めてその場にいる全員を見回す。

 

「これで最後の別れになるとは思わない。いつかまた、世界が繋がった時にまた会おう」

「うん! いつか、また会おうね!! カツミさん!!」

「ああ、約束だ」

 

 今一度別れの言葉を口にした俺は、ヒラルダに目配せして——ゲートへと向き直る。

 振り返ったら足を止めてしまいそうなので、後ろ髪を引かれるような思いを振り切り、俺はゲートへと足を踏み入れるのであった。

 

 


 

 ゲートを渡った瞬間、瞬時に世界を渡ることになった。

 踏み出した先にあるのは、見覚えのある都会の交差点。

 白い渦でできたゲート自体は一般人にも見えていたようで、交差点の遠巻きから一般人がスマホなどで写真を撮っている光景が視界に映り込む。

 

「ここは、俺の知っている世界か?」

 

 ルインを疑うわけじゃねぇが、不安もある。

 とりあえずプロトに連絡をとってもらおうと手元に触れようとすると、ヒラルダがなにかに気づく。

 

「カツミ君、どうやらちゃんと元の世界みたいだよ。ほら」

「ん?」

 

 交差点の中心でヒラルダがどこかを指さす。

 彼女が指さした方向にはビルに備え付けられた大型モニターに、俺の映像が映し出されていた。

 

『黒騎士、行方不明から10日経過!! 彼はどこへ!?』

 

 え、いや、なんか俺普通に行方不明になっちゃってますけど。

 と、当然か……。

 でも俺が行方不明になっていたってことは間違いなく、ここは俺のいた世界だな。

 

「よし、なら早速レイマに連絡を———」

「カツミ君」

「ん? どうした?」

 

 ヒラルダが俺からゆっくりと距離を取る。

 彼女の手には緑色のバックルが握られており、その様子からして———彼女がなにを考えているのかすぐに分かってしまった。

 

「もうやるのか?」

「あれだけ大胆な口説き文句を言われたら、もう待ちきれないよ」

「だから口説いてねーって言ってんだろ」

「私にとってはそうだよ。———ここにはギャラリーもたくさんいるし、戦いの場としては十分」

 

 いいわけねぇだろ。

 一般人を巻き込むようなところで戦いたいはずねぇだろ。

 だが、そんなことを言って聞くような表情をヒラルダはしていない。

 

SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)

 

 濃い桃色のドライバーが腰に巻かれ、彼女の姿が変わる。

 

BE(ビィ) STEEPED(スティープド) IN(イン) VISE(バイス)……』

 

SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリーム)……SCREAM(スクリィィィム)!!

POLLUTION(ポリューション)……』

 

 星界核を失った彼女が変身した桃色の姿。

 元に戻った彼女を見て、一度目を伏せた俺は———シロを掌に載せ、ルプスドライバーへと変形させる。

 

「シロ、やるぞ」

『ガウ!!』

 

LUPUS DRIVッ(ルプス ドライ)……ジジッ』

 

 ———ドライバーから流れる音声にノイズが走る。

 

「……なんだ?」

 

 明らかな違和感を抱いた瞬間、ルプスドライバーから金色の光があふれ出す。

 いや、ドライバーだけじゃないッ、手首のチェンジャーからも赤色の光が出ている!!?

 

『ガウ!?』

『これは、まさか!! きゃっ』

 

 変身に用いようとしたシロが手から弾かれ、右手から外れたプロトと合体する。

 バックルとチェンジャーが変形し、見覚えのある赤と黒に彩られた異質なドライバーを形作り、俺の目の前に浮き上がる。

 

「やめろ、この姿になるつもりはッ!!」

「ッ、カツミ君!?」

 

 PRTO(プロト)“1”(ワン)Naaaa

GEMINI(ジェミニ)X(クロス)DRIVER(ドライバー)

N TRUTH(トゥルース)aa

 

「がっ、がぁぁあ!?」

 

 駄目だ、抵抗できねぇ!

 バックルが強制的に腰に装着され、俺の周囲に赤い暗黒模様の宇宙が広がる。

 まさか、これがあの姿になった代償……!?

 

 




【ジェミニX:変身デメリット】
カツミとの相性が良すぎることから“プロト”、“シロ”の各形態への変身が不可となり、強制的にジェミニXへの変身に移ってしまう。


今回の更新は以上となります。


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冥・王・解・禁


お待たせしてしまい申し訳ありません。
突然ですが重大発表です!

この度、「追加戦士になりたくない黒騎士くん」がファミ通文庫様より書籍化されることになりました!!
発売は5月を予定。
イラストを担当してくださるのは、イラストレーターのギンカ様です!!


詳しくは私の活動報告に載せましたのでそちらをご参照ください……!!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294882&uid=45172


 あの姿は駄目だ。

 意識は保てる確信がある。

 だけど、あれは……ただそこにいるだけで周囲に影響を及ぼしてしまう爆弾だ。

 変身が完了してしまえば、俺はルインのように無意識に周囲の生き物になんらかの影響を与えてしまう。

 

「———ふ、ざけんな……!!」

 

 あんな力をこんなところでまき散らしてどうなるか分からないわけがねぇ!!

 バックルを押さえつけ変身をしないように耐えるが、止まらない。

 諦めかけたその時、小さな馴染みのある声が頭の中に響いてきた。

 

TYPE X:SEALING DEVICE SYSTEM(わたし が まも る)———AWAKEN(から)

 

「っ、この声は……」

 

 機械的な、録音されたような声。

 その声が頭の中に響いた次の瞬間———バックルから光の銀糸が溢れる。

 なんだ、と目を見開くと同時に銀糸はベルトを形作ると———変身のために放出していたエネルギーを抑え込むようにバックルに巻き付いた。

 

「———プロ、ト?」

xx 

DRIVER(ドライバー)xxX(クロス)xxDRIVER(ドライバー)

 xx

 

 白銀のベルトが巻き付かれた武骨な灰一色のバックル。

 バックルの中心部分から二つの光が飛び出しその一つを右手で掴み取ると、それはドライバーとしてのシロが変形したような黒模様のアタッチメントであった。

 

PLOT-0(プルート)

DRIVER(ドライバー)

N

 

 ———これは、プロトの力だ。

 彼女の意思と力を感じ取り、頭に流れてくる感覚でその力を理解した俺はそのまま迷いなく、もう一つ光を手にし、シロの力が形となったアタッチメントを手にする。

 

NXX

DRIVER(ドライバー)

LUPUS(ルプス)

 

 その二つを同時にバックルに装填する。

 

PLOT-0(プルート)  N

DRIVER(ドライバー)xxX(クロス)xxDRIVER(ドライバー)

N  LUPUS(ルプス)

 

 

 背後に現れる二つの虚像。

 それぞれがプロト1、トゥルースフォームの姿として現れたソレは、変身の開始と共に俺に重なるように消え、新たな姿への変身を開始させる。

 プロト0の黒一色のスーツの上からルプスフォームの白色の装甲と、腕、足に✕印の銀の拘束具のような布が巻き付かれ、首にも風になびく銀のマフラーが装着される。

 

『OPTIMIZATION→』

PLOT-0(プルート)LUPUS(ルプス)

 

 全身の拘束具を模した装甲の隙間から蒸気が噴き出し、変身が完了する。

 別世界のプロトが繋いでくれた新たな姿。

 自身の掌を見つめ、強く握りしめた俺はもういない彼女に何度目か分からない感謝の言葉を口にする。

 

「……ありがとう」

 

 また助けられちまったな。

 これで、ちゃんと戦える。

 

『カツミ』

 

 スーツから聞こえるプロトの声に耳を傾ける。

 

『今言うのもなんだけれど……』

「以前のような力は出せなくなった、だろ?」

『……うん』

 

 ……出そうと思えば出せるのだろう。

 だけど、その瞬間にこのベルトはプロトの拘束を破り、あの姿になろうとしてしまう。

 戦うだけで世界そのものにとんでもねぇ破壊をもたらしちまう危険極まりない力だ。

 俺自身も、少なからず自制が効かなくなっちまうかもしれない。

 

『今、この姿のカツミはプロト1にもトゥルースフォームにも及ばない。だけど、プロト0とルプスフォームの二つの力を同時に合わせもっている』

「お前たちがいる。俺にとってそれ以上に心強いものはねぇよ」

『———! うん』

『ガゥ!!』

 

 力が落ちてもできることは増えているはずだ。

 なら、いつも通りいまできることをやり続ければいいだけだ。

 軽く深呼吸をし、未だにこちらを伺っている人々の姿を確認した後に———目の前にいるヒラルダに視線を戻す。

 

「悪ぃ。少し手間取った。決着をつけるぞ、ヒラルダ」

「……ええ、そうだね」

 

 彼女も困惑していたようだが、俺の言葉にすぐに意識を切り替え睨み返してくる。

 数秒の沈黙の後に———俺とヒラルダは、互いに召喚した銃型のデバイスを同時に向け、その引き金を引いた。

 

「「———ッ」」

 

 放ったエネルギー弾が相殺され、紫と青の光が明滅する。

 同時に地面を踏みくだく勢いで飛び出した俺は、一瞬で肉薄しながらヒラルダに拳を振り下ろす。

 

「!?」

 

 ガッ、という打撃音と共にヒラルダの身体が後ろへと吹き飛ぶ。

 しかし、十メートルほどで勢いが止まった彼女は防御に構えた両腕を振りながら震えた声を漏らす。

 

「痛ぅ~!! 怪人を撲殺してきた拳は効くね!!」

「……」

 

 今ので変身を解除させるつもりだった。

 それくらいの力を込めたし、プロト0のパワーでヒラルダを倒すことはできると確信していた。

 だが、ヒラルダは俺の拳を受けても堪えた様子はない。

 

「———君と変身して、私も強くなったみたいだね!!」

「どういう理屈だ……?」

「それが君の力だから、じゃないかな!!」

 

 彼女が銃型の武器を持つ逆の手を開くとその手に桃色と黒色の剣———別世界の地球で俺と変身した時に使っていた『ヴェノムスライサー』を出現させ、斬りかかってきた。

 こちらも赤色の剣『フレアカリバー』を召喚し迎え撃つ。

 

「そらそら!!」

「……」

 

 剣戟を交わすごとに甲高い音と火花が散る。

 ———俺はこの面倒くせぇ奴を殺すつもりはない。

 だが、意味も分からねぇパワーアップをしたこいつを手加減して無力化するのは今の俺では難しいのは分かった。

 

『カツミ!! 社長から緊急通信!!』

「繋いでくれ!!」

 

 ヒラルダが繰り出した突きを弾き返し、逆の手で放たれたエネルギー弾を拳で地面に撃ち落としながら繋がれた通信に応答する。

 

『カツミくん!! 君の帰還を喜びたいところだが、どういう状況だ!!?』

「見ての通り、別世界から帰還した直後にヒラルダと交戦中だ!!」

『ツッコミどころ盛りだくさん!? いや、まずそれよりも先にすぐにレッド達を送る!!』

「いいや!!」

 

 振り下ろされた剣にこちらの剣を合わせ、鍔迫り合いのような態勢になりながらヒラルダの———仮面の奥の目と視線を合わせ、叫ぶ。

 

「この破滅願望持ちの大馬鹿野郎は俺がぶっ飛ばす!!」

「お、おおばっ!?」

「隙ありだコラァ!!」

 

 ヒラルダの腕を掴み、力任せに振り回し斜め上に全力で放り投げる。

 「ひゃぁぁぁ~~!?」と情けない悲鳴を上げてぐるぐると回転しながら飛んでいく彼女を見送りながら、耳元に手を当てる。

 

「だから、今は見守っていてくれ」

『……うむ!! 事情はさっぱり分からんが、君のやるべきことがそれならば何も言わん!! 私から言えることはただ一つ!! よく無事に帰ってきてくれた!!』

「ありがとう。レイマ。心配かけてごめん」

『レッド達は私が抑えとく! 君は思う存分に戦ってこい!!』

 

 ———ん? アカネ達を抑える?

 あれ、確かプロトがアカネ達が荒れているって言っていたような。

 ……よし、後回しにしよう。

 まずやらなきゃいけねぇのはヒラルダのことだ。

 

「よくも私を投げ飛ばしてくれたね!!」

 

 建物を蹴り、こちらへ戻ってこようとするヒラルダ。

 その右手に握られた銃に溢れんばかりの毒々しい色のエネルギーを籠めた彼女は、跳躍と同時にそれをこちらへ放ってきた。

 

「久しぶりにお前の力を使うぞ」

『ガウ!』

 

 バックルの左側面。

 シロとしての力が宿ったバックルを叩き、ルプスフォームで使っていた力を発動させる。

 

CHANGE(チェンジ)!! AXE(アックス) YELLOW(イエロー)!!』

 

 黒のスーツを覆う白色の装甲が黄色に染まる。

 全身から溢れだした電撃がコンクリートを跳ねる。

 プロト0の力にアックスイエローの力を合わせた姿に変わった俺は、新たに出現させた武器、ライトニングアックスを豪快に振るい、こちらに迫るエネルギー弾を全て掻き消す。

 

「なぁっ!?」

「まだだぞ?」

『CHANGE!! SHOT(ショット) BLUE(ブルー)!!』

 

 精密機動性に優れた青の姿に変わり、もう一度出現させた青の銃、リキッドシューターを放つ。

 当然ヒラルダも桃色の銃で迎撃していくが、エネルギー弾に気を取られている隙を狙い一気に肉薄し———ゼロ距離で銃口を突き付け———遠慮なく引き金を引く。

 

「ひぇ!?」

「ん?」

 

 放たれたエネルギー弾はヒラルダに直撃したが、彼女の身体自体が幻のように掻き消え、その後ろに怯えた声を漏らした彼女が虚空から現れる。

 

「ちゅ、躊躇なしとかマジ? これで弱くなってるとか嘘でしょ……!!」

「幻か」

CHANGE(チェンジ)!! SWORD(ソード) RED(レッド)!!』

 

 炎とバランスに秀でた形態である赤の姿に変わり、炎を纏った拳を放つ。

 それに対して彼女は剣と銃、そして腕から伸ばしたサソリの尾を模した武器で応戦していく。

 

「本当に私を殺す気があるの!?」

「あ? 何言ってんだ?」

「だって、いくら私が強くなったからって貴方なら簡単に私を殺せるはずでしょ!!」

 

 まだんなこと言ってんのか。

 振るう拳を止めずに俺はヒラルダの顔をまっすぐに見つめ返す。

 

「確かに、俺はお前をぶっ飛ばすって言った」

「そうだよ! 確かにそういった!!」

「だが、殺すなんて一言も言ってねぇんだこのバカ野郎が!!」

「はぁ!?」

 

 十数メートルほどのけぞった彼女が唖然とした声を漏らす。

 拳に纏わせた炎を払うように消し去り、腕を組みながら嘲笑うように声を上げる。

 

「テメェ、好き勝手に死ねると思ってんじゃねぇぞ」

「え、な……え?」

「自分を許せねぇから死にたい。ああ、その気持ちは分かる。だがなぁ、それをするには俺と関わりすぎたな」

「ふ、ふざけないで!!」

 

VENOM EXCLUSION(ヴェノム エクスクルージョン)!!』

 

 ヒラルダが怒りの声と共に跳躍する。

 彼女の腕のサソリの尾が長大に伸び、蹴りの構えた右足に巻き付いていくのを目にし———こちらもバックルの両側面を同時に押し込み、技を発動させる。

 

DEADRY(デッドリィ)!!』 

PLOT-0(プルート)LUPUS(ルプス)

 

 右拳が赤く輝く。

 今からするのは殺すためではなく、生かすための一撃だ。

 怪人共を相手にするのとは違う感覚に任せ、俺は———こちらに迫るヒラルダの蹴りに合わせるように右拳を突き出した。

 

「ハァァ!!」

「……!!」

 

 互いの一撃が激突し、毒々しい桃色と赤熱した輝きが溢れだす。

 

「私のようなどうしようもない悪人が生きていいはずがないでしょう!! カツミ、貴方だって私を殺したがっていたでしょ!!」

「お前、俺に構い過ぎたせいで折角のチャンスを自分から手放すことになっちまったんだよ!!」

「なにを!!」

 

 俺に殺されたいがために付き纏ったんだろ。

 後戻りできないように悪事を重ねる悪辣な自分自身を殺してほしいから。

 だがなぁ!!

 

「俺はもうとっくの昔に———」

 

 並行世界っつー別世界で否応なく行動を共にしちまったせいか、こいつの色々な面を知ることになってしまった。

 面倒くさい。

 お調子者。

 変に馴れ馴れしくて鬱陶しいところ。

 挙げればキリがねぇが、結局は俺も———、

 

「テメェに絆されてんだよバカ野郎が!!」

「——ッ」

 

 ヒラルダの蹴りのエネルギーを拳で叩き割り、彼女を弾き返す。

 地面に叩きつけられゴロゴロと転がったヒラルダに瞬時に肉薄した俺は———変身を解き、彼女のバックルを掴みとる。

 

「———ッ、なに、するつもり!?」

「ふんっ!!」

 

 ヒラルダの腰に巻かれたベルトに触れ、強制的に彼女をバックルの形に変える。

 人の姿から桃色と緑色の近未来模様のバックルに変わったヒラルダを、勢いのまま自分に装着する。

 

『ちょ、ちょっとカツミ君——』

「オラァ!! 仲間になれバカ野郎!!」

『あばばば!?』

 

JINVERSION(インバージョン)!!』K

RE:(リバース) SCREAM(スクリーム) DRIVER(ドライバー)!!』

G『!!NOISREVNII(ンョジーバンイ)H

 

 眼前に現れたモザイク模様の半透明の壁。

 それに移った桃色の影が俺の身体に重なるように通り過ぎた後———並行世界で共に戦った姿へと変わる。

 

「俺の勝ちだな」

『ふぇ、ぁ、あああ……! もうこんなみじめったらないよぉ、もう……!! 変身は反則じゃんかぁぁ……!』

 

 俺の中でヒラルダが涙声で悶えている。

 中々に喧しいが、もう勝敗はついてしまっているので文句は言わせるつもりはない。

 

「確かにお前は悪いこともしたし、中には取り返しのつかないこともしたかもしれない」

『そう、そうだよ。だから私が許されるなんてあっちゃ———』

「死んで償うなんて楽な道を選ばせねぇぞ。どんなに責められたとしても、生きて償うべきだ」

 

 お前が死んでも俺の中に胸糞悪いものを残すだけだ。

 そして、お前の中に残るものも満足感なんかじゃない。

 

「まず最初にすることは———風浦さんに謝れ。誠心誠意な」

『……桃子は許してくれないよ』

「だとしてもだ。許しは請おうと思うな」

『……うん』

 

 子供のように———いや、本来の無邪気な性格のまま頷いたヒラルダ。

 ヒラルダは、それだけのことをした。

 だから、まずはそれを償っていかなくちゃならない。

 ……だけどまあ、なんだかんだで俺も絆されちまったからな、その助けぐらいはしてやるつもりだ。

 




前に書いた活動報告が2015年……?

新形態の“プルートルプス”でした。
プロトルプスだとそのままかなと思い、旧型のプロトゼロをいい感じに解釈してプルート(冥王)にしてみました。

今回の更新は以上となります。



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久しぶりの再会

前話にて書籍化についてご報告させていただきましたが、続いて報告いたします!!

書籍の発売を5月予定とご報告させていただきましたが、
諸事情あって発売予定を1か月後の6月に延期することとなりました。


活動報告にも追記という形で書かせていただきましたので、そちらをご参照ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294882&uid=45172


 ヒラルダをベルトにし変身することで決着をつけることができた。

 しかし戦っていた場所が思い切り街中なので一般人に結構見られてしまった。

 

「どうすっかな、この後」

 

 リバースヴェノム、濃い桃色の姿に変わった俺は周囲を見回して困り果てる。

 星界戦隊の力は別の世界に置いてきてしまった影響でカードを使った能力の大部分が失われ、先ほどのヒラルダが変身していた形態とほぼ能力は変わらないと見てもいい。

 

『カツミ!!』

『ガーゥ!!』

 

 先ほど変身解除するために一旦外したプロトとシロが戻ってきた。

 ……というより、二人(・・)揃ってぴょんぴょんと地面を跳ねてやってきたことに驚く。

 

「シロはいつも通りだけど、プロトお前その姿は……」

『さっきの変身の影響でこうなっちゃったの!!』

 

 シロはいつもの白色のメカオオカミの姿だけど、プロトは黒色のメカオオカミになってしまっている。

 二体ともプロトXを連想させる十字の模様が施されているけど……こう見ると、やっぱり双子なんだなって思わされる。

 

「プロトもシロもちゃんとレイマに調べてもらおう」

『うぅん、気は進まないけどしょうがない……』

『ガァーウ』

 

 プロトとシロが肩に乗ったことを確認しつつ、とりあえず走って人の目を逃れようと考えていると頭上を白い飛行機型のビークル———ホワイト5が高速で飛来し、ゆっくりと下降してきた。

 

『かっつん乗って!!』

 

 その声と共にビークル後部のハッチが展開されるのを確認した俺は、その場を跳躍しビークルに乗り込む。

 すぐにハッチが閉じられるのを確認した俺は変身を解除する。

 

「ふぅー、ん? おい、なんでベルトのままなんだよ」

『え、い、いやぁ、だって今変身解くと酷い目に合わされそうだし……』

「???」

 

 どういうことだ?

 変身を解いてもベルトから戻らないヒラルダを不思議に思っていると、機内の奥から見慣れた三人娘が飛び込んできた————変身した姿のまま。

 

「「「カツミ君!!」」」

「おぐえ!?」

 

 スーツに身を包んだアカネ、きらら、葵のヘルメットの強打を受け呻く。

 っっっ、ここで文句を言うのは簡単だが、心配をかけたのは事実。この痛みは甘んじて受けよう。

 

「カツミ君だよね!? 偽物じゃないよね!?」

「どう見ても俺だろ。つーか、俺の姿真似る奴の方がやべーだろ」

「このちょいひねくれた感じ……本人だ!!」

「お前俺のことどういう風に見てんの……?」

 

 俺は基本素直だろうが。

 

「前の時とは違って、アルファもプロトも存在を感じられてなかったから本当に心配したんよ?」

「悪い。さすがに俺も別の世界に飛ばされるとはおもわなかった」

「別の世界……マルチバース……!? 実在したの……!?」

「葵、知ってんのか?」

「異なる次元の平行宇宙でしょ? 常識だよ」

 

 どんな常識……?

 マルチなんとかのことはよく分からんが、葵は俺の身に起こったことをある程度理解しているようだ。

 

「つーかお前らどけ!! さっきからスーツのヘルメットが痛いんだよ!!」

「あ、ごめん。無事再会できたのが嬉しくて」

「本当に悪かったよ……」

 

 俺も好きで並行世界に行ったわけじゃないが心配かけちまったからなぁ。

 三人がどいたところで、立ち上がった俺は機内の通路から操縦席に移動し、操縦しているハクアのところに顔を出す。

 

「ハクア」

「っ。かっつん……」

『ハクア様。後の操縦は私にお任せください』

「ありがと、タリア」

 

 レイマのスーツのエナジーコア、タリアが操縦を代わったことで操縦桿から手を離したハクアは、勢いよく俺の胴体目掛けて近距離からのタックルを食らわせてくる。

 

「またかッ!」

「かっつん、これで何度目だよぉもー!!」

 

 好きで行方不明になってるわけじゃねぇよ!?

 ほとんど俺の意思関係なく行方不明になってるだけだからしょうがねぇじゃん!!

 

「だってだって、かっつん目を離したら遠くに行っちゃうからもうどこかに隔離した方がいいかなってアルファと話し合って……」

「いや、こえーよなにやろうとしてんだよ」

「でも司令とコスモに止められて……」

 

 やっぱり頼れるのはレイマだな……!!

 コスモも不真面目ではあるが常識的だし……!!

 

「とにかく、ちゃんと戻ったんだから泣きやめよ……」

「私赤ちゃんだから感情の制御できないの……」

「都合のいい時だけ赤ん坊になるな」

 

 こいつ一時期俺の姉として振舞っていたことを忘れているのだろうか。

 ハクアをなだめた後に席に戻し機内の通路に戻ると、ようやく変身を解いたアカネ達が俺のことを待っていた。

 

「カツミ君、そろそろその腰のベルトについて説明してほしいな」

「あー、ここに戻ってきてからの映像は見たか?」

 

 俺の質問に三人は頷く。

 

「とりあえず色々なことがあったのは分かるよ。でも、まずは敵だったはずのヒラルダが君と変身している理由を教えて欲しいんや」

「敵の敵は味方理論?」

 

 まあ、これは説明しなきゃ駄目だな。

 こいつは結構な頻度で敵対しているし、未然に防いでいるとはいえ一般人を危険に晒した悪者だ。

 

「おい、ヒラルダ。そろそろ人の姿に戻れ」

『このままじゃ駄目?』

「駄目だ」

『でもジャスティスクルセイダー怖いし』

 

 そう言ってアカネ達を見ると、彼女達も聞こえていたのかにっこりと笑みを浮かべる。

 

「えー、怖くないよー? 酷いなぁー」

「心配せんでも痛みは一瞬や」

「辞世の句を残す時間を与えてやろう」

『ヒィィィ悪鬼!?』

 

 処す気満々じゃねぇか。

 どうみても冗談で言っているのは分かるので特に何も言わないが、ヒラルダは真に受けたのかベルトを震わせる。

 

『ねえ、こいつら怪人よりやばくない!?』

「は? 当然だろ。怪人をぶっ倒したのは俺たちだからな」

『わぁ、カツミ君もおかしい側だったぁ!!?』

 

 怪人よりやばいってそりゃそうだろ。

 そもそも怪人よりやばくなけりゃ、あいつらに勝てるわけがないしな。

 

「どっちにしろ話さなきゃいけねぇんだからさっさと離れろ」

『……分かった。ついでに本当の姿も見せてあげる』

 

 ……本当の姿?

 疑問に思うと同時にベルトから光の玉に変わったヒラルダが、光に包まれながら地面へ降り立ち、人の姿を形どった。

 人の姿になった彼女を視線を下げて見た俺たちは、予想外の姿に驚きを隠すことができなかった。

 

 

 

 ビークルのステルス機能を用いて第二本部へと帰還した。

 ビークルから降りるなりヒラルダとシロとプロトが大森さんとグラトが率いるスタッフに連行されてしまったが、事前にレイマからの連絡と、他ならぬヒラルダ自身の許可もとっていたので特に俺からすることはなかった。

 

「一か月も離れていないのになんだかとても久しぶりに帰る気分になるな……」

 

 まずはレイマの元へ、といきたいところだがまずはアルファだな。

 あいつああ見えて三歳児だし、大人ぶっているもののハクアとほとんど変わらんくらいに打たれ弱い。

 一旦、アカネ達とは別れた俺とハクアはそのままアルファが塞ぎこんでいる部屋へと向かうことにした。

 

「アルファは部屋にいるんだな」

「うん。かっつんの部屋にいる」

「おい。なぜ俺の部屋にいる……?」

 

 俺がいない間にやりたい放題かまさか?

 微妙にハクアも視線を逸らしたので、こいつも俺の留守中に無断で部屋に入ったりしてないよな?

 

「大体二週間だけど、プロトとアルファの感知できない別世界に行っちゃったから、今までの失踪と違って本当にかっつんと一生会えないと思って怖かったよ」

「そうか……」

 

 当然か、普通に考えりゃ別世界だなんて意味不明だもんな。

 遠いどころの話じゃねぇし。

 

「でもアルファは気づいてると思うよ。多分、かっつんがこの世界に戻ってきた時とか」

「なんか分かるらしいってのは知ってる」

 

 あいつが認めたオメガが俺だから存在を感じ取れるとかなんとか。

 そんなもんになった記憶もねぇし、なんなら俺は地球のオメガのような怪物じゃねぇから実際どうなのか分からない。

 

「……本当に大変だったんだからね?」

「お前ら以外は大丈夫だったのか? ハルとかコスモ、新藤さんとかは?」

「あー」

 

 アカネ達以外の身近な面々の名前を出すと変な反応を返されてしまう。

 

「なにかあったのか?」

「いや、コスモとマスターは特に心配してなかったけど……なんか、ひょっこり帰ってくるみたいな感じで……」

 

 なんか別方向に信頼されてないか? 実際、ひょっこり帰ってきちまったわけだが。

 じゃあ、なにかあったのはハルの方なのか……?

 

「ハルちゃんは……かっつんが行方不明のショックで活動休止に」

「活動休止!!?」

 

 大事件じゃねぇか!?

 俺がいなくなって多方面に混乱もたらしているじゃねぇか!!

 

「まあ、かっつん帰ってきたしすぐに復帰すると思う」

「そんなあっさり復活できるもんなの……?」

「葵の妹だし大丈夫でしょ」

 

 ちょっと否定できない保証の仕方やめろよ……。

 なんか並行世界とは別方面でこっちのハルも大変なことになっているような。

 ハルの方もフォローするべきか……。

 くっ……。

 

「またコラボ雑談配信をやるしか……っ」

「そんな苦渋の表情をするものなの……?」

「仕方ねぇだろ……!」

 

 ハルの配信を楽しみにしてるやつらがいるのは知ってんだ。

 そんな彼女を活動休止に追いやってしまったケジメはつけなきゃならねぇ。

 後でハルとレイマに相談するとして、今はアルファだ。

 

「着いたか……」

「苔が生えそうなレベルで落ち込んでたから気を付けてね」

「そんなに……?」

 

 一か月も離れていないがものすごく久しぶりな感じがする。

 俺の部屋への扉を前にし特に気負わずにスライド式の扉を開くと、待ち伏せしていたのか扉の前に立っていたアルファが身体を倒すように俺の胸に飛び込んできた。

 アカネ達とハクアとも違う弱弱しい抱擁を受け止めながら、アルファの頭に手を置く。

 

「突然いなくなってごめんな」

「……今度こそ、会えなくなっちゃうかと思った」

 

 こいつは俺の存在を感じ取ることができるが、俺が別の世界に飛ばされちまったことで、それを感じ取れなくなった時のこいつの心境は壮絶なものだったはずだ。

 俺がアカネ達の前で自爆しようとした時と、記憶を失った時に加えての今回の件だ。

 

「あいつのせいだ……」

「あいつ?」

「あの、ルインとかいうやつのせいでまたカツミがどこか行っちゃうんだ」

 

 脳裏にザインとの戦いの後のルインとの会話がよぎる。

 あいつが俺をどこかに連れていく、なんてことはない。

 

「今回の件にあいつは絡んでねーよ」

「でもいたんでしょ。匂いがする」

 

 低い声で顔を上げたアルファの真っ黒な瞳が俺の顔を覗き込む。

 傍にいるハクアが彼女の顔を見て「ひんっ」と小さな悲鳴を上げてるが、俺はそれ以上にこいつの言葉に引っ掛かりを覚えた。

 匂いがする? あいつの? はぁ?

 

「あいつ俺にまたなんかしたのか!? なにされたか分かるか!?」

「えっ、いや……カツミ、違くて……」

「なにが違うんだ!?」

「え、えぇと……匂いが、するだけだよ?」

 

 なんだそれだけかよ。

 そもそもこいつルインに会ったことねぇから匂いもなにもないと思うんだが。

 声を震わせ、視界を左右に揺らすアルファに安堵のため息を零す。

 

「まったく、どいつもこいつも俺が無防備な時に好き放題する奴らばかりだからな……」

「そ、そうだね……」

「か、かっつん、唐突に私も刺されたのなんでかな?」

 

 前科があるからな。

 まったく油断も隙もあったもんじゃねぇぜ。

 

「ハクア、病み路線無理だよこれ……」

「仕方ないけど、かっつんは好意と愛情の違いが分かってないから意味ないんだよ……」

 

 だが思っていたよりもこいつらが元気そうで安心した。

 なんだかんだでこいつらは五歳児未満だから心配していたんだよな。

 

「かっつん、後もう一人会っておくべき人がいるんだけど……」

「風浦さんか?」

「……うん」

 

 ヒラルダが一時期身体を乗っ取っていた一般人だった女性、風浦桃子さん。

 星界エナジーという力を生成する力に目覚めてしまった彼女は今、この第二拠点本部にいるがあの人のことも心配だ。

 

「風浦さんにも会いに行く……けど、一緒に連れて行かなきゃならない奴がいる」

「それってヒラルダ? 会わせていいの?」

「先延ばしにしていいわけでもねぇからな」

 

 ヒラルダが怖気づく可能性もあるし、風浦さんに下手に隠しておく方が不誠実だ。

 どうなるかは分からないが、避けては通れねぇことなので俺も気合をいれていかないとな。




愛を知らない悲しい戦士……()


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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ヒラルダの正体と、新たな変身

二日目、二話目の更新となります。

今回は、風浦桃子視点でお送りいたします。


 私の身体に起こっている星界エナジーを作り出してしまう力。

 今はKANEZAKIコーポレーションの社長でありカネザキ・レイマさんが開発したというブレスレット型の機械で力を抑えられているけど、長時間の抑制は難しいらしくあまり自由に外に出歩けないままだ。

 私の安否は家族にちゃんと知らされているし、何回も面会に来てくれている。

 ここに保護されている待遇としては悪いどころか文句のいいどころがないくらいに良いけれど、私の身体に起こっているこの異常がどうなるか不透明なままなのはダイレクトに私の心に暗い影を落としてくる。

 

「はぁ……」

 

 見慣れてしまった部屋の中でため息をつく。

 固定された家具にベッド、そして白を基調とした内装を見回しながら私は手首の淡く点滅するブレスレッドに触れる。

 

「本当にどうなっちゃったのかな、私の身体」

 

 半ばほど水がいれられたマグカップに掌を向ける。

 目を瞑り、強く念じながら目を開けてみれば―――マグカップの中から一本の植物の芽が飛び出し、小さな花を咲かせている。

 たんぽぽの花……水だけでは、いや、そもそも何もない状態から出てくるはずのない植物に言いようのない不気味さを抱く。

 

「抑制されてるからって制御できてるわけじゃないのがなぁ」

 

 今は蛇口が閉められているだけで、いまやったことは僅かに漏れ出ているソレを形に出しただけだ。

 とても制御できているなんて言えない。

 物を勝手に浮かしてしまう重力操作。

 今やってみせた植物を作り出す力。

 漠然と、他にもなにかできるという確信を抱いてしまうことが怖い。

 

「はぁぁ……」

 

 先の見えない状況にまたため息をついてしまっていると、不意に私のいる部屋の扉が鳴る。

 ハクアちゃんかな? と思い「どうぞ」と返答すると、入ってきたのは今日この日まで行方不明だった少年、穂村克己くんであった。

 

「カツミくん……! 無事だったんだね!!」

「ええ、ご心配をかけてすみませんでした」

 

 行方不明になっていた経緯はそこはかとなく聞いていた。

 特に私のカウンセラーをしてくれているハクアちゃんの落ち込み様は酷かったし、なんなら私も普通に落ち込んで私とハクアちゃんのどんよりオーラで部屋の湿度が急上昇したと錯覚したくらいにはショックを受けてた。

 

「風浦さん。調子はどうですか?」

「正直、鬱屈としてる」

 

 苦笑しながらそう言うと彼は私を見て少しだけ顔を顰める。

 

「……力が、成長してしまったんですか?」

「社長さんから聞いたの?」

「いえ、なんとなく分かりました」

 

 見ただけで分かるように……?

 いや、この子は私の力を感覚で分かるなにかがあるってことなのかな。

 どちらにしろ、行方不明だった彼がまた会いに来てくれたことに私はひたすらに安堵した。

 

「なんだか私、漫画のヒーローみたい。巻き込まれて力に目覚めたりするところとか」

「王道ですよね」

 

 いや、本当に海外アクション映画の派生ドラマ作品みたいな導入だもん。

 敵に捕らわれた少女が力に目覚め保護され、力に翻弄されるって感じだ。

 でも、カツミくんが王道って言うのはちょっと意外だったりする。

 

「カツミくん漫画とかよく知っているの?」

「少し前は全然でしたが、今は見るようになりましたし、なんなら見せてくる奴もいますからね」

 

 少し照れくさそうに苦笑した彼のその違和感のない、当たり前の対応に私は嬉しくなる。

 私とここで会ってくれるほとんどの人が、私の能力を気にしたり気遣ってくれるから、まったく変わらずに接してくれる彼の存在が得難いものに思えてしまう。

 

「……さて、風浦さん」

「ん?」

「実は、ですね。貴女に会わせたい奴がいるんです」

「会わせたい奴? 別に構わないけど、誰?」

 

 両親は前に面会させてくれたし誰だろう?

 頷いた私に、カツミ君はもう一度扉のあるところまで戻り、ボタンを押して横開きの扉を開く。

 その先にいたのは———、

 

「や、やっほぉ、桃子」

「ッッ!」

 

 私と同じ顔と姿をした女性、ヒラルダであった。

 ものすごく気まずそうな顔で視線を左右に揺らしながら部屋に入った彼奴は、唖然とする私を見て苦々しい笑みを浮かべる。

 

「っ、なんで貴女がここに」

「あ、え、えーと……その」

「っ、カツミくん、これはいったい……」

 

 言葉を濁すヒラルダに埒が明かないと判断し、カツミ君に尋ねる。

 

「色々あってこのバカ野郎を仲間にしました。でもその前にケジメをつけるために貴女の前に連れてきたわけです」

「ケジメって……」

 

 胸の奥底で色々な感情が渦巻く。

 ヒラルダのせいで私は大学にも行けなくなった。

 お父さんとお母さんにも心配をかけた。

 友達にも会えなくなった。

 得体のしれない力に目覚めてしまった。

 怒りと、悲しみと、困惑。

 どの感情を先に表に出していいか分からず言葉を失っていると、ヒラルダがぺこりと頭を下げた。

 

「ごめんなさい、桃子」

「っ」

 

 こいつと一時期ずっと一緒だったからこそ分かる。

 ヒラルダは本当に反省しているし、私に対して引け目を感じている。

 それに対して、私はなんて返したら……。

 

「……」

 

 あのヒラルダが頭を下げている。

 言い訳をするつもりもないのか、謝罪の言葉の後なにも言わずに罰を受けることを待つように目を瞑っている。

 

 ——ここで、私が彼女を許せばヒラルダは彼の仲間として後腐れなく協力できる。

 私が、大人だから、我慢、すれば———、

 

「風浦さん。こいつのこと、無理に許す必要はないです」

「えっ……!?」

 

 脳内で葛藤している私のことを察したのか、苦笑したカツミくんがヒラルダを見る。

 

「貴女は被害者でこいつは加害者です。こいつがどんなに同情に値するようなやつでも、無条件で許されるようなことがあってはならないんです」

「でも、ヒラルダはちゃんと謝って……」

「謝ってどうにかなる段階はもう過ぎています。一般人に戻るはずだった貴女はヒラルダの影響を受けて、元の生活に戻れない身体になってしまったんですから」

 

 カツミくんの言葉にヒラルダは表情を顰め俯く。

 それに構わず、彼を腕を組んでさらにため息までつく。

 

「こいつのやってきたことは控え目に言って性格が悪く」

「ぐぇ」

「鬱陶しく」

「ぐむっ」

「悪辣で」

「あばっ」

「同情の余地すらないどうしようもないものです。挙句の果てに破滅願望持ちで俺に殺されようとした傍迷惑なやつだし……いや、これ以上は自虐になってしまうのでやめておきます」

「……」

 

 も、もう十分ヒラルダはダメージ受けてると思うよ。

 部屋の隅で座り込んで落ち込むヒラルダにちょっとだけ同情してしまう。

 

「つまりですね、どんな理由があったにせよ貴女が無理に大人になって許すようなことがあってはならないってことです」

「……そう、だよね。うん、その通りだ」

 

 彼の言う通りだ。

 ここで私が妥協してヒラルダを許しても、きっとカツミくんやここにいる人たちはすぐにそれを察してしまうだろう。

 多分、ヒラルダが真っ先にそれに気づいてさらに傷つく結果になっていたかもしれない。

 

「私は、許さない」

「……そうだよね」

 

 絞り出した言葉にヒラルダは力のない笑みを浮かべる。

 

「だって貴女、本当の姿じゃないから」

「……え」

「謝りに来たのにいつまでも仮初の姿のままなのが気にいらない」

 

 同化している間に見せられた彼女の夢。

 同じ景色を夢という形で見たからこそ、私にはヒラルダの本当の姿を分かっている。

 

「……分かったよ、桃子」

 

 諦めたように苦笑したヒラルダが瞳を閉じると、彼女の姿が光に包まれる。

 光はその輪郭を徐々に縮めていき、その輝きが消えると同時に彼女の———ヒラルダの本当の姿を現した。

 

「これが本当の私だよ」

 

 私の前に現れたのは10歳前後くらいの女の子であった。

 頭に特徴的な二つの角を生やした薄い褐色肌の子供は肩ほどの長さの桃色の髪に気まずげに触れて視線を逸らす。

 幼い頃、人生の全てといっても過言ではなかった家族に裏切られたヒラルダの真の姿。

 精神的な年齢は違うだろうけど、ヒラルダの時間はずっと子供のまま止まってしまっているのだ。

 

「ヒラルダ」

「……うん」

 

 しゃがんで彼女と視線を合わせる。

 

「私は貴女を許さないけど、同情はしてあげる。もう二度と悪さをしないって誓うなら、貴女が私にしてきたことをこれ以上なにも言ってあげないから」

言ってあげない(・・・・・・・)、か。厳しいなー桃子は」

「ずっと私といたんだからよく知ってるでしょ」

「うん……うん、そうだね。ありがとう」

 

 色々あるしわだかまりもあると思うけど、今はこれでいい。

 

「じゃあ、ここに来た二つ目の目的を果たすよ」

「二つ目?」

「桃子、ちょっと左手出して」

 

 ヒラルダに言われるまま左手を差し出すと、彼女は手首に巻かれた抑制装置をまじまじと見る。

 

「ゴールディ製の抑制装置ね。これがあるなら私の“同化”の力と合わせて……」

「ヒラルダ、なにを……きゃっ」

 

 またヒラルダの身体が光に包まれ、その輪郭が手首の抑制装置を包み込むように収縮していく。

 手首に収縮した光は、それからさらに肥大化し———一瞬の輝きと同時に私の身体全体を包み込んだ。

 

「い、いったいなにをしたの……?」

『桃子、自分の身体を見てみなさい』

 

 どこからともなく聞こえてくるヒラルダの声に従い目を開くと、私の視界は何かに覆われていることに気づく。

 いや、視界だけじゃない! 身体全体がなにかに包まれてる!?

 慌てて部屋に備え付けられてある鏡の前に駆け寄ると———そこにはジャスティスクルセイダーの戦士と似た、桃色のスーツを纏った戦士がそこに立っていた。

 

「ええええ!?」

『ジャスティスクルセイダーのスーツデザインに近づけた上で、能力の抑制と最適化を実行。私が貴女の身体で生成される星界エナジーを調整して、ちゃんと扱えるようにしてあげたのがこの姿ってわけだよ』

「へぇ、そんなこともできたんだな」

 

 カツミくん、受け入れすぎじゃない!?

 特に驚きもせずに関心している彼にツッコミをいれたい衝動にかられるが、それ以上に今私の身に起こってしまっている事態に困惑する。

 

「本当に漫画みたいなことになっちゃった……!」

『とりあえず変身解除するよー』

 

 また光に包まれ、元の私服姿に戻る。

 私の手首にあった能力抑制装置はシルバーとピンクの混ざった腕時計型のデバイスへと様変わりしており、それはガチャガチャと変形し小さな機械仕掛けのフクロウへと変わる。

 

『これで桃子の力は完全に抑制できているはずよ』

「なにその姿!?」

『能力の兼ね合いでこの姿になっちゃったの。まあ、これも含めて罰だと思って納得するわ』

 

 ピンクのメカフクロウはやれやれとばかりに翼で肩を竦める仕草をする。

 え、なにその相棒ポジみたいな姿!

 漫画? 漫画なのか? 一気に日曜朝からやっている感じの空気になっているんだけれど!

 




経緯だけ見ると本当にスピンオフ主人公みたいな風浦さんでした。
そして、相棒ポジのメカフクロウヒラルダでした。

今回の更新は以上となります。

次回は掲示板回を予定しております。
早くて明日更新できるかもしれません。


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帰還後(掲示板回)

三日目、三話目の更新となります。

今回は掲示板回オンリーです。


461:ヒーローと名無しさん

 

黒 騎 士 帰 還!!

 

462:ヒーローと名無しさん

 

おかえり!!

 

463:ヒーローと名無しさん

 

い"ま"ま"で"ど"こ”い”っ”て”た”ん”た”よ”ぉ”ぉ”ぉ”!!

 

464:ヒーローと名無しさん

 

たった十日間くらいしか失踪してないのに反響すごいなw

 

465:ヒーローと名無しさん

 

世界の危機だったからだな

黒騎士がいるから地球が無事だったのに

その黒騎士が失踪したからいつ地球がなくなってもおかしくない状況だった

 

466:ヒーローと名無しさん

 

地球の危機関係なく

俺たちのヒーローが心配だったんだよ言わせんな

 

467:ヒーローと名無しさん

 

喜びもやりすぎるとくどいので情報を整理しましょう

誰かオナシャス!!

 

468:ヒーローと名無しさん

>>467

お前がやるんだよ!!

 

469:ヒーローと名無しさん

>>467

他力本願草

 

470:ヒーローと名無しさん

 

仕方ねぇ、ここは断腸の思いで俺がまとめてやろうじゃねぇか

 

471:ヒーローと名無しさん

 

ナマコ兄貴久しぶりに見た

 

472:ヒーローと名無しさん

>>470

断腸の思いを一肌脱ぐみたいな意味で使うんじゃないよwww

 

473:ヒーローと名無しさん

 

・夜のスクランブル交差点に正体不明のワームホール発生

・数分後、渦から生身の黒騎士くんと推定敵の女性が出てくる。

・いきなり戦闘開始、女性が桃色の敵戦士に、黒騎士くんも白騎士へ変身しようとするが、変身に異変が起き別の姿に変わろうとする。(撮影された音声を解析したら“じぇみにくろす”と出た)

・変身途中でさらに切り替わり、別の姿へ変身(同上解析“ぷるーとるぷす”)

・戦闘開始

 

474:ヒーローと名無しさん

 

さらっと解析とかしてんのどうなってんの?

 

475:ヒーローと名無しさん

 

ちゃんとまとめられているのに全然なにも理解できないの草

 

476:ヒーローと名無しさん

 

・戦闘は黒騎士くん優勢。

・必殺技を同時にぶつけあい黒騎士君が打ち勝つ。

・押し負けた桃色の戦士のベルトを掴み、桃色の戦士をベルトにする(???)

・生身に戻った黒騎士くんが女性だったベルトを大声と共に装着し、変身する(同上解析 りヴぁーすヴぇのむ)

 

「オラァ、仲間になれバカ野郎!!」

 

477:ヒーローと名無しさん

 

……???

 

478:ヒーローと名無しさん

 

おいナマコ野郎もっと分かりやすく整理してくれ

 

479:ヒーローと名無しさん

 

意味不明な情報をまとめたのにこの扱い

さすがの俺もハラワタが煮えくり返るぜ///!

 

480:ヒーローと名無しさん

>>479

まとめ感謝

だが、タイプミスで照れるなモツ野郎

 

481:ヒーローと名無しさん

>>479

怒ってモツ煮るか、照れてモツ発情させるかのどちらかにしろ

 

482:ヒーローと名無しさん

 

現地にいたけどこれ以上なく正確なんだよなぁ

 

483:ヒーローと名無しさん

 

ああ、帰ってきたんだぁ(白目)

 

484:ヒーローと名無しさん

 

この処理しきれない情報量を叩きつけられる感覚

まさしく黒騎士くんだァ

 

485:ヒーローと名無しさん

 

まだ社長からの公開情報とかないけど、

黒騎士くん最悪地球外にいた可能性があるんだよな

 

486:ヒーローと名無しさん

 

社長が十日以上かけて見つけられなかったって考えると割りとのその可能性はある

 

487:ヒーローと名無しさん

 

現代文明で地球外なんて早々いけないのに黒騎士くん周りだけ未来に生きすぎでしょ

 

488:ヒーローと名無しさん

 

ワームホールで帰ってたから地球外なのは確定だろ

 

489:ヒーローと名無しさん

 

敵幹部の女と別のどこかに一緒に飛ばされて、

共闘したあとに戻ってきてまた戦うとか、どんなラブコメ?

 

490:ヒーローと名無しさん

 

麦わらのルフィみたいな手法で仲間にしようとしてホント草

 

491:ヒーローと名無しさん

 

「うるせぇいこう!!」

「オラァ! 仲間になれバカ野郎!!」

 

……同じだな!!

 

492:ヒーローと名無しさん

 

強制ベルト分からせ!?

つーか、この敵の桃色戦士って星界戦隊の仲間だったやつだよな

 

493:ヒーローと名無しさん

 

その前に黒騎士くんが記憶取り戻した時にいたやつでもあるな

バリバリの敵対関係だったけど、マジでなにがあったんだろう

 

494:ヒーローと名無しさん

 

異星人が味方になるのはどうなんかなって思ったけど

宇宙人アピールめっちゃしてた名誉地球人がいたわ

 

495:ヒーローと名無しさん

 

なんで俺らを危険に晒した奴を味方してんだよ!!

侵略者ならきっちり仕留めろよ!!

 

496:ヒーローと名無しさん

 

バンピーからするととんでもねぇけどね

あの桃色のは危険ちゃうんか?

 

497:ヒーローと名無しさん

 

あの黒騎士くんが味方認定するからにはなにかしらの訳があるんじゃね?

 

498:ヒーローと名無しさん

 

そうだよなあ

これまでの積み重ね的に黒騎士くんが中途半端な判断するとは思えんし

 

499:ヒーローと名無しさん

 

お姉ちゃん嬉しいよ

あの子が人を頼ることができるようになって

 

500:ヒーローと名無しさん

 

まったくようやく帰ってきたと思ったらまた面倒なの連れて!!

お姉ちゃんもう知らないから!!

 

501:ヒーローと名無しさん

 

姉を名乗る異常者共ステイ

 

502:ヒーローと名無しさん

 

ボウフラみてぇに湧いてくるなこいつら(辛辣)

 

503:ヒーローと名無しさん

 

帰還直後に新フォーム二つお披露目とかマジなにがあったすぎるだろ

 

504:ヒーローと名無しさん

 

三つじゃない?

ジェミニクロスとか中途半端に変身しようとしてたやつ

 

505:ヒーローと名無しさん

 

プロトちゃんとルプスちゃんが合体した新形態なんだろうけど

制御不能っぽいな

 

506:ヒーローと名無しさん

 

暴走形態キタァァァ!!!!

 

507:ヒーローと名無しさん

 

見た目暴走形態になりかけてたしなぁ。

久しぶりの暴走形態だな!!! 興奮する!!!

 

508:ヒーローと名無しさん

 

すぐに制御されたんだよなぁ

 

509:ヒーローと名無しさん

 

順当に二つの力が合わさった形態になってたね

プルートルプスだから直訳して冥府の狼王? 冥王狼?

 

510:ヒーローと名無しさん

 

地獄の番犬!!?

 

511:ヒーローと名無しさん

 

速くフィギュア化しろよ……!!

今月ようやくルプスミックスフォームのアーツ届くけど俺の強欲はプルートルプスにも向けられてる……!!

 

512:ヒーローと名無しさん

 

はやく情報公開してくれ社長

 

513:ヒーローと名無しさん

>>511

多々買え……多々買え……

 

514:ヒーローと名無しさん

 

暴走形態なりかけたのにすぐに制御されちゃうのはさすがって感じ

 

515:ヒーローと名無しさん

 

あの桃色の戦士姿も結構イイと思う

濃い目の桃色でかっけーわ

 

516:ヒーローと名無しさん

 

桃色じゃない

マ ゼ ン タ だ

 

517:ヒーローと名無しさん

 

その場しのぎの突貫フォームだったりするのかな?

 

518:ヒーローと名無しさん

 

まるで劇場版限定フォームみたいだぁ

 

519:ヒーローと名無しさん

 

動画出回ってるけど見ちゃったけど黒騎士くんの台詞に泣きそうになった

ジャスクルはちゃんと彼を変えられたんだなぁって

 

520:ヒーローと名無しさん

 

もう声アリ出回ってんのか

街中だし当然だろうけど、規制しないとホント無法地帯だな

 

521:ヒーローと名無しさん

 

破滅願望の敵幹部を絆されたって理由で問答無用で仲間にする……

 

どこかで同じことをしようとした男を見ましたねぇ

 

523:ヒーローと名無しさん

 

ジャスクルが自分にしてくれたことと同じことをしたって考えられるのかー

 

524:ヒーローと名無しさん

 

フッ、さすがは私のライバルだ

 

525:ヒーローと名無しさん

 

まったく、彼を倒すのはこのあたしだって言ったはずだよな

 

526:ヒーローと名無しさん

 

イマジナリー好敵手!!!???

 

527:ヒーローと名無しさん

 

速攻で存在しない好敵手になるのやめろよ!!

 

528:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くんのベルトになりたい派閥!?

 

529:ヒーローと名無しさん

 

業が深すぎて悍ましすぎるwww

 

530:ヒーローと名無しさん

 

こいつら黒騎士くんのことなんだと思ってんだ……

 

531:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士君、戦闘時以外いろんな意味で隙だらけなのが悪いと思うの

 

532:ヒーローと名無しさん

 

ガチ勢という名のやべー奴ら

 

533:ヒーローと名無しさん

 

そのやべぇ奴ら筆頭がよりにもよって広告担当の蒼花ナオなのがいっちゃんおもろい

 

534:ヒーローと名無しさん

 

今活動休止してる子?

なんかやらかしたの?

 

535:ヒーローと名無しさん

 

黒騎士失踪で病んで活動休止宣言した

 

536:ヒーローと名無しさん

 

 

537:ヒーローと名無しさん

 

 

538:ヒーローと名無しさん

 

草じゃねぇんだワ

 

539:ヒーローと名無しさん

 

推しが消えたら己も消えるのは草

武士みてぇな生態してんなこのV

 

540:ヒーローと名無しさん

 

今どうしてんのかなって思ってツムッター開いたら、

普段じゃ絶対ありえない顔文字満載の活動再開宣言してんのバカおもろいwww

 

541:ヒーローと名無しさん

 

これのなにが面白いって

活動再開宣言後にツムッターにはじめて登録してコメントしてくれた黒騎士くんをなりすまし扱いしてブロックして

死ぬほど謝ってまた病んだやり取りがあったこと

 

542:ヒーローと名無しさん

 

きっと頑張って登録したのになりすまし扱いされた黒騎士くんホント草

 

 




活動再開後のハイになった勢いで推定なりすましの黒騎士くんをブロックしたらまさかの本人だったハルちゃんの心境はいかに……!!

今回の更新は以上となります。


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悶えるコスモ


書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」追加情報です。
こちらの方、発売日と表紙イラストが公開されました! 主人公カツミやアカネ達の初のお披露目となります!
ファミ通文庫様公式サイトにて公開されておりますので、こちらの方もどうぞよろしくお願いします!
https://famitsubunko.jp/product/322302000057.html



そして、お待たせしてしまい本当に申し訳ありません!
色々と忙しかったこともありましたが、それに加えて特殊効果の修行を積んでまいりました()
今回はアカネ視点でお送りします。







 カツミ君が戻ってきた。

 アルファにも存在が感じられず、プロトとシロの感覚からも消え、司令の捜索も意味を成さない。

 完全な行方不明となった彼に私たちは己の無力さを痛感させながら、ボウフラのように湧いてくる怪人共を八つ当たりのように倒していくことしかできなかった。

 彼がいなくなるのはこれで三度目。

 一度目は彼が記憶を失うことになった最初の侵略時、二度目は彼が中途半端に記憶を取り戻した時だったけれどあの時とは何もかもが違う。

 今度こそ駄目かもしれない、という心の奥底の暗い感情を押し殺しながら生活していたこの十日間はまさしく地獄のようなものだったといってもよかった。

 

「ま、とどのつまりカツミ君は別世界。いわば並行宇宙に存在する地球に漂流していたということだな。いやはや、さすがに世界飛ばれると私もお手上げだな、はっはっはっ」

 

 珍しく社長室に呼ばれた私、きらら、葵、そしてコスモちゃんはデスクに腰かけて乾いた笑い声をあげている司令に困惑の視線を向ける。

 彼の傍には両肩にプロトとシロを載せているカツミ君もいるけど、彼の苦笑している様子からして司令の言っていることは冗談ではないようだ。

 

「どうして私達だけなんですか? アルファとハクアは?」

「うむ。二人はカツミ君が帰ってくるまで気を張り詰めていたから休むように言いつけておいた。お前らは多少気を張り詰めていても平気な図太いメンタルなのは分かり切っているので、普通に呼び出した」

「こいつらはともかくボクは図太くないだろ!!」

「私達も繊細なんですけど」

「ハァン!! 怪人スレイヤーと喫茶店のツンデレ看板娘がなにか言ってるわ!!」

 

 私とコスモちゃんの抗議の声を司令は鼻で笑う。

 司令の傍にいたカツミ君は、司令の言葉に不思議そうに首を傾げる。

 

「喫茶店のツンデレ看板娘……? 誰のことだ……?」

「グリーンのことだ。君が行方不明の間、新藤氏の喫茶店で君の欠員を埋めるために仕事に励んでいたらいつのまにか看板娘になっていたのさ」

「は!? 誰が看板娘だ! ホムラ、こいつの言っていることは嘘だかんな!! だぁれがお前なんかのためにかったるい喫茶店の仕事頑張るかってんだ!! 調子に乗んなよ!?」

 

 めっちゃ早口でまくし立てるコスモちゃん。

 その様子を見た司令は一つ頷くと無言でタブレッドを操作し、なにかの映像を映し出す。

 

「うむ。これは新藤氏に頼まれ広報用に作ったサーサナス広報アカウントに挙げたショート動画なんだが……」

「えっ、あれお前が……? ぁ、ひゃぁ!? ホムラ、見るな!!」

「ん? なにが? え?」

 

 慌ててカツミ君と映像を遮るように前に飛び出したコスモちゃんだが、それよりも早く映像が始まる。

 

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『喫茶店サーサナスですっ!』

 

『お客様のご来店っ』

 

『いつでもお待ちしておりますっ!』

 

『お休み中の友達のために頑張っちゃうぞ♪』

 

 

『きゅるるん!』

a

a

a

a

a

喫茶店CIRCINUS

こいつ猫被ってます

あああああああああああああああああ

aaaaaa  aaaaaa

 

「ぴゃぁぁぁぁぁああああ!!?」

 

「え、これコスモちゃん? 可愛っ」

「ボクッ娘ぶりっこ猫かぶりツンデレメイド……!? な、なんて戦闘力だ……!?」

「ギャップすごいけど似合ってるなぁ」

 

 あまりの動画との変わりようにびっくりして私たちは映像とコスモちゃんの顔を交互に見る。

 顔を真っ赤にして涙目で絶叫したコスモちゃんは、カツミ君を見るが彼は無言のまま真面目な表情で映像に目を向けていた。

 

「お。おおお、お前のためにやってるんじゃないぞ!! 勘違いすんなよ!?」

「フッ、さすがに鈍い俺でも分かるぞ。ツンデレだろ? 葵に教えてもらった」

「ふざけんなよお前……!! いらねぇ知識ばかり身に着けやがって……!?」

 

 横を見ると葵が満足そうにサムズアップしてやがる。

 あとで、またカツミ君に葵が悪いことを教えたってハルちゃんに密告してやる。

 

「お前、俺がいない間に頑張ってくれてたんだな……きゅるるん、完璧だったぞ」

「真面目に反応するなうるさいバカぁ!! あぁぁぁ、もうおしまいだぁ……」

 

 普通に感心した様子でサムズアップをするカツミ君でとどめをさされたのかコスモちゃんはその場で崩れ落ちる。

 ……うーん、私も褒められたいなぁ。

 カツミ君限定の承認欲求に、ちょっとモヤる。

 

「私も喫茶店の手伝いとかしようかな」

「調理担当? それとも用心棒?」

「おい。そこは接客でしょ? なぜ荒事をさせようとする?」

 

 どうして刃物を握らせようとするの……?

 私だって接客くらいできるよ? バイト経験は皆無だけれど。

 

「話が逸れたな」

「逸らしたのはあんたやけどな」

「まあ、軽くまとめるとカツミ君は序列二位の力によって序列十位とヒラルダとともに別世界の地球に飛ばされ、なんやかんやでこちらに帰ってきたわけだ」

「私達としてはそのなんやかんやが気になるんですけど」

 

 さらっと言っているけど別世界の地球って普通にやばいと思う。

 当然、私たちのいる地球とは同じなわけがないし、カツミ君の様子を見る限り相当な戦いを経験しているように見える。

 

「お前達には話しておくべきか……」

 

 ? 言いにくいことでもあるのだろうか?

 いつもの司令らしくない反応に疑問に思っていると、彼は再びタブレッドを操作し画面を切り替える。

 そこに映し出されたのは———荒廃する都市。

 それも、私たちがよく知っている場所であった。

 

「彼が飛ばされた世界は平行宇宙に存在する別の地球。怪人が地球を征服したIFの世界」

「「「ッ」」」

「それは、“穂村克己が飛行機事故で死亡した”世界線とも言える」

 

 ……カツミ君がいなかったら、プロトゼロを着て怪人と戦う存在がいない。

 それはつまり怪人事変を前にした人類がほぼ無抵抗のまま怪人に蹂躙されることを意味してしまう。 

 そんな終わりに向かう世界に飛ばされたカツミ君はまた怪人と戦っていた。

 画像は紙芝居のように切り替わっていき、瓦礫で溢れた都市、怪人と戦う人型のパワードスーツ、そして———私たちと同じ顔をした三人の少女たちの姿を映し出す。

 

「え、私?」

「まさか、別の宇宙でも……」

「ちょっと幼い……?」

「平行世界のアカネ達だ。俺は彼女達に協力して、怪人達と戦って……最終的にその世界の侵略者の親玉を倒した」

 

 驚く私たちにカツミ君がそう説明してくれる。

 

「俺が飛ばされた地球に生きている人間は別世界のレイマ達が率いるレジスタンス以外にほとんどいなかった。別世界のお前達も、大切な家族を失って……滅びる運命にあったんだ」

「……」

 

 想像はできない、けれどそうなってもおかしくない運命なのは理解できた。

 

「そんな世界に俺はヒラルダと……星将序列十位レックス……いや、また別の世界のアカネと飛ばされた」

「……。ちょ、ちょちょちょ……え、わ、私!?」

「ややこしいのは分かるが事実なんだ」

 

 んん!? えぇと、並行世界の地球にいた私と、星将序列十位の私もいたってこと!?

 ……駄目だ。冷静になっても意味が分からない!? そもそも序列十位の私はどこから湧いて出てきた!?

 

「レックスは、俺が飛ばされた地球と同じ運命を辿った世界のアカネだ。彼女は序列二位の力で俺たちの世界に飛ばされて、序列十位のレックスとして俺たちの前に敵として現れた」

「はー、戦い方が似てて当然ってわけなんやねぇ」

「やけくそになって私たちに倒されようとでもしたのかな? アカネだし、ありえそう」

「別世界の私のこととはいえ軽く受け止めすぎじゃない!?」

 

 敵だったとはいえ私だよ!?

 でも納得はした。

 あれが別世界の私が辿った運命の一つというなら苛立って当然だ。

 だって、文字通りの私自身のことだったんだもの。

 

「ちょっと待って」

「葵?」

 

 ここで葵が珍しく強張った声を発した。

 

「同じ運命を辿ったって、別世界の地球は最終的にアカネしか生き残りがいなかったってこと?」

「……ああ」

 

 誰も助けられず、全てを失った私が死に場所を求めて地球に戻ってきた……ってことになるんだ。

 きっと私なんかじゃ想像できないくらいの喪失感と、一人だけ生き残ってしまった自分への激しい怒りに苛まれたはずだ。

 

「だけどな、オメガと侵略者の頭を倒したことで運命は変わった。……人類の滅びを先延ばしにする形にはなっちまったが、別の世界のレイマなら何とかする方法を見つけられるはずだからな」

「うむ、私は天才だからな。別世界でもそれは変わらん」

 

 カツミ君の言葉にはっきりと応える司令。

 というより、司令は先にカツミ君から別世界の地球のことを聞いていたんだ。

 

「……ここで平行世界の地球のことを一から十まで説明すると、どれだけ時間があっても足りん。お前達にはあとでデータとしてまとめて送っておこう」

「今ここで説明しきれんほどなの……?」

「私も情報として受け入れるにはかなりの時間を要したからな。それほどまでに彼が体験した約十日間の記録は濃密すぎた」

 

 子細はデータを確認すればいいってことか。

 色々と気になるところはあるけど、一番は平行世界の二人の私のことかなぁ。

 年上っぽい私と、年下っぽい私。

 

「さて、次だ。実はカツミ君が戻ってきたことで色々と要件が立て込んでてな」

「まだあるんですか?」

「うむ。レックス———別世界のアラサカ・アカネが、これまで行動を共にしてきた特殊なAI、それの回収をカツミ君が依頼されてな」

「特殊なAI?」

 

 首を傾げる私たちに司令が説明してくれるが……どうやら滅亡する地球人類の情報を保存するためのデータベースAIとかなんやら。

 自我もあるようで、別世界の私を助けていたものらしい。

 

「それを私たちが回収するということですか?」

「ん? いや、既に回収したので挨拶させようと思ってな」

「「「は?」」」

GRD(ガルダ)、自己紹介を頼む」

『了解』

 

 司令のその声に、彼と似た機械的な音声がどこからともなく発せられる。

 

『私はカネザキ・レイマの人格を元に作成されたAI。地球人類遺産の記憶を総括する人工頭脳GRD(ガルダ)である』

「うぇ、変態が増えた……!?」

『私をオリジナルと一緒にするな。分別は弁えている』

 

 嫌な顔をするコスモちゃんに平坦な声で毒を吐くガルダと呼ばれたAI。

 う、うぅん、司令と同じ声ってのが気になるけど、なんだか変な感じだ。

 

「こちらが接触を試みようとした矢先に、あちらからコンタクトがあってな」

『元より私の行動原理は地球に存在する生命のサポートにある。これまでは最優先補助対象である地球最後の生存者、アラサカ・アカネと行動を共にして助けてきたが、彼女がいない今次の対象であるこの地球の記録を守るために、君達につくことにした』

「……とまぁ、お喋りなAIなのだ。まったく、話が長い。全然私のデータ元にしておらんではないか」

 

 いや……話が長いあたりは結構似てると思う。

 だけど、少し前は敵だった存在をいきなり抱え込むのはちょっと危ない気がする。

 それはコスモちゃんとかも同じだけど、ガルダは今存在を知ったばかりだし。

 

「まあ、流石にこいつをすぐに信用するわけにはいかんので、しばらくはタリアの制御下で活動させることにさせる」

『フフ、お任せください』

『ぐっ、貴様……』

 

 司令のスーツのエナジーコアであり、第二本部の管理を行っているタリアの声にガルダは苦虫を嚙みつぶしたような声を漏らした。

 だけどなんだろう、心なしかタリアの声がうきうきしているように見える。

 

『私のことを母と呼んでもいいのですよ? ガルダ』

『呼ばん。お前は私の母でもない。そもそも私は肉体のない人工頭脳、そのような概念に囚われない』

『肉体の有無で家族の定義は測れません。マスターに作り出され、意思を持った貴方はマスターの息子。つまりはマスターの妻である私の息子ということになります』

『私は人間的な年齢に換算すれば100歳を超える。故に息子と表現するには不適切だ』

『……100歳程度でかわいい♪』

『カネザキ・レイマァ!!! 私よりこいつの頭をどうにかしろ!!!』

 

 と、ここでガルダが電子音声を器用に荒ぶらせながら司令に助けを求める。

 当の司令は挙動不審になりながら、視線を逸らす。

 

「よーし、次の話だ。タリア、連れていけ」

『カネザキ・レイマ!? 貴様、まさかこいつへのスケープゴートに私を!?』

『さあ、息子よ。行きましょう』

『息子ではない!? ぬおおおお!? 抗えん!?』

 

「一瞬でギャグ堕ちした……」

「そういう運命だったということやね……」

 

 徐々に遠くなっていくガルダの声。

 なんだかかわいそうに思えていると、カツミ君の肩にいる黒いメカオオカミになったプロトが呆れたように頭を振る。

 

『タリアも思い込みがすごい』

『ガウ』

『ガーオ』

 

 シロ、そしてコスモちゃんの肩にいたレオが頷くけど、君達も相当だと思う。

 

「レイマ」

「うむ。次だが、こちらに関しても我々が直接動く必要はない」

「今度はなんですか?」

 

 直接動く必要はないってどういうことだろう。

 すると、また映像が切り替わり、そこに見覚えのある黄色のスーツに身を纏った侵略者の姿が映り込む。

 私たちと似た戦隊スーツに、拳銃型の武器を持った強固なシールドを操る星界戦隊の戦士。

 

「こいつは……モータルイエロー? どうして今これを?」

「彼女はヒラルダの協力者だ」

「……なるほど」

 

 今現在、ヒラルダがこちらに来てしまっているという意味不明なことになっているので、協力者のモータルイエローは野放しになっているってこと?

 

「実際、戦った身としては……私はそこまで彼女に脅威を感じません」

「ほう?」

「戦闘力的な意味じゃなくて、彼女からは星界戦隊から感じられた悪意がなかったから……」

 

 嫌々戦っていた、というには少し違う。

 彼女と相対して伝わったのは諦めと、自嘲という侵略者としては思えない後ろ向きな感情。

 

「ヒラルダから聞いた話……いや、この件に関してはヒラルダは最低限の情報しか話さなかった」

「なんでなん?」

「ヒラルダにとって仲間を売るような真似をしたくなかったというのもあるのだろうな。———だが、渡された情報によると、現在モータルイエローは“星界剣機”我々が戦った星界戦隊が用いるビークルの生体部品として取り込まれた兄と共にいるという」

「生体部品……?」

「そのままの意味だ」

 

 ……モータルブルー。

 私が戦った時に彼女を庇った彼が、モータルイエローのお兄ちゃんだったってことか。

 それなら私の剣で貫かれた時の反応も分かるし、彼女が戦っていた理由も分かる。

 

「彼女の兄は生きているんですか?」

「精神汚染によって自我を破壊され、一種の脳死状態にあることは分かっている。……ヒラルダによれば、本来は精神を汚染されたことにより、モータルレッド、グリーン、ピンクのように悪の戦士へと変わってしまうが、モータルブルーは妹のイエローの汚染を肩代わりし、心を壊されたという」

「……」

 

 それじゃあもしかしたらモータルレッド達も本来は私たちと同じように戦っていたかもしれない、のか。

 彼らを悪に堕とした何者かがいたってことは、覚えておこう。

 

「それで、結局どうするんですか?」

「こちらとしては放置という選択肢はない。無害ということは分かっているが、別勢力に利用される可能性があるからにはこちらの監視下に置きたい。———もしくは、可能ならば、協力を仰ぎたい」

「協力って……」

「風浦氏のこともある。星界エナジーは未知のエネルギーだ。彼女の身に起こった現象を調べるために、情報が欲しいからな」

 

 あの人のこともなんとかしてあげないとね。

 カツミ君が戻ってきて落ち着きを取り戻したって聞いたけれど、いつまでもあんな狭い病室に籠りきりのままじゃかわいそうだ。

 

「まずはヒラルダから通信を送らせ、あちらに選択を委ねた。こちらに協力するか、管理下に置かれるか……彼女からしてみれば、理不尽なものに思えるかもしれないが、何度も地球に害をなそうとした手前、こちらができる最大限の譲歩がこれだ」

 

 星界戦隊との因縁は、妙な形で残ってしまっている。

 多分、イエローをなんとかしたとしても、その後は星界戦隊の運命を狂わせた何者かの存在に気をつけなきゃいけないのかもしれない。

 




片手間で作った作者フォント。



そして、次回お披露目予定の一部。



と、いうことで自作フォントで色々作れるようになりました。
今回は控え目ですが、次回で本格的なお披露目ができたらなと思います。

次回『蒼花ナオ:3D謝罪配信回』
次の更新は明日の18時を予定しております。


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閑話 【蒼花ナオ】謝罪3D配信

二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。

閑話、レイマ視点でお送りします。
今回は特殊効果多めです。


 カツミ君が無事に戻ったことで、レッド達だけではなくこの私自身も安心した。

 彼という最大戦力が戻ってきたから、という意味ではなく私の数少ないかけがえのない友人の帰還だからだ。

 だが並行世界へ飛ばされたという予想を遥かに超える体験をした彼には度肝を抜かされた。

 そして、彼がレッド達やアルファに話すことのなかった———別世界のアンノウンの首魁ザインとの戦い。

 プロトとシロに見せられた映像に映し出された彼の“究極”とも言える姿に私は言葉を発することもできなかった。

 

 彼は、その一時だけまさしくルインと同じになった。

 

 だがそれだけだ。

 彼自身が変わったわけでもない。

 穂村克己という心優しく、勇気ある人間性は揺るぎはしない。

 私は、変わらず地球を守るために彼らと共に戦うまでだ。

 

 

 ————と、まあここまで真面目な思考で作業を進めていたわけだが。

 私は今、第二本部の特設スタジオにいる。

 対侵略者や怪人に用いるためではない、まんま撮影用のスタジオはジャスティスクルセイダー広報兼黒騎士イメージアップVtuber蒼花ナオのために造られた場所である。

 一部の有象無象はこれを金の無駄と揶揄するだろうが、そんなものは情報戦を理解しない情弱の戯言ッ。

 

「世論! 一般受け! 若い世代に受け入れやすい流行りを取り入れることで、ジャスティスクルセイダーの活動を後押しすることができる……!!」

『口ではなく手を動かせ。ゴールディ』

『マスターが楽しそうで私も幸せです』

『レックス、お前まともだったんだな……』

 

 傍で撮影準備を進めてくれているタリアとガルダに意識を向けつつ、今度はスタジオで私服姿でいるカツミ君を見る。

 彼の頭、両手足首には特殊なセンサーが埋め込まれたバンドが巻かれており、彼の動きをリアルタイムで3D黒騎士君としてリンクさせている。

 

「フフフ、しかも彼がポーズをとれば白騎士、各フォームへと変更可能なプログラムを組み込んである」

『無駄な技術だろ』

「無駄を愛してこそ技術者だろうがこぉのたわけがァ! 私の思考をコピーしている癖に分からんのか!!」

 

 遊び心なくして大作は作られん。

 名画は意図して作られるものではない。

 そうなるべくして名画となるのだ……多分。

 

『レイマ、これどうなってんだ?』

 

 窓を挟んだスタジオからカツミ君の声が聞こえてくる。

 私は手元のPCを動かし、今カツミ君がどのように映像に映っているのかを見せる。

 

「君の動きをリンクさせたものだ。3D衣装とでも言うのかな?」

『うぉ、なんじゃこりゃぁ……』

 

 インターネット知識に関して3歳児同然なカツミ君にとって驚きの連続だろう。

 しかし、日向くんはまだ来ないのだろうか? 別室で準備は済ませているはずだが、まだ来ないとは。

 

『マスター。日向晴様はカツミ様に合わせる顔がないということで、配信と同時に現れるということです』

「あー、例の件か」

 

 先日、カツミ君ブロック事件。

 日向くんを活動休止に追いやってしまったことを重く受け止めたカツミ君が、頑張ってツムッターアカウントをとり、そのアカウントを用いて日向君のVtuberとしてのアカウント『蒼花ナオ』にメッセージを送った時に起こった事件だ。

 

aa蒼花

aaナオ

蒼花ナオ/Vtuber

@AOHANA70_KC

X月X日

黒騎士さんが帰ってきたので活動復活します

メンタルどん底だったけど、一瞬で持ち直した

 672

aaa4478

aa a 2,8万

黒騎士

@HOMURA‗KATUMI

X月X日

心配させてごめん<(_ _)>

 

aaa

aa a

aa蒼花

aaナオ

蒼花ナオ/Vtuber

@AOHANA70_KC

X月X日

黒騎士さんはね。顔文字なんて使わないし、ツムッターもやらないの。

とりあえずブロックします。

最近多発してる黒騎士くん偽垢なんとかならないかなぁ。

 

aaa

aa a

レッド@戦隊ヒーロー

@@AKARED_JCAKR

X月X日

ナオちゃん!! その黒騎士くん本物!!!!

 

aaa

aa a

ブルー@戦隊ヒーロー

@Rikei_JCBE

X月X日

解釈違いブロック草

 

aaa

aa a

イエロー@戦隊ヒーロー

@Huthu_JCYE

X月X日

アカァ———ン!?

 

aaa

aa a

 

 

 嫌な事件……だったな、うん。

 メンタル回復したはずの日向くんはヘラってしまうし、カツミ君は「俺、そんなに顔文字使えないと思われてるの……?」と変なところでショックを受けたりしていた。

 さすがに我が社の優秀な広報担当である彼女を放置するわけにはいかないので、カツミ君との和解のためにこの場を用意したわけだ。

 私自身、彼の失踪騒ぎのことを情報として落としていかねばならんしな。

 

「———そろそろ時間だ。準備はいいか?」

『ああ、俺はいつでもいいぞー』

 

『日向晴様も大丈夫そうです』

 

 カウントダウンを口にし、配信を開始する。

 蒼花ナオの復活と黒騎士の登場と相まってとんでもない数の視聴者数だ。

 待機画面から切り替わり、3D黒騎士くんの姿が鮮明に映し出されたその瞬間、別室にいた日向君が蒼花ナオとしてのアバターの姿で早足で飛び出し————滑るような綺麗な土下座を彼に繰り出した。

 

 

この度は、ツムッターの件、偽物と間違えてしまいっ

 

!!!?

 

も、ももも申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

はじまった

俺らじゃなくて黒騎士くんwww

そっち!?

開幕謝罪www

ツムッターの件か笑

3D黒騎士くんだあああああああああああ

おかえりぃぃぃぃ!!

土下座するために3Dにしてんのかwww

綺麗なスライディング土下座してて草

黒騎士くん困惑しとるやん

スィィィー(土下座)

こんなナオナオみたくなかった……w

謝る相手そっちかよぉ!?

ドン引き黒騎士くん……

どっちもおかえりぃぃぃぃ!

あああああああ

Oh! Japanese DOGEZA!!

弟くん3D!!????

潔すぎて笑う

 

 

□    ライブ
 
     

【謝罪3D配信】やらかしたので全力で謝罪します【蒼花ナオ:ゲスト黒騎士さん、社長さん】

#蒼花ナオ#黒騎士くん#3Ⅾ配信

aa蒼花

aaナオ

蒼花ナオCHANNEL

チャンネル登録者数xxx万人

aa✓ 登録済み aa

高評価❘ 

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クリップ

XXXXXXX人が視聴中 2分前にライブ配信開始

黒騎士さんが帰ってきたので復活します。

その前に黒騎士さんに懺悔します。

もっと見る

 

 とんでもない始まりからにチャット欄は驚愕に包まれ、同時にスパチャで赤く染まる。

 本来はカツミ君の意思を汲んでスパチャなしにしたいところだが、多分……いや必ず炎上すると予測できたので、切らなかった。

 というより、スパチャ切って炎上するということ自体おかしなことなのだが。

 

「……まあ、序盤は私も補助に回るだけだからな」

 

 今回の配信の表向きの目的は蒼花ナオの謝罪案件と、カツミ君の安否を一般人に知らせること。

 なぜ3Dにしたかというと、私の渾身の3D黒騎士くんと3D蒼花ナオver2を自慢したかったことと、話題性のためだ。

 なので最初の一時間ほどは蒼花ナオからカツミ君への質問コーナー的なものとなる。

 

「ガルダ。危険なもの、スパム、視聴者に不快な印象を与えるコメントの削除を頼む。スパムは発信元を割り出しておいてくれ」

『いいのか?』

「構わん。私が許可する」

 

 誰もが目にする場で見るに堪えない文面をのせる者は露出狂となんら変わらん。

 悪意を以てやっているならなおさらわざわざ配慮する相手でもないし、そこに侵略者による悪意が挟み込まれている可能性もゼロではない。

 例え、徒労に終わったとしても安全という証明が出ればそれは無駄にならない。

 

 

『謝る必要はないぞ、ナオ』

 

『で、でも私とんでもないことを……』

 

『確かに俺は顔文字を使うような印象じゃない。正直、文面を送るために一時間くらい悩んだのも事実だ』

 

ああああああああああああああああ

・一時間悩むの解釈一致

・たしかに顔文字あわなくて草

・勇気出して送ったのにブロック……w

・草

・機械音痴の黒騎士くん……

・ほんまかわいそうで草

・かわいい

ああああああああああああああああ

 

 

『そしてあの後、延々とスマホから通知が鳴り続けて怖くもなった。壊しちまったと思ってすげぇ焦った』

 

 

ああああああああああああああああ

・通知切ってなかったのか

・wwww

・草

・草

・めっちゃフォローされまくったのかw

・なんでこんな面白いの君www

・電気屋に放り込みたい

ああああああああああああああああ

 

 

『だがその程度でへこたれる俺じゃない。顔文字使うと思われてねぇんならこれから使ってやればいいんだ』

 

『黒騎士さん……』

 

『だから今度使い方教えてくれよ』

 

『えっ』

 

『そういう印象を持たれてるなら俺が変わっていけばいいだけだからな。それが難しいことじゃないのは、俺自身が体験して分かってることだ』

 

『……はいっ』

 

 

ああああああああああああああああ

・黒騎士くん……!

・私も鼻が高いよ

・成長したなぁ

・内容が絵文字覚えたいだけなのがwww

・イイハナシダナー

・感動した

・笑

ああああああああああああああああ

 

 カツミ君に差し出された手を取り立ち上がった日向君。

 まず一段落終えたところで、彼らは次の話題に映るべくようやく近くに設置してあるテーブルにつく。

 

 

『えぇと、今回呼ばれた理由についてだけど……ナオ?』

 

『はいっ。黒騎士さんが行方不明の間どうしていたか、についてです』

 

『……どこまで話していいか。まあ、レイマもいるし大丈夫か』

 

 

ああああああああああああああああ

・変態エイリアンいたんか

・おっ、名誉地球人だ!

・変態だ

・有能ムーブしかしない奴きたな

・変なことしろ

・社長!!!

・なんかコメント野太くなった?www

ああああああああああああああああ

 

 なぜこの変態呼ばわりするコメントは非表示にならないのだガルダ?

 する必要がない? つまりお前も私のことを変態だと思っているのか?

 

 

『私も聞きたいです』

 

『……まあ、正直信じられるかどうかは分からないが説明する。この配信の最後にレイマから情報が出されるからな。信じるかどうかはそれで判断してくれ』

 

 

 こちらに視線を向けたカツミ君に頷く。

 話してならないのは彼がザイン相手になってしまった姿のことだけ。

 

 

『俺は敵の能力で別世界……平行世界に存在する地球に送り込まれちまったんだ』

 

『マルチバース……!? 存在したんだ……!』

 

『……ブルーも同じこと言ってたな。有名なのか? マルチなんちゃらって』

 

『私が、姉と同じ……!?』

 

 

ああああああああああああああああ

・はぁぁぁぁぁ!?

・平行世界!!?

・嘘嘘嘘嘘嘘

・姉と同じでショック受けてるの草

・本当ならそりゃ見つからんわな

・色んな理論吹っ飛ぶわこれ

・さすがに嘘だろ

ああああああああああああああああ

 

 

『でも地球だったんですよね? それなら大丈夫じゃ———』

 

『いや、その地球は……怪人に支配された人類が滅びかけた地球だったんだよ』

 

『……え?』

 

『そこにプロトとシロもないままに降りちまったんだが、運よく敵として戦ってた……ああ、こっちに戻ってきたときに戦ったやつと飛ばされてな』

 

『俺もそいつも満足に戦えねぇから一時的に協力して戦うことになって、そいつの力を借りて変身して戦ってた』

 

『あの桃色の姿がそうだ』

 

『ひとまずスズムシ怪人とレーザー……いやビーム怪人を倒したが』

 

『そっから二度と顔も見たくねぇような怪人がわんさか出てきて面倒だった』

 

『そっからその世界で怪人と戦ってる組織……に潜り込んでいたグリッターを始末して』

 

『ついでに現れたアースを別世界のプロトと一緒に倒して……』

 

 

ああああああああああああああああ

・待て待て待て待てぇ!!

・じょ、情報が濁流のように!!?

・脳が壊れるるるる

・黒騎士くん一旦ストップゥゥ!!

・怪人惑星!!?

・人類終わってね?

・ぐあああああああ!!?

・やばばばばば!

・あの姿がそうなのかよ!!

ああああああああああああああああ

 

 

『怪人って……』

 

『ん? ああ、スマイリー、アース、ナメクジ野郎とかだよ。そいつらが地球で好き勝手に暴れまくった終わりに向かった世界、それが俺が飛ばされた地球だったんだよ』

 

 

 軽く語っているように思えるが彼の眼は嫌悪感に満ちている。

 それはすなわち、彼がそのような表情をするほどの悪辣な所業を働き彼の怒りを買ったことになる。

 一部情報を伏せてはいるが、平行世界での出来事を話していくカツミ君。

 彼の話にチャット欄は大混乱に陥っているが、それでも彼の声は止まらない。

 

 

『で、その地球のジャスティスクルセイダーと呼べる存在、レジスタンスに協力して最終的にその世界の大本の怪人、オメガを倒して一先ずの平和を勝ち取れたわけだ』

 

 

 5分ほどで簡単にまとめ、彼は言葉を切る。

 改めて聞いてもとんでもない話だ。

 その世界の地球には悲しいほどに救いはなかった。

 カツミ君が飛ばされていなければ十日で滅びを迎えた地球。

 そして、オメガとザインを倒したとしても、世界中に散らばった怪人の残党が跋扈し人間を襲い続けている。それに対して、生き残り反抗を続けるレジスタンスの人員は千にも満たない。

 地球最後の数百人の人類に、平和が訪れるにはあまりにも遅すぎた。

 

 

『俺の口から言えるのはここまでだ』

 

 

 うむ、これ以上の説明はいらぬ不信を抱かせることになる。

 情報の開示はやりすぎと思われるくらいが丁度いいのだ。

 

 

『この話を信じてもらえるかは、正直どうでもいい。もう終わったことだし……酷な言い方をすれば、この世界を生きている人たちには関係のない出来事だからな』

 

 

 と、ここで彼は言葉を切った。

 長く話して疲れたのか軽く息を吐いた彼は手元に置かれた水を口にする。

 

 

『それで、次はなんだ?』

 

『はい。次は質問の時間ですね』

 

 

 空気を変えるように声色を柔らかなものに変えた彼が頷く。

 質問コーナーか。

 以前と同じように事前に質問内容を募集してその中からこちらで厳選したものを選んでいくので、今の間はこの後に出す映像(・・)の確認をしていても大丈夫だろう。

 

 

『では最初の質問。敵だった方と共に行動していたと聞きましたが、なにもなかったんですよね?

 

『ん?』

 

 

「日向くぅん!?」

 

 

 

 脱力した次の瞬間にボディブローを食らった錯覚に陥りながらスタジオを見る。

 あ、あれ、なんか質問違くない!?

 たしかこれヒラルダのことについて説明する的なやつだったはずだよね!?

 その質問に対してカツミ君は、特に焦る様子もなく腕を組み数秒ほど考えて……ハッと思い出したように口を開いた。

 

 

『普通にあったぞ』

 

『へぇ?』

 

『てかたくさんあったな』

 

『!!!????』

 

 

「カツミくぅん!!?」

 

ああああああああああああああああ

・は?

・は?

・私のだぞ!?

・は?

・汚したな! 黒騎士くんを!

・許さん……許さんぞ

・汚したな 黒騎士くんをッ

・やべぇやつらワラワラで草

・多分黒騎士くんそこまで考えてないと思う

ああああああああああああああああ

 

 日向君が聞きたいこととは別のことを指しているのは分かるけれども、君の発言で今一つの命が危機に晒されることになるんだぞ!?

 というより、運が悪いことに現在ヒラルダは別室で、レッド達+αがいるモニタールームでこの配信を見学しているから今頃とんでもないことに……!?

 

 

 

 

 

『ち、違うの!! なにも起こってない!! 確かにふざけてからかったり悪戯しようとしたけど、全部普通に防がれて……アッ、ね、ねえ、今味方同士じゃん!? 仲間じゃん!! あっ、ちょ? 笑いながら近づくのやめて? 今私子供モード! こんなにいたいけで可愛い女の子だよ? えへへっ、私って、こんなに可愛いっ♪ …………桃子助けッッ———』

 

 

 

 

 

 

 そして、ヒラルダが早速洗礼を受けてから一時間が経過し、蒼花ナオとカツミ君の対談も終わりを迎える時がやってきた。

 こちらの出した質問内容を自己解釈したアウトギリギリな日向君の質問になんでも答えてくれるカツミ君に、私も視聴者もドキドキハラハラとさせられてしまったが、その時間も終わる。

 

『では、今回の謝罪配信はこれで終わりとなります』

『謝罪といっても最初だけだったけどな』

「あはは……この後は、社長さんから情報が告知されるそうです。では社長、よろしくお願いします」

 

 日向君の声に頷き配信画面を切り替え、動画を流す。

 ———それは、彼が平行世界に向かった一つの証拠。

 荒廃した都市での惑星怪人アースと、別世界のプロトスーツ“プロトX”を装着したカツミ君の戦いの記録だ。

 




暢気してたら思わぬところから飛び火したヒラルダでした。

今回は実験的な意味で自作フォントを使ってみました。
・蒼花ナオアイコン差分



・黒騎士くんアイコン



イラストに関しては練習一週間未満なのであまり期待しないでください<(_ _)>


次回は多分、掲示板回。
今回の更新は以上となります。


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閑話 掲示板回(謝罪配信)

お待たせしました。
掲示板回です。

加えてになりますが、試験的に書いたイラストの一つをあとがきにて公開します。


0401 ヒーローと名無しさん

蒼花ナオこんな面白かったんか

ショートで流れてきたときはクール系かっこいいVだと思ってたんだが

 

0402 ヒーローと名無しさん

黒騎士と姉限定だぞ

他箱コラボではクール系でゲームがうまい

 

0403 ヒーローと名無しさん

推しに3Dで土下座する女だぞ

 

0405 ヒーローと名無しさん

マキマさんと同じ解釈違いムーブして同じやらかしした女やぞ

 

0406 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんスマホ知識ほぼ皆無なのにツムッター頑張って登録して、警戒させないように顔文字までつかってメッセージ送ったのに解釈違い起こされて有無を言わさずブロックされて、配信で渾身の3Dスライディング土下座見せられて大困惑してて草

 

0407 ヒーローと名無しさん

本当にかわいそうで笑った

そして蒼花もちょっと燃えたのも芸術点高い

 

0408 ヒーローと名無しさん

正直あのメッセージはワイも偽物だと思った

 

0409 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんを騙る偽垢多いもんなぁ

 

0410 ヒーローと名無しさん

配信の最後に流れた映像もえっっげつなかった

 

0411 ヒーローと名無しさん

あれ撮影したの誰なんだろ

なんかドローンかなんかかな?

 

0412 ヒーローと名無しさん

・初手土下座蒼花

・機械音痴の黒騎士くん

・なんでも答えてくれる黒騎士くん

・全力状態の惑星怪人アース

・別世界のプロトスーツ

・荒廃した都市

 

もっとこう、なんというか手加減をですね……(白目)

 

0413 ヒーローと名無しさん

情報欲しかったけどキャパ壊しにかかるのは違うだろォン!!?

 

0414 ヒーローと名無しさん

俺の知らない黒騎士くんだと!?

 

0415 ヒーローと名無しさん

怪人惑星やばすぎんだろ……

むしろ嘘であってくれこんな世界

 

0416 ヒーローと名無しさん

これ黒騎士ジャスクルアンチ終わっただろ

 

0417 ヒーローと名無しさん

こんなん出鱈目に決まっとるやろがいッッ!!

騙されるな!!

映像だってCGで作れるだろ!!

 

0418 ヒーローと名無しさん

>>0417

こんなリアリティあるのにCGなんか……すげー(棒読み)

まあ、仮に嘘だとしてもこれはこれで凄い

KANEZAKIコーポレーションで映画作ってくんねぇかなー

 

0419 ヒーローと名無しさん

>>0417

なのでアンチは嘘嘘嘘しか言えないのであった

 

0420 ヒーローと名無しさん

悪魔の証明だな

幽霊とかUFOとかもそうだが存在しないことは証明するのは難しい

どれだけアンチが否定しても平行世界が存在しないっていう証明ができなければ壁に向かって喚いているのと変わらん

 

0421 ヒーローと名無しさん

解析班が土地データで調べたらしいけどマジで現存する場所が廃墟になってた

 

0422 ヒーローと名無しさん

思いっきり都心だろ

あんな様になっていたらどれだけの人間が生き残っているのやら

 

0423 ヒーローと名無しさん

俺たちの知らない黒騎士くんかっこよすぎない?

 

0424 ヒーローと名無しさん

パワータイプが技巧派糸使いになった結果→相手は死ぬ

 

0425 ヒーローと名無しさん

黒騎士ならぬ銀騎士やばば

こっちもフィギュア化しろォ!!

 

0426 ヒーローと名無しさん

蒼花ナオと黒騎士くんのコラボ謝罪3D配信という背脂マシマシコッテリ濃厚味噌ラーメンみたいな配信直後にお出しされる厚盛ステーキよ

 

0427 ヒーローと名無しさん

笑っちゃいけないんだけど、しょっぱな周囲が怪人の死体だらけでモザイクかかりまくってんのホンマ草

きっと楽勝ムードで余裕かまして突撃したんやろなぁ

 

0428 ヒーローと名無しさん

配信後、公式ブログで公開された銀騎士ことプロトX

以下抜粋。

 

プロトX

怪人事変の際、プロトスーツを穂村克己ではなく、この私カネザキレイマが装着しクモ怪人と戦ったことで平行世界のプロトがクモ怪人の能力をコピーし、新たに作り上げたIFの姿。

糸によるオート反撃、拘束、斬撃、索敵、果ては敵怪人の死体すらも操ることを可能にしている。

 

 

0429 ヒーローと名無しさん

>>0428

これ味方にいちゃいけないタイプの糸使いだァーーー!?

 

0430 ヒーローと名無しさん

糸使いが近接もいけるパワータイプとかやばすぎて草

 

0431 ヒーローと名無しさん

真正面から本気モードのアースを圧倒してたからなぁ

 

0432 ヒーローと名無しさん

改めて見ても危険な怪人だなアース

大地から無尽蔵にエネルギーを吸収し続けて強くなっていくし回復もしていくって

初出現時黒騎士くんに救援要請出した政府の判断間違ってなかったんだな。

 

0433 ヒーローと名無しさん

スペックはプロトワンが上で能力の殺傷性はプロトXかな?

 

0434 ヒーローと名無しさん

プロト1がぽんぽん出してるプラズマパンチを一発しか放てない時点で性能はプロト1の方が上じゃねーかな

プロトXが自己進化の末に造られたものなら、プロト1は社長の科学力により作られた正真正銘の黒騎士くん専用スーツだから

 

0435 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんの戦法と微妙に能力噛み合ってないもんなぁ

それでもえげつない強さしてるのは笑うけどもwww

 

0436 ヒーローと名無しさん

おい、これどうして社長が怪人事変でプロトスーツ着てクモ怪人と戦ってるんだ……?

 

0437 ヒーローと名無しさん

!?

 

0438 ヒーローと名無しさん

たしかプロトスーツのデメリットって……まさか平行世界の社長もういない?

 

0439 ヒーローと名無しさん

よくて半死半生じゃねーかなぁ

宇宙人ボディ差し引いても無事じゃすんでないと思う

 

0440 ヒーローと名無しさん

死ぬのが分かってプロトスーツ着てクモ怪人と戦ったってこと?

だとしたらまた好感度上がるんだが(キレ気味)

 

0441 ヒーローと名無しさん

じゃあ穂村克己は怪人と戦わなかったってことだろ

はい辻褄が合わない嘘乙

穂村克己が怪人と戦わなきゃ整合性がとれないだろーが

 

0442 ヒーローと名無しさん

なんにでも噛みつくな本当にwww

 

0443 ヒーローと名無しさん

本名出すなこのタンカスがァー!!

出回ってるとはいえ個人情報を守らんかぁー!!

 

0444 ヒーローと名無しさん

>>0441

まさか、黒騎士くんがいない世界?

黒騎士くんがいないから怪人事変でプロトスーツが盗まれなかった

当然クモ怪人は暴れまわるけど、見ていられなかった社長がスーツを着て死亡or瀕死

本来は黒騎士くん単体で怪人勢力と半年間戦ってジャスティスクルセイダーのスーツ開発期間、レッド達の育成期間ができるけど、平行世界にはその時間すらないから人類は怪人に敗北した……?

 

0445 ヒーローと名無しさん

>>0444

ヒェ……

 

0446 ヒーローと名無しさん

>>0444

へ、へへっ、あくまで考察だろ?

 

0447 ヒーローと名無しさん

>>0444

そうか!! 黒騎士くんいないとそもそもジャスクルがないのか!!

 

0448 ヒーローと名無しさん

アンチの難癖でやべぇ考察出てくんの草

 

0449 ヒーローと名無しさん

なんで穂村克己がいねーんだよ

 

0450 ヒーローと名無しさん

興味津々やんw

 

0451 ヒーローと名無しさん

・そもそも生まれてない

・平和に暮らしてる

・十年前の事故で既に亡くなっている

 

の、どれかだな(白目)

 

0452 ヒーローと名無しさん

人類救済ルートが黒騎士くんの生存だとしたら、どうあっても黒騎士くんが不幸な目に合わなきゃならんの悲しすぎるだろって

 

0453 ヒーローと名無しさん

救済ルート入っても妹を名乗る姉を名乗る不審者と、無から湧きだした幼馴染と、因縁皆無の後方理解者面のライバルとガチオタ土下座Vtuberに狙われるけどな

 

0454 ヒーローと名無しさん

あくまで考察だから真に受けんようにな

 

0455 ヒーローと名無しさん

別スレも同じ考察に落ち着いたけど

あの黒騎士くんが平行世界でスーツ着用していない事実がやばすぎてなぁ

 

0456 ヒーローと名無しさん

>>0453

さりげなく異常者共と同じカテゴライズされてる蒼花ナオに草

 

0457 ヒーローと名無しさん

この情報の出し方さぁ

またなんか隠してるだろ

 

 

(……と、普通は指摘してしまうだろうが

俺は社長のことを理解しているので心の内に秘めているのであった)

 

0458 ヒーローと名無しさん

だだ漏れてるだだ漏れてる

 

0459 ヒーローと名無しさん

いや全情報公開とかどこの会社でもやらんだろ

むしろこんだけ公開してくれることにありがたく思わないかんぞ

 

0460 ヒーローと名無しさん

確かにそうだ(俺の方が社長のこと一番よく理解してるからな)

 

0461 ヒーローと名無しさん

さっきからその謎のアピールなんなんwww

 

0462 ヒーローと名無しさん

社長ガチ勢という子供の心を持った後方理解者少年団(おじさん)

 

0463 ヒーローと名無しさん

なんか分かっちまうの悔しいわ

 

0464 ヒーローと名無しさん

男受けの社長

女受けのレッド

姉、妹、ライバル、幼馴染受けの黒騎士くん

 

まさに幅広い層をカバーできる無敵の布陣だな

 

0465 ヒーローと名無しさん

 

黒騎士くん知人他人関わらず業が深い連中に好かれすぎじゃない……?

 

 

 




あえて気づきを与えることにより、考察班を狂わせにいく社長でした。

 
【挿絵表示】

「蒼花ナオ(はいしんのすがた)」
反省点を生かして色々試して書いた結果、どことは言わないがなんかお太くなった(???)
そして後々になってV要素が皆無ということに気づいて、急ごしらえのダサ耳当てを付け足しました。


あくまでこちらはキャラクターイメージで場合によっては変わったりしますので、とりあえずこんなキャラが荒ぶったり、スライディング土下座したりするんだーって認識してくだされば大丈夫です。

あとがきが長くなってしまい申し訳ありません。
今回の更新は以上となります。


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閑話 モータルイエローの決断 前編


書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」について追加報告

公開の許可がいただけましたので、表紙、口絵、挿絵などの一部をTwitterにて公開いたしました!!
こちらで公開していいか少し判断しづらかったので、私のTwitterのURLの方を貼らせていただきます。
興味がある方は是非ご覧になってください!
https://twitter.com/koxHhDrnIZIMYJZ


そして、お待たせしました!
今回は閑話、モータルイエローの視点でお送りします。




 ヒラルダの野郎、敵に寝返りやがった!!!

 散々破滅願望ひけらかした癖に黒騎士と十位と一緒に十日間行方不明になっている間に、どういうわけか絆されて帰ってきた。

 それを映像越しで見た私は開いた口が塞がらなかった。

 

「あ、あの破滅願望持ち地雷女即落ちして帰ってきやがった!?」

 

 思わずド汚い罵倒が出てしまったがこれに関しては許されるだろう。

 十日前、なんかドヤ顔で十位と一緒に黒騎士へ襲撃しにいったら行方不明になって、それでまた姿を見つけたら丸くなった上にほだされて光堕ちしているのだ。

 こちらとしては全く事情が分からないだけに、ヒラルダが即落ちして帰ってきたようにしかみえなかった。

 状況は最悪だ。

 なんだかんだで義理堅いヒラルダが私のことを売るとは思ってはいないが、今の状況で私ができることはなにもない。

 地球からの脱出? 星界剣機がない今、速攻でゴールディに探知されるので不可能。

 暴れまわる? 普通にジャスティスクルセイダーか黒騎士に殺されるし、そもそも暴れまわる理由もないので無理。

 いっそのこと身分を偽って地球で暮らす? 多分これがベター。

 文明レベルは低いが地球は他の惑星と異なり、比較的温和な生命体が多い星だ。

 侵略者と怪人という厄ネタがそこらへんに湧き出すという特大の懸念事項こそあるが、ある程度の自衛ができる私ならアリだ。

 

「オカシも美味しいし……」

 

 チョコという見た目が黒くて美味しそうに見えないものを口にした時は衝撃的だった。

 ヒラルダが失踪し、宇宙船から持ち出した食料が底をついたことで仕方なく地球で食料を確保するために「コンビニ」なる場所に向かった時が始まりだった。

 そこで見つけたのが黒い固形物「チョコ」なる物質である。

 私は特に疑問に思わず、惑星間で流通するクソマズ栄養食が地球にもあるんだなーと思いながら適当に大量購入した。

 

 隠れ家に戻った私が我ながら死んだ目で包装された「板チョコ」と呼ばれる硬質な、とても食べ物とは思えない硬度を持った食べ物の銀色の包装を破き、雑に口に含めた瞬間

 

———私の頭の中に宇宙が生まれた。

 

 舌に感じる未知の刺激。

 脳を溶かすと錯覚させるなにか。

 味のしない石のような触感の栄養食を食べると思い込んでいた私の脳へ襲い掛かる衝撃と、生成される幸福物質。

 心臓が止まった……いや、もしかして急な衝撃で本当に死んでいたかもしれない。

 小一時間身動き一つすらできなかった。

 そして、改めてこのチョコと呼ばれる黒い物質は低いクレジットで買える上に、そこらの店で大量に売買している光景を思い出し「地球やばくね……?」と思ったりしていた。

 

「……アリね」

 

 兄さんもここから移動させるのも無理だし、ここに滞在するのもいいかもしれない。

 もう私は戦わないし、もしルインの手でこの星が終わる日が来るというなら……私はそれを潔く受け入れようと思った。

 私はレッド達と一緒に死ぬことができなかった。

 なら、今度こそは兄さんと一緒に死のう。

 そう考えて、私はチョコレートを口に放り込んだ。

 

 

 ———が、そんなことを許されるはずもなく、ヒラルダの野郎が戻ってきて数日が過ぎたところで潜伏しているアジトに“カネザキ・レイマ”からの映像データが届いてしまったところで、この潜伏生活がついに終わりを迎えたことを悟った。

 

「ハロゥ、モータルイエロー。私はカネザキ・レイマ、知っての通り天才だ。今回は暫定侵略者である君に二つの選択肢を提示しにこのメッセージを送らせてもらった」

 

 自信に満ち溢れた言葉にイラッとしながら、奴の次の言葉を待つ。

 

『まず一つ。君がこの隠れ家からの逃亡を選ぶ場合、我々は君を捕縛する』

「……」

『そして二つ目は、君が我々に投降すること。そうなれば我々は君たちを保護しよう。身の安全も保障する』

 

 随分とお優しいことね。

 だけれど、嘘ではないのだろう。

 

『そして一つ補足させてもらうが、ヒラルダは君のことをほとんど何も明かしてはいない。その潜伏しているアジトも私自らが見つけ出したものだ』

「……なに、それ」

 

 知ってたけど、あいつ本当に私のことほとんど喋ってないんだ。

 光堕ちした地雷女という面倒くさいの権化みたいなやつだけれど、少しだけ安心してしまった。

 

「……兄さん」

 

 その後、投降に指定された場所と日時が伝えられたところでメッセージが終わる。

 私は兄が眠るポッドに手を添え、小さくため息をつく。

 このまま逃げるという選択肢はある。

 だけど、多分もうこの隠れ家はカネザキ・レイマに見張られている。

 逃げようとすればすぐに捕まって、敵意があると判断されて閉じ込められてしまうかもしれない。

 そうしたら、兄さんがどうなるか……。

 

「選択肢なんて、ないよね」

 

 私の命なんてどうでもいい。

 だって、私はレッド達を戻すのを諦めて、それでも離れられなくて悪事を重ねてしまったクズだからだ。

 でも、兄さんはなにも悪いことなんてしてない。

 心を壊してまで私を守ってくれた。

 それなら、せめて私は兄さんのために行動する。

 

 

 

「……ここが、指定された場所」

 

 指定されたのは人気のない路地裏。

 近くを行けば人の出るとこに行けるが、それを除けば誰も通らないようなそんな場所に私は立っていた。

 

「いったい、どこに……」

 

 周囲を確認するために前に歩み出ようとした瞬間、前触れもなく首に冷たいなにかが触れる。

 それを鋭利な刃物と認識した直後に、全く感じることのなかった気配が背後にあることに気づいてしまう。

 

「動かないで」

「ヒッ!?」

 

 れ、れれれれれレッドだ殺される!?

 忘れられるはずもないこの殺気。

 殺意が鋭利な刃物のように実体を伴って襲い掛かるような感覚をさせてくるような奴は彼女しかいない。

 

「モータルイエローだね?」

「は、はははははいぃ……」

 

 地球人ってこんな気配もなく後ろに立てるものなの!?

 それともこの声の主がおかしいだけ!? 抵抗する意思がないことを示すために両手を挙げると、何かをスキャンするような音が聞こえる。

 

「装備も装置もなし、司令。大丈夫です」

『う、うむ……しかし、レッド。お前はうちの社員として雇うことになっているが、うちには戦闘チームはあるが暗殺チームはないからな? ねえ、本当に分かってる? 手慣れ過ぎてびっくりしているのだが?』

「ご心配なく。カツミ君の護衛は任せてください」

『欲望だだ漏れすぎでは? いや、適任ではあるが』

 

 暢気な通信が聞こえるけど、私は死ぬの!?

 それとも確保されるの!? せめてそれだけは教えて欲しいのだけど!?

 こっちの方が年上のはずなのに泣きそうになっていると、私の頭に袋のようなものを被せられ、いつのまにか両手もヒモのようなもので縛られた。

 

「抵抗しないように。今から貴女を別の場所に移動させます」

『なぁ、だからどうして手慣れてる? なんか無性にカツミ君への護衛を任せたくなくなったんだが?』

 

 視界が真っ黒に覆われ、どこかに移動させられる。

 突然押されたり暴力をされるような扱いはされていないのだが、常に傍で刃物のような気配を持つレッドがいることで生きた心地がまったくしなかった。 

 


 

 一時間か、それ以上かどこかへ移動させられ、最後に椅子の上に座らされた私がしばらくそのままにしていると、前触れもなく頭に被せられた袋を外される。

 急な明るい光景に慣れず、眼を瞬かせながら見ると、私の目の前には椅子に座った金髪の男、ゴールディがいた。

 

「会うのは二度目だな。モータルイエロー……いや、ここはリリーフイエローと言うべきか」

「ッッ、どうしてその名を……」

 

 リリーフイエロー。

 それは悪に堕ちる前に名乗っていた私の正義の戦士としての名前だ。

 今の私にそんな名を名乗る資格はない。

 

「いいえ、私にはその名を名乗る資格はないわ。……ゴールディ、私はメッセージで送った通りよ。投降するわ」

「うむ。しかし、手荒い歓迎ですまなかった。こちらとしても用心だけはしておきたかったからな」

 

 その点に関しては分かっている。

 私は投降したとはいえ星界戦隊という敵組織の生き残りだ。

 むしろ、投降した私を保護するという提案をした彼らがおかしいだけで本来ならあの場で殺されていてもおかしくはなかった。

 

「でも、次はレッドじゃない奴にしてちょうだい」

「……あれは私も想定外だったのだ。本当にすまん」

 

 ゴールディですら予想外とか、本当に地球人なのだろうかレッドは。

 黒騎士は純粋な戦闘力で地球人かで疑うけど、レッドは殺傷性能とかの分野で疑ってしまう。

 

「それで、私はどうなるの?」

「正確には君達だな」

「……っ」

 

 兄さんのことも当然把握されているってことね。

 話すつもりではあったけれど、本当にこの男は厄介極まりない。

 

「そこまで警戒するな。伝えた通り、君と君の兄は我々で保護する。多少の監視はつくだろうが安全を約束しよう」

「それに対する対価は?」

「我々への協力、と言われてもピンとこないだろう。端的に説明すると、星界エナジーの解析に協力してほしい」

「星界エナジーを……?」

 

 あのとんでもエネルギーを解析でもしようというのだろうか?

 だが、星界エナジーはエナジーコアのソレと起源そのものが異なる文字通りの未知のエネルギーなのだ。

 私程度が協力したとしても解明できるものじゃないはず。

 

「星界エナジーそのものを悪用しようなどと考えたわけではない。……我々が保護した者が星界エナジーに深く関わってしまっていてな。その問題を解決するために君の協力が必要というわけだ」

「……私が役に立つかどうか分からないけど、兄さんの安全を保障してくれるなら……」

「では契約成立……いや、君の兄も調べても構わないだろうか?」

 

 当然の申し出だ。

 少しばかり抵抗感はあるけど、どちらにせよ兄さんはもう目覚めない。

 なら勝手になにかされるより、こちらから許可を出した方がいいだろう。

 

「いいわ。でも、兄さんを標本とか身体を切るという申し出なら絶対に許さないわ」

「勘違いするな。可能なら君の兄の治療が可能かどうか調べておきたかっただけだ」

「……え」

 

 意外な言葉に私は呆気にとられる。

 

「なんらかの意思によって心を歪められてしまったが、お前たちは元は正義の心を持った戦士達だ。リリーフブルーは君を守るために悪に屈さなかった高潔な人格の持ち主———救おうと思うには十分な理由だろう」

「……っ」

「そもそもそのような外道なことをすれば私は……否、我々はジャスティスクルセイダーではなくなってしまうからな。我々はヒーローだ。そう在らねばならない」

 

 ここにきてようやくなぜ多くの地球人からジャスティスクルセイダーが支持を得ているのか理解できた。

 正義の味方。

 その言葉通りに、目の前の男を含めた彼らは正しいことを行ってきたのだ。

 

「ありがとう。ゴールディ」

「フッ、惚れるなよ?」

「いや、それはないから。なんか生理的に無理だし」

「失礼が過ぎるのでは?」

 

 惚れるなんてことはありえないが、感謝はする。

 ばっさりと切り捨てた私に頬を引きつらせたゴールディだが、気を取り直してすぐに立ち上がると扉を開きこちらを振り向いた。

 

「で、では、ついてきたまえ」

「どこに連れていくの?」

「君の兄のところだ」

 

 ゴールディについていき部屋から出ると、そこは私がレッドに連行された場所とは異なる空間であった。

 ここはまさか、ジャスティスクルセイダーの新基地?

 まさかの場所に驚いていると、すぐに別の扉の前に辿り着く。

 

「君の兄は既に隠れ家から運び出している」

「っ、もう!?」

「場所は把握していると言っただろう?」

 

 どれだけ仕事が早いんだこの男は。

 そのまま扉を開くと、兄が眠っている見慣れたポッドと———黒騎士の中身、穂村克己と彼の隣にいる女性、そして兄さんのポッドの前で何かを操作している小さな女の子がいることに気づく。

 

「ヒラルダ……?」

 

 少し癖のある肩ほどまでの髪の女性、ついこの前仲間として協力していた人物である黒騎士に即落ちしたヒラルダに私は目を丸くする。

 

「えーと、あの、私、ヒラルダじゃ……」

「色々いいたいことがあるけど、とりあえず文句の一つくらい———」

「あー、イエロー! ヒラルダは私の方だよ」

「……は?」

 

 ヒラルダに文句を言おうとしたら傍にいた桃色の髪の角の生えた褐色の少女が、見覚えのある生意気な笑顔で自分を指さしそう言ってきた。

 

「あ、あんたがヒラルダ?」

「うん。そうだよイエロー。いや、いきなり姿を消してごめんねー。……あ、もしかして私の正体が思いのほか可愛くてびっくりしてる? いやー、私ってこんなにかわいだだだだだ!?」

 

 とりあえずイラっとしたのでヒラルダの両頬を掴みひっぱる。

 そして納得する。

 こいつがどうしてクソ生意気で、素振りが大人とも思えなかったのは文字通り子供だったから。

 

「そこまでにしておけ」

 

 見かねたゴールディが止めに入ったことでヒラルダを解放する。

 というより、こいつが兄さんのポッドを設置していたのか。

 

「しかし、どうしてカツミ君と風浦氏がここに? 設置はヒラルダが行うと聞いていたのだが」

「俺は風浦さんの付き添いだ。風浦さんがここから誰かの声を聞いたらしいから」

「……誰かの声だと?」

 

 ゴールディの視線にヒラルダと同じ顔の……いいえ、ヒラルダが乗っ取っていたであろう人間が頷く。

 でもなんだろう、このカゼウラと呼ばれた女性から、馴染みのある雰囲気がする。

 

「分かりません。でも男の声でなにかが聞こえてきたんです」

「……その声は今も?」

「今は何も。でも最後に“彼に掌をかざせ”とだけ」

「彼? ……この場合の彼とすると」

 

 ゴールディの視線がポッドで眠る兄へと向けられる。

 そして、確認するように彼の視線が私へ向けられ———私も頷く。

 

「では風浦氏。このポッドに掌を向けてもらってもいいだろうか?」

「は、はい」

「カツミ君。君はなにが起こっても対処できるように構えていてくれ」

「分かった」

『いつでも変身できるようにするよ』

『ガァウ!!』

 

 穂村克己の両肩に変身用のデバイスが乗る。

 それに合わせて、カゼウラがポッドへ掌を向けた———その瞬間、彼女の手から五色の光が浮かび上がった。

 

「これは、星界エナジー!? どういうこと、ヒラルダ!?」

「あー、えー、桃子はね。私のせいで星界エナジーを自分で作り出せるようになっちゃったの」

「はぁぁぁ!?」

 

 そんなことありえるの!?

 星界エナジーは星界核からしか生成されないものだ。

 断じて、それ以外の手段で手に入るものではないし、なにより生物が生成できるほど簡単なものじゃない。

 驚きに目を丸くしていると、兄の身体を包み込んだ星界エナジーが大きな輝きを見せる。

 

「っ、兄さん!?」

 

 そう叫んだ瞬間、兄さんの身体からなにかが飛び出した。

 それは、勢いよくカゼウラへ向かって飛んでいき———瞬時に間に入った穂村克己が変身しながら、突っ込んできた何かを掴み取った。

 

「何だ、お前?」

『失礼をした。ようやく飛び出した手前、止まることができなかった。感謝する』

 

 掴み取られたのは黒い星模様をしたぬいぐるみ、のような生き物。

 丸みを帯びた白い装飾が施された人型のそれは、彼の手から離れるとふよふよと浮きながら私たちが見える位置に停止する。

 そこでようやく私は、このぬいぐるみのような生命体の正体に気づく。

 あまりにも最初に会った時とかけ離れた姿をしているが、その声、口調は紛れもなく私が知っている奴だ。

 

『我が名はゼグアル。星界を守る黒き巨人なり』

 

 私たちを星界戦隊に選んだ星界エナジーを分け与える者。

 そして、私たちが悪に堕ちた時から姿を現さなくなった裏切りものだ。

 

 

 

 




長くなってしまったので前後編に分けました。
一般家庭出身のレッドがどうしてこんなことに……?

次回は明日の18時更新予定。
追加の挿絵の方も、明日Twitterにて投稿する予定です。


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閑話 モータルイエローの決断 後編


二日目二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。

先日に引き続き追加の挿絵、Twitterにて二つほど公開いたしました。
・参上ジャスティスクルセイダー
・VSマグマ怪人
https://twitter.com/koxHhDrnIZIMYJZ




そして、モータルイエロー視点の閑話、後編となります。


 黒き巨人、というにはあまりにも小さくなったゼグアルの姿を見て、一瞬呆然とした私の頭に沸々とした怒りがこみ上げた。

 私たちが変わってしまったあの戦いの時、ゼグアルはどこかへ消えた。

 まるで敗北した私たちを見捨てるように、変わり果ててしまったことを責めるようになにもしなかった。

 それが、どうして今出てきた。

 星界エナジーを単独で生成できるやつが現れたからか?

 

「———ッ、ゼグアル!! 今更出てきて何の用!?」

 

 怒りに支配された思考のままゼグアルに食って掛かろうとした私だが、それよりも早くゴールディが手で制す。

 

「落ち着くのだ。……見たところ、彼は普通の状態ではない」

『……その通りだ。我はブルーに宿った力の一端。我が本体は依然として“神位星界(ステアエリシア)”へ囚われたままだ』

「いきなり専門用語も飛び出してきたぞ」

 

 囚われてる……?

 待って、まさかあの時から囚われているってこと?

 

『すまなかった。我が不覚を取らなければお前たちが悪に堕ちることなどありえないはずだったのだ』

「まずは事情を話しなさいよ。あんたを怒るかどうかは、それから決める」

『うむ』

 

 一先ず落ち着いた私に、少しだけ安堵したゼグアルはその場にいる私たちを見回した後に響くような声を発する。

 

『全ての始まりは、お前たちが滅亡しかけた星———アルファへと目覚めた少女を救う任務を受けたことがきっかけであった』

「忘れもしないわよ……!! あの任務からレッド達はおかしく……」

『いいや、君達の本来の力ならばアルファの少女も、滅びゆく星も救えたはずだった』

「……は?」

 

 救える、はずだった?

 でも待って、滅びゆくアルファの少女?

 

「待って、私は黒騎士を倒すために……」

『それらはお前たちが巨悪に敗れたという悪に堕ちるがための理由にされた偽りの記憶だ』

 

 偽物の、記憶?

 そんなはずがない、と記憶を巡らせてみるが……確かに、黒騎士に負けたという認識があるだけで具体的にどう負けただとか、どういう風に恨みを持つようになったのか全然思い出せない。

 

「なんで、こんなことに気づけなかったの……? そうよ、だって黒騎士はあの時子供で……自分自身の歌で星を……」

「認識改変か?」

 

 穂村克己の指摘にゼグアルは首を横に振る。

 

『そこまで高度なものではない、が。それに近い洗脳を行ったことは確かだ。……そして、なぜそうなってしまったのか。全ての原因は我らの力を司る“星界エナジー”が、奪われてしまったからだ』

「……え」

『次元の虫、悪食の渦、隠れし者、数多くの名で呼ばれる星界エナジーを付け狙う星雲に巣食う者———我々は奴らを星界を食らう群れ(スタバーズ)と呼んでいる』

『スタバーズ……?』

 

 仰々しい名を並べながらゼグアルは続けて言葉を口にする。

 

『君達がアルファの少女の力……いいや、あの状況では彼女の能力がアルファの中においても非常に危険なものだったこともあり、君達の補助をしていた私は隙を突かれ星界エナジーの支配権を奪われ、その影響は君達にも起きてしまった』

「まさ、か」

『そして、支配権を乗っ取った奴らは君達の精神を汚染し、星界戦隊の力すらも手中に落とそうとしたのだ』

 

 そうして私たちは精神操作を受けて悪に堕とされたってこと……?

 それじゃあ、私があれだけ目の敵にしていた序列八位の黒騎士は……

 

「私たちが助けられなかった……子供のアルファだった……?」

 

 認識した瞬間、記憶が思い起こされる。

 大地を逆転させ星そのものを破滅させる力が渦巻く中で、頭を抱えて私たちに助けを求める女の子の姿。

 それが、あの八位の成長した顔と重なってしまった。

 それに対して私はなにかしてあげるどころか、なにもできていなかった。

 

「っ」

 

 じゃあ、どうして八位は私たちと関わってきた?

 復讐? いや、まさか……私たちを守っていた?

 普通ならありえない可能性。

 八位は普通にレッドの身体を壊したりしていたし、なにを考えているのかも分からない。

 だが、その可能性を考えた瞬間に、ぐらりと身体から力が抜けそうになる。

 

「ちょ、イエロー大丈夫!? 立てないなら座りなよ!」

「だ、大丈夫……ちょっと立ち眩みがしただけだから……」

 

 取り返しのつかない勘違いを抱いていた衝撃で精神的に打ちのめされながら、私はなんとか両足で立ってゼグアルを見る。

 

『封印されかけ、精神を汚染された君達を前にした私にとれる手段は限られていた。しかし、最後の力を振り絞り、君の汚染を一手に引き受け、今まさに心を壊そうとしたブルーに私の力を僅かに託した』

「兄さんの……」

『私が出てこれたのは、そこにいる彼女のおかげだ』

 

 ゼグアルがカゼウラを見る。

 カゼウラはいきなり話を振られて驚きながら「いえいえ!?」と手を横に振っている。

 

『だがそれで君たちの状況を解決できるはずもない。可能なことといえば、ブルーの壊れた精神を癒し、来たるべきその日までに守ることだけであった』

「……待って、それじゃあ」

『ああ』

 

 私に真っすぐ視線を向けゼグアルが頷く。 

 

『君の兄はまだ助けられる。———これは、君達を星界の戦士として選んだ私の最後の償い』

 

 兄さんが、助けられる。

 今度こそ足に力が入らなくなって崩れ落ちかけたところを、ヒラルダの小さな身体が支えてくれる。

 

『そして、君の兄を救うのは新生した星界雲器(ステアスピリチア)。君にかかっている』

「わ、私に? わ、わぁ、いきなり責任重大……」

 

 あたふたとするカゼウラ。

 彼の話にゴールディが一歩前に出て質問を投げかけようとする。

 

「ゼグアル、質問をさせてほしい。星界エナジーとはなんだ? エナジーコアとは異なるエネルギーを放出することはこちらも理解しているが、このエネルギーはあまりにも生物的(・・・)とさえ思える」

『……』

「星界エナジーはエナジーコアに限りなく近いなにかを感じる。科学者としてこのようなことを口にするのは非常に業腹この上ないが、このエネルギーは理論や科学を超越したものがあるような気さえしてくる」

 

 私たちも星界エナジーについて知っていることは限られている。

 星界剣機に搭載されていた星界核を通して星界エナジーが供給され、それらが星界剣機と私たちのスーツに力を与える。

 そのエネルギーの根源がどこからきたのかを、ゼグアルは私たちには話していない。

 

『ふむ、君達には話しておくべきだろうな。なにより、奴らの手に堕ちた星界戦隊を救ってくれた恩がある』

 

 ふよふよと浮いたまま、ゼグアルは自身の胸にあたる部分を指さす。

 

『そもそも星界エナジーは、我が種族『星界人』が持つ生命エネルギーだ。元々は()宇宙にて原初のアルファを相手に次元宇宙のために戦っていた我々が用いていたもので、それぞれが固有の能力を持っている』

「色々と尋ねたい単語はあったが……まず!! 星界エナジーは元から生物が作り出していた力だったのか!?」

『ああ。だが激しい戦いの末、我を除いた五体の星界人は死に、その亡骸は神位星界を創造し、その空間は彼らの生命力———星界エナジーで満ちた』

 

 お、思いのほかスケールが凄かった……。

 というより、元々はゼグアルにも仲間がいたってこと?

 

「お前の言う神位星界とやらが星界人の亡骸によって生じた空間、そしてその空間に満ちるエネルギーが星界エナジー。なるほど、これでは生成や複製も不可能なはずだ。なにせ、亡骸で世界を創造するような力……いいや権能を持つ者達だ。それらを司るエネルギーを複製しようものなら神のクローンを作ることと同じということだ」

「い、一気に話のスケールがアメコミみたいになっちゃった……」

 

 ぶつぶつと考察しているゴールディと、ゼグアルの話を聞き口元を引きつらせるカゼウラ。

 穂村克己は無言で聞いているだけでなにを考えているか分からないけど、まったく理解していないという風ではないようだ。

 彼らの反応を見て、また一つ頷いたゼグアルはまた言葉を発する。

 

『星界戦隊に与えた五つの星界核は、我が五人の盟友の心臓が結晶化したものだ。そして、星界核は神位星界から星界エナジーを抽出することを可能にしており、どの次元宇宙においてもこれらは一つしか存在していない』

「……私が平行世界に飛ばされた時、星界核の調子が悪かったのはどうして?」

『恐らく、現在星界エナジーを牛耳っている星を食らう群れ(スタバーズ)の観測次元から離れたせいだろう』

 

 そういえば、ヒラルダは星界核はどうしたのだろうか?

 別に今更取り戻したいとは思わないが、今どこにあるのかは気になる。

 

「観測次元……?」

『どのような次元、時間軸においても神位星界(ステアエリシア)はただ一つだけ、そして神位星界(ステアエリシア)はあらゆる次元宇宙に“窓”を持つ。恐らく、君達が飛ばされた平行次元宇宙は、奴らが支配する場所から遠くにあったから、と考えられる』

「……そういうことだったのね」

『しかし……現在、星界核はどこに? ここには存在していないようだが』

「あー、ごめん。平行世界で困ってる人達にあげちゃった」

 

 ……え?

 並行世界に置いてきたってこと!?

 予想を通り越したヒラルダの答えに唖然としていると、ゼグアルが穏やかな声で答える。

 

『いいや、むしろ感謝している。スタバーズの支配から離れた次元で、星を救うという本来の役割を遂行している。我が友が、何よりも望んでいることだろうからな』

 

 そこまで言葉にして数秒ほど間を開けたゼグアルは、再びその星模様の口を開いた。

 

「……先ほどからちょくちょく専門用語的なものが入っているのが気になるのだが、説明してもらえるか?」

 

 ゴールディがそう尋ね、ゼグアルが答えようとしたその時、ゼグアルの身体が足先から光の粒子へと変わっていく。

 

『……すまない。もう時間のようだ』

「エッ、ちょ、ちょっと待ちたまえ!! ステアなんちゃらという言語についての説明がまだなのだが!?」

『我が本体は神位星界内の惑星の核に封印され、力を吸収され続け身動きができない。君達にできる干渉もここまでだ』

「あれぇ!? もう畳みに行っている!?」

 

 消えていく自身の身体を一瞥した後に、カゼウラへと視線を移す。

 星模様で表情こそ分からないが、その雰囲気は私と兄さんが初めて会った時と同じ穏やかなものだった。

 

星界雲(ステアスピり)……いや、君の名を聞いても?』

「か、風浦桃子です」

『カゼウラ・モモコ。我々の不始末に君を巻き込んでしまい申し訳ない。無理にその力を使う必要はない。他者に強いられ、使うのではなく君が、君の心が望むがままに用いてこそ、星界はより強い力と輝きを示すのだ』

「……はい」

 

 満足したように頷いたゼグアルは、次に彼女の隣にいる穂村克己を見る。

 数秒ほど無言のまま見つめた彼に穂村克己も首を傾げる。

 

『地球の強き者達よ。カゼウラ・モモコの存在はこの私にとっても想定外だ。原初の双翼が発生した特異宇宙だからこそ起きた奇跡かは判断できないが、彼女が力を持ったことには必ず理由がある』

「「「……」」」

『いずれ、奴らも本腰をいれて地球に攻め込んでくるだろう。星界雲器を攫うために、それまでに備えておけ———恐らく、既に奴らは地球に魔の手を伸ばしている、からな』

 

 そこまで言葉にしてゼグアルは光の粒子となって消えてしまった。

 元より、力の断片といっていたので文字通りに最後の力を振り絞ったのだろう。

 

「風浦さん、大丈夫ですか?」

「いやー、なんか状況に慣れ過ぎてもう驚いていいのか分からなくなっちゃって……はぁ」

 

 これからの戦いはカゼウラモモコ……彼女を中心に起ころうとしているのかもしれない。

 私はどうするべきか……だなんて考える必要はないか。

 兄は目覚めさせることができるかもしれない。

 そんな可能性が出てきたのなら、私も力を尽くしたい。

 

「ねえ、ヒラルダ」

「んー?」

「ソーリア」

「んん?」

「ソーリア、それが私の名前。これからはモータルイエローじゃなくて、そう呼びなさい」

 

 そのために私は自分の名を明かす。

 かつて、なにもない惑星で兄さんと共に生きていた時の、私の名前。

 死んで償うためじゃなく、生きて償っていこう。

 モータルでもなくリリーフでもない、ソーリアとして私は戦う。




星界関連設定開示回。
ゼグアルは初代星界戦隊の追加戦士枠みたいな立場のキャラでした。
マスコット枠だったり、ウルトラマン枠になれたりと結構属性が多いキャラだったりします。

スタバーズの名前に関してはほぼ造語。
Stella/vore/ s をなんかそれっぽく読んだ感じです。


今回の更新は以上となります。


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閑話 本能と理性の狭間で



書籍版「追加戦士になりたくない黒騎士くん」が6月30日、本日発売されました!!
発売に際して、また活動報告を書かせていただきました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=299292&uid=45172


そして、最後の閑話。
前半後半で視点が変わります。
最初はアカネの視点、
後半からアズの視点でお送りいたします。


 記録というものは面白いものだと思う。

 家族の記念写真とか、友達と一緒に遊んで時に並んで撮ったときのものとか、大事な思い出を一つの媒体に記録し、残してもらえるって考えると本当にすごいって感じてしまう。

 私は、もう新坂朱音という一般人として普通の友達と会うことすらできなくなっちゃったけど、やっぱり昔の写真とかそういうものを見てじーん、と来ちゃうときもある。

 だけど。

 その逆でどうにかして消さねばならない記録というものがある。

 あえて言葉にするならば黒歴史というものだろう。

 正直、恥ずべき過去など何一つもないと自負する私だが、まさか並行世界の自分があのような暴挙に出ていたとは思いもしなかった。

 

「ね、ねえ、お願い話を聞いて!?」

 

 第二本部内のミーティングルーム。

 普段は作戦内容とか色々と話し合いをしたりするその部屋の真ん中で、私は椅子に縛り付けられ身動きをとれずにいた。

 

「裁判長。判決を」

 

 腕を組み、仁王像のような威圧感を放ち立っているきららが、普段司令が座っている椅子に座っているアオイに声をかける。

 伊達眼鏡をかけた似非後輩はどこからか取り出した裁判で使うハンマーみたいなものでテーブルを叩く。

 

「判決。アカネ、死刑」

「重ぉ!?」

 

 一切の弁論も許さず死刑宣告!?

 ど、独裁だァー!! 認められるかこんな裁判!!

 

「どうやら納得いってないようだね。この卑しいレッドが。では証拠を見せてあげよう」

「え、あ、やめ———」

 

 葵がぴっ、と端末を操作するとプロジェクターから映像が映し出される。

 そこには私よりも少し幼い、並行世界の私がカツミ君を前になにかをしようとしているのが見える。

 

『お兄ちゃんって呼んでいい?』

 

『カツミさ……ハッ……お、お兄ちゃんはなにが食べたい?』

 

『妹歴が違うんだよこの長女共め!! 言っておくけど私は元来妹!! 年上のカツミさんをお兄ちゃん呼びしても許されるんだよ!! ね、お兄ちゃん!!』

 

 そこには私がカツミ君をお兄ちゃんと呼んでいる映像が流れていた。

 

「え、これのなにが問題が? カツミ君は私のお兄ちゃんでしょ?」

「アカン!? 別世界の自分を同一視して、カツミ君の妹になろうとしとる!!」

「厚かましいなこのレッド……」

 

 いや、正気だよ。

 確かに私はカツミ君をお兄ちゃんと呼んだ覚えはない。

 なんだったら同い年だ。

 

「よく考えて。並行世界の私がお兄ちゃんと呼ぶのをカツミ君は許したんだよ? なら、ここにいる私が彼をお兄ちゃんと呼んでも平気なのが自然では?」

「自然の法則を捻じ曲げるなや」

 

 ぶっちゃけると私は上に姉二人がいる三人姉妹なので、兄という存在に憧れてもいた。

 なにせ姉二人が私生活ダメダメすぎるし、非常に私に対して大人げない外面完璧な駄目人間だからだ。

 

「なら後輩で最強で年下な私の方が相応しいのでは?」

「身の程をわきまえろ。それが許されるのはハルちゃんくらいだよ」

「寝言は寝て言え」

「久しぶりにキレちまった。だせよ、テメーのデッキを」

 

 どこからともなくポケカのデッキを取り出すアオイを無視して話を続けようとしていると、ミーティングルームの扉が開き、そこからカツミ君が入ってくる。

 

「あ、ああああれ!? カツミ君、どうしたの!?」

「ん? いや、昼時だから誰かいねーかなって思って。ここで何してるんだ?」

 

 時間を見てみれば確かにお昼時だ。

 いや、待てよ。

 ここで彼が来てくれたのはある意味で都合がいいのでは?

 

「カツミ君!」

「ん?」

「お、おお……」

「お?」

 

 並行世界の私にだってできた。

 ならば、私にできない道理はない……!

 頬に熱が入るのを感じながら私は勇気を出して声を振り絞る。

 

「お兄ちゃんって呼んでもいい!?」

「え、俺達同い年だろ」

 

 正論で殴りかえされて、思考が吹き飛ぶ。

 普通に困惑されてるところもショック。

 

「しかも妹ってお前。別の世界のお前を見たからそう呼びたかったのか?」

「ぁ、え、その」

「いや、まあ、お前三人姉妹の末っ子だし、兄貴が欲しいと思う気持ちも分からなくもねぇけど」

「……ァ、ワァ……」

「悪いけど、俺はお前の兄貴にはなれねぇよ」

「……」

 

「すっごい勢いで内情察してもらえた上に断られてる」

「む、むごい……見てるこっちまでいたたまれなくなってきた……」

 

 私の願望とか諸々全部察せられて、その上で申し訳なさそうに断られてしまった。

 あれ、私ここで死ぬのかな?

 もう恥ずかしすぎて生きる価値がないとさえ思えてきちゃった。

 笑みを引きつらせながらぷるぷると震える私にカツミ君はため息をついて視線を斜めに逸らす。

 

「つーか、兄貴とかそれ以前に俺たちは友達だろうが。今更、変な呼び方すんな、俺とお前は対等なんだから……こっちの調子が狂う」

「か、カツミくーん……」

 

 なんとか一命はとりとめたようだ。

 彼にすがりつこうとして肩を押さえられた私に、カツミ君はなにかを悔いるような表情をする。

 

「まあ、俺も悪かった」

「え、なにが?」

「心配かけさせたせいで精神的に参っちまったんだな。すぐにハクアのところにつれていくからな……」

「ち、ちが、違う違う!」

 

 なんかすっごい深刻な方に捉えられちゃってる!?

 力強く手を取られドキマギとしている間に、彼は私の手を引いていく。

 

「大丈夫だ。ハクアは記憶喪失になった俺を弟にした前科がある。お前の悩みも分かってくれるはずだ」

「白川ちゃんに二次被害が広がっていくぅ!?」

 

 こ、このままじゃ医務室で私と白川ちゃん、そしてカツミ君で気まずいメンタルカウンセリングが始まってしまう!?

 咄嗟に助けを求めようと振り返るが、二人は既にそこにはいなかった。

 あの裏切り者共!

 そうこうしているうちに、白川ちゃんのいるメディカルルームへとたどり着いてしまう。

 

「ハクア! 記憶喪失の俺を弟にしたお前に相談したいことがある!」

「ハゥ!?」

 

 あぁ、こっちはもう収集つかないことに!?

 

 


 

 その片鱗を感じ取った瞬間、私の中の根源的な本能が大きく揺るがされた。

 この世界に帰還した穂村克己が見せた形態———いえ、なりかけた形態とでもいうべきだろう。

 “運命のアルファ”に“進化のアルファ”という“前宇宙”からの遺産。

 オメガが存在しない、単一であり二人のアルファ。

 星界人を中心とした勢力に与し、前宇宙を食らいつくそうとした原初のアルファを退けたその後に自身の全ての力を引き換えにエナジーコアへと姿を変え、今の次世代の宇宙に流れ着き———その先で、導かれるように穂村克己の手に渡った。

 そして、異例に満ちたありえざる双子のアルファの力が合わせられ、さらに高められた太極を揺るがし、破壊に至る力が彼に宿った。

 

「ッ、ァ……!!」

 

 その力の片鱗を目にした瞬間、私の胸の奥底から形容することすらできない感情が湧きだした。

 ようやく彼が至高に至った喜びと、嫉妬。

 私の手で、目覚めさせるつもりだったのに、先を越された!

 許せない許せない許せない!!

 私のものにしなければ!

 穂村克己は、私の……私が最初に見つけた……ッ。

 

「……ッ」

 

 顔を押さえた指の隙間から見える黒髪が毛先から淡い光を放つ青色へと変わっていく。

 駄目だ、押さえつけなければ、このままでは私は我を忘れてしまう。

 

「落ち着きなさい、私……」

 

 私は、ルインじゃない。

 原初じゃない、なり損ない。

 湧き上がる衝動を理性で押さえつけ、呼吸を整える。

 青色へと変わりつつあった髪も元の黒髪へと戻って、その事実に少しだけ安心する。

 

「ルインを、殺せる力……」

 

 いや、まだ駄目だ。

 まだ彼はルインと戦える資格を手に入れただけだ。

 まともに戦ったとしても勝てる保証はない。

 

「あんな存在、許してやるものか」

 

 ルインという存在がいるだけで腸が煮えくり返るような衝動に駆られる。

 そんな憎悪を持つ私をルインは理解しながら、面白がって放置している。

 その侮りが、慢心が、さらに私の怒りを逆なでする。

 

『———』

 

 

 顔を押さえ、怒りに支配されかけている私に、地球のオメガのクローン“ν(ニュー)”が心配するように服の袖を掴んで見上げてくる。

 真っ黒に染まった相貌に浮かんだ二つの光る目。

 表情は分からないが、私を母と認識しているこの子の目が私を気遣っていることを察した私は、表面上は怒りをおさめ、ニューの頭を撫でる。

 

「ああ、心配ない。心配ないとも。私は大丈夫さ」

 

 穂村克己の成長は一先ずもういい。

 ジャスティスクルセイダーの成長を考えなければならない。

 

「ゴールディは一旦、穂村克己を戦いから遠ざけるだろう」

 

 恐らく、穂村克己は仲間に自身の力を明かしていない。

 明かしているとしても、それは極一部、ジャスティスクルセイダーの三人娘か、スーツ開発者であり自称親友を名乗るゴールディくらいだろう。

 そう仮定するならば、どのような事態に発展するか分かったものじゃない彼の新しい変身をおいそれと使わせるとは考えにくい。

 

「なら、当分は怪人事変の繰り返しかな」

 

 戦いの時代は遡り、怪人VSジャスティスクルセイダーといった感じになるかな。

 

「星界雲器も手に入れなきゃならないし、やらなきゃいけないことが多すぎるねぇ。待てなくなった奴らもやってくる可能性もあるし大変だ」

 

 次元の虫という大仰な名で呼ばれる低能の虫共に来られても面倒なだけなんだよなぁ。

 ま、星界エナジーで怪人を強化できるし、色々と遊んでいこう。

 

「ニュー、これからもっと忙しくなる。頑張ってね」

『? ———!』

「よしよし」

 

 不思議そうに首を傾げた後にこくこくと頷くニューの頭を撫でる。

 




真っ向からカツミにボコボコにされたアカネと、なぜか巻き添えをくらったハクアでした。



今回の更新は以上となります。
次回あたりから新章に移れそうです。


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第六部
有象無象の“君”たち(掲示板?回)


お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

今回は掲示板回のようでちょっと違うかもしれない回です。
序列二位、イリステオ?視点です。


 

1:おバカで能無しな僕は調子に乗りました

 今回のやらかしについては全体的に僕が悪かった。

 ルイン様が穂村克己へ向ける感情がただの好敵手や育成相手とばかり思い込んでいたばかりに、僕は下手を打った。

 正直、反省している。

 

2:“僕”と名無しども

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3:“僕”と名無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

4:“僕”と名無しども

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5:おバカで能無しな僕は調子に乗りました

 君たちの怒りも分かる。

 このふざけた伝え方も許してほしい。

 僕の右腕はもう元には戻らない。

 存在すらも揺るがす穂村克己の一撃は平行次元世界に遍在する全ての僕に影響を与えた。

 

6:おバカで能無しな僕は調子に乗りました

 これは傷とかそういう問題ではない。

 最初から腕が存在していなかったという概念を叩きつけられたものと同義だ。

 まあ、これに関しては僕の能力上、殊更平行次元との繋がりが強かったというのも理由の一つだろうけど、どちらにしろ驚異的だ。

 

7:“僕”と名無しども

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8:“僕”と名無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

9:おバカで能無しな僕は調子に乗りました

 実のところ僕は結構精神的にきてる

 こうして話しているだけで震えが止まらない

 断じて“僕”達の怒りに任せた罵倒に堪えたわけじゃない

 僕は、アレに、穂村克己に関わることを恐れ、心折れてしまったんだ

 

10:カワイイ変異体な“私”

 

 なのでこれからはお茶目でカワイイ“私”がこの特異点宇宙の担当を務めよう!!

 

11:“私”とわめくだけの能無しども

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12:“私”とわめくだけの能無しども

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13:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

14:“私”とわめくだけの能無しども

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15:カワイイ変異体な“私”

囀っているねぇ有象無象共!!

メンタルよわよわな“君”達に代わり、この“私”がこの特異点宇宙を担当することになったわけだ。

当然、私も穂村克己の攻撃の影響を受けて絶賛右腕がないわけだけれど、まあそれは反省を兼ねて義手をつけることで我慢しよう。

地球文化では邪悪系義手黒幕女子ってジャンルも結構受け入れられるでしょ?

 

16:カワイイ変異体な“私”

ま、そういう恐怖とかそういうものに無頓着な私を“君”達は変異体と呼んで蔑んでいる、というより絶賛蔑み中なんだけれど、そんなものはどうでもいいことだ。

痛くもかゆくもないし、気にしてもない。

だから平気で皆の知らないことを暴露するし、それに対してなにも悪いなんて思ってもいない。

 

17:カワイイ変異体な“私”

私が特異点宇宙の担当になったからには、つらつらとクソつまらない独白を垂れ流す情報共有は廃止することにした

この方式なら君たちの聞くに堪えない野次を消しさることもできるし楽だからね!!

 

18:“私”とわめくだけの能無しども

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19:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

20:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

21:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

22:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

 

451:カワイイ変異体な“私”

うーん、うるさいから思考送信停止!!

“君”達のようなメンタルざこざこクソ雑魚ナメクジに発言権があると思う時点で勘違いも甚だしいなぁ!!

今から長話するから黙ってろよカス共がよぉ!

 

452:カワイイ変異体な“私”

さて、無駄話はここまでにして、別の無駄話をしようか。

今回する内容は前宇宙における戦いについて、かな。

原初のアルファと前宇宙における連合勢力による激突。

おおよそ強大な力を持つ彼女が見境なく、宇宙を壊しつくすほどの力を振るい暴れまわった混沌の時代だ。

 

453:カワイイ変異体な“私”

 いやぁ———!!

 あの時代マァジでやばかったなぁー!!

 もう世紀末っていうか星紀末って感じだったし!!

 星界人率いる連合軍をたった一体で相手どる原初もえげつなかったし!

 かといってほぼ第三勢力みたいな感じで参戦してきた双子のアルファの傍迷惑さったらもう!!

 最終的には団結したけど宇宙を守る勢力VS災害VS災害って感じの地獄みたいな三つ巴だったもんなぁー!!

 てか双子のアルファ荒みすぎて地獄みたいな性格してて終わってるのマジで怖かったなぁ!

 あれが今、ああなっている事実すらやばいことだと思ってるからね、私は!!

 

454:カワイイ変異体な“私”

 こほん、おっと、取り乱してしまったね。

 すまないすまない。

 

 運命・因果には連鎖と繋がりがある。

 前宇宙には原初のオメガは現れなかった。

 双子のアルファには、そもそも彼女達にとってのオメガも存在しなかった。

 どちらかが欠けた宇宙はさぞかし息苦しいものだったに違いない。

 

 うーん、端的に言って虚しいね!!

 癇癪に巻き込まれる宇宙は大迷惑ってレベルじゃないけどね!!

 

455:カワイイ変異体な“私”

 そして現宇宙における原初のアルファ……てかルイン様がそうだ。

 いい加減濁すも面倒だし、これを見ている“君達”も辟易としているころだろうしね。

 ルイン様が以前の原初と同じか表現していいのか私にも分からない。

 そもそも今の特異点宇宙はこれまでとは大きく異なっている。

 

 確実に言えることはこの世界においての原初のアルファたるルイン様は、前宇宙の原初を遥かに上回る力を有していることだ。

 むしろ歴代最強かな? なにせ、彼女は小指一つ動かす必要もなく“君達”に干渉することができるからね。

 

456:カワイイ変異体な“私”

 なにがどうしてこんな混沌だらけの時代になってしまったのか甚だ疑問だ。

 そもそもの話、原初のアルファが二人も発生したこと自体が異常じた———あっ……まあ、いいか明かしてしまおうか。

 この宇宙を構成する要素として、絶対に覆せない法則というものがある。

 

457:カワイイ変異体な“私”

 一つの宇宙において、原初の発生は一体のみ。

 原初のオメガも一人、原初のアルファも一人。

 それが絶対に覆るはずのなかった原則だった(・・・)

 

 ここまで話せばもう予測できるよね?

 

458:カワイイ変異体な“私”

 そう、この宇宙には二人の原初のアルファが発生した。

 だが一つの宇宙において原初のアルファとして成るのは一人のみとするなら、それはより強い方、つまりはルイン様だったわけだ。

 

459:カワイイ変異体な“私”

 悲惨なのはもう一人のなりかけの方だ。

 もう一人は完全になることさえ許されず、常にその存在を押さえつけられ完全に至ることはない。

 資格はあるのに、それ以上の進化を許されない。

 だが、彼女の身体は理性を、正気を失ってでも原初に至ろうとする。

 ああ、その苦しみはきっと想像できないことだろう。

 並みの精神では崩壊してしまうような衝動を理性で押さえつけ、未だに正気を保っていることは最早奇跡としかいいようがないだろう。

 

460:カワイイ変異体な“私”

 ルイン様への憎悪。

 

 ただそれだけの憎しみの感情だけが彼女の原動力。

 

 はじまりにおわりをもたらそうとする者。

 

 それが、星将序列第六位———

 

げんしょのなりそこない

 

———いい加減黙れよ

———お喋りの、クソ野郎

 

461:カワイイ変異体な“私”

 ひぁっ

 

462:カワイイ変異体な“私”

 これ以上のお話は私の身の安全上まずそうなのでやめておこう! うん!!

 

463:カワイイ変異体な“私”

 いかに成りそこないとはいえ、原初の資格を持つ超越者!!

 私も“僕”のように痛い目にはあいたくないしね!

 

 たくさん暴露しちゃったせいでさすがの“君達”と言えども混乱しているだろう?

 

464:カワイイ変異体な“私”

 返答がないね。

 あっ、書き込めないんだったごめんね!! あはは!!

 

465:カワイイ変異体な“私”

 さて、此度の語り手はこの私、星将序列2位の変異体。

 

 “次元超越”のイリステラ(・・・・・)

 

466:カワイイ変異体な“私”

 イリステオじゃないよ、イリステラだよ。

 みんなは気軽にステラちゃんって呼んでね♪

 

 じゃあ、停止解除♪

 

467:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

468:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

469:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

470:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

471:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

472:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 




二位の多次元偏在設定を生かそうと考えた結果、変異個体ステラちゃんが爆誕。
アズ関連はこれまで出た情報を確定化させただけなので、それほどネタバレじゃない感じです。

次回の更新はなるべく早くしたいと思います。


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闘争から離れて/新たな脅威

ちょっと遅れてしまって申し訳ありません

今回はカツミ視点。
後半からサニー視点でお送りいたします。


 並行世界でのザインとの戦いで目覚めた姿。

 世界を塗り替え、あらゆるものを滅ぼしかねない危険すぎる力は、他ならない俺にとっても厄介ともいえるものだった。

 最悪なのが普通に変身しようとすれば自動的にその姿になっちまうということだが、それは……プロトが遺してくれた力で抑制され、なんとか力を溢れ出さずに戦えるようにはなった。

 だが、それだけでは安心はできなかった。

 俺は元の世界に戻り次第、このことをレイマに打ち明けて判断を仰いだ。

 

「カツミ君、その力を使うにはあまりにもこの星は脆すぎる」

「……だよなぁ」

「しかし、その力は凶兆ではなく希望と見るべきだと私は考える」

 

 希望……?

 司令室にていつもの白衣を着たレイマは俺の力をそう言葉にする。

 

「とてつもない、いや言葉で形容することですら難しい力を有するルインに対抗する力。まさしくその力は我々にとっての切り札となる。君も、漠然とだが感じているだろう?」

「ああ。あいつと戦うのは……、俺じゃなきゃダメなんだと思う」

 

 あいつも少しずつ変わってきているようにも思えるが、その根本にある戦いを求める願望は一切変わっていない。

 それが変わらないようでは、戦うことは避けられない。

 

「勿論、君だけに頼り切るなどということには絶対にさせない、が……現状、迂闊に封印が解けるリスクを避けるために、君の出動は制限せざるをえないだろう」

 

 戦闘の制限。

 制限された姿、プルートルプスの解析と研究が済むまで俺は待機ということになるわけか……。

 

「……」

「心配か?」

「ん? いいや。アカネ達のことは心配してない」

 

 あいつらはジャスティスクルセイダーだ。

 俺が認めた地球最強の戦士達が負けるなんてありえないことだ。

 そんなことはあいつらの戦いを最も間近で見てきた俺が一番分かっていることだ。

 

「なんとなくだけどさ、戦いから遠ざかると思うと変な感じがしてな」

「確かに、そうだな」

 

 俺の呟きにレイマが頷く。

 オメガとの戦いの後、アカネ達に捕まった時も同じ状況だったが、その時は俺にはそんなこと考える余裕もなかったし、なにより意固地になっていた部分もあった。

 記憶を失っていた時も論外なので、そう考えると戦いから一時的に退くというのは俺にとっては本当に奇妙な感じなのだ。

 

「君の青春は常に戦いと共にあった。怪人の脅威に晒されていた人々にとってはいいことだったかもしれないが、そのせいで君は学生らしい……いや、子供でいられる時間そのものを過ごすことができなかった」

「レイマ?」

 

 神妙にそう言葉にするレイマに首を傾げると、彼は穏やかに微笑んだ。

 

「未だ地球が侵略者の脅威に晒されている状況には変わりないが、なに……常に気を張っていなければならないというわけではないのだ。青春時代を取り戻す、とまでは言わないが、君も戦い以外の自分のやりたいことを見つけるのもいいのではないかな?」

 

 俺のやりたいこと、か。

 その言葉をもう一度思い起こしながら、俺は一つ頷く。

 

「俺も、できることを探してみるか」

「うむ。これを機に色々と試してみるといい。私も力を貸そう」

「ありがとう、レイマ」

 

 むしろこれはいい機会かもしれないな。

 前々から世間知らずで恥をかくことが多かったのでその部分を治すのもいいし、戦えない自分ができることを探すのもいい。

 

「……む。カツミ君、司令……指揮官というものをやってみないか?」

「は!? 俺がか!? いやいやいや無理だろ!!」

 

 指揮官とか普段レイマが司令としてやっていることだろ!?

 そんなこと俺にできるわけないだろ!?

 

「今後は私もジャスティスゴールドとして前に出ることになるからな。その代わりとなる人材を……と思って探していたが、君ならば安心して任せられる」

「大森さんが適任だと思うんだが」

「大森くんは結構な駄目人間だが、とても優秀で重要な役目を担っているので無理なんだ」

 

 駄目人間ではないと思うけれど……。

 でも確かに大森さん、分析とかモニターとか開発班とかで忙しいもんなぁ。

 だからこそグラトに頼ってずる休みしていたわけなんだけど。

 

「さすがに無茶が過ぎるだろ。俺にレイマの代わりが務まるとは思えない」

「そうでもないさ。指揮官に求められる素質は“理解”と“信頼”だ。我々が君のことをよく理解しているように、君は私とレッド達のことをよく理解しているはずだ。なにが可能か、不可能か。その選択を即座に指示として出せるだけでも指揮官として十分に活躍できるはずだ」

 

 ……頭では理解しているが、やっぱり俺なんかに務まるとは思えない。

 顔に出てしまった俺を見て、笑みを深めたレイマは腕を組み背もたれに身体を預ける。

 

「それに、怪人・侵略者襲撃時の対応は既にマニュアル化しているので、やることは戦闘面の指示だけになる。君がするべきは戦いに臨む、我々に指示を出し、鼓舞させることにある」

「指示……」

「カツミ君。君は自覚していないようだが、この地球において君以上に侵略者と怪人を相手取って戦った人間はいない。その経験則から導かれる答え、直感と頭脳は紛れもないものだ」

 

 怪人と戦っている時の判断を生かせってこと、か。

 そう考えるとできないこともない気がしてくる。

 

「それに、君が鼓舞するだけで羅刹共の戦闘力とやる気が爆上がりするからな」

「え?」

「んん! いや、なんでもない!! だが、これもあくまで候補! 先ほど言ったように、まずは君自身がやりたいと思うことを見つけていくことが重要だ」

「……ああ、分かった。とりあえず考えてみるよ、レイマ」

 

 少しだけ興味が湧いてきたが、まずは俺自身が見つけていってみるか。

 


 

 司令室から退室した俺は、そのまま食堂へと足を運ぶことにした。

 ジャスティスクルセイダー第二拠点は、結構な規模の基地であり、そこに所属する研究員・隊員などレイマ自らが選び、スカウトした選りすぐりスタッフが集う場所でもある。そんな重要基地の憩いの場である食堂も当然広く、提供される料理もとても美味しい。

 そこで俺も昼食を食べるわけだが目的はそれだけではなく、オペレーターとしての勉強をしているアルファと、カウンセラーとして仕事しているハクアへの差し入れを用意してもらうために向かっているわけだ。

 なにを持って行ってあげようか、と思いながら食堂へ続く長い通路を歩いていると、曲がり角から見知った女性が現れる。

 

「あ、カツミ君」

「こんにちは、風浦さん、ついでにヒラルダも」

『私ついで!?』

 

 遭遇したのはウェーブのかかった肩ほどまでの髪が特徴的な女性、風浦桃子さんと、メカフクロウの姿で彼女の肩に留まっているヒラルダであった。

 

「風浦さんも今から昼食ですか?」

「あ、うん。さっき検査も終わってお腹がすいたから食べようかなぁって。……も、ってことはカツミ君も?」

「ええ。良かったら一緒に行きますか?」

「うん。喜んで」

 

 もう星界エナジーは漏れ出していないようだな。

 

「ヒラルダのやつ、なにか悪さとかしてませんか?」

『してないよぉ!? ねっ、桃子!?』

「うーん、うるさいところかなぁ」

『桃子!?』

 

 がびーん、と器用に翼を口に当て狼狽えるヒラルダ。

 ……ヒラルダは控えめに言っても風浦さんに酷いことをしていたわけだが、このやり取りを見てみると風浦さんもうまくやれているんだな。

 他愛のない雑談を交わしながら食堂へ到着すると、またここで見知った姿を見つける。

 

「アカネ、お前も昼か?」

「あ、いたいた」

 

 俺を探していたのだろうか、こちらを見て駆けよってきたアカネははにかむような笑みを浮かべる。

 

「さっき司令に聞いたら、食堂に向かったって聞いてね! 先回りして待ってた!!」

「なぜ先回り……?」

「連絡したけど、出なかったから普通にマナーモードを解除し忘れたのかなー……って察したから?」

 

 ……くっ、悔しいが間違っていない。

 というより、さりげなく確認したら普通にマナーモードだったので悔しい……!!

 俺のやりたいことリストにスマホの使い方マスターの項目を付けくわえることにしよう。

 

「あー、連絡に出られず悪い」

「いいよいいよー。あ、風浦さんもこんにちわ!!」

「ええ、こんにちわ。新坂さん」

『ねえ、私もいるんだけど? ねえ?』

 

 アカネも合流したところで、食堂のテーブルにつく。

 丸テーブルを囲うようにそれぞれ座るとフクロウ状態のヒラルダが人型の子供の姿に戻り、風浦さんの隣に座る。

 本当自由だなぁこいつ、とヒラルダを見てそう思いながら、食堂のスタッフさんに注文を頼もうとして……来てくれたのが、アカネの姉である椿赤(ちせ)さんだと気づく。

 

「はぁーい、カツミ君。なに食べる?」

「椿赤姉、猫なで声マジ引くんだけど」

「そこの愚妹はお茶抜きお茶漬けでいい?」

「それ水に浸しただけのご飯じゃん!?」

 

 相変わらずのやり取りに苦笑しながら、俺はメニューを見ながら頼む。

 

「俺はハンバーグカレー定食。あと差し入れ用に同じものを三倍盛りで二つ」

「男の子ねー。差し入れはハクアちゃんとアルファちゃんね?」

 

 どうやらあの二人の大食いっぷりはここでも有名なようだ。

 でもあいつら結構食うからこれくらいがちょうどいいんだよな。

 

「私はサンドイッチとコーヒーを」

「こっちはナポリタンってやつ。え、でも桃子、ここに来る前めっちゃかつ丼食べたいって……あっまさかカツミ君の前だからおしとやかなもの顔が掴まれて破裂がががが!?」

「貴様をサンドイッチの具にしてやろうか、ええ?」

 

 笑顔のままヒラルダの顔面をわしづかみにする風浦さんにびっくりする。

 別に好きなものを頼んでもいいと思うんだけど、ハクアとアルファなんてそんな遠慮見せたことないし。

 

「あ、午前中訓練でお腹空いたから私はかつ丼大盛で」

「あんたさっきのやり取り見てそれ頼む?」

「カツミ君、そこらへんは全く気にしないよ? むしろ食べない方が心配すると思う。そうだよね?」

「まあ、そうだけど」

 

 だけどまあ、一時はハクアに料理を作っていた身からすれば、ちゃんと食べてもらった方が嬉しくはある。

 注文を受けた椿赤さんが厨房へ戻ったところで、手元の水を飲んで一息つく。

 

「アカネは午前中は訓練だったのか?」

「うん。そうなんだよねー。私、学校行けなくなっちゃったし、できることが訓練くらいしかなくってさ」

 

 アカネも身分をバラされ俺と同じように迂闊に外に出歩けなくなっちまったからなぁ。

 幸い、きららと葵はまだ大丈夫なようだけど、アカネからすれば辛いものもあるはずだ。

 

「風浦さんは、大学は……」

「あー、さすがにもう行けないね。私の身体変なことになっちゃったし、なによりこいつのことも見ていなくちゃいけないから」

「むぐっ」

 

 遠慮なしにぽんぽんとヒラルダの頭に手を乗せる風浦さんに、ヒラルダもバツが悪そうな顔をする。

 俺もアカネも風浦さんの状況は知っているので、思わず黙り込んでしまうとそれを気まずく思ってしまった彼女が慌てふためく。

 

「えっ、あっ、でも大学入った理由が公務員目指したいなーとか漠然とした理由で将来設計皆無だったからそこらへんは大丈夫!! むしろここでの頑張り次第で大企業勤めもありえるから、待遇に関してはむしろラッキーとさえ思ってるよ!?」

「桃子、それ思っていても口に出しちゃいけないものだと思う」

「誰のせいだと思ってんのよ~!」

「あうあうあう!?」

 

 頬を両手で挟み込まれぐにぐにされ、変な悲鳴を上げるヒラルダ。

 その様子を見て、丸テーブルの隣の席にいるアカネが小声で話しかけてくる。

 

「風浦さん、明るくなって安心したよ」

「そうだな」

 

 少なくとも表向きは最初の頃と比べると大分安定したように見える。

 

「きなこのおかげだな」

「そういえばきなこは?」

「ハクアのところでセラピードックとかいう名誉介護犬として大活躍しているらしい」

「うちの飼い犬がいつのまにか遠いところに行きそうなんだけど」

 

 割と侮れないもので、この第二本部内で疲れ切ったスタッフ達が癒されに足を運ぶらしい。

 その活躍を聞いたレイマが、第二本部内にアニマルセラピーのための部屋を作る計画に動いているとかなんとか。

 

「カツミ君、アカネさん?」

 

 小さな声で会話しているこちらに気づいた風浦さんが不思議そうに首を傾げる。

 俺とアカネは顔を見合わせてから、なんでもない、と答える。

 

「それはそうと、午後は風浦さんの新スーツのテストだよね? 司令が話していたのを聞いたんだけど」

「うん……ヒラルダのスーツでどれだけのことができるのかって調べるんだって……」

 

 風浦さんの表情が少し暗くなる。

 きっと戦うことに恐怖を抱いているんだろう。

 無理もない、俺とアカネ達が覚悟が決まりすぎているだけで、彼女は普通の一般人なんだ。

 

「アカネ、そのテスト俺達も立ち会えるようにお願いしてみるか?」

「え」

「あ、そうだね。私達がいれば風浦さんも安心できると思うし、頼んでみようか」

「い、いいの?」

 

 レイマのことだから細心の注意を払うのは分かっている。

 だけど、それでも風浦さんが不安に思うのも当然なので、俺達も立ち会おう。

 まだまだ彼女はここに慣れていないし、力になりたいからな。

 


 

 星将序列に連ねる者達の明確な序列分けは、純粋な強さが大きな基準、にはなっている。

 だけれど、元上位のゴールディのように戦闘力以外の面で上位序列に定まっている者もいる。

 それは一桁台の序列も例外ではない。

 例えば二位がそうだ。

 あれが二位の立場になる上で戦闘力を示していない。

 次元を気軽に移動するその能力の希少性と、万能性を評価され二位になったのだ。

 そして、今回私が接触を試みる序列9位は、2位と同じくちょっと特殊な理由で序列に組み込まれた者だ。

 

「……まったく、ちょっと遊びすぎじゃないかしら?」

 

 現在、私がいるのは空港。

 多くの旅行客が集まるその場所で、私はある人物———序列9位(・・・・)の来訪を待っていた。

 

「既に地球に来ているのは知っていたけど、まさかルインちゃんの命令そっちのけでふっつーに地球旅行を楽しんでいるとは思わなかったわ」

 

 いいや、あのコンビは旅行メインとルインちゃんの命令がおまけとしか思っていない節さえある。

 というより、その可能性の方が高そうだから頭が痛くなっちゃう。

 

「来たわね……」

 

 空港内の奥からやってきたのはアロハシャツと金であしらわれたサングラス、と浮かれた旅行者丸出しの二人の男女。

 一人は筋骨隆々の金髪の大男で、もう一人はブロンドの長身の美女。

 美女と野獣、というフレーズがまっさきに頭に浮かんでくるような二人だが、それ以上に地球文化をこれでもかとエンジョイしている姿に私は額を抑えずにはいられなかった。

 いや、楽しみすぎじゃない!?

 

「おお、サニーじゃん!!」

「まあ、サニー!!」

 

 こちらに気づいた二人が周囲の注目をこれでもかと集めながら近づいてくる。

 普通に見知った顔で、序列内では珍しく人当たりがいい二人なので私も気軽に接触できるけど、ある理由でこいつらに近づく者はいない。

 

「出迎えに来てくれたのか!」

「え、ええ、まあ」

「記念にピース!!」

「ハイチーズ!!」

 

「「イエェーーー!!」」

 

 その理由は単純にこの二人の惚気が尋常じゃないくらいにうざいからだ。

 本当すごい勢いで肩を組み、自撮りモードのスマホで連続で写真を撮ってくる第9位の二人に笑みが引き攣る。

 あ、相変わらずねぇ本当このバカップル。

 

「やっと、こっちに来たのね。フィンガ、アイシャ」

「ああ!! いやぁ、見どころだらけだぜ! 地球!! ラスベガス、エジプト、アマゾン、ヴェネツィア、ハワイその他諸々!! こんな小さな惑星に多種多様な文化がごった煮された不思議なところだったが、それが逆に美しいとさえ思えたわ! なあ、ハニー!!」

「ええ、ダーリン!! 本当に私たち運がいいわ!! こんな星に貴方と一緒に来れるなんて私幸せ!!」

 

 そう答えると大男、フィンガが美女アイシャの顎に手を添え視線を交わす。

 心なしか周囲にハートマークの演出が浮き上がる錯覚が見える。

 

「おいおい、それはこっちの台詞だぜ。本当に美しいのは君だ、アイシャ」

「ダーリン……」

 

 熱い視線を交わしだす二人。

 さすがにここからまた長く騒がしそうなので、とりあえず話に割って入る。

 

「はいはい惚気はそこまでにしてね」

「惚気てないぞ」

「そうよ、この程度で惚気てないわ。私たちの本気はもっと情熱的よ」

「ねえ、嘘でしょ……!?」

 

 これで!?

 これで!?

 思わず内心二度驚愕してしまった。

 だ、駄目だここにいたら砂糖吐きそうになるから、手早く話を進めよう。

 

「ごほん、貴方達がここに来たってことはルインちゃんの命令を遂行しに来たってこと?」

「まー、そうだな。そろそろ怒られそうだし、あと噂に名高い日本を観光しにきた」

「むしろそっちが目的じゃないの……?」

 

 今のルインちゃんは絶対怒らないだろうけど、これは言わないでおこう。

 だけど、彼らも私の友人なので、一応忠告をしよう。

 ……九位の能力上、そう簡単に死ぬようなタマじゃないのでそれほど心配してはないけれど。

 

「強いわよ。地球の戦士たちは」

「ああ、知ってるさ。あのルイン様が興味を持つ奴らだ」

「ええ、そうね」

「「だけど(だが)」」

 

 声を揃えた二人が不敵な笑みを浮かべ、私を見る。

 

「私たちは2人で揃って9位」

「永遠に切れない絆で結ばれたオメガとアルファ」

 

 ———大抵、アルファとオメガの末路は碌なものではない。

 オメガが獣に堕ちるか、アルファがエナジーコアにされるか。

 だが、この二人に至っては違う。

 

「黒騎士? ジャスティスクルセイダー? そんなの関係ねぇぜ」

 

 二人で一つの序列を持つ異例の二人。

 その実力も一桁に遜色がない、彼らが操る能力も敵からすれば厄介極まりないものだ。

 だがそれ以上に警戒すべきは、彼らの精神性にある。

 

「どんな相手だろうが、俺たちは負けはしないさ」

 

 星将序列第9位“情熱のフィンガ”“幸運のアイシャ”

 “愛の力”

 ふざけて聞こえるかもしれないけど、本当にそれでアルファとオメガの破滅の運命を捻じ曲げ、今幸せを謳歌しているやばい二人だ。

 

「まあ、その前にうまいもんでも食いに行くか!! サニー、おすすめの店教えてくれよ!!」

「ええ、それはいい考えね!! お願いできるかしら!!」

「え、嘘、私この流れで一緒に行動するの!?」

 

 控え目にいって地獄じゃないなかしらこれ!?

 この激甘空間にいて正気を保てるかしら……!?




前宇宙のアルファ関連を出した後でのバカップル第9位の登場回でした。
これを相手にしなきゃいけないアカネ達はメンタル的な意味で大変かもしれません。

今回の更新は以上となります。


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変身 ジャスティスピンク!

 お待たせしてしまい本当に申し訳ありません!!

 今回は風浦さん視点でお送りします!


 幸か不幸か、私はステアスピリチアという存在になってしまったらしい。

 つい一年前まで普通のオタク趣味のある大学生だった私がこんなアメコミ主人公みたいなことになっている事実に何度も現実逃避したくなったけど、現実はどんなにあがいても現実のまま変わることはない。

 変なエネルギーを作れるようになってしまったこと。

 私に酷い目を合わせたヒラルダと、不思議な関係になったこと。

 そして、あの黒騎士くんと、ジャスティスクルセイダーと知り合いになったこと。

 

「フッ」

 

 目の前で生身(・・)で鈍い輝きを放つ刀を振り下ろしたアカネちゃんが、コンクリート製の円柱を斜めに斬り裂く。

 私でも目視できる―――ううん、むしろ遅いとさえ思える緩慢な振り下ろし。

 刀の重さを感じさせない軽い動き、踏み込みと共に流れるようなまるで踊りを見せるように斬撃を彼女は連続で振るっていく。

 その動きには矛盾が存在していた。

 刃物で物を切るにはある程度の力が必要だと私は思う。

 そして、動画とかでよく見る刀で竹を切るものでは、達人の振る刀はどれも目にも止まらない振り下ろしを放つ。

 だけど、彼女———新坂朱音の見せた常軌を逸した技は違う。

 遅い振り下ろしのはずなのに、円柱がバターのように切り裂かれる。

 脱力しているにも関わらず、その動きには一切の乱れもない。

 完全な軌跡、それも刀を軽く握るだけの脱力を維持したまま振るっている。

 

「「……」」

「おお……」

 

 ジャスティスクルセイダー第二本部の訓練場でその光景をヒラルダと並んで見ていた私は二人揃って絶句していた。

 明らかに人間の領域を超えた神業を当たり前のように繰り出しているアカネちゃんが普通に怖かったからだ。

 ヒラルダに至っては普通にビビって震えている。

 そして、隣で端末を持ちながら観察しているカツミ君は普通に感心していた。

 

「ふぅ、どう? 桃子さん、参考になった?」

「うん、ならないね!?」

 

 刀をゆっくりと納め、凄まじい集中でかいた汗を手渡されたタオルで拭ったアカネちゃんは笑顔でこちらを振り向く。

 いや、動きを見てみたいって頼んだ私も悪いけどさぁ!?

 同性ということもあり、下の名前で呼んでもらうようにお願いした手前、思わず敬語になりそうなくらいの貫禄が出ちゃってる。

 

「控え目に言うけど、アカネちゃんは人間に許される動きを分かって欲しい」

「これを参考にしてもらえると思う思考がもうドン引き」

「あはは……」

 

 実際、スーツなしの生身でこれだけのことをしているのがもう凄い。

 生身で怪人を倒せるレベルの達人という時点で大分人間離れしているはずなのに、まだ強くなろうとしているのかこの子は。

 

「私もアサヒ様……スーツに宿る意思に手解きを受けたからここまで戦えるようになっただけだよ。桃子さんにとってのヒラルダみたいな感じかな」

「うちのコレにあんなことをできる技量はないよ」

「事実だけど酷くない桃子?」

 

 聞けばアカネちゃんの着ているスーツに搭載されたエナジーコアにはアサヒ様と呼ばれる意思が宿っているらしく、その人に夢という形で闘い方やら色々を教わっていたらしい。

 つまり、今の一連の動きは特殊能力でもなんでもなく人間が可能とする動きと力で繰り出された純粋な技量ということになる。

 ……うん、おかしいね、人間技とは思えないね。

 

「俺にはできない技術だな。こういうのってあれだな、見ていて惚れ惚れするってやつだな」

 

 カツミ君も感心したように彼女の技を褒める。

 それに見て分かるくらいに照れるアカネちゃん。

 

「でへへ……まー、といっても生身で戦えるように訓練するようになったのは、侵略者が現れてからなんだよ」

「そうなのか? ……いや、あのことがあったからか」

「うん」

 

 あのこと? なにかあったの?

 神妙な表情になるカツミ君にアカネちゃんは頷く。

 

「もう二度と、変身できないことで不覚をとるなんて経験したくないからね」

「あまり根を詰めすぎるなよ」

「知ってる。てかカツミ君に言われたくないし」

「そりゃそうか」

 

 軽く笑みを零したカツミ君が、気を取り直したようにこちらを振り返る。

 雑談ではなく、真面目な雰囲気に戻ったことで私も背筋を伸ばす。

 

「風浦さん、ヒラルダ。今から二人には変身してもらいスーツの性能テストを行うことになっています」

「うん」

「ですが、これで貴女を戦いに参加させるわけではありません。貴女自身が扱う星界エナジー、そしてヒラルダの力でどれだけのことが可能か不可能か、それらを見極めることが今回のテストの目的です」

 

 私は戦う必要はない。

 念押しにそう語ってくれるカツミ君の気遣いをありがたく思いながら、その一方で私にもなにか力になれるのではないか、という思考も過る。

 

「……よし、ヒラルダ。お前も頼んだぞ?」

「任せておきなさいって」

「危なそうだったら、こっち側で俺側に強制変身するからその時は色々覚悟しておいてくれ」

「ふぇ……任せておきなさいってぇ」

 

 自信満々だったヒラルダの身体がスライムみたいにぷるぷると震える。

 

「アカネ、俺たちも上に戻るぞ」

「うん! ……あれ、私ちょっと秘書っぽくない?」

「秘書というより用心棒だろ」

「……」

「そんなショック受けるほど……?」

 

 一瞬で真顔になるアカネちゃんにビビりながらカツミ君は管制室へ続く扉へと向かっていく。

 訓練場に残されたのは私とメカフクロウ状態へ変わったヒラルダだけだ。

 

「桃子、準備はできてる?」

「そんなのいつだってできてないよ。でも、やるよ。私は」

「……うん、安心して。私が補助する」

 

 ヒラルダの言葉に頷き、左手を前に差し出す。

 瞬間、宙に飛び上がったフクロウ状態のヒラルダが変形し、手首を覆う変身用のチェンジャーへと変形する。

 

JASTICE CHANGER(ジャスティスチェンジャー)

 

「ふぇいく、ふぁいぶ……?」

 

 電子音声染みたヒラルダの声がチェンジャーから発せられたことに困惑し、私は側面のボタンを押す。

 すると、チェンジャーの時計部分が展開するように開き、内側からフクロウを模したアイコンが飛び出す。

   

 

 

   

「え、これなに? ど、どうするの?」

 

 前に一回変身した時はこんなのなかったよね!?

 突然の変身要求にあたふたとすると、チェンジャーからヒラルダの声が聞こえてくる。

 

『真ん中のマークに指を添えて認証!! それで変身できるよ!!』

「前と違くない!?」

『ゴールディが追加した方がいいからって……』

 

 あの社長さんなにやってるの!?

 でもいう通りの手順でやらなきゃ変身できなさそうなので、恐る恐るフクロウのアイコンに人差し指を添える。

 

Loading N.N.N.Now Loading ← Loading N.N.N.Now Loading ← Loading N.N.N.Now Loading ← Loading N.N.N.Now Loading ← Loading N.N.N.Now Loading ←

    

 

 

    

Loading N.N.N.Now Loading → Loading N.N.N.Now Loading → Loading N.N.N.Now Loading → Loading N.N.N.Now Loading → Loading N.N.N.Now Loading →

 

「わわっ!?」

 

 アイコンを中心にチェンジャーが変形し、光と共にスーツを生成する。

 それらは五色の輝きと共に私のつま先から頭までを光で覆っていき、ジャスティスクルセイダーと同じ姿をした桃色の戦士の姿へと変えてしまう。

 

『CHANGE → UP RIGING!! SYSTEM OF JUSTICE CRUSADE……!!』

 

 変身が完了し、視界がクリアになる。

 あらためて自分のスーツに覆われた身体を確認してなにも異常がないことを確かめるけど……。

 

「私、本当に変身しちゃっているんだ……」

 

 ジャスティスクルセイダーの技術ではなく、侵略者由来の変身だけれど、それでも姿が同じ。

 

「……」

 

 試しに訓練場に落ちている石ころを拾って思い切り握ってみると、あまりにもあっさりと手の中で石ころが粉々になる。

 力もものすごい……!?

 その場でジャンプしても軽く5メートル以上は飛んでしまう。

 

『風浦氏、身体の方は異常はないか?』

「ふぇっ」

 自分の変化に集中しているところに社長さんの声がマスク内に響いてくる。

 訓練場上方の管制室でカツミ君たちとデータ取りをやっているであろう彼に、私は慌てながらも返答する。

 

「は、はい!! 異常はないです!! 今のところ!!」

『うむ。こちらからも異常はない。とりあえず軽く動いて調子を確かめてみてくれ』

「はい」

『だが、少しでも体調に異常、違和感などがあったらすぐに報告してくれ。すぐさまカツミ君とレッドがそちらへ向かう』

 

 社長さんの言葉に頷き、軽く深呼吸をする。

 そして掌を目の前に出して力を出すイメージで星界エナジーを発動させる。

 

「むむっ」

 

 掌から発せられたのは桃色を基調にした五色のエネルギー。

 照らされたライトのように放たれたそれは訓練場に設置された的や壁に当てられるが、特になにか変わった気配はない。

 

「あれ、おかしいな……星界エナジーって重力とか色々操れるんじゃ……」

 

 私の中のエネルギーが垂れ流されている時は普通に無重力空間とか作り出していたし、できるはずなんだけど。

 でもオブジェクトも重力で浮かんでいる気配はない。

 

『桃子っ、さっきレッドが切り裂いた的を見て』

「え?」

 

 スーツから聞こえてくるヒラルダの声に耳を傾け、そちらを見る。

 そこには先ほどアカネちゃんが切り裂いた的が、まるで何事もなかったかのように斬られる前の状態に戻っているではないか。

 

「え、直ってる……?」

『こちらでも現象は確認した。こちらで破壊したオブジェクトを出す。もう一度頼む』

「は、はい」

 

 それから訓練場に出された破壊された的、訓練用のエネミーなどに星界エナジーの光を当てると、光と共に元の姿に戻るということが分かった。

 時間が巻き戻るような再生、ではない。

 光を当てると一瞬にして元の姿へ戻るという感じなので、原理もへったくれもないものだ。

 

『モータルイエロー……いや、ソーリア君、この現象を君はどう見る?』

『私たちの時と同じね。星界エナジーは本人が力を使うまではどんな特性を持っているか分からない』

 

 マスク内に社長とこの前顔を合わせたモータルイエロー、今はソーリアさんと呼ばれている人が会話をする。

 私に聞こえているということは、こちらにも聞こえるように話しているとみてもいいのかな?

 

『だけど、この子の力は……兄さんの再生ともちょっと違う。治しているというより、元に戻しているって表現の方が適切かも』

『ふむ。私にもそう見えた。だとすれば……』

 

 そこで思考するように一拍置いた社長さんは私に話しかけてくる。

 

『風浦氏。君の星界エナジーとしての力は、再構成とみた』

「再構、成?」

『破壊された物質の修復といえば簡単だが、実際のところはそれ以上に高度な力と見てもいい。いわば君は破壊された物を元に戻すことが可能ということだ』

 

 日常的には便利そうな力だけど……。

 

「戦える力じゃなさそうですね」

『ああ、だがそれ以上に凄まじい力だ』

「えっ」

 

 軽く落胆して呟いたけど、社長さんはそう思っていない。

 いや、それどころか驚嘆している。

 

『我々の戦力には戦う者が揃っているが、その一方で守る者はいない。それを平時は私とスタッフで補っているのだが、君の力があれば街の修復も思いのままだ』

「……あ」

『気づいたか?』

 

 確かにこの力を使えば侵略者や怪人に壊されたビルも、家も直すことができるかもしれない。

 私の力を誰かの役に立てることができる……?

 

『だが、いくら君の力が有用でも我々はその力に依存するつもりはない』

「え、どうしてですか!?」

『君は我々ジャスティスクルセイダーが護るべき一般人だからだ。どのような理由があろうと、君の意思を無視して戦いに駆り出すような真似はするつもりはない』

 

 私の意思、か。

 ということはアカネちゃん達は自分の意思で選んで戦っているってわけなんだね。

 私自身安易に決めて良いわけじゃない。

 ちゃんと考えて、両親とも相談して自分自身のこれからを決めていかなくちゃならない。

 




戦闘員は足り過ぎているので風浦さんはサポート要員になりました。


次回の更新は明日の18時を予定しております。
※※※

いくつか趣味ついでに自作フォントを作成いたしましたが、絵が潰れたりそもそも公開する機会すらないと思ったので、いっそのことこの場で公開しちゃいます。

・ガッチャ―ド第一話公開記念



・ウォルターおじさん






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絶体絶命の葵

二日目の二話目の更新です。

今回も風浦さん視点です。


 性能テストを終えた後、一緒に変身したヒラルダに異変が起こっているか確認するために検査をするというので彼女を預けることになった。

 その後、カツミ君とアカネちゃんと共に第二本部にワームホールで通じる都市内の喫茶店『サーサナス』にはじめて足を運んだ。

 喫茶店に辿り着くなり、カツミ君は一階で普通に開店している喫茶店の手伝いに行ってしまったので、二階にいるのは私とアカネちゃん、そして学校終わりに合流したアオイちゃんとキララちゃんだけだ。

 

「え、なにそれフィクサービーム? いくらでも暴れられるね」

「そういうわけじゃないやろ」

 

 アオイちゃんとキララちゃんにテストで判明したことを報告すると、そんな感想が帰ってきた。

 というより、フィクサービームって私も思ったけど本当に口に出して言わないで欲しい。

 

「でも桃子さん自身は大丈夫なんだよね?」

「そこは大丈夫。ヒラルダが定期的に星界エナジーを調整してくれているし、今もこのブレスレットで抑制できているからね」

 

 そのおかげで一時的とはいえ、ここにいられるわけだ。

 でもそれもこの場にアカネちゃんとカツミ君がいるからなので、喫茶店の外にはまだ出られない。

 

「桃子さん、不安なことがあったらなんでもいってくれていいんですよ?」

 

 きららちゃんが私を気遣うようにそう尋ねてくれる。

 普段は怪人や侵略者を相手に戦っている彼女達だけど、蓋を開けてみれば普通の……うん、ちょっと普通とは異なるけど、心優しい女の子たちだ。

 逆を言えば、年下の彼女達に気遣われてしまっていることに情けなく思う。

 

「不安はある、けれど……ぶっちゃけるとちょっと役得だと思ってるところもあるかも」

「役得?」

「こう、非日常的な状況に……なんて言うのかな。一般人だった私がジャスティスクルセイダーっていうストーリーの中核の組織に関わったことに、特別感みたいなことを抱いている感じ」

「「「あー」」」

 

 ちょっと不謹慎かなと思ったけど、アカネちゃん達もちょっと同意するように頷いた。

 

「ちょっと、分からなくもないですね」

「さすがにね」

「私は最初からそのスタンスですけど?」

「あんたは最初から非常識な行動しまくってたでしょ」

「非常識マ?」

「自覚なしだったことが今判明して一番の恐怖を抱いてる……」

 

 こうやって話してみるまで、こんなに身近な距離感で話せる存在だと思っていなかった。

 元一般人だった私にとってはこの子たちは雲の上の人だったからなー。

 

「……えーと、例えるならほら、私の状況ってアメコミとか特撮の導入とかでありそうだなーって」

「平凡な大学生風浦桃子はある日、邪悪な侵略者ヒラルダに身体を乗っ取られた影響で、不思議な力に目覚めてしまった……的な?」

「的な感じ」

 

 アオイちゃんの言葉に頷く。

 どこから取り出した伊達メガネをなぜかかけた彼女は、眼鏡のブリッジをくいッと持ち上げながら笑みを浮かべる。

 

「桃子パイセン、こっち側の人間ですかな?」

「ううん、君ほどじゃないと思いたい」

「急にハシゴ外して来るじゃん。おもしれー女」

 

 なんだこの子。

 なんなんだこの子。

 ネットで見た以上にすごい言動してるんですけど。

 伊達メガネをしまいながら、ニヒルな笑みへ切り替えるアオイちゃんに普通に困惑する。

 

「お前ら、飲み物持ってきたぞ」

「私も来たよー」

 

 と、ここで下の階から喫茶店のエプロン姿のカツミ君と、制服を着た女の子が上がってくる。

 カツミ君は分かるけど、関係者しか入れないここに入ってきた女の子は誰だろうか? 顔立ちはアオイちゃんに似てるけど……。

 私と視線が合ったのか、目の前まで歩み寄ってきた女の子はにこりと笑みを浮かべる。

 

「はじめまして! 私、そこにいる言動が変な人の妹、日向晴です!」

「あ、うん。私は風浦桃子。保護された……元一般人?」

「ねえ、ハルちゃん、姉に向かって言動が変というのは酷くない? ハルちゃん? お姉ちゃん病んじゃうぞ?」

 

 妹なんだー。

 うーん、可愛い子だ。

 アオイちゃんもかわいいけど変な言動のせいでそっちに気がいっちゃうけど、やっぱり姉妹だし似るもんなんだね。

 ……んん? ということは……。

 

「アオイちゃんの妹ってことはもしかして」

「はい! KANEZAKIコーポレーション公式Vtuver、蒼花ナオとして活動させていただいております!!」

「———」

 

 ごめんだけど、今日一番驚いたかもしれない。

 自分の能力が分かったこと以上に、現在学生からの人気をこれでもかと集めるVtuverの一人である蒼花ナオ……!!

 なにを隠そう私自身もリスナーである。

 私自身もリスナーである。

 しかも古参勢でメンバーである。

 だがしかし、私は自我を出さないタイプの後方古参面リスナーなのでこのことを彼女に明かすつもりはない。

 

「いつも配信、楽しませていただいております……!!」

「わぁ、ありがとうございます!! あっ、でも私の方が年下ですから敬語じゃなくていいですよっ」

 

 なにがすごいって蒼花ナオちゃんのアバターと今目の前にいる日向晴ちゃんの容姿がほぼ瓜二つということだ。

 3次元を2次元に最大限にまで落とし込んだ社長の技術が凄すぎる。

 

「私のことはハルで構いませんよ。私も桃子さんって呼んでも?」

「うん、構わないよ」

 

 推しに認識される喜びを表に出さずに笑みを浮かべる。

 

「打ち解けているようで安心しました」

 

 挨拶を交わし、ハルちゃんが私達がいる丸テーブルの一つの椅子に腰かけたのを確認したカツミ君が、持ってきてくれた飲み物を置いてくれる。

 

「まあ、こいつらお節介の達人なんで、むしろ距離を取ろうとするくらいがちょうどいいくらいですよ」

「距離をとろうとするのはカツミ君くらいだったでしょ」

「初期かつみんホントハリネズミだったね」

「今と比べると本当素直じゃなかったもんね」

「うるせー聞こえねー」

 

 口々に返してくるアカネちゃん達に適当に返したカツミ君がトレーを持って戻ろうとする。

 しかし、そこでアカネちゃんが彼を呼び止める。

 

「カツミ君もちょっと話していったら?」

「……あー、まあ、少しだけな。相談してぇこともあるし」

 

 相談したいこと?

 一旦トレイをテーブルに置いて、空いている席に座る。

 

「相談って、どうしたの?」

「まずは事情から説明するか」

 

 そのままカツミ君が口を開き、事情を説明し始める。

 簡単にまとめると諸事情あって変身が不安定な彼は、検査と調整が終わるまでは変身して出動することができないらしい。

 緊急時の変身は一応許されているらしいけれど、それでも私からしてみれば黒騎士という最強の戦士が前線に出ることができないということに驚いた。

 

「それで、一時は戦いから遠ざかるからその一環でレイマから趣味とかなにか見つけたらって勧められたんだ」

「へー、カツミ君に趣味かー」

「見つかったの?」

「それが、分からねぇんだ」

 

 なんだかすごい深刻そうに頭を抱えているんだけど……!?

 趣味がないってそんなに悩むこと……?

 

「よく考えてみたらさぁ、俺って特に趣味とかねーんだなって……強いて言うなら夜スーツで街を徘徊したり、怪人ぶっ飛ばしたりするのがそれに当たってたみたいでさ」

「「「あー」」」

 

 今日二度目の納得の声の三人。

 でも、カツミ君が趣味かぁ。

 なんというか一般人で黒騎士君を知っていた身からすると、悩みがものすごく一般人じみてて一周回って不思議に思えてくる。

 

「カツミ君、料理とかは?」

「料理は……なんか趣味とかちょっと違うな。ハクアに食べさせていた時は、美味そうに食う姿を見て満足していたけど、それを趣味と思うのはちょっと気持ち悪いだろ」

 

 なんだろう、ちょっとアカネちゃん達三人の纏う気配が一瞬張り詰めたような気が。

 

「じゃあ、運動は? いつもしてるよね?」

「それは趣味じゃなくて習慣だろ。スポーツとかじゃなくて筋トレとランニングだしな」

「確かに、じゃあ読書がいいんじゃないの?」

「……読書か。独房にいた時は差し入れてくれた本とか読んでたしアリだな」

 

 キララちゃんの提案に、彼もやや乗り気な様子で腕を組む。

 

「カツミさんっ、whotubeとか見てますか? あれって動画とか流し見するのも趣味ですよ?」

「そうなのか?」

「はい! 私の動画とか―――」

「蒼花ナオの配信あーかいぶを見るようにしてるけど、それはそれで趣味になってんのか……」

「————」

 

 まさかのカツミ君もリスナーだった。

 突然の告白にハルちゃんの身体が時間が止まったように固まる。

 

「ミテイタンデスカ」

「ああ。いや、前みたいにコメント送ると迷惑かかりそうだから黙って見てたけど、昨日とか凄かったな」

「キノウ……キノウ……キノウ……アッ」

 

 昨日の配信と聞いて私も思い出す。

 死にゲー攻略配信系で、初見プレイのせいかナオちゃんが無茶苦茶荒ぶってた放送だった。

 

『今日は初見プレイでクリアを目指したいと思います』

『うーん、強い』

『今の攻撃ディレイ利き過ぎでは???』

『……』

『今から貴様を姉と同一の撃破対象とする!!』

『くたばれぇ!! 落ちろォォ!!』

ッアッ、ワッ、アァ遠いHPゲージが遠いぃぃ苦しいぃぃ

『ッシャオラァ!!』

 

 これで土下座配信後で復帰直後なのはすごいと思った。

 古参勢からすれば見慣れたものだが、驚くのも無理はないね、うん。

 

「ゲームに熱中するとあんな声出すんだなーって驚いたな。なんのゲームか知らなかったが見ていて面白かった」

「あ、あわわわ……」

「でもその前の雑談系も話とかうまいなぁって見てたぞ。俺もそこまで口が達者じゃないからすげぇって思った」

「ブゥンッ」

「え?」

「ハルちゃーん!?」

「ア、アカーン!?」

 

 見えない何かに吹き飛ばされたように椅子から転げ落ちるハルちゃん。

 慌てて隣のキララちゃんが支えると、彼女は目元をおさえながら堪えきれない笑みを浮かべる。

 

「ハルちゃんっ、しっかり! 傷は浅いよ!!」

「推しに推されるって、これってもう結婚と同義では?」

「ごめん。重症だった」

「やっぱり葵の妹だ……」

 

 やっぱりアオイちゃんの妹なんだなって。

 配信でも片鱗を見せるけど、なんというか……すごいなぁ。

 

「お、おい、大丈夫かハル……」

「フッ、おいおい、カツミ君。この私を忘れてもらっちゃぁ困るぜ」

「どうした突然」

 

 と、ここでさらに何故かドヤ顔のアオイちゃんが名乗りをあげてくる。

 腕を組み、謎のふてぶてしさを見せた彼女は自身を親指で示す。

 

「この私、日向葵はオタクだ。最近じゃ変人なんつーレッテルを貼られている」

「事実じゃん」

「事実やね」

「事実でしょ」

「ほらね。レッテル貼り」

 

 総ツッコミに肩を竦めた彼女は、私から見てもイラっとする顔をする。

 

「映画鑑賞、動画鑑賞、読書、それは紛れもなく趣味とも言えるものだよ」

「おお」

「だが、それらは媒体がなければ話にならない!」

「!!? 確かに!」

 

 すごい、言ってることは至極正しいのに傍から見ると詐欺師にしか見えない。

 そしてなんとなく思っていたけど、もしかして平時のカツミ君って純粋すぎるところがある……?

 

「この私にかかれば君の求めるジャンルを見つけ出すことなんて、ナメクジ怪人にナマコと思い込ませるくらいに楽勝なのです」

 

 それはどれくらい凄いのか分からない。

 だけど、妙な凄みにカツミ君は期待の視線を向けてしまっている。

 

「なので今度の休みに、近くのモールに遊びにいかない?」

「ん? いいぞ」

「「「!!?」」」

 

 あまりにも自然な誘いと、流れるような了承にこの場にいる誰もが反応できなかった。

 あ、遊びの約束?! 今の流れで!?

 

「え、あ、うん。い、いいんだ……」

 

 誘った本人もまさかうまくいくと思いもしなくてビックリしちゃってる!?




ブルー(ボケ)とイエロー(ツッコミ)がいると明らかに会話のテンポがよくなってくれる……。

今回の更新は以上となります。


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黒騎士の買い物

お待たせしました。

今回はハル視点でお送りいたします。


 お姉ちゃんがカツミさんをデートに誘った。

 これほど認めがたい現実があるだろうか。

 そしてこれのなにがやばいって遊びに誘ったはずのお姉ちゃんが一番びっくりしていたことだ。

 

「お姉ちゃん」

「どうした妹よ」

「どうして私もここにいるんだろうなって」

 

 正直、誘ったのはお姉ちゃんなので遊びに行くというなら送り出してやろうと思っていた……はずなのだけど、なぜか私はカツミさんとお姉ちゃんと一緒に都内の大型ショッピングモールへと足を運んでいた。

 

「へえ、こういうデカい店に来るのは初めてなんだよな」

 

 ちょっと離れたところで私服に身を包んだカツミさんは物珍しそうに周りを見ている。

 そんな彼を見ながら、小声で話しかけていると仁王像のように腕組をして立っていたお姉ちゃんがようやく口を開く。

 

「妹よ。幸せを分け与えるのが姉妹じゃあないか」

「日和ったんだね」

「そんな事実は存在しない」

「日和ったんだね」

「……はい」

 

 この姉、変な言動で相手の調子を崩すのが得意だが、逆を言えば真面目にしていると一番脆い。

 なのでカツミさんがデートだと思っていなくても、滅茶苦茶意識したお姉ちゃんは昨日の夜からぐるぐると家の中を歩き回り途方に暮れていた。

 

『ハルちゃん』

 

『ねえ、ハルちゃん』

 

『明日一緒についてきて』

 

 私の部屋の扉を猫のようにカリカリしながら提案してきた姉に“棚からぼた餅”という言葉が頭によぎった———が、私もお姉ちゃんの妹だということが頭から抜け落ちていた。

 結局、家の中を歩き回る変人がもう一人増えることになったが、二人で向かうことになり遅刻する心配がなくなったことだけはよかったとも言えた。

 

「ハルちゃん、よく考えて」

「ん?」

 

 昨日のことを思い出していると私と同様に私服姿のお姉ちゃんが声をかけてくる。

 

「私とハルちゃんが手を組んだらもう無敵だから」

無様の間違いじゃない?」

「ハルちゃんいつもより言葉のナイフ強くない?」

 

 下手をすれば私がひたすらにフォローする事態になるかもしれない事実に心が震える。

 

「それに、ほら」

「え?」

 

 お姉ちゃんが指さした方向を見る。

 建物の路地と路地との間、影が差し込むその暗がりからこちらを伺う二つの視線が見えてしまった。

 というより、アカネさんとキララさんだった。

 

『『……』』

 

「ひぃっ!?」

「護衛がいるから安心だよ?」

「どこが安心!? あれ護衛じゃないよ!? お姉ちゃんを狙う獄卒だよぉ!?」

 

 地獄のような様相だったよ!? 百鬼夜行もぶった斬りそうだったよ!?

 思わず肩を掴む私にお姉ちゃんはきょとんとした顔をする。

 

「ハルちゃんも標的だよ?」

「私を呼んだのはこのためか!?」

「ふももも」

 

 標的を増やすために私を誘ったのかこの姉!?

 あばばば、アカネさんとキララさんの怨霊じみた圧がすごい……!?

 お姉ちゃんの頬を手で挟んでぐにぐにしていると、異変に気付いたカツミさんがこちらにやってくる。

 

「どうしたハル? ……あっちになにかあるのか?」

「え、あ、その……」

 

 カツミさんが路地のある方を見ると、そこには影も形も消えていた。

 アサシンかあの人達……!?

 

「……」

「カ、カツミさ———」

 

 路地がある方をジッと見つめるカツミさんに声をかけようとすると、彼が手で待ったをかける。

 

「ハル。外ではカツキって呼んでくれ。さすがに名前呼びはバレちまうからな」

「え、あ、はい。ではカツキさん、変装とかしなくても大丈夫なんですか?」

 

 私の質問に彼は「あー」と納得したように頷く。

 私とお姉ちゃんは別に変装する必要もないのだけど、カツミさんは日本中……というか世界中で顔を知られている訳で、変装をしなければならない人だ。

 なのに今は伊達メガネに帽子といったほとんど隠す気ゼロの見た目なのはどういうことだろうか。

 

「これでも結構大丈夫だぞ。外を歩いていちいち人の顔なんて確認しねぇし、眼鏡と帽子被ってりゃ意外とバレないんだよな」

「そ、そうなんですか」

「いざという時はプロトとシロが光学迷彩使ってくれるから大丈夫だ」

 

 カツミさんの手首の黒い時計に変形したプロトちゃんと、上着のポケットから白い機械仕掛けのオオカミのシロちゃんが顔を出してくる。

 わぁ、もうこの時点で最強の護衛がついている気がしなくもない。

 

「意外と簡単に外出許可も下りたしよかったな」

「本当にあっさりおりましたもんね……」

「司令曰く『戦士には休息が必要だからな』とのこと」

 

 本当あの社長さん寛容だよね。

 基本リスクマネジメントも完璧というか、人員を扱う上の配慮がすんごい。

 

「レイマ達も心配性だから見守ってくれていると思うけどな。……じゃ、早速、入ろうぜ」

「そだね」

「はい」

 

 今回の目的はカツミさんの趣味探しだ。

 アカネさんとキララさんの圧は怖いけど、私も楽しもう。

 


 

 

 葵に誘われ、モールと呼ばれる都内のデカい建物に遊びに行くことになった。

 正直なところ、こういう大型ショッピングモールには小さいころに行った覚えがあるだけで、今となってうろ覚えだ。

 俺にとっては優しい両親と過ごした記憶の一つ……ではあるが、今はそのことを深く考えずに外出を満喫しよう。

 

「ここって映画とか売ってるのか?」

「そのことなんだけど、カツ……キ君。映画のサブスクで見ればいいんじゃない?」

「さぶすく?」

 

 サプリメントかなんかか?

 首を傾げる俺に、葵が補足してくる。

 

「サブスクリ……ごほん、Subscription

「なんで流暢に言い直した? 定期購読がどうした?」

 

 寄付とかそのへんの意味だった気がするけど、新聞かなんかか?

 

「特定の動画サイトにお金を払うと、公開されてる映画が見放題になるの」

「……へっ、そんな甘い話はねぇのは知ってんだ。どうせ月に何万もとられるんだろ、それ」

 

 映画が見放題とかやばすぎだろ。

 俺は知ってんだぜ、映画とかディスクを買うと何千円もするってな。

 それを一本のみならず見放題とかもうやべぇだろ。

 

「安いやつで1000円以下ですよ」

「なるほど、一日千円か」

「一か月千円です」

「一か月千円!?」

 

 嘘だろ。

 なんで誰もこれを異常だと思わねぇんだ!?

 世間に疎い俺だって映画館で映画を見る時に1500円くれぇかかることぐらい知ってるぞ!?

 

「これがラインナップ。その一部」

 

 追い打ちとばかりに葵がスマホの画面を俺に見せてくる。

 

10:37

SAI-kyoKOhaiさん

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 なんでサメ関連の映画ばっかりなのか理解できねぇが、一部はスタッフさんに勧められて実際に見た映画だから知ってる。

 

「いや、ハルが言うなら本当なのか……!? マジかよ、千円で映画が見放題!? そんなことしてなんの意味があんだ? 絶対採算とれねぇだろ……!? 怪人の仕業かオイ!?」

「……」

「ハルちゃん、すごい笑顔だけど大丈夫?」

「え、そんなことないよ?」

「私、ちょっとハルちゃんの将来が心配になってきた」

 

 サブスク、とんでもねぇもんが世に出回っていやがる。

 後でハクアとアルファに教えてやろう。

 

「とりあえずそのサブスクとやらは後回しだ。今は本屋に行こうぜ」

「それならこっち」

 

 額を拭いながら先へ行くように促すと、葵が本屋があるであろう方向を指さす。

 

「二人はよくここに来るのか?」

「んー、そんな頻繁には来ない」

「私も来ないですね。どちらかというとPC周りの機材とかを見にもっと専門的なところに行っている感じです」

 

 以前、葵の企みでハルの部屋に足を踏み入れてしまったが、その際に見たパソコン周りの機械はすごかった覚えがある。

 なにがどれがどういう役割があるのかよく分からなかったけど。

 

「ん、ここが書店」

「結構大きいんだな」

 

 今日が休日ということもあってか、フロアの一区画いっぱいを使った書店にはそれなりの人がいるようだ。

 俺に気づく客もなく、普通に書店へ足を踏み入れながらよさげな本を探しに向かう。

 

「カツキ君はミステリーものをよく読むんだよね」

「まあ……そうだな。でも決まったジャンルとかないから良さそうなものがあったらなんでもいいぞ。……あ、暗いやつは勘弁な」

「りょーかい」

 

 さすがに葵任せにするつもりもないので俺も自分で探すが。

 だが、俺自身学校の図書館で本を借りたくらいしか本を手元に置いた機会がないので、結構目移りしてしまいそうだ。

 

「……うーん」

 

 とりあえず、クイズとかその辺の本ってあるかな?

 ナンプレとかいい暇つぶしに使えていいんだけどな。

 

「かつみんかつみん」

「カツキだ。あとかつみん言うな」

 

 とてとてとやってきた葵が抱えていた本を俺に差し出す。

 

「推理小説。犯人は眼鏡をかけた裁判官だったよ」

「おい、ふざけんなよ……?」

 

 史上最悪の本の勧め方だぞ?

 推理小説で犯人の名前ネタバレしながら勧めるとか罪深いとかそういう次元じゃねぇからな?

 

「冗談。このお話に裁判官は出ない」

「た、性質の悪ぃ冗談しやがって」

「検察官は出るけど」

「おい……?」

 

 俺はこの本を読んで検察官の登場人物が出る度にこいつが犯人かもしれないと疑うことになるんだが?

 頬を引きつらせながら渡された本の表紙を見ると、目に映った題名は———、

 

「シベリアンハスキー物語……?」

 

 ……。

 

「おい、これのどこが推理小説だぁ!?」

「似てるから、つい」

「そういえばツムッターで俺のことをこの犬種そっくりだとかいってたなお前……」

 

 人のことを犬にそっくりというのは普通に失礼じゃないか?

 しかし、本には罪はないし戻さないということは普通に勧めてくれたようなので一応買ってみるか。

 

「あとはこれ」

「なんだ?」

「はじめての犬の育てかた」

「お前俺に犬を飼わせようとしているな?」

「きっといいブリーダーになる」

 

 どっからその自信が湧いてくるか不安になるんだが。

 

「いいや、犬は飼わねぇよ」

『私たちがいるからね』

『ガウ……』

「俺にはもうきなこがいる。あいつを裏切れねぇよ」

『『!?』』

「きなこはアカネの家の犬では?」

 

 フッ、俺はきなこの散歩係を任されているからな。

 外への散歩はたまにしかできないが、第二本部内は広いからスタッフの皆さんに挨拶しながら歩いているぜ。

 

「カツキさんっ」

「ハルも持ってきてくれたのか?」

「はいっ。どうぞ!」

 

 ハルが持ってきてくれた本は掌より少し大きいくらいの小説で、表紙にはアニメのキャラクターが描かれている。

 

「ライトノベルです! カツキさんってあまりこういう本は触れたことないなって思いまして」

「なるほど……ありがとう。これも買うとするよ」

 

 文学系よりかはライトな感じなのか?

 

「……ん?」

 

 その時、ふと棚にある本が目についた。

 真っ黒な背表紙には【黒騎士の秘密!?】と仰々しいフォントで文字が記してあり、その目立つタイトルから俺も興味を抱いた。

 

「なんだこれ」

 

 

【黒騎士とは地球が作り出した星の意思】

 

 これを論ずるには怪人について語らなければならない。

 そもそも怪人とはどこからやってきたか。

 我々取材班が独自に収集した情報を総括してみたところ、怪人は外宇宙からの侵略者という可能性が最も高い。

 外宇宙の生命体、それが怪人。

 見た目が地球由来の物・生物の形状を元にしてこそいるが、その生態はあまりにも常軌を逸しており、我々地球人類に対して異常なまでの憎悪すら抱いている。

・地球人類は既に外宇宙の者たちにより管理・品種改良をされた。

・外宇宙の人類により地球人類は管理・保護され、現在はその経過を見守られている。

・そもそも外宇宙の生命体は地球人類以上の知能を有していない。

 などなど、これまで地球外生命体についていくつもの仮説が打ち立てられたが、既存の生物を超越した生物が地球外のものと考えればおかしな話でもない。

 話を戻そう。

 黒騎士はそのような地球という星を蝕む怪人という地球外の生物を駆除するために生まれた星の戦士。

 その最たる根拠として、既存の兵器の一切が通用しない怪人に対して有効な攻撃を与えられていることにある。

 怪人に対して猛烈なまでに優勢に戦える黒騎士は既存の人類とは異なる生命体の可能性が高く、そのスーツも我々人類の科学力を遥かに超えた技術で作られたものであることは明白だろう。

 

 

「なんだこれぇ」

 

 ものすっごい真面目なことが書かれているようでほとんど的外れだ……。

 もう一度表紙を見返してみると、なんというか仰々しいもので視線を釣ろうとしている感じさえしてくる。

 

「あ、まだあるんだ。その本」

 

 後ろから俺の手元を覗き込んできた葵がそんなことを言ってくる。

 

「なにこれ……」

「黒騎士くんの秘密を追求した娯楽本」

「俺の秘密……? なんの……?」

 

 こんな仰々しい秘密なんてないぞ。

 なんだ星の意思って。

 

「つーか俺ってこんなこと思われてたの……」

「大分前に出版されたものだから、結構適当なこと書いてあるよね。これ」

「皆、黒騎士さんに夢中だったもんねぇ。こんな与太話でも本気にしていた人もいたんだと思うよ」

 

 我ながらすっげぇ誤解されてたんだなぁ。

 他人事のように思いながら本を棚に戻してから———気づく。

 

『黒騎士の真相!』

『黒騎士に迫るⅡ!!』

『解析! 黒騎士辞典!!』

 

「……」

 

 見なかったことにしよう。

 割と本気で手を震わせながら俺は見るも恐ろしい本棚から移動するのであった。

 




万が一の時のためにサメ映画フォントを作っておいてよかったぜ……。

ついでにご報告をば。
本作、第一話、第三話、第十二話に登場する流れるコメントなどを新たに作り直しました!
第一話
https://syosetu.org/novel/227128/1.html
第三話
https://syosetu.org/novel/227128/3.html
第十二話
https://syosetu.org/novel/227128/12.html
今後時間を見つけては過去の話のフォントを作り直していこうと思いますので、作り直した際はその都度ご報告いたします!

今回の更新は以上となります。


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未知の恐怖

お待たせしました。

今回はカツミ視点でお送りいたします。


 久しぶりに私物の買い物というものをしたわけだが、結構疲れるもんなんだな。

 記憶を失っていた時はちょくちょくハクアと買い物に行ったわけだが、こういう大型の店は歩くところが多くて大変だ。

 最初に本屋に行ってあとは適当に見て終わり、かと思いきやその後にスポーツショップにいって服を見たり、ペットショップを見たりで結構疲れてしまった。

 あとは電化製品とか売ってる家電量販店も見にいったが、普段が普段で安い家電しか買っていなかったので最新式のそれを見て滅茶苦茶驚いたりもした。

 

『かつみんかつみん』

『かつみん言うな。……なんだ?』

『やっぱり動物飼わない?』

『命を預かるようなもんだから簡単に飼うなんて言えねえだろ』

『きゅん』

『おい、なぜ今ときめき音を?』

『大丈夫。迷惑かけないから』

『なあ、流れ的に俺の部屋で世話をする動物の話をしているよな? そうだよな?』

 

 会話が噛み合っているようで致命的な食い違いが起こっていないかこれ?

 てか、もしかしてこいつ独房時代みたいに俺の部屋に襲撃をかけようとしている?

 

『新しいPCを買うなら本当は組み立てるのが性能とか諸々を自分でいじれるのでいいんですけど、そこまでこだわらないならノートPCとかそのあたりを選んだ方がいいですね。たしか今お部屋で使っているのはデスクトップでしたよね? こっちなら持ち運びもできますし、気軽に扱えます。次にどれを選べばいいかということですが、前提としてCPUは比較的高性能なものを選んで、あとはキーボードの感じとか、本体の重さとか好みのものを考えたり……私のおすすめでよければ、そちらを選んでもらっても構いません。あっ、初期設定などは私にお任せください。ええ、その際はお部屋にお伺いします。いえいえ、社長さんのお手を煩わせる必要はありません。もし配信などに興味がおありでしたらその分野についても造詣が深いのでなんでも、なんでも相談してください。私としては雑談とかゲーム配信とかのコラボを一緒にしたい所存でして、カツミさんの趣味探しの一助にもなりますし、分からない部分は私がなんでも教えます。きっと社長さんも協力してくださるので、一度考えてみてはどうでしょう? アッ……失礼しました』

『ああ、色々よろしくな!!』

 

 ハルがめっちゃ早口だったけど、パソコンのことについて話してくれているのは分かるので頷いておいた。

 パソコンのことはよく知らないが、ハルはそのあたりのエキスパートらしいので彼女に任せようと思った。

 今日は買わないが、後々ハルにおすすめのパソコンを教えてもらって、その中で選んだものを別の方法で郵送してもらおう。

 

「……つ、疲れた」

 

 色々と回っているうちにお昼時になってしまったので、モール内のフードコートで昼食を食べることになったが、今日が休日ともあって結構な混み具合を見せていた。

 葵とハルは二人で昼食を頼みにフードコートの列に並んで俺は荷物を持って確保した席で待っているのことになった。

 

「たまには、こういう日もあっていいな」

『うん。カツミにはこういう日も必要だよ』

『ガウ』

「お前達にも気遣ってもらっちまったからな」

 

 並行世界で俺が無茶をした時、きっとプロトとシロはものすごく俺のことを心配してくれたはずだ。

 そのことを本当に申し訳なく思っているし、俺自身こいつらに心配をかけたくない。

 

「暇だからさっき買った本でも見るか」

『なんの本を買ったの?』

「恋愛ホラー小説らしい」

『……どっちのおすすめ?』

「こっちは葵のおすすめだな」

 

 なんかいくつか本をお勧めされたわけだが、意外にも葵が恋愛小説なるものをおすすめしてきた。

 なにやら男女関係なく読めるタイプのやつらしい。

 

『題名は?』

「短編集“幽愛”。へっ、ホラーっつっても俺にかかれば全然平気だけどな」

 

 試しに本を開いて読み流してみる。

 

 

赤いラジオ

 

 自分のこれからの人生を考えると憂鬱になる。

 二十代半ばというまだ大人としての人生を始めたばかりの時期に僕の人生観は早くも寂れかけていた。

 別に働いている職場が過酷とかそういうものじゃない。

 周囲の人間関係も良くも悪くもなく、かといって誰かから敵視されているわけでもない。せいぜい付き合いで飯を食べにいったりするくらいだ。

 一部の他人から見れば羨ましがられるのかもしれない。

 “恵まれている”と言われるのかもしれない。

 実際、そうなのだろう。

 僕は恵まれている。

 誰からも敵視されずに、生きることに苦労せず、これからの人生を送ることができる。

 

 朝から会社に出て仕事して、寝るために家に帰って、そしてまた会社に行く。

 現状を変えたいと時折思うことはあっても、そんな決断力が自分にはないのが一番自覚している。

 今の安定した職を手離す勇気も、そうする理由になる家族も恋人もいない。

 なにをするにも理由をつけて諦めて内心で愚痴を垂れ流し腐っていく。

 それが僕「卯月幸助」という人間の全てであった。

「同じ人生、か」

 いつもの帰り道。

 音を鳴らし道を閉ざす踏切の前で足を止め、ふとそんなことを呟いた。

 昼と夜の狭間、朱色に染められた夏の空を見上げた僕はため息をつく。

「俺は、なにがしたかったんだろう」

 小さなころの自分には夢があったはずだ。

 子供らしい憧れのままに抱いた夢はいつしか現実に押しつぶされて、今の僕になった。

 今では希望もなにもなく、同じ毎日を繰り返しているだけ。

「はぁ・・・」

 本当は自分でも分かっている。

 僕は今の生活を変える勇気もない。

 だから、そんな自分を呪って鬱々とした毎日を送っていることを。

 踏切が上がり、ようやく前へ歩き出す。

 駅近くの微妙に人がいるいつもの商店街を進みアパートへの帰路を歩いていく。何年か前は人で賑わっていたはずの商店街は今では見る影もなく、立ち並ぶ建物にはまばらに店が開いているだけで賑わっている気配はほとんどない。

 いつしかここも消えてしまうのだろうか。

 そう考えると心に一抹の寂しさが沸き上がる。

「・・・?」

 人のいない、誰の需要になっているかすら分からないリサイクルショップ。

 使い古された雑貨が置かれたその店を通りかかった時、古びた赤模様のそれを見つけて足を止める。

「ラ・・・ジオ?」

 ガラクタを売っている場所に置かれているとは思えない真新しい真っ赤なラジオ。

 店の前の棚の中でひときわ目立つそれはなぜか目を引くような存在感を放っていて、俺は魅入られるように足を止め、引き寄せられるように店に近づいた。

「ラジオ、ね」

 正直、自分から進んで聞いた時はない。

 小さい頃に両親が運転していた車の中で聞いていたくらいか。

 見た目は新品同様。

 掌二つ分くらいの大きさの真っ赤なラジオにはほとんど傷もない。

「・・・」

 いつもと変わらない帰路の最中に見つけたラジオ。

 基本、無趣味な自分だがこういうことがきっかけでなにか趣味を見つけられるかもしれない。

 ある意味で運命的ななにかを漠然と感じた俺は、そのラジオを手に取った。

 

「興味あるの? それ?」

 

 耳元で囁かれた声に肩が跳ねあがる。

 危うく売り物のラジオを落としかけながら声のする方を見ると、そこには赤いワンピースを着た黒髪の女性がいた。

 手元のラジオと同じ、目に焼き付くような鮮烈な赤色。

 普通ならけばけばしいとかそう思ってしまうのだけど、不思議とそうは思えずそれどころか僕は・・・。

「・・・」

 身惚れてしまった。

 真っ黒な髪と瞳に人形のように整った顔立ち、だけど人形ではない柔らかな笑みをうかべている彼女になにも反応を示すことができずにいると、彼女はおかしそうに微笑んだ。

「驚かせちゃった?」

「いえ」

 かろうじて返せたが、うまく声にできただろうか。

 夕焼けの商店街を歩く人々は目もくれずに道を進んでいくが、僕と目の前の女性の時間だけが止まったかのように無言の時間が続いてしまう。

「古いラジオだよね」

 不意に彼女が僕の手に持つラジオを指さす。

「見た目も汚くて、使えるかどうかも分からない。君もそう思う?」

「・・・いいえ。とても綺麗だと思います」

「どうして?」

 彼女は不思議そうに首を傾げる。

「これは・・・きっと、大切に使われたものなんだと思います」

「・・・」

 うまく言葉にはできない。

 だけど、壊れているとかそういうのではなく、これは大事に使われたということは分かっていた。

「これ買おうと思います」

「・・・」

 自分に骨董品収集とかそういう趣味はないけれど、今日目についた時から僕はこのラジオから目を離せなくなってしまっていた。

 これを買って代わり映えのしない日常が変わるわけじゃない。

 自分の人生をやり直せるわけでもない。

 だけど、それでも・・・。

「僕は・・・あれ?」

「・・・」

 続きの言葉を口にしようとして顔を上げると女性の姿は消えていた。

 周囲を見回しても後姿すら見つけられない。

「からかわれたのかな・・・いや、それ以前の問題か」

「・・・」

 一目惚れ、なのかもしれない。

 自分がそこまで惚れっぽい性格でもないので、状況がそう思わせたのかもしれない。

 そう思って額を押さえようとして手元のラジオに気づいて苦笑する。

 これもなにかの巡り合わせってやつだ。

 買うと言葉にも出してしまったし、買おうか。

 

「・・・フフッ」

 

 

 そこまで読んで本を閉じる。

 

「……導入は普通の恋愛っぽいな」

『ふ、普通? え、どこが? カツミ?』

『フッ、葵もまともなもんを勧めてくれるじゃねーか』

 

 人生を惰性で過ごして腐っていく日常を過ごしていた主人公が赤いラジオを見つけたことをきっかけに人生を変えていくラブストーリーってやつか。

 どこがホラーか分からなかったが、主人公がどうなるか気になるし、後で読もう。

 

「ちょっと気を付けなさい? 危ないから」

「だいじょうぶー」

 

「ん?」

 

 と、そんなことを考えていると、トレーを持った子供が母親と共に近づいてくることに気づく。

 家族で来たのだろうか? 母親も二つの料理がのせられたトレーを持ち、その前を上機嫌な様子の男の子が歩いている。

 

「あっ」

 

 トレーを持って俺の座っているテーブルの傍を通っていた男の子が足をもつれさせ転びかける。

 それに気づいた俺は、咄嗟に男の子の身体を支え、手を離れ床に落ちようとするトレーをキャッチし、中身が零れないようにバランスを取る。

 

「っ、ああ、ごめんなさい!」

「いえいえ。……大丈夫? 怪我はないか?」

 

 慌てて謝ってくる母親に答え、トレーを持ち直しながら立たせた男の子に怪我がないか確認していると、俺の顔を見て驚いたように口をぱくぱくとさせている。

 ……いや、まさか俺だって気づいた? 至近距離だから軽い変装じゃバレちまうのは仕方ねぇけど……こんな子供にまで俺の顔が覚えられてんのか?

 

「……っ、えっ!? く、くくろ……」

 

 こんなところで周りにバレたらパニックになりそうなので、俺は咄嗟に口に人差し指を立てる。

 

「俺のことは秘密にな」

「う、うん」

 

 頷いてくれた男の子にトレーを渡す。

 

「お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ?」

「……うん!」

「もう、すみません!! ありがとうございます!!」

 

 幸い、母親の方は気づいていないのかものすごく謝ってくれた後に、男の子と共に自分たちのテーブルへと移動していく。

 こちらを振り返る男の子に軽く手を振りながら———少しだけ物思いに耽る。

 

「……」

 

 両親と一緒にいる子供の姿に幼い頃の自分の姿を重ねて、苦笑する。

 ああ、少し忘れていたけれど、似たようなところに来たことがあった気がする。

 今では遠い昔の記憶で、過去のトラウマもあって思い出そうと思いもしなかったが……あの時は家族皆で笑い合っていたんだよな。

 

「思い出、か。忘れていたな」

 

 でも、今それを思い出せるのはそれくらい今の自分に余裕があるってことなんだろうな。

 黒騎士時代のように常に追い詰められたものではなく、他の人を頼ることを受け入れることができた。

 

「椅子に座るか」

 

 そう思い、席に戻ろうとしたところで俺の視線の先を大男がよぎる。

 日本人離れした体格に金色の髪、それだけなら別に気にしなかったが身に纏う雰囲気に俺は目を見開く。

 

「……っ!!」

 

 そいつを視界にいれた瞬間―――危険な気配を感じ取る。

 怪人ではない、侵略者と似た雰囲気に一気に焦燥した俺は背後の大男を見据え、そいつのいるテーブルへと足を運ぶ。

 

「水もうめぇとはさすがだな、ここは……って、ん?」

 

 男の座った席にも大量の袋が置かれており、ここで買い物をしていたのが分かる。

 ただこれだけならシンプルに買い物に来た宇宙人という線もあるが、それにしてはこいつは強すぎる(・・・・)

 

「まさか、ここで遭遇かよ。ハッ、相変わらず運がいい(・・・・)な俺様は」

 

 目の前にいる俺を見て好戦的な笑みを浮かべる男。

 この様子からして俺のことは知っているようだが……こんな人の多いところでなにを企んでいる?

 

「お前、侵略者か?」

「ハネムーンだ」

「……は?」

「俺は愛する女と地球へのハネムーンでここに来た。侵略者じゃあねぇよ」

 

 ……。

 ……、……。

 んんん?

 

『『……』』

 

 斜め上の男の返答に警戒するように威嚇していたプロトとシロも唖然としている。

 ハネムーンってあれだよな? 婚約祝いの旅行みたいなやつだよな。

 ……どういうことだ?

 いや、真面目にどういうことだ?

 でも顔とか見る限りマジっぽいぞ。

 確かに侵略者以外にも宇宙人がいるわけだし、観光目的で地球に遊びに来てもおかしくない。

 

「そうか、邪魔して悪かった。奥さんとお幸せに……じゃ、俺はこれで……」

「いや、待て。いい機会だ。話をしようじゃねぇか」

 

 なんか気まずくなって席をあとにしようとする俺を男が呼び止める。

 

「お前はかの有名な黒騎士だな」

「……それがどうした」

「戦士の目つきに変わったな。……そうだな、お前に会ってみたかったから、と言ったらどうする?」

「は?」

「まあ、座れよ。立ち話も疲れるだろ」

 

 俺と会おうとする宇宙人って時点で普通じゃないだろ。

 警戒しながら椅子を引いて腰を下ろすと、男は紙コップの水を一気飲みした後に自身を親指で差す。

 

「俺は星将序列九位だ。ま、特に星とか生き物を壊したわけじゃねぇし、勝手に繰り上がったようなもんだけどな」

「九位が何の用だ? ここで騒ぎでも起こそうっていうのか?」

「言っただろ。ハネムーンだってよ。ありゃマジなんだぜ? 俺たちは全身全霊でこの地球という星を楽しんでいる」

 

 なんなんだこいつ。

 

「ま、ルイン様からのご命令はあるにはあるが、俺たちにとってはおまけみてぇなもんだ」

 

 あいつの差し金かよ……。

 最近、時折見てくるだけだと思ったが、なにやっているんだあいつ?

 

「俺達は無意味な破壊は好まねぇ。いや、嫌いだ。大嫌いだ。なにせ俺のハニーが嫌いだからな」

「俺のはちみつ?」

 

 はちみつが破壊が嫌いなのか。

 

「はちみつじゃねぇよ。……いや、はちみつのように甘く、柔らかい黄金色で美麗でスウィートな存在っつったら間違いでもないのか? おいおい! 地球の言語は可能性の塊か!?」

「何言ってんだお前?」

「感謝する黒騎士。これでまた俺は彼女を褒めたたえる語彙力を身につけてしまった」

「何言ってんだお前?」

 

 思わず二度言ってしまったが、こいつもしかして葵と同じタイプの言動をする奴か?

 この宇宙にあいつと並ぶ思考回路をしているやつがいたことに驚愕する。

 

「で、なんの話をしてたっけ?」

「忘れてんじゃねぇかよ。……破壊は嫌いだって話だ」

「あー、そうそう。破壊は嫌いだ」

 

 本当になんなんだこいつ。

 今まで遭遇した序列とは違う。

 

「ここで暴れるつもりはねぇってことか?」

「ここでは、な」

「……」

 

 好戦的な笑みを向ける九位を睨む。

 破壊は好まねぇというわりにはなにかしらやろうとしているのか?

 

「ダーリーン!!」

 

 睨み合う俺と九位。

 そんな中、跳ねるような女性の声が響く。

 その声にさっきまでの好戦的な笑みを、晴れやかなものにさせた九位がそちらを見る。

 動きに合わせて、俺もそちらを見ると視線の先には長身のブロンドの女性———傍目に外国の人に見えるが、一目見て違うのが分かった。

 

「……アルファか?」

「お、そういえば分かるんだったな? 紹介するぜ。彼女が俺のハニー、アイシャだ」

 

 ……本当に観光を楽しんでいる。

 めっちゃアイス買っているし、よく見たらこの二人の服装がカラフルすぎてすっげぇ目立ってる。

 今更ながらその事実に気づいてちょっと引いてしまっていると、両手いっぱいに袋を持ったアイシャと紹介された女性が近づいてくる。

 

「ダーリン、アイス買ってきたわ!」

「随分たくさん買ってきたじゃないか」

「ねっ、もう色々な色があってもうどれ選んでいいか分からなくて大変だったわ!! だから全種類頼んじゃった! ……やっぱり頼みすぎちゃったかしら?」

 

 二つの袋にわけられたアイスの箱。

 買い過ぎなのは見て分かるが、それに対して男は怒る素振りすら見せずに女性の顎に指を添える。

 

「この程度のアイス、俺が全部食い尽くしてやるよ」

「ダーリン……ッ! 貴方の情熱で私まで溶けそう……!! このアイスみたいに……!!」

 

 熱く見つめ合う二人。

 ……うーん。

 その様子を見て俺はさっき買った小説をぱらぱらとめくる。

 葵に勧められた本の一つが恋愛小説だったので、今の状況照らし合わせながらさらっと文面に目を通してから、もう一度未だに見つめ合っている二人を見る。

 

「なるほど、これが事実は小説より奇なりってやつなのか。勉強になる」

『シロ! これカツミの情操教育的に駄目だ!! 目に毒だよこいつら!?』

ガァウゥゥ(変態に信号送信)!!』

 

 しかし、こんな人が集まるところで惚気るのはすげぇ勇気だな。

 多分、宇宙人云々関係ないんじゃないか?

 

「あら、この子は?」

「フッ、聞いて驚くなよ。こいつはルイン様がお熱の地球人だ」

「まあ! 偶然!! 記念に写真をとりましょう!!」

「そうだな!」

 

 ものすごい勢いで俺の両隣に移動してきた九位とアイシャに普通に困惑する。

 肩を組み、スマホを自撮りモードにさせた九位がその長い腕を伸ばして、三人の姿を画面に映す。

 

「え? え? おい?」

「記念にピース!」

「はい、笑ってピース!」

「「イエェ――!!」」

「い、いぇー……」

 

 なんか勢いに押されてピースしてしまう。

 俺はもしかしてこいつらの術中に嵌っているのかもしれない。

 いつも俺が打ち倒してきた怪人や侵略者は全員敵意を持っていた。

 だけど、こいつらにはそれがない。

 敵意どころか、善意すらも感じさせる動きで俺を独特の世界観に巻き込んでくる。

 ある意味で、ルインより恐ろしいやつらというのが、素直な感想だった。

 

「うーん、いい写真だぜ!」

「サニーの時は親戚のおじちゃん感があったけどあれね。家族感があるわね!!」

「もう息子にしちまうか!」

「いや、待て? 待って?」

「……それすごくイイ考えね!」

「聞いているか? 俺の話?」

 

 待て、やべぇぞ意味が分からねぇところで息子にされる!!

 翻弄されっぱなしのまま、九位が真面目な表情で俺の肩に手を置く。

 

「というわけで、俺たちの息子にならないか?」

「いや、なるわけねぇだろ。こえーよいきなり」

「え、駄目なの!? いい家族になれると思ったのに……」

 

 ……。

 

「プロト、シロ。レイマに助けを求めてくれ……」

『あのカツミが折れかけてる!? シロ、信号は!?』

ガァァァァウ(それが、送れてなくて)

『送れてない……?』

 

 通信を妨害されている?

 俺は目の前で俺そっちのけの恐ろしい家族計画を立て始めている宇宙人カップルを睨む。

 

「おい、通信を妨害されている。お前らがやったのか?」

「あ? ハニー?」

「ううん? 発動(・・)してないわよ? 多分だけど」

「じゃあ、俺達じゃねぇな」

 

 こいつらじゃない……?

 じゃあ、誰がと考えた瞬間、モール内に地響きが走りたくさんの悲鳴が聞こえてくる。

 それに合わせてパニックが起きるようにざわつきを見せる。

 っ、なんかしらの騒ぎが起きちまったみたいだな。

 

「カツミ君!」

「カツミさん!」

「葵! ハル!」

 

 昼ご飯を頼みに行っていた二人が慌てて戻ってくる。

 葵は俺の近くにいる九位の姿に警戒心を露わにしながら手首のチェンジャーから抜き放った拳銃を向ける。

 

「この騒ぎは貴方達が?」

「切り替えすげーな。殺し屋かよ。だが、ちげーよ、生憎俺達も知らねぇ」

「……カツミ君」

「多分、こいつらは関係ない。それより通信が妨害されて———」

 

 ――いる。と口に出そうとした瞬間、身体が僅かに重くなる。

 なんだ? と思い葵達を見ると、二人だけではなく九位とアイシャまでもが自身の身体の重さに首を傾げていた。

 

「……重力怪人か?」

「ううん、カツミ君。この能力には覚えがある。平均化怪人だね」

 

 葵が過去に戦った範囲内にいる生物の力を平均化させる怪人か。

 

「範囲はこのモール内か?」

「だと思う。対処は私に任せてカツミ君はハルを」

「お前()だろ?」

 

 俺はまだ不用意に力を発揮できない。

 なら、頼るべきは葵達だ。

 

「え、知ってたの?」

 

 アカネとキララのことなら最初から気づいていたぞ。

 あいつらは異変を感じると同時にすぐにそっちに向かっていったけど。

 

「まったく、心配でついてくるとかあいつらの中で俺は子供だと思われてんのか?」

「俺達の息子だがな」

「私とハルちゃんのお兄ちゃんだよ?」

「どっちの息子でも兄でもねぇわ」

 

 なんでお互いに碌に知らねぇのに異次元の会話を展開させてくるんだこいつら。

 

「避難誘導は任せろ。だが、危なくなったら頼れ。俺が変身する」

「……うん。行ってくる」

 

 葵が現場へと向かっていくのを見送る。

 今、ここにいる全員の力が平均化されて、変身後もそれが変わらないわけだが———今のあいつらなら大丈夫だろう。

 

「お前らはどうする? ……って、いねぇ」

 

 九位の方を見ると、その姿は既に消えていた。

 平均化怪人の特殊な結界で閉じ込められているので、相変わらずこのモールにいるだろうが……。

 まあ、あいつらも能力の影響を受けているなら放っておいても大丈夫だろう。

 

「ハル、避難誘導をするぞ」

「はいっ」

 

 外との通信もできない今、俺達がまずするべきことはあいつらの戦いに一般人を巻き込まないようにすることだ。

 俺が変身するのは最終手段だが、もしそんな状況になったら俺は躊躇なく変身するつもりだ。

 

 

 

 




平均化怪人さんの再登場でした。
そして小説に小説を差し込む変なことをしてみました。
内容は恋愛ホラーです()


今回の更新は以上となります。


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覚悟の差

お待たせしました。
前半がアカネ視点、後半から別視点でお送りします。


 自分たちはなにをやっているのだろう。

 護衛と言う名目でカツミ君とハルちゃんとヘタレブルーの買い物に隠れてついていった私ときららだが、なんというか、ふと我に返ると自分たちはなにをしているんだろうかと思いへこんだ。

 しかしここで乱入しにかかるのはラインを超えるので駄目だ。

 親しき仲にも礼儀あり、という言葉があるようにどのような形であってもこれは葵が誘ったこと。なぜかハルちゃんまで参加していることに……いや、あれは多分恋愛弱者の葵が日和ってあの子に助けを求めたのだろうけど、とにかく邪魔をしにかかるつもりは微塵もなかった。

 でも、改めて思うとカツミ君が遊びへの誘いをあっさりと受けたことに、私は素直に嬉しくなった。

 独房で保護していた時の彼は外に向かうことに消極的だったし、はじめて一緒に外に遊びに行った時も映画館とかの娯楽に戸惑った様子を見せていたから。

 こうして前向きに外出を楽しんでいる彼の姿に安心してしまった。

 

 だからこそ、そんな彼の限られた平穏をぶち壊した怪人を許すつもりはなかった。

 

 外部との通信断絶。

 大型モール内を綺麗に覆う異空間。

 そして、身体能力の低下———過去の事件から現れた怪人を平均化怪人と当たりをつけ、私ときららは真っ先に怪人が現れた現場へと足を運んだ。

 

「レッド、変身はしたけどやっぱり……」

「うん。この空間内は変身後でも問答無用でスーツのパワーも平均化されちゃうみたいだね」

 

 向かう際に既に変身を済ませているけど、身体能力は変身前とほとんど変化はない。

 閉じ込めた空間内の生命に“身体能力の平均化”という概念を強制的に課しているようなものなんだろう。

 まあ、いつもの怪人らしいデタラメな能力だ。

 

『レッド!? イエローも?!』

『もういる!?』

『お姉さま!?』

 

「皆さん! 足を止めずに避難を!!」

「怪人が現れましたので、対処はうちらに任せるんや!!」

 

 すれ違う一般人が私ときららを見て驚いているが、私たちは避難を促しつつ怪人の排除に動くしかない。

 外部との通信手段が遮断された今、司令のサポートは受けられない。

 

「……待って、今私のことお姉さまって言った子いなかった!?」

「ええやん。末っ子なんやからお姉ちゃん呼びとかに憧れてたんやろ」

「架空の妹は欲しくないよ!? しかも不特定多数の!!」

 

 ……くぅ、身バレの影響がこんな形で出るとは。

 なんか四回くらいお姉さまと呼ばれながら上階まで吹き抜けになったモールの中心区画に駆け付ける。

 既に人が避難し、人気がすっかりなくなった中心に、三体の怪人を確認する。

 

「ぎひひ、狩りの時間だ」

「ジャスティスクルセイダーとの戦前の試し斬りとなればいいのだが」

「木偶が相手だが、血袋には変わらん」

 

 怪人は柔道着のようなものを着た全身包帯まみれの奴が二体、天秤のような歪な形の頭を持つ痩身の奴。

 三体とも共通して言えるのは趣味の悪い金色の鎧が纏われており、あれが前情報にあった星界エナジーにより強化された個体だということが分かる。

 ……柔道着を着た二体の怪人は同一個体かな? 一度始末した覚えがある。

 

「———は? なんでジャスティスクルセイダーがここにいやがる!!」

「僥倖!!」

 

 驚く天秤頭の怪人を他所に、こちらを確認するなり柔道着を纏った怪人の一体が刀を引き抜きながらこちらへ襲い掛かってきた。

 こちらも即座に引き抜いた刃で切り払ったところで、きららが両手に取り出した手斧を投げつけ退かせる。

 

「……」

 

 スーツのアシストがないせいか独特のしびれが手に伝わる。

 きららもいつもの大きな斧ではなく、片手で振り回せる程度の片刃の斧を取り出している。

 

「不足なしィ……!」

「話が違ぇぞ!! 奴の話じゃまずは人間どもを始末して奴らをあぶりだす話じゃなかったのか!?」

 

 包帯の巻かれた顔から気色の悪い笑みをのぞかせた柔道着の怪人。

 しかしその一方で天秤頭の怪人は私たちの姿を見て動揺を見せている。

 

「どうやら、私たちが出てくることは想定外だったみたい」

「なら、逆によかったわ。私たちがいない状況だったら大変なことになっていたからなぁ」

 

「っ、クソがぁ……!!」

 

 葵との戦闘記録通りに短絡的な性格は変わっていないっぽいね。

 司令のスーツと違って下品な金色の鎧を着ている違いはあるけど。

 取り乱す天秤頭の怪人を後ろに追いやり、二体の柔道着姿の怪人が前に出てくる。

 一体は刀、もう片方は身の丈を大きく超える大太刀を担いだそいつらは好戦的な視線を私ときららへ向けてくる。

 

「我らは技巧怪人テクニカ」

「一時は貴様たちに敗れた我と同一の怪人なり」

 

 テクニカって名前だったのか。

 てか律儀に名乗る怪人に冷めた視線を向けると、刀を持った個体が私に切っ先を向けてくる。

 

「レッド、貴様との決闘を所望す———」

「……」

 

 意味不明なことを口にする刀を持った怪人に引き抜いた手裏剣を放つ。

 放たれた手裏剣に面食らった怪人は慌てて手に持った刀で斬撃を防ごうとするが、防ぎきれずに右手の薬指と小指が飛ぶ。

 

「がぁぁぁぁ!! なにをするか貴様ぁぁぁぁ!? 話の途中だろうがぁぁぁ!!」

 

 最初に斬りかかってきておいて話?

 平均化怪人で能力を弱体化させておいて一対一の決闘?

 こいつはいったいなにを言っているんだろう?

 中途半端な武士道精神を見せてくるテクニカに本気で意味が分からなくなっていると、指を飛ばされた程度で激昂したテクニカが刀を固く握りしめながら構えをとった。

 それに合わせて大太刀を持った奴もきららに敵意を向けながら構える。

 

「バラサン、もう我慢ならん!! 殺るぞ!!」

「勝手にやれ!! 殺せ!! 能力は機能している!! 奴らは普通の人間と同じ身体能力しかないからなぁ!!」

 

「イエロー」

「こっちはこっちでやるわ。あんたはキレてる方を」

「了解」

 

 戦いやすいようにイエローと距離を取り、刀を持つテクニカを迎え撃つ。

 奴が片手で握りしめた刀で斬撃を繰り出してくる。

 

「お前の剣技は知っているぞ! 知っているよなぁ我の能力は」

「……」

 

 確か、こいつは武術をコピーする怪人だったはず。

 倒した時は技術を盗まれる前に背後から不意打ちしてなにもさせずに倒したはず。

 実際に強いかどうかは分からない、けど今振るわれている剣技は私と同じものだ。

 

「ハァァ!!」

 

 テクニカの振るう刀を逸らし、反撃を見舞う。

 しかし笑みを強めた奴は予測していたように刀で防ぐ。

 

「知っている! 知っているぞ!!」

「……」

「主は儂には勝てん!! 戦えば戦うほど、主の技量を儂が上回るからなぁ!!」

 

 上段からの振り下ろし———下からの斬り上げに合わされ弾かれる。

 腕が上に弾かれ胴体が無防備になったところでテクニカの刺突が迫るが、冷静にチェンジャーから取り出した匕首で刃を逸らし、返しの刃で反撃を見舞う――が、これも対応される。

 

「主をなます斬りにした後は後ろの黄色いのだ!! いや、別個体の我が殺すかなぁ!!」

 

 こういう怪人か。

 侵略者にはない面倒さ。

 久しぶりの感覚に逆に懐かしく思いながら、思考をより鋭利なものにさせていく。

 

「死ねい! レッドォ!!」

 

 さっきから戦いながら無駄口をするテクニカを無視し、刀を振るう。

 同時———奴も合わせるように刀を振るうと同時に、私はあえて首への警戒と防御を下げて攻撃を誘う。

 

「隙を見せたなぁ!!」

 

 バラサンの能力によりスペックは怪人が上。

 私の剣技を現在進行形でコピーし、凌駕する奴の技量も上。

 剣速も奴が上なことから、先に奴の刀が私の首を断ち切るだろう———が、

 

「———はえ?」

 

 先に首を刈り取ったのは私の刀。

 首を断ち切られ、くるくると宙を舞ったテクニカの頭部はごとりと音を立てて地面に落ちる。

 構わず私は、テクニカの首から下の身体をバラバラに切り刻み炎で消し炭にさせる。

 

「な、なぜ!? 我が負ける!? 先に、そっ首叩き斬るはずだったのに!?」

 

 ……やっぱり怪人、生命力が段違いだね。

 刀を払いながら、テクニカの生首を冷めた目で見下ろす。

 

「お前が先か、私が先か」

「は?」

「首を落とすのがだよ」

 

 生首の状態で器用に困惑するテクニカに続けて言葉を発する。

 

「どっちが先かの話に持ち込めばいい。そこからはもう技術の問題じゃないでしょ? そしてお前は躊躇した。私の首と自分の首を天秤(・・)にかけて選べなかった」

 

 いくら私よりも技術に優れようとも自分の命と相手の命を天秤にかけて、結果的に自分をとってしまった。

 それに私も自分の命を捨てようと思ったわけじゃないし、確信もあった。

 

「まあ、当然だよね。苦労もなく私の技術を身に着けたやつがあっさり自分の命を手離せるはずないもんね」

「ッ! こ、この狂人———」

「生首がいつまでも喋らないでよ」

 

 空中に放ったジャスティビットが怪人の頭に突き刺さり、高熱で燃やし尽くす。

 断末魔さえも叫ばせずに消し炭になったテクニカに興味をなくした私は、もう一体と戦っているイエローを見る。

 

「叩き斬ってっくれるわぁ!!」

 

 身の丈を超える大太刀を嵐のように回転させながら突撃するテクニカ。

 それを相手にしたきららは斧を放り投げ、両手を前に軽く構え、足を半歩に軽く開いて迎えうつ。

 

「真っ二つにしてくれ―――」

「……」

 

 間近に接近したテクニカの踏み出した右足の側面に、きららが繰り出した下段蹴りのつま先が打ち込まれる。

 重心が移動する刹那の瞬間を突くくるぶしを狙った下段蹴りは、全体重と全力を載せたテクニカの体勢を容易に崩す。

 

「フッ!」

 

 そこに一瞬の踏み込みで懐に入り込んだきららが前に構えた両手でテクニカの首と胸元の胴着を掴み、背負い投げのように放り投げた。

 ぐるん! と、弧を描くようにテクニカの全体重と全力(・・)をそのまま乗せたまま硬質な床にたたきつけられたことにより、モール一帯を強烈な地響きが襲う。

 投げる過程で首を折られたテクニカは口から血の泡を吹き出しながら身体を痙攣させる。

 

「ァ……がっ……ごぼっ」

「十二天“(うつろ)”———地天砕(じてんくだ)き。胴着着てる癖に受け身もまともにとれないんか?

 

 そのまま抵抗もできないまま、もう一体のテクニカも斧で首を断ち切られこと切れた。

 ……うっわ、アサヒ様の理不尽技じゃん。

 相手の力を全て利用した上で投げながら首をへし折る無手専用の滅茶苦茶怖い技だ……。

 きららの技にドン引きしながら、天秤頭へと目標を変えようとして———既に終わっていることに気づく。

 

「がっ、おま……え、ブルー?」

「……」

 

 遅れて到着した葵が周囲に浮かせたジャスティビットから伸びたワイヤーで天秤頭の怪人を雁字搦めに縛り付けていた。

 元より能力以外は大したことはない怪人だったけど、葵も見てわかるほどにイライラしているから邪魔されたのが相当癪にきたのだろう。

 

「なんで、お前たちは俺の能力に———」

「うるさい」

 

 パン、と軽い音の後に怪人の天秤頭が撃ち抜かれ、最後の怪人も始末される。

 同時に身体の重さもなくなったことからモールを覆っていた特殊な空間が解除されたことを察する。

 

「うーん、やっぱり制限されてないのが一番いいね」

「身体が軽いわー」

 

 平均化怪人は問題なかったけど、他にいた怪人が幹部クラスだったらマズかったかもね。

 その時はカツミ君を頼ることになったかもだけど、難なく対処できて本当によかった。

 

『お前たち、無事か!?』

 

 と、背伸びしていると通信も回復したのか司令からの連絡が入る。

 

「平均化怪人が出現しました。他二体の怪人も始末したので、後処理をお願いします」

『さすがだな。お前たちは変身を解き、カツミ君と合流するといい』

 

 ……いや、合流するのはいいけど、どうして私たちがここにいるのか聞かれると答えにくいんだけど。

 周囲にはちらほらと一般客がスマホ向けてきているし、閉じ込められる前からここにいたのはバレバレだ。

 どうしたものかと、同じことを考えていたきららと視線が合ってしまっていると、そんな私達の元に葵が戻ってくる。

 

「彼、最初から気づいてたみたい」

「「え”」」

「だから非常に、非常に不本意だけど合流することを許可してやろう。うむ」

 

 え、最初から気づかれてたとかやば。

 というと、私たちが遠巻きで伺っていた時も気づいていたの?

 え、逆に気まずくないそれ……?

 


 

 俺たちが黒騎士こと穂村克己に遭遇したのは本当に偶然だ。

 俺たちがここにいたのはあいつに言った通り、アイシャと地球の店や飯を楽しむためという単純な理由だった。

 だが、予想外な話じゃあない。

 黒騎士と日常でばったり遭遇する想定はあったし、なんならこうやってぶらついている間に会えるだろうな、くらいまで考えていた。

 なにせ、黒騎士は———奴は文字通りに俺にとっての死神だっただろうからな。

 

「運がいいぜ」

 

 今しがた怪人を始末し終えたジャスティスクルセイダーをモールの吹き抜けの三階から見下ろしてそう呟く。

 ジャスティスクルセイダーとは元々戦うつもりではあったが、噂の怪人勢力も見れるとはつくづく自分は幸運だなと思わされる。

 

「すごいわねぇ。あの子たち、あれでさっきは生身みたいなものだったのでしょう?」

「だろうな。恐ろしいぜ……だが、それと同時に———」

「戦ってみたい?」

 

 元来俺は戦士だ。

 色恋にうつつを抜かしてはいるがその本質は変わらない。

 

「ルイン様は沈黙こそしているが……まあ、好き勝手にやってはいいんだろうな。なら、戦ってみるのもアリだな」

「……そう、分かった」

 

 アイシャが止めないことに少し驚き彼女へ目を向ける。

 

「いいのか? 死ぬかもしれないぜ?」

「答えは分かっているでしょ? 貴方が死んだら私も死ぬわ。私が死んだら貴方も死んでくれるのよね?」

「ハッ、つくづく恵まれてんなぁ俺は」

 

 ああ、確かにお前が死んだとしたら俺は後を追うだろう。

 あの世でお前を一人きりにさせるなんて絶対にごめんだ。

 

「黒騎士、面白い子だったわね」

「ああ、そうだな」

「昔の貴方みたいだった」

 

 そうかぁ?

 面白いやつではあったが昔の俺に似てるのはちょっと同意できねぇなぁ。

 

「息子にするのもアリだったんだけどなー」

「諦めるの?」

「え、諦めないぜ?」

 

 困惑していたが、嫌そうでもなかったからな。

 ……ああ、だとしたらアイシャの言う通り、俺とあいつは似ているのかもしれねぇな。

 

「ま、あいつとはまた会いそうな気がするな。つーか、会うだろ」

「……ダーリン、あのさ」

 

 快活な様子とは違って、アイシャが物静かに声をかける。

 ———感情を押し殺した弱々しい……本来の性格の彼女に俺は頷いてから寄り添う。

 

「黒騎士は良い子だったわ。でも……彼は貴方を殺しうる存在だった。ルイン様にとっての地雷でもあった。下手をすればあの場で殺されていてもおかしくなかった」

「だろうな。知ってる」

「私が引き寄せた(・・・・・)

「もちろん、それも知っているさ」

 

 アイシャは“幸運のアルファ”と呼ばれているが、その実は異なる能力を持っている。

 “不幸のアルファ”

 アイシャは不幸を引き寄せる。

 無差別に不幸をまき散らせるわけではなく、身近にいる者に不幸な事象を紐づかせる他のアルファと比べるとそこまで強力でもない力を持つ。

 今回、俺を殺しうる黒騎士と遭遇したのは彼女のアルファとしての力が発動してしまったからだろう。

 アイシャは、かつては星の権力者に利用され不幸を引き寄せる力を悪用されていた。

 自分のせいで、罪のない誰かを不幸にさせていたことを深く悲しみ、自分の命さえ投げ出そうとしていた過去を持っている。

 

「幸運のアルファだなんて、そう思ってくれるのは貴方だけよ?」

「他人の眼なんて気にしちゃいねぇよ。俺はな、アイシャ」

 

 彼女の両肩に手を置き目を合わせる。

 

「お前が引き寄せる“不幸”を全部俺が背負って、それを全てひっくり返してお前を幸せにしてやるって決めたんだ」

「でも……」

「それにな、俺はこう考えている」

 

 運命は覆してこそ意味がある。

 そして、お前が引き寄せる不幸に立ち向かって戦っていくからこそ俺はお前の隣に立てている。

 

不幸(お前)から目を背けた瞬間、俺の命はそこまでだって、な」

「フィンガ……」

 

 俺は、惚れた女のために不幸を跳ねのけて生きて笑ってやる。

 ジャスティスクルセイダー? 黒騎士? ルイン様? ああ、全員とんでもねぇやつらだ。

 戦士として戦ったら楽しいだろうな。

 勇敢に戦って死ねたら誉れになるだろうな。

 ―――だが、んなこと関係ねぇ、自分の矜持とかそういうのひっくるめた上で断言する。

 

「俺はお前以外眼中にない。一目見た時からずっとお前に夢中なんだぜ、俺は」

「っ、ありがとう、私の傍にいてくれて」

 

 さすがの俺でもこんなこと何度も言うのは結構恥ずかしいものがある。

 なので、気落ちした彼女を元気にさせるがてら、手を取って歩き出す。

 

「まあ、すぐに戦いにいくわけでもねぇし続けて観光していこうぜ!」

「……うん! さんせーい! 美味しいものも食べに行きましょう!」

 

 いずれは戦うことになりそうだが、それは今じゃあない。

 少なくとも俺の不幸としてお前たちが立ちはだかるまでのお楽しみってところだな。

 




怪人相手に命懸けの度胸試しをして圧勝するレッド……。
ちなみにテクニカは第一位メタ怪人の一体でした。


今回の更新は以上となります。


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二人目の暴露(掲示板回)

間違って一時間早く更新されて久しぶりに頭が真っ白になりました()


お待たせしました。
掲示板回ですが、途中で動画形式とかあったりします。


0701 ヒーローと名無しさん

ジ ャ ス ク ル

生 身 ス ペ ッ ク で 怪 人 を 圧 倒

 

0702 ヒーローと名無しさん

こいつら人間じゃないだろ

 

0703 ヒーローと名無しさん

怪人と戦い過ぎて怪人化説濃厚になってきて草

 

0704 ヒーローと名無しさん

避難しないで普通に撮影してたおバカいたけどえげつな

 

0705 ヒーローと名無しさん

また古武術師範が荒ぶっておられるわ

 

0706 ヒーローと名無しさん

怪人化説どころか倒した時点は一般人スペックまで落ち込んでいるはずなんだよなぁ

圧倒したなんで???

 

0707 ヒーローと名無しさん

再生怪人と化した平均怪人だけど

あいつ能力マジえげつねぇからな?

 

開示されている情報の時点で特定範囲内の生物の身体能力の平均化させてくるし、

怪人本人と多分味方は能力範囲外

普通だったら一般人以下の身体能力のままやられてもおかしくないクソゲー怪人だ

 

0708 ヒーローと名無しさん

これのなにが面白いって

社長が公開した情報を見たやつらがジャスクルを人外認定してること

 

0709 ヒーローと名無しさん

こんなの人間の動きじゃねぇだろ

前から疑ってたけどさぁ

人間の皮を被った化物だろ

 

0710 ヒーローと名無しさん

スペックはむしろ人間以下にまで落ちてる定期

 

0711 ヒーローと名無しさん

休日のモールの一般客を千人と仮定して、

且つその中に子供、幼児、老人も混ざっていると考えると滅茶苦茶下がっているんだが

 

0712 ヒーローと名無しさん

お前ら宇宙人野郎の情報操作に騙されてる

 

0713 ヒーローと名無しさん

ここぞとばかりにジャスクルを人外にしたいの草

ほぼ生身でこれやってんのがおかしいって言ってんのや

 

0714 ヒーローと名無しさん

俺の密かな楽しみの古武術師範とその見習い弟子の黒騎士&ジャスクル解説動画をお前に教える

http///whotube/takeCHcxxxxx

 



 

 

 見てくださいここ!! ここでレッドさん、わざと刀を持つ手を下げて隙を作ってるんです!!

 

 えぇ、偶然ではないんですか?

 

 よく見なさい!! ここで怪人がレッドさんの首元に刀を振るおうとしたところに、彼女は合わせた!! でも間に合うはずもない!! 体重も身体能力も劣る彼女がこの後、勝ったんです!! 首を落として!! 分かりますか!? Bくん!?

 

 単純にレッドの方が早かったのでは? 少なくとも見ていた僕にはレッドが先に怪人を倒したように見えました。

 

 だから君はまだ見習いなんだ!! レッドさんが速いんじゃない!! 怪人が遅くなったんですよ!! なんで分からないかなぁ!!

 

 お、遅くなった?

 

 もう一度見てください。ここでレッドさんと怪人は同時にお互いの首めがけての横薙ぎを繰り出しています。スローにして分かると思いますが初速は圧倒的に怪人の方が上です。でも、この次のフレームではレッドさんの方が速く怪人の首に到達しているんです!!

 

 だからそれが分からないんです! もったいぶらずに教えてください!!

 

 まったく堪え性がない。 いいですか? レッドさんはね、条件を同じにさせたんですよ

 

 ???

 

 平均化怪人の影響でレッドさんの身体能力は生身かそれ以下にまで下げられているんです。対して彼女が戦う怪人は弱体化のない全力の状態で戦えています。条件は不利、スペック差も明確。しかしその上で恐ろしいことに、彼女は自身の首への攻撃を誘った

 

 え、自分を囮にしたってことですか!? それって自殺行為では!?

 

 ええ! ええ! だがここで恐ろしいのは、怪人の動きを完全に操っていたこと!! 首への攻撃を誘い、その瞬間を狙って彼女も怪人と同じ首への斬撃を繰り出す。しかし、怪人の方が速い!

 

 もう意味が分かりません! とんちの話ですか!?

 

 いいえ、そうではありません! 彼女は恐ろしいことに、怪人に択を叩きつけたんです! 自分の首を守るか、レッドさんの首を落とすかの二択を!! 完全に相手の心理を理解しなければできないことです!

 

 ……え、意味が分からないんですけど

 

 現代人の価値観ではないでしょうね。確かに言えることはレッドさんは勝ったということです。私もKANEZAKIコーポレーション様の許可を頂いて何度もレッドさんの解説をさせていただいておりますが、見る度に凄まじいことをしてくれます

 


 

 イエローさんが用いたこの技は、とても単純なものです。崩して投げた。短くまとめるならば説明できる技ではありますが、実際に彼女はそれで怪人を倒してしまった

 

 たしかに、でも見た感じ、イエローの使った技術って教われれば誰でもできるということでは? みんなこれを習得すれば格闘家でも怪人と戦えるかもしれないってことですよね?

 

 理論上は可能ですね。

 

 えー! じゃあ僕も教わりたいです!

 

 全速力で突っ込んでくる2トントラックを前に逃げない度胸と技量があれば

 

 え?

 

 彼女がやったことはそれです。武器をもって突っ込んできた怪人を崩し、その力の一切を損なわないで投げた

 

 そ、それが2トントラックとなんの関係が……?

 

 何度も言いますが、技の原理的にそこまで難しくはないんです。単純な過程だけで言えば相手を崩して投げる技ですからね。だがその単純な動作で行われる動きが全て神がかっているんです。見てください、この怪人の態勢を崩した蹴り、これって完全に重心の移動を捉えているんですよ? これを実践してみろと言われたら絶対に無理って答えますね、私は。

 

 そこまで仰るほど……僕には足払いをかけただけにしか見えないのですが

 

 身長160ほどの女性が、2メートルを優に超える大男を足払いで崩したんです。それも武器を振り上げ、目前にまで迫っている相手に。

 

 確かにそう聞くと……いや、いやいやなんでイエローこんな落ち着いているんですか!? おかしくないですか!?

 

 文字通りに潜った修羅場が違うからです。断言しますが、これは柔道の投げとは異なるものです。合気道に近いとも言えますが、これも違う。この技は相手に折るべき首と掴める部位があれば成立する……投げながら首を折り受け身をとらせない人外との戦闘を想定したものです。対人格闘技の解説を行う身としてこのようなことを口にするべきではありませんが……恐ろしいと同時に美しい、完成された投げです。

 

 

 

□    16:03
 
     

ジャスティスクルセイダーVSテクニカ戦解説

武~格闘技解説CH~

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えぐいこわいすごいやばいぐろい

↑映像を目の当たりにした時の私の心情

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0715 ヒーローと名無しさん

相変わらず見習いBくんイイ感じにお調子ものだなぁ

 

0716 ヒーローと名無しさん

つまりイエローは全速力のトラックをぶん投げたってこと?

 

0717 ヒーローと名無しさん

どこで覚えたんやそんな技術(恐怖)

 

0718 ヒーローと名無しさん

レッド怖すぎて草

これもう人間って事実の方が怖くねぇか?

解説通りだとしたら怪人とのチキンレースで圧勝して首を跳ね飛ばしたんじゃ?

 

0719 ヒーローと名無しさん

別動画の見習いBくんの

 

「黒騎士くんって武術とか学んだ方が強くないですか?」

 

って台詞に静かにキレる師範くだり好き

 

0720 ヒーローと名無しさん

「もったいないですよね。あんなに強いのに」

「ボクシングとかやったら絶対強いと思いますもん」

「格闘経験のある僕から見てももどかしいですもん」

 

0721 ヒーローと名無しさん

割と炎上しかけたやつやんそれ

 

0722 ヒーローと名無しさん

見習いなのにめっちゃ有識者みたいな視点で語っているの草

隣で真顔になってるお師匠の顔とかすごかったなぁ

 

0723 ヒーローと名無しさん

 

「黒騎士さんは武術云々じゃありません」

「武術というものは対人を想定しているものです」

「なぜ、怪人や侵略者という人ならざる存在に対人間の戦い方をしなければならないんですか?」

「そもそも黒騎士さんの戦闘方法は、いち格闘家から見れば理想形の一つです」

「打たせずに倒す。掴まれる前に倒す。組まれる前に倒す。避けられる前に倒す。その全てを強欲に、理不尽に体現しているのが彼の戦い方なんです」

「分かりましたか? バカ弟子?」

「理解したなら一人前の格闘家面をして安易な決めつけをしないように」

 

0724 ヒーローと名無しさん

古武術師範が怪人に対しての対人格闘を難しいって考えてるの流石だなって思う

明らかに普通の人間じゃスペック足りてないもんな

 

……ジャスクルはなぜか対応できちゃってるけど

 

0725 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんに格闘技とか無粋と思っちゃうの分かる

 

0726 ヒーローと名無しさん

黒騎士君は普通に頭の回転速いからその上でぶん殴るという最適解を導き出してるからな

 

0727 ヒーローと名無しさん

たぶん黒騎士くんなにも考えずに殴ってると思う

 

0728 ヒーローと名無しさん

本人からすれば殴ったらタヒんだって感じなんだろうなって

なので見習いBくんは的外れどころか余計なお世話って感じ

 

0729 ヒーローと名無しさん

レッドもやべーし、イエローもやべー

相対的にブルーがまともに見えちまう

 

0730 ヒーローと名無しさん

まとも…?

 

0731 ヒーローと名無しさん

映像外で平均化怪人無力化してたアサシンがなんだって?

 

0732 ヒーローと名無しさん

相対的って言葉の意味ってなんだっけ(白目)

 

0733 ヒーローと名無しさん

忘れるなよ?

ブルーは最初に現れた平均化怪人をトラップで無力化したやべーやつだぞ

 

0734 ヒーローと名無しさん

とんでもねぇ情報が出回ってきやがった!!

http///news/newnewxxxxx

 



 

 

【速報】“黒騎士”穂村克己との休日デート!? 発覚! ブルーの正体!!

202x年x月xx日

×月××日、大型ショッピングモールに怪人が出現した。建物内にいる多くの一般客に被害が出ることは無かったが、同日10時43分、建物内の書店にて黒騎士(穂村克己)がブルー(日向葵)と行動を共にしている姿が確認された。日向葵は先日、正体を明かされたレッドこと新坂朱音と同じ高校に通う学生であり、ジャスティスクルセイダーの一員であるブルーであることが匿名の写真と共に送られた。

これまで正体を隠して活動してきたジャスティスクルセイダーだが、その正体が未成年の学生という事実が露見したが、ジャスティスクルセイダーの支援を行っている世界的企業のCEOである金崎令馬への責任は如何様なものだろうか?

 

大型ショッピングモールに現れた怪人はブルー(日向葵)を含むジャスティスクルセイダーにより無事に討伐され、一般市民への被害が出ることはなかった。

しかし、怪人が出現した当時、黒騎士は現れずジャスティスクルセイダーのみが対処にあたることになった。市民の命を守る黒騎士はなぜ変身しなかったのだろうか?

黒騎士も市民を守る役目を担っているならば———

 



 

0735 ヒーローと名無しさん

怪人の仕業だな

 

0736 ヒーローと名無しさん

怪人のやり口

 

0737 ヒーローと名無しさん

まーた怪人かよ

 

0738 ヒーローと名無しさん

どうみても怪人の手口

しかも今度はブルーかよ

 

0739 ヒーローと名無しさん

無法すぎてドン引きですわ

プライバシー世紀末???

 

0740 ヒーローと名無しさん

これ書いた奴おバカすぎるだろwww

遊びにいったからなんなんだよwww

年齢的におかしくもねーだろwww

 

怪人の悪意に揉まれた世間の民度なめてんなぁオイ……

 

0741 ヒーローと名無しさん

この写真の視点どうみてもおかしいだろ

天井か空中で写真撮ってんのか?

 

0742 ヒーローと名無しさん

えっぐwww

 

0743 ヒーローと名無しさん

利敵行為どころじゃなくて草

 

0744 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんが休日デートしてることについて誰も反応してないの草

 

0745 ヒーローと名無しさん

? 黒騎士くんだぞ?

 

0746 ヒーローと名無しさん

は? ブルー許せんが?

 

0747 ヒーローと名無しさん

例えデートだとしてもそれが???ってなる

黒騎士くんまだ十代やぞ

 

0748 ヒーローと名無しさん

う、嘘だ……ブルーがこんな美少女だなんて嘘だ!!

 

0749 ヒーローと名無しさん

あんな変人ムーブしかしないやべぇ奴がこんな正統派ヒロイン面してるだなんてふざけるなよ!!

 

0750 ヒーローと名無しさん

許さん……許さんぞブルー

 

0751 ヒーローと名無しさん

お姉ちゃん嬉しいよ

弟くんが友達と一緒に遊びにいってくれるなんて

 

でも友達はちゃんと選んだ方がいいと思うの?

 

0752 ヒーローと名無しさん

怪人よりやべーやつら出てきてヒェってなる

 

0753 ヒーローと名無しさん

これ芋づる式に蒼花ナオも身バレするだろ

 

0754 ヒーローと名無しさん

多分推しに会った時点でVになった目的完遂してるからダメージないぞ

 

0755 ヒーローと名無しさん

「これまで正体を隠して活動してきたジャスティスクルセイダーだが、その正体が未成年の学生という事実が露見したが、ジャスティスクルセイダーの支援を行っている世界的企業のCEOである金崎令馬への責任は如何様なものだろうか?」

 

「なお怪人が出現した当時、黒騎士は現れずジャスティスクルセイダーのみが対処にあたることになった。市民の命を守る黒騎士も変身するべきではなかったのか?」

 

一瞬で矛盾発生すな

自我出してお気持ち表明すな

事実だけ書けや

 

0756 ヒーローと名無しさん

待て待て

怪人に脅されて書かされた線もありえなくもないぞ

 

0757 ヒーローと名無しさん

 

とりあえず怪人との共謀が疑われるので確定で捜査入りますねこれは

下手すりゃ国が動く可能性すらある

 

0758 ヒーローと名無しさん

怪人と共謀していなくても人類の味方であり、二十歳にもなっていない少年少女のプライバシー暴露してる時点で絶許だろ

黒騎士……穂村克己くんは人並みの青春すらも送っちゃいけねぇのか

 

0759 ヒーローと名無しさん

爆速で社長からコメント出て草

 

0760 ヒーローと名無しさん

これ想定内なの!!?

 

0761 ヒーローと名無しさん

怪人の性格の悪さ完全に理解してて変な笑い出たわ

あー安心した

 

0762 ヒーローと名無しさん

レッドの時点で身分明かされるの避けられないから怪人と繋がりある企業と勢力焙りだしにかかるとかえげつな

 

0763 ヒーローと名無しさん

本当に有能ムーブしかしねぇなこの社長

 

0763 ヒーローと名無しさん

確かに怪人に操られたり脅されて書いた可能性もあるから迂闊に責められんか

 

0764 ヒーローと名無しさん

そういう悪辣さも怪人だなぁ




ブルーの正体暴露回でした。

今回の更新は以上となります。


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暴露後の顛末と来訪者

お待たせしました。

今回は主人公視点です。

最初の『コメつき切り抜き動画』の再現ですが、動画内を縦にスクロールできますのでご注意をー。


 

 

 

なおなおぉ!?  セルフ暴露草

期待を裏切らない笑 草    草

開き直るどころじゃねぇwww

とんでもないこと言ってる!? 暴露草

 日向晴、高校一年生ですがなにか?

なおなお!? 草 草

隠す気なくて草

w  えぐぅぅ

 

 

蒼花ナオとしての私は黒騎士さんや姉と同じように“変身”した自分自身なんです。

当然、そこには変身前の私という自分もいるのでそれが正体がバレた程度で損なうような存在ではありません。

そもそもの話バレたから皆さんにどうこうできる場所にいないので大丈夫です。

というより、それでも気に入らない方々については社長にお任せしますので心配は無用ですよ

大企業相手に喧嘩売るのと同じで草 えっぐ 

 

この状況になるかもしれないことは事前に社長さんから言われていましたので、特に衝撃とかはなかったですね。

怒るべきは怪人なので姉に対しては全く怒っていません。

なおなお的にはブルーと黒騎士くんのデートについてどう思ってる?

お姉ちゃんと黒騎士さんのデートについてどう思っている?

あ あ    あっ   あ

……。

あっ  あ

全然怒って草 草 すげぇ怒ってるじゃん

草    バチクソキレてて草

この件について一番納得していないのは私なんですが?

前言撤回が速すぎるw

あっw イキりブルーホンマおもろい

速攻煽りwww ブルーならやるな

なにが腹立たしいって黒騎士さんとのツーショット写真を私とレッドさんとイエローさんに煽りにいくのマジで終わっていると思うんですよね

身分バラされてんのやぞ!w 全然ダメージないじゃん ツーショットマウント草 草

コメント

ブルー¥500 ナオちゃん僻みはよくない  

……。

ブルーおらん!? バチクソ煽ってて草  ブルー!?

ブルーいる! ブルー! 草 wwww

ナオナオ落ち着け! 気を静めろォー!?

い つ も の  取り消せよ…! 今の言葉…!

 

いつもの台パン  やっぱこれだね

 

 

 

台パンwww  い つ も の

姉妹喧嘩のゴングwww  はじまったな

 

!!

 

 

 

でもまあ、私もいたんですけどね????

!!? ナオナオぉ!?

!?

なぜか写されてませんでしたけれど

蒼花!?  ほならデートじゃあらへんか

草  画面外なの草

その場にいたんですけどね??

www  草  ナオナオ!?

いたんかいwww  草

バラされるくらいなら黒騎士さんと一緒に映してほしかったくらいなんですけど???

恐れを知らんのかこの子www  それでこそや  それじゃあ普通に遊びにいっただけやんけwww

 


 

ふぅ、この件については元から話そうと思っていたことだから大丈夫

予定通りだったのか……  無敵かこの子……?

この後、お姉ちゃんと話すことがあるから今日はここでおしまい。活動に関してはこれからも変わらず続けていくからよろしく

乙~   おつかれー

□    3:04
 
     

【切り抜き】無敵すぎる蒼花ナオ

【公認】蒼花ナオ切り抜き

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12万回視聴 1日前

多分黒騎士さん一緒に買い物にいったって認識しかないんだろうなって

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「……やっぱり晴ちゃんも葵の妹なんだねぇ」

 

 昨日のハルの生放送を切り抜いた動画を見ながらハクアがそんなことを呟きながら、コーヒーに口をつけた。

 

「姉妹だから似た者同士ってやつじゃない?」

 

 そんな彼女と肩を寄せ合って一緒に動画を見ているのはアルファだ。

 昼時を過ぎて客の入りがほとんどなくなった喫茶店サーサナスで、店の手伝いをしていた俺は拭き終えたテーブルから布巾を片付けながら二人へ話しかける。

 

「俺にしてみればお前らの方が似た者同士って感じだけどな」

「「全然似てない」」

 

 声をぴったり揃えられてもなぁ。

 

「だって私、姉さんみたいにかわいくないし」

「かわいいよ。そういうなら私もハクアほど頭もよくないし」

「姉さんだって私と同じくらい勉強すればすぐに身につくよ」

 

 しかもこいつらお互いにマイナスイメージで似てないって言い張っているわけじゃなくて、お互いに自分より優れている部分だけ見て似てないって思っているからな。

 ある意味で面倒な姉妹関係だと思ってる。

 

「心配すんな赤ちゃん共。お前らは確かに姉妹だ」

「「どこらへんが?!」」

「俺から言わせるな」

 

 家事が壊滅的なところとか、大食いなところとか、俺を弟にした前科があることとか、挙げるだけでもキリがない。

 それが分かっているのか「うぐっ」と呻いた二人に苦笑いしながら、厨房にいるマスターに声をかける。

 

「マスター、テーブル拭き終わりました」

「おう。お前も手伝い通しだろ? 少し休んでいいぞ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

 俺の後に少し遅れてからコスモもマスターに声をかける。

 

「シンドウ、ボクも終わったぞ」

「ん? じゃあ、窓拭きも頼む」

「おかしいだろ!?」

「冗談だよ」

 

 こっちはこっちで相変わらずの扱いだな。

 でもコスモもマスターの冗談を分かっているのか、ちょっと怒りながらもカウンターの椅子に座る。

 

「まったく、からかいやがって」

「でもコスモってからかい甲斐があるの分かる」

「なんだかんだでカワイイ服普通に着てるし」

「うるさい……」

 

 ハクアとアルファの言葉に今一度、自身の着ているメイド服なるものを一瞥し、大きなため息をつくコスモ。

 嫌なら着なくてもいいとは俺もマスターも言ったんけど、なんか本人的に意地になっているようで最近はほぼ毎日着て仕事している。

 

「そういえば、ブルーは大丈夫なのか? 正体バラされたんだろ?」

「ん? 心配はないと思うぞ」

「うん。情報が拡散されてすぐに社長が基地内に避難させたから」

 

 予測はされていたからな。

 アカネの情報が暴露された時点で、怪人側はアカネ達の正体を把握している可能性が高いことから、アオイとキララの暴露も時間の問題なのは分かっていた。

 そのための準備をレイマが怠るはずがないし、実際事が起きてから一時間も経たずに葵と———きららと彼女たちの家族が第二本部に避難させられた。

 

「まあ、きららに関しては……」

「あー、うん……」

「なんか、かわいそうだったね」

 

 ハクアとアルファと顔を見合わせ気まずくなる。

 アカネと葵の身分がバラされた時点で、高校在学時の繋がりやらなんやらで芋づる式にきららの正体がジャスティスイエローだと判明してしまった。

 

『なんかさ……!! こう思っちゃ駄目なん分かるけど……私のバレ方なんか地味じゃない!?』

 

 あまりにもあっけなく、アカネや葵ほどの話題にすらならずに正体がバレてしまったイエローにちょっといたたまれない気持ちになった。

 そしてきららがショックを受ける一方で、保護された彼女の家族はというと——、

 

『あらあら、ここがジャスティスクルセイダー本部なのねぇ。台所はあるかしらぁ?』

『レイマさん。貴方とは一度、ちゃんとした形でお話をしてみたかったんですよ。ああ、カツミ君も一緒にどうかい?』

『カツミお兄ちゃんだー!』

『ここならいつでも遊べるねー!』

 

 避難生活に微塵も不安を抱いていない天塚一家のポジティブさがもう凄かった。

 そして、葵とハルのご両親も———、

 

『賑やかなところですね』

『……機械がいっぱいだ

『あなた、仏頂面していないでなにか喋りなさい』

『……世話になる』

『威嚇しないでください』

『……ごめんなさい

 

 改めて見てもアカネ達三人の家族って凄いんだなって思い知らされた。

 日向家と天塚家の家族の反応を思い出し密かに慄いていると、喫茶店の扉が開かれ来店を告げる鈴の音が鳴る。

 音と同時にすぐにコスモが仏頂面からにこやかな笑顔へ切り替わる。

 

「いらっしゃいませ、喫茶店サーサナスです!」

「ひぇっ……」

 

 来店してきたのは丈の長いスカートに全体的に白を基調としたゆったりとした服装の20代前後の女性であった。

 

「? おひとりでしょうか?」

「一人です……」

 

 肩にかかるくらいの銀髪に緑と青のメッシュが入った変わった髪色の女性は、前髪で目元を隠すように俯く。

 そのまま大きめの白い手提げを抱えるように持ちながら、店の窓際の席へと案内される。

 

「変わったお客さんだね」

「私知ってるよハクア。あれ森ガールっていうんだよね」

「へえー」

 

 森に行く服装には見えないな……。

 ハクアとアルファの会話を聞きながら店員としてカップなどを取り出していると、戻ってきたコスモが厨房にいるマスターに声をかける。

 

「シンドウ、注文だ。コーヒー1、ケーキのショート、チョコ、チーズを一つずつ」

「おう」

 

 一人で三つか。

 ハクアなら五つは平気で食うからまだ普通だな。

 そんなことを考えていると、どこか険しい顔をしたコスモが話しかけてくる。

 

「……ホムラ」

「どうした?」

「あいつ、ボクと同じ宇宙人だ」

「確かか?」

「ああ、敵意が全くなくてちょっと分かりづらかったけど」

 

 もう一度、来店した女性を見る。

 そわそわと挙動不審気味に、落ち着きがない……が、危険な感じはしない。

 

「お前が話に行け。ボクはここから視てる(・・・)

 

 変形させたレオをベルトに巻き付けたコスモが、変身しないまま右目を金色に光らせる。

 コスモが変身した姿で行っていた未来視ってやつか。

 

「ハクア、アルファ、一応レイマに連絡しておいてくれ」

「分かった」

 

 心配はないと思うが、ここに来ている時点で偶然ではない。

 警戒をしながら宇宙人である女性の元へと近づくと、一応は予想していたのか目の前に来た俺を見て顔を真っ青にさせる。

 

「えーっと、俺のことは知っていた?」

「……ぁい」

「ここに座ってもいいか?」

「どうぞ……」

 

 声が小さすぎて一瞬分からなかった。

 話しやすいように対面の席に座ると、前髪の隙間から金色の瞳が見える。

 

「貴女はなんのためにここに?」

「……ぇぁ、あっ、その……」

 

 しどろもどろになってしまった。

 ……俺のことを知っているからって圧をかけるのは違うな。

 もうちょっとゆっくり、優しく話しかけてみるか。

 

「ゆっくりでいい。……どうやってここを見つけたんだ?」

「……サニーから、教えてもらって……」

 

 ちゃっかりこの店の場所も把握してんのかあいつ。

 だがあいつの性格上、マスターを危険に晒すような奴にここの場所を教えるとは考えづらい。

 もっと突っ込んでみるか。

 

「地球にはなにをしに?」

「……」

 

 そう尋ねてみると、床に下ろしていた白いバックからごそごそと何かを引っ張り出す。

 一瞬だけプロトとシロが警戒を露わにするが、出されたのがスケッチブックだったことから呆気にとられる。

 

「スケッチブック?」

 

 震える手つきでぱらぱらとページをめくって見せる。

 イラスト……じゃないな? もしかしてこれは———、

 

「……漫画?」

「ハイ……」

「地球に漫画を書きに来たのか?」

「ハイ……」

「この店に来たのも?」

「ぉ、ぇ……も、モデルにしたくて」

 

 ……ハッ!? 危ねぇフリーズするところだった。

 九位との異次元の会話を体験してなけりゃ危なかったぜ。

 軽く深呼吸したあとに、スケッチブックに触れる。

 

「……見てもいいか?」

「ど、どうぞ……」

 

 許可をもらってからスケッチブックを開いてみる。

 正直なところ、俺は最近になって漫画というものを本格的に読むようになったが、ちょっと見た感じは絵がすごく上手い。

 内容は……虐げられていた女の子が力に目覚めて成り上がるヒーローもの、か?

 

「ど、どどどどうでしょうか?」

「……うーん」

「で、できれば忌憚のないご意見を……」

 

 いつのまにか漫画家と編集の打ち合わせみたいな構図になっている。

 しかし、忌憚のない意見というからに拝見する立場として応えなくては。

 

「まず、ちょっと描写が生々しすぎる。主人公が虐げられるシーンはこんなに尺はいらないんじゃないか?」

「ぅッ」

「そのせいで最初にあった主人公の紹介のインパクトが薄れるし、なにより主人公を虐げるキャラの紹介の方が長いしくどい」

「ァッ」

「あと主人公と虐げるやつの名前が似てるのはどうなんだ? 一文字違いって紛らわしくないか? もしかして伏線とかそういうの?」

「ぴぇ」

「他の登場人物との会話も集団でいるにも関わらず全員が主人公とだけ話している感がする」

「ふぐゅ」

「あとシンプルに説明台詞が多い。設定を詰め込みたい気持ちが先行しすぎて会話のテンポが悪い」

「へぅ」

「大事なことだってことは分かるけど、全部が全部キャラクターに説明させないで読んでいる側に興味を持たせる余地があったほうがいいって感じた」

「あばぅ」

「あと意味が分からないところにギャグが入ってシリアスにしたいのかコメディにしたいのか分からない」

「ふぇぇ」

 

『い、いたたまれない……いたたまれないよ、かっつん』

『カツミ、漫画は最近読み初めたけど本は結構読んでたもんね……』

『ホムラ、えげつねー』

 

 内容はしっかりしている分、ところどころに感情が乗っている感じがする。

 もちろんそれが悪いことではないし、むしろ長所ともいえるものだ。しかし今となってはその長所が足を引っ張っているように思えてしまう。

 

「でもキャラクターに個性があるのがすごくいいな」

「え?」

「大筋のストーリーもしっかりしてる。戦闘シーンは力が入っててすごく見応えがあるし、見ていて楽しい」

「ぇ、え、えへへ……」

「でもタイトルはもっとひねった方がいいと思う」

「フヘッ」

 

 思いの外真面目に感想を言ってしまった。

 色々と粗があったけど、全体的に面白かった。

 

「色々言っちまったが面白かった。すげーよ、こういうのを書けるなんて」

「……ァ、ェマ、マママママッ

 

 突然壊れたように「マ」を連呼し始める。

 

「ど、どうした?」

「マ……また見てもらっても、いいでしょうか……?」

「それくらいなら別に構わないけど」

 

 なんだそんなことか。

 なんか話してみた感じ危険もなさそうだし、放っておいても大丈夫そうだな。

 そもそもあのサニーが紹介したってんならある程度信用してもいいだろ。

 

「お待たせいたしました。コーヒーとケーキ三つです……ホムラ」

 

 コーヒーとケーキをトレーにのせてやってきたコスモに声をかけられ立ち上がる。

 

「邪魔して悪かった。……あー、一応。名前を聞いていいか?」

 

 名前を尋ねてみると何度目か分からない震える挙動の後に彼女は口を開いた。

 

「イリステ……ァッ……ゥ……ステラちゃ……」

 

 頑張って名乗ろうとして、またしどろもどろになる女性になにも言わずに待つ。

 

「イ、イリス、です……」

 

 思いっきり偽名だが、まあいいだろう。

 勇気を出して名乗ってくれたみたいだし、偽名は名乗ったが彼女の素振りに演技のようなものは感じられないからな。

 大事そうにスケッチブックを抱えている姿を見て、それが本当に彼女にとって大切なものだということが分かってしまう。




今回登場した彼女はこっちが素です。
そしてひっそりと正体バレするイエローでした。


今回の更新は以上となります。
次回は恐らくイリステラ関連の閑話になります。


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閑話 私は次元変異体(イリステラ)

お待たせいたしました。
予告通り、イリステラ視点の閑話となります。


 星将序列二位イリステオ。

 この次元世界でそう呼ばれていた奴は並行宇宙に遍在する個人(・・)ともいえる存在だ。

 どこからか、どのイリステオが始まりかだなんてもう誰も覚えていないし、誰も気にしていない。

 

 あらゆる次元・時間軸に存在する超越者。

 存在する“イリステオ”は固有の意思を持ちながらも全てが繋がっており、仮にその世界のイリステオが死亡したとしても代わりの“イリステオ”が現れる———転生を繰り返し記憶を引き継ぎ続ける不死身とも言っていい存在だった。

 

 そんな“イリステオ”の目的は観察。

 その次元で起きる特異な出来事の傍には常に奴の影があり、そのそれらの出来事に必ず関与しているのも奴でもあった。

 

 だけれど、あらゆる次元に存在し干渉を可能にする無茶に問題がないはずもない。

 “イリステオ”の数が増えれば増えるほど存在に綻びが生じ、その結果奴らの存在を定義する情報にバグが生じた。

 それで生まれたのが“イリステオ”であり、“イリステオ”ではない異物。

 

 それが私———“次元変異体(イリステラ)

 

 バグとして生まれ落ちた者。

 “イリステオ”が不要と断じ捨ててきたものを持って生まれてしまった不純物。

 でも、それだけで“イリステオ”が私を見下し、排斥する動きを見せたわけじゃなかった。

 

 私にはイリステオが得意とする次元への干渉を無効化する能力が備わっていた。

 

 既存の能力自体は“イリステオ”と全く遜色のないものだけれど、この私にだけ許された力を“イリステオ(奴ら)”は許さなかった。

 

『危険だ』『相応しくない』『どうする?』『どうしよう?』『放置はすべきではない』『同意』『然り』『殺す?』『否』『それは否』『殺してどのようなバグが出るか』『確かに不明』『ならどうする?』『面倒だなぁ』『そうだ』『閉じ込めよう』『それがいい』『名案だ』『どこに?』『誰もいないところ』『死した宇宙』『いいね』『そこならちょうどいい』

 

 

『『『そうしよう』』』

 

 

 この力はまさに“イリステオ”にとって忌むべきもの……という理由から、私は生まれた直後に死した宇宙に閉じ込められ、出ることを禁じられた。

 “イリステオ”が娯楽の果てに滅ぼした白と黒に染まった色のない宇宙。

 色彩からはかけ離れた大地に落とされた私は、なにもない世界での生を余儀なくされた。

 

『なんで僕からお前のような異物が出てくるんだ?』『化物』『なにか言えよ』『イリステオのなりそこない』『泣くのか?』『醜い』『誰もお前を認めない』『出来損ない』『バグ風情』『生きているだけ感謝しろ』『そうだ』

 

 閉じ込められた宇宙の中で、何度も、何度も何度も何度も“イリステオ”達から心のない罵倒を受け続けた。

 ……ううん、心のない罵倒ってのは間違っているか。

 “イリステオ”には恐怖はない。

 痛みもない。

 悲しみもない。

 あるのは楽しさだけ。

 私をいじめていたのだって、全部あいつらが楽しいから。

 

『———ッ』

 

 私はイリステオが不要と断じた感情を持ち合わせているからこそ、悲しいし悔しかった。

 あいつらの声がうるさくて、私も世界を閉じ干渉を跳ねのけ、弱みを見せないように一人でずっと頑張ってきた。

 それでも隙を見て、他のイリステオのいる世界の景色を盗み見ては、絵を描いては孤独を慰めた。

 

 短い間。

 イリステオに気づかれる前にだけ見ることのできる、外の世界。

 その一瞬を目に焼き付け、白黒の地面に軌跡を描く。

 それだけをずっと、ずっとずっとずっとずっと繰り返して、ふと考えてしまう。

 

『———わたし、ずっと、ひとりなのかな』

 

 灰と黒の二色しかない死した宇宙とは違う色とりどりの世界。

 だけれど、変異体である私はこの死した世界に閉じ込められ出ることができないまま私は絶望の中で生きていた。

 


 

 そんな私の運命は思いのよらない形で変わった。

 白黒の世界でいつもと変わらない時間を送ろうとしていたその時、突然“イリステオ”の悲鳴が鳴り響いた。

 

 

『『『『が、ああああああああ!!?』』』』

 

 

 遍在する“イリステオ”すべてに響き渡る悲鳴。

 その瞬間、強制的に繋がれた視界の先で———私は見た。

 私を除いたイリステオ全てが右腕を肘から先を失い苦痛に叫ぶ姿を。

 

「……え?」

 

 右手(・・)で目元の髪をかきわけながら、“イリステオ”を視て———その先の戦士を視る。

 黒と白の鎧に身を包んだ戦士“ホムラ・カツミ”

 他の“イリステオ”が興味を持つ特異な力を持つ戦士は、“イリステオ”の切断した腕を手にしながら次元を揺るがす雄たけびを上げた。

 

『ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 存在そのものの格が違う。

 次元を隔ててもそれが分かるほどの存在感に、私は魅入られてしまった。

 

「———」

 

 何十秒……いや、一時間にも感じるほどの一瞬に私はその場に座り込み、未だに苦しみの悲鳴を上げている“イリステオ”達を見て、自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「……あ、はは……」

 

 掠れた声で笑う。

 笑うなんてはじめてのことだった。

 爽快だった。

 恐怖も痛みを存在しないはずのイリステオが恐怖と痛みにもがき苦しむ有様が、最高に爽快だった。

 

「ざまぁっみろっ」

 

 奴らはもう元には戻らない。

 挫折を知らなかったイリステオ。

 恐怖を知ってしまったイリステオ。

 はじめて自身の存在を脅かす脅威に対して、イリステオの精神はあまりにも脆弱すぎた。

 

「当然だろっ、お前らはっ、そういうやつらなんだから!」

 

 奴は誰にも触れられない安全圏にばかりいた卑怯者だ。

 その癖プライドが高く、興味を持った生物を自分の思い通りに操りたがる。

 これまでの鬱憤を晴らすように“イリステオ”に罵詈雑言を叩きつけた後、息を乱しながら私は気づく。

 

「……私、自由なんだ」

 

 誰も当たり前に享受していたものが目の前にやってきた感想は、あまりにも呆気ないものだった。

 


 

 穂村克己とザインとの戦いの後、イリステオはルインのいる次元から逃げ出した。

 当然、同一の精神性の他のイリステオも代わりになるのを拒否。

 でもルインと穂村克己を含めた異常な宇宙には誰かしらいなくてはならない。

 

『じゃ、私がやりまーす!!』

 

 それを好機を見た私は、ルインのいる世界の担当に名乗り出た。

 難しくはなかった。

 私も変異体とはいえ同じ力を持つことに加え、“嫌なことを押し付ける”という腐った精神性を持つ“イリステオ”が反対するどころか、むしろ押し付けてくるだろうってことを分かりきっていたからだ。

 

「……うん、よし」

 

 そして、私は死した宇宙からルインのいる次元宇宙へとやってきた。

 ぶっちゃけるなら、もうルインとか穂村克己とか次元世界の観察とかどうでもよかった。

 てか、シンプルに鬱憤が晴らせただけでも満足してた。

 

 ぶっちゃけ定期的にゴミカスクズ共(イリステオ)にマウントをとって愉悦に浸るだけでもう十分とさえ思えた。

 

 ルインとアズという特大の危険物のいるところで変に暗躍して痛い目を見るのも絶対に嫌だ。

 ……というより、前に奴らを煽るためにちょっと調子に乗っちゃったのは本当にマズかった。

 死ぬかと思った。

 ちょっと漏らしたしめっちゃ怖かった。

 

「穂村克己に関しても、あれは大丈夫」

 

 下手に触れなければ無害なのは分かりきっているので、私は彼と関わらず下手な茶々もいれないで慎ましく暮らしていこう。

 地球で活動してますよーアピールをするために、契約して借りたアパートの扉を開け———、

 

「イリステオ、いいや、イリステラとでも呼ぶべきか?」

「ぇ?」

 

 ———た直後に借りたアパートの一室から、宇宙模様の広大な空間へと移動させられていた。

 目の前には玉座に腰掛ける絶対強者、ルインの姿。

 完全に不意打ちだったことから、今の私の服装はゲロカスクソ共(イリステオ)を煽ったときのようなコスプレ感満載の悪魔的衣装ではなく、上下スウェットに髪ボサボサの非常に表に出てはいけないものになっていることも加えて、完全に終わったと悟る。

 

「……ぇ? ル、あれ? な……」

「なるほど? 随分と“自分”を煽っていた時とは違うな。カツミに断ち切られているはずの右腕も無事。……ふむ、変異体とは、独立した個……とでもいうのだろうな?」

 

 バレてる、というより一瞬で看破された。

 イリステオには私の右腕も同様に切断されたと口にしたけど、実際は違う。

 私はある意味でイリステオから独立した“バグ”なので、覚醒した穂村克己の攻撃の対象にはなっていなかった。

 

「……しかし、ふむ、私を前に立っているか(・・・・・・)

 

 ようやく始められると思ったのに。

 たくさん色えんぴつも買ったし、好きな色で絵も描けると思ったのに。

 なにもできずにここで私は終わるんだ。

 

「……ぇ、ぁ、ぅ、ひぐっ、うぇ、あぁぁ」

「ん?」

 

 もう、駄目。

 やっとあの世界を抜け出せたのに、こんな内臓まで吐き出しそうな圧力の中にいなくちゃならないなんて嘘だ。

 外聞もなく涙が止まらなくなった。

 

「……資格はあれど、肝心の心は折れているか。自らの進化を出来損ないの欠陥と嘲り、停滞と排除を望んだ末がコレか。やはりつまらん存在だったな、お前の前任者は」

 

 ルインがなにかを呟いているけど、それでなにが変わるはずもない。

 

「イリステラ、お前を正式に星将序列2位と認めよう」

「……ぇ、で、でも、私は……」

 

 ゆ、許された……!?

 まさか恥も外聞もなく泣きだしたおかげで見逃された!?

 これが泣き得!?

 

「では、手始めに一つ命令を出そう」

 

 急に命令?!

 どう考えても無茶ぶりされることが目に見えているのでまた絶望していると、妖艶に微笑んだルインは私に一つの命令を下した。

 

「カツミを見てこい」

「……へ?」

 


 

 穂村克己を見てくる。

 字面だけ見れば全然簡単そうに見えるこの命令だけど実際はとてつもなく難易度が高く、この『見てくる』は、穂村克己を間近で確認し、その状況をルインに報告するというものだ。

 理由?

 聞くわけないじゃん。

 

「……はぁ」

 

 穂村克己……カツミさんのいる喫茶店サーサナスに向かった後、私はそのまま潜伏するアパートに戻った。

 家賃6万ほどの普通の一室に帰った私はそのまま靴を脱いで、扉に背を預けながら緊張を解く。

 

「そ、そりゃ追跡されるよねぇ……」

 

 カネザキ・レイマは用意周到な男なのは彼のこれまでの行動を見ているだけですぐに分かる。

 こんな安易な接触をする宇宙人を無警戒に放っておくはずないし、当然ここに入った私の動きは把握されてしまっている。

 でも、そこは全然問題ない。

 

「わ、私問題起こすつもりないもん……大丈夫なはず……」

 

 敵対するつもりもないし、地球の人を危険に晒すような力の使い方をするつもりもない。

 というより、別の次元に行きたくもないし、なんならこの借りてる部屋からも出たくないくらい。

 

「はぁぁ……」

 

 精神的に疲れたのでベッドに飛び込み、仰向けになりながら———一“イリステオ”が意思を交わす思念へと意識を繋げる。

 今や私が支配する交信の場では、この世界を覗けない“イリステオ”達が荒ぶっている。

 


91:“私”とわめくだけの能無しども

おい見れないぞ、どうなってる

 

92:“私”とわめくだけの能無しども

私達を騙したの? 出来損ない風情が?

 

93:“私”とわめくだけの能無しども

見せろ見せろ見せろ見せろ

 

94:“私”とわめくだけの能無しども

生かしてやった恩を忘れたの?

 

95:“私”とわめくだけの能無しども

やはり生まれるべきじゃなかった

 

96:“私”とわめくだけの能無しども

利用価値すらなくなったゴミ

 

97:カワイイ変異体な“私”

きゃんきゃんうっせぇバーカ!!

覗き見できなくて喚くとか気持ち悪ゥー!!

 

98:カワイイ変異体な“私”

大人しく待てもできないのかこのカァァス!!

 

99:カワイイ変異体な“私”

あっ、そっかぁ!! 犬ですらできることをできないんだね!!

じゃあ、ごめんね! 分かりやすく言い直すよ!!

 

黙って引っ込んでろこの負け犬共がよォ!!

 

100:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

101:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 

102:“私”とわめくだけの能無しども

このコメントは私によって削除されました★

 


 

 感情的に悪口と煽りを叩きこみ、外部からの思念を無効化しイリステオからの干渉を完全に阻む。

 さっきまでの気分が台無しになって、大きなため息をついた私はそのままベッドに飛び込む。

 

『能無し』

『ゴミ』

『出来損ない』

『生まれるべきじゃなかった』

 

 非表示にされる前に見てしまった文字列に私は行き場のない怒りに悶える。

 

「ううぅぅぅ……あいつらあいつらあいつらぁ……!!」

 

 悔しい悔しい悔しい!! 本ッッ当にうるさい奴ら!!

 涙目になりながら枕で耳をふさぐ。

 

「……ん」

 

 横になったままスケッチブックをバッグから引き抜き、ぱらぱらと捲る。

 はじめて描いた漫画。

 私の身の上をちょっと照らし合わせたストーリーで、誰かに見せるために描いたものじゃない駄作とも言えるものだ。

 

「すごく批評されたけど……内容は否定しなかった」

 

 カツミさんが指摘したのは設定の粗さとか、読み手側が不便に感じたところだけ。

 彼は私が描いた漫画の内容そのものを否定しないでむしろ肯定してくれた。

 

『色々言っちまったが面白かった。すげーよ、こういうのを書けるなんて』

 

 カツミさんの言葉がずっと心に残ってる。

 なんだか、もういてもたってもいられない気持ちになってくる。

 

「……よし」

 

 ベッドから起き上がり机に向かう。

 道具はまだ足りないから、後でお店に買いに行こう。

 必要ならデジタルで描けるための機材をそろえてもいいし、とにかく今はなにかを描きたい。

 

「もっと……」

 

 誰かに見てもらって批評されて悲しかった。

 けれど、それは“イリステオ”に叩きつけられる口汚い言葉とは違う。

 それ以上に、誰かに自分の作ったものを見てもらえて嬉しかった。

 

 すごいと言ってもらえて嬉しかった。

 

 面白いって思ってくれてすごく嬉しかった。

 

 こんなに、誰かに自分を見てもらえることが嬉しいことだなんて思いもしなかった。

 

「もっと、頑張ろう」

 

 ルインの命令を頑張るか、漫画を描くのを頑張るのか。

 それをあえて口にしないまま、私は真新しい鉛筆を手に取り明かりに照らされた机に向かっていくのであった。




イリステオの完全上位互換のイリステラちゃんですが、時間をかけてじっくり心を折られたせいで、自己肯定感よわよわになってます。

今回の更新は以上となります。


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救出任務

更新が遅れてしまい申し訳ありません。
インフルにかかってしまい体調を崩してました……。


今回はアカネ視点でお送りいたします。


 怪人により正体が明かされた私たちは社長が経営するKANEZAKIコーポレーションの社員として雇われることになった。

 元より選択肢として存在していたもので、他にも大学進学やジャスティスクルセイダーとしての役目以外の夢を追うという選択肢もあった。

 正直言うと私自身は今の結果に不満はない。

 怪人と戦うと決めた時から、こうなることは覚悟していたから。

 

「葵はどう?」

 

 僅かに揺れる機内で対面の席に変身した状態で座る葵にそう尋ねる。

 私の質問に葵は、拳銃を整備している手を止める。

 

「私? 副業としてフーチューバーやるから問題ない」

 

 うち副業禁止じゃないの?

 いや、そこらへんは社長が許可しそうだ。

 薄暗く、頭上の小さなライトだけが照らす飛行ビークル“ホワイト5”の機内。

 見た目より広い機内に変身した状態で二人だけで向かい合いながら目的地への到着まで、暇つぶしの雑談を交わす。

 

「今回の任務。きららはいないんだね」

「きららは力が強すぎるから。ピンポイントで殺気飛ばせるブラッドが適任と社長が判断した」

「だーれがブラッドだ」

 

 もう完璧に定着しちゃったよね。

 

「じゃあ、お姉さま?」

「それマジでやめて? エゴサするたびに私のことを本当の姉だと思ってるやばい人いるから」

 

 しかもアカウント的に女の子なのがガチ感がすごいのが怖い。

 

「一人くらいなによ! カツミ君は架空の姉に妹に幼馴染にライバルがいるんだからっ!」

「うぼぁ」

 

 口調まで変えて平坦に言葉にする葵にげんなりする。

 

「カツミ君に業の深さを見出すの本当度し難いと思う。義憤に駆られる」

「アカネも人のこと言えないと思う」

「葵ってブーメラン投げるの巧いね」

 

 虎視眈々と後輩ポジションに落ち着こうとしている葵に言われたくない。

 でも、まだお姉さま勢が湧いている私に比べたらカツミ君の方がずっと大変なことになってるもんね。

 ネットミームって本当怖い。

 

「で、そこのところどう思う? ハクア姉さん」

「うぐっ」

 

 白のスーツに変身し、ホワイト5を操縦していた白川ちゃんに葵が声をかける。

 ぎくり、と肩を震わせた彼女は声も震わせる。

 

「もう許してくれない?」

「え、当分擦るけど?」

「ひぃぃん」

 

 実際に姉として数か月一緒に暮らしたのは割とやばいと思う。

 白川ちゃんが当時一歳未満という特殊すぎる事情がなければ許していなかったくらいだ。

 

「それで、葵」

「ん?」

「葵ときららの家族。どこに住むことになったの?」

 

 そこらへんはまだ聞いてないんだよね。

 社長が現在進行形で色々計画しているのは聞いているけど、多分私の家族も無関係じゃない。

 

「今は大本部内の居住区画に仮住まい。ゆくゆくは区画を広げて住みやすくしていく……感じらしい」

「あれ以上に住みやすくするんだ」

 

 今の時点で全く不自由ないんだけどね。

 でも本部内のスタッフのメンタルケアとかあるから、そこらへんはぬかりないんだろうな。

 

「……カツミ君にとっては、第二本部は家みたいなものだからね」

「そだね。元々住んでたところがああなっちゃてるし」

 

 最初に住んでいたアパートはもう場所が知れすぎて住めない……というか、最早観光地みたいになっているし、次に住んでいた独房も襲撃のせいで住めなくなってしまった。

 なので今彼が住んでいる第二本部が正真正銘の彼の家ってことになる。

 

「ぶっちゃけていい?」

「どうぞ?」

「広義的に見て一つ屋根の下だから役得だなとは思ってる」

「解釈すごすぎない?」

 

 一つ屋根の範囲が広すぎるんですけど。

 でも、気軽にカツミ君に会いに行けるし、なんなら彼が昼間手伝っているサーサナスにも気軽に足を運べるのは普通にいいとは思う。

 

『レッド、ブルー、目的地が近い。準備しろ』

 

 社長———司令の声が聞こえると同時に私も葵も思考を切り替える。

 その数秒後に司令から今回の任務(・・)について話しはじめる。

 

『作戦については出動前に指示した通りだ』

「生存者は?」

『確認している。最悪の事態には陥ってはいないが、迅速な対応が求められる。レッド、お前は強襲と奴らの排除、ブルーお前はジャスティビットによるサポートと生存者の確保』

「「了解」」

『白川君……ホワイトは索敵モードで上空に待機』

「りょーかい」

 

 簡単な指示に頷くと、ハクアがホワイト5の速度を緩める。

 

「目的地上空に到着したよ。いけるよ、ブルー」

「りょ」

 

 ブルーが出現させた六角形の形状のジャスティビットを展開し、開いた後部ハッチから外へと広げていく。

 後部ハッチから見える眼下の景色は、星のように明かりが散らばる街の景色。

 そこにジャスティビットの青色の輝きが地上のあるビルを取り囲むように広がっていき、その内部構造を把握していく。

 

「生存者と怪人の配置を把握。スキャンした情報を視界で共有する」

 

 バイザーの側面に手を当てると、葵がビットでスキャンした建物内の構造と生物の反応が色として表示される。

 赤が怪人、青が人間……ね。

 司令が掴んだ情報通りに、建物内を怪人に完全に占拠されているみたいだ。

 

「確認した」

「うむ。そっちのタイミングでいいよ」

「よし……」

 

 立ち上がり、ジャスティスチェンジャーから取り出した刀をもう一度確認し、粒子へと変換しながら後部ハッチの前に移動する。

 

『目標はブルーの情報を暴露した企業を秘密裏に占拠した怪人の掃討と生存者の安全の確保だ。KANEZAKIコーポレーション正社員“新坂朱音”として初任務ではあるが、いけるな?』

「やることは変わりませんから」

 

 赤いアーマーを纏った姿のまま、軽い足取りで後部ハッチから飛び降りる。

 夜空に放り出され、そのまま落下しながら私の視線は目標の建物から揺るがない。

 

『屋上に穴をあける』

 

 葵が展開したジャスティビットから放たれたレーザーが屋上の一部を円形に切り裂き、人ひとり分が入れる穴を作る。

 屋上に激突すると同時に私は居合を解き放つようにチェンジャーから赤熱する太刀を抜刀———屋上の床を切り裂き、速度を落とさないまま建物内への潜入を果たし———怪人の頭上に飛び出す。

 

『その部屋に三体……いえ、二体』

 

 怪人の頭から股下までを両断しながら、無音で床に着地。

 次に、視界の先に出版社の職員を捉えた怪人の一体が映りこみ———相手がこちらを認識する前に、首を落とす。

 

「———エ?」

 

 紫の血(・・・)を噴き出した怪人の血が付着した刃を払い、さらに四肢を切り落とす。

 葵のジャスティビットからさらに送られる位置情報を確認。

 振り向きざまに指で挟みこむように展開させた手裏剣を投げつける。

 

「アバッ!?」

 

 近くにいる怪人はこいつらだけか。

 額、首を手裏剣に貫かれ、血だまりを作りながら床に倒れ伏す怪人の首に刀を突き刺した直後に、その場を駆けだし次の反応がある地点まで突っ切る。

 

『次の角、接敵』

「うん」

 

 葵の声に頷き、刀を握る右手から力を抜く。

 そのまま減速せずに角を曲がり、昆虫のような姿の怪人と相対する。

 

 

「レッドだころあヴぇッ」

        

 

「遅い」

 

 怪人相手にいちいち警告する方が無駄なのは分かっている。

 なので視界にいれた瞬間に首を落とし、すれ違う時には四肢を落とす。

 血しぶきすらも浴びることもなくうじゃうじゃと怪人が潜伏する階層を駆け、殲滅し———最後の社員が集まるメインルームへとたどり着く。

 

「ッ、キヅカレタ!! キヅカレタぁ!!」

「ひっ、た、助けて!!」

 

 勘が良いね。

 私が入ると同時に脅していた記者の首を掴むエビのような姿をした怪人。

 恐らく、葵の暴露記事を書かせた記者を人質にし、優位をとろうとしているようだろうけど……。

 

「オマエ、コイツヲ

                

                  ロッ」

 

「ブルー、残りは?」

『もういない。お疲れブラッド』

「ブラッド言うな」

 

 幹部クラスでもなきゃ強化装備を纏った私たちの相手にすらならない。

 人質を害する暇すらも与えず、頭部を三枚におろされた怪人が言葉もなく床に崩れ落ちる。

 

「大丈夫ですか?」

「ヒぇっ……あのっ、記事の件は脅されてっ……本気じゃないです!!  い、いいいいつもありがとうございまぁぁす!!」

「……」

 

 ものすごく怖がられてしまった。

 まあ、怪人に脅されていたんだし当然だよね。

 

『うむ。建物内の怪人の掃討を確認。レッド、ブルー、ホワイト、よくやってくれた。後の処理はスタッフに任せ、君たちは帰還してくれ』

「はい」

 

 司令の通信に応答して、肩の力を抜く。

 怪人も前以上に狡猾に動くようになってきた。

 今回の件も葵の正体を暴露する以外になにかしらの思惑があるだろうけど、まだ敵がなにがしたいのか見えてこない。

 

「……ん?」

 

 倒れ伏した怪人の傍にしゃがみ、血を見る。

 

「紫の……血?」

 

 返り血は浴びていないし、人質にされた人々も血に触れていない。

 床に染み込むように見える血は、ゆっくりとだが床そのものを浸食しているように見える。

 

「……司令」

『どうした?』

「現場に残った怪人の血痕ですが、スタッフに触れないように警告してください」

『! サンプルを確保次第こちらで解析する。建物内にいる人々も一時的に隔離し検査を受けさせよう!!』

「頼みます」

 

 嫌な予感がする。

 毒、のような感じではないけれどこの怪人の血はよくないもののような気がする。

 

「……一応、現場に残っておこうかな」

 

 この血のことがきがかりだし、スタッフさん達の到着を待とう。

 そう判断し、まずは葵と白川ちゃんに連絡を寄越そうとした———その瞬間、マスク内に聞きなれた警報音が鳴り響いた。

 

『怪人警報発令!! 怪人警報発令!! ジャスティスクルセイダー出撃準備!!』

 

「……!!」

 

 このタイミングで怪人が現れた!?

 すぐに窓を開き、屋上へ一気に駆け上がり屋上にまで降りてきたホワイト5に乗り込む。

 

「司令!!」

『ああ、怪人が現れた!! それも大群な上に分散した場所に出現ときた!! 今、出現した怪人の座標を送る!!』

 

 瞬時にマスク内に映し出されたのは、都内各地に現れた紫の体表を持つ怪人の群れ。

 昆虫を人型のような姿にした見た目が同じ怪人は、周囲の建物を破壊し周囲の人々を襲おうとしている。

 

「白川ちゃん!!」

「うん、すぐに向かう!!」

 

 ホワイト5が勢いよく離陸し、目的地へと発進する。

 

『本部にいるイエローとグリーン、そして私も出撃する!! お前たちは各地で怪人の掃討を頼む!!』

「カツミ君はどうします?」

『彼は有事の際に本部に待機!! いや、この際私の代理を任せる!!』

 

 そんなぶっつけ本番でやらせても大丈夫なんですか!?

 

『心配するな、彼以上に怪人と我々を知る存在はいない!! お前らのやる気も出ることだろうしな!! ガハハ!!

 

 切迫した状況なのにオヤジみたいなことを言い出した司令に頬が引きつる。

 しかし、周囲の騒がしい音からして現在司令は本部内で全力疾走しているのが分かるので、これ以上なにも言わずに私も怪人の掃討に意識を向けるのであった。




レッド専用の血しぶきフォントを作ったのですが、文字色を赤くすると普通に怖くてヒェッってなりました。

赤ver↓
あいうえお

今回の更新は以上となります。



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指揮官としての素質

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません……!!

別作品関係でちょっと忙しくなってしまい更新が遅れてしまいました。

今回はカツミ視点でお送りいたします。


 アカネ、アオイ、ハクアが怪人に占拠されたビルの制圧に当たる任務をモニター越しに見守っていた俺は、新たな怪人の出現と同時にすぐさまプロトとシロを連れてスタッフが待機する指令室へと移動していた。

 

『カツミ君!!』

「レイマ、今作戦室に向かっているところだ」

『ならばちょうどいい!! 今、タリアを経由して怪人の出現状況を共有させる!!』

「ああ、シロ。頼む」

 

 レイマはもう移動中か?

 肩に移動したシロが俺の眼前にホログラムを投射し、現れた怪人についての情報を映し出す。

 

名称:未確定

特徴:紫の体色を持つ昆虫型怪人

形態:群体型

能力:不明

凶暴性:非常に高い

 

 群れで動き出す奴か。

 無造作に作り出したやつか、それを作り出す大本の怪人でもいんのか?

 

「こいつの対処は?」

『各個撃破! ジャスティスクルセイダーは当然グリーンもこの私も出動する!!』

「でもレイマ、この動きは……」

『ああ! 此度の怪人の出現は明らかに我々の戦力を分散させる意図がある!! だが動かないわけにはいかないだろうな!!』

 

 映像が切り替わり出動した警官、配備されたスタッフが対怪人兵装を打ち出し、足止めをしている光景が映し出される。

 葵の持つ銃よりも大型のグレネードランチャー? のような武装から粘着性の弾丸が撃ち出され、それらが怪人にまとわりつき一瞬で硬化して動きを止める。

 

『我々が政府に提供した対怪人兵装はあくまで足止めにしかならない!! 相手の思うつぼになるだろうが、ここは人命優先で出る!!』

「了解した。それなら俺も———」

『いいや、現状出現した怪人の規模なら君が出る必要はない!! むしろ君は不測の事態に備えて待機だ!! それと———』

 

 そこで息継ぎするように一呼吸をいれたレイマは、続けて言葉を吐き出した。

 

『私が出動している間、君には指揮を任せる!!』

「んんん!?」

『スタッフには既に通達した!! なにがあっても私とついでに大森くんが責任を取る!!』

「余計プレッシャーかかるんだが!?」

 

 しかもなぜに大森さんも責任を取ることに?

 

『前にも言ったが、対怪人戦において君の右に出るものはいない!! それに、私は君のことを信用しているからな!!』

「……。そこまで言われたらやるしかねぇよな」

 

 ここまで信頼されているんだ。

 一旦レイマとの通信を切り、速足で移動しながら再度タリアにより送られてくる現場の状況を吟味する。

 

「タリア。アカネが制圧した怪人の血液はもう調べたか?」

『いいえ、まだです』

 

 アカネが気づいた怪人の不可思議な血液。

 今回の件には一見関係ないように思えるものだが、怪人の行動に規則性があると考える方が無理がある。

 

「アカネの直感は無視できない。プロト、映像越しでいいから怪人の血液を解析できるか?」

『少し時間はかかるけど、いけるよ』

「頼む。タリア、貴女は引き続き現場の情報をこっちに回してくれ」

『かしこまりました』

 

 簡単な指示を出し、目前にまで迫った指令室の扉に意識を向ける。

 自動で開いた扉に足を踏み入れると作戦室には既に30名ほどのスタッフが慌ただしく動いており、彼らの視線がこちらへ向けられる。

 その中には黒髪を後ろでひとまとめにさせた女性、大森さんと白色の髪色以外は彼女と同じ容姿のグラトの姿もあった。

 

「カツミ君! 主任から話は聞いています! どうぞ、ここに!!」

「何の前準備もなしに指揮は些か無茶が過ぎると思うんだがな……」

 

 大森さんに呼ばれ、いつもレイマが立っている指令室の中央付近に立つ。

 いくつも備え付けられた大型のモニターには、都市の各地に出現した怪人に関しての情報と、避難状況が細かに映し出されており、目まぐるしく動く状況に合わせスタッフが慌ただしく動き対応に当たっている。

 

「カツミ、私もいるよ」

「アルファか」

 

 すぐ傍の端末を操作していたアルファが声をかけてくる。

 

「いいのか?」

「私も力になりたいから。……というより、この日のためにオペの勉強したんだよ? カツミ、デバイスをつけて通信を繋ぐから」

「ああ……ありがとな」

 

 頭にヘッドセット型のデバイスを装着させた彼女に俺も頷きながら、彼女と同様のデバイスを頭に被る。

 

「カツミ君、司令とグリーンが出動!! レッド、ブルー、ホワイトも間もなく怪人出現地点に到着します!!」

「紫色の怪人———仮称するならば群体怪人は、凄まじい凶暴性を有し、優先的に人間と建物を破壊しにかかっている」

 

 大森さんとグラトの報告に、モニターに視線を送り訝しむ。

 人的被害は見過ごせないが、能力も使わずに襲い掛かるだけか?

 

『カツミ、解析結果出た』

「ありがとう。シロ、解析結果をスタッフの皆さんに共有してくれ」

『ガウ!!』

 

 シロの一鳴きの直後にモニターにプロトが解析した怪人の血液の情報が映し出される。

 映像を最大まで拡大され、床に飛び散った紫色の血の不自然な動きが明らかになる。

 

「これは、グラト……」

「ああ、この血液は床を浸食している」

 

 紫の血液は床に染みるように浸透していく。

 でも、これは単純に染みこんでいるわけじゃない……これは、まるで……。

 

「生きている?」

 

 血液そのものが微生物のように動き特定の物質を蝕んでいる?

 この怪人の戦闘力はそれほど高くはない。

 それどころか、一般人が持つ対怪人兵装で対応できてしまうほどに弱い。

 だが、この期に及んでこんな意味のない侵略をするとは考えづらい。

 

「……」

 

 そして、直後に現れた怪人の体表も紫。

 これは偶然か? わざわざ戦闘力が低い怪人を出す意味は?

 紫の血の判明した特性と不可解な怪人の出現に俺は一つの仮説を立てた。

 

「アルファ、全員に通信を繋げてくれ」

「うん!」

 

 アルファが端末を操作し、出動しているレイマ達全員との通信を繋ぐ。

 

「全員聞こえるか?」

『ああ! 聞こえているとも』

『聞こえてるよっ』

『聞こえてるでー』

『カツミ君、吐息多めで頼む』

『かっつんの声が聞こえる!!』

『どうしたホムラ!!』

 

 ……なんかもうすごい多いな、聖徳太子になった気分だ。

 俺が指揮を任されたことは知らされているので、単刀直入にいかせてもらおう。

 

「まだ憶測の段階だが、この怪人は倒されることが目的かもしれない」

『倒されること……? ッ、まさかカツミ君、そういうことか!?』

 

 レイマはすぐに思い至ったようだ。

 

「この怪人は明らかに弱い。それこそ対怪人兵装で対応できる程度の怪人といってもいいくらいに弱い」

 

 その目的があの紫の血を撒き散らすことにあるなら———、

 

『カツミ君、今到着したけど、とりあえず斬っても大丈夫!?』

「いいタイミングだアカネ! 血を確認したい、とりあえず目についた奴を斬ってくれ!」

『うんっ、分かった! 今血を見せるね!!

「ああ、しっかりと見せてくれ!!」

 

『傍から聞くと恐ろしい会話すぎる』

『犬が口から血を滴らせながら尻尾振ってる』

『こいつら怖……』

 

 アカネの応答と同時にモニターに映る視点が彼女のものへと切り替わる。

 ビークルから着地したアカネの視界に映りこむ、紫の体表を持つ怪人。

 その一帯が、金切り声を上げながらとびかかる光景を目にした彼女は、一閃を繰り出した。

 

「ジィィギャァッ!?」

 

 次の瞬間には怪人の一体の腕が刎ね飛ばされ、紫色の血が噴き出す。

 即座にプロトの解析が入り、アカネが対応した怪人と限りなく近い血液だと判明する。

 

「さすがの行動の速さだ! アカネ、よくやってくれた!!」

「もっと褒めてもいいんだよ!!」

「その程度、無事に帰ったらいくらでも褒めてやる!!」

「アァワワワワ~!?」

 

「今ヨッシーいた?」

「アカネ?」

「ふーん」

「こいつら怖すぎ……」

 

 これでほぼ情報が確定したのなら、あとは対策を考えるだけだ。 

 

「アカネ、きらら、コスモは怪人の血液を蒸発させろ」

『うん!』

『任せとき!』

『ああ!』

「葵はジャスティビットの拘束。動きを止めるだけなら足を打ち抜いても構わない」

『りょ』

「ハクアはホワイトⅤで空から怪人の出現状況を逐次報告!! それと逃げ遅れた一般人の避難を!!」

『うん、私も頑張るから!!』

「レイマは現地で解析、いけるだろ?」

『勿論だ任せておけぇい!!』

 

 それぞれの対処法を指示し、次に警戒すべき点を伝える。

 あの紫の血になにか仕掛けがあることは確か、だけどその血になにがあるかは今優先して調べることじゃない。

 懸念すべきは———、

 

「レイマ」

『むっ』

 

 耳元に手を当て、通信を繋ぐ。

 

「———、———、———」

 

 これから起こるかもしれない事態と、その対策をレイマに話しておく。

 俺の懸念した事態にレイマも頷き、行動に当たってくれる。

 

「これが徒労にならないといいが……いや、徒労に終わるならそれでいいか」

 

 怪人を相手にするにはあらゆる状況を想定しなくてはならない。

 普段が普段なら俺はなにも考えずに殴りにいけばいいが、今回はそうはいかない。

 俺は、戦いに赴く仲間たちのために考え、彼女たちが最大限の力を発揮できるようにする。

 

「カツミ君、初めてとは思えないくらいに指揮が板についてる……」

「……なるほど、自身の直感を疑わないことも一種の才能というべきか」

 

 一旦通信を切り、対応に当たるレイマ達に意識を割きながら大森さんに話しかける。

 

「大森さん、避難状況は?」

「怪人出現区域からの避難は進められています」

「……。まだこの怪人が打ち止めとは限らない。避難区域に対怪人兵装を持つ人員と消防車の配備を頼めますか?」

「なるほど。今回の怪人程度なら水で押し流せるな。こちらで要請しよう」

 

 単純な考えではあるが、水圧で押し流し対怪人兵装で固めてしまえば一時的な無力化もできるはずだ。

 

「それとソーリアさんをここに呼んでください」

「む、反対はしないが、理由を聞きたい」

「怪人は星界エナジーを狙う奴らと手を組んでいるので、星界エナジーに詳しい彼女がいた方がいいと判断したからです」

「了解した。すぐに呼び出そう」

 

 今、前線に出ることが難しい俺でもできることは全部やっていこう。

 戦えなくてもできることはある。

 レイマ達の信頼に応えるべく、頭をフル回転させながら俺は目の前の事件に意識を集中させる。

 

 

 




戦闘力以外でも怪人にとっての天敵な主人公でした。
そして衝撃のあまりヨッシーになるアカネ……。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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黒騎士の“一撃”

二日目、二話目の更新です。

今回はレイマ視点でお送りします。


 穂村克己は常識知らずではあるが、決して頭が悪いわけではない。

 ネット界隈で脳筋扱いこそされているが、それは黒騎士としての彼が怪人を殴っては潰して殴っては爆散させた行動の結果であるので、彼の聡明さを陰らせる要因にはなりえない。

 

「ジィィァァァ!!」

 

 都内に出現した紫の体表を持つ複数の怪人。

 人型ではあるが、異形の甲殻に身を包んだ怪人共は群れをなして周囲の建物を破壊し、その口から紫色の粘液を吐き出し周囲の環境を汚染している。

 

「タリア、到着した」

『敵性怪人照合、解析開始と同時に強調表示。並行して周囲の生命反応をチェック』

 

 既に変身を終えた私は空中で停滞させたUFO型のビークル、ゴールド6から飛び降り店が立ち並ぶ商店街へと着地する。

 商店街に現れた個体数は37体。

 緩慢な動きではあるが、明確な敵意と凶暴性を以て暴れる怪人共に私は、手元に集めた粒子状のナノマシンを『リキッドシューター』へと変える。

 

「ジャァァ」

「言語も口にできない怪人か」

 

 雑兵なのだろう。

 だが、今更そのような木っ端を投入してくることに意味がないはずがない。

 一斉にこちらへ押しかかってくる怪人を目視で確認し、私はカツミ君が扱う拳銃型の武装『アクアシューター』を構え、ナノマシンにより生成された弾丸を放つ。

 弾丸は怪人の一体の胴体に直撃———するが、僅かな紫の血を散らすだけで怯まずに襲い掛かってくる。

 

『特殊弾・着弾』

「うむ」

 

 手を翻し、我がスーツから放出されたナノマシンが弾丸を身に埋め込んだ怪人を縛り付け、地面に転がす。

 ……第一段階達成。

 あとは残りの雑兵を被害を最小限にして戦闘不能にさせる。

 ———再度ナノマシンを再形成。

 拳銃から片刃の刃を持つ炎の剣『フレアカリバー』を握りしめ、続々と接敵する怪人の両足を切り裂く。

 

「タリア。FORMATION:№8」

『お任せを』

 

 背部にナノマシンによる二対のフレアカリバーを生成。

 背から飛び出すように射出された赤熱の剣が怪人の四肢を両断し、次々と無力化していく。

 あの紫の血液を不用意に放出させないようにすること自体は簡単だ。

 超高熱の刃で血を出す間もなく焼き切ればいい。

 

『お見事です』

「世辞はいい!! 解析を頼む!!」

 

 眼前の怪人を切り捨て構える。

 紫の血の危険性は依然として判明していない。

 レッドの直感にカツミ君の懸念。

 否定するだけなら簡単だろうが、誰よりも怪人と相対し悉く打ち破ってきた最高の戦士たちの直感を絶対に軽く見てはならない。

 

「ガッ、ジィィァァ!!」

「お前たちは! なんのために地球を危機に陥れる!!」

 

 どれだけ言葉を投げかけようとも意味はない。

 だが、それを理解していながら私は訴えずにはいられなかった。

 

「地球は最早、怪人のみならずそれ以上の存在に狙われている!!」

 

 それにも関わらず、彼らはまた現れ地球の人々の生活を脅かしている!!

 

「その悪意に中身はあるのか!! 貴様らの暴虐に意味はあるのか!!」

 

 オメガはもういない。

 いや、そもそもオメガはなんのために戦っていた?

 ただの地球に住む生物を滅ぼすためというには、あまりにも中途半端だ。現れる怪人のことごとくがカツミ君やジャスティスクルセイダーに始末されこそはしたが、奴にはなにかしらの目的があったようにも思えて仕方がない。

 

———いや、違う。

 

「変わっていない……!! オメガが倒されても、その悪意は不変のままだ!!」

 

 カツミ君も感じているはずだ。

 オメガという怪人を統べる王と戦っていた時と、今狡猾に怪人を差し向ける何者(・・)かのやり口は同じ。

 それがどう言う意味を持つかなど、考えるまでもない。

 

「オメガの背後に潜み、今もなお暗躍する貴様は何者だァァァ!!」

 

 指先を指揮棒のように振るい、頭上高くに雷を纏う大斧『ライトニングアックス』を生成し、腕を振り下ろすと同時に地面へ叩きつけ———雷を迸らせ、怪人を吹き飛ばす。

 この場に出現した全ての群体怪人を掃討し終えた私は地面に剣を突き立てながら肩で息をする。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……オォエッ

『マスター、ご無理をなさらぬように』

「す、すまない。感情的になった」

 

 運動不足ではしゃいでしまったので普通にえづいてしまった。

 やはり現場に出ると加減を間違えてしまうな。

 

「解析はどうなっている?」

『———今しがた完了いたしました。ッ、マスター! 指定箇所に攻撃を!!』

 

 ッ、解析を行っている怪人の身体が内側から膨らんでいる!?

 バイザーに反映された解析を行っている怪人の心臓部に現れた光点に、刃を突き刺す。

 瞬間、まるで空気が抜けるように怪人は元に戻り、そのまま絶命する。

 

「カツミ君の推測が当たっていたな! 今すぐ情報を共有させろ!!」

『かしこまりました!』

 

 群体怪人は倒されることが目的の怪人、とカツミ君は推測していた。

 そしてもう一つ、彼は私に指示を出していた。

 

『この怪人は自爆するタイプかもしれない。それなら体内に自爆用の器官かなんかがあるはずだから、それを確認してほしい』

 

 彼は敵の思惑をも完璧に読み切っていた。

 幾百もの怪人を相手に勝利し続けてきた経験は伊達ではない。

 ただ殴り続けてきただけと彼は言うだろうが、その実は怪人の攻撃・習性・特性すらも読み切り最善の一撃を叩き込み屠り続けてきた直感は伊達ではない……!!

 

「やはり私の見立ては間違ってはいなかった! さすがは我が友!! 親友だ!!」

 

 四肢を切り裂き無力化してきた怪人の自爆器官に刃を叩き込み始末しながら、自らの後任としての役目を十全以上に発揮する友の功績に感動に打ち震える。

 

「しかし、問題はこちらか……タリア」

『血液に関しての解析結果も出ました。……非常に厄介な特性を持っていることが判明しました』

 

 瞬時に私の視界に紫の血液に関する解析結果が表示される。

 

「やはり環境汚染型か」

『血液そのものが人工物を食らい有毒な物質に作り変えていると推測できます』

「毒性は?」

『既存の毒性では判別不可。ですが人体に有毒且つ、飛び散った血液は人工物を浸食し広がってゆきます。現状の対策は一定の熱による除去、恐らく熱湯での対処も可能』

 

 対策はできるが、すぐには準備することは難しいな。

 だがそれでもやらなければここは人々が住むことができなくなる。

 先ほどまで怪人が血を吐き出していた場所を見やると、建物もコンクリートの地面も紫色に汚染されていた。

 

「卑劣な……」

 

 だが、この程度の環境汚染、根本の原因が分かってしまえば対策できる。

 私は天才だ。

 そう自分に言い聞かせながら、一先ず怪人に汚染された人工物のサンプルを採取しようとして———地中深くから接近する反応に気づく。

 

「ぶるぁぁぁぁぁ!!」

 

 地面を砕き飛び出してきたのは趣味の悪い金色の鎧を纏った全身が岩で構成された怪人。

 空中でそいつが身体が弾丸のように飛ばしてきた岩石を、シールドとして形成したナノマシンで防御させながら怪人を睨みつける。

 

「みつ、けたぁ」

「これも、カツミ君の予測が当たってしまったな」

『本命の怪人が潜んでいる。ここまで来るとコスモ様の予知じみています』

 

 他の面々の通信状況からして現れたのは私の前だけか。

 しかも、これまでの怪人と同じく金の鎧———星界エナジー由来のものを着ている。

 その全身を岩で構成された怪人。

 

「お前 金色 おでと 同じ」

「どこが同じだ愚か者。その下品でくすんだ金色と、美しいゴールドを一緒にするな」

 

 失礼にこちらを指さし、片言で話す岩を纏った怪人———岩石怪人にイラっとする。

 

「命令された。 おまえ、倒せって」

「誰にだ?」

「うー、あー、誰だったっけ?」

 

 自分に命令した者すらも覚えていないのか。

 ……情報を引き出すのは無理そうだな。

 一定の思考を与えられた戦闘特化と見るべきだろう。

 

「カツミ君、この怪人に見覚えは?」

『ある。……けど』

「けど?」

 

 すぐさまカツミ君に確認をとってみると、彼はどこか煮え切らない声を発する。

 

『街中で出くわして一撃で始末した。能力はなにを持っているのか分からん』

「ふ、ふぅーん……」

 

 黒騎士時代に出現した怪人の全容は私にも把握できていない。

 その理由は、怪人が出現した直後に能力を使うどころか暴れる余地すらなく、黒騎士に始末されていたからだ。

 この怪人もその中の一体なのだろう。

 

「だがある意味最適解なのだろうな」

 

 黒騎士以外に不可能だという点を除けば……!!

 

「おで、ちゃんとゴールディ、戦える」

「狙いは私か?」

「楽そう、だから」

 

 嘗められたものだな。

 そして、意図したものかは分からないが挑発をされていることは確かだ。

 

「ふん、貴様程度の挑発にこのカネザキ・レイマが乗るはずがないだろうが」

「おまえぇ いちばん」

「安い挑発だな」

 

 まさか挑発された程度でこの天才である私は取り乱すとでも思ったのか?

 

「弱い」

「だから」

「ひんじゃく」

「おい」

「ファッションエイリアン」

「……」

「ナルシストのゴミ野郎」

 

「なんだと貴様ァ!!」

 

 言っていい事実と悪い事実があるだろうがァ!!

 後半に罵倒する時だけ饒舌になるとはどういうことだ!!

 

「そもそも私を地球生まれの羅刹共と比べること自体ナンセンスだろうが!!」

『女神の間違いでしょ?』

『戦乙女の間違いでは?』

『お姫様の間違いやろ』

 

 

 お前らの自己評価の高さと面の厚さにびっくりだよ私は!!

 現在進行形で怪人を亡骸に変えてるバーサーカー共がよく言うわ!!

 

「うるさい」

「ッ」

 

 岩石怪人の巨体が動き出す。

 重厚な腕が振るわれると同時に岩が弾丸のように飛ばされ、こちらへ迫る。

 ナノマシンを盾の形状へと変化させて防ぐと、次に奴はロケットのような加速でこちらへの突撃を行ってきた。

 

「巨体に見合わぬ速さだな」

『星界エナジーによって生成された鎧が動きを補助しているようです』

 

 だが、ただの物理攻撃ならば大した敵ではない。

 円形に形作ったナノマシンに足を乗せ、そのまま空中を滑るように移動しながら突撃を回避する。

 勢いの止まらない岩石怪人はそのまま商店街の建造物に激突、とてつもない衝撃に周囲の建物を巻き込み瓦礫と白煙をまき散らせる。

 

「誰が補填すると思っているのだ貴様ッ」

『マスターのポケットマネーからの賠償ですね』

「腐るほどあるので問題ない、がいくらでも壊していいというわけではない!!」

 

 珍しいタリアの冗談に反応しながら、白煙の先にはみ出す岩石怪人の無防備な背中に指先を向ける。

 

FORMATION(フォーメーション):№27!!」

『承認:№27“LIGHTNING・HEXA”』

 

 あらかじめ設定したプログラムを起動、ナノマシンが設定されたフォーメーションに動き、私の周囲に六つの電撃を纏った斧が展開。

 

「GO!!」

 

 それらが電撃を纏いながら回転を開始し———指先を向けた私の合図と共に一斉に射出される。

 高速で回転しながら射出されたそれらは一斉に岩石怪人の無防備な背中に激突し、稲光を迸らせた。

 

「ぬおおおおぉぉぉん!」

 

 奴の背の岩が剥がれ落ち、破片が舞う。

 

「効いたか?」

『いえ、岩石怪人。健在です』

 

 並みの怪人なら瞬殺されているであろう火力なんだがな。

 見た目通りに耐久力が優れている怪人なのか?

 考察しながら白煙が晴れた先にいる岩石怪人を見る。

 

「む?」

 

 奴の体表を覆っているはずの岩を、先ほどの斬撃で引きはがしたと思いきや、その下から現れるのは生物のように蠢く、岩に見えたなにか。

 再生持ち? いや、あれは肉体を再生しているというより、なにかが増殖している?

 

「……岩を、大地を作り出す怪人か?」

「おでは強い おでは無敵! おでは、シナナァァイ!!」

 

 増殖しているのは岩石のような物質。

 それらが奴の身体から白色の岩となってあふれ出し、肥大化していく。

 その様相を目にし、私はこの岩石怪人の認識を改め、その危険度を一段階引き上げる。

 

「幹部クラスか」

『このまま放っておけば際限なく巨大化していきます。いずれは自重で動くことすらできなくなりますが……』

「そうなれば間違いなく都市が潰れる」

 

 いわば、山一つが都会のど真ん中に突然出来上がるということだ。

 しかもその山のデカさが想定できないとくれば、こいつを放っておく選択肢はない。

 

『こいつ幹部クラスだったのか……』

「……」

 

 その幹部クラスを暴れさせる以前に見敵必殺で瞬殺したカツミ君に逆に引いてしまうが、とにかくこいつは厄介な怪人であることには変わりない。

 

「解決策は、ある!! ゴールド(シックス)!!」

 

 上空に停止させたジャスティスクルセイダー第六のUFO型ビークルの戦闘補助システムを起動———地上へ向けて追加のナノマシンを充填させた大型アンプルを射出。

 アンプルは地面へと突き刺さり追加のナノマシンを放出、私の周囲に集まったそれらが金のジャスティビットへと姿を変える。

 

「プロト・ジャスティビット! 全ッ開放!!」

 

 背部に展開したジャスティビットが流動、巨大な杭のような形状へと変化し二回り巨大化した岩石怪人の胸部へと直撃する。

 その一撃でのけぞりこそするが、岩石怪人は変わらず動き出そうとする。

 

「爆ぜろ!!」

 

 突き刺さった杭が内部からさらに棘を炸裂させる。

 再度岩石の体表を弾けさせ、のけぞる岩石怪人———だが、それでもなお構わずに高く振り上げた岩塊の腕を振り下ろした。

 防がなければいくらサジタリウスでも圧死するであろう一撃。

 だが、それに対して私はその場を動かずに叫ぶ。

 

「FORMATION:№76!!」

『承認:№76“HOPPER・BARRIER”』

 

 眼前に展開するのは額縁のような形状へと変化したナノマシン。

 ナノマシンは四つに分裂し、四隅からエネルギーバリアーを展開し、岩石怪人の一撃を阻み———ゴムのように巨腕を跳ね返す。

 

「なぁにぃ!」

「なにも私が再現できるのはジャスティスクルセイダーだけではない」

 

 これはバリア怪人の能力を疑似的に再現したフォーメーション。

 ただし幹部級の完全再現は無理!!

 あんなバグ共の能力ではなく、再現可能なレベルの怪人の力ならばこのサジタリウスは再現可能だ。

 バリアでせき止めながら、さらにナノマシンを弄び技を繰り出す。

 

「貴様ら怪人の能力の真似事もこのサジタリウスならば容易いこと! №55!!」

『承認:№55“SUPER VIBRATION”』

 

 宙に浮かぶ一本の剣を投げつける動作で放つ。

 あまりにも小さな剣の攻撃に、奴も甘く見たのか避けるそぶりもなく直撃するが———この攻撃はスズムシ怪人の超振動の力を再現した刃だ。

 

「お、おがぁぁ!?」

 

 触れたあらゆるものを崩壊させる。

 片足を超振動により、触れた傍から崩壊させバランスを崩し地面に倒れ伏す岩石怪人。

 そんな奴を見据え、私はとっておきの手札を切る。

 

「そして、貴様を粉砕する一撃を見せてやろう。№100!!」

『承認』

 

 私の周囲に漂うナノマシン全てが、集約し巨大な砲台を形作っていく。

 見た目は宙に浮かぶキャノン砲、とでもいうがその実態は一線を画す破壊力を持つもの。

 

「そんな ほうげきぃぃ!」

「これは砲撃ではない!!」

 

 瞬時にナノマシンによる構築が完了。

 組み上げられた砲身から伸びた杭が地面へ突き刺さる。

 黄金色の輝きを放つソレに、ナノマシンにより生成された弾丸(・・)が装填される。

 

「私が知り得る“最強”!! 至高の鉄拳を食らうがいい!!」

 

 ナノマシンの凝縮を重ね、超出力による負荷に耐えるほどにまで強度を跳ね上げる。

 耳をつんざく轟音と共に放たれた弾丸———黄金色の拳(・・・・・)は、眩いばかりの輝きを放ちながら岩石怪人へと迫る。

 金の輝きは射線上を照らし、赤いプラズマの嵐を纏う。

 

「———ァ、これは、そうだ、おで、前は黒騎士に———」

 それを目の当たりにし、唖然とした岩石怪人に私は拳を向けて、とどめの言葉を言い放った。

 

「“黒騎士の拳”———再現率120%の必殺の拳だ」

「———ァ」

 

 断末魔はなかった。

 真っ向から拳を受けた岩塊に包まれた巨大な上半身が爆散し、再生する間すら与えずに絶命した。

 

「……我ながら凄まじい威力だな」

 

 被害がこれ以上広がらないように張り巡らせたネットで岩の残骸を絡めとりながら、岩石怪人を一撃で屠った黒騎士———プロト1による一撃を再現した攻撃に感嘆とする。

 

『プロト1による全力攻撃の完全再現。威力こそは凄まじいですが、追加した粒子を全て使い切らなければ使用できません』

「それほどまでに我が友は凄まじいということだな」

 

 120%の再現ではあるが、カツミ君ならばこちらが計測した最大火力など容易く凌駕するだろう。

 私の技術力もまだまだということだ。

 

「……しかし、少々厄介なことになってきたな」

『汚染広がっています』

 

 怪人の漏れ出した血液が人工物である建物やコンクリートの地面を浸食していっている。

 その速さは微々たるものだが、もし大量の血がばらまかれれば決して無視できるものではなくなる。

 

「こちらの予想だと……」

『! 新たな反応です!!』

「だろうな!!」

 

 ここで増援を寄越さないはずがない。

 残ったナノマシンで武器を作りながら、再び地面から湧き上がるように現れる群体怪人の対処をする。

 

 

 




黒騎士の“動き”を再現していたジェム君とは変わって、黒騎士の“一撃”を再現するレイマでした。

【岩石怪人ガイア】
自身の肉体を介して大地を作り出す怪人。
際限なく増え続ける大地で都市を塗り替えようとしたが、能力を使う余地も与えられず運悪く出くわした黒騎士により粉砕された。
オメガの計画の要であったナマコデンキを始末されたオメガのサブプラン。

今回の更新は以上となります。


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星界の輝き

お待たせしました。

恐らく2023年、最後の更新です。

前半がカツミ視点。
後半から別視点でお送りいたします。

※今回の一部特殊タグはPCで見るにはちょっと見にくいかもしれません。
文章の内容的には問題ないので、その点はご安心ください。


 群体怪人の迎撃は成功している。

 現れた岩石怪人もレイマが倒してくれた。

 だが、状況は依然として悪いままだ。

 

「汚染が拡大しています!」

「最小限に抑えたが、避けられないか……!!」

 

 大森さんとグラトの焦る声を耳にしながら、怪人の紫の血により浸食・汚染されていく映像を睨む。

 指令室で状況を確認しつたないながらも指揮を行っていたが、この状況になるのは予想できていた。

 むしろ、血を巻き散らす怪人の目論見を阻止した上でのこの結果なのだから、今俺が考えるべきことは現状を憂うことではなく、これからどのような判断を下すべきかだ。

 

「グラト、アカネ達が担当する場所の汚染状況は?」

「彼女たちは血液そのものを蒸発させているので、他よりは汚染されている範囲が狭い。だが、汚染されていることには変わりない、ゆっくりとではあるが確実に広がっていく」

 

 群体怪人の掃討と汚染の拡大を同時に防ぐのは現状無理だろう。

 

「なら、まずは怪人の掃討を最優先。アルファ、自爆させないようにレイマが見つけた器官を破壊するように心がけるように伝えてくれ」

「分かった!!」

 

 汚染範囲はまだ狭い範囲に留められている。

 今の範囲なら、まだ力技でなんとかできるな。

 そう判断した俺は、声を押さえ、プロトに連絡を繋げてもらったタリアに声をかける。

 

「タリア、汚染範囲を特定して、地図にまとめることはできますか?」

『なにか解決策が?』

 

 声を抑えた俺に、タリアは訝し気な声色でそう尋ねてくる。

 

「俺が出て汚染範囲を熱で燃やし尽くします」

『……は?』

「俺が出撃して汚染範囲をピンポイントで消滅させます」

『いえ、あの、聞き取れなかったわけではありません……』

 

 タリアの機械的な音声が困惑したように震える。

 

『しかしカツミ様、それでは……』

「レイマ達のおかげで汚染範囲は絞られているなら、狭い範囲で済むはず」

 

 もちろん、今タリアが心配していることは俺にも分かるが、俺がこんなことをするのは今回だけだ。

 今回を凌げば、必ずレイマが対策を立ててくれるからな。

 

「あくまで狭い範囲です。無差別に攻撃するつもりもないし、多少の調整はできます」

『……かしこまりました』

「ありがとうございます」

 

 無理を言ってしまったかな、と思いながら再びモニターに意識を向ける。

 その時、背後の扉が開かれ指令室に誰かが入ってきたことに気づく。

 ソーリアさんが来たか、そう思い振り返るとそこには彼女以外に見慣れた二人の人物がいた。

 

「カツミ君!!」

「やっほ、カツミ君」

「風浦さん……? それにヒラルダも。どうしてここに?」

「私が連れてきたわ」

 

 風浦さんの隣にいた褐色肌の金髪の女性、ソーリアさんがそう答えた。

 彼女は自室に待機しているはずだが。

 

「へ、部屋で今起こっている事件を見て、私ならもしかしたら力になれるかもしれないって……」

「力になれるかもしれないって……」

 

 風浦さんの力は俺も見た。

 物体を直すなんらかの力。

 彼女の力なら、あの汚染もなんとかできるかもしれないが……保護している一般人の彼女を現場に出すわけにはいかない。

 

「どんな力を持とうとも、貴女が俺達が守るべき一般人だということには変わらない。力を持っているから、なんて理由で現場に出るべきではありません」

 

 ハクアの時と同じだ。

 あいつは自分に戦う力があるから戦う選択肢を選んでしまった。

 その選択をさせてしまったのは俺のせいだ。

 

「一度、俺達と同じ選んでしまったら、貴女の中に常に戦う選択肢が出てしまうようになるんです。そうなれば、もう見て見ぬふりはできなくなる」

「半端な気持ちじゃないよ!」

 

 そこで風浦さんがそう声を上げた。

 

「私だって、ずっとヒラルダに身体を乗っ取られて怖い目にあった!」

「うぐっ」

「いつ自分がいなくなるか、ずっと怖かったし、もう自分が元居た場所に戻れないって諦めかけてもいた!」

「あぐっ」

「でも……」

 

 隣でダメージを受けているヒラルダに反応せずに、風浦さんは続けて言葉を吐き出す。

 

「ここにいて、ずっと悩んでた。私みたいに……怪人や侵略者に怖い目に合わせられる人を出したくない。居場所を奪われて、帰る家を奪われる人も見たくないって……」

「……」

「私は、皆の帰る居場所を守りたい」

 

 居場所を守りたい……。

 奇しくもアカネと同じ戦う理由に驚く。

 

「私はいいと思うわよ」

「ソーリアさん……」

 

 元星界戦隊のイエローであったソーリアさんの声に耳を傾ける。

 

「部外者の私だけれど、星界に選ばれた者として言わせてもらうなら……カゼウラが自分の意思でそう決意したなら、それはきっと彼女の力が最も強く輝ける時ってことよ」

「ソーリアって意外と詩的なこと言ういだぁ!?」

 

 ヒラルダに拳骨を落とすソーリア。

 ……ゼグアルさんが言っていたことか。

 

「いつつ……カツミ君」

「ん?」

「桃子は私がいるから大丈夫だよ。もしもの時に戦える手段はあるから」

 

 ヒラルダの言葉にいよいよ止められないと悟った俺は、頭に手を置く。

 普段、レイマやアカネ達が俺に戦ってほしくないって感じている気持ちってこんな感じなんだろうな。

 これは本当に心配だ。

 

「……はぁぁ……分かりました。でも敵は貴女を狙っている可能性があります。異変があったらすぐに俺が向かいます」

「うん!!」

 

 強く頷いた風浦さんに、俺は両手を掲げ———バックルに変形したプロトとシロをキャッチする。

 

「え、カツミ、どうして変身を……?」

「ワームホールを使う。今の制限された状態じゃ何度も使えないが……タリア、汚染が一番広い場所の座標とその現場の最も近くにある高い位置の映像を出してください」

『かしこまりました』

 

 場所は……葵が担当しているところだな。

 映像は近くのビルの屋上。

 それらをしっかりと確認し、俺はバックルを用いて変身を開始する。

 

「やるぞ、プロト、シロ」

『なにが起こるか分からないから、力の扱いに注意して』

『ガァァウ!!』

 

 腰に出現したベルトにバックルを装填し、変身を開始させる。

 同時に音声が鳴り響き、俺の身体を黒色のスーツが覆い始める。

 

←←←ARE YOU READY?←←←

 

 

→→→NO ONE CAN STOP ME!!→→→

 

 白色の装甲が装着され、その上から拘束具のように追加の装甲が取り付けられる。

 鎧の隙間から蒸気が噴出したことで———プルートルプスへの変身を完了させる。

 

OPTMIZATION

 

 

NOITAZIMTPO

 

 変身が完了すると同時に大剣型の武装———グラビティバスターとグラビティグリップを転送し、そのまま装填させる。

 ビルの屋上の景色を思い浮かべ、そのままグラビティバスターの引き金を引くと目の前の空間にワームホールが展開され、その先に映像で映し出された屋上の景色が広がる。

 

「……繋がっているな」

 

 ヒラルダがチェンジャーに変わり、光と共にジャスティスピンクへの変身を終えた風浦さんがワームホールの前に立つ。

 

「風浦さん、すぐに葵と合流してください」

「分かった。……信じてくれてありがとう。カツミ君」

 

 そのまま風浦さんは迷うことなくワームホールへと足を踏み入れる。

 瞬時に映像の建物の屋上に降り立った彼女の姿を確認した俺は、すぐさま近くにいる葵に連絡を送るように指示を出すのであった。

 


 

 力を持っているから戦いたい……とは違うと、思う。

 確かに望まない力を得て、戦いに巻き込まれるというのは空想の作品ではありがちな展開だとは思う。

 だけれど、それ以上に私は……助けたいと思った。

 居場所を守りたい。

 私のような人を増やしたくない。

 そんな、胸から湧き上がる強い思いに従って私はカツミ君たちと同じように戦いの場へと踏み込む決意をした。

 

『桃子、ここが目的地だよ』

「うん」

 

 カツミ君の力で一瞬で建物の屋上にたどり着いた。

 ここは現場から近い場所、ここからなら葵ちゃんが戦っているところが見えるはずだけれど……。

 

「葵ちゃ……ブルーが戦ってる」

 

 屋上から戦闘音が聞こえる方向を見下ろしてみると、そこでは———建物の間で、何十体ものの紫色の怪人をワイヤーで宙づりにしている青い戦士の姿があった。

 

『ほい』

『ギャヒィ!?』

 

 ワイヤーで宙づりにされもがく怪人の胸にビームが撃ち込まれる。

 こんな北斗の拳マッドマックスでしか見たことないような所業を流れ作業のように繰り返していく葵ちゃんの姿に、私は怯えた声を漏らす。

 

『「ヒェ……」』

 

 思わずヒラルダと声を重ねてしまうが、今自分がここにいる理由を思い出し頭を横に振る。

 

「わ、私にできることをやらなくちゃ。ヒラルダ」

『ええ、例の武装ね』

 

 社長さんに用意してもらった護身用の武装。

 それを手首のチェンジャーから取り出す。

 

「お、オモチャみたいだけど……」

 

 拳銃の先端にスプレー缶のようなものがくっついた銃『カラースプレイザー』。

 それを汚染が広がっている範囲に向ける。

 

『それは貴女の力を安定して放つための道具。引き金を引いて、力を開放しなさい』

「やってみる……!!」

 

 一度深呼吸した後に、自身の胸の奥にある力を意識しながら引き金を引く。

 瞬間、私の身体から溢れ出る星界エナジーが収束され、銃口から光となって放たれた。

 訓練場の時と同じ桃色の光は紫の怪人の血に汚染された範囲に扇状に降り注いだ。

 

「え、こんな広い範囲いけるの……?」

 

 思っていた何十倍も広い範囲に広がった光に自分で驚く。

 私から生成された星界エナジーの光は地面と建造物に広がる紫の血の汚染を———せき止めるどころか浄化するように汚染を消し去っていく。

 

「か、カツミ君、これどうなってる!?」

『汚染が除去されています!! この調子でお願いできますか!!』

「が、頑張る!」

 

 できるという確信は漠然とあったけれど、実際にできてしまっていることに自分でびっくりしている。

 

『む、クリスマスの奇跡?』

 

 なんか通信越しで葵ちゃんが変なことを言っているけど、時期的にクリスマスはとっくに過ぎている。

 葵ちゃんの殲滅速度と、この浄化ペース……この調子なら———、

 

『ッ、葵! お前がいるところに増援が来ている!!』

『……引き寄せられた感じっぽいね』

 

 私の目元を覆うバイザーにも夥しい数の怪人の反応が現れる。

 その全てが紫の怪人だけど……。

 

『この程度の数なら問題ない。カツミ君、私を鼓舞する言葉を頂戴』

『分かった……すぅ……やってみせろよ! 葵!!

『ぇ、ぁ、ちょ……ソレチガッ

 

 わ、私も援護に行くべきかな。

 戦う手段がないとは限らないけど、葵ちゃんの邪魔にならないようにここで光を放って汚染を食い止めた方がいいのかな?

 

「ヒラルダ、どうしたら」

『ッ、桃子!!』

 

 ヒラルダの慌てた声が発すると同時にチェンジャーから機械仕掛けのフクロウが転送され、私の身体を押し出した。

 瞬間、私のいた場所にカツミ君が出したものと異なるワームホールが出現し、そこから六本の昆虫のような先端が刺々しい腕が飛び出した。

 

「か、怪人……!?」

『いえ、こいつは違う』

 

「ステアスピリチアァァ……」

 

 現れたのは怪人や侵略者のような人型ではない、黒色の六本脚の化け物。

 見えているか分からない潰れた目に、鋭利な歯が生えた凶暴な顔。

 カチカチカチ、とコンクリートの床を六本足で威嚇するように叩いた化け物はかすれたような不快な声で———ゼグアルさんから呼ばれた私の名を口にした。

 

「カツミ君、こいつって」

『スタバーズ! 風浦さんが力を使ったことで現れやがったか!! 今、変身してそっちに行く!!』

 

 カツミ君は指令室で指揮があるし、葵ちゃんは紫の怪人と戦わなくちゃならない。

 ———私が一人だったら、ここは迷いなくカツミ君に助けを求めていたけれど……!!

 

『カツミ君、こっちは心配ないわ! ブルーも怪人に集中させて!!』

『おい、ヒラルダ!!』

『私も桃子も足手まといになるためにここにいるわけじゃないから! そうよね、桃子!!』

「うん……!! 私も、決めたんだから!!」

 

 半端な気持ちで逃げるようならこの場に立っていない。

 逃げずに立ち向かおうとする私に、黒い化け物は獣のように六本の鋭利な脚を広げてとびかかってくる。

 

『今更正義の味方面するつもりはない! でも、好き放題やったツケは払わなくちゃ、ね!!』

 

 対して私の傍に羽ばたいていた機械仕掛けのフクロウーーーヒラルダは、化け物の胴体に強烈な体当たりを叩き込み吹き飛ばす。

 床に叩きつけられ虫のようにももがき気持ち悪い動作を見せる化け物は、起き上がると同時にバネのような跳ね上がる動きと速度で、こちらに迫る。

 

『桃子、身体借りるわよ!!』

「任せた!!」

 

 この姿は私だけの姿じゃない。

 戦う時は、ヒラルダに身体を任せて動いてもらうことができる!!

 ヒラルダに身体の操作を渡し、今度は彼女自らがジャスティスピンクとして戦う。

 

『ステアスピリチアァァ!!』

「慣れ親しんだ身体なのよね!!」

 

 複数の腕を広げ迫るエイリアンに、ヒラルダは動揺もせずに前蹴りを叩き込む。

 呻いたところにスプレー缶が取り付けられた拳銃を鈍器のように叩き込み、その引き金を引く。

 

「ギィァァ! ッ、ウゥルルル!! ステァ……!!」

 

 

 銃撃は与えたものの、効いた様子はない。

 元より、今の姿は私の星界エナジーとしての力を使う姿。

 力は弱くて当然———でも、私たちの変身はそれだけじゃない。

 

「私向きの姿に変わろうかな。いいよね、桃子?」

『思う存分にやっつけて。私も力を貸すから!』

 

 私の声に頷いたヒラルダが手首のチェンジャーに手を添え、指をスライドさせる。

 

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 私の身体が光に包まれると同時に半透明の機械仕掛けのフクロウが出現。

 フクロウは私の頭から胴体を覆うように重なり、装甲となって展開されていく。

 最後に顔を覆った翼が交差しバイザーのように展開されたことで、追加変身が完了する。

 

CONVERT

FORM

 

 

 ジャスティスピンク“オウル・ジャック・フォーム”

 完全にフクロウキャラが定着したヒラルダの鎧に包まれた私の身体。

 私が直して、ヒラルダが戦う。

 前までは勝手に身体を使われることはすごく嫌なことだったけれど、今の私はヒラルダのことを知って、私自身の意思で戦うと決めた。

 誰もが帰る居場所を失わないために、私はジャスティスクルセイダーの戦士として戦ってやる。

 

「さて、と」

 

 カラースプレイザーを組み替え、剣の柄のような形状へと変形させる。

 彼女がそれを軽く振るうと、柄から霧状の塗料のようなものが噴射し、それらが硬質な刃へと変質させ、その切っ先を———化け物へと向ける。

 

「甘く見ない方がいいよ。スタバーズ、今の私達、ものすごーく強いから」

 

 ……え、決め台詞まで決めているのは全然知らないんだけど!? 

 

 




去年はジェミニクロスで終わり、今年はオウル・ジャックのお披露目で締めましたね。

プルートルプスの変身フォントについては新しく作り直しました。
マークのモチーフについては、プルートルプスは「星」、オウル・ジャックは「グラフィティー」でした。


今回の更新は以上となります。



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恐れるべき相手

本当に更新が遅れてしまい申し訳ありません!

コロナで体調を崩したり別件やらで忙しく更新が遅れてしまいました。


今回はヒラルダ視点でお送りいたします。


 私が今ここに立っていることは奇跡のようなものだと思っている。

 破滅願望のためにたくさんの不幸を巻き散らした私が、今更正義の味方であるジャスティスクルセイダー側にいるだなんて少し前の自分だって思いもしなかっただろう。

 自分が正義の味方側についているからって、自分がそうだなんて思い上がりはしない。

 いいことをして私のやらかしがなくなるわけじゃない。

 でも死んでも私のやったことも帳消しにはならない。

 だから、今の私がやっていることは自分の犯した罪への贖いと、自己満足に過ぎない。

 

「初お披露目……だけれど、うまく決まったかな?」

 

 星界を食らう怪物、スタバーズ。

 その先兵が力を放出したモモコを攫うべく私たちの目の前に現れた。

 

「ステァァスピリチアァァ」

「うーん、それしか言えないの?」

 

 眼前で興奮しながら威嚇するのはスタバーズが送り込んだ刺客である化け物。

 棘のように鋭利な六本の腕を広げ、異形の口を開いたそいつを前にして私は剣に変形させた武器“カラースプレイザー”の切っ先を向ける。

 

「いける? モモコ」

 

 今は私と切り替わって内にいるモモコに静かに語り掛ける。

 

『いけるよ、ヒラルダ』

「ならよし。貴女が揺るがない限り私達に負けはない」

 

 身体の主導権は一時的に私にあるけど、モモコがその気になったらすぐに彼女に戻される。

 でも、それでいい。

 私が今この場で戦うのは私を救ってくれたカツミ君への恩義を返すことと、私を許さないでくれたモモコのために戦うこと。

 

「ガァァ!!」

「非戦闘員だと思わないことね!」

 

 六本の鋭利な腕を広げるようにして飛びかかるスタバーズ。

 だが、今の私にその程度の単調な攻撃が当たるはずもない。

 それに、あの相対する度に死を覚悟しなきゃならないカツミ君と比べたら、この程度の木っ端相手にもなりしない。

 

「それ!」

 

 一歩踏み出してカラースプレイザーの刃を叩きつける。

 外殻はそこそこ硬いのか、ぎぃんと音を立てて火花が散るが構わず横なぎ、突きを叩き込み呻かせる。

 

「モモコ!」

『星界の力を!』

 

 手元のカラースプレイザーの銃身の緑色のスイッチを押し、ゴールディが搭載した機能を発動させる。

 

『COLOR VARIATION! BOLTER GREEN!!』

カラバリ! 纏えよグリーン! 塗りつぶせ世界!! それが星界!!

 

『なにこの変な歌——!?』

 

 武装が緑の変化し、カラースプレイザーの銃口を引きながら大きく振るう。

 瞬間、銃口から塗料のように放たれた緑のエネルギーが空間を彩る。

 それに合わせ、私はガンモードに切り替えたカラースプレイザーの銃口を緑のエネルギーと、その先にいるスタバーズに向け引き金を引く。

 

「ステアァ!!」

「今度は貫くよ!!」

 

 空間を塗りつぶす緑のエネルギーに銃口から放たれた弾丸が通過———すると同時に緑のエネルギーが弾丸に纏わることで貫通力と威力を強化させる。

 緑に輝く弾丸は自身の装甲の硬さに任せ、無警戒に突っ込んで来たスタバーズの右肩に直撃し、右半身を弾き飛ばす。

 

「ぎぃぃぃぃ!? ガァァ!! ステラぁ、スピリチアァ!!」

「次は赤色!!」

 

『COLOR VARIATION! GRAVITY RED!!』

カラバリ! 飛ばせよレッド!! 引き寄せろ世界!! それが星界!!

 

 手加減はしない!!

 続いて銃口から赤色の塗料が噴射され、ソードモードに切り替えたカラースレイザーを赤のエネルギーに振るい、刀身を赤色のオーラ——―重力に包まさせる。

 その切っ先をスタバーズに向けて突きと同時に斥力による加速で放つと、刀身のみが射出されスタバーズの胴体に突き刺さる。

 

「ガッ!?」

 

 刃が胴体に突き刺さったスタバーズの全身を重力により囚われる。

 動きを止めたところで、さらに銃身をたたく。

 

「さあ、彩るよ!!」

『また決め台詞!?』

 

『COLOR! FULL COMPLETE!!』

 

 銃身の五色のスイッチを作動し、再度カラースプレイザーを振るい眼前の空間を色で幾重にも塗りつぶし———私自身が、飛び込みその身に星界に由来するエネルギーを纏い蹴りの態勢に移る。

 

カ ラ フ ル !

星界(セェェカイ) JUDGEMENT(ジャッジメント)!!

 

『「技名ダサ!?」』

 

『ガァァ!?』

 

 予想を超えた必殺技名にモモコと同時に叫びながら、私の蹴りがスタバーズに突き刺さった刃に激突し、五色のエネルギーが一気に炸裂する。

 

「ステア、スピリチアァァァァ!?」

 

 相変わらずの断末魔を零して、スタバーズの怪物は内側から崩壊するように爆発した。

 

「ふぅ! こんなもんね」

 

 反動で地面に着地した私は、一息つく。

 そんなに強くないけど念入りにはとどめをさしたけど、 まあ、こいつは斥候ってところかな? 

 

「試運転は上場っていったところねぇ。モモコもお疲れ様」

『ヒラルダもね』

 

 私が戦ってモモコは力を放出・調整する。

 どちらが欠けてもいけないのが今の私達だ。

 

『それじゃ、すぐに入れ替わって他の場所の汚染も———』

「っ、待って、モモコ」

 

 身体の支配を戻そうとした時、目の前の空間に歪みが生じる。

 さっきと同じソレにまたスタバーズの干渉と予測し武器を構えると、視線の先に現れた渦巻く次元の穴の奥に全身真っ白の無貌の何者かが立っていた。

 

『ステアスピリチア。興味深い現象だ』

「スタバーズね。真っ先に仕掛けるのがあんな下品な化け物だなんて程度が知れるわね」

『そちらに分かるように言えば、小手調べといったところだ』

 

 捕らえる気満々だったでしょ。

 思いの外抵抗するから、下っ端より上のやつが出てきたようだね。

 

『我が主の命により、星界雲器(ステアスピリチア)を確保する』

「そんなことさせると思う?」

 

 主……ってことは子飼いの手下的なやつなのかな?

 どう見てもこっちを下に見ている感じだし、現に今口を挟んだ私に苛立たし気に唸っている。

 

『貴様に聞いていない。エナジーコア如きが』

 

 無い顔にこれ以上にない侮蔑の感情を乗せた言葉を吐き出しながら、奴はモモコに語り掛ける。

 

「ステアスピリチア、お前がこちらに下れば地球には手出しはしない」

『……っ』

「モモコ、聞いちゃだめよ」

『うん、分かってる。こういうタイプの敵って口だけだもんね』

 

 なんか前から思っていたけどモモコもモモコで結構知識偏っているよね。

 こういう下種な相手の常套句は分かっているあたり助かる。

 

「抵抗するか。だがそれで構わない。貴様ら程度では……、ッ!」

 

 余裕な様子の奴が警戒を露わにしたその時、私の隣の空間にワームホールが出現する。

 そこから白と黒の鎧を身に纏った戦士———カツミ君が現れ、私を守るように前に出てくれる。

 

「カツっ……黒騎士くん、なんで……」

「群体怪人の対処は粗方終わった。大森さん達に任せたことで、指令室で俺がやることはない」

 

 仕事速っ。

 スタバーズ始末して三分も経っていないのにもうそこまで片付けたの!?

 彼がやってきた頼もしさとデタラメさにびっくりしていると、彼を睨みつけた奴が嘲りの笑みを浮かべた。

 

『黒騎士か。ハッ、弱体化した貴様では———』

「うるせぇ」

 

 相手の名乗りを丸ごと無視してカツミ君が黒い大型の銃を撃った!?

 エネルギー弾は、次元の穴を閉ざされたことで素通りしたが、それでも相手はまた次元の穴を開きなにかを喋り出す。

 

『どうやら話が通じないようだ。ステアスピリチアを明け渡し———』

 

 またもやカツミ君の放ったエネルギー弾が次元の穴に撃ち込まれ、声が途切れる。

 あまりの話の聞かなさにさすがの相手も苛立たし気な様子だったが、彼はそれ以上の激怒と殺意の籠った声を発した。

 

「テメェ、何様だ?」

『———ッ』

 

 いつの間にか大剣に持ち替えた武器を大きく横なぎに振るう。

 黒いエネルギーを纏った斬撃は眼前を薙ぎ払い、空間そのものに亀裂を走らせた。

 

『—————ガッ、き、貴様ァ!!』

 

 次に開いた次元の穴から姿を現した奴の真っ白な胴体には真っ黒な亀裂と血があふれ出していた。

 

『この屈辱は忘れぬ、貴様の死を以て晴らしてやる!!』

 

 っ、あいつ逃げるつもり!?

 傍から見ると調子に乗ってカツミ君に分からせられたようにしか見えないけど!

 次元の穴を閉ざし、別の次元に移動し完全な逃亡を図ったはずのスタバーズ———

 

「次があると思ってんのか?」

「ガッ、ァ!?」

 

 ———だが、奴らの想定を遥かに超える異常事態をカツミ君は引き起こした。

 彼は、閉じた次元の穴に拳を叩きつけ、あろうことか無理やり次元に穴をあけ力技でこじ開けたのだ。

 彼が突き出した手の先には無貌の侵略者の首を握りつぶさんばかりに掴んでおり、逃げることもできなくされている。

 

『な、こ、こいつ次元に干渉を———』

「テメェ宣言だけして帰るなんて、随分と嘗めてんなぁオイ!!」

『ッ』

「風浦さん狙っておいてそんな虫のいい話があるわけねぇよなぁ!!」

 

 怒声と共に力任せに次元の穴からスタバーズを引きずり出す。

 奴は恐怖と苦痛の叫び声を上げながら、首を掴む右腕に触り抵抗しながら声を震わせる。

 

『貴様ァァァ!! 殺す、殺してや———』

「土産になるのはテメェの死体だァ!!」

『ヒッ!?』

 

 わぁ、すごい……激昂したスタバーズをさらに上回る怒りでビビらせてる。

 

「テメェの主とやらに伝えろ!! その身体でなぁ!!」

 

 

 力に任せた拳を奴の顔面に叩き込み、次元の穴にぶっ飛ばす。

 奴は頭部を粉々に砕かれながら勢いよく穴に放り込まれ、何事もなかったかのように次元の渦はゆっくりと閉じて行ってしまった。

 

「……モモコ」

『なに?』

「モモコのおかげで私、今生きてる」

『……あんたはもっと私に感謝したほうがいい』

 

 よ、よかったぁぁ!? 私、カツミ君をここまで怒らせなくて!!

 スーツの性能云々以前にまったく恐れず撲殺しにいく迷いのなさがやばいと思う。

 てか、よく敵対して生きてたね私!? いや、モモコの身体で活動していたからなんだけど!!

 

「カツミ君、実は前に出てなくてストレス溜まってる?」

「は? 人を戦闘狂みたいに言うんじゃねぇ」

 

 そういう割には罵倒とかキレッキレ……いえ、思い返すと大抵の怪人相手でもこんな感じだった気がする。

 

「さて、それじゃあ次だ。シロ、乗り物を頼む」

『ガウ!!』

 

 カツミ君のバックルから光が放射され、それが白と黒の織り交ざったバイク型のビークルへと変えられる。

 

『PRO-T STRIKER!!』

「ありがとう、シロ。ヒラルダ、風浦さん、今から浸食が進んでいる場所に送り届ける」

「うん、分かった」

 

 バイクに跨ったカツミ君に頷く。

 私もそろそろモモコに身体を戻さなくちゃな。

 

『ヒラルダ、目的地に着くまでこのままで』

「え、なんで?」

『え、バイク2ケツとかレベル高すぎて恥ずかしくて死んじゃうから』

 

 ……。

 私は無言でカツミ君の後ろに跨り———彼の胴体に手を回すと同時に声をかける。

 

「あ、じゃあカツミ君、モモコに戻すからあとは頼んだ!」

「おう、任せとけ」

『ちょっとヒラルダぁぁぁ!?」

 

 モモコの絶叫と共に彼女とカツミ君を乗せたバイクが空へと駆けあがる。

 一先ずの危機は乗り越えたけれど、今後はとうとう現れた脅威———スタバーズに対しても気を付けないといけなくなったわけだ。




恐れるべき相手(黒騎士くん)

今回の必殺技はダサ目にするように意識しました。

次の更新は明日の18時を予定しております。


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掲示板回

二日目、二話目の更新となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします<(_ _)>

今回は掲示板回です。

感想欄にて赤コメありそうというものがありましたので流れるコメントを簡単に作りました。


黒騎士くん ハイパー無慈悲 黒騎士くん理不尽集 怪人 いつもの黒騎士くん?  社長が脳を焼かれた理由? 

✕▶

現実は非常である 全然話聞いてくれないw

チベットスナギツネ

あっ 実際最適解

???「次 な ん て な い」

「次があると思ってんのか?」

闇深フレンズ

やっぱ黒騎士くんよ   草  なにしにきたんだこいつ(困惑)

ハイパー無慈悲

闇抱えてる共通点あるの笑えない 敗者に相応しいエンディング定期
 司令……///      ヒェッ

II
01:15/3:45

 



 

 

321 ヒーローと名無しさん

環境汚染型怪人出現社長戦闘超冷静正義十字戦隊残虐戦闘草新追加戦士加入平常黒騎士君!!!

 

322 ヒーローと名無しさん

多い多い

 

323 ヒーローと名無しさん

起こったこと全て略すな

 

324 ヒーローと名無しさん

でも不思議となにがあったか分かるの草

 

325 ヒーローと名無しさん

>>1

えーと、翻訳するとですね

 

環境汚染型怪人が現れた

社長の戦闘超クール

ジャスティスクルセイダー残虐ファイト草

新しい追加戦士が加入

いつもの黒騎士君

 

と言っております

 

326 ヒーローと名無しさん

きっしょなんで分かんだよ

 

なんで分かったんだよ俺……

 

327 ヒーローと名無しさん

公開映像見たらすぐ理解できちゃうのもうギャグだろ

 

328 ヒーローと名無しさん

環境汚染型ついに出たか―って感じ

なんだかんだで出なかったよね?

 

329 ヒーローと名無しさん

岩石怪人、黒騎士時代に黒騎士くん始末してて草

じゃねーよ君はなんなんだよもう! 被害出す前に倒してくれてありがとな!!

 

330 ヒーローと名無しさん

環境汚染よりやべー奴らがいたからなんじゃないっすかね……

 

331 ヒーローと名無しさん

二年前の戦いでは怪人側は日本を手中に収めたかったから環境そのものは汚染しなかった……って説があったな

まあ、環境汚染どころか環境破壊してくるやつがポンポンでてたけどなガハハ!!

 

332 ヒーローと名無しさん

今回後半以外黒騎士くん出てなかったのなんでだろ?

 

333 ヒーローと名無しさん

環境汚染型に対して追加戦士が浄化持ちとかマッチポンプか?

もうバレてるぞ侵略者共が

 

334 ヒーローと名無しさん

浄化持ちではないです……

もっと高度で凄まじい能力でした……

xxx:/xxxxxxxxx/xxxxx

 

335 ヒーローと名無しさん

これクレイジーダイヤモンドじゃねぇー!

フィクサービームだ!!

 

336 ヒーローと名無しさん

物質の再構成???

どっから湧いてきたそんなトンデモ戦士???

 

337 ヒーローと名無しさん

こういうの減らねぇなぁ

 

338 ヒーローと名無しさん

黒騎士くん今回は司令として指示してたらしいね

社長がツムッターで呟いてた

 

339 ヒーローと名無しさん

あの社長平気でSNSでとんでもない情報呟いてるからびっくりする

 

340 ヒーローと名無しさん

黒騎士くん司令!!?

 

341 ヒーローと名無しさん

は? 黒騎士くんに司令なんてできんの?

殴ることしかできないと思うんだが?

 

342 ヒーローと名無しさん

社長曰く

黒騎士くんは対怪人戦においての最適解を繰り出して動くから、

直感で危険性とか理解して対処しにいっているとのこと

 

まあ、うん

彼のこれまでの戦いを見れば分かるよね

 

343 ヒーローと名無しさん

黒騎士君は脳筋だが頭はいいぞ

殴って倒すのがそれが最適解だからだ

 

344 ヒーローと名無しさん

社長がツムッターで黒騎士くんが環境汚染型怪人の特性察知したことをめっちゃ褒めちぎるのクスってなる

 

345 ヒーローと名無しさん

すげぇだろ

恐らく一番最初に黒騎士くんに脳を焼かれた男だぞ

 

346 ヒーローと名無しさん

・装着不能の殺人スーツの着用

・スーツを使って怪人と戦い人々を守る

・常に科学者としての予想を超える

・自分を友と呼んでくれる

 

これで焼かれねぇ方がおかしいって!!

 

347 ヒーローと名無しさん

「やはり私の見立ては間違ってはいなかった! さすがは我が友!! 親友だ!!」

 

戦闘の音声記録だけでも熱量高いwww

 

348 ヒーローと名無しさん

社長の戦闘かっこよすぎてびっくりした

男心にくるトリッキーな戦い方だった

 

349 ヒーローと名無しさん

ナノマシンで武器作って戦うの漫画とかアニメみたいでテンション上がる

 

350 ヒーローと名無しさん

怪人に罵倒されて全然効かねーからのマジギレが面白すぎる

まあ、相手の怪人の能力がちっとも笑えねぇんだけど

 

351 ヒーローと名無しさん

「街中で出くわして一撃で始末した。能力はなにを持っているのか分からん」

 

この通話音声いれたのワザとだろwww

 

352 ヒーローと名無しさん

そりゃ能力使われる前に即死させれば普通の怪人と変わらないよね!!

 

 

 

路地裏で会った感覚で幹部クラス始末してる……

 

353 ヒーローと名無しさん

戦って倒してそのことを忘れているわけでもないのに結局なにも分かってないの笑うwww

 

354 ヒーローと名無しさん

社長の最強の一撃が黒騎士君の一撃を再現したものなのエモい

社長の中での最強が分かるなぁ

 

355 ヒーローと名無しさん

黄金のロケットパンチだったな

 

356 ヒーローと名無しさん

一方その頃ジャスクルは怪人を血祭りにあげていた

 

ヒーローと名無しさん

レッドは炎の斬撃で処理

イエローは電撃と斬撃で処理

グリーンは謎エネルギー処理

 

ブルー糸で宙づりにして急所を一体ずつ貫き処理

 

357 ヒーローと名無しさん

武器とかそういうのでしょうがないのは分かるけど、ブルーはなんなの?

 

358 ヒーローと名無しさん

いつブルーは糸使いになったんだ

 

359 ヒーローと名無しさん

元からブルーはホームアローン履修してトラップ作れるやべーやつだぞ

新装備でワイヤー活用できるようになったからやべーところが目立つようになっただけだ

 

360 ヒーローと名無しさん

比較されて大人しいと言われたブルーもまたジャスクルということだな

 

361 ヒーローと名無しさん

ヒーローの自覚ある!? って思うけど、これが正解なのは分かるで

戦ってくれてありがとうジャスティスクルセイダー

 

362 ヒーローと名無しさん

一番の謎が追加戦士の子といきなり現れた宇宙人だな

 

363 ヒーローと名無しさん

ブルー怖すぎて草

 

364 ヒーローと名無しさん

一応情報出てるけど、地球人だってことしか明かされてないよな

あとジャスティスピンクだとか

 

365 ヒーローと名無しさん

黒騎士くん失踪事件で出てきた桃色の敵っぽいよなアレ

前々から出てきたけど黒騎士くんに分からされて味方になったのか?

 

366 ヒーローと名無しさん

じゃあ地球人じゃないんじゃね?

 

367 ヒーローと名無しさん

能力が全然違うぞ

 

368 ヒーローと名無しさん

戦闘力は高かったな

なんかアーマー纏ったら戦闘特化みたいになってたし

 

369 ヒーローと名無しさん

でもその人のおかげで汚染地帯も元に戻されたし疑う余地はないと思う

 

370 ヒーローと名無しさん

黒騎士くんが味方認定してるから大丈夫だろ

 

371 ヒーローと名無しさん

確かに黒騎士くんが仲間だと思ってるなら大丈夫か

 

372 ヒーローと名無しさん

この信頼感よ

 

373 ヒーローと名無しさん

謎の化け物も割とあっさり倒されたけど、その後の偉そうなやつをボコボコにする黒騎士くんよ(笑)

 

374 ヒーローと名無しさん

会話の余地なく攻撃

→問答無用で次元斬

→逃げようとしたところで次元を無理やりこじ開ける

→次元の穴から引きずり出して顔面パンチで始末

 

これ敵を擁護するわけじゃないんだけれどさぁ!

なんというか、その……あのさぁ!!

 

375 ヒーローと名無しさん

分かるよ

「新たな脅威現る!!」

「めっちゃ強そうなやつが余裕な面持ちで宣戦布告!」

「これからの戦いがさらに過激さを増すことを悟り、覚悟を決める!!」

 

みたいな感じかと思ったら、黒騎士くんが問答無用で宣戦布告にしにきたやつ始末したからね

 

376 ヒーローと名無しさん

いきなり襲ってきた時点で黒騎士くんからしてみれば敵認定だからしゃーなし

 

377 ヒーローと名無しさん

ピンクの子が主人公だったら余裕保って生きて帰れたけど、

傍に保護者のハイパームテキな黒騎士くんがいたからニゲラレナカッタ……んだよね

 

378 ヒーローと名無しさん

部分部分で音声隠されているから何話しているかわけわからないんだけど、

 

ドスの効いた「次なんてあると思ってんのか?」で変な笑い出たわ

 

379 ヒーローと名無しさん

いや、相手が友好的な種族だったらどうすんだよコレ

黒騎士のせいで敵対したんじゃないの?

 

380 ヒーローと名無しさん

ん? そうか?

 

381 ヒーローと名無しさん

いきなり怪物けしかけてきた時点で敵対してるだろ

 

382 ヒーローと名無しさん

化け物襲わせてきたやつが友好???

 

383 ヒーローと名無しさん

真面目に考察すると、怪人が出てくるクソ忙しいタイミングに茶々いれてくる奴が友好とは思えないな

なにより黒騎士さんが最初から敵意を向けてるのが一番信ぴょう性がある

 

384 ヒーローと名無しさん

そら、最初に宣戦布告するならまだしも

いきなり襲撃かましてきた後に宣戦布告してくるやつを生かして返す理由はないよね

 

385 ヒーローと名無しさん

怪物も追加戦士の子も黒騎士くんのいつも通りの活躍も語りたいけど

今は黒騎士くんの新バイクと後ろに乗った追加戦士の子のことが頭から離れない

 

386 ヒーローと名無しさん

相乗りぐぬぬ

 

387 ヒーローと名無しさん

以降存在しない姉と妹と幼馴染とライバルは書き込み禁止

 

388 ヒーローと名無しさん

くっ、司令……でもいいの……私は見てるだけでも……

 

389 ヒーローと名無しさん

え、誰? 怖……誰ぇ!?

 

390 ヒーローと名無しさん

新勢力が出てくるの速すぎる……

 

391 ヒーローと名無しさん

また増えてるのかよ

今度はなんだよ……

 

392 ヒーローと名無しさん

司令官黒騎士くんが出たせいで、少数勢力ではあるが、

尊敬する司令官に恋慕する副指令概念と、ジャスクルを信頼し仲の良い司令官黒騎士くんから離れた距離で密かな恋心を抱くモブスタッフという概念ができてしまった

 

393 ヒーローと名無しさん

もう黒騎士くんがなにしても出てくるだろコレ

 

394 ヒーローと名無しさん

これいつかレッドが悪役令嬢にされるぞ

 

395 ヒーローと名無しさん

もうなってます……

 

 

 




派閥がどんどん増える……。

今回の更新は以上となります。


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