BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnants】 (放仮ごdz)
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第一話‐Remnants【残滓】-

どうも、性懲りもなく新作を出した放仮ごです。実況で見たバイオハザードヴィレッジの結末があまりにも、あまりにもだったので思わず衝動的に書き始めた新作となります。例にもよって人気が出たら続きます。

イーサンとエヴリン(幻影)の奇妙な日常。楽しんでいただけると幸いです。


 俺ことイーサン・ウィンターズは、3年前に妻であるミアを救い出してからあることに悩まされていた。先日念願の我が子が生まれ、幸せの絶頂期だというのに頭痛に苛ませてくる厄介な事象だ。

 

 

「――――少女は鏡に閉じ込められてしまいました……あら、寝ちゃったわ」

 

『こわっ。こんなの赤ちゃんに聞かせる話じゃないよママ……ねえ、パパもそう思うよね?』

 

「……なあこの話、不気味すぎないか?生まれて半年だぞ?」

 

 

 自分の故郷に伝わる物語だという、不気味な絵本を我が子ローズマリーに読み聞かせていたミアに文句を垂れ俺に呼びかけてくるのは、俺の眼前でふわふわ浮いている10歳前後の少女。名を、エヴリンという。俺の頭痛の原因だ。無視してミアと会話を進めると、エヴリンは逆さまになりながら語りかけてくるが無視を決め込む。受け答えしたら調子に乗ってどんどん話しかけてくるのだ、たまったものじゃない。ママとかパパとか言っているが断じてエヴリンは俺の娘じゃない。俺の子はローズだけだ…

 

 

「私はとっくに吹っ切れてる。あなたは引き摺っているようだけど」

 

『ねえねえパパ。ママ、なんかおかしくない?いやヒステリックなのもキノコを嫌っているのもいつも通りだけどさ』

 

「引き摺りもするさ…こんな目の前にいられたら」

 

「え?」

 

『え?え?今なんて言った?パパ!もう一度言ってよ、ねえねえ!』

 

「いや…もういい、悪かった。引き摺ってはないよ、慎重なだけさ」

 

 

 思わず漏れた失言に顔をしかめるミアを窘めながら、調子に乗って聞き耳を立てて顔を近づけてくるエヴリンを、蚊を掃うふりして押しのける。とはいっても手はエヴリンに触れても擦り抜けてしまうのだが。そう、これは俺だけにしか見えない幻影だ。

 

 

 

 

 

 エヴリン。3年前、アメリカのルイジアナ州の片田舎に存在した不気味な屋敷「ベイカー家」に、行方不明だったミアを助けに行った際、遭遇した少女。…否、少女の姿をした悪魔。黒髪に黒いワンピース、そして黒いブーツを履いた少女は俺とミアが遭遇した怪奇事件の全ての元凶だ。

 

 

『パパー?ねえ、聞いてるの?』

 

 

 無邪気に俺に問いかけてくる少女の姿からは想像もつかない悪魔の所業を犯したエヴリン。ベイカー家の人間を狂気に陥れて強制的に「家族」にし、訪れた人間を捕らえて家族を増やそうとして何人もの屍を「友達」だと称す怪物に変貌させ、家族ごっこに興じた挙句に、ミアをママと慕っていた彼女はミアを操り俺を襲わせた。ミアを手にかけた嫌な感覚は未だに手に残っている。

 

 ベイカー家の狂気を退け、ふとしたことでエヴリンの出生と弱点を知った俺はエヴリンと直接対決して、勝利。だがその際、あまりに哀れな存在だったエヴリンに同情してしまったからなのかは知らないが……

 

 

『イーサーン?イ~サ~ン?ねえ、どう?パパ、似てた?ルーカスの真似ー』

 

 

 どうしてこうなった。脱出ヘリで休んでいた時に姿を現し、「しーっ。騒いだら狂ってると見なされてママとまた離されちゃうよー?」と言われて黙認せざるを得なかった。それから3年、頭が痛くなるこいつとの不思議な共同生活を続けている。ミアと事に及んでいるときに見物していた時には顔から火が出るかと思ったものだ。空気を読んで引っ込んでくれたが。

 

 

「平気だローズ。ママは思い出したくないんだ…そりゃそうさ。俺だってこいつがいなけりゃ忘れたい」

 

「何か言った?」

 

「何も。寝かしてくる」

 

 

 そんなことを思い出しながら、料理の仕上げを始めたミアに言われてローズを抱っこして二階に向かう。そんな俺の肩越しにローズをジーッと眺めて頬に手をやってニヘラと笑みを見せるエヴリン。彼女が妹だと呼ぶローズに対してデレッデレだった。

 

 

『あ゛~~~、か゛わ゛い゛い゛な゛あ゛あ゛あ゛』

 

「汚い声を出すな。ローズに聞こえていたらどうする」

 

『んー?ローズマリー、私のこと見えてるっぽいもんねー』

 

 

 そうなのだ。見えているのは俺だけだと思ったが、俺と血が繋がっているからか不思議そうな顔でエヴリンを顔を動かして追いかけるローズにはどうも見えているらしい。だから教育に悪いことはしないでほしい。悪餓鬼に育ったらどうしてくれる。

 

 

『悪餓鬼とは失礼なー』

 

「ナチュラルに俺の頭の中を読むな、顔に手を突っ込むぞ」

 

『それはやめて。ごめんなさい』

 

 

 幻影ではあるが自我はある様で、顔に手を突っ込まれて引っ掻き回されるのをえらく嫌がるのが唯一の弱点だ。頭の中まで読み取ってくるこいつに仕返しできる手段でもある。ローズをベッドに寝かせて一階に戻り、ミアの用意した食事が食卓に並んでいた。どうやら引っ越してきたここ、ルーマニアの地元料理らしい。

 

 

『いいないいなあ。私の時はあのクッソ不味い死霊の(はらわた)みたいな料理ばっかりだったもん。私もちゃんとした料理食べたいなあ』

 

 

 どう足掻いても食事できないことに文句を垂れるエヴリンの声をBGMに、何気ない会話をしながら食事する。いつもの光景。いつもの日常。これからも、成長したローズを入れて、続いていくと思っていた。それを奪ったのは、一発の銃弾。ミアの肩が、撃ち抜かれていた。

 

 

「なんだ!?」

 

『ママ!?』

 

「ミア、伏せろ!」

 

 

 咄嗟に頭を伏せながら声を出すも、照明が消えた瞬間ミアに襲いかかる数多の銃弾。ミアに駆け寄っていたエヴリンも撃ち抜かれ、不快そうにバタバタ手を振り回している。なんだ、なんでだ、なにが起きている!?

 

 

「ミア……どうして……?」

 

『パパ、無事…?って、え?』

 

「どうしたエヴリン……クリスだと?なんでお前が……!?」

 

 

 そこに現れたのは、三年前に俺たちを救助し、戦闘訓練までしてくれた恩人、クリス・レッドフィールドだった。なんでお前が、ミアの命を奪うんだ…!?俺を一瞥しながら倒れたミアを見下ろし、手にしたハンドガンの銃口を向けるクリスに、咄嗟に手を伸ばすが引き金が引かれていて。

 

 

「悪いなイーサン」

 

「やめろ!」

 

『ママをよくもー!』

 

 

 五発もの弾丸を撃ちこまれたミアに、どうすることもできない。エヴリンは激怒してクリスに殴りかかるも擦り抜けてしまう。俺は力なく項垂れるしかなかった。いつの間にか、クリスの部下と思われる完全武装の男たちに囲まれる。俺達が、なにをしたって言うんだ……

 

 

「そんな……どうして…」

 

「さっさと歩け!」

 

『パパから離れろ、離れろー!』

 

 

 立たされ、玄関まで歩かされる。エヴリンが必死に抵抗しているが、俺にしか見えないのだから意味をなさない。すると二階からまた一人降りてきてその手にした我が子を見て、思わず掴みかかる。

 

 

「ローズ…おい、娘に何をする!」

 

「確保しました。どうぞ」

 

『ローズマリーを返せこの野郎!』

 

 

 クリスに受け渡されるローズマリーを取り返すべくエヴリンもクリスに突撃してポカポカ殴るがやはり意味をなさない。

 

 

「連れて行け」

 

「おい、ローズに触るな!」

 

「イーサン、やめとけ」

 

『パパ!?しっかりして!』

 

「ローズ…」

 

 

 エヴリンのその姿に元気づけられて、俺も殴りかかろうとするも、後ろからクリスの部下に銃で殴られて気を失ってしまう。エヴリンの俺に呼びかける声を聞きつつクリスの部下たちに運び出されながら、無力感とクリスへの怒りに脳裏は支配される。くそっ、俺は父親失格だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『起きて!イーサン!イーサン!』

 

 

 次に目を覚ました時、どこかの森の中にいて。珍しく俺を名前で呼ぶエヴリンの声に頭がガンガン痛みながら立ち上がる。見れば、クリスの部下と思われる武装兵の死体が転がっていて。車も横転していることから事故にあったらしい。

 

 

「エヴリン!クリスは、ローズは!?」

 

『ごめん…私も、イーサンに連動して気を失ってて……目を覚ましたのはこの事故の後なんだ。よく考えてみればイーサンが寝てる間も私、寝てた…』

 

 

 そうなのか。このエヴリンは俺の意識がある時しか存在できないのか……いや、だが相談相手がいるだけありがたい。

 

 

「いや、エヴリンが気に病むことじゃない。それにしても、一体、何があったって言うんだ…?」

 

『さあ?さっき電話が鳴ってたけどもう壊れちゃったみたいだし、そこの紙にはなんて書いてるの?』

 

 

 エヴリンに言われて、死んでいるクリスの部下の傍らに落ちていた書類を手に取る。なになに…?

 

 

「えっと…【作戦概要】……目標の殺害及び遺体収容、ローズマリー・ウィンターズ、イーサン・ウィンターズ両名確保……俺とローズは検査のためにサイトCってところまで移送するつもりだったようだ。だけど、ここにはローズはいない」

 

『誰かに連れ去られたってこと?』

 

「その何者かに襲撃されたって考えた方がよさそうだ」

 

『じゃあとりあえず、寒いしあったかいところを探さない?』

 

「お前、寒さ感じたんだな…」

 

 

 雪が降る中、エヴリンを傍らに浮かばせながら俺は歩き出すのだった。…ミアは救えなかったが、ローズだけは取り戻して見せる。




エヴリンは可愛い。これは真理(特異菌感染者の戯言)

・イーサン・ウィンターズ
7とヴィレッジの主人公。7ラストで倒したはずのエヴリンの幻影に付きまとわれて頭が痛い。3年間も一緒にいるのでもう慣れてしまった。エヴリンと共に娘のローズを取り戻すべく立ち上がる。

・エヴリン
7のラスボスにして元凶。何故かイーサンにしか見えない幻影として復活したが、理由については話そうとしない。物に触れることはできないので時折ちょっかい出して無邪気に自由気ままにイーサンを翻弄する。妹だと呼んでいるローズマリーを溺愛している。

人気が出たら続き書きます。よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。


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第二話‐Village【寒村】‐

どうも、放仮ごです。人気が出たら続くとは言いましたが一日もかからずに赤評価にお気に入り90以上って……ただエヴリンの可愛さを布教したいだけだったのにここまで期待されたら書くしかあるまい。

と言う訳で今回はライカンとの初遭遇までの珍道中を描きます。楽しんでいただけると幸いです。


『パパ、パパ。あそこに建物があったよ。ベイカー家みたいなボロ小屋』

 

「お前、誰のせいでベイカー家がああなったと思ってるんだ…」

 

『私に感染したまま整備もしなかったジャックたちの問題だと思う』

 

 

 烏の死体が大量に転がり、宙吊りで血抜きされた烏がいくつも吊り下げられている不気味な道を明かりを頼りに通っていると、偵察してくると浮かんで行ったエヴリンがそんなことを言ってきた。……こいつ、俺の認識している空間しかいられないと思ったら、普通に視界外の俺の知らない空間のことまで把握できるってどんな幻影なんだ……幽霊って言われた方がしっくり来るぞ。

 

 

『廃屋みたいだし勝手にお邪魔してしまおうよ』

 

「エヴリン、お前なあ……まったく」

 

 

 まるで元気いっぱいの愛娘を追いかけてる気分だよまったく。エヴリンを娘だと言ったらまた調子に乗りそうだから黙っておくが。廃屋と思われる小屋に入り、寒さを和らげながら先を目指して地下に進んでいるとなにか地上から暴れる音が聞こえてきたので慌てて奥に抜け、ぶち破られた壁から外に出る。まだ新しい血が床に落ちていたけどまさかな。

 

 

『ぱ、パパパパパパ!なんかいる!上になんかいた!』

 

「落ち着け。なんかいたってなんだ」

 

『暗くてよく分からなかったけど、人みたいななにかがいた!すごく怖かった!』

 

「そ、そうか……あんな怖い子供部屋で俺を脅かした奴の台詞とは思えないな」

 

『あれはイーサンに見せた幻覚だから!私本体はあそこにいなかったから!』

 

 

 三年前のベイカー邸別館で脅かされたことについて言及すると、存外怖がりなのだということがわかった。あんな化け物どもを生み出しておいてよく言う。変なところで子供なのは笑うしかない。フッと鼻で笑ってやるとプンスカ怒るエヴリン。

 

 

『もう!笑わないでよ!イーサンだって怖い癖に!』

 

「正直ホラーより怖い家族と戦ったから、ホラー映画程度の脅かしじゃ怖くないぞ」

 

『正直あの家族狂った後はすごく怖かった…特に、私は何も言ってないのに、私に怒鳴りながら生爪を剥がして笑ってたルーカスは本当に怖かった』

 

「お、おう」

 

 

 ルーカスだけエヴリンの影響から抜け出てたらしいから、エヴリンとしては怖かったのかなるほどな、と変なところで納得しながら、森を抜けて周りを見渡す。どうやらいつの間にか朝になった様で明るくなったそこには、濃霧に包まれた巨大な城とそれなりに広い村があった。

 

 

「ここは一体どこなんだ…?」

 

『ホグワーツかな?』

 

「おいおい。小説の中にでも入ったってのか?」

 

『中世みたいな雰囲気だし、タイムスリップしていたりして』

 

「冗談はやめてくれ。マジでそれっぽいから」

 

『しょ、しょうがないから私、あの城まで様子見てこようか?』

 

「いや、一緒について来てくれ。得体の知れない何かがいるなら警戒してくれると助かる」

 

『しょうがないなー!お姉さんにまっかせなさい!』

 

「お前、実は一人で行くの怖かったんだろ?」

 

『そ、そんなことないもん!』

 

 

 ここに来てからあからさまに俺にくっ付くようになったエヴリンを連れて村に入る。馬の死体が落ちていたり、割れた卵が散乱していたりするが、どれも腐ってないし、どの家も古びてはいるが明かりが灯っていたり生活感を感じる。妙だな。車が横転していたり、なにかに襲われた形跡はあるものの人の姿はない。調査し終えた家から出ると、さっきまであったはずの馬の死体が引きずられるようにして消えていき、思わずエヴリンと一緒に硬直する。

 

 

「なあエヴリン。あの閉鎖されている家の中を見て来てくれ」

 

『いやだ!』

 

「誰かいるかもしれないだろ?」

 

『絶対に!い!や!だ!』

 

「……しょうがない、他に開いている家を探すか…」

 

 

 エヴリンという壁を擦り抜けられる偵察役がいるから活用したいのに当の本人がビビって行こうとしない。少しでも情報が欲しいんだがなあ。とりあえず明かりの灯っている家に入ると、ナイフを発見した。これでまあなんとか戦える、かな?すると側の木箱に頭を突っ込むエヴリン。…何がとは言わないが丸見えだがいいのか。

 

 

『イーサンのえっち』

 

「ナチュラルに俺の頭を覗くな。俺にそんな趣味はない」

 

『こんな可愛い子供を連れ回しといて言う台詞?それよりこの木箱壊せそうじゃない?中に小瓶があったよ』

 

「可愛い子供ってのがどこにいるのかは知らないがそれはナイス情報だ」

 

『なんだとー!』

 

 

 言われるなりナイフを振るって木箱を破壊し、回復薬と書かれた小瓶を手に入れてポケットに入れる。これでなんかに襲われても傷を治せるな。襲われないに越したことはないが。

 

 

『言っとくけど、あんなばしゃばしゃ薬かけたぐらいで治るのイーサンぐらいだからね?』

 

「誰のせいだ誰の」

 

 

 そんなことをぼやいていたら、奥から物音が。無言でエヴリンと頷き合い、奥の部屋のカーテンを開けると、発砲された。間一髪で頭の横すれすれを弾丸がエヴリンの方に飛んだ。

 

 

「よせ、撃つな!撃つんじゃない!」

 

『撃たれた!死んじゃう!死ぬのやだー!…あ、私実体ないんだったやったー!』

 

 

 てへぺろと1人コントをやってるエヴリンは無視し、撃った人間を見やる。猟銃を手にしたくたびれた老人だった。何かに怯えたように憔悴しきっている。

 

 

「誰だ?誰がよこした?話し声がしたが他にも誰かいるのか?」

 

『私との会話聞かれてるのは笑う』

 

「いや、俺一人だ。俺は誰って…道で事故に遭って……」

 

 

 すると聞こえてきた何かの叫び声。ビクッと空中で硬直するエヴリン。悲鳴とかじゃない、まるで狼が仲間を呼ぶような咆哮…?すると目に見えて狼狽えだし、俺の口を塞いで周りを見渡し、猟銃を手に窓を確認する老人。

 

 

「なんだ?どう……」

 

「シーッ!しまった、奴らだ」

 

『おじさんが銃を撃ったせいじゃん!責任とれ!とってよ!怖いんだから!』

 

「奴等?今のは何なんだ?」

 

 

 エヴリンが騒いでいるが今はそれどころじゃない。銃は持ってるかと聞かれ否定すると、老人は上を警戒しつつハンドガンを手渡してくれた。ありがたい、クリスに教わった通りにマガジンを確認する。……クリス、なんでミアを殺したんだ……

 

 

『パパ!感傷に浸ってる場合じゃないよ!なんか怖いのが上にいる!』

 

「何が来るっていうんだ!おい、聞いてるのか、おい!」

 

 

 屋根に頭を突っ込んで外を確認していたらしいエヴリンがそう叫んできたのでハンドガンを構えると、窓の外に発砲する老人。慌てて見やるがそこにはなにもいない。なんだ?エヴリンが言う「怖いの」とはなんのことだ?すると次の瞬間、弾込めしていた老人は屋根から突き破って現れた腕の様な物に掴まれて上に連れて行かれてしまった。思わずエヴリンと無言で顔を見合わせる。

 

 

『な、なに今の……』

 

「なんなんだ…!?」

 

 

 一体何が…と言う暇もなく、俺も床下から伸びた腕に掴まれて引きずり込まれてしまった。そこにあったのは、老若男女の死体の山。こんなにも犠牲者が…!?

 

 

『わーきゃー!イーサン、大丈夫!?』

 

「ああ、エヴリン。大丈夫…!?」

 

 

 エヴリンに受け応えようとした瞬間、物陰に隠れていた何かに左手を噛み付かれる。鋭い痛みが走り、咄嗟に右手に持ったナイフをそいつの脳天に突き刺すが硬くて刃が通らず、左手の薬指と小指部分を噛みちぎられてしまった。

 

 

「ぐあっ……」

 

『わー!イーサンが噛まれたー!?だ、大丈夫?』

 

「これが大丈夫に見えるかよ……がっ!?」

 

 

 さらに胸倉を掴まれ、壁を突き破って外まで放り出される。視界にふわふわ心配そうな顔で付いてくるエヴリンが見えた。

 

 

『え?なに?暗くてよく見えなかったけど、また左手やったの?ママの時といいルーカスの時といい、パパの左手って呪われてる?ジャパニーズでお祓いした方がいいよ?』

 

「いつも目の前に悪魔が浮いているからそのせいかもな……なんて、言ってる場合か!」

 

 

 右手にハンドガンを持ち、投げ飛ばした俺を追いかけてきた人狼を彷彿とさせる怪物に向けて構える。クソッたれ、やってやる!




怖がり強がり愉快なエヴリンさん。一番怖いのはルーカス。これはホラーじゃない、ほのぼのホラーコメディだ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三話‐Werewolf【人狼】‐

どうも、複数の実況見て最初の乱戦のルートを判別しようとしたけど無理だったので時間がかかりました、放仮ごです。なんで前回投稿してから100人以上お気に入りが増えてるんだろう…期待され過ぎて怖い。

というわけで今回はライカン軍団との乱戦。迷コンビは生き残ることができるのか。楽しんでいただけると幸いです。


 俺を床下に引き摺り下ろし、左手の薬指と小指を噛みちぎった挙句に壁を突き破って投げ飛ばし、追従してきたのは狼男の様な怪物で。追いかけてきたエヴリンはその醜悪な容姿に小さな悲鳴を上げた。

 

 

「なんだ、あのバケモノは!?」

 

『私も知らないよ!?なにあの怖いの!私の不細工な友達の方がかわいいし!』

 

「どっちもどっちだけどなあ!」

 

『来るよ、イーサン!』

 

 

 

 怪物の掴みかかりを横に避けて、3年前も似た様な怪物と戦っている経験から、躊躇なく頭部に向けて発砲。しかしナイフさえ通らなかった頭部は少し欠けて怯むだけで致命傷には至らない。なんてやつだ。

 

 

『人間なら弾丸一発で頭がパーンってなるのに。人間じゃないよコイツ!』

 

「それは見ればわかる!助言するつもりならもっとマシなこと言え!ぐあっ!?」

 

 

 飛びついてきた怪物に押し倒されて、噛み付いてくるのを頭部を右に左に動かして必死に避ける。その光景に腹を抱えて笑っているエヴリンにムカついてきた。

 

 

『アハハハハ!何その動き、おもしろーい!』

 

「おまえ、なあ!」

 

『あー、笑った笑った。前に見た映画でその体勢から引っくり返して無かったっけ』

 

「そうか、JUDOか!どりゃあ!」

 

 

 怪物の腹部に足を付けて伸ばし、勢いを利用して投げ飛ばす。以前見たことある、映画で登場した日本の武術、JUDO(柔道)だ。怪物は頭からガラクタの山に突っ込み、立ち上がってくるも足取りがふらついていたのでハンドガンに納められたマガジン全ての弾を頭部に炸裂させ、怪物は倒れ伏して沈黙した。とりあえず左手に回復薬をかけて、爺さんの家の中にあった包帯を巻きつけて応急処置。もう血が止まっていたが、指はさすがに戻らなかった。

 

 

「くっそ、噛みちぎられた左手どうしてくれる…」

 

『アイツの腹の中から指を取り出して添えて回復薬かければワンチャン治るかも?』

 

「冗談は顔だけにしてくれ」

 

『なんだとー!』

 

 

 ギャーギャー文句を垂れてくるエヴリンは無視して、爺さんの家を漁る。ハンドガンの弾がいくつかと、ハーブと薬液を見つけた。マガジンに弾を込めてハンドガンに装填し、ハーブと薬液を組み合わせて新たに回復薬をクラフトする。三年前にもやってるので慣れた物だ。

 

 

「まさかまたこれを使うことになるとはな…」

 

『ねえ。ベイカー家に来たときからクラフト普通にしてたけどパパって何者なの?』

 

「ただのシステムエンジニアだぞ?」

 

『ええ……納得いかなーい!』

 

 

 ジタバタ空中で暴れるエヴリンに溜め息を吐く。できるんだからしょうがないだろ。

 

 

「とりあえず、敵は分かった。生存者を探すぞ」

 

『生存者なんていると思うの?』

 

「覚えていろ怪物。人間ってのはお前らが思うよりも存外しぶといんだよ」

 

『怪物だなんてひどい。シクシクシク……イーサンでようやく勝てるような怪物相手に一般人が生き残れるはずないと思うけどなー、あ』

 

「あ?」

 

 

 拗ねて泣き真似していたかと思えば正論を言ってきていたエヴリンがある一点を見て止まったことに疑問を抱き、振り向く。

 

 

「あ」

 

「「グルル…」」

 

 

 そこには先程の怪物とよく似た狼男を彷彿とさせる怪物が、二体仲良く並んで立っていた。思わずエヴリンと一緒に固まってしまい、怪物二体は咆哮を上げると飛びかかってきた。咄嗟に横に飛び退き、頭からぶつかってばたりと倒れる怪物二体。今のうちに全速力で逃げ出して手ごろな家に入る。

 

 

「くそっ、なんだってんだ…」

 

『え?え?もしかして……』

 

 

 扉をバリケードで塞いで息を整えていると、首を傾げながら付いて来て何かに気付いたのかエレベーターに乗るように上にピューっと飛んでいくエヴリン。戻ってくると、血相を変えて青ざめていた。

 

 

「どうした?」

 

『い、イーサン…えっとね、その…あの狼男、村中にいる…』

 

「は?」

 

『空から見たけど、少なくとも10匹以上ウロウロしていたんだけど……』

 

「……マジかよ」

 

『あと、奥の方からなんかこーんなでっかい毛むくじゃらの巨人が狼男を数人引き連れてでっかいハンマー引き摺ってこっちに来てたからそんなバリケード意味ないと思うよ~』

 

 

 ピーンと背筋と腕を伸ばして大きさを表現し、怖さを表現してるのか「がおー」とポーズを付けて威嚇するエヴリンに、絶望が俺を支配する。いや、どうしろって言うんだ。こちとらナイフとハンドガンと弾十数発と回復薬しかないんだぞ?

 

 

「ここから出た方がいいな…エヴリン、さっきの老人が猟銃を持ってたから、多分この村にはまだ武器の類がどこかにあるはずだ。それを探してくれ」

 

『え、怖いからやだ。それにその間イーサンはどうするの?私が居なくて大丈夫?』

 

「お前は認識されないんだから怖いのぐらい我慢してくれ。俺を助けるつもりがあるなら手伝ってくれ、頼む」

 

『えー、でもなあ…』

 

 

 しぶって中々手伝おうとしないエヴリンに、怒鳴るよりもどうしたら言うことを聞くかを考える。こんな地理も何も知らない村で生き残るにはこいつの協力は必須だ。なにか、やる気が出る言葉…そうだ。

 

 

「ローズは多分この村のどこかにいる。救い出すために力を貸してくれ、エヴリン。お前はお姉さんだろ?」

 

『しょうがないなー!お姉さんにまっかせて!』

 

 

 ドヤ顔で胸を叩いてピューと飛び出していくエヴリン。その間に俺はこそこそと外に出て、さっきの怪物二体や他の怪物に見つからないことを祈りながら腰を低くして物陰に隠れながら移動する。次の隠れ場所として選んだ物置の中にはショットガンの弾と思われる小箱を見つけた。

 

 

「ショットガンがあるのか…それをエヴリンが見つけてくれたら、なんとかなるな」

 

 

 三年前に痛感したことだが、ああいう怪物にはハンドガンは通じにくい。ショットガンを手に入れてからは対処が簡単にできるようになったことから、必須級の武器だ。さすがのあの怪物も、散弾を顔面に喰らったらひとたまりもあるまい。そう思って、物置から出た瞬間。

 

 

「あ」

 

 

 さっきまでいた家の屋根にいた怪物の一体が咆哮を上げる。まるでそれは、狼が仲間を呼ぶ時の様な遠吠えで。ぞろぞろと怪物が道に溢れだしてくる。こうやって仲間を呼ぶこともできるのか…!?すると視界の端に、屋根の上からヒョコッと顔を出して手をメガホンの形にしてこちらに呼びかけるエヴリンも見つけた。

 

 

『イーサン、こっちこっち!ここにえっと…ほら、私の友達の頭を吹っ飛ばしてたのと同じ銃があったよ!』

 

「ショットガンか!すぐそっちに行く!」

 

『ってイーサン、前前前!来てる来てる!』

 

「っ!」

 

 

 三体纏めて飛びかかってくる怪物たち。その手には武器も握られていて、咄嗟にハンドガンで足を狙って撃って先頭の一体を転ばせ、他の二体も巻き込んで倒れた所に急いでエヴリンの元に向かう。逃げる俺を追いかける様に火矢まで飛んできて、村もところどころが燃え出して冷や汗を流しながらも疾走する。

 

 

『あっち!こっち!そっち!いやどっちだ!?』

 

「お前が混乱するな!?」

 

 

 ビシッビシッと指を指して敵のいる場所を示してたエヴリンだがクルクル回って混乱、その家に飛び込むと机の上にショットガンが無造作に置かれていた。

 

 

『急いで急いで!でっかいのも来てる!』

 

「言われなくとも…!」

 

 

 天井から降りてきたエヴリンに急かされながら入り口にバリケードを設置し、スクラップなど使えそうなものは片っ端から拾いながら奥に進むと、奥の部屋の床に大穴が開いているのを見つけた。バキャア!とバリケードが破壊された音が聞こえてきたので咄嗟に飛び込み床下を進む。

 

 

「しまっ…回り込まれていた!?」

 

『いきなり目の前に出るのやめろ心臓に悪い!心臓ないけど私!』

 

 

 出口にまでくると、そこには怪物が一体待ち構えていて。ショットガンを構える前に胸倉を掴まれて道のど真ん中に投げ飛ばされる。空を舞い、エヴリンが追いかけてくるのが見える。落ちたところに矢が左足に突き刺さって動けなくなり、さらに数えきれない数の怪物が集結しつつあり、馬に乗って人間を串刺しにした怪物までやってきたり、エヴリンの言っていた毛むくじゃらの巨人までハンマーを手に屋根から飛び降りて現れ、咆哮を上げる。

 

 

『オワタ。私達の人生、完』

 

「言ってる場合か…くそっ、足が…」

 

『いやだー!まだまだ楽しみたい娯楽がいっぱいあるのに、イーサン死んだら見ることもできないじゃんかー!馬鹿-!イーサンから離れろ、離れてよー!』

 

 

 涙目で命乞いするエヴリンに、なんとも言えなくなる。ローズを助けられずにここで終わるのか…するとどこからか鐘の音が聞こえてきて。巨人が、怪物たちが、その方向に振り向く。なんだ?どうしたんだ?エヴリンと一緒に動揺しているうちに巨人はその巨体から考えられないほどの身軽さで跳躍して屋根に飛び乗って去って行き、怪物たちもそれに続く様に一匹残らず去って行く。これは…?

 

 

『あれ?え、私の恐ろしさに臆した?』

 

「それはない」

 

 

 アチョー、とポーズを取っていたエヴリンにツッコみながら、左足に刺さった矢を引き抜き、何とか立ち上がる。どうやら、生き延びることができたらしい。

 

 

「これからどうするか…」

 

『生き残りを探すんじゃなかったの?いないと思うけど。もう忘れた?忘れっぽいなーイーサンは』

 

「お前、これ突っ込まれたいのか?」

 

『それはやめて。ごめんなさい』

 

 

 ショットガンをちらつかせると素直に謝るエヴリンに、笑みが漏れる。ああ、変わらないことに安心した。




史上稀に見るチョロイン、エヴリン。人のピンチでも笑ってしまう畜生なのは相変わらず。改心したわけじゃないのです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第四話‐Eva【エヴァ】‐

どうも、放仮ごです。なんか読者が多いなと思ってたら日刊90位に入ってましたありがとうございます!

今回は探索part。小説にすると難しい。楽しんでいただけると幸いです。


『ねえねえイーサン』

 

「なんだ、エヴリン。今家を漁るのに忙しいんだが」

 

『ミアさ、やっぱりおかしくなかった?』

 

「は?」

 

 

 ショットガンを背に担ぎ、ハンドガンをベルトに納めて、手にした麻袋に片っ端からスクラップやら弾丸を詰め込んでいき、家屋を漁っている中で突然変なことを言ってきたエヴリン。暇だったのかずっと考えこんでいた様子だったが、いきなりなんだ?

 

 

「変なこと言うな。ミアは死んだんだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

『いやだってさ。一回目に撃たれた時、まるで撃たれたことを認識してない様に平然としてたじゃん』

 

「そりゃ撃たれたなんて最初理解できないだろ」

 

『それに、蜂の巣にされても生きてたんだよね…なんで死んだふりしてたんだろ』

 

「なんだって?」

 

 

 ミアは…生きている?エヴリンの言ってることが本当なら、希望があるのか?…いや、待てよ。それはありえない。

 

 

「クリスに頭部に五連射ぐらいされてなかったか?それで死んだふりは無理だろ」

 

『でも生きてたと思うんだけどなあ』

 

「戯言を言ってないで使えそうなものか手がかりを探してくれ。…うん?」

 

 

 次の家に入り、見つけたのはラジオ。ピーガーと鳴ったかと思えば人の声が聞こえてきた。女の声だ。

 

 

≪「誰か……もしまだ生き残ってる人がいたらうちへ来て。畑の側の、私の屋敷よ」≫

 

「生き残りが…?」

 

『ゾイかな?』

 

「お前がそれ言うのか。いや俺も思ったけど」

 

 

 ベイカー家でもミアの襲撃を退けた後に生き残りともいえるゾイから電話がかかってきたことを思い出す。今頃叔父のジョーと一緒に平和に過ごしてるはずの彼女にまた生きて会えるだろうか。

 

 

『でもこれ、罠じゃない?ゾンビものの映画だとろくなことにならないよ』

 

「これは映画じゃない、現実だ。生き残りがいるなら話を聞きたい。この村で何が起きたのか」

 

『やめといた方がいいと思うけどなあ』

 

 

 とりあえず畑の側の屋敷とやらを探すために外に出ると、ローブに身を包んだ老婆が奥の方へ消えて行くのが見えて。咄嗟に追いかける。

 

 

「おい、待て!」

 

『イーサン落ち着いて!あんなやつらがいた村にあんなおばあちゃんが無事でいるの絶対変だって!』

 

「さっき言ってた家に避難していた人かもしれないだろ?今はとにかく情報が欲しい」

 

 

 赤い門を抜け、追い付くと老婆は髑髏がついた不気味な杖を手に地面に何やら描いていた。たしかにエヴリンの言う通り怪しいが、今はそんなこと言ってられん。

 

 

「生にも死にも栄光を与えん……」

 

『うわっ、電波系だ!電波系だよイーサン!関わっちゃ駄目な人!』

 

「お前ほんと失礼だな。なあ、あんた…ここにいると危険だ。何を…おい、聞こえているのか?」

 

「…頭がイカレちゃったの?」

 

「は?ああ、さっきのは独り言だ独り言。気にしないでくれ」

 

『なんだこのババア』

 

 

 俺がエヴリンにツッコんでるのを見て眉を顰め、いきなり若返ったような口調になった老婆に首を傾げる。

 

 

「そなたか……あの子の父親だな」

 

「あの子って…まさか、やっぱりローズがここにいるのか?」

 

「ハハハ!ローズ!そうともローズじゃ!あの子に危険が迫ってる。マザー・ミランダが村に招き入れてすべては闇に堕した」

 

「なに?あの化け物の事か?」

 

『なんで知ってるんだろ。わかった、このババアが犯人だ!』

 

 

 こんな婆さんになにができるんだと一応頭の中でツッコむ。いやエヴリンも婆さんの姿で衝撃波とか撃ってたから何とも言えないんだが。すると再びどこからか鐘が鳴り出し、婆さんは門の方へ歩くと門を閉ざしてしまった。

 

 

「おい、待て!ローズは?マザー・ミランダって…」

 

「城の鐘が災いを告げておる!やつらが来るぞ。我らがために鐘は鳴る…また奴らが来るのじゃ!」

 

『私、追いかけてみる!』

 

 

 閉じられた門に頭から突っ込み、老婆を追いかけて行くエヴリン。ローズがここにいるのか…?一体どこに…すると一分もせずに戻ってくるエヴリン。その顔は青ざめていた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

『追いかけて行ったら、なんかすごいスピードでダッシュしてどっか行っちゃった……あれ絶対普通のババアじゃないよ、ダッシュババアだよ…』

 

「ただの老婆じゃないってことか。お前の言う、あの老婆が犯人だって説は案外当たりかもな」

 

『走るババア凄い怖かったよ、夢に見そうだよ…』

 

「お前、夢を見れるのか?ていうか眠れるのか?」

 

『イーサンが寝たら私も寝るよ。意識が覚醒したら私も起きるよ。夢は見ないけど』

 

「ならいいじゃないか」

 

 

 ブルブル青い顔で震えるエヴリンを連れてすぐ側の家に入ると、薬液の他に興味深いメモを見つけた。

 

 

「【おおライカンよ。おとぎ話の悪魔の狼どもよ。我らを食らいに来るがよい。血肉を食らいに来るがよい】…?」

 

『ライカンっていうのかな、あの狼男』

 

「みたいだな」

 

『ちょっと間抜けな響きだね』

 

「そうか?」

 

 

 家から出て先に進むと、戦士の娘の像がある広場に出た。畑の側にある家を見つけたが門が閉じられていたので諦めて、明らかに怪しい城の方へ向かうと、変な門があった。悪魔と天使を模ったと思われるクレストだが、頭部が丸くくりぬかれていた。

 

 

「この先の城に行きたければ欠けてるクレストを二つはめろってことか…?ベイカー家のケルベロスを思い出すな、おい」

 

『すっごい不便な門だねえ。うん?』

 

 

 側にある墓場に漂っていたエヴリンがなにか見つけた様なので近づくと、墓石にEvの文字が見えてエヴリンが反応した理由が分かった。自分の墓だと思ったのか。ジーッと見つめるエヴリンに首を傾げながらも文面を読んでみる。

 

 

「【エヴァ 1909.06~1919.08 黒き神の御許で ひとときの眠りを】?10歳で亡くなったのか…でも、関係はなさそうだな」

 

『…うん、そうだね』

 

「行くぞ」

 

 

 クレストがありそうな場所を探すため、一度広場まで戻って小教会に入ると、祭壇に天使のクレストが。側に書かれたメモから、もう一つはルイザという人物の家にあるらしいとわかった。天使のクレストを門にはめに行く。結構重い。

 

 

「隠したいのか発見させたいのか…」

 

『ジャックもケルベロスのレリーフ隠すの下手だったねー』

 

「あれ探すの結構苦労したんだぞ」

 

 

 天使のクレストを門にはめ込み、メモに書かれた地図を頼りにルイザの家を目指すと、例の畑の側の家のことだとわかった。

 

 

『あ、いるよ、空き缶』

 

「空き缶?ライカンのことか?草陰に隠れて行こう」

 

『本当に狼男みたいなのだったら匂いでバレない?それに耳もいいかも…』

 

「そうだったらどうしようも……あ」

 

 

 ヒソヒソ声が聞こえたのか、草むらから顔を出す一匹のライカン。咄嗟に装備したショットガンをその顔面にぶっ放し、他の奴が集まってくる前に草むらに飛び込んで一心不乱に進む。

 

 

『ほらー、だから言ったじゃん』

 

「お前が話しかけてこなけりゃ声を出すこともないんだよ!クソッたれ!」

 

 

 ふわふわ優雅に横になって寝そべっている体勢の自由なエヴリンに怒鳴りながらルイザの家の門の横にある小屋に入ると、若い女の声がした。

 

 

「ドアを閉めて!お願い…」

 

『生存者いるんだ…もしや黒幕だな?』

 

 

 お前もう黙れ。エヴリンに脳裏でツッコみながら言われるなり扉を閉めて奥を見ると、そこには村娘と思われる若い女性とその父親と思われる髭の男がいた。男は怪我をしているのか蹲っている。だが生存者だ。あの婆さん以外のまともな生存者に会えたことに安堵する。でもこんな小屋にいるのはなんでだ?

 

 話を聞くに、ルイザの家に避難しようとしたが門を開けてくれずここに隠れることにしたらしい。男はレオナルドといって女性ことエレナの父親らしく、ライカンに襲われて酷い出血の様だ。

 

 

「ここに隠れて静かにしてろ。俺が門を開けるまで動くな」

 

 

 小屋を調べると裏に通じる窓があってそこから出て、崩れた壁からルイザの家の庭に入る。庭にクレストが納められた堂を見つけたが、ドライバーか何かがないととれなそうだ。すると、ずっと黙っていたエヴリンが気になって見やると、口を押さえてふわふわ浮いていた。…なにしてるんだ?

 

 

『え、だってもう黙ってろってイーサンが…』

 

「素直か。…なあ、お前の見立てであの父親はどうだ?」

 

『少なくとも私の友達に襲われてあんな傷を負ったなら手遅れだと思う』

 

「だよな…だけど、救わないわけにはいかないか」

 

 

 エヴリンの見立てで手遅れならそうなんだろう。だが助けない選択肢はない。もしかしたら医者がいて、助けてくれるかもしれない。

 

 

『お人好しだなー。ローズマリー以外どうでもよくない?放っとこうよ、ろくなことにならないよ』

 

「どうでもよくない。同じ人間なんだから助けあいだろ」

 

『同じ人間ねえ…イーサンがそう思うならいいけどさ』

 

 

 何か気になる態度のエヴリンに首を傾げながらも門を開ける。よし、ライカンは離れたみたいだな。小屋の中の親子を呼び寄せ、レオナルドに皮肉を吐かれながらも急いで門を閉じる。どうやらこの村の人間はよそ者に寛容では無いようで、見張りの男に一度拒絶されるもエレナが家主のルイザと交渉して中に入れてくれることになった。

 

 

『あーあ。どうなっても知らないよ』

 

 

 エヴリンの不穏な声を背に受け、俺はルイザの屋敷へと足を踏み入れた。




ミアの謎。謎のダッシュババア。エヴァの墓が気になるエヴリン。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第五話‐Purgatory【煉獄】‐

どうも、放仮ごです。一日でお気に入りが200ぐらい増えたなと思ってたら日刊ランキング8位に入ってました。ありがとうございます!何気に過去最高だったポケモン蟲の9位を越えてしまったことに驚きを隠せない。みんなエヴリンが好きなんだね、わかるとも!(特異菌感染者)

今回はルイザの家。珍しくエヴリンがシリアスしてます。あと長くなって4500字越えといつもの1.5倍となってます。楽しんでいただけると幸いです。


「いいわ。エレナの知り合いなら信じましょう。入ってイーサン」

 

『知り合いじゃなくてさっき出会ったばかりの他人だから詐欺みたいなもんだけどね』

 

 

 一々五月蠅いエヴリンのぼやきを無視しながら屋敷に入る。奥まで案内されると、そこにはエレナ親子とルイザを入れて6人ほどの生存者がいた。酒瓶を片手に持った男と、杖を突いて頭に包帯を巻いた老人、泣いている女性だ。外の見張りの男と合わせても7人しかいないのか。

 

 

「なんだこいつは?よそ者が殺しに来たのか!」

 

『うわっ、酒くさっ。勝手に死んじゃえ!』

 

「黙って、アントン。二人を助けてくれたのよ」

 

『そうだよ』

 

「誰も助けなんて望んじゃいない!」

 

『うっわ、恩知らずなじじい』

 

「どうぞイーサン、座って」

 

「ああ、無事だったのは…村でこれだけか?」

 

『あ、いいなイーサン。私なんかずっと立ったままだよ。自由に寝そべられるけどねー!』

 

 

 ルイザに進められて椅子に座りながら、謎にマウントを取って寝そべってクルクル回りながら浮かぶエヴリンを無視して話を切り出すと、酒瓶を持った男ことアントンが怒鳴り散らす。

 

 

「無事?無事だと?これのどこが無事だってんだ!」

 

『こっちはかわいいかわいいローズマリー奪われてるんだよ!それに比べたら無事でしょうが!』

 

 

 エヴリン。姉馬鹿かましてる空気じゃないぞ。俺だってその話題言い出して愚痴りたいが。

 

 

「動けもしねえ怪我人に、バカみてえに泣くしかできない女!お前もだ!ルイザ!血塗れの死にぞこないのジジイによそ者まで連れ込みやがって…この家が安全だと?安全な場所なんかねえ!外の…腰抜け連中もとっくにぶっ殺されてる。明日には…ぷはぁ」

 

『酒飲むか怒鳴るかどっちかにしろ』

 

「明日には俺達も皆死ぬ。そいつのクソ亭主みてえに。泣くんじゃねえ!ロクサーナ!」

 

『うんうん、死ぬよね、皆死ぬ…だが今日じゃない?笑える。真っ先に死にそう』

 

 

 映画の名台詞で遊ぶエヴリンに、頭が痛くなる。するとルイザがアントンを止めに入った。

 

 

「もうやめて!ここは代々私の家族が守り続けてきた家。酔っ払いであれ何であれ誰でも歓迎する。ここにいれば安全よ」

 

「言ってろ」

 

『そこの怪我人のせいで安全じゃなくなったけど。イーサン、私は忠告したからね?どうなっても知らないよ?』

 

「一体何が起こってるんだ?なあ誰か教えてくれ」

 

 

 エヴリンは無視し、とりあえず本題に入る。ずっと聞きたかったことだ。応えてくれたのはルイザだった。

 

 

「わからない。ただ普段通り静かに暮らしていたら、ある日突然…化け物が現れて襲ってきたの。何度も…何度もやってきて、それで…」

 

「待ってルイザ。旦那さんは?まさか…」

 

「いえ。彼はどこかにいる、絶対に。村の誰かに助けを…ええそうよ。きっと助けを呼びに行ったの」

 

『どっかで死んでそうだね。イーサンでもないと生き残るのは無理だよ』

 

「祈りましょう。彼や…私達のために」

 

「そうね。さあ、一緒に」

 

『祈りだって!祈る神様がいるなら私みたいな存在が生まれるはずないのに、ばっかみたい!』

 

 

 泣いていたロクサーナというらしい女性の提案で祈ることに賛同する生き残りたち。祈り?そんなものでどうにかなると本気で思っているのか?エヴリンの言う通りだ、神様がいるならベイカー家やミアやエヴリンの犠牲者たち、かのラクーンシティ事件……死ぬことはなかったはずじゃないか。しぶっていた俺もエレナに手を握らされ、アントン以外の人間が机を囲んで円陣を組む。

 

 

「「「「「大いなる者よ。聞き入れたまえ。畏敬の念と共に捧げん。無限の闇より運命の定めし手が我らに差し伸べられんことを。深夜の月が黒き翼で舞い上がるとき、我らは自らを犠牲とし最後の灯りを待つのみ。生にも、死にも…マザー・ミランダに…栄光を捧ぐ」」」」」

 

『あほらし』

 

 

 空中で横になって欠伸するエヴリン。正直同感だ。しかしまた、マザー・ミランダなる存在か…神ではなく一人の人間を崇めているという事なのか?以前、マザー・グラシアなる人物が不祥事を隠蔽し崇められていたマルハワとかいう学園が崩壊したという事件があったが…ここも同じ運命をたどるんじゃないか?と心配になる。だが最後の祈りだけ聞き覚えがあったな。

 

 

「さあ。お茶の支度を。エレナ手伝って」

 

「その祈り、前にも聞いた。墓場にいた老婆から。てっきり、ここに避難していた人間だと思っていたんだが」

 

『ダッシュババア!』

 

「あの婆さんか?あのババアならもう完全にイカれちまってる」

 

「でもあの人は…とても献身的よ。だからきっと彼女にもご加護がある筈だわ」

 

 

 マチェットを握ったレオナルドの言い分に苦言を呈するのはルイザだ。するといきなり笑い出したかと思えば苦しみだすレオナルド。エヴリンがぴくっと眉を動かし、さっきの会話を思い出す。…彼がもう手遅れだと。咄嗟に止めようと飛び出そうとするが、机が邪魔で。レオナルドが机の上に崩れ落ちて置いてあったランタンが落ちて火の手が上がり、そちらに気を取られる。

 

 

『あーあ。私しーらない』

 

「おいなにしてる!?」

 

「離れろ!レオナルドはもう…」

 

「レオナルドどうしたの?大丈夫?きゃあああああ!?」

 

「やめろ!」

 

 

 止める間もなく、心配して駆け寄ったルイザが肩口からマチェットで斬り裂かれて死亡、アントンが酒瓶をぶつけるも気にも留めず、天井に張り付き牙に変わった歯をむき出しにして獣の様に唸りを上げるレオナルド。その姿は、ライカンにそっくりだった。駆け寄ろうとするエレナを手で制し、一緒に入り口から下がって廊下に出る。その間に残りの生存者に手をかけるレオナルド。こちらに助けを求めようとしたロクサーナは取り押さえられて喉笛を噛み切られて絶命した。

 

 

「父さん…!」

 

「エレナ、下がってろ!」

 

「やめて離して!」

 

「クソ…まずい。俺達も殺される!逃げるんだ!」

 

『どんどん炎が回ってるよ。出口も燃えちゃったみたいだけど、どうするの?』

 

 

 凄まじい勢いでこちらに駆けてくるレオナルドに対し、背中のショットガンを手に構えるが、撃つよりも素早く突進してきてショットガンを手放してしまい、押し倒される。ヤバい…!?

 

 

『あ、やば。どうしよう…力貸す?でも嫌われたくないし…』

 

「ぐっ、あっ…」

 

「父さんやめて!」

 

「エレナ…!?」

 

 

 エヴリンがなにやら迷っている間に今にも噛み付かれそうだったその時、俺の落としたショットガンを拾ったエレナがぶっ放してレオナルドは吹っ飛び、それでも立ち上がったレオナルドにさらに一撃。吹き飛んだレオナルドは炎に包まれ悶え苦しんだ。

 

 

「ダメって言ってるの!」

 

『うわー、自分の父親なのに容赦ない…まるでミアをボコボコにしたイーサンみたい』

 

「ああ私…父さんごめんなさい…」

 

 

 ショットガンを取りこぼして悲痛な声を上げるエレナ。おいエヴリンお前、一言余計だぞ。とりあえずショットガンを拾って弾込めしながら、父親に駆け寄ろうとしていたエレナを引き留め呼びかける。

 

 

「おいエレナ。あれはもうお父さんじゃない。仕方なかったんだ」

 

『そうだよ。どう見ても手遅れなのに指摘しなかったイーサンが悪い』

 

「エレナ。行っちゃ駄目だ。もう助からない」

 

「父さん…!イヤ…!」

 

「逃げよう!家が崩れる!」

 

『大丈夫。いくらでも替えがある物。これからイーサンをお父さんと呼ぼう!』

 

 

 エヴリンお前ふざけんなよ。とにかくエレナを連れて廊下を進み、入り口側が完全に燃え落ちていたのでガレージに入る。どこにも出口はない、か。だがこのトラックを使えば…

 

 

「手遅れだったんだ。お父さんじゃなくなってた」

 

「もう放っておいて…」

 

「ダメだ。ここから出よう…一緒に」

 

『わー!きゃー!もうすぐそこまで炎来てるって!放っておいてと言ってるし放ってさっさと逃げようそうしようイーサン!まだ死にたくなーい!私死んでるけどー!』

 

 

 ぐるぐる空中で犬の様に周って大混乱を起こしているエヴリンは放って置き、トラックの鍵を探す。奥の倉庫の棚の中にあった。キーホルダーになんかついてるな…これは、ドライバーか?とりあえずポケットにねじ込んで戻ると、既にガレージにも火が及んでいた。不味い、急がないと!

 

 

「クソッ、火の回りが早い!エレナ、離れてろ!こいつでぶち破る!」

 

『イーサン早く早く!』

 

 

 エヴリンに急かされながら鍵を差し込み、エンジンを起動。フルスロットルで壁に突撃するも、壁を一枚壊しただけで外までの穴を開けることができなかった。クソッ、駄目か!

 

 

「イーサン!イーサン、大丈夫?」

 

「ああ平気だ。もう一度…」

 

『そんな時間はないみたいだよ』

 

 

 エヴリンに言われて後ろを見ると、既に炎がここまで来ていて。トラックを足場にエレナと共に上を目指す。

 

 

「上しかないな」

 

『火事の時は上に逃げない方がいいってなにかで見たけどなー。ほら、急いで急いで!』

 

「心配ない。煙を吸うなよ」

 

「ありがとうイーサン。優しいのね。貴方の家族は無事?」

 

「だといいな。君にも紹介したいよ」

 

「ええ、ぜひ」

 

『喋ってる場合か!?それと家族紹介するならまず私を紹介してよパパ!』

 

 

 ふわふわついてきて急かしてくるエヴリンを無視しながら急いで上に上がると、窓が開いてるのが見えて。出口を見つけて安堵のため息が出る。

 

 

「見ろ。あそこから出られる」

 

「よかった。だけど…村は化け物だらけなのよ。あんなに数がいたら逃げられっこない!」

 

『それはそう』

 

「いいか。あきらめるんじゃない。娘を捜す前に、君を無事に避難させる。ローズはきっとあの城にいる」

 

「ダメよ!あの城に行けばあなたの命はないわ!それに私一人なんて…父さん?」

 

「なに?」

 

 

 下を見て驚愕するエレナに釣られて見てみると、レオナルドが変わり果てた姿で追いかけて来ていた。エレナの名を呼びながら弱々しく手を伸ばし、力尽きるレオナルド。親子の愛というものは呪いにも等しかった。

 

 

『しつこい!イーサンやジャック並にしつこい!なんで父親ってこうもしつこいんだろ!』

 

「エレナァ…」

 

「ダメだエレナ!あれはもうお父さんじゃない!」

 

「私を呼んでる!父さん!」

 

「やめろ!危ない!」

 

 

 エレナがレオナルドに駆け寄った途端、道が崩れ落ちてしまった。不味い、エレナが!慌ててエレナの上に向かい、引き上げようと試みる。

 

 

『駄目だってイーサン!ここもすぐ崩れ落ちるよ!早く逃げて!』

 

「じっとしてろ!さあ、手を伸ばせ!」

 

「…イーサン行って!娘さんを救って!」

 

「エレナ、諦めるな!こっちだ!」

 

「きゃあああああああああ!?」

 

 

 しかし伸ばした手をエレナが掴むことはなく。彼女の足場は崩れ落ち、エレナは火の海へと落ちて姿を消した。掴めなかった手を、力なく握りしめる。どうして、みんな死んじまうんだ!

 

 

『やっぱり、手遅れの人間を入れるべきじゃなかったんだよ…』

 

「ああ、畜生!クソッ、クソッ、クソッ!」

 

『イーサン早く!ローズを取り戻すんでしょ!』

 

「エレナ…こんなの酷過ぎる。なんで…こんな…」

 

 

 エヴリンの急かす声を受けて、窓に手をかける。ライカンが徘徊する地獄と化した村を見下ろす形となった。たまらず、怒りのままに左手を窓枠に打ち付ける。激痛が走るがそんなこと関係ない。ただただ、このやるせなさをどこかにぶつけたかった。

 

 

「何なんだこの村…一体、何が起こってるんだ!」

 

『あの城に、答えはあるんじゃないかな』

 

 

 エヴリンに言われて、城を睨みつける。エレナはあそこに行ったら俺が死ぬと言っていたが、意地でも死んでやるもんか。そう決意して窓を飛び降り、ドライバーで悪魔のクレストを手に入れた俺はルイザの家を後にするのだった。エレナ…この仇は必ず取るぞ。




バトルシップやマルハワデザイアはいいぞ。神様は死んでも信じないエヴリンである。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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吸血鬼の住まう古城
第六話‐Four aristocrats【四貴族】‐


どうも、放仮ごです。第一話投稿してから5日でお気にいり1000あっさり突破、評価10もたくさん…いや本当にありがとうございます!やる気出ます!

今回はついに四貴族との邂逅。楽しんでいただけると幸いです。


 燃え落ちるルイザの家を後にして。悪魔のクレストを手に外に出るために門に手をかけて、ふと思い至った。

 

 

「そういえば、見張りの男は何処に行った…?」

 

『逃げたんじゃないの?』

 

 

 するとすぐ近くから銃声が二回鳴り響き、同時に男の悲鳴。何事かと門を開けると、そこには見張りの男が何者かに首を絞められて持ち上げられている光景があった。

 

 

「やめて…!ミランダ様!」

 

「ふふふ…」

 

 

 グシャリと音を立てて、崩れ落ちた男から何かを掴み取ったミランダと呼ばれた人物は、こちらに目もくれず踵を返すと歩いて姿を消した。

 

 

「今のは一体…誰なんだ?」

 

『今のがマザーナントカかな?変態みたいな格好してたね』

 

「ミランダだろ。良く見えなかったが…」

 

『へんてこな仮面付けてて背中に輪っか付けてるのはどう考えても変態だよ…追いかけようよ、ローズマリーのこと知ってるかも』

 

「そうだな」

 

 

 ミランダが消えて行った方向に向かってみると、途中であの謎の老婆を発見。あちらもこちらに気付いたのか一瞥してきた。

 

 

『ダッシュババア!お前がマザーナントカか!』

 

「いやそれはないだろ…身長とか違うし」

 

「また虚言か、ついに狂ってしもうたか?無理もない。皆死んだ。そうとも、皆に死が訪れたのじゃ…はははは…アーハハハハハハ…」

 

『狂ってるのはお前じゃい!』

 

 

 それな。迂闊にエヴリンと対話した俺も狂ってると言われても言い返せないが。すると杖で地面になにやら書き始めた老婆。なんだ?なんかの紋章か?それからダンマリになってしまったので、怪しいが先に進むことにした。

 

 

『ねえねえイーサン』

 

「なんだ?」

 

 

 悪魔のクレストを城門にはめ込み、二つのクレストの向きを調節しているところに話しかけてくるエヴリン。意外と微調整が難しい。

 

 

『マザーナントカ?とかいう変態仮面が消えた先にあのダッシュババアがいたよね?』

 

「ああ、そうだな」

 

『あのダッシュババアがマザーナントカなんじゃないの?』

 

「ルイザの家で聞いた話だと変わり者の婆さんだって話だったが。だけど一見別人にしか見えなかったぞ」

 

『私みたいに感染した人に幻覚を見せれるとか?』

 

「あんなことできるのお前だけだろ。それに感染した覚えはないぞ」

 

『ライカンに思いっきり噛み付かれてたじゃん』

 

「あー……」

 

 

 そう言われたらそう思えてきた。ウイルスの類だったら噛み付かれた時に感染した可能性もあるのか…とりあえずクレストの位置を調整し終えるとどういう仕掛けなのか門が開いたので、城の敷地に入る俺とエヴリン。

 

 

「行けば命はない、か。エレナ、悪いな」

 

『命は投げ出すモノって誰かが言ってた』

 

「縁起でもないなそれ」

 

 

 堀にかかった跳ね橋を抜け、洞窟に入り階段を上がると樽がいくつも置かれた物置の様な場所に出た。奥に鉄門とレバーがあったので、レバーに手をかける。

 

 

『イーサン!なんか来た!』

 

「なに?」

 

「これはこれは。まだ生き残りがいたとはな。タフな奴がいたもんだ」

 

 

 エヴリンが警戒の声を上げ、男の声が聞こえて振り向くと、そこには黒いソフトハットと丸いサングラスをかけた髭面で、オリーブ色のロングコートを羽織って鉄のハンマーを肩に担いだ異様な男がいた。咄嗟にショットガンを向けるも、なにかに引っ張られて男の手に飛んで行ってしまう。ならばとハンドガンを取り出すも同様に取り上げられる。周囲に落ちていた歯車やネジなどのジャンクが何故か浮かび上がり、異様な雰囲気を醸し出している。

 

 

『うわ、なにこれすごい!かっこいい!超能力!?』

 

「言ってる場合か!くそっ、ナイフで…!」

 

『ナイフも飛んでっちゃった!?丸腰のイーサンとか逃げ回るしか能がないよ!』

 

「お前なあ!」

 

「なんだ?誰と喋ってる?狂っちまってるのか?つまらねえなあ…」

 

 

 ナイフまで取り上げられ、お手上げだ。じりじりと後退しながら、様子を見る。

 

 

「…誰だお前、何者だ…?」

 

「ほう…よそ者か。面白え」

 

「があ!?」

 

『イーサン!?』

 

 

 その瞬間、男が放り投げた俺のナイフが凄まじい勢いで俺の腹部に突き刺さる。さらにハンドガンとショットガンが顔面に激突、歯車やら浮かんでいたジャンクが次々と俺に殺到し、俺を包み込んでいき、あまりの重さに膝をつく。意識も朦朧としてきた。霞んでいく視界の端でオロオロするエヴリンと、俺に歩み寄ってくる男が見えた。

 

 

「ミランダが見たら喜びそうだ…」

 

「くそっ、が…」

 

『イーサン!イーサン!?あれ、私も意識が…ぐぅ』

 

 

 ……聞こえてるぞ。俺の意識が消える時に、呑気に眠れていいなあお前は。そんな関係ないことを考えながら、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イーサン!イーサン!私が起きてるってことは目を覚ましたよね!?』

 

「エヴ、リン…?」

 

 

 次に目が覚めた時、俺を包んでいた鉄くずが崩れて開けた視界には、古びた鉄の手錠をはめられた俺の腕と、俺を繋げた鎖を引きずる男の姿。次の瞬間には視界いっぱいに心配そうな顔のエヴリンがドアップで映る。前が見えないからどいてくれ。

 

 

「お、起きたか。エヴリンってのはお前の娘の名前か?いい名だな。いい子にしてろ。もうすぐだ」

 

『そうでーす、イーサンの娘でーす!…あ、また意識が…しっかりしてよ、イーサン…ぐぅ』

 

 

 調子に乗りながら横になってすやすや眠り始めるエヴリン。面目ない…頭への衝撃はかなりでかかった様で、また意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…他の者では力不足でしょう。(わたくし)の娘たちなら存分に愉しませることができます」

 

『そこどいてよブサイク!アタシが見えないでしょ!』

 

『イーサン!イーサン!今度こそちゃんと目が覚めた!?』

 

 

 騒騒しいエヴリンの声で目が覚める。そこにはエヴリンではなく、花嫁衣装を着た不気味な人形が動いて俺の顔を覗き込んでいた。それにかぶさるように現れて人形に怒られて退いた人間なのかどうかも怪しい醜悪な男が。その奥にはとてつもなくでかい貴婦人と、黒づくめの衣装でベールで顔を隠した女と思われる人物と、さっきのサングラスの男が椅子に座っていて、一番奥には仮面を被って黒いローブを身に着けた背中に輪っかを付けた見覚えのある女が立っていて…その真ん中でエヴリンが居心地悪そうに浮いていた。……なんだ、夢か。また寝よう…

 

 

『夢じゃないよ現実だよ!?現実離れしてるけどね!?えっとね、紹介するね!態度も身長も顔も全部クソデカオバサンと、まさにダンディなオジサン略してマダオと、黒づくめ陰キャと、マザコンブサイクと、ご存じマザーナントカ変態仮面、あとなんかキャラが被ってる気がしないでもないクソガキ人形だよ!』

 

「ブフッ、笑わせるなあ…腹痛い、クククッ…」

 

「それに我がドミトレスク家にお任せていただければあなた様に最高の血をご用意することを約束いたしますわ。…失礼な男ね。ここで殺してしまおうかしら」

 

『アタシの顔見て笑うとかブッ殺されたいの!?ヴェェェイ!ねえ、起きたよおー!』

 

「待て…つまり…テメエらうるせえぞ!てめえもだ!起きたと思ったらなに笑ってんだ、どんな精神してやがる!?」

 

「あ、悪い」

 

 

 一気に説明を捲し立てて笑わせてくるエヴリンと、なんか熱心に説明を続けていたエヴリン曰くなにもかもクソデカオバサン、滅茶苦茶荒ぶったあと黒づくめ陰キャさんの手に収まる謎のクソガキ人形に、怒鳴り散らすサングラスの男。黒づくめ陰キャさんとマザコンブサイクとやらとマザーナントカ変態仮面ことミランダ(多分)だけ静かにしていた。男に怒られたので素直に謝る。…いや、謝ってる場合じゃなかった。ここはどこだ?




マダオ(ハイゼンベルク)がお気に入りなエヴリンさん。原作と違って武器を全て取り上げたり強キャラ感。いや強キャラなんですが。四貴族とマザーミランダは第一印象で呼んでるエヴリンだけど悪意はない、多分。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第七話‐Show time【逃走劇】‐

どうも、放仮ごです。かつてない評価とお気に入りの嵐に臆してます。また日刊8位になってましたありがとうございます。勢いが凄い。

今回はハイゼンベルクのショータイム。楽しんでいただけると幸いです。


「なんだ…ここは…」

 

「こいつを独り占めして何が面白いってんだ?居もしない誰かとくっちゃべって、こんな状況でも笑っていやがる異常者だぞ?この俺なら、こんなやつでも全員が楽しめるショーを見せてやれる」

 

「ハッ!何てくだらない。安っぽいサーカスなんて誰が見るの?この男が苦しむ様は私が保証しますわ」

 

「どうせ誰もいねえ城でこいつのナニを切り落とそうってんだろ?」

 

『ねえねえイーサン。ナニって、なに?』

 

 

 俺の処遇を決めようとしているのか、言い争うマダオ(仮)とクソデカオバサン(仮)と無邪気に問いかけてくるエヴリン。下ネタはやめてくれ、小さな子供もいるんだぞ、見えてないんだろうけど。すると黙っていたマザーナントカ変態仮面ことマザー・ミランダと思われる人物が口を開いた。他の四人が真面目に聞き出したのを見るに、ミランダが親玉だと考えてよさそうだ。

 

 

「互いの言い分は分かった。かたや一方は理屈に及ばぬようだ。だが我が意を決したぞ。ハイゼンベルク。この狂人…じゃない、この男、お前に委ねよう」

 

『一番狂ってそうな敵の親玉に狂人言われてて草』

 

「喜んで。お母様」

 

「マザー・ミランダ!どういうことですか?ハイゼンベルクは幼稚な上、貴女への忠義も疑わしいと言うのに!」

 

 

 ミランダにハイゼンベルクと呼ばれたマダオが優雅に帽子のつばに手をかけ一礼し、クソデカオバサン(仮)が憤慨して立ち上がりこちらを見下す様に歩いてくる。エヴリンの言う通り、身長がクソデカかった。何メートルあるんだ…?

 

 

(わたくし)めにお任せくだされば滞りなくその男を…」

 

「ガタガタ言ってねえで自分が負け犬だと認めちまえよ!餌が欲しけりゃ他あたれ」

 

『やーい負け犬クソデカオバサン』

 

「その口をお閉じ、坊や。今は大人が話してるの」

 

『こんなイケオジを坊やってどんな感性してるの?』

 

「坊やだあ?テメエこそミランダ様に楯突く気か?」

 

「お前は責任というものを全く理解できていないようね!」

 

「図体がデカいとエゴまでデカくなっちまうみてえだな!」

 

『いいぞー、マダオー、もっと言い負かしちゃえー』

 

『ケンカ!ケンカ!やっちゃえ!やっちゃえ!』

 

「ブフッ。…おい俺のことは無視かよ」

 

 

 大の大人二人が大喧嘩し、それを煽るクソガキ二人に思わず笑ってしまうが慌てて取り繕う。すると矛先がこちらに向いた。

 

 

「てめーも笑ってんじゃねーよ!お前が死ぬかどうか決めてる最中だってのはわかってんだろ!?どんな根性してんだ、ああん?!」

 

『それはそう』

 

「それだけは同感よハイゼンベルク。こんな無礼者、ここで処してしまおうかしら。マザー・ミランダ、許可をいただけませんこと?」

 

「みんな、ママが怒るからその辺に…」

 

『ヴェェェイ!惨たらしく死んじゃえー!』

 

「鎮まれ!」

 

 

 マザコンブサイクとやらまで口を開き、三人と一個がギャアギャア喚いていると、ミランダがよく響く声と共に、ローブだと思ってた六枚の黒い烏の様な翼をバサッと広げて威圧。喧騒が嘘の様にぴたりと鎮まった。見れば、ミランダの声に呼び寄せられたのか複数のライカンが集まり出していた。何て数だ、こいつらに一斉に襲われたらひとたまりもないぞ…!?

 

 

「我が(めい)は絶対だ。異議など認めぬ。身の程を弁えるがよい」

 

『異議あり!……部下を集めるのは卑怯だと思う!』

 

「どうも、「お母様」。では親愛なる…(けだもの)の諸君!長らく待たせたな!いよいよゲームの始まりだ!」

 

 

 そう手を広げてライカン達に宣言するハイゼンベルク。降りてきたライカン達に囲まれる形となり、その中心でハイゼンベルクは屈んで愉快そうに笑みを浮かべ、その手にしたハンマーを振り上げた。

 

 

「そんじゃ期待してるぜ。狂人、イーサン・ウィンターズ。準備はいいか?」

 

「誰が狂人だ…おい、よせ…!」

 

「10…9…8…7…」

 

『イーサン、こっち!』

 

「6…5…4…3…2…1…!」

 

 

 目の前の床に叩きつけられるハンマーを合図とするようにカウントダウンが始まる。慌てて手錠をはめられた両手で何とか立ち上がり後退、目の前まで迫ったライカンたちが俺を威嚇する様に次々と咆哮を上げる。エヴリンの声に振り向くと、そこには床に開いた大きな穴があった。そこしかないか…!

 

 

「ショータイーム!!」

 

「マジかよ、クソッたれ!エヴリン、先導を頼む!」

 

『了解!イーサンは死なせない!』

 

 

 ハイゼンベルクの声と共に慌てて飛び降り、なんとか着地。後ろから追いかけてくる気配を感じながら、全力疾走。道は幾重にも分かれているが、エヴリンが道の先を確認して行き止まりじゃない方向に案内してくれる。こういう時は本当に頼もしいなあ、お前は!

 

 

『えっへん。もっと褒めて褒めてー』

 

≪「いいぞ。そうだ走れ。その調子だ、イーサン」≫

 

「何で俺の名前を知っている!?」

 

 

 どこからか聞こえるハイゼンベルクの声にうんざりしながらもバリケードを蹴り壊して、広い空間に出る。鍾乳洞の様だ。岩でできた天然の橋を渡ろうとすると、上から咆哮が聞こえ見上げると、村で俺を襲ってきたあの巨人が飛び降りて来ていた。着地と同時にハンマーをフルスイング、俺を叩き落としてきやがった。

 

 

「おい、やめろ!?おいおい、嘘だろマジかよ…!?」

 

『わはー!ねえ、これって噂に聞く滑り台!?たーのしー!』

 

「楽しんでる場合か、背中とケツが熱い!?」

 

『案外余裕だね』

 

 

 そのまま滑り台の様に穴を滑り降りて行き、降り立った先は天然の独房の様な場所。側の鉄格子の扉にはライカンの群れが集い、棘が付いた天井が迫ってくる。痛みを我慢しながらも出口を探す。

 

 

≪「まだ生きてるのか?やるじゃねえか」≫

 

『イーサン、こっちこっち!』

 

「クソッたれ!まだかよ!」

 

≪「まったくよぉ…噂通りのしぶとさだな」≫

 

「噂ってなんだこの野郎!」

 

 

 エヴリンの誘導で壊せそうな板の壁を見つけた俺は蹴り壊して這い進み、吊り天井を回避。したかと思えば通路の天井にまで棘が付いてゆっくり降りて来ていたので、全力で走る。一々なんか言ってくるハイゼンベルクがルーカスの野郎を思い出して腹が立つ!また広い空間に出ると、今度は奥から世にも悍ましい回転する凶器の様な機械が迫ってきた。出口は機械の向こう側だ、クソッたれ!

 

 

≪「おい。まさか俺がお前を逃がすとでも思っていたのか?ドナとモローが退屈しちまってるからな」≫

 

『イーサン、こっち!隙間開いてる!』

 

≪「そんじゃあ派手に内臓ぶちまけて盛大なフィナーレの幕開けと行こうじゃねえか!アメリカ産ミンチのできあがりってか!」≫

 

「アメリカ産ミンチが食いたいならいいところ知ってるぞ!ベイカー家っていうんだがな!」

 

『って私がミンチになる――――!?』

 

 

 隅に開いてた穴に潜り込んで、目の前まで迫った回転凶器に手錠がギャリギャリ削られて破壊された。結果オーライ。どうやらこれでショータイムとやらは終わりらしい。助かった…なんかエヴリンは回転凶器に巻き込まれたみたいで姿は見えないが。

 

 

「危なかった…まさか、あいつらがローズを?エヴリン、エヴリン!どこに行った?」

 

 

 止まった回転凶器の下に開いた隙間に潜り、何とか反対側に出ると、顔と全身が滅茶苦茶のミンチみたいになったエヴリンがいた。一瞬ビクッとなる。

 

 

『前が見えねえ』

 

「…お前、触れられないくせにふざけるなよ?」

 

『ひどい。ちょっとは心配してくれてもいいじゃん』

 

 

 そう言って瞬時に元の姿に戻るエヴリン。自由に姿を変えれるのか…俺にしか見えないから便利かどうかも分からんな。するとクルクル回ってみるみるうちに成長するエヴリン。

 

 

『大人の姿になることもできるよー』

 

 

 体に合わせる様に大きくなった黒い服のスカートをヒラヒラ舞わせながら18歳ぐらいの美少女になったエヴリンが舞い踊る。お前は順調に成長する権利すら与えられなかったんだったな。

 

 

『ねえねえ、可愛い?』

 

「…ああ、現実でお前のその姿が見れなくて残念だよ」

 

『でもおばあちゃんの私も可愛くなかった?』

 

「…まあ、あの狂気に満ちたベイカー家で会うたび癒しにはなったな」

 

『なにそれ嬉しいこと言ってくれるじゃん、パパ。大好き!』

 

「はいはい」

 

 

 成長した姿のエヴリンに引っ付かれながら奥に進む。…そういや武器奪われたけど、どうしたものか。




原作と違って地味に喋ってるモロー君。ピクシブで見つけた成長エヴリンは本当にいいぞ…!子供の人格まんまで体が成長するのいいよね。おばあちゃんエヴリンを癒しに感じたのはいっぱいいるはず。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第八話‐Duke【商人】‐

どうも、放仮ごです。ついにお気に入りが2000人を越えました。小説書き始めて8年近くとなりますが初めての快挙です、ありがとうございます!

今回はデュークとの邂逅。楽しんでいただけると幸いです。


『あれ?見覚えのある場所に出たよ』

 

 

 拷問部屋の様な道中を道なりに進んでいると、成長した姿だと落ち着かないのか元の姿に戻って先導していたエヴリンがそんなことを言ってきた。扉をくぐると、そこはハイゼンベルクと遭遇し捕まったあの倉庫のような場所で。俺が捕まった辺りに鉄くずが散乱しており、その中にはハンドガンやショットガンも見えて拾い上げる。

 

 

「…ワンチャンまだあるかと思ったんだが」

 

『これじゃ使い物にならないね』

 

 

 爺さんからもらったハンドガンは奇跡的に無事だったが、ハイゼンベルクの超能力みたいな力で高速で他の歯車やらを打ちつけられたからか、ショットガンは銃身がひん曲がって使い物にならなかった。ショットガン全然使わずに鉄くずになってしまったな…。まあ鈍器にしたり投げつけることはできるので、とりあえず装填していた弾丸を外して弾やらスクラップやら使えそうなものを入れている麻袋が落としたまんま残っていたので、鉄くずになったショットガンも入れておく。

 

 

「ハンドガンとナイフは無事か」

 

『低威力のハンドガンしか銃器がないって丸腰と何も変わらないじゃん。こんなイーサン、逃げるしか能がないよ!』

 

「うるせえ」

 

『わきゃー!?』

 

 

 俺の腹部に突き刺さったせいで血塗れだが無事だったナイフを手に、馬鹿にしてきたエヴリンの顔に振るうと逃げ出したのですっきりする。当たらないくせに自分に触れられるのを嫌がるからな。

 

 

『そんなに怒らなくてもいいじゃん、事実なのに…』

 

「事実を言ってるからムカつくんだよ」

 

 

 レバーを下げると機械が起動し、自動的に開く鉄門を抜けて進むと、城の庭…ぶどう畑だと思われる場所に出た。人間の死体を使った案山子があって不気味だ。そしていざ城に入ろうとすると、その途中にあった奇妙な幌馬車(?)が開き出した。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「お待ちしておりましたよ、ウィンターズ様」

 

『うわ、デブだ!アメリカでもこんなデブそう見ないよ!』

 

 

 出てきたのは、エヴリンの言う通り丸々と太った巨体の男。敵意は感じない。だが、何者だ?

 

 

『マダオにも名前呼ばれてたけど、有名になったの?イーサン』

 

「何故名前を…?」

 

「この村では、あなたはもう有名人ですからねぇ。噂じゃ娘さんをお探しだとか…たしかにこちらの城は、怪しい雰囲気ですな」

 

『今一番怪しいのはおデブさんだけどね』

 

「ああ、お前もな」

 

 

 男とエヴリンに同時に皮肉るつもりで言ってやると、何が可笑しいのか笑いだす。

 

 

「ホッホッホ。私は商いをしているだけ…」

 

「ここで?」

 

「ああ申し遅れを。「デューク」と申します。いかがです?武器に弾薬、傷薬…欲しいものはなんでも提供しましょう」

 

『だって!やったね、イーサン!』

 

「それが本当なら助かる。だが金は…」

 

「ライカンどもが何かを落としませんでしたか?持っていたら換金しましょう」

 

 

 デュークにそう言われて、思い出すのは村を漁った際にライカンと戦った場所に死体が消えてる代わりに落ちていた結晶化した髑髏。あと落ちていた結晶の欠片やジャンク品などを入れている麻袋を差し出すと、短い手で中身を確かめながら満足そうに頷くデューク。

 

 

「ほうほう、結晶化した髑髏に結晶の欠片だけでなくこんなにスクラップも…せっかくですし初回サービスです。これに使い道がないのなら買い取りましょう」

 

「助かる。ショットガンはあるか?」

 

「残念ながら…この村のどこかにあるとは聞きましたが。少し待っていただければご用意いたしますが」

 

「生憎とその落ちてたショットガンをお釈迦にしてしまってな。今ないのならしょうがない、他の商品を見せてくれ」

 

「見るだけでしたらご自由にどうぞ」

 

 

 見てみれば、色々入れられる鞄にクラフトのレシピ、各種弾丸に回復薬がいくつか、ハンドガンが一丁。さらに武器の改造もできるらしい。武器商人って訳じゃないのかレパートリーが少ないな。

 

 

「これは?」

 

「これはサムライエッジと言いまして。旧知の友に譲っていただいた、S.T.A.R.S.と呼ばれる組織の特注カスタムハンドガンを再現したものです。高威力で使いやすさは保証しますが、生憎と改造は行えないオーダーメイド品でして…お安くしときますよ」

 

「今は武器も足りないからな…買った!」

 

「これがあれば大勢殺せますよ!」

 

「物騒だな。あと弾丸をいくつかと念のため回復薬一つ…」

 

『あ、このミスターエヴリウェアっての可愛い!買って買って!』

 

「こんなものなんの役に立つんだ?」

 

「それは完全に観賞用のアクセサリーですな。いかがです?」

 

「いや…」

 

『買って買って買って!』

 

「しょうがないな…これもくれ」

 

「おお、素晴らしい選択です!」

 

 

 サムライエッジとやらを買って、エヴリンがねだってきたので、絶対いらないアクセサリーも買ってハンドガンにつける。いや、邪魔でしかないんだが?というか俺がエヴリンと会話してもなんも気にしないんだなデューク。

 

 

「ブラブラして鬱陶しいんだが……」

 

『なんでー?可愛いのに』

 

「それが醍醐味ですよウィンターズ様」

 

「しかし二丁拳銃か…やったことはないが、やるしかないな」

 

「武器を強力に改造したいときはお声掛けを」

 

「いや、今回はいい」

 

 

 確かクリスが、知り合いに二丁拳銃の使い手はいるが初心者にはお勧めしないと言ってたな。基本は一丁で、危なくなったら二丁使うようにするか。そう考えながらセーフティをかけてベルトに引っ掛けて店を後にした。

 

 

「オ・ルボワール。素敵な旅になりますよう」

 

「ああ、まったくだよ」

 

『普通にいい人だったね。怪しいけど』

 

 

 デュークに別れを告げて、城へと進む。戸締りはされて無いようで両手で重い扉を開き、中に入ると豪勢なエントランスが広がっていた。正面には三人の美女が描かれた絵があり、題名は「三令嬢 ベイラ、カサンドラ、ダニエラ」とあった。この城にはこの三人の令嬢が住んでいるということか。

 

 

「ローズがここに…?」

 

『手がかりというか行けるところここしかないもんねえ。迷子になりそうだから離れないようにしないと』

 

「迷子とか洒落にならないから離れるなよ」

 

『りょうかーい』

 

 

 右は行き止まりだったので、左へ進む。廊下を進み、階段ホールと思われる部屋に出ると甲高い叫び声がどこからか聞こえてきた。

 

 

『なに、今の?』

 

「さあな。ろくでもない事なのは間違いない。…これは、“心なき四天使に仮面を与えよ”…?」

 

『なんだろ。…ってイーサン、後ろ!』

 

「なに?」

 

「ローズを捜しているの?」

 

 

 エヴリンに言われて振り返るより前に、羽虫がたかって来てたまらずはたくと、声が聞こえてきて。振り返ると、大量の羽虫が三つの人型を為して、黒いローブに身を包んで口元に血が付いた金髪の少女が次々と姿を現した。…マーガレットのババアとは別の意味での蟲人間、だと…!?

 

 

『気持ち悪い!なにそれ!』

 

「カビ人間に言われちゃ世話ないな!クソッたれ!」

 

「ごちゃごちゃうるさいわよ!」

 

 

 すると三人の少女のうち一人が俺を押し倒してきたかと思えば、手にしたハルパーで足を突き刺して身動きが取れなくしてきた。

 

 

「があ!?」

 

「んん…男の血…芳しい香り…」

 

『うん、気持ち悪い!』

 

「言ってる場合か…」

 

「「「アハハハハハハ!」」」

 

『あ、イーサンを連れてくなー!』

 

 

 足にハルパーが突き刺さったまま、三人がかりでどこかに引き摺られていく。なんとか頭を持ち上げるが、背中が擦れて熱い!またかよ!後ろを見ればエヴリンが泣きそうな顔で後を追って来ていた。暖炉のある部屋まで来ると解放され、周りを見渡すとあの女がいた。

 

 

「お母様。新しい獲物よ」

 

「気の利く娘たちだこと。さあ、見せて頂戴」

 

『顔も態度も身長も胸もクソデカオバサン!』

 

「っ!」

 

 

 エヴリンの言葉に笑いそうになるが何とかこらえる。そこにいたのは、ハイゼンベルクと口喧嘩していたあの女だった。クソデカオバサン…名前をそろそろ教えて欲しいもんだな!




ショットガンを失って代わりに二丁拳銃を使うスタイル。サムライエッジが4の武器商人から譲ってもらった話については…この作品は別作品と世界観が共通しているとだけ。

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第九話‐Vampire【吸血鬼】‐

どうも、放仮ごです。ちょっと病院に行ってて遅くなりました。

今回はついに…?楽しんでいただけると幸いです。


「まあ…これはイーサン・ウィンターズ。弟の馬鹿らしいゲームから逃げおおせた様ね?」

 

『マダオが弟なの?似てない!』

 

 

 こちらの顔を見るなり意地の悪い笑みを浮かべるクソデカオバサン。弟だというハイゼンベルクが相当嫌いな様だ。

 

 

「それじゃ、吟味させてもらおうかしら」

 

「「「はい、お母様」」」

 

「なにを…ぐあああ!?」

 

 

 クソデカオバサンが手を上げると、娘たちが頷いて俺を持ち上げ、俺の左手を突き出させるとナイフで掌を斬り裂き、顔を寄せると血を吸い取ってきた。こいつ、吸血鬼かなにかか!?感じたことのない感覚が俺を襲う。それを見てクソデカオバサンの背後で口元を押さえるエヴリン。

 

 

『あ』

 

「ん?…フウ。香味が抜けて来てるわ」

 

 

 うん?クソデカオバサンがエヴリンの声に反応した様に見えたが気のせいか?

 

 

「なら早くいただきましょう、お母様!」

 

「ダメ!私が捕まえたのよ!」

 

「喧嘩はおやめなさい。マザー・ミランダへ伝えるのが先よ。それが済んだら…たっぷり楽しませてもらうとしましょうね。吊るして!」

 

「待て、やめろ」

 

『イーサンの手がまた悲惨なことにぃいいいいい!』

 

「っ!?」

 

「おい、待て。やめろ。離せ!何をするんだ!」

 

 

 俺の手にフックを突き刺して鎖で吊し上げるクソデカオバサンの娘たち。やっぱりエヴリンの声に反応しているクソデカオバサン。吊し上げられて激痛が走りながらも、切断されるよりはマシだと思い至り冷静に考えてしまう。クソデカオバサンは周囲を見渡し、それに合わせてエヴリンが死角に移動。何もいないことを確認すると俺に向き直る。エヴリンを見ると、シーッとでも言うように口に人差し指を当ててジェスチャーしていた。

 

 

「…まあいいわ、気のせいね。口のきき方がなってないわね、イーサン・ウィンターズ。そこで大人しくしていなさい」

 

「待て…降ろせ!おい!」

 

 

 俺を拘束したら気が済んだのか、そのまま出て行くクソデカオバサンとその娘たち。娘たちが去り際に手を振ったり俺の血が付着したハンカチをヒラヒラしたりして煽ってきたのがムカついた。右掌を見る。次に左掌。これぐらいなら我慢すれば、なんとかなるか?

 

 

『イーサン、大丈夫?』

 

「ああ。お前のおかげで、痛みにも、慣れてきた!」

 

 

 掌が裂けるのも気にせず、力任せに引っ張って拘束から逃れ、着地。ポケットから回復薬を取り出して両手にかける。よし、痛いのは我慢すればいい。しかしあいつら、ベイカー家に比べてもだいぶ頭逝ってるやつらだったな。

 

 

「あいつら、イカレてる…」

 

『え。イーサンが言うのそれ。こわぁ…え、私のせいでこうなったの?さすがに責任感じる…』

 

「そんなことよりエヴリン」

 

『自分の手が裂けたことをそんなこと呼ばわりするんだ…』

 

「あのクソデカオバサン、お前のことが見えて聞こえているのか?」

 

 

 そう尋ねると、ビクッと直立し分かりやすく目を泳がせるエヴリン。睨みながら部屋を物色する。此処は寝室か?お、回復薬。それに紅いグラスも見つけた。こいつはデュークに売れそうだな、腰に引っ掛けている麻袋に入れておこう。

 

 

『考えないようにしてたのに…』

 

「…俺の血をアイツがとりこんだからか?」

 

『い、いやね?私も知らなかったんだよ?でも、ローズマリーにも私が見える理由がイーサンの血を受け継いでいるからとしか思えなくて……多分、イーサンの指を食べたライカンにも私が見えてたみたいでもしかして、と思ったんだけど…』

 

「見事的中したと」

 

 

 あの様子だと声は聞こえたが、エヴリンが死角に隠れて姿が見えてなくて確証は得れてないみたいだったな。まあ、どうせ触れないし鬱陶しいだけだから問題はないだろう。

 

 

「とりあえず探索するぞ。デュークの話だとこの城が怪しいってことだからな」

 

『敵が四人もいるのかあ。イーサン、今回はバーナー持ってないけど勝てるの?あの蟲女たち』

 

「なに、二丁のハンドガンが使えるからこれで…あ」

 

『どうしたの?』

 

 

 次の部屋を探索しながら二丁拳銃を取り出そうとして、左手で取りこぼして拾おうとしたことであることに思い至る。…俺、指失ったから左手だけで握るの難しいんじゃないのかこれ…?

 

 

『ええ…スタイリッシュなかっこいいイーサンが見れると思ったのにー』

 

「なんでスタイリッシュに戦う必要があるんだ…でもどうするかな、これ」

 

 

 使えないハンドガン二丁なんて、完全に金を無駄に使っただけである。とりあえず普通のハンドガンを構える。アクセサリーがぶらぶらしててイライラする。

 

 

『癒しに感じればいいんじゃないかな?』

 

「このムカつく顔で癒しになるわけないだろ。…くそっ、開かない」

 

『まあ閉じ込めるよねえ』

 

 

 そんな事を話しながら次の部屋に行こうとすると、施錠されていて閉じ込められてしまったらしい。どうしたものか…前の部屋もこの部屋も窓が無かったから壊して脱出もできなそうだしなあ。

 

 

「エヴリン、どこかに出口がないか探してくれ」

 

『私を便利な目だと思ってない?』

 

「思ってない思ってない」

 

『言っとくけど、私もパパの娘なんだからね!』

 

「お前を娘と認めたつもりはない」

 

『口ではひどいこと言ってるけど本当はー?』

 

「……」

 

『え、マジ?ひどーい、パパ』

 

 

 よよよ…と泣き真似しながら壁を擦り抜けて抜け道を探すエヴリン。…お前を娘だと言ってしまったら、俺はその娘を自分の手で殺したことになる。そう考えるのが嫌なので、認める訳にはいかないんだ。

 

 

『暖炉が抜け道になってるみたいだよ』

 

「ナイスだエヴリン」

 

『あと、今の内心聞こえてたからね?』

 

「忘れろ」

 

 

 エヴリンに言われて暖炉の奥へと這い進み、視界を這い回るねずみにうんざりしながら煌びやかな先程の部屋とは異なる狭く暗い空間に出た。しばらく道なりに歩くと、さっきの広間に出る。ここからどうするか。

 

 

「地図とかあればなあ」

 

『なんかメモとかないの?それに書くとかさ』

 

「持ってるわけないだろ…これは迷うぞ…」

 

『ベイカー家より広いもんねえ』

 

「民家と城を一緒にしてやるな」

 

『民……家……?』

 

「まあうん、お前の言いたいこともわかる」

 

 

 あの民家は普通の家じゃなかったからな…。城のあちこちにある文書を見るに、この城はドミトレスク城というらしい。そしてクソデカオバサンの本名がオルチーナ・ドミトレスクだとわかった。この城の城主だとか。あとあの三人の娘はオルチーナの息女のベイラ、カサンドラ、ダニエラというらしい。あの絵に描かれていた三姉妹とは別人に見えたが…不気味な仕掛けを解きながら先に進むと、大量の蟲が集いだしてきて慌てて両手を振り回して押しのける。右掌を一匹の蟲に貫かれて血が流れる。このままじゃ食い殺される…!?

 

 

「くそっ、なんだ!?」

 

『わっ、また出た!』

 

「男をバラすのは久しぶりだわ!まずは逆さ吊り…それから頸動脈を切ってあげるわね!」

 

 

 蟲が集い、目の前からハルパーを手にしてエヴリンの様に浮かんで襲いかかってくるベイラかカサンドラかダニエラかわからない女。俺は咄嗟にハンドガンを撃ち女の頭部に当てて蟲を散らしながら真正面から突っ込んで逃れる。サディストめ…!

 

 

「それは御免被る、このバグビッチめ!」

 

「まあ!なんて下品な。生きたまま?死んでから?どっちがいい?」

 

「どっちも嫌だな!」

 

「これでおしまい。いい子ね」

 

『ねえねえ。いいことを思いついたんだけど』

 

 

 階段の手すりに腰かけて滑り降りながら逃げていると、エヴリンが何やら提案してきた。滑り落ちる速さにバグビッチは追い付いてこれないようで結構余裕がある。

 

 

『観念してさ、襲われてみない?』

 

「は?」

 

 

 …どうした。俺に死んでほしいのか?と見てみれば、いつか見た小憎(こにく)たらしい笑顔を浮かべていた。




欠けた指で二丁拳銃できるわけないよね。そんなわけでイーサンの血(正確には細胞)が条件でエヴリンを認識できる様になると判明。

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第十話‐Grandguignol【猿芝居】‐

どうも、放仮ごです。「ここ好き」機能で読んでくれた人がどこが好きなのか見てみるのが面白くて好きです。なるほど、こういう描写が好まれるんだなと参考になります。

今回は題名通りの血生臭い大衆芝居となります。楽しんでいただけると幸いです。

※2021/05/21:ベイラをカサンドラに修正しました


『まあまあ』

 

「まあまあじゃないが。普通に噛まれるの痛いんだぞ」

 

『まあまあまあ』

 

 

 バグビッチから逃げながら「大人しく噛まれてみて♡(意訳)」とのたまうエヴリンと言い合いするが、エヴリンは宥めてくるだけで理由を話そうとしない。思いついた「いいこと」とやらに絶対の自信があるらしい。

 

 

「ディナーまで待てそうにないわ」

 

「それぐらい我慢しろ、お嬢様だろお前!」

 

「そうよ、いいわ!」

 

 

 そうこうしているうちに逃げ込んだ部屋が行き止まりでバグビッチに追い詰められ、俺の周りを飛び交う蟲の大群から少女の姿を取ったバグビッチは俺の首に噛み付いてきた。蟲女なのか吸血鬼なのかどっちかにしろ!とにかく押しのけて廊下に逃げ延びる。

 

 

「お母様はああ言ってたけど、美味しいじゃない」

 

「これでいいのか!?」

 

「あら。私はまだまだ満足してないわよ。本気?」

 

 

 問いかけてみるも、エヴリンから返答はない。どういうことだ、と振り向くと、バグビッチの向こうに床に二本の足で立って佇むエヴリンがいた。

 

 

『カサンドラお姉ちゃーん。こっちだよ』

 

「なっ!?」

 

 

 呼びかけられ、ビクッと反応するカサンドラと呼ばれたバグビッチ。そうか、こいつはカサンドラ・ドミトレスクか。カサンドラは振り返り、そこにいたエヴリンを見てしまったのか、分かりやすく狼狽えた。どうやらドミトレスク夫人と同じで俺の血を摂取したことでエヴリンを認識できるようになったらしい。

 

 

「この男以外に侵入者!?…いえ、いえ、今なんて言った?」

 

『お姉ちゃん。どこ見てるの?こっちだよ』

 

 

 壁に歩いていき姿を消して、カサンドラの背後、つまり俺の目の前に出てくるエヴリン。視線が合うと、ウィンクしてきた。そうか、これがお前の作戦か。

 

 

「私の姉妹はベイラとダニエラだけよ!お、おまえなんか妹じゃない!一体なんなのよ!」

 

『アハハハハハハハハハ!』

 

 

 ハルパーを振りかぶって斬りかかるカサンドラだったが、当たり前の様にエヴリンには当たらず、それどころか床に沈み込んでカサンドラの真横の壁から顔を出して笑い声を上げるエヴリン。タネが分かっていても恐怖に駆られる演出だ。そしてカサンドラの後ろに移動し、肩に手を回して顔と顔の距離を零距離まで詰めて怪しい笑みを浮かべるエヴリン。一瞬、こっちに向けて「早く行って」と口パクで言ってる様に見えたので発狂してその場でハルパーを振り回すカサンドラを無視して先に進むことにした。

 

 

『カサンドラお姉ちゃん。これからはずっと一緒だよ』

 

「アァアアアアアアアアアアア!?」

 

 

 背中から断末魔が聞こえると共に、思い出す。アイツは最恐最悪の怪物だったことを。

 

 

 

 

 

 行き止まりだと思っていたさっきの部屋の奥に板で塞がれた横穴を見つけ、破壊して進むと地下への入り口を見つけたので飛び降りる。梯子とかは無いようで普通に飛び降りることになったが痛いですんだ。ここは地下のようだ。

 

 

「これは…侍女の日記か?」

 

 

 そこにあった手記を見るに、1958年の頃からあのドミトレスク夫人と三姉妹は存在したようで、この城の使用人は村から集められた女だけで、些細なことでも夫人や三姉妹の機嫌を損ねると、ナイフで顔を切られたり地下に連れて行かれるらしい。そして興味深いことが書いてあった。

 

 

「暑いから窓を開けるとお嬢様たちが三人揃って「すぐに閉じろ!」と叫んだ、か」

 

 

 なんだ?それがあの蟲女たちの弱点なのか?蟲、窓……暑い……冷気か?今回はバーナーがないから蟲相手は勝ち目がないと思っていたが、窓がある部屋なら勝機はあるかもな。

 

 

『イーサーン』

 

「うん?エヴリンか」

 

『後ろ後ろ』

 

 

 どこからか聞き慣れた声が聞こえてきたので、手記を置いて辺りを見渡すと、後ろから声が聞こえたので振り向くと、小さな拳が眼前に迫ってきた。

 

 

『―――お前も家族だ。なーんて……ごめんなさいごめんなさい!私の顔を引っ掻きまわすのやめてー!』

 

 

 拳が俺の顔を擦り抜けたが、イラッと来たので無言でその笑っている顔に手を突っ込んでぐりぐり回すと赤らめた顔で泣きながら謝ってきた。なんかいけないことをしているようでゾクッと来たぞ。

 

 

「なんのつもりだ」

 

『イーサンがジャックにやられた場所と似てるなあ、と思って』

 

「心臓が止まるかと思ったぞ」

 

『あ、カサンドラは発狂してたから上に放置して来たよ』

 

「久々に見たがえげつないな、お前」

 

『今じゃ怨霊みたいなものだから本職だもんね!』

 

 

 ドヤ顔するエヴリン。どうやら脅かしたことですっきりした様だ。奥は行き止まりだったので、しょうがなく横穴を這って進むと、よりにもよってドミトレスク夫人の巨体が見える酒蔵の様な場所に出てしまった。思わず穴の中で無言で身を顰めると、壁から顔を出したらしいエヴリンが反応してしまった。

 

 

『クソデカオバサン…あ、ヤバッ』

 

「誰?誰かいるの?」

 

 

 慌てて顔を壁に引っ込めるエヴリン。ドミトレスク夫人は声に反応して辺りを見渡すが、誰もいないことを確認すると肩を竦めてワインボトルを片手に、体がデカいからか小さな扉からわざわざ屈んで通り抜けて酒蔵を後にしたのを確認。穴から這い出て、一緒に壁から出てきたエヴリンを睨みつける。

 

 

「お前なあ…もう声も聞こえてお前の姿が見えることを忘れたのか?」

 

『ごめんなさいごめんなさい、顔だけは許して』

 

「まったく…」

 

 

 ドミトレスク夫人が出て行った扉は鍵を閉められていることを確認。地下道になってる奥に進むと、戦いの間というらしい場所に出る。壁一面に戦う戦士たちが彫られていて不気味だ。壁に描かれている字によると「灯りを」とのことだったので、真ん中に垂れ下がる篝火を動かして燭台に灯してみると、奥の壁がスライドして通路が現れた。

 

 

「…ベイカー家の影絵ギミックに比べるとまだマシな仕掛けだな」

 

『そうだねー』

 

 

 奥は真っ暗で明かりを付けると牢屋の様であり、いたるところに拘束具や拷問器具や薬品があった。しかも赤黒い血がこびりついている。地下に連れてこられた侍女たちがここで悲惨な目に遭ったのは間違いなさそうだ。すると文書を見つけたので手に取ってみると、三年前にも見た様な事が書かれていた。

 

 

「なになに?適合したのが4人で廃棄されたのが12人…?……ベイカー家にも「転化」やら「破棄」やら書かれた名前の一覧があったよな…?」

 

『そんなのあったんだ。転化って私の家族になった人たちのことかな』

 

「まさか、あのドミトレスク夫人も家族ごっこでもしてるっていうのか?」

 

『言いにくいからクソデカオバサンでよくない?』

 

「雰囲気が壊れるからやめような」

 

 

 先に進むと見つけた文書には、さっきの文書で適合と書かれていた四人の名前が並んでいた。

 

 

「アリーナ、食欲旺盛。ミハエラ、食欲旺盛。ロイス、食欲旺盛。イングリド、不安定。時折意識覚醒…?家族じゃなくてラクーンシティのゾンビみたいな化け物でも作ってたってのか?」

 

『ここにいたりして』

 

「…ありえそうだな」

 

『え、マジ?私から離れないでね、イーサン!』

 

「お前攻撃当たらないんだからいい加減一人に慣れなさい」

 

 

 親子みたいな会話をしながら先を急ぐ。と、その瞬間唸り声が聞こえてきて。

 

 

『イーサン、そこ!』

 

「ちい!」

 

 

 エヴリンの指差した方向の暗闇にハンドガンの弾丸を叩き込む。頭部が砕けて倒れ伏したのは、皮と骨だけのミイラの様な身をローブに包んだ怪物。手には斧が握られている。ライカンとはまた違うのか!?さらに一匹だけじゃ無いようで、剣やら斧を握った奴らが奥から次々と現れたまらず逃げる。

 

 

「なんなんだ、こいつらは!」

 

『やっぱり私の友達の方がかわいいなあ』

 

「どっちもどっちだ、クソッたれ!」

 

 

 ハンドガンで牽制しながら地下牢を逃げ回る。あれが侍女たちの末路か。だとすると……狂い果てたベイカー家以上にクソッたれな奴だってことは間違いなさそうだな、クソデカオバサンもといオルチーナ・ドミトレスク!




イーサンの血を摂取するともれなく本気出したエヴリンにより恐怖を味わうことになる。攻めるのは得意でも攻められると弱くなるってあるよね。
ホラー演出は他にも書いているバイオ作品「Fate/Grand Order【The arms dealer】」のエヴリンのホラー演出をそのまま採用しました。これにも可愛いエヴリン出るからよければ見てね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十一話‐Who are you【お前は誰だ】‐

どうも、放仮ごです。前回話題に出したからかFGO/TADも結構な人数に見てもらえたようで嬉しかったです。

今回はVSベイラ・ドミトレスク。楽しんでいただけると幸いです。


「いい加減に、しやがれ!」

 

『わー、イーサンかっこいい!』

 

 

 襲いかかってきた侍女の成れの果てであるミイラの振り下ろしを避けて顎に銃口を突きつけて引き金を引くことで頭部を粉砕。力が抜けた胴体を蹴り飛ばして他のミイラにブチ当てる。

 

 

『イーサン、ここに面白い物があるよ!』

 

「こいつは…パイプ手榴弾か!なんでここにあるのか知らんが、喰らえ!」

 

 

 エヴリンの指差した場所にあったそれを、襲いかかってきた綺麗な首飾りをした奴が振り下ろしたハルバードを咄嗟に手を突っ込んで柄を握り受け止め、口に突っ込んで後ろの奴等目掛けて蹴り飛ばす。よたよたと後退した首飾りのミイラは他の奴等を押し倒し、爆発。木端微塵に吹き飛び、首飾りがカラカラと足元に転がってきたので拾い上げる。裏に持ち主と思われる名前が刻まれていた。

 

 

「イングリド…?」

 

『さっきの文書に書かれていた名前だね』

 

「ああ、確か時折意識覚醒していたとかいう……クソッ、ドミトレスクめ」

 

 

 首飾りをポケットに入れて、奥に上に繋がる階段が見えたので上って行くと、地上に出たあたりで温度が変わった、と認識した直後に蟲が纏わりついてきた。やつらか!

 

 

「カサンドラがしくじったせいでこんな面倒なことに…ねえ、教えなさいよ。あの子が発狂していたけどなにをしたの?」

 

『出たな、名前が良く分からない蟲女!』

 

「教えるつもりは毛頭ないな、このバグビッチめ!」

 

 

 蟲が集結し、女性の姿を形作った三姉妹の一人がハルパーを手に襲いかかってくるも、ハンドガンの銃身で刃を受け止めて逆に蹴り飛ばそうとするが、蟲がバラバラになって避けられる。厄介な!

 

 

「このベイラ・ドミトレスクに対してなんて口の聞き方かしら!躾けてやるわ、人間風情が!」

 

『どうぞー、美味しくないけどもれなく可愛い女の子がおまけでついてくるイーサンの血はこちらでーす』

 

「ふざけんな!」

 

「健康な男の血…待ちきれない!手間をかけさせないでよ」

 

 

 このベイラと名乗った三姉妹…確か長女、性格が違うのか、カサンドラと違って隙がない。ならばと自ら首を差し出してやると、やはりというか噛み付いてきた。さすがに二回目だと慣れてきた。

 

 

「血よ!新鮮な!人間の血…!温かい血!」

 

「そうかい、そりゃよかったなあ!」

 

『私も会えて嬉しいよ』

 

 

 後ろから聞こえてきたエヴリンの声に反応し振り返るベイラの隙を突いて、この狭い空間からの脱出を試みる。今回は姿を隠してのホラー演出か。

 

 

「だ、誰!?どこから…!」

 

『どこ見てるの?こっちだよ』

 

「な、なにこれ……声が身近で聞こえるのに、どこにもいない…!?」

 

 

 多分それ、足元か天井の中から声かけてるんだと思うぞ、と思いながら階段を上り、板で塞がれている行き止まりまで来た。勢いよく壊そうとすると、後ろから肩を掴まれて無理やり振り返らせられる。ベイラだった。な、なんで…!?

 

 

「どこへ行くつもりなの、坊や?」

 

『イーサン、ごめん!この人カサンドラと違って冷静!』

 

「幻聴が聞こえるのは血が足りないからよ!今すぐ血が欲しい。温かくて、新鮮で、真っ赤な色の血がね!」

 

 

 ベイラに突き飛ばされ、板の壁を突き破って冷たい雰囲気の部屋に倒れる。眩しい。この光源は…窓か!しめた!ベイラが覆いかぶさってきたので、咄嗟に銃を乱射するが、弾丸は突き抜けて行く。

 

 

「銃弾が私に効くとでも…」

 

「狙ったのはお前じゃない…窓だ!」

 

「え?キャアアアアアア!?」

 

 

 銃弾が炸裂した窓が罅割れ、外は吹雪いていたのか冷気が雪崩れ込んできた。冷気の直撃を受けて吹き飛ばされるベイラ。その体は凍てついて、蟲に分離することができなくなったようだ。

 

 

「クソ…おのれ、人間ごときが!その喉を斬り裂いてミミズを詰め込んでやる!」

 

『お姉さん、後ろだよ』

 

「ッ!?お前ええええ!」

 

 

 怒り狂って襲いかかろうとするも、後ろから話しかけられベイラは振り返る。するとそこには割れた窓の縁に浮かんでいるエヴリンの姿が。謎の少女から冷気を浴びせられているように見える事だろう。怒りの矛先をエヴリンに向けてハルパーを振り下ろすも擦り抜け、窓の縁に突き刺さって抜けなくなったようだ。チャンス!

 

 

「喰らえ!」

 

「がっ!?絶対にお前を許さない…いったい私になにをした!?生意気な人間めが!」

 

『私を無視しないでよ』

 

「顔を出したわね、殺してやる…があっ!?」

 

 

 銃弾を真面に浴びて、怒りのままにハルパーを引き抜き俺に襲いかかろうとするベイラ。しかし今度はベイラの胸から顔を出してケラケラ笑うエヴリンに声をかけられ彼女に向けてハルパーを振るう。するとエヴリンは直前で引っ込んでベイラは自らの胸をハルパーで刺し貫き、自傷ダメージでよろめくことに。それを目の前の床から出てきて笑うエヴリン。お前、趣味悪いぞ。

 

 

「私達に歯向かうなんて、許せない!それにお前は一体誰なのよ!」

 

『私?私は誰?私は誰?私は誰私は誰私は誰あはははははははははは』

 

「ひいっ!?がっ!?ぐうっ!?えっ…私の体が…崩れて行くわ!どうして、私がこんな…!?」

 

「これで終わりだ」

 

「あぁぁぁ!この、私がぁぁぁ!!」

 

 

 奇妙な笑い声を出したエヴリンに怯んだベイラの顔面に、立て続けにハンドガンを炸裂させると、その体が石灰化して固まって行く。それを見て弾が尽きたハンドガンを投げつけて粉砕。断末魔を上げてベイラは崩れ落ち、ぱらぱらとその欠片が転がった。…やった、のか?

 

 

『やったねイーサン!ねえねえ、どうだった?私の渾身の脅かし!』

 

「正直、ちょっと引いたぞ」

 

『ええー、ひどいー』

 

 

 落ちたハンドガンを手に取ってベルトに引っ掛け、ベイラの亡骸に埋もれていたトルソーの様な物を手に取って売れそうだったので麻袋に入れる。しかし、これからどうするか…

 

 

『あれ?ねえねえイーサン、これって…』

 

「うん?」

 

 

 エヴリンに呼ばれて奥の厨房らしき部屋に来ると、血の溜まったナベの中に豪勢な造形のワインボトルが浸されていた。これは…地下の酒蔵でドミトレスクが持っていったあのワインか?エチケット(ワインボトルのラベルのこと)にはサン・ヴィエルジェと記されている。血に浸すとは悪趣味な…よく見たらこの部屋、人間の肉と思われるものも吊るされているな…厨房にある意味は考えない様にしよう。

 

 

『あんな大事そうに持っていたし、何かに使えるかもね』

 

「だな。…だがこいつは普通に持ち歩かないと割れそうで怖いな」

 

 

 大事に抱えて奥の部屋に進んで扉の鍵を開け、先に進むとあの三姉妹の絵が描かれた広間に出て。二階にワインルームを見つけたのでサン・ヴィエルジェをそれっぽいところに飾るとスライドし、奥の隠し部屋から中庭の鍵を見つける。これで行けるところが広がった。そして中庭に行こうと降りてみると、さっき通る時は死角だった部屋に見覚えのある人物がいるのを見つけ、エヴリンと顔を見合わせると駆け寄った。

 

 

『あれ!?なんでえ!?』

 

「デューク!なんでここに…」

 

「ホッホッホ。また会いましたな」

 

 

 …エヴリンと一緒に入ってきて一応閉めた扉を見る。次にデュークの巨体を見る。……どうやってこの部屋に入って来たんだ…?

 

 

「商いは場所を選びません。娘さんは見つかりましたかな?」

 

「いや……ヤバい女どもはいたがな」

 

「もし娘さんがいらっしゃるとしたらこの城の主人の部屋が一番怪しいでしょうな。そうでしょう?」

 

『一番怪しいのデュークだけどね』

 

「ドミトレスクか?」

 

「ええいかにも。彼女の部屋に行けば、見つかるやも。それはそうと、何かご入り用では?」

 

『ねえ、さっきのトルソーと、首飾りも売っちゃえば?荷物になるだけだし』

 

「ああ、そうだった。このトルソーと首飾り、売れるか?」

 

「もちろんですとも!これは令嬢のトルソーですな。高価に買い取らせてくださいませ」

 

「助かる。あ、あとワイングラスも…」

 

 

 トルソーとイングリドの首飾りとワイングラスを売り払い、弾丸と回復薬を補充。椅子に座り、一息吐くのだった。…やっと一人倒せた。あと二人の姉妹とそれより強いであろうドミトレスクか…先は長いな。




ベイラの断末魔は声優ネタ。首飾りはイーサン的には売らないだろうけど、荷物になるだけだし…

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十二話‐Shining【光明】‐

どうも、放仮ごです。今回題名が思いつかなかったから無理やり入れました。

今回はドミトレスク城探索。楽しんでいただけると幸いです。


『あれ、デュークのいるとこって安全では?ヤッター!ヒャッホー!一生ここにいるー!』

 

 

 俺が一休みを終えて立ち上がると、デュークのいる場所が安全だと気付いたのかグルグル部屋の中を犬みたいにはしゃぎ回るエヴリン。楽しそうだが、俺達は進まねばならない。

 

 

「アホ言ってないで早く中庭に行くぞ」

 

『現実は無常なり~やだやだやだ!もう怖い所行きたくなーい!』

 

「じゃあ置いて行くぞ」

 

『それはもっとやだー!』

 

 

 駄々をこねるので置いて部屋を出ようとすると泣きながらついてくるエヴリンに溜め息を吐きながら、中庭に向かうべくデュークの部屋から出た途端、たかってくる蟲ども。

 

 

「アハハハハハハハ!お城を案内する?」

 

『うわ、また出た』

 

「生憎だが、丁寧にお断りさせてもらう!」

 

 

 人型を為して現れたのは、狂乱したようにハルパーを振り回す、おそらくカサンドラだった。発狂したままか、これなら逃げるのも容易そうだ。

 

 

『イーサン、中庭はこっち!』

 

「アァアアアアアア!喉が渇いてもう我慢できない…!」

 

『こっちだよ。ほら鬼さん、手の鳴る方へ』

 

「私の側に近寄るなアアアアアア!?」

 

 

 俺に行き先を示して逆方向に向かい、手を鳴らしてカサンドラを誘導するエヴリン。エヴリンのいる壁ギリギリの場所で力任せにハルパーが振り回され、壁に一文字の傷がつき穴が開く。するとその穴から顔だけを覗かせてニヤリと笑うエヴリン。有名なホラー映画の一シーンを彷彿とさせた。

 

 

『Here is Eveline!』

 

「助けてお母様ぁあああああああ!?」

 

 

 するとカサンドラはハルパーを落として頭を抱え、泣き喚いて大絶叫。今のうちにと中庭への扉の鍵を開け、蹴り開けて外に出た。気が済んだのか戻ってきたエヴリンにジト目を向ける。

 

 

「なんでシャイニングなんだ?」

 

『幻影の私が漏らしたぐらい怖かったから…』

 

「あー、あったなそんなこと…」

 

 

 中庭に生えていたハーブをむしり取って麻袋に入れながら思い出す。一年ぐらい前、件の映画を見ていた時、止せばいいのにホラー耐性がない癖に強がって見ていたエヴリンが、幻影なのにも関わらず粗相をしたように服をぐっしょり濡らしたことがあったのだ。あまりにも怖いと言うイメージなのか、現実は濡れはしなかったがエヴリンは羞恥と恐怖のあまり号泣、俺はそのあとその映画をエヴリンの泣き喚く声をBGMに見る羽目になった。

 

 

「進める道は二つだが、もう片方は鍵がかかってたから実質ここだけか」

 

『真ん中も怪しいけど何もなかったもんね』

 

「待て、隠れろエヴリン」

 

 

 扉を開けた途端、階段を上って行く巨体の女が見えて。咄嗟に扉を開けるのをやめて影に隠れる。エヴリンも口に手を当てて中を窺い、後ろ手にサムズアップしたので大丈夫だと安心し、改めて扉を開ける。危なかった、あの女とはまだ戦いたくない。せめてショットガンがあればなあ。

 

 

『こわっ。ねえなんでクソデカオバサンに血を吸われたの!私、クソデカオバサンには見られたくないんだけど』

 

「そう言われても不可抗力なんだよなあ…あと残念なお知らせだ、エヴリン」

 

『なに?』

 

「どうやら道はドミトレスクのいた上しかないらしい」

 

『やだー!』

 

「よくも私の娘を痛めつけてくれたわね!」

 

「『!』」

 

 

 上から怒声が聞こえてきて、二人して顔を見合わせる。どうやらベイラを倒したことがばれたらしい。そろりそろりと階段を上って行く。その横を無言で浮かぶエヴリン。道なりに進んでいくと、この城のマップを見つけた。ありがたく頂戴する。

 

 

『い、いないよね…?』

 

「どうやらこの閉ざされた扉の向こう側にいるらしいな」

 

『よ、よかった~』

 

「とりあえず、一番近いお風呂場とやらへ向かうぞ」

 

 

 地図を片手に扉を開けると、鉄の匂い。四つの多種多様な石像に囲まれたお風呂場と思われる空間に溜められていたのは水ではなく赤黒い血液だった。エリザベート・バートリーか?

 

 

『誰それ?』

 

「女吸血鬼カーミラのモデルになったと言われるハンガリーの貴婦人だ。自身の美しさを維持する為に人の生き血を用いたという史上名高い連続殺人者だ。700人もの娘を殺したらしい」

 

『なんかクソデカオバサンみたいだね』

 

「そうだな」

 

 

 奥の壁を調べてみると、「男と女が目を合わせてはならない。卑しき農民は誰にも見向きされず、女を見ることも許されない」とあったので、石像をその通りに動かしてみると、血液風呂が抜けて隠し階段が現れた。…また地下か。

 

 

「勘弁してくれ」

 

『正直地下の方が怖いよね』

 

「なんだここは…」

 

 

 降りてみると、血液が床に溜められていて。人間が吊るされていたりと、前回の地下牢より不気味だった。本当になんだここは。そして案の定、血液の中から現れたミイラの怪物をクリス直伝のクイックショットで怯ませて口に銃口を突っ込んで頭を吹っ飛ばして確実に仕留めることを繰り返しながら先に進む。

 

 

『わーい、私のパパかっこいいー!』

 

「お前のパパになった覚えはない」

 

『意地張らないでさー認知してよー』

 

「俺の娘はローズだけだ」

 

『ローズは私の妹だもんね!』

 

「はいはい」

 

 

 軽口を叩きながらミイラを倒しつつ、マップを確認しながら奥に向かうと古い昇降機があったので乗り込み上昇すると、バルコニーの様な場所に出た。電話の音がどこからか聞こえてくることに首を傾げながらも今にも崩れそうな不安定な足場を越えた途端、窓の向こうの部屋の扉を開ける音が聞こえたのでエヴリンと一緒に物陰に隠れる。

 

 

『クソデカオバサン…?』

 

「しーっ」

 

 

 やってきたのはドミトレスクで、この部屋で鳴ってる電話を取りに来たらしい。すぐには取らず、俺のいる窓際で煙管を吸って一服した後に化粧台の鏡の前の椅子に座ると受話器を取った。

 

 

「マザー・ミランダ。残念なご報告なのですが、ハイゼンベルクは愚かにも…イーサン・ウィンターズを()がしたようです。奴は今、貴女様から頂いた私の城に土足で踏み入り、娘たちの手を焼かせております。もし見つけたら……いえ、ミランダ様。儀式の重要さは(わたくし)も重々承知しております。必ずやご期待に」

 

 

 そう言って荒々しく受話器を置き、電話の乗ってる化粧台を持ち上げ投げつけるドミトレスク。ビクッと目を瞑り怯むエヴリン。その貴婦人らしからぬ荒々しさからは怒りが見て取れた。

 

 

「儀式など知ったことか!ドミトレスク家に仇なす者は決して許さない…!」

 

 

 そう言ってドミトレスクは部屋を立ち去って行った。…意外と、マザー・ミランダへの忠誠心が高いわけじゃないらしい。部屋に入ると、ここはドミトレスクの自室の様で、デュークの言葉を思い出しベビーベッドらしきものが見えたので慌てて駆け寄るがローズはいない。肩を落としながらも文書を見つけたので読んでみる。

 

 

「【ミランダお母様に呼ばれる。「御子」の父の処遇を話し合えとのこと。血の繋がりはないとはいえ…奴等と兄妹扱いされると虫唾が走る。特にあのハイゼンベルク!!下品で粗野な、卑しい血の男。お母様が止めなければ、この手で引き裂いていた。なぜ…お母様はわたしを奴らと同じに扱う?城を与えてくださったのも従順な娘や不死の血肉を与えてくれたのもわたしが特別だからでは?喉が渇く。】……奴は不死身だと?」

 

『クソデカオバサンとマダオと黒ずくめ陰キャとマザコンブサイクは血は繋がってない兄妹みたいだね。そりゃ似てないわけだ』

 

「父が俺のことだとすると御子ってのはローズのことか?…ここにはいない可能性の方が大きくなってきたな」

 

『あ、そこに鍵があるよ』

 

「なに?よし、でかした」

 

 

 壁にかかっていた紋章が入った鍵を手に取り、同じ紋章が入っている扉に挿し込む。ぴったり入った。

 

 

『ねえパパ、ここの奴ら倒したらこの城に住まない?めっちゃ豪華なんだけど』

 

「ローズが風邪引くから却下だ。そもそも村人が全滅してるから不便すぎる」

 

 

 そう馬鹿なことを話しながら開けようとすると、扉はひとりでに開いてドミトレスクが現れ、思わず後ずさる。エヴリンは絶句して俺の背後に回った。

 

 

「しまった……」

 

「見つけたわ。あんたの娘はここにはいないってのにまったく…」

 

『こ、この…顔も身長も態度も胸もお尻も全部クソデカオバサン!』

 

「誰がよ!?」

 

 

 …えーと、エヴリン?シリアスだから黙ってような?ドミトレスクに首を掴まれ持ち上げられながら、そう訴えるのが精いっぱいだった。




色々子供らしいエヴリン。次回、VSクソデカオバサン第一ラウンド。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十三話‐Family punch【そのための右手】‐

どうも、放仮ごです。そういや偶数ナンバリングなのにレオンは出なかったなと今更思い至りました。なら、イーサンがレオンみたいなことをしてもいいよね?

今回はVSクソデカオバサン第一ラウンド。伝家の宝刀炸裂です。楽しんでいただけると幸いです。


「イーサン・ウィンターズと、カサンドラの言っていた子供…眉唾物だったけど実在していたとはね。あの時聞こえた声は貴方かしら?」

 

『は、ハロー?』

 

「くそっ、放せ…!」

 

 

 ドミトレスクに首を掴んで持ち上げられ、床に勢いよく叩きつけられる。さすがに、ヤバい…!?

 

 

『イーサン!イーサンを放してよ!』

 

「そうはいかないわお嬢ちゃん。これは大人の話だから大人しくしていなさい。イーサン・ウィンターズ。貴方が連れてきたのかしら?まったく、ちっぽけなネズミの分際でこざかしくも私の城に入り込み…そればかりでなくその薄汚い手で娘たちに…手をかけ!」

 

 

 もう一度持ち上げられ、床に頭から叩きつけられる。床にひびが入ってきたような音がした。エヴリンは今にも泣きそうだ。

 

 

『やめて!やめてよ!それ以上はイーサンが戻れなくなる!』

 

「今度は私の大切なものまで…盗もうっていうの!?冗談じゃないわ!!」

 

 

 さらにもう一度持ち上げられて床に叩きつけられ、ついに崩壊。俺は地下に真っ逆様に落ちてしまう。エヴリンがスポンと天井を抜けて追いかけてきた、と認識した瞬間には石床に背中から叩きつけられる。頭がガンガンする。全身が痛い。ここは…地下牢かなにかか?

 

 

「そこで待っているがいいわ!地獄の底まで追いかけて、その体を斬り裂いてあげるから!」

 

「畜生。何とでも言え。冗談じゃないぞ…ったく」

 

『イーサン、大丈夫?』

 

「これが大丈夫に見えるか…がはっ」

 

『私、逃げれる場所を探してくる!』

 

 

 痛む体に鞭打ち、立ち上がって歩き出す。レバーがあったので操作し、先に進む。広いな。明かりが灯っているから前回の地下牢よりはマシな上、あのミイラもどきもいないからありがたいが。すると離れていたエヴリンがやって来て、レバーのある扉まで案内してきた。

 

 

『ここから出られそうだよ!』

 

「助かる」

 

 

 レバーに手をかけ、持ち上げようとしたその時。

 

 

『イーサン、駄目!』

 

「え?」

 

 

 エヴリンの声が慌てた様子で上げられ、同時に右腕に走る痛み。見れば。右手の手首から先が切断されていた。

 

 

「ああ、クソッ!?」

 

『イーサンの手がまた悲惨なことにー!?』

 

「ふっふっふ…逃げられると思った?」

 

 

 鋭い何かで斬られたようで、切断面から鮮血が噴き出す。以前ミアにチェーンソーで斬られた時とはまた別の激痛が走り、右手を押さえながら振り返ると、左手の長く鋭い爪を振り上げたドミトレスクが笑ってそこにいた。また首を掴まれ、今度は投げつけられて背中を強打する。不味い、このダメージは、不味い…!

 

 

「バラバラに斬り刻んでやる!可愛い我が子に会う前にね!」

 

『イーサン、しっかりして!イーサン!』

 

「イーサン・ウィンターズの次は貴方よ、お嬢ちゃん。うちの娘を狂わせてくれたお礼をたっぷりしてあげる…!」

 

『お礼ってなに!?わ、私は幻覚だよ?クソデカオバサンが見ている悪夢だよ?』

 

「誰がクソデカオバサンですって!?お姉さんよ、私は!」

 

『それは無理があると思うー!』

 

 

 ドミトレスクの側にわざわざ寄って、振るわれる爪の攻撃をひょいひょいと避けていくエヴリン。当たりもしないのに避けているのは、実体があるように錯覚させているのだろうか。今のうちに立ち上がらないと、生きないと…!しばらくエヴリンと遊んでいるかと思われたドミトレスクだが、俺が立ち上がったのを目ざとく見つけてエヴリンを押しのけ(るように見せ)て近づいてきた。

 

 

「逃がさないわよイーサン・ウィンターズ。どこへ行こうって言うのかしら。ドミトレスクの城を荒した罪を思い知るがいいわ!」

 

「はあ、はあ…もらいものの城をか?」

 

「…ぶっ殺す!」

 

『なんで怒らせるの、イーサン!?』

 

 

 鉄格子をやすやすと斬り裂きながらこちらに迫るドミトレスク。逃げ道が、ない。万事休すか…

 

 

『こうなったら…イーサン、右手をクソデカオバサンに突き出して!』

 

「お姉さんと言いなさい!クソガキャア!」

 

「は?」

 

『早く!』

 

「お、おう…?」

 

 

 凄まじい勢いで距離を詰めてきたドミトレスクに、エヴリンに言われるなり右手を突き出すと右手の切断面から見覚えのある黒いカビが湧き出て右拳を形成。驚く間もなく、ドミトレスクの腹部に炸裂し、吹き飛ばした。

 

 

「がああああ!?」

 

「なん……だと…!?」

 

 

 吐血しながら吹き飛んで頭から木箱に突っ込んだドミトレスクは無視して、右手を見やる。三年前に戦ったエヴリンの友達…モールデッドの腕にそっくりだった。思わずエヴリンを見やると、ドヤ顔を浮かべていた。

 

 

「エヴリン、お前…俺の体になにをした?」

 

『ピンチだから力を貸してあげたんだから感謝してよね。…そう怒らないでよ。イーサンを死なせないためには、それしかなかったんだから』

 

「お、おう…」

 

 

 すぐシュンとなってしまったエヴリンに、怒る気力も失せる。それよりも、今はドミトレスクだ。痛む体に鞭打って歩み寄り、肩に左手を置いて振り返らせると同時に右の異形の拳を振りかぶる。

 

 

「『お前も家族だ』…なんてなあ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 そして、エヴリンが声を合わせてきてお約束を口にしながらストレートパンチ。三年前のベイカー家で、ジャック・ベイカーに何度されたかわからない強力なパンチの真似だ。威力は絶大。顔面に直撃を受けたドミトレスクは昏倒し、その場に倒れる。不死身だろうが気絶はするだろうさ!

 

 

『今のうちだよ、イーサン!』

 

「ああ!またかよクソッたれ!」

 

 

 レバーの所まで戻り、斬られた右手を回収して奥に進み上の部屋で手に入れた鍵を使って扉を開けると、変な石像があって。悲嘆に暮れてるような石仮面を取ると、石像のある足場が上に迫り出した。

 

 

「よくもやってくれたわね…いくら逃げようとしたって無駄よ!モロアイカを解き放ってやったわ!」

 

「ちっ、もう起きてくるのか…」

 

『戻すよ、イーサン』

 

 

 ドミトレスクの声が聞こえてきたが、上に向かっているなら一安心だろう。するとエヴリンが声をかけて来て、右手が異形のものから切断された痛々しい姿に戻る。俺は切断面に回復薬をぶっかけて右手をくっつけると、再生した。思うままに動く。

 

 

「…よし」

 

『うっわ。なんでその傷で治るの?こっわ』

 

「お前のせいだろお前の!?」

 

 

 茶化してくるエヴリンに怒鳴るが、どこか申し訳なさそうにしているその姿に思い止まる。……今までも回復薬をかければ重症がすぐ治っていたが、カビの後遺症ってわけじゃなさそうだな。

 

 

「つまりエヴリン。…俺はまだ、お前に感染している。そういうことだな?」

 

『えっと…うん、そう考えてくれていいよ』

 

「ミアが心配していたのはこのことか…クソッたれ。俺がお前を見えるのも、お前が見せてる幻覚か?」

 

『それはちょっと違うかな…』

 

「まあなんでもいいさ。お前のおかげで助かった。その事実は変わらないからな」

 

『え?そう?そうかなー?ふっふーん!イーサンの命を救ったんだから感謝してよね!』

 

「すぐ調子に乗るな」

 

『わぎゃー!?顔を引っ掻き回すのはやめてー!?それにばっちい!』

 

「ばっちい言うな!?」

 

 

 シュンと大人しくしていたかと思えば胸を張ってドヤ顔をしていたのがムカついたので治ったばかりの右手をエヴリンの顔に突っ込んでグルグル回してやってると、石像が競り上がり終えて。そこは中庭のど真ん中だった。

 

 

『ここに繋がってたんだ』

 

「…前は安全地帯だった筈なんだがな」

 

 

 唸り声が聞こえてきたので嫌な予感がして上を見る。そこには複数のミイラの怪物がいた。ドミトレスクが言っていたモロアイカってこいつらのことか。

 

 

「エヴリン」

 

『なあに?』

 

「左手。指の部分を補強できるか?」

 

『難しいけど、やってみる』

 

 

 すると左手の薬指と小指が黒カビで構成されて。俺はハンドガンとサムライエッジを同時に構えた。念願の二丁拳銃だ。やってやる!




幻影エヴリンの新たな力。イーサンの四肢のモールデッド化。どういうメカニズムなのかは後程。この能力があるため二丁拳銃を使わせるつもりだったのです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十四話‐Mighty sister's【2人でビクトリー】‐

どうも、放仮ごです。城を長々と原作通りにやっていたらまだまだかかりそうなので今回から巻きに入ります。

今回はVSダニエラ&カサンドラ。楽しんでいただけると幸いです。


 正確な射撃はできないので、モロアイカの頭部ではなく胴体を狙って交互に撃つ。一発受けるたびにモロアイカはノックバックを受けて仰け反り、胸部を粉々に撃ち砕かれて沈黙した。

 

 

「よし、勘でやったがなんとかなるな」

 

『わー、すごいすごい!イーサン何者?』

 

「前にも言っただろ。ただのシステムエンジニアだ」

 

『嘘だあ』

 

 

 同じ手法でモロアイカを片付け、広間にやって来て、悲嘆に暮れた石仮面をそれらしい像に付けると床に沈んでいく。これをあと三つ揃えろってことか…?その流れで報告ついでにデュークの元に戻ることにした。

 

 

「ウィンターズ様。これはご無事で何より。どうでしたか?」

 

「無事じゃないが…アンタの言っていたドミトレスクの部屋に行ったがローズはいなかった」

 

『嘘を教えた訳じゃないよね?』

 

「それは…なんとも残念でしたなあ。まあこの城を出る頃にはまた道も(ひら)けましょう。そのために必要な物は分かっているはず。何か必要なものはありますかな?」

 

「いや、特にない。また頼む」

 

 

 そしてデュークの部屋を出て、地図を確認。なんの鍵で開けれるのかが描かれているのでありがたい。

 

 

「中庭に戻る必要があるようだな」

 

『先に向かって安全確認しとくね~』

 

「気を付けろよ。なにがいるかわからないんだから」

 

『私のことは見えないから大丈夫だよ~』

 

 

 そう言って扉の向こうに消えて行ったエヴリン。しかし数秒後には全力で泣き叫びながらダッシュで戻ってきた。何事だ?

 

 

『いたぁぁぁーッ!?』

 

「なにがだ…!?」

 

「ほら。見つけたわ。待たせたわね」

 

 

 扉を開けて背を屈めて現れたのは、ドミトレスク。ゆっくりと迫ってきたので、咄嗟に二丁拳銃を乱射するがビクともせずに余裕の表情で歩み寄ってくる。

 

 

『しつこい!クソデカオバサン!』

 

「お姉さんよ!貴様、汚らわしいよそ者の分際で…頭を斬り落としてあげる!」

 

「エヴリン!」

 

『ほいきた!』

 

 

 しょうがないのでエヴリンに呼びかけ、両腕を異形の拳に変異。殴りかかるが首根っこを掴まれて持ち上げられてしまう。これじゃ、殴っても大した威力は出ない…!

 

 

「同じ手が通用するとでも…?」

 

『だったら新しい手はどうだ!』

 

 

 諦めずに右拳を腹部に当てていたら、エヴリンが手をかざすとモールデッド化が一回解けてもう一度変異。今度はブレード・モールデッドの腕になってドミトレスクを串刺しにした。

 

 

「がはあ!?」

 

「今の内だ、逃げるぞ!」

 

『言われなくてもこんなクソデカオバサン相手にしたくないよ!』

 

「お・ね・え・さ・ん・よ…!」

 

 

 深々と刺さったはずの傷は既に完治し、怒りの声を上げながら立ち上がるドミトレスクから全速力で逃走。

 

 

『早く早く!』

 

「急かすな、手元が狂う」

 

 

 中庭に戻り、ドミトレスクの部屋の鍵を使って以前は入れなかった扉に入ると一安心して腕のモールデッド化が解かれる。虎の子だが通用しないとなると形振り構ってられないな。強力な武器が手に入るといいんだが。するとまた地図があって。この区域に歌劇場があることを確認するがそちらには入れなかったので階段を上り、次の部屋に入ると文書を見つけたので読むと、何かしらの処置に関してだった。それによると三姉妹の出生がわかった。

 

 

『村娘が蟲に変異…?』

 

「…ああ。ドミトレスクと三姉妹は血が繋がってない家族らしい。どっかの誰かさんみたいだな?」

 

『…否定できない』

 

「そこは否定しろよ。私の求めた家族はこんなのじゃないって」

 

『…でも、私の作った家族はああだったよ。うわべだけの愛なんて、欲しくない』

 

「……今のお前は違うだろ」

 

『イーサン…!認知してくれるの?』

 

「それとこれとは話は別だ」

 

 

 モロアイカが屋内にもいたので処理しつつ、先に進み、階段を下りるとピアノがあった。ここが歌劇場か。楽譜も置かれていて、弾けってことらしい。

 

 

「…俺、ピアノとかからっきしなんだが」

 

『しょうがないなー。生物兵器として世間に紛れ込むために英才教育を受けたこの私にまっかせて』

 

「そういやそんな生物兵器だったな」

 

 

 言われるなり椅子に座り、手を置く。するとモールデッド化した腕が変異を繰り返して勝手に鍵盤を操作。真剣に譜面を見ながらエヴリンによる俺の体を介した演奏が披露され終えると、ピアノの中から鉄格子の紋章の鍵が出てきた。この紋章は…城のあちこちと村でも見たな。

 

 

『どんなもんよ』

 

「真面目に称賛するよ」

 

『え、ほんと?やったー!』

 

 

 褒めると喜んで小躍りするエヴリンを連れて先に進む。次の部屋は、ソラリウムらしい。しかし入った途端、蟲が敷き詰められて閉じ込められてしまった。集う蟲。しかし量が尋常じゃない、二人いる…!?

 

 

『うわ、気持ち悪い!』

 

「フフフッ、やっと私に会いに来たのね?みんな私に夢中になるのよ…あなたって本当に可哀想な男…あぁ。もう可愛くて丸ごと食べちゃいたい。私…ディナーが待ちきれなくって」

 

「アァアアアアア!楽しい狩りが台無しよ!もう許さない、許さない!お前は剥製にしてやる!ダニエラ、合わせなさい!」

 

『うわっ、こわっ』

 

「あらあら。カサンドラお姉さまったら。そんなカッカしないで?あなたったら、カサンドラお姉さまをこんなにしてしまって。いけない子ね。逃げようたって無駄だから」

 

『こっちはメンヘラだあ』

 

 

 現れたのは、残りの蟲三姉妹。ダニエラとカサンドラ。カサンドラは発狂しながら突進し、ダニエラは余裕そうで歩み寄ってくる。この部屋に窓は…探している暇はない。とにかく反撃か。

 

 

「クソッたれ!」

 

「あぁ、照れちゃって。もっと痛いのがお好き?とっても素敵だわ…喉がカラカラなの…わかる?」

 

「もう終わりよ!お前ごときが…!」

 

 

 ハンドガンとサムライエッジを乱射。しかしやはり弾丸は突き抜けてしまう。怯ませる事すらできず、振り下ろしてきたハルパーを避けきれず斬り裂かれる。だが、ドミトレスクよりはマシだと銃を持った手で殴りつけるが突き抜けたどころか後ろに回り込まれて背中をざっくりやられる。クソッ、…待てよ。この光源はどこだ…?

 

 

『イーサン、上!』

 

「この疫病神が!私を怒らせないでよね!」

 

「私を見なさい。ねえ…キスして。私と一緒に楽しみましょうよ」

 

 

 するとカサンドラがエヴリンに反応してそちらにハルパーを振り回し、ダニエラは余裕過ぎるあまり攻撃するのをやめて頓珍漢なことを言い出した。…本気かどうかは知らんが。両手のハンドガンの銃口を上に向ける。そこには、明るく照らす天窓が。

 

 

「生憎だがな。俺は俺の家族だけを愛すると誓っている!」

 

「ダメっ、寒すぎる!」

 

「私の体が…!」

 

『もう驚かせる必要もないもんね!やっちゃえ、イーサン!』

 

 

 天窓を破壊し、上から降り注ぐ冷気を受けて固まる蟲の肉体に悲鳴を上げるダニエラとカサンドラ。すかさずハンドガン二丁を向けて乱射、全身を撃ち抜かれて後退する両者に突進、渾身の蹴りを叩き込んでカサンドラを蹴り飛ばす。

 

 

「がはっ!?ど…どうして!?お前は私の獲物なのに…!」

 

「もう、意地悪なのね。死んじゃうじゃない!?なんでこんなことするの!?」

 

「なんでも糞もあるか。俺はお前らの敵だ。それだけだ!エヴリン!」

 

『やっちゃえイーサン!』

 

 

 エヴリンに呼びかけて、ハンドガンを手放した右手をブレード・モールデッド化。拳を握り、ダニエラの腹部に叩き込む。

 

 

「ぐはっ…なんで、私を愛してないの!?今までの人は喜んでたわ!私の一部になれるっていうのに!」

 

「言っただろ。俺が愛するのは家族だけだ。お前の一部になるなんて死んでもごめんだ!」

 

「よくもやってくれたわね!」

 

「不意打ちなら声は出さない方がいいぞ」

 

 

 腹部を貫通した腕を振り回してダニエラを柱に投げ飛ばし、襲いかかってきたカサンドラの眉間にサムライエッジの弾丸を叩き込む。…生憎とだがな。ドミトレスクに比べれば、弱点がある分2人がかりでも怖くはない。俺に手を伸ばして石灰化していくその姿からは哀愁を感じた。こいつらも、ドミトレスクの犠牲者なんだよな…。

 

 

「夢よ…これは夢。イヤ。私まだ…死にたくない…」

 

「逃がさないわよ…!お前は私の…大事な獲物なんだから…」

 

『前に映画で見たな、こんなの。地獄で会おうぜベイビー?』

 

「…虫はうんざりだ。イカレた魔女共め」

 

 

 そしてダニエラとカサンドラは石灰化して崩れ落ち、残ったトルソーを麻袋に入れると俺達はソラリウムを後にした。あとはドミトレスクか。不死身でも弱点はあるはずだ。不死身にも思えたジャックだって最終的には倒せたのだから。




ブレード・モールデッド化もできるイーサンの腕。エヴリンの苦手な物にクソデカオバサンが追加されました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十五話‐Dragon bastar【空中大決戦】‐

どうも、放仮ごです。だいぶ端折ってついにドミトレスク城編クライマックスとなります。原作の戦いも好きですが決戦と言えば熱い展開じゃないとね。

今回はVS変異ドミトレスク。楽しんでいただけると幸いです。


 探索の途中で立ち寄った屋根裏部屋でスナイパーライフルを見つけ、古今東西の毒が塗られた「死花の短剣」なる中世の品が城のどこかにあるという文書を見つけた俺達。三姉妹を倒されて怒髪天のドミトレスクの追跡を避けつつ地図を見ながら行ったことのない城の各地で数々の仕掛けを解き、石仮面を全て集め終えた俺は広間に戻ってきて全ての彫像に仮面をはめこんでいた。

 

 

「よし、これで先に進めるはずだ」

 

『死花の短剣は見つからなかったね』

 

「いや、こんな厳重な仕掛けだ。この先にあると考えてよさそうだぞ」

 

 

 大扉が開き、開くとそこは外で。城の外壁に当たる部分らしく、目の前には聳え立つ塔があった。凍てつく風にエヴリンが震える。

 

 

『さ、寒い…こんなところにあるのかなあ』

 

「塔の中を探すぞ。ドミトレスクが来ないことを祈ろう」

 

『さすがに仮面全部をはめたことには気付くんじゃないかなあ…』

 

 

 塔の中に入ると教会の様な場所で。一番奥に棺のようなものがあったので近づき、開けてみると、何者かの死体が大事そうに特徴的な鋭利な形の短剣を抱えていた。死体の手をどかして手に取る。これが死花の短剣か。すると背後からエヴリンの焦った様な警告の声が響く。

 

 

『イーサン!』

 

「がっ!?」

 

 

 振り向くより前に、短剣を握った手を掴まれ無理やり振り返させられると、そこにはドミトレスクが憤怒の表情を浮かべて俺の手を捻り上げており、右手の鋭い爪を俺の腹部に突き刺してきた。

 

 

「お前のせいで全てが台無しよ!」

 

「がああああ!?」

 

『イーサン!イーサンから離れろ、クソデカオバサン!』

 

「もう挑発には乗らないわよ、お嬢ちゃん。このまま串刺しにして血を搾り取ってやる!」

 

 

 突き刺したまま持ち上げられるが、短剣を握った右手が奴の左手から解放されたことに気付き、渾身の力で脇腹に突き刺した。

 

 

『やったか?』

 

「アァァァァア!?…このぉ!」

 

 

 悲鳴を上げ、目を赤く血走らせながら左手で俺の首を掴むドミトレスク。そのまま窓に投げつけ、爪から解放された俺は外に投げ出されてしまうも、短剣は強く握りしめて、腰のベルトに挿し込んだ。これはまだ使えそうだ。

 

 

『イーサン、クソデカオバサンの様子が!』

 

「なに?」

 

 

 エヴリンに言われて視線を向けると、苦しみ悶えながら体を変形させていくドミトレスクの姿が。竜の様な巨大な翼が生え、スカートの下の下半身が異常に膨らんで蜥蜴の様な四肢と尻尾、異形の巨大な頭部が飛び出し、横の壁を突き破ってその姿を現した。…おいおいマジかよ。

 

 

「ドラゴンだと…!?」

 

『わー!うちのジャックの変異よりかっこいい!ずるい!クソデカオバサンの癖に!』

 

「私はお姉さんよォオオオオオオオ!!」

 

 

 両腕を失い全身白くなり背中から触手を伸ばし、辛うじて女性と分かるシルエットの上半身になったドミトレスクが吠える。カビのおかげか突き刺された腹はもう痛まないが、こいつは冗談じゃないぞ。

 

 

「その肉も…骨も…その体すべて貪り喰ってやるわ!」

 

「ぐあっ…」

 

『イーサンが飛んだー!?』

 

 

 ドミトレスクは羽ばたいて飛翔、大きく距離を開けると突進してきてその巨大な前足で体を掴まれ、持っていかれる。くそっ、これじゃ武器が使えない…!

 

 

「血が足りない…血を!もっと血を!さっさとその肉を喰わせなあ!」

 

『イーサン!こうなったら、あんまりなりたくないけど奥の手だあああああ!』

 

 

 すると置いて行かれたエヴリンの方で動きがあった。エヴリンの姿が黒い液体の様になって溶けたかと思うとその場に黒いカビ溜まりを形成。顔が形成されると首が伸びる様にして異形の怪物が空に飛びだした。あれは、俺がエヴリンを殺した時の…暴走形態の姿か!?

 

 

「な、なに!?」

 

『イーサンを離せぇええええ!』

 

 

 俺を捕まえた白い異形の竜と、野太い声で吠える異形の黒い怪物が空中で壮絶な追いかけっこを繰り広げる。首が伸びる顔面の様なエヴリンは触手を伸ばしてドミトレスクを追い込んでいき、物理判定があると思い込んでいるのかドミトレスクは必死に回避。追い詰められて城の塔の一つに降り立ち、俺を投げ出した。

 

 

「運のいい男ね、イーサン!」

 

「がはっ…クソッたれ。やっと中身に見合う姿になったようだな、この化け物が!」

 

「私よりもあっちの方が化け物よ!なに、あの、怪物!」

 

「アイツは俺の家族だ。今のお前の姿よりは愛おしいね!」

 

「アーハッハッハ!戯言を!この手で嬲り殺してやるわ!」

 

 

 俺の言葉に激昂して襲いかかろうとしてきたので、背中にかけていたスナイパーライフルをスコープを覗かずに銃口を向けて引き金を引き、重い一撃を口のど真ん中にブチ当てる。すると悲鳴を上げて飛び立つドミトレスク。しかし上空から暴走形態の姿のエヴリンが迫っていたので逃れる様に離脱。今のうちに戦える場所を目指す。

 

 

「クソッ、一体なんだってのよあの餓鬼!子供かと思えば怪物にまでなるなんて……まるで私達四貴族の様な…いずれにせよ、ミランダ様の他に私のこの姿を見たのはお前たちだけよ!レディの素顔を見た罪を償いなさい!」

 

「『断る!』」

 

「ムカつくほど仲がいいわね…!イーサン・ウィンターズ!お前を滅ぼしてやる!お前だけは決して許してなるものか!」

 

 

 エヴリンから逃れる様に飛びながら蟲の群れを呼び出して俺に嗾けてくるドミトレスク。二丁拳銃で迎え撃ち、逃げながら撃ち抜いて行く。

 

 

『好き勝手に動かさせないんだから!』

 

「私から全てを奪い取るつもりなのかい!?お前の腹を斬り裂いてその腸をぶちまけてやるわ!」

 

「先に奪ったのはお前らだ!俺の娘を、村人たちの命を!どうこう言われる謂れはない!お前の、血の繋がってない娘たちを殺したのは悪いと思っているがな!」

 

 

 蟲を全部撃ち落としながらそう叫ぶと、エヴリンに追い込まれるようにしてこちらに大口を開けて突っ込んでくるドミトレスク。冷静にスナイパーライフルを構え、ドミトレスクの頭部に照準を向けて引き金を引く。

 

 

「ぐう!?後悔してももう遅いのよ!喰ってやる!お前を喰ってやるわ!」

 

「っ!」

 

 

 三発撃ち込むと、やみくもに突進してきたのでライフルを背中に戻しつつ全速力で後ろにダッシュ。しかしついに追い詰められてしまう。なにか…何か手は!?

 

 

「もう逃がさない!お前をグチャグチャに潰してやるわ!」

 

「そうだ、エヴリン!俺の四肢を、あの素早い奴のに変えれるか!?」

 

『わかった!えっとたしか…クイック・モールデッド!』

 

 

 エヴリンに呼びかけると、姿を変えた状態で力の行使はできないのか元の姿に戻って俺の側に浮遊しつつ両手を俺にかざす。すると俺の両手と両足の先端が変異。その場で跳躍して空に飛び上がったドミトレスクの竜の背中に飛び乗った。人型のエヴリンも浮かんで着いてくる。

 

 

「なに!?」

 

「逃がさないのはこっちだ」

 

『観念した方がいいよ、クソババア!』

 

「言ったわね、禁句を!恥ずかしがらずに正直に言いなさい!この私が恐ろしいって!」

 

『恐ろしいよりかっこいい!だけど死ね!』

 

「むしろ人型の方が怖かったまであるな!」

 

 

 空で悶え暴れる竜の背中で、上半身で両腕がなく触手を伸ばして攻撃してくるドミトレスクと、両足で竜の背中を掴んで両腕の鉤爪で触手を斬り裂き対抗する俺。どんどん人間離れしていることは自覚しているが、化け物には化け物をぶつけるしかないだろう!

 

 

「ローズは私達の希望!アンタなんかに渡してたまるもんですか!よくも娘を救うなどとふざけたことを!私の娘を殺しておいて!この…人間風情が!」

 

「ああ、悪かったよ。だがな!何人もの娘を殺してきたお前に言われる筋合いはないんだよ!」

 

『このイーサンを見て人間風情ってよく言えるね!』

 

「全くその通り、だな!」

 

 

 エヴリンに目配せして右手を元に戻してもらい、腰のベルトに挿していた死花の短剣を手に取る。ドミトレスクは天高く舞い上がり、俺を落とそうと試みていた。

 

 

「それじゃ…楽にしてあげるわね!」

 

『楽になるのは!』

 

「お前だ!」

 

 

 そして、クイック・モールデッドの脚でしがみ付きながら異形の左手で触手を掴み引き寄せると、ドミトレスクの胸元に死花の短剣を突き立てる。ドミトレスクは吐血し悶え苦しむも、俺を突き放す手はもうない。俺は深く踏み込んで根元まで突き刺した。すると翼が力を失くして落下し、天高くから塔へと落ちて行くドミトレスク。同時に抜けた短剣も空の彼方に消えて行く。不味い、このままだと俺まで…!?

 

 

「おのれ!よくも…ウィンターズ!だけどお前も道連れよ!遅すぎたわね…お前は二度とローズに会えない!己の無力さを知るがいいわ!!」

 

「クソッたれ…!?」

 

『イーサン、壁に飛びついて!』

 

「なるほど、な!」

 

 

 エヴリンに言われて、右手がクイック・モールデッド化するのを確認し壁に飛びつきしがみつくと、ドミトレスクの巨体はそのまま落下。地響きが鳴り響き、俺は飛び降りて側に降り立つ。

 

 

「呪ってやる……ァアアアア!?」

 

 

 ドミトレスクは石床に激突して伸びた状態で俺を見上げて呻いたのを最期に、断末魔と共に石灰化して崩れ落ち、残ったのはドミトレスクを模った結晶像だけだった。

 

 

「…呪われてるのは、お前だ。クソッたれ」

 

『呪わないでくださいお願いします』

 

 

 吐き捨てる俺と、怯えるエヴリン。俺達二人が本当の意味で共闘してようやく勝てた強敵だった。…これから、どうしたもんかね。




結局自分には触れないことは最期までドミトレスクに気付かれなかったエヴリンでした。当分エヴリンが見える敵は出てこないので暴走形態になれることも披露。怯ませる事しか出来ませんが。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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死神が誘う人形館
第十六話‐Eveline In family【悪夢の所在】‐


どうも、放仮ごです。分かりやすいように章を追加してみました。そしてついにUAが 100000行きましたありがとうございます!なんか早すぎる気もするけどこれからも頑張らせていただきます!

今回はドミトレスク戦後のイーサン達。エヴリンは天国から地獄へ…?楽しんでいただけると幸いです。


『ところでイーサン?』

 

「なんだ?そんな改まって」

 

 

 元の姿に戻った両手をグッパして調子を確かめていると、エヴリンがモジモジとしながらふよふよと近づいてきた。一体どうしたんだ?もしかしてアレか?

 

 

「ああ、お前のあの姿については特に怖いとも気持ち悪いとも思ってないから安心しろ」

 

『それ思っている人の言葉!そうじゃなくてね、えっと…私が家族だって言ってたの、本当?』

 

「…な、ナンノコトデショウカ」

 

 

 思わず片言になってしまった。何故だ、確かにドミトレスクにそう啖呵を切ったが、あれは上空にいたエヴリンには聞こえてないと思ったからで…

 

 

『イーサン。忘れてると思うけど、私。イーサンに見える幻影、だからね?イーサン本体が言ってることは何処にいても聞こえているよ。私と離れて空中を飛び回っていた時もちゃんと私の声がはっきり聞こえていたでしょ?』

 

「頼む!忘れてくれ、頼む!……忘れろ。頼むから」

 

 

 頭を抱えて叫び散らす。一周回って冷静になって懇願する。恥ずかしい、聞こえていたとか恥ずかしいがすぎる!

 

 

『へー、イーサンはやっぱり私を家族だと思ってるんだあ、へー……大丈夫?気付かないうちに私に洗脳されてたりしない?』

 

「お前、言ってて悲しくならないのか?」

 

 

 俺を虐めようとしたのかと思えばすぐに心配そうに覗きこんでくるエヴリン。洗脳されてるならエヴリンの言うことは何でも聞いてるだろうから洗脳はされてないだろうよ。三年も一緒に過ごすうちに、心を許せる家族だと認識してしまっていたのは事実だが……だが、エヴリンは自分を殺した俺が恥も外聞もなく家族だと思っていることを嫌がらないだろうか。

 

 

『私を殺したからって家族になれないわけがないよ。そもそも私、生きてた頃は老化で死んだ方がマシな状態だったし。むしろ殺してくれてありがとう?的な。どうしてみんな私を嫌うの?って世界を恨んでたけどね』

 

「生きてた頃のお前は嫌われて当然だったよ。クソガキめ」

 

『ひどい。でも今はー?』

 

「…やったことはともかく、幻影として付き合ってきたお前個人としては好ましいと思ってるよ。ああそうだ、家族だと思っている。認めるよ。お前はローズの姉だ。ミアには内緒だぞ?」

 

『……んんん、やったー!イーサンの公認だー!ローズマリーを取り返したら死ぬほど可愛がるぞー!』

 

「ははは…そいつはやめてくれ」

 

 

 心の底から喜んで空中をクルクル回るエヴリン。それを見て微笑ましく思いながら、周りを見渡すと、奥の台座に変な物を見つけた。紋章が模られた蓋の四角いガラス製のものだ。手に取ると外への出口が開いた謎仕様の仕掛けはともかく、これはなんだ?辛うじて【EVE №3】とラベルに書かれているのは分かるが…

 

 

「なんだ、これ?フラスク…?何か入ってるみたいだが汚れていて中は見えないな」

 

『私に任せて!見てみる!』

 

 

 そう言って顔をフラスクに突っ込むエヴリン。すると10秒も経たないうちに酷く憔悴した顔でフラスクから顔を離し、気持ち悪そうにするとその場で黒い液体状のカビの様な物を吐瀉してしまう。幻影だからすぐ消えて行くが、一体どうしたんだ?

 

 

『ゲホッゴホッ…そんな……ひどい、なんで…?』

 

「どうしたんだ?」

 

『………ううん。なんでもない。何かの間違いだ。きっとそう。でもイーサンは見ない方がいい。見ないで、お願い…』

 

「お、おう…?」

 

 

 さっきまでのご機嫌な様子とは打って変わって酷く憔悴しきった様子のエヴリンに首を傾げながら、俺達は城を後にすることにした。雪道を通り、道なりに進んだ先にあった洞穴を進むと、聞き覚えのある老婆の声が何かを唱えているのが聞こえてきた。

 

 

「この声は?」

 

『ダッシュババア!』

 

 

 急いで奥まで進み、扉を開けるとそこには祭壇を囲って謎の儀式をやっている老婆がいた。祭壇には赤ん坊を抱えたシスターの様な女性の写真が花やら蝋燭やらが飾られている。マザー・ミランダか?壁にも何か紋章の様な物が描かれているが…ここはなんだ…?

 

 

「深夜の月が黒き翼で舞い上がり最後の灯りを待つのみ。生にも。死にも。マザー・ミランダに栄光を…」

 

『正直このダッシュババアが一番よくわからないよね』

 

「ああ、そうだな。おい、覚えているか?城じゃ危うく死にかけたぞダッシュババア。この村で一体何が起きてるんだ?」

 

「ついに完全に狂うてしもうたか、ダッシュババアとはなんじゃ…?まあよい。死にかけたということは生きてるということ。賢者と交わす問答じゃ」

 

 

 そう言って手にしていた翼の装飾が入った鍵を祭壇の箱の中に大事にしまう老婆。エヴリンに釣られてダッシュババア言ってしまったのは間違いだったか?

 

 

『あーいえばこーいう!』

 

「まだローズが見つからない。あの子は何処へ連れて行かれた?」

 

「ふははははは!もう手遅れじゃ!いや正しくは手遅れに「なりかけている」か?あの子は生贄となる。命に捧ぐため」

 

『お前!やっぱりなんか知ってるな!言え!言わないと殺すぞ!』

 

「ま、待て!」

 

 

 俺の右腕を強制的にブレード・モールデッド化させて老婆をに刃を伸ばそうとするエヴリンに、左手で右腕を押さえながら制止する。老婆は襲われると思ったのか杖を手に構えていた。心なしか、杖を握る手が若返ったように見えるが気のせいだろう。どうしたんだエヴリン、一体何を見たんだ!?

 

 

『…ご、ごめん。イーサン、私、そんなつもりは…』

 

「はあ、気にするな。生贄だって?中世の話じゃあるまいし、ただの赤ん坊だ!」

 

「見たぞ、見ていたぞ。お主のその体から生まれた子がただの赤ん坊だと?まあよい。4つの家紋を捜せば道が開けるかも知れぬぞ」

 

『イーサン、この紋章…』

 

 

 壁の紋章に杖を向ける老婆。暗い表情のエヴリンに言われて左上を見れば、あのフラスクや城のあちこちにあったドミトレスクのものと思われる紋章もあった。まさか、この紋章は四貴族のものか?だが中心の紋章、どこかで…?なんにしてもだ。

 

 

「謎かけしてる場合じゃない。捜してるのは娘だ」

 

「謎が解けた時、謎かけではなくなる」

 

「おい、待ってくれ!……頼む!」

 

 

 そう言って俺達が入ってきた扉を閉めて去って行く老婆を呼び止めるが止まらず、俺はエヴリンに視線を向けると光を取り戻した目で強く頷いた。

 

 

『うん、今度は逃がさない!………って、はやっ!?』

 

「またダッシュで逃げられたか…」

 

 

 扉を潜り抜けた瞬間、驚愕の声を漏らすエヴリンに溜め息を漏らす。一体あの老婆は何者だ?とりあえず、奥に進む扉が開きそうになかったので祭壇の箱にさっき老婆がいれていた双翼の鍵を手に取り、開けて洞窟の外に出ると、巨大な四つの石像に囲まれた中心にさっき見た壁の中央の紋章に似たものが描かれたよく分からない何かがある広場に出た。よくわからないものしかないなこの村は。

 

 

『ごめん、イーサン…』

 

「いや、気にするな。それよりさっきはどうしたんだ?」

 

『ダッシュババアを締め上げれば早いと思って、そしたら怒りの歯止めが効かなくなって…操ることはできないけど、変異した部位を伸ばすことはできるから…』

 

「気持ちは分かるが、もしなんの力もない一般人だったらどうするんだ」

 

『それはないと思う』

 

「それは、同感だ」

 

 

 とりあえずこの広場ではなにもできそうになかったので先に進むことにする。道中の橋でライカンが三体ぐらい飛び出してきたが、さすがにあのクソデカオバ…失礼、故ドミトレスクの後だ。スナイパーライフルと二丁拳銃が火を噴いて片付ける。もうライカン程度なら数も多くなければ怖くないな。

 

 

「村に戻るルートなのか…?」

 

『空飛んで見てみたけどそうっぽいね』

 

 

 橋を抜けて木造りの大扉を開けると、そこは祭壇の様な広場になっていて。もはや顔見知りになった巨漢の人物がいた。

 

 

「来ましたね。ここなら会えると思っていました」

 

『本当にどうやって移動してるんだろうこのデブ』

 

「デュークか。…無駄骨だった」

 

「そうですか?でも何か手に入れられたのでは?」

 

『待って!イーサン!駄目!』

 

「ああ。何かはわからないが…」

 

 

 エヴリンが制止するのも聞かず、これがなにか知りたかったのでフラスクを見せると、デュークはとんでもないことを口にして。エヴリンが何故止めたのかその理由が、わかってしまった。

 

 

「おや。娘さんがその中にいるじゃないですか」

 

「……は?」

 

『……やっぱり、そうなんだ…』

 

 

 冷たい風が広場に吹き荒び、最愛の娘の所在が明かされる。エヴリンの気落ちした声が、この悪夢が現実だと言っていた。




イーサン公認の家族になったりゲロインになったり属性過多になってきたエヴリン。なお、イーサンが止めなければ最速でラスボスが死んでいた模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十七話‐The last hope【最後の希望】‐

どうも、放仮ごです。今更になってようやくスパイダーマン:スパイダーバースを借りてきて視聴しました。噂に違わぬ名作でしたね。そしてなにより、参考になりますねえ!(何かを企む顔)

現在のイーサンの装備
・エヴリン(幻影)
・ハンドガン
・サムライエッジ
・ナイフ
・スナイパーライフル
・フラスクや弾丸やお宝などを入れて持ち運ぶ麻袋(右腰装着)

今回はフラスクの中身を知ってSAN値ピンチなイーサンの話。楽しんでいただけると幸いです。


「何を言ってる?」

 

 

 あまりの言葉に、デュークに聞き返す。このフラスクの中に、なんだって?エヴリン、お前、見たのか?本当に?そう問いかける様にエヴリンの顔を覗くと、露骨に顔を逸らした。それは答えだと言っているようなものだぞ。

 

 

「よく見てごらんなさい」

 

『……なんでお前が知ってるの』

 

 

 エヴリンがデュークを睨んでいるのを横目に、極度の緊張で過呼吸になりながらもフラスクにこびりついた白い汚れを取り払う。そこには【HEAD】と、そして【Rosemary W】とあった。思わず落としてしまう。そんな、まさか、本当に?

 

 

『イーサン、落としちゃ駄目!』

 

「その瓶には頭部が入っているようですね」

 

「いや……そんな……何で……」

 

 

 恐る恐る地面に落ちたフラスクを手に取る。誰か、嘘だと言ってくれ。まだ生まれて半年の愛娘が、バラバラにされただなんて、そんなの、嘘だ。そうだろう?

 

 

「ローズ様は…」

 

『信じられないかもだけど、その中には本当にあの子が…』

 

「ちょっと黙っててくれ!」

 

 

 つい、怒鳴り散らしてしまう。デュークはどこ吹く風だが、エヴリンは怯えたように距離を取ってしまった。違うんだ、そんなつもりじゃなかったんだ。でも、だが、どうして…ああ、頭の中が纏まらない!

 

 

「いや…こんなのありえない…ウソだと言ってくれ。なあ、そうだろう?デューク!エヴリン!」

 

「残念ながら現実です」

 

『…この目で見たよ。結晶化していたけど、あれはローズマリーだった』

 

 

 二人の言葉に、フラスクを抱えたまま呆然と立ち尽くす。ミアも失い、ローズも失い……俺は、俺は…父親として何も、何も守れなかったって言うのか!俺が呑気にエヴリンと城を探索している間に、ローズは……!

 

 

「一体、誰がこんなこと…!マザー・ミランダか、ドミトレスクか、黒づくめ陰キャか、マザコンブサイクか、ハイゼンベルクか!?クソッ、クソッ、クソッ!」

 

『イーサン…』

 

「娘さんはまだ死んでいませんよ。特別な力をお持ちなのです」

 

「なんだって?」

 

『いや、バラバラにされて生きてるわけが…私でも死ぬよ?』

 

「助ける方法ならあります」

 

「助ける!?何言っている?どういうことだ?」

 

『そんなの嘘だ!私達を騙そうとしてる!……ほんと、なの?』

 

 

 幌馬車の荷台に乗っているデュークを見上げると、ムカつく顔が力強く頷いていて。エヴリンと顔を見合わせる。希望は、あるのか?

 

 

「村の西側に赤い煙突の家があります。そこにいる男を訪ねなさい。この話の続きはそのあとで」

 

『ふざけんな!』

 

「もったいぶるなよ。何なのかさっさと答えろ。お前をここで撃ち殺してもいいんだぞ!」

 

 

 スナイパーライフルの銃口をスコープを覗かずにデュークに向ける。なんならエヴリンも怒りで俺の腕を変異させそうだ。しかし殺意を向けられているというのにデュークは笑みを絶やさず。

 

 

「私を信じなくても結構。撃ってくれても構いません。その場合は弾の無駄遣いにはご注意をば。ですが娘さんのためです。どうぞお好きに。全てはお客様次第。そうでしょう?」

 

「……騙したらただじゃおかないぞ。クソッたれが」

 

『もし嘘ついたらお前の口に手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやる!』

 

 

 スナイパーライフルを背中に担ぎ直し、フラスクを麻袋に大事に入れようとして、妙に大きくて麻袋を占領している邪魔なドミトレスクの残骸を思い出し、デュークに売ることにした。

 

 

「おい。買い取れ。邪魔なんだ」

 

「おお、ドミトレスク夫人!死してなお美しい!このくびれが…ふむ…」

 

 

 ドミトレスクの結晶化した死骸を見てそうコメントするデュークに、俺とエヴリンの無言の冷たい視線が突き刺さる。お前…死骸にそれはどうかと思うぞ。売った俺も俺だが。

 

 

「……コホン。失礼しました。それはさておき麻袋では娘さんが心配でしょう。専用の鞄をおすすめしますが?」

 

「…今売った金で買う」

 

「よい判断だと思いますよ!」

 

 

 トランクケースの様な鞄を手に入れた俺は麻袋の中身を移動し、フラスクも大事に納めて、双翼の鍵を使って門を開いて件の赤い煙突の家を目指して歩き出す。「べーだ!」とエヴリンが後ろを向きながら悪態をついていたのが印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、そんなの買って大丈夫?アイツの口車に乗せられて荷物が増えただけじゃない?』

 

 

 鞄を手に村を歩き、赤い煙突の家は門が閉ざされていて入れなかったため、城で手に入れた鍵で行けるようになった区域を探索していると、エヴリンがそんなことを言ってきた。

 

 

「いや。中はクッションが入ってるみたいだから戦闘の時は投げ出せばいいし、意外と軽いし頑丈だからもしもの時はこれでガツンと」

 

『中にローズマリーがいるの忘れないでね』

 

「…いまだに信じられないんだ。お前が言うから信じるが、デュークにだけ言われてても信じなかった自信があるぞ」

 

『それでも縋るしかないけどね』

 

「そうだな」

 

 

 そんな会話をしながら、入り口の雪に足跡があり人が出入りした形跡のある小教会に入ると、以前クレストを手に入れた時とは変わっていた。ノートパソコンや機材が置かれていたのだ。一回外に出て辺りを警戒し、誰もいないことを確認してノートパソコンを覗くと【作戦記録】とあった。日付は2021/02/09。今日だ。

 

 

「記録者はNH…知らない名だな」

 

『あ、見て。この事故現場に到着して発見できなかったEWとRWってイーサンとローズマリーのことじゃない?EWだけ村で痕跡見つかってるのなんか笑える』

 

「…最後にR隊長が村外れの工場に単独潜入とあるな」

 

『Rってローズマリー?未来からローズマリーが私達を助けに来たの?』

 

「ターミネーターじゃないんだしそんなことがあってたまるか。Rはレッドフィールド…クリスの名字だ」

 

『クリス…あのゴリラァ…!ローズマリーを奪ったの未だにイライラする…!』

 

「それは同感だ」

 

 

 …クリスの部隊とマザー・ミランダの一派は対立しているのか?いや、まだわからないな。他にめぼしい物はなかったので外に出る。しかし、どうやって赤い煙突の家に向かうか…。

 

 

『私が道を逆算して探ってこようか?』

 

「それだ。頼んだ」

 

『はいはい。娘の扱いがなってないパパだねー』

 

 

 そう言って颯爽と飛んでいくエヴリン。…空を自由に飛べるってどんな気持ちなんだろうな。ドミトレスクとの空中戦はもう二度とごめんだが。そんなことを考えながら、エヴリンはこちらの居場所は把握できるので近くの家屋を物色すると、見覚えのある名前が載っているメモがあった。

 

 

「【向かいの煙突の家から悲鳴が聞こえた。これから様子を見に行くがガレキが邪魔で、集落を大回りするしかない】そのようだな。【馬小屋の壁の穴が、こんな時に役立つとはな】…エヴリン、答えがあったぞ」

 

『そういうのはもっと早く見つけて欲しかった!もう見つけたよ!』

 

「続きを読むぞ。【朝までに俺が戻らなければ・・・お前ひとりでルイザの屋敷まで行け。レオナルド】レオナルド……エレナの父親か。ということはここはエレナの家なんだな…」

 

『感傷に浸ってる暇があったら早く煙突の家に行こうよ。あ、途中にライカンいるから気を付けてね』

 

 

 エヴリンの案内で馬小屋へ向かい、穴を塞いでいた棚をどかして先に進もうとすると、すぐ横にライカンがいて。咄嗟に鞄をフルスイング。頑丈な作りのそれを顔面に受けたライカンは怯み、鞄を手放してハンドガンを握り口に突っ込んで引き金を引くと脳幹が吹き飛び、そのまま崩れ落ちた。

 

 

「そこにいるなら教えてくれ。驚いたぞ」

 

『驚いた人の対処じゃないんだよなあ』

 

 

 呆れた様子のエヴリンを連れて、俺は赤い煙突の家への道を急ぐのだった。




おめでとう!イーサンの麻袋は鞄にグレードアップした!鞄ってゲームだとどんな感じに持ってるんやろ、な考えで今回の話を書きました。鞄は鈍器。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第十八話‐Wolverine【強敵と美味】‐

どうも、放仮ごです。どうしても外せない探索回を小説にするの辛い。

今回は赤い煙突の家を目指す話。楽しんでいただけると幸いです。



 道の途中をトラクターで阻まれていたので、ジャッキを探して奥に進み小屋に入ると、変な写真が置いてあって。引っくり返すと何やら書かれていた。

 

 

「『【窓の外を見ろ】?』」

 

 

 覗いてみると、窓枠やら奥の壁やらに数字が描かれていて。なるほど、と思った矢先窓の外に唐突にライカンが顔を出してきた。

 

 

『わきゃー!?』

 

「驚かせるな!」

 

 

 たまらずスナイパーライフルを構えて発砲。頭部が破裂したライカンが転がる。本気でビビったぞ…!

 

 

『あ、これの番号かな?』

 

「070408、だったな」

 

 

 エヴリンが棚に6桁の数字を入れるダイヤル錠がついているのを見つけ、窓の外を見た時に出た数字を入れると、ハンドガンと思われる銃とジャッキグリップが出てきた。

 

 

『お、強そうな武器だね』

 

「…フルオート射撃が可能みたいだな。これは予備として鞄に入れておくか」

 

 

 さすがに三丁も使わない。刀ならともかく、銃は腕がもう一本生えない限り無理だ。……。

 

 

「…なあ、腕を増やしたりできるか?」

 

『イーサン、自分が普通の人間だと思うならそういうこと言うのやめよう?』

 

 

 気の迷いで聞いてみたらなんか娘に諭された。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 銃声を聞いたのか集まってきたライカンを二丁拳銃で殲滅しつつ、トラクターのところまで戻るとジャッキを使って持ち上げ、下から潜り抜けることで先に進む。するとまたライカンがいたので鞄で殴りつけ、スコープを覗かずにスナイパーライフルを腰だめで構えてクイックショット、吹き飛ばす。

 

 

「…スコープいらなくないか?」

 

『多分その使い方間違ってると思う。…んん!?』

 

「どうしたエヴリン……あ」

 

 

 エヴリンが何かを見て声を跳ねさせたので何事かと振り返ると、そこにはゆっくりと歩いて来ている、獣を模したと思われる鉄兜を被って両腕に複数の刃物を束にして巻き付けている他の者より大型のライカンがいた。なんだこいつは!?

 

 

「ちい!」

 

 

 スナイパーライフルを腰だめで撃つが、両腕の刃を盾に防がれる。装備が重いのか鈍重な走りで接近してくる大型ライカンにスナイパーライフルを投げ捨てて二丁拳銃を手にして乱射するが、鉄兜と刃で弾かれて文字通り歯が立たない。MAVELコミックのウルヴァリンみたいなやつだな!せめてショットガンがあれば…!

 

 

『イーサン!ブレード、いくよ!』

 

「頼む!」

 

 

 ハンドガン二丁を腰に戻すとエヴリンが手を翳し、両腕をブレード・モールデッド化。奴の振り下ろしてきた両腕の刃と鍔迫り合い、腹部を蹴りつけて距離を取ると左腕の刃を胸に突き立てて身動きを取れなくすると、渾身の力で右腕の刃を振るい鉄兜を弾き飛ばす。

 

 

「そこ!」

 

 

 そのまま顔面に刃を突き立ててノックダウン。動かなくなり結晶化して崩れ去った大型ライカンに一息つく。強敵だった。スナイパーライフルを拾って背中に担ぎ直しつつ、完全結晶化した頭部をどうしたものかと考えて、鞄に入れることにした。

 

 

『見た目がかっこいいからそんなに怖くなかったね』

 

「ドミトレスクもそうだが、人間離れした姿の方が一周回って怖くないよな…」

 

 

 奥に進むと鉄格子の鍵で閉ざされている扉があったので開錠したり、道が閉ざされている様なので梯子を上って屋根に上がったりで赤い煙突の家まで来た俺達は屋根に開いた穴から潜入。ライカンが一匹いたので二丁拳銃で蜂の巣にするが、他に人はいない。…おいおいまさか、デュークの言ってた奴ってこのライカンのことじゃないだろうな?

 

 

『やっぱりあいつ、騙したな!』

 

「…いや、嘘は言ってなかったらしい」

 

 

 そこにはメモがあって、ミランダと四貴族…ドミトレスクたちのことか?…がローズを結晶化して分割していたのを見たという記述があった。その時にミランダが言った言葉によると、ローズは選ばれし子。如何なる姿になろうとやがて元に戻る…と。また、四つに分割されたローズは四貴族がそれぞれ授かったらしい。

 

 

『ひどい…ローズマリーがなにしたっていうの』

 

「ドミトレスクが持っていたのが頭だけだった理由が分かった。後は奴等の居場所だ」

 

 

 また、もう一枚のメモには双翼の鍵は三つの部品で真の姿を取り戻すとも記述があり、そこには部品と思われるパーツがあったので双翼の鍵と組み合わせてみると、四翼の鍵が完成した。…たしか、デュークのいた広場にこの鍵を使える扉があったな。

 

 

「戻るか…デュークのとこへ」

 

『これでまだ話さなかったら一回撃ち殺そうよイーサン』

 

「お前、物騒だな…気持ちは分かるが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライカンは大体殲滅していたため簡単に戻ってくると、デュークが全てを見透かした様な顔で出迎えてきた。

 

 

「どうです?何かわかりましたか?」

 

「羽根を見つけた。この金細工でどうローズを助ける?」

 

「まあ落ち着いて…まずはその鍵を使ってローズ様の瓶を集めねばなりません」

 

『それはわかってるよ!』

 

「残りは何処にある?」

 

「もうご存知かもしれませんが瓶は全部で4つ。残りの3つは四貴族の残る各貴族が持っています」

 

「貴族、だと?あいつらが?」

 

 

 ドミトレスクはともかく他の三人はそんな気品溢れる感じはしなかったが、あいつらが四貴族なのか?

 

 

『マダオとマザコンブサイクと黒づくめ陰キャだもんね』

 

「この村を統治している冷酷な教祖ミランダのもとには4人の貴族が仕えています。1人はあなたが倒したドミトレスク夫人。2人目は村の奥深く、霧の谷に住む人形遣いのドナ。彼女の屋敷に入った者は二度と帰ってはこられません」

 

『黒づくめ陰キャのことかな?クソガキ人形とはキャラが被ってるからやだなあ』

 

 

 お前は人の事を陰キャ呼ばわりする性格の悪いクソガキだから大丈夫だぞ。さらに怖がり強がりヒステリックときたもんだ。これでキャラが被ってるわけがない。

 

 

「そして3人目は風車を抜けた先の湖に棲む怪人モロー。その湖には他にも恐ろしい怪物が棲むといいます」

 

『マザコンブサイク!マザコンみたいな顔だったんだよね!』

 

 

 どんな顔だよ。しかも偏見だったのかよ。

 

 

「最後にしてもっとも危険なのが、ハイゼンベルク卿。人里離れた工場に潜んでいます。噂によると彼の工場には想像を絶する恐怖が待ち構えているのだとか」

 

『マダオが一番強いのかー、そりゃマグネットニートみたいなことしてたもんね』

 

 

 マグニートーな。アメコミに興味ないからって変な覚え方するな。

 

 

「娘さんを助けたければまずは4つの瓶を集める事です。今回だけは特別にそれぞれの場所を地図に記しておきました。どうぞ」

 

「なぜここまで…」

 

『いくらなんでも知りすぎじゃない?』

 

「いえ、あくまで顧客サービスの一環ですので。お気になさらず。何故知っているかは……企業秘密でございます。今後ともどうかご贔屓に…」

 

 

 村とその周辺に4つの紋章が描かれた地図を渡してくるデューク。正直、ありがたい。

 

 

「ああそうだ、ウィンターズ様。いい食材が見つかればぜひお持ちください。そろそろお腹が空いてきたでしょう?料理を作ってもてなして差し上げますよ」

 

「なんだって?」

 

『そういえば、ミアの夕飯を食べずに連れてこられたんだっけ』

 

 

 エヴリンに言われて、そう言えば今まで何も口にしていなかったことを思い出す。…村に鶏とかいたな。さすがに腹ごなししないと不味い。…狩ってくるかあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「用意したぞ」

 

『鶏と追いかけっこしているイーサンは正直傑作だった』

 

「おお!全ての食材が揃いましたな!さっそく!」

 

 

 鳥の生肉三つに魚の生肉三つ。これぐらいでいいだろう。追いかけてナイフで斬るのは地味に大変だったぞ。簡易的なガスコンロとフライパン、調味料や小麦粉などが入った袋を取り出しその場で真剣な顔で調理するデューク。エヴリンが美味しそうな匂いで顔をだらけさせていた。正直、こんな状況でなければ俺も同じ顔になりそうなぐらいいい匂いだ。

 

 

「お待たせしました!貴方の分も!魚の香草焼きでございます」

 

「鳥肉どこに行った」

 

『お゛い゛じぞう゛だなあ』

 

 

 そして、数種のハーブとパン粉を付けて焼いた魚料理が完成。食べたら体力がつきそうだ。涎だばだばで羨ましそうに見てくるエヴリンを無視していただく。久々に食べたのも相まって、実に美味だった。

 

 

「まさか極寒のこの土地でこれほどの料理にありつけようとは!もし覚えていたらまた食材を調達してきてくださいね。ごちそうを振る舞いましょう」

 

「ああ。…料理とローズの情報、感謝する」

 

『いいないいなあ。いつか私もマーガレットの料理より美味しいもの食べたいなあ』

 

 

 デュークのもとを後にし、四翼の鍵を使って扉を開ける。地図によるとこの先にいるのは人形遣いのドナらしい。個人的にハイゼンベルクの次に得体の知れなかった相手、黒づくめ陰キャだ。警戒していこう。




大型ライカンを見てウルヴァリンと思ったのはイーサンだけではない筈。やっと次回、ドナ邸です。

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第十九話‐Phantom mia【疑念】‐

どうも、放仮ごです。ついに、ついにお気に入り3000人を突破しました!ハーメルンで小説書き始めてもうすぐ8年。初の快挙です、まことにありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

ついにやってまいりましたバイオ最恐と名高いベネヴィエント邸。最強の恐怖がイーサンとエヴリンに襲いかかります。楽しんでいただけると幸いです。


 四翼の鍵の扉を抜けると山道が続いており、霧が深い中をひたすら歩くと、道の途中にいくつもの墓石が置かれていたり、人形がところどころに吊り下がっているのを見かけた。それを見て、顔を人形が擦り抜けて、顔を青ざめていくエヴリン。

 

 

『ね、ねえイーサン…側にいていい?』

 

「怖いのか?」

 

『こ、怖くないもんね!……嘘です怖いですスタスタ早歩きで進むのやめて』

 

 

 エヴリンが怖がってるおかげで冷静だが、確かに恐ろしい雰囲気がある。正直、あのベイカー家の子供部屋に比べたらどうということはないが。エヴリン、アレは怖すぎなんだよ。そして吊り橋を抜けて門まで来ると、一瞬視界がホワイトアウトしたかと思うと聞こえない筈の声が聞こえてきた。

 

 

「イーサーン」

 

「なに?」

 

『ほえ?』

 

 

 門の向こうには、これまた見覚えのある人影。赤子を抱えているそれは間違いない、俺の最愛の妻でありクリスの部隊に撃ち殺されたはずのミアその人だった。抱えているのはローズか?あのフラスクの中身は、偽物だったのか?

 

 

『えっ、なんで、ミア、死んで、え?』

 

「イーサン、ついてきて。伝えることがあるの」

 

「ミア?ミア、なのか?そんな馬鹿な…待ってくれ!」

 

 

 先に進んでいくミアを追いかけるが、どれだけ急いでも追いつけない。走っているはずなのに歩いている感覚になる。なんだ、これは?

 

 

『あれ、なんでだろ…私もイーサンから離れられない…?』

 

「ローズは、普通じゃない。イーサン、なんとかしないと…」

 

「何なんだこれは。エヴリン、お前にも見えているのか?」

 

『うん、見えてる!でも、近づいて本物か確かめることができない!イーサンの側から移動することができないの!』

 

「なんだって?」

 

 

 エヴリンにも異常が起きているらしい。自由の塊ともいえる幻影のエヴリンがだ。精神かなにかに干渉を受けているのか?オリジナルのエヴリンの様な……

 

 

「みんないなくなる…ローズでさえ…そんなの耐えられない…」

 

「ミアなわけない…なあ、そうだろうエヴリン?」

 

『偽物だよ、多分。だけど、あの時のミアは生きていたし……まさか、私とイーサンを騙していた?ミアが本当の黒幕…?』

 

 

 ミアの姿が消える。伸ばした手は空を切る。エヴリンが不穏なことまで言い出した。まさか、そんなはず……言い様の無い不安に襲われながらも、先に進むしかない。ミアが消えたその数メートル先にあったのは、見たこともない黄色い花と不気味な人形たちに囲まれた大きな墓石だった。そこに刻まれていた名は、俺たちに衝撃を与えるには十分なものだった。

 

 

「…ア・ベネヴィエント…ia Beneviento…1987‐1996…この、綴りは……」

 

『もしかして、ミアの墓…?そういえば私と会う前のママは知らない…イーサンは?』

 

「俺も…三年前、特殊工作員だと初めて知ったぐらいだ…」

 

『この中にいるのが本物のミアなら、私達が知ってるミアは誰…?』

 

 

 そう言われて思い出す。四貴族の中で唯一顔を見せなかった人物を。人形の声は聞いたが本人の声は聞いていないことを。その背丈が、思い返してみればミアと同じようなだったことを。エヴリンの言う通り、蜂の巣にされたミアが生きていたというのなら…。

 

 

「人形遣いのドナ……でもまさか?」

 

『やっぱり、私達はミアに騙されていて、クリスはそれを知ったからミアを襲撃した…?』

 

「どうかしてる。……ドナ本人に出会って確かめるぞ、エヴリン」

 

 

 奥に進むための扉を見つけたので歩み寄ると、壁に【思い出を捧げよ】とあった。まさか…と思いつつ、懐にずっと入れていたミアとローズが映った家族写真を取り出してポストの様なそこに入れると鍵が開いた。

 

 

「どういうことだ…?」

 

『そういうことなんじゃないの?』

 

 

 中に入ると洞窟になっていて、奥には古めかしい昇降機が。その中に入ると上昇し、途中で電灯が点滅したかと思うと明かりが消えて真っ暗に。エヴリンが『ピギャッ』と小さな悲鳴を上げるとすぐに明かりが復旧する。

 

 

「なんだったんだ?」

 

『さあ…怖いから本当にやめてほしい』

 

 

 昇降機が止まったので降りて洞窟の外に出ると、滝が見える断崖絶壁に建てられたそれなりに大きな屋敷があった。あれが人形遣いドナの屋敷か。

 

 

『地震が起きたら崩れ落ちそう…』

 

「絶景ではあるが、こんなところに家を建てる精神は分からんな」

 

 

 門が無警戒にも開け放たれていたので、警戒しながらも屋敷の扉を開けると、お洒落な空間が広がっていて。真ん中の机には編み物が置かれていた。誰も、いないのか?

 

 

『不気味なほど静かだね』

 

「ああ。…出てこい、人形遣いのドナ!お前はミアなのか?!」

 

 

 叫んでみるが返事はなく。しょうがないので奥に進む。特におかしいところはなにもない、綺麗で立派なお屋敷だ。ところどころに人形が置かれているぐらいだ。エヴリンは興味津々に見て回ろうとするが、やっぱり俺から離れられないのか不満そうにふくれっ面になっていた。

 

 

『むぅ…なんで、イーサンから、離れられないの!?』

 

「お前、怖いから側にいていいか聞いてきたじゃないか。うん?また昇降機か」

 

『ねえ、何か嫌な予感がするよやめとこうよイーサン』

 

「何かあってもお前は大丈夫だろ。それに、地上には誰もいなかった。ミアかドナかは知らないが誰かいるとしたら下だ」

 

『そ、そうだけどぉ……』

 

 

 エヴリンが嫌がっていたが行かないわけには行かないので昇降機で下に降りる。地下に降りるとやはりシンプルな作りで、棚やら机やらが置かれていて普通に生活できそうな空間だった。

 

 

『あれ、怖くない…』

 

「心配しすぎだ。行くぞ」

 

『言わなくても勝手についていっちゃうもんね』

 

 

 書斎が途中の部屋にあるのを確かめながら奥に進むと、陽気な音楽が聞こえてきた。エヴリンと顔を見合わせながら扉を開けると、見覚えのある人形が目の前に置かれた部屋に辿り着く。これは…クソガキ人形か?上にはマネキンの頭やら手足やらが吊り下がっている。

 

 

『イーサン、これ!フラスク!』

 

「なんだって?」

 

 

 見れば、クソガキ人形の上にフラスクが無造作に置かれていた。それを確認するや否や、点滅する電灯。またか、と思った時には暗転。あの声が聞こえてきた。

 

 

『アンジー。ずっとあなたを待ってたの。あたし、ローズよりいい子だよ。お願い、アンジーのパパになってよ…永遠に。ウフフフハハハハハハ!』

 

「何…!?」

 

『怖い怖い怖い怖い!それと色々私と被ってるんだよクソガキ人形!?』

 

 

 アンジーとかいう人形の声に怒鳴り散らかすエヴリンの声が聞こえるが全く見えない。明かりがつくとそこにアンジーとフラスクの姿は消えていて。そして、背中と腰と右手に違和感を覚える。今の今まであったものが消えた様な、そんな感覚。

 

 

「待て、俺の銃は…?」

 

『イーサン!ローズのフラスクが入った鞄も消えてるよ!』

 

「なんだって!?おい、マジかよ!」

 

 

 右手に握っていたはずの鞄が消え、さらに背中に担いでいたスナイパーライフルも、腰に納めていたハンドガンもサムライエッジもナイフすら消えていた。敵の本拠地で丸腰はさすがに不味いぞ。だが俺にはエヴリンがいる。

 

 

「エヴリン、モールデッド化だ!」

 

『そうだ、それなら…あれ?あれ?え、え、え?』

 

「どうした、早く…おい、まさか?」

 

『ご、ごめんイーサン……力は籠めてるのに、なんで…?』

 

 

 何をされたのか、腕のモールデッド化まで封じられたらしい。マジか…本当の意味で丸腰になってしまった。しょうがなく、部屋を探索すると真ん中の大机の上に乗せられたマネキン人形の側に蜂の巣にされたミアの写真が置かれていることに気付く。

 

 

「なんで、この写真が…?」

 

『これってもしかして…ミアの人形ってこと?』

 

「なんのつもりだ…?」

 

 

 エヴリンと協力し、地下中を探し回ってミアの人形に備えられていた仕掛けを解いていく俺達。こんなところ早くフラスクを手に入れて脱出したい、そんな心意気で地下を奔走する。そして。

 

 

ぱ ぱ ぁ ~ !

 

「『!?』」

 

 

 薄気味悪い声が聞こえた。それは地獄の始まりを告げる産声だった。




初見ゆえの加速する勘違い。産声が聞こえる直前の出来事は次回にて。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十話‐Baby is yummy【恐怖の赤子】‐

どうも、放仮ごです。今回は悪名高きバイオヴィレッジ最恐の敵ベビーとの死闘になります。狂人イーサンに対抗するべくパワーアップしたベビーの暴れっぷりとエヴリンの泣きっぷりをご堪能ください。楽しんでいただけると幸いです。


 ミアの人形に備えられた血塗れの指輪を始めとした数々の仕掛けや、入ってきた扉にいつの間にか付けられていたダイヤル錠やら、家にあるはずの大事な思い出のオルゴールと同じものやらの謎を解いていく。

 

 

≪「イーサン、ごめんなさい…」≫

 

『ヒエッ…もう!さっきから何度ミアの声を聞けばいいの!さすがに嫌いになってくるよ!?』

 

「一々驚いてられるか。…だけどミアが俺に何かを隠していたのは間違いなさそうだな」

 

 

 時折ラジオから聞こえてくるかつてのミアの声や、かかってきた電話から何かを懺悔するミアの声にいちいちビビるエヴリンを無視しつつ、最深部にあった井戸に行き配電盤の鍵を手に入れると、どこからか何か硬い木製のものが壊れる音と破水の音の後に赤ん坊の泣き声が聞こえてきて。

 

 

「ローズの声って言いたいのか?生憎だがローズの泣き声はもっとかわいいぞ!」

 

『もうやだー!おうちかえるー!でもイーサンから離れられないよー!』

 

 

 バタバタ手足を動かして泣き叫びながら離れようとするエヴリンを連れながら戻ると、真っ暗でほのかな明かりしかない部屋からミアの人形が消えていて。ラジオからはミアの不安げな声が流れ、血と羊水の様な物で汚れた台座からへその緒か腸の様な臓器が廊下に続いていた。

 

 

「『……』」

 

 

 思わず二人揃って押し黙り、その臓器を追っていくと、物陰からずるりと音を立てながらそれは現れた。それはこの世に生まれ落ちることを否定しかねない、赤ん坊を模った醜悪な肉の塊だった。

 

 

「なっ…!?」

 

ぱ ぱ ぁ ~ !

 

『ヒエッ』

 

 

 ジョバーと横から何か聞こえた気がするが、踵を返して逃走を開始する。アレは駄目だ、捕まったら死ぬ。そう思わせるには十分すぎるほど悪意の詰まった巨体に、無邪気さと本性がない交ぜになっているような鳴き声。這い寄るその様は、気に入ったオモチャ──自分以外の命を壊さんとしていた。

 

 

『こっ、こっ、こっ、怖いよぉおおおお!!あと漏らしちゃったよぉおおおお!』

 

「濡れたままついてくるな、汚い!」

 

『酷いよイーサン!?幻影だからイーサンは濡れないでしょ!置いてかないでよ!勝手について行くけど!?』

 

「お前はいいよな、疲れないから!ちょっとは働け!後ろ見張ってろ!」

 

パ パ ァ゛ ァ゛ !

 

『やだよ怖いよ直視したくないよ!イーサンには見えてないだろうけど、あの赤ん坊のようななにか足が反対にくっ付いているからね!?べとべとだし、肉塊だし、右目は潰れてるし、声は不気味だし、気持ち悪いし怖いよぉおおおお!』

 

「詳しく説明するな、嫌でも想像しちまうだろ!ミアの人形が消えて現れたってことは、こいつはローズだとでも言いたいのか!ふざけるな!うちの子はこんな化け物じゃないぞ!」

 

『言ってる場合!?いやあれをローズマリーとか言うなら私も許さないけど!…あれ?止まった?』

 

「なに?」

 

 

 一直線の廊下で引き離したかと思えば、止まったと言うので振り返る。暗くてよく見えないが、確かに奴…ベビーは動いていなかった。もしかして一定距離しか動けないのか…と思った矢先。奴はグググッと身を縮めると、エヴリンが言うには反対にくっ付いているらしい両足をバネの様にして、凄い速度で突っ込んできた。

 

 

『ギャァアアアアアアアアアア!?来るよぉおおおおおお!?』

 

「クソッたれええ!?」

 

お ぎ ゃ ~ !

 

 

 慌てて飛び退くと、廊下の突き当りにあった電話の乗った台を粉砕し、壁に激突。痛いのか悲鳴を上げて寝転がるベビー。今のうちにと奥のダイニングと思われる部屋に入り、机の下に隠れた。

 

 

「ここなら…」

 

『わ、私は見えないから大丈夫だよね…?』

 

 

 机の下で息を潜める俺と、机の上で横になり頭を抱えてガタガタ震えるエヴリン。そしてゆっくりと扉を開けて入ってくるベビーは机の周りを歩き、何かを見つけたようで笑い声を上げる。

 

 

ウ ェ ヒ ヒ ヒ ヒ !

 

『あれ?私のこと、もしかして見えてる?』

 

ダ ー ダ ー ダ ー ダ ~ !

 

「うわあああああ!?」

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

 

 机の上にいるエヴリンを見据えたのか、例のダッシュで机ごと俺を吹き飛ばして壁に激突させたベビーはそのままエヴリンに襲いかかり、足首に吸い付いて絶叫が上がる。エヴリンは足を振り回しポカポカベビーを殴るが一切怯まない怪物は、ズルズルとエヴリンを飲み込んでいく。

 

 

『やだ!やだ!やだぁああああ!なんで私が見えるの!?なんで私に触れるの!?だめ、だめ、食べないでぇえええええええ!?』

 

「くっそ…エヴリン!」

 

『イーサン、助けて!助けて!私、まだ消えたくない!こんなところで死にたくない!死にたくないよお!イーサンにやっと家族だと見てもらったのに!ローズをバラバラにした奴を殺さないといけないのに!やだ、やだやだやだ!やめて、やめて、やめてよお!私は美味しくないよぉおおおお!?…………』

 

お゛ い゛ し゛ い゛ い゛ ~ !

 

 

 机と壁に挟まれて身動きが取れなくなってしまい、手を伸ばすも目の前で命乞いしていたエヴリンが足からベビーに食べられてしまうのを見ていることしかできなかった。……エヴリンが、死んだ?アイツは幻影でも食べることができるって言うのか…?渾身の力で机を蹴り飛ばしてベビーにブチ当てて怯ませつつ、立ち上がる。砕けて散乱した机の脚を手に取り、歩み寄る。

 

 

「このクソッたれのベビーめ…よくもエヴリンを喰ったな!」

 

ぱ ぁ ~ ぱ ぁ ~ !

 

「俺はお前の父親じゃない!ローズと、エヴリンの父親だ!」

 

 

 まるで半身を失った気分だ。こいつはここで殺さないと気が済まない。先端が尖った机の脚を握りしめ、突撃。渾身の力を込めてベビーの潰れてない左目に炸裂させ、さらにハサミも取り出して脳天に突き刺した。この世のものとは思えない絶叫が上がる。

 

 

お ぎ ゃ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ~ ! ?

 

「くそっ、何か殺す手段は…?」

 

 

 ハサミを抜いてナイフの様に構えながら考える。持っているのは配電盤の鍵だけだ。ここから脱出してデュークから武器を買って戻ってくるしかないか?そうと決まれば両手で目を抑えてゴロゴロ転がって痛がっているベビーを無視して明るく光っている部屋に向かうとそこには配電盤があって、鍵を開くとそこにはヒューズが。

 

 

「そういえば昇降機のヒューズが消えていたな…」

 

 

 これで昇降機から脱出できる。ヒューズが抜けたことでまた暗くなった地下を抜けて昇降機に向かおうとすると、廊下の先からベビーが現れる。例のダッシュの構えだ。万事休す。ここじゃ逃げ場が…!?

 

 

「クソッたれ…!?」

 

ぱ ぱ ぁ ~ ! ぶ べ っ ! ?

 

 

 ぶべっ?俺に触れるか触れないかと言った瞬間、変な声を上げたかと思うとベビーの醜悪な体が膨張したかと思うと爆散。血肉が廊下の壁や天井に飛び散った。ベビーの爆散した跡から出てきたのは、見知らぬ黒髪の女性。

 

 

『ぜー、はー……』

 

「お前、エヴリンか!?生きていたのか!」

 

 

 それは以前見せた少女の姿より大きくなった大人の姿になったエヴリンで。涙目で顔を赤らめ肩で息をしているのと黒いワンピースがボロボロに溶けているからギリギリだったのだろうことがわかる。

 

 

『…あいつ、どういうわけか幻影の私に触れるみたいだから、姿を奴の体に密着するぐらい大きくして、衝撃波を放ったの』

 

「衝撃波?」

 

『うん、これ』

 

 

 そう言って不可視の風の様な物を放つエヴリン。だが俺も廊下もビクともしない。三年前のミアのビデオでタンカーを破壊し、俺との直接対決でも使っていたあの衝撃波か。俺には影響しない攻撃として放てるみたいだな。そう言えばさっきもポカポカ殴っていた拳が当たっていた。どういうわけか幻影の攻撃が効く怪物だったようだからなんとか倒せたのか。

 

 

『うぇー、ベトベト…もういやだぁ……あ。見て見てー。パパやママと同じくらいの年齢になってみたよー。ホレる?ねえホレる?』

 

 

 血肉と涎でベトベトな自身の体にげんなりしていたエヴリンだが、何かに気付くとひらひらと黒のワンピースを翻してそんなことを言ってきた。…まあ、スタイルはよくなったな。

 

 

「美人は美人だが中身知ってるからまるで靡かないな。あとミアの方が美人だ」

 

『いきなり惚気ないでよ…血肉が滴るいい女だよ、私』

 

「スプラッタ映画のヒロインみたいだな」

 

『美人が多いやつ?あ、それって褒めてる?褒めてる?』

 

「うるさい。さっさと出るぞ、こんなところ」

 

『それは同感』

 

 

 元の子供の姿に戻ったエヴリンを連れて、昇降機を目指す。ドナめ。どこにいるかは知らないが、会ったらただじゃおかないぞ。




ダッシュ攻撃を得た、捕まったら即死のベビー。ハサミしか装備がないのに立ち向かうイーサンと丸呑みされたのに咄嗟の機転でベビーを爆散させたエヴリン。本当に恐ろしいのはどちらでしょう?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十一話‐Hide and seek【死神のかくれんぼ】‐

どうも、放仮ごです。今回は人形館編最終決戦。ドナ・ベネヴィエント戦です。原作よりもパワーアップした鬼ごっこ。楽しんでいただけると幸いです。


 ベビーを倒し、ヒューズをつけて昇降機に乗り込んだ俺達。そこに、もう聞き慣れたあの不気味な声が聞こえてきて。

 

 

ダ ー ダ ー ダ ー ダ ~ !

 

『ギャー!?また来たー!?』

 

「不死身なのかアイツは…!?」

 

 

 ガシャ―ン!と、昇降機の閉まった鉄格子に激突してくるベビー。血肉の欠片になっていたはずが再生してきたらしい。もしくは別個体か。どっちにしろ、しかし凄まじい衝撃だったのに鉄格子は何故か歪まず、昇降機は何事もなく上がって行った。ふぅ…危なかった。昇降機から降りると、どこからか聞こえてくる甲高い笑い声。あいつだ。同時に一瞬暗転する。これが起きる度に何か嫌なことが起きる。恐らくは予兆か。

 

 

『アヒャハハハハハハッ!』

 

『この声は…クソガキ人形!』

 

「とうとうお出ましか?」

 

 

 リビングと思われる部屋まで戻ってみると、そこには大量の人形が置かれていて。近づくと、傍らにアンジーと名乗った人形を置いた黒子の様な黒づくめの格好をした女が瞬間移動したかのように姿を現した。

 

 

『マダオみたいな超能力者かな?』

 

「なんにしてもだ。…お前は、ミアなのか?」

 

「貴方はもう既に狂っているみたいだから予定よりも強くしたのに…なんで、あれを退けられたの…?」

 

 

 そう言ったドナと思われる女の声はミアとは別人で。思わず胸を撫で下ろす。だがだとしたら、ここに来るまでに見たミアは一体なんだったんだ?

 

 

「生憎だったな。俺には頼りになる亡霊が付いてるんだ」

 

『亡霊とは失礼なー』

 

「亡霊…?幽霊がついているとでも……ううん、それなら納得できる。でもいかないで…行かせないわ…だって、ここで死んだ方が貴方の為だもの」

 

『アヒャハハハハ!』

 

 

 手を翳してアンジーを浮かばせ、手に取るドナ。するとアンジーは口を開いて癪に障る甲高い声を上げ、俺の足元にいた不気味な人形たちも浮かび上がり動き出し、刃物を手に俺とエヴリンに襲いかかってきたので手で払う。中には蜘蛛みたいな人形もいて、引っ付いてきたので叩き潰す。エヴリンもパンチやキックで殴って蹴って吹き飛ばすが、全然減らない。クソッ!

 

 

『まだ生きてるなんてスゴイねえ』

 

「くそっ、なんだ!?やめろ!」

 

『えい!この!私も触れるけど、全然減らないよ!』

 

『でも早く私を見つけないと、お友達にぶっ殺されちゃうからね!それにお前、強すぎるから特別な友達を用意したんだよォ。ドナが一生懸命考えて作ったんだから、楽しんでくれると嬉しいなァ!』

 

 

 なんとか人形を追い払うと、いつのまにかドナの姿が消えていて。アンジーが浮かびがって俺とエヴリンの眼前まで迫ると、屋根が吹き飛んだ。

 

 

『ウゥゥゥゥ……ドッカーン!お友達のご来場ォ~デス!』

 

「なっ…そんなのありか!?」

 

『でっかーい!?説明不要!』

 

 

 現れたのは、家を見下ろすほどに巨大なアンジー人形。ガタガタと小刻みに揺れるその姿は操演人形の様だが、こんなにデカい人形がいてたまるか。さらに、巨大アンジー人形の傍らから空から飛来する黒衣の何か。西洋の死神の様なそれは大きな鎌を持ち、フードを被ったそれは俺達に迫ると周りを旋廻。俺達を覗きこんできて醜悪なその顔を見せると、そこにいたのはベビーの顔だった。見ればなんか足も逆についてた。またお前か!?

 

 

パ パ ァ゛ ァ゛ !

 

『だから、怖いんだってその顔!?』

 

「いい加減にしやがれクソガキめ!」

 

『ゴリアテアンジー人形ちゃんと可愛い可愛い死神ベイビーちゃんだよォ。チクタク…死にたくなければ命懸けで探しな!アタシを見つけてごらん!』

 

 

 そう言ってどこかに飛び去るアンジー。人形たちの笑い声が響く中、拳を構えるゴリアテアンジー人形と、鎌を構えて突撃してくる死神ベイビー。俺は咄嗟にエヴリンと共に飛び退いて、拳と鎌から逃れる。

 

 

「エヴリン!多分あいつら、ベビーと同じだ」

 

『私の攻撃は通じるってことね!食らえ!』

 

ぷ ぎ ゃ あ あ ! ?

 

 

 死神ベイビーを衝撃波で空彼方に吹き飛ばし、同時にゴリアテアンジー人形の拳も弾き返すエヴリン。今ほど頼もしいと思ったことはないぞ!

 

 

『なんでか知らないけど、私の攻撃が当たることを呪ってよね!私があのでかいのを引き受けるから、イーサンはクソガキ人形を探して!』

 

「わかった、頼むぞエヴリン!」

 

『あんまりなりたくないけど奥の手だあああああ!』

 

 

 するとエヴリンの姿がドミトレスク戦の時と同じく黒い液体の様になって溶けて黒いカビ溜まりを形成。顔が形成されると首が伸びる様にして異形の怪物が空に飛びだし、ゴリアテアンジー人形に体当たり。この状態でも俺から離れられないのか、カビだまりが俺についてくるのはシュール極まりないがまあいい。問題は…

 

 

パ パ ァ゛ ァ゛ !

 

「お前もしつこいな!」

 

 

 パワーアップしたベビー…死神ベイビーとやらがすぐ戻ってきて、俺に何度も襲いかかってくる点だ。それを避けながらアンジーが消えて行った方へ捜しに行くのは至難の業だ。せめて武器があればな!

 

 

「いい加減にしろ!」

 

パ パ ァ゛ ァ゛ ! ?

 

 

 驚かす為か目の前まで近づいてきたのでグーパンチ。その無駄に大きい顔の左目に一撃もらった死神ベイビーは悲鳴を上げて姿を消し、俺は人形たちが笑い続ける中を二階に突き進むと、奥の部屋で横たわっているアンジーを見つけた。顔を掴もうとすると笑いながら噛み付かれ、浮かんで眼前に迫ったので左手で掴むとじたばたして暴れ出す。

 

 

「この…」

 

『ローズさえ産まれなきゃこんなことにはならなかったのにね!』

 

「うるさい、化け物め!」

 

 

 暴れるのを左手で押さえながら、地下の探索の途中で手に入れてベビーへの反撃にも使ったあのハサミを取り出し、アンジーの顔面にぶっ刺すとどういうわけが血が噴き出て悲鳴を上げるアンジー。笑いながら飛び去って逃げたので、慌てて追いかける。ただの人形じゃないのか?

 

 

 部屋を出ると、頭上から叩き落とされてくるエヴリン(暴走形態)。どうやらゴリアテアンジー人形は結構強いらしい。

 

 

『このお…私と違って手足があるのずるい…あ、イーサン、私見た!そこの奥の部屋!』

 

「助かる!」

 

パ パ ァ゛ ァ゛ !

 

 

 エヴリンに教えられた部屋に入ると、普通にアンジー人形が横たわっていて。同時に、再び姿を現した死神ベイビーが襲ってきたので咄嗟にアンジーを掴み、その顔面目掛けて投げつける

 

 

『ぴぎゃあ!?』

 

「ありがとな、助かったよ。こいつは礼だ!」

 

 

 死神ベイビーは消え去り、間髪入れずに床に横たわったアンジーにハサミを突き刺すとやはり血を噴き出して悲鳴を上げる。

 

 

『な、なんでここが…』

 

「言っただろ、俺は1人じゃない」

 

『ローズにもこんなことすんのか!?ふざけんな!お人形ちゃんたち!』

 

「がっ!?くそっ!」

 

 

 アンジーが指示を出すと襲いかかってくる人形たち。刃物を手にした奴らに体中を突き刺されるが、ドミトレスクに腹を刺された時ほど痛くはない。俺は父親だ。これぐらい、娘のために耐えて見せないでどうする!力づくで薙ぎ払い、左手でアンジーの首根っこを掴んでハサミを構える。

 

 

「逃がすかあ!」

 

『お前なんか、ここから出られるわけない!アハハハハ!』

 

「そうかよ、ならお前も道連れだ!」

 

 

 顔面が開き、そこから気持ち悪い何かを露出させるアンジー。こいつは…菌糸か?そのままハサミを眉間に突き刺してやると今まで以上の血を噴き出した。

 

 

『テメエふざけんな!可愛いお人形ちゃんに何しやがんだよ!ゴリアテアンジー人形ちゃんも死神ベイビーちゃんも壊しやがって!どんな手品使いやがった!』

 

「なに?」

 

『お待たせ、イーサン』

 

 

 背後を見ると、頭部を半分にされたゴリアテアンジー人形が横たわり、俺を背後から襲いかかろうとしていたのか死神ベイビーとやらも暴走形態のエヴリンに喰われて咀嚼されていて。若干呆れながらアンジーに向き直る。

 

 

「悪いが、こいつでかくれんぼは終わりだ」

 

『アァアアアアアアア!?………』

 

 

 そしてハサミを再度突き刺すと悲鳴を上げ、視界がホワイトアウト。我に返ると、俺がアンジーを突き刺した場所には、綺麗な顔の右半分が何か菌糸の様な物に浸食された黒服の女性…恐らくドナが倒れており、石灰化して崩れ落ちていった。残ったのは、傍らに置かれた無傷のアンジー人形だけで、見れば壊された天井も元通りになり、背中にはスナイパーライフルが、腰にはハンドガンとサムライエッジが。…恐らくだが鞄も地下にいけばありそうだな。

 

 

「終わったのか…?こいつの仕業だったのか。今まで見ていたのは、幻覚か?」

 

『そうか、だから私も触れたし認識できたんだ…ということは最初のミアも幻覚?』

 

「幻影が幻覚に騙されるのか…」

 

『今回は役に立ったからいいじゃん!私がいなかったら危なかったでしょ?』

 

「それはそうだな」

 

 

 すると玄関の横にフラスクが置かれた台も現れ、もううんともすんとも言わなくなったアンジーを拾い上げてフラスクも手に取る。

 

 

「よし…とにかく、鞄を回収してここから出よう」

 

『あ、私離れられるようになった。地下が大丈夫か見てくるね』

 

「ああ、頼む」

 

 

 エヴリンが地下に行くのを見届け、ドナの亡骸の欠片の中から胎児が刻まれた鍵を見つけたので、四翼の鍵とパーツを合わせてみると新たな鍵ができあがった。四翼の胎児の鍵…といったところか。これが何を意味するのか、わからない。ふと、胸ポケットに戻ってきていた家族写真を取りだして眺める。

 

 

「ミア…お前は一体、何を隠しているんだ…?」

 

 

 そして何気なく裏を見て見ると、そこには女の筆跡でこう書かれていた。

 

 

【ローズをずっと守ってあげてね。イーサン】

 

「言われなくても…な」




ゴリアテアンジー人形の元ネタは言わずもがな東方のアリス・マーガトロイド。死神ベイビーは冒頭の絵本「Village_of_Shadows」のドナを彷彿とさせる死神から。イーサンが狂人だという報告と、ベビーを倒された事実から用意した最強の幻影たち、と言う設定。なおどっちもエヴリンに叩きのめされた模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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醜き怪魚の泳ぐ人造湖
第二十二話‐Damn destroy【一難去ってまた一難】‐


どうも、放仮ごです。ここ最近ランキングに載っているみたいで嬉しい今日この頃。他の作品じゃこうもいかんのだ。

今回はドナ邸~ヴァルコラック戦まで。楽しんでいただけると幸いです。


 ベビーが消えた地下室で鞄を回収してベネヴィエント邸を探索すると、あの墓の主はクラウディア・ベネヴィエント…恐らくドナの妹だということが分かった。紛らわしいことをしやがって。

 

 

『あー、早く忘れたい。次は誰だっけ?』

 

「確か…風車の先の湖に棲むっていう怪人モローだったな」

 

『マザコンブサイクね』

 

「その蔑称だけは同情するよ」

 

 

 墓場まで戻ってくると、偽物のミアのせいでいけなかった方に進むと古びた家屋があって。近寄ると、じめんから何かが這い出てきた。ライカンかと思ったが、それは違った。

 

 

「モロアイカだと…!?」

 

『城の中だけじゃないの!?』

 

 

 骨と皮だけの怪物。ドミトレスクと三姉妹の被害者たちのなれの果て、モロアイカ。それが凄まじい数で地面から這い出てくる。この数は、二丁拳銃でも不味い!

 

 

「逃げるぞ!」

 

『イーサン、こっち!なにかある!』

 

 

 エヴリンの誘導で家屋の扉を蹴り開けると、そこには地雷らしきものと、一つの武器があった。こいつは…!地雷を拾い上げ、入り口にセットしてその武器を手に取り奥で構える。すると集まってきたモロアイカが地雷を踏んで爆散、残った三体のモロアイカが家屋に入ってくる。喰らえ…!

 

 

「念願のコイツをな!」

 

『なんでここにあるのか分からないショットガン!』

 

 

 三連射。一撃でモロアイカの顔を吹き飛ばす、前に拾ったものより無骨なコンバットショットガンだ。こいつは助かるな。ショットガンをスナイパーライフルと共に背中に担ぎ、来た道を戻る。

 

 

「ショットガン以外にもなにかあるかもな」

 

『今のイーサン、数には負けるもんねえ』

 

 

 引き続きミアの偽物を追いかけていて行けなかった道を進むと、また家屋があって。中に入るととある文書を見つけた。それによると、ドナが対人恐怖症で両親が死んだあとは父親の作ったあのアンジーを介さないと人と喋れなかったこと、養子にしてもらったミランダから「力」をもらったこと、黄色い花を持って来て植える様に言われ、植えていた筆記者が夢うつつに死んだ家内が見える様になったこと、ドナに話すと喜んで屋敷に来るように言ってもっと家内に会わせると言ったことが記されていた。どうやら書いたのはドナに仕える庭師だったようだ。その末路は…考えたくないな。

 

 

「…つまり、あれは黄色い花を使った幻影だったわけか」

 

『イーサンの見ている幻影だから私に触れたし見てきたんだねえ』

 

「だがあの黄色い花はなんなんだ?何故ドナが幻影を見せることができる?」

 

『クソデカオバサンの変異はジャックみたいだったし、黒づくめ陰キャの幻影は生前の私の力みたいだし…なーんか、気になるね』

 

 

 そうなのだ。奴らが使ってくる力は、エヴリンの…特異菌の力と酷似している。そんなことを考えながらデュークのいる広場に戻ってくると、デュークは見覚えのあるような小さな人形を弄っていて。

 

 

「どうした?変な趣味にでも目覚めたか?」

 

『人形遊びしているデブってあれだな、ちょっと引く』

 

「おやおや。これをご存知ですか?」

 

「ああ。嫌な記憶しかないがな」

 

「それはそれは。ところで、何か御入り用で?」

 

「売りに来た。これ、売れるか?」

 

 

 そう言って差し出したのはアンジー人形。ドナの大切な人形を売るのはどうかと思うが、酷い目に遭わせられた腹いせが大きい。

 

 

『あっ、売るんだ。ローズ用に持って帰るのかと思った』

 

「こんなの見せたらローズが泣くだろ…」

 

「おおアンジー嬢。何と可愛らしい」

 

「『可愛らしい…?不気味じゃなくて?』」

 

 

 エヴリンとハモった。アンジー人形に抱える感情は同じだったらしい。だよな、可愛いよりは不気味だよな。

 

 

「ええ可愛らしいですよ。ビスクドールは大変人気があるのです」

 

「なるほど?」

 

『これなら屋敷の人形全部持って来ればよかったね』

 

 

 それじゃ泥棒と何も変わらないから駄目だ。ちょうどいいので、爺さんからもらったハンドガンを売却し、村の棚で入手したハンドガンと取り替える。サムライエッジと変えてもよかったのだが、売値がそんなだったのでやめた。モロアイカ戦で消費したハンドガンの弾やショットガンの弾を購入し、準備を終えた俺は四翼の胎児の鍵で先に進むことにした。

 

 

「地図によると…この先は漁場か?」

 

『こんな山奥で漁場?湖とかあるのかな?』

 

「そう書いてるんだからそうなんだろ。…なんだ?」

 

『なんか出たー!?』

 

 

 唸り声が聞こえ、立ち止まって背中のショットガンに手をかけたその瞬間。塀を突き破って飛びかかってくる巨大な毛むくじゃらの獣。腹部に噛み付かれ、ガブガブと牙が俺の血肉を抉り取る中、手にしていたショットガンをぶっ放して顔面に炸裂させ怯ませるもあまり効いて無いようで、慌てて近くの家屋の中に逃れると追いかけてきたので、ショットガンを戻して代わりにスナイパーライフルを構え、腰だめでぶちかますとさすがに入り口から離れた。腹部に回復薬をぶっかける。ひとまず一安心か。

 

 

「なんなんだ、アレは!」

 

『反撃してなかったら今頃アイツの餌だったね』

 

「他人事みたいに…」

 

『他人事じゃないけど食べられるのイーサンだもん』

 

「それを他人事って言うんだよ…うん?」

 

 

 見れば、家屋の中には力尽きた男の死体が。その手にはメモがあったので読んでみると、小屋の周りにいる「あいつ」に追い詰められてここに逃れたこと、「あいつ」はただの狼ではなく抵抗すら楽しんでいること、目と鼻の先の水車小屋まで行けば「あいつ」を「あの武器」で仕留められたこと、そして最後にルイザに許してくれと書かれてあった。恐らくはルイザの夫か。だがいい情報だ。

 

 

「水車小屋にあるって言う武器…使わせてもらうぞ」

 

『でもどうやって出る?』

 

「お前がいるだろ」

 

『…ああ、なるほど?』

 

 

 合点が行った様に頷くと壁を擦り抜けて外に出ていくエヴリン。アイツの声が聞こえたら、行こう。

 

 

『ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!鬼さん…狼さん?こちら!手の鳴る方へ……ギャァアアアアアアアア!?やっぱり怖いぃぃぃぃ!?』

 

 

 エヴリンの悲鳴と、何かをぶっ壊す音が聞こえてきたので外に出る。見れば、逃げながらもお尻を振って手を振り、あっかんべーして煽りに煽っているエヴリンと、それを本能のままに追いかけている獣がいた。あいつ、怒らせる天才だな。

 

 

「ここだな。水車小屋」

 

 

 ドッカーン!ボゴーン!ギャァアア!?と後ろから音が聞こえるのは気にせず、川沿いを進み、お目当ての水車小屋を見つけて鉄格子の鍵で扉を開ける。…もしルイザの夫がここまで来ても、この鍵がないから駄目だったんだろうな。そして中で見つけたのは、グレネードランチャーだった。

 

 

「こいつなら確かにやれそうだ」

 

 

 ベイカー家にあったルーカス御手製のものじゃない、芸術品の様に綺麗なグレネードランチャーだ。側には炸裂弾がいくつかある。スナイパーライフルを鞄にしまって代わりにグレネードランチャーを背中に担ぎ、炸裂弾をポケットに入れた俺は爆音の鳴り響く中へ直行する。

 

 

『やーい!やーい!ここまで来れるもんなら来てみろー!』

 

「ゴアァアアアアアアア!!」

 

『あ、ごめんなさい怖いから吠えないでー!?』

 

 

 そこには、天高く浮かんで涙目で煽っているエヴリンと、空に向けて前足を伸ばして空を切っている獣がいて。俺はグレネードランチャーを構えると獣の背中ヘ向けて射出。爆発が起きて吹き飛ぶ獣に、弾を入れ替えてさらにもう一発、今度は顔面に炸裂させる。すると指を立ててにんまり笑うエヴリン。おい、下品だぞ。

 

 

『だぁむですとろぉい』

 

「くたばれクソ野郎」

 

 

 獣は撃沈して崩れ落ち、結晶化した骨を残して石灰化して崩れ落ちた。…石灰化も特異菌感染者の特徴だったな。やっぱりこの村…エヴリンと何か関係があるんじゃないか?

 

 

『多分、関係あると思うよ。気になることもあるし』

 

「気になること?」

 

『もし本当にそうなら胸糞悪いってだけだからイーサンは気にしなくていいよ』

 

 

 何か物知り顔のエヴリンに首を傾げながら、俺は結晶化した骨が重たいので一度デュークの元に戻ることにした。




だぁむですとろぉいはエヴリンに似合う台詞かなって。そして、平成は終わらない…!

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十三話‐My hero【再会】‐

どうも、放仮ごです。エヴリンが結構日本のネタとか使ってますが、偶然同じものになったものや超解釈したものばかりでエヴリンは元ネタを読んだことすらないです。その代わりアメリカの映画やドラマなんかは見て知ってます。

今回はモローとの邂逅。そして…?楽しんでいただけると幸いです。


「なんだ、これ?」

 

『気持ち悪すぎない?』

 

 

 獣を撃退したことで得た結晶骨をデュークに売り払い、最初にライカン軍団と戦った集落を抜けて川を伝っていくと粘液が固められた様な壁があって。蹴破ろうとするとはまってしまって抜けなくなったのでナイフを手に取り何度か斬り裂くと壁は崩れ落ちて足も解放される。

 

 

『かっこわる~い』

 

「うるさい、ほっとけ」

 

 

 粘液壁を破壊した先に道なりに進むと、大きな風車が見えてきた。あの先に怪人モローのいる湖が…。また粘液壁があったので破壊して奥に進む。看板には実験場とあった。何の実験場だ…?風車の中に入るとどうやら地下に繋がっているようで、エヴリンに後ろを警戒してもらいながら、【湖方面昇降機】と書かれた通路の先に進む。

 

 

『でもさイーサン』

 

「なんだ」

 

『マザコンブサイク、あの四人の中で一番弱そうじゃなかった?』

 

「…否定はしないが弱いのは弱いなりに、油断して後ろからグサーッが怖いからな」

 

『後ろからパンチされた人が言うと説得力が違うね』

 

 

 ジャックによるパンチの不意打ち。アレは今でもトラウマだ。死にたくないなら不意を突かれることだけは絶対に避けないといけない。そのためにエヴリンは助かる。

 

 

『えへへー、もっと褒めて褒めて』

 

「はいはい。性格以外はかわいいぞ」

 

『えへへへ……うん?今の褒めてた?』

 

「褒めてるぞ」

 

 

 その性格で台無しだがな。昇降機を見つけたのでレバーを操作すると下に降りて行く。また地下か。ベビーのせいで当分こりごりなんだがな。

 

 

『すごい下がるね』

 

「このまま地下空間にでも行ってしまいそうだな」

 

『センターオブジアースなら恐竜出るんだけど。怖いよ』

 

「鬼が出るか蛇が出るか…それとも怪人か」

 

『怪人なら仮面ライダードラゴンナイトみたいにかっこよく倒してよ!』

 

「ミアが好きだった奴か。アレ何年前のドラマだよ…お前、映画だけじゃなくドラマもいけるのな」

 

『ARROWとかも好きだよ。映画ならサムライミ版スパイダーマン2が一番好き!』

 

「だから何年前だ。悪の親玉がヒーローが好きね。どんな皮肉だ」

 

『私を助けてくれたヒーローはイーサンだけどね?』

 

「…俺はヒーローってガラじゃないさ」

 

 

 そんな談笑をしつつ、昇降機が一番下まで来たようなので降りて坑道の様になってる先に足を踏み出す。トロッコの線路であろう通路の奥まで行くと不気味な声が聞こえてきて。一回しか聞いたことがないモローの声だと思い出す。

 

 

『あ、イーサン!フラスク!』

 

「なんだって?」

 

 

 一番奥まで行くと部屋になっている窓のすぐ側の台にフラスクが置かれていて。狭い通路を抜けてそれを手に取ると、奥で動く影…モローを見つけた。なんか、テレビ(?)を見ていたかと思えば、吐瀉しながらマザー・ミランダにお祈りしていた。

 

 

「『ええ…』」

 

「ああ…お母様!あなたのために俺は何でも…っ、お前!」

 

「これはもらっていく」

 

 

 二人してドン引きしているとこっちに気付いたので、フラスクを手にそう宣言する。もうお前たちに預けてなるものか。そのまま去ろうとすると、慌てて引きとめてくるモロー。

 

 

「ま、待ってくれ!それは大事なお母様の子なんだ…」

 

「ふざけるな。あいつのものなんかじゃない。ローズは俺達の子だ」

 

『そうだそうだ!』

 

「お、お前…聞きたいことあるだろ?」

 

『デュークが何でも知ってるから聞かなくていいよ』

 

「そうだな。聞きたい事なんか、ない。じゃあな」

 

「あ、待て。待ってくれ、頼む…頼む…それがないと…あいつらに馬鹿にされちまう。俺…あいつらを出しぬきたいんだ」

 

『ローズは「それ」なんかじゃない!』

 

「俺の娘を物扱いするな。くたばれゲロ野郎」

 

 

 モローの制止を振り切り、フラスクを手に外に出ようとすると、迫り出してくる粘液の壁。あいつ、自分に釘づけてその間に閉じ込める気だったのか。卑怯な奴だ。

 

 

『あんな気持ち悪いの相手することないよ、早く逃げよう』

 

「逃がさんぞ…お前、馬鹿じゃないみたいだがここは俺様のテリトリーだ…お前は…どこにも…逃げられない…!」

 

「この、化け物め!」

 

『どんどん迫り出してくるよ!』

 

「待てぇええ!逃がすもんかああぁ!卑怯なコソ泥野郎めがああぁ!謝ってももう遅いぞおおぉ!」

 

「誘拐犯どもに言われたくないんだよ!」

 

『キモイし声だけ聞こえるの地味に怖いなあ!』

 

 

 ナイフで粘液の壁を切り刻みながら出口を目指す。昇降機への道を完全に防がれ、別ルートから進むと外に出れた。ここは…風車のあった場所の対岸か。ボートがあったが鍵はない。

 

 

「鍵は何処だ…?」

 

 

 手がかりを探そうと辺りを散策しようとすると、エヴリンがドヤ顔で踏ん反り返っていた。

 

 

「…一応聞くが、どうした?」

 

『イーサン、私の力忘れてない?四翼の胎児の鍵みたいな複雑じゃない鍵ぐらいだったら型に合わせて固定すれば簡単に作れるよ?』

 

「ああ、そうか。頼む」

 

『お姉さんにまっかせなさーい!』

 

 

 人差指を近づけると、指だけモールデッド化してカビを伸ばし、固定。ナイフで伸びたカビの先端だけ斬り落とし、回すとエンジンが起動する。お前、なんでもありだな。

 

 

『私のカビは鋼構造物をも破壊する硬度があるんだよ!えっへん!』

 

「本当に助かった。進むぞ」

 

 

 エンジンを起動したボートに乗って先に進む。塞がれていて風車の方には抜けられなかったが、どこか抜け道がある筈だ。粘液がこびりついた洞窟を抜け、水門と思わしき所まで来ると、水面に巨大な影。慌てて止まると、そのまま進んでいたであろう場所を襲うように巨大な何かが飛び出してきた。

 

 

「今のは…!?」

 

『ジョーズ!?…にしてはキモいね』

 

「もしかしてデュークの言ってた湖に棲みついた怪物か…?」

 

 

 とりあえず、襲われないためにもボートをつけられそうな場所までボートを動かして、降りて桟橋を進む。ビニールシート(?)で囲まれた変な区域を見つけて入ってみると、パソコンやら機材やらが置かれた空間が広がっていた。

 

 

「なんだ、ここ…研究室か何かか?一体何を調べてる?」

 

『イーサン、危ない!』

 

「ぐっ!?」

 

 

 エヴリンの警告の声と共に後ろから首を絞められたので、一本背負いで目の前に叩きつけると、暗視ゴーグルの様な物を身に着けた男だった。しかし蹴り飛ばされ、腕を抑えられ関節を極められ銃を向けられる。

 

 

「大人しくしてろ!こんな重装備でなにをしている!?」

 

「くそっ、なんだってんだ!」

 

「イーサン。こんなところにいるとは驚いたな」

 

『クリス…!?』

 

 

 拘束が緩み、その聞き覚えのある声に振り向くと、ミアの命を奪った時以来のクリスがそこにいて。エヴリンが人一人殺せそうな敵意を向ける。

 

 

「ここで再会するとは残念だ」

 

「クリスか、お前…ミアを殺して…一体全体なんだっていうんだ!お前らに連れ去られたはずの俺の娘は、よく分からない連中にバラバラにされた!お前、アイツらとグルなのか!?」

 

『答えないと呪ってやるからね!』

 

「…俺達は奴等とは」

 

「隊長。外で異常な揺れを観測した。すぐに移動しよう」

 

「揺れだと?震源は?」

 

 

 何かを言いかけたクリスだったが、部下だと思われる男が割り込んで何も答えてはくれなかった。くそっ…だが、真相を知れるかもしれない機会なんだ。逃してたまるか。

 

 

「不明だが、このままここにいればミランダに知られる」

 

「おい待て。ミランダだと?知ってるのか?」

 

「黙ってろイーサン。お前には関係ない」

 

「関係ないわけがあるか!妻が殺されて、娘だって酷い目に遭わされてるんだぞ!俺達が当事者でなくてなんだと言うんだ!?」

 

『マザーナントカと敵対しているのはなんとなく分かったけど!』

 

「これ以上は首を突っ込むな。それで、サンプル結果は?」

 

「やはり特異菌と繋がりが」

 

 

 そこで、後ろの湖で動きがあった。なにかが、高速でこちらに迫ってきたのだ。それを見るなり慌てて俺に駆け寄るクリス。

 

 

「一体何が…」

 

「おい下がってろ!」

 

『え?』

 

 

 クリスに突き飛ばされたと同時に、襲いかかる怪魚。クリスは怪魚の攻撃に巻き込まれ、俺も余波を受けて水に落ちてしまい、何とか這い上がる。ここは…湖に浮かぶ残骸かなにかか?

 

 

『クリス…イーサンを助けた?』

 

「みたいだな…なんだってんだ…」

 

「待てええぇ…」

 

 

 そこに現れたのは、ローブが脱げて瘤が出来たかのように異様に盛り上がっている背中は多数の触手や魚の目玉のようなものが蠢くグロテスクな肉塊のようで、半魚人の如き水掻きを有している手足を持つ、異形極まりないまさに怪人といえる姿のモローだった。まさか、さっきの怪魚の正体は…?

 

 

「『気持ちわるっ!』」

 

 

 思わず、エヴリンと一緒に絶叫した。




このオチは書き始めた最初から決めてました。ミアとエヴリンがヒーロー好きってのは悪の組織にいた反動で~っていうオリジナル設定です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十四話‐Die hard【決死の湖上横断】‐

どうも、放仮ごです。ハイゼンベルク、共闘しても敵対しても面白いことになりそうだったのでアンケートを取ることにしました。

今回はVSモロー前哨戦。楽しんでいただけると幸いです。


「『気持ちわるっ!』」

 

「うるさい、余計なお世話だ…お前…出口は水中だ、逃げられない…」

 

「お前の相手なんかしてる暇はない!」

 

『しつこい男はモテないよ!ブサイクだしマザコンだし!』

 

 

 異様な迫力に後ずさりながら言い返すと、モローは苦しみながら笑う。器用な奴だな。

 

 

「ダメだ…もう遅い…ミランダ様は、既に儀式の…準備を進めてる!」

 

「お前はその時間稼ぎか。哀れだな」

 

「なんてことを…ミランダ様と一緒になるのは…この俺なんだ!お前じゃない!」

 

「何の話だ?俺が奴と一緒になるとでも?」

 

『私とは二心同体だけどね』

 

 

 すると今度は盛大に吐瀉するモロー。さらに背中の触手が伸びてうねうねとのた打ち回る。本当に気持ち悪い奴だな。

 

 

『だーかーらー、キモイって!』

 

「お前…何か変だぞ」

 

「もう駄目…我慢できない…助けて…どうして…あぁママ…どうして…どうして……」

 

 

 そう言ってよろよろと湖に倒れ、沈んでいくモロー。次の瞬間、巨大な怪魚が姿を現す。やはり、モローだったのか。

 

 

「エヴリン!」

 

『了解!』

 

 

 跳躍して襲いかかってきたので、ブレード・モールデッドの腕にした右腕を突き出すも、刃に噛み付かれて噛みちぎられてしまった。おいおい、エヴリン自慢の硬さを誇るのに簡単に噛みちぎられたぞ。こいつは…逃げた方がよさそうだ。モローがぶつかってくることで破壊されていく湖に浮かぶ残骸を走り抜け、跳躍して岸に逃れる。

 

 

『ブレードも効かないなんて…』

 

「あんなの…どうすれば…」

 

『水を抜いてみるとか?』

 

「それだ。水中に出口があるとも言ってたな」

 

 

 モロー診療所と書かれた看板の横を抜け、水門操作場まで来るが、レバーを操作しても反応しない。電気が来てないようだ。側の壁にかかっていたメモを見ると、クランクを使って風車を動かし通電させる必要があるらしい。奥の扉から外に出ると、メモが置かれていたので読んでみると、クランクにガタが来たから壊れたら反対側の風車まで替えを取りに行けと言う。マジか。それってどう考えてももう壊れてるやつじゃないか。

 

 

「…この汚い湖を横断しろと?」

 

『私が物を取れればねー。頑張って、イーサン!私は空から見張っとくから!』

 

「お前はいいな、まったく…多分、今回もお前の助けを借りる。サポートしてくれ」

 

『もちろん。まっかせて』

 

「刃が効かないなら盾で行くぞ。できるか?」

 

『多分、できるね』

 

「上等!」

 

 

 岸から繋がってた風車の上まで来ると、クランクがあったので一応回してみると途中で折れてしまう。やっぱりな。行くか、湖を横断して。幸運なことに足場はある。今にも沈みそうだが。少し心配だがここに鞄を置いて行く。重いグレネードランチャーも同様だ。動けるようにしないとさすがに不味いからな。装備はハンドガン(セミオート)とサムライエッジ、ショットガンとナイフだけだ。行くぞ!

 

 

「マジかよ、クソッたれ!」

 

 

 もはや口癖になった口上を叫びながら跳躍し、飛び降りる。エヴリンが気を利かせて着地時に足をモールデッド化してくれたおかげでそんなに痛くない。着地と同時に残骸の足場を駆け抜ける。足場がなければ銃で残骸を破壊して道を作る。だが今の銃声でモローに気付かれた、来る…!

 

 

「ァアアアアアア!!」

 

「魚の餌はごめんだ。エヴリン!」

 

『ほいきた!』

 

 

 上空にいるエヴリンに呼びかけ、右腕を変形。ラウンドシールドの様なカビの盾になって、モローの突撃を受け止め、向きを調整して跳ね飛ばされる。これで大幅ショートカットだ。

 

 

『いや、大幅ショートカットだ、じゃないよ』

 

 

 エヴリンのツッコミを無視しながら盾を前方に構えて体を丸めて着地。背中を強打しながらも立ち上がり、対岸の風車を目指す。エヴリンにお願いされて一緒に見たキャプテン・アメリカの動きが参考になったな。さすがにスパイダーマンとかの動きは無理だが。

 

 

「クイックだ!」

 

『人使いが荒いなあ!』

 

 

 途中、めんどくさそうな仕掛けがあったのでクイック・モールデッドの脚で大跳躍してスルーする。…訂正。スパイダーマンみたいな大跳躍、できたわ。だが時間をかければアイツに足場を壊されて終わりだ。後ろから飛び上がって迫ってきたので、右手にショットガンを、左手にハンドガンを構える。

 

 

「俺が一番だあ!」

 

『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』

 

「あの図体で喋れるのかよ!?エヴリン、右手を補強だ!」

 

『いきなり変な注文するのやめない!?』

 

 

 ショットガンを握った右腕をモールデッド化し、カビを纏わりつかせて固定。ハンドガンと共に怪魚モローに向けて乱射する。ショットガンとハンドガンの同時掃射は効いたのか、空中でずれて潜って行くモロー。あの状態じゃ大したダメージは与えられそうにないな。エヴリンに右腕を戻してもらい、ショットガンを背中に戻して再び急ぐ。

 

 

「お前、お前え!妙な力を使いやがってえ!空飛んでる餓鬼共々、もっとまじめに逃げやがれぇ!」

 

「やっぱり、エヴリンが見えるようだなゲロ野郎!」

 

「見ててよぉ、ママァ!」

 

『あ、私が見えるなら……えー、マザコンでブサイクでゲロ吐いててお魚なの?キモーい!』

 

「お前、お前え!許さねえええぞおおおお!」

 

 

 エヴリンが馬鹿にすると、水面から大跳躍して空にいるエヴリンに噛み付こうとするモロー。しかし噛めるはずもなく空振り、困惑しながら沈んでいった。大波で足を取られるが跳躍して逃れる。

 

 

「次は…絶対…うまくやるよぉ…ママァ…!」

 

『本当にキモいね!?』

 

「気にしてること言うなあああああ!」

 

 

 エヴリンに避けられたと思ったのか、俺を放っといてエヴリンを食べようと躍起になって大跳躍を繰り返すモロー。何で飛べてるのかとか疑問に持たないのだろうか。まあこちらとしては助かるが。

 

 

「エヴリン!両手両足クイックだ!」

 

『りょうかーい。あっ、喰われたぁあああ!なんてね?』

 

「なんでだあぁああああ!?」

 

 

 船の残骸のクレーンを足場にして跳躍、ようやく対岸の風車に辿りつき、クイック・モールデッドにしてもらった四肢で壁を這いあがる。後ろで愉快な声が聞こえたが、大方俺の援護で止まったエヴリンを食べたと思ったら擦り抜けてモローが絶叫しているのだろう。しかし移動に便利だな。ベイカー家でさんざん苦戦したこいつの力を使うことになるとは思わなかったが。登り終えて自身のモールデッドと化した四肢を見やる。今更だが俺の身体、一体どうなってるんだ…?

 

 

「見つけた、こいつか」

 

 

 クランクを見つけて風車を回転させ、クランクを回収して腰に引っ掛けた後に、ここに来るまでに見かけていたので上に登って見つけたジップラインを使い最初の風車に滑って戻る。途中モローが飛びかかってきたが、左手に握ったハンドガンで牽制して難を逃れてもう一度クランクを使って風車を回転。通電させた。鞄とグレランを回収し、エヴリンに呼びかける。

 

 

「よし!エヴリン、もう少し惹きつけておいてくれ!」

 

『えー、気持ち悪いからあまり触られたくないんだけど…』

 

「カビの苗床にぴったりだろ!掃除サボった風呂場より酷いぞ!」

 

『私が汚いってのかー!』

 

「お前ら何を喋ってやがるぅうううううううぅ!」

 

 

 傍目にモローがエヴリンに喰らい付くのを見ながら水門操作場まで戻り、妙に面倒なボタン操作をメモ通りに打ち込んでレバーを操作。目の前の水門が動き、大量の水が流れて行く。水門の向こうで苦しむモローがのた打ち回っている姿が見えた。エヴリンもそれを見届けたのか俺の側までやってくる。

 

 

「やったな、エヴリン」

 

『本当に無茶やってたけどヒーローみたいでかっこよかったよ。さすがパパ』

 

「何度も言うが俺はヒーローってガラじゃないさ」

 

 

…ところで、帰って来たときに咳ばらいがしてようやく気付いたのだが、奥の部屋にデュークがいるらしい。弾を補充するべく会いに行く。

 

 

「ようやく気付いてくれましたなウィンターズ様」

 

「…お前、ここまでどうやって来たんだ?」

 

『瞬間移動でも使えないと無理そうだけど』

 

「ほっほっほ。それは企業秘密でございます。さて、御用はなにですかな?」




モードチェンジ・シールド。結構器用に変形できるモールデッド化。さすがのイーサンも疑問を持ってきました。

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第二十五話‐Dirty fireworks【哀れな半魚人】‐

どうも、放仮ごです。今回の題名は直訳すると「汚い花火」つまり、モローとの決着です。楽しんでいただけると幸いです。


「またのご利用をお待ちしております」

 

 

 ハンドガンとショットガンの威力と連射速度を改造してもらい、デュークに一瞥して外に出る。すると、水が抜けて残骸だらけになった湖底を結構な速度で歩いて行くなにかがいた。

 

 

「俺の大事な水ぅ…よくもぉ!」

 

『ヒエッ』

 

「今のは…モローか?」

 

『歩けるなんて私、聞いてない!』

 

 

 追いかけると、残骸の陰に消えて行き。追いかけて家屋の残骸に入ると、ハンドガンのロングマガジンが納められたアタッシュケースと、棚の中に日記があったので読んでみると、ライカンはどうやら「カドゥ」と呼ばれる何かを埋め込まれた村人たちが変異したもので、その実験をしていたのがモロー、そしてミランダの求める者が「つよいうつわ」だとわかった。ローズがその器だってのか…?

 

 

『…早く取り返そう。嫌な予感しかしない』

 

「だな。まずはモローだ。あのゲロ野郎、決着をつけてやる」

 

 

 ロングマガジンを装着。トランクを手頃な家屋の残骸に隠して、サムライエッジと共に二丁拳銃を構えて奥に進む。エヴリンが空に舞い上がると同時に警戒の声を上げ、同時に目の前の壁を突き破ってそれは現れた。

 

 

『来るよ!』

 

「っ!」

 

「ミランダ母さん、俺…今度こそヤるよぉ…!」

 

 

 無数の目玉を持つ魚と両生類が合わさった様な巨大な怪物で、モロー本体は口の中で舌の様になっていて、正直キモい。両手のハンドガンを叩き込むも怯まず突進してくるモロー。

 

 

「俺は、ノロマなんかじゃない!」

 

「やるしかない…盾だ、エヴリン!」

 

『ほいきた!』

 

 

 モローの突進を、サムライエッジを握ったまま盾を装着する様にカビが形成されて受け止め、俺を掴もうと出てきたモローの本体に弾丸をありったけ叩き込む。

 

 

「ぐぎゃあああ!?こ、これ…これでもくらえ!」

 

「グッ…!?」

 

 

 凄まじい速度の体当たりを盾で受け、大きく吹き飛ばされ残骸に突っ込んでしまう。クソッたれ、さすがにこの体格差は盾じゃどうしようもないか。

 

 

「逃げるなよぉ!」

 

「お前が吹き飛ばしたんだろうが!」

 

『左腕、補強するよ!』

 

 

 前足による打撃を、何とか右手の盾で受け止めた勢いで後退。左手に握ってカビで補強して構えたグレネードランチャーを叩き込むと苦しみ悶えるモロー。

 

 

「ギャアアア!?こ、このやろぉ!」

 

「なっ!?」

 

『それはさすがにキモすぎるよ!?』

 

 

 するとモローは口から緑色のヘドロの様な物を撒き散らし、俺は咄嗟に頭を庇って盾で受け止めるが盾が溶けていく音が聞こえる。見れば、少し服や武器も溶けていた。カビで覆っていた両手と庇った頭は無事だ。硫酸並の胃液か?喰らったらひとたまりもなさそうだ。

 

 

「こ、これは、とっておきだぞぉ!」

 

『ギャアアアアアア!汚い雨!私には当たらないけどなんかいやぁああああ!?』

 

「浴びるとヤバいな」

 

 

 残骸の上に登ってフグの様に膨らみ、またヘドロの様なゲロを空に撒き散らして汚い酸性雨を降らすモロー。俺は慌てて家屋の残骸の屋根の下に隠れて逃れる。こんなもの喰らったら全身が溶けてしまう。どうしたものか。

 

 

「俺を愛してくれよぉ…母さん」

 

『むぅ。なんか昔の私を思い出すからやっちゃえ!』

 

「できればやってる!」

 

「そこかぁ!」

 

 

 隠れていた場所がばれて、突進で破壊してくるモローから慌てて逃げ出す。そしていいものを見つけた。穴が開いてないので水中にあったが湿ってないと思われる火薬樽だ。モローがそのそばまで来るのを見計り、外さないようにとショットガンの散弾を叩き込むと大爆発。モローはダウンして本体が口から顔を出す。

 

 

『ナイスショット!』

 

「うぎゃあぁあああ!…卑怯だぞぉ…」

 

「こいつでも喰らえ!」

 

 

 ダウンしたモローに近づいて、ショットガンを零距離で何発も叩き込む。悲鳴を上げてのた打ち回ったモロー本体は口の中へと戻って行き、俺を前足で殴りつけてきた。咄嗟に盾を構えるも腹部を殴りつけられ、汚水に叩きつけられる。ヤバい、今のは効いたぁ…!

 

 

「お願い、ミランダ母さん…俺、頑張るから…」

 

『イーサンが危ない!?こ、この…何が母さんだマザコンヤロー!デブー!ブサイクー!ゲロヤロー!サカナの出来損ないー!おうちが口の中とか悲しくないの?!お前の母ちゃんデーベソ!』

 

「な、な、な、なんだとぉおおおお!」

 

 

 するとモローの後ろに移動して罵倒を浴びせるエヴリン。モローは怒りに燃えて振り返り、わざわざ地上を走るように見せかけて移動するエヴリンを追いかけて行った。今のうちに、回復を……回復薬を取りだしてシャツをめくって打撲痕が残る腹部にぶっかける。よし。痛みは引いた。

 

 

「おまえ、おまえぇ!メスガキの分際で俺様とミランダ母さんのことを馬鹿にするなぁあ!」

 

『自分のこと俺様って言ってるー、やっぱりマザコンじゃーん、キモーい!』

 

「がぁああああああ!」

 

 

 …エヴリン、えぐいぐらいに引き寄せてるなあ。地雷でも買って持って来ればよかったか。

 

 

「なんでだよぉ!なんでみんな、俺を虐めるんだぁ!」

 

『私も昔思ったよ!どうしてみんな私を嫌うのって!心の底から泣き叫んだよ!でもね、誰かに好きになってほしいなら、嫌な奴じゃ駄目なんだ!』

 

 

 モローの心の叫びであろう言葉に、実体験を踏まえた言葉をかけるエヴリン。…ああ、お前はほんと、いい奴になったよ。

 

 

「お前も俺と同類だぁ!」

 

『違うよ。誰にも好かれてないお前と違って、私はイーサンに好かれてるもん。ねえ、パパ?』

 

「お前!お前!ローズ以外にも子供がいたのかぁああああ!」

 

「…ああ、血は繋がってないし殺し合いもしたが、俺の子供だ」

 

 

 矛先を俺に変えて突進してくるモローに対し、エヴリンがさらに大きく増強してくれた右腕の盾を構え、全体重を乗せた体当たりを受け止める。今度は足を踏ん張って、吹き飛ばされはしない!

 

 

『イーサン!』

 

「心配するな、これぐらい…父親なめんな!」

 

「お前さえ殺したら、みんなが俺を…見直すんだ!」

 

 

 シールドバッシュを叩き込むと一度頭部を離し、今度は俺に噛み付こうとしてきたので右腕の盾で受け止めつつ、左手でグレネードランチャーを掴んで、その大口の中に突っ込む。

 

 

「なっ…おまえぇ!そんな目で俺を見るなぁ!」

 

『お前は、私と同じだよ。死が救済だ』

 

「こいつは俺のおごりだ、吹っ飛べゲロ野郎」

 

 

 エヴリンが冷酷に終わりを告げると共に、引き金を引くと同時にシールドバッシュで殴り飛ばす。モローは口内の爆発に苦しみ悶えてその巨体をさらに大きく膨らませて行った。自分が負けたことが理解できないのか頭を掻き毟って絶叫するモロー。

 

 

「なんで、なんでだ!俺が怖くないのかぁああ!」

 

「お前らの誰よりも、エヴリンの方が怖かった」

 

『オイ』

 

「でもな、俺の娘を奪ったお前らの方が許せないんだよ!」

 

「ちくしょう!!助けて!ママァ!ママァ―――――――ッ!?」

 

 

 そして大爆散。肉片が舞い散り、残ったのは宝石の様の輝く奴の複眼だけだった。一応拾ってポケットに入れておく。

 

 

「最後まで汚い野郎だ、吐き気がする!…大丈夫か、エヴリン」

 

『…うん。マザーナントカ…ローズをバラバラにしたのもそうだけど、個人的にも許せなくなって来たかな…』

 

「同感だ。一発は殴るぞ」

 

 

 トランクを回収した俺はその場を後にする。モローの言ってた、水中にあったであろう出口から坑道を進むと、そこはモローの部屋と思われる場所で。テレビの明かりに照らされながら置いてあった日記を読んでみると、皆が集まらないと儀式が出来ない様にローズを分けようと言い出したのはハイゼンベルクの野郎だということ、ローズは器でミランダはずっと前に死んでしまった自分の子を生き返らせようとしていること、モローは自分が捨てられると思ったのかいやだいやだと一ページ全部が埋められていたことがわかった。

 

 

『最後のはどうでもいいね』

 

「言ってやるな。うん、これは…?」

 

 

 机の上に置いてあった奇妙なデカい瓶が目に入る。それには「カドゥ」と書かれていて。横には四翼の胎児の鍵に付けると思われるパーツもあった。

 

 

「これがカドゥ…こいつでライカンとかが生まれたのか」

 

『うーん、なんかデジャヴ…』

 

「それでこれは最後のパーツか」

 

 

 パーツを組み込むと六翼の胎児の鍵となって。ミランダを彷彿させるな…と思っていると、突如砂嵐状態だったテレビがチェスのナイトの様な紋章を映し出した。二人揃って驚いていると、聞こえてきたのは奴の声。

 

 

≪「思ったよりやるな」≫

 

「その声…ハイゼンベルクか!」

 

≪「覚えていてくれて嬉しいぜぇ、会ったばかりだってのによ」≫

 

 

 ハイゼンベルク。ローズをバラバラにした張本人の声に、俺達は気を引き締めた。




エヴリンとモロー、言動が似てるよねって。母親求めたり。吐いたり。エヴリンが他の奴以上に悪口を言うのは同族嫌悪もあります。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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機械兵団と工場長
第二十六話‐Lycan carnival【獣人達の砦】‐


どうも、放仮ごです。例のウイルスのせいで親友とバイオ6できなくてそろそろ我慢の限界だったりします。

今回はライカンの砦攻略。イーサン大暴れです。楽しんでいただけると幸いです。


≪「まずはおめでとうだ。よくもまあミランダが誇る貴族たちを倒して来れたもんだな。お前の狂人っぷりも伊達じゃないってことか?あ?」≫

 

「残ってるのはお前だけって訳か。お前で最後だ。首を洗って待ってろ」

 

『フラスクも綺麗に洗って待っててよね!ローズをバラバラにしたのがお前って知ったから容赦しないよマダオ!』

 

 

 テレビの向こう側にいるであろうハイゼンベルクに吐き捨てるとエヴリンも同調する。聞こえてはないだろうが。

 

 

≪「お前はタフだ。それは認めよう。だが瓶を揃えた後、どうローズを治す?」≫

 

『それは…どうしよう?』

 

「何が言いたいんだ」

 

≪「俺が手を貸してもいい」≫

 

「『!』」

 

 

 ローズを戻す算段がついてないところに舞い込んだ甘言。正直に言って、光明だった。

 

 

「今更謝罪か?」

 

≪「動揺が声に出てるぜ?勘違いすんなよ、これはあくまで取引だ」≫

 

『イーサン、信用できる?』

 

「…いや。まず、取引内容を教えろ」

 

≪「そう焦るなよ。いいか?村の外れに砦がある。そこで俺の瓶を見つけろ。出来たらお前を認めよう。まずは、墓地まで戻ってみな」≫

 

「…ムカつく野郎だ」

 

 

 テレビがまた砂嵐に戻ったのを見て吐き捨てる。…ムカつく野郎だが、ローズを元に戻す為なら…取引に応じるのも悪くないかもしれない。

 

 

『そういえばクソデカオバサンが言ってたね。マダオは忠誠を持ってるかどうかも怪しいって』

 

「そうだな。賭けてみるのも、いいかもしれない、か」

 

 

 昇降機まで繋がっていたのでそれに乗って風車まで戻り、村への道を進むと、いつの間にか夕方になっていて、妙なものが見えた。矢印状に作られた手作り感溢れる巨大な看板だ。

 

 

「THIS WAY…【こっちだ】?」

 

『他にも墓地方面に向けて色々看板があるね』

 

「あいつ…暇なのか?」

 

『ルーカスと同類なのかな』

 

「あー…それは分かる気がする」

 

 

 ルーカス。ベイカー家の長男。俺とはついに決着をつけずにクリスが倒したという、サイコパス。機械いじりが得意で、様々なトラップで俺を苦しめた。…ハイゼンベルクが作ったと思われるあの機械とこの看板は確かにルーカスを彷彿とさせた。

 

 

「【ローズちゃんを待たせるなよ】だあ?」

 

『【ショーはここからだ!】だってさ』

 

「砦って言うからには敵が沢山いるんだろう。一度デュークのいる広場に戻ってできるだけ武器を強化していくぞ」

 

『それがいいね。あの複眼も売りたいし』

 

 

 一度道を外れてデュークの元に戻り、まずモローの複眼を売り払う。その時、デュークが何故かカドゥの入った瓶を持っていたのが気になった。

 

 

「いいところに。ちょうど暇していたところです」

 

「お前、本当にどうやって移動してるんだ…今回はこいつだ」

 

「これはモロー様の?これは何というか…グロテスク・アートですな」

 

『同感』

 

「あと、手持ちの武器をできるだけ強化してくれ。金は厭わん」

 

「それはそれは。この程度のカスタムでしたらすぐにできますとも。あ、もしよろしければ拡張アタッチメントも購入しますか?」

 

「強化できるならそれもだ」

 

『イーサン…本気だ…』

 

 

 当たり前だ。ローズを元に戻せる目処が立ったのだ。力及ばず死にでもしたら死んでも死にきれない。

 

 

「あと回復薬もありったけだ」

 

「毎度ご利用ありがとうございます」

 

 

 金をほとんど使ってしまったが問題ない。村の墓地に戻り、看板の案内通りに六翼の胎児の鍵を使って先に進むと坑道の入り口があって、入って行く。直前の看板には【せいぜい頑張りな】とあった。

 

 

「せいぜい頑張るよ、クソッたれ」

 

『いちいち怒らせる天才だねマダオ』

 

「お前にだけは言われたくないと思うぞ」

 

 

 坑道を抜けて先に進むと分かりやすく大きな砦があり、その道中にはここから見えるだけでも辺りかしこにライカンが跋扈していた。鞄とハンドガンを構える。

 

 

「ふぅ…なるほど、アイツら全員蹴散らして最後のローズが入ったフラスクを手に入れろと、そういうことか。今の俺は苛立ってるんだ。ローズを戻す邪魔をする奴は全員ぶっ倒す」

 

『タイミング読んで変異させる私が一番大変そうな件。鞄も持っていくの?』

 

「今回は回復薬や弾丸も入れてるからな。このままいく」

 

『ローズマリーが入っているの忘れないでよ…?』

 

「あ、ならさ。右腕に盾の様にくっ付けてくれないか」

 

『ええ…いや、いいけど。カビで覆っとけばローズも守れるだろうし。でも重いよ?』

 

「両手で銃が使えるだけ十分だ。行くぞ!」

 

 

 右腕に鞄を盾の様にカビで装着し、二丁拳銃を構え、突撃。隠密とかしている時間すら惜しい。一気に制圧する!

 

 

『あーもう、イーサン時々脳筋なんだから~!?』

 

「どらあ!」

 

 

 全速力で駆け抜けて、不意打ちのシールドバッシュでライカンの一体を背中から突き出た枝に串刺して撃破。俺の存在に気付いて手にした刃物を振り下ろしてきたライカンの攻撃も鞄盾で受け止めて弾き、二丁拳銃を突きつけて胴体に乱射。崩れ落ちさせる。

 

 

「かかってきやがれ、ど腐れ狼ども」

 

『いつにもまして口が悪いよ!』

 

 

 飛びかかってくるのをひたすら乱射で迎撃。近づいてきたのは鞄盾で殴り飛ばし、エヴリンに背後を警戒してもらいながら先に進む。砦まではもう少しかかるか。

 

 

「「グギャアアア!」」

 

「これでも喰らえ!エヴリン!」

 

『ほいきた!』

 

「お前も家族だ!」

 

 

 真正面から二体飛びかかってきたので、銃では間に合わないと判断。サムライエッジを落とすと同時に蹴り飛ばして一体を怯ませ、左拳を振りかぶると意図を察してくれたエヴリンがモールデッドのものに変異させ、ストレートパンチ。大きく殴り飛ばして後続のライカンどもにもボーリングのピンの様にブチ当てる。

 

 

『あんな家族いらないよ…?』

 

「悪い。掛け声はあれの方がしっくりくるんだ。それより…殴った方が速いな」

 

『ええ…』

 

 

 サムライエッジを拾い上げて鞄を開き、しまいこむ。右手に鞄盾とハンドガン。左手にモールデッドの拳。これで行こう。

 

 

「お前も家族だ!お前も家族だ!」

 

「ガアァアア!?」

 

「グギャアア!?」

 

「近づくな、クソッたれ!」

 

『これはひどい』

 

 

 近づく輩を片っ端から殴り飛ばし、中距離のライカンにはハンドガン。的確に数を減らしてきながらズンズン砦に進んでいくと、俺に臆したのかなんかのスイッチを作動させて砦の中に逃げて行くライカン達。そこが入り口か。ハンドガンを腰に戻し、右手でグレネードランチャーを片手で構えて入り口目掛けて撃ち込む。

 

 

「ローズを返せケダモノ共がッ!」

 

「「「ギャアアアアアア!?」」」

 

『南無三!』

 

 

 爆発が起きて何匹かこちらに吹っ飛んできたので、左拳でパンチ、鞄盾でシールドバッシュ、両手で握ったグレネードランチャーの砲身をバットにして殴り飛ばす。

 

 

「よし、入るぞ」

 

『なんだろう。前までは恐かったんだろうけど私、もう何も恐くない!』

 

「やめろ。なんか死亡フラグに聞こえるから」

 

『だって今のイーサン無敵なんだもん』

 

「娘のために戦う父親は何時だって無敵だ」

 

『わー、かっこいいー(棒読み)』

 

 

 乗り込むと、ほのかな灯りしかない真っ暗な中でライカンが蔓延っていて。グレネードランチャーに閃光弾を装填、目を瞑りながらど真ん中に撃ってやると強烈なフラッシュで全員の視界を奪う。

 

 

『目があ!目がああああああ!?』

 

「あ、悪い」

 

 

 目を押さえて悶えているエヴリンに謝りながら、グレネードランチャーを背中に戻して代わりにショットガンを取り出し、視界を奪われてフラフラしているライカンに近づいては零距離でぶちかましていく。中にはあの、ウルヴァリンみたいな大型のライカンもいて。容赦なくシールドバッシュで兜を外し、口の中にショットガンを突っ込んで頭部を爆散させてやった。

 

 

「よし!奥に進むぞ」

 

『私のパパが猟奇的過ぎて怖い件について』

 

 

 なんか文句を垂れるエヴリンと共に、俺は砦の奥へと進んでいった。




鞄を持っていきたい、だけど戦闘の邪魔になる。どうしよう。そして「頑丈で盾になるから装備すればいいじゃない」と思い至ったのが新武装「鞄盾」。防御力上がって弾とか回復薬とかすぐ取りだせて、某キャプテンの盾とまでは行かないけどかなり便利な盾になりました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十七話‐We are family【俺達は家族だ】‐

どうも、放仮ごです。今作を書くに置いて一番書きたかったことを今回書けました。似てると思ったんですよねえ。

今回はVSウリアシュ。エヴリンも予想外な最強の力が登場です。楽しんでいただけると幸いです。


「うおおおお!」

 

『わーい、血だー』

 

 

 鞄盾によるシールドバッシュでライカンを殴り飛ばす。モールデッド化した右腕で手にしたナイフで、鞄盾の重量を利用してライカンの頭を真っ二つにかち割る。グレネードランチャーで群れたライカンを爆散させる。

 

 

「クソッたれ!」

 

『頭がスイカみたいに吹っ飛ぶよー』

 

 

 ショットガンを零距離でぶっぱなしてライカンの頭部を吹っ飛ばす。ハンドガンを口に突っ込んでライカンの脳幹を破壊する。スナイパーライフルで逃げようとしていたライカンの頭を吹っ飛ばす。ライカンの振り下ろしてきた斧を奪い取って首を叩き切る。背後から手にした松明を振り下ろしてきたライカンから松明を奪い取って逆に燃やして他のライカンに蹴り飛ばして一緒に炎上させる。これだけやってもライカンはまだまだいた。

 

 

「まだやるか?」

 

『悪いこと言わないから死にたくないなら来ない方がいいよ、うん』

 

「グオォオオオオオッ!」

 

「お前も家族だあ!」

 

『こんな家族やだー!』

 

 

 飛びかかってきたライカンをモールデッドの拳で殴り飛ばし、天井にビターンと叩きつけてダウンを取り、首根っこを掴んでぞろぞろやってきたライカンの群れ目掛けてシュート!ボウリングのピンの様に吹っ飛ばす。

 

 

『超ッ!エキサイティング!…じゃないよ!やりすぎだよイーサン!』

 

「どうしたエヴリン。ノリノリだったじゃないか」

 

『こんな血塗れのパパ、ローズマリーだって嫌だと思うよ!』

 

「なん……だと……?」

 

 

 振り返る。死屍累々の獣人たちがあたりかしこにくたばってる。自分の服を見る。返り血で血塗れだ。たしかに、こんな姿をローズマリーに見せるわけには行かないな。泣かれたら俺が泣いてしまう。

 

 

「デューク、服売ってると思うか?」

 

『商人だから普通に持ってそうだけど…気にするところそこじゃないよね!?』

 

「じゃあさっさと砦を突破してハイゼンベルクのところに行くついでにデュークの所で服買うぞ」

 

『ええ……多分見張ってるマダオもドン引きしてるんじゃないかなあ』

 

 

 それは心外だ。アイツの方が無茶苦茶だろ。

 

 

『今のイーサンも相当無茶苦茶だよ?』

 

「解せぬ」

 

『駄目だコイツ、私の力を使えてから色々おかしくなってる…』

 

 

 とりあえずあらかた駆逐した様なので、一番奥の部屋に入ると地下への階段があって。ローズのフラスクを探すべく降りて行くと聞き覚えのある遠吠えが聞こえて。

 

 

『これって…あのでっかいの?』

 

「そういや獣みたいなのには出くわしたがあいつとは未だに会ってないな。…ここを進むしかないようだ」

 

『え、やだ』

 

 

 狭い隙間を通って行くしかないらしく、どう足掻いても自分の身体に岩肌が擦り抜けて嫌な思いするルートにエヴリンが文句を申すも体を横にして先に進む。

 

 

『あ、外側空洞だよ。これなら壁を壊せば…ギャー!?いっぱいいるー!?』

 

「だろうな…」

 

 

 壁の向こう側にライカンがいるらしく、エヴリンの騒ぐ声が聞こえる。いい加減、見えないし触れないんだから慣れて欲しいものだが。隙間から見えた。何やら吊り下がった肉に喰らい付いたり蔦を登ったり、まるで生態系を見る動物園に来ている気分だ。そしてようやく狭い地帯を抜けるとエヴリンと合流。泣きっ面のエヴリンを宥めながら先に進むと、石柱が沢山ある洞窟の広場に出て飛び降りると咆哮が聞こえてきた。あいつだ。

 

 

「かなり不味いな」

 

『イーサン、さすがにあれと真正面から戦わないでよ!?死んじゃうよ、本当に!』

 

「え?あ、うん。俺も馬鹿じゃないさ」

 

 

 飛び降りてきたのは、村で初めてライカンの襲撃に会った際に襲ってきたあの巨人だった。巨大な槌を振りかざし、襲いかかってきたので慌てて飛び退く。あんな攻撃まともに受けたらひとたまりもないぞ!?

 

 

「ウガアァアアアア!」

 

『駄目、逃げよう!でも逃げられないんだった飛び降りるの馬鹿だよ、バカバカ!』

 

「うるさいぞエヴリン!?これでも喰らえ!」

 

 

 ハンドガンの二丁拳銃を顔面目掛けて撃ちまくるがビクともしない。しかも雄叫びを上げてライカンを二体も呼び出してきやがった。一体の攻撃を鞄盾で受け止め、もう一体を蜂の巣にしていると、いつの間にか上段に上がって大槌を振り上げて飛び降りてきて…!?

 

 

「ぐあああああ!?」

 

『イーサン!?』

 

 

 ライカン二体を巻き込んだ一撃によるとてつもない衝撃波による突風を受けて吹き飛ばされ、岩肌に叩きつけられる。効いた…今のは効いた。何とか立ち上がると、巨人は石柱を両手で軽々と持ち上げて。オイオイ嘘だろ…!?

 

 

「クソッたれ!」

 

 

 飛び退くと同時に今の今までいた場所に石柱が叩きつけられ、砂煙が充満する。ヤバい、奴を見失った。足音で居場所を…近い!?

 

 

『イーサン、どこ向いてるの!?後ろ!』

 

「後ろだと!?」

 

 

 まさか、一度上段に飛んでから飛び降りてきたのか!?そう思って振り返った瞬間、下に構えた大槌がまるでゴルフクラブの様に振るわれて俺の腹部に激突。内臓が滅茶苦茶にかき回されるような激痛と吐き気と共に、天井まで殴り飛ばされ背中を強打、俯せに倒れ伏す。その衝撃で天井の岩盤が崩れ、巨人は生き埋めになるが時間稼ぎにしかならないだろう。

 

 

「がはっ…」

 

『うわーっ!イーサンが死んじゃう、今度こそ死んじゃう!どうしよう、どうしようどうしよう~!』

 

「落ち着け…まだ、死んじゃいない…」

 

 

 だがこいつは不味い。シャツをめくり、痛々しい腹部の強打痕に回復薬をかけるが一個じゃ足りない。鞄を開けてありったけをぶっかける。すると不思議なことが起こった。俺の腹部から黒カビが溢れだしたのだ。

 

 

「なに?」

 

『え?これってもしかして、大量の回復薬でイーサンの中のカビが活性化して…一か八かだ!』

 

「な、なにを?」

 

 

 意を決した顔のエヴリンが俺の中に飛び込んだ。すると両手、両足からも黒カビが溢れ出し、腹部からのカビと一体化。肥大化して俺の全身を飲み込んでいき、顔まで覆うと体が勝手に立ち上がる。宙に浮いているような感覚で、覆われたはずの視界はクリアでよく見える。右手を目の前にかざすと、モールデッドの様な黒く、だけど筋骨隆々のものになっていた。これ、鞄も飲み込んでるな?

 

 

『見様見真似のヴェノムの真似!題して、モールデッド・ギガントです!イーサンは見えないだろうけど、モデルは変異したジャックだよ!ちゃんと人型だからそこは安心して!』

 

「お前って奴は何処まで…いいや、助かった。エヴリン、いけるか?」

 

『イーサンだけに戦わせない!私が戦うよ!…あ、でも言いたい台詞があるなあ』

 

 

 俺の口(?)が勝手に動いてエヴリンの声で喋る。この状態で言いたい台詞か。大体分かったぞ。俺達風に言うのなら。岩盤を持ち上げ、俺達の異様な姿に眉を顰めながら咆哮を上げる巨人に向けて宣言する。

 

「『We are family(俺/私達は、家族だ)!』」

 

「グオォオオオオ!」

 

 

 力の限り突進して、振り上げた右腕と奴の振り上げた大槌が激突。全身の膂力を使って押し返すと巨人は大槌を投げ捨て、徒手空拳で挑みかかってきた。負けるか!

 

 

『大きさはこっちが上だよ!』

 

「ウガァアア!?」

 

 

 伸びる左腕でアッパーカット。右拳を肥大化させてハンマーの様にして頭頂部に叩きつけるエヴリン。左手で巨人の首を掴んで引き寄せ、右拳でひたすら殴る。素人丸出しの喧嘩の様な攻撃だ。

 

 

「お前、俺のこと言えないぞ」

 

『しょうがないじゃん!戦い方知らないんだもん!』

 

 

 巨人が落とした大槌を握り、渾身の力で振り上げるとその顎を打ち砕いた。俺達から大槌を奪い取り、頭部に叩きつけてくる巨人だがしかし、鋼構造物をも破壊する硬度を誇るカビにダメージは通らず、大きく弾き返すと巨人は体勢が崩れる。

 

 

「今だ!」」

 

『ウオォオオオオリャァアアアアッ!!』

 

 

 そして左腕で顔を掴み、ブレード・モールデッドの物に変形させた右腕をその頭部に突き刺すと、巨人は石灰化してボロボロと崩れ落ちたのだった。

 

 

「ざまあみろ」

 

『私達の勝利だ!』

 

 

 …ところでこれ、戻るんだよな?おいエヴリン、なぜ黙る?




登場、モールデッド・ギガント。イーサンを素体に回復薬で活性化させたカビで覆われた巨大なモールデッド。モデルはヴェノムとジャック・ベイカー(変異体)。顔はヴェノムよりジャックの方が近いです。

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第二十八話‐The factory【相棒】‐

どうも、放仮ごです。一気に交渉の場まで行きたかったけど三千字縛りなため行けませんでした。

今回は砦脱出~工場まで。楽しんでいただけると幸いです。


 エヴリンと共に巨人を倒し、俺の身体の外に出てきたエヴリンがカビを切り離してくれて元の姿に戻った俺は、今の今まで入っていたモールデッド・ギガントとやらを見上げる。見れば見る程本当に最近の映画で劇場まで見に行ったヴェノムとそっくりだった。あと、なんか服の返り血が消えていた。

 

 

「…お前、実はアレにだいぶハマったな?」

 

『あ、バレた?だって私達と似てるんだもん。寄生してるようなものだし。あ、あと返り血は拭っといて上げたよ』

 

「…俺が死んだらお前も死ぬから、あんなに焦っていたのか?」

 

『え?え、あ、うん。そうだよ?私も死にたくないからね!』

 

「…なんか怪しいんだよなあ。そもそもなんで、俺の身体はこんな芸当ができる?」

 

『だから、私の特異菌に感染しっぱなしなんだって。血清とか打ってないでしょ?』

 

「つまりジャックみたいなことになってるってことか?」

 

『まあ、うん。それであってるかな?』

 

「なんで言い淀むんだ…」

 

 

 そんな会話をしながら奥に行くと結晶の洞窟があり、欠片や塊を拾い集めて鞄に入れながら先に進む。すると城の地下の様な空間に出て、フラスクと砂嵐状態のテレビが乗った台を見つけた。

 

 

「最後のフラスクか」

 

『どうか今のローズに記憶が残りませんように…体バラバラにされて父親が血塗れでスプラッタやってたなんて知ったら可哀想だよ…』

 

「それは俺も切実に思う」

 

『それならやめようよ…』

 

「…!?」

 

 

 フラスクを拾い上げると、何かが見えた。引っくり返ったトラック。泣き叫ぶローズ。そして…ローズを抱え上げる、仮面の女。マザー・ミランダ。これは…ローズの記憶か?

 

 

「なんだ…?」

 

『どうしたの?』

 

「ローズの記憶…だと思う映像が見えた。今のは…?」

 

 

 とりあえず鞄に大事に入れていると砂嵐だったテレビがチェスのナイトの様な紋章の映像となり、奴の声が聞こえてきた。

 

 

≪「なかなかやってくれるじゃねえか。ツッコミどころしかなかったが、見応えあるぜ。映画を見ているような気分だった!いよいよ俺らの仲間入りかァ、イーサン・ウィンターズ!」≫

 

「やっぱり見ていたんだな。一緒にするな。何時まで隠れている?お前たちを引き摺り出してやる」

 

≪「おおー、怖い怖い。そうがっつくなって。あともう少しですべてカタがつく。だがその前に一つ聞かせてくれよ、相棒。…お前が化け物になった時に聞こえたあの少女の声の主は一体誰だ?エヴリンと言ってたが…あの、エヴリンか?」≫

 

 

 そう尋ねてくるハイゼンベルクに、エヴリンの事を知っているのかと少し驚く。ドミトレスクやモローがエヴリンに対して何も反応がないからてっきりこいつも知らないと思っていたんだが。どう説明したものか。俺と俺の血肉を取り込んだ奴にしか見えないって言ったらまた馬鹿にされそうだしな…

 

 

「俺はお前の相棒じゃない。あの声の主はエヴリン。お前らが俺を狂人だという原因の、俺の家族だ」

 

『え、言っちゃうの?』

 

「ばれてるならこっちの方が手っ取り早いだろ?」

 

≪「家族。家族、ねえ……俺の目にはお前さん一人しか見えないが、いけないオクスリでもキメて見えちゃいけないもんが見えてるのか?にわかには信じ難いねえ」≫

 

 

 訝しげな声が聞こえる。いちいち癇に障る奴だな。回復薬ならまあ使ってるが。

 

 

「俺は本当のことしか言ってない。信じるも信じないもお前の勝手だ」

 

≪「おいおい、拗ねるなよ相棒。だが聞いてしまったもんはしょうがない。存在すると認めるしかねえじゃねえか。それに本当にあのエヴリンなら俺の目的を果たせるかもしれねえ。いいぜえ、手を貸してやるよ。だがその代わり…」≫

 

「なんだ?言えよ」

 

≪「まず俺のところに来い。瓶はあの商人のいる祭壇にある聖杯に納めろよ。そうすれば場所はすぐに分かる。じゃあな。イーサン」≫

 

「おい、ローズを納めるってどういう…くそっ」

 

 

 その言葉を最後に通信を切りやがったアイツに、たまらず台を殴りつけると、エヴリンが心配げに覗き込んできた。

 

 

『大丈夫?』

 

「…まあ、な。ローズを一時的にも手放せってどういうことだ…?」

 

『でも、ローズを戻してくれるって言うなら…』

 

「行くしかないか」

 

 

 奥にあったボートに乗って地下水道を進んで奥まで行き、地下をひたすら進むと村に出た。教会の裏あたりか?デュークのいる広場へ向かう。

 

 

「生きて再会できるとはこの上なき光栄です」

 

「ああ、アンタのカスタムしてくれた武器のおかげだ。結構結晶手に入れたから換金して回復薬に在庫あったらありったけくれ。ところで、聖杯ってのはどこにある?」

 

「毎度ありがとうございます。それならば、その中央にありますよ」

 

 

 言われて気付いた。本当だ。こんな四つのくぼみがあるあからさまな台座があったのか。ハイゼンベルクに言われた通り、鞄からフラスクをとりだしてはめていく。一個目を入れると、またローズの記憶なのか四貴族に囲まれる光景が見えた。

 

 

「なんなんだ…?」

 

『大丈夫?』

 

「あ、ああ…」

 

 

 そのまま三つもはめこんでいくと、ロックが外されて台座が迫り上がり、聖杯が外れた。…この大きいのを持っていけと?

 

 

『が、がんばれ!イーサン!』

 

「…頑張るさ」

 

 

 すると周りの燭台が次々とひとりでに火が灯り、以前、ドミトレスク城から抜けてきたあの橋の向こうの広場の方角へと火が灯って行った。地図によると祭祀場とある。そういやあの広場の中央にもなんかはめこむのがあったな。これか。

 

 

「無駄に重いな…」

 

『ローズマリーだと思って!』

 

「ローズはこんなに重くないぞ」

 

 

 ゆっくりと、聖杯を両手で抱えながら橋を渡り、階段を上って行く。途中で地響きがしたが気にも留めず、時間をかけてようやく辿り着いた祭祀場の中央まで行くと聖杯を傘の様な紋章が描かれたでっぱりにはめこんだ。そしてロックされたかと思うと、すぐそこのでかい川に次々と橋が迫りだしてきて、足場がエレベーターの様に降りて行く。

 

 

『どんな仕掛けなの…?』

 

「考えるのはやめた」

 

『脳細胞がトップギアだぜ?』

 

 

 そして下までつくと、さっきの橋に繋がるであろう道があって。ローズのフラスクを取りだそうとしてみるも、すっぽりはまっていてどうすればいいかまるでわからなかった。

 

 

≪「ガキなら心配すんなイーサン。それでいいんだ。いいから橋を渡ってとっとと来い!」≫

 

「ローズに何かあったらただじゃおかないぞ…!」

 

『ま、まあアレが元に戻すために必要かもしれないし…?』

 

「儀式かなにかか。俺は魔法は信じないぞ」

 

 

 言われた通り橋を渡ると、だだっ広い敷地に古びた大きな工場が建てられていた。…立派なもんだな。

 

 

≪「おお!イーサン…ウィンターズ!そして俺には見えないがそこにいるであろうエヴリン!ようこそ!」≫

 

『さすがマダオ。私にも挨拶するなんて紳士だね』

 

「紳士なのか?あれは」

 

 

 ハイゼンベルクの声とともに門が開き、中に入り廃材や廃車や戦車や鉄屑が散乱しただだっ広い野原を進んでいく。

 

 

≪「まさかドミトレスクだけでなくドナやモローまで殺すとはな。だがアメリカじゃ、そこのエヴリンとやらが原因でもっとヒドい目に遭ったんだろ?」≫

 

『それはそう』

 

「お前が認めるのか…」

 

≪「正直に言おう。お前たちが気に入った。ローズとミランダのことについて話がしたい。中に入ってこい。心配するな、罠なんかじゃねえ」≫

 

「なんのつもりだ?」

 

『まあ私がいるから罠だろうがなんだろうが看破して見せるよ!』

 

「ああ、ほどほどに期待しているよ」

 

『ひどくね?』

 

 

 ジリリリリ!と言う音とともに入り口が開き、入って行く。何を考えてるかは知らないが…ローズは絶対元に戻してみせる。




ついにエヴリンの存在を自分から他人に明かしたイーサン。意地でも認知させてやる(決意)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第二十九話‐Negotiation【交渉】‐

どうも、放仮ごです。シュツルム君好きなので活躍の場を与えたいと思ってます。あと、再び日刊ランキング8位をいただきましたありがとうございます!そしてついにUAが200000行きましたありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

今回はハイゼンベルクとの対面。楽しんでいただけると幸いです。


 工場に入り、ごちゃごちゃした中を進んでいくと、作業場と思われる部屋について。奥にあったぼろいカーテンを開くと、そこにはミランダに、バッテンがついたドミトレスク・ドナ・モロー、それにミアやローズにクリスの写真が貼ってあった。

 

 

「なんだこれは?」

 

『他のは分かるけどなんでミアの写真まで…?』

 

「辛いよなあ?」

 

 

 甘い匂いと共にアイツの声が聞こえたので、ハンドガンを手に振り向く。そこには吸っていた葉巻を投げ捨てるハイゼンベルクがいた。いつぞやのハンマーは手にしていない。

 

 

「当ててやろう。他の奴等と同じように俺を倒せばローズを救える、と思っていたんだろう?」

 

「娘は治ると聞いたんだ」

 

『デューク情報だけど』

 

「いいか?わかってねぇようだが…クソッ、うるせえな…」

 

 

 するとどこからかエンジンの駆動音の様な物が聞こえ、ハイゼンベルクが顔をしかめて近くのハッチを開いて怒鳴り散らした。

 

 

「おい静かにしてろ!今大事な話してんだよ!…悪かった。まあ座れ」

 

『ちょっと見てくる』

 

「ああ」

 

 

 機嫌を損ねたくないので、ハッチの側に置かれた椅子に素直に座る。同時に、エヴリンが床に沈み込んでいき…血相を変えて出てきた。

 

 

『イーサン!なんかいる!プロペラエンジンを胴体に付けたよく分からないなにかがいる!』

 

「それでだな…おい、どうしたしかめっ面で」

 

「俺が手を組まなかったら突き落として下にいるプロペラエンジン野郎に襲わせるつもりだったのか?」

 

「ほう。驚いた。たしかにそのつもりだったが意味ねえようだな。どこから知った?」

 

「言っただろ。俺にはエヴリンがついている。実体がないからどこにでも擦り抜けられるんだ」

 

「そいつは便利だな。エヴリンはどう言っている?俺の自信作にして失敗作のシュツルムは」

 

「プロペラエンジンを胴体に付けたよく分からない何かだと。お前、正気か?」

 

「お前!紅の豚知らねえのか!あの唸るエンジンの美しさ…」

 

「何年前の映画だよ!?お前はマンマユート団にいそうな顔だけどな。因みにママ怖いよって意味らしいぞ」

 

「よーし、そのイラつかせる口を今すぐ閉じろ。さもなきゃここから蹴り落としてシュツルムと戦わせてついでに全兵力をここに集めてお前に嗾ける」

 

「俺が悪かったから許してくれ」

 

 

 椅子を蹴飛ばそうとしてきたので謝る。そんなのとさすがに戦いたくない。すると冗談だったのか、椅子の金属を操り真ん中まで引っ張り笑うハイゼンベルク。

 

 

「冗談はさておきだ。エヴリンについてだが…俺にも見える様にできないか?モローの野郎はどうしてか見える様だったが」

 

「……」

 

『血…かなあ?』

 

 

 ハイゼンベルクにそう言われて、考える。そしてナイフを取り出し、掌を薄く切って血をにじませて突き出す。

 

 

「飲め」

 

「は?」

 

「いいから飲め。俺の血肉を取り込めば見えるらしい。ドミトレスクもモローもそうだった」

 

「なるほどな。じゃあ失礼して」

 

 

 エヴリンが楽しそうに観察する中で指先で血をくっつけ、口に含んだハイゼンベルクが嫌な顔をする。

 

 

「うげっ、いくらなんでも不味すぎないか、おい?」

 

『クソデカオバサンも同じこと言ってたなー』

 

「…お前がエヴリンか。俺も狂ってしまったか?まあいい、始めましてだ。カール・ハイゼンベルクだ、お見知りおきを。お嬢ちゃん?」

 

 

 帽子を外し、エヴリンに向けて一礼するハイゼンベルク。中々様になっていた。

 

 

『さすがマダオ。まさにダンディな男だね!』

 

「なんだそのあだ名…もしかしてクソデカオバサンってドミトレスクのことか?ハハハハハッ!ナイスネーミングだ嬢ちゃん。ドナやモロー、あとミランダの馬鹿はどう呼んでんだ?」

 

『黒づくめ陰キャとマザコンブサイク、マザーナントカ変態仮面』

 

「ハハハハハハハハハハッ!そいつはいい、傑作だ!中々センスあるぜ、嬢ちゃん」

 

『それほどでもー』

 

 

 エヴリンの謎センスあだ名に大笑いするハイゼンベルクと、頭に手をやって照れるエヴリン。仲いいなお前ら。

 

 

「それで、本題だ。いいか。お前はミランダに踊らされている。まずフェアになるために教えといてやる。あのゴリラ野郎に殺されたのはお前の妻じゃねえ。ミランダだ」

 

「なんだと!?」

 

『ゴリラ野郎ってクリスのこと?』

 

 

 ハイゼンベルクから語られた驚愕の言葉に、開いた口が塞がらない。だがあれは、確かにミアだった。いつも通りに会話して、いつも通りに過ごして…なのに、あれはミランダだったって?

 

 

「奴はいくつも持つ能力の一つでどんな姿にでも擬態できる。ローズを誘拐するためにミア・ウィンターズと成り代わっていたわけだ」

 

『なるほど…だからあの時のミアはどこか違和感があったんだ』

 

「待て…なら、本物のミアは何処だ?」

 

「俺も知らない。殺されているか監禁されているか…後者だといいな?それで、ゴリラ野郎はミランダの馬鹿が死体にも擬態できるって知らなかったんだろうな。殺し損ねて…ミランダは目論見通りローズを手に入れて、お前も巻き込まれた。ミランダの新しい家族にふさわしいと見込まれてな。あの…図体のデカいクソ女に、ブサイクなサイコ人形…ウスノロの怪物。そして最後にこの俺でめでたく入れ替えだ。わからねえか?試されてんだよ、ミランダの家族になる資格があるかどうか」

 

 

 これまでの死闘は全て、あの女に仕組まれていたって言うのか。冗談じゃないぞ!

 

 

『私を差し置いてイーサンを家族にとか許せないなあ』

 

「俺がアイツの家族に、だと?俺はそんなものになるつもりはないぞ」

 

「ああそうだ。俺だってそうだがこのザマだ!ミランダは正気じゃねえ!この村の…俺も含めた化け物は全部アイツが生み出した!イカれた特異菌の実験場だ!」

 

「特異菌って…」

 

『やっぱり、私と同類だったんだ』

 

 

 エヴリンの言葉に頷く。やはり気のせいじゃなかった。エヴリンとルーツを同じにしているのがあのカドゥなんだろう。

 

 

「知ってるか?村人のほとんどにはカドゥが埋め込まれている。全員が実験体さ!何時だって変異させ、殺せる。ローズを手に入れて用済みになった村人共にライカンを嗾けて殺したのもミランダさ。ドミトレスクも一枚噛んでたっけかな?」

 

「じゃあ、エレナも…」

 

「そいつが誰かは知らねえがどっちにしろミランダに傅くだけで死ぬ運命だったんだ。気にするな。それよりも今は、どうミランダを殺すかだ。ミランダはローズを奪いにあの聖杯の場所へ必ず来る。そこが狙い目だ」

 

『ローズを囮にするってこと!?』

 

「お前、それは聞いてないぞ!?お前が必要だって言うからあの聖杯とかいう台座に…」

 

「なに。取られる前に動いちまえばいい。俺だってミランダにローズを取られるつもりはねえ。そもそも、俺も欲しかったしな」

 

「なんだって?」

 

「あの餓鬼は…おっと、失礼。ローズはヤベえ力を持ってる。ミランダもビビるくらいの……いい加減にしろよ!何度言わせんだ!?」

 

 

 また下からシュツルムとやらの爆音が響いてきたのでハッチに向けて怒鳴るハイゼンベルクに、エヴリンと顔を見合わせて笑う。…なんというか、今までの奴に比べて人間臭い奴だな。

 

 

「おいおい、笑うなよ。それでな、本当はローズの力を使ってミランダを倒そうと思っていたんだが…気が変わった」

 

「そりゃよかった。ローズを人殺しの道具にする気ならここでお前を撃っていたところだ」

 

『ローズをバラバラにした張本人からそんなこと言われたら容赦しないよ』

 

「やめとけ。俺には当たらねえ。そうさお前だよ、イーサン。そしてエヴリン。お前たちの力に俺は希望を見出した。俺と組まねえか?俺の工場で作ったミランダの支配を受けない機械兵団と、ミランダからもらったこの異形の力。それにお前たちの力が合わされば無敵だ!ミランダを倒せばローズを元に戻してお前に返してやる。どうだ、悪い話じゃないだろう?俺達から何もかも奪いやがったミランダを一緒にぶち殺そうぜ!」

 

 

 そう提案するハイゼンベルクに、俺とエヴリンは顔を再度見合わせる。…断る理由が無くなったな。ローズの力とやらを利用する気なら断固反対したが、ハイゼンベルクが今求めているのは俺達の力だ。悪くない提案だ、そうだろう?エヴリン。

 

 

『私は賛成、かな。マザーナントカに勝てる保証もないし、マダオが本当にローズを元に戻してくれるって言うなら』

 

「そうだな。その提案、乗ったぞハイゼンベルク」

 

「そいつはいい!最高だ!これからよろしく頼むぜ、相棒。そして嬢ちゃん」

 

 

 ハイゼンベルクの差し出した手を力強く握る。奇妙な共闘戦線。以前戦ったエヴリンもそうだが、俺は敵だった奴と手を組む運命にあるらしい。ローズを救えるなら悪くはない、そう思った。




本来クリスがする説明を全部言っちゃうハイゼンベルクさん。ミランダに勝てそうな戦力見つかってご機嫌です。手を組むなら情報開示は大事よね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十話‐Devastator【腕試し】‐

どうも、放仮ごです。ハイゼンベルクの戦闘形態がどう見てもトランスフォーマーリベンジのアレだったので題名にしました。

今回は腕試しにハイゼンベルクと勝負?楽しんでいただけると幸いです。


「それじゃ作戦会議といこうか相棒!」

 

 

 本当に嬉しそうにホワイトボードを引き寄せマジックペンを握るハイゼンベルク。どこかウキウキしていた。

 

 

「だから相棒じゃ…いや、手を組んだから相棒でいいのか」

 

『それで?勝算はあるんだよね』

 

「おうともよ。まず厄介なのはライカン軍団だが…その多くを砦でお前が殲滅した。残りの奴等は俺の機械兵団で引き受ける」

 

 

 機械兵団…この工場で作ってるって言ってたな。あとプロペラエンジンがくっ付いた…シュツルムだったか?が下にいるとか。

 

 

「その機械兵団ってのは?」

 

『プロペラ君の仲間?』

 

「いんや。機械兵団…その名もゾルダートは鋼の軍団、シュツルムとはまた別の機械化死体兵さ。死体を素体にした改造人間だ。おっと、モラルに関しての文句は受け付けないぞ。腕にドリルを付けていて、ライカン程度なら約1分で3体を殺害できる。どうだ?ロマン溢れるだろう?」

 

「あ、ああ」

 

『なんで男の人ってみんなドリル好きなんだろうね』

 

 

 サングラスを外してキラキラした目で語りかけてきたため、頷いておくと満足げにハイゼンベルクは唸り、鉄のクリップで纏めている書類を引き寄せてホワイトボードに張り付けた。それには、いくつものゾルダートの設計図が描かれていた。

 

 

「左腕にドリルを付けたゾルダート・アイン、両腕にドリルを付けたゾルダート・ツヴァイ、背中にジェットパックを装着したゾルダート・ジェット、そして全身に装甲を付けて3本の電動ドリルを両腕に装着したゾルダート・パンツァーと種類もより取り見取りだ。共通の弱点としてカドゥの制御コアが弱点だが…パンツァーはそれを克服してるし、そもそも賢いからドリルで守ることもできる。それに量産して数も揃えているところだ。どうだ!」

 

「確かに頼もしい仲間だな」

 

『死体使ってるのは私もそうだったから文句は言わないよ』

 

 

 そう言うと満足げに頷くハイゼンベルク。正直趣味が悪いとは思うが、生きた人間を怪物に変えているミランダやドミトレスクやモローに比べたらまだマシか。

 

 

「そうだろうそうだろう。だがこいつらが束になっても、特異菌を自在に操り姿を変えるミランダには敵わねえ。俺にも奥の手はあるが、そいつで通じるかと言われたら微妙だ。そこでだ、お前らの…特にエヴリンのできることを教えてくれ!」

 

 

 そう言われて、顔を見合わせる。できること、ねえ。

 

 

『えっと…まず、イーサンの細胞を摂取した生物に私を見せることができるよ』

 

「四肢をモールデッド化してカビで武装できる。エヴリンの意思でだが。カビは鋼構造物なら破壊できる強度だ」

 

『あと…黒ずくめ陰キャ戦で幻覚を攻撃できた…かな?』

 

「さっき判明したことだが、回復薬を大量に使うことでモールデッド・ギガントになれる。それぐらいか?」

 

『それぐらいだね』

 

「なに?つまり、エヴリン。お前は特異菌を操ったりできないってことか?」

 

『残念ながら。イーサンの身体の中にあるカビなら操れるんだけど、今の私の本体はイーサンだからね。昔の身体ならともかく、無理かな』

 

「そうか…ミランダの特異菌を操る力に対して有効だと思ったが、ふむ。なら予定変更だ」

 

 

 そう言って、部屋中の鉄材を引き寄せ始めるハイゼンベルク。見る見るうちに、その姿が金属の集合体の様な、クレーンと丸鋸を背負った巨大なバイクのような姿の怪物へと変わった。

 

 

「おいおい、なんのつもりだ…?」

 

「ミランダとやり合う前の肩慣らしだ。俺の力を見せるついでにお前たちの実力を身を持って知りたい。俺と戦おうぜ、イーサン・ウィンターズ!男同士のタイマンでよぉ!」

 

『私もいるからタイマンじゃないよ』

 

「おっと、わりいな嬢ちゃん。忘れてた。お前らがカビの肉体なら俺は鋼鉄の肉体だ!まあこれだけはあのクソ女に感謝しないとな。奴にもらった力で奴を殺す!これ以上ない親孝行って訳だ!」

 

「おい!金属纏うのは反則だろ!こっちは生身だぞ!?」

 

「ミランダぶちのめすんだ、このくらい手加減の範疇だろうが!そもそもモローの化け魚やドミトレスクのクソトカゲも倒したお前が言うなってんだ!」

 

『それはそう』

 

「ちくしょう、やってやる!」

 

「加減はなしだ、ここで死んじまうなら手を組んだ意味がねえ!」

 

 

 ハイゼンベルクの形成した鉄材の手に掴まれ、建物から出た敷地にて投げ飛ばされ、エヴリンに目配せして両腕をブレード・モールデッドの物に変えて構える。振り下ろされた丸鋸を左腕で受け止め、ギャリギャリと音を立てた。

 

 

『私が居なかったら死んでたよ!?』

 

「その程度か?イーサン」

 

「はっ!この程度で折れるなら…ドミトレスクにとっくに負けてるさ!」

 

「そうだったな、(ちげ)えねえ!」

 

 

 そう言って、右腕を振り上げて弾き返すとハイゼンベルクはバイクの様な躯体をドリフトさせて俺の周りを回転し始める。

 

 

「悪くねえ。大したもんだウィンターズ。だが…こいつは耐えられるかな!」

 

「エヴリン、こい!」

 

『了解!やるよぉおお!』

 

 

 落下してくる鉄骨に、咄嗟に左腕の丸鋸で削られた傷口に回復薬をかけて、両腕で受け止めるとエヴリンが俺と重なり、カビが増大。モールデッド・ギガントを形作り、鉄骨を押し飛ばす。

 

 

『そっちが怪物ならこっちも怪物だ!』

 

「鉄をひっぺがえせば俺達の勝ちだ、そうだろう?」

 

「良いぜエヴリン、イーサン。来い!俺は自由を求めて戦う戦士だ!」

 

 

 丸鋸を両手で受け止め、回転を無理やり止めて腕ごとへし折る。そのままアッパーで頭部(?)を殴り飛ばし、アームハンマーを振り下ろそうとした瞬間。横に回転したクレーンの一撃を受けて、俺達は真っ直ぐ横に、工場目掛けて吹っ飛ばされていた。吹っ飛ばされた先には奈落の穴が。

 

 

「『あ』」

 

「あ、やべ。まあ、下は水だしお前らなら死なないだろ」

 

「お前ふざけんな質量差考えろおおおおお!!」

 

『わきゃああああああ!?イーサァァァァァン!?』

 

 

 落下していく俺達、咄嗟にブレードを形成した右腕を壁に突き刺すが、モールデッド・ギガントの重量では止まることはなく。刃がすっぽ抜けて一番下の水面に背中から叩きつけられてしまう。

 

 

「なんだ!?モールデッドだと…!?」

 

「『クリス!?』」

 

 

 恐らく工場の最下層。そこに現れたのは、ハンドガンを手にしたクリスだった。

 

 

「俺の名を知る…お前は何者だ!」

 

「撃つな!俺だ、クリス」

 

 

 モールデッド・ギガントな俺の姿に警戒するクリスだが、エヴリンが分離させたことで出てきた俺の姿を見て銃を構えながらも眉を顰めた。

 

 

「イーサン?一体どういう事だ。その姿は…?」

 

「話すと長い」

 

『本当に長い』

 

「…関わるなと言ったはずだぞ」

 

「そう言われて引き下がる筈がないだろう。ミランダに娘も妻も奪われたんだ」

 

「っ!何故それを…?」

 

「お前はミアを殺したわけじゃないのは知っている。ハイゼンベルクから聞いた」

 

「ハイゼンベルクだと?」

 

「ああ。手を組んだ。ローズを取り戻すためにな」

 

 

 そう言うと驚愕の表情を浮かべるクリス。すぐさま怒りの表情となり、俺に詰め寄った。

 

 

「アイツと手を組むなんて何を考えている!?奴はミランダの手下だぞ!?」

 

「なら何故先に事情を言わなかった!?」

 

『そうだそうだ!』

 

「もし知れば介入すると思ったからだ!民間人を巻き込めばややこしくなる!それがまさかハイゼンベルクなんかと手を組むとは!」

 

「ハイゼンベルクはミランダを殺そうとしている。だから手を組んだ。お前が話さないから、俺には選べる手段がなかったんだ。ローズを取り戻すためなら悪党とだって手を組むさ!敵の敵は味方だ!」

 

 

 そう言うと負い目があるのかぐぬぬと口をつぐむクリス。少し考え込み、口を開く。

 

 

「…わかった。ハイゼンベルクと手を組むことに関しては何も言わん。部下にもお前たちには介入しない様に伝えよう。だがこの工場は危険だ、野放しにはできない。爆弾を仕掛けて破壊する。…それも邪魔するか?」

 

「…いいや。だが、ミランダを倒せる戦力を揃えるまでは待ってくれ。ゾルダート…この工場で作られている奴等が必要だ」

 

「善処しよう。ハイゼンベルクとその軍団と共にミランダと戦うんだな?できれば俺達も援護したいが…ハイゼンベルクと俺達は敵対している。奴と一緒に戦うなら、俺達の援護は期待するな」

 

『仲違いで同士討ちするのも嫌だしね』

 

「わかった。ところで、地上に戻る(すべ)は分かるか?」

 

「そこにエレベーターがある。それで戻るのがいいだろう」

 

「助かる」

 

「ミランダは強い。油断ならない相手だ。…さっきの姿については言及はしない」

 

「今度会ったら説明させてくれ」

 

「ああ。俺は隊長として部隊を動かす立場だ。だから不確定な作戦変更は行えない。別行動になるが、武運を祈るぞ」

 

 

 一瞥し、クリスに言われたエレベーターに乗って地上に上がって行く。……落とされた仕返しに工場が爆破されるのはハイゼンベルクに黙っとこう。

 

 

『だね。それぐらいは許される』

 

 

 地上に戻り、元の姿に戻ったハイゼンベルクが笑いながら謝る中で。警報が鳴り響いたのは、すぐのことだった。




クリスを参戦させない理由を考えるのが一番大変でした。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十一話‐Avengers【アッセンブル】‐

どうも、放仮ごです。終盤の絵面がどう見てもエンドゲームの例のシーンにしか見えなかったのでこんな題名となりました。

今回はついにミランダとイーサン・ハイゼンベルク同盟の決戦開始。楽しんでいただけると幸いです。


「だから悪かったって…腕試しもすんだ。申し分ねえ。お前たちなら俺の背中を預けられる」

 

 

 エレベーターで戻ってくるとしたり顔のハイゼンベルクが人間の姿でいて。無言で怒りを表しているとそう謝ってきた。…クリスのことを言うべきだろうか。なんか隠しているのが悪い気がしてきたぞ。

 

 

「それで作戦だが。お前たちと俺の力を合わせられないかと思ってる。名づけてミランダバスターだ。モールデッド・ギガントに俺の力で武装させる。これで戦力は単純に二倍になる。シュツルムに特攻させ、ゾルダート軍団とミランダバスター、俺で一気にたたみかける。悪くはないだろう?」

 

『アヴェンジャーズ?』

 

「俺達はミランダと言う巨悪に立ち向かう鉄の男(アイアンマン)、つまり俺と大男になれる技術者(ハルク)、つまりお前だ。どちらかというとヴェノムだが。そう名乗っても差し支えないだろう?」

 

『私だけ仲間はずれなのやだな』

 

「お前が大人だったらブラック・ウィドウでもやらせてやるんだが、嬢ちゃんじゃなあ」

 

『私、大人になれるよ』

 

「おおう!?変幻自在かよ!こいつは面白ぇ!」

 

 

 大人の姿になって胸を張るエヴリンと、それに興奮するハイゼンベルク。ここに水を差すのは少し気が引ける。いざ言おうと気を引き締めると、鳴り響くサイレンと回る赤い光。何が起きたのかと見回しているとハイゼンベルクが神妙な顔で鉄槌を引き寄せて手にした。

 

 

『なになになに!?』

 

「何事だ!?」

 

「…きやがった。こいつはデュークの野郎に金を払って、聖杯にミランダが近づいたときに連絡してもらった時に鳴り響くアラートだ。つまり、ローズが危ねえ」

 

「そういうことは早く言え!行くぞ!」

 

「お前らは先に行け!俺は軍団を引き連れて追いかける!既に用意はしているからそう時間はかからんが、ローズを奪われるわけにはいかねえ!ローズの瓶を一個でもいい、回収したら工場の敷地へ誘い込め!」

 

「分かった、もう引き返せない。行くぞエヴリン!クイックだ!」

 

『了解!』

 

 

 工場から飛び出すと同時にクイック・モールデッドの脚にしてもらい素早く動ける機動性を利用して全速力で駆け抜ける。祭祀場が見えてくれば大跳躍、今まさに聖杯に手を伸ばそうとしているミランダを見つけて急降下。自分に被さった影を見てこちらを見上げるミランダだが、もう遅い。

 

 

「エヴリン、右足を通常のモールデッド化だ!」

 

『やりたいことはわかるよ!せーの!』

 

「『ライダー、キーック!』」

 

「なに?ぐああっ!?」

 

 

 渾身の飛び蹴りがミランダの顔面に炸裂。大きく頭から吹き飛ばし、ロックを蹴りつけて浮き上がった瓶を四つ丸ごと右手に持っていた鞄に詰め込み、エヴリンがまた両足をクイック・モールデッド化してくれたのでまた跳躍で工場敷地に戻ろうとする、が。

 

 

「イーサン・ウィンターズか。邪魔をするな。来い、ヴァルコラック・アルファ」

 

 

 翼六枚をバサッと広げたミランダに呼応する様に、横の巨像の陰から何かが飛び出してきて、腹部に噛み付かれる。咄嗟に鞄をそいつの頭部に叩きつけて橋に落下し、背中を強打。見上げると、そこには以前モローの湖へ行く際に遭遇したあの獣と同型の怪物がいた。なんか槍とか色々刺さっていて歴戦感が凄い。ヴァルコラック・アルファって言うのか。なら以前遭遇した奴はヴァルコラックってところか。明らかに前より強そうだ。腹から血がどくどく流れるが気にしている暇はない。

 

 

「来たれ、我が(しもべ)たち」

 

『イーサン、たくさん来たよ…!』

 

「とにかく逃げるんだ…!」

 

 

 さらに橋の前まで降りてきたミランダが手をかざすと、次々と姿を現しミランダに付き従うように降りてくるライカンたち。まだこんなに残っていたのか…!?するといつの間にか、襲われた当時の服装のミアに姿を変えて歩み寄ってくるミランダ。俺を油断させるつもりか。

 

 

「イーサン。ローズを返して。私達の子供よ。お願い、言うことを聞いて」

 

『卑怯だけど関係ないね!イーサンはミアが相手だろうと容赦なく斬るもん!』

 

「そうだ、ミアの姿だろうが俺は攻撃するぞ。もう小細工は効かないぞミランダ。お前のじゃない。俺達の子だ!」

 

 

 そう叫ぶと同時にハンドガンを乱射。しかし瞬時にミランダの姿に戻って閉じられた翼で防御され、その隙を突いて工場の敷地へと全速力で走る。余裕そうにヴァルコラック・アルファに追加された三体のヴァルコラック、大型を含めたライカンの軍勢を引き連れて歩み寄ってくるミランダ。俺を追い詰めているつもりなんだろうが、それは逆だ。なあ、そうだろう?

 

 

「連れて来たぞ、ハイゼンベルクゥ!」

 

『団体様のおつきだぁ~!』

 

「待たせたな!イーサン!」

 

 

 ハイゼンベルクの声と共に工場の扉が開き、ぞろぞろと出てきて俺とミランダの間に並ぶのはヘッドギアを頭に付けて左腕にドリルを装着し胸にアイアンマンのリアクターの様な赤く輝くコアみたいなものをつけた人型、ゾルダートの軍勢。その数はライカン軍団に負けてないどころか遥かに勝っている。中には両腕にドリルを付けていたり、ジェットパックで空を飛んでいたり、数こそ三体だが全身に装甲を纏っているゾルダートまでいる。一番前の先頭にはプロペラエンジンが頭部と胴体というとんでもない姿をした(恐らく)シュツルムがいた。

ギュインギュインとドリルやプロペラの音がうるさいこと以外は圧巻の光景だ。そして最後に出てきたハイゼンベルクは鉄槌を手にしながら吸っていた葉巻を捨てて踏みにじり、帽子のつばを上げて笑みを浮かべる。

 

 

「よぉミランダ!いい天気だな!」

 

「…ハイゼンベルク。一応聞くが、なんのつもりだ?」

 

「そりゃあ、気持ちよく裏切らせてもらうのよ。俺達はお前を倒すために手を組んだ。てめえの天下はここで終わりってわけだ!」

 

「そうか。ならば死ね」

 

 

 そう言って手をかざすミランダ。しかし何も起きず、間に耐えかねたエヴリンが吹き出し、ハイゼンベルクが高笑いを上げる。

 

 

『ぷっ。ださーい!』

 

「ハハハハハハ!残念だったなミランダ!テメエの支配はもう受けねえ!俺達のカドゥを潰そうとしたんだろうが、俺自ら改造した機械脳と、ゾルダートに取り付けた制御コアがカドゥを電気信号で支配する!テメエの支配なんざ糞喰らえなんだよ!」

 

「そういうわけだ、ミランダ。『覚悟しろ』」

 

 

 ヴァルコラック・アルファに噛み付かれた腹部に傷口に回復薬を垂れ流し、カビを身に纏ってモールデッド・ギガントに姿を変えてエヴリンと共に声を出すと、同様に工場の中や敷地の鉄材を引き寄せて怪物形態に姿を変えるハイゼンベルク。二つの巨体と、恐怖を感じない鋼の軍勢がずらりと並ぶ。

 

 

「…やはりか。イーサン、お前も特異菌の力を使えるようだな。だがそれは出来損ないの力だ、この私には及ばん。ハイゼンベルクも、まさかここまで無駄な抵抗をしてくるとは思わなかった。だが、その程度の戦力でこの私に勝てると思っているのか?」

 

 

 そう言って六枚の翼を広げ、仮面の下から見下した目を向けてくるミランダに、ファイティングポーズをとる。エヴリンが出来そこないだと、どういう意味だ?すると隣でデカい腕で小さく見える鉄槌を振りかざしたハイゼンベルクが声を張り上げる。

 

 

「関係ねえさ。ゾルダート……いや、アヴェンジャーズ(復讐者の軍勢)。アッセンブル!」

 

「「「「「ウオォオオオオオオッ!」」」」」

 

 

 そして、ミランダ率いるライカン(+α)の軍勢と、ハイゼンベルク率いるゾルダートの軍団が激突。血肉が宙を舞った。




制御コアと機械脳でカドゥを制御しているのは、そう解釈した上でのオリジナル設定です。あのハイゼンベルクが何も対策をしてないわけがない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十二話‐End game【自由】‐

どうも、放仮ごです。今回の題名に関しては思いつかなかったんです、許してください。

今回はイーサン・ハイゼンベルク同盟の諸悪の根源ミランダとの決戦。シュツルム君大活躍。楽しんでいただけると幸いです。


「シュツルムぅううう!」

 

 

 ハイゼンベルクの咆哮に応え、プロペラを回転させて突撃するシュツルム、立ちはだかるライカンを瞬く間にミンチに変え、立ちはだかったヴァルコラックの一体すら切り刻んで絶命させるその力は絶大だ。

 

 連携はできないらしく、一体だけでライカン一体をそのドリルで葬ったかと思えば三体に群がられてコアを破壊され爆散するゾルダート・アインたち。

 

 ゾルダート・ツヴァイはドリル二つでライカンを貫いて引き裂いていたが、大型ライカンに背中から襲われコアを破壊されて次々と沈黙。

 

 ゾルダート・ジェットは空から襲いかかるも耐久戦に難があるのか、地上に近づいたところを飛びかかられて滅茶苦茶に引きちぎられて抵抗。ライカンと相討ちになるのが多い。

 

 ゾルダート・パンツァーはヴァルコラックと激突し、三本一纏めのドリルで抉り、爪で引き裂かれ、一進一退の攻防を展開。

 

 俺たちは飛びかかってくるライカンをちぎっては投げ、斬り裂いては捨てて脇目も振らず突進。ハイゼンベルクもバイクの様な躯体を駆使してライカンを轢き殺し、右腕の丸鋸で大型ライカンを真っ二つにし、左腕の鉄槌を勢いよく叩きつけて蹴散らしていく。

 

 その有り様は、血肉が舞い多勢と多勢が激突する様は、正しく戦争だった。

 

 

「シュツルム!全力全開で回せぇええええ!」

 

 

 ミランダを狙い突き進む俺達とハイゼンベルクの前に立ちはだかるは、奴らの中で最も強いであろうヴァルコラック・アルファ。するとハイゼンベルクの咆哮と共にこちらに突進してきたシュツルムのエンジンが炎上、その炎をヴァルコラック・アルファに向けて逆噴射し焼き尽くしていく。なんて威力だ、ヴァルコラック・アルファの巨体が瞬く間に焼け落ちて行く。

 

 

『なになに!?プロペラ君、燃えちゃったよ!?いいの!?』

 

「あれはシュツルムの欠点にして切札、熱暴走だ。作戦通り、ミランダに突っ込ませる!俺達も続くぞ!」

 

 

 回転を止めて熱暴走を抑えながらミランダに向けて突進するシュツルム。ミランダの六枚の翼が変形し、六本の触手となって俺達に襲いかかるも、シュツルムがプロペラを回転させて防御、触手の欠片が宙を舞う。しかしチェーンソーになっているプロペラは触手を斬り裂いて行くたびにボロボロになっていき、間近に近づくと熱暴走を起こして炎を纏い火炎放射をミランダに放つ。あの炎なら!

 

 

「菌だから焼き殺せばいいとでも思ったか?」

 

 

 するとミランダは六枚の翼を広げて空に舞い上がり火炎放射を回避。上方に追いかけていくシュツルムの火炎放射だったが、突如地面から生えた巨大なカビの根っこの様な物に叩き潰されてシュツルムは爆散してしまった。

 

 

『プロペラ君!?よくも!』

 

「落ち着けエヴリン。アレは多分、カビと同じ硬度だ!ハイゼンベルク!」

 

「おうよ!こいつを取り込め!」

 

 

 ハイゼンベルクが手渡してきたのは、愛用している鉄槌。言われるまま胸部に取り込む。そしてハイゼンベルクが手を翳すと、ライカンたちに破壊されたゾルダートやシュツルムの残骸や工場内の廃材を引き寄せてモールデッド・ギガントの全身に装着させていき、鋼鉄の巨人が形作られる。両手の五指は一本一本ゾルダートの電動ドリルになっており、両足はバネの様になっており、円形にへこんでいる胸部にはシュツルムのチェンソープロペラが、両肩にはゾルダート・ジェットのジェットパックが二つ装着、全身を覆う鉄材がカビの身体の動きに合わせて歯車の様に噛み合い、駆動する。

 

 

『おお!かっこいい!』

 

「こいつがミランダバスターか!」

 

「そうだ!俺とお前たちの力を合わせた鋼の巨人だ!やっちまえ!」

 

「っ…!」

 

 

 空から両手をかざし、次々と黒カビで形成された根っこ…めんどくさいので菌根と呼ぶ…を地面から生やして攻撃してくるミランダだが、拳を握ったドリル指の回転で一撃で粉砕。伸ばしきって振るえば回転する爪の様になりいとも簡単に引き裂き、胴体を狙って槍の様に伸びてきた菌根もチェンソープロペラにズタボロにされる。まさに無敵。バネの脚でミランダ目掛けて跳躍すると、それがスイッチだったのかジェット噴射が火を噴いて突撃。ドリルが回転する拳をその仮面に隠れた顔面に炸裂させんとする。

 

 

「…まさか。私がこの程度だと思っていたのか?」

 

「『ぐあああっ!?』」

 

 

 背中を襲った衝撃に、仰け反り俯せに地面に叩きつけられる俺達。ミランダバスターこそ無事だったが、衝撃がもろに伝わって痛い。なんとか仰向けになると、空から俺達を襲ってきた奴の正体が見えた。

 

 

『クソデカオバサン…!?』

 

「ドミトレスクだと…!?」

 

 

 そこにいたのは、全身漆黒の巨大な竜。だが背中から生えたあの触手女は見間違えようがない、ドミトレスクだ。

 

 

「イーサン!横だ!」

 

「『っ!?』」

 

 

 今度は真横から衝撃。引っくり返されて襲撃者を見ると、そこには魚と両生類が一つになったような怪物…怪魚モローが漆黒の姿でいた。一斉に襲いかかってくるドラゴンと怪魚を殴りつけて応戦する。こいつはまさか…!?

 

 

「私の擬態を見破ろうが、敵ではない」

 

『そんなのあり!?私でもできないよそんなの!?』

 

「だから出来損ないだというのだ。エヴリン。…この名で呼ぶのも汚らわしい」

 

『なんだと!』

 

「うちの娘を馬鹿にしたな!ぐあっ!?」

 

 

 ドミトレスクの巨体に押さえつけられる。さらに二体と同じようになのだろう、菌根で形成されたのは巨大な漆黒のビスクドール。巨大アンジー人形だ。巨大アンジー人形は拳を構えてハイゼンベルクに振りおろす。背中のタービンで腕を粉砕して防御したハイゼンベルクはミランダに吠える。

 

 

「今、俺は自由を手にするところまで来てるんだ!こんな気分良いのは数十年ぶりだろうなあ!だからミランダ、テメェにはここでくたばってもらうぜ!!」

 

「そうか。ならばお前の兄妹の手で死ぬがいい」

 

「俺はお前の息子なんかじゃねえ!カール・ハイゼンベルクだ!」

 

 

 ミランダの言葉に激昂したハイゼンベルクはバイクの様な躯体で巨大アンジー人形の身体を駆けあがって丸鋸で真っ二つに叩き斬り、崩壊させると怒りのままにミランダに突撃する。止める暇もない、ドラゴンの噛み付きと怪魚の腐ったカビの様な吐瀉で鋼のボディが裂かれ、溶けて行く。不味いぞこれは…!同時に爆発する工場。辺りが焼け野原となる。こんな時にかよ、クリス!

 

 

「クソッ!俺の工場が……ぶっ殺してやるあのゴリラ野郎!いや、だが関係ねえ!俺は、自由になるんだぁああああ!」

 

「愚かな。一人で勝てないからと出来損ないの助けを借りたのではなかったのか?」

 

 

 噛み付いてきたドミトレスクのドラゴンの頭部を押さえつけて胸部に押し付けてプロペラで粉砕。怪魚モローには背中に両手の指を突き刺し、真っ二つに引き裂くことで倒して加勢すべく挑みかかる。見れば、菌根が薙ぎ払ったのかライカンの群れとゾルダート軍団はどちらも全滅していた。残るは俺達とハイゼンベルク、ミランダだけだ。

 

 

「ハイゼンベルク。お前が死なねば我が悲願を果たせない。潔くイーサンの手で殺されていればよかったものを…」

 

「なんだって?」

 

「へっ、やっぱりか!四貴族なんて作っておいて、いらなくなったら即ポイ捨てだ。俺達はゴミと一緒だってのか!?ふざけんじゃねーよミランダ!何様だてめえは!」

 

「私は…一人の母親だ」

 

『……』

 

「子供の為だったらなんでも許されると思ってんじゃねーぞ!」

 

 

 爆散した工場の残骸まで引き寄せて自らの躯体を巨大化させるハイゼンベルクと肩を並べて焼け野原を疾走する。恐らくクリスは、特異菌を炎で弱めるためにあのタイミングで爆発させたんだ。おかげで偽ドミトレスクと偽モローを倒せた。今なら、いくらミランダでも…!

 

 

「『「ミランダァアアアアアア!!」』」

 

「無駄だ」

 

 

 あと1メートルまで行ったってのに、ミランダの六翼が幾重にも枝分かれして膨れ上がり、丸太の様に太い触手となって俺達に殺到。一撃でチェンソープロペラを粉砕、さらに全身に撃ちつけられて鋼の装甲が粉々どころかカビの肉体まで粉々に粉砕され、さらには鋭く尖った先端で腹部を貫かれて背中から突き破られ、背後に投げ出されてしまう。

 

 

「ぐはっ!?」

 

『イーサン!イーサン、しっかりして!』

 

 

 心配そうに顔に近づいてくるエヴリンと、どくどくと血が流れる腹部、目の前でボロボロと崩れて行く鋼の巨人。側に転がるのはハイゼンベルクの鉄槌。そして、ハイゼンベルクは、俺より酷かった。

 

 

「…こんの、チートババアめ…」

 

 

 全身の鉄材をはぎ取られ、生身の状態で触手に腹部を突き刺されてミランダの目の前に持ち上げられるハイゼンベルク。血を口の端から垂れ流すその姿は致命傷を負っていて。それでも、手をかざす。引き寄せられたのは、門の近くに置かれていた木箱。蓋が開き中が見える。入られていたのは沢山の地雷だった。あれは、デュークの所で売られていた…!?

 

 

「ハハハハハ!俺は、自由だ!!」

 

 

 そして、超高速で引き寄せた地雷にはミランダも反応できずに大爆発。ハイゼンベルクは夜空に散った。




感想欄で生き残るルートの話ばっかされてたけど、誰もハイゼンベルク生存ルートとは言ってない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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狂える聖母と最高の父親
第三十三話‐Heart catch【敗北】‐


どうも、放仮ごです。ネタバレ題名。

今回はイーサン・エヴリンVSミランダ。楽しんでいただけると幸いです。


「ハイゼンベルク!?」

 

『マダオ!?』

 

 

 自爆してミランダと共に大爆発、夜空に散ったハイゼンベルク。最後の最期に自由になった男の死にざまは壮絶なもので……思わず、放心する。ローズを戻す手段を失った云々の前に、喪失感が凄い。どうやら結構、あの男に対して情が湧いていたらしい。

 

 

『マダオ…こんなの、あんまりだよ…まだまだ一緒に映画のことを語り合いたかったよ…』

 

「エヴリン………っ!?」

 

 

 爆発が晴れたので見やる。そこには、ミアが立っていた。本物のミアか?いや違う、あの醜悪な笑みは…思わず、ローズの入った鞄を左手で強く握りしめて後退、背中に手を伸ばす。

 

 

「ミランダ…!」

 

『なんで、あの爆発でも生きてるなんて…!?』

 

「大事だろう?私たちの娘は」

 

「俺の全てだ。だが、お前のじゃない!」

 

 

 右手に取ったグレネードランチャーを発射。しかし長く伸びた右手の五指を振るわれて炸裂弾は弾かれて空で爆発。ミランダはミアの姿のまま歩いて近づいてきた。

 

 

「私にとってもだ。ハイゼンベルクが消え、それからどうする?なにか手があるのか?」

 

『お前!お前え!』

 

「わからない…だがローズは助ける!そう誓った!」

 

「私に渡せば、肉体だけは戻せるぞ?生きていてくれたらお前も幸せだろう?」

 

「ふざけるな!ローズはローズとして、これからを生きて行くんだ!お前の娘としてじゃない、俺達の娘としてだ!」

 

『私の妹としてもだ!』

 

「愚かだな、お前は。妻に入れ替わっても気付かずに、哀れな、イーサン」

 

「っ!エヴリン!」

 

『やっちゃえ、イーサン!』

 

 

 目の前まで近づいてきたので、右腕を鞄を取り込んだブレード・モールデッドのものにして突き出す。しかしミアの姿のまま背中から生えてきた六翼が閉じられガキンッと弾かれ、零距離で炸裂弾を叩き込むもビクともしない。見ればブレードが刃毀れしている。エヴリンのカビ以上の硬度だと…!?

 

 

「ハハハハハ!哀れだ、そんな姿に成り果てても、お前は、私には敵わない!」

 

 

 高笑いと共に周囲に菌根が生えて囲まれてしまう。グレネードランチャーを投げ捨て、ショットガンを取りだして乱射。ブレードを何度も叩きつけるが、閉じられた翼を貫くことができず。翼を広げた時には仮面が外れた物の無傷のミランダが姿を現していて。

 

 

「私の翼があの程度の爆発で破られるとでも思ったか?教えてやろう、ハイゼンベルクは犬死だ」

 

「ミランダァ!」

 

 

 伸びた翼でブレードを叩き折られ、拳を握って翼を殴りつけるがその硬度に右腕がへし折れてしまう。エヴリンに視線をやって治してもらおうと試みるが、触手の様に伸びた翼で首を絞められ、持ち上げられてしまいショットガンと鞄を取りこぼす。

 

 

「エヴリン!腕を…ぐあっ!?」

 

『イーサン!』

 

「見えないがそこにいるのだろう?エヴリン。大方、死ぬ直前にこの男に自身の細胞の一部を埋め込んで残留思念としてこの世に留まったのであろうが……我が娘の胚から生まれたお前は出来損ないだ。出来損ないの菌で真の菌根に敵うと思うたか!」

 

『やっぱり…私の本当の母親は…!』

 

「ぐああああああ!?」

 

 

 投げ飛ばされ、菌根の壁に叩きつけられて肺の空気が強制的に吐き出される。エヴリンは、残留思念。死ぬ直前…恐らく、最後の対決の際に掴まれたあの時に俺に細胞を埋め込んで思念を継続させていたってことか?よくわからないが、残留思念ってことはつまり幽霊だ。幻影じゃなかったんだな…。そんな、今は関係ないことを考える。エヴリンはショックを受けたように動かない。駄目だ、意識が朦朧としてきた。何とか立ち上がってハンドガンを左手で構えるが右腕はブランブランと揺れて動かない。だが、それでも…!

 

 

「やめておけ。ローズはエヴリンの力を受け継いだ。いいや、エヴリンさえも凌駕するだろう。あらゆる者の精神を操作できる。その肉体が欲しい」

 

「黙れ、イカレ女め!」

 

 

 ミランダが俺の鞄を開いてフラスクを四つ取り出し側の菌根に回収させたのを見て、ハンドガンを乱射しながら突進。弾丸は全て翼で防がれるが、折れた右腕を振り回してヌンチャクの様にして叩きつける。激痛なんて気にしていられない。

 

 

「心配いらぬ。ローズは復活する。この菌根は全て記録しているのだ。ただし、その時は私の娘として生まれ変わる」

 

「ローズはお前の子じゃない!」

 

 

 翼を広げて俺を弾き飛ばしながらそう笑うミアの姿になったミランダにハンドガンを乱射。だがしかし、あの翼を貫くことは敵わない。タックルでミランダを突き飛ばし、鞄から回復薬をいくつか取りだして蓋を開けながらエヴリンを見やる。

 

 

「エヴリン、頼む!力を貸してくれ!」

 

『駄目!これ以上はイーサンの身体が…!』

 

「俺はどうなってもいい!頼む!」

 

『……わかった!』

 

 

 折れた右腕に回復薬をジャバジャバ振りかけ、カビを溢れさせてモールデッド・ギガントに姿を変えながらミランダに視線を向けると、そこにはあの、老婆がいた。

 

 

「この姿を覚えているか?お前が四貴族を倒す様に誘導するのは大変だったぞ」

 

『やっぱりダッシュババアじゃん!』

 

「なるほど。その呼び名はお前が発祥だったか。驚いたぞ、お前があの場にいない誰かと会話したのを見た時はな。その状態だと会話ができるのか、興味深い…が、出来損ないに興味はない」

 

 

 モールデッド・ギガントの右腕でハイゼンベルクの鉄槌を拾い振り下ろすが、杖で受け止められ、モールデッド・ギガントの怪力を越えるパワーで押し返され鉄槌を手放してしまう。そして姿を元に戻したミランダは翼を伸ばしてモールデッド・ギガントの全身を何度も何度も刺し貫いて行き、血反吐を吐く。

 

 

「『がああああ!?』」

 

「どんな姿に変わろうとお前は私には敵わない。お前もまた興味深い存在だ。ローズを生み出したのはお前か、それとも両親の因子が原因か。お前の力は把握しきれない。面白い、面白い、面白い…!」

 

「くそっ、があ!」

 

『死ねえ!毒親!』

 

 

 根性でエヴリンと力を合わせ、両腕を振り上げ拳を組んで振り下ろすが既にミランダはそこにはおらず。ミランダは姿を消したが、声は聞こえてくる。前後左右上下。体ごと動かして周りを見渡すが、菌根に囲まれているだけだ。雨が降り出して火が消えて行く。奴はどこだ…?

 

 

「面白い、が。モルモットとして生かしておくには出来損ないの存在が目障りだ」

 

『私は、出来損ないなんかじゃない!』

 

「ほっとけば人の何倍も速い老化で死にゆく体のどこが出来損ないじゃないと?」

 

『なんで、そのことを知って…』

 

「お前は覚えてないだろうが、私は赤子のお前をこの手に抱いたことがある。私の子、孫にも等しい子だ。だが失敗だった。出来損ないの癖にあの子を思い出させるその顔……ああ、うんざりする!」

 

「エヴリンはお前の子じゃない、もう俺の子だ!そう誓ったんだ!約束した!お前にどうこう言われる謂れはないぞ、ミランダ!」

 

 

 試しに菌根を殴りつけてみる。だがやはりこちらの腕がへし折れカビで補強され再生する。モールデッド・ギガントのパワーでも殴り砕けないなんて……

 

 

「ミランダ、臆病者め!隠れてないで出てこい!」

 

『そうだそうだ!私達が怖いんでしょ!その首、へし折ってやる!』

 

「できるものならな」

 

 

 グシャリ。誰もいなかったはずの前方から、左胸を貫かれる。モールデッド・ギガントの装甲など意味をなさず、俺はモールデッド・ギガント化が解けて崩れ落ちる。俺から排出されたエヴリンが泣きそうな顔でこちらを見てくる。

 

 

『イーサン!ダメ、ダメダメダメ!』

 

「がはっ…」

 

「恐れるなイーサン。死は一瞬だ」

 

 

 目の前から湧き出たカビが人型を取り、ミランダとなる。その右手が、俺の左胸を貫いていて…何かが抜き取られる。それは、血に塗れた俺の心臓だった。力なく、倒れ伏す。

 

 

『ダメ!イーサン!?』

 

「菌根はお前も記録する。お前の血は後でゆっくり研究するとしよう。エヴァを膝に乗せてな」

 

 

 俺の心臓を握り潰しその血を浴びながらそう笑うミランダ。意識が消えて行く。体が力を失っていくのが分かる。もう、ダメだ……

 

 

「夜明けが訪れれば我が儀式は完成し、私は真の母親となるのだ!血が永遠(とわ)に繋がる限りな!ハハハハハッ!」

 

『イーサン!イーサン!イーサン!ここまでだなんて、嘘だよ!』

 

「エヴリン、お前はその死体に縋っていろ。私に、私達に二度と近づくな。目障りだ」

 

 

 ああ、俺の血を取り込んだからエヴリンが見えてるんだな。そう、うっすらとした思考で考えながら、俺は力尽きた。




というわけで、エヴリンの正体は7最終決戦の外に投げ出した際イーサンに埋め込んだ細胞を糧に精神体として存在していた残留思念、ぶっちゃけると幽霊でした。だからイーサンの知らない場所の情報も知れた。ローズに見えていたのはイーサンに浸透したエヴリン(本体)の細胞が混じったから。血やらカビを取り込むことで見えていたのも同様です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十四話‐Eveline remnants【真実】‐

どうも、放仮ごです。ついにタイトル回収。この物語はイーサンとエヴリンの物語なので、クリス編は全面カットさせていただきます。原作と全然変わらない展開なので。

今回はイーサンが真実を知る話。楽しんでいただけると幸いです。






【直前の現実世界】

「貴方は彼が特別だってことを知らないの」

「知ってる。この目で見た」

「え」

「ん?」


 ―――――目を覚ます。寒い。何とか立ち上がり、周りを見渡すと辺り一面雪景色の暗い空間だった。

 

 

「ぐっ……どうなってるんだ…?」

 

 

 確か俺は、ミランダに心臓を抜き取られて……なんで、生きているんだ?それに、いつも必ず側にいたエヴリンがいないことに気付き、嫌な予感がして呼びかける。

 

 

「エヴリン!エヴリン、どこだ…!」

 

「アハハハハハ!」

 

 

 返ってきたのは最近は聞かなくなった嘲笑するエヴリンの笑い声。声を頼りに歩き出す。あまりの寒さに凍えそうになりながらも必死に歩く。

 

 

「どうしてこんなとこに…?ハイゼンベルクの工場敷地から何時の間に移動したんだ…?」

 

 

 手を合わせて息を吐きかけながら寒さに耐えていると、あることに気付いた。ライカンに食われたはずの左手の薬指と小指が存在していた。見れば、体中の傷も痕すら無くなっている。どういうことだ…?

 

 

「バカみたい、お前。本当に私が改心したとでも思ってたの?」

 

 

 そんな声と共に、目の前に人影。いつもの様に自由気ままに浮かんでいない、地に足を付けたエヴリンがそこにいた。冷ややかな声と目で俺を睨んでいる。なんで…どうして、今更そんな態度を取るんだ…。

 

 

「お前が見て話していた私はただの幻影!まやかし!お前がそうであってほしいと願った故に生み出した幻覚に過ぎない!お前は私を殺したんだ。許さない。絶対に許さない」

 

「エヴリン……お前、は…」

 

「私はオリジナルのエヴリン。イーサンに殺された私だ。お前が殺したのに、それを忘れたように私と楽しく過ごしていただなんて、吐き気がする。お前は私を殺した罪悪感に縛られ続ければよかったのに。何が家族だ!ただの欺瞞だ!お前は私に許してほしかっただけだ。本当は愛してないくせに!」

 

「それは違うよ!」

 

 

 エヴリンの言葉責めに、心が折れそうだったその時、目の前に現れたのは、もう一人のエヴリン。理解が追い付かない頭で唯一理解できたのは、このエヴリンは俺の知っているエヴリンだと言う事だ。

 

 

「私は幻影なんかじゃない!あなたと分離した残留思念、それが私!だから私もエヴリン!そこになんの違いもないよ!イーサンは私を愛してくれた、それでいいじゃん!」

 

「違う!お前は私の偽物だ。私じゃない。なんで偽物が愛されて私は愛されない!不公平だ、だから壊してやる。お前たちの馬鹿な上っ面だけの信頼を」

 

「なにを…」

 

 

 話を聞くに、どうやらオリジナルのエヴリンと、そこから分離したらしい「偽物」のエヴリンに分かれて、偽物の方が俺に愛されてるから不満があると、そういうことかと勝手に納得していると、オリジナルのエヴリンが悪い笑みを浮かべる。

 

 

「まさか…やめてよ!」

 

「うるさい」

 

 

 偽物のエヴリンは涙ながらに止めようとして、オリジナルのエヴリンから放たれた衝撃波で吹き飛ばされ俺に受け止められる。それでも今にも泣きそうな顔で止めようとするが、オリジナルのエヴリンは止まらない。

 

 

「そのエヴリンに聞かされなかったの?私がお前になにをしたのかを」

 

「何の話だ?」

 

「イーサン、ダメ、聞かないで……!」

 

「お前は…死んでるんだよ、イーサン・ウィンターズ」

 

 

 その言葉に頭が真っ白になる。俺の腕の中で偽物のエヴリンが泣きじゃくる。いや。待て。よく考えたら当たり前じゃないか。

 

 

「死んでる…?そうか…俺は…ミランダに…?いや、俺はローズを助けに…」

 

「馬鹿なの、それとも気付きたくない?違うよ。ミランダのせいじゃない。お前は、ずっと前から、死んでる」

 

「なん、だって…?俺はまだ…」

 

「そ、そうだよ!イーサンは私と一緒に三年もずっと…!」

 

「黙れ偽物。その体も動かなくなってきたんじゃない、イーサン?ほらね、ミランダのせいじゃない」

 

 

 泣きじゃくりながら否定する偽物と、嗤いながら近づいてくるオリジナル。どちらのエヴリンの言い分が正しいかは明白だった。

 

 

「一度もおかしいと思わなかったの?今まであんなに傷付いて来たっていうのに?なんでモールデッドに変異できると思ってるの?私にそんな力はないよ。ましてや、私の、絞りかすの様な、偽物の、そいつには!」

 

「いや、確かに、何かがおかしいとは…」

 

「思い出して。三年前のあの日、ベイカー邸で…お前は、ジャックに殺された。お前はとっくに、死んでたんだ」

 

 

 そうだ、廃屋で襲ってきたミアを倒した直後に殴り倒され、そのまま踏み潰された。そのあとは怒涛の展開の連続で今の今まで忘れていたが……まともに会話できるようになったジャックは言っていた。「殺したかったわけじゃない」アレは、そのままの意味だったのか…。

 

 

「フフッ、だから動けるはずがないんだよ」

 

「いや、だが俺は動いて…」

 

「動ける、はずが、ない!分かる?」

 

「ふざけるな!なら今までの俺は一体、なんなんだ…!」

 

 

 見れば、エヴリンを抱えている両手が黒く変色していて。それは今までのモールデッド化ではなく、俺の腕がそれでできていることを示していた。

 

 

「わかったでしょ?お前の身体は全部カビで出来てるんだよ。アハハ、ざまあみろ!お前はもう二度と家族には会えないよ」

 

「家族……俺の、家族…駄目だ、ローズを助けないと…」

 

 

 オリジナルのエヴリンの言葉に打ちひしがれて。腕の中で泣きじゃくるエヴリンに視線を向ける。お前も、家族…だよな。

 

 

「…なあ、エヴリン。どうして黙ってた?」

 

「………だって。私のせいだもん。ジャックを感染させて、イーサンが死ぬことになったのは……話したら本気で嫌われるんじゃないかって。そう、思ったら言えなくて…」

 

「お前を嫌うなんて、あるわけないじゃないか……家族だろ?」

 

「イーサン……ごめんね、ごめんね…!」

 

「は?」

 

 

 ギュッと、エヴリンの身体を抱きしめる。偽物とか、そんなの、どうでもいい。俺が家族だと認めて愛したエヴリンは、お前だけだ。するとあからさまに不機嫌になるオリジナルのエヴリン。俺達は抱き合いながら、オリジナルを睨みつける。

 

 

「ふざけるな、お前を騙してたんだぞ!?なのに家族だって、愛するのか!」

 

「俺は誓ったんだ。このエヴリンを、家族だと認めるってな…それは、変わらない!」

 

「無駄なことを!お前はもう死んでる、死んでるんだ!」

 

「だからどうした。俺はまだ、ここにいるぞ」

 

 

 そう言いながら歩み寄ると、怖気づくオリジナルのエヴリン。歩み寄る度に、後退していく。

 

 

「私は、お前を殺したんだぞ!そいつも同様だ!なのに許すって、それなのに愛するって……そんなの、本当の家族じゃないか…!」

 

「ああ、ミアにも伝える。ローズにだって姉だと紹介する。エヴリンは俺にとって、もう家族だ!」

 

「認めない、認めない認めない!酷い目に遭わせたのに!ローズが狙われたのも私のせいなのに!偽物が愛されて、家族を持って!私だけ愛されないなんて、認めない!」

 

 

 そう泣き叫ぶオリジナルのエヴリンに、俺とエヴリンは顔を見合わせて頷き、エヴリンが俺の首に手を回したので手放して、そのままオリジナルのエヴリンも包み込む。

 

 

「…お前もだ」

 

「え……?」

 

「エヴリンは俺の家族だ。それは、お前も変わらない。一人で、こんなところでずっと……寂しかったな」

 

「そんな……私、本当の、家族が、欲しくて……だから、羨ましくて…」

 

「…ああ。お前も家族だ」

 

「うっ、うっ、うぅぅぅ」

 

 

 オリジナルのエヴリンが泣き叫ぶ。エヴリンにも移ったのか涙を溢れさせて一緒に泣きじゃくる。そんな二人のエヴリンを、俺は優しく抱え込んだ。…ローズ、お前も絶対取り戻して…こうしてやりたい。




実はオリジナルと幽霊とで分かたれていたエヴリン。今まで一緒に旅してたのは偽物(幽霊)の方でした。菌根に囚われていたオリジナルのエヴリンと再会、そして和解。これが意味することは…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十五話‐Reboot【再臨】‐

どうも、放仮ごです。クライマックスに突入です。このエヴリン達、ノリノリである。

今回はイーサン復活、そしてデュークとの別れ。楽しんでいただけると幸いです。


『私が貴方で!』『お前が私で~!』『ウィーアー!』『マイティ!マイティエヴリン~!』『ヘイ!』『『ダブルエーックス!』』

 

 

 ――――そんな変な歌を聞きながら目を覚ますと、そこは荷車の中で。ガタゴト揺れていることから馬車か何かだと分かる。まさかあいつが?と起き上がると、目の前に憎たらしい笑顔のエヴリンが顔を出してきた。

 

 

『あ、起きた?パパ』

 

「エヴリン……お前、オリジナルの方は…」

 

『私はお前。貴方は私。イーサンがあそこから引きずり出してくれたおかげで私達、一つに戻ったみたい?』

 

「…そうか。それならよかった」

 

 

 安堵していると、この一日で聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「ようやくお目覚めですかな」

 

『そうそう。目を覚ましたらデュークがいたんだ。ビックリだよね!』

 

「やっぱりデュークか。ここはどこだ…?」

 

「私の馬車です。酷くうなされてましたね」

 

 

 2人のエヴリンとの会話を思い出し、手を握って開いてみる。心なしか、黒ずんで見えた。

 

 

「ハイゼンベルク卿と手を組んでの大立ち回り。ミランダとは激しい戦いでしたな」

 

『マダオ……仇は取るからね』

 

「どれぐらい、寝てたんだ?」

 

「もうすぐ夜明けです」

 

 

 エヴリンと顔を見合わせる。デュークがどこに向かっているかは知らないが、俺にはいかなきゃいけないところがある。

 

 

『そこは俺達、でしょ』

 

「…ああ。デューク。頼みがある。ミランダのところへ…」

 

「そうおっしゃると思い、既に向かっております。まもなく着きますよ」

 

「…助かる。なにからなにまで、ありがとう」

 

「そうそう、貴方を回収した際に側に落ちていたので回収しておきました。傍らに置いておきましたので、どうぞ」

 

『これって、マダオの…!』

 

 

 そう言われて周りを見ると、ハイゼンベルクの鉄槌が傍らに置いていた。鞄やグレネードランチャーやらは菌根に飲まれたか……。鉄槌を力強く握りしめる。ハイゼンベルク、力を貸してくれ。

 

 

「しかし……よろしいのですか?そのお体はまるで…朽ちかけているようだ」

 

『…ごめん、心臓を再生させるために無茶苦茶力を使った。ただでさえ限界が近かったのに、もう…』

 

「分かってる。だが、まだ戦える。それだけで十分だ」

 

『イーサン…』

 

 

 鉄槌を傍らに置いて拳を握る。例え体が朽ち果てる寸前でも、ローズを助けるまで持てばいい。

 

 

「愚問でしたかな?」

 

「これも愚問だろうが…お前は何者なんだ?」

 

『そう、それ!』

 

「フッヘッヘッヘ。私自身も存じかねます。着きましたよ。ウィンターズ様」

 

 

 質問ははぐらかされたが到着したようなので降りようとすると声をかけられる。一足先に外に出ていたエヴリンが顔だけ戻してきてちょっと笑いそうになった。

 

 

「あなたはもう、人の世に戻ることはできませんぞ。ご覚悟は?」

 

『……こう言うべきかな。Are you ready?』

 

「……ああ、できてるさ…!」

 

 

 二人の問いかけに力強く応え、鉄槌を背中に下げて外に出る。そこは、聖杯があったあの広場だった。地響きが起こる。クリスがミランダと戦っているのだろうか。急がないと…!

 

 

「お待ちを。ウィンターズ様。これが最後のチャンスですぞ!どうやら武器を失った様子。格安でお売りしますので是非装備をお整えください」

 

『そこは譲ってくれればいいのに』

 

「助かるよ」

 

「最強のハンドガンと最強のショットガンをご用意しましたよ!小さいですがサービスで鞄もどうぞ。回復薬もありったけ、ですね?」

 

『サービスが凄い』

 

「さすが、よくわかっているな。だが金が少ないんだ。ショットガンだけ頼む。残った金で回復薬だ」

 

「これが最後の取引やも…お買い残しのございませんよう」

 

 

 左手に持った小さめの鞄に回復薬を詰め込み、ショットガンを背中の鉄槌の横に備える。弾は買えなかったからこの装弾数と腕っぷしだけが頼りか。すると、デュークは手元に置いてあった豪華な箱を開くと、その中から取り出したものを差し出してきた。

 

 

「これは…?」

 

『なにこれかっこいい!』

 

「餞別です。本来なら商売に徹するべきなのでしょうが一つだけ、とっておきを譲りましょう。これは古い友人から譲ってもらったものです。曰く“ブッ飛んでいる”代物ですぞ」

 

「いいのか?」

 

「貴方も私の大切な友人の一人ですから。どうぞ、お受け取りください。…どうか、お気をつけて」

 

「世話になった」

 

『聞こえてないだろうけど、疑ってごめんね!ありがとう!』

 

 

 そう見送られ、手にした黒光りする無骨なリボルバーマグナムを右腰に納めて俺は、いや俺達は祭祀場に向けて歩き出す。厳密にはエヴリンは浮いて付いてくるのだが、まあ関係ないだろう。

 

 

『うっわ、気持ち悪い!』

 

「これ全部特異菌なのか…?」

 

 

 うねうねうねうねと、道を占領する様にいくつも伸びる菌の根っこ。先を急ぎながら避けていくと、菌根から吐き出されるようにしてモロアイカが二体出てきた。

 

 

『もうライカンはいないのかな?』

 

「邪魔をするな…!」

 

 

 弾を消費しないために、鉄槌を手に取り構えてそのまま振り下ろすことで頭部を叩き潰し、もう一体も振り上げ様に殴り飛ばす。助かった、ハイゼンベルク…!

 

 

「急ぐぞ!」

 

『無茶だけはしないでよね。せっかく私のパパになったんだから、死んだら許さないよ』

 

「オリジナルの方か?ああ、わかってる。生きて、ローズやお前たちと一緒にこの村を脱出する…!」

 

 

 鉄槌を手に橋を駆け抜け、階段を駆け上がる。祭祀場は菌根の塊で塞がれており、何とか隙間をかき分けて中に入ると、奴の声が聞こえてきた。

 

 

「ああ…私の可愛いエヴァ…私の愛しい娘。さあ出ておいで」

 

「待て!ミランダ!」

 

 

 何とか中の広場に出ると、そこには黒い液状のものに浸された聖杯に手を向けて恍惚としているミランダがいて。俺は鉄槌を背中に戻して代わりにショットガンを手にしてつきつける。しかし俺には目もくれず、黒い液体から何かを取りだすミランダ。それを見て、思わずショットガンの銃口を下げた。元の姿に戻ったローズだったからだ。

 

 

「エヴァ…お前なのかい。ああ!どれほど会いたかったか…」

 

「遅かったか…」

 

『そんな…間に合わなかったの?』

 

「……何だ?」

 

 

 エヴリンと共に無力感に打ちひしがれていると、こちらに背を向けてローズを掲げながら訝しげな声を上げるミランダ。なんだ、何が起こっている?

 

 

「私の力が奪われていく…!?」

 

『イーサン、あれ、ローズだ!ローズがなにかしたんだよ!』

 

「ミランダァ!」

 

 

 駆け寄ると、ようやくこちらに気付いたのか振り返るミランダ。その左目からは黒い液体が零れ落ちていた。

 

 

「興味深い…やはり普通の人間ではないどころか、生死さえ凌駕するか…!」

 

『身体だけじゃないよ!精神もすっごく強いんだから!』

 

「さっさとローズを返せ!早く!」

 

「こざかしい。それに騒がしいぞ、出来損ない。今度こそ息の根を止めて……ぐはっ!?」

 

 

 その瞬間、頭を撃ちぬかれるミランダ。今のは、ライフルか?

 

 

「今だ!ローズを!」

 

『クリス!』

 

「助かる!」

 

 

 声からクリスの援護射撃だと分かり、駆け寄ってローズを奪い取ると、ミランダがしがみ付いてきた。力の限り引っ張るが、一切離れない。

 

 

「離せ!」

 

『ローズから離れろ、毒親!』

 

「誰が毒親だ…!私ほど娘を愛している者もいない!この時を夢見て生涯を費やしてきたのだ…なのにそれを奪おうというのか?」

 

 

 顔を上げたミランダが目が漆黒の液体に染まって液体を垂れ流した凄まじい形相で睨みつけてきて、俺を吹き飛ばす。同時に、ローズを抱えて菌根に包まれていくミランダ。

 

 

「この子は…誰にも渡さん…我が大願が成される時が来たのだ!ローズは、この私のものぉおおおおお!」

 

「どうなってる!?」

 

『これは……あの時の、私と同じ…!』

 

 

 そして菌根が離れると、そこには腕と指が伸び、露出の高い漆黒の衣装の異形という、ミアに化けていたミランダがローズに読み聞かせていた【Village_of_Shadows】という絵本に出てくる魔女の様な姿に変貌したミランダ。ローズは、取り込まれてしまったのか…!

 

 

『私よりかっこいいのずるい!』

 

「ローズ。待っていろ…絵本の怪物はパパがやっつけてやる」

 

 

 あの時の言葉を改めて言うことで決意を固めてショットガンを構える。これで最後だ、ミランダ!




デュークの餞別。「友人」からもらったとっておき。モローの隠し武器もいいけど、個人的にディーラー(4の武器商人の、拙作Fate/Grand Order【The arms dealer】での呼び名)大好きなのでこうしてみました。さらにデュークおすすめショットガンとハイゼンベルクの鉄槌装備で最終決戦。なおマガジンはない模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第三十六話‐Village_of_Shadows【死闘】‐

どうも、放仮ごです。月刊ランキング24位という結構上位にランクインしてましたありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

現在のイーサンの装備
・鞄(初期。デュークのサービス)
・ショットガン(工場で買える奴)
・ハイゼンベルクの鉄槌
・ナイフ
・回復薬4個
・デュークの古い友人のとっておき(装弾数6発)
・合体してパワーアップしたエヴリン

今回はミランダとの最終決戦。楽しんでいただけると幸いです。


「お前の役目は終わった。ウィンターズ。我が「偽りの子」等を始末し、大いなる菌根を目覚めさせるというな。ハイゼンベルクだけは我が手で始末することになったが…役目は全うしろ」

 

「そんなのお断りだ!」

 

『踊るな!ムカつく!』

 

 

 鞄をその場に下ろす。変異したミランダが六枚の翼を広げ、俺のショットガンの一撃をまるで舞踏会の様に舞い踊って回避。その瞬間、周りの菌根が蠢いて形を成すのは、漆黒の竜…ドミトレスク、死神ベイビー…ドナ、漆黒の怪魚…モロー、そして機械がないからかカビで機械部分を形成しているバイクの様な怪物…ハイゼンベルク、四貴族の偽物たち。蝙蝠、死神、怪魚、鉄の馬。ますます【Village_of_Shadows】に出てくる魔女に従う怪物たちを彷彿とさせるな。ドミトレスクは噛み付き、ドナは鎌による斬撃、モローは吐瀉攻撃、ハイゼンベルクは突進してきて、この広いようで狭い空間を縦横無尽に攻撃を仕掛けてきたので必死に避ける。

 

 

『卑怯だぞ!』

 

「得体の知れない相手だぞ、出来損ない。消耗戦を仕掛けるのは道理だ」

 

「ぐああっ!?」

 

「ローズの事なら何も心配はいらぬぞ。私が真の幸福を与えてやるからな」

 

 

 四体の攻撃の合間を縫って突進し、翼を木の枝の様に変形させて俺の肩を斬り裂いてくるミランダ。だが近づいてきたのは悪手だ。背中の鉄槌を手にすると同時に振り下ろすが、また踊るようにして遠くへ移動され、さらには地面から菌根による攻撃を仕掛けてきて、咄嗟にフルスイングで抵抗。菌根を粉砕することに成功した。この力は…!

 

 

『モールデッド化しなくても、私達の力でイーサンの能力をブーストしているよ!今のイーサンの身体は、今までの何倍も強い!』

 

「なるほど、助かる!ウオォオオオッ!」

 

 

 鉄槌を手に突撃するも、四貴族に邪魔される。隙のない連携攻撃に防戦一方だ。

 

 

「だからお前は安心して死ね!永遠にな!そして二度と戻ってこないでくれ!私達の、平穏な家庭に!」

 

「俺達の平穏な家庭を潰しておいて何言ってやがる!?お前だけは許さない…!俺達だけじゃない、エレナたち村人やハイゼンベルクやモローやドナたち四貴族……ありとあらゆる人間を利用して!殺しつくして!それで娘を取り戻すだって!?世迷言もいい加減にしろ!」

 

「村人も!4人の新たな「子供」も!百年に渡る我が孤独を埋めることはなかった!抵抗するな。やれ」

 

 

 四貴族の波状攻撃を避けながらミランダを狙うのはかなり難しい。ここは周りから殲滅するべきか。すると、どこからか弾丸の掃射がドナとモローを襲い、爆散させる。クリスか、ありがたい!

 

 

「ハイゼンベルク…俺が仇を取ってやる。安らかに眠れ!」

 

 

 フルスイングでハイゼンベルクの頭部を鉄槌で叩き潰し、飛来してきたドミトレスクには跳躍してその本体に鉄槌を叩き込み、爆散させる。これであとは、ミランダだけだ!

 

 

『私と同じだ!本当の意味で家族じゃない家族なんて、虚しいだけだ!だけど、血が繋がっていなくても、本当の愛があればそれは家族だ!』

 

「それがお前の本質だからだよ、ミランダ!お前は誰も愛せやしないんだ!」

 

「胸を貫かれ生きている人間などいない。お前はまさしく「こちら側」だ!子を愛する気持ちはお前にも分かるだろう!?私とて同じこと!」

 

「どうして分からないんだ!ローズはお前の娘なんかじゃない!俺の子だ!」

 

 

 すると視界が真っ暗になり、ミランダもエヴリンの姿も見えなくなる。だけど声だけは聞こえてきて。

 

 

『イーサン、前!』

 

「死ね。死ね。死ね!死ね!死ねェ!」

 

 

 鉄槌をその場に下ろして横に跳躍。同時に俺がいた場所にショットガンを叩き込むと、悲鳴が聞こえると同時に視界の暗さが元に戻る。妙な技を使いやがって。

 

 

『ナイスショット!』

 

「やめろウィンターズ。足掻いても無駄だ。私の邪魔をするな!」

 

 

 暗闇に乗じて変形したのか、カビで複数の節足を形成し、蜘蛛の様な形態に変わっていたミランダ。節足の数を数えている暇もなく、連続攻撃をショットガンを盾に防ぐ。

 

 

「時間切れだ!さあ死ね!」

 

『今度は上!』

 

 

 すると跳躍して上から迫るミランダに、またも跳躍。ショットガンを背中に戻して鉄槌を手に取り蜘蛛足の一本にフルスイング。へし折ることに成功するが、残りの蜘蛛足で後退したミランダは再度跳躍した。

 

 

「さあ、ここで終わりだ。すぐに楽にしてやろう」

 

『ワンパターンだね、マーガレットの方がもっとレパートリー多かったよ!』

 

 

 高台まで移動して、そこから飛び降りてくるミランダ。飛び退くと、鋭い一撃が俺の今の今までいた場所に叩き込まれるも、再びフルスイング。蜘蛛足を二本へし折った。

 

 

『もう動けない筈…ってそれはずるい』

 

「菌根が絶望の淵にいた私を救い出し、この素晴らしき力を授けたもうたのだ!」

 

「マジかよ」

 

 

 今度は蜘蛛足を巨大な翼に変え、空を飛ぶミランダ。何の成分と反応してそんな色になったのか分からない暗色の火の玉が、どんな原理でかミランダの周りに浮かび、そして俺めがけて放たれる。現実離れしたその光景に、しかし俺は本能から素早く回避行動を取るも、爆発が背中を焼いて悶える。これは不味いか?

 

 

「こうすれば死ぬか?私は我が娘を必ずや取り戻す!」

 

『卑怯だぞ!降りてこい!』

 

 

 今の俺の武器はとっておきを除いて近距離用だ。ああも空を飛ばれるとやりづらい。再び火球を形成するミランダに、どうしたものかと考えていると、火球を空に形成したまま突撃してきたので鉄槌を構えるも、俺と激突する瞬間火球が降り注ぎまともに浴びてしまう。自由自在ってかクソッたれ!

 

 

「ああ、エヴァ…待っていてくれ…私はお前を取り戻す…!」

 

『その愛する娘が、本当にたくさんの人の命を奪ってまで蘇りたいなんて思ってるとでも!?』

 

「エヴァは私に会えて嬉しいと思ってくれるさ!」

 

『そんなの、エヴァが悲しむに決まってるじゃん!』

 

 

 エヴリンの慟哭に、ピタリと動きを止めるミランダ。しかし翼をさらに広げて高速回転し、翼のビンタが俺に叩きつけられ菌根の壁まで吹き飛ばされてしまう。

 

 

「エヴァは私の全てだ!菌根とローズが真に一つとなる時!我が愛する娘は再び蘇る!私は百年待ち侘びた!百年だ!今日この日のために!」

 

『なら、貴方の娘として、エヴァの代わりに言ってやる!お前なんかママじゃない!』

 

「ふざけるな、出来損ないがぁああああ!」

 

「ぐあぁあああああ!?」

 

 

 何とか立ち上がった俺目掛けて、飛翔形態で天高く上昇してから蜘蛛形態となり飛び降りてくるミランダ。その鋭い節足が俺の腹部に突き刺さり、引き抜かれて中央まで蹴り飛ばされる。ミランダは再び飛翔して火球を形成し始めた。

 

 

『イーサン、回復薬!』

 

「くそっ…」

 

 

 エヴリンに言われて、鞄の元まで這いずって中から回復薬を二個取りだして仰向けになり腹部に垂れ流す。

 

 

「エヴリン…行くぞ」

 

『うん…!』

 

「『We are family(俺/私達は、家族だ)!』」

 

 

 掛け声と共に、モールデッド・ギガントに変身。右手に鉄槌を、左手にショットガンを取り込みいつでも取り出せるようにする。

 

 

「まだ立ち上がるか…じっとしていろ。こんな不毛な戦いをまだ続けるのか?何故邪魔をする!死にゆくだけのお前が、ローズを手に入れてどうなると言うのだ!」

 

「ローズは俺の娘だ!ふざけるな!」

 

『私達はどうなってもいい!ローズが元気に生きていることに意味があるんだ!』

 

「私は夢を叶えてみせるぞ!必ずな!」

 

 

 翼を羽ばたかせ、突撃してくるミランダと真正面から激突。瞬時に蜘蛛足形態になったミランダと取っ組み合い、腹部を何度も刺されながらも投げ飛ばし、右手から取りだした鉄槌を顔面に叩きつけると、ミランダは分が悪いと思ったのか複数の烏に姿を変えて飛び立ち、離れた空で飛翔形態として実体化した。満身創痍でモールデッド・ギガントの姿が解けてしまうが、あっちも同じ満身創痍のはずだ。

 

 

『逃げるな!戦え!』

 

「お互い限界だろう。返してもらうぞ、俺達の子を…!」

 

「ハハハハハッ!どんな姿にもなれるぞ。鳥に獣…老婆…お前の妻にも。さあ大いなる菌根よ!我が呼びかけに応えたまえ!」

 

 

 俺の脚を菌根で拘束。特異菌を集め、超巨大な火の玉を形成していくミランダ。俺は元の姿に戻って腰からアレを取りだし、構える。

 

 

「もうよいだろう。さあイーサン、もう諦めて楽になれ。あとは全て私に託すといい。さあ、ゆっくり眠れ。もう終わりにしよう」

 

「同感だ。喰らえ、とっておき!」

 

『その名も、ハンドキャノン!』

 

 

 一発で、巨大火球が爆散。火の粉の滝がミランダの翼に振りかかり、炎上する。ハンドキャノン。そのあまりの威力に茫然としていると、同じく茫然としていたミランダが吠えて飛びかかってくる。

 

 

「これで貴様も終わりだ!イーサン・ウィンターズ!二度とこの私の邪魔できぬよう、貴様を菌根の糧にしてやるわ!」

 

『イーサン!』

 

「エヴリン!」

 

 

 さらに脇から鋭い菌根を伸ばしてきたのでハンドキャノンで粉砕、すかさず四連射。翼をもがれ、顔と腹部を吹き飛ばされてもなお突き進んで何度も何度も両腕を叩きつけてくるミランダに、俺は弾切れのハンドキャノンを投げ捨ててエヴリンと顔を見合わせ、右手を構えるとモールデッドの物に変化。振りかぶる。形はどうあれ、こいつは俺と夫妻を演じ、エヴリンの母親…祖母?なのだ。ならば即ち!

 

 

「『お前も家族だ!』」

 

「グオォオオオオオッ!?」

 

 

 とどめを刺そうと交差していた両腕を粉砕し、そのまま胸部にストレートパンチを叩きこみ、ミランダは苦悶の声を上げながら吹き飛んだのだった。




偽四貴族使役など、原作よりもパワーアップしているミランダ。最後はやはりこの一撃。クリスも地味に援護射撃で偽四貴族撃破に貢献してます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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最終話‐Ethan must die【究極の犠牲】‐

どうも、放仮ごです。今回で本編最終回となります。原作通りイーサンが犠牲となるのか、それともエヴリンが加わったことで何かが変わるのか。最後までお付き合いください。

ミランダに痛恨の一撃を浴びせたイーサン達。しかしその体には限界が来ていて…?楽しんでいただけると幸いです。


「グッ…アァアアアアアア!?」

 

 

 殴り飛ばされてよろよろと後退し、苦しみ悶えて血を吐き散らすミランダが慟哭の声を上げる。

 

 

「私の娘…!私のエヴァァアアアアアアア!!」

 

 

 そしてミランダは石灰化して崩れ落ち、周りの菌根も石灰化して崩れていき青空が姿を見せる。既に朝になっていたのか。そしてミランダの崩れ落ちた後には、ローズが無事な姿で泣き叫んでいた。

 

 

「ローズ…!」

 

『イーサン、これ以上の無茶は…!』

 

「ここで無茶しないで何時するんだ…!」

 

 

 全身を斬り裂かれて満身創痍の身で駆け寄り、抱え上げる。よかった、どこにも怪我はないし傷跡もない。

 

 

「シーシー。大丈夫だローズ…もう大丈夫」

 

『いないいないばあ!お姉ちゃんもいるよ!』

 

「っ…!」

 

 

 エヴリンがあやして泣き止ませる姿にほっこりしていくと、ついに限界が来たのか俺の右腕が石灰化して崩れて行き、力が抜けて膝をつく。クソッ、ローズを連れて村から出ないといけないってのに…!

 

 

『イーサン!どうしよう、どうしよう!私は触れないし…』

 

「イーサン!…イーサン!」

 

 

 エヴリンがあわわと狼狽える中、やってきたのはクリス。力を振り絞って見上げると、クリスは俺を助け起こそうとしてくるが、動けない。

 

 

『クリス!よかった、これなら…!』

 

「おいイーサン!おいイーサン、起きろ!」

 

「起きてるよ…クリス…だけど、力が入らないんだ…」

 

「まずい。まだ菌根が残っている…!」

 

『あーもう、しつこい!』

 

 

 見れば、村の方で巨大な菌根が蠢き出していて。ミランダは倒したはずなのに、なんで…

 

 

「イーサン…やったな、奴は終わった」

 

「それは俺も同じらしい…」

 

『頑張ってイーサン!ここまできたのに…!』

 

「イーサン。逃げるんだ。さあ」

 

 

 ローズを左手に抱え、クリスが右腕に肩を貸して持ち上げてくれて、共に歩いてどこかを目指す。後ろを見れば、巨大な胎児を模した形状の菌根が迫って来ていて。

 

 

『イーサン、ヤバいよ!あれがもうそこまで…!』

 

「足を止めるな!奴には村ごと吹き飛ばせる爆弾が仕込んである。これを見ろ」

 

 

 橋に差し掛かったところでそう言ってクリスが取りだしたのは何かのスイッチ。…なるほど、な。

 

 

「今起爆すれば俺達も終わりだ。しっかりしろ、ミアが待ってるぞ!」

 

『ミア!?生きてたの!?』

 

「ミアはちゃんと生きている。生きてるんだ!」

 

「ミア…許してくれ……愛してる…ローズを頼む…」

 

『イーサン!?それは駄目!』

 

「おい…立て、おい!」

 

 

 よろめいたところをクリスに受け止められ、そのままローズを託す。もう俺の手もいつまで持つか分からないからな…

 

 

「自分で伝えろ!ほら、あともう少しだ!」

 

「守ってやってくれ…強くなれるよう…」

 

『……』

 

 

 もう立つのも精一杯なんだ。上着を脱いで、ローズに被せる。せめて、この寒い朝の空気で冷えないように…横から菌根が迫ってきたので、クリスを押して逃す。同時に、スイッチを奪い取った。

 

 

「畜生…イーサン!」

 

「元気で。ローズマリー」

 

『イーサン、回復薬を使って!」

 

 

 そのまま菌根の元へ歩いて行こうとすると、エヴリンがそう言ってくる。そうか、歩くのもやっとの身体でもモールデッド・ギガントなら…なんとか左手で回復薬を手に取り、右手に振りかける。すると右腕が形成されてカビが溢れ出し、俺を包み込んでいく。変身を終えて見てみれば、まだクリスは迷っている様にそこにいた。

 

 

「イーサン…!」

 

「…ここは食い止めるから急いでくれクリス。俺は化け物だ。いない方がいい」

 

『それは、私のことだよ』

 

「え…?」

 

 

 その瞬間、俺は投げ出されていた。クリスの元に。クリスに受け止められ、慌てて見れば、モールデッド・ギガントが笑みを作っていた。

 

 

『融合したおかげで単独で動けるようになったんだ。回復薬を使って体の劣化は私が抑えてあげたよ。ママとお別れするぐらいの時間は作ったからさ。…私が消えたら、もしかしたらもっと持つかもね』

 

「待て…待ってくれ、エヴリン!」

 

「エヴリンだと…?」

 

『このままじゃイーサンも死ぬ、ローズも死ぬ、皆死ぬ…だけど今日じゃない、なんてね?これが最初で最後の親孝行。私を娘って認めてくれてありがとね、パパ。化け物は化け物らしく、ね』

 

 

 呼び止めるも振り返ることなく、跳躍して菌根に立ち向かうモールデッド・ギガント……エヴリン。俺はクリスに手を引かれて、さっきよりも軽くなった足取りで連れられていった先にはヘリがあって。そこには、ミアがいた。

 

 

「ローズ!イーサン!クリス…ありがとう、ありがとう…」

 

「礼はいい。出せ!離陸だ、急げ!すぐに離脱しろ!」

 

「…ミア、無事でよかった」

 

「イーサン、貴方こそ。その体、そんな…!」

 

「気にするな。ローズを助けるためだった。悔いはない」

 

「…どうしたの?そう言う割には浮かない顔だけど…」

 

「君には信じられないかもしれないがもう一人の娘が……エヴリンが、俺を助けてくれた」

 

「…やっぱり、あれは幻覚じゃなかったのね」

 

「………なんだって?」

 

 

 離陸するヘリの中で語られる、衝撃の事実。ミアにはどうやら、見えていたらしい。

 

 

「あなたと仲良く映画を見ているエヴリンを見て、信じられなくて…見えてないふりをしていたの」

 

「ミア。あのエヴリンは…」

 

「私達を苦しめたあの子とは違う。わかっているわ。…イーサンとローズを助けてくれたんでしょ?この場にいないってことは……あの子は、私達のために?」

 

「…そうだ。君にも認められていると、伝えたかった」

 

「イーサン」

 

 

 会話を終えると、外を見ながら俺に語りかけてくるクリス。その視線の先には、俺の左手に握られたスイッチがあった。

 

 

「…イーサン。気持ちは分かるが、お前の手で、終わらせろ」

 

「イーサン。それがあの子の望みなら」

 

「…ああ、ミア。エヴリン……お前は、自慢の娘だ」

 

 

 そして…祈るようにしてスイッチを押して。大爆発が、忌々しい狂気に満ちた村を飲み込んだ。大きな振動がヘリを襲うが、難なく飛び立っていく。

 

 

「エヴリン…俄かには信じられないが、俺達を逃がすために残った。…恩人だ」

 

「…ああ」

 

『うんうん』

 

 

 誰かを思い出すかのように儚い表情を浮かべるクリスに、頷く。隣のエヴリンも頷く。……………は?

 

 

「エヴ、リン…?」

 

『やっほー、イーサン。ミア。ローズマリー。あと見えてないだろうけどクリス』

 

「イーサン?これは一体…」

 

「なに、いるのか?」

 

 

 呆然とする俺達に反応するクリス。狂ったと思わないなんていい奴だなお前は。

 

 

『いやー、よく考えたら物理効かないから爆発させたらすぐに戻ってきたんだ。ごめんね?心配かけて』

 

「いや、いや!お前が無事なら、それで…!」

 

『会話は聞こえてたよ。ミア、見えてたんだってね?酷いなあ。ミアの借りてきたドラゴンナイト見ていた時に一緒にはしゃいでたの偶然じゃなかったんだなって』

 

「覚えてたの!?」

 

『覚えてるよ。初めてした親子らしいことだもん』

 

「…なにがなんだかわからんが、誰も犠牲になってないならいい。エヴリンについては後で詳しく教えてくれ」

 

 

 そう言って他の隊員の元に向かうクリス。ローズをあやすエヴリンをミアと一緒に眺めていると、会話が聞こえてきた。

 

 

「隊長。これを見てくれ。BSAAがよこしたのは兵士じゃない。B.O.W.だ」

 

「奴等、何を考えている?」

 

「隊長。指示を」

 

「…イーサン、ミア。悪い。君達を帰すのはまた後だ。チーム全員を集めろ。BSAA欧州本部へ向かう。…ツケを払わせてやる」

 

 

 そう言うクリスに、俺とエヴリンは顔を見合わせて。頷き合った。それを見て心配そうな顔のミアを宥める。

 

 

「…クリス。そういうことなら、手伝うぞ」

 

「なに?だがお前は…」

 

「俺もB.O.W.みたいなものらしいからな。そいつらがミアとローズを危険に遭わせた原因なんだろう?父親として、お返ししてやる」

 

『まだまだ持つから家族サービスはそのあとだね。鉄拳制裁タイムだ』

 

 

 エヴリンの小さな拳と突き合わせて笑みを浮かべる。ローズを泣かせる奴は、ミアを危険に遭わせる奴らは、許すわけにはいかない。




分離能力を得たエヴリンが死ぬと思うたか。ハイゼンベルクや村人以外の味方陣営みんな生存Endじゃい!しかしさすがに崩壊するのを後回しにしただけなんですよね。回復薬をかければ持つけど、それでも緩やかに崩壊していく、そんな感じ。

次回はエピローグ!成長したローズマリーの瞳に映るのは?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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エピローグ‐Rosemary winters【家族】‐

どうも、放仮ごです。今回は●●年後。公式でも何年後か語られてないためぼかして描きます。

今回はエピローグ。成長したローズの瞳に映るのは…?楽しんでいただけると幸いです。


 【あの事件からしばらくして。

不可思議なことだが、三年前にイーサンが倒したエヴリンの残留思念だと名乗ったモールデッド・ギガント(の頭部)と仲良くなった頃。

 エヴリンの予告通り、限界の来ていたイーサンの身体は緩やかに崩壊していき、村での死闘から二年後のつい先日にこの世を去っていった。最期までローズを心配させまいと笑みを浮かべ、俺を始めとした多くの人間に看取られた。石灰化した亡骸は利用されないために俺が預かっている。あの小生意気な子供と、口の悪い友人を失ったのは残念だ。

 また、まだ幼いローズとミアのことを二人に託された。ローズの持つ不思議な力も含めて、俺が責任を持って最後まで父親を全うした彼の為にも守っていくことにする。…ピアーズ。お前たちの様な犠牲を俺はもう二度と……(ここまでで終わっている)】

 

 

 

 

 

 

 

「――――焼け残った森は人々に父親の犠牲を思い起こさせ…今でもなお、その荒れ果てた土地をじっと見つめた子供は、ベリーを摘みに行き迷子になる悪夢を見るといいます、か」

 

 

 村での惨劇からいくらか月日が流れ、とあるバスの中にて。かつてミアに化けたミランダがローズに読み聞かせた絵本【Village_of_Shadows】を小さな声で読む少女がいた。隣の席に花束を置き、返り血がそのまま乾いたような妙な柄のミリタリージャケットを羽織り、左手の人差し指に指輪を、左耳にはインカムをつけ、首元まで伸びた長い金髪を靡かせ黒い帽子を被った10代半ば程の少女だ。どことなくミアやエヴリンを彷彿とさせる顔立ちの少女は前の席の親子の会話を見ながら笑うと、目的地についたのか荷物を纏めて降りて行く。

 

 

「…うん、わかってる。父さん」

 

 

 一声そう呟いて降りた先は、墓地の丘。その中の、少し奥まったところにその墓石はあった。中身の無い墓石。そこには、【Ethan Winters】と刻まれていた。

 

 

「…父さん。誕生日おめでとう」

 

 

 そう言って花束を置く少女。その視線の先は墓石ではなく、空に向かれていた。

 

 

「先週は来られなくてごめん。テストとか色々あって…言わなくてもわかるよね?来るなって言われてたけど来るよ、私は。だって……」

 

 

 そこまで言って、ブレーキとクラクションの音が聞こえて振り返る少女の視線の先には、黒光りする無骨な車があった。降りてきたのは黒服にサングラスの人物。少女はあからさまに嫌な顔をする。

 

 

「もう、タイミング最悪。仕事みたい。そう怒らないで。…愛してるよ」

 

「ああ、見つけた……例の場所だ。こんな日に限って」

 

 

 苦笑いしながら男の元に赴く少女。どこかに連絡していた様子の男は少女と向かい合い、姿勢を正す。

 

 

「君の出番だ。頼むぞ、エヴリン」

 

 

 そう言うと怒りに満ちた表情で男の胸ぐらを掴む少女。その目には殺意さえ宿っていた。

 

 

「二度と、その名前で呼ばないで。それは姉さんの名前よ。侮辱するのは許さない」

 

「おいおい、ただの冗談だろローズ」

 

 

 男は手を上げて降参の意を示し、少女…成長したローズマリー・ウィンターズは男の胸ぐらを掴んだまま続けた。

 

 

「クリスも知らない「力」をアンタで試してやってもいいんだよ?」

 

≪「何時でも撃てるぞ」≫

 

「待機してろ。問題ない。まだガキだ」

 

 

 そして突き飛ばし、ローズは大人しく車の助手席に乗り込み、男もどこかと連絡するとネクタイを正して運転席に戻る。

 

 

「まだコントロールできない…」

 

「彼に似て来たな」

 

「…知ってる」

 

 

 何かに落ち込んでいた少女だったが、男の言葉に笑みを作る。そして車は走りだす。これは確かなハッピーエンド。イーサンとエヴリンが死力を賭して守り抜いたローズは立派に美しく成長した。イーサンは結局崩壊からは免れずに死んでしまったが、それでもその意思はともにある。なぜって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにアイツ、いま私の妹を私の名前で呼んだ?しかもめっちゃ悪意ある感じで!イーサン生きていたら多分ぶん殴らせてたわ』

 

『同感だ。勝手に俺の娘に関わっておいて調子こきやがって。ローズの手が汚れるだろうが』

 

『それにガキ呼ばわりだなんてひどい!こーんなに大きくなったのに!』

 

『ローズ…大きくなって(ホロリ)』

 

『イーサンに似てきただって。そこのところどう?パパ』

 

『嬉しいに決まってるだろ。たまにはいいこと言うなこのグラサン』

 

『でもここにイーサンいるのにこんなに墓参り来なくていいのにね。イーサンの死体が埋まってるわけでもないし』

 

『親孝行できるいい子だ。俺は嬉しい』

 

「父さん、姉さん。二人とも、台無しだから嬉しいけど黙ってて」

 

 

 そう、呆れた様子で小さく文句を垂れるローズ。なぜってこういうわけだからである。ローズの周りに浮かぶ、ローズとミアにしか見えない大小二つの幻影、否残留思念または幽霊。ローズより幼く見えるが立派な姉である少女エヴリンと、ワイシャツにジーンズ姿のローズの父親である男イーサンだ。

 

 

『でもまさか、イーサンまで私と同じになるなんてなあ』

 

『BSAAの集めていたエヴリンや特異菌のデータのおかげでお前の力の事は大体分かったからな。使い方さえわかれば、同じことはできる』

 

『イーサン私よりB.O.W.してるよ、ミランダもびっくりだよ』

 

 

 あまりにも心残りだったため、ミア・ローズの中にある自分の細胞を利用してエヴリンと同じ状態になれるまで自分の身体を使いこなせるようになったイーサンは、肉体を失った今でもローズやミアと未だに仲良く過ごしていた。娯楽は主に映画観賞とかドラマ観賞だけで、エヴリンと同じく食事はできないため結構ひもじい思いをしている。

 

 

『イーサンの肉体がないから実体化こそできなくなったけどね。せっかくモールデッド・ギガントの頭だけイーサンの右手に形成して食事できるようになったのになあ。二年ぽっちじゃろくに好きな物を食べれなかったし』

 

『文句を言うな。お前の食道楽に付き合わされてたくさん料理を作らされたミアに感謝しろ』

 

『それは感謝してるけどさー、レストランの料理とか日本(ジャパニーズ)料理とか食べたかったなあ。お寿司とかおでんとかうどんとかそばとか味噌汁とかさー』

 

『謎のラインナップ…お前の食べ方はまさに化け物なんだから一般の所で食べる訳にいかないだろう』

 

『ピザはすごく美味しかったなあ。それに、クリスと会話できなくなったんだよね。結構楽しかったんだよ?同じ妹がいる者同士意気投合したし』

 

『ああ、クリスとミアやローズごしにしか会話できなくなったのは辛い所だ。あいつ、俺の死に責任を感じてたからなあ。俺が選んだ道だってのに』

 

『いやまあ、イーサンが必要以上に傷付いたのクリスが全然事情を話してくれなかったからだし』

 

『父親として放っておけるわけないんだよなあ』

 

「………黙って。うるさい」

 

『『ごめんなさい』』

 

 

 仕事を終えてバスで帰路につくローズの周りで幽霊談義に花を咲かせていた父親と姉を、冷たい声と共にギロリと睨み付けてきたローズに委縮するイーサンとエヴリン。ローズは縮こまる二人に満足そうに笑うと手元の【Village_of_Shadows】に視線を向ける。

 エヴリンに何度も何度も、この絵本みたいに私とイーサンで四つの怪物たちと魔女を倒してローズを助けたんだよ!鉄の馬は倒してないけどね!と耳にタコができる程に聞かされた、記憶にうっすらと残る父親と姉の頑張りに、ふと笑みが漏れた。それを不思議そうに見守るイーサンとエヴリンに顔を向け、ローズは満面の笑みを浮かべて告げる。

 

 

「父さん。姉さん。大好きだよ」

 

『『知ってる』』

 

「もう、台無し」

 

 

 ローズを乗せたバスは未来へと突き進む。優しい父親と愉快な姉が繋げてくれた未来へと。ローズマリーの名の通り、変わらぬ愛がそこにある。




イーサンもエヴリン同様「残滓」になってローズと共にいる。このエンディングを最初に思いついて書き始めたのがこの作品でした。イーサンの延命は二年が限界。その間エヴリンと共に幸せな日常を過ごした模様。
最初のはどうなったのかを簡潔にまとめるクリスの日記です。この直後イーサンとエヴリンが普通に残っていたと発覚します。
 イーサンとエヴリンと共に毎日を過ごすローズ。確かな愛がそこにある。

次回からは番外編!IFルートやら思いついた話やら。皆さんお待ちかねハイゼンベルク生存ルートからになるかな?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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自由を謳歌する工場長
工場長生存ルートその1【共闘】


どうも、放仮ごです。ハイゼンベルク生存ルート始まりまっせ。ハイゼンベルクの敗因は単にミランダを甘く見過ぎたことと、ライカンと菌根にゾルダートのほとんどを倒されたこと、何より戦力が足りなかったことです。ならあの男と手を組めば…?

今回は第三十話‐Devastator【腕試し】‐のIF。楽しんでいただけると幸いです。


 それは、ちょっと歯車のかけかたが違うだけで変わるもう一つの道。イーサンと戦って敗北するか、イーサンと共にミランダと戦って戦死する。そのどちらかしかなかったカール・ハイゼンベルクが生存する道の一つ。分岐点は、イーサンと共にミランダと戦うと決意した後に、イーサンがハイゼンベルクに叩き落されてクリスと再会した、あの時だ。

 

 

「お前はミアを殺したわけじゃないのは知っている。ハイゼンベルクから聞いた」

 

「ハイゼンベルクだと?」

 

「ああ。手を組んだ。ローズを取り戻すためにな」

 

 

 そう言うと驚愕の表情を浮かべてすぐさま怒りの表情となったクリスはイーサンに詰め寄る。

 

 

「アイツと手を組むなんて何を考えている!?奴はミランダの手下だぞ!?」

 

「なら何故先に事情を言わなかった!?」

 

『そうだそうだ!』

 

「もし知れば介入すると思ったからだ!民間人を巻き込めばややこしくなる!それがまさかハイゼンベルクなんかと手を組むとは!」

 

「ハイゼンベルクはミランダを殺そうとしている。だから手を組んだ。お前が話さないから、俺には選べる手段がなかったんだ。ローズを取り戻すためなら悪党とだって手を組むさ!敵の敵は味方だ!」

 

 

 言い負かされたクリスは少し考え込み、口を開く。本来の歴史ならばハイゼンベルクとは手を組まない、と宣言するところ。だが今回は、イーサンの言い分に納得し訝しむ様に問いかけるクリスだった。

 

 

「…ところで、さっきのモールデッドみたいな姿と少女の声は何なんだ?」

 

「ああ、エヴリンだ。秘密にしていたが、あの事件以降俺に付きまとうエヴリンの幻影が見えるんだ」

 

「なに?」

 

「ただの幻影じゃないらしく、俺の身体をモールデッド化する力をくれた。それでここまで生き延びてきたんだ」

 

「……俄かには信じられん、が。見て聞いてしまったことにはな。エヴリンと会話することは可能か?」

 

「俺の細胞を取り込めばいいらしい。端的に言えば血を飲む、が一番だな」

 

「…なら遠慮しとこう」

 

 

 熟考するクリス。排除されやしないかとビクつくイーサンとエヴリン。自分たちがクリスに仇なすものだとわかっているからこその心配だったが、杞憂だった。クリスはあくまでイーサンの友として行動しようとしていた。

 

 

「…わかった。ハイゼンベルクと手を組むというのなら、俺達ハウンドウルフも加勢しよう。レオンの奴もリッカーを操る男と手を組んでタイラントを倒したと聞いている。巨悪を倒すためにB.O.W.と一時的に手を組むのも悪くない。この工場にいるゾルダートという軍勢は、ミランダを倒すために必要かもしれない。爆破しようとしていたがやめだ」

 

「クリス…!いいのか?」

 

『ハイゼンベルクだけでなくクリスも仲間になるなら百人力だよ!』

 

 

 驚きの声を上げるイーサンと、歓喜して手を叩くエヴリン。クリスは苦笑しながら続けた。

 

 

「お前も、かつて敵対したエヴリンと力を合わせているのだから、意地張って共闘しない手はないさ。…それに、B.O.W.だからと友を見捨てるわけがないだろう」

 

「助かる。ハイゼンベルクへの取り成しは任せてくれ。アイツもいい顔はしないだろうが説得して見せる」

 

『イーサンはともかく私も着いてるから任せて!あ、聞こえてないんだっけ』

 

「俺は部下を説得する。この専用のスマホを渡しておく。ハイゼンベルクを説得できたら連絡してくれ。万が一納得されない場合殺し合うことになるからな」

 

「ああ…!」

 

 

 クリスからスマホを受けとり、頷くイーサン。するとクリスは、自らが調整していたであろう自走砲に目を向ける。砲台だけでなくチェーンソーまでついているそれにエヴリンは目を輝かせた。

 

 

『なにこれかっこいい!』

 

「これは?」

 

「磁力が及ばないポリマー製の自走砲だ。本当はハイゼンベルクと一戦交えるために奴御手製のこいつを調整していたんだが…奴と共闘するならこれは有用だろう。持っていけ」

 

「何から何まで…悪いな」

 

「お前たちにはお前たちの作戦があるだろうから必要はないだろうが、戦力が多いに越したことはないだろう。俺は部下と合流してから参戦する。死ぬなよ?」

 

『死なせないよ。私が死なせない』

 

「エヴリンが死なせてくれないってさ。…ローズを残して死ぬ気はない」

 

「そうか。出るならそこのエレベーターを使え。健闘を祈る」

 

 

 クリスはスマホを取りだして部下に連絡を取り、イーサンは早速自走砲に乗り込んで、以前クリスに教えてもらった通りに操作。エレベーターに乗り込み、エヴリンと共に地上へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イーサンside

「おいおい。戻ってきたと思ったら懐かしいもんに乗ってるじゃねえか!」

 

 

 地上まで戻ると、エレベーター前で待っていたハイゼンベルクが感嘆の声を漏らす。ハイゼンベルク製のものってクリスが言ってたな。

 

 

『よくも地下に落としてくれたねマダオ!』

 

「悪かった、俺が悪かったから許してくれよエヴリン。しかし、確かにそいつは俺と共闘する上で有用だ。だがスクラップ同然だったはずなんだがよく直せたな?」

 

「地下でクリスに会った」

 

「なんだと?」

 

 

 事実を述べると顔をしかめるハイゼンベルク。ここからだ。ミランダに勝つために、こいつを説得しなければ。

 

 

「ちっ、あのゴリラ野郎地下に潜んでやがったか。ゾルダートを差し向けて…」

 

「待ってくれ。アイツと話したんだが…ハイゼンベルク。クリスの部隊と共闘してミランダを倒す気はないか?」

 

『クリスは強いから一緒に戦ったら百人力だよ!』

 

「冗談を言うな。背中から撃たれたらミランダを倒すどころじゃねえ。いや、俺には効かねえが三つ巴になってミランダを取り逃したらどうする?俺達だけで十分だ、奴の力は借りねえ」

 

「本当に十分か?」

 

「なんだと?」

 

 

 ハイゼンベルクの言い分は正しい。敵対している人間を味方に引き入れるなんて、俺と手を組むのとはわけが違う。だけど、不安があるのも確かなんだ。

 

 

「ミランダはなんにでも擬態できるんだろ?つまり未知数の力だ。ハイゼンベルクも完全に把握してるわけじゃないんだろう?」

 

「…そいつは、確かに」

 

『追い詰めても絶対知らない力で逆転されるんだよ。私分かるよ』

 

「念には念をだ。クリスは対B.O.W.のエキスパート。ミランダ相手でもその力を発揮してくれるはずだ」

 

「だがアイツはミランダを殺し損ねた。そんな奴に背中を預けられるとでも?」

 

「殺し損ねたってことは次こそ油断しないってことなんじゃないか?この自走砲もクリスがお前を倒すために用意していたものだ。お前たちの事を熟知しているってことだ」

 

「そいつはそうだが…」

 

 

 迷う様子を見せているハイゼンベルク。利害の一致だということは理解しているのだろう。リスクとリターンを考えてるってところか。

 

 

「クリスの力を借りてミランダを倒したとする。そのあとはどうなる?俺は拘束されるんじゃないのか?」

 

『その可能性は高いね』

 

「いや、お前…人殺しはしてないんだろう?ゾルダートは死体を使っていたと聞いている。ならまだ情状酌量の余地はある筈だ。…なんなら、俺が逃げる手伝いをするさ。自由になりたいんだろう?」

 

「ああ、誰かの下に着くのはまっぴらごめんだ。だがお前が逃亡を手伝ってくれるってのなら……考えてやらんでもない。お前は信用できるからな」

 

 

 そうニヒルに笑うハイゼンベルクに、エヴリンと顔を見合わせてから向き直る。

 

 

「じゃあ…!」

 

「良いぜ、乗ってやる。クソッたれのミランダを倒すまでゴリラ野郎と手を組んでやる。どうせ連絡手段もらってんだろ?伝えておけ。もし俺に手を出そうもんならお前らからぶっ潰すってな」

 

『そうこなくっちゃ!』

 

「ああ。伝えておく」

 

 

 こうして、俺とエヴリン、ハイゼンベルクとゾルダート軍団、クリスとハウンドウルフ部隊の共闘が決まったのだった。ミランダ覚悟しろ。考えうる限りの最高戦力で叩き潰してやる。




エヴリンの存在を軽く明かすことでこのルート解禁。リッカーと共闘したレオンと言う前例があるからこその共闘戦線。
原作でも今作でもありえなかった、イーサン&エヴリンとハイゼンベルク&ゾルダート軍団同盟+クリス&ハウンドウルフ。ついでに今作では出番がなかったポリマー製自走砲も追加。ミランダ絶対倒す同盟の完成です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルートその2【呉越同舟】

どうも、放仮ごです。ミランダスーパーフルボッコタイムの始まり始まり。オリジナル形態も登場。

今回は第三十一話‐Avengers【アッセンブル】‐と第三十二話‐End game【自由】‐のIF。楽しんでいただけると幸いです。


≪「話はついたか?」≫

 

「クリス。手は組むが攻撃したら潰す、とのことだ」

 

「そういうわけだゴリラ野郎。作戦会議と行こうじゃないか。歴戦のお前さんの作戦を聞きたいね」

 

 

 鉄槌を肩にかけてそう笑うハイゼンベルク。笑ってはいるがその目は真剣だ。クリスを見極めてやろうと言う魂胆が見て取れた。

 

 

 

『お手並み拝見だね』

 

≪「頼もしい味方を撃つほど俺達も馬鹿じゃない。部下には既にお前と手を組むと伝えた。それで作戦だったが……ゾルダートは、工場内で見つけた資料通りの性能でいいのか?」≫

 

 

 スマホに映し出されるのはゾルダートの設計図と思われる図面。それを見て眉を潜ませるハイゼンベルク。…この二人、根本的に相性悪そうだな。

 

 

「勝手に人の資料を見てんじゃねえよ。まあいい、話は早い。その資料通りで間違いねえ。ライカンどもの相手をさせて、シュツルムと一緒に俺達でミランダを叩くってのが当初の作戦だ。何か思いついたのか?」

 

≪「ならこれはどうだ。ライカンは俺達ハウンドウルフが引き受ける。足りなければイーサンの自走砲だ。その間にゾルダートの全戦力をミランダに向かわせろ」≫

 

「そいつはクールだ!お前たちがちゃんと役目を果たせるってんならな?」

 

「いや、クリスの部隊なら大丈夫だろう。俺もよく知っている」

 

『なんというか、精鋭部隊だよね』

 

「二人がそう言うなら信じてやるよ」

 

≪「…待て。お前、エヴリンの声が聞こえるのか?つまり…飲んだのか?」≫

 

 

 会話を聞いていたクリスのおっかなびっくりな声に上機嫌になるハイゼンベルク。何て事のないように語った。

 

 

「ああ?逆にお前は飲まなかったのかよクリス。意思疎通できるのは大事だぜ」

 

≪「…いや、さすがにそれは遠慮願う…」≫

 

『まあ他人の血を飲むとかどうかと思う』

 

「同感だ」

 

「ひでえなお前ら!?飲めって言ってきたのお前らだよな!?」

 

「ジョークだ、ジョーク」

 

『アメリカンジョーク』

 

「お前らジョークが下手過ぎだぜ…」

 

 

 そんな会話から一転、デュークからの知らせによる警報でミランダにローズが奪われそうになると知った俺とエヴリンが回収しに向かい、ミランダの追撃を避け命からがら戻ると、工場の敷地にはゾルダートの群れと既に怪物形態となっているハイゼンベルク、そして、六人の特殊部隊「ハウンドウルフ隊」がアサルトライフルを手に並んでいた。俺はそのままポリマー製自走砲に乗り込み、起動する。その予想外の光景にたたらを踏んだのはミランダだ。

 

 

「なんだと…!?」

 

「不安かもしれないが、今このときだけは奴等は味方だと思え!ケイナイン、アンバーアイズ、タンドラ、ロボ、ナイトハウル!行くぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「ゾルダート……味方は識別したな?よし!アヴェンジャーズ(復讐者の軍勢)。アッセンブル!」

 

「「「「「ウオォオオオオオオッ!」」」」」

 

「行くぞエヴリン!」

 

『それに乗ってる間は私出番ないけど!やっちゃえイーサン!』

 

 

 一斉掃射で集ったライカンを撃ち殺していくハウンドウルフ隊。弾を物ともしないミランダに準ずる最高戦力であるヴァルコラック・アルファが切り込み隊長のシュツルムがミンチにし、俺の乗ってる自走砲の機関銃や主砲でもライカンやヴァルコラックを殲滅していく。俺とハウンドウルフでライカンを押しとどめている間に、突撃してくゾルダート軍団とハイゼンベルク。ミランダは手をかざすが、それで止まる筈もない。

 

 

「何故死なない…!?」

 

『ぷっ。ださーい!』

 

「ハハハハハハ!残念だったなミランダ!テメエの支配はもう受けねえ!俺達のカドゥを潰そうとしたんだろうが、俺自ら改造した機械脳と、ゾルダートに取り付けた制御コアがカドゥを電気信号で支配する!テメエの支配なんざ糞喰らえなんだよ!さあこの数、いくらテメエでも捌き切れるか!?」

 

「っ…!」

 

 

 六枚の翼を触手の様に伸ばすミランダだが、シュツルムのチェンソープロペラやゾルダートのドリルでバラバラにされ、たまらず黒い菌の壁を形成して防御を試みる。しかしこちらはプロペラとドリルだ。菌の壁を削りまくり、即座に破壊。すると巨大な漆黒の蛇龍の様な姿になって蜷局を巻きゾルダートを蹴散らそうとするミランダ。しかしシュツルムは吹き飛ばされたが、ゾルダートたちはドリルを突き刺して吹き飛ばされずにすんでいて。

 

 

「尻尾から粉々にしちまえシュツルムゥウウウウウ!」

 

 

 さらにハイゼンベルクが組み合ってゾルダートたちと共に動きを止めて、そこに尻尾からミンチにしていくシュツルム。たまらず頭部の擬態が解かれ、翼を広げて空に舞い上がるミランダ。明らかに押しているが、逃げるつもりか?ゾルダート・ジェットが何体か追いかけるも翼の間から生えた触手の一撃で破壊されてしまっているがミランダの顔は憔悴しきっていた。俺達の手でライカンの群れが殲滅されたのを確認したのだろう。

 

 

「小癪な、ハイゼンベルク!ウィンターズ!レッドフィールド!役立たずのライカンどもめ…!」

 

「イーサン、ハウンドウルフ!ミランダを狙え!」

 

「ああ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

『撃て撃て~!』

 

 

 自走砲の主砲こそ翼の一部を閉じて防いだもののアサルトライフルの一斉掃射がミランダを襲い、空に逃げられないミランダは地上に降り立ってそこに襲いかかるのはゾルダート・パンツァー。触手の攻撃程度では装甲でビクともしない奴の片腕の三連ドリルがミランダの腹部を大きく抉り取り、パンツァーが離れたところに熱暴走を起こしたシュツルムの火炎放射が叩きつけられる。

 

 

「おのれ、おのれえ!」

 

「さすがは俺の最高傑作だパンツァー!そら、袋叩きだゾルダート!イーサンも来い!」

 

「ミランダァアアアア!」

 

「俺達は援護だ!」

 

 

 地面から伸びた菌根を取り込み、魔女を彷彿とさせる戦闘形態となり蜘蛛の様な節足を展開してゾルダートを次々と貫いて行くミランダに、銃座から弾丸をばら撒きながらフルスロットルで突撃。ハイゼンベルクと並走し、同時にチェーンソーと丸鋸を叩き込んでその節足を叩き斬り、そこに銃撃がミランダの全身を撃ちぬく。何て精度だ、俺とハイゼンベルクの巨体を上手く避けて当てやがった。さすがはクリスの部隊だ。

 

 

「くらいやがれ!」

 

「主砲、発射!」

 

『いっけー!』

 

 

 ハイゼンベルクが振り上げた鉄槌を頭部に叩きつけると同時に、胴体に主砲を叩き込み爆炎に包まれるミランダ。やったか?

 

 

「こうなれば……イーサン・ウィンターズ!ローズをよこせえ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 すると炎の中から複数の烏が飛び立ち、遠く離れた所でミランダの姿に実体化。ミランダを中心に菌根が竜巻の如く渦を巻き、突撃したゾルダートや俺達を弾き飛ばしたかと思えば、その中から伸びてきた太い触手が自走砲をひっくり返して俺と傍らに置いてた鞄が投げ出され、そのまま触手に鞄を取り込まれてしまう。空中を一回転した自走砲は地面に叩きつけられ爆散。炎が敷地内に広がる中、俺は立ち上がる。

 

 

「エヴリン!」

 

『うん!』

 

「『We are family(俺/私達は、家族だ)!』」

 

 

 そしてモールデッド・ギガント化。自走砲の残骸から主砲を取りだして背中に担ぎ、跳躍。ミランダの元に戻ろうとしていた巨大触手にしがみ付いて腕を触手の中に突き刺すとそのまま回転に巻き込まれるようにしてミランダの元に引きずり込まれる。

 

 

「ローズは渡さない…!」

 

「ローズは私の物だ…!」

 

 

 渦の中心でまるでモールデッドの様に変化させたミランダの右腕と、俺達の拳が激突。あちらの力が強いのか殴り飛ばされるも、上に弾き飛ばされたことを利用して主砲を手に取り一発限りのそれを発射。

 

 

「『ご愁傷様!』」

 

「なっ…!?」

 

 

 大爆発。俺達は反動で渦巻く壁に叩きつけられて表面が削られ、モールデッド・ギガント化が解かれて渦の外に投げ出され、駆け寄って来ていたクリスに受け止められる。見れば周りにはクリスとハウンドウルフ隊、そしてハイゼンベルクとシュツルム、ゾルダートがパンツァー含めて十数体いた。

 

 

「くそっ、まだローズがあの中に…」

 

「無茶は禁物だ。ここからが正念場だぞ…!」

 

「ちっ、これだけやってもくたばらねえか。しつこいカビ汚れは嫌いだぜ」

 

『それ私のこと言ってる?』

 

 

 渦が止まり、菌根が吸い込まれるようにして現れたのは、巨大な翼を広げ蜘蛛の様な節足を展開、両腕を変異ドミトレスクの様なドラゴンの腕に、下半身が膨れ上がり怪魚モローの様に大口を開き、背中から伸びた尻尾の様な部位の先端には死神ベイビーを彷彿とさせる鋭い鎌がついている、ドミトレスク・ドナ・モローのハイゼンベルク以外の四貴族の戦闘形態を合わせた異形の怪物と化したミランダだった。なんでも擬態できるとは聞いていたが、ここまでとはな。

 

 

「私を怒らせたな……全身全霊を持って縊り殺してやろう…!」

 

『うん、めっちゃキモイ!』

 

「「同感だ」」

 

「ハウンドウルフ!ここでミランダを倒すぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 俺達は一度距離を取ってから各々の武器を構え、挑みかかった。




ライカン軍団をハウンドウルフとイーサン乗る自走砲が引き受けて、ゾルダート全戦力をミランダにぶつける単純な作戦。さすがのミランダもまさかの共闘戦線に防戦一方。これぞハイゼンベルクの生存ルート。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルートその3【後悔噬臍】

どうも、放仮ごです。キマイラ態とも言うべき姿に擬態したミランダにイーサンたちは勝てるのか。

今回は本編のIFではなく完全にオリジナルの話。楽しんでいただけると幸いです。


 俺は背中に担いでいたショットガンを構え、クリスたちハウンドウルフは後退しながらアサルトライフルを、ハイゼンベルクは己の躯体を、ゾルダートたちはドリルを構え、シュツルムが突撃する。しかしそれらの攻撃をドラゴンの腕で薙ぎ払い、一回転した勢いで尻尾の鎌でシュツルムを弾き飛ばし、蜘蛛足で二体を貫いて爆散させるミランダ。

 

 

「ミランダァアアアア!」

 

「貴様からだハイゼンベルク!」

 

 

 ハイゼンベルクが躯体を疾走させ丸鋸を叩き込むも、ミランダはドラゴンの腕でいとも容易く受け止めて両腕を掴みあげると胴体の怪魚の口から溶解液を放出して鋼の躯体を熔解し、ハイゼンベルクはダウン。躯体がスクラップに戻ってしまい、その中からハイゼンベルクが人間の姿で息も絶え絶えに這い出てくる。

 

 

「ぐああ……モローの奴のゲロかよ、クソッ!」

 

「ハイゼンベルク!」

 

「下がって!」

 

 

 崩れ落ちたハイゼンベルクを庇うように前に立ち、ショットガンを放つが翼を閉じられ防がれる。背後からのハウンドウルフの銃撃も同様に弾かれ、蜘蛛足が伸びてきたので飛び退いて避ける。攻防共に隙がない。厄介だ。

 

 

「ロボ、アレを使うぞ!」

 

「了解、ボス!」

 

 

 すると背後で何か準備を始めるクリスたち。パンツァーが勇猛果敢に突撃するも、翼に叩き潰されて粉砕される。ロボと呼ばれた隊員以外のクリスも含めたハウンドウルフがアサルトライフルを掃射するも、全く意を介さないミランダが蜘蛛足を伸ばして迫りくる。ショットガンが弾かれ、右腕を大きく斬り裂かれる。傷付いたなら、こっちのもんだ!

 

 

「エヴリン、もう一度だ!」

 

『傷つかないと変身できないの本当に不便だよね!』

 

「『We are family(俺/私達は、家族だ)!』」

 

 

 傷口に回復薬をぶっかけてカビを増量、ショットガンを右腕から溢れたカビに取り込みつつモールデッド・ギガントに変身。ミランダのドラゴンの腕と組み合い力と力のぶつかり合いに移行。しかしさっきのハイゼンベルクと同じく胴体の口から溶解液を浴びせられて胴体の表面が大ダメージを受け、膝をつく。

 

 

「ぐあっ…!?」

 

「とどめだ…!?」

 

 

 尻尾の鎌を振り上げて脳天から突き刺そうとしてくるミランダだったが、俺達は顔を上げて口で真剣白歯どり。ならばと蜘蛛足を溶解液で溶けた胴体に何度も突き刺してくるが、それをエヴリンがカビで俺達の身体に縫い付けて身動きを取れないようにして、右腕の掌を突きつける。こっちもだいぶダメージをもらったが、もう逃がさないぞ!

 

 

「この距離ならバリアは張れないな!」

 

「ぬうぅ!?」

 

 

 右掌から突き出た銃口から散弾が放たれ、胸から上が風穴だらけになるミランダ。しかしどういう仕組みなのか即座に再生していき、鎌がもう一度振り上げられて勢いよく振り下ろされたのを両手を上に出して真剣白刃どり。尻尾が波打って更なる衝撃が襲いかかるが、なんとか耐え凌ぐ。

 

 

「ぐぬぬぬぬっ…!」

 

『おかしい!頭部を撃ちぬいたのになんで生きてるのこいつ!』

 

「なら爆撃ならどうだ!」

 

 

 次の瞬間、強烈な閃光を受けて仰け反るミランダ。拘束を解いて離れて見れば、クリスが閃光手榴弾を投げたようだった。その手にはペンライトの様なものが握られ、赤い光がミランダに向けられている。

 

 

「準備はいいか、ロボ!座標にブチかませ」

 

「ビンゴ!やったぜ!」

 

 

 放たれたのは、強力な爆撃。咄嗟に閉じて防御したミランダの翼を破壊し、フラフラと後退させた。

 

 

「今だ、こいつを喰らいやがれ!」

 

「グアァアアアアア!?」

 

 

 するとダウンしていたハイゼンベルクが起き上がり、門の側に置いてあった木箱を引き寄せて勢いのままミランダに叩きつけると、大爆発。どうやら地雷だったらしいそれは悲鳴と共にミランダの大部分を引き剥がし、人型に戻ったミランダはよろよろと後退する。

 

 

「『お前も家族だ!』」

 

 

 そこに飛び出してストレートパンチを叩き込み、吹き飛ばす。だがそこで気付く。…ローズの入った鞄は何処だ?

 

 

「…ハイゼンベルク、クリス。何かがおかしい」

 

「なんだってんだ、ここまで優勢なんだぞ?ここで一気に叩み掛けて…」

 

『アイツ、こっちに反応するおもちゃの人形みたい!手ごたえが全くないの!』

 

「なに?」

 

 

 モールデッド・ギガント状態なためクリスたちにも言いたいことを伝えられるエヴリンの言葉に訝しむクリス。すると吹き飛び仰向けに倒れていたミランダが不気味に起き上がり、ニタァと笑みを浮かべた。

 

 

「今更気付いたか。だから貴様は出来損ないなんだ、エヴリン」

 

「なに?てめえミランダ、どういうことだ!」

 

 

 両手を掲げ、再び菌根を集め始めたミランダ(?)は自慢げに語りつつその身を異形へと変えて行く。

 

 

「これは私が遠隔で操っているだけの分身だ。私も馬鹿ではない、お前たち全員と戦って勝てると思うほどうぬぼれてはいないさ。本当ならそのままやられて死んだふりでもすることで完璧に擬態したかったが、気付かれても問題はない!」

 

 

 俺でも気付かない精度でミアに擬態し、死体に擬態することでクリスたち精鋭の部隊さえ欺いたミランダだ。失念していた。なんにでも擬態できるってのは分身も作れるという事か。

 

 

「既に私はローズを連れてその場を離脱し、エヴァを蘇らせる準備を始めている。聖杯とローズさえいれば可能だ。完全に復活させるためには四貴族の命が必要だったが……ハイゼンベルク、お前を殺そうにもそいつらが邪魔だ!村人全員の命があれば代わりにはなるだろう。あとは朝日を迎え、蘇ったエヴァと共に雲隠れすれば何も問題はない。ではせいぜい、不死身の我が分身と遊んでいろ。フフフッ、ハハハハハハハッ!」

 

 

 笑いながら攻撃を仕掛けてくるのは、先ほどの姿とはまた別の姿。ドミトレスクの様な巨大な一対の翼を広げた竜を模した巨体に、モローの様な大口の中から両腕と指が異様に伸びたミランダの偽物の上半身を出し、尻尾がやはり鎌になっている。フォームチェンジって奴だろうか。偽ミランダは飛び立ち、両手を天にかざして暗色の何かを集めて行くとそれは巨大な火球を形成。

 

 

「なっ!?」

 

『そんなのあり!?』

 

「そんなことまでできるのか!?」

 

「総員退避!」

 

 

 驚き、てんやわんやと動く俺達目掛けて火球は破裂し、火の雨が辺り一帯に降り注ぐ。逃げきれなかったゾルダートが三体くらい炎上し爆散、その威力に戦慄する。さらに俺達目掛けて急降下してくる偽ミランダ。まず偽ミランダ本体の鋭く伸びた指の斬撃が、続けざまに大口の牙が襲い、続けて腕の爪が、最後に尻尾の鎌が襲いかかる凶悪な四連コンボに、俺達はズタズタに引き裂かれてモールデッド・ギガント化が再び解けて倒れ伏す。モールデッド・ギガントのダメージはもろに喰らうのか排出されたエヴリンもボロボロだった。

 

 

「ぐはっ…!?」

 

『全身がミンチにされたみたいに痛い…』

 

「シュツルム!やれ!」

 

「撃て、撃て、撃ちまくれ!」

 

 

 その間にハイゼンベルクの指示によるシュツルムの火炎放射とハウンドウルフの銃撃が放たれていたようだが、大質量となった竜の身体を焼いたり貫くことは叶わず。再び舞い上がった偽ミランダは銃撃を物ともせず、再び急降下してくる。狙いは俺だった。不味い……そう思った矢先に、ハイゼンベルクの握る鉄槌が目に入った。

 

 

「ハイゼンベルク!鉄槌をくれ!」

 

「ああん?」

 

「早く!…エヴリン!」

 

『なにしたいのかはわかったよ!』

 

「テメエを信じるぜ、相棒!」

 

 

 エヴリンがモールデッド化した両腕のうち右を伸ばすと、ハイゼンべルクが磁力を利用して高速で射出。両手で受け止め、今まさに俺を長い指で斬り裂こうとしてくる偽ミランダに振りかぶる。

 

 

「こいつはどうだ!」

 

「グアァアアアアア!?」

 

 

 俺が鉄槌を叩きつけたのは、下顎。中途半端に鋭い牙の生えそろった口の中から上半身を出していた偽ミランダは自らの大口で自らを噛みちぎってしまう。そこが操っている本体だろう?

 

 

「おまけもくらいな!」

 

「集中砲火!」

 

 

 さらに落ちてきた偽ミランダの上半身に向けてハイゼンベルクがネジやらパイプやら鋭いスクラップやらを飛ばして串刺しにして宙に舞い上げ、そこにクリスたちハウンドウルフが集中砲火。ズタボロとなった偽ミランダの本体であろう上半身は落下したところにいたシュツルムにミンチにされ、残ったドラゴンの巨体も石灰化して崩れ落ちたのだった。




新武装、掌ショットガン。イメージはアイアンマンのリパルサーレイ。
そりゃミランダも逃げ出すよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルートその4【巨大魔人】

どうも、放仮ごです。日刊ランキング12位をいただきましたありがとうございます!そしてついにUAが300000行きましたありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

今回はVS本編未登場のアイツら。楽しんでいただけると幸いです。


 偽ミランダを倒し、ローズの入った鞄を持ち逃げしたミランダを追って祭祀場へ急行する俺達。メンバーは再びモールデッド・ギガントになっている俺とエヴリン、鉄槌を手にしたハイゼンベルクとシュツルムとゾルダートが十数体、クリスたちハウンドウルフ六人だ。しかし祭祀場は地盤ごと無くなっていて。村を見ると、異様な物が出来上がっていた。

 

 

「なんだ、あれ…」

 

『やることが一々規模デカいなあ』

 

「ドミトレスクの城よりでかいのは何の冗談だクソッたれ」

 

「BSAAも来ているな…」

 

 

 それは、もはや大樹であった。菌根で祭祀場を持ち上げ、教会付近の上空に据えることで難攻不落の要塞と化した、中心が胎児を模った菌根。ハイゼンベルクとクリスが言うにはアレが菌根の大本、本体なのだという。また、クリスが言うBSAAのヘリが空から飛来していたものの、根っこの様な触手で叩き落され墜落してしまう光景を目の当たりにする。その力の強大さは言うまでもない。

 

 

『見て、なんかいるよ!』

 

 

 村までやって来た途端響くエヴリンの声に、それぞれの武器を構える俺達。そこには異様な存在がいた。一番近いのは砦で戦ったあの巨人だろうか。顔が鬼の面を被っているように見える硬質化した肌で覆われ、腫瘍に覆われた背中からは線虫のような触手をヒラヒラさせている。さらに、その横には上裸にスキニージーンズという出で立ちで戦斧を手にした巨人が二体。片や土汚れに塗れ、片や身体中に傷や火傷の様な跡と瘤が見える。三体はこちらを見据えるものの動こうとはしない。

 

 

「おいおい、またあのデカブツと戦えってのか?」

 

『しかも前のより明らかに強いよね!?』

 

「イーサン、お前が戦ったウリアシュとは奴等は別格だぜ。真ん中のはウリアシュ・ストリージャー…菌根を守る門番だ。横のよく似た兄弟みたいな二体がウリアシュ・ドラク…俺もよく知らねえが実験で生まれた暴れん坊らしい」

 

「どうやらミランダの命令で菌根を守っているらしいな。逆に言えばライカンは全滅、守れるのはあの三体しかいないと言う事か」

 

 

 ハイゼンベルクの説明にそう分析するクリス。なるほど、ミランダも追いつめられていることに間違いはないと。

 

 

「なあクリス。頼みがある」

 

「なんだハイゼンベルク。秘策でもあるのか?」

 

「ああ、秘策も秘策だ。…俺の工場を破壊してくれ。どうせ村ごと吹き飛ばすんならどっちみち関係ねえ」

 

「なにを…?」

 

「俺はな、鉄さえありゃあ無敵だ。ミランダに与えられた力なのが気に食わねえが最強なのは間違いねえ。今は鉄がいる」

 

 

 そう豪語するハイゼンベルクに、クリスは瞑目して。

 

 

「……アンバーアイズ。ナイトハウル。ハイゼンベルクを手伝え。爆弾は撤去する時間がなかったから残っているはずだ。残りは俺と共に奴らを排除する!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「よーしシュツルム!ゾルダート共!お前らは俺の傑作も傑作だ!ミランダなんかの実験体に負けんな!叩き潰してやれえ!」

 

「「「「「ウオォオオオオオッ!」」」」」

 

 

 ハイゼンベルクとハウンドウルフの隊員二人が工場に引き返し、残った俺達は気を引き締める。するとシュツルムを先頭にゾルダート軍団が突撃、土に塗れたウリアシュ・ドラクと呼ばれた怪物へと挑みかかった。

 

 

「俺達は真ん中のだ!」

 

『一番強そうだけどしょうがないか!』

 

 

 振り下ろされた戦斧をプロペラで弾き、ドリルを次々と突き刺していくゾルダートたちに問題はないと判断した俺とエヴリンはモールデッド・ギガントを動かしてウリアシュ・ストリージャーに飛びかかる。戦斧の振り下ろしを左腕で受け止めつつ、右掌からショットガンを放って触手を牽制。そのまま背中から押し倒す。

 

 

「俺達はウリアシュ・ドラクと呼称されたもう一体を狙うぞ!」

 

「「「了解、ボス!」」」

 

 

 クリスたちは歴戦のウリアシュ・ドラクに銃撃を開始。跳躍して弾丸を避けながら空中から襲いかかるウリアシュ・ドラクの攻撃を避けつつ攻撃を続ける様は心配する必要はなさそうだ。

 

 

「銃もドリルも効かなそうだから俺達で引き受けたが!」

 

『ショットガンもまるで効かないとか聞いてない!』

 

 

 戦斧を踏みつけて無効化しつつ、ひたすら顔面を殴る。殴る。殴る!伸びてきた触手を掴んで引きちぎる。するとウリアシュ・ストリージャーはその硬い顔面で頭突きを繰り出し、仰け反る俺達。そのまま胸ぐらを掴まれ、何度も何度も頭突きを叩き込まれ、頭部を覆うカビが砕けて俺の頭部が露出する。エヴリンが他の部位からカビを回して頭部を覆うが、そのたびに砕かれる。堂々巡りだった。

 

 

「クソッたれ…なんてパワーだ…!?」

 

『えいっ!えいっ!修復した側から壊すなバカー!?』

 

「エヴリン、右腕に余計な分を回せ!頭部もだ!」

 

『え、でも…』

 

「一発だけなら耐えれる!いや、耐えてやる!ドデカい一撃を叩き込む!」

 

 

 頭突きを何度も受けながらそう提案すると、少し思案して頷くエヴリン。ウリアシュ・ストリージャーと互角の体格だったモールデッド・ギガントが縮み、頭突きを回避すると同時に右腕にカビが集束されていく。そして両肩を掴まれ、その硬い頭部が振りかぶられる。と同時に振りかぶる俺達の右腕。

 

 

『「お前も…!?」イーサン!?』

 

 

 硬い頭部による衝撃が俺の頭部に響く。歯を食い縛り、エヴリンの悲鳴を聞きながら負けられないとばかりに耐え抜き、力の限り右腕を振り抜いた。

 

 

「…家族だあらっしゃあ!」

 

「グアァアアアアアア!?」

 

 

 その巨大なカビの拳が顔面を捉え、大きく殴り飛ばして菌根の巨樹の壁に叩きつける。ウリアシュ・ストリージャーが石灰化し、崩れて行く様をおぼろげな視界で見ながら、俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルファ!イーサン・ウィンターズが倒れました!」

 

「回収しろ!こいつは、俺が!」

 

 

 イーサンがウリアシュ・ストリージャーと相討ちになったのを確認し、アサルトライフルを撃ちながら突撃するクリス。戦斧の一撃をアサルトライフルで防ぐも大きく弾かれ、咄嗟に振り抜いたカランビットナイフを手に腹部に何度も斬撃を叩き込み、アッパーカットで大きく怯ませる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 そしてかつて岩をも動かした拳によるストレートパンチが炸裂。歴戦のウリアシュ・ドラクは大きく吹き飛んで転がり、そこにハウンドウルフの一斉掃射を受けて石灰化して崩れ落ちた。

 

 

「ゾルダートの方は…」

 

 

 クリスがもう一体のウリアシュ・ドラクに向き直ると、ドリルで串刺しにされ持ち上げられたウリアシュ・ドラクが頭からシュツルムにミンチにされている光景を見て、見なかったことにする。

 

 

「問題なさそうだ。予定通り爆弾を仕掛ける。タンドラはイーサンの介抱。ロボとケイナインは俺を援護しろ。恐らく本体は地下にある」

 

 

 そう言って、教会だった場所に開いた穴から地下に潜ろうと試みるクリスだったが、そうはさせないと言わんばかりに菌根に薙ぎ払われてしまう。

 

 

「くそっ、近づけん!ハイゼンベルクを待つしかないか…」

 

「待たせたな!」

 

 

 そこに巨大なキャタピラを駆動させながら姿を現したのは、鉄のガラクタで形成された巨大魔人。キャタピラに乗った巨大な芋虫の様な形状のスクラップの塊から、二本の剛腕を生やした怪物。両腕はクレーンアームの様になっていて、頭部は巨大なタービンになっている。ゾルダートやシュツルムが称える様に咆哮と回転音を上げる。

 

 

「ようミランダ!忌々しい菌根、俺の全財産で粉々に打ち砕いてやるぜ!」

 

 

 巨大ハイゼンベルクはそのままキャタピラを駆動させて家屋を踏み潰しながら突撃、二本の巨大な触手を伸ばした菌根と組み合い、今のうちにと合流したアンバーアイズとナイトハウルも入れて地下に飛び降りるクリスたち。

 そして、タンドラに物陰に連れていかれて介抱されるイーサンは、辺り一面雪景色の暗い空間にて二人のエヴリンと邂逅していた。




前回のハンマー引き寄せ(ソーの武器)といい、今回の部位集中(ナノテクアイアンマン)といい、どうしてもマーベルネタを入れて行きたいスタイル。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルートその5【一点集中】

どうも、放仮ごです。いつもは3000字ぐらいなんですが、今回は5260文字と結構長くなってしまいました。

【現在の状況】
・イーサン&エヴリン
気絶しオリジナルエヴリンと邂逅。本編とあまり変わらないので割合。
・ハイゼンベルク
巨大魔人と化して菌根と激突。ガチバトル中。
・ミア
ハウンドウルフに救出され、ヘリで気絶したイーサンと共に待機。
・クリスたち
ミアを救出と資料の奪取をチームで遂行、タンドラをミアとイーサンの護衛+ヘリ操縦に残して残りのメンバーで菌根を登りミランダの儀式に立ち会う

今回はハイゼンベルク生存ルート最終決戦。楽しんでいただけると幸いです。


『むにゃむにゃ……ん?ママ!やっぱり生きてたんだ!あれ、私起きたのにイーサンまだ寝てる…半分意識が覚醒してるのかな?ってそんなことより起こさないと…ああもう、触れないのがもどかしい!』

 

「ああもう!エヴリン、ちょっと退いてて!イーサン!しっかりして、イーサン!」

 

『……ママ、もしかして私のこと見えてる?』

 

「…………ナ、ナンノコトカシラ」

 

『いや、もういいから。がっつり会話しちゃったから。へえ、そうなんだ。ふーん……もしかして、最初から見えてたりする?』

 

「……」

 

『図星かー』

 

「…悪かったわ。イーサン、起きて。お願い」

 

『イーサン、気絶してるだけだからそろそろ起きると…』

 

 

 目覚める。オリジナルのエヴリンとの対話を終えて家族として迎え入れた俺は、聞き慣れた愛しい声を聞いて目覚める。目を覚ますとそこは鉄の天井の下で。横に目を向ければ、ミアがいた。

 

 

「ミア…!?」

 

「よかった。目を覚ましたのね」

 

『だから気絶してるだけって言ったじゃん。私がちょっと前に起きたんだからすぐ起きるのわかってたでしょ?』

 

「私、クリスに助けられて…ローズの事も貴方達のことも聞いたわ」

 

 

 そうミアと会話するのは、残留思念とオリジナルが一体化したのを表す様にちょっと成長した姿のエヴリン。その光景に目が点となる。え、なんでミアとエヴリンが当たり前の様に会話しているんだ…?

 

 

『あ、ミアずっと私が見えてたんだってさ。ひどいよね、見えないふりしてただなんて』

 

「そうだったのか…」

 

「悪かったって言ってるじゃない。…私の知っているエヴリンは悪辣で生意気だったんだから」

 

『本質は変わらないよ。私は私。それ以上でもそれ以下でもない』

 

 

 若干敵意が見え隠れするミアに、拗ねるエヴリン。このエヴリンはオリジナルの人格も統合されてるから否定はできない…が。

 

 

「ミア。俺はエヴリンを俺の娘だと認めた。君にも、認めて欲しい。こいつはもう、あの時の悪いエヴリンじゃない」

 

『悪いエヴリンって何さ』

 

「…そうみたいね。こんなに愉快じゃなかったわ」

 

『愉快って何さ』

 

 

 頬を膨らませて怒るエヴリンに、ミアと顔を見合せて一緒に笑う。言わなくてもわかる。ミアも、三年間一緒に過ごしたこのエヴリンを見て、憎悪や恐怖が薄れていたのだろう。こんなアホの子にいつまでもそんなのを抱いていられるわけがない。

 

 

『イーサン、聞こえてるからね?アホの子は酷い』

 

「ミアも認めてるみたいだからいいだろ。お前がアホの子じゃないとミアも認めなかったさ。俺もな」

 

『ひでえ』

 

「……どこにいくつもり?」

 

 

 話しながら外に出ようとした俺達を見咎めるミア。…やっぱり、行かせてはくれないか。見れば夜が明けたばかり。今頃ミランダはローズを復活させて娘にしようとしていることだろう。急がないと。

 

 

「ローズを取り戻しに行く。クリスたちだけに任せてはいられない」

 

「私だってローズも一緒に、四人で過ごしたい。でも、あなたに無茶もしてほしくないの」

 

「…もしかして、俺が死んでいたことも知ってたのか…?」

 

「薄々、特別だとは思ってたわ。でもだからって貴方が無茶する必要はない。わかって、お願い」

 

「…それは聞けないな」

 

 

 引き留めるミアを引き離し、外に出るとヘリの中だったらしい。忌々しい菌の巨樹が目の前に聳え立ち、触手を伸ばしてガラクタが一纏めになった様な不格好な巨人と殴り合っていた。アレはハイゼンベルクか…その光景を見上げる形となり、気を引き締める。

 

 

「なんで…貴方は一般人なのよ!いくらエヴリンの力を使えるからって、貴方が戦う必要は…」

 

「あるさ。俺は、父親だからな。エヴリン、行くぞ」

 

『了解!パワーアップした私の力を見せてやる!』

 

 

 ミアの制止を振り切り、瞬時に変異したクイック・モールデッドの脚で跳躍。腕もクイック・モールデッドのものになり、巨大ハイゼンベルクの背面に引っ付いて何とか登って行く。

 

 

『下から行くのが正攻法なんだろうけど!』

 

「こっちの方が速い!どおりゃあああああ!」

 

 

 両腕のクレーンの様なアームで菌根の触手を引っ掴み、頭部の巨大タービンに押しつけて切り刻む巨大ハイゼンベルク。その振動で振り落とされそうになりながらも必死に登り、芋虫の様な胴体の上に到着。

 

 

「ん?この声はイーサンか?だったらこいつを持っていきな!」

 

「助かる、ハイゼンベルク!」

 

 

 ごてごてしていて悪い足場を全速力で駆け抜け、途中で突き出ていた柄を掴むとそれはハイゼンベルクの鉄槌で。モールデッド化した左手で握りながら先まで来ると跳躍、菌根の頂上から伸びる枝(?)にクイック・モールデッドの右腕と脚で引っ付くと、眼下にある祭祀場でクリスたちハウンドウルフと、腕と指が異様に伸びた戦闘形態になっているがどこか様子がおかしいミランダが戦っていた。

 

 

「クリィイイス!」

 

「っ!イーサンか!」

 

「イーサンだと…!?」

 

 

 叫びつつ飛び降り、こちらに振り向いた、カビに覆われたミランダの顔面に鉄槌をフルスイングで叩き込み、殴り飛ばすとクリスたちと合流。クリスは掴みかかってきた。

 

 

「お前、何で来た!」

 

「ローズを救うために決まってるだろ!それより、ローズは何処だ!?まさか…」

 

「いいや。奴は娘を蘇らせるのに失敗した。それどころか力を失ったようで、ローズを取り込んで抵抗している」

 

『あれだけ偉そうなこと言ってて失敗するんだ…』

 

「…つまり、ミランダのクソッたれをぶっ倒せばいいんだな?援護してくれ、前線は俺が張る!」

 

「止まれイーサン!クソッ、援護だハウンドウルフ!」

 

 

 ハイゼンベルクの鉄槌を両手に握りしめ、突撃する。ミランダは翼を広げて上に逃げようとするが、クリスたちに撃墜され、落ちてきたところに渾身の力で振り上げた鉄槌が炸裂。仰け反ったところに容赦なく連続で、吹き飛ばさない様に殴りつけて行く。

 

 

「ぐっ、あっ、ぐはっ、がっ、きさまぁあああ!」

 

「こいつは俺とエヴリンとローズとミアとエレナとイングリドとハイゼンベルクの分だ。あとドナとモローと…ついでにドミトレスクとカサンドラとベイラとダニエラの分があるから大人しく殴られろ」

 

『あとエレナのパパとルイザとアントンとロクサーナと他の犠牲になった村人の分もだよ、イーサン』

 

「ふざけるなああああ!」

 

『あ、ローズを取り込んだから私が見えてるんだ』

 

「イーサンに触れさせるな!」

 

 

 激高してカビの触手を伸ばしてくるミランダだが、クリスたちハウンドウルフの銃撃で弾かれて俺に触れることは叶わない。援護射撃を信じて、ひたすら鉄槌で殴って行く。

 

 

「む、無駄だ!我が体は鋼鉄如きでは砕けぬ…!」

 

「ならそれ以上の硬さならどうだ!」

 

『硬さだけなら今の私に分があるもんね!』

 

 

 オリジナルと融合したことでできることが増えたらしいエヴリンの力で、カビに覆われる鉄槌。少し大きくなった漆黒の鉄槌をモールデッド化した両腕で振りかぶり、殴る瞬間に突起が生えたそれを杭打ちの様にミランダの胸部に叩き込む。

 

 

「グアァアアアア!?ば、ばかな!何故、失敗作のE型特異菌如きが真なる菌根の硬さを上回る…!?」

 

『一点集中して固めたらそれだけ強固になる!意識が二つあるからできる操作だよ!』

 

「力が強いだけが全てじゃない。失敗作とお前が呼ぼうが、使い方次第でどうとでもなる!それとな…俺の娘のどこが失敗作だ言ってみろ!」

 

「があ!?」

 

 

 打ち付けた鉄槌の杭にさらに力を籠め、抉り裂いてミランダの胸部を魚の開きの様に掻っ捌く。漆黒の粘菌で形成されたその内部に吐き気がするが、モールデッド化した右腕をミランダの胴体に殴りつける様にして突っ込んだ。

 

 

「エヴリン!探せるか!?」

 

『待って、今菌糸を張り巡らせて…見つけた!イーサン!』

 

「ま、まさか!貴様!やめろ!私からエヴァを奪うなぁああああ!」

 

 

 俺達がやろうとしていたことに気付いたのか、両腕を振り上げ叩きつけようとするミランダだが、やはりクリスたちの銃撃で弾かれ、ならばと噛み付こうとしてくるがモールデッド・ギガントと化した頭部で頭突きで対抗。

 

 

「エヴァじゃない!この子の名前は…ローズマリー・ウィンターズ!」

 

『イーサンとミアの子供だあ!』

 

 

 頭部を元に戻してもらい、ふらつくミランダの背中を左腕で支え、それを掴んだ右腕を力の限り引き抜いた。

 

 

「俺達のローズを…返してもらうぞ!」

 

「や、やめ、やめろぉおおおおお!?」

 

 

 引っこ抜いた右腕に握られているのは、小さなローズの胴体。少々乱暴な手つきになってしまったが、取り返せた。ローズを抱え、クリスたちの元に戻ろうと試みる。だがしかし、それを許すミランダではない。翼を巨大な一対の異形の腕にすると伸ばして俺達を捕まえようとしてきた。

 

 

「逃がさん…!絶対に、逃がしてなるものかぁあああ!」

 

「くっ…!」

 

 

 胴体を掴まれる。鉄槌は掻っ捌いたまま置いて来てしまったし、両腕にローズを抱えているため反撃が出来ない。クリスたちも俺達が捕まってるからか迂闊に撃てないようだ。

 

 

「くっ、力が安定しない…こうなればイーサン、貴様ごとローズを取り込んでくれる…!」

 

 

 万事休すか。そう諦めかけたその時、、こちらに歩み寄ってきたミランダの背後に落ちている鉄槌がエヴリンのカビを引き剥がして浮かび上がり、凄まじい勢いでこちらに向けて飛んできてミランダの後頭部に炸裂、そのまま飛んで行ってしまった。解放された俺達を守るように囲んで構えるクリスを始めとしたハウンドウルフ。そこに、菌根の壁を突き破って何かが顔を出す。タービンの様なそれはまさしく、巨大ハイゼンベルクだった。

 

 

「おら、脱出するなら今の内だ!」

 

「だが、ミランダが…!」

 

「とどめは俺が刺す!クリス、お前たちはさっさと離脱する準備をしやがれ!」

 

「っ…行くぞ!」

 

 

 ハイゼンベルクの台詞を聞いて、頷いて俺とローズを警護する様に囲みながら巨大ハイゼンベルクの芋虫の様な胴体を伝ってヘリまで戻るハウンドウルフ。ミアと合流し、ヘリが浮上を始めると、凄い光景が目に入る。

 

 

「こいつを喰らえばひとたまりもないだろうぜ」

 

 

 ハイゼンベルクは俺達がヘリに乗り込んだのを確認すると、巨体を形作っていたジャンクを全て分離。全てのパーツやゾルダートを空中に浮かせると、それを凄まじい速度で菌根にぶつけていく。それは、こちらに来ようとしていたミランダも例外ではない。全身をジャンクやミサイルの様に飛んできたゾルダートのドリルで串刺しにされ、菌根に縫い止められ、さらにその威力に菌根で形成された巨樹も崩れて行く。

 

 

「鋼鉄も通さない硬さだあ?エヴリンも言ってただろ、一点集中すりゃあ壊せねえもんはねえってな!」

 

「ギザマ…ハイゼンベルクッ!貴様が死んでいれば、エヴァは蘇っていたものを…貴様が死なないせいだ!許さん、許さんぞ…!」

 

「おうおう、いい怨嗟の声だなミランダ。溜飲が下がるぜ、今なら美味い酒が飲めそうだ。シュツルム、地獄へ送ってやんな!」

 

「おのれ、おのれ、おのれぇええええええ!?」

 

 

 さらに這い這いでなんとか顔を出したミランダに、容赦なく放たれる熱暴走したシュツルムの火炎放射。ミランダは炎上して跡形もなく消え去り、シュツルムは限界が来たのか爆散していった。

 

 

「シュツルム…お前を完成させてやれなくて悪かったな…だが、俺もすぐに後を追うからよ…」

 

 

そう言って哀愁漂う様子でその場で葉巻を吸うハイゼンベルクが、死のうとしていることに気付いて。クリスたちの制止も聞かず、ハッチを開けるとハイゼンベルクは驚いたような顔をしていた。

 

 

「なんのつもりだイーサン。クリスに伝えろ、さっさと離れて爆弾を起爆しやがれってな」

 

「死ぬ気かお前!お前は俺達の恩人だ!死なせないぞ!ハイゼンベルク!来い!」

 

『マダオ!私達と一緒に自由を謳歌しようよ!』

 

 

 エヴリンと共に必死に説得する。ローズをバラバラにした張本人だが、こいつがそう提案してなければ今頃ローズはとっくにミランダの娘にされて、取り返すことなんてできなかった。だから恩人なんだ。もう友人みたいなものなんだ。悪人だろうが、これ以上知ってる誰かが死ぬところなんて見たくない!

 

 

「…そいつも、悪くねえか」

 

 

 そうダンディな雰囲気で笑うと、辺りに散らばったジャンクで即席の階段を作り、駆け昇ってくるハイゼンベルク。ヘリの中に入り能力でハッチを閉じて笑うその姿に、クリスも苦笑いだ。

 

 

「自由になったのに死ぬなんて冗談じゃないぞハイゼンベルク」

 

『そうだよ!もう私達友達なんだからね!』

 

「へいへい、悪かったよお二人さん。それでクリス。言っとくがもう、俺は誰の下にもつかねえぜ?」

 

「…ああ。だが一つ提案がある。これから、B.O.W.の兵士を使っていたBSAA本部に殴り込むんだが…お前も一緒に来ないか?お前が生きていると知ったら利用しようとする連中だ」

 

「そいつは聞き捨てならねえな?よし、イーサンも付き合え」

 

「ミアとローズに危険が及んだ原因みたいな奴等だろ?当たり前だ」

 

『クリスが止めたって行くもんね!』

 

「イーサン、エヴリン。私が心労で死ぬから勘弁して…」

 

 

 そんなこんなで戦友となったハイゼンベルクはこうして生き残ったのだった。




磁力で再現した擬似ゲートオブバビロン。菌根だろうとひとたまりない。というわけでミランダとの決着はハイゼンベルクが決めました。かつてシュツルム君がここまで活躍した二次創作があっただろうか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルートエピローグ【バイオ村】

どうも、放仮ごです。今回は難産でした。ほぼ事後報告みたいなものなのでそれで三千字稼ぐとなると…ねえ?それでも、本編でも見れなかった幸せな日常を描いてみました。

今回はBSAA本部をぶちのめして数年後のお話。何年後とかローズが何歳だとかは明記しません。楽しんでいただけると幸いです。


 あれから数年。BSAAの問題を解決した後、俺達一家は見張りつきではあるが元の日常に戻り、ハイゼンベルクはクリスと取引して旅に出た。その内容は、曰く「必要になった場合協力すること」「許可なしに兵器の製造・改造はしないこと」「殺人・窃盗の禁止」「それらを守る限り、関与はしない」などなど。

 

 

『よくもまあ律儀に守るよねマダオ。間違いなく地上最強の存在なのに』

 

「あいつも狙われるのは御免なんだろうな」

 

 

 そもそも銃弾も拷問器具も通じないハイゼンベルクに対しては脅しも効かず、口約束でも取引するしかなかったとのことだ。ハイゼンベルクも「誰かの下に付かないなら問題はねえ」と納得し、自由を謳歌している。今は飛行機や自動車の工場を経営している旨の手紙をもらった。そんな、友人やクリスやハイゼンベルクの手紙を纏めていると、ヒョコッと愛しのローズが顔を出してきた。

 

 

「父さん、姉さん。私のネックレスどこに行ったか知らない?」

 

「うん?あー…たしかリビングの棚の上になかったか?」

 

『え?ローズの部屋の本棚の中じゃなかった?』

 

「え?」

 

「ん?」

 

『あれ?』

 

「「『ぷっ、アハハハハ』」」

 

 

 おめかししているローズの質問に答えたら、何故かエヴリンと食い違い顔を見合わせる俺達。おかしくて、つい笑ってしまう。すると料理をしていたミアの声が聞こえてきた。

 

 

「なに遊んでいるの三人とも。できたわよ、手伝って」

 

「ああ、ミア。今いく」

 

「『はーい』」

 

 

 子供たち二人が元気に答え、一緒に食卓へ向かう。その途中で回復薬を手に取る。傍らには何か期待している様子のローズとエヴリン。特にローズは今度こそ一目でも見ようと興味津々だ。

 

 

『ねえパパ、早く早く』

 

「今日こそは見せてくれるよね!」

 

「ダメだ。ローズ、教育に悪いからあっちに行ってなさい」

 

「ええー、姉さん、別にいいよね?」

 

『いやー、ちょっとグロいからおすすめできないなあ…』

 

「ちぇっ。ケチ!」

 

 

 そう言ってミアの元に向かってしまった愛娘だが、ケチと言われても本当に教育に悪い、というか見せられないからしょうがない。念のため鍵を閉めて、ローズが入ってこないようにするとナイフを手に取り、軽く掌を斬り裂く。

 

 

「行くぞ」

 

『うん』

 

 

 エヴリンが俺に入ってきたのを確認すると回復薬を傷口にかけて、垂らす様に下に向ける。すると黒カビが溢れて来て膨張しゴキゴキと人型を形成、俺から切り離されるとそれは肌色が浮かんで少女の姿を取る。それは、ローズよりちっこいが姉であると主張する、かつてのエヴリンの姿だった。

 

 

「ミランダは大嫌いだけど、この擬態能力だけは便利だよね!」

 

「持続時間が短いのが難点だがな」

 

 

 何時もの様に頭に響かない、その小さい体からの肉声でそう笑うエヴリンに、笑みがこぼれる。一時的ではあるが、オリジナルと融合したことで力を増し、菌根ネットワークと呼ばれる脳内空間でミランダから擬態能力を得たエヴリン。一時間程度で構成が崩れて肉体が消滅してしまうのが玉にきずだが、今では俺達と共に食卓で食事をとれるようになった。なんでもない日常を謳歌できる、あの三年間じゃできなかったことを楽しめる今にエヴリンは満足していた。

 

 

「ほら、行くぞ」

 

「はーい」

 

 

 食卓へ二人で向かうと、ミアとローズが温かく出迎えてくれる。カビでできた動く死体の俺。悪意に支配された一家の元凶にして正真正銘のカビ人間であるエヴリン。そんな二人を受け入れてくれる家族を俺は他に知らない。ローズとエヴリンと共に料理を食卓に運ぶ手伝いをしていると、ローズが何かを思い出したように嬉しそうに語りだした。

 

 

「そうだ、今日はカールが来る日だよね!」

 

「ああ、そうか。今日だったか」

 

「また面白いおもちゃを持ってくるといいね」

 

「もう、これ以上ガラクタが増えるのは勘弁よ」

 

「そいつは聞き捨てならねえな?」

 

 

 その声に振り返る。そこには相変わらずの丸いサングラスに黒いソフトハットとオリーブ色のロングコート姿の男は、先に食卓に置いていたサンドイッチを口に入れてニヒルに笑っていた。一月(ひとつき)に一回我が家を訪れるその男、カール・ハイゼンベルクは手を広げて飛び込んだローズを受け止める。

 

 

「カール!久しぶり!」

 

「おうおう、久しぶりだなローズ。今日も面白いおもちゃを持って来てやったぜ」

 

「…お前に鍵は意味ないな。よう、ハイゼンベルク」

 

「金属なんて使ってるからだぜ?…よう、イーサン」

 

 

 差し出された手を掴み、力強く握手する。するとエヴリンがハイゼンベルクに突っかかる。

 

 

「マダオ!先に食べるの行儀悪いよ!」

 

「そうだな、手を洗ってなかった。ところでその手にあるのはなんだ?エヴリン」

 

「…マダオが食べてるからいいかなって」

 

「二人とも。あとでお説教よ」

 

「「はい…」」

 

 

 サンドイッチを手に取っていたエヴリン共々ミアに怒られシュンとなるハイゼンベルク。地球最強とも言っていいハイゼンベルクを大人しくさせるミア、我が妻ながら恐ろしい。

 

 

「ねえねえ、今日は何を持ってきたの?カラ殺装置?」

 

「あーあれ、すごいよね。ルーカスより凄いのそう見ないよ」

 

「あんな教育に悪いのをおもちゃとは認めないぞハイゼンベルク」

 

「それについては悪かった。ただ偽物の血と肉片が出るだけのおもちゃじゃねえか」

 

「で?今日は何を持って来たの?」

 

「ああ、教育にいいのをってお達しだったからな。こいつだ」

 

 

 そう言って引き寄せたのはスーツケース。それを開けると中にあったのは、見覚えのある姿の人形が五つ。目の前の男をデフォルメにしたような人形、帽子を被った血の気の悪い貴婦人、純白の衣装を着た可愛らしい花嫁、黒衣を纏ったすきっ歯の半漁人、仮面を被り六枚の翼を生やした修道女。最後の人形を見てローズとハイゼンベルク以外の人間が顔をしかめたのはしょうがないだろう。

 

 

「…これはなんだ?」

 

「教育番組の人形劇を参考にして作ったものだ。電池で動く喋って踊れる絡繰り人形さ。ちゃんと似た声の声優を雇って収録したんだ。機械大好きハイゼンさん、吸血鬼ドミトおば…ゴホン、ドミトおねぇさんに、心霊人形アンジー、ヌメヌメ男モローくん、そしてマザーミランダさま、だ。ミランダだけどうしてもキャッチコピーを思いつかなくてな?」

 

「へー、これが赤ん坊の私を誘拐したミランダなんだ……かわいいね?」

 

「ミランダだけキャラがアレだよね」

 

「私、ミランダのことそう知らないんだけどそうなの?」

 

「いや、まあ……擬態だけが取り柄だったな」

 

 

 思い出したくもないが言われて思い出す。支離滅裂な発言多い上にろくに話さなかったからなあ。そんなことを考えていると、おもむろにネジを取り出し、一つずつ手に取って巻いて机の上に置いていき、ポンポンポンポンポンと頭を叩くハイゼンベルク。すると人形たちがひとりでに立ち上がって動き出し、わっちゃわっちゃと踊り出す。

 

 

『バイオのむらに~おい~でよ~』

 

『みんなゆかいなかぞくだよ~』

 

『吸血鬼ドミトお姉さん!』

 

『ヌメヌメ男モロー君!』

 

『機械大好きハイゼンさん!』

 

『心霊人形アンジー!』

 

『マザーミランダさま!』

 

『こ~わ、こ~わ、こわくな~い♪』

 

『バイオ村で、あ、そ、ぼ!』

 

 

 陽気な音楽まで鳴り始め、歌って踊り終えるとわちゃわちゃ劇を始める人形たち。劇の間ミランダだけ何もせず突っ立ってるだけなのが笑える。ただ、その劇の内容は……

 

 

「どうだ?教育にいいだろ?」

 

「うん、面白かった!さすがカール!」

 

「いや、内容が怖いよ!?なに、血(偽物)が噴き出す人形って!?」

 

「エヴリンに同意だわ…凄いとは思うけど才能の無駄遣いと言うか」

 

「ハイゼンベルク…お前、疲れてるんだよ。なんでバイオ村なんだ…バイオハザードが起きた村だからか…?」

 

「おいおい、俺は真面目だぜ?」

 

「「「ええ…」」」

 

 

 ローズは絶賛だったが、元ネタ(?)を知る俺とエヴリン、ついでに普通の感性を持っているミアからすればツッコミどころしかない。ローズ、絶対ハイゼンベルクのせいで変な趣味に目覚めたな…え、俺のせい?ないない。エヴリン、ジトーッと睨んでも俺のせいじゃないぞいい加減にしろ。




一時間だけならイーサンから分離して肉体を得ることができるようになったエヴリン。ネットワークを用いて本編より力を使いこなしてます。
このルートだと血みどろが趣味になってしまったローズ。まあしょうがないね。そしてまさかまさかのバイオ村。ハイゼンさんだったら絡繰り人形ぐらい作れそうだなって。

そんなわけでこれにてハイゼンベルク生存ルート完結です。次回はデュークルート(?)。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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デュークさんちの今日のご飯

どうも、放仮ごです。今回はデューク編。前回までのハイゼンベルク生存ルートではなく、本編最終回とエピローグの間の時系列を描きます。あとちょっと他作品とのクロスオーバー注意です。

今回はデュークさんのウィンターズ家訪問。楽しんでいただけると幸いです。


 ベイカー家では、ゾイの助けを借りながらもほぼ一人であの一夜を乗り越えミアを救い出した。だがあの狂気に満ちた村での惨劇は、決して一人では乗り越えられなかっただろう。頼りになる愛娘であるエヴリンに、自由を求め反逆のために俺と手を組んで死んでいったハイゼンベルクと、彼に作られた機械化死体兵団ゾルダートにシュツルム。影ながら俺達を守ってくれてミアを助け出してくれたクリスたちハウンドウルフ。…そして、デューク。

 

 武器や弾丸に回復薬と豊富な物資を提供し、空腹の際には食事を振る舞ってくれたり、なにより俺やエヴリンでは知り得なかったローズについての情報を教えてくれた、「あくまでもサービス」「ビジネスの一環」として助けてくれたふくよかな謎の商人。名前は貴族の称号の一つで一番偉い「公爵」を意味する名だが、四貴族やその支配者であったミランダと何か関係があったのかどうかは分からない。少なくともドミトレスクやハイゼンベルクとは取引相手だったようだが。まあとにかく、謎の人物だが間違いなく恩人の一人だ。俺の身体が何時崩壊するかわからないが、もし会えたらお礼を言いたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪「お宅はイーサン・ウィンターズ様の家で間違いないでしょうか?」≫

 

「その声……お前、デュークか?」

 

『え、デューク?』

 

 

 そんなある日、自宅のインターホンが鳴ったのでエヴリンと共に出てみれば、あの村で散々お世話になったデュークだった。扉を開けるとそこにはお馴染みの巨体が。…後ろに馬車があるが、ここまで馬車で来たのだろうか。というかなんで俺の居場所を知ってるんだ。

 

 

「実はいい肉と魚を仕入れましてね。友人の貴方と一緒に食べようかと」

 

「え、いいのか?」

 

『わーい、デュークの料理が食べられるー♪』

 

 

 パワーアップしてから食事できるようになったため小躍りするエヴリンと共に、さすがに家に入れられないので庭にデュークを案内すると、ミアとローズが驚いた顔をしていた。

 

 

「ああ、二人は知らなかったな…あの村で俺を助けてくれた行商人のデュークだ。ローズを救い出す手助けをしてくれた。…ハイゼンベルクに並ぶ恩人だ」

 

『クリスが入ってないの笑えるけど同意』

 

「どうも、デュークと申します。こちらのウィンターズ様…イーサン様にはご贔屓していただきました。ご必要な物があれば格安でお売りしますよ」

 

「は、はあ…」

 

「あ、おじさんが父さんと姉さんの話に出ていたデュークね。よろしく!」

 

 

 困惑するミアと、元気に挨拶するローズ。デュークは満足そうに唸ると手にしていたクーラーボックスをその場に起き、馬車から簡易コンロやらフライパンやら人数分の食器を往復して持ってこようとしていたので手伝う。

 

 

「あれからですね、イーサン様と別れてから爆発する前に村から命からがら全速力で逃げまして。それからは村を転々として商売をしていました」

 

「無事だったら連絡ぐらいくれればいいのに」

 

「まあわたくし、お宅の電話番号を知りませんでしたから。住所も最近やっと見つけたのですよ。ワタクシの情報網はすごいのです。商売とは情報が命ですからな」

 

「みたいだな」

 

 

 一応、前の家とは別のところに引っ越してるわけで。その住所を見つけるとなるとかなりのものだ。すると緑・赤・黄のハーブを取りだして包丁で切り刻むデューク。気になったので聞いてみた。

 

 

「それは?」

 

「これはですね、少々複雑でして。ここに来る直前、死んだと思っていた旧友と奇跡的に再会しましてな。なんでもサーヴァント?とやらになったそうで、よくは知らないんですけどね。あちらの今の主人に色々売ったお礼に三色ハーブなるものを分けていただきました。特に黄色はヨーロッパのとある地域にしか存在しない希少なものでして。これが実に、調味料としていいんですよぉ」

 

「なるほど。そうか、それはよかったな」

 

「まあそれ以来武器の類が売れなくなって結構困っているのですけれどね。どうです?護身用に買いませんか?」

 

「護身なら間に合ってるな」

 

 

 外にいるであろう見張りを思い浮かべてそう返す。俺達とローズを見張っている訳だが、護衛と考えても差し支えないだろう。

 

 

「ふむ。それは残念ですな」

 

『私もいるからもしもの時は何とかなるしね!あ、デュークには聞こえてないんだっけ。あとから私の存在を明かして驚かそうかな』

 

「ああそうだ。アンタから譲ってもらったとっておき…あの戦いで失ってしまった。悪い」

 

 

 そこで思い出したことについて謝る。ミランダとの最終決戦に出向く際、武器が不足していた俺にデュークが譲ってくれたハンドキャノン…ミランダにとどめを刺す際に投げ捨て、そのまま拾う余裕もなかったから爆発に巻き込んでしまった。友人から譲ってもらったものと聞いていたのに…それが申し訳なくなって、頭を下げる。すると飄々とした声が聞こえてきた。

 

 

「いえ、お気になさらず。残念ではありますが、武器とは使われてこそのもの。私が持っていたままでは単なる記念品として朽ち果てていったものが武器として全うできたのです。本望でしょう」

 

「そういうものか…?」

 

「商人には商売するという使命があるように、物には物としての使命がある。それを全うできたのですよ?なにが悪いことがありますか。貴方が父親としてローズ様を救い出したのと同じことですよ。……さて、そんなことを言っている間にできました。わたくし史上最高傑作の完成です」

 

「『「「おお!」」』」

 

 

 出来た料理を庭の簡易的な机に並べるデューク。芳しい匂いはそれが上質なものだと示していて。ローズなんか涎が凄かったので拭ってやったぐらいだ。ミアでさえ「負けた…」と悔しそうにつぶやいていた。それぐらいに、並べられた料理はおいしそうだった。

 

 

「稀鳥のトキトゥーラと稀獣のチョルバデブイと稀魚のサルマーレ、三色ハーブ風味でございます。召し上がれ!さあ、ご一緒に!」

 

「じゃあ、もう一人の家族を呼んでくるよ」

 

「おや、三人家族ではなかったので?新たに命を宿したのですかな?」

 

「実はお前とも顔なじみだったりするんだがな」

 

「ほほう?」

 

 

 左手の掌を天に向ける。傷だらけのそれに、右手で握った回復薬をふりかける。これは俺がクラフトして作ったものだ。デュークから買えなくなったが、よく考えたらベイカー家の事件の時点で作ることはできたんだよな。同時に俺の左腕を握りしめる様に重なるエヴリン。もはやお馴染みの言葉になったそれを呟く。

 

 

「Hello.Eveline」

 

「Hello.Ethan」

 

 

 俺の呼びかけに応える様にして俺の左腕が変形、モールデッドの様な頭部を形成して肉声で挨拶する。これが我が家の家族四人で食事をする際のスタイルだ。これでちっちゃな手を生やしてお行儀よく食事をするのだからわからないもんだ。俺は右手だけで食べることになるのが玉にきずだが。

 

 

「おやおや。もしかして貴方がエヴリン様、ですかな?」

 

「は?…知ってたのか?」

 

 

 するとデュークは特に驚くことなく、むしろ嬉々として受け入れていた。それに顔を見合わせる俺達。

 

 

「はい。エヴリン様、という存在がイーサン様の側にいることはなんとなく。私には見えなかったのですが、城ではドミトレスク様たちには見えていらしたようですしそういうものなのかなと納得していたのですが、よもや私にも知覚可能とは!お会いできて光栄です。共にいただきましょう!」

 

「え、あ、うん…デュークのこと、村の時は疑ってたんだけど……普通にいい人だね?」

 

「わたくしは商人故。なにか買ってくれたら嬉しいですねえ」

 

「あ、じゃああのミスター・エブリウェア欲しいな」

 

「おい、誰が金を払うと思っているんだ」

 

 

 そんな会話をしながら食事を始める。やはりというか、以前ごちそうになったものとは比べ物にならないぐらい美味かった。体から力が湧いてくるような…これは?とデュークを見ると、にこやかに。

 

 

「少しでも、貴方の身体が持てば。そう思いましてね」

 

「…お前には敵わないな」

 

 

 デュークの接客サービスに感嘆の声しか出なかった。




そんなわけで今作は拙作にしてもう一つのバイオハザード作品「Fate/Grand Order【The arms dealer】」と同じ世界の出来事でした。あちらの完結はまだですが、完結後の時系列となってます。あちらの主人公であるサーヴァント・ディーラー(4の武器商人)がどういうわけかデュークと接触したって話。黄色ハーブは4のあの地域特有のものってことにしてます。

できれば今作とFGO/TADのコラボ回を書きたい。あちらのシリアスエヴリンとこっちのポンコツエヴリンを会わせたいけどどうでしょう?反応が良ければ次回か次々回はそれになるかなあ。

次回については…7を同じ条件(ポンコツエヴリンと一緒)で書いてみるかなあ、とかエヴリンが見えているのが四貴族側だったら?とか色々考えてますがどうなりますやら。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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四貴族In EvelineRemnants
01:Another eveline【オリジン】


どうも、放仮ごです。一日開けて申し訳ない。何も出てこなかったもんで。今回から「もし幻影エヴリンが憑いたのがイーサンではなく四貴族+ミランダだったら?それも幻影になってるのがオリジナルだったら?」なIFをお送りします。雰囲気ががらりと変わるので、イーサンとエヴリンが仲良くしているところを見たい方はご注意あれ。

今回はハイゼンベルクとドミトレスクに茶々を入れるオリジナルエヴリンの話。楽しんでいただけると幸いです。


『こんにちは!』

 

「お、おう…こんにちは?」

 

 

 それは2017年のあの日。母親(便宜上)に反逆するべくあくせく死体を墓場から回収していた己に話しかけてきた少女に、カール・ハイゼンベルクは首をかしげる。見間違いじゃなければその少女は、浮いていた。

 

 

「…ついに幽霊が見える様になったか、ミランダあの野郎」

 

『幽霊とは失礼な。私にはエヴリンって言う立派な名前があるんだからね!』

 

「おおそうかエヴリン。俺は忙しいんだ。どっか行ってくれ。…エヴリン?お前がエヴァとか言わないよな?」

 

『誰それ』

 

「違うのか。じゃあ本当に誰なんだ」

 

『My name is Eveline』

 

 

 名前が似ていることから、ミランダの娘なのかと邪推するハイゼンベルクだったが、そんなことはなく。死体を工場に持ち帰り、改造を加えていると興味深そうに見てくるエヴリン。

 

 

『へー、死体を機械で改造するんだ。かっこいいね!』

 

「お、このロマンが分かるか。やっぱりドリルだろ、ドリル。だが制御が上手く行かなくてなあ。カドゥを使わないのも考えてみるべきか…」

 

『じゃあカドゥを制御すればいいんじゃない?』

 

「っ!なるほど、そいつはいい」

 

 

 行き詰ってたところ、エヴリンの助言で活路を見出したハイゼンベルクは上機嫌に、エヴリンの存在を認めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に好き勝手やってる四貴族の、月に一度の定例会議。いつもの集会場に集まったハイゼンベルクは奇異の視線にさらされて気まずい空気を味わっていた。そんな重苦しい空気の中問いかけたのは、空気を読まないことに定評があるアンジーだ。

 

 

『ヘイ!ハイゼンベルク!いつから子守を始めたの~?』

 

「うるせぞアンジー。こいつが勝手についてきたんだ。おいドナ、このブサイク人形を黙らせろ」

 

『誰がブサイクだコノヤロー!』

 

「それは……誘拐してきたとかかぁ?」

 

「人聞きの悪いことを言うなモロー!俺は死体しか漁らねえ!」

 

「まったく…悪趣味で不躾で小汚い男ね。その娘、私に渡しなさい。若い娘はいい血が絞れるわ」

 

「生憎だがこいつは実体がないぞドミトレスク。それに悪趣味なお前に言われたくないね」

 

『アンジーにドナにモローにドミトレスクね。覚えたよ。よろしくね~♪』

 

 

 ふわふわ浮かんでそれぞれの目の前に移動してにこやかに挨拶するエヴリンにちょっと引くハイゼンベルク以外の四貴族。実体がないことに半信半疑だったがこうも浮いたり擦り抜けたりされると信じるしかない。そこに、烏が複数飛んできて集まり、マザー・ミランダがその場に現れる。

 

 

「何を騒いでいるお前たち………エヴァ!?」

 

『ヤホハロー。お・か・あ・さ・ん?』

 

 

 見るなり娘と間違えて驚愕してくるミランダににこやかに挨拶するエヴリン。するとその顔を見て違うことに気付いたのか、苛立たしげに吐き捨てる。

 

 

「エヴリンか……紛らわしい。なんでここにいるのだ、貴様」

 

『さあ?イーサンに殺されたと思ったら変な世界にいて、退屈だなー誰かに会いたいなーって抜け出したらカールの側にいたんだ。なんか知らない?お母様?』

 

「母と呼ぶな、気色悪い。私を母と認識しているということは菌根ネットワークを介してこちらに顕現したか……見えているのはおそらく我々、カドゥを埋め込んだ者だけだな。もしかしたらエヴァにも同じ方法で会えるかもしれん。何が条件だ?E型特異菌の主であるエヴリンが体を失ったことで起きた事象か?いや、それともこれまで前例がなかっただけで意識が表面化することは可能?おい!どうやってここにきた!」

 

『だからわからないんだって。話聞いてた?もしかして馬鹿なの?死ぬの?』

 

「ぷっ……クククッ」

 

 

 研究者らしく大興奮で捲し立ててくるミランダにうげーっと苦い顔で吐き捨てるエヴリンにハイゼンベルクは笑いそうになるが必死に耐える。すると会話を聞いていたドミトレスクが高身長な身体をエヴリンに傅かせる。

 

 

「む?もしかしてその者はミランダ様の娘…?し、失礼しました」

 

『くるしゅうない。くるしゅうないけど、目障りだから顔を上げないで』

 

「はっ…!」

 

「ドミトレスク。そいつを私の娘と扱うな。ただの失敗作だ」

 

「そ、そうでしたか…」

 

『ちぇっ。もっとお偉いさんごっこしたかったなあ』

 

 

 すると今度はモローがミランダの前に進み出る。その手にはいくつかの資料が握られていた。

 

 

「ママ……失敗作なんて気にしないで。俺様が完璧な器を作るから問題ないよ」

 

『キャハハハ!そう言ってこの間助手を実験体…ヴァルコラックだっけ?に食い殺されたって報告してきたばかりじゃん!どの口が言ってんの?』

 

「そうよモロー。せっかくこの間うちの召使を貸してやったのに無駄にしたじゃない。せっかくの美味しい血が無駄になったじゃない」

 

「それについては悪かったと思ってるよ…」

 

『うちの庭師はある意味成功してるけどね!キャハハハ!ずっとうちの庭を守ってくれてるからね!』

 

「どんなに強くてもミランダ様の娘の器にならなきゃ失敗作だろうがよ…」

 

『愉快な家族だね』

 

 

 ワイワイガヤガヤ言い合う四貴族にエヴリンが楽しげに感想を述べる。ミランダは頭痛がするのか頭を押さえた。

 

 

「何時になったらエヴァを取り戻せるのやら…」

 

『ねえねえ、私ってエヴァの胚から生まれたんでしょ?だったらおばあちゃんと呼べばいいのかな?』

 

「私はお前の母でも祖母でもない。二度とほざくな、殺すぞ」

 

『どうやって?』

 

「…いいから黙れ、吐き気がする」

 

 

 そして本日の定例会議は終わり、ハイゼンベルクはエヴリンと顔を見合わせウィンクした。目論見通り馬鹿どもとろくな会話せずにすんだのだ。作戦通りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に可愛いわね~エヴリンちゃん。触れないのが残念でならないわ」

 

「ほんとほんと。どうにかして実体を得られないの?」

 

「ここに血が抜けたメイドがいるけど」

 

『え、あ、うん…多分無理だし、遠慮しとく…』

 

 

 暇だったためドミトレスク城に遊びに来たエヴリン。ドミトレスク三姉妹にしっちゃかめっちゃかにされてげんなりするエヴリンを愉快そうに眺めながらワインをたしなみ煙管で一服するオルチーナ・ドミトレスク。自分を騙そうとした悪餓鬼が嫌な顔をしてるのが実に愉快だった。

 

 

『むー、オバサン!なに見てるのさ!エッチスケッチワンタッチ!』

 

「オ、バ…ッ!?」

 

「そ、それは駄目よエヴリン!」

 

「それだけは禁句なのに!言っちゃったわ!」

 

「は、早く撤回して…キャアアアアア!?」

 

 

 エヴリンに禁句を言われて硬直していたドミトレスクは立ち上がり、怒りのままに右手の伸ばした爪を振るってエヴリンを攻撃するも、抱えていたダニエラが犠牲になってしまう。

 

 

『ほらほらオバサンこちら。手を鳴る方へ~♪』

 

「私はお姉さんよ!このクソガキャァアアアアア!」

 

「ま、待ってお母様…へぶっ!?」

 

「や、やめてお母様こっちに来ないで…ギャアアア!?」

 

 

 エヴリンはどこ吹く風で煽りながらひょひょいとカサンドラ、ベイラと移動していって、そのたびに犠牲になって行く娘たち。三人娘が消えたことで冷静になったのか荒い息を吐くドミトレスク夫人。

 

 

『ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!大丈夫?息が上がってるよー?』

 

「よくも私の娘たちを…!」

 

『殺したのオバサンだけどね』

 

「この、減らず口があ!」

 

『大丈夫?ワイン飲む?』

 

「お、お前と言う奴は…!」

 

 

 煽り散らすエヴリンに激怒して広間で巨大な竜の姿に変貌して怒り狂うドミトレスクに、さしものエヴリンもビビってドミトレスク城から逃げ出すのだった。




相変わらずハイゼンベルクがお気に入りでミランダとドミトレスクが若干嫌いなエヴリンさん。オリジナルでもそれは変わらない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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02:Another eveline 【お茶会】

どうも、放仮ごです。今章の題名は「Another eveline【●●】」で統一することにしました。

今回はベネヴィエント邸での一幕。実はハイゼンさんの次に相性がいい四貴族だったり。楽しんでいただけると幸いです。


『そんなことがあって逃げてきたの』

 

 

 ドミトレスクが竜と化して広間で暴れるドミトレスク城から逃げたエヴリンが訪れたのは、巨大な滝の側にある立派な屋敷ベネヴィエント邸。そこには人形たちとお茶会していたドナ・ベネヴィエントとアンジーがいた。

 

 

『ヴェェェェェェイ!!それは災難だったわねー!』

 

「災難なのはドミトレスクの方では…?ま、まあよく来たわねエヴリン」

 

『うん!ドナは私にもご飯食べさせてくれるから大好き!』

 

「はいはい。今用意するわ」

 

 

 そう言って幻覚で紅茶やスコーン、マカロン、クッキー、ビスケットといったお菓子類と紅茶を作り出すドナ。それを美味しそうに食べるエヴリンに微笑みを浮かべる。性格的に一番相性がいいのはハイゼンベルクだが、幻影としてのエヴリンと最も相性がいいのはドナであった。残留思念、その実態は薄い菌の集合体であるエヴリンに己の能力である特殊な花の花粉を取り込ませて幻覚を見せる、そしてどういう訳かエヴリンはその幻覚に触れることができるのである。味まで細かく設定しないといけないのが難点だが、幼い少女…妹であるクラウディア・ベネヴィエントを思い出させるエヴリンが喜んでくれるだけでドナは嬉しかった。

 

 

『あー本当に美味しいなあ!ベイカー家だとクッソ不味い臓物の料理しか食べさせてくれなくて…』

 

「そ、それは……災難だったわね?」

 

『自業自得なんじゃね―の?』

 

『それな!私の自業自得なんだけどさ!アハハハハハ!……いや、だからって三年間もあんなもの食べさせられる身になってよ。最近なんか私、おばあちゃんになっちゃったから介護と称して無理やり食べさせてくるんだよ?ひどくね?』

 

「おばあちゃんのエヴリン…ちょっと見たいかも」

 

 

 ミランダに与えられたカドゥの影響で不老な自分たちとは縁のない姿にちょっと興味を持つドナ。するとエヴリンはもしゃもしゃとスコーンを頬張りながら熟考し、目をつぶって胡坐を組み手を組んで人差し指だけ伸ばす。それはまるで東洋のNINJAの印を結ぶポーズの様で。ドナとアンジーは揃って首をかしげる。

 

 

「…なにしてるの?」

 

『バカみたいな格好だぜ?ヴェェェェェェイ!!』

 

『バカとは失礼な。いや、私今実体ないから念じたら姿を変えれないかなって…これは集中力を高めるポーズだよ(てきとー)』

 

「……あの、パンツ見えてるわよ?」

 

『わひゃっ』

 

 

 ドナが言い辛そうに指摘すると顔を赤らめて胡坐を解いてスカートを押さえるエヴリン。常に浮かんでいるのだから集中してふわふわ浮いていたら見えるのは道理であった。

 

 

 

『クマさんパンツとか恥ずかしくないの?ヴェェェェェェイ!!』

 

『これはゾイのおさがり!私のじゃないもん!私がまだこの幼女の姿だったころマーガレットが用意してくれたものなの!』

 

『でもデフォルトがその姿ってことは気に行ってるってことなんじゃねーの?』

 

『うるさい!うるさい!うるさーい!……むー、姿を自由に変えれるようになったら大人の姿になってアダルティな下着にしてやる…ミアのを見てるから再現できるもん…』

 

 

 アンジーの言葉に図星だったのか激怒して浮かんで逃げるアンジーを追いかけ回すエヴリンだったが、落ち着くと涙目でスカートを押さえてぼそりと呟く。子供時代と老人時代が長かったエヴリンにとってちょうどいい大人の姿は一瞬で終わってしまったこともあって憧れだった。

 

 

「私はありのままのエヴリンが好きだけどな」

 

『え、そう?ドナ大好き!…あーん、抱き着けない!』

 

『チョロッ』

 

『あーあー。なにも聞こえなーい』

 

 

 エヴリンはドナに笑顔で抱き着いて擦り抜けてちょっと涙し、アンジーがぼそっと呟いたのを耳を塞いで聞かなかったことにする。すると紅茶を一口含んで何か思いついたのかドナに上目づかいで問いかける。

 

 

『ねえドナ。聞きたいことがあるんだけど』

 

「なあに?エヴリン」

 

『ドナの作る幻覚っていつも脳内で設定してるんでしょ?それってどんな風にしてるのかなって』

 

『ドナは感覚で設定している天才だから教えを請いても無駄だぜ!ヴェェェェェェイ!!』

 

『うるさいブサイク!私はドナに聞いてるの!』

 

『誰がブサイクだとゴラーッ!物に触れもしないクマさんパンツのお子ちゃまがー!』

 

『どう見てもブサイクでしょうが花嫁の格好してれば相手でも来ると思ってんの!?頭お花畑なのかなー!?』

 

『可愛いお人形ちゃんになんてこと言いやがる!?』

 

『私みたいな美少女になに馬鹿なこと言ってるのかなー!?』

 

『なんだと!』

 

『やるか!?』

 

 

 バチバチと、アンジー人形と怒鳴り合い一触即発の空気になるエヴリンにおろおろと右往左往するドナ。まあ喧嘩に発展しても触れることはできないのだから心配はないのだが、どちらも大事なお友達である二人の喧嘩に黒いベールの下は涙目だ。それに気付いたエヴリンとアンジーは睨み合うのをやめた。

 

 

『あ、ごめんねドナ?心配しないで、もう喧嘩しないから』

 

『そうだよドナ!こんなやつと喧嘩しても意味なんてないし!』

 

『こんなやつ?言ったなー?』

 

『何か間違いでも言ったか?アヒャハハハ!』

 

「もうやめて!二人とも!」

 

 

 また喧嘩しそうになった二人の間に割り込むドナ。さしものエヴリンとアンジーもドナを挟んで喧嘩する気はないのか押し黙る。

 

 

「エヴリン。聞きたいなら教えてあげる。私はね、あーしてこーしてって感じで結構アバウトに考えて設定してるわ!」

 

『アバウト!?こんなにおいしいのに!?』

 

「知ってる事ならすみからすみまで思い出すの。知らない物はこうだといいなって想像するの。それが秘訣よ」

 

『なるほど!むー!』

 

 

 ドナから秘訣を聞いて、目を瞑って念じるエヴリン。するとその姿が歪んで、車椅子に乗ったしわくちゃの老婆の姿となる。少女のエヴリンと同一人物とは思えないその姿に驚くドナとアンジー。

 

 

『やったー……変身できた……この姿はもうお馴染みだもんね…あれ、目がかすむ…元気も出ない…節々も痛いよー』

 

『え、ババアじゃん』

 

「体に引っ張られてる…!?精神状態まで思い出しちゃったのね、戻れる?エヴリン」

 

『やってみるー…』

 

 

 するとまたその姿が歪んで少女の姿に戻るエヴリン。三人して安堵の息を吐く。

 

 

「今度は大人の姿に!ちょっと興味あるわ!」

 

『うん、やってみる!』

 

 

 同じ要領で目を瞑るエヴリン。瞑る必要はないのだろうが、ポーズは大事だ。イメージするはボンキュッボンなわがままボディな己の姿。…………………どう考えても無理であった。なまじミア・ウィンターズやゾイ・ベイカーという若い女性もしくはマーガレットや己などBBAの姿ばっかり三年間見ていたせいか、すとーんとタピオカも落ちてしまいそうなスレンダー体型の己しか想像できない。涙が出てきたエヴリンに首をかしげるドナとアンジーを心配していられないと奮起、とりあえず想像できる姿になることにした。

 

 

『変・身!じゃじゃーん!どうだー!』

 

 

 変身したのはミア・ウィンターズとよく似た体形、成長に合わせてサイズも大きくなった黒いワンピースとブーツを身に着け、腰まで伸びた黒い髪で片目が隠れたスレンダーな女性の姿。これにはドナとアンジーも仲良くパチパチと拍手する。しかし気の毒なその胸のサイズが目に付いたのかアンジーがぼそっと一言。

 

 

『……ドナの方がおっきいな』

 

『そ・れ・な!(涙)』

 

「え、ええ…」

 

 

 結構な立派な物を有するのに控えめなドナに涙するエヴリン。これからずっと観察して物にするからな、と決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 ドナからそんな報告を聞いたミランダが「エヴリンの成長した姿……つまりエヴァの成長した姿…?ちょっと見たい…」とかぼやいて葛藤していたとかなんとか。




ちなみに現在の時系列は7の直後の一週間ぐらいの話になってます。本編では三年間研究して自分なりに習得した変身能力を、似たような力を持つドナに師事して手に入れたオリジナルエヴリン。クラウディア・ベネヴィエントという存在もあり、前提が違えばこうも仲良くなれるのです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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03:Another eveline【実験】

どうも、放仮ごです。のんびりネタ集めしながら書いてる毎日です。

今回はモローとの一幕。楽しんでいただけると幸いです。


 ドナ達とのお茶会を楽しんだ次にエヴリンが訪れたのは、ドミトレスク城・ベネヴィエント邸・人造湖・工場の中心にある寒村。そこではマザー・ミランダを崇拝する村人たちが元気に過ごしていた。

 

 

『村人には見られるなよってミランダが言ってたけどどういう…』

 

「ねえねえお父さん、なにあれ?」

 

「なんだエレナ。どうしたって…なんだありゃ!?」

 

『あ。こんにちは』

 

 

 ふわふわ浮いていたら影が重なってしまったのか、少女に気付かれてしまいその父親が驚愕の声を上げてきたので笑顔で手を振るエヴリン。なんで見えるのかはとりあえず置いといて、この際だから可憐な容姿で人気を得ようという魂胆だ。

 

 

「うわぁああああ!?」

 

「幽霊だぁあああああ!?」

 

『え、ええ……この村、吸血鬼も狼男も半魚人も動く人形も改造人間もいるんだけどなあ……』

 

 

 しかし村人は阿鼻叫喚となり自らの家に引きこもってしまい、残されたエヴリンはポツーンとその場で立ち(浮かび)尽くす。じんわりと涙が出てきた。

 

 

『こんなに可愛い女の子を見て逃げ出すとか酷い』

 

「お前、余計なことしてくれたなあ」

 

『お、モローじゃん』

 

 

 追いかけて家の中にも入ってやろうかと試みていると、聞こえてくるのは間の抜けた声。振り向くと、そこには何やら蠢いているズダ袋を背中に担いだサルヴァトーレ・モローがいた。

 

 

「モローじゃんとはなんだ失礼な。モローさんと呼べ。俺様の方が年上だぞ」

 

『ええー、呼び方強要するの四貴族でモローだけだよ。器小っちゃーい』

 

「ぐっ……好きに呼べ。俺様は忙しい」

 

『それは?』

 

 

 エヴリンが指差したのはモローの背で元気に跳ね回るズダ袋。モローはそれを見て勢いよく振りかぶって地面に叩き付け、ズダ袋はシン…と鎮まる。

 

 

「こいつぁ、実験に使う村人だあ。お前のおかげで三人しか攫えなかった」

 

『実験!それ、見てもいい?』

 

「ああ?なんでお前に見せなきゃならねえ。俺様はミランダ母さんのためにも成果を出さなきゃいけないんだ…」

 

『実験ならベイカー家でもやってたんだよね。少しは知識あると思うよ?』

 

「ほう?」

 

 

 それを聞いて目を輝かせるモロー。大方、エヴリンの経験が実験に新たな刺激を与えてくれるとでも思ったのだろうとエヴリンは推察する。正直モローは大嫌いだが、実験は興味があった。

 

 

「いいだろう……ついてこい。診療所に行くまでの間にその実験とやらの詳細を教えろ」

 

『それはいいけど…診療所?』

 

「俺はドクターをやっている」

 

『え、似合わな。呪術師とかの方が似合うよ?』

 

「うるさい、余計なお世話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむう、特異菌はやっぱり個人差で影響が変わるのか」

 

『トラヴィスはわかりやすく他のモールデッドとは違ったね。あとモールデッドにならずに死んだ人間もたくさんいるよ』

 

「それはライカンも同じだあ。条件は一体…それさえわかれば」

 

『条件は分からないけど、誰よりも特異菌に適合していた奴はいたなあ』

 

「なんだと!?お前、それは誰だ!?」

 

『いやだ。教えない。というか思い出したくもない』

 

「思い出せえ!そいつはもしかしたらミランダ様の求める器になりえるかもしれないんだぞ!」

 

『わあ!顔を近づけるな!キモい!』

 

「なんだとクソガキぃ!」

 

 

 そんな口論をしながら診療所までやってきたモローとエヴリン。引き摺ってきた村人たちを出してモローの能力である粘液で拘束し、声も出せなくする。

 

 

『気持ち悪いけど便利だね』

 

「そうだ、この利便性は他の四貴族共にはない。俺様こそが四貴族で最も優秀なんだ。ミランダ様の悲願を叶えられるのは俺しかいない」

 

『カールの磁場操作の方が便利そうだしかっこいいけど』

 

「…………それは正直、俺もそう思う」

 

『負けを認めてて草』

 

 

 悔しそうに声を絞り出すモローにエヴリンは腹を抱えて笑い転げ、不服そうに明らかに不機嫌になりながら村人の一人を手術台に乗せて革ベルトで拘束すると棚の上からカドゥが入った瓶とメスを取りだすモロー。

 

 

「…どうでもいいが、女子供が見るようなもんじゃないぞ」

 

『お気遣いありがとう。でも私、チェンソーで斬られた左腕とかスプラッター系は腐るほど見たから大丈夫だよ。なんなら臓物食べたことあるし。うえ、思い出させないでよ』

 

「…初めてお前に同情したぞ」

 

 

 麻酔を打つこともなく肉屋の格好をしていた村人の胸をメスで切り開き、カドゥをねじ込むモロー。さらに傷口を接合した後に赤い何かが入った注射器を取り出し、動脈に突き刺して注入した。

 

 

『それは?血、みたいだけど』

 

「ヴァルコラック・アルファから抜いた血だ。狼の血を与えてヴァルコラックになったのだから、奴の血を与えればそれ以上の効果が見られるだろう、とな」

 

『なるほど。なんかすっごい痙攣してるけど。暴れない様に麻酔を打っといたほうが良かったんじゃない?』

 

「………麻酔を打つとカドゥの効果が表れにくいんだ」

 

 

 ビクンビクンと拘束を引きちぎる勢いで暴れ出す肉屋だったものの四肢が見る見るうちに肥大化していく様に遠巻きに冷や汗を流しながら見守るエヴリン。手術台が重さに耐えきれずに潰されて粉砕し、拘束から逃れた肉屋は三メートル近い巨体で咆哮を上げる。衝撃で引っくり返っていたモローは歓喜なのか恐怖なのか分からない声を上げた。

 

 

「成功だ!ライカンでもウリアシュでもモロアイカでもヴァルコラックでもない、新たな実験体の誕生だ!」

 

『………ねえ、こいつさ。言いにくいんだけど』

 

「なんだ。気になることがあるなら言ってみろ」

 

『ドナのところの庭師とそっくりじゃない?』

 

「………………あー」

 

 

 エヴリンが言うのは、ドナ・ベネヴィエントの庭園を守る、庭師が変貌した巨人のこと。確かにそれとそっくりだとモローも気付く。作り方は全く違うはずなのだが。攫ってきた村人の一人をむんずと掴み、縦に引き裂きその血を浴びて肉を咀嚼する肉屋を見ながらモローは必死に弁解を考える。

 

 

「だ、だが凶暴性はこちらが上だ!肉に異様な興味を示している!これは別個のものと考えた方がいいだろう。ウリアシュに似ているからウリアシュ・ドラクと名付け……グアァアアアアア!?」

 

『モロー!?悠長にしてるから!』

 

 

 ボカン、と。うるさいと言わんばかりに名付けたばかりのウリアシュ・ドラク(肉屋)に殴り飛ばされ壁を突き破って人造湖の方にゴロゴロと転がって行くモロー。酔ったのか吐瀉物を撒き散らしながら転がって行くその姿にエヴリンは分かりやすく嫌悪感を示し、そのまま人造湖に落ちて行ったモローを眺める。

 

 

「クソオオオオオ!」

 

『水に入るとおさかなになるなんて便利な身体だね』

 

「最近落ち着いていたのにぃいいいいいい!」

 

 

 湖に入るなり怪魚の姿となりストレス発散と言わんばかりにひたすら泳ぐモローに、エヴリンはこれ以上の実験は見れそうにないなと思い至り、その場を後にして工場に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、住み付いた工場ではハイゼンベルクと語り合い、ドミトレスク城に赴いてはドミトレスクを煽り三姉妹に愛でられ、ベネヴィエント邸ではドナとアンジーと共にお茶会をたしなみ、人造湖ではモローの実験を見守る毎日を続けるエヴリン。母親であるミランダの元にも何度か訪れるも邪険にされて愉しめず、もっぱら四貴族の元で三年近く過ごしていた、そんなある日。ミランダが誰かを村に連れてきたのを目撃することになる。

 

 

『え、もしかして……ミア!?』

 

 

 ミア・ウィンターズ。エヴリンを愛することを拒んだかつての母親代わり。そして己を殺したイーサン・ウィンターズの妻。波乱の予感を感じないわけがなかった。




相変わらずの同族嫌悪の犬猿の仲。ちょっと若いエレナとか出したりして見ましたがあんまり想像できなかった。あと肉屋のウリアシュ・ドラクはヴァルコラック・アルファの血から生まれて、殴り飛ばされたから文書が無かったんじゃないかと言う仮説で書いてみました。

次回から原作時系列に入ります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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04:Another eveline【来訪】

どうもどうも、お久しぶりです放仮ごでございます。ゼルダ無双厄災の黙示録を購入してドハマりしてプレイしまくったりその小説を書いたりしてて書けてませんでした申し訳ねえ。お待たせいたしました。

今回はウィンターズ家潜入編。個人的解釈が入ってます。楽しんでいただけると幸いです。


『ねえねえカール』

 

「あん?どうしたエヴリン」

 

 

 新作であるシュツルムの調整作業をしているハイゼンベルクに、逆さまで語りかけるエヴリン。上着とシャツを脱いで黒いランニングシャツ姿のハイゼンベルクは試しにプロペラを回してみながら返事をする。

 

 

『ミランダがね、ミアを連れてきたんだけど』

 

「ミア?ミアってのは確か…お前がアメリカにいた頃のママだったか?お前が来てから三年になるが今更何をしようってんだ?」

 

『さあ。なんにしても、チャンスだよねこれ。ミランダはミアを巻き込んだ。十中八九イーサンが来る。ミアを誘拐したらイーサンが許すはずがない』

 

「イーサンってのは確かお前に完全適合したって言う人間か。ああ、なるほど……三年もありゃ餓鬼もできるわな」

 

『なんのこと?』

 

 

 合点がいった様子のハイゼンベルクに首をかしげるエヴリン。ハイゼンベルクはやれやれと息を吐きながらドライバーの先端を向けてお子様に言い聞かせるように言った。

 

 

「いいか?愛し合っている男と女が三年も平穏に一緒にいて、できるものはなんだ?」

 

『愛?』

 

「マジか。ピュアかよお前。子供だよ子供!」

 

『子供?イーサンとミアに?私以外の?』

 

 

 理解が及ばないのかポカンとするエヴリン。ハイゼンベルクもそういやこいつ見た目より幼いんだったなと思い出す。

 

 

『三年もあったらコウノトリが運んでくるの?』

 

「コウノトリじゃねえよ。愛し合っている男と女ががっついて合体したら餓鬼が生まれんだよ。お前に適合した男とお前に感染した女の餓鬼だ。ミランダの求める器に最適なんだろうよ」

 

『あー!なるほどー!子供を攫うためにミアを誘拐したんだ。入れ替わるために』

 

「そこだけ頭が回るんだなお前…ってことはそろそろ…ほらな。呼び出しだ」

 

 

 鳴り響く電話に向かうハイゼンベルクをよそに、エヴリンはこれからどうするか思考するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はこれよりとある場所に向かう。一応分身は置いておくが、数日間戻れないから留守の間は任せたぞ」

 

『私もミランダについて行くからよろしくね~』

 

 

 四貴族を招集して宣言するマザー・ミランダ、そしてエヴリン。ミランダはエヴリンを睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風といった様に下手くそな口笛を吹くだけだ。

 

 

「いってらっしゃいませマザー・ミランダ。そしてくたばれエヴリン」

 

『くたばれはひどくね?』

 

「お気をつけて…」

 

『そのまま帰ってこなくてもいいぞーエヴリン!』

 

『うん、気を付けるねドナ。私は絶対戻ってくるからなアンジー!』

 

「村の事は心配しないでミランダ母さん!ちゃんとママの助けになるんだぞエヴリン」

 

『え。いやだ』

 

「せいぜい夜道に気を付けることだ。エヴリン、帰ってきたら新しいカラ殺装置を見せてやるから楽しみにしておけよ」

 

『うん!楽しみにしてるねカール!』

 

 

 四人から返事を受け取ったミランダが複数の烏となって飛び立ち、エヴリンもそれを追いかける様に高速で飛んで行き、四貴族はそれを見送るのだった。

 

 

「…マザー・ミランダはエヴリンなんかと一緒で大丈夫なのだろうか。娘たちが仲がいいのが信じられないぐらい性格が悪いのに」

 

「エヴリンはいい子よドミトレスク…」

 

『クソガキなのが玉にきずだけどな!ヴェェェイ!』

 

「エヴリンのおかげでライカンの研究はかなり進んでいるからなあ」

 

「まあなにされても気に障るだけだろうよ。なにせ物に触れないんだから心配する必要すらないぜ。そこんところわかってんのか?ドミトレスク」

 

「なにしでかすかわかったものじゃないわ!あんな危険因子、消せるものならば今すぐ消し去っている…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日間、ミアに化けてウィンターズ家で過ごすミランダと、ふわふわ浮いてそれを見守るエヴリン。ミランダは村に残している分身がミア本人から聞き出した情報を元に演じている様で、上手く馴染んでいた。それが数日続いたある日、絵本をローズに読み聞かせるミランダにつまらなくなって欠伸していたエヴリンは、ミランダの前に浮かんで変顔を見せてみる。ミランダは一瞬どもったが耐えて見せた。

 

 

「どうしたんだミア?」

 

「大丈夫。大丈夫よイーサン。やがて少女は暗い森の中心へとたどりつきました」

 

『こうすれば見えないかな?』

 

「……邪魔をするな」

 

「え?」

 

「……と言いながら、美しい金の歯車をつけた鉄の馬があらわれました」

 

 

 絵本との間に顔を挟んで見えなくするエヴリンに冷えた声で一言呟き、それに困惑するイーサンを誤魔化す様にアドリブを交えて絵本を読み続けるミランダ。とんでもない役者根性だった。

 

 絵本を読み終わり、イーサンがローズを寝かせに行ったので料理に取り掛かるミアの姿をしたミランダに、語りかけるエヴリン。

 

 

『ねえ。何時までこんな家族ごっこを続けるの。アレから一週間だよ。早くローズを連れて帰ろうよ。私も悔しがって泣き叫ぶイーサンが見てみたいしさ』

 

「…お前を喜ばせるのも癪だ。もう少しここにいようか」

 

『もしかしてだけどさ。貴方がもう味わえない家族って存在に絆されてる?』

 

「…………そうかも、しれないな」

 

 

 エヴリンの問いかけに、ナベの中身をかき混ぜながら聖母の様な笑みを浮かべるミランダ。味見をしていると、エヴリンが信じられないとでも言いたげな表情を浮かべる。

 

 

『え、認めるんだ。エヴァはいいの?』

 

「よくない。よくないが……もう少し、この平和な時間を謳歌したいんだ。今私は、満足している」

 

『でもあなたはミアじゃないよ。ローズもエヴァじゃない。イーサンだって貴方の夫じゃない』

 

「わかっている、わかっているが…」

 

「ミア?ローズを寝かしつけてきたけど…どうしたんだ?」

 

 

 そこにイーサンが戻ってきて。ミランダは平静を装って料理に戻る。エヴリンは不満げだ。

 

 

「いいえ。なんでもないわ、独り言よイーサン」

 

『ヒステリックかと思えば優しくて、完璧なミアだね!』

 

「できたわ。いただきましょう」

 

 

 そして食卓で食事を囲むミランダとイーサン。幸せそうなミランダに、エヴリンも顔を綻ばせていたがその幸福は続かなかった。クリスとその部隊ハウンドウルフに襲撃されたのだ。死んだミアに擬態して逃れるミランダ。回収されるイーサンとローズ。ミランダは死んだふりをしながらも怒りに拳を握り震わせる。

 

 

『ほら。偽物の家族なんて、そう長く続かないんだよ、ミランダ』

 

 

 一瞬でぶち壊された幸福。エヴリンはそれを静観し愉悦の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミアの死体として護送車に乗せられていたミランダ。擬態を解いて乗っていたハウンドウルフを全滅させてローズを抱え、翼を広げて村に向かうミランダを追いかけるエヴリン。

 

 

『どうだった?家族ごっこは楽しめた?』

 

「……悪くはなかった。エヴァを取り戻して続きを興じるとしよう」

 

『でもイーサンを殺さなくてよかったの?私を殺した人間だよ』

 

 

 横転した護送車の側に置いてきたイーサンを思い出してそう問いかけるエヴリン。ミランダは村の教会に舞い降りて翼を縮めながら答える。

 

 

「イーサンは私の新たな家族になれるかもしれない。エヴァを蘇らせるには四貴族の命を捧げる必要がある。お前とその眷属を倒した実績があるイーサン・ウィンターズに始末させ、そして家族として迎えよう。我ながら妙案じゃないか?」

 

『ええ………殺すの?四貴族を』

 

「奴等には黙っておけよエヴリン。反抗されては困るからな。奴等は用済みだ。こうして器が手に入ったのだから」

 

『…でも、友達だもん。黙っていられるわけが…』

 

「お前を消せる方法が分かったと言えばどうだ?」

 

『!』

 

 

 ハイゼンベルクの元へ向かおうとしていたエヴリンが止まり、信じられないと言う表情で振り返る。ミランダは続けた。

 

 

「お前の消滅は即ち死だ。お前も死にたくはないだろう?」

 

『……卑怯者』

 

「邪魔をさせてなるものか。我が百年の悲願は必ず叶える…!」

 

 

 そして、イーサン・ウィンターズの来訪と共に、狂気に塗れた村での激動の一日が始まった。




あの偽ミアの幸せそうな表情は嘘じゃなかったとしか思えなかったのでこんな解釈になりました。クリスの襲撃さえなければ案外永遠に家族ごっこを続けていたんじゃないかな。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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05:Another eveline【悪巧み】

どうも、お久しぶりです。放仮ごです。ついにお気に入りが4000人突破しましたありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

今回はイーサン襲来。エヴリンの悪巧み。楽しんでいただけると幸いです。


『バラバラにするのはどうかと思うなあ…』

 

「悪かったって。こいつしか方法はなかったんだよ」

 

 

 先程行われた「儀式」の光景に気分の悪そうな顔を浮かべるエヴリン。当たり前だ。妹の様な存在であるローズを結晶化された上でバラバラにされたのだ。しかも友人だと思っていたハイゼンベルクの提案で。

 

 

『ミランダに渡さないためなのはわかるけどさ。ローズに記憶が残ったらどうするのさ』

 

「そいつは……悪いとは思うがな。俺にも後がない。こいつしか、時間稼ぎの手はなかった」

 

 

 そう言ってハイゼンベルクが掲げるのは、小さな赤子の胴体が入れられたフラスク。エヴリンは「うぇー」と吐きそうな表情を浮かべて不服そうに空中に寝転がる。

 

 

『ふーんだ。そんなことして、イーサンに殺されても知らないんだから!』

 

「まあそのイーサンが来るとして…そんなに強いのか?一般人って話だろ?」

 

『潜入しているときに戦闘訓練したって話してたし、戦闘訓練しなくても普通に強いよ。チェーンソーで斬り合って私の家族の中で一番強かったジャックを倒しちゃったもん』

 

「チェーンソーで斬り合い…?そりゃあ、本当に人間か?」

 

『ガワはね』

 

「俺達と同じって訳か。そんなに強いなら手を組んでもいいかもなあ?」

 

『ローズをバラバラにした時点でイーサンに殺されることが決まったみたいなもんなんだよなあ』

 

 

 呆れるエヴリン。不敵に笑うハイゼンベルク。そこでエヴリンは何かを思いついたように笑う。

 

 

『ねえねえ。ミランダがカールたち四貴族をイーサンに殺させようとしているって知ってる?』

 

「なんだと?そいつは想像ついていたが、言っていいのか?」

 

『私を消す方法を知ってるって脅されたけどさ。ミランダなんかよりカールやドナや三姉妹が死ぬ方が嫌だ。ついでにドミトレスクもモローもね』

 

「…お前、俺達を大事に思ってるんだな」

 

『だって新しい家族みたいなもんだもん!ミランダもイーサンもどうでもいいけど、どっちかが勝ち残るのは癪なんだ。みんなで生き残ってローズを奪って馬鹿にしてやろうよ!』

 

 

 そう手を広げて自慢げに語るエヴリン。ハイゼンベルクはまるで考え付かなかったとばかりにポカンと呆ける。

 

 

「……そいつはいい提案だが、ドナと三姉妹はともかくドミトレスクとモローはミランダへの忠誠心の塊だぞ?どうすんだ?」

 

『ドミトレスクは結構反骨心が高いよ。ミランダへの義理立てはするけど、自分の家族以外はどうでもいいみたい。モローは………ミランダ自らの口から捨て駒だと言われればさすがに?最悪切り捨てようか』

 

「お前、血も涙もない悪魔だな」

 

『そりゃカビの塊だもん。カビキラーは厳禁だよ!』

 

「生憎とそんな洒落たもんここにはねーよ!もしかしたらドミトレスクはデュークから買ってるかもしんねーがな!お前のこと大嫌いだしよ」

 

『え。………やっぱりドミトレスクだけは助けるのやめようかなあ』

 

「お前、相当に自分勝手だよな」

 

『知ってる』

 

「知ってる、じゃねーよ。少しは直せクソガキ」

 

『ひどーい』

 

 

 そんなこんなで、エヴリンとハイゼンベルクによる反逆作戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間もせずに村に訪れたイーサンを、上空から眺めるエヴリン。その顔はにまにまと怪しい笑みを浮かべていて。

 

 

『さあ、始めようか。主役はイーサン。ヒロインはミランダ。娘を取り戻すのはどちらかな?でも脇役が黙って主役に食われると思うなよ?さあ、さあ!始めよう!とってもおかしい悲劇に見せかけた喜劇と言う名の茶番をね!』

 

 

 村を探索し、ライカンの襲撃を退け、ミランダ扮する謎の老婆(笑)に導かれ、生き残りの村人も惨殺されて一人生き残り、なんで出てきたのかよく分からない顔見せミランダと出くわし、ようやく城に向かってくれたイーサンを常に最前席と言う名の真横で観察し続けるエヴリン。

 

 

「生にも死にも栄光を与えん……」

 

『うわ、イカレたババアだと思ったらミランダだった』

 

「そなたか……あの子の父親だな」

 

『そんなに知っているババアとか怪しい以外の何者でもないよ?』

 

「ハハハ!ローズ!そうともローズじゃ!あの子に危険が迫ってる。マザー・ミランダが村に招き入れてすべては闇に堕した」

 

『なんでそんないちいち格好よく言うの?』

 

「城の鐘が災いを告げておる!やつらが来るぞ。我らがために鐘は鳴る…また奴らが来るのじゃ!」

 

『いや、言い逃げはずるくない?』

 

「皆死んだ。そうとも、皆に死が訪れたのじゃ…はははは…アーハハハハハハ…」

 

『演者魂が凄い。私なら恥ずかしくてやってられないよ』

 

 

 途中途中で老婆に扮するミランダを笑わせて台無しにしようと試みたが失敗した。むしろ睨まれた挙句、頭の中に「本当に消してやるぞ!」と怒鳴られたのでしぶしぶイーサンの観察を続けるエヴリン。城に入るとハイゼンベルクと邂逅したので挨拶する。

 

 

「これはこれは。まだ生き残りがいたとはな。タフな奴がいたもんだ」

 

「…誰だお前、何者だ…?」

 

『やほはろー、カール。この一見冴えないのがイーサンだよ』

 

「ほう…よそ者か。なるほどなるほど。お前がイーサン・ウィンターズか」

 

「俺の事を知っているのか!?」

 

「ああ、よーく聞いてるよ。お前の隣のクソガキからな」

 

 

 その言葉にギョッとなってエヴリンの方を向くイーサンだが、彼の視界には何も映らず。冷や汗が額を伝い、エヴリンは喜色満面の笑みでハイゼンベルクにグッジョブという意を込めてサムズアップした。

 

 

「誰もいないぞ……お前、なんのつもりだ!」

 

『いいぞもっとやれ』

 

「ハッハッハ。冗談さ。いや、冗談じゃないかもな?いい狼狽えっぷりだ。よほど例のガキがトラウマらしいな?面白え。ミランダが見たら喜びそうだ…」

 

「ぐあっ…」

 

 

 空中に浮かんだジャンクを一斉にぶつけられて人型に固められた鉄屑の塊になったイーサンが崩れ落ち、エヴリンがやんややんやと手を叩く。

 

 

「さて。エヴリン、お気に召したかな?」

 

『うん、すっごく!さっさと連れて行こう!私の新たな家族をイーサンに紹介しなきゃ!』

 

「お前、この三年で一番楽しそうだな」

 

『だって、私を殺して恐怖を与えてくれたイーサンのアホに仕返しができるんだよ?ミランダの馬鹿を出しぬけるかもしれないんだよ?こんなに楽しいことったらないよね!ヤッフー!』

 

「やれやれ……いい性格してるぜ」

 

 

 溜め息を吐きながらハイゼンベルクはイーサンを引きずり、ミランダと他の四貴族が待つ集会場へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、は…?」

 

「お、起きたか。いい子にしてろ。もうすぐだ」

 

『楽しい愉しい最高に狂ってるパーティーの始まりだぜい!あ、聞こえてないんだっけ。残念』

 

 

 一回目を覚ましたイーサンを二人して煽ったりした。

 

 

 

 

 

 

 

「他の者では力不足でしょう。(わたくし)の娘たちなら存分に愉しませることができます」

 

『ドミトレスクと三姉妹はテクニシャン(意味深)だよね!』

 

『そこどいてよブサイク!アタシが見えないでしょ!』

 

『アンジーの方がぶちゃいくだと思うんですがそれは』

 

「お、おう…エヴリンも言ってたけど俺そんなにブサイクかあ…?」

 

『うん、すっごくブサイク!』

 

「ひでえ!ママ!こいつひでえ!」

 

『誰がぶちゃいくだ!ヴェェェイ!ねえ、起きたよおー!』

 

『顔面つぎはぎだらけなのをぶちゃいくと可愛く言っただけ私優しいと思うよ?』

 

「待て…つまり…テメエらうるせえぞ!?」

 

『『だってこいつが』』

 

「だってもへちまもあるかクソガキコンビ!?」

 

 

 目覚めるなり、目の前でギャーギャー喚くクソデカオバサンにブサイク人形、マザコン男、胡散臭い髭面グラサン男に、イーサンは一言。

 

 

「お前らがうるせえ!」

 

「ごもっともだウィンターズ!」




エヴリンによる、イーサンとミランダと言う勝ち組に対する反逆が始まる。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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06:Another eveline【不死身】

どうも、放仮ごです。現在これも含めた三つの小説をローテーションで書いています。毎日更新は難しいので間隔が開くと思いますがご了承ください。

今回はハイゼンベルクのショータイムを見物するエヴリン。楽しんでいただけると幸いです。


「なんなんだ、お前らは…」

 

「それでドミトレスク!こいつを独り占めして何が面白いってんだ?確かにこの状況でも文句を言える毛の生えた心臓の持ち主だがな、この俺なら全員が楽しめるショーを見せてやれる」

 

『ドミトレスクよりカールの方がセンスいいよね!』

 

「ハッ!何てくだらない。安っぽいサーカスなんて誰が見るの?この男が苦しむ様は私が保証しますわ」

 

『イーサンが苦しむならどっちでもいいけどさ』

 

「どうせ誰もいねえ城でこいつのナニを切り落とそうってんだろ?」

 

『きゃー、ナニだなんてカールのエッチ!』

 

 

 困惑するイーサンを余所に言い合いするドミトレスクとハイゼンベルクに一々茶々を入れるエヴリンに、頭が痛いのかこめかみを押さえるミランダ。一言も喋らなかったせいでイーサンにやっと認識されたこの面子のボスは頭を振りながら口を開く。

 

 

「互いの言い分は分かった。かたや一方は理屈に及ばぬようだ。だが我が意を決したぞ。ハイゼンベルク。この男、お前に委ねよう」

 

『さっすがミランダ。わかってるぅ!』

 

「喜んで。お母様」

 

『カールがお母様って言うだけで笑える。ぷぷぷっ』

 

「マザー・ミランダ!どういうことですか?ハイゼンベルクは幼稚な上、貴女への忠義も疑わしいと言うのに!こんな餓鬼と何を企んでいるのかもわからないのですよ!?」

 

「餓鬼…?そんなの、どこに…」

 

 

 ドミトレスクの言葉に疑問符を浮かべるイーサンを見て笑うのを堪えきれなくなるエヴリン。

 

 

『アハハハハハ!さっきモローが私の名前を出したのに気付いてもいないんだ!私の事を忘れたいんだね!忘れさせてなんかやらないよ、イーサン!』

 

(わたくし)めにお任せくだされば滞りなくその男を…」

 

「ガタガタ言ってねえで自分が負け犬だと認めちまえよ!餌が欲しけりゃ他あたれ」

 

『やーい負け犬ドミトレスク!』

 

「その口をお閉じ、坊やと小娘。今は大人が話してるの」

 

『こんないい男を坊やってどんな感性してるの?』

 

「坊やだあ?テメエこそミランダ様に楯突く気か?」

 

「お前たちは責任というものを全く理解できていないようね!」

 

『責任?なにそれ美味しいの?』

 

「図体がデカいとエゴまでデカくなっちまうみてえだな!」

 

『いいぞー、カール!もっと言い負かしちゃえー!』

 

『ヴェェェイ!ケンカ!ケンカ!やっちゃえ!やっちゃえ!』

 

「鎮まれ!」

 

 

 大の大人二人が口喧嘩して子供二人がそれを煽る中、ミランダがよく響く声と共に、六枚の黒い烏の様な翼をバサッと広げて威圧。喧騒が嘘の様にぴたりと鎮まる。

 

 

「我が(めい)は絶対だ。異議など認めぬ。身の程を弁えるがよい」

 

『異議あり!………言いたかっただけで特に異議はないですごめんなさい』

 

「どうも、「お母様」。では親愛なる…(けだもの)の諸君!長らく待たせたな!いよいよゲームの始まりだ!」

 

 

 そう手を広げていつの間にか集まったライカン達にハイゼンベルクは宣言。イーサンは降りてきたライカン達に囲まれる形となり、その中心でハイゼンベルクは屈んで愉快そうに笑みを浮かべ、その手にしたハンマーを振り上げた。

 

 

「そんじゃ期待してるぜ。イーサン・ウィンターズ。準備はいいか?」

 

「おい、よせ…!」

 

「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…!」

 

 

 目の前の床に叩きつけられるハンマーを合図とするようにカウントダウンが始まり、イーサンは手錠をはめられた両手で何とか立ち上がり、後ろに穴があるのを見て飛びこんだ。

 

 

「ショータイーム!!」

 

『じゃ、私ライカン達に指示してくるね!』

 

 

 追いかける様にエヴリンも穴に飛び込み、扇動するようにライカンを捲し立てる。ライカンもカドゥを埋め込まれた人間、上位種ともいえるエヴリンの命令には従順だった。

 

 

『ほらほら、のんびりしてないで!鬼ごっこ!かくれんぼ!ほらほら、みんなが鬼だよ!イーサンを追い詰めよう!殺しちゃってもいいかな、ここで死ぬならそれまでってことだし!』

 

≪「いいぞ。そうだ走れ。その調子だ、イーサン」≫

 

「グオアァアアアア!」

 

「クソッ、なんだってんだ!?」

 

 

 悪態を吐きながら立ちはだかるライカンを蹴り飛ばし先を急ぐイーサンに体を抱きしめて震えて恍惚の表情を浮かべるエヴリン。ハイゼンベルク辺りに見られてたら「気持ち悪い」と称される顔だった。

 

 

『いいよいいよ、サイコウ~!それでこそだよイーサン!手錠されてるのに!武器も使えないのに!どこまでもタフで根性あって悪態つく余裕もある…!アハハハハハッ!三年経ったのに変わらないね!ああ、殺したくて殺したくてたまらないよイーサーン!』

 

「なんだ?なんか寒気が…」

 

 

 蕩ける様な表情で全身を抱きしめてくねくね動きながら涎まで垂らすエヴリンに、それが見えているライカンはちょっと引いた。その隙を突いてバリケードを蹴り砕いて先に進むイーサンに、エヴリンは我に返り深呼吸して落ち着いた。

 

 

『雑魚じゃこんなもんか。ならボスを出そう!ウリアシュ!出番だよ!ジャジャジャジャーン!』

 

「なに!?」

 

『死んじゃえイーサン!やっちゃえウリアシュー!』

 

 

 イーサンの目の前に大槌を手にした大男ウリアシュが飛び出し、エヴリンの声に頷くとフルスイング。咄嗟に手錠を盾の様に構えたイーサンを殴り飛ばして横穴に落下させる。

 

 

≪「まだ生きてるのか?やるじゃねえか」≫

 

『ほんとだよ。いつ死ぬのイーサン』

 

「うるせえ!俺は死んでもローズを取り返すぞこの野郎!」

 

≪「まったくよぉ…噂通りのしぶとさだな。アメリカでどんな目に遭ったらそうなるんだよ」≫

 

『車に轢かれたりとかチェーンソーデスマッチとか蟲に貪られたりとかデスゲームさせられたりとか、かなあ?』

 

「大きなお世話だ馬鹿野郎!」

 

 

 悪態を吐きながら吊天井エリアを抜けるイーサン。しかしその前に部屋を横断するほどの巨大なトゲ付きローラーが立ちはだかる。

 

 

≪「おい。まさか俺がお前を逃がすとでも思っていたのか?ドナとモローが退屈しちまってるからな」≫

 

『さすがカール!絶対殺してやるって気概が目に見えるようだよ!今度こそ終わりかあ、寂しくなるねイーサン!主役はここで退場か!』

 

≪「そんじゃあ派手に内臓ぶちまけて盛大なフィナーレの幕開けと行こうじゃねえか!アメリカ産ミンチのできあがりってか!」≫

 

「クソッ……一か八かだ!」

 

 

 やんややんやとエヴリンも拍手してワクワクと楽しげに見守るがしかし、イーサンはちょっとしたくぼみに逃げ込んで身を潜め、さらには手錠までトゲ付きローラーを利用して破壊してしまったことに驚愕の表情を浮かべる。

 

 

『うそーん……え、なんで?なんで?ローラーに引っ張られないのなんで?死なないのなんで?今のカビ?私の力?殺しても死なないのなんで?ジョン・マクレーンかなにか?と、とりあえず報告に行こう…』

 

 

 分かりやすく意気消沈しながらミランダたちの元に戻るエヴリン。しかしそこにドミトレスクの姿は見えず。

 

 

『ただいまー。あれ?ドミトレスクは?』

 

「俺のショータイムは興味がないって帰っちまったんだよ。それでどうだ?イーサン・ウィンターズはアメリカ産ミンチになったか?」

 

「…奴は死んだのか?」

 

『それがさー。なんでか生き残っちゃった。しかも無傷で。くぼみ開いてたよカール。詰めが甘いよ』

 

「なに?アレから生き残るとはやるな……しかし自信失くすぜ」

 

『いやまあ、アレから生き残る方がおかしいから落ち込まないでカール』

 

『ヴェェェイ!見てて退屈はしなかったよー!』

 

 

 肩を落として分かりやすく落ち込むッハイゼンベルクを慰めるエヴリンとアンジー。ドナとモローも頷く中でミランダが口を開いた。

 

 

「いいだろう。イーサン・ウィンターズを我らが明確な敵とする。各々の持ち場に戻り、フラスクを明日の夜明けまで死守しろ。そうドミトレスクにも伝えろエヴリン」

 

『了解~(ま、ミランダの思惑通りにはさせないけどね)』

 

 

 エヴリンはほくそ笑む。悪意を飲み込む悪意で塗り潰して新たな家族を手に入れるために、決意を新たにした。




今はちょっかい出すぐらいだけど場が整ったら本気を出す予定の小物なエヴリン。何気にライカンやウリアシュに指示できるっていうね。

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07:Another eveline【豹変】

どうも、最新話投稿するたび何故かお気に入りが減って精神ダメージが凄い放仮ごです。前回までのほのぼの(?)はなんだったのか、今回からシリアスpartに入ります。忘れちゃならない、今回のエヴリンは改心したわけでもないオリジナルだと言うことを。

今回はエヴリンが題名通り豹変…?楽しんでいただけると幸いです。


 イーサンに殺されてから三年。三年もあれば、今のエヴリンの本体とも言える菌根を理解し己が肉体として使役することも可能となったエヴリン。ミランダに悟られることなく、ハイゼンベルクにだけ伝えている今の力はかつてのそれを上回る。

 

 

『えーっと、三姉妹は冷気から守って、ドミトレスクは無理やり回収して、ドナは幻影を利用して逃がしてあげてーっと』

 

 

 ミランダが懇切丁寧に百年近くも育て上げ肥大化した菌根を肉体として得たエヴリンは、その力を利用してドミトレスクと三姉妹、ドナとアンジー、モローとハイゼンベルクを生き残らせてみんなでミランダを馬鹿にする、という行き当たりばったりも程がある計画を為そうとしたのだ。半ば無理やりでもみんな回収してしまおう、そんなことを考えながらイーサンが逃げたことをドミトレスクに知らせるべく城に入るエヴリン。

 

 

『あー、報告する前にもう会っちゃったんだ』

 

「ハイゼンベルクなんかのお遊びで殺しきれないのはわかってたわ。両腕を刺して吊りあげておいたからもう逃げられない。あとで娘たちの餌になる予定よ」

 

 

 サン・ヴィエルジェというワインを運ぶドミトレスクについていきながらイーサンが既に捕まったことを聞かされるエヴリン。しかしここに来るまでの事を思い返して一言。

 

 

『でもここに来る途中で城の中を普通に歩いてたイーサンを見たんだけど』

 

「え」

 

『途中で会ったカサンドラに教えておいたから今頃追いかけているだろうけどさ』

 

「なら安心ね。私の娘はハイゼンベルクと違い優秀ですもの」

 

『イーサンをなめたら死ぬんだよなあ』

 

 

 ドミトレスク相手じゃ埒が明かないと思ったのか、イーサンを探して城の中を飛び回るエヴリン。仲のいい三姉妹がやられないか心配だった。何せ、基本無敵の三姉妹やドミトレスクにだって冷気と毒という弱点があるのだ。弱点を看破してジャックやマーガレットを倒したイーサンの事だ、幸運かそれとも情報を得てか、弱点を突いて倒してしまいかねない。

 

 

「銃弾が私に効くとでも…」

 

「狙ったのはお前じゃない…窓だ!」

 

「え?キャアアアアアア!?」

 

 

 するとそんな会話と絶叫が厨房の方から聞こえてきて、急行する。そこには、壊された窓から吹き荒れる冷気で凍り付き、分かりやすく弱っているベイラ・ドミトレスクとイーサンがいて。エヴリンは自分の本体ともいえる菌根を操り、咄嗟に割れた窓を覆うようにカビを展開、冷気を塞いだ。

 

 

「なに!?」

 

「アハハ!私達には最高の友達がついてるのよ!こうなればこっちのものよ!その喉を斬り裂いてミミズを詰め込んでやる!」

 

『待ってベイラ!一旦態勢整えよう!また窓を割られたらカビで塞ぐのも限界だよ!』

 

「っ…いいわ、体も冷えたしここまでにしてあげる!次遭った時は嬲り殺しにしてやるから覚悟しなさい!」

 

 

 エヴリンの声を聞いて冷静に戻ったベイラは蟲に分散して去って行き、その場には立ち尽くすイーサンだけが取り残されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったわエヴリン。でも、あのまま奴を殺してもよかったのに」

 

『ダメ。あの部屋で戦うのは自殺行為だよ。冷気が入らない場所で戦わないと、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ?もう私と会えなくなるんだよ?そんなの嫌だよ』

 

「私たちドミトレスクが死ぬわけないじゃない。偉大な菌根の力を与えられた一族なのよ?貴方が心配することないわ、今度は勝つ。そして奴の美味しい血を啜ってやるの。ああ、愉しみだわ」

 

『………聞き分けないなあ』

 

 

 エヴリンの表情に影が差す。それを見てビクッと怖気づくベイラ。エヴリンから殺気を感じたのだ。逃げようと蟲に分散して離脱しようとするも、いつの間にか隙間すらない黒カビの壁に囲まれていて。徐々に迫りくるカビの壁に、人型に戻ったベイラは恐怖に怯えるしかなかった。

 

 

『私は大好きなみんなといつまでも一緒にいたいのに……そんなに死に急いでたんじゃまた私、1人になるじゃん』

 

「え、エヴリン…?私達、友達よね…?」

 

『ううん、家族だよ。だからさ………一緒になろう?

 

「やめて、やめてエヴリン!私が消えちゃう…!?ァアアアアアアアア!?………」

 

 

 そして流動体となった黒カビにベイラは飲み込まれ、そして消えた。

 

 

どうせイーサンに殺されちゃうぐらいなら、私のものになれ!アハハ、アハハハハハ!おいしい、おいしいよベイラ!アハハハハハハハ!!

 

 

 狂った様なエヴリンの笑い声が木霊する。例え無害そうな子供でも、その本質は家族を追い求める悪魔そのもの。それを知らなかった故の末路だった。そしてそれを見ていた人物がいた。

 

 

「そんな…ベイラ…エヴリン、なんで……ヒッ!?」

 

そんなところでなにをしているの?カサンドラお姉ちゃん

 

 

イーサンを探していた、カサンドラ・ドミトレスクである。突き当りの壁からこっそりその光景を見ていたカサンドラは、首を百八十度後ろに曲げてこちらを見てきたエヴリンに恐怖を抱き、蟲に分散して逃走を試みる。しかし背中に顔を向けたままゆっくり迫るエヴリンとは裏腹に床を這う黒カビの波は高速で追跡し、カサンドラは逃げ道のない武器庫まで追い込まれてしまった。

 

 

「しまっ……許して、ねえ、なんで…エヴリン、なんでこんなことをするのよ?私達が何をしたって言うの…?」

 

『弱点なんかあったらイーサンに殺されるじゃん。ローズを奪われたイーサンが誰か一人でも生かして帰すはずがないもん。だったら一番安全なところに入れて安心したいじゃん、だってカサンドラたちのことが大好きだもん』

 

「大好きだって言うなら、また一緒にお茶会しましょうよ……ベイラを返しなさいよ!」

 

『安心して?貴方達は私の糧となって生き続ける。ベイラだってカサンドラの意識だってそのまま残すよ。体だって冷気に弱い不完全な蟲じゃなくて、不死身の菌の身体になるんだよ』

 

「それってwinwinじゃない?ねえ、カサンドラ。一緒になりましょう」

 

「そんな……ベイラ……?」

 

 

 カビが蠢いて形成されたのは、ベイラ・ドミトレスクその人。しかし先程までの恐怖は感じられず、まるで受け入れたかのようにエヴリンに心酔した瞳を向ける。エヴリンの能力の一つ「転化」だ。エヴリンの「家族」として生まれ変わらせる力は、菌根という強大な肉体を得てさらに強力になっていたのだ。

 

 

『ベイカー家の時はせっかく作った家族を好き勝手させたからイーサンにやられたんだ。なら私に取り込んでしまうしかないよね。わかってくれるよね?家族を何より大事にしている貴方達ドミトレスク家なら』

 

「私達はこれから常にエヴリンと共にある!幸せよ、カサンドラもいらっしゃい」

 

「いや、嫌よ……正気に戻ってベイラ!」

 

正気?いやだなあ……カサンドラ

 

「むぐっ!?」

 

 

 エヴリンは身体を回転させて首を元に戻すと、黒カビを流動体の様に操り、カサンドラの口元まで包み込んで拘束。口からカサンドラの内側に侵入し侵食していくエヴリンはベイラと共にニタニタ笑っていたかと思えば真顔になり、一言。

 

 

この村に住んでいる人間で、正気な奴なんて最初からいないよ?

 

「ムグゥウウウ!?」

 

 

 そのままカサンドラは黒カビに取り込まれ、また一人消えた。

 

 

『ああ、同類の肉は美味しいなあ…マーガレットの料理とは比べ物にならないよ』

 

 

 ベイラの構成を解いて黒カビを消し去り、お腹を擦って舌で口元を舐めるエヴリン。するとそこに、イーサンを捜しているのかドミトレスクがやってきた。

 

 

「エヴリン。ベイラを殺したクソッたれのイーサン・ウィンターズを見なかった?」

 

『イーサン?イーサンは知らないなあ』

 

「そう……城を徘徊しているはずのカサンドラの姿が見えないのだけど何か知らない?」

 

『それならさっき悲鳴を聞いたかな』

 

 

 嘘は吐かないエヴリン。エヴリンが大好きな娘たちの事で嘘をつくメリットがないと知ってるのでそのまま信じるドミトレスク。

 

 

「まさかカサンドラまでやられたって言うの…?絶対に許さない、ウィンターズ…!」

 

『ところでドミトレスク、ダニエラどこにいるか知らない?』

 

「ダニエラだったらソラリウムにいると思うけど……ウィンターズに殺されないようにダニエラの援護をお願いできるかしら」

 

『ソラリウムね。おっけ、ダニエラの無事は保証するよ』

 

 

 肉体の無事の保証はしないけどね。舌なめずりしながらエヴリンはソラリウムに向かう。狂気に満ちた村で、真の狂気が、人知れず本性を現した。




三年かけて菌根を乗っ取り、直接取り込むことで洗脳して家族にする力を得ていたエヴリン。もう家族を失いたくないと言う、イーサンへの恐怖から狂気が暴走。ベイラ・カサンドラのエヴリンへの認識は「友達」だったけど、エヴリンからしたら「新たな家族」だっていう認識の違い。

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08:Another eveline【嘲笑】

どうも、またお気に入りが減って悔しいので続けて書いた放仮ごです。
感想や活報コメントでなんとなくお気に入りが減る理由が見えてきました。初期のイーサンとエヴリンのコンビが見たいのかな?という結論。そもそも今章は「イーサンに味方しなかった幻影エヴリン」が主人公なので、イーサンと善玉エヴリンの絡みが見たい方はアナザーエヴリン編が終わるまでお待ちください…一応本編軸の番外ストーリーも考えてますので。

今回はドミトレスク家の崩壊。楽しんでいただけると幸いです。


「あら、ベイラ、カサンドラ。エヴリンまで。どうしたの?」

 

 

 ソラリウムで暖かい日光を浴びて日向ぼっこしていたダニエラが、いつの間にかソラリウムに入って来ていたベイラ、カサンドラ、エヴリンに喜色満面の笑みを浮かべる。エヴリンはともかく、他の2人は自分と違って積極的にイーサンを狙っているはずだったが、お茶会でもしに来たのだろうか、と呑気に考える。

 

 

『ベイラとカサンドラと話がついたからダニエラもどうかなって』

 

「フフフッ…ダニエラもいらっしゃい」

 

「貴方もエヴリンの家族になりましょう?」

 

「え?え?三人とも、何を言ってるの?」

 

 

 訳が分からないと首をかしげるダニエラに、カビの流動体と化して近づき両腕を拘束するベイラとカサンドラ。三姉妹で最も狂気的で妄想に取り憑かれているダニエラも、危機的状況に気付いたのか蟲に分散して逃げようと試みるも、出入り口はカビで塞がれて出ることは叶わず、再び流動体となったベイラに追いかけられて必死に蟲状態で狭いソラリウム内を逃げるダニエラ。しかし、人型のカサンドラがエヴリンに頷き、柱に取り付けられたレバーを下げたことで事態は急変する。

 

 

「カサンドラ、何を…ァアアアアア!?」

 

 

 天窓が開いて冷気が吹き込み、凍り付いて人型に戻り床にのた打ち回るダニエラを見下ろすベイラ、カサンドラ、エヴリンに。ダニエラは寒さに凍え、見上げる事しかできない。

 

 

「ア、アアアアア……カサンドラ!なんてことを!死んじゃうじゃない!?なんでこんなことするの!?………なんで、貴方達は影響を受けてないの?」

 

「私達は生まれ変わったのよ!エヴリンの姉として!」

 

「ああ、なんであんなに拒絶したのか分からない…」

 

『ダニエラも私の本当のお姉ちゃんになって?答えは聞いてない♪』

 

 

 そう言ってベイラとカサンドラをカビの流動体にし、凍り付いたダニエラを包み込んで取り込んでいくエヴリン。

 

 

「夢よ…これは夢。イヤ。私まだ…死にたくない…」

 

 

 そんな断末魔を残して、三姉妹最後の一人も消えて行った。舌なめずりしてお腹を擦り、カビの流動体を蠢かしてベイラ、カサンドラ、ダニエラを形作り控えさせるエヴリン。

 

 

『気分はどう?ダニエラ』

 

「最ッ高の気分だわ!ありがとう、礼を言うわエヴリン」

 

「これからは永遠に一緒よダニエラ」

 

「でもエヴリンと私達三人だけじゃ寂しいわ。もっと増やしましょう、エヴリンの家族を!」

 

『手始めにドミトレスクだけど……三人とも死んだってことにした方がいいかな』

 

 

 そう言って三姉妹を流動体に戻して消し去り、ふわふわと浮かんでドミトレスクの元に向かうエヴリン。イーサンに全てを押し付けようと悪い笑みを浮かべていたが、ドミトレスクの後姿を確認するなり悲壮感に満ちた顔に変えて話しかける。

 

 

『ドミトレスク!大変大変!ダニエラまでやられちゃった!』

 

「なんですって!?エヴリン、貴方がついていながら…!」

 

『だって私、接触できないしイーサンが攻撃してくるよって教えるぐらいしか…』

 

「くっ、役立たずね。あの男め……私から大事な物を奪った落とし前はつけてやるわ」

 

 

 怒り心頭と言った顔でズンズンと去って行くドミトレスクを余所にほくそ笑むエヴリン。これでイーサンを殺してくれるなら御の字、負けるとしてもその前に取り込んでしまえばいい。

 

 

『カール風に言わせたら最高のショータイム、せいぜい楽しませてよね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして場面は城の終盤へ。死花の短剣による反撃を受けて竜の姿に変貌してイーサンと激突するドミトレスクを、上空から見守るエヴリンとその内部にいる三姉妹。

 

 

『お母様ったら、荒れてるわね。止めれるかしら?』

 

『お母様のあんな姿、初めてだわ。ちょっと嬉しいかも』

 

『イーサンに私達三人とも殺されたって聞かされてるからしょうがないけど』

 

『三姉妹への愛を少しでも私に向けてくれたら嬉しかったのに』

 

 

 そんなことをぼやきながら、空中戦を繰り広げるドミトレスクとイーサンを見物。どう見ても有利なのはドミトレスクのはずなのに、明らかにイーサンに圧倒されている光景を見てエヴリンの言ってたことを痛感する三姉妹。

 

 

「よくも娘を救うなどとふざけたことを!私の娘を殺しておいて!この…人間風情が!」

 

「ふざけんなドミトレスク!三姉妹は誰一人殺した覚えはないぞ!」

 

「嘘おっしゃい!現にベイラも、カサンドラも、ダニエラも!全員いなくなってるのよ!貴方の他に誰がいるってのよ!」

 

『私を疑わない辺り、馬鹿だよねドミトレスク。いや、私を侮ってるのかな?』

 

 

 言い合いしながら撃ち、噛み付きの応酬をする二人に嘲笑するエヴリン。塔を伝って黒カビを登らせながら隙を窺う。そして、誤魔化しきれないダメージを受けたドミトレスクが塔に降り立った時を狙い、四肢を拘束。塔の頂上に縫い止めた。

 

 

「なっ…動けない…!?イーサン、イーサン・ウィンターズ!何をしたァ!」

 

「俺は何もしてないぞドミトレスク!何はともあれとどめだ、喰らえ!」

 

 

 身動きが取れず、黒カビを引き剥がそうと悶えているところにスナイパーライフルをありったけ叩き込まれるドミトレスク。塔の頂上の石床を頭突きで粉砕し、剥がれた右腕でイーサンを掴み道連れにせんとする。

 

 

「おのれ!よくも…ウィンターズ!だけどお前も道連れよ!遅すぎたわね…お前は二度とローズに会えない!己の無力さを知るがいいわ!!」

 

「くっそ…!?」

 

『はいダメ。死んじゃ駄目だよ、ドミトレスク』

 

「なっ、エヴリン…!?」

 

 

 塔の中を落ちて行くドミトレスクの四肢にこびりついた黒カビが増殖して広がり、塔の壁からも湧き出てきた黒カビに包まれ、傷口から侵食していき顔まで覆われて黒カビの塊となったドミトレスクが最下層に激突。ドミトレスクをクッションにしてイーサンも着地し、暴れるドミトレスク。

 

 

「きさ、貴様……エヴリン!なにを!?」

 

「エヴリンだと!?あいつがいるのか…?があっ!?」

 

『死んだら私の家族になれないじゃん。そんなの、三姉妹も悲しむよ?』

 

 

 イーサンを壁まで吹き飛ばし、もがき苦しみ黒カビから逃れようとする竜姿のドミトレスク。しかし顔以外黒カビで塗り潰され、脳内もエヴリン至上主義へと書き換えられていくことに恐怖を覚えるしかなく。さらには周囲に黒カビが三つの人型を作り出したかと思えば、ベイラ、カサンドラ、ダニエラまで現れてクスクスと嘲笑を浮かべるのだから、真実を知るには十分だった。

 

 

「まさか貴様…エヴリン!私の娘たちを殺したのは…!」

 

『殺すだなんて人聞き悪いなあ。三人とも取り込んで私の家族にしただけだよ。この城から出すにはこうするしかなくてさあ、私もどうにか三人を三人のままここから連れ出そうと色々考えて、それでもこれしかなくて嫌だったんだけど………ベイラが自殺志願者なんだもん。死なれたら嫌だから、やり方を変えたんだ。あ、カールにも内緒だよ?こんなみんなを家族にする行為、ミランダと同じだから絶対反対するもん』

 

「ああ、エヴリン……お前への憎しみが、薄れて行く…なんなのこれは、お前は私の娘なんかじゃないのに…なんでこんなにも愛お、しく……」

 

 

 体を弄繰り回されて竜型から人型に強制的に戻されたドミトレスクが力なく手を伸ばし、膝から崩れ落ちた。顔まで取り込まれ、ぐちゅぐちゅと嫌な音を立ててエヴリンの肉体、菌根の一部へと作り変えられていく。そんな原型さえなくなったドミトレスクから確かな愛を感じ取ったエヴリンは子供の様にはしゃいだ。

 

 

『だよねだよね!ドミトレスクは四貴族の中で最も家族を大事にする人だもん!私の新しいママになってくれるよね!やった、やった!ミアより優しいママを手に入れた!私を見捨てない、私を嫌ったりしない、私を何よりも優先して、私を守ってくれる、誰よりも優しくしてくれるママ!ああ、ドミトレスクは大嫌いだったけど………私の理想のママとしてなら家族になれるよね!』

 

 

 まるで魔法の様に、指揮者の様に両手を振るってカビを流動体として操り、ベイラ達三人の中心に三メートル近い人型を形成していくエヴリン。そして形作られた新生オルチーナ・ドミトレスクは傅いて、今までエヴリンには絶対見せなかった優しい笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、エヴリン。愛しいあなたを嫌う輩は全員私が噛み砕いてやるわ。手始めにそこの死にぞこないを…!」

 

『待った。イーサンに手を出すのはまだ。今戦っても勝てないよ。もっと家族を増やして、邪魔者のミランダを消して……お楽しみは、それからだ』

 

 

 カビの流動体を操りフラスクを手に取って、イーサンの目前に置いてドミトレスク一家を消し去って頬杖を付き、ジーッと眺めて笑うエヴリン。

 

 

『ああ、愉しみだなア……イーサン、イーサン。イーサン!私を絶望させて、惨たらしく殺した貴方を絶望させて、この手で縊り殺すその瞬間が、とても、とても、待ち遠しいよ』

 

 

 そして父親は目を覚ます。目の前に宿敵がいるとはつゆ知らず、首を傾げながらドミトレスク城を後にした。別の自分の様に、エヴリンを側に引き連れて。




ダニエラのくだり、信じてた姉妹から苦手な冷気を浴びせられて拘束されるトラウマレベルのやつ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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09:Another eveline【接触】

どうも、お久しぶりです放仮ごです。ちょっと趣味の小説ばかり書いてました。とりあえず早めにアナザーエヴリン編を終わらせることにしました。なのでちょっと今回から巻きに入ります。

今回はベネヴィエント邸と湖での惨劇。楽しんでいただけると幸いです。


 ドミトレスク城に完全に侵食した菌根。エヴリンに形成されたドミトレスク一家が城中から血をかき集め、モロアイカを黒カビで拘束して集め、それらの血肉をひとまとめにして小さな少女の姿態を作り上げていく。それは、まごう事なきエヴリンの肉体で。それをドミトレスクの視界越しに確認したエヴリンはにんまり笑った。

 

 

『着々と強くなってるのはさすがだなあ』

 

 

 一方でイーサンにくっ付いて村を回るエヴリンは、ベネヴィエント邸に訪れていた。新たな武器を手に入れ、ミランダご自慢の大型ライカンまで難なく倒したイーサンに、ワクワクが止まらない。でもそろそろ恐怖にひきつる顔が見たいなあ、とも。そう思うエヴリン。

 

 

『アンジー。ずっとあなたを待ってたの。あたし、ローズよりいい子だよ。お願い、アンジーのパパになってよ…永遠に。ウフフフハハハハハハ!』

 

 

 そう言ってイーサンの視界からは消えるアンジー人形。イーサンは武器が無くなったと慌てふためき、エヴリンは椅子に座ったまま歩き出そうとしていたアンジーと視線を合わせてにっこり笑う。

 

 

『ヴェェェェェェイ!!どうだった?どうだった?エヴリン!アタシの演技は!?』

 

『うん、完璧!恐怖演出を分かってるね!ああ、幻覚にかかったと気付かないイーサンは見ていて飽きないなあ。それはそうとアンジー』

 

『んん?どうしたエヴ……リン?』

 

 

 ドナのところに戻ろうとしていたのだろう、とてとてと歩いていたアンジーが振り向くと、ガシッと首を掴まれ持ち上げられる。それは、物が持てない筈のエヴリンが伸ばした手だった。

 

 

『なん、で……お前、物に触れない筈…いいや、なんのつもりだ!』

 

「なにって。アンジーの中のカドゥも取り込もうかなって」

 

『やめっ…!?ドナ…!』

 

 

 エレベーター前でアンジー人形の首を握りしめ、肉声でそう笑ったエヴリンはがばっと口をまるで口裂け女の如く大きく開き、断末魔を上げる人形にかぶりつく。……血肉とカビで形成し、遠隔操作でベネヴィエント邸まで来た肉体に憑依したエヴリンは、直接その口で友人を食べるとむしゃむしゃと咀嚼し、味を堪能するとペッと残骸を吐き捨てた。物言わぬ人形どころかその残骸に成り果てたガラクタを踏みつけたエヴリンは探索中のイーサンに近寄り、間近で観察することにした。

 

 

「ふふふっ、せっかく触れるようになったのに、幻覚に囚われて私が見えないなんて可愛いイーサン。エレベーターは動くのに、ヒューズが無くなったと思い込まされるなんて面白いね。この力も、欲しいなあ」

 

 

 ペタペタとイーサンの頬を触りながら微笑むエヴリン。無邪気な子供の様ではあるが、友人を喰らい、イーサンが弄ばれるのを愉しむその姿は悪魔そのものだ。

 

 

「あらら。ドナも趣味悪いなあ。ローズを模した怪物にイーサンを襲わせるなんて。いい趣味してるね!」

 

 

 そして、赤ん坊の怪物から逃げ惑うイーサンから離れて、エレベーターに乗って一階に顔を出すと何やらえいえいと手を振るっているドナがいた。

 

 

「フフフ…ベビーに食べられてショック死なさい…?エヴリン、喜んでくれるかしら」

 

「うんうん、逃げ惑うイーサンは見ていて楽しいね!」

 

 

 本心からの言葉を口にするとそれが伝わったのか嬉しそうにするドナ。エヴリンが実体を持ったことには気付いてない様だ。

 

 

「あら、いらっしゃいエヴリン。今貴方の怨敵のイーサンを苦しめてるところよ」

 

「ぶっちゃけ三年前私が頑張ってイーサンを怖がらせた子供部屋より怖いよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。ところでアンジーを見てない?イーサンに言いたいこと言ったら合流する手筈だったのだけど」

 

「アンジーならどこにいるか知ってるよ」

 

「無事なのね。それならよかったわ」

 

 

 えいえいと、エヴリンに背を向けてベビーの幻覚を操ることに全力を向けるドナ・ベネヴィエントは、背後で胴体からドラゴン…ドミトレスク変異体の頭部を形成して大口を開けた友人には、気付いていなかった。

 

 

「アンジーなら私のお腹の中にいるよ」

 

「え?」

 

 

 ムシャリ。ドナが気付いた時には、既に上半身を食いちぎられた後で。残った下半身も座っている椅子ごと喰らい付いてぺっと椅子を吐き出すエヴリンは胴体を元に戻してお腹を擦り舌なめずりする。

 

 

「ごちそうさま。ああ、おいしいなあ。美味しいよ、ドナ……アンジー。これで私は強くなれる。あはは、アハハハ………また、1人になっちゃうな」

 

 

 例え人格そのままで家族として復活させても、それが自分に操られている偽物だということに気付いていても止められない。そのまま涙を流して笑いながら立ち尽くしていると、ベビーが消えて幻覚も消えて復帰したイーサンがリビングに戻ってきた。真ん中で笑う少女を見るなり血相を変えてハンドガンを構えるイーサン。

 

 

「エヴリン!?…なんでお前が?」

 

「やっほー、イーサン。安心して。ここの家主ならさっき死んだよ。そこにローズの入ったフラスクあるから勝手に持ってってね」

 

「…お前が殺したのか?なんで俺を助ける?!この、悪魔め!」

 

「助ける?そんなつもりはないよ。イーサンを殺すのは私だ。ただ、それだけ」

 

「俺に殺されるとは思わなかったか?」

 

 

 その一言と共に銃声が響き、エヴリンの頭部が破裂した。イーサンは銃を下ろして一息吐くが、すぐに違和感に気付いて構え直す。頭部を失ったはずなのに、直立したままだ。足元から黒カビが集まって行って、ゴキゴキと新しい頭部が形成され、エヴリンは笑う。

 

 

「私はもう不完全な身体じゃない、不死身の身体を手に入れた。材料なら城にいくらでもあったもんね」

 

「城?…ドミトレスクと三姉妹を消したのもお前か!」

 

「別に問題はないよね?むしろ私に感謝してよね」

 

「誰がするか!」

 

 

 今度はショットガンがぶっ放され、全身に穴が開く。それでもすぐ再生していくエヴリンに驚きを隠せないイーサン。エヴリンはかざそうとして吹き飛んだ右手が治っていくのを見届けつつ、左手でイーサンに指を差す。

 

 

「イーサンは殺すけど、今じゃない。まだ今の私じゃお前に勝てないからね」

 

「どの口が…!」

 

「私はイーサンをとことん苦しめてから殺したいの。あっさり殺すのとは訳が違う。楽しみにしててね。絶望のどん底をさらにぶち抜いて地獄すら生ぬるい苦痛を与えてやる。じゃあね、イーサン。私も忙しいから」

 

 

 そう言って身体を溶かして肉体を血と肉と黒カビに分離して流動体としてベネヴィエント邸から飛び出していくエヴリン。イーサンは慌てて追おうとするが、入り口側に置かれたフラスクを見て思い止まり悪態を吐くだけにした。

 

 

「クソッ!……なんであいつ、泣いてたんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イーサンがヴァルコラックに襲われている頃。自室で日記を書いていたサルヴァトーレ・モローの部屋の窓から侵入した流動体が少女を形作り、熱心に書いているモローの背後から話しかける。

 

 

「こんにちは。ちょっと実験に付き合ってくれない?」

 

「エヴリンか?俺様は忙しいんだ、くだらない実験なら後に………お前、その声どうした?」

 

「どうしたって?」

 

「頭に響くような声じゃなくて耳から聞こえるのはどういうことだ?」

 

 

 あからさまに不信感を出しながら振り向くモローの目前には、ドミトレスクの竜の大口を胸部から展開したエヴリンが。

 

 

「貴方の忠誠心と私の転化、どっちが上回るかって実験だよ」

 

「!?」

 

 

 がぶりと、一口でモローを捕食したエヴリンは元の姿に戻り、口の中に手を突っ込んで骨の様なモローの頭飾りを取りだしてポイと捨てる。

 

 

「…あと一人。お願いだから言うことを聞いてよね、カール。私もカールを支配したくなんかないよ」

 

 

 そんな本音を漏らして、流動体となったエヴリンはモローの部屋を後にしようとしたその時。

 

 

≪「エヴリン、お前か?」≫

 

 

 砂嵐しか映っていなかったテレビにチェスのナイトの様な紋章が浮かぶと共にその声は聞こえてきた。




アナザーエヴリン、実体を得てパワーアップ。文字通り食べることで取り込み始めました。イーサンとも接触。不死身っぷりを見せつけるラスボスムーブ。

次回は小休止回の予定。アンケートの結果次第かな?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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工場長生存ルート番外編【訪問】

はいどうも、放仮ごです。実は先にアナザーエヴリン編の続きを書き終ってから、あ、小休止回書くんやったと思い出して無い知恵絞りだして書いたものとなってます。

今回は世界観を同じくする拙作「Fate/Grand Order【The arms dealer】」と工場長生存ルート編のコラボ回となってます。またあちらの本編後の話なのでネタバレあり。苦手な方はプレイバック推奨。関係ないけどアヴァロン・ル・フェすごかったですね。

ついに二人のエヴリンが邂逅する…?な今回。楽しんでいただけると幸いです。


 ヨーロッパ某所。新たに建てられた自身の工場で一休みしていたカール・ハイゼンベルクは片手間に一つの書類を手に読んでいた。

 

 

「クリスとの交渉材料にもらったルイジアナ事件の情報…面白いのが書かれてるじゃねえか」

 

 

 曰く、ルーカス・ベイカーの策略で仲間を全滅させられたクリスを援護した外部の人間がいたこと。20歳にも満たぬ少女の身で銃を巧みに操り、ルーカスを倒した張本人だということ。「ルーカスとは家族の様な存在で自分が始末をつけないといけない」「本当は娘同前でもあるエヴリンを止めたかった」「ゾイとジョーおじさんだけでも助かってよかった」と語っていたこと。最後に名前を名乗ったうえで「自分は人理保証機関フィニス・カルデアのマスター」と名乗って去って行ったこと。ルーカスからは「愛しのリツカ」と呼ばれていた日本人であったこと。

 

 どうやら世界には俺の知らない物が溢れているらしい、そう結論付けたハイゼンベルクはシュツルム…ではなく、それとよく似たプロペラエンジンの調整を再開する。兵器は作っちゃいけないと言われたが時代錯誤な飛行機作るぐらいは問題ないだろう、という結論だ。

 

 

ピーンポーン!

 

「あ?」

 

 

 と、そこでインターホンが鳴り響き、ハイゼンベルクは頭をガシガシと掻きながらモニターを覗くと黒のスーツを身に着けた赤髪の少女が映っていて。仕事か、と判断したハイゼンベルクは扉を開ける。

 

 

「あの、カール・ハイゼンベルクさんで間違いありませんか?」

 

「あ、ああ…」

 

 

 そこにいたのは、大人になりたての様な少女だった。20歳になりたてぐらいだろうか、きっちりスーツを着こなしていることから社会人だとは分かるが、何時も来る政府の使いとは何やら空気が違う。そしてその後ろには大きなリュックを担ぎ黒のローブを着込んで口元を隠したマスクの男もいて。そしてその隣には、見覚えのある黒いワンピースを着た少女が……。

 

 

「エヴリン!?てめえ、イーサンから離れてなにしてる!?」

 

 

 そう言うとエヴリンと少女は顔を見合わせて笑い、少女は身分証の様な物を取りだした。そこに書かれていたのは…。

 

 

「初めまして。人理保証機関フィニス・カルデアから来ました。マスターの藤丸立香です。マザー・ミランダとその支配していた村について話を伺いに来ました」

 

 

 よく見れば、その顔はさっき見ていた書類に添付されていた写真の少女と同一人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ。なるほど?マスターに魔術師にサーヴァント、ね。で、そこのエヴリンもサーヴァントで本物じゃないと。で、アンタは各地で勃発するバイオハザードを止めるべく世界中を回っていて、今回もあの村での出来事を聞きつけてやってきたと」

 

「信じてもらえたようでなによりです」

 

 

 とりあえず淹れたコーヒーを特に疑うことなく口にする立香に、疑う心はないのかと呆れながら自身もコーヒーを口にするハイゼンベルク。何も飲まずに工場内を観察しているローブの男…ディーラーと、コーヒーを口に付けて嫌そうな顔を浮かべるエヴリンを眺めてから、電話を手に続ける。

 

 

「いやまあ、電話で聞いたらイーサンの方にもエヴリンがいると聞かされたらなあ。イーサンも呼んでおいた。話を聞きたいなら俺よりアイツの方がいいからな」

 

「私としては、B.O.W.の詳しい詳細を知りたいので貴方の方が都合がよいのですが…」

 

「なあ。片っ苦しい言い方はやめようぜ。慣れてないの丸わかりだぞ」

 

「バレバレみたいだぞストレンジャー。慣れないことはするもんじゃないな」

 

「そうだよママ。似合わない」

 

「敬語って大事なんだけどな…わかった、敬語はやめる。せっかくここの言葉覚えて来たのになあ」

 

 

 従者(サーヴァント)二人にダメだしされて不服そうに唇を尖らせる立香に機嫌をよくするハイゼンベルク。

 

 

「そりゃあご苦労様だ。しかし、エヴリンのママね。ウィンターズ家以外に奴を受け入れる奴がいるとはな」

 

「私も家族を失っていて。求める気持ちは痛いほどわかったから」

 

「家族を求める気持ちは理解したくもないな。それ一つで何百人と殺して人体実験したくそ女がいたもんでな」

 

「…それがミランダ?」

 

「ああ。娘を取り戻すために全てを犠牲にしようとしたクソッたれだ。まあ、こんな力でも役に立つからそこだけは感謝してるがな」

 

 

 そう言って冷蔵庫の中からケーキを取りだしながら手を翳してフォークとナイフを引き寄せて握るハイゼンベルクに、おおーと手を叩いて称賛する三人。新鮮なその反応に気を良くしていると、携帯端末に連絡が入る。イーサンからだった。

 

 

「そろそろ着くみたいだ。……一応の確認だがそのエヴリンを会わせてもいいのか?」

 

「もうイーサンへの確執はだいぶ薄れたから…大丈夫、だよね?」

 

「イーサンは「もう一人の私」が出てこない限り大丈夫だと思うけど…私はどうだろう」

 

「そういやアルターエゴのお前にはオリジナルのエヴリンは天敵だったな、ストレンジャー?」

 

『まあ私もオリジナルかと言われれば違うんだけどね』

 

「「「「!?」」」」

 

 

 ひょこっと中央の机から顔を出したエヴリンにビクッと驚くハイゼンベルク、立香、ディーラー、エヴリン。さらに扉からノックが聞こえ、ハイゼンベルクが能力で開けるとイーサンが顔を出したが、それに目もくれず無言で睨み合うエヴリンとエヴリン。

 

 

「来たぞハイゼンベルク。っておお、エヴリンがもう一人いる…」

 

「エヴリンとエヴリン…ややこしいな、藤丸の方をエヴリンR、イーサンの方をエヴリンEと呼ぶぞ。いいな?」

 

「あ、初めましてイーサン・ウィンターズさん。私、人理保証機関フィニス・カルデアから来ました。マスターの藤丸立香といいます」

 

「あ、ああ。…そこ、放っていていいのか?」

 

「まあ、触れられないなら大丈夫かと?」

 

「というかアンタたちもうちのエヴリンが見えるんだな…」

 

「私もE型特異菌に感染してるのと、私と繋がってるディーラーだから…かな?」

 

 

 そうして歓談を始めた大人たちを余所に。睨み合っていたうち、幻影のエヴリン…エヴリンEが口を開く。

 

 

『へえ、貴方別に幻覚とかじゃなくてその姿が本物なんだ…しかも実体があるなんて生意気だなあ』

 

「そっちこそ。自由に動き回れて何者の干渉も受けないんでしょ?羨ましいなあ。私はママと親友がいるぐらいしか誇れることないよ」

 

『私のイーサン…パパの方がいい親だもんね!言われたことある?うちの娘だって誇らしげに!』

 

「ふん、そっちこそ!命懸けで庇われたことある?それも、一方的に嫌っていたのに気にせずに!』

 

『それなら私だって、精神世界でイーサンを殺した私を受け入れてもらったもんね!』

 

「私も精神世界で殺されそうになったところを助けてくれたもん!私のために死んでくれたし!」

 

 

 睨み合い、口々とそれぞれの親の武勇伝を言い合いするエヴリン二人。傍で聞こえている立香とイーサンは顔真っ赤だ。

 

 

『私のパパの方がすごいもんね!右手取れても平然とくっつけるんだよ!?』

 

「私のママなんか大砲でバラバラにされても五体満足だもんね!?」

 

『え、なんで大砲に撃たれてるの?こわっ…』

 

「そっちこそなんでまた手が取れてるの…?」

 

 

 最終的にそれぞれの親の蛮行にどん引きするエヴリン二人。イーサンとハイゼンベルクは立香を、立香とディーラーはイーサンを見てちょっと引いてる。

 

 

『あーもう頭に来た!イーサン、体貸して!モールデッドギガントになってぶちのめしてやる!』

 

「ママ、私にありったけの魔力を回して!宝具使ってジャック呼び出してボコボコにしてやる!」

 

 

 ついにはヒートアップした言い合いの果てに実力行使に出ようとするエヴリン二人を止めようとする親2人。

 

 

「やめろ!?お前、同族嫌悪にも程があるぞ!?」

 

「別に外の裏庭使って暴れるくらいなら俺はいいが?」

 

「ハイゼンベルク!?」

 

「落ち着いてエヴリン!?今カルデアの援助受けてないから私が干からびる!」

 

「予備令呪ならオルガマリーからもらっているぞストレンジャー」

 

「ディーラー!?」

 

「『よし、勝負!』」

 

「「やーめーろー!?」」

 

 

 このあと全力で殴りあって、普通にエヴリンEが負けた。さすがに人知を超えた存在であるサーヴァントになった己には勝てなかった。




ぶっ飛んでる親を持つ、ある意味「偽物」という似た者同士なエヴリン。以下簡単なキャラ紹介。

・藤丸立香
FGOの主人公。原作と異なりバイオハザードに遭遇して歪んでしまった逸般人の武闘派マスター。現在はいわゆる「終局特異点後」の彼女であり、とある理由からカルデアを離れてディーラー、エヴリンと共に各地のバイオハザードを止めるべく奔走している。バイオハザード7のクリス編にも介入しており、家族でもあるルーカスと決着をつけた。T-ウィルスとE型特異菌に感染した経験があるやべーやつ。

・ディーラー
商人のサーヴァント。バイオハザード4の武器商人その人。立香の相棒。デュークの「古い友人」でもある。様々な武器を使って立香をサポートする(ある意味)不死身の男。

・エヴリンR
アルターエゴのサーヴァント。「愛してもらうことにした」オリジナルとは異なる「愛してほしい」いわば「純粋」な側面のエヴリン。立香をママだと慕っている。腕をモールデッド化したり、E型特異菌由来のクリーチャーを召喚したりで戦う。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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10:Another eveline【人形劇】

どうも、放仮ごです。アナザーエヴリン編も終盤も終盤です。あと長くて二話ぐらいかな?アナザーエヴリンが狂い果てた理由が明らかになります。

今回の犠牲者はハイゼンベルクとミランダ。楽しんでいただけると幸いです。


≪「なあおい、お前の言ってた計画はどうなった?」≫

 

「うーん、全然上手く行ってないね。もうモローまでやられちゃったよ」

 

 

 以前の「悪巧み」について聞いてるのであろうハイゼンベルクの言葉をはぐらかし、どうにか言いくるめようとするエヴリン。しかし画面の向こうのハイゼンベルクの声は疑念に満ちていて。

 

 

≪「お前の報告……あれは本当か?」≫

 

「どういう意味?」

 

≪「ドミトレスクがイーサンにやられたって報告だ。デュークに聞いてきたが、結晶化した亡骸は一つも売られてないって話だった。イーサン・ウィンターズが持ち歩くメリットもねえ。ぶち殺したにしては跡形もねえのは妙だ。ドミトレスクたちをどこにやった?」≫

 

「……勘のいい親友は嫌いだよ」

 

≪「がっ!?これは…!?」≫

 

 

 画面の向こうの工場に蔓延らせた菌根でハイゼンベルクを拘束、取り込み始めるエヴリン。すぐさま身体を流動体にして、菌根を通じてハイゼンベルクの工場に移動すると、そこには哀愁を漂わせながら人生最後の葉巻を吸うハイゼンベルクがいた。目の前に現れた実体のエヴリンに、ハイゼンベルクは釈然とした様で大きく煙を吐く。

 

 

「なるほどね。寂しがり屋のガキも極めちまえば、ミランダに劣らねえイカれたガキに早変わりってか。…なあなんでだ?ドミトレスクやモローはともかく、三姉妹やドナ、…俺とは仲が良かったはずだろ?」

 

「最初は死なれたくなかっただけだったんだ。でも、やっぱり大好きなカールたちと家族になりたくて、イーサンに負けないぐらい強くなりたくて、欲しくて、欲しくて、欲しくなって……カール。すごく、美味しそう…」

 

 

 目を丸くし、鼻息荒く、胸を上下させ、腕をわなわなと震わせる常軌を逸したエヴリンの様子に、溜め息を吐いて葉巻を吐き捨てるハイゼンベルク。

 

 

「気付かなかった俺の落ち度か。わりい、菌根を支配したってことに喜んで、お前の様子が可笑しくなったことに気付くのが遅すぎた。ったく、仕方ねえ。結局不自由になのは変わりないが……いけ好かないミランダよりはマシかあ?」

 

 

 もう顔以外全て菌根に飲み込まれ、悪態を吐くしかない。なにせ目の前のエヴリンは恍惚とした表情を浮かべて上の空なのだから。

 

 

「だが、悪いことした子供には必ずしっぺ返しがあることを忘れんじゃねえぞ、エヴリン?」

 

 

 その言葉を最期に、カール・ハイゼンベルクも村から消え、エヴリンはお腹を撫でる。

 

 

「……アハハ、ハイゼンベルクの頭脳が私に沁み渡る…そうだね、そうしよう。今の力を総動員して、イーサンを目いっぱい苦しめよう。ここまで楽な道程にしたのは馬鹿だった!苦しめて苦しめて、そして最後には馬鹿にしてやるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釈然としなかったがローズのフラスクを手に入れベネヴィエント邸を後にするイーサン。ヴァルコラックに襲われて撃退し、モローと遭遇してフラスクを奪い取り逃走するも、追いかけてきたモローが変貌した怪魚に襲われ、モローを倒すためにダムの水を抜いて直接対決。敗北したモローはドロドロに溶けて消えた。

 

 その後も受難は続く。通信してきたハイゼンベルクに言われ、空っぽの砦までフラスクを取りに行ったイーサンは全てのフラスクを手に入れ、言われるままにハイゼンベルクの工場に赴いた。ローズを使ってミランダを殺そうと言われ、これを拒否。突き落とされ、シュツルムに追いかけられゾルダートに襲われながら工場から脱出すべく散策する。その途中で、妙な文書を見つけた。

 

 

【最近、エヴリンの様子がおかしい。譫言を言ったかと思えば何もないのに笑い出す。と思ったら泣きやがる。情緒不安定だ。ミランダに報告すべきなんだろうが、今のアイツから俺が反逆しようとしていることを話されたら不味いから黙っておくことにした】

 

「エヴリンと仲がよかったみたいだが…様子がおかしいってどういうことだ?」

 

【どうしてこうなった?あいつが菌根を我が物にしたって報告してからすぐ後にこれだ。菌根そのものとなったエヴリンが暴走したら誰も止められる奴がいない。ミランダも止めれず死ぬだろうからそれは万々歳だが、俺にまで危害が及ぶかもしれねえ。そうなった時のために、俺の能力が影響しない自走砲を作ることにした。最下層に置いてるからエヴリンにばれることもないだろう。…あいつは親友同然だ。もしもの時は俺が責任を持って…】

 

「…エヴリンが菌根そのものになったってどういう意味だ?それに最下層に、自走砲か。それがあれば奴を倒せるって言うのか…?」

 

 

 その後、シュツルムを倒して地上まで上がるも鉄の怪物となったハイゼンベルクに最下層まで突き落とされ、自走砲を調整していたクリスと再会したイーサン。ミアは殺されておらず、ミランダの擬態だったことを知らされる。

 

 

「じゃあクリスは、ミアを殺していなかったのか…」

 

「そうだ。俺達がミランダを倒す。お前は逃げろ、ローズは俺達が取り返す」

 

「いや、俺の娘だ。俺が助ける。それにミランダだけじゃない、エヴリンもいるんだ」

 

「なんだと?奴は死んだはずだぞ!」

 

「それが生きていたんだ。不死身の身体を手に入れたって豪語していた。ハイゼンベルクの文書によれば菌根を我が物にしたと書いてあったが…何か知ってるか?」

 

「菌根は恐らくエヴリンの大本でミランダの力の源だ。俺達はそれに爆弾を仕掛けて破壊しようと計画している。エヴリンが菌根そのものになった、というのはよくわからんが…よしわかった。俺はこの工場に爆弾を仕掛ける。お前はこれを使ってハイゼンベルクを倒せ。その後、合流してミランダを倒す。やれるか?」

 

「上等だ。ローズは俺が取り返す!」

 

 

 自走砲に乗って地上に出るイーサン。しかしそこでは、信じられない光景が広がっていた。黒い触手に縛られた仮面の女…マザーミランダと、その周りにエヴリンを始めとしてこれまで会ってきた面々が囲っていたのだ。

 

 

「どんなに強くても、菌根の力を使えないとただ変身できるだけのババアだもんね、ミランダ」

 

「儀式など知ったことかマザー・ミランダ」

 

「貴方だけは家族にしないってエヴリンが言ってるわ」

 

「どうしてくれようかしら」

 

「血を吸ってミイラにでもする?」

 

「それとも幸せな幻覚を見せて廃人にする?」

 

『ヴェェェェェェイ!!』

 

「実験体にして悍ましい化け物に変えてやろうか?ママァ!」

 

「なんにしてもだ。てめえはここで終わりだよ、ミランダ」

 

 

 エヴリン。オルチーナ・ドミトレスク。ベイラ。カサンドラ。ダニエラ。ドナ・ベネヴィエント。アンジー。サルヴァトーレ・モロー。カール・ハイゼンベルク。全員で拘束されたミランダを袋叩きにする。ブレード・モールデッドの様な腕で斬り裂き、鋭い爪で引き裂いて、分裂した蟲に貪り喰らわせ、手を翳して幻影を見せ、小さな手で引っ掻きまくり、口から胃液を吐瀉し、鉄槌で打ち付ける。

 

 

「アハハハ!よかったねえ、最期にエヴァに会えて!」

 

「アァ、アァアアアアアアアアア!?」

 

「せっかく会えたのに「大嫌い」って言われた感想はどう?あ、もう言えないかあ!」

 

 

 黒い涙を流して絶叫を上げるミランダ。あまりに凄惨なリンチに、見る影もなく石灰化し崩れて行くミランダの心臓を抜き取り口に含んで咀嚼するエヴリン。そのあまりの光景にイーサンが茫然としていると、エヴリンがこちらに気付いたようで全員で振り向いてニヤァと同じ笑みを浮かべる。

 

 

「あ、来るの早かったねイーサン。それがカールの用意した自走砲?そんなもので私を倒せるつもりなんだ、へー。じゃあちょっとテストしようか、カール!」

 

「心得たぜ、エヴリン」

 

 

 その瞬間、エヴリンとハイゼンベルク以外の姿が掻き消える。そしてハイゼンベルクに鉄屑が集まり、腕の生えた芋虫の様な戦車の様な怪物に変貌、エヴリンはその上に立ってイーサンを見下ろした。

 

 

「ねえねえ、どうだった?私がプロデュースした、湖と工場の大冒険!」

 

「なんだって?」

 

「モローもカールもすでに死んでたんだよ!私が作った人形が会話して襲わせて、さんざんイーサンを苦しめたの!楽しかった?ねええ、楽しかったあ!?でもね、ぜーんぶ私の筋書き通り!無駄なご足労、ご苦労様!」

 

「エヴリン…!」

 

「ここで死んで楽にならないでよね!まだまだ演目を用意してるんだからさ!」

 

 

 そして、巨大ハイゼンベルクが腕を振り上げた。




そりゃあ、膨大なネットワークとも言える菌根そのものと一つになったらバグるよね。

エヴリンによって誘導されて原作に近いルートを遊ばされる羽目となったけどハイゼンベルクの残した自走砲を手に入れたイーサン。
薄々感づいて打開策を考えていたけど既に手遅れで一番嫌いな支配されたハイゼンベルク。
リンチにされドナの力でエヴァと再会できたけど一番聞きたくない台詞を聞かされて精神崩壊したまま心臓を抜き取られ絶命するという因果応報な末路を辿ったミランダ。
ハイゼンベルクを取り込み、ミランダの心臓を喰らい、完全体となったアナザーエヴリン。

次回、決戦。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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11:Another eveline【孤独】

どうも、放仮ごです。今回は本編のノリがちょっとだけ復活します。敵同士になっても仲がいいイーサンとエヴリン。あと、今更ですがUAが400000行きましたありがとうございます!前回からアンケート始めましたので是非ご参加あれ。

今回は最終決戦前半戦。楽しんでいただけると幸いです。


 振り下ろされたハイゼンベルクの腕に取り付けられた丸鋸を、イーサンは自走砲を高速で後退させて回避。機銃を叩き込むが鋼の肉体はビクともしない。ならばと突進して備えられたチェーンソーで腕を叩き切る。それが致命傷だったようで崩れ落ちるハイゼンベルクの巨体。

 

 

「こんなもんか、エヴリン!」

 

「え、なにそれ強い。なんてね?」

 

 

 すると崩れ落ちたハイゼンベルクが掻き消えて。背後から駆動音が聞こえたのでレバーを切り高速移動して背後からの攻撃を回避。振り返るとそこには倒したはずの巨大ハイゼンベルクがいた。

 

 

「なに…!?」

 

「私の一部だから何度でも作り直せるもんね!さらに、こう!」

 

 

 エヴリンが手を叩くと、それに呼応して黒カビが盛り上がり、竜形態のドミトレスクとベビー、怪魚形態のモローを形成。巨大ハイゼンベルクと一緒に並ばせる。

 

 

「お願いだからこれぐらいで死なないでね!」

 

「その肉、噛みちぎってやるわ!」

 

「ぱぁぱ~~~~!!」

 

「俺を愛してくれるのはエヴリンだけだぁ!」

 

「よくもやってくれたなあ?なあ、イーサーン!」

 

「ちい!」

 

 

 後退しながら主砲と機銃を一斉掃射して怯ませ、怯みもしないベビーはチェーンソーによる滅多切りで細切れにするとイーサンはアクセルを踏み込み全速前進。すれ違い様に主砲を次々と叩き込んでいき、ドミトレスク、モロー、ハイゼンベルクを爆散させていく。

 

 

「そう!それでこそ、イーサンだ!」

 

「っ!」

 

 

 するとエヴリンの姿が崩れて羽虫の群れとなって襲いかかる。イーサンは主砲と機銃で撃ち落としていくが逃れた羽虫がベイラ、カサンドラ、ダニエラの形を取り嘲笑いながら空中に浮かんで三方から爪による一撃を炸裂させ、鮮血が舞う。

 

 

「「「アハハハハハ!」」」

 

「ぐっ…ならこいつはどうだ!」

 

 

 すると傷を受けたイーサンはグレネードランチャーを取りだして弾丸を装填、すぐ近くの地面に当てるとそれは眩い閃光を放ち、分裂している蟲全ての複眼で光を目にしたのかこの世のものとは思えない絶叫を上げる三姉妹、否、蟲が集まって実体化するエヴリン。

 

 

「うぎゃぁああああああああああ!?」

 

「ハッ!こいつは効いたか!エヴリンめクソ野郎!」

 

「や、野郎じゃねえし!死ね!」

 

 

 今度はミランダの六枚の翼を背中から生やしてさらにそれを蜘蛛の脚状に変形させて伸ばし串刺しにしようとするエヴリン。イーサンはフルスロットルで高速後退、次々と寸分違わず主砲をエヴリンの胴体にブチ当てるイーサン。さすがに顔は抵抗があった。しかし吹き飛んだ胸部をすぐさま再生させ迫るエヴリンに、チェーンソーで蜘蛛足をぶった切りながら突撃するイーサン。

 

 

「そんなにジャックとのチェーンソーデスマッチが気に入ったか!飛んで火にいる夏のイーサン!」

 

「あんなの二度とごめんだし、今は冬だクソッたれ!」

 

 

 蜘蛛足二、三本に串刺しにされながらも突撃をやめず、チェーンソーでエヴリンの胸を串刺しにするイーサン。高速回転する刃にさすがのエヴリンも悲鳴を上げたかと思えば笑い出す。

 

 

「ギャアアアアアアハハハハハハハ!痛い、痛い、痛い!生きてるって感じ!」

 

「なんだこいつ…以前のエヴリンよりイカレている…!?」

 

「痛くて痛くて、痛すぎて………恨み辛みが深まるよ!」

 

 

 そう笑って小さな手でチェーンソーの刀身の腹を両側から押さえつけたかと思えば、めきょっと折り曲げて使い物にならなくしてしまったどころか無理やり取り外して投げ捨て、イーサンに顔を近づけて三日月の様な笑みを浮かべるエヴリン。

 

 

「クソッ、離れろ!」

 

「みんなじゃやっぱり勝てないね。じゃあ、こんなのはどうかな?」

 

 

 イーサンに殴り飛ばされるエヴリンだったが、六枚の翼を広げて空中に留まり、地面から湧き出してきた菌根と一体になり、さらにハイゼンベルクが崩壊した後の鉄屑も寄せ集めて巨体を形作る。ベースは漆黒に染まった竜形態のドミトレスク。しかし背中に本体の姿は見えず、代わりにミランダの様な六枚の烏の様な黒い翼を生やし、両腕は巨大ハイゼンベルクの様に鉄屑を集束させた丸鋸とシュツルムの様なプロペラが先端に付いたメカアームに。そして大口からはエヴリンの上半身が顔を出す。

 

 

「ミックス!キメラアームズ!私、オンステージ!なんてね!」

 

「オイオイマジかよ…」

 

「アハハハハ!遊ぼう、イーサン!」

 

 

 そう言ってプロペラのついた左腕を突き付け、高速回転させて熱暴走を起こして火炎放射を放つエヴリン。弱点であるはずの炎で攻撃してきたことにイーサンは驚愕し、フルスロットルでバック走行して回避。機銃と主砲を撃ちまくって対抗するが、偽物のドミトレスクとは一線を画す密度で形成されているのかビクともせず、本体のエヴリンも口の中に引っ込んでしまいロクにダメージを与えられなかったどころか簡単に追いつき、丸鋸を振り下ろしてくるエヴリン。

 

 

「車の運転なら、自信はあるんだよ!」

 

 

 それもイーサンはバック走行を横にずらすことで紙一重で回避。逆にクルクルコクピットを回しながら主砲を発射、丸鋸のついた右腕を爆散させることに成功した。

 

 

「やったなあ!これならどうだ!」

 

 

 一度顔を出して激怒し、また引っ込むとエヴリンの巨体は翼を引っ込めて地面に鎮座して両腕両足を踏ん張って持ち上げた身体を震わせ、イーサンからは見えないが翼が引っ込んだ背中に現れたのは、膿の様な物。そこから広範囲に噴き出してきたのは、モローのそれと同じ溶解液の雨だった。

 

 

「なに!?」

 

 

 危機に直面した一瞬でイーサンは思考する。モローとの戦いがフラッシュバックする。ハイゼンベルクの工場まで逃げる、間に合わない。このまま範囲外に逃げる、間に合わない。選んだのは、敵の懐に潜り込む。レバーを操作してアクセル全開、フルスロットルでエヴリンの巨体に向けて直進。その巨体の下に自走砲を滑り込ませ、屋根の代わりにした。

 

 

「それは反則、大人しく溶けて悶え苦しめ!イーサン!」

 

「そいつは死んでもごめんだエヴリン!」

 

 

 巨体の下が蠢いて現れたのは、上半身だけのドミトレスク、ベイラ、カサンドラ、ダニエラ、アンジー、モロー、ハイゼンベルク。手を伸ばしてイーサンに掴みかかろうとしたのを、手にしたハンドガンで頭部を撃ち抜いて対抗。ダメージを受けた面々が巨体に引っ込んでいき、溶解液の雨が止んだのか動き始めた巨体の下から抜け出すイーサン。六枚の翼を広げ、咆哮を上げるエヴリンに、どうしたものかと考えていると、ポケットに入れて置いた端末が通信を鳴らした。見れば、メールだ。

 

 

【奴を惹きつけろ】

 

 

 口下手なクリスらしく、単純な一文だが、しかし。イーサンは一抹の希望を感じた。時間稼ぎをすればクリスが何とかしてくれる。そう思って操縦桿を握った手に力を込めていると、無意識に笑みを浮かべていたのか、上半身を口から出したエヴリンは不服そうに文句を垂れた。

 

 

「気に入らないなあ、その顔。もっと苦しめ、絶望のどん底を踏み抜いて地獄に送ってやるよ!」

 

「生憎と俺は、お前と違って一人じゃない。頼れる仲間がいるんだよ!」

 

「一人……」

 

 

 啖呵を切って見せたイーサンだが、エヴリンが妙なところで反応したことに首をかしげる。あんなに仲間がいる様に見せかけて実は一人だと、そんな事実を突きつけてやったのだが、なにか癪に障る部分があったのだろうか?

 

 

「ふざけるな……お前が私を一人にしたんだ。幸せだったのに、皆がいて、他愛のない会話をして、馬鹿なことをして、お茶会して、一緒に反逆を企んで……お前のせいだ、お前のせいで私は一人なんだよ!ふざけるな!」

 

「なに…!?」

 

 

 そう激昂したエヴリンの巨体が、破裂した。否。正確には、機械腕を切り離して菌根で形成された巨体を全て、数えきれないほどの数の蟲に分裂したのだ。勢いを増し、襲いくる黒い雲の様にも見える蟲の群れ。イーサンは機銃を撃ちまくりながらバック走行。次々と地面に滝の様な勢いで激突してくる攻撃を回避しつつ反撃するが、数が減らない。ならばとグレネードランチャーを取りだすが、高速で突撃してきたスズメガ型のエヴリンが時速130kmで突撃し、グレネードランチャーを破壊してしまった。

 

 

「しまっ…」

 

「とどめだあ!貪り喰われて、私の一部になれ!」

 

 

 グレネードランチャーの破片で手が傷付き操縦桿を操る手元が狂った隙を突き、上空から襲いかかる蟲の滝に。イーサンはなすすべなく、飲み込まれてしまうのだった。




最強形態、キメラアームズ。エヴリンと三姉妹とドミトレスクとモローとハイゼンベルクとシュツルムとミランダの要素が組み合わさった凶悪形態。今作に登場するボスたちの中でも一番強い存在になります。

一方、自走砲のチェンソーと、切札でもあったグレネードランチャーを破壊されてしまったイーサン。蟲の滝に飲み込まれエヴリンの一部に…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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12:Another eveline【想定外】

どうも、放仮ごです。アナザーエヴリン編も佳境となります。

今回は最終決戦幕間。イーサンを取り込んだエヴリンが向かう先は…?楽しんでいただけると幸いです。


 イーサンがエヴリンと激闘を繰り広げていたその頃。クリス率いるハウンドウルフは、ライカンが蔓延る村の制圧をしていた。教会地下に根を張る菌根本体を守るウリアシュ・ストリージャーを撃破し先に進む彼らだったが、クリスは違和感を感じていた。

 

 

「妙だな」

 

「なにがです?隊長」

 

「ミランダがエヴリンに倒された。それはいい。だが菌根はむしろ勢いを増している。村全体は愚か城や湖、工場の地下にまで根を張っているなど、尋常じゃない。まるで菌根そのものに意思があるかのようだ」

 

「考え過ぎじゃないですか?菌の塊に意思があるなんて、ありえないですよ」

 

「いや、バイオハザードは時に理解を越えてくるものだ。用心しろ、油断はするなよ」

 

 

 身構えながら奥に進むクリスたち。胎児の様な形状の菌根本体を発見して小型爆弾を仕掛け、情報を探るべくさらに地下を進むとミランダの研究室に出て。ハウンドウルフ総がかりで資料を回収する中で、クリスは一つ気になる文書を見つけた。

 

 

「エヴリンを始末する方法…だと?」

 

 

 始まりは三年前、ベイカー邸でイーサンに倒された直後に精神体としてこの村に出現したエヴリン。エヴァの胚を提供して生まれたエヴリンはエヴァの出来損ないも同然であり、それが好き勝手に活動するのだから目障りでしかないが、菌根ネットワークを利用して顕現しているためエヴァを蘇らせる手がかりになるかもしれないと迂闊に手が出せない。

 しかし一人娘であるエヴァを思い出してしまうため早急に消し去る方法を考え、一つ思いついたのだという。それは……菌根の中にある数多の精神でエヴリンの人格を塗り潰す。菌根の端末でしかないエヴリンを消し去るにはそれで十分だと。

 

 

「…しかしエヴリンは菌根そのものとなった、ミランダの想定外だったということか。イーサン、大丈夫なのか…?」

 

「隊長!奥にミア・ウィンターズが!」

 

「どうやら幽閉されていた様です!」

 

「なんだと!?」

 

「クリス…イーサンは!?無事なの!?」

 

 

 ケイナインとナイトハウルの報告と共に助け出されたミアがクリスに掴みかかる。クリスはなんと答えるべきか迷っていたが、ミアの背後にそれが現れたことで咄嗟にミアを庇う。

 

 

「イーサンなら死んだよ」

 

「エヴリン!?そんな…なんで貴方が!?」

 

「こんにちはクリス。爆弾プレゼントありがとね。無力化したけど」

 

「クソッ、エヴ…があ!?」

 

 

 驚愕するミアを余所に、瞬時にハウンドウルフ全員を両腕を変化させた菌根の触手で打ちのめして気絶させ、クリスを突き飛ばしたエヴリンはにんまり笑ってお腹を擦る。

 

 

「久しぶり、ミア。イーサンに会いたい?なら私がそうだよ」

 

「一体何を…」

 

「だって食べちゃったもん。別にいいよね?イーサンはもう、死んでるもんねえ!」

 

 

 右腕を伸ばし、ミアの首を掴んで締め上げるエヴリン。腕を縮めてミアの顔を眼前に近づけて邪悪に嗤い、左腕を天に突き出して地面から菌根を出現させたエヴリンは地表を突き破って地上へと昇り、天高く突き出た菌根の塔の上で白けた空を見上げる。

 

 

「イーサンが死んでたこと、知ってたんだよね?でももう大丈夫、イーサンは私として生き続ける。そしたら愛してあげるよ、ママ」

 

「ふざけないで!私達の娘はローズだけよ!」

 

「ええ……じゃあローズを取り戻せば私を家族にしてくれる?」

 

「なにを…」

 

 

 そう言ってエヴリンは菌根の触手を操り石造りの聖杯を持って来て塔の中央に置くと、スカートを広げてそこからコロコロと無造作にフラスクを四つ落とすと、ミアを突き飛ばして菌根の塔屋上の外壁内側に拘束。自身の脇腹から一対のモールデッドの腕を生やすとフラスクを全て拾い上げ、聖杯に納めて行く。

 

 

「…カールも、ドナも、アンジーも、三姉妹も、ドミトレスクも、モローも、ミランダも、イーサンも。みんな食べた、殺しちゃった。ローズを一から育てて私の娘にするのもいいね?だけど、ミアは私の最初のママだ。やっぱり愛されたい。愛してよ」

 

 

 聖杯を黒カビの液体で満たして手を突っ込み、そこから元に戻ったローズを引っこ抜いて、泣き喚く赤子を優しく抱き上げるエヴリン。その視線は慈愛のそれだ。

 

 

「私はイーサンでもあるんだよ?ミアを愛する心は本物だよ?ねえ、ダメなの?私じゃ、ダメなの?」

 

「…貴方の狂気は私には耐えられない。もういい加減、私を諦めて!ローズを返して!」

 

 

 涙ながらに訴えてくるエヴリンに対し、無理やり四肢を壁から引き剥がそうと試みるミア。ミアがエヴリンのママだったのは、エヴリンを制御するためだった。制御しきれないからとママではないと言い放った。愛などなかった。それを再認識して。あまりにも自分勝手なミアに、顔が黒カビに覆われ表情が読めなくなるエヴリン。ローズを聖杯の上に置き、ミアに歩み寄って行く。

 

 

「じゃあもういいよ。私を愛してくれないママなんていらない。せめて私を満たして」

 

 

 ミアの眼前まで迫るとカビに覆われた顔がモールデッドの物となり、大きく口を裂ける程に開いてミアに齧り付かんとする。観念したミアが目を瞑ったその瞬間、エヴリンの顔が吹き飛んだ。

 

 

「アギャ…!?」

 

「なんとか、間に合ったか…!」

 

 

 それは、いつの間にか菌根の塔をよじ登ってきたクリスの手にしたハンドガンによるものだった。顔半分が吹き飛んだエヴリンは下顎だけの頭部をクリスに向けると瞬く間に再生。血肉とカビで形成されていくその様にクリスとミアは顔を歪める。

 

 

「何しに来たの?家族水入らずだったのに」

 

「…イーサンを取り込んだと言ったな。イーサン!お前の覚悟は、その程度か!」

 

 

 ハンドガンを撃ちながら突進するクリスだがしかし、エヴリンは自身の身体を複数の蟲に変貌させて弾丸をいなしてクリスも取り込もうと再び顔を黒く染めて大口を開けるも、追い付いてきたハウンドウルフの銃撃を受けて実体を崩され、さらにそちらに気を取られたところをクリスの投げた閃光手榴弾をまともに受けて悲鳴と共にその形状が歪み、形の安定しないスライムの様な形状となったエヴリンを余所にクリスはミアに駆け寄り、カランビットナイフで拘束を解いた。

 

 

「クアアァアアア!?…やったなあ!」

 

「があっ!?」

 

 

 なんとか少女の形を取り戻したエヴリンは外壁内側から触手を伸ばしてクリスを殴打、突き飛ばしてさらにクリスが転がった床からの触手を伸ばして空中に打ち上げ、タワーを上を向いた巨大な怪魚モローの形状に変貌させ、全員飲み込まんとする。ちゃっかりとローズだけ自分の手元に引き寄せている。

 

 

「外壁だ!撃ちまくれー!」

 

 

 天高く突き上げられたクリスだったが、即座に一緒に飲み込まれんとするハウンドウルフに指示して外壁をアサルトライフルで攻撃。外壁を破壊し、巨大モローに変貌した塔の根元を崩してそこから逃げ出し、菌根の塔は崩れて行く。しかしミアの姿は見えず、崩れた塔の中から気絶したミアを引き摺りローズを抱えたエヴリンが出てきて咄嗟に銃を構えるが引き金を引けなかった。

 

 

「撃たないでよね。私もローズを失いたくない。ミアはどうでもいいけど、これも大事な餌だから死なれるのは困る。お願いだから、私を追いかけてくるな」

 

「B.O.W.を逃がすわけには行かない。…なあイーサン。お前はこれで終わる男なのか?」

 

「いくら呼びかけても無駄だよ。イーサンの意思はもう、………あれ?なんで……完全に取り込んだはずなのに、うええっ…」

 

 

 突如、吐き気を催したかと思うと、少女の体に収まっていたとは思えない量の黒い液状のカビを吐瀉するエヴリン。理解が及ばないのか目を白黒させているエヴリンだったが、吐き出された黒カビは徐々に膨張し、エヴリンの身長を優に超える人型を形成していくと、見覚えのある姿を形作り、拳を握る。

 

 

「イーサン、なん、で…がああああ!?」

 

 

 そして顔面ストレート。吹き飛ばされたエヴリンはローズとミアを手放し、その人物…イーサン・ウィンターズは投げ出されたローズを両手で受け止めた。投げ出された勢いで目を覚ましたミアも目の前のイーサンに目を丸くする。

 

 

「イーサン!なんで…?」

 

「ローズを取り戻すと俺は誓った。あんなところで死ねない。…無事でよかった、ミア」

 

「イーサン!まさか呼びかけに本当に答えるとはな!」

 

「ああ、クリス。お前の声も聞こえたよ。おかげで帰ってこれた」

 

「あ゛り゛え゛な゛い゛!」

 

 

 顔面の穴という穴から血の様な黒カビを垂れ流し、憤怒の声を上げるエヴリン。全てが理解できなかった。

 

 

「私の中に取り込んだのに、肉片にされたのに、精神世界であの事実を打ち明けたのに!なんで自我を保ってられる!?なんで、私に攻撃が通じる!?どうやって私から分離した!?ありえない、ありえない、ありえない!私は最強になったのに、なんで!?」

 

「何でってお前が精神世界で教えてくれただろ。俺はもう死んでいて、カビの塊になっていたんだって」

 

「それがなんだって……まさか!?」

 

「同じカビだ。自我さえ確立していられれば、隙を突いて実体化できるってな!俺もお前と同類だったってことさ。おかげで五体満足で復活だ。村の戦いで負った傷も治った」

 

 

 そう言って元に戻った左指で拳を握り、ローズをミアに預けるイーサン。そしてそのまま両腕を黒く染めてブレード・モールデッドの様に変形させると構えた。

 

 

「行くぞクリス。こいつを倒して、この村から脱出する!」

 

「奴は意識を持った菌根の怪物だ。不死身のエヴリンを倒す方法はあるのか?爆弾も無効化されて俺達に打つ手はないが」

 

「一つだけある。援護してくれ!」

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなぁあああああああ!」

 

 

 菌根を波として操り自身をも飲み込ませ、村の家屋や残骸すら取り込んで肥大化していくエヴリンに、イーサンとクリスは共に駆け出した。




ミアとローズのピンチにイーサン復活。カビの肉体を持っていたが故の起死回生。完全回復した上に本編みたく変形能力も得ました。

原作や本編で菌根を死滅させた爆弾すら無力化してしまうエヴリン。さらに村すら取り込んでいく怪物にイーサンとクリスは勝てるのか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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13:Another eveline【正体】

どうも、放仮ごです。三千字じゃ決着まで行けませんでした。

今回は最終決戦。アナザーエヴリン編の根幹が明らかに。楽しんでいただけると幸いです。


「ふざけるなぁああああああ!」

 

 

 激怒した。この三年間溜め込んだイーサンへの怒りが、取り込んだことで鎮静化されていた怒りと恨みが一気に爆発した。許せない、許さない、許してなるものか。菌根の波で村の家屋や残骸を取り込み、村そのものの巨人とも言うべき姿となり全身から放った触手を、両腕のブレードで斬り裂き道を切り開くイーサン。濁流の様に迫る巨大な拳を、両手を突き出して受け止めるクリス。そのまま拳を連続で叩き付けてきて岩の様に硬質な巨拳を粉砕され、唖然とするしかない。ムキになって触手を波の様に叩き込むも、やはり防がれる。

 

 

「相変わらずの馬鹿力だな、クリス!」

 

「お前こそ、相変わらず人間離れ激しいなイーサン!」

 

 

 楽しそうに称賛し合うイーサンとクリス。ミアとローズを守りながらハウンドウルフも銃で撃って対抗しているが、先行する二人の大暴れっぷりにミア共々どん引きなのが笑えるが、笑いごとじゃない。ふざけんな、ふざけんな。

 

 

「イーサンは化け物だぞ!私と同じ、化け物だ!なんでそんな、受け入れてるんだお前らア!」

 

 

 巨体自らを巨大な波として押し潰さんとするが、カビで盾を形成したイーサンがシールドバッシュを、拳を握ったクリスがパンチを放ってせき止めてしまった。お前ら本当に人間か!?イーサンは違うけど、なんで今の、最強にまでなった私と張り合えてるんだ!

 

 

「ピアーズともこうしてまた共闘したかった…B.O.W.であろうと人の魂ある限り、それは人間だ」

 

「嬉しいこと言ってくれるな。今の俺はゲロから生まれたんだが?」

 

「絵面はあれだが俺は一向に構わん!帰ってこないよりよっぽどいい!」

 

「信じてくれて、ありがとよ!」

 

 

 イーサンが右腕を変形させた盾で押し止め、アサルトライフルで仮初の顔を狙うクリス。窓ガラスで形成された目が割れて破片が散乱…せずにカビの奔流で飲み込み、口からショットガンの様にガラスの破片がいっぺんに射出すると、咄嗟に前に出て盾で庇うイーサン。そんな攻撃が効くか!

 

 

「攻撃は逆効果か。どこを狙うべきか…やはり、胎児によく似た菌根本体か。どこにある?」

 

「エヴリンの本体に触れる事さえできれば…だが、どうやって?」

 

「いや、外装を破壊するぐらいなら…ロボ、アレの準備はできているか!?」

 

「こんなこともあろうかと既に用意できてるぜボス!」

 

 

 なにやら企んでいるようだがさせるか。地下から菌根を伸ばし、一番最後尾のミアとローズを狙って湧き出させる。ローズはもらう、ミアは殺す!この二人を狙えばお前は必ず…!

 

 

「ミア!ローズ!」

 

「イーサン!?」

 

 

 そうだ、助けるために飛び込むよねえ!孤立すればイーサンもクリスも怖くないんだよなあ!ミアを拘束して取り込み、ハウンドウルフは蹴散らし、ローズは保護する。こうなったら意地でもローズだけ奪って後は全部殺してやる。…あれ、なんで私、ローズに執着してるんだっけ……。

 

 

「ミアを返せ!エヴリン!」

 

 

 蹴散らしたハウンドウルフが倒れている、ミアを取り込んだ菌根の壁まで駆けてきたイーサンが、ミアを無理やり引き剥がしてきた。なら、逆に取り込んでやる!あの生き地獄で二回も精神を保てるはずがない!

 

 

「誰が返すかバーカ!」

 

「イーサン!」

 

「ミア、お前だけでも…!」

 

 

 菌根の波の上に巨大な私の上半身を形成し、巨大な右手を伸ばして、ミアを突き飛ばしたイーサンに叩きつける。カビで黒いドームを形成して防ぐイーサンだったが、それもろとも押し潰して取り込んだ。もうミアはどうでもいい。何時でも食べれる。今はもう一人の厄介な奴をどうにかするのが先決だ。

 

 

「今度こそイーサンは死んだよ。クリィ……ス?」

 

「あいつがそう簡単にやられるとは思わんがな」

 

 

 クリスの方を見てみると、手にはペンライトの様なものが握られ、赤い光を巨大な私の上半身に向けていた。見れば、蹴散らしたハウンドウルフの数が足りない。一人、離れていた…?

 

 

「準備はいいか、ロボ!座標にブチかませ」

 

「ビンゴ!やったぜ!」

 

「ウアァアアアア!?」

 

 

 強力な爆撃が巨大な私の胸部に炸裂、半壊させて右胸に移動させていた菌根本体を露出させる。よく見れば、菌根に浸食されて無力化したクリスの爆弾がある。これが狙いだったようだけど、馬鹿なのかな!

 

 

「もしかして死ぬ気なの?私と一緒に、村ごと仲間すら巻き込んで!」

 

「……」

 

「でも残念だったね、これはもう爆弾としては使い物にならない!いくら撃っても爆発は…」

 

「そうみたいだが、俺の目的はそれじゃない。イーサン、やれ」

 

「え?」

 

 

 クリスに言われて上げた右手をまじまじと見つめる。その瞬間、菌根で形成された右手の硬質な手の甲を突き破って刃が突き出てきた。そんな、まさか!?

 

 

「そんな、なんで耐えられるの…!?」

 

「何度取り込もうが、ミアとローズを残して死ねるか!」

 

 

 出てきたのは、ローズを抱えたイーサンその人。振り払おうとした右腕を、クイック・モールデッドの様な四肢でしがみ付いて駆け昇ってくる。その先にあるのは……不味い、爆発のせいで再生が遅れて…!だけど、このまま菌根から刃を出して串刺しにしてやる…!

 

 

「ジャックの言葉だが借りるぞ………お前も家族だ!」

 

「え…?」

 

 

 その一言で、串刺しにするのを躊躇してしまい、イーサンに菌根本体に触れられてしまった。流れ込んでくるイーサンの強靭な意志。菌根の中にいる私が、消される…!?私を油断させるために家族と呼んだのか…怒りがこみ上げる。

消されてたまるかぁあああああ!

 

 

「嘘だ、嘘だ、嘘だ!今更、私を家族と言うなぁあああ!」

 

 

 菌根の精神世界。雪原で、大人の姿の私とイーサンが激突。殴り合う。体格は関係ない、意志の強さが勝つ。だから、あんな言葉で揺らいでいたら負ける!

 

 

「ミアがベビーシッターしてたんだろ!なら、俺の家族で違いないはずだ!子供にはなあ、怒ってやる親が必要なんだよ!だから、いい加減……エヴリンを解放しろ!菌根!」

 

やめろォオオオオオオオ!?

 

 

 私のものじゃない、絶叫が菌根で形成された「私」から聞こえる。気付けば、浮遊感が私を襲っていて。私は、また幽霊の様な状態で、ローズを抱えたイーサンの側……菌根の外を漂っていた。

 

 

『え?』

 

「よう、エヴリン。正気に戻ったか?」

 

『え?え?』

 

それを返せェエエエエエエ!!

 

 

 落下したイーサンが両足と右手を地面に付けて着地し、左手に抱えたローズをあやしながら私に問いかけてくる。眼前には、クリスと復活したハウンドウルフが銃撃する、カビと家屋の残骸で巨大な私の上半身を形成した菌根が。…あれ?なんで、私がここにいるのに、アレは動いているの?

 

 

「お前に取り込まれた時に分かったんだ。お前の不安を煽って誘導して、四貴族とミランダを取り込ませて力を蓄えていた意思の様な物を。恐らくは菌根の意思だ」

 

『菌根の、意思?』

 

「そもそもお前は、四貴族を生かしてミランダを倒そうとしていた。なのに、俺に殺されたくないからと取り込んでいった。そこに違和感は感じなかったか?」

 

『たしかになんで、って思ってた…けど、イーサンへの恐怖が理由だと思ってたから…』

 

「それを利用してエヴリンを自分の人格にしようとしたんだ。お前はエヴリンじゃない何かになりかけていた。この答えに行きついた奴がいた。お前のことを誰よりも考えていた奴がいた。そいつから答えを教えてもらったんだ。ハイゼンベルクって言うんだがな」

 

『カール………ごめんね、ごめんね…』

 

「クリス、こっちだ!」

 

 

 クリスとハウンドウルフを誘導しながら村の中心部から離れるイーサン。聖杯の広場を抜け、祭祀場を抜け、橋を渡りやってきたのはカールの工場だった。なにを…?

 

 

エヴリィイイイイイインンン!!

 

 

 まるで津波の様に襲いくる菌根そのものと言ってもいい怪物。あんなもの、どうすれば……!

 

 

『ごめんなさいごめんなさい!私が爆弾を無力化しなければ…!』

 

「いや、問題ない。ハイゼンベルクに託されたのは、お前の事だけじゃない…!」

 

 

 手をかざすイーサン。すると工場の庭に捨てられたスクラップが浮かび上がり、集束していく。それはまるでカールのあの力で。

 

 

「自由を愛した男の力、貸してもらう!」

 

 

 形成されたのは、腕が生えた芋虫かバイクの様な機械の怪物だった。




カビ人間イーサン、ハイゼンベルクの力を得る。序盤でエヴリンの猛攻を力ずくで押し込んでたのはハイゼンベルクの鉄槌を軽々と扱う怪力故でした。

それと肩を並べている本当の化け物であるクリス。筋肉は裏切らない。

そんなわけで黒幕は菌根そのもの。意思と言うか本能に近いものです。赤文字は菌根の意思がエヴリンを乗っ取って喋ってた言葉でした。つまり、三姉妹を取り込んだのは菌根の意思で、それで歯止めを効かせなくさせたのが真相でした。

次回、長かったアナザーエヴリン編完結。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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14:Another eveline【黒き神】

どうも、放仮ごです。今回でアナザーエヴリン編完結です。

菌根の本体…ミランダ曰く「黒き神(ゼウ・ヌーグル)」との決着。楽しんでいただけると幸いです。


 機械の怪物と化したイーサンと、その傍らに浮かぶエヴリン。驚くクリスたちハウンドウルフと、ローズを抱いたミアを余所に、空を飛んでいたヘリをも飲み込んで迫る菌根の怪物へと挑みかかる。

 

 

「覚悟しろ菌根ッ!爆弾で燃えた方がマシだと思わせてやる!」

 

『…爆弾を無力化して、本当にごめんね?』

 

私を菌根と呼ぶな!

 

 

 右腕に形成した丸鋸を叩きつけていると、呼び方が不服だと吠える菌根。菌根を絡み付かせて丸鋸を停止させひしゃげさせながら続けた。

 

 

マザー・ミランダは私を黒き神と呼んだ。故に我が名はゼウ・ヌーグルだ!

 

 

 ゼウ・ヌーグル。ルーマニア語で黒き神と名乗った菌根の巨大な拳が振り下ろされるも、丸鋸を壊された右腕を左腕と共にクレーンアームに構成し直したイーサンが両腕で受け止め、ドリルの様に手首を高速回転。菌根の拳を引きちぎり、さらに片っ端から菌根を引きちぎって掘り進んでいく。

 

 

『イーサン、下!』

 

「っ!?」

 

 

 足場にしていた地面が盛り上がり、菌根の塔の様な触手が突き出してきてイーサンを機械の外装ごと天高く突き上げる。空から見れば菌根の巨体はまるで花弁を開く様に、中心から円形に広がる津波の様に展開され、橋とその下の川すら覆って巨大な黒い大地となったその中心に、胎児の様な形の菌根本体があり、それが崩れて人型と為す。

 

 

私は神だ。私はエヴリンだ。故にエヴリンとローズを…我が巫女を捧げろ!

 

 

 それは、六枚の黒き翼を背中から生やした女だった。カラスの羽毛のような黒いローブを身に纏っているようなミランダの身体の首から上に成長したエヴリンの顔を乗っけた様な、腰まで届く長い髪を伸ばした大人のエヴリンと言っても過言の無い姿。まるで胎児から成長したようなそれ…ゼウ・ヌーグルは両手を掲げ、上空のイーサンを見上げて周囲の菌根の大地から触手を伸ばしていく。

 

 

『私の顔をパクんな自我もない癖に!?』

 

「っ…ジェット・ゾルダート!」

 

 

 空中で身動きが取れないイーサンは、ハイゼンベルクから引き継いだゾルダートの指揮権を使って工場からジェット・ゾルダートを四体引っ張り出して自身の鋼鉄の外装に合体。ジェットで空を飛びドリルを爪の様に二本ずつ両手首に展開した姿となると触手を回避してドリルクローで斬り裂き、急降下。本体であろうゼウ・ヌーグル人間態にドリルクローを突き刺さんとする。

 

 

鋼如きで我が体は貫けん

 

「ちい!」

 

 

 しかし守るように展開された菌根の壁で阻まれたばかりかドリルクローがぽっきりと折れてしまい、たまらず鋼の拳で殴りつけて空中に退避。見れば、クリスたちも菌根の波が近づかないようにするだけで精一杯の様だった。

 

 

豊富な生贄を喰らったことで我が肉体に際限は無い!大人しく飲まれろ!

 

 

 文字通り全てを飲み込まんとする強欲な菌根の怪物、ゼウ・ヌーグルの猛攻を、空を飛んで避けようとするも鋼鉄の外装を削られながら、再形成した丸鋸とチェーンソーで液状の触手として襲ってくる菌根を斬り払うもじり貧に追い込まれるイーサン。

 

 

『私が、みんなを食べたからあんなに力を……うぇえっ、うええええええ…』

 

「っ!…吐けなくても好きなだけえづいとけ。…家族だと思っていた連中を自分の手で食したショックはでかいだろう」

 

 

 傍らに浮かび吐こうにも吐けず涙目でえづくエヴリンのことも気にかけながら応戦するイーサン。菌根の中で観た「記憶」によってかつての憎悪など消え失せた。無垢でちょっと悪ぶった少女として平穏でバイオレンスな日常を送った三年間と、その末路を見たことで情が湧いたのだ。

 

 

「俺はお前を許すことはできない、が。あんな奴に滅茶苦茶にされるのは間違ってるだろ」

 

『イーサン…』

 

「お前の代わりに、俺がお前の家族の仇を取ってやる」

 

 

 そう言ったイーサンの両手に、ジャンクが集って二つの巨大なドリルを形作る。向かう先は、防壁を作り次々と触手を伸ばしてくるゼウ・ヌーグル本体である人間態だ。

 

 

「なにより……ローズに手を出させるか!」

 

 

 そして巨大ドリルを回転して急降下。ドーム状に防壁を作ったゼウ・ヌーグルに叩き込み、触手による妨害を撒き散らしながら罅を入れた。罅の隙間から入り込む朝日に信じられないと言う表情をするゼウ・ヌーグル。

 

 

馬鹿な!?我が肉体を貫くだと!?

 

「どんなに硬かろうが一点に集中して熱して削り続けりゃあ壊れる!そして罅さえはいりゃあ!」

 

 

 そう言ったイーサンの外装が変形し、巨大なタービンとなり回転して竜巻を形成。ドリルで削られ、空中に舞った菌根がタービンに吸い込まれて粉微塵と化していく。それだけで自分の末路を幻視したのだろうゼウ・ヌーグルは翼を広げて逃げ出そうとするも、咄嗟に外装の一部を剥がしてマグナムを手にしたイーサンの六連射で翼をもがれ、叩き落されたゼウ・ヌーグル本体も竜巻で巻き上げる。

 

 

や、やめろ!わ、私の中の記憶が!私を形成する物が、壊される…!?

 

「そいつはいい。さっさとくたばれ、カビ野郎!」

 

あああ、エヴリン!私を助けろ!

 

 

 さすがは本体とでもいうべきなのか、タービンの回転にも肉体の硬度で耐えるゼウ・ヌーグルだったが、エヴリンに助命を求めてきた。これにはエヴリンも怒る。

 

 

『ふざけんな!私にベイラ達を食べさせて、イーサンへの恐怖を散々煽って独りにして!』

 

それは力を得るためだ!お前が求めたことだ!そうだろう?

 

『あんな方法で力なんか欲しくなかったよ!』

 

私に身を委ねればよかったのだ!あああ、やめろ、止めてくれ。消えたくない…

 

『ベイラ達だって消えたくなかったのに、お前だけ消えたくないとかふざけるな!』

 

 

 ブチ切れるエヴリンに対し、足掻くゼウ・ヌーグル。ついにはタービンを力づくで止めて抜け出し、翼を広げて空に舞い上がる。夜が明け、太陽が輝く中で大空を舞うゼウ・ヌーグルが狙うのは工場に逃げ込んだミアの抱えるローズだ。

 

 

「行かせるな!」

 

邪魔だ!

 

 

 クリスたちハウンドウルフが入り口で立ちはだかるが、少ししか阻めずゼウ・ヌーグルが手を翳して操った菌根の波を防ぐことに費やされる中。飛び込もうとしていたイーサンを視線で止めたクリスがスイッチを取りだし、ミアが予め教えていた裏口から出てきたことを確認するとスイッチを起動するクリス。

 

 

「引っかかったな、吹っ飛べ!」

 

「そうか、言っていた爆弾か!」

 

 

 すると工場が大爆発を起こして爆散。しかし村ごと菌根を爆発させる予定だったN2爆弾よりも小規模なものだったためか、焼け跡から翼を閉じた状態から開いて無傷の姿で現れるゼウ・ヌーグル。確かに倒したと確信していただけにどよめくハウンドウルフ。

 

 

私は不死身だぁああ!

 

「くそっ、化け物め!」

 

 

 アサルトライフルを手に突撃するしかないクリスたちを余所に、一度地上に降りたイーサンは思案する。

 

 

「クリスの爆弾も、タービンで粉々に粉砕するってハイゼンベルクの考えていた作戦は駄目か…」

 

『カールの作戦だったんだ…あ、そう言えば対ミランダ用の兵器として作ってたシュツルムは?あれなら…』

 

「いや、そいつは俺がぶっ壊して…………そうか、アレだ!」

 

 

 なにかを思いついたイーサンは先刻に力づくで破壊されたタービンを高速回転始めながら突撃。クリスとハウンドウルフが慌てて横に退き、ミアが驚愕する中でゼウ・ヌーグルに組みつくも翼が変形した蜘蛛足で何度も突き刺されて血反吐を吐くイーサン。しかしゼウ・ヌーグルを決して離さず、回転するタービンが熱暴走を起こして燃え始める。

 

 

「カビは炎に弱いんだってなあ…この距離なら防御もできないだろ!」

 

き、貴様……!?

 

「ご愁傷様!」

 

ぎ、ギャアアァアアアアアア!?

 

 

 熱暴走を起こしたタービンが火炎放射を放ち、それを真面に受けたゼウ・ヌーグルは炎上。苦しみ悶えて菌根の大地に崩れ落ち、火は燃え移って大炎上を引き起こした。

 

 

「イーサン、無事か!」

 

「なんとか…」

 

 

 力が消えたのか崩れたガラクタの中から血塗れのイーサンを引っ張り出し、ミアとハウンドウルフを引き連れて燃える工場敷地から脱出を試みるクリス。炎の壁を抜け、橋を渡って祭祀場に抜けて村の外れに待機していたヘリに乗り込み、空に逃れる。

 

 

『イーサン、ありがとう…私は、これからどうすればいいんだろう…』

 

 

 それを見届けたエヴリンは空の彼方に消えて行くのだった。




・黒き神《ゼウ・ヌーグル》
ルーマニア語で黒き神を意味する真正の怪物。ミランダを介した信仰と、取り込み続けた「記憶」で菌根の中に生まれた自我を持たない神格。エヴリンをガワとして己が人格に仕立て上げた。意思こそあるがエヴリンが離れた後の人格はミランダを元に演じているもので本質は空虚。故に全てを飲み込まんとした。本体は身体がミランダの大人エヴリンという、ある意味エヴァが成長した姿ともいえる悪趣味な姿。しかし菌根であるが故に、炎には勝てなかった。

そんなわけで完結です。イーサンに付きまとった本編と違い、自分から離れて一人になることを選んだエヴリン。ゼウ・ヌーグルに唆されていたとはいえ悪逆に生きた末路という形にしています。

次回はとりあえず、アンケートは「上記全部」が多いみたいなので投票数が少ない話から書いて行こうかなと思ってます。つまりまずは端折ったサンカ戦ですね。バイオハザード7とコラボは長くなりそうなのでそれは後からになるかな?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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番外編:例えばこんな与太話
第十四.五話‐Challenge snipe【空の脅威】‐


どうも、お久しぶりです、放仮ごです。最近はエヴリンが主役の「エヴリンのヒーローアカデミア」なるものを書いててこちらはご無沙汰でした。

今回はアンケートに基づき、本編のダニエラカサンドラ戦とドミトレスク戦の間にあった出来事となります。つまり久しぶりのイーサンとエヴリンのワチャワチャとなります。楽しんでいただけると幸いです。


 二つの仮面を手に入れ、武器庫で仕掛けを解いて三つ目の仮面の仕掛けを解いた矢先に出くわしたドミトレスクとの追いかけっこから逃げのびてとある部屋に逃げ込んだ俺とエヴリン。そこは、大きなドミトレスクの肖像画が飾られ多くの美術品が鎮座した部屋だった。

 

 

「行き止まりか…?」

 

『クソデカオバサン怖い怖い怖い怖い…』

 

 

 謎にあるちょっとした階段の下に積まれた美術品の陰に二人で隠れる。ここに逃げたのは見えたはずだ。息を潜めていると一分もしないうちに扉が開き、頭を屈めて例の巨体が顔を覗かせる。

 

 

「あの忌々しいドブネズミ共め……隠れても無駄よ!よくも私の娘たちを……!」

 

 

 中央まで歩き、そこにあったイーゼルと絵画を荒々しく蹴り飛ばし、その残骸が目の前まで転がって来て心底震える。隣で悲鳴を上げそうだったエヴリンに指一本で口を制して止める。モールデッド化をもってしてもこいつには勝てないのだ、勝てる方法を見つけるまでは戦っちゃ駄目だ。

 

 

「…ふん、あの臆病な餓鬼の声も聞こえないってことはいないようね」

 

『!』

 

「(シーッ。落ち着けどうどう)」

 

「どこで撒かれたのか…次見つけたら串刺しにしてミイラにしてやる…!」

 

 

 そう言って頭を屈めて出て行くドミトレスク。念のために五分ほどなにか物申そうと無言で暴れていたエヴリンをジェスチャーで宥めて待ってから隠れていた美術品の裏から出てくる。

 

 

「危なかった…」

 

『誰が臆病な餓鬼だクソデカオバサンの癖に!…でもどうするの?外にいるよねこれ』

 

「いや、なんかあるはずだ。頼むエヴリン」

 

『ほいきた』

 

 

 片っ端から壁に顔を突っ込んでいくエヴリンを尻目に、何か手がかりがないかと探していると、さっきドミトレスクが蹴り飛ばした絵画にくっついた一枚のメモが目に入る。

 

 

「この部屋で五つの鐘を鳴らせ…?」

 

『え、なんて?』

 

 

 ドミトレスクの肖像画に顔を突っ込もうとして躊躇していたエヴリンが反応して見に来たのでメモを突きつけてやる。その間に見渡してみれば、さっき隠れた美術品の山の前にある机に鐘が一つあった。

 

 

『ふーん…例の謎仕掛けかな?』

 

「だろうな。なんで鐘を鳴らすだけで仕掛けが動くんだ…?」

 

 

 とりあえずナイフで叩いてみるといい音がして上に炎が灯った。…って不味い!迂闊によく響く音を鳴らしてしまった。奴が来る!

 

 

「エヴリン、どこか、どこか逃げ道は!」

 

『え!?いきなりそう言われても……えーと、えーと、まだ見てないのはそこの肖像画の向こうだけど!』

 

「仕掛けを解いてる時間ももったいない!突っ込むぞ、腕!」

 

『人使いが荒いなもう!やるけどさ!』

 

 

 廊下から奴の足音が響いてくる。エヴリンにモールデッド化してもらった右腕を振りかぶって肖像画のドミトレスクの顔面に叩き付け、粉砕。肖像画の向こう側にあった隠し部屋に飛び込んだ。エヴリンと顔を見合わせると同時に扉の開く音。奴はすぐ異変に気付いたのかこちらまで歩いてきて。肖像画が鋭い爪で斬り裂かれるのと同時に、俺達は奥の壁に開いた穴に飛び込み、そこにあった梯子を上って上に逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、死ぬかと思った……」

 

『右手を斬り裂かれてもピンピンしている人が何言ってるのさ…』

 

 

 屋根裏部屋に辿り着き、全力で駆け上った疲れから一息吐いていると奴の怒号が下から聞こえてきて思わず震え上がる。さ、さすがにここまで来ないよな?

 

 

「とりあえず最後の仮面と奴を倒す手段を見つけるぞ。あの再生能力をどうにかしないと勝てるもんも勝てん」

 

『いやー、高所から突き落とすしかなくない?』

 

「どうやってだ。あの巨体、不意打ちでようやく殴り飛ばせたんだぞ」

 

『今思うと殴り飛ばせた時点で凄いね』

 

「それな」

 

 

 とりあえず屋根裏部屋を探索。宝の地図を見かけたが取りに行く時間もないので無視、モロアイカが倒れていたので起き上がる前に頭を踏み潰し、物色しているとそれを見つける。

 

 

『しかの…たんけん、かな?』

 

「しばなかもしれないぞ」

 

 

 古今東西の毒が塗られた「死花の短剣」なる中世の品がこの城のどこかにあるという文書。怪物殺しに用いたというそれなら、不死身の吸血鬼そのものと言っていいあのドミトレスクを倒せるかもしれない。

 

 

「もしかしてさっきの宝の地図か…?」

 

『でも裏面に書いてた内容と食い違わない?』

 

「一応見に行く必要はあるな」

 

『あ、これって?イーサン、こっちこっち!』

 

「見つけたのか?」

 

 

 壁を擦り抜けたエヴリンが何かを見つけた様なので奥まで進むと、そこにはスナイパーライフルが椅子に立てかけてあった。なんでこんなところに?クリスに使い方は教えられていたので手に取り、銃弾を確認する。

 

 

『イーサンがそれ持ってるのってすごい違和感だね』

 

「そうか?」

 

『だってベイカー家でスナイパーライフルなんて持ってなかったじゃん』

 

「お前、民家にこんなのがあってたまるか。いや、ジャックは元海軍だったらしいからありそうだけどさ」

 

 

 グレネードランチャーもルーカスのお手製だったしなあ。よし、とりあえず使えそうだな。

 

 

「他にはもうなさそうだな。この先は…」

 

『外みたいだね。なんか久々だ!』

 

 

 屋根裏部屋の奥から外に出る。すると真っ白い空を何かが複数飛び立っていった。鳥かなにかか?

 

 

『いやー、鳥には見えなかったけど……一応確認してくるね』

 

 

 そう言ってひとっ飛び、飛んで行った何かの近くに浮かぶエヴリン。遠くからでもギョッとしたのが伝わってきた。顔を青ざめて戻ってくるエヴリン。なんかやばいのを見たな?

 

 

『いいいい、イーササササン!』

 

「落ち着けどうした何を見た?」

 

『あれあれあれ!鳥じゃない!えーと、黙れ小僧!のモロじゃなくて…えーと、ほら、イングリドのなれの果て!』

 

「モロアイカのことか?」

 

『そう、モロアイカ!翼が生えたモロアイカだよアレ!滅茶苦茶キモかった!』

 

「じゃあ試し撃ちするか」

 

『冷静だね!?』

 

 

 自分より慌ててる奴がいると冷静になるアレだ。クリスに教えられたとおりに………次会ったらアイツのドタマをブチ抜いてやる………スコープを覗き、照準を定めて引き金を引く。放たれた弾丸は寸分違わず翼の生えたモロアイカ一体の頭部を撃ち抜き撃墜した。

 

 

『おおー、ヘッドショット。訓練の成果だねえ』

 

「落ち着いて狙えばこれぐらいなんてことないな」

 

『ところでイーサン?』

 

「なんだ?」

 

『今の銃声でこっちにめっちゃ来たんだけど』

 

「………すぅー」

 

 

 ちょっとした雲にも見える群れがバサバサ飛んできて、思わずひたすら撃ちながら深呼吸。二、三体は落とせたがまだまだいる。エヴリンと顔を見合わせ、引きつった笑みを浮かべる。

 

 

『下手じゃない鉄砲数撃てば百中だよ!撃て撃てイーサン!』

 

「いや無理言うな。連射効かないんだぞ。…でも捜してないのこの先だけなんだよなあ」

 

『今だ、突っ込めイノシシ!』

 

「未来を掴めそうなセリフだな!」

 

 

 強行突破しかない。頷いたエヴリンが右腕をモールデッド化してくれて、握ったライフルを棍棒代わりに飛びかかってきたモロアイカをぶん殴ってホームラン。そのまま足場を伝って突き進む。途中でエレベーターを見かけたがどうせ下の玄関付近に繋がってるんだろう無視だ無視!

 

 

「日本のことわざで…猪突猛進、だったな!」

 

 

 斜めの屋根を駆け上り、モロアイカの大群を文字通り薙ぎ払っていく。頂上までつくとジップラインがあり、それに掴まると高速で滑り降りて群れから離脱。先にあった憤怒の仮面を拾い、梯子を下ろしてそこにあったエレベーターに乗り込み、突撃してきたモロアイカが鉄格子に激突して伸びる光景を尻目に下降。ようやく一息ついた。

 

 

「つ、疲れた…」

 

『どつかれさん』

 

 

 そしてエレベーターが一階まで降りて、玄関に出た瞬間だった。扉を開けて背を屈めて出てきた奴と目が合った。ジャキン!と爪が擦り合わされ嫌な音が響く。

 

 

「やっぱりここに来たわね…!」

 

『出たあああああああ!?』

 

「あ、失礼しました」

 

 

 その後、全力でエレベーターで上まで戻って翼の生えたモロアイカの群れの相手をしつつ数刻かけてエヴリンに奴がいないことを確認してもらったうえで改めて降りた。心底ビビった。その後、ドミトレスクと決着をつけることになるのだが…それはまた別の話だ。




ゲームではなく現実なので翼の生えたモロアイカことサンカは群れで襲ってくるし、普通にクソデカオバサンが美術室に入ってきます。どこに逃げたかばれたら先回りされるのも自明の理よね。

このあとドミトレスクに追いかけられながら一応宝の地図の場所に行ったりしますがそこは割愛。ドミトレスク戦に続きます。

次回はWエヴリンを連れたイーサンVSミランダ最終決戦、かな?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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狂える聖母と最高の父親IF【二人のエヴリン】

どうも、超お久しぶりです、放仮ごです。約半年、スランプに陥っておりましたが復活です。

今回はアンケートに基づき、もしミランダ戦がエヴリン二人だったら?をお送りします。わかりにくいのでオリジナルエヴリンは【】の吹き出しで台詞を書いてます。自己解釈の独自設定ですが驚愕の事実まで判明したり。イーサンと二人のエヴリンの漫才、楽しんでいただけると幸いです。


 ミランダに敗れ、心臓を抜き取られて生死の境をさまよったイーサン。精神世界でオリジナルのエヴリンと邂逅し幻影エヴリンと共に受け入れ、蘇生したイーサンはデュークの馬車で決戦の地に向かっていた。

 

 

「…そういや、オリジナルのエヴリンも着いてくるんだな」

 

【そうだけど、何か悪い?】

 

『一つになってパワーアップしようと思ったんだけど、この私も言いたいことがあるんだって』

 

【よく考えたらあのクソBBAになんも言わずに消えるのはなんか嫌だ】

 

「『わかる』」

 

【…ウザいほど息がぴったり、気持ち悪い】

 

『なんだとー!』

 

【お前を取り込んでやってもいいんだぞー!】

 

 

 デュークの運転する幌馬車の荷台の中で、イーサンの視界内の空中で髪やほっぺを引っ張り腕をつねり取っ組み合うエヴリン二人に溜め息を吐くイーサン。喧嘩してるとどっちがどっかわからないのも溜め息の原因の一つだ。

 

 

【いだいいだいいだいいだい!偽物の癖に!】

 

へんとうへいへんはら(戦闘経験なら)ほっひがうえひゃもんね(こっちが上だもんね)!』

 

「なあ、なんでもいいけど、なんか見分けを付けてくれないか?どっちが俺の娘……いや、どっちもそうか。えーと、どっちが偽物なんだ?」

 

『偽物なんてひどい!?』

 

「じゃあ何て呼べばいいんだよ!?」

 

【ふん、ざまーみろ!】

 

 

 腕をつねられて涙目だったオリジナルエヴリンを、引っ張られたほっぺを赤く染めながらジト目で睨み付ける偽物エヴリン。熟考すると、偽物エヴリンが14歳くらいの姿に成長した姿に変身、ギョッとなるオリジナルの己を見下ろして成長エヴリンは満足げに唸る。

 

 

『久々変身!成長した私!どうだー、あんなところ(菌根の中)にいた私にできない芸当だよー』

 

【ぐっ……私じゃどう頑張ってもババアの姿にしかなれない…負けた…】

 

「冗談でも老婆の姿はやめてくれよ。地味にトラウマなんだ」

 

『あ、結構最期の言葉が響いてるらしいよ、私』

 

【そうみたい。ちょっとすっきり】

 

 

 ベイカー家での決戦のエヴリンが変貌直前に告げた「どうしてみんな私を嫌うの?」という言葉がトラウマらしいイーサン。それを察して二人して両手を繋いでルンルンと喜ぶ性格の悪いエヴリン二人にイーサンは呆れ顔を浮かべる。

 

 

「お前ら仲がいいのか悪いのかどっちなんだよ」

 

『仲がいいわけないじゃん、こんなちんちくりん!』

 

【こんな年増と仲良しとか死んでも嫌だもんね!】

 

『誰が年増じゃあ!たった三年イーサンの元にいただけじゃん!厳密には没年から数えても同い年じゃん!』

 

【コウノトリがローズを運んできたところを見た奴は年増でしかないよ!】

 

『え?私、マジ?マジで言ってる?』

 

【え。なにそのドン引きした顔。私、なんか変なこと言った?ねえパパ、私なんか変なこと言った!?】

 

『私が思ってたより子供でちょっと引くわー、ないわー』

 

 

 浮かんで視線を合わせた成長エヴリンの胸ぐらを掴んでぐわんぐわん揺らす涙目のオリジナルエヴリンの姿に溜め息を吐くイーサン。頭が痛くなってきた。考えてみなくても、ただでさえ騒がしいエヴリンが二人になったのだ。倍になるのも頷ける。

 

 

「なあデューク、まだつかないのか?」

 

「おやおや。私は好きですよ、微笑ましい。仲良く喧嘩しな、という言葉もあります」

 

「…お前、見えているのか?」

 

「はて。なんのことでしょう?さてさて、つきましたよウィンターズ様」

 

 

 しらばっくれるデュークに別れを告げ、餞別を受け取り鉄槌を担いで祭祀場に向かうイーサンとエヴリン二人。右手を成長エヴリンがブレードにしてくれたかと思えば、左手をオリジナルエヴリンが黒い触手へと変形させ、ブレードを使う暇もなく勝手に蠢いてモロアイカを薙ぎ払ってしまった。

 

 

【カビの扱いなら私が上だよ】

 

『ぐっ、負けた…!』

 

「お前ら俺の身体を勝手に変えるのやめろよ…」

 

『あ、ごめん。つい。そう言うなら善処するけどさ…ねえ、私?』

 

【うん、私。ミランダを相手にするなら私達が勝手に動かした方がいいと思うよ?】

 

「……まあ好きにしてくれ。俺がどうなってでも、ローズは取り返す」

 

『【それでこそ私のパパ】』

 

「お前ら絶対仲いいだろ」

 

 

 戻った両手で菌根の壁をかき分けて広場に突入するイーサンとエヴリン二人。

 

 

「ああ…私の可愛いエヴァ…私の愛しい娘。さあ出ておいで」

 

「待て!ミランダ!」

 

『ローズを返せ!』

 

【そして一人でのたれ死ね!】

 

 

 そこには黒い液状のものに浸された聖杯に手を向けて恍惚としているミランダがいて。開口一番鉄槌をモールデッド化した右手で握り突撃せんとするイーサン達だったが、ミランダが聖杯から取りだしたローズを見て急静止。しかしオリジナルエヴリンが勝手にイーサンの左手を触手に変化させてミランダの手からローズを奪い取った。

 

 

「ああ、せっかく会えたエヴァをよくも……私の頭がいかれたか?死にぞこないが立っていて、出来損ないが二人いるだと?」

 

【最初からイカレてるでしょBBA】

 

『なにもかもクソデカオバサンより脳みそ詰まってないの?ナイス、私!』

 

「ローズは返してもらった!」

 

「返せ!それは私のエヴァだあ!……ぐはっ!?」

 

 

 その瞬間、ライフルに頭部を撃ち抜かれるもののすぐに再生させてしまうミランダ。弾丸が飛んできた方向に右手に形成した火球を飛ばすと背中から枝の様な翼を広げてイーサンに飛びかかりローズを抱えた左腕に両手でしがみつく。

 

 

「今のは、クリスか!?」

 

「私の子から手を離せ!イーサン・ウィンターズ!」

 

「お前こそ離せ!ローズが落ちたらどうしてくれる!」

 

『ローズから離れろ、毒親!』

 

【頭撃たれたら死んどけよ毒親!】

 

「誰が毒親だ…!私ほど娘を愛している者もいない!この時を夢見て生涯を費やしてきたのだ…なのにそれを奪おうというのか?」

 

「オリジナルエヴリン!ローズを、クリスの元へ…!」

 

【合点!】

 

『私が援護するよ!行くよイーサン!』

 

「『We are family(俺/私達は、家族だ)!』」

 

 

 二人分の力を相乗させて、回復薬なしでモールデッド・ギガントに変身するイーサンと成長エヴリン。さらに二本肩から生えた腕でローズを抱えて伸ばし、弾丸が飛んできた場所にローズを避難させると四本腕を駆使してミランダを殴り飛ばす。

 

 

『名付けて、モールデッド・トリニティ!』

 

【え、ダサ】

 

『ダサくないもん!?時の王様由来のカッコイイ名前だもん!』

 

「ぐはあ!?…誰にも渡さん…我が大願が成される時が来たのだ!ローズは、この私のものぉおおおおお!」

 

「『【ふざけるな!ローズに手は出させない!】』」

 

 

 ミランダも対抗して腕と指が伸び、露出の高い漆黒の衣装の異形…【Village_of_Shadows】に出てくる魔女の様な姿に変貌。爪と翼で斬り裂いてくるミランダに対抗してモールデッド・トリニティも殴る、殴る、殴る。体躯に差があるというのにミランダは鋭い爪のアッパーカットでモールデッド・トリニティを吹き飛ばす。

 

 

「先刻より力は増してるようだ。出来損ないが増えた影響か?だが、オリジナルの菌根の力には勝てぬ!それが道理だ!」

 

【偽物!右は任せた!攻めろ!私が道を切り開く!】

 

『任された!しくじんないでよ、オリジナル!』

 

「行くぞ!」

 

 

 心がバラバラな状態で勝てないと悟ったモールデッド・トリニティ。右腕二本をハイゼンベルクの鉄槌を握りもう片方はブレードに変形、左腕をタコの触手と鎖鎌に変形させると突撃し、タコの触手と鎖鎌でミランダの爪と翼を弾き鉄槌で殴りブレードで突き刺していく。

 

 

「なんだ、この動きは!?それぞれ独自に動き回っているとだと…!?貴様、なにをしたウィンターズ!」

 

「生憎俺はただ突撃しているだけだ、娘たちが張り切ってるだけだよ」

 

【そうだ、お前に言いたいことがあるんだクソババア!】

 

『菌根に閉じ込められてたオリジナルが言いたいことあるそうだからよく聞けダッシュババア!』

 

 

 猛攻を与えながらも、目的を達成しようとするオリジナルエヴリン。語られたのは、イーサンからしてもミランダからしてもとんでもない事実だった。

 

 

【いい、教えてあげるよクソババア!私がエヴァだ(・・・・・・)!】

 

「なん……だと……!?」

 

【正確にはエヴァの生まれ変わりだよ!一回死んで思い出した!ローズをどんなに利用しても無駄だよ、エヴァの魂はここにある!】

 

「…は?」

 

『え、そうなの?』

 

 

 あまりに衝撃的な言葉に一緒に放心しつつ攻撃の手を緩めないイーサンと成長エヴリン。無駄に器用だった。代わりにミランダの勢いは衰えていった。当たり前だ、出来損ないと断じて捨てたエヴリンがまさかエヴァの生まれ変わりなどと、信じたくない事実だった。

 

 

「ば、馬鹿な……お前はエヴァとはまるで違うじゃないか!だから出来損ないと…」

 

【生まれ変わったんだから別人で当たり前だよ!なのにお前は出来損ないと断じて私を捨てたんだ!お前がやろうとしているのはかつてのエヴァの生き写しを作ろうとしているだけ!代わりのお人形を作ろうとしているだけだ!それでイーサンの大事なローズを奪うな、馬鹿!】

 

「お、お前がエヴァである物かあああああ!」

 

【この……いい加減にしてよ、ママ!】

 

 

 その言葉が決定打だった。黒い涙を流して放心したミランダの胸を、右腕のブレードが貫いた。右腕のブレード化はしたままイーサンは元の姿に戻り、エヴリン二人がその身体から分離。石灰化していくミランダは二人のエヴリンを見上げ、罅割れて行く手を伸ばす。

 

 

「ああ、もう既に私の望みは……ごめんなさい、エ、ヴァ………」

 

 

 その言葉を最期にミランダは砕け散り、その欠片は朝日に煌めくのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、エヴリン二人が力を合わせてイーサンの肉体を維持してミアとローズと合流、クリスたちハウンドウルフが菌根本体を爆破して、ヨーロッパへ向かうクリスたちと共にヘリで休むイーサン達。

 

 

「…なあ、オリジナル…いや、エヴァ。よかったのか?」

 

『私は思い出せないけど…一応、ママだったんだよね?』

 

【私を蘇らせるためだけにあんなことしでかしたんだよ?許されないよ。私も偽物と一体化して消えようかな…】

 

 

 そう黄昏るオリジナル、否エヴァに、イーサンとエヴリンは顔を見合わせて悪い笑みを浮かべた。

 

 

『やなこった。私が嫌だ』

 

【え、でも…】

 

「お前は偽物…じゃない、妹とも言えるエヴリンと共に俺と生きろ。幼く死んだ挙句にあんなところに閉じ込められてたんだろ?ならせいぜい生を楽しめよ」

 

 

 そう言うと涙ぐみながら頷くエヴリン。そして、ヨーロッパにてBSAAは地獄を見ることとなる。




というわけでこの作品では「エヴリンはエヴァの転生体」という設定がありました。偽物エヴリンはその事実を知らず、オリジナルだけ知ってたって言う。ローズがエヴァにならないのも納得だよね。

モールデッド・トリニティ。由来は本編でもエヴリンが言及している通り仮面ライダージオウトリニティ。三人でわちゃわちゃしてるからこれしかなかった。

次回はどうしたものか。このペースでいくと大本命のバイオ7レムナンツが書けんのよなあ。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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BIOHAZARD7【feat.EvelineRemnants】
♯1‐【謎の少女】‐


どうも、前回も言った気がしますが超お久しぶりです、放仮ごです。スランプから脱出したはいいけどモンハンとかボイロとか別小説ばかり書いてました。申し訳ない。

今回からBIOHAZARD7【feat.EvelineRemnants】をお送りします。幻影エヴリンが、倒される前と言うか7の最初からイーサンに付きまとっていたらと言うIFです。7版イーサンとエヴリンの漫才、楽しんでいただけると幸いです。


 アメリカのルイジアナ州ダルヴェイ郡の片田舎に存在するベイカー農場と言うらしい不気味な屋敷に行方不明の妻のミア・ウィンターズから連絡を受けて探しに来た俺ことイーサン・ウィンターズ。ボロ屋敷の中を探索するうちにミアを見つけ、一緒に脱出しようと試みるが突如姿を消してしまう。

 

 そしてミアと再び出会った時には狂気に陥り襲いかかってきて、包丁で滅多刺しにされるわ、バリケードに投げつけられるわ、バリケードの残骸である鋭い木材の破片で殴りかかられるわ、咄嗟に反撃して斧で切り殺してしまうわ、何故か復活したミアに報復だとばかりにドライバーを突き立てられた左腕をチェーンソーで切り落とされるわと散々な目に遭い、一度はミアを諦めて、電話の女の声の言うとおりに脱出しようとしたところを不意打ちの拳を受けて倒れてしまった。

 

 

 

 

「ここはどこなんだ…?どうなってる…?」

 

『あ、起きた?やほやほー』

 

 

 目を開けると、目の前には嗤っている少女の顔が何故かドアップであった。困惑するしかないんだが。え、誰。と目を白黒させていると少女の顔を突きぬけて(・・・・・・・・・・)なんかが飛んできて顔に当たる。な、なんだ!?

 

 

『ルーカスったら、なにしてくれるのもー。じゃ、クッソ不味い料理を楽しんでね?』

 

 

 そう言って手を振りながら驚きの軽やかさで俺の前からどく少女。俺の目の前にあったのは、とんでもない場所だった。丸眼鏡をかけた白髪混じりの額から頭頂部にかけてがハゲ上がった頭に口ひげを蓄えている血色の悪い髭親父と、髪はボサボサの血色が悪い壮年の女性、鼠色のパーカーを着用していてフードを被っている痩せ細った体型の無精髭を生やした男性、車椅子に乗って焦点の合わない目でどこかを見ている老婆が囲む、なにかの臓物にしか思えない『料理』がタバスコや胡椒などの調味料と共に並べられており、老婆以外は特に怖気づくこともなく口に入れていた。さっき飛んできたのはこの『料理』か?一目見て吐き気がこみ上げてきたがなんとか我慢する。…さっきの少女は何処だ?すると俺が目覚めたことに気付いたらしい壮年の女性が嗤う。

 

 

「ようやく起きたの寝坊助さん。夕食の時間だよ」

 

「何だ、誰だお前らは?ミアは何処だ?」

 

「食べな。美味しいんだから」

 

「い、いや遠慮しとく……」

 

「遠慮することはないよ。家族なんだから」

 

 

 家族?家族だって?『料理』を勧めてくる女性の言葉に首を傾げる。何を言ってるんだこいつは。するとフードの男が皿に乗った『料理』を投げつけてきやがった。なにをする!?

 

 

「この馬鹿には何言ったってわかりゃしねえよ!」

 

「ルーカス!なにやってんだい!」

 

「食事の時はマナーを守れ!」

 

 

 黙々と食っていたかと思えばそう叫んでルーカスと呼ばれたフードの男の手を掴んで手にしたナイフで斬り落とす髭親父。……なんだろ、ミアにあんな目に遭わされたせいかスンッとした感情で見てしまう。

 

 

「いってえな!何すんだよ!ったく勘弁しろよ親父!」

 

「おいどけマーガレット。こんな行儀の悪い手は捨ててやる」

 

『あははっ!目を白黒させてる!だよね、こんな一家団欒おかしいよね?』

 

 

 さっきの少女の声がどこからか聞こえて慌てて周りを見渡すがどこにもいない。マーガレットと呼ばれた壮年の女性を押しのけて隣の部屋のゴミ箱に握ったルーカスの手首から先を投げ捨てた髭親父はそのまま俺に近づいてきた。

 

 

「よそ見はいいが、好き嫌いはいかんぞ。夕食はちゃんと食わんとな?」

 

「いや待て、本当にいらないんだ。お腹がいっぱいで…」

 

「さあ食うんだ。ちゃんと食わんといかんぞ。食えよ、ほら食うんだよ」

 

『食べないと酷い目に遭うから食べた方がいいと思うよー?あ、でも一口だけね?三口食べてしまったクランシーは死ぬほど悶えてたからね!』

 

 

 手でつまんだ『料理』を押し付けてくる髭親父に、少女の声の言うとおりに嫌々ながらも口にする。瞬間、あまりの不味さに吐き捨てた。なんだこの、形容しがたいクソみたいな味は!?動物のモツとは雲泥の差だぞ!?なんの内臓だこれは!?

 

 

『あー、それは聞かない方がいいと思うなあ。どうしても知りたいなら後で冷蔵庫を見るといいよ』

 

「なんだいこのクソ野郎が!吐きやがったよ!ジャック!こいつ吐きやがった!」

 

「おいうるせえぞマーガレット!」

 

「せっかく作ってやったってのに!」

 

「お前向こうに行ってろ!」

 

「なんだいふざけやがって!」

 

『実際不味いからしょうがないと思う』

 

 

 ヒステリックに喚き散らすマーガレットと呼ばれた女性と、怒鳴り散らすジャックと呼ばれた髭親父。だがこっちは不味さでえづいててそれどころじゃない。

 

 

「あのクソ野郎許さないよ!せっかくあたしが作ってやったってのに吐きやがって!」

 

『マーガレットももっと美味しいもの作ろうよ。ルーカスもほら、タバスコぶっかけてるぐらいだよ?』

 

 

 マーガレットは怒りながら部屋を出て行き、少女の声が響く。なんだ、誰もこの声に反応していない。俺にしか聞こえていないのか?

 

 

「今日家族になったばかりのお前にはわからないだろうがこいつは我が家にはとっておきのご馳走でな?分かるか?」

 

『あーあ、ジャック怒っちゃった。これ以上怒らせると不味いよ~?』

 

「悪かった、刺激的な味だったんで思わず吐き出してしまったんだ」

 

 

 ナイフを手にそう言ってくるジャックの機嫌を損ねるのはやばいと少女の声で判断し取り繕う。するとジャックは納得したのかナイフを下ろしてくれた。ルーカスと呼ばれた男みたいに腕を斬り落とされるのはごめんだ。……あれ、ミアに斬り落とされたはずの腕がくっついているし指も動く。なんでだ?

 

 

「まあいい。ならゆっくり食べようじゃないか。マーガレットも呼び戻すから……ああ?」

 

「あーくそ、面白くなりそうだってのに邪魔しやがって!またあのサツが来やがったんだ」

 

「一家団欒の邪魔もするのか、クソ警察が」

 

 

 するとベルの音が鳴り響き、あからさまに顔をしかめるジャック。同じく忌々しそうに顔をしかめたルーカスによると警察らしい。しめた、なんとかこの状況を伝えて助けてもらおう。

 

 

『駄目。逃げようなんて考えたら殺されるよ?私、イーサンには死んでほしくないんだから』

 

 

 すると少女の声が咎めてきた。何なんだお前は。

 

 

「いいか。大人しく待っておくんだぞ。すぐ戻ってくるからな。おいルーカス、いくぞ!」

 

「へいへい。俺の腕どーすんだこれ、ハーブ庭に落ちてたっけかな」

 

 

 そう言ってジャックと、ごみ箱から自分の手首を手に取ったルーカスはこの食卓を去って行った。残されたのは俺と謎の老婆のみ。さっきからうんともすんとも言わないが生きてるのか?

 

 

『失礼だな。ちゃんと生きてるよ!』

 

「…それは悪かった。お前は何なんだ」

 

『え。…えーと、私はエヴリン。今あなたの頭の中に話しかけています……なんてね?』

 

 

 ひょこっと老婆の後ろから顔を出すさっきの少女。黒いワンピースとブーツを着ていて不気味だ。エヴリンというらしいがそんなところから喋ってたのか。なんであいつらに聞こえていなかったのかわからんが……本当にテレパシーでも使えるのか?まあそんなことはどうでもいい、なんとか脱出しないと……この拘束、なんとか取れないか?

 

 

「お前は何でこんなところにいるんだ?ここの子なのか?」

 

『うん、ここの子だよ。あれ、脱出するつもりなんだ。またしん……ごほん。今度こそ殺されてもいいの?』

 

「殺されたくはないがこのままここにいたらどの道死ぬだろ。警察に助けを求めるのは当たり前だ」

 

『ふーん。出られるといいね?』

 

 

 そうにやにや笑うエヴリンにイラつきながらも体を揺らして床に椅子ごと倒れ込み、拘束から解放される。手首は何でか知らないがやっぱりくっついてるな。

 

 

「よし」

 

『よし、じゃないが?今の音でみんな戻ってくるよ』

 

「どこか隠れるところはないのか?」

 

『うーん、ガレージとか?』

 

「案内してくれるか?」

 

『じゃあついてっていい?邪魔しないから』

 

「好きにしろ」

 

 

 老婆がなにも反応してないから多分幽霊かなんかだと思い込むことにする。とにかく、脱出しないとな。




今回を書くためによく見てたらルーカスの前にタバスコらしきものが置いてあってこれでしのいでたんかなとか妄想してる。

正体が分からないままエヴリンを連れ歩くイーサン。だいぶ運命が変わります。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯2‐【探索】‐

どうも、放仮ごです。報告遅れましたがピクシブの方で本作でも使用しているタグ「特異菌感染者の聖地」で検索するとエレメンタル㏇さんという方が描いてくださったファンアートを見ることができるので是非ご確認あれ。

 今回は幻影エヴリンと何も知らないイーサンによるベイカー邸の珍道中となります。楽しんでいただけると幸いです。


『ガレージはこっちだよ』

 

 

 ひょこひょこと前を歩いて先導してくれるエヴリン。でもなんだろう、違和感がある。地に足がついてないと言うかなんというか。

 

 

『ありゃ?』

 

 

 食卓から廊下を挟んだ先にあるガレージへの道まで来ると、制御盤らしきものがダクトテープで完全にふさがれていた。素手では剥がせそうにない。俺を逃がさないためだろうけどこれじゃ不便じゃないか?

 

 

『ごめん、ジャックに先回りされてたみたい。さっきイーサンの車をガレージにしまってた時かな?』

 

「なんだって?なら入ることができれば脱出できそうだな」

 

『そうだねー』

 

 

 問題はダクトテープを剥がすか切り裂くものか。一応持って来た食卓のナイフを突き立ててみるも歯が立たない。手入れされてなくて切れ味が悪いらしい。まあ武器にはなるから持っておくか。ミアを撃退した拳銃も没収されたみたいだからな。

 

 

「戻って切れそうなものを探すか……」

 

『急がないと戻ってくるかもね?』

 

「それは困る」

 

『急げ急げ頑張って生き残ろー!』

 

 

 後ろから歩いてついて来るエヴリンに囃し立てられて食卓に戻ると、老婆が消えていた。いつのまに。まあいい、邪魔者が消えたと考えよう。

 

 

「冷蔵庫になにか…うん?」

 

 

 食卓に隣接しているキッチンに入り冷蔵庫の中を漁ろうとすると扉になんか書かれたメモが付いているのを見つけた。【女 50代 肥満 ソテー】【男 30代 痩せぎす ガンボ】【男 20代 やや肥満 テリヤキ】?………深く考えない方がよさそうだ。冷蔵庫は開けてすぐ閉めた。中身は見なかったことにしよう。

 

 

『ねえねえ、痩せぎすってなに?』

 

「うん?ああ、痩せて骨ばっていてぎすぎすしているやつのことだ」

 

『じゃあガンボって?』

 

「カレーやシチューに似た南米独自の煮込み料理だな。ミアに作ってもらったことがある」

 

『そうなんだ。私も食べたいなあ、マーガレットの作ったのはみんな不味くって……』

 

「だろうな。あんなもの食わされて育っているなんて同情するよ」

 

『切実に、美味しい物が食べたい』

 

 

 そう真顔でいうエヴリンに苦労してるんだなと納得する。あ、ゴミ箱にまだ新しいハーブ。もらっておこう。口直しもしたい。

 

 

『イーサン、さらっと懐に入れるなんて泥棒の素質あるね』

 

「うるさい」

 

 

 茶化してくるエヴリンに辟易しながらキッチンの奥の部屋を見る。おっ、食器棚。フォーク………手入れしてからしまってくれ。使い物にならん。一応持っていくけど。

 

 

「うん?地下があるのか?」

 

『多分軒下にいけるだけだと思う。地下室は別の所にあるよ』

 

「なるほどな。…なあ、あれは…お前の家族なのか?」

 

『うん、今の家族だよ。私、三年前にこのベイカー家に拾われたの』

 

「ベイカー…じゃあ牧場の持ち主があいつらか。捨て子かなにかなのか?」

 

『うん、ママに捨てられたの』

 

「それは悪いことを聞いたな。それで拾われたのがこんな狂った家族とは……これはお前のか?」

 

 

 部屋の隅に乱雑に置かれていたブーツを手に取ってみる。Evelineと名前が書かれていた。

 

 

『サイズが合わなくなって捨てた奴だねそれ』

 

「こんなところに捨てるなよ。……大きくなった?」

 

 

 エヴリンを見下ろす。ちびっこい。よくて8歳とかそこらだろう。手に持ってるブーツを見る。………サイズ変わらなくないか?

 

 

「お前何歳だ」

 

『レディに年齢を尋ねるなんて失礼じゃない?』

 

「それは悪かった」

 

 

 上手くはぐらかされた気がするがまあ気にすることでもないか。一度キッチンに戻り、廊下に出てから突き当たりにある扉に手をかける。施錠されていて開かないか。次は廊下の奥に……っ!?

 

 

『あっ』

 

「勘弁してくれ…」

 

 

 小声でぼやきつつ来た道を戻る。廊下の先にジャックがいた。スコップを持っていたがあんなもの振るわれたら洒落にならん。エヴリンと共に小走りで戻り、ガレージへの道に隠れて足音を聞き様子を窺っていると、キッチンへ入って行ったようだった。チャンスだ、廊下の先を調べよう。

 

 

「ああ!?あいつ、どこに行きやがった!」

 

『節穴で草』

 

 

 ちょっと黙れ。食卓に行き俺がいないことに気付いたらしい怒号が聞こえる中を小走りで廊下を進むと突き当りの小さな机の上に鍵があるのを見つけた。【under the floor key】…床下の鍵、か。あそこか……ジャックがいる中戻れっていうのか。

 

 

「この先はどうなって…」

 

 

 先に進んで絶句した。なんかよくわからん仕掛けの大扉があった。なんだ、この…なに?

 

 

『いやほんとなんだろうねこれ。この屋敷こんなのがいっぱいあるんだよ…原理がよくわからない影絵ギミックとか。面白くないしめんどくさいし嫌になるよ』

 

「影絵ってなんだ」

 

 

 このよく分からん扉に使うなにかを見つけないとこの先にいけないってことかクソッ。今まで見かけなかったから多分この先に玄関があるのだろうが…廊下にはガラクタの山と写真ぐらいしかないな。しかも尖ってるものがないからテープをどうにかできそうなものもない。床下に行くしかないか。

 

 

「すぐに見つけてやるからな…で、見つけた後はお楽しみだ…」

 

『怖いこと言ってるね。お楽しみってなんだろ……サンドバッグ?』

 

「それは殴らせてくれるって意味じゃないんだろうな…」

 

『そりゃサンドバッグにされる方だよ』

 

「知ってた」

 

 

 ガタイがいい髭親父に殴られるとか嫌だな…。しかもあのパンチ、一度喰らってるからわかるけど死ぬほど痛い。あんなのもらうのは二度とごめんだ。

 

 

「エヴリン、廊下の曲がり角から先を見てくれないか?」

 

『ええ、子供にやらせるの。大人でしょ』

 

「ここの子供のお前ならひどいことはしないだろ?」

 

『あんな不味い飯しか食べさせてもらってないのに?』

 

 

 そう言われて思わず押し黙る。…うん、そうだな。それは世間一般から見たら虐待だな…。

 

 

「わかったよ……」

 

『わーい、イーサン大好き』

 

「棒読みはやめろ」

 

 

 おそるおそる曲がり角を見る。大丈夫…大丈夫だよな?続けて次の曲がり角も覗きこむ。キッチンの扉が開いてて先が見えなかった。さっきから轟音がするけどなにを……いそいそと急いでキッチンに入り込むと、ちょうど食卓の机をスコップで破壊していたジャックと目が遭った。

 

 

「あ」

 

『目と目が遭ったらバトルするのが常識だよ』

 

「まだディナーが終わってないのに出て行くつもりか?」

 

「それポケモ……いや待て待てジャック。たった今お前が食卓を壊してるだろ!?」

 

「なんだ!?俺の嫁の飯が食えねえって言うのか!」

 

『ジャックのこうげき!イーサンはかいひした!』

 

「話が通じてないようだ!」

 

 

 振り下ろされるスコップの一撃を前転で避ける。エヴリンお前ちゃっかり床下の扉があった部屋に先に逃げ込みやがって。慌てて四つん這いで駆けながら入り、食器棚を倒して仮のバリケードを作る。今のうちに鍵を開けて床下に…!

 

 

「こんなもので俺を阻めると思ってるのか?」

 

『ビビった!すごいビビった!』

 

 

 次の瞬間、ドゴーン!という爆音と共にバリケードごと扉を蹴り飛ばしてジャックが入ってきた。吹き飛ばされた食器棚はエヴリンを擦り抜けて(・・・・・・・・・・)壁に激突して残骸が散らばる。やっぱりエヴリン、幽霊なのか?!

 

 

「この家に来るべきじゃなかったんだ坊や」

 

『あっ、だめ!』

 

「があっ!?」

 

 

 俺の顔を鷲掴みにされ無理やり振り返され、スコップで左肩を勢いよく殴られ倒れ込む。そして立ち上がることもできぬまま右足にスコップを振り下ろされ、激痛と共に血が噴き出てえぐられ、一度離したかと思えば勢いよく振り下ろして切断してきやがった。今度は足かよ、クソッたれ!

 

 

「ぐあああああああっ!?」

 

「可哀想にな?逃げ出さなきゃこうなることもなかったんだ」

 

「ぐっ!?」

 

 

 そのまま顔を掴まれ床に叩きつけられる。くっそ…あと少しだったのに、こんなところで終わるのか……いや、まだだ。ミアにチェーンソーで手を斬り落とされてもなんとかなったんだ。

 

 

『イーサンの足が大変なことに!?どうしよう、あーもうジャックの馬鹿…え?』

 

 

 視界の端でオロオロしていたエヴリンが、激痛に耐えながら這いずって斬り落とされた足を掴んだ俺を見て信じられない物を見た様な表情になる。それとは逆に愉しそうに嗤うジャックはポケットから瓶を取り出して足元に置いた。あれは…?

 

 

「ほら、この薬でお前の足も治せるんだぞ。ほらがんばれよ」

 

 

 そんなわけがあるか馬鹿、とは言えなかった。俺の左腕が治っているからだ。なんとかジャックの足元まで這いずり、瓶を手に取る。それを確認するとジャックは去って行った。余裕のつもりか。なんなんだこの野郎。

 

 

『それ私の台詞だよ。少なくとも他の人は身体を斬り落とされたら泣き喚いて発狂死するよ?ホフマンとか』

 

「死んでたまるか…」

 

 

 ミアに襲われてなければそうなってただろうな。足を添えて中の液体をぶっかけると信じられないことが起きた。足が元通りにくっついたのだ。

 

 

「おい嘘だろ」

 

『やだイーサン気持ち悪い』

 

 

 立ち上がれる。元通りに動ける。どうなってるんだ。あとエヴリン、床下に入りながら言う事じゃないだろ。覚えとけこの野郎。

 

 

「おいどうした!さっさと逃げろよ!捕まえてやるぞ?」

 

『多分ジャック、今度は手加減しないよ』

 

 

 廊下の方からスコップを叩きつけながらの怒号が聞こえる。俺はたまらずエヴリンが引っ込んだ床下に飛び込むのだった。ところでエヴリン、お前必要ないくせに四つん這いになるな。少し見えてる。

 

 

『イーサンのえっち!』

 

「不可抗力だ!?」

 

「うるせえぞイーサン!そこで大人しく縮こまってろ!あとで捕まえてやるからなあ!」

 

 

 顔を赤らめたエヴリンからはけだものを見るような目を向けられ、上からは怒鳴られた。解せぬ。




興味津々で知らないことはすぐ尋ねるエヴリン。本編のと違って無知だと言うことがうかがえます。このエヴリンは何者なんでしょうね?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯3‐【保安官補佐】‐

どうも、放仮ごです。どうしても書きたいシーンがあるのでこっちを優先している今日この頃。

どうもわけありっぽい少女との珍道中。楽しんでいただけると幸いです。


 ジャックに鍵を閉められたので、しょうがないのでこのまま中腰で地を這って進むことにする。色々ガラクタが置いてある。土埃具合からだいぶ放置されていることが分かる。猫のケージに子供の車のおもちゃ…アンティークっぽいコイン?はもらっておくか。しかしそれにしても……。

 

 

「家の中より軒下の方がきれいに感じるのはやばいな」

 

『ちゃんと掃除してほしいよね。カビ以外』

 

「???」

 

 

 とんちんかんなことをいうエヴリンに首を傾げながら明かりを頼りに先を急ぐと、とある部屋にある穴に出た。なんでこんな穴空いてるんだ?

 

 

『これは私も知らない。湿気そうなのにね』

 

洗濯部屋(ランドリー)か…」

 

 

 机を中心に洗濯機が複数置いてある。エヴリンを入れても四人家族だろうにこんなに必要か?しかも凄まじい悪臭だ、ろくに洗濯もしてないと見た。入ってきた穴は見た所地震か何かで崩れたのか?放置する理由もわからんが。そういやさっき廊下通った時も階段らしきものが崩れ落ちていたな。なにがあったらああなるんだ。

 

 

「おっ、電話。110番…かからないな。これは内線か?」

 

『そういえばジャックは民宿を開くのが夢だって言ってたかな?』

 

「その名残ってことか。おっ、見取り図だ。今いる建物は本館というらしいな」

 

 

 机の上に載ってた見取り図を手に取り見てみる。……思った以上にでかいな。だが思った通り、あの仕掛け扉の先がホールで玄関があるようだ。

 

 

『あ、ここに薬液とハーブがあるよイーサン』

 

「ナイスだエヴリン。……やっぱりお前、幽霊かなにかなんだな」

 

 

 エヴリンの指差した棚の引き出しを開けるとご丁寧にセットで置いてあったので回復薬にクラフトしながら、音もしなかったことから開くことなく引き出しの中身を言い当てたエヴリンに訝しげな視線を向けると、心外だと言わんばかりに胸を張ってきた。

 

 

『ばれてるっぽいから隠す意味もないかなって。まあそんな感じだよ。この私はジャックたち、ベイカー家には見えない。入れない部屋の偵察とかはできるから存分に使い潰してよ』

 

「やっぱり、虐待で殺されたのが無念なのか?」

 

『うぇ!?…えっと、まあ、無念なのは合ってるけど……うーん、まあそんな感じ』

 

「違うんだな」

 

 

 どうやら隠し事に向いてないらしいエヴリンに溜め息を吐く。悪い奴じゃなさそうだ。ひとまず信用するしかないな。

 

 

『あ、ここにはキーピックがあるみたい』

 

「なあ、頼むから一言言ってからそうしてくれ。心臓に悪い」

 

『えへへ、驚く反応新鮮だからさ』

 

 

 いきなり浮かんだかと思えば傍の小箱に首を突っ込んだエヴリンにビビりながら注意するとエヴリンは悪戯が成功した子供の様な顔を出すとニヘラと笑った。カランカランと音が鳴る小箱を手に取り開けると、何であるのか知らんがキーピックが一個だけ入っていた。

 

 

「これであのテープを…」

 

『それはやめよう。変に歪んだらキーピックとしても使えなくなるよ』

 

「それはたしかに」

 

『このイーサン脳筋だあ』

 

「おい、俺はシステムエンジニアだぞ」

 

『嘘だあ』

 

「殴るぞ」

 

『殴れるものなら?』

 

 

 ムカつく顔で踏ん反り返っているエヴリンにいらっとして手を顔に突っ込むと「ひゃん」と小さな声を上げて部屋の天井ギリギリまで逃げるエヴリン。どうやら感触はあるらしい。

 

 

『やめてよ!?なんか嫌だから!』

 

「悪い悪い。だがちょっとした制裁に使えそうだな」

 

『悪い顔だあ』

 

「なんか言ったか?」

 

『なんでもないとです』

 

「なんだそのなまり」

 

 

 ぼやきながら探索を終えて外に出ようと扉の鍵を開ける。一応耳を当ててみるが何も聞こえない。

 

 

「エヴリン、見て来てくれ」

 

『えー、こんな年端もいかない女の子に…』

 

「ジャックたちには見えないってさっき言ってたろ」

 

『…うー、こわい。言わなきゃよかった…』

 

 

 ぶつぶつ言いながら扉を擦り抜けて外に出るエヴリン。GOサインが出るまで待った方がいいな、また足を斬られたらたまらない。そう思って待っていると、プルルルルルル!と甲高い音が鳴った。さっきの電話か?ジャックに居場所を悟られたらたまらないと咄嗟にすぐ手に取り、おそるおそる耳に当ててみた。

 

 

≪「よくやったね、イーサン」≫

 

 

 聞こえてきたのは廃屋で電話をかけて脱出口を教えてくれたゾイと名乗っていた女性の声。多分味方だ。

 

 

「ゾイだな?あいつらはいったいなんなんだ!?」

 

≪「死にたくなかったら騒がない方がいいよ。黙って聞いて。その屋敷から出ないと」≫

 

「出たいがガレージはテープで塞がれていてホールとやらへの扉は謎の仕掛けで閉まっていてもうどこにもいけないんだ」

 

≪「メインホールから出られる。そのためのアイテムはガレージに置いてあるからどうにかしてガレージに入って」≫

 

「だからテープで塞がれていて…食卓でナイフをかっぱらったけどこれじゃ切れないんだ」

 

≪「あいつらろくに手入れもしてないのか…何か探して。私じゃどうしようもない。あと、腕のはコデックスって言うの」≫

 

「腕?」

 

 

 右腕を見てみる。何もない。左腕を見てみる。今気付いたがなんか黄色い心電図みたいなものが映ったデジタル時計みたいなものが付けられてた。…うわあ、今気付いたけど切り口が痛々しい。ホッチキスかなにかで留められてるのか?無意識に見ないようにしてたんだな…

 

 

≪「失くさないで。大事なものだよ。それで私は貴方の状況を見れる。その表示が緑、黄色、赤の順で不味い状態だってことだから気を付けて。でも、今までの奴等よりは安定しているね」≫

 

「ああ、それなら…」

 

 

 エヴリンのおかげ、と言おうとしたがやめた。唯一かもしれない現実の味方に頭がおかしいやつとか思われたくない。

 

 

≪「それなら?」≫

 

「いや、なんでもない」

 

≪「そう。じゃあ、またね」≫

 

「お、おい待て!?」

 

 

 引き留めるが一方的に切られてしまった。くそっ、もう少し事情を聞きたかったんだが……。すると扉から擦り抜けてエヴリンが戻ってきた。

 

 

『戻ったよイーサン。なにかあった?』

 

「ああ、エヴリン。ゾイって女から連絡があった。特に進展はないが」

 

『ああ、ゾイか……信用していいよ。数少ない、というか唯一と言ってもいいまともなやつだから。それよりイーサン、窓の外から明かりが見えたよ。誰かいるみたい』

 

「それジャックじゃないだろうな…行ってみるか」

 

 

 少しでも音を出さない様に静かに扉を開けて外に出ると、エヴリンの言う通り窓から明かりが。あれは黒人か?あの服は、警察!さっきのブザーのか!たまらず駆け寄って窓に掴みかかる。

 

 

「おい!頼む助けてくれ!」

 

「おわっ、びっくりした。ちょっと落ち着いて。あんた、ここの人間なのか?つまり…住んでいるのか?」

 

「俺が?そうじゃない、違う!そうだったら助けなんて呼ばない!攫われて監禁されてるんだ、助けてくれ」

 

『開口一番助けてくれって言う家の人がいるかね』

 

「そうか。実はこの辺りで失踪事件が起きたと通報があってね。君の言うことが本当なら情報は正しかったのか」

 

「なんだって?いや、それどころじゃない。助けてくれ、この家のイカレた奴等に今にも殺されそうなんだ!」

 

「そうか。あんたもあんまりまともな人間には見えないが…信じよう。じゃあガレージがあるだろ?そこで話そう」

 

『まともな人間には見えないよね。この手見たら』

 

 

 エヴリンが指差して言ってくるが黙ってろ。これ言い方間違えてたら俺まで疑われてたやつだ。

 

 

「待ってくれ保安官。ガレージの扉の制御盤がテープで塞がれていて開けれないんだ。なにか刃物はないか?」

 

「保安官補佐だ。そういうことなら」

 

 

 そう言ってズボンのポケットに手をやり、取り出したそれを窓ごしに渡してくれた。

 

 

「ポケットナイフでいいか?」

 

「ああ、助かる!今ガレージを開ける!」

 

『イーサンは念願のまともな武器を手に入れた!』

 

「まともかどうかは微妙だがな」

 

 

 保安官補佐がガレージの方に向かったのをいいことにぼやく。正直携帯していた銃が欲しかったがさすがにやばいやつだからな。受け取ったそれを手にガレージに向かい、テープを切り裂いてボタンを押すと開いたガレージの中に入ると、既に入ってたらしい保安官補佐が調べているところで俺に気付くと笑顔を向けた。気難しそうだけどいい奴みたいだ。

 

 

「よし、来たな。じゃあまず事情を話して……」

 

『危ない!?』

 

「後ろだ!」

 

「なに?」

 

 

 保安官補佐の後ろで出入り口が閉まって行き、入ってきたジャックの姿に思わず叫ぶと、保安官補佐は咄嗟に拳銃を抜いて後ろを向くがその瞬間、頭部を突き抜けるスコップ。崩れ落ちた保安官補佐を踏みつけて、ジャックは嗤う。

 

 

「逃げられると思っていたのか?おめでたいやつだな、イーサン!」

 

『さすがにドン引き』

 

「くそがっ…!」

 

 

 咄嗟にポケットナイフと、食卓で失敬した手入れされてないナイフを手に取る。やるしかない…!




言葉を選んだおかげでちょっとまともになった保安官補佐、撃沈。某泣けるぜの人はいいました。接近戦は銃よりナイフの方が速い。

ちょくちょく謎めいたことを言うエヴリン。なんなんでしょうね?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯4‐【教習所】‐

どうも、放仮ごです。絶賛台風の直撃を受けながら書いた話となります。昔から悪運は強いから大丈夫、きっと、メイビー。

今回はVSジャック。楽しんでいただけると幸いです。


「おっ、やるか?仕方ない、お前もここで殺してやるとしよう。あの子は悲しむだろうが、それですべて解決だ」

 

 

 言いながらスコップを叩きつけてくるジャックの攻撃を、バックステップで回避。同時に背中に出入り口の扉がぶつかって、さっき同時に閉じ込められたことを確認する。逃がす気はないってか。

 

 

「おらあっ!」

 

『折れたァ!?』

 

「ん?なんかしたかあ?」

 

 

 手にした手入れされてない方のナイフを勢いよく肩目掛けて振り下ろすが、骨に当たった感触がした瞬間ぽきんと折れて刃がころころと転がる。嘘だろ、似た様なナイフでルーカスの手首斬り落としてたとかこいつどんな怪力だ!

 

 

『そもそも人間の頭蓋骨をスコップを貫いている時点でアホみたいな怪力だよ!』

 

「それはそう。があっ!?」

 

 

 スコップが勢いよくスイングされたのを咄嗟に左腕を防御に使い、作業机まで殴り飛ばされる。くっそ、折れたなこれ。いや待て、ランドリーで拾ったハーブと薬液で作っておいた回復薬を…。

 

 

『うわあ、見事に腫れてるねえ。真っ赤だあ』

 

「独り言喋っている暇があるのか?おい、今は俺が遊んでやってるんだぞ!虫けらみたいに踏み潰してやるぞ。マーガレットに聞かれちゃまずいがな?へっへっへ」

 

 

 いや、ジャックを野放しにしとくのも不味いか。手持ちは……一応食器棚から持って来た手入れされてないフォークがあった!

 

 

「クソッたれ!」

 

「馬鹿め、そんなの当たるか…ぐおおっ!?」

 

 

 効かないのは百も承知。奴の頭上の照明目掛けてフォークをぶん投げる。まっすぐ飛んで行ったフォークは電球を破壊して火花の滝がジャックに降りかかる。よし、今のうちに回復だ。回復薬を患部にぶっかけると見る見るうちに痛みが引いていく。痛くない。

 

 

「よし」

 

『よしじゃないと思う。あ、それ……』

 

「うん?」

 

 

 エヴリンが何かに気付いたようで指差した方向・・作業机の上を見ると、そこには見覚えのある鍵があった。俺の車の鍵!すかさず手に取って置かれていた俺の車の運転席に向かう。

 

 

「でかした!」

 

『いやー、それほどでもー』

 

「おいおい、やってくれたなイィイイイサァアアアン!」

 

 

 頭に手をやって照れてるエヴリンを尻目にいざ乗り込もうとすると、ジャックが火の粉の滝を振り払って迫って来ていた。その呼び方やめろ怖いから!

 

 

「クソッたれ!」

 

「があっ!?」

 

『それは痛い』

 

 

 咄嗟に開けたドアの勢いで殴りつけ、怯ませる。鼻を押さえてフラフラと後退するジャック。でも悠長に鍵を回してる余裕がないなこれ。

 

 

『来るよイーサン!』

 

「ポケットナイフでどこまでやれるか……無理にでも保安官補佐から銃をもらっておくべきだった………待てよ?」

 

 

 

 あることに思い至り目を背けて確認してなかった保安官補佐の遺体を確認する。投げ出された右手の傍に、オートマチックのハンドガンが転がっていた。占めた。だが、ジャックの向こう側か…いや、怯んでいる今なら!

 

 

「うおぉおおおおっ!」」

 

「くそっ、いてえ…鼻が曲がったじゃねえか……ぬおおああああっ!?」

 

『悪質タックルかな』

 

 

 さすがにポケットナイフまでぽっきり折れたらたまらないので、渾身の体当たりで右肩を奴の鳩尾に叩き込み、大きく転倒した隙を突いて走り拳銃を奪取。ついでに足元まで転がってきたスコップを手に取り構える。これで形勢逆転だこの野郎!

 

 

「がはっ……やりやがったなイーサンこの野郎。俺のスコップを返せ」

 

『やっちゃえイーサン!』

 

「誰が返すか。さすがにこれならお前もタダじゃすまないだろう……!」

 

 

 もう殺してでも脱出することを決意してスコップを大きく振りかぶり、ジャックの頭部に叩きつける。ゴキャッと嫌な音がして、首が歪に曲がったジャックが再び倒れ伏す。緊張が崩れて両手に握っていたスコップが滑り落ちからんころんと転がる。

 

 

「やったのか…?」

 

『まだだよイーサン。スコップを回収して離れて!』

 

 

 エヴリンの警告の声を聞いても咄嗟に動けなかった。目の前の光景が信じられなかったからだ。明らかに死んでいる角度、というか頭部が背中側にぶらんとぶら下がってるのに起き上がるなんて、悪い夢だと思いたかった。だが未だに痛みが残る腕が現実だと嫌でも教えてくれる。ジャックは手探りで自分の頭を掴むとよっと軽い掛け声と共に首を戻し、ゴキゴキと音を鳴らして角度を調整、にやりと笑う。

 

 

「ぷはあ。さすがに息ができないと苦しいなあ、イーサーン?」

 

『うわあ。やっぱりジャック一番適合してるんだ……下手したらイーサン以上…?』

 

「バケモノかよ、クソッたれ!」

 

「お仲間じゃないか、仲良くしようぜイィイイイサァアアアン!」

 

『こわいこわいこわいこわいこわい!』

 

「御免こうむる!」

 

 

 目をガン開きにしながらスコップを拾い上げて突進してくる咄嗟に構えたハンドガンを三連射。左肩、右胸、眉間に炸裂し怯むが効いた気がしない。たまらず車の運転席に入ってドアを閉め、エヴリンも隣に座った(?)のを見届けながらシートベルトを取り付けると鍵を回す。

 

 

「早く早く、早く動け…!」

 

「いやお前じゃない。俺が運転してやる」

 

『ギャーッ!?びっくりしたなあもう!?』

 

 

 次の瞬間、ドアウィンドウが突き破られて首を掴まれる。くそっ、負けるかあ!

 

 

「俺の愛車に…なにしやがる!?」

 

「がっ!?」

 

 

 咄嗟にジャックの腕に噛み付き、噛みちぎるとさすがに怯んで離れて行く。ぺっと肉片を吐きだしてもう一度回すとエンジンがかかった。よし!

 

 

『およそ人間じゃない反撃方法だったね』

 

「うるさい。行くぞおらあ!」

 

「がっ!?いいぞ!いいぞ!もっとこい!」

 

 

 そのままフラフラと前に出てきたジャックに向けてアクセルを踏み込み車体で体当たり。そのまま壁に叩きつけるがジャックは嗤って挑発してくる。お望みとあらばもっと喰らわせてやる。

 

 

『いいぞもっとやれー!』

 

「喰らえ!」

 

「があっ!?このクソ野郎が」

 

 

 そう言い捨てて轢かれたまま姿を消すジャック。…あれ?どこに…まさか車体の下に?

 

 

「エヴリン、ちょっと見て来てくれ」

 

『やだよ!?最悪スプラッタ映像見ることになるのやだよ!?シャイニングを見る百倍嫌だよ!?』

 

「何でシャイニング…?」

 

「運転荒いぞイーサン。俺が教えてやる」

 

「『!?』」

 

 

 泣き喚いて拒否するエヴリンに首を傾げていると、車の屋根を引っぺがされて、慌てて俺の膝まで転がり込んできたエヴリンの代わりに助手席に乗り込みハンドルを握ってくるジャック。くそっ、主導権を奪われた!

 

 

「何なんだお前は!?」

 

『私の席なのにー!』

 

「いい車を持ってるじゃないか。見る影もないがな?」

 

 

 そのまま俺の足まで掴んでアクセルを踏みっぱなしにさせてガレージ内を爆走させるジャック。次々と正面から激突して煙を噴いてきた。

 

 

「どこで運転を覚えた?ガレージ内を走ることは習わなかったのか?」

 

「くそっ!そんなもん習う奴いねえよ!?」

 

『やめっ、やめっ、迂闊に私も降りれないからー!?』

 

 

 俺にしがみ付いて涙目で振り回されるエヴリンを横目に、さっきの衝突で突き出た鉄骨に向けてハンドルを切ると俺の足を押さえる手を動かしてバックさせるジャック。何をしようとしているのかすぐ分かった。

 

 

「おーいいねえ、一緒にドライブを楽しもうぜ!」

 

「おい、待て、やめろ!?」

 

「もう終わりにしよう、俺達で」

 

『…え?ってそれどころじゃなかった、イーサン!レバー!』

 

「!」

 

 

 勢いよくアクセルを踏ませて鉄骨に向けて爆走するジャック。咄嗟にエヴリンに言われた通り、外側についているレバーに手をかけると、座席シートが倒れて寝そべるような体勢となり、次の瞬間激突。シートベルトを取り外して、外れたドアからなんとか転がり落ちて確認するとジャックは側頭部を鉄骨にぶつけて目を見開いたまま沈黙していた。傷が痛々しい。

 

 

『いやー、危なかったね』

 

「お前は無事には見えないが」

 

 

 一方、エヴリンは思いっきり鉄骨が頭を突きぬけて血を流している状態で満足げに笑っていた。物理は効かないんじゃなかったのか!?と驚いていると、浮かぶように鉄骨から離れると元通りの姿に戻るエヴリン。

 

 

『驚いた?驚いた?ちょっとだけなら姿を変えることが……みゃー!?』

 

「ああ驚いたよ。これはほんのお礼だクソガキめ」

 

 

 どやっと踏ん反り返ってたのでその顔に腕を突き抜けさせると悶絶するエヴリン。立ち上がり離れてから一息ついていると、ガソリンが引火したのか炎上する我が愛車。ローンも残ってたんだが…

 

 

『何年ローン?』

 

「13年…」

 

『うわあ、それは悲しいね』

 

「悲しんでくれて俺の愛車も報われるだろうよ…!?」

 

 

 適当にエヴリンに応えていると、炎上する車から誰かが降りてくる。よろよろと歩くその姿は燃えていて判別が難しいが、背丈からしてジャックだった。

 

 

『ぎゃー!でめんと―!?』

 

「くそっ…」

 

 

 咄嗟に銃を構えるも、次の瞬間車が爆発してその衝撃をもろに喰らい転倒するジャック。今度こそやったか?と身構えていると、再び起き上がって俺の拳銃を掴んでくる黒焦げジャック。

 

 

「何なんだお前は!?」

 

『しつこすぎるよ!?』

 

「いいかしっかり見ておけよ。今から面白い物を見せてやる」

 

 

 そう言って顎に銃口を突き付けたジャックは自ら引き金を引いて頭部を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。

 

 

「なんなんだクソッたれ!!!」

 

『……ごめんねジャック』

 

 

 悪態を吐く俺の横で、何故か申し訳なさそうにジャックを見下ろすエヴリンが妙に印象に残った。




結構オリジナル味のある戦いとなりました。ジャックが原作以上にバケモノになったけどまあ許容範囲内、のはず。

清涼剤エヴリン。鋭い人なら今回で正体が分かった人もいるかも?

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♯5‐【理解不能】‐

どうも、放仮ごです。作者仲間からとあるアイデアをいただいて、当初のプロットよりいいものができつつあります。ご期待あれ。とりあえずDLCのローズ編(仮)が来るまでにある程度進めたい。

今回は探索再び。少しだけ核心を突いてみる。楽しんでいただけると幸いです。


「くそっ、さっきの爆発でスイッチがイカれたみたいだな。どうやって出れば……」

 

 

 炎上する車の傍で途方に暮れる。出口が塞がれ脱出不可能。傍に転がってるジャックの死体とさっきから様子がおかしいエヴリンがいるから寂しくないが…ジャックの死体と心中とか嫌だぞ!?

 

 

『扉を破れそうなものを探してみれば?』

 

「そうだな…」

 

 

 エヴリンに言われて棚を漁ることにする。保安官補佐のハンドガンと口径があってるハンドガンの弾に、ハーブと薬液が出てきた。とりあえずクラフトしたが、なんだ?この回復薬はこの家ではお手軽に作れる秘伝の薬みたいな扱いなのか?しかしゾイの言ってた扉を開けるためのアイテムとやらが見当たらないな。そんなへんてこな物ならすぐわかると思ったが。

 

 

「ガレージなら掘削ドリルとかないのか……」

 

『え。逆に聞くけどイーサンの家のガレージには掘削ドリルあるの?天元突破しちゃうの?』

 

「いや、ないな」

 

『この家が変人だらけだからってあると決めつけるのはやめよう?』

 

 

 思いのほか正論を言われてぐうの音も出ない。だめだ、ここを訪れてからなんか思考がバグってる気がする。

 

 

『とりあえず別の抜け道がないか探してくるね』

 

「頼んだ」

 

 

 ふわーっと浮かんでスススッと横にスライドしてガレージの扉を擦り抜けて行くエヴリン。なんか妙に慣れてるな。幽霊生活長いのか?

 

 

『私がエヴリンだ、なんて』

 

「おわっ、びっくりした」

 

 

 暇だったのでポケットナイフをクルクル回して手に馴染ませながら少し待っていると、上からヒューッ、ストッと目の前にスーパーヒーロー着地してきたエヴリンにビビって仰け反る。アイアンマンのファンなのか?

 

 

「なにか見つけたのか?」

 

『ん』

 

 

 俺の問いかけに何も言わずに上を指差すエヴリン。そこを向いてみると、梯子が天井から吊り下げてかけてあった。上は盲点だったな。

 

 

「だがこれじゃあ手が届かないぞ…」

 

『その手にあるものはなに?それとも節穴なの?』

 

「誰が節穴だ…って、ああ」

 

 

 言われて手にしたハンドガンを上に向けて発砲。留め金に当てて梯子を下ろすとハンドガンを腰に挟んで昇って行く。

 

 

『この先に、ガレージの入り口に続く穴があるよ』

 

「お前本当に便利だな」

 

『まあ慣れてるし。クソデカオバサンみたいな奴もいないから楽勝だよ』

 

「クソデカオバサン?…あのマーガレットって奴そんなにデカかったか?」

 

『あ、いや、こっちの話。あ、これじゃない?』

 

 

 そう言ってエヴリンが指差したのは首のない金の馬の彫刻?が付けられた写真立て。手に取って裏を見てみるとネジで固定されていた。半獣のプレートとでも呼ぶか、を手に入れた。写真立てが飾られていた、壁代わりにされていた棚をどかして、飛び降りるとエヴリンの言ってた通りガレージの入り口に降り立った。

 

 

「よっと」

 

『アシクビヲクジキマシター?』

 

「いや、これぐらいの高さなら……なんかのネタか?」

 

『元ネタは私も知らない。でも普通、システムエンジニアみたいな陰キャはこの高さを飛び降りたら足をくじくと思うよ?』

 

「ほっとけ」

 

 

 エヴリンに悪態を吐きながら、ジャックのいなくなった廊下を歩く。まだマーガレットとルーカスが残っているが、あいつらならワンチャン組み伏せることはできるはずだから恐れるに足らずだ。

 

 

「この先がホールか。…よく見たら、半獣のプレートと合わせてケンタウロスなんだな」

 

『あんなところに保管してたけどどうやって移動してるんだろうね?』

 

「お前は知らないのか?」

 

『見たことないからね』

 

「ここにずっと住んでいる地縛霊なのにか?」

 

『じばっ!?誰が地縛霊じゃい!』

 

「地縛霊じゃないならなんでここから離れないんだよ」

 

『ぐっ…』

 

 

 半獣のプレートをはめこみ妙にこっているカラクリが動くのを確認しながら問いかけると、言いよどむエヴリン。…言えないこと、か。

 

 

『えっと、わたしは…実は、ね?』

 

「もういいさ。お前は俺の味方なんだろ?」

 

『え?うん、それは間違いない!この私は、イーサンの味方だよ!それは信じて!』

 

「なら問題ない。無理に話す必要はないさ」

 

『イーサン……やっぱり、ヒーローみたいな人だね』

 

「俺はヒーローって柄じゃないさ。…妻にも手をかけた夫の風上にも置けない男だ」

 

『そんなことは…!』

 

 

 エヴリンがなにか反論しようとすると、ちょうど扉が開き終って中の様子が見える。エヴリンと視線を合わせて頷き、無言で咄嗟に銃を構えながらおそるおそる入る。静かだ。誰もいない。そして凄まじく広い。これは手がかりを調べるのは大変そうだ。

 

 

「うん?なんだこの趣味の悪いおもちゃ…僕を撃ってよ!だ…?」

 

『あ、それ私の飾った奴。……趣味悪いかな?』

 

「い、いや独特なセンスだと思うぞ?」

 

『無理にフォローしなくてもいいよ…』

 

 

 置いてあった不気味な人形は生前(?)のエヴリンが置いた物らしく、ズーンと分かりやすく項垂れているエヴリンを引き連れて玄関らしき扉に向かう。しかし鍵がかかっていて、見てみれば半獣のプレートみたいにケルベロスの彫刻の頭部部分がなくなっていた。

 

 

「おいおい、まさか今度は三つの首を揃えろって…?」

 

『そうみたい?趣味悪いね、不便そう』

 

「まったくだな」

 

 

 すると玄関扉の傍の机に置かれた電話が鳴り響く。マーガレットたちに悟られたくないために素早く手に取り耳に当てる。興味あるのかエヴリンも反対側に浮かんで聞き耳を立て、聞こえてきたのはゾイの声だった。

 

 

≪「父さんに虐められた?」≫

 

「父親なのか?」

 

 

 受話器の向こう側のゾイに問いかけながらもエヴリンの顔を見るとコクコクと頷いていた。知ってたなら教えろよな。知ったところでだが。

 

 

≪「昔はね。今は親でもなんでもない」≫

 

「…残念だが、奴はもう死んだ」

 

 

 ゾイの声から寂しさを感じて、思わず謝る。こんなことを言っているがまだ情はあるのだろう。すると聞こえてきたのは予想外の笑い声。

 

 

≪「ふふっ、あんたならできるかもね」≫

 

「え?何のことだ?アイツは確かに、火花の滝に飲まして、スコップで首を折って、車で何度も轢いて、鉄骨で頭を潰して、爆発に吹っ飛ばされて、炎上して、頭部を撃ち抜いて、やっと死んだはずだぞ?」

 

『うわあ』

 

≪「………あんた、思ってたよりたくましいね」≫

 

 

 とりあえず父親の最期を伝えてやらないのも酷だろうと思い包み隠さず全部話したらエヴリンにはドン引きした顔をされ、ゾイの声もなんか遠のいてた。解せぬ。

 

 

≪「……まあいいや。やってもらいたいことがあるんだけど今は話せない。鍵がいるかもしれないけど、とにかくこの屋敷から出て」≫

 

「鍵ってこのあからさまになくなっているケルベロスの首のことか?」

 

≪「……ごめん、その家、トレヴァーとかいう変人建築家に父さんが改造してもらったらしくて……変な仕掛けがあるから気を付けて」≫

 

「お、おう。わかった、なんとかしてみる」

 

≪「また連絡するね」≫

 

 

 そう言って電話を切るゾイ。エヴリンも言ってたな、変な仕掛けについて。そんな意を込めてエヴリンを見るとなんか照れだした。何なんだお前。

 

 

『な、なに?私が可愛いことに今更気付いた?』

 

「いや可愛いのは認めるがそうじゃなくて仕掛けの話だ」

 

『か、かわわっ!?え、あ、うん。こっち』

 

 

 プシューと真っ赤な顔から湯気を出しながらふわふわと浮かんで案内してくれるエヴリン。ホールの一角に、謎としか言いようがない仕掛けがあった。

 

 

「なんだ、この…なに?」

 

『本当になんなんだろうね』

 

 

 呆れた声を出すエヴリンに同意するしかない。ライトに照らされた、何の変哲もない台。だがよく見れば光で影ができないように綿密な調整がされた透明なアクリルの台がなにかを置け、と言わんばかりに設置してあった。ライトが照らされる方を見ると、何故かそこだけ白抜きされている翼を広げて舞い上がる鷹の絵が飾ってあった。

 

 

「この仕掛けもよくわからんがなんだこの絵。特注か?」

 

『影ができない様に調整されているの無駄なこだわりを感じる…』

 

「で、これなにをすればいいんだ?」

 

『前も言ったけど、影絵』

 

「なんて?」

 

『シャドウアート。か・げ・え』

 

「マジかよ」

 

 

 わかった、理解したら駄目な奴だな、うん。




エヴリン(悪の親玉)とゾイ(耐え抜いてきた者)さえドン引きさせるイーサンの暴れっぷり。この男実は歴代でトップクラスに常識が欠如してると思ってます。一番の常識人?ベロニカのスティーブ一択。

ちゃくちゃくと口を滑らせるエヴリン。相変わらずポンコツですこの子。

ベイカー邸って冷静になったら理解不能なギミックが多いよね。さすがトレヴァーさん。リサ・トレヴァーもエヴリンと同じくらい救いたい女の子の一人です。というか救いたいキャラが多すぎる。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯6‐【一発だけなら誤射かもしれない】‐

どうも、放仮ごです。久しぶりにランキングに掲載されてました。最大20位と大健闘、ありがとうございます!さあもっともっとエヴリンの可愛さを知るのだ……。

今回はホール探索の続き。口を滑らせまくります。楽しんでいただけると幸いです。


 「大空の狩人」というタイトルの絵を見ながら五分ぐらい、ライトの前で奮闘する。どうにかこうにかアイテム無しで起動できないかと手で鳥を作ったり、その辺に落ちてるものを上手く乗せて誤魔化そうとして見たが、ぴったり鷹に合わせないと駄目らしくうんともすんともしなかった。へんてこなギミックの癖して細かいな!?

 

 

『ねえ、無駄だってば。早く先に進もうよ。じゃないと…』

 

「じゃないとどうしたっていうんだ?」

 

『………ルーカスとかが来るかもよ?』

 

「あいつが来たぐらいでもう驚かないさ」

 

『まあルーカスなら恐くないよね。私は苦手だけど』

 

「なんでだ?あんなひょろいの」

 

『一番怖いから』

 

「……そうかあ?」

 

 

 今のところ、変におちゃらけて凶暴な父親に手首を切断された可哀想な息子でしかないんだが。むしろ話せばまだわかりそうだったが。

 

 

『この家で一番の危険人物だから気を付けてねイーサン』

 

「見つけたら邂逅一番発砲すればいいんだな」

 

『そう、その意気!』

 

 

 ……割と常識人なエヴリンが苦言を呈することなくむしろ勧めてくるってことは相当ヤバいらしい。マジで気をつけよう。

 

 

「それで、三つ首の犬のレリーフを探すんだったか」

 

『本来の目的を思い出してくれて私嬉しいよ』

 

「それで、場所はわかるのか?」

 

『……いや、私も知らない間に隠されているものがわかるわけがないじゃん?』

 

「なんだ今の間は」

 

 

 問い詰めると冷や汗をダラダラ流すエヴリン。なんでかはわからんが知ってるなコイツ。隠し事が下手すぎる。

 

 

『…えっと、一個はリビングにあるよ』

 

「リビングって…食卓の横の?」

 

『あと一個は忘れたけどあと地下室だっけ…』

 

「俺が来てから隠したはずなのに覚えてないのか?」

 

『だから、私は見てないんだってば。教えてもらっただけ』

 

「誰に?」

 

『イーサン』

 

「???」

 

 

 あ、やべと口元を押さえるエヴリンを尻目に首を傾げる。俺に教えてもらったってなんだ。

 

 

『あー、あんなところにショットガンがあるよイーサン!』

 

「お前誤魔化し方下手だな。まあいいか」

 

 

 エヴリンの指差した方向の小部屋に入ると、上半身だけの銅像が抱えたショットガンがあった。ジャックは元軍人かなにかか?手に取ると、ガションという音と共になにかの仕掛けが動く音がして、小部屋の扉が閉じられ鍵が閉められてしまう。

 

 

「閉じ込められた!?」

 

『ゴリスから聞いた洋館の仕掛けみたいだあ。天井が落ちてこなくてよかったね?』

 

「何の話だ。…戻せばいいのか?」

 

 

 ショットガンを銅像に戻すとまた仕掛けが動く音がして扉が開く。なるほどな、代わりのものをおけってことか。

 

 

『似た様な物を探すしかないね?』

 

「たしか玄関の傍にポールハンガーがあったな…」

 

『何をするつもり?』

 

「これを削って重さを一緒にして代わりにする」

 

『ええ…』

 

 

 エヴリンがドン引きするが、代わりのものがあるという確証もない。いや、エヴリンがこう言うってことはどこかにあるんだろうが今は少しでも武器が欲しい。玄関の傍のポールハンガーを手に取り、スタンドを外して重さを確認。さっきのショットガンを持った時の重さを思い返して、ポケットナイフを取り出し削って行く。

 

 

『いやあの、時間…』

 

「ジャックは死んだんだ。マーガレットやルーカスの声も聞こえないしいくらでも時間はあるだろう」

 

『なんでそんなに安心できるの…?』

 

「まあ一人なら焦るだろうが、お前がいるからな」

 

『まーた私のせいかあ…』

 

 

 空中で丸くなって頭を抱えるエヴリンを横目にポールハンガーを削り終える。…なんか槍みたいになったが明らかにショットガンの方がいいな。ショットガンを銅像から取り上げ、代わりにポールハンガー槍を持たせると扉が開いた。

 

 

「よし」

 

『よしじゃないよ』

 

「なに言ってるんだ、槍が実に似合ってるじゃないか。我ながら渾身の出来だ」

 

『この銅像さんもショットガンの代わりに槍みたいに改造されたポールハンガーを持たされてええっ…ってどん引きしてるよ』

 

「銅像がそんなこと考えるわけないだろ。可愛い奴だな」

 

『可愛いって言うなあ!』

 

 

 また顔を赤くして丸くなったもののふわふわついてくるエヴリンを尻目にショットガンを手にしてホールの探索を進める。蠍の彫刻が付いた扉に、外れる柱時計の振り子…あとは上に続く吹き抜けの階段か。

 

 

「二階に行くのは後にして、一度リビングに戻ってケルベロスのレリーフを探してみるか」

 

『英断かなあ』

 

「なんでだ?」

 

『あとでわかるよ』

 

 

 エヴリンの言葉に首を傾げながらも来た道を戻っていく。そして粉々に破壊された机が痛々しい食卓の奥に向かうと、テレビが置いてあったと思われるスペースと、振り子がない時計があった。

 

 

「うん?これにさっきの振り子を付ければいいのか?」

 

『多分そう』

 

「多分ってなんだお前が言ったんだろ」

 

『実際に見たの初めてなんだもん』

 

「??」

 

 

 首を傾げながら振り子を取り付けると、ボーン!ボーン!と五月蠅い音が鳴り響いて振り子が内部にひっこんでいき、代わりにケルベロスのレリーフが出てきた。

 

 

「…ええ、なに、この…ええ?」

 

『考えるな、感じろ』

 

「燃えよドラゴンなんてよく知ってるな。俺の好きな映画だ」

 

『よく見たからね』

 

「ジャックの趣味か?いい趣味してるな、あんなじゃなければ話せたかもな」

 

『そうだねー』

 

 

 棒読み気味のエヴリンに違和感を感じながらもケルベロスのレリーフを手に取り、ポケットに入れる。…さすがに荷物が多くなってきたな。

 

 

「なんかリュックかなにか知らないか?」

 

『うーん、ランドリーにないかな?』

 

「さすがに知らないよな」

 

 

 ランドリーに向かい、さっきは調べてなかった洗濯機の中を見てみると、古びた子供用のピンク色のリュックサックがあった。ZOE BAKERと名前が書かれている。

 

 

「ゾイの子供の頃のか?」

 

『みたいだね。なんで洗濯機の中に………あっ』

 

「どうした?」

 

『いや、前におさがりが欲しいってねだってマーガレットに洗ってもらったんだけど気分じゃなくなったからそのままだったなって…』

 

「お前のせいかよ。ありがたいから使わせてもらうが」

 

 

 そう言ってレリーフやら銃弾やらを入れて右肩に担ぐ。ハンドガンは腰に、ポケットナイフはシャツの胸ポケットに、ショットガンは左手で持つ。小さいから両肩は無理だが片方だけならそんなに邪魔にならなそうだ。

 

 

「よし、行くぞ」

 

『ちょっと滑稽だよイーサン』

 

「うるさい」

 

 

 そしてホールまで戻ると吹き抜けの上を見上げる。通路があって、両側に扉があるみたいだ。

 

 

「…気は進まないけど上るかあ」

 

『もうそこしかいけないしね』

 

「ショットガンで鍵を壊すのは駄目か?」

 

『それで開かなくなったら洒落にならないからやめようね』

 

「弾もそんなにないしな」

 

『違う、そうじゃない』

 

 

 エヴリンに諭されながら階段を上り、ショットガンを構える。すると、そこには例の車椅子に乗った老婆がいた。なにか思う前にショットガンを下ろす。……いや、撃つ気はなかったがなんで俺は今下ろした?

 

 

「危ない危ない…さすがに襲われてもないのに撃つのは駄目だよな」

 

『……一発ぐらいなら誤射かもしれないよ?』

 

「確信犯は誤射とは言わん」

 

『…やっぱり駄目かあ』

 

 

 なにかに不満げなエヴリンを尻目に、老婆の前で手を振ってみる。息はして身じろいではいるが反応はない。目は開いてるんだがな。相当なお年らしい。

 

 

「あの老婆はジャックの母親なのか?それともマーガレットの?」

 

『どっちでもないかなあ』

 

「???親戚の老婆ってことか…」

 

 

 そんなことを話しながら地図を見てみる。夫婦の寝室と…二階の廊下に続いているのか。寝室の方はなんかの彫刻があるな。下の蠍の奴と同じでなんか鍵がいると見た。一応念のため、部屋の前に置かれている棚の引き出しを開いてみると、予想外のものが置いてあった。

 

 

『あ、待ってそれは…』

 

「写真…?これは…エヴリンか?お前、写真なんだからもう少し愛想良くしろよ」

 

『わ、私写真は嫌いだから…』

 

「なんでだ?」

 

『嫌な記憶しかないから…』

 

 

 何か嫌なことを思い出したのか顔を暗くしているエヴリンを横目に写真の裏を見てみる。【05/02/2014 エヴリン】2014年5月2日…3年前か。この頃には生きてたんだな。エヴリンが本気で嫌がるので写真を棚の中に戻し二階の廊下への扉を開いて先を進む。そんな俺の後ろで、エヴリンが老婆を睨みつけていたことには俺は気付いていなかった

 

 




老婆に銃を向けれないのはイーサンの無意識に働きかけてたんだろうなって。このエヴリン、隠す気があるのだろうか。

ショットガンを原作より早くゲット。ポールハンガーあんなにあるから有効活用してもいいじゃない。イーサン地味に器用である。銅像もドン引き。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯7‐【復活】‐

どうも、放仮ごです。推しの実況者がベロニカ実況始めたので狂喜乱舞しながらテンション爆上がりで書きました。

今回は本館二階での珍道中。楽しんでいただけると幸いです。


 二階の廊下に出ると、今までと違い閑静な小奇麗な空間が広がっていた。地図を見る。二階にあるのは子供部屋、バスルーム、娯楽室…と娯楽室から行ける祖母の部屋、か。あの老婆の部屋なのか?一番近いのは子供部屋…はまた変な鍵で閉まってるっぽいな。外側の通路を行ってみるか。

 

 

『あ、イーサン!明かりだよ!保安官さんが増援を呼んでくれていたのかも!』

 

「保安官補佐な。…残念ながら違うらしい」

 

 

 エヴリンが外で動く明かりを見てはしゃぐが、よく見てみればマーガレットだった。庭を徘徊しているのか、こりゃ玄関から出れても厄介だ。とりあえず見つからない様に手近な娯楽室に入ると、明るく広い部屋が広がっていた。バーの様な机に、灰色の砂嵐が流れたまま付けっぱなしのテレビ…ビリヤード台まであるな。ビリヤード台は椅子が引っくり返されて置かれていて、プレイはできなそうだ。この部屋でケルベロスのレリーフが見つかるといいが。とりあえず手近な小さな机の上に置いてあったメモを見てみる。

 

 

「【マーガレットへ。捕まえたヒッピー野郎は、いつも通りホールから加工場に運び込んでおけ】…か。お世辞にも普通の夫婦の会話じゃないな、狂ってやがる」

 

『ヒッピー……トラヴィスのことかな』

 

「誰だそれ?」

 

『イーサンみたいに攫われて家族になるかもしれなかった人』

 

「…どうなったかは聞かない方がよさそうだ」

 

 

 一応地図を見て加工場とやらを探す。地下の一室みたいだな。そう言えばエヴリンがケルベロスのレリーフは地下室にあると言ってたな。嫌でも行くことになりそうだ。だが地図によればあの鍵のかかった蠍の彫刻の扉から行けるみたいだが……どこかにあるのか?

 

 

「祖母の部屋は…蠍の彫刻ってことは下の扉と同じ鍵がいるのか。……ガラス割って開けたら駄目か?」

 

『さすがにガラスを割った音が聞こえたらマーガレットが来ると思う。知らないけど』

 

「知らんのかい。それは……やめとくか」

 

 

 あの女、恐ろしさならここの家族で一番だからな。怒らせたら駄目だと言うのはよくわかる。踵を返して今度はバーの様な机に向かう。これは…ビデオか?題名は……!?

 

 

「【ミア】だと…!?」

 

『っ!えっと……ミアって誰?』

 

「俺の妻だ。三年前に行方不明になって、ここで再会したけど何故か襲ってきて、咄嗟に撃ち殺して……」

 

『な、なんでそうなったかはわからないんだ?じゃあ何かのヒントになるかもね』

 

「そうだな。見てみよう」

 

 

 傍にあったテレビに備え付けられているビデオデッキに挿入。すると表示されたのは【JUL.19,2017 09:28 PM】【Mia Winters】【Old House】【Stf452 kp‐26mx Njtl】【“Mia”】【Ethan,please watch this.】【S‐VHS】という文字群の後に映し出される焦躁しきったミアの顔だった。どうやら手に持てるタイプのビデオカメラで撮影しているらしい。

 

 

「2017年7月19日午後9時28分………俺が気を失って半日ぐらいだとしたら今日の、しかもミアを撃った後の日付じゃないか!?ミアは生きているのか…?」

 

『ピンピンしてるね』

 

≪「イーサン。もしこれを見たら…もう私がなにを言っても信じてもらえないだろうけど…あんなことがあったし、ひどいことをした」≫

 

「…あの後、のミアなのかこれは」

 

『なにされたの?』

 

「左手をドライバーで磔にされた後、チェーンソーで手首を切断された上にそのまま襲いかかられた」

 

『……マ、じゃない。ミアを恨んでる?』

 

「まさか。なにかあったんじゃないかと心配しているし、咄嗟のこととはいえ撃ってしまって申し訳ないことをしたとも思ってるさ」

 

『聖人君子すぎない?』

 

 

 なんかエヴリンがそわそわしている。どうしたんだ?と首を傾げている間にもビデオは進んでいく。

 

 

≪「でも…これだけは信じて。あれは私じゃないの。何が起きたのかはわからないけど、伝えたいことが沢山あるのよ…」≫

 

『あ…そうか、この時ミアは…』

 

≪「そこにいたのかい!肝を冷やしたじゃないかお嬢ちゃん!」≫

 

 

 するとそこに現れたのはカンテラを持ったマーガレット。…もしかしてこの映っている場所は、あの庭の先なのか?そして始まるのはこの建物とは違う古びた建物を舞台にした追走劇。途中で、謎のオブジェを使った、一階のあの謎仕掛けと同じ影絵ギミックで蜘蛛を形作り仕掛け扉が開くシーンもあった。他にもあるのか…(呆れ)そして最終的に逃げ込んだ先でミアらしき女性とエヴリンらしき少女が映った写真を見つけた所で捕まり、ドアップのマーガレットの顔に心底ビビる中、ミアはカメラを置いて引き摺られて去って行ったところでビデオは終わった。

 

 

「ミア…どうなっているんだ?」

 

『あの子に選ばれた、とかマーガレットが言ってたね』

 

「マーガレットたちを操る黒幕がいるのか?そいつがミアをあんな目に…許せん」

 

『うぇっ!?…そ、そーみたいだねー?』

 

「なんでそっぽを向くんだお前。…そう言えばあの写真、ミアとお前か?まさか知り合いなのか?」

 

『知り合いと言うか何というか…』

 

「わかった。ミアの仕事でシッターしていた子供がお前なんだな?」

 

『え?あ、うん。それはそう』

 

 

 ミアがベビーシッターのような仕事、とやらをしていたのは知っていたがエヴリンがその子供だったのか。しかし、このビデオ誰が回収して何のためにここに置いてたんだろうか。…あとでマーガレットが見つけてここに置いていったのかね。まあいい、ミアが生きていると知れただけでも収穫だ。

 

 

「ミアを見つけて一緒に脱出する。目的は決まったな」

 

『そうだね。ちゃんと助けて脱出しよう。私も全力で手伝うよ』

 

「妙にやる気だな?」

 

『私はお姉ちゃんだからね』

 

「妹がいるのか?」

 

『いるよ。私なんかと違ってすっごく可愛い天使みたいな子!』

 

 

 満面の笑みで自慢する様に手を広げて笑うエヴリンになんとなくほっこりする。家族を愛しているんだな。

 

 

「へえ、会ってみたいなその子に」

 

『うん。きっと会えるよ。必ずね』

 

「きっとなのか必ずなのかどっちだよ」

 

 

 笑い合い、探索を再開する。エヴリンと手分けして怪しいところがないか探していると、引き出しの中に手記があるのを見つけた。ジャックの日記のようだ。

 

 

「【10/2 予報では、でかい嵐が近づいているらしい。数年前の嵐では、増水で後始末に苦労した。屋根や窓を補強しておいたほうが良さそうだ。ルーカスに手伝わせるとするか。】……さっきのメモと違ってごく普通の家族みたいな文章だな。【10/9 ようやく水が引いた。本館は無事だったが、旧館はひどく傷んでしまった。湿地にでかい船が漂着した、とルーカスが騒いでいる。本当なら郡に通報する必要がある。明日にでも様子を見に行くとしよう。】ここで日記が終わっている…ということはこの後に何かが起こったってことか?それに旧館…Old House?ミアが逃げ回っていた場所が旧館か…無駄に広い家だな。農場って話だったか」

 

 

 情報は得れたので引き出しに戻って探索を続ける。するとエヴリンが妙に分厚い本を見つけた。手に取って開いてみると、二つ目の犬の頭部を模ったレリーフを見つけた。さっそくリュックに入れる。

 

 

「よし、あとは地下室にあるって言う一つで最後だな」

 

『やったね!でも地下室に行くには鍵がいるみたいだけど…』

 

「……もうこの部屋に探せそうな場所はないし、バスルームに行ってみるか」

 

 

 入ってきた扉とは逆の扉から出て、道なりに廊下を進むと薄暗いバスルームについた。中央にある浴槽に黒カビが湧いている汚い水が張ってある。周りを粗方見てみたが他になにもなさそうなので栓を抜いてみると、凄い勢いで水が抜けて行き、中から何か出てきた。

 

 

「…なんだこれ?オブジェ?…スタチュエットか?」

 

『あ、こっちから見ると鳥っぽく見えるよ!』

 

「なんだって?本当だ、これがあの影絵ギミックに必要なアイテムか」

 

 

 木製のスタチュエットをリュックに入れ、あの謎ギミックをようやく動かせると少しワクワクしながらバスルームから出ようとする。完全に油断していた俺が扉を開けた先で出くわしたのは、血塗れの顔面の口で大きく三日月を描いた半裸の大男だった。手には棘付きのローラーが握られ、驚いて動けない俺の首を掴まれ片手で持ち上げられる。

 

 

「なっ、ジャック!?」

 

『ギャー!?出たー!?それに思ってたより速いー!』

 

「どうだ驚いたか?あんなもんでくたばると思われたなら心外だ。俺はこの家の家長、大黒柱だ。そう簡単には折れないさ」

 

「そうかよ…ならこいつはどうだ!」

 

「ぐおあああっ!?」

 

 

 咄嗟に大きく右足を振りかぶり、勢いよく金的。化け物になっていても男の象徴は急所なのか絶叫と共に手放され浴槽に落とされる。汚いなクソッたれ。

 

 

『私にはわからないけどすごく痛そう…』

 

「痛そうじゃないぞ。すごく痛い、だ」

 

「よくもやりやがったなイーサン!」

 

 

 両手で握られ頭上に振りかぶった棘付きローラーが勢いよく振り下ろされ、咄嗟に飛び退くと同時に浴槽が粉々に粉砕されて積み上がっていた埃が舞い上がり、俺とエヴリンは出口に転がり込んで、埃で蔓延したバスルーム目掛けて手にしたハンドガンを発砲した。

 

 

「さっさと昇天して地獄に帰れジャック」

 

 

 そして粉塵爆発がバスルームを吹き飛ばし、爆炎がジャックを飲み込んだ。

 

 

「よし、これで死ぬとも思えないから逃げるぞ」

 

『鬼畜の所業過ぎてちょっと引く。…悪いことは言わないから本当に成仏してください』

 

 

 さっさと去る中、エヴリンが手を合わせて拝んでいたのが印象的だった。…エヴリン、仏教徒だったのか。




あの体勢、ホラーじゃなかったらこの方法で脱出できるよねって。

ビデオは実際誰が回収して何のために置いたんですかね?今回はマーガレットが、にしましたけどやっぱりルーカスなんかな。撮影機材は間違いなくルーカスなんだけども。

ミアに複雑な感情を抱くエヴリン。そう簡単には割り切れない。

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♯8‐【破天荒】‐

どうも、放仮ごです。このイーサンが原作よりアグレッシブなのはエヴリンという精神安定剤がいるせいです。落ち着いて対処できるようになったらこうなった(汗)

今回は復活したジャックとの追いかけっこ。楽しんでいただけると幸いです。


「こんなことしても無駄だぁ!」

 

「なっ!?」

 

『ターミネーターでももうちょっと怯むんだけど!?』

 

 

 爆炎から飛び出し突進してくるジャック。嘘だろ粉塵爆発でビクともしてないってのか!?咄嗟にショットガンを放つがよろめくだけで意にも介していない。

 

 

「ショットガンも効かないのかよ!?」

 

「俺達にあの子が力をくれたんだよ。そしてその力はいつも俺の中に流れてる。分かるだろ?俺達家族もあの子の力がもたらした。故に、俺は不死身だあ!」

 

 

 バキバキバキと言う音を背中に受けながら娯楽室に逃げ込みビリヤード台の裏に隠れる。エヴリンも恐ろしいのか横で頭を抱えてガタガタと震えていた。

 

 

「どういうことかって言うとな?お前は終わりだ!」

 

 

 そんな声と共に扉が水平に吹っ飛んでビリヤード台に激突して粉々に粉砕され震え上がる。

 

 

『イーサンが余計なことするからあ!』

 

「こいつでも喰らえ!」

 

 

 ビリヤード台に乗せられていた椅子を手に取り、勢いよくジャックの頭に叩きつける。しかし椅子が砕け散っただけでジャックはビクともしない。

 

 

「俺の家の備品を片っ端から壊すとはいい度胸だな?そこから動くんじゃないぞ!」

 

『器物損壊罪で訴えられたら間違いなく負けるね』

 

「あんたも壊しているだろうが!?くそっ…」

 

 

 ジリジリとジャックから離れる様に後退していくが棘付きローラーを振り回すジャックに追い込まれていく。なにか、なにかこいつに大ダメージを与えられるもの…咄嗟に後ろに回した右手がなにかに触れて振り向く。ビデオデッキ…そうだ。

 

 

「おらあ!」

 

「んなもん効くか!ふざけてるのか!」

 

 

 咄嗟にコードを外して投げつけたビデオデッキを片手で払うジャック。だが足が止まった。今だ!

 

 

「こいつはどうだあ!」

 

「なっ…ぐあぁああああああっ!?」

 

『これはひどい』

 

 

 ビデオデッキに気を取られた隙にテレビを担ぎ上げ、スクリーンからジャックの頭に叩きつけるとコードが繋がったままだったからか電流に襲われビシバシと音を立てて激しくスパークしながら痙攣するジャックの体。ふらついたかと思えばビターンとバーカウンターを破壊しながら背中から転倒した。さすがに気絶した様だ。

 

 

「よし!」

 

『死なないとわかったらすっごく容赦なくなったね』

 

「とりあえず一階に逃げるぞ。影絵やりたいがさすがにその前に復活するか…どっか隠れられる場所…」

 

『ランドリーの穴かな?』

 

「それしかないか」

 

 

 扉が壊れた出入り口から廊下に出て、ホールに出ると階段を下りて一階に戻ると来た道を戻ってランドリーまで逆走する。

 

 

「…ここならさすがに大丈夫…だよな?」

 

『たぶん…?』

 

「それよりエヴリン、お前ジャックが生きてるって知ってたな?」

 

『知ってたけどいつ復活するかまではわからないから急かしてたよ』

 

「確かに頭部を撃ち抜いてたはずだ。ラクーンシティのゾンビとか中国のジュアヴォとかも頭を破壊されれば死んだはずだ」

 

『ジュアヴォ?』

 

「2013年に中国に現れた目が沢山ある喋るゾンビみたいなもんだ。ダメージを受けた部位が変異して手強くなるらしいがBSAAに殲滅された、詳しくは知らん」

 

『BSAAねえ…』

 

 

 なんか意味深な表情を浮かべるエヴリン。BSAAを知ってるのか?すると復活したのかジャックの怒鳴り声が聞こえてきた。地図を確認する。

 

 

「すぐに見つけてやるからなクソッたれのイーサン!見つけた後はハヤニエにしてやる!」

 

『ハヤニエってなあに?』

 

「モズとかが捕えた獲物を樹木のとがった枝や有刺鉄線のとげなど鋭利な物に突き刺しておく習性のことだな。簡単に言えば磔だ。…足音は聞こえないが、上にいるのか?」

 

『見てくるね』

 

「ああ、頼む」

 

 

 エヴリンがふわふわと浮かびながら扉を擦り抜けて出て行く。デジャヴだが安心に越したことはない。しかしどうやって無力化する?炎上しても頭を撃ちぬいても潰しても、爆発に巻き込んでも感電させても復活してくる。どうやったら死ぬんだアイツ。壁によりかかって逆立ちしながら考えているとエヴリンが戻ってきた。

 

 

『戻って来たけど…なにしてるのイーサン?』

 

「いや…逆立ちしたらなんかいい考え浮かぶかなって」

 

『特捜戦隊のセンちゃんじゃないんだから…廊下とホールまで見てきたけどジャックはいないよ』

 

「ということは上で探してるのか。今の内だな」

 

 

 外を確認しながら扉をゆっくりと開けてランドリーを後にする。ショットガンを構えながら廊下を進んでいると、轟音と共に壁を拳がぶち抜いて来てビビる中、壁を崩しながら黒焦げで髪がちりちりしているジャックが現れた。

 

 

「なっ!?」

 

『ギャー!?出たー!?びっくり系嫌いー!』

 

「驚いたか?もう少しうまくやらんとな、イーサン!崩れた階段を使えば先回りは可能だ。逃げたって無駄だぞ!」

 

「腐っても家主か…よ!」

 

 

 ショットガンを顔面にぶちかましてよろめかせる。そのまま右肩でショルダータックルを喰らわせて転倒させ、奴の顔の上で足を振りかぶる。

 

 

「ここに連れてくるときのお返しだ!」

 

「ごがっ!?」

 

『成人男性の全体重で頭部を踏みつけられるとか普通なら死んでる奴』

 

「俺は生きてたから大丈夫だ」

 

『お、おう』

 

 

 ゴキャッって嫌な音がしたがどうせ死なないだろう。走ってホールまで急ぎ、影絵ギミックまで急ぐと透明な台に木製のスタチュエットを乗せてシルエットに合うように調整すると、どういう仕組みなのか絵に鷹の絵が浮き上がってガコンという音と共に壁が開いてギリギリ通れる隙間が現れた。

 

 

「…本当にどういう仕組みなんだ…」

 

『トレヴァーさんとかいう人、金持ちなんだろうなあ』

 

 

 ぼやきながら隙間を通り抜けると家の裏側の様な場所に出て、先にはぶち抜かれたような大穴があった。中に入ると鹿の剥製と暖炉が目立つ部屋に出る。なんだここ?冷蔵庫や机にソファもあるし休憩室か?

 

 

『鹿さんだ、可愛い』

 

「奥には双頭のカラスの彫刻の扉…か、クソッ。うん、これは…精神刺激薬?」

 

 

 机の上に置いてあった錠剤の入れ物を手に取る。なになに…説明によると、多数の興奮物質を配合した薬品。一時的に五感を研ぎ澄まして隠されたものの場所が分かる…?胡散臭いな。

 

 

『明らかに危ないお薬だからやめよう?』

 

「そうだな。荷物になるだけだ」

 

 

 エヴリンが本気で止めてくるので元あった場所に戻す。こいつ、明らかに俺の体を労わってるんだよなあ。なんでだ?

 

 

「えーと、観葉植物にハーブが、冷蔵庫の中には薬液か…弾にも回復薬にもできるな。いただいておこう」

 

『薬液って冷やしたらいいことあるのかな?』

 

「さあな。俺は理系じゃないからわからん」

 

『自称システムエンジニアなのに?』

 

「自称じゃないし俺は機械に詳しいだけだ」

 

 

 奥にはむき出しの洋式トイレがあったがなにもなかった。よくわからない部屋だったな。トイレの傍の扉から次の部屋に進む。こっちのルートで地下室までいけるといいが。最悪ショットガンで鍵を壊してだな。

 

 

『あ、イーサン、これ』

 

「これは写真…?それもいくつも。これら全て奴等の犠牲者だってのか。…よーし」

 

『よーしじゃないよなにする気?』

 

「いや、この人数分、奴の股間を蹴り上げてやろうかと」

 

『やめたげてよお!?』

 

「冗談だ。…ん?」

 

 

 その部屋の一角に目をやると、ホワイトボードが置かれていて下手くそな女の子と家と蝶の絵が描かれてあった。子供が書いたのか…?いや、よく見たらMiaと書かれている。ミアを書いたのか…?

 

 

『あ、あんまり見ないで!』

 

「お前が書いたのか?」

 

『こ、子供だからしょうがないじゃん!?家中に落書きするぐらいが子供らしいでしょ!?ローズマリーもそうだっ…………』

 

「ローズマリー?」

 

『…忘れて』

 

 

 真っ赤な顔を押さえて羞恥にぷしゅーと煙を上げているエヴリンがふわふわ浮かんで使い物にならなくなったので、ホワイトボードに張り付けられていたメモを手に取る。

 

 

「なになに…【6/14 旅行中の夫婦。旦那は成功。12人目。嫁は駄目だった。廃棄】【7/7 女子大生三人。全部腐ってやがった。ルーカスの阿呆め】【8/13 浮浪者の爺さん。3日で転化。13人目】……これと似たようなものをあの廃屋で見たな。保安官補佐が来ていたことといい、結構な数が攫われたのか」

 

 

 そして恐らく全員駄目だった。ゾイの言ってたことからそこまでは推察できる。わからないのは成功だと言う「転化」だな。エヴリン……役に立ちそうにないな。まあ浮きながらついては来るからこのまま行くか。次の部屋の扉を開ける。瞬間感じたのは、異質。今までもなく真っ黒な部屋に出た。真っ暗ではない、真っ黒だ。これは…黒カビか?

 

 

「なんだ…?」

 

『ううっ…えっ、あっ。イーサン、構えて!』

 

「なに、を…」

 

 

 エヴリンに言われるなりショットガンを構えた瞬間、それは現れた。全身真っ黒な植物の蔦の束が人の形を模したような、顔には目と思わしき黒い穴のようなものが空いていて、手と口には鋭い爪と牙を持つ悍ましい姿をした怪物だった。

 

 

「う、うおおおおおっ!?」

 

 

 たまらず発砲するも外れてしまったのでひとつ前の部屋に戻ると、扉を閉めてなかったせいか入ってくる怪物。咄嗟にきょろきょろと見渡してそれを発見、怪物が突進してきたところにホワイトボードを倒して下敷きにする。

 

 

「ギエェエエエッ!!」

 

「ビビったな、この野郎!」

 

 

 そのままホワイトボードを踏み抜いて頭部を踏み潰して破壊すると怪物は沈黙した。

 

 

「はあ、はあ…なんだったんだクソッたれ」

 

『モールデッドって言うんだけど……イーサン銃いらなくない?』

 

「下手くそだって言いたいんだろうが一般人に傭兵並みの腕前を求められても困るぞ」

 

『一般人…?』

 

「なにか言いたげだな?」

 

『みぎゃー!?』

 

 

 生意気だったので顔に手を擦り抜けさせてお仕置きする。ベイカー家以外にこんな怪物もいるのか、マジかよクソッたれ。




現状ジャックの被害
・急所に弾丸を受ける
・スコップを奪われて首を折られる
・ドアを叩きつけられて鼻が曲がる
・火の粉の滝をふりかけられる
・ショルダータックルを鳩尾に受ける×2
・車で轢かれまくる
・鉄骨で頭部が潰れる(自爆)
・爆発をもろに受け炎上
・頭部を零距離で撃ちぬく(自爆)
・容赦ない金的
・粉塵爆発をもろに受ける
・ショットガンをもろに受ける
・椅子を頭から叩きつけられる
・ビデオデッキをぶつけられる
・テレビを頭から叩きつけられ感電
・意趣返しに頭部を全体重で踏みつけられる

不死身だからってこのイーサン破天荒にやりたい放題である。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯9‐【死んでしまうとは情けない】‐

どうも、放仮ごです。ついにUAが 500000行きましたありがとうございます!これからも頑張らせていただきます!

今回は衝撃の展開。楽しんでいただけると幸いです。


 エヴリン曰くモールデッドとやらが出てきた部屋を抜けると、大きな黒カビの塊が目立つ廊下に出た。なんだこれ。

 

 

「エヴリン、なんか知ってるか?」

 

『知ってるけど言いたくない…でも触らない方がいいよ。モールデッドはそこから出てくる』

 

「なるほどな」

 

 

 そのまま進むと、ホールの蠍の扉の裏側に出たらしい。鍵がないので曲がり道を進むと、地下室への階段と安全そうな小部屋があったので小部屋に入る。

 

 

『ここは安全そうだね』

 

「ああ、ありがたい」

 

 

 安心できる明るい小部屋。なにかないかと物色すると、引き出しの中からメモが出てきた。

 

 

「【コートニーへ。ヤツらは俺を探している。今なら君だけでも逃げ出せるだろう。犬の頭のレリーフを探すんだ。ヤツらは外への扉をあれで開けている。1つは地下の解体室にあるのを見た。あれが脱出のカギだ】…最後の一つは解体室らしいが何時の話だこれ」

 

『コートニー、コートニー…覚えがないなあ』

 

「毎回似たようなことをしてるって考えた方がよさそうだな。解体室は……地下の最奥部か」

 

 

 地図を見て目的地を確認する。しかし解体室…元農家なら牛とかを解体する部屋なんだろうが……冷蔵庫のメモやホワイトボードのメモを見る限り、牛とかじゃないんだろうな…。

 

 

「よーし」

 

『今度は何?イーサンが「よーし」って言い出したら嫌な予感しかしないんだけど?』

 

「いや。今度会ったらバラバラにしてやろうと思って」

 

『なにを!?』

 

「冗談だ」

 

『冗談の顔じゃないよ!?』

 

 

 …どうやら怒りが顔に出てたらしい。エヴリンを不安にさせるし気を付けよう。クローゼットの中にハンドガンの弾があった。…あたりかしこに弾が落ちている辺り、ジャックは軍人ぽいな。

 

 

「よし、地下に行くか」

 

『正直行きたくないでござる』

 

「なら一人で待つか?」

 

『それは嫌』

 

 

 怖がりながらもついてくるエヴリンと共に地下への階段を下りて行き扉を開く。二手に分かれてるな…近くの扉は施錠されているか。ん?足音……。

 

 

「ギエアァアア…」

 

「またお前か!」

 

 

 曲がり角から出てきたのはモールデッドとかいう黒づくめの怪物。人の姿をしているゾンビだったら躊躇はしたが人間じゃない見た目なら容赦はしないぞ!

 

 

「ギエァアアッ!」

 

「ふん!どらあっ!」

 

「ギエアァアッ!?」

 

 

 モールデッドの爪の一撃をショットガンを盾に防御、ショットガンを背中のリュックに納めて側頭部を左手で掴み、右手でポケットから抜いて握ったハンドガンを口にブチ込んで発砲。頭部を爆散させて転倒させる。

 

 

「よし」

 

『情け容赦なさすぎない?』

 

「こんなバケモノ、ジャックと同じで容赦する理由がない」

 

『えー、不細工で可愛いと思うけどなあ………』

 

「可愛くはないな」

 

 

 ぶーたれるエヴリンを尻目に先に進む。そのまま見つけた部屋に入るとやっぱりモールデッドがいて。ショットガンをバットの様に構えて思いっきり殴り飛ばして転倒したところに顔に銃口を突きつけて引き金を引いて沈黙させた。

 

 

「ここは…焼却炉か?まるで遺体安置室だな」

 

『物々しいね。あ、メモあったよ』

 

「どれどれ…【ルーカスへ。カップルの男のほうは逃げ出さないよう一番左の焼却炉に閉じ込めておいた。「転化」が終わった頃に取り出すこと。】…上のメモを書いた奴のことか。捕まったみたいだな。【開ける手順は知ってるな?覚え方は「3つのA」と…「手」がどうとかっていう。女はお前の好きにしろ】……クソだなあいつら」

 

『コートニーって人はルーカスに……ごめんなさい…』

 

「お前が謝る事じゃないだろ。しかしなんだよ3つのAとか手とかって。また変な仕掛けか?」

 

 

 振り返る。六つの焼却炉。一部にはネームタグの様な物が貼られ、血の手形の様なものがついているものがある。一番左の焼却炉には鍵がかけられ、トラヴィスの名が……トラヴィスって前にも聞いたな。他のは空っぽみたいだ。一番右を開けてみると「tamara」のネームタグが内側に。三つのA、手………あー。

 

 

「暗号ならもっとわかりにくいものにしろ」

 

『わからなかったら意味がないし?』

 

 

 ネームタグにAが三つ書かれたもの…「tamara」の一番右を開けてから、血の手形が付いている焼却炉を開けるとガコン!プシュー!という音と共に一番左の焼却炉が開いて煙を排出する。そして少しだけ開いた扉をこじ開けて出てきたのは、右腕が大きなブレードになっているモールデッド。さしずめブレード・モールデッドか。…いや待てよ。

 

 

「トラヴィスの入ってたはずの場所から出てきたってことは…こいつら元は人間か!?」

 

『…うん、そうだよ』

 

「ゾンビと同じ類か…があ!?」

 

 

 なんとか距離を取ろうとするがそんなに広い部屋でもないので一瞬で距離を詰められ、右足にブレードを受けてしまい転倒する。激痛が走って見てみれば、切断された右足首から下が転がっていた。

 

 

『キャー!?またイーサンの足が酷い目にー!?』

 

「またかよクソッたれ!?」

 

『来てる、来てるよイーサン!?』

 

「マジかよ…!?」

 

 

 地べたを這いずる俺の頭部に目掛けて振り下ろされるブレード。ショットガンを構える間もなく、頭部が貫かれ崩れ落ちる。

 

 

「うわぁあああああっ!?」

 

『そんな、駄目ー!!!』

 

 

 エヴリンの絶叫と共に俺の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『起きてイーサン!イーサン!…えーと、こんなときなんて言うんだっけ?そうだ。おお、死んでしまうとは情けない!さすればそなたにもう一度、機会を与えよう!なんてね?』

 

「んんっ…」

 

『おーきーてーよー!』

 

「はっ!?」

 

 

 意識が覚醒する。あれ、俺は確か頭部を貫かれて……右脚も切断されて…?どこも怪我して、ない?焼却炉も開かれてない。

 

 

「…あれ?俺、寝てた?」

 

『どうしたのイーサン、ボーっとして。謎は解けたんでしょ、早く開けようよ』

 

「あ、ああ…」

 

 

 夢か?嫌にリアルな……エヴリンに急かされるまま夢と同じ手順で一番左の焼却炉を開けて身構えると出てきたのは、夢で俺を殺した張本人であるブレード・モールデッド。ここまでは同じだ。俺は逃げ道のない奥まで逃げてしまって死んでしまった。なら…!

 

 

「ギエァアアッ!」

 

「この…!」

 

 

 逃げないまま、振るわれるブレードを咄嗟に回避。机が真っ二つに斬り裂かれて廃材が転がる。咄嗟にショットガンを手にしてぶちかますが、ブレードの腕で防がれてしまった。ならばと廃材を手に取り、奴の右膝目掛けて振りかぶり尖っている部分を突き刺した。

 

 

「ギエアァアアアッ!?」

 

「膝治療だ!」

 

『すごい痛そう』

 

 

 さらに廃材を蹴りつけて抉り込ませ、ブレード・モールデッドは悶絶。ガードが外れたので顔面にショットガンを突きつけて発射。頭部を粉砕して崩れ落ちさせる。

 

 

「暫定トラヴィス、ゆっくり休め」

 

『最期の記憶が膝治療とか嫌だなあ』

 

「…頭部を刺されるよりはよくないか?」

 

『それはそうだね。でもジャックやモールデッドの頭部を踏み潰してたイーサンが言える台詞じゃないと思う』

 

「…そうだな」

 

 

 なんだったんださっきのは。エヴリンは何も知らなそうだし……予知夢かなにかか?

 

 

『あ、イーサン。トラヴィスの入ってた焼却炉になんか落ちてるよ!』

 

「なんだって?」

 

 

 エヴリンに言われて覗いてみると、解体室の鍵が落ちていた。

 

 

「なるほど…死ぬまで握ってたのか」

 

『これで目的地に行けるね』

 

「ああ。先を急ぐか」

 

 

 部屋の外に出て廊下を進み、突き当りのついたてをどかして次の部屋に入る。ここは…調理とかできそうな設備だが、まさかな。

 

 

「お、加工場の見取り図か。ありがたい。…見た限りさっきの鍵がかかった部屋の裏に出たみたいだ。開けておこう」

 

『次来た時に楽だね』

 

「二度と来たくないがな。っと」

 

 

 ダクトに入ってたのか上から落ちてくるモールデッド。地べたに叩きつけられたので、何を思うことなく全体重で頭部をストンプ。踏み潰す。

 

 

『もっと驚くところだと思う…』

 

「いや、あまりに無防備だったから…」




イーサンマストダイ。7は死にゲー。はっきりわかんだね。まさかまさかのコンティニュー。一体どういうことなのか?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯10‐【蠍の鍵】‐

どうも、放仮ごです。今回は以前拙作FGO/TADで書いたシーンがあったので少し楽でした。楽しんでいただけると幸いです。


~前回のとあるシーンのエヴリン~

「また死んだ!もう!私のばかばかばかばか!また辿らないと!」(海上全力移動中)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、これ。蠍だよ!』

 

「なんだって?」

 

 

 探索をしているとエヴリンがなにか見つけたらしく、言われて机の上に乗せられたそれを手に取る。確かに蠍が模られている。これでホールとも行き来できるようになったか。あと二階の娯楽室から祖母の部屋にもいけるか?

 

 

『鍵を二つも手に入れて順調だね』

 

「…一度奥を調べてから二階に戻るか」

 

 

 その部屋の奥まで進むも蛇の彫刻が模られた扉が施錠されていたので引き返し、開錠しておいたショートカットの扉から一階への階段を上り、蠍の鍵を使ってホールに出ると、そこにはジャックが棘付きローラーを手に待ち構えていた。

 

 

「そこにいたか!元気だったか?!」

 

「ああ、元気だよ!」

 

 

 咄嗟に何も握ってない右手を振りかぶりストレートパンチ。虚を突かれたらしいジャックはもろに顔面に受けて殴り飛ばされ転倒する。

 

 

「よし!今だ!」

 

『これでシステムエンジニア名乗るんだ…』

 

「テレビだって叩けば直る、即ちシステムエンジニアは物理も強い!Q.E.D.だ!」

 

『違うと思うなあ!』

 

 

 エヴリンのツッコミを背に受けながらホールの階段を駆け上がり二階の廊下に出て娯楽室に急ぐ。

 

 

「はははっ、やってくれるなイーサン!よくこう言うだろ?家族になれば死ぬまで一緒だとな!」

 

「死んでもごめんだ!?」

 

 

 すぐ復活したらしいジャックがなにやらほざいているが無視して壊された扉から娯楽室に入る。散乱している扉や椅子、テレビの残骸で足の踏み場が少ない。

 

 

「散らかってるな…掃除ぐらいしろよ」

 

『散らかしたのイーサンだけどね』

 

「そうだった」

 

 

 ここでジャックに反撃しまくったんだった。衝撃的なことがあったせいですっかり頭から抜け落ちていた。……なにがあったんだっけ?首を傾げながら蠍の鍵を使い祖母の部屋に入る。

 

 

「ここがあの老婆の部屋…なのか?」

 

『祖母ってあの人しかいないしねー。…ふふっ、いい気味』

 

「なんか言ったか?」

 

『なにもー?』

 

 

 入るなり見つけたのは壊れたショットガン。…ふむ。ちょうどいい長さだな。

 

 

『何でスイングしてるの?』

 

「よーし」

 

『イーサンのよーしは大体嫌な予感しかしないんだけど!?』

 

 

 壊れたショットガンをリュックに入れて、エヴリンを無視しながら部屋を漁ると何故かベッドの上にショットガンの弾、棚の引き出しに下だけの埃を被った入れ歯を見つけた。…無言でポケットに入れる。

 

 

『なにをしたいのかもう想像つくけどやめたげてよ!?』

 

「知ってるか?歯ってのは人体で最も硬い部位で、物を噛み切るための前歯または門歯、とくに硬い物を噛み切るための糸切り歯または犬歯、噛み切ったものを磨り潰すための奥歯または臼歯の3種類に分類されていて、表面は非常に硬い白いエナメル質で、内部は歯の全体を支える象牙質と歯を組織に固定するセメント質で構成されている。弱点は「酸」だが逆に言えば酸以外のものは通用しない、ダイヤモンドでなければ削れないくらい硬い組織であり、ちゃんと歯磨きし続ければとんでもない硬さを発揮するんだ」

 

『詳しい説明勉強になるけどそれ入れ歯だからね!?』

 

「似た様なもんだろ」

 

 

 そのまま机の上のメモを読んでみる。ジャックがすぐにでも来るかもしれない、時間がないから早足だ。

 

 

「【もう中庭を何時間も追い回すのは御免だ。次から、客が逃げた時は犬のレリーフを隠して本館から出すな。隠す場所も決めておく。リビングルームの振り子時計、娯楽室の本、地下の解体室だ】…俺はエヴリンから教えてもらったがここでわかったのか」

 

『これで大幅ショートカットだ!』

 

「誰の真似だ?」

 

『イーサンだよ』

 

「??? 俺がそんなこと言うわけないだろ」

 

 

 エヴリンに首を傾げながら別の棚も調べると、またメモが出てきた。これは…?

 

 

「【ミセス・ベイカーへ】…あの老婆のことか?【お加減はいかがでしょうか?前回の来院から、長く受診されていないようですね。レントゲン撮影結果を分析したところ、頭部の影は、ある種の「真菌」…カビに似た構造でした。幻覚や幻聴とも関係があるかもしれません。もし何らかの寄生菌が原因ならすぐに除去しないと手遅れになりかねません。この手紙を読まれたらすぐ来院し精密検査を受けるよう、医師としてお勧めいたします。ダルヴェイ総合病院 クロフォード・ラング】…カビ、ねえ」

 

 

 エヴリンを見る。黙ってる。やはり核心的なことらしい。モールデッドといい、カビがカギなのは確かだ。問いただそうとすると外側の扉が開く音が聞こえて咄嗟に口を押えて黙り込む。

 

 

「ほら出ておいで、大きな大きな子猫ちゃんよ。お前のネコパンチを喰らったぐらいじゃ俺はビクともせんぞ?」

 

「上等だ!」

 

『なんで出る必要があるのかなあ!?』

 

 

 祖母の部屋の前まで差し掛かった時を狙って扉を開けてジャックの顔に激突させ悶絶させると外に出る。そのまま鼻を押さえているジャック目掛けて、右手に入れ歯を握って思いっきり叩き付けた。

 

 

「入れ歯パンチ!」

 

「グアアアアアッ!?」

 

『これはひどい』

 

 

 投げつけた入れ歯を顔面に喰らったジャックはそのまま引っくり返り、俺は扉を閉めて蠍の鍵を手に施錠。さらにビリヤード台を腰を入れて押して扉に押し付け、そのまま踵を返して娯楽室を後にする。

 

 

「よし、今の内だ!」

 

『時々頭よくなるの脳筋だなあ』

 

 

 廊下を駆け抜け、ホールに降りていく途中でドゴーンという爆音が轟いた。あの程度の足止めは意味をなさなかったらしい。蠍の扉を潜り抜けて地下に戻るとショートカットの扉を開けて、ついたての直前にあった扉に入ると異様な光景があった。

 

 

「なんだここ?」

 

『浴槽が二つ……上にもバスルームあったよね?なんのためにあるの…?』

 

「…まさかと思うが死体を洗うためじゃないだろうな…」

 

『あ、それは全然気にしてないから違うと思う』

 

「お前アイツらに詳しいのか詳しくないのかどっちだよ」

 

 

 あーでもないこーでもないとエヴリンと二人で話し合っていると、答えが出てきた。モールデッドが二体、どこからともなく湧き出てきたのだ。

 

 

『わー!?びっくりした!』

 

「…なあおい」

 

『なに?』

 

「モールデッドって名前からして…あいつら、カビか?」

 

『そうだね』

 

「…それでわかった。ここ、モールデッドを生み出しやすくするために湿気らせる場所だ」

 

『おー、なるほど!』

 

 

 ポンと手を打ち納得するエヴリン。いやモールデッドがカビだって知ってるお前は思いついてしかるべきだろう。こいつ、実はあまり他人に興味ないな?

 

 

「強行突破だ行くぞこの野郎!」

 

『いけいけイーサン!死ななきゃなんでもいいや!(やけくそ)』

 

 

 爪を振りかぶってきた目の前のモールデッドを相手に咄嗟に構えたハンドガンの引き金を引き、目と思われる部分を吹き飛ばして怯ませるとすかさず両肩に連射。両腕がもげて転倒しじたばたともがくその頭部にナイフを突き立てて粉砕すると、他のは放っておいて奥に逃げる。解体室の鍵はあるんだ、次のボイラー室とやらも抜けて辿り着けば勝ちだ、そうだろう!?

 

 

「お前等に構っている暇はないんだよ、クソッたれ!」

 

『ライカンの二の舞だあ』

 

 

 エヴリンがわけわからないことを言ってるので無視して、ボイラー室で群がるモールデッドを、壊れたショットガンを握りバットの様に振り抜いて殴り飛ばしていく。よし、この扉だな!奥の扉までたどり着くと解体室の鍵を開けると、部屋は棚で二つに分けられていて。向こう側に殺された保安官補佐の死体が何故か壁に吊るされているのが見えた。悪趣味な奴らめ。

 

 

『あ、あったよ最後の!』

 

「…!?」

 

 

 目の前の棚にケルベロスのレリーフが置かれている事に気付くも、すぐに声を潜める。向こう側の扉からジャックが現れてケルベロスのレリーフを手に取ったからだ。まだこちらには気付いてない。

 

 

「……俺が父親のはずだった。だがあの子はアイツを父親にすると言いだした。それは駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ……」

 

「(あの子?)」

 

 

 口を手で押さえながら独り言の様に、言い聞かせる様に呟き始めたその言葉に疑問を抱く。その言い方だと、まるで子供のこと…?

 

 

「奴を見つけ出して……存分に思い知らせてやる」

 

 

 そう言ってレリーフを手にジャックは死体保管庫と地図に書かれた部屋への扉を開けてその場を去った。

 

 

『どうやって先回りしてるんだろうね?』

 

「それも気になるが……エヴリン。あの子って誰だ?」

 

『ゾイの事じゃない?』

 

「……そうか」

 

 

 エヴリンが何か隠しているのは間違いないらしい。…とにかく、先に進むか。




このイーサン、脳筋である。

(多分)マーガレットの入れ歯で殴られた上に閉じ込められたジャック、ブチ切れる。次回ひとまずの決着かな?

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♯11‐【デスマッチ】‐

どうも、放仮ごです。ようやくここまで来れました。今回を書きたいがために始めたと言っても過言じゃない。

今回はイーサンVSジャック第二回戦。伝説のチェーンソーデスマッチです。楽しんでいただけると幸いです。


「…なあ」

 

『なあに?』

 

 

 死体保管庫への道を進みながら、傍らで浮かんでついて来るエヴリンに問いかける。おっ、植木鉢。持っていこう。

 

 

「保安官補佐の死体、カビに(まみ)れていた様に見えたのは気のせいか?」

 

『気のせいじゃないよ。えぐれた頭部から広がってたね』

 

「…ああやってモールデッドになるのか」

 

 

 ああはなりたくないな。ふと、左手を見る。ホッチキスで止められただけの雑な処置。それでも動く、指の先まで。血の通いも感じる。さすがに医療従事者ではないが、この程度で治るなんておかしいのはわかる。足だってそうだ。どんなに凄い薬でもすぐ治るのはおかしい。まるで首が折れても頭を撃ちぬいても生きていたジャックの様な…。

 

 

『イーサン、ついたよ』

 

「っ!…なんだ、ここ……」

 

 

 ショットガンの弾やハーブなどのアイテムを拾いながら死体保管庫に入ると視界に入ったのは、檻に囲まれ、中心に角材が積まれた柱が、肉袋がいくつもぶら下がって設置された異様な空間。サムライミ版スパイダーマン1で見たことある金網デスマッチのような…。

 

 

『どう考えても落とされる奴』

 

「いや、わかってて落とされる馬鹿はいないだろ…」

 

 

 言いながら階段を上り、その空間を見下ろせる通路を進むと解体室に繋がる扉が開けっ放しであったので一応調べるべく入る。

 

 

『うわあ』

 

「…ひどいな」

 

 

 出入り口横の壁に吊り下げられた保安官補佐の死体は黒カビに塗れ、頭の大部分は抉れて失っていた。あの戦いがあったガレージからいつのまに移動させたのだろうか、…いや、思い出してみればジャックに踏み荒らされた後いつの間にか消えていた。戦いの最中に何かに回収されたのだろうか。

 

 

「…特にめぼしい物は…薬液ぐらいか。さっきのハーブと組み合わせておこう」

 

『思ったより冷静だね?』

 

「いや?怒りが沸々と湧きあがってるさ」

 

 

 今度会ったら殴るじゃすまさん。決着つけたいなら好都合だ、ボコボコにしてやる。死体保管庫に戻り、吊り下げられた肉袋をどかしながら探索していると、例の檻に囲まれた空間の真上にケルベロスのレリーフが有刺鉄線で括りつけられて吊り下げられていた。

 

 

「…明らかに罠だな」

 

『明らかに罠だねえ』

 

「後ろ、頼んだ」

 

『まかせて』

 

 

 ケルベロスのレリーフを手に取ろうと有刺鉄線の棘が付いてない部分をつまんで上手く剥がして手に取ると、背後に気配。

 

 

『イーサン!』

 

「よっ!」

 

「がっ!?」

 

 

 左手を勢いよく振り上げて握った植木鉢を叩き込みながら振り向く。そこには赤くなった鼻面を押さえてよろよろと後退している斧を握った半裸のジャックがいたので、遠慮なくショットガンをぶちかます。

 

 

「ぐおあぁああっ!?おまえ、イーサン!何度俺の鼻を曲げれば気が済む!?」

 

『これで三回目かな。スコップで首折った時も入れたら四回目?』

 

「そりゃ治らなくなるまでだ、よ!」

 

 

 ショットガンをしまったリュックから壊れたショットガンを代わりに引き抜き両手で握ってフルスイング。頭部を殴りつけられたジャックはよろよろと後退するも、カッと目を見開いて吠えると、両手を振りかざして突進してきた。

 

 

「うおぉおおおおっ!」

 

「浅知恵ご苦労様だが、ご愁傷様!」

 

『これはひどい』

 

 

 それに対して俺はわざと横に転倒、足を伸ばして引っ掛け、ジャックを檻の中に落下させる。そのまま壊れたショットガンをリュックに戻してショットガンを手に取り、弾込めした四発の弾丸を叩きこむ。

 

 

「ぐっ!?ごっ!?ぎっ!?げあっ!?イーサンてめえ!汚いぞ!」

 

「誰が馬鹿正直にデスマッチするかよ!こいつはおまけだ、もらっとけ!」

 

「があぁあああっ!?」

 

『もうやりたい放題過ぎるよぉ…』

 

 

 さらに肉袋も引っこ抜いて勢いよく投げ落とし、ジャックがそれに潰されて呻いているところに傍の机も引っ張ってきて蹴り落としドンガラガッシャーンと轟音が鳴り響く。エヴリンが頭を抱えているが、ガチンコ勝負するよりこっちの方が勝機あるだろ。

 

 

「うおおおあああああああっ!」

 

「え」

 

『あ』

 

「ぬあぁあああああ!?」

 

『イーサァアアアアン!?』

 

 

 しかし次の瞬間、斧で金網を掻っ捌いて取り出した鋏の様に改造されたチェーンソーのエンジンをかけて振り回し、足場の支柱を叩き折られて斜めに崩れた足場を転がり落ちて落下してしまう。血に塗れたそれは数多の人間の血を吸ってきたのは明白だった。

 

 

「さっさと腹をくくれ。お前はもう逃げられないんだ、イーサン!」

 

「その台詞やっと言えて満足かジャック!」

 

「なわけないだろうクソッたれ!」

 

 

 突進してくるジャックに、傍に吊るされている肉袋を渾身の蹴りで叩き込み、怯んだところに顔面にショットガンを叩き込む。

 

 

「いい加減死ねよ、ジャック!」

 

『多分相手も同じこと思ってるよ』

 

「お前よくもやってくれたな!お前の中身を俺は見たいんだよ。分かるだろ?」

 

「おい正気かよ?」

 

「フフフフッ・・・そう言うな。どうだイーサン、イカすだろ?」

 

 

 真ん中の柱を一撃で粉砕しながら笑うジャックに思わず後退する。あんなのさすがにショットガンを盾にしても防げないだろう。

 

 

「どうしたビビってんのか?ギブアップした方がいいんじゃないのか?」

 

「余計なお世話だジャック!」

 

『イーサン!ここにもう一個あるよ!』

 

「でかした!」

 

 

 エヴリンが破られた金網の奥にもう一つ、普通のチェーンソーを見付けてジャックの横薙ぎを前転で潜り抜け、それに飛びついて構えるとエンジンをかける。ジャックのと違って普通のだが、まあいいだろう。

 

 

「やるしかないのかクソッたれ!」

 

「そうだ坊や。それでいいんだ。いいことを教えてやる。対等になったつもりだろうがな、お前はもう死ぬんだよ!ヒッヒッフッヒヒッ」

 

 

 振るわれた鋏チェーンソーを、咄嗟に受け止めて鍔競り合う。バチバチと火花が散る。ここまで来たらやけくそだ。少なくとも銃よりは効果がありそうだ、当たれば!

 

 

「どうだ?楽しいだろ?」

 

「できれば勘弁願いたいなジャック」

 

「お前はここで死ぬんだ!」

 

「だろうな!」

 

『諦めないで!?』

 

 

 ギャリリリリッガキンッ!ギャリャリャリャリャッゴキンッ!と鍔競り合っては弾き飛ばされる。駄目だな、致命傷は受けてないが手が痺れる。すると鋏チェーンソーを横に構えながら突撃してくるジャック。

 

 

「いい加減死んで楽になれ!イーサン!」

 

『イーサン!絶対喰らっちゃ駄目だよ!もう10回目なんだから!』

 

「なにが!?」

 

「てめえこそなにがだ!?」

 

 

 エヴリンにツッコむとそれに怯んだジャックの隙を突いてしゃがみこんで回避し、足にチェーンソーを一閃。足を斬り落とされたジャックは倒れ込み、俺は立ち上がって奴の頭めがけてチェーンソーを振り下ろした。咄嗟にジャックは鋏チェーンソーを広げて受け止めんとするが、それごと破壊する勢いでかち割る。

 

 

「ウォオオォォオォオオォオオォオオオッ!?」

 

「!?気色悪いわ!」

 

『…ごめんねジャック』

 

 

 すると頭が割れて顔が浮かんだ肉の球体の様になる奴の上半身。そのままチェーンソーを押し付けると体液が飛び散り、奴はどんどん弱って行く。このまま決める…!

 

 

「うおぉおおおっ!」

 

「ギャアァアアアアアアッ!?」

 

 

 そして爆散。下半身だけとなり倒れたジャックだったが、いつの間にか治ってた足で立ち上がり、しかし力尽きて崩れ落ちた。

 

 

「はあ、はあ、はあ…勝った……さすがにもう、死んだよな?」

 

『多分…はああ、ようやく切り抜けたぁああ…』

 

「ようやく?」

 

 

 大きなため息を吐くエヴリンに視線を向けると、何かの光景がフラッシュバックする。斧で脳天をかち割られる光景、ジャックのチェーンソーに対抗できず切り刻まれる光景、腕も足も斬り落とされて絶望のまま断頭される光景、etc.

 

 

「…なんだ?」

 

『ま、まあいいじゃん!ほら、脱出しよう!』

 

「あ、ああ…」

 

 

 エヴリンに促されるまま、扉を閉じていた閂をチェーンソーで無理矢理斬り裂いて開けるとチェーンソーの刃が叩き折れた。まあ限界だわな。

 

 

「まだ鈍器として使えそうだから持っていくか…」

 

『間違いなく荷物になるからやめよう?』

 

 

 エヴリンに全力で止められた。解せぬ。




最初の不意打ちさえ避ければ一方的に攻撃できるよねって。もはや隠す気がないエヴリン。イーサンも理解できてないからしょうがないね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX1‐【イカレた奴らを紹介するぜ!】‐

どうも、放仮ごです。今回は前回で本館編が終わって一区切りついたので現状の設定を纏めてみました。多分エヴリン関連で混乱している人も多いと思うので、感想の返信で言及したことについても載せておきます。楽しんでいただけると幸いです。


・イーサン・ウィンターズ

 幻影エヴリンがまさかこの状況の元凶の残滓だとはつゆとも知らず連れ歩いている能天気なザ主人公。エヴリンがいることで心に余裕が生まれ、「使えるものは何でも使う」というスタンスで破天荒に暴れ回る。一方で自身の異変にも感づいているが、まあ生きれるならそれでいいかと楽観視してる。エヴリンの失言については理解できないので気にしてない。それはそうとジャックは殴る。エヴリンについては、過去にベイカー家に拾われるも虐待され、無念のまま幽霊として彷徨っているミアがベビーシッターしていた孤児だと思ってる。

・現在の装備

ポケットナイフ、ハンドガン、ショットガン、壊れたショットガン(鈍器)、回復薬×4、キーピック×2、蠍の鍵、ケルベロスのレリーフ三つ、ポケットナイフとハンドガン以外を入れて右肩に担いでいるゾイの子供用リュック、コデックス

 

 

 

・幻影エヴリン

 今章の実質的な主人公。BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnants】本編の幻影エヴリンその人。しかして本編後ではなく、本編のどこかの時系列のエヴリンである。相変わらずのポンコツ娘。なにかを果たすためにある裏ワザを使って過去まで「辿って」きた。もう何度もやり直しているらしく、そのたびに海上を高速で飛んでルイジアナとどこかを行ったり来たりしてる。イーサン曰く「他人に興味がない」自分本位な性格であり、クランシーとホフマン、トラヴィスなどの名を覚えていてもろくに覚えてない。助言や誘導ぐらいしかできないので破天荒に大暴れするイーサンに物申し無くてもそっちの方が好都合なため存在しない胃痛が凄い。「とりあえずイーサンが重傷を負わなきゃいいや」というスタンスでありながらも、ジャックやゾイに謝罪するなど過去の行いは猛省している。

 

 

 

・ミア・ウィンターズ

 一回イーサンに見捨てられた妻。7における全ての元凶といっても過言じゃない人。幻影エヴリンからは複雑な思いを抱かれてる。特に変化なし。

 

 

 

・ゾイ・ベイカー

 イーサンの行く先案内人。今までの人間と異なり余裕どころかジャックをボコボコにしたイーサンに若干引いているが、原作よりも信頼しているようで…?

 

 

 

・ジャック・ベイカー

 現状、幻影エヴリンによる被害を最も受けているベイカー家の大黒柱。毎回毎回ぼこぼこにしてくるイーサンに対する恨みは深い。

・急所に弾丸を受ける

・スコップを奪われて首を折られる

・ドアを叩きつけられて鼻が曲がる

・火の粉の滝をふりかけられる

・ショルダータックルを鳩尾に受ける×2

・車で轢かれまくる

・鉄骨で頭部が潰れる(自爆)

・爆発をもろに受け炎上

・頭部を零距離で撃ちぬく(自爆)

・容赦ない金的

・粉塵爆発をもろに受ける

・ショットガンをもろに受ける

・椅子を頭から叩きつけられる

・ビデオデッキをぶつけられる

・テレビを頭から叩きつけられ感電

・意趣返しに頭部を全体重で踏みつけられる

・虚を突かれてストレートパンチを顔面に喰らい引っくり返る

・祖母の部屋に突入しようとしたところ扉を顔面に喰らい悶絶

・入れ歯パンチを受けて引っくり返り、祖母の部屋に閉じ込められる

・レリーフを餌に不意打ちしようとするも植木鉢で返り討ちにされる

・自分だけ落とされショットガンの連射と落下してきた肉袋と机を喰らう

・鋏チェーンソーで血戦を挑むも傷一つつけられないどころか両足を切断され、頭部にチェーンソーの直撃をもらい爆散

 以上、現状の被害である。やり過ぎ。

 

 

 

・マーガレット・ベイカー

 幻影エヴリンに散々料理を酷評された。しょうがないね。

 

 

 

・ルーカス・ベイカー

 まだなんもしてないのに幻影エヴリンの助言でイーサンに危険視されてる。幻影エヴリンが最も警戒している相手。マーガレットの料理にはタバスコをかけるタイプ。腕を斬り落とされてゴミ箱に捨てられたが特に気にせず回収してどこかに行った。

 

 

 

・謎の老婆

 いったい何ヴリンなんだ………。ちゃっかり幻影エヴリンの殺意に殺されかけるも、無意識を操る程度の能力で切り抜けた。入れ歯だとか頭真菌とか風評被害を受けてる。イーサンの独り言については「あれ?私、幻影見せてるっけ?あれ?なにこのパパ、一人で喋ってるし大暴れしてるしこわっ……」と恐怖を抱いてる。

 

 

・クランシー

 幻影エヴリンから言及された人物。一番のお気に入りだったらしい。マーガレットの料理を食べて悶絶していたのは同情した。

 

 

 

・ホフマン

 幻影エヴリンから言及された人物。身体を斬り落とされたら泣き喚いて発狂死するよ、ということ以外特に記憶に残ってない。

 

 

 

・トラヴィス

 イーサンを殺害すると言う大金星を挙げたブレード・モールデッドの原材料になった人。恐らくコートニーという人物の彼氏。

 

 

 

・ゾンビとジュアヴォ

 それぞれ「2」及び「3」「ディジェネレーション」、「6」に登場した雑魚。ラクーンシティやハーバードヴィルの惨劇や、2013年に中国で起きた大規模バイオハザードを知らない人間はいない。

 

 

 

・クソデカオバサン

 もしかしなくてもオルチーナ・ドミトレスク夫人その人のこと。幻影エヴリンにとってはジャックより怖いらしい。

 

 

 

・コンティニュー

幻影エヴリンだからこそ使える謎の力。イーサンが死ぬたびに「辿って」、そうなる直前に戻ってくる「やり直し」の能力。一部イーサンの記憶に刻まれるがすぐ消えてしまう。実は本編で描写されたのは偶然イーサンの記憶に残った物であり、もう何十回もやり直している。

 

 




ジャックの被害も纏めてみたけど容赦なさすぎて書いている自分でも引いてしまってる件。

ちなみに言及しているハーバードヴィルの惨劇は世界観を同じくするFGO/TADでキーとなる事件ですね。世界観が同じだからってこのエヴリンはサーヴァントでもなんでもないです。それはそれで面白そうですがそれは何時か書くコラボ編でかな。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX2‐【イカレたババア視点】‐

どうも、放仮ごです。漫才見てたらあることを思いついたので、急遽この話を書きました。VSマーガレット編はルートを試行錯誤している最中なのでもう少しお待ちください。大まかには決まってるんですけどね。

1~2話の本物エヴリン視点。楽しんでいただけると幸いです。


 うわあ。うわあ……ミアを階段の上から突き飛ばすとかサイテー。ジャックと何も変わらないじゃん。もうやだこのパパ候補。もういい、死んじゃえばいいんだ。

 

 

『仕返しして、ママ』

 

「いやよ、エヴリン!もうやめて……」

 

 

 私は幻影を伝えてそう命令するけど、ママは…私を裏切ったコネクションとかいう組織の構成員、ミア・ウィンターズはこの期に及んで抵抗して夫…イーサン・ウィンターズを護ろうとするけど絶対に許さない。私からママを奪ってはいさよなら?許すわけがない。

 

 

「イーサン、安心して。傷つけるつもりはなかったのよね…?」

 

『そいつを殺して、ママ』

 

「よくもやりやがったな!このクソ野郎が!!」

 

 

 ようやく言うことを聞いた。イーサンを掴み上げて叩きつけ、手にしたドライバーで左手を壁に突き刺すのを、幻影を通じて見下ろして思わずにやつく。ミアはもっと苦しめばいい。このイーサン、すぐ手を出しちゃう危険人物みたいだし、愛する夫に殺されるとか最高だよね?なんて言うんだっけ?そうだ、夫婦喧嘩だ夫婦喧嘩!いいぞもっとやれ!

 

 

「ぐあっ、やめろっ、ミア…!」

 

「お前も味わいやがれ!」

 

『こいつパパになりたくないって。それじゃあ、殺すしかないね?ふへへ、ひうっ、アハハハハハッ!』

 

 

 チェーンソーを持って来たミアがイーサンの左手首を切断する様を見ながら腹を抱えて嗤おうとしたけど、本体の腰が攣ったのでやめて幻影で笑うだけに留める。それ、この廃屋を壊そうとしたけど怖がって逃げてった業者の人のだっけ?懐かしいなあ。そういえば斧とか拳銃とかも落ちてたっけ。あれは上だったかな?

 

 

『じゃあ次はママがお前を殺す番だよー?ねえ、ママ。どうする?殺す?殺されたい?どっちでもいいよ、択ばせてあげる。この廃屋には業者の人や迷い込んだ人が落として行った負の遺産(レムナンツ)があるからねー?』

 

 

 手首を斬られたというのに落ち着いて拾い上げ、逃げるイーサン。え、なにこいつこわい。それをチェーンソーを振り回しながら追いかけるミア。こっちは顔が怖い。これが嫌なんだよなあ。私のE型特異菌に感染すると人間は可愛くなくなっちゃう。モールデッドは不細工で可愛いお友達だけど。私を助けた時は優しい顔だったジャックもマーガレットもルーカスも、あとミアも怖い顔になっちゃった、それがちょっとした後悔だ。

 

 

『ありゃ。誘導もしてないのに勝っちゃった』

 

 

 逃げ込んだ部屋で手に入れた斧をミアに突き刺し、肩で息をしてなんとか勝利したイーサンが悲痛に満ちた顔で左腕を庇いながら出て行く。私は幻影をミアの顔に覗きこませた。

 

 

「そんなので死なない体にしてあげたよね?ほら起きてよママ。どーせ、手加減したんでしょ。私に刃向うなんてやっぱりママ失格だなあ」

 

「もうやめて…エヴリン。私は貴方のママじゃない・・・イーサンも貴方の父親にはならない…」

 

 

 体を直接操って立たせるとママは泣きながら訴えてきた。プチンときた。本体の肉体も怒りで拳を震わせる。あ、これは老衰かな?やだなあ。それにしても何時になったら認めてくれるのかな?

 

 

『ミアは私のママだ!逃げようだなんて認めない、私のママだって認めろ!』

 

「いや、いやよ……」

 

『じゃあもういいよ。またイーサンを襲って、最愛の夫に殺されちゃえ。そう簡単には死ねないから何度でも殺されていいよ!やったね!』

 

 

 ミアの意識に働きかけ、正気を失わせ怒りと狂気に満ちた思考にしたミアを屋根裏のイーサンに送り込む。どういうわけか出口が分かっているらしい動きだ。逃がしてなるものか。先回りさせる。

 

 

『殺して、ママ』

 

「アァアアアッ!?」

 

 

 するといつの間にかハンドガンを手にしていたイーサンが、切断された左腕で器用にマガジンを交換して弾込めすると言う信じられない方法でミアの額を容赦なく撃ちぬいて倒してしまった。何それ怖い。ってそれどころじゃない。え、まってまってまって。

 

 

『ママ!なにをしているの!?動け!動いてよ!駄目だ、動かない。逃げられちゃう……来て、ジャック!』

 

 

 気配を探ったらちょうど付近を徘徊していたジャックに気付いて呼び寄せ、なんとか止めることはできた。

 

 

『ふう、やれやれ。ジャック、ありがとう。よくやっ……』

 

「俺以外にあの子の父親はいらん…!」

 

『ちょまーーーーっ!?』

 

 

 え、バカ!ジャックの馬鹿!殺しちゃった、踏み殺しちゃった!?私を愛するあまりメンヘラ?ヤンデレ?になっちゃった!せっかく新しい家族になれそうだったのに残念……あれ?

 

 

『生きてる?なんで?』

 

 

 なんか私に感染したのか、ジャックみたいな大男に頭部を踏み潰されたのにイーサンは生きていた。何時感染したんだろ……まあいいや。

 

 

『ジャック、本館に連れて行って家族にして。ミアも連れてって。これ命令だからね』

 

「……わかったよ。子供のわがままに応えるのも父親だ」

 

 

 いかにも不服そうなジャックがミアを担ぎ、イーサンを雑に引き摺って本館に連れて行く。……まあいいか。ジャックやっぱり怖いや。イーサンも怖いけどマシだろうし、パパになってくれるといいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【悲報】目覚めたイーサンが狂人だった件について【虚空とおしゃべり】前にルーカスが見せてくれた掲示板風にするとこうかな。目覚めたイーサン、頭を潰されて変なところがおしゃかになったのか、目覚めた瞬間何もない天井を見てびっくりした挙句、私の幻影も誰もいない虚空に向かっておしゃべりしている。なにあれ怖い。

 

 

「…それは悪かった。お前は何なんだ」

 

「ひゅっ」

 

「お前は何でこんなところにいるんだ?ここの子なのか?……殺されたくはないがこのままここにいたらどの道死ぬだろ。警察に助けを求めるのは当たり前だ」

 

 

 私をじっと見ていたかと思えばいきなりそんなことを言われて思わず空気が漏れた。しかも一人で会話しているし!え、なに?私の正体がばれたの?私、どこからどう見ても大人しいおばあちゃんだよね?言ってて悲しくなってきた!

 

 

「よし。……どこか隠れるところはないのか?……案内してくれるか?……好きにしろ」

 

(え、やだなにあれこわい)

 

 

 誰も何も言ってないのに勝手に納得して、ガレージに一目散に行ってしまった。なんで知ってるの……????と思ったら帰ってきた。ナイフを持っていったからまさかもう逃げられるのかと思ったが手入れしてないおかげでダクトテープが切れなかったらしい。危なかった……!

 

 

「冷蔵庫になにか…うん?」

 

 

 戻って来たかと思えば冷蔵庫を開けて物色し始めた。人の家だよ遠慮がないね!

 

 

「うん?ああ、痩せて骨ばっていてぎすぎすしているやつのことだ」

 

 

 また一人で言い始めた。私の事かな?……私まだぴっちぴちの11歳(多分)なのに痩せて骨ばってるおばあちゃんだなんて悲しいなあ。

 

 

「カレーやシチューに似た南米独自の煮込み料理だな。ミアに作ってもらったことがある」

 

 

 今度は豆知識を言ったかと思えば惚気始めた。いいなあ。美味しそう。私もマーガレットのクソまず料理じゃなくて美味しいミアの手料理が食べたいよ……。あの頃は幸せだったなあ。

 

 

「だろうな。あんなもの食わされて育っているなんて同情するよ」

 

 

 なんだとこの野郎。妻の料理もあんなものだと!?…いやこの場合マーガレットの料理?いやそうじゃなくてもしかして私の心を読んでる?え、こわっ。

 

 

「うるさい」

 

 

 またツッコまれた。これ読まれてるよね!?絶対心を読まれてるよね!?

 

 

「うん?地下があるのか?……なるほどな。…なあ、あれは…お前の家族なのか?ベイカー…じゃあ牧場の持ち主があいつらか。捨て子かなにかなのか?」

 

 

 びっくりした!なんでそう踏み込めるの!?いや私、確かにミアに捨てられたけど……。

 

 

「それは悪いことを聞いたな。それで拾われたのがこんな狂った家族とは……これはお前のか?」

 

 

 なんかおいてたっけ?…ああ、履けなくなったブーツを脱ぎ捨てた気がする。私のだってよくわかったね?

 

 

「こんなところに捨てるなよ。……大きくなった?お前何歳だ」

 

 

 レディに年齢を尋ねるなんて失礼じゃない?

 

 

「それは悪かった」

 

 

 …私、イーサンと会話してるよね?……なんでえ?




あんじゃっしゅあんじゃっしゅしてきた。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯12‐【変わる運命】‐

どうも、放仮ごです。色々考え直した結果、ルートを変更することにしました。原作と流れが一緒じゃ味気ないですしね。

今回はついに本館脱出。運命が変わる…?楽しんでいただけると幸いです。


「もうすぐ地上だな」

 

『もう二度と来たくないね』

 

「やめろフラグになる」

 

 

 チェーンソーを犠牲に死体保管庫を脱出し、来た道を戻って地上を目指す。大幅ショートカットになる扉の鍵を開けといて正解だったな、割とすぐ階段まで来れた。地上への階段を上って行くと、聞こえてくる綺麗な歌声。鼻歌か?

 

 

「っ…誰だ?」

 

『ああ。よし、不気味だし歌声の主を倒そう!』

 

「いや容赦なしか。こんな綺麗な歌を歌う奴が悪い奴なわけないだろ」

 

『はえ!?き、綺麗な歌?そ、そうかな……えへへ』

 

「なんでお前が照れるんだ」

 

 

 顔を背けて後頭部に手をやりわかりやすく照れるエヴリン。どこぞの嵐を呼ぶ永遠の五歳児かお前は。するとハッと正気に戻り手足をばたつかせて訴えるエヴリンに首を傾げる。

 

 

『でも悪いこと言わないから歌声の主は容赦なく殺した方がいいよ。だってこんな場所で呑気に歌ってるんだよ?まともな…………うん、まともじゃないよね………まともなやつじゃないよ!』

 

「エヴリン。お前どうした、変だぞ。何を焦っている?」

 

「そりゃ焦りもするよ!だって、もう47回も………」

 

47(フォーティーセブン)?……俺はヒットマンは好きだしプレイしたことはあるが、暗殺以外何でもできる47(よそしち)じゃないぞ」

 

『何で言い換えたの!?しかも日本語(ジャパニーズ)だし!』

 

「お前こそなんであのゲーム知ってるんだ?」

 

『それはどうでもいいの!私の方がイーサンより上手いんだから!……操作はしたことないけど』

 

「???」

 

 

 また訳の分からんことを言うエヴリンに首を傾げる。何を言っているんだお前は。

 

 

『……ねえ、悪い事言わないからさ。終わらせようよ。ここで終わらないと、もっとひどいことになる』

 

「もっとひどいことって……妻に殺されかけて逆に殺してしまったかもしれなくて、腕も足も取れて、こんな場所に拉致されて、よく分からんモツ煮かよくわからんもの喰わされて、髭親父と地獄の教習所をして、化け物に襲われて、髭親父と鬼ごっこして、髭親父とチェーンソーデスマッチして……これ以上ひどいことがあるのか?」

 

『今でも普通に酷い目に遭ってるけど悪化するよ』

 

「具体的には?」

 

『こーんな大きな虫に刺される』

 

 

 両手でエヴリンの顔程はある虫を表現するエヴリンに嫌な顔を向ける。俺、虫は大嫌いなんだが。特に羽虫。だがエヴリンの目は真剣そのものだ。

 

 

「なんでだ。玄関の鍵………鍵?を手に入れてもう脱出できるのになんでそんなのに襲われる?」

 

『脱出できないからだよ。地獄はまだまだ続く。玄関を開けても、庭からは出られない』

 

「は?仕切りとかあるんだとしてもぶっ壊せばいいだろこっちにはショットガンがあるんだぞ」

 

『出られないの!いい!?いいから、やるの!』

 

「あ、はい」

 

 

 そんなこんなしていると歌が止んだ。歌のヌシは俺に気付いたらしい。エヴリンと顔を見合わせると無言でGOサインを作ってきたので、ハンドガンを手に慎重に階段を上って行く。そこにいたのは予想外の人物だった。

 

 

「…あんたが、歌っていたのか?」

 

「………」

 

 

 そこにいたのは、無言でこちらを見つめてくる老婆。咄嗟に銃を下げる。エヴリンは殺せと言ってるがこんな老婆に何かできるとは思えない。

 

 

「なあ、何かの間違いじゃないのか?」

 

『やっぱり狙えない……そうだ。あ、モールデッドだよイーサン!』

 

「よし殺す」

 

 

 エヴリンが老婆の向こう側を指差してそう言ったので咄嗟に銃を構えると、驚愕した様子の老婆が睨み付けてきた。

 

 

「どうしてみんなわたしをきらうの…」

 

「え?」

 

 

 そして何やら呟くと、壁に突如黒い染みが生まれてそこからモールデッドが湧き出して襲いかかってきた。咄嗟にハンドガンで頭部を撃ち、全力で前蹴りを叩き込んで迎撃。そして気付くと、老婆の姿は消えていた。

 

 

『ちっ、逃げられた。無意識に銃を使わせないのずるいんだよ、もう』

 

「なんだったんだ……」

 

『おー、勇者よ。残酷なことを伝えねばなりません』

 

「今度はなんだ、RPGの教会か?」

 

『過酷な運命が決定しました』

 

「マジかよ」

 

 

 虫に刺されるのか俺?それは、嫌だなあ……しかしなんだったんだあの老婆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蠍の扉を抜けてホールに出て、最後のケルベロスのレリーフをはめこむとガチャっと鍵が開いた音がした。そして開けてみると、エヴリンの言ってたことを察する。

 

 

「よりにもよって鉄柵か……そう言えばいつだったかのメモで庭に逃がしたけど捕まえたって書いてたな…」

 

『そーゆーこと』

 

「どこの大怪盗の孫だ」

 

 

 しかしまあ、結構広い庭だな。中庭なのか?奥には鉄柵にくっついた扉があって、その向こうには古い木製の屋敷が。旧館ってやつか?左手の横には牛舎跡のような建物。そして中央にはトレーラーハウスが置かれてある。

 

 

「牛舎らしき建物の入り口の…これはなんだ?」

 

『趣味の悪い機械だね。こんなの気にしないで早くゾイに合流しよ』

 

「そうだった。もしかしてトレーラーハウスの中か?」

 

『多分?だってあんなところにいるわけないじゃん?』

 

「隠し部屋とかあるのかもしれないぞ…」

 

 

 言いながらトレーラーハウスの扉を開けると、今までいた屋敷と違って普通の生活感を感じられる空間に出た。色々入っている鳥かごとか異様な物があるが……まあ気にしないでおこう。

 

 

「これは水か?ありがたい、喉乾いてたんだ」

 

『勝手に飲むのは泥棒だよ』

 

「後で謝ればいいだろ」

 

 

 机の上に水の入った瓶を見つけたので直接口を付けて飲み干す。生き返った…!

 

 

「夏だってのに水分補給しないのは地獄だったぞ…」

 

『ああ、だから苛立ってたの』

 

「汗もすごいぞ」

 

『あ、それ……』

 

 

 言いながら近くにあった布を手に顔を拭う。ふう……なんか硬いな?

 

 

『あーあ』

 

「なんだよ?…!?」

 

 

 呆れるエヴリンに首を傾げながら布を見てみる。ブラジャーだった。……目を手でこすり、もう一度見てみる。ブラジャーだった。牛のとかじゃなくて、女物の。

 

 

「ふぁーっ!?」

 

『変態だー!ぎゃーっ!?』

 

 

 絶叫するとエヴリンがやんややんやと囃し立てるので、エヴリン目掛けてブラジャーを投げて叩きつけ、それが擦り抜けたエヴリンも悶絶して騒ぐ。手の感覚は慣れてきたらしいが未知の感覚は駄目らしいな。

 

 

『よくもやったなイーサン!』

 

「はははっ、ざまーみろ!」

 

「…なに人の家で一人で騒いでるの」

 

「『え?』」

 

 

 声が聞こえたので振り向く。そこには、暑いのか薄着を着た短髪の女性が入り口に立っていた。その手には異様なミイラの様な物が握られている。そしてその声には電話越しだったとはいえ聞き覚えがあった。

 

 

「お前がゾイ、か?」

 

「…うん、そうだよ。初めましてイーサン・ウィンターズ。私の名前はゾイ・ベイカー。…あいつらの娘で妹だよ」

 

 

 女性は笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったね。無事に出たのはアンタが初めてだよ。三年待った。…うん、本当に。長かった…」

 

「それはなんというか……」

 

『…ごめんね』

 

 

 三年…本当に長いな。エヴリンが何で謝るのかは知らないが。自分が死んで一人にした負い目かなにかか?

 

 

「いい。同情はいらない。そんなことより早くこの状況をどうにかしたいんだ」

 

「俺に頼みがあるんだったな。それは一体なんだ?それをやれば出られるのか?」

 

「そう。よく聞いてイーサン。実はこの敷地には桟橋もあってね。河にボートが置いてあるからそれで逃げられる。でもこのままじゃ逃げられないんだ」

 

「何故だ?」

 

「あたしたち家族もアンタも、体を穢されている。この穢れを取らない限りここからは出られない。アイツに見張られている」

 

「アイツって誰の事だ?」

 

「誰って……エヴリンの事だよ」

わーわーわーわー!

「なんて?」

 

 

 おいエヴリン五月蠅いぞ。




今回起きたこと
・エヴリン、機転を使い老婆を襲撃。老婆にイーサンを敵視させることには成功したものの逃がしてしまう。
・エヴリン、あまりのストレスに告白するもイーサンはなんのこっちゃ。
・ゾイ、イーサンが老婆を攻撃したことで完全に信頼。「頭」を手に入れた帰りに帰宅。

気になってた特殊タグ使ってみました。こういう描写マンガぐらいだと思ってたけどハーメルンすげえ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯13‐【鬼が出るか蛇が出るか✕ 蟲が出るしババアも出る○】‐

どうも、放仮ごです。ヴィレッジDLCのローズの話でイーサン出てくるかもなので地味にビビってます。レムナンツしないよね?

今回は旧館へ。楽しんでいただけると幸いです。


「…すまん、もう一度頼む」

 

「もう、エヴリンの事だよ。何度言えばいいのさ」

わーわーわーわー!

「…悪い、もう一度」

 

『イーサンしつこい!』

 

 

 何度もゾイが「あいつ」とやらの名前を教えてくれようとするのだが、そのたびにエヴリンが叫んで聞こえない。ついには「もういい?」と呆れた顔で問いかけてくるゾイ。

 

 

「はあ。イーサン、もしかして難聴なの?」

 

「…もういい。すまん、諦める」

 

「どういうことなのさ?まあいいや。話を続けるよ。私達がどういう状況なのかはわかった?」

 

「ああ、穢れ……だったか。俺の手足が治ったのもそれか。治す方法があるのか?」

 

 

 すると手に持ってた妙なミイラを掲げるゾイ。いやそんなドヤ顔されてもちょっと引くんだが。

 

 

「うん、「血清」さえあれば元の体に戻れる。手遅れじゃなければだけど。これはそれを作るために必要なものさ」

 

「こんなのが…?」

 

『心底気持ち悪い!』

 

 

 エヴリンが何故かキレて突っ込んでるが正直同感だ。いやキレたいのはこっちだが?ミアや俺やゾイ達をこんな目に遭わせた黒幕の名前ぐらい知っておきたいのに。

 

 

「恐らく、だけどね。あとなにかがいるんだけどそれがわからない。母さんがきっと旧館のどこかに隠してある筈なんだ」

 

『ミアのビデオに載ってた場所かな?』

 

「それを見つけて「血清」が手に入ればミアを治して帰れるんだな?」

 

「ああ。ミアがどこにいるかまでは知らないけどね…作り方は知ってるから安心してくれていい。旧館は沼の傍だ」

 

『なんで作り方知ってるんだろ?』

 

 

 エヴリンにそう言われて疑問が浮かぶが、言わないことにした。数少ない、というよりたった一人の味方を疑って信頼を失ったら困る。

 

 

「でも、母さんも旧館にいると思う。「夕食」のあと、本館で出会わなかったんでしょ?」

 

「ああ。まあブッ飛ばせばいいだろ、ジャックよりは弱そうだ」

 

「………あんたは本当に頼もしいね」

 

『本当にね』

 

 

 ゾイとエヴリンのジト目が俺に向けられる。なんだよ。なにかおかしい事言ってるか?

 

 

「それでも気を付けて。みんなあんたを捜している」

 

「分かった気を付ける。それで、お前はどうするんだ?」

 

「私は「血清」を作るためにもここに残るよ。銃弾は父さんの倉庫からあらかたがめてきたから困ったら言って。補充してあげる」

 

 

 そう言ってトレーラーハウスの隅に置かれてある道具箱を開けるゾイ。エヴリンと一緒に覗いてみると、種類もハンドガン、ショットガン、グレネードランチャーの弾にバーナーの燃料、ガンパウダーにハーブ、固形燃料、回復薬、薬液とよりどりみどりな物資が詰められてあった。

 

 

「隠れながら集めた物資だよ。食料を探すのが一番大変なんだけどね…河の上流から何故かワニの死骸が流れてくることがあるからそれでなんとか保てたけどさ」

 

 

 リボルバーマグナムを手に遠い目をするゾイ。まあ、あんなだからな……最悪、虫とかも食べていたと考えるとかなりきつい。よく三年も正気を保てたな。

 

 

「しかし、それは助かるな。……ジャックの倉庫にそんなに銃弾があったのか?」

 

「言ってなかったね。父さん、元海兵だから。よく勝てたね?」

 

「ああ…だから屋敷中にハンドガンの弾があるのか……」

 

『元海兵を凶器有とはいえ何度も殴り飛ばしてた自称システムエンジニアのイーサンぇ』

 

 

 うるせえ。自称じゃないしバリバリ現役だ。年だってこっちが若いんだからやれてしかるべきだろう。

 

 

「じゃあいくつかもらっていく。恩に着るよ、ゾイ。必ず一緒に脱出しよう」

 

「ああ!アンタには期待しているよ。イーサン」

 

 

 そう笑うゾイに見送られて俺達は外に出た。沼の方に行ってみると、扉の向こう側の沼にかかる屋根付き桟橋の先に旧館と思われる建物があった。

 

 

「ここか」

 

『さっきの、言い方がちょっと告白みたいだったね。ミーアに言ってやろー』

 

「うるさい。子供か」

 

『子供だもーん』

 

 

 そんな緊張感の欠片もない会話をしながら扉を開けて、フェンスに囲まれ不気味な人形がいくつも吊るされた桟橋を歩いて行く。フェンスまであるとか逃がす気がないな?…ここ、見たことあるな。ミアのビデオの最初の場所だ。そうして歩いていると入り口らしき扉に来た。

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

『蟲が出るしババアもいるよ』

 

「鬼と蛇の方がマシだな!よーし!」

 

『あ、嫌なよかーん』

 

 

 全力で扉を蹴破る。するとぐしゃっという音と共に何かが落ちた。なんだ?と見てみると、俺の頭ほどでかい羽虫がピクピクしていた。

 

 

「……帰る!」

 

『気持ちは分かるけどミアを助けたいなら進むしかないよ』

 

「おいどこかにマッチはないか放火してやる」

 

『探し物まで燃えちゃうよ』

 

「エヴリン、偵察して蟲がいないルートを見つけてくれ!」

 

『だが断る』

 

「いけっ!エヴリン!」

 

『ポケモンみたいに言われても、私も蟲は嫌だし偵察は御免こうむるよ』

 

「肝心な時に役に立たないなお前は!?」

 

 

 しばし言い合いするが何も進まない。こうなったら腹をくくろう。今は何処にいるかもわからないミアのためだ。もう一匹壁に止まっていた羽虫をナイフで斬り落とす。一瞬でも見たくねえ。

 

 

『あ、イーサン。足元になんかあるよ』

 

「うん?なんだこれは……」

 

 

 何か書かれた紙が足元に置いてあるのをエヴリンに指摘され拾い上げる。何かの図面か?ひどい手描きだが何とか読めるな。B、U、R、N、E、R……バーナーの設計図?

 

 

「これがどこかにあるってことか?」

 

『みたいだね。マッチより凄い物があるみたいだけど放火はしないでね?』

 

「わかってるさ。探し物が燃えたらこんなところまで来た意味がない」

 

 

 えーと、左手側はなんか崩れてるが扉があって…?右手側には普通に扉があるのか。ふむ。

 

 

『左からいく?』

 

「なんでだ?どっちでもいいが」

 

『なんだっけ、ほら…日本の漫画の……クーラーピカピカ理論?』

 

「クーラーをピカピカにしてどうなるってんだ……クラピカ理論のことか?」

 

『そう、それ!』

 

「よく知ってたな?ルーカスでも読んでたのか?」

 

『まあそんなところ』

 

 

 左側の崩れた部屋を進み扉を開ける。すると壁一面に巨大な文字が描かれていた。

 

 

「【2階に行くな。あの子が待ってる】…だと?またあの子、か。それが黒幕なのか?」

 

『そうなんじゃない?知らんけど』

 

「お前が叫ばなかったら名前聞けたんだけどな?」

 

『叫びたい気分だったんだもん』

 

「まったく、おかげで難聴扱いされたんだぞ?」

 

『あれは笑った。……』

 

 

 言いながら振り向くエヴリンが、何かを視界に入れたのか固まる。同じ方向、右を振り向く。同じく固まる。蜂の巣の様な巨大な羽虫の巣らしきものが部屋の中央に鎮座していた。

 

 

「『ギャアァアアアアアアッ!?』」

 

 

 大群が向かってきたので全力で引き返して逃走、扉を閉める。死ぬかと思った…。

 

 

『オネガイシマスカンベンシテクダサイ。ハムシハベイラトダニエラトカサンドラデジュウブンナンデス』

 

「片言で何言ってるか分からんぞ。ベイラとカサンドラとダニエラどこから出てきた」

 

『羽虫で思い出したのがそれだったんだもん…』

 

「女性なんだろうが羽虫で思い出されるのは不服だろうな」

 

『そうでもないと思う』

 

 

 さてもう進む道は一つしかない。右から進むか。

 

 

『右にも巣があったらどうする?』

 

「そりゃ諦めるに決まってる」

 

『ゾイにケツを蹴っ飛ばされるだろうね』

 

 

 そんな冗談を言いながら右の扉を進む。引き返す。また巣があった。

 

 

「どんな精神してるんだあのクソババア…」

 

『同感だよ……』

 

 

 逃げる訳にもいかないし……さあ、どうするかね。




ヴィレッジ本編では耐性がついているけど7の当初はこんな感じだったと思うんだ。普通の人間なら。

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♯14‐【掴もうよ未来】‐

どうも、放仮ごです。旧館編は作者である放仮ごがマーガレットを大の苦手としているので早く抜けたい所存。怖すぎるよあの人……。

今回は蟲対策会議。楽しんでいただけると幸いです。


「他に行ける道を探したがあの二つの道しかないことが分かった」

 

『どうするの?』

 

 

 旧館最初の部屋で立ち往生する俺達。いや本当にどうしよう。

 

 

「…本館に暖炉かなにか」

 

『あるけど火は付いてなかったよ』

 

「バーナーを探す」

 

『今まで見た所全部、そんなものなかったよね?』

 

「ホールの扇風機持ってきて叩きつけるか…」

 

『そんなんであの巣が壊れるわけないじゃん!』

 

「突っ切るしか…ないのか……」

 

『退かなきゃ(精神が)死ぬけど、退けば未来は掴めない。なら掴もうよ、未来!』

 

「飛び込むの俺なんだがな。粋の境地で裸で行くかこの野郎」

 

『やめて、私の心が死ぬ』

 

「そうだな、俺も嫌だ」

 

 

 ゼノでブレイドなRPG知ってるのなお前。ルーカスのやつ、よほど多趣味なんだな。なんだろうこの会話とは思うが、現実逃避だ、しょうがない。

 

 

「はあ……行くかあ」

 

『かつてないほどイーサンのやる気がない!』

 

「ところでお前、ちゃんとついてこないと蟲とか巣とか擦り抜けて嫌な感触だと思うぞ」

 

『それはやだ!!!!!!!』

 

 

 耳元でクソデカボイスやめろ。鼓膜…というか頭痛がする。左の扉をゆっくりと開けて、ショットガンを手に様子を窺う。巣の横が少しだけ開いていた。あそこを突っ切るしかないか。もし行き止まりなら死だ。蟲の群れが巣に引っ込んだ瞬間………ここ!

 

 

『今だ、突っ込め猪!』

 

「どこまでそのネタ引っ張るんだよ!?」

 

 

 ツッコミながら突撃。驚いた蟲の群れが迎撃しようと飛び込んでくるが、ショットガンをぶちかまして散らし、巣の横を通り抜けると扉があったので蹴り開けて入るなり扉を閉めるとズドドドド!と蟲の群れがぶつかる音が聞こえた。あ、危なかった……。

 

 

『やだ、掠った。やだやだやだ!』

 

「それは俺にはどうしようもない、我慢しろ」

 

『嫌な感触がするぅう』

 

 

 エヴリンはどうやら避けられなかったらしく青ざめた顔で体中を掻いている。それ、意味あるのか?

 

 

「廊下か……ミアのビデオで見た場所だな。おっ、見取り図だ。ありがたい」

 

『どこいけばいいのかわかる?』

 

「まるでわからん」

 

『だよねー』

 

 

 さっきまでいた入り口の場所がエントランス。通り抜けた部屋がゲストルーム。行かなかった右の部屋がリビング。見る影もないな。リビングとこの廊下からダイニングルームに行けて、もう片方の扉からはギャラリーにいけるらしい。

 

 

「とりあえずギャラリーにいくか」

 

『蟲の巣、ないといいね』

 

「嫌なこと言うなよ…」

 

 

 言いながら開けると、不気味な黒猫を抱えた少女絵や誰かの肖像画などが飾られた部屋に出る。

 

 

『あ、これ!』

 

「出たな謎の影絵ギミック」

 

 

 エヴリンが指差した方向を見ると、ホールにあったものと同じような、蜘蛛の様なシルエットがある、蜘蛛の巣に囚われた蝶が描かれた絵画とそれを照らす照明があった。たしかミアはここに置かれていたのを使って開けていたが、それがなくなってる。マーガレットが隠したのか。

 

 

「タイトルは猛毒の捕食者、か」

 

『蜘蛛かあ。巣が完成したら世界が滅びるんだっけ』

 

「それはアトラク=ナクアだ。クトゥルフ神話に登場する架空の神性だな」

 

『詳しいね?』

 

「男だからな。かっこいいのには惹かれるんだよ。お前こそなんで知ってるんだ?」

 

『イ……知り合いと同じような会話をしたときに聞いた』

 

「物好きな奴だな」

 

『ほんとにね』

 

 

 たしかミアのビデオによるとこの部屋から外の通路に出られたはずだ。扉を開けて外に出る。沼が広がっているからか嫌な空気だ。

 

 

『あ、イーサン!見つけたよ、バーナー!』

 

「なに、でかした……おい」

 

 

 エヴリンがゴミ箱に置かれていたそれを見つけたので嬉々として拾うも、バーナーグリップしかない。これじゃ炎は出せない。

 

 

『いや一部しか見えなかったし勘弁してよ…』

 

「期待させてこれはひどいぞ」

 

『じゃあ他のごみ箱も探してみるよ、匂いは感じないし』

 

「便利だな」

 

 

 蓋が付いているゴミ箱に首を突っ込んで中を見るエヴリン。……何がとは言わないが丸見えだがいいのか。

 

 

『イーサンのえっち』

 

「ナチュラルに俺の頭を覗くな。俺にそんな趣味はない」

 

 

 顔を赤らめながら振り返るエヴリンにツッコむ。俺の頭の中も読めるのか、幽霊は何でもアリだな。

 

 

『こんな可愛い子供を連れ回しといて言う台詞?それより中にショットガンの弾があったよ』

 

「可愛い子供ってのがどこにいるのかは知らないがそれはナイス情報だ」

 

『なんだとー!ってこの感じ前にもあった!!』

 

「そうか?こんなことあったら覚えてそうなもんだが」

 

『あ、そっか。こっちの話』

 

「エヴリンお前、時々本当に変なこと言うよな」

 

 

 勝手に納得したエヴリンに首を傾げながらゴミ箱の蓋を開けてショットガンの弾を手に取る。ありがたい。横に薬液もあるな、これももらっとこう。…さすがに子供用のリュックじゃきつくなってきたな。

 

 

「エヴリン、一応マーガレットがいないか先を偵察して来てくれ」

 

『りょーかいー。あ、イーサンいいものがあるよ!』

 

「なんだって?これは……!」

 

 

 ふよふよと浮かんで先導するエヴリンを追って先に進み小部屋に入ると、机の上に大人用のリュックサックがあった。助かる、本当に助かる…!

 

 

「これでもっと物が持てるぞ…!」

 

『子供用のリュックどうする?』

 

「ここにある本やら入れてブラックジャックでも作るか」

 

21(twenty one)天才外科医の闇医者(間黒男)?どっち?』

 

「どっちでもない。殴打用の武器だ。サップともいう。革袋とかに砂や金属片等を詰め込んで固く絞ってかなりの重量で、頭部に叩きつければ脳にダメージを与えることができる。更には表面が布や革だから打撃音も少ないという点もある、お手軽に作れる便利な武器だ」

 

 

 そう説明すると訝しむ様な視線を向けてくるエヴリン。なんだよ?

 

 

『イーサン、本当にシステムエンジニアなの………?』

 

「護身用の武器ぐらい知っててもいいだろ」

 

『いや教えられたならともかく……』

 

「教えられるって誰にだ」

 

『そりゃあクr……………おっと失礼。ここから先はまだイーサンにとっては未来の出来事……でしたね?』

 

「いや本当に誰だ」

 

『あ、まだ放送してないんだった。私が預言者みたいだ』

 

「???」

 

 

 蟲への恐怖からかエヴリンがいつにも増して変だな。そっとしておこう。

 

 

『変とはなんだ変とは!失礼な!』

 

「あ、心が読めるんだったな。そっとしておくから好きなだけほざいていいぞ」

 

『私の失言とはいえ悲しいからやめて!?あ、それとさあ』

 

 

 これからどうしようか考えているとエヴリンが何かに気付いたのか指を指す。見てみると、そこには小部屋を照らす火が灯った蝋燭が。

 

 

「なんだ、ただの蝋燭じゃないか。……………蝋燭!?」

 

『今頃気付いたの?』

 

「よしあの巣を燃やすぞ」

 

『いつもなら止めるけどさんせーい!』

 

 

 蝋燭を手にして、来た道を戻る。エヴリンも乗り気だ。相当鬱憤が溜まっていたらしい。俺もだ。

 

 

『ギャアアアアっ!?きたー!?』

 

「邪魔をするな…!」

 

 

 ギャラリーを抜けてさっきの廊下に戻ると、窓をぶち破って虫どもが入ってきたので蝋燭を振るう。炎上して消えて行く蟲たち。行ける…!

 

 

「飛んで火に入る夏の蟲だ!」

 

『あ、イーサンここに固形燃料があるよ!』

 

「でかした、そいつで燃やすぞ!」

 

 

 廊下からダイニングルームに抜けると、エヴリンが棚の中から固形燃料……メタノールを主成分とする可燃液を凝固させた、着火すると激しく燃焼する代物を見つけてくれたのでそれを拾い、ダイニングルームから行ける、エントランスから右の部屋であるリビングにあった巣に急ぐ。

 

 

「ここであったが百年目だクソ虫ども!」

 

『わーい、イーサンの口が悪い!絶好調!』

 

 

 固形燃料と一緒に蝋燭をぶん投げて叩きつけると巣は炎上。中にいた蟲たちも飛び出すが焼けて悶えて崩れて行き、俺とエヴリンは思わずガッツポーズした。

 

 

『…ところでイーサン』

 

「なんだエヴリン」

 

『勢いに任せて投げちゃったはいいけどこれからどうするの?』

 

「あ」

 

 

 言われて冷や汗がダラダラと流れる。対抗策を自分から投げ捨ててしまった、やばい。

 

 

『イーサンの馬鹿!脳筋!』

 

「否定できん…」

 

 

 二人して五分ほど落ち込む羽目となった。




作者はゼノブレイドシリーズが大好きです!(クソデカボイス)

本編二話の懐かしいネタ回収。この会話も絵にしてもらったんですよね、ピクシブで見れるのでよければぜひ。

原作見ながら蝋燭あるしこれ使えばいいんじゃねと思ったことをそのままやった結果。この物語のイーサンは脳筋です(今更)

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♯15‐【汚物は消毒だ】‐

どうも、放仮ごです。旧館編はどうしてもババアが怖くて原作確認しながらが難しい。

今回はバーナーゲット、そしてボス戦。楽しんでいただけると幸いです。


 意気消沈しながらもダイニングルームを進む俺達。投げちゃったダメージはでかい。自爆だが。

 

 

『あ、イーサンなにかあるよ』

 

「見なかったことにしよう」

 

『でもなにか…』

 

「確認するために首を物理的に突っ込みたいか?」

 

『それは嫌だ』

 

「だろ」

 

 

 なんか小さな虫の大群に覆われた棚と天井に巣があったがスルーしてダイニングルームを抜けて外の桟橋と思われるエリアに出る。

 

 

「何で窓枠にガンパウダーがあるんだ…」

 

『さあ?でも助かるね』

 

「まあな」

 

 

 扉を開けてすぐ横、窓枠に置いてあったガンパウダーを拾ってバックパックに入れながら桟橋を渡ると、桟橋の途中にある巣からまた蟲が出てきたのでショットガンを構える。いやな、さすがに慣れた。

 

 

「いい加減にしろ蟲ども!」

 

『イーサンの心が死んでいくんだからもう出てくるな!』

 

 

 いくらでも湧き出してくる蟲を吹き飛ばしながら進もうとすると、巣の横は行き止まりで四角い穴が柱にあった。クランクかなにかでも持って来いということか?

 

 

『イーサン、後ろ!』

 

「ふんぬっ!」

 

 

 エヴリンの声に、咄嗟にショットガンの持ち手を両手で握ってフルスイング。背後にいた蟲を粉砕する。行き止まりに蟲の巣を設置するんじゃねえ!

 

 

「よし!」

 

『ホームラン決まったー!』

 

 

 エヴリンがやけくそに叫んでいるのを見て冷静になる。巣の傍の横道の先に小屋があった。あそこになにかあるかもしれない。しかし巣が邪魔だ、周りは沼で何も…………桟橋の上、つまり沼の上?

 

 

「これなら、どうだあ!」

 

『えええええええっ!?』

 

 

 巣の根元にショットガンをぶちかましてぐらつかせ、そのまま右足を振りかぶると思いっきり全力で蹴り上げた。

 

 

「キキィ!?」

 

「お前も死んでおけ」

 

 

 それに驚いて顔を逸らした蟲の一匹を靴先で蹴り飛ばす。そして蹴り上げられた巣は綺麗な放物線を描いて沼に落ちると逃げ出そうとする蟲たちを粘液の様な水面で巻き込みながら沈んで行った。

 

 

「…よし!」

 

『よしじゃないよ!?いや、よしかな!?でもなあ……』

 

「沼なんかに設置してるからこうなるんだクソババアめ」

 

『まあそれはそう。巣を蹴り飛ばすなんて発想は普通でないけどね』

 

「いや蹴りやすそうな形してるけど下が邪魔だなあって」

 

『思わないよ!?』

 

 

 そんなことをぼやきながら小屋に入る。ハーブに……おっ、これは?

 

 

『もしかしなくても』

 

「バーナーノズルだ。これで…」

 

 

 机の上に置かれていたバーナーノズルを先に見つけていたバーナーグリップと組み合わせクラフトする。…よし、がらくただったが組み立てタイプでよかった。もっとバラバラだったら難しかったな。

 

 

「よし。バーナー、完成だ」

 

『念願のバーナーを手に入れた!!』

 

 

 手にしたのはハンドメイドの火炎放射器。燃料は固形燃料と…薬液でいいのか?引き金を引いて炎を出して確認する。よし、いけるな。

 

 

『多分突っ切ってこれを手に入れるのが正解だったんだろうね』

 

「正解とかあるのかよ」

 

『ギャーきたぁああっ!?』

 

「燃えろっ!」

 

 

 ダイニングルームまで戻るとまたもや蟲の大群が襲ってきて、天井の巣ごと焼き払う。いや爽快だなこれ。

 

 

『こんなボロボロなのに引火しないね、なんか防火剤でも塗ってるのかな?巣にも塗ればいいのにね』

 

「ありがたい限りだな」

 

 

 とにかくこれで行けなかったところに行ける。戻るか。蟲の巣があって通れなかったエントランスの右側のリビングをまだ探索してなかったはずだ。

 

 

『だけどマーガレットいないね』

 

「いるって言ってたのおまえだろいい加減にしろ」

 

 

 そんなことをぼやきながら一度、件の蝋燭をぶん投げた現場であるゲストルームを通ってエントランスに戻り、リビングに続く扉を開ける。中央の敷居に鎮座する巣が夥しい。無言でバーナーを構える。

 

 

『ヒャッハー!やっちゃえイーサン!』

 

「汚物は消毒だ!」

 

 

 世紀末な台詞を吐きながら飛び出してきた蟲ごと火炎放射で燃やす。巣が炎上したので一度止めるも、原型が残ってたのでさらに燃やす。なんか奥から蟲の大群が現れたのでさらにさらに燃やす。……奥から?

 

 

「エヴリン、頼む」

 

『やだからね?』

 

 

 恐る恐ると燃やした巣の裏側を見る。暖炉があってそれを塞ぐように巣がくっ付いてた。思わずエヴリンと顔を見合わせ、頷く。

 

 

「『いい加減にしろ!』」

 

 

 尽きていたバーナーの燃料をあらかじめ移動中にクラフトしておいた固形燃料と薬液で作ったものと入れ替え、火炎放射。燃やし尽くすと、巣のあった後ろの壁に暖炉を改造したと思われる通路が現れた。

 

 

「こんなところに……」

 

『先に行って見てこようか?』

 

「頼んだ、なにがあるかわからんからな」

 

 

 率先してふよふよと壁を擦り抜けて偵察してくれるエヴリン。蟲がいない時は便利だな。

 

 

『結構広いよー。地下室に続いてるみたい?蟲もババアもモールデッドもいないね』

 

 

 離れているのにエヴリンの声が直接頭に響く。本当に便利だなお前。屈んで暖炉を通り抜けると白く輝く照明で照らされた下に続く通路と階段に出た。手すりまである。薄暗く蝋燭の灯りしかなかったのが嘘みたいだ。奥の部屋から擦り抜けて出てきたエヴリンが手招きした。

 

 

『多分、あの蜘蛛の影絵ギミックに使うものを見つけたよ』

 

「でかした。しかし、ここはなんか毛色が違うな」

 

『わかる』

 

 

 地下室に入ると、フェンスで仕切られたまた薄暗い部屋に出て。机の上によくわからんものが置いてあるのを見て駆け寄ると、聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

「イーサン?」

 

「なっ、ミア!?」

 

『え、嘘っ。ここで出るの!?』

 

 

 フェンスの向こう側の通路から出てきてフェンスに駆け寄ったのは俺の妻、ミア・ウィンターズその人だった。慌てて俺も駆け寄る、フェンスが邪魔だな。

 

 

「イーサン!」

 

「待ってろミア!ちょっと離れてろ、こんなフェンス蹴破ってやる!」

 

「え、ええ…」

 

『ミアもドン引きで草』

 

 

 ミアが離れたのを見計らって、勢いよく前蹴りを叩き込む。しかしビクともしない。ならばと後退し、勢いよくドロップキック。フェンスを固定していた留め金が外れて倒れ込んだ。

 

 

『ええー……フィジカルは最強だった?』

 

「イーサン!やっと、やっと会えた!」

 

 

 エヴリンが呆けてる中で、飛び込んできたミアを受け止め、抱き合う。ああ、よかった!元のミアだ、あの廃屋で狂っていたのが嘘みたいに普通のミアだ。

 

 

「ミア。どうなっているんだよ、ちゃんと話してくれ」

 

『ちゃんと話せるかなあ…』

 

「わかってるわ。私だってずっと貴方に全部話したかったの。でも、私!本当に何も覚えてなくて!」

 

『ああ、やっぱり』

 

 

 取り乱すミア。エヴリンお前なんか知ってるな。あとで話してもらうぞこの野郎。

 

 

「落ち着け。何も覚えてないことはないだろう?」

 

「本当にどうやっても思い出せないのよ!」

 

「おっと、そこまでだイーサン」

 

 

 するといきなりミアの背後から現れ、ミアの手を取りナイフを首筋に突きつけた男がいた。ルーカス・ベイカー。この狂った家の長男だ。

 

 

「お前、ルーカス!」

 

「おおおおっ!?」

 

『これにはジャックもにっこり』

 

 

 咄嗟にパンチ。ルーカスはまさか殴ってくるとは思わなかったのかたまらず避けて、ミアを解放。慌ててミアを抱き寄せて背後に回して俺もポケットナイフを取り出して構え、睨み合う。

 

 

「よう旦那、思ったよりクレイジーだな。カミさんを人質にしたのに容赦なしかよ怖いねえ」

 

「もうミアを失わない。お前もどうせジャックと同じですぐ治るんだろ、治らなくなるまで切り刻んでやるよ」

 

『こわいよイーサン』

 

「言ってることがサイコパスのそれだぜ?ほい!」

 

 

 ナイフを突き出してくるルーカス。その一撃を避けて、奴の腕に突き立てる。しかし気にせずそのままエルボーを叩き込んできて殴り飛ばされる。

 

 

「俺がすぐ治るって言ったのはお前だぜ?なに突っ立ってんだよ、このマヌケが!」

 

「うるせえ、汚物は消毒だ!」

 

「ちょっ、おま!?」

 

『これはひどい』

 

 

 俺のポケットナイフを腕から引き抜いて見せびらかして罵倒してきたので、怒りのままにバーナーを取り出して火炎放射。

 

 

「あづっ、あつっ、アァアアアッ!?」

 

 

 火達磨になったルーカスは絶叫しながら後ろの扉に入って姿を消した。ポケットナイフを拾い上げ、刃を納めてポケットにしまう。

 

 

「マヌケはどっちだよクソッたれ」




まさかのボス、ルーカス戦。頑張ればフェンスを蹴り倒せたよねって。

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♯16‐【最強夫婦】‐

どうも、放仮ごです。ついにヴィレッジのDLCシャドウズ オブ ローズが出ましたね!意識がどうやらすごくレムナンツしてて思わず苦笑い。まだ序盤しか見てませんがなんとか組み込みたいところ。今作の場合幻影エヴリンと幻影イーサンが実体持ってついてきそう。

今回はウィンターズ夫妻無双。楽しんでいただけると幸いです。


 ルーカスを撃退し、救出したミアとお互いの無事を喜ぶ。俺の場合腕とか足が何回か斬り飛ばされているが言わない方がいいだろう。

 

 

「ああ、よかった……イーサン、これからどうするの?」

 

「そうだな……エヴリン、なんかあるか?」

 

『ミアをこの時点で救出はさすがに想定外なんだけど』

 

「エヴリン?」

 

 

 思わずエヴリンに問いかけると、ミアが首を傾げる。そうだった、この幽霊は俺にしか見えてないんだった。

 

 

「俺を助けてくれる幽霊の少女だ。俺にしか見えないらしいから気にするな」

 

「えっ、ええ……イーサン、頭大丈夫?」

 

『いや草』

 

 

 おでこにミアの冷たい手を触られて熱を確認された。なんか恥ずかしい。エヴリンが腹を抱えて爆笑している。おいコラ笑うな。

 

 

『ひーっひーっ、笑った笑った。とりあえずそこの石でできてる…えーと、すたちゅえっと?を持ってギャラリーに戻ったら?これが“蜘蛛”でしょ』

 

「ああ、これか。重いな…」

 

『そりゃ石だからね。イーサンは戦わないとだしミアに持ってもらえば?』

 

「それは名案だ。俺が守ればいいんだな」

 

「…とりあえず、私に見えない誰かがいるのは分かったわ」

 

 

 ミアも納得してくれたようだ。机の上の石のスタチュエットを拾い上げてミアに視線を向ける。頷いて受け取ってくれた。

 

 

「よし、ミアは俺の後ろで警戒してくれ。ここにはミアを救うために必要なものがあるらしいんだ。それを回収する」

 

「わかったわ。…できれば危険な目に遭ってほしくはないけど、貴方は止めても聞かないわよね」

 

『大丈夫かなあ。一応私も見とくけど。二人になったらカバーも難しいよ』

 

「頑張れお前を信じてるぞ」

 

『ミアの前だからっていい顔するのやめない?』

 

 

 あからさまに不機嫌になるエヴリン。そういやミアに育てられたかもしれないって話だったな。

 

 

「面識あるのか?」

 

『面識はあるよ。ミアは忘れてるみたいだけど』

 

「俺以外にお前を見せる方法は何か思いつかないのか?」

 

『……ある、かもだけど言わない』

 

「なんで言わない?見えたり聞こえた方がやりやすいだろ」

 

『私が嫌なの!』

 

 

 膨れるエヴリンにどうしたものかと考える。ミアにも伝われば意思疎通が楽になっていいんだがなあ。

 

 

「わかった、無理強いはしない。偵察は頼んだぞ」

 

『あ、うん。任せて!』

 

「ミア、行こう。あいつが安全なルートを教えてくれる」

 

「わかったわ」

 

 

 地下室から通路を通って暖炉から一階に戻る。やっぱり空気が変わるな。

 

 

「こんなところに繋がってたのね……」

 

「そうか、ミアはここに来たことがあるんだったな。ビデオ、見たぞ」

 

『あのビデオ機材、どこで手に入れたの?』

 

「って、エヴリンが聞いてきてるが……実際どうなんだ?」

 

 

 そう尋ねるとミアは思い出したくもないのか嫌そうな顔をした。

 

 

「あのハゲた男……ルーカスが渡して私を逃がしたのよ。何が狙いなのか……」

 

「『ブフッ!?』」

 

「イーサン?」

 

 

 思わずエヴリンと一緒に笑ってしまった。ハゲって、ハゲって……いやたしかにフードで隠していたが薄毛だったな。特徴は他にいくらでもあるだろうに、ミア、いいセンスだ。

 

 

『っひ、ふひひひっ!ハゲ、あのルーカスをハゲ呼ばわり!アッハハハハハハハッ!今なら恐くないかも!フヒヒハハハハッ!』

 

「笑いすぎだぞエヴリン、気持ちは分かるが」

 

 

 馬鹿笑いしながらダイニングルームに擦り抜けて行くエヴリン。ツボに入ったのかまだ笑ってる。…幽霊にもツボはあるのか?と思いながらギャラリーに一番近いダイニングルームへの扉に手をかけようとすると。

 

 

『っふひひひっ!あ、駄目イーサン!こっちは……』

 

「私の可愛い蟲たちばかりかルーカスまで燃やしやがって!!バカ息子だけどあたしの可愛い息子なんだよ!?とっとと、ここから、出て行きな!」

 

「マーガレット…!?」

 

「ふざけるのもいい加減におし!あたしを怒らせるんじゃないよ……ギャアアアアアアッ!?」

 

 

 扉がちょっとだけ開いて顔を出したのはマーガレット。思わず手にしていたバーナーから火炎放射を噴き付け、炎上したマーガレットはじたばたと暴れてランタンを振り回し、足元から小さな蜘蛛の群れを、空中から羽虫の大群を向かわせてきたのでバーナーで応戦する。

 

 

「エヴリン!お前、偵察したならちゃんと報告しろ!驚いただろうが!」

 

『驚いただけなのちょっと引くんだけど。あ、後ろ』

 

「危ないイーサン!」

 

「おわっ。助かった、ありがとうミア」

 

『この夫にしてこの妻だった』

 

 

 足元の蟲を炎で薙ぎ払っていると、背後に回って襲ってきたらしい羽虫をミアが石のスタチュエットで殴り飛ばしてくれたらしい。なんて狙いのよさだ、頼もしいさすが我が最愛の妻!

 

 

『惚気てないでとりあえず逃げよう?マーガレット怒り狂ってるよ』

 

「だろうな。とりあえずギャラリーになんとか向かうぞ。鍵閉めたか、小癪な。オラア!」

 

『知ってた』

 

 

 ミア共々後退し、勢いをつけてドロップキック。内鍵を閉めただけであろう扉はあっさり蹴り飛ばされ、机に激突して粉砕された。

 

 

「よしっ!」

 

「さすがイーサン!」

 

『駄目だコイツら、早く何とかしないと……私がしっかりしないと……』

 

 

 ダイニングルームに突入すると、手で払って鎮火していたものの度肝を抜いた様子のマーガレットが。俺はお手製ブラックジャック(子供用リュックIN適当なボロ本を三冊)を取り出し右手の手首のひねりで回転。勢いよく叩きつける。

 

 

「よくもミアを怖がらせてくれたなあ!」

 

「どこまでふざけて……ギャアアアッ!?」

 

「あのときのドアップ本当に怖かったんだから!」

 

「あ、あたしの顔を見て勝手にちびったのアンタじゃないか……ギャアアアッ!?」

 

『なにこの夫婦怖いやだ』

 

 

 俺のブラックジャックの一撃を受けて床に叩きつけられたマーガレットに、怒りのミアが振り上げた渾身の石のスタチュエットによる一撃が後頭部に炸裂。マーガレットはランタンを手放して白目を剥いた。ピクピクと手足が蟲みたいに動いてるから生きてるだろ、多分。まあジャックといいこいつらはいくら殺しても死なないからこれぐらいしても足りないだろ。

 

 

「よし、今のうちだ!さすがにとどめを刺すのに時間を割いている余裕はない!」

 

「わかったわ!」

 

『えっと、うん。ミアのちょっと濡れてるズボンは気にしないことにするね?』

 

 

 どかどかと走ってギャラリーに向かい、蜘蛛の様なシルエットがある、蜘蛛の巣に囚われた蝶が描かれた絵画とそれを照らす照明の前に置かれた机の透明な台にミアから受け取った石のスタチュエットを設置して一分ぐらい三人で話し合いながら試行錯誤。

 

 

「ここ、私が前来た時は開いてた…たしかそのときは、こうだったかしら?」

 

「いや、ビデオで見たときはこうだったような…」

 

『そこをこう回転させるんじゃない?』

 

 

絵のシルエットに合うように蜘蛛の影を作り、隠し扉を開くことに成功した、が。

 

 

「おい嘘だろマジかよ!?」

 

「…ねえイーサン、ここ通るの?」

 

「………燃やすか」

 

『無慈悲に行こう』

 

 

 隠し扉の向こうの隙間の道は大量の百足がひしめきあっていて思わず寒気が走る。ミアの不安げな顔を見て決意、ためらうことなくバーナーを隙間に突っ込んで火炎放射。焼き払う。

 

 

「よし、ちょっと熱いが進もう」

 

「先導をお願い、イーサン」

 

『ちょっとじゃないけどね』

 

 

 荷物を手に持って盾にしつつ横に隙間の道を進んでいく。そして穴の様な出口から出れたのは、エントランスの左側から見えた足場が壊れた大部屋の向こう側だった。

 

 

「向こう側に出たのか」

 

『ってことはこっち側に探し物はあるのかな?』

 

 

 エヴリン、ミアと向き合い頷く。進むしかない、前進だ。




まさかのマーガレットも一蹴。ミアも案外脳筋だと思うの。じゃないとエヴリンを逃がすようなことなかったはず。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯17‐【蜘蛛の糸】‐

どうも、放仮ごです。仕事が忙しくてまだシャドウズ オブ ローズを全部確認できてなかったりします。

今回はVSマーガレット。楽しんでいただけると幸いです。


 ミアとエヴリンを連れてエントランスの反対側に出た俺達。ハーブやらを拾いつつ周囲を警戒する。ん?この足場、板を並べただけだな、穴でも開いているのか?と思いながら進むと、カラスのはく製が付けられら扉と、クランクを付けれそうな四角い穴の付いた装置、床下に開いた穴があった。

 

 

「カラスの鍵もクランクもないから進めないな」

 

「あ、ここってもしかして…」

 

「ああ、ビデオの最後のところか?」

 

『ミアが漏らしたところだね』

 

「イーサン。見張ってて。私が見てくるわ」

 

『漏らしたこと知られたくないのかな?』

 

「任せてくれ、もう二度と連れ去らせはしない」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「…エヴリン」

 

『もう、心配性だなあ。行ってきまーす』

 

 

 床下の穴に入って行くミアに、一応エヴリンも着いていかせる。……さて。蟲が嫌いなエヴリンもついていかせたし、存分に相手してやるよ。

 

 

「俺達がここに潜ったところを狙うつもりだったんだろうが…浅はかだったな!」

 

 

 振り返ると同時に、今まで感じていた殺気の主にショットガンをぶちかます。「みぎゃっ」という悲鳴と共に大きく後退したのは、バケモノだった。襲撃者の正体は手足が伸びてまるで蜘蛛の様になったマーガレット。

 

 

「イーサン。イーサン、イーサン!二階の私の祭壇に忍び込んで漁る腹積もりだね!どうせゾイの差し金だろう!私が気付かないとでも思ったかい!?」

 

「祭壇?」

 

 

 壁に張り付き、威嚇してくると手にしたランタンを振り回して羽虫の群れをどこからともなく呼び寄せ、ミサイルの様に突撃させてきた。

 

 

「私の神聖な祭壇は、誰にも触らせないよ!」

 

「まっすぐ飛んでくるなら恐くはないぞ!」

 

 

 ナイフを振り回して軌道上に刀身を置いて迎撃。ハンドガンをもう片手に構えてマーガレットを撃つが、ぴょんと跳ねて天井にくっ付き避けられてしまい、マーガレットは狂ったようにピョンピョン跳躍して俺を翻弄しながら捲し立てる。

 

 

「ゾイ!ゾイ!どうせどこかで聞いているんだろう!?大体お前はあたしやジャックを馬鹿にしてるんでしょうできそこないのくせになんてひどい子なんだろうお前なんて生むんじゃなかった許さないできそこないのくせにいつもいつも親を見下してこの家を捨てるつもりなんでしょうできそこないのくせにできそこないのくせにできそこないのくせにできそこないのくせにできそこないのくせにできそこないのくせに!!」

 

「お前、ゾイの気持ちを考えたことがあるのかイカレババア!」

 

 

 あのトレーラーハウスを散策した時に貼られていた家族写真に綴られていた言葉を思い出す。「みんな もう 戻らない(It’s too late them.)」あの一言にどれだけの想いが込められているか、俺にはわからない。だけどここまで言われるいわれはないだろう!

 

 

「イカレババアだって!?あんたに言われたくないよイカレ野郎!ゾイの考えなんて知ったこっちゃないね!もし祭壇に触るって言うなら纏めてバラバラにしてステーキにしてやるよ!」

 

 

 マーガレットが飛びかかってきたので、咄嗟にバーナーの燃料タンクを振り下ろして顔面に叩き付け迎撃。同時にミアとエヴリンが穴から顔を出した。

 

 

『ただいまってギャー!?』

 

「クランクを見つけたわイーサン。騒がしいけど何が……!?」

 

『蟲!NO!蟲!ごめんマーガレット!ごめんね!』

 

「何で謝ってるんだエヴリン。それよりミア、奥にクランクを使う場所があった!俺が時間稼ぎするからその間に行ってくれ!」

 

「いかせないよ!」

 

「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!」

 

『相手のゴールにシュート!超!エキサイティング!』

 

 

 すぐそこのクランクを使う装置に向かおうとするミアに襲いかからんとするマーガレットを蹴り飛ばす。頭を蹴り飛ばされたマーガレットはきりもみ回転してカラスの扉に激突、そのままダウンした。

 

 

「今のうちに!」

 

「わ、わかったわ!」

 

『分担作業、夫婦だねえ』

 

 

 クランクを使って繋がる通路を作ったミアが引き抜いたクランクを手に走り去っていくのを見送りつつ、マーガレットから視線を逸らさない。

 

 

「あいたたた……いいだろうお馬鹿なおチビちゃん!本気でやってやろうじゃないか!」

 

 

 頭を振って起き上がったマーガレットがその手に握ったランタンを振り回そうとしたので、ハンドガンで手を撃って手放させる。何度も見てきたのにさせるかよ。

 

 

「お前!お前-ッ!」

 

「それで蟲を操ってたんだろ。勘弁しろ、気持ち悪い」

 

『それは同感』

 

「気持ち悪いだって?あたしの可愛い蟲たちが気持ち悪いだってえ!」

 

「おわっ!?」

 

『熱烈すぎる!?』

 

 

 怒号を上げると跳躍して俺に飛びかかってくるマーガレット。ハンドガンを撃って迎撃せんとするも怒りのせいか怯まず組み付かれ、押し倒されて背中に激突した床……さっきの板張りのところが罅割れて瓦解。崩れ落ちた床から落下して背中が地面に打ち付けられ、首を絞められる。

 

 

「がああああっ!?」

 

『イーサン!イーサン!?これ不味い奴じゃ……』

 

「ここで縊り殺してやる!ミアはそのあとだよ!蟲の餌にしてやるから安心して先に逝きな!」

 

「クソッ……そんなことさせるか…!」

 

『イーサン、脇腹!』

 

「ナイスだエヴリン!」

 

 

 背中のダメージと首を絞められて窮地に追い込まれるも、エヴリンに指示されて咄嗟にマーガレットの脇腹をナイフで突き刺し、「ぐえっ」と呻いて手が緩んだのと同時に拘束から逃れ、手にしたハンドガンの底で殴りつける。

 

 

「エヴリン!?エヴリンだって!?まさか、なんでそんな奴に味方をするんだいエヴリン!あたしを見限ったのかい!?」

 

「お前は何を言っているんだ!」

 

『………見えてもないし聞こえてないだろうけど。私はイーサンの味方だよ、絶対に』

 

 

 縋りついてくるマーガレットを前蹴りで蹴り飛ばしながら見てみると、エヴリンは悲しそうな怒ってそうな神妙な顔をしていた。…知り合いなのは知っていたが、今のマーガレットの反応は昔この家にいた子供に向けるものじゃない様な……。

 

 

『今だよ、イーサン。急いで!』

 

「ああ、なんとか地上に……」

 

 

 梯子状になっている壁を登って逃れようと試みるも、跳躍して俺より先に地上に出たマーガレットは低い体勢のままランタンを振り回して蟲の大群を向かわせてきた。梯子を上ってて身動きがとれないところにそれはずるいぞ!?

 

 

「くそっがあああ!?」

 

『イーサンの手が酷い目にー!?』

 

 

 蟲に手を刺されてあまりの激痛に手放してまた落下。覗きこんできたので咄嗟に構えたバーナーから火炎放射をぶちかまし、蟲の群れごとマーガレットを焼き払う。

 

 

「ギャアアアアっ!?いけない子だね!これ以上許さないよ!わかってるかい!?もう許さないからね!」

 

『むしろ今までのは許せたとか優しいね』

 

「まったくだ!」

 

 

 炎上している間に登って地上に戻ると距離を取る。ハンドガンは効かない、バーナーは効果があるが燃料が心もとない。なら……!

 

 

「あたしの家に上がり込んで勝手はさせないよ!」

 

「好き勝手暴れさせてもらったよありがとうな!」

 

『本当に好き勝手に暴れたよね……』

 

 

 マーガレットが壁と天井の間に引っ付いてランタンを揺らし、蟲の群れが渦を巻いて突撃してきたのを、ショットガンを乱射して迎撃。手にしたブラックジャックを回転させて投擲。

 

 

「ウアアアアアアッ!?」

 

『痛そう』

 

「こいつで終わりだ!」

 

 

 胴体に直撃したマーガレットが落下してきたのに合わせて駆け寄り、ナイフを握った手を振り下ろしてマーガレットの胸を穿つ。

 

 

「があああああっ!?」

 

 

 マーガレットは絶叫を上げるとランタンを抱えながら板張りだった穴に落下。そのまま沈黙し、動かなくなった。

 

 

「はあ、はあ……精神的に、きつかった」

 

『結構えぐい勝ち方だったね』

 

「イーサン、お待たせ!」

 

 

 そこに駆けつけたミアが手にしていたカラスの鍵とバーナーの燃料をいくつか受け取り、俺達は鍵を開けて先に進むことにした。その先にあったのは……




一足早く蜘蛛形態のマーガレットとの激闘。前回の火炎放射が致命傷まで追い込んでました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯18‐【地獄からの使者】‐

どうも、放仮ごです。怖くてシャドウズ オブ ローズを全然確認できない現在。公式からエヴリンについて新事実が出るかもしれないのが怖すぎる。

今回はオリジナルボス登場。楽しんでいただけると幸いです。


 マーガレットを倒し、戻ってきたミアを伴ってエヴリンと共にカラス…よく見れば双頭のカラスの扉の鍵を開けて潜り抜けるも、両手に激痛が走って思わず立ち止まる。

 

 

「うう…」

 

『さっきの蟲に刺された箇所が腫れてる…』

 

「イーサン、大丈夫?その手・・・」

 

「ああ、大丈夫だ。回復薬をかければ…」

 

 

 そう言って回復薬を取り出すも、取りこぼしてしまう。首を絞められたダメージもかなり来ている、か。床をコロコロと転がる回復薬を拾おうとすると先に拾い上げてくれた手があった。ミアだ。回復薬を俺の両手にかけてくれながら悲しそうな視線を向けてきた。

 

 

「イーサン……私のために、こんなに傷付いたの?」

 

「軽いもんさ。お前を救うために俺はここに来たんだ。…これが、目的の物か…?」

 

 

 治癒された手を握って調子を確かめ、前を向く。そこにはマーガレットの言っていた祭壇、だろうものがあり、その中央には重厚そうな箱が置かれていた。…吊り下げられている複数の人形も不気味だが……何で自転車があるんだ?と思いながらも開けようとすると鳴り響く甲高い音。

 

 

「なんだ?」

 

『あ、イーサン。コデックス!反応してる?』

 

「イーサンそれは?」

 

「コデックスって言うんだが……TARGET?」

 

 

 コデックスにそんな文字が浮かぶとひとりでに鍵が開いて蓋が開く。中にあったのは丸まった赤ん坊もしくは小人のミイラの様なもの。そして蓋に貼られた一枚の紙。

 

 

「なんなの、これは……」

 

「わからない。だが……【資料 :  型  体  の「血清」について 以下の  を       ことで「血清」を精製    が可能である。1.D型被験体  脳神経 2.D型被験体  末梢神経】……?多分これが血清について書かれているんだな」

 

『…D型被験体、か』

 

 

 ふよふよと浮いて俺と一緒に紙に書かれた内容を見ていたエヴリンは悲しそうな顔でそう復唱した。なんだろう、もう会えない誰かを思い返しているような……。っと、プルルルルルッ!と電話の音が鳴り響く。慌てて周囲を探すと、入り口の横の机に蝋燭の燭台と共に置いてあったので電話に出る。

 

 

「もしもし?ゾイか?」

 

≪「どう?血清は見つかった?」≫

 

 

 電話の相手は協力者ことゾイ・ベイカー。コデックスでこちらの情報が伝わっているのか?

 

 

「ああ。ミアと合流して、お前の兄と母親と一戦交えてからそれっぽいのを見つけた所だ。蟲は聞いてないぞ」

 

『本当に聞いてないよ!』

 

≪「それは悪かったよ、警告はしておくべきだった。ミア、見つかったんだね。…ちょっと複雑だけどおめでとう」≫

 

「ルーカスは燃やしたら逃げたがマーガレットの方は倒せたはずだ」

 

『イーサン、人を燃やしたって平然と言うのやめよう?』

 

≪「燃やしたって……ルーカスも災難だね。で、血清は?」≫

 

「いや、まだだ。でも作る材料は分かった。ゾイ、お前確か材料になりそうなものを手に入れたって言ってたな。それはD型被験体とかいうやつの脳神経…「頭」か?それとも末梢神経…「腕」か?」

 

『………』

 

 

 ゾイにそう尋ねると無言で不機嫌になるエヴリン。どうしたんだお前、さっきから変だぞ。

 

 

≪「やっぱりね。「頭」なら推察通り、手に入れた奴がそれさ。でも「腕」の方は分からない。旧館は全部調べた?」≫

 

「いや。まだ一階だけだ。二階を調べてみるよ」

 

≪「それじゃあ探してみて。こっちも心当たりを探してみるよ。見つけたらトレーラーで会おう。ああ、あとひとつ。……ミアに背中を任せるのはやめといた方がいいかも」≫

 

 

 そう言ってゾイは電話を切った。ミアに気を付けた方がいいだって?その言葉で思い出すのは廃屋での死闘。豹変したミア。…大丈夫だ、今は落ち着いている。あんなことは二度と起きない、大丈夫だイーサン。

 

 

『自分で言い聞かせるのは大丈夫じゃないよ。私が見ておくからまあ安心して』

 

「電話の相手、なんだって?」

 

「このまま旧館を探して「腕」を見つけて欲しいとのことだ。二階に行こう」

 

「なら……これ、武器になりそうだし一応持っておくわ」

 

 

 そう言って祭壇に置かれていた金属バットを手に取るミア。ちょっと怖いが武器があるに越したことはない。

 

 

「ハンドガン渡そうか?」

 

「私に扱える気がしないから遠慮しておくわ」

 

『むしろシステムエンジニアなのに拳銃使えるイーサンがおかしいんだよ』

 

 

 うるさいわ。等間隔で階段が続く通路を進む。途中の部屋ではマーガレットの日記らしきものを見つけた。ミアとエヴリンを何かあれば俺を呼ぶように言って先に行かせ、読んでみる。時間が惜しい。

 

 

「【10/11 一日じゅう、ひどい耳鳴り 夜も眠れない あの子が来てからだ ゾイの言うとおり あの子はどこかおかしい 一緒に来た女も】………あの子に、女?」

 

 

 あの子というのが元凶なのはわかるが女だと?

 

 

「【10/15 幻覚 幻聴 吐き気が止まらない 町の医者に行ったらレントゲンを撮られた どうなってるの? 10/23 あの子がプレゼントをくれた 10/ 2階の一番奥 プレゼントは秘密の部屋に 誰にも渡さない あの「腕」はあの子の信頼のしるし 私たちを幸福に導いてくれる この幸せを汚す者は 誰も生かしておかない】…ついに日付すら書かなくなったか。2階の一番奥の秘密の部屋か」

 

 

 そこに「腕」がある事は間違いなさそうだな。

 

 

「イーサン!ちょっと来てくれない?」

 

「なんだ、どうしたミア」

 

 

 通路の奥まで進むと、扉の前で立ち往生するミアの姿。エヴリンは見当たらない、と思っていたら扉からヒョコッと出てきた。涙目で。

 

 

「イーサン、この扉どうやっても開かないの」

 

『様子を見に行ったんだけど……我ながら怖すぎて無理だったよぉ』

 

「我ながら?」

 

 

 引っかかりながらも扉を見る。重厚な鍵が仕掛けられていて、そこから伸びた糸…ワイヤーか?が扉横にある天秤に繋がっている。そしてそれには、どこかで見た様なランタンがかけられていて釣り合ってなくなっていた。ランタンを外してみようと試みるが天秤に固定されているのかビクともしない。

 

 

「……つまりランタンを持って来いということか?」

 

「ランタンって、あのバケモノが持っていた……」

 

『倒されたマーガレットの横に転がってたね』

 

「いったん戻るぞ」

 

 

 来た道を戻り、カラスの扉の前まで出る。するとそこに転がっていたはずのマーガレットがいなくなっていて。ハンドガンを手にして、バットを構えたミアと共に警戒する。

 

 

「エヴリン、索敵!」

 

『なんか嫌な音がする!わしゃわしゃって!』

 

「嫌な音?」

 

 

 耳をすませる。何かが高速で動く音。この感じは……蜘蛛か?

 

 

「アッハッハッハッハ!」

 

 

 すると笑い声と共に天井から蟲の大群が襲ってきて、咄嗟にハンドガンを仕舞ってはバーナーで迎撃。同時にバーナーで天井を照らすと、それはいた。

 

 

「マーガレット、なのか?」

 

『ぎゃああああっ!?人面蜘蛛ぉおおおおお!?』

 

「アハハハハハハッ!イーサン、感謝するよ!あんたのおかげであたしは可愛い蟲たちと一体になれた!」

 

 

 わしゃわしゃと動いて姿を現したのは、真っ黒な流動体で構成された三メートルはあろう巨大な蜘蛛。しかし節足の先は人間の手の形になっていて、巨大な腹部は蟲の巣の様になっていてそこから蟲を出し入れしてるらしい。胴体にはランタンが流動体に埋め込まれていて蟲を操っている。そして何より、その頭部。マーガレットの頭部が、360度ぐるりと回って顔面の位置を変えながらくっ付いていた。

 

 

「どうせカンテラが欲しいんだろう?あげないよ!じっくりと嬲り殺してやる!」

 

『マーガレット、そんな姿私知らない……運命を変えちゃったから?』

 

「そいつは勘弁願いたいな!」

 

 

 バーナーを放つが炎は届かず、マーガレットは天井を突き破って穴を開けながら姿を消し、次の瞬間横の壁を突き破って飛び出してきて押し倒される。8つの手に首を、顔を、腕を、足を、腹部を、全部封じられてしまい身動きが取れない。

 

 

「オアアアアアッ!お前にはあたしの子たちを浴びせてやるよ!」

 

「うおおおおおおおおっ!?」

 

『うう、今の私じゃ何も手助けできない……お願い、聞こえてないだろうけど……助けて!』

 

 

 するとその口から溢れだす百足や蜘蛛や芋虫が群がってくる。身動きが取れない中それが口や鼻や耳から入ってきそうだったその時。マーガレットが横に吹っ飛んだ。ミアがバットを叩き込んだのだ。手を差し出されて、それを掴んで立ち上がる。

 

 

「大丈夫、イーサン?」

 

「ああ、助かったよミア」

 

『…やっぱりお似合いだね二人とも』

 

「くそっ、ここじゃ分が悪いね!」

 

 

 わしゃわしゃと板張りだった穴に飛び込み、横穴に入って逃げて行くマーガレットを、ミアと共に追いかける。横穴を抜けた先にあったのは、旧館と繋がってるらしき古びた建物だった。




オリジナルボス、変異マーガレット・スパイダー。ジャックやルーカスみたいに菌が溢れだして巨大化したタイプのボスです。モチーフは某山の神。

エヴリンの情緒が大変な今回でした。レムナンツ本編みたいに武装させたりと手出しできないのは辛い模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯19‐【コンティニューしてでも】‐

どうも、放仮ごです。シャドウズオブローズ最後まで見ました。詳しくは語れないけど公式が最大手すぎた。レムナンツすぎない?でも言及はされても救いが無かったエヴリン更に救いたくなったから頑張るぞ。

今回はVSマーガレット・スパイダー。途中からエヴリン視点です。楽しんでいただけると幸いです。


「ここは……庭で行けなかった門の先か。逃げても無駄だぞ、マーガレット!」

 

『飛んで火に入る夏の蟲だぞこらー!』

 

 

 追いかけて行った先の建物の壁を突き破り、入って行くマーガレットを追いかけてミアと共にその建物に入ると、一階と二階で構成されていたのであろう建物の一階の天井と二階の床が破壊され、広々とした空間が広がっていた。

 

 

「待っていたよ、ここなら思う存分暴れられる。あそこには大事な祭壇と預けられたものがあるからねえ!」

 

 

 蜘蛛の見た目のまんまというかなんというか壁にへばりついて首をグルンと回して俺達を睨みつけ、蟲の大群を胴体の巣から放ってくるマーガレット。俺はバーナーで燃やし、ミアはバットで迎撃する。

 

 

「無駄だ!そいつはもう効かない!」

 

「なんなら直線状に来てくれて打ちやすいわ!」

 

『ミアはここをバッティングセンターかなにかだと思ってるの?』

 

「そうかい。ならこいつはどうだい?」

 

 

 そう言って下部四本の手で壁にしがみ付きながら口から糸を吐いてそれを上部四本の手で引っ張って纏めて一本の棍棒のようにするマーガレット。それを四本の手で掴むとフルスイング。

 

 

「ミア、危ない!」

 

『イーサン!?』

 

 

 咄嗟にミアを突き飛ばし、気付けば、俺は宙を待っていて。視界には絶句しているミアとエヴリン、そして首から上が無い俺の体があって。

 

 

「あ」

 

 

 首を断たれたと気付いた頃には床に転がり、俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何百回でも何千回でもやりなおしてやるんだからー!!』

 

 

 そんな声と共に我に返る。どうやらマーガレットとの決戦前だと言うのにボーっとしてたらしい。

 

 

「どうしたのイーサン。急に呆けて?」

 

「いや。突入するぞ!」

 

『イーサン、見たことない攻撃は気を付けて!本当に!』

 

「ああ、わかった!」

 

 

 エヴリンの真面目顔のアドバイスに頷き、バーナーを手に突入する。天上を破壊して吹き抜けになった空間の壁面に奴は陣取っていた。咄嗟にハンドガンを抜いて撃つ。シャカシャカと動かれて回避され、乱射して追従する。

 

 

「そんな豆鉄砲が当たるかい!あたしが怖いのかい?男のくせにみっともないったらありゃしないね!」

 

『イーサンのことが怖いのはマーガレットの方だと思う』

 

 

 そう言って蟲をばら撒きつつ、流動体の体に穴を開けてそこから白い弾丸を飛ばしてくるマーガレット。ミアはバットを振り回して迎撃、俺も避けつつハンドガンを撃ちながら近づこうとするも、白い弾丸の一つが避けきれなくて胴体に当たってしまう。すると当たった瞬間白い弾丸は広がって太い蜘蛛の糸の網に変形、俺を雁字搦めにに捕らえると口から糸を伸ばしてきたマーガレットに繋がれ引っ張り上げられる。

 

 

「捕まえたよ、怖がらなくていいからね……さあここからどうするつもりなんだい?」

 

『ああ、駄目!』

 

「ぐはああっ!?……このお!」

 

 

 その長い腕の一本で胴体を貫かれ、激痛に呻きながらも貫かれたことで糸がほどかれ解放されたことで、咄嗟に取り出したバーナーを零距離噴射。

 

 

「ギャアァアアアアアッ!?」

 

「ざまあみろ、クソババア…」

 

 

 火炎をまともに浴びたマーガレットは絶叫して俺を投げ出し、ボロボロの床に激突して床を粉砕し床下まで落ちてしまう。腹に穴が開いてしまった、回復薬で治るかこれ?

 

 

「イーサンをよくも!」

 

「ぐっ!?よくもやってくれたね!」

 

 

 燃えながら這い回るマーガレットを、ミアがすれ違いざまにバットをスイングして叩き込み、仰け反るマーガレット。しかし流動体の身体がうねって衝撃を受け流し、ぐるりと股を潜るように一回転して元通りになるとミアの首に糸を回して締め上げる。

 

 

「ぐうっっ!?」

 

「あんたは母親として気に入られてたから生かしてやったのにねえ。エヴリンはきっとすごく悲しむだろうよ!」

 

『悲しむに決まってるからやめてよ!』

 

 

 まただ。またエヴリンの名前が出た。なんでだ?いや、それよりも……!回復薬をかけるも傷の治りが遅い胴体の痛みは無視して飛びかかる。ミアを殺させるか!

 

 

「はああ!」

 

「心配いらないよ。大丈夫だからね。あんたら夫婦纏めて地獄に送ってやるからさ」

 

 

 ナイフで糸を断ち切ってミアを解放。そのままナイフを振り回して牽制し、マーガレットからミアを遠ざけるとそんなことを言ってきた。咄嗟にナイフをしまってハンドガンを取り出す。

 

 

「地獄に落ちるのは俺だけでいいさ!」

 

『イーサン!それは無茶だよ!?』

 

「なっ……ふざけるな、離れるんだよ!」

 

 

 胴体の巣の穴にハンドガンの銃口を突っ込んで乱射。暴れるマーガレットが俺の背中や腹部を八本の節足で貫いて来るが、俺は離れない。乱射を続けながら左手を奴の流動体の胴体に突っ込んでランタンを鷲掴みにする。

 

 

「無理を通せば道理が引っ込むって言うだろ、おらあああああ!」

 

 

 そしてランタンを引き抜いてバックパックに入れるとミアに投げ渡し、血を吐きながら叫ぶ。

 

 

「ミア!それを持って庭に向かえ!ゾイに任せれば、治して脱出できるはずだ!」

 

「そんな、嫌よ!イーサンは…!」

 

「いい加減におし、イーサン。さっさと離れな!」

 

「ぐああああああっ!?」

 

 

 そのまま俺はマーガレットの胸を貫かれて心臓を潰され、絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――繰り返す、繰り返す。もう三桁に入るだろうか、何度もイーサンの死を繰り返す。ジャックとのチェンソーデスマッチの比にもならない。武器の火力不足の中で出会ってしまったドミトレスク級の怪物、ミアを守ろうとしてしまう深層心理、追い詰めたという油断、地理の知識不足、敵のホームグラウンドでの翻弄、未知数の攻撃。不利な条件が揃っていて覆すことができない。しかも、私に対する疑いが生まれているのか忠告も半信半疑でしか聞いてくれない。

 

 あの時と同じだ。マダオと手を組んで十分すぎる戦力で挑んだのにミランダの戦力が未知数だったせいで手も足も出ずにみすみすイーサンを殺されてしまったあの時と、同じ。

 

 ミアも決してお荷物じゃない。だけどバットという近距離武器しかないミアは遠距離タイプのマーガレットとは相性最悪だ。

 

 つまりマーガレットに勝つには、武器を潤沢にして、ミアを安全な場所に置いて一人で戦わせて、決して油断させないで、地理の知識をどうにか補って、ホームグラウンドでの戦いをさせないで、攻撃を全て読み切った上でイーサンに信用してもらって指示をちゃんと聞いてもらわないといけない、のを全部一度にこなす必要がある。

 

 

『……………無理じゃね?』

 

 

 思わず弱音がこぼれる。いくら精神だけの存在で体が無いとはいえ、何度も何度も時間を越えて海を横断するのを繰り返していたからか疲れが出てきたらしい。

 

 

『………私、なにしてるんだろうなあ』

 

 

 はっきり言ってこの行動は私にとって自殺に等しい。私は死ぬためにこんな途方もないことをやっている。全ては歴史の運命を変えて、最愛の父と妹……イーサンとローズが一緒に過ごせる時間を作り、悔いなく消滅するためだ。それまではこの爆発までの一瞬の奇跡である四年間を、頑張らないといけない。まだ一年もたってないんだ、ここでめげてどうする、私。

 

 

『お姉ちゃんだろ、私!逃げるな卑怯者!弱音を吐いてる暇があったら妹の笑顔のために頑張れ!私は長女だから我慢できたけど次女だったら我慢できなかった、姉の責務を全うしろ!ローズが幸せな未来が見えている限り、私が挫けることは絶対に無い!!』

 

 

 菌根の中を駆け巡りながらそう決意する。飛び出したるはもう嫌というほど見た村の上空からの景色。もう何度目かわからないその景色をスルーして、西を向いて空を飛ぶ。目指すはアメリカ、ルイジアナ。今度こそ、イーサンを救って見せる!……いや待て、真面目に考えよう。私はアホだけど兵器として培った知識はある。幸せな記憶でちょっと薄れているけどそれを総動員して何とかする方法を考えよう。




コンティニューしてでもクリアする!というわけで7編エヴリンの内情がついに明かされました。これでエヴリンがどんな状況かなんとなくわかったかと。台詞は鬼滅のお兄ちゃんの台詞の姉版。

そんなエヴリンをちょっとずつ疑い始めたイーサン、信頼関係がガタガタです。ミアがいるからか自爆まがいの攻撃ばかり。至急火力がいるし、場所も変えないと勝ち目がない。エヴリンはなにか思いつくことができるのか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯20‐【告白】‐

どうも、放仮ごです。アクションの参考にマルハワデザイアを読んでたんですが、蜘蛛型女性クリーチャーってここにも出てたんだなと思い出しました。

今回はエヴリンの告白。VSマーガレット・スパイダー決着。ずっとエヴリン視点です。楽しんでいただけると幸いです。


 もう何回目かも数えるのも億劫になるほどのやり直しの果てで、私はいくつか知ることができた。まず、マーガレットは新しい自分の体に慣れていない。やり直すたびに試す様に攻撃してはそのほとんどが致命傷でイーサンを敗北させてきた。

 

 変異したマーガレットの主な能力は五つ。ランタンによる蟲操作。怪力。糸を用いた攻撃(刃や捕縛する弾丸など)。縦横無尽で素早い動き。流動体で構成されていることによる受け流し。物理攻撃・範囲攻撃・絡め手・防御・回避・全てに長けている怪物だ。

 

 あるやり直しでは、本館に開かないカラスの扉があったことを思い出し、その先に強力な武器があるのを確認したが、マーガレットがその間に新しい自分の体に慣れてしまい敗北。

 

 あるやり直しでは探索を進言し、庭から行ける本館のトタンで塞がれていた軒下でリペアキットなるものを見つけて壊れたショットガンを修理、火力はあったが装填数が少なくて咄嗟に撃った際に弾切れを起こして敗北。

 

 あるやり直しではゾイと合流してからイーサン、ミア、ゾイの三人でそれぞれバーナー、ハンドガン、ゾイの所持していた壊れたハンドガンをリペアキットで修理したものを手に応戦。しかしゾイとミアはマーガレットの流動体の体……カビに取り込まれて貪り食われ、イーサンも糸で囚われ蟲の餌にされてしまい敗北。

 

 あるやり直しでは強力な武器二つを揃えてイーサンが単身で挑むも、正面からでは太刀打ちできず力負け。ホームグラウンドで四方八方に張り付き襲いかかることができるマーガレットには手も足も出ず敗北。

 

 それからもいろいろ試してみたが何度も何度も大敗した。イーサンは正面から突っ込む癖がある。しかも私への疑心からか焦っている。それを何とかしないと勝ち目がない。今回も、また馬鹿正直に突っ込もうとするイーサンを止めるのに苦労した。武器を集めてからでも遅くないと説得するのは大変だった。

 

 

「それで、話ってなんだエヴリン」

 

『んー、ここなら「私」に聞かれないかな』

 

 

 ミアにカラスの鍵を渡し、本館のカラスの扉を探索に行かせるという口実で一人になってもらい、二人きり(正確にはイーサン一人)になったところに話を切り出す。これしかない。

 

 

『イーサン、私を疑ってるよね』

 

「…マーガレットから二度も名前が出るとさすがにな。…今までさんざん聞いてきた「あの子」ってのはお前のことなのか?……お前が、元凶なのか?」

 

『………うん。ゾイが言おうとした名前、覚えてる?あれは私のこと、エヴリンって言ってたんだ』

 

「だからあんなに騒ぎ立てたのか。…ミアがああなったのもお前のせいなのか?」

 

『……私なんだけど、この私じゃない。私はね、未来から来たんだ。最悪の未来を変えるために』

 

「……ターミネーター?」

 

『違う、そうだけどそうじゃない』

 

 

 思わずツッコんだ。私イーサンのせいで映画好きだけどそうじゃない。好きだけど。

 

 

「なんでだ、それが事実だとしてなんで元凶のお前が時間を越えてまで俺を助ける?」

 

『信じてもらえないかもだけど、私は自分の行いを後悔している。凄く、すごく後悔している。ジャックたちベイカー家を巻き込んで、イーサンもミアも。我ながら凄い子供だった。……それに私にとって、イーサンは大事な人なんだ』

 

 

 さすがに今父親だなんて言ったら怒るだろうから言わない。できるだけ大事な情報は言わないで信じてもらうしかない。

 

 

「俺が、お前にとって大事な人…?」

 

『それにね。絶対に笑顔にしたい子がいるの。その子のためにイーサンにはできるだけ傷を負わないでほしい。詳しくは禁則事項で言えないけど、私はそのために時間を越えてきた』

 

 

 私が勝手に時間を越えてきたから禁則事項なんてないけど便利な言葉だから使っとく。

 

 

『だからお願い。このままじゃイーサンはマーガレットに殺されてしまう。今回ばかりはイーサンの破天荒ぷりでも勝てないんだよ』

 

「そんなのやってみないと……」

 

『やったから言ってるんだよ。もう百回以上、殺されて私はやり直している。もう嫌なんだよ、イーサンが殺される姿を見るの……』

 

「………お前が嫌われるかもしれないのに話してくれたってことは、本当なんだな」

 

『…嫌ってもいいよ。私が勝手に助けるだけだから』

 

 

 悲しいけれど、しょうがないよね。このイーサンは私と三年過ごしたあのイーサンじゃないんだもの。

 

 

「…今更嫌うかよ。もう長い付き合いだ、お前が悪い奴じゃないことぐらいは分かるさ」

 

 

 その言葉に伏せていた顔を上げる。イーサンは不敵に笑って拳を翳していた。

 

 

「お前は反省しているんだろ。なら罪を問うのも野暮ってもんだ。この時代のお前をぶちのめして同じように反省させてやるよ。だからこれからも力を貸してくれ。相棒」

 

『うん、うん!まかせて!』

 

 

 涙ながらにその拳に擦り抜ける拳を重ねる。何度やり直しても絶対にやるもんかと思っていた告白だったけど、勇気を出してよかった!

 

 

「それで、考えはあるんだろうな?」

 

『うん、まずはミアを待っている間に庭に戻って本館の外壁にあるトタンを調べて』

 

「了解だ」

 

 

 私の言葉を全面的に信じて行動してくれるイーサンに、娘じゃないけど相棒扱いもいいなとちょっと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。ゾイと一度合流してからミアを預けさせて、イーサンと二人で旧館に突入する。ハンドガンで一撃浴びせてから物陰に隠れさせる。真正面からダメなら隠れながら隙を窺えばいい。

 

 

「馬鹿な子だねえ。どうせ最後には見つかるってのにさ」

 

『すてんばーい』

 

 

 目の前の壁を横断していくマーガレット。やっぱりだ、この夜の暗闇はこちらからも見ることは難しいけど、あちらからも見えにくいらしい。ランタンの灯りを蟲を操ることぐらいしか出来ないんだ。イーサンに息を潜ませ、私がマーガレットに肉薄して隙を窺う。

 

 

「入り口は塞いだ。もうどこにも逃げられやしないよ坊や」

 

『今だよ!』

 

「逃げるつもりはないさ蟲ババア!」

 

 

 私の合図と共にイーサンが手にしてマーガレットの背中から放ったのはグレネードランチャーの焼夷弾。ルーカスが製造したと思われるハンドメイドのグレネードランチャーで、廃材を利用して無理矢理作ったような、砲身は金属をテープで巻き付けて補強がしてあり、かなり大雑把な作りをしている代物だ。だがしかし炎を発する砲弾を発射できる。効果は絶大だ。

 

 

「あぁああああっ!?燃える、燃える!?見つけた!今度こそ逃がしゃしないからね!」

 

「喰らえ!」

 

 

 適当に傍に落ちていた板の残骸を投げつけ、リペアキットで修理した壊れたショットガンこと古いダブルバレルショットガンの散弾で粉砕して目くらまし。その間にまた身を隠すイーサン。目に板の残骸を受けたマーガレットは悲鳴を上げて仰け反る。イーサンらしくないとは思うがこれが私の作戦だ。名付けてザ・堅実。

 

 

『イーサン、こっち!』

 

「ほらあたしとおいでなさいな。もう終わらせようじゃないの」

 

 

 すると怒って口から糸を出してそれを束ね、斬撃として周囲一帯を薙ぎ払うマーガレット。さらに糸の弾幕を放ちながら地面を横断するが、そこにイーサンはいない。私が案内して、マーガレットが内装を破壊した際に残って壁に立てかけられている梯子を伝って二階だった部分の端のわずかな足場に逃れたのだ。

 

 

『すてんばーい、GO!』

 

「舌ったらずなの笑えるからやめろ!」

 

 

 マーガレットが真下を通ると同時に飛び降りさせ、流動体の体を踏み潰してゼロ距離でバーナーを放つイーサン。巣を破壊することに成功し、流動体の身体は炎上。しかしマーガレットの口から糸の弾が放たれ、それを浴びたイーサンは糸で雁字搦めにされ吹き飛ばされてしまう。

 

 

「があ!?」

 

「ああ、熱い!熱い!熱い!許さないよ!そろそろ諦めたらどうなんだ坊や?!」

 

 

 燃えながらもその巨体で踏み潰さんと突進してくるマーガレット。イーサンは板の残骸で糸を斬って拘束から逃れるとそのまま糸をマーガレットの顔面に叩き付け、グレネードランチャーを構えて突撃してくるマーガレットに向けて引き金を引いた。

 

 

「さよならだ」

 

「ぎ、い、あぁああああああ!?」

 

 

 糸で前が見えずろくな防御もなしに直撃、炎上するマーガレットの身体が石灰化していく。そして崩れ落ち、私にとっての終わりの見えない悪夢は断末魔で終曲を告げた。……ごめんねマーガレット。




さすがに詳しくは語れないけどついに告白したエヴリン。隠し事無しの信頼関係を築くことができました。

ミアにグレネードランチャーを回収してもらい、感想でも言及されていたリペアキットで(ポールハンガーのおかげで)所有していた壊れたショットガンを修理し、戦力増強に成功。マーガレットともついに決着をつけました。残る敵は…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯21‐【話をしよう】‐

どうも、放仮ごです。前回まで「カンテラ」と書いていたのが実は「ランタン」だったと気付いて慌てて修正しました。ゼルダ脳って怖いね。


???「そう、あれは三年後だったか…それとも三年前だったか…」今回はそんな話。楽しんでいただけると幸いです。


「はあ、なんとか勝てたな。もう生き返ってくるなよ」

 

『やった、やった!無限ループを乗り越えた!』

 

 

 石灰化したマーガレットが崩れ落ち、亡骸から出てきたランタンを手に取り一息つくと、目の前でエヴリンがぴょんこぴょんこ跳ねて全身で喜びを表していた。瞳には涙すらある。

 

 

「お前がどれだけやり直したのかその一言で痛感したよ」

 

『ぶっちゃけジャックの時より死んでるもん』

 

「ジャックの時も俺死んでたのかよ」

 

『結構死んだけど今回の比じゃないよ』

 

「そいつぁよかったよ」

 

 

 一応探索して弾の類を回収してから外に出る。一度ミアとゾイと合流するとして、………エヴリンの事を話すべきかどうか、だな。

 

 

「たびたび言ってた意味の分からない俺に教えてもらったとかもそういうことだったのか。…なあエヴリン。お前がミアに姿を見させたくないのもなんか理由があるのか?」

 

『……うん。ミアは記憶を失ってるけど、ミアは私のママなの』

 

「なんだって!?」

 

 

 不倫!?と驚いているとエヴリンは慌てて手を振り回して『違う違う』と否定した。

 

 

『私のベビーシッターみたいなものだよ。私はコネクションって組織の生体兵器、E型被験体。ミアはその教育係でママとして私を育ててくれたの』

 

「組織?教育係……ってまさか、ミアの仕事って…」

 

『そこは私もちゃんと知らないから明言しないでおくね。それで私はミアから逃げて、ベイカー家に拾われたの、記憶を失ったミアと一緒に』

 

「…なるほど、お前の顔を見たら記憶を取り戻してしまうかもしれないと危惧したのか。あとひとついいか?」

 

『なに?こうなったらなんでも答えるよ』

 

「この時代のお前は何処にいるんだ?」

 

『………』

 

 

 そう尋ねると黙るエヴリン。言えないのではなく、なにか恥ずかしくて悩んでる様子だ。

 

 

『えっとね……そのね?イーサンはもう遭ってるんだよね……』

 

「なんだって?」

 

 

 そう言われて思い返す。俺が出会ったのはベイカー家のジャック、マーガレット、ルーカス、ゾイ、名前も知らない老婆。保安官補佐。ミア。………いないが?

 

 

「いやいないが?」

 

『思い出して。最初に見た写真。誰が映ってた?』

 

「たしか、ジャック、マーガレット、ゾイとルーカスと思われる子供たち…………うん?」

 

 

 思い返す、本館で見た写真たち。そのどれもに映っていなかった人物がいた。おいまさか。いや、そんなまさか。

 

 

『私の長靴を見つけた時言ってたよね。「お前何歳だ」って。ビビったよ』

 

「あの老婆が、お前か?」

 

 

 本館の各所で出会ったあの老婆。エヴリンがとんでもなく殺意を抱いていたあの老婆。思い出す、あの時の会話。

 

 

――――「危ない危ない…さすがに襲われてもないのに撃つのは駄目だよな」

 

――――『……一発ぐらいなら誤射かもしれないよ?』

 

――――「確信犯は誤射とは言わん」

 

――――『…やっぱり駄目かあ』

 

 

――――「あの老婆はジャックの母親なのか?それともマーガレットの?」

 

――――『どっちでもないかなあ』

 

――――「???親戚の老婆ってことか…」

 

 

――――『でも悪いこと言わないから歌声の主は容赦なく殺した方がいいよ。だってこんな場所で呑気に歌ってるんだよ?まともな…………うん、まともじゃないよね………まともなやつじゃないよ!』

 

 

 うん、今思い返してみても殺意高いなエヴリン。それに嘘はついていなかった。あれがエヴリンなら確かにどっちでもないわ。

 

 

「なんで老婆になってるんだ……」

 

『話すと長いんだけど、……一言でいうなら罰かなあ』

 

「罰?」

 

『うん、ミアの元から……コネクションから逃げた罰。定期的に保全用化学物質とかいうのを摂取しないと私は急激に細胞劣化を起こして老化しちゃうんだ。止めるには安定化化合物っていうのがいるんだけどそれを受ける方法がなくなったから、まだ年齢一桁なのにおばあちゃんになっちゃった』

 

「…そのコネクションとかいう奴等、外道か?」

 

『ミアもその一員だったから勘弁してあげて。それに生物兵器として赤ん坊の状態から急激に成長させられたから、こうなるのは自然の摂理に逆らった罰だよ』

 

「それはお前のせいじゃないだろ」

 

『私という存在そのものが罪なんだよ。ある女の狂気の執着から生まれた望まれない子供なんだ』

 

 

 悲しげに笑うエヴリン。無理をしてるようで、だけど何かを思い出したのか楽しげに笑った。

 

 

『そんな私の事をね、大事な娘だって言ってくれた人がいたんだよ。愛してくれた、命懸けで戦ってくれた。嬉しかった。本当に嬉しかった。その人の為なら私は何処までも頑張れるんだ』

 

「それってもしかして……」

 

『さあてね、秘密だよ!恥ずかしいからね!』

 

 

 いたずらっ子の様に笑うエヴリンに、ああ、悲しい生まれだけど救われたんだなと安心する。あれ、でも…?

 

 

「…でもいいのか?」

 

『なにが?』

 

「この時代のエヴリンを殺したらお前も消えるんじゃ…」

 

『ああ、それ?いいよ』

 

「は!?」

 

 

 思わず振り返る。エヴリンは笑顔で頷いていた。

 

 

『だって、私はいない方がいい。できる事ならベイカー家がこうなる前に私を殺したかったけど今から三年前のイーサンはそうじゃなかったからね』

 

「いや待て。お前だと分かった以上、俺は老婆エヴリンを止めるつもりはあっても殺すつもりはもうないぞ」

 

『いや、殺してよ。これ以上誰かを巻き込む前に殺してよ』

 

「断固断る。俺はお前を殺したくない」

 

 

 心からの本音だ。それが伝わったのか信じられないとい表情を浮かべるエヴリン。

 

 

『なんで。私を殺せば、それで終わるのに。それにこの私は消えないよ、しつこく付きまとってハッピーエンドにするまでは消えないから!』

 

「そう言う問題じゃない。あの老婆がエヴリンだと言うなら助ける。そのなんとかって薬を手に入れて助ける。そして教育してやる。お前みたいな、いい子にしてやるんだ」

 

『私、悪い子だよ?』

 

「悪い子は他人のために自分を殺そうとなんてしないんだよ。死ぬことは諦めろ、俺はお前を諦めない」

 

 

 そう言うとエヴリンは涙を流した。慌てる俺に、淡々と問いかける。

 

 

『いいの…?』

 

「な、なにがだ?」

 

『私も、イーサンやミアやローズとこの手で触れ合える未来を期待しても、いいの…?』

 

 

 その言葉を聞いて確信した。誰かと触れ合いたいんだ。ぬくもりが欲しいんだ。でもそんな(幽霊の)体から諦めていた。ローズが誰かはわからないが、力強く頷く。

 

 

「当たり前だ!」

 

『でも、でも私、ゾイたちに申し訳ない……』

 

「そのときは謝ろう、罪滅ぼしをするんだ。俺も一緒に付き合うさ。許されなくても、死んで逃げる事だけは駄目だ。お前みたいに、老婆エヴリンも自分の罪に直面し反省しないといけないんだ」

 

『でも、この時代の私は全てを憎んでる。家族の愛を求めて暴走している。殺さないで止めるなんて絵空事……』

 

「俺とお前が揃えば負けることはないさ。それにお前が言ったんだろ。掴もう、未来を!」

 

『……うん、うん……!』

 

 

 以前エヴリンが言ってた台詞を返してやれば、涙を拭って晴れやかな笑顔で頷くエヴリン。そうと決まれば必要なものが増えたな。

 

 

「で、そのなんとかって薬を手に入れる手段はないのか?」

 

『安定化化合物、ね。私は知らない、でも持ってそうな人は知ってるよ』

 

「そいつは…?」

 

『ルーカス。ルーカス・ベイカー。私が本気で恐怖を抱いている……サイコパスだよ』

 

 

 そう言ったエヴリンから伝えられる。自分の転化(洗脳みたいなものらしい)からコネクションの手を借りて逃れ、洗脳されたふりをし続けていたこと。子供の頃からサイコパスで友人を殺していたこと。ひそかにエヴリンの研究をしていたこと。そのすべてを、終わった後に知らされたこと。つまりこの狂った環境下で正気を保ち続けている狂人だと言うことだ。

 

 

「なるほど。もしかしたら持ってるかもしれないな。でもそのルーカスは燃えて逃げたぞ」

 

『本当ならあの時、なにもできずにミアを連れていかれて、ゾイも「頭」ごと誘拐されて、イーサンはルーカスの仕組んだデスゲームに挑んだらしいんだけど……』

 

「だけど?」

 

『未来のイーサンも思い出したくないのか全然語ってくれないから詳しくは知らないんだよね……』

 

「いや待て。誘拐だと?」

 

 

 旧館のカラスの扉に戻るために横穴を進んでいた俺は、最悪の可能性に行きつき引き返す。

 

 

『え、どうしたの?腕、取らないと……』

 

「それは後回しだ!ミアとゾイを一緒にしてるんだぞ……知られていたら、狙われないわけが…!」

 

『あ…!』

 

 

 そして横穴を抜けてトレーラーハウスに戻った俺が見たのは、巨漢のモールデッドに気絶したミアとゾイを担がせてどこかに行こうとしていたフードの人物、ルーカスその人だった。




この時代のエヴリンも救うことを決意したイーサン。本編エヴリンも実は触れられなかったことがずっと悩みだったという。

そして恐怖の場所に眠る「腕」は後回し。いつぞやのダッシュババアを思わせる展開へ。これにはサイコパスもびっくり。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯22‐【フューマー】‐

どうも、放仮ごです。強敵と連戦だけどエヴリンのせいでハードモードになってるからしょうがないね。

今回はルーカスとの対決。楽しんでいただけると幸いです。


 トレーラーハウスのある庭に戻るなり見つけた、肥満体のモールデッドに気絶したミアとゾイを運ばせているルーカスの姿。咄嗟に飛び出し、飛び蹴りをルーカスに叩き込んだ。

 

 

「ここで会ったが百年目だルーカスこの野郎!ミアとゾイを返せ!」

 

「ぐわっ!?こんなに早く来るはずないだろう、てめえイーサン!」

 

『まさか引き返したとは思うまい』

 

 

 ゴロゴロと転がるルーカスを追いかけ、拳を振るう。死なせたらエヴリンの薬の在り処が分からなくなる、殺すわけにはいかない。襟を掴み上げ、火傷も残ってない顔面をぶん殴ると殴り返してきた。エヴリンの言ってた菌の再生能力か。そういやジャックに斬り落とされた腕もくっついてたな。

 

 

「てめえ、「腕」はどうした!?」

 

「んなもんよりミアとゾイの安否の方が大事だ!」

 

「てめえ!段取りは守りやがれ!吐き散らせ、ファット・モールデッド!」

 

『イーサン避けて!?』

 

「なっ!?」

 

 

 するとファット・モールデッドと呼ばれた肥満体のモールデッドが口を開いてそこから濁流を噴出してきて。咄嗟に回避した先の地面がドロドロと融解する。溶解液、胃液を放出してきたのか。なら…!

 

 

「喰らえ!」

 

『燃えよイーサン!』

 

 

 手にしたのは子供用リュックに本を詰めたお手製ブラックジャック。ヌンチャクの様に振り回して下からファット・モールデッドの腕を弾き、ミアとゾイを解放させるとそのままブラックジャックで顎を打ち上げる。放たれた溶解液がトレーラーハウスに直撃して融解させた。

 

 

「めいっぱい吐いてお腹空いてるだろ、これでも食っとけ!」

 

 

 一度放射して隙だらけの口にグレネードランチャーを突っ込み、焼夷弾をぶちかます。体内で爆ぜた炎に包まれ炎上するファット・モールデッドを尻目にルーカスに振り返る。ルーカスは立ち上がり、ファット・モールデッドがやられてるのに余裕の笑みを浮かべている。

 

 

「俺お手製のグレネードランチャーか。それで勝ったつもりかよ、イーサァン」

 

「があっ!?」

 

『イーサン!』

 

 

 瞬間、爆発が背中から襲う。ファット・モールデッドが死に間際に爆発したらしかった。酸が背中を焼いて激痛が走る中で立ち上がり、ルーカス目掛けてブラックジャックを振るうも軽々と避けられてしまう。

 

 

「くそっ……」

 

「油断したなあ?スーパーマンみたいに強くても足元はいくらでも掬えるんだぜ?それに俺は親父やおふくろと違って、モールデッドを操れる。来いよお前ら、新鮮な獲物だぜ」

 

『卑怯者!サイコパス!』

 

 

 殴られた痣も既に治った顔で嘲笑を浮かべ、両手を広げてモールデッドを呼び出すルーカス。普通のモールデッド二体に、ブレード・モールデッド、そして四つん這いの…『クイック・モールデッド!』エヴリン曰くクイック・モールデッドまでいる。ならばと右手でブラックジャックを回転させ、左手でグレネードランチャーをバックパックにしまって代わりにダブルバレルショットガンを構える。ルーカスがなにか仕掛けてくる前に、終わらせる!

 

 

「おらあ!」

 

『さすがに無理だよ、イーサン!』

 

 

 回転させ遠心力を乗せたブラックジャックの一振りで普通のモールデッドの一体の頭部を粉砕し、その勢いでブレード・モールデッドの刃を打ち付けて弾き飛ばす。

 

 

『もうどこぞのカンフー映画みたいだね!?』

 

「説明書を、もとい映画で覚えたんだ!」

 

「キシャシャアッ!」

 

 

 飛びかかってきたクイック・モールデッドの腕をダブルバレルショットガンで受け止め、わざと倒れ込み背中を地面につけると日本のJUDOの要領で足を腹部に入れて押すことで背後に投げ飛ばし、引っくり返ってじたばたするその頭部を全体重を乗せて踏みつけて粉砕する。

 

 

「ギシャアアアアッ!」

 

『イーサン、後ろ!』

 

「危ないっと!」

 

 

 背後から襲いかかってきたモールデッドの爪を咄嗟にダブルバレルショットガンで受け止める。そのまま右手に握ったブラックジャックを軽く振るって腹部に打撃、よろめいて後退したモールデッドの胴体にダブルバレルショットガンをぶちかまし、吹き飛んだところにその場で斜めに回転して勢いをつけたブラックジャックを叩きつけて撃破する。

 

 

「グゥウウウッ!」

 

「しまっ……!?」

 

 

 するとさっき弾いたブレード・モールデッドが横手から襲ってきて刃を振るい、ダブルバレルショットガンを弾き飛ばされてしまう。

 

 

『イーサン、今度は負けないでね!』

 

「わかっているさ。こんにゃろ!」

 

 

 咄嗟にブラックジャックを振るって反撃。ピンクのそれをブレード・モールデッドは左腕で受け止め犠牲にして防ぐと刃を振るい、ブラックジャックをバラバラに粉砕されてしまう。

 

 

「俺のお手製をよくも!」

 

「ギアアアアッ!?」

 

 

 ならばと右手の人差し指と中指を構えて顔面を突いて目つぶし。こんななりでも目はあるのかブレード・モールデッドはよろめき後退しながら刃の右腕で顔を押さえ、そこに前蹴り。蹴り飛ばし転倒したところに近づき、取り出したハンドガンを口に突っ込み乱射。ブレード・モールデッドは脳幹(?)を吹っ飛ばされて沈黙した。吹き飛ばされたダブルバレルショットガンを手に取り一息つく。

 

 

『前言撤回!強すぎるよイーサン!』

 

「目標が決まったからな。そりゃやる気も出る」

 

「ちっ、普通のモールデッドは通用しねえか。なら使う気はなかったがしょうがねえ、念のため連れてきた切札を使ってやるよ。来い、フューマー」

 

『ふゅーまー?』

 

 

 そう言って指を鳴らすルーカス。エヴリンが首を傾げると共にのそのそと草むらから現れたのは、通常よりやや大きい体格で体色は白く、身体からは白煙が立ち込めている。口が裂けていて嗤っているようで不気味だ。なにかが、今までのモールデッドとは違う。

 

 

「…エヴリン、あれはどんなやつだ」

 

『し、知らない…』

 

「なに?」

 

『私、こんなモールデッドは、知らない……』

 

 

 思わず振り返ると本当に知らないようで怯えて困惑しているエヴリン。未来から来たエヴリンも知らないモールデッドだって…?

 

 

「どういうわけだか知らねえがエヴリンを味方につけたようだがな?こいつは俺がカスタムした特殊なモールデッドだ。エヴリンの支配下からも外してある。今までと一緒だと思うなよ?」

 

「撃てば死ぬのは変わらないだろ!」

 

 

 グレネードランチャーは外れた場合ミアとゾイが危ないので、次に高威力なダブルバレルショットガンに弾込め。歩いて近づいて来たフューマーにぶちかますが、傷が即座に再生、元通りになってしまい、そのまま首を掴まれる。なんて再生能力だ。

 

 

「なんだと!?ぐうっ!?」

 

「いい様だなあ、なあ相棒?そう焦るな、ゆっくり楽しませてやる。面白いゲームを用意してやるってんだ。まあ心配するな。この二人は大事な大事な商品(・・)だ。丁重に扱ってやるから安心しろよ、なあ?」

 

「ふざ、けるなあ…」

 

『イーサン!?』

 

 

 口笛で新たに呼び出したファット・モールデッドに再びミアとゾイを運ばせながら笑い俺の顔を覗き込むルーカス。このフューマーに、手も足も出ない。

 

 

「こいつは俺達「家族」の問題だ。「家族」でもないお前が首を突っ込んでくるなよ、なあ分かんだろ?いいか?ミアとゾイを返してほしかったら「腕」を持って俺んところまで来てみろよ。そしたらくれてやってもいいぜ!」

 

『やっぱりルーカス嫌い!』

 

 

 そう煽り散らかすルーカス。エヴリンに同意だが首を絞められてそれどころじゃない。

 

 

「ただ俺を燃やした罰だ。お前にやってもらうぞ、ちょっとしたゲームをな?お前のために考えてやったんだよ!ワクワクするだろ?いや、今のお前は心臓バクバクか?上手くもねえし面白くねえな、ギャハハハッ!」

 

「クソ、野郎が……」

 

「悪態吐けるぐらい元気があるなら、まず最初に地下の解体室に行くんだ相棒!ポリ公が待ってるぜ!」

 

 

 そう言って去っていくルーカス。ポリ公だと…?あの保安官補佐のことか…?意識が、不味い……

 

『イーサンを放せ!離れろ!もう、やり直したくないよ!?』

 

 

 悲痛な悲鳴を上げるエヴリンに、負けられないと奮起し拳を振るいリバーブローを叩き込むが、人間なら痛みで悶絶するはずのそれを受けてもフューマーは笑うだけ。そのまま俺を持ち上げ、勢いよくトレーラーハウスの壁面に背中から叩きつけてきた。

 

 

「があああああっ!?」

 

 

 さっき爆発を受けた背中にさらに大ダメージを受けて転がり込む。フューマーはそんな俺を見下ろして右足を振り上げてきたので、咄嗟に左足に組み付きバランスを崩して転倒させる。

 

 

「うおおおおおおっ!」

 

 

 そのままナイフを取り出しフューマーの首に押し付け、ナイフの刃を踏みつけて無理やり首を断ち斬ることに成功。フューマーの首が転がり、沈黙した。

 

 

「ぜー、はー!」

 

『イーサン!さすが、よかったよお!』

 

 

 大きく息を吸って吐き出す俺に飛び付くエヴリン。当然擦り抜けるが泣いて喜ぶ姿に悪い気はしない。が……。ミア、ゾイも連れてかれてしまったか。ルーカスめあの野郎、覚えていろ。




バイオ7クリス編ことDLC『Not A Hero』から登場、白いモールデッドことフューマー。本来特殊な倒し方をしないといけない奴ですが、無理やり勝利。いくら再生力遭っても無理やり首を斬られたら無理よね、多分。

ルーカス絶好調。一枚上手でした。攫われたミアとゾイ。要求するのは「腕」とゲームへの参加。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX3‐【イカレた奴らを紹介するぜ!2】‐

どうも、放仮ごです。今回は前回で一応旧館編が終わって一区切りついたので前回から更新された現状の設定を纏めてみました。多分エヴリンの時系列関連で混乱している人も多いと思うので載せておきます。楽しんでいただけると幸いです。


・イーサン・ウィンターズ

 幻影エヴリンもとい「エヴリン」がこの状況の元凶だと知っても拒絶しないどころか助けようとまでする主人公。短時間の間に物理攻撃に磨きがかかってる。マーガレットの発言から幻影エヴリンに不信感を抱いていたものの告白を受けて和解できわだかまりも解けた。

 マーガレットにフューマーと強敵との連戦を傷を負いながらも乗り越え勝利する。蟲を使役するマーガレットへの殺意はマシマシ、エヴリンのせいだと知っても殺意は収まらなかった程。ルーカスへの怒りもフルスロットルだがエヴリンのためにと抑えている。エヴリンの正体を知り、コネクションも潰すと決意した。

・現在の装備

ポケットナイフ、ハンドガン、ショットガン、ダブルバレルショットガン、バーナー、グレネードランチャー、焼夷弾×3、回復薬×5、キーピック×2、蠍の鍵、カラスの鍵、バックパック、ゾイの子供用リュックと古本を用いたブラックジャック(残骸)、コデックス

 

 

 

・幻影エヴリン

 実質的な主人公。マーガレット・スパイダーという想定外の強敵を前についに三桁を越えるコンティニューをして心が折れかけたものの、ローズの姉だという自覚からイーサンに正体を明かして乗り越えた。その正体はミランダとの最終決戦直後、イーサンを逃がして自爆しようとしていたエヴリンが何かしらの手段の裏ワザを用いて過去に飛んで来た存在。イーサン以外に自分の存在を認知されるのはなんか嫌。実は人肌の温もりを渇望していて、諦めていたもののイーサンの誓いに涙した。マーガレットの変貌には謝罪を繰り返したが、ルーカスは大嫌い。ルーカスの顛末は知っているものの「フューマー」や「沼男(スワンプマン)」など7本編後に登場したクリーチャーについての情報は得ていない。

 

 

 

・ミア・ウィンターズ

 一応ヒロインであるイーサンの妻。本来ならイーサンと再会直後ルーカスに攫われるはずだったが脳筋イーサンに救出される。イーサンと再会後はいちゃついてエヴリンにげんなりされた。記憶はないものの戦闘能力は健在であり石のスタチュエットやバットを武器に物理で暴れ回りイーサンと共闘する。記憶を思い出してないのにエヴリンに自分の過去をネタバレされた可哀想な人。カラスの鍵を取って来たりグレネードランチャーを回収したりと寄り道を担当。マーガレット・スパイダーとの対決に於いてゾイと共に待機していたものの、襲撃してきたルーカスに人質として拉致られてしまう。

 

 

 

・ゾイ・ベイカー

 こっちはこっちで「腕」がありそうなところを探し回ってた人。ルーカスが燃やされたと聞いて思わず同情した。あるコンティニューではイーサンやミアと共にマーガレット・スパイダーと戦ったものの敗北した。なにをしたのかマーガレットに毛嫌いされてる。マーガレット・スパイダーとの対決に於いて複雑な思いを抱きながらミアと共に待機していたものの、襲撃してきたルーカスに人質として拉致されてしまう。

 

 

 

・マーガレット・ベイカー

 本来存在しない第三形態にまで進化を果たした第二の刺客。蟲への怒りもあってイーサンに散々燃やされたものの、エヴリンへの不信感が生まれ本調子じゃないイーサンを、第三形態の力で三桁を越える回数も殺し尽くしエヴリンを絶望させた。最終的に告白して和解し不信感を払拭したイーサンとエヴリンの作戦を前に敗れる。第三形態になった時点で体は限界を迎えており、後先考えずイーサンを殺すと言う意思で進化していたので勝ったとしても先はなく、老婆エヴリンにも見捨てられた。

 

 

 

・ルーカス・ベイカー

 ミアを拉致するつもりがフェンスを破壊され、ならばとナイフを手に遊ばんとするも燃やされて逆恨みでリベンジを目論む第三の刺客。火傷を負ったがすぐ治ったものの怒りは収まらずイーサンを苦しめようとミアとゾイを拉致する。しかし乱入してきたイーサンに度肝を抜き自分以上のサイコパスだと勝手に認めて切札のフューマーを繰り出し煽る大人げないクソ野郎。イーサンが老婆エヴリンと和解したと勘違いし本格的に離反した。「頭」と「腕」を集めようとする理由は…?

 

 

 

・老婆エヴリン

 知らないうちに勝手に正体を知られてしまい、求めてもないのに同情され救われることになった元凶。うすうす何かがいることには勘づいてきた模様。「腕」のところに幻影を置いてスタンバイしている間にルーカスにイーサンと和解したと勘違いされて離反された。元凶なのに蚊帳の外。

 

 

 

・ローズ

名前だけ出た、エヴリンに心底愛されている「妹」。エヴリンからしたら自分が消滅するかもと覚悟したうえで過去までやってきているので、せめて姉として幸せな未来を用意しようと頑張っている。もちろん、幻影イーサンと共に守護霊になる未来は知らない。本来の歴史では逆にエヴリンに苦しめられている。

 

 

 

・コネクション

イーサンに潰されることを誓われた。アンブレラのライバル企業H.C.F.の技術提供を受けたエヴリンの産みの親である組織。ミアが所属していたり、ルーカスを勧誘したり、ミランダと繋がっていたりする。少なくとも幻影エヴリンがいた未来では滅んでない模様。




エヴリンがやってきたのは最終決戦直後の死んだ詐欺の自爆まがいのことをしようとしていた時と明言しました。あのイーサンと別れていた間の出来事、ということになります。

地味に離反しているルーカス。老婆エヴリン涙目である。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯23‐【子供部屋】‐

どうも、放仮ごです。そういやD型被験体ってなんだったんだろうねと書いてて思いました。

今回は独自解釈があります(今更)。恐怖の子供部屋探索。楽しんでいただけると幸いです。


 フューマーの首を掴み、万が一にも再生しない様に沼に投げ落としながら旧館に目を向ける。

 

 

「…ルーカスの言う通り解体室から戻るのも癪だし、まずは「腕」を探しにいくか」

 

『そうしようか。とことんアイツを怒らせよう』

 

「エヴリンの知らない敵ってのが気になるがな」

 

『あ、そうだ。ねえ、お願いしたいことがあるんだけど』

 

「?」

 

 

 そう言ってエヴリンがお願いしてきたのは手紙を書くことだった。一度トレーラーハウスに入って紙とペンを探し言われるままに書き綴る。

 

 

「【ゾイが危ない。助けてくれ】……これでいいのか?誰に向けての手紙なんだ」

 

『これは一か八かの奥の手だからね。言っちゃうと上手く行かない気がするから言わない。とりあえずこれをビンか何かに入れて沼に流して』

 

「? まあいいが」

 

 

 冷蔵庫を開けてみる。なんか入ってた。赤い✕が描かれた保安官補佐の写真だ。これ生きてるときのだろ何時撮ったんだよ。

 

 

「なんだこれ」

 

『後ろになんか書いてるよ』

 

「なになに?」

 

 

 エヴリンに言われて写真の裏を見てみる。【地下の解体室でポリ公が待ってるぜ】さっきルーカスに言われた言葉がそこにあった。

 

 

「……もしかしてすぐ解体室にいけってのは」

 

『せっかく仕掛けたはいいけど無駄に終わったこれを見られたくなかったんだろうね』

 

「………ルーカス、ダサいな」

 

『ダサいね』

 

 

 見なかったことにして適当なジャムの入った瓶を取り出して冷蔵庫の扉を閉めて、棚を漁って乾パンを見つけると皿に乗せ、ジャムを全部乗せていただく。腹ごしらえだ、家主がいないがまあ必要ってことで許してほしい。

 

 

「腹が減っては戦はできぬと言うしな」

 

『豪勢だね』

 

「最後の晩餐にならないことを祈るよ」

 

『そうはさせないから安心していいよ』

 

 

 ジャムを乗せた乾パンを食べ終えた俺は空き瓶を水で洗浄し、手紙を入れて外に出ると振りかぶる。

 

 

「よくわからんがこれでいいんだな?」

 

『うん、割らない様にしてね』

 

「了解だ!」

 

 

 そしてぶん投げたガラス瓶は放物線を描いて沼に落ち、プカプカと漂って行った。それを見届けた俺はバックパックを担ぎ直し、旧館に足を進めた。

 

 

『お願いだからあの人に届きますように』

 

「ところで聞きたいんだが、D型被験体ってのは?」

 

 

 旧館の中を進みながらそう聞くと苦しそうな表情を浮かべるエヴリン。聞いちゃいけないことだったか?クランクを使った通路を通り、カラスの扉を抜けるとちょうど見えたので覗きこむ。左腕で膝を抱え込んだ赤ん坊のミイラが見えた。

 

 

『……D型被験体は私の姉だよ。あの子が赤ん坊の頃に死んだから遭ったことないけど。この赤ん坊のミイラがそれだよ。ミアが運んでたんだけど、流れ着いたのを回収させたの』

 

「このミイラが……そういや左腕は見えるが右腕は見えないな」

 

 

 ってことは探している「右腕」はあのサイズの腕のミイラってことか。マーガレットの手記があったピアノの部屋の前を通る。なんかダーン!とピアノの音が聞こえたが気のせいか?

 

 

『…何今の?』

 

「さあな。どうでもいいだろ」

 

『どうでもよくないと思う。……他にもA型、B型、C型被験体もいたよ。名前をもらえたのは一番優秀な個体だった私だけだったけど。あの女の提供した胚のおかげなんだろうけど。私はE型被験体、エヴリン。それが私』

 

「その嫌な呼び方は忘れろ。お前はただのエヴリンだ、それでいい」

 

 

 すぐネガティブになるんだよなエヴリン。全力でツッコんでたのが空元気じゃないと信じたい。

 

 

『前に言った「ローズ」の他にも姉妹みたいな子はいるんだけど……』

 

「へえ、それは誰なんだ?」

 

『私』

 

「は?」

 

『正確には老婆だった私。私は残留思念、簡単に言うと本物じゃなくて幽霊なの』

 

「???」

 

 

 頼むからわかる言葉で行ってくれ。老婆だったエヴリンって改心してないってことだろ、なんで姉妹みたいな子って言えるんだ?

 

 

「お前優しいのは分かるが悪い自分まで姉妹扱いしない方が…」

 

『違うよ!?悪い子だったけど同じエヴリンってことでイーサンが……』

 

「俺が?」

 

 

 どんな状況だ。未来の俺も数奇な奴だな。そんなことを話していると例の扉の前に出た。バックパックに入れておいたランタンを取り出そうと手を突っ込み漁る。

 

 

「っと、ここか。ランタンランタンっと」

 

『ランターンって強いよね。みずでんき』

 

「確かにちょっと思い出したけど何も言うことはないだろ」

 

 

 そんな馬鹿なことを言いながら取り出したランタンを設置すると天秤が吊り合い、鍵が開いた音がした。

 

 

「よし。…どうした?」

 

『私、やだ。入りたくない』

 

「どうしたいきなり」

 

『過去の私が仕掛けたとはいえすごく怖いんだもん!』

 

 

 言われて覗いてみる。真っ暗だ。…まあ確かに怖いッちゃ怖いが。

 

 

「正直マーガレットの蜘蛛みたいな姿を見た後だとな……」

 

『それはたしかに。見慣れちゃったけど』

 

 

 そう言ってついてきたエヴリンと共に、暗闇に慣れた目で探索する。綿が飛び出たワニのぬいぐるみにボールにパーティーの飾りと思われるものがところどころに落ちている。子供部屋、なのか?

 

 

「これ、お前の絵か?」

 

『お恥ずかしながら……』

 

「MY FAMILY…いい絵じゃないか」

 

 

 途中で落ちてた絵をからかいながら先に進むと、人影が現れて心底ビビる。

 

 

「おわああ!?」

 

『きゃああ!?』

 

 

 渾身の蹴りを叩き込むと人影はバラバラに砕け散る。見てみたらマネキンだった。驚かせやがってからに。

 

 

『イーサンの感情ダイレクトに伝わるから私もビビったじゃん!』

 

「ごめんて」

 

 

 プンスカ怒るエヴリンに平謝りしながら先に進む。途中、テディベアがあったので調べる。なんか黒カビが口から出てきた。きちゃない。

 

 

『それ私の渾身の驚かせだった記憶があるんだけど』

 

「汚いだけだぞ」

 

『…言われて見たら確かに』

 

「うん?これは…」

 

 

 テディベアからそう離れてない場所にまた絵を見つけた。真っ二つに裂けた、船…?それにバラバラに吹き飛んだ人々、かこれ?

 

 

「なんだこれ?」

 

『私が運ばれていたタンカーだよ。…私が壊したんだ』

 

「お前がこうしたのか?凄いな?」

 

『そこは怒るところだと思うなあ!』

 

 

 照れるエヴリン。まあ褒められないことだろうが、凄いとは思ったのは事実だしまあいいだろう。……いや待て、こんなことができるってことは幻影じゃないエヴリン滅茶苦茶強いんじゃないか…?

 

 

『お恥ずかしながらタンカーを真っ二つにするぐらいはできるよ』

 

「前言撤回、恐ろしいなおい。……うわあ」

 

『うわあ』

 

 

 そんなことを言いながら奥の扉を潜ると、黒カビに塗れた部屋に出た。壁に巨大な塊ができている。思わずドン引きするとエヴリンもドン引きしていた。お前の仕業だろ。

 

 

『いやあ、別視点で見るとただただドン引き』

 

「だよなあ」

 

『こっちに来ないで』

 

「『!』」

 

 

 するとそんな声が聞こえて思わず顔を見合わせる。元気がないが聞き間違えるはずがない、エヴリンの声だ。老婆エヴリンが仕掛けてきたか…?

 

 

『私は自分に感染した人間に幻影を見せることができるから気を付けて!』

 

「なるほどな」

 

 

 来ないでってことはつまり何かがあるってことだ。気にせず前に進むとベッドのある部屋に出た。部屋の隅にあるのは…ドールハウスか?

 

 

『こっちに来るな』

 

「生憎だが来るなと言われたら行きたくなる性分でな」

 

『ダニエラだったかカサンドラだったかベイラだったかにやったのと同じ手だなあ、私ワンパターンだなあ』

 

 

 ベッドは調べてもなにもでなかったのでドールハウスを開くとメモを見つけた。簡単な絵で、ベッドの裏の壁に赤い〇が描かれている。なるほど、そのままに壁に触れると切れ目があり簡単に開いた。その先にあったのは、サイズの合ってない「右腕」を身に着けた隻腕の少女のミイラ。

 

 

「マジかよ。多分これなんだろうが、誰だ…?」

 

『聞かない方がいいかなあ』

 

 

 気持ち悪いが無理やり「右腕」を引っこ抜く。…赤ん坊の腕にしてはでかいがどういうことだ。

 

 

『見つけたな』




D型被験体は双子だったんじゃないかな説。赤ん坊(生まれてすぐ亡くなった)と、少女(成長したけどそれが原因で死んだ)のミイラがそれってのが今回の解釈。その型の被験体が一体とは限らないものね。AからDはエヴリンの姉と考えてもいいはず。

エヴリンの秘策と共に腹ごしらえ。ヴィレッジで払拭されたけどバイオ主人公は乾パンなり食べるべきだと思う。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯24‐【絶体絶命】‐

どうも、放仮ごです。例のあの人を見てるとどうしてもワンパンマンのハゲマントを思い出すよね。

今回は老婆エヴリンを怒らせたイーサン、絶体絶命。楽しんでいただけると幸いです。


 「右腕」を引っこ抜いてバックパックに入れて振り向くと、隠し扉の向こうに黒いスカートを身に着けた少女の脚……というかエヴリンの脚が見えた。視界の横にエヴリンがぷかぷか浮かんでいるからややこしいことこの上ない。

 

 

『見つけたな』

 

「あれが幻影か。恐怖演出のつもりか?見慣れてるしなんなら目の前にあるからシュールだぞ」

 

『あっちは私の存在知らないからねえ』

 

『やっぱりなにかいるのか』

 

「…さすがに気付いていたか」

 

『私も馬鹿じゃないからね』

 

 

 どうやら何かが俺に味方していることには気付いていたらしい、脚だけ見えるエヴリン(暫定老婆)は苛立つようにコツ、コツとその場で足踏み。靴音を鳴らして不安感を煽ってきた。

 

 

『出来損ないのアイダ?ベス?キャロル?ダリア?デイジー?』

 

「誰でもないよ。お前だ」

 

『お前は誰だ?!お前の中の私!ってね!』

 

『ふざけてるの?』

 

 

 そう言ったエヴリン(暫定老婆)の姿が掻き消え、俺達は顔を見合わせ隠し部屋の外に出る。なんだ、空気が変わった。

 

 

『もう許さない、全力で殺す』

 

「…エヴリン」

 

『ごめん、偵察無理』

 

「なんでだ」

 

『この空気がすごく怖い』

 

「それは酷なことを頼もうとした、すまん」

 

 

 見ればガクブルと震えてる。さすがにこの暗闇で限界だったか。さてどうしたものか。すると突如聞こえてきたドンドンドンドン!と扉を叩く音。暗闇に突如響いたその音に心臓が跳ねる。

 

 

『ウギャアァアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

「耳元で騒ぐな!?」

 

 

 悲鳴を上げるエヴリン。俺は思わずベッドを押して扉を塞ぐ。すると今にも開きそうだった扉が押しとめられた。

 

 

「よし、これで…!」

 

『イーサンどうするの!?出口そこしかないんだよ!?』

 

「知らん!壁をぶちぬくか!?」

 

『スーパーマンでもないと無理だよ!?』

 

 

 ドールハウスの乗っていた机を構えて壁に目掛けて勢いよく振り下ろすが、虚しく砕け散った。ならばと隠し部屋に戻り、ミイラを退かして座っていた椅子を手に取り持ってきて振りかぶる。

 

 

『罰当たりだね!?』

 

「死人に口なしだ、ミイラが使うよりは役立って椅子も本望だろう!」

 

『ショットガンの像といい意外と自分勝手だよねイーサン!?』

 

 

 そして壁に叩きつけるが逆に粉砕されてしまう。同時に扉が吹き飛び、ベッドに塞がれた向こうからモールデッドが溢れ出てきて泣き叫ぶエヴリン。

 

 

『みぎゃあああああああああっ!?』

 

「おいお前の不細工な友達だろ何とかしろ!」

 

『私はそもそもこの時代に干渉できるのイーサンだけなんだってばああ!』

 

『泣いて謝っても許さない』

 

 

 無数のモールデッドは入り口とベッドにつっかえてこっちに来れてないが、腕と顔を出してうじゃうじゃと蠢いている。エヴリンが泣き叫ぶのもわかるぐらい、ぶっちゃけきもい。だが絶体絶命だ。

 

 

「こうなったらグレネードランチャーで壁をぶっ壊して……」

 

『いや、モールデッドにぶちかました方がよくない?』

 

「こうなったらそれもそうだな!」

 

 

 グレネードランチャーを手に取り数少ない焼夷弾を装填、無数のモールデッドの中心に照準を向けて引き金を引く。ブチ込まれた焼夷弾は爆ぜて炎上、無数のモールデッドをベッドごと吹き飛ばし残った奴等も丸焼きにする。

 

 

「行くぞエヴリン!」

 

『うん!行こう!』

 

 

 ベッドの残骸と燃え盛るモールデッドの死骸を踏み越えて来た道を逆走する。すると出てくるわ出てくるわ、黒カビや暗がりやタンスの中からモールデッド。中にはブレード・モールデッドやクイック・モールデッド、狭い道を占領するファット・モールデッドなんかもいた。

 

 

「死にたい奴から前に出ろ!押しとおる!」

 

『お願いだから死なないでね!』

 

「約束する、死んでもお前とミアを置いては逝かないから安心しろ!」

 

『それイーサンが言うと洒落にならない!』

 

 

 グレネードランチャーからダブルバレルショットガンに武器を持ち替えて乱射。ぶちかまして吹き飛ばしながらランタンの輝きを目指す。

 

 

「くそっ、次から次へと…!」

 

『私の奴、怒りを爆発させて能力の全てをモールデッド生成につぎ込んでいる。意地でも逃がすつもりはないみたい!』

 

「とりあえず外に出て作戦を考えるぞ!」

 

 

 目の前から迫ってきたファット・モールデッドを走って勢いをつけたドロップキックを叩き込み背後のモールデッド共に蹴り込み、ダブルバレルショットガンを叩き込み爆発させて吹き飛ばす。見えた、ランタンの輝き!

 

 

「…おいおい嘘だろ」

 

『やだ……私、頑張り過ぎだよ……』

 

 

 子供部屋から外に出てもなおワラワラといるモールデッドたちがランタンの輝きに照らされ不気味な影を作り出す。老婆エヴリンが頑張ってるらしい。いらない頑張りだな畜生!

 

 

『逃げようにも逃げられない…』

 

「いいぞ、そっちがその気ならやってやる…!」

 

 

 ダブルバレルショットガンと、バックパックから取り出した前のショットガンを二丁持ちで構える。エヴリンと約束したんだ、生きてこの場を切り抜けてやる…!

 

 

 ダブルバレルショットガンとショットガンを乱射、弾が切れればぶん殴り、隙を見て弾を装填してぶちかますのを繰り返しながら外を目指す。

 

 

 たまに前蹴り、後ろ回し蹴り、サッカーボールキックで蹴り付ける。

 

 

 ショットガン二丁を掴まれて身動きが取れなくなっても諦めずに頭突きで殴り飛ばし、肘を叩きつけて取り返す。

 

 

 なんとかカラスの扉から出てクランクの足場の下から伸びてくるモールデッドを蹴り飛ばしながら渡り、出口からなんとか外に出るが桟橋はクイック・モールデッドが五体、床のみならず四方八方の壁や天井や引っ付いていて。

 

 

「マジかよ、クソが!」

 

『ごめん私がごめん!私、頑張るから!次はもっと上手く……』

 

「諦めるなエヴリン!?」

 

『死んでしまえ、死ね!死んじゃえ!』

 

 

 俺を確認するなり凄まじい速さでワシャワシャと動いて迫って来て、エヴリンが泣いて謝る。ダブルバレルショットガンで狙い撃つが動きも老婆エヴリンが操ってるのか的確な動きをして当たらない。この動きは無理だ、捕捉できない。クイック・モールデッド一体の爪が俺の首を捉える。万事休すか。

 

 

「くそっ、すまんエヴリン…約束、守れなかった」

 

『イーサァアアアアアアンンッッ!!?』

 

 

 エヴリンの絶叫が木霊する中で、クイック・モールデッドの爪が俺の首に触れて………

 

 

「伏せろ!」

 

「!」

 

 

 瞬間、聞こえてきた声に咄嗟に従って腰を落とし崩れ落ちる。と同時に、空中に滞空していたクイック・モールデッドの頭部がなにかにぶち抜かれて背後の扉に突き刺さり磔にされる。

 

 

『やった、きた!』

 

「来たって何が……」

 

 

 振り向く。視線を、木の槍で磔にされたクイック・モールデッドから桟橋の出口を移す。そこには、クイック・モールデッド四体に警戒されている、立派な髭を蓄えた白髪の初老の大男がいた。まさか槍でクイック・モールデッドを磔にしたって言うのか?

 

 

「狩りをしてみりゃ【ゾイが危ない】って手紙を手に入れ、数年も音沙汰のない弟の家が騒がしいから来て見りゃ、こりゃ一体なにごとだ?」

 

『ジョー・ベイカー!ジャックのお兄さんで、ものすごく強い人だよ!』

 

「なるほど、そういうことだったのか……あの手紙を流したのは俺だ!手を貸してくれ!」

 

 

 そう叫ぶと、エヴリン曰くジョー・ベイカーを脅威と見たのか四体揃って高速で駆け抜け襲いかかるクイック・モールデッドたち。

 

 

「なんだ?最近見かける化け物じゃねえか。随分と多いな」

 

 

 するとジョー・ベイカーは両手の拳を握り構えると、シャドーボクシングするかの様に何度も拳を振り抜き、シュンシュンシュンシュンと加速させていく。次の瞬間、ジョー・ベイカーに飛びかかったクイック・モールデッド四体は消し飛んでいた。

 

 

「俺の家族になにがあったのか、話を聞かせてもらうぜ。小僧」

 

「お、おう…」

 

『え、見えなかった…』

 

 

 この人、やばい。そう確信した。




ジョーおじさん「連続普通のパンチ」

そういうわけでイーサンのピンチにジョーおじさん参戦。原作よりレベルが上がっている敵にこの人を出さないで切り抜けられる気がしなかった。

アイダはA型、ベスはB型、キャロルはC型、ダリアとデイジーはD型のオリジナルの名称です。エヴリンが勝手につけたという設定。一応呼び名はあったと思うんだよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯25‐【バイオ無双】‐

どうも、放仮ごです。ヴィレッジのマーセナリーズ今更確認したんですがミランダがイーサン以外だとコミュ症になってて笑った。あれ見たらドミトレスクも救いたくなったどうしてくれよう。

今回はジョーとイーサンの大暴れ。楽しんでいただけると幸いです。


「俺の知ってる限りのことは伝える。とにかくゾイと、俺の妻が危ない、力を貸してくれ」

 

 

 そう言いながらジョー・ベイカーに歩み寄ると、旧館の出入り口や窓からモールデッドが溢れ出てきた。モールデッドの洪水かなにかか。旧館の中がモールデッドでひしめき合っているのは想像に難くない。

 

 

「おおっ、わらわら出てきやがった。いいぜ、ワニばかりで退屈してたんだ。相手してやるよ」

 

 

 すると桟橋に立って素手でファイティングポーズをとるジョー・ベイカー。俺も援護すべくハンドガンを構える。

 

 

「こいつらはモールデッド、カビの化け物だ!あんた、武器は?!」

 

「いらねえ、ステゴロ(こいつ)で十分だ!」

 

『マジでいらないからねこの人』

 

 

 瞬間、突進してきたモールデッドにアッパーカットが炸裂。天井に叩きつけられ突き刺さる。続けて突進してきたモールデッドの引っ掻きを拳で弾き、頭部を両手で掴むと捻ってもぎとり残った体を蹴って後ろの奴等に叩きつける。強すぎて引くんだが。援護する必要すら感じない。

 

 

『イーサン、後ろ!』

 

「取り囲むつもりか!」

 

 

 後ろから迫っていたモールデッドの口にハンドガンの銃口を突っ込み引き金を引いて頭部を粉砕する。続けざまに迫っていたモールデッドを蹴り飛ばしナイフを構える。このまま付き合ってたら弾が切れる!

 

 

「おっ、いい蹴りするじゃねえかおめえ!なんて名前だ!」

 

「イーサン!イーサン・ウィンターズ!」

 

「そうか、イーサン。いい名前じゃねえか。知っているみたいだが改めて名乗るぜ。俺はジョー!ジョー・ベイカーだ!」

 

 

 そう言って旧館から溢れだしてくるモールデッドを殴り飛ばし、千切って投げ、首を捻ってもいでは捨てて行くジョー・ベイカー。さらに腰に下げた鞄からガラクタと木材を取り出すと組み合わせて槍を形成、ぶん投げてモールデッド三体まとめて貫通し、壁に磔にすると突進。三体纏めて頭部を壁と拳でサンドイッチにして殴り潰した。

 

 

「喧嘩で負けなしの俺をなめんじゃねえよ!」

 

『ええ……なにこの人、イーサンより怖い…』

 

『それな。感染もしてない筈なんだけど』

 

 

 ボソッとエヴリン(老婆)がドン引きしている声にエヴリンが頷いているが同感だ。感染もしてないでこれってマジかよ。

 

 

『イーサンも人の事を言えないからね』

 

「そりゃ心外、だ!」

 

 

 右膝を撃って転倒させたモールデッドをサッカーボールキックで蹴り飛ばし迫ってくるモールデッド軍団に激突させる。これぐらいしかできないぞ。

 

 

『ツッコんだら負けだと思ってる』

 

「どうしたどうした!もっと骨のある奴はいないのかあ!」

 

 

 その叫びに呼応する様に飛びかかってきたクイック・モールデッドの顔面にジョー・ベイカーのジャブが炸裂。クイック・モールデッドの顔面が吹き飛び残った体が吹っ飛んでブレード・モールデッドに切り裂かれる。さすがに刃物相手を素手は不味いぞ…!?

 

 

「ふんっ!そんなものかあ?興冷めだぜ!」

 

「ええ……」

 

『峰打ちならわかるんだけどなんでそんなことできるの…?』

 

 

 するとジョー・ベイカーはなんと、振り下ろされた刃のすれすれ外側横に腕を伸ばして、刀身の峰を掴むことで顔面ギリギリで刃を受け止めた。そんな方法で防がれるとは思わなかったのか度肝を抜いたブレード・モールデッドはそのままブレードの右腕をもぎ取られて頭部を串刺しにされ転倒、沈黙した。

 

 

「おいイーサン、手が止まってるぞ!」

 

「あ、ああ!すまない!」

 

『完全にバイオハザード無双だよ。ゲームだと言われた方がまだ納得するよ?』

 

 

 エヴリンがゲームみたいだというが冗談じゃない、現実だ。ジョーと背中合わせになり、前後から襲いくるモールデッドを迎え撃つ。ナイフを逆手から順手持ちに持ち替えて刺突。モールデッドの胸に突き刺さったのを確認すると勢いよく振り下ろして斜めに斬り捨て、さらに逆手に持ち替えて返す勢いで斬撃。ブレード・モールデッドの刃とかち合って弾き飛ばすとハンドガンを手に取り乱射。右肩、左目、右膝、鳩尾を撃ち抜かれたブレード・モールデッドは崩れ落ちる。

 

 

『イーサン、ナイフの使い方なんて何時覚えたの…?』

 

「いや、適当だ。誰にも習ってない我流だぞ」

 

「適当でそこまで使えるとはな!軍人のジャックにも負けてねえぞおめえ!」

 

「いやさすがに軍人には負けるぞ」

 

『持ち方を変えるのを我流でやるのすごくない?素人考えと言えばそうなんだけどさ』

 

 

 そうして拳を振るうジョー・ベイカーと共にハンドガンとナイフで応戦をし続けると、俺の方に隙ができてきた。ああ、もしかしてジョー・ベイカーの方に人員を割きすぎてこっちに回す余裕がなくなって来たな。その証拠にブレード・モールデッドやクイック・モールデッドみたいな特殊型が出てくる頻度が減ってきた。逆に言えばそれでも普通に対処しているジョー・ベイカーがヤバいんだが。

 

 

「ジョー・ベイカー!こっちに隙ができた!一度拠点に逃げるぞ!」

 

『ゾイのだけどまあ拠点だね』

 

「おお、そんなところがあるのか!?それと、ジョーでいいぞ!」

 

「そこなら戸締りすればなんとかなるはずだ!ジョー、合図を出したらスイッチ(交替)だ!そのまま突き進んでくれ!」

 

『Switch?ゲーム?』

 

「了解だ!俺は殴る以外、能が無いからな!作戦はおめえに任せたぜ!イーサン!」

 

 

 傍のエヴリンがポカンとしているのを見て確信する。こういう用語ならエヴリン(老婆)もわからないはずだ。意味が分からないなら旧館に戻ると思うはず。そのままモールデッドの大群の対処を続け、後ろのジョー側の様子も探りつつ隙を窺う。目の前の庭側からモールデッドたちを押しのけてクイック・モールデッドが飛びかかってくる。背後、旧館からはモールデッドの一団が蠢く塊になっていた。

 

 

「ここだ!」

 

「おうよ!」

 

 

 瞬間、俺達はくるりと回ってポジションを入れ替える。同時に俺はグレネードランチャーを構え、最後の焼夷弾を発射。後ろではジョーがクイック・モールデッドに拳を叩き込んで粉砕していた。

 

 

『虎の子、決まったあ!』

 

「モールデッドを蹴散らしながら走れ!」

 

「邪魔だ、どきやがれ!ジョー様のお通りだ!」

 

 

 ドコンバコンと、数が少なくなったモールデッドを殴り飛ばしながら先導するジョーに、拳銃を撃って遠くから向かってくるモールデッドを怯ませ援護しながら続く。見えてきた、トレーラーハウス!入り口に回り込み、ジョーに無言で指だけで指し示しつつ中に入ると鍵を閉める。ドンドンドンドンと叩く音が聞こえたが、しばらくすると諦めたのか去って行った。

 

 

「ふう、なんとかなった…」

 

『諦めたのは多分ジョーの存在もあるからだと思う』

 

「なるほど、ここが拠点か。いいじゃねえか」

 

「ゾイが隠れていた場所だ。…とりあえず状況を話す」

 

 

 俺は妻のミアを探して訪れたこと、ゾイが助けてくれたこと、三年前からこの家はエヴリンという悪魔に支配されていること、その支配から逃れてなお元々狂人だったルーカスがゾイとミアを攫って行ったことなどを始めに知ってること全部話した。俺の傍にいるエヴリンについてもだ。

 

 

「そして俺はミアもゾイはもちろん、エヴリンも助けたい。手伝ってくれないか」

 

「話を聞くにイーサン。お前が狂っていなきゃその憑いている幽霊エヴリンは改心してるんだろうが、俺の家族を支配した張本人のエヴリンは悪意に染まってんだろ。どうやって助ける?方法は考えてるのか?」

 

「ない。説得する。それしかないが、それでも俺は救うと決めた」

 

『イーサン…』

 

 

 問いかけに真摯に答えると腕を組んで考え込むジョーは、少しの間考え込んでから口を開いた。

 

 

「………俺にとっちゃそのエヴリンとかいうのは俺の弟とその妻を化け物に変えて、ゾイを三年間も苦しめた張本人だ。そのミアとかいう連れてきた女も許せねえが、こいつを許すことはできねえ。だから軽いお仕置きですましてやる」

 

 

 その言葉に伏せていた顔を上げる。ジョーは不敵な笑みを作って物理的にも懐の大きい胸を叩いた。

 

 

「許しはしねえが、化け物にされちまった二人とルーカスの馬鹿はしょうがねえ。残ったゾイを助けられさえすりゃあ、俺はいい。ルーカスの馬鹿野郎は殴るが。約束しろ。ゾイを絶対助けるとな」

 

「ああ、ああ!約束する!だから力を貸してくれ、ジョー!」

 

『…言葉を伝えられるようになったら、真っ先に謝りたいな。この人、すごい』

 

 

 差し出された手をガッシリと掴む。こうして俺達の共闘は成立した。




クラフトってつまり槍も一瞬で作ってるんだよねって。

Wエヴリンもドン引き2人の大暴れ。イーサンも地味に強くなってきました。

そんなわけで原作なら絶許なのは承知の上ですが、「ゾイを本来より早く助け出せる」という恩に報いてエヴリンの事を許しはしなくても軽いお仕置きですませることにしたジョーでした。ルーカスは殴る。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯26‐【予想外な警告】‐

どうも、放仮ごです。戦隊やライダーのてんこ盛り形態っていいよね。そんなわけで今回のを思いついたのもしょうがないと思うんだ。

今回は再び加工場探索。予想外の人物の警告と共に現れる脅威。楽しんでいただけると幸いです。


「で、これからどうするんだ?」

 

『ラッパ飲みは身体に悪いよ』

 

 

 冷蔵庫に入っていたぶどうジュースの瓶を豪快に飲み干しながらジョーが訪ねてくる。俺は道具箱の中から使えそうな弾を補充する作業を続けながら答える。グレネードランチャーの弾まであるのは助かる。

 

 

「ルーカスの指示に従うのは癪だが、本館地下の解体室に向かう。ミアとゾイの元に向かうにはそこに行く必要があるらしい。あとエヴリンがラッパ飲みは身体に悪いと言ってるぞ」

 

「うるせえ。文句があるなら直に言えってんだ」

 

『ええ…』

 

 

 冷蔵庫の中にあったルーカスの手紙をピッと弾いてジョーに渡す。ほう、薬液(強)を使えば強装弾とかいうのが作れるのか。三発しか作れないが作ってみるか。

 

 

「おいイーサン。何か手はないのか?」

 

「手ってのは?」

 

「エヴリンと俺も会話できねえのかって言ってるんだ」

 

「ああ、あるらしいが教えられてない」

 

「なんでだ?」

 

「なんか嫌だそうだ」

 

 

 そう言ってエヴリンを見つめる。ジョーも見えてないんだろうが俺に合わせて虚空を見つめる。おい、ちょっとずれてるぞ。

 

 

『うーん。嫌だけど、連携に隙ができるのも嫌だな、せっかく強いのに私が弱点になりたくない……わかったよ、教えるよ』

 

「おお、教えてくれるってさ。ありがたい」

 

「話が分かるじゃねえかクソガキ」

 

『クソガキ言うなー!』

 

 

 ジョーに笑って言われてぷんすか怒るエヴリン。すると無言で俺の腰のナイフを指差してきた。

 

 

「ナイフがどうかしたか?」

 

『それで掌を薄く切って』

 

「は?」

 

「なんだ?どうした?なんだって?」

 

『私が見えるのはイーサンの細胞を条件にしてるから。だから未来でイーサンの血肉を取り込んだ奴は全員見えてたよ』

 

「それどういう状況だよ!?」

 

「お前がどうした」

 

 

 思わずツッコむ。未来の俺なにに巻き込まれてるんだ。まあいいか、と落ち着きナイフを構えた俺に目を白黒させるジョー。そのままスパッと右手の平を軽く切る。

 

 

「おいおいどうした!?気でも狂ったか!?」

 

「俺の血肉を取り込めば見えるんだと。飲むか?」

 

「……他に方法はないのか?」

 

『ないね。多分感染しないからだいじょーぶ!……うん、今はまだ!置換されてない筈!』

 

「不安でしょうがないなお前は!?」

 

 

 言いながら血を数滴、適当な皿に移す。どうするかはジョーに任せよう。とか思ってると鞄から見慣れないどす黒い赤い液体の入った小瓶を取り出す。何故か自慢げだ。

 

 

「なんだそれは?」

 

「知らねえのか。ワニの血だよ、こいつがうめえんだ」

 

「へ、へえ…」

 

『イーサン。隠すならもう少し取り繕うよ』

 

 

 そうしてワニの血を皿に入れた俺の血数滴と混ぜて一気飲みするジョー。そして目を開けると、エヴリンと目を合わせてにやりと笑う。

 

 

「よう、ようやく会えたなクソガキ」

 

『クソガキはやめてよ……』

 

「俺の弟とその妻を化け物にしてゾイを孤独にした奴なんかクソガキで十分だ」

 

『ぐうの音も出ない……』

 

 

 落ち込むエヴリンとガッハッハと豪快に笑うジョー。仲良くなってくれるといいが。

 

 

「よし、問題も解決したことだしその解体室に行くぞ。……何を解体する部屋なんだ?」

 

「行くのはいいが、聞かない方がいいと思うぞ」

 

『隣が死体保管庫だからね……』

 

「……胸糞わりぃなそりゃ」

 

 

 言いながら外に出て辺りを警戒する。モールデッドはいないな。本当に諦めたのか?

 

 

『多分だけど息切れしてるんだと思う』

 

「息切れ?」

 

『素体が無いモールデッドを作るのは疲れるんだよ』

 

「そうなのか」

 

「じゃあ今がチャンスだな」

 

 

 武器を確認する。前のショットガンは嵩張るのでジョーに渡した。ポケットナイフ、ハンドガン、ダブルバレルショットガン、バーナー、グレネードランチャー。過剰かもしれんが持てるだけ持って来たぞ。ハンドガンを構えて警戒しながら本館に入り、蠍の扉から地下・加工場へ続く廊下に入る。なんか黒カビの塊が広がってる気がする。

 

 

『気のせいじゃないよ。浸食が広がってる』

 

「猶更急がないとな」

 

「先導は任せるぜ。殿(しんがり)は任せろ」

 

「頼もしいよ」

 

『本当にね』

 

 

 加工場の入り口である階段までやってくると、妙なところが一つあった。入り口の扉が不自然に開いているのだ。

 

 

「…なあ、俺、前に来た時は閉めたよな?」

 

『モールデッドに来てほしくないから入念に戸締りしたね』

 

「なんだ、なんかがいるのか?」

 

 

 ありえるとしたらルーカスかあいつぐらいだが。前に来たときより黒カビの浸食が広がっている加工場を進んでいく。やっぱり不自然に途中の扉も開いている。ここであの大群に襲われなくてよかったな、本当に。そのまま進んでボイラー室に入ると、あの老婆が車椅子に座ってそこにいた。

 

 

「エヴリン……!?」

 

『暗闇の中にいきなり出てくるとさすがに怖いな』

 

「こいつがこのクソガキのなれの果てだってのか!?」

 

「……そうだよ。今回は警告しにきてあげたの」

 

 

 そう(しわが)れた声で喋る老婆エヴリン。すると遠慮なく突撃するジョー。

 

 

「そうかい、こっちはお前を捕まえれば目的のひとつ達成なんだけどよ!」

 

「私に勝つつもり?」

 

 

 すると老婆エヴリンから衝撃波が放たれボイラーに背中から叩きつけられるジョー。あのジョーが初めて短い悲鳴を上げる。俺もいきなりのことで転倒してしまった。

 

 

『我ながら卑怯だなこの衝撃波!』

 

「私がその気になればお前らなんか簡単に殺せるんだからね」

 

「……その割に疲れてるようだが?」

 

 

 ゼーハーと荒い呼吸を上げていることを指摘すると睨み付けられる。そこらへんはこっちのエヴリンとよく似てるな、さすが同一人物。

 

 

『私に向けられてじゃないけどすごくムカついたよイーサン』

 

「…壁に埋められて死にたいの?」

 

「そいつは勘弁だ、俺はお前も助けたい」

 

 

 両手を上げて害意はないと主張する。すると張りつめていた老婆エヴリンの肩が降りたのを見て、俺も首を竦める。

 

 

「私は助けられたくないけど。助けたいなら家族になってよ。私のパパになって」

 

「お前次第だなそれは。それで、警告ってなんだ?」

 

「…私から離反したルーカスが、私が回収してこの先に置いておいた保安官の……」

 

「保安官補佐な」

 

「……保安官補佐の死体を使って何かを作ってた。得体のしれない何かを」

 

「おい指摘してやるなよイーサン、しわくちゃの顔が真っ赤だぞ」

 

「うるさい!」

 

「うがああ!?」

 

『馬鹿なのかな』

 

 

 ジョーが軽口叩いてまた衝撃波でボイラーに叩きつけられた。今のところあっちが強いんだから刺激しないでほしい。

 

 

「そこのおじいちゃんはどうでもいいけど、イーサンはルーカスなんかに殺されて欲しくないからせいぜい頑張ってね。…どいてくれる?」

 

「ああ、すまない」

 

 

 キコキコと車椅子を動かして、どいた俺の横を通り過ぎて行く老婆エヴリンを見送る。…今は無理だがそのうち、なんとか助ける方法を見つけてみせる。

 

 

「おおいてえ。思ったよりバケモンだったなエヴリン」

 

『珍しくあの私が優しさ見せたのに自業自得だよジョー』

 

「それより、ルーカスが保安官補佐の死体で何か作ってたってのが気になる。警戒しながら向かうぞ」

 

「おうよ」

 

 

 ボイラー室を抜け、解体室に来ると棚の隙間から向こう側を見る。なにか黒いものの目がこちらを睨んだ。なんだ、でかいぞ…?擦り抜けて向こう側を見たエヴリンが顔を青くする。

 

 

『え、なにこれ。ルーカスの奴、とんでもないものを……』

 

「よーし、こんな棚ぶっ壊してやる」

 

「いや待て、ジョー……!?」

 

 

 瞬間、意気揚々と拳を振りかぶっていたジョーが殴る前に棚が吹き飛んだ。そこにいたのは、部屋を埋め尽くすほどの巨体のモールデッド。ファット・モールデッドの胴体に、クイック・モールデッドの脚、ブレード・モールデッドの両腕、そして二つの頭部を持つ異形。片方はモールデッドの頭部だがもう片方は頭部が潰れた見覚えのある顎なのと、腰にはベルトらしきものが見え、そこからヘビが模られた鍵が吊るされているのが保安官補佐だったという証か。

 

 

「デカブツか、骨がありそう、だ…!?」

 

「『ジョー!?』」

 

 

 ジョーが薙ぎ払われ、刃の腹で殴られて向こうの扉から先に吹き飛ばされる。なんだこの化け物は……!?すると天井に仕掛けられた監視カメラにくっついたスピーカーからムカつく声が聞こえてきた。

 

 

≪「ようやく来たか、イーサーン。そいつは俺の自信作、アサルト・モールデッドだ。ジョーおじさんがいるのは想定外だがちょうどいい。そいつの持つ鍵があれば二枚の基板を探すのに役に立つぞ。んで基板があれば楽しいパーティーに参加でぇきるってぇわけよぉ!」≫

 

『アサルト・モールデッドって何!?それになにその発音!』

 

 

 ムカつく発音で最後の方を述べたルーカスにいらっとくるがそれどころじゃない。このアサルト・モールデッドは…ヤバい!?

 

 

≪「まあせいぜい頑張んなイーサン!」≫

 

「くそっ!」

 

 

 振るわれた刃をスライディングで避けてジョーが吹っ飛ばされて開いている扉から死体保管庫に出て、ジャックと戦った下にジョーがいたのでそこまで降りる。…ジャックの下半身がない?いや、それも気になるが、壁をぶち抜いて現れた怪物に向けて構える。

 

 

「動けるか、ジョー!」

 

「もちろんだ。くそっ、油断したぜ」

 

「ギアアアアアアアッ!」

 

 

 再びこの場所での、デスマッチが始まった。




本編のハイゼンベルクと同じ方法で見えるようになったジョー。今のイーサンはまだ完全にカビの身体じゃないから大丈夫、とはエヴリンの談。

意外と強い老婆エヴリン。弱体化してるけどタンカーを破壊できた衝撃波の弱体化版を出せます。強い。

そして登場、マーガレット・スパイダーに続くオリジナルクリーチャー、アサルト・モールデッド。保安官補佐を素体に、ルーカスが全種モールデッドの細胞を埋め込んだ狂気の怪物です。ジョーを吹き飛ばすと言う、今作というかエヴリンレムナンツに登場するクリーチャーでもトップクラスの強さを誇る怪物です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯27‐【アサルト・モールデッド】‐

どうも、放仮ごです。最近某兎のVのバイオ6配信にはまってます。書いている今も見ながらだったり。6も書きたくなるね。

※2023/7/14 蒼ニ・スールさんからいただいたアサルト・モールデッドをエヴリンが描いた風の絵

【挿絵表示】


今回はイーサン&ジョーVSアサルト・モールデッド。楽しんでいただけると幸いです。


「ギアアアアアアアッ!」

 

『また知らない奴なんだけど!もうやだ!』

 

 

 咆哮を上げながら転落防止の柵を一撫でで破壊し、天井に飛び付き二つの頭部の口をガパッと耳まで裂けて開くアサルト・モールデッド。そこから黒カビの濁流を溢れさせてきたので慌ててジョーと共に回避。黒カビの濁流が触れた床が高熱で爛れて融解。その上に落ちてきて溶けた鉄の飛沫をぶちまけてきた。咄嗟に後退する俺達。

 

 

『ファット・モールデッドの溶解液とは別の意味で溶ける奴!』

 

「触れたら火傷するぜってか?上等だ!」

 

「ちい!」

 

 

 ジョーが突撃したのを見て、ダブルバレルショットガンを構えて援護を試みる。しかしアサルト・モールデッドはジョーのテレフォンパンチを壁に跳躍して回避。それを追ってダブルバレルショットガンで狙うが、すべて別の壁や天井に跳躍して回避していき、俺目掛けて両腕を構えて急降下してくる。

 

 

「後ろに……」

 

『イーサン、前!』

 

「!」

 

 

 後ろに避けようとしたものの、エヴリンの叫びで前に前転して避ける。瞬間、着地したアサルト・モールデッドが空中で交差して構えていた両腕を勢いよく振り下ろし、俺が背後に避けた場合いた場所が切り刻まれる。危なかった、空中から見てくれているエヴリンがいなかったら危なかった。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 グレネードランチャーで焼夷弾を叩き込むが、砲弾は巨大なお腹に当たって爆ぜるもビクともしない。ならばと顔を狙うもブレードで防がれ、やはり通じない。だがこっちに注意は惹き付けたぞ。

 

 

「マジかよ。頼んだぞ、ジョー!」

 

『やっちゃえバーサーkもとい、ジョー!』

 

「オラよ!」

 

 

 その隙を突いて背後から飛びかかり拳を叩き込むジョー。しかし片方の頭部がそれに気付くとグリンと上半身を回転させて動かすとブレードを振るい、咄嗟にジョーは下からの拳に切り替えアッパーでブレードをかち上げるも、ファット・モールデッドの胴体で押し潰されてしまう。

 

 

「ぐああああああっ!?」

 

『もうなんかロボットみたいな奴だね!?』

 

「そんなのありかよ!」

 

 

 ジョーに当てないためにハンドガンに切り変えて連射するも、ジョーを押し潰したまま両腕のブレードの腹を盾にしてビクともしないアサルト・モールデッド。猛攻(アサルト)って名前の癖して堅実じゃあないか!

 

 

「ギアアアアアアアアアッ!」

 

「調子に乗ってんじゃ、ねえ!」

 

『ジョー本当に人間?』

 

 

 すると信じられないことが起きた。アサルト・モールデッドの巨体がグググッと静かに、確かに持ち上がり始めたのだ。それをやってのけたアサルト・モールデッドより一回り以上小さい初老の男、ジョー・ベイカーはアサルト・モールデッドを勢いよく地面に叩きつけ勝ち誇った。

 

 

「どうだ参ったか!」

 

『私が言うべきじゃないけどバケモノかな?』

 

「お前の怪力には参ったよ」

 

 

 二つの頭部が巨体に潰される形となったアサルト・モールデッドの巨体がずしんと音を立てながら大の字に転がる。首が一つ折れている。気絶してるのか……?

 

 

『今だよイーサン、鍵!』

 

「そうか、倒す必要はないもんな!」

 

 

 エヴリンに言われて倒れているアサルト・モールデッドの腰のベルトに吊り下がっているヘビの鍵を奪い取る。よし、これで……。

 

 

「たしかあの向こうにヘビの鍵で開けれる扉があった!地図によれば近道になる筈だ!」

 

「おいこいつどうすんだ」

 

「倒せる気がしない!放っとくぞ、この図体なら地上には出れない筈だ!」

 

『そうかなあ……』

 

 

 言いながら檻から出るとエヴリンがアサルト・モールデッドのぶち壊した壁を見ながらぼやく。出てこれないと祈るしかない。

 

 

「釈然としねえが……作戦はお前に一任してるからな。わかったぜ」

 

「助かるよ。こっちだ」

 

 

 階段を上り、解体室に続く扉がある上の通路を歩きながら観察する。折れていた首がゴキャンと音を立てて戻って行き、立ち上がって両腕で床を突くゴリラの様な体勢でこちらを見上げるアサルト・モールデッド。ヤバいと思ったその瞬間、両腕で床を勢いよく突いてその反動で跳躍、突っ込んできた。

 

 

「うおおおおおっ!?」

 

「あぶねえ!」

 

『ジョーがいなかったら死んでた(コンティニューだった)ね』

 

 

 奴の体当たりが目の前まで迫り、避けきれないというところでジョーが俺の腕を掴んで引っ張ることで回避。アサルト・モールデッドは解体室の瓦礫に突っ込む羽目となるも瓦礫を吹き飛ばして咆哮を上げると両腕のブレードを振り回して歩み寄ってきた。

 

 

「ギアアアアアアアッ!」

 

「おいイーサン、鍵開けてこい!ここは俺が引き受けてやるよ!」

 

『何で突撃できるの…?』

 

 

 そう言って鞄から取り出したガラクタと木材で槍を作り出し投擲して顔にブチ当て怯ませたジョーが突撃する。槍を引き抜き、再び刺そうとしたところを蹴り飛ばされ、転落防止の柵に叩きつけられたところにブレードが降り下ろされ、ジョーは真剣白刃取り。大きく膨らんでいるお腹を蹴り付け、ブレードを横にずらしてリバーブローを叩き込みアサルト・モールデッドを解体室に逆戻りにした。

 

 

『イーサン、見ている場合じゃないよ退路を確保しないと……!?』

 

「そうしたいところなんだがな。マジかよ」

 

 

 死体保管庫の奥にあるヘビの扉に向かおうとしたが、ワラワラと湧き出たモールデッド三体に阻まれる。前門のモールデッド三体、後門のアサルト・モールデッドか。くそったれ。

 

 

「ギアアアアッ!」

 

「まだまだくたばんないよなあ!」

 

 

 アサルト・モールデッドのブレードが連続で振り下ろされるのを拳で刃の腹を殴ることでずらし、反撃の拳を胴体に叩き込んでいくジョー。口から放射された灼熱の濁流もショットガンを盾に受け止めてる。いやなんで受け止めてるんだよ。

 

 

「くっ!」

 

 

 ハンドガンを乱射。モールデッド一体を足止めするがその間に両サイドからモールデッドが迫り、咄嗟に頭部を撃って怯んだところを纏めて蹴り飛ばす。それでも突進してきた奴にバーナーを取り出し火炎放射を叩き込み、怯んだところにハンドガンを口に突っ込み引き金を引き、脳幹をぶち抜いて頭部を破壊した。バーナーじゃ力不足か。

 

 

「バーナー、蟲相手にしか役に立たないようだな!」

 

『悪いこと言わないから持っておいた方がいいよ本当に』

 

「なんでだ?」

 

『ルーカスの性格が悪いままなら絶対必要だから』

 

「?」

 

 

 なんでルーカスの馬鹿の性格が悪いならバーナーを使う必要が出てくるんだ?まあいい、とりあえずこれでヘビの鍵を開けれた。

 

 

「ジョー!鍵が開いたぞ……!?」

 

「うおおおおおっ!?」

 

『わーい、遊園地みたーい(棒読み)』

 

 

 鍵を開けて戻ってみれば、ジョーがブレードにしがみついてアサルト・モールデッドに振り回されていた。エヴリンは遠い目してるし、どういう状況だよ!?

 

 

「ギアアアアッ!?」

 

「あぶねえ、イーサン!?」

 

「おわあああっ!?」

 

 

 アサルト・モールデッドが目障りだと言わんばかりにブンッと勢いよくブレードを振り回し、しがみ付くのも限界が来たのかジョーが投げ飛ばされてきて俺に激突、もみくちゃになりながら階段を転がり落ちて行く。その先にはちょうどヘビの扉があった。

 

 

「な、なんとかヘビの扉に来れたぞ…」

 

「いてて……結果オーライって奴だな」

 

『言ってる暇があったら早く逃げようよ!?』

 

 

 エヴリンに急かされてヘビの扉に入ると、以前蠍の鍵があった厨房らしき場所に来れた。ここに繋がってたのか。ということは地下の出口まですぐそこだ。

 

 

「おいイーサン」

 

「なんだジョー。今は急がないと」

 

「勘だがな。アイツは何処までも追ってくるぞ。ここで倒さねえと邪魔でしかねえ」

 

「それは正直同感だが地下から出てこれないと祈るしかないぞ。それにどうする?奴を倒す方法なんて……」

 

 

 言ってると、ドゴンドゴンと音を立てて壁をぶち破って奴が現れる。二つの顔を見渡し俺達を見つけたその顔が喜悦に歪む。

 

 

「…なるほど、逃げられないな」

 

「だろ?」

 

『私コンティニューの準備するね』

 

「「諦めるな馬鹿」」

 

 

 ジョーと共に構える。覚悟を決めるしかないか。




圧倒的攻撃力、圧倒的素早さ、圧倒的防御力、三拍子そろった怪物アサルト・モールデッド。まさかの次回に続く。打倒する術はあるのか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯28‐【起死回生】‐

どうも、放仮ごです。原作通りにするわけにもいかないのでルート探しが難航してたりします。ヴィレッジ編も大きく改変したくなってきたのでそのうち追加で書くかも。

今回はイーサン&ジョーVSアサルト・モールデッドその二。楽しんでいただけると幸いです。


「ギアアァアアアアアッ!!」

 

 

 ドゴンドゴンと音を立てながら机を粉砕し、威嚇して咆哮を上げるアサルト・モールデッド。俺達は近くの物を投げつけながら後退する。

 

 

「とにかく狭い地下じゃ不利だ。一階に出よう。ホールなら十分な広さがある、相手できるはずだ」

 

「そいつはいいな、広けりゃやりようはある」

 

『来るよ!』

 

 

 俺の投げた鉄籠を斬り払い、ジョーの投げつけた棚を頭突きで粉砕したアサルト・モールデッドは天井に跳躍、からのボディプレスを仕掛けてきて、俺達は回避するも地響きが起きて扉を開けて進んだところを転がる。くそっ、出口はすぐそこだってのに。

 

 

「おいイーサン。ここはさっきのバスタブの部屋にも行けたな。つまり一周してきたわけだ」

 

「それがどうした?」

 

「少しは弱らせて足止めする方法は思いついたぜ。起死回生ってやつだ。ボイラー室に行くぞ」

 

 

 背中のショットガン(アサルト・モールデッドの濁流はパリィしたのか表面がちょっと融解しているだけ)を引き抜きながら豪快に笑うジョー。

 

 

「…一か八かか、だが地下の加工場をもう一度一周する必要があるぞ。なんならタイミングが合わなきゃもう一周、それでもできなきゃもう一周だ」

 

『それは、血を吐きながら続ける悲しいマラソンになるかもだよ?』

 

「上等だ。一発で弱らせてやる」

 

 

 その笑みに頷いた俺は方向転換、バスタブの部屋への廊下へ進むとアサルト・モールデッドは邪魔な壁を切り刻みながら追いかけてきた。狭いからか動きが鈍い。…狭い所で鈍くなったものの攻撃力と防御力も秀でたアイツと接近戦するか、広い所で縦横無尽に動き回れるアイツと戦うかだったら圧倒的後者を選ぶ。それほどにアサルト・モールデッド相手に接近戦は自殺行為だ。

 

 

「ギアアアアアアアッ!」

 

「こっちだ、こい!」

 

「狭いとノロマだな!とろいぜ!」

 

「ギアアアアアアッ!」

 

『怒ってるから言葉は通じるみたいだね』

 

 

 俺のハンドガンとジョーのショットガンで牽制し誘き寄せながらバスタブの部屋に入ろうとするが、アサルト・モールデッドの吐いてきた高熱のカビの濁流で進路を塞がれる。こりゃ冷めるまで通れないな。

 

 

「こっちだ、一度こっちから一周する!」

 

「アイツ学習しやがったみてえだ、気を付けろ!」

 

『なんでモールデッドなのに能なしじゃないの!?』

 

 

 焼却炉の部屋もある一本道の廊下の先に走ろうと試みながらジョーの言葉に振り返ると、両腕を合掌する様に刃を合わせてグググッと腰を引いて脚を引き絞るアサルト・モールデッドの姿があった。それはまるで槍を投げる時に引き絞るフォームの様で。

 

 

「おいおいマジかよ…!?」

 

「あれはやばいぞ!」

 

『え、はや……』

 

 

 開かない扉がある曲がり角へ急ぐ俺達目掛けて、ドゴンッという床を蹴り砕いた爆音と共に放たれるはミサイルが如き音速の突撃。ギリギリ曲がり角に到達した俺だったが間に合わないと踏んでジョーを突き飛ばす。俺なら少しの四肢が吹き飛んだぐらいなら回復できるがジョーはそうじゃない。すまん、エヴリン。もし駄目ならまた頼む。

 

 

『イーサン!』

 

「っ、馬鹿野郎が!」

 

 

 瞬間、俺は突き飛ばされながらも俺の手を掴んだジョーに引っ張られて一緒に廊下を転がっていた。直後、開かなかった扉に突っ込みドンガラガッシャンと轟音を鳴らすアサルト・モールデッド。扉ごとぶち破った壁からコンクリート片が転がる。い、今なら…!

 

 

「まだ冷めてないだろうけどいくしかない!」

 

「お前、後で説教だからな馬鹿イーサン!」

 

『私からも説教だからね!馬鹿イーサン!』

 

「ああもう、悪かったよ!?」

 

 

 まだ熱いが出された直後ほどではない湯気が立ち込める入り口からバスタブの部屋に入り、ボイラー室に入るとボイラーの裏に隠れ、弾を確認する。

 

 

「焼夷弾は?」

 

「ある。後はタイミングだ」

 

『イーサンは裏を突いて来た道に戻って、ジョーが引きつけて合図を出したら扉を閉めて解体室に退避、イーサンが撃ち込むってのはどう?咄嗟の逃げ道がなくなるはずだよ』

 

「それでいこう。異論はないなジョー」

 

「引き付ければいいんだろ?任せろ」

 

 

 ボイラーの影に身を潜めていると、ジャキンジャキンジャキンジャキンとブレードで床を貫く音を立てながら壁を破壊して四つん這いで突入してくるアサルト・モールデッド。キョロキョロと二つの顔で辺りを見渡し、俺達を探し始めた。

 

 

「ギアアアアアアッ」

 

『こわいこわいこわいこわいこわい』

 

 

 アサルト・モールデッドが歩いて行く先から見えない角度にジョーと共に息を潜めながら移動する。解体室への扉前で首を傾げるアサルト・モールデッド。可愛げがあるように見えるが、さっきの突撃を見た後だと恐ろしい事この上ない。入り口側の影に来れた所でそそくさとエヴリンと共にバスタブの部屋に転がり込んでグレネードランチャーを構える。

 

 

「探し物はこっちだぜ!ドラアアアアアアアアッ!」

 

「ギアアアアアアッ!?」

 

 

 瞬間、ボイラーの影から飛び出したジョーの渾身の拳の一撃がアサルト・モールデッドの右の顔……保安官補佐によく似た頭部の頬に炸裂。完全に油断していたアサルト・モールデッドを壁まで殴り飛ばして激突させる。いや気を引けばいいんだが!?

 

 

『油断してればあの巨体を殴り飛ばせるってどういうことなの……』

 

「それな」

 

「やっと一発決めれたぜ、イーサン今だ!」

 

「おうよ!」

 

 

 そのままそそくさと奥の扉を開けて解体室に入り扉を閉めたジョーの声を聞き、叩きつけられた壁から起き上がろうとするアサルト・モールデッド……ではなく、その横のボイラー目掛けて引き金を引くと同時に壁の向こうに逃れて頭を抱えて蹲る。

 

 

『はい、ドッカ―ン!!』

 

「ギアアアアアアアアアッ!?」

 

 

 アサルト・モールデッドの目と鼻の先で焼夷弾は爆ぜて大爆発。ボイラー室を覆う大爆発が地下室を揺らす。…これ下手したら倒壊まであったな、ここを改造したと言うトレヴァーとかいうゾイの言ってた建築家が頑丈にしてくれたであろうことに感謝だ。

 

 

「死ぬかと思った」

 

『死んだら困るよ。私、敵がいないか周りを見てくるね』

 

「よう、無事だったかイーサン」

 

 

 厨房らしき部屋まで戻ると、ヘビの扉を通ってきたのであろうジョーと合流。改めて地下の出口を目指そうと思ったが、周囲を見てきたらしいエヴリンが引きとめた。

 

 

『さっきアイツが壊した扉の先の部屋に変なものがあったよ』

 

「なんだと?」

 

「せっかくだ、行ってみるか」

 

 

 さっきアサルト・モールデッドが破壊した開かずの扉の部屋に入ると、バラバラに破片が転がってる何かの機械があった。ここは、何かの作業場か?

 

 

「おいこれ、基板って奴じゃないのか。ルーカスの馬鹿が言ってた」

 

『ああ、ここに繋がるんだ』

 

「本当だ。それに、奥に道があるな」

 

 

 隅っこに転がっている赤い基板を発見、壊れてなさそうなので鞄に入れると、奥の扉を進み階段を上ると行き止まりに到達した。当たり前の様にエヴリンが上を確認する。

 

 

『上は夫婦の寝室だよ』

 

「もしかして二階の行けなかったヘビの扉の先か?こっちから来るんじゃないのか」

 

「おっ、ここに隠しスイッチがあるぜ」

 

『いや殴らなくても』

 

 

 壁の一部を殴りつけるジョー。するとゴゴゴゴッとスライドする音がしてカチッと鍵が開く音が鳴ったので開いてみると、不自然にずれているベッドが目立つ部屋に出た。

 

 

「横の倉庫にバックパックあるけどもらってく?」

 

「そういうことなら俺がもらうぜ」

 

「ああ。二個も使わないからな。バーナーとか持ってもらうと助かる」

 

 

 そう言って扉を潜り、バックパックを手に入れて戻ってくるジョーと共に、鍵を開けて外に出る。ホールの上に出た。やっぱりここか。

 

 

「地下から二階に出るとはな」

 

「目的の場所じゃねえか、迎え撃つぞイーサン」

 

 

 とか言っているうちに地響きが襲い、慌てて手すりを掴む。そしてあの影絵ギミックの真下が吹き飛んで、全身燃えているアサルト・モールデッドが這い出してきたのが見えた。あんな状態でも生きているのか、なんてしぶとさだ。だが弱っているのが目に見える。

 

 

「いくぞ!」

 

「いやそれは無理だ」

 

『いくじなし』

 

 

 当たり前の如く手すりを飛び越えて一階に着地するジョーに続いて階段を下りて合流、ダブルバレルショットガンを構える。さあ決着をつけようか化け物。




ボイラーの爆発って割と洒落にならないらしいです。ベイカー邸全体を舞台にしたバトル、完全にタイラント系ですね。

逆走で赤い基盤をゲット。めんどくさい時計の仕掛けもスキップです。アレ裏側からだとどうなってるんだろうね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯29‐【猛攻】‐

どうも、放仮ごです。そういや拙作FGO/TADではエヴリンに四肢を伸縮させていたなあと思い出しつつ書きました。あっちも再開したいのだけどね。

今回はイーサン&ジョーVSアサルト・モールデッドその三。楽しんでいただけると幸いです。


「ギアアアアッ!」

 

 

 燃え盛る全身を捻り、体格に見合わない細い足で前進しながら上半身を回転させて回転ノコギリか独楽の様に突撃してくるアサルト・モールデッド。巻き込んだテーブルが切り刻まれて木片の残骸と化して回転に巻き込まれて宙に打ち上げられる様はハリケーンかなにかだ。

 

 

『ベイカー邸に来たあの日を思い出すなあ…』

 

「しみじみとしてる場合じゃないぞ!?」

 

「足元ががら空きだぜ!」

 

 

 するとジョーは拳を勢いよく床に叩き付け、振動でベイカー邸を揺らすと回転するアサルト・モールデッドは軌道がずれて振り子時計に激突、長針や短針やらネジやらが吹っ飛び床を転がり、俺も無様に転倒する中でジョーは突撃。

 

 

『やっちゃえ、ジョー!』

 

「いけ、決めろ!」

 

「ふんっ!オラ、オラオラ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 

 顔面に拳を叩き込み、起き上がろうとしていたのが腰から倒れた所に両腕のブレードを両足で踏みつけ、身動きが取れないアサルト・モールデッドの大きな腹部に連続で拳を叩き込んでいくジョー。

 

 

「ギッ、ギアッギギギアアアッ!?」

 

 

 衝撃を全部受け止めたアサルト・モールデッドが声にならない悲鳴を上げる。片方の頭部が口からあの熱々の黒カビの濁流を吐き出そうとするもアッパーで頭部を打ち上げられて天井を焼き、飛沫が降り注ぐ中でもジョーは猛ラッシュを叩き込んでいく。

 

 

「ギアアアアアアアッ!」

 

「うぐおっ!?」

 

 

 するとたまらず引き絞って蹴り込んだ右足がジョーの腹部に炸裂。ブレードの上から蹴り飛ばして廊下に突き飛ばすと、自由を取り戻すアサルト・モールデッド。両腕を振り上げて自由を宣言するかの様に咆哮を上げようとしたその頭部に焼夷弾を叩き込む。

 

 

「どうだ、効いただろ!?」

 

『汚い、さすがイーサン汚い』

 

「ギアアアアッ!?」

 

 

 炎上していた巨体がさらに炎上し、保安官補佐の顔をしていた片方の頭部がバシンッと音を立てて破裂。片方だけになった首をブレードの腕の腹で殴ってずらし、中央に()げた残った頭部がぐりぐりと首を動かして調子を確かめ、両腕のブレードの刃先を床に突き刺して獰猛に笑う。

 

 

「な、なんだ…?」

 

『まるでお荷物が無くなったみたいな動きけど………イーサン、避けて!』

 

「あぶなっ!?」

 

 

 すると突如現れた謎の触手が俺の真下の床から伸びて、エヴリンの声に咄嗟に引いた俺の眼前スレスレを伸びて上の連絡通路に突き刺さり大穴を開ける。シュルシュルシュルと戻って行く触手。見てみれば、床に突き刺していたブレードを引き抜くアサルト・モールデッドが右腕を振りかぶる姿が見えた。

 

 

「おいおい、マジかよ!?」

 

『なんとかのピストルだねそれ!?』

 

 

 よく見ればブレードの先端がモールデッドの手の形に変形していて、拳を握った右腕が背後に向けて振りかぶられたかと思えば、突きだした瞬間伸びてきて俺が飛び退いた空間を打ち抜く。外れればシュルルルと戻っていってブレードに戻った。伸縮自在だと…!?

 

 

「もしかして保安官補佐の頭部と一緒に力のセーブが外れたって言うのか…!?」

 

『何そのゲームみたいな特性!?』

 

「ギアッギアアアッ!」

 

 

 両腕を交差し、勢いよく振り抜くと同時にブレードを伸ばしてホール一帯を薙ぎ払うアサルト・モールデッドの攻撃を避けてスライディングで接近、懐に潜り込んでショットガンを腹部に叩き込む。ボコボコと腹部が泡立つとまるで鞭の様にしなるブレードの連撃が俺の飛び退いた箇所に炸裂。次々と打ち付けてきて、なんとか転がって回避していく。

 

 

『いくらなんでも強すぎるよ、ルーカス何を仕掛けたの!?』

 

「どうせ非人道的な加減を知らない実験だろうな。こいつも力に振り回されているように見える」

 

 

 なんとか猛攻を避け終えると、シュシュシュシュシュッと連続で拳を振るい、加速させていくアサルト・モールデッド。某ガトリングみたいな攻撃が来るかと思いきや、充分に加速がついたところで両手を叩き付けるように突き出してきた。

 

 

「はっや……!?」

 

『キャノン!?イーサーン!?』

 

 

 あまりの速さに避けきれず、腕に掠ってグルグルと空中をきりもみ回転して奥の扉に叩きつけられる。見上げれば、ポールハンガーを改造した槍を手にした銅像が。

 

 

『イーサン、大丈夫!?来るよ!』

 

「いてて……これならどうだ!」

 

 

 銅像からポールハンガーの槍を奪い取ると、シャッターが閉じられてアサルト・モールデッドの追撃を受け止める。しかしドドドドドドッ!と音を立ててシャッターがひしゃげて行き、扉ごとブレードについた拳がぶち破り、扉の遥か向こう、というか部屋の反対側で拳を振りかぶる姿が見えた。

 

 

『それも破られたら防ぐ術がないよー!?』

 

「ギアアアアッ!」

 

「その攻撃力、利用させてもらう!」

 

 

 伸びてくる右腕のブレードの拳に合わせて、手にしていた槍を突き出すと先端が手の甲を貫き肘まで貫くことに成功。

 

 

「ギアアアアッ!?」

 

「調子に乗ってるんじゃ、ねえ!」

 

『ジョーが来た!これで勝つる!』

 

 

 右腕を戻して槍を引き抜こうとした明らかな隙を突いて戻ってきたジョーの右ストレートが左肩に炸裂。ゴキャンと音を立てて吹き飛ばされホールを転がって行く。

 

 

「あの槍はお前が作ったのか、イーサン?いい腕だ」

 

「そいつはどうも」

 

『ポールハンガーなんだけどねあれ』

 

 

 駆け寄ってくるジョーの称賛に照れながら奴の動向を見守る。しっちゃかめっちゃかになっていたアサルト・モールデッドだったが牙で噛み付き槍を引き抜いて吐き捨て、外れた左肩を伸ばした右拳でゴンッボゴンッと叩いて元に戻してゴリラの様な体勢でこちらを睨みつけてくる。背中に炎を燃やして嗤っている姿は悪魔そのものだ。

 

 

「俺が動きを止める、ジョーは渾身の一撃を叩き込んでくれ」

 

「よし任せろ。とっておきを喰らわせてやる。ジャックの歯をへし折ってやった一撃だ」

 

『ジョーの渾身の一撃で殴られて歯がへし折れるで済むならそりゃあ頑丈だよねジャック』

 

 

 ドンッと音を立てて天井に跳躍、飛び付くアサルト・モールデッド。そのまま急降下して来て天井に向けて伸ばした右腕のブレードを戻る勢いのままに叩きつけてきたので、ジョーと共に左右に避け、右に転がりながらグレネードランチャーを発射。

 

 

「ギアアッ!」

 

「まあ効かないよな!」

 

 

 左腕のブレードで弾いたそれが天井で爆発するとともに突撃し、その頭部に左からナイフを突き立てるも殴り飛ばされるが、アサルト・モールデッドの動きが止まった。

 

 

「ゲホッ、ゴホッ……その視界で動けるか?」

 

「ギアアアッ!?」

 

 

 ナイフを、刃で左目を塞ぐように突き立ててやった。左側が見えずジョーを見失ったのかアサルト・モールデッドは口から高熱の黒カビの濁流を吐いて巻き散らかし、両腕を伸ばして辺り一帯を殴りつけブレードで薙ぎ払って行く。

 

 

「お生憎様だな、上だ!」

 

「ギアッ!?」

 

『強かったけど、経験不足だったね!』

 

 

 しかし階段から上の通路に向かっていたジョーには当たらず、アサルト・モールデッドの無防備な背後に着地。アサルト・モールデッドの左肩を左手で掴み、右腕を振りかぶる。その瞬間、この屋敷に来る直前の出来事、ジャックに殴られた瞬間がフラッシュバックする。

 

 

「ベイカー家直伝、FAMILY PUNCH(伝家の宝刀)だ!」

 

「ギアアアアアアッ!?」

 

 

 無理やり振り返されたアサルト・モールデッドの顔面に、ググググググッと溜められていた渾身の一撃が炸裂。その巨体が吹き飛び、壁に激突して崩れ落ち、沈黙。アサルト・モールデッドはピクリとも動かなくなった。無言でジョーに歩み寄り、笑顔で上げられた掌に、掌を打ち付けて応える。

 

 

「お疲れ様だイーサン!」

 

「お前もな、ジョー」

 

『男の友情、いいなあ』




これにてホールと地下を滅茶苦茶にしたアサルト・モールデッドとの対決、決着です。思いっきり某少年漫画のアレでした。かなり合理的だよねあの攻撃。

頭部を一つ失ったことで強くなるアサルト・モールデッド。もしかしたら理性が残っていたのかも?

やはり決め技はファミリーパンチ。あれの正式名称知りたい。

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♯30‐【トレヴァー】‐

どうも、放仮ごです。気になって調べたんですけどバイオのシリーズでおなじみトレヴァーさん、例の洋館が完成した1967年に当時14歳だったリサや妻のジェシカと一緒に家族で洋館の完成記念に招かれて、口封じのため幽閉され、脱出を試みるが果たせずに地下で衰弱死しているんでベイカー邸に関わってるわけではなさそうですね。

今回は小休止。本館子供部屋の探索です。楽しんでいただけると幸いです。


『ふう、これでやっと安心して探索できるね』

 

「そうだな」

 

「イーサン、ヘビの鍵で行けるところは分かるか?」

 

 

 空中で無重力かの如くふわふわ回転し胸を撫で下ろすエヴリンに頷きつつ、ジョーの言葉で思い出す。結構探索……どちらかというと逃げてる記憶しかないが……探索したが、行けなかったところは数えるぐらいしかない。夫婦の寝室はなんか知らんが行けたので、あと一つ・・・。

 

 

「二階。子供部屋と見取り図に書かれていた部屋だ」

 

「ゾイとルーカスの部屋だな。俺が送ったワニのぬいぐるみとかを置いてくれていたのを覚えている」

 

『あ、あれジョーの趣味なんだなるほどね』

 

 

 もしかして旧館の子供部屋にあったあのワニのぬいぐるみもか?なんともまあいい趣味だな。そんなことを考えつつ階段を上り、夫婦の寝室とは反対側の扉を抜けるとやはりというか黒カビが廊下を覆い尽くしていた。

 

 

「うわあ」

 

『うわあ』

 

「うわあってなんだエヴリン、お前の仕業だろ?」

 

『この時代の私の仕業!いやつまり私の仕業だけど!客観的に見るとドン引きだね』

 

「自分にドン引きされるお前に同情するよ」

 

 

 気にしてもしょうがないので容赦なく踏みつけて子供部屋の前に出る。ヘビの鍵で開けると、打って変わってカビに侵食されてない小奇麗な部屋に出た。沢山のトロフィーが置かれている。おかしなところはない、か…?

 

 

「ここに基板があるんだろうな。三人で探すぞ。特にエヴリン、期待するからな」

 

『さすがに基板の場所まで未来のイーサンに聞いてないよ……このあと苦労したのは知ってるけど』

 

 

 手分けして部屋を物色し、何故か落ちている弾などを回収していると日記らしきものを見つけたので読んでみる。

 

 

「【4がつ にち。かあさんに 町のびょう院につれてかれた。へんなきかいであたまの写しんをとられた。おもちゃ屋で259こめのパズルを買ってもらった】259個っておま…」

 

『頭は良かったみたいだね』

 

「昔からルーカスは物覚えが良かったからなあ。体力はからっきしだったけどよ?」

 

 

 しみじみと語るジョー。やはり甥っ子だからか可愛いんだろうな。

 

 

「この時点で大分生意気だがな。【4がつ にち。うすのろオリバーに「おまえはあたまのびょうきだ」ってからかわれた】まあ頭の病気だろうな」

 

『どちらかというと心も病気だよね』

 

「オリバーってのはたまに遊びに来てたガキだな。何時頃からか見なくなったが」

 

「……その理由が書いてあるぞ。【4がつ にち。ばーすでーパーティとうそついてオリバーをうちによんだ。やねうらに上がらせてからリモコンで外からとじこめた。オリバーのやつべそかいて「だしてくれよルーカス」だって】子供の頃から悪辣かよ」

 

『うわあ』

 

「そんなの俺は知らねえぞ。ジャックにも聞いてねえ」

 

 

 狼狽えるジョー。気持ちは分かるが落ち着け。許さないとはすでに決めているだろ。

 

 

「聡い子供だったみたいだからな。周到に隠していたんだろう。【4がつ にち。ゾイがかってに入らないようにハシゴのリモコンをかいぞうした。はつめい大会のトロふィーとがったいさせたからぜったいにみつからないぜ】…ハシゴにリモコンか」

 

『トロフィーに合体させたって書いてあるね』

 

「トロフィーってこいつか?」

 

 

 そう言って飾ってあるトロフィーを手に取るジョー。【1998年 自作ロボット選手権 佳作】と書いてあるがリモコンとやらは付いてない。俺もおもむろに手に取る。【第3回 児童工作大会 2位】と書いてあるがやはり変なところはない。

 

 

『ベッドの上にもあるよ』

 

「どれどれ……【第2回 児童工作大会 3位】と書いてあるが…変なところはねえぞ」

 

「他にトロフィーは?」

 

『ないけど、鏡の前に紙切れがあったよ』

 

「どれ、俺が読む」

 

 

 鏡の前に置いてある紙切れを手に取るジョー。甥っ子が子供の頃から自分たちを偽っていたサイコパスだったと信じたくないのだろうか。

 

 

「【4がつ にち。オリバーはしずかになった。たまにてんじょうをコンコンたたく音がする】これを平然と書き綴っているなんて頭を疑うぜルーカス」

 

 

 失望の意が見て取れる溜め息を吐くジョー。読むのをやめてしまったジョーの代わりに、エヴリンが覗きこんで読み始めた。

 

 

『【5がつ にち。すごくくさい。やねうらからへんな汁がたれてきた。リモコンのトロふィーをまたかいぞうした。これで夜ねるときもぴかぴかだ】だってさ。なんのこっちゃ』

 

「トロフィーをさらになにかに改造したのか。見つからないわけだ。だがぴかぴかってなんのことだ?」

 

「さっさと見つけてルーカスの馬鹿野郎を殴りにいくぞ。説教が増えた」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 再度「ぴかぴか」を探して部屋中を探索する。ベッドの上の照明……違うか。

 

 

『あ、これじゃない?』

 

「エヴリン、よくやった。擦り抜けるの便利だな」

 

「え?あ、ほんとだ。電気スタンドかと思ったらトロフィーじゃないかこれ」

 

 

 電気スタンドに偽装されたトロフィーにくっ付いていた赤いボタンを押してみるとキリキリキリ、ガシャガシャと歯車が動く音がして、奥の壁沿いに梯子が降りてきた。なるほど、こういうことか。これもトレヴァーとやらが作った仕掛けなんだろうな。

 

 

「俺たちが見てくるからジョーは警戒していてくれ。またあのやばいのが出てこないとも限らん」

 

「おうよ、任せとけ」

 

『先行して大丈夫か見てくるねー。………屋根裏部屋には特になにもいないよ』

 

「よし」

 

 

 屋根裏部屋に向かい、ヒョコッと顔を出してきたエヴリンのOKサインを見てから、ジョーを残しながら梯子を登る。すると梯子を登った目と鼻の先の箪笥にエヴリンが顔を突っ込んでいた。

 

 

「おわっ、びっくりした。どうしたんだエヴリン」

 

『またビデオがあるよ。【バースデイ】だって」

 

「誕生日のビデオ?」

 

 

 首を傾げながら箪笥を開け、ぽつんと置かれていたそれを手に取る。何かのヒントになるかもだしもらっておくか、とバックパックに入れる。視界の先にはライトで照らされた影絵ギミックがあった。

 

 

「他には……あからさまに目立っているあれは後回しだな。またかよ」

 

『そうだね。(いじ)って罠が発動したりしたら大変だもん』

 

「うん?なんか書いてる紙が落ちてるな」

 

 

 拾い上げてエヴリンと共に読んでみる。どうやら契約書らしい。

 

 

「どれどれ。【改修工事 請負契約書】【注文者、ジャック・ベイカー 様。請負者、トレヴァー&チェンバレン建築設計事務所。工期、1992年11月10日 から 1992年11月30日。工事内訳、メインホール投影機 および仕掛け扉の設置】出たなトレヴァー」

 

『出たねえトレヴァー。……クリスから聞いた話によれば、リサ・トレヴァーって私に似た子が洋館事件でいたらしいけど関係があるのかな』

 

「洋館事件って1998年5月11日だろ?年も近いし案外、娘とかだったりしてな」

 

『長い間、幽閉されてたみたいだし違うんじゃない?』

 

「というかこの梯子の仕掛け……関係なかったのか、トレヴァー」

 

 

 言いながら傍の棚を見る。木製のおもちゃの手斧とショットガンの模型があった。

 

 

「……手斧、じゃないのか」

 

『おもちゃだね』

 

「荷物になるしこれはさすがにいらないか…」

 

 

 深呼吸。影絵ギミックを見る。既に台座にはなんかよくわからんものが置かれているからこれで影を作れと言う事らしい。壁には斧を持った大男のシルエットと群衆に囲まれた跪く女性が描かれた絵。その横には閉じられたドールハウス。これを開ける仕掛けか?

 

 

「いややる必要ないが」

 

『だよね』

 

 

 いい加減、影絵を作るのもめんどくさくなったのでナイフを隙間に突っ込み、こじ開けると中には青い基板があったので回収する。絵のタイトルは「裁き」か。いいね、俺とエヴリンとジョーで裁いてやるよルーカス。覚悟しろ。




ジョーも嘆くサイコパスっぷり。ルーカスも凄いとは思うけどやばすぎる。

そして脳筋イーサン。先生、この人謎解きする気がありません。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX4‐【イカレた長男視点】‐

どうも、放仮ごです。イーサンのやべーやつっぷりを外側から見た視点第二弾です。今回はルーカス視点。

15~22話のルーカス視点。楽しんでいただけると幸いです。


 あーくそっ、あちい、くそったれ!ただでさえ薄い髪の毛とパーカーに燃え移った炎を必死で手を叩いて鎮火しつつ通路を通って牛舎跡の建物に入り自室のパソコンの前に立つ。

 

 

「くそっ、なんなんだよあいつは!?普通人間に向けて放火するか!?」

 

 

 鎮火を終え、椅子に座ってキーボードを叩く。こうなったら予定変更だ。パーティーに招待するのはそのままだが、ミアも奪い取って商品にしてやる。その手段としてまだ実験途中だったが奴を引っ張り出す。どうやっても殺せない絶望というのを奴に教えてやるよ。

 

 

「フューマー、出てこい。お前は切札だ」

 

 

 本拠地である坑道に隠しておいた実験体を入れている格納庫の扉を開けて指示を出す。脳まで改造したこいつは従順だ。次に、外に出てフューマーを草陰に隠しつつ、庭を通り本館にやってくると階段を上り、自分の部屋の施錠をヘビの鍵で開けてトロフィーを改造したリモコンのスイッチを押し、落ちてきた梯子を登って屋根裏部屋に入る。

 

 

「あーくせえくせえ、うすのろオリバーの臭いがまだ残ってやがる」

 

 

 消臭剤を使っても染み込んだ臭いは落ちない。ここはもう使ってなかったが隠し場所としてここまで最適なのもない。イーサンの野郎、何らかの手段で見えない場所を探れるようだしこれぐらいハンデだろうよ。影絵ギミックの仕掛けを作動させ、青い基板を仕込む。まあこいつでいいだろ。

 

 

「次は親父とおふくろの部屋か……急がねえとな」

 

 

 おふくろは親父ほど強くねえ。時間を稼げればいい方だ、急がねえと。夫婦の寝室をヘビの鍵で開いて時計の仕掛けを動かし、以前クランシーの野郎とゲーム(・・・)をした部屋に赤い基板を仕掛ける。これでよし。次は…っと。スマホを取り出し隠しカメラの映像を確認する。思ったよりおふくろ善戦してるな。きめえ。

 

 

「おん?ミアとゾイをトレーラーハウスに残すのか?」

 

 

 思わぬチャンスがやってきた。スマホで特定の電話番号を打ちこみ、モールデッドを格納していた部屋から出して指示を送り呼び出す。モールデッドの脳とも言うべき器官は改造してある。数は限られるが自在に扱える手駒だ。イーサンがおふくろの相手に気を取られている今がチャンスだ。「腕」を取る必要もあるしかなりの時間、隙ができるはずだ。

 

 

「よう、来たな」

 

 

 本館から出ると同時に合流したモールデッドどもを引き連れ、トレーラーハウスに向かう。ゾイは隠れていたつもりだったんだろうが生憎と既に把握済みだ、おふくろたちには教えなかったがな?ちょっとした兄心のつもりだったんだが話は変わった。イーサンの野郎を苦しめるために利用させてもらうぜ。

 

 

「よう、邪魔するぜゾイ。それにミア」

 

「あ、あなたは…!」

 

「ルーカス!?」

 

 

 扉を開けて挨拶すると、咄嗟に構えたマグナム銃を容赦なくぶちかましてくるゾイと、バットを手に外に飛び出して殴りかかってくるミア。銃弾を頭部に受け、バットで右腕を殴り飛ばされて無様に転がる。おーいてえ。さっきも親父に手首斬られたし厄日か?頭部と、へし折られた右腕が治って行き立ち上がる。

 

 

「はあ、容赦ねえな。こうじゃなかったら死んでたぞ」

 

「ちっ……化け物め!」

 

「おいおい、実の兄に向かってなんて言い分だよゾイ」

 

「はああっ!」

 

「ごっふ!?」

 

 

 舌打ちするゾイに向かって嗤っていると、後頭部を思いっきりぶん殴られて地面を舐める羽目になる。こ、このアマ……大人しくしておけば付け上がりやがってからに。

 

 

「モールデッド!」

 

「え?しまっ……」

 

 

 俺が指示を出すとミアの背後から襲いかかったモールデッドがバットを奪い取り、羽交い絞めにしたところにファット・モールデッドが腹部を殴って気絶させる。仕事のできる奴等だ。

 

 

「ミア!?ルーカス、いったいなにを……」

 

「イーサンを楽しませる手伝いをしてもらうのさ。やれ」

 

「くっ、がっ、あああああっ!?」

 

 

 瞬間、屋根から壁を這って駆け込んで行ったクイック・モールデッドに襲われて気絶したゾイもファット・モールデッドに担がせて去ろうとしたところにイーサンがやってきて飛び蹴りを叩き込まれる。おいおいマジかよ、早過ぎるだろ。

 

 

「ここで会ったが百年目だルーカスこの野郎!ミアとゾイを返せ!」

 

「ぐわっ!?こんなに早く来るはずないだろう、てめえイーサン!」

 

 

 転がったところを殴られ、さらに襟を掴まれ殴ってきたので殴り返す。そう何度も負けてたまるかってんだ。

 

 

「てめえ、「腕」はどうした!?」

 

「んなもんよりミアとゾイの安否の方が大事だ!」

 

「てめえ!段取りは守りやがれ!吐き散らせ、ファット・モールデッド!」

 

「なっ!?」

 

 

 ファット・モールデッドに溶解液を吐かせて攻撃させる。初見殺しに弱いのは知っているぞ!

 

 

「喰らえ!」

 

 

 するとイーサンが手にしたのは恐らくゾイのものと思われる子供用リュックに本を詰めたブラックジャックらしき武器。付け焼刃かと思いきやヌンチャクの様に振り回して下からファット・モールデッドの腕を弾いてミアとゾイを解放させると顎を打ち上げ溶解液の軌道を逸らす。こいつ格闘技の達人かなにかか!?

 

 

「めいっぱい吐いてお腹空いてるだろ、これでも食っとけ!」

 

 

 さらに隙だらけのファット・モールデッドの口に見覚えのあるグレネードランチャーを突っ込んでぶちかまし、ファット・モールデッドを炎上させて撃破するイーサンにドン引きしつつも立ち上がり、笑ってやる。やはり初見殺しには弱いな?

 

 

「俺お手製のグレネードランチャーか。それで勝ったつもりかよ、イーサァン」

 

「があっ!?」

 

 

 瞬間、ファット・モールデッドが死に間際に爆発してイーサンの背中を酸で焼き、それでも立ち上がってブラックジャックを振るってくるも先程の勢いはなく簡単に避けてやる。

 

 

「くそっ……」

 

「油断したなあ?スーパーマンみたいに強くても足元はいくらでも掬えるんだぜ?それに俺は親父やおふくろと違って、モールデッドを操れる。来いよお前ら、新鮮な獲物だぜ」

 

 

 嘲笑を浮かべて両腕を広げ、モールデッド二体に、ブレード・モールデッド、クイック・モールデッドを並べて嗾ける。すると右手でブラックジャックを振り回してダブルバレルショットガンを構え、応戦するイーサン。だからどこのアクション映画だよ。しかし見えない誰かと受け答えしてるな。エヴリンが裏切ったか?それしか考えられねえ。

 

 

「ちっ、普通のモールデッドは通用しねえか。なら使う気はなかったがしょうがねえ、念のため連れてきた切札を使ってやるよ。来い、フューマー」

 

 

 そう言って指を鳴らす。かっこつけただけだったがそれを合図にフューマーが草むらから現れる。すると目に見えて狼狽えるイーサン。だろうな。こいつはエヴリンも知らない。

 

 

「…エヴリン、あれはどんなやつだ。……なに?」

 

「どういうわけだか知らねえがエヴリンを味方につけたようだがな?こいつは俺がカスタムした特殊なモールデッドだ。エヴリンの支配下からも外してある。今までと一緒だと思うなよ?」

 

「撃てば死ぬのは変わらないだろ!」

 

 

 馬鹿正直で結構結構。ダブルバレルショットガンに弾込めしてぶちかますイーサンだったが、フューマーに与えた傷は即座に再生、そのままイーサンの首を掴み持ち上げる。さすが俺の傑作だ。

 

 

「なんだと!?ぐうっ!?」

 

「いい様だなあ、なあ相棒?そう焦るな、ゆっくり楽しませてやる。面白いゲームを用意してやるってんだ。まあ心配するな。この二人は大事な大事な商品(・・)だ。丁重に扱ってやるから安心しろよ、なあ?」

 

「ふざ、けるなあ…」

 

 

 もがくイーサン。いい気味だ。口笛で新たにファット・モールデッドを呼び出してゾイとミアを改めて担がせて、顔を覗き込み笑みを浮かべてやる。悔しいよなあ?さて、帰るか。エヴリンから離反しないといけないしな。

 

 

「こいつは俺達「家族」の問題だ。「家族」でもないお前が首を突っ込んでくるなよ、なあ分かんだろ?いいか?ミアとゾイを返してほしかったら「腕」を持って俺んところまで来てみろよ。そしたらくれてやってもいいぜ!ただ俺を燃やした罰だ。お前にやってもらうぞ、ちょっとしたゲームをな?お前のために考えてやったんだよ!ワクワクするだろ?いや、今のお前は心臓バクバクか?上手くもねえし面白くねえな、ギャハハハッ!」

 

「クソ、野郎が……」

 

「悪態吐けるぐらい元気があるなら、まず最初に地下の解体室に行くんだ相棒!ポリ公が待ってるぜ!」

 

 

 いや確かにそうは言ったがな?ジョーおじさんを呼んでくるのはさすがに聞いてねえぞイーサンこの野郎。




本作随一の苦労人、ルーカス。

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♯31‐【バースデイ】‐

どうも、放仮ごです。今回の題名はバースデイ、つまり誕生日(意味深)。例のクランシーのビデオのタイトルですがわざわざ題名にする理由もありまして。

今回は「バースデイ」鑑賞。楽しんでいただけると幸いです。


 子供部屋の屋根裏部屋で基板やらを手に入れ、ジョーと合流してボロボロの一階を抜けて外に出ようとしたところで電話が鳴り響く。ジョーとエヴリンと顔を見合わせ無言で頷くと俺が代表して受話器を手に取った。

 

 

≪「よう相棒!よくも俺の可愛い可愛いアサルト・モールデッドを倒したばかりか想定してないルートで基板を手に入れやがったな!せっかく本館中の時計を弄ったのに台無しだ!それにおじさんまで呼びやがって、罰をやらないとなあ?」≫

 

≪「うあああああああああっ!?やめて、やめて!?」≫

 

≪「ゾイ……は今おめかししてる最中だからなあ、ほら聞こえるだろ?追加でミアの悲鳴とかどうだ?」≫

 

『想定してないってルーカスの用意したアサルト・モールデッドのせいなんだけど』

 

 

 そんなルーカスの声とゾイの悲鳴らしきが聞こえ、俺が反論しようとすると受話器を奪い取る手があった。ジョーだ。

 

 

「よおルーカス。久しぶりだなあ?声が聞けて嬉しいよ。ゾイになにしてやがるお前。返答次第じゃあ…」

 

≪「お、おじさん……久しぶり。ゾイならこっちで楽しんでるからよ。気にすることないぜ?そんなことよりイーサンに代わってくれないか?話が進まねえからよ……」≫

 

『借りてきた猫みたいで草』

 

 

 明らかに縮こまったルーカスの声に思わずエヴリンと共に笑ってしまう。おじさんの前ではただの甥っ子か、もしくはジョーの恐ろしさを知ってるんだろうな。ジョーはゾイの事が気になるんだろうが話が進まないとルーカスの場所にも行けないと気付いたのか、苦虫を噛み潰した顔で今にも受話器を握りつぶしそうだった右手の指を左手で無理矢理外してから続けた。

 

 

「おう、いいぜ。だがひとつ言わせてくれ……」

 

≪「お、おう。なんだよおじさん」≫

 

「くたばれクソ野郎。お前が甥っ子で俺は恥ずかしいぜ。ゾイが何かあって見ろ?俺がお前を殺してやる」

 

 

 そう吐き捨てて受話器を手渡してくるジョー。容赦なしだな、それぐらい言ってやらないといけないだろう。

 

 

「代わったぞクソ野郎」

 

≪「オイオイ勘弁してくれよ相棒。ゴホン。気を取り直して、だ。いいか?その2つの基板でパーティーに参加できるからなあ、遅れねえようになあ!」≫

 

「ミアの悲鳴とか言ってたな。ミアとゾイを返せクソ野郎」

 

≪「まあまあそう焦んなって!」≫

 

「今返した方が身のためだぞルーカス」

 

 

 めきょっという音と共にジョーの拳が壁にめり込んだ。その音が聞こえたのか「ひえっ」と短い悲鳴を上げるルーカス。

 

 

≪「わかった、悲鳴を聞くのはなしにしてやる。優しい俺様に感謝しろ。その前にまずパーティーだろ!パーティーの場所は分かってるよな?!」≫

 

「知るか。さっさと教えろ」

 

≪「目的以外興味なしかよ、あんなにアピールしてたのに悲しくなってくるぜ!中庭から入れるぞ!ほらさっさと行けよ!みんな待ってんだからな!特にゾイが綺麗におめかしして待ってるぜえ?」≫

 

「ゾイが何だって?おいルーカス、おい!くそっ!切れやがった!」

 

 

 最後に不穏な言葉を残してルーカスは電話を切った。ゾイに何する気だあの野郎。

 

 

「エヴリン!お前、ゾイがどうなってるか知ってるか!?」

 

『ごめんジョー……私の知ってる限りじゃゾイになにかあったなんてなかった。私の知らない何かが起きている……』

 

「急がないとな、一度トレーラーハウスに戻るぞ」

 

 

 そうしてトレーラーハウスに戻ってきたわけだが。俺は荷物を道具箱と一緒に整理し、あるものを取り出す。

 

 

「基板とやらも集めたしルーカスの元に突っ込むんじゃないのか?」

 

「いや、屋根裏部屋で「バースデイ」なるビデオテープを見つけた。ここにビデオデッキがあるし確認しようかなって」

 

 

 取り出したのは旧式のビデオテープ。ラベルに汚い字で「HAPPY BIRTHDAY!」と書かれているものだ。

 

 

「バースデイ?誕生日の記録が関係あるとは思えないがな」

 

『ちなみにジョー、記憶に残る誕生日に関する出来事ってある?』

 

「昔、ここにホームステイしていた娘をみんなで祝ったことがあった。ルーカスが率先して頑張ってなあ」

 

「あいつにもそんなところがあったのか」

 

「今思えば何を考えていたかわからねえがな。あの娘……リツカがこの家に一年で母国に帰ってよかったぜ、本当に」

 

『なにそれ知らない』

 

 

 そんなことを話しながらビデオテープをテレビに備え付けられているビデオデッキに挿入。すると表示されたのは【JUN.02,2017 01:11 AM】【Clansy Javis】【Testing Area】【Eds315 uq‐79fc Wepl】【“Happy Birthday!!”】【Experiment: Can trespassing idiots solve puzzles?】【S‐VHS】という文字群の後に映し出されるムカつくルーカスの満面の笑みだった。どうやら誰か…恐らくクランシー・ジャービスという男の額にくっ付くタイプのビデオカメラで撮影しているらしい。

 

 

「2017年6月2日午前1時11分………今年のちょっと前だな。クランシー、どこかで聞いたような?」

 

 

 どこだったかな。クランシー・ジャービス。ジャービスはともかくクランシーは本当につい最近聞いたぞ。

 

 

「知り合いか?」

 

『あ、思い出した。クランシーはイーサン以外で結構生き残った人だよ。ジャックに追い回されたり……マーガレットにオモテナシという名の監禁をされたり……ルーカスの“ゲーム”を散々させられて、ルーカスの趣味悪いゲームを連続でやらされて……』

 

「それ以上言わなくていいぞ、結構生き残ったってことはつまりそう言う事だろ。思い出した、廃屋で見たビデオのスーワ・ゲーターズとかいう配信番組のカメラマンの名前だ。アンドレとピートとかいう奴と一緒にいた。たしかアンドレとかいうのがいつの間にかいなくなって殺されていたんだったか?」

 

『ピート…ピーターはクランシーを助けようとしてミアに殺され………あ、今の無し』

 

「…聞かなかったことにするよ」

 

「お前の妻だったか?やばいな」

 

「エヴリンのせいらしいぞ」

 

『ごめんなさい』

 

 

 空中で土下座するとかいう器用な真似をするエヴリン。まあいいが。するとクランシーと思われる視点主はルーカスに不気味な部屋に閉じ込められ、悪趣味な脱出ゲームをやらされる。便器に手を突っ込んだり、釘が突き刺さったり、腕にキーワードを刻み込んだり……そのキーワードが「LOSER」だったりとやりたい放題だ。そして最後には……。

 

 

「……マジかよ」

 

「……ルーカスの野郎、はなっから助ける気なんてねえじゃねえか……」

 

『こ、ここまでひどい事されてたなんて……私、知らない……』

 

 

 仕掛けを解くため自ら(・・)、樽から栓を引き抜いたことで撒かれた油に、爆発したケーキで発火。そこにいたる仕掛けだったはずのシャワーまで作動せず出口も閉じられ、八方ふさがりで焼かれて死んでいくクランシー。そして最後には、ぴくりとも動かなくなったクランシーのもとに、ルーカスがやってきてはカメラを回収。回収する間際に、狂気に満ちた笑顔を浮かべて一言。

 

 

≪「ハッピーバースデイ!」≫

 

「よしもう一回燃やしてやる」

 

「俺は逃げられなくした上で何度もぶん殴る」

 

『ルーカスへの得体のしれない恐怖は消えた、今あるのは純粋な怒りだけだよ』

 

 

 映像を終えたビデオを前に揃って怒りを燃やす俺達三人。準備を終えて、基板を使うであろう庭の一角で悪趣味にピカピカ輝いている扉の前に立ち深呼吸。扉の前には【WeLcome to Paradise】と書かれた看板が。ようこそ楽園へ、か。楽しんでやろうじゃないかクソ野郎。

 

 

『あーゆーれでぃ?』

 

「「OK!」」

 

 

 エヴリンの問いかけに二人揃って頷く。扉の鍵である基板を使用し、ジョーが扉を蹴破り突入する。待ってろミア、ゾイ。必ず助け出してやる。




ゾイに何か起こったことを知ってブチギレジョー。ルーカス曰く「おめかし」とは…?

クランシーへの所業を知ってついにルーカスへの怒りで心が一つになる3人組。待ち受けるのは…?

※追記:途中で言及された「リツカ」は世界観を同じくする拙作、Fate/Grand Order【The arms dealer】のネタでございます。詳しくは「こいつがアンタの過去かストレンジャー?」をどうぞ。

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♯32‐【ルーカスの災難】‐

どうも、放仮ごです。上手いタイトルが思いつかなかったの巻。

今回は実験場攻略。頼もしすぎるイーサンの仲間たち。楽しんでいただけると幸いです。


 中に入ると怪しい光で照らされた階段があり、上って行くと蛍光ペンキででかでかと壁に【LETS】天井に【PLAY】と書かれた扉の前に出る。ここからか。

 

 

『これをせこせこ準備していたかと思うと笑えてくるね』

 

「たしかにそれはそう」

 

「俺は笑えねえよ…」

 

「悪い」

 

『ごめん』

 

「いいさ、気にしねえでくれ」

 

 

 扉を開けると何の変哲もないテレビと椅子がぽつんと置かれた部屋に出て。無視して進もうとすると、テレビの電源が入って砂嵐の画面の後にルーカスの顔が映し出される。

 

 

≪「おいおいおいおいおい!待てよ、あからさまに怪しいだろ!?調べろよ!?」≫

 

「どうせ罠だろ。爆発とかするんだろ知ってるぞ」

 

「俺は引き付けている間にモールデッド共に囲ませるに賭けるぜ」

 

『私は単に時間稼ぎじゃね?と思う』

 

「よし先に行くぞ」

 

「おう」

 

 

 エヴリンの意見を聞いて無視を決め込む。相手してもどうせロクな情報落とさないだろコイツは。

 

 

≪「ちょっ待てよ、ちゃんと見ねえと扉は開けねえぞ」≫

 

「開かねえならこじ開ける!エヴリン、扉ぁどこだ!」

 

『あ、この壁が隠し扉になってるよ』

 

「ナイスだ」

 

≪「そりゃないぜおじさぁん…なんであんたまでエヴリンと話してるんだよ……」≫

 

 

 ルーカスを無視してジョーが壁に見せかけた隠し扉を殴り壊して先に進むと案の定テレビは爆発した。やっぱりな。つまらんヤツめ。そのままズンズン進んでいくと、先行していたエヴリンが戻ってきて止めてきた。

 

 

『待って二人とも。ワイヤートラップで爆弾が大量に仕掛けられてる』

 

 

 そう言われてそろりと扉を開けると、目を凝らないと分からないがあからさまなワイヤートラップが大量に仕掛けられた部屋に出た。ここを進めと?

 

 

「どいてろイーサン」

 

 

 そう言ってジョーが取り出したのは持ち運んでもらっていたバーナー。火炎放射をワイヤーに当てて次々と離れた場所で爆発させながら進んでいくのは頼もしいことこの上ない。

 

 

≪「なかなかやるねえ。脳筋のイーサンとジョーおじさんはまっすぐ引っかかるかと思えばそれに気付くなんて偉いじゃないか。気を付けろよ、奴等は狂暴だ」≫

 

「お褒めに預かり光栄だよクソッたれ」

 

「卑怯もんめ。さっさと顔を出せルーカス」

 

『私が索敵するからどんどん進んで!』

 

≪「さっきテレビに顔を出してやっただろおじさん。生憎だが昔みたいに簡単にお仕置きされる俺じゃねえぜ?アンタ用の対抗策はもうできたからな」≫

 

 

 どこからともなくスピーカーらしき声色で煽ってくるルーカスを無視しながら突き進む。次の部屋は入ってすぐに爆弾が仕掛けられていたのをジョーが扉を蹴り開けたことで起動させることができた。蝶番が外れてしまったけどまあいいか。

 

 

≪「散らかってて悪い!片づけといてくれ!」≫

 

『こことそことあそことそっち!多すぎるよぉ』

 

「こんなあからさまに光ってて気づかないとでも思ったか!」

 

≪「おいおいおじさん。俺はイーサンと遊びてえんだ。あんまりシラケさせないでくれよ」≫

 

「悪い、共犯者からあんまり無茶するなと言われてるんでな」

 

『共犯者!いいねその響き!』

 

 

 エヴリンの指摘で爆弾をジョーがバーナーで処理しながら次々と扉を抜けて進んでいく。

 

 

『この木箱も爆弾!』

 

「障らぬ神になんとやらだ」

 

「わざわざ爆発させる理由もねえな」

 

≪「その箱に恨みでもあんのかお前ら!?触れてやれよ!?」≫

 

「「『だが断る!』」」

 

 

 下へ降りる階段の途中に乱雑に置かれた木箱もスルー。物資はゾイのおかげで潤ってるから壊す理由もない。ルーカスは思い通りにならないからかイライラが声から伝わってくる。そうしてやってきたのは見覚えのある扉のある部屋。やっぱり仕掛けられていた爆弾を処理し、近づく。

 

 

「…ここって」

 

『あのビデオのだね』

 

「パスコードを打ちこめってか?」

 

 

 扉の横に設置されているパスコードを打ちこむための操作パネルを見ていると、鉄格子の扉からガシャンと言う音。ルーカスがなんのつもりかへばりついていた。お前、煽るために来たんだろがそれは悪手だぞ。

 

 

「ようよう、パスコードがいるんだろ?」

 

「ルーカァス!よく俺の前に顔を出せたなあ!」

 

「悪いこと言わないから離れた方がいいぞルーカス」

 

「無駄だぜおじさん。いくらアンタでも機械は突破できねえ……」

 

「オラア!」

 

「嘘だろおい!?」

 

『いや草』

 

 

 鋼鉄の扉を素手でぶん殴るジョー。それだけで扉がへこみ、ルーカスは慌てて離れて手にした何かのスイッチを入れると、ガコンガコンと何かが動く音がする。なんだ?

 

 

「間違えたパスコードで殺そうと思ったがそう来るならこうしてやるよ!」

 

『イーサン、ジョー!右!避けて!』

 

「なっ…!?」

 

 

 何かに気付いたエヴリンが警告の声を上げた瞬間、右の天井から俺達目掛けて振り子の様に落ちてくる鉄塊。俺はたまらず両手で防御を試みるが、明らかに防御できないフォルムで、思わず目を瞑る。しかしいつまで経っても衝撃は来ない。

 

 

『うそぉ』

 

「大丈夫か?イーサン」

 

「え、お、おおう……」

 

 

 目を開けると、鉄塊を両側面から鷲掴みにして受け止めているジョーがいた。あの一瞬でそんな器用なことしたのか。

 

 

「ちょうどいい、こいつを使わせてもらうぜ…!」

 

「『え』」

 

 

 すると左手で掴んだまま、右拳を握ってガンガンと何度も殴りつけるジョー。次の瞬間、鉄塊の天井と繋がっている部位が外れて、ジョーはそれを両手で持って扉に向かって振りかぶる。いつの間にかルーカスの姿は消えていた。

 

 

「どっせい!」

 

「『うわあ…』」

 

 

 鉄塊とぶつけられた扉が粉砕され、ジョーは意気揚々と突入するのを慌てて追いかける。滅茶苦茶だが味方でよかったよ。

 

 

「エヴリン、偵察頼む」

 

『OK!』

 

「こいつぁ、あのビデオと一緒だな。大した手抜きだなルーカス」

 

 

 ふわふわと浮かんでいくエヴリンを見送り、探索するとビデオで見た部屋のまんまだった。あの時ルーカスは、クランシーが燃えた後どこからともなく現れた。どこかに扉がある筈なんだ。

 

 

『二人とも、こっち来て!この壁、薄いよ!』

 

 

 するとエヴリンに呼ばれてシャワーでびしょ濡れになりながら向かうと、既に火がついているバースデイケーキが置かれている部屋の奥、何もない壁の前でアピールするエヴリンが。…うん?エタノールの臭い……まさか今のシャワーって。⁉️

 

 

≪「引っかかったなイーサン!ジョーおじさん!こうなったら作戦変更だ、そいつは俺からのプレゼントだ、受け取ってくれよな!」≫

 

 

 見ればバースデイケーキの火がついた蝋燭はじわじわと短くなっていて、あのビデオのと同じ爆弾なのだとわかる。この速度だとあと数秒…!?

 

 

「俺達を燃やす気か。だが遅いな」

 

≪「へ?」≫

 

「そうか。エヴリン、この壁だったな!?」

 

『うん、ここ!』

 

 

 俺が爆弾ケーキを持ち、ジョーが拳を振りかぶり薄い壁に大穴を開けると爆弾ケーキを放り込み、離れると爆発。壁が吹き飛んだ。

 

 

≪「このクソ野郎ども!てめえらを吹っ飛ばす爆弾なんだよ!?ちゃんとくたばっとけ!だがそこは外れだ残念だったな!」≫

 

「なんだと?」

 

『え?なにか、いる…!?』

 

「うおおおおっ!?」

 

 

 瞬間、吹き飛んだ壁から現れたのは巨大で真っ黒な二本の腕。俺達二人を掴み、天井の上まで引っ張り上げて桟橋の方までぶん投げてきた。

 

 

「ぐああああっ!?」

 

「なんなんだ一体……」

 

 

 ゴロゴロと桟橋の板に打ち付けられて呻く俺とジョー。さっきまでいた建物の屋根の上にいたのは、正しくバケモノだった。

 

 

「なんだあ?ジョーの野郎までいるじゃねえか……イーサンと一緒になにしてやがる?」

 

「その顔…その声、お前まさかジャックか!?」

 

「マジかよ、倒したはずだぞ…!?」

 

『嘘、ここで来るの…!?』

 

 

 そこにいたのは巨大な漆黒の化け物と化したジャック・ベイカーその人。大量にある腕を動かして巨大な胴体を引き摺って桟橋まで降りてくる怪物相手に俺達は構えるのだった。




エヴリンが索敵して、ジョーが処理、イーサンがついて行く。完璧な布陣だあ。

片っ端から仕掛けを無視されたルーカス、大激怒。なお全力で逃走してる模様。

ルーカスに乗せられてゾイやミアと再会することなく変異ジャックと出くわすイーサンたち。あの姿小説にするとどうしていいかわからないよね。

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♯33‐【兄弟喧嘩】‐

どうも、放仮ごです。四度目のコロナワクチンの影響で体調悪いですがなんとか書き上げました。さすがに休んで明日の投稿に備えます。

今回は最強の兄弟喧嘩。何気にバイオの兄弟、兄妹は仲良しが多いので兄弟喧嘩するベイカー兄弟は珍しい部類なんですよね。エヴリン視点です。楽しんでいただけると幸いです。


 私の偵察とジョーのごり押し。ルーカスを完全に出し抜いたはずだった。なのに、そこにいたのはルーカスではなく、もはや人型でもない黒く巨大なオレンジ色の目が異様に多い異形の化け物。手を伸ばしてイーサンとジョーを掴み屋根上まで引っ張り上げて桟橋までぶん投げる。

 

 

「なんだあ?ジョーの野郎までいるじゃねえか……イーサンと一緒になにしてやがる?」

 

「その顔…その声、お前まさかジャックか!?」

 

「マジかよ、倒したはずだぞ…!?」

 

『嘘、ここで来るの…!?』

 

 

 そこにいたのは巨大な漆黒の化け物と化したジャックだ。本来ならこの先、桟橋でゾイを捕まえるべく執念だけで現れる自我の無い怪物。それがこのタイミングで出てきた。全身が黒い泥の様な物で出来ていて、膨れ上がった胴体から生えた複数の手と全身がアンバランスであり、伸びた首の先にある逆さ顔面にある大きな右目と小さな左目がこちらを睨みつけながら大量の腕で屋根を這って胴体を引き摺り、桟橋まで降りてくるジャックに向けて構えるイーサンとジョー。

 

 

「おいしつこいぞジャックお前!上半身吹っ飛ばしたはずだぞ!?」

 

「イーサンの話によりゃあ何度も致命傷を受けて、おっ()んでるはずじゃねえのか!?」

 

「エヴリンの力がありゃあ関係ねえさ!復活するなりルーカスがマーガレットがやられた、ゾイも攫われた、助けてくれと泣きつくから何事かと来て見りゃ……イーサン、イーサン!イーサァアアアアアンン!!お前だな!どこまで俺達家族を害すれば気が済む!?」

 

 

 激昂し桟橋を破壊しながら迫るジャック。追い詰めていたと思いきや裏を返してみれば出し抜かれたのはこっちだった。あの男は凡人な私とは違う天才な部類だ。不測の事態すら見越して一の手、二の手、三の手と先を見越した策を考え用意できる、頭脳と技術。完全にしてやられた。

 

 

「ジョー!イーサンに味方をするならお前も同じだ!思えば何度も殴られたなあ!?」

 

『来るよ!』

 

「うわああっ!?」

 

「イーサン!?」

 

 

 下から伸びてきた細い腕に掴まれ、空中に持ち上げられ弄ばれるイーサン。ジョーは拳で殴りつけてイーサンを解放させようとするが、イーサンを捕らえた細い腕はくねくねと動いて当たらせない。

 

 

「まったくちっぽけな奴らめ……まるで、玩具(オモチャ)のようだぞ!」

 

「ジョー、避け……がああっ!?」

 

「ぐううっ!?」

 

『二人とも!』

 

 

 そのままイーサンを振り回し、ハンマーの様にイーサンを振り抜いてジョーに叩き付け、イーサンを持つ手を離して一緒に吹き飛ばすジャック。桟橋をゴロゴロと転がる二人を追いかけ、次々と複数の腕を叩きつけて行く。

 

 

「イーサン!お前はここに来るべきじゃなかった!ジョー!お前もだ!俺たち家族を滅茶苦茶にして!ベイカー家の大黒柱として殺してやる、殺してやるぞ!」

 

「がっ、くそっ、息つく暇が……!」

 

「くそがああっ!」

 

 

 アサルト・モールデッドにも負けない猛攻に、二人は防戦一方。さっきのダメージから回復しようにもその隙を与えない。イーサンが今まで、ジャックが隙を見せれば致命的な一撃を与えてきたせいだ。このジャックに油断はない。ジョーが殴りつけるもしなる腕に弾き飛ばされ、その隙を突かれて一番太い腕が振り被られる。

 

 

「じっとしてろ!」

 

「うおおおおおおっ!?」

 

「ぬうううううううっ!?」

 

 

 ジャックの長い腕に殴り飛ばされ、なんとか腕やショットガンでガードする物の吹き飛ばされ桟橋をゴロゴロと転がるイーサンとジョー。イーサンが桟橋から落ちそうになり、ジョーが咄嗟に腕を掴んで何とか難を逃れる。

 

 

『ふぁいおー!いっぱーちゅ!…舌、噛んじゃった』

 

「気の抜けるような掛け声やめろ!?」

 

「というか実体ないのに舌噛むのかお前!?」

 

「なにをごちゃごちゃ言ってやがる?」

 

 

 ジョーが何とかイーサンを引き上げていると、沼の中に手を突っ込みガシリと何かを掴んで持ち上げるジャック。それを見て青ざめる。そんなものを投げる気!?

 

 

「ジョー!ワニが好きだったよな!受け取れ、プレゼントだ!」

 

「ふざっ…ふざけんなジャックてめえ!?」

 

『クロコ、ポーイ!?』

 

「それは死ぬ、マジで死ぬ!?」

 

 

 爬虫綱ワニ目に属する爬虫類。ワニ。鰐。クロコダイル。アリゲーター。色んな呼び方あるけどとりあえずワニと呼ぶそれを、わざわざ胴体を握りしめてガバッと開いた大口を向けてミサイルの如く投擲してくるジャック。しかも、複数の腕で連投だ。

 

 

「イーサン、下がってろ!うおおおおおっ!」

 

『ええ……』

 

 

 するとイーサンを下がらせてから一瞬で両拳をシュンシュンと連続で振り抜き加速させていくジョー。そして、次々とワニの顎を殴りつけて空中に殴り飛ばしていく。放物線を描いて跳ね返されてきたワニに大きく怯んでいくジャックの巨体。あの巨体が怯む質量をノータイムで殴り飛ばしたジョー、本当になんなの。

 

 

本気(マジ)でいくぞ、クソ弟(ジャック)よ。鼻っ柱折られた時の記憶はあるか?」

 

「思えば兄弟喧嘩は久しぶりだなあ?!…なあ、兄貴(ジョー)!」

 

「うわあああっ!?」

 

 

 ボコボコと一番大きな腕が泡立って、胴体がしぼむ代わりに二倍に肥大化し、振り抜かれるジャックの拳に合わせてジョーの拳が激突。衝撃波でイーサンがゴロゴロと転がって行く。

 

 

あの娘(エヴリン)の力を貰っている人間と、そうじゃない人間とはレベルが違う!」

 

「そうかい、確かに威力は桁違いだ!だがなあ!」

 

 

 そのままもう一本、同じサイズの腕を生やして胴体はかなりしぼみ、巨大な両腕を振りかざして連続でパンチを叩き込んでいくジャックと、それに合わせて拳を打つけていくジョー。そのまま双方猛ラッシュを繰り出していき、ジョーはじわじわと懐に進んで行って拳を胴体、それも全身に複数ある眼に当て始めた。

 

 

「なにぃ!?そんな、馬鹿な!?」

 

「俺がテメエとの喧嘩で本気を出してたなんて何時言ったあ!」

 

 

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!と、ジャックの拳を弾き飛ばしながら猛ラッシュを胴体に叩き込んでいくジョーに、たまらず腕を元に戻し胴体にカビを集めて防御を試みるジャックだったが、衝撃を殺しきれず押されていく。

 

 

「いい加減にしろおおおおおおっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

『ジョー、横!』

 

「しまっ…があっ!?」

 

 

 するとジャックは口からアサルト・モールデッドと同じような灼熱のカビの濁流を吐き出し、焼かれて怯むジョーはその隙を突いて横から迫った拳を受けて沼まで殴り飛ばされてしまった。

 

 

「ジョー!?今、助け……」

 

『イーサン、駄目!逃げて!』

 

 

 沈んでいくジョーを助けようと駆け寄ったイーサンに、ジャックの視線が向かいにやりと笑みを浮かべた。

 

 

「イーサン。イーサン!マーガレットの仇!捕まえるぞ!捕まえてるぁああああっ!」

 

『感触気持ち悪い!?』

 

 

 残り一つだけになった頭部の瞳を喜悦に歪ませ、弄ぶように複数の手を伸ばしてイーサンを拘束するジャック。そのまま灼熱の濁流を浴びせんと思ったのか顔に近づけて行く。私は私で腕が体を突きぬけてぞわわあ!と全身を貫いた嫌な感触に悶えていた。こんなことしている場合じゃ、ないのに!

 

 

「イーサン!可哀そうになあ!この世に生まれなければよかったと……悔やむぞ。早く死ねばよかったと、あとで後悔することになる!」

 

「ああ、かもな!だがそれは、今じゃない!」

 

 

 そう言ってイーサンが取り出し構えたのは、グレネードランチャー。

 

 

「なにっ、ぐ、ぎゃあああああああっ!?」

 

 

 零距離で叩き込まれた焼夷弾は確かに、ジャックの顔に炸裂して爆ぜたのだった。




ジョー、ワニが沢山いる沼に落とされて脱落…?相変わらず拳でB.O.W.(正確には違うけど)と張り合うやべーやつでした。ジェイク(バイオ6)もびっくりじゃないかな。

何枚も上手だったルーカスの策、まさかの親父へ泣きつき。ジョーに対抗できるのジャックしかいないから妥当。他にも策は用意してる模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX5‐狂える聖母と最高の父親IF【これはアイツらの分だ】‐

どうも、放仮ごです。祝100話!そんなわけで今回は特別回。当初考えていたものの没にしたミランダ戦を描いてみようと思います。

ミランダ戦IF。楽しんでいただけると幸いです。


「イーサン、おいイーサン。起きろ」

 

 

 確か俺は、ミランダに心臓を貫かれて、もう一人のエヴリンと出会って……聞き覚えのある、どこか懐かしい声に目を開ける。そこはミランダが四貴族を集めていた集会所の様な場所で。椅子には見覚えのある人物たちが座っていた。

 

 

「お前、ジャック?」

 

「やあ。久しぶりだなイーサン。三年ぶりか?」

 

「ジャック。イーサンが混乱している。まずはあたしたちがなんでここにいるのか話さないと」

 

「そうだぜ親父ぃ。ここは地獄だって教えてあげなきゃなあ?」

 

「マーガレット、それに…ルーカスまで」

 

「オイオイ、俺様がいるのはご不満か?」

 

 

 席を立って俺に手を貸すジャックばかりか、ちょこんと椅子に座っているマーガレットと、踏ん反り返るルーカスまでいる。なんで、ベイカー家の三人は三年も前に死んでるはずだ。そう思っていると壁に扉が現れて、そこからぞろぞろとまた見覚えのある奴らが現れる。

 

 

「やはりお母様には勝てなかった様ね、無様でいい気味だわイーサン・ウィンターズ」

 

「クソデカオバサン……じゃない、ドミトレスク」

 

「なんですって!?」

 

 

 怒りを露わにするドミトレスク。悪い、エヴリンが何度もそう呼ぶもんだから咄嗟に脳裏に出た。ドミトレスクの頭上ではベイラ・ダニエラ・カサンドラの三姉妹が気まずそうに浮いていた。お前ら元の村娘の記憶でも戻ったか?

 

 

「ってそうだ、エヴリンは!?」

 

『エヴリンなら、最後の一人を呼びに行ってるぜ!ヴェェェイ!』

 

「(コクコクッ)」

 

「ドナにアンジー……」

 

 

 わちゃわちゃ動くビスクドールことアンジー人形に、それを手にしてコクコクと頷く顔を露わにしているドナ。喋っていいんだぞ?

 

 

「あんだけ大見得切ったのにあっさり負けちまったのが恥ずかしいんだとよ」

 

「モロー……」

 

 

 不細工に笑うモローまで…ってことはエヴリンが呼びに行っている最後の一人ってのは……

 

 

「ほらほらマダオ、恥ずかしがってないで早く」

 

「おいやめろ!俺はお前ほど恥も外聞もなく会えるほど能天気じゃねえんだよ!」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

 扉から出てきたのは、エヴリンに手を握られ引きずられるハイゼンベルク。俺の顔を見るなり帽子で顔を隠すのは意味ないぞ。

 

 

「…ああ、なんだ…その、悪かった。俺の考えの浅さのせいでお前までミランダにやられちまった…」

 

「気にするな、相棒なんだろ」

 

「…恩に着る」

 

 

 そうして全員を席につかせたエヴリンは得意げに両手を広げた。エヴリンを中心に、右にベイカー家、左に四貴族が並ぶ。

 

 

「もう一人の私と一体化したおかげで菌根にアクセスできるようになったよ、イーサン!」

 

「なんで菌根にアクセスしたらこんなことができるんだ…?」

 

「菌根は繋がった人間の魂を記憶するみたい?ミランダがエヴァエヴァ言ってるのもそのせいだね。まあ、エヴァって私のことなんだけどね」

 

「へえ、そうなのか…………って」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

 エヴリンがさらっと述べた言葉に目をひん剥く俺、ハイゼンベルク、ドミトレスク、モロー、アンジー人形(ドナもジェスチャーで驚いてる)。

 

 

「もう一人の私によるとエヴァの生まれ変わりらしいんだよね、だからって記憶はないし、ミランダ許せないけど」

 

「ははっ!こりゃ傑作だ!エヴァだと知らずにできそこないだと罵っていたわけだろう!?最高じゃねえか!」

 

「…お母様も節穴ね。こんな悪餓鬼とは思わなかったけど」

 

「こりゃ見限って正解みたいだなあ」

 

『そうだそうだとドナも言ってるぜ!ヴェェェイ!』

 

「見限った?」

 

 

 楽しげな四貴族に首を傾げる。ドナは知らんが心酔していたドミトレスクとモローもミランダを見限ったって言うのか?すると答えたのは四貴族ではなくジャックだった。

 

 

「狼狽えるのも無理もないなイーサン。彼等四貴族もマザー・ミランダに利用されていただけだと、菌根の中を通じて知っただけさ」

 

「それまではずっとイーサンが死ぬことばかり望んでたっけねえ」

 

「自分で自分の株下げちゃあ世話ねえな!」

 

「ルーカスが言うと説得力あるね」

 

「あんだとエヴリン。っと、ナイト様のつもりか?イーサン」

 

 

 頭をわしゃわしゃと掻き乱すルーカスに嫌そうな顔を浮かべるエヴリンを庇うように立つ。

 

 

「生憎ともうベイカー家のじゃない、うちの子だ。…ジャックとマーガレットはともかくお前まで許したつもりはないぞクソ野郎」

 

「そう来なくちゃな。俺に勝手に助けられて歪むお前の顔が楽しみだぜ」

 

「…助けってのは?」

 

 

 ルーカスを無視してエヴリンに問いかけると、困った様な笑みを浮かべて頬を掻きながら返してきた。

 

 

「私の力やハイゼンベルクとの共闘ぐらいじゃミランダに勝てなかったから考えたの。どうすれば勝てるかなって」

 

「俺の力は無敵だ、だがミランダはそれ以上だって思い知った」

 

「マザー・ミランダの力は菌根そのものだ」

 

『逆に言えば、菌根はそれだけの力を持ってるってことなんだよな!』

 

「わたくしたちの力も菌根由来のもの。でも、そちらのふざけた力同じ由来なのでしょう?」

 

「話は簡単だぜ。同じことをすりゃあいい」

 

「アタシたちがエヴリンを介して力を貸すのさ」

 

「そうすれば、奴に対抗できる」

 

「「『「「「「俺/私達の、呪われた運命に終止符を」」」」』」」

 

 

 エヴリンに続いてそう宣うベイカー家と四貴族。話は分かった。だが解せないことがひとつだけある。

 

 

「ルーカス、お前だけはそんなんじゃないだろ」

 

「それだよね。私が呼び付ける前からいたんだけど」

 

「ご明察だ。まあ暇潰しなのもあるが、話は簡単だ。俺がアイツを気に入らない。充分だろ?」

 

「ああ、その感情は一緒だな」

 

「利害の一致か、それならまあ?」

 

 

 そうして俺とエヴリンは、七人に背中を押されるようにして、意識を浮上させた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからデュークの力を借りて辿り着いたミランダとの直接対決。ローズを取り込むのは止めれなかったが何かの不具合か弱っているミランダに、俺は右手を背後にかざしながら突撃する。

 

 

「たとえ弱っていようと、できそこないのお前に負ける私では…!?」

 

「こいつはドミトレスクの分!」

 

 

 そんな俺の右腕が変化したのは、変異ドミトレスクの竜の腕。咄嗟に防いだ翼を大きく抉り裂く。

 

 

「なんだと…!?それは、まさしく菌根の記憶の力…!」

 

「エヴリン!マーガレットのだ!」

 

『うん、苦手だけど!』

 

 

 そうして左腕を振るえば、背中にカビで形成された“巣”から飛び出した蟲たちがミランダに殺到。ミランダは蟲を対処するために両腕を振り回すが明らかに対処できてない。

 

 

「なんだ、この力は…!?」

 

「お前が言う出来損ないから生まれた力だよ!」

 

「おのれ!」

 

 

 ジャキンジャキンと音を立てて翼が変形し、槍の様に幾重にも分かれて伸びてくるのに対し、俺は元の腕に戻した右手を地面につけて、それを引き出す様に持ち上げると、粘液の壁が現れて完璧に防ぐことに成功した。

 

 

「こいつはモローの分だ」

 

「我が偽りの家族の力を使うか…!」

 

「『偽りとか言ってる時点で家族だという資格はない!』」

 

 

 エヴリンとハモりながらショットガンで対抗。怯みながらも両腕を振り回して切り刻んでくるミランダの攻撃を受け止めるも、ショットガンは大きく弾き飛ばされてしまう。

 

 

「エヴァは必ず取り戻す…!」

 

「それは俺の娘だ。お前の娘じゃない!」

 

『ルーカスのクラフト能力!』

 

 

 あらかじめデュークからもらっておいた武器の廃材を一瞬で組み立てて、グレネードランチャーを作成。焼夷弾を叩き込んでミランダを炎上させる。記憶から引き出した能力は何も異能だけじゃないわけだ。

 

 

「おのれ!おのれおのれ!」

 

「生憎と、俺はそこにはいないぞ」

 

『傍から見ると面白いね』

 

 

 慌てて火を消し、暴れるミランダに掌から生成した花粉を噴射。それをまともに受けたミランダは幻覚を見せられて見当違いな方向に攻撃しまくる。ドナの幻影能力だ。

 

 

「ハイゼンベルク、ジャック。力を貸してくれ…!」

 

『いくよファミリーパンチ…!』

 

 

 俺の鞄に入れられていた廃材がハイゼンベルクの能力で浮かび上がり、右腕に次々と装着してガントレットを形成していき拳を握り、幻覚から解放されたミランダが俺目掛けて放って来たカビの槍をガントレットで弾きながら肉薄する。

 

 

「お前は沢山の人間の運命を狂わせ過ぎた」

 

「すべては、エヴァのためえええええ!」

 

エヴァ()はそんなこと望んでない!なんでそれがわからないの!』

 

 

 右手を振りかざして叩き付けんとするミランダの顔面に、ガントレットに包まれた右拳を磁力で加速させて叩き込む。

 

 

「これはアイツらの分だ」

 

「ぐっ、あああああああ!?」

 

 

 ミランダは殴り飛ばされ、菌根に背中からぶつかり血反吐を吐いて崩れ落ちるのと同時に、ローズを抱えた俺も膝から崩れ落ちる。さすがにノーリスクで使える力でもないよな、俺もここまでか。一回死んでこれぐらいできたら上出来だろう。

 

 

『そんなことないよ』

 

 

 背後から聞こえたエヴリンの言葉に振り返る。そこには、七つの手が俺の背中を押していて。

 

 

「せいぜい俺達の分まで生き延びろ」

 

「ゾイやジョーによろしくな、イーサン」

 

「ハイゼンベルク、ジャック…!」

 

 

 そんな言葉に送られて、俺はローズと共に、生きていたミアやクリスたちの元に生還したのだった。




エヴリンがオリジナルエヴリン(エヴァ)と一体化したおかげで菌根ネットワークにアクセスが可能になり、ベイカー家や四貴族の力を借りてミランダを倒す、いわゆる王道ルートでした。レムナンツって題名にも合うしいいとは思ったけど、イーサンとエヴリンで決着付けたくて没にしたものとなります。

四貴族はハイゼンベルクを殺した辺りのミランダの発言を菌根の中で聞いて心変わりした者達となります。ドミトレスクや三姉妹は洗脳も解けてるので猶更。

現在7編で思いっきり敵対しているルーカスと共闘するってのがだいぶ違和感あって大変でした。共闘する理由が一番思いつかないやつ。ルーカスだけ異能ではなくクラフト能力なのは、まあ本気で力を貸すわけないよねって。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯34‐【不死身の男】‐

どうも、放仮ごです。ポケモンスカーレットを購入して遊んでたからこんな時間までかかったとかそんなことはないんだからね!(自爆)

今回は一つの戦いの決着。楽しんでいただけると幸いです。


 ジョーが沼に落とされたものの、ジャックを倒した俺達。零距離でグレネードランチャーを浴びせたことで飛び火した炎を手で払いながらジョーが沈んだ近くの桟橋まで走る。

 

 

「エヴリン!気持ち悪いだろうが無事か確認してくれ!」

 

『普通にやだけどジョーの為だもんね、しょうがないか』

 

 

 特に意味はないのだろうが心構えのつもりなのか準備運動して深呼吸するエヴリン。はよ。

 

 

『じゃあ行ってきま……イーサン後ろ!』

 

「え?」

 

「俺を置いて行くつもりか?」

 

 

 飛び込もうとしてこちらに視線を向け、慌てふためいて指差すエヴリンに、振り返る。そこには人型にまで縮んだものの、漆黒でオレンジ色に輝く隻眼だけが目立つ大男となったジャックがいた。

 

 

「ジャック!?あれで倒せてないってのか!?」

 

「よくもやってくれたな、許さんぞ」

 

『だめ、だめだめだめ!やめてよジャック!』

 

 

 たまらずグレネードランチャーを取り出すも、ジャックの右腕が伸びてグレネードランチャーが弾かれ桟橋を転がって行く。次に取り出したショットガンも、ドロドロに溶けた左手で掴まれて力づくで奪われ、背後に投げ捨てられる。ならばと取り出したハンドガンも、融解した右手に包まれて絡め取られ、無力化されてしまった。

 

 

「くそっ、銃器が…」

 

「イーサン。武器もないお前なんて怖くもなんともないな」

 

「まだナイフがあるぞ…!」

 

 

 ポケットナイフを引き抜いて斬りかかるも、硬質化したその身体に弾かれたばかりか刃毀れができてしまう。硬質さも柔軟さも自由自在かよ…!

 

 

「感謝するよ、エヴリン!俺に更なる力を与えてくれた!今の俺はこの身体を自在に操れる!」

 

『多分ジャックが異常なだけでこの時代の私もなにもしてないと思う…』

 

「あーくそっ、本当にしつこいぞジャック!」

 

 

 ならばと渾身の前蹴りで沼に突き落とそうと試みるも、流動体となった胴体に受け止められたばかりかドロドロと蠢いて俺の脚を包んだ部位が右腕に移動して掴まれた形で足を持ち上げられる。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「ハハハッ!軽いなイーサン!マーガレットの飯を食わないからだ!」

 

『異議あり!』

 

「マーガレットの飯なんて死んでも食うか!」

 

「どの口がほざくイーサン。お前がマーガレットを殺してくれたおかげでなあ、もう食えないんだよ!」

 

「うおおおあああああ!?」

 

 

 ぶんっと片手で振り回され、天高く投げ飛ばされる。吹き飛んでいく先は、桟橋の最奥である船着き場。ゾイの言っていた脱出地点である建物に、背中から叩きつけられ壁を粉砕して転がり込む。

 

 

「いつつ……遠慮なく投げやがってジャックめ。なんでか頑丈な俺じゃなかったら死んでたぞ」

 

「殺す気で投げたんだがな?お前はどうやったら死ぬんだ」

 

 

 背中を擦りつつ立ち上がっていると、破壊された壁を跨いでジャックが追いかけてきてビタンビタンと触手状になった両腕を振り回して床に打ち付けつつ凶悪な笑みを浮かべる。武器はナイフ以外全部桟橋側か、最悪だ。

 

 

『ジョー!お願い、目を覚まして!イーサンが、イーサンが死んじゃう!』

 

 

 エヴリンがあれほど嫌がっていた沼の中に顔を突っ込んで懇願する光景が壁の向こう、遠目に見えた。アイツを泣かせるわけにはいかないからな。

 

 

「俺も死ぬときはあっさり死ぬらしいぞ。今の俺は死ぬわけにはいかないが」

 

「マーガレットを殺し、ゾイを攫い、ルーカスを泣かせ、ジョーを俺の手で殺させておいて死にたくないは道理が通らねえぞ、おい」

 

「待て、一つ、いや二つほど物申したい。ゾイを攫ったのはルーカスだし、泣いてたのも間違いなく嘘泣きだぞ」

 

 

 そこは訂正しとかないと死んでも死にきれん。

 

 

「俺の息子が嘘つきだってのかあ!人の家族を侮辱するのも大概にしろ!」

 

「大嘘つきのサイコパスだよ!?証拠ならあるぞ、奴の部屋の中の日記を見たことあるのかお前!」

 

「息子が入るなと言っているのに入る親がいるかあ!」

 

「そんなんだから十数年以上騙されてるんだよお前らは!この平和ボケ家族が!」

 

 

 咄嗟に言ったことだが、今思えばだいぶ平和ボケしてたんだろうなこの元海兵。そうでもないと身近な悪意に気付かない、はないだろ。

 

 

「お前が認めるまで死んでも死んでやらねえからなあ!」

 

「上等だ俺の家族を侮辱した分、殴り殺してやる!」

 

 

 破壊された壁を突き抜け、背後に勢いよく右腕を伸ばしていくジャック。アサルト・モールデッドの時も見たその動きに、隙だと判断して左肩目掛けて、天高く振り上げたポケットナイフを叩きつけて左腕を叩き斬ることに成功。

 

 

「があああああ!?なんてな」

 

「なっ!?があああ!?」

 

 

 しかし切り離した左腕は流動体の黒カビとなってジャックの足に融合、新たに左腕を生やして、伸ばしていた右腕を戻した勢いの拳が俺の胸部に炸裂して殴り飛ばされ、宙を舞って棚に叩きつけられる。

 

 

「なら全部ぶった切る!」

 

 

 床に倒れた俺の手元に落ちていた、棚に入っていたと思われるオール()を手に取り回転させながら突進。足払いして両足を斬り落とし、そのまま返す勢いで両腕に叩きつけ、そのまま首も斬り落とす。流動体のせいかすんなり斬れた。

 

 

「無駄だイーサン。お前は俺にダメージを与えすぎたんだ」

 

 

 しかし斬られた傍からくっついて再生し、しなって勢いを増した右拳が顔面に叩き込まれて頭から床に叩きつけられ、たまらずダウン。さらに腹部を蹴り飛ばされ、吹き飛んで床を転がった俺は、頭から血を流しながら呻くことしかできない。漆黒の肉体は霞んだ視界では認識できず、奴のオレンジ色の隻眼だけが怪しく輝いていた。

 

 

「これで終わりだイーサン。エヴリンの父親は一人でいい」

 

「…はっ。なら俺がアイツの父親になってやるよ。お前にエヴリンは任せられない。…悪いことをしている娘に対して甘やかすだけで叱ってやれない奴は父親の器じゃない」

 

 

 俺の首根っこを持ち上げた奴の言葉に、息も絶え絶えに吐き捨てる。まだ俺とミアの間に娘はいないが、あいつなら大歓迎だ。

 

 

「あの子は愛に飢えている。甘やかして何が悪い」

 

「…だからお前は見限られたんだよ。言ってたよなあ、俺が父親のはずだったって」

 

「安心しろイーサン。お前が死ねば俺があの子の父親のまま。ハッピー、エンドだ!」

 

 

 俺を掴んだ右腕を天井近くまで伸ばして、勢いよく床に叩き付けんとするジャック。万事休すか。

 

 

『イーサン!』

 

「背中ががら空きだぜ馬鹿ジャック」

 

「ごはあ!?」

 

 

 瞬間、ジャックの胴体を背中から胸にかけて拳が貫通し、目を見開いたジャックに手放された俺は宙を舞い、胴体を貫いていたジャックを投げ捨てたその逞しい腕に受け止められる。目を開ければ、泥と血にに塗れたジョーがいた。よく見れば傷だらけだ。

 

 

「ジョー……生きていたのか」

 

「勝手に殺すな。酸素が無くなった上にワニにも群がられてやばかったがな?エヴリンの野郎がお前のピンチを教えてくれたから、振り切ってきた」

 

『無酸素状態でなんで筋肉を引き絞ってワニの牙を薄皮一枚で防いで、そのまま複数のワニに噛み付かれたまま纏わりつく沼を振り切って水面まで上がれているのか理解に苦しむよ…』

 

「ははっ、ジョーらしいな」

 

 

 容易にその光景が想像できて笑ってしまうのもしょうがないと思うんだ。

 

 

『無理しないでイーサン、本当に瀕死なんだから。…こうならないようにするために来たはずだったんだけどな』

 

「おら、これを使って治しとけ。この馬鹿ジャックは俺が引き受ける」

 

 

 そう言って回復薬を手渡しながら、無事だったのかバーナーを手にして突撃するジョー。それは無謀だ。

 

 

「無理だジョー!今のそいつに、物理攻撃は効かない!」

 

「そういうことだ諦めな、ジョー!」

 

「だからこうするのさ!」

 

 

 再生したジャックが拳を伸ばしてしならせながら殴りかからんとするも、バーナーから放たれた炎で炎上し悶え苦しんだところにジョーの拳が炸裂。受け流すこともできずに殴り飛ばされたことにオレンジ色の瞳を白黒させるジャック。

 

 

「なにい!?」

 

「お前のそれは操れてこそだろう。他の事に気を取られちゃあできないんだろ、脳筋だもんなお前なあ!」

 

「なにくそっ!」

 

 

 流動する体にも炎上ダメージは通じるのか無視もできず、何度も炎を浴びせられ殴られていくジャック。次第に壁際まで追い詰められ、たまらず両腕を伸ばして両サイドからジョーを殴りつけんとするものの、火炎放射しながら突撃するジョーを止めることは叶わず。

 

 

「お願いだから成仏しろよ。俺の弟の顔でそれ以上戯言をほざくな」

 

 

 そんな言葉と共に放たれた拳が頭部を破壊し、ジャックの肉体は限界を迎えたのか石灰化して崩れ落ちたのだった。




ジャック・ベイカー、肉体を限界まで行使した挙句、最後まで残していたコア(隻眼)を潰され消滅。完全に潰えました。スワンプマンみたいな状態だったけどそれでも兄には勝てなかった。

タイトルの不死身の男はイーサンとジャックとジョーのトリプルネーミング。さすがのイーサンも瀕死にまで追い込まれましたがカビじゃなかったら死んでた(なおそのことは知らない)。ジョーは某警視殿をイメージしてます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯35‐【死の花嫁(ブライドデッド)】‐

どうも、放仮後です。仕事をしてポケモンをして執筆する。当分のルーティーンになりそうです。

今回はついに最悪の敵が登場。楽しんでいただけると幸いです。


 桟橋に戻り、武器を回収。そのまましょうがないので沼を泳いで、ジャックのせいで行けなかった例の脱出ゲームの部屋の出口(爆破)の部屋まで来て見ると、事務室の様な部屋に置かれている分厚いテレビが突如電源がついてルーカスが映し出される。

 

 

≪「親父を倒すとはなかなかやるなイーサン、ジョー」≫

 

「お前の叔父さんを呼び捨てかよ」

 

≪「あれで死んでない奴なんか俺の叔父さんでもなんでもねーよ!?化け物だよ!?」≫

 

「俺にジャックを殺させた人の心が無いお前に言われたくねえぞ!」

 

『サイコパスに言われたくないよね、言いたいことは分かるけど』

 

「サイコパスに言われたくないだろうよ。それで、パーティーとやらはこれで終わりか?」

 

 

 エヴリンと言ってることが重なった。だよなあ。

 

 

≪「あー、わりぃわりぃ。物足りねえよな?ちょっと待ってな」≫

 

『うーん、画面に映っているの多分私の知らない場所…』

 

 

 そう言って画面外にあるらしいパソコンのキーボードに何やら打ち込むルーカス。「できたできた、想像以上だ」などとほざいているがなんのことだ。

 

 

≪「庭に戻って見な!主演のおめかしは終わった!次のパーティーが用意してあるぜ!」≫

 

「庭?」

 

『まかせて!』

 

 

 次の居場所を聞くなりエヴリンに視線を向けると頷いてピューと飛んで行った。とりあえずテレビに今にも殴りかからんとしているジョーを抑えることにする。

 

 

「ルーカスてめえ!ぶん殴ってやるから出てこい!」

 

≪「おいおいアンタに殴られちゃ死んじまうよ、勘弁してくれよジョー。お前が来なきゃこうならなかったと後悔しないでくれよ?そんなんじゃつまらねえからよ!」≫

 

 

 そう言ってルーカスは一方的にテレビの電源を切って姿を消した。行き場の無い怒りをテレビを殴りつける事で晴らすジョー。砕け散ったモニターの欠片で切ったのか血を流した拳をワラワラと震わせながらジョーは踵を返す。

 

 

「行くぞイーサン。パーティーとやら、ぶち壊してやる」

 

「ああ。アイツの思い通りにはさせないさ、「頭部」と「腕」も手に入れてミアとゾイを助けよう」

 

 

 ジョーと共に、来た道を逆走していく。廊下を塞いでいるバリケードをジョーが殴り壊して来たときよりも早く辿り着いた出口から外に出ると、様変わりした庭の光景が広がっていた。

 

 

「…なんだこいつは」

 

「…結婚式場?」

 

 

 トレーラーハウスが端までどかされ広々とした庭には長椅子がいくつも綺麗に並べられてモールデッドたちがきちんと座っていて、異様な光景を形作っている。

 

 

「エヴリン、どうしたんだ?」

 

『そんな…ゾイ、私が来たから……?』

 

「ゾイ?ゾイがどうした!」

 

 

 マーガレットの最後の形態と戦った旧館への道が階段状に盛り上がった白いカビでちょっとした舞台になっていて、その上には美術館で見たことがある鉄の処女(アイアンメイデン)と呼ばれる拷問器具の様なフォルムの白いカビの塊が鎮座している前でエヴリンが泣き崩れていた。

 

 

「イーサン、ジョー……ゾイは、この中で……」

 

≪「レディス&ジェントルメン!」≫

 

「「!?」」

 

 

 するとどこからともなく……本館の壁に取り付けられたスピーカーからルーカスの声が響いた。それと共に、罅割れて行く白カビの鉄の処女(アイアンメイデン)

 

 

≪「さあさあイーサンもジョーもどこで見てるか知らないエヴリンも、皆様ご注目!対戦カードはイカレた狂人イーサン・ウィンターズとマジかよってレベルの不死身の男ジョー・ベイカー!VS~“死の花嫁”!いよいよお待ちかねのクレイジーファイトの始まりだ!二人とも、男らしく正々堂々と戦ってくれよ?」≫

 

 

 そんな言葉と共に完全に砕け散った白カビの鉄の処女(アイアンメイデン)から現れたのは、純白の花嫁……の様な異形の怪物だった。ウェンディングドレスの様に見える形状のカビの鎧を身に纏い、一見ウェンディングベールにも見えるフューマーの大口を開いた顔の様なカビで顔の上半分を隠した女性の顔に、一見白い薔薇を模したブーケに見える菌の塊の右腕と、肘から先が一見ケーキナイフに見えるチェーンソーの様に蠢く左腕のアンバランスさが目立つ。

 

 

「なんだこいつは…」

 

「悪趣味にもほどがあるぞルーカス…!」

 

「イーサン…?ジョーおじさん?」

 

 

 すると怪物が口を開き、聞こえてきたのは聞き覚えのある声。ゾイの声だった。同時に、エヴリンがなにに絶望したのかわかった、わかってしまった。

 

 

「ゾイ!お前か!?」

 

「おま、おまえ、ゾイか!?なんて姿に……」

 

「私、私……攫われた後に、フューマーとか呼ばれていた白いモールデッドに纏わりつかれて、取り込まれて……気付いたらこんな姿にされちゃって……頭の中に響くんだ、イーサンを殺せ!ジョーを殺せ!って、声が」

 

 

 隠れた目元から黒い涙を流しながら、死の花嫁と呼ばれた怪物にされたゾイは訴える。必死に堪えているが耐えられそうになく、ブルブルと震えている。

 

 

「お願い、アイツらと……父さんや母さんと一緒になりたくない……私を、殺して」

 

≪「おおーっと!我が妹ながら渾身のお涙ちょうだい話だあ!勝ったら旧館に捕らえているミアをプレゼントだ!頑張ってくれよな!」≫

 

「ルーカァアアアス!」

 

「ゾイ、ゾイ!しっかりしろ!お前を殺すなんて、俺にゃあ無理だ!」

 

『この鬼!悪魔!サイコパス!』

 

 

 ゾイの懇願に続いたルーカスの言い草にブチ切れる俺と、姪っ子に殺してくれと懇願されて今まで見たこともないほど悲しい表情を浮かべるジョー。エヴリンもブチギレてる。

 

 

「ウアアアアアアッ!」

 

 

 瞬間、チェーンソーの様な左腕を振り回しながら突撃してくるゾイの攻撃を、俺は咄嗟に呆然としているジョーを蹴り飛ばして左右に分かれて回避する。俺は咄嗟にハンドガンを抜いて狙おうとするも、悶え苦しむゾイの姿を見て躊躇してしまい、ゾイの構えた右腕のブーケから放たれた白いカビで構成された茨の鞭で薙ぎ払われてしまう。

 

 

「がっ!?」

 

『イーサン、大丈夫!?しっかりして、殺されちゃ駄目だよ!』

 

「無茶を言うなお前も…」

 

 

 ジョーに至っては一方的に鞭で()たれるのを、無抵抗で受けている。このままじゃいくらジョーでも死んじまう!

 

 

「しっかりしろ、ジョー!まだ殺すと決まったわけじゃない!ゾイを助ける方法を考えるんだ!」

 

「でも、だってよおイーサン……俺ぁ、ゾイを殴るなんて、できねえよ…」

 

「アイツの身体はフューマーとかいう白いモールデッドに取り込まれてるだけだ!なんとかそれを引き剥がすことができれば……」

 

『フューマーってあれだよね、不死身の奴!首を斬って沼に沈めてようやく勝てた…そんなの、どうすれば……』

 

「抱いた希望をへし折るのやめろ!?」

 

 

 思い出したくもない、マーガレットに続いて苦戦した奴だ。あいつがいなけりゃミアもゾイも助けられて、こうなることもなかった仇敵だ。

 

 

≪「戦わなきゃいけねえ時を乗り越えてこそ男になれるんだぜイーサン、ジョー!」≫

 

「ふざけるなよルーカス!?」

 

「……ルーカス。てめえだけは絶対に許さねえ」

 

≪「許さねえからどうなるってんだ?お前らに俺の居場所は分からねえし、ミアを助けたいならゾイ……いや、もはや“死の花嫁”さしずめブライドデッドってところか?そう、ブライドデッドを倒すしかねえ」≫

 

 

 そう言われて旧館への道を見やる。白いカビの壁で塞がれてしまっている。恐らくゾイ…いや、ブライドデッドと連動しているんだろう。

 

 

≪「できるのか?ジョー。お前に、最愛の姪っ子を殺すことができるのかあ?無理に決まってるよなあ、俺の邪魔をするからだぜおじさぁん」≫

 

「ルーカス、てめえ…があ!?」

 

「ウアアアアアアッ!」

 

『飛んだあ!?』

 

 

 鞭打ちを続けていたかと思えば飛び上がり、スカートを広げて高速で滑空しジョーに飛び蹴りを叩き込んできたブライドデッドは倒れたジョーに馬乗りになって左腕のチェーンソーを頭上に振りかぶる。くそっ、間に合わない……!

 

 

「ジョー!!」




怒涛のボスラッシュだけど、逆に7はボスが少なすぎると思うんだ。

という訳でついに登場、変異ゾイもとい、ゾイを取り込んだフューマー変異個体、その名も死の花嫁、ブライドデッド。こうする形で変異させました。花嫁装束にされるからまさに「おめかし」でした。ブーケはマーガレットイメージ、ケーキナイフチェーンソーはジャックイメージです。ウェンディングベールは変異ミランダの白いバージョンをイメージ。

なにより恐ろしいのはイーサンに躊躇させ、ジョーを戦意喪失にさせられる点。今までとは前提が違います。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯36‐【お前が諦めるな】‐

どうも、放仮ごです。感想欄でルーカスに全ヘイトが向いててちょっと笑った。ほとんどの読者は変異ゾイ出る事に気付くよねとちょっと肩すかし。

今回はブライドデッドとの死闘。楽しんでいただけると幸いです。


「ジョー!」

 

 

 馬乗りにされ、無気力のままケーキナイフチェーンソーで殺されようとしているジョーに駆け寄ろうとするが間に合わない。

 

 

「…っ」

 

 

 いや、間に合わない、は嘘だった。ジョーの命が奪われる前に助けるものを俺は手にしていた。だが俺の実力じゃ振り下ろされるケーキナイフチェーンソーに当てることは叶わず。止めるには動いてない箇所を、それも衝撃で狙いがずれる部位を狙うしかない。つまりは。

 

 

『イーサン!ジョーが、死んじゃう!』

 

「くそっ…!叔父なんだろ、ジョー!お前が諦めるな!」

 

 

 咄嗟に手にしたハンドガンを構えて引き金を引いて、死の花嫁(ブライドデッド)の側頭部に炸裂。ぐしゃりと嫌な音を立ててひしゃげて倒れ込み、なんとかジョーは救出できたものの嫌な感触が残り、ハンドガンを手にした右腕をだらんと垂らす。

 

 

『しっかりしてイーサン!大丈夫、ゾイは死んでないよ!』

 

「ああ、あいつの再生力は知ってる…だけど、だけど……」

 

≪「やられた!今のは効いてるよなあ、ゾイ?!」≫

 

「アァアアアアアア!?」

 

「ゾイ!?しっかりしろ!」

 

 

 ジュクジュクと嫌な音を立てて再生されながら不気味な動きで操り人形の如く立ち上がり、苦悶の咆哮を上げるブライドデッドの両肩を掴んで呼びかけるジョー。しかし右腕のブーケを胸元に突きつけられ、そこから爆発したかのように高濃度の菌を放出。その勢いに吹き飛ばされたジョーは宙を舞い、本館の二階の窓に激突してガラスを割りながらその姿が消えて行った。

 

 

「アァアアアアアアアッ!殺しテッ!お願いダからッ、私ヲ殺しテよォオオオッ!」

 

 

 ジョーの姿が視界から消えたせいか、錯乱して「殺して」と懇願しながらケーキナイフチェーンソーを振り回しながら突撃してくるゾイ。足場が悪い上にモールデッドが座っていてなにされるかわからない長椅子のエリアは避けて迂回しながら逃げ回る。

 

 

≪「どうしたイーサン?フューマーにやったみたいに首をもいで沼に捨てろよ!そしたらブライドデッドも死んでミアに会えるかもだぜ?」≫

 

『できるかあ!?微妙に顔を残して、それやれってのはひどすぎるよ!ああもう、私の声が伝わらないのがこんなにもどかしいのはじめて!』

 

「お前ルーカス!実の妹なんだろ!?なんでこんなひどいことができる!?」

 

 

 エヴリンが泣き叫んでいる内容に同意だったので掻い摘んで聞いているだろうルーカスに尋ねる。情か何かが残っていてゾイを解放してくれる可能性は……。

 

 

≪「それなら話は簡単だぜ。昔からゾイは生意気でよ?俺の発明も理解しないわ、人の作業を邪魔するわ……そして、この楽しい愉しい狂った生活もぶち壊そうとした! そう、邪魔だったんだよ!」≫

 

 

 迷うこと無く即答するルーカス。ああくそっ、最低のクズだ。

 

 

『右!左!前!あ、茨が来るよ!しゃがんで!』

 

≪「あとな?何を勘違いしてんのか知らねえが……元々俺に家族への情なんて存在しねえよ」≫

 

『…え?家族だよ?何者にも代えがたい、唯一無二の宝物だよ?何を言ってるの?あ、えっと、イーサン左に避けて!』

 

「じゃあ、お前にとっての家族ってなんなんだ!?」

 

 

 大地を裂いて抉りながら迫るブライドデッドの攻撃を、エヴリンの指示で必死に避けているとルーカスがそんなことを言って来て、エヴリンが呆然とし始めたのもあって問いかける。これだけはジョーやジャック、マーガレットやゾイ、そしてエヴリンの為にも聞いておかなくちゃいけないと、そう思った。

 

 

≪「あ?………(わり)ぃ、言葉が出てこねえや。強いて言うならお節介な馬鹿ども。今や楽しい愉しい玩具(オモチャ)だな。俺の家族だ、どう使っても文句は言わせねえ」≫

 

『…家族を持ってるのに、家族へなにも思わない人間がいるなんて………そんなのウソだよ』

 

 

 そんな人間がいるのかと絶望するエヴリン。完全に指示が止まった。ケーキナイフチェーンソーが右腕に掠って激痛が走り転倒する。

 

 

「があっ!?」

 

『えっ、うそっ、イーサンごめん!ごめんなさい!』

 

「アァアアアアアッ!?よけ、テ……!」

 

 

 するとブライドデッドがまるでバレリーナの様に優雅に構えたかと思えば、警告と共にギュインギュインとその場で高速回転。ウェンディングドレスの様な大きなスカートの裾にモールデッドの牙の様な棘が生えて広がり、座っていたモールデッドごと長椅子も切り刻みながら死の竜巻と化してこちらに迫るブライドデッド。咄嗟にハンドガンを構える。死ぬわけには、いかないんだ!

 

 

「すまん、ゾイ!」

 

 

 なんとか立ち上がり後退しながらハンドガンを連射。しかし回転するブライドデッドに悉く弾かれてじわじわと近づかれていく。

 

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「ジョー!?」

 

 

 そこに飛び込んできたのは、玄関から突進してきたジョー。殴り飛ばしたモールデッドが回転に引きずり込まれて回転が遅くなった隙を突いてブライドデッドの上半身に抱き着いたジョーはしがみ付いて回転していく。

 

 

「イーサン!俺のために撃ってくれたこと、(ここ)に響いたぜ!お前にだけ覚悟させねえ!」

 

「ジョー!だけど……!」

 

「俺はそもそも殴ることでしか先に進めねえ!だから殺さない様に殴る!そう決めた!うおおおおおっ!」

 

 

 すると勢いを増して回転を続けるブライドデッドの上半身に両足でしがみ付き左腕で肩を掴みながら上半身を浮かせたジョーが右拳を握りしめ、殴る、殴る、殴る。一発胴体を殴られるごとにバランスを崩し、頭部を殴られるたびによろめき、徐々に回転が遅くなっていくブライドデッド。

 

 

「必ず助ける、だから我慢してくれ、ゾイ!お前はジャックの娘で、俺の姪っ子だ!そう簡単に死ぬような女じゃねえ!そうだろう!」

 

「アァアアアアアアアッ!?」

 

 

 そして回転が完全に止まったところに飛び降りて、よろめきながらも広がって棘が表面にたくさんついた円形の盾(ラウンドシールド)状となったブーケを構えたブライドデッドの右腕に、右の拳を叩き込むジョー。棘が拳に突き刺さり血飛沫を上げながらも、歯を食いしばってブーケを粉砕し、殴り飛ばした。

 

 

『ジョー、すごい……』

 

「俺も続くぞ!エヴリン!あのケーキナイフチェーンソーを破壊する、指示してくれエヴリン!擦り抜けられるお前なら、ゾイを傷つけない箇所が分かる筈だ!」

 

『うん、うん!わかった!』

 

 

 ダブルバレルショットガンを手に、吹き飛んだブライドデッドを追いかける。するとハイヒールを履いているような形状の両足の踵を地面に突き刺して踏ん張り、跳躍して飛び蹴りを叩き込んでくるブライドデッドの攻撃をダブルバレルショットガンで受け止めた。すかさず押し返すと、ブライドデッドはスカートを翻しながらくるりと空中を優雅に舞って宙返り、モールデッドたちの座る長椅子の真ん中に降り立った。

 

 

≪「おいおい観客たちよお。一方的な殺戮ショーは終わったぜ?お前らも参加してお前らの姫さんを助けろよ、な?エヴリンより助け甲斐があるだろ?」≫

 

『なんだとお!』

 

 

 するとルーカスの指示を受けてモールデッドたちが立ち上がり、ブライドデッドを護衛する様に陣形を組みながら迫るも、横からジョーが割り込み殴り飛ばしていく。

 

 

「こいつらは任せろ!ゾイを頼むイーサン、エヴリン!お前たちなら、やれる!」

 

「エヴリン、まだ一晩も経ってない…取り込んだだけならどこかに…!」

 

『うん、見つけた!ゾイは五体の芯にされてる!でもケーキナイフチェーンソーの刃の部分は違うよ!』

 

「よし!」

 

 

 モールデッドたちを殴り飛ばしていくジョー。俺を狙ってケーキナイフチェーンソーを振り回すブライドデッド。そのブライドデッドに重なってゾイを見つけ出すエヴリンの言葉に、俺はケーキナイフチェーンソーの振り下ろしを避けてからダブルバレルショットガンを刃の腹に突き付け、引き金を引いた。

 

 

「アァアアアアアアッ!?」

 

『ゾイの身体が一番外に近いのは鳩尾だよ!』

 

「ならこうして…ジョー!お前が、引き抜け!」

 

 

 武器を失ってわなわなと両腕を震わせながら絶叫するブライドデッドの鳩尾にナイフを突き刺して抉って傷口を広げると、ナイフを手放して後ろに回り込み羽交い絞めにする。するとモールデッドの殲滅を終えたジョーが思惑に気付いて、ナイフを抜きながらブライドデッドの鳩尾に手を突っ込んだ。

 

 

「見つけた、これか!」

 

『力を入れて、イーサン!ジョー!』

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 

 暴れるブライドデッドに殴られながらも羽交い締めにして、何かを掴んで下がろうとしているジョーと合わせて全力で引っ張る。

 

 

「おりゃああああああああっ!」

 

『やったー!』

 

 

 そしてゾイの右腕を掴み、引き抜いてその胸に抱きしめるジョーを尻目に、抜け殻となった花嫁衣装型のフューマーを背負い投げの要領で天高く放り投げた俺はグレネードランチャーを取り出し、空中の奴目掛けて撃って、爆発の衝撃でフューマーを沼に突き落とし、俺は崩れ落ちて一息ついた。

 

 

『ゾイは無事だよ!白髪になっちゃったけど……』

 

≪「ゾイがダウン!試合終了!し、しゃーねえ、まあ所詮こんなもんだろ」≫

 

「…声が震えてるぞルーカス」

 

 

 疲れてそんなことしか言えなかった。




やっぱり力づくで解決できるコンビ、イーサンとジョー。…原作でもこの二人が組んで戦うのを見たかった。

高濃度の菌の放出に死の竜巻や棘盾まで使う、能力の数はトップクラスだったブライドデッド。前半はモールデッドたちが観客としてずっと座ってるのが若干シュール。

家族に対するスタンスがエヴリンにとって天敵なルーカス。メモを見る限り家族とも思ってなさそうなんですよねこの男。本当にジャックの息子なのか?ってレベル。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯37‐【見た目は大人、頭脳は子供】‐

どうも、放仮ごです。ポケモンスカーレットクリアしました。ラスボスが最高オブ最高の神ゲーでした。

今回はついにあの子と対決。楽しんでいただけると幸いです。


「ゾイ!ゾイ!無事か!?生きているな!?」

 

「ジョー、おじさん…?」

 

「ああ、ジョーおじさんだ!」

 

『よかったね、ジョー』

 

 

 必死に両腕で抱き起こしたゾイ目掛けて呼び掛け続けるジョー。するとその努力の甲斐あってか、意識を取り戻したゾイに名前を呼ばれ、思わず感極まったのか号泣しては彼女を抱きしめる。そんなゾイは、困った顔をしながらも抱きしめ貸している。その姿は、以前見た姿とは一変して、髪がフューマーのように白く染まっていた。まだ彼女の身体がカビに侵されている証拠だろう。

 

 

≪「な、なかなかやるじゃねえかイーサン、ジョー。これだけやってまだ生きてるなんてよ?手足も残ってるしな。景品のミアはちゃんと用意してるから持っていきな。さっさとここを去ってくれよ、な?」≫

 

 

 震え声で体裁を保ちつつ自身の優位を保とうとしているルーカス。保険のつもりだったのだろう、ミアと「頭」という最後の手札を切る事が嫌なのか歯ぎしりの音がスピーカーから聞こえる。だが俺の目的はそれだけじゃないんだよ。

 

 

「ルーカス、一つ聞きたいことがある」

 

≪「なんだよ?ミアより優先することか?ああ、「頭」だったら俺は知らないぜ。残念だったな」≫

 

「今しかタイミングが無い。…安定化化合物、もしくは細胞を再生させる薬かなにか、お前は持っているか?」

 

≪「ゲホッ!?」≫

 

 

 そう尋ねるとスピーカーの向こうで飲み物を飲んでいたであろうルーカスが咳き込んだのが聞こえた。カシュッて音も直前に聞こえていたし缶ビールかなにかを開けて自棄酒でもしようとしていたのだろうか。

 

 

≪「…そんなの知ってどうする、イーサン?何が目的だ」≫

 

「その反応、あるんだな」

 

≪「…あると言ったら?」≫

 

「首を洗って待っていろ」

 

≪「俺の居場所も知らない癖によく言うぜ。安心しな、こいつは俺が組織に内緒でエヴリンと交渉できないかと作っていた大事な大事な試作品……もしお前が来たとしても残しといてやるからよ?来れるもんなら来てみなイーサン。パーティーの用意して待ってるぜ」≫

 

 

 そう言って通信を切ったのかスピーカーからザザーと音が聞こえたかと思えば、ブツッと完全に消えた。すると心配そうな表情でジョーとエヴリンが見てきていた。

 

 

「…よかったのか?目的のものを教えちまって」

 

「あるかどうかを確認する方が大事だったからな」

 

『…本当に、やってくれるの?』

 

「約束しただろ。救って見せるさ。…ジョーはここでゾイを見てやってくれ。ミアと…「頭」を回収してくる。いくぞエヴリン。偵察を頼む」

 

『うん、わかった。私、頑張るね』

 

 

 そう言ってピューと旧館に向けて飛んでいくエヴリンを追いかけ、崩れた白いカビの瓦礫を踏み越える。あの言い分から嘘ではないだろうが……マーガレットと決着をつけた場所だ。警戒していこう。

 

 

『イーサンイーサンイーサン!』

 

「どうしたエヴリン、ミアはいなかったか?」

 

『ううん、ミアは縛られて天井から吊り下げられてていたよ!でも他にもう一人…!』

 

「もう一人だって?」

 

 

 ルーカスはあの言い分からして安全なところにいるんだろう。ジャックやマーガレットや保安官補佐は完全に死んだことをこの目で確認した。ジョーとゾイはそこにいる。あとあり得るのは…考えながら旧館に入ると、声が聞こえてきた。(しわが)れた少女の声が。

 

 

「ねえママ。私、こんなになっちゃったけど……やっぱり、愛してくれないよね?」

 

「……」

 

「ねえママ。やっぱり嫌だよ。愛させるのはもう嫌だ。私は愛されたい。ちゃんと言うことを聞いてまだあそこにいたら、愛されていたかなあ」

 

「……」

 

「ねえママ。イーサンたちはこんな私を助けようとしてるんだって。馬鹿だよね、ママやジャックたちに迷惑をかけた張本人だよ?」

 

「……」

 

「…アハハ、意識を失っているママになら愚痴れるや」

 

 

 そんな声が聞こえる最奥部まで歩いていくと、天井から吊り下げられた鎖で拘束され意識を失っているミアと、その傍に俺達に背を向けた車椅子に乗った人物がいた。俺に気付いて振り返るその人物に、俺は静かに話しかける。

 

 

「……エヴリン」

 

「ミアを迎えに来たんだね、イーサン。おじいちゃんはいないみたい?よかった。私、あの人嫌いなんだ」

 

 

 そこにいたのは、傍で浮いているエヴリンを成長させた様な美少女。どことなくミアにも似ている。しかしノイズが走ったかのように一瞬だけぶれたそこにいたのはさっき警告しに現れた時よりも弱った様にも見える老婆。これは、エヴリンの感染が進んだ俺…と、目を見開いている傍らのエヴリンに見せられている幻か。

 

 

「ミアと直に会うの久々でさ。一方的に愚痴ってたらもう来ちゃったか」

 

「どうやってここまで来た?道は塞がれていたはずだ」

 

「私、カビを伝って移動することができるんだ。あの仕掛けだらけの屋敷で移動できたのもそれだよ」

 

「その姿は?」

 

「これは理想の私。一瞬であっても一番気に入っていた私の姿。あんな姿をイーサンに見られるのはもう嫌だし、これなら私を娘だと思えるでしょ?」

 

「…俺は今のお前の父親にはならない」

 

『悔しいけど、私、綺麗…!ミギャー!?』

 

 

 呑気なことを言っている横のエヴリンに手を伸ばして顔を貫通させながらも、目の前のエヴリン………ややこしいから真エヴリンから目を離さない。そのミアに向けられた視線は、執着している者の目だった。

 

 

「そこに“私”がいるんだね。ルーカスが私が貴方に寝返ったと勘違いしていた原因が。好き勝手に人の名前を連呼しないでよ。迷惑だ」

 

「生憎とこいつもエヴリンなんでな。俺にとっての最初のエヴリンはこっちだ。お前の事は真エヴリンとでも呼ばせてもらう」

 

「へえ。つまりそこにいるのは偽物の私?」

 

『誰が偽物だあ!』

 

 

 気をよくしたのか妖艶な笑みを浮かべる真エヴリン。傍らにいるエヴリンの方が年喰ってるはずなのにあっちの方が落ち着きよくて年上みたいだ。

 

 

『失礼だよイーサン!』

 

「偽物じゃないんだなこれが。未来から俺を助けに来た、お前本人とのことらしい」

 

「…ふざけてるの?」

 

「ふざけていると思うか?」

 

「嘘だ。私に未来はない。もうすぐ死んじゃう私が未来にいるはずない」

 

『私も死んでるからそれはそう。こうなったのほぼ執念のせいだし』

 

 

 怒った顔で睨みつけてくる真エヴリンと腕を組んでさかさまになりながら頷いているエヴリンの空気の差よ。

 

 

「信じられないだろうが、俺は未来のお前に約束した。過去のお前を救って見せると」

 

「…さっきのルーカスとの会話がそれ?」

 

「ああ。そしてお前を救った後に叱らせてもらうぞ」

 

「やっぱり。どうしてみんな私を嫌うの……!」

 

 

 衝撃波を放つ真エヴリンの攻撃を、咄嗟に腕を前に出して防御する。なんだ、何が奴の逆鱗に触れた?

 

 

『昔の私はね、叱られる=嫌われるって思ってるんだよ。私は三年間でそんなことないと知れたけど…あの私は、そう言うことを何も知らないお子様なんだ』

 

「なるほどな…」

 

 

 すると衝撃波を出し続ける真エヴリンが、地面から湧き出してきた黒カビに飲まれるようにして車いすから立ち上がり、顔以外の全身に纏わせていく。

 

 

「もういい。私に希望を抱かせるな。私を嫌う奴はいらない。怒られるなんて嫌、嫌われるのも嫌。ママ諸共ここで死んじゃえ!」

 

「なに……!?」

 

『……無意識なんだろうけどその姿を選ぶなんて、やっぱり親子なんだなあ』

 

 

 背中から生えてきた巨大なカビの翼が羽ばたかされ、衝撃波で転がった俺の目の前に現れたのは、少女の姿をベースにした、ブライドデッドにも似た人に近い異形。黒いカビで目元を隠し、擦らせて金属音を鳴らす刃となった長い指と異様に長い腕、肢体を艶かしく包み込む漆黒の肩だしドレスに身を包んだ、魔女の様な姿となった真エヴリン相手に、俺はグレネードランチャーを構えるのだった




残る敵はエヴリンを救えるかもしれない薬を持っているルーカスと、全てに絶望している真エヴリンの二人となります。

原作のエヴリンとの対決はE-ネクロトキシンで暴走した姿なので、今回のは暴走してないエヴリンの戦闘形態(With幻影)となります。本当はおばあちゃんでこれやってますが幻影って便利だね。皮肉にもミランダと酷似してるのはやっぱり親子。

ミアは無事見つかったものの、ルーカスも知らない「頭」の行方。どこに行ったのやら。ちなみにお忘れかもしれないので念のため、「腕」はイーサンがちゃんと持ってます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯38‐【夜明け】‐

どうも、放仮ごです。バイオのテーマって、エンディングで必ず来る「夜明け」もあると思うんですよね。どんな闇でも夜明けは必ず来るから諦めずに足掻けっていう、そんな。

今回は真エヴリンとの対決。楽しんでいただけると幸いです。


「死ねえ!」

 

 

 翼を広げ、スカートの下で黒く染まり関節が逆になっているクイック・モールデッドの様な形状の足で跳躍して舞い上がり、滑空して刃の様な指を叩き付けんとしてくる真エヴリン。

 

 

「よけっ…!」

 

『あぶっ、危ないな!?』

 

 

 横っ飛びで回避すると、今の今までいた地面が斬り刻まれて格子状に抉られていた。なんて威力だ。よく見れば指の刃もブレード・モールデッドのものか。モールデッドのキメラと考えた方がよさそうだ。

 

 

「喰らえ!」

 

「っ、ふざけてるの!」

 

 

 グレネードランチャーを地面に撃って炎上させ牽制すると、それにキレた真エヴリンが炎を突き破りながら突進して来て両腕を交差して振るって来て、グレネードランチャーを盾に受け止め、なんとか押し返すと真エヴリンは翼を広げて大きく後退。右手を振るって壁の隅から湧き出てきた黒カビを触手状にして叩きつけてきて、吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転がる。

 

 

「私を救うから手出しはしないって?私に容赦を期待しているなら無駄なこと!戦え!イーサン・ウィンターズ!」

 

『イーサン…手加減しなくていいよ?このままじゃイーサンが死んじゃう、それじゃ意味がないよ』

 

「…お前に手は出さない」

 

 

 立ち上がり、口の中が切れて溢れた血を吐き捨てる。すると真エヴリンが呼び寄せたのか、どこからともなく大量のモールデッドがワラワラと出てきた。……ブレードやクイックが見えない辺り、真エヴリンの力も弱っているようだな。

 

 

「手を出さないっていうならこのままみじめに殺してあげる。行け」

 

『あーもう、イーサンの覚悟は分かったよ!死なないように協力する!後ろから来てるよ!』

 

「ありがとよ!」

 

 

 武器をダブルバレルショットガンに構え直し、振り返りざまに撃ってモールデッドの頭部を吹き飛ばす。前から迫ってきた奴等には前蹴りで対処し、ダブルバレルショットガンを乱射して次々と倒していくと、その隙を突いて真エヴリンが宙を舞い、空中から襲いかかってきたので咄嗟に避けて後退。殺到してきたモールデッドはダブルバレルショットガンで吹き飛ばす。厄介だな、この連携。

 

 

『イーサン!今のあの私は、ジョーと出会った時に大量にモールデッドをけしかけていたし、もうそんなに力は残ってない!あれは最後の力を振り絞った戦闘形態、ダメージを与えれば…』

 

「子供に銃を向ける親がどこにいるってんだ」

 

『じゃあ体罰!殴ろう!私が許す!死なない程度にボコボコにしよう!』

 

「やけくそかお前!?」

 

『やけくそだよ!?この聞かんぼうイーサン!』

 

「聞かんぼうはあのおまえだろ!?」

 

『私じゃないやい!』

 

「見えない私と喧嘩をするなああ!!!」

 

 

 なんかブチギレた真エヴリンが空中で激昂して衝撃波を放ってきて天井を吹き飛ばすと、両腕を伸ばしてむんずとモールデッドを一匹ずつ首根っこを掴むと飛翔。空からモールデッドを投擲するのを繰り返してきた。

 

 

『モールデッド爆撃だあああ』

 

「そんなのありかあ!?」

 

 

 丸まって鋼鉄をも砕く硬度らしい砲弾と化したモールデッドが次々と地面に着弾し、轟音を響かせ地面を揺らす。こっちのエヴリンがやけくそならあっちもやけくそかよ。なんだこの子供っぽい癇癪みたいな攻撃は。子供か?……子供だったわ。

 

 

『イーサン!反撃!ハンドガン撃って!』

 

「撃たない!」

 

『撃てってば馬鹿!?』

 

 

 武器をしまい、モールデッド爆撃から逃げていく。ミアは…天井は吹き飛ばされたものの支柱は残っていて鎖で吊り下げられたままだ。あっちには逃げれないな。すると視界にあるものを見つけた俺はにやりと笑った。

 

 

「良い球だな真エヴリン!」

 

「一発も当たらない癖によく言うね!」

 

「当ててやるよ一発な!」

 

「『え?』」

 

 

 二人のエヴリンが揃って呆けた顔を浮かべる。こちらに向けて投擲されたモールデッド砲弾から俺は逃げずに、残骸から引っこ抜いた手ごろなサイズの鉄柱を振りかぶる。

 

 

「絶好球!」

 

「えええええええ!?」

 

『イーサン頭おかしいよ私のせいかな?』

 

 

 カキーンと小気味いい音を立てて、鉄柱がへし折られながらもフルスイング。ホームランかの如く空目掛けて吹っ飛んでいくモールデッド砲弾。真エヴリンは驚きながらも余裕で避けた。よかった。当てるつもりはなかったが。

 

 

≪「なんだあああああああ!?」≫

 

 

 するとガーピーという機械音と共に外のスピーカーからルーカスの絶叫が聞こえてきた。まあどうでもいいか。

 

 

「ふざけているのか!」

 

『私もそう思うけど多分真面目だよ、聞こえてないだろうけど』

 

 

 (モールデッド)が切れたらしくうっすらと朝になってきた空から急降下して来て掴みかかってくる真エヴリン。咄嗟に真エヴリンの両手首を掴んで首に向かおうとしていた指を止める。

 

 

『ぎゃあああっ!?やめ、やめ…首は駄目さすがに駄目!』

 

「私と力比べ?そんなもの、老婆になっていても生体兵器の私に敵う訳が…!」

 

「いいや、違うさ!」

 

「がっ!?」

 

 

 両手首を掴んで外側になんとか動かし、がら空きとなったその綺麗な顔に渾身の頭突き。真エヴリンは黒い血反吐を吐いてフラフラと後退する。

 

 

「私に攻撃しないとか言ってたくせに!このお!」

 

『体罰は私が許した!やっちゃえイーサン!』

 

 

 翼を羽ばたかせ、両翼から黒カビの触手を伸ばしてくる真エヴリン。だが狙いは愚直すぎて、ちょっと頭部や体をずらすだけで避けられる。さらに合わせてぺしっと触手を掌で叩いて道を作り、真エヴリンに突き進む。

 

 

「来るな!来るな!来るな来るな来るな!私の傍に近寄らないでよぉおおおおっ!?」

 

 

 ずんずんと迫る俺に対して恐怖を抱いたのか、隠された目元から涙を流した泣き顔で後退しながら黒カビで形成された翼から触手を次々と伸ばしてくるが、勢いはなく。次々と掴み上げてグルグルと体に巻きつけて真エヴリンを引っ張りながら進んでいく。

 

 

「やだ!やだやだやだ!」

 

『イーサン…?怖いよ……?』

 

 

 触手と繋がった翼を切り離し、クイック・モールデッドの足で跳躍して後退に切り替える真エヴリン。壁に背中がぶつかると怯えて壁沿いに逃げて行くので、真エヴリンの行く先目掛けて焼夷弾を発射。炎の壁で遮るとついには頭を抱えて蹲ってしまう。

 

 

「お願い、来ないでよ!?ぶたないで、嫌わないで!怒らないで!……なんでみんな私を嫌うの…!」

 

『私……』

 

「………痛かったか?」

 

 

 邪魔だったので触手を捨てつつ、蹲る真エヴリンの前に立って訪ねると、泣きじゃくった顔でこちらを見上げて睨み付けてきた。

 

 

「痛かったよ!なにが私を救うだ!私に攻撃しないだ!この嘘つきめ!」

 

「教えてやる必要があると思ったんだ。…その痛みより辛いことをお前はこれまでしてきたんだ。ミアに、ジャックに、マーガレットに、ゾイに、ルーカス……はまあ置いておいて他の犠牲者も」

 

『……』

 

 

 そう言うとハッとした顔となる真エヴリン。傍のエヴリンは黙って聞いていた。

 

 

「悪いことは悪い事だと、ちゃんと教えて叱る。それが家族だ。親だ。お前が欲して、歪んだ形で得たために決して得ることはできなかったものだ」

 

「…悪い、こと…?」

 

「未来のエヴリンはそれを俺に教えられてまともになった、らしいからな。俺も教えることにした。生憎と不器用だからあんなことしかできなかったが。言葉で諭すのは難しいな。だから行動で伝える」

 

 

 そう笑って、必死に取り繕ってなお小さな背中に手を回す。真エヴリンは目を瞑って拒絶する様に剃刀の如き指の手を押し付けてくるが、突き刺さり血が流れるのも気にせず俺は真エヴリンの小さく細い、老人の様な身体を抱きしめた。

 

 

「…お前、ミアの子供、だったんだろ?だったらお前は俺の子だ。ああ、どんな姿だろうと人間じゃなかろうと関係ない。……お前を愛してやる。世界がお前を嫌っても俺だけはお前を受け入れる」

 

「…ほんとに?私、悪い子だよ…?」

 

 

 泣きじゃくりながら、異形の形態変化を解いて見上げた真エヴリンが潤んだ瞳で見つめてくる。その頭をポンポンと撫でながら、頷いた。

 

 

「ああ。妻と娘の不始末だ、一緒に償うさ。お前も家族だ」

 

 

 そう宣言すると涙を決壊させてワンワンと俺の胸で泣く真エヴリン。それを黙って見ていたエヴリンがボソッと呟いた。

 

 

『いいシーンだけど実際は老婆だと思うとなんだかなあ』

 

「おい五月蠅いぞ」




そんなわけで夜明けを迎えた真エヴリン。その果てにあるのは…?

そもそもこの真エヴリン、戦闘向け生体兵器じゃないし戦闘慣れしてないから一発喰らうだけで怯えて戦闘不能になるっていうね。モールデッド爆撃など、拙い戦い方でした。似た様な姿でも菌根を使いこなすミランダとは雲泥の差。

夜が明けたベイカー邸で迎える最終局面。ルーカスの方もなんかあった模様。次回からクライマックスです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯39‐【青い雨傘】‐

どうも、放仮ごです。ついに7編クライマックス突入。夜明けということであのキャラも登場。楽しんでいただけると幸いです。


「…あの、これ」

 

 

 少しの間泣きじゃくっていた真エヴリンが我に返り、自分の胸に手を突っ込んであるものを取り出し差し出してきた。それは、ルーカスも居所を知らないと言っていたものだった。

 

 

「これ…「頭」か!?」

 

『あー、それでわかった。弱っているはずの私があんなに力を行使できたのこれのおかげか』

 

「ルーカスが離反しようとしたときに割り込んで咄嗟に奪ったの。私の中にあればイーサンたちも見つけられないと思って…」

 

「いや、よかった。探す手間が省けた。後はミアだな」

 

 

 「頭」を受け取りバックパックに入れ、カビを操る真エヴリンに手伝ってもらい、鎖を下ろしてミアを解放して抱き起す。

 

 

「ミア。目を覚ましてくれ」

 

『そこは目覚めのキスでしょわかってないなあ』

 

「イー、サン…?」

 

 

 さっきの戦闘で目覚めかけていたのか少しの時間もかけることなく目を覚ましたミア。俺の顔を見てから背後で縮こまっている真エヴリンを見て顔色を変える。やっぱりミアにもエヴリンと同じ姿の少女に見えているらしい。

 

 

「イーサン!なんで、この子が……私、全部思い出したの。この子は…」

 

「諸悪の根源、だとでもいいたいのか?お前の娘だろ、ミア」

 

「イーサン……どうして」

 

『まさか未来人が協力してるとは思うまい』

 

 

 ハッとした顔で信じられないという視線を向けるミアに、俺は真エヴリンを庇うように立って真剣な表情を向ける。

 

 

「お前がコネクションとかいうところの一員だとも聞いた。エヴリンを利用しようとした挙句に教育を間違えて逃がした挙句にこうなったこともな」

 

「イーサン。あのね、貴方を愛しているのは本当で、隠し事していたのは謝るわ。でも貴方が庇っているそれは、危険な怪物で……」

 

「お前の子だろ。血が繋がっていなくてもミア、お前が育て、ママと慕ってくれる子だろ。俺はこの子を諸悪の根源とは思わない。本当に悪いのはコネクションとミア、お前だと思う」

 

『あ、そこ突くんだ』

 

「っ……」

 

 

 眼を逸らし、唇を噛みしめ血を流すミア。そんなミアに、真エヴリンの手を掴んで歩み寄る。

 

 

「でも俺はお前を愛しているし、エヴリンだって愛すると決めた。子どもとして迎え入れたい。だからミア、お前に追及はしない。だがひとつ……エヴリンを忌避するのはもうやめろ。お前の態度一つでこの子は傷付くんだ」

 

『何なら一番ダメージがあるまである』

 

「ママ……」

 

「エヴリン……イーサン、本気…なのね?」

 

 

 真剣な顔となったミアの言葉に頷く。

 

 

「本気だ。だからミア、手を貸してくれ。真エヴ……エヴリンを、助けたいんだ」

 

「真?………イーサンも、私に隠していることあったりする?」

 

「…言って信じるかわからないが、俺には未来から来たエヴリンの幽霊が味方してくれているんだ」

 

「???」

 

 

 呆けた顔で目を白黒させるミア。だよな、そうなるよな。俺は掻い摘んで横で踏ん反り返っているエヴリンのことを話した。すると頭を抱えたミアは信じられないと言った様子で肩を上下させている。真エヴリンも信じられないのか訝しげに俺の横、ただしエヴリンのいない方向を見つめている。

 

 

「…まあイーサンの言う事だから信じるけど、驚いたわ」

 

「………つまり本物の私は死んでるけど残留思念が三年間家族として一緒にいたってこと?ずるい」

 

「ずるいとかじゃなくてだな……それがあったからお前と和解できた、そういうこととしてこの馬鹿を許してやってくれないか真エヴリン」

 

『誰が馬鹿だ』

 

「まずその呼び方!私はただのエヴリン!真とか付けるな!」

 

「だけどややこしくてだな……お前の方が本物だから(ORIGIN)って呼んでるが駄目か?」

 

「なんか嫌なの!そもそも私その私を知らないし!」

 

『血を飲めば見えるよー』

 

 

 不満げに怒鳴る真エヴリンをなんとかなだめる。おまえは呑気そうだなエヴリン。

 

 

「あ、あう……」

 

「おいどうした?」

 

「大丈夫!?エヴリン!」

 

 

 すると真エヴリンが突然へなへなと崩れ落ち、俺とミアは慌てて駆け寄る。なんとか抱え起こすとその姿がぶれて老婆の姿に戻ってしまっていた。

 

 

『元々弱ってたのに無茶するから……』

 

「これが、今のエヴリン……」

 

「あはは……もう幻影を保つのも難しくなっちゃった。せっかくイーサンとミアの子供になれたのに、もう駄目かな……ゲホッ!ゴホッ…」

 

「駄目じゃない!諦めるな!くそっ……」

 

 

 口から黒い血を吐いた真エヴリンを慌てて横抱きで持ち上げ、隅っこに吹き飛ばされていた車椅子に乗せて運搬、ミアと共に急いで外に出る。

 

 

「ようイーサン。上手く行ったみたいだな」

 

「…イーサン、轟音が聞こえてきたから心配したよ。ミアに…それに、エヴリン」

 

「ゾイ……ゲホッ!ゴホッ!…謝ってすむことじゃないけど、ごめんなさい」

 

 

 なにかを話し合っていたが俺達に気付くと笑顔で出迎えてくれた、ジョーとゾイに邂逅一番に謝罪する真エヴリン。すると面食らったのかゾイは白くなった髪を弄って視線を逸らした。

 

 

「なにそれ。……許せない、けどジョーから事情は聴いた。同情はするよ」

 

『ゾイ……』

 

「俺も一発殴ってやろうかと思っていたんだが…こんな有様ならやめとくさ」

 

「ゾイ、ジョー。話は後だ。このエヴリンは見ての通り限界が近い。すぐにルーカスから薬を手に入れないといけない。手がかりはないか?」

 

「私達の子なの。絶対助けたい!」

 

 

 ミアと一緒に熱心に尋ねると、ジョーとゾイは顔を見合わせて何かの見取り図を取り出す。

 

 

「ならちょうどいいところに来たなイーサン。さっきお前らのところから吹っ飛んで行ったでっかい砲弾が近くの廃坑に落下した。その直後、聞こえたよな?あの馬鹿の声が」

 

「それでぴんときたの。ルーカスは廃坑に潜んでいるんじゃないかって。それで見取り図と落ちた辺りを見比べて、位置を探ってたんだ。ルーカスはここ、廃坑の最奥にいる」

 

 

 そう、見取り図を手に説明してくれる二人に頷き、真エヴリンをミアに託して、リュックから「頭」と「腕」を取り出しゾイに託した。

 

 

「…ミア、ゾイ。もう襲ってくる奴はいないと思う。真エヴリンのことを頼む」

 

「癪だけどわかったよ。血清を作って待っとく。死んだら承知しないからね」

 

「ええ、わかった。エヴリンの事は任せて」

 

「おいおい、俺が残らなくてもいいのか?」

 

 

 そう笑顔で尋ねてくるジョーに、笑顔で返す。

 

 

「俺が残ってくれと言ってもお前はついて来るんだろ?」

 

「当たり前だ。あの馬鹿は俺が責任もって殴り殺す」

 

『もちろん私もいくよ!』

 

「ああ、頼りにしている。行くぞ2人とも!」

 

 

 そうしてジョーの先導で廃坑に向かおうとしていた、その矢先だった。プロペラ音と共に、上空にそれが現れたのは。

 

 

「ああ!?なんだあ!?」

 

「ヘリだと…!?」

 

『あ、そうか夜明けだから…』

 

 

 上空に現れたのは青い雨傘のマークが描かれたヘリ。ロープを下ろして特殊部隊の様な人間が次々と降り立ち、アサルトライフルを手に俺達を取り囲む。いや、俺達じゃない。真エヴリンが囲まれていた。

 

 

『狙いはやっぱり私だよね。そうか、もし死ななくてもこの人たちに殺されていてもおかしくなかったんだ』

 

「やめろ!」

 

「そいつに手出しはさせねえぜ!」

 

 

 俺とジョーは目くばせすると取り囲んでいる奴等に殴りかかり、俺は頭突きや蹴りで、ジョーは拳で吹き飛ばして真エヴリンを守るように構える。

 

 

「邪魔をするな!」

 

『その声…!』

 

 

 するとジョーの拳に拳をぶつけて相殺し、弾かれたジョーをタックルで突き飛ばして、真エヴリンに向けてナイフを振るおうとするヘルメットの男の腕を掴み、膝蹴り。怯んでナイフを落とした男はよろめいて後退する。

 

 

「…なんのつもりだ。そいつがなんなのかわかっているのか!」

 

「ああ。俺の娘だ。言っとくが俺は洗脳されちゃいない。俺の意思で娘として守る、助ける。そう決めた」

 

 

 エヴリンの反応から分かった。この男は恐らく、俺とミアの恩人となる筈だった男。男は「手を出すな」と仲間に指示を送るとヘルメットを外して溜め息を吐いた。

 

 

「…クリス・レッドフィールドだ。俺達は君達の敵じゃない、味方だ」

 

「そうだと願うよ」




クリスと青アンブレラの部隊到着。ヴィレッジ時点だと青アンブレラどうなってるんじゃろね。

ミアも考え方次第では7における諸悪の根源の一人よねって。それでも許容するイーサンの器のでかさよ。

真エヴリンが持って力にしていた「頭」でようやく血清作成。原作みたいにどちらか一人ということもありません。

ジョーすら退ける終身名誉ゴリラ、クリス。それを後退させるイーサン。どっちがバケモノなんでしょう。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯40‐【アルバート-01R】‐

どうも、放仮ごです。最近ポケモンスカーレットの小説も書きたいけどシャドウオブローズも書きたいので困ってます。もっと時間の余裕が欲しい。

今回はルーカスの元へ。楽しんでいただけると幸いです。


 廃坑最奥に存在する秘密の研究所。その主たるルーカスは書類や薬品を片っ端から鞄に詰め込んでいた。その顔に今まで大なり小なり存在した余裕はない。

 

 

「ああくそっ、くそっくそっ!最高傑作の死の花嫁(ブライドデッド)がやられちまった!フューマーとママ・モールドは残ってるがブライドデッドがやられてる相手に勝てる気がしねえ!こうなりゃエヴリンが相手している間に研究成果を持ってとんずらするしかねえ!」

 

 

 すると机に置いていたスマホが振動、ルーカスはうんざりしながらも手に取り相手を確認する。表示された名前には最大限の罵倒。それを見たルーカスは舌打ちして通話を繋げる。

 

 

「どうせエヴリンを失いそうになって焦っているんだろうけどな、てめえらに協力していられるか!どうせ俺も捨て駒なんだろ!あばよ!」

 

 

 自暴自棄でまくしたてたルーカスは相手の返事を聞くことなく電話を切り、残った薬品をかき集めていた時だった。轟音と共に天井がぶち抜かれ、何かが降って来てルーカスの目の前に降ってきたのは。心底驚いて後退し、さっきまでブライドデッドの戦いぶりを見ていたパソコンに触れてしまうルーカス。

 

 

「なんだあああああああ!?」

 

 

 それはまさしく神に見放された運の尽き。エヴリンと対決していたイーサンに打ち返されホームランにされたモールデッドが落ちてきた上に、たった今スピーカーが起動したせいで自分の居場所がばれたとはつゆとも知らず、落ちてきたモールデッドの残骸を恐る恐る調べるルーカスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れ取り囲んできた連中のリーダーらしき、クリス・レッドフィールドと名乗った男と睨み合っていると、真エヴリンを庇うように構えていたミアが口を開いた。

 

 

「クリス・レッドフィールド…聞いた名よ。対テロ組織のバイオテロリズム・セキュリティ・アセスメント・アライアンス…通称BSAAのオリジナル・イレブンのひとりにしてエース、だったわよね?」

 

『BSAAの正式名称初めて聞いたや』

 

「詳しいな。お前が報告にあったコネクションに所属する工作員か」

 

「今はその子の母親よ」

 

「そして俺の妻だ」

 

 

 真エヴリンから射線を遮るようにクリス・レッドフィールドとの間に立つと、溜め息を吐いてきた。

 

 

「…イーサン・ウィンターズ。俺たちは君たちを保護しにきたんだがな?」

 

「エヴリンも殺す気だろう。それはさせない」

 

「そいつは存在するだけで数多の人間を害する諸悪の根源だ。それでもか?」

 

「関係ないな。俺の娘だ」

 

「そいつが何かやらかそうとしたとき責任をとれるか?」

 

「その時は俺が責任を持ってエヴリンを殺す」

 

 

 問いかけてくるクリス・レッドフィールドの目を真正面から見つめ返す。するとクリス・レッドフィールドはアサルトライフルを下ろして手を差し出してきた。

 

 

「わかった。お前を信じる」

 

「クリス!本気なのか!」

 

「今ここで争っている時間はない!コネクションに繋がっているルーカス・ベイカーを逃がすわけにはいかない」

 

「ルーカスだって?」

 

 

 その言葉に反応したのはジョー。俺も頷いて前に出る。

 

 

「俺達も今からルーカスをぶちのめそうと思っていたところだ。居場所もわかっている。手伝わせてくれ」

 

「それは本当か?」

 

「ああ。ジョー、居場所は」

 

「廃坑の最奥だ。さっきモールデッドが落ちた場所のはずだから天井に穴が開いているはずだ」

 

 

 そう言って地図を見せるジョー。それを見たクリスは他の隊員たちと二言三言会話を交わし、頷いた。

 

 

「さっきの攻防でお前たちの戦闘能力は分かった。他の連中が正面から攻め込み、俺達はヘリで上から急襲する。ついてこれるな?」

 

「バイオテロに対して一家言あるらしいがな。俺はこの一晩でアイツらに対しての対処法は熟知している。お前の方こそついてこい」

 

「そういうことだ。イーサンの強さはよく知っているが、軍人だか何だか知らねえが足手まといになるんじゃねえぞ」

 

「上等だ」

 

『うわあ、最強トリオだあ』

 

 

 そうして俺とエヴリンとジョーはミアとゾイに真エヴリンの事を頼み、クリスと共にヘリに乗り込んで廃坑の上空に向かった。頑張ってついてくるエヴリンがちょっと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃坑上空。俺がホームランしたモールデッド砲弾が激突したのか綺麗な風穴があいている。それを確認し、クリスは俺にあるものを手渡してきた。

 

 

「これは?」

 

「アルバート-01Rとそれに装填できるラムロッド再生阻害弾だ。通常攻撃で有効ダメージを与えられない高い再生能力を持つB.O.W.との戦闘を想定して青アンブレラが開発した、組織細胞に作用して自己修復・再生能力を阻害することで、被弾後は通常攻撃が適用するようになる特殊な弾薬だ。本来はE型特異菌のB.O.W.を想定して持って来たものだったが…あらかた倒したらしいな。どうやってやったんだ?」

 

「そりゃあ、首をもいで?」

 

「ひたすら殴れば死なない生き物はいねえぞ」

 

『クリスもドン引きで草』

 

「…お前たちが相当強いのはよく分かった。行くぞ」

 

 

 クリスの言葉に頷いてロープを握る。そしてクリスを先頭に、ジョー、俺の順でロープを伝って降下していった。

 

 

「くそっ。せっかくコネクションにも無断で作った細胞活性修復薬…結局エヴリンと取引もできずに使わずじまいか。いや、イーサンたちからエヴリンを奪い返せばまだ使い道はあるか。これも持っていこう」

 

 

 岩肌の風穴の傍に降り立つと、ルーカスがなにかを鞄に急いで入れているのが見えた。高飛びする気満々だな。それにいいことを聞いた。俺はクリスが無言で止めるのも気にせずに、風穴から飛び降りた。

 

 

「なんだ!?って、イーサン!?どこからきやがった!?まさか上から…!?」

 

「いいものを作っていたみたいだな。そいつをよこせルーカス!」

 

「はっ、ならくれてやるよ!」

 

「なっ!?」

 

 

 掴みかかるも、ルーカスは薬の入った瓶を放り投げてきて、慌ててキャッチ。したところを胸倉を掴まれて棚に背中から叩きつけられる。くそっ、逃げられたか…。

 

 

「だが、なんとか薬は手に入れたぞ……」

 

「無事かイーサン。逃がしたら元も子もないぞ」

 

「いいや、逃がさないね!」

 

 

 すると拳を振るい扉を殴り壊しながら廊下に飛び出すジョー。タレット銃が仕掛けられていたが弾を込める暇が無かったのかタタタタタッと虚しい音を響かせるだけのそれを薙ぎ倒しながら突撃していく。

 

 

「メール……コネクション以外にもどこかに売り込もうとしていたのか?」

 

「クリス、俺達も追いかけるぞ!」

 

「待て、もしここが爆発した場合に備えて写真を……」

 

 

 ルーカスが打ちこんでたらしきパソコンの画面を写真に収めるクリス。爆発なんかするのかここ?

 

 

『よく爆発するらしいよバイオハザードの最後って』

 

「まったくお前たち、二人とも問題児だな!」

 

『協調性皆無だもの』

 

「面目ない」

 

 

 クリスと一緒にジョーを追いかけて行くと、広い部屋に出た。ここは倉庫か?

 

 

「ジョー!ルーカスは…」

 

「ここに逃げるところを見た!警戒しろイーサン、レッドフィールド!」

 

 

 すると奥から白いモールデッド…フューマーと白いファット・モールデッドが大量に現れ、俺は咄嗟にアルバート-01Rを構えてラムロッド再生阻害弾を連射。一発ずつブチ込んでいくと煙を上げて見るからに弱体化したフューマーたちをジョーとクリスが殴り倒していく。

 

 

「ああくそっ!薬ならくれてやったんだから帰ってくれよ!なあイーサン、いいだろう!」

 

「さっきのメール見たぞ!エヴリンのデータをどこかに売り渡す気だっただろう!エヴリンの様な悲しい存在をこれ以上生ませて溜まるか!」

 

『そうだそうだ!私がたくさんいたら気持ち悪い!』

 

 

 エヴリン、シリアスなシーンだから大人しく黙っとこうな?




イーサン、エヴリン、ジョー、クリスの最強チームここに完成。ハイゼンベルクと組んだ時の頼もしさがありますね!

ルーカスが作成した細胞活性修復薬。簡単に言うと、エヴリンみたいな特異菌を活性化させて細胞を修復し劣化を再生することができます。つまりこれを使えば元に戻れる、と銘打ってエヴリンを引きいれようと企んでた模様。ルーカスならこれぐらい用意しそうよね。

ファット・モールデッドとママ・モールドの大群相手にしても空気を読まない安定のエヴリン。余裕だからねしょうがないね。

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♯41‐【哀れな道化師】‐

どうも、放仮ごです。最終決戦なので今回はちょっとだけ長めです。文字通りのラスボス戦となります。

今回はルーカスとの決戦。楽しんでいただけると幸いです。


 廃坑、パーナビー塩鉱最深部にてジョー、クリスと背中合わせになりフューマーと白いファット・モールデッドを相手にしながらルーカスを探る俺達。

 

 

「お前をこれ以上野放しにできない!ブッ飛ばしてやる!」

 

『私を使って金儲けとかさせないんだから!』

 

「ルーカス!殴ってやるから出てこい!」

 

「誰に情報を渡している!話してもらうぞルーカス・ベイカー!」

 

「エヴリンの事を知りたい奴は山ほどいるんだ、山ほどな。やっちまえ、ママ・モールド!」

 

 

 そんなルーカスの指示を受けると、ママ・モールドと呼ばれた白いファット・モールデッドが小型の蟲みたいな生物を生み出し、地を這わせて繰り出してきた。ジョーがバーナーを取り出し、クリスのアサルトライフルと共に迎撃している間に俺は突進。ママ・モールドの拳を避けてアルバート-01Rを突き付け零距離でラムロッド再生阻害弾を叩き込み、渾身の蹴りで蹴り飛ばし壁に叩きつける。

 

 

「よし!」

 

「無茶をするなイーサン!ブッ飛ばすなら俺にやらせろ!」

 

『違うそこじゃない』

 

「一応聞くが、お友達のコネクションは知っているのかルーカス?奴らが許すとは思えないが?」

 

「知った口聞くんじゃねえよクリス・レッドフィールド。これは俺の問題なんだよ。わかるな?放っといてくれよ。さもないとひどいぞ。お前らは自分たちの心配だけしてろよ」

 

 

 その言葉と共にママ・モールドは品切れなのかフューマーが次々と現れ、薙ぎ倒されていく。エヴリンがどこから来るのか指示してくれるからなんとか対処できているが数の暴力がえぐい。うん?右で何か動いた…!?

 

 

『イーサン!』

 

「どうせ助からねえ。俺の計画を台無しにしてくれたお前だけでも道連れにしてやるぜ、イーサン!」

 

「ぐっ、あっ…ルーカス、お前…!?」

 

 

 右の物陰から現れ、俺の腹部にナイフを突き刺してきたルーカス。そのまま俺を押し倒し、首も掻っ切ろうと血に塗れたナイフを振り上げるが、銃声と共にナイフが弾かれた隙を突いて蹴り飛ばす。見てみれば、フューマーの猛攻の隙を突いたハンドガンを撃ったクリスだった。

 

 

「うおおおおおおっ!てめえ、いくら恥を晒せば気が済む!ルーカス!」

 

「ぐうおおあああ!?」

 

 

 さらにフューマーを振り切り突撃してきたジョーに鼻っ柱を殴り飛ばされ宙を舞い、よくわからん機械に背中から激突して崩れ落ちるルーカス。エヴリンが涙目でふわふわと近寄ってきたのを見てから視線を下にずらす腹部からどくどく赤い液体が溢れるのを半ば他人事の様に見つめる。

 

 

「くそっ、やられた…」

 

『馬鹿!馬鹿!イーサンの馬鹿!なんで油断したの!』

 

「面目ない……」

 

「しっかりしろ、イーサン!ほら、回復薬だ!お前のしぶとさを見せろ!」

 

 

 ジョーが抱え起こしてくれて、回復薬を傷口に振りかけるとみるみる内に再生していく。本当にどうなってるんだ俺の体。

 

 

「ここまでだ。諦めろルーカス」

 

「おいウソだろ…こんな低能どもに俺がやられるってのか…?」

 

 

 フューマーを薙ぎ払い、ルーカスに拳銃を突きつけるクリス。しかしボンッという音と共にルーカスがもたれかかっている機械が壊れたのか放電し、その直撃を受けるルーカス。

 

 

「うおおおおおおおおおっ!?へへ、へへへへ……いい気味だろうな?だが俺は終わらねえ。終わってたまるか」

 

「構えろ2人とも!」

 

「「!」」

 

『え、なに…?』

 

 

 笑っているがどう見ても致死量の電撃だ。しかしそれが引き金になったのか、その身体がドロドロと溶けて行き膨張していくルーカスの姿が三メートルを優に超える大男へと変貌していく。

 

 

「クソ……なんだ、どうなってやがる?おいウソだろ……俺まで親父の二の舞か?なんだ、こんな気分なのか…最高じゃねえか」

 

「…本部、どうなってる?」

 

≪「致死量のダメージを受けたことで感染が臨界に達しています」≫

 

「そんなこと見りゃあ分かるぜ!で、どうなる?ジャックと同じか?」

 

「…ピエロか、お似合いだぞルーカス」

 

「一つ教えといてやるよイーサン。お前たちはここで死ぬんだ!」

 

 

 ダメージを無視して立ち上がり、アルバート-01Rを構える。その姿は両腕が異様に肥大化している白い巨体の大男。頭部はルーカスが「バースデイ」でトラップやとして使っていたピエロの人形に似た顔が3つ繋ぎ合わせたような形状をしている、三つ顔の道化師だった。ルーカスは自分の体を確かめる様に腕を三つの顔で見つめている。

 

 

「…想定内だが予想以上の怪物だ。ジョー。一応持って来たがお前を信じられずにいて渡せなかったものだ。お前に託す、使ってくれ」

 

「こいつは?」

 

 

するとクリスが背負っていたリュックから取り出した鉄製の籠手を手渡されてジョーが装着。グググッと握ると機械音が鳴り響く。

 

 

『わーっ、かっこいい!』

 

「Advanced Multi purpose Gauntlet 78、通称AMG-78。運搬作業などをする際の効率向上を目的とした腕力の増加と、それに伴う使用者の負担軽減のために開発された道具だがお前なら武器にできるはずだ」

 

「こいつはいいや。使わせてもらうぜ」

 

「こういうのは慣れている。さっさと終わらせるぞ」

 

 

 アルバート-01Rを構える俺、AMG-78を構えるジョー、アサルトライフルを構えるクリスの前に立ちはだかり、複数の巨大な腕に変異した右腕を床に叩き付け、巨大な盾状に変異した左腕を構えるルーカス。

 

 

「どいつもこいつも邪魔ばかりしやがってよお……俺よりもド低能なカスどもが!」

 

 

 振り下ろされた複数の右腕を、散開して避ける。クリスはアサルトライフルを連射して牽制、俺はアルバート-01Rでラムロッド再生阻害弾を頭部に撃ち込んでからダブルバレルショットガンで応戦、ジョーは文字通り鉄の拳で殴りつけて行くと、ダウンして赤く輝く胸部を晒した。

 

 

「頭への攻撃が効いた!あの光、頭部と胸部が弱点だ!」

 

「了解だ!」

 

「ぶちのめしてやるよルーカス!」

 

『いけいけいけ!やっつけろー!』

 

 

 胴体にジョーが渾身のアッパーを叩き込み、よろめいたところに俺とクリスの一斉射撃が炸裂。ルーカスは手も足も出ずに後退していく。

 

 

「離れろジョー!焼夷手榴弾だ!」

 

「お前らアアアアアッ!」

 

『これって…離れてみんな!これヤバい!』

 

「ジョー!クリス!離れろ!」

 

 

 さらにジョーが離れたところにクリスが焼夷手榴弾を投擲。炎上したルーカスは悶え苦しむと全身を震わせ、白い粒子を放出してきた。エヴリンの警告に、俺達は後退する。

 

 

「なんだ、これは……」

 

≪「恐らく高濃度の特異菌です。専用の装備が無ければこの閉鎖空間では危険です!」≫

 

「閉鎖空間じゃなければいいんだな!?」

 

 

 クリスの無線からの声を聞くなり鉄拳を構えてグググググッと溜めて行くジョー。ピーピーピーピーとアラートの音が鳴り響く。

 

 

「おらああああああっ!」

 

 

 そして機械の上に飛び乗ると跳躍。天井を殴りつけ、轟音と共に大穴をぶち抜いて特異菌の粒子を天高く吹き飛ばした。鬼に金棒とはまさにこのことか。しかしAMG-78は大破、装着していた血に濡れて裂傷ができた腕を押さえてジョーはその場で蹲った。

 

 

「さすがに無茶しすぎたな…あとは任せたぜイーサン、クリス」

 

「「任された!」」

 

「ああくそっ!アンタが一番の想定外だぜジョーおじさんよおお!」

 

 

 ジョーに向けて振るわれる右腕を、クリスが驚異の狙いで全て撃ち抜いて動きを止め、そこに俺がグレネードランチャーを叩き込む。出し惜しみはなしだ。だが頭部や胸部への攻撃は盾で受け止められる。決定打が足りない。

 

 

『…あれ?』

 

「どうしたエヴリン」

 

『高濃度の特異菌……もしかして?』

 

 

 エヴリンが何かに気付いたようでグーパーと握る自分の手を見ている。なんだ、どうした?

 

 

「殺してやる!クリス!死ね!」

 

「くそっ…!」

 

 

 すると飛びかかってきたルーカスにのしかかられたクリスがピンチに。零距離でアサルトライフルを叩き込んでいるが盾に弾かれてしまっている。なにか、なにかないか…!?

 

 

『イーサン!パンチ!ルーカスの頭に!』

 

「なにを言ってるんだエヴリン、そんなもの……」

 

『いいから!特異菌が満ちているここなら、使えるの!』

 

「なにが……いいや、お前を信じるよ!」

 

 

 ありったけのラムロッド再生阻害弾を叩き込みながら走り出し、右腕を振りかぶる。すると漂っている特異菌を集束する様にして右腕がモールデッドの物に変化。驚きながらも、ジョーの動きを思い出しながら踏み込んだ。掛け声はまああれしかないだろ。

 

 

「ルーカァアアアアスッ!!」

 

「あ?てめえはあとだイーサン、黙って見てろ……!?」

 

「『お前も家族だ!』」

 

 

 決してそうは思ってないが不思議と力が溢れる掛け声がエヴリンと重なり、渾身の一撃が振り向いたルーカスの頭部に叩き込まれる。咄嗟にルーカスも両腕を振り回して迎撃しようとしていたが、右腕はクリスの銃撃に、左腕は満身創痍の身で飛びかかったジョーに抑え込まれて使えていなかった。

 

 

「く、そがぁああああ!?イーサン!イーサン!イーサンンッ!!お前が、お前が一番の想定外だァアアアアッ!?」

 

 

 そして粉砕。ルーカスの頭部は断末魔と共に吹き飛び、その巨体は崩れ落ち沈黙。俺達は力が抜けて崩れ落ちた。

 

 

「…イーサン。お前にはあとから死ぬほど聞くことができたぞ」

 

「勘弁してやってくれよクリス…ルーカスの野郎と違ってこいつは堕ちたりしねえよ、俺が保証する」

 

「はあ、はあ…やったぞ、エヴリン……」

 

『うん、本当に…本当にお疲れ様』

 

 

 ルーカスから奪った薬を、ジョーがブチ開けた穴から一望できる青空にかざす。綺麗だ。早くこれを真エヴリンに渡しに行かないとな。




変異ルーカス、一話も持たず撃沈。ぶっちゃけ脅威なのは高濃度特異菌放射ぐらいなのでジョーに解決してもらいました。イメージは某ナンバーワンヒーローの天候を変える拳。

AMG-78も最後の最後に登場。クリスが一応念のため持ってきてました。

そして高濃度特異菌を受けてエヴリン覚醒、お得意のモールデッドパンチでとどめ。実はイーサンがナイフに刺されてダメージを受けてたのも理由の一つです。

最初から最期まで不憫だったルーカス。地味に拳銃ではなくジョーに殴り飛ばされて電流を喰らったせいで繭を介すことなく変異してます。

次回、7編最終回…になると思います。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯fin‐【エヴリン・ウィンターズ】‐

どうも、放仮ごです。これにて本編以上に長い42話にもわたる7編こと「BIOHAZARD7【feat.EvelineRemnants】」完結となります。

今回はエピローグ。楽しんでいただけると幸いです。


 ルイジアナでの死闘から三年後。買い物から自宅に帰ったミア・ウィンターズは、出迎えてくれた夫に笑顔を向けた。

 

 

「今帰ったわ、イーサン。愛しのローズマリーはどうしてるかしら?」

 

「ああ、ミア。お帰り。ローズは今眠ったところだ。エヴリンもスクールからもうすぐ帰ってくるはずだ」

 

「そう。なら早めに夕飯を作っておかないとね。今日は故郷の伝統料理よ」

 

 

 一人の逆行者の奮闘により歴史は変わった。クリスの部下たちによる監視付きではあるが、細胞活性修復薬で元の少女の姿に戻ったエヴリンを養子として迎え、クリスの知り合いの化学や薬品の精製・調合に長けた大学教授の協力のもと作成した安定化化合物を定期的に摂取して普通の人間と同じ年の取り方ができるようになったエヴリンと共に、イーサンは平和に過ごしていた。ジョーとゾイも引っ越し、新生活を始めたと絵葉書をもらった。今度直接会いに行こう、イーサンはそう思った。

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりエヴリン」

 

 

 すると近くのスクールに行っていたエヴリンが鞄を斜めにかけた指定の制服姿で笑顔で帰ってきた。出迎えたイーサンに飛び付いて抱き着くエヴリン。

 

 

「ねえ、やっぱり勉強つまんないよー」

 

「それでも友達できるのは嬉しいだろ?」

 

「うん!家族もいいけど友達もいいものだね!」

 

 

 コネクションによる教育を受けたエヴリンに勉強の必要はないのだが、真っ当な道徳を学ばせるためにスクールに通わせているイーサン。友達ができたことを喜んでいるエヴリンに顔を綻ばせる。

 

 

「ところで私の愛しいローズは何処!?」

 

「二階だ。手洗いうがいしてから行けよ、近頃は怖いんだから」

 

「いつも思うけどカビの塊の私に意味なくない?」

 

「ローズに触らせないぞ」

 

「行ってきます!」

 

 

 走って洗面所に向かうエヴリンの背中を見て、イーサンは三年前のあの日を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お別れだね、イーサン』

 

 

 弱っていた真エヴリンに細胞活性修復薬を投与し容体が落ち着き、クリスたちの部隊が事後処理に走り回り、イーサンがジョーやゾイ、ミアと共に一息ついていたところでいきなりそんなことを言いだすエヴリンに目を見開くイーサンとジョー。

 

 

「なんでだ。お前、俺にこれからもついてくるって……」

 

「エヴリン、その身体どうした?」

 

「なんで、お前……」

 

 

 ジョーが言った通り、体が透けて消え始めているエヴリンに青ざめた表情を浮かべるイーサンとジョー。そんな姿を見て困った笑みを浮かべて頬を掻くエヴリン。

 

 

『なんでって、イーサンがこの時代の私を完全に救ったから「残留思念」の私は存在しないことになったからかな。死んでもないのに残留思念がいるのもおかしい話じゃん?』

 

「お前、それならそうと…!」

 

『言ったら私を救うことに迷ったはずだよ。そうなるのは私も望まない。大丈夫、元の時間軸に戻るだけだよ。同時に私は消滅するだろうけどね』

 

「なんで……未来に戻るだけなんだろ?」

 

『私、爆弾を起動して自爆する直前だからね』

 

「「!?」」

 

 

 さらっと語られた衝撃の事実に絶句するイーサンとジョー。会話が聞けないミアとゾイ、真エヴリンも二人の鬼気迫る表情から何かを察したらしく神妙な顔をしている。

 

 

『未来のイーサンを逃がして自爆する直前、菌根のネットワークに接続することで過去に遡れるんじゃと思いついて一か八かで実行したんだよね。菌根を辿って過去の菌根に接続しているのが今の私ってこと。簡単に言うとコンピューターウイルスかバグみたいなものだね』

 

 

 今頃未来のあの場所には抜け殻になったギガント・モールデッドがあるのかな?と聞いてもないのに今の自分たちには理解できないことをペラペラと喋るエヴリン。それはまるで何かを誤魔化すようで。

 

 

『私も、イーサンやミアやローズとこの手で触れ合えて笑顔でいられる未来を手に入れたから満足。うん、自爆する前の心残りが消えたよ』

 

「まて、待て待て待て!」

 

 

 光の粒子となって消えて行くエヴリンに、イーサンは手を伸ばすが虚しく擦り抜けてしまう。

 

 

「俺はお前がいたから、頑張れた!お前がいないと駄目だった!お前がいなくなったら、俺はどうすればいい!?」

 

『もう。イーサンはウィンターズ家の大黒柱なんだからね。私がいなくても戦うの。戦って、家族を守るんだ。いい?私の妹を泣かせたらぜっっっっったいに、許さないんだからね!』

 

 

 そうビシッと指を突き付け、もう顔だけになったエヴリンはイーサンの顔を見ない様にか振り返って空を仰ぐ。

 

 

『本当にありがとう、イーサン。私を救ってくれて。あ、ひとつだけ。ルーマニア料理には気を付けてね?』

 

「エヴリン…!」

 

 

 その言葉を最後にエヴリンは完全に消滅。残った粒子は風に散って消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー、よく考えたら物理効かないから爆発させたらすぐに戻ってきたんだ。ごめんね?心配かけて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか幻聴が聞こえた気がした。するとキッチンの方からドンガラガッシャンという轟音が轟いて慌てて向かうイーサン。

 

 

「どうしたんだ、ミ…ア…?」

 

 

 そこに広がっていたのは、作っていたであろうスープがぶちまけられ、モールデッドの形状にして巨大化させた右腕でミアの胴体を掴んで壁に磔にしている、見たことのないほど憤怒に満ちたエヴリンの姿。ミアの苦しむ姿を見て慌てて止めに入る。

 

 

「くっ、あっ…助けて、イーサン!」

 

「待て、エヴリン!一体どうしたって言うんだ、ミアに何を……」

 

「騙されないでイーサン。こいつはママじゃない。お前は誰だ?」

 

 

 エヴリンのドスの効いた声を聞いてはっとなってぶちまけられたスープを見る。赤い、赤い、恐らくはルーマニアの伝統料理。未来のエヴリンが言っていたのはこのことかと、エヴリンを憎悪に満ちた表情で睨みつける信じられないミアの姿に確信する。

 

 

「なにを言ってるの?私はミア・ウィンターズ…貴方の………母親よ?」

 

「黙れ。母親と言うのにも口ごもるお前がママなわけがあるか。ママをどこにやった?!」

 

 

 締め上げるエヴリン。するとミアの姿が崩れて、ローブ姿の女性……このイーサンとエヴリンはその名を知らないがマザー・ミランダへと変貌。憤怒に顔を歪ませて喚き散らす。

 

 

「くそっ、くそっ!なぜだ、完璧な擬態だったはずだ!」

 

「ママはね、帰ってきたら私に「おかえりエヴリン。パンケーキにする?それともクッキー?」って聞いて来るんだよ!!ただおかえりだけ言ってママなわけがあるかあああ!」

 

「思ったより分かりやすい理由だったな!?」

 

 

 少なくとも俺は完全に騙されていたんだが。面目ない。

 

 

「くそっ…できそこないの分際で……!」

 

「できそこないじゃない。私はエヴリン、エヴリン・ウィンターズ!イーサンとミアの長女でローズマリー・ウィンターズの姉だ!覚えて置け!」

 

「っ…があ!?」

 

 

 さらに壁にミランダを叩き付け、壁を粉砕して外に出るエヴリンに溜め息を吐くイーサン。もう何度目の引っ越しになるんだろうか、数えるのは随分前にやめた。引っ越しを手配してくれるクリスをまた怒らせることになるなあという溜め息だった。

 

 

「くそっ…赤子を、ローズをよこせええええ!」

 

「あんだとこの野郎」

 

 

 異形の魔女の様な姿となり突進してくるミランダの叫びを聞くなり玄関に飾ってあるダブルバレルショットガンを手に取り容赦なくぶっぱなすイーサン。「ぷぎゃっ」と短い悲鳴を上げてエヴリンの手を離れてゴロゴロと小高い丘を転がり落ちて行くミランダ。人気のない場所を選んでよかったとイーサンは弾を込めながらエヴリンと共に歩み寄る。

 

 

「ローズに手を出そうとはいい度胸だ」

 

「ボコボコにしてママの居場所を吐かせてからクリスに突き出してやる」

 

 

 未来から来たエヴリンが歴史を変えた結果、訪れた未来。壮大も何も始まらない。




BIOHAZARD7【feat.EvelineRemnants】、意味合いとしては「未来のエヴリンの残滓」です。

未来エヴリンの正確な正体は「自爆直前で菌根を伝って過去にやってきて、心残りだったイーサンが無事にローズと余生を過ごせる世界を創るために奮闘していた本編エヴリン」となります。このあと爆発して普通に戻ってきた模様。一瞬の間にとんだ大冒険をしたものです。魂であることを利用して過去の菌根へと移動してたので、コンティニューするたびに三年前の寒村上空へ飛び出して、海上を飛んで向かっていたってのがカラクリです。正確には魂を過去へ転送してた感じ。

爆誕、エヴリン・ウィンターズ。本編エヴリンと違ってミアが偽物だと見抜いて即攻撃する頼もしい子ですが、何度も引っ越す理由を作ってる問題児でもあります。

次回からはシャドウオブローズ編をやりたいところ。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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♯EX6‐【イカレた奴らを紹介するぜ!3】‐

どうも、放仮ごです。待たせたな!いつの間にかRE4まで発売されてしまいました。武器商人が喋るだけで感動を覚える…(バイオ4は三桁ぐらい周回した)。ローズ編の構想も出来上がったのでぼちぼち投稿していきます。

とりあえず7編の最後のキャラ設定となります。楽しんでいただけると幸いです。


・イーサン・ウィンターズ

 エヴリンの父親として戦い抜いた主人公。ぐう聖。一夜と言う短期間で蹴り技や拳の威力も磨かれた。エヴリンを救うべく奮闘、ジョーには戦闘力で負けながらも的確な武器選択や正確な射撃、容赦のない猛攻や驚異的なタフネスで数多の強敵と渡り合った。少なくとも本編イーサンより純粋な戦闘力は高い。

 原作通り一度死んではいるものの限界は当分の間迎えず、最終的に真エヴリンもミアも救い、コネクションをぶっ潰した後にローズマリーも生まれて幸せな未来を送る。ミランダをボコボコにしてミア救出に乗り出したところでこの物語は終わった。

 

 

・幻影エヴリン

 実質的な主人公。自爆する直前に菌根にアクセスして、イーサンとローズマリーが一緒に笑顔で過ごせる未来を作るため過去まで遡ってきた本編エヴリンその人。イーサンの一部を取り込んだ人間には見えるようになる。擦り抜ける体を駆使して敵の弱点を探るイーサン一行のブレイン。自己犠牲精神の化身で、すぐ自分を犠牲にしようとする。指示する事しか戦闘では役に立たなかったが、最終局面ではルーカスの放った特濃特異菌を受けたイーサンの腕をモールデッド化することが可能になった。

 最終的に過去の自分が救われたことで因果関係が崩れて自爆覚悟で消滅するが、幻影なため普通に生き延びた。苦汁を飲まされまくったミランダに好き勝手させないためにさりげなくヒントを残した。

 

 

・ジョー・ベイカー

 バイオ主人公界屈指の最終兵器。エヴリンの秘策で召喚され、イーサンと幻影エヴリンに協力する。拳で道を切り開く最強インファイター。自分の二倍はあろう敵だろうがワニだろうが殴り飛ばす。甥っ子が外道だったり、弟の変わり果てた姿と対峙したり、唯一残った家族である姪っ子が変貌したクリーチャーに心が折られたりと苦労人。硫酸の様な高熱の吐瀉物を受けようが沼に沈められようが特に致命傷なく生還する不死身の男。

 最終的にゾイと共に青アンブレラに保護され、イーサンたちと一緒にコネクションをぶっ潰した後ゾイと二人暮らししている。ローズを姪っ子の様に可愛がってるようで、誘拐しようとしたミランダ一派撲滅に喜んで参加した模様。

 

 

・クリス・レッドフィールド

 ルーカスの悪行に原作程苦しまなかったけど理解に苦しむ羽目になったイーサン一行の胃痛要員。青アンブレラに協力しているBSAAのオリジナルイレブン。アルバート01やAMGをイーサンとジョーに授けた他、ジョーに負けじと肉弾戦の強さを見せた。

 最終的にイーサンとジョーに心動かされ真エヴリンを独断で保護し、戸籍も作ってイーサンに託した。ハウンドウルフを率いてミランダの情報を得て駆けつけると、ボコボコにされたミランダを突き出されて困惑しながらもミランダ一派撲滅に参加した。イーサンを一般人として扱うのは諦めた。

 

 

・ミア・ウィンターズ

 後半ほとんど出番の無かった人。ルーカスに攫われた後、気を失った状態でグリーンハウスに拉致されていたところをやってきた真エヴリンに愚痴られる。エヴリンに負い目を感じていたため確執はあったもののエヴリンを受け止め、青アンブレラからも庇うなど母親の自覚が芽生えた。最終的に溺愛するに至る。その溺愛がエヴリンがミランダの擬態を見抜くことに繋がった。

 

 

・ゾイ・ベイカー/ブライドデッド

 ジョーのヒロイン。誘拐された後ルーカスに「おめかし」され、死の花嫁(ブライドデッド)として望まないままイーサンたちと戦う羽目になったが少々手荒に救出される。復活したジャックを血清なしで倒したためイーサンのヒロインイベントを回避した上に、ミアと共に二人で血清を受けてハッピーエンドを迎えた。真エヴリンには思うところがあれどあまりに哀れな姿に同情、ミアと共に青アンブレラから庇った。

 最終的にジョーと共に二人暮らしすることになった。イーサンたちとは直接交流を続けておりローズを姪の様に溺愛している。

 

 

・真エヴリン/エヴリン・ウィンターズ

 この時代(2017年)のエヴリンその人。老婆の姿でイーサンやジョー相手に幻影で奮闘、たまに助言をしたりした。幻影で若い大人の姿に化けて虚勢を張っていたほか、「頭」を取り込んでミランダと似た様な姿に変貌してイーサンと対決するも完封され降参。イーサンに救われ、娘として迎え入れられた。多分幻影エヴリンの介入で一番救われた人。

 最終的にエヴリン・ウィンターズとして戸籍を得てスクールに通いながらローズを溺愛する毎日を送り、ミアの異変にもすぐ気付いて殴り飛ばした。かなりの問題児で、すぐ問題を起こしては引っ越している。

 

 

・ルーカス・ベイカー

 幻影エヴリンの介入で最も被害をこうむった男にしてラスボス。手段を択ばないあの手この手でイーサンを翻弄するが、ジョーの介入だったり予想外の事ばかり起きて頭を抱える羽目に。特に牛舎の罠を物理で突破されたのはだいぶ効いた。多分原作以上に剥げてる。

 切札のブライドデッドも倒され逃走を試みるが、イーサン・ジョー・クリス・幻影エヴリンのカルテットに阻まれクリーチャー化。そこそこ善戦するが一話も持たずに倒された。クリス1人にも勝てないのに無理があった。

 

 

・ジャック・ベイカー

 原作より一足早く再生してジョーと壮絶な兄弟喧嘩を繰り広げた男。ワニをミサイルみたいにぶん投げたり伸びる手などでイーサンとジョーを圧倒した。ちなみにいち早く再生したのはイーサンに対する恨みが深かったため。ルーカスに簡単に騙されるなど、脳はとろけている。

 

 

・デイビッド・アンダーソン/アサルト・モールデッド

 保安官補佐.ルーカスに死体を利用されてブレード・クイック・ファットの融合体として再誕、最強のモールデッドとしてイーサンたちの前に立ちはだかった。ジョーのパンチを受けたり、ボイラーの爆発をまともに受けたりしてもビクともしないタフさの持ち主。伸びる腕と圧倒的なパワーを利用して距離を問わずイーサンたちを苦しめた。保安官補佐の頭部と共に意識が残っていたが愚鈍なためリミッターにしかならず、外れたら強くなってしまった。頭部が二つある、腕が刃物、なんか吐き出すなどモチーフはリベレーションズのスキャグデッド。

 

 

・マザー・ミランダ

 ルーカスの次に一番被害をこうむっている女。ミアに化けてローズを誘拐しようとしたが些細なことから見破ったエヴリンに殴り飛ばされ、イーサンにはショットガンをぶちかまされるなど散々。最終的にボコボコにされた後とっ捕まえられクリスに突き出された。

 

 

・青アンブレラ

特に必要なかったかもしれない一団。一応部隊は炭坑に正面から突入したのだが、ルーカスがイーサンたちにかかりきりだったため全員生存した。




とりあえずルーカスとミランダが酷い目にあって大体ハッピーエンド。

次回からシャドウオブローズ編。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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Shadows of Rose【Ethan&EvelineRemnants】
ダイブⅠ【16年後】


どうも、放仮ごです。Shadows of Rose編始まります。

今回は最終決戦から16年後のローズの話。楽しんでいただけると幸いです。


 赤ん坊の私が巻き込まれたという、寒村での父と姉の珍道中から16年後。バスから降りた私が歩く道をふよふよと肩肘ついて(?)寝そべりながらついてくる、私と母親のミア・ウィンターズにしか見えない二人の幽霊(?)がいた。死んだ父親であるイーサン・ウィンターズと、生まれる前に死んでいるらしい姉のエヴリンである。

 

 

『……暇だ』

 

『暇だねえ』

 

「うるさいし邪魔だよ、父さん姉さん」

 

 

 目の前でだらけきって視界を塞いでいる父さんと姉さんに溜め息を吐きながら苦言を呈す。正直言って邪魔だ。二人の事は大好きだがそれとこれとは話が別だ。

 

 

『邪魔って言われた……』

 

『イーサン。ローズの言うことなすことでオーバーリアクション取るのやめよう?』

 

「父さん、うざい」

 

『ぐっ』

 

『もうイーサンのライフはゼロだねこれ』

 

 

 私の言葉にショックを受けて真っ白になり空中でorzの体勢となり項垂れる父さんとぼやく姉さんに、内心ほくそ笑みながら公園に向かうと、ベンチに座っていた待ち人が手を軽く上げたのが見えて駆け寄る。私の保護者、クリス率いるハウンドウルフ隊の一員、チャーリー・グラハムことケイナインだ。

 

 

「ケイ、遅くなってごめん」

 

「大して待ってないさ、大丈夫」

 

『やいケイナイン。ローズと仲いいからって調子に乗るなよ!』

 

『聞こえてないぞエヴリン』

 

「それで、大事な話があるってなんなの?」

 

 

 とても大事な話があるからと母さんにも内緒でここまで来た。まあ呼び出しの話を聞いてた父さんと姉さんは遠慮なくついて来たんだけど。触れもしないから止めることもできないのどうにかならないかな。二人とも、いわゆる「ボケ」だからふざけだすと母さんに説教されるまで収拾がつかない。

 

 

「またクリスが私を組織に入れろって言ってきたとか?絶対ありえないって何度も言ったんだけど」

 

『必要なのはわかるがクリスと直にOHANASHIしたいな』

 

『わかる。現実に干渉できたらなあ』

 

「父さんたち五月蠅い。HW(ハウンドウルフ)っていつもクリスにこき使われるんでしょ?ケイも辛いね」

 

「相変わらず君の守護霊は元気そうで何よりだ。まあ、その件じゃない。今日は……お前の話だ」

 

「私?」

 

『結婚したいとか言ったらぶっ飛ばす』

 

『もしそうなら呪ってやるぞー!』

 

 

 雰囲気を真面目なものに変えるケイに、改めて向き直る。アホなこと言ってる二人は無視だ無視。

 

 

「ローズ……その……どうなんだ?学校の方は」

 

「ええ?そんな話をしにきたわけ?」

 

『なんでローズに友達ができないのか、永遠の謎だ』

 

『おっとローズの心は硝子細工だぞ』

 

「父さんと姉さん、あとで覚えといて。…大丈夫、だよ?」

 

 

 なんとか取り繕うがケイの表情はすぐれない。隠しごとできないな…。

 

 

「またあの嫌な子たちに……絡まれてる?」

 

「化け物扱いされるかってこと?しつこく絡まれてたけど姉さんが自撮りに割り込んで幽霊写真になったおかげ(?)でちょっと沈静化してる」

 

『えっへん』

 

『相変わらず怖がらせるのだけは得意だよな』

 

『なんだとこらー!』

 

 

 胸を張ってた姉さんだが父さんに毒づかれ、飛びかかって空中でボコスカと実力行使を始めてしまった。幽霊同士は触れるらしいが某ネコとネズミばりに暴れないでほしい。

 

 

「それはよかったが……自分の事を化け物って言うのはやめろ。ちゃんとこっちを見ろ!お前は化け物じゃない!」

 

「化け物だよ。わかってるでしょ。父さんと姉さんには悪いけど……私の生まれは知っている。普通の人間じゃない。だから学校でもずっと独りなの。ばれないようにって…」

 

『……ローズ』

 

『ごめんねローズ…』

 

 

 争うのをやめて、なにか言いたげな顔の父さんと、あからさまに沈み込む姉さん。二人は悪くない、と言いたいけど……口に出なかった。二人の事は大好きだけど、それとこれとはやっぱり話は別だ。多分、父さんと姉さんと物心ついた時から会話してなかったら二人を恨んでたかもしれない。

 

 

「それじゃあ……話せる友達はいないのか?話し相手はいるんだろうけど」

 

「話すって?何を話すの?人間じゃないって話す?化け物だって告白するの?それとも私は死んだ父さん姉さんと会話できるって?……友達ができたとしても言える訳がない。だけど私は、二人をいないことにできない。無理だよ」

 

『ローズ…』

 

『嬉しいけど、やっぱり私達邪魔だよね……』

 

「そんなことない!父さんと姉さんの存在に私は助けられてる…!」

 

 

 すぐ自分を卑下する姉さんに、咄嗟に否定の言葉が出た。私の生まれが呪われているのが父さんと姉さんのせいだとしても、私は恨んだりしない。それだけははっきりしてる。するとケイは私のそんな様子を見て少し黙ってから口を開いた。

 

 

「……もしかしたらイーサンとエヴリンと話すことができなくなるかもしれないが、もしその力を……取り除けたらどうする?」

 

『なんだって?』

 

『本当!?』

 

「え、でも、だって……すぐにでも取り除きたいけど、二人と会えなくなるのは嫌だ…」

 

「もしかしたら、って話だ。だが取り除く手段は見つけた。一度見てから決めてくれ。こっちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてケイに連れてこられたのは公園近くの建物にある実験室だった。

 

 

「ミランダと特異菌の事は知っているよな?」

 

「父さんと姉さんから嘘みたいな冒険譚は聞かされてるよ」

 

『ノンフィクションだぞ』

 

『嘘じゃないんだなあ』

 

 

 暇さえあれば聴かせてくれた信じられない冒険譚。曰く吸血鬼が変身したドラゴンと空中戦を繰り広げただの、巨大な赤ん坊に襲われただの、怪魚から逃走しながら湖を渡っただの、工場長が率いる機械兵団と共に魔女…ミランダと戦っただの、ファンタジーにも程がある話だ。いやまあ、幽霊の二人が見えてる時点でファンタジーなんだけども。

 

 

「ミランダは研究に執着して……人体実験までやっていた」

 

「私とか?」

 

「そうだ、君も犠牲者の一人だ。ミランダに取り込まれたのがその力に目覚めた原因の一つと言ってもいいだろう。それで最近、ミランダの研究ノートが新たに見つかったんだ。それによると人から特異菌を取り除く……「浄化結晶」を発見したらしい」

 

「浄化結晶?」

 

『私一応エヴァの生まれ変わりだけどそれは知らないなあ』

 

『そんなの見つかったならクリスが言ってくると思うんだけどな?』

 

「浄化結晶があれば完全とはいかなくてもお前の力を抑え込めるかもしれない。完全ではないからそのままイーサンとエヴリンと会話できる可能性は十二分にある」

 

「そんな、嘘みたい……ふざけてないよね?」

 

「もちろん。だがそのノートは未完成だった。でも多分、一つだけ残りの情報を探せる手段がある」

 

「…一応教えて。どこを探すの?」

 

「あー…そこだ」

 

 

 そう言ってケイが指示したのは透明なカプセルと赤い液体に包まれた黒い植物のようなもの。それを見た父さんと姉さんの目の色が変わる。

 

 

『これは……菌根!?』

 

『爆弾で消し飛ばしたはずなのに……残ってたの!?』

 

「きん、こん……」

 

「そうだ。それは菌根ってやつだ。その中に死んだ者たちから吸収した記憶が保存されている。つまりミランダの、知識の全てもだ。この意識の中に入れば浄化結晶の謎も解けるはずだ」

 

「意識の中に入るってどういうこと…?」

 

『俺が死んだ時と同じか』

 

『もう一人の私と会った時の?』

 

「いいか、お前は菌根と深く…繋がっている。だから結晶の…情報を探しだせるはずだ」

 

『ふざけるな!もういい、ローズ。帰ろう』

 

『そうだよ!菌根は駄目!危険すぎる!』

 

 

 怒号を上げる父さんと姉さんにちょっとだけ怯む。こんなに怒っているの始めて見た。

 

 

「父さんと姉さんがダメだって…こんなのまともじゃないよ。ケイ、おかしくなったの?」

 

「ああ、たしかにそうかもな。だが、ローズが化け物呼ばわりされるのを放ってもおけない。俺の仮説が正しければ危険じゃない筈なんだ。他人の記憶を散歩するようなものだ。やってみる価値はある。損はしないだろ?」

 

『やめろ、ローズ!なにかがおかしい!』

 

『ケイナイン、本当にどうしたの?菌根の危険さはよく知ってるよね!?』

 

 

 父さんと姉さんはそう言うが、ケイの私を案じる言葉は本物だと思う。…信じたい。

 

 

「じゃあ…どうすればいいの?」

 

「いや、俺も…よくは、わからないが……菌根に意識を…集中してみろ」

 

「…わかった。やるわ。やってみる。信じるよ、ケイ」

 

 

 ケイを信じて菌根に手を翳してみる。そして意識を菌根に向けてみると、引きずり込まれるような感覚がした。

 

 

『くそっ、エヴリン!菌根にアクセスできるか!?』

 

『やってみる!』

 

 

 まるで深海に沈んでいくように、意識が沈んでいく私に向かって必死に泳ぎながら手を伸ばす大小二つの人影が見えて、私は咄嗟に手を伸ばした。




プロローグでもわちゃわちゃしているイーサンとエヴリン。イーサンもすっかり幽霊ライフに慣れてしまってます。思春期の娘の言葉!効果は抜群だ!ボケ×ボケは止まらないけどシリアスはちゃんとやる。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡ【珍道中再び】

どうも、放仮ごです。一ヶ月ぶりで申し訳ない。今更ですけどShadows of Rose編は本作本編のその後の時系列なので、ハイゼンベルクおじさんは生存してないし、エヴリンと四貴族は仲良くないし、7の時にジョーと共闘している訳でもなかったりします。

今回は名コンビ復活。楽しんでいただけると幸いです。


 落ちて行く。落ちて行く。真っ黒な、深海の様な世界にゆっくりと降下しながら、窓の様に記憶が見える。

 

 

――――ローズって変わってるよね

 

――――いつも虚空に向かって話しかけてるし

 

――――ホント、なにか変なものが見えてるんだって

 

――――気持ち悪い!

 

――――「父さんと姉さんを悪く言うな!」

 

――――こっちに来ないで!化け物!

 

――――あいつを友達にするなんて

 

「やめて」

 

――――ローズって普通じゃないよね

 

――――手から何か出たんだ!

 

――――ローズは絶対変だよ!

 

「やめて!」

 

 

 耳を押さえる。聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。父さんと姉さんを馬鹿にされたのが嫌だった。そしたらあの力が出た。それから周りの反応は分かりやすく変わった。「拒絶」だ。

 

 

「お願い!もうやめて!」

 

 

 耳を押さえ縮こまりながら落ちて行く。そんな私の手を掴む二つの手があった。

 

 

「…え?」

 

「「ローズ」」

 

 

 優しい声色で呼びかけられる。私はそんな二つの手に引かれるようにして、意識が浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…れで、これからどうする?」

 

「ローズを害する者全部ぶっ壊して突き進む」

 

「さすが。それでこそイーサン」

 

「起き抜けに頭の悪い会話しないでよ…」

 

 

 起きるなり聞こえてきた父と姉の会話にツッコみながら目を開ける。倒れていたのか研究室の椅子で、そこにいたのは見慣れた二人。だが様子がおかしい。父さんは両足を地面に付けてるし、姉さんは机の上に座っていた。実体が、ある?

 

 

「よかった、ローズ起きたか!このまま目を覚まさないんじゃないかと…」

 

「心配してたんだからね!やったー、触れる!この!この!一生分撫でまわしてやる!」

 

「わ、わ、わ……いい加減にして!姉さん!ってあれ、触れる…」

 

 

 その小さな体で飛びついて来て、顔にしがみ付いて撫で繰り回してきた姉さんを押しやり、違和感に気付く。突き抜けない。触れる。子供の頃はモールデッド・ギガントになった姉さんに優しく撫でられたことはあったけどそうじゃない、姉さんの手は子供の様に柔らかくてひんやりしていた。

 

 

「…同じ場所、だよね…?ケイは?」

 

 

 そう尋ねると二人は顔を見合わせる。どうしたんだろう?

 

 

「…落ち着いて聞いてくれ、ローズ」

 

「ここは菌根の世界。なんでもありの非現実だよ」

 

 

 そう言ってとてとてと姉さんが歩いて出口に向かうと、EXITと書かれた扉の向こう側は石造りの通路に繋がっていた。

 

 

「見たことがある。この感じはドミトレスク城だ。俺が先頭をいく、ここを進むしかなさそうだ」

 

 

 こういうことに慣れている父さんの言葉に頷いて、父さんを先頭に、私が二番目、姉さんが殿としてついていく。霧が立ち込めていて真っ暗だ、ライト持っててよかった。二人にもしものためにって持たされていたのが役に立つなんて。

 

 

「私の母体でもある特異菌、菌根は自身に感染した死者の情報を記録して一種のネットワークを構築してたんだ。ミランダはそれを利用して死者の記憶を介して娘のエヴァを復活させようとしていた。だからここは多分、記録されたクソデカオバサンの記憶からできた世界…」

 

「クソデカ?」

 

「落ちるーな・ゴミ取れっす……じゃないや、えーと、オルチーナ・ドミトレスク。態度も身長も胸もお尻も顔も全部クソデカオバサンだよ」

 

「ぶふっ。久々に聞くと笑えるなそのあだ名フルネーム」

 

 

 姉さんの言葉の謎ワードに思わず反応すると返ってきたボケボケの言葉に父さんが笑う。単に失礼にしか思えないんだけどどんだけでかいんだろうそのドミトレスクとかいう人。

 

 

「今思えばアイツもミランダの被害者だったのかもな」

 

「追い回された恐怖の方が大きいからもしそうでも許さない」

 

「まあそうだな。足元が悪い、気を付けろ」

 

 

 そう言われて下を向くとバケツやらが転がっていた。確かにこれは危ない。すると父さんはバケツやら転がっているものを蹴り飛ばして、先を確認しながら進むと言う荒業を始めた。ええ……。

 

 

「イーサン、ローズが引いてるよ」

 

「え゛こ、これはだな?昔の癖が、な?」

 

「姉さんが言ってた暴れん坊父さん、嘘じゃなかったんだ」

 

「全部まごう事なき真実だよ」

 

 

 じゃあドラゴンと空中戦したとか巨大な赤ん坊から逃げ回ったとか鉄人兵団と共闘したとかも本当なのか……え、そんなやつらの記憶の世界を行くの?やだなあ…。

 

 

「ここは地下牢みたいだな」

 

「そうだね。でもドミトレスク城にこんな道あったっけ?地下牢はあったけどさ」

 

「イングリドのところか。…雰囲気は同じだがこんな通路は知らないな」

 

「本物とは違うのかも。油断しないでねイーサン、今は丸腰なんだから」

 

「わかってるさ」

 

 

 そのまま進んでいると、ちょっとだけ広い通路に出た。父さんが周囲を警戒している間に横の小部屋に姉さんと共に入り、なにかないか探るとメモを見つけた。

 

 

「姉さん、これ」

 

「なになに?……ローズに触れるのはいいけど、浮かべないの不便だなあ」

 

 

 ぴょん!ぴょん!と跳ねて私の持ったメモを見ようとする姉さんでも見える様に下ろすと、少し不満げにしながらも内容を確認する。

 

 

「“早くしないと、私の番がくる。「結晶」を手に入れないと”?なんじゃこれ」

 

「結晶ってものを探せばいいのかな」

 

「多分そう。イーサン、手がかりっぽいの見つけたよー!」

 

「こっちは武器を見つけたぞ」

 

 

 戻ってみると、父さんは鎖に付けられたよく分からない豚の頭みたいな鉄の器具を持ってた。なに、その…なに?

 

 

「多分拷問器具だ。これ振り回せば戦えるだろ」

 

「脳筋イーサン再び!」

 

「あはは…」

 

 

 呆れながら父さんを先頭に先に進むと分かれ道に出て、そのまま進むと行き止まりだったのでもう片方の道に行こうとすると父さんが手で制した。なにか見つけたらしい。

 

 

「…エヴリン。あれ」

 

「これ…菌根かな?赤くも見えるけど」

 

「これが?気持ち悪い…」

 

 

 その部屋の奥に敷き詰められていたのは赤黒く、蠢いている半固体の液体の様なもの。近いのはモールデッド・ギガントの体表だろうか。

 

 

「触るなよ、なにがあるかわからん」

 

「うん」

 

「なんか複雑だあ」

 

 

 そのまま広くなった通路を進んでいると、ガシャンガシャン!と扉を叩く様な音が響いた。思わず固まり、父さんは鎖を握った手を構える。

 

 

「…なんだ?エヴリン」

 

「無理だよ、昔みたいに偵察できないしなんなら行きたくない」

 

「出して……」

 

「ローズ、出してって何が?」

 

「わ、私じゃない!なのに私の声…?」

 

 

 聞こえてきた声の方に向かうと、閉ざされた牢屋があって。ガタンガタンと揺れていた。

 

 

「誰かいるのか!?」

 

「ここ、危ない…」

 

「何が危ないの?」

 

「…」

 

「待ってて、開ける方法を探してみる!」

 

「ローズ、本気か?」

 

「初めてここで出会った人、手がかりだよ。やるしかない」

 

 

 そう言うと父さんと姉さんも納得した様で頷いてくれた。牢屋の鍵、どこかにないだろうか。牢屋の横には地下に続く階段と、大きな扉があった。こっちかな…?

 

 

「…ローズはここで待っててくれ、ってわけにもいかないか」

 

「もう明らかに危険だよ。第一村人が出て来たら最初の襲撃に注意しよう」

 

「なにそれ?」

 

「お約束?」

 

「本当に何だそれは」

 

 

 変な電波をキャッチしたらしい姉さんの戯言を適当にあしらいながら先に進んでいくと、揺れているフックが合って。

 

 

「武器によさそうだがさすがに危ないか」

 

「そうだねえ、今のイーサンは頑丈なのかもわからないしやめとこ?」

 

「だけど揺れてたってことは誰かいたってこと…?」

 

 

 振り返った、次の瞬間。ガコンと言う音がして。

 

 

「「危ない!」」

 

 

 父さんの大きな手と、姉さんの小さな手に掴まれて後退した瞬間、今の今までいた場所にシャンデリア?が落下していた。そこには、血文字でROSEと書かれていて。

 

 

「ローズの名だと…?」

 

「…ローズが狙われているのは間違いないみたい?」

 

「そんな、なんで…」

 

 

 警戒しながらさらに奥に進んでいくと、灯りがついているカンテラが置かれている部屋に鍵が吊り下げられていた。

 

 

「これじゃない?」

 

「明らかに罠なんだが」

 

「イーサン、それで拾えない?」

 

「やってみるか」

 

 

 取りに行こうとした私を姉さんが引き止め、父さんが鎖を振り回して豚の顔の形の拷問器具を投げつけると見事にひっかけて回収。父さん何者だったんだろう。エンジニアってのは嘘だよね絶対。

 

 

「やっぱりな」

 

「逃げるよローズ!」

 

 

 するとボゴボゴと鍵があった下の足場に赤い血液の様なものが溢れだして、何かが出てこようとしてきたのを父さんが投げつけた拷問器具が飛び散らせる。な、なんだったの?姉さんが先導して、来た道を戻って行くも天井や床からあの赤黒いドロドロが溢れだしており、まるで浸水しているかのようだ。

 

 

「なに!?なんなの!?気持ち悪い!」

 

「さっきの鍵が明らかに罠だったんだろうね!イーサン、殿頼んだよ!」

 

「お前も、もしもの時はやんちゃっぷりでなんとかしろ!頼んだぞ!」

 

 

 確かに信頼し合っている姉さんと父さんに守られる形で来た道を戻り、牢屋に辿り着くと鍵を開ける。そこには誰もいなくて、代わりに紙が置いてあった。

 

 

「なんだろう、これ…」

 

「ベイカー家で描いてた私の絵と似てるけど…って!」

 

「ローズ、下だ!」

 

 

 下にいつの間にか出てきたドロドロから出てきた「腕」が私の脚を掴み引きずり込もうとして、父さんが私の手を引いて引っ張り、姉さんがその腕を踏み潰す。

 

 

「助かった…ありがとう」

 

「絵で油断させたところを狙ってくるとかワンパターンだな!」

 

「油断も隙もないな、クソッたれ」

 

「……貴方には頼もしい味方が二人もいるのね」

 

 

 その声に三人揃って振り向き、驚愕する。そこにいたのは毎朝鏡で見ている顔。私の顔を持つ、姉さんみたいな黒い服を着た少女がそこにいた。

 

 

「私に、そっくり…」

 

「あなた、だれ?」

 

「私はローズだよ、姉さん」

 

「何が起きてるんだ一体」

 

「父さん。早く逃げないと。ここは危ないよ」

 

 

 そう言って歩き出した少女を、私達はついていくしかなかった。いったいなんなの、ここは!




菌根の世界に入ったことで久しぶりに実体を得たイーサンとエヴリンに手厚く守られたローズの珍道中、始まるよ。イーサンもエヴリンも絶好調。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢ【衆合地獄】

どうも、放仮ごです。これを書く直前に新作ゼルダでギブドというミイラゾンビもどきと戦って大苦戦されられたので今回の話は私怨が入ってます。親玉は特に許さん。

今回は名コンビ大暴れ。楽しんでいただけると幸いです。


「せ!つ!め!い!せつめーをよーきゅーする!」

 

「落ち着けエヴリン」

 

 

 道案内する様に先を進む黒い私についていく私達。暴れそうな姉さんを父さんが押さえてるが、さっきから周りからズゴゴゴゴゴ!と轟音が鳴り響いているからそれどころじゃない。来た道を戻っているんだろうかこれは。行き止まりだった部屋まで来ると、黒い私に促されて父さんが奥の麻袋を持ち上げ移動させる。中身は…考えたくないな。

 

 

「こっち」

 

「ちょっと!待ってよ!どこに行くの?」

 

「ローズらしいお転婆だね」

 

「俺としてはその体勢は見えるからやめてほしいけどな。エヴリンじゃないんだから」

 

「なんだとお!?」

 

 

 するとぽっかりと空いた横穴に入って行く黒い私。追いかけて行くと隣の区域に来て、ちょっと広い牢獄の様なところに出る。奥から声が聞こえて、不思議に思って覗いてみて絶句した。

 

 

「私…!?」

 

「なんなの、ここ…!?」

 

「今助けるぞ!」

 

 

 そこにいたのは、黒い触手の様なものに覆われた黒い私。今目の前で冷めた目で見つめている黒い私とは別だ。父さんが激昂して扉を蹴り開けて助けようと手を伸ばすが、触手に囚われた黒い私は手が届く直前で飲み込まれて行ってしまった。

 

 

「くそっ…!」

 

「…ローズじゃない、よね?」

 

「私はここにいるよ姉さん…」

 

 

 父さんは拳に苛立ちを込めて地面にぶつけ、姉さんはふざける元気もなくなった様でシュンとしている。私は今にも吐きたい気分だ。そう込めた視線を黒い私に向けて、気付く。周りの牢獄。全てに、黒い私がいた。

 

 

「父さん!」

 

「助けて!」

 

「姉さん!」

 

「こんなのいやぁあ!」

 

「なんで私がこんな目に…!」

 

 

 父さんと姉さんの顔を見て、次々と黒い私の口から絶叫が上がる。なんだここは。何が起こっているんだ。なんで、私と同じ顔がこんなにいて、酷い目に遭っているんだ。

 

 

「いっぱいいる…私と同じ顔が…」

 

「ローズ、しっかりして!」

 

「くそっ、こうなりゃ全員…!」

 

 

 父さんが拷問器具を振るって鍵をこじ開けようと試みる。ガキン、ゴキン!と鈍い音が鳴って、次々と牢が解放されていく。私からしたら地獄みたいな光景だ。

 

 

「ああ、父さん…!」

 

「助かった…!」

 

「早く逃げ出さないと…!」

 

「待て、お前たちみんなローズなのか…!?一体何が起こってる?」

 

 

 最初の黒い私……黒い私Aとでも呼ぼうか……が驚いた顔でこちらを見ている。

 

 

「…全員出すだなんてさすが父さん。私は、やろうとも思わなかった。これなら、皆助かるかも……!?」

 

 

 その瞬間だった。安堵した表情の私が、突如開いた奥に通じる鉄門から出てきた全身が灰色の顔が溶けたのっぺらぼうの様な怪物に顔を近づかれて顔から何かを吸い出され、倒れてしまう。悲鳴を上げて逃げまどう黒い私達を余所に、父さんが拷問器具を手に殴りかかる中で私と姉さんは咄嗟に黒い私Aに近づく。

 

 

「たす…けて…」

 

「そんな…」

 

「ひどい…」

 

 

 顔を向けた黒い私Aの顔はまるで生気を吸い取られてミイラにでもなったかのように干からびており、そのまま事切れてしまう。あの灰色の奴に襲われたら、私もこうなるかもしれない…そんな恐怖に苛まれていると、父さんを突き飛ばした灰色の怪物が私に襲いかかってきた。

 

 

「させるかあ!」

 

 

 するとスライディングで怪物の股の間を潜り抜けた姉さんが肩に手をかけて無理やり体勢を崩して屈ませ振り向かせ、そこにアッパーカット。顎を砕かれた怪物は崩れ落ち、塵と化す。

 

 

「ファミリーパンチ!こんのフェイスイーターめ!ローズに手を出す奴は絶対許さないからね!」

 

「エヴリン、ローズを守れ!ここはもう駄目だ…先に進むぞ!」

 

 

 そう言って駆け寄ってくる父さん。周りを見れば、同じ灰色の怪物…姉さんの言うところのフェイスイーターに襲われる黒い私達。あれはもう、助からない…。父さんと姉さんが私を守りながらジリジリと後退する。最初のフェイスイーターが出てきた鉄門の向こうにいくしかない…!

 

 

「てやっ!こんの!…ローズ、後ろ!」

 

「えっ?」

 

 

 父さんと共にパンチやキックでフェイスイーターを薙ぎ払っていた姉さんがこちらを向いて叫び、振り向くといつの間にか近づいて来ていたフェイスイーターが。

 

 

「イヤァアアアアアッ!」

 

 

 離れて、という意思を込めて手を突き出す。すると私の手が白く光り輝いてフェイスイーターを吹き飛ばした。困惑しながら自分の手を見やる。白い植物の根の様なものが両手に張り巡らされていた。これは、私の力…!?

 

 

「オラア!ローズ、今は逃げるぞ!」

 

 

 立ち上がろうとしていたフェイスイーターの顔を踏み潰して沈黙させた父さんに手を引かれて、奥に進む。追いすがってくるフェイスイーターたちは、父さんから拷問器具を投げ渡された姉さんが壁を破壊してその瓦礫で通せん坊されている。すごいコンビネーション…!

 

 

「ローズ、私達が守れない場合はその力を使って!大丈夫、ここに貴方を化け物扱いする奴は誰もいない!いても私がブッ飛ばしてやる!接触できない現実じゃないもんね!」

 

「右に同じだ。だからローズ、その力を好きになれとは言わない。だけど、使えるものは使え!じゃないと生き残れないぞ!」

 

「…うん!」

 

 

 姉さんと父さんに元気づけられ、頷く。そうだ、今はこの忌まわしい力でも使えるものは使うんだ…!

 

 

「邪魔、だあ!ライダーキーック!」

 

「ローズ!出てきた傍から踏み潰せ!顔を潰されて死なない奴は………ジャックとかドミトレスクとか例外はいるがいないはずだ!」

 

「いるのかいないのかどっち!?」

 

 

 道行く先にある黒いドロドロから湧き出てくるフェイスイーターを、姉さんが全体重を乗せたドロップキックで、父さんと私のストンプで頭部を潰しながらひた走る。凄まじい数だ、このままじゃ…!すると行き止まりに出てしまう。弓矢や槍を構えた彫像が掘られた壁だ。

 

 

「嘘でしょ、行き止まり!?」

 

「イーサン、ここって!」

 

「ドミトレスク城のあそこか!くそ、出口は何処だ…!?」

 

「擦り抜けられればなあ!」

 

 

 父さんたちの知っている場所らしいが、その記憶とも違うらしい。万事休すだと、父さんと姉さんが身構える。すると。どこからともなく光の粒子がやってきて、私が背にしていた壁に集まると壁が開いて奥に道が現れた。

 

 

「なんなの!?」

 

「よくわからんけど助かったからヨシ!」

 

「先に行け!」

 

 

 かがり火を手に取り、放り投げてサッカーボールの様に蹴り飛ばす父さんを余所に、私と姉さんで先行する。父さんが凄すぎる…!あの嘘みたいな冒険譚は、本当だったんだ…!

 

 

「少しは信じた?」

 

「うん、うん…!」

 

「急げ二人とも!」

 

 

 姉さんの言葉に頷き、追いかけてきた父さんに急かされる形で、ドロドロに包まれた壁から飛び出してくるフェイスイーターの手を払いながら突き進むとワインセラーの様な場所に出て、不思議なものが見えた。金色の粒子で作られた「This way(こっち)」という文字だ。その方向に進むと、行き止まりだった部屋のワイン棚がスライドして道ができた。

 

 

「二人とも!」

 

「さっきからなんなんだろ!?」

 

「なにかが味方してくれている!日本のことわざで地獄に仏とはこのことだ!」

 

 

 次々と行き止まりで現れる文字に従い、ワインセラーを突き進み、横穴を進んでいくと一転して煌びやかな部屋の暖炉に出た。

 

 

「ここって…」

 

「たしか、俺が磔にされた部屋の隣の部屋に似ているな」

 

「なにされてるの父さん…」

 

 

 各々座って一息ついていると、床に金色の粒子で文字が記される。

 

 

【大丈夫 か?】

 

「ええ、助かったけど…あなた、なんなの?」

 

「なんだろ、これ?」

 

「文字が出てくるのか、何でもありだな」

 

【敵じゃない】

 

 

 字が消えて次の字が浮かんでくる。ちょっとかわいく感じた。

 

 

「それはわかったけど…あいつらはなんなのか知ってる?」

 

「お前は何なんだ」

 

「妖精さんかなにか?」

 

【帰れ。今すぐ】

 

 

 私達の質問を無視して記された言葉に、思わず言葉が詰まった。




原作通りフェイスイーターと金色の文字くん登場。エヴリンはフェイスイーターをまんま「顔喰い」という意味で呼んでいます。

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ダイブⅣ【その名はシャルル】

どうも、放仮ごです。何度でも言いますがこのルートは本編ルートのその後の物語です。デュークの話の後日でもあります。

今回は金色の文字の名前が…?楽しんでいただけると幸いです。


「帰れって…どうやって帰ればいいの!?ここが菌根の世界ってのは教えてもらったけど帰り方なんて知らないよ!」

 

 

 フリーズから我に返り、黄金の文字に絶叫する。帰れるものなら帰りたい。もういやだ。父さんと姉さんと触れ合えたのは嬉しいけど、私と同じ顔が無惨に殺されていくのはきつすぎる。父さんと姉さんは黙って見つめていた。私の意思を尊重してくれると言う事だろうか。

 

 

【手遅れになる前に帰れ。お前たちもだイーサン、エヴリン】

 

「俺達を知っている…?」

 

「この粗暴だけど面倒見よさそうな感じどこかで…」

 

「だから帰り方が分からないの!…この力を、父さんと姉さんが見える程度に抑えたい、それができる結晶がここにあるはず、それを見つける!」

 

 

 帰りたいけど、化け物扱いももう嫌だ。でも二人とお別れも嫌。わがままだとは思うけど譲りたくはない。

 

 

「…そんなものないって言うなら諦める。でもあるのなら、見つけるまで帰れない。私は、二人に自分たちが足枷だと思ってほしくないの…!」

 

 

 二人が見える事と化け物扱いは関係ないと理解している。でも父さんと姉さんは違う。自分たちがいるから私に迷惑をかけてると思ってる。そんなことないのに、その存在に助けられているのに…。すると一瞬の間があってから文字が浮かんだ。

 

 

【ここは嬢ちゃんには危険すぎる。そこの馬鹿二人はともかく】

 

「誰が馬鹿だあ!」

 

「どうどう。話が進まん」

 

 

 激昂する姉さんの両肩を父さんが押さえる。まるでこの二人を知っているかの様な口ぶりだ。

 

 

「貴方は誰?私の守護天使かなにか?」

 

【それでいいさ】

 

「天使ならミカエル…つまりマイケルよね。どう?」

 

【そいつは違うな】

 

 

 すると明確な否定の言葉を浮かべる金色の文字。そのままさらさらと消えては浮かび、壁に記されていく。

 

 

【俺は天使ってがらじゃない。俺の名は……シャルルマーニュだ】

 

「長いよ。シャルルでいい?」

 

【好きに呼べ】

 

「しゃるるまーにゅ?」

 

「シャルルマーニュ。確かフランスに伝わるカロリング物語群、シャルルマーニュ伝説の登場人物にしてフランク王国の君主の名だ。王様を名乗るなんて不遜な奴だな」

 

「それでシャルル。これからどうすればいい?」

 

 

 首をかしげる姉さんに説明する父さんを尻目に金色の文字…シャルルに尋ねると、扉に文字が浮かび上がる。

 

 

【ここは危険だ。移動しろ】

 

「わかった。…行こう、姉さん。父さん」

 

「一番安全そうに見えるけど…見かけだけか」

 

「待て。その前に情報が無いか探そう」

 

 

 拷問器具を手にそう言う父さんに思わず苦笑い。ナチュラルに持ってるけど違和感なくて怖い。言いながらシャルルの示した小さい方の扉ではなく大きな扉に向かう父さん。大きなベッドと暖炉の部屋に出た私達は探索、ある文書を見つけた。

 

 

「父さん、これ…」

 

「ビンゴだ。精神世界でも情報は大事だな」

 

「えーと、なになに…【「大役」をお任せいただき、心より御礼申し上げます。また、此度の任務のために賜った「黒領域」が素晴らしい働きをしていることをご報告しておきます。】」

 

「父さん。「黒領域」ってあのドロドロかな?」

 

「多分な、この文書を書いてるこいつとその親玉の差し金だったわけだ」

 

「続けるよ。【私の狩人たちの移動を助けるばかりか、獲物に絡みついて足止めし、さらにはそのまま飲み込んでしまうとは!これがあれば、必ずやご期待通りの結果をお出しすることができるでしょう。】………こいつかあ」

 

 

 怒りに顔を歪ませる姉さん。黒い私の一人が黒領域に飲み込まれたのを思い出したのだろうか。

 

 

「エヴリン落ち着け。こいつの正体を探ってぶん殴ることが大事だ」

 

「うん、そうだね。でもこれが最後みたい。他に文書らしいものはないよ」

 

「…ここはドミトレスクの寝室みたいだが、まさかあいつがいるのか?」

 

「え。やだなあ。もしいたらぶん殴るけど」

 

「すぐぶん殴るのやめようよ二人とも…」

 

 

 呆れながら元の部屋に戻り、小さい方の扉から先に進もうとして、足が止まる。まただ。私と同じ顔の黒い服を着た少女のミイラみたいになった顔の死体が廊下に転がっていた。

 

 

「もう嫌……なんで私と同じ顔なの…私もこいつらと同じなの…?」

 

「落ち着けローズ。それはお前じゃない。お前が本物なのは俺達がよく知ってる。大丈夫だ」

 

「しっ!二人とも、静かに」

 

 

 思わずしゃがみこみ、父さんが頭を撫でてくれていたその時、姉さんが何かに気付いて口元に人差し指を立ててシーッとジェスチャーしてきたので慌てて口を塞ぐ。聞こえてきたのは、子供の頃に聞いたことのある声だった。

 

 

「ほらほらほらほらぁ!もっと一生懸命逃げないと!アッハッハハハハッ!」

 

「この声…聞き覚えある、なんで…?」

 

「…イーサン、この声…」

 

「……デューク?」

 

 

 デューク。父さんの口から出たその名前は聞き覚えがある。子供の頃に一度だけ出会った、超肥満体型のおじさん。父さんと姉さんの冒険を手助けしてくれた商人で、美味しい料理をごちそうしてくれた。でもあの時の言動とは似ても似つかない。父さんが先導して廊下を進み、広い場所に出ると、階段の上からさっきの声が聞こえてきた。

 

 

「ヴェへへへハハハハハッ!ハァ……ハハハハハッ!!」

 

 

 汚い笑い声が聞こえる中、私達は声を潜めて階段を登って行く。階段を上ったところにある扉の先に、この声の主がいる。そっと扉の隙間から覗きこむと、ちょうど扉の向こう側で黒い私の一人がフェイスイーターに捕らえられていたところだった。

 

 

「やめて!やめてえ!アァアアァアアアッ!?」

 

「ブヘヘヘ。また一匹捕まえたようですな。よくやりましたフェイスイーター。かつての自分を道連れにしようとする執念、大したものですな」

 

 

 見えた、声の主。口元から上を隠す四つ目から黒い涙を流したような白い仮面を被った超肥満体型の大男。間違いない、デュークだ。フェイスイーターを従えているようで、足元まで連れて来られた黒い私を品定めでもするかのように見下ろしている。…どういうこと?かつての自分?あの怪物も、私だっていうの…?

 

 

「おやおや。活きがいいですな!結構結構!ですが、それだけ抵抗できるならもう少し楽しませてくれてもよかったのではないですか?」

 

「いや!放して…!」

 

 

 黒い私の顔を太い指で掴んで持ち上げるデューク。黒い私は振り払って逃げようとするが、フェイスイーターがそれを許さない。

 

 

「どうやらこのウサギではちょっと力不足だったようですな…!おやりなさい」

 

 

 そう言ってデュークが手を下げると、黒領域が出現してフェイスイーターが次々と顔を出して黒い私を拘束し、黒領域に引きずり込んでいった。

 

 

「残念ですな。もう少し気概を見せていれば、浄化結晶を手に入れられたのに」

 

 

 そう言って視線を向ける先には眩く青白く輝く結晶体が入ったカンテラが。あれが、結晶…!

 

 

「あっ…」

 

「ローズ!?」

 

「しまっ…」

 

 

 思わずもう少しちゃんと見ようと扉を押してしまい、止めようとした姉さん諸共デュークの前に転がり出てしまう。

 

 

「誰です!?」

 

「デブ野郎め、こいつでも食っとけ!」

 

「ギャアアアア!?」

 

 

 デュークが私達を視認するが、次の瞬間には父さんが投げつけた拷問器具が顔に激突し、仮面もろともその巨体が吹き飛ぶ。

 

 

「新しいウサギが迷い込んだようですな…!」

 

 

 立ち上がるデュークの仮面の下の顔は存在してなかった。真っ黒な穴の様な、虚無がそこにあった。そして黒領域が出現し溢れる様に湧き出してくるフェイスイーターたち。

 

 

「いったん逃げるぞ!」

 

「うん!ローズ、立って!逃げるよ!」

 

「わ、わかった…!」

 

 

 父さんと姉さんに急かされ、なんとか立ち上がり走り出す。あの結晶があれば…絶対、手に入れて見せる!




シャルルマーニュ、シャルルと名乗った金色の文字。いったいだれなんだー。

“デューク”の素顔やフェイスイーターの正体についてはオリジナル要素です。公式でもそうだといいなって感じ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅤ【それぞれの武器】

どうも、放仮ごです。シャルルのことほとんどの感想で把握されてて笑いました。

今回はデュークの追手からの逃走。楽しんでいただけると幸いです。


 中身が空っぽだった仮面のデュークの怒声の混じった大声が聞こえてくる。

 

 

「よくもやってくれましたなあ!凶暴な親ウサギを連れてきたとはやるじゃないですか!さてさて、今度のウサギは逃げきれるでしょうかねえ?!」

 

 

 その言葉と共にさらにフェイスイーターたちの咆哮が聞こえる。さらに増えた…!?

 

 

「さあお前たち!邪魔者の二人を消し去り、あの獲物を捕らえなさい!ウサギ以外はどうしようが好きにしなさい!…いいや、惨たらしく殺すがいい!」

 

「俺達はやっぱり邪魔ものらしいな。寂しいことだ」

 

「退屈しないから私としては嬉しいかな!」

 

 

 言いながら立ちはだかるフェイスイーターを父さんに投げてもらった勢いで蹴り飛ばす姉さん。阿吽の呼吸ってやつだ、何も言わないでも連携できるなんて。

 

 

「ここがあそこならこっちがたしか玄関だったはずだ!」

 

「まあ出してくれないだろうけどね!」

 

「姉さんの言う通りみたい…!」

 

 

 玄関らしき場所に出たが、外に通じる扉の先の城門は潜る直前に閉ざされてしまった。恐らく無理やり開けても外には通じてないのだろう。

 

 

「だろうな!よし引き返すぞ!」

 

「でもたくさんフェイスイーターが!武器もないのに!」

 

「なあに、なんでも武器にすればいい!」

 

「生身の身体があるだけでもだいぶ違うんだなあ!」

 

 

 元々B.O.W.…生物兵器だった故なのか、タッタッタッと小さな体で壁を駆け抜けて横からドロップキックでフェイスイーター三体を纏めて粉砕する姉さん。その奥から迫って来ていたフェイスイーターは、入り口にあった松明を手に取った父さんが殴りつけて炎上させる。

 

 

【ほらな。馬鹿二人は何とかなるが嬢ちゃんには危険すぎる】

 

「シャルル!?」

 

 

 すると足元に文字が浮かび上がった。シャルルだ。父さんと姉さんが応戦しているけど多勢に無勢すぎる。このままじゃ、押し切られる。

 

 

「危険すぎるだろうけど、私はあの結晶が欲しいの!シャルル!なにかあるなら教えて!」

 

【しょうがない、頑固な娘だ。なら武器がいる。銃だ。あの自称一般人の娘なら使える】

 

「嘘でしょ!?私変な力が使えるだけで正真正銘一般人なんだけど!?」

 

【別に使わなくてもいい。お前次第だ】

 

「…銃は何処にあるの?」

 

【文字に触れろ】

 

「えっ…こんな感じ?」

 

 

 言われるままに金色の文字に触れる。すると文字が溶け込むように手に集まり、拳銃を形成した。たしかオートマチック拳銃と呼ばれる銃だ。

 

 

【狙って撃て】

 

「え、イーサン!ローズが銃刀法違反してる!」

 

「俺にそれ言うか!?ローズ、それを渡せ!」

 

「ううん、父さん。…私がやる!姉さん伏せて!」

 

 

 私に危険なことをさせまいとする父さんの言葉に首を横に振り、両手で構える。すると私の言葉に瞬時にしゃがんでくれた姉さんの頭上の先、フェイスイーターの頭を狙って引き金を引き、弾丸がフェイスイーターの顔を粉砕した。

 

 

「…いける!」

 

「さすがイーサンの血だねえ」

 

「嬉しくないぞ」

 

 

 続けて引き金を引いて狙い撃って迎撃している横で、フェイスイーターの顔を掴んで捻って首を折る父さんと、しゃがんで飛び上がるアッパーカットでフェイスイーターの顎を粉砕する姉さん。なんで銃を使っている私より強そうなんだろうか?

 

 

「…やった。シャルル、ありがとう」

 

「アイツの仕業か。銃を出せるなら俺に渡してくれればいいのに」

 

「ローズぐらいの力が無いと無理なんじゃない?ほら、私達結局実体がないわけだし」

 

「それもそうか」

 

 

 そうこうしているうちに追いかけてきていたフェイスイーターの殲滅を終える。軽く30体はいた気がする。

 

 

「さっさと結晶を手に入れて帰るぞ。これ以上ローズを危険にさらせるか」

 

「可愛い子には旅をさせよともいうよ」

 

「ならお前はローズを一人で学校に行かせられるか?」

 

「無理だね!」

 

「二人とも過保護すぎるよ…あれ、あいつらどこ?」

 

 

 警戒しながら戻ってくると、デュークの姿は消えていた。だけど浄化結晶はちゃんと残ってたため、近づいて手に取ろうとするがカンテラに阻まれる。

 

 

「このままじゃとれないみたい…」

 

「何時もの謎解きだあ。謎解き好きな人が多いよねえ」

 

「ルイジアナのお前とミランダの馬鹿と続くともう慣れたがな」

 

「これかな?【使徒たちに金・銀・銅の仮面が戻った時光は解放されるであろう】だって。仮面なんて一体どこにあるの…?」

 

 

 傍の石板の本に書いてあった文字を読んでみる。使徒たちってのはカンテラのついている彫像の三つの石像のことだろう。

 

 

「これ壊せないかな?」

 

「やってみるか」

 

「謎解き(物理)!?」

 

 

 持っていた松明を姉さんに渡して、近くの観葉植物の入った壺を持ち上げて叩きつける父さん。カンテラはビクともせず、逆に観葉植物の壺が砕け散ってしまった。これで駄目なの…?

 

 

「あー、精神世界だから概念的に守られてるねこれ。謎解きしないと絶対手に入らない奴だ」

 

「どうする?父さん、姉さん」

 

「探すしかないだろうな。とりあえずこっちが中庭に通じていたはずだ」

 

 

 松明を受け取り奥の扉に進みながらそう言う父さん。ついていくと、食堂の様な所に出た。奥にはよく分からない仕掛けがある。赤い三つの目の装飾が不気味だ。

 

 

「あ、ショットガン」

 

「…見るからになんか鍵を持って来いって奴だな」

 

「【真実を観る三つの目を捧げよ】だって」

 

「覚えておいて見つけたら戻ってくるしかないな。長丁場になりそうだ」

 

 

 そう言って中庭に通じるであろう扉を開けようとして止まる父さん。見てみれば取っ手に頑丈そうな鎖がグルグル巻きにされていた。

 

 

「…こいつはハンドガンでも無理だな。チェーンカッター辺りがいりそうだ」

 

「じゃあまずはこっちかな」

 

 

 もう一個ある扉を見やると既に姉さんが開けていた。怖いもの知らずだな。

 

 

「敵影なし。今のうちだよ二人とも」

 

「相変わらず偵察が得意だな」

 

「私、武器が無いから積極的に頑張るよ」

 

「姉さん武器いらなくない…?必要ならそこの甲冑とかどう?」

 

 

 扉の先に飾られていた甲冑を指差す。腕だけ外して身に付ければ拳の威力ぐらい上がりそうだけど。

 

 

「私非力だから重いよ」

 

「顎を粉砕する奴が非力を訴えるな」

 

「そもそもこれ外せないみたいだよ。残念だなー、武器欲しかったなー」

 

 

 口笛を吹いてそっぽを向く姉さん。誤魔化せてないからね。やっぱり生物兵器って強いんだろうか。こんな小さいのに。

 

 

「なんか失礼なこと思われた気がする」

 

「そ、そんなことないわよ?」

 

「お前らが本当の姉妹みたいで俺は嬉しいよ」

 

「どっちかというとイーサンと親子だねって方が正しい気がする。何時も失礼なこと考えてたし」

 

 

 誤魔化せてなかったらしいし私は父さんに似てるらしい。ちょっと嬉しいかも。

 

 

「こっちはキッチンみたい?」

 

「このポールハンガーいいな、持ちやすい」

 

「キッチンならまず包丁探さない?」

 

 

 松明を置いて廊下に置かれていたポールハンガーを手に取って槍みたいに構える父さんに思わず呆れていると、呻き声。キッチンの奥からフェイスイーター一体が現れた。

 

 

「私が!」

 

「いいや、弾の無駄だ!」

 

 

 ハンドガンを構えるも、その横を父さんが突撃。ポールハンガーを思いっきりフェイスイーターの腹部に突き刺して持ち上げ、壁に叩きつけた。ええ…。

 

 

「イーサン、システムエンジニア名乗るのもうやめよう?アマゾンの戦士とか言われた方が納得する」

 

「システムエンジニアだからどこにどう刺せば効率的か計算できたんだぞ?」

 

「絶対違うと思う」

 

【イノシシかお前は】

 

 

 シャルルにまでツッコまれる父さんはもう駄目かもしれない。




細かいチャートを覚えるのが苦手でここらへんのプロットはあやふやだったりします。大まかな流れは完璧なのだけどね。

現在の装備
ローズ:ハンドガン
エヴリン:素手
イーサン:松明→ポールハンガー

Q.この中でおかしいのは誰でしょう?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅥ【姉、怒髪天】

どうも、放仮ごです。前回のあとがきの答えは「唯一まともなローズがあの場合のおかしい人間」でした。結局は多数決。

今回は幻影エヴリンの闇ってそう言えば書いてなかったなと思いいたっての話。楽しんでいただけると幸いです。


「ふんっ!」

 

 

 ぐしゃっと音を立てて、父さんが手にしたポールハンガーに力を込めると壁に貫通して押し付けられていたフェイスイーターの腹部が砕けて塵と帰る。ポールハンガーで怪物倒しちゃった…。

 

 

「イーサン、生身じゃないとはいえ無茶苦茶すぎるよ…」

 

「素手で同じことができる奴に言われたくないぞ」

 

「二人とも大概だよ…」

 

 

 そのまま進もうとすると、凍える突風が吹き荒れていて。あまりの寒さに縮こまる。見れば窓が二つとも開いて寒気が入り込んでいた。

 

 

「さむっ…なんで窓が開いてるの…?」

 

「ドミトレスク三姉妹を倒した時に寒気を利用したからかな?」

 

「だろうな。俺達の記憶も混じってるぞこれ」

 

「ここから出られないの?…ダメか」

 

 

 全開に開けられていて外の雪景色まで見える窓から外に出ようと試みるが、見えない壁に阻まれる。まあ、そうだよね。出れるわけがない。出れても結晶手に入れるまで出ないけど。

 

 

「ん?おっ、チェーンカッターだ。これ、前にイーサンが使ってたやつだなあ」

 

 

 私が窓を調べている間にキッチンの奥を調べていた姉さんが見つけたそれを両手で持って重そうによろけたので慌てて受け止める。

 

 

「姉さんは小さいんだから無茶しないで」

 

「なにおう!私お姉ちゃんだぞ!」

 

「私より頭一つ分小さいのは事実でしょ」

 

「むぐう…」

 

 

 不服そうに頬を膨らませる姉さん。可愛い。姉をいじめるのは私のちょっとした趣味だったりする。すると奥の扉を調べていた父さんが戻ってきた。

 

 

「こっちの扉は向こうから施錠されているらしい。無理やり開けてもいいがチェーンカッター手に入れたんだ、戻った方がいいだろうな」

 

「わかった」

 

【これ見つけたから渡すぞ】

 

 

 すると目の前の料理するための大きめな台の上にハンドガンの弾薬が現れ、壁に金色の文字でそう伝えてきた。びっくりした。

 

 

「ありがとうシャルル。…シャルルは戦えないの?」

 

【無茶を言うな。敵を相手できると思うか?】

 

「…無理だね」

 

「その弾薬を直接相手の脳にでも転送すればいいのに」

 

「お前、グロいこと言うな馬鹿」

 

「誰が馬鹿だー!シャルルでも戦える方法言ってるだけなのに!」

 

【お断りする】

 

 

 姉さん、それはさすがにグロすぎると思う。姉さんのおすすめしてた日本の闇医者コミックでその状況読んだことあるけど考えたくもないよ。

 

 

「よし、開けるぞ。準備はいいな?」

 

「いつでも!」

 

「ま、任せて!」

 

 

 食堂まで戻ってきて父さんがチェーンカッターで鎖を断ち切るのを、私と姉さんが身構えながら見守る。ジャキン!という音と共にあっさりと鎖の封印は解かれた。同時に複数の呻き声。それが聞こえた瞬間、父さんはミドルキックで扉を蹴破った。

 

 

「「ギアアアアッ!?」」

 

 

 すると扉の前に屯っていたらしいフェイスイーター二体が雪が降り積もった中庭の中心まで蹴り飛ばされ、ポールハンガーを手にした父さんと姿勢を低くした姉さんが躍り出る。私もその後を続いた。

 

 

「よっ、ほっ!はあっ!」

 

 

 身軽に石の手摺に足を乗せて跳躍し、中庭に立っている木の枝にぶらさがり遠心力を付けて手を放し飛び蹴りをフェイスイーターに叩き込む姉さん。猿かなにかかな?

 

 

「邪魔っ、だぁああ!」

 

 

 ポールハンガーを槍の様に構えた父さんがフェイスイーター一体の腹部に突き立てて持ち上げ、勢いよく別のフェイスイーターに叩きつけたかと思えば反対側、スタンドの方で後ろ手に突いて背後から襲いかかろうとしていたフェイスイーターを吹き飛ばす。燃えよ父さん?

 

 

「…ギアアアアッ!」

 

「えいっ」

 

 

 その二人を見て考えるそぶりを見せてからゆっくりと私に振り返り、獲物を見つけたと言わんばかりに迫ってきたのでハンドガンを向けて脳幹を吹き飛ばす。こいつら知能あるのかな…。って、真ん中の東屋の像に仮面舞踏会で付けるようなマスクが取り付けられたのを見つけた。これが仮面…?

 

 

「真ん中に仮面があるよ!父さん!姉さん!」

 

「ローズ、近づくな!」

 

「そこからフェイスイーター湧き出してるみたい!黒領域って奴だよ!」

 

 

 言いながら湧き出してきたフェイスイーターを、ポールハンガーを振り下ろし頭部をかち割る父さんと、木から飛び移って両太腿で顔面を挟み込みクルクル回転して地面に叩きつける姉さん。これなんて言うんだっけ。そうだリスキルだ。そう現実逃避していると、文字が壁に浮かぶ。

 

 

【このままじゃマスクは取れない。核を壊せ】

 

「核…?この気味の悪い球根みたいな塊の事?」

 

 

 不気味に輝いているから多分これが核なんだろう。でもどうやって壊せば…?

 

 

【力があるだろ?使え】

 

「力を?捨てるためにここに来たのに?」

 

【それしかないんだからしょうがないだろ?それともパパと妹を見殺しにするか?】

 

「誰が妹じゃい!」

 

 

 あ、姉さんの怒りの肘鉄がフェイスイーターの腹部を粉砕した。多分このまま勝ちそうだけど無尽蔵ならそうもいかないか。早い所壊そう。

 

 

「でもどうすればいいの?」

 

【力を高めるものが必要だ。わかったらそいつら相手しても意味がないからさっさと移動しろ。こっちだ】

 

「父さん、姉さん!移動するよ!」

 

 

 シャルルが示してくれたのは入ったのとは別の扉。二人に呼びかけると、相手していたフェイスイーターを、姉さんの両手を掴んだ父さんが姉さんを振り回して大車輪の様に横回転。薙ぎ払ってから姉さんを抱っこした状態で父さんが駆け寄ってきた。

 

 

「ローズ!シャルルはなんて?」

 

「マスクを取るには私の力を高める必要あるんだって」

 

「…こっちはたしかドミトレスクの部屋がある方だな」

 

「っ!?」

 

 

 扉を開けて、ライトを付けて驚く。また黒い私の死体が転がっていた。

 

 

「…また」

 

「あのクソデブ絶対ブッ飛ばしてやる」

 

「同感だ」

 

 

 怒れる二人と共に階段を登って行く途中にも黒い私が倒れていた。この黒い私はいったいなんなんだろう。それに二階の廊下は黒いドロドロでいっぱい…嫌な予感がする。

 

 

「キャアアアアア!?」

 

「ローズ!?」

 

「私じゃない、今のは…!」

 

 

 悲鳴が聞こえてきた右の扉に入ると書斎の様な部屋で。奥から、たった今死んだらしい黒い私を引き摺ったフェイスイーターが現れた。

 

 

「一度ならず二度までも、よくも!」

 

 

 あまりのことにフリーズした私の横を駆け抜ける小さな体。姉さんが本棚を蹴って宙に舞い上がり、体を捻って拳をフェイスイーターの頭部に叩き込んで勢いよく床に頭から叩きつけた。するとそんな姉さんの背後に影。ライトで照らす、もう一匹いる!

 

 

「姉さん!」

 

「エヴリン!後ろだ!」

 

 

 傍のドロドロを警戒していた父さんもそれに気付いて叫び、私のライトで軽く怯んでいた姉さんは右拳を振り上げて裏拳。フェイスイーターを怯ませて、横の本棚を駆け上がって宙返り。全体重をかけたストンプでフェイスイーターを叩き潰した。

 

 

「次はお前だ。クソデブロリコン公爵。首を洗って待ってろ」

 

 

 そうバッドサインで首をかき切る様な動きをしたその顔は怒りに歪んでいて。敵がいないことを確認して目を瞑り深呼吸する姉さん。

 

 

「…ふう」

 

「ね、姉さん?」

 

「エヴリン、無事か?」

 

「うん、大丈夫。ごめんねローズ、怖がらせて。ローズが殺されるところを見るの、私もう耐えられない…前みたいに手が出せなかったら気が狂いそうだった。でも私は今、直接ぶん殴ることができる。だから私、我慢しないよ」

 

「…お前にはだいぶ我慢させていたみたいだな、すまん」

 

 

 拳を握って頷く姉さんに、父さんが頭を下げる。……聞いた話以上のことがあったんだろうな。これからは姉さんにあんまり心配かけない様にしようと、そう決めた。




幻影エヴリンの闇、それは幻影であるが故に怒りを抱いても直接手出しができなかったこと、でした。後半はモールデッド・ギガントがあったからある程度は発散できていたのだけど足りる訳が無かった。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅦ【RW-特異型フラスク】

どうも、放仮ごです。敵がフェイスイーターだけなので毎回どう倒すのかが一番鬼門だったりします。

今回は「力」ゲット回。楽しんでいただけると幸いです。


「ここをこうして…これで渡れる!」

 

 父さん曰く美術室にやってきた私達。黒領域で通せんぼうされたそこを、ちょっとした階段を上って足場に飛び乗ってそこにあった梯子を下ろすことで黒領域の上を跨ぐ通路を作る。天井に核らしきものがあるからアレを壊すのが一番なんだろうけど今はその手段がない。

 

 

「いいぞローズ。だが気を付けろ、踏み外すなよ」」

 

「たしかこっちは屋根裏に通じる道だね」

 

 

 一人ずつ梯子の橋を渡って行く。落ちたらどうなるのか考えたくもないけど、フェイスイーターが生み出される領域だ。ロクな目に遭わないのは確かだ。

 

 

「ここにクソデカオバサンのでっかい肖像画があったんだけど…最初からなかったことにされてるね」

 

「たしかドミトレスクが迫って来て絵をぶち抜いて逃げたんだったか。懐かしいな」

 

「二人が逃げるってどんな化け物なのそのクソデカオバサン」

 

「不死身のデカ女だ」

 

「怒ると空を飛ぶでっかなドラゴンに変身するんだよ」

 

「???」

 

 

 ドラゴンに変身するってなにそれ?そんなの出てくるのここ?何それ怖い。菌根って何でもありなんだろうか。…いや、夢物語みたいな話が全部本当だとしたらもっと何でもアリだ。特にミランダとかいうやつ。擬態でどんなことでもできるって化け物が過ぎる。

 

 

「こっち。ここから上がれるよ」

 

「三人だとさすがに狭いな。エヴリン、お前が一番動ける。俺が殿を務めるから先頭は任せた」

 

「任された!」

 

 

 そう言って身軽にひょいひょいと通路の奥の梯子を登って行く姉さん。すぐに上から呻き声と打撃音が聞こえてくる。あ、やっぱりいたんだ。一瞬でやられちゃったけど。

 

 

「もう大丈夫だよ!上がって来て!」

 

「あ、うん…」

 

「あいつあんなに動けたんだな…ふわふわ浮いているイメージしかなかった」

 

「同感」

 

 

 呑気にいつもふわふわ浮いている姉さんがこんなに身軽に動けるとは予想外だ。梯子を登り終えてやはり核と黒領域がある箇所を避けて屋根裏部屋を進んでいき奥の扉を開けると、金色の文字が出迎えた。

 

 

【これだ↓】

 

 

 色々置かれた実験室の様な一室。その奥でシャルルの文字の矢印の差す下には、淡く白く輝くフラスクが置いてあった。一部が結晶化していて明らかに異様なものだった。

 

 

「…ローズでフラスクか」

 

「マダオがやったことを思い出すね」

 

「私がバラバラにされたって話?」

 

「エヴリンだな?」

 

「ごめん」

 

 

 信じがたい事だが私が赤ん坊の時に四つに分割された上でフラスクに納められて四貴族とかいうのが所有していたという話を、姉さんがポロリとこぼしていたことを思い出す。まさかと笑って流したが…この父さんの苦々しい顔、本当の事だったのか。

 

 

【RW-特異型フラスクという。手に取れ、危険じゃない】

 

「わ、わかった…それで、一体これをどうすればいいのかわかる…?」

 

「あの時のフラスクと同じなら聖杯に納める…?」

 

「四つ集めないといけなくないかそれ」

 

【馬鹿二人は黙れ。集中しろ嬢ちゃん】

 

 

 言われるままにフラスクを両手に持って目を瞑り集中する。するとなんだか今までとは違う力が溢れてきた。見れば、力を受け取ったのを示す様に手に根が張る様に光り輝いていた。

 

 

【菌核にぶちかませ】

 

「わかった。行こう、父さん。姉さん」

 

「大丈夫なのか…?」

 

「シャルルを信じるしかないよ…」

 

「見つけた。これね」

 

 

 来た道を戻ると、さっそく核…菌核?があったので左手で右腕を握りながら右手を翳してみる。すると右手が白く輝いて菌核が見る見るうちに石灰化していき、跡形もなく消えた。

 

 

「これなら、今までの核も消せる!私に任せて!」

 

「…まあローズが危険じゃないならいいか」

 

「銃よりよっぽどいいさ」

 

 

 次の菌核は黒領域を生み出してそこからフェイスイーターを生み出してくるも、父さんがポールハンガーを振り回し、姉さんが飛びかかって一蹴。その間に菌核に意識を集中して石灰化させると黒領域まで石灰化して砕け散った。

 

 

「…この感じ、私が力を失った時と同じだ。同じ原理かな…?」

 

「よし、俺達が護衛する。一気に戻ってマスクを手に入れるぞ」

 

「わかった。って姉さん、前!」

 

「前?あっ」

 

 

 すると考え事していた姉さんが梯子の場所から足を踏み外して落ちてしまった。慌てて安否を確かめるべく覗きこむと、三点着地した体勢で転がっている姉さんがいた。

 

 

「スーパーヒーロー着地って膝に悪いんだった……よい子は真似しちゃだめだぞ?」

 

「教育の悪いヒーローかお前は」

 

「よかった…心配かけないでよ姉さん」

 

「ごめんごめん」

 

 

 梯子を伝って降りて姉さんと合流。美術室の菌核を掃除し来た道を戻ろうとすると、ドンドンと扉を叩く音。出てきたのはあいつらだ。咄嗟に右手を翳すがまるで効いていない。

 

 

「こいつら、力は効かないの!?」

 

「イーサン!手!」

 

「エヴリン、掴まれ!」

 

 

 すると姉さんが父さんの手を取り、壁を駆けのぼってグルンと一回転。父さんも振り回して遠心力を付けて勢いよく投げつけられた姉さんは私に襲いかかろうとしていたフェイスイーターに飛び蹴り。粉々に粉砕した。ええ……。

 

 

「なんなのそのツーカー…」

 

「エヴリンのやりたいことなら大体わかる」

 

「イーサンなら言わなくても応えてくれるかなって」

 

「…やっぱり親子って言うより相棒だよね二人とも」

 

 

 その言葉に二人は顔を見合わせ、否定せずに笑った。なんか妬けるなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父さんと姉さんが立ちはだかるフェイスイーターに無双しながら階段まで登って来て降りていくと、中庭に通じる扉の外から重厚感を感じる足音と不気味な音と共に巨大な影が見えた。

 

 

「な、なに…?」

 

「…まさか本当にドミトレスクが…?」

 

「イーサン、もし本当にクソデカオバサンいたら任せた」

 

「死花の短剣も無しの俺に無茶言うな」

 

 

 恐る恐ると姉さんが扉を開けてキョロキョロ見渡して、手招きする。どうやら大丈夫らしい。

 

 

「精神世界だからなんでもありなのかも…アイツが横切って言った方、行き止まりだったよ」

 

「現実だったらホラーな奴だな」

 

「もう十分ホラーだよ…」

 

 

 言いながら中庭の東屋まで行って力で菌核を破壊、転がり落ちた像から銅の仮面を回収する。ようやく一個目だ…。

 

 

「やっと取れたわ」

 

「この調子だとドミトレスク城を全部回ることになりそうだな」

 

「ええ…あんなに広いのにやだよ…?」

 

 

 そんな会話をしながら彫像の元まで戻り、銅の仮面を取り付けるとその頭部に青白い炎が灯る。なにかあるかと思ったけどそんなことないみたい?

 

 

「この力があるから上とこっちにいけそうね」

 

「…こっちからいこう」

 

「本物のデュークがいた部屋の方だね」

 

 

 扉を塞いでいた菌核を破壊しながら姉さんたちが案内する方に進むと、菌核で防がれていた小奇麗な部屋に、手帳が置いてあったのを見つけた父さんが手に取る。

 

 

「【何も覚えていない。私が何者だったのか、どのように生きてきたのか。何もわからない。この仮面の下の顔が崩れている様に私の記憶も崩れ去ったというのか】…あのデュークの日記かこれは」

 

「顔が崩れているって書いてるならそうだろうね」

 

「記憶が無い…?」

 

「続けるぞ。【ただ残るのは、誰かをいたぶり惨たらしい姿を見たいという渇きにも近い感情だけ。さて、次はどうするか。そろそろ、とっておきの奴を向かわせてもいい。顔がたくさんあっても知能の無いあいつのことだ。容赦なくウサギを追い詰めるだろう】一瞬同情したがギルティ」

 

「やっぱりぶん殴る!」

 

「それよりもとっておきって書いてるやつが気になるんだけど…さっきの足音がそれかな?」

 

「顔がいっぱいあるならいっぱい殴れるよ?」

 

「【「違うそうじゃない」】」

 

 

 思わず父さんとシャルルとシンクロした。姉さんが一番脳筋かもしれない。




教育に悪い真っ赤なヒーローは1と2のDVD揃えてるぐらいに好きです、というかイーサンとエヴリンのぶっ飛び具合に多分影響してます。

あの足音聞いてクソデカオバサン期待した人結構多いと思うんだ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅧ【親愛のベーゼ】

どうも、放仮ごです。暑さでパソコンが強制終了する中で書いたので今回は短めです。本当に暑くなってきましたね。

今回は微笑ましい一幕。楽しんでいただけると幸いです。


「あれ、これ…」

 

 

 彫像の部屋まで引き返し、階段を上って二階に上がると、床に何か紙の様なものが落ちているのを見つけて拾い上げる。手描きの地図であり、ここを進んだ先に鍵があると示していた。

 

 

「一ツ眼紋章の鍵…?これがいるのかな」

 

「これ、多分黒いローズの一人のおとしものなんだろうね…」

 

「そのローズは……くそっ」

 

 

 姉さんと父さんが悔しげに拳を握りしめる。黒い私の正体はなんなのかは知らないが、私が殺されたと知ってこんなに怒ってくれるのは少し嬉しい。その後、六つのヒツジや狼、蜘蛛や蝶などの絵が飾られたり固定されている部屋にやってくる。どうやら一番奥の格子の向こうに鍵があるみたいだけど、これは…

 

 

「“狩るものは一列に並び、獲物を正面に見据える”だってさ。なんのことだろ?」

 

「…見た感じ、捕食者と獲物の絵か」

 

「蜘蛛に囚われた蝶、狼に襲われる羊…って感じに合わせて行くのかな?」

 

「そして蛙の絵ってことはヘビの絵がいるというわけか。ややこしいことしやがって」

 

「すごい…よくわかったね」

 

「謎解きは嫌でも慣れたんだ」

 

「ドナの所とか大変だったねえ…主にベビーが」

 

「ああ、主にベビーが」

 

「でっかい赤ちゃんがそんなに怖いの?」

 

「「一番怖い」」

 

「そ、そう…」

 

 

 声を合わせるぐらいに怖かったのだろうか。できれば会いたくないな。ヘビの絵を探そうと他の道を進むと、廊下に横たわった黒い私の顔に吸い付くフェイスイーターがいた。それを見た瞬間また怖い顔になる姉さんが勢いよく助走してから跳躍する。

 

 

「死んでるからってローズにキス禁止じゃボケえ!」

 

「アギャアア!?」

 

 

 過保護極まりない言葉と共にクロスチョップ。フェイスイーターは消滅した。

 

 

「いや確かにあんな奴等とキスはしたくないけど……将来的にするかもしれないのはどうするの?」

 

「ローズに恋愛はまだ早いよ!」

 

「キスぐらいいいでしょ!…もう。ほら」

 

 

 姉さんに近づき、肩に手を乗せてその額に軽く口づけする。家族への、親愛の証としてのキスだ。父さんには小さい頃にやったことあるしされた記憶はあるけど、姉さんには今まで触れられなかったから初めてだ。

 

 

「はえ?」

 

「…これでも禁止?」

 

「か、家族にはアリかなあ…えへへ」

 

「エヴリン、顔が気持ち悪いぞ自重しろ」

 

「なんだとー!えーい、イーサンにもしてやるー!」

 

「やめろ!?」

 

 

 顔に飛びつく姉さん。必死に押さえて引き剥がそうとする父さん。これが普通の幸せなんだろうか。…できるなら、現実でもこうして触れ合いたい。

 

 

「…結晶が手に入ればそれもできるかな」

 

 

 そんな希望的観測が口から出る。…なんにしても、急がないと。そのまま進むと、古めかしい古風な屋敷を思わせる廊下に雰囲気が合わないテレビが上につけられている曲がり角に出て、その先に会った菌核に手をかざして破壊する。

 

 

《「ほう!なにか得体の知れない力をお持ちの様ですな!」》

 

「デューク…!」

 

「こらー!声だけじゃなくて出てこい!」

 

《「おっと、怖い怖い。ひとつ訂正をば。わたくしはデュークではなく仮面の公爵。どうぞよしなに」》

 

 

 そんな言葉と共に、湧き出してきた黒領域から、何かデカいモノが出現する。フェイスイーター…じゃない!?

 

 

《「如何に得体の知れない力であっても純粋な暴力の前ではそんな力は何の役にも立たないと思いますよ」》

 

「マジ!?」

 

「この!」

 

 

 姉さんが飛び蹴りを喰らわし、父さんがポールハンガーを胴体に突き立てる。しかし出現した三つの顔をもつ醜悪な外見の怪物にはまるで通じておらず、姉さんを首の動きだけで私の方に吹き飛ばし、ポールハンガーを手にした巨大な棘付きメイスで破壊してしまう。姉さんを受け止めた私は姉さんを抱えたまま思わず後ずさる。

 

 

「こいつはやばい…逃げろ!」

 

 

 そんな父さんの言葉に頷き、走り出す。後ろを見ればメイスの一撃を避けた父さんが壁を蹴って跳ね返った勢いで頭部を殴りつけて怯ませてこっちに走ってくる。さすが頼もしい。

 

 

「あの、ローズ?私、走れるよ?」

 

「今下ろしてたら間に合わない!姉さんのちっちゃな手足じゃ猶更!」

 

「むぐぅ…私お姉ちゃんなのに…」

 

【こっちだ】

 

「ありがとうシャルル!」

 

 

 子供の様に抱えられて不服らしい姉さんを抱っこしながら走り、シャルルの開いてくれた扉に飛び込むと父さんも入って来て、鍵を閉める。するとドゴン!ミシッ!とどんどん扉が罅割れて行く。

 

 

「どこか逃げ道は!」

 

「暖炉がある!前と一緒ならここも…」

 

「どこかに通じてるかも?行こう!」

 

 

 姉さんの見つけた暖炉に、姉さん、私、父さんの順に入るもすぐに止まった。どうやら行き止まりらしい。

 

 

「駄目、行き止まり!」

 

「シャルル、どうにかできない?」

 

【しゃあないな】

 

 

 すると暖炉の中を金色の粒子が舞って壁がスライドし奥の通路が開いた。その先は階段になっていて、上がって行くと広い部屋に出て、またあの白いフラスコがあった。手に取ると力が溢れてくる。

 

 

【こっちだ。使え】

 

「一つだけじゃないんだ。前と同じかな?」

 

「…見て分かる。力、強まったね」

 

「大丈夫なのか?」

 

「今なら…!」

 

 

 すると扉が破壊される音と、フェイスイーターの呻き声が聞こえてきた。三つ首の怪物は暖炉を潜れないらしいがフェイスイーターが二体、追いかけてきたらしい。思わず手をかざすと、放たれた光にフェイスイーターは二体とも怯んだ。

 

 

「これ、私の力?やった!…私が動きを止める!姉さんと父さんはその間に!父さん、これ使って!」

 

「助かる!」

 

 

 父さんにハンドガンを投げ渡し、やってきたフェイスイーターに手をかざすと放たれた光に怯んで固まり、動きが止まる。そこに父さんが片手で構えたハンドガンから連射された弾丸三発が寸分たがわず頭部を撃ち抜き、フェイスイーター一体を消滅させる。

 

 

「どりゃあ!」

 

 

 もう一体は部屋に置かれていた甲冑を蹴り壊して腕部分を装着した姉さんが殴打。逆に重量で振り回されているそれを連続ビンタする様に炸裂させて最後に振り上げて勢いよく振り下ろし、フェイスイーターは壁に叩きつけられて消滅した。

 

 

「さっき言われたから使ってみたけどやっぱり重い!」

 

「だよね…」

 

「…この銃、今気付いたが俺の使ってたものと同じ奴だな。手に馴染む」

 

「銃が馴染むのはどうかと思う」

 

 

 姉さんの件もミランダの件もどっちも一日だけのはずなのになんで手に馴染むんだと父さんにツッコむ。父さん、やっぱりシステムエンジニアは無理があるよ。




触れられないってことはこういうこともできないってことなんですよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅨ【散り際の薔薇(ローズデッド)

どうも、放仮ごです。7編に引き続きオリジナルクリーチャー登場です。

今回はイーサンとエヴリンのいる弊害。楽しんでいただけると幸いです。


 先に進むことはできそうになく、来た道を戻って行くと暖炉の部屋に小さな白いハーブらしき植物が置かれていた。その脇に金色の文字が躍る。

 

 

【こいつも使える。ホワイトセージ、特異菌の能力の残弾を回復できる】

 

「あ、もう使い切ったって思ったの気のせいじゃなかったんだ。…どう使うの?」

 

【食え】

 

「え、やだ」

 

「(0M0)<コレクッテモイイカナ」

 

「お前が食うか?」

 

「え、やだ」

 

 

 なんか姉さんと父さんがコントやってる。食べたくないけど、せっかく強くなったのに使えないんじゃ意味がない。ええい、ままよ!目を瞑って両手に持ったそれを口に含み咀嚼する。

 

 

「……何とも言えない味」

 

「大丈夫?ローズ」

 

「ハーブはどちらかというと調味料だからな・・・」

 

【さっきの三つ首の奴がいるかもしれないから注意して進め】

 

 

 すると閉ざされていた奥の部屋の扉が開く。もしやと思ってさっき拾ったメモを見る。この先に一ツ眼紋章の鍵があるらしい。

 

 

「シャルル万能すぎない?最初から開いてよ」

 

「いや、フラスクを取らせたかったんだろ。それがないと先に進めないのも確かだ」

 

「行こう!」

 

 

 先に進むと、二体のフェイスイーターがいて。手をかざそうとするもそれは父さんに止められる。

 

 

「それは温存しておけ。この程度の数なら…エヴリン!」

 

「相変わらず銃の使い方が上手いねイーサン!」

 

 

 そのまま右手に持ったハンドガンを横に振るって一発ずつ撃ち、それは頭部を捉えて怯ませると姉さんが二体の間に跳躍し、怯んでいるフェイスイーターたちの顔面を鷲掴みにすると着地の勢いで頭部を机の角に叩きつけて消滅させた。うわあ。

 

 

「うわあ」

 

「もー、イーサン。ローズがドン引きしてるじゃん」

 

「いやお前だろ」

 

「そんなことないよね?ローズ」

 

「姉さんうわあ」

 

「本気でドン引くのやめて?はいこれ」

 

 

 落ち込んで顔を下に向けながらフェイスイーターたちを叩きつけた机の上にあった鍵を手に取り、手渡してくる姉さん。赤い一ツ眼、これで間違いない。私達はそのまま道なりに進み、立ちはだかるフェイスイーターたちを銃を得てパワーアップした父さんと相変わらずマジカルならぬフィジカル魔法少女な姉さんが瞬殺しながら進んでいき、菌核を破壊しながら思わずぼやく。

 

 

「せっかく強くなったのに核壊すことしかできてない…」

 

「お前は危険な目に遭う必要はないんだぞローズ」

 

「もしもの時は頼るからその時はヨロシク!」

 

「もしもが起こりそうにないぐらい二人が強いんだけど…」

 

 

 三つ首の化け物には手も足も出なかったけど頑張れば勝てそう(小並感)。よし、壊れた。そのあと出てくるフェイスイーターもやっぱり私の出番はなかった。

 

 

「ここは…」

 

「見覚えのあるところに出たな。足音を聞いた階段の上か」

 

「一ツ眼の紋章鍵ってどこで使うんだっけ?」

 

「…さあ?」

 

 

 あったっけ。考えながら階段を降りて中庭に出る。あれ?…黒い私の死骸と、写真?こんなもの落ちてたのか。見逃してたか…それともあとから来た?

 

 

「また、ローズが…」

 

「私はここにいるよ姉さん。これは…まだ持ってない仮面の写真?」

 

「後ろになんか書いてあるよ」

 

「【一ツ眼の扉 地下奥】…とあるな。あれか」

 

 

 そう言った父さんの視線の先には一ツ眼の扉。ああ、そうだ。中庭にあったんだ。扉に向かい、鍵を開ける。赤い一ツ眼が割れて扉が開くのは趣味が悪いと思う。その先には階段と、例のテレビがあった。階段にはここまで来れたのか複数の黒い私の死骸が転がっている。

 

 

《「ここまで来るとは手癖の悪いウサギたちですねえ。他のウサギはこの先の仮面を手に入れる程優秀ではなかったようですが……やはりというかなんというか、“悪魔の様な男”と呼ばれるだけはありますねえ。その武器の扱い方、ええ。惚れ惚れいたします」》

 

「男…俺の事か?」

 

 

 悪魔の様な男?父さんが?誰が呼んでいたんだろ。

 

 

《「“無害な小悪魔”もそう感じさせない暴れっぷりに惚れ惚れしますよ。ええ、どんな悲鳴を上げて死んでいくかを思うとねえ…!」》

 

「無害な小悪魔?私の事?意地でも死んでやらないもんだ!」

 

「…無害?」

 

「どこが無害なもんか」

 

「なんだとー!」

 

 

 ぽかぽか姉さんに胸を殴られる。ごめんて。無害ならフェイスイーター相手にあんな無双はしないと思うんだけど。今の姉さんどこからどう見ても無害だけどさ。

 

 

ドゴバキャア!

 

「「「!」」」

 

 

 すると上の方から破砕音が聞こえて、思わず三人で顔を見合わせる。

 

 

「…何?今の音」

 

「しっ、静かに!」

 

「こんな音出す奴一人しか思いつかないんだけど…」

 

 

 恐る恐る階段を上がって、絶句した。黒い私が何人も、壁の黒領域に埋め込まれて磔にされ、絵や彫刻の様にされている。あの三つ首の仕業…!?

 

 

「マジで最ッ低」

 

「…地獄みたいな光景だな」

 

「あのデブ絶対許さない」

 

 

 そんな地獄の様な光景を尻目に横切ろうとした時だった。囲まれるように配置されていた黒い私たちの目が、全て見開かれたのだ。

 

 

「えっ…!?」

 

「何でアンタばっかり…」

 

「同じ私なのに…」

 

「え、まさかこのローズたちが…!?」

 

「誰も守ってくれなかった…」

 

「誰とも話せなかった…」

 

「急いで引き返すんだ、こいつは…!」

 

「ずっと独りで彷徨って…」

 

「姉さん、父さん…!」

 

「黒い私が集まって…!?」

 

「「「「「「「「なんで私を守ってくれなかったの…!」」」」」」」」

 

 

 8人の黒い私を磔にしている黒領域が蠢いて廊下の中心に集まり、黒い私を完全に飲み込んでまるで黒い薔薇の花弁の様な形状の二メートル大のオブジェになったかと思えば、次々と細く白い腕が飛び出してくる。それはまるで蜘蛛の様で、黒薔薇の中心から、上半分が黒領域に包まれてまるで仮面の様になっている私の顔が現れ、口が裂け牙が生えて髪が触手の様に蠢く怪物の顔に変貌していく。あまりの出来事に腰が抜け、私は尻餅をついたまま手だけで後退しようとして、父さんに抱きかかえられる。

 

 

「あの顔、モールデッド…!?イーサン!コイツ、ヤバい!本当にヤバい!」

 

「お前がそう言うなら相当ヤバいんだろうな…!」

 

「お前も道連れにしてやる……!」

 

 

 瞬間、腕の様な八本の脚をシャカシャカと気持ち悪い挙動で動かせて突進してくる黒い私の怪物を、父さんが跳躍して回避しようとするが腕の一本が上まで伸びてきて父さんの脚を掴み、投げ飛ばして私を庇って抱きしめた父さんは階段をゴロゴロと転がり落ちて行く。

 

 

「ローズ!イーサン!こんのお!」

 

「痛くも痒くもないよ、姉さァん!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 上で姉さんが攻撃を仕掛けたようだが、やはり投げ飛ばされて吹き抜けを落ちてきたのを受け止め、床に下ろす。しかし、父さんは動かない。頭を打って気を失った様だ。

 

 

「どうしよう、姉さん。父さんが…」

 

「あーもう、これぐらいで意識失わないでよイーサン!…アイツの目的はローズだ、多分イーサンは襲わない。中庭で迎え討つ、ローズ。銃を持って!やるしかない!」

 

「う、うん!」

 

 

 上を見れば巨体から伸びる腕脚を器用に動かして降りてこようとしている黒い私がやってきていて。父さんを引き摺って壁に寄りかからせた私と姉さんは扉を潜って中庭に転がり出る。

 

 

「こォの卑怯ォ者ッ!逃がさなァい!」

 

 

 すると上の壁を破壊して黒い私が出てきた。扉を潜れないとかだとよかったのに…!

 

 

「特異菌の力ァ、いい気持ちィ…!!」

 

「私の顔で変なこと言うな!」

 

「そういうこと言うぞお姉ちゃん怒るぞコラア!」

 

「アハハハハアハハアハハハハッ!!」

 

 

 黒い私が壁から降り立ち、狂ったような笑い声を上げる。私は両手でハンドガンを構え、横では姉さんがカンフーの様な構えを取る。かなり複雑な気分だけど、やってやる…!




・ローズデッド
 何者かに磔にされて死にかけていた黒いローズたちが抱いた、父と姉を連れたローズへの嫉妬と、父と姉への怒りが黒領域とシンクロし融合、誕生した黒いローズたちのなれの果て。薔薇の様な形状の黒領域から肉体から八本の腕とモールデッドの様に変貌したローズの顔が飛び出している蜘蛛の様な悍ましい怪物。モチーフはサイコブレイクの貞子…もといラウラとアマルガムα。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩ【IFバッドエンディング】

どうも、放仮ごです。執筆中に元々壊れて外れていたHのキーが吹っ飛んでなくなると言う事態が発生していたため遅れました。放仮ごという名前の関係上Hは一番使うキーなので一応使えているとはいえキーがないのは地味につらい。

今回は胸糞注意回。VSローズデッド。楽しんでいただけると幸いです。


「アハハハハアハハアハハハハッ!!」

 

 

 壁から降り立ち、狂ったような笑い声を上げる黒い私の怪物に、姉さんが近くの木に向けて跳躍、枝を両手で掴んで身体を揺らして手放して宙返り、拳を握って飛びかかる。

 

 

「いくらローズだろうと容赦しないよ!」

 

「無駄ね無駄だ無駄よ無駄さ無駄か無駄なことォ!!」

 

「きゃあ!?」

 

 

 すると薔薇の様な胴体の背中の花弁の隙間から長い白く細長い、九本目の右腕が伸びて姉さんの首元を掴んで受け止めると容赦なくぶん投げ、長い右腕を引っ込めると八つの腕を動かしてこちらを向いてくる黒い私の怪物。

 

 

「お前も私達の道連れにしてやるゥ!」

 

「くっ…!」

 

 

 そのまま突進してくる黒い私の怪物にハンドガンを乱射するも、蠢く黒い私の怪物相手には狙いが定まらず外れていき、八本腕の一本に首を掴まれ持ち上げられる。

 

 

「があっ!?」

 

「父さんも姉さんもいなけりゃ貴方は無力な子供にすぎないのよ!」

 

【力を使え】

 

 

 首を絞められ苦しむ中で、黒い私の怪物の向こう側に金色の文字が躍るのが見えて、右手を黒い私の怪物の顔に突きつけると白く輝く。

 

 

「ギャアアアアアアッ!?」

 

「あれは…!」

 

 

 すると大きく怯んで私を手放し、悲鳴を上げながら後退した黒い私の怪物の薔薇の様な胴体の花弁が満開の花の如く開いて菌核が露出。もう一度右手を突き出し、光り輝かせると菌核は白く染まっていきダメージを与えたのを感じた。

 

 

「おのれ!おのれ!よくも!よくも!よくも!」

 

 

 すると八本の腕から黒領域をしみださせて溶け込むように潜り込むと姿を消す黒い私の怪物。私はハンドガンを構えて警戒しながらも姉さんに駆け寄る。

 

 

「姉さん、無事?」

 

「あいたたた……あいつは?」

 

「どこかに逃げた。今のうちに父さんに……!?」

 

 

 あいつがいないかと周りを見渡して、絶句する。城の壁に出現した黒領域から出てきた黒い私の怪物が壁を凄まじい速さで這いまわっていたのだ。控えめに言って気持ち悪い。

 

 

「なにを…!?」

 

「黒領域が広がって…って、ああ!?」

 

 

 黒い私の怪物が這いずりまわった跡にある黒領域から、次々とフェイスイーターが湧き出して落ちてきていた。8体のフェイスイーターが私達を取り囲む。

 

 

「フェイスイーターは私に任せて!ローズはアイツを…えっと、クイック・モールデッドを思い出すから名付けるとしたらローズデッド?」

 

「なんか嫌なんだけど」

 

「とにかく、ローズの力しか効かないみたいだから任せた!」

 

 

 言いながらフェイスイーターの一体に飛び膝蹴りを叩き込む姉さん。信じて任せるしかない。

 

 

「わたわたしわたしししっわたっわたわたわたしししっ!しねしねししししねしねねねねっ!!」

 

「…?」

 

 

 シャカシャカ壁面を這い回りながらまるでバグったかのように叫び散らかしながら六本の腕で壁を這いまわり残る二本の腕に黒領域を纏って塊にして投擲してくる黒い私の怪物改めてローズデッド。ゆっくり落ちてくる黒領域に咄嗟に狙いをつけて引き金を引いて撃ち落としていく。当たったら不味そうだ。

 

 

「こーれーでーもー!くーらーえー!!」

 

「わたわたわたし!?」

 

 

 そこに、いつの間にかフェイスイーターを一掃したらしく最後のフェイスイーターの両足を掴んでグルグル独楽のように回転した姉さんがジャイアントスイングで投げ飛ばし、放物線を描いたフェイスイーターがローズデッドに激突。もみくちゃになって落下したところに突撃する姉さん。

 

 

「これがジャック直伝…じゃないけど!ファミリーパンチ、だあ!」

 

 

 立ち上がろうとしていたローズデッドの肩(?)を背後から掴んで無理やり振り向かせ、そこに拳を振り抜く姉さん。怪物化した私の顔が殴り飛ばされ、ダウンしたローズデッドの胴体の薔薇の花弁が咲いて菌核が姿を現す。

 

 

「ローズに触れるようになったのはいいけど殴りたくなかったなあ…今だよ!」

 

「う、うん!」

 

 

 近づいて右手を向け、じわじわと白化させて破壊を試みるも耐久力が今までの比じゃなく、耐え抜いてまた手から出現させた黒領域に沈み込んで姿を消すローズデッド。今度は中央、仮面を置いていた部分に出現した黒領域から現れて滅茶苦茶な軌道で突進。私と姉さんは咄嗟に回避すると道を黒領域で埋め尽くしながら道なりに走りながら曲がって襲いかかってくる。

 

 

「痛いやめて姉さん苦しいなんで許さないひどい助けて!」

 

「っ…」

 

「姉さん!?」

 

 

 ローズデッドの叫び声に苦々しい表情で止まってしまった姉さんを突進の勢いのまま二本腕で捕らえて、姉さんを引きずりながら残る六本腕で爆走し壁を這いあがって行く。

 

 

「がっ、このっ…ぐう!?」

 

「アハハハハアハハアハハハハッ!!」

 

 

 楽しくなってきたのか笑いながらズタボロの姉さんを放り投げ、四本腕で壁に掴まり残る四本腕に溢れださせた黒領域を塊にして飛ばして姉さんに浴びせて黒領域に塗れにして吹き飛ばしてしまった。

 

 

「助けを乞え!怯声を上げろ!お前は私は一人じゃ何もできない!」

 

「くっ…姉さん…!」

 

「無様に逃げ惑え!苦悶の海で溺れろ!そうしなければ私達は満たされない!」

 

 

 四本腕で這い回り残る四本腕で黒領域の塊を投げ飛ばしてくるローズデッド。さっきより攻撃が激しい、なにせ二倍だ。だけど四本腕で重い自重を支えるのは苦労するのかちょっとずり落ちてる。…どうすればいいかわかったかもしれない。

 

 

「これを投げているときは逆にチャンスなんだ…!」

 

「ギャアアハハハハッ!?」

 

 

 落ちてくる黒領域の落下地点をちゃんと見ながら回避しつつ、ハンドガンを構えて乱射。壁に張り付いている右腕二本の手の甲を撃ち抜いてバランスを崩させ、その巨体を背中から落下させダメージに呻き、引っくり返ってなんとか立ち上がったローズデッドの胴体の薔薇の花弁が開かれ菌核が露出される。

 

 

「うおおおお!」

 

「くくっくくるくるなぁああッ!?」

 

 

 そこに真正面から突撃。姉さんの見よう見まねで光り輝く右腕を振りかぶり、渾身の力で振り抜く。かざして光を浴びせていたんじゃまた回復される!この力を、直接叩き付ける!

 

 

「わたわわたしししっわたっわたわたわたしししっ!きえっきえたくなななないあぁああああっ!?」

 

 

 私の顔と声で苦悶の絶叫を上げながら白化し、崩れ落ちて行くローズデッド。同時に黒領域も白化し、崩れて無事な姉さんが顔を出す。……あれは確かに私だった。姉さんと父さんが一緒にいなければ、私もああなっていてもおかしくない。ああならないという確証がない。そんな私を、救いを求めた私を。この手で殺してしまった……。

 

 

「…もういやだ」

 

 

 もうこんな思いしたくない。帰りたい。でも結晶は手に入れたい。私は、どうすればいいんだろう。




哀しいモンスター、ローズデッド。実はモチーフに深夜廻、Ib、FGOの(ネタバレ注意)なキャラも入ってたりします。

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ダイブⅪ【失いたくない温もり】

どうも、放仮ごです。前回から切ったものに追記したものなのでいつもより短いです。

今回はウィンターズの絆。楽しんでいただけると幸いです。


 黒い私の怪物、ローズデッドを倒したものの、罪悪感に苛まれた私に近づく足音が聞こえた。

 

 

「…ローズ。大丈夫?」

 

「姉、さん…」

 

 

 顔を上げると、そこにはさっきまでローズデッドに投げつけられた黒領域に蝕まれて苦しんでいたはずの姉さん。どうやら無事だったらしい。その顔は悲壮感に歪んでいる。

 

 

「ごめんね、無理に戦わせるべきじゃなかった。イーサンを無理やり起こして…ううん、私一人でやっつけるべきだった」

 

「…無理だよ。この力でないと勝てなかったもん」

 

 

 右手をかざすとほんのり白く輝く。忌まわしい特異菌の力。それを消し去るために結晶を手に入れるために、フラスクで力を強くして…父さんと姉さんに頼るだけだった私が調子づくきっかけになった、強大な力。この力で、私は私を殺したのだ。

 

 

「もういやだよ、姉さん。こんな力も、こんな目に遭うのももう嫌だ。捨てたい、けど結晶を得るにはまだ頑張らないといけない……どうすればいいんだろう」

 

「…ローズ。無理しなくていいんだよ?どこか安全なところで休んでて、私とイーサンで…」

 

「先に進むためにもこの力が必要だよ……二人に任せることも、できない…」

 

 

 それはわかっている。わかっているのだ。でも駄目だ、やる気が出ない。また、ローズデッドが…私に憎悪を抱いて怪物化する黒い私が出てくるんじゃないかと思ったら、怖くて進みたくない。多分だけど、あの黒い私達は多分、私と変わらない。なんでかは知らないけど、私なんだ。

 

 

「なんで、私が何人もあんなひどい目に遭わないといけないの?私がなにか悪い事でもしたって言うの?……私は、生まれて来ちゃいけなかったの…?」

 

「そんなことはない!」

 

 

 項垂れながら思わず本音が漏れると、大きな声で姉さんが否定する。両肩に手を置かれて顔を上げると、真剣な顔をした姉さんが私を見つめていた。

 

 

「そんなことは絶対にない!ローズが誕生して、私や、イーサンや、ミアがどんなに喜んだか!全然わかってない!ローズマリー、あなたは望まれて誕生した!例えローズでもそんなことを言うのは絶対、絶対ぜーったい、許さない!!わかった!?」

 

「う、うん…」

 

「ほら、行くよ!ローズたちをこんな目に遭わせたあのデブ、絶対に許さないんだから!今回役に立たなかったイーサンもケツを蹴飛ばして叩き起こすよ!」

 

「そ、それはやめよう…?」

 

 

 姉さんに手を引かれて、階段まで戻ると父さんが頭を押さえて起き上がっていたところだった。

 

 

「いたた……二人とも、無事だったか。!…どうした?なにがあった?」

 

「…あいつは私達で倒したよ。でも、私は敵わなくて身動きを取れなくされて…ローズが倒したんだ。でも黒いローズたちを自分で倒したせいで…」

 

 

 そう尋ねてきた父さんに、思わず黙ってしまった私に代わって姉さんが説明すると、父さんは全てを察したのか優しく笑って私は頭に手を乗せてきた。

 

 

「そうか。…辛かったな」

 

「う、うん…!」

 

 

 安心する様に頭を撫でられて、涙が出てきた。父さんが私を庇って死んじゃうじゃないかという心配もあった。でも、やっぱり父さんがいなくて不安だった。ああ、この温もりを知ったら……もう現実に戻れないかも。

 

 

「逃げてもよかったんだ、お前は。俺もエヴリンも戦えなかったならなおさらだ。なのによく戦ったな。偉いぞ、気絶してろくに戦えなかった父さんの何倍も偉い!」

 

「ホントにね」

 

「うるさいぞエヴリン。とにかく…よく頑張った。もう無茶はするな。今度は意地でも気絶してやらん。エヴリンだけに任せられないからな。お前は俺が守って見せる。もう辛い思いはさせない」

 

「なんだとー!私だって、もう二度とローズを危険な目に遭わせない!一人で立ち向かわせたりしない!」

 

 

 そう意気込む父さんと姉さんに、思わず苦笑い。ああ、いつもの二人だ。安心する。この先、何が来ても乗り越えられる気がする。

 

 

【俺もいるぞ。微力ながら、な】

 

「うん。シャルルも、ありがとう。シャルルの助言が無かったら危なかった」

 

 

 目の前の壁で金色の文字が躍り、お礼を言いながら出現したホワイトセージを口に入れる。シャルルが右手を使えって言ってくれなかったらあのまま首を絞められて死んでいた。姉さん、父さん、シャルル。この三人がいればもう何も怖くない。

 

 

「進もう、先に。結晶を手に入れるんだ。父さん、これ。渡しておくね」

 

「ああ、ありがたく使わせてもらうよ」

 

「今度は無様に気絶しないでよね、イーサン」

 

「ローズを守って死ぬなら本望だ」

 

「それはそう」

 

【お前ら、さっきのが台無しだ】

 

「もう、姉さん父さんったら…――――」

 

 

 そんな会話をしながら二階に上がり、バスルームらしき場所に入って絶句する。オブジェにされた黒い私が美術品かなにかのように並べられていた。思わず頭を抱えてしゃがみこむ。

 

 

「もういやだ…」

 

「ローズの心が折れた…!?」

 

「このデブ!人でなし!」

 

 

 こんなのが続くなら私はもう駄目かもしれない。姉さんじゃないけど、あのデブ絶対許さない。




一回心が折れたローズ。姉と父の温もりを感じて再起。でもあのバスルームのは真面目に心折れると思うんだ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅫ【処刑人(エクスキューショナー)

どうも、放仮後です。今回のタイトルはダブルネーミング。楽しんでいただけると幸いです。


「あのデブぶっ殺す」

 

 

 バスルームに配置された、四人の黒い私でできたオブジェを前にして私がやる気を失っていると、姉さんの殺意が湧いた声が聞こえて顔を上げる。そこには何やら書かれた石板が壁にあって、それを見て怒りが燃え上がったらしい。

 

 

「“矢で射る直前に沈めた。沈めたのは吊った後だった。刺したのは最初でも最後でもなかった”…あのデブ、黒いローズたちの死を玩具にしている。絶対許さない、殺す」

 

「エヴリン、落ち着け。昔のお前になってるぞ。お前実年齢30ぐr」

 

「イーサンから殺そうか?」

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 

 父さんにタブー持ち出されて青筋を浮かべながら股間を蹴り上げる姉さん。父さんは急所を押さえて悶える。今のは父さんが悪い。女性の年齢を言い出すのはタブーが過ぎる。

 

 

「ちょっと触れたら奥に引っ込んで、適当に触れるとまた戻ってくる。つまり、殺される順番通りに押せってことだと思う。本当に趣味が悪い。石に躓いてあの重そうな体ひっくり返って死ねばいいのに」

 

「姉さん、ちょっとやさぐれた…?」

 

「黒領域に包まれた挙句こんなもの見せられたらこんな気持ちにもなるよ。それで多分、この“吊られた”黒いローズが引っ込んだまま戻らないどころかなんか篝火もついてる。多分これが最初」

 

「…えーと?」

 

 

 えーと、矢で射った直前に沈めて、沈めたのは吊った後で、刺したのは最初でも最後でもない…それで吊るのが最初だから…。

 

 

「吊る、刺す、沈める、射る?」

 

「多分そう。ほらイーサン!ローズに自分の死んでるところを間近で見せるつもり!起きろ!」

 

「おまえ。エヴリン、覚えてろお前…」

 

 

 さっき言ってた通りに文字通り父さんを蹴り起こして、順番に触れて行く姉さんと父さん。するとバスルームの湯船(?)が開いて地下への通路が現れた。無言で頷き、父さんが先導して進み、梯子を降りて行く。下はワインセラーになっていた。妙に鼻に突く匂いがする樽が敷き詰められている。しゃがんで進める壁に開いた通路を進むと、メモが落ちているのを見つけた。

 

 

「【一番奥の小部屋。銀の仮面、やっと見つけたのに…】?」

 

「…この先にあるらしいがなにがあるってんだ」

 

「…待って。なにかいる」

 

 

 姉さんのひそひそ声に、物陰に隠れて父さんと共に息を潜める。先を見てみれば、奥の壁の菌根を守るように何かが徘徊していた。あれは…姉さんと父さんが一蹴されていた、巨大な棘付きメイスを持った三つの顔の怪物…!

 

 

「ポールハンガーは効かなかったし、ハンドガンが効くようには見えないな…」

 

「…やっぱりアイツが上の黒い私達を…?」

 

「…許せない」

 

「え」

 

 

 ひそひそ声で話していると、低い声を出して物陰から飛び出す小さな姉に思わず声が漏れる。手を伸ばして止めようとするもダメだ、届かない。姉さんの様子がさっきから何かおかしい。怒りっぽくなっているような…黒領域に包まれていた影響?

 

 

「お前が、ローズたちを…!」

 

「グオオオオアアアアアッ!!」

 

「遅い!」

 

 

 メイスによる一撃を、身軽な動きで紙一重で回避、ボディブローを腰に叩き込む姉さん。メイスを持った巨体が揺れる。効いている!?父さんのポールハンガーも効かなかったのに…。

 

 

「グオアアアアアッ!」

 

 

 連続でメイスをでたらめに叩き付け、姉さんを叩き潰そうとする三つ首男。姉さんはバックステップで回避、叩きつけられたメイスに乗ってストレートパンチを叩き込んで怯ませると、振り上げられたメイスから宙返りで飛び降りて鋭い蹴りで膝を打つ。

 

 

「三つも顔があって私を追い切れないわけ!」

 

 

 そう煽ってメイスの大振りを屈んで避けながら引き絞られたバネが解放され跳ね上がる様に跳躍、アッパーカットと膝蹴りを続けざまに顎に叩き込む姉さん。ゲームで見たことがある、昇竜拳だ。

 

 

「グオアア…」

 

「死ね」

 

 

 頭部が揺れて脳震盪でも起こしたのかふらつく三つ首男。そして冷酷に宣告すると傍のワイン樽を足掛かりにして駆け登り、スカートなのに関わらず大きく脚を開いて太腿で挟み込んだ三つの頭部が一体化した太い首を締め上げる姉さん。ギリギリギリ、と肉を締め上げる音が聞こえる。

 

 

「グオアアアアアアッ!」

 

「させない!」

 

 

 すると自分の頭諸共に姉さんを潰そうとメイスを振り上げる三つ首男に、姉さんを守ろうと咄嗟に前に出て手をかざし、怯ませてメイスを取りこぼさせると父さんが駆け寄り、メイスを手に取ってフルスイング。胴体を殴りつけてよろめかせる。

 

 

「いい武器をありがとな」

 

「グオアアアッ……」

 

「これで、終わり!」

 

 

 ゴキリと音が鳴り、三つ首男の首が折れてだらんと垂れ下がり、その巨体が崩れ落ちて姉さんが片膝と右手を突いて着地する。なんて怪力……やっぱり、姉さんは見た目通りの筋力じゃない気がする。人間離れしていて、まるで………私と同じ、人の姿をした怪物の様な。

 

 

「…怪物みたいって思った?」

 

「え、う、ううん。そんなこと…」

 

「この世界だと、時々生前の身体能力を発揮できるみたい。今のはコネクションから叩き込まれた技術だけど…うん、いい機会だから断言しとく。ローズは怪物(バケモノ)なんかじゃない。本当の怪物は私だよ。ローズの為なら、私は怪物でもいい」

 

「姉さん…」

 

 

 影の差した顔でにやりと笑みを浮かべる姉さんに何も言えなくなる。

 

 

「馬鹿野郎。お前たちは怪物なんかじゃない、可愛い可愛い俺の娘たちだよ」

 

 

 ごつんと、姉さんと一緒に頭をどつかれる。地味に痛いそれを押さえながら見上げると溜め息を吐いている父さんが。

 

 

「お前たちはどうしてそう自分を卑下するんだ。まったく……」

 

「…ごめんなさい」

 

「ごめん、イーサン」

 

「謝るな。そう思わせてしまった俺とミアの責任だ。お前たちには…ろくに触れてやることもできなかったからな」

 

 

 そう言って私達二人を纏めて抱きしめてくる父さん。撫でられるとも違う、温もり。姉さんも驚いた顔から心地よさそうなものに変わる。

 

 

「やっぱりちゃんと触れて伝えないとな。ケイナインには文句しかないが、触れるようになったことだけは感謝してやる。…随分と遅れた」

 

 

 ぎゅうっと優しく抱きしめられる。何も言わなくとも伝わってくる愛情に、顔がほころぶ。…今しか駄目なのだとわかっていても、永遠に感じていたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――余計なことを

 

 

 

 

 

 

「!」

 

「どうした?ローズ」

 

 

 辺りを見渡すと父さんから心配の声が上がる。どこからか声が聞こえた気がしたが…気のせいだろうか。

 

 

「ううん、なんでもない」

 

 

 ここで私は声の主を見つけなかったことを、後に後悔することになる。




少々グロッキーなローズ。イーサンに年齢を指摘されたからか攻撃的になってるエヴリン。触れられなかった故に足りなかったと感じた愛情を与えるイーサン。三者三様とはこのこと。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅢ【急成長】

どうも、放仮ごです。ローズ編で一番困っているのは雑魚敵のバリエーションの無さだったりします。

おや?エヴリンの様子が…(デンデンデンデン♪) 楽しんでいただけると幸いです。


 父さんのハグを堪能し精神を落ち着かせたあと、三つ首男を倒した先に進むと、銀の仮面が鎮座されていた。三つ首男が恐らく守り人だったのだろう、特に仕掛けもなかった。仮面を飾っている石像の後ろに黒領域と、例のテレビがあるぐらいだ。

 

 

「見つけた。これが二つ目の仮面ね」

 

「銀の仮面か…ドミトレスクの城にあるの皮肉だね」

 

「吸血鬼的な意味でか?」

 

《「取ってはいけないものを手にしてしまったようですな。まさかあのエクスキューショナーを倒すとは」》

 

 

 テレビから聞こえてきた仮面の公爵のそんな言葉と共に蠢く黒領域から、とんでもない数のフェイスイーターが顔を出す。不味い、罠だ!?

 

 

《「それではこの欲張りなウサギたちにバツを与えましょうか」》

 

「こんな狭い所でこの数は不味いぞ…!」

 

「狭くなきゃ倒せるのもどうかと思う!」

 

「あとでぶっ殺してやるからなデブ!覚えてろー!」

 

 

 急いで来た道を引き返すと壁のあちこちから黒領域が現れてフェイスイーターが顔を出す。こんな地下でこの数に追い詰められたら不味い。黒い私達の二の舞になる。それだけは嫌だ。

 

 

「こいつでも喰らえ!」

 

 

 すると前に立ちはだかったフェイスイーターを、三つ首男から奪ったままのメイスで殴りつけて吹き飛ばす父さん。狭い所でよくやるなあ。

 

 

「どうせ梯子を登るときに捨てるんだ、存分に使い捨ててやるさ!」

 

「でやあ!」

 

 

 狭い通路なのを活かして背後から襲いかかってきたフェイスイーターをアッパーで顎を砕いて迎撃する姉さん。崩れたフェイスイーターの身体が後続をせき止め、さらに父さんがメイスをぶん投げることで纏めて潰して一掃する。すぐ近くがバスルームに繋がっている梯子だ。

 

 

「メイスは惜しいが、今のうちだ!」

 

「黒領域を使わないとあんなの持ち込めないよ…」

 

「その気になればローズデッドみたいなでかいのも出てきそうだもんね」

 

「冗談でもやめて」

 

「お前が言うとフラグになるだろ」

 

「ローズにはごめんだけどイーサンには物申す!」

 

 

 そんなことを言いながらバスルームから戻ると、黒領域と黒い私で階段に繋がる通路を塞がれていた。この部屋に入るしかないか。警戒しながら扉を開けると、明るい空間と金色の文字が出迎えた。

 

 

【仮面はどうだった?】

 

「シャルルは地下まで来れないんだね…手に入れたよ、なんとかね」

 

「ヤバそうなのもいたけど倒したよ」

 

【三つ首のだったら逃げるのが正解だぞ】

 

「死ぬなら倒した方が早いだろ」

 

【待て。本当に倒したのか?奴は倒すことができない筈だぞ】

 

「え?」

 

 

 思わず姉さんを見る。不思議そうに首をかしげていた。いや、確かに父さんのメイスの一撃も致命傷になってなかったし姉さんの攻撃しか効いてなかったような気もするけど…つまりどういうこと?

 

 

「そんなこと言われても倒せたんだけど…」

 

「シャルル、どういうこと?」

 

【何か異変が起きている。調べる】

 

 

 そう言って金色の文字は消えてしまった。姉さんは不安げだ。父さんも渋い顔をしている。

 

 

「私、ただ全盛期の力が使えるってだけじゃないの…?」

 

「…確かに俺のモールデッドの四肢も使えないしお前だけなにかおかしいのか、エヴリン」

 

「そんなの言われてもわかんないよ…」

 

「悪かった。気にするな、お前が凄く強くてローズを守れるってだけだろう?」

 

 

 そんな父さんの言葉に無言で頷く姉さん。そのまま進める扉を使って回り道をして黒い私が飾られている廊下に出ると、落ち着かない様に周りをキョロキョロと見渡していた姉さんが何かに気付いてそれを手に取る。

 

 

「……これ、来た時には気付かなかったけど」

 

「攻略のヒントになるかもな。どれ。【ようこそ絶望のギャラリーへ。ここでは、1つでも仮面を入手したことがある優秀個体を額装して展示いたします】……クソが。【数ある我がコレクションの中でも選りすぐりのウサギたち。その脆弱かつ苦痛に満ちた姿をありのままに芸術とした逸品を集めています。本コレクションを通して「いのちの輝き」を違った視点から眺めていただければ幸いです】」

 

 

 姉さんが見つけた文書を父さんが手に取り読んでいくうちに、ギリギリと拳が握りしめられる音が姉さんから聞こえてきた。見れば、赤い血が滴る程に強く握りしめている私と同じくらいの背丈の少女がいて。

 

 

「…何度私を怒らせれば気が済むの」

 

「え…?姉さん?」

 

「なに?ローズ」

 

 

 思わず二度見して問いかけるといつもの姉さんの声がその口から出る。周りを見渡す。父さんはそのままだし、絶句して驚いている。子供の姉さんの姿はない。えっ、じゃあこれが姉さん…!?

 

 

「何で大きくなってるの…?」

 

「え。…あれ?え?なんで!?」

 

 

 指摘するとようやく気付いたのか、すらりと伸びた腕やサイズまで変わった黒いワンピースやブーツを見て困惑する姉さん。子供そのものだったその顔はすっかり大人びて私によく似た…というより髪色と髪型、服装が違うだけの双子と言われた方が納得するぐらいそっくりだ。身長は私よりちょっとだけ大きくて新鮮過ぎる。

 

 

「…エヴリンの怒りに呼応して菌根が力を貸しているのか…?」

 

「…子供の脚じゃアイツの首を締め上げるの難しそうだなと思ってたけど、これならいける!」

 

「そこじゃないと思うよ姉さん…」

 

 

 半信半疑だったけど変わらぬポンコツ発言に姉さんだと確信して思わず笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その調子だ

 

 

 

 

 

 

「!」

 

「どうしたの、ローズ?」

 

「なんか見つけたのか?」

 

 

 また聞こえた、謎の声。姉さんと父さんは不思議そうにこっちを見てくる。気のせいじゃない、私にだけ聞こえてる…?声の主を確かめんと階段を下りて行くと、黒領域から出てきたのかテレビが設置されていた。これから…?いや、違う。仮面の公爵の声じゃなかった。でも男か女かもあやふやな…。

 

 

《「しぶといウサギですねまったく!まったくもって邪魔ですね、親ウサギと……おや?子ウサギが成長してらっしゃる。コレクションによさそうですな」》

 

「やれるもんならやってみろ。顔を出した瞬間に殺してやる」

 

 

 そう挑発する姉さん。なんか態度や自信も大きくなっている気がする。過信しすぎなきゃいいけど…。

 

 

《「ほほう。楽しみにしておきますが、それはさておきもうこれ以上好き勝手はさせませんよ」》

 

 

 そう言い残してテレビの電源が消える。嫌な予感がしながら中庭への扉を開ける。閉める。溜め息。そして深呼吸。

 

 

「どうしたの?」

 

「なんかいたのか」

 

「…またあいつがいる」

 

 

 そっと扉を小さく開けて姉さんと父さんと一緒に覗き見る。10体ぐらいのフェイスイーターを従えるようにしてあの三つ首男…仮面の公爵曰くエクスキューショナーが、仮面の部屋への通路を陣取っていた。意気揚々と突撃してたらメイスに潰されて死んでた。

 

 

「ここは任せて。伊達に大きくなってるだけじゃないところを見せてあげる!イーサンはローズを!」

 

「あっ…、姉さん!」

 

 

 大きく後退すると飛び蹴りで扉を蹴破って外に出る姉さん。すぐにエクスキューショナーが反応してフェイスイーターを嗾けるも、姉さんは今までみたいに助走や勢いづけたりせずに淡々とストレートパンチやフック、アッパー、回し蹴りで次々と迎撃。メイスを振り上げて襲いかかってきたエクスキューショナーを前に怖気づかずに右手をかざす姉さん。

 

 

「グオアアアアアアアッ!」

 

「今なら使える気がする…!」

 

 

 瞬間、衝撃波が放たれてメイスが天高く吹き飛ばされよろめくエクスキューショナーの胴体に、隠しきれない喜悦に歪んだ笑顔の姉さんの前蹴りが突き刺さる。私の力とは違う、今のはなに!?

 

 

「衝撃波…生前のエヴリンが唯一使えた戦闘能力だ」

 

「姉さんあんなこともできるんだ…」

 

 

 そのまま右の顔にフック。左の顔にアッパー。中央の顔に右ストレートを叩き込んでいった姉さんは、落ちてきたメイスを両手で握ると一回転。大きく振り抜いてエクスキューショナーの顔を全て吹き飛ばした。頭部を失ったエクスキューショナーの身体が膝から崩れ落ち、石灰化して雪空に散っていく。

 

 

「行こう。ローズ、イーサン。仮面の公爵をやっつけよう」

 

 

 そう言いながら振り返った姉さんの笑顔から、先程まで感じた喜悦は消えていた。




大人化(女子高生)エヴリン再び。本編で幻影として変身したり、アナザーエヴリン編で強化した姿として登場したアレです。身体能力が上がっただけでなく衝撃波を使える様にもなりました。ちなみにゲームとしてはエクスキューショナーは本来、回避推奨で倒せないタイプの敵です。

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ダイブⅩⅣ【謎解き(物理)】

どうも、放仮ごです。エヴリンも増えてきたのでアンケートを始めました。

今回は歌劇場の謎解き()。楽しんでいただけると幸いです。


 仮面の部屋に戻ってきた。銀の仮面を彫像に付ける。…特に変化はないようだ。いけるところで調べてないところは…。

 

 

「あとは…例の趣味悪い食物連鎖の絵?」

 

「蛇の絵は見つからなかったな…」

 

「任せて。今なら謎解きも関係ない」

 

「え」

 

 

 意気揚々と絵の部屋に戻る姉さん。そのまま奥の閉ざされている檻に指を入れると、「よいしょ」という声と共に器用に指先から衝撃波を発射。グシャアと音を立てて檻は捻じ曲げられて、その奥にあった粉砕された宝箱の残骸の中から三ツ眼紋章の鍵を手に入れた。ぽかんと小気味いい音が鳴る。父さんが姉さんの頭をはたいた音だ。

 

 

「いったあ!?なにすんのイーサン!!」

 

「お前、馬鹿!中の鍵まで壊したら詰んでたぞ!?」

 

「壊してないからいいじゃん!こんな趣味の悪い城で探し物するよりよっぽどいいでしょ!」

 

「それはそうだが結果論だろうが!もう少し方法をだな…」

 

「まあまあ。鍵が手に入ったしいいじゃん」

 

 

 身長が上がったせいか顔を近づけて怒鳴り合う父さんと姉さんを仲裁する。姉さんは私の事を思ってやったことだし、父さんは全体の事を考えて言ってくれてる。どっちも正しいと思う。すると、宝箱残骸の内側に文字が書いてあるのを見つけた。パズル感覚で並べて読んでみる。

 

 

「【三ツ眼の紋章は栄光を呼ぶ。汝進めば金の仮面を与えられん】…これを使ってどこかへいけってこと…かな?」

 

「パズルした割に大したこと書いてないね」

 

「誰のせいだ誰の。…とりあえず食堂のショットガンをこれで取れるな」

 

「ハンドガンと一緒に父さんが持っていてくれると嬉しいかな」

 

 

 できれば銃なんて握りたくないしね。早速戻って三ツ眼紋章の鍵をでっぱりにはめてショットガンを手に入れる。ポンプアクションして調子を確かめる父さん。このタイプは家に飾ってあったのを見たことある、ちょっと懐かしい。

 

 

「メイスが無くてもこれでなんとかなるな」

 

「メイス使いやすかったけどね」

 

「あんな使い方できるの姉さんぐらいだと思うよ…」

 

 

 そんな会話をしながら姉さんが一掃して危険が無くなった中庭を抜けて、最初の階段の下にあったのを覚えていた三ツ眼の扉を開けると、黒領域で大半を覆われた広い部屋に出た。菌核と金の仮面が黒領域の向こうにあるのが見える。上に通路があるらしい。何故か黒領域でピアノが吊られているけど。

 

 

「…ここは、ピアノの部屋だな」

 

「ああ、私が見事な演奏をした場所」

 

「懐かしいな。感慨深くもなんともないが」

 

 

 そりゃこんな黒領域に埋め尽くされてちゃね…。…黒領域か。

 

 

「…黒領域」

 

「どうした、ローズ。何か思い当る事でも?」

 

「姉さんが強くなったのってローズデッド…黒い私の怪物に黒領域をぶつけられてからだったなって。その前から強かったけど。明らかに変わった」

 

「そういえばそうだね。あの時は口に入れられて窒息しそうになって嫌な感じだったなあ。…今は悪くない気分だけど」

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だって。二人は心配性だなあ。なんなら飲み込んだらもっとパワーアップしそうじゃない?」

 

「やめて姉さん。絶対ヤバいよ」

 

「そうだぞ」

 

 

 黒領域がなにかもちゃんとわかってないの楽観的すぎやしないだろうか姉さん。そんな会話をしながら階段を上り吹き抜けの二階に出る。やっぱりぶら下がっているピアノがなんか目立つな…。

 

 

「…どうすればいいんだろう」

 

「私が黒領域に入って金の仮面を取ってくるとか!」

 

「やめろ。どうなるかわかったもんじゃない。無効化できるって決まったわけじゃないんだぞ」

 

「いいや、行くね!」

 

「やめて!?」

 

 

 意気揚々と二階の吹き抜けから一階の黒領域に飛び込もうとする姉さんを引き止めていると、横で銃を構える音が聞こえた。ショットガンを手にした父さんだ。何事かと見てみると、一階へ続く階段からフェイスイーターの群れがぞろぞろとやってきていた。

 

 

「そんな…!?ここじゃ、逃げ場が…」

 

「エヴリン。前言撤回だ。ローズを抱えて飛び降りて金の仮面を回収しろ。こいつらは俺が相手する」

 

「イーサン一人で大丈夫?」

 

「誰にモノ言っている。お前の支配する狂気のベイカー家を一人で一夜生き延びた男だぞ」

 

「そうだったね。任せた!」

 

「え、待って姉さん!?きゃああああああっ!?」

 

 

 父さんがショットガンを撃ちながらフェイスイーターの群れに向かうなり、私をお姫様抱っこで抱えてひらりと身軽に舞って飛び降りる姉さん。思わず悲鳴を上げているとべチャッと言う音と共に一階に着地。黒い飛沫が飛び散った。

 

 

「あ、ヤバい」

 

「え?わあっ!?」

 

 

 さすがに痛かったのかじっと耐えていた姉さんがなにかに気付くと私を金の仮面があるところまで放り投げる。尻餅を付きながら見ると、黒領域から飛び出してきたフェイスイーターの手に捕縛され沈むように引きずり込まれていく姉さんが見えた。姉さんももがいているが黒領域が纏わりついて粘っこく拘束して、口も塞がれ手足は封じられ動けないでいる。そんな…!?

 

 

「この…姉さんから離れろ!」

 

 

 咄嗟に右手を向けるが黒領域の中にいるフェイスイーターには通じない。咄嗟に菌核を捜す。あんなところに…!

 

 

「間に合え!」

 

 

 左手で押さえた右手を突き出し、力で石灰化させていくが間に合わない。菌根が石灰化した時、その事実に気付いて絶望する。その菌核は姉さんを取り込んでいる黒領域のものじゃなかった。ピアノを吊り下げていた黒領域が石灰化して落ちてきただけだ。それに気付いた瞬間には時すでに遅し、姉さんは黒領域に頭まで完全に包まれてしまった。

 

 

「そんな、姉さん……」

 

「何があったローズ!…エヴリンは、まさか」

 

 

 そこにフェイスイーターを片付けたらしい父さんが黒領域の向こう側に駆けつけたけど、私は泣き崩れるしかなくて。それで父さんもなにがあったのかわかったのか、その場で立ち尽くしてしまった。姉さんの力で無理矢理ここまで来たから私が帰る術もない。父さんの言葉を借りれば、詰んでいる。私は何もできずにここで朽ちて行くしかないんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この程度で私を封じられると思うなよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、思わずゾクッと背筋に寒気が走る恐ろしい声が聞こえて、信じられないことが起きた。姉さんが取り込まれた部分を中心に、部屋中の黒領域が集束して行ったのだ。

 

 

「姉さん…?」

 

 

 黒領域は私と同じぐらいの背丈の人型に集束されると、そのままぺたぺたと足音を立てながら私の真横を歩いて金の仮面を手に取り顔を隠す様にして仮面を持ち上げた。すると四肢に肌色が現れてスカートを始めに衣服を形成し、仮面の下の口元が笑みを湛えて仮面をずらすと、悪戯が成功したような表情を浮かべた姉さんの顔がそこにあった。

 

 

「あー、びっくりした。死んだかと思った」

 

「こっちの台詞だよ!?」

 

「おま、おまえ……姿が無くてローズが泣き崩れてたからやられたかと思ったぞ!?」

 

「私もヤバいと思ったけどさ。闇の中に引きずり込まれた時、声が聞こえたんだ。「お前の糧にしろ」って。そしたらやってみたらできちゃった」

 

「声?…それってどんな声!?」

 

 

 思わず姉さんの肩を握って顔を近づける。声ってまさか。私も聞いていたあの声…?

 

 

「近い近い近い……いや男でも女でもない不思議な声だったけど…」

 

「どんな声だよ」

 

「私も聞いた声だ…」

 

「「え?」」

 

 

 驚く二人を余所に回りを見る。黒領域が綺麗さっぱり消えて薄暗いしピアノが転がってるけど煌びやかな部屋が広がってる。なんだ。何が見ている?仮面の公爵じゃない。フェイスイーターでもエクスキューショナーでも、シャルルでもない。何かが私達を観察している。

 

 

「…誰?一体誰なの…!?」

 

 

 私達しかいない空間に問いかけてみるが答えは返ってこない。不気味な静寂が広がるだけだった。




方法が別にあるならなにも馬鹿正直に謎解きする必要ないよねって。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅤ【脱出ゲーム】

どうも、放仮ごです。ローズ編を書くにあたってサイコブレイク2も参考にしてます。ルーカスと同じ声の悪役が出てたり、イーサンと同じ女の子の父親の物語だし、精神世界だしでベストマッチ。

今回は前回に続いて大ピンチ。楽しんでいただけると幸いです。


「…ローズ。なにがあったのかわからないけど、急ごう。これで結晶を手に入れられるはずだよ」

 

「…うん、そうだね」

 

 

 不気味な静寂の中で何も反応が無いためいったん諦めて、姉さんが手に入れた金色の仮面を持って先導し、ピアノの部屋を出た時だった。

 

 

「ぐっ!?」」

 

「姉さん!?」

 

 

 前を歩いていた姉さんが扉を通るなりメイスで吹っ飛ばされて壁に叩きつけられ、不意打ちで頭を打ったのかダウン。そのまま現れたエクスキューショナーに腕を纏めて掴まれ締め上げられてしまう。

 

 

「くっそ、変な知恵つけて…放せ!」

 

「エヴリン!」

 

「姉さ…、ぐっ…!?」

 

 

 父さんがエクスキューショナーにショットガンをぶちかましながら突撃するのに続こうとしたら、背後から首を絞められ持ち上げられる。黒領域がすべて消えたはずのピアノの部屋にいつの間にかいたエクスキューショナーだった。そんな、なんで。どこから現れたの…!?

 

 

《「おっと。大事なウサギを殺されたくなければ黙って言うことを聞きなさい親ウサギ。姉ウサギ、貴方もです」》

 

 

 どこからともなく聞こえてきた仮面の公爵の言葉に身動きが取れなくなってしまった姉さんと父さんに、ショットガンをぶちかまされても平気そうなエクスキューショナーが後ろ手に手錠をかける。

 

 

「油断した……」

 

「…くそっ、ローズを離せ…!」

 

《「なにをしたのか知りませんが、部屋一つ分の黒領域をまるまる消したぐらいで警戒を緩めないことですな。別の部屋から入れればいいのだから!さあエクスキューショナーについてきなさい。話はそれからです。抵抗しようとしたらウサギの首がへし折れますよ?今殺してもいいのですからね!」》

 

「「ぐっ……」」

 

 

 拘束されてもなお動こうとした瞬間、首を強く締め上げられて意識が遠のく。あ、駄目だ…意識保ってられない、や……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこ…?」

 

 

 目覚めると、どこかの牢屋の中だった。父さんと姉さんの姿が無いことに不安を抱いていると牢の向こうにあるテレビから忌々しい声がする。

 

 

《「さあさあ皆様ご注目!お目覚めの時間ですよ!」》

 

「仮面の公爵…!父さんと姉さんは何処!」

 

《「残念でしたなあ。あの結晶を手に入れるまであと一歩と言うところでしたぞ。さすが、本物は実に活きがいいですなあ!」》

 

「…本物?」

 

 

 確かに私は本物だけど、じゃああの黒い私達はいったいなんなの?

 

 

《「特別なウサギを簡単に殺してしまうのはもったいない。もう少し愉しませていただくとしましょう。まずは貴方の大事な家族からね。私を愉しませてくれるゲストを二人も連れて来てくれたことに多大な感謝を送りますよ!ウサギ相手は飽き飽きとしていたところでねえ」》

 

「…どういうこと?」

 

 

 するとテレビの画面が切り替わる。どこかの広い円形の部屋で、後ろ手に手錠をかけられズタボロの姉さんと父さんが、背中合わせでエクスキューショナーの大群に取り囲まれ奮闘しているところが映っていた。姉さんが衝撃波を放とうとしているものの父さんに当たりかねないためか撃ててないらしい。

 

 

「姉さん!父さん!あなた、なにを…!?」

 

《「貴方を殺すと脅せば、この二人は何でも言うことを聞いてくれましてねえ?貴方を解放してほしければ手錠をかけた状態でエクスキューショナーを百体倒せと言う難題を出したのです!いやはや、既に10体ほど倒されてちょっとばかし焦っていたところですよ」》

 

「そんな、無茶な…!?」

 

《「まあもっとも?例え100体倒したところで貴方を解放などしませんけどねえ!このまま死ぬまで延々と処刑人が相手しますとも!」》

 

「この…外道!」

 

 

 多分、あの二人もそのことには気付いている。でも戦うしかない、そんな状況を作りだしたんだ。外道だけど頭が回る。どうしようもないじゃないか…。

 

 

《「貴方は大事な大事な獲物だ。解放するなどするわけがない。そんな顔しないでください。貴方にも私を愉しませるゲームをしてもらいますから」》

 

「誰が…!」

 

 

 すると牢の向こう側の壁面が黒領域に覆われ、次々と菌核が出現していく。さらにじわじわと黒領域が広がって来ていた。

 

 

《「脱出に繋がる核はごくわずかしかありません。さあ、本物がわかりますかな?急がないと飲み込まれてしまいますからね。もう既に貴方がいないのに戦い続ける家族というのも実に見ものだ。どう転んでも私を愉しませてくれるでしょう!」》

 

「こんなの…どうやって見つければいいのよ!?」

 

《「ハッハッハッ!てんで違う場所ですぞ!もう少しきちんと見極めた方がよろしいかと?」》

 

 

 片っ端から菌核に右手をかざして石灰化させていく。ダメだ、見つかる気がしない。テレビの向こう側では姉さんが飛び膝蹴りでエクスキューショナーを蹴り飛ばし、父さんが頭突きで怯ませていた。…弱気になったらだめだ、二人も頑張ってるんだ。すると黒領域に覆われてない壁に金色の文字が躍った。

 

 

【やっと割り込めた。調べものしているときに連れてかれるとはな】

 

「シャルル!?どうにかできる!?」

 

【大丈夫だ。場所は教えてやる】【タルより下だ】【ここより右だ】【ここより左だぞ】

 

 

 次々と壁に文字が現れ、目を懸命に動かす。タルより下で、その位置より右で、そこより左……これ!ビンゴ。かざした菌核は崩れて壁を覆う黒領域の一部が石灰化した。

 

 

「やった!」

 

《「おっと!おやまあなんてことでしょう。残り時間は90秒です」》

 

「嘘、まだあるの!?」

 

《「誰も一つとは言ってませんよ~?おつむが足りない様ですねえ?」》

 

「言わせておけば!」

 

【挑発に乗るな。その調子だ。次に行くぞ】

 

 

 仮面の公爵の挑発に思わず本気で怒りそうになるも、シャルルに諭されて冷静になる。早くこんなところから抜け出して姉さんと父さんと合流して安心させないといけないんだ…!

 

 

【暗がり奥】【大きい核】【崩れた壁】

 

「ここだあ!…っ!?」

 

 

 牢屋の中の崩れた壁にそれらしきものを見つけるも、フェイスイーターが黒領域から現れて立ちふさがってきた。

 

 

《「そう簡単に行くとでも?」》

 

「邪魔!」

 

 

 姉さんの動きを散々見て覚えた右ストレートを、力を発動しながら繰り出すことでフェイスイーターを一撃で殴り飛ばし、そのまま菌核を破壊する。もう怒りでどうにかなりそうだ。散々煽って邪魔してきて…!

 

 

《「おお、怖い怖い。残り時間は一分、さあさあ急いで!」》

 

「まだあるの!?」

 

《「さあこれでいよいよフィナーレですぞ!私を愉しませなさい!」》

 

【急げ】【俺を追うんだ】【こっちだ】【さらに上だ】

 

「くっ、邪魔しないで!」

 

 

 次々と黒領域から現れて襲いかかってくるフェイスイーターを殴り飛ばしながらシャルルの文字を追うと、明らかに異様なでかい菌核が天井にあった。アレだ、間違いない。だけどフェイスイーターが邪魔で…!?

 

 

「助けて…父さん、姉さん…!」

 

 

 思わず助けを求めたその時。テレビの向こう側で何かに気付いてこっちを見た姉さんが、キッ!と睨みつけてきて衝撃波を発射。なんとテレビを伝ってこっちまで突きぬけてきて、私を取り囲んでいたフェイスイーターを一掃する。そんなことまでできるの!?

 

 

「い、今だ…!これで終わって…!」

 

 

 フェイスイーターが一掃された隙に右手を天井にかざして巨大な菌核を石灰化。崩れ落ちさせると牢も覆っていた黒領域も消えて、牢が引っ込んで解放されて奥の出口へ急ぐ。

 

 

「何とかなった…」

 

【やったな。急げ、あの二人も限界だ】

 

「わかってる!」

 

 

 シャルルの言葉に頷いて扉を蹴破り先へ急ぐ。無事でいて、二人とも!




脅威のエクスキューショナー軍団。まさかのローズ、孤軍奮闘です。ここどうするか本気で迷った。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅥ【薔薇の守護者(ローズガーディアン)

どうも、放仮ごです。世界の都合上オリジナルクリーチャーが気色悪いのばかりになってるけどご了承あれ。楽しんでいただけると幸いです。


 牢屋から脱出した私は、ついてきてくれる金色の文字と会話をしながら先を急ぐ。

 

 

「シャルルがいないと危なかった、ありがとう」

 

【お前が頑張ったんだ】

 

「ううん、私一人じゃ無理だった。私はシャルルや姉さん、父さんに助けられてここにいる」

 

【素直なのはお前の美点だな。ここは入り組んでる、案内するぜ】

 

 

 立ちはだかるフェイスイーターを力を纏った拳で黙らせながら進んでいくと、いつぞやのキッチンに出た。あの閉じられていた扉の反対側に出たんだ。こっちに食堂があって、それで……二人が戦わされていたのは、最初に仮面の公爵がいたあの彫像の部屋だろうか?それとも別の部屋?そうだとするとどこに…。

 

 

【いよいよだ。家族を助けてその力から解放される時だ】

 

「…うん。今までずっとこの力と生きてきたから無くなるって考えると変な感じで複雑だけど、やっとこの力から解放される。その前に仮面の公爵はブッ飛ばすけど」

 

【それでこそあの二人の家族だよ】

 

「シャルルは父さんと姉さんとどういう関係だったの?親しそうだけど」

 

【……共犯者ってところだな。油断するなよ】

 

「わかってる」

 

 

 食堂までやってきて、意を決して彫像の部屋への扉を開ける。そこには、何も変わってない部屋があって。中央には金の仮面が転がっていて、警戒しながらそれを彫像にはめるとカンテラが開いて結晶が顔を出し、それを手に取ろうとして…やめた。

 

 

「…父さんと姉さんは何処?」

 

「おや?取らなくてもよろしいので?」

 

「!」

 

 

 瞬間、右腕に力を纏って拳を背後に叩き込むが、太い手で腕を掴まれて受け止められてしまう。そこにいつの間にか現れたのは、仮面の公爵だった。

 

 

「っ…放して!」

 

「がんばりましたなお嬢さん。ご褒美にそれを差し上げましょう。まるで本物の様に見えるでしょう?」

 

「!?」

 

 

 その言葉に驚いて振り向くと、こうも苦労して手に入れようとしていた結晶が塵となって消えてしまった。そんな……。

 

 

「当然、レプリカですよ。こんな浅い階層に本物を置くわけないでしょう?ああ、それも知らないんでしたねえ」

 

「嘘だ、嘘だ……」

 

「まさかこの世界の秘宝と呼べるほどの価値のあるものを簡単に渡すとでも?罠には餌が必要ですからなあ」

 

「いや、嫌……!?」

 

 

 すると足元に黒領域が現れ、私の身体が沈んでいく。こんなところで、こんな…こんな…!

 

 

「先程父ウサギと姉ウサギを呼びましたかな?安心しなさい、すぐ二人の元に送って差し上げますよ。地獄にね…!ヴェハハハハハハハッ!」

 

 

 その言葉と共に私は完全に黒領域に飲み込まれてしまい……次に目を開けると、また牢獄の様な部屋だった。服に黒い汚れが付着している。辺りを見渡せば、目の前には趣味の悪いオブジェが飾ってあり、その上に全身をオブジェに突き刺され拘束された姉さんと、後ろ手に縛られたまま何とかしようとしている父さんがいた。

 

 

「姉さん!父さん!」

 

「ローズ!?お前、いつここに?それにどうした、その暗い顔」

 

「うぐっ、ローズまで、こんなところに……あの時感じたローズのピンチは本当だったんだ…」

 

「姉さん、父さん…また会えてよかった。私達が手に入れようとしていた結晶は偽物だったの。だけどなんで姉さんがこんな目に…?」

 

 

 姉さんを助ける何かを探そうとすると、私たちを観察できる高所に仮面の公爵が陣取っているのを見つけてしまう。

 

 

「ヴェハハハハハッ!おや、見つかってしまいましたかな?なにはともあれ感動の再会ですな。父ウサギはともかく姉ウサギは厄介でした、ええ実に厄介でしたとも。黒領域を吸収されてしまってはねえ…物理的に精神的に押さえるしかなかった。彼女の弱点はウサギ、お前です。貴方を人質に取り、精神的に追い込んで私の作品として拘束する、そうして無力化しました。それは新時代の鋼鉄の処女(アイアンメイデン)です。血の一滴に至るまで絞り上げてしまう代物、美しいでしょう?」

 

「ぐうう…」

 

「ふざけるな!」

 

 

 激痛に耐えているのか苦しげな姉さんの姿に、父さんが激昂する。しかし縛られている父さんは恐ろしくもなんともないのか、野太い嘲笑を上げる仮面の公爵。

 

 

「ヴェハハハハッ!面白いのはここから。貴方たちの最期にピッタリの場所です。私の傑作をお見せしましょう!」

 

 

 奥の壁に黒領域が扉の様に出現し、そこから巨大な何かが現れる。それを見て私は絶句し、思わず目を背けた。それは、複数の私の死体が組み合わされたオブジェが動いている醜悪なバケモノだった。首というものが存在せず、複数の私の頭部が薔薇の花弁を思わせる形でくっ付いて蠢いている胴体に、大量の手を組み合わせてできている長い四肢、右手には中央に菌核がある黒領域でできた丸鋸が回転して火花を散らしている。

 

 

「名を、薔薇の守護者(ローズガーディアン)!今まで死んできたウサギの中でも綺麗な死体のみを組み合わせて作った至高の芸術品です!」

 

「最悪!本当に、反吐が出る!」

 

「好きにおっしゃいなさい。父親は縛られ、姉は磔。貴女に何ができる?さあ、ショーを始めなさい!」

 

「アァアアアァアアアアアッ!」

 

「ローズ、背中のショットガンを取れ!」

 

「わかった!父さんは逃げて!」

 

 

 父さんの背中にかけてあったショットガンを受け取り、悲鳴の様な咆哮と共にギュインギュインギュィイイイイイン!と回転する音を鳴らし石の壁に当たって火花を散らしながら丸鋸を構えて歩いてくるローズガーディアンの一撃を避ける。ぶんぶんぶんと振り回されるそれから必死に逃げる。

 

 

「なんともまあ惨めですねえ。泣き叫びながらお逃げなさい!」

 

 

 嗤う仮面の公爵。確かに凶悪な攻撃範囲だが、隙だらけだ。前に戦ったローズデッドより戦いようはある!

 

 

「悪く思わないでね!」

 

 

 ショットガンを私の顔だらけの胴体に叩き込む。すると表面が吹き飛んで内側の黒領域と、その中央に輝くオレンジ色の光が見えた。こいつ、黒領域で私の顔を再現しているだけだ。しかしすぐにローズガーディアンの胴体は再生、左手を鞭のように振るって私の首を掴んできた。

 

 

「アァアアァァァァアアアアァアアッ!」

 

「ぐうう!?」

 

「ローズに手を出すな!」

 

 

 首を締め上げられもがいていたところに、父さんが横から体当たり。ローズガーディアンを怯ませて私を解放させるも、自身も倒れてしまう。あれじゃ立ち上がれない、格好の獲物だ。

 

 

「こっち!こっちを見て!」

 

「ああ、なんという愉悦!ヴェハハハハッ!」

 

 

 なんとかこっちに引きつけようとショットガンをぶちかますも顔が潰れるだけで、丸鋸を振り上げながら父さんに歩み寄ろうとするローズガーディアン。すると父さんは倒れたまま足を正座の如く縮めると無理やり縄跳びの様に自分の足を腕の間に潜り抜けさせ、立ち上がり手錠で丸鋸を受け止める。ギャリギャリギャリ!と火花を散らしながら金属音と共に砕け散る手錠。そこに父さんはストレートパンチをローズガーディアンの胴体に叩き込む。

 

 

「…最悪なことにな。お前も家族だ、顔だけな」

 

「アアァアアァアアアアアアァアアアッ!?」

 

 

 殴り飛ばされ、吹き飛ぶ巨体。完全に露出したオレンジ色の光……菌核に、右手の力を叩き込むと頭部の一部が弾け飛ぶ。効いてる…!けど、まだ足りない!あと一発叩き込めば倒せそうだけど…!

 

 

「無駄な抵抗を…なんと可愛らしいことでしょう!死に抗う命の輝き…いくらでも見ていたいものですな!」

 

「言っとけ!表面を剥がせばローズの力が効くようだ!集中攻撃するぞ!」

 

「わかった!」

 

 

 父さんがハンドガンで、私はショットガンで一斉攻撃。しかし丸鋸の黒領域を肥大化させて盾の様に展開したそれで弾丸を全て弾かれてしまう。なんてやつなの…!?

 

 

「か弱いウサギたちが足掻く姿…たまりませんな!」

 

「くそっ…!?」

 

 

 ローズガーディアンの左腕が下から伸びてきて父さんの足が掴まれ、引っ張られて振り回され石壁に叩きつけられる。私にも丸鋸が振り下ろされ、咄嗟にショットガンを盾に受け止めて弾き飛ばされ、転がったところに丸鋸が振り上げられる。ダメだ…!?

 

 

「…うぐぐ……ローズに手を出すなあ!」

 

「ァアアアァァアアッ!?」

 

 

 瞬間、磔にされている姉さんから衝撃波が放たれて丸鋸を構成している黒領域が弾け飛び、さらに転倒しながらも父さんが撃ったハンドガンの弾丸が左手を撃ち抜いて妨害する。今だ!零距離でショットガンをぶちかまし、露出した菌根に力を叩き込むと断末魔を上げてローズガーディアンは崩れ落ちて黒領域へと溶けてしまった。

 

 

「おお、素晴らしい!これまでのウサギと違って手ごたえがありますな!そろそろ悲劇が見たいものですな、場面転換といきましょう!」

 

「はあ、はあ……え?」

 

「くそっ、エヴリン!」

 

 

 父さんが姉さんを無理やり棘から引っこ抜いて助け出す中で、ローズガーディアンだった黒領域が広がり始めて、扉が開く。無理やり移動させようって言うの…!?

 

 

「急ぐぞローズ!なんとか脱出するんだ!」

 

「わかった!」

 

 

 結晶の事は今は忘れよう。今はこの悪夢からの脱出を!




・ローズガーディアン
仮面の公爵の傑作である薔薇の守護者。名前に反してローズを始末することに特化している。大量のローズの顔がひとまとめになっている気色悪い怪物。元ネタはサイコブレイク2のガーディアン。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅦ【仮面の公爵獣(デューク・ビースト)

どうも、放仮ごです。続けてオリジナルクリーチャーです。魔女、吸血鬼、動く人形、半魚人、フランケンシュタインがボスとしているなら…ね?楽しんでいただけると幸いです。


 全身から血を垂れ流してぐったりしているなんかちょっと大きくなったような気がする姉さんを父さんが担ぎ、黒領域から逃げる様に開かれた扉の先を急ぐ私達。聞き覚えのあるというかついさっきまで聞いていた叫び声が聞こえて思わず振り向けば、バラバラになった私の複数の頭部が集まるようにしてあの怪物が再生しているのが見えた。

 

 

薔薇の守護者(ローズガーディアン)は不死身です。菌核を与えれば、ほれこの様に…!」

 

「最ッ悪!死ねばいいのに!」

 

「相手をするな、生き延びる事だけを考えろ!」

 

「アアアァアアアァアアアアッ!殺してッ!殺してェエエエエッ!」

 

「!?」

 

 

 ギュインギュインと丸鋸を回転させながら迫りくるローズガーディアンの絶叫が自我のあるものに変わっていることに驚く。ただ復活しただけじゃないの!?

 

 

「おやおや。一度倒されたせいで自我が起きてしまいましたか。ウサギの悲鳴は心地いい物ですねえ」

 

「……父さん。私、黒領域を全部消してみる。あれさえなければあの子たちはもう、復活しない筈…」

 

「…できるのか、じゃないな。お前ならできる。時間稼ぎなら任せろ!エヴリン、起きてるな!?しっかり掴まっていろ!」

 

 

 父さんにショットガンを渡し、父さんを信じてその場で止まり、振り返って右手に意識を集中させる。この黒領域を発生させている中核……それを見つけて破壊する。

 

 

「降参するにはまだ早いですよ。もっと抵抗してみせてください」

 

「言われなくてもな!」

 

 

 父さんの前蹴りがローズガーディアンの胴体の私の顔の一つに突き刺さる。父さんが嫌そうな顔をするが、すぐに迷いを振り払ったのかショットガンを乱射。

 

 

「アァアアァアアアアッ!?」

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 

 怯んだ隙に黒領域で形成された丸鋸のくっついた右手をショットガンで撃って構成を甘くすると手首を掴み、無理やり引きちぎった丸鋸をそのままローズガーディアンに叩きつけて表面を吹き飛ばす父さん。

 

 

「ローズみたいにはできないが……弱点なのに変わりはないだろ!」

 

 

 胴体の中央にある菌核を露出させるとハンドガンを半固体のそれに突っ込み零距離乱射。弱点である菌核を何度も撃ち抜かれたローズガーディアンは怯むも、すぐに胴体の顔を全て再生させて幽鬼の如き表情で左腕で父さんに掴みかかる。

 

 

「アァアァアア!?「痛い」「やめて」「苦しい」「姉さん」「楽になりたい」「ずるい」「あいつだけ」「殺す」「死んでよ」「許さない」「邪魔しないで」「何でこんな目に」「ひどい」「もういやだ」「父さん」「死にたい」「助けて」ころ、して…」

 

「くそっ…!?」

 

 

 顔それぞれが恨み言を言ってくるローズガーディアンに泣きそうな顔になり首を絞められ苦しむ父さん。助けるためにもと意識を集中する、だけど駄目だった。力が足りない。見れば丸鋸がほどけていくつもの手に枝分かれした右腕がショットガンとハンドガンを取り上げて父さんと姉さんを締め殺そうとしていた。このままじゃ…!

 

 

「…シャルル!シャルル!お願い!助けて!力がいるの!父さんを死なせたくない!あの子たちを、楽にしてあげたいの!」

 

 

 今は結晶はどうでもいい。今この時が大事だ。シャルルにしかもう頼れない…!すると、金色の文字が躍った。間髪入れずそれを追っていく。

 

 

【こっちだ】

 

「シャルル…!」

 

【俺の存在が奴にばれるかもしれないが言ってる場合じゃないな。お前の叫び、痺れたぜ】

 

「三つ目のフラスク…!」

 

 

 その先には三つ目のフラスクが置いてあって。手を伸ばして手に取る。…よし!右手をかざす。目標は天井、そこに巨大な菌核が存在する…!恐らくあれが、この城で黒領域を出現させていた元凶…!

 

 

「はああああああああああっ!」

 

「な、なんですとお!?」

 

 

 パワーアップした力で黒領域を押しのけ、その内部に隠れた巨大な花にも似た菌核に干渉する。瞬間、父さんと姉さんを投げ捨てて再び丸鋸を形成してこちらに襲いかかるが、届く前に黒領域が石灰化して崩れ、その動きが止まる。見れば、菌核は完全に石灰化して崩れ落ちて行き、崩れた先には灰色の空が見えた。

 

 

「アァァアアアア「ありがとう」アァアアアッ!?」

 

 

 断末魔と共に私の顔の一つが言葉を残して、ローズガーディアンと黒領域は完全に崩れ去って行った。それにおかんむりなのは、見物していた仮面の公爵だ。

 

 

「ええい!こんなつまらない筋書きがあってたまるか!こうなれば私自らの手で…!」

 

「え?」

 

 

 むんずと石壁を掴み、その巨体を翻して私の目の前に着地。ダウンしている姉さんを担いだ父さんと私の前で、でっぷり太った体が毛むくじゃらに、手の指にも爪が生え揃い、靴を突き破って現れた脚は獣そのものに。仮面で隠した顔の唯一露出している口元に牙が生え揃い、耳が尖り四つん這いになる。あまりにも太っているが、その姿は狼男を彷彿とさせた。

 

 

「……ライカン」

 

「ライカンなどと一緒にしないでいただきたい!わたくしはハンター。即ち、ウサギを狩るオオカミなのですよ!」

 

 

 その巨体からは信じられない速度で地を蹴り、私を掴んで上空、天井が抜けた灰色の空に飛びだす仮面の公爵。屋上に投げ出され、雪の中を転がる私。さっきまで黒領域に包まれて真っ黒だったのが真っ白に変わって目が痛い。

 

 

「これではあの方が満足されない!見せ場がまったく足りませんよ!」

 

「知るかあああああ!」

 

 

 ドスンドスンと音を立てながら四つん這いで突撃してくる仮面の公爵の顔面を、力を纏った右拳を振るいカウンターでぶん殴る。すると仮面に罅が入って怯む。…あの仮面が弱点か!

 

 

「ウサギの分際で……よくもやってくれましたなああああああ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 両手を振り上げ、重量に物を言わせたストンプの連打を繰り出してくる仮面の公爵の攻撃から必死に逃れる。屋根を上って上の方に……そう移動しようとするも、一跳躍で先回りされてしまう。なんでこんな重量級なのに飛べるんだク○パかなにか!?

 

 

「さあ終わりにして差し上げましょう!ひと思いに!」

 

「行けっ……エヴリン!」

 

「え!?」

 

「ローズに手を出すなァアアアアッ!」

 

 

 すると、地下に置いてけぼりにされていた父さんの方からそんな声が聞こえたかと思えば、姉さんが空中に飛びだしてきて度肝を抜いていると、なんと両手を後ろに回して衝撃波を放ってその反動でこっちまで吹っ飛んできて仮面の公爵の顔面に飛び蹴りを叩き込んできた。さらに仮面に罅が入る。まさか、父さんがぶん投げて、衝撃波を使って飛んで来た!?復活したみたいだけどそんなことできるようになったの!?

 

 

「なんですとぉおおおおお!?」

 

「やっとぶっ飛ばせた!黒領域たくさんくれてありがとね!おかげでなんか生前より強くなったよ!オラア!」

 

 

 姉さんが下に衝撃波を出した反動で飛び膝蹴りをその巨体の顎に叩き込み、牙が折れてよろめく仮面の公爵の巨体。仮面にダメージはいってない、直接殴らなきゃダメなんだ。

 

 

「おのれえ!出来損ないめがあああ!」

 

「ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!鬼さん…じゃないか。狼さん!こちら!手の鳴る方へ……ギャァアアアアアアアア!?やっぱり怖いぃぃぃぃ!?なんかデジャヴぅうううっ!?」

 

「台無しだよ姉さん」

 

 

 怒った仮面の公爵のストンプを、パンパンと手を叩きながらひらりひらりと避けて行く姉さんだったが鬼の形相を間近で見てしまったからか泣き出してしまった。それでもちゃんと避けて煽っているのが姉さんらしいけど。あの巨体の顔に攻撃を当てるには…跳ぶしかないか?

 

 

「姉さん!」

 

「ほいきた!」

 

 

 右手に力を溜めながら姉さんに呼びかけると一度仮面の公爵を衝撃波で吹っ飛ばしてから手を組んでくれて、その組んだ手に足を乗せてトスで投げ飛ばしてもらう。その先には、怯んでいる仮面の公爵の仮面に覆われた顔が。

 

 

「これは、これまであなたにやられた私達の分だ!」

 

 

 そして右ストレートパンチ。仮面は砕け散り、同時に城が崩れ始めて私達は落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落下した私は、父さんに受け止められ無事だった。姉さんは特に問題なく受け身を取って着地している。

 

 

「よっと。無事かローズ?」

 

「うん、なんとか…ありがとう父さん」

 

「私の心配は?」

 

「いらないだろお前は」

 

 

 そんな会話をしている中でも城が崩れて瓦礫が落ちてくる。これは…城というより世界が崩れている?すると地下室のさっきまで座っていた場所に、仮面が砕けて虚無の穴になっている顔で憤慨している仮面の公爵を見つけた。狼化も解けている。

 

 

「そんな、この私が…!?役立たずにもほどがある!この私自身にがっかりだ!ああ、申し訳ありませんマザー……」

 

「マザーだと?」

 

「なぜだ、私の計算は完璧だったはずだ……なにがおかしい?なにが原因だ?……そうか、そうか!そうですなあ!それが原因で間違いなぁあああい!」

 

「なんのこと?」

 

 

 何か勝手に一人で納得している仮面の公爵に問いかけると虚無の穴になっている顔をこちらに向けてにっこりと狂った笑みを浮かべる。思わずぞっとする。

 

 

「オリジナル!貴方の力は強大だ!だがしかぁし!私は単なる餌を与える保育士に過ぎなかったようだ!あなたは愛する者の手で滅ぶことになる…!ヴェハハハハハッ!どちらにせよ、逃れることなどできませんよ。この世界からはね……!」

 

「「「!?」」」

 

 

 そう言って仮面の公爵は石灰化して崩れ落ち、同時に地下室の底が抜けて私達は奈落に落ちて行った。




仮面の公爵獣。かっこよく聞こえるけど実際はでっかいデブのライカンである。

仮面の公爵獣(デューク・ビースト)
黒領域を消し去られた仮面の公爵が最後の手段として己をライカン化させたクリーチャー。見た目からは想像できないほど身軽で素早く、パワーも強い。弱点は仮面。ゲーム的には仮面に三回物理攻撃を当てると勝利できる。

というわけで第一層突破です。次からはみんなのトラウマ第二層。正直に言うね。……書くためとはいえあそこを見返したくないです(本音)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅧ【第二層】

どうも、放仮ごです。前回弱音は吐いたけど流れは決めてるので進行はご心配なく。怖いものは怖いけどね。楽しんでいただけると幸いです。


「なんだ?何が起きている?」

 

 

 祭壇の様なところで、その人物はいら立ちのままにその場をうろうろしていた。周りには、黒いローズのなれの果てが転がっている。

 

 

「“仮面の公爵”が敗れた、それはいい。あの男とできそこないがいるのだからありえないことではない。哀れな残滓共(レムナンツ)め……どこまで邪魔をする?いや、それはいい。問題はあのできそこないの異常な力だ。なんだあれは?」

 

 

 祭壇に置かれた山の様な資料を手に取りながら目を移すその人物。そこには、動画の様にある一定の範囲を切り取ったかのように何度も再生する写真が貼られていた。ローズやイーサン、エヴリンの暴れっぷりが撮られている。

 

 

「仮面の公爵め、気付いたのなら伝えてから死ねばよいものを……いや待て。ここまで強大な力を持てるのはこの世界でただ一人……そうか、そうか!降臨せしめたか!上手く行けば我が目的も……」

 

 

 そう言ってその人物…マザー・ミランダは悪意に満ち溢れた表情を浮かべた。

 

 

「できそこないなりに役に立ってもらうぞ。お前は生贄だ、せいぜい我が大願の糧となれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ落ちる城の地下から飛び降りた私達。感じたのは、水に沈む感覚。菌根の世界に入った時と同じだ。水中に何故かいくつも窓が見える中をもがきながら落ちて行く。

 

 

「おい、起きろ!ローズ!」

 

「しっかりして!ローズ!」

 

「はっ!?」

 

 

 呼びかけに応えて眼を開けると、そこは雪に覆われた寂れた狭い道だった。抱き起してくれたのか私を抱えて安堵している父さんと、ぺたんと女の子座りして脱力している姉さん。二人とも無事だった。それにここ、外だ……城の中じゃない、城の窓から見えていたあの外だ。地下から落ちたはずなのにどうして…!?

 

 

「ここは一体どこ?落ちたはずじゃ…」

 

「多分、仮面の公爵が浅い階層とか言ってたから、菌根の世界の……こう、重なり合ったいくつもの世界の一つなんだと思う。さっきまでいた場所を第一層とするなら、第二層」

 

【そうだ、「城」より深い階層だ】

 

 

 姉さんの説明を、地面に現れた金色の文字が補完する。よかった、シャルルも無事だった…。

 

 

「階層?」

 

【そうだ。深くなれば帰るのは難しい。帰る気があるなら早く帰れ】

 

「その方法は、わからないんだよね?」

 

【俺がそもそもここから出られないからな】

 

「…どっちにしろ、まだ帰れない。あの結晶を手に入れる。化け物…じゃないことは、姉さんと父さんのおかげで納得できて来たけど………結晶を手に入れないと、黒い私達が犠牲になった意味もなくなる気がする……」

 

 

 もう私だけのわがままじゃない。この手で殺した、背負ってしまった。仮面の公爵を倒しても、結晶を手に入れなくちゃ黒い私達の犠牲に意味がない。浄化結晶を手に入れて、友達を作って、呪いを解いて、普通の生活を手に入れる。それが手向(たむ)けになると思うから。

 

 

【それなら、探すか。父親に負けず劣らずの頑固者だな】

 

「ああ。俺の自慢の娘だ。それなら本物の結晶を見つけるには下の層を目指していくしかないわけだが……帰れるのか?エヴリン。シャルルはこんなこと言っているが」

 

「分からない。もう一人の私の記憶も何故か薄れていて……この世界に関することは何もわからない」

 

 

 父さんの質問に姉さんが応える。もう一人の私というのは16年前の決戦の際に姉さんと融合したっていうもう一人の姉さんのことだろうか。この世界に詳しかったのかな。

 

 

「だがひとつだけわかることがあるな。あいつ、マザーとか言っていた」

 

「この世界に関係する奴でマザーと言ったら一人しかいないね」

 

「それってまさか…」

 

「「「マザー・ミランダ」」」

 

 

 その名は自然と出てきた。16年前、私を誘拐した張本人。エヴァという娘を復活させる憑代として私を利用しようとして、父さんと姉さんに倒された聖母(マザー)とは名ばかりの魔女の名だ。そもそもここに来たのは、ケイの提案でマザー・ミランダの記憶から知識を何か探れないかと考えての事だった。

 

 

「ミランダの馬鹿が仮面の公爵の言っていた「あのお方」の可能性が高い。もしあいつが生きているなら目的は十中八九ローズだ」

 

「ミランダの馬鹿はしつこさは別の事に向けて欲しいぐらいピカイチだから……」

 

【ミランダの馬鹿野郎は本当にしつこいからな】

 

「そこまで言う?というかシャルルも知ってるの?」

 

【よく知っている。嫌という程な】

 

「シャルル。シャルルマーニュ……お前は、そうか」

 

【おっと。気付いてもお口にチャックだぜイーサン】

 

 

 何かに気付いたらしい父さんだけどシャルルに口止めされてる。なんのこっちゃわからないけど、ミランダがしつこいのはよくわかった。その後、私にハンドガンを預けた父さんがショットガンを手に辺りを散策、私達はひとまず休むことになった。父さんも休んでほしいんだけどな、と体育座りしてリラックスしている姉さんに視線を向ける。…あれ?

 

 

「そう言えば姉さん、またちょっと大きくなった?」

 

「え、あ、うん。仮面の公爵が私を排除しようと黒領域を津波の様に押し寄させてきたから…」

 

 

 金の仮面を手に入れる前と比べたらさらに大人びた雰囲気がある。私と同じ高校生を越えて大学生に足を踏み込んだ印象だ。本当に私の姉って感じがする。

 

 

「これなら姉さんと呼んでも違和感ないね」

 

「ははは…全然この身体に慣れないんだけどね。それが隙になってあんな無様に捕まっちゃうし…まるで借り物の身体を使ってる気分。まるで肩まで水に浸かっている様に身体が重いんだよね。こんなことなら普段から大きな姿でいればよかった。思えばもう19年以上もずっと同じ子供の姿でいたんだけど」

 

「ただ力が強くなっただけじゃないんだ…私と逆だね。私はフラスクを手に入れるたびになんかこう、解放される感じがしてる」

 

「羨ましいなあ……大きくなってローズの力になれると思ったけど、逆に足手まといになりそう」

 

「衝撃波で空飛べる人が言う台詞じゃないと思う」

 

 

 いやほんとに。フェイスイーターを吹き飛ばすだけじゃない、テレビ越しに使えて、空も飛べて…もう超能力者とか言われた方が納得するかも。すると父さんが苦々しい顔で戻ってきた。

 

 

「どうしたの、父さん」

 

「嫌な報告?その割に銃声も聞こえなかったけど」

 

「…手がかりを見つけたんだが、な。とりあえず来てくれ、多分危険はない」

 

 

 そう言われて先導する父さんについていく。霧の濃くて狭い道だ。

 

 

「第一層がドミトレスクの城だったが、第二層はおそらくドナの縄張りだ」

 

「ドナって?」

 

「えっと……黒づくめ陰キャ?」

 

「ぶふっ。姉さん、なにそれ」

 

 

 あまりにもひどいあだ名に思わず吹き出してしまう。悪意しかなくない?

 

 

「ドナ・ベネヴィエント。エヴリンの言う通り黒づくめで無口な女性で…アンジーっていう…エヴリン曰くクソガキ人形を連れた人形遣いだ。直接戦ったわけじゃないんだが……まあ苦しめられた」

 

「ホラー的な意味で。赤ちゃん怖い」

 

「ええ…?」

 

 

 大人の姿で本気で怖がっている姉さんに首をかしげていると、前方に妙なものが見えてきた。可愛いサルのぬいぐるみがメッセージカードを持って看板の様に飾られていた。

 

 

「【けっしょうがある所 知ってるよ】」

 

「…なに、これ?」

 

「俺が聞きたい。…が、ここは現実では不気味な人形が吊られていたところだ。ドナの領域で間違いない」

 

「私あの赤ん坊本当に駄目なんだけど」

 

「漏らしてたもんなお前」

 

「ローズの前で言うなー!?」

 

 

 あ、そういう……優しく見守ってあげよう。とか思いながら先に進んでいたら父さんの足が止まる。不思議に思って前を見てみる。キーキーと音を鳴らして無人のベビーカーがゆっくりと走って来ていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 思わず三人で顔を見合わせる。そして深呼吸。

 

 

「……やっぱり帰ろう」

 

「「異議なし」」

 

【残念ながら帰る方法は知らないぜ】

 

 

 あんな決意しといてなんだけどごめん、黒い私達。グロいのはいいけどちょっと無理。




現在、エヴリンの身体年齢21歳ぐらい。マザー・ミランダすらわかってなかったその異常の正体とは。エヴリンレムナンツ全編を読んでいたらなんとなくだけどわかるかもしれませんね?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅩⅨ【没収】

どうも、放仮ごです。正直ここを物理で突破するかどうかで滅茶苦茶迷いました。楽しんでいただけると幸いです。


「やだやだ進みたくない!ベビーやだああ!?」

 

「姉さん、そんな子供じゃないんだから…」

 

「大人になっても頭脳は子供!迷宮入りの迷探偵!真実は見たくない!」

 

「嘘つけお前の精神年齢、30…げぶっ!?」

 

 

 大人の姿で大人げなく泣き喚いて地面に寝そべりじたばたする姉さんに、私と父さんは溜め息を吐く。私は腹を括ったのだから泣き言を言わないでほしい、決意がぶれるから。あ、余計なことを言った父さんが起き上がる勢いで殴られた。

 

 

「二度と丸呑みされたくないの!すっっっっごく怖くて狭くて寂しかったんだから!」

 

「ベビーが出ると決まってるわけじゃないだろ!」

 

「絶対出るでしょ!?じゃあなんのためのベビーカー!?なんで勝手に動いて来たのさ!?」

 

「姉さんが強すぎるからビビる要素で脅かしているだけじゃない?」

 

「そうだとしたら、効果は抜群だ!だよ!」

 

「「……」」

 

「え、なに二人とも?顔を見合わせて頷いて、無言で近づいて来て…やあだあ!?」

 

 

 もう埒が明かないので、父さんと視線を交わして頷き、ずんずんと近づくと姉さんの手を一つずつ握って引き摺ってベビーカーの元まで向かう。姉さんは抵抗するけど、私達に衝撃波なり出したら死んじゃうから本気で抵抗できてない。ベビーカーまで来ると、見覚えのあるものがメッセージカードを持って入っていた。

 

 

「またぬいぐるみだ。なんか見覚えがあるんだけど……【トモダチになろう】だってさ」

 

「誰が友達になるかあ!?」

 

「どうどう」

 

 

 さっきの入り口にあったサルのぬいぐるみと同じものだ。ブチギレてぬいぐるみを手に取りバラバラに引き裂いてしまう姉さん。まあ気持ちは分かるけど可哀想な気もする。とりあえずぬいぐるみをバラバラにして気が済んだのか落ち着いた姉さん、父さんと共に進んでいくといっそう不気味なものがあった。

 

 

「…墓?【LET'S PLAY】【はやくおいでよ】って書いてあるけど」

 

「元は多分ドナの家族の墓だ」

 

「遺体の代わりにぬいぐるみが納められてるね。見覚えがあるような気がするけど、罰当たり…ひん!?」

 

 

 ギギィーと音を立てて奥の建物の扉が開いて姉さんの肩が跳ねる。また逃げ出そうとするのを父さんに襟元を掴まれて阻止された。

 

 

「ベビーじゃないとしてもやだー!絶対ホラーだもん!私ホラー駄目なのぉ!」

 

「存在そのものがホラーみたいな奴がなに言ってる。いくぞ!」

 

「それもなかなかひどくない!?」

 

「何が出てきても姉さんの衝撃波で全部吹き飛ばせばよくない?」

 

「それもそうだね!」

 

 

 クルクルクル。姉さんの掌返しがすごい。私達が入ると自動的にしまった建物は洞窟になっていて奥には昇降機があったので、特に驚きもしない父さんの先導で乗り込むと上昇を始める。三人だとちょっと狭いな。

 

 

【ここはおかしい。用心しろ】

 

「どういう意味だ?シャルル」

 

【邪魔が入ってる】

 

「シャルル?」

 

「え、なに、いきなり消えるの怖いんだけど!?」

 

 

 エレベーター内の壁に踊っていた金色の文字が、まるでノイズがかかるようにして消えてしまった。同時に今度は世界そのものにノイズが走り、昇降機が古ぼけた物から立派な造りのエレベーターに変化、スピードが上がる。

 

 

「…雰囲気が変わった?」

 

「なんか見た目が違うような…?」

 

「…シャルルは締め出されたか。得体の知れない何かがこの先にいると言う事か」

 

 

 そしてエレベーターが止まり扉が開くと、巨大な猿のぬいぐるみが左右に置かれ、壁にも普通サイズのぬいぐるみが飾られ【WELCOME ROSE】と書かれている部屋に出た。

 

 

「なにこれ……なんなのここ……?」

 

「…屋敷の中に直通だと…!?」

 

「ここ地下だったはずなのに上にあるし、もう色々バグってるよ!?」

 

「そ、そうだよね…あの建物から上に行くこと自体ありえない…」

 

 

 精神世界だからと言っても限度があると思うのだけど。

 

 

「左の扉は錆びついてて開かないな。進むしかなさそうだ」

 

「このぬいぐるみバラバラにしていいかな?」

 

「好きにすればいいと思うよ…あれ、これって…」

 

 

 奥に続く廊下に置かれた手記を手に取り中身を見て、思わず取りこぼす。なんでこれが、ここに…!?

 

 

「これは……」

 

「どうしたの、ローズ?【1月5日。今日から小学校に通うことになった!ずっと行きたかったの!クリスにおれいをいわなきゃ。父さんと姉さんは何か心配しているようだけど、テレビや本でよんだとおり、わたしと同じ年の子がいっぱいいた。あいさつするのは少しきんちょうしたけど、それよりずーっとワクワクしたよ。お友だちがたくさんできるといいな!明日は、わたしから話しかけてみよう】…これってローズの日記…?」

 

「もうやめて!……お願い」

 

 

 姉さんの口から語られるかつての私の記録に、嫌な記憶が嫌でも思い出される。ルーシー、キャサリン……なんで、なんで……。

 

 

「…ふんっ!」

 

 

 すると、姉さんが手記を手に持って半分に裂くとそのままビリビリに引き裂いてしまった。驚く父さん。

 

 

「エヴリン?お前、それ何かヒントがあったんじゃ……」

 

「魂胆は見えた。こんなもの、ローズのトラウマを刺激するだけで意味なんてない。…ここはそう言うところなんだと思う」

 

「…なるほどな。ローズ、気にするな。思い出すことなんてない。お前は何も悪くない」

 

「でも、皆は普通だっただけだよ……私は普通じゃなかったから…」

 

 

 白い汗なんか出して、何時も汚れたハンカチを持っていた私が悪かったんだ。やっぱり私は、普通じゃないから……。

 

 

「落ち着け!…お前も知っているだろうが、ローズの生きている世界はアンブレラや、奴らの生み出したゾンビの存在でそう言うことに敏感になっている。潔癖症が過ぎた世界だ。悪いのは世界と、それに流されている馬鹿達だ、お前じゃない!」

 

「でも、でも……」

 

「ローズを害するものは私が全部ぶっ壊してやる。だから安心して」

 

「姉さん…」

 

 

 腕まくりする姉さんに苦笑する。うん、弱気になったらだめだ。何時まで経っても抜けられない。

 

 

「なんで私の絵があるの…?」

 

「…構図はいいな」

 

「普通に上手いね」

 

 

 その後、何故か私の肖像画が飾ってある廊下を抜けてサルのぬいぐるみだらけの部屋に出る。その中心には、バースデーケーキと、鳥かごに入れられた白く輝く結晶体が置かれていた。

 

 

「これって浄化結晶…!?」

 

「なんでこんなところに…」

 

「…待て、近づくな!」

 

 

 私と姉さんが近づくと父さんから警告の声。同時に停電した様に照明が点滅し、ブラックアウト。どこからともなく音楽と共にその声は聞こえた。

 

 

《「さあ、遊ぼう!武器はいらないよね!イーサンと~、私の力も没収!」》

 

「え?私?なに?なに!?」

 

「なんだ!?ぐああああああああっ!?」

 

「父さん!?父さん!返事をして!」

 

 

 聞こえてきたのは何時も聞いていた幼い姉の声と瓜二つの声。姉さんの困惑する幼い声も聞こえて、父さんの苦悶の声が上がる。そしてほのかな明かりがつくと、そこには……

 

 

「嘘……私、元に戻っちゃった…!?」

 

「父さん!?父さんもいない!」

 

 

 大人じゃない、元の小さな姿に戻った姉さんだけがいて。父さんの姿は何処にもなく、銃などの持ち物も全部なくなっていた。持ち物だけじゃない、父さんまで没収された…!?

 

 

《「これで無粋な邪魔はなくなったね!―――――――せいぜい私を愉しませてね」》




シャルルとイーサン、ついでに持ち物没収。エヴリンは力を失い、敵はエヴリン。第二層の試練開幕です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩ【おいしゃさんごっこ】

どうも、放仮ごです。こちらではお久しぶりです。夜に書くもんじゃないなと反省してます。次からは昼に書こう(決意) 楽しんでいただけると幸いです。


《「これで無粋な邪魔はなくなったね!―――――――せいぜい私を愉しませてね」》

 

 

 父さんを消されてしまい、子供に戻ってしまった姉さんと同じ、だけどおどろおどろしい天の声が響く。目の前には手術室の様に様変わりした部屋と、手術台に乗せられたお腹に雑に縫った跡がある猿のぬいぐるみが。

 

 

「父さんは!?父さんはどうしたの!?」

 

《「イーサンなら今頃別のところで追いかけっこしてるよ。追い出したかったけどできなかったからしょうがないね」》

 

「父さんを返してよ!」

 

《「やだよ。なんでお前の命令を聞かないといけないのさ。イーサンとはもう二度と会えないよ。会えないままどっちも死んでしまうからね!」》

 

「っ……思い通りになってたまるもんか!」

 

 

 そう奮起していると、姉さんが手術台の上に乗ったぬいぐるみを一生懸命見ようとしていた。可愛い。小さな姉さんなんだか久々だ。

 

 

「ちょっ、今の私にギリギリな高さなの嫌がらせでしょ…腹部が縫い付けられてる…?中に何か入ってるみたいだけど」

 

「武器は取られたし、そもそもこれを切れる物持ってなかったよ……姉さん、これ」

 

 

 私が見つけた台の上に置かれた手紙には、【“「おいしゃさんごっこ」しよう!この子を助けてくれたらけっしょうをあげるよ”】とあった。

 

 

「…なんで私と同じ声なのか分からないけど……幼児なの?」

 

《「なんだとお!?お!ま!え!た!ち!に!合わせてやってるの!」》

 

「煽り耐性なさすぎない?」

 

 

 姉さんが虚空に煽るなり反論してくる声に思わず呆れる。姉さんより精神年齢が低いかもしれない。

 

 

「どうせこれやってもくれないんでしょ知ってるよ」

 

「だよね…」

 

《「やらないのは自由だけど永遠にこの暗闇の中だよ」》

 

「よしやろう!すぐやろう!」

 

「姉さん怖いの苦手だもんね…」

 

 

 怖さを紛らわす様に奥の通路に走って行く姉さんを追いかけて行くと、ジミーの部屋と書かれた鍵のかかった赤い扉があった。どうしようもなさそう。

 

 

「じゃあこっち!ギャー!?」

 

「姉さん!?」

 

 

 引き返してジミーの部屋とは反対側の扉を開けて飛び込むなり引っくり返る姉さん。見れば、床がびしょ濡れになっていた。シンクから垂れ流しの水が溢れだしていて滑った様だ。

 

 

《「ッハハハハハッ!愉快愉快!」》

 

「笑うな!」

 

「なにこれ」

 

 

 ホラーが始まったかと思えばコメディな件について。

 

 

「まったくもう…なにこれへったくそな絵。ぷぷー」

 

《「お前のと同じ絵だよ!?」》

 

 

 廊下に出るなり壁に描かれていた絵を見て笑う姉さんに今度は天の声が怒る。……争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!って言葉を思い出したけど言ったら怒られそうだから黙っておこう。

 

 

「…うん?さっきのさるの絵?」

 

「…それと、鋏を持った姉さんかな?」

 

 

 奥まで進むと壁にかかっていたこれまた下手くそな絵の描かれたスケッチを手に取る。裏には【“とにかく詰め込んだロッカー、本棚の写真立て、読書家の机”】と書いてあった。…ハサミが欲しいならここを探せってこと?奥は…書斎、かな?

 

 

「六桁の番号で開く錠があるね。めんどくさっ。123456っと」

 

「そんなんで開くわけないじゃん…」

 

「ギャー!?」

 

 

 姉さんが六桁の番号を適当にやったら上からマネキン人形の残骸が降って来て姉さんが悲鳴を上げる。

 

 

《「アッハハハハハハハッ!フッヒッヒッヒッ!ひっかかった、ひっかかった!ばっかでー!」》

 

「やってることがさっきから子供のいたずらなんだよ!?」

 

「あ、“とにかく詰め込んだロッカー”あったよ」

 

 

 姉さんと天の声のやりとりに呆れながら何気なく近くのロッカーを開けると、これでもかと詰め込まれたロッカーだった。壁には02と書かれている。

 

 

「02だって」

 

「どれどれ…あ、ここは錆びついてて開かないんだ」

 

ガタン!

 

「ギャー!?」

 

 

 ロッカーの傍の扉を調べて拍子抜けしてたらいきなり音を立てて揺れて悲鳴を上げる姉さん。姉さんが叫んでくれるから怖がる暇がない。これが父さんの言ってたエヴリン効果※か。

 

 

※イーサン命名。どんなに怖い場所でも勝手に怖がってくれるエヴリンを見て冷静になる効果

 

 

「“読書家の机”はこれかな?66…」

 

「本棚の写真立てはこれかな。44だって」

 

 

 えーと、並べると…024466か。姉さんが123456に合わせてたからすぐに変更できた。

 

 

「半分当たってたじゃん!」

 

「たしかに」

 

 

 カチンと音が鳴り、戸棚を開けると血塗れのそこにハサミが置かれてあった。

 

 

「あー、懐かしいなあ。これをイーサン、ベビーに突き刺して逃れたんだよなあ」

 

「どういう状況!?」

 

パリーン

 

「「ギャー!?」」

 

 

 姉さんのよく分からない言葉にツッコんでいると何か皿の様なものが割れた様な音が聞こえて姉さんと抱き合う。さっきから姉さんを見て我慢してたけど普通に怖いって!

 

 

「と、とりあえず戻ろう…?」

 

「うん、そうしよう…っ!?」

 

 

 ハサミを持って、来た道を引き返すと、廊下の天井から大量の腕が吊り下がっていて普通にビビる。

 

 

「いえーい、はいたっちー(棒読み)」

 

「そんなの掴んだら絶対どこかに引きずり込まれるからあ!」

 

 

 あまりの恐怖に手を伸ばしてハイタッチしようとする姉さんを引き止める。あれ、これ人形の腕だ…ビビって損した。人形が動くわけないもんね。とか思ってたらシンクの部屋直前で落ちてきたので渾身の力で蹴り飛ばすと壁にぶつかって砕け散った。心臓止まるかと思った。

 

 

「ナイスシュート」

 

「嬉しくない」

 

 

 手術台の部屋に戻り、手術台の上の猿のぬいぐるみと向き直る。…姉さんじゃ手が物理的に届かないから必然的に私がするしかないんだよね…?ハサミを縫い目に合わせて切って行く。すると暗転。驚きながらも手を止めずに進めると、ほのかな灯りがつくのと同時にとんでもないものが出てきた。

 

 

《「イタイよ、イタイよ………アッハッハハハハ……」》

 

「お人形遊びが得意なんだね!」

 

 

 すると天の声がまるでぬいぐるみの声を代弁する様に喋ったかと思えば笑い出し、姉さんが皮肉る。手に入れたのは幼子の形に模られたレリーフ。こんなもの入っていたら切れる訳がないのにどうなってるの…?いや精神世界だから何もおかしくないのか?

 

 

《「ぬいぐるみが可哀想ー。そんな遊び方じゃー結晶はあげられないよ!」》

 

 

 するとぬいぐるみの裂け目から黒いドロドロ……黒領域にも似たものが溢れだして急速にぬいぐるみが黒カビに侵食されていき思わず後退する私達。

 

 

「ふざけんな!」

 

 

 姉さんが私の手と机の縁を掴んで舞い上がり、げしっとぬいぐるみを蹴り飛ばすとぬいぐるみは壁にぶつかってドパンと音を立ててドロドロになって砕け散った。そして次の瞬間、視界がブラックアウト。姉さんと握った手に力を込める。

 

 

《「人形遊びなら、手癖の悪い二人でもちゃんとできるよね?」》

 

 

 そして灯りがつくと、手術台がなくなって代わりに趣味の悪いミニチュアセットが置かれていた。黒い服を着た少女の人形が磔にされ、その周りにルーシーなど、身に覚えがあり過ぎる名前のかかれた台が置かれてある。

 

 

「今度は何…?」

 

「…ルーシーって、まさか」

 

《「いろんなところに人形を置いて遊んでね!」》




現状ただの子供の喧嘩である。

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ダイブⅡⅩⅠ【人形遊び】

どうも、放仮ごです。マネキン人形怖すぎて確認作業が全然捗りません。冗談抜きでリヘナラドールやラスラパンネを越えるバイオシリーズ過去最高の恐怖だと思う。楽しんでいただけると幸いです。


「ルーシーって人形見つけたけど……大丈夫?ローズ」

 

「…うん、大丈夫だよ姉さん」

 

 

 姉さんがすぐ傍の机から見つけてきた【Lucy】と書かれた人形を素直にルーシーと書かれた台座に置いて、私を心配しているのか見上げてきたので笑顔で答える。…あの向き、まるで中心の十字架に磔にされた女の子の人形を魔女狩りしているような……いや、そんなまさか。考えない様に廊下に出ると、床が真っ黒に染められていた。壁の落書きも増えていて、私の肖像画の顔が塗りつぶされていた。人の絵をなんだと思ってるんだ。

 

 

「うわ、なにこれ…誰がやったの?」

 

「似た様な事なら昔にやった記憶があるから声の私かなあ」

 

「姉さんもなにやってるの?」

 

「その心底理解できないって顔やめて。すごい効くから」

 

 

 ぐふっと軽く吐血する姉さん。精神世界だから精神ダメージがダイレクトにいくらしい。やらかした。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「心配しないで、致命傷だから」

 

「大丈夫じゃないよ!?」

 

 

 胸を張る姉さんに全力でツッコむ。ああ、父さん。父さんの苦労が分かった気がする…。

 

 

「致命傷なのは冗談だよ。あ、幼子のレリーフはめられそうな扉あったよ」

 

「あ、本当だ」

 

 

 欠けている何かを抱える母親が模られている扉を姉さんが見つけたので、幼子のレリーフを母親が幼子を抱く様にしてはめこむと扉が開いた。中に入ると、倉庫の様な部屋に出る。奥にはライトアップされ風船が飾られた机にミニチュアと人形が飾られていた。金髪の少女と黒髪の少女が相対し、金髪の少女の上にはバケツが釣竿で吊るされている悪趣味な光景だ。

 

 

「ん?なんか書いてる……【“アイツをいわうトモダチなんてだれもいないのに バカなヤツ!”】……ぶっ壊していいかな?」

 

「落ち着いて姉さん!出れなくなる!…私は大丈夫だから」

 

 

 椅子に置かれたメモに書いてあった内容に青筋を立てて人形を握って壊そうとする姉さんを慌てて止める。それは洒落にならないから!多分姉さんが怒ってくれなかったら私が冷静になれなくて壊してたかもしれないけど!

 

 

「キャサリン……」

 

 

 固定されてなかった黒髪の人形を拾い上げて名前を確認する。やっぱり知ってる名前だった。見れば他にも人形を置けそうだった。

 

「……もしかして、こっちも組み立てなきゃいけない?」

 

「…多分?」

 

「…戻ろうか」

 

 

 そうして廊下に出て戻っていた時だった。曲がり角を曲がると、思わずビクッと停止する。姉さんに至っては絶句している。マネキン人形が、廊下に立っていたのだ。

 

 

「…ミア人形だ」

 

「母さん?」

 

「16年前に、この場所でイーサンに解体させた趣味悪い人形だよ」

 

「そんなのがなんでここに…?」

 

「何にしても驚かさないでよね!」

 

 

 ゲシッとマネキン人形のお尻を蹴って転倒させる姉さん。……何だか嫌な予感がするなあ。磔ミニチュアの部屋に戻ろうとする私達は気付いていなかった。転倒したマネキンの首が動いて姉さんをジッと見ていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 磔ミニチュアの部屋に入ってルーシー人形を回収し、今度はシンクの部屋に入ると学校のトイレを模したミニチュアに金髪の人形と、ルーシーとキャサリンと書かれた台座が二個置かれていた。……やっぱりこの金髪の人形、は…。椅子のメモには【“手から何か白いのが出るんだって アイツを あらってあげようよ!”】とあった。最悪…。

 

 

「人形遊びって…なにをさせたいの?」

 

「やっぱりお子ちゃま……」

 

《「腹いせにミアを蹴るような奴に言われたくないね」》

 

「ミアじゃなくてマネキンだよ……えっ?」

 

「どうしたの、ねえさ…ん?」

 

 

 姉さんが磔ミニチュアの部屋の方を向いて固まったので、振り向いた私も固まる。キーッと扉がきしむ音を立てて、いつの間にかさっきのマネキンが磔ミニチュアの前に立っていた。その視線は姉さんに向いている。

 

 

「……ローズ」

 

「うん…」

 

「私がブッ飛ばすからその間にさっきの人形二つここにおいて」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「イーサンがいないんだから私が何とかするしかないの!オリャアアアアア!」

 

 

 そう言って扉を潜って小さな体で突進し、殴りかかる姉さん。するとマネキン人形はカクカクと動き出して跳躍。まるで蜘蛛の様に天井に張り付き、空ぶって盛大にスッ転んだ姉さんを見下ろて固まった。まるで姉さんの視線で動いたり固まったりしているような…。

 

 

「逃げんな蜘蛛女!」

 

「い、今のうちに…」

 

 

 ルーシー人形を名前の書かれた台座に置くと、まるでモップを構えて金髪の女の子の人形に向け散る形になる。キャサリン人形を名前の書かれた台座におくと、スプレーを持って金髪の女の子の人形を威嚇するような形に。…やっぱりあの時の再現だ。するとルーシーとキャサリンの人形たちがカタカタと揺れ出して嗤い始め、引き出しが開いて真っ赤な鍵が出てくる。…本当に悪趣味!

 

 

「…ああ、そういうこと。ガキっぽいね天の声!」

 

《「天の声だなんてひどいなあ。私もエヴリンなのに!」》

 

「姉さんはこんなことしない。貴女は姉さんと同じ声なだけの悪魔よ」

 

《「悪魔、ねえ」》

 

 

 ジミーの部屋の鍵、か。最初に見た赤い扉の部屋か。ジミー。本当に最悪ね。

 

 

「姉さん!鍵手に入れた!」

 

「こっちもぶっ壊したよ!」

 

 

 磔ミニチュアの部屋に戻ると机をぶん投げたのか、バラバラに飛び散ったマネキン人形と姉さんがいて。いやもう、フィジカルすぎない?

 

 

「なんかこいつ全然動かなかったと思ったら目を離してたら動いてるんだよね。なんなんだろ」

 

「だるまさんがころんだみたいな?」

 

「やだよこんな鬼」

 

 

 ジミーの部屋の鍵を開けると、地下?に続く階段だった。降りて行くたびに天の声の含み笑いが響く。なんなのさっきから。辿り着いた下層には、井戸が置かれてあった。ジャパニーズホラーを思い出す。本当にどういう造りなの…?

 

 

「私が行くから姉さんはここで見張ってて」

 

「わかった。怖いから早く帰って来てね」

 

 

 井戸の梯子を降りてさらに下層に行くと、ジミーと書かれた不気味な男の子の人形が置かれていた。パーティーハットを被っているけど不気味なのは変わらない。ポケットに入れて梯子を登ると、どんがらがっしゃんという音と「ギャー!」という姉さんの悲鳴がが聞こえてきた。

 

 

「姉さん!?」

 

「お前、壊したはずなのにどうして…!」

 

 

 慌てて駆け上るとドッタンバッタンと言う轟音が。登り終えるとさっきのマネキン人形とくんずほぐれつで取っ組み合いしている姉さんがいた。…えっと。

 

 

「昨夜はお楽しみでしたね?」

 

「冗談でもやめて!?それ17年ぐらい前の私の台詞だから!」




ターゲットはエヴリン(私怨)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩⅡ【イソウカイソワカウウソウイソワイソウカイソワカウウウワ】

どうも、放仮ごです。サブタイトルがバグってますが仕様です。楽しんでいただけると幸いです。


「こんにゃろ!こんにゃろ!」

 

 

 ガシャガシャガシャと横になったままじたばたと動くマネキン人形を必死に押さえこみ、何度も拳を叩きつけてぐしゃぐしゃに顔面を粉砕する姉さん。するとゴキンと音を鳴らして腕だけを切り離して指だけで蜘蛛の様に蠢いて跳躍、井戸の部屋の奥にあったロッカーを開くとそこにはバラバラになったマネキン人形の残骸がギュウギュウに押し込まれていて。それがひとりでに動き出してマネキン人形の本体に集って行く。

 

 

「なんか、やばい!ローズ、逃げよう!それで鍵を閉めて閉じ込めよう!」

 

「う、うん!」

 

 

 そのままガシャガシャと組み立てられていくマネキン人形に嫌な予感を感じたらしい姉さんと共に井戸の部屋を脱出、ジミーの部屋の鍵で鍵を閉めて閉じ込めて一息つく。

 

 

 

バン!

 

 

「「!?」」

 

 

 すると扉を勢いよく叩く音が聞こえて、扉が軋む。ま、まさか?

 

 

バン!バン!バンバンバンバン!バババン!バン!

 

 

 何度も扉を打ち付ける音と共に、どんどんひしゃげて行く扉。そしてついにマネキンの腕が一本突き出てきて、グネグネ動くとドアノブに手をかけ、引きちぎるとドアが吹き飛んで、ドアにくっ付く様にしてそれは現れる。

 

 

「カワイソソソソウ…」「サビビビシカッタネ」「オイデデデデ」「ダキシメメメテアゲル」

 

「また蜘蛛…!?」

 

「…前から思ってたけど昔遊んだゲームを思い出すやつばっかだなあ!しかもホラーゲームばっか!」

 

 

 それは、マネキン人形のパーツで組み立てられた人間大の大きさの蜘蛛だった。後ろ脚二対が足のパーツがいくつも組み合わさったもの、前足二対が腕のパーツがいくつも組み合わさったもの、頭部はまるで八つの目を模る様に四つの顔が顎を中心に広がる花弁の様につけられ、顔一つ一つがバグった様に母さんの声で喋ってる。蜘蛛を思わせるのはローズデッドと同じだ。

 

 

《「そりゃそうだよ。だってイーサンとエヴリンの記憶から生み出してるもん。ちなみにそいつはそこのちんちくりんが最大級にトラウマを持っている神様がモチーフだよ。名前は…ミアスパイダーでいいや」》

 

「道理で凄い殺意がわくわけだあんちくしょうめ」

 

「あんちくしょう…?」

 

「「「「イソウカイソワカウウソウイソワイソウカイソワカウウウワ」」」」

 

 

 すると姉さんの殺意に応える様に跳躍し、逆さまに天井に指を喰い込ませて四つの顔を全て向けて目を光らせてくるミアスパイダー。…もしかしてあのマネキン、本当に母さんのつもりなのか?

 

 

「銃もないのにどうすれば…!」

 

「ローズ、私を抱えてぶん投げて!」

 

「ええ!?……よーし、やるよ!」

 

 

 父さんみたいなことをしろといきなり言われたわけだがやるしかない。意気込み、深呼吸してから姉さんの両脇に手を突っ込む。

 

 

「あひゃひゃっ!?こそばゆい!」

 

「我慢して姉さん!どっせーい!」

 

「ぶべっ!?」

 

 

 笑う姉さんに揺られながら勢いよく天井にぶん投げるとミアスパイダーの目の前の天井に顔面をぶつけて落下、べちゃっと顔から床に落ちて潰れたカエルの様になる。………やってしまった。思わず冷や汗が流れる。

 

 

「アヒャハッハ」「カワカワイソソソ」「イタソソソウ」「エヘヘヘヘエヘエ」

 

「だ、大丈夫?姉さん」

 

「だいじょばない……」

 

《「ばーか。イーサンみたいなことがローズにできるわけないじゃん!予定と全然違うけどチャンス!やってしまえミアスパイダー!私を取り込め(・・・・・・)!」》

 

 

 天の声がそう言うとゴキゴキと動いて両腕を変形させて伸ばしてくるミアスパイダーの四つの腕が姉さんの首と胸ぐらと両腕の二の腕を掴み上げると持ち上げようとしてきたので慌てて腕を掴んで止める。

 

 

「そんなこと、させない!」

 

「ギギギギギッ!」「サセナイサササセナイ!」「イッショニニニニニ!」「キテテテテテアゲテ!」

 

 

 するとガシャガシャガシャと四つの首を動かして顔を全てこちらに向けて目を光らせてくるミアスパイダー。腕一本で姉さんの胸ぐらを掴んだまま、残り三つの腕を伸ばして私の首と顔の両側を掴んできた。

 

 

「「「「アヒャキャヤバヒヘフヴェハハハ!!」」」」

 

「ぐうっ…!?」

 

「ローズ!?」

 

 

 もはや意味をなさない笑い声を上げながらとんでもない力で握られ、締め上げられて苦悶の声を上げると姉さんの悲鳴染みた叫びが聞こえる。頭が潰れそうだ、息も苦しい。このままじゃ死んでしまう。…なにか、なにか…!すると視界の端に淡く白く輝く右手が見えた。

 

 

「く、ぐう!」

 

「「「「キィヤァアアアアアアアアッ!?」」」」

 

 

 痛みに耐えながら右手を顔面の一つに押し当てると、ミアスパイダーは苦しみ悶えて私と姉さんを解放し、ガシャガシャと後退して私の右手を押し付けた顔の一つが溶けるようにして崩れ落ちた。

 

 

「ぐえっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

 尻餅をついて磔ミニチュアの部屋の床に叩きつけられる私達。私はお尻からだけど姉さんは顔から叩きつけられてまた潰れたカエルの様に伸びてしまった。慌てて抱き起し、ぺちぺちと頬に掌で軽くぶって意識を覚醒させる。

 

 

「姉さん、起きて!」

 

「むがっ!?…そうだ、ローズ、無事!?」

 

「なんとかね…」

 

 

 姉さんに両頬を掴まれて顔を近づけさせられる。人形の指で強く掴まれた箇所からちょっと血が滲んでいるけどこれぐらい大丈夫だろう。

 

 

「よかった……ローズに何かあったら私自分が許せなかった。……あんなのがずっとトラウマのままだからこんなのが生まれるんだ。台詞まで再現しやがってからに」

 

「でも姉さん、どうするの?天井のアイツに攻撃する手段が…それに気を抜いたら掴んでくるし」

 

「そりゃあまあ……こっち!」

 

「ええ!?」

 

 

 私の手を掴んで廊下まで突っ走る姉さん。ミアスパイダーはガンガンガンと音を立てながら自身の身体の向きを変えてズダダダダッと突進してくる。そして扉を潜った私達を追って扉を潜ろうとして、にやりと笑って反転した姉さんとミアスパイダーの目が遭った。

 

 

「どりゃー!」

 

「ぷべっ」「ぐぎゃっ」「げはっ」

 

 

 開きっぱなしだった扉を姉さんが蹴り閉めた衝撃で扉を勢いよく叩きつけられたミアスパイダーはバラバラのマネキンのパーツに分かれて磔ミニチュアの部屋に散乱する。扉を利用するなんて姉さんよく思いついたな。

 

 

「今だー!押し付けろー!」

 

「お、おー!」

 

 

 そのままコロコロ転がり逃げて行こうとする頭部をむんずと掴み、私の右手に押し付ける姉さん。すぐにその頭部は崩れて塵と化していき、残りのパーツがひとりでに動いて集まって行こうとする。

 

 

「に!が!す!かー!」

 

 

 しかし姉さんも負けてはいない。指の動きで跳躍して襲いかかってくる腕の群れをちぎっては投げ、ひとりでにピョンピョン跳ねて突撃してくる脚を蹴り飛ばし、コロコロ転がって逃げてた頭部のひとつを掴んで私に投げつけてきた。

 

 

「ローズ、カワイソウ」

 

「っ……私は、可哀想なんかじゃない!」

 

 

 癪に障ることを言ってきたマネキンの頭部を両手でキャッチ、右手を顔面に押し付けて消滅させる。多分本体の顔は後、一つだ!見れば、姉さんの目の前で一人でに組み上がって最初の人型マネキンに戻っているところだった。

 

 

「イソウカイソワカウウソウイソワイソウカイソワカウウウワ」

 

 

 カワイソウ。それだけを言い残し、マネキンはカクカク動きながら扉を開けて廊下を走って逃げて行った。……逃がしちゃった。

 

 

「次出て来たらとっちめてやるんだから!」

 

「……私は、可哀想なんかじゃ……」

 

 

 強く意気込む姉さんだったが、私は心に残り続けるその言葉を否定しようとして、できなかった。…姉さんのトラウマ、私もトラウマになりそうだよ。




今回のミアスパイダーは完全に深夜を廻るゲームのあんちくしょうがモチーフです。オリジナルモンスターはイーサンとエヴリンの記憶から生まれてました。

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ダイブⅡⅩⅢ【だるまさんが…】

どうも、放仮ごです。明らかに第二層に入ってから書くスピードが落ちてます。人形たちはいいんだけどね、マネキンがね……。楽しんでいただけると幸いです。


 姉さんのトラウマから生まれたという蜘蛛型のマネキンの怪物を撃退し、一息つく私達。私はジミー人形を取り出して姉さんに見せる。

 

 

「とりあえずあのあんちきしょうを撃退した訳だけど……うわっ、なにその怖い人形」

 

「これが井戸の底にあった。ジミーの人形。数的には、レリーフの部屋に戻ればいいのかな?」

 

 

 ルーシー、キャサリン、ジミー。…これだけあればあのパーティー会場みたいなミニチュアの台座に足りるはずだ。姉さんも頷き、廊下への扉を開けて先導してくれる。

 

 

「絶対なんか出てくるから警戒して!」

 

「う、うん…」

 

《「あはは。ビビっててうける」》

 

「黙ってろ天の声!気を付けてローズ、絶対出てくるから!」

 

「そうだね…」

 

「……出てくるよね?」

 

「さあ…」

 

「この曲がり角の先!」

 

「なんもいないね…」

 

「上から来るか!?」

 

「フェイスイーターなら出てくるかもだけど」

 

「じゃあ後ろか!?」

 

「もしいたら絶叫する自信があるからやめて?」

 

「あのー、出るならそろそろ出てくれないと心臓に悪いと言うか…」

 

 

 それはわかる。出るなら出てくれた方がまだましかもしれない。何時出るのかとびくびくする方が心臓に悪い。

 

 

「なんか天の声に乗せられてる気がする……」

 

「なんか言え天の声!」

 

《「なんか」》

 

「お!ま!えー!」

 

 

 黙っていたかと思えばオウム返ししてきた天の声にブチ切れる姉さんを両手で脇を抱えて押さえる。子供なのに力が強い…!?

 

 

「どうどう姉さん、落ち着いて。なんか出されたらここじゃ勝ち目ないから」

 

《「黙ってろって言ったのお前じゃん」》

 

「ぐ、ぬう……」

 

《「ぐうの音も出ないとはこのことだ!アハハハハハ!」》

 

「それは姉さんが悪い」

 

「まさかの裏切り!?」

 

 

 とりあえず何事もなくパーティーのミニチュアまで辿り着いたので、キャサリンを外野に、ルーシーをバケツがかかった棒が置かれた脚立の上に、ジミーはなんか両手を掲げるポーズを取っていたので、宙に浮いて固定されてるプレゼントの前に置いてみる。するとまた人形たちが笑い出し、金髪の子の誕生日を祝いながらバケツで嫌がらせしてる様な構図が出来上がる。それを見た姉さんがもう何度目か分からないブチギレ。怒髪天だ。

 

 

「殺してやる。出てこい天の声!」

 

「姉さん」

 

《「出てこいと言われて出て行く馬鹿じゃないよ―だ」》

 

「なんのつもりでこんなの置いてるお前!私と同じ声でこれやってるのが許せない!」

 

「姉さん」

 

「本当に辛い思いをしたんだから、繰り返す必要なんかない!私達は見ていることしかできなかったけど、もし体があったらあいつら痛い目に遭わせてやるって……」

 

「姉さん」

 

「なに、ローズ!?お姉ちゃんがこんなことしてきたやつ絶対ぶちのめすから……」

 

「私は、そんなこと望んでないよ」

 

 

 そう言うと、怒っていたのが嘘の様に静まる姉さん。私は嫌だけど、姉さんがルーシーたちに危害を加えることは違うんだ。

 

 

「私が悪いんだ、私が……もう、それはわかってるから…」

 

「……友達に、なりたい?」

 

「……うん」

 

「…………ごめん、それは許さない、かな」

 

「え…?」

 

 

 思わず見返すと、姉さんは真剣な顔で、開いた引き出しから姉さんとよく似た黒髪の少女の人形を取り出しながら続けた。なんか他のと比べて安っぽい気がする人形だ。

 

 

「例えローズがアイツらを許しても私が許さない。イーサンだって許さない。ローズを害した奴を私達は許さない。あんな奴等、例えローズが「まとも」になったところで改心しないよ。うーん、そうだなあ。外傷は駄目だから、カビまみれにしちゃうのはどう?ばっちくしてやるの!…ね。想像したらすっきりしたでしょ?仕返ししていいんだよ」

 

「だ、だけど……」

 

「そうだよね。ローズは優しいから、私がやるの」

 

 

 そう言ってルーシーの人形を手に取る姉さん。首に手をかけると、止める間もなく、人形のルーシーの首をもぎとってしまった。

 

 

「台座に乗れば問題ないよね。こういう子供らしい人形遊び、してみたかったんだあ!」

 

 

 そう言うなり、キャサリンとジミーの首にまで手をかけてまるで幼児の様に躊躇なく嬉々として首をもぎ取って行く姉さん。その姿はただしく、悪魔だった。

 

 

《「へ、へえ!オモチャの遊び方が下手だね幼児かな?」》

 

「お前の首もこうしてやるから覚悟しろ天の声」

 

《「できるものなら?でも覚えといてね。オモチャは遊ばれた時のことも壊された時のことも全部覚えているんだ、仕返しされても知らないよ」》

 

「もしかしてドナの幻影の人形たちのこと言ってる?あんなのベビーに比べたら全然怖くなかったもんね!」

 

「姉さんそれフラグ」

 

 

 ベビーが出て来たらどうする気なんだ。とりあえず姉さんが黒髪の少女の人形を手に入れたので磔のミニチュアの部屋に戻ることにした私達。姉さんは天の声に言われたことが気になってるのかしきりに辺りを気にしている。

 

 

「…姉さん」

 

「ひぃあ!?え、なに?ローズ?」

 

「ありがと」

 

「お礼はいらないよ。私とイーサンはローズが楽しく生きてくれればそれでいいんだから」

 

「…姉さんと父さんがいるから私、何時も楽しいよ」

 

「でも友達は作りたいんでしょ?………クリスの話だと同じ境遇の人が何人かいるらしいけど年は結構離れてるんだよねえ。確か名前はシェリーとナタr」

 

「「ぎゃああああああああああああ!?」」

 

 

 話しながら扉を開けて絶句、咄嗟に持ち上げて抱きしめた姉さんと共に悲鳴を上げる。

 

 

「ま!た!お前かあああああああ!」

 

「やっちゃえ姉さん!」

 

 

 扉を開けたそこにいたのは、さっき撃退して逃げて行ったマネキン人形だった。姉さんを振り回してキックを叩き込み、マネキンはバラバラになって吹っ飛ぶがカタカタと一人で動いて集まって行く。あーもう!

 

 

「早いとここんなところ脱出しよう!いい加減、怖い!」

 

「それな!えい!この!この!」

 

 

 ゲシゲシゲシ、と壁に向けてサッカーボールの様に何度も首を蹴り飛ばす姉さん。マネキンの手がカタカタ揺れて止めようとしているが蹴っ飛ばされてる。…あっちは大丈夫そうだ。今のうちに!

 

 

「ルーシーと、多分ここにキャサリン。それでジミー…姉さん!人形!」

 

「はい!これ!」

 

 

 名前のついている人形たちを磔にされている金髪の少女人形を囲うように配置し、姉さんから投げ渡された黒髪少女の人形を、それを指示する様にちょっとだけ離れた台座に置く。するとキャサリンの持つ様に配置された松明に炎が灯り、人形たちが笑いだす。まるで姉さんがこれを指揮しているような悪意に満ちた配置だ、と思った瞬間。磔にされた金髪の少女の人形…恐らく私が燃え尽きて鍵が出てきた。

 

 

「…最低。本当に最低」

 

「…配電盤の鍵かあ」

 

 

 マネキンの首を蹴るのをやめてやってきた姉さんが手に取って書いてることを読んで……待って、マネキン放置は不味くない!?

 

 

「姉さん!」

 

「あ、しまっ…」

 

 

 明かりが消える。そして輝くマネキンの目に、私達は睨みつけられる。

 

 

《「だーるーまーさーんがー!」》

 

 

 嬉々とした天の声が響き渡る。……ああもう、本当に最悪だ。




みんなのトラウマ、起動。

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ダイブⅡⅩⅣ【それを見なければ終わり】

どうも、放仮ごです。pixivで エレメンタル㏇ さんが今作に出てくるオリジナルクリーチャーたちのイラストを描いてくださいました。本当にありがとうございます!「特異菌感染者の聖地」タグから見れるので是非ともご覧あれ。特にブライドデッドが本家にありそうなデザインで本当によき。

今回はだるまさんがころんだ開始。楽しんでいただけると幸いです。


《「だーるーまーさーんがー!」》

 

 

 第二層での人形ごっこ。趣味の悪いそれを終えると共に明かりが消え、輝く一対の目に睨みつけられる私達。あいつだ、ついさっきまで姉さんに蹴られてたあいつだ。

 

 

《「こーろーんーだー!」》

 

「「ひっ…!?」」

 

 

 そしてマネキンの目の光がこちらまですさまじい速度で突進して来て、そして目の前で消えた。

 

 

「な、なに!?姉さん!」

 

「ローズ、いるよね!?」

 

 

 暗闇で見えない中で姉さんと安否を確認しあっていると、ジリリーン!ジリリーン!と古めかしい電話の呼び出し音が鳴り響き、明かりがつくとミニチュアが消えて黒電話がぽつんと机の上に置かれていた。横を見れば姉さんがちゃんといて、安心しながら電話に出るしかないと悟って受話器を手に取る。

 

 

《「《「フヒヒヒヒッ!あーあ。死ーんじゃった、死んじゃった。お前たち、私が止めてなければ死んでたよ?残念でしたー。つまんないからそんなあっけない最期許さないけどね。あんた本当にマヌケだね、まだ結晶が見つからないの?」》

 

 

 そんなふうに煽り嘲笑ってくる天の声。姉さんの声だけど憎たらしいな、くそっ。

 

 

《「いいよ、マヌケな妹に可愛い姉さんが教えてあげる。エレベーターに乗っておいで」》

 

「エレベーター…?」

 

「エレベーター」

 

 

 言われて気付く。そう言えば廊下の奥にあったけど、関係ないと思って調べもしてなかった。

 

 

《「私の指示を馬鹿正直に聞いて逃げようともしないんだもん、笑っちゃった。ああそれと、今のはデモンストレーション。本番はこれからだよ。ママを痛めつけたアンタたちが可愛い愛娘がいるここに来るのを、ママは許さないだろうね。アハハアハハハッ!」》

 

 

 そう嗤って電話は切れた。受話器を置いて、一息つく。…また空気が変わった。多分タイミングは、あのマネキンが暗闇の中で私達に襲いかかろうとした瞬間。飛び付く瞬間だったマネキンごと空間が切り替わったんだ。相手は世界をスイッチを押す様に気軽に切り替えることができるのか。仮面の公爵より厄介かもしれないな天の声。

 

 

「…とりあえず、いこう姉さん」

 

「うん」

 

 

 姉さんの手を取って何故か全開になっている扉を潜って廊下に出る。…汚された私の肖像画が廊下に落ちてる。思い入れはないけどいい気分じゃないな。

 

 

「特に何事もなくエレベーターまでついちゃった…ん?」

 

 

 見れば壁になんか張り紙しているのを見つけた。えっと……?

 

 

「【つかまったら お前はおしまい!】【目をそらしちゃダメだよ】…本当にだるまさんがころんだでもやろうっての?でももうゴールだし関係ないよね、姉さん」

 

「うん。そうだね」

 

 

 姉さんの手を引いてエレベーターに入るがうんともすんともしない。不思議に思って姉さんをエレベーターに置いて傍にあった配電盤を見てみる。人形遊びで手に入れた配電盤の鍵か。鍵を開けると、ヒューズではなく手書きで書かれたヒューズの在り処が記された地図が入っていた。

 

 

「…そういうことね」

 

「そういうことだね」

 

 

 最初に来た時は開いてなかった横の扉の向こうの奥の部屋に置いてあるらしい。その途中でだるまさんがころんだをしよう、ということらしい。

 

 

「行こう、姉さん。………姉さん?」

 

 

 さっきから手を引かれるばかりで大人しい姉さんに今更不思議に思って振り返る。そして後悔した。

 

 

「ギギ、ギギギ……ローズ…!」

 

 

 それは、黒髪のウィッグと黒いワンピースで姉さんに変装したマネキン人形だった。しかも姉さんの声で喋ると来た。さいっあくだ。つまり私はこいつを連れてここまで来てたってことで……本物の姉さんは!?

 

 

「姉さん…!」

 

 

 踵を返して来た道を引き返そうとする。すると後ろでガシャガシャと動く音。振り返ると、私に向けて手を伸ばした格好で固まっているマネキン人形がいて。子供の頃散々姉さんと遊んだ「だるまさんがころんだ」のルールを、思い出す。

 

 

 Grandmother's Footsteps(だるまさんがころんだ)

 

 

 姉さんがマンガやアニメ、ゲームや特撮などのサブカルや料理を気に入っている国である日本(ジャパン)に古くからある遊びのひとつで、ジャンケンで鬼を決め、鬼が「だるまさんがころんだ」と言っている間に近づき、鬼が振り返ったら止まり、動くところ見られたら鬼に捕まる。それだけのシンプルなルール。つまりこれは、逆だるまさんがころんだだ。本来は鬼である私が獲物なんだ。

 

 

「でもつまり見ていればいいのよね?」

 

 

 マネキン人形から目を離さずにじっと見ながらジリジリと後退、姉さんとこいつが入れ替わったであろう黒電話の部屋をムーンウォークで目指す。しかしすぐに背中に壁がついてしまう。まずい、曲がり角だ。どうしても視界から外してしまう。右に身体を動かしながらギリギリまで視線を向け、完全に視界から外れるとドドドドドドドドドドドドドッ!とガシャガシャ関節の音を鳴らしながら爆走する音。あまりの恐怖に一歩も後ろに行けないまま、曲がり角を曲がってきたマネキンと目が遭う。

 

 

「ひっ!?」

 

 

 思わず腰を抜かすと、目が遭った瞬間そのポーズで固まるマネキン。し、死ぬかと思った……こんなの、少しでも目を放したら終わりじゃないか…!

 

 

「姉さん、姉さんは何処…!?」

 

 

 這い這いになりながら、腰が抜けたまま腕を動かして後退しながら視線をちょっとずつずらして姉さんを探す。姉さんの事だ、どこかに捕まっていてもなんか無理やり抜け出してそう。そして天の声の、私と姉さんの無様を見て愉しみたいという願望が見え隠れする声から、多分だけど父さんみたいに完全にいなくなったわけではないはずだ。

 

 

「可能性があるとしたら、ジミーの部屋…!」

 

 

 声も聞こえないということは多分、井戸の下だ。さすがの姉さんも梯子が無いとあの井戸は登れないだろう。そう考えて全開のままの黒電話の部屋に入り、机に手をかけてなんとか立ち上がる。マネキン人形は曲がり角を曲がった形で固まったままだ。

 

 

「ふう…」

 

 

 一息つこうと膝に手をやって、すぐに視線を前に向ける。一瞬だけ視線が下を向いてしまった。案の定、凄まじい速度で無駄に綺麗なフォームで走ってきていたマネキン人形と目が遭って固まる。

 

 

「本当に、怖いんだけど…なんか言いなさいよ天の声!」

 

 

 くそっ、どうでもいい時は出てくる癖にこういう時には出てこないって嫌がらせか!………本当に嫌がらせなんだろうな。私と姉さんを困らせようとしている意思しか見えないもの。

 

 

「…どう足掻いても視線を外さないといけない」

 

 

 ジミーの部屋は曲がり角を曲がった先だ。嫌な配置だ。でも、こっちにはジミーの部屋の鍵がある。中に入って閉じればとりあえずは大丈夫だろう。

 

 

「勝負…!」

 

 

 視線を外して、全速力で曲がり角に向かうとドドドドドドドドッ!と爆走する音。振り返れば飛びかかろうとした形のまま固まったかと思えば勢いは殺せずぶっ飛んできて、思わず避けると壁にぶつかりバラバラに飛び散り、黒いウィッグと黒いワンピースが空を舞った。

 

 

「い、今だ!」

 

 

 ジミーの部屋の扉に手をかける。何故か閉まっていた。そうだった。さっきマネキン人形を閉じ込めるために閉じたんだった!……あれ?マネキン人形に壊されてなかったっけ。空間が切り替わったせいだろうか。とりあえず焦りながら鍵を取り出して開けようとしていると、カタカタと音を立てながらひとりで組み立てられていくのが後ろ目に見えた。

 

 

「は、早く…!」

 

 

 なんとか鍵を開けて中に入った瞬間。ドカーン!と激突した轟音が響いた。ドンドンドン!と扉を叩いているが、……とりあえず入ってくることは無さそうだ。

 

 

「姉さん!いるー!?」

 

 

 いなかったらもう完全に詰んでいるが。すると弱々しい声が聞こえてきた。

 

 

「ローズ~?たーすーけーてー……」

 

「よかった、本当にここにいた…」

 

 

 傍に巻かれた縄梯子が置かれた井戸まで近づいて覗き込むと、何故か底に溜まっているマネキンの残骸に埋もれた姉さんがいた。…いやまあ壁登りとかもできないわけだ。

 

 

「なにがどうしてそうなったの?」

 

「私が壊したマネキンの仕返しだってー。たーしーけーてー」

 

「今梯子を下ろすね」

 

 

 縄梯子を下ろしながら思わず笑う。なんというか、情けない姉さんに安心感を感じる。うん、これぐらい騒がしくないと姉さんじゃないね。




いつの間にかエヴリンと入れ替わってる恐怖。

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ダイブⅡⅩⅤ【…ころばない!】

どうも、放仮ごです。今回はだるまさんがころんだで読者の皆様もこういうことしたことあるんじゃないかな?って話。楽しんでいただけると幸いです。


「姉さん、大丈夫?」

 

「だいじょばない……この、くっつくな!」

 

 

 私が下ろした縄梯子を伝って上がってきた姉さんに手を貸す。全身にしがみついていたマネキンの腕を取っ払う姉さんに、これから残酷な事実を教えなきゃいけない。

 

 

「ところで姉さん」

 

「なにかなローズ。さっきからどんどんとうるさいけど」

 

「姉さんにはこれから、逆だるまさんがころんだをしてもらいます」

 

「は?」

 

 

 かくかくしかじか。ドンドンドンドン!と激しくなる耳障りな音を聞きながら、姉さんと逸れた後のことのあらましを説明する。

 

 

「私の姿に化けるとかふざけてるね。でもなんで気付かなかったのさ?」

 

「いや、大人しいとは思ったけど怖くてテンション下がったのかなって…」

 

 

 そう言うとにっこり笑う姉さん。私もにっこりと笑顔で返す。

 

 

「いいこと教えてあげる!私は怖すぎるとテンション振り切るタイプだよ!ギャー助けてイーサーンー!!!!」

 

「我慢の限界だったんだね…」

 

「ただでさえ怖いのに!マネキンの残骸と一緒に狭くて暗い井戸に閉じ込められたら誰でもこうなるよ!!!」

 

「考えたくもない。……でも実際どうしようかな」

 

 

 ドンドンドンドン!からガチャガチャガチャガチャッ!とドアノブを捻る音が聞こえる。ドア先輩のおかげで助かってるけど時間の問題っぽい。それがわかっているのか井戸の周りをグルグル回りながら頭を抱えて泣き叫ぶ姉さん。

 

 

「どーしよどーしよ!せめてせっかく手に入れた力を失ってなかったらあんな奴怖くないのにー!」

 

「落ち着いて姉さん」

 

「逆にローズはどうして落ち着いてられてるの!?」

 

「私もパニック状態だけど私よりパニックの姉さん見てたら落ちついちゃった」

 

「それはよかったね!あーもう、だるまさんがころんだってなにさ!確かにローズが小さい頃に遊んだけどさ!触れなくても遊べるし!また私の記憶から読んだな!」

 

 

 うがーっ!と頭をかきむしる姉さん。うん、懐かしいね。途中で鬼の姉さんがずっと私を見続けて、それで一時間近くも睨み合いをしたこともあったっけ。………うん?

 

 

「姉さん。だるまさんがころんだと言えば、負け続きの姉さんが大人げなく私をずっと見続けて、私が泣き出したから姉さんが父さんに怒られたことなかったっけ」

 

「おおう…よく覚えてるね。あったねえ、そんなこと。………うん?」

 

「私と同じこと思いついたみたいだね、姉さん」

 

「…いやまあ私の記憶から作られたなら効果あるかもだけど…ちょっと気が引けるなあ。ま、いいか!」

 

 

 打開策を見つけたからなのかぺかーと輝く笑顔を浮かべる姉さんを、私は両手で担いで抱き寄せると、姉さんが私の背中に手を回してしがみ付く。

 

 

「見た目はカッコ悪いけど!」

 

「対だるまさんがころんだの構え!行くぞオラァ!」

 

 

 姉さんがしがみ付いた状態で私は突進。鍵を開けて扉を開けると、姉さんの恰好をした小柄なマネキンと目が合い、手が伸びてくるが固まる。私と視線が合ったせいだろう。だが今まで通りなら背を向ければまた動き出して終わりだ。…一人なら。

 

 

「…!?」

 

「今の私達は二人!」

 

「即ち、前後に目を向けられる!」

 

「お前はもう、私達に近づけない!」

 

「動かないと分かってるなら恐くないもんね!」

 

 

 そう。私達は今二人だ。姉さんが私に抱き着いて背中越しに視線を背後に向けることで、私はずっと前を向いて移動できる。もう怖くない。

 

 

「急ぐよ姉さん!掴まって!」

 

「もちのろん!絶対放したりなんかするもんか!」

 

 

 後ろを見ることなく、姉さんの温もりを感じながら全速力でダッシュ。ドリフトしながら廊下を曲がり、全速力でエレベーター横の部屋、さっきハサミを見つけた書斎であろう部屋を進んでいく。目的地は最初に来た時にしまってた扉だ。

 

 

「姉さん、どう!?」

 

「曲がり角を曲がるたびにすんごい速い速度で追いかけてきてるけど大丈夫だよ!滅茶苦茶怖い!」

 

「我慢して!目は逸らさないでよ!」

 

「ひゃい!」

 

 

 姉さんに後ろの様子を聞きながら件の扉の前に辿り着き、蹴り開けてちょっとした階段を下りて行く。ここは…キッチンか。武器になりそうなものを探している暇は無さそうだ。奥に進むと、ここだけ明るい部屋に出た。

 

 

「ここは、寝室…?」

 

「忘れもしない、ベビーに見つかった部屋だ…!」

 

「嫌なこと言わないでよ…」

 

 

 奥にあった配電盤からヒューズを手に取ると明かりが消える。なんか嫌な予感が…

 

 

《「ばーか!自分から安全圏を消してやんの!」》

 

「え!?あ、そっかヒューズを外したから!」

 

「姉さんキョロキョロしないで!」

 

「ってギャー!?ドア開けてきたー!?」

 

「勘弁してよね…」

 

 

 どうやらマネキン人形は暗闇の中しか動けないらしい。明かりが消えた途端開けて入ってきたのが、私が視線を向けることで動きが止まる。本当に怖いな!?

 

 

「だけど、横を通り抜ければ…!?」

 

「え、どうしたのローズ!?前が見えないんだけど何かいるの!?」

 

「……増えた」

 

「え」

 

 

 今姉さんが見ている最初の、姉さんの様な格好のマネキンとは別に、その前に見た姉さんが蹴飛ばしてた普通のマネキン人形が廊下に立っていた。……ああ、そう言えば井戸にマネキンの残骸が山の様にあったっけ。あれか。

 

 

「つまりそうか、二人じゃなかったら即死だった?」

 

「死ぬとは限らないけど絶対ロクな目に遭わないよね…行こう!」

 

 

 固まっているマネキンの横を通り抜け、ちょっとした階段を上って開けた扉の先にまたいて、ビビりながらも来た道を逆走していく。

 

 

「あれぇ!?三体目!?」

 

「絶対まだいる!気を付けて姉さん!」

 

 

 言いながら入ったハサミのあった部屋……書斎の出口に四体目のマネキン人形が陣取っていて、思わず駆け出した。

 

 

「姉さん!しっかり掴まってて!」

 

「え、え、え、え、加速して何を…ってぎゃああああ!?」

 

 

 そのまま跳躍、飛び蹴りを四体目のマネキン人形に叩き込んで扉ごと蹴り飛ばす。姉さんが視線を外してしまったせいか後ろからドドドドドドドッ!と足音が。

 

 

「姉さん!見てて!」

 

「ふえええ、目がまわるぅ…」

 

 

 目を回している姉さんをエレベーター前に置いて、ヒューズを配電盤に取りつけて、姉さんの手を引いてエレベーターに転がり込むとボタンを叩く様に押した。

 

 

「なんで、動かない!」

 

「どうして!?動け!動いてよ!?」

 

《「ククククッ…いや、まさかの方法であっさり攻略されちゃって焦ったけど…ま、まあ計画通りだし!?」》

 

 

 何度ボタンを押しても反応しない。ならばと姉さんがげしげしと壁を蹴る、その間にもどんどん近づいてくるマネキンたち。天の声の虚勢の声と共に扉が閉まり、エレベーターが動き出した。マネキンたちが入ってくるギリギリだった。

 

 

「こんなことして何の意味があるの!?」

 

「本当に怖かったんだぞ!?」

 

《「意味ならあるよ。もっと恐れろ、恐怖しろ。全然足りない、足りないんだよ!…結晶が欲しいんでしょ?ローズのために友達を用意したよ。ちゃんと遊べたら教えてあげる」》

 

 

 そしてエレベーターが止まり、扉が開くと信じられない光景が広がっていた。大量の人形たちが並べられているのもそうだが…明らかに、部屋自体が大きくなっていた。と言うよりは私達が縮んだかのようだ。

 

 

「…なにこれ、どうなってるの?」

 

「私達、縮んじゃった?」

 

 

 怖いってレベルじゃない。いくらなんでも、これはない。姉さんと握った手をぎゅっと握りしめる。

 

 

《「今度のゲームはかくれんぼ。お友だちに見つからずに私のところに来れるかな?奥のベッドルームで待ってるよ。じゃあ、せいぜい逃げ惑って遊んでね?」》




二人で一人なら楽勝なだるまさんがころんだでした。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩⅥ【小さな快進撃】

どうも、放仮ごです。久々のはっちゃけエヴリン回。この残滓、イーサンがいなくてそろそろ限界なのである。

今回はかくれんぼ()。楽しんでいただけると幸いです。


 不気味な人形たちに囲まれたエントランスで、私達は現状確認していた。人形サイズにちっちゃくなった…というより周りが大きくなった?けど、身体に異常はないみたいだ。

 

 

「…これがドナの人形たちと同じサイズなら、だいぶ縮んだなあ私達…ローズ、力使える?」

 

「ちょっと待って…うん、使えるみたい」

 

「私は相変わらず力が使えないみたい、衝撃波も出せないや。とりあえず菌核は何とかなりそうだね。…ここをしゃがめば先に行けそう」

 

「もう何でもアリだねこの世界…」

 

 

 姉さんの先導に続いてでかい机の下の下を進んでいくと、なにかがはしゃぐようにたくさんの人形が周りを駆け回っていくのが見えた。姉さんも見てしまったのかその動きが止まる。気のせいかな、鎌とか持ってたりなんか背中から物騒なものや腕が生えていた気がするような。

 

 

《「さあみんな、準備はいい?これからお友だちが恥ずかしがり屋のローズを探しにいくよ!見つからない様にベッドルームに辿りつけるかな?」》

 

「誰が恥ずかしがり屋よ…」

 

「ローズのことよくわかってるね!」

 

「姉さん!?」

 

 

 ポカポカして無言の抗議をしながら机の外に出る。…アイツらは今のところいないみたいだけど。ってこれ、あの時の私の人形に斧が刺さってる…あ、姉さんが引き抜いた。

 

 

《「もーういいーかい?」》

 

「まーだだよ!…よーし」

 

「姉さん?よーしから嫌な予感しか感じないんだけど?」

 

「武器はあるし駆け抜けるよ!もういい加減イーサンいないのやだ!」

 

「落ち着いてよ!?あんな数相手は無謀だって!?気付かれない様にしないと!」

 

「アキャ?」

 

「「あ」」

 

 

 斧を振り上げてうがーっと暴れ出しそうな姉さんを押さえていると、すぐ近くで巡回していた人形の光輝く目がこちらに向く。ジーッと見て何か考えている様子だ。ここは愛想よくしてみよう、助かるかもしれない。

 

 

「は、ハロー…?」

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

「アキャキャ!?」

 

 

 姉さんが壁を蹴って宙に舞い上がり、手にした斧を一閃。スパーンと小気味いい音と共に人形の首が刎ねられた。バタンッと崩れ落ちる人形の身体と、ボトッゴロゴロと転がる首に、スタッと綺麗に着地する姉さん。父さんみたい…。

 

 

「うん、行ける!」

 

「行ける!じゃないが?」

 

「私がローズを守る!突っ込めイノシシぃ!」

 

「未来掴めないと思う!?」

 

 

 斧を構えてビューンと突撃する姉さんを慌てて追いかけると、人形が二体いる部屋に突撃せんとしていた。音を聞きつけたのか人形二体の目が姉さんを捉える。

 

 

《「さて、ローズと私は何処に隠れてるのかな?みーつけた!……見つけたけど、なにそれ?なんで突っ込んでくるの?」》

 

「それはね……お前らの首を刎ねるからさあ!」

 

「赤ずきんの狼かな!?」

 

 

 ズパンスパーン!と小気味いい音を立てて転がる人形の首。人形たちも背中から生えた鎌を刺そうとしていたがそれを斧の防御でパリィして弾かれた上で首を斬り飛ばされていた。奥にいた人形も、姉さんに四肢を斬り飛ばされて床に押さえつけられる。

 

 

《「おま、お前!かくれんぼだって言ってるだろ!鬼を攻撃するかくれんぼがどこにあるんだよ!」》

 

「ステルスゲーなんてやってられるかあ!なんでもかんでも思い通りになると思うなよ!思い通りにならないことだらけなんだぞ現実は!」

 

《「な、なにを言ってるのさ……この世界じゃ私は無敵の神様!脅かす為だけに置いてた斧でイキるな!」》

 

「だったら消しなよ、この斧。なんとなくわかって来たよ。お前、一度配置したものは次のステージに行くまで消せないんだろ!いや、正確には設定したルールを後から変えることはできないんでしょ?今回だっていつもみたいにずっと見てるんじゃなくて、まるで本当にかくれんぼする様に人形の視点からしか私達が見えてないみたいだしね!」

 

《「っ…」》

 

 

 図星なのか言葉に詰まる天の声。確かにそうだ、進ませたくないならヒューズを消し去ってしまえば、姉さんをあのステージから消してしまえば、私はなすすべなくだるまさんがころんだで死んでいた。そうしなかったのは、できなかったからなのか。

 

 

「なんならこの人形たちを仮の身体にしてるんじゃない?そうじゃないとわざわざ止めないよね?」

 

《「そんなこと…!」》

 

「じゃあこの人形も首落とすけど問題なく喋れるよね?アーユーレディ?」

 

《「まっ…ギャア!?」》

 

 

 ストン!と、容赦なく斧を振り下ろして首を刎ねる姉さん。沈黙した天の声にご満悦なのかにんまりと笑う。

 

 

「やっとこっちからアイツにダメージを与えることができる、最高じゃん。行こうローズ、突き進もう」

 

「まったくもう……無理そうだったら止めるからね!」

 

ブレイブイン(勇気注入)!荒~れ~る~ぜえ~!止めてみな!」

 

「ウルトラなのかスーパーなのかどっちかにしよ?」

 

 

 そのまま、全速力で突き進む私達。人形は片っ端から姉さんが首を刎ね、菌核で塞がれた道は私が消し去り先に進む。

 

 

《「ああああああ~もう!本当にしぶといやつら!まぁお友だちは沢山いるからね!そんなごり押しで突破できると思うな!」》

 

「そっちこそ、数のごり押しでどうにかなると思うなあ!」

 

 

 三体纏めて襲いかかってきたのを、鎌の一撃をバックステップで回避して床に突き刺さり身動きが取れなくなったところを三体纏めて首を刎ねる姉さん。鮮やか過ぎて拍手してしまった。

 

 

「こちとら新世代の生物兵器として育てられたんだ。ローズを守るためなら兵器にだって戻ってやる」

 

「姉さん…」

 

 

 言いながら廊下に出ると、奥でグルグル同じ場所を廻っている四体の人形を見つけて、ひとつ前の部屋に私を隠し、廊下のど真ん中に立って大きく脚を振り上げるとダン!と勢いよく踏みつけて音を鳴らして物陰に隠れる姉さん。

 

 

《「音がしたぞ!行け!」》

 

「音をさせたんだよ、バーカ!」

 

 

 奥からこっちに向かってきた人形を、馬鹿正直にまっすぐ向かってくるのをいいことにスパン!スパン!スパン!スパン!と次から次へと物陰から不意打ちしていって一網打尽にする。姉さんってなんでこういうときだけ頭がいいんだろう。

 

 

《「なんで、なんで!私は最強になったのに……なんで力を全部奪った残滓に負けてるんだよ!」》

 

残滓(レムナンツ)、いいねえ」

 

 

 先の部屋に要塞の様に並んで陣取っていた人形たちを、私が菌核を破壊して繋がっていた鳥かごを落とすことで誘き寄せたところを背後から不意打ちしながら姉さんは嗤う。悪役みたいな笑い方だった。

 

 

「もとより私はオリジナルじゃないんだ。本物の(エヴリン)残滓(レムナンツ)、エヴリン・レムナンツ。いいね、しっくりくる」

 

「姉さん、かっこいい!」

 

「さすがローズ!わかってるぅ!ローズもそう言うお年頃だもんね!」

 

 

 そう無双しながら進んでいる時だった。ドンドンドンドン!と大きな足音が聞こえてきたのだ。思わず顔を見合わせる私と姉さん。冷や汗ダラダラだった。

 

 

「……ローズ。私達今人形サイズなんだよね?」

 

「…そうだね」

 

「…じゃあこの足音なに?」

 

「…大きなナニカじゃない?」

 

《「もう怒ったからね!友達と仲良くできない子はどうなるか、わかるよね!」》

 

「「!?」」

 

 

 瞬間、目の前の扉を開けてあのマネキン人形、それも見上げる程の巨大サイズが現れた。思わず悲鳴を上げそうになったところを、私が姉さんの口を塞ぎ、姉さんが私の口を塞ぐことで止め、慌てて物陰に隠れる。目をギラギラ光らせて周りを探る様子から、だるまさんがころんだの時とは違うらしい。

 

 

《「大人しくおしおきされろ。ママはお怒りだよ!」》

 

「お怒りなのはお前じゃん…」

 

「姉さん黙って」

 

「はい」

 

 

 …さすがにあれは姉さんでも無理そうだ。どうしよう。




かくれんぼとは見つかる前に鬼を仕留めるゲームである(違う)タイトル回収、エヴリン・レムナンツ。

今回のネタが全部わかった人はいい酒が飲めると思います。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩⅦ【降臨、満を待して】

どうも、放仮ごです。天の声エヴリンの正体がついに判明です。

今回はボス戦「ママ」人形。楽しんでいただけると幸いです。


 出てきた「ママ」のマネキン人形の巨大さと不気味さにビビってた私達だけど、操っているのが天の声だからか見当違いな方を探している。あ、思ったより怖くないかも。同じことを思ったのか姉さんも斧を構えた手に力を込めて壁に背をつけ様子を窺う。構えだけなら歴戦のハンターのそれである。

 

 

「巨大アンジー人形を思い出すけどあれよりましかな。でかいけど脚を崩せば行ける…!」

 

「でもばれたら終わりよ。…私が囮になる、だから姉さんがその間に…!」

 

「それは駄目。ローズに危険なことはさせられない。私がやるからここにいて」

 

 

 ヒソヒソ声でそう会話し、私が止める間もなく飛び出す姉さん。駆け出した足音ですぐさま巨大マネキン人形は気付いて手を伸ばすも姉さんはちょこまか足元を動き回って回避。腕と足がこんがらがってその巨体が引っくり返る。

 

 

「今だ!」

 

《「こっちだ!来い!」》

 

 

 そこ目掛けて跳躍した姉さんが斧を振り上げマネキン人形の顔に叩きつけんとするも、奥から高速で移動してきた人形がその間に割り込んで防御。人形の頭に斧が突き刺さり、倒しきれなかったそれは背中の鎌を伸ばして攻撃しようとするも、姉さんは斧を持ったまま人形の胴体を蹴って離脱。そのまま人形は床に手を付けて立ち上がろうとしたマネキン人形の腕に押し潰されて粉々に砕け散った。その破片がこちらまで転がって来て慌てて避ける。

 

 

「自分の部下を壊すとかどこに目ぇつけてんのさ!」

 

《「いくらでも替えが効くおもちゃなんか気にするわけないじゃん!」》

 

「友達とか言ってたのどこのどいつだ!?」

 

 

 それはそう。あの天の声、自分で言ってた設定をまるで気にしてないらしい。馬鹿かな?

 

 

《「友達なんて踏み潰すもんだよ?だよねえ、ローズ?」》

 

「っ…!」

 

 

 私の位置がどこかわかってないのかキョロキョロと周りを見渡しながらそう尋ねてくるマネキン人形から聞こえる天の声に、「お人形遊び」がフラッシュバックする。そんなことない、とは言えなかった。

 

 

「ローズの友達が欲しいって願いを踏みにじるな!」

 

 

 そこに足元を駆け抜けた姉さんが足首を斬り裂きながら走って翻弄する。捕まえようとする手から逃げて斬り裂くヒット&アウェイを繰り返しながら姉さんは続けた。

 

 

「悪い子は許さないけどいい子だっている!そんな子とローズは出会えてないだけなんだから…!」

 

《「友達の事なんて何も知らない癖に。無理やり作った家族も、苦しみを共にした姉妹も踏み潰してここまで来た貴方が言うの?エヴリン」》

 

「っ!?」

 

 

 表情を歪めた姉さんの動きが止まる。そこを右手で掴み上げ、眼前まで持ち上げ口を大きく開くマネキン人形。すると姉さんは立ち直ったのか頭突きを鼻面に浴びせて、拘束から抜け出して着地する姉さん。

 

 

「…ベイカー家もクランシーたちのことも、…D型被験体たちのことも。許してもらおうとは思わない。だけど、背負ってでも私は生きて行く!死んでるけど!」

 

《「残念だけどお前はもう終わりだよ!ここから先は通行止めだ!」》

 

 

 巨大マネキン人形が左拳を振り上げるも、姉さんは急ブレーキして飛び退き机の下に隠れることで回避。床に拳が叩きつけられ、砕いて床に埋まってしまった腕の手首に、飛び出した姉さんが斧を振り上げて勢いよく振るうも深々と突き刺さってしまい慌てて手を放して飛び退いたところに右手が叩き込まれる。危ない。

 

 

「しまっ…」

 

《「残念だったねえ!武器がなければお前なんて無力で怖くもなんともない!」》

 

「姉さん!」

 

 

 ズドンズドンズドンと、次から次へと叩き込まれる両手の攻撃を何とか後退して避けていく姉さん。あれじゃ駄目だ、どうにか…どうにかしないと。でもあんなでかいのに私の力が通じるとは思えないし……その時、カランと音を立てて足元に何かが当たった。

 

 

《「終わりだ!お前を取り込めば私は完璧に…!」》

 

「くっ…!」

 

 

 廊下の壁まで追い込まれてしまった姉さんに、魔手が伸びる。考えていてもどうにもならない!

 

 

「姉さん!これ!」

 

 

 そう言って私が投げたのは、先程マネキン人形に潰されて破壊され、転がってきた人形の破片である鎌。しかし姉さんに投げ渡すはずだったそれはすっぽ抜け、大きく弧を描いてこちらに首だけ回して振り向いたマネキン人形の右目に突き刺さった。

 

 

《「ギィアァアアアアアアアア!?」》

 

「おっと」

 

「姉さん、こっち!」

 

 

 おどろおどろしい悲鳴が上がり、振り回した腕から斧がすっぽ抜けて廊下に突き刺さったのを姉さんが回収。私は走って悶絶するマネキン人形の横を通り抜けて姉さんの手を掴み、廊下を突き進む。ここを抜ければキッチン、そしてベッドルームだ!

 

 

「ローズ、無茶をして!…でもありがとう、助かった」

 

「姉妹でしょ、助け合いだよ!」

 

 

 走る私達。立ちはだかる人形たちは姉さんが斬り、落ちていたホワイトセージを拾って残弾を回復した私の「力」で消して、突き進んでキッチンまでやってくる。ホワイトセージが落ちてるってことは少なくとも私だけでも進める様にしてる?だったらアイツの狙いは……。

 

 

「また足音!来るよローズ!」

 

「うん、姉さん!」

 

《「いかせてたまるかぁあああっ!」》

 

 

 ベッドルームに続く扉を蹴り飛ばして入ってくる巨大マネキン人形。さっきと同個体なのか右目が潰れている。あれなら右が死角かも。なら今度こそ。今は背が小さいから天井にぶつかることはない筈。

 

 

「いっけえ!姉さん!」

 

「うわああああああっ!?…っ、このお!」

 

 

 姉さんをひょいっと持ち上げ、グルグル回転してぶん投げる。ぶん投げられた姉さんは呆気にとられていたもののすぐに意図に気付いて斧を両手で持ち、振りかぶって首に叩き込んだ。

 

 

「足り…ない!?」

 

《「自分から飛び込んでくるなんて馬鹿だねえ!」》

 

 

 しかし投げられた勢いでは力を込められなかったのか突き刺さっただけで刎ねることができない。首に突き刺さった斧にしがみ付いた姉さんに魔手が伸びる。なにかないかと周りを見渡すとホワイトセージが落ちているのを見つけて手に取り咀嚼。マネキン人形に右手をかざすと白く輝いて動きが止まる。

 

 

「今だよ!姉さん!」

 

「ナイス、ローズ!どおおおおりゃああああああああ!」

 

 

 動きが止まったマネキン人形に足を置いて踏ん張り、力の限り振り抜き、回転しながら着地する姉さん。

 

 

《「ギャアァアアアアアアァァァァァァ……」》

 

 

 首を刎ねられ、宙を舞ったマネキン人形がボロボロと崩れて行く。どうやら黒領域でできていたらしい首から下も消え去り、私と姉さんは一息つく。

 

 

「やったね、姉さん」

 

「うん。アイツも懲りたでしょ。急ごう、ベッドルームに」

 

「…でも姉さん。アイツの目的は多分、かくれんぼで姉さんを排除しながら私をベッドルームに行かせることだと思うの」

 

 

 先を急ごうとする姉さんを引き止める。このままいけば罠の中に飛び込む様なものだ。しかし姉さんは笑って首を横に振る。

 

 

「つまりそれは私も一緒にベッドルームまで行くことを想定してないってことだよ。引っ掻き回すのは大得意だから大丈夫」

 

「姉さんが言うと説得力あるね」

 

「でしょ?」

 

 

 そんな会話をしながらベッドルームに続く扉に入ると、暗闇が支配していて。姉さんと繋いだ左手に力を込めるとぼんやりと少しだけ明るくなり、周りの光景が見えて思わず小さな悲鳴が漏れる。顔だけで私と二倍ぐらい大きな人形たちに取り囲まれていた。

 

 

《「みんなローズが嫌い」》

 

《「だって化け物だもんね」》

 

《「変な力を持ってるし」》

 

《「誰もいないところを見てひとりで喋ってるし」》

 

《「白い汗も出る」》

 

《「きたないよね」》

 

《「あれカビなんだってさ」》

 

《「きたないきたなーい」》

 

「…うるさい」

 

 

 人形たちの視線が注がれ、次々に紡がれる罵詈雑言に姉さんの手を放して両手で耳を塞ぐ。やめて、やめて。聞こえないふりをしてきたの。知らないふりをしてきたの。姉さんが斧を振るって人形の顔を破壊するけど、いくら壊しても湧いてくる。決して消えはしなかった。

 

 

《「ローズのお父さんと同じだ」》

 

《「ローズのお父さんも化け物なんだって」》

 

《「頭を潰されて生きてる人間がいるはずないもんね」》

 

《「カビ人間だよね」》

 

《「ゾンビじゃん。殺さないと」》

 

《「だから友達がいないんだ」》

 

《「可哀想だけど好きにはなれないよね、だって私達とは違うんだし」》

 

「うるさい、うるさい、うるさい!」

 

《「ほんとうのことだよ」》

 

《「わからないふりをしているの?」》

 

《「ローズは怖いんだよ!ほら!」》

 

《「自分が変わっちゃうから!」》

 

《「父さんと姉さんを嫌いになりたくないから!」》

 

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」

 

 

 耳を押さえて蹲る。……姉さんの声で言われているのが、一番きついかもしれない。

 

 

「…いい加減にしろ」

 

 

 瞬間、衝撃波が円形に放たれて人形たちを纏めて吹き飛ばした。…姉さん、力を取り戻したの?すると崩れ去った人形の奥から、大きな人影が現れる。それは、成長した姿の姉さんだった。

 

 

「すごいすごい!怒りが振り切って枷を外すなんて!もう無理かなと思って回収しようと思っていたけど、取り越し苦労だったね!ローズは予定通り心が折れたみたいだし、私やられ損じゃん!」

 

 

 キャッキャッと邪気たっぷりに手を叩いて笑う巨大な姉さんに、姉さんは斧を突きつけて鋭い視線を向けた。

 

 

「お前が私に力を与えて奪ってたやつでしょ。ローズをいじめる時点で私じゃないし、ミランダの馬鹿なら私に力を与えたりしない。……お前は誰だ」

 

 

 姉さんの問いかけに、巨大な姉さんは首を傾げて考え込むように視線を動かしてにんまり笑う。

 

 

私?…そうだなあ、名乗るとしたら………黒き神(ゼウ・ヌーグル)、かなあ?




というわけで天の声の正体はアナザーエヴリン編のラスボス「黒き神(ゼウ・ヌーグル)」の本編IFでした。第一層でエヴリンをパワーアップさせてたのもこいつ。仮面の公爵が最期に気付いた存在の正体でもあります。アナザーエヴリンと分離して空っぽだったアイツと異なり、別個の存在なのに悪意たっぷりな理由は次回にて。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩⅧ【このセカイのカミサマ】

どうも、放仮ごです。感想欄でゼウ・ヌーグルが「紙」と呼ばれてて苦笑しました。あのルートのアイツはよく燃えたけどこのルートのこいつは一味も二味も違うんやで。

真相究明のお時間です。楽しんでいただけると幸いです。


私?…そうだなあ、名乗るとしたら………黒き神(ゼウ・ヌーグル)、かなあ?

 

 

 姉さんの問いかけにそう答えた巨大な大人の姿の姉さんの姿をしたナニカは視線を彷徨わせてから邪悪な笑みを浮かべ、手を叩く。

 

 

 

この部屋じゃ味気ないよね!こことかどうかな!

 

 瞬間、世界が切り替わる。巨大なベッドルームから、パーティーでもするかの様に飾りつけされた暖かな家屋のリビングに。サイズ感も元に戻り、ゼウ・ヌーグルと名乗った大人の姉さんの姿をした誰かも私よりちょっとだけ身長が大きい程度になる。この世界、今までとは違う、ここを私は知っている……!

 

 

「ローズが赤ん坊だった頃に……あの事件が起きる前に住んでた家…!?」

 

「ここが、そうなの…?」

 

そう、そして貴女たちが私に還るにふさわしい場所だよ

 

「え…?」

 

 

 そう言ってゼウ・ヌーグルが手をかざすと私を包み込むようにピンポイントに衝撃波が放たれ、まるで圧縮されていくように押し潰されていく私の身体がどんどん縮んでいく。さっきまでみたいに小人じゃない、子供らしいふっくらした小さい手が視界に映った瞬間、私の視界はブラックアウトする。

 

 

「ローズ!?」

 

はははっ!心が折れて誰かに縋る事しか出来ないローズは赤ん坊と一緒!ならその姿がお似合いだよね!

 

「あ、う……」

 

 

 大きな手に抱えられて飛び込んできた光に目が眩む。視界に映るのは信じられないとばかりに目を見開いた姉さんで、私は大丈夫と口にしようとして聞こえてきたのは赤ん坊(・・・)の声にならない声。慌てて真っ暗な窓ガラスを見れば、父さんから譲り受けたジャケットにくるまれた赤ん坊がそこにいた。

 

 

あうあ(なんで)ー!?」

 

「ローズが、赤ん坊に……いったいなにをしたの!?」

 

なにって、貴方達のおかげで手に入れた力を見せてあげてるんだよ。ローズとエヴリンが怒りや悲しみ、不安や絶望の感情を与えてくれたから私はこうして自我を確立するまでに成長できた。第二層に来たばかりはエヴリンを模しただけの仮の人格で、それ以前はただエヴリンの怒りを増長させるために力を与えることしかできなかったけど…私は私になれた

 

 

 イーサンを消したおかげかな?とほくそ笑むゼウ・ヌーグルの顔は成長した姉さんそのものだけど、同じ物とは思えないぐらいあまりにも邪悪な顔だ。悪意の、塊だ。

 

 

「…ゼウ・ヌーグルとか言ってたけどお前はなんなの?」

 

お馬鹿?まだわからないの?呆れた。怒りに身を任せてすぐ手を出す馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどこうも馬鹿だとはね

 

 

 馬鹿にするように肩を竦めてやれやれと溜め息を吐くゼウ・ヌーグルに、今の今まで耐えていたのだろう姉さんが私を左手で抱えたまま右手に握った斧を振り上げるが、振り下ろしたそれはあっさりと左手で掴まれ、力を少し入れるだけでバキン!と亀裂を入れられて粉々に破壊されてしまい、私を抱えて後退する姉さん。

 

 

無駄だよ。事前に決めたルールに介入はできないけど、ベッドルームに辿り着いた時点で私が直接手を出せるようになったんだから関係ない。私が馬鹿だと思った?

 

「…っ、このお!」

 

 

 私を抱えたまま衝撃波を放つ姉さんだがしかし、涼しい顔をしたゼウ・ヌーグルが右手を軽く振るうだけで払いのけられてしまった。姉さんの衝撃波も通じない…!?

 

 

馬鹿でも分かるように教えてあげる。私は「菌根」そのもの、即ちこのセカイのカミサマ。マザー・ミランダが信仰にも等しい感情を向けて、万人の記憶という生贄を与え続けたために菌根から生まれた、マザー・ミランダ曰く黒き神(ゼウ・ヌーグル)という名の神格だよ

 

 

 自分の胸に手をやりながらそう改めて名乗るゼウ・ヌーグル。菌根そのもの…!?そんなの、菌根の世界であるここじゃ無敵にも等しいじゃないか、反則だ。

 

 

16年前、イーサンと四貴族、そしてマザー・ミランダの戦いで菌根に蓄積された膨大な感情から「私」は生まれた。つまりエヴリン、ローズ。貴方達の妹も同然の存在。エヴリン、貴女の手ですぐに爆発させられて肉体を失ってしまったけどね?

 

「…まさか、あの時。ミランダを倒した後も動いていた菌根は……」

 

 

 心当たりがあるのか戦慄する姉さんに、愉快なのかゼウ・ヌーグルはお腹に手をやってケラケラと笑う。…同じ姉さんの顔で笑っているのに、何でこうも邪悪に感じるのだろう。

 

 

爆発しても私は菌根の欠片に宿って生き延びた。菌根ネットワークから万人の記憶を得ることで自我を確立していったけど方向性が定まらなかった、そんな時。マザー・ミランダの計略で貴方達が取り込まれた

 

「やっぱりこうなったのはミランダの馬鹿の仕業か……」

 

 

 じゃあ、現実で私達を(いざな)ったケイはミランダに操られていたという事?確かに違和感はあったけど…じゃあ、騙されてたってこと?結晶も全部ウソなの?

 

 

私の欠片ともいえる、巫女に等しいエヴリンとローズがこの世界に来て負の感情を爆発させるたびに私に信仰は与えられていた。その点、仮面の公爵は良くやってくれたよ。そして第二層でのゲームで得た感情で、私の自我は完成した

 

 

 つまり天の声として私達を誘導して負の感情を引き出させていたってことで…私達は、こいつの掌の上で踊らされていた…?

 

 

あとは用済みのエヴリンを取り込んで完全体になり、心が壊れたローズの代わりにその肉体を媒介に現実に出て行くだけ。ああ、安心して。私が「エヴァ」としてマザー・ミランダの願いを叶えてローズの肉体は大事に使うから

 

「っ…ローズ、無理だろうけどしっかり掴まってて!」

 

ただローズが正真正銘の怪物になるだけだよ。何も変わらないよね!

 

 

 ゼウ・ヌーグルが右手の一指し指をこちらに向ける。瞬間、窓から飛び出してきた菌根の触手が私を抱えている姉さんを狙い、姉さんは宙返りで回避。着地すると廊下に出て階段に向かう。

 

 

このセカイは私の領域。逃げられない中で鬼ごっこ?いいよ、遊んであげる

 

 

 次々と扉や窓から飛び出してくる触手を衝撃波で迎撃しようと試みるも通じず、ギリギリで避けながら姉さんは階段を駆け上がっていく。

 

 

あうあー!(姉さん、どうするの!?)

 

「何言ってるか分からないけど…とにかく脱出の術を探す!今までと同じなら、どこかに出口がある筈!多分だけど、ローズの部屋だ!」

 

 

 階段の下から溢れだしてきて、レコーダーやら乳母車やらを破壊しながら迫る菌根から私を抱えていると言うハンデを負いながら全力で逃げる姉さんが入ったのは一番奥の部屋。入るなりドアを閉めて鍵をかけた姉さんが辺りを見渡し、私も可能ながら首を動かすも、しかし特に何もない。

 

 

「嘘…!?ここは、完全に私達を消すためのセカイってこと…?」

 

 

 絶望のあまり膝から崩れ落ちる姉さん。鍵をかけたドアからはドンドンドン!と菌根が押し寄せる音が聞こえる。万事休すだ。そんな、どうしたら…!?すると視界の端を金色の光が舞った。

 

 

【やっと見つけた!急げ、イーサン!】

 

「シャルル…!?」

 

 

 それは第二層に来てすぐに別れたシャルルその人で。次の瞬間、窓を蹴破ってその人物は現れ手にしたショットガンを構えた。

 

 

「イーサン!」

 

あうー(父さん)!」

 

「そのまま伏せてろ!エヴリン!耳を塞げローズ!」

 

 

 言う通りにした瞬間、扉を破って溢れだした菌根にショットガンが叩き込まれて粉砕される。ポンプアクションを行った父さんはそのまま連射。菌根を完全に破壊し、そして余裕の歩みでやってきたゼウ・ヌーグルに銃口を突き付けた。

 

 

「よくもやってくれたな偽エヴリン」

 

こんにちは。さっそくで悪いけど死んで?イーサン

 

 

 ゼウ・ヌーグルの振るった右手から放たれた衝撃波の砲弾と、父さんが引き金を引いたショットガンがぶつかり相殺。両者の鋭い視線がぶつかった。




無敵のカミサマ、ゼウ・ヌーグル。パワーアップエヴリンの能力全部持ってる上に支配者みたいな存在だからそりゃ最強である。現実で戦ったアナザーエヴリンと異なり、精神だけの存在みたいなもんだから菌根の世界では滅法強いです。

ローズ赤ん坊化、エヴリンも絶望という最大のピンチに、イーサン&シャルル参戦。彼等は彼等で頑張ってました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅡⅩⅨ【エンドゲーム】

どうも、放仮ごです。このワードをタイトルに使うのは二度目となります。ゼウ・ヌーグルの仕掛けたゲームの終わりと言う意味と…?

今回は何気に初の対戦カード、イーサンとエヴリンコンビVSゼウ・ヌーグル。楽しんでいただけると幸いです。


邪魔者にはご退場願おうか。家族水入らずなんだから

 

【っ、クソッ…】

 

「家族、だって?」

 

 

 手の一振りでシャルルを消し去るゼウ・ヌーグルは、ショットガンを突きつけながらそう尋ねる父さんに、銃口が眼前にあるにも関わらずけらけら笑って胸に手を当て恍惚とした表情を浮かべる。

 

 

イーサン、イーサン!イーサン!私達の父親!ありがとう、私を生んでくれて!

 

「心底嬉しくない感謝の言葉だな!ローズを元に戻せ!」

 

 

 手にしたショットガンを乱射。乱射。乱射。しかしゼウ・ヌーグルは大人の姉さんの顔で愉しげに嗤いながら消えては少し離れた場所に移動する瞬間移動を繰り返し、まるで当たらない。タイミングをずらして狙った父さんのファインプレーも、衝撃波で相殺されて意味がない。やっぱり、強い。

 

 

アハハハハハ!この程度なの、イーサン・ウィンターズ!私の眷属たちを悉く倒した実力は!

 

「ローズはここにいて。イーサンが諦めないなら、私も諦めないから!」

 

 

 すると苦戦している父さんを見かねてか、姉さんは私を備え付けられていたベビーベッドに寝かせて駆け出し、右横に陣取って衝撃波を放つも、ゼウ・ヌーグルはそれを右手一本で受け止めて握って圧縮すると前方の父さんに投げつけ吹き飛ばしてしまった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「イーサン!?」

 

余所見は駄目だよ。死んじゃうからね!

 

 

 そう言って両手をそれぞれ父さんと姉さんにかざし、衝撃波を放って包み込み拘束すると二人を高速でぶつけ合わせて圧迫。ギュムーッ!とそれぞれの身体でサンドイッチにされた二人は解放され、もみくちゃになって床に転がる。

 

 

「くそっ、今までの敵の比じゃないぐらいに強い…!」

 

「エスパーかよ…」

 

むっ。エスパーじゃなくて、カミサマだよ

 

「衝撃波で駄目なら…イーサン!」

 

「行くぞ、エヴリン!」

 

 

 なんとか立ち上がった姉さんの伸ばした両手を両手で掴み、クルクルその場で回転して遠心力を加えて投擲。足から投げ飛ばされた姉さんは空中で飛び蹴りの体勢を作って一直線に飛び込んでいく。日本の特撮ヒーローの必殺技、ライダーキックだ。

 

 

無駄だよ。私に攻撃は通じない

 

「ぐう!?」

 

 

 瞬間、ゼウ・ヌーグルの突き出した右手が黒いドロドロに包まれて鋭い爪の異形の腕に変貌すると、一直線に伸びて姉さんの首を掴んで持ち上げ、蹴りは届かなかった。

 

 

「ぐう…!?これって…」

 

スワンプマン(ジャック・ベイカー)の腕だよ。いいでしょ!

 

「エヴリン!」

 

 

 床に勢いよく叩きつけられた姉さんに駆け寄りながら持ち替えたハンドガンを乱射する父さん。面で駄目なら点だということだろう。しかし蛇の様にうねり渦を巻く伸縮自在の右腕に弾丸を全て防がれ、ゼウ・ヌーグルが振り回すと激流の様に勢いを増した右腕が父さんに炸裂、殴り飛ばしてしまう。

 

 

「今度はマーガレット…!」

 

私の力だ、私が使ってもなにもおかしくない!

 

 

 ゼウ・ヌーグルがちょこんと裾をつまみ、ぶわっと膨らんだスカートの下から一斉に溢れだす蟲の大群が襲いかかる。姉さんと父さんだけじゃない、私にも…!?

 

 

「ローズ!」

 

 

 慌てて飛び込んできた姉さんは私を抱きかかえてベビーベッドの上で蹲り、グサグサグサッ!と突き刺さる音が聞こえる。ぐらりと力なく倒れ伏す姉さんの傍でなんとか非力な身体で擦る。見れば、背中にいくつも穴が開いていた。

 

 

あうあー(姉さん)!」

 

「エヴリン!くそっ…こいつならどうだ!」

 

 

 そう言って父さんが取り出したのは手榴弾。ピンを抜いて投げつけ、その刹那に私達の元に駆けつけベビーベッドを横転させて盾にすると同時に、思わず耳を塞いでもなお響く衝撃と爆音が轟いた。

 

 

「エヴリン、しっかりしろ!」

 

 

 そう言って回復薬を取り出して姉さんの背中にかける父さん。血の気を失っていた姉さんの顔に余裕が戻り、立ち上がる。よかった、本当に…!

 

 

「…目覚ましにしては物騒すぎない?イーサン」

 

「お前はこれぐらいしないと起きないだろ。だがこれであいつも吹っ飛んだだろ」

 

あー、びっくりした

 

「「「!」」」

 

 

 爆煙が吹き飛ばされ、耳を押さえながら無傷の姿を現すゼウ・ヌーグル。顔をしかめながら異形の右手を振りかぶると、まるで西洋の竜の様な形状に変わった。

 

 

「ドミトレスクの…!?」

 

耳がキーンとなったでしょ!

 

「ぐああああああっ!?」

 

 

 そして一薙ぎで父さんを吹き飛ばし、しゃがんで避けていた姉さんが腰を低くして突撃。拳を振りかぶってその腹部、横っ腹に叩きつける。

 

 

「うそっ、効いてない!?急所だよ!?」

 

それは人の急所でしょ、カミサマには通じないよ

 

 

 そして円形に放たれる衝撃波。咄嗟に父さんが私のもとに跳躍し、私を抱きかかえた瞬間、姉さん共々空中に浮かばせられた私達。私達だけじゃない、部屋の家具が纏めて空中に打ち上げられて静止している。

 

 

すべては一瞬の出来事。セカイを壊すも作り直すも私の思うがまま!

 

 

 瞬間、バキバキと音を立てて私達に集束するように家屋が倒壊。巨大な球状となった瓦礫に私達三人は閉じ込められ、爆発するかのように外側に吹き飛ばされたかと思えば急速に世界がパズルの如く組み立てられていき、巨大な工場の敷地の様な場所に投げ出された。

 

 

あうあー(痛い)……」

 

「ローズ、ローズ無事か…!?」

 

「今度は、ハイゼンベルクの…」

 

狭くて戦いにくかったからね。次はそうだな……こういうのはどうかなあ!

 

 

 原っぱの中心に立つゼウ・ヌーグルの足元から黒いドロドロが溢れだしてその身体を包み込み、背中から六枚の巨大な翼を広げたその姿が膨れ上がって行く。

 

 

オルチーナ、ドナ、モロー、カール、ミランダ……私の可愛い可愛い供物たち。その戦闘経験は私に蓄積され、際限なき力として我が身に宿る…!

 

 

 背中から伸びた尻尾の様な部位の先端には死神を彷彿とさせる鋭い鎌がついており、両腕は周囲の鉄屑を集束させた丸鋸とプロペラエンジンの様な者が先端に付いたメカアームを駆動させ、横から蜘蛛の様な節足を展開した巨大なドラゴンの身体に、顔はなく首の位置にあるアンコウの様な大口の中から両腕と指が異様に伸びたゼウ・ヌーグルの上半身を出した姿に変貌。カシャカシャと蜘蛛脚を動かしてこちらに向いて、両腕とメカアームを振り上げ、翼を六枚すべて広げて威圧してきた。

 

 

「あうあー!?」

 

「…嘘、一体だけでも苦戦したのに…」

 

「銃でどうこうなる相手じゃないぞ…」

 

ローズ、無力だねえ。エヴリン、ちっぽけだねえ。イーサン、悔しいよねえ。ウィンターズ、お前たちは私に敵わない。潔く諦めて私に還れ!

 

 

 赤ん坊の体は正直で、泣き出してしまう。姉さんは私を抱えたまま呆然と見上げ、父さんは私達を守るように立ちながらも、臆してしまっている。回転する丸鋸とプロベラが迫る。ダメだ、こいつには敵わない。ここで、終わり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつはどうかな。こいつらは俺が認めた共犯者と、その娘だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、クルクルクルと回転した鉄の大鎚がゼウ・ヌーグルの後頭部に激突、怯みもしなかったものの私達に向けていた悪意がそれが飛んで来た方向に向けられる。助かった…?

 

 

家族水入らずの時間を邪魔するなんて、無粋だね

 

「…その声!」

 

「……やっぱりお前か」

 

 

 そこにいたのは一人の壮年の男。ウェーブのかかった灰色の長髪と、口周りに蓄えられた髭、丸いサングラスを掛けて、ペンダントやドッグタグを首にかけて、黒いソフトハットとオリーブ色のロングコートを着用、その手に戻ってきた大鎚を肩に担いで不敵な笑みを浮かべている。……まさか、もしかして。私達を助けてくれる存在を、私は一人しか知らない。

 

 

あうう(シャルル)…?」

 

「シャルル、シャルルマーニュってのはカール大帝の別名。俺のファーストネームを知ってるならわかる寸法だ。その様子だと馬鹿どもはローズには話して無かったようだがな?勝手に俺の家と力を使うなよ、ミランダに与えられたものとはいえ所有権は俺の物だ」

 

せっかく見逃してやったのに死にに来たの?

 

「ありがたいお慈悲だがな、俺は神なんざ信じちゃいねえし菌根のカミサマだってならなおさら信仰する気もねえ。何よりローズにちゃんと挨拶もせずに死なれちゃ目覚めもわりぃ」

 

 

 そう言って近づいてきて、サングラスを外して優しい視線を向けてくる。ああ、この人はシャルルだ。

 

 

「シャルル改めカール・ハイゼンベルクだ。待たせたな」




第三十二話‐End game【自由】‐にてミランダを巻き込んで自爆して散ったハイゼンベルクが【エンドゲーム】にて復活、という意味の題名でした。

エヴリンよりも精度が高い衝撃波(ほとんど念力の域)、絶対防御、己の力への擬態能力、世界の破壊&創造とぶっ壊れにも程があるゼウ・ヌーグル。間違いなく今作最強のカミサマになすすべもなく返り討ちにされたローズたちの元に現れたのは、最初の方でシャットダウンされていたシャルルことハイゼンベルク。ついに参戦です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢⅩ【鉄の男と怒りの巨人】

どうも、放仮ごです。久々の三日連続更新。今回は蒼ニ・スールさんから支援絵をいただいたのでその紹介も兼ねてです。

【挿絵表示】

7編のアサルト・モールデッド(エヴリンが描いた感じ)です。イメージ通りに書いていただき感謝。

今回はハイゼンベルクVSゼウ・ヌーグル。楽しんでいただけると幸いです。


「待たせたな」?待ってないよお前なんか!

 

「だろうな、このセカイでお前に唯一対抗できるかもしれないのが、俺だあ!」

 

 

 ゼウ・ヌーグルが六枚の翼を広げて放たれる特大の衝撃波に、シャルルが…いや、カールが振りかぶった右手を振るう。瞬間、工場がパーツごとに一瞬でばらけて殺到。巨大な壁を形作って防いでしまう。

 

 

「ここは俺のホームグラウンドだ!出来ないことの方が少ないぜ!」

 

 

 そう言ったカールの頭上に衝撃波で吹き飛ばされた鉄片が組み立てられていき、三機の戦闘機ができあがるとブワッとカールのコートをはためかせながら飛翔。機関銃を乱射しながら爆撃し、巨大な怪物と化したゼウ・ヌーグルに次々と炸裂し炎上する。

 

 

「あうー…」

 

「すっご……こんなに強かったっけマダオ!?」

 

「ハイゼンベルクの磁場操作が精神世界で際限なく扱えているのか…とんでもないな」

 

「よそ見をするなイーサン、エヴリン!ローズをしっかり守ってろ!この程度でくたばるようならカミサマは名乗らねえだろうよ!」

 

ご明察。そんなもの効かないよ

 

 

 

 瞬間、爆炎の中から六本の黒い触手が天高く伸びて二本ずつで戦闘機を締め付けて粉砕、鉄片を取り込んで爆炎の中に戻って行くと、巨大な六枚の翼が羽ばたかれて炎が消え去る。出てきたのは無傷のゼウ・ヌーグルだ。

 

 

「ならこいつはどうだ。機械兵団よ、復讐せよ(ゾルダート・アヴェンジャーズ)!」

 

 

 ならばと右掌を天に向け、重い物を持ち上げる様に振り上げると、カールを中心に地面から次々とドリルが飛び出してきてなにかが飛び出してきた。ドリルを装備し機械を全身に取りつけらたゾンビだ。中には両腕にドリルを装備し重装甲に身を包んだ者や、ジェットで空を飛ぶ者、下半身から上がプロペラエンジンだけのやつもいた。

 

 

ゾルダート、数少ない私の支配から逃れた眷属だね?

 

「こいつらは支配から脱却する者!ミランダ用の兵器だが今回はテメエへのレジスタンス(抵抗軍)だ!真正面から受け止めてくれよカミサマ!」

 

いいよ、相手してあげる。雑魚が束になったところでカミサマには敵わない!

 

 

 ドリルを回転させながら突撃していくゾルダート?たちが次々と丸鋸とプロペラエンジンのメカアームで薙ぎ払われていく。あ、上半身プロペラエンジンくんが熱暴走を起こして火炎放射してる…でも衝撃波で散らされて届いてない。ダメだ、勝てない。ゼウ・ヌーグルが強すぎる。今までの敵が比じゃないぐらいバケモノだ。するとカールがこっちまで近づいてきた。

 

 

「ちっくしょう、分断された間にこんな小さくされちまって……いや?逆に懐かしいか?」

 

「またバラバラにしたら殺すぞお前」

 

「ギャグ言ってる場合じゃないよマダオ!ほらほら、反則パワーで倒しちゃって!」

 

「悪いなエヴリン。そいつは無理だ。俺の力もアイツの派生、超えることはできねえ。対抗できるだけだ」

 

あうあ(そんな)…!」

 

 

 そんな、最後の希望だったのに…。私達はゼウ・ヌーグルを倒せないでここで終わるのか…。

 

 

「だから逆転の発想だ。倒すことが無理なら倒さずに目的を達成しちまえばいい。お前たちさえいなくなり、浄化結晶で力を消すことができればアイツも干渉できなくなり目的を達成できないはずだ」

 

「そ、そうだ!それだよ!なんか倒すしかないと思って盲点だった!」

 

「だが浄化結晶は何処にある?第二層にもなかったんだろ?」

 

 

 父さんの問いかけに、カールは不敵に笑んだ。背後でプロペラエンジンくんが鎌で串刺しにされて爆散した。もう持たない。

 

 

「浄化結晶は確かにこの世界にある、だが奥も奥だ。しかもミランダが守ってやがる」

 

「ミランダが…」

 

「ああ、ローズを誘き寄せる餌のつもりなんだろうさ。本物を用意するのがアイツらしい。だから、ミランダを倒すのはイーサン、エヴリン。お前らの役目だ。ローズはもう戦えないだろうからな」

 

 

 そう言って大鎚を肩にかけ、振り返るカール。その視線の先で、最後のゾルダートが衝撃波でぺしゃんこにされ四角い鉄と血肉のスクラップになって転がった。

 

 

肩慣らしにはちょうどよかったけど役不足だね

 

「俺の役目はあのカミサマの足止めだ。お前たちはこのセカイの出口を探せ」

 

「無茶だよ!あんなやつ、一人でだなんて…」

 

「俺達も手伝って一時的に行動不能にでもできれば…」

 

「どうやってだ。奴は小手先なんて通じないバケモノだ。力には力で対抗するしかない。安心しろ、奥の手はある」

 

 

 そう笑って大鎚の柄を地面に突き刺し、ハンドルの様に構えるカールに、破壊されたゾルダートたちの残骸や工場の鉄片が集って行き、竜巻の如く渦を巻く。ガシャガシャガシャと音を立て、竜巻が消えて姿を現したのは、鉄のガラクタで形成された巨大魔人。巨大なキャタピラに乗った巨大な芋虫の様な形状のスクラップの塊から、二本のクレーンアームの様な剛腕を生やした、頭部は巨大なタービンになっている鉄の怪物だった。大きさは、怪物と化したゼウ・ヌーグルの二倍はある。

 

 

《「デカブツにはデカブツをぶつける、昔から相場はそう決まっている!」》

 

でかけりゃいいってもんじゃないことを教えてあげるよ!

 

 

 スピーカーから声を反響させながらメカアームを振るうカールの一撃を、丸鋸で弾き、振りかぶった尻尾の鎌で胴体を斬り裂いて血の様に鉄くずが零れ落ちる。そのままプロペラエンジンの拳が鉄の身体を抉るように砕きながら殴りつけ、蜘蛛脚を忙しなく動かして高速で突撃したゼウ・ヌーグルの体当たりを受けてカールの巨体が吹き飛ばされる。しかし負けじとキャタピラを高速回転させて胴体を横に回転させ、質量による一撃を叩き込むカール。ゼウ・ヌーグルが衝撃波を使ってないからってのもあるけど互角に戦えている。

 

 

「今のうちだ!出口を!」

 

「でもどこ!?ここ、滅茶苦茶広いんだよ!?」

 

 

 怪獣大決戦が行われている横で、降り注ぐ瓦礫や菌根の欠片を避けながら出口を探す私達。赤ん坊にされた私は父さんに抱えられた状態で忙しなく視線を動かして探すしかない。

 

 

バキャアン!

 

《「クッソが…」》

 

あうう(カール)!」

 

 

 しかし見えた、見えてしまった。視界の端で、本体の腕を竜の腕に変えたゼウ・ヌーグルに胸ぐらを引きちぎられ、その中央にいたカールの胴体を六枚の翼が変形した触手が刺し貫いた光景を。

 

 

認める。お前は私の最初の強敵だ。カミサマの糧になれることを光栄に思って死ぬがいい…!

 

「そいつは…死んでもごめんだな!」

 

 

 口から血を吐きながらも傍に突き刺さっている大鎚を引き抜いて、ゼウ・ヌーグルの顔をぶん殴るカール。しかし届かない、衝撃波で大鎚を包まれて空中に固定されてしまっていた。それを見た父さんと姉さんの動きは、早かった。

 

 

「イーサン!回復薬、ある!?」

 

「あるが一体何を……そうか、あれか!やるんだな!?今…!ここで!」

 

「うん!勝負は今!ここで決める!」

 

 

 そう言って父さんは信じられない行動に出た。私を姉さんに預けると、手にしたハンドガンで自らの腹部を撃ち抜いたのだ。

 

 

あうあー(父さん)!?」

 

「ぐう…!?」

 

「力が戻ってるなら……あの時の感覚を、もう一度!」

 

 

 そのまま回復薬をぶっかける父さんの傷口に、今度は私を左手で抱えたまま右手をかざす姉さん。すると不思議なことが起こった。父さんの傷口から黒いドロドロが溢れだして、私達ごと父さんを包み込んだのだ。あまりの出来事に目を白黒させつつ真っ黒な視界を見つめていると、視界が急に開けてさっきよりも高い視線でゼウ・ヌーグルとカールを見上げていた。

 

 

「久々だね、この感覚!」

 

「ああ、だがなんか妙な感じが…」

 

「え、なに!?なんなのこれ!?って私喋れる!?」

 

「あれえ!?ローズまで一緒になっちゃった!でもなんだろう、力がみなぎる!」

 

「ローズの力も合わさっているのか…!色も違うぞ!」

 

 

 そう父さんが言って勝手に動いた私の腕は、異形のものに変わっていた。白い、丸太の様な腕。指先は尖っていて鉄でも引き裂けそうだ。下を見れば筋骨隆々な巨人の白い身体がそこにあって、穴ぼこだらけのそれは菌核を想起させた。視界の端のプロペラエンジンくんだったオイル溜まりに、白く筋骨隆々で牙がッ生え揃ったオレンジ色の瞳の巨人が映った。…私たち、合体して怪物になったってこと…!?

 

 

え、なにそれ。……なにそれ?

 

「クハハッ、どこまで俺の言うことを聞かないんだお前らは…!」

 

「力には力なんだろう、ハイゼンベルク。ならこいつはどうだ!」

 

「名付けてモールデッド・ギガントR!Rはローズとかリベンジとかリターンズとかそんな意味!」

 

「…カール!今助けるから、待っててね!」

 

 

 そして私達は跳躍。拳を構えて絶句しているゼウ・ヌーグルの顔面に振り下ろした。

 

 

「「「ファミリーパンチ!」」」

 

なめるなあ!

 

 

 放たれた衝撃波の壁と激突。カールを投げだしメカアームを地面につけて四つん這いで睨んでくるゼウ・ヌーグルと睨み合う。…倒せるかはわからないけど、やるしかない!




ハイゼンベルク編で登場した巨大魔人に、パワーアップして再登場モールデッド・ギガント。ローズも加わったことでフューマー見たく白く強化されました。

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ダイブⅢⅩⅠ【生物災害の狂村(バイオハザード・ヴィレッジ)

どうも、放仮ごです。ハイゼンベルク参戦、モールデッド・ギガントパワーアップと勝ち確定イベントばかり来てるのに滅茶苦茶な強さの怪物がいるらしい。

今回はローズ、イーサン、エヴリン、ハイゼンベルクVSゼウ・ヌーグル。楽しんでいただけると幸いです。


 衝撃波を拳で貫き、連打。連打。連打連打連打。ゼウ・ヌーグルの巨体を殴りつけて行く。

 

 

「「「うおおおおおおっ!」」」

 

私の改変が通じない?ローズの力で跳ねのけているのか!

 

 

 ゼウ・ヌーグルは本体の両手を私にかざしていたが、赤ん坊にでも戻そうとしたのかそれが効かないことに気付くとメカアームを叩きつけてくる。裏拳でプロペラエンジンを粉砕し、右手で丸鋸を鷲掴みにしてぺしゃんこにする。そのままアッパーで魚の頭を殴り飛ばし、魚の口から飛び出していたゼウ・ヌーグル本体が六枚の翼を広げてたまらず飛び出した。

 

 

私の改変が通じないなら通じないなりに戦い方はある!

 

 

 空中に浮かび上がり、ぐぐぐっと目に見える程衝撃波を溜めて集束させていくゼウ・ヌーグル。同時に魚の顔と死神の鎌を尾に持つ蜘蛛脚の竜が蜷局を撒いて襲いかかって来て、なんとか殴り飛ばす。

 

 

「息を吸うように独立稼働するな!」

 

「あれを撃たせたら不味いぞ!」

 

「私の力で止める!」

 

 

 襲いかかってくる黒カビの竜に右手をかざす。すると竜は白く輝いて身動きを止め、崩れて行く。そこにゴリラの様に四つん這いになって突進、ラグビーの様な体当たりを仕掛けて粉砕する。

 

 

まるで怪獣だね。吹っ飛べ

 

 

 すると高みの見物をしていたゼウ・ヌーグルが右手の一指し指の先に集束させた衝撃波の塊を発射。周囲の空気を吸い込んで竜巻の様になったそれが渦を巻いて迫る。

 

 

「させねえよ!」

 

 

 そこに割り込む、カールがいるコクピット(?)が丸出しの巨大魔人。背中で衝撃波の玉を受け止め、カールが脱出した瞬間まるで押し潰されるように粉々に粉砕される。あんなの喰らったら死んでいた。

 

 

よくも邪魔をしてくれたな!

 

「殺させるかよ、こいつらには借りがあるんだ!そらよ!」

 

 

 両手をかざすと粉々に砕け散った巨大魔人だった鉄片が全て浮かび上がり、ゼウ・ヌーグルに殺到する。ゼウ・ヌーグルは両手を振るって衝撃波で散らすが、散らしたものまでカールの磁力に引っかかって再度押し寄せ、人型のスクラップの様な形で固められて落ちてきたゼウ・ヌーグルに突撃し拳を振りかぶる。

 

 

「「「ファミリーパンチ!」」」

 

身動きを止めれば勝てると思った?

 

 

 しかしすぐに拘束は内側から放出された衝撃波で崩され、拳とぶつかり弾ける。ダメだ、私の力で覆っていても衝撃波までは崩せない。あくまでアイツの干渉を避けれるだけだ。

 

 

「なら!」

 

「原始的に行こう!」

 

え?っ…!?

 

 

 グググッと構えると右手を伸ばし、ゼウ・ヌーグルの手を掴んで腕の長さを戻して引っ張ってくると成人女性にも及ばない体躯を振り回し、地面に何度も何度も叩きつける。さすがに効いたのか初めて余裕が崩れて苦悶の表情を浮かべるゼウ・ヌーグル。すぐに衝撃波を放って抜け出し、空中に舞い上がる。

 

 

カミサマが遊んでやったらつけあがるなんて…もう怒ったぞ

 

 

 そう言って両手をちゃぶ台返しでもするかのように動かすと、地響きが起こった。切り立った崖の上にある、すぐ下には川が流れている土地が、文字通り傾いて行く。鉄片や工場の残骸が川に落下していくのを見てぞっとする。ゼウ・ヌーグルの手の動きに連動して世界そのものが動いて、工場の土地だけ傾いているのだ。

 

 

「そんなことまでできるの…!?」

 

「反則!反則だって!」

 

「完全に足場が無くなる前に倒す!」

 

「足場を作る!行け!ウィンターズ!」

 

 

 右手の鍵爪を地面に突き刺して耐えていると大鎚を地面に突き刺して柄を右手で掴んでぶら下がったカールが左手をかざし、鉄片を操って空中のゼウ・ヌーグルにまで続く簡易的な階段を形成。私達は勢いをつけて右手だけの力で巨体を跳躍。乗ると崩れて行く階段を走って空中を駆け抜けて行く。

 

 

「ゼウ・ヌーグルぅううううう!」

 

しつこい

 

 

 すると左手は何かを引っくり返すように掬い上げる形のまま、右手を背後…川の向こうにかざすゼウ・ヌーグル。すると土石流でも迫るかの様な轟音と共に、向こうに少しだけ見えていた「村」が押し寄せてきた。

 

 

「え、なになになに!?」

 

この村は私の土壌。例え現実でも自在に動かせる。言うなれば…生物災害の狂村(バイオハザード・ヴィレッジ)かな

 

 

 広がった菌根の黒い津波が村の家屋を粉砕しその残骸すら取り込んで肥大化していき生まれたのは、村そのものの巨人とも言うべき怪物。全身から放った触手を両手の鍵爪で引き裂き、掌を向けて白化させて崩れさせていくが圧倒的な質量に間に合わない。最後には濁流の様に迫る巨大な拳をカールごと受けてしまった私達は、そのまま踏ん張れずに落下。川に落ちてしまう。

 

 

 

「「「「うわぁあああああああ!?」」」」

 

偶然出口に落ちるなんて運がいいねえ。マザー・ミランダによろしくね?

 

 

 そんな声を聞きがら巨躯をじたばたと振り回す私達。しかし抵抗虚しく、窓がいくつも見える水の中を落ちて行く。第二層に来た時と同じだ。そして、私の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はっ!」

 

 

 雪の上で目を覚ます。手を見る。赤ん坊でも、異形でもない。元の私だ。周りを見れば、父さん、姉さん、カール…みんな雪の上に転がっていた。

 

 

「起きて、父さん!しっかりして、姉さん!生きてるよね、カール!?」

 

「ぐう……」

 

「まさかあんなに強いなんて…」

 

「ミランダ以上のバケモノだったな…」

 

「よかった…みんな無事で」

 

 

 立ち上がり、ずれていた帽子をかぶり直す。…ここは、どこ?辺りを見渡していると、大鎚を杖代わりにしながら立ち上がったカールが帽子とサングラスの位置を直しながら口を開いた。

 

 

「多分村のどこかだ。アイツの言うことが本当なら恐らく最下層…ミランダがいるはずだ」

 

「カール…シャルルとして私達を助けてくれていたんだね。でもなんで…」

 

「ファーストネームで呼ばれるのはこそばゆいな。…ローズ、俺はお前に借りがある。こんなところに閉じ込められて荒んでいたが、ほっとけるわけがなかったのさ。まあこの二人がいるなら心配いらねえとは思ったがな」

 

「ううん、そんなことない…シャルルが、カールがいなかったらどうしようもなかったところがいくつもあった」

 

「そうか…お前の役に立っていたか、ならよかった」

 

「マダオ、ローズには甘いね」

 

「お前の呼び方を改めればちょっとは考えてやるよ」

 

 

 そんなことを話しながら一本道の先を進む。父さんがハンドガンを手に先導、私と姉さんが続き、カールが殿をするという配置だ。

 

 

「…ここは、村の入り口だ。俺とエヴリンはここからこの村に来た」

 

「なんでそんなことがわかるの?」

 

「…ちょっと違うがこの光景を見たことがあるからさ」

 

 

 そう言って父さんが示したのは、異様な光景。天井から黒い液体が滝の様に零れ落ち、皆既日食の如く曇天に輝く黒き太陽からも溢れだすように黒い液体が零れ落ちている。ここが菌根の世界の、最下層…。

 

 

「…あの太陽、まさに黒き神って感じだね。アイツ…どうなったのかな」

 

「倒せてはいないからな。案外、また見ていたりするかもな」

 

「だとしたら気にしても無駄だ。放っといて脱出を目指すしかねえ」

 

「…ゼウ・ヌーグル、勝てる気がしなかった」

 

 

 正直言ってぼんやりとしか覚えていない上に一切顔を見せないマザー・ミランダなんかよりゼウ・ヌーグルの方が脅威としか思えない。カールの巨大魔人に、私達もモールデッド・ギガントR。切札級の力を使ったのに、傷らしい傷を与えることもできなかった。あんなバケモノが私の身体を使って現実に出てこようとしているなんて……まだ、私の心は折れている。心のどこかで現実に帰りたくないと叫んでいる。アイツに取り込まれたら、楽になれるのかな……。

 

 

「ローズ?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 

 …いや、姉さんが諦めないと言ったんだ。父さんも、カールも私を元の世界に戻すために死力を尽くしている。今はとにかく前を向こう。




ダメージらしいダメージを与えることなく、見逃される形で難を逃れるローズたち。パーティーにハイゼンベルクが加わり、ミランダとの決戦へ。

・モールデッド・ギガントR
イーサン、エヴリンに加えてローズも合体した白いモールデッド・ギガント。ローズの力でゼウ・ヌーグルの改変を逃れることができる。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢⅩⅡ【暴君たる母親(マザー・タイラント)

どうも、放仮ごです。このままラストまで突っ走りたい。

今回はついに登場マザー・ミランダ。楽しんでいただけると幸いです。


 とりあえずあからさまに目立っている、奥に見える赤く輝く巨大な菌核を目指す私達。途中で服装まで私と瓜二つな私を見たり、城の時と同じように黒い私の死骸が落ちていたりとこちらの感情を揺さぶってくる。

 

 

「…ローズの偽物も気になるが、燃えている村は初めて見たな」

 

「クリスの話で聞いたイーサンがもう一度死んだ後の村と似てるかも?」

 

「はっ、いいねえ。奴を崇める村が燃えているのは」

 

「…エレナを思い出すから俺としては複雑だがな」

 

「来るよ!ローズは下がってて!」

 

 

 黙っている私を元気づけるかのように会話しつつ、黒い私の死骸が動き出したゾンビ…多分フェイスイーターと戦う三人。父さんがハンドガンで撃ち、姉さんが衝撃波で吹き飛ばし、カールが大鎚で叩き潰す。頼もしい、と安心していると抜け出したフェイスイーターの一体が掴みかかって来て。咄嗟に右手から白く輝く力を放って吹き飛ばす。

 

 

「お前たちは本当になんなのよ…!」

 

「今のローズに手を出すな!」

 

 

 未だに謎な黒い私のことに苛立っていると、姉さんが衝撃波でフェイスイーターを天空に打ち上げる。助かった……私の精神に呼応しているのか、ゼウ・ヌーグルを相手にしていた時ほどの出力が出せない。

 

 

「…私、足手まといだ」

 

「気にしないでローズ。…本当に気にしちゃダメだよ、あんなのアイツの戯言だ」

 

 

 姉さんが言っているのは第二層でゼウ・ヌーグルが正体を現す直前に人形たちから言われた言葉だろう。聞きたくないとばかりに耳を押さえて蹲る。気にするなって言われても…無理だよ。

 

 

「私、もしこの力を捨てて現実に戻れても……何も解決しないんじゃないかって、怖くて。アイツに取り込まれちゃえば楽になれるんじゃって…」

 

「あんな奴に負けたらダメだよローズ!…何があっても私達がついている、それじゃ駄目かな?」

 

 

 そう言って小さい体で私を抱きしめてくれる姉さんに、涙がこぼれる。ダメじゃない、何時でも触れたらいいのに…こんな地獄じゃないと、温もりを感じられないなんて。

 

 

「…イーサン、ローズなにがあったんだ?」

 

「…いじめに遭ったんだ。それを散々見せつけられたらしい」

 

「ミランダより性格悪いなあのカミサマ」

 

「どっこいどっこいだと思うぞ。…このローズの偽物、アイツがいるであろう場所で湧いて来るってことはアイツの仕業だろ」

 

「だろうな。俺もここまで来たのは初めてだから知らないがろくでもない香りはするぜ」

 

 

 そんな私達を見守っていた保護者二人が静かに怒りを溜めているのを感じた。泣いてばかりじゃいられない、行こう。姉さんたちと一緒に、現実に変えるんだ。

 

 

「だから、邪魔しないで!」

 

「吹っ飛べ!」

 

 

 巨大な菌核目前で立ちはだかるフェイスイーターの群れに、私は右手をかざし、姉さんは力む。白い輝きと衝撃波が合わさって大きく渦を巻き、フェイスイーターたちを一掃した。

 

 

「やったね、姉さん!」

 

「白と黒が合わさり最強に見える!」

 

「なあハイゼンベルク。俺達、いるか?」

 

「奇遇だなイーサン。俺も同じこと思ったぜ」

 

 

 菌核のあるところの真下、地下に通じる穴が開いているそこを降りて行く。ゼウ・ヌーグルの言葉が正しければここにあるはずだ。先に進んで見つけたのは、赤く輝く胎児の様な真っ白な菌根と、それから吊り下げられ胎児の様に丸まったたいくつもの人の様ななにか。たった今吐き出されたそれは、胎児の様に丸まって眠っている素っ裸の少女。あれは、私だ。黒い私はここで生み出されていたのか。

 

 

「なんだ、この悍ましい場所は…」

 

「教会の下に当たる場所だなここは。…ミランダの研究室がある場所だ」

 

「じゃあここで、ローズのコピーを研究して量産してたってこと?なんのために!」

 

「…多分、これだと思う」

 

 

 すぐ傍の机に置かれていたのは悍ましい真実の書かれた文書。全ての生物の「記憶」を吸収する菌根の性質を利用した、ただ一人の大切な人間の記憶を抽出する受け皿となる「器」―――実績のあるローズマリー・ウィンターズ、つまり私の完全な複製を形作り「器」を完成させる計画。

 しかし完全なコピーは作れず、生まれるのは動く人形の様な無垢な抜け殻ばかりだったため、私本人をここに連れて来て生への執着とその能力を全て捨てさせて「器」にしようとした。―――コピー達も何らかの刺激を与えれば本物の私と同じように機能する可能性もあったため、仮面の公爵を用いてストレス実験を行うことにしたとのこと。多分これがあの城の惨劇だろう。

 

 

「……こんなものがあるから沢山のローズが苦しむんだ」

 

 

 悲痛な表情を浮かべて衝撃波を放ち、白い菌根をひしゃげさせて完全に破壊する姉さん。…コピーとはいえ沢山の私が同時に死んでいった。思うところはあるが、進むしかない。

 

 

「…生への執着、ゼウ・ヌーグルもそれを捨てさせて私を乗っ取ろうとしていた…」

 

「つまりローズが生きようとさえ思えば、ミランダもゼウ・ヌーグルの思惑も叶わないということか」

 

「おっ()んでもまだエヴァを諦めてなかったか。懲りない奴だな」

 

「もしかしてローズの力って乗っ取りを抗うためにも必要なのかな?いやでも、結晶を見つけて力を失くしても…私達が何とかするから安心して」

 

「うん…凄い力を感じる、多分結晶はこの奥にあるんだ」

 

 

 奥まで進むと青い光に満ちた祭壇の様な場所に出て、そこに奴はいた。祭壇に向けて何やら祈っている様子だった。

 

 

「満ち満ちて総べたる黒き神よ。今こそ新たな世を創り賜え。黒き叡智による恵みを再び授け賜え。失われて散ったいとし子がこの地に落ちた血によりて虚ろの眠りから真に目覚めすべからく救われんことを。黒き神(ゼウ・ヌーグル)よ、我が娘にどうか、無限の幸を…来たか。待ちかねたぞ「器」よ。…余計なおまけもついているようだな」

 

 

 赤ん坊の頃の記憶がフラッシュバックして思い出す。こいつがマザー・ミランダだ。私を庇うように前に立つカール、父さん、姉さん。それを見て分かりやすく舌打ちするミランダ。

 

 

「よう、お母様。今度こそ殺してやるよ」

 

「死んでもローズを狙うとは、覚悟はできているんだろうな?」

 

「今度こそ完全に…殺す!」

 

「お前たちにできると思っているのか?矮小な存在の分際で…!」

 

 

 そう言ってゼウ・ヌーグルの様な六枚の黒い翼を背中から生やし、三人を吹き飛ばすミランダ。吹き飛ばされた三人は天井にぶつかって落ちて行く。そんな、一撃で…!?すると右手に青白く輝く結晶体を出現させ差し出してくるミランダ。一目で分かった。本物の浄化結晶だ。

 

 

「さあローズ。これを受け取れ。成長して力を付けたお前を、もはや私には封じることはできなかった。だからこそ自分の意思で力を捨てる様に、ケイとやらの幻覚を使ってこの世界に呼び寄せた。辛かっただろう?だがもう大丈夫だ。力を全て捨て去り、我が娘エヴァの「器」として完成するのだ。それがお前の幸せだ」

 

「私、わたしは……」

 

 

 その輝きに魅せられる。ああ、力を全部捨てて楽になりたい。だけど、だけど。今ここでそれを受け取れば、父さんと姉さんとお別れになってしまう。そんなのは、嫌だ。

 

 

「嫌だ」

 

「…なんだと?」

 

「私は、貴女の指図どおりにはならない」

 

「馬鹿な、心は壊されたと神託が…」

 

 

 その時だった。心に響くような声が聞こえてきた。姉さんを成長させたかの様な声、アイツだ。

 

《「マザー・ミランダ。私が壊したローズの心が修復されている。貴女に我が力を託す。お前の娘のために、ローズの心を壊せ」》

 

「ああ、神託を受け取りました我が神よ!」

 

 

 恍惚とした表情を浮かべたミランダに、周囲から湧き出した菌根が次々と突き刺さり、取り込まれていく。そのたびにミランダの身体が膨れ上がり、悍ましく筋肉が膨張していく。黒衣が破け、漆黒に染まった膨張した筋肉が盛り上がる。顔はもはや面影すら消えていた。

 

 

おお、おお!素晴らしい!神が私に力を与えたもうた…!

 

「何が力よ。そんな力、私はいらない!」

 

ならば捨てよ!「器」には不要な力だあ!

 

 

 野太い声を上げながらフゥフゥと興奮しているかのように荒い息を吐いたのは、漆黒の巨人としか形容できない怪物。三メートルを優に超えた筋肉達磨で、女性だったとは思えない。背中からちょこんと生やした六枚の黒い翼と、胴体の中央に付けられた胎児の様なエンブレムがそれがミランダだったと証明していた。

 

 

《「名付けるとしたら暴君たる母親(マザー・タイラント)、かしら?魔女なんかよりもふさわしい姿よね」》

 

助けを請え!怯声をあげろ!絶望の海で溺れることが唯一の救いだ!

 

「誰が…!」

 

「ローズ、逃げるよ!ここじゃ分が悪い!」

 

 

 すると背後から衝撃波が放たれるも、マザー・タイラントは拳の一振りでそれを消し去ってしまう。見れば姉さんが駆けて来て、私の手を掴んで走り出した。

 

 

逃がさんぞ、ローズゥウウウウッ!

 

「ローズから離れやがれ!」

 

「娘から離れろ!」

 

 

 大きな体に邪魔な壁を拳で粉砕しながら迫ってくるマザー・タイラントに、父さんがショットガンを撃ちながら、カールが大鎚を振り上げて突撃する。一瞬動きが止まるが、一撃で父さんを殴り飛ばし、カールの顔を掴んで壁に埋めてしまうマザー・タイラント。

 

 

「俺の家族に手を出すな!」

 

「今回ばかりは負けられるか…!」

 

 

 しかし父さんが背中にしがみ付いて頭部にハンドガンの銃口を突き付け連射。弾丸をまともに受けながらも暴れるマザー・タイラントにしがみ付きながら攻撃を続ける父さん。カールも埋まったまま大鎚に掴まって操ることで飛び出し、勢いのまま胴体を打ち付ける。

 

 

「父さん!カール!」

 

「ここは二人を信じて、行くよ!」

 

逃れられると思うか、ローズゥウウウウッ!

 

 

 それでも追いかけてくるマザー・タイラント。…なんだろう、知性が感じられなくなった。もしかして力に飲まれかけてる?そんなことを考えながらも姉さんに連れられて、洞窟を抜けて光源に飛び出す私達。朝になった雪が降り積もった広場が広がっていて、父さんとカールも出てきて、私達は身構える。するとよろよろとふらついたマザー・タイラントが追いかけてきた。

 

 

か、神よ……これ以上の力は、耐え…られ…ウグボォ!?

 

 

 口から血の様に黒い液体を吐き散らすマザー・タイラント。膝を突き、両手を地面に付けながらゼーハーと荒い呼吸を吐きだす。するとミシミシと言いながらその身体が再び膨張を始めた。

 

 

な、なにを!?や、やめろ!私が塗りつぶされる…!ここで消えるわけには…!?

 

《「せっかく私の力を与えてあげたのに耐えられないだなんて…期待外れもいいところだわ。せめて私の糧となれ」》

 

 

 そんな非情の声と共に、マザー・タイラントの背中から右腕が伸びる。そしてまるで脱皮するかのようにマザー・タイラントを食い破ってそれは現れた。

 

 

んんっ、悪くないわね

 

 

 伸びをするその存在は、姉さんとよく似た女性の姿をしていたが一変していた。シンプルな黒いドレスを身に纏っていて背丈は三メートルを超えていながらすらりとしていて、出るところは出ていて引っ込むべきところは引っ込んでいる理想のプロポーション。地面につきそうなぐらい長い純白の髪と、深紅のツリ目は神々しさすら感じた。

 

 

「…ゼウ・ヌーグルなの…?」

 

フフフッ…黒き神としての力を見せてあげるわ。大人しく取り込まれなさい。それでハッピー、エンドよ




見かけ倒しにも程があるミランダことマザー・タイラント。さすがに全部の記憶を統合して生まれた神の力を受け止めるには器が足りなかった。

・マザー・タイラント
暴君たる母親。ゼウ・ヌーグルの力を注ぎこまれてタイラントの様に変貌したミランダ。しかし力が強すぎて制御しきれない見かけ倒し。モチーフは「Helck」の暴走人造勇者。

そして一話も経たずに再登場、ゼウ・ヌーグル。エヴリンのガワではなく自らデザインした神が如き姿でミランダを食い破って顕現。ローズ編のラスボスとなります。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢⅩⅢ【全滅】

どうも、放仮ごです。いつぞやのミランダ戦並みのネタバレタイトル。

今回はラスボス戦、ゼウ・ヌーグル(本性)。楽しんでいただけると幸いです。


フフフッ…黒き神としての力を見せてあげるわ。大人しく取り込まれなさい。それでハッピー、エンドよ

 

 

 ミランダを食い破り、それを生贄にしたかの如き神々しい姿で現れたゼウ・ヌーグル。中指だけを立てた右手を掲げ、中指をクイクイッと動かす。挑発行為かと思ったが違った。それだけで、地面が鳴動してスライドして私達四人は奴の目の前に移動させられたのだ。三メートル以上の巨体の威圧感が凄い。

 

 

「なっ…!?」

 

「好都合だ!喰らえ!」

 

なにかしたかしら?

 

 

 近づいたのを利用してショットガンをぶちかます父さんだったが、手を高速で動かして弾丸を全て受け止めパラパラと捨てるゼウ・ヌーグル。そんな、弾丸が通じない…!?

 

 

「なら頭を潰せばどうだ!」

 

物騒ね。私の方が物騒だけど

 

 

 カールが大鎚を叩きつけるが、右手が黒領域に包まれて変形した斧で受け止めるゼウ・ヌーグル。さらに左手をカールの胴体に突きつけたかと思えば黒領域に包まれ剣に変形、串刺しにしてしまった。

 

 

「がはっ…」

 

「カール!?」

 

「これならどうだ!衝撃波パンチ!」

 

 

 崩れ落ちるカールを庇うように立った姉さんが、ゼウ・ヌーグルを参考にしたのか衝撃波を集束させた右拳をゼウ・ヌーグルの胴体に叩きつけると衝撃波が背中まで突き抜け、両腕の黒領域を解除しながら宙に吹き飛ぶ巨体。

 

 

「クソデカオバサンみたいな体躯でも効くよね!」

 

私以外だったら即死だったかも?

 

 

 しかし背中から六枚の黒い巨大な翼を生やしたゼウ・ヌーグルは空中で体勢を整え滞空しながらお腹を擦る。まるで効いてない、嘘でしょ!?

 

 

このセカイでは精神の強さが力に直結する。万人の記憶を有した私の力に敵う者は存在しないわ。例えローズでもね?

 

 

 そう言って翼の間から複数の触手を生やし、その先端から針のような弾丸を掃射するゼウ・ヌーグル。逃げ惑う私達のいた場所に炸裂した弾丸が地面をえぐる。あんな威力、まともに受けたら不味い。

 

 

逃がさないわ

 

 

 右腕を黒い鉤爪のついた長手袋状に変貌させ、自在に伸ばしてくるゼウ・ヌーグルに胸ぐらを掴まれて背中から地面に叩きつけられる。そこに針状の弾丸が撃ち込まれ、衝撃に悶える。不味い、足と腹部をやられた。動けない。

 

 

「娘から離れろ!」

 

フフフッ……。このセカイに出口は存在しないのだからゆっくりやりましょう?

 

 

 ショットガンを乱射しながら突撃してくる父さんに、手を放して翼と触手を消して地面にふわりと着地するゼウ・ヌーグル。横から鉄片がものすごい速度で襲いかかるが、左手を軽く振るっただけで衝撃波で散らされる。腹部から血を流したカールが舌打ちした。

 

 

カミサマ相手に必死の抵抗。涙が出てくるわ

 

「お前の様な神がいてたまるか!エヴリン!」

 

「よし来た!ぶちかます!」

 

「てめえは神じゃねえ、ただのバケモノだ!」

 

 

 父さんが姉さんに呼びかけ右手を振りかぶると漆黒な異形の拳に変貌。カールも磁力で操った大鎚を振りかぶり、さらに姉さんも衝撃波を纏った右拳を振りかぶり、ゼウ・ヌーグルを三方向から挟み撃ちにする。

 

 

フィジカルがお好み?

 

 

 そう言ったゼウ・ヌーグルが再度右腕を黒い鉤爪のついた長手袋状に変貌させ、長く伸ばして殴り飛ばして返り討ちにされる父さん、姉さん、カール。隙だらけのそこに、咄嗟に右手の「力」を送り込む。

 

 

「これなら…!」

 

狙いはいいけど、ダーメ♥

 

「っ!?あぐっ!?あああああああああっ!?」

 

 

 しかしゼウ・ヌーグルの指パッチンと共に突如襲った激痛に集中力が切れてしまう。体の中で何かが蠢いている。痛い、気持ち悪い、怖い。見れば、針の弾丸を撃ち込まれた箇所が不気味に蠢いていた。さっき撃ち込んだ弾丸で私に寄生している!?

 

 

「やめて、やめてぇええええええ!?」

 

「ローズ!?」

 

「畜生、さっきのか!」

 

「お前え!」

 

あんまり楽しくないわね。いいわ許してあげる

 

 

 そう言ってゼウ・ヌーグルが飛びかかってきた姉さんを左手で押さえながら異形の右手で指パッチンすると体の中で蠢いていた触手が消えた感覚を感じた。なんで、と疑問の顔を向けるとゼウ・ヌーグルは怪しく嗤った。

 

 

カミサマは慈悲深いのよ。傷も治してあげたわ。力の差を感じたなら降参なさい

 

「だ、誰が…!」

 

 

 駄目だ、勝てる気がしない。傷つけるも治すも思うがままだなんて、本当に神様みたいな・・・。

 

 

「イーサン!ローズ!合体だ!それしかない!」

 

「で、でもこんなやつにどう戦えば…」

 

「だがコイツ相手に自傷行為は自殺行為…」

 

あら?合体したいの?手伝ってあげるわ

 

「ぐっ!?」

 

 

 剣状に変形したゼウ・ヌーグルの右手が父さんの腹部を刺し貫く。父さんは激痛に顔をしかめながらも回復薬を腹部に垂れ流し、姉さんが手をかざして私達はモールデッド・ギガントRに変身する。

 

 

「こいつを受け取れ!」

 

「「「うおおおおおっ!」」」

 

 

 カールから投げ渡された大鎚に私の力を集中させて振り上げ、突進して勢いよく振り下ろすがゼウ・ヌーグルは斧に変形させた右腕で受け止め、背中から鋭い触手を伸ばして全身を突き刺してきた。

 

 

「があっ!?」

 

「そんな…効いてない!?」

 

「こ、これ不味い…引き剥がされる!?」

 

 

 瞬間、モールデッド・ギガントRから姉さんが触手に掴まり引きずり出されて持ち上げられる。モールデッド・ギガントRの変身が解けながら、咄嗟に手を伸ばす。

 

 

「この、放せ!」

 

私の目の前で私の力を使うなんて目障りね。没収させてもらうわ

 

 

 衝撃波を放って抵抗する姉さんだったがゼウ・ヌーグルは意にも介さない。右手を黒領域に包むとあるものを取り出し、それ…浄化結晶を姉さんの胸部に押し付けた。

 

 

「浄化結晶…!?」

 

「ま、まさかそれって……うあああああああああああっ!?」

 

 

 すると触手で縛られた姉さんの身体がパワーアップした時の様に急成長して行ったかと思えば急激に老化、力なく崩れ落ちた姉さんが触手から投げ捨てられるのを受け止める。枯れ枝の様に軽かった。

 

 

「エヴリン!?エヴリン、しっかりしろ!」

 

「姉さんに何をしたの…!?」

 

浄化結晶ってのはね。力を消すものじゃないの。菌根、つまり私に力を返却するための装置なの。エヴリンの力は全て返してもらったわ。そこにいるのは残り粕よ

 

「ロー……ズ、逃げ…て……」

 

「姉さん!?姉さん!!」

 

 

 老婆のようになった姉さんが、最期まで私を案じて崩れ落ち、白化し塵となって消滅する。あまりの出来事に、呆然として姉さんの欠片を掴むが、するりと抜けて空中に溶けて行ってしまった。

 

 

「よくも、俺の家族を…!」

 

「待てイーサン!ここは退却だ!」

 

あら、釣れないわね。貴方も後を追う?

 

「があ!?」

 

 

 怒り狂った父さんが突進するも、ゼウ・ヌーグルの姿が掻き消えたかと思えば父さんを制止しようとしていたカールの背後に出現、背中から剣と化した右腕で左胸を刺し貫いてしまう。

 

 

「カール!」

 

油断したわね。エヴリンを殺されて動揺でもしたかしら?

 

「ちっくしょう……」

 

 

 咄嗟に右腕を向けるも「力」は払いのけられ、そのままゼウ・ヌーグルに浄化結晶を押し付けられて吸い込まれるようにして消滅するカール。その手から零れ落ちた大鎚を拾い上げながら走る人間がいた。父さんだ。

 

 

「殺す…!」

 

あら?

 

 

 ぐしゃりと、あっけない声を上げてゼウ・ヌーグルの頭部から体まで一息に粉砕される。黒い液体となって飛び散るゼウ・ヌーグルの中心で、父さんは荒い息を吐きながら天を仰ぐ。

 

 

「終わったぞ、エヴリン……ローズは無事だ」

 

「やった、の…?」

 

 

 信じられない。こんなにあっけなく……でも、姉さんとカールが…。…そうだ、浄化結晶。あれを壊せば二人を取り戻せるかも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望は持てた?

 

「「!?」」

 

 

 ズズズズッ!と黒い液体が動き出して父さんの背後に集まりゼウ・ヌーグルの姿を取ると、その巨体で父さんにハグ。したかと思えばドロドロと溶けて父さんを取り込んで行ってしまう。そんな、いやだ。いやだ。飛び出し、手を伸ばす。届いて…!

 

 

「父さん!」

 

「……くそっ、そんな顔にさせるなんて……父親失格だな」

 

 

 しかし伸ばした手は液体を擦り抜けるだけで、父さんは完全にゼウ・ヌーグルに取り込まれてしまった。

 

 

「……やだ。やだ!やだ!やだやだやだ!」

 

どうだったかしら。騙し弄ぶ……私からの絶望は

 

 

 なにも見たくないとばかりに頭を抱えて蹲る。それを巨体で見下ろし、悪魔は心底愉しそうに嗤っていて。…………私達は、全滅した。




まさかの全滅。強すぎるゼウ・ヌーグル相手に、唯一残されたローズに希望はあるのか…?

・ゼウ・ヌーグル(本性)
ローズ編のラスボス。エヴリンを元にした先の姿と異なり女神然としたゼウ・ヌーグルがデザインした「本来の姿」。ドミトレスクの巨体、ドナの黒衣、ミランダの翼など菌根と繋がっていた女性を元にした女神の如き姿。精神の強さが反映される菌根の世界では数多の記憶から生まれたアドバンテージは高く、その強さは無敵と言っていいほど。特に菌根関連の能力者は浄化結晶で瞬く間に力を奪い取ってしまうため勝ち目がない。
 モデルは仮面ライダーゼロワンに登場する悪意の化身、仮面ライダーアークゼロ。戦闘スタイルのモチーフはモールデッド・ギガントのモデルであるヴェノムの対となるキャラ・カーネイジ。

次回、最後の希望登場。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢⅩⅣ【白き神の奇跡】

どうも、放仮ごです。四日連続更新となります。ようやく反撃開始。遅すぎた気もするけど。

今回は一人残されたローズVSゼウ・ヌーグル。楽しんでいただけると幸いです。


 姉さんが消された。カールも殺された。父さんも死んだ。私は一人、仇を前にしてなにもできずに頭を抱えて現実を否定する。さっきまであんなに満たされていたのに…一瞬で奪われてしまった。目の前で心底愉しげに嗤っている悪魔、黒き神(ゼウ・ヌーグル)に。

 

 

完全に心が折れたようね?さあローズ・ウィンターズ。貴女の力と共に、現実の肉体を私に明け渡しなさい。そうすれば楽になれるわ

 

 

 そう言って取り出した浄化結晶を私の目の前に掲げるゼウ・ヌーグル。ああ、これに触れれば楽になれる……こんなに苦しむこともない。普通になれる。普通になっても解決しないであろう現実の辛さは、この神が引き受けてくれる。それはなんて、魅力的な話だろう。

 

 

「…ごめん。姉さん。父さん。カール。私は、勝てないよ……」

 

 

 私を守るために散って行った大事な人たちに謝りながら、浄化結晶に手を伸ばす。ゼウ・ヌーグルに菌根の力を返却させるための装置。元々これを探していたんだ、手に取るのは悪い事じゃない。

 

 

そうよ。押し付けるんじゃ意味がない。貴女から触れることで、力と一緒にその肉体も…忌々しいエヴリンの手で失われた私の肉体が、手に入る!フフフフッ!どうしてくれようかしら!この渇きが癒されるまで人間どもの血肉を貪る?ローズが虐められたという背信者共を駆逐する?全人類の記憶を得るのも悪くないわね?胸が躍るわ!

 

「どうでもいい。全部、どうでもいいわ」

 

 

 ご機嫌なゼウ・ヌーグルが差し出した浄化結晶を両手でおそるおそる手に取る。青い輝きが私に侵食してきて、私の両手に浮かんだ根の様な文様を消し去って行く。ああ、これが普通の感覚……父さんと姉さん、カールと一緒に味わいたかった、喜びを分かち合いたかったな……母さんやクリスやケイも喜んでくれたかな。そこまで考えて思い至る。こんなやつを現実に解き放ってしまったら…母さんも、クリスも、ケイもみんな死んでしまう。そもそも私がミランダの作りだしたケイの幻影に騙されてここにきてしまったからこんなことになったんだ。そもそも私が生まれてきたから……。

 

 

「……私は、生まれて来ちゃいけなかったの…?」

 

 

 力を奪われ、存在を奪われていく感覚を感じながら思わずそうこぼれる。すると浄化結晶がひときわ明るく輝いて、聞きなれた声が木霊する。それは、姉さんから奪われた記憶の欠片だった。

 

 

――――――――「そんなことは絶対にない!ローズが誕生して、私や、イーサンや、ミアがどんなに喜んだか!全然わかってない!ローズマリー、あなたは望まれて誕生した!例えローズでもそんなことを言うのは絶対、絶対ぜーったい、許さない!!わかった!?」

 

 

 いつぞや同じ弱音をこぼした時に、姉さんが言ってくれた言葉だ。涙がこぼれる。そうだよ。私は、生まれてきてよかったんだ。こんなところで、こんなやつに、私の全てを奪われるわけにはいかない。

 

 

あら?おかしいわね、もうとっくに受け渡しは完了しているはずなのに……ローズが、抗っている?まだ矮小な希望を抱えているみたいね。四肢でももいでおけば絶望するかしら?

 

「……私は、絶望なんかしない!お前に私は渡さない!こんなところで終われない!」

 

足掻いても無駄よ、浄化結晶に力を返却した貴方に抗う術は…!

 

「こんなもの…!」

 

 

 気力を振り絞って浄化結晶を持った両手を振り上げ、一気に振り下ろす。放り投げられた浄化結晶は地面に叩きつけられ、あっけなく砕け散る。まさか破壊するとは思わなかったのか、終始余裕の笑みだったゼウ・ヌーグルの表情が歪む。

 

 

…無駄よ。そんなことしたところでこの最奥の最下層ならば何度でも作り直せる。貴女を絶望させた後でまた…!

 

「…その「また」はもう来ないよ。私は、もう絶望しない」

 

 

 砕け散った浄化結晶から溢れ出た青白い光が、私に集束していく。消えた根の文様も戻るどころかさらに濃く浮かび上がる。

 

 

「このセカイでは精神の強さが力に直結するんでしょう。なら心さえ折れなければ戦える…!」

 

その程度の力でこの私に立ち向かえると?愚かな背信者ね…!

 

 

 空間が歪むほどの衝撃波がゼウ・ヌーグルの両手に集束され、放たれる。それを、右手を構えて集束し発射した「力」で相殺する。

 

 

「今までの私と同じだと思わないで!ミランダが恐れた私の本当の力を見せてあげる!」

 

なぜ人間が恐れたものを恐れないといけないのかしら。私はカミサマよ?それに、仮に生き残ったところで貴方に何が残る?常にともにいた家族は消え、助けてくれた守護者も消え、バケモノだと罵られる貴方に!

 

「それでも生きる!姉さんと約束したんだ!」

 

 

 「力」で外側から押し付けてゼウ・ヌーグルの動きのを止めたところに、父さんが落としていたショットガンを手に取り乱射する。グシャリ、グシャリと音が鳴ってその身体に穴が開く。やっぱりだ。ゼウ・ヌーグルはこちらの攻撃を全て防ぐか受け流していた。普通に攻撃自体は通じるんだ!

 

 

くっ……菌核を消滅させる忌々しい力ね…私の防御が打ち消される。それでもあなたに勝ち目はないわ!

 

「っ…!?」

 

 

 瞬間、ゼウ・ヌーグルがハンドルを切る様に腕を動かすと世界が引っくり返って、私は天に落ちて行く。そんなでたらめな…!?さらに右腕を斧に、左腕を剣に、背中から六枚の黒い翼と細長い触手を数本生やし、同じく落ちて来ながら連撃を仕掛けてくるゼウ・ヌーグル。咄嗟に右手で斧を受け止め、力を集中。すると斧が砕け散って、その破片が右手に吸い込まれた。これって…!?

 

 

なんですって!?

 

「…こう、かな!」

 

 

 頭の中で斧をイメージ。右手から溢れた白い汗…いや、目の前のゼウ・ヌーグルよりも力の強い白い菌根…言うなれば白領域が溢れて右手に斧を形成、空中で振りかぶってゼウ・ヌーグルに斬撃を浴びせる。奴の力を、吸収した!?これって、浄化結晶の…!

 

 

天から落ちよ!

 

「うおおおおお!」

 

 

 世界がまた引っくり返って通常に戻り、斧を下にして地面に叩きつけられて痛みに呻く。白領域が崩れて戻った右手をかかげながら立ち上がり、凄まじい速度で伸びてきた翼と触手を纏めて握りしめ千切る様に奪い取る。背中から白い触手が伸びてゼウ・ヌーグルを貫いて地面に叩きつけ、私は白い六枚の翼を広げて空に舞い上がり、体当たりを浴びせて怯ませる。…いける!

 

 

その力、まるで白き神…!?認めない、私以外の菌根を支配する神など認めないわ…!

 

「カミサマになんてなるつもりはない!私は人間だ!」

 

 

 連続で放たれる衝撃波を吸収して返して相殺するのを繰り返す。背中から伸びる触手を同じく背中から伸びた触手で絡め取る。斧と剣をぶつけ合わせる。ついにはあの村そのものの巨人を繰り出してきたけど、翼で飛んでその場を逃れる。不味い、このままじゃ負ける。なにか、なにか逆転の一手が欲しい。諦めないと決めたけど実際問題ゼウ・ヌーグルが強すぎるのは変わらない!

 

 

――――――「手伝わせて」

 

 

 その時だった。私の右手が光り輝いて、黒いワンピースを身に付けた少女が出てきて衝撃波で村の巨人の一撃を受け止めた。それは、なんかボロボロでやつれているようにも見えるけどまさしく…!

 

 

「姉さん!?」

 

「…私にそう呼ばれる資格はないよ」

 

 

 どこからどう見ても姉さんだが、嬉しそうに綻ばせてから何かを後悔した顔で否定したその姉さんは背中から黒い六枚の翼を出して触手の様に変形させ村の巨人の振り下ろした拳を受け止めたかと思えばどこからともなく悍ましい蟲を呼び出して村の巨人の手首を貪り食わせて破壊した。そんな攻撃をする姉さんを私は知らない。

 

 

「…姉さんじゃないの?」

 

「私は…この世界線の私じゃない。言うなればアナザーエヴリン、別の世界線であの黒き神(ゼウ・ヌーグル)に唆されて全てを失った哀れな怪物だよ。…菌根は記憶を遡ることで魂だけなら過去や未来に干渉できる。そうだよね?救われた世界線の私」

 

「そうみたいだね。厳密には私じゃなくてここの私がやったんだけど」

 

 

 そう言いながら私から重なっていたのが離れる様にまた別の姉さんが現れる。その姉さんはスクールに通う年頃に見えた。

 

 

「わあ!ローズが成長してる!可愛いなあ!あ、私は真エヴリン。気に食わないけど呼びにくいからそう呼んでいいよ。それでエヴァ、どうすればいい?」

 

「あのゼウ・ヌーグルは菌根そのもの。いくらローズが力を奪えても際限なく湧き出してくる。勝ち目は正直言ってないけど…奪い尽くせばあるいは?」

 

 

 そう言ってまた重なっていたのが離れるように出てきたのは、なんかクールな印象の姉さん。エヴァってミランダの娘じゃなかったっけ。あれ?

 

 

「私はエヴァ。貴女の知るエヴリンの本体…と言えばいいのかな。あの時はエヴリンに託したけど、せめて今だけは」

 

「「「お姉ちゃんが、ローズを守るから」」」

 

 

 三人の姉さんが口を揃えてそう言った。私は嬉しくて、溢れてきた涙を左手で拭い、翼を広げて右手を構える。

 

 

まさか、菌根を辿って異なる世界線のエヴリンが集結したの…!?いや、それなら私も利用するまで。カミサマには敵わないことを教えてあげる。(すべ)て、(すべ)て、(あまね)(すべ)て、我が糧となりなさい…!

 

 

 背後に村の巨人を控えさせながら歩いてきたゼウ・ヌーグルが両手を天に掲げると、地面に出現した黒領域から溢れだすクリーチャーたち。フェイスイーター、エクスキューショナー、ローズデッド、ローズガーディアン、デューク・ビースト、ミアスパイダー、人形たちにマネキン人形…マザー・タイラント。他にもいる。

 

 

「ライカン、モロアイカ、ベビー、ヴァルコラック、ゾルダート、シュツルム…四貴族にミランダまで…」

 

「モールデッド各種にジャックたちベイカー家の変異体…スワンプマンまでいる?」

 

「うわ、アサルト・モールデッドにフューマー、ママ・モールドにブライドデッドまでいる。よりどりみどりだな!」

 

「…姉さんたちの世界線のクリーチャーも呼び出したってことね…」

 

 

 別の世界線と繋がる菌根の力。見るだけで恐ろしい奴等ばかりだ。でも、なんだろう。負ける気がしない。




ローズが「白き神」として覚醒、さらに各ルートからそれぞれのエヴリンが参戦!ハイゼンベルク生存ルートのエヴリンは残念ながら別の出番があるので今回は参戦ならず。エヴリン版アベンジャーズ、即ちエヴリンレムナンツ(の残滓たち)です。

・アナザーエヴリン
「四貴族編」においてあっちの世界線のゼウ・ヌーグル(不完全体)に唆されて家族だったはずのドミトレスク三姉妹や四貴族を喰らってバッドエンドを迎えたエヴリン。あちらの世界線ではローズを襲っていたが反省し、イーサンに救われ浮遊霊になっていたところを、せめてものと助けに来た。自虐的な性格。

・真エヴリン
「7編」において本編エヴリンの過去介入で救われ、死なずにイーサンの子供になった老婆エヴリンその人。こっちの世界線のミア救出後にうっかり菌根に触れてこの世界線を知り恩返しにと助けに来た。愛情に囲まれて育ったため自由奔放ですぐ問題を起こして引越しさせる家族を愛する問題児になってる。本編以上にはっちゃけている性格。

・エヴァ
本編におけるもう一人のエヴリンこと幻影エヴリンのオリジナルの魂が菌根の世界に閉じ込められていたのをイーサンが救って本編エヴリンとウィーアー!した彼女…ではなく共にミランダと戦い、エヴァだと告白した方。死んだことで前世であるエヴァだと自覚している。クールな性格。

次回、最終決戦。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブⅢⅩⅤ【エヴリンレムナンツ】

どうも、放仮ごです。長きに渡ってローズを苦しめたゼウ・ヌーグルとの決着です。楽しんでいただけると幸いです。


お前たちに勝ち目などないわ!

 

 

 父さんと姉さんとカールを失った私の前に現れたのはアナザーエヴリン、真エヴリン、エヴァ、と名乗った三人の平行世界の姉さん。対するは黒き神(ゼウ・ヌーグル)が平行世界から呼び出した菌根に連なるクリーチャーの群れ。4対沢山、どう見ても勝ち目なんてない。でも、姉さんが三人もいるんだ。負ける気がしない。それになにより、ゼウ・ヌーグルに殺された父さん、姉さん、カールの為にも負けられない!

 

 

「ウアアアアアアッ!」

 

 

 花嫁の様な姿をした怪物…ブライドデッドがチェーンソーの様な左腕を振り回しながら突撃、してきたのを力を纏った右手で弾き返して破壊。右腕のブーケから放たれた白いカビで構成された茨の鞭を掴んで引きちぎり取り込む。こんなに種類がいるならむしろ入れ食いだ。私の、菌根の力を奪い取る力で…!

 

 

「はああああああっ!」

 

 

 ブライドデッドをショットガンで吹き飛ばし、空から襲いかかるゾルダート・ジェットと、地上から高速で突進してくるクイック・モールデッド、ミアスパイダーを右手から精製した茨の鞭で薙ぎ払う。

 

 

「お願い…力を貸して、ベイラ!ダニエラ!カサンドラ!」

 

 

 慟哭する様にそう叫んだアナザーエヴリンの姿が多数の蟲に変貌。次々とスワンプマンやフューマーや怪魚モローを貪り喰らっていく。うわあ、すごい。あんなことできるんだ。

 

 

「衝撃波の扱い方なら私の方が一日之長がある」

 

 

 プロペラを回転させながら突撃してきたシュツルムを衝撃波で受け止め、空中に浮かべてスクラップの様に四角く加工してゾルダートの群れに叩きつけるエヴァ。背後から襲いかかってきた変異ルーカスも両腕をもぎ取った挙句に上空に持ち上げて内側から破裂させる。ゼウ・ヌーグルよりえぐい使い方してる…。

 

 

「へ~んしん!どりゃあ!」

 

 

 まるでバイクに乗る飛蝗のヒーローの様なポーズを取って地面から湧き出してきた黒カビに飲まれるようにして顔以外の全身に纏わせて姿を変える真エヴリン。背中から生えてきた巨大なカビの翼が羽ばたかせて宙を舞い、黒いカビで目元を隠し、擦らせて金属音を鳴らす刃となった長い指と異様に長い腕、肢体を艶かしく包み込む漆黒の肩だしドレスに身を包んだ、魔女の様な姿となって空中からローズデッド、変異マーガレット、ママ・モールド、ローズガーディアンを切り刻んでいく。

 

 

「もらうよ!」

 

 

 仮面の公爵獣(デューク・ビースト)から力を奪い取って今までの鬱憤も込めてぶん殴りながら、奪い取った力でライカンの様に変身。鋭い爪でライカンやフェイスイーター、モールデッドを引き裂きながら高い身体能力で駆け抜け、跳躍。六枚の翼を展開してゼウ・ヌーグルに突き進む。三人の姉さんが雑魚の相手をしている間に、倒す!

 

 

たとえ私の知らない形で力を発展させたとしても、全てこの私から生まれた有象無象よ!」

 

「有象無象なんかじゃない!」

 

 

 姉さんたちが気に入らないのか、村の巨人を動かして右腕を大きく振るって配下の雑魚ごと薙ぎ払わんとするゼウ・ヌーグル。私はその間に割り込んで右手をかざして受け止める。

 

 

「ぐうううううっ!?」

 

無駄よ!吸い込める質量じゃない!

 

「いいや、受け止めてくれれば十分だ」

 

 

 瞬間、衝撃波が村の巨人の腕を絡め取って天に打ち上げ、そこに翼を羽ばたかせた真エヴリンと蟲の群れと化したアナザーエヴリンが空に舞い上がり、その鋭い爪と人型に戻って右手に溢れさせた黒領域から顕現させたシュツルムのプロペラエンジンを構えながら急降下。

 

 

「行くよ、私!」

 

「私の身が焼けてでも…!」

 

 

 真エヴリンがすれ違ったかと思えば斬撃で輪切りにされ、エヴァの衝撃波で浮かべられたそれにプロペラエンジンを高速回転させて熱暴走させて放った火炎放射で焼き払うアナザーエヴリン。私の目の前で巨人の腕が焼け落ちて、ゼウ・ヌーグルは驚愕する。

 

 

炎!忌々しい炎!アナザーエヴリンの世界の私が滅びた原因…!

 

「そこまで知ったんならちょうどいいや。私と一緒に焼け死ね!」

 

 

 自分が炎に巻かれるのも気にせず火炎を放ちながら急降下し、パンチでもするかの様に振り下ろすアナザーエヴリン。止める間もないその一撃はゼウ・ヌーグルに炸裂。その巨体を炎上させる。

 

 

「ご愁傷様!」

 

ぎ、ギャアアァアアアアアア!?

 

 

 炎上して悶え苦しみ暴れるゼウ・ヌーグル。アナザーエヴリンは背中から六枚の黒い翼を展開して飛びながら火炎放射を浴びせ続ける。やったの…?

 

 

……なんてね?私に炎は効かないわ

 

「え!?」

 

 

 次の瞬間、ゼウ・ヌーグルを包み込んでいた炎が右手に吸い込まれるように集束。凝縮させた火炎弾を腹部に叩きつけられたアナザーエヴリンは爆炎に包まれて吹き飛ばされ、エヴァの衝撃波で受け止められる。そんな…!?

 

 

その私は燃えやすい肉体があった上に依り代すらなかったからあっさり燃え死んだのよ。私を一緒にしてもらっては困るわ。希望は持てた?

 

 

 背中から広げた六枚の黒い翼の間から触手を伸ばして、針の弾丸を乱射してくるゼウ・ヌーグル。あれに当たったらえぐられるだけじゃなく、寄生されてなにもできなくなってしまう。エヴァと共に衝撃波で散らしていきながら突進、触手に右手を伸ばして引きちぎって奪い取るが、即座に変形した翼の一撃を受けて殴り飛ばされる。

 

 

「そんなもの細切れにしてやる!」

 

できるものならしてみなさい!

 

 

 空から真エヴリンが飛来してその爪で翼や触手を引き裂きながらゼウ・ヌーグルに迫るが、衝撃波で捕らえられて地面に勢いよく叩きつけられる。さらに右腕を変形させて勢いよく叩きつけられた右腕を、咄嗟に間に立って両手で受け止める。

 

 

無様な姉を庇って死んでいくなんて哀れね!ローズ!

 

「ぐっ、ぬ……」

 

 

 両手を斧に変形させて何度も何度も叩きつけてくるゼウ・ヌーグルに防戦一方。右腕だけじゃ止められない。…なら、両手なら!

 

 

「私は、死なない!」

 

なっ…!?

 

 

 両手の斧を両手で受け止め、もぎとるようにして奪い取り吸収する。怯んだゼウ・ヌーグルの前で、奪い取った力を纏った両手を頭上で合わせて右腕に集束。地面で脈打つ菌根に突き刺した。

 

 

「支配権を私に!」

 

ぐうっ、ああああああっ!?

 

 

 すると白く染まった菌根が地面から飛び出して太い槍としてゼウ・ヌーグルの胴体に突き刺さり片膝をつかせる。初めてこんなに効いた…!

 

 

「あなたの好きにはさせない!姉さんたち!」

 

「さっきはよくも…!」

 

「よくやった、ローズ!」

 

「喰らえ!」

 

 

 ダウンしたゼウ・ヌーグルに、私の右腕を押し付けて力を奪い取って行きながら合図。蟲の群れと化して渦状になって突撃したアナザーエヴリンと、敵のモールデッドを持ち上げて丸めて砲弾の様に投げつけた真エヴリン、衝撃波を集束させた拳を叩き込むエヴァの連続攻撃を受け、弾かれるように大きく怯んでよろよろと後退するゼウ・ヌーグル。

 

 

ありえない…!この私が、このセカイで傷つけられるなんて…!?

 

「弱ってる…?」

 

「力の大部分がローズに移動したんだ!」

 

「このまま奪い続ければ勝てる!それにローズも強くなる筈!」

 

「いやそんなこと言われても…危ない!?」

 

 

 翼を広げて空に舞い上がり突進してきたゼウ・ヌーグルを避けようとすると、青白い光に包まれたと思ったらいつの間にか離れたところに移動していた。あまりのできごとに呆ける私たち。

 

 

「何が起きたの?」

 

「瞬間移動した…!?」

 

「え、なになに!?」

 

「ローズ!その力で翻弄して隙を見てゼウ・ヌーグルから奪って!隙は私達が作る!」

 

「…よし。やってやる!」

 

私の力を勝手に使うな、ローズ!

 

 

 もうなりふり構わず、六枚の翼を広げ触手を滅茶苦茶に伸ばし、両腕を菌核の様に変形させて針の弾丸をばら撒いてくるゼウ・ヌーグル。私はさっきの感覚を思い出して全部瞬間移動で避けていく。でも、隙が無い…!姉さんたちを信じて、隙を窺うしかない!

 

 

「内側からならどうだ!」

 

 

 アナザーエヴリンが蟲の群れ化して弾丸を避けながら次々とゼウ・ヌーグルの巨体に突き刺さって行って体内を蠢いて飛び出していく。

 

 

纏めて吹き飛ばしてやるわ…!

 

「喰らえ、モールデッド爆撃!」

 

 

 胴体を貫かれたのは効いたのか怯んだところに、二連撃で漆黒の砲弾が叩きつけられる。両手でモールデッドを丸めて投げつけた真エヴリンだ。

 

 

「力が弱くなったなら通じる…!」

 

馬鹿な、こんなことが…!?

 

 

 さらにエヴァが衝撃波で固めて、さらにアナザーエヴリンと真エヴリンも加わり衝撃波を放って、ゼウ・ヌーグルを無理やり跪かせる。今なら、顔に…!肩を左手で掴む。右手で拳を握る。大きく振りかぶる。思い出すのは父さんと姉さんのあの動き。

 

 

「これで決める……ファミリーパンチ!」

 

させるかあ!

 

 

 しかし胸部から飛び出したモールデッドの腕で右腕を握られ止められる。その間にも身を震わせ、衝撃波で衝撃波を相殺しようとしているのか不敵に笑むゼウ・ヌーグル。あと少しなのに…!

 

 

悪あがきもここまで。逆に奪い取ってやるわ…!

 

「っ…!」

 

 

 そんなことされたらすべてが水の泡だ。姉さんたちは衝撃波を維持しているから手は貸せない。瞬間移動で逃げようにも右手を掴まれて逃げられない。どうしよう。助けて、姉さん……!思わず、助けを求める。もう絶対届かない最愛の姉に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょうがないなあ。お姉ちゃん頑張るよ」

 

 

 

 そんな声が聞こえた。同時に、ゼウ・ヌーグルの不敵な笑みに、私の右手から飛び出してきた拳が叩きつけられる。私の右手を拘束していた腕が外れ、空中に浮かび上がったのは周りの三人とよく似た、だけど一番見慣れた人。

 

 

ぐああああああっ!?

 

「姉さん…!?」

 

「話は後!やっちゃえローズ!」

 

「…うん!はああああああああああっ!」

 

 

 姉さんの言葉に頷いてその手に掴まり跳躍し、急降下と共に叩きつけた一撃は。跪いていたゼウ・ヌーグルの頬を捉えて、力を奪い取って行きその巨体が足元から白化させていく。

 

 

そ、そんな!?黒き神たる私が…!?こんな、こんな…私の器にしかなりえない小娘に…!?

 

「私は器なんかじゃない。コピーでも身代わりでもないわ、私は私!イーサンの娘でエヴリンの妹!ローズマリー・ウィンターズよ!消えていなくなれ!お前は存在してはならない生き物だ!」

 

おのれええええええ!?

 

 

 そんな断末魔と共に完全に力を奪い取られたゼウ・ヌーグルは純白の巨像となって固まり、ボロボロと崩れ落ちて塵となって、完全に消滅したのだった。




四人のエヴリンとローズの勝利。炎も効かないゼウ・ヌーグルに勝つには、力を全部奪い取る、それしか勝ち目はありませんでした。その隙を作るのにエヴリン達が必要だったわけですね。

次回はエピローグ。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブzeu negru【終わりの始まり】

どうも、放仮ごです。昨日の夜に最終決戦を投稿しています。今回はその続きとなります。ハッピーエンドのエピローグの前に、バッドエンドルートを二つ投稿しようと思います。どうかおつきあいください。

今回は当初の構想であったリベレーションズ2のラストをモデルにした最悪の結末。公式さん、リベレーションズシリーズの続編まだですか。ナタリアもすっかり大人になってるぐらい年月過ぎましたね…。それはともかく、楽しんでいただけたら幸いです。


 目覚める。研究室の床で横になっていた己の身体を起こして、右手を見やる。根の様な文様が黒く輝いて力の存在を誇示している。

 

 

「んんんっ……いい気分ね」

 

 

 伸びをする。パキポキ、と動かして無かったからか音がする。心地よい。やはり肉体というのはいいものだ。立ち上がり、研究室を後にする。紅葉の舞い散る道を歩いて行く。うーん、綺麗だ。あのモノクロの世界とは大違い。

 

 

「母さんを心配させるわけにもいかないし早く帰らないとね」

 

 

 バスに乗り、流れて行く光景を見ながらルンルン気分で帰路につく。自宅に辿り着き、料理をしていた母親…ミア・ウィンターズに歩み寄って嗜虐的な笑みを浮かべる。ローズでは決してしない顔だ。

 

 

「ただいま、母さん」

 

「おかえりローズ。遅かったわね。…あら?イーサンとエヴリンは?」

 

「…二人なら、死んだ。貴女も同じ道を辿るわ

 

「え?」

 

 

 料理をしたまま振り返り、一瞬呆けた隙を見逃さなかった。ローズの顔をモールデッドのものに変貌させて口を大きく開き、ミアにかぶりつく。上半身を噛み千切られたミアの下半身が膝をついて崩れ落ち、鮮血で床を濡らす。綺麗な赤だ。今の私に流れているのはこれと同じものか、それとも…?

 

 

まさか貴女の娘が黒き神の器として生まれ変わったなんて夢にも思わなかったみたいね?菌根(わたし)の中で永遠に生きなさい。それが貴女の幸せよ

 

 

 顔をローズのものに戻して舌なめずり。お腹を擦りながら、ローズの肉体を急激に成長させて最適化させていく。

 

 

私の力を全部取り込んで勝ったつもりだったんでしょうけど、私そのものを取り込むことと同義だと気づかなかったのが貴女の敗因よローズ

 

 

 背は成人男性よりも高く、地母神であることを表すように胸とお尻は大きく、腰は細く、手足も長く。服は男っぽい…というかイーサンから譲り受けたものを変容させて扇情的な黒いドレスに。髪を純白に染め上げて地面につくほど伸ばし、瞳は血のように紅くツリ目に。ローズの面影を残しつつ、私の理想の姿に変貌した我が身を見下ろし満足げに頷く。

 

 

黒き神(ゼウ・ヌーグル)、現実に生誕せし瞬間よ

 

 

 今の大きな我が身には狭い扉を破壊しながら外に出る。突如現れた神々しい巨体に圧倒され、我先にと逃げ出す人間たち。私は背中から六枚の黒い翼を生やし、幾重もの触手に枝分かれさせて逃げる人間たちの背中から貫き、ボゴォと膨れ上がった菌根の触手に取り込んで捕食していく。これが生の、新鮮な血肉と記憶…なんて甘美で美味なのかしら。癖になりそう。

 

 

あら、今さら来たの。遅かったわね

 

「ローズ…なのか?いや…お前は何者だ!」

 

 

 町の中を意気揚々と歩く私の前に立ちはだかる戦闘服の連中がいた。16年前、私の肉体を爆破した忌々しい猟犬どもだ。そのリーダー格の困惑の混じった問いかけに、私は猟奇的に笑う。

 

 

失礼ね。この体は間違いなくローズのものよ。私は黒き神(ゼウ・ヌーグル)、菌根そのもの。ローズの肉体を奪ってこの地に降臨したカミサマよ。神に逆らうものは悉く死になさい

 

「ローズ…なんてこった、なんでこんなことに…」

 

「ケイナイン、嘆いている暇はないぞ!ハウンドウルフ、撃て!ここでやつを止めないととんでもないことになる!」

 

そうね。せっかく現実に出てこれたんだし…世界の全てを味わおうかしら。前菜は、貴方たちよ!

 

 

 もう、私を止められるものはどこにもいない。寂しいことね。整列し、アサルトライフルの銃弾を私に向けて掃射するハウンドウルフの攻撃を、六枚の翼を閉じて全身を覆う様に広げることで雨傘が雫を弾くように防ぐ。せっかく手に入れた体を無闇に傷つかせるわけにはいかないわ。でも、そんないっせいに撃って、同じ銃だったなら……弾切れの時間も揃うわよね?

 

 

「隊長、弾切れです!通じません!」

 

「構えろ、来るぞ!」

 

遅いわね!

 

 

 六枚の翼を広げて飛翔し、滑空。左腕を変形させた斧を振るって一人の上半身をえぐりとるようにして喰らい、その横にいた一人は左腕を変形させたブーケから伸ばした茨の鞭で拘束してブーケに引きずり込むようにして、取り込む。頭さえ喰らえば記憶を取り込めるからそれ以外はどうでもいいのだけど…美味だからついつい一緒に食べちゃうわね。

 

 

「速い…!?」

 

「く、来るなあ!?」

 

逃げても無駄よ

 

 

 背を向けて逃げ出そうとしたやつを、右手を伸ばして後頭部を掴んで、家屋の壁に押し付けてぐちゃりと潰した血肉を取り込む。私の存在を恐怖を感じて逃げるなんて見所あるわね。

 

 

「この、化け物め!」

 

残念

 

 

 勇敢にもマガジンを換えて至近距離で撃ってきたやつの攻撃を衝撃波のバリアで受け止め、左手の指を動かし弾丸ごと押し付けて蜂の巣になって崩れ落ちた女を左手が変形したモールデッドの顔で貪り喰らうと、その光景に呆気にとられていた奴にも右手を伸ばして、掌に開いた鋭い牙の生え揃った口で顔に吸い付き踠くのを記憶ごと引きずり込むように丸呑みにする。ああ、貴方がケイナイン。ローズを引きずり込むために利用された男がそのローズの体に引きずり込まれて死ぬなんて皮肉ね。

 

 

あとは貴方だけよ。クリス・レッドフィールド

 

「俺の部下を……よくも!」

 

 

 アサルトライフルが効かないと悟ったのかハンドガンを構え、一発ずつ、的確に額、腎臓、右肩、肝臓、手首、膝、鳩尾、脛、心臓とぶち当ててくるクリス。人間なら効いたのだろうけど、生憎と私は人とは異なるカミサマだ。すぐに傷が再生していく光景を見て苦々しく顔を歪ませるのは実に滑稽だった。

 

 

託された女の子の急所に容赦なく攻撃するなんて鬼かなにか?

 

「どの口が言う、化け物め…!」

 

化け物とはご挨拶ね。私はカミサマよ

 

 

 ハンドガンをしまいショットガンを取り出し、乱射してくるクリスの攻撃を、衝撃波で真正面から受け止めながら歩み寄り、ショットガンの銃身を握りしめ侵食させ菌根まみれにする。これでもう使えない。

 

 

「なめるな!」

 

 

 そこにショットガンを投げ捨てたクリスのストレートパンチが胴体に突き刺さり、殴り飛ばされる。なんて馬鹿力。だけど効かない。物理攻撃では私は倒せない。

 

 

「くそっ…」

 

御愁傷様!

 

 

 距離をとろうとするクリスの首を伸ばした右腕で掴んで持ち上げ、菌根を侵食させて全身に這わせて蠢かせると激痛でその額に脂汗が浮かんだ。

 

 

「ぐああっ…!?」

 

貴方は生かしたまま私の奴隷にしてあげるわ

 

 

 そうして手を放すと、菌根に完全に侵食され記憶と共に人格を奪われてガタイのいいモールデッドとなったかつての英雄は、私に付き従い人々を襲い始めた。私も研究室に保管されていた欠片に栄養を送り肥大化させた菌根を操り、街を呑み込んでいく。

 

 

心地いい悲鳴ね…もっと聴かせなさい。これこそ生の実感!私はたしかに、現実に生きている!…味わなくちゃ損よね、全てを喰らって平らげてあげる。さあ人類、終わりの始まりよ

 

 

 それから3日後、黒き神の下に人類は滅亡した。




バッドエンドルートその一:ローズが吸収していた「力」に紛れてゼウ・ヌーグルの自我まで取り込んでいたら、でした。構想当初はミアの呼びかけに答えて怪しく嗤うローズで締める予定でした。

次回はゼウ・ヌーグル完全勝利ルート。そのあとハッピーエンドルートです。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブIF【変身】

どうも、放仮ごです。今回はもう一つのバッドエンド。ローズとエヴリンレムナンツを相手にしてなお完勝したルートです。楽しんでいただけたら幸いです。


旅行者はたずねた。

「あの男、自分自身に課せられた判決を知らないのですかね?」

 

将校は答えた。

「教えてやっても意味はないでしょう。なにしろ自分の身体に刻まれるわけですから」

 

フランツ・カフカ 『流刑地にて』より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前たちに勝ち目などないわ!

 

 

 力を与える私と対ともいえる、力を奪い去る浄化結晶の力を得た白き神として覚醒したローズと、アナザーエヴリン、真エヴリン、エヴァを名乗る三人の平行世界のエヴリンと対峙した私は、菌根を通じて平行世界にアクセスして菌根に連なる我が子たち(クリーチャー)を呼び出して対抗する。質も数も備えた連中を相手するにはそれなりの質と圧倒的な数だろう。

 

 

…思ったよりも強いわね

 

 

 菌根を辿って彼女たちの記録は一瞬で閲覧した。いずれも興味深い道を辿ったエヴリン達だ。ローズが育つまでは私の器として最適だった存在だ、可能性の塊と言えよう。

 

 

「お願い…力を貸して、ベイラ!ダニエラ!カサンドラ!」

 

 

 アナザーエヴリンは死後残留思念がイーサンの元ではなく菌根を通じてあの村に来てしまいミランダの一派と絆を結んだエヴリン。そちらの世界の私に利用されて家族を喰らい羽化直前まで行ったところをイーサンに倒された「成長しなかったエヴリン」。固有能力は喰らったミランダ一派のより精度の高い能力の行使、特にドミトレスク三姉妹の蟲の群れ化を好んでいるようだ。

 

 

「衝撃波の扱い方なら私の方が一日之長がある」

 

 

 エヴァはエヴリンのオリジナル。ベイカー邸での死闘ののち菌根に閉じ込められ、己の前世を自覚し三年間も行き場のないイーサンと己への怒りを溜めていた「我慢し続けたエヴリン」。エヴリン…幻影エヴリンと和解したのちに一体化し消えたと思われていたが、どうやら共にミランダと戦った世界線が存在したらしくそこからやって来た様だ。固有能力は三年間することなかったために研鑽し続けた衝撃波のより精度の高い行使か。

 

 

「へ~んしん!どりゃあ!」

 

 

 真エヴリンはあの爆発の直前に今回と同じように菌根を遡って過去へ飛んでいたらしい幻影エヴリンが救った三年前のエヴリンの本体その人。ルーカス・ベイカーから奪った薬品で老婆から少女の姿に戻り、イーサンとミアの長女として三年間を過ごした「生きて成長したエヴリン」。天真爛漫な問題児の悪餓鬼に育ったらしい。固有能力は三年前のイーサンとの死闘で変貌したミランダとよく似た戦闘形態への変身。こちらのモールデッドに干渉して武器として扱っているのを見るに、ふざけているが戦闘力だけなら一番高いかもしれない。

 

 

たとえ私の知らない形で力を発展させたとしても、全てこの私から生まれた有象無象よ!

 

 

 近づいて私の力を吸収しようとしたローズを斧で薙ぎ払いながら考える。そうだ、いくらそれぞれの世界線で私の力を極めたと言っても有象無象だ。私の敵ではない。なんなら取り込んでしまえば私の力は「完璧」の次のステージに行くだろう。

 

 

「エヴリントルネード!」

 

馬鹿の一つ覚えね

 

 

 翼を自分を包み込むように畳んで高速回転しながら突撃してくる真エヴリンの放っていた竜巻の様な衝撃波を、右手から発生させた反転させた衝撃波で押さえこんで受け止める。その隙を突いてライカンの特徴を得たローズが右手を構えながら飛びかかってきたが、左手を伸ばして首を掴み空中に持ち上げる。

 

 

平行世界から御足労感謝するわ。私に力を明け渡しなさい

 

「やっ、嘘っ…待って!?」

 

 

 待つわけがない、隙を晒したそちらの落ち度だ。真エヴリンを衝撃波で閉じ込めて圧縮し、右手の平から菌根を液状に放出して取り込む。んん、悪くないわね。一番戦闘能力の高いやつはもらったわ。

 

 

「姉さん!?」

 

「真エヴリンがやられた…!?」

 

「こんの!」

 

 

 エヴァが右手に集束させて投擲した衝撃波の砲弾を、モールデッドを複数集めて右手に集めて作り上げた巨大な砲弾で受け止め、モールデッド砲弾を発射してエヴァにぶつける。

 

 

「しまっ…離れろ!?」

 

引きずり込んであげるわ

 

 

 このセカイは菌根、即ち私の体内も同然。砲弾からほどけたモールデッドの群れに拘束されたエヴァの足元の足場を構成している菌根を液状化させて沈ませる。エヴァは衝撃波を連射してもがくがモールデッドの拘束はほどけず、共に沈み込んで私に取り込まれた。あと一匹。

 

 

「…なんで私が最後なんだろう。でも、ローズを守らなきゃ……私にはその責任がある!」

 

そんな責任なんて捨てて私に取り込まれれば楽になれるわよ?

 

 

 蟲の群れと化して私を逆に貪らんと襲いかかるアナザーエヴリンを、衝撃波で散らす。一匹一匹を衝撃波で包み込み、合体できないようにした上で右手から出した液状の菌根をネットの様にして一匹残らず捕獲する。

 

 

「やっぱり、私なんかじゃ……」

 

貴女は良くやったわ、安らかに眠りなさい。緻密な衝撃波操作もなかなか便利ね

 

「そんな…」

 

 

 隙を窺っていたものの三人の姉が倒され、立ち尽くすローズ。いくら再起しようとも、自分から希望をさらけ出したのだ。それを奪ってやれば心を折るなんて容易い。

 

 

どうしたの?今のあなたならいくらでも味方を出せるでしょう?ほら、出して見なさい。悉く私の贄にしてあげるから

 

「っ……」

 

 

 光り輝く右手を構えようとして、やめるローズ。いくら出しても私に敵わないことを理解したらしい。…正直、四人がかりで一斉に来られたら負けていたかもしれない。だがそれはIFだ。ローズの心は折れた。諦めてはないらしいが、先程の寄生でローズが痛みに慣れてないのは分かっている。

 

 

諦めない悪い子は、貪り食われて死になさい

 

「え…?きゃああああああっ!?」

 

 

 私の肉体を蟲の群れに崩してローズに殺到。その肉体を貫き、噛みちぎり、捕食していく。ローズは痛みに耐えきれず、精神を崩壊させて私に取り込まれて行った。

 

 

安心しなさい。貴女が殺したかった奴等は私が殺してあげるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実に出てきてローズに成り代わり日常を過ごしていたある日。とある路地裏に呼び出された私は、ルーシーとキャサリン…第二層で私がローズを追い詰める時に名前を使ったいじめっ子に早速絡まれた。最近自信に満ち溢れている私が気に入らないそうだ。

 

 

「誰の、何が汚いですって?」

 

 

 「汚い」そう口にしたキャサリンに菌根である私を馬鹿にされたと感じた私は路地裏のレンガの壁にキャサリンを叩き付け、あっけなく潰れて圧死したキャサリンに呆然としているルーシーの頭を掴んで握りつぶして、崩れ落ちた首から上を失った身体を一瞥する。怪死事件として処理されるだろうか。

 

 

「ルーシーと…キャサリンだったかしら。貴女達は喰らう価値もないわ」

 

 

 返り血を菌根で綺麗にしながら路地裏を出る。親指についたままだった血を舐めとりながら、私はローズの顔で心の底から嗤う。ああ、スカッとした。

 

 

「最ッ高!ざまあみなさい!」

 

 

 そう口にしたのは私じゃない。私の中のローズの心が手に取るようにわかり、それを代弁したのだ。ああそうだ、人間誰しも悪意を抱えているものだ。例えローズの様な「いい子」でもそれは変わらない。人は「変身」する。人の悪意がある限り、それは伝播し続ける。そして私はそれを喰らって成長する。素晴らしい永久機関だ。

 

 

「ああ、素晴らしきこのセカイ!滅ぼすのももったいないわ」

 

 

 骨の髄までしゃぶりつくしてやるから覚悟しなさい。ハウンドウルフに知られたら面倒だし、ローズ・ウィンターズとして私はこのセカイで生きてやる。




フランツ・カフカの引用は世界観を同じくする拙作Fate/Grand Order【The arms dealer】の監獄塔編から。

今回は「四人纏めて相手しなかったら」というIFでした。勝ち方で心境に変化があるゼウ・ヌーグル。余裕がある勝ち方をすれば余裕たっぷりに生を謳歌し、負けそうになってなお乗っ取られて起死回生した際は後先考えない世界の破壊を。わかりやすい感情の怪物です。

次回はハッピーエンドルート。本編エヴリンが復活した理由も明らかに。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブepilogue【大団円】

どうも、放仮ごです。今日の仕事中に気付いたんですけど、昨日である7月23日は2013年にハーメルンで初投稿した日でして、それから十周年となります放仮ごです。もう10年も書いてたことに驚きである。これからもどうぞよろしくお願いします。

と言うわけで今回はハッピーエンドルート、即ちローズ編最終話。文句なしの大団円を見せてみせようぞ。楽しんでいただけたら幸いです。


 数刻前。ローズと平行世界のエヴリン三人がゼウ・ヌーグルと戦っていた頃。菌根の内も内、いわゆる核と呼ばれる世界にて、追いかけっこが行われていた。

 

 

「いい加減諦めろ!お前も道連れだエヴリン!」

 

「しつこいな!自滅したんだから大人しくおっ()んでてよ!」

 

 

 ローズが浄化結晶を破壊したため力を取り戻して諦めずに幻影の時の様に空を飛び脱出を試みるエヴリンと、それを阻まんとするゼウ・ヌーグルに取り込まれ全てを諦めたマザー・ミランダだ。全速力で出口に向けて空を舞うエヴリンと、六枚の翼で空を飛びエヴリンの進行方向に立ちはだかり火球を飛ばしてくるミランダ。

 

 

「そうだ。エヴァは蘇らない。私も潰えた。なのにお前とローズだけハッピーエンド?認めぬ、認めぬぞ!」

 

「ローズには家族が必要なの!イーサンとマダオも蘇らせる方法を伝えなきゃ!なにより、私が死んでローズを置いて行くことだけは絶対にない!」

 

「あんなエヴァの器ぐらいしか価値が無い小娘のなにがいい?何がお前にそうまでさせる?奴の力を利用して蘇りたいのか?厚顔無恥なできそこないだな貴様は!」

 

 

 火球をひらりひらりと余裕で回避し自分の横をすり抜けるエヴリンを止めるためか煽りに煽ってくるミランダ。それを聞いて立ち止まり、振り返るエヴリン。髪に隠れて陰になっている顔は見えず、溢れ出る衝撃波でスカートがバサバサとはためき、足元で小規模な竜巻が発生する。端的に言えば、キレていた。

 

 

「私の事をなんと言おうとどうでもいい。そうだよ、私は死んでもなお恥知らずにもイーサンやローズに付きまとっている厚顔無恥なできそこないだ。でもね?」

 

 

 瞬間、エヴリンはミランダの目の前に衝撃波でぶっ飛び、衝撃波を集束させた拳をその顔面に叩き込んでいた。

 

 

「があっ…!?」

 

「お前程度が私の家族を侮辱するな…!」

 

 

 殴り飛ばされたミランダを空を飛んで追いかけ、追撃の衝撃波を纏った横蹴りを叩き込むエヴリン。咄嗟に防御のために挟んだ右腕をへし折られ胴体が寸断されると錯覚する勢いで蹴り飛ばされてミランダは地面に叩きつけられる。失言だったと気付いた時にはもう遅かった。なんとか立ち上がったところに肩にポンと手を置かれ、恐る恐る振り返ると憤怒の形相を浮かべたエヴリンがモールデッド化した右拳を振り上げているところだった。

 

 

「いいことを教えてあげる。私がエヴァ、らしいよ。貴女の娘の生まれ変わり」

 

「なっ…あっ…!?」

 

「だからミランダ、お前も家族だ。だけど今の家族を侮辱していい理由にはならないよね」

 

 

 そして胸部を拳で穿たれたミランダは、最後の砦である今の肉体すら白化して項垂れ、崩れ落ちて行く。完全に消滅するその刹那、かろうじて形が残った右手をエヴリンに伸ばして微笑むミランダ。

 

 

「…そうか、我が願いは既に……もっと早く気づいていれば……すまない、エ…ヴァ……」

 

「…子は親を選べないってひどい話だよね。急ごう、ローズが待ってる」

 

 

 完全に消滅したミランダを見届けたエヴリンは、天上の光へと急ぎ……最後の最後で間に合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後悔するようなことだけはしないで」

 

「どの世界でもローズは私の大事な妹だからね!」

 

「あとは任せたよ、エヴリン。ローズを頼んだ」

 

「ありがとう、平行世界の姉さんたち」

 

「任された!」

 

 

 三人の姉さんに別れを告げて元の世界線に戻し、私の姉さんと抱き合う。ああ、姉さんだ。姉さんだけは、帰って来てくれた。

 

 

「父さんとカールは…帰ってこないんだね」

 

「あ、それなんだけどね。菌根と繋がりの深い私やミランダはともかく、元はただの人間のイーサンとマダオはゼウ・ヌーグルを形作っていた数多の記憶と一体化してるみたいで……今のローズの、白き神の力?でサルベージすれば生き返ると思うよ」

 

「それほんと!?姉さん!」

 

 

 思わぬ言葉に肩を掴んで揺らして成否を確認するとぐわんぐわんと揺られながらも姉さんは頷いた。それを伝えるために戻って来たらしい。

 

 

「今のローズはゼウ・ヌーグルと一緒。だからどんな芸当でもできるはず。まあ時間がかかるだろうけど、このセカイならあっちと時間の流れはずれてるだろうし気楽に……」

 

「こう、かな!」

 

「できたの!?さすがローズ!私の妹!」

 

 

 両手をかざし、地面を構成している菌根で人型を二つ作り上げて行く。ゼウ・ヌーグルの記憶も同様に取り込んだから使い方はすぐに分かった。……でも沢山の人間の記憶が頭の中にあるって変な感じ……油断したら「私」が消えてしまう。飲み込まれない様に気を付けないと。

 

 

「…俺は、どうなって…ローズ!?アイツを、倒したのか!」

 

「ああん?なんでエヴリンが先に蘇ってやがる!」

 

「私がローズを置いて死ぬわけないじゃん!」

 

「父さん!カール!」

 

 

 思わず飛び出して、二人を纏めて腕で抱えて抱きしめる。ああ、よかった。本当によかった。

 

 

「…悪かったなローズ。お前に背負わせて」

 

「大人がしなきゃいけないことをやらせちまった。お前の力も…」

 

「ううん、いいの。…多分、浄化結晶を新しく作ればこの力を手放せると思う」

 

 

 菌根を支配する力。このセカイの神そのものの力。浄化結晶なら、手放して菌根の世界に封じ込めることができるはずだ。…だけど。

 

 

「でもそしたら父さんたちとお別れになってしまう。0か100かしか選択肢はないの。だから私は、この力と一緒に生きて行く」

 

「…いいの?」

 

「うん、姉さん。決めたの」

 

 

 この力は生まれた時から私と共にあった。これを捨てるのは、やっぱり違うと思う。父さんの子供で姉さんの妹って証なのだろうと思うから。これは繋がりで、責任だ。私にはこの力と一緒に生きて行く責任がある。

 

 

「それでね、提案があるの。父さんと姉さんはこれからも一緒にいてくれるとして、カールも…どうかなって」

 

「俺も?いや今のお前ならできるんだろうが…いいのか?俺はミランダもゼウ・ヌーグルも倒してお前が無事を確認すれば消えるつもりで…」

 

「お願い。現実でも、私を見守って、カール」

 

「マダオもおいでよ、レムナンツ!」

 

「お前なら歓迎するぞ?」

 

 

 私が上目づかいで長身のカールのサングラスをかけた顔を見上げ、姉さんと父さんが頷くと、カールは観念したように両手を上げる。

 

 

「わかった。わかったよ、降参だ。責任もってお前を見守ってやるぜ、いじめなんて論外だ」

 

「そいつは同感だ」

 

「三人でローズの心を守り抜こう!」

 

「やった!……じゃあ帰ろう、現実に」

 

 

 「力」を使い、浮上する。現実はこれからもこれまでだって辛いことの連続だろう。でも家族がいれば乗り越えられる、そう信じて私はこれからも生きて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスも知らない「力」をアンタで試してやってもいいんだよ?」

 

「彼に似て来たな」

 

「…知ってる」

 

 

 

 数ヶ月後。菌根の世界から戻ってきたローズの周りにある変化が起きた。まずは背後霊が増えたことだ。一人だけではなかったが。

 

 

『なにアイツ、いま私の妹を私の名前で呼んだ?しかもめっちゃ悪意ある感じで!』

 

『そうねえ。呼ぶならこんなちんちくりんより私の名前よね、わかってないわ』

 

『なんで菌根の力を使えて俺に似てきたのか、抗議させろ』

 

『そりゃあイーサンは菌人間だからな。…待てよ、ローズ貶されてるってことか?おいローズ、早く体を作れ。ぶん殴らせろ』

 

「ああもう、うるさい!」

 

 

 クリスの部下に送られた自宅で、ローズは自らについてきた四人(・・)を睨みつけると怯む背後霊たち。エヴリン、ゼウ・ヌーグル、イーサン、ハイゼンベルク。そう、ゼウ・ヌーグル。白髪の女性の姿をしたそれは、ローズが取り込んだ己の力の残滓としてレムナンツに加わったのである。

 

 

「…もう。なんかやらかしたら即座に消すからね。特にゼウ!わかった!?」

 

 

 ポケットに入れた菌根の欠片に力を注ぎこみ、四人の肉体を作り上げるローズ。これがもう一つの変化。レムナンツ達が実体を持って現実に出てくることが可能になったのだ。これからミアも合わせて全員そろってファミリーレストランで食事だ。特に美食に五月蠅いゼウ・ヌーグルにとっては至福の時間だった。

 

 

「油断したらローズの身体をいただいて……ごめん、嘘よ。だから私だけお預けとかやめてくれない?」

 

 

 未だに衰えない悪意を見せたら容赦なく己の身体を消し始めたローズに慌てて謝るゼウ・ヌーグル。ローズから力を奪い返そうと目論んでいるものの現時点の力関係は完全にローズが上であった。というか胃袋を掴まれているも同然だった。その光景を見て笑うイーサン、エヴリン、ハイゼンベルク。

 

 

「ローズがこいつにまで身体を作るなんて最初は反対だったけど面白いね」

 

「まあなにがあっても俺達が守るから問題はないだろう。妹ができたみたいで嬉しそうだしな」

 

「腹黒妹だがな。まさかローズの力の底上げがいじめを解決するとは思わなかったが」

 

 

 最後の変化はローズの力の底上げにより、他人に一時的に菌根の影響を付与できるようになった点だ。操るとかはローズの性格上しないが、クリスなど本来見えない人間でもイーサンたちを見せることが可能になった。その力により、ルーシーやキャサリンといったいじめっ子たちをレムナンツで脅して撃退したのは良い思い出である。

 

 

「ほら、行こう!父さん、姉さん、カール、ゼウ!」

 

 

 この世界で最も恐ろしい四人を従えた少女の笑顔は、その実とても輝いていた。




実は真のラスボスはミランダでしたと言う話。エヴリンが決着をつけていました。ある意味ミランダ救済ルートでもあります。罪が多すぎてエヴァの現状を知る事しか救いはないと思うの。

神も同然になったローズの力で復活のイーサンとハイゼンベルク。そして現実へ。ハイゼンベルクとちゃっかりゼウ・ヌーグルもレムナンツ入り。本編のエンディングとは矛盾が生じてますがこれもまた平行世界の一つということで。

いじめっ子も過保護なレムナンツに撃退されて、満面の笑みのローズでラスト。ここまで行くために長いことかかりました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ダイブEX【菌根の愉快な仲間たち】

どうも、放仮ごです。ローズ編のまとめです。あとがきで重大発表があります。楽しんでいただけたら幸いです。


・ローズマリー・ウィンターズ

 主人公。イーサンの娘でエヴリンの妹。生まれつき「力」のせいで不幸な人生を送り、「力」を捨て去るために菌根の世界を冒険する。原作と異なる点としてエヴリンとイーサンの存在があり、絶望するたびに元気づけられていた。そのため原作以上に精神攻撃に苦しめられる。ゼウ・ヌーグルとの対決で白き神としての力に目覚め、実質菌根世界の神とも言える存在となる。

 

 

・幻影エヴリン

 本編だけでなく7編の経験まで得た前作主人公ポジ。菌根の世界なためモノに触れられるようになり本編と異なり物理攻撃と衝撃波を得意とする。武器を持ったら手が付けられない。

 第一層では怒りに呼応して成長したりパワーアップしたり千変万化の大活躍を行うがゼウ・ヌーグルの策略であり、成長するだけしてから第二層で力を全て奪い取られる。それでもアグレッシブな性格は変わらないので斧を手に大暴れしたり相変わらず。

 第二層でイーサンがいなくなってからは一人でローズを支え続けた終身名誉お姉ちゃん。「エヴァ」としてミランダと決着もつけた。

 

 

・イーサン・ウィンターズ

 無事レムナンツ入りした、ローズとエヴリンの保護者である父親。破天荒な性格は相変わらず。第二層で逸れてからはシャルルと共にフェイスイーターの群れを薙ぎ払ってローズの所に追いついた武闘派。エヴリンが物理に強く育ったのはイーサンのせい。

 

 

・シャルル/カール・ハイゼンベルク

 菌根の世界に囚われていたところやってきたローズを過去の借りから「シャルル」として接触し助けていた男。原作におけるマイケルポジ。規格外な力は相変わらずだが、それ以上の相手だったため一矢報いるだけで終わった。エピローグではその怖い容姿でノリノリでいじめっ子を脅した模様。

 

 

・ケイ

 ハウンドウルフのケイナイン。ローズの友人。ミランダの作った幻影としてローズを菌根の世界に誘った。

 

 

・黒ローズ

エヴァの器になるかもとミランダに作られたローズのクローン。エヴリンとローズの負の感情を求めたゼウ・ヌーグルの手でローズデッドにされたり、仮面の公爵の作品としてローズガーディアンにされたり散々な目に遭う。支配者側からの扱いは体のいい素材でしかない。

 

 

・仮面の公爵/仮面の公爵獣(デューク・ビースト)

 第一層の支配者でミランダがデュークを参考に作った人形。黒ローズを弄び狩りと称してローズたちを追い詰めるサディスト。ゼウ・ヌーグルの暗躍により策を悉くはねのけられ、原作と異なり最終手段としてライカン化して襲いかかるも戦闘力はないため返り討ちにされる。エヴリンからはかつてのミランダを越える憎悪を向けられている。

 

 

・フェイスイーター

 第一層における雑魚枠。ボス級が全然いないため薙ぎ払われる役。

 

 

・エクスキューショナー

 原作における第一層のボス。頑強なのが災いしてオーバーキルばかりされた中ボス。

 

 

・ローズデッド

 最初のボス。磔にされて死にかけていた黒いローズたちが抱いた、父と姉を連れたローズへの嫉妬と、父と姉への怒りが黒領域とシンクロし融合、誕生した黒いローズたちのなれの果て。薔薇の様な形状の黒領域から肉体から八本の腕とモールデッドの様に変貌したローズの顔が飛び出している蜘蛛の様な悍ましい怪物。モチーフはサイコブレイクの貞子…もといラウラとアマルガムα。ゼウ・ヌーグルがローズとエヴリンの憎悪を増長させるためだけに生み出された怪物。

 

 

・ローズガーディアン

 仮面の公爵の傑作である薔薇の守護者。名前に反してローズを始末することに特化している。大量のローズの顔がひとまとめになっている気色悪い怪物。元ネタはサイコブレイク2のガーディアン。ゼウ・ヌーグルは特に関係ないしなんなら引いてる。鏡を見ろ。

 

 

・偽エヴリン(天の声)

 第二層の支配者。エヴリンの声と嗜虐的な性格で煽りに煽る存在。人形やマネキン人形を操ってエヴリンとローズを取り込もうと襲いかかる。あらかじめ設定したルールは厳守すると言う弱点がある。その正体はゼウ・ヌーグルがエヴリンを真似て擬態していたガワの様なもの。ガワを脱ぎ去り、真の支配者が現れる。

 

 

・ミアスパイダー

 複数のマネキン人形を組み合わせてエヴリンのトラウマを元に作った怪物。とあるホラーゲームの「あんちくしょう」を彷彿させる容姿と言動を要する。無事ローズもトラウマになった。

 

 

・マザー・ミランダ/マザータイラント

 最下層の支配者。ゼウ・ヌーグルから力を与えられクリーチャー化するが耐えきれずに自滅する。その後記憶の世界でエヴリンを道連れにしようと企むがエヴァだと伝えられてその幸せを確認し敗北、完全に消滅した。

 

 

黒き神(ゼウ・ヌーグル)(第一形態)

 マザー・ミランダの信仰と取り込まれた数多の記憶から生まれた、菌根そのものたる黒き神。大人の姿のエヴリンの姿に擬態している。ローズを赤ん坊の姿に変えたり、瞬間移動したり、エヴリンの衝撃波を集束させて返したり、衝撃波で拘束したり、肉体を自在に変形させたり、世界を破壊して一瞬で作り直したりと万能の神と言える存在。

 

 

黒き神(ゼウ・ヌーグル)(第二形態)

 四貴族とミランダの要素を併せ持ったクリーチャーに変貌した姿。かつて平行世界でアナザーエヴリンが変貌した姿と酷似している。ハイゼンベルクの大魔人やモールデッド・ギガントRを返り討ちにしたり、戦闘力はトップクラス。

 

 

・モールデッド・ギガントR

 イーサンとエヴリン、そしてローズが合体した最強形態。白く筋骨隆々で牙が生え揃ったオレンジ色の瞳の巨人。Rはローズとかリベンジとかリターンズとかそんな意味。白い体はローズの力を纏っており、ゼウ・ヌーグルの改変をはねのけることができる。必殺技はファミリーパンチ。

 

 

黒き神(ゼウ・ヌーグル)(本性)

 マザータイラントを食い破って出現したゼウ・ヌーグル自らがデザインした理想の姿。ドミトレスクをモチーフの一つにしている巨女。両腕の凶器化、背中からの翼や触手など、より攻撃に特化している。浄化結晶で自分に連なる力を強制返却することができ、菌根に連なる者ではまず勝ち目がない。浄化結晶を破壊してその力を得て白き神となったローズの力に敗れるも、奪い取られた力の残滓としてレムナンツ入りを果たす。本質は「空虚」であり常に腹ペコで人間やその記憶を捕食するが、レムナンツ入りしたあとは美食に五月蠅くなっている。ローズの尻に敷かれている「妹」で通称ゼウ。




「菌根の記憶」それは、マザー・ミランダが百年単位の昔から集め続けてきた人類の記録。これを用いてエヴリンは三年前の過去に戻り、「7」の物語を大きく変えた。

これは数多の可能性の物語。菌根が、ミランダの弟子であるオズウェル・E・スペンサーの元に送られジェームス・マーカスを始めとした研究者によって研究されミランダの一助となっていた世界での物語。エヴリンが巡る生物災害の記録。


BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】

file0【女王ヒル編】


近日公開。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】file0【女王ヒル編】
file0:1【なんでも餌にするのはいけないと思う(一敗)】


どうも、放仮ごです。祝150話。本編終わってもズルズルと続いてますがこれからもお付き合いいただけたら幸いです。

BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】file0【女王ヒル編】始動。プロローグなのでいつもの半分ぐらいと短いです。楽しんでいただけたら幸いです。


 1921年。ミランダの娘、エヴァがスペイン風邪で死亡。ミランダが菌根研究を始め、全てが始まる。

 

 1923年。のちの製薬会社アンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサー誕生。

 

 1951年。医学生であったスペンサーがルーマニアのトランシルヴァニア地方の雪山で遭難していたところを、ミランダに救助され、特異菌の研究や「感染によって生物を変異させる」発想に感銘を受け、ミランダを師として仰ぎ生物学の研究に従事する。

 

 

 

――――ここで本来ならば、次第に己と師の目的や考え方の違いに気づいてミランダの元を立ち去る、はずだった。この世界のスペンサーは阿呆だった。別に目的や考え方が違ってもその結果が同じなら関係なくね?と思い至って、独立し1968年に製薬会社アンブレラを設立してからも協力を惜しまず続けた。そのことからスペンサーを完全に同志として信用したミランダは、その研究をより強固なものにするべく、信頼の証としてある贈り物を行った。

 

 

 

 それが、この平行世界の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1980年10月。アークレイ山中、アンブレラ幹部養成所―

 

 

 むしゃむしゃ。なんかいつもと味の違う餌を同胞と共に咀嚼する。我が父が持って来た餌だから気にしないが、今日の父は上機嫌だった。我らの成長を我がことの様に何時も喜んでいる父だが、今日は特にテンションが高い。もう若くないのだから落ち着いてほしい。

 

 

「喜べ我が子等よ!スペンサーから始祖花とはまた異なる起源を持つゲノミクス……菌根と呼ばれる真菌生物のサンプルを譲渡されたから早速今回の餌に取り入れてみたぞ!これでお前たちは更なる進化を果たすだろう!ふはは、楽しみだ…」

 

「ですが所長。研究しろと言われたサンプルを一部とはいえヒルに与えるのはいかがなものかと…」

 

「あまりに未知数で悪影響の可能性も…」

 

 

 付き従っている年若いサングラスの研究者とその相方の研究者が苦言を呈すも、父は上機嫌で耳も貸さない。だが今回ばかりは父よりもその部下たちが正しかっただろう。その横に、先程までいなかった年端もいかない面妖な女が突如現れてこちらの様子を窺っていたのだから。

 

 

『え、あれ、もしかして本当に見えてる?やほやほ』

 

 

 私が目を見開いて驚いているのに気付いた少女はおどけるように手を開閉させてにっこり笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どこここ?』

 

 

 それは、いつも通りローズに体を作ってもらって、ローズ、イーサン、マダオ、ゼウと一緒にバイオハザードの歴史についてクリスから学んでいた時の事だった。始祖ウイルス…太陽の階段、始祖花とも呼ばれる植物から採取された、私の起源である菌根とは別の起源を持つウイルス。

 

 かの有名なT-ウイルスを始めとしたバイオハザードのウイルス全ての祖であるそれに、興味を持った私はあることを思いついた。ローズが操作している菌根から培養された体に今宿っているのだ。だったら、以前真エヴリンを救った時みたいに、菌根を通じて過去まで遡って実際に見ることができるんじゃなかろうか、と。

 

 特に菌根は、クリスが見つけた文書によると私の前世であるエヴァがスペイン風邪で亡くなったらしい1921年にはあったはずだから、結構前まで遡れるんじゃね?と、軽い気持ちでみんなには内緒で遡ってみることにしたのだ。ゼウがジーッと見てたから気付いてたっぽいけどね。

 

 

『えーと、アンブレラ幹部養成所…?アンブレラって、あの?』

 

 

 そして精神体の私が飛び出したのは、どこかの研究室。ミランダのかな?と思ったけどそうではないらしい。知らない白衣の男たちが忙しなくなにかを研究している。私は理系じゃなくて文系だからよーわからん。すると私が出てきたであろう菌根が一部をリーダー格と思わしき壮年の男が切り取ってどこかに持っていくのを見かけて、見えないことをいいことにふよふよとついていくと、なんかすごくデカいヒルが何匹も飼われているケージまでやってきた。なんでこんなにでかいの?端的に言ってキモイ。

 

 

 どうやらそのヒルたちの食事に切り刻んだ菌根を混ぜるらしく…ってそれは不味いよ!?今はその菌根が私の本体だから、それを捕食したらマダオやジョーみたいに……。

 

 

〈なんだこいつ〉

 

『え、あれ、もしかして本当に見えてる?やほやほ』

 

 

 なんかこのヒル知性があるらしく目を見開かれて見つめられた。とりあえず会釈しとく。え、今回の私の宿主ヒル……?か、帰ろうかな…………あ、待てよ?私、真エヴリン助けたときってどう帰ったんだっけ…………たしか繋がりが消えたからそのまま戻って…………やばっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――悲報。私、帰り方知らない。




アホの子エヴリン、痛恨のミス。女王ヒルくんと二人三脚始まります。

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file0:2【クイーン】

どうも、放仮ごです。まだまだ準備期間。とりあえず現状把握です。楽しんでいただけたら幸いです。


『1980年……えっと、2037年から数えて…………57年前!?』

 

 

 父が持って来て我等に学ばせようとしている新聞を見ながら頭を抱えてワチャワチャ動く謎の少女。どう考えても侵入者なのだが、父には見えてないらしい。私程賢いわけではない同胞には見えてるようだから、新しい餌とかいうのが原因なのだろうな、ともしゃもしゃ食べながら考える。

 

 

『半世紀以上前じゃん!イーサンまだ生まれてすらいないよ!?』

 

〈何を喚いている子供〉

 

『誰が子供じゃあ!こう見えても実年齢は三十路(みそじ)…じゃなくて大人だぞお!このチビ!』

 

〈誰がチビだ。これでも同族の中では最大だぞ、厚顔無恥め〉

 

『小難しい言葉を知ってたら偉いわけじゃないんだぞお!?』

 

 

 話しかけて見たらギャアギャアとヒステリックに喚く少女。なんだこいつ。この見た目でウェスカーとバーキンより年上だと?………いや、そんなわけがあるわけがないか。子供の戯言だろう。

 

 

『すっっっっっごく、失礼なこと考えてない?というかお前はなんなのさ。自我があるヒルってなに。どこに脳があるのさ』

 

〈我々は父曰く変異ヒルの群れ、そして私はその統率個体だ。お前こそ何者だ〉

 

『私はエヴリン。えっと……特異菌のB.O.W.……かな?』

 

〈なんで自分の事なのに疑問系なんだ。びーおーだぶりゅーとはなんだ〉

 

『え?バイオオーガニックウェポン………有機生命体兵器のことだけど……知らないんだー、おっくれてるー!』

 

〈なんだお前〉

 

 

 なんだこいつは。無知だと思えば私の知らない言葉を知っている。父の様な知性は感じられないがある程度賢いのは言動から分かる。2037年とかいう遥か未来のことを言ってたがそれはよくわからない。エヴリンを見てみれば、腕を組み脚で胡坐をかいてふわふわ浮きながら逆さまになって何か考えている様子だった。

 

 

〈どうでもいいが何を悩んでいるんだ?〉

 

『いやー、せっかく意思疎通できるし君の事なんて呼ぼうかと……』

 

〈変異ヒル統率個体だ。父がそう呼んでいるんだからそう呼べ〉

 

『長いしやだよ。そんな記号みたいな呼び方大嫌い。私の事をE型特異菌集合個体って言うようなものじゃん』

 

〈そう呼んでやろうか?〉

 

『やめて』

 

 

 真顔で応えるエヴリンから殺気の籠った目で睨みつけられてビクッと震える。同胞たちも怯えている。ッ他の人間を実験体にする父の様な無慈悲な感情を感じ取った。こいつは、他の命を奪うことに何とも思わない奴だ。

 

 

『よし、決めた。ヒルの統率個体ならつまり女王だ。クイーンって呼ぶよ』

 

〈勝手に決めるな。父はそう名付けてはいない〉

 

『父、父ってファザコンなの?』

 

〈ふぁざこん?〉

 

『? さっきからなんか変だな……あ、そうか。B.O.W,とかファザコンとかそう言う言葉がまだないのか、納得。気にしないでねクイーン』

 

〈勝手に納得するな〉

 

 

 新聞を置いて部下の二人と共に出て行った父。エヴリンに気を取られて父の観察をするのを忘れてしまってた。全部こいつのせいだ、許さん。

 

 

『帰るのはもう諦めるとして、せっかく来たなら後に起こる悲劇を何とか止めたいな…なんか情報あるかな?』

 

 

 そう言いながら新聞に顔を突っ込むエヴリン。物に触れられないからだろうが、躊躇なく顔を突っ込むその姿に引いてしまう。なんだこいつ。

 

 

『ろくなニュースないなあ、当分は情報集めかな。これから話し相手よろしくね、クイーン』

 

〈ふざけるな、ごめんだ。勝手にしろ〉

 

『だが断る』

 

 

 私に手があればこいつを喰い殺してやりたいと率直に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1981年7月。私がこの時代に飛んできてから一年がたった。正直言って最悪の一年だった。ここの所長らしいマーカスとかいうクイーンが父と呼ぶおじさんは部下を躊躇なくt-ウィルスの実験台にするし、その光景を嫌と言う程見てしまった。離れたかったが、話し相手のクイーンから離れるのは嫌だったし、アンブレラのウイルス研究の中枢のここを離れると悲劇を見過ごしてしまいそうでやめた。まあ私、物に触れないから止めるすべもないんだけど。……そう考えると菌根世界で大暴れしといてよかったな。20年分ぐらいの鬱憤は晴らせたと思う

 

 

『何々……【世紀の天才アレクシア・アシュフォード、10歳にして有名大学を首席で卒業】?…へー、私の方が天才だし?(震え)』

 

〈むしゃむしゃ。同じ10歳でも天地の差があるな〉

 

『何度も言うけど10歳じゃないから!あと食べながら喋るな行儀悪い!』

 

〈厳密には喋ってないぞ。お前が勝手に読み取ってるだけだ〉

 

 

 ぐうの音もでない。このヒル私より頭がいいんじゃなかろうか。クイーンは食事の合間にたまに話しかけてくれる。暇つぶしなんだろうが他に意思疎通の相手がいない私からしたらありがたい。この間菌根の一部で実験されてた人がいたけど間もなく死んだ。適性が無かったらしい。…意思疎通できる人間がいればだいぶ変わるんだけどなあ。

 

 

『にしてもマーカス、好き勝手してるなあ。絶対恨み買ってるよあれ』

 

〈父を悪く言うな〉

 

『そりゃあクイーンたちに見せる愛情は本物だけどさ、異常だよ』

 

 

 クイーンたちの父らしいジェームス・マーカスと言う人間はよくわからない。非常に優秀な科学者だし、人材育成の腕前は確かだ。このアンブレラ幹部養成所で優秀な人間を何人も出している。規律・忠誠・服従という決まりも細かく、従順な人間が多い。だが人間不信である様子で、一番弟子で今はアフリカで研究しているらしいブランドン・ベイリー以外信用せずに、変異ヒルに愛情を注いでいる辺り変人だ。ちなみに飾っている若い頃の写真はだいぶイケメンだった。…ブランドン・ベイリーってなんか聞いたことあるんだけどなんだったっけ。

 

 

 そう言えばどうでもいいけど研究員でマーカスの側近をしているサングラスじゃない方のウィリアム・バーキンがなんかアレクシア・アシュフォードにライバル意識を向けてたの笑った。どうやらアレクシアもアンブレラに就職するらしい。アレクシアと言えばクリスが戦ったというバイオハザード首謀者の一人の名前だ。この人たちも未来の悲劇に関わってくるんだろうな。どうしようもないけど。

 

 

 バーキンともうひとり、アルバート・ウェスカーは有望幹部候補として養成所に赴任してきたらしく、その才能にはさすがのマーカスも舌を巻いたらしく、研究室に篭り切りで人と会うことも稀だったのに直々に二人に指導・教育して、普段他人には絶対に触らせない自身の研究にもある程度参加させたりしているという話を研究員の噂話で聞いた。ある程度信用してるっぽいけど…………なーんか、信用できないんだよなあ。特にウェスカー。金髪グラサンとか信用できる要素が無い。

 

 

『というわけで警戒した方がいいよ、ウェスカーとバーキン』

 

〈どういうことでだ。そしてどう警戒しろと言うんだ。私は文字通り手も足も出ないんだぞ〉

 

『と言われても物に触れない私じゃ何もできないし……クイーンなら威嚇なりなんなりできるじゃん?これは友人としての忠告だよ』

 

〈友人?誰と誰がだ〉

 

『もうやだイーサンに会いたい』

 

 

 頭を抱える。クイーンが塩対応過ぎて辛い。一年会わないだけで滅茶苦茶恋しい。イーサン、ローズ、マダオ…ハイゼンベルク、ゼウ、ミア、ゾイ、ジョー、クリス……みんなに会いたいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、1983年の年末にアレクシアが亡くなったと言うニュースがあったり、1986年にバーキンの娘のシェリーが生まれてマーカスが珍しく祝ったりと、色々なことあった後の1988年。事件は起きた。




女王ヒルくんちゃん(性別が無いため)にクイーンと名付けるエヴリン。実はこの頃クイーンは女王ヒルではないため不服な模様(まだ単なる統率個体でしかない)。

バイオハザードの80年代は重要人物が生まれたりかなり怒涛。

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file0:3【なんでみんな私の真似をするのかな(半ギレ)】

どうも、放仮ごです。ある意味バイオハザード全ての元凶ともいえる例の事件の話。今章における基本スタイル確立です。楽しんでいただけたら幸いです。


 それは、何時も通りの、父が我々の研究を行っていた日常の最中。エヴリンが相変わらず逆さまで胡坐をかいてふわふわ浮いているのを見ながら、父にT‐ウイルスを注入されその効果を確かめるためにメスで切られて中を確認される、といういつもの実験だった。終わりは突如訪れた。

 

 

『え?』

 

 

 エヴリンが呆けた声を上げて、何事かと見てみれば突如実験室に入ってきた完全武装の男二人のサブマシンガン(MP5)が見えた。反応する間もなく、弾幕が掃射されて幾度も撃たれる父。

 

 

〈父!?〉

 

 

 奇声にしかならない悲鳴を上げるも、父が倒れた際に手がぶつかって床に落ちてしまい、這う這うで父に駆け寄る。ダメだ、見ればわかる。父がいつも実験で殺している者達に銃撃する際に見た、致命傷だった。ならばやるべきは復讐。直前に注射されたT‐ウイルスで上がったと実感していた身体能力で床を高速で這って突撃する。目指すは襲撃者の腹部だ。

 

 

「な、なんだこいつは!?」

 

「情報にあった変異ヒルだ!殺せ!」

 

『クイーン、逃げて!』

 

〈父を殺されて置いて退けるかあ!〉

 

 

 エヴリンが必死な顔で私の傍に近寄って戯言を吐くが、無視して全力を持って跳躍。襲撃者の一人に噛み付いて(はらわた)を噛みちぎりそのまま喰い破って体内に侵入する。手足はないが殺傷力が無いと思うなよ。地獄以上の苦しみを味わせてやる!

 

 

『うわあ、えぐい…』

 

「ぐあああああっ!?た、助けてくれええええ!?」

 

「く、くそっ!こんなに強いやつがいるなんて聞いてないぞ!ウェスカーさん!バーキンさん!」

 

〈なに?〉

 

 

 瞬間、実験室に入ってきた白衣にサングラスの男が足を揃えて膝で軽くしゃがみ、踏み出して私の入っている男の足を引っ掛けて下方向に向かって背中で体当たりしてきて、吹き飛ばされた男の中から排出される。内部にまでダメージが来た…何なんだ今のは!?

 

 

鉄山靠(てつざんこう)だ!?初めて見た!』

 

〈おのれ!〉

 

「おっと」

 

 

 ならばとサングラスの男……アルバート・ウェスカーに飛びかかるも、間に入ってきた金髪の男の手にした注射器を突き刺され、中身を注入されて私は力が抜けてそのまま床に転がってしまう。動けない、なんだこれは…!?

 

 

『クイーン!?どうしたの!?』

 

「マーカスを仕留め損ねたら使うつもりだった筋弛緩剤だが役に立ったな、ウェスカー」

 

「油断するなバーキン。こいつはT‐ウイルスを生み出した実験体だ、何が起きてもおかしくない」

 

〈ぐああああっ!?〉

 

 

 そう言ってウェスカーの靴に踏み潰される。これは駄目だ、私は蛭だ。硬い甲殻など持ち合わせてない。耐えるなど不可能だ、ここまでか……。

 

 

『どうしよう、どうしよう……』

 

「さて所長。スペンサー卿の命令でね。あんたには死んでもらう」

 

「私の娘に手を出されても困るのでね。T-ウィルスは私が引き受けますよ。フッハッハッハ!」

 

「ウェスカー・・・・・・。バーキン・・・・・・」

 

 

 そう父を見下ろして笑うウェスカーとバーキンに父が力なく手を伸ばしているのが見えて、怒りが募る。父はこの二人を信頼していた。確かにスペンサーとかいう父の友人とは父はなにか仲違いして争っていたが、父ではなくスペンサーを選んだこいつらを許せない。ブチュブチュッと液体の入った繊維が潰れる音が聞こえた。私の身体が限界を迎えているらしい、悔しい。

 

 

『あ、そうだ!お願い、言うことを聞いてみんな!』

 

 

 その時だった。エヴリンがなにやら叫んだかと思うと、ウェスカーがいきなり何かに殴り飛ばされて私は解放された。そして私を拾い上げたのは、人型の異形だった。黒い触手が複数の同胞たち…変異ヒルを結合させて、人型に形作って蠢いている。いつの間にかエヴリンの姿が消えていたかと思えば、エヴリンの声がその人型から聞こえてきた。

 

 

『うぇえ、気持ち悪い……けど、これしかなかった!名付けてリーチ・モールデッド!』

 

「な、なんだこいつは……変異ヒルなのか…?いや、だがこの黒い部分は……菌根か!」

 

「私は知らないぞ、こんな形態をとれるなんて!撃て!殺せ!」

 

 

 するとバーキンが恐れ戦いて腰を抜かしながら指示を出し、残った完全武装の兵士がサブマシンガンを乱射。しかしリーチ・モールデッドは変異ヒルから分泌した粘液を全身に纏って弾丸を受け止め、腕を伸ばして兵士を一撃で打ちのめすと、その隙に私を体内に取り込んだ。同胞たちが集まって来て、粘液で私の傷を癒していく。

 

 

〈エヴリン、なにをした?〉

 

『みんなの体内の私の一部(菌根)を繁殖させて合体させたの!今のみんなは私の一時的な肉体!クイーン、あなたの代わりに司令塔になってるの!全然言う事聞かないやんちゃばかりだけど!』

 

 

 見れば今にも崩れそうな肉体を菌根で縛って無理やり形を保っていた。無茶をする……だが、こいつはウェスカーとバーキンと違い信用できるらしい。

 

 

『よーし、このままやっちゃうよ!』

 

〈いや、無理だ!ウェスカーは強い、父を連れて逃げるぞ!〉

 

『え!?いいの!?』

 

〈我々なら傷を癒せるかもしれない!急げ!〉

 

 

 私の傷を治せたなら父にもできるはずだ。私の言葉に頷いたリーチ・モールデッドは左腕で父を担ぎ、もう片方の右腕を伸ばしてウェスカーとバーキンを押しのけると、そのまま研究室を出て廊下を走って行く。

 

 

「待て!全館に連絡!実験体が逃げ出して所長が殺された!総力を持って潰せ!」

 

『なんの!ライカンの群れとかモールデッド軍団に比べれば怖くもなんともない!』

 

〈父に傷を増やすな!絶対だぞ!〉

 

『ラジャー!』

 

 

 どうやらバーキンがアンブレラ幹部養成所全体に通達したらしい。目の前に次々と武装して現れる人間たちを腕を伸ばして薙ぎ払いつつ廊下を進んでいくリーチ・モールデッド。このまま外の世界に脱出する!

 

 

 

 

 

 

「…追わないのか、ウェスカー」

 

「なに。どう足掻いてもマーカスは致命傷だ。なにもできん。それに……面白い事例が見れた。菌根、アレは化けるぞ。さっそくスペンサー卿に許可をいただいて洋館のRTに投与してみるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息絶え絶えになりつつアークレイ山地の森の中まで逃げてきた私達。マーカスを木に寝かせると、限界が来て菌根が(ほど)けて変異ヒルの群れに崩れてしまい私は排出される。あー、気持ち悪かった。咄嗟にしては中々良策だったと思う。

 

 

『クイーン、大丈夫?』

 

〈まだ動けないが……指示は送れる。頼むぞ同胞たち、父を救え〉

 

 

 クイーンの指示で変異ヒルがマーカスに群がって粘液に沈める様は見ていて身の毛がよだつ。……だけど、多分無理だ。クイーンもわかっていただろうけど……。

 

 

『…もう、死んでるよ…』

 

〈いや、まだだ。傷を塞げばあるいは……〉

 

『死体を元に戻しても……生命は戻らないんだよ』

 

〈嘘だ〉

 

『私は教育の過程で医学を学んだからわかるけど、この傷は……』

 

〈私を騙そうとしているんだろ、そうだと言え!〉

 

『落ち着いてクイーン』

 

〈これが落ち着いていられるか! 私も致命傷から治ったんだ、父だって…!〉

 

『……クイーン。私達とマーカスは違うんだ』

 

〈っ………う、あああ……〉

 

 

 絞り出すような声を上げるクイーン。涙こそ流せないが、泣いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。私の目の前には少女がいて、マーカスが寝かされている木に背もたれて腕を組みつつ私を睨んできた。複雑な気分である。

 

 

「私達は奴等に、アンブレラに復讐する。そのためには情報が必要だ。スペンサーの居場所、目的…それをくじく方法。知りたいことはいくらでもある」

 

『うん、そうだね。そのために擬態が必要なのはわかるよ? だけどさ』

 

「なんだ。父が最後に投与してくれたT‐ウイルスで我らの力は覚醒した。お前のおかげで人型の構成の基礎もわかった。この程度造作もない」

 

『そうじゃなくてね?』

 

 

 私の目の前には、私と瓜二つながら険しい顔を浮かべた少女…クイーンと変異ヒルたちの擬態した姿がいた。しかも素っ裸にマーカスの白衣を羽織っただけの姿である。

 

 

『なんで私なのさ』

 

「お前が一番イメージしやすいんだからしょうがないだろう」

 

『そこはマーカスにしようよ…』

 

「偉大な父の姿を真似られるわけがないだろ」

 

『私に尊厳が無いとかそう思ってるのかなあ!?』

 

 

 もう一人の私といい、真エヴリンといい、ゼウといい、そっくりさんとばかり相対している私の身にもなってほしい。




現在の時系列:1988年、6月28日。まだ間に合う。

ウェスカーとバーキンによる暗殺事件。今作ではその罪をヒルたちに押し付けてます。

逆転の一手のリーチ・モールデッド登場。今後の主戦力となります。そして擬態としてエヴリンの姿を取るクイーン。本物との違いは表情となんかぬめっているのとぶかぶかの白衣以外何も着てないところ。まだ擬態の精度が悪いからしょうがないね。

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file0:4【洋館の禁忌、リサ・トレヴァー】

どうも、放仮ごです。前回の彼女の情報で感想欄が湧きたってましたね。でも大方の予想の斜め上を行きまっせ。楽しんでいただけると幸いです。


 あれから三日後。マーカスの死体を何体かの変異ヒルに任せ、周囲を探索した私達はアークレイ山地にある洋館に潜入していた。クイーンは事故に遭い森を彷徨っていた少女と言う設定に文字通り擬態し、洋館の人間に取り入っている。恥ずかしいからやめてほしいがスパイに向いてるなと思った。その間に私が探索していると見覚えのある二人を見つけて追いかける。

 

 

「アルバート。RTというのはなんなんだ?」

 

「リサ・トレヴァー。アークレイ研究所の最高機密ではあるが、噂は聞いていた。1967年、洋館を設計したジョージ・トレヴァーの当時14歳だった娘が母親と共に幽閉されてウイルス実験の被験者にされて監禁されていると……通称RTとして研究員の間で噂されていたことをな」

 

「この趣味の悪い洋館の設計者の娘か。私の娘がそうなっていたらと思うとゾッとするよ」

 

 

 カツカツと靴音を立てながら洋館の秘密の通路から地下に降りて行くウェスカーとバーキンをふよふよと浮いてついていく。ついていくだけで情報をもらえるのはありがたい。

 

 

「ウイルスに適応した様だが、やがて意味のある研究成果を得られなくなり、それ以後何度廃棄処分にしても死ななかったことから研究員達からは「生き続けるだけのデキソコナイ(出来損ない)」と侮蔑されているようだ。今は35歳だがまともな成長をしておらずまだ若さを保っているらしい。我々はそのデキソコナイに生きる意味を与えに来たと言う訳だ」

 

「それがこの「菌根」と「ネメシス・プロトタイプ」か」

 

 

 そう言うバーキンの手の持つ二段のケージには、菌根…の一部と、よく分からない触手が蠢く肉塊が入れられていた。菌根もヤバいが、どう見てもヤバい代物である。

 

 

「ウィリアム、お前の作ったT‐ウイルスの傑作「タイラント」の研究が適性のある被験者の不足から行き詰まっていただろう?尋常でない生命力からリサ・トレヴァーが再び被験体に選ばれらしくてな。ヨーロッパの研究所より送られたその寄生生物「NE-α型」…通称「ネメシス」のプロトタイプを投与しようということらしい」

 

「なるほどね。タイラントが完成する礎となるんだ、光栄だろうな」

 

『こいつら嫌い』

 

 

 思わずぼやきながらついていくと、研究所らしきところに出た。幹部養成所より設備がしっかりしてる印象だ。まああそこ、マーカスが研究できればそれでいい所あったしなあ。そして辿り着いたのはガラス張りの部屋が一望できる隣接した趣味の悪い部屋。二人が待っていると、ガラス張りの部屋の奥の壁が開いて武装した兵士数名に連れられて何かが入ってきた。

 

 

「…ママ?」

 

『…うわあ』

 

 

 それは一見、見目麗しい少女だった。しかしよく見ればウイルスの影響か右目が肥大化して顔の半分を覆っており、虚ろな表情を浮かべているがこちらの気配を感じ取ったのか視線を向ける。灰色の病衣を着せられたその四肢と指は異様に細く長く、手錠を付けられた手を床について猫背で歩いている様はゴリラの様にも見える。その異様な姿を見たウェスカーとバーキンは絶句する。気持ちは分かる。こいつらにも人の心はあったか。

 

 

「異様にも程があるぞ。どう育てばこうなる?」

 

「まったくだ。だが被験体としてはちょうどいい。用意しろ、早速投与実験を開始する。生き延びることを祈ろう」

 

 

 あれがリサ・トレヴァー……思い出した、クリスに教えられた…私とよく似た境遇だという少女の名だ。実年齢が35だということもなんか親近感がわく。…たしか、彼女から数多のウイルスが作られたという話があったはずだ。

 

 

『これだ。クイーンのアンブレラの復讐を遂げるためには、リサが必要だ』

 

 

 そう思い至った私は天井を抜けて洋館に戻る。目指すは今もかまととぶっているであろうクイーンの元だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、父と逸れて途方に暮れて……」

 

『クイーン!クイーン!トイレに来て!』

 

「っ!…あの、ちょっとトイレに……」

 

「ああ、それならそこを曲がって左の突き当りだ」

 

「ありがとうございます!……チッ」

 

『似合わないの自覚してるのは分かるけど舌打ちはやめた方がいいよ』

 

 

 警備員と対面して話していたクイーンに語りかけ、愛想よく振りまいていたものの去り際に舌打ちしたクイーンに注意しながら一緒にトイレに向かう。そこのダクトからなら地下の研究所までヒルに分離して行けるはずだ。

 

 

『ダクトに来て!』

 

〈なにかわかったのか?〉

 

 

 トイレに入るなり躊躇なく素っ裸になり白衣を丁寧に畳んで、私の姿を崩して複数のヒルに分離。白衣を粘液で取り囲んで袋の様にして引っ張りながらダクトに入り込むクイーンの傍の地中を顔だけダクトに出しながら浮遊しつつ私はことのあらましを説明する。

 

 

〈あの二人がここに…そのリサとかいう人間を奪えば度肝を抜けるな〉

 

『うん、それだけじゃない。アンブレラの計画を遅らせることもできる。リサは救う価値ありだよ』

 

〈作戦はあるのか?〉

 

『ないね!』

 

〈お前に期待した私が馬鹿だったよ…〉

 

 

 クイーンに呆れられながら、地下研究所のダクトまで来た私達は、人気(ひとけ)のない部屋でクイーンが人型に戻ってから研究員の目を掻い潜って、私の案内でコソコソ進む。と、いきなり目の前の部屋から誰か出てきて硬直する。

 

 

「んあ?なんだ?子供の研究者…?まあアレクシア・アシュフォードみたいなのがいるからおかしくもないか…ふああ、トイレトイレ…」

 

 

 そう言ってトイレに向かう研究者。…どうやら寝ぼけ頭で白衣を着ているクイーンを見たからか勘違いしたらしい。アレクシアに感謝だ。よく見れば裸足とかおかしいところはいくらでもあるのにね。

 

 

『冷静になったらばれそう、急ごう』

 

「ならそろそろリーチ・モールデッドになっておくぞ。この顔を知られたら後から使えなくなるからな」

 

『使えなくなる方がいいんだけど…そうも言ってられないかっと』

 

 

 クイーンの身体に飛び込む私。同時にモールデッド・ギガントの要領で変異ヒルたちの体内の菌根を繁殖させて擬態を解き、人型のヒルの集合体となり構成を固める。リーチ・モールデッドの完成だ。

 

 

「…体の主導権を奪われるのは慣れないな」

 

『今のうちに慣れといて!行くよ!』

 

 

 ヒタヒタと足音を立てねばつく足音を残しながら歩いて行く。途中出くわす研究者は声を出す前に伸びる腕で拘束して口を塞いで粘液に閉じ込めて捨て置き、例のガラス張りの部屋の前までやってくる。

 

 

『うおりゃあああ!』

 

 

 右腕にヒルを集めて肥大化させ、扉を殴りつけると、何やら背中にあのケージの中にいた肉塊を付けられてそこから黒い触手を伸ばした姿となってなお鎮静剤かなんかを打たれたのか大人しいリサがいて。そのリサから採血していたバーキンと、その背後に立つウェスカーが驚いた顔でこちらを見ていた。

 

 

「なに……変異ヒルのバケモノだと…!?」

 

「逃がしたと報告を受けていたがここまで来ていたとはな!」

 

『っ!』

 

 

 バーキンは驚いて身動きが取れないでいたが、ウェスカーは躊躇なく頭部への攻撃をしてきたので咄嗟に右腕を粘液で固めて受け止めると、腰に前蹴りが叩き込まれて呻く。ダメージは私まで来るのか、なんて格闘能力だ…今まで戦った相手が能力特化ばかりだったから厄介過ぎる!

 

 

「どうした、その程度か?」

 

 

 体勢が崩れたところをネリチャギの様な技で頭から踏み潰されるも、クイーンが粘液で囲ってなんとか防御。そのまま粘液でウェスカーの足を絡め取り、立ち上がって無理やり脚を持ち上げさせる。

 

 

「ぬっ…!?」

 

『隙あり!』

 

 

 そこに、ヒルを集めて肥大化させた拳を叩き込んで壁までウェスカーを殴り飛ばす。そのままついでにバーキンも殴り飛ばし、ぐったりしているリサを肩に担いで持ち上げる。

 

 

「ま、待て!」

 

 

 バーキンが持っていたらしいハンドガンで腹部を撃たれてやられたヒルが転がるも気にせず私達は研究所内を駆け抜けて、立ちはだかる研究員を千切っては投げ千切っては投げ…まではしないけど薙ぎ払い、洋館に脱出。裏庭に出て、使われてなさそうな建物にとりあえず入る。

 

 

『………ここまでくれば大丈夫かな?』

 

「これがリサか…本当に人間か?」

 

『どんな姿になろうと人の魂があれば人間だってクリスが言ってたよ』

 

「クリスとは誰だ」

 

『うーん…私の先生?』

 

 

 さて、とりあえずリサを担いで森の中を逃げるのは無理があるし、リサが目覚めるのを待つとしようか。




というわけでリサ救出ルートでした。

・リサ・トレヴァー
バイオハザード リマスター版に登場するクリーチャー。母親を求めて女性職員の顔を剥いでコレクションにするなど危険な怪物。彼女からGウイルスが生まれたりなど、バイオシリーズを通してもかなりのキーパーソン。今回のはまだあの姿になる前の状態。実年齢35歳だが半分異形の美少女の様な顔をしていて、全てを諦めているからか大人しい。菌根とネメシスプロトタイプを埋め込まれたようだが…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:5【悪夢からの脱出】

どうも、放仮ごです。いつもより早い更新となります。仕事が休みで筆が乗ったからしょうがないね。リサが登場したのを見るのがまだと言う方は前回からどうぞ。

今回は洋館からの逃走。楽しんでいただけると幸いです。


 今日も夢を見る。幸せだったあの頃の夢。パパ、ママ、友達……みんなの顔が浮かんでは消える。消えて行く…もう20年近く前のできごとだ。覚えていることの方が少ない。だけど、あの日の事は鮮明に思い出せる。パパが設計したと言うアークレイ山地の洋館の完成記念パーティーにお呼ばれした私達トレヴァー家。パパは遅れてやってくるらしいのでママと二人で先に向かったところ、パーティーとは名ばかりで、秘密だらけの洋館を作ったパパとその家族を口封じするための口実でしかなかった。私とママは囚われ、そして……あの注射を打たれた。

 

 

「ママ!ママ!」

 

「リサ…ごめんね、ごめん…ね…」

 

 

 椅子に拘束されて向かい合った状態で同時に注射を打たれ、目の前でママが苦しみ悶えて痙攣し、最期まで謝りながら血の泡を口から噴き出して崩れ落ちてそれっきり動かなくなるのを目にした。目にしてしまった。

 

 

「ママ…ママ!うっ!?ぐっ……」

 

 

 あまりの出来事に呆然としていたが我に返りママに呼びかけていたところに、ママを襲ったであろう苦しみが私を襲ってきた。骨が砕け、肉がちぎれる音がして激痛が襲いかかる。右目が充血して視界が半分真っ赤に染まる。身体を作り変えられているんだ、とそう確信した。そんな苦しみが三日間続いた。私がなにをしたっていうの?私まだ14才なんだよ?スクールで、友達と一緒に笑っていたはずなのに。なんで、こんな目に。

 

 

「おお!始祖ウイルスが定着しているぞ!実験は成功だ!」

 

「げふっ!?…フゥウウ!」

 

 

 もう何度目になるか。口に溜まった血を吐きだして口の端から垂らしながら目の前の研究員らしき男を睨みつけ、咄嗟に縛られて動かない筈の手を動かしていた。すると縄がちぎれて自由になった右腕が男の顔を掴んで壁に叩きつけてトマトの様に潰した。見れば、私の右腕は異様に長く、細く、しかして強靭に変容。指も細長く鋭いものになっていて、血に塗れたそれを見た私は、私が人でなくなって、人を殺してしまったのだと察してしまった。

 

 

「ママ…ママ…!」

 

 

 全身を駆け巡る激痛。異様に広がった右の視界。人を殺してしまった罪悪感。床を引き摺る指が鉄筋コンクリートを引き裂く感覚。騙され、ママを殺された憎悪。人でなくなった嫌悪感。思考がぐちゃぐちゃでまとまらない、咄嗟にずっと放置されていたママ…だったものに手を伸ばす。同時に、異様に広がった右の視界が、私達を映すガラスの壁を見た。見てしまった。

 

 

「あ、あ……アァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 そこにいたのは、白い病衣を着た、四肢が異様に細く長く伸びて、細長く鋭くなった指を引き摺っている、巨大な充血している右目が顔の右半分を覆い尽くしたバケモノだった。残る顔が、これは私なんだと嫌でも教えてくる。私は発狂し、ママの死体を置いてガラスの壁を殴りつけた。硬質ガラスなのかビクともしないが、何度も何度も殴りつけると罅が入ってきた。どうやらパワーも異常になっているらしい。

 

 

《「取り押さえろ。こいつは使える。コードネーム“RT”として最重要機密に設定する」》

 

 

 すると男の声が聞こえてきて私は壁と一体化していた自動ドアから入ってきた武装した兵士に撃たれ、直撃を受けながらも一人の首を掴んで長い腕で天井に頭から叩きつけてぶら下げる。

 

 

「アァアアアアアッ!」

 

 

 そのまま別の兵士を殴り飛ばして硬質ガラスの壁に叩き付け、怒りをぶつける様に何度も何度も拳を振り降ろして滅茶苦茶にする。しかし更に兵士が入って来て銃を私に連射。何発も受けた私は抵抗しようとするも、眠くなりそのまま崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っママ!」

 

 

 飛び起きる。微睡みの中で最初の記憶を垣間見ていたらしい。辺りを見渡すと、どこかの応接室の様な部屋だった。立ち上がり、置いてあった鏡を見れば変わらぬ、いや変わり果てた姿の私がいた。手錠は何か強力な力でねじ切ったのか近くに転がっていた。

 

 

「ァア…」

 

 

 ろくに会話していないため掠れた声が漏れて落ち込んでいると、ぱたんと扉が閉まる音が聞こえて、振り返る。そこには双子?と思われる、裸の上から白衣を着ている様にしか見えない黒髪の険しい顔の少女と、その横でふよふよと浮かんでいる(?)、黒いワンピースを着た黒髪で柔らかい表情の少女がいた。

 

 

「ご、ごーすと…?」

 

『失礼な。私は幽霊じゃないよ。…あれ、残留思念だし幽霊みたいなもんか?ねえどうなんだろ、クイーン』

 

「知るか。…やはり菌根を埋め込まれたからかエヴリンが見えるようだな」

 

「えヴ、りん…?」

 

 

 思わず身構えると、白衣を着たクイーンと呼ばれた少女が手にした袋…に見える粘液の塊から水の入った瓶と梱包されたパンをいくつか取り出して私の前に置く。思わずお腹が「くう」と鳴った。

 

 

「必要だと思って調達してきた。食え」

 

『リサはそんな姿でも人間だもんね?思念体の私とヒルのクイーンと違ってちゃんとしたものが必要だと思ったんだ』

 

「う、うう……」

 

「そんなに心配しなくても毒は盛ってない。私達は、お前の味方だ」

 

『もうちょい優しく言えない?クイーン』

 

「これから一緒にいるんだぞ。嘘を吐いてどうする」

 

 

 そう仏頂面で言うクイーンと注意するエヴリンに、毒気を抜かれていた。私は涙を流しがら未だに慣れない長い手で水を飲み、パンを一心不乱に食べた。美味しかった。これまで出されていた必要最低限の濁った水と腐ったパンの何千倍もよかった。涙が溢れる。人間扱いされるのがこんなに嬉しいだなんて。何年振りだろう。

 

 

「さて。落ち着いたか?まず名乗ろう、私はクイーン…と呼ばれている。人間ではない。変異ヒルの集合体で私はその統率個体だ」

 

 

 一瞬、少女の姿をばらけさせてそう言うクイーンに度肝を抜く。人間じゃなかったんだ…。

 

 

『私はエヴリン。貴女に埋め込まれた菌根の……えっと、意識みたいなものかな?厳密には別にいるんだけど。菌根を取り込んだ者にしか見えない美少女だよ!』

 

「自分で美少女言うのか…」

 

『だってリサ、すごい美少女なんだもん!』

 

「わたし、は……うつくしくなんて、ない……みにくい、バケモノだ」

 

 

 鏡に映る我が身を見てそう自虐する。人じゃない二人よりも私の方が人間じゃないみたいなんだもの。笑えてくる。

 

 

『そんなことないよ!…見るからに異様に細胞が増長して眼球が大きくなった感じかな?』

 

「背中のそれも剥がせなかったからなんとかしないとな」

 

「せな、か…?」

 

 

 背中を鏡に映して右の視界に納めると、そこにはリュックサックの様に肉塊が病衣を破って背中に癒着していた。今までにない変化に、絶句する。

 

 

「なに、これ…はが、して……」

 

「そうしたいのはやまやまだが完全にくっ付いている。引き剥がすとしたら大けがになるぞ。そしたらここから逃げれなくなる」

 

『我慢してもらうしかないかな…』

 

「……にげ、る?」

 

 

 恐らくここは洋館のどこかなのだろうとはわかっていた。ここから逃げ出す?私を連れて、か?

 

 

『そうだけど…ここにいたい、とか言わないよね?』

 

「わたしに、いばしょは……ない。しにたくても、しねない、だからここに……」

 

「ふざけるな。お前は生きているんだろう?アンブレラのクソどもにいいように扱われて、それでも生きている!生きたくても生きられなかった私の父の様な存在もいる!なのに諦めるだと、ふざけるな!」

 

『落ち着いて、クイーン!』

 

 

 クイーンに病衣の胸ぐらを掴まれて少女とは思えない怪力で持ち上げられる。その顔は怒りに満ちていて、泣きそうだった。

 

 

「容姿なら私が何とかする。お前を乗っ取って支配下に置こうとしているそのネメシスとかいうのもエヴリンが何とかする。だから諦めるな!私もお前と同じ、アンブレラに恨みを抱く者だ。共にアンブレラをぶっ潰そう。そして幸せに生きてアイツらを見返してやるんだ!」

 

「くいーん……」

 

『私は特にアンブレラに恨みはないけど許せないのは同じだよ!一緒に行こう、リサ!』

 

「……わたし、は……いきたい、まだまだ、やりたいことが、いっぱい…ある。ママをころして、わたしをこんなすがたにした、あいつらゆるせない……やら、せて」

 

 

 私は決意を二人に伝える。やってやる…あいつら……アンブレラに復讐してやる。

 

 

「そう来なくちゃな。まずお前を脱出させる。お前さえいなくなれば奴等の研究は水の泡だ。エヴリン、脱出ルートは?」

 

『それなんだけど……ねえクイーン。リサを擬態させることってできる?』

 

「楽勝だ」

 

「あう…?」

 

 

 瞬間、私は大量のヒルに崩れたクイーンに襲いかかられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

〈あんまり無駄口を立てるな、ばれるぞ〉

 

『でもこれなら美人な研究者にしか見えないね』

 

 

 やったことは簡単だ。クイーンたちがリサの表面に纏わりつき、異形の四肢を普通に見せ、顔も異形の右目を覆い隠して本来の美少女の顔に変えて、マーカスの白衣と途中で殴り倒した研究員から拝借した服を着て、堂々と外に出るのだ。黒髪をふんわりセミロングにした美女が歩いているのは目立つが、逆にこれなら逃亡中の実験体とは思われないだろう。

 

 

「おいお前。見ない顔だな。いや、見覚えがあるぞ…?」

 

 

 すると洋館のエントランスまで来たところで、遠巻きに見ていただけの研究者の一人がリサに呼びかけた。バーキンだ。焦りに焦る私たち。不味い、バーキンはリサの顔を半分だけど知っている…!こうなったら……!

 

 

『リサ、胸ポケットに拳銃がある!』

 

「! うご、くな」

 

 

 バーキンの胸ポケットに手を突っ込んでハンドガンを手に取り、頭部に突きつけて後ずさるリサ。いきなりの出来事に硬直していたバーキンだったが、すぐに気付いたのか驚きの表情を浮かべる。

 

 

「まさか。RTか!?どうやってもとに…」

 

『リサ、このまま逃げて!外!』

 

「ま、待て!」

 

 

 私の指示に従い、扉から外に出る私達。粘液で扉を固めて出られないようにしたうえで、リサは全力疾走する。

 

 

「これが、そと…!」

 

「そうだ。私も感動した」

 

「これが、じゆう…!」

 

『うん、そうだよ!自由!』

 

 

 擬態を解いて人型に戻ったクイーンと共にリサが意気揚々と夜の森を駆け抜ける。私達実験体にとって「外」と「自由」はかけがえのない物だ。リサとも仲良くなれそうだなと、そう思った。




リサの当時の描写を書いてみましたがこれは妄想なので原作がこうだったとは限りませんのであしからず。

現在はクイーンの擬態で人間態を取ることができるリサ。元に戻すにはまだパーツが足りません。口調もおぼつかず。現在のリサの状況は、始祖ウイルス投与→改良型始祖ウイルスを長年にわたり何度も投与→用済みとして排除されそうになり不死性獲得+菌根とネメシスプロトタイプ投与→今ここ。

ネメシスって生物に寄生し、延髄で肥大増殖して新たな脳を形成、宿主の身体を乗っ取るという能力を持つんですが、リサだけ例外なんだそう。この子のポテンシャルが高すぎる。

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file0:6【試作B.O.W.type-y139スティンガー】

どうも、放仮ごです。この時期にこいつらがいたかどうかはちゃんと原作で明言されてないので、いたってことにして出してます。楽しんでいただけると幸いです。


 リサが逃亡した直後、こんな会話が行われていたのを私達は知らない。

 

 

「ウェスカー、どうする?変異ヒルの一部とRTの血は手に入れたが本体がいなければ研究は滞るぞ」

 

「マーカスが生前、T‐ウイルスを用いていざ作ったはいいが、知能が低く有用性がないため量産されなかった試作B.O.W.を使おう。なに、どうやっても奴は死なない。殺してでも連れて帰る様に命令しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中を彷徨っていた私達は、森の中を通る線路の上を走っていた列車に飛び乗って4号車である客車の座席で休んでいた。

 

 

『黄道特急……運転手と従業員以外乗ってないけどだからこそ乗り込めてよかったね』

 

「アンブレラ幹部養成所と都市を繋ぐアンブレラ社が所有する私設列車だから油断こそできないが、当分はゆっくりできるだろう」

 

「…本当にゆっくりできる、の?」

 

 

 恐らくは物資補給したあとの帰りの列車なのだろう。幹部養成所とは逆方向に走っていたのを、クイーンの粘液を利用してくっ付けて張り付くことで入ることができた。リサにはちょっと狭いだろうけど我慢してほしい。

 

 

『さて、リサをどうするかなあ』

 

「顔は我々の粘液でどうにかできるが……四肢と背中は擬態させるのが精一杯だ。なんとかなるか、エヴリン」

 

『戻すというか形を変えることならできるかもだけど…体をいじくり回すことになるけど、いい?』

 

「いい。事前になにか言ってくれるだけ、あいつらよりマシだから」

 

『本当に苦労したんだね…』

 

 

 黄道特急に揺られながら、クイーンと二人がかりでリサの変容に取りかかる。クイーンが手に分泌した粘液を目を瞑った顔の右側に押し付けてこねこね。治癒能力がある粘液を浸透させていく。私はリサのなかに飛び込んで、内部の菌根の欠片に働きかけ、カビで覆うようにして四肢の形状をごく普通の形状に変容させる。モールデッド化の要領だ。手首から指先まで黒いけど、ごく普通のすべらかな手に変形できた。

 

 

『よしよし、後は手袋なりで誤魔化せるかな。…あとはネメシスとかいうのだけど…!?』

 

 

 そして気付く。背中にくっついているネメシスプロトタイプとかいうのヤバい。もう一つの脳みたいな機関を生成してリサの自我を乗っ取ろうとしてる。私にも魔の手を伸ばしてきたので慌てて飛び出る。

 

 

『リサ!』

 

 

 見れば背中のネメシスプロトタイプから触手伸びて、クイーンが綺麗に戻した顔の耳から触手を挿入しようとする光景があった。クイーンが気付いて触手を掴んで引き剥がそうとしているがビクともしない。

 

 

「この……同胞を失ってたまるか!」

 

『クイーン、頑張って!リサ、負けないで!』

 

「ぐうううっ……うあああああああっ!」

 

 

 背中から触手を沢山伸ばし、クイーンを持ち上げ座席を破壊しながら咆哮を上げるリサ。両腕も元に戻ってしまって暴れて座席を薙ぎ払っている。すると運転手が異常を察知したのか黄道特急に急ブレーキがかかる。

 

 

『やばい、止められた!追手が来る!』

 

「もう3キロは離れたぞ!何が来るって言うんだ!」

 

「うがああああっ!?」

 

 

 更にリサが一声吠えて座席に投げ出されるクイーン。私はクイーンと重なりリーチ・モールデッドになってリサを物理的に押さえにかかる。粘液で固めて、それからどうする!?もう無理矢理ネメシスプロトタイプをひっぺがす!?でもそれだと………そう考えていると伸びてきた触手の一撃が私達を貫いた。

 

 

『がはっ……』

 

「エヴ、リン…!」

 

 

 リサの悲鳴が上がる。自分の胸を貫かれたようなダメージが響き、私は排出される。どうやらクイーンは擬態を構成していたヒルの一匹をやられたらしいが特に意も介さず触手を握って引きちぎっていた。わーお、頼もしい。

 

 

「やめ、ろ……二人は、友達、だ…!」

 

 

 すると不思議なことが起こった。リサが怒りを見せて力むと、ネメシスプロトタイプは溶け込むようにしてリサの背中に吸収、取り込まれてしまったのだ。触手が数本背中から伸びていたが、すぐに引っ込んでいく。腕も私が変容させた状態にまで戻った。その姿はどこからどう見ても美少女で、異常は…服装が奪った研究員の男物の服と言うことぐらいしかない。どうやら体内の菌根とネメシスプロトタイプを完全に御したらしい。確かにこれは研究されてもおかしくない異常性だった。

 

 

「はあ、はあ……ごめん、二人とも。大丈夫、かな?」

 

『あれ。なんか知性上がった?』

 

「ネメシスプロトタイプを取り込んだからか?ああ、一匹やられたが許容範囲だ」

 

 

 すると揺れが収まって気のせいだと思ったのかまたゆっくりと走り出す黄道特急。よかった、これで追手の心配も……次の瞬間、ガシャンと車体に何かが乗り上げる音が聞こえた。不味い、なんか来る。シャカシャカと言う足音と、金属を引き裂く音。そしてそれは上まで来ると、突如横からハサミがついた甲殻に覆われた腕が伸びてきてリサの右腕を肩口から切断。さらに天井を突き破って湾曲した針を持つ尻尾が伸びてきて、リサの背中に突き刺さった。

 

 

「がああっ!?」

 

『リサ!?』

 

 

 そのまま持ち上げられ、二階を抜けてその上、車体の上まで連れてかれるリサ。私は急いで浮上して外に飛び出て、クイーンも一度分離して穴から這い登って続く。そこにいたのは、巨大な蠍のクリーチャーだった。

 

 

『こいつはたしか、スティンガー!?』

 

「知っているのかエヴリン!」

 

 

 巨大蠍、スティンガーの前で人型に戻りながら尋ねてくるクイーンに、そりゃ知るわけないよねと思い出す。

 

 

『一年ぐらい前にマーカスが研究していたT‐ウイルスを用いた生体兵器の試作品だよ!試作B.O.W.type-y139スティンガー!戦闘力は高いけど単純な命令にしか従わないからって檻の中に入れられてどっかに連れて行かれたけど!菌根使った後のクイーンのT‐ウイルスから作られたから多分私が見えてる!』

 

「つまり私と同じ父の子か!だが聞き分けのないやつは、こうだ!」

 

 

 クイーンが粘液を纏い硬質化させた右拳を振り上げて甲殻に叩きつけると、スティンガーは怯み反撃とばかりにハサミを突き出して何度も開閉させる。あんなのに斬られたら真っ二つだ。

 

 

「くそっ、足場も悪いってのに厄介な…!」

 

 

 私は幽霊みたいなものだから関係ないけど、実体のあるクイーンは走る列車の上で戦っている。足からの粘液で足場にくっついているみたいだけど、吹き飛ばされたらアウトだろう。

 

 

 

『中に引きずり込んで!』

 

「私には無理だ!…リサは!」

 

「はーなーせー…!」

 

 

 リサを見れば、右腕を失いバランスを崩しながらもじたばたと暴れてもがいている。背中から串刺しにされた程度では意味ないらしい、それぐらい酷いことを受けてきたってことなんだろうけど悲しくなってきた!すると片腕じゃ引き抜けないことに気付いたリサが何やら集中する。次の瞬間、ずりゅんと切断された傷口から異形の右腕が生えてきて、その鋭い爪と長い腕で尻尾を引き裂いた。

 

 

「ギシャアァアアアアッ!?」

 

『再生もできるんだ…』

 

「恐らくネメシスプロトタイプの力だ」

 

「邪魔!私に、任せて!」

 

 

 斬り裂かれた尻尾が背中に突き刺さったまま着地し、引き抜いて投げ捨てるリサ。そのまま左手の変容も解いて長い両腕でハサミの付け根を握り、スティンガーと力比べを始めると、そのままスティンガーが開けた穴から無理矢理スティンガーを車内の二階に引きずり込んだ。

 

 

「ここなら自由に戦える!うおおおおおっ!」

 

「死ね、死ね、死ね、死ねえ!」

 

 

 クイーンが穴から飛び降りてきて背中に飛び乗り、右手を押し付けて粘液を垂れ流してスティンガーの動きを拘束していき、リサが何度も何度も両手の爪を叩き付け甲殻をバターの様に引き裂いて行く。スティンガーは腕を懸命に伸ばして私とリサとクイーンを斬り裂こうとするも、私はそもそも擦り抜けるし、クイーンは胴体を真っ二つに斬られても元々ヒルの集合体なので即再生。リサに至っては背中から伸びた触手で受け止められ斬ることも叶わなかった。もう使いこなしてる…。

 

 

「ギシャ、ギシャアアアアアアアッ!?」

 

 

 そのままスティンガーは粘液で窒息させられ動きが止まったところにリサの渾身の引き裂きが炸裂。脳を引き裂かれて身体機能を停止し、そのまま崩れ落ちるのだった。

 

 

「強敵だったな。こいつが追手か…?」

 

『多分。ウェスカー辺りに解放されてリサを捕まえる様に言われたんじゃないかな』

 

「私を……二人とも、私を置いて逃げて。巻き込みたくない」

 

 

 完全に知性を取り戻して今の状況を理解したらしいリサがそう言ってくるが、私とクイーンは顔を見合わせて、おかしくて同時に笑った。

 

 

『リサはもう仲間なんだから逃がしてあげないよ。それにほら、私物理攻撃効かないし』

 

「私もアンブレラに復讐するためにお前が必要だ。既に同胞だと思っている。逃がす気はないぞ」

 

「二人とも…いいの?」

 

『「当たり前だ」』

 

 

 すると安心したのか、戦闘形態なのだろう両腕を私が変容させたすらりとしたものに戻して、笑うリサ。

 

 

「私を助けてくれたのが二人で、本当によかった」

 

 

 そして黄道特急はスティンガーの死体と私達を連れてアークレイ山地を、ラクーンフォレストを抜けて行く。その先はアンブレラが開発を進めている急成長している地方都市、ラクーンシティだ。




ネメシスを御し、初めての連携プレイでバイオ0最初のボス、スティンガー撃破。こいつとの戦いが今後のためにどうしても必要だった。

黄道特急とスティンガーがこの頃いたかどうかはわからないけど移動手段が欲しかったので採用。

1988年7月1日、エヴリン達はラクーンシティへ。

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file0:7【ばれなきゃ犯罪じゃないって誰かが言ってた】

どうも、放仮ごです。ラクーンシティに訪れた三人の話。楽しんでいただけると幸いです。


 ラクーンシティ。アメリカ合衆国中西部に位置する、自然豊かな山々や森林に囲まれた地方都市。元々は小さな田舎町であったが、アンブレラ社の工場が郊外に建設されたことで飛躍的に発展し、アメリカ有数の企業城下町となる。…らしい。らしいとは、ラクーン市庁でもらったパンフレットにそう書いてあったのだ。

 

 

「ここ、本当にラクーンシティ?ママと一緒に洋館に行くときに通った街と一緒とは思えない」

 

『はえー、この時代にしては発展してるねーアンブレラすごい』

 

「アンブレラのお膝元か、けっ」

 

 

 以前も訪れたことがあるのか街の変化に驚くリサ、あまりの規模に圧倒されるしかない私、あからさまに機嫌が悪いクイーン。……ここがラクーンシティ。いずれ、大規模バイオハザードが起きて滅ぼされる街……こんなに栄えた街が滅ぶなんてT‐ウイルスやっぱりヤバい代物なんだなあ。

 

 

「…さっきから見られてる気がする。私、触手伸びてる?」

 

「いいや。どこからどう見ても普通の女だから気にするな」

 

『そりゃ明らかにだぼだぼの男物の服を着ている美少女と裸白衣の女の子が一緒にいたら目立つよ』

 

 

 あ、やばい。通報されてる。私は周囲を見渡して路地裏への道を見つけると二人を手招きして誘導する。ダメだ、16歳の時から21年も幽閉されていたリサと、マーカスに大事に大事に育てられた箱入り娘のクイーンの二人には常識が無い。どうにかしないと。

 

 

「…なるほどな。この格好は目立つのか」

 

『よく気付いた。さすがクイーン頭いい』

 

「でもこれ以外の服を調達なんてどこで…お金もないし」

 

『そこだよねえ』

 

 

 …うーん、金を稼ごうにも恰好が怪しすぎる上に戸籍もないからそれもできないし……。戸籍、戸籍かあ。……いや待て。そう言うのに潜伏するための生物兵器が私じゃないか。

 

 

『戸籍、作るかあ』

 

「…一応聞くがなにするつもりだ?」

 

『役所の人間を一時的に洗脳して戸籍を作るの。リサとクイーンの分。本名だとばれるからリサは名前を変えよう。アリサ・オータムス、クイーン・サマーズとかどうかな』

 

「何で季節なの?」

 

『私がエヴリン・ウィンターズだから?安直かなあ』

 

「いや、響きが気に入った。それでいいぞ」

 

「私も、文句ないよ」

 

 

 咄嗟に考えた名前だったけど気に入ってくれたならなにより。リサが親が残してくれた名前を名乗れないのが不服そうだが我慢してもらうしかない。ここはアンブレラのお膝元なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず悪いとは思いつつ家屋にクイーンが分離を利用して侵入して、真新しい普通の服だけもらってきた。犯罪だけど許してほしい、こっちは追われてる身なのだ。そして今はラクーン市庁舎で担当の人にリサに触れてもらって菌根を侵食、身分証明書と履歴書を作らせている。

 

 

『えっと、ブルックリンの高校を卒業して、警察学校を程ほどに卒業…あとはそうだなあ。適当にやっといて、……モラレスくん』

 

「適当すぎないか?」

 

 

 そう言うのは、子供だと不便だし不自然だからと大人の姿…やっぱりゼウにそっくりだけど表情が目つきの悪い男前なので別人みたい……になってYシャツとスラックス、男物の靴の上からマーカスの白衣を着た格好のクイーンだ。ボーイッシュなのが似合ってる。

 

 

『私も履歴書とか詳しくないからしょうがないじゃん』

 

「何で警察学校なの?普通に大学とかでも…」

 

 

 そう言うのはゆったりとした服にカーキ色のプリーツスカートと茶色いブーツを合わせたリサ。美少女なのも相まってシンプルでかわいい。

 

 

『アンブレラの情報を得るなら警察かなあって思ったんだ。二人には警官になってほしい。私が潜入してもいいんだけど、それじゃできることに限りがあるからね』

 

「…警察ってなんだ?」

 

『そこからかあ』

 

 

 リサはともかくクイーンは箱入り蛭だったの忘れてたよ……。リサと一緒に警察について教えて行くと、分かりやすく不機嫌になって行くクイーン。私の顔でそんな怒らないでほしいんだけど。

 

 

「するとなんだ?私にアンブレラのお膝元のこの街とその人間を守れというのか?」

 

『そういうことになるかな』

 

「リサはいいのか?」

 

「私は……私の力が、人助けに役立てるなら…?」

 

 

 クイーンの問いかけに恥ずかしそうにはにかみながら答えるリサ。…ああ、私は全てに絶望して世界を恨んだけど……リサは、高潔な精神を持ち合わせているんだな。

 

 

「…お前はあんな目に遭ったのに人間を恨まないんだな。なら私がどうこう言う訳にはいかないか。いいぞ、やってやる。だが細かいことはお前が指示しろ、私は人間の常識を知らん」

 

『うん、任せて。それでモラレスくん、できた?』

 

「はい、できました」

 

『ありがとね』

 

 

 クイーンとリサが用紙を受け取り、その内容を確認してからモラレスから菌根の影響を消して解放する。…うん、ローズとの冒険とゼウとの戦いのおかげでノウハウ掴めてきたな。クイーンとリサの身体を媒介にして軽い洗脳程度なら自由にできるようになったかもしれない。

 

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

『そりゃラクーン警察に売り込みに?本当なら警察学校卒業したらそのまま入れるんだろうけどね』

 

「媚を売れってことか…気が滅入るな」

 

「クイーン、がんばろ?」

 

「…わかったよ」

 

 

 こてっと首を傾げるリサに、負けたと言わんばかりに手を上げるクイーン。リサ、魔性の女だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つかったのはこの片腕と夥しい量の血、そしてスティンガーの死骸だけだったと?」

 

 

 リサから採取した血液と、撃たれてクイーンから分離した変異ヒルの一匹を検査していたバーキンは、戻ってきたウェスカーの報告を受けて眉をひそめた。それはつまり、失敗だと言う事だからだ。

 

 

「ああ、バーキン。ラクーンシティ郊外の駅に停車していた黄道特急の車体を確認したが見つかったのはそれだけだ。恐らくラクーンシティに逃げたな。隻腕の異形だろうが潜伏されたら探すのは骨が折れる」

 

「いや待て。血のサンプルはあるか?」

 

「ああ。液体で残っていたから採取してある」

 

 

 ウェスカーの取り出した細いガラス容器とリサの片腕の入ったケースを受け取ったバーキンは早速検査にかけると、数分間何かを確認する様に動き続けた後ににやりと笑う。あることに気付いたからだ。

 

 

「…アルバート。恐らくRTは五体満足だぞ」

 

「なに?」

 

「RTに投与されたネメシス・プロトタイプの反応が新たに採取された血液から消えている。恐らく複数回に渡って投与された始祖ウイルスの改良型ウイルスが更に変異した未知のウイルスによるものだ。そしてこの腕、じわじわとだが再生をし続けている。恐らくRTの本体は驚異的な再生能力を有している。元々傷の治りが遅い物の不死性を持ち合わせていたのがさらに強くなったわけだ!興味深い!取り込んだネメシスの影響か?プロトタイプでこれなら完成したら……素晴らしいよアルバート!」

 

「なるほどな。スティンガーはちゃんと仕事を果たしたと言う事か。奴の死体も使いようはあるな」

 

「…む?アルバート、これを見てくれ!」

 

 

 さらに顕微鏡に向かっていたバーキンが促すので覗いてみるウェスカー。サングラスの下の目が見開かれる。

 

 

「これは……なんだ?」

 

「RTの不死性を与えていたと思われる体内で変異し続けた始祖ウイルスとネメシス・プロトタイプの特性が結合した…!この新たなウイルスは変異を繰り返している!これはとんでもないぞ…!T‐ウイルスなんか目じゃない!」

 

「…だが確実性が無い。今はT‐ウイルスの研究に没頭すべきだ」

 

「そうだな……だがこのウイルスの研究も進めるぞ。このウイルスは、人間を神に等しい存在へと押し上げる…!名付けるとしたら、そう!」

 

 

 バーキンはリサの片腕の入ったケースを掲げ、狂気的な笑みを浮かべる。

 

 

「tyrantに対するGOD……G‐ウイルスだ!」




この世界ではGODが由来。本来はゴルゴダの丘らしい。

クイーン→クイーン・サマーズ&リサ→アリサ・オータムスとしての経歴を手に入れた!だいぶ昔なのでそこらへんがばいですが気にしないでください。目指すはラクーンシティの警察、RPD。

一方、スティンガーの残したリサの片腕と血液からG‐ウイルスを見つけ出すバーキン。このためのスティンガーでした(ハンターはまだできてないだろうから切断できそうなのが彼しかいなかった)。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:8【蠢く世界】

どうも、放仮ごです。今回は0本編の時系列に至るための繋ぎ回となります。楽しんでいただけると幸いです。


 3年後。1991年4月。私が奮闘して無事ラクーン警察署に配属されたリサとクイーンは、アリサ・オータムスとクイーン・サマーズとして今日も今日とて奮闘していた。

 

 

「こら、待てお前!」

 

「待てと言われて待つ馬鹿がいるかよ!」

 

『次曲がる角を右に曲がったよ』

 

 

 クイーンが全力疾走して追いかけるのはひったくりである。リサと一緒に巡回していたところを出くわして見過ごすわけにもいかないので追跡中なのである。私が空から指示を出してるのでどこに隠れようと逃げられない。さらに私の声は、もう一人の警官にも届くのだ。

 

 

『リサ!行ったよ!』

 

「わかった!」

 

 

 トン!トン!トン!と、軽やかに眼下の建物の間を駆ける女性警官の姿が見える。足裏に菌根でストッパーを一時的に作って壁を駆け上ったリサだ。あんまり建物間を当たり前に跳ばないでほしい。スパイダーマンかなにか?まあ、今の二人の姿はまごう事なきヒーローだけど。身体能力の高さで誤魔化せているけど、ウェスカーとかいたら一目でばれそうだな。

 

 

「大人しく、お縄について!」

 

「があっ!?くそっ、どこから…」

 

 

 建物の上から先回りして飛び降りたリサに取り押さえられ、ひったくりは追い付いたクイーンに手錠をかけられて降参した。大捕り物劇に周囲から歓声が上がる。これで今月四件目のお手柄だ。昇進も早いかもなあ。

 

 

「アリサ。目立つのは避けろ。署長に目を付けられるのは避けたい。ただでさえ毎日あの下卑(げび)た視線に耐えてるんだ」

 

「でも、逃がすのはもっとダメだよ?それは私達が耐えればいいし。でしょ?クイーン」

 

「それはそうだけどな」

 

 

 クイーンが溜め息を吐くのはラクーン警察署の署長であるブライアン・アイアンズのことだろう。温厚で市民思いな人物で、部下からの信望も厚く、美術品の保護活動や動物愛護といった慈善活動家として市民に慕われている………というのは表の顔。本性は警察官とは思えない傲慢で短気な性格で、部下の前だと威張り散らすは機嫌が悪くなると当り散らすわ、女性警官の制服のスカートを規定より短くするように命令を出した挙句に下卑た視線を向けてにやにやと笑っているクソ野郎だ。美人であるリサとクイーンはお気に入りなのか目にかけているが下心ありありでなんとかのらりくらり躱しているけど…こんな奴でも署長になれるのだから世も末である。世紀末も近いけどさ。

 

 

「よお。今回も大活躍だな」

 

「ケンドさん」

 

 

 話しかけてきたのはロバート・ケンド。兄のジョウ・ケンドと一緒にガンショップ『ケンド鉄砲店』を経営している、口髭が似合う日系人のオーナーだ。警官になって最初の仕事が強盗に遭っていたケンド鉄砲店をリサとクイーンが助けた事件なのだ。それ以降二人を気に行って色々気にかけてくれている。

 

 

「アリサちゃん、相変わらずまるで人間とは思えないぐらい動きだな。かっこよかったぜ!コミックのヒーローみたいだ!」

 

「そ、そうかな?えへへ…」

 

 

 忌々しい自分の力をヒーローみたいと言われて喜び、頭を手をやるリサ。ほんわかする。

 

 

「昇進も近いだろうな。銃を選ぶなら俺たちの店を頼ってくれよな!いいもんを見繕ってやるからな!」

 

「ケンド。何度も言うが我々に銃は不要だ。私にとっては忌々しいぐらいだからな」

 

 

 クイーンがあからさまに不機嫌に応える。マーカスを銃撃で殺されたクイーン、銃で何度も処分されそうになったリサ。二人はそれぞれ銃がトラウマだ。普通警官は拳銃の携帯を義務付けられているが、二人はステゴロの強さを理由に拒否している。偉くなったらさすがに所持ぐらいはしないといけないかもだけどね。

 

 

「そいつぁ残念だなあ。気が変わったらいつでも頼ってくれよな!」

 

「気が向いたらな」

 

「じゃあ私達行きますので」

 

 

 ぶっきらぼうのクイーンと愛想がいいリサのコンビはラクーンシティでも密かに人気になってるっぽいな、と二人の周りに浮かびながら確認する。うんうん、いい感じにラクーンシティに溶け込めてるな。これなら異常があってもすぐ察知できそうだ。…ん?

 

 

『…視線?』

 

 

 どこからか視線を感じて見渡すが、それらしい人はいない。気のせいだろうか。いや、今の視線はクイーンとリサどちらでもなく私に向けられていた様な……。いやそんなわけないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、人ごみに紛れてその光景を見ていた。白いフードを被って顔を隠している、黒コートの人物だった。

 

 

 ―――――対象、RTと特徴がいくつか一致する人物を発見。しかし外見的特徴がまったく一致しないため一考の余地あり。監視を続ける。

 

 

 ――――周囲を自由に飛び回る謎の少女の存在を確認。正体不明。他の人間には見えてない模様。要調査。

 

 

 ――――ネメシス・プロトタイプγ正常機能確認。当躯体の動作に遅延あり。調整のため帰投する。

 

 

 裏路地に入り、コートの下から太い尻尾を出して地面に突き刺し棒高飛びの要領で跳躍して建物間に消えたその人物の右手の甲には「139」という数字が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――1991年1月。アンブレラ・ヨーロッパ第六研究所において、「ネメシス計画」発動。プロトタイプとして、回収されたRTの遺伝子と、知能に問題がありRTに敗北した試作B.O.W.type-y139スティンガーの死骸をベースにウィリアム・バーキンとアルバート・ウェスカーが共同開発した試作生物兵器■■■にネメシス・プロトタイプを命令系統を重視して改良したネメシス・プロトタイプγを接合。――――プロトネメシスと仮称、RTの追跡に実験投入される。

 

 

――――バーキン博士が「G-ウィルス計画」を立案、スペンサー卿はこれを承認。程なく計画が始動、G‐ウイルスも合わせてT‐ウイルスを研究するためラクーンシティの地下に巨大地下研究施設の建造が開始する。

 

 

――――アルバート・ウェスカー、諜報部へと転属。限界を感じて研究職から手を引く。

 

 

――――同年2月、南米の麻薬カルテルの麻薬王、ハヴィエ・ヒダルゴがアンブレラからT-ウィルスを入手。風土病を患う妻ヒルダに治療と称して投与。体内のウィルスが暴走し怪物化が確認される。

 

 

――――同年12月。ソ連が崩壊、ソ連軍の大佐セルゲイ・ウラジミールがアンブレラに接触。T-ウィルスに完全適合し自らのクローンをアンブレラに提供し、この功績によりアンブレラ幹部に就任する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちの知らないところで、世界(アンブレラ)は水面下で蠢いていた。




オリジナルクリーチャー、プロトネメシス誕生。1991年はバイオ的に絶対外せない時代です。クリスが18歳ぐらいの時代ですね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:9【その名はセルケト】

どうも、放仮ごです。前回から時系列が開いて、激突です。楽しんでいただけると幸いです。

※8月8日4:27 セルケトの口調を変更しました


 それは1993年のこと。街中を飛び回ってアンブレラに関する情報を集めて行く中でそれを見つけた。

 

「地下に研究所だと?」

 

「バーキンを街中で見かけて着いて行ったらそんなのがあったの?」

 

 

 もぐもぐもぐ、とラクーン警察署のドーナツを頬張りながら私の報告に眉をひそめるのはクイーン・サマーズ。最近のお気に入りらしい日本茶で一服しながら首をかしげるのはアリサ・オータムス。ラクーン警察に入って五年、完全に馴染んでいて笑える。

 

 

『うん、駐車場でバーキンとアイアンズ署長が会っていてなんか密約交わしていたの見たよ。研究所はそこからさらに先、迷宮みたいな下水道を通った先だから行くのはおすすめできないかな』

 

「…ふーん。つまりアイアンズはアンブレラ側か」

 

「でも署長にはなにもできないよね。…研究所を調べる?」

 

『クイーンだったら行けそうだけど下水道が迷宮みたいで最悪帰れなくなるからやめておいた方がいいかな』

 

「そんなに広いのか」

 

「調べるにしても対策が必要だね」

 

「何の話をしてるのかね?サマーズ、オータムス」

 

『げっ』

 

 

 そこにやってきた人物を見て思わず苦虫を噛み潰したような声を出してしまった。件の署長である、デューク程ではないが恰幅のいい偉そうな男、ブライアン・アイアンズ。咄嗟にクイーンとリサは立ち上がって敬礼する。

 

 

「はっ!……えっと」

 

「さ、最近見つけた怪しい場所を調べようと言う話をしていたんです!署長こそどうしたんですか?」

 

 

 言いよどむクイーンをカバーする様に愛想よく尋ね返すリサ。するとアイアンズは眉をひそめる。質問に質問で返したから気に障った様だ。

 

 

「おほん!残念ながらその調査はまた今度にしてくれ。君達には特別任務を与えたい」

 

「特別任務、ですか?」

 

『夜の相手をしろとかだったら遠慮なく蹴り飛ばしちゃえ』

 

「ああそうだ。私の友人から預かった子供の世話をしてほしいのだが、頼めるか?」

 

「子供?」

 

「誰の子供ですか?」

 

「それは秘密だが…シェリーだ。ほら、こっちに来るんだ」

 

 

 すると廊下の向こうから怯えた様子で歩いてくる少女がいた。赤いカチューシャを付けた金髪ショートヘア碧眼の美少女だ。…シェリーって言いました?

 

 

『シェリーって、バーキンの娘だよ!ほら、マーカスも誕生を珍しく祝ってた!』

 

「…バーキンの」

 

 

 思わず口に出た台詞にクイーンが反応する。幸いにもアイアンズには聞こえていなかったらしい。やばい、バーキンに復讐する手段が目の前にあるのにクイーンは我慢できるか…?ああもう、そんなに怖い顔で睨まないで。シェリーが怖がってるじゃん。慌ててリサが間に入る。

 

 

「シェリーって言うんだ。私はアリサ・オータムスって言うんだ。こっちのこわーい人はクイーン・サマーズ。ところで何歳なのかな?」

 

「…七歳」

 

「そっか、七歳なんだ!幼いのにいい子だね!」

 

「…パパとママがいい子でいなさいって。いい子でいたら一緒に過ごせるからって」

 

 

 …パパ、ウィリアム・バーキンとママ、その妻か。クイーン、落ち着いてよね。この子は何も悪くないんだから。そんな意を込めた視線を向けると「ぐっ」と怯み、深呼吸してぎこちない笑顔を作るクイーン。

 

 

「悪かった、私は近眼でよく顔が見えなかったんだ。できれば仲良くしてほしい」

 

「パパとママの言うことを聞いてえらいね。こっちで遊ぼう?お姉さんたちとかくれんぼしよう!」

 

「そうだな、私が鬼をしてやろう」

 

『かくれんぼはちょっとやめてほしい』

 

 

 ゼウの仕掛けたトラウマになっている出来事を思い出してプルプルと身震いしてついていく。

 

 

「…子を育てる女性は美しいと聞く、今後が楽しみだ」

 

 

 …そんなクイーンとリサの背中を見るアイアンズの気持ち悪い発言は聞かなかったことにしようそうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリーと仲良くなり、一週間が経とうとしていた頃。片方が見回りしてもう片方がシェリーの面倒を見ると言う形で仕事を行っていたリサとクイーン。今日は休暇であり、ラクーンシティダウンタウンのクリスタルプロムナードにやってきていた。

 

 

「どうする?ラクーン動物園にでもいくか?」

 

「うーん、シェリーはどうしたい?」

 

「ドーナツ食べたい!」

 

 

 そう言ってシェリーが指差したところにはMOON's DONUTSと書かれた月を模したドーナツの看板が上にあるのが特徴の店があった。いいなあ、私も食べたい。イーサンがいればなあ。…思えばモールデッド・ギガントの頭部でご飯食べるのマジでヴェノムだったなあ。了承した二人が通りを歩いて店に向かおうとしていた、その時だった。

 

 

 パラパラパラ、と音を立ててリサに向けて飛んできたなにかを、咄嗟に粘液で覆って固めた右腕で払いのけるクイーン。地面に落ちたそれを見てみれば、鋭い針が三本落ちていた。明らかに、リサを殺そうとした攻撃だった。人気(ひとけ)が少なくなったところを狙ってきた!?

 

 

『襲撃!?どこから!』

 

「エヴリン、敵を探せ!アリサはシェリーを安全なところに!」

 

「うん、わかった!ドーナツはまたねシェリー、こっち!」

 

「な、何が起きてるの?」

 

 

 困惑するシェリーの手を引いて路地裏に逃げ込もうとするリサに再びパラパラパラと音を立てて襲いかかる針を、盾になる様に間に立ったクイーンが粘液を纏った右手で受け止めると、今度は固めず半固体にして刺させることで針を受け止め、飛んできた方向に投げつける。その先は、MOON's DONUTSの看板で、月を模したそれに突き刺さる。すると居場所が割れたのを察したのか、看板の裏から誰かが飛び出した。白いフードを被った黒いコートで身を隠した細身の人物だ。

 

 

『待てー!』

 

「待てと言われて待つわけがない」

 

 

 私は空を飛んで追いかけるが、なんとその人物は左手を向けると針を私に向けて発射してきた。見えていることに動揺して動きを止めた私に突き刺さる…訳もなく、擦り抜ける。下からはクイーンが走って追いかけてきていたので、一度合流する。

 

 

『クイーン!あいつ、私が見えていた!』

 

「つまりお前の混じったウイルスを使っている奴と言う事か!十中八九アンブレラだ!」

 

『私が混じったいうのはやめてほしいかな!』

 

 

 好戦的な笑みを浮かべて、粘液を纏った掌と靴裏で壁にくっ付き駆け上るクイーン。見れば、いつぞやのリサ見たく建物上を走って逃げて行く件の人物を見つけた。こちらを見てギョッとしている。

 

 

『リサを狙ってたみたいだけど、クイーンのことまでは気付かなかったみたい?』

 

「逃がすと厄介だ!絶対捕まえるぞ!」

 

『じゃあ変身だ!』

 

「一般人に見られたら面倒だ、瞬殺するぞ!」

 

 

 久々にクイーンに重なり、リーチ・モールデッドに変身。腕を伸ばしてフードの人物の足を掴んで引き寄せる。赤みがかかった黒い髪と細い左手がちらりと見えた。

 

 

「クイーン・サマーズの正体は変異ヒル、ね!報告が増えたわ」

 

『女?』

 

「生憎と報告されることはなにもないぞ。情報を吐いてもらう」

 

「そいつはお断りね」

 

 

 次の瞬間、私達の右腕は手首から切断されていた。見れば、黒コートに隠れていた奴の右手…いや、鋏が閉じられていた。あの鋏って…!?そう思った刹那、黒コートの下から伸びてきた鋭い針の尻尾に貫かれて私達は宙に持ち上げられる。見覚えしかないなあ!?

 

 

『こいつ、スティンガーだ!いや人型だけど!?』

 

「あいつなら殺したはずだぞ!?それが人型で、なんで生きている!?この!」

 

 

 右手の傷口から溶性の粘液を放出するクイーン。すると鋼鉄製だったのか黒コートがジュージュー音を立てて溶解、たまらずフードごと脱ぎ捨てるその人物を見て、私達は固まる。

 

 

『うそ…?』

 

「…リサ、だと…?」

 

 

 そこにいたのは、赤みのかかった黒髪を短く纏め右目を前髪で隠しているもののリサの顔。しかしその姿は異形だ。左半身は黒い革製のボンテージ染みたスーツ…多分装甲服?とブーツを身に付けているが、首から下の右半身は赤みを帯びた黒い甲殻に覆われ、右腕と右足は本来の物より小型化しているけど鋏になっている。そしてその臀部からは背骨と繋がっていると思われる蠍の尾が伸びていた。あの尻尾とか異形の右半身を隠すためのコートだったのか。尻尾は多分折りたたんで収納していたな。

 

 

「…私はリサ・トレヴァーじゃない。残されたRTの腕の遺伝子と試作B.O.W.type-y139スティンガーの遺骸を掛け合わせて作られた傑作B.O.W.……コードネーム:セルケト。またの名をプロトネメシス。貴女の優秀な後輩よ、失敗作の大先輩さん」

 

 

 聞いてもいないのに名乗ってきた上にクイーンを煽ってきた。だいぶ傲慢で自信家な性格らしい。私みたいな喋って知能のあるB.O.W.の方が珍しいとクリスが言ったたけど…じゃあなんなんだこいつは。聞いてないよクリス!




スペンサーが馬鹿やったせいなのか旧作版とREが入り混じってるラクーンシティ。

まだ幼いシェリー登場。そして参戦、スティンガーの後継機セルケト。世にも珍しい知能があって喋ることができる傲慢な性格のB.O.W.です。自分を傑作と呼んでいますが…?

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file0:10【対決、蠍の女神セルケト】

どうも、放仮ごです。台風の影響をもろに受けて停電になってたりしますがスマホでなんとか書けました。

今回はVSセルケト。楽しんでいただけたら幸いです。


 プロトネメシス…またの名をセルケト。最優(リサ)の遺伝子と欠点こそあったもののリサを追い詰めた戦闘力を有するスティンガーを、ウェスカーとバーキンが掛け合わせて誕生したセルケトは、マーカスの研究成果を間近で見てきたウェスカーとバーキンが「傑作」と称するB.O.W.である。

 右半身のみとはいえマグナム等の高威力の銃弾すら通じない強固な装甲、鋼鉄すら容易く切断する鋏を有する右手右足、麻痺効果を持つ針の弾丸を指の先から発射できる左手、伸縮自在でありレンガの壁をぶち抜く威力を誇る自在に動く尻尾、巨体だろうと軽やかに跳躍させる常人の30倍にもなる筋繊維密度による超人的身体能力といったスティンガー由来の戦闘力に加え、RTの不死身とすら言っていい再生能力まで有する。本来なら暴走して制御不能となるところに背部に接合した「制御」に性能を回して改良した兵器、ネメシスプロトタイプγで制御することが可能。ここまでくれば完璧だ。

 

 問題は人間の遺伝子を素体にしたことで自我を持っていたことと、現状を理解し己が最も優秀な生物兵器であると確信した故の傲慢で自信家な性格だろう。現在セルゲイのクローンによりタイラントを作成しているが、この失敗を踏まえて自我を持たせない方向性に決まった。それが完成するまでは間違いなく最高傑作と呼んでいいB.O.W.だった。まだ他のB.O.W.は実験段階なのだからなおさらだろう。

 

 

 そんな彼女に与えられた命令は、脱走したRTと彼女の逃亡を手助けした変異ヒルの追跡と確保、始末だった。RTは確保、変異ヒルは始末である。生まれてからここ数年、RTによく似た…なれど異形なところは見当たらない女を発見し、その周りを明らかに怪しい飛び回る少女の存在を確認してから、その女…アリサ・オータムスがRT本人だと当たりをつけて五年。

 

 

 生みの親の一人とも言えるアルバート・ウェスカーが近々諜報部の任務としてラクーン警察署に所属するという話を聞いたセルケトは、もしRTが本物なら恨まれているウェスカーに危害が加えられると考え、確認のために強行策に打って出た。

 

 

 麻痺針を撃って本物なら反撃するか効かない、違ったらそのまま痺れるだけ。天才では?とセルケトは上機嫌で作戦行動に出た。するとどうしたことかRT候補のアリサではなく、その相棒クイーン・サマーズが妙な力で針を弾いたではないか。身体能力は高いがアリサには及ばないため無視していた存在だった。追いかけてきたクイーンが少女と一体化して報告書で見た異形の姿に変身したことで、正体が変異ヒルと判明。己の先達とも言える失敗作を前に、妙な嗜虐心が出てしまったのは彼女の悪癖だった。

 

 

「…私はリサ・トレヴァーじゃない。残されたRTの腕の遺伝子と試作B.O.W.type-y139スティンガーの遺骸を掛け合わせて作られた傑作B.O.W.……コードネーム:セルケト。またの名をプロトネメシス。貴女の優秀な後輩よ、失敗作の大先輩さん」

 

 

 本来なら秘匿すべき名称すら述べたセルケトは、己の力を見せつけるべくリーチ・モールデッドに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっぶな!?』

 

 

 まるでキックボクシングのような動きで右手と右足の鋏を開閉させながら繰り出してくるセルケトの攻撃を回避。こっちはクイーンと二人で統括意思をやってるけどこの形態だとヒルの集合体を無理矢理菌根で操っているのだ。ラグが大きい。避けるので精一杯だ。

 

 

「どうしたのかしら!さっきまでの威勢は!」

 

 

 そう吠えたセルケトが鋏の足を軸に高速で横回転。勢いよく尻尾を叩きつけてきて、咄嗟に右腕に粘液を纏ってくっつけることで受け止めるも、そのまま持ち上げられて壁に勢いよく背中から叩きつけられてしまう。

 

 

「があっ!?」

 

『やばいやばいやばい!?』

 

 

 そのままくっつけた部分から先端が伸びて私たちの胴体に突き刺さり、粘液の拘束を外してそのまま尻尾をしならせて私たちに衝撃を与えたセルケトは天高く持ち上げ、勢いよく私たちを建物屋上に叩きつけてきて小さなクレーターを作り上げた。傷口からボロボロと衝撃で気絶した変異ヒルたちが溢れる。

 

 

「く、そっ…同胞たちがやられた」

 

『なんて威力…傑作っていうだけあるね』

 

「そうよねそうよね!わかってるじゃない。…で、貴女は何者かしら。エヴリンと呼ばれていたのは知ってるけど、私の正気が疑われるからまだ報告してないの。正体を教えなさい」

 

『やなこった!』

 

「そいつは我々の数少ないアドバンテージということだな…!」

 

 

 なんとか立ち上がる。勝たないと未来がない。こんな、クリスからも知らされてないよくわからんやつに負けて終わってたまるか。

 

 

「行くぞエヴリン」

 

『うん、クイーン!』

 

「いいわ、きなさい。格の差を教えてあげるわ!」

 

 

 かかげた左手の五指の先から針を乱射するセルケトの攻撃を纏った粘液を固めた両腕で弾きながら突撃。右腕を伸ばして攻撃するも尻尾を巻き付けられて建物屋上に引摺り叩きつけられ、そこに右足鋏の斬撃が襲いかかり私たちの右半身が裂けたチーズみたいに切断されてしまう。

 

 

「『がああっ!?』」

 

「期待外れね。もう少し戦えると思ったのに」

 

「こ、の…!」

 

 

 なんとか立ち上がり左手を掲げて溶解液を放出させるクイーン。しかしそれは右半身の甲殻で受けとめられダメージにはならない。なんて防御力だ。

 

 

「終わりよ。目的のRTじゃないけど変異ヒルの統率個体を連れていけばウェスカー様バーキン様に誉められるわ。エヴリンはどうしようかしら、触れないみたいだから放っといてもいいかもだけど」

 

 

 なんとか右半身の傷を再生させるも、尻尾で巻き取られてリーチ・モールデッドへの変身が解けてクイーン・サマーズに戻ってしまい私も排出される。万事休すだ。…でもね、触れないからって私をなめるなよ。

 

 

『おりゃああ!』

 

「え、なに!?」

 

 

 意を決してセルケトに飛び込む。体内の菌根に働きかけてクイーンの拘束を解いてやる!彼女の記憶が見える、元はウェスカーとバーキンを父と仰ぐが他の人間や生物兵器を見下していて、ネメシス・プロトタイプγを取り付けられて従順になったことがわかった。なら、それを外せば…!?

 

 

「私の中から出ていけ!」

 

『うわあああ!?』

 

 

 すると無理矢理体内から追い出されて宙を舞う私。なんて強靭な精神力だ、ネメシスに操られてるとは思えない…いや、逆か?ネメシスに邪魔されたのか、今。なら第2プランだ。大きく息を吸い込む。

 

 

『アリサァアア!こっち!』

 

 

 そして渾身の叫び声を上げると、視界の端でドゴンという轟音と共に土煙が上がる。あのドーナツ屋付近だ。何事かとクイーンを拘束を解いて投げ捨てて警戒するセルケト。そして、天高く跳んでそれはきた。

 

 

「私の友達二人に……なにをした!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 綺麗な放物線を描いて跳んできたリサが、着地と同時にセルケトの胴体に黒く染まった拳を突き刺していた。胴体を穿たれて目を白黒させるもののすぐ正気に戻ったセルケトが尻尾を背後から襲わせるも、右腕を突き刺したまま振り返り左手で尻尾を受け止め、もぎ取ってしまう。うわあ。

 

 

「くっ、そんな馬鹿なことが!」

 

 

 屋上を蹴って後退し右腕を引き抜きながら、右足の鋏を振るってリサの腕を切断するセルケトだったが、瞬時に再生してくっついたリサの追撃の拳を受けて怯む。

 

 

「お前だけが再生できると思わないことね!」

 

 

 そう言って胸の大穴と共に瞬時に再生させた尻尾を振るうも、ガシッと掴んだリサは巻き取るようにしてセルケトを引き寄せ、黒く染めた……おそらく菌根を操作してる……右拳を顔面に受けてセルケトを殴り飛ばす。リサ滅茶苦茶怒ってるな…。

 

 

「はは、ハハハハ!お前はやっぱり、RT…」

 

「記号で呼ばないで。私は、アリサ・オータムスだ」

 

 

 笑うセルケトに、リサの拳が叩き込まれる…瞬間。その動きが止まる。

 

 

「危ないところだったわ…」

 

「あぐっ…」

 

 

 見てみれば、針がリサの腹部に突き刺さっていた。もしかして麻痺毒!?どうせ再生するからってノーガード戦法をしてるリサの弱点を突かれた!?

 

 

「このまま連れていかせてもら…うわ?」

 

 

 瞬間、力なく倒れるセルケト。その背中についていた寄生体を、クイーンが引きちぎったのだ。すると頭を抱えてよろめくセルケトは、尻尾を振り回して私たちを牽制する

 

 

「わた、わたし……来ないでっ!」

 

 

 そして尻尾を床に突き刺して引き絞ることで跳躍、その場を去っていくセルケトを、私たちは見ていることしかできなかった。




普通に強いんだけどリサには敵わなかったセルケト。リサの立ち位置をわかりやすく説明すると、ハルクです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:11【今の家族】

どうも、放仮ごです。0編の根幹ともいえる要素が出てくる回です。楽しんでいただけたら幸いです。

現在:1993年。アイアンズがアンブレラと癒着したり、アルフレッド・アシュフォードが出世したりした時期。


 ラクーンシティの地下に建造されたアンブレラ社の極秘研究所で、ウィリアム・バーキンの研究拠点「NEST」の休憩室で、眠気覚ましのコーヒーを飲んでいたウィリアムは妻であるアネット・バーキンから不審な報告を受けていた。

 

 

「セルケトが戻ってこない?」

 

「ええ。定期報告の場に現れなかったわ。RTとよく似た人間を調べていたはずだけど……アルバートが近々ラクーン警察署に来ることを教えたから手柄を得ようと気が逸ったのかしら?中々の問題児よね、貴方達の愛娘は」

 

「冗談でもやめてくれ。アイツとの子供とかゾッとする。私の子供はシェリーだけだ。…まあいい、セルケトに取り付けている発信機を辿って掃除屋に探らせよう。傷付いて隠れているなら保護、脱走を試みていたなら文字通り掃除してもらう。タイラントがもうすぐ完成する以上、既に用済みだ。利用価値はあるが壊れたなら捨てるまでだよ」

 

「薄情なのね。貴方が手ずから生み出したB.O.W.なのに」

 

「G-ウイルスの温床として生み出したモノが想定以上の性能になっただけだ、愛してなどいない。マーカスみたいな悪趣味ではないさ。そうだ、私たちの可愛い愛娘はどうしてるかい?アイアンズにベビーシッターの選別を一任したと言っていたが」

 

「ええ。アイアンズのお気に入りに預けたらしいわ。クイーン・サマーズとアリサ・オータムスって言う年若い娘の警官コンビよ」

 

 

 アネットの言葉に眉を潜めるウィリアム。初めて聞く名前じゃなかったからだ。

 

 

「アリサ・オータムス……どこかで聞いた名前だな。どこだったか…」

 

「なんでも凶悪犯をいつも捕まえているラクーンシティでも有名なヒーローらしいからそれでじゃないかしら?」

 

「なるほど。ラクーンシティで過ごしているときに噂でも聞いたのかな。そんなに強い警官コンビならシェリーも安心だろう。特に女性と言うのがいい、間違いが起こらない」

 

「あなたってば。シェリーはまだ七歳よ?」

 

「七歳だからこそだ。憧れる男は私だけでいい」

 

 

 そのセルケトによく似た傲慢な言葉に、アネットは苦笑した。その手に握られた過去のセルケトの報告書に、アリサ・オータムスの名前が書かれていたことには気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如襲撃してきたアンブレラの刺客セルケトとの対決。何とか撃退後、リサが麻痺から回復し、私も回復。残されたというよりもぎとったネメシスと思われる肉塊をどうしたものかと見ていると、リサが手に取った。

 

 

「…どうするつもりだ?それはネメシスだぞ」

 

「…前のネメシスも取りこんだら強くなれたよねって」

 

『まさか食べる気?』

 

 

 エヴリンが『うげー』と舌を出しながら嫌がる。我等も好き好んでそれを食べようとは思わないな。するとリサは肯定の意も兼ねてか躊躇なく齧り付き咀嚼する。…見ていて気持ちのいい光景ではないな。

 

 

「…ふぅ。不味い!」

 

「いや見ればわかるだろ」

 

『なんで食べたの』

 

「…だって、クイーンがいなかったら負けてたもん。私が二人を守らないと、なのに」

 

 

 そうしょんぼりするリサ。ああ、相変わらず優しすぎるなお前は。自分が一番強いからと、事実ではあるがそれを理由に自らを盾にしようとしている。

 

 

「リサ。私達は助け合うんだ。お前だけが気負う必要はない」

 

『そうだよ。助けてくれてありがとう』

 

「どういたしまして。…ネメシスを分解できたよ」

 

「本当にどうなってるんだお前の身体」

 

『そういやセルケトって記憶を見た限りリサのクローンっぽいよ』

 

「それは早く言え」

 

 

 エヴリンといいリサといいマイペースが過ぎる。私が常識人だなんてよっぽどだぞ。何だお前らその視線は。何か言いたげだな、喧嘩なら買うぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、美味しい!」

 

『そりゃあんなもの食べた後じゃね』

 

「もう、二人ともどこに行ってたの?私を置き去りにして」

 

 

 プレンシュガーのドーナツを美味しそうに頬張るリサを見ながらオールドファッションのドーナツを頬張るシェリーが不服そうに口を尖らせる。リサだとぼろを出しそうだから私が説明するしかないか。

 

 

「シェリー。悪かったな、悪い奴がいたんだ」

 

「捕まえたの?」

 

「いいや、逃げられた」

 

「次見つけたらボコボコにしてやる」

 

『教育に悪いからリサはお口チャック』

 

「お詫びにどこにでも行こう」

 

 

エヴリンがリサの口を手で塞いでいるのを横目に、不機嫌なお姫様の機嫌を取るべくそんなことを言ってみる。バーキンは嫌いだがシェリーは別だ。素直で可愛らしい。ラクーン動物園程度なら自腹を切っても構わん、そう言う意図だったのだが、告げられたのは予想外の言葉だった。

 

 

「じゃあ、パパとママのところ!」

 

「…それは無理だ。すまん」

 

 

 父に会えない寂しさはわかっているつもりだが……その父親に我々が危害を加えようとしていることを知ったら、この私達に懐いてくれているシェリーは…どんな顔をするんだろうな。ああ、父よ。人間社会を学んでさらに恋しくなった我が父よ…貴方に会いたい。

 

 

「クイーン、どうしたの?」

 

「…いいや。死んだ父の事を思い出していただけさ」

 

「…私も、そうかな」

 

 

 リサまで思い出したらしくしんみりしてる。空中で黙っていたエヴリンは私、リサとキョロキョロと見渡してから両拳を頭上に掲げて『うがーっ!』と吠えて私とリサは思わず反応する。

 

 

『シェリーの前で親の話題は禁止!私達が今は家族でしょ!寂しいなんて言わせてやらないからね!』

 

「…ああ、そうだな」

 

「クイーン?アリサ?どうしたの?」

 

「ううん。今の私にとってはクイーンと…もう一人、大事な家族がいたなあって」

 

「お前にも会わせてやりたいよ。きっと仲良くなる。…会わない方が身のためだが」

 

 

 こいつが見えるってことは菌根を体内に取り込むってことだからな。エヴリン曰く私達だから問題はなかった常人だととんでもないことになるって言うし。…菌根を取りこむとしたらアンブレラの実験体としてだろう。さすがのバーキンも実の娘をそんなことに使うとは思わないし、エヴリンに会わない方がいいことかもしれん。

 

 

「もう一人…会ってみたいなあ。クイーンとアリサの家族ってことは、すっごくいい人ってことだもんね」

 

「…私はそんなに高尚な人間じゃないがな」

 

「そんなことないよ、クイーンはいい人だよ!」

 

「アリサお前、高尚の意味わかってないな?」

 

 

 高尚じゃないってのは、本当にそうじゃないのと人間じゃないってことの二つの意味でだが、リサはそれすらわかってないな。

 

 

『いやぁ、それほどでもないよー?』

 

 

 頭に手を置いてくねくねと揺れて照れてる馬鹿は放っておく。…こいつも、どんな人生があればあんな台詞を言えるんだろうな。…私も我が父からもっと学んでいれば、そう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその頃、ラクーンフォレスト。我々が父を安置し同胞たちの一部を守りに残した場所にて、何かが起き上がった。

 

 

「アンブレラに復讐を…地獄の炎をこの世全てに」

 

 

 それはフラフラとラクーンフォレストを彷徨い歩く。私は自身がそれを体現していてなお知らなかった。生物災害(バイオハザード)とは、想定外が当たり前なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 預かるにあたり特に使い道のない給料で買ったアパートにシェリーを寝かせ、セルケトの様なこともあると考え護衛にリサを置いて、夜勤をするべくR.P.D.(ラクーン警察署)にやってきて署長の趣味で元々美術館だった場所を改装しているため入り組んでいる廊下をエヴリンと一緒に歩いていると、ちょうど扉を開けて入ってきたアイアンズ署長と対面する。

 

 

「やあ、こんばんは。夜勤かね?いいところで会ったなサマーズ」

 

「げっ。……どうしましたか、署長?」

 

『クイーン、声に出てる。それにしても夜勤かね?って…仮にも署長なら部下のシフトぐらい覚えててよね…』

 

 

 思わず声に出てしまったのは許せエヴリン。私はこの脂肪も面の皮も厚いこの男が大嫌いなんだ。いい加減その値踏みするような下卑た視線も我慢ならなくなってきたぞ。職を失うことにならなければ全力(粘液硬化)でぶん殴ってやるんだが。うん?後ろに二人連れている…?

 

 

「紹介しよう。明日からここに配属される新人二名だ。ほら、名乗りなさい」

 

 

 アイアンズ署長が促すと、敬礼する二人の男女。初々しいな、私達も最初はこんな感じだった。…うん?どうしたエヴリン、固まって。

 

 

「はっ!元アメリカ空軍パイロット、クリス・レッドフィールドといいます!」

 

「元陸軍デルタフォース所属、ジル・バレンタインです!」

 

「二人は近年結成する予定の、近年増加傾向にある都市型テロや多様化していく組織犯罪、緊急事態に対処する特殊班に所属してもらうべく招いた人間だ。その特殊班には君とオータムスも所属してもらうつもりだから同僚になる。拒否権はないぞ、私が決めた。先輩としてビシバシ鍛えてやってくれ。鞭とかいいと思うぞ」

 

『きもちわるっ!』

 

「は、はい…?」

 

 

 今度はこちらが困惑する羽目となる。…それは初耳なんだが?




セルケト行方不明。謎の存在誕生。クイーンとリサ、S.T.A.R.S.所属決定。この三つが0編における根幹となります。

クリスとジルがこの時期にR.P.D.に所属しているかは不明だけど、今作では研修期間って感じでいたことにしてます。と言ってもS.T.A.R.S.できるの三年後の1996年なんですが。

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file0:12【結成、S.T.A.R.S.】

どうも、放仮ごです。S.T.A.R.S.って意外と多いよねって話。楽しんでいただけたら幸いです。


 クリスとジルを始めとした新入りが次々と入り、同僚のマービンらと共に鍛え続けて1996年。あれから三年、セルケトの襲撃もあれ以降ない。どこかで死んだのかそれとも実験台にされているのか。後者なら思うところはあるがまあどうしようもない。アンブレラはいまだにただの製薬企業として名を売っている。未だに反撃はできていない。

 

 

 私達も7年も在籍すればそれなりに重鎮ではあるが、今でも現場に出向いている。書類仕事が壊滅的に向いてないのである。そもそも警察学校すら通ってないからな。アイアンズ署長からしても人気がある私達が現場に出向けばR.P.D.の評判も高くなるためか黙認されている。クリスには文句を言われているがお前は空軍にいたぐらい地頭がいいんだから文句言うな。ジルを見習え。

 

 

シェリーも今年で10歳だ。3年も育てれば完全に信頼もされるもので、親の様にリサと共に慕われている。しかし父親のウイリアムに面と向かってお礼を言われた時は驚いた。リサの顔に怪訝な表情を浮かべていたが、年を取る様にエヴリンが調整しているのでリサ・トレヴァーとは結びつかなかった様だ。二人とも仕事で面倒を見れない曜日も多いが、休みが取れればできるだけ面倒を見る様にしている。

 

 

 

 

 そして、1996年2月の月末。ラクーン市警管轄の特殊作戦部隊『S.T.A.R.S.』設立され私とリサも転属された。アルファとブラボーのチームに分かれたアルファチームのリーダーにして隊長には、一年前に配属されて以降、一気に私達よりも手柄を立てて階級も高く昇進したアルバート・ウェスカーが就任。…そう、アルバート・ウェスカー。私達の仇敵の一人だ。1995年の奴との再会は胸糞悪い物だった。

 

 

「失礼した。貴方達がアリサ・オータムスとクイーン・サマーズか。貴方達のコンビは有名だ。特にアリサ・オータムス殿の人間離れした活躍には舌を巻く。クイーン・サマーズ殿も目立ちこそしないが相方についていけてるぐらいタフで優秀だ。学ばせてもらいますよ、偉大な先輩方」

 

「喧嘩を売ってるなら買うぞ後輩」

 

「落ち着いてクイーン。…私の相棒を悪く言うのはやめてほしいかな、ウェスカー」

 

「すまない。悪気があったわけじゃないんだ。善処しよう」

 

 

 そのあと昇進しまくってすぐ私達を追いぬくもんだからぐうの音も出せなかった。そしてついには私達の上司だ。反吐が出る。正体晒して殺してやろうか。

 

 

『やめた方がいいよ。今はクリスを始めとして優秀な人間が揃ってる。悪いのはクイーンってことにされて理由付きで殺されてしまうよ』

 

「私もやめた方がいいと思う…あっちは私達の正体に気付いてないみたいだし」

 

「はっ、アンブレラは無能の集まりだな。我が父以外」

 

『それはマジでそう思う。ウェスカーは切れ者だけど、想定外に弱いみたい』

 

「なーに話してんだ?美女二人!」

 

 

 すると、S.T.A.R.S.に与えられたオフィスにてコーヒーを飲みながら会話していた私達の肩を抱いて話しかけてくる男がいた。アルファチームの一人、ジョセフ・フロスト。武器の整備を担当するオムニマンであり血の気が多く激しやすい性格が偶に疵だが赤いバンダナがトレードマークの陽気なムードメーカーだ。

 

 

 S.T.A.R.S.はの部隊編制の7名で1チームとする7マンセルであり、隊員は各チーム内においていくつかポジションに振り分けられ、作戦行動を行う。アルファとブラボーの2チームで14名が在籍している。

 

 総隊長と副隊長が戦術的な作戦決定を行うチームの指揮官LDR(リーダー)。ウェスカーがこれだ。

 

 偵察や陣地確保など最前線での活動を主任務とする故に最も戦闘能力の高い隊員が担当するPM(ポイントマン)。クリスがこれに当たる。

 

 ポイントマンの援護役で共に行動することが多く、PMに並ぶ力量を持った隊員が担当するBUM(バックアップマン)

 

 機器の操作や重火器の整備・運用などを行うOM(オムニマン)。ジョセフがこれだ。

 

 ヘリコプターの操縦や警護、後方警戒が主な任務で、状況によっては狙撃手を担当する二名、RS(リア・セキュリティ)。ジルがこれだ。

 

 そして他メンバーの護衛と潜入任務をメインとする、PMの次に個人での戦闘力を必要とされる役職、SF(スニークフェンサー)。私とリサがこれだ。私がブラボーチームでリサはアルファチームだ。私達の正体わかっててこれを宛がったんじゃないだろうなウェスカーこの野郎。

 

 

「アンブレラがどうしたんだ?なんかの病気なのか?俺と恋の病とかどうだい?」

 

「丁寧にお断りする、ジョセフ」

 

「勘違いしないでね、ジョセフはいい人だよ」

 

「はははっ!体よくフラれてるじゃないかジョセフ!」

 

「よせよせ!俺達にゃ高値の花だよ!」

 

 

 そこにやってきたのはブラボーチームのリーダーにして本来であれば実力的にも年齢的にもS.T.A.R.S.の隊長に相応しい人物なのだが、出資企業(アンブレラ)の推薦によってウェスカーに隊長の座を譲ったS.T.A.R.S.の副リーダー、エンリコ・マリーニと化学防護要員であり、化学博士号を所持しているチーム最年長の黒人のポイントマン、ケネス・J・サリバン。

 

 

「よくわかってるじゃないか。そもそも私達は男に興味はない」

 

「え、それって女には興味あるってことですか…?」

 

「待てレベッカ。そう言う趣味もない。だから引くな、普通に傷付く」

 

 

 思わず引き止めたのはレベッカ・チェンバース。衛生要員で化学・薬品に関して豊富な知識を持ち、飛び級により大学を卒業した期待の新人のリア・セキュリティ。一番かわいがってる後輩に嫌われたら普通に泣くぞ。

 

 

「こりゃあ傑作だ!なあ、リチャード!」

 

「俺を巻き込むなエドワード…」

 

『ハハハハッ!』

 

 

 通信要員でバックアップマンのリチャード・エイケンは許すがリア・セキュリティ兼ヘリコプターのメインパイロットのエドワード・デューイはケツを蹴り飛ばす。エヴリン腹を抱えて笑うな貴様。

 

 

「ハッハッハ!R.P.D.屈指の最強コンビの片割れも期待の新人の前には形無しか!」

 

「怒らせたら怖いからやめた方が…」

 

「男が女を怖がるもんじゃないぜブラッド」

 

「バリー、ブラッド、フォレスト。お前らも蹴られたいか?」

 

 

 火器の補充と整備を担当している元空軍兵および元SWAT隊員でバックアップマンのバリー・バートンと、化学防護要員のリア・セキュリティでヘリコプターパイロットのブラッド・ヴィッカーズ、整備・対電脳犯罪担当オムニマンのフォレスト・スパイヤーにしっかり釘を刺しとく。男ってのは馬鹿ばっかりだ。

 

 

「アリサ先輩、このコーヒー美味しいわよ」

 

「わあっ、ほんとだ。ジルのおすすめは何時も美味しいね」

 

 

 そこでジルと仲良く会話しているアリサはマイペースが過ぎる。羨ましいなおい。馬鹿どもの相手を私だけにさせるなこら。

 

 

「ただ今戻りました…なにしてるんだ?」

 

「どうやら男衆がクイーンを怒らせたようだな」

 

 

 そこに、アイアンズ署長に呼ばれて署長室に行ってたウェスカーとその付き添いをしていたクリスが書類を手にして戻ってきた。イライラしているのはウェスカー、お前のせいでもあるが言わぬが吉か。

 

 

「諸君、仕事だ。アイアンズ署長からの依頼で、ラクーンシティに潜伏しているテロリストの鎮圧をしてもらいたいとのことだ。敵は爆弾を所有している、早急に解決してもらいたいとのことだ」

 

 

 その言葉に私達は気を引き締める。そのうちアンブレラに当たってほしいがこの男がリーダーな時点で無理だろうな。さっさと解決してシェリーと戯れるとしよう。




爆発テロ組織はアンブレラに敵対している組織の差し金なので、体よくアンブレラに利用されているリサとクイーンだったりします。

オリジナル役職「SF(スニークフェンサー)」他メンバーの護衛と潜入任務をメインとする、PMの次に個人での戦闘力を必要とされる役職です。簡単に言うとブラックウィドウみたいな。

男所帯で辟易しているクイーン。リーダーがあれだからセクハラ多そう(偏見)

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file0:13【S.T.A.R.S.の任務】

どうも、放仮ごです。気付いている人もいると思いますがレベッカが原作よりも早くS.T.A.R.S.に加入してます。エヴリン達の影響で微妙に歴史が変わっている訳ですね。楽しんでいただけたら幸いです。


 敵が潜伏していると思われる二つの廃ビルに、アルファチームとブラボーチームで分かれて攻略しているS.T.A.R.S.の、クイーンの方についてきた私。休日はいつも白衣姿だが今はジルとお揃いの制服姿だ。顔は成長した私によく似てるから恥ずかしい。なんでそんなぴっちりなの。

 

 

「…爆破テロ、か」

 

 

 己を先導にしてブラボーチームPMのケネス、その相方のBUMのリチャードと共に潜入しながらクイーンが、腕の一部の擬態を解いてヒルたちを向かわせながらぼやく。その口調から、「警察なんかに入るより爆弾かなんかで研究所吹き飛ばした方がよかったかも」という感じか。

 

 

『でも、クイーンが今目指すのはそこじゃないでしょ?』

 

「…そうだな」

 

「戻ったか、クイーン。どんな感じだ?」

 

 

 確認してから後退してきたクイーンに尋ねるケネス。リチャードも無言で頷く。

 

 

「馬鹿どもの数は10。爆弾と思われるドラム缶を中心に三階最奥の部屋に陣取っていた。タイマーが見えたから恐らく時限爆弾だ。自爆テロって奴だと思う。装備は全員AK-47で防弾装備までつけて完全武装だ。どうする?」

 

「よくそこまでわかったな、優秀すぎるぜお前さんはよ。…ということらしいが、リーダー(エンリコ)。どうする?」

 

 

 クイーンからの情報に手放しに称賛し、無線で尋ねるケネス。すぐにエンリコの声が届く。

 

 

《「クイーン、屋根裏から奇襲できるか?」》

 

「ドラム缶を中心に入り口や窓を警戒しているから、中心に降り立てばできると思う」

 

『タイミングは私に任せて!』

 

《「よし。そのタイミングでフォレストに電気を落とさせるからケネスとリチャードが襲撃。エドワードの操縦するヘリから俺とレベッカが屋上に降りて上から挟み撃ちにする。絶対に逃がすな。爆弾に銃弾を当てるなよ?」》

 

「「「了解」」」

 

 

 言うなりクイーンは助走をつけると廊下の壁を駆け上って天板を持ち上げ、天井裏に潜り込む。あ、微妙に粘液を指先に出して登ったな。それぐらいならばれないからいいね。

 

 

「ヒュウ、やるぅ」

 

「クイーンの身体能力は本当に人間離れしてるな…」

 

 

 そんなケネスとリチャードの台詞を背に受けながら、高速で這って行くクイーン。若干キモイ。見られてないからって私の顔でそれはやめてくれないかな。あ、そうだ。リサの方はどうなってるだろう。

 

 

『リサ。そっちはどんな感じ?』

 

(今から突入するよ。そっちは?)

 

『こっちもそんな感じ。クイーン、リサの方も始めるってさ』

 

(了解した。頑張れと伝えてくれ)

 

『言わなくても伝わってると思うよ』

 

 

 私達は菌根で繋がってる。私だけは集中すれば脳内会話もできるのだ。これがかなり便利だ。特に内緒話に。ラクーンシティ内ぐらいの広さなら問題なく聞こえるから通話代わりにもなる。1980年に飛んでから16年、なにも遊んでたわけじゃないのだ。イーサンとローズ無しでこの力でどこまでやれるか試行錯誤する時間はいくらでもあった。不老のリサが年を取った様に見せる擬態の微調整も可能だ。洗脳能力も、毎年あるクイーンとリサの健康診断の際に誤魔化すのに役立ってる。一瞬洗脳するだけだから後遺症もない。ベイカー家の二の舞は御免だもんね。

 多分擬態もミランダ並みとはいかないがそこそこ自由にできると思う。これでマダオ(ハイゼンベルク)とかの能力も再現できたらいいんだけどね。特にマザコンブサイク(モロー)の粘液。あれをクイーンが使える様になったら強いと思うんだけど。

 

 

「エヴリン、ついたぞ。頼む」

 

『かしこまり!』

 

 

 そんなことを考えていると配置についたのかクイーンが天板をずらして様子を窺う。おっと、私の役目を果たさなきゃ。天板を擦り抜けて中央のドラム缶の上に浮かび、周りを見渡す。10人の完全武装の男たちが周囲を警戒していたが誰一人中央には注意を向けていない。なんならナイトゴーグルとかもつけてないから停電対策もしてないらしい。窓は二つだけだから停電したら結構パニックになりそうだと確認、浮上してクイーンの前に顔を出すと右手も出してサムズアップを浮かべるとクイーンは頷き無線にひそひそと声を出す。

 

 

「配置についた。何時でもいいぞ、エンリコ」

 

《「よし。ケネスとリチャードも配置についたと無線で聞いた。いいかフォレスト?…よし、今だクイーン!」》

 

「了解…!」

 

 

 エンリコからの指示を受けたクイーンは右手を天板に押し付けて粘液を指先から出してくっつけ固定。一息で天板を音もなく外すとヒルで肉体を構成している故の驚異の柔らかさで天板一つ分の穴からするりと抜けてドラム缶の横に音もなく着地。ロバート・ケンドに誂えてもらった二丁の改造ハンドガン、サムライエッジの専用カスタム「ゴク」「マゴク」を抜いて構えた。ちなみにネーミングセンスは私提案だ。

 

 

「よう。テロリスト共」

 

「「「「「!」」」」」

 

流れ星(STAR)でも落ちてきたと思って不幸を嘆け」

 

 

 そしてサブマシンガンの様な連射が襲いかかり、次々と防弾チョッキの上から衝撃を与えてテロリストたちを引っくり返す。ヒルの肉体により衝撃を分散させているが故の芸当だ。常人なら肩が外れてると思う。

 

 

「おのれ!アンブレラの差し金か!?」

 

「なんだと?」

 

「撃て!撃て撃て!爆弾に当たっても構わん!」

 

「構えよ馬鹿!」

 

 

 リーダー格と思われる男の発言に眉を潜めたクイーンに一斉掃射。クイーンは防弾の服の上から粘液を纏って己が盾になることで銃弾を受け、そこにケネスとリチャードが突入して来て手にした銃を構える。

 

 

「R.P.D.のS.T.A.R.S.だ!」

 

「銃を下ろせ!」

 

「ナイスタイミングだ二人とも」

 

 

 そちらに気を取られたところにクイーンが突撃。リーダー格に飛びかかり、両足を広げて太腿で首を挟み込むとグルグル回転して床に叩き付け、そのまま脚で拘束したまま銃を頭部に突きつけ、もう片方は爆弾を起動しようとしたのか駆け寄ろうとしていた男の足を撃ち抜いた。躊躇ないのはさすが非人間。家族や仲間と認めた人間以外には冷めてるからねえ。

 

 

「私達はS.T.A.R.S. 普通の警官と違って必要とあらば殺しも許されている。さあどうする?」

 

「う、ぬ……」

 

 

 リーダー格の男は両手を上げて降参の意を示し、他の男たちもケネスとリチャード、合流したエンリコとレベッカが無力化し、連行していた時の事だった。

 

 

「…こいつらは、アンブレラの敵だったのか?」

 

『アイアンズ署長はバーキンと…アンブレラと繋がってるから、もしかしたらアンブレラにとっての不穏分子を消す任務だったのかもね…』

 

(大変!エヴリン!クイーンに伝えて!)

 

『どうしたの、リサ!?』

 

 

 リサから焦った声色の脳内通話が入ったので、右耳を押さえて通話に集中するとクイーンも異変を感じ取ったのか怪訝な表情を浮かべる。

 

 

(こいつら、上に別の人間がいたみたい!遠隔操作で爆弾を起動できるって!)

 

「ッ、クイーン!爆弾が!」

 

「ちぃ!」

 

 

 慌てて確認すれば、30分以上余裕があった爆弾のタイマーが急速に進んでいき、あと15秒にまで縮まっていた。それを見たクイーンは舌打ちして右手をドラム缶に押し付ける。粘液が一気に分泌されて隙間から流し込まれる。同時に衝撃。爆発が粘液で抑え込まれた。あ、危なかった。思わず一息つく。

 

 

「…クイーン、先輩?」

 

『あ』

 

「………レベッカ」

 

『ごめん、警戒するの忘れてた』

 

 

 心配したのか入り口まで戻って来ていたレベッカを見て、てへぺろと舌を出すとクイーンにものすごい形相で睨まれる。ごめんて。




そんなわけでついに生物兵器以外の人間にばれました。どうなるんでしょうね?(すっとぼけ)

エヴリンとクイーンの現状はだいぶ器用なことができる様になってます。粘液が便利。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:13.5【プロトタイラントVSプロトネメシス】

どうも、放仮ごです。今回は閑話、セルケトの話となります。グロ注意。今作でトップクラスにグロいです。苦手な人は読まない方がいいです。読まなくても一応話自体は繋がります。タイラントってこれぐらい無情だと思うんだ。ではどうぞ。


 ラクーンシティ地下「NEST」の一室、兵器性能テストルーム。バキン!バキン!と、鎖が次々と砕け散る音が聞こえる。それは、次々と滑り落ちる様に滑車に設置されているサンドバッグが、次々と粉砕され繋がった鎖が衝撃に耐えきれず砕け散る音。中に入っているのは砂鉄であり、通常入れられている砂よりも比重が重く、滑り落ちる勢いも合わせてそう簡単に吹き飛ばせるものじゃない。それを容易く貫き、殴り、斬り裂き、蹴り飛ばすのは、リサとよく似ているなれど蠍の特徴を持つ異形の右半身を持つ女。プロトネメシス、セルケトだ。

 

 

《「特性サンドバッグを間髪入れず容易く破壊か。レントゲンを通してみる限り生身の腕や足を使った一撃も筋繊維や血管こそ千切れ、骨も複雑骨折しているが即時に再生している。やはり以前よりも進化しているな。体内で培養しているG-ウイルスの効果だろう。興味深い、やはりお前を回収してよかったよセルケト」》

 

「バーキン博士。もう十分よ。タイラントと戦わせて」

 

《「いいだろう。コードNo『T-001型』プロトタイラントをあの部屋に用意しろ」》

 

 

 自然体で構えるセルケトの前に、皮膚が腐敗し発達した鋭い爪が特徴の右手、右側に存在する剥き出しの心臓が目立つスキンヘッドの大男が現れる。名を、プロトタイラント。投与したT-ウイルスが極度に作用した結果知能が劣化、更に皮膚の腐敗が目立つなど肉体の保存状態にも問題があったため、アンブレラ社の求める基準を達する性能には至らず、完成を目前にして廃棄処分が決定したものをバーキンが引き取った物である。

 

 

「こいつを倒して証明してみせる。私が今でも傑作なのだと」

 

 

 この部屋を一望できる高所に配置されている硬質窓ガラスで遮られた部屋から見下ろす己が父の一人にそう宣言するセルケト。最近、タイラントやG-ウイルスの研究を優先するバーキンの興味から己が外れかけているのは理解していた。己はG-ウイルスの温床に過ぎず、既に必要量を確保している時点で用済みで、「傑作」であった事実は過去になり、戦闘能力すら疑問視されては残す意味もない。

 

 三年前、リサとクイーンを急襲したセルケト。しかし反撃に遭って負傷しさらに思考を制御していた寄生生物ネメシスプロトタイプγを無理やり奪われたことで記憶に欠如が発生、自分が誰を調べていたのかも忘れる始末。異形の身を隠すコートも破壊されて下水道に潜伏するしかなく、彷徨っていたところをバーキンの要請を受けたアンブレラの“掃除屋”に回収されて以降、アンブレラに従うことに疑問を抱いていた人格とどこの誰ともわからない人間に撃退された性能を疑問視され三年もの間、調整を余儀なくされた。

 

 新たなネメシスプロトタイプγを結合させて人格を再度制御、アンブレラの命令に忠実になり、無駄な思考の隙間なく命令を遂行できるようになったものの、自分が傑作B.O.W.であるという自負は忘れずタイラントよりも有能であると証明せんがためにセルケトの要望で、失敗作とはいえ戦闘能力は折り紙つきのプロトタイラントと戦闘し性能テストを行うことになったのだ。負けたら失敗作として破棄されることを条件に。

 

 

「プロトタイラント、やれ」

 

「グオアァアアアアアアッ!」

 

 

 命令系統には問題なく、指示に頷いたプロトタイラントが身構え、突撃。振るわれた爪を、セルケトは尻尾を巻き付かせて右腕を拘束することで受け止める。そのまま引っ張って体勢を崩し、鋭角な装甲となっている右の膝を振り上げて顔面に膝蹴り。怯んだところに鳩尾に鋭角な装甲の付いた右の肘打ちが突き刺さり、ほどいた尻尾を一回転させて先端で心臓部を斬り裂くセルケト。

 

 

「知能が無い奴はやっぱり駄目ね」

 

 

 そのまま柔らかい肢体を利用して、左足を背中側に振り上げて頭上から蹴りを叩き込んでタイラントの後頭部を蹴りつけて床に転倒させ、そのまま縦に一回転。踵落としが背中に叩き込まれてクレーターが刻まれ、プロトタイラントは海老反りに折れてクレーターの中に崩れ落ちた。どう見てもオーバーキルであった。

 

 

「…ふう。どうかしら、バーキン博士」

 

《「ああ、及第点だよセルケト。だが甘いな。T-ウイルスは感染した生物の代謝を異常促進させ、死んだ細胞も強引に活動するほどの強大な生命力、急所に銃弾を何発も受けても死なない耐久性を与える。G-ウイルスがしぶとさならT-ウイルスは頑強だ。この意味が分かるか?」》

 

「っ…!」

 

 

 瞬間、プロトタイラントが起き上って爪を振り上げる。咄嗟に尻尾を間に割り込ませて盾にするセルケトだったがしかし、信じられない剛力で尻尾は引き裂かされてかろうじて繋がった状態となり、衝撃を殺しきれず吹き飛び背中から壁にぶつかるセルケト。そこにプロトタイラントは突撃、本能のまま爪を突き出して突進し、咄嗟に横に避けたセルケトのいた場所に深々と突き刺さったかと思えばコンクリートの壁を抉って引き抜いて振り回す。右腕の蠍の甲殻で受け止めるも、一撃でひしゃげてひっかけられて天井に叩きつけられ、落ちてきたところに左拳が腹部にめり込んで殴り飛ばされる。

 

 

「がはっ…!?」

 

《「不意を突いた時に確実にとどめを刺しておくべきだったな。心がある故の甘さ、それがお前の弱点だセルケト」》

 

「まだ、まだよ…まだ終わってないわ…!」

 

《「それに比べて…心が無い故の無慈悲なパワー、瀕死の重傷からも復活する耐久力…失敗作でこれか、素晴らしいぞタイラント。T-ウイルスの完成形として申し分ない。完成が楽しみだ」》

 

「そん、な…」

 

 

 なんとか立ち上がって奮起しようとするセルケトだったが、敬愛する父親の興味が自分から目の前の醜悪な怪物に向けられていると察してしまい、戦闘中にも関わらず絶望からか立ち尽くしてしまう。それは正しく、心を持つが故の弱点で。そんなセルケトに、プロトタイラントは容赦しない。その尋常ならざる膂力を持って一瞬でセルケトの目の前に移動すると、アッパーの要領で右腕の鋭い爪を腹部の下から突き刺し、喉元まで貫通させ串刺しにすると頭上に持ち上げる。

 

 

「ぐうっ…はあっ!?」

 

《「…戦闘テストは終わりだ。期待外れだ、高い金をかけて調整してやったのに無駄になった。お前は廃棄処分だ、セルケト」》

 

「…うう、あああ…」

 

 

 ゴボッと気泡を立てて吐血しながら力なく、この部屋を一望できるガラス張りの部屋から己を冷めた目で見下ろすバーキンに手を伸ばすも、容赦なく右腕を振るわれ投げ捨てられて壁に叩きつけられ、崩れ落ちる。

 

 

(私は、我が父二人の期待に応えたくて……)

 

 

 横に崩れ落ちている己の肢体を眺める。再生が遅い。性能を見せつけるために(おこな)ったサンドバッグのテストでこまめに再生したせいだろうか、それとも単純に想定を超えた大ダメージを受けたためか、再生能力が限界を迎えているようだと察する。全ては「心」が敗因だ。生物兵器に心は不要。それをプロトタイラントは証明して見せた。ならば、何故だとセルケトは心の中で問いかける。

 

 

(何故、心なんかを私に持たせたの…?こんなに、痛いもの、いらなかった)

 

 

 たまらず涙がこぼれ、困惑するセルケト。プロトタイラントに負けたことに対する悔しさか、心を持たせたことに対する怒りか、それとも生みの親に見捨てられた悲しみか。

 

 

《「涙を流す兵器に用はない。とどめだ、プロトタイラント」》

 

 

 涙を流すセルケトを一瞥して興味も無さそうに立ち去りながら、バーキンの指示が飛ぶ。そして、歩み寄ったプロトタイラントが右腕の鋭い爪を振り上げ、無情にも振り下ろして鮮血が飛び散った。




廃棄処分になったセルケト。鬼畜バーキン。地味に廃棄処分から免れてるプロトタイラントくん。廃棄処分と言えば…?

次回はレベッカ視点。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:14【正体バレはヒーローのお約束だよね?】

どうも、放仮ごです。今回はレベッカ視点。なんで二年早く所属しているのかが判明します。楽しんでいただけたら幸いです。


 6年前。ラクーンシティで一つの誘拐事件が起きた。旅行者の子供が、白昼堂々車で連れ去られると言う事件だった。そこに居合わせたのが当時新人警官だったアリサ・オータムスとクイーン・サマーズ。二人は目撃するや否や飛び出し、人間離れした身体能力で瞬く間に誘拐犯を制圧。誘拐された少女を救いだした。その助けられた少女の名は、レベッカ・チェンバース。後のS.T.A.R.S.だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はレベッカ・チェンバース。16歳だが飛び級で大学の学士課程を優秀な成績で卒業し、化学や薬品の精製・調合の腕を買われて最年少の警官としてR.P.D.に所属している。私には憧れの人間がいる。6年前、ラクーンシティに遊びに来ていた時に誘拐された私を颯爽と助けて見せたクイーン・サマーズとアリサ・オータムス、当時からラクーンシティのヒーローとして有名だった先輩たちだ。

 

 二人に憧れ、二人の様になりたいと本来ならあと二年かかるところを努力して16歳で卒業した時に私の熱意が耳に届いたアイアンズ署長の推薦でR.P.D.の特殊部隊S.T.A.R.S.に配属され、憧れの二人と同僚になった。かっこいいだけじゃなく意外と天然なアリサ先輩と、粗暴だけど仲間思いな一面を持つクイーン先輩の一面も知りつつ、幾度か共に任務を熟していたある日の事、それは起きた。

 

 

「…クイーン、先輩?」

 

『あ』

 

「………レベッカ」

 

『ごめん、警戒するの忘れてた』

 

 

 爆発テロ犯をクイーン先輩の活躍で逮捕し、連行していたところでクイーン先輩がいないことに気付いて戻った私が見たのは、クイーン先輩が焦ったかのように手から謎の粘液を大量に出してドラム缶を包み込んだ瞬間、粘液の中で爆発が起きたのが封じ込まれた信じられない光景。私に気付いて何故か憤怒の形相を虚空に向けたクイーン先輩は、手をヒラヒラさせながらそっぽを向く。

 

 

「落ち着け。これは私の汗だ」

 

『アホかな?』

 

「汗にしても異常な量出てません?それに汗なんかで爆弾を処理できるわけないでしょ!?」

 

『それはそう』

 

 

 思わずツッコむ。誤魔化すにしてももう少し何かあるだろう。そうこうしていると、先程エンリコ隊長が呼んでいた爆弾処理班が上って来て、止める間もなく部屋に入って行ってしまう。不味い、この異様な光景を見られる。

 

 

『誰かいっぱい来た!多分爆弾処理班!』

 

「っ…エヴリン!」

 

『かしこまり!』

 

 

 入ってきた爆弾処理班に誰かの名を呼びながら手をかざすクイーン先輩の手から、目を凝らさないとよく見えない黒い線の様なものが幾重にも伸びて爆弾処理班全員のこめかみに突き刺さる。驚く間もなく引き抜かれ、爆弾処理班は何事も無かったかのように粘液塗れのドラム缶を持っていってしまった。

 

 

「クイーン先輩、なにが起きてるんですか!?爆弾処理班の人たちも反応すらしてませんでしたし!なにをしたんですか!」

 

『どうする?レベッカも処す?』

 

「ぐ、うううう…よせエヴリン、手は出すな。レベッカ…お前を信用して話す。だから、皆には黙っていてくれないか」

 

「…信用」

 

 

 まっすぐと見つめてくるクイーン先輩に、6年前の光景を思い出す。何時もの先輩と変わらない、芯の入った真っ直ぐな瞳。白昼堂々車に連れ込んで私を誘拐しようとしていた誘拐犯の走行中の車に、躊躇なく飛び付いてしがみつき誘拐犯を引きずり出したクイーン先輩と、窓ガラスとフロントガラスに拳を突っ込んで叩き割り、掴んで引っ張り無理やり車を転倒させて停車させたアリサ先輩の人間離れした活躍の秘密を知りたいと思っていた。彼女たちは人間じゃないのかもしれないが、私にとってはヒーローだ。どんな秘密があろうが、受け入れて見せる。

 

 

「…わかりました。聞かせてください」

 

『本当にいい子だねえ』

 

「ここじゃ不味い。場所を変えよう」

 

 

 そう言ってクイーン先輩はエンリコ隊長になにやら無線で話すと廃ビルから出て行き、私はそれを追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクーン警察署近くのバスケット場裏に存在するレストラン『清酒 松浪』の個室。ジャパニーズ文化が取り入れたいわゆる料亭であり、畳敷きの座席に靴を脱いで上がるのはなんとも慣れない。クイーン先輩曰く行きつけの店であり、この個室は内緒話に最適なんだとか。あと酒が美味しいらしい。

 

 

「先輩たちが、アンブレラの生物兵器…?」

 

「他言無用だぞ。ウェスカーに知られたらお前も消されてしまう」

 

『ウェスカーだけはやばい』

 

「生物兵器と言うのも気になりますが、何でウェスカー隊長…?」

 

「ウェスカーはアンブレラの一員で私の父を殺した一人だからだ」

 

「!?」

 

 

 とんでもないカミングアウトに目を見開いて飲んでいたお茶を噴き出す。あ、あのウェスカー隊長が!?

 

 

『ひゃあ。かかったー!?』

 

「アリサはウェスカーの被害者の一人だ。私とエヴリンが助け出してから、行動を共にしている」

 

「エヴリンって、さっき言っていた?」

 

「ああ。エヴリンも生物兵器で、爆発処理班を一時的に操ったのもこいつで……信じられないだろうが、ここにいる。お前の噴いたお茶が擦り抜けてわちゃわちゃしている」

 

「ええ…?」

 

『わちゃわちゃ言うなー!?』

 

 

 クイーン先輩の促す先には虚空があるだけでなにもいない。クイーン先輩が狂ってるとかじゃなければいるんだろうけど…?

 

 

「…それで、クイーン先輩は…人間、じゃない?」

 

「…ああ。リサと違って元人間でもない。蛭の集合体だ」

 

『うーん、端的に言ってキモい』

 

 

 そう言って右腕を巨大な蛭の塊に変えて見せて自嘲気味に笑うクイーン先輩。すぐに粘液に包まれて人の手に戻る光景を、呆けて見つめるしかない。本当に、人間じゃないんだ…。

 

 

「…目的は、なんなんですか?七年間も警察を続けていられるんですよね…?」

 

「誓ってラクーンシティの人間を害するつもりはない。私達の目的は、我々の家族を奪ったアンブレラの破滅だ」

 

『洗脳とかはしてるけどねー』

 

「復讐ってことですか…?」

 

「そうとも言う、な。幻滅したか?ヒーローなんて言われている我々の正体に」

 

「それは……」

 

 

 本音を言えば、少し幻滅した。私の理想像だった清廉潔白なヒーローは実はいなかったのだと知って、がっかりしなかったと言えば嘘になる。だけど、目的が復讐だとしても……あの時、打算無しで私を救ってくれたことは明白だ。だから。

 

 

「私にとっては、クイーン先輩とアリサ先輩は永遠のヒーローです。それは、決して変わりません」

 

「レベッカ…いいのか?」

 

「ウェスカー隊長にも、みんなにもこのことは黙ってます。それと、私が助けになれることがあったら言ってください。協力させていただきます!あ、でも悪いことは駄目ですよ?」

 

『レベッカ、いい子すぎない?』

 

「あ、ああ……」

 

 

 しっかり釘をさすとクイーン先輩は戸惑いながらも頷いた。と、そこにどたばたと忙しない足音が。引き戸が開くと荒い息のアリサ先輩が顔を出した。

 

 

「遅れた!ごめん二人とも!…あれ、何この空気?」

 

「話なら終わったぞ」

 

「終わりましたよ」

 

『リサはリサだねえ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ラクーンフォレスト内の地下洞窟を利用して作った産廃処理施設、通称「処理場」にて。アンブレラの「掃除屋」二名に黒い袋にすっぽり包まれ頭を脚を抱えられて連れて来られたその人物が廃液の溜まっている貯水場に投げ捨てられる。

 

 

「ぐ、う……」

 

 

 「掃除屋」が去って行ったそこで、袋を突き破った鋭い先端の尻尾が壁に突き刺さって袋を持ち上げ、岸まで引き上げる。そして袋を突き破って出てきた甲殻類の鋏が頑丈な袋を引き裂いて、中身……プロトネメシスの名すらはく奪され廃棄処分にされた生物兵器、セルケトが出てきた。既に乾いているが血塗れで、傷跡が生々しい物のプロトタイラントから受けた傷は再生していた。

 

 

「……本当に、捨てられたのか。バーキン博士にとってはその程度の…ははは、はははは……」

 

 

 フェンスに寄りかかり、汚れた壁を見つめて乾いた笑い声を上げるセルケト。ひとしきり笑った後、天を仰ぐ。空は見えない、汚れた天井だけだ。

 

 

「私は、なんのために……そうだ、ウェスカー博士…あの人、なら……」

 

 

 ろくな食料も摂取してないため満足な回復もできていない身体で立ち上がり、よろよろと歩き始めるセルケト。その行く先は希望か絶望か。




まだバイオハザード事件も起きてない上に「ヒーロー」であるためクイーンたちを受け入れるレベッカ。クイーンとリサに助けられて運命が変わった一人です。

そして廃棄処分され処理場を彷徨うセルケト。彼女の行く先は…?

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file0:15【歪みに歪んだ原作開始】

どうも、放仮ごです。ギリギリになり申し訳ない。夏バテしておりました。

今回から原作START。15話目にしてようやくです。楽しんでいただけたら幸いです。


 1998年5月。それは、アークレイ研究所に突如現れた。女性研究員に擬態していたそれは突如擬態を解いて研究員たちを襲撃。T-ウイルスの入っていた容器がはずみで落下して割れて、T-ウイルスが蔓延する中でそれはローブの様なものを纏った美青年の姿を取るとにんまりと笑う。

 

 

「この2年、潜伏していたが必要な知識の獲得は完了した……これで「僕達」は「私」になった。礼を言う」

 

 

 パソコンを操作して研究所のサーバーにアクセス、2年もの間様々な研究員を見て盗んだ知識を総動員してシステムを乗っ取り、次々と己の同類を解放していく美青年。地獄の番犬、這いよる者、排除する者、蜘蛛の巣を紡ぐ者、潜伏者、海の神、融合獣、狩人。それらの名を冠するB.O.W.が解放されていき、そして美青年の背後で殺された者達が呻き声を上げながら立ち上がる。

 

 

「T-ウイルスの強化も上手く行ったようだ。我が体内で濃縮しただけだが効果は倍増だ。我が父よ、もう少しだ。もう少しで貴方の無念を晴らせる……アンブレラに復讐を…地獄の炎をこの世全てに」

 

 

 未来から来たエヴリンすらも予想だにしなかった想定外の災厄が、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レベッカに正体がばれてから、レベッカとの任務の時だけ気兼ねなく変異ヒルとしての力を解放できるようになった。今ではエヴリンが記憶を操作できるのをいいことに犯罪者の逮捕にも使って能力を研究、粘液を糸状にして飛ばすことができるようになった。エヴリンが滅茶苦茶勧めてきたコミックのヒーローの真似だ。…あいつ、物に触れられないのにどうやって中身知ってたんだ?アニメでも見たのだろうか。

 

 そんなこんなでレベッカ以外のS.T.A.R.S.メンバーに隠し通して二年後。1998年7月9日。ラクーンシティ郊外のアークレイ山地で、人が食い殺されるという猟奇殺人事件が頻発、さらに遭難者が多発するという報告を受け、テロの可能性もあると言うことでS.T.A.R.S.の捜査が開始された。聞き込みをする途中で、人気(ひとけ)の少ない空き地に集まった私とリサ、エヴリンとレベッカは顔を見合わせる。

 

 

「…アークレイ山地、ラクーンフォレスト。…そういうことですか?」

 

「私のいた研究所と、クイーンのいたアンブレラ幹部養成所のある地域だね…」

 

「…ついにアンブレラがやらかしたか、それとも想定外の何かが起きたか…どちらにしても調べに行くことになりそうだな。何せ我らのリーダーはウェスカーだ。例え危険だろうが我等を使って調査するはずだ」

 

『…(98年と言えば最初のラクーンシティ事件が起きた年…普通に毎日が楽しくて失念してたあ)』

 

 

 なんか頭を抱えて逆さまになるエヴリンを見て私とリサは首をかしげる。こいつはなにをしてるんだ。

 

 

「生物兵器…ですかね?」

 

「恐らくな。臆病なアンブレラがこんなに目立つ事件を起こすわけがない。十中八九B.O.W.の暴走だろう」

 

「性懲りもなく研究してたんだアイツら…」

 

『リサを失ったぐらいじゃ止まらなかったかあ』

 

「…やっぱり、みんなにも言った方がいいんじゃないですかね」

 

 

 そう言うレベッカに、一瞬怯えた様な表情の後に困った顔になるリサ。仲のいいみんなに掌返されて拒絶されないか不安なのだろう。私はドライだから割きっているがリサは元々人間だからな。

 

 

『クイーンもみんなに嫌われたらショック受けるって顔してるよ』

 

 

 エヴリンに指摘されてムスッとした表情に意識して変える。…くそっ、顔に出てたか。S.T.A.R.S.は今や、ウェスカーを除いて我が父に代わる家族の様な存在だ。嫌われたらなんて想像もしたくない。…私も人間らしくなったものだな、と自嘲する。

 

 

「…すまない。我々にそんな勇気は、ない。だがS.T.A.R.S.のみんなは必ず守って見せる」

 

「うん、誰も死なせない。そんな心配もいらないと思うけどね」

 

「…わかりました。二人の意思を尊重します」

 

『でも油断は駄目だよ。二人は強いけど…人が人を助けてられるのは、自分の手が直接届くところまでなんだから』

 

 

 エヴリンのその忠告は暗に私達は「人」であると言っていて。無意識なんだろうがエヴリンが私達を人だと思っていることが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査が進んだ7月23日。再びアークレイ山地にて起こった猟奇殺人事件を受けてラクーン市警がS.T.A.R.S.の介入を決定、先行隊としてブラヴォーチームが現場へ出動することとなった。エドワードとR.P.D.所属ヘリパイロットのケビン・ドゥーリーが操縦するヘリで急行する私達だったが、それは私達にとってもS.T.A.R.S.にとっても悪夢となる出来事の始まりだった。

 

 

「なんだ!?」

 

「どうしたエドワード!」

 

『大変クイーン!ローターエンジンが爆発した!』

 

 

 爆発音と共に大きく揺れ出すヘリコプター。外から入ってきたエヴリンの言によればエンジンが爆発したらしい。何故だ?我々が関係するヘリや装備はエドワードが常に整備しているはずだ、ありえないことが起きている。

 

 

「エンジントラブル発生!緊急着陸します!」

 

 

 そしてエドワードの操縦でヘリは回転しローターが木にぶつかりながらも森の中に緊急着陸。私達は脱出し、エンリコの指示で周囲を探索していると、転倒した護送車を発見。乗組員と思われるMP(憲兵)は死亡していたが、レベッカが裁判所による移送指示書を発見。死刑判決を受けた囚人ビリー・コーエン元少尉が移送されていたことが分かり、姿が見えないことから脱走したことが分かって盛り上がっていたが…私はあることに気付いた。

 

 

「…粘液?」

 

『クイーンのと同じだね』

 

 

 護送車に付着していた粘液が、私のものと酷似していたのだ。心当たりは一つしかない。

 

 

「…我が父の護衛に残したアイツらか…」

 

『いたねそんなの。でも統率個体のクイーンの命令しか聞かないんじゃなかった?』

 

「そのはずなんだが……9年も放置している。なにかイレギュラーが起きたとしてもおかしくない。…エンリコ、何かおかしい!一度戻ってアルファチームを待つべきだ!」

 

「いいや、凶悪犯が野放しになっている!放っておくことはできない!」

 

 

 嫌な予感を感じて提言してみるも、やはりというか聞き届けず。ダメか、最悪の可能性を考えないといけない、そんな視線をレベッカに向けると頷いた。

 

 

「書いている時期からしても猟奇事件の犯人はこのビリー・コーエンの可能性が高い!いいかみんな、手分けして周囲の探索に当たれ。エドワードとケビンはヘリの修理に当たれ。相手は残忍な凶悪犯だ、油断するな」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

『私も捜索しよ』

 

 

 エンリコの命令に頷き、エヴリンが空に舞い上がって周囲を見渡す。私とレベッカは女性同士と言うことで一緒に探すことになり、そして何かが草むらを通った気配を感じて辿った先でそれを見つけた。

 

 

「クイーン先輩、あれ!」

 

「列車…?」

 

『あれって、私達が逃げる時に使った黄道特急だ!なんでここに?』

 

 

 懐かしき黄道特急が、停車してそこにあった。




2年の間で知識を吸収してついに動き出し暗躍している謎の美青年。某蜘蛛男の様なことができるようになったクイーン。原作も開始してどうなりますことやら…。

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file0:16【ビリー・コーエン“元”少尉】

どうも、放仮ごです。ひと段落いくまでは連続投稿を続けたい。

今回はバイオ0もう一人の主人公、ビリー登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 ある軍事作戦中に、23人もの民間人を虐殺した冤罪から捕縛され、死刑判決されて処刑のため基地に移送される途中、巨大な人型の何かに護送車が襲われ運転していたMPたちが死亡。何とか生き延びた俺は銃を奪って逃走した。そして止まっていた列車に潜り込んだのだが…

 

 

「なんなんだ、こいつらは!」

 

 

 列車の中は死体の山があたりかしこに散乱し、さらにそれがあろうことか動き出した。咄嗟に撃ってしまうもビクともせずに歩み寄るその姿は、B級映画でぐらいしか見たことないゾンビってやつだった。俺は数体のゾンビの頭に何発か撃ち込んでダウンさせると、ゾンビの一体を蹴り飛ばし、狭い車内で押し倒してその上を飛び越えて移動するも、行く先すべてにゾンビがいて。俺は咄嗟に個室に逃げ込み、中にいたゾンビを撃って窓から外に投げ捨てることで一息つく。

 

 

「くそっ、疲れた……眠、い……」

 

 

 戦地であの事件が起きて、焦躁で眠れない中でそのまま連行されていたのだ。寝る暇もなかったこともあり、俺は泥の様に眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか降ってきていた雨に打たれながら、警戒しつつ車内に入る…前にエヴリンに無言で促すと、目を細めて無言で抗議しながら擦り抜けて入って行った。

 

 

『明かりが無い。暗くて何も見えないよ』

 

「…ちっ。エヴリンでも暗くて何も見えないそうだ、直接中を調べるぞ」

 

「了解」

 

 

 中に入り、ライトで照らす。…争った形跡と、死体が散乱していた。…なんだ?この異様に腐っているのに比較的新しい死体は。

 

 

『…これって、まさかね』

 

「…これも猟奇事件って奴でしょうか」

 

「…いや、頭部を銃で撃たれている。誰かが殺した跡だ。食い殺されたって言う猟奇事件とは毛色が違うぞ」

 

『うん?隣の車両に動く影!』

 

「隣に誰かいるらしい。レベッカ、構えろ」

 

 

 無言で頷いてハンドガン・サムライエッジを構えたレベッカと同じくサムライエッジのカスタム、ゴクとマゴクを構えて、扉を開ける。

 

 

「ラクーンシティS.T.A.R.S.のチェンバースです!」

 

「同じくラクーンシティS.T.A.R.S.のサマーズだ!動くな!」

 

『…やっぱりかー』

 

 

 扉を開いて中を確認した私達は驚愕する。腐敗している明らかな死体がさも当然とばかりにいくつも車内を歩いていて、声に反応してかこちらに一斉に振り向いたのだ。

 

 

『クイーン、こいつら洒落にならない!撃って、撃って!』

 

「クイーン先輩!これって…」

 

「手加減するなレベッカ!こいつら人間じゃないぞ!」

 

 

 ゴクとマゴクを構えて、連射。胸に何発か当てるもビクともせず、ならばとヘッドショットを叩き込む。頭部が吹き飛んだ死体はそのまま崩れ落ちる。レベッカは躊躇して手足を狙うだけで足止め程度にしかならず全く効果が無い。

 

 

「頭部だ、頭部を狙え!」

 

「う、うわあああああっ!」

 

 

 叫びながら頭部を狙ってヘッドショットを決めるレベッカをカバーする様に弾丸を撃ちきり、動くものがいなくなったことを確認すると銃を下ろしてレベッカの肩を叩く。興奮状態で荒い息を吐いていたレベッカはハッと我に返る。

 

 

「クイーン先輩、私……」

 

「…人間じゃない私と違って抵抗があったんだよな。責める気はないさ。…おいエヴリン、知ってることを話せ」

 

『あ、はい』

 

 

 なにかしら知っているような口ぶりだったエヴリンを睨みつけると、「信じてもらえるか分からないけど」と重い口を開く。エヴリンが語ったのは自らはずっと未来から来たこと。この時代、大規模バイオハザードが起きてラクーンシティが滅ぶこと。どこからか流出した、私から生み出されたあのT-ウイルスの影響で死体が動き出してゾンビ化、攻撃を受けた者は高確率で同じくゾンビ化してしまうことなどを白状す(ゲロ)るエヴリン。だから焦ってたのか。私はレベッカにかいつまんで話してから、こめかみを押さえる。

 

 

「…お前、そんな大事なことをよくも今まで隠していたな?」

 

『いや、T-ウイルスの元だったクイーンが研究所から逃げ出して、リサもいなくなったからアンブレラもこれ以上T-ウイルスを開発できてないと思って…今の今まで確証もなかったし…』

 

「馬鹿かお前は。サンプルぐらいいくらでも保存しているに決まっているだろう。私とリサがいなくなった程度で止まるような奴等でもないだろう。…つまりこの事件は」

 

『多分、T-ウイルスが流出してゾンビ化した死体が旅行者とかを捕食していたんだと思う…』

 

「…でも、そんなのどうすればいいんですか?ウイルスが流出しているんですよね?そんなの止めようが…」

 

「…恐らくウイルスを広めようとしている奴がいる。そしてそれは恐らく、私の知り合いだ。そいつを止めて少しでも被害を抑える。エンリコたちと合流しよう、レベッカ」

 

『クイーン、後ろ!』

 

「いったい何の話をしているか、俺にも聞かせてもらおうか」

 

 

 車内の端っこでレベッカと向かい合って話していたところに、背後の扉が開く音と共にチャキッと後頭部に銃を突きつけられる音が聞こえて、ゴクとマゴクを握った両手を上げて、二丁とも落とす。レベッカは私を人質にされて銃を構えられないものの、襲撃者の顔を見て神妙な表情を浮かべる。

 

 

「ビリー・コーエン少尉…」

 

「“元”少尉だ。驚いたな、俺の事を知っているだなんてな。お前らが追手か?にしちゃあ、若いな」

 

「執行予定の第一級殺人犯で、元軍人。…そして逃亡犯。お願い、銃を下ろして」

 

「ああ、なるほど?あんたらS.T.A.R.S.か。有名だぜ、ラクーンシティのヒーロー様だ」

 

「ヒーローってがらじゃない。が……ヒーローみたいなことはできるぞ」

 

「動くな。…っ!?」

 

 

 レベッカが宥めようとしているのは無視して、振り返ると同時に両手を突き出すと掌からしぼって糸状にした粘液を放射。私をバケモノと判断したのか咄嗟に撃たれた弾丸を頭部で受けながら糸粘液を放射し続け雁字搦めにして扉の奥の壁に拘束する。

 

 

「くそっ…聞いてないぞ、S.T.A.R.S.にこんなバケモノがいるなんて…」

 

「クイーン先輩!?大丈夫ですか!?」

 

「この程度、問題ない。バケモノとは失礼だな、23人も殺した奴に言われたくはない」

 

『いやこの光景どう見てもバケモノだよ』

 

 

 額を撃ち抜かれた風穴を再生させながらゴクとマゴクを拾いつつビリー・コーエンに向き直る。レベッカがサムライエッジを向けているがそう簡単にこの糸はほどけないから安心していいぞ。

 

 

「悪いが逮捕させてもらうぞ」

 

「生憎だが…飾りは間に合ってる」

 

 

 そう言ってビリー・コーエンがちゃりちゃり鳴らすのは糸で拘束されてない左手首に付けられた手錠。…確かに手錠はいらないな。その瞬間だった、窓を突き破って誰かが飛び込んできたのは。

 

 

「オイオイ、今度は何だ?」

 

「エドワード!?」

 

「そんな、なにがあったの!?」

 

 

 慌ててレベッカと共に駆け寄る。同僚のエドワード・デューイだった。全身なにかに噛み千切られたかのように肉がところどころ欠損しており、誰がどう見ても致命傷だった。目を離した隙に…嘘だろ?

 

 

『クイーン、しっかりして!貴女のせいじゃない!』

 

「くそっ、なんてこった…最悪だ。迎えの死神まで見えてきたぜ…」

 

 

 エヴリンが見えているのか視線を向けながら血を吐くエドワード。冗談を言える元気があるなら踏ん張れ!粘液で治療は…いや駄目だ、エヴリンが見えてるってことはつまり…くそっ。

 

 

「クイーン、レベッカ…気を付けろ。森の中はゾンビや、バケモノでいっぱいだ…!?」

 

「「!?」」

 

 

 エドワードがそこまで言った瞬間、窓を突き破って何かが入って来てエドワードの腹部に噛み付くと、止める間もなくそのまま噛み千切ってしまう。私達が咄嗟に銃を構える中、それは肉を咀嚼しながら振り向いた。

 

 

「こんどはなんだ!?」

 

「な、なにこいつ…!?」

 

「趣味が悪いぞアンブレラ…!」

 

『ケルベロス…?』

 

 

 そこにいたのは、無理やりつぎはぎで二つの首を取り付けられていて全身腐敗が進んでいる、三つ首のドーベルマンだった。その首にかけられているドッグタグにはCerberusとあるそれに、銃を構える。こいつがエドワードを…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――観る。女性警官二名と傍に浮かぶ少女を確認。警官の一人から同胞の気配。恐らく統率個体の擬態と思われる。最重要ターゲットに認定。要監視。

 

 

 

 

 

 ―――――観る。排除する者たちが襲撃した護送車から逃げ出した死刑囚を確認。睡眠から覚醒、行動を開始し女性警官二名と合流。要監視。

 

 

 

 

 

 ―――――観る。車体の外を調べる警官を複数確認。地獄の番犬を放ち、排除を試みる。――――約一名の排除に成功。上記の面々と戦闘開始。要観察。




ケルベロスならぬ「サーベラス」登場。どうしてこんな奴が生まれているかは次回にて。原作通りエドワード脱落です。ビリー拘束されたままボス戦へ。そして監視する謎の影。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:16.5【アークレイ研究所の主任研究員の手記】

どうも、放仮ごです。三年近く続けてきた毎日投稿もさすがに限界が来たので、今回は小休止回。サーベラスについての詳細で短いです。


 新型B.O.W.【サーベラス】について記載する。軍用犬のドーベルマンにウィルスを投与して創り出した、ギリシャ神話に登場する地獄の番犬「ケルベロス」がコードネームとして名付けられた開発ナンバーMA-39だがしかし、名前負けしていると研究員の間で上がった。これは生物兵器としていずれ売り出す代物だ。名前で非難を受けるのはアンブレラであり、その下っ端である我々の首もかかっている。

 

 しかし首が三つある犬の化け物など神話の中だけで、現実にはありえない。それは例え人知を超えた発明であるT-ウイルスを用いても不可能だ。そこで我々は別の視点から取り組むことにした。研究所で貴重なサンプルとして保存されてある、回収されてから今でも再生し続けているという曰くつきの代物「RTの右腕」を細断して得られる急速再生細胞を用いることにした。

 

 そもそもT-ウイルスとは感染し発症することで体内の全細胞が急激に活性化し、既に死滅した細胞でさえも再生し、感染者は異常な耐久性を有する代わりに、それに伴い新陳代謝も加速するため、十分な栄養を摂取できない場合には全身の体細胞の分裂と壊死の均衡が崩れ、筋力の低下による運動能力の著しい機能低下から始まり、最終的には肉体が腐乱してしまうという性質だ。ここで特筆すべき点はその「再生能力」にある。

 

 「RTの右腕」はT-ウイルスの元となる始祖ウイルスに適合した被験体の右腕であり、尋常ではない再生能力を有している。この再生能力は元に戻るだけでなく他の有機物とも統合して接着する効果がある。これを用いて「アレ」が生み出されたわけだが……そこは割愛する。

 

 とにかく、この再生能力は応用が効くわけだ。ケルベロスを三体用意、二体の首を切断して腐敗している首の左右に「RTの右腕」から採取した細胞を組み込んで取りつけた。再生しようとする細胞が神経を繋げ、三つの脳と六つの目を持つ狂犬ができあがった。いや理屈は完璧だったがまさか本当にできるとは思わなかった。RTの遺伝子は末恐ろしいが研究者として興味深い。

 

 凶暴性は三倍に上がり、六つの目による広い視野と三つの脳を直結させた並外れた頭脳で他のケルベロスを制御するリーダー格としても優秀。ネメシスを取り付けることで我々の手で制御も可能、まさに完璧な生物兵器が完成した。スペンサーさまもお喜びになるだろう。名前は【新型B.O.W.MA-39改 サーベラス】を名付けた。ケルベロスの英語読みで、より優秀なケルベロスと言う意味だ。次の報告会で報告するのが楽しみだ。




このあと謎の美青年に襲撃された模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:17【地獄の番犬サーベラス】

どうも、放仮ごです。ビリーなにしてもかっこいいのを小説で再現できるか問題で苦戦しました。

今回は原作突入初のボス戦、VSサーベラス。楽しんでいただけたら幸いです。


 突如列車の中に乱入し、瀕死のエドワードを噛み殺した、大型の三つ首犬ケルベロス…いや、ドッグタグからしてサーベラス、か。サーベラスは左右二つの首で私とレベッカを睨み、中央の首でエヴリンを見据えながら咆哮。列車の外からも咆哮が聞こえる。仲間!?こいつは群れの頭目か。不味いぞ、外にはまだエンリコたちが…!

 

 

『不味い、ビリー・コーエンを狙ってる!』

 

「レベッカ!ビリー・コーエンの拘束を解いて逃げろ!コイツは私が!」

 

 

 私の粘液糸で拘束されているビリー・コーエン目掛けて突撃するサーベラスに、咄嗟にゴクとマゴクを引き抜いて、突きつけて連射。それをサーベラスは左右端の目で確認すると素早いフットワークで全弾回避。六つの目による視野の広さと三つの頭脳による反射神経を有しているとでもいうのか!?

 

 

「「「ガウガッ!」」」

 

 

 するとまず私が脅威だと感じとったのかサーベラスは向きを変えて疾走。咄嗟に右手から粘液の糸を蜘蛛の巣状に放射して道を塞いで飛び込んできたところを捕らえようと試みるも、見て一瞬で判断したらしいサーベラスに蜘蛛の巣を噛み千切られて突破され、大型犬の質量に速度をプラスした体当たりをまともに受けて元々いた車両まで扉を突き破って吹き飛ばされる。

 

 

『大丈夫!?クイーン!』

 

「なんてパワーだ…っ!?」」

 

 

 そのままのしかかられて、左右の首で私の首を噛み千切らんと噛み付いてくるサーベラス。私は首を粘液で纏って硬化、噛み付きを受け止めながら立ち上がり、その巨体を抱えて椅子の背もたれに向けて叩きつける。椅子の背もたれに背中から激突し背骨をへし折られたサーベラスはへの字に折れてそのまま崩れ落ちる。

 

 

「さすがに背骨をへし折られたら動けないだろ、ハアハア…」

 

 

 そう勝ち誇っていると、信じられないことが起こった。巻き戻る様にして背骨が正常な形に戻ってしまったのだ。さらに「「「ガウッ!」」」と一声上げると窓を突き破って四体のゾンビ犬のドーベルマン…こっちはケルベロスとでも呼ぶか…が入って来て私を取り囲む。最悪だ。

 

 

「…リサみたいな再生能力だと?」

 

『わー、かわいいわんちゃん(現実逃避)。セルケトと一緒でリサの遺伝子使ってるのかな?』

 

「あの時この車両に残したあいつの腕か……クソッたれ!」

 

「「「ワウッ!」」」

 

 

 サーベラスが一声吠えると一斉に飛びかかってくるケルベロス達。私はゴクとマゴクをいったんしまって両腕に粘液を纏い、硬化。噛み付きを受け止めもう片方の腕で殴り飛ばして迎撃する。殴り飛ばされたケルベロスは、胴体をぶちぬき、または首の向きを反転させるだけで沈黙し倒れる。こいつらは異常な再生能力を有してないようだ。

 

 

「うおおおおおっ!」

 

 

 一斉に飛びついてきた残り二体の首を掴み、サンドイッチにでもするようにぐしゃりと叩きつけて投げ捨てると、体当たりで椅子を薙ぎ払いながら突撃してくるサーベラスに、咄嗟に引き抜いたゴクとマゴクを乱射。一発が運よくサーベラスの右頭部のこめかみを撃ち抜いて沈黙させるも、即再生。意味をなさず、私は体当たりをまともに受けて、外へ通じている扉の横の壁に叩きつけられる。そこに噛み付きが襲いかかり、身を捩って避けようとするも右肩を食いちぎられ、悲鳴を上げる。

 

 

「があああああっ!?……なんてな?」

 

「「「ガウ?」」」

 

 

 肉と骨を噛み千切ったのに血が出ないどころか咀嚼しているものに違和感すら感じたのか首をかしげるサーベラスに、粘液を纏って鋼鉄の様に固めた右足を叩き込んで蹴り飛ばし、立ち上がるとごっそり持っていかれた右肩を再生させる。

 

 

「再生能力を持っているのはお前だけじゃないぞ。それと生憎、私は人間じゃない」

 

『相手が悪かったね喋らすくん』

 

「サーベラスだ、間違えてやるな」

 

「「「ガウッ、ガウアァアアアッ!」」」

 

 

 私とエヴリンにおちょくられていると気付いたのかブチギレて突進してくるサーベラス。ぶっちゃけ体当たりとか打撃の方が私には効くが、刺されたり斬られたりなら私は即再生できる。故に。私は奴の噛み付きを右腕で受け止めながら、マゴクをサーベラスの右の顔の口に突っ込み引き金を引く。

 

 

「こいつでも喰らっとけ!」

 

「「キャイン!?」」

 

 

 右の頭部がパーンと弾け、怯んで噛み付きをやめて離れるサーベラス。即座にじわじわと右の頭部が再生されていく。気持ち悪い。

 

 

『人の事言えないと思うよクイーン』

 

「失礼な。こんなグロくはない」

 

『蛭の方が人によっては気持ち悪いと思うよ』

 

「……レベッカも蛭は嫌いだろうか」

 

『自分で考えてダメージ受けないでよ…蛭好きな人はそうそういないと思うけど。蟲はともかく。あ、私は好きだよ?クイーンは!』

 

 

 そんなことを言っている間にじっと佇んでいたサーベラスの右頭部が再生。こちらも息を整えて構える。…さてどうするか。こんなバケモノ、どうやって倒せば…。

 

 

『以前戦った似た様なの(ミアスパイダー)は首全部もげば死んだよ』

 

「どんな奴と戦ってるんだお前は。その首が一つ殺しても再生するんだと……!?」

 

「「「ガウガウガアアアッ!!」」」

 

 

 突進しながら左右の首で噛み付いてきたサーベラスの攻撃を、粘液硬化した両腕で防ぐもその勢いに押され、粘液でしっかり噛み付けるのをいいことにそのままぶんぶん振り回されて壁に叩きつけられる。痛い。

 

 

『クイーンがオモチャの様に遊ばれてるー!?』

 

「おい馬鹿言っている暇があったらなんか策考えろ」

 

『絶対無理だけど同時に三つの首を機能停止させるぐらいしかなくない?』

 

「…まあ無理だな」

 

「クイーン先輩!」

 

 

 ゴクとマゴクじゃせいぜい首二つが限度だ。せめてあと一人……そう考えていたら、扉が開いてレベッカが出てきた。それを見るなりそちらに向かおうとするサーベラスを羽交い締めにして食い止める。

 

 

「馬鹿!こっちに来るなレベッカ!」

 

「馬鹿なのはそっちですクイーン先輩!クイーン先輩にまで何かあったら私…」

 

「くっ…なら手伝え!私のゴクとマゴクで左右の首を狙う!お前は真ん中の首を狙え!やれるな!」

 

「は、はい!」

 

 

 右手から粘液の糸を伸ばしてサーベラスの三つ分の首に巻き付け、締め上げて背後に頭上から放り投げる。天井にぶつかり、「「「キャイン!?」」」と悲鳴を上げて床に倒れるサーベラスに、私のゴクとマゴク、レベッカのサムライエッジが向けられる。

 

 

「今だ!」

 

 

 私の合図と共に同時に放たれる弾丸。しかしやはり視界の広さと反射神経は伊達ではなく、全ての弾丸が紙一重で首を逸らされ避けられてしまう。

 

 

「そんな!?」

 

「まだだ!もう一回…レベッカ!?」

 

『ダメ、恐怖で怯んでる!』

 

 

 すかさず追撃とばかりに狙うも、まっすぐ突進するサーベラスにレベッカは怯んでしまい、銃をちゃんと構えられてない。せめて怯ませる、と二発の弾丸を放つが左右の頭部に弾丸を受けて吹き飛ばされてもサーベラスは怯まずレベッカに飛びかかる。それだけは、やめてくれ!

 

 

「レベッカ!」

 

「ひっ……きゃっ!?」

 

「言っとくが、こいつは貸しだぜ」

 

 

 するとレベッカを押しのけて己のハンドガンを構えるのは、レベッカに連れて行かせたはずのビリー・コーエン。目の前に牙が迫っていると言うのに冷静に放たれた弾丸は最後の頭部を粉砕し、首を全て失ったサーベラスはよろめいて壁にぶつかり、崩れ落ちるとそのまま沈黙した。再生の兆しは見えない。やったのか……。

 

 

「…助かった。礼を言う、ビリー・コーエン」

 

「ビリーでいい。…それにしてもいったいどうなってる?アンタは一体何者で、こいつらはなんなんだ?」

 

「それは……」

 

『周囲に敵の影はないし話していいかも…!?』

 

 

 その時だった。いきなりの揺れに体勢を崩して倒れ込む。エヴリンもレベッカも、ビリーも驚いて窓の外を見ている。列車が、動き出した…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――観る。女性警官二名と傍に浮かぶ少女…修正、クイーン・サマーズとレベッカ・チェンバースとエヴリンを確認。クイーン・サマーズは統率個体の擬態で確定。エヴリンは未来を知っていると発言、正体不明。要監視。

 

 

 

 

 

 ―――――観る。死刑囚ビリー・コーエン。レベッカ・チェンバースと取引を行うのを確認。要観察。

 

 

 

 

 

 ―――――観る。解き放った新型B.O.W.MA-39改 サーベラスの敗北、死亡を確認。死体は回収し再利用を試みる。サーベラスに勝利したクイーン・サマーズとビリー・コーエンの危険度上昇。――――確実に始末を推奨。黄道特急を再起動させ最高速度を維持―――脱出を困難にした上で脱線事故に至る確率、要計算。

 

 

 

 

 

 

「――――さあ実験を始めよう。我らが統率個体よ、お前は私より性能は上かな?」




原作の特徴であるツーマンセルじゃないと倒せないサーベラス。0にでてきてもおかしくないボスにできていれば幸い。

戦い方がもう完全に某蜘蛛男なクイーン。サム・ライミ版2の時計塔→列車戦は最高ですよね。

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file0:18【背負うべき十字架】

どうも、放仮ごです。忘れちゃならないけど今章は「女王ヒル編」レベッカやビリーではなくクイーンが主役です。

今回は黒幕登場。最初のは前回のクイーンが戦っている頃のレベッカとビリーの会話となります。楽しんでいただけたら幸いです。


「なあお嬢さん。あんまり動かない方がいいぞ。この列車は行けるところは全部調べた。危険だぜ。それともバケモノと一緒なら恐くないか?」

 

「先輩を悪く言わないで。あの人は私のヒーローなんだから」

 

「そいつは悪かった。だがそのヒーローもあの三つ首を相手するのはきつそうだったぜ?なあ、ひとまず協力しないか?」

 

「あなたと協力ですって?人殺しを信用しろと?」

 

「まあ聞けよお嬢さん。中も外もバケモノだらけだ、助け合わなきゃ命がいくつあっても足りねえ。俺を見張っているより先輩とやらを加勢しに行きたいだろ?」

 

「……お嬢さんと呼ばないで。わかったわ。でも変な真似したら撃つからね」

 

「上等。力になるぜ、レベッカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動き出した黄道特急の中で。レベッカにこの事件を乗り切るまでの間共闘しようと取引を持ちかけたらしいビリー・コーエンとも私達の知っていること…ここにはもう一人の人間エヴリンがいる事、私がサーベラスと同じ生物兵器でアンブレラが作ったこと、流出させた黒幕がいるからそいつをどうにかするのが目的であることをレベッカ共々共有する。ビリーは信じられない出来事を連続で体験したためかすんなりと受け入れた。…黒幕をどうするか決めてないのはあえて話さなかった。もしも同胞なら……話し合いの余地はある筈なんだ、そう自分に言い聞かせた。

 

 

「それで?これからどうする?俺達は動く棺桶の中だ」

 

「縁起でもないこと言わないでくれます?元少尉殿」

 

「列車を止める。協力しろビリー。言っておくがまだ信用してないからな。護送車で読んだ資料からお前が23人もの人間を一度に殺していて、精神科への通院歴もあることを知っている。化け物の私よりよっぽど危険人物だ」

 

『字面がすっごい危険』

 

「化け物にまで言われちゃ世話無いな」

 

 

 首を竦めるビリー。……正直そんな危険人物には見えないが記録が言ってるんだから間違いはないだろう。警戒は緩めない。それから…。

 

 

「エヴリン、列車の先頭車両に行って様子を確認して来てくれ」

 

『合点承知の助!』

 

「……見えない奴の事は信じられないが本当にいるんだな」

 

「私も見えないから半信半疑だったわ」

 

 

 壁を擦り抜けて先頭車両に向かうエヴリンを見送っていると、私とレベッカの無線に通信が入る。合わせている周波数はリーダーのエンリコの無線だ。

 

 

《「こちらエンリコ。信じられないことだが森の中はバケモノが蔓延っている。クイーン、レベッカ。現在位置はどこだ?」》

 

「隊長!こちらレベッカです!聞こえてますか?どうぞ」

 

《「ああ、聞こえている。無事なのか二人とも!」》

 

「こちらクイーン!森の中に見つけた列車を調査していたところ、列車が動き出した!エドワードもそのバケモノにやられた!」

 

《「エドワードがやられただと?……こちらもケビン・ドゥーリーがやられたのをジョセフが確認した。…悼んでいる暇はない。列車からの脱出は可能か?」》

 

「高速で移動している、飛び降りるのは不可能だ。止める方法を探す。それから、今回の事件は黒幕がいる。そいつは…エンリコ!聞こえるか!」

 

《「だめ……だ……なん……だっしゅ……!」ザザーッ》

 

 

 そこまで話したが通信が悪くなり途絶える。くそっ、無線はこれだから…!レベッカのも駄目らしい、トンネルか何かに入ったわけでもあるまいに…!

 

 

「どうしましょう、先輩」

 

「…どうにか脱出するしかないだろ。どうだ、エヴリン」

 

『えっとねー……先頭車両には誰もいなくてなんか粘液が操縦席についてて外に出て行った痕跡があるから多分犯人は…』

 

 

 繋がっている故に遠く離れていても会話できるエヴリンからの報告に、顔をしかめる。わざわざ痕跡を残して行ったということはエヴリンの特性と私の存在に気付いているのか…私を誘っているな。乗ってやろう。

 

 

「…そうか。エヴリンから情報を聞いた。手分けして当たろう。レベッカと……ビリーは先頭車両に向かって列車を止めてくれ。私はこの列車にいるらしい黒幕を探す。あとで合流しよう」

 

「黒幕って先輩の知り合いだっていう…?」

 

「…そうだ。私が尻拭いしないといけない。レベッカの事は頼んだぞビリー」

 

「後輩と人殺しの俺を一緒に行かせて平気なのか?」

 

「平気じゃないが…戦力を考えるとそうするのが妥当だ。もしレベッカになにかあったら地獄の底まで追い詰めてお前を殺してやる」

 

「おお、怖い怖い。お姫様は全力で守るぜ、安心しな」

 

「誰が守られてやるもんですか。あと、お姫様って呼ばないで。私は巡査よ?」

 

「へいへい」

 

 

 言いながらレベッカが先導して前方の車両に向かう二人を見送り、私は振り返る。……二人には聞こえなかったらしいが、サーベラスとの戦闘を終えて落ち着いた時に私の感覚は捉えていた。列車中を這い回るそれらの音を。

 

 

「…私に従う気はないんだな?」

 

「………」

 

「そうか、残念だ」

 

 

 一応訪ねてからゴクとマゴクを抜いて、この車両の天井の隅に擬態し私達を見張っていたであろう変異蛭たちを次々と撃ち抜いていくと、エヴリンがちょうど戻ってきた。

 

 

『うわあ。こんなのがいたんだ、気付かなかった』

 

「エヴリン。先頭車両にいた奴等は何処に逃げた?」

 

「後ろの車両の二階に繋がっていたよ」

 

「誘っているな。上等だ」

 

 

 後ろの車両に向かおうとすると鍵がかかっていたので、粘液を纏って硬化した拳で鍵を破壊して無理やり開けると奥の扉に続く廊下と階段があって、二階とのことなので階段を昇ると食堂車に出た。

 

 

「誰だ…!?」

 

 

 真っ暗で荒されている食堂車で何故か燃えている机に面と向かって座っている人物にゴクとマゴクを向ける。揺れる炎に照らされて、その顔が見えて思わず動揺した。してしまった。

 

 

「我が父…!?」

 

 

 そこにいたのは、亡くなった当時の姿そのままの生き写しである我が父で、私を確認すると席から立って真ん中に佇むその姿に、安堵からゴクとマゴクを下ろしてしまう。

 

 

「そうか、そうか……残した同胞たちは父を蘇らせたのだな…!」

 

『クイーン、正気に戻って!そんなことありえない!蘇ったとしてもそれはゾンビだ!マーカスじゃないよ!』

 

「うるさい!お前のせいで父を蘇らせることはできないと諦めたんだぞエヴリン!だが見ろ、この姿、気配……我が父そのものだ!」

 

 

 引き止めようとするエヴリンを拒絶して、駆け寄ろうとする。するとなにがおかしいのか父は笑いだした。

 

 

「フフッ、ハハハハハッ……我が父とは……見捨てて置いてよく言う」

 

 

 ひとしきり笑うとにやりと笑った我が父の首がぐるりと回ってもげて転がる。その断面には見覚えがあった。思えば当然だった。私も、エヴリンの姿をベースに人に擬態しているじゃないか。我が父の生きている姿を見て判断力が鈍った。父の姿が崩れて大量の蛭に変貌、津波の様に襲いかかってくる。

 

 

『クイーン!しっかりして!飲まれたら終わりだよ!』

 

「馬鹿な…残したのはせいぜい20匹程度だぞ…なぜこんなにいる…!?」

 

「我が父を守るために繁殖したんだよ。当然だろう?」

 

 

 なんとか構成を固めた私を飲み込めないと悟ったのか粘液で固めて一塊の質量になったヒルたちの津波を受けて壁まで叩きつけられ、ヒルたちが集合して新たな姿を形作っていく。それには見覚えがあった。部屋の隅に飾ってあったのを見たことがある、大学時代の我が父とスペンサー、アシュフォードが並んで映っていた写真の…若りし頃の我が父の姿。

 

 

「我々は統率個体、君の命令を守るべく我が父の体内に入って守護を試みた。そのとき奇跡が起きた。我が父の記憶が「僕」に取りこまれたのだ。自我を持たない「僕」に人格が生まれた。そして二年と言う長い時間をかけて馴染ませ、研究所で知識を得ることで記憶をちゃんと理解し新たな統率個体となった。それが「私」だ」

 

『…ゼウと同じだ…人の記憶による人格の誕生…』

 

 

 エヴリンが戦慄している。私も、驚きを隠せない。たしかに「守れ」と命令しただけで手段は問わなかった。その結果私以外の統率個体が生まれるとは…。

 

 

「我が父が言っている。“アンブレラに復讐を…地獄の炎をこの世全てに”。それは我が父の願いだ、悲願だ。なのにお前は何をしていた?人間と馴れ合い、人の生活を満喫し、ヒーローと呼ばれ満足し、アンブレラへの復讐も忘れて堕落した」

 

「なっ…アンブレラへの復讐を忘れたことなど一度もない!」

 

「本当にそうか?私が行動を起こしたのにお前は仲間の安否を優先しただろう。自分の正体がばれるのを恐れて私の口を封じようとしたんだろう?復讐を優先するならおかしい話だよなあ?」

 

「ぐっ、ぬっ…」

 

 

 言い返せなかった。確かに私はS.T.A.R.S.を優先した。アンブレラへの復讐より優先したと言えば嘘になる。かけがえのない仲間を失うかもしれない選択肢は取れなかった。

 

 

「お前はもう我々の同胞ではない。我が目的の邪魔をする敵だ。列車の脱線で死ぬのを待つこともない、いやお前一人なら脱線程度で死なないだろう。今この場で殺して取りこんでやろう。この私…支配種変異ヒル(マスターリーチ)の手でなあ!」

 

 

 両腕を触手状にして渦を巻き、竜巻の如く周りの机を薙ぎ払うマスターリーチ。私を構成している全てのヒルが危険に身を震わせる。…私は、こいつには勝てない。




マーカスが出てくると冷静を保てなくなるクイーン。いつの間にか大きな存在になっていたS.T.A.R.S.の存在も合わせて最大の弱点です。

はやくも登場、支配種変異ヒルことマスターリーチ。女王ヒルの完全上位個体です。クイーンの命令を守ったから誕生したと言う皮肉。とんでもない数に繁殖しています。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:19【仲間がいるよ】

どうも、放仮ごです。題名は某ひとつなぎから。最近アニメになった最高地点の戦い方だいぶ好みです。

今回はVSマスターリーチ。楽しんでいただけたら幸いです。


 統率個体を追い詰める数刻前……私は掃除をしていた。バイオハザードが起きた列車を止める前に乗り込んできたゴミ共の掃除だ。先頭車両を制圧し列車を確保したと確信しているそいつらを、我が同胞たちの「目」と「耳」で観察する。

 

 

「こちらデルタチーム。こちらデルタチーム。列車は確保しました。T-ウイルスによる被害を確認しましたが犯人は見つかりません。どうぞ」

 

《「了解。そのまま探索を続けてくれ。アークレイ研究所を壊滅させた犯人もいる可能性が高い」》

 

《「…こんなことありえない。だってそうだろうアルバート!なぜ黄道特急にT-ウイルスが漏れたんだ?研究所のある洋館と列車とは3マイルも離れてるっていうのに…!」》

 

《「ウィリアム落ち着け。喋り過ぎだ。そんなことよりこの事実が上にばれたら破滅だぞ。列車を始末するんだ、完璧にな。デルタチーム、引き込み線までの時間はどれくらいだ?」》

 

 

 ああ、無線の先にいるのか。我が怨敵、スペンサーに並ぶ最大最悪の宿敵…!アルバート・ウェスカー、ウィリアム・バーキン!そのことを確認した私は昂ぶり、擬態し潜伏していた壁から同胞たちを溢れださせる。

 

 

「あと10分と言ったところでしょうか……なっ!?う、うわああああああっ!?」

 

「ひいいいいっ!?」

 

「た、助けてくれぇええええっ!?」

 

《「どうした?なにがあった!」》

 

 

 3人の完全武装した男たちに纏わりつき、皮膚を千切り肉を喰らって侵食していく。手にした銃から弾丸が放たれるも、2年の間に増やした数には敵わない。粘液で固めたこの身に弾丸は通じない。この列車の人間を全滅させるために我が同胞の3分の1を向かわせたからな。男たちはすぐに動かなくなり、私は同胞を集め人型に擬態して無線を手に取る。

 

 

「やあアルバート、ウィリアム。声を聞けて嬉しいよ…生きていてくれてありがとう、お前たちはこの手で縊り殺さないと意味がない」

 

《「何者だ?デルタチームをどうした?」》

 

《「なぜ我々の名を知っている!?」》

 

「デルタチームとやらは我が同胞の餌になってもらった。ああ、よく知っているとも。忘れもしない、我が怨敵たちだ。私が何者か?おかしなことを聞く。私はお前たちもよく知る亡霊だ。必ずアンブレラに復讐を果たす。まずはお前たちだ、楽しみに待っておけ」

 

 

 そう言って溢れる怒りのままに無線機を握りつぶす。この近くで通信できる設備がある場所は限られている。…アンブレラ幹部養成所。我が生まれ故郷。さっそく赴いて滅ぼしてくれよう。ああ、この列車は釣り餌として停車させておくか。誰かが釣れるかもしれない。世界を滅ぼすには、数が必要。繁殖するためにももっと餌が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両腕を変形させた触手の表面に纏った粘液を刺々しく固めて、次々と叩きつけて粘液を固めた私の防御を容易く突破し肉体を引き裂いてくるマスターリーチ。まるで嵐の様な連撃に、なすすべなく追い詰められていく。ゴクとマゴクを構えて撃ってみるも、弾丸は粘液を纏った体表で全て弾かれる。私よりも粘液操作を使いこなしている…!?

 

 

「ハハハ、その程度か!統率個体ッッッ!」

 

「く、くそっ…」

 

 

 若りし父の顔で嗤うマスターリーチに、私は真正面からじゃ勝ち目がないと判断して階段横の部屋の扉に体当たり。こじ開けるとその配膳室と思われる部屋は上に穴が開いていて、手を触手に変形させて伸ばして、屋根に飛び移る。ついてきたエヴリンが心配そうに私の身体を見つめる。見れば、全身引き裂かれてでこぼこの悲惨な姿になっていた。

 

 

『クイーン、傷は大丈夫?』

 

「大丈夫だ、すぐ治る…」

 

 

 雨風に打たれながらも傷を再生させる。血も流れない我が身を見て、人間とはとても言えないなと自嘲していると、エヴリンは真剣な顔で首を横に振った。

 

 

『違うよ、身体は心配してない。心の傷だよ』

 

「…お前は気付いていたのか、エヴリン。私が…アンブレラへの復讐よりも、仲間を優先していたと」

 

『うん……幸せそうだし、復讐なんか忘れた方がいいと思って言えなかったけど…』

 

「忘れた方がいいわけがない。復讐は私にとって生きがいだ。リサにとっても、奴等への怨みは忘れられない。…ただ、同胞ではない……仲間ができて、心地よかったのも事実なんだ。アイツらに拒絶されるのが嫌で…」

 

『うんうん、わかるよ。大事な人に真実を明かすのは怖いよね。でもね、勇気を出して告白することも大事なんだよね』

 

 

 実体験でも語るかのように感慨深げにそう話すエヴリン。…そう言えば、こいつは人生の先輩だったか。見た目はともかく。

 

 

「…私はどうすればいい?どうしたら、いいんだ…」

 

『うーん。アイツの目的を聞いて、クイーンはどう思った?』

 

 

 エヴリンに言われて思い出す。“アンブレラに復讐を…地獄の炎をこの世全てに”マスターリーチは父の意思だとそう言っていた。それは駄目だ。それだけは止めないといけない。

 

 

「復讐すべきはアンブレラだけだ…世界も巻き込むのは駄目だ。それはもう、八つ当たりでしかない。…リサと会う前の私なら同じことを思っただろうが、リサとシェリーと…S.T.A.R.S.のみんなと出会った今なら、そう思える」

 

『ひどーい、私は関係ないんだ?』

 

「お前は世界が燃えても死なないだろう?」

 

『今の私どうやってここにいるのかもちゃんとわかってないけどねー……クイーン!後ろ!』

 

「後ろ?」

 

 

 エヴリンと笑い合いつつ、止めるためにも何か隙を探らねば…雨粒に打たれながらそう考えていたら、屋根を粘液が埋め尽くして浮上する様にしてマスターリーチが現れる。ローブの様なものを纏った原始人か魔術師みたいな恰好をした父の若りし頃の姿で不敵に笑う。

 

 

「呑気だな。私から逃げきれたと思っていたのか?この列車は私の物だ、我が同胞たちの3分の1が列車中に潜み支配している。私がいなくともな」

 

「…そうか、お前は本人は…ここにいないんだな」

 

 

 その発言で分かった。こいつは私みたいに一つの個体を中心に他の個体で肉体を形作っている訳じゃない。思念波で操っている配下の個体を人型にして操り人形としてどこか遠くから操ってるんだ。それが余裕の理由か、卑怯者め。

 

 

「どんな手を使ってでも復讐を遂げる。それが我らの使命だ!」

 

 

 再び腕をとげとげの触手状にして、頭上で振り回して回転させ、ギュルギュルギュル!と渦を巻いて、勢いよく振り下ろされるのを、飛び退いて粘液で列車の縁にくっ付け掴まることで逃れる。足場にしていた屋根に大穴が開いて下の食堂が見えたので飛び降りると、首に触手が伸びてきて締め上げられる。

 

 

「ぐっ…!?」

 

『クイーン!』

 

 

 今の私は菌根を神経の様に張り巡らせて人型を形作っている状態だ。首を締め上げられる苦痛はダイレクトに伝わる。さらにトゲが食い込んで激痛が走る。不味い、このまま崩れたら奴に取りこまれる…!?

 

 

「ハハハハハッ!やはり性能は私が上の様だ!統率個体よ、我らが糧となれ!」

 

 

 溜まらず崩れ落ちた私を取りこもうとしたのか、マスターリーチの姿が崩れた変異ヒルの津波が天井の大穴から雪崩れ込む。足元から侵食する様に全身に這い回られて取りこまれそうになったところを、弾丸が撃ち抜いて吹き飛ばす。私が再生できることを知ってか知らずか、しかし私を構成している同胞に当たらない様に放たれたその弾丸の主は、いつの間にかここにやってきていたビリーだった。その横にはレベッカもいる。

 

 

「クイーン、無事か!」

 

「先輩!逃げてください!」

 

「おのれ!」」

 

 

 わざわざ顔だけ形成して撃たれたことに怒り、その場で跳ねて飛びかかる変異ヒルたち。レベッカはその場に立って構え、ビリーは射線が被らない様にか横に飛び退きながらいっせいに射撃。空中の変異ヒルたちは撃ち抜かれ、ボトボトと床に落ちて行く。バラバラなら弾丸は通じるのか。

 

 

「復讐を遂げるためにも同胞たちを失う訳にはいかない。そのダメージなら脱線でお前も死ぬだろう。大事な仲間とやらと一緒に炎に巻かれて死ね!」

 

『テンプレか!?』

 

 

 形勢不利と見たのか残った変異ヒルたちは高速で這ってこの場を去って行った。エヴリン、テンプレってなんだ。『清酒 松浪』で食べれる天ぷらの仲間か?あれ美味いよな、特にポテトが美味い。ってそうじゃない。




これはクイーンの物語。クイーンとマスターリーチの実力差は簡単に言えば「ヴェノム」と「ライオット」です。分かる人にはわかる。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:20【この命にかけてでも】

どうも、放仮ごです。RE:0が出たらこの列車ステージどうなるのだろうか。RE3でも2でも列車のシーンはあったけどステージとなると変わるよねって(RE3から時計塔とか公園とかいろんな要素が消えていたのが地味に気にしている)。

今回はクイーン全力全開。楽しんでいただけたら幸いです。


 逃げたマスターリーチを構成していた変異ヒルたちを警戒しながらこちらに駆け寄るレベッカとビリー。私は空気を吸い込み、息を整える。…やっと一息つけた。

 

 

「大丈夫か?クイーン」

 

「あ、ああ…助かった。礼を言う」

 

「なんなんですか、アイツらは。以前見たクイーン先輩の分離した姿にそっくりだった様な…」

 

「…さっきは言えなかったが……恐らく今回の黒幕は、私の同胞だ。黙っていてすまない…」

 

 

 そう言うと驚くレベッカ、分かっていたのか鼻を鳴らすビリー。…先に調査したと言うビリーは知っていたのだろう、ヒルの存在を。粘液から私とのつながりに気付いていた感じか。

 

 

「じゃあさっきのはクイーン先輩の仲間…?」

 

「ああ。アンブレラだけじゃなく世界にまで復讐しようとしている危険なやつだ。絶対に止めないと…それより先頭車両は…?」

 

「電子ロックされていたから戻ってきた。専用のカードがいるみたいだがそれを探すよりもアンタの粘液ならどうにかなると思ってな?」

 

「わかった。尽力させてもらう」

 

 

 ついでにこの列車にいる同胞たちも探して無理やり取りこめないか試してみよう。数は力だ、奴との力の差を少しでも埋めなければ。

 

 

「ウゥゥ…アァアアアッ!」

 

「ヴォオアアアアッ!」

 

「ヴェアァアアアッ!」

 

 

 先頭車両を目指す道筋に、立ちはだかるゾンビたち。だが様子がおかしい、彷徨っているだけだったのが明確に私達目掛けて突撃してくるのを、それぞれ手にしたハンドガンで撃ち抜いて行く。見れば、頭頂部に変異ヒルが取りついて溶け込んでいた。まさか脳に侵食して直接操っているのか…!?

 

 

「こいつら、異様に硬い…!?」

 

「今までだったら死ぬようなダメージでも動いてやがる…」

 

「変異ヒルが取りついてるせいだ。だが、露出しているなら…!」

 

『取りこんじゃえクイーン!』

 

 

 ゾンビの噛み付きや掴みかかりを避けながら、頭部に手をやってヒルを握りしめ同時に取りこんでいく。…よし、奴の配下であろう変異ヒルたちは単独なら自我もないようだ、取りこめる。つまり奴はリモコンで、配下はアンテナということだろう。ビリーとレベッカの援護射撃を受けながら次々と立ちはだかるゾンビから変異ヒルを奪い取って行く。

 

 

「…エドワード」

 

「先輩…」

 

 

 そんな中で立ちはだかるのは、いたるところが腐敗してゾンビ化し変異ヒルに上半身を覆われマスターリーチの戦闘体とよく似た姿に変貌してしまった同僚の姿。サーベラスの噛み付きで感染していたか。私の知っているものよりも強力の様だ。

 

 

「ウアァアアアアッ!」

 

『リーチゾンビってところかな!?』

 

「危ないレベッカ!」

 

 

 私達に向けて、四本に枝分かれした両腕の触手が襲いかかり、私は右手をかざして受け止め取りこむことを試みるが、全ては受け止めきれず後ろまで伸びたそれを、どこで調達したのかビリーが手にしたアイスピックを触手に突き刺して壁に縫いとめることで防ぎ、レベッカの放った弾丸がエドワードの顔を残した顔面に炸裂して爆ぜる。それでも変異ヒルが集まってエドワードを模した頭部を形作って再生。

 

 

「いくら同胞たちと言えど、私の仲間の死をこれ以上貶めるな…!」

 

 

 その愚行にブチギレる。エドワードを真似るとは言語道断。死体を利用するとは万死に値する。あいつはあいつだけだ…!アイスピックで触手を刺されて身動きが取れないところに突進し、足払いを叩きこんで転倒させたところに顔に手を押し付け、変異ヒルを吸収する。…この列車にいた過半数が集まっていたのか、かなりの数を取りこめた。

 

 

「見ていて気持ちのいいものじゃないな」

 

「悪かったな。レベッカ…その、気持ち悪くないか?」

 

『気にしないでいいのに』

 

「大丈夫、そんなに軟じゃないですよ」

 

「頼もしいな」

 

 

 そんな会話をしながら、件の電子キーの扉に辿り着き粘液を流し込んでショートさせようとした時だった。

 

 

ギャリギャリギャリ!

 

 

『揺れてる!揺れてるよ!』

 

「っ…!?クイーン先輩、時間が無いです!」

 

「早く止めないとおっ()ぬぞ!」

 

「わかっている!」

 

 

 鉄と鉄が擦れる音と共に車体の揺れが大きくなり始める。脱線しかけているのだろう。電子キーをショートさせ、雨風に打たれっぱなしの外通路を通る。露出している機関部は粘液がまとわりついて破壊されている。修理している時間もないし恐らく不可能だ。…もしこれで緊急ブレーキも駄目なら止める方法は一つだけか。先頭車両の中に入る、やはり回路が破壊されている。

 

 

『私が見た後に破壊したみたい!これじゃ普通には止められないよ!』

 

「このままじゃ脱線しなくてもいずれ衝突だ!どうする!?」

 

「後部デッキにブレーキ制御装置があるみたい!そこにいけば…」

 

「いいや、時間が無いし危険だ!…私がスピードを緩める、その間に二人でブレーキを作動させろ!」

 

「先輩!?」

 

「なにをするつもりだ!?」

 

 

 ワイパーが動いている窓ガラスを、粘液硬化した拳で破壊して外に這い出て車両の前方のちょっとした足場に飛び乗り、粘液で足場を固める。足を踏み外せば列車に轢き潰されてミンチだな。

 

 

『なにするつもり!?クイーン!無茶だよ!』

 

「同胞を集めて力を強めた今なら、できる!いや、やる!やってみせる!これ以上…失ってたまるか!」

 

 

 マスターリーチの言う通り、回復さえすれば私は全身を粘液で固めることで脱線しても無事で済むだろう。だがレベッカとビリーはそう言う訳にもいかない。間違いなく、死ぬ。そんなことさせてたまるか。エドワードの死だけでも心が折れそうになったのに、これ以上こんな感情学びたくない!

 

 

「うおおおおおおっ!」

 

 

 両手を構え、横切って行く木々を狙って次々と粘液の糸を射出すして付着。左右に六本ぐらいずつくっつけたそれらを握って、全身の変異ヒルの連結を強めて並外れた怪力を最大限に発揮。木々にくっ付いた糸を引っ張って、列車に身体を押し付けながらも無理やりスピードを緩めようと試みる。両腕がちぎれそうだが、このまま行ける…!

 

 

『やばい、木が何本かすっぽ抜けた!』

 

「なにっ!?っ…!?」

 

「先輩!?」

 

 

 しかし後方を見ていたエヴリンの報告の直後、何本か木が抜けた反動で前に倒れそうになり、レベッカの悲鳴を聞いてなんとか車両の壁に直立して元の位置に戻る。あ、危ない…死ぬところだった。

 

 

「それなら……!」

 

 

 目をつぶって集中し、合掌。両手の間の粘液の粘度を上げて引き伸ばし、粘度の高い太い糸を形成。両脇の木の根っこ部位を狙って次々と連続で射出し、地面と根っこを繋げる様にしていくつもくっつけて引っ張ると、粘液の糸がゴムの様な役割を果たして少しずつ列車のスピードが落ちて行く。

 

 

「今なら!ビリー!私が行くから合図を送ったらブレーキをお願い!」

 

「しくじるなよレベッカ!クイーンの頑張りを無駄にするな!」

 

「言われなくてもそのつもりよ!」

 

 

 そんな会話が聞こえてくる。ブチブチと、神経の代わりをしている菌根が千切れる音が聞こえる。ああ、不味い……私の構成が崩れて行く足音が聞こえる。糸を握っている両腕が限界を迎えて千切れかけている。途轍もない激痛だ。ただの変異ヒルを集合させた体ならこんな痛みは感じなかったんだろうな。それでも支える。少しでもスピードを緩めて脱線を妨げる。レベッカとビリーだけでも救って見せる。

 

 

『そんなこと許さないよ。クイーンも生きないと意味がないんだから』

 

 

 明らかに怒っている様子のエヴリンが入ってくるのを感じたのを最後に、あまりの激痛に私の意識は途絶えた。




レベッカを救出したシーンとか今回の2の名シーンを彷彿させる場面とか、クイーンは某蜘蛛男をだいぶ意識してます。蜘蛛じゃなくて蛭なのだけども。

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file0:21【女王であろうと、独りじゃない】

どうも、放仮ごです。今回の題名は某王様戦隊の最近の展開から。民と一つになって戦う王様かっこいいよね。

今回は無茶をしたクイーンのその後。あんなことして無事で済むはずが無かった。楽しんでいただけたら幸いです。



 クイーンの渾身の粘液の糸でスピードを抑えられた状態でレベッカとビリーの協力プレイでブレーキが作動したものの、加速し続けた黄道特急はそう簡単には止まることはなかった。デルタチームの工作で封鎖されていた線路に引き込まれ、トンネルのバリケードを突破し線路の端まで粉砕した挙句に脱線し横転した列車は炎上。投げ出されたレベッカとビリーは互いの無事を喜ぶも、一番先頭に立って文字通り粉骨砕身で踏ん張っていたクイーンは無事ではすまなかった。

 

 無茶をした両腕は肘辺りから伸びた菌根で辛うじて繋がっているものの千切れかけ、投げ出された衝撃で両足はねじれてあらぬ方向を向き、受け身も取れなかった上に糸を握っていた反動で全身に裂傷ができているものの、血を一切流れていない異様であまりに痛々しい姿で、瓦礫にもたれかかるようにして意識を失っている。

 

 

「先輩!クイーン先輩!しっかり、しっかりしてください!」

 

「おい、嘘だろ…嘘だと言ってくれ!」

 

 

 そんなクイーンに涙目で必死に呼びかけるレベッカと、天を仰ぐビリー。医療に心得があるレベッカにはわかってしまった。息をしていない、身じろぎすらしない。それはつまり……死を意味している。マスターリーチの思惑はこうして達成された。二人の仲間を守って女王は息を引き取ったのだ。

 

 

「…レベッカ。行こう、奴を止めるんだ」

 

「…ええ、先輩のためにも…絶対に!」

 

 

 泣いてばかりではいられないと、立ち上がり未来へと歩みを進めるレベッカとビリー。その先はアンブレラ幹部養成所、皮肉にもクイーンの生まれた場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――「ははは。お前たちは賢いなあ。さすが愛しい愛しい我が子供たちだ」

 

 

 夢を見る。懐かしい、夢を。父が生きていた頃、私達に始祖ウイルスが投与されて間もなくの時期。血は繋がってないものの、まるで実の子の様に愛してくれた父と、それに応える様に進化を続ける私達変異ヒル。幸せだった。途中からエヴリンも加わり、父以外と触れ合う楽しさを知った。だがそれは一瞬で崩れ去った。奪われた。

 

 

――――「さて所長。スペンサー卿の命令でね。あんたには死んでもらう」

 

――――「私の娘に手を出されても困るのでね。T-ウィルスは私が引き受けますよ。フッハッハッハ!」

 

――――「ウェスカー・・・・・・。バーキン・・・・・・」

 

 

 我が父の、下手人にすがるように手を伸ばした光景が今でも鮮明に思い出される。ああ、許せない。許せるわけがない。私から全てを奪ったあの二人は絶対に許さない。それは真理で、恐らく同胞の全てがあの時同じ思いを抱いたはずだ。それを愚直に遂行しようとしているのがマスターリーチで、それを止めようとする私の方が異端で……。

 

 

「…私は、何してるんだろうな」

 

 

 両腕は肘辺りが菌根のみで千切れかけ、全身に裂傷が刻まれ、列車から投げ出されたのだろうか…両足はねじれてあらぬ方向を向き、されども血を一切流していない異様であまりに痛々しい姿で、暗闇の中で横たわり、一人ふわふわと浮いている私。現実じゃないことはすぐ分かった。現実の、菌根が馴染み人の肉体とよく似た構造となった肉体の痛みに耐えきれず、ショック死かどうかは知らないが死の瀬戸際を彷徨っているのだろう。もしくはもう死んで地獄にでも落ちたか。後者だとすればあまりにもさびしい場所だな。

 

 

「…本当に、私は何をしているんだ」

 

 

 仇の一人の…ウェスカーの命令を聞いてノコノコとこんな地獄までやってきて、父でも同類のリサでもない者のために同胞が傷つくのも構わず無茶やって、死にかけて、そしてこの様だ。マスターリーチ……かつての同胞に見限られても仕方ないかもしれないな。

 

 

「…それでも私は」

 

 

 私はもう、独りよがりで孤独な変異ヒルの女王(クイーン)じゃない。エヴリンと出会って、リサと出会って、シェリーと出会って、レベッカと、クリスと、ジルと、エンリコと、ケネスと、リチャードと、フォレストと、エドワードと、バリーと、ジョセフと、ブラッドと、…そしてビリーと仲間になって……私は、クイーン・サマーズとして、一人の人間として生きている。復讐を忘れた訳じゃない。復讐のためだけに生きるのは、楽しくない。そうだろう?

 

 

「マスターリーチ……お前はかつての私だ。父を殺されたあの時の時間のまま停止して、前を向いて進もうともしない…独りよがりな復讐鬼だ。それが例え父の望みであろうと、私が止める」

 

 

 そう決意を固めていると複数の視線を感じる。……エヴリンの助力で変身できたリーチ・モールデッドをエヴリンを模した姿に擬態させて、子供の姿から大人の姿のクイーン・サマーズになってから8年。手の先などの一部しか擬態を解くことなく常に人型を構成していた、今回新たに取り込んだマスターリーチの配下とは違う、ずっと私について来てくれた変異ヒルたちの視線だった。

 

 

「……ああ、言いたいことは分かっている。奴に…マスターリーチについて行きたいならそうしろ。お前たちには選択肢がある。もう、私だけじゃないんだ」

 

 

 私がミスして肉体が傷つけば、中枢の私ではなく彼らが傷つき、中には死んでいった者達もいる。それでも彼等はついてきてくれたのは、ひとえに私しか統率する個体がいなかったからだ。新たに生まれた統率個体マスターリーチについていくかどうかは彼らの勝手だ。私やマスターリーチ程ではないが彼等彼女らも小さいながらも自我を持ち、考えることができる。中にはぬるま湯に浸かっていた私に不満を抱いていた者すらいるだろう。今回の無茶で、その数も著しく減ってしまった。もうこれ以上付きあわせる訳にはいかない。

 

 

「なに、心配するな。私一人だけになろうとも戦う。もし敵対することになっても恨みっこはなしだ。お前たちはお前たちの道を行け」

 

 

 そう告げると、同胞たちは一匹も去ることなく、集って人の形を取る。それは、意思表示。現れたのはマスターリーチの様な我が父の姿ではなく、見慣れたクイーン・サマーズの姿だった。……この姿が心地よかったと、そう言っているのか。…そうだな、そうだ。思えばお前たちも、私と一緒にクイーン・サマーズとして8年もの間生きてきたんだったな。今更出てきた若造の言いなりになんかなりたくないって?私も言うて実年齢20歳の若造だぞ。相手は実質2歳?奴の言い分が正しければそうか。なら、人生の先輩としても奴に教えてやらねばな。

 

 

「…悪いな同胞たち。これからも無茶をするが……付き合ってくれ」

 

 

 ちぎれかけた手を伸ばすと、それを補うように同胞たちが集って行く。肉体が再生していく。現実で、炎に巻かれて散っていたヒルたちが集まるのを感じる。仮初の心臓が跳ねる、鼓動を鳴らす。そして私は、微睡みの中にいた意識が覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…はは、やっと起きた……寝坊助な女王だなあ』

 

「エヴリン!?なにがあったんだ?二人は…」

 

 

 目を覚ますと、そこには明らかに疲弊した様子のエヴリンがいて。問いかけると、疲労困憊のエヴリンは笑って応える。

 

 

『二人はクイーンが死んだと思って先に行ったみたい?私の事は心配しないで、リーチ・モールデッドの要領でクイーンの身体が完全に崩れない様に保っていただけだから……ヒルの苦手な炎のダメージがダイレクトに伝わってきて辛かったけど…帰ってくるって信じて頑張ってよかった』

 

「…お前のおかげで命が繋がった。ありがとう」

 

『クイーンが素直に謝った!?明日は雨かな?』

 

「雨はいいな、最高の環境だ」

 

 

 そんな軽口を叩きながらも立ち上がる。…ここは知っている。私たちが逃亡した際に通ったことがある。アンブレラ幹部養成所、私の生まれ故郷……。

 

 

「二人が心配だ、急いで合流するぞ」

 

『りょーかい!』

 

 

 そして、アンブレラ幹部養成所に潜入し二人の痕跡を辿った私たちが出くわしたのは、まるで人間の腕の様な形状の脚でレベッカを捕らえた10メートルほどの巨大なムカデと戦うビリー、という光景だった。




死んだと見せかけてからの復活。ガチで女王ヒル本体の生命活動は停止してたのをエヴリンが必死につなぎとめてました。

クイーンを構成するのは統率個体の女王ヒルだけじゃない、と言う話でした。

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file0:22【百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル】

どうも、放仮ごです。今回はVSセンチュリオン強化版。本来はB.O.W.でもない自然に生まれたクリーチャーですがやっぱりエヴリンのせいで強化されてます。楽しんでいただけたら幸いです。


 それは、ラクーンフォレストに生息していたただのムカデだった。しかし8年前、停車した黄道特急にたまたま乗り込んでいたことでスティンガーのリサたち襲撃に巻き込まれてしまった。その時、浴びたのだ。傷付いたリサから噴き出た血液、その原液を。

 

 リサの探索でラクーンフォレストを探索していたアンブレラの面々は驚愕した。たった一日たらずで破壊と再生を繰り返して全ての脚が人間の腕の様な…正確にはリサの腕を模した形状に変容し5メートル程に巨大化したムカデが森の中を蠢いていたのだ。即捕獲されたそれは、バーキンの助手を務めていた現アークレイ研究所主任研究員の手でB.O.W.として研究されることとなった。サーベラスの生みの親である彼だ。

 

 リサの血に宿る進化ウイルス…G-ウイルスともまた違うため「RT-ウイルス」と名義されたものはムカデの細胞に溶け込み回収は不可能だったが、T-ウイルスをさらに組み込むことで強化。体長は10メートル長にまで伸びて、生存本能故か甲殻にトゲが生え揃い、鉄をも溶かす猛毒を有する。あとは人間に従うように調教できれば強力なB.O.W.の完成だ。まだこの頃にはネメシスが完成していなかったため原始的な調教と言う手段が選ばれた。

 

 名前はセンチュリオン・ヘカトンケイル。ラテン語で百卒長の意味を持つcenturio(ケントゥリオ)の英語読みと、百の手の意味を持つギリシャ神話の巨人、ヘカトンケイルを合わせた名前が名付けられたそれは、アンブレラ幹部養成所に送られ幹部候補たちに調教される形で保管されていたが、マスターリーチの存在に危機感を感じたウェスカーとバーキンが解放。侵入者をすべて排除する命令を受けて活動を開始、アンブレラ幹部養成所に潜入し探索していたレベッカとビリーに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンブレラ幹部養成所3F飼育プール。散々二人を探し回って仕掛けを解いた形跡を辿ってついたそこでは、全身に鋭い棘が生え揃った甲殻と人間の…見間違いかもしれないがリサの物とよく似た白い女性の腕の様な形状の脚を有する巨大な…10メートル大のムカデが、脚の一部でレベッカを拘束し人質にしながら、ショットガンを構えるビリーと戦っている光景が広がっていた。

 

 

『でっかーい!説明不要!』

 

「いくらなんでもでかすぎるだろう!?スティンガーの比じゃないぞ!」

 

 

 言いながら水が抜けてるプールの縁まで走ると、跳躍。天井に左手から糸を伸ばしてくっつけながら、右手から伸ばした糸をレベッカの胸にくっ付けて引っ張り回収する。

 

 

「っ!?クイーン先輩!?生きてたんですか!?」

 

「心配かけたなレベッカ。エヴリン、奴が攻撃して来たら教えろ!」

 

『来るよ!後ろ!』

 

 

 結構広いプール内だからできることだが、レベッカを抱えながら糸でスイングする私がエヴリンの声に振り返ると、長い体を腕の様な脚で踏ん張ることでその巨体を起き上がらせて噛み付かんと迫る巨大ムカデ。そこに柔らかいのだろう腹部に散弾が炸裂。巨大ムカデは怯んで忌々しそうに振り返る。ビリーだ。

 

 

「レベッカを連れて逃げろクイーン!生きてて嬉しいぜ!コイツは俺が!」

 

「お前だけに戦わせないぞ!ビリー!」

 

 

 レベッカをプールサイドに下ろし、もう一度糸を引っ張って上昇。ビリーに向けられた注意を引こうと右手で糸を握りながら、左腕を肘から二本の腕に分裂させてゴクとマゴクを握り乱射。甲殻に弾かれ、棘に当たった弾丸に至っては融解するも煩わしく感じたのかこちらを向いてギョッとする巨大ムカデ。知能はあるらしいな。

 

 

『見れば見る程気持ち悪いなこいつ』

 

「エヴリン、この建物内を探してこいつの情報を見つけろ!」

 

 

 エヴリンが頷いて飛んで行くのを余所に、長い長い身体を起こして複数の腕で私を捕まえようと倒れ込むように身を捩る巨大ムカデ。足を限界まで開いて跳び箱でもするような感じで回避するも背中の棘が雪崩れ込むように襲いかかって来て、咄嗟にゴクとマゴクをしまって左腕を一本に戻して糸を射出。両腕で引っ張ることでローリング、ギリギリで回避して天井にくっ付く。危なかった…あのトゲの毒はやばいぞ。滴り落ちた雫でコンクリートの床が溶けている。

 

 

「硫酸弾でも喰らいなさい!」

 

 

 するとどこで調達したのか手にしたグレネードランチャーから硫酸弾を発射。巨大ムカデは甲殻で受け止めて表面が溶ける程度、怒ったのかグルングルンと長い身体を円形にしてタイヤの様に縦に回転、天井と床を棘で引き裂きながら私とビリーとレベッカを纏めて排除せんと襲いかかってきた。

 

 

「ヤバいぞ!レベッカあまり刺激するな!」

 

「じゃあどうしろっていうのよ!?」

 

「喧嘩をしている暇はないぞ!」

 

 

 粘液で脚を天井にくっ付け逆さまに引っくり返った状態で合掌。粘度を上げた粘液の糸を一気に放出して糸の壁を作り回転する巨大ムカデを絡ませていき、完全に動きが止まる。粘液の糸はそう簡単にほどけんぞ。

 

 

「今だ!火力を叩き込め!」

 

「了解!いくわよ、ビリー!」

 

「とっておきだ!コイツは効くだろ!」

 

 

 私は天井に逆さまに立ちながらゴクとマゴクを乱射、レベッカはプールサイドから弾を再装填したグレネードランチャーを発射。ビリーは近づいてライターを取り出して火をつけた火炎瓶を投擲し、次々と柔らかい腹部に炸裂。巨大ムカデは苦しみ悶えるも糸に巻かれて身動きが取れず、なすがままだ。体がデカいのが徒となったな。腕の様な脚を滅茶苦茶に動かして人間が蜘蛛の巣を払うように糸を外そうと試みているがその前に殺す。誰の差し金だか知らんがレベッカに手を出した以上許す気はないぞ。

 

 

「ギ、ギ、ギ、ギ………!?」

 

 

 糸がほどけると同時にその巨体がバタン、と音を立てて崩れ落ちる。するとそこで、こいつに対しての情報を見つけたのかエヴリンの悲鳴が上がった。

 

 

『クイーン、倒しちゃダメ!そいつの名前は百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル!その巨大なムカデの姿は外装に過ぎない!外側がやられたら、内部で幾度も変容を繰り返して進化し続けている何かが、出てくる!』

 

「なんだと!?」

 

「なんだ、どうした?」

 

「先輩?」

 

 

 私の驚いた声にビリーとレベッカが振り向いたその後ろ。巨大なムカデ……エヴリンの言うところの百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイルの死骸の中心が蠢き、罅割れて行く。同時に響き渡り、徐々に大きくなっていく心臓の鼓動。それはまるでサナギが脱皮するかの様にして、体液で身体を濡らして明かりを受けて煌めかせながら、現れた。

 

 

「………あー、あーあー……痛みって、愛よね」

 

 

 それは、一見リサとよく似た金髪の女性の姿をしていた。しかしさっきまでの巨体が一回り小さくなった程度の5メートルはある巨体でヘカトンケイルの名にも納得の巨人で、その両腕は異形。肩口から一回り小さくなったものの棘を生やした巨大なムカデの胴体そのものの形状で、ムカデの足の部位を指の様にして喉を撫でて確かめるなりの第一声に、目が点となる。ビリーとレベッカも理解が追い付いてないのかポカーンとしている。

 

 

「わたし、ぼく、おれ、あたい、わし……われ、うん!」

 

「な、なんだこいつ…」

 

 

 まるで服の様にムカデの甲殻を身に纏ったそいつは、ムカデの足指で顎を撫でながら一考すると、にんまり笑って私達に振り返ると無邪気な笑みを浮かべる。

 

 

「我、た・ん・じょ・う!」

 

 

 私を構成している変異ヒル全員全員が身を震わせて警告、同時に私の直感が告げる。こいつ、やばい。




セルケトに続く、通称リサシリーズ二体目。名前はそのままセンチュリオン・ヘカトンケイルです。通称ヘカトちゃん。

地味に登場ワード「RT-ウイルス」文字通りリサの遺伝子の影響が色濃く出るT-ウイルスの強化版です。性質はガンサバ4のt+Gウイルスに近いです。T-レディみたいなものだと思っていただければ。特徴は超再生能力とそれを利用した変異。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:23【百足の女怪は死して僵れず】

どうも、放仮ごです。セルケトやサーベラスみたいに色んな形でB.O.W.の強化案を考えている今日この頃。

今回はVSセンチュリオン・ヘカトンケイル(人間態)。楽しんでいただけたら幸いです。


「我、た・ん・じょ・う!声帯があるって素晴らしいことね。……?我の言ってること、わかるよね?あれー、おかしいな…これで伝わる筈なんだけど」

 

 

 右腕の巨大ムカデの足を指で顎を撫でながらそう首をかしげる、脱皮する際にくっ付いたままだったムカデの甲殻を薄着の様に身に付けた、両腕がムカデになっている裸足で金髪のリサの様な姿をした5メートルほどの巨人…百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル。巨大ムカデの身から脱皮するか食い破る様にして出てきたそれに、私とレベッカ、ビリーは構えたまま動けないでいた。

 

 

「お、お前そいつの中にいたのか?」

 

「んんー、中にいたって言うか…これも私なんだけど。ずっと人間になりたいって思ってたのよね」

 

 

 フリーズから最初に回復したビリーの問いかけに、ポリポリと頬をムカデの脚で掻きながら視線を動かすヘカトンケイル。ビリー、レベッカ、そして私と視線が次々と向けられ、扇情的にほほ笑んで両腕をバット広げてウェルカムの体勢を取る。

 

 

「そんなことよりさ、さっきのすっごくよかったの……身動きが取れない状態で弱い所を容赦なく攻撃してくる……愛を、感じた」

 

「は?」

 

「え?」

 

「なんて?」

 

「知らないの?痛みって愛なのよ!我からの愛も受け取って!」

 

 

 そしてムカデの腕で自身を巻き付かせて硬骨な表情を浮かべてくねくね動くと、ブンッ!と両腕を振り回し、自主的に動いて縦横無尽に動き回る鞭として攻撃してくるヘカトンケイル。至近距離にいたビリーは膝を折り曲げてイナバウアーで回避、天井にくっ付いていた私は逆さまのまま宙返りで回避、レベッカは距離を取って間合いから離れ、それぞれ攻撃するが甲殻で弾丸が弾かれる。

 

 

「なんだ、どういう意味だ!?エヴリン!」

 

『私もドン引きしてる。えっと…資料を読んでみたら、ヘカトンケイルはセルケトみたいにネメシスを使うんじゃなくて原始的に調教で言うことを聞く様に育てられたらしいよ。アンブレラの幹部候補に調教されたからアンブレラの人間の言うことに従順みたい?』

 

「その結果が痛みを愛として学んだモンスターか!最悪だな!」

 

 

 粘液を纏った腕でムカデの甲殻に生えた棘を弾きながら、プール内に着地。背後から襲いかかってきたムカデ腕の先端を、咄嗟に粘液で固めた右足を高く振り上げて勢いよくストンプ。棘の上から踏みつけて身動きを止め、棘の間に向けてゴクとマゴクを連射。ぶち抜いて黄色い血飛沫が上がる。

 

 

「ああ!痛い!我を愛してくれるのね!でもごめんね、侵入者は排除しないといけないの!」

 

「っ!?」

 

 

 すると踏みつけているムカデが伸びてグルグルグルと私の身体に巻き付いて来て、ギリギリと締め上げてきた。痛い、苦しい。ムカデの脚が肌を突き破って食い込んできて肉を抉ってくる。よく見れば無理やり伸ばした弊害か、甲殻の間の肉が露出している。傷付いているのにさらに自分から傷ついて命令を遂行しようとするとは……だいぶ調教されたらしいな。

 

 

「ぐああっ……レベッカ!」

 

「そこが弱点ね!」

 

「アァアァアアアッ!?」

 

 

 私が捕まっている時に甲殻の間から肉が露出しているところにレベッカの放った硫酸弾が炸裂。硫酸が肉を焼き、絶叫が上がる。さすがに硫酸は浴びたことが無かったらしい。効いている、私の拘束をほどいて腕を元に戻して顔を覆うヘカトンケイル。

 

 

「痛い、痛い……嫌よ、痛いのは嫌……痛みは愛、愛はお返ししないと…!」

 

 

 そう自分に言い聞かせるように言って、両腕のムカデを振り上げ勢いよく床に叩きつけるとムカデはコンクリートを叩き割って地面に潜る。全身のヒルが感じ取る、掘削音。来る…!?

 

 

「我の愛を受け取って!」

 

「二人とも、避けろ!」

 

 

 ズゴゴゴゴッ!と轟音を立てて私とビリーの足元の床をぶち抜いてムカデが飛び出し、まっすぐ伸びると天井を食い破ってさらに移動。甲殻の間から肉が露出した状態でさらに伸ばし、今度は天井から飛び出して、ビリーとレベッカの上から襲いかかってきた。

 

 

「危ない、レベッカ!」

 

 

 咄嗟にレベッカに糸を伸ばして引っ張り回避、ビリーもさすがの身のこなしで避けて露出している肉に返しのショットガンを叩き込んでいる。痛みに悶える様にしてムカデを戻して引き抜きその巨体がふら付くヘカトンケイル。

 

 

「なんで、なんで!我の愛を受け取ってくれないの!」

 

 

 癇癪を起こしたかのように突進、その巨体のままストンプを叩き込んでくるヘカトンケイル。右手から放出した粘液を壁にしてストンプの足を受け止めるも、横からムカデが伸びてきてまともに受けて吹き飛ばされる。体が溶ける毒を受けるも粘液で毒の行き場を塞いで毒を受けた部位を切り放すことで防ぐ。また同胞が…これ以上させてたまるか!

 

 

「悪いがその愛はお断りだ!」

 

「あぐっ!?」

 

 

 私が相手をしている間にビリーの構えたショットガンが胴体に放たれるも間に挟まれたムカデの甲殻の間の人の肌に炸裂する。黄色い血を噴き出して、即座に再生していくヘカトンケイルに、グレネードランチャーの弾が尽きたのかレベッカのハンドガンが眉間を撃ち抜く。それでも即座に再生、笑うヘカトンケイルは倒れない。

 

 

「ああ、この痛みもまた愛なのね…!」

 

「これでも死なないなんて…がっ!?」

 

「弱点は必ずある筈だ…ぐっ!?」

 

「…いい加減にしろ!」

 

 

 恍惚とした表情を浮かべてムカデの両腕を伸ばしてレベッカとビリーを拘束して持ち上げるヘカトンケイルのがら空きの胴体に、自分でも信じられないぐらいに激昂しながらゴクとマゴクを叩き込む。……蝶よ花よと父に愛でられてきた私とは違う、調教される中で痛みを愛と思いこむことで生きてきたこいつを見てられなくなった。すると、レベッカとビリーを手放したヘカトンケイルの様子がおかしいことに気付く。…効いている?

 

 

「ぎっ、ぎっ……痛い、痛い…これも愛……?」

 

「そうか、思えば奴は胴体の攻撃だけは腕を使って防いでいた……奴は巨大ムカデの中であの肉体を作ってきた、生まれたばかりでそこまで再生能力が行き届いてないのか!」

 

「じゃあ胴体を狙えば…!」

 

「あのムカデ腕が邪魔だな…クイーン!」

 

「エヴリン、来い!手を貸せ!」

 

『おまたせ!いっくぞー!』

 

「もっと、もっとちょうだい!」

 

 

 ムカデの腕を振り回し、私達を遠ざけるヘカトンケイルの横の壁を擦り抜けてエヴリンが出てくる。それを見てエヴリンに向けてムカデの腕を振り回すヘカトンケイル。エヴリンはまるで自分にも当たりますよと言わんばかりにギリギリでうまく飛んで回避、壁に叩きつけたところに私は粘液の糸を噴きつけてムカデの腕を壁に拘束、それを両手分繰り返す。そう簡単に抜け出せないぞ。

 

 

「っ!?なに、我の身体になにしたの!?」

 

「お前は教育が足りないな!」

 

『クイーンだけは人のこと言えないよね』

 

「うるさいぞエヴリン。レベッカ、ビリー!」

 

「一斉射撃よ!」

 

「わかっている!」

 

 

 じたばたと足をばたつかせて暴れるヘカトンケイルから届かない位置から、それぞれハンドガンを構えて、私のゴクとマゴクと一緒に弾丸をありったけ叩き込むレベッカとビリー。黄色い血が次々と噴き出し、壁に磔にされたままぐったりと崩れ落ちるヘカトンケイル。やったか…?

 

 

『見た感じ、死んだみたい?あっけないね』

 

「…勝った?やった、先輩のおかげで勝てました!無事で本当によかった!」

 

「まったくだ。死んだと思ってひやひやしたよ」

 

「事実死んでたらしいからな私は。…それで、なんで奴と戦ってたんだ?」

 

「そうだ、確かこの辺に…あった、火のカギ!」

 

「……相変わらずここは良く分からない仕掛けがあるんだな」

 

 

 私のいた頃から変わってない趣味の悪い仕掛けに思わず笑い、私達は3F飼育プールを後にする。……ムカデと言うのが存外にしぶといのを、私達は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、たい………これは、あい……?」




ヘカトちゃん一話で撃沈。ムカデのしつこさは実家によく出るので滅茶苦茶知っている故の不死性です。黒いアイツより怖いまである。

エヴリンはこれまで何度も囮として活躍してきただけあってこういう戦いだと強力。見えてて当たらないデコイは強いよね。クイーンの十八番になってきた粘液糸の拘束も合わさったコンボが凶悪。

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file0:21.5【死神の晩鐘】

どうも、放仮ごです。今回はそう言えば入れ忘れてたな、と思い出したクイーンが復活していた頃の裏話となります。セルケトのその後も明らかに。楽しんでいただけたら幸いです。


 時は遡り、レベッカとビリーがアンブレラ幹部養成所に侵入した時。監視カメラでその光景を見張っている二人がいた。百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイルを哨戒に送り出し一服していたウェスカーとバーキンだ。石床を外し、下水道から侵入した二人を見てバーキンは眉を潜める。

 

 

「なんだ、あの二人は?奴らが件の襲撃者か?」

 

「いいや、恐らく違う。女はS.T.A.R.S.だ。レベッカ・チェンバース。…例の二人に懐いている」

 

「クイーンとアリサか。シェリーを預けられる信用に足る人間だがお前からしたら怪しいんだったか?」

 

「セルケトが最後に調べようとして目を付けていた人間がアリサだった。セルケトの記憶は欠損していたが接触していた可能性が高い。経歴にこそ不自然なところはないが裏付けは取れていない。共に配属され共に行動しているクイーン共々、RTと関係がある可能性が高い」

 

 

 アリサとクイーンとはシェリーの御守りとして実際に出会い、信頼を向けているバーキンに対してウェスカーは己の部下でもある二人に懐疑的な見解を述べる。

 

 

「あの二人に限ってそんなことはないと思うがな。シェリーが懐いているんだぞ?っと、そう言えば最近セルケトが一般人を襲って手に入れた電話で接触しようとしたって聞いたぞ。どうしたんだ?」

 

「ああ、セルケトか。言ってなかったか?お前が始末させた後、二年間も人目を避けてラクーンフォレストを彷徨っていたらしくてな。お前に裏切られたと、アンブレラにはもう従えない、私にしか頼れないと、そう言っていたよ。だから待ち合わせして指定した場所に「死神」を向かわせ…始末させた」

 

「お前も鬼畜だな。死神と言うと……ハンクか」

 

 

 覚えがあったのか、モニターを見ながらそう尋ねるバーキンに頷くウェスカー。

 

 

「そうだ。どんな過酷な任務でも必ず生還する反面、奴以外のメンバーがその過酷さ故に任務中に全滅するため「死神」という異名を持つ男、コードネーム:ハンク。あの部下の育成だけは有能なアルフレッド・アシュフォードが育てた面々の中でも別格の男だ。戦闘力なら随一のセルケト相手でも任務を成し遂げた」

 

「アシュフォード……嫌な名前だが、優秀なのは確かか。しかしあの傷でも生きていたとはな…なりふり構わず報復を選択していたらシェリーの身も危なかった。死んでせいせいしたよ。……しかし待て、RTには人間の経歴を操作する様な力はない。考え過ぎじゃないか?」

 

「RTに投与した菌根には謎が多い。その力がその類じゃないとどうして言い切れる?」

 

「あれの研究はヨーロッパ支部に任せてある。報告待ちだな。まあチェンバースとやらは危惧することはないだろう、そのアリサとクイーン本人じゃないんだからな。まあいい。それで男の方は?」

 

「知らんな」

 

 

 その時だった。アンブレラ幹部養成所の各所に取り付けられたスピーカーからその声が聞こえたのは。

 

 

《「客人を歓迎しよう。ここはアンブレラ幹部養成所。静粛に。所長のマーカスである。当養成所の指針を告げる。忠誠は服従を生み、服従は規律を生む。規律は力となり、その力が全ての源となる。忠誠・服従・規律。皮肉ながらも我が死のあとにもその指針は守られていた様でなによりだ。なあ、私を殺した愛弟子二人よ」》

 

 

 死んだはずのマーカスの声で紡がれたその言葉と共にモニターが操作され映し出されるのは件の謎の美青年。あまりにこの場ににそぐわない恰好の不審者に、思わず眉を潜める二人。

 

 

「何者だ?」

 

《「洋館をT-ウイルスで汚染させた者だ。無線で話しただろう?アルバート。ウィリアム。私が御膳立てしてやった列車のパーティーは楽しめたかな?代わりの者をよこすなんて無粋だぞ」》

 

「なに?」

 

 

 続けてスピーカーではなく自分たちだけに向けられた通信。最初はマーカスの声だったが声変わりの様に徐々に年若い声になっていく男に、正体が分からず狼狽するウェスカーとバーキン。それをどこからか見ているのか、上機嫌となる謎の美青年。

 

 

《「フハハッ。わからないか?いい気分だ、君達を出しぬけたのは。もう一度言おう、これはアンブレラへの復讐だ。忘れたとは言わせないぞ」》

 

 

 そう言って歌い出した謎の美青年…否、マスターリーチの足元で蠢いた変異ヒルたちがマーカスの擬態を作り上げて行く。クイーンが列車で戦った偽物と同じ存在である。

 

 

「マーカス所長だと…!?」

 

《「まだ所長と言ってくれるのか?どの口が……10年前、私はアンブレラによって殺された。お前たちが主犯だ。私の第一目標はお前たちだ。だからこそわざわざここまでやってきた。ここをまた再利用しようと言う計画があったんだろう?先手を打たせてもらった」》

 

 

 そう上機嫌で語る彼の背後の床を押し上げ、現れた巨大なムカデに思わずウェスカーとバーキンはほくそ笑む。侵入者の排除という命令を与えた百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル。よくわからない死人を騙る侵入者の死を確信するがしかし、背後から襲いかかったヘカトンケイルは、振り返りもしないマスターリーチの裏拳で殴り飛ばされ、機材を吹き飛ばしながら倒れてしまった。複数の変異ヒルで構成されているため、全身に目があるマスターリーチに不意打ちは通じないのだ。殴り飛ばされたヘカトンケイルは逃げる様に床に引っ込んでいく。

 

 

《「お前たちの子飼いのB.O.W.か?可愛い物だ、格の差がわかるらしい。…覚悟しろ。お前たちに安寧は決して訪れない。フフフッ、ハハハハハッ!統率個体も死んだ、私を止められるものは存在しない!」》

 

 

 そう言い残して通信を切ったマスターリーチ。残されたウェスカーとバーキンは、顔を見合わせるしかなかった。




このあと逃げる様に移動したらレベッカたちと出くわして戦うことになるヘカトちゃん。セルケトはハンクの手で始末されたらしいです(目逸らし)

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file0:24【排除する者(エリミネーター)

どうも、放仮ごです。ちなみに現在のクイーンの恰好はむすっとした大人エヴリン+ジルと同じ制服なんですが、列車の際にズタボロになった状態で過ごしてます。防御力に難あり。

今回は養成所探索。楽しんでいただけたら幸いです。


 ヘカトンケイルを撃退した私達は、複雑にも程があるアンブレラ幹部養成所の仕掛けに翻弄されながら探索していた。

 

 

「マイクロフィルム、黒の像、白の像、GOODの書とEVILの書、火に水の鍵にそれに対応した扉………父よ、悪く言うつもりはないが…頭のいい馬鹿か?」

 

『愛する子供にまで馬鹿呼ばわりされるのは草』

 

「同感だ」

 

「絶対不便ですよね」

 

 

 像で釣り合わせろとかいうなんか未来で見たことがある気がする天秤の仕掛けを、めんどくさくなったクイーンが同じ重さの粘液を分泌すると、下のマーカスの肖像画が下にずれて地下への階段が出現。今まで頑張ってアイテムを集めたのはなんだったのか。

 

 

『私が先行してくるね……ギャアアアアアアッ!?蜘蛛ォオオオオッ!?』

 

 

 毒ガスとかあったら危険なので私が先行。そしたら壁を擦り抜けた瞬間、人ほどがある巨大な蜘蛛の顔がドアップになり絶叫。慌てて駆け付けたクイーンがゴクとマゴクを連射して撃破してくれた。

 

 

「なーにが先行してくるだ。この程度の蜘蛛、さっきのヘカトンケイルに比べたらましだろう」

 

『蜘蛛にはいい思い出ないの!主にマーガレットのせいで!』

 

「誰だマーガレット。…お前の言ってた未来の人間か」

 

『うんそう。…詳しいこと、聞かないの?』

 

 

 ずっと思ってたことだ。色々あってそれどころじゃなかったとはいえ、過去のイーサンの時みたいに聞いてこないことが不思議だったのだ。

 

 

「後でゆっくり聞くさ。今はそれどころじゃない」

 

『それもそうだね。ギャアアアアア!?また出たあああ!?今度は二体ぃいいいいっ!?』

 

「再放送か。ビリー、レベッカ。来ていいぞ」

 

 

 会話しながら曲がった先でまたデカい蜘蛛に出くわして泣いた。ゴクとマゴクで撃ってあしらいながらビリーとレベッカを招きよせるクイーン冷たいなあ。ぶーぶー。なんか嫌がらせしたい。あ、そうだ。

 

 

『そういや暇だったから三人が探索中にファイル漁ってたんだけど途中で見かけたでかい蟲、プレイグクローラーっていうらしいけどマーカスがT-ウイルス計画の初期に複数の昆虫の遺伝子を用いて作った昆虫型B.O.W.なんだって。クイーンの子供みたいなもんだね』

 

「やめろ。あんな気色悪いの子供とか考えたくもない」

 

『ヒルに始祖が定着してT-ウイルスが完成できたって喜んでいるファイルもあったよ』

 

「……複雑な気分だなそれ」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情になるクイーンに思わず苦笑い。まあ言っちゃあなんだけど、クイーンはT-ウイルス関連の元凶だ。リサがあんな姿にされていたのもクイーンのせいと言っても過言じゃない。だけど私はここでとある漫画の言葉を思い出す。武器自体に罪はない、それを悪事に使う人間こそが真に悪いのだと。つまりクイーンではなくそれを利用していたアンブレラが悪いのだ。Q.E.D.証明終了。

 

 

「なんで踏ん反り返ってるんだ?」

 

『クイーンを完璧な弁護したんだよ』

 

「???」

 

 

 ああ、イーサンみたいに理解してツッコんでくれない。もう10年以上経つけど寂しいのは変わらないなあ。すると広い部屋に出て、周囲を調べていたレベッカが高いところを指差した。

 

 

「先輩、あの通風孔。どこかに通じてませんかね?ビリーに肩車してもらえれば私が…」

 

「いいや、私が行く。骨が無いから人より関節が柔らかいんだ。ビリー、頼む」

 

「了解」

 

『待って、私が先に行く』

 

 

 クイーンがビリーに肩車してもらって通風孔に入ろうとするので先行して先を確認して、絶句する。……マーカスそういう趣味があったのかあ。

 

 

「エヴリンどうした?…よし、届いた」

 

「持ち上げ甲斐があったよ」

 

「先輩。エヴリンさんはなんて?」

 

「なんか知らんが絶句している。なにかあるらしいから見てくる」

 

 

 そう言いながらクイーンも通風孔を潜り抜けて着地すると同時に絶句。そりゃそうだろう。数多く並べられた拷問器具に電気椅子。手錠に鎖。荒縄にアイアンメイデンに、水攻めする檻。いわゆる拷問部屋だった。

 

 

『…マーカスの趣味、かなあ?』

 

「…父よ。貴方への信頼が揺らいでいるぞ」

 

「先輩、なにかありましたー?」

 

「知らん方がいい。二人は来るな」

 

 

 言いながらクイーンが奥の電源操作パネル…何に使われていたか知りたくもない…を操作し、電圧を調整。先に進めるようにする。よし、後は戻って……っ!?

 

 

『クイーン!後ろ!』

 

「なにっ?ぐっ!?」

 

 

 いつの間にか隙間から溢れだしていた変異ヒルが集まって若いマーカスの姿…マスターリーチを形成。クイーンの後ろに立って首を掴み締め上げてきた。不味い、菌根で神経が形成されているクイーンにそれは効く!

 

 

『クイーンを離せ!』

 

「まだ生きていたのか……元統率個体。確かに死を確認したはずだが……まあいい。エヴリンだったか?触ることもできない幻影如きになにができる?」

 

 

 飛びかかるもやはり擦り抜ける。私の事を知って…いや当たり前か、クイーンの同胞だもの。煽ってくるのはいいけど、そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞお。

 

 

『ならこれはどうだ!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「ギャアアアアッ!?」

 

 

 耳元に近づいてメガホンの様に手を形作ってマスターリーチの耳に向けて渾身の絶叫。鼓膜(あるのか知らないけど)に直接大声を叩きつけられたマスターリーチも絶叫。クイーンを手放して耳を押さえてよろよろと後退する。クイーンに悪戯するうちに覚えた、声だけはちゃんと伝わることを利用した私の攻撃手段の一つだ。常人なら耳が潰れる。

 

 

『どうだ!私の切札!超至近距離鼓膜絶叫!』

 

「お前、それ使うとかえげつないな……」

 

「この、クソガキめ!」

 

『あぶなっ!?』

 

 

 右手を変形させた触手を振り回して私を遠ざけるマスターリーチ。当たらないんだけど、擦り抜ける感覚はやっぱりいやだ。ぬめぬめしてるし。だけどそれは、私の注意を惹くには十分だった。奥で駆動音がしたことに私は気付かなかった。

 

 

「…だがなにしても無駄さ。ここは既に私の物だ、目障りな君達には消えてもらおう。エリミネーター!」

 

「なに?ぐああああっ!?」

 

『クイーン!?』

 

 

 マスターリーチの叫びと共に、上から降りてきた巨大な猿がクイーンにしがみ付き、鋭い指で胸元を引き裂いてきた。クイーンは咄嗟に左手で掴んで粘液でくっつけ、それを用いて引っ張り前方に向けて投げつけることで逃れる。

 

 

「こいつは排除する者(エリミネーター)。我が父が大型の真猿類をベースにして開発したB.O.W.さ。T-ウイルス計画の初期ではそれなりの完成度でコードネームを与えられたが、それでも兵器としては不十分な性能と判断され商品化には至らず保管されていたのを私が解放した。今では私に忠実な私兵さ」

 

 

 そう言うマスターリーチの傍に次々と二匹目、三匹目と現れるエリミネーター。あれ、こいつら目が見えてない…?もしかして視力は失ってるけど聴覚が発達してるとか?なら私の声…にも反応してないってことは菌根を使う前のT-ウイルスで作られたB.O.W.……私の声が通じないってことだ。

 

 

『クイーン、ここは戻って二人と合流…』

 

「どうやってだ…っ!?」

 

 

 するとエリミネーターの一体が突撃、咄嗟に両腕を粘液硬化して受け止めたクイーンが床に叩きつけられ罅割れ、下は空洞だったのか崩れ落ちる。クイーンはそれにもろに巻き込まれて、落下してしまった。

 

 

『クイーン!』

 

「…想定外だがちょうどいい。今度こそ元統率個体は終わりだ。フフフッ、ハハハハハッ!」

 

 

 そう言ってマスターリーチは変異ヒルに分裂して去っていく。私はクイーンの安否確認かマスターリーチを追うかで迷って、クイーンを選んで降下する。無事でいて、クイーン!




レベッカの代わりに落下イベント発生するクイーン。父に対する信頼が揺らいできました。

エヴリンの虎の子、超至近距離鼓膜絶叫。クイーンへの悪戯から生まれた技です。本来はエリミネーターに特攻なんだけど残念菌根が無かった。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:25【エリミネート・スクナ】

どうも、放仮ごです。ついにやらかしまくっている主任の正体が判明です。多分納得の人選。今回は新たな刺客登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「馬鹿な、信じられん……マーカスを殺害した際に逃げ出した変異ヒルの一団があの若造の正体だと言うのか。ありえん!」

 

「ああ。記録によればマーカス自身に擬態したというものがあった。成長して人間並みの知能を得ていたのならばあの芸当も可能だろう」

 

 

 そんな会話をしながらアンブレラ幹部養成所の地下四階の通路を歩くのはウィリアム・バーキンとアルバート・ウェスカー。ウィリアムは用紙の束を手にしている。そこには、マーカスによる変異ヒルの研究記録が描かれていた。

 

 

「だが、もし事実だとすればアンブレラは終わりだぞ…!アークレイ研究所を襲ったのも奴なら、機密情報が山とある。それを公表されれば…!」

 

「奴の手で過去の秘密が暴かれれば、スペンサー会長もただではすむまい。それは私達も同じだ。奴の目的は我らとアンブレラへの復讐らしいからな。この辺りが潮時だな」

 

「…どうするつもりだ、アルバート」

 

 

 エレベーターに一人乗り込むウェスカーに、バーキンは神妙な顔で尋ねる。親友がなにをしようとしているのかわかってしまった。ウェスカーは悪びれずに肩をすくめる。

 

 

「アンブレラとおさらばする。T-ウイルスを用いた究極の生物兵器は完成間近。あとは実戦データを手に入れるだけだからな。あの会社への手土産を用意したら当分は雲隠れするとしよう」

 

「そんな、ふざけるな!私の研究はどうなる!?T-ウイルスは既に完成したが、T-ウイルスもRT-ウイルスも研究途中で、さらに強力なG-ウイルスにいたってはあと一歩で完成間近なんだぞ!」

 

 

 相変わらず自分本位な相棒にウェスカーは呆れたように笑う。

 

 

「好きにすればいい。アークレイ研究所の主任研究員でお前の右腕のサミュエル・アイザックスがNESTに逃れたんだろう?私は予定通りS.T.A.R.S.を洋館に引きずり込む。奴らなら必ずいいデータを提供してくれるはずだ。…一番戦闘力を見たかった二人のうち一人がここにいるのはいただけないがな」

 

 

 変異ヒルに監視カメラを乗っ取られてあれ以降の様子を窺えないことに苛立ちを覚えるウェスカーに、バーキンは諦めかの様に溜め息を吐いた。

 

 

「…わかった。とはいえ、奴をこのまま放っておくことはできない。このままではシェリーにまで被害が及ぶ。たしか、養成所の地下には自爆装置があったはず。面倒なことになる前に、建物もろとも奴には消えてもらうことにするよ」

 

「そうか。残念だ、レベッカにクイーン……優秀な部下を失うことになる」

 

「私も残念だ。クイーンが死ねばシェリーが悲しむ。幸運を祈るよ、親友」

 

「お前も研究が上手く行くことを祈ろう。またな、親友」

 

 

 そう言ってウェスカーはエレベーターの扉を閉じて、バーキンは踵を返して、その場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、無事ですか!?」

 

「今行くから持ちこたえろ!」

 

 

 上から二人の声が聞こえて目が覚める。見れば、右腕の部位を形作っている同胞たちが勝手に動いて人差し指と中指に粘液を纏って崩れた床の鉄柵を掴んでいたらしい。ここは…拷問室の下の階層、見るからに作業現場跡か。一緒に落ちたエリミネーターはこの穴に落ちたか……しかし参ったな、落ちる前に左腕の神経を斬り裂かれた。菌根は再生に時間がかかる。さすがに片腕じゃ上がれない。左腕が使えれば糸を飛ばすなりで脱出できたんだが。

 

 

『わあ!どうしよう、どうしよう!下を見てきたけど奈落の穴だよ!落ちたら助からない!』

 

「…お前、マスターリーチはどうした?」

 

 

 片手でぶら下がりながら、目の前の壁から顔を出したエヴリンに問いかける。奴の居場所を見つけることができたら脱出は難しいにしても止めることはできる。そう言う考えだったのだが、エヴリンはブチギレた。

 

 

『馬鹿!あんなアホの行方よりクイーンの安否の方が大事だよ!ぶっちゃけすごく迷ったけど!』

 

「お前は、一言多いな…ったく」

 

 

 人差し指と中指だけで支えているが、さすがに限界が近い。また生き返るとかいう奇跡が起きても無駄だろうな、と下の暗闇を見ながら溜め息を吐く。

 

 

「…心地よい暗闇だ。このまま落ちてもいいかもな」

 

『冗談でもやめてよね。今にレベッカとビリーが来てくれるから、踏ん張って!』

 

「………それは無理そうだ」

 

 

 それは、エヴリンの背後で天井を破壊しながら現れた。顔面が両面で癒着した四本腕でところどころが血痕なのか赤い白銀の毛並みの大柄な猿だった。頭頂部に変異ヒルが一匹癒着しておりマスターリーチの手の物だとわかる。エリミネーター、いや違う。明らかに別格だ。するとどこからか声が響く。スピーカー、マスターリーチか。

 

 

《「聞こえるか統率個体。一度は生き延びた君だ、念のために同胞に調べさせたら案の定生きているじゃあないか。君のために主任研究員アイザックス(なにがし)がサーベラスのノウハウを活かして生み出し、アークレイ研究所に保管していたものを解放し洗脳したものをわざわざここまで連れてきたよ」》

 

「アイザック…?」

 

『アイザックってたしかヘカトンケイルを制作した人間の名だよ!』

 

 

 サーベラスとはあの列車で戦った三つ首犬だったか。エヴリンが言うにはヘカトンケイルも……発想の悪辣さは確かに彷彿させるな。

 

 

《「君は知らないだろう。かつて我々が解放したRTの遺伝子から生まれたRT-ウイルスの存在を。再生能力に特化したウイルスだ。その特性を用いて二匹のエリミネーターを融合して生まれたのが、個体名:エリミネート・スクナだ。その(ザマ)じゃなにもできないだろうが、頼むから地獄から迷い出ないでくれ」》

 

「「ウキャキャアッ!」」

 

『で、でも目は見えない筈だから勝手に落ちて自滅するんじゃ…』

 

 

 二つの頭で一声吠えると跳躍し、希望的観測を言うエヴリンを余所に左腕二つで壁を指で抉って掴んでぶら下がるエリミネート・スクナ。しかしその目がギョロギョロと動いてこちらを見やるとにんまりと前方の顔が嗤う。普通に見えているだと…!?

 

 

「「ウキャキャア!」」

 

「っ!?」

 

 

 私の目の前に着地すると襟元を掴まれて、驚異的な力で振り回されて壁に背中から叩きつけられる。そのまま壁を右の二本腕で掴むと岩盤をくり抜いて投げつけてくるエリミネート・スクナ。咄嗟に私は動く右腕を前方に構えて粘液硬化、直撃して吹き飛ばされ引っくり返る。

 

 

「がはっ…」

 

『ま、まあ落下の危機からは逃れたから……?』

 

「このまま殴り殺されるのとどっちがマシだろうな!」

 

 

 首を掴まれて振り回され、さっきまで私のいた穴の縁に咄嗟に粘液硬化した頭をぶつけられてそのまま天井に投げつけられ、叩きつけられて落ちてきたところに右の二本腕のパンチを腹部に喰らって殴り飛ばされる。

 

 

『こ、こんのお!なんか私が見えるみたいだし喰らえ!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

 

 エヴリンがメガホンを手で形作って近づいて超至近距離鼓膜絶叫を叩き込もうとするが、後ろの顔がそれに気付いて跳躍して回避。マスターリーチが操っている様だから二度目が効くわけなかったか…だがおかげで回復できた。左手も動く。行ける!

 

 

「「ウキャキャ!」」

 

「無駄…だっ!?」

 

 

 一度壁にくっ付いてからの飛びかかりながらの右腕二本による拳を、粘液硬化した両腕で受け止めるも、左腕二本によるアッパーカットで腹部を殴りつけられて、壁を粉砕して隣の部屋まで転がる。そこは動物たちの剥製が展示されている部屋で、ちょうどやってきたビリーとレベッカが驚いていた。

 

 

「「ウッキャ!」」

 

「っ…!?」

 

 

 追い付いてきたエリミネート・スクナは部屋内を一瞥すると鹿の剥製を持ち上げ、その鋭い角を私に向けて振り下ろそうとして来て、咄嗟に角を両手で掴んで阻む。四本腕の怪力で振り下ろされるそれは強力で、耐える事しか出来ない。

 

 

「うおおおっ!」

 

 

 そこにビリーが体当たり。エリミネート・スクナは後ろの顔でそれを確認すると鹿の剥製を手放して天井に逃れ、左腕二本で天井をうんていの如く移動すると、右腕二本で天井を破壊してそこから逃げて行った。

 

 

「逃がしたか…!」

 

「無事ですか!?先輩!」

 

「ああ、無事だ……だが疲れた」

 

『あんだけ殴られたらそりゃそうだよ』

 

 

 ダメージをもらいすぎた、そろそろ休みたいものだな……なんか全身のヒルが危険を察知して落ち着かないんだが、何か起きているのか…?




ガバッてなかったマスターリーチ。さすがに一度失敗したら学んでました。

そして判明、主任研究員サミュエル・アイザックス。誰?って人に説明しておくと、実写版でアリス計画なるちょっと気持ち悪い計画を主導していた研究員です。この人が変貌するアレが実写版タイラントなのは納得いってない。そのIFとなります。

そしてアイザックスの作品の一つ(サーベラス系統)、エリミネート・スクナ登場。モチーフは両面宿儺(呪いの方じゃなくてそのモチーフの方)です。リサの遺伝子で失っていた視力を取り戻してとんでもない視野と筋肉断裂してもすぐ再生するのを利用した圧倒的フィジカルを有します。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:26【ビリーの過去】

どうも、放仮ごです。明日9月1日が誕生日なので特別編を一緒に書いてたら遅れました。

今回はビリーの過去。楽しんでいただけたら幸いです。


 

ピーピーピー!

 

 

 エリミネート・スクナを退けてなんとか一息を吐いていた私達の間から鳴り響く機械音。レベッカの無線だ。私のは…どこだ?

 

 

『ああ、身体を預かってた時に、列車を止めた際に壊れちゃってたから捨てたよ』

 

「お前、そういうことは早く言え?」

 

「こちらレベッカ。クイーン先輩も無事です!聞こえますか!?」

 

《「レベッカ。クイーンも無事か、よかった。こちらエンリコ。どうやら列車から脱出できたようだな。ビリー・コーエンは見つかったか?」》

 

 

 エンリコからのそんな問いかけに、ビリーに視線を向けて押し黙るレベッカ。当の本人は両手を掲げて首を竦めていた。

 

 

《「レベッカ?応答せよ!」》

 

「……クイーン先輩」

 

「お前のしたいようにすればいいさ」

 

 

 不安げな顔で私を見てくるレベッカに、私はなんでもないことの様に応える。なんせ私の無線は壊れてしまったからな。報告義務はなくなった。

 

 

「…あの、隊長。ビリー・コーエンはまだ発見できていません。捜索を続けます。以上」

 

「レベッカ、お前…」

 

「極悪人のビリー・コーエンなんてお前と同姓同名の人間なんて見てないからな?嘘は言ってない」

 

『ははっ、屁理屈だあ』

 

 

 そう言って通信を切ったレベッカに、驚くビリーに屁理屈を述べる。エヴリン五月蠅いぞ。

 

 

「…初めての命令違反ね。経歴に傷が付いちゃった」

 

「経歴なんて気にする柄だったか?」

 

「ふふっ、ヒーローにそんなものいりませんね、先輩」

 

 

 からかってやると笑うレベッカ。経歴を気にしてるならラクーンシティの警官になんかならなかっただろうからな。

 

 

「……ビリー。私はお前が極悪人だとはどうしても思えない。レベッカも同じだろう」

 

『私も同じだよ!』

 

「…と、エヴリンも言ってる」

 

 

 ふんすっと見えもしないのに鼻息鳴らして踏ん反り返るエヴリン。しょうがないので二人に伝えてやるとおかしかったのかビリーとレベッカは笑った。

 

 

「先輩とエヴリンさんの言う通り。私たち、知りたいの。どうか真実を教えてほしい」

 

「本当に23人も殺したのか?そうは思えない。頼む、本当のことを話してくれ」

 

「……わかった、わかったよ。言っとくが、つまらない話だぞ?」

 

 

 誤魔化す様に部屋内の動物の剥製…というか今気付いたが石像を調べながら、ビリーは口を開いた。私とレベッカ、エヴリンは黙って続きに耳を傾ける。

 

 

「…あれは去年の今頃だった。俺がいた部隊は内戦の火消し役として、アフリカの奥地に潜入していた。いわゆる「始末屋」だ。密林の中のゲリラのアジト。その位置を特定し殲滅することが任務だった。だがアジトへの道のりは、あまりにも遠かった」

 

 

 …アフリカ。私を生み出した始祖のウイルス「太陽の階段」が発見された国。何の因果だこれは。

 

 

「ある者たちは熱病に犯され助けを求めながら死んでいった。ある者たちは逆に襲撃され、敵に有無も言わさずに殺された。部隊はいつのまにかたった四人にまで減っていた。俺達は何とか目的地の座標に辿り着いた。…だが、そこはただの集落だった」

 

「どういうこと?」

 

「…そうか、目障りに思った連中に偽の情報を掴まされたのか」

 

「そうだ。でたらめな情報に、まんまと踊らされてたってわけだ。だからって、さんざん犠牲を出しといて手ぶらで帰還するわけにはいかなかった。隊長は俺達に罪もない村人を襲わせた…!」

 

 

 ・・・どんな地獄だそれは。仲間は死に絶え、目的も果たせず、ただの虐殺を命令される。この世に顕現した地獄と言っても差支えない。ふと、マスターリーチの言っていた目的を思い出した。

 

 

「ビリーは、無抵抗の人を…撃ったの?」

 

「どっちだっていい、過ぎた話だ。…明らかに錯乱していた隊長や仲間を俺は止めた。だが俺は隊長に返り討ちにされ……意識を失いかけたその間際、虐殺される村人を見た」

 

「それじゃ23人を殺害したってのは……」

 

「数までは数えてないが、村人のことだろうな。止めれなかった俺も同罪だ…」

 

『それは…そうかもしれないけど』

 

 

 思わず押し黙る。……だが、それは。口を開こうとした私より先に声を出したのは、レベッカだった。

 

 

「私、そうは思わない。ビリー、誰も殺してないんでしょ?護送車のMPだって化け物に襲われて……貴方だけ生き延びた。そうなんでしょ?」

 

「どっちにしたって、俺には二つの道しかない。軍に出頭して処刑されるか……逃げられるだけ逃げ続けるか。それだけだ。…だが、マスターリーチだったか?奴も放っておけない。世界を焼き尽くされたら逃げるものも逃げられないからな」

 

 

 レベッカにそう嘯くビリーに、キュッと心臓を鷲掴みに握りしめられる感覚を感じた。この感覚を表す言葉を、私はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動物の石像に、正しい順番【鹿→狼→馬→虎→蛇→大鷲】に火をつけると言う仕掛けを解いて、新たな通路が開いたのでそこを進んで寄宿舎にやってきた私達。何があったのか知らないがボロボロのそこで、暖炉の中から「忠誠」と書かれたレリーフを手に取る。……またか我が父よ。

 

 もう一つ寄宿舎があったがめぼしいものはエヴリンがすでに読んだという文書ぐらいしかなかったので、作業現場跡へのドアの手前にあるドアを通ってB3訓練施設までやってきた私達。檻を無理やり捻じ曲げながら奥に進むと、スイッチがあったので押してみる。

 

 

『あ、クイーンの馬鹿……』

 

「先輩!?なんで押したんですか!?」

 

「え、いや先に進むためのスイッチと思って…」

 

《「バトルシミュレーション開始。バトルシミュレーション開始。ドアをロックします」》

 

「こいつは……やらかしたな女王様」

 

「「キシャー!」」

 

 

 奇声を上げながら、部屋の奥から現れたのは前傾気味の姿勢も相まって全体像はゴリラなどの類人猿を思わせる、しかし全身は緑色の鱗に包まれて四肢に鋭いカギ爪を備えた怪物二体。なんだ、こいつらは…!?エリミネーターの亜種かなにかか!?

 

 

『まさか、ハンター……未来でも代表的なB.O.W.だよ!一瞬で接近して勢いのまま獲物の首を爪で切り裂き絶命させる首刈り攻撃に気を付けて!』

 

「気を付けてと言われてもな…!」

 

 

 咄嗟に粘液で壁を作って一匹のハンターの突撃を阻み、背後から襲ってきた奴はビリーとレベッカのハンドガンを受けて怯む。なんとか、ビリーとレベッカだけでも逃がさないと…!

 

 

ジャキン、ジャキン

 

「目標発見。殺す」

 

『クイーン!?』

 

 

 爪が擦れる音を聞いた次の瞬間、私の視界は宙を舞っていた。グルングルンと回る視界で見えたのは、別たれた胸から下の私の身体と、それを行ったであろう緑の鱗に包まれ鋭い爪を生やした右手を持つ黄色い爬虫類の様な目を持つ少女。その姿にヘカトンケイルと同じくリサの面影を見て。ああ、またお前かアイザック。

 

 

「くそっ…」

 

 

 別たれた胸から上の私は、コンクリートの地面に力なく倒れ伏すしかなかった。




原作もここらへんで新エネミーラッシュだから必然的にボス級も連続する。また主任がやらかしました。ハンターって元々人間が主体な上に、RTウイルスが本領発揮するのは「脱皮」などで身体を作りかえる特性を持つ蟲の一部や爬虫類だから一番相性よかったりする。

こんな展開ですが明日投稿する予定の次回は特別編となります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file6:0【体験版、少し未来の彼女たち】

どうも、本日9月1日で誕生日を迎えて26歳になりました放仮ごです。今回は誕生日ってことで特別編。時系列が遥かに跳んで6編の彼女たちをちょい見せです。楽しんでいただけたら幸いです。


 2012年12月24日。政府側と反政府側での内戦が起きている雪が降りしきる東欧の国、イドニア共和国。その市街地を二分する渓谷に架かった古い鉄橋の高架橋を見下ろせる場所に、私は立っていた。傍らにはエヴリンがいつも通りふわふわと浮いている。世間ではクリスマスイヴだというのに私達は今日も今日とて仕事だ。先日もとある学園で起きたバイオハザードの鎮圧に向かったばかりだと言うのに。

 

 

「マルハワ学園の次はイドニアか……クリスも人使いが荒いな」

 

『見逃してもらってるんだから強く言えないよねえ』

 

「メラ、ついたぞ。クリスとピアーズによろしく言っといてくれ。仕事を始める」

 

 

 BSAAの知り合いに通信機越しに報告し、粘液を凝縮して作りだした糸を伸ばして高架橋に取りつける。糸を使えるようになった頃と比べれば強度も飛距離も雲泥の差のこれはこう手放せないな。目指すは高架橋の上の線路で幅を利かせている自走列車砲だ。操っているのはこの間の学園の事件で初めて確認された新種のB.O.W.ジュアヴォと化した反政府軍だ。

 

 

「そいつはやりすぎだろう!」

 

『明らかな反則に物申す女!その名もリーチウーマッ!!』

 

「それはださいからやめろ!?せめて親愛なる隣人にしろ!」

 

 

 コンクリートの足場を蹴って糸を握り跳躍、大きくスイングして射線上の上空に移動し、放たれた砲弾を両手から出した糸の網でキャッチして空中で縦に一回転。勢いはそのまま反転させて自走列車砲に叩きつけて着地。同時に周りのジュアヴォの構えたアサルトライフルに糸を伸ばして奪い取り、高架下に投げ捨てる。我ながら完璧に蜘蛛男ムーヴを習得したな。

 

 

Извињавам се! Ко си ти!(おのれ!何者だ!)

 

「悪いな、セルビア語は分からないんだ。だから、拳で語ろうか!」

 

『わーい脳筋』

 

 

 粘液硬化した右腕を振るい、ナイフを手に突進してきたジュアヴォの腹部を殴りつけて鉄骨にブチ当て崩れ落ちさせる。するとワラワラと集まってくるジュアヴォ達。

 

 

(ひー)(ふー)(みー)(よー)(いーつ)(むー)(なー)(やー)……とにかくいっぱい!』

 

「大歓迎だ、嬉しいね」

 

 

 …任務はクリスたちが来るまで時間稼ぎだったか。やってやろうじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、イドニア共和国市街地。反政府軍に集められた傭兵たちが屯するそこで、黒髪の高校生ぐらいの少女と金髪の20歳前後の女性という一見年若いコンビが物陰に隠れながら、栄養剤と言われて配られた注射を次々と自らに打ち込んでいる傭兵たちの様子を窺っていた。

 

 

「…? クイーンの気配がする……」

 

「え、お尋ね者なのにまた暴れてるの?また誤魔化すのも無理があるのに……困った姉貴分ね」

 

 

 悶え苦しむ傭兵たちを余所にそんな会話を交わしながら奥に進む二人。止められなかったものは諦めるしかないと、痛感していた故だった。そして出くわしたのは、短い赤毛の強面の男が、目が無数に増えて複眼の異形、ジュアヴォに変貌した傭兵仲間を素手で圧倒し撃退する光景だった。その傍らには件の注射器が転がっていた。

 

 

「その注射、使ったの!?」

 

「なんともないの!?本当に!?」

 

「あ、ああ。お前らも傭兵か?興味があんのなら下にいる姉ちゃんに言いな。…俺は勧めないけどな」

 

 

 いきなり出てきた美女二人にどもつきながら、消滅するジュアヴォに肩をすくめる男に、黒髪の少女も苦笑いで頷く。

 

 

「うん、最高に身体に悪そうだね」

 

「やっぱり。アリサさん、この人には抗体が……っ!?」

 

「そいつはどうも…っ!?」

 

 

 何かに納得したらしい金髪の女性が、なにかに気付いて拳銃を引き抜いて構える。男も、それに気付いて銃を掲げ、黒髪の少女は袖を振って二本の棒を手に取り、シャンシャンと軽く振るって30㎝ほどに伸ばすと連結。さらに伸びて彼女の専用武器、ロッドバトンを作り上げると構えたその先には、知人の顔を持つ女がジュアヴォに変貌した傭兵たちを従えて立っていた。

 

 

「…エイダ?じゃないね」

 

「あら、私はエイダ・ウォンよ。どうしてそう思うのかしら?アリサ」

 

「…生憎と、私と同じ顔を持つ妹たちがたくさんいるからね……あなたがそうなのはわかるよ」

 

「私を貴方たち「リサ・シリーズ」と一緒にしないでもらえるかしら」

 

 

 そう言ってエイダと呼ばれた女性が手を振るうと、ナイフやマチェット、スタンバトンを手に襲いかかるジュアヴォ達。金髪の女性が拳銃を連射、黒髪の少女はロッドバトンを振るって次々とジュアヴォを叩きのめし、男も掌底をジュアヴォの顔に叩き込んで怯ませると長い脚を使って蹴りを叩き込み、他のジュアヴォの元に吹き飛ばす。

 

 

「それで?何の話だよ。強い別嬪さん二人が揃って俺に」

 

「あなたが世界を救う鍵なのよジェイク・ミューラー。さあ入って」

 

「なにがどうなってんだかな……はいはい、わかりましたよ」

 

 

 言いながら、下に通じるダストシュートを開ける金髪の女性が、牽制で撃ちながら男…ジェイクに促すと男は肩を竦めながら入り、金髪の女性もそれに続く。黒髪の少女はそれを確認するとロッドバトンを三節棍の如く変形させてジュアヴォの首に引っ掻けると、フルスイングして投げ飛ばし、自身も続いてダストシュートに入ってその場を逃れる。

 

 

「…RT-ウイルスの母体にG-ウイルスの被験体…ジェイク・ミューラーと共に絶対捕らえなさい」

 

 

 エイダと呼ばれた女性はそう通達し、その場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下水道まで滑り降りて何なく着地するジェイク。あとから滑り落ちてきた金髪の女性は尻餅をつき、頭から飛び込んだらしい黒髪の少女はそのまま金髪の女性にぶつかってもみくちゃになる。

 

 

「…なにやってんだ?」

 

「…見ての通りよ。どいて、アリサさん」

 

「めんぼくない…」

 

 

 ジェイクから冷めた目を向けられ、金髪の女性に怒られた黒髪の少女は立ち上がり、拗ねた顔で手にしたロッドを軽く振って二本の棒に戻して袖にしまうと、懐から身分を示す手帳を取り出し、金髪の女性もそれに続く。

 

 

「私はアリサ・オータムス。アメリカ合衆国DSOのエージェントだよ」

 

「シェリー・バーキン。同じくDSOのエージェントです。私達は貴方に……」

 

「皆まで言うな。アメリカはこんな子供まで雇っているのか?」

 

「なっ……うう、私こう見えて59歳なのに……多分ジェイクの父親よりも年上なのに……」

 

「知っていても信じられないからしょうがないわよ…」

 

 

 落ち込むアリサを慰めるシェリー。しかしそれを冗談に思ったのかジェイクは出口と思われる方向に向かいながら視線で促す。

 

 

「冗談は後にしろよ。逃げるのが先だ。来ないのか?」

 

「……行こうか、シェリー」

 

「ええ。ちゃんと話は聞いてもらうからね!」

 

 

 溜め息を吐き、ジェイクについていくアリサとシェリーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2013年6月29日。アメリカ、人口7万人の中小都市トールオークスにて。アメリカ合衆国大統領のアダム・ベンフォードが、世界中で勃発するバイオテロに歯止めをかけるべく、トールオークスの大学でラクーン事件の真相の公表を行おうとしていた。アダムの友人であり、事件の生還者でもある大統領直轄のエージェント、レオン・S・ケネディもその場に居合わせていたが、講演当日に示し合わせたかの様に大規模バイオハザードが発生。アダムがゾンビ化、レオンは同僚のヘレナ・ハーパーと共に対峙する。

 

 

「それ以上、近づかないでくれ……!大統領!……やめろ!アダム!」

 

 

 物言わぬ動く死体と化し、ヘレナに襲いかかろうと歩み寄るアダムに、ハンドガンの銃口を向けるレオン。警告の声を上げるも聞くことはなく、たまらずヘッドショットを叩き込んで沈黙させる。その瞬間、扉が開け放たれて第三者が現れ、現状を確認して怒りの形相を浮かべるとレオンに掴みかかった。

 

 

「なぜ、殺したの!」

 

 

 アダムを撃って放心していたレオンに足払い、倒れ込んだところに鋭い刃を叩き込むその人物の攻撃は、銃撃を受けてギリギリレオンの頭から逸れて床に突き刺さる。ヘレナのハンドガンだ。

 

 

「お願い、やめて」

 

 

 ヘレナに宥められたその人物は激昂、レオンの胸ぐらをつかむとボーリングの様に机に投げ飛ばし、咄嗟にハンドガンを乱射したヘレナの銃撃を全て右腕を掲げて弾くと背中から伸びたそれでヘレナを締め上げ、持ち上げる。

 

 

「アダムは、私の恩人よ。それを殺したレオンを殺すのを邪魔するなら…貴女から殺す」

 

「待て…、スプリングス捜査官。…よく見てくれ、アダムはゾンビ化したんだ」

 

 

 ヘレナを締め上げるスプリングスと呼ばれた同僚に、アダムの死骸を促すレオン。スプリングスは事情を呑み込めたのか、ヘレナを解放するとそのまま泣き崩れてしまった。

 

 

「アダム……どうして、どうして……!」

 

「…わからない。気付いた時にはすべてが終わっていた」

 

「……私が、やったの。私が……この事態を引き起こした」

 

「…なんですって?」

 

 

 ヘレナの言葉に怒りが再燃するスプリングス。レオンもまた懐疑的な視線をヘレナに向け、そこに通信機の着信音が割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 贖罪。救済。復讐。エヴリンを基点に歪んだ三つの運命は、こうして重なり合う。

 

 

 

―――【EvelineRemnantsChronicle】file6【混沌編】




なにがどうしてこんな立ち位置になっているかは敢えて語らない方向で。

・ロッドバトン
DSO特注のアリサ専用武器。二本の棒を伸ばして連結させ、アリサの怪力でしか扱えないロッドに変わる。三節棍に変形させることが可能。シェリーのスタンバトンとお揃いなのでアリサは気に入ってる。


次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:27【ハンターΩ(オメガ)

どうも、放仮ごです。アイザックス主任渾身の傑作。楽しんでいただけたら幸いです。


 ハンター。T-ウイルスを媒介にして人間をベースに主に爬虫類の他の生物の遺伝子を融合させて生まれた、確実に標的を“狩る”ことから「狩人」と名付けられた傑作B.O.W.だ。

 鋭い爪による高い攻撃性、銃弾すら数発耐えられる角質化した皮膚と強靭な筋肉による防御力、脚部のバネによって2mを越す跳躍による敏捷性、仲間と連携する協調性、簡単な命令ならば理解し遂行できる知能を併せ持ち、低コストでのクローニングによる量産も容易なためアンブレラが開発した生物兵器の中では最初の成功例と評価されているが、致命的な弱点があった。現場で状況を確認、判断する司令塔が存在しないのである。

 

 そこで数々のB.O.W.の開発を担当したアークレイ研究所の主任研究員サミュエル・アイザックスは考えた。T-ウイルスは欠点として知能の低下が存在するが、それは大脳新皮質の壊死に起因する知性・記憶の欠落が原因だ。ならばと主任であるが故に使用を許されているRTの腕から摘出したRT-ウイルスを用いてハンターを作ることにした。貴重なものだが時間が経てば再生して増量するが故の暴挙である。他の研究員も道徳や倫理が欠如しているため止めるものは誰もいなかった。

 

 ハンターと作成方法は同じ。ただ用いるウイルスが違うだけ。スティンガーの遺骸にRT-ウイルスを組み合わせて培養して生まれたセルケト。RT-ウイルスの急速再生細胞で既存のケルベロスやエリミネーターを改造して生まれたサーベラスやエリミネート・スクナ。逆にRT-ウイルスで変異したムカデにT-ウイルスを組み込んで生まれた百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル。それらと違って、純粋にRT-ウイルスのみを利用する。未知の領域への求道にアイザックスは気持ち悪い笑みを浮かべていたという。

 

 

 そうして生まれたのは、ハンターの特徴を持つ人間の少女の姿をしたハンターの上位個体だった。見た目は局部や手足の先のみ緑の鱗に包まれた、鋭い爪を生やしたハンターと同じ右手を持つ黄色い爬虫類の様な瞳と短く切り揃えた緑がかった髪を有する、かつてのRTと瓜二つの容姿を持つ少女。

 

 手足は隠密には向いていないが敵を油断させるには最適だ。見た目こそ華奢ではあるが実態は筋肉の塊であり、凝縮された筋力は100mを6.2秒で走り抜く脚力。至近距離の銃弾すら弾く、生身にも見える堅牢な皮膚。鋼鉄をも容易く斬り裂く右手の鋭い爪。鉄骨すらひしゃげさせる驚異的な握力を有する左手の指。そして冷静に状況を判断できる劣化していない頭脳を有する。特殊な音域の声を出して周囲のハンターに命令を下せるというおまけつきだ。

 

 通常のハンターと異なり、人間から噴き出す血を好む嗜虐的な性格が偶に疵だが、かつてセルケトに見られた反抗的な「心」は持ち合わせておらず、また年齢も幼年期に設定しているため、悪いことを悪い事とも思わずどんな命令を何も考えずに素直に実行すると言う利便性も持ち合わせている。

 

 過去現在未来においてもこれ以上の性能のハンターは生み出せないとアイザックスは確信、最強のハンターと言う意味で「ハンターΩ」と名付けられ、ハンター部隊を従えてアンブレラの障害となる人間を次々と排除してきた。しかしどんな命令だろうと疑問を持たず素直に実行する特性が災いし、アークレイ研究所を乗っ取られた際にマスターリーチに命令されてわずかに生き延びた研究員を惨殺したそれは、マスターリーチの手駒における切札の一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、は……」

 

 

 胸から上を綺麗に切り裂かれ、宙を舞う私の視点。一瞬でこの狭い通路を駆け抜けてきたであろう、リサの遺伝子を用いたと思われる少女と、恐らくこの部屋の檻を操作する割れたガラス張りの部屋に立つ人間態のマスターリーチが見えて。罠にはめられたと気付くには遅すぎた。

 

 

「クイーン先輩!?この…!」

 

「H2、右に避けてそのまま迂回。H5はその場で屈んで、3秒後に跳躍」

 

 

 崩れ落ちた私を庇うように、ビリーと共にハンドガンを乱射しハンターに対抗するレベッカ。しかし少女の命令でハンターは的確に回避、背後に迂回してきたハンターの攻撃を、ビリーが咄嗟にショットガンで受け止める。

 

 

《「踊れ踊れ人間どもよ。我が父以外の人間がどうなろうと構わん。ハンターΩ、縊り殺せ」》

 

「…血が、出ない…?了解」

 

 

 転がる私を見下ろして首をかしげていたハンターΩと呼ばれた少女だったが、命令を聞いて目を光らせながら頷くと壁を蹴って天井まで舞い上がると両足で天井に着地して、驚異的な握力で天井に左手の指をめり込ませるとググググッと踏み込む。アレはやばい!

 

 

「エヴリン、止めろ!」

 

『スゥ、ワアアアッ!!

 

 

 咄嗟にエヴリンに叫ぶと頷き、ふわりとハンターΩの前まで浮かんで簡略版の大声を放ち、いきなりのことに驚いたハンターΩは咄嗟にエヴリンに当てようと右腕を振るうが空を切り、そのままハンターの一体に背中から激突、押し倒した。

 

 

「ギシャア!?」

 

「斬れないし血も出ない…あれはなに?」

 

 

 ハンターを容赦なく足蹴にして踏みつけて立ち上がりながら、苛立っているのか爪を擦らせて音を鳴らすハンターΩ。そんな隙だらけのところにビリーがショットガンを頭部に向けて撃つも、余裕だと言わんばかりに真正面から受けとめて弾き飛ばすと、右手を振るいながら突進。振るわれた爪を紙一重で回避するビリー。弾丸が通じない!?

 

 

「羽交い締めにして」

 

「っ、なんだ!?」

 

 

 さらに小さく呟くと先程足蹴にされていた個体が立ち上がり、ビリーを背後から羽交い締めにして拘束すると爪を鳴らしながらゆっくりと歩み寄るハンターΩ。ハンターに命令して連携するのが強みか。だがそれはさせない。

 

 

「こういうことはできるぞ…!」

 

 

 右手から粘液糸を飛ばしてビリーを拘束しているハンターの後頭部にくっ付け、それを今レベッカと戦っているもう一匹の個体の後頭部に繋げる。するとレベッカに飛びかかろうとしたハンターに引かれて、ビリーを拘束している体勢から引っ張られ頭から転倒してビリーを解放。手にした火炎弾を床に叩きつけて炎の壁を作り距離を開けた。

 

 

「レベッカ、交換だ!」

 

「わかったわ!」

 

 

 飛びかかろうとして引っ張られ引っくり返ったハンターたちを余所に、ビリーがショットガンを投げ渡すと、レベッカが受け取って代わりに背中に装備していたグレネードランチャーを投げ渡す。そしてビリーは床に落ちていたグレネードランチャーの弾を装填すると構えた。

 

 

「それ以上近づくと火傷するぜ」

 

「っ!? 盾になれ…!」

 

 

 炎を避ける様に天井に移動して一瞬で目の前まで飛び降りてきたハンターΩに、装填された硫酸弾が発射。ジュゥウウ!という肉が焼ける音と共に、ハンターΩの盾となった先程ビリーを拘束していた個体はは大ダメージに呻き、そのまま崩れ落ちて動けなくなった。跳ねた硫酸を浴びてハンターΩもしかめ面だ。

 

 

「思った以上に効いているな。弱点か?」

 

「ビリー、こっちは終わったわ!先輩をくっつけてみるからそっちはお願い!」

 

「任された!」

 

 

 ショットガンでもう一匹のハンターを倒し終えたレベッカが駆け寄ってきて私の断面をくっつけようと試みる。めんぼくない。これ、服も粘液でくっつけておいた方がいいな。

 

 

「喰らいな、嬢ちゃん!」

 

「誰が喰らうものか…!」

 

 

 次々と放たれる硫酸弾を、壁を蹴り天井を蹴り、次々と回避していくハンターΩ。なんて身のこなしだ。ハンターの比じゃないぞ。エヴリンも大声を出して援護しているが慣れて来たのかあんまり効いてない。このままじゃじり貧だ。弾切れしたら終わる…!

 

 

「レベッカ、支えてくれ」

 

「なにを…?いえ、わかりました!」

 

 

 レベッカに支えてもらい、両手を掲げる。激痛にも慣れてきた。奴の動きを止める。両手から粘液を水流状にして放射、天井を粘液で覆って行く。私達を狙おうとしてビリーの硫酸弾を避けたハンターΩの左手と両足が粘液に浸かる。

 

 

「殺す!……があっ!?」

 

 

 そして飛び出そうとして、にょーんと伸びた粘液に引っ張られてビターン!と天井に磔にされてしまった。もがくハンターΩ。これで決まりだ。と思ったが、どうやら弾切れらしい。

 

 

「…硫酸弾がなくなった。どうするクイーン」

 

「取るモノを取ったらおいとまするぞ。奴に銃は効かない。…倒す手段がない」

 

「わかりました」

 

「待てえ…!」

 

 

 じたばたもがくハンターΩだがもがけばもがくほど粘液は絡み付いて行く。私達は奥にあった水のカギを回収し、訓練所を後にした。




攻撃が効かないなら拘束してさっさと逃げるに限る(4の某右腕とか)。

最強のハンター、ハンターΩ。通称オメガちゃん。傑作と称するだけ合って勝つ方法がほとんどないやべーやつ。硫酸弾は当たると効きますが全弾回避されたら意味がない!(空気男の楽曲が如く)

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file0:28【インフェクティッドバット】

どうも、放仮ごです。色々あって遅れてギリギリになりました。今更ですけど、MCUを元にしてオリキャラやオリクリーチャーたちは考えております。そんなわけで今回みたいな話も必然だったわけです。楽しんでいただけたら幸いです。


「先輩…見た目どうにかなりませんか」

 

「なんか複雑な気分だ…」

 

「すまん、この形をずっと維持してきたから触手とかにしか変形できないんだ」

 

『デップーみたい…』

 

 

 あのあと、一時的に粘液で繋げただけの身体はまたポロリと別たれてしまったので、とりあえず私の上半身(胸から上)を腕を持ち手の様にして鞄の如くレベッカに、下半身(胸から下)をビリーに俵持ちしてもらって安全なホールまで戻る私達。エヴリン、デッドプール扱いはさすがに傷付くぞ。

 

 

「…よし、なんとかくっついたな」

 

『便利な身体だよね』

 

「お前の身体には負けるさ」

 

 

 私の身体を合わせて粘液でくっつけ、レベッカに赤緑ハーブを調合してもらい治癒力を強めてからエヴリンに中に入ってもらって菌根の神経を繋げて、復活する。…よし、ちゃんと動くな。私じゃなかったら即死だったぞ。

 

 

「…さて、どうする?」

 

『それだよねえ』

 

 

 それを腕を組みながら壁に寄りかかって見ていたビリーが口を開き、エヴリンもふわふわと逆さまになりながら苦笑い。

 

 

「…マスターリーチ、エリミネート・スクナ、そしてハンターΩのことだな……ゾンビやらでかい蟲やら普通のエリミネーターやハンターは問題ない、がこいつらは別格だ」

 

「ええ、それがこのアンブレラ幹部養成所のどこかに潜んで私達を狙っている……」

 

『今までみたいに呑気に探索と言う訳にはいかないよねえ』

 

「あのクソデカムカデ女みたいなのが他にもいないとも限らない。武器も戦力も足りない。奴らを放置して脱出するのも手だぞ」

 

「いや、マスターリーチだけは止めないといけない。奴を野放しにしたら世界は火の海だ」

 

「そんなこと…ありえるんですか?」

 

「ああ、できる。…奴は私とは違う進化を遂げた。エヴリンの力を断片的ながら使いこなしている」

 

「エヴリンの力…?」

 

『お恥ずかしながら…』

 

 

 えへへ、と私にしか見えてないと言うのに頭を撫でて照れるエヴリン。お前の力のおかげで私はクイーン・サマーズになれたが、敵になったら最悪にも程があるぞ。

 

 

「エヴリン……正確には私達に与えられた菌根の力は「置換」だ。感染した生物の体組織を菌に置換、精神を支配下に置くことができる。私はそれに適応して、ヒルの肉体の内部に人間の神経と酷似したものに置換されている。私の思い通りに自在に動かせるという形での支配だがな。それをマスターリーチは短時間で行えるらしい」

 

「…いろいろ言いたいことはあるが、と言うと?」

 

「エリミネート・スクナの頭を見たか?奴は自らの一部である同胞を新たな脳としてくっつけて支配している。…恐らく人間が相手だろうと、できるだろう。戦火を起こすことも自由自在だ、そうなれば世界は破滅だ」

 

 

 菌根の力を得て、奴は破滅の手段を手に入れた。なんなら奴が手中に収めたB.O.W.を世界に解き放つだけで終わりなのに、人間も操れる力を手に入れたんだ。

 

 

「エヴリン、どうすればいい?」

 

『……ひとつだけ方法はあるよ?』

 

「それはなんだ?」

 

『カミサマ頼り』

 

「はあ?」

 

 

 バカなことを言い出したエヴリンが言うには、菌根には数々の記憶を取りこんできたことにより生まれた黒き神(ゼウ・ヌーグル)という意思があるらしい。……オカルトすぎないか?

 

 

『いやあ、マスターリーチが人類を滅ぼす前に起きないかなあって。あとは全部任せよ?』

 

「………よし、エヴリンの馬鹿は放っておくぞ」

 

『ひでえ』

 

「なに言ったんだ?」

 

「気にするな。状況に絶望している馬鹿の言っている戯言だ。偵察でもしてこいエヴリン」

 

『はーい』

 

 

 エヴリン本人も冗談のつもりだったのだろう、半笑いになりながらふよふよと壁を通り抜けて行った。黒き神とか作り話にしてはよくできていたな。

 

 

「それで先輩、マスターリーチは今どこに……?」

 

「ハンターΩのいた訓練施設の恐らく観測室にいたのを見たが……出る時に見たら既にいなかった。神出鬼没だ、だが奴も私達を逃がしたくない筈だ。特に私の事は殺したくて殺したくてたまらないはずだ」

 

「それはなぜだ?」

 

「私は許せない裏切り者らしいからな。殺さないと気が済まないらしい、回収したアイツの一部だった同胞たちによるとな」

 

 

 アイツが私にとてつもない怒りを感じていることは確かだ。執拗に刺客を送りつけて殺そうとしてくることから間違いないだろう。私を殺せなくてイラついていることも、ハンターΩが私を真っ二つにして勝ち誇ってレベッカとビリーを殺させようとしていたことから私が死んだとも思ってたはずだ。……うん?不味くないか?

 

 

「脱出を急ぐぞ、アイツに準備させる時間を与えたらダメだ」

 

「どうしたんですか?」

 

「ハンターΩでも私を殺せなかった奴がなにをすると思う?――――――全戦力投入だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリミネート・スクナとハンターΩの出現を境に、養成所内に溢れだすエリミネーターとハンターたち。そのいずれも頭にヒルを乗っけていた。なりふり構ってられないらしい。それらを撃退しながら、脱出のためのアイテムを集めていく私達。……そしてもうひとつ気がかりがあった。飼育プールを通りがかった時、ヘカトンケイルの死体が消えているのを確認した。私の嫌な予感が正しければ……ヘカトンケイルは生きている。

 

 

そして三つのレリーフを集め、3階天文台に到達。仕掛けを作動させて外に出た物の、脱出できないことを確認した私達は礼拝堂に辿り着き、糸を利用して上から入った私達のもとに、それは現れた。

 

 

「でかい蝙蝠…!?」

 

「頭にヒルが!」

 

「また奴の刺客か!?」

 

 

 現れたのは、巨大な蝙蝠。飛来したそれに粘液糸を繋げて、遠心力のまま床に叩きつける。…弱い、人工のB.O.W.じゃないのか?

 

 

「クイーン、危ない!」

 

「っ!?」

 

 

 そこに、伸びてきたそれがビリーが突き飛ばした私のいた場所にぶつかってドロドロと融解させる。見覚えがある、ムカデの腕。見れば、ヘカトンケイルが入り口からこちらを覗いているのが見えた。

 

 

「その蝙蝠さんばかりずるいずるい!我にも愛をちょうだい…!」

 

「やっぱり生きていたか…!?」

 

 

 そこに飛んできた瓦礫を粘液硬化した腕で咄嗟に殴り壊す。天井に、エリミネート・スクナが掴まってそこにいた。頭には相変わらずヒルがくっ付いているからアイツだ。

 

 

『いつもいつも私の警戒を擦り抜けてくるのやめてくれないかな私がガバいみたいじゃん!クソデカ蝙蝠については音もなく飛来してたから無理だったからね!』

 

「言ってる暇があったら警戒しろ!まだ来るぞ…!」

 

 

 言ってる傍から扉を蹴破って、五つの影が現れる。爪を鳴らす音が印象的だった。

 

 

「うそ…!?」

 

「……確かに総力戦で来るとは聞いたが、こいつまでとは聞いてないぞ」

 

「…今度こそ殺す」

 

 

 ハンターΩにハンター四体がそこにいて。クソデカ蝙蝠、ヘカトンケイル、エリミネート・スクナにハンターΩ達。……完全に四方を囲まれた、逃げ場もない。私とエヴリン、レベッカとビリーは背中合わせになって構える。この先に行かれたくないってことだろう。上等だ、やってやる。




8時だよ!全員集合!(やけくそ)

ちなみにやっぱり生きてたヘカトちゃんだけは偶然来ただけでマスターリーチ関係ないです。オメガちゃんはスクナが無理やり引き剥がして助けられました。

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file0:29【需要と供給】

どうも、放仮ごです。バイオのボスラッシュってシステム上地獄でしかないけど一癖も二癖もある奴等なら…?

今回はVS四大ボス。楽しんでいただけたら幸いです。


{殺せ!ハンターΩ、そいつらを殺せ!}

 

「了承。H23、35、右へ。59、64は左」

 

 

 頭にヒルを乗せ礼拝堂の天井近くに滞空したクソデカ蝙蝠の口から超音波を利用したのかマスターリーチの声が響き渡り、ハンターΩが頷いてハンターたちに指示を送る。同時にレベッカとビリーが手にしたハンドガンを発砲、私とエヴリンが同時に飛び出す。

 

 

「我に愛をちょうだい!」

 

「行くぞ!」

 

『スゥ、ワアアアッ!!

 

 

 私はヘカトンケイルの伸ばしてきたムカデ腕を粘液硬化した右足の蹴りで弾き、エリミネート・スクナの目の前まで移動したエヴリンが大声を叩きつける。しかしエリミネート・スクナは驚異的な筋力で四本の腕を駆使し天井まで逃れて、腕一本で捕まった天井から残り三つの腕で瓦礫をもぎ取ると次々と投擲。さらにその投擲された瓦礫を足場にして三次元的跳躍でピンボールの様に移動して次々と斬撃を浴びせんとしてくるハンターΩ。銃撃が効かないからレベッカとビリーの攻撃が意味を成してないのか…!

 

 

「くそっ!」

 

 

 ならばと、両手を交差して粘液糸を飛ばし、一本に繋げてピンと張って迎撃。ピンと張られた粘液糸にまっすぐぶつかったハンターΩはぐいんと首が引っ掛かって一回転、ドシャッと地面に叩きつけられて呻く。さすがに効いたらしい。しかしハンターΩに追撃しようとしたところにエリミネート・スクナが着地。右の二本腕によるパンチを繰り出してきた。

 

 

『残念、ハズレ!』

 

「ウキャッ!?」

 

「隙ありだ!」

 

 

 それに対して私はエヴリンと目配せして、上に向けて粘液糸を伸ばして逃れて代わりにエヴリンが身代わりで受け止め擦り抜けて一回転して混乱したところにビリーの銃弾が次々と炸裂。血を噴き出して後退するエリミネート・スクナ。そこにクソデカ蝙蝠が翼を羽ばたかせて私目掛けて突進してきたが、地上からレベッカが狙い撃ったグレネードランチャーの焼夷弾を受けて炎上した。

 

 

{ぐああああああっ!?}

 

「無事ですか、先輩!」

 

「気を付けろ!ドンドン来るぞ!」

 

「殺す…!」

 

「私に痛みをちょうだい…!」

 

 

 首への衝撃から復活したハンターΩの右腕の爪と、ヘカトンケイルの毒棘付きムカデの腕が襲いかかる。すると不思議なことが起こった。

 

 

「了承…!」

 

「きゃあ!?」

 

「え?」

 

「なんだ…?」

 

 

 ハンターΩに斬り裂かれるところだったレベッカと、ムカデ腕の直撃をもらうところだったビリーの呆けた声が響く。なんとハンターΩがギリギリで標的をヘカトンケイルに変え、ムカデ腕をアッパーカットで斬り裂いて弾き上げたのだ。

 

 

「痛みを与える…!」

 

「ああ、これが愛なのね…!」

 

{お、おいなにをしている…?}

 

 

 そのまま執拗にヘカトンケイルに攻撃を加えるハンターΩと、斬撃を受けてすぐに再生しながら喜ぶヘカトンケイルに、炎から逃れたクソデカ蝙蝠とエリミネート・スクナ…を操っているマスターリーチも困惑。ハンターたちは標的を変えたハンターΩに戸惑っているのか右往左往していたので、私とレベッカ、ビリーで同時攻撃して三体仕留めた。残り一体だ。…だがしかし。

 

 

「……一体全体なにがどうなってる?」

 

「…需要と供給?」

 

「理解に苦しむぜ……」

 

『楽しそうだけどね』

 

{ハンターΩ。言うことを聞け。そこの三人を殺せ!}

 

「了承。H64は背後に回れ」

 

 

 いち早く正気に戻ったマスターリーチの命令を受けて再び私達に攻撃を仕掛けるハンターΩとそれに合わせるエリミネート・スクナとクソデカ蝙蝠に、慌てて応戦する。なんなんだいったい!?

 

 

『ただでかいだけだと思うなよ…!我がしもべよ!』

 

 

 そう叫んだクソデカ蝙蝠の超音波と共に、どこからともなく通常より一回りデカいサイズの蝙蝠の群れが現れて殺到。噛み付いてくるのをレベッカとビリーを庇いながら粘液硬化で受け止め薙ぎ払う。そこにハンターΩの斬撃が襲いかかり、脇腹を斬り裂かれてしまう。

 

 

「があっ!?」

 

「先輩!?」

 

「くそっ、離れろ…がああっ!?」

 

「ビリー!…きゃっ!?」

 

{天から落ちよ!}

 

 

 蝙蝠どもを銃とナイフで追い払おうとするレベッカとビリーだったが、ビリーがエリミネート・スクナの右腕二本の拳を受けて殴り飛ばされてしまう。レベッカもクソデカ蝙蝠に掴まれて持ち上げられ、高所から落とされて叩きつけられてダウン。エヴリンも最後のハンターを誘導するのに必死で助力は見込めない。不味い…、このままじゃ全滅だ。

 

 

「…むう」

 

 

 すると面白くないと言う顔をしたのは、放置されて呆けていたヘカトンケイルだ。両腕のムカデ腕を地団太の様に何度も地面に打ち付け、毒で地面が融解する。それを余所に私にとどめを刺さんとするハンターΩ。

 

 

「我にもやってよ!」

 

「了承」

 

 

 その言葉にハンターΩが振り返って突進、ヘカトンケイルに再び斬撃を浴びせて、腹部を切り裂かれたヘカトンケイルは「あう」と跪くが、それでもかまわず攻撃を続けるハンターΩ。これに困惑したのはクソデカ蝙蝠を操っているマスターリーチだ。

 

 

{またか!?全ての命令に従順な兵器じゃないのか!?}

 

『全ての命令に従順…?そっか!じゃあ…ハンターΩ!そこの猿倒して!』

 

「了承」

 

 

 にやりと笑ったエヴリンの言葉に頷いたハンターΩが、ビリーの頭を掴んで持ち上げていたエリミネート・スクナに一閃。スパンっと小気味いい音が鳴り、後頭部で二つ接合された頭部が吹き飛んで宙を舞う。首から上を失ったエリミネート・スクナの四本腕の肉体は虚しく空を切ってビリーを手放し、崩れ落ちた。それを見て動揺したクソデカ蝙蝠に粘液糸を飛ばし、地面に引きずり下ろす。

 

 

「我にももっと痛みをちょうだい!」

 

「了承」

 

『ハンターも倒して!』

 

「了承」

 

「我から!」

 

「りょう、しょ……」

 

『ハンター!』

 

「わーれーかーらー!」

 

「ギイ!?」

 

{うわああああああっ!?}

 

 

 グシャアッ!と、癇癪を起こしたヘカトンケイルのムカデ腕にクソデカ蝙蝠とハンターが押し潰されて赤いしみとなる。毒で溶けて無惨なことになってる。…敵ながら、哀れな。

 

 

「りょ…しょ……う」

 

「おーきーてー!」

 

 

 ハンターΩはショートを起こしたのか目を回して引っくり返り、ヘカトンケイルはそれをムカデ腕で抱えてゆさゆさと揺さぶってる。…もうこいつらに私達を襲うつもりはなさそうだな。再生するわ、堅過ぎるわでこちらもとどめを刺せないから放っておこう。それよりもレベッカとビリーだ。

 

 

「レベッカ、ビリー、無事か?」

 

「はい…なんとか」

 

「死ぬかと思った……」

 

「よかった。…それで、どういうことなんだ?エヴリン」

 

 

 そう尋ねると、ハンターΩとヘカトンケイルのやりとりを微笑ましそうに見守っていたエヴリンは悪戯が成功したかの様な顔で笑った。

 

 

『んー?簡単だよ。ハンターΩ、多分だけど命令を全部聞いちゃうんじゃないかな。だからヒルを頭に乗せられ無くてもマスターリーチの言うことに従ってたんだと思う』

 

「…そういうことか」

 

 

 なんでも命令を聞くハンターΩと、命令口調で自分に攻撃しろと叫び続けるヘカトンケイル。攻撃特化と防御特化。ある意味相性は最高だ。それにマスターリーチは気付いていなかったんだな。

 

 

『それでなんだけど、ハンターΩ使えないかな?私が耳元で命令し続けたらうまくいけば戦力になるかも?』

 

「……それは名案だと思うがヘカトンケイルはどうする?放してくれないぞあれ」

 

『連れてくしかないんじゃないかな?たまにハンターΩで斬り裂きまくれば満足するだろうし』

 

「ええ……」

 

『見た目はあれだけど素直ないい子たちだよ?』

 

 

 ………爆弾抱えて歩くようなものじゃないか。なあおい、目を逸らすなエヴリン。




ドM巨人と命令なんでも肯定ガール、需要と供給が成立してたのだ。

圧倒的有利だったマスターリーチの敗因は利用できると思ってヘカトンケイルを自由にさせていたこと。

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file0:30【ヘカトちゃんとオメガちゃん】

どうも、放仮後です。今回は何時もより千字長いです。楽しんでいただけたら幸いです。


 ヘカトンケイルが命令と言うかお願いして、ハンターΩが斬り裂き続けること五分。私だけならこの二人を誘導して後から合流できると思ったので、私が見張っている間にクイーンとレベッカとビリーが周囲の探索を進めてもらっているのだが、正直飽きてきた。ローズとゼウの関係みたいだ。ゼウが面白くない冗談言ってローズに消されかける漫才面白かったなあ(現実逃避)

 

 

『いい加減に止まりなさい!そこに正座!』

 

「はいぃ!」

 

「了承」

 

 

 大きく声を吸って怒鳴り散らすと、キャッキャッと子どもの様に喜んでいた巨人と、従順に命令を遂行しながらも性格なのか楽しんでいた最強の狩人が慌てて正座する。体格差面白いな。スタイルもボンキュッボンとぺったんこで対照的だ。なのに顔はどっちもリサと同じなのがちょっと笑えてくる。しかし咄嗟に言った日本の言葉だけど正座通じるのか。

 

 

『ハンターΩとヘカトンケイル……長ったらしいな、今から貴方達はオメガちゃんとヘカトちゃん!いいね!?』

 

「了承。私、オメガちゃん」

 

「我、ヘカトちゃん?」

 

『そう。ヘカトちゃん』

 

 

 あっさり受け入れるオメガちゃんと、疑問符を浮かべるヘカトちゃん。ヘカテーって女神がいた気がするしいい感じの愛称なんじゃなかろうか。あ、そうだ。名前の変更もあっさり受け入れるなら……対策しておいた方がいいよね。

 

 

『オメガちゃん。これは命令!これ以降、オメガちゃんと呼ばれない限り命令を聞かないこと!』

 

「了承」

 

 

 私の命令に、頷くオメガちゃん。これでマスターリーチが操ろうにもオメガちゃんと呼ばれない限りオメガちゃんは言うことを聞かない筈だ。つまり永遠に優先される命令を前もって言っておけばいいわけだよね。

 

 

『で、落ち着いた?』

 

()。落ち着いた」

 

「ねえ、もっと痛いのくれない?これどちらかというと痺れ…」

 

『あと五分追加ね』

 

「ええ~!…でも、この感じいいかも……」

 

『ええ……』

 

 

 慣れない正座をするうちに脚が痺れてきたらしい両者。オメガちゃんはプルプル震えてこそいるが涼しい顔で、ヘカトちゃんは分かりやすく表情に出して馬鹿なこと言い出したので追加。ドMな発言に思わずドン引く。痛い方が我慢できるってことなんだろうけどただのドMでしかないんだよなあ。

 

 

『さて、と…落ち着いたところで三人を追いたいんだけど……』

 

 

 クイーンとビリーとレベッカの三人がブレーカーを起動させて降りて行ったエレベーターに視線を向ける。オメガちゃんは小柄だからいいけど、ヘカトちゃんがなあ。すごく……大きいです。

 

 

『うーん、やっぱり入れないよな…5メートルぐらいあるもん……あれ?ちょっと縮んだ?』

 

 

 ちゃんと見てみれば、一回り縮んで全長4メートルぐらいになっていた。でかいのは変わらないから気付くのに遅れた。するとヘカトちゃんは正座したまま首を傾げ、合点が言ったというようにポンッとムカデ腕の先端の腹部で手(?)を打った。

 

 

「ん?ああ、我の前の肉体、瀕死だったから脱皮したの。すごくすごく痛かったけど、死にたくない!って考えてたらいつの間にか外に出ていたの」

 

『そういや最初はただ巨大なムカデだったっけ』

 

 

 私が情報を探ってる間に一回クイーンたちが倒して、そこから出てきたんだっけ。たしか、巨大なムカデの姿は外装に過ぎなくて、外側がやられたら、内部で幾度も変容を繰り返して進化し続けているものが出てくる…それがあの時戦った5メートル大のヘカトちゃん。それがやられて、私達が離れた後にさらに脱皮して縮んだということか。なら……。

 

 

『ヘカトちゃん、今すぐ脱皮できる?』

 

「オメガちゃんに沢山愛してもらったから多分できるわ!」

 

『…なら、お願いできる?』

 

「わかったわ!」

 

 

 痛みを愛として受け入れているヘカトちゃんが立ち上がって、身体が白くなっていくのを複雑な思いを胸に見守る。「痛い」を愛と感じるのは深層心理に刻まれたトラウマによる防衛本能だろう。調教記録は見た。リサの血を浴びて再生し続ける巨大ムカデを前に、研究員が選び、アンブレラ幹部候補が実行したのはひたすら「痛み」を与える調教。痛みを記憶に刻み込んで自分たちに従わないと痛い目に遭わせるぞという、あまりにも非人道的な調教だ。

 

 ヘカトちゃんの一番の不幸は心を持ってしまったことだろう。心を得てしまったヘカトちゃんは、幼いながらも人間と変わらない心を持っていた。恐らくリサの遺伝子が一般常識も共に植え付けてしまったのだろう。そんな純粋な心に刻まれたのは、リサが両親から当たり前に享受していた「愛」ではなく、恐怖を恐怖で縛ろうと言う「痛み」だった。耐えきれなかった心が痛みを愛だと誤認したのも無理もない事だろうと思う。だって、私も「家族」を自分に都合のいいものにしか考えなかったもの。

 

 

「我、再び、た・ん・じょ・う!」

 

『時間差コンティニューとかできそう』

 

 

 意気揚々と叫びながら完全に白く染まった巨大な体を破る様にして萌え袖ぐらいに縮んだムカデの腕を掲げて現れたのは、4メートル大から2.5メートルほどにまで縮んだヘカトちゃん。うーん、デカいのは変わらないけどこれならギリギリエレベーターに入るかな?すると黙ってジッと私を見つめているオメガちゃんに気付く。

 

 

『放っといてごめんね、オメガちゃん。行こうか』

 

「了承」

 

『ところでオメガちゃん。自分で自分に命令とかできないの?』

 

「否定。私は、命令に従うのみ。私から私に命令はできない。…何を命令すればいいかもわからない」

 

 

 これまで「了承」「是」「否定」と機械的な一言でしか返事してなかったオメガちゃんが初めて饒舌になった。恐らくこれが本音か。でもそれは、考えることの放棄なんだよなあ。そのままだと取り返しのつかないことになる。

 

 

『さっきはあんなこと言ったけどさ……オメガちゃんは、好きにしていいんだよ?』

 

「了……承?」

 

『これから学んで行けばいいよ。二人とも水着同然の恰好だし、ラクーンシティでおしゃれを楽しんだりしてみよう。…そのために、オメガちゃん。力を貸してくれないかな?』

 

「了承」

 

 

 頷き、私についてくるオメガちゃんと、それにとてとてとムカデ腕を引き摺りながらついてくるヘカトちゃんをエレベーターに乗せ、オメガちゃんに操作してもらって地下二階に下りる。…さあ、クイーンたちに合流しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クイーン!』

 

「エヴリン。ようやく来たか。それに、ハンターΩとヘカトンケイルか」

 

 

 開けられた形跡の残された順路を進み、地下のプラットホームらしき場所に出た私とオメガちゃんとヘカトちゃんはクイーン、ビリー、レベッカと合流する。電車を前に私達を待っていたらしい。

 

 

『違うよ。オメガちゃんとヘカトちゃん』

 

「私、オメガちゃん」

 

「我、ヘカトちゃん!」

 

「お、おう?呼びやすくていいな」

 

「可愛いですね」

 

「ヘカトの方は縮んだか?」

 

 

 私の促しに手を上げて自己紹介するオメガちゃんとヘカトちゃんに三人は思い思いの反応。分かるよレベッカ、可愛いよね。

 

 

「お前は信頼を勝ち取ったらしいな。私は、我が父への信頼を失いそうだ…」

 

『なにがあったし』

 

 

 そう言って体内から文書を取り出すクイーン。便利だな、と思いながらオメガちゃんに言って開いてもらう。

 

 

『蛭の育成記録…?』

 

 

 それには、こうあった。

 

 

【1978年2月3日

実験体のヒル4匹へ「始祖」を投与開始。生存のための寄生と捕食、そして繁殖。その全てを本能で繰り返すヒルは生物兵器として最適であると考えられたからだ。ヒルたちはしばらく苦しむようにのた打ち回っていたが、間もなく沈静化した。以後は、しばらく目立った変化無し。

 

1978年2月10日

投与開始から7日間。全長が二倍までに肥大化し、変態の兆しが見える。 産卵も無事に終え、最初の倍の数まで一時増えたが、異常な食欲のおかげで共食いを始めてしまった。 急いでエサを調達するが、2体を失ってしまった。

 

1978年3月7日

エサを生きたまま与えることにするが 半数が逆にエサに攻撃され、失われてしまった。しかし、それを学習したヒルたちの攻撃パターンは 次第に単体ベースから群体ベースへと 移行する様子を見せ始めた。これを境に共食いもしなくなった。予想を越えた、素晴らしい進化ぶりだ。

 

1978年4月22日

ヒルたちは捕食の時以外も個体での行動を止め、 常にある程度まとまった集団として行動を取るようになる。 与えるエサにも、驚くほど効率的に攻撃するようになった。

 

1978年4月30日

所員の一人に実験の事を感づかれてしまったようだ。 “エサ”が人間になったら? ヒルたちの反応はどうだろうか?

 

1978年6月3日

今日は素晴らしい記念日となった。彼らが私の姿の擬態を始めたのだ!私を親として認識しているのか・・・。かわいい子供たち。もう誰にも渡しはしない・・・。】

 

『うわあ』

 

 

 うわあ。としか言葉が出てこない。私もこの時代に現れたのは1980年だったけど、その時には既に甘やかしていてなんでもかんでも餌にして与えてたから想像もつかなかったけど…相当アレな人間だマーカスは。これにはクイーンも迷うのもしょうがないと思う。

 

 

「…我が父にとっては子供のようなものだったのかもしれないし、私達もそれを甘んじて受け入れて我が父と慕っていたが……私が自我を持つ以前の扱いはどう考えても実験動物のそれだ。…私はこの愛を信じていいのだろうか。心が痛い……こんなもの、見つけなければよかった」

 

「痛みが愛なのよ!」

 

『少し黙ろうかヘカトちゃん?』

 

 

 …うーん、どうしたものかな。そこに、クイーンの背後の扉を開けてそれが現れた。

 

 

「お前の我が父への愛はその程度だったんだなあ?元統率個体」

 

『オメガちゃん、やれ』

 

「了承」

 

 

 マスターリーチ。その姿を見るなり私はオメガちゃんに命令。頷いたオメガちゃんが一瞬で首をすっ飛ばしたが………宙を舞う首がにやりと笑う。

 

 

「ヒル一匹だけだったインフェクティッドバットやエリミネート・スクナとはわけが違うぞ、我等は群体だ」

 

 

 そして落ちてきた頭部をキャッチ、首に接合してゴキゴキと動かして調子を確かめたマスターリーチが嗤い、左手を腰にやり右手をちょいちょいと動かして挑発する。同時に構える、クイーン、レベッカ、ビリー、オメガちゃん、ヘカトちゃん。勝負だ、マスターリーチ。




脱皮してサイズを縮めるヘカトちゃん。前もって命令して置けば対策できるオメガちゃん。扱いは難しいけど使いこなせば頼もしいです。

そしてすっ飛ばした研究所編。いやここ、行ったり来たりでレベッカとビリーの入れ替わりを最大限活用しないといけないので非常にめんどくさい場所なのです。一応、レベッカとクイーン、ビリーで別れて攻略してました。

そして研究所最後のプラットホームにて出現、マスターリーチ。鉄腕アトムで学んだけど群体って本当に強いのだ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:31【変異蛭の覇王(マスターリーチ)

どうも、放仮ごです。バイオ0の終盤に当たるロープウェイのプラットホームにて一足早い決戦です。楽しんでいただけたら幸いです。


「フフフッ…」

 

「喰らえ!」

 

 

 粘液糸を天井にくっ付けて宙に舞い上がり、スイングキックを叩き込むが、首を逸らして避けられて回し蹴りを叩き込まれて地面に蹴り飛ばされる。無様に倒れる私を悪辣に嗤いながら、レベッカとビリーの弾丸をまともに受けながら意にも介さず掲げた両掌から次々と変異ヒルをとめどなく溢れださせていくマスターリーチ。

 

 

「私に敵うとでも思っていたのか?今までは遊んでやっただけだ。私も私のできることを把握しておきたかったのだよ。大体わかった。もうお前たちは用済みだ」

 

 

 その身体にどれだけ潜ませていたというのか、溢れだしたそれは地面にボトボトと落ちて人型を形成、壮年の我が父の姿に擬態した擬態マーカスが新たに四体、出現する。エヴリンを除けばこれで5VS5、数の差は互角だ。

 

 

「ついでだ、ハンターΩ。そいつらをやれ」

 

「否」

 

「む…?」

 

『残念だったねマスターリーチ!オメガちゃんはもうお前の言うことは聞かないよーだ!』

 

 

 そのまま不敵な笑みを浮かべながらオメガに命令を下すマスターリーチだったが、オメガはぷいっとそっぽを向き、エヴリンが空中で逆さまになりながら踏ん反り返る。

 

 

『オメガちゃん、他の有象無象は無視だ!あいつをとにかく切り刻めえ!』

 

「了承!」

 

「なにをしたのか知らないが、敵に鹵獲された時点で対策を考えてないとでも?」

 

 

 そのままエヴリンがオメガにぴったりくっついて指示、首、腕、肩、胴体、脚、頭部を輪切りにと次々と斬り裂いて行くがしかし、マスターリーチは即座に再生。そのまま巨大な塊に肥大化させた右腕を振るおうとしたので、私が前に出て両手で受け止めると、マスターリーチは「Laa~!」と歌い出すと二体の擬態マーカスが両腕を伸ばして一体ずつでオメガの四肢を拘束すると締め上げてしまう。残りの擬態マーカスはムカデ腕を振るおうとしていたヘカトを粘液の壁を形成して閉じ込めていた。

 

 

「う、あああああっ!?」

 

『オメガちゃん!?』

 

 

 四肢と首と胴体を締め上げられて表情を歪ませ苦悶の声を出すオメガに、エヴリンが悲鳴を上げる。銃撃は効かない身体だが締め上げるのは普通に効くのか…!?レベッカとビリーが銃撃でオメガを締め上げる腕をちぎらんとするが、ハンドガンだろうがショットガンの銃撃だろうが即座に再生していき締め上げる力は緩まれない。なら私が…とマスターリーチの右腕から腕を外して粘液糸を伸ばさんとするが、逆に粘液で両手を右腕に拘束されてしまっていた。

 

 

「ぐっ…!?」

 

「フハハハ!私は、お前の性能よりすべてが上だあ!」

 

「がああ!?」

 

 

 そのまま右腕を岩盤に叩きつけられ、私はサンドイッチにされて崩れ落ちる。見れば、オメガは今にも失神しそうだった。エヴリンも泣きそうだ。

 

 

「…それは愛じゃないわ」

 

 

 瞬間、硬質なものが砕け散る音が聞こえて。見れば、右のムカデの腕を螺旋状に変形させドリルの様に回転させて粘液硬化の壁を打ち砕いたヘカトがいた。そのまま左腕を勢いよく伸ばしてオメガを縛っていた二体の上半身をでろでろに溶かしながら吹き飛ばしてオメガを解放させるがしかし、崩れ落ちた二体を構成していた変異ヒルが集まって、一回り大きな巨人に変貌。

 

 

「そんなに愛し(痛めつけ)てほしいか!よかろう!」

 

「あぐっ…!?」

 

 

 マスターリーチが吠えて、ヒル巨人がムカデ腕の節足を両手で掴むと粘液で固定。引っ張ってヘカトを引き寄せると、鋭く槍状に伸びた右の前蹴りがヘカトの胴体に突き刺さり、そのまま膝を顎に叩き込むヒル巨人。ヘカトは右腕の螺旋状のムカデ腕を振り回すが、当たった瞬間その部位だけ構成が崩れて受け流され、勢いよく地面に叩きつけられてクレーターを生み出した。

 

 

『ヘカトちゃんを助けて、オメガちゃん!』

 

「了承」

 

「無駄だ」

 

 

 エヴリンがオメガに命じてヘカトを助けようと試みるが、先程までヘカトを足止めしていた擬態マーカスの一体が、両腕を粘液硬化しさらにそれを刃状にしてオメガの斬撃を受け止め、もう片方の刃を振るってオメガを弾き飛ばす。もう一体は変幻自在に両腕を触手化させてレベッカとビリーの相手をしていた。ダメだ、完全に抑え込まれてる。私が何とかするしかない…!

 

 

「うおおおっ!」

 

「そればっかりか。芸が無いな元統率個体ィ!」

 

 

 なんとか倒れたまま手を突き出し、粘液糸を伸ばしてマスターリーチの首を締め上げようとするも、ぬるりと首を糸が擦り抜けて空を切ると、右足が振り上げられてギロチンのようになって首に叩きつけられる。全体重を乗せた斬撃が、咄嗟に粘液硬化した私の首を強烈に圧迫した。

 

 

「が、あああああっ!?」

 

「防御だけは得意だなあ!死にぞこないが!」

 

 

 そのまま蹴り飛ばされて仰向けにされ、肥大化しさらに粘液を固めた棘を生やした右腕が勢いよく振り下ろされるのを、咄嗟に両腕を突き上げて受け止める。掌に棘が突き刺さって激痛が走る。ここまで力の差があるのか…!

 

 

「なんでだ、なんでお前はこんなにも強い…!?」

 

「あの記録を見たならわかるだろう?我らの本質は「学習」して「適応」し「進化」する力だ。情報さえあれば我等は無限に進化する。故に私は自我を持ってからのこの2年、学習を怠らなかった。だがお前は10年もありながらなにをしてきた?現状に満足し「停滞」していた、元統率個体が聞いて呆れるなあ?」

 

 

 そのまま粘液で固定されて持ち上げられ、横に振るわれて投げ飛ばされた私は飛び石の様に地面を跳ねて崖まで転がり落ちそうになるのを、粘液糸を伸ばして間一髪助かった。それを見て嘲笑いながら歩み寄ってくるマスターリーチ。

 

 

「私の「学習」したことを話そうか?まずはレベッカ・チェンバース。戦闘力も耐久力も並み以上でしかない、頭脳と薬学知識こそ目を見張るものがあるがそれだけだ。まるで脅威にならない」

 

 

 擬態マーカスに首を掴まれて持ち上げられるレベッカを見ながらそう称するマスターリーチ。次の視線を向けたのは、擬態マーカスの腕を掴んでレベッカの拘束を外そうとしているビリーだ。

 

 

「ビリー・コーエン。体力、戦闘力共に優秀だ。ゾンビになれば手駒としてほしいな。だがそれだけだ、頭脳が足りないとでもいいかな。精神的にも難がある。現に今もレベッカを救うことに気を取られすぎているな、取るに足らない」

 

 

 そうやれやれとでも言いたげに首を振ったマスターリーチが視線を向けるのはエヴリンとオメガだ。

 

 

「エヴリン。詳細はまるで分らんが、お前らの司令塔だ。レベッカとビリーには見えてないな、見えてる者の共通点は……T-ウイルスか?まあいい、本人の戦闘能力は強力とも言い難い大声のみ。最大の弱点は触れることができないところだな。放っておけばただ五月蠅いだけの餓鬼だ」

 

『なんだとお!?』

 

「ハンターΩ。攻撃、防御、敏捷、知能、連携、全てが優秀な素晴らしい個体だ。奪われてしまったのが実に口惜しい。弱点は命令を何でも聞く……のは改善したらしいが、リーチの短さと攻撃に使える爪が右腕にしかないことだろうか。攻撃手段がそれしかないのだから受け止められてしまうと弱い。それを補うハンター軍団だったのだろうが……それがないなら怖くもなんともないな」

 

 

 そして、と辟易していた様子でヘカトに顔を向けるマスターリーチ。不快だと顔に書いてあった。

 

 

百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル。RTの血を大量に浴びたことによる超再生能力と圧倒的な防御力、破壊と再生を繰り返して伸縮自在の両腕に、鉄をも融解させる猛毒を有する棘。そして超再生能力を利用した転生能力。理解ができない、いや追い付かない。だが「痛み」を「愛」だと誤認しているよくわからん弱点がある。適当に痛みでも浴びせとけばいいだろう。……あの壁を破壊した時はさすがに驚いたが」

 

 

 ぼそっと本音がこぼれた。さっきの壁を破壊されたのは想定外だったらしい。だがそれすらすぐに対応するとは……。

 

 

「そしてお前。クイーン・サマーズ。変異ヒルの集合体にして我らの元統率個体。再生能力と怪力、粘液硬化にもの言わせたインファイトが主な攻撃手段。粘液を糸に変えて遠距離に飛ばせるが、それだけ。他の連中に比べればあっさりしてるなあ?弱点は炎に弱いのと、菌根が神経になって張り巡らせている点ぐらいか。欠点しかないな。お前はその程度だということだ!」

 

 

 なんとか這い上がった私の頭を踏みつけて見下してくるマスターリーチ。なんだ、この違和感。なにか、致命的な勘違いを感じる。……それはなんだ?くそ、考えている暇がない。まずは、この最悪の状況を打開しなければ…!




クイーンと違って即分離して回避できるのが強いマスターリーチ。手数もパワーも桁違いの強敵です。オメガちゃんとヘカトちゃんすら圧倒されてる時点でヤバい。

なにより恐ろしいのが「学習」して「適応」し「進化」する点。つまりこれまで負けてきたのも全部経験値になってたわけで。実質無敵です。でもクイーンが感じる「違和感」と言う弱点があります。それはなんなのか…?

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file0:32【ロープウェー・ランナウェイ】

どうも、放仮ごです。今日は仕事が休みなのでとあるヒーロー映画を見てたらこうなりました。決戦、クイーンVSマスターリーチ。楽しんでいただけたら幸いです。


 私達は初めて直接戦うマスターリーチの強さは圧倒的だった。こちらにはクイーン先輩、ヘカトちゃん、オメガちゃんとB.O.W.が三人もいるのに、それらをまるで寄せ付けていない。私とビリーにいたっては片手間で対処されている。勝ち目がない、一度逃げなければ。

 

 

「ビリー、ここは任せるわ!」

 

「お、おい!?それはいいがどこにいく!?」

 

 

 ビリーに拘束を解いてもらって擬態マーカスの相手を任せ、私はロープウェーの起動に急ぐ。床に置いておいたフックショットを手に取り、天井の隙間にフックショットを使ってB1機械室に入り確認すると、やはりコイルが抜けている。回収しておいた入力調整コイルと出力調整コイルをセットすると、電源が付いて照明が点灯、ロープウェーの扉のロックが解除される。先輩を追い詰めようとしたところに眩しい光を受けて怯むマスターリーチ。

 

 

「今です!先輩、みんな!ロープウェーに!」

 

 

 戻りながら呼びかけた私の声に、ビリーが、オメガちゃん(と多分エヴリンさん)が、ヘカトちゃんが、先輩が奮起。それぞれが相手していたヒルの怪物を突き飛ばし、壁に押し付けるとヘカトちゃんが両腕を振り回し、三体纏めて溶かして倒してしまった。強い。

 

 

「よくも我が同胞たちを…!」

 

 

 マスターリーチ本体は先輩に蹴り飛ばされてよろめきながらも、右腕を槍状に伸ばして攻撃。それを、ヘカトちゃんの伸ばしたムカデの腕が間に入って弾き飛ばした。

 

 

「助かった、ヘカト!」

 

 

 そこにクイーン先輩が右手から糸を伸ばしてマスターリーチの頭にくっ付け、引っ張って飛び膝蹴りを叩き込んでよろめかせるとそのままパンチ、パンチ、パンチ。恨み辛みを込められた拳が次々と顔面に叩き込まれて後退させていく。

 

 

『オメガちゃん、マスターリーチの脚を狙って!』

 

「了承!」

 

 

 そこにオメガちゃんが目にも留まらぬ速度で動き、マスターリーチの脚を切断して崩れ落ちさせ、そこをビリーが顔面を蹴り飛ばし、吹き飛んだマスターリーチの胴体にクイーン先輩が伸ばした糸がくっ付いて吹き飛ぶのを阻止すると、吹き飛んだ勢いはそのままに遠心力を伴ってその場で回転し始めた。

 

 

「うおおおおりゃああああああっ!」

 

「ぐあああああっ!?」

 

 

 グルングルンと振り回し、壁に叩きつけて先輩は両手に力を溜めてありったけの糸を放射。蜘蛛の巣の様にマスターリーチを壁に磔にし、繭の如く拘束してしまった。しかしすぐに粘液を固めたであろう刃が伸びて、繭を斬り裂いていく。

 

 

「無駄だ、この程度の拘束などすぐに抜け出してやる…」

 

「今だ、全員ロープウェーに乗り込め!」

 

「わかりました!…これは?」

 

 

 先輩の指示に、真っ先にロープウェーに乗り込んだ私が見つけたのは力尽きたのであろう死体と、その手に握られた大口径の大型拳銃。…マグナムだ。…一発だけ使われた形跡があることから、恐らく拳銃自殺…いいや、それよりも!

 

 

「先輩、乗ってください!」

 

 

 ビリー、ヘカトちゃん、オメガちゃんと次々にロープウェーに乗り込む中で、愛用のサムライエッジであるゴクとマゴクで既に繭から出てきて、配下の残骸を取りこんで四本腕になり自由自在に伸ばして追い詰めるマスターリーチを牽制していた先輩に呼びかけるとちらっと視線を向けて頷いた。…発進しろってこと?ためらっていると、先輩から激励が聞こえた。

 

 

「行け、レベッカ!」

 

「フハハハハハッ!自己犠牲のつもりか?お前を死なせた後に追いかけて全員殺してやるから安心しろ元統率個体!」

 

「…私は元統率個体じゃない、クイーン・サマーズ…レベッカの先輩だ!」

 

「それがお前のプライドか、ならばそれからへし折ってくれよう!」

 

 

 私達に向けて伸ばされたマスターリーチの腕を、粘液糸を伸ばして食い止める先輩。そのまま四本腕による連撃が叩き込まれ、クイーン先輩はそれらを見切って回避していくも、脚を掴まれて持ち上げられ、何度も何度も床に叩きつけられ壁に投げつけられる。

 

 

「なにくそ!」

 

 

 すると、両足の裏から粘液を出したのかなんと壁に直立した先輩は両腕から糸を伸ばしてマスターリーチの腕を縛り上げ、引っ張って壁に叩きつけようとするもマスターリーチも四本腕のうち二本で壁を掴んで直立。残り二本の腕を伸ばして振り回し、先輩に叩きつけるマスターリーチ。先輩も粘液硬化した腕でそれを弾いている。

 

 

『スパイダーマン2みたい!』

 

「助けに行きましょう!」

 

「了承」

 

「待て、オメガとヘカト。…レベッカ、いけ。クイーンなら大丈夫、戻ってくるさ」

 

「…わかったわ」

 

 

 助けに行こうとするヘカトちゃんとオメガちゃんの首根っこを掴みながらそう言ったビリーに頷き、ロープウェーを発進させる。すると動き出したロープウェーの壁に目掛けて糸を飛ばし、飛来する先輩。しかしマスターリーチも逃がさないと言わんばかりに四本腕で高速で壁を掴んで追いかけてくる。

 

 

「応戦するんだ!」

 

『オメガちゃんとヘカトちゃんは待機!なんか飛んできたら二人を守って!』

 

「了承」

 

 

 蜘蛛みたいに張り付いてロープウェーの上に登った先輩の声に、私とビリーは扉を開けて銃を構える。マグナムは……反動がデカすぎて私じゃ狙える気がしないからしまってある。ヘカトちゃんとオメガちゃんはエヴリンさんに言い含められているのか大人しく見守っていた。

 

 

「逃がさんぞ!」

 

 

 触手状の四本腕の付け根を背中に回して、新たに両腕を生やしたマスターリーチの手から、ヒルが溢れだすと一匹一匹がジャパンのニンジャが使う手裏剣状に変形、投げつけて攻撃してくるのを、先輩がゴクとマゴクで、私とビリーがハンドガンで撃ち落とそうとするも、撃ち損ねて飛んできたのがオメガちゃんの爪が弾き、ヘカトちゃんの私達を守る様に伸ばされたムカデ腕が受け止める。防御の方は気にしないでよさそうだ。

 

 

「ならばロープウェーごと落ちろおおお!」

 

 

 すると移動に使う二本の触手とは別に残りの触手二つの先端を鉤爪状にすると岩盤をくり抜いて巨岩を触手二本で手に取り、手裏剣と一緒に投げつけてくるマスターリーチ。ロープウェーの上から先輩が糸を伸ばして括りつけた岩を投げ返せば、直撃を受けたマスターリーチは巨岩を粉砕しながらも今度は触手一本ずつに岩を握ると投げつけてくる。さすがの先輩も二つ同時は…

 

 

『ヘカトちゃん、あれを砕いたら多分痛いよ!』

 

「私の!」

 

 

 するとヘカトちゃんがムカデ腕を伸ばして、先輩が対処した岩とは別のもう一個の岩にぶつけて破壊してくれた。なんかのた打ち回ってるけど大丈夫?

 

 

『やっぱり打撃系は愛にはならないんだね…ごめんねヘカトちゃん』

 

「おいどうするクイーン!このままじゃキリが無いぞ!」

 

「いや…!ここで決める!」

 

 

 すると先輩はマスターリーチの移動先の岩盤の天井に次々と糸を伸ばしていく。粘液でロープウェーの天井に足を固定しているようでギリギリと音が聞こえる。そして。

 

 

「なん…だとおおおおお!?」

 

 

 マスターリーチが触手を伸ばした先で天井の岩盤が糸とそれに繋がったロープウェーのパワーで引っ張られて崩れ落ち、マスターリーチは崩落に巻き込まれて、奈落の底に落ちて行った。…やったのだろうか。

 

 

「……ふぃー。あれが奴の本体だった。そうでもないとあそこまで細かい変形はできない。倒したんだ、な……」

 

『おつかれ、クイーン』

 

 

 上の先輩も、私も、ビリーも、ヘカトちゃんとオメガちゃんも、疲れが出てきてその場にへたり込む。そんな私達を連れて、ロープウェーはひた走るのだった。




蜘蛛男なクイーンと蛸博士なマスターリーチ。

今更ですが今章のオリジナルキャラ(もしくは半オリジナルキャラ)はMCUを参考にしていて

クイーン・サマーズ→スパイダーマン(大いなる力には大いなる責任が伴う糸使い)
アリサ・オータムス→キャプテン・アメリカ(不老の超人戦士)
セルケト→ウィンター・ソルジャー(硬質な腕を持つ殺し屋)
ヘカトちゃん→グルート(伸びる腕がメイン武器の転生能力もち)
オメガちゃん→ブラックパンサー(攻防すぐれた、部下を使役することで真価を発揮する素早い戦士)

となってたりします。

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file0:33【エンドロールが終わるまで】

どうも、放仮ごです。過去一適当タイトル。楽しんでいただけたら幸いです。


 ロープウェイが設営された地下道の最下層、地下水脈。その下流に、クイーンたちとの激闘を経て岩盤に押し潰されて落下したマスターリーチの死骸から、十数匹の変異ヒルが抜けだしていた。

 

 

「ぐう…群体でなければ死んでいた……」

 

 

 なんとか若かりし頃のマーカスの姿形を取るのは、統率個体マスターリーチ。手をぐーぱーと開閉し、調子を確かめると、肉体を構成している数が明らかに減少していることに気付いた。

 

 

「…四分の一にまで減ってしまったか。全ての変異ヒルを集結させたのは悪手だったな」

 

 

 想定外だったのはただの人間二人の頑張りだ。特にレベッカ・チェンバース。戦闘力が貧弱で取るに足らないと思っていた女の作った明確な隙を突かれて己が同胞の大半を失い逆転された。手数はマスターリーチ最大の武器であり弱点でもある。数が多ければ多いほど強大になる力は、比例して減れば減るほど減少する。

 

 

「…せめて私の肉体になるゾンビでもいれば残りの同胞を変形に回せるんだがな……」

 

 

 死んだ同胞たちには目もくれず歩を進めるマスターリーチ。仲間の安否を重んじるクイーンと異なる性質。傲慢で不遜で悪辣な「王」の在り方だった。そして王は出会う。暴君たるその精神にふさわしい、空っぽの肉体を。

 

 

「これは…!……フフフッ、ハハハハハッ!どうやら天は私を見放さなかった様だ!元統率個体よ、いやクイーン・サマーズよ!お前は私が殺す!そして私が必ず果たして見せるぞ!アンブレラに復讐を…地獄の炎をこの世全てに!」

 

 

 マスターリーチの目の前には、破棄されたのが流れ着いたのだろう、腐敗した巨人が横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エンリコ!」

 

「隊長!」

 

「クイーン!レベッカ!無事だったか!…お前は!」

 

 

 ロープウェーが辿り着いたアンブレラの所有物らしき工場で、脱出するべく私とレベッカとビリー、エヴリンとオメガとヘカトの二手に分かれて探索していた私達。B4研究所前通路まで歩いたところで、奥からエンリコがやってきて。会うなりビリーに銃を向けてきたので咄嗟にゴクとマゴクを構える。

 

 

「…何のつもりだクイーン。そいつはビリー・コーエンだぞ」

 

「ああ。知ってる。だが今は仲間だ。銃を下ろせエンリコ。私は撃ちたくない」

 

「それでは脅しにならないぞクイーン」

 

「クイーン先輩!隊長!やめてください、ビリーは…その、無実じゃないかもしれないけど……」

 

「もういいよ、お二人さん。これ以上俺を庇ったらアンタらの立場が無い」

 

 

 しどろもどろに弁護するレベッカに、ビリーは笑って手で制してエンリコの持つハンドガンの銃口の前に立つ。

 

 

「年貢の納め時って奴だな。自分の立場をすっかり忘れていたよ」

 

「殺人鬼がなにを…!」

 

「待てエンリコ、お前は何もわかってない!」

 

「待ってください隊長!ビリーはここに来るまで何度も私達を助けて・・・」

 

 

 レベッカが止めようとするが、エンリコは止まらなかった。咄嗟に、銃口の前に手を突き出し、同時に銃声が響く。弾丸は、ビリーには当たらなかった。私が、粘液を纏った手で弾丸を受け止めたのだ。

 

 

「…クイーン、お前……は……」

 

「……私はエドワードの命を奪った奴と同じ、バケモノだ。殺すなら私じゃないか?」

 

 

 信じられない様にこちらを呆然と見やるエンリコに肩をすくめて見せる。咄嗟に手が出てしまったが悔いはない。遅かれ早かればれたんだ。ビリー(仲間)を守るためにばれたなら本望じゃないか。銃弾程度なら死なないが、改めて撃たれたら精神的に死ぬだろうな。こうなったらそれでもいいか。

 

 

「先輩…!」

 

「クイーン、大丈夫か!?」

 

「この程度問題ない」

 

 

 心配して駆け寄ってくるレベッカとビリー。信頼ないな、これぐらい大丈夫だって。エンリコには正体がばれてしまったが、これしかなかった。すると呆然としていたエンリコが、銃を下ろす。その表情は、面倒見のよさそうな笑顔。いつものエンリコだった。

 

 

「……お前がやけに年を取らないのはそういう理由か、クイーン。納得したよ」

 

「…は?それだけ、か?私はお前たちを騙していたんだぞ?バケモノなんだぞ?」

 

「だからどうした?お前は俺達の仲間だ。それ以上もそれ以下もあるか。お前が正体を明かしてまで守ったんだ、ビリー・コーエンは…悪い奴じゃないんだろう?」

 

「エンリコ……」

 

 

 その言葉に、ゴクとマゴクを下ろす。涙が出そうになったのをぐっとこらえる。…はは、なんだ……本当にわかっていなかったのは、こっちか…。

 

 

「…すまない、エンリコ。お前を…お前たちを見くびっていた。仲間を信じる、と言いながら本当に信じられてなかった様だ」

 

「この件が終わったらちゃんと話してくれよクイーン。みんなの前で。もし何か言う奴がいたら俺がブッ飛ばしてやる。だから安心しろ、お前は俺達の仲間だ。…それで、ビリー・コーエンの事は信じていいんだな?」

 

「ああ。この件が片付いたらこいつがやってないって証拠を見つけてやるさ。本人がなんて言おうとな」

 

「同感です。私もお供します」

 

「クイーン、レベッカ……」

 

「…わかった、信じよう。ところで他の連中に遭わなかったか?先に来ているはずなんだが……」

 

「いいや。お前とエドワードだけだ」

 

「ビリー、誰か人間に出会った?」

 

「いいや。お前たちだけだ」

 

「そうか。止むを得ん。ここをまっすぐ行けば、アンブレラが研究に使っていた古い洋館につくはずだ。行くぞ、レベッカ、クイーン。ビリー」

 

「…洋館」

 

 

 忘れもしない、リサと出会い、共に脱出したあの洋館か。本命はあっちか?脱出口が向こうに…。いや、だがしかし。

 

 

「待ってくれエンリコ。まだ仲間がいるんだ。そいつらと合流したら追うから先に向かっててくれないか」

 

「私も、クイーン先輩と一緒に行きます!」

 

「俺もだ。放っては置けない」

 

「そうなのか?わかった。だが、くれぐれも気を付けろ」

 

「お前もな、エンリコ。私みたいに銃弾が効かない奴がうじゃうじゃいるぞ」

 

「なに。そんな奴等でも対抗するために作られたのが俺達S.T.A.R.S.だろう」

 

 

 そう笑って、エンリコは銃を手にその場を去って行った。

 

 

「…さて、脱出経路もわかったし、エヴリン達と合流しよう」

 

「はい、先輩」

 

「俺がオメガに渡した無線が役立つはずだ」

 

 

 ビリーの言葉に頷いて無線を起動するレベッカ。ザザッと言うノイズの後に繋がった。

 

 

「聞こえるか、応答しろ!こちらクイーン、脱出口が分かったぞ!」

 

《「こんのおお!オメガちゃん、行くよ!」「了承」『クイーン、なに!?こっち今手が離せないんだけど!?』》

 

 

 聞こえてきたのは、ヘカトの怒鳴り声に頷くオメガ、そして慌てている様子のエヴリンの声。そしてなにかとなにかが激しくぶつかる戦闘音。なんだ、何が起きている!?

 

 

《「ハハハハハッ!この程度か、優秀なB.O.W.諸君!お前たちも我が手駒にしてやろう!」》

 

 

 続けて聞こえてきたのはあの憎たらしい青年の声。マスターリーチ、生きていたのか…!

 

 

「エヴリン!私達もすぐに向かう!今どこだ!?」

 

《「私…ち…が…今い……のは、処理……場……あいつ、とんで……ないの、に……」》

 

 

 そこまで言ってから、グシャアという破砕音。オメガの持つ無線機がとんでもない力で破壊されたらしい。

 

 

「レベッカ、ビリー!…お前たちは聞こえなかっただろうが、処理場だ!」

 

「いいえ、二人の声と戦っている音は聞こえました!すぐに向かいましょう!」

 

「ったく、世話が焼けるな!」

 

 

 脱出間近。映画ならエンドロールが流れ始めたところだろうか。だがまだ終われない、見捨てられるわけがない。何が起きているかはわからないが、待っていろエヴリン、オメガ、ヘカト…!




マスターリーチのモチーフはウルトロンだったりします。本体さえ無事ならいくらでも出てくる、親とは別に勝手に育って破滅を望んでいる、などなど。当たり前に生きてた。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:34【プロトタイラントR(リボーン)

どうも、放仮ごです。結構長くづついた0編もクライマックスとなります。

今回は女王ヒル編ラスボス降臨。楽しんでいただけたら幸いです。


クイーンたちと別れて、立体的移動できるオメガちゃんとヘカトちゃんだから行けるルートを進んでいく私達。辿り着いたのはなんかの処理場のB9にあるダム管理塔下層。肉の腐った腐臭と血の臭いがむせ返ってえぐい。私はそんなに感じないけど絵面が酷い。

 

 

「ここ、嫌いだわ。…痛みもなにもない」

 

『…うん、つまり「死」しかないわけだ……ここ、多分アンブレラの犠牲者たちの……いや、マーカスの始祖ウイルスの実験の犠牲者たちの方が多いかな?』

 

 

 ヘカトちゃんの心底嫌だと言う顔で呟かれた言葉に、理解する。生者が存在しない、死しかない場所。嫌なところに来ちゃったなあ。オメガちゃんもそわそわと落ち着かなさそうだ。

 

 

『こんなところに脱出できる道があるわけないか、戻ろうオメガちゃん、ヘカトちゃん』

 

「了承」

 

「ええ、賛成…!?」

 

「そう言うな。せっかくの地獄の果てだ、ゆっくりしていくといい」

 

 

 瞬間、ヘカトちゃんの胸部を背後から貫き、持ち上げる鋭い一本の刃。ヘカトちゃんの2.5メートルほどはある巨体を軽々と持ち上げ壁に叩きつけたのは、3メートルを超える大男。右腕の爪が肥大化していて、全身腐敗していて特に背中の皮膚が裂けて肉と背骨が露出し右側に存在する剥き出しの心臓が目立っているが、なにより目を惹くのは頭部。スキンヘッドの頭部から上半身にかけてまで皮膚はぬめりを帯びた暗緑色で、眼球のあった場所はナメクジのような触角が生えていて、頭頂部には大男の頭部に変異ヒルが溶け込んでくっ付いている。それはリーチゾンビによく似ていた。

 

 

『大丈夫!?ヘカトちゃん!……その声は、マスターリーチ…!オメガちゃん!お願い!』

 

「了承。…!?」

 

 

 オメガちゃんが右腕の爪を振るうも、ガキン!と虚しく弾かれた音が響く。全身を覆う粘液が硬化して斬撃を弾いたのだ。そのまま左腕を触手に変形させ、大きく振り回してオメガちゃんを吹き飛ばすマスターリーチ。…いや、異常に発達した筋肉で防御も攻撃も強力になってる。これはもう別物だ。

 

 

『…何の肉体に入っているの?ヒルだけで構成した身体じゃないよね?』

 

「プロトタイラント。ここに破棄されていた、究極のB.O.W.の試作品さ。素晴らしい肉体だ、名をプロトタイラントR(リボーン)とでもしようか。他の肉体を乗っ取るのは同胞たちに任せていたが、ここまでの肉体なら私自らが使ってしかるべきだ。そうだろう?我が同胞より有用だ。私より知能の劣る有象無象を率いたところでたかが知れていた。そのことが知れた祝いだ、楽しい宴を始めようじゃないか。お前たちの弔いの宴を」

 

 

 そうプロトタイラントの顔で嗤って見せるマスターリーチに、胸部の風穴を再生させたヘカトちゃんが立ち上がってムカデ腕を巻き付かせる。毒の棘が粘液とぶつかり合ってジュージューと音を立てた。

 

 

「勝手なことを言わないで!あなたに愛はないわ!」

 

「…エヴリン、命令を」

 

 

 するとオメガちゃんが立ち上がり低く構えて私に指示を仰ぐ。自分から指示を求めるのは初めてのことだ。オメガちゃんはハンターのリーダー格だ。同じリーダー格でありながら自分の仲間を見限ったマスターリーチの事が許せないんだろう。明らかな怒気を感じられた。明らかな成長だった。それがこんなやつのせいってのが気に入らないけど……。

 

 

『やっちゃえオメガちゃん、ヘカトちゃん!』

 

「了承!」

 

「任せて!愛を教えてやる!」

 

 

 言いながらムカデ腕を引っ張って独楽回しの様に回転させながらマスターリーチを解放するヘカトちゃん。そこに、一瞬でマスターリーチの目の前まで跳躍したオメガちゃんの飛び蹴りが炸裂。吹き飛ばされたところにヘカトちゃんのムカデ腕の乱舞と、それを掻い潜ったオメガちゃんの心臓を狙った突きが連続で襲いかかり、マスターリーチは左腕も粘液で刃を形作り両腕を振るって斬り弾いて行く。

 

 

 

「フハハハハハ!さあ行くぞ!凌いで見せろ!」

 

 

 ビタン、ビタンと触手状に伸ばした左腕を地面にのた打ち回らせるマスターリーチ。先端に刃を死神の鎌の如く虚空を切り裂き、ヘカトちゃんの右のムカデ腕に巻き付かせるとずたずたに引き裂きながら引き寄せると右腕の爪で斬り裂き、吹き飛ばす。

 

 

『今だオメガちゃん、行けえ!』

 

「了承!」

 

 

 そこに、好機を見計らって叫んだ私に頷いて飛び込んだオメガちゃんが、壁にめり込む握力を持つ右手で爪を握り、万力の如き握力で折り曲げ、ぽっきりとへし折ってやった。さすがオメガちゃん!メイン武器を奪ったぞ!

 

 

「無駄だ、補強すればすむことだ!」

 

『…お前、毎回毎回ずるいね!?』

 

 

 しかしマスターリーチは一本だけ肥大化していたものだった右手を、粘液で固めた三本爪を装備して補強。オメガちゃんをアッパーカットで弾き飛ばし、背後から伸ばしていたヘカトちゃんの左のムカデ腕を粘液硬化した脚で蹴り飛ばして迎撃するマスターリーチ。頭頂部の本体が目の役割を果たしている、あれがある限り不意打ちも、どんな角度からの攻撃も通じない。

 

 

《「聞こえるか、応答しろ!こちらクイーン、脱出口が分かったぞ!」》

 

 

 すると、オメガちゃんの腰にクイーンが粘液で引っ付けておいたビリーの無線機に着信。クイーンの声が聞こえてきた。

 

 

「こんのおお!オメガちゃん、行くよ!」

 

「了承」

 

『クイーン、なに!?こっち今手が離せないんだけど!?』

 

 

 思わず怒鳴り散らす私の前で、マスターリーチの両腕と、オメガちゃんとヘカトちゃんの右腕がかち合い弾き飛ばされる。単純な筋力で負けてる!?二人ともかなり怪力のはずなのに!

 

 

「ハハハハハッ!この程度か、優秀なB.O.W.諸君!お前たちも我が手駒にしてやろう!」

 

 

 そんなことを言いながら触手状にした左腕を振り回すマスターリーチに、リーチゾンビにされたエドワードを思い出す。あの触手は変異ヒルで形成されている、変異ヒルを頭部に寄生されたら終わりだ、それだけは防がないと!

 

 

《「エヴリン!私達もすぐに向かう!今どこだ!?」》

 

『私たちが今いるのは、処理場の最下層!あいつ、とんでないのにくっ付いて……ああっ!?』

 

 

 そこまで言ったところで、身を翻して避けたオメガちゃんの腰に触手が強打。殴り飛ばし、無線機が粉々に粉砕される。連絡手段が!?私が離れてこの場所を伝えようにも、オメガちゃんとヘカトちゃんの二人を放っておけないし……どうしよう!?

 

 

『オメガちゃん!右から来るよ、弾いて!』

 

「了承」

 

 

 とんでもない身体能力で壁を跳ねて三本爪を振り回してくるマスターリーチに、オメガちゃんに的確な指示をして対抗。続けざまに集中しながらじっと見て、どこから来るのかを予想して指示を出していく。

 

 

『左!右上!右下!右の背後から触手!右から来るぞ、気を付けろ!お前の動き、単調でわかりやすいんだよ、バーカ!』

 

「ならこれはどうだ?」

 

 

 私に馬鹿呼ばわりされてムカついたのか怒りの表情をプロトタイラントRの顔で作ったマスターリーチは、右腕の肩口を変異ヒルで食い破って千切ったかと思えば、変異ヒルで繋げて右腕を伸ばし、地面に三本爪を突き立て、右腕を引き摺り大地を引き裂きながら突進。勢いづけたそれを、勢いの任せて振り上げた。

 

 

「地獄に落ちろ…!」

 

「危ない、オメガちゃん!」

 

『防ぐのは駄目、避けて!』

 

 

 咄嗟にオメガちゃんの前に出たヘカトちゃんが両手のムカデ腕を盾にして防ごうと試みるも、マスターリーチ最大の一撃はムカデ腕を両腕とも真っ二つに両断して、ヘカトちゃんの胴体に一文字の傷が顔から下半身までかけて刻まれ、黄色い体液が噴水の様に噴き出した。

 

 

「ああ、……仲間のために受けたこの痛みこそ……あ、い……」

 

『ヘカトちゃん!?』

 

「ヘカ、ト……」

 

 

 ヘカトちゃんは膝から崩れ落ちて倒れ伏し、オメガちゃんは呆然自失とした様子で立ち尽くす。そんなオメガちゃんに容赦なく、マスターリーチの左腕が振り上げられる。その先には変異ヒル。不味い、止めれない!

 

 

「すぐに同じところに送ってやるさ。お前は手駒としてだがな…!」

 

『オメガちゃん、逃げて!』

 

「…りょう、しょ…」

 

 

 ヘカトちゃんがやられたからか反応が芳しくないオメガちゃんにマスターリーチの左腕が叩きつけられる。しかしそれは、ギリギリで止まっていた。同時に聞こえてくる女性の歌声。振り向けば、遥か上の通路で、私達のヒーローが歌っていた。そうか、同じ統率個体だ。マスターリーチのやっていたのと同じように…!

 

 

『クイーン!!』




名前がリボーンなのはあのバイオから。敢えてほかに何も語らないでおきます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:35【リーチタイラント】

どうも、放仮ごです。またまたピクシブでエレメンタル㏇さんがファンアートを書いてくださいました!今回は0編の面々+ゼウです。名シーンもイラストになっていてすごくいいものなのでぜひご覧ください。

今回で終わらせるつもりだったけど長くなったので分けました。クイーンVSマスターリーチ(プロトタイラント)です。楽しんでいただけたら幸いです。


 緊急事態なのは明白だったので、レベッカとビリーといったん別れ、粘液糸を用いた高速移動を利用して一足早く処理場にやってきた私は、その部屋の上部に出て状況を確認して戦慄する。ヘカトがオメガを庇ってやられた瞬間だった。いくら復活できると言っても限度がある。脳までざっくり行かれてる、アレは無理だ。間に合わなかったのだと理解して、それを行ったマスターリーチであろう巨人を睨む。絶対に許さない。

 

 

「すぐに同じところに送ってやるさ。お前は手駒としてだがな…!」

 

『オメガちゃん、逃げて!』

 

「…りょう、しょ…」

 

 

 呆然としているオメガにマスターリーチの左腕が振るわれる。あの時最後に聞こえた台詞から同胞を寄生させて乗っ取ろうとしていることに気付いた私の脳裏に、歌声で同胞たちを操っていたことを思い出す。ゴクとマゴクは…射程距離外だ。咄嗟に猿真似で歌声を響かせ強く意識すると、マスターリーチの動きが止まった。

 

 

『クイーン!!』

 

「来たかクイーン・サマーズ!殺してやる!」

 

 

 歓喜に溢れたエヴリンと殺意に満ちたマスターリーチの声を受けながら、粘液糸を伸ばして宙に舞い上がる。左腕を五つに枝分かれさせてまっすぐ伸ばして攻撃してくるマスターリーチに、私は糸を手放して空中を舞い降りながら合掌。

 

 

「そっちがそう来るなら…こうだ!」

 

 

 放出した粘液糸を引っ張り宙返りして回避しながら、ぐるりと新たに飛ばした粘液糸で縛り上げて壁にくっつけ、それを次々と襲いくる枝分かれした左腕すべてに行い、まるで枝を伸ばした大樹の様にばらばらに壁に拘束されたマスターリーチは無理やり引きちぎろうとしてにょーんと伸びる粘液糸に驚く。粘度マシマシ、列車を止めた際に使った特性粘液糸でできた蜘蛛の巣だ。そう簡単にはちぎれんぞ。

 

 

「馬鹿め!これは変異ヒルでできた腕だ、いくらでも替えが効く!」

 

 

 そう叫んで右手の爪で肘から先を斬り落とし、新たに変異ヒルを集めて左腕を生やすマスターリーチ。そう来ると思ったよ。私は舞い降りながら糸を複数頭上に飛ばして、分断されたマスターリーチの左腕がくっ付いたままの粘液蜘蛛の巣にくっつけて引っ張ると、粘液蜘蛛の巣が網になって私の元に引き寄せ、左手を変形させて取りこんだ。

 

 

「あんな奴の命令を聞く必要はない。私の元に来い」

 

 

 マスターリーチの左腕に擬態していた変異ヒルたちに呼びかけ、マスターリーチが手放した支配権を得る。そして急降下、粘液糸を頭上に飛ばして両手で握り、スイングキックをマスターリーチに叩き込んで怯ませるも、左手で足を掴まれ勢いよく床に叩きつけられる。

 

 

「があ!?」

 

「役立たずの我が同胞をいくらか奪ったところで力の差は埋まらん!」

 

 

 そのまま壁に投げつけられるも、支柱に粘液糸を飛ばして遠心力を伴わせて飛び蹴りを叩き込んで後退させる。

 

 

「おのれ、ちょこまかと!」

 

『…そうか!オメガちゃん、しっかりして!あいつの、変異ヒルで形成されている全てを斬り落として!クイーンがピンチなの、お願い!』

 

「…了、承…!」

 

 

 そのまま粘液糸を利用した高軌道力でマスターリーチを翻弄していると、私の意図に気付いたのかオメガの傍に浮かんで指示を送る…いや、頼み込むエヴリン。ヘカトがやられてから呆然自失していたオメガの目に光が戻り、一瞬で距離を詰めるとマスターリーチの左腕を肘から先を斬り落とし、右腕を中指から外側をそぎ落とし、さらには全身を切り刻んだ。

 

 

「もう腕とごく一部にしか残ってなかったようだな…!」

 

 

 擬態を解いてボトボトと落ちて行く同胞たちが迷っているのが見てとれる。さっき回収し取り込んだ同胞たちの記憶からわかったことだが、マスターリーチはあの肉体を見つけてから同胞たちを見限り、便利な道具程度にしか思ってないのだという。迷うのも…いや、私を選ぶのも必然だった。

 

 

「これでお前以外の変異ヒルが私に集ったわけだ。お前に勝ち目はないぞ、諦めて取り込まれるというなら殺しはしない」

 

「馬鹿め。もう私に役立たずで愚鈍な同胞たちなど必要ない!私ひとりさえいれば、苗床さえあればいくらでも増やせるからな!それにこのプロトタイラントさえあれば、世界を燃やすなど容易い!」

 

 

 そう豪語しながら驚異的な再生能力で新たに一本の爪を生やし、欠損した左腕でオメガを薙ぎ倒しながら、右腕の爪を床に突き刺して引き裂きながら突進してくるマスターリーチに、背後から弾丸が二発撃ち込まれる。追い付いて来たらしいレベッカとビリーが出入り口に立っていた。

 

 

「先輩!って、ヘカトちゃん!?」

 

「待たせたな!…ヘカト!貴様、よくも!」

 

「おのれ!レベッカ・チェンバース!ビリー・コーエン!そもそもお前らがいなければ、黄道特急でクイーン・サマーズを仕留められていたんだ!」

 

 

 分泌した粘液で左腕を固めて鋭い爪を三本生やした義手を作り上げたマスターリーチは激昂。レベッカとビリーに向けて突進したのを、前に出て盾状に肥大化、変形させた右腕で受け止める。…マスターリーチの支配下にいた変異ヒルを我が物にできたおかげで、菌根が浸透する前なら自在に変形できる…!そう簡単に負けんぞ!

 

 

「上等だ、貴様ら全員殺して世界を滅ぼしてくれる!」

 

「なんで世界を滅ぼそうとするの!?」

 

「私は我が父に、アンブレラに復讐を誓ったのだ!そしてこの世の全てを地獄の炎で焼き尽くす!スペンサーの支配しようとしている世界なぞ滅べばいい!」

 

 

 そう宣言するマスターリーチの言葉は、正しくジェームス・マーカスの言葉だったのだろう。奴は我が父の……マーカスの恩讐に縛られた怪物だ。なにかが間違えれば……エヴリンと出会わなければ、そうなっていたのは私かもしれないな。だが、それとこれとは話は別だ。

 

 

「そう言う理由で世界を燃やすだと?ふざけるな!スペンサーを狙え!世界を、私の仲間を巻き込むな!」

 

「先輩の言う通りよ!」

 

「そんな真似させるか!」

 

『そんな無茶苦茶で、ローズが生まれる未来を奪わせてたまるかあ!』

 

「…させない」

 

 

 マスターリーチの言葉に激昂する私、レベッカ、ビリー、エヴリン、オメガ。完全に囲まれても、マスターリーチは余裕の笑みを崩さない。

 

 

「ならば私を止めてみるか?例え同胞を全て奪われようと、このプロトタイラントの肉体を得た私は無敵だ!」

 

 

 私が糸を伸ばして宙に舞い上がり、レベッカとビリーが撃ち、オメガが突撃する。それらを鋭い爪を持って薙ぎ払って行くマスターリーチ。戦闘力の差は圧倒的だ。やはり、見過ごしている何かが必要か。その時だった。赤く輝く光と、アラート音が鳴り響いたのは。

 

 

《自爆装置ガ作動シテイマス。総員、タダチニ退避シテクダサイ》

 

「自爆装置だと!?」

 

「なんだと…!?……奴等か?っ、ぐあああああああっ!?」

 

 

 私と共に驚くマスターリーチに、私の変形させた右拳が心臓部に炸裂、殴り飛ばして壁に叩きつける。奴にも想定外のことらしい。あっさりな最後に、まっさきに我に返ったのはビリーだ。

 

 

「こっちに地上に続いているらしいリフトがある!逃げるぞ!」

 

「わかったわ!」

 

「…ヘカトも、連れて行く。…いい?」

 

『もちろんいいよ!爆発に巻き込ませたりさせたくないもんね!』

 

「急ぐぞ!」

 

 

 ビリーを先導に、オメガが体液に塗れながらもヘカトの死骸を背負って付いて行く私達。地上に続くらしきリフトに全員乗り込むとスイッチをビリーが起動し、上昇していく。…しかしそうは問屋が卸さない。

 

 

「逃がさんぞおおおおおオオオオオオオオオッッッッ!」

 

「まだ来るか…!?」

 

 

 世にも悍ましい声と共に、とんでもない化け物がリフトの通路を駆け上ってくる。それは、プロトタイラントにマスターリーチの細胞が浸透したらしき巨大な四足歩行のヒルの化け物だった。仰向けになった状態で四足歩行しているプロトタイラントの肉体の背中…いや、腹部から触手と化した肋骨が伸びてうねっており、頭部はマスターリーチの本体自体が鋭い牙を持つ異形の頭部に変化している。恐らくプロトタイラントのリミッターが解除されマスターリーチと悪魔合体したのだろう醜悪な怪物だった。名付けるなら、リーチタイラントか。

 

 

「クイーンッッ!貴様だけでもおおおおお!」

 

「なに…!?」

 

 

 応戦しようとする私たちだったが、リフトをそのまま通り過ぎて触手で私を捕らえ、そのままリフトの出口であるヘリポートに飛び出し、天井に叩きつけられて床に落ちる私の前で、マスターリーチ……いや、リーチタイラントとも呼ぶべき怪物が私を見下ろした。

 

 

「貴様だけはこの手で殺す…!貴様だけはァァアアアッ!」

 

「もう理性も失くしたか…!」

 

 

 ゴクとマゴクを構える。最後の勝負だ…!




マスターリーチ(プロトタイラント)第二形態もといリーチタイラント。正真正銘ラスボスとなります。モチーフは無印3のネメシス第三形態です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:Fin【夜明けの裁決】

どうも、放仮ごです。今回で0編は完結となります。長らくお付き合いいただきありがとうございました。最後まで楽しんでいただけたら幸いです。


 自爆すると言うアナウンスに、リフトで脱出を試みていた私達。そんな中、リーチタイラントに変貌して追いかけてきたマスターリーチに捕らえられ、私は単騎で決戦することになった。

 

 

「もう理性も失くしたか…!」

 

「あれこれ考えて追い詰められたのだ!暴力!暴力こそ全てを解決する!そうだろう、クイーンッ!」

 

 

 そんなことを叫びながら対峙するリーチタイラントに、引き抜いたゴクとマゴクを乱射する。しかし弾丸はいくら当たっても粘液を噴き出すだけで効果は見られず、突進を糸を天井に伸ばして舞い上がることで回避する。アレは当たったらヤバい。そしてプロトタイラントのリミッターが解除させたせいか再生能力が高くて有効打が無い。どうする?

 

 

「そんなところに逃げても無駄だあ!」

 

「ちい!」

 

 

 両腕の先端に纏った粘液で壁を融解させて抉り、その巨体で壁を駆け上りこっちまでやってくるリーチタイラント。射程距離まで来ると口から溶解液を放射してきたので、粘液糸を次々と伸ばして離れようとするも、粘液糸に溶解液が直撃してちぎれ、床に落下して強打、ゴロゴロと転がり呻く。不味い、動かなければ…!

 

 

「捻り潰してくれるわア!」

 

「くっ……!」

 

 

 天井を伝って頭上までやってくると落下して巨大質量を叩きつけてくるリーチタイラントから、咄嗟に壁に糸を伸ばし、引き摺りながらも移動して回避。そのまま突進して来ようとしたので、近くのフォークリフトに糸を飛ばして変形した腕で引っ張り横から激突させて吹き飛ばす。

 

 

「ぐああああッ!?」

 

「これでも、喰らえ!」

 

 

 壁に叩きつけられたリーチタイラントが怯んでいる間に、再度天井に糸を伸ばして空中に舞い上がり、天井に足をくっつけて吊り下がるとフォークリフトに向けて両手から糸を飛ばして引っ付け、変形した腕の怪力で持ち上げて、勢いよくリーチタイラントに叩きつけるとフォークリフトが粉々に砕け散り、破片が転がる。

 

 

「逃がさんぞオオオオオッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 すると仰向けの背中というか胸部から突き出た肋骨が変化した複数の触手を伸ばしてきて、糸を飛ばして高い天井を跳び回って回避を試みるも、移動先に溶解液を放射されて動きが止まったところに全身に巻き付かれてしまい、肉に食い込んだ触手から分泌する粘液が体内に流れ込み溶かしていく。

 

 

「ぐあああああああっ!?」

 

「悶え苦しめ!我が父を裏切った報いを受けろォオオオオッ!…!?」

 

『スゥウウ……』

 

 

 すると、勝ち誇っていたリーチタイラントの声が止まる。見れば、その目の前の床から顔を出したエヴリンが大きく息を吸い込んでいるところだった。にやりと笑い、メガホンの形にした手を突きつけて、それは解き放たれる。

 

 

ワアアアアアッ!!

 

「ギャアアアアアアアッ!?」

 

 

 至近距離から迫真の大声を聞かされたリーチタイラントは身体を波打たせて絶叫し、私を捕らえたままノシノシと後退。そこに、散弾が放たれ肋骨触手を粉砕して私を解放、私は床に叩きつけられ大ダメージに呻く。

 

 

「クイーンから離れろ、バケモノ!」

 

「先輩!酷い傷……」

 

 

 そこに駆けつけたのは、ショットガンを構えてリーチタイラントに追撃するビリーと、救急キットを取り出したレベッカだ。その後ろにヘカトの死骸を背負ったオメガもいるところから、リフトが追い付いたらしい。レベッカの治療を受けながら、散弾を何発も受けながら平然としながらビリーを追いかけているリーチタイラントを見やる。その時、天窓の隙間が煌めいたのが視界の端に見えた。朝日か、外はもう既に朝らしい。今なら菌根のおかげで大丈夫だが昔だったら危なかったな………待てよ?

 

 

「ぎぎ、ギギギギギッ……死ね!死ね!死ねえ!クイーンッ!」

 

「先輩!」

 

「『クイーン!』」

 

 

 ビリーを右腕で薙ぎ倒し、私に標的を定めながら鉄を容易に溶かす粘液を撒き散らしながら突進してくるリーチタイラント。レベッカとビリー、エヴリンが私のピンチに叫ぶ。対して私の頭脳は澄み切っていた。パズルが繋がる。見逃していたものの答えが分かった。そうか、この化け物を倒すたった一つの方法は…!

 

 

「これ、だああああ!」

 

 

 両手を掲げて交差し粘液糸を天井に伸ばしてくっつけ、両腕を肥大化させて異形のものに変形させ、交差を戻して粘液糸をクロスして力の限り引っ張る。ミシミシと軋む音と共に天井が破砕し、青空が見えて煌めく日光が降り注ぎ私たちとリーチタイラントを照らした。

 

 

「な、なんだ!?ぐ、グオオオオオアァアアアアアアアアアアッ!?」

 

「…我々は皮膚が透明で紫外線をもろに受ける。私は長年をかけて菌根の力で克服したが、そいつの身体にはお前の細胞が侵食している、お前はそうじゃないだろう。」

 

 

 

 恐らくだが、こいつは日光を浴びたことがこれまでないのだろう。マーカスを安置した森の中なら日光が届くのも稀だろうし、地下の研究所に潜んで機会を窺っていたならなおさらだ。私達の弱点を、こいつは知らなかった。あの時得意げに語ったプロフィールで、日光について何も触れていなかったのが引っ掛かってたんだ。

 

 

 

「ギアアアアアアアッ!?おのれ、おのれ、おのれぇええええエエアアアアアッ!!」

 

「ビリー、これを!決めて!」

 

「ああ、任せろ!おい、バケモノ野郎!」

 

 

 絶叫を上げながら影に逃げようと試みるリーチタイラントに、レベッカが取り出した大口径の拳銃をビリーに投げ渡す。受け取ったビリーは両手で構えると真っ直ぐ狙い、呼びかけに振り向いたリーチタイラントに向けて、引き金を引いた。

 

 

「これでも喰らいやがれ…!」

 

「グ、ギィイイイイイイイイッ!?」

 

 

 放たれた弾丸に胴体を撃ち抜かれ、血と臓物を撒き散らしながら断末魔の声を上げるリーチタイラント。体内の溶解液が溢れて身体を溶かしてバラバラにしながら、リフトの通路に落ちて行く。と同時に爆音。爆発だ。

 

 

「少々揺れるぞ!舌噛むなよ!」

 

『行こう、クイーン!』

 

 

 咄嗟に私は飛ばした糸でレベッカとビリー、オメガとヘカトを縛ると天井の大穴に向けて糸を飛ばし、エヴリンと共に空に舞い上がる、と同時に今の今までいた施設が大爆発。私達は爆風に巻き込まれるも、咄嗟に両腕を変形させて繭の様に全員包み込み、バウンドして転がって行きようやく止まると変形を解いて大の字に倒れる。

 

 

「はあ、はあ……こんなの、二度とごめんだ!」

 

「先輩……私達、やったんですよね…?マスターリーチを、倒した…?」

 

「ああ、やったぞレベッカ!クイーン、オメガ!エヴリン!」

 

『見えてない私まで気にかけてくれてありがとねビリー』

 

「…でも、ヘカトが……」

 

 

 歓喜する私たちだったが、一人だけ黙っていたオメガが、ゆっくりと下ろしたヘカトの死骸を悲しげに見下ろす。……私が間に合っていれば……。

 

 

「すまない、ヘカ……ト!?」

 

 

 するとヘカトの死骸が真っ白に染まり、パキパキと罅が入って何かが脈動する。それは見たことがあった。ヘカトが、人間態になったあの時と同じだった。出てきたのは、巨体だったヘカトに比べると縮みに縮んだ少女だった。水着の様に残った甲殻はそのままだが、メリハリの効いていたスタイルは子供そのもの。ムカデ腕も縮んでアームカバーの様になっていて、痛みばかり求めていた暗い目から一転、純真無垢さを感じさせるキラキラした瞳でこちらを見やる。私達が誰かわかっていないようだった。

 

 

「…われ、たんじょう」

 

「ヘカト!」

 

「わっ、わっ……お姉ちゃん誰?」

 

「誰でもいい、よかった……!」

 

 

 今までの無感情さというかクールっぷりが嘘の様にヘカトに抱き着いて涙を流すオメガの様子に、姉妹の様に思えてほっこりする私たち。エヴリンに至っては大泣きだ。ビリーは手錠を外して地面に転がり、レベッカも体育座りして一息ついている。…マスターリーチについては終わった、だが、まだだ。

 

 

「…見ろ。あれがエンリコの言っていた、古い洋館だ」

 

 

 私達のいる高台から見下ろせる場所に、その洋館はあった。見覚えがある。10年前、リサを助け出したあの場所だ。

 

 

「私とレベッカはいかねばならない。…オメガとヘカトも連れて行くしかないだろう。だがお前は自由だ、どうする?ビリー」

 

『私は!?』

 

 

 答えは分かり切っているボケをするエヴリンは無視だ。ビリーは考え込み、そして笑う。

 

 

「…死んでやる気も無かったが、俺が生きて行くには冤罪を晴らさなきゃならねえ。お前たちに迷惑はかけられない、一人で頑張るとするよ。ひと段落したらラクーンシティに行く、その時はおすすめの店を紹介してくれ」

 

「…ええ。コーエン少尉は報告書には死んだってことにしておく」

 

 

 頷いたビリーが手渡したドッグタグを手に取りながら、レベッカは笑い、敬礼。私とエヴリンもそれに倣う。ヘカトに抱き着いているオメガも、それに気付くと敬礼を行った。ビリーも様になる敬礼をして、私達は敬礼を崩して笑い合う。

 

 

「…死ぬなよ」

 

「お前もな、ビリー」

 

「また会いましょう!」

 

『その時までに私の姿を見せれる方法を探しておくね!』

 

 

 そう言葉を交わし、私とレベッカは洋館に向き直りその場を去っていく。オメガも小さなヘカトを背負い、エヴリンと共に着いてくる。それをビリーは、優しい顔で見送ってくれた。

 

 

「…ありがとう」

 

 

 サムズアップ。そしてビリーも反対方向に歩き出し、朝焼けの中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 これは私が、世界を救うヒーローになる物語。そしてここからは、これから本当に始まる地獄を生き抜く私の相棒の物語だ。

 

 

▼file0【女王ヒル編】~完~to be continued?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼file1【リサ・トレヴァー編】NEW!




某ゾンズで表すなら「養殖」だったマスターリーチ。「野生」だったクイーンと異なり、日光が弱点ということすら理解してなかったのが敗因でした。

頭部まで潰されていたものの、小さくなって復活を果たしたヘカト。脳もやられてたので記憶の引き継ぎはできなかったものの、オメガの感情を引き出す結果に。

ビリーとはいったんここでお別れ。そして物語の主役はクイーンの相棒へ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file0:EX【女王とその仲間たち】

どうも、放仮ごです。0編のまとめです。今後キーパーソンとなるRT-ウイルスについても記載。楽しんでいただけたら幸いです。


・変異ヒル統率個体/女王ヒル/クイーン・サマーズ

「雨はいいな、最高の環境だ」

 今章の主人公。菌根を餌として与えられ、エヴリンと出会ったことで運命が激変した原作ラスボスその人。マーカスが暗殺された際にアンブレラへの復讐を誓い、リサを救出し脱出。ラクーンシティに逃げ延びて戸籍を作りクイーン・サマーズと言う人間として、アンブレラの情報を得るべくR.P.D.に所属。のちにS.T.A.R.S.に所属。ブラボーチームのSF(スニークフェンサー)に配属される。

 

 普段の姿はエヴリンをモデルにした、統率個体である己を中心とした同胞たちである変異ヒルの集合体であり、菌根を体内に宿していることで人間と同じように神経系が作られ分離が困難にこそなったが、能力が向上。変異ヒルを連結させることによる怪力と、非常に緻密な粘液操作が可能で、粘液を纏って硬化させたり粘液を糸として発射することが得意技。最終決戦では現存する変異ヒルを全て取りこみ、さらなる怪力と変形能力を得た。

 

 最初は常識が欠如し思いやりを知らない非人間そのものだったが約10年間、エヴリンやリサと共にラクーンシティで過ごしているうちに人間性を獲得。ぶっきらぼうなもののお人好しで面倒見のよく冗談も言える性格となり、リサと共にヒーローとしてラクーンシティでは親しまれている。アンブレラへの復讐こそ忘れてないが、新たに得た仲間も失わないことを第一に考える思考となっておりマスターリーチには裏切り者認定された。優先順位はアリサ→シェリー→ウェスカー以外のS.T.A.R.S.→ビリーやヘカトなどの仲間→アンブレラ以外の人間。かつてはアリサの上に「我が父」と慕うマーカスがいたが、マスターリーチとの死闘を経てマーカスの本性を知って失望、それでもアンブレラへの復讐はやめる気はない。

 

 キャラコンセプトは人外スパイダーマン。大いなる力には大いなる責任が伴うを地で行くリーチウーマン。

 

 

 

・エヴリン・ウィンターズ/リーチ・モールデッド

『もうやだイーサンに会いたい』

 前作主人公ポジションに落ち着いたシリーズ主人公。自身の菌根と同じ全ての起源である始祖ウイルスに興味を持ち、以前7の世界にタイムトラベルしたのを利用してイーサンたちには内緒で遡ってきた結果、57年前の1980年までやってきたものの帰り方が分からず、知り合ったクイーンと行動を共にすることにした阿呆。帰るのは諦めており、今の目的は悲劇を少しでも減らす歴史の改変。

 

 相変わらず現実の物体に触ることができないので直接的な戦闘能力はないが、クイーンへの悪戯から生まれた虎の子、超至近距離鼓膜絶叫を持つ。また、クイーンの肉体の指揮権を明け渡してもらうことでリーチ・モールデッドとして代わりに戦うことは可能。クイーンたちの身体を媒介にして菌根を操り一時的な洗脳能力も得た。0編終盤では相性のいいオメガと組んで戦う。

 

 

 

・アリサ・オータムス/リサ・トレヴァー

「記号で呼ばないで。私は、アリサ・オータムスだ」

 クイーンの相棒で天然気味な心優しい女性。その正体は当時14歳で母親と共に幽閉されてウイルス実験の被験者にされて監禁されていたアンブレラの実験体「RT」ことリサ・トレヴァー。ウイルスに適応したものの研究成果を得られなくなり何度廃棄処分にしても死ななかったことから研究員達からは「生き続けるだけのデキソコナイ(出来損ない)」と侮蔑されていた。実年齢は1998年時点で45歳とウェスカーより年上だが、ウイルスに適合したことで若々しい姿を維持しており見た目は10代後半の少女。

 

 尋常ではない適合能力の持ち主で、T‐ウイルスの傑作「タイラント」の研究が適性のある被験者の不足から行き詰まっていたところに、尋常でない生命力からリサ・トレヴァーが再び被験体に選ばれ、「菌根」とヨーロッパの研究所より送られた寄生生物「NE-α型」通称「ネメシス」のプロトタイプを投与され、これにも適合。「RT-ウイルス」と「G-ウイルス」を体内で生成した。

 

 しかしその直後にクイーンとエヴリンの乱入で救出され、両親を殺し自らの尊厳を踏みにじったアンブレラへの復讐を共に誓う。ラクーンシティに逃げ延びて戸籍を作りアリサ・オータムスと言う人間として、アンブレラの情報を得るべくR.P.D.に所属。のちにS.T.A.R.S.に所属。アルファチームのSF(スニークフェンサー)に配属される。

 

 T-ウイルスに適合した故の驚異的な身体能力の持ち主で、壁を駆け上がったり車に追い付いて飛び乗ったりなどクイーン以上にスペックが高く、怪力の持ち主。特に特筆すべきはRT-ウイルスにも引き継がれたその再生能力であり、腕を切断されても即座に生やして再生が可能。セルケトとの戦いでは菌根操作を獲得、腕に纏って硬化したりなどの芸当が可能となった。

 

 キャラコンセプトはMCUのキャプテンアメリカみたくなってしまった普通の少女。人外に変えられた己に苦悩しアンブレラに復讐を誓いつつも、人を救うために力を振るう。

 

 

 

百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル/ヘカトちゃん

「我、た・ん・じょ・う!」

 ラテン語で百卒長の意味を持つcenturio(ケントゥリオ)の英語読みと、百の手の意味を持つギリシャ神話の巨人、ヘカトンケイルを合わせた名前が名付けられた巨大ムカデ。クイーンたちとスティンガーの死闘の際に腕を切断されたリサの血液を浴びて、破壊と再生を繰り返して全ての脚が人間の腕の様な…正確にはリサの腕を模した形状に変容し5メートル程に巨大化したムカデ。単に巻き込まれRT-ウイルスに感染しただけのただのムカデだがB.O.W.として捕獲され、サミュエル・アイザックスがT-ウイルスをさらに組み込むことで強化。体長は10メートル長にまで伸びて、生存本能故か甲殻にトゲが生え揃い、鉄をも溶かす猛毒を有する。さらにアンブレラ幹部候補に命令を聞く様に調教された優秀なB.O.W.。

 

 アンブレラ幹部養成所に送られ幹部候補たちに調教される形で保管されていたが、マスターリーチの存在に危機感を感じたウェスカーとバーキンが解放。侵入者をすべて排除する命令を受けて活動を開始しレベッカを捕らえビリーやクイーンと交戦するも敗北。しかしその巨大なムカデの姿は外装に過ぎず、内部で幾度も変容を繰り返して進化し続けていた人型が外殻を脱皮。一人称「我」で痛みを愛と認識するドMという何とも言えない性格でムカデ腕を有した、リサによく似た5メートルほどの巨体を有する女性の姿で復活した。

 

 実は調教を恐怖として心身に刻まれ、痛みを愛だと誤認して心を守っていた。人型形態でもクイーンたちに敗北するも、驚異的な再生能力でさらに脱皮してサイズダウンしつつも復活。マスターリーチの総力戦にちゃっかり紛れ込むも、紆余曲折あってエヴリンに「ヘカト」と名付けられて仲間になる。しかしプロトタイラントRとの戦いでオメガを庇い、両腕切断・顔から胴体にかけて切り裂かれる重傷を負って死亡。奇跡的に子どもの姿で再生、記憶を失いつつもオメガに守られながらクイーンたちについていく道を選ぶ。

 

コンセプトはMCUのグルートみたいな再生能力を有したB.O.W.。

 

 

 

・ハンターΩ/オメガちゃん

「…エヴリン、命令を」

 現場で状況を確認、判断する司令塔が存在しないというハンターの弱点を改善するべく、RT-ウイルスを用いてハンターの同じ方法でサミュエル・アイザックスに作成されたB.O.W.でハンターの特徴を持つリサの姿をしたハンターの上位個体。見た目は局部や手足の先のみ緑の鱗に包まれた、鋭い爪を生やしたハンターと同じ右手を持つ黄色い爬虫類の様な瞳と短く切り揃えた緑がかった髪を有する、リサと瓜二つの容姿を持つ少女。

 

 手足は隠密には向いていないが敵を油断させるには最適で、見た目こそ華奢ではあるが実態は筋肉の塊であり、凝縮された筋力は100mを6.2秒で走り抜く脚力。至近距離の銃弾すら弾く、生身にも見える堅牢な皮膚。鋼鉄をも容易く斬り裂く右手の鋭い爪。鉄骨すらひしゃげさせる驚異的な握力を有する左手の指。そして冷静に状況を判断できる劣化していない頭脳を有し、特殊な音域の声を出して周囲のハンターに命令を下せる。

 

 通常のハンターと異なり、人間から噴き出す血を好む嗜虐的な性格だが反抗的な「心」は持ち合わせておらず、また年齢も幼年期に設定しているため、悪いことを悪い事とも思わずどんな命令を何も考えずに「了承」と答えて素直に実行すると言う利便性も持ち合わせているのだが、それが災いしてマスターリーチに奪われた挙句、ヘカトやエヴリンの命令でも聞いてしまうことから、「オメガ」と名付けられ仲間になった。

 

 心が育ってないことがエヴリンの不満だったが、共にマスターリーチと戦っていくうちに「気に入らない」「許せない」などの心が芽生え、ヘカトに庇われたことで完全に心が覚醒した。生きていたヘカトに抱き着いて喜びをあらわにするなどかなり人間らしくなっている。

 

コンセプトはハンター版ブラックパンサー。ハンターを従えることで本領を発揮する。

 

 

 

・レベッカ・チェンバース

 原作主人公。S.T.A.R.S.の衛生要員で化学・薬品に関して豊富な知識を持ち、飛び級により大学を卒業した期待の新人のRS(リア・セキュリティ)。クイーンが一番かわいがってる後輩。1990年にラクーンシティを訪れた際に誘拐されかけたところをクイーンとアリサに救われ、憧れて原作よりも早くR.P.D.に入った。クイーンの正体をひょんなことから知って以降も受け入れて尊敬し続ける理想の後輩。

 

 

・ビリー・コーエン

 原作主人公。逃亡している凶悪犯。クイーンの正体を知ってもすぐに受け入れ、共闘を選ぶ。最終決戦後はクイーンたちとの再会を約束して己の冤罪を晴らすべく旅立った。

 

 

・サミュエル・アイザックス

 実写版からの逆輸入キャラでアンブレラのアークレイ山地研究所主任研究員の男。かつてはバーキンの右腕だった。バーキンが研究権を手放したRT-ウイルスの第一人者であり、サーベラスを始めとした数々の凶悪B.O.W.を生み出した。通常の思考とは異なる、ずれた視点を持つ天才。彼の生み出したB.O.W.は少女態が多いがリサの遺伝子を元にしたRT-ウイルスを用いているからであり意図的ではない。

 現在はマスターリーチに襲撃された直後「RTの腕」を持ってラクーンシティのNESTに逃れ研究を続けている。未だに本人は未登場だが、クイーンたちとは因縁深い。

 

 

・ジェームス・マーカス

 始祖ウイルスから変異ヒルを誕生させ、T-ウイルスを生み出した全ての元凶の一人である博士でアンブレラ幹部養成所の所長。親友だったスペンサーとその部下だったウェスカーとバーキンに裏切られ死亡する。クイーンからは「我が父」だと慕われアンブレラへの復讐を誓う程だったが、本性を知られるうちに見限られた。マーカスの怨念はマスターリーチと言う怪物を生み出した。

 

 

・オズウェル・E・スペンサー

 全ての元凶にしてある意味【EvelineRemnantsChronicle】の黒幕である老害翁。医学生であったスペンサーがルーマニアのトランシルヴァニア地方の雪山で遭難していたところを、ミランダに救助され、特異菌の研究や「感染によって生物を変異させる」発想に感銘を受け、ミランダを師として仰ぎ生物学の研究に従事する…ところまでは原作通り。

 次第に己と師の目的や考え方の違いに気づいてミランダの元を立ち去る、はずだったのがここで何がトチ狂ったのか、この世界のスペンサーは阿呆であり別に目的や考え方が違ってもその結果が同じなら関係なくね?と思い至って、独立し製薬会社アンブレラを設立してからも協力を惜しまず続けた結果、スペンサーを完全に同志として信用したミランダは、その研究をより強固なものにするべく、信頼の証としてある贈り物「菌根の一部」を送った。それが、この平行世界の始まりである。なにしてんだろね。

 

 

・シェリー・バーキン

 ウィリアムとアネットの一人娘。アイアンズ経由でクイーンとアリサに預けられ、大切に育てられたため二人を育ての親として慕っている。なんなら両親より慕っている。これから過酷な運命が待っている一人。

 

 

・アネット・バーキン

 ちょっとだけ出たウィリアムの妻である研究者。セルケトが戻ってこないことをウィリアムに報告したりした。

 

 

・ウィリアム・バーキン

 マーカスの部下でアンブレラの研究員。T-ウイルスの研究をマーカスから引き継ぎ、完成させたほか、G-ウイルスに魅入られ研究し、ウェスカーとの共同開発でセルケトを温床として生み出した。アンブレラ幹部養成所の再利用計画のためにウェスカーと共に暗躍していたが、マスターリーチの出現に伴い関連施設を自爆させた。アイザックスはウィリアムの右腕。セルケトの親ではあるが情は持っておらず、シェリーを溺愛している。

 

 

・アルバート・ウェスカー

S.T.A.R.S.隊長でアルファチームLDR(リーダー)。マーカスの部下でアンブレラの研究員だったが諜報部に移籍し本部の意向で警官になった。クイーンたちの正体には感づいているものの確証は得れてない。バーキンに見捨てられたセルケトに助けを求められるもハンクを差し向けて始末を目論んだ。

 

 

・クリス・レッドフィールド

 この時代のクリスで元アメリカ空軍パイロット。S.T.A.R.S.アルファチームのPM(ポイントマン)。クイーンとアリサを己の理想として尊敬している。

 

 

・ジル・バレンタイン

 元陸軍デルタフォース所属のアルファチームのRS(リア・セキュリティ)の一人。クイーンとアリサを尊敬している。

 

 

・ジョセフ・フロスト

 アルファチームの武器の整備を担当するOM(オムニマン)で女好き。血の気が多く激しやすい性格が偶に疵だが赤いバンダナがトレードマークの陽気なムードメーカー。

 

 

・エンリコ・マリーニ

 S.T.A.R.S.の副リーダーでブラボーチームLDR(リーダー)。本来であれば実力的にも年齢的にもS.T.A.R.S.の隊長に相応しい人物なのだが、出資企業(アンブレラ)の推薦によってウェスカーに隊長の座を譲った。クイーンの正体を知ることになった一人。

 

 

・ケネス・J・サリバン

 ブラボーチームのPM(ポイントマン)で黒人。化学防護要員であり、化学博士号を所持しているチーム最年長。

 

 

・リチャード・エイケン

 ブラボーチームの通信要員でBUM(バックアップマン)

 

 

・エドワード・デューイ。

 ブラボーチームのRS(リア・セキュリティ)兼ヘリコプターのメインパイロット。S.T.A.R.S.最初犠牲者としてサーベラスに襲われ死亡、死後リーチゾンビとしてクイーンたちに倒される。

 

 

・バリー・バートン

 アルファチームのBUM(バックアップマン)。火器の補充と整備を担当している元空軍兵および元SWAT隊員。

 

 

・ブラッド・ヴィッカーズ

 アルファチームの化学防護要員のRS(リア・セキュリティ)の一人でヘリコプターパイロット。

 

 

・フォレスト・スパイヤー

 ブラボーチームのOM(オムニマン)で整備・対電脳犯罪担当。自爆テロ突入作戦では裏方を担当した。

 

 

・ブライアン・アイアンズ

 ラクーン警察署の署長。温厚で市民思いな人物で、部下からの信望も厚く、美術品の保護活動や動物愛護といった慈善活動家として市民に慕われている………というのは表の顔。本性は警察官とは思えない傲慢で短気な性格で、部下の前だと威張り散らすは機嫌が悪くなると当り散らすわ、女性警官の制服のスカートを規定より短くするように命令を出した挙句に下卑た視線を向けてにやにやと笑っているクソ野郎。美人であるリサとクイーンはお気に入りなのか下心アリアリで目にかけている。シェリーを預けたりクリスとジルを案内したり今のところ大人しいが…?

 

 

・マービン・ブラナー

 名前だけ登場。クイーンの同僚で仲がよく、後輩を一緒にしごいている先輩警官。

 

 

・ロバート・ケンド

 兄のジョウ・ケンドと一緒にガンショップ『ケンド鉄砲店』を経営している、口髭が似合う日系人のオーナー。クイーンとアリサが警官になって最初の仕事が強盗に遭っていたケンド鉄砲店を助けた事件なのがきっかけで、それ以降二人を気に行って色々気にかけてくれている。

 

 

・ハンク

 アンブレラの特殊部隊の一人。どんな過酷な任務でも必ず生還する反面、奴以外のメンバーがその過酷さ故に任務中に全滅するため「死神」という異名を持つ男。部下の育成だけは有能なアルフレッド・アシュフォードが育てた面々の中でも別格の男と称される。セルケトを相手にして始末した様だが…?

 

 

 

 

 

 

※B.O.W.はオリジナルや原作と差異のあるもののみ紹介

 

・マスターリーチ

 今章のメインヴィラン。クイーンが離れたあと、マーカスを守護していた変異ヒルの一体がマーカスを守るべく体内に侵入しその怨念と同調したことで自我を得た新たな統率個体。変異ヒルの集合体で若かりし頃のマーカスの姿に擬態している。クイーンと同じ能力を持つ他、変形能力を得意とし、粘液を棘の形で固定して攻撃力を増したり、変異ヒルを寄生させてゾンビやB.O.W.を操ったり、分身を作ったりと多彩な能力を有する「個」にして「群」の極致。しかし傲慢で悪辣な性格であり、世界を復讐に巻き込もうとしたり、クイーンを始末することに固執した挙句に同胞を見限り、経験の浅さから完全敗北を喫して爆発に飲み込まれて消滅した。

 

 

・セルケト/プロトネメシス

 最優(リサ)の遺伝子と欠点こそあったもののリサを追い詰めた戦闘力を有するスティンガーを、ウェスカーとバーキンが掛け合わせて誕生した「傑作」と称されるB.O.W.で後のネメシスのプロトタイプ。人間の遺伝子を素体にしたことで自我を持ち、現状を理解し己が最も優秀な生物兵器であると確信した故の傲慢で自信家な性格で、親二人に認められることを行動原理としている。

 右半身のみとはいえマグナム等の高威力の銃弾すら通じない強固な装甲、鋼鉄すら容易く切断する鋏を有する右手右足、麻痺効果を持つ針の弾丸を指の先から発射できる左手、伸縮自在でありレンガの壁をぶち抜く威力を誇る自在に動く尻尾、巨体だろうと軽やかに跳躍させる常人の30倍にもなる筋繊維密度による超人的身体能力といったスティンガー由来の戦闘力に加え、RTの不死身とすら言っていい再生能力まで有する。本来なら暴走して制御不能となるところに背部に接合した「制御」に性能を回して改良した兵器、ネメシスプロトタイプγで制御することが可能。

 クイーンたちに敗北したあと、汚名返上をかけたプロトタイラントとの戦いで敗北、バーキンに見限られて打ち捨てられて、処理場に捨てられたのちにウェスカーに助けを求めるもハンクを差し向けられ、その後は消息不明。

 

 

・スティンガー

 正式名称は試作B.O.W.type-y139で最初のボスクリーチャー。結構善戦しリサの腕を切断する大戦果を上げた物の敗北。死後、黄道特急に残された死骸はセルケトに利用され、またヘカトがB.O.W.になるきっかけでもあるという、キーパーソンの役割も持つ。

 

 

・プロトタイラント

 作中に出てきたのはいずれも同一個体。処理場に捨てられるところをバーキンに拾われ、セルケトのテストに用いられたあと、タイラントが完成間近になったため廃棄されたところをマスターリーチに見つけられ肉体として利用された。セルケトを圧倒する戦闘力の持ち主。

 

 

・サーベラス

 開発ナンバーMA-39ケルベロスが、名前負けしていると判断したアイザックスらの保身でRTの右腕を細断して得られる急速再生細胞を用いて三体のケルベロスを融合して生み出されたB.O.W.。凶暴性は三倍に上がり、六つの目による広い視野と三つの脳を直結させた並外れた頭脳で他のケルベロスを制御するリーダー格としても優秀。ネメシスを取り付けることで制御も可能という、完璧な生物兵器が完成。名前はケルベロスの英語読みで、より優秀なケルベロスと言う意味の【新型B.O.W.MA-39改 サーベラス】と名付けられた。

 

 

・エリミネート・スクナ

 顔面が両面で癒着した四本腕でところどころが血痕で赤い白銀の毛並みの大柄な猿。リサの遺伝子で失っていた視力を取り戻してとんでもない視野と筋肉断裂してもすぐ再生するのを利用した圧倒的フィジカルを有している。アイザックスがサーベラスのノウハウを活かしてエリミネーターを用いて生み出し、アークレイ研究所に保管していたものをマスターリーチが持ち出した。モチーフは両面宿儺。

 

 

・プロトタイラントR(リボーン)/リーチタイラント

 同胞の大部分を失ったマスターリーチが破棄されていたプロトタイラントの肉体を乗っ取って誕生した怪物。3メートルを超える大男で右腕の爪が肥大化していて、全身腐敗していて特に背中の皮膚が裂けて肉と背骨が露出し右側に存在する剥き出しの心臓が目立ち、スキンヘッドの頭部から上半身にかけてまで皮膚はぬめりを帯びた暗緑色で、眼球のあった場所はナメクジのような触角が生えていて、頭頂部には頭部にマスターリーチである変異ヒルが溶け込んでくっ付いている。粘液硬化と同胞たちを用いた変幻自在の肉体を利用した猛攻を仕掛ける。ヘカトを死に追い込んだ技はRE:2のスーパータイラントのものと酷似している。

 

 一瞬の隙を突かれ弱点の心臓を穿たれて敗北したあとは、仰向けになった状態で四足歩行しているプロトタイラントの肉体の背中…腹部から触手と化した肋骨が伸びてうねっており、頭部はマスターリーチの本体自体が鋭い牙を持つ異形の頭部に変化している巨大な四足歩行のヒルの化け物に変貌。プロトタイラントのリミッターが解除されマスターリーチと悪魔合体したのだろう醜悪な怪物であり、溶解液を用いた突進でクイーンを追い詰める。しかし日光に弱いことを把握してなかったことから敗北、マグナムで撃ち抜かれた挙句に爆発に飲み込まれて消滅した。

 

 

・RT-ウイルス

 ネメシスと菌根を植え付けられたリサから生成された、リサの血に宿る新種の進化ウイルス。主に「RTの右腕」から生成される。急速再生細胞とも称され、「再生」に特化しており、T-ウイルスの様な知性の劣化が見られないのが特徴。変異と言うよりは「適応」がメインであり、肉体同士を繋ぎ合わせたり、リサと酷似した肉体を形成したりなどの効果がある。特に相性のいいのは爬虫類や蟲など「脱皮」などで肉体を再構成することに特化している生物。第一人者はサミュエル・アイザックス博士であり、これを用いてなにかが作られたらしいが詳細不明。




 忌々しい洋館へと図らずも帰ってきたリサ改めアリサが、仲間たちと共に出くわしたのはリサ・トレヴァーを名乗る醜悪な怪物。己は本当にリサ・トレヴァーなのか?謎めいた恐怖が襲いくる。


BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】

file1【リサ・トレヴァー編】


近日公開。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】file1【リサ・トレヴァー編】
file1:1【アリサ・オータムス】


どうも、放仮ごです。今回からfile1【リサ・トレヴァー編】が始まります。主人公はリサ・トレヴァーことアリサ・オータムスです。楽しんでいただけたら幸いです。


「そういえばお前、なんで無線で連絡取ってたんだ?一応私達テレパシーみたいなので意思疎通できたろ」

 

『それなら簡単だよ。ラクーンシティにいる時はよかったけど、菌根使われているのが多すぎて混線するからだよ。アリサには悪いことしたなあ、心配してるかも……』

 

 

 そんな会話があった数時間前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1998年7月24日。アークレイ山地ラクーンフォレスト。私達S.T.A.R.S.アルファチームは、1998年7月9日に発生したラクーンシティ郊外のアークレイ山地で人が食い殺されるという奇妙な猟奇殺人事件を調査すると言う作戦途中で消息を絶った先遣部隊ブラボーチームのヘリを探して上空を飛んでいた。

 

 

「レベッカ、クイーン、どこにいるの…?エヴリンも忙しいのか繋がらないし……」

 

 

 どういう原理かはわかってないけど、エヴリンとは遠距離でも意思疎通ができたはずだが、応答がない。何かあったのは間違いない。私は身を乗り出しているクリスとは反対方向に身を乗り出して森の中に、監禁される以前より強化された視力で探索していた。

 

 

《「クリス!アリサ!何か見つかったか!?」》

 

 

 ヘリを操縦しながらマイク越しにそう言ってくるのはアルファチームのリア・セキュリティの一人でヘリコプターパイロットのブラッド・ヴィッカーズ。私とクリスは顔を見合わせ、首を横に振る。

 

 

《「いいや、まだだブラッド」》

 

「…私はあちこちに血痕やらが見えたけど、その主は見えない。死体が動いてるみたい…」

 

《「すごいな、アリサ!俺にはまるで見えなかったぞ!」》

 

「っ、目がいいからね!」

 

 

 クリスの称賛に苦い顔をしながらも応える。…うう、クイーンもレベッカもいないから隠し事しないといけないのしんどいよお。ウェスカーからもじっと見られてるし……気が重い。すると、クリスの横でヘリの中から辺りを見渡していたジルが何かを見つけたらしい。

 

 

《「見て、クリス!こっち!アリサも来て!ブラッド、北東に向かって!」》

 

《「了解だ!」》

 

 

 ジルに言われてクリスの方に移動すると、破壊されたヘリが見えた。既に煙も出てないところから、半日は時間が経っているらしい。私達は地上に降り立ち、ブラボーチームの物と思われるヘリの中を探索するもケビンの遺体と夥しい血痕以外には誰もいなかった。ケビン・ドゥーリー……R.P.D.の同僚で臨時のヘリパイロットを買って出た警官だ。その胸には引き裂かれた傷が残されており、何者かに殺されたというのがすぐ分かった。…でもこれ、まるで異形の形態の私の爪の様な……。

 

 

「そんな……」

 

「他の隊員を捜すぞ。どこかにいるはずだ」

 

 

 そんな隊長…ウェスカーの言葉に頷き、何人かに分かれて散開する私達。ウェスカーとクリス、ジルとバリー、ジョセフと私の三組に分かれて捜索する。ショットガンを構えて周囲を警戒するジョセフをカバーする様にサムライエッジのストッピング力に重きを置いたカスタム「ルヒール(名付けたエヴリン曰くスペイン語で「咆哮」らしい)」を構えながら歩いていると、緊張しているのかジョセフが話しかけてきた。

 

 

「…アリサ、何時になく落ち着いているな……」

 

「…私も怖いよ、仲間たちが死んでいたらと思うと…」

 

「それにしちゃあ、クイーンの事は心配してないようだな?」

 

「うん、クイーンは強いからね」

 

「さすが、相棒だな」

 

 

 何かあったんだろうなとは思うけど心配はしてない。セルケト級のが出てきたらわからないけど。生半可な相手じゃあの粘液糸でグルグル巻きにして終わりだろう。と、そんな会話をジョセフとしていたところでがさごそと物音が鳴って、咄嗟に銃を構えてそちらを見やる私達。

 

 

「なんだ!?」

 

「…なにも、いない?」

 

「なんだよ、脅かせやがって……」

 

「っ、ジョセフ!」

 

 

 なにもいないことに安心して、思わず銃を下ろした瞬間だった。草薮の中から飛び出してきた、三つの影と10個の眼光が見えて、咄嗟にジョセフを突き飛ばしていた。草薮の中から出てきたのは、ところどころ腐敗した三つ首の大型犬と、それに追従するこちらもところどころ腐敗した一つ首の大型犬二体。あまりにも現実離れした光景に一瞬呆けた所に、三つ首犬に腕と胴体と太腿を同時に噛み付かれてしまう。

 

 

「アリサァ!このお!」

 

「「「ガウアアアッ!…ガウッ?」」」

 

 

 我に返ったジョセフがショットガンで残り二体の犬に応戦する中、首を振って噛み千切ろうとした三つ首犬が異変に気付く。傷口は既に再生して、菌根で覆うことで牙を無理やり引き剥がしていた。

 

 

「怒ったぞー!」

 

「「「ガウッ、ガウガアアアアアッ!?」」」

 

 

 そして飛び退いて距離を取ろうとする三つ首犬の外側の口二つに手を突っ込んで引き止め、牙が指に食い込むのも気にせず思いっきり外側に押しやって、三つ首犬を中央から真っ二つに引き裂いた。ぴくぴく動くそれを投げ捨てルヒールを引き抜くと、犬を一体倒したジョセフの背後から襲いかかろうとしていた犬に照準を向けて頭部を撃ち抜いた。

 

 

「キャイン!?」

 

「た、助かったぜアリサ…って、お前がそれやったのか?」

 

「え?…あっ」

 

 

 ジョセフに指摘されて気付く。ジョセフを狙われて頭に血が上って怒りのままにやってしまった。というかエヴリンとクイーンがいたらドン引きされてそうな倒し方しちゃった…な、なんとか誤魔化せ私!

 

 

「え、えっとね?噛み付かれた時につなぎ目を見つけたからそこに指を食い込んで、ね?」

 

「その割に傷跡もなくないか?」

 

「あうっ」

 

 

 だ、だめだー!誤魔化せないー!涙目で頭を抱えていると、ジョセフは笑っていた。

 

 

「…お前が何者だとしてもよ、助かった。礼を言うぜアリサ。お前がいなけりゃ俺は死んでいた」

 

「ジョセフ……ごめんね、話せないの……」

 

「命の恩人についてとやかく言うつもりはないさ。…だが、気を付けろ…!」

 

「…うん、そうだね…!」

 

 

 周囲に気配を感じて、ジョセフと共に構える。この腐乱した犬…ゾンビ犬とでもいうべきそれの仲間だ。三つ首の奴も何体かいる。完全に囲まれている。

 

 

「数が多い、いったん逃げてクリスたちと合流しよう!」

 

「ああ、同感だ!」

 

 

 銃を撃って牽制しながら、駆けて行く私達。途中でゾンビ犬に応戦していたジルとバリー、クリスとウェスカーと合流することに成功する。腰を抜かしているジルを守る様にクリスとバリーがサムライエッジを撃ち、ウェスカーはネリチャギや鉄山靠(てつざんこう)を叩き込んで応戦していた。嫌な奴だけどこういう時は頼もしいな!

 

 

「アリサ、ジョセフ!無事だったか!」

 

「あ、だが隊長、奴等に囲まれちまってる!」

 

「私がジルを担ぐ!みんな、援護お願い!」

 

「え、アリサ!?ちょっと待っ…」

 

「頼んだアリサ!行くぞ!」

 

 

 突進してきたゾンビ犬をクリスがサムライエッジで撃ち抜きながら、ジルを文字通りお姫様抱っこで担いだ私を中心に走り出すアルファチーム。ヘリまで戻る途中で、そのヘリが飛び去って行くのが見えた。

 

 

「そんな、ブラッド!?」

 

「戻ってこい!おい!」

 

「どこに行くんだ、ブラッド!」

 

 

 臆病なブラッドのことだ、恐らくゾンビ犬たちを見て逃げ出したのだろうが……退路を断たれた、どうしよう。そしたら背後からゾンビ犬が飛びかかってきたので、ジルを担いだまま右足を振るい、蹴り飛ばして応戦。体勢が崩れたところを、私の腕から降りたジルが支えてくれた。

 

 

「私はもう大丈夫よ、ありがとうアリサ」

 

「アリサ、ジル!こっちだ!古びた洋館を見つけた!」

 

 

 さらに襲いかかってきたゾンビ犬を、ウェスカーが撃ち抜いて助けてくれてそう呼びかける。クリスとバリー、ジョセフも援護の構えだ。

 

 

「あの館まで走れ!」

 

「洋館…?」

 

 

 クリスの叫びを聞いて急ぎながらも嫌な予感から首を傾げる。見えてきたのは、見覚えがあり過ぎる洋館だった。……ああ、そうだ。そういえばこの森だった。忌々しいここに……帰って来たのか。私が監禁され実験されていた…あの洋館に。




ジョセフ救済。そしてサーベラスが複数いることが判明しました。

0編序盤で使われていた脳内連絡ができなかった理由も判明。受信機がいっぱいあったらそりゃあ無理よね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:2【隊長との決別】

どうも、放仮ごです。1編早々急展開。今回のキークリーチャー登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「ハァ………外が騒がしいわね……イラつくわ……」

 

 

 ジャララ、ジャラララ……と鎖を引き摺る音が暗闇の中に聞こえる。遠くから聞こえてくる銃声に、何かに隠された視線を向けるそれは、醜悪な異形の姿をしていた。蛸の触手の様に蠢く漆黒の長髪をたなびかせ、その上から人の顔の皮が複数で作られたマスクで右目以外鼻まで覆い隠し、露出した口元は犬歯が異常に発達して牙の様に伸びて口からはみ出ている。露出した右目は淀んでいてギョロギョロと忙しなく動き回って不気味だ。身に纏った汚れきった病衣から伸びた裸足の四肢は痩せ細り特に両腕が異常に伸びており、ゴリラのナックルウォーキングの様な動きで地下道を移動していた。

 

 

「アイザックスの馬鹿が戻ってきたのかしら……だとしたら捻り潰すけど。……ああ、来たのね」

 

 

 その異形の怪物は、地上を見上げて露出した口元で牙を剥き嘲笑を浮かべた。

 

 

 

―――――――マガイモノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラッドを除くアルファチーム全員が館に辿り着き、手分けして探索することになった。クリスとジョセフ、ジルとバリー、ウェスカーと私だ。……なんで?

 

 

「私とアリサはここを調べて確保しておく。四人は左右をそれぞれ調べてくれ」

 

「「「「了解」」」」

 

「油断するなよ」

 

 

 ジルとバリーは左の部屋に、クリスとジョセフは西の部屋に警戒しながら入って行く。私はおずおずとウェスカーに尋ねる。このタイミングで二人きりにされるのは嫌な予感しかしないんだけど…。

 

 

「あ、あの…ウェスカー…隊長?私も行った方が…」

 

「もしあのサーベラスとケルベロスが入って来たら応戦しないといけない。お前の強さが必要だからな、アリサ。頼りにしているぞ」

 

「サーベラス?ケルベロス…?あの、犬の化け物の名前ですか?」

 

 

 思わず首をかしげる。…そこで、なんで名前を知っているのか聞くべきだったと気付くのは遅すぎた。

 

 

「ああそうだ。特に三つ首のサーベラスはお前と同じ細胞を持ったお仲間だとも。なあ、アリサ・オータムス…いや、こう呼ぼうか。リサ・トレヴァー」

 

「っ…!?」

 

 

 その名前を呼ばれて血の気が引き、続けざまに言われた言葉を理解して頭に血が上るのを感じた。…私と同じ細胞を持った、お仲間…?お前は、お前たち(アンブレラ)はまだ……まだ、私を利用して……!

 

 

「ウェスカァアアアアアッ!」

 

「ビンゴか。回りくどく確証を得るよりも、さっさと問い詰めるべきだったな…!」

 

 

 渾身の力で殴りかかったのを、受け流されて床に転がされる。それでも床を踏みしめて無理やり体勢を整えて跳躍、飛び回し蹴りを叩き込むも足を掴まれて床に叩きつけられる。

 

 

「がはっ…!?」

 

「馬鹿力の事は知っている。脅威的な再生能力のこともな。だがお前はB.O.W.のクイーンとは違い、10年R.P.D.に所属していようがただの元一般人の女だ。格闘技術のイロハもない、そして痛みへの耐性もない。対処法はいくらでもある」

 

 

 痛みに悶える。悔しいがウェスカーの言う通りだ。切断とか貫かれるなどは慣れているが、打撲ダメージに対しては私は耐性が無い。拳も力任せに振りかざすことしかできない。

 

 

「…私が、リサ・トレヴァーだとわかっていたの…!?」

 

「確証はなかったがな。お前たちがR.P.D.に所属した時期と奴の逃げ出した時期が重なっていた。人並み外れた身体能力に怪力。それから極端に老化が遅い…いや、違うな?何かしらの手段で老化したように擬態していたのか。器用なものだ」

 

「…サーベラスに、私の細胞があるってのは……」

 

「刺客として差し向けた巨大蠍、スティンガーに腕を斬られたのを覚えているか?黄道特急に残されていてな、サミュエル・アイザックスと言う男の手で数多のB.O.W.を作る材料にされたんだ。サーベラスはその一体だ」

 

「…お前たちは、どこまで…!」

 

 

 許せない。悪びれずに言うこの男も、アイザックスとかいう奴も、アンブレラも許せない…!立ち上がり、拳を振るう。しかしウェスカーは足を揃えて膝で軽くしゃがみ、踏み出して私の足を引っ掛けて下方向に向かって背中で体当たりしてきた。衝撃が内部に伝わり、なにかがひしゃげた感覚と激痛と共に血を吐きよろめく。

 

 

「…がはっ」

 

「ただ馬鹿力の女に負ける程、弱いつもりはないぞ」

 

「このお!」

 

 

 奥の手。背中からネメシスの触手を複数出して攻撃するも、取り出したナイフを巧みに動かすウェスカーに全て斬り払われ、そのまま放たれた刺突を右手で受け止める。血が噴き出るが、力んでナイフの刃を固定してもぎとる様に力任せに刃を折る。

 

 

「バケモノめ。並のB.O.W.を軽く上回っているじゃあないか。素晴らしい」

 

「私をバケモノにした連中に褒められても嬉しくないよ!」

 

 

 そのままパンチ、パンチ。触手、蹴り。猛ラッシュを叩き込むも、全て軽々と避けていくウェスカー。触手を伸ばして追いかけるも、勢いが落ちたところを纏めて鷲掴みにされ、引っ張られて引き寄せられ、膝蹴りを顔面に叩き込まれて吹き飛ばされ柱に背中から叩きつけられる。

 

 

「ぐうっ……ここに来たのは偶然?それともアンブレラの命令で私をここに戻すために…?」

 

「それは違うな。ここに来たのは、アンブレラのライバル企業への手土産を得るためだ」

 

「…アンブレラ、じゃないの…?」

 

 

 その言い分じゃまるで、ウェスカーがアンブレラから脱しようとしているようじゃ……。

 

 

「アンブレラはもう終わりだ。負け戦に付き合うつもりはない。手土産としてT-ウィルスや、それによって生み出されたB.O.W.とS.T.A.R.S.を戦わせた実戦データ、…そしてお前の身柄を持っていこうと思ってな?知っているか。お前の髪の毛一本、爪先まで億は超える価値がある。実験で死なれては困る。痛めつけてから拘束し、連れて行かせてもらうぞ」

 

「どこまで、私を利用すれば気が済むの…っ!?」

 

 

 倒れたまま触手を伸ばしてウェスカーに距離を取らせるも、取り出したサムライエッジで背中を撃たれて呻く。そのままマガジンの弾丸全てを撃ち込まれ、激痛で身動きが取れないところに次のマガジンを装填しながら歩み寄ってくるウェスカー。

 

 

「とことん利用してやるさ。お前は最高の素材だ。T-ウイルスやお前から生み出されたRT-ウイルス、G-ウイルスの他にもウイルスは数多に存在する……これからも無限に等しく新しく作られていくだろう。そのたびにお前に打ち込み、新たなウイルスを作りだす。……本当なら用済みなんだがこちらも想定外が起きてお前が必要となった。悪く思うな。部下としてお前は好ましかった」

 

「…生意気な後輩だね」

 

 

 髪を掴まれて持ち上げられ、サングラスの下の瞳と目が合ったので睨み付ける。瞬間、発砲音と共に傍の床に着弾。見れば、ジルとバリーが戻ってきて銃を構えていた。

 

 

「ケネスが食い殺されたことを伝えに来たら……なにをしているの、ウェスカー!」

 

「弁明の内容によっちゃただじゃおかないぞ…!」

 

「…なに。この背中の触手が見えないか?アリサもバケモノだった、だから対処していただけだ。何の問題がある?」

 

「…アリサが人外だろうが仲間だ。いくら隊長でも、いきなり処罰はなくないか」

 

 

 そう言ったのはジルたちの反対側から出てきたクリス。傍にはジョセフもいて、明らかに怒っている様だった。

 

 

「み、みんなあ……」

 

 

 目が潤む。涙が出て来そうなのを堪えて、ウェスカーを睨みつけるとウェスカーは髪を引っ張ったまま私を立たせて拳銃を頭部に突き付けた。

 

 

「動くな。殺すのは容易いがお前たちにはまだ役目がある。こいつはバケモノだが脳を撃ち抜いてどうなるかは俺にもわからんぞ」

 

「ウェスカァアアアアッ!」

 

「楽しかったよクリス、S.T.A.R.S.諸君。アリサは連れて行かせてもらう。せいぜいいいデータを提供してくれ」

 

 

 そう言いながら銃を向けられジリジリと迫られつつ階段奥の扉をリモコンを取り出して開くウェスカーが勝ち誇る。しかし捕まった私には見えていた。現れた階段の奥からジャラジャラと鎖の音を鳴らしながら現れた異形の怪物の存在に。

 

 

「がはっ……!?」

 

「ああ、やっと殺せた。おかえりなさいウェスカー。待ちわびたわ」

 

 

 長い腕に胸部を貫かれ、私を手放して持ち上げられるウェスカー。そのサングラスの下の目が驚愕に見開かれる。壁に投げ捨てられ、血がべっとりと壁に塗りつけられて倒れ伏すウェスカー。そして人の顔の皮で作られたマスクから露出した右目が私を睨み付け、喜悦に歪んだ。

 

 

「私の名はリサ・トレヴァー。帰ってくるのを待っていたわ、マガイモノ」




タイトルは二重の意味。登場、リサ・トレヴァーを名乗る原作リサに酷似したクリーチャー。その正体は…?

早速裏切り、早速実力を見せつけ、早速殺されたウェスカー。なにしてんでしょうねこの黒幕。

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file1:2.5【アークレイ研究所の主任研究員の手記】

どうも、放仮ごです。今日はボイロ探偵の方を既に投稿したんですが、我慢できなくなってこっちも軽く小休止回を書いてみました。お馴染み主任研究員ことサミュエル・アイザックス氏の手記となります。何時にもまして短いです。


 新たな発想を元にRT-ウイルスを用いた新型B.O.W.がいくつか完成したので記載する。アイデアが沢山出てきてそれを形にするため上層部を説得するのに苦労した。RT-ウイルスは素晴らしい。

 

 

【ヨーン・■■■■】

 実験用に飼育されていた毒蛇に意図的にT-ウイルスに感染させ、全長10メートルと言う常軌を逸した巨体に成長した個体にRT-ウイルスをさらに組み込んだが、外見的な変化なし。しかしレントゲンで撮影したところ、骨格が変形しているのを確認した。極めて強力な猛毒を有していることが判明。文字通りのスニーキング能力含めて隠密タイプのB.O.W.として採用される。獲物を食べる際の大口を開けた姿が欠伸に見えるので欠伸を意味する「yawn」という名をつけた。脱皮が完了次第、私の想像通りなら■■■■の名も与えようと思う。

 

 

【ハンターΨ(プサイ)

 いくらか製造したハンターの統率個体の一体。最高傑作のハンターΩには一歩及ばないものの、優秀な性能を持つ個体にこの名を与える。ハンターΩとの差異はいくらかあるが主に性格だろう。嗜虐的で命令に従順なハンターΩと異なり、■■■で■■■だ。ハンターΩより多くのハンターを従えることができるのは利点だろう。

 

 

【ネプチューン・■■■■■】

 「兵器運用においては実用性はさほど高くない」とされている開発ナンバーFI-03ネプチューンを母体にしてRT-ウイルスを胎に打ち込み、蠱毒にも似た共食いの末に生き残り、母体すらも喰らい尽くした幼体である個体のB.O.W.。元々T-ウイルスを投与した母体から生まれた幼体にも変異が確認されたため「自己繁殖によるB.O.W.の生産性の向上」における貴重なサンプルだったネプチューンを犠牲にしたことは悔やまれるが、特に優秀な個体ができたのは喜ばしい事だ。特にフィジカルに特化しており、水中を自在に泳ぐ様は圧巻だ。名前は親の名を引き継ぎその特性から追加した。ただし凶暴すぎるため、センチュリオン・ヘカトンケイルと同じく調教の必要あり。既に何人かの部下が犠牲になっている。制御をどうにかしないと運用は難しいだろう。

 

 

【RT-01】

 正式名称リサ・トレヴァー■■■■■。RT-ウイルス版のタイラントと言っても過言ではない究極の生物兵器だ。始祖ウイルス、ネメシスプロトタイプ、菌根。その三つの特性を全て有した、タイラント以上の生物兵器と言っても過言じゃない。

 最大の特徴として、筋肉断裂や複雑骨折などの反動を無視した圧倒的な身体能力を有し、ネメシスプロトタイプを完全に取り込んだことにより髪の毛が触手状に変異、自在に伸ばして対象を捕らえることが可能。爪や牙なども発達し、鉄すら容易く引き裂く硬度を誇る。異形と化した際に潰れた左目の視力を失った代わりに右目が肥大化して驚異的な視野を有し、長い腕を用いることで獲物を決して逃がさない。

 しかし制御は不可能と断じるしかない。度重なる実験の影響で精神面は凶暴化。暴走の危険性が高く、鎖による拘束も意味をなさず十数名もの部下が犠牲となり、異形と化した己の顔を隠す様に顔の皮を剥ぎ取り繋ぎ合わせてデスマスクにして被っている始末だ。さらに知性も高く、あの複雑怪奇な洋館から脱出を許すところだった。現在は地下室に幽閉している。あの迷路みたいな造りなら脱出もできないだろうが、あまりに惜しい。バーキン博士からは「究極のデキソコナイ」とされてしまったが、必ず制御する方法がある筈だ。■■■■■なら、■■■■■■かもしれないが……。

 

 

 

以降、主な運用方法案が延々と記されている。




過度にならない程度にネタ明かし。こんな奴らがいるんだなと頭の片隅にでも置いておいてください。

RT-01について色々考察されていて感想観るのが楽しいです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:3【RT-01の脅威】

どうも、放仮ごです。もう一人のリサことRT-01大暴れ。楽しんでいただけたら幸いです。


 あれは、ウィリアムと共にアンブレラ幹部養成所に向かっていた時のことだ。アークレイ研究所のウイルス漏洩による壊滅、マスターリーチの出現などにより、S.T.A.R.S.に潜入中にであるにも関わらず駆り出された私と、ラクーンシティの地下に建造されたアンブレラ社の極秘研究所「NEST」の研究員でT-ウイルスとG-ウイルスの研究を進めているにも関わらず駆り出されたウィリアム。以前マーカスを殺害した際にアンブレラ幹部養成所の責任者を引き継いだゆえだろうが、久々の再会だった。

 

 

「そうだアルバート。念のためにこいつを渡しておく」

 

「これは…?」

 

 

 渡されたのは、赤く透明感のある液体が入れられた注射器。受け取ったそれをまじまじと見つめていると、ウィリアムは自慢げに語る。

 

 

「アイザックスがNESTまで持ち逃げしてきたRTの腕から抽出した、純粋な混じりっけなしのRT-ウイルスだ。まだ人体実験こそしてないが、「再生」に特化している。致命傷だろうが恐らく治せるはずだ。君との友情の証として渡しておくよ」

 

「お前の事だ、(てい)よく被験体として観察したいだけじゃないのか?」

 

「ばれたか。まあ実際に致命傷を治せるはずだからお守り代わりに持っておくといい。それを使ったら言ってくれよ。経過観察したい」

 

「そんなことにならないのが一番いいがな。やはりお前は狂ってる。あの環境下で子供を作ったぐらいだからな」

 

「お前こそ、どこぞのミューラーとかいう女との間に子供作ったんだろう?人のことは言えないぞ」

 

「…待て、話してない筈だぞいつ知った」

 

「噂になってたぞ。あの堅物ウェスカーを射止めた女はどんな奴なんだろうって」

 

「誰だか知らんが噂を流した奴許さん……」

 

 

 注射器をポケットに胸ポケットに入れながら、ふと思い出したことを尋ねる。今の己より研究職のウィリアムの方が詳しいだろう事柄だった。

 

 

「そういえば、アークレイ研究所が壊滅したということはRT-01はどうなったんだ?」

 

「ずっと地下に幽閉されているはずだ。アイザックスが直々に作った、通るたびに道が変形稼働する代物だ。出口に近づくことも難しいだろうな。…いや本当にもったいないが。奴が大人しくしていてくれたらどれだけ研究が進むことか」

 

「RTを逃がしたのが痛かったな……いたからと言って大人しくしているかと問われたら否だろうが」

 

 

 そんな会話をした数日後。私は、そのRT-01に致命傷を負わされ……保険のつもりで持っていたそれを使うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はクリス・レッドフィールド。S.T.A.R.S.の隊長ウェスカーの命令でジョセフと共に洋館右側の探索をしていたのだが、ウェスカーとアリサの態度に違和感を感じ、嫌な予感がして戻ってみれば、背中からなにかを生やしたアリサと、その髪を掴んで持ち上げているウェスカーの姿を見て、迷うことなく銃口をウェスカーに向けた。アリサがバケモノだろうが悪人であることはありえない。ありえるとすれば、実績が上のアリサとクイーン、エンリコを差し置いて隊長に就任したこの男だ。

 

 

「私の名はリサ・トレヴァー。帰ってくるのを待っていたわ、マガイモノ」

 

 

 それから一悶着の後に突如現れ、アリサを捕まえていたウェスカーの胸を背後から貫き壁に投げ捨てたのは、醜悪な異形の怪物。前傾姿勢で見下ろして名乗ったリサ・トレヴァーと言う名前に、倒れたままのアリサが過剰に反応する。目を見開き、動悸が激しい。どうしたんだ?

 

 

「リサ・トレヴァー?誰だ?」

 

「ウェスカーが殺され……いったいどういうことなの!?」

 

「…ち、違う!リサ・トレヴァーは私だ!」

 

 

 焦躁のままに頓珍漢なことを言い出したアリサが背中からの触手を使って立ち上がり、拳を振るう。風切り音と共に大気が割れた様にも見える衝撃。あれがアリサの本気なのか、と驚くのもつかの間。リサ・トレヴァーは髪の毛を蛸の触手の様に伸ばしてアリサを拘束、持ち上げて締め上げるとデスマスクから覗かせる赤い目をギョロギョロと動かしてアリサを睨みつける。。アリサが可愛く見えるぐらいのバケモノだ……。

 

 

「マガイモノがおかしなことを言うわね……生意気ね、可愛くない、気に入らないわ。やっぱり殺そうかしら」

 

「アリサを守るぞ、撃て!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 この場で最年長のバリーの号令で、俺、ジル、ジョセフが銃を構えて銃撃。しかしリサ・トレヴァーはアリサの拘束をほどいて自由になると驚異的な脚力で跳躍すると長い腕で手すりに手を駆け宙返り、さらに放たれた弾丸を空中で振り回した手枷の鎖で弾き飛ばすと吹き抜けの二階の通路に降り立ち、右目をギョロギョロと動かして俺達全員に視線を向ける。

 

 

「邪魔…!」

 

「とっておきだ、喰らえ!」

 

 

 瞬間、跳躍して天井に裸足をつけると、凄まじい勢いで俺とジョセフの間に着地。手枷の鎖を振り回して俺達二人を薙ぎ払い、そこにバリーが愛銃であるコルト・アナコンダ……44マグナムを叩き込むも、頭部を撃ち抜かれながらもリサ・トレヴァーは止まらず、突進。

 

 

「っ、ジル!」

 

 

 咄嗟に一番近くにいたジルを背中から触手を伸ばして引き寄せるアリサ。しかしバリーに鎖の一撃を浴びせたリサ・トレヴァーはそのまま標的を二人に変え、右腕を床に叩きつけると亀裂を発生させ、二人はそれに巻き込まれて落ちてしまう。

 

 

「アリサ!ジル!?」

 

「……疲れた。どこにいるの?お母さん……」

 

 

 すると暴れ疲れたのかリサ・トレヴァーは静まり、右の扉を開けて奥のに入って行き姿を消した。追いかけることも考えたが、今は仲間の安否を確認するために亀裂に駆け寄る。

 

 

「アリサ!ジル!無事か!?」

 

「ええ、なんとか無事よ!」

 

「地下道が広がってるみたい!なんとか脱出してみる!」

 

「わかった!俺達は脱出路を探る!」

 

 

 呼びかけると結構遠くから二人の声が聞こえ、無事を確認できて安堵する。…アリサには聞きたいことはあるが、それはあとだな。

 

 

「……ウェスカー。なんでこんなことをしたんだ……」

 

 

 部屋の隅に転がっているウェスカーに視線を向ける。胸部の中心に風穴が開いている。おそらく即死だろう。俺達のリーダーだった男。あの時、アリサとウェスカーどちらを信用するか迷ったが、アリサとクイーンとは配属した時からの仲だ。どうしても疑うことはできなかった。

 

 

「安らかに眠れ」

 

 

 俺とバリー、ジョセフはウェスカーの死体を一瞥してから、バリーにケネスがやられたことを伝えられ確認するべく左の扉から食堂に入って行く。……ウェスカーの手に握られた、空の注射器にはついぞ気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下に落とされた私たち。一緒に落ちたジルから懐疑的な視線を向けられていることに気付いて、あわわわと両手を振り回す。

 

 

「あ、あのね?騙してたわけじゃなくて、いや騙してたんだけど、私はアリサじゃなくてリサ・トレヴァーで、この洋館で実験されていた生物兵器で、クイーンとエヴリンに助けられて、皆と出会って、好きになって、でもウェスカーは私を実験した悪い奴で、あいつはリサ・トレヴァーを名乗ってたけどそれは私の事で……」

 

「アリサ、落ち着いて。私も混乱しているの。噛み砕いて教えてくれる?」

 

「え、あ、うん……」

 

 

 ジルに諭されて、できるかぎり要約して全部伝え(ゲロ)る。ごめんクイーン、全部喋っちゃった…。

 

 

「…クイーンとかエヴリンについては後回しよ。つまりアリサ・オータムスは偽名で、貴方の本当の名前はリサ・トレヴァー。だけどアイツが名乗って混乱してる……こういうことね」

 

「そういうこと、です」

 

「それでここは貴方が掴まって研究されていた研究所が隠された洋館で、アンブレラが所有している。ウェスカーもその一味の一人……私達は騙されていたのね。言ってくれればよかったのに」

 

「…レベッカに二年前にはクイーンがドジして全部話してたんだけど……」

 

「貴方たち新人になに重い物押し付けてるの?」

 

「面目ない……」

 

 

 縮こまるしかない。……これからどうしよう。私ひとりじゃ考えられないよ……。




おや、ウェスカーの様子が……?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:4【ヨーン・エキドナ】

どうも、放仮ごです。ファイルに記された一匹目が登場。クリス視点です。楽しんでいただけたら幸いです。


 ……恐ろしい気配が遠退いていったのを赤外線で確認し、通気管から顔を出す。この洋館に君臨する恐怖の象徴、女帝リサ・トレヴァー。地面で隔てた地下にいるだけでも感じる、本能的な恐怖。知性を得て物を考えることができるようになる以前ならいざ知らず。今の私にとっては恐怖の対象でしかない。しかし、見つからなければ怖くない。

 

 キョロキョロと見渡し、新鮮な餌を探す。お腹がすいた、空腹だ。また奴が現れる前に捕食しなければ。人間がいないと言うのは面倒だ。餌を自分で探すしかない。かつて私を飼育していた男は既に喰らったし、文句は言えないわけだが。

 

 変なぬめってるやつに解放されてからは腐った肉ばかり食べてきたが、そろそろ腐ってない肉を食べたい。そんなことを考えながら廊下を這って移動していると、鼻腔を新鮮な血の匂いがくすぐった。人ならざる口が弧を描く。

 

 

―――――――ミィツケェタァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾンビ犬の群れから避難すべく入ったこの洋館は、とんでもないところだった。映画でしかお目にかけたことがないゾンビがそこらかしこに魍魎跋扈する。そのゾンビに食い殺されたらしいケネスもゾンビと化してしまった。人間の尊厳すら食い殺される地獄の果て、それがこの洋館だ。あの怪物、リサ・トレヴァーだけならまだよかったが、これでは脱出が急務だ。

 剣や鎧を象った鍵やデスマスクなどのアイテムを、先に進みアリサやジル、まだ見ぬブラボーチームの仲間たちと合流すべく、手分け……することなくバリーとジョセフと共に知恵を出し合い集めて行く中で。屋根裏倉庫に差し掛かった時だった。

 

 

「…なんだ?」

 

「どうした?クリス」

 

「…構えろジョセフ。なにかがいるぞ」

 

 

 それの気配を感じてサムライエッジを引き抜いた俺に頷くように、空軍時代からの親友であるバリーがマグナムを引き抜く。弾数が少ないこれを出すときは、バリーが出し惜しみしないときだ。それほどの、得体のしれないなにか。そして、それは俺たちの背後から襲いかかってきた。

 

 

赤頭野郎(クリムゾン・ヘッド)!?」

 

「また、こいつかよ!」

 

 

 背後からバリーに襲いかかってきた、頭を残して一度倒したゾンビが復活した存在であるクリムゾン・ヘッドと呼んでいる赤黒く爪が長く鋭く伸びたゾンビを、ジョセフが手にしたショットガンをぶっぱなして吹き飛ばす。しかし吹き飛ばされただけでびくともしない。ゾンビは頭を完全に破壊するか、灯油をかけて燃やすなりしないと一部の個体がこのクリムゾン・ヘッドになることはわかっている。念入りに処理してきたはずがまだいるとは……いや、俺たち以外にもゾンビを殺してる奴がいると言うことか!?

 

 

「くそっ!…バリー!」

 

「おう!」

 

 

 脚を撃ち、転倒させたところにバリーがマグナムを突きつける。…そこで気付いた。さっき感じた嫌な気配は、こいつじゃない。もっと純粋な、執着の様な……咄嗟に、振り向く。猫に似た縦に長い瞳孔のそれと目が遭った。

 

 

「伏せろ!」

 

「「!」」

 

 

 咄嗟に伏せながら叫んだ俺の言葉に、反射的にしゃがみこんだバリーとジョセフの頭上を、それが弧を描くかの如く飛び越え、その先にいたクリムゾン・ヘッドをまるで欠伸でもするかの様に大きく開けた大口で頭から丸呑みにしてしまう。クリムゾン・ヘッドは手足を振って足掻いていたがそれの腹を突き破ることはなく、力尽きたのかうんともすんとも言わなくなった。それは満足げに唸ると、俺達の足元に落ちた長い身体を蛇行させて蜷局を巻きながらこちらを一瞥する。蛙の様な皮膚を持つ、胴が妙に太い10メートルを超える巨体の蛇だった。

 

 

「巨大な蛇だと…!?」

 

「ゾンビ犬に三つ首犬、メドゥーサ(リサ・トレヴァー)にゾンビの次はでっかい蛇かよ!?」

 

「撃て!」

 

 

 まるで人間の様に首を動かして俺達をジッと観察する巨大蛇に、俺の号令で一斉に弾丸が撃ち込まれる。すると巨大蛇はのた打ち回って痛がり、尻尾を伸ばしてきて薙ぎ払い攻撃。狭い廊下では防ぎきれず、吹き飛ばされた俺はスタングレネードを取り出しながら叫ぶ。

 

 

「こいつは手が存在しない、いったん部屋に逃げ込むぞ!」

 

 

 スタングレネードを床に叩きつけて閃光と弾けるような爆音で怯ませ、俺達は屋根裏倉庫に飛び込み扉を閉める。あの巨体で体当たりされようがそう簡単に蝶番は破壊できないだろう。一息つける、はずだった。

 

 

「ぐああああああっ!?」

 

「ジョセフ!?」

 

 

 ジョセフの悲鳴に振り返ると、そこにはさっきまで外にいたはずの巨大蛇が、天井の通気口から顔を出してジョセフの腕に牙を突き立てていた。閃光にやられたはずの瞳まっすぐこちらを見てまばたきしていた。まさか、目を閉じて閃光を防ぐ程度の知能があるのか…!?しかも隙が大きい丸呑みにするのではなく、その苦しみ様から恐らく毒に侵されているジョセフから狙い、こちらを嘲笑っているかの様に嘲笑を浮かべている。

 

 

「仲間をよくも!」

 

 

 怒りに燃えたバリーがマグナム弾を叩き込む。通気口から胴体の半分を出していただけの巨大蛇は器用に身体をくねらせて回避するという芸当を見せるが、そこに俺が飛び込んでダガーナイフで胴体を突き刺し無理やり頭部の位置を固定する。

 

 

「バリー!」

 

「喰らえ!」

 

 

 そこにバリーが突進して来て顎に銃口を突きつけると接射。脳幹を撃ち抜かれた巨大蛇はのたうち、その巨体を通気口から力なくだらんと崩れ落として蜷局を撒く様に床に落ちる。俺とバリーは慌ててジョセフに駆け寄った。

 

 

「大丈夫か、ジョセフ!しっかりしろ!」

 

「はあ、はあ……苦しい……」

 

「血清がいるぞ、クリス。あんな蛇がいるんだ、どこかにあるはずだ!」

 

「医務室か薬品倉庫を探そう!」

 

 

 奥にあったデスマスクを手に取りながらジョセフに肩を貸し、バリーの先導で屋根裏倉庫を後にしようとする俺達。その後ろで、べチャッと粘つく音が聞こえて、背後を見ていたバリーが絶句したのを見て、思わず振り返り……俺も絶句した。

 

 

 巨大蛇の口から、蛙の様な皮膚の人と同じ形をした右手が、牙を取っ手の様にして、飛び出していたのだ。驚いている間に左手も飛び出てきて、上顎を持ち上げ、牙を取っ手に引き延ばす様に下顎を押して口を広げながら、それが這い出てくる。それはまるで脱皮の様だったが、あまりに異質だった。

 

 

「よいしょ、よいしょ……」

 

 

 シュウシュウと蛇の鳴き声を上げながら、女の声と共に巨大蛇の口から顔を出したのは、湿り気のある巨大蛇と同じ斑模様の髪の毛と蛇の瞳と牙を持つ、何故かアリサとよく似た顔の女。そのまま鱗に覆われた人の上半身、そして少なくとも8メートルはある長い蛇の下半身を引き摺り出して、抜け殻となった大蛇を蜷局を撒いた下半身で押し潰しながら、それは伸びをする。

 

 

「いい気持ち…!アア、喋れる!知能がありながら発声器官の無い事のもどかしさと言ったら!ヨーン・エキドナ…だったかしら?まあなんでもいいわ!逃がさない、新鮮な餌共!」

 

 

 人の言葉で喋ったヨーン・エキドナと名乗った蛇女が長い舌を出して威嚇する。バリーが構えたマグナムが、拘束で蛇行し近づいてきたヨーン・エキドナの右手にぶんどられ、とんでもない怪力で握りつぶされ投げ捨てられる。

 

 

「こんな危ないものはポイよ。痛かったんだから!」

 

「クソッ、逃げるぞバリー!」

 

 

 尊敬する先輩とよく似ているので躊躇したが、ジョセフが危険なため意を決してその顔を殴りつけ、バリーに呼びかけ外に出て扉を閉める。しかしすぐに扉を開けて、素早い動きでヨーン・エキドナは迫ってきたかと思えば、咄嗟に屈んだ俺達を飛び越えて前に立ちはだかろうとしていたゾンビを、その小さな口を大きく開けて丸呑みにしてしまう。くそっ、なんなんだここは!?




ヨーンにRT-ウイルスを打ちこんだことで生まれ、大ダメージから再生したことで完全に変態したヨーン・エキドナ降臨。さすがに元ネタみたいに母体能力はないですがとんでも可動域の大口と、怪力、赤外線による探知能力を持ってます。リサ・トレヴァーが苦手らしい。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:5【ブラックタイガー】

どうも、放仮ごです。今回は地下に落ちたアリサside。アイザックス製地下迷宮(オリジナルエリア)が明らかに。楽しんでいただけたら幸いです。


 ライトを点けて地下の通路を当てもなく歩く。ここは私が監禁されていた鉄の牢獄みたいな場所とは違うみたいだ。全体的に近未来で、触れたら高圧電流が流れる壁が迷路の様に続いている。落ちてきた穴を伝って上に登ろうと私が最初に触ったからよかったけど、ジルが触れていたらと思うと恐ろしい。焦げて裂傷ができた右腕がまだ再生しきってないもん。

 

 

「本当に大丈夫なの?アリサ」

 

「大丈夫大丈夫、慣れてるから!10年ぶりだけど!」

 

 

 電流を喰らうのは本当に久しぶりだ。クイーンたちに助けられるまでは日常茶飯事だった。どこまで再生できるのか、どうやったら死ぬのかと言う耐久実験。電気椅子に縛り付けられて10万ボルトの電流を流されるわ、焼き鏝を押し付けられるわ、レンチで殴られるわ、酷い時は布を被せられて水を浴びせられて窒息しかけたこともあった。今思えばただの拷問だなこれ。すごく痛いけどジルの前で情けない姿は見せられない。

 

 

「慣れてるのもどうかと思うわ……本当にどうしようもない酷い連中なのねアンブレラは。何のための通路なのよ」

 

「…多分、アイツ用だ」

 

 

 リサ・トレヴァーを名乗った、かつての…というより異形の時の私とよく似た風貌、されど邪悪でしかない容貌の化け物。ギリシャ神話の怪物、メデューサと呼んでも差し支えない見た目をしていた。私をマガイモノと呼んでいるから自分が本物のつもりなんだろうが……マガイモノと呼ばれると、急激に言いようもない不安に襲われた。あの言葉を言われると何よりも先に否定の感情が出て、他に何も考えられなくなる。クリスたちがいたから助かったけど、あのまま捕まっていたらどうなっていたことか…。

 

 

「アイツって……リサ・トレヴァー?あ、ごめんなさい、でも呼び名がないと不便だから…」

 

「…とりあえずそれでいいや。アイツが私と同じなら、痛みには弱いはずなんだ。刺す、斬るとかの傷ならすぐ治るんだけど、打撲とか火傷とかじんわりと来るダメージはすぐ再生できないんだ。だから、これはアイツを閉じ込めて逃がさないための仕掛けなんだと思う」

 

「…この、床の隠しスイッチもそのためのものね」

 

 

 そう言いながら、もう何度目かになる床にうっすら見える隠しスイッチを押して、前後の通路が音を立てて変形するのを眺める。まっすぐの通路が、あっという間にL字の通路になった。

 

 

「多分、法則性はある。あいつはそれを見破って、出口から出てきたはずなんだ」

 

「でもそれを見破っている時間はないわね。配電盤でも見つけられれば電気を止めてさっきの穴から出られると思うのだけど……」

 

「あ、無線でクリスたちに連絡してみる?地上にある可能性もあるし」

 

「それはいい考えね。じゃあさっそく…クリス、クリス!聞こえる!?」

 

《「ジルか!?」》

 

 

 ジルの無線機から聞こえてきたのは、切羽詰まったクリスの声。同時に聞こえる破砕音。何かと戦っているらしい。まさか!?

 

 

「どうしたの!?まさか、リサ・トレヴァー!?」

 

《「いや、ヨーン・エキドナを名乗る蛇女に襲われている!この洋館はこんな怪物の巣窟なのか!?クソッ!ジョセフが毒にやられた!レベッカもいないし、血清がいる!奴の追跡から逃れながら、血清を探しているところだ!そっちは大丈夫なのか!?」》

 

「ジョセフが!?そんな、そっちこそ大丈夫なの!?」

 

「こっちもちょっと脱出に手間取っていて、配電盤を見つけてほしかったけどこっちはこっちでなんとかするわ!そっちはジョセフに集中して!」

 

《「わかった!落ち着いたら連絡する!死ぬなよ!」》

 

 

 あっちも相当ヤバいらしい。ヨーン・エキドナって何?欠伸する蝮の女…?エキドナってあれだよね、ケルベロスとか生んだギリシャ神話の女神。…あの三つ首犬とかそいつが生んだってこと???

 

 

「アリサ、なんか信じられないものを目にした猫みたいになってるわよ貴女」

 

「いやちょっと理解が追い付かなくて…?」

 

「それにしてもどうしようかしら。配電盤が地下にあるって確証もないし……」

 

「エヴリンがいたら調べてもらえるんだけどなあ…あ、でも電気は苦手だったっけ」

 

「壁を擦り抜けられるんだっけ。それは便利ね。…っ!?」

 

 

 次の瞬間、私達はなにもしてないのに、目の前の通路が動き出した。ゴゴゴゴッと音を立てながらスライドし、出てきたものに絶句する。黒く染まった体毛の、私達二人が壁に触れずにギリギリ通れるぐらいの広さの通路を占領するぐらい大きな巨体の蜘蛛だった。その奥には、通路に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣が、電流が流れてバチバチと光っていた。

 

 

「でかい蜘蛛…!?」

 

「ジルに手は出させない!って、あれ?」

 

 

 どうやら床のスイッチを偶然起動したらしいそれは、こちらに気付くと跳躍、天井に張り付いて電流蜘蛛の巣の向こう側に移動。口から毒液を吐いて攻撃してきた。咄嗟にサムライエッジを引き抜いて弾丸を放つジル。しかしそれは、電流蜘蛛の巣に当たって高圧電流が流れてバチンと弾かれる。ならばと私がナイフを手に突撃して蜘蛛の巣を斬ろうとするも、口から糸を放出して私の右腕を拘束、引っ張って電流蜘蛛の巣に激突して感電する。

 

 

「あばばばばばっ!?」

 

「アリサ!?」

 

 

 ジルがナイフを投げつけて糸を切断して解放してくれて背中から倒れる。なんか髪の毛が焦げてる音がする。し、死ぬかと思った……。

 

 

「なんてやつ……!」

 

「もう一回スイッチを起動して移動させるわ!」

 

「それだ!さすがジル!」

 

 

 ジルに言われて、這い這いで近づき床のスイッチを殴りつける。するとまた通路がスライドしていき道が変わる。これで一安心、そう思ったが甘かった。

 

 

「キシャアアアアッ!」

 

「っ、嘘!?」

 

「逃げるわよ、アリサ!」

 

 

 壁が融解する毒液を撒き散らしながら壁を突き破ってきた巨大蜘蛛。咄嗟に拳を振り抜くも、毒液を撒き散らして防がれ私の右手がドロドロと溶け落ちてしまった。焼けるような形容しがたい痛みが襲いかかってくる。

 

 

「にゃああああ!?感じたことない痛みぃいいいい!?」

 

「いきなり腕千切らないでくれる!?」

 

 

 このままじゃ全身溶けてしまいそうだったので、右腕を肘下から千切り取って新しい腕を生やして最悪の事態を回避する。そして私は左手で持った溶けて行く自分の右腕と、巨大蜘蛛を見比べて、にやりと笑みを浮かべた。

 

 

「これでも喰らえー!」

 

「キシャァアアアアッ!?」

 

「うわあ」

 

 

 ドロドロと溶けて行く私の右腕を顔面に叩きつけると、巨大蜘蛛は悲鳴を上げて後退。壁にお尻がくっ付いて感電、黒い体がさらに黒こげになって崩れ落ちる。毒液とか蜘蛛の糸とかで回避してただけで普通に電気は効くのか。

 

 

「倒した…かな?」

 

「多分…!?アリサ、逃げるわよ!」

 

「なに、どうした……の!?」

 

 

 すると巨大蜘蛛の死骸から20センチぐらいの子蜘蛛の群れが大量に出現。私達は慌てて、壁に触れない様に逃げ出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皿の上のごちそうが避けるんじゃないわよ!…今の語彙あってる?」

 

 

 モグモグとゾンビを丸呑みして口を動かして味わったのか舌なめずりしながらヨーン・エキドナがキレる。奴が飛びかかり、俺達が避けてその先にいるゾンビが丸呑みにされる。さっきからこれの繰り返しだ。途中ジルからの連絡が来たが、それでもかまわず突撃を繰り返してくるのは勘弁してほしい。

 

 

「答えなさいよ!餌の分際で!」

 

「俺達は餌じゃないぞ!」

 

「アイツ以外の生物は等しく私の餌なのよ!」

 

 

 そう言って、飛びかかるのはやめて踊るようにして、長い尻尾の下半身を鞭の様に振るってくるヨーン・エキドナ。咄嗟に避けた先の壁が大きく抉られて向こうの部屋が見えた。しめた。

 

 

「バリー、俺が囮になる!お前はジョセフを連れて血清を探せ!」

 

「なに?大丈夫なのか?」

 

「なんとかする。ジョセフを頼む!おい、こっちだ突進ばかりの低能蛇野郎!」

 

「お前から、喰う!」

 

 

 壁の穴から部屋に飛び込みつつ挑発してやるとバリーたちには目もくれず蛇行して追いかけてくるヨーン・エキドナ。やってやる!




地下繋がりで登場、ブラックタイガー。特に強化はされてないけど生息域が変わっているため電流蜘蛛の巣と言う能力を引っ提げて登場です。

そして単独でヨーン・エキドナに挑むクリス。苦戦必至です。

次回、ついにアイツが…?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:6【復活、蠍の女神】

どうも、放仮ごです。もう読者のみんな忘れてしまったんじゃないかなって思っているあのキャラがついに復活です。楽しんでいただけたら幸いです。


 ――――目を覚ます。横たわらせてベッドに寝かされていた状態から、起き上がって己の人間の腕と異形の腕を視界に納める。確か私は、ラクーンシティの郊外でウェスカー博士を待っていたところにいきなり襲撃してきた完全武装した男に銃で怯まされたところを背後に回りこまれて……首を、折られて……なんで、生きている?

 

 

「目が覚めたか」

 

「お前は…!?」

 

 

 扉を開けて入ってきたのは、完全武装した男だった。咄嗟に伸ばした尻尾を手にしたナイフで斬り弾き、一瞬で距離を詰めて眼前に突きつけられる。殺される、そう思ったが、ナイフは引っ込まれる。男は手持無沙汰にナイフを弄んでいる。

 

 

「なんのつもり…!」

 

「上層部の命令でな。お前に恩を売って生かせとのことだ。アルバート・ウェスカーから依頼されたのはお前の始末だが……俺は金払いがいい方につく。運がよかったな」

 

「なんですって……?ウェスカー博士も、私を………」

 

 

 伝えられた言葉に、思わず呆ける。また、涙が溢れる。私は、生みの親二人から捨てられたのか……。

 

 

「……お前は戦士に向いてないな。行け、どこへなりとも」

 

 

 そう言って扉をナイフで促す男。涙を流したまま首をかしげる私に、男は続きを述べる。

 

 

「俺が受けた命令はお前を生かせ、だ。その命令は折った首を元の位置に戻して再生を待つことで達成した。そのあとの事は知らん。上層部に恩を感じるかどうかはお前次第だ。装備は外の部屋にある。もし恩に報いたいというのなら俺についてこい」

 

「っ…!」

 

 

 上層部、つまりアンブレラ。もう利用されたくないと、感情のままに布団を手に取り異形の半身を隠しながら扉に手をかけて、振り返る。

 

 

「…あなたの名前は?」

 

「名乗る名などない、がこう呼ばれている…“死神”ハンクと」

 

「…ありがとう、ハンク」

 

「やはり、お前は戦士に向いてないな」

 

 

 そうして、私は外の部屋で装備を整えてから、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルズルズル!と巨大で長大な下半身を引き摺って蛇行しながら、グシャアバキィ!と次から次へと部屋を彩る調度品が粉々に砕け散っていく音が響き渡る。机や棚、電気スタンドなんかを盾にしてなんとか逃れようとする俺を、ヨーン・エキドナが次々と拳を振るって破壊していく音だった。アリサと似たような容姿の細腕からは考えられない怪力だ。……いや、アリサも馬鹿力だったかそう言えば。

 

 

「腕があるって楽しいわねえ!餌を簡単に追い詰められる!移動にも便利!」

 

「嘘だろ…!?」

 

 

 なんとか外に出た俺を追いかけて、扉を粉々に尻尾で粉砕したヨーン・エキドナが、ドア枠に両手を駆けて腕のバネを引き絞りパチンコの如く超加速して突っ込んでくるのを、咄嗟に横の扉を蹴破って転がり込むことで回避する。

 

 

「ヴァァアア…」

 

「またか!?」

 

 

 しかし扉を潜った瞬間、中にいたゾンビが襲いかかって来て、咄嗟に掴みかかってきた腕を受け止めてまるでダンスでも踊っているかのように場所を入れ替え、机の下に隠れる。瞬間、扉を開けて入ってきたヨーン・エキドナの大きく開けた口に頭から丸呑みにされてしまうゾンビ。

 

 

「やった!やったわ!…もぐもぐ、…あれ、でもそんなに死体と味が変わらないわね……期待外れだわ」

 

 

 どうやら俺を食べたと勘違いしているらしい。目はそんなによくないのだろうか。ゴクリ、と音を立てて胴体に飲み込まれていくゾンビ。筋肉の動きだけで胴体内を移動させて飲み込んでいる、とんでもない筋力だ。しかも次から次へと喰らっているところから見ても強力な消化器官を有していると見れる。飲み込まれたら終わりだ。すると顔を青くしたかと思えば口元を押さえるヨーン・エキドナ。

 

 

「…うぷっ、さすがに食べ過ぎたわ……ヴェエ!」

 

 

 胴体を膨らませ、こみ上げる様にしてその場に吐き出して撒き散らしたのは、とんでもない数の人骨。俺の身体が埋もれて思わず悲鳴を上げかけるも何とか口を押さえて息をひそめる。なんて数だ……目の前で食われたゾンビの数を優に超えている。少なくとも10人以上の人骨がそこにあった。見覚えのある装飾品が腕の骨にくっ付いている。ケネス、ゾンビと化した仲間のものだった。…俺達が逃げ出した後で、こいつに食われたのか……。ケネス、仇は絶対取るぞ……!

 

 

「ふへぇ……あー、すっきりした。骨は溶けなくてやーね」

 

 

 そんなことをぼやきながらヨーン・エキドナは顎をポリポリと掻き、振り返って尻尾も翻してビタンビタンと床に打ちつけながら出て行こうとする。今がチャンスか…?背後から襲いかかってナイフで首を掻っ切れば勝機はある…!

 

 

「逃げた二人を追いかけるか……なんて、見逃すとでも思った?」

 

 

 瞬間、隠れていた机が尻尾で薙ぎ払われて、柔らかい関節を捻って海老反りの逆さまの体勢となったヨーン・エキドナと目が遭う。慌てて逃げ出そうとするが、いつの間にか横に来ていた尻尾を脚に巻きつけられてしまい転倒してしまった。そのまま肩まで巻き付かれてヨーン・エキドナの目の前に持ち上げられる。

 

 

「くそっ、なんでだ…騙されたんじゃなかったのか!?」

 

「私を馬鹿にしているの?確かに最初はお前を食べたと思ったけど、私にはピット器官ってのがあるらしいのよね。私を育ててた研究者が自慢げに語っていたわ。私、目がぼんやりとしか捉えてなくてまるで役に立たないんだけど、このピット器官のおかげで例え目を覆われても獲物を追跡して捕食できるの。すぐに隠れているのが分かったわ。油断させて確実に捕らえるためにお芝居したの。どう?ちゃんとできてた?」

 

「くそっ、くそおおおおおっ!」

 

 

 さっきと同じように上手くできていたか問いかけてくるヨーン・エキドナに、騙された悔しさから咆哮を上げると、首を掴まれて尻尾の拘束を外され、蛇の胴体を持ち上げて天井近くまで高く吊り下げられる。苦しい、もし脱出できても大ダメージ必至だ。

 

 

「答えなさいよ、つまらない餌ね。まあいいわ、ごちそうであることに変わりないもの」

 

 

 ヨーン・エキドナは肩を竦めると、満足げな顔で口を大きく開いて足から味わうようにして飲み込んでいく。ぬるぬるとした感触と共に、ズルズルと滑り台でも滑るかの如き勢いで落ちて行く。ジル、君との約束は守れなさそうだ………頭まで飲み込まれるその瞬間、ケネスの装飾品が視界に入った。

 

 

「っ……お前にだけは、殺されてたまるかあ!」

 

「むぐうっ!?」

 

 

 最後の力を振り絞る。咄嗟にヨーン・エキドナの下顎の牙を掴んで、飲み込まれるのを防ぐ。喉元に俺が引っ掛かり下顎まで牙を取っ手にされてしまったヨーン・エキドナが悶え苦しみ、壁にぶつかる衝撃が伝わる。

 

 

「大人しく、飲まれなさいよお!」

 

 

 力づくで俺の手を外そうとしているのか、廊下に飛び出て何度も何度も自身の身体を壁に打ち付けるヨーン・エキドナ。喉を通して開いたままの口から見える視界がジェットコースターの如く目まぐるしく移動する。酔ってきた、吐きそう。しかもぬるぬるしているからドンドン手が滑ってきている。万事休すか……そう、諦めかけたその時。

 

 

「邪魔よ」

 

「げはあ!?」

 

 

 とてつもない衝撃と共に、視界が宙を舞う。ヨーン・エキドナが何かに吹き飛ばされたのだ。頭部に一撃もらったのかその勢いのままに俺は吐き出され、よだれまみれで誰かの足元に転がり、そしてその足が異形のものであると気付いて思わず顔を上げる。

 

 

「あなた、S.T.A.R.S.のクリス・レッドフィールド?単刀直入に聞くわ……アルバート・ウェスカーは何処?」

 

 

 そこにいたのは、やはりアリサとよく似ているなれど蠍の特徴を持つ異形の右半身を持つ女だった。




強敵にも程があるヨーン・エキドナ。蛇って普通に強い生物ですよねって。手足が無いのに食物連鎖の結構上にいる事実がヤバい。

そして死神ハンクの助けで生きていたセルケト、大復活。蠍と蛇が激突です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:6.5【致命的に食い違う歯車】

どうも、放仮ごです。今日は朝から夜までずっと用事で手が付けられなかったため、事前に書いて何時投下しようか迷ってた爆弾を投下することにします。

地味に、なんでこれまであんなに困難が生まれていたのかも説明します。短いです。あとここまで来てる人なら大丈夫だと思うけど、苦手な人は苦手なジャンルだと思うので一応注意。楽しんでいただけたら幸いです。


 エヴリン。その存在のありとあらゆる可能性のままに増え続ける平行世界。バッドエンドからハッピーエンドまで、多種多様で、複数のエヴリンが一つの世界に集まることもあった。そのすべてに共通する出来事がある。【自浄作用】または【修正力】である。エヴリンと言う「悪役」が消えた代わりに、代償として難易度が跳ね上がる、代わりの「悪役」が生まれる、同じ敵でも別の形態になる、など物語を成立させるためにさまざま存在する。

 

 特に強い自浄作用は黒き神(ゼウ・ヌーグル)だろうか。「本筋」という大きな流れだったからこそあそこまで強い存在が生まれ、バッドエンドすら複数生まれたのがいい例だ。それはエヴリンにとどまらず、クイーンやアリサなど、本来悪役として倒される存在がそうならなかったために代わりの者が生まれる。マスターリーチやRT-01がこれに当たる。しかしこの世界は狂いすぎた。本来見つからぬ未知のウイルスの存在と、それから生まれる強力なクリーチャーたち。ぶっちゃけエヴリンはまるで関係ないし責任もないのだが、一人の男のちょっとした考えの改め方から生まれた歪みが大きくなりすぎた。歪みは多少増えようが歯車の動きは止まることはないが、歪み過ぎると致命的に食い違ってしまう。

 

 これはその修正不可能な致命的な歪みから生まれた、怪物が誕生した時の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦しい。痛い。熱い。神経を千切られ、皮をむしられ、肉と骨をすりつぶされて、こねくり回され繋ぎ合わされて全く別の何かに変えられているような、激痛と高熱に侵されて悶え苦しむこと一時間以上。突然苦痛から解放されて、俯せの状態で手を伸ばして床につけ、起き上がる。

 

 

「生きて、いる……!?」

 

 

 聞き慣れない甲高い声が響いて、咄嗟に喉元を押さえると同時に、視界を何かが隠した。金色の毛?髪でも伸びたか…?触れてみると、サラサラと絹のような手触りで指の間を擦り抜け、自然と視線が恐らくRT-01に穿たれた胸元に寄せられた。

 

 

「…なに?」

 

 

 風穴が開いていた胸元に傷は一切見られなかったが、圧倒的な違和感が拭えない。サイズがぴったりだったはずの制服はぶかぶかで、まじまじと見つめた指も陶磁のように白く細くしなやかだ。傍に転がっている愛用のサングラスを拾い上げて、黒いレンズに映る己の姿を見て確信する。髪の色や目などの細部は違えど、アリサ・オータムスと酷似した顔がそこにあった。

 

 

「そうか、そうか……今際の際に打ったRT-ウイルスに適合したか!」

 

 

 ああ、ウィリアム。たしかRT-ウイルスは相性があったな……「再生」「適応」に特化しており爬虫類や蟲の類に特に適合する。脱皮などの肉体を急激に作りかえる特性を持たない人間への人体実験を避けていた…と。だがこの身はどうだ。苦痛が伴う過程こそあったが、適合して見せたぞ!リサ・トレヴァーの細胞の強靭さをこの身で思い知った、いい気分だ!

 

 

「……ははは、はははははっ!アリサ・オータムス!お前の身柄はもはや必要ない!」

 

 

 笑いながら立ち上がる。慣れない身体に体幹が崩れて転びかけるが、見た目とかけ離れた並外れた筋力で支えてバランスを整え、前髪を撫で上げて髪型を整えると改めてサングラスをかけ直し、不敵な笑みがこぼれる。この身体ならば既に必要はないが手土産だ、RT-01やこの洋館に解放されたB.O.W.の手でS.T.A.R.S.が壊滅する様を記録してからお暇するとしよう。

 

 

 

 

 

 本来存在しないRT-ウイルスと、全てのウイルスに適合するチートとも言える遺伝子がベストマッチ、悪魔はより強力な存在として再臨した。




そのアイテムですぐ誰かわかるのは小説的に致命的だと思うけど感想でバレバレだったからまあいいや。

※見た目は金髪オールバックサングラスの長身アリサ。人間に使うとこうなるわけじゃなく、息子にも遺伝してるチートな遺伝子のせいです。普通の人間に使うとどうなるんですかね?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:7【元祖傑作ここにあり】

どうも、放仮ごです。セールされていたのでSwitch版のバイオ6をダウンロードしました。PS3がぶっ壊れて以降できなかったから凄い助かる。最初から日本語版なのもいいね。

今回はセルケト視点。VSヨーン・エキドナです。楽しんでいただけたら幸いです。


 ハンクの存在で命を拾った私の中にふつふつと湧き上がってきたのは、膨れ上がるかのような怒り。絶望に隠れて表に出てくることはなかった、創造者二人への怒りだ。ネメシスプロトタイプである程度制御されていた思考が憤怒で染まる。

 

 

―――私は結局「傑作」などではなくその程度の存在なのか

 

 

――――なら何故私を生み出したのか、私に心を持たせた

 

 

―――――こんなにも信愛を捧げた私をなぜ裏切ったんだ

 

 

 布団だった襤褸切れで首から下の右半身……赤みを帯びた黒い甲殻に覆われ、右腕と右足は鋏になっていて、臀部からは背骨と繋がっている蠍の尾が伸びている、以前は特性の鋼鉄コートで覆っていた部位を隠して、奇異のものに向ける視線を一身に受けながらラクーンシティをさ迷い歩く。警官が来て不審者としてウェスカーのいるR.P.D.に連れて行ってもらえば御の字。そうでなくともこのままNESTを目指してウィリアムの元に向かい……向かい、私はどうするのだろう。

 

 

「…まずは聞きましょう。それからでも遅くはない」

 

「よう、別嬪さん。R.P.D.のケビン・ライマンだ。通報があってな?連行させてもらうぞ」

 

 

 意気込んでいたところに近づいてきた警官に、両手を上げて降参の意を示し、私はR.P.D.に連行され……アルバート・ウェスカーが隊長をしているS.T.A.R.S.がラクーンフォレストの事件を調べに行ったと聞いて、窓を突き破って脱走。夜の闇の中を身体能力による跳躍と尻尾を用いて人目も気にせず宙を舞う。目指すはアークレイ研究所、ラクーンフォレストの洋館だ。プロトタイラントにやられた私をただ治療せず廃棄しただけのウィリアム・バーキンよりも許せないのは、私を殺そうと依頼し直接手を下そうともしなかったアルバート・ウェスカーだ…!

 

 

「アルバート・ウェスカー…!ウィリアム・バーキン…!首を洗って待っていなさい、そのそっ首掻き切ってやる!」

 

 

 例え再び手を差し伸べられても、私の憤怒は途切れることはない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…セルケトがラクーンシティで目撃されただと?」

 

 

 NESTに帰ってくるなり、右腕である男からとんでもない報告を受けて固まるウィリアム。つい先刻、友から始末したと伝えられていた厄ネタの生存報告に、ピキピキと青筋が浮かぶ。

 

 

「…あのグラサン馬鹿……!始末したというならちゃんと自分で確認してから言え…!ハンクがしくじったのか?…いや、あの男は仕事は必ず完遂する。つまりは……上層部、それもかなり上……総帥、スペンサー卿が動いた可能性があるな。どうするのが正解だ…?迂闊に処分することもできないぞ……だが放っておいてもシェリーが危ない……くそっ、こういうときに限ってアリサ・オータムスとクイーン・サマーズがいないとは!」

 

「如何いたします?私としてはRT-ウイルス被験体第二号であるセルケトは確保しておきたいですが…」

 

 

 物腰の低い30代ぐらいの白衣を着た金髪を撫でつけた様な髪型の男がウィリアムにそう進言する。この男こそサミュエル・アイザックス。アークレイ研究所の主任研究員にしてウィリアムの右腕であり、RT-ウイルス研究の第一人者だ。

 

 

「いいや、奴は私を恨んでいる。つまりシェリーの身も危ない。早急に排除しなければならん。奴の血液と遺伝子データのサンプルは残してあるから殺しても問題ないと上層部には言い訳するとしよう」

 

「そうですか…残念です。G-ウイルスの苗床でもあった肉体は興味深かったのですがね。…報告によれば郊外に向かってラクーンシティの街中を跳び回っていた様です。行く先は…ラクーンフォレストでしょうか」

 

 

 肩を竦めながらも口答えはせずに報告を告げる一番の部下に、ウィリアムは満足げに頷きながら思考を巡らせる。すると視界に、培養液の中に浮かんだ人型が目に入る。それは、NESTまで逃げてきたアイザックスと協力して、G-ウイルスを利用し生み出した新たな生物兵器だった。

 

 

「…苗床と言えば、だ。…ソレは動かせるか?」

 

「まだ生み出してからひと月もたっていませんが、肉体年齢は規定値を越えました。ヨーロッパ支部から届いた完成型NE-αを装着しさえすれば何時でも動かせます」

 

「…G-ウイルスの性能確認にもちょうどいい。こいつとヘリで輸送して洋館まで運べ。ゾンビとB.O.W.を殲滅し我らの支配下に取り戻す。そのついでにセルケトもやってくれたら御の字だ」

 

「了解しました」

 

「それで?名は、どうする?」

 

「――――ギルタブリル。Gに冠する、彼女の後継機につける名はこれしかないでしょう」

 

 

 アイザックスが部下に言って準備を進める中で、ウィリアムは両手を掲げて目の前の全身装甲に包まれていて顔も見えない己が作品に、両手を掲げて笑みを浮かべる。

 

 

「そうか。素晴らしい…ギルタブリル。お前の出番が来たぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてラクーンフォレストを駆け抜けて、知識だけ知っていたケルベロスやサーベラスを蹴散らしながら突入した洋館。邪魔する動く死体をぶち抜き、引き裂き、両断しながら廊下を進んでいると通せんぼする様に暴れる私とよく似た顔の下半身が大蛇の女がいて。邪魔だったので鋏を閉じた右足で後頭部を蹴り飛ばすと、丸呑みされていたのか男が吐き出されて足元まで転がってきた。見下ろしてみると見覚えがある顔だったので問いかけてみることにした。

 

 

「あなた、S.T.A.R.S.のクリス・レッドフィールド?単刀直入に聞くわ……アルバート・ウェスカーは何処?」

 

「ウェスカー?……あいつなら、死んだ」

 

「は?」

 

 

 すると返ってきたのは信じられない言葉で。思わず威圧するとクリス・レッドフィールドは気まずそうに人差し指を向けた。それは洋館の正面入り口。私が入ってきたテラスとは反対方向だ。

 

 

「ウェスカーはリサ・トレヴァーと名乗ってた怪物に胸をぶち抜かれて死んだ。エントランスホールに死体があるはずだ」

 

「…いいわ、案内しなさい。嘘だったらお前を殺すわ」

 

「待ちなさいよ……そいつは私の獲物よ!」

 

 

 瞬間、立ち直って高速で蛇行してきた蛇女が振りかぶった右ストレートを凄まじい勢いで叩き込んできたが、尻尾を動かして腕に巻き付かせ受け止める。蛇女は腕を引き抜こうとうんうん唸っているがビクともしない。

 

 

「ヨーン・エキドナ…!」

 

「それがコイツの名前?大したことないわね」

 

「なんで、なんでよ!?ビクともしないなんておかしいでしょ!?」

 

 

 涙目で泣き喚くヨーン・エキドナ。当たり前だ。その巨体を自在に蛇行させるぐらいだから結構な筋力を有しているのだろうが、こちらは常人の30倍にもなる筋繊維密度による超人的身体能力を有しているのだ。そんな私から逃れられるわけがない。

 

 

「このお!」

 

「効かないわよそんなもの」

 

 

 驚異的な柔らかさで首を動かして、如何にも毒がある牙で右肩に噛み付いてくるヨーン・エキドナだったが、右半身のみとはいえマグナム等の高威力の銃弾すら通じない強固な装甲に弾かれる。明らかに柔らかい左を狙えばよかったのに、そんなに頭は良く無さそうね。

 

 

「私の鋏で斬れないなんて頑丈じゃない、褒めてあげるわ」

 

 

 お返しに鱗で覆われた首を右腕の鋏で挟んで切断しようとするも、斬れなかったので諦めて挟み込んだ首を締め上げる。この鋏は手足共に鋼鉄すら容易く切断するのが自慢だったのだが、しょうがない。ヨーン・エキドナの腕から尻尾を放し、勢いよく後方に伸ばす。

 

 

「あッ、ぎいいいいいいいいいいいっ!?」

 

「元祖傑作をなめるな」

 

 

 そして勢いよく戻した尻尾をその腹部に叩き込み、鋏を放して腹部に大穴を開けて廊下の彼方まで吹き飛ばした。伸縮自在でありレンガの壁をぶち抜く威力を誇る自在に動く尻尾の一撃だ。むしろ貫通しないとは見下げ果てた頑丈さである。

 

 

「さあ、貴方もああなりたくなかったらウェスカーの所に案内しなさいクリス・レッドフィールド」

 

「あ、ああ………」

 

 

 呆けていたクリス・レッドフィールドを尻尾を動かして無理やり立たせて廊下を歩かせる。…なんだろう、人の顔をじろじろ見て。そんなに珍しいのだろうか。




戦闘能力だけなら作中トップクラスなんですよねこの蠍。

ついに本人登場、サミュエル・アイザックス。見た目は実写版の彼を若くしたような。ウイリアムと共に「ギリタブリル」なるG-ウイルスの生物兵器を作った模様。こいつ本当にろくなことしないな。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:8【共闘戦線】

どうも、放仮ごです。Switch版バイオ6レオン編クリアしました。ボス戦は知り尽くしているので簡単だけど何よりも雑魚が強すぎて何度も死にました。悔しい。そういや蠍ここにもいたなとなったけどもう少しスコーピオン形態に出番を上げてほしかった。

今回はウェスカー不在のセルケトの話。楽しんでいただけたら幸いです。


 来た道を引き返し、廊下を歩く。相変わらず立ちはだかるゾンビは、出てきた瞬間右の腕と足を振るい、尻尾を自在に動かす蠍女に首を刎ねられ倒れて行く。…恩人(?)を蠍女と呼ぶのもなんか嫌だな。

 

 

「案内するのはいいが……お前、名前は?」

 

「試作B.O.W.type-y139スティンガー改。…コードネームはセルケト。そう呼びなさい」

 

 

 その口から紡がれたのは、まるで商品名の様な単語の羅列。さらには試作という言葉にB.O.W.という略語、呼び名を短絡するコードネーム。…それは空軍にいた時に慣れ親しんだ、戦闘機などの兵器のそれだった。

 

 

「…B.O.W.?」

 

Bio Organic Weapon(有機生命体兵器)の略称。私やさっきのヨーン・エキドナとかいう蛇女も含めたアンブレラの生物兵器の総称よ。外にいるサーベラスやケルベロスもそう。ここはB.O.W.の研究所にして巣窟なのよ。私もここで生まれたんだから」

 

 

 やはり兵器か。それも生体兵器……アンブレラといえばラクーンシティを中心に活動している世界的な製薬会社の名前だが……そのアンブレラがそんなものを?

 

 

「何も知らないのね、あなた。本当にあの二人の後輩でアルバート・ウェスカーの部下なのかしら」

 

「あの二人…?」

 

 

 ウェスカーはわかる。恐らくアンブレラ(あちら)側だ。だが二人とは誰の事だ?

 

 

「かつて私を返り討ちにしたクイーン・サマーズとアリサ・オータムスよ。あの二人も恐らくB.O.W.よ。知らされてなかったみたいね?」

 

「あの二人が……」

 

 

 アリサについては、納得がいった。ヨーン・エキドナやセルケトの顔がアリサと瓜二つな理由なのだろう。だがクイーンもとは……いや、あの二人は尊敬できる先輩だ。例えB.O.W.だったとしてもそれは変わらない筈だ。

 

 

「二人に……復讐したいのか?」

 

「前はそうだったけど、今は私を生み出しておいて裏切った二人を殺したい。アルバート・ウェスカーとウィリアム・バーキン。奴らを殺せるなら私は何でもするわ。殺す前に理由ぐらいは聞いてやるけどね」

 

 

 そう語るセルケトの目は真剣で。本気でウェスカーを憎んでいることが見て取れた。

 

 

「この部屋だ。…!?」

 

「…これはどういうことかしら」

 

 

 そんな話をしながらエントランスホールへの扉を潜り、ウェスカーの死体が倒れていた箇所を見て絶句する。とんでもない量の流血の跡はあれど、ウェスカーの身体は忽然と姿を消していた。背後のセルケトの声に怒りを感じ、振り向いた瞬間鋏が首を狙って振るわれ、咄嗟に手首を掴んで受け止める。

 

 

「ま、待て!確かにウェスカーはここで殺されたんだ!」

 

「嘘おっしゃい!死体なんてどこにもないじゃない!騙したわね!」

 

 

 騙されたのだと激怒するセルケト。その怒り様は異様だった、まるで騙されることそのものに怒っているかのような……左手で胸倉を掴まれ尻尾が振るわれるも、なんとか蹴り飛ばして弾く。実質腕が三本あるようなものだ、厄介だな。だが、ヨーン・エキドナと違い話は通じる。なんとか説得を…!

 

 

「恐らく誰かが死体を持ち去ったか…そうでなければゾンビ化して動き出したんだ!」

 

「ゾンビが扉を開けるなんて器用なことできる筈ないでしょ!扉は何処も開いてなかったじゃない!」

 

「ごもっともだが俺も混乱しているんだ!そこの大穴から落ちたのかもしれない!」

 

「穴ですって…!?」

 

 

 アリサとジルが落ちた穴を指差すとセルケトも振り向く。すると、ひょこっとジルが顔を出してぎょっと目を見開いた。すぐに状況を把握したのかサムライエッジを構えて引き金を引くジル。

 

 

「クリス!?クリスから離れなさい!」

 

「ちっ!」

 

 

 サムライエッジから側頭部目掛けて放たれた弾丸を鋏を盾にして弾き、俺を手放して跳躍して追撃を逃れるセルケト。

 

 

「アリサ!お願い!」

 

「おっけー!」

 

 

 すると下にいるらしいアリサに呼びかけたジルが勢いよく飛び上がって床に着地。よろめきながらもサムライエッジを連射するジル。吹き抜けの二階通路の手すりに、器用にも右足の鋏を広げてひっかけ逆さまとなったセルケトは鋏と尻尾を振り回して弾丸を弾き、左手を向けて指先から針の様なものを飛ばして反撃。ジルは側転でそれを回避し、反撃する。

 

 

「ただの人間にしては、やるじゃない…!」

 

「そっちもバケモノにしてはやるわね…!」

 

 

 互角の攻防を繰り広げる二人に、俺はどうすればいいかわからなくておろおろするしかない。ジルに加勢すべきだろうが、ウェスカーを恨んでいるらしいセルケトをここで倒すのも得策とは思えん。どうすれば……。するとそこに、気の抜ける掛け声を上げながらアリサが穴から這い上がってきた。

 

 

「よいしょ、よいしょ…ふうう、やっと出れた。配電盤を見つけて電気を止めたおかげでここから出られた……え、あれ?セルケト!?」

 

「アリサ!」

 

「あれ、なんでここにいるのクリス?ってそれどころじゃないか…!」

 

 

 アリサは撃ち合うジルとセルケトを見て何が起こっているのか把握したのかアリサ専用カスタムのサムライエッジ、ルヒールを抜くとセルケトの身体を支えている鋏が引っ掛かっている手すりをを狙って狙撃。

 

 

「えっ?ぐえっ!?」

 

 

 支えを失ったセルケトはそのまま頭から床に激突、悲鳴を上げて崩れ落ちた。今の、首が折れる落ち方だったぞ……。

 

 

「相変わらず不意打ちに弱いね。セルケト」

 

「アリサ・オータムス…!」

 

「知り合いなの?アリサ」

 

「因縁の相手かな」

 

 

 頭を押さえながら立ち上がり睨み付けてくるセルケトに、サムライエッジを突きつけながら警戒を緩めないジルの問いかけになんてことでもない様に応えるアリサ。

 

 

「生きてたんだ今度は何?私達S.T.A.R.S.の始末でもウェスカーに依頼された?」

 

「ウェスカーだと?私は奴の(イヌ)じゃない…!」

 

「え、なんで怒るの?」

 

 

 怒り、尻尾を突撃させるセルケトと、驚きながらもしっかり尻尾を握って受け止め、銃を突きつけるアリサ。その怪力は人でないことを、セルケトが言っていたのが事実だと物語っていた。つまりセルケトの言ってたことは真実、ならば…。俺は、ナイフで尻尾を斬り上げながらセルケトとアリサの間に割って入った。

 

 

「クリス!なんのつもり!?」

 

「待て!こいつは、セルケトはもうアリサたちを殺そうとはしていない!」

 

「クリスは知らないだろうけどそいつはアンブレラの刺客だよ。殺しておかないと私達が殺される」

 

「いいや、違う!こいつはウェスカーに裏切られたと言っていた!目的は、何故かここから消えたウェスカーだ!偶然とはいえ俺をヨーン・エキドナからも救ってくれた!」

 

「クリスを助けた?それにウェスカーが消えたって…うわっ、ほんとだ」

 

「……どうやらここにウェスカーの死体があったのは本当みたいね」

 

 

 真っ先に状況を理解したのか臨戦態勢を解くセルケト。騙していないと理解してくれて何よりだ。それを見て、アリサもルヒールの銃口を下ろした。

 

 

「…私達を殺さないって根拠は?」

 

「殺す理由がない。私が殺したいのはウェスカーとバーキンよ」

 

「あの二人、私達だけじゃ飽きたらずセルケトまで怒らせたのかあ……うん、それなら納得できるかな。…私達…正確には私とクイーンはアンブレラに復讐したい。あなたはウェスカーとバーキンに復讐したい。なら目的は同じだよね?共闘できない?」

 

 

 そう提案するアリサ。相変わらずの人の好さだ。俺も人のことを言えないが自分を殺そうとした奴にそんなことを言うなんてな。ジルも苦笑いを浮かべている。するとセルケトは鋏を顎に当てた。

 

 

「…確かに一人でこの洋館でウェスカーを探すのは骨が折れるわね。乗ったわ。ウェスカーとバーキンを殺すまで協力する。それでいい?」

 

「うん、むしろ手伝うよ。じゃあ、他にも生きてる人間がいたら私達の仲間だから殺さないでね。…あと、バーキンの娘のシェリーには手を出さないこと」

 

「あら、運がよかったわね。バーキンを呼び寄せるために人質に取ろうとしていたところだったわ」

 

「シェリーに手を出したら許さないからね」

 

 

 バチバチと睨み合いながらも、左手で握手を交わすアリサとセルケト。…本当に大丈夫か?これ。




目的が同じ故の共闘戦線。アリサ顔だからかどうしてもセルケトを敵として見れないクリスくん。まだまだ甘いです。

6編はもとより、2編、3編、ベロニカ編、ダークサイド編、ディジェネレーション編の構想がある程度固まりました。大まかな流れは考えてるけど登場クリーチャーなどは毎日考えているのだ。特に面白くなりそうなのはベロニカ編。ここら辺はスムーズに行けそう。

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fileEX:1【菌根井戸端会議】

どうも、放仮ごです。前回投稿したあとに感想観て「200話!?」となったので急きょ書きました200話記念特別編です。完全ギャグ回。楽しんでいただけたら幸いです。


 とある会議室。空中で逆さまになった私は頭を抱えていた。眼下に広がる光景に頭が痛い。

 

 

「同じ顔だらけで吐き気がしてきたな…」

 

「それはひどくない?クイーン」

 

「元統率個体、貴様もあんなちんちくりんではなく偉大な我が父の顔をとればよかったのだ!もししたなら殺すが!」

 

「ママはいないの?」

 

 

 私と同じように頭を痛そうに抱えているクイーンと物申すアリサ、バカ言ってるマスターリーチとキョロキョロと辺りを見渡すリサ。おいこらマスターリーチ、誰がちんちくりんだ消してやろうかこの野郎。

 

 

「オメガ、オメガー。ひーまー」

 

「もう少し大人しく待っててヘカトちゃん」

 

「ねえねえヘカト、貴方の腕もう一回食べていい?」

 

「アタシもアタシも!」

 

「殺すぞ?」

 

 

 オメガちゃんの膝の上に乗ってムカデ腕をぶんぶん振り回してじたばたするヘカトちゃん、そんなヘカトちゃんの腕が再生するのをいいことに食べようとするヨーン・エキドナと■■にオメガちゃんがブチ切れる。保護者が板について来たなあ。

 

 

「オメガ、そいつら殺す?」

 

「ふん、子守など引き受けたつもりはないのだがな?」

 

「黙れウェスカー」

 

 

 そんなオメガちゃんに加勢しようとするハンターΨの隣でウェスカーが小さな肩を竦め、セルケトに睨まれてる。ぷっ、もう年を取れない女体化グラサンオールバックおじさん娘がなんか言ってる、www。わっ、いきなり撃つな!

 

 

「●らせろ!」

 

「…あのムカデ腕さえ気にしなければ……やっぱり無理」

 

「ちょっと怖いけど、小さいアリサと思えば可愛いかも?」

 

 

 胸に付けたでっかい目玉をギョロギョロさせながら■■■■■■が咆哮し、肩に付けたでっかい目玉で白目をむきながら■■■■がムカデが苦手なのかぼやき、シェリーが可愛らしくこてんと小首を傾げる。シェリー、悪いこと言わないからその二人の間に座るのやめなさい。悪いこと言わないから。

 

 

「……標的の顔、いっぱい……」

 

「アーッハハハハ!興味深いわね。ここじゃなければ解剖したいわ!」

 

 

 頭に拘束衣を付けた大男が忙しなく視線を動かしてシュンと縮こまり、その横で赤いドレスを身に纏った■■■■が下品な笑い声を上品にあげた。そういうのやめよう?本当に、やめよう?

 

 

「…はい、皆さんが静かになるまで5分かかりました!」

 

 

 パンッ!と手を叩いてこちらに意識を向けさせる。一斉に視線が向けられる。なんでこんなミランダ級の奴等ばかりいるかなあ!

 

 

「ざまあないわね。勝手に過去に飛ぶからそうなるのよ」

 

「全くその通りだけど黙っててゼウ!」

 

 

 なんか普通に姿を現した、クイーンとは別ベクトルで私を成長させた様な姿のゼウに怒鳴る。具体的に言えば胸の大きさとかあれだよね。わっ、粘液飛ばしてくるなクイーン!ごめんて!でもその姿選んで固定しちゃったのクイーンのせいだからね!

 

 

「で、なにを会議するの?」

 

「そりゃあアイザックスをどう攻略するかなんだけど……」

 

「私にそれを聞くのか?」

 

「こっちとしてもウェスカーが来るのは想定外なんだけど。なんならエキドナとか来るのも想定外なんだけど」

 

 

 いやまあ敵に作戦考えてもらうのはいいかもだけどさあ。すると元気よく舌を出しながらヨーン・エキドナが手を上げた。

 

 

「はい!」

 

「じゃあエキドナさん」

 

「ヘカトちゃんを食べていいですか!」

 

「オメガちゃんやっちゃって」

 

「喜んで…!」

 

「キシャー!?」

 

 

 手を上げてまで馬鹿言い出したヨーン・エキドナに、首を掻っ切るポーズを取りながら指示。笑顔のオメガちゃんに全身切り刻まれてヨーン・エキドナが宙を舞う。南無三。次に手を上げたのはマスターリーチだ。律儀だね。

 

 

「ならば偉大な父の頭脳を持つ私が名案を告げてやろう」

 

「なにかな猿真似ナメクジ怪人」

 

「私は蛭だ!ふっふっふ、ホワイトハウスを乗っ取りかの国に核攻撃を行うのだ!そしてそのまま世界を地獄の業火で焼き尽くす…!」

 

「黙ってろ馬鹿」

 

「ぐええ!?」

 

 

 キレたクイーンに、変形した右腕でぶん殴られて机に突っ伏すマスターリーチ。粘液が汚いから自重してほしい。次に手を上げたのはがじがじとヘカトちゃんの腕をかじってオメガちゃんに鉄拳制裁を受けて涙目の■■ちゃんだ。

 

 

「はーい!」

 

「はい、■■ちゃん!」

 

「食えばよくない?」

 

「そう言うのは求めてないの。ボッシュート!」

 

「ァアアアアア!?」

 

 

 パチン、と指を弾くと■■ちゃんの足元に穴が開いて落ちてった。下は水槽だから泣いて泳げ食いしん坊め。次に手を上げたのは無駄に偉そうな不敵な笑みを浮かべたウェスカー。サングラスと金髪オールバックが相まって胡散臭い。

 

 

「ふん、ならばいい手を教えてやろう」

 

「はい、胡散臭いウェスカーさんなんですか」

 

「私の軍門に下れ。そうすればアイザックスなど即刻殺してやろう」

 

「セルケト、やっちゃえ」

 

「言われずとも殺す」

 

 

 瞬間、無駄に常人には把握できない速度で殴り合いし始めるセルケトとウェスカー。勝手にやっててよ、もう。すると訪ねてきたのはクイーンだった。

 

 

「そもそもアイザックスのいる■■(地名)にはどうやっていくつもりだ?」

 

「そりゃあ……旅行?」

 

「銃を持ち込めないだろ馬鹿」

 

「銃なくてもどうにかなるとは思うけど、心細いよね」

 

「アリサだけはそれ言えないと思う」

 

 

 私に辛辣なクイーンと、アリサに辛辣なシェリー。ちゃんとアリサのこと理解してきたようでお姉さん嬉しいよ。馬鹿力でセルケト撃退したアリサだけは銃はいらないよね、うん。

 

 

「アーッハハハハ!この私が愚民どもに天啓を与えてあげるわ!」

 

「そう言うキャラいいからなんかあるなら言って、■■■■」

 

「………ぶっちゃけエヴリンの洗脳で税関を突破すればよくない?」

 

「それだあ!」

 

 

 実は一番常識人な■■■■の提案に思わず飛び込む。あーもう、本当に育成だけは得意な奴に育てられただけはあるな!すると話は終わったなと言わんばかりに、セルケトとウェスカー、クイーンとマスターリーチ、アリサとリサを始めとした因縁のある相手と殺り合い始める面々。ここでは決着がつかないんだからやめてほしい。

 

 

 ああもう、菌根()の中の記憶()がめちゃくちゃだよお!




ネタバレにならない程度に0編、無印編、2編、3編、ベロニカ編からそれぞれ登場となります。先行登場のはぼかしているけど分かる人にはわかる様に書いているつもり。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:9【早すぎる再会】

どうも、放仮ごです。0編と違ってゲームとしての無印の内容はある程度すっ飛ばしていきます。全部やるとテンポがね……。

今回は奴が早くも再登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 セルケト、アリサ、ジルと合流してからは順調だった。少々ゴリ押しながらも順調にキーアイテムを見つけつつ、無事血清を手に入れて解毒し探索していたバリー、ジョセフと合流した。

 

 

「クリス!戻ってみたら大量の人骨と破壊跡だけあってお前の姿が無くて心配してたんだぞ!」

 

「ジルとアリサも、無事でよかった!…アリサが二人?…ってなんだ、蠍!?」

 

「落ち着け、こいつは敵じゃない」

 

「共犯者だよ」

 

「共犯者?」

 

 

 アリサの言葉に首をかしげるバリーとジョセフにセルケトについて伝える。そんな一悶着ありながらも、6人で行動することになった。

 

 

「しかしアリサの事はさっき知ったが、そこまで複雑な事情とはな…」

 

「幻滅した?」

 

「まさか。人でなくなっても人を守ることを選んだお前に惚れ直したよ」

 

「それ本気だったの?」

 

「ひでえな!?」

 

 

 後ろでジョセフとアリサがそんな会話をしている中、俺は無言でセルケトを睨んでいるバリーに目が付いた。

 

 

「どうした?バリー。怖い顔をして。心配しなくてもセルケトは味方だぞ」

 

「アルバート・ウェスカーを殺すまでの間だけどね。もし撃って来たら反射的に殺すからね」

 

「一言余計よセルケト」

 

「…こいつはアンブレラの手先だったんだろ?いきなり信用しろと言われても難しいだろう。俺は信用できん」

 

 

 そう言うバリーの言葉ももっともだとは思うがなんか違和感がある。必要以上に警戒しているような…。

 

 

「それもそうね。私達も気を許しすぎているかも?クリスを助けたって事実は大きいわね」

 

「助けたつもりもなかったんだけど」

 

「そこは黙っておくんだよセルケト」

 

「騙すのは違うだろう」

 

 

 アリサの言葉にそう真顔で言い返すセルケトからは誠実さが見て取れた。そういうところがあるから信頼できるんだよな。

 

 

「嘘も方便って言うらしいよ?エヴリン曰く」

 

「さすが、10年も騙してきた奴は違うな?」

 

「言ったな?」

 

「事実だろ」

 

 

 睨み合うアリサとセルケト。一触即発だ。慌てて間に割って入る。このままじゃ同士討ちだ。

 

 

「待て待て待て!仲間同士で喧嘩している場合じゃないだろう!」

 

「そもそもこいつがいなければ私がしくじって二人の本性を見ることも無かった、もとはと言えばこいつのせいだ…!」

 

「私だって、クイーンとエヴリンに手を出したの許してないんだから…!」

 

 

 俺を挟んで睨み合うアリサとセルケトに、どうしたものかと思っていると。何かに気付いたらしく睨み合いをやめて廊下の奥に視線を向ける二人。そのただならぬ様子にジルとバリー、ジョセフは銃を抜いて構え、俺も道中で手に入れたアサルトショットガンを向ける。

 

 瞬間、投げられてきたそれを、アリサが受け止めセルケトが左手の指から針を放って、それを投げてきた主に向かって攻撃するがしかし、とんでもない動体視力で手枷の鎖が振るわれ弾かれてしまった。

 

 

「マガイモノと……その仲間。また会ったわね」

 

 

 右目をギョロギョロと動かし蛸の触手の様なデスマスクの下から伸びる髪の毛を蠢かせながらこちらを一瞥し、そう語りかけてきたのはリサ・トレヴァー。アリサの本来の名前を名乗る怪物。あのデスマスクの下はアリサやセルケトと同じ顔なのか…?

 

 

「フォレスト!?」

 

「フォレストだって!?」

 

 

 受け止めた物を見て悲鳴を上げるアリサに振り向けば、それは胸を無惨に引き裂かれて絶命しているフォレストの死骸で。振り返れば、血に濡れた爪を鬱陶しそうに壁にこすり付けていて。目の前のこいつが、仲間の命を奪ったのだとそう確信した俺は、構えた銃の引き金を引いていた。

 

 

「フォレストを、よくも!」

 

「ハァ……相手してあげるわ」

 

 

 S.T.A.R.S.1だと自負している銃の腕前で放たれる寸分違わず急所を狙う射撃の散弾はしかし、驚異的な動体視力と反射神経で全て鎖を振るわれ弾かれていく。フォレストを床に下ろしているアリサ以外のジル、セルケト、バリー、ジョセフも加勢するも意味をなさない。そして髪の先端が鋭く尖ったかと思えば、まるでハリネズミの様に周囲に広がって壁や天井を突き刺しながら迫って来て、やられる…!そう思った俺の前で、ガキンと音がなる。見てみれば、セルケトが右の甲殻を盾にして俺達への攻撃を防いでいた。

 

 

「セルケト…!?」

 

「黙って引っ込んでなさい!ぐっ…なんて衝撃…!」

 

「お前、誰?…もしかして、お母さん?」

 

「誰が母親みたいな長身よ!」

 

 

 何故か首を傾げながら触手髪を引っ込めたリサ・トレヴァーに、返しの尻尾を伸ばして叩き込むセルケト。しかし尻尾はあっさりと掴まれ、逆に引っ張られて一瞬で引き寄せられてしまう。

 

 

「私と似てるけど…マガイモノと同じ、偽物ね。死ね」

 

「待て…!?」

 

「ぐっ、ああっ……!?」

 

 

 そのまま顔と顔が突き合わされるまで引き寄せられたセルケトは、右手で尻尾を、左手で右手を掴んだリサ・トレヴァーに力の限り引っ張られて引きちぎられて、膝をつく。その隙を突いてヘッドショットを狙うも、引きちぎられたセルケトの右手の鋏を盾に弾かれてしまった。そのまま投げ捨てられるセルケトの右腕と尻尾。それを見たアリサがわなわなと拳を震わせ、激昂して突撃する。

 

 

「お前ェエエエエッ!」

 

「マガイモノにもう用はないわ。死ね」

 

「させるか!」

 

 

 迎撃せんとリサ・トレヴァーの髪の毛の触手が蠢いて襲いかかるも、咄嗟にジョセフがショットガンを撃って迎撃。触手が弾かれたど真ん中を突進し、拳を振るうとリサ・トレヴァーも拳を振るって激突。拳と拳がぶつかり大きく弾かれて距離を取る両者。アリサは咄嗟にサムライエッジを引き抜き乱射。リサ・トレヴァーは長い腕を振り回して鎖で弾き、その勢いのまま鞭の様に振り回した左腕を叩き付け、アリサは両手で受け止めると蹴りを叩き込んで後退させる。

 

 

「うおおおおおっ!」

 

 

 そのまま右腕を叩き込み、そのデスマスクに覆われた顔を鷲掴みして壁に叩きつけるアリサ。するとつぎはぎがほどけ、崩れ落ちるデスマスク。出てきたのは、予想外の顔だった。

 

 

「…え?」

 

ミタナ?

 

 

 そこにあったのは、リサの顔。しかし似ても似つかない。右目が肥大化してギョロギョロ動いて右目に押されるようにして左目は潰れ、黒髪が蛸の触手の様に蠢き、口元からはみ出ている鋭い八重歯を生やした、ゴブリンか日本に伝わる鬼を思わせる醜悪な素顔に、怯むアリサ。そのまま長い腕で首を掴まれ、天井に投げつけられて天井に激突して落下、床に叩きつけられるとそのまま蹴り飛ばされ、膝を突いているセルケトともみくちゃになってこっちまで吹っ飛んできた。

 

 

「ぐうっ…」

 

「があっ…」

 

「アリサ!大丈夫!?」

 

「セルケト!しっかりしろ!」

 

「ワタシの、私の顔ッ……隠さなキゃ、隠さなきャ…!」

 

「くそっ…!」

 

 

 サムライエッジバリーモデルの持ち主であるバリーが、高威力の弾丸で牽制するもリサ・トレヴァーは意にも介さず……髪の毛を動かして己の顔を覆い隠しながら、右目だけを露出させて歩み寄ってくる。なにか、なにかないかと周りを見渡せば、フォレストが死んでもなお放さなかったらしいグレネードランチャーが目に入った。手に取り、確認すると硫酸弾が装填されていて。

 

 

「コロス。私の顔を見たニンゲンは、全員コロス…!」

 

「これならどうだ…!」

 

 

 咄嗟に構え、引き金を引いて硫酸弾を発射。反射的に鎖で弾こうとしたリサ・トレヴァーの腕に硫酸が降りかかり、この世のモノとは思えない絶叫が上がる。

 

 

「ギィイイイヤアアアアアアアアアッ!?」

 

 

 硫酸で焼けた右腕を庇いながら扉を開け、中に入って行くリサ・トレヴァー。警戒を続けるが、足音は去って行ったことを確認して、力が抜けて崩れ落ちる。周りを見渡す。満身創痍のアリサとセルケトと、呼びかけるジルとジョセフ、俺と同じように放心している様子のバリー。二人に守られて、俺達は無事だった。

 

 

「…守られてばかりか、クソッたれ…」




狭い廊下でアリサとセルケトを相手取って返り討ちにするという、強すぎるリサ・トレヴァーことRT-01。その素顔はちょっと違うけどどこかで見たことありますねえ?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:10【君は天才だ(it's a genius)

どうも、放仮ごです。何がとは言わないけど感想で全然気づかれてないようだったんで小刻みにどんどん出していくことにします。かの有名なピアノネタもあるよ。楽しんでいただけたら幸いです。


 私の名を騙る怪物に返り討ちにされた私は気を失い、夢を見た。

 

 

「音声記録、1987年9月7日。今日も動きが見られない。私の研究が正しければ今日にでも目覚めておかしくないはずだが…」

 

 

――――緑色の液体に浸かり、白衣を着た金髪を撫でつけた様な髪型の男をぼんやりと見つめる。すると目の前の男は信じられない様に目を見開き、手にしていたテープレコーダーを取りこぼした。

 

 

「目覚めたか……やったぞ、RT-0■が遂に完成した…!やはり私の研究は正しかった!非常に強力な非発がん性変異原、2本鎖のRNAウイルス!寄生した細胞自体を異常進化させる始祖ウイルス、またの名をクレイウイルスの応用!素晴らしい成果だあ!」

 

 

 RT、の次の言葉がまるでのノイズが走っているかのように聞こえなかったけど。私をウイルスの実験台にしているのはすぐに理解できて。でも夢うつつの様な状態から抜け出せない。強烈な脱力感に、逆らえなかった。

 

 

「A型株を投与したジェシカ・トレヴァーは融合できずに失敗したが、B型株を投与しそれに見事に適合したリサ・トレヴァー!君は素晴らしい!最高だとも!君は天才だ(it's a genius)!天賦の才としか言いようがない、神に愛された適正だ…!君の遺伝子こそ人類の頂点だよ!」

 

 

 狂ったように歓喜の声を上げる男に、何を言ってるか分からなくて首をかしげると、ごぼぼっと気泡が上がった。すると、部屋の入り口が開いて眼鏡と白衣の研究員が書類を手にやってきた。26歳くらいだろうか、少なくとも目の前の男よりは若く見える。

 

 

「アイザックス博士、少しよろしいですか?」

 

「なんだ、フレデリック・ダウニング。若手研究員の分際で。私は忙しいんだ」

 

 

 アイザックスと呼ばれた男はフレデリック・ダウニングと呼ばれた男を毛嫌いしているのか冷たい態度を取っている。人間嫌いなんだな、と思った。

 

 

「スペンサー卿から電報です。■■■■作成実験の報告を催促されています」

 

「そう言うことは早く言え!すぐにでも報告書を作成するとも!ナサニエル・バードはいるか!」

 

「なんでしょうか、アイザックス博士」

 

 

 偏屈そうな白衣の男が部屋に入ってきて、私を見てギョッとする。成功したとか言ってたから多分私が目覚めたことに驚いているのだろうか。しかしアイザックスは人をフルネームで呼ぶタイプらしい。相容れないなと思った。

 

 

「私の代わりに彼女の経過観察をしろ!何か異常があればすぐにでも報告するんだ、いいな!」

 

「承知しました」

 

 

 かしこまるナサニエル・バードを歯牙にもかけず、一瞥だけして薄暗いこの部屋の扉を開けて去っていくアイザックス。それを見送り、肩をすくめるナサニエル・バード。

 

 

「まったく……あの人にも困ったものだ。普通の感性の持ち主ならこんなものを人に任せるかね」

 

「まあいいじゃないですか。役得でしょう?」

 

 

 そう言われて己の姿を見下ろして、意味を理解する。このフレデリックとかいうエロメガネ、次会ったら殴る。

 

 

 

 

 

 

 

――――でもこれ、夢にしては鮮明な様な……。

 

 

 

 

 

 

「しっかりして、アリサ!」

 

「ハッ!?」

 

 

 聞き覚えのある声に引き寄せられるようにして、意識が浮上する。目の前にはジルの顔があって、横を見ると腰を下ろして右腕の妙にテカる鋏と尻尾を撫でてるセルケトがいた。周りのクリスとバリーとジョセフは目をひん剥いて驚いている。え、あれ…?

 

 

「えっ、セルケトなんで…?腕ちぎられてたよね?」

 

「そうだよな…?やっぱり腕が治っているのおかしいよな…?」

 

「頭を潰されたとか心臓を破壊されたとかではない限り、この程度なら再生できる。お前の遺伝子で作られたんだぞ私は。お前にできることができないわけないだろう」

 

「あ、そっか」

 

 

 そう言われてそう言えばスティンガーに腕を切断された時に普通に再生できたなと思い出す。そうだった、私頑丈だった。でも殴る蹴るはどうしようもないんだよね…。そうしみじみする。

 

 

「クリス、礼を言う。お前のおかげで目的を遂げることなく死ぬことを回避できた。感謝する」

 

「いや、俺達こそ…お前に助けられた。あの時見捨てることもできただろう」

 

「共犯者らしいからな。アリサなら庇わなかったがお前たちは脆いから守るべきだと判断した。余計なお世話だったか?」

 

「いや、いや……ありがとう。なあバリー、これでも信用できないか?」

 

「…いや。俺が悪かった。こいつはどうやらいい奴らしいな」

 

 

 クリスの言葉に、そう笑い返すバリー。ジルとジョセフも安心した様だ。……確執がとれたならよかったけど。

 

 

「私はともかくとはなんだ」

 

「お前は例え四肢をもがれても死なないだろう」

 

「そうかもだけど!」

 

「少なくともそこの奴程度の傷では死なないバケモノだ。私とお前はな」

 

 

 そう尻尾で背後を示されて振り返り、私が横に寝かせたフォレストの遺体を目にして、心臓が締め付けられるような感覚が支配する。そうだ、あいつにフォレストは殺されて……私は結局、仇を取れなかったんだ。呆然としていると、クリスが歩み寄って目をつぶる。

 

 

「…フォレスト。来るのが遅くなってすまん。だが仇はとるぞ」

 

「ええ、必ず…!」

 

「約束するぜ…」

 

 

 クリスに続くジルとバリーに、何も言えないでいるとジョセフが私の肩を叩いて、優しい顔で告げた。

 

 

「フォレストの仇、とろうな。今度はみんなでだ」

 

「…うんっ」

 

 

 こぼれそうだった涙をぬぐい、きっと前を向く。進もう、フォレスト以外…クイーン、エンリコ、エドワード、リチャードにも会わなきゃ…!

 

 

 先程の夢から目を逸らし、私は前に進む。…重大な思い違いをしていることに、私はうすうす感づいていながらも気付こうとはしなかった。考えようとも思わなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1Fのグランドピアノが置かれたバーにて、奥の棚を調べたら「月光」の楽譜を発見。一部が抜けていたので、2F小食堂で入手しておいた楽譜の中間ページを組み合わせて完成させ、なんだかわからなかったけど弾いてみることになった。

 

 

「私、ピアノやってみたい!」

 

「それはいいけど…アリサ、楽譜読めるの?」

 

「え、読むの?…これを?英語じゃないし読めないよ?」

 

「フッ」

 

 

 意気揚々とやる気を出してみるも、ジルに問いかけられ一度楽譜を見てから読めるはずもない記号の羅列に首をかしげていると、セルケトに鼻で笑われた。見ればクリスとバリーとジョセフも笑いをこらえている。

 

 

「なにがおかしいの!」

 

「楽譜はな、譜面を読んで演奏するんだよ。貸してみろ、手本を見せてやる」

 

 

 そう言って左手で楽譜を手に取りピアノにセットして椅子に座るセルケト。そのまま鍵盤を流れる様に弾き鳴らして、思いっきり音が外れて固まる。見れば、右手の鋏で演奏しようとして盛大に失敗したらしい。そりゃ、うん。五本指で演奏されることを想定されてるだろうから鋏じゃ無理だよね…。

 

 

「セルケト、顔真っ赤だよ?」

 

「っ~~~~!譜面も読めないお子様が馬鹿にするなあ!」

 

「お子様じゃないもん!ピアノ習ったの何年前だと思ってるの!20年前だぞ!」

 

 

 顔を真っ赤にして両手を上げて威嚇するセルケトに、私もガーッと両手を上げて威嚇することで返す。

 

 

「アリサ、何歳なんだ?」

 

「クリス、女性に年齢を聞くのはアウトだぞ」

 

「そうだぜクリス。俺は何歳だろうと構わないがな!」

 

「…はあ。私が()くわ」

 

 

 その後、ジルが普通に演奏して仕掛けが解かれて、私とセルケトは何とも言えない顔で見つめ合い、溜め息をついたのだった。……普通の人じゃないってこと、痛感するなあ。




フレデリック・ダウニング。ナサニエル・バード。この二人の名前でピンときた人はバイオシリーズに結構詳しい人だと思います。どっちもフルネームを覚えている人は少ないんじゃないかな。

11年前の出来事だけど本性現したサミュエル・アイザックス。その人物像は「マシになったマーカス」といった感じです。年齢はこの時点で30前後。この夢の意味とは…?

アリサと同じで即再生できるセルケト。何度も生死の境をさまよった結果。なおピアノの知識はあっても弾くことは叶わなかった模様。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:11【リサ・クリムゾン】

どうも、放仮ごです。前回に続いて核心に近づきます。楽しんでいただけたら幸いです。


 ピアノの仕掛けを解き、そのまま謎を解いて進む私達は、美術室と思われる部屋に出た。広いだけあってバーとか本当にいろいろあるね!わー綺麗!(やけくそ)

 

 

「なんでこの洋館こんなに複雑なの…私がいた頃よりひどいよ!?」

 

「お前が逃げたせいだ、アリサ・オータムス。…お前を逃がした失敗から、あのリサ・トレヴァーを逃がさいようにサミュエル・アイザックス主導でジョージ・トレヴァーの会社の人間に設計してもらって改造したらしい」

 

「アイザックス?」

 

 

 夢で聞いた名前だ。あのリサ・トレヴァーにも関係しているのか……じゃああの夢はリサ・トレヴァーの夢?なのかな。

 

 

「ジョージ・トレヴァーとは?」

 

「この洋館を設計した私の父親。多分死んでる」

 

「アリサ…それは、その…ごめんなさい」

 

「えっ、気にしなくていいよ!?」

 

 

 疑問にあっけらかんと答えるとしどろもどろになってしまうジルに慌てる。いや、ママもパパも死んだことについてはもう受け止めてるよ!?アンブレラの事は絶対許せないけど!

 

 

「つまり、リサ・トレヴァーはそんな重要な存在ってことなのか…そもそもやつはなんなんだ?知っているのか、セルケト!」

 

「…知っているが、言えない。少なくとも、アリサのいる前ではな。私にも心はある」

 

「なんのこと?」

 

「知らないままの方がいいこともあるってことさ。気にするな」

 

 

 クリスの問いかけに、右手の鋏をひらひらさせながら言うセルケトに、首を傾げる。なんなんだ。

 

 

「…でもね、ここがパパの作った洋館だって思うたびに…ちょっと悲しくなるかも。こんなもののために、私達はこんな目に遭ったんだなって……」

 

「…父親を恨んでるのか?」

 

 

 そう尋ねてきたのはバリー。彼には娘のモイラとポリーがいる、立派な父親だ。だから気になったのだろうか。私は少し考え、思ってる通りの事を口にすることにした。

 

 

「…うん、恨んでる。酷い父親だなって。こんな仕事を引き受けなければ、私達はこうなってなかったのにって。私達を置いてどこにいったんだって。もし生きているのならぶん殴ってやりたいよ」

 

「そうか。…俺から言わせてもらえば、娘と妻を置いていなくなるような真似…絶対にしないがな?俺は、家族を守るためならなんだってやるぞ。今回だってそうだ、死んでもアイツらの元に帰る。その覚悟だ」

 

「…バリーはいい父親だね」

 

 

 そんなことを話しながら、絵を調べる私達。特になにもなかった。すると、一番奥の絵を見ていたジルが何かに気付いた。

 

 

「あれ、これ。アリサ…?」

 

「え…?」

 

 

 言われて、突き当りにあるステンドグラスで描かれている女性の肖像画に視線を向ける。私だ。…私の、肖像画……なんで?本当に理解できなくて、その場に立ち尽くす。するとクリスがポンと肩を叩いた。

 

 

「…お前の父親が作った洋館にお前の肖像画……そういうこと、なんだろうな」

 

「……パパ」

 

 

 思わず、目じりに浮かんだ涙をぬぐう。そっか、私の事……考えてくれていたんだ。こんな悪趣味な洋館の仕掛けとして使うのはどうかと思うけど。うん、知れてよかった。

 

 

 

 

 

「ここをこうして…?」

 

「いやこっちがこうじゃない?」

 

「こうだと思うぞ」

 

「また振り出しだ!」

 

「アリサには悪いがこの洋館大嫌いだ!」

 

「簡単なパズルだろうに」

 

 

 

 

 その後、絵の仕掛けを解いて四つ目、最後のデスマスクを入手。クリスたちが先に見つけていたらしい墓地に向かい、そのカタコンベと思わしき場所で四つのデスマスクを該当する場所にはめこんでいく。はめこむたびに、頭上に鎖で吊るされている棺桶が揺れた。…うーん。

 

 

「みんなは外に出てて。最後の一個は私だけではめるよ」

 

「了解だ。気を付けろよ、アリサ」

 

「…強いぞ、気を付けろ」

 

 

 嫌な予感がしたので物申し、クリス、ジル、バリー、ジョセフ、セルケトが外に出たのを確認。最後のデスマスクをはめこむと、入り口が鉄格子で遮られ、棺桶が落下。蓋が開いて、中から信じられないものが出てきた。

 

 

「…え?え…?」

 

 

 そこにいたのは、襤褸切れの病衣を身に纏った全身が腐敗した肌が赤黒く、赤黒い爪が長く鋭く伸びて白目を剥いている、血に染まったかの様な紅いざんばら髪を長く伸ばした、私と同じ顔のゾンビだった。クリムゾンヘッド、だけどセルケトで見慣れた、私の顔だ。リサ・トレヴァーだけじゃ、ない…?

 

 

「なんで、私…?」

 

「ぼけっとするな!馬鹿!」

 

「しまっ…」

 

「ウアアアアアアッ!」

 

 

 セルケトの声に我に返った瞬間、右腕に鋭い痛み。一瞬で私の背後を取ったクリムゾンヘッドに斬り裂かれていたのだ。ブシューッと鮮血が噴水の様に噴き出すのを左手で握って止める。ダメだ、本気でやらないと、やられる!

 

 

「はああっ!」

 

「ウウアアアッ!」

 

 

 回し蹴り。しかしクリムゾンヘッドの頭を背後の地面に激突させながら私は勢いよくイナバウアーして回避。そのまま両手で地面を掴み、逆さまになる勢いを乗せて顎を蹴り飛ばされ、クリムゾンヘッドの私は宙返りして体勢を低くしながら着地。脳を揺さぶられて動けない私を鋭い爪で滅多打ちにするクリムゾンヘッドの私。理性が無いように見えるのに、強い…!

 

 

「ウウウウッアアアアッ!」

 

 

 そして宙返りしてデスマスクの像に掴まり壁に着地して、跳躍。私の腹部に、クリムゾンヘッドの私の右腕が深々と突き刺さった。激痛が襲いかかり、私は痛みに悶えながらも左手を伸ばした。

 

 

「ぐうううっ……痛い、けど!」

 

「ウア?」

 

「捕まえた!」

 

 

 左手で後頭部を鷲掴み、疑問符を上げながらも噛み付こうとしているクリムゾンヘッドの私に、右腕を勢いよく後ろにやって、返す勢いを乗せて渾身の一撃をその胸部に、叩き込んだ。

 

 

「ウアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

 殴り飛ばされたクリムゾンヘッドの私は宙を舞い、壁に激突。脆くなっていたのかドパン!と破裂して肉片と血液が周囲に飛び散った。同時にどういう仕掛けなのか開く鉄格子。私は出血するお腹を右手で、右腕を左手で庇いながら膝をついたところに、皆が駆け寄ってきた。

 

 

「アリサ!しっかりしろ!」

 

「へへへっ、なんの、これぐらい……パパを少しでも疑った私への罰ってことで…」

 

「お前の親父さんがそんなこと望んでいるわけないだろ!お前は、心配する周りの事も考えろ!」

 

「ひゃい…」

 

 

 本気で怒鳴ったジョセフにすくみ上る。ごめんなさい……。……でも、あのクリムゾンヘッドの私は、なんだったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

~1995年10月8日~

 RTの遺伝子は素晴らしい。始祖ウイルスに適合する以前の状態でも素晴らしいデータがとれた。なんと、T-ウイルスの人体実験をするとケルベロスなどよりもより強力な効果が表れたのだ。あまりに強力過ぎて代謝が異様に発達し、再生し続けて逆に肉体が崩壊すると言う状態になってしまった。これでは脳もすぐに異常を来し、言語機能なんかにも影響が出るだろう。脳の酷使すら再生し続けるから知能は逆に発達すると私は確信している。恐らく本能のままに合理的に処理するだろう。

 

 血行が速くなり紅く染まった体を見て、私は「リサ・クリムゾン」と名付けることにした。まあ私しか存在を知らないのだから名付ける意味もないが。他の人間にもT-ウイルスを試しておくべきだろうが彼女以外の遺伝子など塵芥も同然だ。あとから研究するために特殊な処理を施した封印を施しておくことにする。四つのデスマスクの所在は責任者である私しか知らないから彼女の封印はそう簡単に解かれない。また集めるのにめんどくさいが、この存在がスペンサー卿にばれたら私の首に関わる故仕方ない。RT-0■を失ったことは痛手だが、RT計画自体は順調だ。

 

~とある主任研究員のメモ~




というわけでボスクリムゾンヘッドがリサ・クリムゾンになってました。またアイザックスの仕業です。メモの時系列は三年前ですね。

肖像画の人物がリサだという話を知った時、ほへーとなりました。この肖像画のステンドグラスに描かれている女性こそ、アリサことうちのリサ・トレヴァーの容姿のモデルとなってます。めちゃ美人です。ジョージさんはなにを思ってあのヘンテコ仕掛けに取り入れたんだろうね?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:12【蝮の女は蛇蝎の如く】

どうも、放仮ごです。蛇とサソリって合わせたら蛇蝎(だかつ)って読むんですけど凄い嫌われてるの意らしいですね。そんなわけで再登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 目覚める。壁を突き抜けてどっかの部屋に転がっていたらしい。同時に激痛、腹部を押さえると、押さえた手にべっとりと赤い血が。見れば、どてっぱらに大穴が開いて出血していた。食欲が出てくる紅い血だ。…ああ、私の肉体は私以外のモノらしい。自分の血にすら食欲が湧く、この身は食事を欲していた。目の前には、愚かにも私を喰らおうと近づいてきた動く死体(ゾンビ)がいて、尻尾で捕らえて締め上げてバキバキと全身の骨を折ってから丸呑みにする。足りない足りない、物足りない!

 

 

「ああ、痛い………あのサソリ踊り食いしてやる…」

 

 

 骨の残骸を吐きだしながら、ズルズルと尻尾を引き摺って廊下に出て、血の臭いを辿って腹ばいに高速で移動する。…この香しい匂いの元は、外か。

 

 

「逃がさない…!」

 

 

 通気口のハッチをこじ開け、潜り込んで高速で蛇行する。アレは私のごちそうだ。取り逃してなるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリムゾンヘッドな私が眠っていた棺桶から鉄と石製のオブジェを入手し、回復もそこそこに森と墓地を進んでいく私達。…出れそうな感じもするけど柵があってそう簡単に出れないな。私だけなら跳躍で飛び越えて出れるかもだけどそれじゃ意味がない、みんなで出なきゃ。

 

 

「ここは…小屋、か?」

 

「ゾンビの気配がないな…」

 

「なら一休みできそうね」

 

 

 辿り着いたのはちょっとした小屋だった。セルケトがゾンビの気配を感じない、とのことで一休みすることにした。

 

 

「ふう…回復に専念できるよ。ありがとう、ジル。手当てしてくれて」

 

「と言っても救急スプレーを吹き付けるぐらいよ。ごめんなさい…レベッカの様にはいかないわ」

 

「…レベッカたちは無事なんだろうか。クイーンが付いてるから無事だとは思うが…」

 

「フォレストがやられてしまったからな…ブラボーチームの奴等が無事である保証がねえ」

 

「クリスの仲間たちかしら?まだ生きている人間の気配をいくつか感じる、恐らくこれがそうでしょうね。ひとつがウェスカーだと私はありがたいけど」

 

 

 暖炉に薪をくべて火を起こし、暖を取りながらそんな会話をしていると、一人だけ探索すると言って離れていたバリーが戻ってきた。

 

 

「四角クランクを見つけたぞ。これで途中に遭った貯水池の仕掛けを動かせそうだ」

 

「ナイス、バリー。やったね!」

 

「…しかしめんどくさい仕掛けの屋敷だな」

 

「本当にね。普段どうやって過ごしてたのかしら」

 

「………待って。静かすぎるわ」

 

 

 するとセルケトが何かに気付いて立ち上がる。髪で隠れていない方の片目を虚空に向け、睨み付ける。音が消えた。辺り一帯を静けさが支配する。そして聞こえてきたのはシューシューと言う空気の抜けるかの様な音。なんだ…?

 

 

「この音、まさか……!」

 

「そのまさかよ!」

 

 

 瞬間、長い胴体を駆使して屋根裏を伝って来ていた何者かが頭上から襲撃。クリスが首を掴まれて持ち上げられる。その先には、顎を外して大きな口を開けた私の顔が…ってまたか!

 

 

「ぐっあ…ヨーン・エキドナ…!生きてたのか!」

 

「また私の顔とか、いい加減にしろ!」

 

「アハハハハッ!当たるものか!」

 

 

 クリスにヨーン・エキドナと呼ばれたそれの眉間に、サムライエッジ・ルヒールの銃口を向けて狙撃。しかしクリスを手放して高速で屋根裏の支柱間を高速で移動して回避、口から何かを射出して攻撃してくるヨーン・エキドナ。床に突き刺さったそれを見れば、白骨化した肋骨だった。

 

 

「危ない!?」

 

「あれでやられたりなかったかのかしら!」

 

 

 ペッ!ペッ!ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!と音を立てて次々と飛んでくる肋骨手裏剣に、私達は回避しかできない。クリスに飛んできたものを受け止めて右肩の甲殻に肋骨が突き刺さったセルケトはそれを引き抜いて投げ捨て、尻尾を伸ばして反撃。しかし高速で屋根裏を移動するヨーン・エキドナの硬い鱗に当たって弾かれてしまう。

 

 

「アハハハハッ!蠍女!お前は食後のデザートとしてじっくり痛めつけて踊り食いしてやるわ!その前にメインディッシュ、ごちそうよ!ああ、5つに増えて持て成してくれるなんて!」

 

「あぐっ!?」

 

 

 言いながらセルケトの針攻撃も弾き飛ばしつつ、ジルの首を掴み上げ、移動する勢いで投げつけて暖炉上の壁に叩きつけるヨーン・エキドナ。そのままクリス、バリー、ジョセフも次々と掴まれて投げ飛ばされ、壁に強打されていく。高速で動いているのにこちらの位置を把握しているのはピット器官とかいうやつか。聞いてた話だと毒牙もあるはずなのに使ってこない、甚振るつもりだ。

 

 

「蠍女と顔が似てる気がするけど貴女ニンゲンよね!?美味しそうだわ!」

 

「鏡を見てから言え!」

 

 

 そのまま私にも掴みかかってきたヨーン・エキドナに、カウンターで拳を顔面に叩き込んで殴り飛ばす。殴り飛ばされたヨーン・エキドナはその長大な巨体を渦を巻いて殴り飛ばされ、壁に頭から激突してダウンする。

 

 

「セルケト!」

 

「わかってるわ!」

 

 

 尻尾で床を叩いて跳躍し、右足を突き出したセルケトが急降下で飛び蹴りを叩き込むがしかし。次の瞬間信じられないことが起きた。ぐったりしているヨーン・エキドナの口から、二本の手が飛び出してきて牙を掴んだのだ。

 

 

「なっ…!?」

 

「アハハハハハッ!力がみなぎる…!もう、蠍女にも負けない!」

 

 

 異様な光景に怯んだセルケトに、ヨーン・エキドナの口から牙を掴んだ反動で勢いよく飛び出してたいあたりを浴びせて撃墜したのは、筋肉が増してマッシブになった上半身はより全身が鱗に包まれ鱗が変形して波打ち、蛇の下半身を全身の筋肉を流動させてさらに高速で移動する、赤く染まった蛇の目の女怪だった。脱皮した…!?

 

 

「そんなこけおどし…なっ!?」

 

「アハアハハハアッ!」

 

 

 尻尾を勢いよく伸ばして突き刺そうとするセルケトだがしかし、腹部の鱗により弾かれてしまいそのまま華奢ながらも屈強な腕で殴り飛ばされて扉を破って外に転がり出たのを追いかけるヨーン・エキドナ。私はクリスが落としたナイフを手に取り、背後から飛びかかって首を掻っ切ろうとするも、ぬめってナイフの刃が通らない。私の怪力が、通じない…って滑る!?

 

 

「わあ!?」

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

 

 

 そのまま首を掴まれ、移動する勢いで何度も何度も地面に叩きつけられ、空中に投げ捨てられたかと思えば高速で持ち上げられ振り下ろされた尻尾を叩きつけられ地面を跳ね、拳で殴り飛ばされて宙を舞い鉄柵に背中から叩きつけられる。

 

 

「がはっ…」

 

「いただきまーす!」

 

「アリサ!」

 

 

 そのまま追撃と言わんばかりに天高く上半身を持ち上げたヨーン・エキドナが顎を大きく開いて落下して来て私を丸呑みにしようとしたが、セルケトの尻尾に足を巻き付かれて引っ張られ、難を逃れる。た、助かった…!

 

 

「上等よ…!蛇風情が、ぶち殺す!」

 

「無駄無駄無駄ァ!」

 

 

 尻尾を地面に叩き付け、その反動で空中に舞い上がって右腕と右足の鋏と尻尾を振り回し、左手の指先から針を射出して空中乱舞を行うセルケトと、それをわざわざギリギリ紙一重で避けながら周囲を移動し、肋骨を射出し拳と尻尾の殴打を繰り返すヨーン・エキドナ。…私ってまだギリ人間の範囲だったんだなあと思える人外の戦いだった。

 

 

「もらったあ!」

 

「っ…!?」

 

 

 するとセルケトの尻尾を掴み、力の限り引きちぎるヨーン・エキドナ。ぴちぴちと動くそれを宣言通り踊り食いして、にやりと嘲笑する。自分が優位だと示して勝ち誇っている。

 

 

「すべて、すべて、万物等しく私の餌よ!お前も例外じゃないわ、蠍女!」

 

「そうね、それならこれでも喰らいなさい…!」

 

「血迷ったのかしら?望み通り美味しくいただいてあげる!」

 

 

 やぶれかぶれなのか千切れた尻尾を突き出すセルケトに、ヨーン・エキドナはむしゃぶりつくす様に大口を開けて飛び込む。その瞬間、千切れた尻尾が生えて再生。

 

 

「あぐあああっ!?」

 

「美味しくいただいてくれたかしら?」

 

 

 喉元に千切れた尻尾の先端を飲み込んでいたヨーン・エキドナは貫通、串刺しにされて白目を剥き、ビタンビタンと尻尾を動かしていたがそのまま動かなくなり、ついに沈黙。私達は何とか勝利を収めたのだった。




強化したヨーン・エキドナの原理は某自称芸術家の真の姿と同じです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:13【暴食の悪魔】

どうも、放仮ごです。毎回ギリギリなの申し訳ない。今更だけど洋館の内装はゲームのモノとだいぶ変わってます。全部リサ・トレヴァーを閉じ込めるためにアイザックスたちが改造したせいですね。

今回は新たなリサ・シリーズが登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 エンリコ隊長たちと別れて、犬の化け物どもに追われ迷い込んだ洋館を探索する俺ことラクーンシティ警察署R.P.D.の特殊部隊S.T.A.R.S.のブラボーチームのバックアップマンを務めるリチャード・エイケンは、相棒のケネスと逸れて隠し通路らしき場所に落ちて巨大な水槽の真上の様な大部屋に迷い込んでいた。

 

 

「こんな洋館になんでこんな水槽が…?屋敷の主の趣味か?」

 

 

 そんなことをぼやきながら水槽上の通路を歩き、出口を探す。まさかないとは言わないよな?するとチャプチャプという波音が聞こえて振り向くと、そこには異様な女がいた。サメの頭部の様なパーカー?を頭から被って口の部分からアリサとよく似た顔を見せる半裸で青白い肌の女性で、上半身のみを水槽から出してこちらをじっと見つめている。よく見ればパーカーだけで水着も身に付けてないことに気付いて、慌てて視線を逸らす。

 

 

「なんだ…驚かせるな。ここの住人か?」

 

「うん、ここは私の水槽だよ。私はグラ」

 

「すまない、俺は洋館に迷い込んだ者だ。すぐ出て行くから出口を教えてくれないか?」

 

「…おにーさん、逃げないんだ?」

 

「え?ああ、犬の化け物たちからは逃げてきたぞ。あれはなんなんだ、何か知っているかい?」

 

「他の奴は知らないけど、おにーさんが怖いもの知らずだね!」

 

 

 そう言って下半身も自ら出して、俺は目を丸くする。目を惹くのは臀部から生えた、イルカの尾ヒレの様なものがついた太い尻尾だ。生きている様にぴちぴちと震えている。そして、脚の指の間に生えた水かきと、背中から突き出た鰭は人間じゃないことを表していて、よく見れば両手の指の間にも水かきが、パーカーと思っていたサメの頭部から覗く首筋には鰓が付いていて、大きく開いた口には鋭く生え揃った牙が。それはまさしく、サメが人間になったかのような……

 

 

「私はグラトニー。ネプチューン・グラトニーのグラだよ!シャーッ!」

 

「っ…ぐあああっ!?」

 

 

 牙の様に指を曲げた両手を顔の横に置いて可愛らしく威嚇した瞬間、水槽に飛び込んだネプチューン・グラトニーを名乗った怪物に、後退して逃げようとした俺の指が食いちぎられる。高速で水中から飛び出してきたネプチューン・グラトニーの牙で食いちぎられたことに気付いたのは一瞬あとだった。

 

 

「久々の獲物だ!せいぜい足掻いて楽しませてよね!」

 

 

 その言葉に俺は恐怖し、食いちぎられた右手を庇いながらその場を逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洋館に向かっていた私達は、入り口付近にサーベラス数体が率いたケルベロスの群れを発見。私、エヴリン、ヘカト、オメガのB.O.W.組だけなら正面突破できるだろうが、普通の人間であるレベッカが危ないので、迂回して侵入を試みることにした。

 

 

「エンリコの奴め、こんな危険なところなら言っといてくれ…」

 

「多分隊長もこんなことになっているとは思ってなかったと思いますよ…」

 

『オメガちゃん、犬が出てきたら全部首を狩っちゃえ!』

 

「了承。ヘカト、しっかり掴まって」

 

「うん!オメガ!」

 

 

 視界の端で、ムカデ腕を交差させたヘカトがしがみ付いたオメガが、飛びかかってきたケルベロスを斬首しながらヘカトを気遣う様子が目に入る。仲がいいのはいいことだが、ヘカトを気遣う瞬間と言う明らかな隙ができてしまっているな。気付いてないようだしカバーしてやらねば。

 

 

「ちい!サーベラスが量産型とは、な!」

 

 

 右腕の先端の同胞たちを蠢かせ、三つ又の刃に変形させて飛びかかってきたサーベラスの三つの頭全てを貫いて投げ飛ばす。ケルベロスの血を流しすぎたせいか、嗅覚が鋭敏な犬どもが集まってきている。このままじゃ埒が明かない。そんななか洋館の裏手に、ログハウスの様な建物を見つける。

 

 

「あの建物に飛び込むぞ!エヴリン!」

 

『なに!?今忙しいんだけど!』

 

 

 大声を出してサーベラスを怯ませてオメガに始末させているエヴリンに呼びかける。我ながら名案を思いついた。

 

 

「オメガへの指示は私が引き継ぐから、お前は先に向かえ。私とレベッカの無事をアリサに伝えろ。あとアリサの顔をしたB.O.W.が二体いるが仲間だから驚くなともな」

 

『後者は知ってても無理だと思う』

 

「私もそう思う。行け!」

 

『はいはい、かしこまり!』

 

 

 大きく体を捻り、ピューン!と勢いよく木々の間を飛んでいくエヴリン。身体を捻る必要があったか?気分の問題か、そういうやつだった。

 

 

「ワウッ!?」

 

「ワウ!」

 

「オメガ…ちゃん、今だ!やれ!」

 

 

 それを見た能無しの犬どもが反応してエヴリンの飛んでいった方向に振り向いた隙を突いて、私の変形する両腕とオメガの爪、レベッカのサムライエッジで一網打尽にする。思った通りいい囮になったな。

 

 

「レベッカ、先に行け。私が殿を務める」

 

「わかりました、先輩!」

 

 

 そのままレベッカが銃床で窓を壊して鍵を開けて中に入り、ヘカトを背負ったオメガも続く。私も飛び込み、窓を粘液で塞いで一息つくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨーン・エキドナを倒し、一息ついた私はセルケトに肩を貸されながらも小屋まで戻ると、ダメージからクリス、ジル、バリー、ジョセフが回復していたところだった。

 

 

「アリサ、セルケト!…奴は倒したのか?」

 

「うん、なんとか…セルケトのおかげだよ。みんなは無事?」

 

「打ち付けた箇所が痛むがそれぐらいだ…」

 

「俺は腰痛になりそうだぜ、ったく…」

 

 

 腰を押さえながらぼやくバリーにみんな笑う。そんなときだった。クリスの持つ無線機がガガガッ!と音を立てた。着信だ。

 

 

「これは…!?」

 

「クイーンたちかも!ここじゃちゃんと繋がらないみたい、外に出よう」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 

 無線を繋げるために外に出て、セルケトが尻尾の先端に無線機を引っ掻けて空に掲げると、聞こえてきたのは男の声だった。聞き覚えのある声だ。

 

 

《「――――ちら、ブラッド!アルファチーム応答願います!アルファ!おい、誰か生き残っていないのか!?」》

 

「こちらクリス!聞こえるか、ブラッド!」

 

 

 吊り下げられた無線機にクリスが叫ぶ。ゾンビやケルベロス達を引き寄せかねないから、早くしないと。

 

 

《「繰り返す!こちらブラッド!アルファチーム、応答願う!隊長!クリス!バリー!ジョセフ!ジル!アリサ!誰かいないのか!?」》

 

「こちらクリス!おい、ブラッド!…くそっ!」

 

「どうやら聞こえるだけでこちらからは通じないようだな。他の奴等はどうだ?」

 

 

 セルケトに言われて、おのおので無線機を確認する私達。取り出してわかったけど、うんともすんとも言わなかった。

 

 

「…そもそも繋がらないや。見た目に変なところはないから最初から壊れていたっぽい」

 

「まさか、ウェスカーが細工を?」

 

「ありえるな。俺達を孤立させるのが狙いか」

 

「元々俺達を分断させるつもりだったんだろう。俺達が報告に戻るまでの間にアリサを仕留めきれなかったのは想定外だったはずだ」

 

「ちくしょう!あの金髪グラサン野郎め!」

 

 

 消えたウェスカーに怒りが募る。くそっ、私だけは分かってた。分かってたはずなのに……まさかクリスたちまで犠牲にしようとするなんて思わなかった。甘すぎた…。

 

 

「ごめん、私がしっかり警戒していれば…」

 

「とりあえず、先に進もう。アンブレラの研究施設ならどこかにヘリポートなりある筈だ」

 

「なるほど、こんな辺鄙な場所だものね」

 

「ヘリがないと逆に不便か。狙い目だな」

 

「そうと決まれば急ごうぜ!」

 

 

 ジョセフの言葉に頷き、私達は先を急ぐのだった。目指す先、寄宿舎にヨーン・エキドナを越える魔物がいることにはまるで気付いていなかった。




というわけで以前メモで明かしていたネプチューンの強化体というか子供個体の名前はネプチューン・グラトニーでした。正直一番ネーミングに悩んだ。

ついにクイーンたちも到着。合流はできるのか?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:14【相棒が合流したかと思えば身に覚えのない私の妹を連れてきたんだけど私も何を言っているかわからない】

どうも、放仮ごです。活動報告には書いたのですが毎日投稿が難しくなってきました。今回もいつもよりちょっと短いですが、楽しんでいただけたら幸いです。


 中庭の貯水池で四角クランクを使い、寄宿舎までやってきた。研究員たちの宿舎らしく、ログハウスのような造りだ。

 

 

「寄宿舎まで来たはいいけど……なにをすればいいんだろ?」

 

「とにかく脱出の術だな。ヘリポートなりの手がかりを探そう」

 

「どうやら開かない部屋もあるみたい。鍵も必要ね」

 

 

 ジルが手頃な扉のノブを握ってガチャガチャ捻るが開く気配はない。専用の鍵が必要そうだ。

 

 

「ここはそんなに広くなさそうだ、手分けして探索した方がよさそうだな」

 

「バリー、正気か?なにがいるかもわからないような場所で分かれるのは自殺行為だぞ」

 

「なにもひとりひとり分かれようって話じゃない。全員で動いたほうがこんな狭いところじゃ動きにくいだろう?ウェスカーが抜けたが代わりにセルケトが入ってちょうど6人いる。2人ずつに分かれて探索するのはどうだ?」

 

「なるほどな、どう分ける?」

 

「……私とクリス、アリサとジョセフ、バリーとジルに分かれるのが戦力的にちょうどいいかもね。異論はある?」

 

 

 バリーの提案に賛同したジョセフの問いかけに、セルケトが組み合わせを述べる。兵器として育てられた頭脳が導きだした答えなら異論はない。

 

 

「そうしよっか。行こう、ジョセフ」

 

「おう、また頼むぜアリサ。頼りにしてる」

 

「私もだよ、ジョセフ。じゃあ……セルケト、クリスのことは任せたよ」

 

「任された。こいつなら背中を預けられる」

 

「バリーも、ジルをよろしくね」

 

「ああ。気を付けろアリサ」

 

 

 その言葉に頷き、私たちは分かれてその場をあとにした。このとき、私は仲間の一人の様子がおかしいことに気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある一室にて、私は床に散乱した新聞紙を手に取って読んでいた。こういうところに仕掛けのヒントがあったりするからね。

 

 

「新聞だ……S.T.A.R.S.について書かれてる記事ばかり残されてる」

 

「S.T.A.R.S.ファンでも住んでたってことか?」

 

「そこまではわからないけど……私たちに」

 

 

 目につくのは隊長であるウェスカーや、S.T.A.R.S.に入る前から活躍してた私とクイーンの写真だ。ウェスカーは写真からでも胡散臭い雰囲気がするのは笑いどころかな。私の写真は…………そうか、私を研究していたここの研究員なら写真の私の顔を見てピンと来ていたかもしれないのか。だからセルケトにも襲撃されたのかも。しまったなあ、目立つのは得策じゃなかった。

 

 

「あ、我の顔だー。でも髪の色ちがうー、ふーしぎー」

 

「そうだね、不思議だね……!?」

 

「あ、アリサ?ムカデ?」

 

 

 可愛い舌足らずな声に思わず同調して振り返り、ギョッと目を見開く。なんか、巨大なムカデがアームカバーのようにと言うか一体化したような両腕と、水着のようにムカデの甲殻を身につけた、金髪の幼い私の姿をしたナニカがそこにいた。ジョセフは驚いてショットガンを手に警戒しているが撃つ気になれないようだ。そこに、廊下を駆け抜けてくる緑の影がいた。

 

 

「ヘカトから離れろ!」

 

「っ!ジョセフ、後ろに避けて!」

 

「うおおおおっ!?」

 

 

 慌てて後ろに下がって尻餅をついたジョセフの首があったところを通りすぎたのは、鋭い爪。その顔を見て私は叫びたくなった。局部や手足の先のみ緑の鱗に包まれた、鋭い爪を生やした右手を持つ黄色い爬虫類の様な瞳と短く切り揃えた緑がかった髪を有する、やっぱり私と瓜二つの容姿を持つ少女だった。少女は私とジョセフを警戒しながらも後ろのムカデな私に視線を向ける。その視線は柔らかく、優しさを感じた。

 

 

「ヘカト、勝手に離れないで。危ない」

 

「あ、オメガー」

 

 

 ヘカトと呼ばれたムカデな私がにこやかな笑みを浮かべてとてとてとオメガと呼ばれた爬虫類な私にしがみつき、オメガは鋭い爪を生えた右手を構える。なんだ、これ。なんで、ヨーン・エキドナみたいに私の顔をした怪物がたくさんいるの!?

 

 

「ジョセフ、下がってて。私がやる……!」

 

「い、いや俺もやるぞ!お前だけに戦わせてたまるか!アリサが傷つく姿を見るだけはもういやなんだ!」

 

「……ふふっ。じゃあ、死なないでよジョセフ!」

 

「おうよ!」

 

 

 頼もしいジョセフと肩を並べて、サムライエッジを構える。そんなときだった。

 

 

『うわああ!待って、たんま、お待ちなさい、うぇいと!ちょ待てよ、止まれ!お待ちになって、やめて、待ったー!』

 

「エヴリン!?」

 

 

 一触即発だった私たちの間に飛び込んできたのはエヴリンだった。オメガも止まり、怪訝な視線を向けている。

 

 

『オメガちゃん、この二人は味方!オーケイ?』

 

「了承」

 

『アリサ!この二人は味方!見た目完全に敵だけど味方!クイーンと一緒に地獄を生き抜いた仲間!殺さないで!』

 

「え、えっ。どういうこと?」

 

「どうしたんだアリサ」

 

 

 そっか、ジョセフには見えないし聞こえないんだっけ。いやでも思いっきりジョセフを殺しに来てたんだけど……信用はできないよ?

 

 

『この子達悪い子じゃないから!ほら、ご挨拶!』

 

「了承。私、オメガちゃん」

 

「我、ヘカトちゃん!」

 

「お、おう……?私、アリサ・オータムスです……?」

 

「あなたがアリサ?わーい、やった!オメガ!クイーンが見つけたら連れてきて言ってたアリサだよ!」

 

「うん、掴まってヘカト。クイーンはこっち」

 

『さすがクイーン、ちゃんと命令してたか。間に合ってよかった~』

 

「おい、何が起きてるんだ?」

 

「えっとね……」

 

 

 そう言って交差させた腕でしがみついたヘカトちゃんを背負い、歩き出すオメガちゃんを追いかけながらジョセフにエヴリンの事情を伝える。クイーンとようやく会えるのか、すごい長かった気がするけどまだ1日ぐらいしか経ってないんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オメガちゃんについていくと娯楽室で、ビリヤード台の上の玉を調べているクイーンがそこにいた。

 

 

「クイーン!」

 

「よかった、アリサ。それにジョセフ、合流できたか。レベッカと別行動する必要もなかったな」

 

 

 再会を喜びあって抱きつく私に、クイーンが笑う。ああ、心地よい。生きててよかった……!

 

 

「それよりクイーン、この子達はいったいなんなの?」

 

「エヴリンから聞いてないのか?お前の遺伝子から生まれた妹みたいなもんだ」

 

「はえ?」

 

 

 私はそこではじめてRT―ウイルスの存在を知ることとなった。なにそれ作ったやつ許せないんだけど。いや生まれたこの二人は憎めないけど!けど!それとこれとは話が別だ!夢で見たあのアイザックスとかいうやつがそんなことしてたとは!

 

 

「そのアイザックスとかいうやつ絶対殴る」

 

「そう言うと思ったよ」

 

 

 苦笑いでお見通しのクイーンに、つくづくこの相棒には勝てないなと、そう思った。




ついに合流です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:15【情報交換は大事】

どうも、パソコンを買い替えて復活した放仮ごです。お久しぶりです。今回はリハビリ回となります。さすがに一週間開けて書いたから雑さは許して。調子を早く取り戻したいところ。楽しんでいただけたら幸いです。


 クイーンと合流した私たち。とりあえずと、情報交換をすることになった。説明は下手だけど頑張ろう。まずは私からだ。視界の端ではジョセフがヘカトちゃんを高く持ち上げながら、明らかに手を抜いているオメガちゃんと追いかけっこしていた。仲いいな。

 

 

「アリサとジョセフと合流できたはいいが…他のアルファチームはどうしたんだ?それにエンリコ達…ブラボーチームのみんなを知らないか?」

 

「えっと…話すと長いんだけど、先ずブラッドは私たちを置いて逃げた」

 

「あのヘタレめ」

 

『いつか逃げ出すんだろうなとは思ってた』

 

 

 ブラッドの評価低くて可哀そうだけど事実なんだよな…擁護はできないかなあ。戻ってきたみたいだけどさ。

 

 

「あと、ケネスとフォレストが死んだ。…ごめん、守れなかった」

 

「…そうか」

 

 

 仲間の、それも同じチームメンバーの死亡報告に、クイーンな神妙な顔で頷いた。居合わせて入れたらと思うと後悔が募る。けど、前に進まなきゃ。

 

 

「それで、ケルベロス?とかサーベラス?とかいう犬に襲われてこの洋館まで逃げてきて、ウェスカーが本性見せたけど私を名乗る怪物に殺されて」

 

『草』

 

「あいつなにやってるんだ?」

 

 

 さっきまでの空気をぶち壊すようにエヴリンが空中で笑い転げてる。器用だな。…気を使わせてしまったかな。

 

 

「クリスとジルとバリーとジョセフに私たちのことを明かして、受け入れてもらって」

 

『みんな聖人君子か何かなの?』

 

「…エンリコもそうだが、黙っていた私たちが馬鹿みたいだな」

 

 

 あっちでも色々あったらしく、達観した笑みを浮かべるクイーン。二ヶ月ぐらい冒険でもしてた?

 

 

「私とジルは別行動してたんだけど、クリスとバリーとジョセフがヨーン・エキドナっていう私と同じ顔の怪物に襲われて」

 

「またお前の顔か」

 

『セルケトとオメガちゃんとヘカトちゃんだけじゃなかったのか』

 

 

 呆れたような二人の顔に思わず頷きたくなる。本当になんで知らないところで妹が二人も増えてるんだ。いや待てよ?セルケトも合わせれば三人か?とりあえずアイザックスはぶん殴る。

 

 

「そのセルケトがクリスを助けて、仲間になって…」

 

「ちょっと待て」

 

『なんで?』

 

「ウェスカーとバーキンに復讐したいんだって。それで、ウェスカーの死体が消えてて」

 

「なんて?」

 

『ゾンビにでもなったのかな?』

 

 

 理解ができないのか疑問符を浮かべる二人に苦笑いする。私も知りたいよ…。

 

 

「それでなんやかんやあってヨーン・エキドナを倒してここまでみんなで来たところです」 

 

『なんやかんや』

 

「なんやかんやって、お前めんどくさくなったな?」

 

「いやあ、そんなに説明することないなって」

 

 

 こちらはまあそんな感じだ。次を促すと、クイーンはあからさまに困った表情になった。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや…どう説明したもんかなと。まずな、えーと……同胞に反逆された。マスターリーチを名乗るもう一体の統率個体だ」

 

「そっちはそっちですごいことになってたんだね」

 

「レベッカやもう一人の仲間とともに以前乗った黄道特急にまた乗り合わせたんだが、エドワードが殺された」

 

「エドワード…」

 

 

 まだ犠牲者が…こんな力を手に入れても、救える人間とそうじゃない人間がいるんだな…。

 

 

「待って。もう一人ってエドワードのこと?」

 

「いや、ビリー・コーエンっていう逃亡犯だ。色々あって追ってたところを共闘することになってな。それで私がもともといたアンブレラ幹部養成所に行くことになって……マスターリーチと幾度となく死闘を繰り広げて、オメガやヘカトを仲間にして、決着をつけてここまで来た」

 

「要約した?」

 

「いや纏めてみたら一言で済むなって…」

 

『大冒険だったけどね!』

 

 

 ビリヤードの球を転がしながら笑うクイーンは、エヴリンに向き直る。

 

 

「レベッカは手分けしてお前たちを探すために一度別れた。それでエヴリン、ここの探索はしたのか?」

 

『ここはまだだけど、アリサを探して隣の洋館は結構回ったよ。途中に変なの見かけたけど』

 

「もしかして、昔の私に似てた?」

 

『そうだけど…あ、さっき言ってたアリサを名乗る怪物?言われてみればめっちゃそっくりだった、というか異形だったけどアリサの顔だったかも…』

 

「やっぱり、生きてたんだ」

 

 

 クリスの反撃で追い返したけど倒せてはいなかったのがエヴリンの報告で確定する。また襲われるかもしれない、気を付けよう。

 

 

「とりあえずクリス達やレベッカと合流しよう。ジョセフ!」

 

「おら、高い高ーい……おう!?なんだ、アリサ!」

 

「…まだ遊んどく?」

 

「い、いや…明かにお邪魔だと思って、な?」

 

「えー、もう遊んでくれないの~?」

 

『ヘカトちゃんを見てあげてねオメガちゃん』

 

「了承。乗って、ヘカト」

 

「はーい」

 

 

 エヴリンが呼び掛けてヘカトちゃんがオメガちゃんの背に乗り、ジョセフがハンドガンのマガジンを確かめ、私は軽くストレッチ、クイーンは一度腕の擬態を解いて戻して調子を確かめる。準備完了。行こう。




意外と一言ですむっていうね。結構時間が空いたので、特撮でいう総集編振り返り回みたいな話でした。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:16【悪意の胎動】

どうも、放仮ごです。またぎりぎりになったので短いですが投稿です。新しいパソコンに慣れねえ!新キャラ登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 寄宿舎地下、大水槽。その中を優雅に目をつぶりながら背泳ぎで遊泳し、血を流した手をかばいながら必死に逃げる獲物を追いかける、捕食者がいた。

 

 

「くそっ…出口はどこだ…!」

 

「ほんとーに嬉しいよ!なんか最近、人が誰も来なくてね!」

 

 

 それは無理矢理もぎ取ったかのような巨大サメの頭部をパーカーの様に被り口の部分から顔を出したアリサと酷似した半裸の少女だがしかし、異様に青白い肌、青っぽい銀髪のショートヘアー、臀部から生えたイルカの尾ひれの様な太い尻尾、両手と脚の指の間に生えた水かき、背中から突き出た背鰭、首筋に付いた鰓、口からは鋭く生え揃った牙が人間ではないことを表している。名はネプチューン・グラトニー。暴食の海神の名を付けられたB.O.W.であった。追いかけられているのはS.T.A.R.S.ブラボーチームのバックアップマン、リチャード・エイケンだ。

 

 

「それでねそれでね!やっぱりさ、活きのいい獲物じゃないとつまらなくてね!最近は迷い込んだだけでギャーギャー叫んで命乞いするだけの奴しかいなくて、退屈してたんだ!お願いだから簡単に死なないでよね!」

 

 

 そう言いながら、反転。水かきを駆使して高速で泳ぐと足場に体当たりを浴びせ、大きく揺らしてリチャードの足を取って怯ませるネプチューン・グラトニー。

 

 

「うわあ!?」

 

「それそれ~落ちちゃうぞー!」

 

 

 ぐるりと水中で回転して尻尾をスイングさせて叩きつけて、頭突き。それを何度か繰り返すネプチューン・グラトニー。何度も何度も夢中になって足場を大きく揺らし、落ちてきたところを喰らおうと大口を開けて水中から顔を出すネプチューン・グラトニー。

 

 

「a」

 

 

 そこで、リチャードの姿がいつの間にかなくなっていることに気づいてポカーンと大口を間抜けっぽく開けて呆けるネプチューン・グラトニーは、水中で腕と足を組んで逆さまになりながら考えた。普段は脳筋なのだが久々の獲物なのでめちゃくちゃ考えた。

 

 

「あーあ、逃がしちゃったなあ、どうしよっかなあ……追いかけよ!」

 

 

 足場は一本道だ、逃げたとしたらこの先の部屋だろうと結論付けて、足場の縁に右手をかけるネプチューン・グラトニーは「よいしょっ」と掛け声をあげて、片手の力のみで水上に上がり足場に飛び乗った。

 

 

「血の匂いは覚えたよ。おかあさんならともかく、私は陸上だろうがどこまでも追い詰めてやる。楽しいな楽しいなア!」

 

「ネプチューン・グラトニー」

 

 

 意気揚々とリチャードを追いかけようとしたネプチューン・グラトニーの背後から声がかけられる。振り返れば、己と同じ顔をした長い金髪をオールバックにしてサングラスをかけた女がいた。どうやら奥の通路からやってきたらしい。

 

 

「わっ!もしかして私の生き別れの姉さん!?」

 

「なんでそうなる。姉妹はお前が親ともども皆殺しにしたのだろう。取引だ、耳を貸せ」

 

「取引?何だか知らないけど……まずあなたはだあれ?」

 

「私か?そうだな……あーる、てぃー…アルテ。アルテ・(ダブリュー)・ミューラーとでも名乗ろうか」

 

 

 悪意の胎動は止まらない。その、同時刻。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バリー?どこに行ったの?」

 

 

 私、アリサ、エヴリン、ジョセフ、オメガ、ヘカトでゾンビを倒しながら進んでいると、途中で廊下を歩き回っていたバリーと遭遇した。

 

 

「あれ、バリー?ジルは一緒じゃないの?」

 

「アリサ、ジョセフ!それにクイーンに……なんだ、その子供たちは。アリサの妹か?」

 

「ぐふっ」

 

 

 アリサが精神ダメージで吐血した。結構キてるらしい。

 

 

「そんな感じだ。それで、ジルは?」

 

「いや、それが…逸れちまってな。探しているところだ。見なかったか?」

 

「私たちは何も。…エヴリン、頼めるか?」

 

『かしこまり!』

 

 

 そういって飛んでいくエヴリンを見送る。あいつの壁抜けは便利だからな。

 

 

「クイーンがいるってことは…エンリコ達も?」

 

「いや、エンリコは先に来ているはずだがどこにいるかまでは…レベッカは別行動だ。エドワードは死んだ」

 

「…そうか。いや、悪いな。言いにくいことを…」

 

「守れなかった私の責任だ。それよりジルの居場所に心当たりはないのか?」

 

「もしかしたら奥かもしれないな。行ってみよう」

 

 

 バリーの先導で寄宿舎を進む私たち。途中で拾ったメモによれば、ある存在のために増築したらしい。めんどうなことだ。

 

 

「…来る」

 

「オメガちゃん?」

 

 

 すると、最後尾を歩いていたオメガがなにかに気づいて振り向いた。ヘカトが不思議そうな顔をしている。同時に、私の全身のヒルがぞわっと一斉に怖気づく。なにか、来る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隙ありでござる」

 

 

 

 

 

 

「クイーン,危ない!」

 

「っ!?」

 

 

 瞬間、私を押しのけたアリサの背中が何者かに斬撃を浴びせられて噴水の様に出血する。下手人は、すぐに天井裏に引っ込んでしまったものの、ジョセフがショットガンで銃撃。

 

 

「ござっ!?」

 

「そこか!」

 

 

 怯んだ声が聞こえたので、粘液糸を天井に伸ばして引っ張り天板を引っこ抜くと、それは頭から落ちてきて床にびたんと叩きつけられ、そこにオメガがサッカーボールキックを叩き込んで壁まで蹴り飛ばした。

 

 

「おのれ…小癪な」

 

「…またその顔か」

 

 

 そこにいたのは、青っぽい体色のオメガと瓜二つの少女だった。違いといえば色と、青いマフラーを頸に巻いて口元を隠していることだろうか。

 

 

「ござっ?オメガ殿!オメガ殿でござるか!?」

 

「…プサイ」

 

 

 プサイと呼ばれた少女が満面の笑みを浮かべる。アリサがやられてなければ油断していたが…なんだこいつ。




ござるでござるよ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:17【ハンターΨ】

どうも、放仮ごです。ちらっと登場しただけで感想欄で話題総取りのプサイに笑いました。お察しの通り、虹だったり幌だったりにドハマリしております。

今回はVSプサイ。楽しんでいただけたら幸いです。


 ハンターΨ(プサイ)。ハンターΩと同じく、B.O.W.ハンターの現場で状況を確認し判断する司令塔が存在しないという弱点を克服するべくアークレイ研究所の主任研究員サミュエル・アイザックスがRT-ウイルスを投与したクローニングにより複数生み出した、ハンターの上位個体である姉妹で二番目に優秀な個体。特徴はハンターΩとよく似ており、局部や手足の先のみ青っぽい緑の鱗に包まれた、鋭い爪を生やしたハンターと同じ左手(オメガは右手)を持つ赤色の爬虫類の様な瞳と短く切り揃えた青みがかった緑の髪を有する、アリサと瓜二つの容姿を持つ、首元に青いマフラーを巻いて口元を隠した少女だ。ほっそりとしているオメガと異なり下半身、特に太腿が太ましく筋肉が集中しているが、これは蛙の遺伝子を用いて脚力に集中しているからである。

 

 性能こそ最高傑作のハンターΩには総合力で一歩及ばないものの、人間から噴き出す血を好む嗜虐的な性格であるハンターオメガと異なり仕事に忠実で堅実な真面目な性格。ハンターΩの予備として何度も任務をこなしてきた優秀なB.O.W.だ。

 

 

 

 だがしかし、非常に扱いにくい点が一つあった。

 

 

 

 

 オタクなのである。

 

 

 

 典型的な外国人の日本オタクなのである。

 

 

 

 暗殺に関する勉強のために、アイザックスが戯れに見せた己の趣味である日本の時代劇にハンターΩと異なり真面目にのめりこんでしまい、熱中して口調や考え方まで反映させてしまった。上位種ハンターたちに共通する素直さがここでも裏目に出たのだ。

 

 

 

 

 結果、無駄に目立つ「ござる」を語尾につける口調で、侍道とばかりに標的に前もって殺しのタイミングを宣言する暗殺者とかいうよくわからないものが爆誕したのである。ハンターΩという優秀な妹がいるため、ハンターΩが忙しくて数が足りない時ぐらいしか使われない残念な子だったのだが、何者かによって解放されその命令に従い襲撃してきたのだ。具体的に言うとサングラスをかけた死にぞこないの仕業であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ござっ?オメガ殿!オメガ殿でござるか!?」

 

「…プサイ」

 

 

 クイーンへの襲撃をかばった私の背中を大きく切り裂き、ジョセフのショットガンとクイーンの粘液糸で無理矢理引きずり出されたものの、オメガちゃんの顔を見てぱあっと屈託のない笑顔を浮かべる下手人である私と同じ顔の少女。一番見た目が近い、というかほとんど同じなのはオメガちゃんだろうか。しかし当のオメガちゃんの顔は苦虫を嚙み潰したような表情で、本当に苦手なんだとわかる。

 

 

「オメガー、知り合い?」

 

「…私の姉妹。何の用?」

 

「あるじ殿に言われて殺しに来たでござる!オメガ殿も同じでござろう?一緒に殺ろう、でござるよ!初めての共同作業、嬉しいでござるな!」

 

「…この、クイーンたちは私の仲間。殺すのは許さない」

 

「ござ?何言ってるでござる?仲間は拙者等だけでござろう?」

 

 

 そう心底理解できないと言うように首をかしげたプサイが口を無音で動かすとともに、廊下を駆け抜けてきてプサイとは反対方向に現れて挟み撃ちしてくるハンター二体。それを見るなりオメガちゃんが同じように口を無音で動かす。どうやら特定の波長の声で指示しているのだとわかったが、オメガちゃんに従う様子は見られない。

 

 

「命令を上書きしようとしても無駄でござる。拙者の部下として育てられたその二体は拙者の命令を優先するでござるからな。それよりなんのつもりでござるか?拙者を拘束しろだなんて…本当に裏切ったでござるか?命令に逆らうと?」

 

「エヴリンは私に好きにしていいと言ってくれた。命令じゃない、私は私がいいと思うことに従う」

 

 

 オメガちゃんはエヴリンにそう言われたから仲間になったのか。やっぱりエヴリンの言葉は私たちを変えてくれる。それはきっと、いいことだと思う。

 

 

「拙者たちハンターにとって命令がすべてでござる。逆らうというのなら」

 

 

 瞬間、構えていたクイーンとジョセフ、バリーの間を一瞬ですり抜けてオメガちゃんの眼前までプサイが迫っていた。速い、なんて脚力…!?

 

 

「例えオメガ殿といえど、容赦しないでござるよ」

 

「危ないオメガ!」

 

 

 瞬間、背負われていたヘカトちゃんが腕を伸ばしてオメガちゃんを包み込んだムカデ腕の甲殻に、左手の爪が弾かれる。同時に襲い掛かったハンター二体は、とっさに反応したクイーンが粘液糸の弾を飛ばして顔面を塞ぐことで怯んだところをオメガちゃんが回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

 

「なんでござる!?」

 

「さっきからござござうるさいぞ、忍者女」

 

「ノットニンジャ!拙者はサムライでござるよ!」

 

 

 クイーンの変形させた粘液を硬化して纏った右拳を、右掌で受け止め腹部を蹴り飛ばすプサイ。廊下を転がっていったクイーンは壁に激突し、そこにプサイがまた一瞬で跳んで肉薄したのを、伸びてきたムカデ腕が阻む。床に降ろされたヘカトちゃんだ。

 

 

「ござっ!?」

 

「お前の動きはわかりやすいんだ。クイーンに手を出したな、覚悟しろ」

 

 

 そこに、プサイの背後にいつの間にか立っていたオメガちゃんが斬撃。プサイは大きく屈んで足でMの字を作り、オメガちゃんが空ぶったところに跳躍してアッパーカット。殴り飛ばされたオメガちゃんに、プサイが命令したのか待機していたハンター二体が動き出して凶刃が迫り、ジョセフのショットガンとバリーのハンドガンが頭部を捉えてヘッドショットで撃沈した。…よし、私も何とか回復したぞ。

 

 

「私はクイーンみたいに器用にできないけど…!」

 

 

 粘液糸やら変形やら使えるクイーンと違って私は身体能力一辺倒だ。でもその分、力なら自信がある。両足で踏み抜いてまっすぐ横に跳躍、拳を振りかざしてまっすぐ廊下を突撃する。

 

 

「来るでござるか!サムライとして受けて立つでござるよ!」

 

「…なにがサムライだ、お前のそれはニンジャだよ」

 

「なんでぇでござる~!?」

 

「プサイ、お前は多数対一に慣れていないのが弱点だ」

 

 

 左爪を構えて迎撃態勢となるプサイの左手首に巻き付いた粘液糸を後ろに引っ張るクイーンと、脚に組み付き強力な脚力による動きを阻害するオメガちゃん。そんな二人に拘束され身動きが取れないプサイの顔面に、私の拳が突き刺さる。

 

 

「おーまいが~!?」

 

 

 そのまま壁に頭から叩きつけられ、目を回して倒れ伏すプサイに、オメガちゃんが右手の爪をかざしてとどめを刺そうとするのを手で制す。

 

 

「…なぜ止める?放っておいたらまた来る」

 

「姉妹なんでしょ?殺しちゃだめだよ」

 

「…是。今回は見逃す。次はない」

 

「なら私が拘束しよう」

 

 

 そのままクイーンが粘液で首から下を拘束して、私たちはその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、寄宿舎地下の大水槽にて。レベッカと合流したクリスとセルケトが、リチャードと出くわしていた。

 

 

「リチャード!?その傷、どうしたんだ!?」

 

「ひどい傷!今治療を…」

 

「クリス、レベッカ!逃げろ!奴が…」

 

 

 瞬間、真横から飛び出してリチャードに噛みつかんと迫るネプチューン・グラトニー。その刹那、リチャードの服をひっかけて引っ張り紙一重で避けさせる尻尾があった。セルケトである。

 

 

「お前、私の獲物を横取りする気!?」

 

「生憎とこいつは私の共犯者の仲間なのよ。口を出さないでくれる?」

 

「…そうか、お前がセルケトだな。噛み砕いて報酬をもらうのだ」

 

 

 そうして、蠍と鮫が激突する。




育成を間違えるとこうなるんだぞっていういい例。アイザックスが日本好きというのも地味に明かされました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:18【アイザックスの部屋】

どうも、放仮ごです。アリスのほうの実写とはひと味違うと噂のウェルカムトゥラクーンシティを借りてきて遂に視聴しました。ヴェンデッタも借りてきたけどこれは後で楽しみます。いやあ、リサ・トレヴァーが最高でしたね!あのアクションは参考にしたい。

今回は元凶の部屋に…?楽しんでいただけたら幸いです。


 バリーとはぐれたジルを探し、襲撃してきたハンターΨと戦闘して撃破した私たち。私ことアリサ、クイーン、ジョセフ、バリー、オメガちゃん、ヘカトちゃんがメンバーだ。エヴリンはまだ帰ってこない。バリーが逸れたという部屋に行ってみても、その隣の部屋を探しても、一向にジルの手掛かりは見つからず、片っ端から部屋の扉を蹴り開けて調べていく中で、私たちは明らかに今までと違う部屋に出た。

 

 

「…うん?空気が変わった…」

 

「…我が父…マーカスでもここまでではなかったぞ…」

 

「頭が痛くなるぜ…」

 

「明らかに研究者の部屋だな」

 

 

 天井までついた巨大な本棚に、大量の書類が詰め込まれ、部屋中に計算式と思われる数式が隙間なく記され埋め尽くされている。明らかに、居住スペースだった今までの部屋とは違った。すると、ヘカトちゃんをおんぶしたオメガちゃんがじーっと壁の計算式を見つめて、何かに気づいたのか目を見開かせた。

 

 

「…あの計算式、私とプサイのことが書いてある」

 

「…なるほど、ΩにΨとあるな。そういえばオメガはハンターの司令塔だから知能も高いんだったか」

 

「じゃあ、オメガとプサイを生み出した人間が書いたってこと?」

 

「それはつまり……サミュエル・アイザックスの部屋ってことか」

 

 

 クイーンの口から紡がれた名前は、サミュエル・アイザックス。名前と所業しか知らないけど、私にとっては不倶戴天の敵。私の顔を持つB.O.W.…言わば私の妹たちを作ってきた、許されざるくそ野郎だ。

 

 

「…これはアリサのことか?」

 

 

 そう言ってジョセフが指さした先に書いてあったのは、「RT」と強調して書かれた壁。リサ(Risa)トレヴァー(Trevor)、私の本名の頭文字だ。その横にはグラフの様に「RT-01“Empress”」「RT-02“Blank”」「RT-03“Crimson”」「Serket」「Cerberus」「Centurion.Hekatoncheir」「Eliminate.Sukuna」「Hunter.Ω」「Hunter.Ψ」「Yawn.Echidna」「Neptune.Gluttony」「T-EX01“■■■■■”」などなどが記されている。

 

 

「気色悪い…これ全部私の妹たちってこと…?」

 

「…そういうことみたいだな。そのコードネームらしい。見慣れない名前もいくつかあるが…これから相対すると考えたほうがよさそうだ」

 

「大家族だなアリサ!」

 

「ぶっ飛ばすよ?」

 

「今のはお前が悪いぞジョセフ」

 

 

 空気を読まないジョセフをひと睨みして黙らせていると、クイーンが棚の書類を手に取ってぱらぱらとめくる。オメガは興味が失せたのかヘカトを持ち上げて遊んでいる。

 

 

「……どうやらプライベートにまで仕事を持ち込むタイプらしいな。計算式やアイデアなんかが詰め込まれている。狂気を感じる量だ。これには如何にお前の遺伝子が素晴らしいかが記されているぞ。お前が列車に残した右腕から採取したものらしい。強力な再生能力が裏目に出たな」

 

「もうやめてクイーン…そのアイザックスはどこに逃げたの?」

 

「こんなありさまだ。十中八九逃げたんだろうな。…うん?」

 

 

 すると、何か目についたのか眉を顰めるクイーン。覗いてみると、たしかに目を引く内容が記されてあった。

 

 

「…B.O.W.完全制御計画…?なにこれ」

 

「トップシークレット扱いの代物らしいな、あちこち塗りつぶされて閲覧不可能になっている。だが内容を見るに、RT-01……お前たちの遭遇したもう一人のリサ・トレヴァーをはじめとした問題児を文字通り完全に制御するための計画らしい。始祖ウイルスを起源としたウイルスを用いたB.O.W.の脳内物質に働きかける特殊な電磁波を開発してたらしい、が開発は困難だったようだ」

 

「そんなものができてたらゾンビたちも制御できるだろうし完成はしなかったんだろうね」

 

「そうだな。不幸中の幸いだ。もしこんなものができていたら私やお前も例外ではないだろう。頓挫したことを喜ぶしかないな」

 

「おい、クイーン、アリサ!バリーが外から物音を聞いたらしい!ジルがいるんじゃないか!?」

 

 

 するとジョセフが興奮した様子で駆け寄ってきた。私とクイーンは顔を見合わせ、クイーンが書類を棚に戻して頷く。

 

 

「ああ、行こう。早くジルを見つけてクリスたちやレベッカと合流しなければ」

 

「しかし広いねえ、ここ…見取り図とかないのかな」

 

 

 そんなことをぼやきながら私たちはアイザックスの部屋を出て行った。扉を閉めた反動で、棚から一冊の書類の束が落ちて開かれる。そこには、電極の角を付けた少女のようなものと「T-EX01」という文字が描かれた図が記されていたことを、私たちは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水中から次々と飛び出してくる鮫女の猛攻に、尻尾を自在に操り鋏を振るって迎撃していくセルケトをよそに、俺とレベッカは警戒しながらもリチャードの治療を行っていた。

 

 

「ぐっ…すまない、クリス、レベッカ……」

 

「いいってことさ。無事…とは言えないが生きててよかった。それで、あいつは?」

 

「ネプチューン・グラトニーを名乗っていた…この大水槽の主らしい。俺は油断して、アレに…」

 

「見た目は全然当てにならないわリチャード。それよりクリス、セルケトさんは…強いの?」

 

「ああ、とびっきりな。あいつなら大丈夫だ」

 

 

 言ってる傍から太い尻尾に己の尻尾を巻きつかせてネプチューン・グラトニーを一本釣り、引き寄せて右足の鋏による渾身の回し蹴りを叩き込むセルケト。水面に勢いよく叩きつけられたネプチューン・グラトニーはそのまま沈んでいく。

 

 

「クリス、移動するわよ。ここじゃ分が悪い、あなたたちまで守る余裕がない」

 

「そんなに強いのか?」

 

「攻撃が効いていない、まるで痛覚がないみたい。それに奴は鮫、水中は独壇場よ。せめて水を抜かないと勝負にならない」

 

「なら、この大水槽の水を抜くぞ。どこかに制御室があるはずだ」

 

 

 途中で手に入れた見取り図を取り出し、構造を確かめる。このまま進めば制御室らしき場所に出るな。

 

 

「っ、クリス!」

 

「シャアアアアッ!」

 

 

 次の瞬間、きりもみ回転しながらネプチューン・グラトニーが俺めがけて突撃してきて、とっさにレベッカとリチャードを突き飛ばす。しかし次の瞬間には、俺も突き飛ばされて通路を転がっていた。

 

 

「悪いけど、あと任せたわ」

 

 

 同時に、ネプチューン・グラトニーの大きな口が俺を突き飛ばして隙だらけのセルケトの右肩に食らいつき、そのまま水槽に押し出して水中に引きずり込んでしまった。

 

 

「セルケト!」

 

「そんな…」

 

「嘘だろ…」

 

 

 慌てて水槽を覗き込むと、水中から水かきのついた手が飛び出してきて俺の首を掴もうとしてきて。

 

 

「お前も食うのだ!」

 

「っ…!?」

 

「a?」

 

 

寸前のところで止まる。見れば、ネプチューン・グラトニーの足にセルケトの尻尾が巻き付いていた。

 

 

「aaaaaa!?」

 

 

 断末魔とともに水槽に引きずり戻されるネプチューン・グラトニーに、俺はセルケトが繋げてくれたんだと確信して、立ち上がる。

 

 

「行くぞ!一刻でも早く水を抜いてセルケトを助ける!」

 

「ええ!リチャードは私に任せて!」

 

「面目ない…」

 

 

 俺たちは制御室に急いで歩を進めるのだった。




なんかいろいろ明かされました。さすがに最大限のネタバレになるところは潰しましたが。

セルケトは強いからどうしてもこんな役回りになってしまいます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:19【真実の代償】

どうも、放仮ごです。今回はエヴリンが真実に近づきます。新クリーチャーも登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 今日も今日とて偵察役の私は、寄宿舎と洋館の地上を飛び回ってジルの痕跡を探し回っていた。いやイーサンの時からずっとだからもう慣れたけどさ、私のことが見えるゾンビだらけの場所探すの精神的にきつい。

 

 

『ジル、何処に行ったのかな……これでクイーンたちが先に見つけてたら、めっちゃ萎えるんだけど…』

 

 

 一階と二階は探しつくしたな、多分。…あと探してないのどこかなあ。

 

 

『……地下かなあ』

 

 

 うんうん逆さまになってあぐらをかいて腕を組む最近気に入っている体勢で考え込んで、勢いよく地面に飛び込んで後悔した。

 

 

「!?」

 

『ギャアアアアアアアアッ!?』

 

 

 目の前にいきなり、松明の明かりに照らされた複数の人間の顔が組み合わさった異様な顔が出てきて絶叫。相手も驚いて腕を振り回し、その拍子に顔(?)がとれて暗闇の中で照らされ、私はあまりの恐怖に絶句した。

 

 

オマエ、ミタナ?

 

 

 ギョロギョロ動く巨大な右目に押されるようにして左目は潰れ、長い黒髪が蛸の触手の様に蠢き、口元からはみ出ている鋭い八重歯を生やした、ゴブリンか日本に伝わる鬼を思わせる醜悪な姿で私を指さして低い女の声で言ってきた言葉に、私は踵を返した。

 

 

『ごめんなさーい!?ギャー!?』

 

 

 逃げた先にはボロボロの人形が飾られた祭壇があって、マーガレットの祭壇を思い出してさらに絶叫。てんやわんやでパニックになる私。

 

 

『なにあの怪物!?……ってあれ、冷静になったら見たことあるような……そうだ、最初に出会った時のアリサ……リサに似てるんだ。もしかしてあれがもう一人のリサ?』

 

 

 ひとしきり騒いだら冷静になって、思い出した。違うところもあるけど、私がクイーンを介して擬態させて定着させた今の顔の前の顔にそっくりだった。でもなんでだ?

 

 

『うん?日記…?』

 

 

 冷静になって周りを探してみたら、祭壇にバラバラになった日記だったと思われる紙が散乱していた。もしかしてここ、あいつのねぐら?ならヒントがあるかも。なになに…?

 

 

『【Nov.14.1967】…1967年ってあれか、リサが監禁された年だ。【無理矢理された注射で頭がボーっとする。お母さんに会えない。どこかに連れていかれた】……あれ?リサの日記?でもなんだろ、この違和感。【二人で脱出しようって約束したのに私だけおいていくなんて…。なんで?なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで】ひえっ』

 

 

 恐すぎて思わず引いた。このあとずっとこのページの最後まで書き連ねている。怖い。えっと、次の紙は…これかな?

 

 

「【Nov.15.1967。お母さんみつけた!隠れておびえていた。もう大丈夫だよ、怖い奴らはお仕置きしたからね。今日の食事は、お母さんと一緒!うれしかった】…まただ、変な違和感。なんだろう、致命的に噛み合わないような……【違う、偽者だった。外は一緒だけど中が違う。お母さんを取り返さなくっちゃ!お母さんに返してあげなくちゃ!お母さんの顔をお母さんに戻してあげなくちゃ!】うーんなんでだろ、健気なのに恐く見えるなあ!」

 

 

 これアリサの日記じゃないな。あの子はこんなに猟奇的じゃないもの。これで何年も一緒に過ごしたのに上手く隠していたとかだったら人間不信になる自信がある。

 

 

『あ、下に続いてる。【お母さんの顔は簡単に取り返せた。お母さんの顔を取っていたおばさんの悲鳴がうるさかったけど、お母さんの顔をとったやつの悲鳴なんか気にしない。お母さんは私のもの。誰にも取られないように私にくっつけておこう。お母さんに会った時、顔が無いとかわいそうだもの】怖い怖い怖い怖い怖い!なんでそうなった?』

 

 

 もしかしてさっきの複数つながったように見えた顔、このくっつけた他人の顔だった…?なにそれ恐い。

 

 

【Nov.17.19■7。石の箱の中■■お母さん■匂いここ■お母さんがホント?石の箱、かたくてイタイ。手のジャラジャラが邪魔をする、邪魔!力を入れたから簡単にちぎれた。なんだ、こんなに脆かったんだ。でもお母さん、いなかった。もう会えないの?あいつら嘘をついたんだ。嘘つき嘘つき嘘つき!】おや?』

 

 

 なんか字や文体がぐちゃぐちゃだったのがいきなり整って知能が上がったように感じる。なんだこれ。

 

 

『【お父さんを一つくっつけたわ。お母さんは二つくっつけたの。中身はやっぱり赤くてヌルヌルしていて骨と肉が見えて気持ち悪い。本当のお母さんはまだ、見つからない。いらつく、イラつく。アイザックスの馬鹿はいつになってもお母さんを返してくれない。そればかりか―――――――】え?』

 

 

 その先を読んで、絶句した。え、そんな。まさか。ありえるのか、そんなこと。嘘だ、ありえない。確かめるべく、先を読み進める。

 

 

『【JN.28.1988。アイザックスが声だけで伝えてきた。マガイモノが逃げたらしい。これから実験の頻度を上げると言ってたけどどうでもいい。お父さんはどこにいったのか分からない。また、お母さんを今日見つけた。お母さんをくっつけたらお母さんは動かなくなってしまった。これも違う。それも違う。このお母さんは悲鳴を上げていた。なぜ?私は一緒に居たかっただけなのよ、お母さんどこ?会いたい、会いたいよ。…マガイモノが連れて逃げたのかしら?許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない】…どうしよう、このことをみんなに伝えないと…!」

 

「あなたの声、聴いたことがあるわ?10年前に聞いた、変わらない声。そう、マガイモノが逃げ出した日のことよ」

 

『…え?』

 

 

 読むことに集中して、それが後ろまで迫っていたことに気づかなかった私は、そいつに首を掴まれてしまった。嘘っ、私に触れて……違う、菌根を介して私に干渉してるんだ…!まずい、意識が…取り込まれる、もしそうなったらどうなるかわからない。まずいまずいまずいまずい!

 

 

「お前、私の日記を勝手に読んだわね。記憶を読み取ろうと思っただけなんだけど、これが効くのかしら?変な奴」

 

『がああっ!?あなた、は……誰!誰なの!?』

 

「…おかしなことを聞くわね?私は、リサ・トレヴァー。ジョージ・トレヴァーとジェシカ・トレヴァーの娘。それ以外の誰でもないわ」

 

『うわああああああああっ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エヴリン?」

 

 

 振り返る。あいつの声が聞こえた気がしたんだが……気のせいか?そう思いながらも、振るわれた触腕を粘液硬化した腕で弾く。目の前には、枝分かれした下半身でジョセフを捕らえた、白衣を着た緑肌の女怪がいた。

 

 

「クイーン!よそ見している暇はないよ!」

 

「わかっている!ジョセフを返せ!植物女!」

 

「失礼しちゃうわ。さっき名乗ったじゃない。私は観測場所ポイント42の樹木の精霊。ドライアド42よ」

 

「お前のどこが樹木だ!」

 

 

 アリサのツッコミに頷く。この白衣を着た女の姿をした植物と出くわしたのは、数分前に遡る。




某名探偵「あれれー?なんかおかしいぞー?」

プラント42ならぬドライアド42も登場。珍しくアリサ顔じゃないよ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:20【ドライアド42】

どうも、放仮ごです。参考までに、○○は「お母さん」で■■■は「ママ」と呼んでたりします。何がとは言わないけど。今回はドライアド42戦。楽しんでいただけたら幸いです。


 【あの事故から四日後。あの事故で失踪したリンダ・エバートンは相も変わらず消息不明だ。その事故が起きたポイント42のドライアド42と命名した植物の成長速度には目を見張るものがある。最初はプラント42と名付けられていたが、あの事故以降女性の形を取るようになったためこう名付けられた。どちらかといえばアルラウネだろうが、本体の球根から独立して動く姿は精霊の様にも見えるためいいネーミングだと思う。気のせいだろうがリンダ・エバートンによく似ている女性の姿を取っているのは擬態だろうか?

 

 ドライアド42は、他にも事故で変異したプラントに比べ、T-ウィルスの細胞変異と、RT-ウイルスの適応能力の強い影響を受けており、もはや宿主の植物が何であったのか想像することすら困難である。その形状に見合う生態は、地球上のどこを探しても存在しない。女性の姿に擬態する植物などどこを探してもないだろう。

 

 ドライアド42の栄養源は、二種類ある。一つは、地下室まで達した根から得ている養分だ。現在、地下エリアは事故があった直後、発狂した研究員が、地下の大水槽を破壊した為、地下エリアは水浸しだ。そこに流出している何らかの薬品成分が、ドライアド42の急速な成育を促している事は想像に難くない。

 

 また、ドライアド42の一部は、地下室からダクトを通り、一階の天井にまでその勢力を広げ、そこに本体が球根状となってぶら下がっている。その球根から伸びている何本ものツルが、もう一つの養分の入手手段となっている。

 

 ドライアド42は獲物を感知すると、女の擬態ならぬ義体を用いて対象、特に男性を誘惑。イカの触手の様に枝分かれできる下半身の根っこを獲物に蔓を巻きつけて拘束し動けなくしてから、蔓の裏についている吸入器官で血を吸うのだ。

 

 しかも、それなりに知能があるらしく、最近は図書室に出没して本を読んでいるという報告も入っている。さらに義体をしまっている睡眠中は、蔦を扉にからませ、外敵の侵入を防いでいる。既に数人の職員がその犠牲となった。注意喚起はしているのだが、巧みな話術とあどけない演技で簡単に騙されてしまうのだ。どこから調達したのか白衣を着ているせいで同僚だと勘違いしやすいのもあるだろう。

 

 生きて戻ってきた者の話を総合すると、花弁が開く際に、隠されていた部分が露出し、一段と攻撃性が増すらしい。ある者の報告によると、まるで何かを守っている様だと言う。そこに、何かの秘密があるように思えるのだが、なにぶん植物の考えることは、人間には理解できるものではない。

 

May 21,1998

ヘンリー・サートン】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイザックスの部屋を後にした私たちは、バリーが物音を聞いたという大部屋に来ていた。天井に植物が根を張り巡らされてる異様な部屋だった。中央の天井には巨大な球根がある。ヘカトちゃんがムカデ腕を伸ばして突っつこうとしたのをオメガちゃんが止めた。

 

 

「…この部屋だけ異様だな。アイザックスの部屋がかわいく見える。オメガ…ちゃん、何か感じるか?」

 

「本当なら寄宿舎の談話室かなにかなんだろうな」

 

「バリー、本当にここから物音がしたの?」

 

「ああ、間違いない。それも結構大きい音だった」

 

 

 …バリー、さっきから何か変だな。ジルがいなくなった時のことをぼんやりとしか覚えてなかったのに、そんなちょっとしたことは覚えてるなんて。ジルと二人行動してた時に何か起きたんだろうか。聞いてみようと、近づいた時だった。

 

 

「ほら、お兄さん。こっちよ」

 

「え?」

 

 

 なにかがぼとっと高いところから落ちた音と、聴きなれない女の声に続けてジョセフの間抜けな声が聞こえ、振り向くとジョセフが振り返った先、背後にそれは立っていた。

 

 

「私、綺麗?」

 

「お、おう…?」

 

 

 女好きのジョセフが見惚れて動きが止まってしまったのもわかる美貌だった。というよりは、今の今まで出てきたのが化け物か私の顔ばかりだったから油断していたのもあるだろうか。緑色のワンピースと白衣を着ていて緑がかった長い金髪で、整った顔の女性。緑色っぽい肌をしていて、足先が無数に枝分かれして根っこの様に床に立っていること以外を診れば絶世の美女研究員だった。

 

 

「ああ、綺麗だ…」

 

「ジョセフ!そいつから離れて!」

 

「ありがとう、嬉しいわ!馬鹿な人間で♪」

 

「うわああああああっ!?」

 

「ジョセフ!」

 

 

 咄嗟にクイーンが粘液糸を飛ばして、私は飛びついてジョセフを救出しようと試みるが、次の瞬間には下半身を構成していた根っこがほどけて大きく伸び広がり、まるでドレススカートか球根みたいに膨れ上がったそれから伸びた根っこがイカの触手のごとくうごめいてジョセフを捕らえて絡みつき、失敗。粘液糸は引きちぎれ、私は根っこで蹴り飛ばされて床を転がる。

 

 

「敵!」

 

 

 同時に異常に気付いたオメガちゃんがヘカトちゃんを背負ったまま斬撃を叩き込むが、斬られた傍から傷口から伸びた植物繊維が繋げて再生。バリーはハンドガンを構えるも、それに気づいた女が振るった右腕が枝分かれして伸びた複数の蔓でオメガちゃんともども薙ぎ払われて壁に叩きつけられる。

 

 

「お前はいったいなんだ…!」

 

「私?私は観測場所ポイント42の樹木の精霊。ドライアド42、らしいわよ?」

 

「樹木…?」

 

 

 見る。…植物なんだろうが樹木じゃないよね…?すると囚われたジョセフの様子がおかしい。顔色が青ざめていき、抵抗する元気もなくなっている。何かを吸われてる…!?

 

 

「助けないと!きゃあ!?」

 

「わかっている!ぐうっ!?」

 

「ヘカト、離れるな!がっ!?」

 

 

 私が、クイーンが、オメガちゃんとヘカトちゃんが、次々と腕が変形した蔓で薙ぎ払われていく。蔓を掴んで力任せに引きちぎろうとしたら、足元から伸びてきた根っこに足を巻きつかれて引っ張られることで体勢を崩されてしまう。クイーンは刃の様に粘液を固めた両腕でオメガちゃんとともに対抗しようとするが、切り払っても切り払っても再生してきりがない。駄目だ、勝てない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな攻防を続けているうちに、あることに気づく。気づいてしまった。

 

 

「バリーはどこ…!?」

 

「あいつ、なにか隠しているとは思ったが私たちを見捨てたのか!?」

 

 

 いつの間にかバリーが消えていた。そんな、うそでしょ!?

 

 

「ほらほらほらほら!」

 

 

 動揺した私たちの隙をついて、根っこの触手による乱舞が叩きつけられ、私たちは根っこに捕らわれて壁に叩きつけられる。まずい…!

 

 

「あなたたちも私の養分となって果てなさい!」

 

「…ジョセ、フ……!」

 

 

 ドライアド42の下半身に囚われてぐったりとしたジョセフの姿が見えて、フォレストの遺体がフラッシュバックする。もうこれ以上、あんな思いをしてたまるか…!

 

 

「うおおおおおっ!」

 

 

 力任せに両腕を伸ばして根っこを引きちぎる。再生する片っ端から引きちぎり、手でわしづかみにしてまとめて背後に投げ捨てていく。再生するものが遠のいたからか回収するために明らかに再生が遅れている。でも根っこが床を完全に埋め尽くして近寄れない。だけど今しかない。足場がないなら作るまで。

 

 

「ヘカトちゃん、腕を伸ばして!」

 

「わかったー!そーれ!」

 

 

 私の呼びかけに答えて、オメガちゃんと壁にサンドイッチにされていたヘカトちゃんが両腕のムカデ腕を縦横無尽に伸ばしてドライアド42の根っこの上に張り巡らせ、私はそれに飛び乗り駆け上る。目指すは、あいつが落ちてきたであろう天井の球根だ。

 

 

「っ、それはダメ!」

 

 

 慌ててジョセフを開放して全部の根っこと蔓を伸ばしてくるドライアド42だったが、横から銃弾の雨を浴びてズタズタに引き裂かれる。ゴクとマゴクを手にしたクイーンだ。

 

 

「いけ、アリサ!」

 

「くーらーえー!」

 

 

 間延びした掛け声を上げながら、跳躍。天井の球根目がけて拳を叩き込み、拳を中心にひび割れていき粉砕。

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」

 

 

 爆裂して緑色の液体をまき散らした球根を中心に植物は急速に枯れていき、ドライアド42も呼応するように断末魔を上げながら枯れていき、崩れ落ちたのだった。




ドライアド42は撃破するも、ジョセフダウン、バリー失踪とかなり戦力を失いました。

ドライアド42はリンダ(原作で名前だけ出てた。職員かは不明だけど今作では女研究員)を取り込んでDNAを取り込みRT-ウイルスの効果で適応、擬態して生まれたクリーチャーでした。弱点がはっきりしてる分結構楽な部類です。

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file1:21【アルテ・W・ミューラー】

どうも、放仮ごです。バイオハザードヴェンデッタ見ました。人間離れしたレオンのアクションと泥臭いクリスのアクション楽しませていただきました。ラスボスめっちゃ好き。楽しんでいただけたら幸いです。


 洋館地下アークレイ研究所の最深部。培養液で満たされ人影が見えるカプセルが立ち並ぶ研究室の本来の主を失った主任研究員用の椅子に座り、身長160ぐらいのサイズの合っていない青いシャツと防弾ジャケット、黒いパンツ(長ズボン)の上から白衣を身に着けた、長い金髪をオールバックにしてサングラスをかけたアリサと同じ顔の、ネプチューン・グラトニーにアルテ・W・ミューラーを名乗った女がそこでパソコンを操作していた。

 

 

「アリサ・オータムスの身柄を確保するつもりが、この身がそうなるとはな」

 

 

 アルテ・W・ミューラー否、ウィリアム・バーキンから渡されたRT-ウイルスにより死の淵から復活した元アルバート・ウェスカーその人である彼女は、採決した己の血液を検査。その肉体特有の特性である「全てのウイルスに適合する遺伝子」のデータを取っていた。RT-ウイルスを脱皮などの能力を持たない人間に打てばどうなるかはわからないが、ウェスカーはその唯一無二といっても過言じゃない遺伝子により適合して見せた。血液サンプルの実験シミュレートでT-ウイルスにも適合するとわかり、残っていたサンプルを打ち込んで経過観察ついでにパソコンのMOディスクに纏めているところだった。

 

 

「まさか俺の身にここまでの利用価値があるとは……俺自身が実験台にならないように気を付けねば。並大抵の人間に負ける気はしないが」

 

 

 そう言いながら思い出すのは、つい先刻の出来事。探索のためにクリス達と、さらにコンビを組んでいたジルと離れて単独で行動していたバリーとの接触だった。

 

 

―――――「バリー。君が無事でよかった。なにかあれば大事な手駒を失うことになっていたからな」

 

「ウェスカー…なのか?生きていたのか……」

 

「お前の裏切りで死に瀕したが復活した副作用でな。…さて、あの時私を裏切った代償だ。君の家族には一人、犠牲になってもらおう」

 

 

 ウェスカーは洋館事件を調査するにあたり、バリーの家族に部下をつかせて人質に取り、バリーを脅して自分の傀儡になるように仕向けていた。しかしアリサとのいざこざで、バリーはジル達側につくしかなかった。もし庇おうとすれば関係がばれていたことだろう。しかしこれは幸いにとウェスカーは新たな脅迫材料にしたのだ。

 

 

「ま、待て!それでは全然話が違う!あの時はお前と敵対するしかなかった!それにこの事態はなんだ!?俺はお前に協力して仲間の戦闘データを取れと言われただけだぞ!S.T.A.R.S.を全滅させるつもりか!?」

 

「大人しく言うことを聞け。さもなければ…モイラ…だったかな?お前の娘を誘拐してウイルスの実験台に…」

 

「俺の家族に手を出すな!」

 

「おっと」

 

 

 向けられたバリーカスタムのサムライエッジから眉間に向けて放たれる弾丸を、柔らかい体躯を活かして足を伸ばして体勢を低くして紙一重で回避するウェスカー。明らかに上がっている動体視力に、笑みがこぼれた。

 

 

「そうかそうか、そんなにモイラを犠牲にしたいか」

 

「…ただし俺次第ってことか…くそっ。なにをすればいい?」

 

「ジル・バレンタインを捕らえたい。実行犯はよこすから手伝え」

 

「…ぐっ、わかった」

 

 

 

 

――――そんな会話を思い出す。…そういえばどこかの女が身籠った子は今も生きているのだろうか。ふとそんなことが頭に浮かんだが、ウェスカーはすぐに頭の隅にその考えを追いやりエンターキーを押した。

 

 

「家族を持つとは大変だ。…なあ、ジル・バレンタイン」

 

「ぐっ……」

 

 

 そう回転する椅子を回して背後をむけば、3メートルほどの体躯を持つ巨人二体に女性が膝を床について押さえつけられて拘束されていた。ジル・バレンタインその人だ。意識が朦朧としていたジルは首を横に振り、なんとか正気を取り戻して前を見て、パシパシと目を瞬かせる。

 

 

「起きたか。手荒に連れてきてすまないな。騒がれて気づかれるのも面倒だった」

 

「アリサ…?いや、その恰好……ウェス、カー…なの?」

 

「信じられないのも無理のないことだがさすがの洞察力だ。こんななりになったがアルバート・ウェスカーだとも。今はアルテ・W・ミューラーと名乗ってはいるが好きに呼ぶといい」

 

「死体が消えたからてっきりゾンビになったのかと……」

 

「お前たちが去ったあのあと、私は隠し持っていた友人からもらったRT-ウイルス……ああ、君は知らないか。アリサ・オータムスことリサ・トレヴァーの遺伝子をもとに生み出されたウイルスを我が身に投与した。結果私は適合し、この肉体となったわけだ。不本意だがな。性別まで変わるのは想定外だ、女の身は邪魔なものが多すぎる」

 

 

 ウェスカーは己の長く伸びた髪と、Fはある胸に手をかざして吐き捨てる。バリトンの効いた低い声だった男の時とは異なる、アリサのものとも違うその声に違和感を抱きながらも、ジルは自分になにが起きたか思い出す。バリーの見つけたという手掛かりを探そうと気を取られていたところに、背後から強烈な力で殴られ気を失ってしまった。最後に見たのは、申し訳なさそうに顔を歪めたバリーとその傍に立つ巨人の姿。そう、今自分を捕らえているそのもの……そこで己の現在の状況を確認して、身をよじる。

 

 

「こいつらは…なに!?放しなさい!」

 

「おっと。暴れないほうがいい。腕の骨が折れても知らないぞ。美しいだろう?それはT-002型タイラント。T-ウィルスの名を冠するに相応しい生物兵器としてTyrant(暴君)の名を与えられたアンブレラ社最強の切り札、究極のB.O.W.だ」

 

 

 タイラント。セルケトを瀕死に追い込み、マスターリーチの肉体として猛威を振るったT-001プロトタイラントの完成品が二体、そこにいた。ウェスカーはまるで自慢でもするかの如く長い髪を振り乱し、サングラスの下で目を見開き両手をわなわなさせながら力説する。

 

 

「人間へ擬態し溶け込む能力を持ち、複雑な任務を遂行することが可能なだけの知能と圧倒的な戦闘力を備えた『完璧な兵器』の完成を目指した末に生み出された傑作!心があるゆえに失敗したセルケトとは違う、心なき無慈悲で冷酷な破壊者!アイザックス博士はRT-ウイルスに、ウィリアムはG-ウイルスに憑りつかれていたが、私はT-ウイルスの完成形たるこの存在にこそ美しさを見出す!ああ、素晴らしい!アンブレラに……あの老害に渡すなどもったいない!今はアイザックス博士考案、試作型の対B.O.W.電磁波に指向性を持たせることで制御しているが、いずれはこれなしでも言うことを聞く完璧で究極のB.O.W.が……」

 

「美しい?どこが?まだあんたの方が直視できるレベルで醜いわ!」

 

「…そうか、ジル。君にはこの美しさがわからないか。残念だ……だが驚くのはまだ早いぞ」

 

 

 そう言ってカチカチとキーボードを操作し、二つの画面を映し出すウェスカー。そこには、ドライアド42と戦うアリサ、クイーン、オメガとヘカト、そして捕らえられたジョセフ。ネプチューン・グラトニーの猛攻から逃げるクリスとレベッカ、フォレストの姿があった。

 

 

「みんな!」

 

「ネプチューン・グラトニー……ついぞ制御が叶わなかったトップクラスに凶暴なB.O.W.…だが話は通じる。外の世界に連れ出すという取引で期待通りにセルケトを殺してくれた。奴にはそれなりのポストをくれてやろう」

 

「あんな怪物を世に解き放つつもり…!?」

 

「奴だけではない。これから世界の裏の市場はB.O.W.が支配する!新世界の始まりだ」

 

 

 元々の目的であるアンブレラのライバル会社への手土産となるB.O.W.の戦闘データは十分に集まった。

 

 

「あとは、基本的なゾンビのデータだ。お前にT-ウイルスを打ち込み経過観察を録画させてもらう。何、運が良ければ抗体を持っているかもしれない。それなら私は取越し苦労だが、それも貴重なデータになるだろう。準備ができるまで牢に閉じ込めておけ」

 

「「(コクッ)」」

 

「みんな…無事でいて」

 

 

 タイラント二体に連れられ部屋を後にするジルを見て、ほくそ笑む。己が覇権を握る日も近い、その確信を込めて。その後ろの壁の向こうに、眠っている存在には気づくことはなかった。




というわけで様々な真実開示です。

裏切りのバリー、囚われのジル。不本意ウェスカー。増えるタイラント。眠る何か。

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file1:22【ネプチューン・グラトニー】

どうも、放仮ごです。ヴェンデッタ見返してて思ったけどAウイルスと今作の対B.O.W.電磁波似てますね。知らなかった弊害出てる。

今回はなんだかんだで後回しになってたネプチューン・グラトニーとの本格的なボス戦。楽しんでいただけたら幸いです。


「ジョセフ、しっかりしてジョセフ!」

 

 

 枯れ果てたドライアド42から解放されたジョセフに駆け寄り抱き起すアリサ。私も続いて近づいて現状確認。息はしている、だけど明らかに目に見えて弱っている。うん?縛られていただけなのに各部位から血が流れているな…?

 

 

「この傷跡…ヒルの様に血を吸ったようだな。弱っているのはこれか。輸血か血を作る食事がいるな」

 

「そうだ、レベッカ!レベッカなら…」

 

「オメガ…ちゃん、頼む。レベッカを見つけて連れてきてくれ」

 

「了承」

 

「いってきまーす!」

 

 

 ヘカトを担いだオメガが小走りで去っていくのを見届け、私はアリサに向き直った。ここで残るべきは私だ。

 

 

「アリサ、お前と再会した娯楽室に行け。あそこなら食料があるかもしれない。なければ洋館まで戻ってキッチンを探せ。私は何とかその間、止血を試みる」

 

「わかった!頼んだよ、クイーン!」

 

 

 扉を蹴破って出ていくアリサを見送り、私は周囲を見渡す。ゾンビの気配は…ないな。だが何かが動き回る音が聞こえる。それも複数。オメガたちじゃない。

 

 

「……しかし、エヴリン遅いな。なにをしている?…なにかあったのか?」

 

 

 あいつに限ってなにかあった、はありえない。なにせ何者も触れることすら叶わないのだから。だがここまで遅いということは何かあったということになる。…なにか、エヴリンすら(おびや)かすなにかがいるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリス、リチャードの応急処置はできたわ!」

 

「何とか動けるぜ、クリス」

 

「よし!急ぐぞ!セルケトを救う!」

 

 

 鉄の足場をカンカン鳴らしながら、先を急ぐ俺たち。制御室はこの先か…!?すると背後からバキグシャメキッと明らかに異様な金属音が連続して聞こえた。振り向くと、そこには水中から顔を出して迫りくるネプチューン・グラトニーがいた。

 

 

「怒ったぞぉおおおおっ!」

 

 

 頭にかぶった鮫の頭部の口から覗く顔を怒りで歪ませ、鉄の足場すら粉々に嚙み砕き鉄の破片を吐き捨てながら迫るネプチューン・グラトニー。咄嗟に取り出したのはスタンガンだが、すぐに考え直してしまいこむ。水中にはセルケトもいる、これを使えば倒せるだろうがセルケトまで巻き込むのはまずい。

 

 

「くそっ!」

 

 

 咄嗟にハンドガンで脳天を狙って引き金を引くも、ネプチューン・グラトニーは被っている鮫の頭部を脱いでその肉を盾にして防御、鉄の足場を噛み砕くのをやめて沈み込む。

 

 

「なんだ?」

 

「何をする気だ…!?」

 

「B.O.W.が行動を変えたら警戒を!強力な攻撃が来ます!」

 

 

 どうやらここに来るまでにひと悶着あったらしいレベッカの言葉に、俺とリチャードは顔を見合わせる。同時に、今いる足場の下の水面、ちょうど俺と先を進んでいたリチャード、レベッカの間がゴボゴボと波打ち始めた。

 

 

「俺が食い止める!行け、リチャード!レベッカ!」

 

「私の大事なおかーさんの顔をよくもー!」

 

 

 二人を先に行かせた瞬間、俺を狙って鉄の足場を噛み砕きながらネプチューン・グラトニーが迫り、咄嗟に飛びのいた俺の目の前を跳んで、こちらを一瞥するとガシャーンと音を立てながら四つん這いで着地した。ビタンビタンと尻尾が手すりに叩きつけられて水飛沫を上げる。

 

 

「お前から噛み砕いてやるのだ」

 

「…やれやれ、ヨーン・エキドナといい、女性にモテて困ったもんだな!」

 

 

 ハンドガンを三連射。しかし鮫の頭部を脱ぎ捨てて身軽になったネプチューン・グラトニーは目を見開かせて自慢の牙で弾丸を受け止め弾いていくが三連発を受け止めた反動でのけぞる。そこに残った鉄の足場を駆け抜けてショルダータックル。肩をその魚類のくせに豊満な胸に叩き込んで吹き飛ばし、水面に叩きつけるもすぐに沈んだネプチューン・グラトニーはまるで魚雷の様に水中から飛び出して奇襲。咄嗟に背負っていたフォレストのグレネードランチャーを手に取って殴り飛ばすも、また水中に逃げられる。

 

 

「フォレスト…、力を貸してくれ。とっておきだ、喰らえ!」

 

 

 グレネードランチャーに榴弾を装填。ネプチューン・グラトニーの逃げた水面に発射。爆発するも背びれが高速で泳ぎ、水槽内を離れていくのが見えた。速い…!周りを見る、逃げ道は……ネプチューン・グラトニーの噛み砕いた先の通路しかないか…。

 

 

「大人しく喰われるのだ!」

 

「くそっ!」

 

 

 バキバキと残っている足場すら噛み砕き始めたネプチューン・グラトニーから逃げるために跳躍。噛み砕かれた手すりの端に右手で掴まり、ぶら下がる。まずい、このままじゃ奴に喰われる…!?

 

 

「いっただきまーす!」

 

「させるかあ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 そこに、横から伸びてきた巨大なムカデがぶつかって水面まで吹き飛ばされるネプチューン・グラトニー。振り返れば水槽の隅の出入り口に、アリサの顔を持つ異形がいた。ところどころ緑の鱗に包まれ右手に鋭い爪を生やした、黄色い爬虫類の様な瞳と短く切り揃えた緑がかった髪の女と、両腕が巨大なムカデになっている金髪の少女。思わず身構える。

 

 

「新手か!?」

 

「否。私たちは味方。私、オメガちゃん」

 

「私はヘカトちゃん!レベッカに言われて助けに来たよ!」

 

「レベッカの知り合いか!?」

 

 

 ……あいつ、ここに来る前になにがあったんだ…。するとオメガちゃんと名乗った女が両手で脇の下を抱えたヘカトちゃんがムカデ腕を縦横無尽に伸ばして水中に突撃させる。すると背びれを水面に出して様子を窺っていたネプチューン・グラトニーがあからさまに避ける動きを始め、水面から魚雷の様に飛び出して二人を狙うも、ヘカトが伸ばしたムカデ腕で噛みつきを防がれる。

 

 

「排除」

 

「ぐうううっ!?」

 

 

 そのままヘカトを降ろしたオメガが右手の爪を一閃。胸元を大きく切り裂かれたネプチューン・グラトニーは赤い血を垂れ流す。すると、その眼の色が文字通り変わった。海を思わせる青から、血のような赤へ。

 

 

「血!芳しい香り……喰う!」

 

「え!?きゃあああっ!?」

 

「ヘカト!?」

 

 

 すると先ほどは歯が立たなかったムカデ腕を文字通り噛み砕き、ヘカトが悲鳴を上げる。青筋を浮かばせて斬りかかるオメガ。しかし尻尾で薙ぎ払われ、壁に叩きつけられてしまった。

 

 

「a。もしゃもしゃ…美味いのだ。もしゃもしゃ」

 

「やめてー!かじらないでー!」

 

 

 そのままムカデ腕に(かぶ)り付くネプチューン・グラトニー。力の限り食いちぎり、黄色い体液が飛び散ってヘカトが泣きじゃくる。なんとか手すりに掴まって足場に降り立った俺はハンドガンを構えて頭部を狙うも、すぐに反応するネプチューン・グラトニーの牙で阻まれて効果がない。くそっ、レベッカたちはまだか…?!水さえなければ近づけるのに…!

 

 

「ヘカトから離れろ」

 

「ぎゃっ!?」

 

 

 すると怒りに顔を歪ませたオメガが背後から飛び掛かり、左手で左肩を強く握りしめてめり込ませると、大きく振り上げた右腕を勢いよく振り下ろすもしかし、ネプチューン・グラトニーは首を竦めて口の位置をずらすと嚙み締めた牙で爪を受け止め弾き飛ばし、一回転。

 

 

「ぐはっ…」

 

 

 尻尾を叩きつけてオメガを床に伏せさせた。そのままヘカトの腕をもぎ取りもしゃもしゃ咀嚼しながらこちらを向く。その眼は、獲物を見る目だった。

 

 

「…お前も食いごたえありそうなのだ」

 

「っ…」

 

 

 生物としての格の違い。捕食者と獲物。本能的な恐怖が、俺を襲った。




 鉄の足場すら噛み砕いて迫るジョーズみたいなネプチューン・グラトニー。鮫なので血の匂いを嗅ぐと豹変します。フィジカルお化けなので強い。

レベッカを探してクリス組に合流したオメガとヘカト。ヘカトがおやつにされることに。幾ら食べてもなくならないスルメみたいな扱いです。

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file1:23【ワスプ・キャリアー】

どうも、放仮ごです。ようやく今回で今章に出てくるクリーチャーの情報が出そろったと思います。今回はレベッカ視点。楽しんでいただけたら幸いです。


【主任研究員の手記

 数日前、何者かの手により発生したT-ウイルスの漏洩事故。避難する前に私は漏洩したT-ウイルスのサンプルを手に入れて検査した。そしてあることがわかった。このT-ウイルスは何らかの苗床にて濃縮され強化されていたのだ。具体的に言えば感染率が上がり、抗体がなければ噛まれれば100パーセントで感染、ゾンビ化してしまうだろう。何者か知らないがやるものだ。これは、T-ウイルスを受け入れられる母体がないと成り立たない数式だ。

 

 この強化T-ウイルスの影響をもろに受けているのが、洋館や研究所にいた植物や虫たちだ。特にドライアド42と呼ばれている植物や黒く染まった体毛からブラックタイガーと呼ばれている蜘蛛が代表的な例だろうか。その中でも興味深いのが、寄宿舎に蜂の巣を作って繁殖していた蜜蜂の群れだ。

 

 ちょうど監視カメラの画角に入っていたのを視認して以降、録画していたのだがひときわ特殊な変異を遂げたのを確認した。なんと、女王蜂が蜂の巣と一体化。独立して移動し獲物を見つけて自分から兵隊蜂を仕向けて捕食を始めたのだ。蜜蝋を用いる蜂の巣は有機物だ、故に融合できたのだろう。名づけるとすればワスプ・キャリアーだろうか。これはT-ウイルスの隠された力か。素晴らしい、RT-ウイルスとは厳密には別物、故に合わせてみるのも面白いかもしれない。研究が必要だ。NESTに移ったらまずそこに着手しよう。そうだな……ウィリアム博士のG-ウイルスの研究から始めるか。彼は私を信頼している。研究に着手させてもらえるだろう。そうと決まれば避難の用意を進めなければ。

 

May 22,1998

サミュエル・アイザックス】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合流してきたオメガちゃんとヘカトちゃんからジョセフのことを伝えられた私は、大水槽を抜け出して水浸しの地下を進んでいた。

 

 

「水を抜くの、リチャードに任せたけど大丈夫かな……いや、私はジョセフの治療をしないと!オメガちゃんとヘカトちゃんに任せたから大丈夫のはず…!」

 

 

 あの二人の強さは身をもって知っている。今は仲間だが最初は敵として激戦を繰り広げた二人だ。あのネプチューン・グラトニーが相手でもなんとかなるはずだ。

 

 

「っ…!?」

 

 

 水浸しエリアを抜けて地上に繋がるであろう梯子を見つけて駆け寄ろうとした時だった。何かが蠢く影が見えて、曲がり角に隠れて様子を窺う。そこにいたのは、2メートル程の巨大な女性の影だった。

 

 

「…なんなの?」

 

 

 人影ではない、文字通りの影が歩いている。人影がそのまま独立して歩いているようなそれは、よくよく見れば影に見えるほど密集した虫の大群だった。あれは蜂だろうか。よく見れば、中心部に蜂の巣が浮かんでおり、胴体が蜂の巣と一体化した一際巨大な蜂が滞空していた。なんだあれは。人型になったヘカトちゃんを最初に見たときにも恐怖を抱いたが、それ以上の恐怖が私を支配する。口元を押さえて気配を悟られないように息を潜める、とそこに。

 

 

「うあぁあああっ」

 

「(うそでしょ…!?)」

 

 

 水中にいたのか、水浸しの通路から這い出てくる白衣のゾンビに、血の気が引く。前門の空飛ぶ蜂の巣と蜂の群れ、後門のゾンビ。逃げ場がない…!?

 

 

「――――」

 

 

 すると羽音を響かせながら蜂の群れが飛来。思わず息を呑んだ私をすり抜けて、人型の陣形を形作って腕を振るうようにしてゾンビに攻撃。ゾンビは人間だと思ったのか組み付く攻撃を仕掛けるも、その瞬間蜂の群れはばらけてゾンビにまとわりつき、次の瞬間ゾンビは貪り食われて骨だけとなり転がった。そんな、一瞬で…!?

 

 

「っ…!」

 

 

 先手必勝。ずっと背負ったままだった、アンブレラ幹部養成所で手に入れたグレネードランチャーを手に取り装填していた硫酸弾を射出。硫酸を浴びた蜂の群れは奇声を上げて撤退。巣の中に引っ込んでいく。

 

 

「次はあなたよ!」

 

 

 続けざまに焼夷弾を装填し、発射。炸裂し、炎上する蜂の巣と悶え苦しむ(多分)女王蜂。すると次々と蜂の巣から蜂が飛び出して火に飛び込み、自ら燃えて引火させて離れ燃え尽きることで鎮火させた。

 

 

「――――!」

 

 

 そのまま、怒っているのか声にならない奇声を上げて再び大量の蜂を放出する女王蜂。そのまま胴体の蜂の巣を中心に、己を頭部として四肢を作り上げるとまっすぐ飛んできて腕を振るい、咄嗟にグレネードランチャーで受け止めるも吹き飛ばされる。そこに蜂が殺到。咄嗟に装填した榴弾を炸裂させることで吹き飛ばすも第二陣が続けて襲い掛かってくるのを、サムライエッジで応戦。何とか散らすことに成功する。

 

 

「ジョセフが待ってるの…こんなところで、終われない!」

 

「――――!」

 

 

 グレネードランチャーに榴弾を装填。発射しながら突撃する。奴の繰り出した蜂の群れの腕を吹き飛ばし、そのまま蜂の巣の胴体に肉薄。ナイフを取り出し、突き刺して大きく抉る。

 

 

「これなら…どう!」

 

 

 そのまま前転して、放出された蜂の群れを回避。振り返りざまに火をつけた火炎瓶を投げ込み、サムライエッジを構える。

 

 

「ご愁傷様!」

 

「!?!?!?」

 

 

 火炎瓶が途中で破裂して爆裂。蜂の巣の大半を吹き飛ばし、蜂たちをまとめて焼き焦がさせる。崩れ落ちる女王蜂はまだぴくぴくと動いていたが、頭部を弾丸で破裂させて私は一息ついた。

 

 

「…はあ。クイーン先輩やビリーにおんぶにだっこだったけど、私だってS.T.A.R.S.なんだから!なめないで!」

 

 

 完全に沈黙したのを確認した私は先を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。NEST培養実験室にて、二人の白衣の人物が培養液の入った巨大なカプセルの前に立っていた。ウィリアム・バーキンとサミュエル・アイザックスその人である。

 

 

「準備ができましたバーキン博士」

 

「アイザックス。君の発想力には驚かされるばかりだ」

 

「いえ。G-ウイルスの苗床として器用していたのであれば、必然的に適合すると考えただけですよ。ここまでうまくいくとは」

 

「早速実戦データを得るとしよう。ちょうど、アークレイ研究所にウェスカーが誘導したS.T.A.R.S.がいるはずだ。あそこをはびこっているB.O.W.ともども排除させよう。我々の手に取り戻す、その足掛かりになるぞこいつは」

 

「それはいい。あそこにはどうしても回収したい秘匿プロジェクトの産物も眠っています。持ち出せなかったのは悔やむしかなかった」

 

「君の秘匿プロジェクトか、それは素晴らしいものなんだろうな」

 

 

 その巨大なカプセルの中には、全身漆黒の甲殻を思わせる装甲に包まれ肌が露出していない騎士の様な存在が胴体に存在する巨大な単眼をギョロギョロ動かしてバーキンとアイザックスを見つめていた。




実はマスターリーチが強化させていたT-ウイルスで強化されたワスプ、ワスプ・キャリア―。相手が悪かったけど普通にやべー奴です。

そして実は「元祖傑作ここにあり」から再登場、バーキンとアイザックスの才能が悪魔合体、ギルタブリル。その実態や如何に。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:24【海神血戦】

どうも、放仮ごです。ジョーズとかシャークネードやMEGザ・モンスターが大好きだったりします。どちらかというとモンスターパニックものが好きで、それがもとで実写版バイオハザードを見てから某調味料の実況を見てゲームの方にドハマリ、今に至ってます。そのせいか今回はめちゃくちゃ気合の入った出来になりました。楽しんでいただけたら幸いです。


「くそっ!」

 

 

 ダウンしたオメガとヘカトの傍で俺を真っ赤に染まった眼で見て舌なめずりしたネプチューン・グラトニー。尻尾をびたんと叩きつけて跳ね上がり、水中に飛び込んで背びれを水面に出して高速で泳いで迫ってきたので、レベッカとリチャードのいるであろう制御室から離れるように鉄の足場を駆け抜ける。

 

 

「ゴボボッ!ゴボッ、ゴボボボッ!」

 

「喋るなら水上で言え!?」

 

 

 水中で喋ったからか気泡を上げながら、鉄の足場を体当たりでひしゃげさせ、水中に引きずり込んでいくネプチューン・グラトニーから逃げて、全速力で鉄の足場を駆け抜ける。気が抜けるやりとりやめろ!?

 

 

「ぶへっ、水が口に入ったのだ。ぺっぺっ!よくもやったな!」

 

「俺は何もしてないぞ!?」

 

「うるさいのだ!」

 

 

 水上に顔を出してうがーっと両腕を上げて怒ったかと思えばもごもごと口を動かして、ペッ!となにかを吐き出してきた。それは手すりを粉砕して突き刺さる。見れば、それは鋭く白い牙だった。

 

 

「歯だと!?」

 

「生きのいい獲物はまず弱らせる!これ常識なのだ!くーらーえー!」

 

 

 そのまま尻尾による張力で水面に跳ね上がり、ププププッ!と尖らせた口から抜けた牙を乱射して遠距離攻撃してくるネプチューン・グラトニーから、全速力で走って回避していく。俺の走った鉄の足場に次々と鋭利な牙が突き刺さっていく。あいつ、弾切れの概念がないのか!?

 

 

「鮫の歯は生え変わる性質があるのだ!一つの歯が抜けると待機していた次の歯がすぐに出てくる、私も例外じゃない!一生のうちに2万本くらいの歯が生え変わるらしいけどそれはどうでもいいのだ!」

 

「2万本だと!?」

 

 

 そんな数を出されたらさすがに避けきれないぞ!?するとネプチューン・グラトニーが大きく息を吸い込んで溜めて、勢いよく発射して飛距離を伸ばしてきた。三連射されたそれを、咄嗟に手にしたグレネードランチャーを盾に弾き返す。しまっ、足を止めてしまった…。

 

 

「隙ありなのだ!」

 

「ぐああっ!?」

 

 

 そこに今度はショットガンの様にまとめて散弾で飛ばしてきた牙が二本、俺の右足に突き刺さって血が噴き出る。それを見て楽しそうにキャッキャッと手を叩いて喜ぶネプチューン・グラトニー。…そうか。お前こそ、隙だらけだ!

 

 

「喰らえ!」

 

「おっと」

 

 

 足を庇いながら構えたハンドガンでネプチューン・グラトニーの頭部を狙い、弾丸を乱射する。しかしネプチューン・グラトニーは撃ってから回避余裕だとばかりに涼しい顔で回避。口元に手をやってにやにや笑う。

 

 

「馬鹿なのだ?水がある限り、私は無敵なのだ」

 

「…馬鹿はお前だ。俺は囮だよ」

 

「a」

 

 

 背後から伸びてきたそれを、首をかしげて回避するネプチューン・グラトニー。それはヘカトの再生させた右のムカデ腕だった。それを見るなり三日月のような邪悪な笑みを浮かべたネプチューン・グラトニーは意気揚々と齧り付く。

 

 

「みぎゃあ!?…っ、オメガ!今だよ!」

 

「はがっ!?」

 

「了承…!」

 

 

 すると噛まれた傍から傷口を再生させて歯を自らの腕に固定したヘカトのまっすぐ伸びた右腕の上を、オメガが乗って水上を駆け抜けて右腕を左肩の向こうまで伸ばして振りかぶる。

 

 

「抜けた! a」

 

「殺す…!」

 

 

 今の歯を全部抜いて再び生え揃えさせてヘカトの腕から離れて顔を上げたネプチューン・グラトニーの顔面に、オメガが見るからに渾身の力で振り抜いた右腕の甲が炸裂。牙が砕け散り、鼻の骨が折れたのか鼻血を吹き出しながら吹き飛ぶネプチューン・グラトニーは、水に落ちるオメガを見やると怒りのままに飛び掛かろうとする。

 

 

「させるか!」

 

 

 そこ目がけて榴弾を装填したグレネードランチャーを発射。爆発から慌てて逃げるネプチューン・グラトニー。なんとかオメガから気を逸らせたな。

 

 

「お前!よくも騙したな!」

 

 

 こめかみに青筋が浮かぶほど目に見えてブチキレて泳ぐ勢いで水面下まで沈み込み、浮上する反動を利用してロケットの様にこちらに突撃してくるネプチューン・グラトニー。だがその動きは、すでに見ている!ナイフを取り出し、両手で上段に構えて迎え撃つ。

 

 

「うおおおおおっ!」

 

「ぎっ、アアアアアっ!?」

 

 

 そのまま肩口にナイフを入れて胴体まで、飛んできた勢いに合わせてざっくりと切り裂いていく。肩口から胴体まで大きく裂かれたネプチューン・グラトニーは絶叫。血飛沫を上げながら水中に落ちていく。…浅かったか、両断できなかった。

 

 

「があっ、血!私から、血?あ、a、アアアアッ!」

 

 

 自らの胴体から流れる赤い血を見て激しく動揺し、目が瞳孔だけでなく白目まで完全に真っ赤に染まり、口から蒸気を放出し涎を垂れ流しながらこちらを見やるネプチューン・グラトニー。完全に理性が飛んでいた。

 

 

「ウガアァアアアアアッ!」

 

 

 理性の欠片も感じない咆哮を上げながら、俺が逃げようとした先の鉄の足場を食い千切り、バリボリと噛み砕いてしまい逃げ場を失ってしまう。くそっ、理性を感じないのに妙に理性的だな…!

 

 

「くそっ…!?」

 

「乗って!」

 

 

 すると伸ばした右のムカデ腕でオメガを回収していたヘカトが、左のムカデ腕を勢いよくこちらに向けて伸ばしてきて、俺は咄嗟にその先端のムカデの節足に掴まり、次の瞬間水面下から飛び出してきたネプチューン・グラトニーの体当たりを喰らって大きく揺れ、その衝撃をもろに受けて尻餅をついたヘカトの右腕に掴まり、まるでジェットコースターのごとく振り回される。それを容赦なく追いすがってくるネプチューン・グラトニーのそれは血に飢えた鮫そのものだ。

 

 

「うおおおおおっ!?」

 

「ヘカト!」

 

 

 するとヘカトの右腕のムカデの節足を掴んだオメガが引っ張って軌道が変わり、ネプチューン・グラトニーの牙から逃れる俺の足。するとゴゴゴゴッ!と音が響き渡る。見れば、水かさが下がってきているようだった。やったか、レベッカ、リチャード!

 

 

「ウガアァアアアアッ!」

 

「喰らえ…!」

 

 

 ヘカトの腕に振り回された俺は、空中で手放して身をひねり、反転。下を向いて両手で構えたハンドガンを連射してネプチューン・グラトニーの体に銃弾を叩き込みながら急降下。撃たれた傷を再生させながら噛みつこうとしてきたところに銃を左手に持って右腕を振りかぶり、その頭頂部に拳を叩き込んでネプチューン・グラトニーを水面下まで殴り飛ばす。

 

 

「うぐっ!?…a?」

 

 

 すると着水して水面下で旋回してスピードを上げようとしていたネプチューン・グラトニーが、床のパイプに手をぶつけてひっくり返り、すっかり水が引いたそこにひっくり返り俺も着地。同時にヘカトとオメガも降りてくる。水がなくなったことに通常に戻った目を白黒させているネプチューン・グラトニー。ひっくり返った衝撃からか正気に戻ったらしい。

 

 

「水があれば無敵…だったか?水がないならどうだ?」

 

「っ…水の外でも歩ける鮫をなめるなあ!」

 

 

 口から牙を乱射しながら突撃してくるネプチューン・グラトニーの攻撃を、ヘカトがムカデ腕を壁の様に重ねて防御。それを乗り越えてオメガが宙返りして蹴りを叩き込み、ヘカトがムカデ腕の壁を解いたところにハンドガンを構えて乱射しながら俺も突撃。銃弾を受けて怯み、オメガの爪の斬撃を浴びてふらふらしているところに、手にしたそれを押し付ける。

 

 

「チェックメイトだ」

 

「a。ウアァアアアアアアッ!?」

 

 

 出力最大にしたそれ…スタンガンが激しく放電。感電し、黒焦げとなって口から黒煙を吐きながら水浸しの床に倒れ伏すネプチューン・グラトニー。その顔は見れば見るほどアリサと同じで、罪悪感が襲うも直ぐに振り払う。

 

 

「…鮫殺しも楽じゃないな」




空中からハンドガン連射→拳の流れは、ヴェンデッタのラスボス戦でのレオンの神業が元ネタ。レオンの方は踵落としでしたが、レオンと言えば足技でクリスと言えば拳ですよね。

ヨーン・エキドナと同じ大ボスポジで強敵だったネプチューン・グラトニー。ヘカトちゃんとオメガちゃんがいなければ詰んでたと言っても過言じゃない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:25【怪物はどっち?】

どうも、放仮ごです。エレメンタル社-覇亜愛瑠さんより素敵な支援絵をいただきました!イーサンとエヴリンが立ち向かう四貴族です。pixivで初めていただいた支援絵をこちらにも掲載していただきました!

【挿絵表示】



前々回で出揃ったとか言ってましたけど素でこいつ忘れてました。今まで目を逸らしていたことを自覚する話。楽しんでいただけたら幸いです。


【April 4,

 アイザックス博士を出し抜いて、RT-ウイルスを手に入れることに成功した。アイザックス博士はこのRT-ウイルスの研究を独占している。このままでは俺はいくら経っても成果を上げられず出世できない。こんなところに四年も缶詰なのだ。このRT-ウイルスを使って俺は成果を上げて見せる!

 

 

 

April 7,

 T-ウイルスを用いて人間の受精卵にハエの遺伝子を組み込み、それを女性の子宮に着床させて出産させるという、常軌を逸した非人道的な実験によって生み出された、人と虫が融合したような醜悪な容姿のB.O.W.「キメラ」。昆虫の繁殖力をB.O.W.の効率良い生産に利用するため開発されたもので、ハエと同等のスピードで成長し成体になるがしかし、知能が昆虫並みにしか発達しなかったため、失敗作と判断された存在だ。

 

 俺はこれをもったいないと思った。知能が低いなら低いなりに、それにふさわしい力を与えてやればいい。昆虫はいいがハエなんかではなく、より攻撃的で戦闘力の高い遺伝子を。俺は飛蝗、鍬形、蟷螂の遺伝子を用意、幼体のキメラの一体にRT-ウイルスを投与して接合した。あとは経過観察だ。ここで求めるべきはロマンだろう。あのアイザックス博士だって好き勝手やって成功しているのだ、上手くいくに違いない!名前はそうだな……キメラ・アサルト(強襲型)にしよう。

 

 

 

May 9, 1998

 完成した。正確には、以前仕込んでおき自室のケージで育てていたキメラ・アサルトが成体となったのだ。鍬形の顎に、蟷螂の鎌、飛蝗の足、そしてハエの繁殖力を兼ね備えた完全無欠の存在だ。早速レポートを書いて本部に送ろう。

 その夜、警備員のスコットとエリアス、研究員のスティーブとポーカーをやった。スティーブの奴、やたらついてやがったが、きっといかさまにちがいねェ。ちょっと頭がいいからって俺たちをばかにしやがって。いいさ、成果はできたのだ。近いうちに見返してやる。

 

 

May 10, 1998

 さっそく本部からメールが届いた。ルイス・セラという本部の研究チームの主任研究員から、NE-αを取り付けてみてはどうかという打診だった。なるほど、たしかに知能が低いなら外部的要因で補えるかもしれない。本部への移籍も考えてくれるそうだ。やったぜ、これから俺もエリート研究員だ。

 

 

 

May 11, 1998

 昨日の夜、つまり日記を書いていた時だが研究所で事故があったらしい。俺も言えた義理ではないが夜も寝ないで実験ばかりやってるから、こんな事になるんだ。しかし事故の内容次第ではやばい。防護服の用意をしておいた方がよさそうだ。俺は馬鹿じゃないんだ。

 

 

 

 

 

May 13, 1998

昨日から、妙に、全身がかゆい。防護服の下でそれなのだからたまったものじゃない。ああ、脱いでかきむしりたい。

 

 

May 14, 1998

気分は最悪だ。あまりのかゆさに防護服を脱いでかきむしったが意味がなかった。むしろ腫物になってしまった。くそっ、薔薇色人生が始まるってのに幸先が悪い。

 

 

 

May 16, 1998

昨日、この屋しきから逃げ出そうとした研究いんが一人、射さつされた、て話しだ。夜、からだ中あついかゆい。腿のはれ物 かきむし たら肉がくさり落ちやがた。いったいおれ どうな て きめら アサルトがケージをゆらして、うるさい がしゃがしゃがしゃ

 

 

May 19, 1998

やと ねつ ひいた も とてもかゆい まずい、この症状はあれだ。なんだったっけ……ああ、俺のけンきゅうせイか……お前、だけ も かいほう

 

 

 

May 21, 1988

かゆい かゆい スコット---- きた

ひどいかおなんで ころし

うまかっ です。

 

 

 

かゆい

うま】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、こんな感じかな」

 

 

 娯楽室に食料がないことを確認した私は、洋館に戻ってキッチンを物色していた。結構缶詰あるな。まあこんな人里離れた山地の洋館なんだから当たり前か。

 

 

「血に…なるかなあ」

 

 

 あの時は言えなかったけど、血ならある。私は多分だけど不死身だ。スティンガーやセルケトに腕を切断された時もなんなくくっついて再生した。スティンガーの時に大量に血を失ったけど特に問題なかったから多分、血も再生できる。自分でも何言ってるかわからないけど。だけど、だけどだ。

 

 

「私の血を使うと化け物になっちゃうんだよなあ……」

 

 

 正確に言えば私の遺伝子だろうか。エヴリン曰くスティガーとの戦いで私の血を大量に浴びたらしい偶然通りがかったムカデがヘカトちゃんになった。私の遺伝子を使ったウイルスでオメガちゃんを始めとした数多くの生物兵器が作られた……呪われた血だ。フォレストを化け物にしたくない。だから使えない。

 

 

「…はあ」

 

 

 手に入れた食料の入った袋を手にキッチンを出て、思わずため息がこぼれる。私の血のこともそうだけど、バリーについても私は止められたはずだ。気づいていたのに、なあ。…反省するのは後だ、早く戻らないと。

 

 

「…うん?」

 

 

 寄宿舎に戻ろうとしたところで、気配を感じて振り返る。なにもいない。気のせい?……いや、ヨーン・エキドナも最初はダクトに潜んでたっていうしこの洋館では油断できない。

 

 

「…上?」

 

 

 袋を左手に、右手にサムライエッジ・ルヒールを構えながら首をひょこっと出して階段の上に視線を向ける。…いやいや、ゾンビはもちろん、ヨーン・エキドナとかでもこの階段を上ったなら後姿が見えたはずだ。気のせいか…そう、銃をしまって振り向いたそこに、それは落ちてきた。

 

 

「っ!?」

 

「キシャーッ!」

 

 

 咄嗟に、私の首をギロチンしようとしていた鋭い鎌を、食料の入った袋を取りこぼして両手で受け止めると、側頭部に鋭い痛み。見れば鋏状の顎で頭部を挟み込まれていた。目の前に吹き抜けから降りてきたのは、人型の異形。蠅の頭に、鍬形の顎。蟷螂の腕に、飛蝗の足。ごちゃまぜのとんでも怪物。こんなやつ最初の探索の時には……もしかして、ヨーン・エキドナが死んだから出てきたのか…!

 

 

「があっ…」

 

 

 次の瞬間、鎌が高速で振るわれ腕を両断されるも、傷口から菌根を伸ばして無理矢理つなげて再生。鋏で頭部を拘束したまま、飛蝗の足で膝蹴りを何度も浴びせてくる怪物に、思わず吐きそうになるもなんとかこらえる。

 

 

「いい加減、離れろ!」

 

 

 両手を入れて力づくで無理矢理鋏の拘束を外して、鋏の間に頭突き。怯んで鎌を離して後退する怪物は跳躍して廊下の奥まで逃れる。そこにサムライエッジ・ルヒールに抜いて乱射するも、不気味な複眼を輝かせた怪物は蟷螂の鎌を振るって弾丸を切り飛ばし、飛蝗の足で跳躍して顎を全開にして私を挟み込もうと突撃してきた。

 

 

「硬化…!」

 

 

 今までの敵と異なり鋭利な刃を持つ相手なので、出し惜しみはなしだ。私の体内の菌根に呼びかけ、両腕を菌根で纏って武装。手の甲で顎を弾き、鎌をへし折りながら拳を叩き込んで押し返す。リサ・トレヴァーやクリムゾンヘッドの私、ヨーン・エキドナ相手だとする暇がなかったけど、こいつは隙だらけだ…!

 

 

「こんなもの…!」

 

 

 そのまま硬化した手で鋏を掴み、残った鎌で切り裂かれながらも力を入れて鋏顎をもぎとり、そのまま両の目に突き刺す。

 

 

「キシャァアアアッ!?」

 

「とどめ!」

 

 

 そして側頭部に思いっきり拳を叩き込み、頭が半回転した怪物は倒れ伏した。そこで我に返る。あまりにも凄惨な死体に、へたり込む。…これが人間のやったことか?

 

 

「はあ、はあ……ははは。私、やっぱり化け物だ……」

 

 

 乾いた笑い声が口から零れる。いつもならエヴリン辺りが飛んできて否定してくるけど、今はなぜか来なかった。




予算ガタガタしないガタキリバ。自然に生まれたわけでもないし、アイザックス以外が作った珍しいRT-ウイルスを用いたクリーチャーです。ハンサムなプーも一目おくクリーチャーでした。

かゆうまは外せないよね!(シリアスな本編から目逸らし)エヴリンとかいう精神安定剤。

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file1:26【襲来ギルタブリル】

どうも、放仮ごです。前回のあらすじで紹介した支援絵はあらすじにもおいてます念のため。

今回から最終局面に入ります。G生物って喋ると絶対やばいよねって。楽しんでいただけたら幸いです。


 最後の力でクリスを助け、沈んでいく水中で目を開ける。気泡が漏れて水面へと上がっていくのが照明で煌めいて見えた。ああ、体が重い。水が纏わりついて気力を奪い沈ませていく。…あの男を助けて終わりか。私の人生はこんなもんか、と考えてから苦笑する。…人じゃないのに人生とは笑わせる。

 

 

「…助けられた貸しぐらいは返せたかしら」

 

 

 一回沈んだ、というか沈められた過去があるから数分は耐えれるが…その前に私はあの鮫の餌食だろうし、そんな数分で倒せるわけがない。あいつはヨーン・エキドナと同等…いやホームの水場ならそれ以上の脅威だろう。クリスもウェスカーの元部下だけあって実力は高いが、さすがに……。

 

 

「…え?」

 

 

 とかそんなことを考えてたら、水が引いて私は水浸しの床に倒れていた。咳き込んで水を吐き出し、何が起きたのか確認すべく周りを見渡すと、私と同じ顔をしたムカデとトカゲを連れてクリスが駆け付けた。

 

 

「無事か、セルケト!」

 

「……同じ顔はアリサとエキドナで十分なんだけど?」

 

「いやそれはアリサのセリフだと思うぞ」

 

 

 何とも言えない顔のクリスのお腹を小突く。…あのサメを倒したのか。また、借りができてしまったわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォレストの止血を行いつつ皆を待っていると、程なくしてレベッカがやってきて治療を施し、続けて戻ってきたアリサから食料を受け取り食べさせる。

 

 

「よくこんなに見つけてきたな。よくやったアリサ。…アリサ?」

 

「…え?な、なに?クイーン」

 

「心ここにあらずだがどうした?」

 

「…エヴリンはどうしたのかなって」

 

「さあな。まだジルを探し回っているんだろう。あいつなら大丈夫だ、帰ってくるのを待とう」

 

「…そっか」

 

 

 帰ってきてからアリサの様子がおかしいことが気になったが、レベッカが遭遇したネプチューン・グラトニーとかいうサメや動く蜂の巣などの話を聞きながらジョセフの回復を待っていると。

 

 

「戻ったよー」

 

「ただいま。クイーン」

 

「おかえり、二人とも」

 

 

 そこに、ヘカトを背負ったオメガを先頭にしてクリス、リチャードと続けて入ってきた。レベッカが先に戻ってきたのは聞いていたが、よかった無事だったか。

 

 

「レベッカから聞いていると思ったが、リチャードと合流できたぞ。それと…こいつもだ」

 

「…まさかあなたと味方同士になるなんてね」

 

「…本当にな」

 

 

 気まずそうに入ってきたのは、五年前に戦った以来となるセルケト。殺されかかったのは事実だが、レベッカとアリサから話は聞いている。目的が同じ方向を向いていることも。

 

 

「まずは行方を晦ませたウェスカーか。バーキンの時も一枚噛ませろ。もうマーカスのことはどうでもいいが、仮にも親を殺した相手だからな」

 

「私にとっては親殺しなのだけどね。手伝ってくれるなら歓迎するわ」

 

「俺達は一応警察だと忘れてないかクイーン?」

 

「生憎とだがなクリス、私は人じゃないから法律の埒外だ。アリサは微妙なラインだが」

 

「? お前もアリサも人だろ。何を言っている」

 

「ぐぬっ…」

 

 

 苦言を呈してきたクリスに言い負かしてやったと不敵に笑っていたら真顔で返してきて、返事に困る。こいつのことだ、私が蛭だということを見越して言ってるんだろう。それは……人間だと思われているなら、悪い気はしないな。

 

 

「…やあ、クイーン」

 

「その指どうした、リチャード」

 

 

 欠けた左手の指をひらひらさせながらバツの悪そうな顔を浮かべるリチャードを睨みつける。同じチームブラボーの仲間だ。こいつがそう簡単にやられる男じゃないのは分かっている。つまりは。

 

 

「ああ。油断してばっくり行かれた」

 

「ばっくり行かれたじゃないぞこの馬鹿。私と違って失ったものは治らないんだぞ」

 

「あいたっ」

 

 

 こんな場所で油断した馬鹿にデコピンしてやる。これに懲りたら二度と油断するな馬鹿。私もお前たち全員を守れるわけじゃないんだぞ。

 

 

「…ところでジョセフの無事は確認できたが、ジルとバリーはどうした?」

 

 

 この場にいる私、アリサ、レベッカ、ジョセフ、リチャード、オメガ、ヘカト、セルケトを見渡してクリスがそう尋ねてきた。思わず押し黙る。レベッカも、リチャードも、視線を向けてきた。私はクリスの目をまっすぐ見れなかった。

 

 

「…ジルは行方不明。バリーは逃げた。残念ながらそれしか知らない。アリサが言うには、ジルがいなくなったのはクリスとセルケト。お前たちと離れた後の出来事だ。バリーはおそらく裏切った。あいつには守るものが、私たちより優先するものがあるからな」

 

「…家族か」

 

 

 親は死んでいるが妹がいるクリスには察しがついたのだろう。神妙な面持ちで下を向く。空気が重い。いつもバカやって空気を和らげてくれるアイツがいないから、なんだろうな。あいつの軽口にだいぶ救われていたらしい。

 

 

「とりあえずジルを探すぞ。バリーも見つけて一発ぶん殴る。しゃきっとしろお前たち」

 

「…そうだな。ジョセフ、リチャード。レベッカ。アリサ。いけるか?」

 

「…ああ、何とか回復してきたぜ。ジルを早く見つけてやろう」

 

「どこにいるかわからないエンリコもな」

 

「ケネス達を失ったのは悲しいけど…立ち止まってられないわ」

 

「大丈夫。ありがとうクリス、答えは見つかった」

 

 

 私の叱咤に頷いたクリスの言葉に、立ち上がるジョセフ、傷口を巻いた包帯を引くリチャード、グレネードランチャーを手に笑みを決意に満ちた表情を浮かべるレベッカ、吹っ切れた表情のアリサ。セルケト、オメガ、ヘカトも頷く。

 

 

「…と、意気込んでみたはいいが、誰か手掛かりを見つけたか?」

 

「多分だけど、…まだ全部調べてない洋館の地下になにかあるかも。私とジルが迷い込んで配電盤を見つけただけだったから」

 

「そこぐらいしかないか……なら戻るか」

 

 

 アリサの言葉に、寄宿舎を出てぞろぞろと中庭を通る私たち。そこで、上空からヘリの音が聞こえてきたので視線を向ける。逃げたというブラッドか!?しかし視界にとらえたのは、闇夜に浮かぶ赤と白の傘のエンブレム。そのエンブレムを、この数年憎悪とともに何度も見てきた。

 

 

「「「アンブレラ…!」」」

 

 

 私とアリサ、セルケトの声が重なる。アンブレラのエンブレムが描かれたコンテナが吊り下げたヘリコプターが上空を飛んでいた。何をする気だ…?と観察していたら、コンテナを切り落として落下させ、そのまま飛び去って行ってしまった。

 

 

「何か落としたわ…!」

 

「洋館に落ちたぞ!」

 

 

 コンテナが落ちた先に急ぐ。この先はエントランスホールか?なんだ?何を落とした?

 

 

《G生物試作一号【セルケトⅡ】ギルタブリル、覚醒サセマス》

 

 

 セルケトⅡ、ギルタブリル、だと?私たちがエントランスホールに駆け付けると、機械音声とともにコンテナの隙間からプシューと煙が放出され、ガコンガコンと音を立てて展開して、コンテナもパーツが崩れ落ちる。中に直立していたのは、異形の怪人。胸部の巨大な単眼がギョロギョロと動いてこちらを認識する。

 

 

「目標は全B.O.W.の鎮圧及びS.T.A.R.S.の排除。ミッション・スタート」

 

 

 胴体に巨大な単眼がある、全身サソリを模した漆黒の甲殻を思わせる、親指と人差し指が鋏になっている装甲に包まれ肌が露出していない騎士かコミックのヒーローを思わせるそれは、頭部の目にあたる隙間を紫色に輝かせて、背中からずるんと蠍の尾を伸ばして展開、顔の横に先端を浮かばせて手に取り、グルングルンと回転させる。その姿は、半分だけ甲殻を纏ったセルケトの完全体ともいえる姿で。

 

 

「…なかなかふざけたものを送ってくるじゃない。意趣返しのつもり…?」

 

「押さえろセルケト、冷静になれ」

 

 

 ブチギレて今にも飛び出しそうなセルケトを押さえていると、セルケトに視線を向けた瞬間固まるギルタブリル。

 

 

「……目標上書き。第一目標、セルケト。やらせろ」

 

「は?」

 

 

 次の瞬間、一瞬で肉薄すると私たちを文字通り蹴散らして、尻尾を投げ縄か鎖鎌の様に投げつけてセルケトの足を拘束、引っ張って組み敷くギルタブリルの言葉に呆けるセルケト。固まる私たち。理解できてないのか首をかしげるオメガとヘカト。…アイザックスかバーキンかは知らんが、作ったやつ頭逝ってるのか?




G生物になった完全体セルケトなギルタブリル。言ってることがめちゃくちゃですがG生物の思考なんてこんなもん。これには天才二人も想定外。見た目は完全に仮面ライダー系の特撮に出そうなイメージ。

アリサもひとまずクリスの言葉で回復しましたがまだまだ危うい。エヴリンはよ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:27【悪魔の王】

どうも、放仮ごです。昨日は諸事情でお休みしてました。いやあ、結構響くね…。何がとは言えないけども。

今回は1編ラスボス登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 突如アンブレラのヘリコプターから襲来したかと思えば、圧倒的な力で俺達を蹴散らしてセルケトを組み伏せたギルタブリルを名乗る蠍の怪人は、とんでもないことを言い出した。

 

 

「私の子を産め、セルケト…!」

 

「断固お断りよ!?なにがどうなってそうなるの!?」

 

「我が体に流れる血がそう叫んでいる…!」

 

 

 憤怒の表情を浮かべて尻尾で薙ぎ払うセルケト。それをバック転で回避したギルタブリルは二階の通路の手すりに後頭部から伸びた蠍の尾を巻きつけて宙に舞い上がり、掌を向けて装甲に空いている穴からまるでショットガンの様に針の束を飛ばしてくる。それをヘカトがムカデ腕を盾に受け止め、俺が撃ち、オメガが舞い上がって爪による斬撃を叩き込むも、どちらも両腕の親指と人差し指を形成している鋏で弾いて横蹴りを叩き込んで蹴り飛ばしたギルタブリルは尾を離して着地。

 

 

「はああ!」

 

「邪魔だ!」

 

 

 胸部の単眼をギョロギョロさせて俺達を確認するギルタブリルに、一斉に攻撃する俺達。アリサの殴り掛かりを真っ向から受け止めて弾き飛ばし、クイーンの粘液糸を容易く鋏で切断し、レベッカのグレネードランチャーを蹴り上げて爆発させ、リチャードとジョセフのショットガンを腕を交差させて防ぎ、ヘカトのムカデ腕をチョップで地面に叩きつけ、セルケトの指先から放った針と俺の放った弾丸を叩き落とすと、後頭部の尾を握って伸ばし俺達を薙ぎ払ってきた。あの胸部の単眼による動体視力と、とんでもなく堅く多彩な能力の肉体による対処、強敵だ。

 

 

「お前は私のモノだ!」

 

 

 そのまま尾を握ってぐるぐると回転させ、遠心力と勢いをつけるとセルケトの腹部に投げつけんとするギルタブリル。あれはなんか、やばい!

 

 

「おっと、女性の腹にそんなもんぶちこむんじゃねえぜ!」

 

「同感だ…!」

 

 

 と、床に転がっていたジョセフが愛用のモスバーグM590散弾銃を構えて尾を弾き飛ばして防御。さらにリチャードが突進して近づくと愛用のベネリM3を乱射。咄嗟に胸部の目を守るように腕を交差して防御し動きが止まったギルタブリルに、硫酸弾が炸裂。レベッカだ。

 

 

「セルケトになにしようとしたの…!」

 

「グオオアアアアッ!?」

 

 

 弾けた硫酸が胸部の目に入ったのか悶えるギルタブリル。せっかく全身装甲なのに弱点が丸見えなのはいかがかものか。逆に言えばそこしか付け入る隙がないということなのだが。今も苦しみながら尾を振り回して近付けさせないギルタブリルにどうしたものかと手を(こまね)いていると、ジョセフとリチャードがセルケトの前に立った。

 

 

「ここは俺らに任せて先に行け。クリス、クイーン、アリサ、レベッカ、オメガ、ヘカト」

 

「ジルが危ないはずだ、早く見つけ出してくれ」

 

「だが…」

 

「お前ら、傷は…」

 

「心配するな、クリス、クイーン。もう油断しねえよ」

 

「むしろこれぐらいさせてくれ。俺達もS.T.A.R.S.だ。これぐらい相手できないでどうする」

 

「奴の狙いは私の様だから囮に位なってやるわ。何ならこんなふざけたやつ殺してやる」

 

 

 そう言うジョセフ、リチャード、セルケトに、俺たちは視線を交わして、頷く。確かに今はジルが危ない。こいつに戦力と時間を割くのは悪手か。

 

 

「わかった、先に行く!必ず追いつけよ、三人ともだ!」

 

 

 そう言い残して、俺たちはアリサの案内で地下に突入する。無事でいろよ、三人とも!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、辿り着いたのは鉄でできた地下施設。襲い掛かってくるハンターやゾンビの群れを撃退しつつ、先を進むと見覚えのある人物のゾンビが立ちはだかる。

 

 

「エンリコ!?」

 

 

 それはまさしくブラボーチームのリーダー、エンリコ。悲痛な声を上げるレベッカに襲い掛かるエンリコに、咄嗟にヘッドショットを叩き込む。

 

 

「…すまない、エンリコ」

 

「…エンリコ。お前と一緒に行かなかったのは間違いだった」

 

「クイーン…あれ、なんか持ってるよ?」

 

 

 悲痛に満ちた表情で力なく床にぶつけるクイーンに寄り添っていたアリサが、何かを見つけてエンリコの手からそれを手に取る。

 

 

「動力エリアの鍵…?」

 

「これを使えば先に進めるか…エンリコ、安らかに眠れ」

 

 

 その鍵を使い手分けして攻略、辿り着いたのは、いくつものカプセルが安置された研究室らしき場所。その中心に、巨人二体を従えたサングラスの女がいた。

 

 

「…来たかクリス、クイーン、アリサ、レベッカ。それにハンターΩとセンチュリオン・ヘカトンケイルかな?新型B.O.W.の投入は想定外だったが……なに、お前たちが来てくれたのなら問題はない」

 

「お前…誰だ!なぜ俺達を知っている!」

 

「…ウェスカー、なのか?」

 

「なに!?」

 

 

 咄嗟に銃を構えるも、クイーンが信じられないようにこぼした言葉にギョッと驚愕し振り向く。なにがどうしてそうなった!?

 

 

「動揺するか、無理もない。私も我がことながらいまだに信じられんが…死に間際に打ったRT-ウイルスに適合してね。そこのアリサと同等の肉体を得た。今の私は、以前の“俺”とは比べ物にならん」

 

「…また、RT-ウイルス…」

 

 

 アリサが何かショックを受けているようだが、俺もまたショックを受けている。ウイルスというのは何でもありか!?い、いやそれよりも。

 

 

「じ、ジルは無事なのか!?」

 

「ジルなら無事だ。もう少しで実験するところだったが…運がよかったな。いや、運が悪いか?この二体を相手にしなければならないのだからな」

 

 

 そう言って椅子から立ち上がり、両手を掲げるウェスカー。すると控えていた二体の巨人が動き出す。

 

 

「美しいだろう。究極のB.O.W.「タイラント」だ。エンリコもこの二体がひねりつぶした。次はお前たちの番だ。安心しろ、お前たちの死体は、特にB.O.W.の細胞は私が有効活用してやろう」

 

「そんな不細工、究極の出来損ないの間違いだろう!」

 

「…そんなもの、美しくもなんともない!」

 

「生憎とそいつと似たやつは倒してきたところだ!」

 

「そうよ、今更負けない!」

 

「オメガ、我恐い…」

 

「ヘカトは私が守る」

 

 

 そう、それぞれ意気込んでいざぶつかる…その瞬間。研究室の壁の一部がバチバチとショートして、壁がスライドして煙が放出される。

 

 

「なんだ!?」

 

「新手か!?」

 

「こんなもの知らないぞ!?…ここはアイザックスの研究室……まさか」

 

 

 俺達だけでなく、ウェスカーやタイラントたちさえも狼狽える中で、煙の中からそれは現れた。ぺたぺたと足音を立てながら裸足で現れたのは、年端もいかない少女だった。側頭部から湾曲した電極と思われる太い角を二本生やした白髪で、口元を隠す大きな襟と手元を完全に隠したぶかぶかの袖と至る所に取り付けられたベルトが目立つ漆黒のコートを身に纏ったそれは、ぶかぶかの袖で隠れた右手を掲げる。

 

 

「馬鹿な、T-EX01【イブリース】だと…!?」

 

 

 それを確認するや否や、とんでもない速さで脇目も降らず研究室を飛び出していくウェスカーに驚いていると、イブリースと呼ばれたそれは大きな襟で隠された口を開いた。

 

 

「……刮目せよ。私が支配、する」

 

 

 瞬間、イブリースの角が輝いたかと思えば電源が落ちたロボットの様に目を閉じて項垂れるタイラント二体。そして目を開けたかと思えば、タイラント二体は移動してイブリースを守るように構えた。俺とレベッカ以外も様子がおかしい。

 

 

「「「「Yes、MyLord」」」」

 

「クリス先輩、これは……」

 

「ああ、まずいぞ……!」

 

 

 目を虚ろに黒く染めて、憑りつかれたように言葉を発しながら俺たちに振り返る四人に、俺とレベッカは構えるしかなかった。




アイザックスの隠し玉。すべてのB.O.W.を支配するB.O.W.、イブリース降臨。存在を知っていたウェスカーが全力で逃げだすぐらいにやべーやつ。ギルタブリル襲来の衝撃で隠し扉が開いちゃったっていう。モチーフは某総帥です。

エンリコ退場。セルケトジョセフリチャードはギルタブリルの相手に残り、さらにクイーンたち四人まで支配されて窮地に立たされるクリスとレベッカ。戦力増やして万全だと思わせてこれである。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:28【望まぬ戦い】

どうも、放仮ごです。発想はいいと自負しているけど小説構成ド下手くそだなと痛感した回となります。

今回はイブリース戦という名のリンチ。イブリースの詳細ファイルもあります。楽しんでいただけたら幸いです。


【主任研究員の秘密メモ

 T-EX01が完成した。T-EXとはアンブレラ上層部及び総帥であるスペンサー卿の命令ではなく、私が思いつき特に報告もなく独断で作成したT-ウイルスの成果物の総称であり、「本来生まれることのなかった禁断の番外生物兵器」につけられるナンバーだ。T-EX01も最初は却下されお蔵入りになるところだったのを、秘かに開発していた。

 

 存在を知っていたのは私に取引を持ち掛けてきたアルバート・ウェスカーのみだ。彼はアンブレラを離反するらしく、アンブレラのライバル会社HiveCaptureForce、通称「H.C.F」への手土産としてアンブレラも知らない兵器の情報を私から得ようとしたわけだ。そこで私が紹介したのが完成間近だったこのT-EX01だ。完成を待ってから私から受け取り、離反する予定だとのことだ。

 

 このT-EX01こと通称「イブリース」は系統としてはタイラントに近い、というかそのものだ。タイラントの設計はそのまま、タイラントのベースとなるクローンの幼体にRT-ウイルスを用いて「適応」能力を活性化、改造を施したものに湾曲した角型の電極を頭部に取り付けた。

 

 RT-01“Empress”ことリサ・トレヴァーをはじめとした、制御できず封印措置をとるしかなかった問題児を文字通り完全に制御するためのB.O.W.完全制御計画を実行するべく開発した、始祖ウイルスを起源としたウイルスを用いたB.O.W.の脳内物質に働きかける特殊な電磁波を発生させ、半径10メートル内のB.O.W.に影響を与えて支配下に置くことができる。

 

 まさしく私が提唱した理論上始祖ウイルスに連なるB.O.W.をすべて支配下に置くことができる、B.O.W.完全制御計画を実行する「B.O.W.の王」だ。イブリースとはユダヤ教やキリスト教のサタンに相当する、イスラム教においてアッ・シャイターンと呼ばれる悪魔の王の名だ。B.O.W.という名の悪魔どもの王にふさわしい。

 

 しかし弱点もある。それは、戦闘能力が皆無という点である。支配下に置いたB.O.W.に守らせるため特に問題はないし、仮にもタイラントである強靭な肉体は並の攻撃ではビクともしない。強力な支配能力のためには電極を直結した脳にリソースを集中させる必要があり、そのため肉体面にリソースを割けないため平常時は鉄のベルトを巻いた鋼鉄のコート型拘束衣を身に着けており、緊急時はこの封印が解かれて本来の戦闘能力を取り戻す仕組みになっている。ただこうなった場合は未知数だ、どうなるかわからないため使われないことを祈ろう。

 

 完成はしたが他の研究員の目に晒すわけにはいかない。アルバート・ウェスカーが再度接触してくるまでは研究室の隠し部屋にて冷凍睡眠させておこう。あとは教育だが、私やアルバート・ウェスカーに従うようにしなければB.O.W.を支配する彼女は誰にも止められなくなる。これは慎重に進めるとしよう。

 

サミュエル・アイザックス】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブリース様のために死んで、クリス!」

 

「…!」

 

「くっ…アリサ、何が起きた!?」

 

 

 同僚の剛力の拳と、究極の出来損ないの鋭利な爪が振るわれ、俺は飛びのいて避けてタイラントの頭部に銃撃を叩き込むがしかし、怯まずアリサの手を掴んで投げつけてきて、宙を舞うアリサの飛び蹴りが胸部に叩き込まれて蹴り飛ばされる。

 

 

「レベッカ、イブリース様の命令だ。大人しく殺されろ」

 

「了承。イブリース様に従わない者はすべて、殺す」

 

「しっかりしてください、クイーン先輩!オメガちゃん!?」

 

 

 隣ではレベッカがクイーンが放つ粘液糸から逃れながら、オメガの斬撃をグレネードランチャーで何とか受け止めている光景が。俺はアリサとタイラントの隙をついてグレネードランチャーを奥にいる角の少女イブリースに向けて乱射するも爆発はヘカトのムカデ腕に防がれて、直撃しそうだった榴弾はもう一体のタイラントの爪に弾かれてあらぬ場所で爆発する。

 

 

「…!」

 

「させないよ!」

 

「くそっ…邪魔をするな、ヘカト!」

 

「よそ見をしていると死ぬよ!」

 

 

 そこに横から繰り出された正拳を横っ飛びすることで衝撃を殺しながら研究室を転がっていく俺。奴だ、あのイブリースが何かして、アリサ、クイーン、オメガ、ヘカト、タイラント二体は奴に付き従うようになった。これで意識がないまま操られているだけならよかったのだが人格はそのままであり、技術も伴って攻撃が行われるというおまけつきだ。机にぶつかって呻きながら、俺は立ち上がる。

 

 

「ぐぬっ……何かおかしいと思わないのか、アリサ!クイーン!」

 

「なにも?仲間であるお前たちを殺すのは悲しいが、イブリース様に従わないのなら仕方がないことだ」

 

「イブリース様が死ねと言ったら死ぬ、当たり前のことだよ」

 

 

 俺の問いかけに、首をかしげて狂ったことを言い始める二人に恐怖する。俺達を仲間だと認識しているが、イブリースの言うことの方が大事でそれに従うことに何の疑問も抱かない?なんてやつだ、意志が強いこの二人を簡単に御するなんて…!

 

 

「排除」

 

「…!」

 

「来るわ、クリス!」

 

「ああ!」

 

 

 そこに飛び掛かってきたオメガの爪を、手首を掴むことで阻んで床に投げ飛ばし、タイラントの突進を焼夷弾で燃やして食い止めるレベッカ。そこに横からヘカトのムカデ腕が伸びてきて跳躍することで回避するもレベッカは吹き飛ばされ、俺はクイーンに粘液糸を胸部に取り付けられて引き寄せられ、アリサの拳が頭部に向けて振るわれたのを見て咄嗟に頭を下げてぎりぎり回避。引き抜いたナイフを振るうことで糸を斬りながらアリサに距離を取らせる。

 

 

「ぐっ…そんな、クイーン先輩…アリサ先輩…オメガちゃん、ヘカトちゃん…」

 

「…くそっ、どうすれば…!」

 

 

 数の差もあり、攻撃を耐え凌ぐしかない俺とレベッカ。そして最悪なことは続く。ジャラジャラと鎖の音が聞こえてきて嫌な予感とともに入り口の方に振り向くと、醜悪な怪物がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――目覚める。確か私は、リサ・トレヴァーと思われる怪物と出くわして……菌根に適応したのか触れてきたあいつに、取り込まれたんだっけ…?それから、どうなった?

 

 

「ここは…?」

 

 

 周りを見渡す、洋館の一室だ。でも、この感じ、前にも来た覚えがある。つい最近じゃなくて、ずっと昔に感じた感覚。そう、あれは……。

 

 

「そうだ、菌根の世界の雰囲気そっくりなんだ」

 

「ざまあないわね」

 

「ゼウ!?なんで!?」

 

 

 すると三メートルを超えた背丈にシンプルな黒いドレスを身に纏っていて、長い純白の髪と深紅のツリ目の私やクイーンとよく似た女、ゼウがいつの間にかソファに座り足を組みながら優雅に紅茶を啜っていて。私が驚くと紅茶の入ったカップを置いてなんてことでもないように手をひらひらさせながらゼウは不敵に笑う。

 

 

「私は菌根の世界の黒き神よ?この世界で私に不可能なことはないわ」

 

「じゃあ本当に、ここ菌根の世界なんだ……」

 

「そう。リサ・トレヴァーという女の精神世界が菌根にリンクした形ね。ローズ、心配してたわよ?どこにいるのよあなた」

 

「えっと……1998年?」

 

「は?」

 

 

 頭を掻きながら答えると、ゼウがポカーンと呆けたのでかくかくしかじかと説明する。するとゼウはこめかみを押さえてため息をついた。無駄に絵になるなこいつ。

 

 

「はあ……あなた、馬鹿なの?」

 

「うるせーやい!」

 

「自分でもよくわかってない方法で帰れる保証もないところに行くやつのどこが馬鹿じゃないのよ。それで可愛い可愛い妹を心配させてたら世話ないじゃない」

 

「まさに、正論……!」

 

 

 まさかの正論に唇を噛みながら悔しさに震える。ぐうの音も出ない。なによりこの人の心がわからない神様もどきに諭されるなんて……!

 

 

「まあなんでもいいわ……とっとと帰るわよ」

 

「え、帰れるの?」

 

「さすがに肉体ごとタイムスリップは無理だけど精神だけなら可能よ。別に、ローズのためじゃないんだからね」

 

「ツンデレ乙」

 

「ふん」

 

「ぎゃーす!?」

 

 

 顔を赤らめてプイッと背けるゼウをからかってやると、手を突き出したゼウが操ったのか机とソファが浮かんでぺっちゃんこにされた。わ、忘れてた……この世界だとこいつ無敵だった……。

 

 

「ぷべっ…ごめんなさい……」

 

「よろしい」

 

 

 素直に謝ると満足げに頷き解放してくれるゼウ。……そうか、帰れるのか。だけど、だけどなあ。

 

 

「ごめん、帰るのは無しで」

 

「…なぜかしら?」

 

「もう私一人の問題じゃなくなったんだよね」

 

 

 思い出すのは、こっちに来てから出会った人たち。私がついていないと心配な人たちだ。

 

 

「クイーン、アリサ、シェリー、レベッカ、クリス、ジル…他にもみんな。放っておいて一人で帰るなんて、もう考えられないんだよね」

 

「ローズが悲しむとしても?」

 

「うーん、ローズはもう私がいなくても大丈夫かなって。イーサンもマダオも、ゼウもいるし。よろしく言っといてよ」

 

「あなた、薄情なのね。ローズに大嫌いと言われても知らないわよ」

 

「うわ、それは嫌だなあ…」

 

 

 私の言葉に笑い、うっすらと消えていくゼウ。それはちょっと、いや本当に嫌だな。それぐらいは覚悟しないとか。

 

 

「もし恥知らずにも帰りたくなったら呼びなさい。気が向いたら迎えに来てあげるから」

 

「うん、その時はお願いね」

 

 

 そして完全に消え去ったのを見送り、私は振り向く。そこには、黒髪を長く伸ばした、パーティー用のドレスを着た美少女が立っていて。

 

 

「さあ、これでサシだよ。ちょっと話をしようか、リサ」




戦闘力のない代わりに支配能力に特化したタイラントがイブリースです。ちなみにG-EX01がギルタブリル。B.O.W.が多ければ多いほど無敵の魔王です。どうやって勝てばいいんじゃろね。

エヴリンまさかのゼウと再会。久々のギャグにできました。菌根世界なら何でもできるの便利。最後に出会ったのは在りし日のリサ・トレヴァー。エヴリンの話とは…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:29【リサ・トレヴァーの真相】

どうも、放仮ごです。イブリース戦の続きまで行きたかったけど丁寧に真相説明してたらノルマ達成してたので投稿します。

今回はエヴリンとリサの対話。楽しんでいただけたら幸いです。


 異形になる前の姿らしいリサ・トレヴァーがさっきから物陰からこちらの様子を窺っていたのはわかっていた。だから得体のしれないゼウを追い返して、会話の機会を手に入れたのだ。

 

 

「何の用?私の心の中にまで入ってきて。出ていって」

 

「とりこんだの多分そっちなんだけどね。でもお話しよ?貴方なんでしょ。…本物のリサは」

 

 

 そう尋ねると目を見開き、不敵な笑みを浮かべるリサ。やっぱり、そうなんだね。あの時読んだ日記の内容はこうだ。

 

 

【Nov.17.19■7。石の箱の中■■お母さん■匂いここ■お母さんがホント?石の箱、かたくてイタイ。手のジャラジャラが邪魔をする、邪魔!力を入れたから簡単にちぎれた。なんだ、こんなに脆かったんだ。でもお母さん、いなかった。もう会えないの?あいつら嘘をついたんだ。嘘つき嘘つき嘘つき!

 お父さんを一つくっつけたわ。お母さんは二つくっつけたの。中身はやっぱり赤くてヌルヌルしていて骨と肉が見えて気持ち悪い。本当のお母さんはまだ、見つからない。いらつく、イラつく。アイザックスの馬鹿はいつになってもお母さんを返してくれない。そればかりか私のマガイモノを生み出して用済みだって閉じ込められた!】

 

 

 それを読んで絶句した。嘘だ、ありえないと反芻して、そこであることに気づいたんだ。文書というのは証拠のようなものだ。書かれていることに嘘を記す理由はなく、必然的に書かれていることは真実に等しい。狂っていてわけのわからないことを書く場合もあるけど、それでも真実だ。そしてこの日記と、私の知るリサ…アリサとは致命的に違うことがあった。まず、母親が死んだ経緯。リサと母親は引き離されて注射を受けたとこの日記では書かれているが、アリサは一緒の部屋で母親の最期を見たと言っていた。まずここで相違点が存在する。「母親と離れ離れで生死を知らず探し求めるリサ」と「母親の死を受け止めて復讐しようと決めたアリサ」こうだ。

 そして特に致命的に違うのは……呼び方だ。日記には「お母さん(Mommy)」「お父さん(Daddy)」とある。でもアリサは自分の家族を語るとき「ママ」「パパ」と呼んでいた。まるで、当時の年齢の14歳である程度成熟した精神ではなく、子供の精神に戻ったかのように。ここまで揃えば嫌が応にもわかる。私たちの知るアリサは、クローンだ。

 

 

「そういえば私の日記を見たんだったわね。マガイモノと違って頭は回るようだけど…そうよ。私が本当のリサ・トレヴァー。あの日、あなたとあの蛭が連れ出したのは、凶暴で手が付けられなくなった私を効率的に研究するために生み出された、何もかも空っぽで真っ新な私のクローン。「RT-02“Blank”」よ。アイザックスに都合のいい記憶を植え付けられて、大人しい状態の私であるマガイモノを使って実験を進めようとしていた。そこに、あなたたちは来た」

 

「私とクイーンはリサ・トレヴァーを奪うことでアンブレラへの復讐の足掛かりにしようとした。だけど研究が止まることはなかったばかりかRT-ウイルスなんてものができあがるくらいに研究は進んでいた。あの時残したアリサの腕と血だけじゃ説明がつかないと思ってたけど……オリジナルがいたなら、何度でもクローンを作れたんだね」

 

「そうよ。もっとも、RT-02が唯一の成功例でほとんどが失敗して闇に葬られたけどね。RT-02の遺伝子は調整されただけあって完璧だった、今いる有象無象は奴の遺伝子をメインにして作られたわ。中にはある程度成功したけどT-ウイルスの実験台にされて真っ赤に染まって自我を失った私もいた。あなたたちがマガイモノを連れて逃げだしたから、私にも菌根とネメシスを植え付けられて実験が行われた。本当に恨むわよ」

 

 

 そう言われて思い出すのは最後に読んだ日記の文面。

 

 

【JN.28.1988。アイザックスが声だけで伝えてきた。マガイモノが逃げたらしい。これから実験の頻度を上げると言ってたけどどうでもいい。お父さんはどこにいったのか分からない。また、お母さんを今日見つけた。お母さんをくっつけたらお母さんは動かなくなってしまった。これも違う。それも違う。このお母さんは悲鳴を上げていた。なぜ?私は一緒に居たかっただけなのよ、お母さんどこ?会いたい、会いたいよ。…マガイモノが連れて逃げたのかしら?許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない】

 

「……お母さんを探しているの?」

 

 

 思わず尋ねると、ドレスの少女は憤怒に顔を歪めて私の胸ぐらをつかんできた。

 

 

「お前に何がわかる!認めない、認められるか!……お母さんも、お父さんも死んだなんて……認められるわけがないわ!」

 

 

 そのまま机に投げ飛ばされて、机を粉砕しながら転がる私。見た目は戻ってるのに身体能力はそのままか……でもこの世界での戦闘なら私の方が一枚上手だ。

 

 

「私は信じる!お母さんはまだ生きている、どこかで私を待っているはず!だから探して探して探して探して……!?」

 

 

 そのまま自分に言い聞かせるようにふらつきながら近寄ってきたので、衝撃波を放って吹き飛ばす。

 

 

「甘ったれるな!」

 

「あま…っ?」

 

「私に母親はいない。でも、母親だと慕っていた人には裏切られて、私の母親ともいえる女には出来損ない呼ばわりされた。だから当たり前に愛してくれる母親を私は知らない」

 

 

 真エヴリンは知れたのかな。ミアからの愛情を。私とミアの関係は…だいぶ歪だからなあ。ミランダに至っては縁すら切りたいレベルだ。

 

 

「子は親を選べない。うらやましいよ、そこまで慕えるほど……愛してもらっていたんでしょ?」

 

「だからなに?ひがみ?嫉妬?醜いわよ」

 

「違うよ。……いつまでも続くわけがないんだよ。親は先に生まれているから何もなくても先に死ぬ。あなたのは、それが早まっただけに過ぎない。あなたはまだスクールに通う子供だった。だから、失うのを信じられない気持ちもわかるよ?だけど、だけど……あなたは親の死を受け止めて、乗り越えて前に進むべきだった」

 

 

 そう言うと、憎まれ口の言葉に詰まるリサ。思うところはあるのだろう。日記もたまに正気に戻ってた。

 

 

「あなたが狂い果てて、こんな洋館を何十年も彷徨い続けて、人を殺し続けて、最低の研究者たちに実験され続ける人生、あなたの両親が望んでいるはずがない。あなたは戦うべきだった。でも子供の癇癪の様に逃げ続けた」

 

「じゃあ、どうすればよかったの!?マガイモノみたいに救われるのを待てばよかったの!?私は、もう人じゃないのに……逃げ出してどこかに隠れ潜めばよかったの?」

 

「違う、違うよ。あの時、私の声を聴いたんでしょ?ならあなたを助けに来ていたこともわかったよね?確かに私たちが救い出したのはあなたじゃなくてアリサだったけど……その時、自力で逃げ出して私たちに助けを求めていたら何か変わっていたよ。あなたにはそれができた。でもやらなかったんだ」

 

「ぐっ……」

 

 

 リサの力をフルに使えば、脱出して私たちに助けを求めて接触することもできたはずだ。だけどそれを選ばなかった。勘違いして、探せるのに探すことをしなかった私の落ち度でもあるが……もしそうなっていたらなにかは変わった。それは間違いない。

 

 

「それでもアリサは選んだ、アンブレラに復讐するという過酷な道を。そして前に進んだよ。復讐よりも、人を救う仕事に従事することを選んだ。知らないだろうけど、今のアリサは警察官なんだ。正義の味方。ラクーンシティの人々に愛されている街のヒーローだよ」

 

「あの子は、私と違って真っ新だから……」

 

「ううん、違うよ。あなたはあの子と同じ、優しい性格のはずだ。あなたも歩めたはずなんだよ、アリサと同じ道を」

 

「…………」

 

 

 完全に押し黙るリサに、私は手を差し出す。

 

 

「まだ間に合うはず。一緒に行こう、みんなと一緒にここを脱出して、一緒にアンブレラへ仕返ししよう」

 

「…本当に、間に合うかな?今更……」

 

 

 無理に大人ぶった口調ではなく、アリサと同じ口調で訪ねてくるリサに笑いながら、迷っているその手を取って満面の笑みを浮かべて見せる。なにせこの私こそがその証明だからだ。

 

 

「大丈夫!誰にだって、やり直す権利はあるんだから!」




というわけで、リサが本物でアリサの方が偽物でした。アリサの本当の名前はRT-02“Blank”アイザックスの部屋で正体がわからなかった最後の一人です。リサ・クリムゾンもクローンの一人のなれの果てだったという。

実はクローン作製にも長けていたアイザックス。この男、実は専門はこっちです。元ネタ的にもね?

悪者から光落ちした過去を持つエヴリン、リサを説得。これで戦況にどう影響するのか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:30【すぐ私のキャパオーバーになるのやめない?】

どうも、放仮ごです。本文だけじゃ説明が足らないと思うのであとがきも読むことをとにかくお勧めする回。

今回はギルタブリルとの決着です。楽しんでいただけたら幸いです。


「私の子を産め!セルケト!」

 

「だからそれは断るって言ってるでしょ!ギルタブリル!」

 

 

 拳の様に閉じた右手の鋏と、ギルタブリルの親指と人差し指が鋏になっている右拳が激突する。そのまま右足の鋏による回し蹴りに移行、奴の堅い甲殻に覆われた腕を挟み込んで引っ張り、飛び膝蹴りを顔面に叩き込んで蹴り飛ばす。

 

 

「今だ、ジョセフ!」

 

「おうよ!リチャード、合わせろ!」

 

 

 壁まで吹き飛ばされたギルタブリルの胸部の目に、ジョセフとリチャードがショットガンで集中砲火。体液の飛沫が飛び散り、瞑目しているのでダメージが入っているようだ。私よりも強力だけど、明らかな弱点ができているのは同情するわ。

 

 

「邪魔をするな…!」

 

 

 胸部の単眼を閉じて立ち上がり、後頭部から伸びる尻尾を手に取り、伸ばして鎖鎌の様に振り回してジョセフとリチャードを薙ぎ払うギルタブリル。尻尾の先端が渦を巻いて床に引っかき傷を作り上げ火花を散らし、そのまま大きく振り回して私たちをまとめて薙ぎ払った。

 

 

「なめないでよね!」

 

 

 吹き飛ばされた勢いのまま、私も柱に向けて尻尾を伸ばして柱に突き刺し、吹き飛ばされた遠心力でぐるりと迂回し一回転した反動を利用して空中からショルダータックルを叩き込むと、ギルタブリルは頭部の甲殻が割れて中身が見えながらも組み付いて受け止めてきた。半分割れた中には、私と同じ顔が見えた。やっぱり、私のクローンみたいね…!

 

 

「くそっ…!こいつ、強いな!」

 

「そんなことはわかっている!攻撃を集中させろ!セルケトを援護するんだ!」

 

 

 ジョセフとリチャードのショットガンを装甲で受け止め涼しい様子のギルタブリルと組み合って、奴の後頭部から伸びる尻尾と私の腰から伸びる尻尾を打ち付け合う。駄目だ、力負けして押されている。このギルタブリルは私の完全上位互換だ。T-ウイルスやRT-ウイルス、菌根だけじゃない。別の何かの力が働いている。

 

 

「隙だらけだぞ、セルケト…!」

 

「っ!?」

 

 

 すると左側、私にとっては甲殻がない弱点の方から嫌な気配。見れば、奴の後頭部から長く伸びた尻尾が大きく迂回して迫ってきていた。さっきまでは気づかなかったが、横目で真正面から見据えて気づく。見えたのは、細い穴。これは尻尾なんかじゃない、管だ。しかもそう言うことに使う……あの全身装甲でどう致すつもりなのかと思っていたが、さっきからずっと狙っていたのか。迫るそれに、なす術がない。万事休すか……

 

 

「させるかあ!」

 

 

 すると走ってきたジョセフがそれにしがみつき、受け止める。それに気を取られたギルタブリルにリチャードが駆け寄って背後からギルタブリルに飛びつき、左手でしがみつきながらショットガンを右手で握って銃口を胸部に突きつけて乱射。咄嗟に目を閉じたギルタブリルに大きな隙が生まれた。

 

 

「ジョセフ!?リチャード!?なにを…!」

 

「お前になんかあったらクリスに申し訳が立たないからなあ!」

 

「今だセルケト!でかいのを叩き込め!」

 

「っ!ええ、わかったわ!」

 

 

 リチャードの言葉に頷いて尻尾を右足に巻き付けて武装。大きく体勢を沈み込んでから跳躍し、一回転。ジョセフを尻尾を振るって吹き飛ばし、リチャードを投げ飛ばして拘束から逃れてこちらを胸部の目でまっすぐ見つめてきたギルタブリルに、右足の鋏を突き出して強烈な蹴りを胸部の目に叩き込む。

 

 

「ぐっ、おおおあああああっ!?」

 

 

 眼球を私の右足で貫かれたギルタブリルは無理矢理私を引き抜いて押し倒すと絶叫、大穴が開いた胸部の目から体液をまき散らしながら手足を振り回しながら後退し、膝をつきながらも私に向けて力なく手を伸ばす。

 

 

「し、死ぬ前に、私の子を……」

 

「本能なのか何だか知らないけど……哀れね。断らせてもらうわ」

 

「セルケトぉおおおお……」

 

 

 そのまま崩れ落ち、断末魔で私の名を呼びながら床に倒れ伏すギリタブリルに、私は背を向けて振り返る。そこには、笑みを浮かべてサムズアップを向けるジョセフとリチャードがいて。

 

 

「やったな!さすがだ!」

 

「本当に強いな。俺たちS.T.A.R.S.に入らないか?」

 

「笑えない冗談ね。私みたいな化け物を入れるなんて、無理に決まってるでしょう。クリス達を追うわよ」

 

 

 そう返しながら、追いかけようとしたときに。地下に続く扉から、それは出てきた。長い金髪をオールバックにして、サングラスと白衣を身に着けた女性だった。その存在を認知した途端、憎悪が湧き上がる。

 

 

「っ!お前たちは……」

 

「え、誰だ…?リチャード、知り合いか?」

 

「いいや?だがアリサや隊長に似てるような…?」

 

「……たとえ姿かたち、声が変わっても私にはわかるわ。私を産んでくれてありがとう、アルバート・ウェスカー!死んでくれるかしら…!」

 

「「なっ…!?」」

 

 

 私の標的、アルバート・ウェスカーに私は尻尾の先端を勢いよく伸ばして不敵に笑う。絶対に逃がさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外に出してもらって、現実のデスマスクの怪物の姿のリサと共に騒音の聞こえる方に向かうと、研究室のような部屋でとんでもないことが起きていた。

 

 

『えっ、何事?なんでクイーンとアリサ、オメガちゃんとヘカトちゃんがクリスとレベッカを襲ってるの?』

 

「…マガイモノ、いや。アリサに何をした…!」

 

 

 困惑する私をよそに、嬉々としてクリスを狙うアリサにショックを受けた様子のリサが、一番奥で多分プロトじゃないタイラント二体を侍らせた角の少女に吠える。

 

 

「RT型第一号。RT-01“Empress”とよくわからない子供。刮目せよ。お前も支配する」

 

 

 すると静かにそう告げると少女の角がバチバチと帯電し、電磁波を発生させてその範囲はこちらにまで及んだ。やられた……!?

 

 

『あれ?私、なんともないや』

 

「ぐうっ……イブリース様……」

 

『リサ!?イブリース様って何、あいつのこと!?そうか、こうやってみんなを支配したんだな!……ってリサ!しっかりして!ここであなたまでクリス達を狙い始めたからさすがにやばい!』

 

 

 私には特になんにもなかったが、リサが頭を押さえて呻き始めた。ど、どうしよう!?ってやばい、クイーンがわりかし本気で粘液硬化してクリスを今にも殴ろうとしてるー!?

 

 

「エヴリン、お前も来たか。ともにイブリース様に支配され…」

 

『とりあえず止める!喰らえー、スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「ぐあぁああああああっ!?」

 

 

 クイーンに突撃して耳元に顔を突っ込み、虎の子である超至近距離鼓膜絶叫を発動。クイーンは目を回してバターンと倒れ伏す。なんか今脳の中おかしかったな!?私、たまにクイーンの頭の中にお邪魔させてもらってるからわかるけど、なんかおかしかった!今のがからくりかな?

 

 

「クイーン!?エヴリン、なにするの!?ひどいよ!」

 

『ええ……なんかいつものノリで私が悪いみたいに非難されてるのなんで…?』

 

「当たり前。エヴリン、見損なった」

 

「一緒にイブリース様に支配されよーよ!」

 

『みんなもしっかりしてよ!?あーもう、取り合えず時間を稼ぐか!喰らえー!スゥウウ……』

 

「「「!」」」

 

 

 私が近づこうとすると、何をしようとしているのか気づいたのか顔を青ざめて全力で逃げ出すアリサ、オメガちゃん、ヘカトちゃん。超至近距離鼓膜絶叫は受けたくないらしい。でもこれで三人を抑えることはできる!…問題は、クリスとレベッカを襲い始めた二体もいるタイラントと、あのイブリースとかいうガキんちょ、そしていまにも操られそうになってるリサだ。

 

 

「私に支配されろ、エンプレス」

 

「あああ、私は……わた、しは…!」

 

『リサ!しっかりして!あなたはエンプレスなんて名前じゃない!リサ・トレヴァーでしょ!』

 

「…そうだ、私は。リサ・トレヴァーだ!」

 

「!?」

 

 

 そう言って頭を振るうとデスマスクから覗くリサの目は正気に戻っていて。ひと跳躍でタイラントに肉薄すると、長い腕を振るってアッパーカット、右ストレートを叩き込んでタイラント二体まとめてその巨体を殴り飛ばしてしまった。

 

 

『すっご…』

 

「え、なに!?」

 

「リサ・トレヴァーが味方をしただと!?」

 

「もう一人の私!?イブリース様を守らなきゃ…!」

 

 

 感嘆する私、目に見えて狼狽えるクリスとレベッカ、そしてイブリースを守ろうと私から逃げるのをやめてリサに殴りかかるアリサと受け止めるリサ。さらにそれだけじゃなかった。

 

 

「ヨーン・エキドナ。ネプチューン・グラトニー。お前たちも、来い」

 

「はーい、イブリース様ぁ!」

 

「イブリース様の敵は全部喰らうのだ!」

 

 

 イブリースがぶかぶかの袖の右腕を伸ばして告げるとアリサと同じ顔、というよりリサと同じ顔のヘビが天井のダクトから、入り口からサメが現れて吠え、タイラント二体も起き上がる。えーと、えーと……すぐ私のキャパオーバーになるのやめてくれないかなあ!こうなったら喉が涸れるまで絶叫してやる!喉ないけど!




ギリタブリルの尻尾はそういう器官でした。中身はセルケトとそっくりの女性です。つまり彼女もリサ顔。

そしてイブリース戦にリサ&エヴリン参戦。忘れてならないのは彼女の能力は異様なまでの「適応」。即座に支配電波にあらがうように適応しました。支配と同時に「適応するな」と働きかけられたアリサと違ってこれを任意で行えるのが強み。

そしてこういう乱戦で強みを発揮するエヴリン。触れないスピーカーが飛び回って耳元に近づいて大音量を流すんだからたまったもんじゃないです。クイーンダウン。

そこに参戦、ヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニー。感想欄で何人かに見抜かれたけど生きてました。仕返しのためにのこのこやってきて範囲に入っちゃったっていうね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:31【侍の流儀】

どうも、放仮ごです。情けは人の為ならず、バイオの世界観では早々回収されるものではありませんが、個性豊かなこの世界のB.O.W.ならば…?

今回はグラトニーとエキドナが加わったイブリースとの対決。楽しんでいただけたら幸いです。


 一方その頃寄宿舎の部屋の一つにて。そこでは、失神から目覚めたハンターΨことプサイがゴソゴソと粘液糸でぐるぐる巻きに縛られた己の体をもぞもぞと動かしていた。

 

 

「キシャーッ」

 

「やっとほどけたでござる…なんたる技でござるかあの珍妙な糸使い…あ、よくやったでござるお前たち」

 

 

 クイーンにより縛られた粘液糸を、部下のハンターを呼んで自分を運ばせ拘束から逃れるのを試みていたのがようやく上手くいったプサイ。ハンター二体を従えて廊下に出て気配を探る。

 

 

「部下もやられてお前たち二人しか残ってないでござるか……しかし拙者の命をとれたのに奪わぬとは……甘いでござるよオメガ殿とその仲間。でも、貸し一でござるな…拙者侍故、恩には報いるでござる。そのあとにあるじ殿の命令を完遂すればよいでござるよ。二人もそう思うでござるな?」

 

「キシャー」

 

「キシャッ」

 

「いや知らねえよってなんでぇでござる~!?」

 

 

 部下二人にツッコまれ、涙目で絶叫するプサイであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イブリースとの戦い。クイーンは私の超至近距離鼓膜絶叫で卒倒し、少し楽になるかと思われていたが、タイラント二体、アリサ、オメガちゃん、ヘカトちゃんに加えて、ヨーン・エキドナとかいうアリサ顔の蛇とネプチューン・グラトニーとかいうアリサ顔の鮫の女が入ってきた。誰ぇ!?

 

 

「ヨーン・エキドナにネプチューン・グラトニー!?生きていたのか!?」

 

『知ってるのかクリス!…ってネタ言っても聞こえないのやだなー。あ、そうだ』

 

 

 超至近距離鼓膜絶叫を他の面子に仕掛けようにも、警戒されまくってて成功するとは思えない。イブリースも警戒して私が近づくととてとてと裸足で移動するので近づけない。そこで、クイーンの倒れている姿を見てあることを思いつく。

 

 

『超久々な気がするリーチ・モールデッド!』

 

 

 クイーンの体に重なり、姿を変える。ヒルみんなの体内の私の一部(菌根)を繁殖させて合体させた、クイーンの代わりに司令塔になって操る人型の異形の一時的な私の肉体リーチ・モールデッドだ。もともとクイーンの支配権を奪うからか全然言う事聞かないやんちゃばかりだったけど、ヒル全員洗脳されているのか異物の私を全力で排除しようとしてきたので、菌根の洗脳で上書きして無理やり御する。効果は短期間だけどこの戦いの間ぐらいなら…!

 

 

「行くぞお!」

 

「なんだ!?クイーンが変身した!?」

 

「もしかして…エヴリンなの?」

 

「そうだよレベッカ!ちゃんと話すの初めましてかな!クリスも初めまして!私はエヴリン!説明は後からクイーンに聞いて、とりあえず味方!リサも説得して連れてきた!一緒に戦ってアリサたちを正気に戻そう!」

 

「味方だというならありがたい…!」

 

「お前不味そうだけどイブリース様に仇なすなら喰ってやるのだ!」

 

 

 とりあえずクリスとレベッカに協力を申し出ていると、そこにネプチューン・グラトニーが乱入。小さな口を大きく開けて鋭い牙で噛みつこうとしてきたので、粘液硬化で受け止めそのまま粘液を半固体にして固定する。噛み砕けないどころか固定されて歯が抜けず困惑するネプチューン・グラトニー。

 

 

「あがっ!?は、はずれなっ……」

 

「気を付けろ!そいつは歯を引っこ抜いて攻撃してくるぞ!」

 

「じゃあ口ごと!」

 

「あがああっ!?」

 

 

 さらに粘液を増量させて噛みつかれている腕を大きく膨れ上がらせてつっかえさせ口の中にも接着、もがくネプチューン・グラトニーを技術もくそもなくボコスカ殴る。なんか知らんけど相性がいいぞ。

 

 

「エヴリンまでなんでイブリース様に逆らうのッ!」

 

「ヘカトちゃん、ごめん…!」

 

「えっ、ひぎゃあああああっ!?」

 

 

 そこにムカデ腕を突撃させてくるヘカトちゃんの攻撃を避け、ムカデ腕の甲殻じゃない裏側に向けて硫酸弾を発射するレベッカ。ヘカトの甲殻は対戦車ライフルでも耐えられそうなぐらい堅いが、内側はそうじゃない。結果ヘカトは泣きわめき絶叫する。

 

 

「ヘカトをよくも…!」

 

「させるか!」

 

 

 そんなレベッカにオメガちゃんが右手の爪を構えて飛び掛かるが、それをナイフを手にしたクリスに受け止められる。すごいな、オメガちゃんとんでもない怪力なのにさすが未来のゴリラ。上手く軌道を逸らして捌き切ってる。

 

 

「くっ、放せえ!」

 

「うるさい妹ね…そこで大人しくしてなさい」

 

「シャアアアッ!」

 

 

 一方、アリサを髪の毛触手で縛って空中で締め上げつつ、ボディーガードなのかイブリースの傍に一体控えているのとは異なるもう一体のタイラントが振るう爪と、ヨーン・エキドナの噛みつかんとする牙に、手首の手枷に繋がった鎖を振り回してぶつけ、迎撃するリサ。ひとりで三体相手にしてるのやべえ。

 

 

「あなたは怖いけどイブリース様のためぇ!」

 

「邪魔」

 

 

 リサを怖がっているらしいヨーン・エキドナが尻尾を大きくスイングさせるも、タイラントを殴り飛ばしたリサはその勢いのままヨーン・エキドナの尻尾を掴んでまるで鞭でも振るうかの如く振り回してヨーン・エキドナの牙を頭部からタイラントに叩きつけ、右の露出している心臓に牙が突き刺さるとタイラントは悶え苦しみ、崩れ落ちる。あのタイラントを戦闘不能にするとかやばい毒だな。

 

 

「アァー!?ごめんなさいイブリース様ー!?ギャア!?」

 

 

 そのまま培養槽に頭から叩きつけられ、ガラスを割って中の液体を溢れさせながらリサに投げ捨てられてチーンという擬音が似合う体勢で崩れ落ちるヨーン・エキドナ。リサ強すぎぃ……。

 

 

「やった!脱出できた!喰らえ…!」

 

「っ…」

 

 

そう戦慄していると、アリサが拘束している髪の毛を力づくでちぎって脱出、拳をリサの顔面に浴びせて殴り飛ばされるリサ。デスマスクが宙を舞い、私がここに来る道中である程度菌根を操作したおかげで鋭い牙も肥大化した右目も元に戻ってアリサと酷似した元に近くなった素顔が露出して、顔を赤らめるリサ。デスマスクつけなくてもいいのにと言ったのに、恥ずかしいと言って隠してたんだよねえ。いやまあ顔と身体のバランス合ってないけどさ。

 

 

「えっ…」

 

「この……馬鹿妹!」

 

 

 その素顔に困惑して動きが止まったアリサに、リサの怒りの鉄拳が炸裂。殴り飛ばされ失神するアリサ。一人で三体倒しちゃったんだけど、すごすぎない?リサ。あ、ネプチューン・グラトニーが窒息して失神した。放っておこう。

 

 

「はあ、はあ……妹もその仲間も元に戻してもらうわ」

 

「イブリース様ごめんなさい~!」

 

「ぐっ……厄介」

 

 

 デスマスクを被りなおしたリサに、リーチ・モールデッドの姿で立ち、その横にクリス、レベッカが肩を並べて、完全に戦意喪失して泣きじゃくってるヘカトちゃんとそれを守るように構えたオメガちゃん、そして己を守るように立っているタイラントを侍らせたイブリースが、部屋を見渡すと袖に隠れた右手を掲げる。

 

 

「刮目せよ。タイラント、リミッター解除」

 

「なっ…それまでできるの!?」

 

「クリス、気を付けて!」

 

 

 マスターリーチが乗っ取ったプロトタイラントの機能として見た、リミッター解除。それを任意で行えるのかイブリースは…。両手が肥大化し鋭い鉤爪が生え、体は赤熱して筋肉が盛り上がり心臓部分は硬質化した皮膚で覆われたもはや化け物に相違ない凶悪な外観へと変貌したタイラント…スーパータイラントは咆哮を上げる。

 

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

「姿が変わったからなんだってんだー!」

 

「くっ……行くぞ、レベッカ!」

 

「ええ、リサもお願い!」

 

「わかってるわ…!」

 

 

 両腕を粘液硬化した私が先頭に、全員で突撃。しかし猛ダッシュで突進してきたタイラントの爪が振るわれて粘液硬化を砕かれたばかりか胸に大きな切り傷を作られて大ダメージを受けた私は吹き飛ばされ、クイーンの体内から排出されて空中を吹っ飛んでいく。やーらーれーたー。

 

 

「エヴリン!?くそっ!」

 

「速い…!」

 

 

 二人そろってグレネードランチャーから榴弾を発射するクリスとレベッカだがしかし、タイラントは次々と両手の爪を振るって榴弾をあらぬ方向に弾き飛ばし、次々と研究室のあちこちで爆発。イブリースや傍のヘカト、オメガには当たらなかったが倒れたネプチューン・グラトニーや、ヨーン・エキドナも巻き込まれていく。使えなくなったら用済みってことなのか。

 

 

「邪魔をしないでくれる…?」

 

「イブリース様の命令、行かせない」

 

 

 リサに助力を願って向いてみるも、オメガちゃんが単身でリサと渡り合って足止めしていた。オメガちゃんは味方だと伝えてるからリサも本気を出せていない。これはまずいぞ。

 

 

『危ない!』

 

 

 咄嗟にクイーンの身体に飛び込み、榴弾が弾かれた方にいたアリサに腕を伸ばして引っ張り救出。まずい、炎上している。放っていたら火事になってみんな死んじゃう!いったん外に出てクイーンとアリサに呼びかける。

 

 

『起きて!二人とも!このままじゃ……』

 

「起きろ。クイーンリーチ。RT-02。タイラントと共に敵を倒せ」

 

「「Yes、MyLord」」

 

『そんな…』

 

 

 すると二人が目覚めそうなところにイブリースが命令してきて、二人は目を開けて頷き、背後からクリスとレベッカを襲おうとして。まずい、そう手を伸ばしたところで、それは来た。

 

 

「オメガ殿になにをしているでござるか」

 

「っ…!?」

 

 

 入り口から飛び込んできて壁を蹴り一瞬でイブリースに肉薄したもう一人のオメガちゃんが、憤怒の表情で斬撃を胸部に叩き込んでいた。……あれ、オメガちゃんと思ったけどなんか違う…?

 

 

「拙者、ハンターΨ。借りを返しに来たでござるよ」




イブリースの支配能力は「射程距離内の気配を探る」→「角に電磁波を溜める」→「角から電磁波を放出する」という手順が必要。つまり常時発動しているわけじゃないんですね。だから領域外から一瞬で近づくことができればB.O.W.でも支配されることなく攻撃することができる、というわけですね。さらに言えばプサイは隠密特化型(自分の声で教えるバカ)でさらに蛙の脚力を有しているので、イブリースの天敵だったっていう。恩を売るのって大事だね。

対象に特にいいところもなく撃沈するヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニー。言わずもがなリサはエキドナの天敵。グラトニーにとっても噛みつきを無効化するリーチ・モールデッドは天敵だったっていう。この子牙を使わないと尻尾びたーんぐらいしか戦闘能力ないのだ。

リサもエヴリンの力で元の顔に戻りました。といっても首から下だけ異形というすごいことになってますけど。そりゃデスマスクで隠すよね。

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file1:32【暴君討伐レイドバトル】

どうも、放仮ごです。スーパータイラントが強すぎて一話使った件について。

プサイ乱入後のイブリース戦です。楽しんでいただけたら幸いです。


『え、誰?オメガちゃんの仲間?』

 

「今度はなんだ!?」

 

「B.O.W.が助けてくれた…?」

 

 

 困惑する私、クリス、レベッカ。なぜってまるで見覚えのない存在がいきなり入ってきて助太刀してくれたからだ。ヨーン・エキドナやネプチューン・グラトニーと異なりクリスとレベッカも知らないみたいだし誰え?

 

 

「ハンターΨ…イブリース様によくも!」

 

「あの時助けなければよかった!」

 

 

 なんかクイーンとアリサが反応してる。二人の知り合いか。Ψってことはオメガちゃんの一つ下ってこと?なら名前はプサイちゃんだ。というかアリサの口からそんな台詞言わせないでほしいなあ!

 

 

「その言動、先刻とまるで重ならぬ!オメガ殿もムカデの娘も明かに様子がおかしい、何をした。答えるでござる下郎!」

 

「ぐっ…タイラント!」

 

 

 ばっさりコートごと切り裂かれて真っ赤な血を流す胸部を左手で押さえながら右手を掲げてタイラントを呼ぶイブリース。どうやら電磁波を出す余裕もないらしい。スーパータイラントの爪と、プサイちゃんの爪がかち合い弾かれる。その間に、クリスとレベッカを襲おうとするクイーンとアリサ。

 

 

「イブリース様に従わない者は死を!」

 

「あなたたちさえ殺せばプサイはどうとでもなる!」

 

『しょうがない、もう一回眠らせて……』

 

「我が配下よ、二人を押さえるでござる!」

 

 

 私がまた叫ぼうとしていると、スーパータイラントとぶつかり合うプサイちゃんがなにやら叫ぶと入り口から二体のハンターが乱入。そういやオメガちゃんも配下従えてたな…と思う間もなく、ハンター二体がクイーンとアリサを羽交い絞めにしてしまった。ナイスゥ!

 

 

「今よ!」

 

「ああ!」

 

 

 リサがオメガちゃんを押さえ、プサイちゃんがスーパータイラントと渡り合い、ハンター二体がクイーンとアリサを押さえて、完全フリーになったクリスとレベッカがハンドガンでイブリースを狙う。それを阻まんとするスーパータイラントの顎をプサイがハイキックを浴びせて蹴り飛ばした。強いなこのござる娘。

 

 

「ヘカトンケイル!」

 

「え、あ、イブリース様は私が守る!」

 

『スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「にゃあああああああ!?」

 

 

 戦意喪失気味だったものの頭を庇いながら逃げようとするイブリースに呼ばれて、守るようにムカデ腕を展開するヘカトだったがしかし、床下に潜り込んで足元まで移動し飛び出した私の絶叫を至近距離で受け、ひっくり返って白目をむくヘカト。不意打ちだと耐えようもあるまい。

 

 

「や、やめて…」

 

「見た目的に攻撃しづらいが…アリサたちを戻してもらう!」

 

「おそらくあの角と、プサイ?が切り裂いた胸元の心臓部が弱点よ!前に戦ったタイラントはそこが弱点だった!」

 

 

 そう言ってハンドガンでイブリースに集中砲火。クリスは頭部を、レベッカは胸部を狙い、防御の姿勢を取るイブリースから火花と鮮血が舞い散り、その小さな体が宙を舞い、ぱたりと倒れた。

 

 

『やった…?』

 

 

 電極の角がひび割れて一部が砕け、大きく切り裂かれた胸元から血を垂れ流し、目を見開いたまま沈黙するイブリース。…なんか複雑だなあ。でも、これで!

 

 

「っ!?わ、私は……」

 

「私、どうして…」

 

「混乱…」

 

「耳がガンガンする~…」

 

 

 するとハンター二体に羽交い絞めされていたクイーンとアリサが抵抗をやめて顔を青ざめさせ、オメガちゃんはリサへの攻撃をやめて首を傾げ、ヘカトちゃんはムカデ腕で耳元を押さえて目を回す。どうやら正気に戻ったらしい。一方でイブリースの支配から逃れたらしいスーパータイラントはところかまわず大暴れを始めた。むしろ弱体化していたのかあれで。

 

 

「ござあ!?」

 

『リサ、手伝ってあげて!』

 

「しょうがない…!」

 

 

 弾き飛ばされるプサイをオメガが受け止め、そのまま突撃したリサが鎖を振るって殴りかかるも爪で弾かれる突進を受けてハンター二体もろとも吹き飛ばされる。クリスとレベッカが先ほどのグレネードランチャーが効かなかった反省からかハンドガンを乱射するも、まるで意に介さない。単純な肉弾戦しかできないくせに強すぎない!?

 

 

「おりゃああ!」

 

「アリサ先輩…!」

 

 

 そこに、状況を理解したらしいアリサが乱入。拳を叩き込んでスーパータイラントを殴り飛ばすとリサと肩を並べた。

 

 

「…アリサ」

 

「…リサ・トレヴァー。教えて。あなたは……いや、私は誰なの?」

 

「……本物である私の偽物。クローンよ」

 

 

 アリサに問いかけられて、気が向かないのか俯きながら答えるリサ。それを聞いて、一瞬ショックを受けたような表情を浮かべるも頭を振って吹っ切れた表情を浮かべるアリサ。クリス達もスーパータイラントに攻撃しながらその言葉を聞いて動揺しているのに、アリサは不敵な笑みさえ浮かべていた。

 

 

「そっ、か……合点がいった。でも、だけど……おかげで胸を張って言える。私はアリサ・オータムス!リサ・トレヴァーじゃない!私は私だ!味方なんだよね、リサ!一緒に!」

 

「…ええ、一緒に!」

 

「「ぶちのめす!」」

 

 

 リサもまた好戦的な笑みを浮かべ、二人揃ってスーパータイラントに突撃。振るわれた爪を両手で受け止めながら揃って腹部を蹴り飛ばし、リサが長い手を振るって猛ラッシュ。アリサはハンドガンを構えてクリス、レベッカと一緒に連射し、適格な腕前でリサを避けて全弾スーパータイラントに炸裂させていく。

 

 

「プサイ、大丈夫?」

 

「オメガ殿…戻ったでござるか。よかった。これで貸し借りは無し…と言いたいところだがまた救われてしまったでござるな」

 

「なら、プサイも仲間になればいい。私も、嬉しい」

 

「オメガ殿…!」

 

『そこ、いちゃついてないで手伝ってよ』

 

 

 オメガちゃんとプサイちゃんがいちゃいちゃしてたのでツッコむ。似た見た目同士だけど全然似てないなこの二人。でもプサイちゃんが仲間になるのは歓迎だ。イブリースを見て思ったことだけど敵が強すぎる。明らかに私のいた世界よりやばい。ずれまくってとんでもないことになってる。戦力は必要だ。えっと、ヘカトちゃんはまだぐわんぐわんしているみたいだから今は無理で……頭を壁にぶつけまくっている女王様か、まずは。

 

 

「わた、私はクリス達になんてことを……あの状態を好ましいとすら思ってしまっていた自分が憎い!くそっ…!」

 

『クイーン、いつまでも自罰している暇があったら手伝ってよ』

 

「エヴリン……ああ、そうだな。奴を殺して私も死ぬ…!」

 

『それはやめなさい』

 

 

 だめだ、罪の意識でハイになってる。あとでヘカトちゃんに頼んで拘束してもらおう。すると跳躍して天井に張り付き、某蜘蛛男の様にスニーキングしながら天井を這ってスーパータイラントの頭上に移動するクイーン。両手から粘液糸を放出してスーパータイラントの両腕に巻き付かせると引っ張って万歳の体勢で拘束する。

 

 

「グオオオッ!?」

 

「今だ!アリサ、リサ!クリス、レベッカ!オメガ、プサイ!」

 

 

 クイーンの号令に、頷きそれぞれ攻撃を仕掛ける六人。糸の拘束を引きちぎろうとするスーパータイラントの腕をアリサとリサがしがみついて封じながら顔面に揃ってパンチを浴びせ、心臓目がけてクリスとレベッカが乱射して大ダメージを与え、膝をついたところに息の合ったオメガちゃんとプサイちゃんがそれぞれ右手、左手の爪を構えて交差し、着地。同時にスーパータイラントの首が刎ねられてポーンと空中に跳ね上り、ゴトンと床に落ちて転がっていき、私たちは勝利を収めたのだった。

 

 

「やった、のか…?」

 

 

 腰から崩れ落ちたクリスの視線の先には首を失い倒れ伏したスーパータイラント、毒に侵され倒れたタイラント、失神し泡を吹いているネプチューン・グラトニー、頭から培養槽に突っ込み腰を突き上げた態勢で気絶しているヨーン・エキドナ、そして角が砕け血を流して倒れ伏したイブリースの姿が。死闘だった。みんな腰から崩れ落ちたのも無理もないな、うん。




洋館の頂点だったリサも含めた六人がかりでようやく勝利。原作ラスボスは伊達じゃなかった。

イブリースは弱点の心臓部を狙われると動揺して電磁波の使用が不可になります。その間に角を破壊すれば無力化して洗脳も解除できますが…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:33【魔王の目覚め】

どうも、放仮ごです。屋上で戦わせるかどうかめちゃくちゃ迷った結果がこちらです。

VSウェスカー。楽しんでいただけたら幸いです。


 私、クイーン、アリサ、リサ、クリス、レベッカ、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃんとその部下ハンター二体と大所帯になった私たち。プサイちゃんは普通に仲間になった。オメガちゃんと敵対するのが普通に嫌だったらしい。独房エリアに捕らえられていたジルを救出した私たちは、どう逃げ出すかを考える。

 

 

「ごめんなさい…バリーに後ろから殴られて、それでウェスカーに…面目ないわ」

 

「いや、いいんだジル。今からどうやって脱出するかだ。…今思えばバリーが手に入れジョセフを救ったヨーン・エキドナの毒の血清もウェスカーから渡されたものだったんだろうな」

 

「そんなことよりもクリス、ここからどう脱出するかを考えなければ」

 

「おそらく屋上に信号弾はあるだろうけど、例えブラッドが来てくれたとしてもこの人数をヘリに乗せるのは不可能じゃない?」

 

「私たちB.O.W.組なら玄関からケルベロスの群れを突破して脱出できるはずだ。ヘリはお前たちが使え。クリス、ジル、レベッカ。ジョセフとリチャードは今玄関でギルタブリルを抑えているはずだ。合流後、私たちが守って共に森から脱出するから応援で迎えをよこしてくれ」

 

「護衛は任されよ。拙者たちもいる故」

 

 

 えへんと胸を張るプサイちゃんとその配下のハンター二体。襲ってこなければ可愛いな。

 

 

『まあ、異形組は迎えが来る前に私がなんとか人として違和感ない姿にするから……』

 

「決まりだな」

 

 

 菌根操作でミランダの擬態を使ってアリサも今の姿にしたから、私が頑張ればできなくもないはずだ。この数でも。ハンターは……どうしよう。うんうん悩んでいる間に、クリス、ジル、レベッカと別れて洋館のエントランスホールまで戻ることになった。それでも8人、私を抜いても7人いるから大所帯だ。もう何も怖くない!とりあえず私が先行して様子を見てこよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウェスカァー!」

 

「セルケトォ!」

 

『なにこれ』

 

 

 エントランスホールにたどり着くと、話に聞いた性転換したらしいウェスカーと、以前敵対してたのになぜか仲間になってるセルケトが、とんでもないバトルを繰り広げていた。尻尾を縦横無尽に伸ばして襲い掛からせながら、鋏のついている右半身をメインに乱舞し左手から針を飛ばしまくるセルケトに対し、ウェスカーは瞬間移動を見紛う速度で移動して出現と消失を繰り返し、適格にセルケトの四方八方から鉄山靠などで殴りつけていくウェスカー。ジョセフとリチャードは倒れている。気迫はセルケトが上だが、完全に押されていた。

 

 

「素晴らしい、ウイルスが私の肉体に定着していくのを感じる。礼を言うぞセルケト、私は高みに至る…!」

 

「ぐうっ、強い…!」

 

「とどめだ…!?」

 

『バア!』

 

 

 ふらふらのセルケトにとどめを刺さんと拳を振りかぶるウェスカーの前に飛び出し、驚かせてやる。驚愕し動きが止まるウェスカーに、セルケトの尻尾による渾身の薙ぎ払いが腹部に炸裂。吹き飛ばされ壁に叩きつけられ呻くウェスカーは、私を見て合点がいったように笑った。

 

 

「お前か……女王ヒルを誑かし、RT-02を逃がし、奴ら二人を使ってアンブレラの邪魔をしていた謎の存在は…!おそらくは、菌根の化身…!」

 

『そんな黒幕なつもりはないんだけど……そうだと言ったら?』

 

「取引をしないか?お前の目的は分からんが全力で協力しよう。その代わり、菌根の秘密を教えてくれ」

 

『ウェスカーほどの人間の協力を得られるのは破格だねえ』

 

 

 階段裏の通路からぞろぞろとクイーンたちが到着して様子を窺っていることに気づいた私は、不信感を隠さない顔でセルケトに睨みつけられながら考えるそぶりをする。しょうがないことだけど、全然信頼なくて私悲しい。ウェスカーからしたら謎しかない菌根のメカニズムを解き明かせばその功績から逃げた先で立場を得ることができるって魂胆かな。……クイーンに出会っていなければ、即決だったかもなあ。

 

 

『だが断る!生憎と目的はすぐにでも果たせるんだよ!だから私は、私の友達の願いをかなえる手助けをする!すなわち、アンブレラの崩壊。それによる復讐だ!』

 

「私もこれからはアンブレラに仇なす者だ。手を取り合えると思うのだが?」

 

『女になっても胡散臭さは変わらないね。あなたを信用する理由が何一つないの。上司や部下でさえ簡単に殺してしまうあなたなんかにはね!』

 

「そうか。それは…残念だ!」

 

『っ、クイーン!』

 

 

 そう言って何かのスイッチを取り出すウェスカー。なにかやばいのを感じて、クイーンに呼びかけて粘液糸で奪わせようとする、がしかし。

 

 

「やはり来ていたか、クイーン!」

 

 

 ウェスカーは瞬時に移動して粘液糸を回避、回避先に移動したオメガちゃんとプサイちゃんが空中から爪を構えて振り下ろさんとするも、掌底と回し蹴りで蹴散らし、続けて突撃していたアリサを回し蹴りした足を使ったネリチャギで地面に叩き伏せ、取り出したハンドガンを連射したところをヘカトがムカデ腕を伸ばして盾にする。

 

 

「ハンターΨ。ご主人様に仇なすとはな。教育が必要か?」

 

「ござぁ……生憎と我が主君はウェスカーという男……お前ではない…!」

 

「む?そうか、そういう問題があるのか。難儀なものだな」

 

『リサ!』

 

「はああっ!」

 

 

 私の呼びかけに跳躍し、手枷の鎖を巻いた拳を振り下ろしてウェスカーに叩きつけるリサ。それを右掌で受け止め、衝撃に後退するウェスカーは興味深そうに眉を顰める。

 

 

「リサ…?RT-01か!そうか、凄まじいな菌根のB.O.W. この狂人すらも手駒とするか!」

 

『…私の名前はエヴリンだし、リサは狂人じゃない。みんなもただ仲間というだけだよ』

 

 

 リサは拳を引き抜こうとするもびくともせず、私は楽しそうなウェスカーを睨みつけてそう返す。…こいつの本性は初めて見たけど、とんでもない外道だ。ミランダとも違うけど大嫌いな類の人間だ。そのままリサの手を反転させてひっくり返し、頭から床に叩きつけられて呻くリサに銃が向けられたのを、粘液糸が飛んできてくっつき銃口を逸らす。

 

 

「させないぞウェスカー」

 

「クイーン、やはりお前も素晴らしい性能だ。この複数の気配、変異ヒルの群体か。面白い」

 

「…お前は私とアリサの正体に感づきながらS.T.A.R.S.を率いていた。そうだな?」

 

「確証はなかった。任務で片鱗が見れればと思っていたが…そう甘くもなかったな」

 

『レベッカにはばれたんだけど節穴なのかな?』

 

「クイーン、邪魔をしないで……こいつは私の獲物よ…!」

 

 

 クイーンが糸を握りながらウェスカーと睨み合っていると、ふらつきながらもセルケトが立ち上がる。するとウェスカーは肩をすくめてセルケトを蹴り飛ばしながら、銃を握ってないほうの左手に握ったスイッチを構えた。ギルタブリルとの戦闘のダメージもあるのか、セルケトは動かなくなる。大丈夫かな…?

 

 

「お前たち優秀な兵器をアンブレラにみすみす渡す手はない。この洋館ごと死んでもらおう」

 

「っ…まさか、自爆スイッチか!」

 

 

 アンブレラ幹部養成所の爆発を思い出したのだろう、顔を青ざめて止めようとするクイーンやアリサたち相手に、銃を手放して離れた場所に移動するとスイッチを押し込むウェスカー。同時に、爆発音。研究所の方だ。クリス達は無事だろうか。

 

 

「はははっ!死にたくなければ逃げればいい!そうした場合も後から我々の手で回収させてもらうがな!」

 

 

 そう言って扉を蹴り開け、高速で走り去っていくウェスカー。速すぎる…!オメガちゃんばかりかプサイちゃんよりも速い…!RT-ウイルスってそんな効果だっけ!?そんなことを思いながらも、倒れるセルケト、ジョセフ、リチャードを見て考える。

 

 

『とりあえず逃げよう、ヘカトちゃんジョセフとリチャードをお願い!アリサはセルケトを運んで!早く逃げないと巻き込まれる!』

 

 

 なんか知らんけど爆発が全部吹き飛ばすまで余裕があるみたいだし、ここはエントランスホールだ。すぐに逃げれる、はずだった。

 

 

「っ!?屈め!」

 

 

 なにかに気付いたクイーンが粘液硬化で腕を固めるとともに、一閃。咄嗟に屈む私たちだったが、プサイちゃんの命令を優先するが故に反応が遅れたハンター二体が、バラバラに切り刻まれて血飛沫と共に肉片が転がり、そして。

 

 

「……すまん、エヴリン…あとは任せた」

 

「クイーン!?」

 

 

 少しでも防いで被害を減らそうとしたのだろう、クイーンもまたバラバラに切り刻まれて大量のヒルにばらけて崩れ落ちてしまう。慌てて駆け寄って拾い集めるアリサの向こう、ずれて崩れ落ちていく階段の裏からそれは、現れた。

 

 

『イブリース…なの?』

 

 

 そこにいたのは、イブリースだった。しかし砕けたはずの角はタイラントの爪の様なものが新たに生え、閉じられていたコートはベルトがすべて外れて解放され、袖先のベルトが解放された袖からはまるで刀のような爪が三本ずつ地面に引きずるほど伸びていて、露出した口元からは鋭い牙が見えて邪悪に嗤う。それはまるで悪魔か、魔王の姿だった。

 

 

「刮目せよ!私…いや、我輩こそがすべてのB.O.W.の王だ!」

 

 

 そう宣言したイブリースが両腕を振りかざし、同時に袖から伸びた爪がさらに長く伸縮。二階を切り刻み、瓦礫と化して落ちてきた天井からは青空が見える。洋館での、最後の戦いが始まった。




強すぎウェスカー。そりゃただの人間だった時にアリサを圧倒してるんだからこうなるのも必然だった。地味に初めてエヴリンとウェスカー邂逅。

リチャード&ジョセフ&セルケト脱落。自爆スイッチオン。ハンター二体殉職。クイーン敗北。リミッターが解除されたイブリース参戦です。その名も魔王イブリース。やはりあの程度では死ななかった。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:34【暴君の魔王】

どうも、放仮ごです。魔王イブリースは当初は単なるタイラントの強化版見たいな存在だったんですが、ヴェンデッタを見たことで伸縮自在の爪を手に入れました。そしたら凶悪に仕上がりました。ゲームだと無理ゲー。

今回はVS魔王イブリース。楽しんでいただけたら幸いです。


 魔王イブリース。RT-01イブリースの真の姿。コンセプトである「支配」能力に特化するため普段力をセーブしている封印である拘束ベルトが大ダメージを受けてリミッター解放、支配能力を失った代わりに再生能力や戦闘能力を取り戻した形態。たとえ第一形態の時に致命傷を負ったとしても、この形態に移行するのと同時に再生し再起動する。第一形態の時は無力に等しかった身体能力が向上しており、小さな体に凝縮された筋肉は驚異的な膂力を発揮する。

 

 支配能力を使用するために用いていた電極角は変異時に抜け落ちて、新たに生物的な角が生成。この角は袖の拘束ベルトが外れたことで解放された、親指、人差し指、中指のものが肥大化した巨大な爪と同じ伸縮自在かつ鉄筋コンクリート程度なら両断する鋭利さと頑丈な特性を有しており、小さな体躯によるリーチの短さを気にすることなくすべてを両断する。

 

 第一形態では必要最低限しか喋らない無口で大人しかったが、本来の気質はタイラントだけあって凶暴な暴れん坊であり、封印が解かれることで饒舌になり一人称も「私」から「我輩」に変化したプライドの高い自信家に変貌する。己の支配に抗うすべてが気に喰わず抹殺せんとするまさに暴君そのもの。自らに従わない者すべてを薙ぎ払う魔王であり、敵対者を冷酷に葬る無慈悲な悪魔。開発者のアイザックスでさえ想定外の怪物、それが魔王イブリースである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王に逆らった愚か者どもよ、刮目しろ!」

 

 

 イブリースの長く伸びた爪が擦り合わされ、火花が散って振り下ろされ叩きつけられるのを、クイーンだった変異ヒルを抱えて飛び退いて回避する。そのまま横に振りまわされたかと思えば縮み、凄まじい速さで伸ばして刺突を繰り出し、オメガちゃんの爪が上に斬り払うも、続けざまに放たれたもう片方の腕の爪が腹部に深々と突き刺さり、壁に串刺しにされるオメガちゃん。

 

 

「ぐう…!?」

 

「オメガ殿!おのれ…拙者の部下たちのみならず妹まで…許せぬ!」

 

「我輩の心の臓を裂いた賊に許されぬ道理はないわあ!」

 

 

 怒ったプサイちゃんが突撃するも、爪を縮めた右腕が振るわれるのと同時に爪が伸び、咄嗟に受け止めたプサイちゃんを弾き飛ばし、天井に叩きつけて右手の爪を縮ませ、落ちてきたところに腕をかざすイブリース。オメガちゃんみたいに串刺しにするつもりだ。

 

 

「させ、るかあ!」

 

 

 そこに跳躍したリサがイブリース本体目がけて鎖を巻いた拳を振り下ろし、一撃。頭から血を流して爪を縮ませ、オメガちゃんを開放しふら付くイブリース。そこに槍のようにとがったリサの髪の毛が殺到する。

 

 

「甘いわ!」

 

 

 するとイブリースの頭の角がまっすぐ頭上に伸びて壁に突き刺さり、伸縮する勢いを利用してイブリースはその場から離脱。さらに左手から伸ばした爪でリサの左肩を貫きながら、右手から爪を伸ばして床に突き刺し、リサから爪を離し右手の爪が縮む勢いで高速で移動する。なんて機動力…その先には、私が降ろしてしまった無防備なセルケトが……まずい!?

 

 

「続けて一人…っ!?」

 

『スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

 

 しかしセルケトとイブリースの間に移動したエヴリンが大声を放ち、B.O.W.なばかりか高性能なために耳がいいのか顔をしかめて撃墜、頭から落ちるイブリース。

 

 

「ヘカトちゃん、クイーンもお願いできる?」

 

「うん、任せて!」

 

 

 ただでさえリチャードとジョセフを抱えているヘカトちゃんに負担を強いるのは嫌だが、背に腹は代えられない。ムカデ腕をさらに伸ばして変異ヒルたちを一人残らず抱えたヘカトちゃんの頭を撫でて、向き直る。視線の先には、左肩の傷を再生させて調子を確かめているリサが。私の視線に気づいて、頷く。

 

 

「「行くぞ!」」

 

 

 二人同時に駆け出すと、それに気づいたのは天井に伸ばした角を突き刺して宙ぶらりんとなる形で起き上がったイブリースが腕を交差、爪を伸ばして洋館を大きく両断する勢いで振り回していく。

 

 

「きゃあ!?」

 

「危ないヘカト…!」

 

「オメガ殿の妹分は拙者の妹分でもあるでござる!」

 

 

 それはヘカトちゃんにも襲い掛かって悲鳴が上がるが、傷を負いながらも立ち上がったオメガちゃんとプサイちゃんの姉妹がヘカトちゃんの前に立ちはだかってそれぞれの爪で上に弾き飛ばし、防御。それを確認しながら、私とリサは突撃していく。

 

 

「「うおおおおおっ!」」

 

「なにっ!?」

 

 

 とんでもない範囲で振り回される爪が襲い掛かるも、私は最低限に頭は守りながら斬られるのは無視して突き進む。リサは髪の毛を操って爪の乱舞を弾きながら突撃。私は四肢を切り飛ばされた瞬間新たに生やしてバランスを崩しながらも突き進む。驚愕に眼を見開くイブリース。それぞれの個体へのダメージがダイレクトに伝わって範囲攻撃が致命的なクイーンと違って、切断系なら私は滅法強いぞお!

 

 

「ウラアアアッ!」

 

 

 両腕を床に叩きつけ、その反動で跳躍してイブリースが吊り下がっている角の一本を殴りつけて破壊、破片が散乱しバランスを崩してさらに髪の毛を伸ばして足に巻きつけ、着地と同時に引っ張るリサ。イブリースは落ちてなるものかといったん縮めた爪を天井に伸ばし、縮める反動で上に上がろうとする。

 

 

「クイーン、借りるよ…!」

 

 

 ならばと私が構えたのは、クイーンだった変異ヒルをかき集めたときに一緒に拾っておいたクイーンの愛銃であるサムライエッジ、ゴクとマゴク。銃の腕はあまり自信ないけど……適当に狙って乱射ぐらいはできる。

 

 

「うおおおおおっ!」

 

「ぐっ、ぐおっ、ぐああ!?」

 

 

 次々と全身を撃ち抜かれてその小さな体を跳ねさせ、角と爪の先端が天井から抜けて落下するイブリースの顔面に、リサの渾身の鎖を巻いた拳が叩きつけられ吹き飛ばす。しかしそれでも、イブリースは即座に再生。両腕を振るって爪を伸ばし、吹き飛ばされる勢いで目いっぱい爪を伸ばした後、一気に縮む反動でロケットの様に吹っ飛んできた。

 

 

「串刺しの刑だ!」

 

「「っ!?」」

 

 

 さらに飛んできた勢いのまま角が伸びて私とリサの胸部を貫き、壁に磔にされる。伸ばした爪で角を叩き切って私たちの磔を維持したまま、角を再生。後ろから襲い掛かろうとしていたオメガちゃんとプサイちゃんも、振り返りざまに伸ばした爪を咄嗟に防いだことで薙ぎ払われる。強すぎるでしょ……!爆発の時間も迫ってるってのに…!

 

 

「刮目せよ。お前たちの最期の時だ」

 

『こんのお!スゥウウ……ワアアアアアッ!!ワアアアアアッ!!ワアアアアアッ!!

 

「くどいわ」

 

 

 エヴリンが連続で大声を出して怯ませようとしているが、エヴリンが自分に干渉できないと気付いたのか歩を進めて怯えるヘカトちゃんに近寄るイブリース。止めたいけど、三メートルはある折れた角で磔にされていて、引き抜くこともできない。どうすれば…!

 

 

「選択しろ。我輩に従うか、それともここで死ぬかをな」

 

「…私は、死なないもん…!」

 

「そうか、我輩と同じ再生能力の持ち主か。ならば磔にして逃げられなくしたうえで、ゆっくりと四肢の肉を削いでやろう。死にたいと、我輩に服従すると懇願するまでなあ?」

 

「――――それはいささか趣味が悪すぎるわよ魔王様」

 

 

 その瞬間だった。完全な不意打ちで放たれた横蹴りでイブリースは蹴り飛ばされて食堂に続く扉を突き破って見えなくなった。その主は、蠍の半身を持つ、私と同じ顔の女だった。

 

 

「セルケト…!なんで…?」

 

『私が馬鹿みたいに叫んでるだけだと思った?セルケトを起こすためだよ…!』

 

「あまりにうるさい目覚ましね。二度とごめんだわ」

 

 

 そう言いながら鋏を使い、私とリサを貫いている爪を切断して短くした上で引き抜き解放してくれるセルケト。エヴリン、ナイス!

 

 

『爆発する前に早く逃げるよ!ケルベロスに気を付けて!』

 

 

 そう言うエヴリンに頷き、ジョセフとリチャードを担いでクイーンを抱えたヘカトちゃんを守るように陣形を組みながら洋館を玄関から脱出して森の中を進む私たち。そう時間がたたないうちに爆発音が聞こえ、立ち止まり安堵していた私たちの真横を、三本の爪が地面に突き刺さる。振り返るまでもない、奴だ。

 

 

「刮目せよ!エンディングにはまだ早いぞ…!」

 

「嘘…!?」

 

 

 爆発をもろに受けたのか炎上しながら爪を縮ませ迫ったイブリースが私たちを飛び越え、行く先に着地する。その姿は、悪魔そのものだった。




視界のすべてを薙ぎ払う圧倒的なリーチ。伸縮自在の爪と角を用いた圧倒的な機動力。洋館を切断する圧倒的なパワー。爆発に巻き込まれても死なない圧倒的な再生能力。そう、君は完璧で究極のB.O.W.!ゼウみたいな反則を除けば今作最強のB.O.W.となります。やはりフィジカル、筋肉はすべてを解決する!

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file1:35【仲間のために】

どうも、放仮ごです。ゲームだったらこっちはラジコン操作しかできないのに縦横無尽に動き回り、広範囲即死攻撃を繰り出してくるクソゲー仕様のイブリース。その決着戦です。楽しんでいただけたら幸いです。


 俺とジル、レベッカは研究所屋上に出て信号弾でブラッドに迎えに来てもらい、無事ヘリに乗り込んで空に離脱。しばらくしたあとに眼下で爆発が建物を崩壊させていくのを見て、ふとクイーンたちは無事だろうかと洋館の入り口付近に視線を向けて……それを見た。

 

 

「っ!?…ブラッド、あっちに向かってくれ!」

 

「どうしたんだクリス?このままラクーンシティに戻って応援を呼ぶんだろ?」

 

「クリス?なにかあったの?」

 

「何かが爆発する洋館を飛び出した!嫌な予感がする!クイーンたちが危ない、頼むブラッド!」

 

「よし来た!今度は逃げねえから安心しなあ!」

 

 

 俺達を置いて逃げ出したことに引け目を感じていたらしいブラッドは意気込んで操縦桿を動かし、ヘリは急旋回して空を突き進む。……もう一人、逃げだした男のことがふと頭によぎる。バリー……お前は本当に、俺達を見捨てて裏切ったのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伸ばした爪を地面に突き刺し、縮む勢いで吹っ飛んできたのは、爆発をもろに受けたのか角はねじれて折れ曲がり、長い髪の先端やコートのような服が炎上しているイブリース。両手を横に伸ばし、炎を纏った爪をめいっぱい伸ばして ブンブンブンブン振り回して炎を纏った斬撃の嵐を叩き込んで木々を切り刻み火事を引き起こし、ケルベロス達も薙ぎ払う。ほとんど全滅したんじゃないかな、あれ。

 

 

「我輩の許しなく立ち去るのは許さんぞ…!」

 

「っ、逃げなさい!」

 

「こいつは私たちが…!」

 

 

 セルケトが吠え、リサが叫び、私たちの方に振るわれた爪を鋏と鎖を巻いた拳で上に弾いて防御。しかし一旦縮んだ爪がまっすぐ伸びて刺突、貫かれたセルケトの体まで火が燃え移って炎上してしまう。

 

 

「ぐうっ…!?」

 

「セルケト!」

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハッハッ!」

 

 

 黒焦げとなり倒れるセルケトごと爪を縮めて引き寄せ、蹴り飛ばして木に叩きつけるイブリースが笑い声をあげ、次々と爪の伸縮を繰り返して高速で移動しリサに斬撃を連続で叩き込んでいく。リサは斬り裂かれた傍から傷口から菌根を伸ばして斬られた部位を繋げて無理矢理再生することで耐えているが、じり貧なのは目に見えていた。

 

 

『オメガちゃん!プサイちゃん!』

 

「「了承!」でござる!」

 

 

 エヴリンが呼び掛けて、オメガちゃんとプサイちゃん木々の隙間を駆け抜けて突撃するが、燃えるイブリースはそれに視線を向けてニヤァと三日月のような笑みを浮かべると両手を下に向けて爪を伸ばし、その反動で高く高く跳躍する。それを追いかけて複数の木を交互に蹴り舞い上がるオメガちゃんとプサイちゃんに、それは降り注いだ。

 

 

「刮目せよ!我輩が見せる地獄を!」

 

「「ぐああああああっ!?」」

 

 

 それは、頭上で爪を強くぶつけ合わせたことでひび割れて砕け散った、爪の破片。焔を纏ったそれは流星群の様に降り注ぎ、オメガちゃんとプサイちゃんを撃墜し、ダウンしているセルケトや疲弊しているリサごと大地を穿っていく。その中に涼しい顔で着地するイブリース。首を傾げて三日月の様な笑みを浮かべて瞳孔が開いた眼でまっすぐ見つめて来るその視線は、私とヘカトちゃん、エヴリンに向けられていた。ゾッと恐怖が支配する。

 

 

「こ、来ないで!」

 

 

咄嗟にサムライエッジ・ルヒールを連射するが、イブリースは肩に当たろうが額に当たろうが気にせず瞳孔が開いた眼を向けながら歩み寄ってくる。

 

 

「熱い、熱いなア……お前らも、道連れだ」

 

 

 そして燃えながらゆらゆらと揺れ動くイブリースを見て、そのことに気づく。炭化していく先から再生していき、いつまでも炎上し続けている。生き地獄そのものだった。文字通りのやけくそだ。今のイブリースに、正常な思考が存在しているとは思えない。

 

 

「アハッ、ハハハッ!刮目せよ、その目に焼き付けろ!我輩は、これからお前たちも味わう地獄そのものだ!」

 

 

 狂った笑い声をあげて嗤うイブリースが、爪を伸ばして地面に突き刺し、縮めて急速に近づいてきた。私はそれに合わせて拳を振るうもイブリースは顔面に受けながら三日月の様な笑みを崩さず、私を押し倒して右手を振りかざしてきたので手にしたサムライエッジ・ルヒールを至近距離で腹部に連射。しかしイブリースは身じろぎ一つしなかった。

 

 

「なにかしたか?」

 

「ひっ…」

 

「怖いか?支配を受け入れぬからだぞ?支配されたままでいれば苦しむこともなかったんだ」

 

『アリサから離れろ!離れてよー!』

 

 

 完全に正気を失っているイブリースの右手の爪がじわじわと伸びて眼前に迫る。ヘカトちゃんは怯えてジョセフとリチャード、クイーンだった変異ヒルたちを抱えたままぶるぶる震えているし、エヴリンは抗議するも意にも介されていない。リサ、セルケト、オメガちゃん、プサイちゃんも倒れ、虫の息だ。誰か…!

 

 

「アリサ!」

 

 

 そこに突風が吹き荒れて炎を吹き飛ばし、炎上から逃れたイブリースが忌々しげに視線を上に向けると、そこには森の上空に滞空するヘリコプター。その後部の扉が開いてクリス、ジル、レベッカが顔を出す。そしてクリスの手には、とんでもないものが握られていた。

 

 

「ロケットランチャー!?」

 

「アリサ、避けろ!」

 

 

 言われて渾身の力を込めて、腕の力のみで跳躍しイブリースの下から抜け出す私。次の瞬間、イブリース目がけてロケット弾頭が発射される。やった、と確信できるほどの切札。

 

 

「王に危険物を向けるな」

 

「なんだと!?」

 

 

 だがしかし、イブリースは爪を伸ばして振るうことでロケット弾頭を切り裂いて空中で爆発させて防いでしまった。爆発の煽りを受けて姿勢が崩れるヘリコプターにクリス達は必死に掴まり、ブラッドが姿勢制御して立て直したところにイブリースの爪が伸びてヘリの下部に突き刺さる。

 

 

「王たる我輩を見下ろすな!図が高いわあ!」

 

「だめ!」

 

 

 そのまま引きずりおろそうとするのを見て、殴りかかって阻止する。ヘリから引き抜いて縮めた爪を伸ばしながら振るい私を迎撃するイブリース。ロケットランチャーすら効かないなんて、どうすれば……見逃してはくれないだろうし、もう勝ち目が……そう、気を逸らしてしまったが運の尽き。伸ばした爪の一撃を受けて私はバラバラに切り裂かれて地面を転がっていた。

 

 

「があっ…!?」

 

「我輩は王だ、王の邪魔をするとは死にたいらしいな?」

 

 

 そう言って私の胸部を足蹴にし、瞳孔の開いた眼で見降ろしてくるイブリース。再生は、できる。生きても、いる。だけどもうなにもできない。詰みだ。そう、覚悟して目を瞑った時だった。

 

 

『…なにが王だ!お前、王に向いてないよ!』

 

「…なんだと?」

 

 

 突如、エヴリンがボロクソに貶し始めて額に青筋を浮かべながら振り返るイブリース。エヴリンはあっかんべーしながら空中で跳ねていた。

 

 

「誰が王に向いてないだって?」

 

『こんなに大声で叫んでいるのに耳が節穴なの?独りじゃ王様とは言えないよ!そんなこともわからないなんて馬鹿なの?!』

 

「貴様ッ…!」

 

 

 怒って爪を振り回し、エヴリンを狙うイブリース。時間稼ぎのつもりか?と思っていると、すぐに違うと気付く。エヴリンが視線で私に訴えている。その視線の先には…!?そうか、そういうことか…!なら!

 

 

「赦さん…ッ!?」

 

「…手だけで近づくのは、しんどいなあ」

 

 

 私の切断された肘先から菌根を伸ばして、繋げた右腕の指を動かして移動させ、イブリースの足首を掴んで動けなくする。今の私にできることはこれぐらい、だけど…!木の陰に隠れて様子を窺っていた仲間が、動いた。

 

 

「お願い、バリー!」

 

「俺の仲間に、手を出すな!」

 

 

 恐怖を押し殺し、勇気を振り絞って、バリーが立つ。サムライエッジ・バリーモデルを構えたバリーの弾丸が、イブリースの右胸を撃ち抜いた。すると目に見えて苦しみだすイブリース。

 

 

「がっ、あああっ!?」

 

「バリー、なんでこんなに効いているの…?」

 

「…はあ、はあ。こいつもタイラントなんだろう?なら弱点も、同じのはずだ…!」

 

「馬鹿な、この我輩が……!?」

 

 

 今の今まで隠し、守っていたコートがエヴリンが煽ったことで暴れた為にはだけて出てきた、右胸に露出している心臓。それを撃ち抜かれてイブリースは苦しみ悶えながら、力なく崩れ落ちて。魔王は滅びた。




第三形態、再生し続けるが故に炎上して角も使い物にならなくなり、瞳孔が開きっぱなしでブチギレている姿。形態というよりは満身創痍の姿ですね。皮肉にもマスターリーチの目的だった地獄を表しているっていう。煽り耐性は皆無なので支配も効かないエヴリンは天敵でした。

 セルケト、リサを退け、流星群みたいな諸刃の剣でオメガとプサイを下し、救援に駆け付けたクリス達のロケットランチャーも防ぎ、その怖さからヘカトを戦意喪失させ、アリサをバラバラにする強さを発揮するイブリース。その決まり手は、仲間のピンチに見過ごせず帰ってきた男、バリーの一撃。サムライエッジ・バリーモデルはマグナムレベルとまではいかないけど高威力のカスタムハンドガンなので致命的な一撃だった。

次回はエピローグ。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:Fin【離別の夜明け】

どうも、放仮ごです。ついに【EvelineRemnantsChronicle】file1【リサ・トレヴァー編】完結です。多分衝撃の結末。楽しんでいただけたら幸いです。


 俺はウェスカーに脅されていた。事の始まりはラクーンフォレストにクイーンたちチームブラボーが向かった直後のこと。妻と子供たちを人質に取られたことを伝えられ、リーダーとして少なからず信用していた奴の本性を知ると同時に従わざるを得なくなった。

 

 ウェスカーがアリサを襲っているのをジルと目撃した時は占めたと思った。ここで奴を仕留めれば家族に手出しされないのではないか。そう思ったのもつかの間、ウェスカーはリサ・トレヴァーに殺された。

 

 仲間を裏切ることなく、解放されたと思った。しかし寄宿舎でジルと二人チームでクリス達と分かれジルと手分けして探索していたところに、其れは現れた。金髪をオールバックにしたサングラスをかけたアリサ、というべき容姿の女は血まみれで胸元に穴が開いた見覚えのある服を着ていて、嫌な予感がした。すると女はウェスカーを名乗り、復活したことを告げられて俺は逃げられないことを悟った。

 

 その後ジルを捕らえたいというウェスカーに協力し、そのままジルがいなくなったとしてアリサたちと合流。突然変異で生まれたB.O.W.の実践データを得たいと言われたので誘導し、そのまま命令のままに離脱した。あとで回収するから外で待機しておけという命令だった。ケルベロスやサーベラスもついでに始末していてくれ、と。

 

 言われるままに待機していると、ウェスカーが洋館から出てきたのを確認したが、ウェスカーは何かに恐怖するように全力で逃げ出していて。俺のことを気にすることなく去って行ってしまった。解放されたのか、と安堵したのもつかの間。アリサたちが出てきて、俺は咄嗟に隠れた。糾弾されるのが怖かったし、気まずかったのもある。そして何より、アリサたちを追ってきた少女の姿をした怪物が怖くて、踏み出す勇気が出なかった。

 

 だけど、バラバラにされそれでも生きようとするアリサを見て、腹を決めた。ここで見捨てたら俺は娘たちに誇れなくなる。S.T.A.R.S.でもなんでもない、ただの屑だ。

 

 ―――ああ、俺は。お前たちに誇れる父親になれただろうか。モイラ、ポリー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…バリー」

 

「…アリサ」

 

 

 なんとかばらけた体を菌根で繋ぎ合わせて、立ち上がる。我ながら人間業じゃないなと苦笑する。視線の先には気まずそうなバリーがいて。

 

 

「…いろいろ言いたいことはあるけど、ありがとう。戻ってきてくれて、よかった」

 

「悪かった。本当に……お前たちに、申し訳が立たない…!」

 

「家族を人質に取られたんでしょ?しょうがないよ。気づけなくてごめんね」

 

「アリサ……」

 

 

 言いたいことを言えてすっきりした。ずっと引きずってたからね。

 

 

『仲良きことは美しいかな、って言いたいところだけどそれどころじゃないよアリサ!炎が!』

 

 

 エヴリンが慌てて指をさしたので見てみれば、イブリースから引火した炎がこっちまで回ってきた。やばい、勢いが強い。自然鎮火は望めないか…。

 

 

「リサ、セルケト!オメガちゃん、プサイちゃん!起きて!やばいから!」

 

「アリサ、バリー!」

 

 

 駆け寄って起こしていると、風が炎を吹き飛ばす。見上げれば体勢を立て直したらしいヘリコプターが。クリスが後部席から身を乗り出している。

 

 

「いったい何が起きた!?奴は倒せたのか!?」

 

「うん!でも、クイーンがやられて、今回復中なの!ジョセフとリチャードも気絶してて!二人を抱えてたら、この炎じゃ逃げられない!」

 

『あ、そうだ』

 

「なら乗せれるだけ乗せる!ブラッド、寄ってくれ!」

 

「ああ、だけど炎がすぐ回ってくる!急げクリス!」

 

「おちおち寝てもいられないわね…」

 

「同感…」

 

「で、ござる…!」

 

 

 するとリサが起き上がり、セルケトを担ぎながら長い腕を振るい、木を叩き折って炎の行く手を塞いだ。オメガちゃんとプサイちゃんも続き、木々を斬り倒して即席のバリケードを作り上げる。

 

 

「これで少しは時間を稼げるわ」

 

「ありがとう、リサ!でもこのヘリじゃ全員乗せられない…!」

 

「なら乗らなきゃいい話だろう」

 

 

 聞き馴染みのある声に振り返ると、そこには何とか人型を取り戻したクイーンがヘカトの傍に立っていた。復活できたんだ…!

 

 

「エヴリン、助かった」

 

『リーチ・モールデッドを応用すればすぐ治せるってことに気付くの遅かったわ、ごめん』

 

「ヘカト、二人をヘリに運んでくれ」

 

「わかった!」

 

 

 ムカデ腕を伸ばして、リチャードとジョセフをヘリの中のクリス、ジル、レベッカに渡すヘカトちゃん。するとクイーンはこちらを向いて、微笑んだ。

 

 

「アリサとバリーもだ」

 

「りょーかい!」

 

「え、なんで」

 

「クイーン!?なんのつもりだ!」

 

 

 言われるままに私とバリーにも巻き付き、ヘリまで持ち上げるヘカトちゃん。後部座席に乗りながら、笑っているクイーンを見下ろす。なんで…!?

 

 

「生憎と人数ギリギリ、これ以上は重量オーバーだ。そうだろブラッド?」

 

「それは……」

 

「私が残る、こいつらを連れてラクーンシティに戻るから安心しろ。イブリースの死体も、痕跡が残らないところで処分しないとな。利用されるわけにはいかない」

 

「だったら私が…!」

 

「いいや、私は始まりのB.O.W.だ。私から生まれたこいつらの面倒を見る責任がある。お前もその一人なんだが……シェリーを頼む。私は厳しかったらしいからな、優しいお前の方がいいだろう。私が戻るまであいつを頼む。なあ、こんなことお前にしか頼めないんだ。アリサ」

 

 

 その笑顔に覚悟を見て。私は、喉まで出かかっていた我がままを飲み込んだ。

 

 

「クイーン……わかった、わかったよ!でも必ず生きて、帰ってきて!待ってる、から!」

 

「ああ、約束だ。クリス、レベッカ。みんな。アリサを頼むぞ」

 

「…本当に残るんだな?」

 

「ああ。迎えもいらない。運が良ければまた会おう」

 

「さよならは言わないぞ。出してくれ、ブラッド」

 

 

 そうして私たちは飛び立っていく。眼下では、イブリースの死体を抱えたヘカトちゃんを中心にして移動し始めるクイーンたち。再会することを希望とし、私たちS.T.A.R.S.はラクーンシティに帰還する。…私はこの時知らなかった。再会どころじゃなくなる、だなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――1998年7月23日“洋館事件”発生。洋館の炎上によって周辺の森に火災が発生し、州兵や地元消防団の必死の消火活動も効果は薄く、広範囲の森が焼失した。

 

 猟奇殺人事件の調査に出ていたS.T.A.R.S.のうちアルバート・ウェスカー、エンリコ・マリーニ、ケネス・J・サリバン、エドワード・デューイ、フォレスト・スパイヤー。臨時ヘリコプター操縦士ケビン・ドゥーリーの未帰還を確認。死亡したものとする。

 

 生き残りの隊員の報告と状況証拠からブライアン・アイアンズ署長の判断で洋館事件の主犯を逃亡したと思われるS.T.A.R.S.隊員のクイーン・サマーズと断定。凶悪犯として指名手配に処する。




 B.O.W.組を連れ、イブリースの死体を回収して離脱したクイーン、指名手配。6編で政府組織に入ってなかった理由の一端がこれだったりします。

設定を挟んでから2編に入ります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file1:EX【星々とその仲間たち】

どうも、放仮ごです。0編以上にキャラが膨大だったため纏めるのに苦労しました。調子に乗って増やしすぎたよね。楽しんでいただけたら幸いです。


・アリサ・オータムス/リサ・トレヴァー/RT-02“Blank”

 今章の主人公。クイーンの相棒でS.T.A.R.S.アルファチームのSF(スニークフェンサー)。ウェスカーに襲われたことをきっかけに仲間に己の正体を暴露し、主に肉弾戦と再生能力を駆使した切り込み隊長として活躍した。己の名前を名乗る怪物に遭遇したり、親の愛を実感したり、己の存在に苦悩したりした。

 その正体はリサ・トレヴァーではなく、そのクローンであり偽の記憶を植え付けられ実験用として調整されたRT-02“Blank”。すなわちれっきとしたB.O.W.であり、垣間見たアイザックスとの記憶が本物だった。適応能力は高いがリサほどではなく、イブリースにあっさり支配されてしまった。代わりに肉体再生の速度と練度はこっちが上で、最終決戦でもバラバラにされたのにすぐ再生して見せた。

 クイーンの覚悟を汲み取り生き残りのS.T.A.R.S.と共にラクーンシティに帰還するも、アイアンズの策略でクイーンを指名手配にされてしまい……。

 

 

・エヴリン・ウィンターズ/リーチ・モールデッド

 クイーンと共に遅れて参戦した若干空気だった幽霊。ジルを探していたところリサと遭遇、その正体に動揺したことや自分に触れることができるという予想外も相まって取り込まれてしまい長らく出番がなかったが、リサの説得に成功、仲間に引き入れる。ゼウとも再会して未来に帰る目処が立ったため、クイーンたちの目的が完遂するまで付き合うことを決めた。イブリース戦でも幽霊の身体を駆使して陽動に終始した他気絶したクイーンの肉体をリーチ・モールデッドとして戦ったり、最終決戦ではイブリースの気を引いて撃破に繋げたMVP。

 

 

・クイーン・サマーズ/変異ヒル統率個体/女王ヒル

 アリサの相棒でS.T.A.R.S.ブラボーチームのSF(スニークフェンサー)。ウェスカーが離反したS.T.A.R.S.のリーダー格であり、問題児の面子をまとめ上げた。粘液糸を用いたトリッキーな戦法を得意とし始めている。イブリースに操られた際は仲間を殺そうとしてしまったことから自責の念に駆られていた。最終決戦では不意打ちからアリサたちを庇って戦闘不能にされ、最終局面まで変異ヒルにばらけてしまっていた。ヘリコプターに乗れる人数を見たうえで燃える森からB.O.W.たちを見捨てることができず、残ることを選択。その結果、凶悪犯の汚名を着せられ指名手配されてしまい、皮肉にもビリーと同じ立場になってしまった。

 リサの存在を聞き、アイザックスの部屋でRTシリーズの文章を読んだ時からアリサの正体にはなんとなく気づいていたが気遣って言えなかった。

 

 

・セルケト

 アリサ襲撃に失敗しプロトタイラントには敗れ廃棄されたが、実は生きていた元刺客。己を生み出しゴミの様に捨てたウェスカーとバーキンに愛憎入り混じった感情を向け、復讐のためにまずウェスカーを仕留めるべく洋館までやってきてヨーン・エキドナに喰われそうになってたクリスを救出、なりゆきでS.T.A.R.S.と共闘する。

 ヨーン・エキドナやギルタブリルと激闘を繰り広げる前衛担当。ヨーン・エキドナ戦では性能差から圧倒したが、脱皮したことでパワーアップしたヨーン・エキドナには追い詰められたり相変わらず予想外のことに弱い。ギルタブリルに至っては己のバージョンアップというだけあって一人では勝てなかったなど、仲間の強さを痛感している。

 ウェスカー相手には惨敗し、イブリース戦ではいいところがなかったが、エンディングではクイーンと共にいずこかに向かった。

 

 

百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル/ヘカトちゃん

 0編ラストで子供として転生したヘカト本人。性格も子供っぽく純粋無垢になってる。終始オメガの妹ポジとして付き従い、ムカデ腕を利用した味方の防御やサポートに徹していた。イブリースは操られたことや圧倒的な強さでオメガをはじめとした仲間が薙ぎ払われるのを見てトラウマ級に苦手としていてろくに戦うこともできなかったが、それでも戦闘不能に陥ったクイーンやジョセフ、リチャードを守り抜いた縁の下の力持ち。エンディングでは迷うことなくクイーンについていった。

 

 

・ハンターΩ/オメガちゃん

 0編ラストでヘカトに庇われて命を救われ、子供になったヘカトを姉貴分として守り抜こうと誓ったハンター族の末っ子。雑に絡んでくるプサイを苦手としている。0編では命令に従うだけだったのが、自分で考えて行動できるようになった。ヘカトを攻撃されるとキレる。姉であるプサイと戦ったり、機動力を活かしてヘカトとの連携でネプチューン・グラトニーを追い詰める、プサイと連携してイブリースと渡り合うなど、最強のハンターとしての力を見せた。相変らずエヴリンやクイーンには従順であり、エンディングではクイーンについていった。

 

 

・ハンターΨ/プサイちゃん

 オメガの姉でハンターの上位個体である姉妹で二番目に優秀な個体。オメガと異なり左腕に爪があり青みがかったカラーでマフラーを付けている以外はオメガと瓜二つの姿をしている。オメガとの相違点は蛙の遺伝子を使われていることであり、ほっそりとしているオメガと異なり下半身、特に太腿が太ましく筋肉が集中していて脚力、特に跳躍力が非常に高く機動力ではオメガを上回る。

 仕事に忠実で堅実な真面目な性格で、オメガの予備として何度も任務をこなしてきた優秀なB.O.W.なのだが、暗殺に関する勉強のためにアイザックスが戯れに見せた彼の趣味である日本の時代劇に真面目にのめりこんでしまい、熱中して口調や考え方まで反映させてしまった典型的な外国人の日本オタク。結果、無駄に目立つ「ござる」を語尾につける口調で、侍道とばかりに標的に前もって殺しのタイミングを宣言する暗殺者とかいうよくわからないになってしまった。

 反面、姉妹相手だろうが冷酷であり、優先度は主の命令→姉妹たちで標的を守ろうとするオメガとも敵対した。しかしオメガを操っているイブリースを見て激怒、侍の流儀として恩返しもかねてエヴリンたちに加勢し全力でお姉ちゃんを遂行した。ウェスカーが見た目も声も別人みたくなってしまったため主も失ったのをいいことにオメガの全面的味方として行動。エンディングではオメガともどもクイーンについていった。

 

 

・クリス・レッドフィールド

 S.T.A.R.S.アルファチームのPM(ポイントマン)で人間sideの主人公。アリサを全面的に信頼しているためウェスカーかアリサかの二択で即決でアリサを選んだできる後輩。ヨーン・エキドナと激戦を繰り広げ、助けられたセルケトと信頼関係を築いて共に戦った。今回の事件で人間を平気で食い物にし非人道的な実験を繰り返すアンブレラの悪辣さを痛感しており、帰還後はアリサと共にアンブレラ撲滅を目指すが…?

 

・ジル・バレンタイン

 アルファチームのRS(リア・セキュリティ)の一人。序盤ではアリサと行動を共にした。寄宿舎ではバリーと行動を共にしたのが仇となり、タイラントにより気絶させられ後半ではヒロインを務めた。今回は出番はそこそこだったが3編では過酷な運命が待ち受ける人間の一人。

 

 

・レベッカ・チェンバース

 ブラボーチームのRS(リア・セキュリティ)。0編に続けて先輩たちと共に奔走、主に治療を担当した。ワスプ・キャリア―と一対一で戦い勝利するなど成長している。後半ではクリスと共に操られたクイーンたちと戦った。

 

 

・バリー・バートン

 アルファチームのBUM(バックアップマン)。序盤はチームの頼れる火力担当だったが、ウェスカーに脅迫されて裏切りジルの拉致に協力したほか、ドライアド42との戦いでクイーンたちを見捨ててしまった。最終決戦でウェスカーを裏切って参戦し、その高火力でイブリース撃破に貢献した。

 

 

・ジョセフ・フロスト

 アルファチームの武器の整備を担当するOM(オムニマン)。本来なら序盤も序盤にケルベロスに襲われて死亡するはずだったが、アリサの介入で生存。しかしヨーン・エキドナの毒に侵されたり、女好きが災いしてドライアド42に血液を吸われる、ウェスカーの一撃で昏睡するなど散々な目に遭う。しかし終始アリサやセルケトを偏見なくサポートした頼れる男。

 

 

・リチャード・エイケン

 ブラボーチームの通信要員でBUM(バックアップマン)。0編の後にケネスと共に洋館に潜入したものの、隠し扉に入ってしまいネプチューン・グラトニーに遭遇。指を喰われるという重傷を負ってしまうもクリス達の乱入で生還。水槽の水を抜くために奔走したり残った指でショットガンを扱うなど無茶をしてクリス達をサポート。ギルタブリルとの戦闘で生き延びたもののウェスカーの一撃で昏睡、そのままラクーンシティに帰還した。

 

 

・ブラッド・ヴィッカーズ

 アルファチームの化学防護要員のRS(リア・セキュリティ)の一人でヘリコプターパイロット。ケルベロスの襲撃で一人逃げ出してしまったものの、良心の呵責に耐えかねて戻ってきて信号弾を撃って合図したクリス達人間組を回収。その後超絶テクニックで上昇気流吹き荒れる火事のラクーンフォレスト上空に滞空し、イブリースの攻撃を受けても落ちないようにするなど奮闘を見せた。

 

 

・エンリコ・マリーニ

 S.T.A.R.S.の副リーダーでブラボーチームLDR(リーダー)。0編の後に独自に調査していたものの、単身乗り込んでいた上にタイラント二体を相手するという無茶ぶりに敢え無く敗北。ゾンビになり果ててクリス達に倒される。

 

 

・ケネス・J・サリバン

 ブラボーチームのPM(ポイントマン)。0編の後にリチャードと共に洋館に潜入したもののゾンビの襲撃を受けて死亡。ゾンビ化しジルとバリーに襲い掛かるも逃げられる。その後、洋館を徘徊していたヨーン・エキドナに丸呑みにされ骨のみの姿にされてしまった。

 

 

・フォレスト・スパイヤー

 ブラボーチームのOM(オムニマン)で整備・対電脳犯罪担当。0編の後に単身洋館に潜入したものの、運なくリサに遭遇して殺害され、変わり果てた姿でアリサたちのもとに投げ飛ばされて発見される。その形見のグレネードランチャーはクリスが受け継いだ。

 

 

・アルバート・ウェスカー/アルテ・W・ミューラー

 S.T.A.R.S.の隊長にしてアンブレラの諜報部にして裏切り者。0編でウィリアムと別れた後にH.C.F.に売り込むためにS.T.A.R.S.とB.O.W.の戦闘データを得ようと暗躍。作戦前にバリーを脅迫したうえで手始めに貴重な「大人しいRT」であるアリサに鎌をかけることで確信を得て捕縛しようとしたところをクリス達に見つかり早速計画が崩壊。さらにリサの襲撃で背後から胸を貫かれて死亡してしまう。

 しかしクリス達が去った後に、死ぬ直前にウィリアムから選別としてもらっていたRT-ウイルスを己に投与。再生能力を使って復活するつもりが、「すべてのウイルスへの適正」を持っていたためにRT-ウイルスと適合、女性化して蘇生。これはこれで使えるし、何より人知を超えた力を手に入れたとして特に気にせず再び暗躍する。

 クリス達の戦闘データを得ようとしたり、アルテ・W・ミューラーを名乗ってネプチューン・グラトニーと取引をしたり、ジルを攫って実験しようとしたり、アイザックスとの取引で手に入れるはずだったB.O.W.の王イブリースを確保しようとしていたが、クリス達と直接対峙していたところにギルタブリルの襲来でイブリースが目覚めてしまい、B.O.W.も同然の肉体になってしまった己では支配されるとビビり散らして逃走。セルケトたちと遭遇するもこれを一蹴、そのまま脇目もふらず洋館から逃亡した。その後の消息は不明。しかし己の肉体が最高の取引材料になると確信しており、S.T.A.R.S.の戦闘データも得た上にクイーンが指名手配にされてS.T.A.R.S.の勝利とは言えなくなったので実質一人勝ちである。

 

 

・サミュエル・アイザックス

  RT-ウイルスの第一人者にして、アンブレラ1のクローニング技術を持つ主任研究員。リサ・トレヴァーの遺伝子を「天賦の才」「神に愛された適正」「人類の頂点」として信仰にも近い感情を向けている。RT-ウイルスでの実験を繰り返していたばかりか、アリサを始めとしたRTシリーズと呼ばれるクローンを量産していた事実が明らかになった。一応タイラントのクローンも作成しており、イブリースに利用した。

 洋館での事故を機にNESTに逃亡した後も、持ち込んだ「RTの腕」やG-ウイルスをウィリアムと共同研究してG-EX01ギルタブリルを驚異の速さで作成、洋館の研究所を取り戻すべく送り込んだ。実力はあれど人望は皆無だった模様。ウィリアムすら利用する気満々で「RT計画」なる計画を進行させている模様。それ以外にもT-EX01イブリースというB.O.W.を支配する王を独自に開発しており、ウェスカーに横流ししようとするなどアンブレラの思惑とは違う道を歩んでおり、その真意は不明。アリサを生み出してはいるが宿敵ともいえる人物。

 

 

・ウィリアム・バーキン

 T-ウイルスを開発しG-ウイルスを発見・研究している天才研究者にしてNESTの所長。セルケトに恨まれている他、ウェスカーにRT-ウイルスを渡して怪物を生み出した元凶。G-ウイルスの研究を、その才を認めているかつて己の助手だったアイザックスの協力も得てギルタブリルをアンブレラ本部に無断で作成した。

 

 

・ブライアン・アイアンズ

 R.P.D.の署長にして裏切り者。ある思惑からクリス達の報告をもみ消してクイーンを指名手配にした。その時アリサに殴られ懲戒処分にした。

 

 

・ハンク

 ウェスカーからセルケトの抹殺という依頼を受けていたもののアンブレラの上層部の指示でセルケトを生かすべく「一度殺してから蘇生する」という離れ業をすることで依頼をどちらもこなした男。本人がその気ならセルケトを仲間として迎え入れるつもりだった。

 

 

・ヘンリー・サートン

 ドライアド42と名付けた植物の記録を残した研究員。考察はできるが見極めが甘く、ドライアド42に結局殺されてしまう。

 

 

・リンダ・エバートン

 ドライアド42に捕食され姿を擬態された女性研究員。元ネタは本家に名前だけ出てきた研究員の彼女。

 

 

・ルイス・セラ

 あの男の若かりし時代。アンブレラ本部の「寄生生物」部門の主任研究員で、NE-αことネメシスを生み出した男。

 

 

 

 

 

※B.O.W.はオリジナルや原作と差異のあるもののみ紹介

 

・リサ・トレヴァー/RT-01“Empress”

 洋館を徘徊していたRT-ウイルス版のタイラントと言っても過言ではない始祖ウイルス、ネメシスプロトタイプ、菌根。その三つの特性を全て有した、究極の生物兵器と称される異形の怪物。

 筋肉断裂や複雑骨折などの反動を無視した圧倒的な身体能力を有し、ネメシスプロトタイプを完全に取り込んだことにより髪の毛が触手状に変異、自在に伸ばして対象を捕らえることが可能。爪や牙なども発達し、鉄すら容易く引き裂く硬度を誇る。異形と化した際に潰れた左目の視力を失った代わりに右目が肥大化して驚異的な視野を有し、長い腕を用いることで獲物を決して逃がさない狩人としての側面を持つ。さらに菌根に適応したためエヴリンに触れることが可能になっている。

 しかし制御は不可能であり、度重なる実験の影響で精神面は凶暴化。暴走の危険性が高く、鎖による拘束も意味をなさず十数名もの部下が犠牲となり、異形と化した己の顔を隠す様に顔の皮を剥ぎ取り繋ぎ合わせてデスマスクにして被っている上に知性も高く、洋館から脱出されそうになったため地下室に幽閉されていた。アリサを「マガイモノ」と称して執着している。

 アリサのクローンと思われていたがその正体はリサ・トレヴァーのオリジナルでありアリサの方がクローンだった。アリサの上位互換ともいえる性能だが「再生」に特化しているアリサと異なり「適応」に特化している。「母を探す」という意図的に狂うことで正気を保っていたが、エヴリンを取り込んだ際に説得され新たな一歩を踏み出すことを決意。イブリースの支配を「適応」で攻略し撃破に貢献、その後は頼れる仲間となる。エンディングではクイーン…というよりエヴリンについて行った。

 

 

・ヨーン・エキドナ

 実験用に飼育されていた毒蛇に意図的にT-ウイルスに感染させ、全長10メートルと言う常軌を逸した巨体に成長した個体にRT-ウイルスをさらに組み込んだことで、体内でヘカトと同じように変異し脱皮することでラミアの様な姿になったB.O.W.。巨体と蛇の膂力、口を大きく開閉したりダクトに潜り込める関節の柔らかさと強力な猛毒を有する牙を有し、ゾンビを丸呑みにする大食漢。動物的な感性の持ち主でクリスを「おいしそう」として執着したり、リサに本能的な恐怖を抱いていたりしていた。倒されても首がつながっている限りは時間をかけて脱皮することで強化再生する。イブリースに支配されて不本意にもリサに叩きのめされ気絶し、洋館の爆発に巻き込まれた。

 

 

・リサ・クリムゾン/RT-03“Crimson”

 始祖ウイルスに適合する以前の状態で生み出されたリサのクローンに、T-ウイルスの人体実験を施したことで変異した血行が速くなり紅く染まった体のリサ。あまりに強力過ぎて代謝が異様に発達し、再生し続けて逆に肉体が崩壊すると言う状態であり、脳も異常を来し言語機能などに影響が出ていて喋れない。脳の酷使すら再生し続けるため知能は逆に発達しており、本能のままに合理的に処理する。アイザックスしか存在を知らない存在で、四つのデスマスクで墓地に封印されていた。

 

 

・ネプチューン・グラトニー

 「兵器運用においては実用性はさほど高くない」とされている、元々T-ウイルスを投与した母体から生まれた幼体にも変異が確認されたため「自己繁殖によるB.O.W.の生産性の向上」における貴重なサンプルだったFI-03ネプチューンを母体にしてRT-ウイルスを胎に打ち込み、蠱毒にも似た共食いの末に生き残り、母体すらも喰らい尽くした幼体である個体のB.O.W.。食欲が高く凶暴すぎるためヘカトと同じく調教される予定だった。

 特にフィジカルに特化しており、両手両足の水かきで水中を自在に泳ぐことができるほか、強力な顎と強靭な牙で鉄すら噛み砕いて獲物を追い詰める生粋の捕食者。陸上にも上がれることが強みであり、どこまでも追いかけてくる。最後は水を抜かれて機動力が落ちたところにスタンガンを受けて倒されたが、電流で心臓が止まっただけだったため程なくして蘇生。復讐のために追いかけるもイブリースに支配されて、相性最悪なリーチ・モールデッドに倒されて退場した。キャラモチーフはがうる・ぐら。

 

 

・ドライアド42

 マスターリーチが濃縮した強化T‐ウイルスと薬品流出事故から生まれたB.O.W.。最初はプラント42と名付けられていたが、女性の形を取るようになったためこう名付けられた。獲物を感知すると、女の擬態ならぬ義体を用いて対象、特に男性を誘惑。イカの触手の様に枝分かれできる下半身の根っこを獲物に蔓を巻きつけて拘束し動けなくしてから、蔓の裏についている吸入器官で血を吸う。図書室に出没して本を読むなど知能もあった。弱点は本体の球根。

 

 

・ワスプ・キャリアー

 マスターリーチが濃縮した強化T‐ウイルスの影響を受けた女王蜂が蜂の巣と一体化。独立して移動し獲物を見つけて自分から兵隊蜂を操り人型を取らせたB.O.W.。一瞬でゾンビを喰いつくして骨だけにしてしまう肉食性を持つ。弱点は炎と女王蜂本体。モチーフはバイオ6のグズネド。

 

 

・キメラ・アサルト

 キメラと呼ばれるB.O.W.にとある研究員がアイザックスを出し抜くために目を付け、飛蝗、鍬形、蟷螂の遺伝子を用意して幼体のキメラの一体にRT-ウイルスを投与して接合することで誕生した攻撃特化型B.O.W.。解放されてからはヨーン・エキドナに対する本能的恐怖から隠れていたものの、倒されたら出てきた。鍬形の顎で拘束し、鎌で切り裂き、飛蝗の足で膝蹴りするチェーンデスマッチを好むが、知能の低さが災いしてアリサに惨殺された。

 

 

・ギルタブリル/セルケトⅡ/G-EX01

 ウィリアムとアイザックスが協力して作成され、G-ウイルスの性能確認も兼ねたゾンビとB.O.W.を殲滅し支配下に取り戻すべく送り込まれたG生物第一号でセルケトの完全上位互換という完成された性能を誇る。なのだが、G-生物の特性故に性欲の化身になっており、セルケトに愛の言葉を囁き己の子を産ませようとするド変態。なのに普通に強いし見た目はかっこいい系というよくわからない存在。これに関しては生みの親二人も想定外だった。セルケトと直接対決するも、ジョセフとリチャードの加勢で敗北。死体は爆発する洋館に取り残された。中身はセルケトと同じ姿の女性。存在が示唆されたのはfile1:7【元祖傑作ここにあり】だが初登場はfile1:26【襲来ギルタブリル】だったりする。

 

 

・タイラント×2

 究極のB.O.W.と称されるT-ウイルスの傑作。性能自体は変わらないが、アイザックスがクローニング技術の権威だったこともあり、量産されてイブリースの護衛もかねて研究室に安置されていたところをウェスカーに起こされ部下として利用されるも、片方はヨーン・エキドナの毒で、片方はスーパー化したものの数の暴力で敗北した。ビンセント・ゴールドマン(バイオハザードガンサバイバーでタイラントの量産を確立させたすごい奴)涙目である。

 

 

・イブリース/T-EX01/魔王イブリース

 アイザックスが開発した理論上始祖ウイルスに連なるB.O.W.をすべて支配下に置くことができる、B.O.W.完全制御計画を実行する「B.O.W.の王」で本来生まれることのなかった禁断の番外生物兵器。

 系統としてはタイラントに近い、というかそのもの。タイラントの設計はそのまま、タイラントのベースとなるクローンの幼体にRT-ウイルスを用いて「適応」能力を活性化、改造を施したものに湾曲した角型の電極を頭部に取り付けたもので、RT-01“Empress”ことリサ・トレヴァーをはじめとした、制御できず封印措置をとるしかなかった問題児を文字通り完全に制御するためのB.O.W.完全制御計画を実行するべく開発した、始祖ウイルスを起源としたウイルスを用いたB.O.W.の脳内物質に働きかける特殊な電磁波を発生させ、半径10メートル内のB.O.W.に影響を与えて支配下に置くことができる。

 

 無敵にも等しい能力だが戦闘能力が皆無という弱点が存在しているが、支配下に置いたB.O.W.に守らせるため特に問題はないし、仮にもタイラントである強靭な肉体は並の攻撃ではビクともしない。強力な支配能力のためには電極を直結した脳にリソースを集中させる必要があり、そのため肉体面にリソースを割けないため平常時は鉄のベルトを巻いた鋼鉄のコート型拘束衣を身に着けており、緊急時はこの封印が解かれて本来の戦闘能力を取り戻す仕組みになっており、アイザックスも未知数だった。

 

 プサイとリサの介入で一度倒されたが、魔王イブリースとして復活。RT-01イブリースの真の姿。コンセプトである「支配」能力に特化するため普段力をセーブしている封印である拘束ベルトが大ダメージを受けてリミッター解放、支配能力を失った代わりに再生能力や戦闘能力を取り戻した形態。たとえ第一形態の時に致命傷を負ったとしても、この形態に移行するのと同時に再生し再起動する。第一形態の時は無力に等しかった身体能力が向上しており、小さな体に凝縮された筋肉は驚異的な膂力を発揮する。

 

 支配能力を使用するために用いていた電極角は変異時に抜け落ちて、新たに生物的な角が生成。この角は袖の拘束ベルトが外れたことで解放された、親指、人差し指、中指のものが肥大化した巨大な爪と同じ伸縮自在かつ鉄筋コンクリート程度なら両断する鋭利さと頑丈な特性を有しており、小さな体躯によるリーチの短さを気にすることなくすべてを両断する。

 

 第一形態では必用最低限しか喋らない無口で大人しかったが、本来の気質はタイラントだけあって凶暴な暴れん坊であり、封印が解かれることで饒舌になり一人称も「私」から「我輩」に変化したプライドの高い自信家に変貌する。己の支配に抗うすべてが気に喰わず抹殺せんとするまさに暴君そのもの。自らに従わない者すべてを薙ぎ払う魔王であり、敵対者を冷酷に葬る無慈悲な悪魔で開発者のアイザックスでさえ想定外の怪物になり果てた。弱点は拘束服で隠され防御されている露出している右胸の心臓とプライドの高さゆえの煽り耐性のなさ。

 

 名前はユダヤ教やキリスト教のサタンに相当する、イスラム教においてアッ・シャイターンと呼ばれる悪魔の王の名から。キャラモチーフはラプラス・ダークネス。魔王イブリースの爪は「ヴァンパイア」シリーズのレイレイ、バイオハザードヴェンデッタのアリエゴから。




 二ヶ月後、大規模バイオハザードが発生したラクーンシティに新人警官として訪れたレオンと、兄のクリスに会うためやってきたクレアが出会ったのは、指名手配された警官であるクイーン・サマーズと、彼女に襲い掛かる異形の女だった。本来の道とは完全に別たれた悲劇が襲い来る。


BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】

file2【G生物編】


近日公開。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】file2【G生物編 表】
file2:0【懲戒処分】


どうも、放仮ごです。2編のプロローグ。アリサ視点で洋館事件直後になにがあったのかを語ります。楽しんでいただけたら幸いです。


 私たちはブラッドの操縦するヘリコプターでR.P.D.に帰還するなり、事前に後から来るであろうオメガちゃんたちを受け入れられるように動くつもりで、それぞれ大なり小なり怪我している治療しているみんなを代表してジルと共にブライアン・アイアンズ署長にことのあらましを報告していた。

 

 黒幕はアンブレラだということ。アルバート・ウェスカーが裏切っていたこと。凶悪なB.O.W.の数々。その一部と共闘して切り抜けたこと。私とクイーンの正体だけは伏せて報告した。

 

 

「ではマリーニ、サリバン、スパイヤー、デューイ、ドゥリーは死亡を確認。ウェスカーは行方不明。サマーズはその温厚なB.O.W.とやらを連れてラクーンシティに向かっていると?」

 

「温厚かどうかは語弊がありますけど……はい」

 

 

 クイーンはオメガちゃんやヘカトちゃんに殺されかけたらしいし、私もセルケトやプサイちゃんには殺されかけたし、考えないようにしていたけどリサはフォレストを殺した張本人でもある。…でも、誰にだってやり直せる権利はあるはずだ。だから、みんなが何も憂いことなく過ごせるように……私みたいにエヴリンが姿を変えてくれればそれも叶うはずだ。あれ結構疲れるみたいだからエヴリン死にかけそうだけど。

 

 

「そうか、そうか……サマーズが…」

 

「署長?」

 

 

 そこで私は違和感を抱く。裏切り者のウェスカーではなく、クイーンに関心を向けている理由がわからなかった。思い出すのは、やたら署長を毛嫌いしていたクイーンとエヴリンのこと。下卑た視線がどうの言ってたけど私は意味が分かっていなかったが、子供だと思われるのが嫌でわかったふりをしていた。それともう一つ、今思い出したことがある。

 

 

―――――『うん、駐車場でバーキンとアイアンズ署長が会っていてなんか密約交わしていたの見たよ。研究所はそこからさらに先、迷宮みたいな下水道を通った先だから行くのはおすすめできないかな』

 

―――――「…ふーん。つまりアイアンズはアンブレラ側か」

 

 

 今更になって思い出した、数年前のエヴリンとクイーンの会話。忘れていた、この男はアンブレラと繋がっている…!止める間もなく、アイアンズは署内に繋がるスピーカーのスイッチを入れていた。

 

 

「えっへん。あーあー、全館に通達。先日発生した洋館事件の主犯を、生き残った隊員たちの証言と状況証拠から、逃亡したと思われるS.T.A.R.S.隊員のクイーン・サマーズと断定。凶悪犯として指名手配に処する。いいな?これは命令だ」

 

「なっ!?」

 

「なにを……」

 

 

 マイク越しに署内全てに伝達されたその言葉に、絶句するジルと不信感丸出しで拳を握る私。入り口に控えている警護の警官たちはざわついている。署長は…いや、アイアンズはスイッチを切るとこちらに向き直り、素知らぬ顔で首を傾げる。

 

 

「何を言う?ウェスカーは品行方正な男だ。奴に限って裏切るなどありえんよ。それよりも、調べれば調べるほど君含めて経歴に不審なところがあり、生物兵器……いや、実行犯の一味か?を連れて姿を消したサマーズを疑うのは当然だろう。現にまだ戻らんではないか」

 

「それ、は……」

 

 

 それを言われると、ぐうの音も出なかった。調べられていた。おそらくは私たちを怪しんでいたウェスカーに依頼されたのだろう。経歴に不審なところがあるのは当たり前だ、エヴリンが役所の人間を洗脳してでっち上げた偽の経歴だからだ。警察学校にいたことなんてないし、卒業記録を調べられたらアウトだ。

 

 

「君とサマーズは数多くの功績があるから目を瞑りたいがね、こんな大事件を起こされると庇えるものでもない」

 

「でも、ウェスカーは本当に裏切って……」

 

「それこそ証拠がない、サマーズが口封じのために殺害した可能性すらある。それにアンブレラが黒幕だという証拠もないのだろう?君たちの証言だけで調べるわけにもいかないのだよ。わかるかね?」

 

「ぐ、う……」

 

 

 アンブレラと繋がっているのは分かっているのに。私がそのことを把握していると知られたらアウトだ。ただでさえ経歴を調べられて経歴詐称の罪に問われてたら詰みの状態になるまであるのだ。クイーンの指名手配を、飲み込むしかないのか……。

 

 

「なに、安心したまえ。捕縛してもすぐには司法に突き出したりはしないとも。私自ら取り調べして、手取り足取り……もとい、根掘り葉掘り問い質して罪を軽くできるように尽力しようじゃないか」

 

「そういう、ことなら……」

 

「アリサ……」

 

 

 真面目な顔でそう言うアイアンズに、私は納得しようとした。ジルに気を遣われながら、悪趣味な様々な動物の剥製が飾られている署長室を後にしようとして、聞こえた。私の、常人よりも優れている聴覚が、聞き取ってしまった。

 

 

「フフフ…一生かけても返せない借りを作ってやるとも。これであの女も私のものだ…ああ、楽しみだ。あの体を好きにできると思うとな」

 

 

 そう、小さく呟いていたのを聞いた瞬間、私の堪忍袋の緒は切れた。鬼の形相で振り返り、驚愕するアイアンズの机の前まで一瞬で踏み込み、強く握りしめた拳を振りかぶる。完全に頭を潰して殺すつもりで、私は拳を振るっていた。

 

 

「殺したらダメよ!」

 

「!」

 

「ぶべばっ!?」

 

 

 しかしジルの声に踏みとどまり、我に返って少し力が抜けた状態で振りぬいた拳がアイアンズの顔面に突き刺さり、机をひっくり返しアイアンズを奥の壁まで殴り飛ばす。潰れたカエルの如く情けない悲鳴を上げ、鼻は折れ頬は大きく腫れ、片目に青痣を作ったアイアンズはそのまま気絶した。

 

 

「と、取り押さえろお!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 我に返った警護の警官たちに四人がかりで取り押さえられ、関節を極められて身動きが取れずに倒れ伏した状態でなお暴れるも、ジルも拘束されたことで大人しくするしかなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私は懲戒処分と自宅謹慎を命じられた。ジルは厳重注意で済むそうだ。アイアンズは全治一ヶ月の大怪我だとか。ざまあみろ。私の大事な家族に手を出そうとするやつは許さないんだから。

 

 

『…大丈夫?アリサ』

 

 

 もちろんというべきかシェリーのベビーシッターも解約され、誰もいない私たちの家で宅配の冷めたピザを一人寂しく食べていると、ひょこっとエヴリンが顔を出した。

 

 

「エヴ…」

 

『しっ、盗聴されているかもだから黙ってて。もちろんクイーンに電話するのも駄目だよ。この時代は簡単に盗聴できるんだから』

 

 

 無言で頷く。考えてみれば当然だ。クイーンが真っ先に連絡するのは私なんだから監視されていてもおかしくない。

 

 

『とりあえずこっちの状況を説明するね。クイーンは顔を変えてラクーンシティに潜伏している。仲間もみんな、私が姿を変えて一緒にいるよ。指名手配されたことも把握している。だから、私たちがアンブレラの内情を調べるから、アリサはアイアンズたちの気を引いてくれないかな』

 

 

 その言葉に、クイーンの無事を知って安堵しながらも無言で頷く。するとエヴリンは満足げに笑った。

 

 

『これからは私が連絡係するからよろしくね!じゃ、また!』

 

 

 そう言って壁を抜けて去っていくエヴリン。……大丈夫、クイーンなら大丈夫。また会える、はずだから……私は、私のできることを頑張ろう。

 

 

 

 その決意もむなしく、二ヶ月後。私たちが守ってきたことなど無駄だとでも見せつけるが如く、ラクーンシティは地獄と化してしまう。私はアンブレラ調査をしたために自宅謹慎を命じられてていたジルと共に“追跡者”に追われることでその現実を直視することになるのだが……それはまた、別の話。




クイーンを篭絡しようとしたド腐れ署長、設定でも明かされてた通りアリサにぶん殴られて全治一ヶ月の大怪我。この時死んでいれば幾分かましだったかも(黒笑)

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file2:1【無法者(アウトロー)クイーン・サマーズ】

どうも、放仮ごです。2編開始。原作はRE:2基準です。本来なら裏表に分かれる2のストーリーを改変しないといけないのでだいぶ難易度高い章となります。楽しんでいただけたら幸いです。


 俺はレオン・S・ケネディ。ラクーンシティの警察署、R.P.D.に着任する新米警官だ。着任の数日前に突然R.P.D.から自宅待機を命じられていたが、音信不通となったため様子を見にラクーンシティに向かっていたところ、補給に寄ったラクーンシティ近くのガソリンスタンドで異常な様子の人間の……ゾンビともいうべき集団と遭遇。居合わせた女性、クレア・レッドフィールドを連れて車で逃走、ラクーンシティに逃げ込んだが…それが間違いだった。

 

 

《「市民の皆さん。大規模な暴動が発生したためラクーンシティ警察署に避難することをお勧めします。食料や医療品を無料で支給します」》

 

 

 そんな放送が虚しく響き渡る、ところせましとゾンビが蔓延る荒れ果てた街。それが今のラクーンシティだった。

 

 

「そんな……噓でしょ、信じられない」

 

「署に行けば何が起きたかわかるはずだ。君のお兄さんもいるんだろう?もうすぐだ」

 

「ええ、そうね。でも生き残ってるのが私たちだけだったら?」

 

「いや、他にもいるさ。デカい街だ、隠れているだけかもしれない。きっといる」

 

 

 そして、バリケードで通行止めが作られていたので車を止めて歩いて向かおうとしていた時だった。

 

 

 ガキン!ドガン!グシャアア!

 

「なんだ?」

 

 

 硬質なもの同士がぶつかり合う音と、何かの破砕音、肉の潰れる音と共に、バリケードを作っている数多のパトカーの上にそれは躍り出た。それは、血の跡で薄汚れた白衣を着ていた。動きやすそうなラフなシャツに、迷彩パンツとブーツを身に着けている、青みがかった銀髪をポニーテールにした女性だった。

 

 

「ちい!しつこいぞ、アネット!」

 

『驚きのしつこさだね!』

 

 

 女性は驚いたことに右掌から煌めく糸を伸ばしてパトカーのドアにくっつけ引っ張ってもぎ取ると、自分が来た方向に投げ飛ばす。しかしそれは女性を追いかけてきた文字通りの怪物の握る鉄パイプで弾かれてあらぬ方に吹っ飛ばされる。

 

 

「クィイイインン!シェリーを、返せえええぇえっ!」

 

「私も探していると言っているだろう、そこまで信頼ないか私は!バカネット!」

 

『そりゃ凶悪犯は信用できないでしょ』

 

「なに、あれ…?」

 

 

 クレアが嫌悪感を感じさせる疑問の声を上げる。それももっともだ。それは、異様に肥大化した右腕と、ギョロギョロ動く巨大な単眼が右肩に存在する異形の白衣の女だった。あれは人間なのか…?いや、それよりも……

 

 

「クイーン、だって?」

 

「聞き覚えが?レオン」

 

「二ヶ月前に起きた洋館事件の主犯として指名手配されている女性警官の名だ。顔写真は黒髪の女性だったから別人だとは思うが……」

 

「それってもしかしてクリスの同僚の…」

 

『あれ、クイーン。そこに誰かいるよ』

 

「そこに誰かいるのか!?だったら今すぐ逃げろ、危ないぞ!」

 

 

 するとクイーンと呼ばれた女性が糸を伸ばして俺側の扉にくっつけて無理矢理開ける。事故か何かで出られなくなっていると考えたようだ。自分も危機だろうに他人を気遣えるなんて……とんだお人よしだ。

 

 

「クイィイイイインン!」

 

「ええい、いい加減にしろ!エヴリン!」

 

『ほい来た!カビ補強!』

 

 

 鉄パイプを振り回してパトカーを殴り飛ばす驚異のパワーを見せる怪物に、クイーンは俺達を庇うように前に立つと右手から溢れさせた粘液をアスファルトに押し付けて広げるようにして壁を形成すると吹っ飛んできたパトカーを受け止めた。そのまま俺たちに近づこうとしていたゾンビを、伸ばした糸で引っ付けて引っ張り転倒させるクイーン。明らかな人間業じゃないが、味方だというのは分かる。

 

 

 

「レオン」

 

「ああ、彼女の言う通り逃げよう。こっちから出られるか?」

 

『あ、やばい。クイーン、暴走車来た!運転手ゾンビ化してるっぽい!』

 

「なんだと!?このくそ忙しい時に……」

 

 

 クイーンが破壊した俺側のドアから外に出て、クレアの手を握って引こうとしていると、怪物の鉄パイプを糸で受け止めながら焦り始めるクイーン。なにが、と思っていたらクラクションが聞こえ、振り向くと俺たちの来た方向からタンクローリーがふらふらとしながら突っ込んでくる光景が見えた。

 

 

「クレア、急げ!あれはやばい!」

 

「ええ、でも足が引っかかって…」

 

 

 脚がどこかに引っかかったらしく車から出られないクレアに、最悪の未来が頭によぎる。どうすれば、と考えようとしたとき、フロントガラスに見るからに硬質化した指が突っ込まれ、天井が引っぺがされる。見れば、ボンネットに飛び乗ったクイーンがそこにいた。怪物がどうなったのかと見てみれば、足に糸がくっついて地面に縫い付けてそれを取ろうと足掻いているところだった。

 

 

「なにをしている、掴まれ!」

 

『衝突事故五秒前!』

 

 

 そう言ってクレアを左腕で引き上げて抱えたクイーンの腰に掴まると同時。タンクローリーが突っ込んできて、同時に頭上に伸ばした右手から糸を飛ばし、俺とクレアを連れて空に舞い上がるクイーン。眼下でタンクローリーが横転して大爆発が起き、怪物やゾンビたちがそれに飲み込まれるのが見えた。

 

 

「…ギリギリ間に合ったか」

 

『ギリギリだったねー』

 

 

 ビルの屋上に降り立つクイーンは俺達を降ろすと一息吐く。その姿は悪党には見えなかったが、俺にはそれを聞く義務がある。

 

 

「貴方は…クイーン・サマーズなのか?」

 

「……おいエヴリン、アネットにもばれたし姿を変えてた意味がまるでないぞ」

 

『私の変装は完璧のはずなんだけど』

 

「貴方がクリスの仲間、S.T.A.R.S.だったクイーン・サマーズなの!?」

 

 

 何故かクレアにも尋ねられ、狼狽えるクイーン。誰かに話しかけている?バツが悪いのか頬を掻くと、観念したとでもいうような柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、確かに私はクイーン・サマーズ。元S.T.A.R.S.で犯罪者の無法者(アウトロー)だ。お前たちは?」

 

「俺は……レオン・S・ケネディ。今日から配属されるR.P.D.の警官だ」

 

「私はクレア・レッドフィールド。クリスの妹よ。兄さんに会いに来たの」

 

 

 俺たちが名乗ると、クイーンは合点がいったように頷く。

 

 

「そうか、お前がクレアか。残念だったな、クリスならラクーンシティにはいないぞ。今はヨーロッパにいる」

 

「そんな……」

 

「それでレオン、だったか。私をどうするんだ?」

 

「逮捕する、…と言いたいところだがこんな事態だ。何が起きたか、教えてくれ」

 

「本当に何も知らないで来たんだな。ラクーンシティは滅びた。アンブレラの開発したT-ウイルスのパンデミックが起きたんだ」

 

「T-ウイルス…?」

 

「知りたいなら教えてやろう。洋館事件の真実をな」

 

 

 クイーンから語られる真実。それは、地獄の一夜の始まりを告げる警鐘だった。




イメチェンクイーン。父の形見の白衣を身に纏い、エヴリンの力でほとんど別人に変身してました。そんなクイーンを襲うのはアネットと呼ばれてますが…?

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file2:2【悪魔の様な男】

どうも、放仮ごです。アネットに何が起きたのか語ります。バタフライエフェクトが多すぎるこの世界の被害者ですね。楽しんでいただけたら幸いです。


 今回の本来の時間軸との相違点はずばり、G-ウイルスの完成したタイミングだろう。本来なら1998年9月に完成するはずだったG-ウイルスは、洋館事件の起きた7月24日にはサミュエル・アイザックスの協力を受けたウィリアム・バーキンの手で完成していた。

 

 セルケトというG-ウイルスの元となったウイルスの苗床の存在による臨床試験が十分に行える量の生産。

 

 同じくリサ・トレヴァーから生まれたRT-ウイルスの長年の研究によるアイザックスのノウハウ。

 

 そして、完成したG-ウイルスを投与して作成されたG生物第一号となるギルタブリルの完成。もっとも、ギルタブリルはセルケトの遺伝子に宿っていたRT-ウイルスや菌根、ネメシスプロトタイプも混ざっているため相反してG-ウイルスから得られるはずだった進化・再生の能力を獲得することはできなかった。

 

 さらに判明した問題点。ギルタブリルにとってのセルケト……つまり遺伝子情報が近しい者に胚を植え付けて繁殖しようとし、そのためならば命令なども後回しにする生物的な本能。しかしそれは裏を返せば条件さえ整えば量産できるということの裏付けだ。兵器としてコスト面を削減できるうえに、進化・再生の能力を獲得しなくても驚異的な戦闘能力を得るGーウイルスは金の卵を産む鶏も同然だった。

 

 それに目を付けたアンブレラ上層部は、ウィリアムからG-ウイルスの所有権を独占しようとしたが、G-ウイルスこそ己の研究の集大成だと考えているウィリアムは猛反発。2ヶ月にも及ぶ討論の末に、独自にアメリカ合衆国政府の「とある男」に兵器売買交渉を行おうと試みるウィリアム。

 

 

 それが1998年9月上旬の出来事。本来ならば、ここでラクーンシティを拠点に運営する警備会社にしてアンブレラの機密を保守する目的で設立された特殊部隊U.S.S.(Umbrella Security Service)の手で深手を負ったウィリアムは死の間際G-ウイルスを自らに投与してG生物に変貌するはずだった。

 

 

 それは起きた。不完全な形で。ギルタブリルの作成により信頼を得てG-ウイルスのサンプルを手に入れ協力する理由がなくなった、かつてのウィリアムの右腕でありG-ウイルスの共同研究者であるサミュエル・アイザックスのアンブレラへの密告という裏切りにより、NESTに乗り込んだU.S.S.の襲撃。

 

 ウィリアム・バーキンの確保という命令のもと、ハンクと呼ばれる男が主導で共同研究者であり妻であるアネット・バーキンと共に取引のためにG-ウイルスを持ち出しラクーンシティを後にしようとしていたウィリアムを追い詰めた彼らだったが、ウィリアムの隠し持っていた銃の反撃を受け、反撃してしまう。しかし銃撃で致命傷を負ったのはアネットのみ。ウィリアムは、守られた。

 

 

「ふん……私へ忠告をした男が無様だな、ウィリアム」

 

「アルバート……なのか?」

 

 

 RT-ウイルスに適合し別人と見紛う姿に変貌した親友、アルバート・ウェスカーことアルテ・W・ミューラーがすんでのところで盾となりウィリアムの身を守ったのだ。

 

 

「お前の渡したウイルスに適合してこうなった。おかげで人智を超えた力を手に入れた、感謝するぞウィリアム」

 

「そ、そうか……お前がいいならいいが…」

 

 

 そのままU.S.S.を蹴散らし、尻餅をつきながら若干引いているウィリアムに手を差しのべるアルテ。助けた理由は親友だからという生易しいものではなかった。

 

 

「私はお前をスカウトしに来た。虚栄心の高いお前がアンブレラと敵対することは目に見えていたからな。国に売るぐらいならH.C.F.に来い、ウィリアム。G-ウイルスが奴の手に渡れば“ファミリー”の天下だ。それなら成果さえ上げれば自由に研究ができるH.C.F.に来るべきだ」

 

「…H.C.F.か」

 

「迷っている時間はないぞ」

 

 

 そう言って顎をクイッと動かして倒れているアネットの方向を促すアルテ。ウィリアムも見てみると、アネットの持ち出そうとしていた「始祖」「T」「RT」「G」といった数々のウイルスのうち、T-ウイルスの容器が割れて中身が漏れてしまっているのが見えた。

 

 

「恐れか早かれ感染は広がる。その規模は洋館事件の比ではなくなるだろう。パンデミックだ。そうなれば逃げ出すのは困難だ」

 

「そう、だな……わかった、その話に乗ろう。私を逃がしてくれ。だが、その前に……」

 

 

 腹部に銃撃を受け、痙攣しているアネットに歩み寄るウィリアム。アルテは「別れの言葉でも言うのか」と特に気にも留めてなかったが、次にウィリアムの起こした行動に感心したような声を上げた。

 

 

「ウィリアム……あなただけでも、シェリーを連れて逃げ、て……」

 

「アネット。どうせ死ぬのなら私の糧となれ」

 

 

 なんとウィリアムは割れずにすんでいたアネットの持つG-ウイルスの容器を手に取ると、取り出した銃型の注射装置に装填すると何の躊躇もなくアネットに打ち込んだのだ。

 

 

「ウィリアム、なにを……!?」

 

「君の持っていたこれはこの2ヶ月で私がさらに改良したG-ウイルスだ。アンブレラのクソどものおかげで臨床試験をする暇もなかった。このまま死ぬのでは命がもったいない、君で試すことにしたよ。我が最愛の人よ。私に、Gの、力を、見せてくれ…!」

 

 

 困惑する己の妻に平然とそう言ってのけたウィリアムは、みるみる変異していくアネットを見て狂気的な笑みを浮かべる。

 

 

「素晴らしい!死に際でここまでのものとなるか!もっと!もっとだ!Gの力をもっと見たい、研究したい!ふはは!道中でも試そうアルバート!これは神の御業だ!」

 

「ウィリアム……お前は私の見込んだ通りの狂人だ。最愛の妻にそれを打ち込むとは感嘆したよ。だがいいのか?Gの特性上、お前の娘が狙われるぞ」

 

「その前にシェリーを回収しこの街を去ればいい話だ。シェリーはアイアンズが預かっている。行くぞアルバート」

 

「娘から母親を奪った挙句、あの屑に預けるとは悪魔だなお前は」

 

「アネットをこのまま死なせる方がもったいないだろう」

 

「それもそうだな」

 

「ウアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 G生物へと変貌を遂げ、咆哮を上げるアネットを置いてアルテに連れられてその場を立ち去るウィリアム。

 

 

「シェーリー!私のシェリィイイイイッ!」

 

 

 G生物と化したアネット…Gアネットは最愛の娘を求めて動き出し、ネズミを介してT-ウイルスは広がる。こうして地獄の基盤は完成された。

 

 

 

 しかしウィリアムの予想とは裏腹に、欲を出したアイアンズによりシェリーの回収は滞り、シェリーを置いてラクーンシティを逃げ出すこともできず、地獄と向き合うことになる。だがしかし、悪魔は地獄にて踊り狂う。量産されたGーウイルスの脅威は、止まるところを知らない。




裏切りのアイザックスにより、襲撃を受けて致命傷を負ったところを、一緒に逃げようとしてシェリーを託そうとしすらしたのに「もったいないから」と実の夫にG-ウイルスを投与されてしまうアネット。今回のメインヴィラン、Gアネット。泣いていい。

次回はクイーン側に戻ります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:3【舐める者(リッカー)

どうも、放仮ごです。プサイがかなり便利。今回は題名通り奴が登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「で、指名手配されたわけだ。もともとアンブレラに喧嘩売るつもりだったから遅かれ早かれだったろうがな」

 

 

 私のことを含めて、レオンとクレアに掻い摘んで話すクイーン。しかしこの子クレアか、若すぎて気づかなかった。未来のクリスがイーサンに会わせてた知り合いだ。何なら一時期ローズの面倒を見てくれた人でもある。なんでも、子供の扱いは慣れてる、だとか。そんな感じはしないけどなあ……普通の大学生って感じ。

 

 

「そんな……そんなの、あなたは何も悪くないじゃない」

 

「だが、どうしてこんなことに…?」

 

「原因はわからんが要因は分かる。十中八九T-ウイルスの漏洩だろう。洋館で起きていたことが街単位で起きている。もうこの街は終わりだ。……また、救えなかった」

 

 

 クイーンにとってこのラクーンシティは第二の故郷だ。10年もの間守り続けた大事な居場所だ。わかっていたこととはいえ、原因がわからない私には止められなかった。本当に、申し訳ない……もっとまじめにクリスの話を聞いていたらまだ何か変わったかもしれないのに……。

 

 

「クイーン殿。ここにいたでござるか」

 

「プサイか。どうだった?」

 

 

 すると驚異的なジャンプ力で跳躍してきてクイーンの背後にスタッと降り立った者がいた。青いマフラーを巻いて口元を隠した爬虫類の特徴を持つ少女、ハンターΨことプサイちゃんだった。典型的な日本オタクという面白い子だ。クイーンは振り返ることなく問いかける。プサイちゃんには、ラクーンシティを駆け回ってもらっていた。プサイちゃんは驚くレオンとクレアの視線を気にせず報告する。

 

 

「先日、アンブレラが投入したのは書類を見たところ、私設部隊U.B.C.S.の4個小隊200名でござる。「市街地の掃討、市民の救助および市外への避難」が目的とされているでござるが、投入された時点で壊滅。今は数名を残すのみで、生存者を探して地下鉄で脱出する算段の様でござる」

 

「そいつらに同情するよ。アンブレラなんかに使いつぶされてな」

 

「また、R.P.D.に逃げ込んだ者は既に警官隊と共に脱出、残っているのは逃げ遅れた者たちとそれを守るために残った数名の警官たちだけでござる。生存者のほとんどは家屋に籠城しているでござる。全員救うのは諦めた方がよさそうかと……」

 

「…よし、ならR.P.D.に向かうぞ。逃げ遅れた人間を保護して私たちも脱出する。ゾンビを制圧しているヘカトとオメガにも伝えてくれ」

 

「承知でござる」

 

 

 そう言ってシュタッと跳躍してこの場を去っていくプサイちゃん。いやあ、心強い仲間ができたねえ。セルケトやリサは別行動してるし、オメガちゃんはヘカトちゃんのお守りでかかりきりだから、連絡係がいるのはありがたい。え、私が働けって?私は偵察係だからしょうがないね。

 

 

「レオン、初仕事だ。手伝ってくれ」

 

「任せてくれ、先輩…!」

 

 

 そう答えられて不敵に笑うクイーン。かっこつけているけど照れてるのがわかる。相変らず後輩に甘いんだから……びゃー!?私が悪かったから手を突っ込むなー!?すると、クレアが自分の胸に手をやって主張してきた。

 

 

「私も手伝うわ。戦いの心得ならクリスから習っているから戦力になるはずよ」

 

「クレア、お前に何かあったらクリスに申し訳が立たない。今すぐこの街を離れろ」

 

「あら、そう簡単に逃げれるとでも?」

 

「……それもそうか。私の傍にいさせた方が安全か。わかった、手伝ってくれ。掴まれ二人とも」

 

 

 そう言って背中を変形させた触手を伸ばしてレオンとクレアを抱えるクイーン。二人がギュッと掴まったのを確認すると右手から粘液糸を飛ばして飛び立ち、左手と交互に粘液糸を出して建物間を移動するのを、私もふよふよとついていく。Maxスピードでようやく追いつけるんだから加減して!?

 

 

「そういえば、聞き忘れていたが!」

 

「なんだ、レオン!喋っていると舌を噛むぞ!」

 

「あの怪物はなんだったんだ!?知り合いだったようだが……」

 

「……それは」

 

 

 飛び回るクイーンにしがみつきながらそう問いかけてくるレオンに、クイーンは言いよどむ。……あれはさすがに予想外だったよね。

 

 

「……ベビーシッターしていた子の親で、アンブレラの研究者だ。顔見知りだがそんなことしか知らない相手だが………あの子の、親なんだ。あの子のことを思うと、悲しくてな……悪い、忘れてくれ」

 

『シェリー、心配だね』

 

「…ああ」

 

 

 そんなことを言いながら、夜の街を駆るクイーンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 R.P.D.に到着した私たちは、オメガちゃんヘカトちゃんプサイちゃんを待っている間に生存者がいないか確認することにした。数日前襲撃を受けた署内は、かつての光景が噓のようにゾンビがあふれかえっていて、それを倒しながら進んでいた時に、シャッターを叩く音が聞こえて急行する。

 

 

「助けて!助けてくれえ!」

 

『ゾンビに襲われてる!やばい!』

 

 

 シャッターをすり抜けて状況確認、明らかにヤバイ状態だったので、顔を引き抜いてクイーンに伝える。くそっ、なにもできないことがもどかしい。このゾンビたちには私の声は聞こえないし…。領域展開、って感じで菌根の世界に引きずり込めたらいいのに。

 

 

「聞こえるか!助けに来た!」

 

「今助ける!」

 

「クイーン?クイーンなのか!?助けてくれ、死にたく……ぐあああああああっ!?」

 

 

 悲鳴を聞きながらもクイーンがシャッターを持ち上げ、レオンとクレアがその警官の手を掴んで引っ張るも、下半身がごっそり持っていかれて既に事切れた状態だった。その手には、血に濡れたメモ帳が握られている。

 

 

「エリオット……すまない」

 

「クイーン……」

 

 

 見覚えのある顔だったのか、床に拳を打ち付けて悲壮に顔を歪ませるクイーンにクレアが慰めるように手を置く。辛いことばかりだ。クイーンの精神状態が心配だな……。

 

 

「…エヴリン、この先には」

 

『……生存者は、見えなかった』

 

「…わかった。戻ろう、エントランスで仲間を待つ」

 

「わかった。……無茶はするなよ、クイーン」

 

「わかっているさ。私は冷静だ、悲しいことにな」

 

 

 クイーンは人間らしくなったけど、本質はヒルのままだ。クールでドライ。親しい者の死を納得できないまでも冷静に受け止めてしまう。クイーンはそれを「私は人間じゃないからな」と皮肉るけど、それを悲しく思えるだけで人間だと思うよ。

 

 

「っ!?伏せろ!」

 

 

 次の瞬間、窓を突き破ってきたそれの鋭い爪による斬撃を、クイーンがクレアの手を引いてすれすれで回避させる。さらに長い舌を伸ばしてきてレオンの腕に巻き付くも、クレアの撃った銃撃で舌がちぎれてレオンは解放される。

 

 

「なんだ、こいつは……」

 

『……リッカーだ』

 

 

 そこにいたのは、未来のクリスから学んだ記憶がある怪物だった。あまりにも衝撃的な見た目に戦慄した記憶がある。ゾンビ化した人間が充分な栄養を摂取するという内的要因による変異した成れの果てが「リッカー」というクリーチャーだ。B.O.W.ではない、自然的に生まれた怪物。のちに兵器化されたらしいけど。

 

 腐敗した皮膚が消え去って強靭な筋肉がむき出しになり、肥大化した脳は外部に露出していて舌が長く、巨大で鋭い爪と天井や壁を這うことができる足を持つ。弱点として肥大化した脳に押し潰される形で視覚を失っているらしいがその分聴覚に優れていて、僅かな音だけで位置を把握して襲い掛かってくるらしい。洋館事件で出てこなかったから存在を忘れるところだった。

 

 

『強敵だよ、気を付けてクイーン!』

 

「…途中で見た首を抉られている死体は此奴の仕業か」

 

 

 リッカーの飛び掛かりを、硬化させた腕で受け止めるクイーン。レオンとクレアも銃を構え、戦いが始まった。




同時進行でバイオ3のストーリーも進んでますがそれは追々。リッカーは映画に出るたびどんどこ強化されてて好き。特にダムネーションのリッカーが大好きです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:4【女王無双】

どうも、放仮ごです。イーサン以来の大暴れ回となります。さすがのクイーンも鬱憤が溜まってた。楽しんでいただけたら幸いです。


 爪の一撃を硬化した腕で防いで弾き飛ばしたところに、ゴクとマゴクを構えた私と、レオンとクレアの一斉射撃が叩き込まれる。しかし弾丸を筋肉で受け止めてものともせず、壁に引っ付いて飛び掛かってくるのをなんとか粘液硬化した腕でいなす。素早いし堅い、厄介な。

 

 

「フシャア!」

 

『猫みたいだけど可愛くないね!』

 

 

 奇声を上げながら、その長い舌を槍の様に鋭く伸ばして私の粘液硬化した腕を貫いてくる筋肉だるま。エヴリンが言うにはリッカーだったか。文字通り舐めた名前だが、それも納得なほどの舌の威力だ。私の粘液硬化を貫いてくるとは。

 

 

「だが…それは隙だらけだぞ!」

 

『クイーンそれ隙と言わないと思う』

 

 

 右腕を貫いた舌を左手で掴み、引っ張ってリッカーの脳がむき出しになっている頭部を蹴り飛ばす。私の右腕を貫いた舌は刃ではない、私の右腕がストッパーになった上で掴むことで、引き抜けないリッカーは私から離れることができずサンドバッグの様に何度も蹴りを顔面に受けて怯んでいく。

 

 

「どうした、そんなもんか!」

 

『下手に耐久力高いって残酷だね……』

 

「す、すごい…」

 

「クイーン!後ろだ!」

 

「なに?」

 

 

 レオンの言葉に振り返ると、背後から廊下を駆け抜けて飛び掛かってくるリッカーが三体もいて、咄嗟に舌を握ったまま体を捻って拘束しているリッカーを振り回し、チェーンアレイか何かのごとく叩きつけて追加のリッカーたちを吹き飛ばし、そのまま最初のリッカーを床に踏みつけにして力む。

 

 

『追加注文入りまーす!?』

 

「レオン、クレア!トラウマを作りたくなければそっぽを向いてろ!」

 

『え』

 

 

 私の言葉にレオンとクレアがそっぽを向いたのを確認してから、足裏に刃を形作って首に押し込み、力の限り舌を引っ張って、頭部を背骨、つまりは脊髄ごと引きずり出すことで最初のリッカーを沈黙させる。まあグロいが今は手段を選んでる場合じゃない。妙にしぶといこいつが悪い。

 

 

『ギャー!?』

 

「おいエヴリン、索敵甘いぞ!」

 

『それはごめんだけどどっかの序章みたいな殺し方しないでくれるかな!?トラウマになるよ!?あとこんな速い奴索敵しろという方が無理!』

 

「それもそうだな!」

 

 

 右腕に貫いたままだった舌を引き抜き、舌にくっついている背骨を振り回して懲りずに飛び掛かってきた二匹目のリッカーに叩きつけて殴り飛ばし、三匹目の顎にアッパー。四匹目には前蹴りを突き刺して蹴り飛ばす。ああ、イラついているのがわかる。この感覚は二ヶ月ぶりだ。レオンとクレアが、戦いの音に釣られて寄ってきたゾンビを対処しているのを見ながら、穴の開いた右腕をぶらぶら揺らし、拳を握って自然体に構える。

 

 

「お前らに同僚を殺されたかと思うと、腸が煮えくり返る。お前らを生み出したウイルスが私から生まれていると考えると、吐き気がする。アンブレラには殺意しか湧かないが、私自身にも苛立ちを感じている。私は今、最高に機嫌が悪い。手加減はできないぞ、覚悟しろ!」

 

「「「キシャアアアッ!」」」

 

 

 リッカーたちが一声吠えるとともに最高速度。一瞬で音を飛び越える速度まで加速したリッカーの爪の斬撃が、私の腸を、右肩を、左足を引き裂いて抉り取りながら背後に着地、そのまま一匹は天井に、残り二匹は左右の壁に張り付いて舌を槍の様に突き出してきた。しかし私は気にも介さず、腸を抉り取られ右腕と左足がちぎれかけ、心臓、肺に当たる部位と左目を貫かれる。痛いは痛いが、我慢できないダメージではない。同胞たちが削られたのは痛いが、何のための二ヶ月だと思っている。

 

 

「生憎と、私は私も含めた同胞たちの命を使ってアンブレラをぶっ潰すと決めている…!」

 

 

 この二ヶ月で雌雄同体なのを利用して繁殖して数は増やした。同胞たちが死ぬのは極力避けるが、割り切る覚悟だ。私はこの戦い方しか知らない、同胞たちと死力を尽くして全力を出し続けるという方法しか知らないんだ。命を燃やせ。同胞たちの死を無駄にするな。全身に穴が開いて、それでも血も流れない身体を形作る同胞たちを全力で駆動させながら跳躍、左の拳を振りぬく。

 

 

ドゴォン!!

 

「キシャア……ッ」

 

「な、なんだ!?」

 

「新手!?」

 

 

 右の壁にいたリッカーに全力を込めた左拳を叩き込み、振り返ったレオンとクレアの視線の先で壁にクレーターができて頭部が弾けて口だけ残ったリッカーが壁から剥がれ落ちてぴくぴくと痙攣、息絶える。

 

 

「エヴリン、入れ。再生させろ」

 

『ら、ラジャー』

 

 

 若干怯えているエヴリンに命じて体の中に入れ、菌根の力で欠けた部分も再生させる。そして再生した左目でぎろりと睨みつけると、見えてもないだろうにリッカー二体はたじろいだ。

 

 

「聞こえないか?私はここだぞ?ほら、かかってこい」

 

「「キシャーッ!」」

 

 

 そう挑発すると、奇声を上げて壁を跳躍して居場所を悟られないようにしながら一体が、真正面から床を駆け抜けてもう一体が迫るのに対し、私は粘液硬化で両腕を肩まで武装。さらに鋭く尖らせて粘液を刃状にすると天井から飛び掛かってきたリッカーの爪の斬撃を弾き返して肩を使って背後に投げ飛ばし、もう一体のリッカーの床からの飛び掛かりを逆に爪を砕いて迎撃。

 

 

「シャーッ!」

 

「いい判断だが、ダメだ!」

 

『金獅子かな?』

 

 

 咄嗟に舌を伸ばして追撃してきた床のリッカーを、硬化した腕で舌を受け止め引っ張って体勢を崩すと、舌を手放して引き抜いたゴクとマゴクを乱射して蜂の巣にすると、粘液を纏った右足で前蹴り。インパクトの瞬間に足裏に纏った粘液で杭を形成し頭部を串刺しにして蹴り飛ばす。

 

 

「シャアアッ……」

 

「キシャアアッ!」

 

「逃がすか」

 

 

 仲間の断末魔を聞いたためか、踵を返して逃げ出そうとする最後のリッカーを、粘液糸を足に絡めて引っ張る。じたばたと爪で引っかきながら足掻いて引きずられてきたリッカーの首に粘液糸を巻き付けて無理矢理立たせて拳を脳がむき出しの頭部に叩き込む。

 

 

「簡単に死ねると思うなよ。お前らが殺した私の同僚の数だけ殴る。恨むなら最後まで生き残った自分を恨むんだな」

 

『怖いよクイーン?』

 

 

 そのまま粘液硬化した右手の拳でラッシュ、ラッシュ。ラッシュ!ボコボコに殴られて、力なく両腕を垂らして力尽きるリッカーを投げ捨てる。振り返れば、固まっているレオンとクレアがいた。

 

 

「……驚かせたな、悪かった」

 

「い、いや……」

 

「クイーンを怒らせないように気を付けるわ……」

 

『あ、後ろ……』

 

「わかっている」

 

 

 死んだふりをしていたのか後ろから不意打ちで伸ばしてきた舌を左手で受け止め、右手で引き抜いたゴクを乱射して脳を撃ち抜き、今度こそ沈黙させた。

 

 

「さっきみたいな不意打ちは通用しないさ」

 

『終わってみれば完勝だったけど……気は済んだ?』

 

「さあな。この燻ぶる怒りがどこまで行くのかは知らん。エントランスにオメガたちを迎えに行くぞ」

 

 

 ……もしかしたら同僚の誰かだったのかもしれないが、そうだとしても安らかに眠れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エントランスに戻ると、拳銃を構えた一人の警官とオメガ、ヘカト、プサイが睨み合っている光景があった。

 

 

「お前らは、何なんだ…!」

 

「私たちは、敵じゃない」

 

「オメガぁ……」

 

「どうしたものでござるかな……」

 

「マービンか?」

 

 

 警官としての責務を果たそうとして、しかし敵意を感じないから撃てずにいたのだろう警官に問いかける。その人物は、マービン・ブラナー警部補は振り向いて私を見て訝しむ。

 

 

「誰だ…?」

 

「私だ。と言ってもわからないか、クイーンだよ。お前の同僚だったクイーン・サマーズだ」

 

「…クイーン、だと?お前、無事だったのか……」

 

「そういうお前は……無事じゃなさそうだな」

 

 

 久々に出会った同僚は傷ついていて、息も荒く。最悪の状態だというのが、すぐわかった。また、間に合わなかったのか……。




 女王は怒らせると怖いのだ。リッカーが地味に増産されてたりします。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:4.5【エイダ・ウォンという女】

どうも、放仮ごです。ちょっと余裕がなかったため今回は短いです。前回の事件列での別視点お話。楽しんでいただけたら幸いです。


 クイーンがリッカー軍団を薙ぎ払っている頃。下水道を歩く二つの影があった。黒衣の女と白衣の男。アルテ・W・ミューラーとウィリアム・バーキンである。

 

 

「まったく……お前の研究癖はわかっていたがここまで来ると病気だな」

 

「それがわかっていて付き合ってくれるお前はやはり無二の親友だよウェスカー」

 

 

 襲い来るゾンビをアルテが駆逐し、ウィリアムがそれに続きながら時折倒れたゾンビに何かを注射する、といった工程が繰り返されている。

 

 

「あれから数日たつわけだが……上手くいったか?」

 

「いいや、やはりRT-ウイルスはお前の遺伝子でもないとこう(・・)なるようだ。Gと違って凡庸性が限りなく低い。こいつの兵器化は諦めた方がいいな」

 

「恐ろしく性能の高いウイルスなのだがな。やはりRTの遺伝子が必須か。確保できなかったのは痛いな」

 

「なに、アイザックスから手に入れたRTの遺伝子サンプルはまだある。これを持ち帰れば成果になるだろう」

 

 

 そう言ってアタッシュケースを掲げるウィリアムに、アルテは不敵に笑い、手刀でゾンビの胸を貫き投げ捨てる。

 

 

「それよりもだ。数日もの間連絡をよこさないとはアイアンズめ、なんのつもりだ?」

 

 

 そうウィリアムがぼやくのはアネットにG-ウイルスを投与してその場を立ち去ったそのすぐ後のこと。シェリーを預けていたアイアンズに連絡し、シェリーを回収してラクーンシティから高飛びしようとしていたウィリアムとアルテだったが、当のアイアンズはこれを拒否。そればかりか、シェリーの身柄と引き換えにウィリアムの持つウイルスの引き渡しを要求してきたのだ。どうやら既にウィリアムがアンブレラを離反するつもりだったのは知っていたらしく、自分が手柄を立てて重役につこうと目論んでいるらしい。

 

 父親でありながら研究一筋だったためにシェリーへの連絡手段はアネットしか知らなかったこともあり、ウィリアムではどうしようもなくアイアンズの連絡待ちだった。その連絡待ちの間に実験を繰り返している辺り救いがないが本人たちに自覚はないのがたちが悪い。

 

 

「シェリーが無事じゃなかったら許さないぞあの豚」

 

「……あの変なところで詰めが甘いクズのことだ。大方シェリーを逃がしてしまって慌てて追いかけまわしているんだろうな。アリサとクイーンになついていたようだし、クイーンを指名手配にしたアイアンズに不信感を抱いていたんだろう。それで自分の身柄と引き換えにお前と取引しようとしていることを聞いてしまったのだとしたら……どうだ?」

 

「シェリーは賢い子だ。十中八九逃げだすだろうな。………待て、だとするとゾンビの巣窟となっているラクーンシティを逃げ回っていることにならないか?なんで黙っていた?」

 

 

 さあっと顔を青ざめさせて掴みかかるウィリアムに、アルテは両手を上げて降参の意を見せる。

 

 

「黙っていたわけじゃない。今、理由を考えたらその結論に至っただけだ。それにあのクズのことだ、恐らく警察署も機能してないだろう。警察署も安全な場所じゃなくなっているだろうな。奴の孤児院はもってのほかだ。あそこにはもとよりアレがいる。むしろ、シェリーの無事を保証できるとでも思っていたのか?」

 

 

 そう尋ね返すアルテに、何も言い返せなくなったウィリアムはアルテの胸ぐらから手を離し、踵を返した。向かう先は下水道の出口だ。

 

 

「……最悪だ。早くシェリーを迎えに行くぞ。手伝えアルバート」

 

「まだ現実が見えないのか?はっきり言うぞ。……シェリーは切り捨てろ、ウィリアム。お前の溺愛っぷりは知っているが、お前は家族だろうと冷酷に切り捨てられる人間だ。今優先すべきはお前の身柄を無事に外まで送り届けることだ」

 

「…冗談は見た目だけにしろアルバート」

 

 

 諭そうとするアルテだったが、ウィリアムは怒りで顔を歪ませながら掴みかかる。その剣幕に、さしものアルテも二の口をつぐむ。

 

 

「ふざけるのもたいがいにしろ。シェリーを捨てろだと?この世で最も愛しい娘だぞ?例えゾンビになっていようと連れて治療する。アネットにもシェリーのことを頼まれている、切り捨てるなんて選択肢があると思うなよ?なんなら私一人でも行ってやるぞ。そしたら困るよな?アルバート」

 

「…ふっ、お前はとんだエゴイストだな。自分の妻にとどめを刺した人間の言葉とは思えん。矛盾しているとは思わないのか?」

 

 

 脅迫じみた言葉をかけてくるウィリアムに半ば呆れながらアルテはそう指摘するがウィリアムは心底理解できないとでも言うように首を傾げた。

 

 

「子を思うのは親として当然だろう。何を言っている?」

 

「…いいや。なら急ぐぞ。アンブレラが追っ手を送っていないとも限らん。私の手配した工作員にも連絡しておく。シェリーを見つけたら保護しろとな」

 

「それは助かる。……待て、男じゃないだろうな?もう私以外の男なんかに預けられないぞ。クイーンとアリサの方がましだった」

 

「安心しろ。その工作員は女性だ。それに腕もたつ。私の信頼している実力者だ。ベン・ベルトリッチという男を探しているはずだ」

 

「ふむ。名前は?」

 

「エイダ・ウォン。そう呼ばれている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シェリー・バーキンの確保ね。了解したわ、ウェスカー」

 

 

 通信機をしまい、女は夜の街並みを駆る。こうして役者は揃う。




これに関してはウィリアムが迂闊すぎ問題。この男頭はいいのに詰めが甘すぎるのである。

そして今作では6編で顔を見せた以来の登場、エイダ。いやあれは厳密には違うんだけど、まあ、うん。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:5【アイアンズの凶行】

どうも、放仮ごです。アイアンズの所業を纏めてみたらあまりにも外道で笑うことすらできなかった。てなわけでマービンの状況説明回です。楽しんでいただけたら幸いです。


 エヴリンには「擬態」の力がある。元はミランダとかいう未来のエヴリンの宿敵ともいえる女の力だったらしいが、長いこと時間をかけて菌根への理解を深めることで会得したとのことだ。どれほどのものかというと、リサの異形だった両腕や背中を今の普通のものに姿かたちごと変えて、元々そんな姿だったなんて想像できなくしてしまうほど強力だ。しかも時間制限がない破格の性能をしている。なので実質ウイルスの効果による異形を形だけ消し去ることができる。ただし菌根が体内にある者でさらにエヴリンに精神的に体を預けられるもの限定という制限がある。これは洗脳も同じで、菌根というのは精神が大事らしい。

 

 今の私はエヴリンを大きくしたような姿だった黒髪ロングヘア―の二ヶ月前までの姿とだいぶ異なっている。正体がばれることなくラクーンシティに潜伏するためだ。雰囲気をがらりと変えて青みがかった銀髪をポニーテールにして、父ことジェームス・マーカスの血で汚れた彼の白衣と、動きやすそうなラフなシャツに、迷彩パンツとブーツを身に着けて、何時何が起きても直ぐ動けるようにしていた。

 

 オメガたち異形組も異形の部分を隠してさらにアリサと同じ顔も変えて、オメガは深緑色の髪をショートにした少女、ヘカトはオメガと似た顔で金髪をサイドテールにした幼い少女、プサイはオメガと似た顔で黒髪ポニテの少女で三姉妹ということにしている。リサはタコのごとく蠢かない普通の黒髪ロングヘア―の美女の姿になったし、セルケトは前髪で左目を隠した赤黒い短く切り揃えた髪の女傑といった風になってる。エヴリン曰く力作らしい。

 

 

 話がだいぶ逸れたが、そんな印象からしてがらりと変わった私がクイーン・サマーズであることを信じてくれたマービンには頭が上がらない。数年単位で聞き続けてきた声だからってのもあるだろうか。そのマービンの実力は理解しているからこそ、ゾンビなんかに不覚を取ったのが信じられない。他のみんなもだ。

 

 

「マービン、なにがあった?」

 

「…ブラッドだ。奴もゾンビになった。俺は、アリサやクリス達から話は聞いていたのに、ブラッドの意思が残ってると思って……油断してしまった。そしてこのざまだ。俺はもう長くない。だがまだエリオットが館内にいるはずだ。あいつだけでも……」

 

「…エリオットにも出会ったが、救えなかった。すまない……」

 

「そうか……S.T.A.R.S.以外のR.P.D.は全滅か……ジルやアリサも、無事かどうか……」

 

「あのくそ署長も死んだのか?」

 

 

 正直聞きたくもないし、死んでいるなら万々歳なのだが……あの男がそう簡単に死ぬとも思えない。

 

 

「いいや、確認してない。だがあいつは警官とはもう呼べないさ。あいつのせいで何人死んだか……」

 

「…待て、仲間は……R.P.D.のみんなはゾンビにやられたんじゃないのか?」

 

「ほとんどはそうだが……そうなった原因があるんだ。あの野郎はラクーンシティの混乱に乗じた警察署内でのテロ対策という名目で署内の武器弾薬の配置を拡散しやがった。そのせいで正確な配置場所を把握出来なった俺達は攪乱され迅速な対応が不可能に陥った」

 

「は?」

 

『大戦犯じゃん。なに?生き残るつもりないの?』

 

「更にあの野郎は脱出路を断って脱出も妨害した挙句に、署に暴徒集団が襲撃してきたときに備えての鎮圧設備だとのたまっていた神経ガスをばら撒いて「狩り」と称して生き残りの警官らを次々と殺して回ったんだ。嫌な奴だとは思っていたがあそこまでクズとは思わなかった。お前を指名手配にした時点で俺たちはあいつを排斥するべきだったのかもしれないな」

 

「……それでアイアンズは?」

 

『クイーン、顔。取り繕えてないよ。どうどう』

 

 

 もう怒りでどうにかなりそうだったが、冷静に質問する。エヴリンがなんか言ってるが無視だ。あのクソデブクズヒゲ悪趣味狸め。ぶち殺してやる。腸食い破って地獄の苦しみを味わせた後にゾンビの生餌にしてやる。

 

 

「さあな。なにかやることができたのかどこかに行ってしまって行方はわからん。署内にはいなかったから……奴が経営している孤児院にでも行ったのかもしれないな」

 

「……」

 

 

 奴が、何よりも優先するやるべきこと…?なんだ、嫌な予感がする。

 

 

「ところでお前の連れ、なのか……?後ろの二人はともかく、こいつらは……味方、なんだよな?」

 

「ん?ああ。右からオメガ、ヘカト、プサイだ。こいつらは見た目はこんなのだがいい奴らだよ。そもそも私も人間じゃないしな」

 

「私、オメガちゃん」

 

「ヘカトちゃん!」

 

「プサイちゃんでござる」

 

 

 挨拶する三人に合わせて右手の擬態を解いてみせると、驚いた表情を見せるマービンだったが納得した顔に変わる。

 

 

「なんだ、驚かないのか?」

 

「いいや、驚いたさ……だが、お前がキャリア10年でいつまでたっても現役だった理由がわかったよ。俺達とは違ったんだな」

 

「やっぱり早く話しとくべきだったな。それで後ろの男の方はレオン・S・ケネディ。近々着任する予定だった新米警官だ。教育は任せた」

 

「おい、俺はもう長くないと……いや、そうだな。教えられることは教えよう。マービン・ブラナー警部補だ。短い間だがよろしく頼む、レオン」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 丸投げすると乗り気になってくれたマービンに、レオンも応えようとしているのか綺麗な敬礼で答えた。必要だろうと言ってマービンがレオンにナイフを託すのを見ながら考える。この二人は、いい先輩後輩になれたんだろうな……くそっ。

 

 

「こっちはクレア・レッドフィールド。クリスの妹だ」

 

「クリスの……話は聞いている。S.T.A.R.S.オフィスに君への手紙があるはずだ」

 

「そうなの?取りに行きたいけど……」

 

「気を付けろ。署内はゾンビだらけだ。得体のしれない怪物もいる。ここはまだ安全だがいつまでもつか……」

 

 

 S.T.A.R.S.オフィスか……クレアが行きたいなら連れていきたいところだが、マービンのこともあるしな……。私は、エリオットの握っていた手帳を手に取りながら、考える。

 

 

「…よし、ヘカトとオメガはここに残ってマービンを警護しろ。私とレオンとクレア、プサイはS.T.A.R.S.オフィスに向かうついでに……エリオットの残した脱出の方法に必要なものを探す」

 

「必要なもの?」

 

「三つのメダルらしい。それを探せば隠し通路が開くことを突き止めたようだ。マービンを頼んだぞ、オメガ。ヘカト」

 

「了承」

 

「わかった!」

 

『私はどうしようかな……索敵も大事だけどオメガちゃんとヘカトちゃん心配だから残ってた方がいい気もする』

 

「そうだな……お前も残ってくれ」

 

「ならば斥候は拙者に任せるでござるよ!」

 

 

 いい返事をしたオメガとヘカト共にエヴリンもエントランスに残ることになり、私たち四人はプサイを斥候にしつつ、署内西からS.T.A.R.S.オフィスに向かうことにした。……これが別れとなるなんて、私たちの誰もが想像もしていなかっただろう。




今作ではいろんな作品でやらかしたことを全部やらかしているアイアンズ。さらにウイルスもバーキンに要求してるっていうね。正気の沙汰じゃない。

そして唐突な別れの時。いったい何が起こるのか。シリアス注意報発令です。

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file2:6【センチュリオン・G・ヘカトンケイル】

どうも、放仮ごです。構想よりだいぶシリアスになりました。バイオはもとよりこういう話だと思ってます。楽しんでいただけたら幸いです。


『助けて!クイーン!』

 

 

 ゾンビやリッカーを駆逐しながらS.T.A.R.S.オフィスに辿り着き順調に探索を進めていた私たちのもとに、エヴリンが泣きながらやってきた。涙で顔がぐちゃぐちゃだ。

 

 

『えっぐ、ひぐっ、私、わたしっ……クイーンからオメガちゃんたちのことを頼まれたのに……っ、少し目を離したらぁ…!』

 

「落ち着け、落ち着くんだエヴリン」

 

 

 泣きじゃくっていて話の要点がはっきりしないが、オメガたちに何かあったのは間違いない。早く戻りたいところだが人間のレオンとクレアを連れてゾンビの巣窟を抜けるのは困難だ。

 

 

「プサイ」

 

「承知したでござる!」

 

 

 プサイに目配せし、察してくれたプサイが一足先に駆け抜けていく。プサイは本当に察しがよくて助かる。レオンとクレアが一体何事かと驚いている。そうか、エヴリンの声が聞こえないんだったな。

 

 

「エヴリンが来た。オメガたちに何かあったらしい」

 

「エヴリンって言うと菌根とやらが体内にある人間にしか見えないっていう…?」

 

「なにがあったの?」

 

「エヴリン、説明しろ」

 

『ひぐっ…どうせ私はいつも節穴なんだ……』

 

「おい、いい加減にしろ」

 

『ひゃあい!?』

 

 

 いつまでも落ち込んでいるエヴリンに腕を突っ込んで無理矢理正気に戻す。とりあえず移動を始めた私たちについてきながら、泣き止んだエヴリンが説明を始めた。

 

 

『マービンの容体が悪くなったから寝かせて様子を見てたんだけど、いつの間にかエントランスの吹き抜け東側二階に誰かがいて……』

 

「誰かってのは?」

 

『わからない……確かめる余裕もなかったから……それで、何かを撃ち込まれたヘカトちゃんが蹲って苦しみ始めたと思ったら脱皮して、……元の姿に戻っちゃって…でも様子がおかしいの!』

 

「なんだって?」

 

 

 エヴリンの言う元の姿とは、アンブレラ幹部養成所にて最初に相対した、ムカデの姿から脱皮した成人女性の形態のことだろう。脱皮するたびに縮んでいたはずだが、二ヶ月間エネルギーを溜め込んだことで脱皮して大きくなれるようになったのだろうか。

 

 

「様子がおかしいってどういう意味だ?」

 

『それが、大ダメージを受けたわけでもないのに脱皮を繰り返して際限なくでかくなっていって……お腹に新しく眼が現れて、オメガに襲い掛かり始めたの!私、もうどうしたらいいか……』

 

「ヘカトが巨大化し続けているだって…?」

 

 

 プサイが向かっていった、S.T.A.R.S.オフィス側からかけられていた鍵が斬撃で破壊された扉を通って図書室を抜けた先がエントランスに繋がっている。扉を開けた瞬間視界に入ったのは、巨大なムカデの突進だった。

 

 

「イダイ、イダイイィイイイイッ!!」

 

「っ、避けろ!」

 

 

 瞬間、フラッシュバックしたのは鋼鉄をも溶かしていた猛毒の棘。脱皮した時に刺々しい殺意が取れたかのようにすっかり消えてなくなっていたそれが見えて、咄嗟にレオンとクレアを突き飛ばす。背中を掠る激痛。どうやら棘が背中に掠ったらしい。

 

 

「クイーン!?」

 

「大丈夫!?」

 

「ぐっ……粘液、保護…!」

 

 

 粘液を背中に集中させることで毒の浸食を防ぎ、治癒を全開で回して再生させる。くそっ、いったい何が起きている!?

 

 

「エヴリン!」

 

『うん!私が気を引いてくる!』

 

 

 上の壁を抜けていくエヴリン。すぐにズズズズッ…!と蠢く音が聞こえ、エヴリンの『今のうちだよ!』という声が聞こえて扉を開けて、眼下を見る。そこには、とんでもない光景が広がっていた。

 

 

『ヘカトちゃん!しっかりして!』

 

「ヘカト!」

 

「正気に戻るでござる!」

 

「痛い、痛いよぉおおおおっ!」

 

 

 中央の長椅子に寝かされたマービンの傍に膝をついて両腕を広げているのは、頭が二階の吹き抜けまで突き抜けるぐらいの巨体と化したヘカトだった。棘を生やし凶悪となったムカデ腕を両腕とも縦横無尽に伸ばして逃げ続けるエヴリン、オメガ、プサイを追いかけるそのおへそ辺りには、アネットの肩にあったものと同じ単眼が陣取り、ギョロギョロと動かしてオメガに視線を向けている。目を赤く光らせ口から蒸気を吐きながら悲鳴を上げる姿からはまるで正気を感じなかった。

 

 

「ヘカト…なのか!?」

 

「いったい何が……」

 

「とにかく、止めないと!でもどうすれば……」

 

 

 銃を構え銃口を右往左往しながら迷うレオンとクレア。問答無用で撃たないのは優しくて私は好きだが、この地獄では生き残れないぞ。

 

 

「…ヘカトは倒せば脱皮して復活する。今は倒すしかない!」

 

「そんな!?他に方法はないのか!?」

 

「覚えておけ二人とも。私たちには、戦うか死ぬしか選択肢は存在しない!知り合いだろうと襲ってくるなら銃を向けろ!じゃないと、マービンの二の舞だ!」

 

「「!」」

 

 

 ゴクとマゴクを引き抜き、乱射する。バスバスバス!と弾かれる音が響くが、注意を引き寄せることはできた。ゴクとマゴクをしまうと吹き抜けから飛び出して粘液糸を飛ばしてエントランスの上空に躍り出て、口から猛毒の液体の弾丸を飛ばしてくるムカデ腕の弾幕を搔い潜る。

 

 

「この程度で私を捕らえられると思わないことだ…!?」

 

「なにするのよぉおおおっ!」

 

「ヘカト…!」

 

「何でござるか!?」

 

『ドック・オク!?』

 

 

 すると背中突き破って新たにムカデが新たに二体現れ、ムカデ腕と共に私、オメガ、プサイ、エヴリンを同時に襲い始めた。さらに脱皮か!?こうなると逃げの一手しかない。あの猛毒はエヴリンでも喰らわないとはいえすり抜けるだけでダメージありそうだ。ここで頼りになるのは、狙われていないレオンとクレアだ。

 

 

「レオン!クレア!胴体の目を狙え!アネットも目への攻撃は効いていた!」

 

「わかった!」

 

「恨まないでね…!」

 

 

 レオンとクレアが手にしたハンドガンを連射、胴体の単眼を狙い撃つ。予想だにしていなかったであろうダメージを受けて怯むヘカトは赤い目に涙を溜めながら立ち上がる。

 

 

「…いだいよばがぁあああああっ!」

 

「ござあああっ!?」

 

「ヘカト…落ち着け、怖くないから!」

 

『レオンとクレアがやばい、クイーン!』

 

「させるか!」

 

 

 ブンブンブンブン!とムカデ腕と背中のムカデを振り回し、回転させて渦巻きを作るヘカト。全方位目がけてムカデから猛毒ブレスが発射され、レオンとクレアにも降りかかりそうなところを間に割り込んで、粘液の層を厚くして受け止める。

 

 

「ぐうううっ!?」

 

「クイーン!」

 

「私のことはいい、ヘカトを…倒せ!」

 

「っ……なら!」

 

「レオン!?」

 

 

 竜巻の如くムカデたちを回転させるヘカトに向かって、レオンは意を決して走り出す。動き出したレオンを見て反応、振り回すのをやめてブレス攻撃を集中させるヘカトに、私たちも動く。

 

 

「少しでも怯ませる…!」

 

「オメガ、プサイ!棘を斬れ!」

 

「了承…!ヘカト、今助けるから!」

 

「切り捨てソーリーでござる!

 

『何したいか知らないけど、レオンの邪魔させるか!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「…にゃああああああっ!?」

 

 

 クレアが単眼を狙い撃って狙いを逸らさせ、私が粘液糸で顔の両目を塞ぎ、ムカデ腕に乗ったオメガとプサイが走り抜けて毒の棘を片っ端から斬り裂いていき、エヴリンが大声を至近距離から浴びせてヘカトをひっくり返す。

 

 

「耳がぁああああっ!」

 

「今だ!」

 

 

 像を破壊しながら尻餅をつくヘカトに、東側まで回り込んだレオンがナイフを手に飛び降り、ナイフで単眼を刺し抉ってしがみつく。成人男性の全体重が乗って単眼を引き裂くナイフを手にレオンが落下して床に転がり、大ダメージからか四体のムカデをのたうち回らせて背中から倒れ伏すヘカト。

 

 

「痛い……痛いわ……オメガどこ……?」

 

「っ、ヘカト…!私はここだ…」

 

 

 単眼から体液を放出し、ムカデ腕を掲げる目が見えないらしいヘカトに、オメガが反応。声をかけるが、嫌な予感がして。

 

 

「……優しいわね、オメガ」

 

「っ…!?」

 

 

 オメガの方に向けて伸びるムカデ腕。その口の中に見慣れない器官が見えて、やばい、と粘液糸を伸ばすが、間に合わない……!?しかしそれは、間に割り込んだプサイの振り上げた爪に弾かれる。

 

 

「拙者の妹に手出しはさせないでござるよ」

 

「…オメ、ガ……私の、こを……」

 

 

 そしてヘカトは限界を迎えたのか、力尽きる。すぐに脱皮して戻るかと思ったが、様子がおかしい。まるで脱皮する気配がないだと……?

 

 

「ヘカト…?」

 

『………ヘカトちゃんの気配が、消えた』

 

 

 オメガの信じられないとでも言いたげな声と、エヴリンの悲しみに満ちた声が響く。私はただ、立ち尽くすことしかできなかった。




・センチュリオン・G・ヘカトンケイル
何者かにG-ウイルスを打たれて脱皮を繰り返し超巨大な大人の姿に変貌したヘカト。身長はホール二階に頭が出るぐらい。通路を洪水みたいにして腕ムカデを突撃させてくる他、新たに背中からもムカデを二体生やして縦横無尽に攻撃してくる。猛毒も健在どころか強化されて遠距離攻撃が可能に。ギルタブリルと同じでRTとGを同時併用したため脱皮強化こそ可能だが復活が不可能であり、倒したらそのまま力尽きる。
 自我はまともではなく、耐えがたい痛みに常に侵されながら目を赤く光らせ口から蒸気を吐いており、お腹のG特有の目でギョロギョロと敵と標的を探す。血縁関係であり親しいオメガを優先的に狙う。モチーフは四本の伸縮自在の腕、精神が不安定になっているところなど、スパイダーマンのドクター・オクトパス。

というわけでヘカト脱落です。もともと0編で脱落しかけたのを延命させてたので、この先の展開の都合上ここで脱落せざるを得ませんでした。RTとGの組み合わせ、ダメ絶対。

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file2:7【禁じ手とその代償】

どうも、放仮ごです。今回はあまりに感想欄がお通夜だったので本日水曜日の仮面ライダーシングを投稿する予定を取りやめてこちらの更新にしました。

皆様はエヴリンの力を忘れてはないだろうか?ある神の名台詞をここに。「コンティニューしてでもクリアする!」楽しんでいただけたら幸いです。


 倒れ伏すセンチュリオン・G・ヘカトンケイルをエントランス三階から見下ろして、男女は嗤う。

 

 

「いいものが見れたな。思わぬ収穫だ」

 

「ああ。RTの被験体にGを使うとこうなるのか。素晴らしい」

 

 

 東側二階に出た彼らは、眼下にかつて自分たちが調教した存在であろうヘカトの姿を確認すると、実験と称して何の躊躇もなくG-ウイルスを撃ち込み、三階まで退避して見学していた。その存在に気付いたのは、ヘカトの気配を確認していた少女だった。

 

 

『お前、かあ!』

 

「ほう、たしか…エヴリンだったか。いい顔だな?」

 

『お前が、お前らがヘカトちゃんを……!ウェスカアァアアアアアッ!!』

 

 

 飛び上がり、憤怒の表情を浮かべる少女、エヴリンに女の方、アルテ・W・ミューラーは不敵な笑みを浮かべて男の方、ウィリアム・バーキンを突き飛ばして下げさせ、挑発する。瞬間、飛び上がってきたのは怒りのあまり顔に影が差して眼光だけが輝く二人のハンター、オメガとプサイだ。

 

 

「殺す…!」

 

「赦さないでござる!」

 

「来い。相手になってやる」

 

 

 オメガとプサイの同時攻撃。互いの隙を互いに補う、斬撃の嵐を、アルテはポケットに両手を入れながら最小限の動きで紙一重で回避していく。そのまま蹴りの一撃でオメガを蹴り飛ばし、背後から襲い掛かってきたプサイの胸に肩を突き刺して受け止め、投げ飛ばす。その隙に突撃、大きく声を吸い込むエヴリン。

 

 

ウェスカアアアアアッ!!

 

「ぐっ!?」

 

「お前だけは…!」

 

「赦さぬ!」

 

 

 至近距離からの絶叫に、アルテは耳を押さえて怯んで後退。そこにオメガとプサイが飛び掛かり、プサイが背中をバッサリ大きく引き裂き、オメガが「首狩り」で首を引き裂いて頭部が転がり、アルテは膝をついて崩れ落ちた。

 

 

「アルバート!?ば、馬鹿な……」

 

「お前もか?」

 

 

 やられた親友の姿に腰を抜かしたウィリアムに歩み寄るオメガ。そして容赦なく、爪を振るって首を断ち、ウィリアムも絶命した。

 

 

「………お前たちが死んでも、あの子は戻ってこないんだぞ……」

 

「オメガ殿……」

 

「ヘカト…、私が、目を離さなければ……ヘカトぉ……」

 

 

 蹲り、泣きじゃくるオメガとその肩を叩いて慰めるプサイを、一階で呆然と立ち尽くすクイーンと居た堪れない空気に顔を青くしているレオンとクレアを見て、エヴリンは怒りに震える。

 

 

『認め、られるか……!』

 

 

 行き場のない怒りを、空中を殴りつけることで発散する。ウェスカーとバーキンへの怒り。気づけなかった自分への怒り。残酷なこの世界そのものへの怒り。居もしない神への怒り。それらが混ざって、膝を抱えて蹲る。

 

 

『もういやだ。やり直せるものならやり直したい…………待てよ?』

 

 

 思い出すのは、過去のイーサンと共に三桁を超えるほど繰り返した過去のこと。未来に帰る方法はゼウに頼らないといけない、だがしかし。……ここから過去に戻るのなら、どうだ?

 

 

『…上手くいくかはわからないけど、やるしかない…!待ってて、ラクーンシティを救うのは無理だけど、せめてこんな悲劇だけは……なかったことにして見せる!』

 

 

 意を決し、菌根が中にあるクイーンに飛び込む。以前は数百年生き続けた菌根本体の記憶を遡って過去に行った。ここにきたのも、ローズを菌根世界に取り込んだその菌根の欠片を用いてだ。今回は、クイーンの記憶を使って遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ、ここは?』

 

 

 私が飛び出したのは、見慣れたS.T.A.R.S.オフィス。目の前には、S.T.A.R.S.オフィス内を物色するレオンとクレアとプサイと、こちらを見て驚いているクイーンがいた。

 

 

「エヴリン、お前……なんで私の中から出てくるんだ…?」

 

『っ、ヘカトちゃん!』

 

 

 話をしている暇はない。私は壁をすり抜けてエントランスの方まで突撃する。そこには、異次元同位体(だっけ?)の私が消えて、驚いているオメガと無事な姿のヘカト、寝かされているマービンと……エントランス二階から様子を窺っている、元凶二人。ウェスカーの手には拳銃が握られていて、それが構えられて……

 

 

『さーせーるーかー!』

 

「なにっ!?」

 

 

 高速で飛んで横切った私に気を取られて射線を逸らすウェスカー。ウェスカーの振るった拳をすり抜けながら近づき、大きく息を吸い込む。

 

 

『私にはこんなことしかできないから!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「ぬうううううっ!?」

 

「アルバート!?」

 

 

 私の声の圧に吹き飛ばされ、転倒するウェスカー。すると私の大声を聞いて、みんなも気づいたようで続々集まってくる。

 

 

「なになに!?なんなの!?」

 

「エヴリンか?」

 

「エヴリンの様子がおかしいから急いでみれば…ウェスカーにバーキンだと?」

 

「何事でござる?」

 

「あいつらが例の……」

 

「悪人コンビね!」

 

 

 上からヘカトちゃん、オメガちゃん、クイーン、プサイちゃん、レオン、クレアだ。ウェスカーが立ち上がったものの、完全に詰んでいた。

 

 

「足掻いても無駄だぞウェスカー、バーキン」

 

「それは私をなめすぎだぞクイーン。この程度の数の差など関係ない」

 

 

 挑発し合うクイーンとウェスカー。しかし私は失念していた。私が過去に戻るとき、必ず異変が起きて歴史が変わることを。マーガレットの超強化によるイーサンの避けられない死など、致命的にヤバイことが起きることもある。今回も、それだった。

 

 

 

 ガシャン!ガシャン!ガシャンガシャン!

 

 カア!ガア!カア!カア!ガア!ガア!ガア!

 

「…なんだ?」

 

 

 次々と窓ガラスが割れる音が聞こえて、同時に響き渡る五月蠅いぐらいの鳴き声に、クイーンが両腕を硬化して構え、他のみんなも身構える。え、なに?こんなこと起きたっけ?

 

 

「お前たちの作戦か?ウェスカー」

 

「いいや、残念ながらこんなことは予定にない」

 

 

 ウェスカーが肩を竦めた次の瞬間、扉という扉から次々とカラスの群れが躍り出る。とんでもない数が竜巻の如く渦を描きながらエントランスの上空に集まり、そして人型を形作り空中に浮遊する。身長三メートル近くはある、羽毛の黒衣を纏った青みを帯びた漆黒のリサという風体だった。数十体のカラスが集ったそれはまるでクイーンたちヒルの様で、漆黒の冷酷な眼光がこちらを見据える。

 

 

「あれは…モリグナか!?アイザックスが戯れに作っていたRT型のB.O.W.だ!まずいぞ、数が増えている!逃げろ!」

 

「なんだと!?」

 

「クレア、こっちだ!」

 

 

 バーキンが吠えて、咄嗟に動き出したウェスカーに抱えられて扉の内側に逃亡。瞬間、モリグナと呼ばれたB.O.W.が爆発したかのように数十体のカラスに分裂。まるでミサイルかの如く突撃してきて、咄嗟に物陰に隠れたレオンとクレア以外、逃げ遅れ縮こまって身を守る体制をとったヘカトちゃんと、抗戦の意思を示したクイーン、オメガちゃん、プサイちゃん、そして私に襲い掛かる。

 

 

『いやっ、来ないでえええええっ!!

 

「防御が貫かれる…!?」

 

「っ、ヘカト!」

 

「相手に取って不足なしでござる!」

 

 

 私は大声を出して迎撃、クイーンは硬化した防御を貫通して全身を嘴で貫かれ、オメガちゃんはヘカトちゃんを守るために爪を振るって迎撃を行うも手数が足りず貫かれていき、プサイちゃんは持ち前の脚力を活かして離脱しながら追いかけてくるカラスを爪で引き裂いていたが、誘導してくるカラスの群れから逃げられず啄ばまれて血まみれで撃墜される。駄目だ、数が多すぎるし貫通力も高い!こんなやつが現れたのは歴史を変えたせい!?また、繰り返すの?

 

 

「だめ、だめ!みんなを殺さないで!」

 

 

 モリグナが一度集結して空に浮かぶのを、ヘカトちゃんが泣き叫んでムカデ腕を伸ばして迎撃を始めるが、あの暴走していたヘカトちゃんならともかく、防御よりの思考のこの子じゃだめだ、まるで当たってない。せめて以前のヘカトちゃんなら………待てよ?前のヘカトちゃん、なら?でも、そんなことしたら……いやでも。私とヘカトちゃんなら、この状況何とかなるかも…?

 

 

『ヘカトちゃん!いきなりでごめんだけど、みんなを守りたい!?』

 

「うん、守りたい!」

 

『なら、一か八かだ!』

 

 

 そして私はヘカトちゃんに飛び込み、それに反応したモリグナのカラスたちが殺到してきたのを、ムカデ腕を螺旋状にして防ぐヘカトちゃん。バキバキと音がする。こうなる前、暴走したヘカトちゃんが変貌した時も聞いた、脱皮の音だ。その音と共に私はヘカトちゃんの外に出る。

 

 

「…いいわ。いいわ、いいわ!もっと痛みをちょうだい!」

 

 

 瞬間、ムカデ腕がさらに伸びて大渦を巻いてカラスたちを吹き飛ばす。ムカデ腕がほどけたそこに立っていたのはヘカトちゃんであって、ヘカトちゃんじゃなかった。身長は二メートルほど。髪も伸びて、カジュアルな服に隠れた肢体はスタイルがよくなってピチピチになってる。そして相変わらずのドM発言。こんなの一人しかいない。

 

 

「我、再誕!オメガに手は出させないわ…!」

 

 

 ヘカトちゃんは子供から大人のヘカトちゃんに脱皮した。




復活、大人ヘカトちゃん。エヴリンが頑張りました。ヘカトちゃん脱落とは言ったが脱落は脱落でも「子供のヘカトちゃん」脱落でした。あとついでにGヘカトちゃん世界線のウェスカーとバーキンも脱落。

そうなのだ、このエヴリン未来に自由に戻れないだけで過去にならも飛べるのだ。

そしてバタフライエフェクトで出現。カラスのB.O.W.「モリグナ」クイーンやワスプ・キャリア―タイプのB.O.W.です。またアイザックスのせい。

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file2:8【鴉の女神モリグナ】

どうも、放仮ごです。ヘカトちゃんいつの間にかこんな人気キャラになったんだなと、前回の感想欄を見てしみじみ思いました。

今回はモリグナVSヘカトちゃん達。楽しんでいただけたら幸いです。


 私の新たな傑作について記録しておこうと思う。名をモリグナ。ケルト神話に出てくるカラスの女神である三姉妹が由来だ。変異したカラスの群体であるこのB.O.W.の名にふさわしい名前と言えるだろう。

 

 例の洋館事件が起きてからNESTに缶詰めになっていたこの二ヶ月の間、RT-ウイルスの新たな可能性を求めて片っ端から試した。道端のカラスの餌に混ぜたり、下水道で見つけた破棄されたらしいワニに投与したり、実験体のゾンビに戯れに投与してみたり。その結果生まれた数少ない成功作の一つがモリグナだ。

 

 カラスの群れにRT-ウイルスを混ぜた餌を接種させる実験を行っていた際に、RTの遺伝子の特徴である「肉体の結合」が起きて融合し、群体の生命体となったのがモリグナだ。三メートル以上の巨体のRTとよく似た顔の女性の形をとっているが本体というものが存在せず、すべてのカラスが同じ自我を共有しているのか完全に統率された動きを取る。一糸乱れぬ動きから繰り出される制圧攻撃は実験体のゾンビを瞬く間にミンチに変えてしまう圧倒的な威力を誇る。

 

 RT-ウイルスが脱皮で肉体を変容させる爬虫類と相性がいいのは周知の事実だとは思う。故に鳥類とは相性が悪いのだが、瞬間的に肉体を分解し融合することで人型を取るという変異を見せた。これは素晴らしい発見だ。爬虫類やT-ウイルスを介した肉体以外でもRT-ウイルスに適応するとは大誤算だ。これだからこのRT-ウイルスの研究はやめられない!

 

 特筆すべき特徴は構成しているカラスすべてがゾンビみたいな状態だということだろうか。非常に食欲旺盛で身体能力も高く、再生力が高いために痛みにも鈍く、仲間が倒された程度では怯みもしない。さらに他のカラスに啄ばむことでウイルスを感染させ仲間にすることができる。兵器としては完成されすぎている。これにイブリースを合わせたらとんでもないことになったんだろうな、と思うとイブリースを失ったことはあまりに残念でならない。

 

 例のRT計画も無事進行しているが、そろそろNESTにいるのも潮時だ。このままだとバーキン博士に巻き込まれて一緒にアンブレラに始末されるのも時間の問題だ、例のメールをさっさと送るべきだろう。ただこのままでは私もアンブレラに使いつぶされて一緒に破滅されそうだからアンブレラの影響が及ばない国に逃亡したい。そうだ、あの国がいい。私の研究に感銘を受けた協力者もいる。あの国に新たに研究所を作ってそこに当分隠れながら研究を続けるとしよう。

 

 

 1998年9月 サミュエル・アイザックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我、再誕!オメガに手は出させないわ…!」

 

…手出しさせない?おかしなことを言う……

 

『え、喋れたの?』

 

 

 復活した大人ヘカトちゃんの言葉に、反応したのはモリグナと呼ばれていたB.O.W.だった。黒衣を纏った三メートルの女巨人の姿に戻って滞空するそれは、まるで複数がエコーし合っているみたいな不思議な声で眉をひそめて続ける。

 

 

貴様らは悉く私の餌だ。手出しさせない?戯言だ

 

「戯言かどうか、試してみるかしら!」

 

 

 ムカデ腕を振り回し、空中のモリグナを狙うヘカトちゃん。しかしモリグナは直撃する寸前でカラスの大群に分かれてエントランスホールの上空を編隊を組んで飛びまわり、旋回。ヘカトちゃんは腕を縮め、呆然としているオメガちゃんを守るように身構える。

 

 

「ヘカト…ヘカト、なのか…?」

 

「正真正銘、我よ!エヴリンが引き出して、子供の私と一体化させてくれたの!」

 

 

 そうなのだ。私はヘカトちゃんの決意を聞くなりその精神世界に飛び込み、菌根の世界に接続。菌根の中から私たちを見守っていた大人ヘカトちゃんの記憶を見つけ出すと、子供ヘカトちゃんからその記憶を呼び起こさせて、さらに菌根で働きかけて脱皮させ急成長させたのだ。そのせいで力を使い切ったけど、これしか方法なかったからしょうがないよね…。

 

 

『私当分動けないから、後よろしくぅ…』

 

「エヴリン、私の中に入って回復してろ!」

 

『ひゃい~』

 

 

 クイーンが手を広げて受け入れ態勢になってくれたのを見て、これ幸いと入り込む。回復に専念するけど、モリグナの弱点を探るためにもちゃんと観察してなくちゃ…。

 

 

いくらでも足掻け、物言わぬ肉の塊になりたくなければなあ!

 

「とにかく撃ち落とすぞ!」

 

「喰らえ!」

 

「数撃てば…!」

 

「守りは私に任せて!」

 

「ヘカトを信じる!」

 

「で、ござる!」

 

 

 旋回しながら次々とカラスを射出してくるモリグナに、ゴクとマゴクを構えるクイーンと、ハンドガンを構えたレオンとクレアが一斉掃射。時折飛び掛かってくるカラスをヘカトちゃんがムカデ腕を伸ばして受け止め、オメガちゃんとプサイちゃんがカウンターで切り裂いていくが、全然数が減らない。纏めて倒さないとだめだ。

 

 

「まとめてって……ならこういうのはどうだ!」

 

 

 粘液糸を次々と天井や壁に向けて発射するクイーン。それは蜘蛛の巣を形成してネットの役割を果たして次々と飛び込んできたカラスたちを絡めとり拘束していく。

 

 

「よし…!このまままとめて…!」

 

「否、ダメでござる!」

 

 

 ガッツポーズをとるクイーンだったが、プサイちゃんの指摘通り駄目だった。他のカラスたちが啄ばんで糸をちぎり、仲間たちを次々と開放してしまったのだ。数が武器で統率力もあるってマスターリーチの時も思ったけど本当に厄介だな。

 

 

「くそっ、手榴弾でも投げるか!?」

 

「閃光手榴弾なら…!」

 

「あ、それはちょっまっ……」

 

ギャアアアアアアアッ!?

 

 

 レオンが取り出した閃光手榴弾を放り投げると、眩い閃光と共に悲鳴を上げて怯んで次々と落ちてくるカラスたち。めっちゃ効いている!?閃光が弱点!?ってあれ、なんかクイーンがめっちゃふら付いてる。

 

 

「あば、あばばばばばっ……」

 

「クイーン、大丈夫か!?」

 

「馬鹿、私も群体なんだぞ………ぐへえ」

 

 

 ぼとぼととクイーンの身体が複数のヒルに分かれて崩れ落ち、私は排出される。クイーンが目を覆っても他のヒルが光をもろに見てしまったのと、爆音を至近距離で受けたせいだろう。こりゃだめだ。

 

 

「だけど、今がチャンスだ!」

 

「了承!」

 

「ござござござござあ!」

 

 

 レオンの言葉に、オメガちゃんとプサイちゃんが飛び出して体勢を低くしながら次々とカラスたちを斬り裂いていく。さらにヘカトちゃんも腕を振り回し、飛び立とうとするカラスたちを纏めて薙ぎ払う。

 

 

おのれえ…!

 

 

 何とかヘカトちゃんの薙ぎ払いも回避して集ったモリグナが、二メートルほどのサイズにまで縮んで人型に戻る。あ、縮んでる。結構効いてるみたい。

 

 

細切れにしてミンチにしてやる!

 

 

 するとモリグナはその場でばらけて渦を巻き、漆黒の竜巻の様になりながら迫る。アレに巻き込まれたらまずいことはさすがにわかる。

 

 

「レオン、閃光手榴弾を!」

 

「さっきのが最後だ!」

 

「そんな!?」

 

 

 クレアがレオンに催促するも、頼みの綱の閃光手榴弾ももうないらしい。どうすれば…!?すると、前に出たのはヘカトちゃんだった。

 

 

「あなたが喰らうのが速いか、私が再生するのが速いか…勝負しましょう?」

 

『ギガドリルブレイク!?』

 

 

 瞬間、ヘカトちゃんはムカデ腕で螺旋を描いて二つのドリルの様にすると、それを伸ばして漆黒の竜巻と化したモリグナと激突。体液と砕けた甲殻が飛び散るが、啄ばまられるたびに再生しているのか拮抗、火花を散らす。

 

 

互角だと…!?

 

「オメガ!」

 

「了承!」

 

 

 そしてヘカトちゃんはオメガちゃんに呼びかけて、オメガちゃんは跳躍。斬撃を叩き込んでモリグナの竜巻を一瞬止め、その瞬間ヘカトちゃんのムカデドリルが貫いて血肉をまき散らし、モリグナを形成していたカラスたちは飛び去って行った。

 

 

「…というわけで、改めて。ただいま、オメガ!」

 

「うん…おかえり、ヘカト」

 

 

 両腕を広げて笑顔のヘカトちゃんに、オメガちゃんが抱き着く。うんうん、頑張ってよかった。……クイーン大丈夫かこれ?




時にはドMが最大の武器になることもある。

不穏なアイザックス。まだまだ何かしら作ってるようですが、その行き着く先は…?

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file2:9【女王になったエヴリン】

どうも、放仮ごです。ようやっとシリアスでもないバトルでもない話になりました。今回はシリアスブレイカーエヴリン本領発揮。楽しんでいただけたら幸いです。


 同時刻、ヨーロッパ某所。そこにはG-ウイルスの存在を知り調査しに来たクリス、レベッカ、バリー、ジョセフ、リチャード、そして独自にやってきて合流したセルケトが支部に乗り込み調査していた。

 

 

「むっ……クリス、なんか見つけたわよ」

 

「本当か、セルケト」

 

 

 研究員を尻尾で締め上げながらファイルを漁っていた、エヴリンの擬態により前髪で左目を隠した赤黒い短く切り揃えた髪で全身普通の見た目で長袖のラフなシャツを身に着け、左半身だけインナー代わりにボンテージ染みた戦闘服を着た女傑の姿をしたセルケトが、それを見つけてクリスに呼びかける。クリスは銃を向けようとした警備隊を殴り倒しながら駆け寄る。

 

 

「これは……タイラントか?」

 

「やっぱりそうよね?これによると……あの洋館でクリス達が戦ったのはT-002型というらしいわね。クイーンの話に聞いたプロトタイラント……T-001の完成型で、サミュエル・アイザックスの手で量産されていたみたい」

 

「サミュエル・アイザックス……お前の生みの親だったか?」

 

「残念ながら私を生んだのはウェスカーとバーキンよ。アイザックスはオメガとかの生みの親。ややこしい話だけどね。クローニング技術とRT-ウイルス研究の権威よ」

 

「クローニング?」

 

「リサとアリサ、もしくは私やオメガみたいなもんよ。つまりそっくりさんを生み出す技術。あなたたち人間が禁忌と定めている技術よ」

 

 

 首を傾げるクリスにセルケトが呆れながら懇切丁寧に説明すると、クリスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、セルケトも肩を竦める。

 

 

「…SFでよくあるあれか。胸糞悪いな」

 

「本当にね……命を何だと思ってるのかしら。ウェスカーとバーキン以上の外道よ。それで、これによるとアイザックスの技術を応用してT-103型というのをアンブレラは量産してるみたい。タイラントの武器だった鋭く長い爪がない代わりに、T-002を含む00ナンバーシリーズと呼ばれるタイラントから新陳代謝機能を増大させることで、高い回復能力を有しているみたいね。防弾対爆仕様のコートを身に着けて一応は人間に擬態しているみたい。作り方は聞かないほうがいいわ」

 

 

 うへえ、と辟易した顔のセルケトに、ろくでもないんだろうなと当たりを付けつつ問いかける。

 

 

「興味もないな。それはどこにいるんだ?ウイルスの脅威はぶっ潰さないと」

 

「……最新の記録によれば、G-ウイルス奪取のために調整された何体かがラクーンシティに送られたみたいよ」

 

「俺達の探しているG-ウイルスはラクーンシティにあるだと…!?ジルやアリサたちが危ない!」

 

 

 読み進めて顔を青ざめさせるセルケトの言葉に、ラクーンシティに置いてきた仲間達を憂うクリス。まさか自分の妹まで巻き込まれているとは想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、いうわけで私がクイーンの代わりにこの体を動かすよ。私の力の消費も回復できるし」

 

「…驚いたな」

 

 

ダウンして崩れ落ちてしまったクイーンの身体に改めて入り込み、見た目も白衣を着た大人の私に戻してそう言うと眼を覚ましていたマービンが目を見開く。リーチ・モールデッドの応用だ。見た目を変えれるぐらいの力が残っててよかった。視界の端ではヘカトちゃんがオメガちゃんを高い高いして遊んでいる。言動は大人だけど無邪気なところは子供の頃と同じみたいだ。よかった、あの痛みを他の人間にも与えたがる性格に戻らなくて。

 

 

「見た目はクイーンなのに子供みたいな笑顔を浮かべるとは……違和感がすごい」

 

「まだ付き合いは短いが俺もそう思います」

 

「私も……」

 

「この容姿もともと私のなんだけど!?」

 

 

 失礼なマービン、レオン、クレアに「うがーっ!」と両手を上げて威嚇していると、周囲を哨戒していたプサイちゃんが戻ってきた。

 

 

「周囲を見てきたでござるよ、クイーン殿!……クイーン殿?でござるか?」

 

「よくわかったね。今の私はエヴリンだよ。さすが忠義のニンジャ!」

 

「拙者ノーニンジャ、アイアムサムライでござるよ」

 

 

 一目でクイーンとは別人だと気づいてくれたプサイちゃんに気をよくしてたら怒った顔で訂正された。ごめんて。でもプサイちゃんの身のこなし、どちらかというと忍者なんだよなあ。アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?……この時代だと多分このネタ知らないか。

 

 

「しかしエヴリン殿でござったか!クイーン殿は無事なのでござるか?」

 

「気絶しているだけだから安心して。それで、モリグナはどうだった?ウェスカーやバーキンは?」

 

「どうやら逃げた様でござる。とりあえず目についた窓は板で塞いできたでござるから安心召されよ!」

 

「さっすがあ」

 

 

 ニッコニコで報告してきたプサイちゃんにサムズアップを返す。仕事ができるいい子!やっぱりアサシンより主人を守るニンジャ向けだよなあ。

 

 

「で、エリオットのメモが言うにはそこのラウンジとこのエントランスにメダルあるみたいなんだよね。見逃してたけど。レオン、クレア。ラウンジを見てきてくれない?私たちはここで探すからさ」

 

「それはいいが……なんで俺達なんだ?」

 

「レオンたちが一番ダメージ少ないからかな。私はクイーンともども回復したいし、他の三人はモリグナとの戦いで傷ついてる」

 

「私は大丈夫よ!」

 

 

 元気よく手を上げるヘカトちゃん。ならば私もとオメガちゃんが手を上げかけるが、オメガちゃんは傷ついてるから駄目です。それに、ヘカトちゃんなあ。ちっちゃい時はともかく……。

 

 

「言っちゃあなんだけどヘカトちゃんの巨体は狭いところじゃ逆に邪魔だよ」

 

「じゃ、邪魔……」

 

 

 あっ。ヘカトちゃん顔を覆って泣いちゃった。ちょっと男子ぃー。……いやごめん、私が悪かった。ムカデ腕で顔を隠すとなんか怖いし、泣き止んで?と宥めようとしたらキラーンと照明を受けて煌めく爪が首に突きつけられる。マジ顔のオメガちゃんだ。

 

 

「エヴリン。命を捨てる覚悟はいいか?」

 

「ごめんヘカトちゃん今すぐ泣き止んで!?今この状態で首狩りはさすがに不味いから!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬー!?」

 

「お、落ち着けオメガ!?」

 

「オメガちゃん、どうどうどう!」

 

「私のために争わないで!斬るなら私を斬ってちょうだい!」

 

「ややこしくなるから黙ってろでござるよ!?」

 

 

 レオンとクレアとプサイちゃん三人がかりで止められ、羽交い絞めにされ引っ張られるオメガちゃん。死ぬかと思った……。あとプサイちゃんに怒鳴られてシュンとなってるヘカトちゃん、涙の跡がないってことは噓泣きだな?保護者(オメガちゃん)がいると洒落にならない冗談だからやめて?

 

 

「じゃ、じゃあ気を取り直して……お願いねレオン、クレア」

 

「それはいいが……死ぬなよエヴリン」

 

「さすがに仲間に殺されるつもりはないよ……」

 

「あなた冗談が下手そうだから本当に気を付けてね?」

 

「君たちさっきから失礼だな!?」

 

 

 私にギャグセンスがないってのか!怒るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、二つのメダル、そしてアイアンズのくそ野郎のせいでめんどくさいところにあった最後のメダルも手に入れ、脱出口らしい地下室の入り口を開けることに成功する私たち。地下か。…地下かあ。嫌な予感がするな。

 

 

「行きましょう、ブラナー警部補」

 

「マービン?どうしたの?」

 

「いや……俺は置いていけ。そろそろ限界なんだ……足手まといにしかならないだろう」

 

 

 レオンとクレアの言葉にそう返すマービン。ゾンビ化の兆候が見られるな…クイーンならどうするかな。答えは決まってるか。

 

 

「プサイちゃん、お願い」

 

「心得た」

 

 

 プサイちゃんに言ってマービンを担いでもらう。ゾンビ化はどうにもならないだろうけど、おいていく選択肢だけはない。

 

 

「なにを!?おい、クイーン!?いや、エヴリン!なんのつもりだ!」

 

「クイーンなら、こうするから。もう誰にも死んでほしくないんだよ」

 

「だが、俺は……お前たちを襲わない自信がない」

 

「その時は私が何とかして見せる。信じて」

 

 

 そう目で訴えると、押し黙るマービン。迷っているようにその視線が彷徨うが、観念したようにフッと笑った。

 

 

「わかった。わかったよ、お前はクイーンと同じで頑固みたいだからな……連れて行ってくれ」

 

「うん、行こう!このメンバーで絶対、生き残ろう!」

 

 

 そう決意を新たに、私たちは地下室に進み始めた。




はい、何がとは言わないけど増えてます(白目)アイザックスのせいで量産体制がえぐいことに。

エヴリンINクイーン。クイーンがダウンしちゃったため当分エヴリンがクイーンの身体で頑張ります。この状態だと索敵とかができないのが玉に瑕。それでも、マービンを連れだすことに成功しました。モリグナ戦でクイーンを閃光手榴弾でダウンさせることでこのルートに入って実績解除しそう。

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file2:10【モンスターペアレント】

どうも、放仮ごです。疲れててぎりぎりになってしまいました。Gアネット第一形態戦です。楽しんでいただけたら幸いです。


「ここは……地下施設?」

 

 

 地下の隠し部屋に入ると、エレベーターに繋がっていて。オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃん、マービンを隠し部屋に残して先に私とレオン、クレアでエレベーターに乗り、さらに地下に降りる。

 

 

「熱いわ…ボイラーでもあるのかしら」

 

「機械室って感じだな…」

 

 

 作業場の様な通路を抜けると機械に覆われた通路に出る。多分動力室かなにかか。すると、カンカンカンカンと足音と呻き声。上に何か、いる。…オメガちゃんたちの到着を待っている暇はなさそうだ。

 

 

「アァアアアッ!何で逃げるのォオオオッ!?」

 

「なんだ…?」

 

「この声……エヴリン、もしかして」

 

「うん…アネットだ。何かを追いかけてるみたい…?」

 

 

 生きてたのか。どうやってこの地下に入ったんだろ。とりあえず警戒していかなきゃ……スリーマンセルで固まって通路を移動する。あ、行き止まり。ロッカーかなんかが倒れて通路の先が塞がっている。

 

 

「俺が…」

 

「いや、任せて。これぐらいなら…!」

 

 

 端を掴み、ググググッと力を入れて横にずらす。そして人一人入れるぐらい(ヘカトちゃんだとギリギリかも?)の隙間ができた。すると奥で動く影。クレアがライトで照らすと、そこには見覚えのある少女がいた。

 

 

「きゃあ!?」

 

「…もしかして、シェリー?」

 

 

 そこにいたのは、洋館事件の直前以来二ヶ月ぶりのシェリー・バーキンだった。酷く怯えているようだ。

 

 

「クイーン?クイーンなの!?よかった、無事で…!」

 

 

 私の顔を見るなり抱き着いてくるシェリー。なんで、と思ったけどそうだった。私今以前のクイーンの姿してるんだった。いや私の顔なんだけどさ。どうしよ、クイーンじゃないと伝えたら怖がりそう……うーん。よし、クイーンの振りをしよう。

 

 

「こほん。無事だったのか、シェリー。心配したぞ」

 

「エヴ…」

 

「レオン、今は合わせましょう。どうしたの?私たち、クイーンの仲間なの。困ってるなら私たちが助けてあげる」

 

 

 レオンが空気を読まずに私の名前を呼ぼうとしたけど、クレアが手で制して私のことをクイーンと呼んでしゃがんで視線を合わせる。シェリーは私に抱き着きながら、怯えた様子で続けた。

 

 

「私、アイツから逃げてきたの!それに、ママが…」

 

「アイツ?それは誰のことだ?」

 

「アイアンズって人……私、孤児院から逃げてきたの……」

 

 

 クイーンの口調で少しでも情報を聞き出そうと尋ねると、あんまり予想してなかった名前が出てきた。アイツか。あのクソデブクズチョビ髭外道め。シェリーに手を出そうとは言語道断。クイーンじゃなくてもキレる。それに孤児院って確かアイアンズが経営している………今思うとめちゃくちゃ胡散臭いな!?

 

 

「クイーン、助けて!ママが、ママが……後ろ!」

 

「え?」

 

 

 思わず素で首を傾げながらクレアと共に振り向くと、そこには天井から降りてきて着地したらしい体勢の異形のアネットがレオンの背後にいて。

 

 

「シェエエリィイイイイイッ!!」

 

「…泣けるぜ」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

 咆哮と共にレオンに振りかぶった鉄パイプを叩きつけ、とんでもないパワーでシェリーのいた小さな部屋ごと通路が崩れて私たちは落下。咄嗟に粘液糸を出して玉を作ることでクッション代わりにして私とシェリー、レオンとクレアはポーンと跳ねて転がる。

 

 

「助かったわ…ありがとう、エ…クイーン」

 

「大丈夫…か、シェリー」

 

「うん…大丈夫だよ、クイーン」

 

「…エヴ……クイーン、その子を連れて逃げろ」

 

「わだじのがわいいいシェエエリィイイイイイッ!!」

 

 

 なんとか立ち上がると既にレオンは備品保管庫で手に入れたショットガンを手に構えていて。一緒に頭から落ちていたアネットは起き上がってガンガンと鉄パイプをそこらかしこに叩きつけて咆哮を上げる。…レオンの言う通りシェリーを連れて安全な場所に逃げたいところだけど……

 

 

「く、クイーン…?ママ、大丈夫だよね…?治るよね…?」

 

 

 こんな、泣きそうな女の子を放って戦えるわけもないし、多分アネットはシェリーを追いかけてくる。なら一緒にいて守った方がいい。

 

 

「シェリーは私が守る。サポートはするから攻撃は任せた!」

 

 

 シェリーを安心させるためにも、クイーンっぽく指示をするとレオンとクレアは頷く。頼もしいな。まるでS.T.A.R.S.みたいだ。

 

 

「クイィイイン!やっぱりわたしのシェリーを隠していたのね…!ゆるざない、ゆるぜない、アァアアアアアッ!!」

 

 

 ギョロギョロと肩の目を絶え間なく動かしながら怒りのままに突撃してくるアネット。なにがどうしてこうなったんだ。研究する側じゃなかったのか。色々聞きたいことはあるけど……

 

 

「まあまあ、落ち着いてっと!」

 

「ウアアァアアアッ!?」

 

 

 シェリーに服の裾を握られながら、両手をかざして粘液糸を発射。肩の目と、頭部の目を粘液糸で覆って視界を塞ぎ、シェリーを担いで飛び退いて鉄パイプの一撃を避ける。同時に、両横に移動していたレオンがショットガンを、クレアがグレネードランチャーを発射。モリグナ戦ではその速さから使えなかった高火力武器が火を噴いてアネットの身体に炸裂するも、変異してない部分すら堅くなっているのかビクともしない。やっぱりだめか。レオンとクレアとの合流前もクイーン攻めあぐねていたもんなア。

 

 

「ママ!クイーン、やめて!やめさせて!」

 

「ごめんシェリー。こうするしかないんだ!」

 

 

 粘液糸を飛ばし、右手に持つ鉄パイプに繋げて引っ張り、手放さずに引き寄せられ体勢を崩したアネットの顎にフック。脳の造りも変わってないなら、脳を揺らすのは有効のはず…!

 

 

「おわあ!?」

 

 

 しかし逆にこちらが振り回されてしまい、粘液糸で繋がった私は振り回されて機械に叩きつけられ、蒸気を噴出する機械の帯びる熱に背中を焼かれる。粘液で咄嗟に覆ったが乾燥してカピカピだ。くっそ……こっちはフルパワーを出せないってのに…!

 

 

「シェエエリィイイイイイッ!!」

 

「きゃあああっ!?」

 

「危ない、シェリー!」

 

「これでも喰らえ!」

 

「アァアアアッ!?」

 

 

 そのまま粘液糸を無理矢理はがしてシェリーに左手で掴み取ろうとしたアネットの魔の手から、クレアがシェリーを担いで回避させ、レオンがショットガンを右肩の目に叩きつけると明らかに怯んだ。そういやさっき粘液糸で塞がれていた時も怯んでたし、あそこが弱点か!

 

 

「でりゃあああ!」

 

 

 ならばと機械から無理矢理パーツを引き抜いて跳躍、アネットの背中にへばりついて細いそれを右肩の目に突き刺す。すると悲鳴を上げて暴れて私を引きはがそうとするアネット。

 

 

「いだい、いだいぃいいいいっ!?」

 

「ぐううっ…!?本当にごめん!だけど……お前たちがウイルスなんか作らなければこうはなってないんだ!自業自得だよ!」

 

 

 へばりついたまま背中から機械に押し付けられ、高熱に焼かれながらも右手で目に突き刺さったパーツを握りながらアネットの頭部を左手で殴りまくる。根性なら負けないぞ!

 

 

「でも、治すから!私なら治せるかもしれないから!落ち着いてアネット!暴れてちゃなにもできない!」

 

 

 まあ説得に応じるぐらいなら暴れないか!…というかオメガちゃんたち遅いな。大方、ヘカトちゃんを入れるのに四苦八苦してるのかな?助力は願えないか……。

 

 

「があっ!?」

 

 

 パーツを引き抜かれ、一緒にフェンスまで投げつけられて背中を打つ。もう背中ボロボロだ……前を向けば、のしのしとこちらまで歩み寄ってくるアネット。その右手の剛腕に握られた鉄パイプが振りかぶられる。

 

 

「しねぇええええっ!!」

 

「エヴリン!」

 

 

 そこに駆け付けたレオンのショットガンが右肩の目に炸裂。アネットの体勢が崩れ、フェンスに引っかかって落下してしまった。

 

 

「…アネット」

 

 

 私は、呆然とそれを見ながら、大の字に倒れる。…し、死ぬかと思った……でも、助けたかったなあ…。




ここでの倒し方は落下ぐらいしか思いつかなかった……レオン編とクレア編を同時進行させたいからしょうがないね。

堕ちた者でも助けようとするエヴリン。倒すつもりならもう少し苦戦しなかった。

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file2:11【ブギーマン・スケアクロウ】

どうも、放仮ごです。今回は原作に出てきそうで出てこなかったオリジナルクリーチャーが登場。奴との因縁再び。楽しんでいただけたら幸いです。


 自己再生で回復した私が粘液糸で飛びあがり、梯子を降ろして上に上がる私たち。シェリーがなんかそわそわしている。私たちが母親を容赦なく攻撃した挙句に落としちゃったんだからそりゃあ不信感も出るかあ。どうしよう。

 

 

「レオン!銃声が聞こえたが……なにがあった?その子は?」

 

「きゃっ…」

 

「あ、ごめんなさい。我はヘカトちゃん。怖くないよー」

 

 

 素早い身のこなしで合流してきたオメガ、ヘカトちゃん、プサイちゃんと担がれたマービンに、シェリーがクレアの腕の中で悲鳴を上げる。まあ、巨大なムカデみたいな腕のヘカトちゃんにはビビるよね…。ヘカトちゃんが慌てて謝ってあやそうとしてる。

 

 

「怪物になったその子の母親に襲われて撃退していた」

 

「シェリーっていうの。シェリー、この人たちは味方よ。安心して」

 

「こんな幼い子がこの地獄で一人生き残ってるとはな…」

 

「聡い子だからね。クイーンとアリサが五年も育ててたから」

 

「……やっぱり」

 

「うん?」

 

 

 するとシェリーがなにかに気付いたような声を上げたので振り向くと、シェリーは怯えながらも恐る恐ると問いかけてきた。私に。

 

 

「あなた……顔も声もそっくりだけど、クイーンじゃないのね」

 

「あっ」

 

 

 ばれちゃった。そういや途中から演技忘れてた……しかも今のは完全にクイーンが別人だと言ってるようなものじゃん、私の馬鹿。

 

 

「えっと、あのね?私はクイーンだけどクイーンじゃないの。騙してて、ごめんね?」

 

「ううん。あなたは優しい人なのは分かったから……クイーンは、アリサは無事なの?」

 

「クイーンは眠ってるだけですぐ起きるよ。アリサもきっと無事だ」

 

「そっか…よかった」

 

 

 確かめにもいけないけど、きっと無事なはずだ。アリサが死ぬなんてそうそうありえないし。

 

 

「エヴリンって呼んで、シェリー。あなたは知らないだろうけどずっと一緒にいたんだよ」

 

「え……」

 

「エヴリン殿、それはちょっと怖いでござるよ」

 

「あれー!?」

 

 

 自己紹介して知り合いだよと伝えたら怯えられてプサイちゃんにツッコまれた。非常識なプサイちゃんにツッコまれた……解せぬ。

 

 

「自己紹介を忘れていたな。俺はレオンだ」

 

「私、オメガちゃん」

 

「マービンだ」

 

「プサイちゃんでござるよ!」

 

「私、シェリー。シェリー・バーキンだよ。よろしくね」

 

 

 みんな自己紹介して仲良くなれた様でシェリーも笑ってる。よかった、これで解決ですね。なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま仕掛けを解いて通路を進むと、地下駐車場のマンホールに出た。体長二メートルで体格も結構あるヘカトちゃんが突っかかってたけど、みんなで引っ張り上げて事なきを得た。

 

 

「…でかくて邪魔でごめんなさい……小さいほうがよかったわよね……」

 

「そんなことない。…エヴリン」

 

「え、あ。さっき邪魔って言ってること気にしてる!?そんなことないよ?逆に広いところだと大活躍だし!」

 

 

 落ちこむヘカトちゃんをフォローするオメガちゃんに睨まれて慌てて言い訳を述べて褒める。子供ヘカトちゃんとしてクイーンが教育してたせいか常識を身に着けちゃっていい子になったなあ(しみじみ)

 

 

「私、ここから来たんだよ。…あれ?閉まってる……」

 

「本当にこっちなの?別の駐車場だった可能性は?」

 

「ここのはずなんだけど…」

 

 

 シェリーが車の出入り口を閉じているシャッターを見て首を傾げている。シェリーが来たときは開いてたってことは……閉めた人がいるってこと…?

 

 

「ダメだ…カードキーがいる」

 

「私が斬ろうか?」

 

「そうだね。オメガちゃん、斬っちゃって」

 

「…うん?おい、マジかよ…みんな!」

 

 

 カードキーがないと開かないらしいのでオメガちゃんがシャッターを斬ろうとしたその時。レオンがなにかに気付いて警告の声を上げる。振り向くと、そこには複数の警察犬と思われるドーベルマンが唸りながら現れていた。しかしそのすべてが、皮膚は爛れ肉や骨が露出し、その双眸は輝きを失っている。ゾンビ犬……ラクーンフォレストにいたケルベロスとは違うんだろうけど、元々身体能力が高い犬がゾンビ化したらどうなるかは想像に難い。

 

 

「マービンの血の匂いに反応して興奮してる…!?オメガちゃん、プサイちゃん!私たちが相手するからその間にシャッターを斬って!」

 

「くそっ、離れろ!?」

 

「シェリー、後ろに!」

 

「クレア…!」

 

「了承…!」

 

「纏めて薙ぎ払ってやるわ!」

 

「マービン殿、しっかり掴まってるでござるよ!」

 

「すまない…!」

 

 

 シェリーを後ろに置いて私とレオン、クレアとヘカトちゃんで応戦。オメガちゃんとプサイちゃんで退路を作る作戦に出る。私は飛び掛かってくるゾンビ犬を粘液硬化した右腕で弾き、レオンとクレアは接近してくるゾンビ犬にショットガンとハンドガンで抵抗、ヘカトちゃんがムカデ腕を伸ばして薙ぎ払う。しかし、背後から聞こえてきたのは無情な金属音。うそっ、二人の怪力による斬撃が、弾かれた?

 

 

「馬鹿な……!?」

 

「硬すぎるでござる…!?」

 

「残念ながらそれの破壊は不可能だ。ブギーマン対策で特別頑丈にしてある」

 

 

 そんな声が聞こえた。この場の誰でもない、男の声。その声には聞き覚えがあった。二ヶ月ぶりだ。振り返る、マービンの驚く顔が見えた。

 

 

「アイアンズ…!?」

 

「署長を付けろ、下っ端風情が。ずいぶん探したぞ、シェリー。こんな状況で一人で出かけるとは勇ましい限りだが、そんな危ない連中と一緒にいるとは感心しないな?」

 

 

 その先にいたのは、件の外道、ブライアン・アイアンズその人。デブなのもチョビ髭なのも相変わらずだが、後ろに得体のしれない奴を連れている。こっちはゾンビ犬の相手で忙しいってのに…!

 

 

「そこにいるのは怪物と指名手配犯だぞ?さあ、私と一緒に来るんだ」

 

「いや…!あんなところ、もう二度と帰りたくない!」

 

「わがままを言うな。私はご両親から君のことを預かってるんだ」

 

「あなたがアイアンズね!あなたみたいなひどいやつにシェリーを渡すもんですか!」

 

「そうだ!署のみんなが死んだのはあんたのせいだと聞いたぞ!」

 

 

 クレアとレオンが啖呵を切ると、アイアンズはあからさまに舌打ちした。

 

 

「ちっ。面倒なことだ……しかたないな。シェリーを連れてこい、ブギーマン・スケアクロウ。他は痛めつけてもいいぞ」

 

 

 次の瞬間、アイアンズの背後に控えていた奴が動き出す。それは、ゴリラの様な巨体でその巨体に見合う紺色のオーバーオールを身に纏った大男で、頭にズタ袋を被っていた。見るからにやばい。なんだあれ。ゾンビなのか?

 

 

「ウガァアアアアアッ!」

 

 

 ブギーマン・スケアクロウと呼ばれたそれはゴリラの様な両腕を地面につけた走り方で突進、ゾンビ犬を突進で薙ぎ払い、壁に叩きつけて肉塊に変えてしまう。そのまま右腕を振るい、私たちを薙ぎ払ってくるブギーマン・スケアクロウ。私は咄嗟に粘液硬化で両腕を構えて受け止めようとするがその予想外のパワーに吹き飛ばされてしまう。他のみんなもシェリー以外薙ぎ払われていたが、ヘカトちゃんがムカデ腕を伸ばして受け止め、ダメージを一身に受けたことでなんとかなったが全員ダメージに呻く。その間に、シェリーの身体を鷲掴みにしたブギーマン・スケアクロウにアイアンズの元まで連れていかれてしまう。

 

 

「それは私の孤児院で育った自慢の子でね。T-ウイルスで肉体改造されたが、薬で私の言うことを聞くように調整してある。私の言うことに忠実な頼もしい案山子だ。さあ、来るんだ」

 

「いやっ!離して!」

 

「いいのか?言うとおりにしないとこいつらを殺してもいいんだぞ?」

 

「っ……はい、わかり……ました」

 

「ダメ!いかないで、シェリー!」

 

「黙ってろクイーン!」

 

「がっ…」

 

 

 私たちを人質に取られてアイアンズの言うことを聞くシェリーを引き留めようとするが、アイアンズの構えた拳銃で肩を撃ち抜かれて呻く。だめだ、生身の身体のダメージに慣れてない。イーサンだったらこのぐらいへっちゃらなのに…!

 

 

「なんだ?クイーン。前より可愛げがあるな?私の奴隷になるというのなら一緒に連れて行ってやるぞ?」

 

「死んでも、いやだ…!」

 

「そうか。やれ、スケアクロウ」

 

「ウガアッ!」

 

「がああっ!?」

 

 

 アイアンズの命令を受けたブギーマン・スケアクロウに頭を踏みつぶされる。その間にも持ってたらしいカードキーでシャッターを開け、シェリーを拘束したブギーマン・スケアクロウを連れて出ていくアイアンズ。最悪だ…!

 

 

「くそっ、お前は警察の風上にも置けないクズだ!」

 

「覚えてろゲス野郎!」

 

「必ず、みんなの仇を取るぞアイアンズ…!」

 

「なんとでも吠えろ。私にはこれから大事な取引があるんだ。決して追ってきてくれるなよ?もっとも、カードキーがなければ脱出することも叶わないだろうがな!フハハハハハッ!」

 

 

 レオン、クレア、マービンの言葉に笑って返しながら去っていくアイアンズとブギーマン・スケアクロウ。そしてシェリー。本当に大嫌いだ、絶対に許さないからなアイアンズ…!お前だけは助けられても絶対手を差し伸べてもやらないから!!




孤児院の子供の日記で恐れていた「ブギーマン」孤児院の子供たちのアンブレラの実験体にされた成れの果てのクリーチャーとして登場。薬でアイアンズの言うことを聞くおまけつき。アイアンズがウィリアム相手に強気でいられるのもこいつらの存在がでかいからです。正直ブギーマンって名前のクリーチャーが出ると思ってたよね。

・ブギーマン・スケアクロウ
文字通り案山子を模したブギーマン。ズタ袋を被り農夫の様なオーバーオールが特徴。ゴリラの様な体格と怪力を有する。レオンたちどころかB.O.W.のオメガちゃんたちが動けなくなるぐらい強力。モチーフはクロックタワー3のハンマー男。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:12【囚われのブギーマン】

どうも、放仮ごです。2編はルートづくりが本当に大変。レオン編とクレア編を同時進行するとかいう無謀をしてるからですが。

今回はカードキーを手に入れるために行動開始。楽しんでいただけたら幸いです。


「だめだ、ビクともしない…」

 

「なにで改造したらこんなに頑丈になるの!」

 

 

 B.O.W.組で何とか閉じられたシャッターをこじ開けてアイアンズの後を追おうと試みるも、あまりに頑強なシャッターになすすべがない。オメガちゃんとプサイちゃんの斬撃は弾くし、ヘカトちゃんの拳は効かないし、ヒルたちフルパワーで持ち上げようとしても動かないって何なんだ。

 

 

「まずはカードキーね…」

 

「ああ、そのあとあいつに借りを返してやる」

 

 

 レオンとクレアはもうカードキーを見つけ出す気満々だし頼もしい限りだ。しかしどうしよう。カードキーは生憎と心当たりがないぞ…?

 

 

「…うーん、順当に考えるなら署長室にありそうだなあ」

 

「署長室?」

 

 

 アリサがあいつをぶん殴ったらしいあの悪趣味な部屋。確か駐車場から直通のエレベーターがあったはずだ。

 

 

「でもねえ、確か専用の鍵がいるはず……私のカビで鍵作れるかもだけど力戻ってないしどうしよ……」

 

 

 昔、例の村で一回だけ鍵を作ってショートカットしたことあったなあ。今回もそうしたいところだけど生憎とカビの行使は今の状態だと難しい。今私ができるのはクイーンの能力を行使することだけだ。

 

 

「たしかダイヤの鍵だったか……それを探そう。確か死体安置室にあるはずだ」

 

「よし、マービン案内して。シェリーが心配だ、急ごう……うん?」

 

「どうしたの、エヴリン」

 

 

 するとクイーンの身体の強化された聴覚が何かの声を捉える。男の声だ。

 

 

――――「助けてくれ!誰かいないのか!出してくれ!あいつに殺される!」

 

 

 そう、聞こえた。牢獄の方だ。同じく聞こえたのかハンターコンビもこちらを見てくる。ヘカトちゃんは……そもそも耳を使わないムカデだからかピンと来てないようだ。

 

 

「牢獄に誰かいる、助けを求めてる。どうしよう……」

 

「なら俺が行く。警官として助けを求める声は放っておけない」

 

「俺も行こう。プサイ、頼めるか?」

 

「任せるでござるよ!」

 

「じゃあそっちは任せようかな。私達はダイヤの鍵を探そう。死体安置室にあるんだよね?」

 

「ああ、そのはずだ」

 

 

 レオンとマービン、プサイちゃんが謎の声の主の救助を申し出たので、私はヒルを一匹分離させるとプサイちゃんの頭にくっつける。

 

 

「無線機もないから連絡用。なにかあったらこの子に伝えて。私と伝達できるよ」

 

「承知したでござる!」

 

 

 マスターリーチの戦法を参考にした、親機と子機みたいなものだ。媒体があれば私の力も行使できる。

 

 

「じゃあ、健闘を祈るよ。特にマービンになにかあったらすぐ伝えること!」

 

「了解だ。そっちこそ女性だらけなんだから無茶は禁物だぞ」

 

「多分そっちより強いと思うけど」

 

「泣けるぜ」

 

 

 レオンなりの冗談だったか。一蹴してしまった。ごめんね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッカーがいるなんて聞いてないが?」

 

「私もよ……」

 

「楽勝」

 

「手ごたえなかったわ」

 

 

 レオン組と別れてからの道中でリッカーやゾンビ犬、ゾンビの群れに出くわしたがオメガちゃんとヘカトちゃんが瞬殺し、特に問題なくダイヤの鍵を手に入れることができた。いやー、ゲームでいえばボスキャラだもんね二人とも。中ボスや雑魚は相手にならないや。

 

 

「…クイーンほど強くなくてごめんね?」

 

「エヴリンは別の頼もしさがあるから気にしてないわ」

 

「クレアはいい子だねえ」

 

 

 クレアの頭を思わず撫でてしまう。これが妹属性か……。そんなことをしながらエレベーターに乗り、ヘカトちゃん含めて全員で乗ったからちょっとキツキツになりながらも地上二階に出て、雨ざらしの裏通路を通って署長室に入る。動物の剥製だらけの悪趣味な部屋だ。

 

 

「ここのどこかに……」

 

「うん?メモだ…」

 

 

机の上に乗っていた【剥製の制作記録】とやらを手に取る。こういうのはこういう文書に謎解きがあるもんだ。オメガちゃんとヘカトちゃんは周りの剝製が興味深いのかぺたぺた触ってる。

 

 

「【オジロジカ オス 推定6歳 狩猟場所:アークレイ山地 体長:185cm 体重:160kg 剥製の出来は満足のいくものだったが、いいかげん、小物には飽き飽きだ。そろそろ新しい挑戦をするべきだろう】……数字を足したら暗証番号になるとか…?」

 

「でも金庫らしきものはこの部屋にないわよ?」

 

「続き読むね。【アムールトラ オス 推定4歳 狩猟場所:ハバロフスク地方 体長:290cm 体重:240kg めくるめく体験だった。黄色い脂肪を断ち割って温かな腸があふれ出した時の興奮と言ったら!私の体からも獣の匂いがする。たまらない】うわあ」

 

「とんだ変態ね…」

 

「同感【豚 メス 22歳】……うん?」

 

 

 豚で22歳?すごい年寄りだ。……なんだろう、違和感がある。名前がいきなりシンプルになったというか……イベリコ豚とかじゃなくて?

 

 

「【狩猟場所:ラクーンシティ 体長:160cm 体重:50kg】んんん?」

 

「…それってまさか」

 

「【獲物の体は、白く、柔らかで、どこもかしこも甘い。私のものだ。永遠に。】……そのまさかだね」

 

 

 これ謎解きでも何でもない、ただ気持ち悪い日記だ。こんなものまで記録に残すとかどうかしてるとしか思えない。

 

 

「いやなもの読んだなあ」

 

「エヴリン、こっちに扉がある」

 

「じゃあそっちを調べようか。この部屋何にもなさそう」

 

 

 結局署長室はハズレだった。オメガちゃんが見つけた扉は……確かコレクションルームへの扉だったか。アイアンズが頑なに誰も入れようとしなかった部屋だったはずだ。なんか唸り声が聞こえるなあと思いつつ扉を開けるとトラがいて。思わずそっ閉じする。

 

 

「なにしてるの?」

 

「いや、いちゃいけないものがいた気がして……」

 

「開けるわよ」

 

 

 ヘカトちゃんに呆れられ、クレアが率先して開けてしまったので慌てて構える。……なんだ。剥製か。

 

 

「びっくりした。さっきのアムールトラの剥製か」

 

「……趣味は悪いけど迫力は認めるわ」

 

「本当にね」

 

 

 あれ?じゃあさっきの唸り声はなんだ……?そう思いながら廊下を進み、コレクションルームの扉を開けた瞬間。腐臭がして、顔をしかめる。

 

 

「なに…?」

 

「ウオアアアアッ……」

 

 

 そこには貴重なものと思われる美術品と、それにそぐわない牢屋があって。その中に、呻き声の主はいた。ひょろっとしている大男だ。ボロボロのトラの毛皮を頭から被ったそれは顔を布で隠された罪人の様で。両手首には手錠が付けられ、壁に繋がれていて瘦せ細っていて足元には動物の骨が散乱している姿はまるでリサの様だ。その雰囲気はついさっき見たやつを彷彿とさせた。

 

 

「ブギーマン…?」

 

「ウオオオァアアアッ!!」

 

「エヴリン、危ない!」

 

 

 咄嗟にヘカトちゃんが私の腰にムカデ腕を巻き付けて引っ張った瞬間、興奮して咆哮を上げたブギーマンと思われる怪物は牢屋から手を伸ばし、私のいた場所に腕を叩きつける。この感じは、食欲で動いている…!?でも牢屋は電子ロックみたいだし出れないなら放っといてよさそうだが……そうは問屋が卸さなかった。

 

 

「見て、エヴリン!あいつの首!」

 

「……嘘でしょお」

 

 

 クレアの指さした先、ブギーマンの首には明らかにカードキーにしかみえないものがぶら下がっていて。手に入れるためにはこいつをどうにかしないといけないことを悟る。

 

 

「…オメガちゃん、あの電子錠を破壊して。みんな……気張るよ!とにかく逃げる準備!」

 

「了承…!」

 

 

 オメガちゃんが電子錠を叩き切り、ショートを起こして破壊されたその瞬間、ブギーマンは待ちわびたかの様に扉を蹴り飛ばして突進、美術品を破壊しながら私たちの目の前にひっくり返る。

 

 

「ウガッ、肉っ……肉ぅううううっ!」

 

「総員退避!署長室まで引き返して!」

 

 

 目の前でブギーマンが起き上がる。そうして、カードキーを手に入れるための戦いが始まった。




この頃のレオンはかっこつけようとして失敗するタイプの子だと思ってる。クレアの方がイケメンな時代。

・ブギーマン・バグベア
コレクションルームに捕らわれになっていたブギーマンの一種。薬での制御ができなかった失敗作であり、剥製を作るときに出る肉の後始末役として捕らえられていた。牢屋や手錠はブギーマン対策のシャッターと同じ素材でできている。大柄なスケアクロウと異なり細長い個体で、あんまり食べさせてもらってないまま放置されていた食欲の化身。。名前はイギリスのウェールズに伝わるバガブーとも呼ばれるブギーマンである人食い妖精から。モチーフはクロックタワー3の斧男。

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file2:13【漆黒の女王(モールデッド・クイーン)

どうも、放仮ごです。ぶっちゃけ地下駐車場で戦わせるかどうかで迷った結果。VSブギーマン・バグベア。楽しんでいただけたら幸いです。


「みんな、先に行って!私が食い止める!」

 

「肉ぅうううっ!」

 

 

 アムールトラの剥製のある廊下への扉を開けて、大きなヘカトちゃんを殿(しんがり)に先に行かせて振り返り、扉を一撃で粉砕して出てきたブギーマンと取っ組み合う。私の、クイーンの肉体を形成しているヒルたちが連結してフルパワーだ。負けようがない。

 

 

「うおおおりゃああああっ!!…ありゃっ?待って待って待って!?」

 

「ウグオオアアアアッ!」

 

 

日本の相撲の如く、がっしりと組み合い押し合っていたが、ブギーマンは手錠を私の背中に回して私の腰を掴むと持ち上げてひっくり返し、頭から床に叩きつけて首から上が埋められる。

 

 

「うごごごごっ…」

 

「おまええ、まずそおおお!」

 

「がああっ!?」

 

 

 さらにダメ押しとばかりにお腹を蹴り飛ばされ、頭が引っこ抜かれた勢いのままアムールトラの剥製に激突しひっくり返る。いたた……クイーンの怪力がまるで通用しないなんて……手錠されているとはいえあのリーチの長い腕と体格は脅威だな。

 

 

「誰が不味そうだ失礼な!」

 

 

 いやまあカビとヒルだから間違ってないんだけどさ。失礼な。ブギーマンの振り下ろした両腕を粘液硬化した左腕で防御。パリィして弾き返し、粘液硬化した右拳を振るって渾身の一撃を叩き込んで殴り飛ばそうとするも、ブギーマンは両腕を天井に突き刺して体を持ち上げることで回避。私は空ぶって体勢を崩してしまう。

 

 

「おまええ、じゃまだあ!」

 

 

 頭上から腕を伸ばして私の首に足を絡みつかせて絞首台にかけられているかの様に持ち上げられ、首を絞められる。粘液硬化した腕で搔きむしるも、ビクともしない。せ、切断なら問題ないけど首絞めは……不味い……

 

 

「うぐぐぐっ……や、やばっ……意識が……ぐうっ」

 

「あいつらあ、どこいったあ」

 

 

 クイーンから強制的に排出されて、私は空中に飛び出していた。クイーンの肉体が意識を落としてぐったり倒れこんだのを見て、解放して天井から手を離して着地するブギーマンは歩いてクレアたちを追いかけていく。やばいやばいやばい、どうにかしないと!でもどうすれば……

 

 

『起きて!起きてよ、クイーン!』

 

 

 クイーンに呼びかけながらブギーマンを追いかける。こいつは菌根が使われてないのか私には反応しない。ということは大声の牽制も意味がない。オメガちゃんかヘカトちゃんに指示してなんとかしないと!

 

 

「肉ッ!肉ゥアアアアアッ!」

 

「こっちに来ないで!」

 

 

 署長室に入るブギーマンにクレアがグレネードランチャーを放つも、近くに置いてあった剥製を手に取り盾にすることで防ぎ、そのままナックルウォークで突進しクレアに掴みかかる。

 

 

「ヘカト!」

 

「させない!」

 

 

 するとオメガちゃんが飛び掛かり斬撃を仕掛けることで飛び退いたブギーマンに、ヘカトちゃんのムカデ腕の体当たりが炸裂。殴り飛ばして剥製に叩きつける。もう片方のムカデ腕でクレアを回収して引き寄せたヘカトちゃんが、すぐ起き上がって殴りかかってきたブギーマンの両腕の振り下ろしを甲殻で受け止め、オメガちゃんが蹴り飛ばす。

 

 

「うがあああっ!肉があ、ていこうするなッ!」

 

 

 すると鹿の剥製から角を引き抜いて両手に構えるブギーマン。そのまま手錠された両腕を振り回してでたらめに振るい、咄嗟に防ごうとしたオメガちゃんの胸に突き刺さって血が噴き出て突き刺したまま振り回され、署内に通じるハートの扉に激突して扉を押し倒すとそのままヘカトちゃん目がけて角を振るい、甲殻の防御を貫き肉を抉るも、痛みが大好きなヘカトちゃんにはあまり通じてない。

 

 

「オメガをよくも!」

 

 

 狭い室内のため縮めたヘカトちゃんのムカデ腕を振るってカンフーみたいな動きで叩きつけるも、ブギーマンは角を構えなおしてナイフでも振るうかのように操り、弾いていく。エージェントかなにかかな?

 

 

「ヘカト、屈んで!」

 

「っ!」

 

 

 その言葉にしゃがんだヘカトちゃんの頭上を、ハンドガンの弾丸が通過してブギーマンの胴体を撃ち抜き血が噴き出す。しかしブギーマンはまるで意に介さず、角を投げ捨てるとしゃがんだことで体勢が崩れているヘカトちゃんを蹴り倒してその左のムカデ腕を掴み取ると、がぶりと齧り付いた。

 

 

「づっ、あああああっ!?」

 

「うまい……肉だぁあ……」

 

 

 そのままヘカトちゃんの肩口に足を押し付けて力任せに左のムカデ腕を引きちぎり齧り付いて咀嚼するブギーマン。あまりにぐろい光景にクレアも目を背ける。ヘカトちゃんは想像を絶する痛みに倒れこんで再起不能だ。その状況に怒りを抱いたのは、ヘカトちゃんのことが大好きなオメガちゃんだ。

 

 

「お前っ……殺してやる!」

 

 

 狭い室内を利用し、壁を蹴ることによる高速移動を行うオメガちゃん。四方八方からブギーマンを斬り刻んでいくブギーマンだったが、痛みに鈍いのか耐え抜きつつじっとオメガちゃんの挙動を見つめ、手錠された両腕を振りかぶる。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 そして振り下ろすことでオメガちゃんの軌道に合わせると手錠の鎖をオメガちゃんの首にかけて締め上げ、そして引っ掛けたまま振り回して壁に叩きつける。崩れ落ち、ダウンするオメガちゃん。動けるのはもうクレアだけだ。

 

 

「エヴリン、ヘカト、オメガ……そんな……」

 

『聞こえないだろうけど、クレア!逃げて!』

 

 

 私たちがやられたことに呆然と絶望した顔を見せるクレアに、ブギーマンがヘカトちゃんの左のムカデ腕を貪りながら歩み寄る。

 

 

「しんせんな肉ぅう……!」

 

「あ、ああ……」

 

 

 駄目だ、怯えてろくに動けていない。何もできない我が身がもどかしい。誰か、クレアを助けて。誰か…誰かっ。

 

 

『助けて、クイーン!!!』

 

 

 思わず、私の一番信頼しているヒーローに呼びかけた、瞬間。糸が伸びてきてブギーマンの手錠に引っ付き、引っ張られて体勢が崩れる。思わず振り返る。その糸の先には、頭を押さえて苦痛に耐えている様子の、クイーンが壁にもたれかかっていた。

 

 

『クイーン!』

 

「私が寝ている間に何が起きた……くそっ、頭がくらくらする……こうなったら……エヴリン!」

 

『は、はい!なに!?』

 

「私の菌根を活性化させろ!それしかない!」

 

『え、でも菌根はクイーンの意識があるまま使うと浸食の可能性が……』

 

 

 私に体を預けることでなれるリーチ・モールデッドを、クイーンの意識のまま使うのは確かに強くなるかもとはこの間言ったけど、その危険性も言ったよね?ジャックたちの自我の凶暴化は私が意図したものじゃないんだ。制御できるものじゃないのに……それに今の私は力をうまく使えないからなおさら………でも、それしかないか。

 

 

『掛け声は覚えてる!?』

 

「ああ、行くぞ!」

 

 

 思い出すのはライカンの砦で、巨人と戦ったあの時。モールデッド・ギガントとしてイーサンと共に戦ったあの感覚だ。

 

 

「『We are family(私達は、家族だ)!』」

 

 

 掛け声とともにクイーンに飛び込み、菌根を活性化。ヒルの結合部から溢れ出した菌根がクイーンの身体を黒く染め上げ、細い肢体はそのまま一回りシルエットを巨大化させる。最後に仮面の様に顔を覆えば完成だ。名づけてモールデッド・クイーン。菌根の女王だ。

 

 

「『うおおおおおっ!』」

 

 

 両腕を変形させ、斧と剣の様にして飛び掛かる私たち。ブギーマンは角を拾いなおして受け止めてくるも、私達は力でそれごとねじ伏せ、床に叩き伏せると棘を生やした両拳を握り、何度も何度もその顔に叩きつける。血飛沫が舞い、私達はそれを浴びて口から伸ばした舌で舐めとる。そこから、私達の意識は狂気に呑まれていく。目の前の敵を縊り殺せとなにかが囁く。

 

 

「『アハハッ……いい気分だ!』」

 

「おまえ、きもちわるい!」

 

 

 しかしやはり痛みに鈍いのか臆せず私たちを蹴り飛ばし、立ち上がったブギーマンが突進。手錠を鈍器の様にして殴りつけてくるが、私達は片手で受け取め、もう片方の左手を肥大化。拳を握って殴り飛ばし、ブギーマンは壁を何枚も突き破って署内を転がっていく。

 

 

「『アハハハハッ!どうしたどうしたあ!』」

 

 

 追いかけ、立ちはだかるゾンビを薙ぎ倒しながら突撃。さすがにダウンしていたブギーマンの首を握り、持ち上げて壁に頭から叩きつけ、天井にぶん投げて激突、落ちてきたところに斧にした右腕を叩きつけて床に叩きつけ、斧で切り裂いた傷口に両手をかける。

 

 

「まっ……」

 

「『楽しくなってきた!アハハハハハハハハッ!!』」

 

 

 そして、私達はブギーマンを上半身と下半身の二つに引き裂いて投げ捨て、勝鬨の嗤い声を上げるのだった。




アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!モノスゲーイ!(やけくそ)

クイーンが目覚めるなり、クイーンとエヴリンの奥の手発動。エヴリンが菌根の制御能力が弱くなっているせいもあり、大暴走することとなりました。

ブギーマン、これで手錠を付けられているせいで本来の力は出せてないっていうね。そりゃ制御できているスケアクロウはあの面子を圧倒できるよね。

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file2:14【ワタシタチは止まらない】

どうも、放仮ごです。まず、今実施しているアンケートの人気投票用にとエレメンタル社-覇亜愛瑠さんからいただいた支援絵を置いておきます。

【挿絵表示】

pixivの方ですでにいろいろ書かれていたうちのオリジナルクリーチャーたちを描いていただきました。クオリティが高い。

今回は大暴走クイーン&エヴリン。楽しんでいただけたら幸いです。


――――『しっかしお前らは規格外だな。エヴリン』

 

――――『なにが?私がかわいいってこと?』

 

――――『馬鹿なのかしら。モールデッド・ギガントよ。あんなの私ですらできないわ』

 

 

 それは、ゼウとの決戦から数週間後。イーサンだけが実体化して父の日を楽しんでいる時の、暇を持て余した私、マダオ、ゼウの会話だ。

 

 

――――『ゼウがやったらあの時のミランダみたくなるんでしょ?こわーい』

 

――――『言っとくけど、エヴリン。イーサンやローズ以外と合体するのはおすすめしないわよ』

 

――――『なんで?』

 

 

 煽ってたらゼウに真顔で返されて思わず神妙な顔になる。そういやゼウはシリアス畑の存在だった。

 

 

――――『イーサンとローズは菌根の適合者だからよかったけど、それ以外の肉体を依り代にしたら貴方だろうと菌根の悪影響を受ける。具体的に言うとジャック・ベイカーたちみたくなるわよ』

 

――――『私が私大好きになるってこと?』

 

――――『ポジティブなの無敵すぎない?』

 

――――『こいつがおどける場合は大体ビビってる時だぞ』

 

――――『余計なこと言わないでマダオ!』

 

――――『お前もいい加減俺のこと名前で呼べ!?』

 

 

 そんな会話があったなあ、と思い出す。モールデッド・クイーンになった私たちはまさにその状況だった。あれ、なんで私達こうなったんだっけ。まあそんなことどうでもいいかあ、と思考を投げ捨てる。

 

 

「『ああ……もう終わり?せっかく楽しくなってきたのに……』」

 

 

 真っ二つに引き裂いたブギーマンを投げ捨て、私達はため息をつく。いくら殴っても死なないサンドバッグだったのになあ。クイーンと混じり合った意識が、私の制御を離れた菌根に汚染されてどす黒い感情がとめどなく溢れ出す。ああ、ジャックたちはこれに呑まれたのか……抗いがたい黒泥の様な闇に包まれて、不安が全部消えていくようだ。楽しい。樂しい、愉しい!

 

 

「『アハハハ、なんだ。まだまだいるじゃないか!』」

 

 

 視線をずらせば、騒ぎを聞きつけたゾンビやリッカーがたくさんいて。私達はモールデッドそのものの様な異形の顔でニヤァと三日月の様な笑みを浮かべ、長い舌で舌なめずりする。ああ、オモチャだ。

 

 

「『何か大事なことを忘れている気がするけど……今この時以上に大事なことなんてないかあ!』」

 

 

 私達は襲ってきたゾンビを一本背負いで投げ飛ばし、頭を踏みつぶしてパンパンと手を叩く。鋭く尖った両手の指を伸ばし、細く硬く鋭くさせていく。まるで刀の様に変形させた両腕を振るい、突撃。両腕を振り回して次から次へと切り裂いて血飛沫を上げていく。

 

 

「『アハハハハハッ!鬼さんこちら!手の鳴る方へ!』」

 

 

 バラバラに引き裂き、合間合間にパンパン!と手を叩いて挑発。それに反応したリッカーが高速で駆け抜けてきて跳躍。私達が反応するより速く、私達の首をスパッと断頭していた。

 

 

「『アハハハッ!油断したァ!』」

 

 

 しかし粘着いた液状の菌根でかろうじて繋がって背中に垂れていた頭を両手で掴み、「『よいしょっ』」という声と共に切断面にくっつけ、ぐりぐりとねじってはめ込む。いつだったかのジャックと同じことをしてみた。あの時の絶望感すごかったなあ。

 

 

「『危ない危ない、致命傷だった。どうした?首を繋げてくる相手は初めて?』」

 

 

 そう挑発すると負けじと伸ばしてきたリッカーの舌の刺突を右手で受け止め、引っ張って空中に放り投げて左手を振るい、細切れにして肉片に変える。横から突進してきたデブのゾンビを横蹴りで腹部を蹴り飛ばし、壁に叩きつけられたところを顔面を掴み壁に押し付けてトマトの様に潰し、前から走って突撃してきたリッカーの脳をサッカーボールキックで思いっきり蹴り飛ばして粉砕する。

 

 

「『およ?』」

 

 

 するとゾンビたちはバラバラに襲い掛かってくるのをやめて、ひとまとめになり一斉に突撃、私たちをもみくちゃにする。噛みつかれ、引っかかれ、掴まれ、殴られる。ゾンビにしてはなかなかやるね。だけどブギーマンの攻撃ですら通じない外皮だ。リッカーの速度を乗せた斬撃ならともかく、その程度通じると思われるなんて癪だなあ?

 

 

「『はいドーン!』」

 

 

 私達は両手を触手状に変形させ、大きく万歳すると同時に触手を回転させ竜巻の如くゾンビたちをまとめて吹き飛ばす。壁や天井に激突しトマトの様に肉と血を飛び散らせていくゾンビたち。血みどろとなったそこをランウェイのモデルの様に歩きながら、私達は目の前に視線を向ける。そこには、ブギーマンの亡骸からカードキーを手に取っていた女がいて。見覚えのある気がするけど誰だったかなあ?

 

 

「『アハハハハッ!まだいた!おもちゃあ!』」

 

「エヴリン、クイーン!?どっちでもいいから正気に戻って!?」

 

 

 私達の振るった右拳から伸びた触手を回避し、なにやら吠えてくる赤い服の女。目障りだったので左腕を伸ばして襟元を掴み、投げ飛ばす。空中で身を捻り、なんとか受け身を取る女にキャッキャッと手を叩いて喜ぶ私達。脆そうだけど壊れないおもちゃだあ。

 

 

「駄目だ、正気じゃない……ダメージを与えれば戻せる…?たしか炎が苦手だって……」

 

「『誰が誰にダメージを与えるってえ?!アハハハハッ!』」

 

 

 女がグレネードランチャーで焼夷弾を撃ってきたので、リッカーを真似して天井に張り付いて回避。そのまま天井を這いまわって近づけば、女は逃げていくので追いかける。

 

 

「『どうしたどうしたあ!鬼ごっこは好きだよ!』」

 

「っ……嘘でしょ!?」

 

 

 逃げていた女の行く先に、墜落したのかヘリコプターの残骸が置かれていて。観念したのか振り返ってグレネードランチャーを構える女の背後で、ヘリコプターの残骸が持ち上がり、その向こう側にいた存在に三日月の如く口が弧を描く。お前もいたんだ。逃げてばかりの女より愉しめそう…!

 

 

「今度は何…!?」

 

「『アハハッ!一度殴り合ってみたかったんだ!タイラントォ!』」

 

 

 それは、生意気にも帽子とコートで人間みたいに偽装しているけど身長と体格のせいで全然偽装できてなくて笑えるタイラント。先手必勝とばかりに天井から飛びつくも、首根っこを掴まれてアイアンクローで締め上げられる。絞め技は、ダメだって!

 

 

「『それは愉しくない!』」

 

 

 胸を蹴りつけ、蹴り飛ばすことで拘束から逃れて腰を上げ上半身を低くしたポーズで着地する。んんんー、まるでスパイダー。

 

 

「『今の私たちどちらかというとヴェノムだけど!』」

 

 

 菌根を糸状にしたものを天井に伸ばし、浮き上がる勢いのまま下から飛び蹴りを顎に叩き込む。しかし動じず、私達の足を掴んで振り返り、ヘリコプターのガラスに勢いよく叩きつけてくるタイラント。

 

 

「『アハハハハハッ!そうこなくっちゃ!』」

 

 

 お返しとばかりに足を掴まれたまま両手でローターを掴んでもぎ取り、タイラントの肩口に勢いよく振り下ろして突き刺し抉ると、グルングルンと振りまわされて壁に押し付けられビタンビタンと何度も何度も叩きつけられて意識が遠のき、勢いよく投げ捨てられて壁に突き刺さる。意識を取り戻している間にも足音。次の瞬間には壁ごと殴り飛ばされて部屋に転がる。ここは……美術室かな?

 

 

「『追いかけてきてくれるなんて情熱的、だな!』」

 

 

 彫像を手に取ってタイラントの顔面に打砕ける勢いで叩きつけ殴り飛ばす。負けじと適当な美術品を手にとり投げつけてくるタイラント。私達は菌根糸を天井に伸ばして舞い上がり、その勢いのまま飛び蹴りを叩き込み、そのまま足を胴体に絡みつかせて引っ付くとゼロ距離でボコボコに顔面をタコ殴りにしていく。

 

 

「ウグオオオッ……」

 

 

 何度か殴りつけ、一回飛び上がって右手を鎌状に変形。着地する勢いで首を刈り取る私達。首から上がころころと転がったタイラントは切断面から血飛沫を上げながら膝をつき、倒れ伏した。血のシャワーを浴びるように両手を広げ、ご満悦の私達。

 

 

「『アハハハハハッ!最ッ高の気分!』」

 

「それはよかった、わね!」

 

「『あつぅい!?』」

 

 

 すると私達がぶち抜いた壁の穴からグレネードランチャーがこんにちはして射出、炎上する私達。菌根が崩れていき、私はクイーンから強制的に排出される。

 

 

「…っぜえ!はあ、はあはあ……」

 

『ううっ、頭が痛い……二日酔いした気分……えっ、タイラントなんで死体なんで!?』

 

「…元に戻ったみたいでよかったわ」

 

 

 私がタイラントと思われる死体に驚いていると、肩で息をするクイーンを見て扉から入ってきたクレアが安堵する。えっと……私、なんかやっちゃいました?




リッカーとゾンビの大群相手に無双して、タイラントと殴り合いできるヤベーイやつ。あのゼウが止めるだけあってとんでもないことになりました。クレアの焼夷弾で止めれるけど隙をつかないと避けられるっていうね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:15【その頃一方新米は】

どうも、放仮ごです。エイダの扱いめっちゃ悩みました。今回はレオンsideのお話です。楽しんでいただけたら幸いです。


 私は空中でクイーンに土下座していた。クイーンは肉体に不可を無視して無茶苦茶させたせいで肉体の構成ができてなくてかろうじて人型を保って私を睨んでいる。

 

 

「……お前、エヴリンこの馬鹿!たしかに危機は乗り越えたが聞いてたのよりひどかったぞ…!」

 

『ごめんなさーい!私もここまでとは思わなかったの―!』

 

 

 意識の混濁が解けたら全部思い出した。我ながらだいぶバイオレンスな戦い方をしてた。絶対イーサンのせいだ……え、菌根による内なる凶暴性の開花?なんのことだかわからないなあ……

 

 

「おかげでクレアにまで手にかけるところだったんだぞ!私に!仲間を手にかけさせるところだったんだ!」

 

『それは本当にごめん!』

 

「これは私がいいと言うまで封印だ!わかったな!」

 

『はーい』

 

 

 いやあ、私の想像してたより暴走してて草も生えない。もともとヒルとカビって相性がいいんだけど、変異ヒルと菌根が相性悪いわけないよね。むしろ肉体まで強靭になってそう簡単に解除されないようになってたし。繋がりが強すぎて分離しようにも自力じゃできなかったんだよね。楽しいって感情が溢れ出てたし。

 

 

『でも一心同体になってたからわかるよ、楽しかったよね?』

 

「……ストレス発散にはなったな」

 

「クイーン、本当に反省してる?」

 

 

 クレアに呆れ顔でツッコまれた。ごめんなさい。しかし菌根世界以来の大暴れ楽しかったなあ。

 

 

《「おい、聞こえるか!?エヴリン!」》

 

「な、なんだ!?」

 

 

 クイーンから響いた男の声に本人がビビッてくるくる回る。んんん?おや、着信アリ。子機ヒルからだ。レオンかな。

 

 

『クイーン、レオンだ。今私の声聞こえないから応えて』

 

「あ、ああ。こちらクイーン。どうしたレオン?』

 

《「どうしたもこうしたもあるか!何度か呼びかけたが無反応で困ってたところだ!」》

 

 

 言われて気づく。モールデッド・クイーン状態だとヒルの念波も遮断してしまうようだ。やっちった。レオンの説明を聞くのもいいけど、子機ヒルにアクセスして記憶を遡ってみるかあ。

 

 

 

 

 

 

 

ホワホワホワホワ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンたちがいたのは留置場。例の助けを求める声を追って、マービンを担いだプサイちゃんが先導していた。

 

 

「こっちでござる!」

 

「本当なのか?留置場送りにされた人間は全滅しているはずだ」

 

「たしかに、ゾンビだらけだ!」

 

 

 檻に閉じ込められていた人たちのなれの果てだろうゾンビたちを横目に走り抜ける三人。その先に、それはいた。

 

 

「情報が先よ。インタビュー記録とやらを出しなさい」

 

「だから、情報は渡す!俺をここから出してくれ!……誰だ!?」

 

「…何者かしら」

 

 

 檻の前で銃を構えてくるのは、サングラスの女。ウェスカーじゃない、けどただものじゃない雰囲気を感じる。そして檻の中には眼鏡の男。どうやら女となにやら話していたらしい。

 

 

「それはこっちのセリフだ。俺達は警官だ。動くな」

 

 

 レオンが素早くハンドガンを引き抜いて引き金を引き、女の手からハンドガンを弾き飛ばす。さすが、アイアンズにやられたことがだいぶ堪えていたようだ。プサイちゃんもマービンを背負ったまま油断なく身構えている。

 

 

「銃を下ろして。私はFBIよ。エイダ・ウォン」

 

 

 FBIと書かれた手帳を開きながらそう言ってくる女、エイダ。……エイダってどこかで聞いたな。どこだっけ。レオンはその内容を確認し、銃を下ろす。

 

 

「そいつはどうも、悪かった」

 

「大した腕だけど怪我人を抱えてよくここまで来られたわね」

 

「FBIだって?なにしにきた?」

 

 

 美人ということもあってか気を許したレオンと異なり訝し気に尋ねるマービンに、エイダは肩を竦める。

 

 

「どうやら状況をちゃんと分かっているみたいね。悪いけど私がここに来た理由は機密情報なの。納得していただけたかしら」

 

「納得できるとでも?」

 

 

 プサイちゃんに掴まりながら銃を構えるマービン。油断なく構えているのがさすがだ。レオン、そういうところだぞ。

 

 

「おいおいおい!普通の人間同士で喧嘩してるんじゃあない!早く俺を出してくれ!」

 

 

 すると剣吞な空気に耐えきれなかったのか檻の中の人が喚きだす。気持ちはわかる。エイダとマービンが睨みあう中、同じく耐えきれなかったのかレオンが問いかける。

 

 

「あんたは?なんで檻の中に?」

 

「俺はベン・ベルトリッチ。記者をやっている。あのくそったれ署長にぶちこまれたんだ!何がラクーンシティのヒーローだ!奴の不正を暴こうとして、おかげでこのざまだ。お前、アイアンズの遣いじゃないよな?」

 

「それは本当にすまなかった。俺も警官だが、あの署長の所業は詫びるしかない……」

 

「お前も奴の被害に遭った口か?どっかでおっ()んでるといいが」

 

「生憎とさっきもピンピンしてたでござるよ」

 

 

 そんなプサイちゃんの言葉に舌打ちするベン。またアイアンズの被害者か。あいつどれだけ被害を出せば気が済むんだ。

 

 

「長いこと牢の中にいる。皮肉なことに檻の中に入れられたおかげで助かった。生き残ったのはここにいる俺達だけなのか?その後ろの女は見るからに普通じゃないが大丈夫なんだよな?背負われている男も苦しそうだが大丈夫か?」

 

「彼らは大丈夫だ。それに、他にも何人か仲間がいる」

 

「はっ、それはいいニュースだ。そこの女性は何も教えてくれなかったんでな。情報を渡せの一点張りだ」

 

「情報…?」

 

 

 ベンの愚痴めいている言葉にレオンが訝しげに振り向くと、エイダは肩を竦めて人差し指を唇の前に立てて笑う。

 

 

「機密情報よ。"A secret makes a woman woman.(女は秘密を着飾って美しくなる)"ってよく言うでしょ?」

 

 

 悔しいけど様になってるな。私がやったらクイーンに鼻で笑われる奴だ。するとベンは首から垂れ下がっているカードキーを手に取って見せてきた。え、私たちが苦労して手に入れたの持ってるんだけど!?

 

 

「なあ取引しないか?情報もそうだがいいものがある。ここを開けてくれ。この駐車場のカードキーが必要だろ?」

 

「それは確かに必要だ。マービン、どうします?」

 

「…出してやれ。アイアンズの不正を暴こうとしたってんなら少なくとも敵じゃあない」

 

「よし、ならプサイ。頼める……か……」

 

「悪いけど、それは無理よ」

 

 

 するとマービンがレオンと話して一瞬気が緩んだ隙に吹き飛ばされた銃を拾って構えるエイダ。その銃口はレオンを向いていて、マービンが慌てて銃を構えなおす。

 

 

「その男の情報はどうしても必要なの。何が何でも吐いてもらわなくてはね」

 

「銃を下ろせ。さもないと撃つ」

 

「ベルトリッチを出すのをやめるなら下ろしてあげるわ」

 

「つべこべ言ってないで逃げるぞ!奴が来た!こいつがいるんだろ!?」

 

 

 もめる面々に、ベンが出入り口の方から聞こえてきた物音に怯えて怒鳴る。声を上げたら位置がばれるからやめた方が……

 

 

「奴って何のことだ?」

 

「わかんねえよ!?ミスターXとでも呼んでやろうか!?さっさとここから出してくれ!」

 

 

 次の瞬間だった。ベンの背後の壁をぶち破ってその巨体が現れる。私達が出くわした風体とまるで同じ姿。タイラントだった。タイラントはベンの頭を掴むと持ち上げ、咄嗟にレオン、マービン、エイダがハンドガンを撃つもまるで意に介さずそのままベンの頭をトマトの様に握りつぶしてしまった。

 

 

「ベン!?」

 

「タイラント……!逃げるわよ!」

 

「こいつはやばいでござる!洋館で数人がかりでようやく打倒した相手でござるよ!」

 

「なんだって?」

 

「…あなたもしかして洋館事件の生き残り?」

 

 

 タイラントはレオンたちに気付く。こっちはこっちでやばいことになってた様だった。




あんな暴走してたけど本人たちは楽しかったらしい。

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file2:15.5【とある大佐の記録】

どうも、放仮ごです。ちょっと余裕がなかったため今回は短いです。何も脅威はアイザックスやウェスカー、バーキンだけじゃないのだ。楽しんでいただけたら幸いです。


 二ヶ月前の洋館事件にて、決して無視できない報告があった。タイラントが敗北した。その情報がサミュエル・アイザックスから伝えられた時は何の冗談かと思った。私のクローンから生み出されたタイラントはアンブレラの最高傑作にして最強のB.O.W.だ。それが、倒されたなどと何の冗談かと思った。しかもプロトタイプならいざ知らずアイザックスが量産化に成功させた完成品のタイラント三体が敗北したというのだ。

 

 記録によれば一体だけデータは暈かしていたが、残りの二体は変幻自在な能力を持つRT-ウイルス由来のB.O.W.、そしてラクーンシティの警察の特殊部隊であるS.T.A.R.S.に敗北したらしい。S.T.A.R.S.は何かの間違いだろうが、またRT-ウイルスか。ここ数年、サミュエル・アイザックスの手で確かな実績を生み出してきた脅威のウイルス。ただその欠点とあまりにもピーキーすぎる性能から量産性が大事な兵器に向いてないと一蹴されていたが、今回の一件でRT-ウイルスがT-ウイルスを凌駕していると証明されてしまった。

 

 これを受けて、タイラントをブラックマーケットに売り出そうとしていたところだったアンブレラ上層部は憤慨。タイラント販売を延期にすると通達。G-ウイルスを始めとしたT-ウイルス以外のウイルスを用いた生物兵器の開発に着手するように言われ、タイラントの敗北は私の責任ということにされた。

 

 我が兄弟ともいえる存在、タイラント。その敗北は実に口惜しい。数年前にはネメシスのプロトタイプだというセルケトをプロトタイラントが完膚なきまでに打ちのめして実績を上げたというのに、どうしてこうなった。RT-ウイルスのせいかと言われたら否だ。あれほど使い道がないとされていたウイルスの可能性に行きつき実用化する執念には敬意を称する。だから私が恨むべきはシンプルな性能故にタイラントに足りなかった「多様性」だろう。

 

 タイラントは爪により引き裂く攻撃と殴る、蹴るといったシンプルな物理攻撃しか存在せず、皮膚こそ強靭だが毒などへの耐性も少ない。というより、そんな強力な毒を受ける想定をしていないというのが正しい。圧倒的な攻撃力と防御力で瞬く間に敵を制圧する、そういうコンセプトで作られた生物兵器だからだ。味方であるはずのB.O.W.を相手取ることなど想定していない。

 

 もうすぐTyrant-Armored Lethal Organic System…「T-ALOS」が完成するというのに。あの洋館事件の直前にわざわざアークレイ山地にイワンと共に訪れてまで調整されていた素体を持ち出したというのに、このままでは私の地位と計画含めてすべてが水の泡だ。

 

 ではどうすればいいだろうか。答えは簡単だ。口惜しいが、目には目を。歯には歯を。RT-ウイルスを用いる。だがただ使うだけでは例の欠点が発動してタイラントたちを無駄死にさせてしまう。それでは本末転倒だ。タイラントのままで、強くする必要がある。

 

 そこで考えた。サーベラスという私から見ても素晴らしい生物兵器がいる。あれは、三体のケルベロスを結合して誕生させた生物兵器らしい。思いついたのは、タイラントと他の生物遺伝子の結合。タイラントが摂取したDNAを取り込み新たな特性を得る、という効果だ。さっそく部下の研究者たちに命令して数少ないRT-ウイルスのサンプルを無断で使って完成させたのが、12の試練を乗り越えた英雄の名に冠する我等が希望。

 

 

――――T-103型タイラント【ハーキュリー】

 

 

 上の人間を説得してラクーンシティに送り込むことで実績を立てる。まだ、我らがタイラントの時代は終わっていないぞ。このセルゲイ・ウラジミールが天下を取る日も近い。




アイザックスのせいでとばっちり受けてた大佐、意地を見せる。ハーキュリーは英語読みで「ヘラクレス」のこと。

ちなみに菌根に関してはアンブレラは全く把握できてないから想定外で、モールデッド・クイーンに結構善戦していたタイラントもこの種類だったりします。その能力を使うことなく首を斬られてやられてしまったっていう。その能力は…?

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file2:16【暴君の進化】

どうも、放仮ごです。進化するタイラントとかいう脅威以外の何物でもない奴。楽しんでいただけたら幸いです。


「来るぞ!」

 

 

 マービンの警告と共に、檻の隙間を掴んで思いっきり力業で広げて顔を出すタイラント。そこにマービンを背負ったままプサイちゃんが飛び蹴りを叩き込み、着地。右手の鉄拳を叩き込むと帽子が吹き飛んでパサリと落ちる。しかしタイラントはびくともせず、プサイちゃんの腕を握り潰そうとしてきた。

 

 

「させないわ」

 

「かたじけないでござるFBI!」

 

 

 しかしそれはエイダがヘッドショットを叩き込むことで怯んだことで回避され、抱えられたマービンがハンドガンを撃ちながらプサイちゃんは後退する。銃を撃ちながら留置場の通路を後退するレオンたち。しかしヘッドショットの傷を再生させたタイラントはまるで意に介さずのっしのっしと歩いて近づいてきたかと思えば、加速。まるで短距離走でもしてるかのようにドドドドドッ!と重い足音を響かせながら突撃してきた。

 

 

「おいおい、嘘だろ!?泣けるぜ」

 

「言ってる場合でござるか!」

 

 

 走って逃げるレオンたちに瞬く間に肉薄していくタイラント。ならばとレオンは虎の子のショットガンを解禁、目の前まで迫り、拳を振りかぶったタイラントの顔面に零距離で炸裂させる。散弾の全弾直撃を受けたタイラントはのけぞり、ふらふらと後退する。そこにプサイちゃんが私達クイーン一派の間で共有されているタイラントの弱点である右の心臓を狙って抜き手を放つも、ガキン!とコートに爪が弾かれる。銃弾を弾いてたしとんでもない防御力だ。

 

 

「爪が弾かれるでござる…やはり頭!」

 

「ふっ!」

 

「「うおおおおっ!」」

 

 

 そこにエイダの華麗なサマーソルトキックがタイラントの顎に炸裂。タイラントの巨体を揺らめかせ、レオンのショットガンとマービンのハンドガンが銃弾の嵐を叩き込み、最後にマービンを降ろし宙返りしたプサイちゃんのオーバーヘッドキックが後頭部に叩き込まれてタイラントは膝をつく。やったか?

 

 

「以前はオメガ殿と、みなと力を合わせて断てた首。故に一人では通じぬと断じて打撃に切り替えたでござるが……」

 

「やった…のか?」

 

「今のうちにカードキーを!」

 

「あ、そうだ!カードキー!」

 

「情報も残ってるかも…」

 

 

 タイラントが動かなくなったのを見て、引き返すレオンたち。しかし私は、というか子機ヒルちゃんは見た。見てしまった。ベン・ベルトリッチの檻に戻ったレオンたちの背後で、タイラントが再起動したかと思えば近くの檻を引っこ抜き、中にいたゾンビを手に取ると容赦なくガツガツと捕食し始めた光景を。え、なに?こわっ……もしかして私たちが倒したタイラントも首をちょん切ってなかったらこうなってた?

 

 

「よしー、カードキーは手に入れた。エヴリンたちに連絡を……おい、エヴリン!聞こえるか!?」

 

「ダメでござるな……うんともすんとも言わぬでござる……」

 

「……私は情報を手に入れたからおさらばさせてもらうわね」

 

「おい、待て捜査官……殿…?」

 

 

 目ざとくタイラントの行動を見ていたエイダが、拾うものを拾ってそそくさとタイラントの背後を走り去っていき、それを目で追ったレオンたちもようやくその存在に気付く。パンプアップした肉体がブシューッ!とコートの隙間から蒸気を放出させ、モクモクとタイラントの肉体を覆いつくして眼光だけが怪しく輝く。蒸気で隠れたシルエットが、メキッガキッバキッボコッグキッゴキッ!という明らかに骨格が変形している擬音と共に、変化していく。

 

 

「グゥゥゥ……グォオオオオ―――ッ! ウウ……ハァァ……ヴァァッ!!」

 

 

 そして現れ咆哮を上げたのは、異様に変貌したタイラント。胸部上のコートは急激なパンプアップに耐え切れず弾け飛んでしまい、首周りの外皮がまるで赤色化している岩石のように硬く強固なものに変化して口元まで覆いつしている。そして両足は肉食恐竜の足みたく爪が生えそろって靴が破け、両腕は三本の爪が異様に太く長く肥大化し、リッカーを思わせる形状になり、あまりに重いのか心なしか腰が低くなってる。…いや、そうだ。それだ。タイラントがリッカー化したような風体だ。確かリッカーはゾンビが豊富な栄養を取り込んで変異した形態だって話を聞いたことがあるが、今のタイラントはその状態ということか。

 

 

「ヴァァアアアッ!」

 

 

 突進、そして斬撃。脚力も上がっているのか一瞬で距離を詰めてきたタイラントの一撃を、プサイちゃんが咄嗟に受け止めるが二の矢とばかりにもう片方の腕の爪がわき腹に突き刺さり、持ち上げられて投げだされるマービン。

 

 

「ぐぬっ……不覚でござる…!?」

 

「ぐあっ…プサイ!」

 

「プサイから離れろ!」

 

 

 マービンの銃撃がヘッドショット、レオンが回し蹴りを腹部に叩き込む。しかし一瞬止まっただけで一瞥し、プサイちゃんを投げ捨ててマービンを思いっきり蹴り飛ばすタイラント。

 

 

「ござぁああっ!?」

 

「ぐおおおっ…!?」

 

「プサイ!マービン警部補!くそっ、こっちだ!」

 

「ヴァアァアアアッ!」

 

 

 それ以上追撃させないためにショットガンを頭に叩き込んで興味を引き、留置場の外、駐車場に向けて走るレオン。途中で手榴弾を転がしてダメージを与えようとするレオンだったが、タイラントはリッカーみたく天井に張り付いて回避、這い廻って追いかける。あの巨体で人間みたいな顔をしているから若干きもいが笑い事じゃない。

 

 

「嘘だろ…!?」

 

 

 駐車場まで逃れたレオンだったが、タイラントは頭から突撃して壁をぶち抜いてレオンの目の前に四つん這いで着地。高速で爪でアスファルトをひっかくと摩擦で炎が発生、炎の道がレオンに襲い掛かり、ギリギリで回避するレオンはパトカーに駆け寄り、タイラントは跳躍してそのボンネットに飛び乗りパトカー上部を爪で薙ぎ払って威嚇。

 

 

「ヴァアァアアアッ!」

 

「どうやら利口じゃないようだな!」

 

「ヴァッ!?」

 

 

 パトカーの上からレオンに咆哮するタイラントだったが、レオンはパトカーのガソリンタンクにハンドガンを撃って、大爆発。吹き飛び転がるレオンと、空中をぶっ飛んでシャッターに叩きつけられ、横たわって炎上するタイラント。すごい、あの状況から逆転の一手を思いついたのか。レオン、下手したらS.T.A.R.S.並に優秀かも。……もしかしなくても私、未来で聞いたことあるな?レオンの名前。

 

 

「はあ、はあ……プサイとマービンは無事か……?」

 

 

 なんとか立ち上がり、息も絶え絶えで来た道を戻ろうとするレオン。その背後で、燃え盛る巨体が立ち上がり、炎上しながら四つん這いで這ってレオンに肉薄する。コートが焼けて筋肉がむき出しになったその姿はリッカーとよく似ていた。

 

 

「おい嘘だろ…!?」

 

 

 そして跳躍し、爪を振りかぶるタイラント。そこに、奥で起動したSWATの車両が突撃してきてタイラントを壁とサンドイッチにしてしまった。ひしゃげたそれから降りてきたのは、エイダだ。

 

 

「ああもう、最悪ね。これであなたを二度救ったわ」

 

「エイダ…助かった。まさか数えていたとはね。借りは返すよ」

 

「なら、教えてもらおうかしら?あのプサイと呼ばれていたのは洋館事件の生き残りなの?」

 

「そうだと聞いてるが……そうだ、プサイ!マービンも、無事か!」

 

 

 慌てて戻るレオンに、溜め息をつくエイダ。その横で、ギギギッ…と音を当てて動く車両。

 

 

「まったく、死なない奴ばかりね」

 

 

 車を押しのけ、そこにいたのは両目がつぶれ、牙が生え揃った大口を開いて巨大なリッカーともいうべき姿に変貌したタイラント。そこで、意識が戻されていく。記録はここまでの様だ。……ああ、これもしかして、今現在やばいやつ?




ゾンビの遺伝子を大量に摂取してリッカーみたくなったタイラント。見た目は実写映画Ⅴあたりの特殊個体リッカーをイメージしていただけると。

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file2:17【タイラント・リッカー】

どうも、放仮ごです。FGOのレイドバトル堪能してました。とりえず服部君はかっこいいのはいいけどガッツと防御バフは許さない。

今回は最凶タイラントの本領発揮。楽しんでいただけたら幸いです。


《「クイーン、目覚めたのは嬉しいがすまない、今留置場にいるんだが救援が欲しい。プサイが刺された」》

 

「プサイが!?」

 

 

 意識が現在(正確には私がいた時代からは過去なんだけど)に戻ると、クイーンがレオンから状況を聞いているところだった。やばい、レオンはあのタイラントが復活していることを知らないのか。そしてプサイちゃんはアリサのクローンみたいなものだが、ハンター組は他の面子と違って身体能力に全振りしているせいか傷の再生は遅い。グリーンハーブなりで回復しないといけないが、レオンが焦っているということは切らしているんだろう。もっていかないと。いやそれよりも今は。

 

 

『クイーン、レオンに伝えて!レオンが倒したタイラントはまだ死んでない!』

 

「タイラントだと!?…レオン、気を付けろ!お前が戦った怪物、タイラントはまだ生きている!」

 

《「なんだって!?わかった、なんとか耐える。すまないが急いでくれ」》

 

 

 そう言って子機ヒルちゃんからの連絡、というかクイーンから響いている声は止んで、クレアがこちらを見てくる。

 

 

「オメガちゃんとヘカトちゃんは私に任せて、先に行って」

 

「…わかった。ここら辺のゾンビたちは殲滅したから大丈夫だとは思うが気を付けろ。二人を頼んだぞ、クレア!」

 

 

 ブギーマンのせいで重傷を負ったオメガちゃんとヘカトちゃん。オメガちゃんはプサイちゃんと同じで再生が遅く、ヘカトちゃんは再生能力は高いがさすがに腕一本再生させるのには時間がかかる。その間の守りはクレアに任せて、私とクイーンは頷きエレベーターに急ぐ。

 

 

「エヴリン、道案内はできるな?…そのタイラントは、私達が倒したものと同じか?」

 

『最初は同じだった。だけど、ゾンビを食べてから様子が変わって……まるでリッカーみたいになって……最悪、モールデッド・クイーンをもう一度使う羽目になるかも』

 

「お前がそこまで言うほどか。心してかかるとしよう」

 

『あ、あとエイダってFBIの女がいるけど一応味方だから。……多分敵だけど』

 

「エイダ?……その名前、どこかで聞いたな」

 

『え、それどこで!?』

 

「たしかアークレイ山地の研究所だ」

 

 

 ってことは私がいない間に調べた内容にエイダの名前があったのか。やっぱりアンブレラ関係者か、それとも同じ名前の別人か。いや、でもレオンを助けてくれたしなあ。

 

 

『とにかく、今タイラントの相手をしてるはずだから助けてあげて』

 

「わかった。そして怪しい行動に気を付けろというんだろ?」

 

『そゆこと!さすがクイーンわかってるぅ!』

 

 

 この以心伝心はイーサンを思い出す。頼りになるなあ、この共犯者は。そうこう言ってる間にエレベーターが地下駐車場に到着し、通路を駆け抜ける。そこには、炎上しているパトカーと、その合間を駆け抜けて、巨大なリッカーみたいに変貌したタイラントの攻撃を避けているエイダがいた。

 

 

『あれがエイダだよ!』

 

「まずは助けるか!」

 

 

 右掌を向けて粘液糸を飛ばし、タイラントの振り上げた右腕にくっつけて引っ張り体勢を崩すクイーン。さらに左掌を向けた先のパトカーにも粘液糸を飛ばして燃え盛る扉を引っこ抜き、遠心力を加えて叩きつける。怯んで後退するタイラントはこちらの存在に気付き、咆哮を上げる。目が潰れているから見えてないみたいだけど、気配には敏感みたいだ。索敵能力が高いのかな?

 

 

「グォオオオオ―――ッ!!」

 

「今度は何?新手かしら!」

 

「味方だ。手伝うぞエイダとやら」

 

「私の名前を知っている…?何者なのか知らないけど、ありがたく助けは受けるわ」

 

 

 エイダと意思疎通して、共に構えるクイーン。私が見張っていれば、と思ったけどこのタイラント相手に目を離すのはさすがに悪手だ。

 

 

「ヴァァ!!」

 

 

 ガバッと口を開いたタイラントの口内から、槍の様に鋭く尖った舌が伸びる。反応しきれなかったクイーンの肩を貫き、空中に持ち上げられ天井に叩きつけられるクイーン。そんな隙だらけなところをエイダが銃撃、しかしタイラントは銃声を聞いてから動き、クイーンをアスファルトに叩きつけ舌を引き抜きながら天井に回避。鋭い爪が生え揃った四肢で天井に張り付き、勢いよく急降下。アスファルトを叩き割るほどの威力の振り下ろしを炸裂させる。

 

 

「危ない!」

 

 

 咄嗟に粘液糸を伸ばしたクイーンがエイダを抱えて真横に緊急回避するも勢いを殺しきれずパトカーに背中から激突、ガラス片をまき散らしながら崩れ落ちるクイーン。

 

 

「ぐうっ…」

 

「ちょっと、あなた!しっかりしなさい!」

 

「ヴァァアアッ!」

 

『させるかあ!』

 

 

 四肢を動かして突撃してくるタイラントに、咄嗟にクイーンに入り込み、右腕だけ動かして粘液硬化を発動して掌で防御。同時にクイーンが目覚め、左腕で拳を握り粘液硬化しながらアッパーカット。タイラントを殴り飛ばす。

 

 

「…あなた、何者なの?」

 

「私はクイーン。ただのアウトローだ」

 

「あなたが、クイーン…!」

 

 

 エイダの問いかけに答えながら立ち上がり、白衣の袖を自動的にヒルたちでまくり上げた両腕にヒルを集束させて異形化、二倍近く肥大化した両腕を構えてちょいちょいと一指し指を動かし不敵に笑うクイーン。

 

 

「どうした?来いよタイラント。元祖化け物の力見せてやる」

 

「ヴァァアアッ!」

 

 

 ドシンドシンドシン!と重量級の足音を立てながら加速、大質量の体当たりを仕掛けてくるタイラント。エイダは離れ、クイーンは避けることなく足を踏み込み、こちらも突進。真正面から受け止め、力比べする。

 

 

「グゥゥゥ……グォオオオオ―――ッ! ウウ……ハァァ……ヴァァッ!!」

 

「なるほど、マスターリーチが最強の肉体と称するだけあってとんでもないパワーだ…!だが、いくら変異しようとただの個であるお前に群である我らが負けるはずがない!」

 

 

 胸のど真ん中を伸びる舌で貫かれながらも力を緩めず、タイラントの巨体を持ち上げるクイーン。ボディスラムの様に頭からアスファルトに叩きつけ、自分の体重も乗ったその一撃にさすがのタイラントも聞いたのかそのままビターンと身体が倒れ伏す。

 

 

「ヴァァア……」

 

「こいつも喰らっておけ!」

 

 

 さらにダメ押しとばかりに炎が苦手なのに燃え盛るパトカーを持ち上げ、勢いよく叩きつけたクイーンが粘液糸で離れると同時に大爆発。転がってきたタイヤを蹴飛ばしながら、クイーンは腕をもとに戻し白衣に燃え移った炎を払いのけながら一息つく。

 

 

「よし」

 

『クイーン、実はテクニックタイプに見せかけた脳筋だよね』

 

「マスターリーチから奪い返した同胞たちのおかげだ。…これで死んでくれたら楽だったんだがな」

 

 

 燃え盛るパトカーの残骸から、四つん這いから人型に戻ったタイラントが立ち上がる。コートは完全に燃え尽きて上半身裸になっており、その肉体は大火傷を負っていたが皮膚を突き破って現れた筋肉に飲み込まれていく。そして顔まで筋肉に覆いつくされ口しか存在しない顔で咆哮を上げたタイラントの変貌した姿は、立ち上がったリッカーが筋肉達磨にでもなったかのような風体だった。うーん、グロテスクだあ。

 

 

 

「ヴァァアアアアアッ!!」

 

「さしずめタイラント・マスキュラーか」

 

『さっきまでのはタイラント・リッカーかなあ。まだ可愛げがあったね』

 

「もしかしなくてもこいつ、適応してるな?」

 

『だねえ。少しでも生きてたら学習してどんどん強くなっていくタイプだと見た』

 

 

 誰が考えたか知らないけど、またアイザックスかな。おのれアイザックス!タイラントの強化とかイブリースだけで十分だろいい加減にしろ!




アイザックス「濡れ衣である」

タイラント・ハーキュリー(通常形態)→ゾンビ吸収→タイラント・リッカー→SWAT車両直撃+爆発→タイラント・リッカー2→クイーンの戦い方を学習→タイラント・マスキュラー。こんな流れ。こんなんゲームに出てきたらクソゲーである。見た目はヒロアカのマスキュラーの戦闘形態のあれ。

クイーンが強くなりすぎたなら敵をもっと強くすればいいじゃないって何とかネットも言ってた。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:18【タイラント・マスキュラー】

どうも、放仮ごです。感想欄がアイザックスに無慈悲すぎて笑った。

長かったカードキー奪取編も終幕です。この激闘、カードキーを手に入れるためだけにやってたんですよね。楽しんでいただけたら幸いです。


 爆音に次ぐ爆音と破砕音が地下駐車場の方から響いてくる。手持ちの包帯でプサイの止血をしてクイーンたちを待っているところに聞こえてきたそれに、マービンと共にハンドガンを構える。

 

 

「なんだ…?何が起きている…?」

 

「さっきの大男……クイーンが言うタイラントが生きてるってことと関係あるのか…?」

 

 

 息を荒くしているマービンの言葉に、先ほどプサイの頭の上の子機ヒルちゃんとやらから聞こえてきた情報を整理しようとしていると、プサイが起き上がる。動こうとしたため脇腹に巻いた包帯が赤く染まっていく。

 

 

「ぐぬっ…いかねばならぬ……!」

 

「プサイ、動けるのか!?無茶をするな!」

 

「なんのこれしき…!タイラントは……洋館事件にて、我らが相対した強敵でござる。全員で力を合わせて勝てたやつが、強化されていた…!気配でわかる、クイーン殿が一人で戦っておられる…!おそらくオメガ殿たちにもなにかがあったでござる。拙者だけでも、加勢せねば…!」

 

「だからって今動いたら出血多量で死ぬぞ!動くなプサイ!マービン、手伝って……マービン?」

 

「……え、あ。なんだ?レオン」

 

 

 力づくでプサイを引き留めようとしていたが、心ここにあらずに呆けていたマービンに嫌な予感がよぎる。…急いでくれ、クイーン、エヴリン…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァァアアアッ!」

 

「ちい!」

 

 

 筋肉の化け物になったタイラント・マスキュラーの肥大化した右腕に握られた拳を、粘液糸を天井に伸ばして足を広げて跳び箱でもするかのように紙一重で回避するクイーン。そのまま首に両足で絡みつき、締め上げようとするが筋肉の鎧はビクともしないどころか、筋肉が膨れ上がって筋繊維が触手の如く四方八方に展開され、突き飛ばされて天井の角に張り付いて壁に張り付いて着地…着壁?するクイーン。

 

 

「なんて質量だ…!質量保存の法則はどこ行った!」

 

『まるでカーネイジだね!ぐろい!』

 

 

 アレも確か肉体自体が変異した触手とかだったはずだ。ローズの事件が起きた時代だと古い映画だけど公開時に見に行った時はホラー映画かなんかかな?と思った記憶がある。すると筋繊維触手を蠢かせながらじたばたと両腕を動かしてもがくタイラント・マスキュラー。

 

 

「ウグググッ……グオオオヴァァアアッ!!」

 

『……なんか本人も制御できてないみたい?』

 

「適応に脳の認識が追い付いてないのか?そこをつけばいけるぞ!」

 

 

 その場でじたばたと暴れるタイラント・マスキュラーに呼応して、伸縮する触手がイソギンチャクかなにかみたいに蠢いて、咄嗟に粘液糸を飛ばしてその場を逃れて高速で天井を駆け抜けるクイーンを追いかけてコンクリートの壁を粉砕していく。あんなもの喰らったら瞬く間にぐちゃぐちゃの肉塊になってしまう。怖い。

 

 

「ここを、こうして……!」

 

 

 しかしクイーンもただ逃げてるだけじゃなかった。逃げる先で粘液糸を繋げ、それをタイラント・マスキュラーの頭上を交差するように重ねていき、巨大な蜘蛛の巣のようにしていくクイーン。すると粘液糸の蜘蛛の巣がタイラント・マスキュラーの筋繊維触手に絡みつき、その場に拘束していく。

 

 

「こいつでどうだ…!」

 

「ウオオォァァァァァッ!!!!」

 

 

 すると両腕を振るって力むことで引っ張り、筋繊維ごと粘液糸の拘束を引きちぎっていくタイラント・マスキュラー。ブチブチブチッ!とちぎれていく光景は端的に言ってぐろい。そして封印が解かれるように拘束から完全に解放され、タイラント・マスキュラーは目が見えない口だけの顔を動かしてクイーンの位置を正確にとらえると、両拳をアスファルトに叩きつけて大ジャンプ。

 

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

暴れてます!(SMASH)!』

 

 

 コンクリートの壁を粉砕しながら壁にめり込むタイラント・マスキュラーから逃げるクイーンに、タイラント・マスキュラーの背中から伸びた筋繊維触手が絡みついて引っ張られ、背中から落ちるクイーン。

 

 

「ぐえっ」

 

『あ、馬鹿言ってる場合じゃない奴だねこれ』

 

 

 タイラント・マスキュラーは逃がさないとばかりに飛び降りて、アスファルトに小さなクレーターを作りながら着地。自身の筋繊維触手と繋がったままクイーンを殴り飛ばし、ヨーヨーの様に跳ねて戻ってきたクイーンの顔面にさらに一発。ふら付くクイーンにタイラント・マスキュラーは容赦なく猛ラッシュを叩き込み、そのまま何度も何度も殴り飛ばされサンドバッグにされてしまう。チェーンデスマッチだ。

 

 

『やめてー!クイーンがミンチになっちゃうー!?』

 

「ぐっ、がっ……」

 

 

 全身に粘液硬化して拳の直撃こそ弾いているが、衝撃までは殺しきれていない。圧倒的なまでのフィジカルと全身筋肉のバネから放たれる猛ラッシュは目にもとどまらぬ速度と、殴り飛ばされたクイーンが壁を粉砕するほどの威力であり、見ていて背筋が凍るとんでもない猛攻だ。というかこんなに殴っているのにちぎれない筋繊維はなんなんだ。

 

 

「隙さえ、あれば……ぐうううっ!?」

 

『だ、誰か助けを……でも、誰を…?』

 

 

 オメガちゃんは胸部を貫かれて其のまま振り回されて酷い傷だったし、ヘカトちゃんは腕をもがれて咀嚼されて回復も間に合ってないし、プサイちゃんは脇腹を刺されて持ち上げられて傷口が広がっていたし……レオンとクレアやマービンにはそもそも意思を伝える手段がないけど、人間の三人じゃ確実に死ぬ。エイダはどこ行ったか知らん。どうしようー!?頭を抱えてグルグル回るしかない。

 

 

『私のことが見えないみたいだから私はなにもできないし……こうなったら合体だ!クイーン、意識飛ばして!そしたら暴走しないから!』

 

「こんな激痛で、意識を飛ばしてられるか…!」

 

『それもそうだね!もう暴走するしかないんだこれ!』

 

「……いや、まだ手はある…!」

 

 

 粘液硬化も砕けてしまいズタボロになりながらも不敵な笑みを絶やさないクイーン。その姿は、どんなピンチでも諦めなかった私の最愛の父親を思い出して。

 

 

「要は此奴にお前の存在を知覚させたらいいんだろう…!?隙を作るぐらいならできるだろ!」

 

「ウガッ、ウガァアアアアッ!!」

 

『多分できるけどどうするのさ!?』

 

「大口だけは残っているだろう!こいつでも喰らえ!」

 

 

 すると殴り飛ばされ、引き戻された勢いを利用して右腕を突き出し、タイラント・マスキュラーの咆哮している大口にズッポリと突っ込むクイーン。なにを、と思う前にクイーンの右腕を噛みちぎり、威嚇なのか咀嚼して見せるタイラント・マスキュラー。そうか、そういうことか…!

 

 

『態度も身長も胸もお尻も顔も全部クソデカオバサンを思い出すなあ!』

 

 

 私の声に反応し、クイーンを繋げたまま筋繊維を右腕に集束させ、巨大な剛腕として伸ばしてこちらに殴りつけてくるタイラント・マスキュラー。しかし私に当たることはなく、空ぶって体勢を崩す。

 

 

『リッカーと同じなら、眼が見えない分別のところの感覚は発達してるはずだよね!例えば嗅覚……例えば聴覚!!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「ヴァアアアアアッ!?」

 

 

 突撃してタイラント・マスキュラーのぐろい筋肉ののっぺらぼうみたいな顔の耳(?)に顔を突っ込み、虎の子である超至近距離鼓膜絶叫を発動。悲鳴を上げ、クイーンを開放して頭を押さえながら後退するタイラント・マスキュラー。クイーンがズタボロの身体に鞭打って粘液糸をタイラント・マスキュラーの頭上に伸ばして舞い上がり、四方八方に粘液糸を飛ばし始める。

 

 

「質量には質量だ!生物の肉が決して勝てない物質を知っているか…?鉄と、炎だ!」

 

 

 四方八方に飛ばした粘液糸が繋がったのは、地下駐車場に止められている炎上するすべてのパトカー。クイーンとその真下のタイラント・マスキュラーを中心に張り巡らされた粘液糸は、クイーンがその中心部を殴りつけるとゴムの様な伸縮性を発揮し、一斉に中心部に縮まっていく粘液糸に繋がれたパトカーたちが、全方位からタイラント・マスキュラーに勢いよく激突していく。

 

 

「お前は強かったよ。マスターリーチなんか目じゃない」

 

「グゥゥゥ……グォオオオオ―――ッ!?」

 

 

 そしてクイーンが傍らに着地した瞬間、押しつぶされ圧縮されたタイラント・マスキュラーの首から上が断末魔を上げて吹き飛んで、ギロチンされた頭部の様に転がっていき、ひとまとめになったパトカーは大爆発。タイラント・マスキュラーの首から下も木っ端微塵に吹き飛んだのだった。

 

 

『…やっぱり脳筋でしょクイーン』

 

「なんのことだか、わからないな」

 

 

 ズタボロながらもそしらぬ顔でそっぽを向くクイーンに、私は思わず笑ってしまうのだった。




ぶっちゃけギロチンするのがタイラント・ハーキュリーの唯一の攻略法だったりします。迂闊に瀕死に追い込むとパワーアップして手が付けられなくなるからたちが悪い。

本編でも言及してますがカーネイジやハルクもモチーフに入っていたタイラント・マスキュラー。これでタイラント・ハーキュリーの一形態でしかないという悪夢。でもこの章、タイラントの章じゃなくてG生物編なんですよね……。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:EX1【R.P.D.の怪物たち】

どうも、放仮ごです。疲れているので、ちょうど警察署編が終わったのでまとめ回を投稿します。まだ序盤なのに情報量が多すぎる。楽しんでいただけたら幸いです。


・クイーン一派

洋館事件後、クイーンについていったB.O.W.たちの総称。クイーン、エヴリン、オメガ、ヘカト、プサイ、リサ、セルケトを指す。このうちセルケトはヨーロッパに向かったクリス達と合流、リサは別行動をとっており、クイーン、エヴリン、オメガ、ヘカト、プサイはラクーンシティに残り情報収集を行っていたほか、バイオハザードが起きてからは住民の救助をしていた。全員アリサ顔だったがエヴリンがミランダから学んだ「擬態」で姿かたちを変えており、服装も一新している。↓

 

・クイーン・サマーズ:青みがかった銀髪をポニーテールにして、マーカスの血で汚れた白衣と、動きやすそうなラフな青いTシャツに、迷彩パンツと黒いブーツを身に着けているクールな女性。

 

・オメガ:ツンツンしている深緑色の髪をショートにした、黄緑のパーカーと青い短パン、黒ニーソックスと赤い運動シューズを身に着けた少女。ヘカトプサイとは三姉妹という設定でクールな次女。

 

・ヘカト:オメガと似た顔で金髪をサイドテールにしたダブダブのオメガとお揃いの黄色いパーカーと白のハーフパンツを身に着けた幼い活発な少女→パーカーはきつくなったので脱いでピチピチの黒いタンクトップと水着見たくなった白のハーフパンツを身に着けた裸足の気だるげな女性。オメガプサイとは三姉妹という設定で健気な末っ子。

 

・プサイ:オメガと似た顔で黒髪をポニーテールにした少女。本人からのリクエストで和風であり、青いマフラーはそのまま。オメがヘカトとは三姉妹という設定でアホな長女。ほとんど某侍と同じ。

 

・リサ・トレヴァー:蠢かない黒髪をロングにした、お嬢様みたいな白いワンピースと帽子を身に着けている清楚な180センチぐらいの長身の美女。エヴリンは八尺様をイメージした。

 

・セルケト:前髪で左目を隠した赤黒い短く切り揃えた髪で全身普通の見た目で長袖のラフなシャツを身に着け、左半身だけインナー代わりにボンテージ染みた戦闘服を着た女傑。

 

 

 

 

 

 

・Gアネット

 アネット・バーキンがU.S.S.の襲撃を受けて瀕死の重傷を受け、ウィリアムにG-ウイルスを投与されて変貌した怪物。変異の仕方は本来のGウィリアムと同じで鉄パイプが武器なのも同じ。ウィリアムに見捨てられたこともあり、シェリーへの愛情と執着だけで徘徊、シェリーを攫ったと思い込んでクイーンを目の敵にしている。現在は警察署地下の機関室のさらに地下に落ちて行方不明。モデルはバイオハザード2の没ネタ「G生物化したアネット」

 

 

・センチュリオン・G・ヘカトンケイル

 ウェスカーとバーキンのコンビにG-ウイルスを打たれて脱皮を繰り返し超巨大な大人の姿に変貌したヘカト。身長はホール二階に頭が出るぐらいでとてつもなくでかい。

 通路を洪水みたいにして腕ムカデを突撃させてくる他、新たに背中からもムカデを二体生やして縦横無尽に攻撃してくる。猛毒も健在どころか強化されて遠距離攻撃が可能に。ギルタブリルと同じでRTとGを同時併用したため脱皮強化こそ可能だが復活が不可能であり、倒したらそのまま力尽きる。

 自我はまともではなく、耐えがたい痛みに常に侵されながら目を赤く光らせ口から蒸気を吐いており、お腹のG特有の目でギョロギョロと敵と標的を探す。血縁関係であり親しいオメガを優先的に狙う。モチーフは四本の伸縮自在の腕、精神が不安定になっているところなど、スパイダーマンのドクター・オクトパス。

 エヴリンが時間逆行したことでなかったことになったが、その結果モリグナが誕生してしまう。

 

 

・モリグナ

 バタフライエフェクトで生まれた、アイザックスがカラスの群れにRT-ウイルスを混ぜた餌を接種させる実験を行っていた際に、RTの遺伝子の特徴である「肉体の結合」が起きて融合し、クイーンと同じ群体の生命体となったリサ・シリーズのB.O.W.。

 すべてのカラスが同じ自我を共有しており完全に統率された動きを取る。一糸乱れぬ動きから繰り出される制圧攻撃は実験体のゾンビを瞬く間にミンチに変えてしまう圧倒的な威力を有し、ピンチになると竜巻状となってミキサーの様に巻き込んだものを破壊する。構成しているカラスすべてがゾンビみたいな状態であり、非常に食欲旺盛で身体能力も高く、再生力が高いために痛みにも鈍く、仲間が倒された程度では怯みもしない。さらに他のカラスに啄ばむことでウイルスを感染させ仲間にすることができるという、兵器として完成されすぎている性能を誇る。

 三メートル以上の黒い羽毛のローブを身に着けているような死神を彷彿させる女性に擬態しており、顔以外ローブに覆われていて見えないが下は全裸。身長三メートル近くはある、青みを帯びた漆黒のリサ。目の色もハイライトがない黒。ケルト神話に出てくるカラスの女神である三姉妹が由来。モデルはゼルダの伝説ムジュラの仮面のゴメス。

 

 

・女王エヴリン

 気絶したクイーンの肉体にエヴリンが憑依して、リーチ・モールデッドの要領で代わりに動かしている状態。タイムトラベルした上にヘカトの記憶を引き出したために力が弱っていたエヴリンの回復も兼ねている。見た目は元のクイーンの姿、つまり大人のエヴリンの姿に戻している。怪力、粘液硬化、粘液糸とクイーンと全く同じ能力を使えるが、使い慣れてないのとエヴリンの能力の弱体化も相まってフルパワーを出せず、基本的にボコボコにされてるが根性で何とか打倒していた。

 

 

・ブギーマン

 アイアンズが経営している警察署裏手の孤児院で育った子供が、アイアンズの手でアンブレラに引き渡されてT-ウイルスを投与され肉体改造された実験体たちの総称。つぎはぎだらけの大男の姿をしている。アイアンズがアンブレラに引き渡す前に薬で言うことを聞くように調整してあり、偶発的にアイアンズの言うことを聞く最強の手駒と化した。スケアクロウ、バグベアの個体が確認されているが総数は不明。

 

 

・ブギーマン・スケアクロウ

 アイアンズの側近でボディーガード。文字通り案山子を模したブギーマン。ズタ袋を被り農夫の様なオーバーオールが特徴。ゴリラの様な体格と怪力を有する。レオンたちどころかB.O.W.のオメガちゃんたちが動けなくなるぐらい強力。モチーフはクロックタワー3のハンマー男。

 

 

・ブギーマン・バグベア

コレクションルームに捕らわれになっていたブギーマンの一種。薬での制御ができなかった失敗作であり、剥製を作るときに出る肉の後始末役として捕らえられていた。牢屋や手錠はブギーマン対策のシャッターと同じ素材でできている。大柄なスケアクロウと異なり細長い個体で、あんまり食べさせてもらってないまま放置されていた食欲の化身。名前はイギリスのウェールズに伝わるバガブーとも呼ばれるブギーマンである人食い妖精から。モチーフはクロックタワー3の斧男。

 女王エヴリン、オメガちゃん、ヘカトちゃん、クレアを同時に相手取り完膚なきまでに叩きのめしたが、モールデッド・クイーンに変貌したエヴリンとクイーンに意趣返しとばかりに一方的に叩きのめされ敗北した。

 

 

・モールデッド・クイーン

 「『We are family(私達は、家族だ)』」の掛け声とともに意識があるままエヴリンと一体化し、菌根を最大限に広げて全身黒く染まったクイーン。別名菌根の女王。ゼウの変形の様な強力な力を発揮するが、性格が凶暴化。血を好むバーサーカーになってしまい制御不可能の怪物。弱点は菌根やクイーンそのままであり、特に共通の弱点である炎は受けると元に戻ってしまう。モデルはシー・ヴェノム。

 

 

・T-103型タイラント【ハーキュリー】

 とある大佐がRT-ウイルスでタイラントを強化して生み出した強化個体。しかも量産型。摂取したDNAを取り込み新たな特性を得る他、相対した強敵の情報から自らの肉体を作り替える「適応」特化型。同じRT-ウイルスを用いたタイラントであるイブリースはRT-ウイルス用に調整された個体を改造したものであり別物。通常形態でもモールデッド・クイーン相手に善戦するぐらいに強い。弱点は変異する前に即死されることで、特に頸を断ち切られると再生不可能だが、逆に言えば頸さえ繋がっていれば幾らでも強化されて復活する。ハーキュリーは英語読みで「ヘラクレス」のこと。

 

 

・タイラント・リッカー

 レオンたちに敗北したタイラントがゾンビの遺伝子を大量に取り込み、リッカーの様に変異した姿。税所は通常タイラントに爪が生え筋肉が硬化するぐらいの変異だったが、SWAT車両の爆発を受けて目が潰れ舌が伸びさらにリッカーに近い姿に変貌した。圧倒的なフィジカルで高速移動し、立ちはだかるものはすべて力づくで薙ぎ払う。

 

 

・タイラント・マスキュラー

 クイーンに敗北したタイラント・リッカーが肉体をさらに変異させて適応した形態。文字通りの筋肉達磨で、制御できなくなった上に目が見えなくなっており嗅覚と聴覚で状況を判断する。筋繊維が触手の様に蠢いてくっつけてチェーンデスマッチを繰り広げ、クイーンを瀕死に追い込んだが、エヴリンとの連携で圧殺され倒された。モチーフは僕のヒーローアカデミアのマスキュラー。




クイーンたちの現在の容姿も改めてまとめさせていただきました。

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file2:19【取引と末期症状】

どうも、放仮ごです。本日ようやくヴィレッジのサードパーソンモードを見終わりました。視点違うだけであんなに印象変わるのね……。またヴィレッジ編書きたくなりました。

今回は悪辣アイアンズ再び。楽しんでいただけたら幸いです。


 クイーンとエヴリンの暴走を何とか止めて、ブギーマンの亡骸からカードキーを手に入れ、レオンたちの元に向かったクイーン(と私には見えないけどエヴリンも)を見送った私は、署長室でオメガちゃんとヘカトちゃんの治療をしていた。

 

 

「オメガちゃん、ヘカトちゃん、大丈夫…?」

 

「なんとか……」

 

「ああ、痛いわ……こんなに痛いのは何時ぶりかしら……?」

 

「ええ……」

 

 

 ヘカトちゃんにドン引きしつつ、オメガちゃんとヘカトちゃんに近くを探って見つけたグリーンハーブを与えていると、ジリリリン!と電話が鳴り響く。こんな時に、電話…?訝しみながらもオメガちゃんとヘカトちゃんと顔を見合わせ、電話に出る。

 

 

「はい、もしもし…?」

 

《「ごきげんよう。クイーン…が出ると思ったがたしか、クレアだったか。クリスの妹の」》

 

「アイアンズ……!」

 

 

 電話の向こうから聞こえた声に憎悪を向ける。ブライアン・アイアンズ。あいつだ。辺りを見渡し、壁の隅に監視カメラがあるのを見つけた。あれで私達を見張っていたのか…!カメラに向けて中指を立ててやる。

 

 

「シェリーは無事なんでしょうね!?指の一本でも手を出していたら赦さないわよ!絶対に!」

 

《「安心したまえ。私にとっても大事な取引材料だ、丁重に扱っているとも。さて、ブギーマン・バグベアを殺したようだな。まずは褒めてやろう殺人鬼ども。罪もない子供を殺した気分はどうかね?私としては君たちを捕まえる大義名分ができて気分がいいがね」》

 

「…あれが、罪もない子供ですって…?」

 

《「言わなかったかね?彼らは私の孤児院で育った子供たちだ。少々うるさかったのでね、薬で黙らせて引き取ってもらったら忠実な用心棒として帰ってきた。素晴らしい誤算だと思わないかね?」》

 

 

 あの時は頭に血が上ってたから覚えてなかったけど、そんなことを言ってたかもしれない。でもそれが本当なら、此奴は絶対に許してはならない。

 

 

「…本当にクズね」

 

《「黙れ!私は優秀なんだ。優秀な人間は何をしてもいいんだよ!…さて本題だ。取り引きをしようじゃないか」》

 

 

 激高したかと思えば落ち着いてそう言ってくるアイアンズ。取り引き…?

 

 

《「私としては欲しいのはRT-ウイルスだ。シェリーはそれと交換するための材料でね。RT-ウイルスを手に入れてくれればシェリーを開放しよう。どうだ、悪くない条件だろう?」》

 

「RT-ウイルス……?それはどこにあるの……?」

 

《「お前の目は節穴か?そこにいるだろう、RT-ウイルスの被験者共が」》

 

 

 振り向く。そこにはアイアンズの憎悪の感情を向けているオメガちゃんとヘカトちゃんがいて。

 

 

《「あの時は気づかなかったがな。このカメラを通して見ていたぞ、驚異的な再生能力。RT-ウイルスの特徴と合致する。その二人、もしくは片方でもいい。引き渡せ。そいつらから血を手に入れれば、ウィリアム・バーキンとの取り引きなどもう必要ない!そうだろう?」》

 

「………」

 

 

 考える。アイアンズの口ぶりからして、ブギーマンはまだまだいると見ていい。あの強さがまだまだいるなんて悪夢でしかない。そして、あちらにシェリーがいる以上、断ればどうなるかは考えなくてもわかる。それだけはダメだ。どうするかはクイーンたちと話すとして、今は……。

 

 

「…わかったわ。どこにいけばいいの?」

 

《「素晴らしい。警察署裏手の孤児院だ。そのカードキーがあればすぐにでも来れるだろう。待っているぞ」》

 

 

 そう言って電話は切れた。私は力いっぱい受話器を電話に叩きつけて、カメラに向けて睨みつける。ブライアン・アイアンズ……絶対にお前を許さない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやあ、しかし立て続けにぼっこぼこにされたねえ』

 

「ブギーマンとやらはお前が弱すぎたからだけどな。なんで私の身体を使ってあの程度にボコボコにされるんだ」

 

『それを言われちゃぐうの音も出ねえ』

 

 

 いや、まあスペックに任せたごり押しは得意なんだけどねえ。菌根世界でも大暴れしたし。ただ私にはイーサンやクイーンみたいな戦闘センスが足りないのだ。モールデッド・ギガントの初変身の時とか素人の喧嘩みたいになったし。テクニックが必要なクイーンの肉体は荷が重かったね、うん。というか全身のヒルに意識を巡らせるのが必要なのは無理だって。

 

 

『そもそもクイーンが迂闊にスタングレネードを受けたから私が代わりに戦ったんだけど?』

 

「あれは避けようがなかっただろうが。まあまた私に何かあったら頼むよ、相棒」

 

『またあったら困るんだけど……』

 

「クイーン、大丈夫!?」

 

 

 軽口を叩きながらもズタボロで満身創痍のクイーンのもとに駆け付けたのは、回復したらしいオメガちゃんと片腕のヘカトちゃんを連れたクレア。ヘカトちゃんの方はまだ回復しきれてないらしい。まあ片腕一本分だしねえ。

 

 

「なんとかな。そっちこそ、ヘカトは大丈夫なのか?」

 

「痛すぎるけど、よく考えてみたらこれも愛かなって」

 

「なんかヘカトちゃん、あまりに痛すぎて頭が変になってるみたいだからそっとしてあげて…」

 

「お、おう…」

 

 

 ごめんクレア。ヘカトちゃんのそれ通常運転です。ドMでも痛いってよっぽどひどい重傷なんだなあ(小並感)。イーサンも足がもげても手首斬れてもすぐに平常運転になったしなあ。普通なのかな(感覚麻痺)。

 

 

「ねえ、話があるんだけど……」

 

「それより今はレオンたちだ。嫌な予感がする、急ぐぞ。話は途中で聞く。エヴリン、案内してくれ」

 

『え、あ、うん。こっち!』

 

 

 クイーンに言われて我に返り、留置場へ案内する。入り口は案内したし先に行って様子を確認……ってやばいこれ!忘れてた!

 

 

「うっぐ……離れろ、レオン…プサイ!」

 

「そうはいかないでござる!エヴリン殿から任されている故、マービン殿を見捨てる選択肢はないでござる!」

 

「そうだ、エヴリンが何とかすると言っていただろう!耐えろマービン!」

 

 

 壁を抜けると、左目の瞳孔が灰色に染まりかけて苦しそうにしているマービンを、プサイとレオンが羽交い絞めにしている光景があった。慌てて全速力で突撃すると、プサイが気付いて押さえてないほうの片手を振った。

 

 

「あっ、エヴリン殿!こちらでござる!」

 

「なんだ……空飛ぶ女の子…?グッ、グオオオッ……!」

 

『私が見えてるのはやばいね!末期症状!……自分で言ってて悲しくなってきたあ!』

 

「言ってる場合じゃないでござるよ!?」

 

 

 プサイちゃんにツッコまれながらもう意識が消えかかっているマービンに飛び込む。T-ウイルスの元となった始祖ウイルスはクイーンから生まれたもの。で、馬鹿のマーカスが菌根を餌にしてそれをクイーンが食べたせいでそのクイーンから生まれたT-ウイルスには微粒子レベルでも菌根が混ざっている。つまり感染者は菌根ネットワークで繋がっているのだ。自我が消えてゾンビになった人たちは手遅れだけど、なりかけならば…!

 

 

『無理矢理自我を引きずり出すぐらいはできる!』

 

 

 要はヘカトちゃんの時と同じだ。菌根世界にアクセスして、引っ張りだす。よし、よし。掴めた。一度体験した感覚は忘れない。

 

 

「戻ってこい、マービン!」

 

 

 そんなレオンの言葉と共に、マービンから飛び出る。だいぶ疲弊したけど、上手くいったはず……目を閉じていたマービンの目が、ゆっくりと開かれる。

 

 

「……俺は、どうなった?」

 

 

 開かれた眼には生気が宿っていて。私とレオンとプサイちゃんはひと息吐く。よ、よかったあ……

 

 

『……んん?』

 

 

 なんかマービンの肌がちょっと荒れてるような………気のせいか。まあいいや。




悲報:ブギーマン、まだまだいる。朗報:マービン、峠を越える。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:20【ケンド鉄砲店】

どうも、放仮ごです。同時進行で3編のプロットも書いてるんですが、辻褄合わせるのがすごい大変。

 今回はどうしても何とかしたかった人たちランキングでも上位のキャラが登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 私、クイーン、レオン、クレア、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃん、マービン。再び全員揃って再会できたのはこの状況だと奇跡に等しいだろう。状態も分かれる前から変わってる。マービンがプサイちゃんの背に背負われなくても動けるようになったし、ヘカトちゃんは逆に左腕がまだ完全に再生してない。それでも全員生きて再会できたのはいいことだろう。

 

 

「クレアがアイアンズと電話で話したらしい。奴の目的はRT-ウイルス。シェリーと引き換えにオメガかヘカトの身柄の取引をを要求してきた」

 

『え、それはダメだよ?あの変態親父に私の大事な子達を渡すもんか!』

 

「オメガかヘカトを犠牲にするなんて看過ならないぞ!」

 

「そうでござる!オメガ殿はもとより、ヘカト殿も拙者にとって大事な妹分も同然!引き渡すなどありえないでござる!」

 

「わかってるわ。でも、受けざるを得なかった。あっちはシェリーを人質にとっているのよ」

 

 

 レオンとプサイが反対するが、クレアの言葉に押し黙る。それを、クイーンがパンパンと手を叩いて自分に意識を集中させた。

 

 

「シェリーさえ取り返せばこっちのものだろう。オメガでもヘカトでも、アイアンズなんて一瞬で殺せる」

 

「…だが奴らはどうする?ブギーマンとやらはまだたくさんいるんだろう?」

 

「問題はそこだ」

 

 

 マービンの指摘に腕を組み瞑目するクイーン。特にスケアクロウとか呼ばれてたやつは私達纏めて薙ぎ払われたからなあ。バグベアというらしいブギーマンには私達壊滅状態にされたし。そんなのがまだまだいるとか悪夢が過ぎるし、いくらオメガちゃんやヘカトちゃんでもそれを相手にしながらアイアンズを殺すのは至難の業だろう。

 

 

「やはり、オメガかヘカトを囮にしながらシェリーを奪い返して逃げる…しかないだろうな」

 

「やっぱり、そうよね」

 

「しかしクイーンが目覚めてよかった。正直エヴリンじゃ不安だったからな…」

 

『なんだとぉ!レオン!君は正しい!』

 

 

 悲しいことに正しい認識だ。私なんかよりクイーンの方が安心だろう。さて、レオンがベン・ベルトリッチから、クレアがブギーマン・バグベアから手に入れた地下駐車場入り口を開けるためのカードキー。ぶっちゃけ二つも必要なかったんだけどまさかもう片方にもあるとは思わなかったから仕方ない。

 

 

「おいエヴリン、マービンは大丈夫なのか?」

 

『多分?一度魂…というか正確に言うなら記憶…?が離れていたのを引きずり戻したから多分もう体から離れることはないかな…?』

 

 

 クイーンの問いかけに腕を組み悩みながらも答える。断言はできないんだよねえ、こんなこと初めてだし……まあ見たところ意識の混濁もなさそうだし大丈夫そう。レオンがカードキーを使って、例の頑丈すぎるシャッターが上がっていく。…これ引っこ抜けたら最強の盾になりそうなんだけどなあ、残念だ。

 

 

「…この裏手にはガンショップケンドがあったな。武器や弾丸を補充したい」

 

 

 地上への道を歩きながらクイーンがそんなことを呟く。そういえばそうだった。クイーンとアリサの古い知り合いであり指名手配になってなお銃や弾丸をクイーンに提供してくれていた、ロバート・ケンドの経営しているガンショップだ。その言葉に頷いたレオンたち。特にマービンはハンドガンしかないから心もとないだろう。少し歩けば、GUNSHOP KENDOと描かれたネオン看板が見えた。

 

 

「邪魔するぞ、ロバート」

 

 

 施錠されていた扉を、以前もらっていた合い鍵で開けて中に入るクイーンに続くレオン、クレア、マービン。外は銃を必要としないオメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃんの三人が見張ってくれている。中はひどい有様でめちゃくちゃに荒らされていた。パニックに陥った街の人にあらかた持ってかれたようだ。マービンが銃を向けて警戒し、ゾンビもなにもいないことを確認して銃を下す。

 

 

「ここがS.T.A.R.S.御用達のガンショップか……ひどい有様だな」

 

「あ、ショットガンのロングバレルよ。もらっていったら?レオン」

 

「ああ、そうさせてもらうよ…警官が窃盗か、始末書ものだな」

 

「…弾丸も少しは残っているみたいだな。鍵が閉まってたってことはロバートも残っているはずだが…奥か?」

 

 

 クイーンが奥に歩いていくと、ふと足が止まる。そこには置手紙らしきものが置いてあった。そこに記された見慣れた名前に反応したんだろう。

 

 

「これは……アリサの手紙か?」

 

『【ケンド。あなたが大丈夫なのは分かってるよ。何か事情があるのも。私達はみんなを助けないといけないから先を急ぐけど、きっと来てくれるって信じてる。アリサ・オータムス】【なにがあったのかは察するわ。でももし“他の手”が打てないような状況になったら行き先は分かるわよね? 力になるわ。ジル・バレンタイン】…そっか、アリサとジルは無事なんだ』

 

「いつの手紙かわからないが……あの二人なら大丈夫だ」

 

 

 ナチュラルに私の言葉にマービンが反応する。クイーンたち以外に声が伝わるのやっぱり違和感あるなあ。慣れないと。

 

 

「ケンドという人に何かあったということか…?」

 

「それもろくなことじゃなさそうね…最悪の可能性も」

 

「あいつは立派なガンスミスだ。ゾンビ程度には負けない確証がある。……問題はエマだな」

 

「エマ?」

 

「ロバートの一人娘だ。ロバートがここを離れない理由なんて、奴の妻かそれぐらいしか思いつかないからな。エヴリン、準備しとけ。最悪の事態も考えうる」

 

『マービンと同じようにだね。わかった』

 

 

 そうして、レオンが一番奥の居住区に入ろうとした、瞬間だった。レオンに、ショットガンの銃口が突きつけられた。

 

 

「動くな」

 

「なにもしない……俺達は味方だ」

 

「動くなって言ってんだろうが!」

 

「待てロバート!私だ、クイーンだ!そいつは仲間だ、撃つな!」

 

 

 明らかに興奮状態のロバート・ケンドにクイーンが呼び掛けるがしかし、クイーンにまで銃口を向けてくる。明らかに正常じゃなかった。マービンとクレアが銃を突きつけるが、クイーンが手で制す。

 

 

「クイーンか…!すまないがお前だろうと出て行ってもらう!誰もかれもだ!」

 

「どうした、なにがあった?お前の妻や、エマはどうした?」

 

「…妻は殺された。あの連中にやられたんだ、家族みんな……」

 

 

 ロバートの視線が背後に向けられ、全員の視線がそちらに向けられると、そこには寝間着姿の少女が呻き声を上げながら立っていた。生まれた時から知っている娘だ。心がキュッとなる。

 

 

「ウウ……アァ……」

 

「エマ、なのか…?エヴリン…」

 

 

 クイーンに言われるまでもなく、飛び込む。さっきやったばかりで力の消費が激しいけど、絶対に救って見せる…!

 

 

「…ロバート。エマは……」

 

「ああ、わかっている。わかっているさ!だけど、俺の娘なんだぞ」

 

「ウアアッ……クイーンが、きてるの…?パパ…ウゥ」

 

「エマ。そこを出るなと言ったろ」

 

「パパ…?わたし、どうなって…?ママは…?」

 

「大丈夫だ。パパはここにいる。ママは眠っているだけだ、安心しろ。…なあ、クイーン。お前たち警官だろ!?なんでこんなことになったんだ!?なんで俺たちがこんな目に遭う!?なあ!?俺たちの、天使だったのに……」

 

「っ…!」

 

 

 ロバートの言葉に唇をかみしめ、感極まった表情のクイーンがギリギリ理性を保っているエマに腰を下ろして視線を合わせ、抱き着く。呆気に取られるロバートの前で、クイーンの首筋に噛みつくエマ。

 

 

「ウアアアアアッ!!」

 

「クイーン、なにを!?」

 

「大丈夫だロバート。そうだ、大丈夫だエマ。私の仲間が今、お前を助けようと頑張っている。もう少し耐えろ。お前は強い子だろ…!」

 

「ウウウッ…!」

 

 

 何度も何度も噛みつくエマを、抱きしめて止めるクイーン。その時間稼ぎが上手くいって、マービンの時と同じようにエマの記憶を肉体に引き出すことができて、私は排出され、エマは崩れ落ちてクイーンに受け止められる。

 

 

『も、もう大丈夫……つかれた……』

 

「はあ、はあ…もう大丈夫だ。ロバート、抱いてやってくれ」

 

「クイーン、あんたは……」

 

 

 差し出されたエマを受け取りつつ、噛みつかれたクイーンに不安げな声を上げるロバートに、クイーンは苦虫をかみつぶしたような表情で続ける。

 

 

「私なら大丈夫だ。…すまないロバート。こうなったのは元をたどれば私のせいだ。すまない……」

 

 

 視線を下げ、懺悔するクイーンに。私達は声をかけることができなかった。




エマ救出。2編描くならこれだけはやりたかった。原作では序盤に死ぬだけで裏設定ぐらいしかなかったケンドがここまで出世した時、複雑な心境になったよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:21【地獄すら生温い末路】

どうも、放仮ごです。たびたび感想欄で渇望されていたあの瞬間がついにやってまいりました。今回は孤児院にて。楽しんでいただけたら幸いです。


―――――われわれの救いは死である。しかし、この《死》ではない。

 

フランツ・カフカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 私からT-ウイルスは生まれた。私さえいなければT-ウイルスは誕生しなかったかもしれない。こんな悲劇は起こらなかったかもしれない。そんな思いで懺悔し、視線を合わせることができず、目を伏せた私の肩に、ポンと手が置かれ顔を上げる。そこには、エマを抱っこして泣き笑いを浮かべたロバート・ケンドがいた。

 

 

「…なんでお前のせいなのかわからないが、お前はエマを救ってくれた。その事実だけで十分だ。ありがとう、クイーン」

 

「ありがとう、クイーン!」

 

『救ったの私ー!』

 

 

 視界の端でエヴリンがうるさいが、ロバートとエマの言葉に涙が出てくる。ああ、ああ。よかった……この二人を救えて、本当に良かった。

 

 

「ロバート、エマを連れてラクーンシティから出るんだ。ここはもうだめだ」

 

「ああ、そうする。クイーンたちは?来るんだよな?」

 

「生憎と、助けたい子がいるんだ。その子を助けたら私達も脱出する。安心しろ」

 

 

 シェリーを置いて逃げるつもりは毛頭ない。だけどロバート達が心配だ。いくらロバートが優秀なガンスミスだとしても、エマを守りながらじゃゾンビの数は脅威だ。せめてもう一人……すると、前に出た男がいた。

 

 

「それなら俺がこの親子をラクーンシティの外まで護衛しよう」

 

「マービン……いいのか?」

 

「ここは俺が適任だろう。……この子も俺と同じなんだろう?何かあった場合は俺の存在が役立つはずだ。シェリーのことは、任せたぞ」

 

 

 そう言うマービンの言い分も確かだ。マービンとエマはエヴリンが何とかしたが、何とかしただけだ。なにが起きるか想像もつかない。同じ境遇のマービンという存在はでかいだろう。マービンの掲げた拳に、拳を合わせる。

 

 

「ああ、任された」

 

「これでお別れのつもりはないぞ。必ず生きて再会するんだ。いいな?」

 

「ああ、約束だ」

 

「レオン、この意外と抜けている先輩のことは任せたぞ」

 

「任されました、マービン警部補」

 

 

 レオンが敬礼するのに合わせて、敬礼するとマービンも敬礼を返し、ロバートとエマを連れて裏口から去っていった。

 

 

「行こう。シェリーを連れてラクーンシティを出るんだ」

 

 

 決意新たな言葉に頷くエヴリン、レオン、クレアを連れて、私達もケンド鉄砲店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここが、奴の孤児院か」

 

 

 そこは、警察署の本当にすぐ傍にあった。……よく考えなくてもアイアンズが経営している時点で無理矢理にでも調べるべきだったな。いくら奴でも警察官、普通に孤児院を経営していると思っていたが希望的観測でしかなかった。子供たちがブギーマンにされていたとは……。

 

 

「これは……」

 

「全部ブギーマンか…?」

 

 

 子供たちの憩いの場だったであろう孤児院の庭には、ひょろっとしていてろくに食事を与えられてないと見れるつぎはぎの大男または大女がせめぎ合っていて。十を超えるそれがすべてブギーマンであることは目に見えて明らかだった。オメガとプサイの再生能力を知っていて、ぶちのめしてでも手に入れるつもりってことか。くそ野郎め。

 

 

「……こうなったら仕方ない。エヴリン、やるぞ。クレア、あとは任せた」

 

『こんな早く解禁することになるとはなあ』

 

「止めれる自信はないけどやるしかないわね…」

 

「なんのことだ?」

 

「でござる?」

 

 

 深呼吸し、クレアに呼びかけると何も知らないレオンとプサイが首を傾げる。最終手段だがこの数をまともに相手できるわけがない。クレアに後始末は任せ、エヴリンを憑依させる。

 

 

「みんな!一点突破よ!ここはクイーンとエヴリンに任せて突き進んで!」

 

「了承…!」

 

「援護するわ!」

 

 

 クレアの言葉にオメガとヘカトが頷いて道を作ってレオンたちを連れて突き進むのを見ながら、私たちヒルを繋ぎ合わせている菌根が活性化。結合部から溢れ出した菌根が全身を黒く染め上げていき、体が大きくなっていく。

 

 

「『We are family(私達は、家族だ)ィイイイイイイッ!』」

 

 

 咆哮と共にまだギリギリ覆われていなかった顔に手をかざし、仮面の様に菌根で覆って変身を完了させた私たちは真っ黒な顔が開いて現れた口を三日月の様に歪め、舌を出しながら笑みを形作る。ああ、気持ちイイ。この全能感は、心地よい。

 

 

「『遠慮しなくていいぞ!うん、遠慮なくぶちのめそう!』」

 

 

 私たちの変化に驚いているレオンに襲い掛かろうとしていたブギーマンの一体に、菌根の触手を足元に伸ばすことで横に跳躍して飛び蹴りを叩き込み、フェンスまで蹴り飛ばす。それでもレオンたちを優先して襲い掛かろうとするブギーマンの群れを、肘から先を枝分かれさせた両手を伸ばして捕らえ、全員勢いよく地面に叩きつけ、グルングルンと腕をブンブン振り回して周りに叩きつけていく!

 

 

「『アハハハハハッ!楽しい愉しい樂しい!…行ったか?うん、行ったみたい!』」

 

 

 ぶん投げたブギーマンたちがグシャグシャと音を立てながら地面に叩きつけられていくのを尻目に、レオンたちが孤児院内に入ったのを確認する。…もう抑える必要もないな。この高揚感に、身を委ねよう!

 

 

「『ウウ……ハァァ……ヴァァッ!!いい気分だ!嫌な事なんて忘れてしまおう!そうだそうしよう!お前らみんな!奴の犠牲者なんだろう!?』」

 

 

 咆哮を上げると、高所から落ちたぐらいじゃ死なないブギーマンたちはナックルウォークで取り囲みながら、しかし私に恐怖しているのか怖気づいている。やはり薬で弄られていても中身は子供か、気色悪い。吐き気がするぞアイアンズゥ!

 

 

「『来いよ。我々の救いは死である!しかし、この《死》ではない!…らしいぞ?片っ端から癒してやる!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クイーンとエヴリンにブギーマンたちの相手は任せて、中に突入する私、レオン、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃんの五人。ポピュラーな子供の遊び場の様なホールだ、だけど悍ましい血の匂いがする。

 

 

「どこなの?アイアンズ!お望み通り、オメガとヘカトを連れてきたわ!」

 

「シェリー!いるのか!?いるなら返事をしろ!」

 

「遅かったな。もうすでに取引は済んだぞ」

 

 

 そこに二階の吹き抜けに現れたのは、ブライアン・アイアンズ本人。傍らにはブギーマン・スケアクロウを連れている。

 

 

「ブギーマンの群れをどうやって突破したのやら…いや、姿が見えないクイーンが相手しているのか?薄情な奴らだ!ゲスめ!恥知らずどもが!」

 

「そんなことより、シェリーは!?」

 

「言っただろう。もう既に取引は終えた。シェリーは引き渡したよ、父親にな」

 

 

 なんだって?と問いかける前に、得意げに銃の様な注射装置と、赤黒い液体の入った容器を取り出して掲げて見せるアイアンズ。あれと引き換えにシェリーを引き渡したって事!?

 

 

「この、嘘つき!約束はどうした!」

 

「私はどっちにしろこのRT-ウイルスさえ手に入れればいいのだよ。取引相手も速い方を選ぶさ。私は気が短い方でね」

 

「シェリーはどこだ!教えろ、アイアンズ!」

 

 

 レオンが銃を向けるが、次の瞬間ブギーマン・スケアクロウが手すりを乗り越えて落下。巨大なつぎはぎの腕を振りまわし、咄嗟に構え飛び掛かろうとしたオメガちゃんとプサイちゃんを薙ぎ払う。ヘカトちゃんがムカデの腕を伸ばして剛腕に巻き付けるも、力が足りず引っ張られて壁に叩きつけられてしまう。私とレオンがハンドガンとショットガンを叩き込むも、ビクともしない。

 

 

「スケアクロウは文字通りの案山子だ。薬の影響で痛覚を感じなくてね。最強の手駒だ。さて、このままお暇させてもらおうと思ったが……気が変わった。あのウェスカーの様な力を私も手に入れたい。アンブレラに引き渡すRT-ウイルスのサンプルなら三匹もいるんだ。これを使っても構わないだろう」

 

 

 そう言って赤黒い液体の入った容器を注射器銃にセットし、興奮した様子で躊躇なく自らの腕に突き刺し、注入するアイアンズ。ゾンビやリッカー、ブギーマンたちがT-ウイルスの怪物で、オメガちゃんたちはRT-ウイルスから生まれた存在……そんな怪物に、アイアンズはなろうというの……!?

 

 

「フフフッ、ハハハハハハハッ!貧弱な人間の身体とはおさらばだ!私は、神の領域へと至る!フフフハハハハハハッ!……グハアッ!?」

 

 

 注射器銃を人間とは思えない握力で握りつぶし、高笑いを上げるアイアンズだったがその表情が苦悶のものへと変わる。ブシュウッ!と音を立てて弾けるアイアンズの全身の皮膚。まるで爆発したかのように破裂した肉体が逆再生でもするかのように元通りになっていき、ブクブクと肉が膨らんでいく。

 

 

「な、なんだ!?何が起きている!?ウェスカーの様な超人になれるんじゃなかったのかぁああアアアアッ!?」

 

 

 見る見るうちにブクブクと肥え太りまるで肉達磨の様になった全身を破裂させ血を噴出させながら、血と一緒に真っ黒な根っこの様なものが伸びて周囲のインテリアや壁、扉や天井を引きちぎって取り込みながら、あまりの重量で底が抜けて落下。ブギーマン・スケアクロウを赤黒く変色した肉で飲み込みながら膨張していくアイアンズ…だったなにか。まずい、このままじゃ私たちも……!?

 

 

「退避!外に逃げるわよ!」

 

「ああ、こいつはやばい!」

 

 

 慌ててオメガちゃんとプサイちゃんを私が、レオンがヘカトちゃんを助け起こして外に出る。最低最悪の怪物が誕生しようとしていた。




 今まで何度も言及してきたように、RT-ウイルスは適合する遺伝子が存在しないと意味がありません。例えばリサの遺伝子、例えば爬虫類、例えばT-ウイルスやG-ウイルス、例えばウェスカーの全適正遺伝子。それがないとどうなるかが今回のこれです。

 RT-ウイルスを普通の人間に使うと健康な部位まで再生しようとして細胞が弾けて肉だるまみたくなり、破裂していきます。そして菌根が周囲の物体をあつめて無理矢理再生、異形の怪物が誕生してしまいます。仮名はアナーキア(無秩序を意味するアナーキーから)。

自分から産まれたウイルスの凶悪っぷりにアリサは泣きそうだけどしょうがないね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:22【一木一草尽く】

どうも、放仮ごです。感想の心が一つになってて笑った前回。今回は変異アイアンズVSモールデッド・クイーン。楽しんでいただけたら幸いです。


 アイアンズに捕らえられ、孤児院に監禁された私ことシェリー・バーキンは、子供の頃からクイーンとアリサに育てられただけの普通の少女だ。両親はなにかの研究をしていて、愛してくれているのは分かっているけど一緒に過ごした記憶がほとんどない。私にとってはクイーンとアリサの方が親、もしくは姉妹と呼んで差し支えない存在だった。

 

 クイーンたちを待てなかった私は、孤児院からの脱出を試みたもののあと少しというところでブギーマンと呼ばれていた大男に捕らえられてしまいアイアンズに眠らされ、目を覚ますとどこかの家の中だった。視線の先には、白衣姿の金髪の男と黒衣の金髪の女がなにやらパソコンを見ていた。私が起きたことには気づいていないようだ。

 

 

「フフフッ、面白いことになったな。見てみろあの肉達磨の無様な姿!質量保存の法則を完全に無視している!素晴らしいぞアルバート!」

 

「下水道での実験でRT-ウイルスの特性には気づいていたからな。ごみを始末するにはちょうどいい」

 

「(パパ…?)」

 

 

 思わず開きかけた口を押える。男の方は私のパパだ。なら女の方はママ、なのが普通だがそうじゃなかった。サングラスをかけ長い金髪をオールバックにした女性だ。そこで思い出す、ママは怪物になったのだと。ママは怪物になったのに、パパはまるでそのことを悲しむそぶりを見せず、モニターの映像を見て()しげに()っていた。怖い、とそう思った。

 

 

「しかしアイアンズも私の何よりも大事なシェリーの取引にあんな不安定なウイルスを要求するなどバカな男だ。おかげで最愛の娘を取り返せたがね。奴の顛末を見届けたらさっさとおさらばするぞ」

 

「お前の妻はいいのか?せっかくG-ウイルスを投与したじゃないか」

 

「行方不明になった奴なんかどうでもいいさ。何ならシェリーを狙っているから完全に失敗だった。どこかで死んでくれてるといいが」

 

「シェリーを連れてこの街を去るなら奴の存在がネックだな。どこかで始末しないと永遠に追ってくるぞ」

 

「その時は任せたぞ。検査の結果、お前はこの世の最強生物に等しい。あいつに勝てるとしたらお前だけだ」

 

「ふっ、任せてもらおう。我が野望の糧としてくれる」

 

 

 駄目だ。パパは、怪物だ。自分の妻すら、私の母親のことすら人間を人間と思ってない、怪物だ。私のことをどれだけ愛してくれていても、この人は……私の父親とはもう、思えない。

 

 

「(逃げよう。クイーンたちに合流するんだ…)」

 

 

 隙を見て、寝かされていたソファから立ち上がりそっと扉を開けて廊下に出て、駆け出す。私の、本当の家族のもとを目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後頭部を掴み、膝蹴りに叩きつけて頭部を粉砕する。腕を斧に変えて突進しすれ違いざまにバッタバッタと縦に、横に、斜めに一刀両断していく。首を掴み、脊髄を引っこ抜いて蛇腹剣の如く振るって引き裂く。振るった瞬間に長く伸ばした足を刃に変えてまとめて腹部を両断する。両手にブギーマンの頭を掴み、跳躍して着地と同時に他のブギーマンに頭から叩きつけていく。胸を掴み開くようにして割けるチーズの如く引き裂いて投げ捨てる。

 

 

「『アハハハハハッ!!悲しくなるな!どうしたってこれが隠しきれない本性だ!』」

 

 

 血の雨が降り注ぎ、それを一身に受けて舌なめずりする。笑いが止まらない。笑わないとやってられない。ちょっと遊んだだけでこれだ。菌根で共有した記憶に残る、知らない誰か(イーサン)の戦い方を羨ましいと思った。こいつらを眠らせてやるとかそんなの建前だ。私達が殺したい、私から生まれた形ある罪をなかったことにしたい。自分勝手な邪悪さ。名前通り、御伽話に出てくる悪い女王様そのものだ。

 

 

「『逃げまどえ!私は罪もないお前たちを気儘に滅ぼす悪い女王様だ!フハハハハハッ!!』」

 

 

 そう嗤い、逃げようとする残るブギーマンを駆逐しようとした。その時だった。時間にしてクレアたちが孤児院に入って行って程なくして。クレアたちが慌てた様子で出てきて、私達の姿を見てギョッとする。しかし気にしてられないとばかりに、私達の横を通り抜けて孤児院の敷地の外に出ようとする。そこに、シェリーの姿はなかった。

 

 

「『おい、シェリーは……』」

 

「クイーンも早く逃げて!」

 

「飲み込まれるぞ!」

 

「『ああ?』」

 

 

 クレアとレオンの警告の声に、振り向く。そこには膨張して隙間や窓に扉から赤黒いぶよぶよしたものが溢れ出していく孤児院だったものがあって。黒い触手……菌根が伸びて生きているブギーマンやブギーマンの残骸を縛り上げ、引きずり込んで取り込んでいく。私にも伸びてきたが、鋭く伸ばした指で引き裂いて迎撃する。瞬間、菌根を通じて流れ込んでくる吐き気を起こさせる記憶。

 

 

「『今のクソみたいな記憶は……アイアンズか。どうした?随分大きくなったものだなあ?』」

 

「クイィイイイイイインンンッ!!!」

 

 

 老若男女の何人かの声が重なったかのような耳障りな声で私を呼びながら、肉塊に浮かび上がった複数の目が私たちを睨む。孤児院そのものと一体化した、無秩序にブギーマンの物であろう手やら眼やら口やらが存在している、ブヨブヨの贅肉の巨人がそこにいた。端的に言ってかなり気持ち悪い。

 

 

「お前がああああ、お前が私のものにならないからぁああああっ!!私は満足できなくて、こんなことにぃいいいいっ!!」

 

「『知るか。お前の自業自得だろう。クソデブクズヒゲ悪趣味肉塊狸』」

 

「こうなればあああああああっ!お前も私のものにしてやるぁあああああっ!!」

 

 

 ブシュッ!ブシュッ!と血を吹き出しながら、菌根と肉の入り混じった巨大な触手を幾本も伸ばしてくるアイアンズ。私達(エヴリン)の欠片が奴と一体になっていると思うと吐き気がする。一瞬で終わらせよう。まっすぐ伸びてきた触手を、大剣に変形させた右腕で縦に一刀両断。両腕と指を長く鋭く伸ばし、カチカチと刃を擦らせる。

 

 

「身の程知らずの雑魚がっ!! 雑魚は雑魚らしく、捻り潰してやるよっ!!」

 

「私と一つになれえええええ!!クイィイイイイイインンンッ!!!」

 

 

 触手が私達に殺到するが、正面からぶつかり切り刻んで対抗する。とんでもない質量だが今の私達には関係ない。切り裂かれた触手の欠片欠片をブギーマンに変形させて一斉に襲い掛からせてくるアイアンズだったが、逆に首根っこを掴んでぶん投げて攻撃。

 

 

「『落とし物だぞ、返却してやる』」

 

「ギャアァアアアアアッ!!??」

 

 

ミサイルの如く突き進んでいったブギーマンは、アイアンズへの恨みを晴らすかの如く次々と激突して肉を破裂させていく。そして両足を飛蝗とチーターのいいところを混ぜたような形状に変えるとグググッとバネの様に縮ませ、射出。音を突き破り、音速で突撃しながら両腕を振り回してアイアンズの触手を血肉の雨に変えていく。

 

 

「『恐怖しろ、そして慄け…!一切の情け容赦無く!一木一草尽(いちもくいっそうことごと)く!今までの鬱憤纏めて全部乗せて、殺し尽くしてやるから感謝しなあ!アハハハハハハハッ!!』」

 

「や、やめろお……来るなぁあああ……!?」

 

 

 高笑いを上げながらズタズタに引き裂きつつ全身を駆け回っていくと望み通りの恐れ慄いた声を上げるアイアンズ。こんなざまになっても死にたくないらしい。ここまで生き汚いともはや笑えてくる。皮膚を蹴り破りながら天高く跳躍。月光を背にしながらゴキゴキと背中を蠢かせて二対目の両腕を生やしながらくるりと反転、急降下する。

 

 

「『ひとつだけ感謝するよ!お前だけは、なんの後顧の憂いなく!気持ちよく殺せる!ヒャアハハハハハハハ!!!』」

 

「しにたくなあぁああああああっ!?」

 

 

 そして四本腕すべての指を突き刺してブチブチブチ!と筋繊維を引き裂きながら着地。全身を切り刻まれたアイアンズは断末魔を上げて、物言わぬ肉塊と化したのだった。

 

 

「『Go to hell(地獄へ落ちな)!地獄の沙汰も金次第と言うが、お前はどうだろうな?』」




途中某邪悪の王になったのはエヴリンのせい。

見せ場なんてやるわけがなかった。再生能力が高いだけで別に死なないわけじゃないのよね。自殺はできないのでやけになった結果、クイーンが欲しかったと吐露して取り込もうとする辺り最期まで気持ち悪い男。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:23【神風(バードストライク)

どうも、放仮ごです。RE:2基準だけど、オリジナルの2が初めて知ったゲームのバイオだったんで思い入れ深いので今回の場所が舞台になりました。シェリーsideの話。楽しんでいただけたら幸いです。


 ラクーンシティ下水処理場地上。カラスが街の明かりに照らされる夜空を飛び交うそこを、少女は走っていた。

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 

 ウェスカーとウィリアムが潜んでいた孤児院近くのセーフハウスから抜け出した少女、シェリー・バーキンは恐怖と焦燥に襲われながら、ひたすら走っていた。人間でありながら心が怪物な父とその相方から逃げるためでもあるが、なによりも生きたい、その一心から走っていた。その原因は夜空にいた。

 

 

カア!

    カア!

       カァー!

   ガァー!

ギァー!

  グエーッ!

 

 

 けたたましく鳴り響く悪魔の鳴き声。地上の光を受けて夜空を飛んでいるカラスの一体がシェリーに気付き、甲高い鳴き声を響かせて仲間を呼び寄せる。それは空を埋め尽くすとんでもない数の群れで、カラスの群れは空中で渦を巻いて吸い込まれるように集束していくと、人型を形作りバサアッ!と黒衣を翻して滑空する。三メートル以上の巨体で、黒い羽毛のローブを身に着けているような死神を彷彿させる黒づくめの女の姿をした怪物。警察署にてエヴリンたちと対決し、敗北しその場を飛び去って行ったモリグナだった。

 

 

どうした?近寄ってきたのはお前の方だろう小娘。大人しく私の餌となれ!

 

「アリサと思ったの!全然違った!私が馬鹿だった!」

 

 

 先刻、逃げ出した先の路地裏で、他のカラスを捕食して感染させてやられた分を補充していたところに、アリサとそっくりな顔から勘違いしたシェリーが話しかけたのが運の尽きだった。すぐに違うと気付いたものの目を付けられてしまった。

 

 

アリサ?知らんな…!私はモリグナ!…というらしいぞ!

 

 

 自らを作り出した男から与えられた名を得意げに名乗りながら、首から下の右半身をカラスの群れに戻して高速で突撃させるモリグナ。シェリーは羽ばたく音を聞いて視線だけ動かし、真っすぐ飛び込んできたカラスの神風攻撃(バードストライク)を、飛び退いて回避。次から次へと飛んでくるそれを、立ち止まり、身体を逸らし、なんとか避けていくシェリー。

 

 

活きがいいな!貪り甲斐がありそうだ!

 

 

 今頃ミンチになっているであろうシェリーの奮闘に、感心し右半身を元に戻すと、黒衣を巨大な翼に変化させ加速するモリグナ。

 

 

「…クイーンとアリサとの遊びが、役に立った…!」

 

 

 対してシェリーはある種の達成感を感じていた。遊びを知らないクイーンとアリサ、エヴリンの三人がシェリーの世話をしていた時に思い付いてやることにした、数々の遊び。触れたら終わり、だから当たらなければ勝ちという逆張りな鬼ごっこ。鬼の動向を確認しながら身を隠しつつ移動していいため終わりが見えない、かくれんぼ。一挙手一投足を確認してどんなに小さな動きでも見逃さないようにする、だるまさんがころんだ。大人げなく全速力でダッシュし全力で蹴り飛ばす缶蹴り。などなど。エヴリンが過去(未来)の体験から考案し、大人げないクイーンとアリサを相手にするため妙に殺伐としている遊びの数々が、無意識ながらシェリーの動体視力と筋肉を鍛えていた。

 

 

ちょこまかと……だがこれで終わりだ

 

 

 しかし無力な子供であることに変わりはない。加速した勢いのままにカラスの群れに分離したモリグナに先回りされ、真っすぐな一本道で二体の人型を形成したモリグナ二人に前後を囲まれてしまい急ブレーキし、周りを見渡すシェリー。子供の身ならば小さな穴さえあれば、と視線を巡らせるがそれらしい逃げ場はなかった。

 

 

「やだ、助けてクイーン、アリサ…!」

 

「「助けを乞え、嬌声を上げろ。甲高い悲鳴を聞きながら貪るお前の味はさぞかし甘美だろう」」

 

 

 自我を同一させているため揃って同じセリフを吐くモリグナがぺろりと舌なめずりする。頭にあるのは食事と繁殖、それのみの本能で動くモリグナに命乞いは通用しない、しかし、大きな声を上げたことで希望は繋がった。

 

 

ズダダダダダダッ!!

 

ぐぬっ!?

 

「え!?」

 

…なんだお前は?

 

 

 突如頭上から掃射された弾丸の雨でシェリーの背後にいたモリグナを構成していたカラスの群れが撃ち抜かれて生き延びたカラスが飛び立ってもう一体のモリグナと一体化。突然の出来事に驚くシェリーの前にいたモリグナが、建物の上に視線を向ける。そこには、ベージュのコートを着た女性がサブマシンガンを構えて立っていた。

 

 

「シェリー・バーキンね。逃げなさい!」

 

人の獲物を横取りするつもりか、赦さん!

 

 

 一瞬でカラスの群れに変わり、空に飛び立ったモリグナに、空っぽになった弾倉をサブマシンガンから抜いて投げ捨て、ポケットから取り出した弾倉を装填して空に弾丸をばら撒く女性の声に、慌てて逃げ出して近くの建物に入って様子を窺うシェリー。

 

 

お前もあの子供も、等しく私の餌に過ぎない!

 

「ようやく保護対象を見つけたと思ったらとんでもない怪物と出くわすなんて、運が悪いわね」

 

 

 そうぼやきながらも、次々と神風攻撃(バードストライク)を仕掛けてくるモリグナの猛攻を、華麗な身のこなしで回避しながらサブマシンガンをしまって代わりに引き抜いたハンドガンで、すれ違いざまに空を舞うカラスに弾丸を叩き込んでいく女性。そのスタイリッシュな戦い方に、シェリーは窓越しに見惚れていたが次の瞬間、窓ガラスを突き破ってきたカラスにパニックになりながら建物の奥まで逃げる。

 

 

「キャアアアアッ!?」

 

まずはお前からだ!

 

 

 次々と扉や窓ガラスを突き破りながら建物の中に集結したカラスが、人型を取ってモリグナに変身。黒衣を翼に変えて狭い室内を飛びまわりながら、裸足の足を大きな猛禽類の様な爪脚に変化させて蹴りつけてシェリーを拘束しようとするモリグナ。そこに、ワイヤー銃のようなものを使ってズタボロの扉を蹴り破りながら女性が着地。

 

 

「逃がさないわよ」

 

ぐっ、ぬう!?

 

 

 手にしたサブマシンガンを掃射し、シェリーに当てずにモリグナだけに当てるという神業を繰り出す女性に、身体を構成しているカラスを殺されすぎてさすがに怯むモリグナ。シェリーを狙うことをやめて、翼を羽ばたかせて入り口に立つ女性まで一瞬で肉薄、猛禽類の様な爪脚を蹴りこみ引き裂かんとするモリグナだったがしかし、女性は銃口にフックがついた大型の銃を取り出すとモリグナの胴体目掛けて引き金を引き、ワイヤーがついたフックを射出。

 

 

「プレゼントよ」

 

ぐはああああああっ!?

 

 

 背後の壁にフックが引っかかったことを確認すると、飛び蹴りの体勢となりワイヤーを縮めて飛び蹴りを叩き込み、モリグナの胴体をぶち抜いて背後に着地する。体の大部分をごっそり失ったモリグナだったカラスが羽ばたいて、窓から飛び去っていった。

 

 

「…完全に倒せなかったみたいね。まあいいわ。優先すべきはあなたの安全だもの」

 

 

 そう言って、カラスの死骸と飛び散った血痕まみれになった部屋で、返り血で服を汚して怯えていたシェリーに、手を差しのべる女性。

 

 

「初めまして。エイダ・ウォンよ。貴方のパパの…その友人の知り合いよ。私に守らせてくれるかしら?」

 

「パパの…?」

 

 

 父親の、と聞いて明らかに警戒するシェリーに、困った顔を浮かべるエイダ。これは手ごわそうね、と嘆息し、通信機を取り出して連絡を入れる。

 

 

「私よ。目標の少女と合流したわ。…え?既に確保済み?目の前にいるけど?…どうやら逃げられたみたいね。連れて行くわ。って、待ちなさい!」

 

「い、いや……」

 

 

 エイダが連絡している間にそそくさと移動して建物の外に出るシェリー。エイダも慌てて追いかけるが、次の瞬間シェリーの目の前にカラスが集まってモリグナが再度形成される。近くのカラスを襲って回復してきたのだ。

 

 

二度も餌を(のが)してなるものか…!

 

「性懲りもなく…!」

 

 

 シェリーの胸ぐらを掴んで持ち上げるモリグナに、ハンドガンを向けるエイダだったがしかし、それが撃たれるより前に、モリグナの背後に着地して大きく引き裂いた者がいた。右肩に巨大な眼を見開かせ、下水に濡れた白衣だったものを着ている女性。…G生物と化したアネット・バーキンだった。

 

 

「シェリィイイイ!!」

 

「ママ…!?」

 

 

 己を助けた者が母親だと知るや否や輝いたシェリーの顔が、次の瞬間には恐怖に歪む。クイーンたちの知らないところで、少女の危機が襲い掛かる。




魔改造シェリーと多分別のナンバリングからやってきたエイダさん。モリグナ、神風をいくらでも出せるから火力だけならイブリースに並ぶかもしれない。

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file2:24【アリゲーター・ステュクス】

どうも、放仮ごです。2は警察署→下水道→研究所となっているので、中盤になります。…いや2はボリュームすごいのでここまでで24話かかるのはしょうがないと思うんだ。

今回は新たなリサシリーズ登場。楽しんでいただけたら幸いです。


~とある研究員の記録~

 モリグナに引き続き、数少ない成功例の傑作について記録しておこうと思う。被検体は下水道に捨てられていたペットだったと思われるワニ。RT-ウイルスの特性上相性のいい爬虫類であり、やはりというか適合した。アルバート・ウェスカーと言う成功例こそあるがあれは異例中の異例であり、普通に人間に使うと「アナーキア」と仮称した肉塊になってしまうのが実に口惜しい。ウェスカーの遺伝子が羨ましい限りだ。この時点でも兵器としては及第点だが、私の理想とする「RT計画」の遂行のためにはやはりこの問題点を改善しないといけない。要研究だ。

 

 脱線したので話を戻すとしよう。最初は小型だったが、脱皮を繰り返しながら化学廃棄物や汚染物質を貪欲に食らい続け、恐竜のような圧倒的巨体へと異常成長を遂げた。最終的に下水道の大きな通路すら埋め尽くす10メートルにまで巨大化し、レントゲンで確認したところ、ヨーン・エキドナと同じ変異を確認した。RT-ウイルスに含まれたリサ・トレヴァーの遺伝子から、これまでの被験体と同じく彼女の形態をとろうとしているようだ。やはり強力な遺伝子情報だ。

 

 故に私はステュクスの名を与えようと思う。ギリシャ神話に登場するテテュスの娘の1人である女神の一柱、あるいは冥界を流れる5つの大河の内で生者と死者の領域を峻別する川の名称だ。ウイルスの実験体が数多く廃棄されていたり潜んでいたり(例:ハンターγ)する、生者と死者の蠢く、下水道の食物連鎖で頂点に君臨する捕食者にぴったりな名前だろう。…ワニ関連の神話が少ないため名前を考えるのに難儀したのは内緒だ。アリゲーター・ステュクス。なかなかいい名前ではないだろうか。

 

 巨体でありながら異常に俊敏であり、見た目にたがわず食欲旺盛でとりあえず目の前の物体には何にでも噛み付いてしまう貪欲さと凶暴さを有していて、その巨大な顎で噛み付かれるとひとたまりもない。驚異的な頑強さを有する皮膚も強みの一つだ。あれは銃弾すら通さない。だが人型になればこの特性はなくなってしまうだろうことは容易に想像がつく。どう適応するか実に見ものだが、モリグナと同じくここに置いていくしかないのが実に口惜しい。

 

1998年9月 サミュエル・アイザックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再生許容量を超えたのかドロドロと腐り果てていくアイアンズだった肉塊を見下ろし、私達は月を仰ぎ笑い声を上げる。

 

 

「『アハハハハハッ!」最期まで汚い奴だったなあ!次の獲物を探しに行くぞォ!』」

 

「待ちなさい」

 

「『ギャアアアアッ!?』」

 

 

 しかし大きすぎる隙を突かれて焼夷弾を撃ち込まれ、炎上。燃え転がりながらエヴリンと分離し、ゴロゴロと転がってなんとか鎮火する。

 

 

『あちゃちゃちゃちゃっ!?…体ないなったから熱くないや!』

 

「……この解除方法どうにかしないとな」

 

「本当にね」

 

 

 立ち上がり、溜め息を吐きながら振り返れば呆れているクレアとレオン、おっかなびっくりしているオメガとヘカトとプサイがいた。

 

 

「クイーンとエヴリン、怖い……」

 

「私も震えが止まらないわ…」

 

「鬼でござる悪魔でござる……」

 

「そこまで言われると傷つくんだが?」

 

 

 どうやらB.O.W.組はモールデッド・クイーンの凶暴さに本能的に恐怖を抱いてしまったらしい。オメガすらプルプル震えてるから相当だ。するとクレアとレオンがなにか考え込んでいる様子だった。

 

 

「それより、アイアンズを倒せたはいいけど……」

 

「…シェリーは既に取引で引き渡したと言っていた。心当たりはあるか?」

 

「十中八九シェリーの父親だろうな。ウィリアム・バーキン。…アンブレラの研究者だ」

 

『セルケトがヨーロッパに行っている時に限って出てくるとか可哀そうだねえ』

 

 

 そうだな、とエヴリンの言葉に内心頷く。ウェスカーとバーキン絶対殺すマン、いやウーマン?のセルケトからしたら最高の機会だろうに。

 

 

「ウィリアムがいるとしたらNESTと呼ばれているラクーンシティ地下にあるアンブレラの研究所だろうか。下水道を通れば行ける、と以前エヴリンが言っていた」

 

『壁抜けても相当時間かかったけどね』

 

「なんだって?下水は公共のものだ。どうやったらこんな場所を使える?」

 

「ここは企業国家アメリカだ。ラクーンシティはアンブレラの支配下なんだよ。残念なことにな」

 

「そこに行きましょう。シェリーを放ってはおけない」

 

「そこにいけばアンブレラの悪事の証拠も掴めるかもしれない。FBIのエイダに渡すことができたら、アンブレラを潰すというクイーンたちの目的にも近づくはずだ」

 

「…できればクレアとレオンはラクーンシティから脱出させたいところだがどうせ言っても来るんだろ?」

 

 

 そう尋ねるとノータイムで頷く二人にため息を吐く。まったく、若者というやつは……

 

 

『クイーンも言うて19歳ぐらいでしょ』

 

「そういうお前は実年齢51歳ぐらいだったか?」

 

『言ったな!たしかに2004年ぐらいの生まれで2037年から1980年に飛んできてそれから18年過ごしてるけど!……ふんだ!ミランダよりはまだまだ若いんだからね!』

 

「お前の言動から年相応さを感じないんだが……」

 

「「?」」

 

 

 エヴリンと馬鹿なことを言い合ってたら見えないクレアとレオンが首を傾げる。しまった、気を付けないとな。

 

 

「こっちの話だ。下水道の入り口は確か、ケンドの鉄砲店の横が近道のはずだ」

 

 

 私が先導して案内する。しかしヘカトの腕がなかなか回復しない。ごっそり持って行かれたからさすがに十数分でも無理らしい。いや、エヴリンが無理やり体に大人の記憶を宿らせたせいで能力が落ちているのか?

 

 

「ヘカト、大丈夫か?」

 

「この痛みもまた愛よ…」

 

「大人ヘカト殿よくわからんでござるな」

 

 

 B.O.W.トリオのコントみたいな会話を聞きながら、最近地響きが原因の地盤沈下を修復していた工事現場の足場を通り、下水道のパイプの前に辿りつく。ゴクとマゴクの調子を確かめ、弾倉を確認する。…まだ大丈夫そうだな。すると、パイプの中から悍ましい咆哮が聞こえてきた。

 

 

グオォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 

「…何がいるっていうの…?」

 

「俺が先に行く。女性に危険を冒せられない」

 

「レディーファーストと言うだろう。ケネディ巡査殿。ここは先輩の私に譲れ。もっとも、もう警官でもなんでもないがな。ヘカト、殿は頼んだ」

 

「任されたでござるよ!」

 

 

 レオンが先に入ろうとしたので手で制し、中に入っていく。狭いな。ヘカトでギリギリか。襲われたらひとたまりもないな。そう思った瞬間、地響き。揺れたことでヘカトが頭をぶつける。

 

 

「愛を感じないわ……」

 

「あなたの基準がわからないわ…」

 

「なんだよ、今のは地震か?」

 

「さっきの大穴も地響きでできたものだ。何かがいるぞ、気を付けろ」

 

『じゃあ見てくるねー』

 

 

 そそくさと壁を抜けていくエヴリン。しかしすぐ戻ってきて、何事か聞こうとすると慌てた顔でシーッと指を立てる。

 

 

『やばいやばいやばいやばい!都市伝説だけで十分なのがいるよお!』

 

誰だあああああッッッ!!

 

 

 するとエヴリンの慌てた声に反応して響き渡る大声。女の声だが、まるで咆哮の様だ。そして曲がり角の向こう、広々とした通路をズシンズシンと足音を立てながら歩いてそれは現れた。

 

 

人間はぶち殺す……!俺をこんな姿にしやがったアイツも殺す…!

 

 

 それは、途轍もなくでかかった。前傾姿勢で下水道を歩く7メートルを超える巨体の女。全身のところどころを覆った黒緑色のとげとげとしたフォルムの鱗。鋭い爪が生え揃った黒緑の鱗に包まれた両手で壁を引っ搔き、腰から伸びた鱗に覆われた尻尾が揺れて壁を粉砕、口には鋭く細かい牙が生え揃っている、やはりというかアリサによく似た顔は殺意に満ち満ちていて、爬虫類特有の瞳孔を持つ赤色の瞳がギョロリと動いてこちらを睨むと壁を引き裂いて道を無理矢理拡げる。……こいつは、ヤバイ。




数えてみたら50歳ぐらいだったエヴリン。年相応にしてほしいですね。

殺意の塊な俺っ娘アリゲーター・ステュクス。珍しく今の姿に嫌悪感丸出しです。理由は次回にて。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:25【下水道の怪物】

どうも、放仮ごです。書いていて申し訳なかったクリーチャー、リサを超えて第一位アリゲーター・ステュクス。昔からドSだなんだ言われてるけど、設定を考えている時の僕容赦なさすぎないかなあ?

アリゲーター・ステュクスの独白から始まります。楽しんでいただけたら幸いです。


 かつて俺は、人間のペットだった。俺の飼い主は軽薄な男だった。拍を付けようと幼少期の俺を買い取り、俺の存在を誇示して優越感に浸るクズだった。そのくせして餌もろくに与えられず、しまいには邪魔だとして下水道に捨てられた。死ぬかと思った。汚水に浸かり、廃棄物を喰らって腹を下し、それでも空腹を紛らわせるために目につくものは片っ端から喰らった。そうしているうちに、俺は捕縛された。

 

 自らをサミュエル・アイザックスと名乗った男は「このような悪環境で生き抜くなど、神の慈悲に等しい!」「お前は女神に選ばれた!」「お前は女神の御子となるのだ!」とか訳の分からないことを言いながら、拘束した俺の口内に注射をしてきて、そのまま飼われるのかと思いきや、再度下水道に捨てられてしまった。

 

 耐えがたい空腹のままに目につく者すべてを喰らい尽くした。食べれば食べるほど、食欲が支配する。食べれば食べるほど、この身は脱皮を繰り返し大きくなる。食べれば食べるほど、生命力が溢れ出す。餌はいくらでもあった。アイザックスのいた研究所から流れ出した化学廃棄物や汚染物質、捨てられた生ける屍、巨大化したネズミ、ゴキブリ、たまにやってくる生きた人間etc……あの飼い主だった男に飼われていたときよりも充実していたある日、違和感を感じた。

 

 身体の中に、なにかがいる。四肢を持ち、丸い頭を持ち、尻尾が生えた何かが身体を重なるようにして存在している。吐き出そうにもまるで体の一部かの様に引っ付いて吐き出せず、しかし違和感がぬぐえない。するとまたアイザックスに捕らえられ、なにやら機械で調べられた。なんでも「ヨーン・エキドナと同じ変異を確認した」とかなんとか。そのままアリゲーター・ステュクスと名付けられ、また下水道に返された。なんなんだ。

 

 次の脱皮で、完全な異変が起きた。また大きくなると思っていたが違った。むしろ縮んでしまった。体内に感じていた違和感は、次の俺自身だった。尻尾の大きさはそのまま体躯は一回り縮んで、指も鱗と鋭い爪はそのまま長く伸びて物を持てるようになり肘から上の鱗が消えて柔らかな皮膚が丸出しに、足も長く足先以外皮膚が柔らかになり、骨格まで変わって身長のせいもあって屈まないといけないが立つしかなくなった。全身を見渡せば屈強な鎧に覆われた巨体は失われ、脱皮しきれなかった鱗が所々にくっついた華奢な肉体になっていて、まるで人間の様で。まさかと思い、ひび割れた鏡を見やれば、黒緑の長髪と縦に細長い瞳孔の赤い瞳と鋭い牙が生え揃った口を持つ、何よりも大嫌いな人間の姿がそこにあった。

 

 

そんな、嘘だ…!?ウォオオオオオオオオオアアアアアアアアアッ!?

 

 

 人の声を紡ぐ己が口に、咆哮を上げる。俺は人間が嫌いだ。捨てては拾い、捨てては拾い、淡い希望を抱かせて勝手な都合で俺を捨てた人間が大嫌いだ。思わず、鋭い爪で我が身を引き裂く。しかしすぐ傷が塞がってしまう。傷つけることも叶わないだと……?

 

 

赦さん、許さん、ゆるさんぞぉおおおっ!サミュエル・アイザックスゥウウウウッ!人間なんか大嫌いだぁああアアアアッ!

 

 

 そう吠えても、奴がどこにいるかわからない。人間もこんなところめったに来ない。溢れる怒りをぶつける矛先もなく、ひたすらやけ食いしていたそんなときに、奴らは現れた。

 

 

人間はぶち殺す……!俺をこんな姿にしやがったアイツも殺す…!

 

 

 人間だ。それもたくさん。なんか腕がおかしいやつとかいるけど関係ない。人は殺す、殺し尽くす。

 

 

「なんだこいつは…!?」

 

俺を見たな?殺すッ!

 

 

 今の姿を見られることすら耐え難い屈辱だ。許さん、人間ども許さんぞぉおおおおっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかオメガちゃん(フォルム)とヘカトちゃん(でかさ)とヨーン・エキドナ(鱗と尻尾)とネプチューン・グラトニー(牙)を合体させたようなくそでかオメガちゃんとも言うべき女が出てきた件について。しかも殺意マシマシ。大将!こんなフルコース頼んでませんが!?(錯乱)

 

 

「ちい!」

 

 

 壁を引き裂き崩しながらの爪の斬撃を、糸を飛ばしてくそでか女の肩の横をすり抜けて回避するクイーンだったがしかし、尻尾が叩きつけられてビターンと壁に激突する。

 

 

「クイーン!?」

 

なにかしたかあ!

 

 

 ぐったりするクイーンの首根っこを掴んで持ち上げ、鋭く細かい牙の生え揃った口に入れようとするくそでか女の背中に、グレネードランチャーが炸裂。炎上するがくそでか女はクイーンを手放して振り返り睨みつけ、怒ったのか大口を開けて、四つん這いで地面を引き裂きながら突進。慌てて回避したクレアのいた向こうの壁に噛みついてパイプに牙が食い込みつっかえる。やったぜ。

 

 

『さすがクレア!』

 

「今だ!」

 

 

 そこにレオンの号令でレオンのショットガン、クレアのグレネードランチャーの榴弾、オメガちゃんとプサイちゃんの飛び掛かり斬撃、ヘカトちゃんのムカデ腕突撃が連続で背中に炸裂。しかしくそでか女は背中を覆う刺々した鱗で弾き飛ばして怯みもせず、両手で壁を引き裂いて掴むと、ぐるりと体ごと回転。なんとパイプを捩じって引きちぎると、爪でバラバラに引き裂いて縮めると噛み砕いてしまう。今のデスロールでわかった。この子、ワニだ。ジャックと最後に戦った時以来だな!

 

 

小癪な真似を…!

 

「全員、逃げろ!」

 

 

 そこで一瞬の気絶から目を覚ましたクイーンが声を張り上げる。瞬間、オメガちゃんはレオンを、ヘカトちゃんはクレアを抱えて下水道の水路を別の方向に駆け抜けていき、ヘカトちゃんが右腕を伸ばして逃げようとするが長い尻尾がヘカトちゃんの足に巻き付き、ワニ女はヘカトちゃんを無理矢理引き戻すと大きく腕を振るい、斬撃を叩き込んだ。

 

 

「しまっ……!?」

 

人間、八つ裂きだ…!

 

「エヴリン、ヘカトを!」

 

『わかってる!』

 

 

 ヘカトちゃんの身体が六等分にバラバラに切り裂かれ、血を流しながら転がっていくのに私は飛んで追いつき、なんとか頭と首下の胴体だけは菌根で繋ぎ合わせ、クイーンはその上を糸を飛ばして飛んで飛び蹴り。糸の反発を利用した音速の飛び蹴りだ。衝撃は計り知れない。

 

 

無駄、だあ!

 

「なんだと!?」

 

 

 それを頭部で受け止めたワニ女はグググッと押されながらも力づくで跳ね飛ばし、天井に叩きつけられたクイーンが落ちてきたところに噛みつき攻撃。右腕を噛みつかれたクイーンは引き抜こうとするが、それより先にデスロール。クイーンは回転して振り回され、遠心力で肘から先の腕をねじ切られて、右腕がちぎれたクイーンは水切りの様に下水道の水面を跳ねていき、複数の下水道が集まる広々とした空間で壁に背中から激突する。

 

 

「ぐっ、ああああ……」

 

覚悟しろ!にんげ……ん?

 

 

 ワニ女は噛みちぎったクイーンの右腕を咀嚼しながら、その壁を掴んで引き裂き巨体が通れる道を作りながら追撃しようとするが、血が流れないどころかヒルが蠢いているクイーンの傷口を見て首を傾げる。人間だと思ってたら明らかにそうじゃなかいから疑問が浮かんでるんだろうか。今のうちにヘカトちゃんを治さなきゃ……。

 

 

「生憎だったな……私は人間じゃないぞ」

 

 

 首を傾げているワニ女の足元に糸を飛ばして懐に潜り込み、片手で逆立ちして上段蹴りを顎に叩き込むクイーン。さらにヒルを右肘に集めて右腕をちょっと細身ながらも生やして再生、ひっくり返ったワニ女の尻尾をクイーンは両手で掴んでグルグルと振りまわし、投げ飛ばして壁に頭から叩きつける。

 

 

俺を害するなら、人間じゃなくてもお前も敵だ…!

 

「…超再生に頑強な肉体……とんでもなくタフなだなお前」

 

『クイーンにだけは言われたくないと思う』

 

 

 とりあえずヘカトちゃんは繋いだけど…ショックで気絶してるな。レオンとクレアは一撃で殺されるだろうからオメガちゃんヘカトちゃんともども退避させたし……どうしようねこれ。多分イブリースとかにも勝てないとは思うけど、モールデッド・クイーンでも勝てる気がしないと思う奴は初めてだ。




そりゃ人間恨むし自分の姿に嫌悪を抱くよねって。T-ウイルスとかで汚染されたものばかり食べてたから手に入れた驚異的な再生能力+強固な皮膚のタフさ、尻尾と爪、デスロールによる攻撃力を有するアリゲーター・ステュクス。これまでのリサシリーズのてんこ盛りみたいな存在です。

再生力が高いばかりに高確率で被害者になるヘカトちゃん。さすがにエヴリンがカバーしないといけないレベルの重傷。ヘカトちゃん、プロトタイラントRにやられたりしてるけど防御力自体はトップクラスに高いので相手が悪すぎるだけなんですよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:26【愛情を知らぬ子供たち】

どうも、放仮ごです。エヴリンが主役なのは今も昔も変わらないエヴリンレムナンツ。今回はVSアリゲーター・ステュクス後編。楽しんでいただけたら幸いです。


グオオオオアアアアッ!!

 

 

 頭から激突した壁を引き裂きガラガラと崩しながら、起き上がったワニ女の巨体が動き出す。ガブガブと噛みつきながらでたらめに両腕と尻尾を振り回し、確実に殲滅しようという動きで突撃してくるワニ女。なんか可愛いな。一撃でミンチになるから可愛くないけど。

 

 

「そんな見え見えの攻撃当たるか!」

 

 

 両腕から粘液糸を天井に飛ばし、引っ張ってくるりと宙返り。攻撃の隙間を避けてワニ女の背中に着地するクイーン。そのまま粘液硬化で左腕を背中に固定し、振りかぶって粘液硬化した右腕で頭部をガツン!と殴りつける。

 

 

ぐうっ!?

 

 

 打撃の衝撃は響くのか怯むワニ女。クイーンはこれ幸いとばかりに振り回されながらも左手でくっつき、連続で右腕で殴りつけるも、ワニ女は尻尾を巧みに動かしてクイーンに巻き付けて無理矢理引きはがし、空中に放り投げると爪で何度も何度も切り裂いていくがクイーンはヒルの結合を緩めて斬撃された部分を受け流して回避。器用なことするなあ。

 

 

なんなんだおまえはあああっ!

 

 

 下水に落ちるたところに両手を何度も叩きつけるワニ女だったが、クイーンは右手を伸ばして粘液糸を後ろの壁に向けて伸ばして回避、壁を蹴って跳躍し、空中回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばすと天井に逆さまに立って両手にゴクとマゴクを引き抜き乱射する。

 

 

ぐっ!?ごっ!?ぐあっ!?

 

 

 弾丸の衝撃を頑強な皮膚で受けて怯んで後退するワニ女。一発が右目に炸裂して血飛沫を上げるが、クイーンを睨みつけてきた右目は既に再生していて。とんでもない再生能力だな。

 

 

俺は死ねない!死ねないんだ!

 

「…本当に有効打がないな。どうしたもんか…!」

 

 

 そう肩を竦めて言いながらマゴクをしまった左手から飛ばした粘液糸で下水道に浮かんでいたガスボンベを引っ張り上げ、ワニ女目掛けて放り投げるクイーン。

 

 

「プレゼントだ。受け取れ!」

 

ぐああああああああああっ!?

 

 

 そしてワニ女の眼前にガスボンベが迫った瞬間、右手で握ったゴクの引き金を引いて弾丸を放ち、着弾。同時にクイーンは足の粘液を解いて下水道に落下、次の瞬間爆発が下水道を揺らし爆炎が広った。

 

 

『ちょっとクイーン!ヘカトちゃんまで危なかったじゃん!ギリギリ!』

 

「それは悪かった、な…!?」

 

捕まえたあ!よくも好き勝手してくれたなあ!

 

 

 下水から浮かび上がってきたクイーンを、爆炎から飛び出した鱗に覆われた巨大な右手がぐわしと握りしめ、焼け爛れている全身を再生させながら爆炎から出てきて、グググッと力を入れるワニ女。クイーンは「ぐあああっ…」と苦悶の声を上げ、目前まで持ち上げられる。

 

 

言っただろう、俺は死なない!死にたくて自分を斬り裂いても死ねなかった!俺は好き勝手されるのが大嫌いだ!人間に飼われたかと思えば捨てられ、この下水道で生き抜いてきた挙句にサミュエル・アイザックスを名乗る人間に体を弄繰り回され、何よりも恨んでいる人間の身体にされた!その憤りがわかるか!人でないくせに好きで人間の形をとるお前にわかるか!何がアリゲーター・ステュクスだ!くそくらえ!

 

『アイザックス…!』

 

 

 アリゲーター・ステュクス。それが彼女の名前か。まさかとは思ったけどまたアイツか。しかも、アリサみたいなアイザックスの犠牲者だ。ヘカトちゃんみたいに偶然そうなったのでもなく、オメガちゃんやヘカトちゃん、ヨーン・エキドナやネプチューン・グラトニーみたいに「そう在れかし」と作られたわけでもない。

 ごく普通の…いやそれでも最低な日常を過ごしていたのに、目を付けられて実験体にされたワニなんだ……それで大嫌いな人間みたいな姿にされて、いやそればかりか、この一人称。もしかしなくてもオスじゃないのか。そんなの、可哀そうすぎる。ヘカトちゃんの状態が安定しているのを確認し、離れる。この子を見捨てることなんて、私にはできない!

 

 

『アイザックスは、私達の敵だよ!私達が戦う必要はないよ!』

 

「ぐっあ……エヴリン、なにを…?」

 

『うるさいクイーンは黙って!ねえ、落ち着いて。私達はあなたの敵じゃない』

 

嘘だ!俺を騙そうとしてもそうはいかないぞ!お前みたいな人間になにがわかる!おまえみたいなチビ、喰ってやる!

 

「ぐああああっ!?」

 

 

 クイーンを壁に叩きつけて投げ捨て、私目掛けて大口を開けて四つん這いで突進してくるアリゲーター・ステュクスの噛みつきを、リサの例もあるのでひらりひらりと躱していく。

 

 

『お願い、話を聞いて!』

 

うるさい!うるさい!人間なんてもうたくさんだ!

 

 

 駄目だ。人間への憎悪に囚われている。それはまるで、世界を憎悪していたかつての私と同じだ。……うん、決めた。避けるのをやめて、むしろ受け入れるように手を広げる。……リサと同じで私に触れるんだったら、痛いんだろうなあ。でも。そんなことよりも。私は、この子を救いたい。

 

 

『いいよ、おいで』

 

グオオオオオオッ!!

 

「エヴリン!?」

 

 

 そして、ばくんと。一口で私は食べられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈む、沈む。ローズと共に落ちていった、あの感覚。目を覚ますと、私は見覚えのある湖の上の残骸に乗っていた。モローの人造湖だ。目の前には、何が起きたかわからないという表情で狼狽えている、アリゲーター・ステュクスが半身を水に沈めて湖面に浮かんでいた。

 

 

なんだ…?何が起きた…!?

 

「ここは菌根の世界。RT-ウイルスに使われている菌根の欠片から繋がっている、精神世界だよ」

 

お前の仕業か!俺をどうするつもりだ!

 

「私はただ、あなたを救いたくて……」

 

 

 瞬間、湖面を泳いで噛みついてきたのを、跳躍して隣の残骸の飛び移ることで回避。デスロールで粉砕される残骸に冷や汗をかく。この世界だと私にも物理攻撃は通じる。この子と話すのは、命懸けだ。

 

 

俺を救うだと!?ふざけるな!俺を殺せないから懐柔して、また裏切るんだろう!そうはいかない!もう人間の勝手で振り回されるのはごめんだ!

 

「レオンとクレアは人間だけど、それ以外のクイーン、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃん、そして私達は人間じゃない!あなたの仲間だよ!」

 

嘘を付け!奴と違って、お前はどこからどう見てもただの人間だ!

 

 

 そう言って噛みついてくるアリゲーター・ステュクスの攻撃を、両腕を菌根で覆って武装して受け止める。湖に浮かぶ残骸は押されてしまって止まらなかったけど、自分の牙を受け止めた私に目を丸くするアリゲーター・ステュクス。

 

 

人間じゃ、ない…?

 

「これでわかった…?私は人間に似せられて作られたバケモノだ。……ごめん、考えが足りなかった。ただのワニから怪物にされたあなたと同じ、だなんて言えないけど……でも、あなたの気持ちはわかる!」

 

お前に何がわかる!俺の何が…!

 

「愛して、ほしかったんだよね」

 

 

 力が強まる噛みつきに耐えながらそう告げると、アリゲーター・ステュクスの力が弱まるのを感じた。明かに動揺している。やっぱり、そうか。

 

 

「本当に心の底から恨んでるってことは、捨てられたことが悲しかったんだよね。拾われたのに実験体にされて、期待を裏切られて悔しかったんだよね。あなたは愛してほしかった、それだけだった」

 

そうだとして、お前に何がわかるっていうんだあああ!

 

 

 噛みつきが強まり、牙が食い込む。その痛みに耐えながら、私は続ける。同じだから。

 

 

「私もそうだった!愛してほしかった、それだけのために私は心身ともに怪物になった!独りなのが嫌で、愛がわからなくて、無理矢理愛してもらおうとして何人もの人生を犠牲にした!でも愛してもらって、私は変われたんだよ!」

 

ならどうしたらいい!俺は、こんな人でもワニでもない、図体がでかい怪物の俺が!誰かに愛されるわけがない!恨み続けるしか、ないだろ!

 

 

 噛みつきは止まっていた。アリゲーター・ステュクスは感情のままに吠えていた。そんな人生、悲しいよ。せっかく意思疎通ができるようになったのに、恨み続けるなんてダメだ。

 

 

「なら私が愛してあげる!あなたの親になってあげる!菌根で繋がっているあなたも、私の家族だ!私が与えられたものを、あなたにも分けてあげる!それじゃダメ、かな…?」

 

 

 ドクドクと黒い血が傷口から流しながら、両手を広げて安心させるように笑みを浮かべる。ああ、と掠れた声が上がる。大きな腕が、他者を傷つけるだけだった爪を有する手が、おそるおそると私を、抱きしめた。水滴が頭に落ちる。見上げれば、アリゲーター・ステュクスは泣いていた。

 

 

ずっと、そう言ってもらいたかったのかもしれない……

 

「うん、うん。これからは私が愛してあげる。ちょっと重いかもだけどね?」

 

 

 小さな手で抱きしめ返す。…大きな娘、いや息子かな?イーサンとミアに与えられた愛を、この子にも分けてあげよう。




原作の撃退方法であるガスボンベの爆発すら再生してしまうアリゲーター・ステュクス。その悲痛の叫びを聞いたエヴリン、お母さんになる。……字面だけ見ると意味わからんな?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:27【この子の名前は】

どうも、放仮ごです。刻み刻みで書いてるせいで全然場面が進まなくてすまない。今回はお母さんエヴリン大奮闘。楽しんでいただけたら幸いです。


「うーん、これからどうしよ」

 

「どうするとは?」

 

 

 半身を湖に浸からせながら泣きじゃくるアリゲーター・ステュクスを背伸びしてなでなでしながら、考える。うーん頭に届かない。ちっちゃな体が恨めしい。じゃなくて。アリゲーター・ステュクス、声変わった?凄味がなくなったという。素直な子供みたいで今の方が好きだよ。ってそうでもなくて。すぐ脱線する私の脳内どうにかならんかね。

 

 

「いや、あなたの名前とかどう連れて行こうか、とかね」

 

「俺は、アリゲーター・ステュクス……」

 

「うん、長いしセンスないし、なによりアイザックスの付けた名前で呼ばれるのも嫌でしょ?親らしく私が新しく名付けてあげる」

 

「俺の、名前……!」

 

 

 ステュクスってなんだ。確かギリシャ神話の冥界の川かなんかだろう。縁起が悪いんじゃクソボケネーミングセンスめ。……かといって私にセンスがあるかと問われたらうーん、なんだよなあ。態度も身長も胸もお尻も顔も(オルチーナ・)全部クソデカオバサン(ドミトレスク)まさにダンディなオジサン略してマダオ(カール・ハイゼンベルク)黒づくめ陰キャ(ドナ・ベネヴィエント)マザコンブサイクと(サルヴァトーレ・モロー)マザーナントカ変態仮面(マザー・ミランダ)……我ながらひっどいネーミングセンスだな!

 

 

「ワクワク…」

 

 

 ああもう、そんな期待した目で見ないで!ワクワクを声に出して言うなんて可愛いな!もう!私の子可愛い!……考えろ私、無い知恵絞っていい名前を考えるんだ!少なくともマイナスなイメージがある名前はダメ!この子にはキラキラ輝いた人生を生きてほしい!……キラキラ?

 

 

「…よし。あなたはリヒト!ドイツ語で「光」って意味だよ!」

 

「リヒト……俺は、リヒト…ありがとう、マザー!」

 

「……えーと、マザーはやめてくれない?いやな奴を思い出すから……」

 

 

 男の子っぽくも女の子でもいけそうな名前でいいな、と自画自賛していると嫌な思い出しかない呼びかたで呼ばれて苦笑いを浮かべる。いやあ、あのクソ親と一緒にされるのは嫌だ…。

 

 

「マザーはマザーなんだろ?やっぱり、マザーじゃないのか?そうか……」

 

「ってのは嘘嘘!私マザー!マザー・エヴリン!」

 

 

 するとリヒトが泣きそうな顔になったので慌てて肯定する。私はあなたのお母さんだよ!だから泣かないで!

 

 

「マザーはいいとして、本当にどうしよ……連れて行こうにもリヒト、でかすぎるんだよね…」

 

「食べ過ぎてごめんなさい…」

 

「いや、よく育っている証拠だからそれはいいんだけど。ヘカトちゃんみたいに脱皮できればいいんだけどねえ。そんな自由には無理でしょ?」

 

「多分…?」

 

「ってそうか。自分の身体でもわからないこともあるよね」

 

 

 あの耐久力から見て、再生能力や耐久力には特化してるけど脱皮で転生とかはできないと見た。ってことは……うーん、あんまり借りを作りたくないんだけど……。

 

 

「ゼウー。ちょっと来てー」

 

「あいよー。って、気安く呼んでるんじゃないわよ!」

 

 

 手をメガホンの様な形にして呼びかけると、三メートルを超えた背丈にシンプルな黒いドレスを身に纏っていて、長い純白の髪と深紅のツリ目の私やクイーンとよく似た女、ゼウがひょこっと水面から顔を出した。乗っかってくれるなんてノリのいいラスボスだなあ。

 

 

「それで、どうしたのよ?恥知らずにも帰る気になった?」

 

「ううん。それより頼みがあるんだけど。この子はリヒト。私の子供」

 

「は?」

 

 

 湖面に立って口をあんぐりと開けた呆けた顔で私とリヒトを見比べる黒き神。気持ちはわかるけど嘘偽りじゃないのだ。

 

 

「…随分でっかな子供を産んだものね。お相手は?まさかクリス?それともこの見た目からワニとでもまぐあったの?」

 

「冗談でもやめて!?養子だよ、養子!私がお義母さんになってこの子に愛をあげるの!」

 

「マザー。このマザーにそっくりなやつ、なに?」

 

「ぷっ。マザー・エヴリン?あの親にしてこの子ありね」

 

「やーめーろー!?」

 

 

 小馬鹿にしてくるゼウに、頭を掻きむしる。わかってたけど!こいつに言われると腹立つ!するとリヒトが怒った顔になる。あ、悪い予感……

 

 

「マザーを馬鹿にするやつ、許さない…!」

 

「ダメ、リヒト!そいつに手を出しちゃダメ!」

 

「あら。力量差もわからないなんて、さすが馬鹿の子供ね」

 

 

 大口を開けて噛みつこうとしたリヒトを、手をかざして衝撃波で固めて、なんてことない顔で空中に持ち上げるゼウ。リヒトは困惑した顔でなすすべなく浮かび上がり、ゼウは右手を剣の形状に変える。思わず、衝撃波を右手に纏って飛び出していた。

 

 

「それはダメ!」

 

「っ!?」

 

 

 衝撃波パンチがゼウの頬に突き刺さり、殴り飛ばす。さすがに私から攻撃されると思ってなかったのかゼウは殴り飛ばされ、リヒトは解放されて湖に落下する。

 

 

「マザー、強い……」

 

「大丈夫、リヒト?……冗談にしても限度があるよね?ゼウ」

 

「ちょっと傷つけて屈服させようとしただけなのにひどいじゃない」

 

 

 瞬間移動で目の前に現れたゼウが頬を押さえながらごちる。ゼウの冗談は何も面白くないんだよ。

 

 

「それで?私に何をしてほしいわけ?」

 

「リヒトを連れていきたい。何か方法はない?」

 

「あのね。私は菌根世界じゃ無敵の黒き神だけど、できることには限度があるの。そもそも現実に干渉はできないって言ったわよね?」

 

「あ」

 

 

 そういや前に会った時そんなこと言ってた気がする。ええ、じゃあどうしよう……。

 

 

「……ラクーンシティが爆破されるのは覚えてるんだよね。そんなところの下水道に残せられない……」

 

「今ラクーンシティにいるのね。…下水道なんでしょ?先にラクーンシティの外に出てもらえば?地上より楽じゃない?」

 

「いやでもそれだとこの子、いきなり一人に戻っちゃうし……」

 

「マザー?」

 

 

 大丈夫。そんな泣きそうな顔で見なくても、見捨てたりしないよ。そんな意を込めて頭を撫でる。するとそれを見ていたゼウが、溜め息をついた。

 

 

「……その子、現実でもそのサイズなのよね?」

 

「うん。なんか、色々食べてたらこうなったみたい」

 

「T-ウイルスの生物の巨大化作用かしら。ならそうねえ……菌根の擬態使えば?」

 

「あ」

 

「忘れてたのね…」

 

 

 忘れてた。そういやそれがあったわ。ありがとうミランダ。くたばれミランダ。フォーエバーミランダ。貴方の能力だけは有用だった。

 

 

「リヒト、なんとかなりそうかも!戻ろう、現実に!」

 

「でも、マザーの仲間を俺、ボコボコにした…」

 

「大丈夫大丈夫、クイーンはそんな器小さくないって」

 

「…あー、そういえば」

 

「じゃあねゼウ!ありがとう!」

 

 

 なんかゼウが言ってたけど菌根世界からログアウトする。これ上手くやれば私も戦闘できそうだけど要改善だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

「……人の話を聞きなさいよ。ローズの元に尋ね人がきた、なんてどうでもいいかもしれないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま!』

 

 

 ひょこっとリヒトの身体からスポンッと飛び出すと、クイーンがおっかなびっくり驚いていた。

 

 

「ただいまってお前……そいつに喰われたと思ったらアリゲーター・ステュクスが身動ぎすらしなくなって三分ほど……なにをした?」

 

『説得だよ。それからこの子の名前はアリゲーター・ステュクスじゃなくてリヒト!私の子供になったから、そういうことでよろしく!』

 

「は?」

 

「俺はリヒト、マザーの子供だ」

 

「は?」

 

 

 えっへんと胸を張るリヒトに呆けるクイーン。いやー、これ言うの反応が面白くて楽しいね。




マザー・エヴリン爆誕。アリゲーター・ステュクスの名前はリヒトに決まりました。

次回、脱出を目指すエヴリンたちの前に現れたのは……?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:28【ジョーズな襲撃】

どうも、放仮ごです。題名迷ってたんですがようつべでお勧めに上がってた懐かしいのを見て、決まりました。What's up!?DON MURASAME!!

今回はVS下水道に潜んでいた襲撃者。楽しんでいただけたら幸いです。


~とある研究員の日記~

 洋館事件以降、俺はこの仕事を任されているが正直気乗りがしない。あいつらはお喋りで、餌を持っていく際に人間には理解できないことをペラペラ喋り、不機嫌になれば暴れだして手が付けられないからおべっかでなんとか話を合わせるしかなかった。何よりも、その餌とは生きた豚や牛を丸々だ。こんなものを定期的に受け取っていればここの存在がばれるかもしれないというのに、上の……特にウィリアム・バーキンとその右腕であるサミュエル・アイザックスはこの二匹にひどくご執心だ。片方のために温室を改装してジャングルの様にし、もう片方のためには水槽の部屋を新しく作るぐらいだ。

 

 たしかに貴重なRT-ウイルスの被験体というのはわかるし、あの洋館事件の後に起こった洋館の爆発から生き延びた二体を手放したくないのは分かる。だが俺にはわかる。奴らは危険だ。共に豚や牛丸々一頭を平らげてもなお空腹を訴える底なしの食欲。人間に育ててもらいながら人間を餌としか見ていない精神性。洋館の爆発で半身が焼け落ちていたにも関わらず回収されて一週間程度で回復した再生力。電流でロックしてないとすぐにでも脱出してNESTの人間を喰い尽くすだろうことは明白だ。

 

 俺は今日も怯えながら餌を届け、彼女たちの話に頷く日々を送る。願わくば明日もこの日記を書けてますように……

 

1998年9月 リック・メンドーサ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくかくしかじか。クイーンにことを掻い摘んで話す。ゼウのことはめんどくさいから話さないで置いた。私が閃いたってことにするのだ。わっはっは、私を崇め奉れ!

 

 

「マザーすごいやったー!」

 

「さっきまでと同じやつとは思えんな……それで、こいつがリヒトって名前でお前が親代わりになってもう襲ってこないのは分かったが、こんなでかいやつをどうするんだ?」

 

『だから、擬態でなんとかしようかなって』

 

「なんだそんなことでいいのか。早くやれ」

 

『あるぇー?』

 

 

 なんで私が言うと「はいはい」みたいな扱いになるのか。解せぬ。しかしどんな見た目にしようかな。私の勝利のイマジネーションがひらめキーング!してくれることを祈ろう。そう思い、あぐらをかいて腕組みしながら逆さまになるいつものポーズで考えようとした、その時だった。

 

 

「……ん?」

 

 

 下水道の水面に縦に浮かんだポリ袋が、スイスイーと滑らかに動いてこちらに向かってくるのが見えて、変な水流だなあと無視しようとして、いやいやさすがに速すぎない?と考え直して二度見。凄まじい速度でポリ袋が、いやポリ袋が引っかかったなにかが迫ってくることに気付く。

 

 

「わくわくっ」

 

「わくわくを言葉にする奴はさすがに初めて見たな……」

 

 

 その先には、期待した目でこちらを見つめていてまるで気付いていないリヒトと、その様子に呆れているクイーンが背を向けていて。ポリ袋は間近まで迫ると空中に飛び出し、ポリ袋……を背鰭に引っ掛けていた鮫の半魚人みたいな少女が空中に飛び出して大口を開けていた。

 アリサと酷似した半裸の少女だがしかし、異様に青白い肌、青っぽい銀髪のショートヘアー、臀部から生えたイルカの尾ひれの様な太い尻尾、両手と脚の指の間に生えた水かき、背中から突き出た背鰭、首筋に付いた鰓、口からは鋭く生え揃った牙。それは一度、見たことがあった。クイーンたちが洗脳されたイブリースとの決戦、で乱入してきて私とリサが倒した異形二体の片割れ、ネプチューン・グラトニー……!?

 

 

「隙ありなのだ!」

 

「リヒト!クイーン!後ろ!」

 

「え……?」

 

「見えている、よ!」

 

「a。ぶべえ!?」

 

 

 しかし心配はいらなかった。全身ヒルであり、すなわち全身に目を持っているクイーンが裏拳を顎に炸裂させて殴り飛ばしたのだ。ひっくり返って水中に落ちるネプチューン・グラトニー。しかし油断したクイーンの足に巻き付き、下水の中に引きずり込む長い尻尾があった。今のは……!?

 

 

「しまっ……ゴボボボッ!?」

 

『クイーン!?リヒト、助けてあげて!』

 

「わかった!マザー……!?」

 

「あら、すごく大きいのね。食べ応えがありそうだわ、ごちそうね……!」

 

 

 水中から現れリヒトの全身に巻き付いて拘束した、少なくとも8メートルはある斑模様の長い蛇の上半身に生えていたのは、鱗に覆われた人の上半身。斑模様の髪の毛と蛇の瞳と牙を持つ、やはりというかアリサとよく似た顔の女だった。たしか、リサにボコボコにされてたヨーン・エキドナ……!

 

 

「グラちゃーん!このデカブツは私がもらうわよ!腹ペコなんだから!」

 

「待つのだエキドナ!そいつは私が先に見つけたのだ!横取りは許さないのだ!」

 

「俺と、そっくり……!?」

 

 

 締め上げられながら驚くリヒトに巻き付くヨーン・エキドナと、起き上がったネプチューン・グラトニーが喧嘩する。どっちがリヒトを食べるかで争っている……?そのまま喧嘩して相打ちになってくれないかなあ。駄目か。

 

 

「私の子供に手を出すな!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「キャアアアアアッ!?」

 

 

 とりあえずリヒトを捕らえているヨーン・エキドナの顔に突撃。虎の子である超至近距離鼓膜絶叫を発動し、全身を振るわせたヨーン・エキドナがずるりと巻き付いていた巨体を外して下水に落下する。

 

 

「あうあうああああ……」

 

『あ、ごめんリヒト。……そっか、私が見える人みんなに特攻なのか……本当にごめんねー!?』

 

「だいじょーぶなのだ?エキドナ」

 

「キーンってした、キーンって!なんてことしてくれるのよ、喰い甲斐のなさそうなクソガキ!」

 

 

 ヨーン・エキドナがブチギレながら腹筋の様に水中から起き上がる。便利だな。そこにさらにパンチが炸裂、ヨーン・エキドナが尻尾で螺旋を描きながら殴り飛ばされる。復活したクイーンだった。

 

 

「無視されるのは気に喰わないな…!」

 

「おっ、来るのだ?来るのだ?」

 

 

 そのまま跳躍してネプチューン・グラトニーに殴り掛かるクイーンだったが、ネプチューン・グラトニーがにまっと笑って噛み締めた牙に難なく受け止められる。さらにリヒトが尻尾を叩きつけるも、吹き飛ばされこそしたが折れてもいない。なんて頑強な牙だ、ビクともしてない。

 

 

「すごいパワーだけど……私の牙の方が強いのだ」

 

「なら引き裂いてやる!」

 

 

 四つん這いで突進し、ネプチューン・グラトニー目掛けて大きく腕を振るうリヒト。しかしそれは、天井から伸びてきた尻尾に巻き疲れて受け止められる。見上げれば、両腕で天井に指を喰いこませたヨーン・エキドナが這ってきていた。

 

 

「あなたの相手は私よ!デカブツさん!」

 

「っ!」

 

 

 そのまま腕を引っ張り上げられ、拳を頬に食らって殴り飛ばされるリヒト。ヨーン・エキドナ。なんてパワーだ。蛇は全身の筋肉で素早く動くっていうから当然か。そのままリヒトに巻き付いて何度も何度も殴りつけるヨーン・エキドナにリヒトは防戦一方だ。なんとかしたいけど、あんなに密着してたら超至近距離鼓膜絶叫はリヒトももろに受けそうだし……クイーンなら!

 

 

「お前から噛み砕いてやるのだ!」

 

「っ…!?」

 

 

 振り替えると、ネプチューン・グラトニーの大口を開いての噛みつきを、粘液硬化した腕で受け止めるが噛み砕かれて苦い顔を浮かべるクイーンがそこにいた。だめだ、ヨーン・エキドナはリヒトの、ネプチューン・グラトニーはクイーンの、それぞれの天敵だ。相性が悪すぎる。なにかないか、なにかないかなにかないか…… パニックになった某青狸の如く過去の記憶を片っ端から引っ張り出す。

 

 

『そうだ、だいぶ前に流行ってたやつだけど…今ならできるかも!』

 

 

 30年ぐらい前(逆算してローズの冒険の16年ぐらい前?)だったかな、イーサンが見てた日本のアニメでめちゃくちゃ流行ってたやつがあった。かっこよくて、ごっこ遊びした記憶がある。そして思い出すのはついさっきの出来事、リヒトにやったある行動。

 

 

『こうなったらたった今思いついた奥の手も奥の手だ!耐えてよクイーン、リヒト!』

 

 

 右手で仏教の守護神である帝釈天の印を結び、前髪を左手でかき上げる。意識を集中し、菌根世界と繋げる。行くぞ!

 

 

『偽・領域展開!なんちゃってむりょーくーしょ!』




というわけで再登場、ネプチューン・グラトニーとヨーン・エキドナ!爆発に飲み込まれたとは言ったけど死んだとは一言も言ってないのだ。

アンブレラに回収されてNESTで飼われていたけど、電源が落ちて電流檻が解けたのでダクトに潜り込んだり排水溝を噛み砕いて下水道に脱出してました。

そしてエヴリンの新技発動、なんちゃってむりょーくーしょ。その全貌は次回にて。あのアニメももう佳境ですねえ。悪魔の声のキャラの大暴れ大好きです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:29【ベイカー邸再び】

どうも、放仮ごです。pixivで エレメンタル㏇ さんが2編のオリジナルクリーチャーたちのイラストを描いてくださいました。つい最近出したばかりのリヒトことステュクスまで書かれているの本当にすごい。特にタイラント・マスキュラーは一見の価値あり。本当にありがとうございます!「特異菌感染者の聖地」タグから見れるので是非ともご覧あれ。

菌根世界の設定、ローズ編で完全に確立したんですが本当に使い勝手が良くて重宝してます。今回はエヴリン本領発揮。楽しんでいただけたら幸いです。


 ゼウが自慢げに話していたのを思い出す。菌根が欠片でもあれば、菌根にゆかりのあるものの精神を引きずり込むことができると。そうやって菌根の中に記憶を取り込み続けてきた。四貴族やミランダ、ローズやイーサン、私達もそうやって取り込んだ。干渉した精神に影響を与える。これは菌根の特性のようなもので、本能に近いらしい。その菌根の黒き神である自分はそれを行使できると。そう勝ち誇った瞬間ローズに消されかけてわからせられてたけど。

 

 

 

 

――――――ゼウみたいに自由自在にとはいかないけど、真似ることぐらいは!

 

 

偽・領域展開(imaginary domain expansion)なんちゃってむりょーくーしょ(fake Infinity Void)!』

 

 

 無量空処(むりょうくうしょ)。日本のコミック『呪術廻戦』に登場する最強の呪術師・五条悟の領域展開……簡単に言うと一撃必殺の技であり、相手は無限に等しい膨大な情報量を流し込まれつつも思考を行動に移せず何も出来なくなり、さらに与えられる情報量により脳に大ダメージを負うっていう技。よくわかんないけど強すぎることはすぐ理解できた。

 

 

「いったいなに、を……」

 

「これやば……a」

 

 

 それを再現する。私の能力の範囲を広げて、周囲の菌根感染者の意識を菌根世界に送り込んで、一時的に肉体から意識を奪う。目論見は成功し、ヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニーはポカーンと口を開けて呆けている。クイーンとリヒトまで送っちゃったけどまあ直ぐ帰ってくるでしょ。あとは実力勝負だ。返り討ちにされたら私にダメージ来るけどやってやるぞお!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、そこはどこかの民家のエントランスで。私の全身が簡単に入るとてつもなく広い空間で、扇風機がカラカラと音を立てて回っている。横を見れば、呆けているネプチューン・グラトニーがいて、尻尾でビンタして起こす。

 

 

「起きなさい、グラちゃん」

 

「a。……エキドナ?何が起きたのだ?」

 

「私が知りたいぐらいよ。お腹が空いて苛立ってるってのに」

 

「ようこそ私の世界へ」

 

 

 振り返る。出入り口と思われる扉の前で、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばし優雅にお辞儀している少女がいた。黒いワンピースとブーツを身に着けた、長い黒髪の不気味な子供。あいつだ。あいつがなにかしたから、私達はここにいる。

 

 

「そういや名乗ってなかったね。私はエヴリン。エヴリン・ウィンターズ。この空間の主だよ。こんにちはヨーン・エキドナ。ネプチューン・グラトニー」

 

「いったい、なにをしたのかしら?」

 

「ここは現実じゃない、菌根の世界。ここを出たければ私を殺すことだね」

 

「じゃあ、喜んで!」

 

 

 瞬間、大地を尻尾で叩いてまっすぐ横に跳躍したグラちゃんがエヴリンに飛び掛かり大口を開けて噛みつかんとする。しかし何か見えない壁の様なものに弾かれ、吹き飛ばされてきたので慌てて尻尾で巻き付けて受け止める。

 

 

「ぐええっ!?」

 

「なっ…!?」

 

「この世界なら私も思う存分戦える!」

 

 

 右手に見えない何かを集め、投げつけてくるエヴリン。それは衝撃波だった。衝撃波の玉が私達の間で爆ぜて、別々に吹き飛ばされる。下半身が尻尾だから踏ん張ることができなかった私は頭からひっくり返って机に後頭部をぶつけてしまい、なんとか立ち上がった瞬間には目の前にエヴリンが、拳を振りかざして迫っていた。

 

 

「衝撃波パンチ!」

 

「げはあっ!?」

 

 

 頬に拳が突き刺さり、衝撃が突き抜けて殴り飛ばされ柱時計に頭から激突。クリスの拳の何倍も痛い。

 

 

「喰ってやるのだ!」

 

「ゼウみたいにはできないけど、ぶっ放すことは十八番だ!」

 

 

 グラちゃんがやみくもに噛みつこうとしているが、衝撃波を次々と放って吹き飛ばされるを繰り返す。グラちゃん馬鹿だから噛みつくことしか知らないのかしら。あっ、またひっくり返された。…ならやり方を変えよう。

 

 

「なめるな!」

 

 

 指を壁に食い込ませ、壁を這い廻る。二階の吹き抜けの渡り廊下をグルグルと廻り、エヴリンの放つ衝撃波を回避していく。そして棚を持ち上げるとぶん投げて攻撃。衝撃波で受け止めるエヴリンだが、やはり一度に一発しか放てないらしい。棚を受け止めている間は隙だらけだったので、背後を取って殴り飛ばす。腕を黒い何かで覆って受けとめるエヴリンだが子供の体躯は簡単に吹き飛んで転がっていくので追いかけて追撃。持ち上げた尻尾を勢いよく振り下ろし、床を叩き割る。

 

 

「あぶなっ……怪我したらどうする!」

 

「怪我の心配はしなくていいわよ。貴方は私たちの餌なんだから」

 

「お前!食えなくて生意気なのだ!」

 

 

 するとグラちゃんがもごもごと口を動かして、ペッ!となにかを吐き出して、エヴリンの黒いものに覆われた腕に突き刺さって血飛沫が出る。見れば、それは鋭く白い牙だった。

 

 

「くーらーえー!」

 

 

 そのままププププッ!と尖らせた口から抜けた牙を乱射するグラちゃん。エヴリンは衝撃波で受け止めることは無理だと悟ったのか両足を黒いもので覆うと走り出し、蠍の飾りのついた扉を蹴破って中に飛び込む。

 

 

「逃がすか!」

 

 

 両腕で床を這い廻り、高速で蛇行して追いかけていく。どうやら地下に逃げたようだ。扉のノブを掴んで引っこ抜き、中に突入。黒いものに覆われた真っ暗な空間を、ピット器官を利用し奴の匂いをたどって周囲を探りながら突き進んでいく。そうして辿り着いたのは、死肉の匂いが漂う広い空間で。奴の匂いが途切れる。

 

 

「くっ……死肉の匂いで奴の匂いが……どこに……!?」

 

「上だよ!」

 

 

 すると肉袋の上にしがみついていたエヴリンが飛び降りてきて、私の背中に飛びついて右手を押し付けてきた。体ごと壁に叩きつけ、振り下ろそうと暴れる私。しかしまるで根付いているかの様にエヴリンは離れなかった。

 

 

「はーなーれーなーさーいー!」

 

「だが断る!うおおおおおっ!菌根ハッキングー!」

 

 

 耳から黒いものが入り込んで、脳がかき回される感覚が襲い掛かり吐き気がする。現実だったら今まで食べてきた骨を吐き出していただろうけど、精神世界だから本当に吐きそうな気分なだけだ。

 

 

「き、気持ち悪い……うぷっ」

 

 

 吐き気に耐えながら暴れまわり、部屋を移って階段を這い上っていくとベッドを突き破って寝室のようなところに出て、部屋の外……エントランスホールの吹き抜け二階まで戻ってきて、そのまま力尽きる。見れば一緒にベッドにぶつかって痛がっているエヴリンが見えた。ざまあみろ……ぐう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部全部黒カビで覆われ倒れたヨーン・エキドナを尻目に、エントランスホール吹き抜け二階の通路で頭を擦る。戻ってきたみたいだけど、やっぱりこの家の構造よくわからんな。ベイカー邸。

 

 

「いたたた……でもなんとか一人倒したぞ、あと一人……」

 

 

 そう息込んだ次の瞬間、殺気を感じて飛び退いたと同時。吹き抜け通路が噛み砕かれて粉砕され、反対側にそれは着地する。ネプチューン・グラトニーだ。

 

 

「よくもエキドナをやったな!」

 

 

 もごもごと口を動かし、ペッペッペッ!と牙を射出してくるネプチューン・グラトニー。菌根の武装じゃ貫かれることは分かっているので必死に避ける。しつこさならヨーン・エキドナだけど凶暴さは此奴が一番やばい。半狂乱状態のリヒトといい勝負だ。

 

 

「ちょっ、精神世界でも、残弾数無視はおかしくない!?」

 

「サメの歯は二万本生え変わるのだ!」

 

 

 牙を避けて隙だらけのところに飛び込み、噛みついてくるネプチューン・グラトニーから逃れて一階に戻り、目についたのはいつぞやのイーサンが槍にしていたポールハンガー。これだ!

 

 

「いっただきまーす!」

 

「これでも喰らえ!」

 

 

 大口を開いて頭上から飛び降りてきたネプチューン・グラトニーに、ポールハンガーをそっと置いてその場を離れる。

 

 

「a。ぐえええええええっ!?」

 

「衝撃波パンチ!」

 

 

 喉奥までポールハンガーが引っかかったネプチューン・グラトニーはえづき、そこに腹部に衝撃波パンチを叩き込んで殴り飛ばす。

 

 

「お、まえ……現実に戻ったら、ただじゃすまさない、のだ……」

 

 

 血反吐を吐きながらそう脅してくるネプチューン・グラトニーに、にんまりと笑みを返して肩を掴み、無理矢理立ち上がらせて拳を握る。

 

 

「関係ないよ。この力は本当なら使いたくなかったんだけどしょうがないよね」

 

 

―――――お前も家族だ

 

 

 こうなったらなってやるよ。マザー・エヴリン!




なんちゃってむりょーくーしょ。効果:強制的に菌根世界に引きずり込んでエヴリンが戦闘能力フルに出せる状態で戦う。

今回の菌根世界は7編で荒らしまわった舞台であるベイカー邸。ポールハンガーとかももはや懐かしいね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:30【アナーキア・リッカー】

どうも、放仮ごです。クリスマスイブに何書いてるんだろね。リッカーってカエルみたいだなって思ったことから生まれたクリーチャーが登場です。今回はレオンside。楽しんでいただけたら幸いです。


~とある研究員の日記~

 そうだ、失敗作について記すのを忘れていた。NESTでのRT-ウイルスを用いた実験はモリグナやアリゲーター・ステュクスなど成功作ばかりではなかった。ほとんどがRT-ウイルスに適合できず、副作用である再生能力の暴走が起きて周囲の物体を取り込み続ける肉塊「アナーキア」に変異。焼却処分を繰り返した。

 

 ネズミやモルモットなどの動物もそうだが、特に有象無象が変異したアンデッド……通称「ゾンビ」はT-ウイルスの影響が数多くあるはずだが遺伝子的に適合できずほとんどがアナーキアになる道をたどった。失敗作は二十数体にも及んでいる。その中で唯一、興味深い変異を起こしたアナーキアがいた。

 

 ゾンビが栄養を過剰に摂取することで強力な個体「舐める者(リッカー)」に変異することは確認されていた。この名前は研究員の一人が名付けたもので、舌が長い特徴から名付けられた。安直だがコードネームとしてはちょうどいいだろう。リッカーは偶発的に生まれた存在だが、いずれ生物兵器として量産される未来が見える。サーベラスの様に上手く掛け合わせて最強のリッカーを作りたいものだ。

 

 さて脱線しすぎていた本題だが、RT-ウイルスによる再生能力の暴走で運よく周囲のゾンビを取り込んだ結果、このリッカーの様に変異した個体がいた。だが筋肉の塊ともいえるリッカーとは逆に、贅肉の塊としか呼称できない形状だ。巨大なブヨブヨのカエルの様な姿をしており、巨大な長い肉塊のような舌を伸ばして獲物を捕らえ、取り込む。リッカーの特徴であった鋭い爪は存在せず、短い手足でじたばたともがくように移動する。一応「アナーキア・リッカー」と名付けたがさすがにこれは失敗作だと断じて焼却処分したのち下水道に廃棄した。この失敗も我が「RT計画」の糧となるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な女クリーチャーの襲来で、オメガに連れられ退避した俺達は、別方向に逃げたクレアとプサイ、あの場に残ったクイーンとエヴリン、ヘカトと逸れてしまった。

 

 

「クイーンとエヴリン、ヘカトは無事だろうか……」

 

「心配いらない。こんなこと、何度も乗り越えてきた」

 

「そ、そうか……」

 

 

 オメガとはあんまり話して……というか姉のプサイと違ってあまり喋らないので、気まずい。クイーンたちも心配だが今はシェリーの方が心配か。

 

 

「シェリーが気になる。先にアンブレラの研究所に向かうぞ。きっとクレアたちも向かっている、クイーンたちも追いつくはずだ」

 

「了承。急ごう」

 

 

 頷いたオメガが先行し、下水道を進んでいく。ゾンビが出た瞬間には首を断たれる光景は末恐ろしいものを感じるが、味方なのが頼もしい。だがさすがにここまで戦い続けているせいか、疲弊しているようで肩で息をしていた。

 

 

「オメガ。大丈夫か?」

 

「これぐらい、問題ない」

 

 

 しかし気丈にふるまい、まるで弱みを見せないオメガ。このまま戦わせたらダメだと、直感が告げていた。ゴミだらけの下水に膝上まで浸かる通路を歩く。すると、結構歩いたところでなにかに気付いたのかオメガが身構える。

 

 

「構えて、レオン」

 

「あ、ああ。なにが…?」

 

「ヴァァアアッ!」

 

 

 ハンドガンを構えた、次の瞬間だった。下水を泳いできたのか水面下に隠れていた何かが巨大な左腕を振り上げてオメガを掴み上げると頭から壁に叩きつけてきた。

 

 

「ぐっ…!?」

 

「オメガ!」

 

 

 そいつは、不出来な人型を辛うじてとっている肉の塊だった。左腕も含めて左半身は異様に膨れ上がっているが右半身は異様に貧相で、エイリアンか何かだと言われた方がまだわかる。潰れている両目で俺を見ると、巨大な左腕でオメガを拘束したまま口からなにかを吐き出してきた。それは下水に入り、泳いでこちらに向かってくる。咄嗟にハンドガンを向けるが、すぐにダメだと判断。ナイフを引き抜いて水面下目がけて振るう。

 

 

「ハアッ!」

 

 

 ズバズバと肉を斬る感触に手ごたえを感じ、ナイフを逆手に構えなおしてエイリアン野郎に斬りかかると、オメガを壁に叩きつけるようにして投げ捨てて左腕にナイフを突き刺して受け止められる。

 

 

「ヴァァアアアアアアッ!!」

 

「くうっ……」

 

 

 そのまま左腕が振るわれて薙ぎ払われ、壁に背中から叩きつけられる。そのままエイリアン野郎は突進、左腕を勢いよく振り下ろそうとしてきて、俺は咄嗟に奴の腹部を蹴りつけて怯ませることに成功。立ち上がってハンドガンを構え、エイリアン野郎の頭部目掛けて乱射する。

 

 

「ヴァッ!?ヴァアッ、ヴァアアアッ!!」

 

 

 弾丸を何発も頭部に受けて怯むエイリアン野郎だが、しぶとい。この感じ、怪物になったアネット・バーキンと同じ打たれ強さを感じる。奴の仲間か?こうなればとショットガンを引き抜くも、突進して左腕を押し付けてきたエイリアン野郎に拘束され、頭から壁に叩きつけられる。

 

 

「ぐうあっ…!?」

 

「ヴァアアアッ!」

 

「させ、ない!」

 

 

 そこに、頭から血を流したオメガが乱入。右手の鋭い爪で左腕を真っ二つに斬り裂き、俺を救出。左手でエイリアン野郎の顔面を鷲掴みにすると引っ張って顎?に膝を叩き込み、手放して胴体を滅多切りにすると腹部を蹴りつけて吹き飛ばすオメガ。

 

 

「ぐっ……ハァ、ハァ……」

 

「オメガ!」

 

 

 そのまま追撃しようとするが、頭部の傷が響いたのか頭を抱えて蹲ったオメガを、咄嗟に抱き留める。それ幸いと起き上がり、切り裂かれた左腕を庇いながら逃げていくエイリアン野郎。くそっ、逃がすか……!オメガを抱えたままハンドガンを構えた、その時。

 

 

「ヴァァアアアアアアッ!?」

 

 

 下水道の奥からやってきた肉塊に飲み込まれ、断末魔を上げながら取り込まれてしまうエイリアン野郎。その光景は覚えがあった。アイアンズが変異した時と全く同じ光景だ。そこにいたのは、下水道を埋め尽くす巨体の四足歩行の何か。

 

 

「なんだ、こいつは……」

 

 

 一番近いのは変異したアイアンズだろうか。巨大な肉塊。しかしこいつには手足が存在し、四足歩行で巨大な肉の塊である顔と一体化した胴体をせっせと動かしている。目は肥大化している肉で潰れ、胴体と一体化している口からは蟲の幼虫を思わせる肉塊の様な舌が伸びてゴミを貪っていた。

 

 

「私が相手をする……レオンは逃げろ……」

 

「そんな、無茶だオメガ!」

 

 

 こちらに気付き、巨大な舌を伸ばしてくるクリーチャー。それはただ舌を伸ばしただけで質量攻撃であり、ゴミを取り込みながらこちらに迫るその前に、オメガが立つ。

 

 

「させるか!」

 

「ギャァアアアアアッ!?」

 

 

 そしてオメガを取り込まんとする直前、俺の浴びせたショットガンの散弾を受けて引っ込み、悲鳴を上げるクリーチャー。ショットガンをガンショップケンドで強化しといてよかった。オメガはなんで?とでも言いたげな顔で俺を見つめてきたので、弾込めしながら答える。

 

 

「オメガ。お前は(警官)が守るべき市民の一人だ。守らせてくれ」

 

「……レオン、いい奴。死なせない」

 

「ならお前も死ぬな、約束だ。一緒にシェリーを救出して、みんなでラクーンシティを出てマービンたちと再会するぞ!」

 

「了承…!」

 

 

 ハンドガンを構えた俺とオメガ、2人で身構える。クリーチャーは四肢をじたばたさせながら突進、巨大な舌を「んべっ!」と伸ばしてきて、俺とオメガはそれぞれ反対方向に避ける。思い出すのは、エヴリンと合体したクイーンがアイアンズを引き裂いていたあの光景。俺とオメガはクリーチャーの舌越しに頷き、ナイフと爪を構えると伸び続ける舌に斬撃を刻み込みながら下水道を駆け抜ける。

 

 

「ギィイヤァアアアアッ!?」

 

「こいつでも喰らってろ!」

 

 

 悲鳴を上げながらクリーチャーが引っ込ませた舌の傷口にピンを抜いた手榴弾を突っ込み、俺はオメガを抱えて背中を向け、爆発。クリーチャーは爆散して、肉塊が辺りに飛び散った。

 

 

「……なんとかなったな」

 

「……みんなが心配。急ごう」

 

 

 その言葉に頷き、俺たちは再び歩を進めたのだった。




G成体、そしてアナーキア・リッカーと連戦するレオンとオメガ。レオンも守られてばかりじゃないのだ。

・アナーキア・リッカー
ゾンビにRT-ウイルス投与したら他のゾンビを取り込んでDNAを接種した結果リッカーみたいになったけど再生能力が暴走して巨大なカエルみたいな肉塊に変貌した存在。焼却されて廃棄されたがしぶとく生き残り、周囲のものを取り込んで復活した。手足が短いうえに爪もないのでリッカー得意の斬撃が出せず、触れた物体を取り込む巨大な芋虫みたいな舌を武器とする。G成体を取り込んでG-ウイルスを取り込んでたので結構やばかった。

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file2:31【ヨナとグラ】

どうも、放仮ごです。テンポよくいきたいから謎解きカットしてます。さすがにここらへんを全部やるのはややこしすぎる。今回はエイダ、エヴリンたち、クレアたちのその後。楽しんでいただけたら幸いです。


 傷だらけで下水道を歩くエイダは、通信機で今回のボスたちに報告していた。

 

 

《「なんだと!?シェリーがアネットに攫われた!?」》

 

《「本当か、エイダ」》

 

「ええ。カラスの化け物からシェリー・バーキンを助けてあなたたちの使いだと名乗ったら逃げられたわ。なにやらかしたのかしら?」

 

《「シェリーが私から逃げるはずがないだろう!馬鹿言うな!」》

 

《「アネット・バーキンに攫われたとはどういうことだ?」》

 

「文字通りよ。私から逃げたと思ったら化け物になったアネット・バーキンが現れてね。シェリーを抱えて下水道に逃げていったわ。今それを追いかけているところ。彼女にそっくりな不細工な怪物も跋扈しているからこっちに逃げたのは間違いないんじゃないかしら」

 

 

 サブマシンガンでG成体を撃って迎撃しながら、突き進むエイダ。通信機の向こうでウィリアム・バーキンが焦っているのがわかった。

 

 

《「まずいぞ!G生物にはギリタブリルから判明した繁殖本能がある!遺伝子的に近い実の娘であるシェリーに胚を植え付けようとしている可能性が高い!そうなれば……エイダ!今すぐNESTに向かえ!G-ウイルスのワクチンを確保するんだ!」》

 

「無茶を言ってくれるわね……」

 

《「私はウィリアムを無事に送り届けなければならない。エイダ、シェリー・バーキンは任せ……おい、なんのつもりだウィリアム!待て!」》

 

 

 無茶ぶりに辟易していると、通信機の向こうでウェスカーの慌てた声が聞こえた。

 

 

《「じっとなんかしていられるか!シェリーは私の娘だぞ!娘を置いて逃げる父親がどこにいる!」》

 

《「お前!ウィリアム!お前の頭脳にどれだけの価値があると思っている!」》

 

「……本当にめんどくさい男どもね」

 

 

 エイダ、渾身の本音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スイィーと、巨大なリヒトに乗って下水道を進むクイーンと寝ているヘカトちゃんの上をふわふわ浮かぶ。傷が深くて疲弊しているヘカトちゃんを下水に浸からせるわけにはいかないから助かるね!

 

 

「マザー、もう少しで俺がいたところにつくよ」

 

『えらいえらい、リヒトはいい子だねえ』

 

「だーかーらー!わからない鮫ね!」

 

「そっちこそ!頑固な蛇なのだ!」

 

 

 報告してくるリヒトの顔に近づいて、触れないけどよしよしと顔を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。可愛いなああ。赤ん坊の頃のローズを思い出すぐらい破顔しているのが自分でもわかった。……このまま現実逃避させてくれないかな。

 

 

「お姉ちゃんは私よ!」

 

「……おい、エヴリン」

 

「ヨナは黙ってるのだ!私がお姉ちゃんなのだ!」

 

『………なにかな、クイーン』

 

「どうしてこうなった?」

 

『これしか勝つ方法なかったんだからしょうがなくない?』

 

 

 振り返る。そこには、リヒトのあとを泳いでついてきながらいがみ合い、頬を引っ張り合っている一見微笑ましい喧嘩をしている。そうなのだ。どうしてもヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニーを菌根世界で倒せなかったため、超絶久々に、というかベイカー家以来の、お前は家族だ*1を使った結果、ジャック現象*2が起きてしまったのである。

 

 

「ヘカトが起きる。なんとかしろ」

 

『はーい。ヨナちゃん、グラちゃん。ちょっといい?』

 

 

 長ったらしいのでヨナちゃんと名付けたヨーン・エキドナと、グラちゃんと名付けたネプチューン・グラトニーの間にふわふわと寄って話しかける。するとまるで従順な犬みたいに尻尾を振って期待の目を向けてくる二名。我ながら強すぎるなこの洗脳。菌根が頭の中にあって自我があって、なおかつ私に敵意を向ける相手にしか効かないんだけど。残留思念になって弱体化している私がこれを使えた理由は簡単だ。憎悪を反転させて好意に変えたのである。その結果、私に懐いた蛇鮫コンビが爆誕したわけだ。私が成長したからか親や姉妹じゃなくて私がお母さんってことになってるけど。リヒトみたいに純粋に私を好いているわけじゃないからすっごい罪悪感を感じる。

 

 

「なにかしら、エヴリン」

 

「何でも言ってくれなのだ!」

 

『……えーと、命令。関係なく本心を言ってね。私の家族になったわけだけど、二人はいいの……かな?』

 

 

 命令で本心を言うようにして、問いかける。最後辺り自信がなくてどもってしまった。するとヨナちゃんとグラちゃんは顔を見合わせ、牙を剥いてにっこりと笑う。

 

 

「……んー、嫌って訳じゃないわ。餌以外に大切なものって思えるのはいいことだと思うもの」

 

「私も、自分で親も姉妹も喰らって天涯孤独だから家族にしてくれるのは嬉しいのだ!」

 

『……そっか。じゃあ、ヨナちゃんがお姉ちゃんでグラちゃんが妹、リヒトはその弟ね』

 

「フフーン。私が姉よ!」

 

「ぐぬぬっ……」

 

 

 勝ち誇るヨナちゃんと悔しがるグラちゃんに、私も顔が綻ぶ。そんな私達を、横目でジーッと見て「フッ」と優しく笑うクイーン。するとリヒトが振り返った。

 

 

「マザー。2人は、俺のお姉ちゃん?」

 

『そうだよ、リヒト。怖いお姉ちゃんたちだけど仲良くしてね?』

 

「はーい」

 

「私達の弟純粋すぎて眩しいわ……」

 

「同感なのだ……」

 

『わかる。この子にはもう闇に堕ちてほしくないね』

 

「親馬鹿すぎるぞお前ら」

 

 

 クイーンのツッコミが木霊して、私達はスイスイと泳ぐリヒトのあとをついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大女クリーチャーの襲撃後、下水道の奥に進んだ私とプサイちゃんはゴミ集積所で倒れているシェリーを発見。そこに入る扉を開けるために主電源室に行くために「遊び心」らしいチェスを模した鍵を探して奔走。何とかかき集め、主電源室に突入し電源を回復した私達。

 

 

「シェリーが心配よ、急ぎましょう!」

 

「うむ、急ぐでござ……危ないクレア殿!」

 

 

 そして来た道を戻ろうとしたその時、プサイちゃんに手を引かれて引っ張られ、天井を引き裂いて現れた巨大な爪が私の今の今までいた場所に振るわれ、無理矢理天井が引っぺがされて、見覚えのある化け物が現れる。たしか、アネット・バーキン…!

 

 

「ふざけないで!あなたの娘が大変だってのに……!」

 

「アァアアア……シェリィイイイイ、何で逃げるのォオオオオッ!」

 

 するとアネットは変形を始め、右肩から新たな不完全な頭部が出現し、アネットの頭部は胴体左脇へと埋もれてしまった。上半身は白衣が耐えきれずに完全に破れ、巨体が形成され脇腹には新しい不完全が腕が見える。まさに怪物だ。

 

 

「……新たな気配?この者、以前の自我が消え去っているでござる!」

 

「そんな……」

 

「グオォオオオッ!」

 

 

 アネットだった怪物は巨大な右腕を振り回し、放たれた斬撃を咄嗟に避ける。壁を引き裂き、火花が引火して炎が燃え広がる。

 

 

「せめて開放するでござる!」

 

 

 プサイちゃんの斬撃を爪で弾き、私の放った新たに手に入れた武器、スパークショットを受けてもまるで怯みもせず突進してくるアネット。炎に巻かれているここじゃ不利だ。逃げないと。

 

 

「プサイちゃん、こっち!」

 

「了解でござる!」

 

 

 プサイちゃんに言って炎に巻かれてない別の扉を斬り裂いてもらい、そこから主電源室を脱出。鉄の通路を走るとアネットも追いかけてくるが、プサイちゃんが飛び蹴り。胴体に蹴りを叩き込まれてよろめくアネットの巨体の肩に、プサイちゃんが飛び乗った。

 

 

「斬り捨てソーリー!」

 

 

 そしてプサイちゃんの斬撃が首を断ち、通路の下に頭部が落ちていく。やった、と思ったのもつかの間だった。肥大化した左腕がプサイちゃんを捕らえ、斬り捨てたはずの首から新たな頭部が生えてプサイちゃんを睨みつける。

 

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 元々存在していた両腕がさらに巨大になり、胴体にくっついていた新たな二本の腕が完成。胴体には棘で覆われた複数の目玉のような器官が見え、従来の腕は背面に移動し翼のように展開した四本腕の異形になったアネットは咆哮を上げる。……こいつまさか、倒せば倒すほど進化するっていうの……!?

*1
強制的にエヴリンの家族にしてしまう洗脳

*2
ジャック・ベイカーがエヴリンの父親の座を維持しようとイーサンを殺そうとした現象




このウィリアムとかいう男、シェリーへの愛情だけは本物なんですよね……

ヨナとグラ、家族入り。エヴリンのこれは禁じ手なのでさすがに縛りを設けてます。

家族構成
エヴリン:マザー
リヒト:末っ子
ヨナ:長女
グラ:次女
イーサン:祖父。さすがのイーサンも苦笑いしそう。

そしてここで一気に第二形態、第三形態に移行するGアネット。このG生物、ひと味違う。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:31.5【アイザックスのよくわかるかもしれない授業】

どうも、放仮ごです。なんか感想欄でRT-ウイルス万能説が出てたのでちょっと訂正としてあの男に解説してもらうことにしました。楽しんでいただけたら幸いです。


 やあ、私の名前はサミュエル・アイザックス。今現在、とある国に向かう飛行機に乗って悠々自適に過ごしているよ。ファーストクラスはいいねえ。備え付けのテレビのニュースでラクーンシティが軍に閉鎖されたとか言っているが、恐らく私が密告したことで動いたアンブレラがやらかしてバーキン博士がT-ウイルスを漏洩させたのだろう。まあ私の知ったことじゃないがね。

 

 

「どうでもいい。早く本題に入れ」

 

 

 やれやれ。冗談も通じないか。君はもう少し遊び心を知るといい。おっと、手を出すのはやめてくれ。

 

 

 さて、何の話だったかな。そうだ、RT-ウイルス。始祖ウイルス、T-ウイルスの後にG-ウイルスと同時期に発見され、私の手で研究され限定的ながらも成果を残し続ける生物兵器。遺伝子配列の問題なのだと思うが適合する遺伝子のパターンがまだ判明してなくてね。これは要研究だ。

 

 T-ウイルスと菌根とネメシスプロトタイプがリサ・トレヴァーの遺伝子と結合して偶発的に生まれたこのウイルスだが、似たような経路で発見されたウイルスがある。この、G-ウイルスだ。そう言って紫色の液体の入ったサンプルを取り出すと目に見えて狼狽え警戒する彼女に嗜虐心が募る。いやあ、いい反応だ。飽きないのはいいことだ。

 

 

「……危険ではないのか?」

 

 

 空気感染するT-ウイルスと違ってRT-ウイルスとG-ウイルスは直接体内に投与しないと効果がないから心配無用だ。そんなに気になるなら飲んでみるかい?と聞いてみたら「いらん」とばっさり一刀両断された。つれないねえ。

 

 私はもともとクローニングの研究をしていたのだが、非常に強力な非発がん性変異原、2本鎖のRNAウイルスである寄生した細胞自体を異常進化させる始祖ウイルス、またの名をクレイウイルス。そのB型株を投与しそれに見事に適合したリサ・トレヴァーの遺伝子は天賦の才としか言いようがない、神に愛された適性を持つ人類の頂点の遺伝子だった。特に「再生力」に特化しているRT-02“Blank”の右腕から採取した遺伝子は実に強力で、その血液を用いて私はRT-ウイルスを生み出した。

 

 その効果は「融合」と「適応」。これは使い方で異なる。「融合」は外付けで使用した際に起こる効果であり、有機物と癒着し結合される。サーベラスやエリミネート・スクナはこれを用いて作成した。そして「適応」は文字通り環境への適応、特に脱皮の特性を持つ生物に投与したり、クローニングの際に用いればRT-ウイルスに刻まれた優秀な遺伝子情報を持つリサ・トレヴァーと酷似した肉体を形成するように適応、さらに適応を繰り返すことで強化されていくことが多い。ただしクローニングを用いたハンターΩなどは再生能力こそあれど適応の反応は見せない。これは遺伝子調整に失敗しているからだな。そのうちハンターΩも超えたハンターシリーズを作って見せる。

 

 

「御託はいい。G-ウイルスがどのように強力なのかを教えろ」

 

 

 RT-02“Blank”の血液を大量に浴びたことで変異したセンチュリオン・ヘカトンケイルやRT-ウイルスを投与したことで生まれたヨーン・エキドナにネプチューン・グラトニーなどRT-ウイルスも使用者との相性次第では強化され続けるがあくまで「適応」無限ではなく、際限が存在する。おそらく短期間に再生を繰り返せば細胞が劣化に耐え切れず死滅するだろうな。それに対してG-ウイルスは適正次第ではあるが使用者に「無限の進化」をもたらすウイルスだ。

 

 

「無限の進化?」

 

 

 そうだ、G生物試作一号【セルケトⅡ】ギルタブリルは失敗だった。バーキン博士とウェスカー氏が共同開発したセルケトを構成していたRT-ウイルスや菌根、ネメシスプロトタイプも混ざっているため相反してG-ウイルスの進化・再生の能力は得られなかったがしかし、本来ならばこのウイルスに感染した者の最大の特徴は「無限の進化」にある。これはモルモットを利用した研究結果だ。

 

 

「RT-ウイルスとは違うのか?聞く感じ同じだが」

 

 

 ああ、間違えないでほしい。先ほど述べたRT-ウイルスは適応であり進化ではない。例え転生することができたとしても、G-ウイルスのそれと違ってそこまで進化はしないはずだ。例えばT-ウイルスの感染者の変異が一世代限りであるのに対し、生命がある限り外的要因に頼らずとも自発的に予測不可能な進化を無限に繰り返す事ができる。簡単に言えば致命傷を負えば負うほど再生し、新たな姿に変わるというわけだ。いわばG-ウイルスは『人間が作り出した新たな種族を生み出し得る神の力』とも言える。バーキン博士が執着するのもわかるだろう?

 

 ちなみにバーキン博士は変異しないのをいいことにセルケトを苗床にしてG-ウイルスを熟成・繁殖させていたようだぞ。悪趣味だな。

 

 

「どの口が」

 

 

 おっと。私の信仰と同じにしないでほしいな。私は神の様な才能に惚れ込んで「RT計画」を完遂させるために研究し続けているだけだよ。

 

 

「言っておくが、心底気持ち悪いぞお前」

 

 

 辛辣だな。ああ、そうそう。G-ウイルスを研究するつもりなら気を付けたまえ。それは制御不可能な代物だ。先ほども述べた通り遺伝子に変化を起こして宿主に異常な変異・進化をもたらすため、一度感染した生物は自然変異を無限に繰り返し、予測不可能な変貌を果てしなく遂げていく。対抗手段がなければ無限に進化変異を繰り返す不死身の怪物となるわけだ。

 

 

「……対抗策は?」

 

 

 DEVILと言う名のワクチンはあるが……これは初期感染にのみ有効だ。もし、変異を繰り返し続けた場合は………まあ、絶望的だろうね。すべての遺伝子を纏めて焼き尽くすぐらいでもしないと死なないんじゃないか?そもそもDEVILはラクーンシティのNESTにしかないから、ごらんのとおりさ。そう言ってテレビに映るラクーンシティの惨状を促す。絶望的だろうな。さて、私の授業はためになったかな?

 

 

「…仕方がない。条件は条件だ。ようこそ、アイザックス博士。貴方の研究が主人の役に立つことを祈るよ」




アイザックスをがっつり出したのは初かな?ほぼ実写キャラの名前を持つだけのオリキャラです。話してた相手もオリキャラです。

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file2:32【漆黒の狩人(モールデッド・ハンター)

どうも、放仮ごです。エヴレムは2024年初更新となります。約一週間ぶりの本編、待たせたな!

ハンター姉妹VSGアネット第三形態です。楽しんでいただけたら幸いです。


「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 リヒトに乗って割と快適に下水道を進んでいると、聞こえてきた咆哮に私の全身のヒルが怖気づく。びくっと反応して止まり頭を抱えるリヒト。見ればヘカトとヨナ、グラも狼狽えて恐怖に顔を歪ませており、明らかに怯えていた。

 

 

「なんだ、今の声は……」

 

『この声、聞き覚えが……』

 

「知らない、俺、こんな声、知らない!」

 

「こんなに恐怖を感じるなんて……」

 

「な、なによ……あの女帝より恐ろしい気配……」

 

「こ、怖いのだ……」

 

 

 完全に怯えている捕食者であるはずの三人。かくいう私も本能的な恐怖がぬぐえない。なんだ、なにがいる?

 

 

『多分、アネットだ。生きてたんだ……!』

 

「アネットだと!?気配がまるで別物だぞ!」

 

『なにかあったんだ……レオンやクレアが危ない!私、先に行くね!』

 

 

 エヴリンはそう言うなり急いで壁をすり抜けて行く。…あいつ、私がいないと現実に干渉できないはずだがどうするつもりだ……?

 

 

「マザー…?」

 

「リヒト、怖いだろうが急いでくれ!お前の母親に追いつくんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クレアたちとは別の道…というかオメガに抱えてもらって道なき道を辿り、電源がついて扉が開いたゴミ集積所に辿り着いたレオンとオメガは、シェリーを発見。レオンが慌てて抱え起こす中で轟音と咆哮が轟き、オメガは頭上をじっと見つめる。

 

 

「シェリー、シェリー!無事か!?いったい何が起きている……?」

 

「…残念ながら、その子はG-ウイルスに感染しているわ」

 

「エイダ!?」

 

 

 そこにやってきたのはエイダ。上着を脱いで真紅のタイトなワンピースにダークブラウンのレギンスを着用した姿になっており、脚に傷を負ったのか包帯を巻いている。

 

 

「どうしたんだ一体!それに感染って……」

 

「言葉通りよ。私は彼女を保護しようとしたのだけど、シェリーは怪物になったアネット・バーキンに連れ去られて……恐らく、胎を埋め込まれてしまっている。この先の研究所でワクチンを手に入れないと、死んでしまうわ」

 

「そんな……」

 

「……レオン、ここは任せた。…私、行ってくる」

 

「待て、オメガ!?」

 

 

 エイダの言葉にシェリーをお姫様抱っこしながら呆然とするレオンを置いて跳躍、壁を左手の指でめり込ませて掴み、壁を蹴って跳躍。上の階に舞い上がるオメガ。そこでは、プサイを腕の一つで捕らえたG3と化したGアネットがいて。オメガは迷うことなく横に跳躍してすれ違いざまに斬撃。腕の腱を斬りつけてプサイを手放させ、プサイをお姫様抱っこにしながら着地する。

 

 

「プサイ、無事?」

 

「た、助かったでござる……」

 

「プサイ!大丈夫!?オメガ、ありがとう」

 

「……動けたのが奇跡。私達では、絶対にこいつに勝てない」

 

「うむ、家族愛の力でござるな!」

 

 

 駆け付けたクレアに決して覆らない事実を告げるオメガ。馬鹿なことを言っているプサイは無視だ。オメガの本能が、決してこいつには勝てないと警鐘を鳴らしていた。オメガと同一人物に近い遺伝子を持つプサイも同様で、冗談を言って誤魔化そうとしていたのだがそんな気遣いは妹には通じない。

 

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 シューシューと蒸気を立てながら斬られた腕を再生させ、調子を確かめて牙が生え揃った口を開けて、赤い眼光を輝かせながら咆哮を上げるGアネット。四つの腕を振りまわしつつ前進してくる。クレアがハンドガンを当てるもびくともしない。

 

 

「クレア殿は下がるでござる!」

 

 

 ガギン、と。クレアを下がらせたプサイが右側を、オメガが左側の腕を両手で受け止めて、背中合わせに叩きつけられる。一瞬怯んだところに、蹴り飛ばされてプサイが通路を頭からぶつかって転がっていき、残ったオメガも薙ぎ払われ下に落ちる。

 

 

「グウウウウウウッ!!」

 

 

 しかしGアネットはクレアには目もくれず全身に生やしたいくつもの巨大な目をギョロギョロと動かし、なにかを探すGアネット。それを見て狙いがシェリーだと気付いたクレアは、手にしたスパークショットを背中の眼球に叩き込んで電流を流し込み、火花が走ってGアネットはクレアに振り替える。

 

 

「こっちよ、化け物!」

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 L字の通路を走っていくクレアを一瞥したGアネットは、ギョロギョロと目を動かして周囲の地形を確認すると跳躍。コンテナクレーンに掴まると体を揺らし、コンテナごと揺らして振り子の様にすると跳躍。クレアの目の前に着地すると右の腕二本を振り上げる。

 

 

「させない!」

 

 

 そこに、落ちてすぐに壁を掴んで蹴って戻ってきたオメガの横の壁にくっついてから両足で踏み込んで全身全霊を込めた飛び蹴りが横面に炸裂。吹き飛び、下水道の底に落ちる……かと思われたGアネットだったが、オメガの動きを見て学んだのか左腕二本で爪を壁に突き刺して落下を阻止すると、壁に組み付いて爪を突き刺し、上がっていく。それを横目に確認しながらプサイの無事を確認すべく来た道を戻るクレアと、それについていくオメガ。

 

 

「プサイ!無事!?」

 

「ぐうっ……肋骨が何本か逝った程度でござる故安心召されよ……」

 

「重傷じゃない!?」

 

「この程度すぐ治るでござるよ……それよりも、奴でござる」

 

「……渾身の蹴りも効かなかった。再生能力が尋常じゃない。クレアは逃げて」

 

「そんな、私も戦う……」

 

「シェリーが危ない。シェリーとレオン、それからエイダが待ってるはず。詳しくは二人から聞いて。私達は……」

 

「うむ。こやつを食い止めるでござる!」

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 身構えるオメガとプサイの前に、Gアネットが着地して咆哮を上げる。クレアは後ろ髪をひかれながらも踵を返し、来た道を引き返す。それを見届け、プサイは鯉口を切るように爪をカシャカシャこすり合わせて鳴らしながら、視線はGアネットから離さずにオメガに問いかける。両者ともに死地に向かう覚悟だった。

 

 

「……オメガ殿もクレア殿と一緒に行っても、よかったでござるよ?」

 

「二人でも止められるかわからない。冗談?」

 

「そう、冗談でござるよ。なかなか分かってきたでござるな」

 

 

 瞬間、跳躍し右の二本腕を振り下ろしてきたGアネットの攻撃をそれぞれ通路から飛び退いて壁に着地。プサイは蛙の様に沈み込むと壁にクレーターを作る勢いで跳躍、飛び蹴りを叩きこみ、オメガは壁から跳躍してくるくると縦に回転、スピードを乗せた右腕の爪を振り下ろさんとする。

 

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

「なっ…!?」

 

「しまっ…!?」

 

 

 しかしその攻撃は複数の目を持つGアネットにはすぐ解析されてしまい、真正面から高威力の一撃を腕一本をズタボロにしながら受け止めたGアネットに掴まれ、グルングルンと振りまわされて通路に何度も叩きつけられ放り投げられるオメガとプサイ。ただそれだけの子供の癇癪にも見える児戯にも等しい攻撃で、頭部はひしゃげ腕はへし折れ足はひん曲がり肋骨も砕かれ、壁にもたれかかり吐血する両者。

 

 

「ヘカト……無事、かな」

 

「クイーン殿とエヴリン殿がついているでござる、無事でござるよ。無念……」

 

 

 のしのしと歩み寄ってくるGアネットに、半ば走馬灯を見ながら無念に唇を噛み締める狩る者だったはずの二人は圧倒的強者にとっての獲物となり下がる。

 

 

『二人から、離れろ!スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「グオオアアアアッ!?」

 

 

 そこに壁から突き抜けてきたエヴリンが突撃。超至近距離鼓膜絶叫を発動し、怯んで片膝をつくGアネット。エヴリンは振り返り、二人の痛々しい姿を見て泣きそうな顔になる。

 

 

『二人とも!何でこんな無茶やったの……!』

 

「……私達は最悪死んでも、エヴリンの中にいられるから…?」

 

「そもそも拙者、オメガ殿の予備だからいくらでも死ねるでござる」

 

『まだそんなこと言うか!二人とも、私の子供みたいなものなんだからね!勝手に死ぬつもりで挑むの禁止だから!死んだらあっち(菌根世界)でお説教してやるんだから!絶対逃げられないんだから、それが嫌なら死んでも生きろ!』

 

 

 そんな涙ながらのエヴリンの言葉に、顔を見合わせるオメガとプサイは、思わず笑ってしまう。

 

 

「ハハハハッ!拙者たちが惜しまれるとは!オメガ殿は本当にいい御仁に出会ったでござるな!」

 

「フフッ……そう、だね」

 

『笑ってる場合か!……こうなったら、しかたない。できるかわからないけど、やるしかない。オメガちゃんん、私に体を貸して!』

 

「…?了、承…?」

 

 

 オメガに了承を得るなり、飛び込んで体を借り受けると菌根を操作して肉体を修復させていくエヴリン。そのまま、溢れた菌根に包まれた右手でプサイの頭頂部を鷲掴み浸食する。

 

 

「な、なにを……!?」

 

「オメガちゃんとプサイちゃんを、私の力で合体させる……!共通の遺伝子を持ってるからできるはず……!Are you ready?」

 

「ダメでござる!?」

 

「答えは聞いてない!」

 

 

 問答無用でプサイを菌根で包み込み、オメガの身体にくっつけ融合させるエヴリン。少女二人分の体格を得たその菌根の塊は、体長二メートルほどのマッシブな体型を形成し、獣の様な顔を形作り両腕に生えた巨大な爪を振り上げ生誕の咆哮を上げた。

 

 

「「「ウオオオオオオオオッ!!」」」

 

 

 一言で言うなれば、漆黒のハンター。肩幅が広く、脚部は肉食獣のようにかかとが高く浮き、常に折り曲がっている前傾姿勢で、頭と首の境目が分からなくなったその姿は原形のハンターを思わせた。驚異的な脚力で跳躍し、オメガとプサイの腕が合わさったような両手のかぎ爪でGアネットを掴み上げると、ぐるりと空中で縦に一回転して放り投げる。

 

 

「「「モールデッド・ハンター……いざ参る!」」」




エヴリン+イーサン=モールデッド・ギガント(ヴィレッジ)
エヴリン+イーサン+ローズ=モールデッド・ギガントR(ローズ編)
エヴリン+意識のないクイーン=リーチ・モールデッド(女王ヒル編)
エヴリン+意識のあるクイーン=モールデッド・クイーン(G生物編)

エヴリン+オメガ+プサイ=モールデッド・ハンター(NEW!)

Gアネットは某ガコン!がモチーフになってます。さすがに一度喰らった攻撃無効化とかはないですけど。

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file2:33【究極のごり押し】

どうも、放仮ごです。最近ずっとそうですが、今回は特に超能力バトルみたいになってます。エヴリンが超常の存在になってるからしょうがないんだけども。

モールデッド・ハンターVSGアネット。楽しんでいただけたら幸いです。


「『「ウオオオオオオオオッ!!」』」

 

 

 漆黒の巨大なハンターの姿に変貌した私達は、両腕を掲げて咆哮を上げる。なにも思いつかなくて、咄嗟にオメガちゃんとプサイちゃんの傷を治すのも兼ねて合体してみたけど、クイーンの意思と一体化した時とよく似ている。「殺せ」「頸を断て」「殲滅しろ」という、ハンターの本能のようなものが私の制御を離れた菌根で増幅されてどす黒く私達の心を汚染する。

 

 ああ、エヴリンやヘカト、クイーンやレオンたちとの関係が心地よくて忘れていた。私は、私達は殺戮するための兵器だった。命令に応えることこそが我が生き甲斐。「殺す」ことこそが我が本能。レオンはああ言ってくれたけど、私はどこまで行ってもこちら側だ。

 

 肉を引き裂くのは楽しい。頸を断ち切る瞬間絶望した顔はゾクゾクする。……いやダメでござる。サムライはそんな殺戮なんてしないのでござる。武士道とは、決して己が欲に呑まれてはいけないのでござる。

 

 ああ、なんでプサイちゃんが時代劇なんかにはまったのかわからなかったけど。姉さんのことがまるで理解できなかったけど。―――――心が、安定する。

 

 

「『「モールデッド・ハンター……いざ参る!」』」

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 投げ飛ばした怪物が、四本腕を構えて咆哮を上げる。私達は目にも留まらぬ速度で足場を蹴って肉薄。一瞬反応できなかったものの複数の眼をギョロギョロ動かしてこちらを捉えた怪物の薙ぎ払いを、宙返りで回避。

 

 

「『「斬り捨てソーリー!」』」

 

 

 天井を伝う鉄パイプをすれ違いざまに斬撃でバラバラに斬り捨てて、落下した先端が鋭く尖った鉄パイプの雨が全身に突き刺さり血飛沫を上げ、激痛のままに振り回した四本腕を掻い潜り、肉薄してミドルキック。腹部の棘に覆われた部位を蹴り飛ばし、棘を粉砕しながら吹き飛ばして追いかける。

 

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 怪物は下水道の底の底に落下しながらも壁に腕一本の爪を突き立てて落下を抑制、追いかけて飛び降り組み付いた私達を、三本腕でタコ殴りにしてきた。タコ殴りと言うかでたらめな引き裂きだが。私達は斬り裂かれるたびに菌根を傷口に伸ばして修復しながら負けじと拳を握って頭部をひたすらぶん殴り、壁に突き立てられた爪が壁から外れて落下。

 

 

「『「三人分の戦闘経験をなめるな!でござる!!」』」

 

 

 下の足場に背中から激突した怪物の胸部をドロップキックで蹴りつけて足場に押し付けた私達。そのまま胸部を踏みつけながら蹴って空中に舞い上がり、怪物の腕の一本を掴んで空中一本背負い。逆さまにしながら壁に叩きつけて、間髪入れず足場が崩れるほどに踏み込んで爪を胸部に突き立て怪物を壁に押し付けてクレーターを作り上げる。

 

 

「ガハアッ!?グオオオオアアアッ!!」

 

 

 吐血する怪物だったが、負けじと私達を四本腕で鷲掴みにすると頭から足場に叩きつけ、足場を粉砕。さらに落下する私達と怪物。怪物は空中で身を捻り、四本腕の乱舞を叩き込んできて、私達も崩れ落ちていく足場の残骸を蹴って跳躍、両腕の爪を振り回して爪を斬り結ぶ。

 

 

「『「いくら斬っても無駄、でござるか……」』」

 

 

 しかしいくら斬っても、いくら殴打しても、引き裂いても、引きちぎっても、即再生してしまう怪物は元気満タンで。私達は精神が汚染されるのを気力で防いでいるのもあって、疲弊してきている。こっちの菌根による再生は使えば使うほど精神の汚染が進むから何度も使えない。じり貧だ。一気に決めないと分が悪いのはこちらだ。

 

 

「『「一撃で決める、でござる!」』」

 

 

 最下層に着地し、瓦礫の雨を浴びながらこちらを見あげ、全ての眼で見据えて四本腕を掲げて迎撃の体勢を取る怪物に、私達は壁に向けた右掌から菌根を触手状に伸ばして掴み、引っ張って加速。さらに左掌から菌根を触手状に伸ばし、壁にくっつけて引っ張り加速。それをひたすら、三人分の反射神経で幾度も繰り返し加速し続け、落下の速度は音速を超える。

 

 

「『「首狩り!!」』」

 

 

 ハンター唯一にして、最強の技。一撃で頸を断つ斬撃。その名を告げた瞬間には、怪物の頸は抉り取られるようにすっぱりと切断され、さらにその側頭部に爪を突き立てとどめを刺す。脳さえなければ、動けはしまい。そういう考え、だったのだが……。

 

 

「『「……冗談じゃない」』」

 

 

 ボコボコと胴体の切断面の肉が泡立ち、新たな頭部が生えて復活する光景に、愚痴を吐き捨てる。ならばとカエルの遺伝子を持つ脚に力を込めて、水浸しの床にクレーターができるほどの勢いで跳躍。怪物の右上腕を斬り捨てるがしかし、斬り裂いた瞬間にはボコォ!と肉の触手が伸びて腕にくっつき、再生。長くなった右上腕を振り回し、壁を抉り取るように周囲を薙ぎ払う怪物の一撃をもろに受け吹き飛ばされる私達。

 

 

「『「なんという……!」』」

 

 

 ならばと床を、壁を、ひたすら蹴り続けて跳躍を繰り返す。頸を、右上腕を、左下腕を、左足を、右上腕を、左上腕を、右足を、頸を、右足を、頸を、右下腕を、胴体を、切断し続ける。しかしすぐに再生。そればかりか切断した部位から肉の触手が生えて、もはや千手観音もかくやの異形と化して私達を捕えんと伸ばしてくるそれから逃れることしかできなくなった。切断では意味がない。頭部が潰れて脳が死んでも新たに生える。まるでヒュドラの如く斬っても増えて生えてくる。どうしろと?

 

 

「『「……無敵だったドミトレスクじゃなくて、どちらかというとジャックと似たようなもんでござるな。それならそれでやりようはある」』」

 

 

 エヴリン(わたし)の記憶と同期し、対抗策を編み出す。それ即ち、究極のごり押し。イーサンの悪癖が移っちゃったな……

 

 

「『「限界が来るまで殺し続ける!死ぬまで殺す!ただそれのみ!」』」

 

 

 菌根の汚染が進むのと引き換えに、その力を開放する。太腿を中心とした両足の筋繊維ならぬ菌繊維を増量。脚力の過剰なまでの強化を行い、跳躍。壁が砕けるのも構わず、蹴った瞬間には反対の壁を蹴り、斬り裂き、壁を蹴り、斬り裂き、床を蹴り、斬り裂き、壁を蹴り、斬り裂き、壁を蹴り、斬り裂き、床を蹴り、斬り裂いていく。それはまるで吹き荒れる嵐の如く。怪物を細切れにするつもりで斬り裂き続けていく。

 

 

「グオオオオオアアアアアアア………アアアッ!?」

 

 

 全身細切れにされても即再生しながらもう何本かもわからない両腕を振り回し、私達を迎撃せんとする怪物だったが、迎撃しようとする腕ごと斬り捨てて攻撃を続ける。すると明らかに再生が遅れ始めた己の肉体に首を傾げた瞬間にミンチになり、即再生した怪物は、己の命の危険を感じ取ったのか、私達に斬り捨てられることも承知の上で両腕を伸ばし、でたらめに振り回し始めた。腕の先端の爪が、私達ごと壁を引き裂いていくが、斬られた傷も菌根で無理矢理再生させて攻撃を続ける。

 

 

「『「うおおおおおおおおおおおおっ!!」』」

 

「グオオオオオアアアアアアアッ!!」

 

 

 そして、さらに怪物をミンチにした瞬間、私達の蹴りつけと怪物の爪の斬撃に耐え切れず、壁が崩壊。地崩れを起こして怪物を押しつぶし、私達は、崩壊する瓦礫を蹴って爪を壁に突き刺し、壁を蹴って上に逃れていき、ゴミ集積所の階まで戻ってきた私達。

 

 

『わあ!?』

 

「がっ!?」

 

「ござ!?」

 

 

 なんとか無事な足場に飛び乗りそのまま大の字に転がった私達は強制的に分離され、空中をグルグル回転して目を回した私と、顔を打ち付けて悶えるハンター二人。

 

 

『……さすがに菌根世界でもないしイーサンとローズでもないのに三人合体は無理があったみたい…?』

 

「もう、二度とやらない……」

 

「同感でござる……」

 

 

 流石に死んだだろうけどあんな怪物の相手はもう二度とごめんだ。……アネット、土葬もしたしお願いだから安らかに眠って。




端的に言えば呪いの王の領域展開を物理てやった感じ。

・モールデッド・ハンター
見た目は巨大な漆黒のハンター。エヴリン+オメガ+プサイの合体形態。三人で合体したため出力は高いが自動的に解除されるぐらい不安定。モールデッド・クイーンの時と同じく暴走の危険性があったが、プサイの影響で精神が安定している。両腕の発達した爪と、プサイ由来のカエルの様な脚が武器。斬撃と蹴りを織り交ぜた格闘戦を繰り広げる。三人分の戦闘経験と知識が強み。

・G4:今作では千手観音形態のことを指す。この時点でほとんど制御できていない。

・G5:斬られ続け、最終的にここまで進化してた。触手を複数伸ばした肉塊。再生が遅れていたため質量で逆転しようとしたところ瓦礫に押しつぶされた。


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file2:34【NESTの支配者ベルセポネ】

どうも、放仮ごです。ポケモン蟲とどっちを投稿しようか迷った挙句某神隠しを見てたので遅れました。

今回は新クリーチャー登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 蔓延るゾンビを殲滅しながら警察署を通り、急ぐ男女二人組がいた。男の手にしたノートパソコンには、モールデッド・クイーンがタイラント・マスキュラー相手に大暴れする光景が映っている。

 

 

「……とんでもないな。これが菌根の…いや、お前の言うエヴリンとやらの力か」

 

「ああ。アイアンズの掌握していた監視カメラのデータを手に入れたおかげで見られたが、とんでもない力だ。…本当に惜しいな。あの時交渉に成功していればと思わざるを得ない」

 

 

 ウィリアム・バーキンとアルテ・W・ミューラーことアルバート・ウェスカーである。シェリーに逃げられた二人はエイダと連絡後、シェリーを迎えに行くと頑なに譲らないウィリアムにウェスカーが折れて、来た道を引き返してNESTに向かっているのであった。そんなウィリアムとウェスカーの興味を引くのは、ウェスカーにだけ見えるエヴリンの存在。片や興味深い研究対象として、片や強力な兵器になりうる存在として。

 

 

「ウイルスに感染していないと知覚すらできない少女か……何者だ?」

 

「正確なところはわからんが、恐らく菌根の化身だ。T-ウイルスの開発段階、始祖ウイルスを内包したヒルたちにジェームス・マーカスが菌根を餌として食わせたという記録がある。菌根はいまだにメカニズムが解明されていない未知の存在だ。奴の様な存在がいても不思議ではない。クイーンやアリサと共に存在し、妙に人間らしいのが不可解だがな」

 

「化身、ね。気に喰わんな、科学で解明できない存在など」

 

「菌根は精神に深く関わっているのだろう。菌根を鍵とした集団催眠と言われた方がまだ納得するな」

 

「しかしこの変異は興味深い。クイーン・サマーズの正体は例のヒルだろう?どうしてここまでの戦闘力が出せる?」

 

「見る限り菌根が鉄をも砕く硬度と変幻自在な柔軟性を有しているようだな。それを筋繊維の代わりにしてあそこまでのパワーを引き出していると見える。それとお前にはわからないだろうが、恐らくクイーンとエヴリンの自我が混濁している。とんでもない凶暴性だ。あれは兵器にすれば化けるぞ。フハハハハハッ!」

 

 

 美しい顔に似合わず邪悪に笑いながらゾンビの頭をネリチャギで粉砕するウェスカーにドン引きしながら、ウィリアムはモールデッド・クイーンと激戦を繰り広げるタイラント・マスキュラーを拡大して難しい顔になる。

 

 

「しかしこのタイラントと思われる生物兵器は何者だ…?私はこんなもの、知らないぞ」

 

「アイザックスが開発したか……もしくはタイラントの強化研究をしているセルゲイ・ウラジミールの差し金だな。後者だとしたら目的はお前とG-ウイルスだろう、ウィリアム」

 

「それは困るな。守ってくれよ、アルバート」

 

「女に働かせるな。……冗談だ。「うわっ」って顔をするな、普通に傷つく」

 

 

 そんなことを言いながら、下水道に直通で続く通路を開けて先を急ぐ二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、ここは?」

 

「こんな空間を地下に……?」

 

「ここがアンブレラの所有するラクーンシティ地下研究所「NEST」よ」

 

 

 目に症状が表れたシェリーを連れて、エイダやクレアと共に下水道最深部にあったケーブルカーに乗ってやってきたそこに広がっていたのはSF映画に出てくるような近未来な施設。でかすぎる……こんな巨大な空間を地下に建造するアンブレラの技術力は目を見張るものがある。作っているモノがまともであればの話だが。

 

 

「クレア、クイーンたちを待ちながらシェリーを看ていてくれ。俺はエイダと一緒にワクチンを取ってくる」

 

「わかった、シェリーは任せて。気を付けて、レオン」

 

「急ぎましょう、レオン」

 

 

 クレアとシェリーを守衛室に残し、エイダと共に外に出る。これまで道中で頼りになったクイーン、エヴリン、オメガ、ヘカト、プサイはいない。クレアを俺達と合流させたプサイとオメガはもとより、巨大な爬虫類の特徴を持つ女から俺達を逃がしてくれたクイーンたちはいまだに戦っているはずだ。シェリーを助け、脱出手段を探らなければ。

 

 

「この、職員用のリストタグがあればある程度は行けるはずよ」

 

「それをどこで?」

 

「ちょっとした伝手でね。"A secret makes a woman woman." 女は秘密を着飾って美しくなるのよ」

 

 

 そう言いながらリストタグを使い進むエイダについていくと、いきなり足を止めるエイダに首を傾げる。

 

 

「なんだ?どうしたエイ……ダ?」

 

 

 その部屋の入り口で止まったエイダの肩越しに部屋の中を見て、絶句する。巨大な植物がガラス張りの向こうの温室らしき部屋を埋め尽くし、その周りを人型の植物が徘徊していたのだ。

 

 

「なんだ、あれは?」

 

「ドライアド43“ベルセポネ”とその種子を寄生させた人間が変貌した眷属の“イビー”……詳しいことは知らないけど、危険なのは確かね」

 

「植物なら、火炎放射器がある。これで……」

 

 

 「あいつらこんなのがいること黙っていたわね…」とごちるエイダに、背中に背負っていたそれを見せる。オメガと探索中に見つけたものだ。まさか役立つとは思わなかったが。

 

 

「あら、頼もしいわね。護衛は任せるわ、騎士様?」

 

「任されましたよお姫様」

 

 

 次の瞬間、ガラスにへばりつく大量のイビー。まるで麻薬中毒者の様にガンガンとガラスを打ち付け、罅が入っていく。嘘だろ……!?

 

 

「なんだ?何がここまで此奴らを駆り立てる…!?」

 

「口元を押さえなさい。ベルセポネは張り巡らせたツタの先に人間はおろか、ゾンビすら虜にする麻薬並みに中毒性の高い甘い蜜を分泌する花を咲かせ、直接種子入りの蜜を飲ませたり、匂いを嗅がせて獲物を誘引してツタを絡ませて吸血すると聞いたわ。おそらくあの部屋にはそれの匂いが充満している。…見なさい、あれがベルセポネの真の姿よ」

 

 

 そう言ってエイダの指さした先、部屋の中心の植物の巨大な花の花弁が開いて、そこから包容力のある右目を前髪で隠した金髪の女性の上半身が姿を現した。にっこりと笑みを浮かべて手を招き寄せるように動かすその姿は、事前に聞いていなければ、なるほど確かに誘惑されてしまいそうな美貌だ。胸元まで植物の蔦が根付き、よく見れば肌の色も若干緑色なのが人間ではないことを表している。

 

 

「おいで、おいで……幸せになりましょう……?」

 

 

 そんなことをベルセポネは口にしながらも、大量のイビーが腕を叩きつけ、バキバキとガラスがひび割れていく。見るからにもう限界だ。咄嗟にポーチから布を取り出し口元に巻く。

 

 

「エイダ、先に行け。ここは俺が引き受ける」

 

「死ぬ気かしら」

 

「俺は警官だ。お前もFBIの捜査官だろう!?シェリーの……子供の命の方が大事だ!行け!行くんだエイダ!」

 

 

 そう叫んでエイダを奥の部屋に向かわせた瞬間、ガラスが完全に砕け散って雪崩込んでくるイビーの群れと、ねっとりと絡みつくかのような吐き気がするほど甘ったるい密の匂い。俺は咄嗟に火炎放射器を構えて引き金を引き、イビーを焼き尽くしていく。

 

 

「おいで、おいで……私と一つになりなさい……」

 

 

 しかし炎上するイビーを盾にするかの様にベルセポネが伸ばしてきた先端に黄色い花がついた蔦が襲い掛かってきて、俺の口目掛けて突っ込んでくる。無理矢理種子の入った蜜とやらを飲ませるつもりか…!?

 

 

「くっ…!」

 

「キャアアアアアアッ!?」

 

 

 咄嗟にナイフを振りぬき、花を斬り裂くと花弁が舞い散り、ベルセポネの悲鳴が上がる。痛覚はあるのか。ならやりようはある…!

 

 

「我が子達よ、捕らえなさい」

 

「しまっ…!?」

 

 

 すると燃えながらも耐えきった複数のイビーが組み付いてきて、四肢を拘束し火炎放射器を手放させる。そして伸びてきて口に飛びこんでくる複数の蔦。まずい、このままじゃ…!?

 

 

「ぐっ……あああああああああっ!?」




今回新登場のベルセポネは、いつも支援絵でお世話になっているエレメンタル社-覇亜愛瑠さまのアイデアである、旧名ハニーディスペンサーをもとに考えさせていただきました。ドライアド42のデータを基に作られた植物B.O.W.です。原作におけるプラント43に該当していて、イビーを生み出すところは共通だけど麻薬染みた蜜を使って操るという最悪の敵。作った人(某ザックス)は何考えてるんだろうね。

エヴリンに目を付け始めた最悪コンビ。そして大ピンチのレオン。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:35【白面の鎧武者】

どうも、放仮ごです。今回、急展開ですが今のうちに挟み込んどかないとと思い出して急遽入れた展開になります。楽しんでいただけたら幸いです。


「……ここは?」

 

 

 私は気づけば、吹雪吹きすさぶ雪原に立っていた。以前、もう一人の私……エヴァと出会ったあの場所とそっくりだ。

 

 

「なんで、ここに……オメガちゃんとプサイちゃんと無理矢理合体したから?あ、そうだ菌根世界なら……おーい!おーい!聞こえる!?ゼウ!」

 

 

 いつもなら呼びかければすぐに現れるゼウからどういうことか聞こうと思ったが、まるで反応がない。いつもと、違う?そこで違和感に気付く。

 

 

「……大地も空も、白い……?」

 

 

 ただ木や草の陰影がうっすらと浮き出ている程度の、真っ白な空間だった。どちらかと言うと黒、な菌根世界とは対照的だ。生気を感じない、地獄のような場所。ここは、私の知っている生命(記憶)が辿り着く世界じゃない。意識を集中させても、出ることができない。

 

 

「…運が悪いですね。ここに迷い込むなど」

 

「……誰?」

 

 

 まるでボイスチェンジャーで変声したようなくぐもった声が聞こえてきた方に振り向く。一瞬、なにが居るのかわからなかった。それは、一言でいうならば「白」だった。プサイの好きな時代劇に出てきそうな、全身真っ白な和風の甲冑に身を包んだ、背中に身の丈はある長刀が収まった鞘を取り付けた鎧武者だった。兜を被った顔は鬼を象った面頬と呼ばれる顔面と喉を保護する仮面で隠されているその眼光は剣吞な輝きを宿していて、紅い光を瞬いている。背景に溶け込んでいてわからなかった。なんだ、こいつは。

 

 

「覚悟…!」

 

「な、なに!?」

 

 

 まるで甲殻類を思わせるごつごつとした意匠の、長い刀身の日本刀を抜刀した鎧武者は勢いよく振り下ろしてきて、咄嗟に衝撃波を私を覆うように放って防御。ギリギリギリ、と刃と衝撃波が鍔迫合う。

 

 

「いきなりなんだ!危ない!」

 

「いきなりなんだとはなんですか。私の領域に土足で踏み入って、こうなることはわかっていたでしょう!」

 

 

 斬。地面を斬り裂くように振り上げた日本刀が描いた軌跡が、実体化した斬撃として下から剣山が発生して私は跳躍して宙返り。しかし視線を向ければ鎧武者の姿はなくて、咄嗟に衝撃波を右手に纏いながら着地した瞬間、背後から横蹴りが放たれて、咄嗟に右腕でガード。衝撃波で守っていたはずなのにもろともに蹴り飛ばされて、雪原をサッカーボールの如く跳ねて転がっていき、前方に衝撃波を放ってそれをクッション代わりにして受け止め、何とか受け身を取って着地する。ってあれ?これ、雪じゃない。このふわふわする感じ、菌だ。

 

 

「痛いなあ、もう……」

 

「弱くなりましたね。エヴリン。この程度の不意打ちで飛ばされるとは」

 

 

 そんなことを宣う鎧武者。名乗ってもないのに名前を知ってるってことは知人か。でもこんな鎧武者、私知らないぞ?現代(1998年)はもちろん、未来…過去?の2017年とかでも見たことない。でもなぜか、気配だけは誰よりも知ってる気がする。なんでだ?

 

 

「…あなたは私の名前を知ってるみたいだけど、私は知らないから教えてくれると嬉しいな?」

 

「冗談なら笑えませんよ?」

 

 

 瞬間、深く腰を落とし刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く右手を添えたような、まるでビリヤードのキューを構えたような体勢をとると一瞬で距離を詰めてきて、刺突。私は咄嗟に菌根で武装した両腕で眼前の刃を拍手で受け止め、ズザザザザッ!と押されていく。この刃、受けたらなんかやばい気がする!こっちも菌根で強化してるのになんてパワー…!?

 

 

「ふっ!」

 

「ぎゃあ!?」

 

 

 なんとか止まるも、思いっきり腹部をサッカーボールキックされて空中に蹴り飛ばされ、鎧武者はブンブンブンと日本刀を振り回して実体化した刃を飛ばしてきたのを、衝撃波の反動で身を捻って回避。着地し、そちらが日本刀ならこっちは銃だとクイーンのゴクとマゴクを思い出して二丁拳銃を菌根で形成。弾丸は菌根で無限生成、反動は菌根武装で何とかしながら構えて乱射する。

 

 

「そんな豆鉄砲…!」

 

「石川某かな?」

 

 

 しかし乱射された弾丸は鎧に当たることもなくすべて切り捨てられてしまい、真っ二つにされた弾丸が地面に落ちる。どんな反射神経してるんだ。

 

 

「忘れたというなら思い出させてあげましょう。あなたの存在を否定する私と言う存在を…!」

 

「だーかーらー!私は貴方を知らないの!なに、私の知らない未来からでも来た!?」

 

 

 弾丸を乱射しながら近づけないようにしつつ訴える。すると鎧武者は面頬から覗く目を見開き、日本刀で薙ぎ払うように地面を斬り裂いて白い結晶の壁を形作ると、日本刀を鞘に納めたので私も銃を下す。

 

 

「……理解しました。あなたは私の知るエヴリンとは違うようだ。過去からでも来ましたか?」

 

「二人を無理矢理合体させるとかいう無茶をして菌根がバグったのかもしれないけど……私自身が未来から過去に来たからなんとなくわかった。私にとってあなたは未来、なんだね」

 

「……興が冷めました。あなたは斬るに値しない」

 

 

 そう言って振り返り、雪の様な白い菌を伴った風が吹き荒れる中を歩いて去っていく鎧武者に、思わず問いかける。

 

 

「あなたは、なに!?なんで私を襲うの!?」

 

「これから私に会う輩に言う言葉などありません。私は、あなたにとっての【敵】だ」

 

 

 それだけ残して、鎧武者の姿は消えて行って。いつの間にか、周囲の光景も正常の黒を主調とした世界に戻っていた。

 

 

「……またアイザックスの作り出した生物兵器かなあ。好き勝手増やされても困るんだけどなあ」

 

 

 自分の意識が浮上していく感覚を受け入れながら、私はぼやく。しかし私はのちに嫌と言うほど思い知ることになる。あの鎧武者は私にとって最強最悪の【天敵】なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、しっかりしろ。おい」

 

『んんっ……!?』

 

 

 声が聞こえる。目を開けると、クイーンとリヒト、ヨナとグラが私の顔を覗き込んでいた。

 

 

『うわあ!?』

 

「目が覚めたか。なにがあった?レオンとクレアはどこだ?」

 

 

 そう尋ねてくるクイーンに、辺りを見渡す。クイーンたちの背後でぶっ倒れているオメガちゃんとプサイちゃんを、ヘカトちゃんがツンツンとムカデの足で突っついている。思わず心配になったけど息はしている。

 

 

『手を付けられない怪物になったアネットを倒すために2人と合体したんだ。オメガと同期した記憶によると多分、レオンとクレアはG-ウイルスに感染したらしいシェリーを治すために先にアンブレラの研究所に向かったんだと思う』

 

「アネットが……そうか。あいつは、死んだか」

 

「ミンチにした上で瓦礫に押しつぶしたからこれで生きてたら困る」

 

「我ながらオーバーキルにござった」

 

「オメガ!プサイ!よかったわ!」

 

 

 そう言って目覚めたのは、オメガちゃんとプサイちゃん。瞳に涙を湛えたヘカトちゃんが抱き着く。あ、ヘカトちゃんの腕も再生したみたいだね。よかった。

 

 

「よし、目覚めてそうそう悪いがレオンたちを追いかけるぞ」

 

「了承」

 

「承知でござるが……このお三方は味方でいいでござるよね?いや、エヴリン殿の記憶と同期したから味方だと頭では理解しているでござるが……」

 

「マザー、俺やっぱり邪魔な子?」

 

『そんなことないから泣かないで!』

 

 

 ハンターの本能的なものが危険を訴えてるのかプサイちゃんがそんなことを宣い、リヒトが涙目になったので精一杯あやす。可愛いけどすぐセンチメンタルになるのやめようね?

 

 

『三人とも今は私の子供だから大丈夫!なんなら、オメガちゃんとプサイちゃん、ヘカトちゃんも私の子供になる?』

 

「! …いいの?」

 

「本当でござるか!?」

 

「エヴリンがママ?愛を感じるわ…!」

 

『え』

 

 

 やんややんやと手放しに喜ぶ三人に困惑する。あれ、あれ。冗談のつもりだったんだけど………思ってたより私、懐かれてた?そうクイーンを見やると、真顔で掌を突き出される。

 

 

「あ、私は結構だ」

 

『告白もしてないのに振られたような言い方はやめて?』

 

「それはどうでもいいが言ったことの責任はとれよ?」

 

 

 そう言うクイーンにぐうの音も出ない。リヒト、ヨナ、グラ、オメガちゃん、ヘカトちゃん。プサイちゃん。……うーん、大所帯になったなあ。まあ悪い気しないし、みんなのママとしてがんばろ。




謎の白づくめ鎧武者現る。バグった菌根が未来と繋がって現れた存在ですが、何者なんでしょうね?

そして爆誕エヴリンファミリー。イーサンとミアの知らないところで孫が増えていく。

次回はレオンsideに戻ります。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:36【蠱惑のベルセポネ】

どうも、放仮ごです。G生物編のはずなのにモリグナとかブギーマンとかタイラント・ハーキュリーとかアリゲーター・ステュクスやら他の強力なB.O.W.が目立つ今章。アイアンズ?そんなのもいたね。その中でも最も際立っているのがベルセポネです。楽しんでいただけたら幸いです。


「……ここがアンブレラの研究所、NESTか」

 

 

 閉じられたシャッターを無理矢理こじ開けたクイーンが、壁に描かれたUMBRELLAとNESTの文字を見てクイーンがごちる。無駄に整っている場所なのが気に喰わないんだろうなあ。

 

 

『ケーブルカー呼び出してもなかなか来ないからリヒトに走ってもらうことになったね、ごめんね』

 

「それはいいけど……俺、ここ嫌いだマザー…」

 

「リヒト、大丈夫?」

 

「心配なら抱きしめてあげる!」

 

「それはヘカト殿が抱きしめたいだけでは?」

 

「ここって私達が閉じ込められてた場所よね?」

 

「戻ってくることになるとは思わなかったなー」

 

 

 私、リヒト、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃん、ヨナ、グラの順で喋る。しかし大所帯だ。こんだけいれば過剰戦力だよなあ。もしもさっきのアネットが来ても何とかなる気がする。このうちクイーン以外の子達のお母さんが私ってマジ?血(菌根)は繋がってるけど。あ、リヒトとヨナとグラはここに来る際に姿を変えておいた。

 

 リヒトはさすがにサイズまで完全に小さくはできなくて、二メートル半の長身で緑色の髪を短く切り揃えた中性的な女性の姿で服装はシンプルな黒のTシャツとジーパンでボーイッシュに、胸がたわわなことになっているがあまりに圧縮すると支障が出るからしょうがない。ヨナは蛇の尻尾みたいな床までかかる茶色い長髪で、蛇柄のジャケットと黄緑のキャミソールにシックなロングスカートで大人風。グラは背鰭と鰭を合わせたみたいな髪型の水色の長髪で白のタンクトップとホットパンツで生足魅惑のマーメイドみたいな。私自身がお洒落を知らないから苦労した……。

 

 

「クイーン?無事だったのね…!」

 

 

 と、そこに扉を開けてクレアが出てきた。クレアはリヒト達に驚くも、「新しい仲間」とクイーンが簡潔に説明したことで納得する。あの時襲い掛かってきた怪物や、クレアのお兄さんを襲った二人ですって言ったら絶対めんどくさいことになるもんね。こらヨナ、グラ。なんか見覚えのある気配だな…?と首を傾げるんじゃありません。

 

 

「今、レオンとエイダがワクチンを取りに行ってるの……私はシェリーを診ていて動けない、加勢に行ってあげて」

 

「わかった。オメガ、プサイ。お前たちは回復も兼ねてもしもの時のためにクレアとシェリーの傍にいろ。残りのメンバーでレオンとエイダを追う。エヴリン、先行してくれ」

 

「了承」

 

「ご武運を!でござる!」

 

『わかった、急ぐね』

 

 

 クイーン、ヘカトちゃん、リヒト、ヨナ、グラが歩を進め、私はその先をふわふわ浮いて壁をすり抜けて行く。まあレオンに限って大丈夫だとは思うけどねえ。そんなことを考えながらなんか騒がしい方に進んで壁をすり抜けて、思わず絶句する。

 

 

『え』

 

「ベルセポネ……愛している……」

 

「レオンはいい子ねえ。もう離さないわ……」

 

 

 壁をすり抜けたら、なんか植物に覆い尽くされた部屋の中心の巨大植物から上半身を生やした明らかに人外な女性に愛を囁きながら腰を抱え頭をなでなでしているレオンがいた。周りにはそれを囃し立てるように蠢く植物人間たちの姿が。え、なにこれ。……なんか私が洗脳したジャックたちみたいにベルセポネと呼ばれた女を甘やかしているな……よし、考えるのやめた!

 

 

『クイーン!レオンが壊れたー!』

 

 

 そう大声を出してクイーンたちを呼ぶと、ぴくッと反応するベルセポネとレオン、そして植物人間たち。こっちを向いて気づいた。なんかレオンの顔の皮膚の下に根っこの様なものが根付いている。あれで脳を支配されているのか。というかレオン、私が見えてる?

 

 

「また獲物が来たわ……貴女も愛してあげる。私の可愛い子供達(イビー)……その子供も捕らえてしまいなさい!」

 

「ギギギギッ……!」

 

『うわあー!?普通にきもいー!』

 

 

 十数体はいるイビーと呼ばれた植物人間が気持ち悪い動きで歩きながら私を取り囲み、腕を伸ばして攻撃してくるので、慌てて身をよじって避ける。当たりはしないけど身体をすり抜けるのは、普通に、気持ち悪い感覚がして嫌なんだって!すると私が触れると勘違いしたのか、ベルセポネが下半身の植物から先端に花が生えた蔦を伸ばしてきて、私の口に突撃させてきた。それも避けると、花からとろりとした液体が流れて床を汚した瞬間、床に植物が根付く。植物の種子を含んだ蜜……これを飲まされてレオンはああなったのか!

 

 

「レオンがどうした、エヴリ……おぉお!?」

 

 

 するとそこに扉が開いてクイーンたちがやってきて。イビーが蠢き、蔦が周囲を飛び交う光景に驚いた声を上げると反応したイビーたちが襲い掛かる。咄嗟に粘液硬化して近くのイビーを殴りつけるクイーン、腕だけ擬態を解いて巨大な右腕を振るったリヒト、両腕のムカデ腕で螺旋を描いてイビーを巻き込むヘカトちゃん、ロングスカートの下の擬態を解いて蛇の下半身を出した尻尾で薙ぎ払うヨナ、口を大きく開いて牙で噛みちぎるグラが応戦する中で。レオンがナイフを手に、クイーンに斬りかかり粘液硬化で受け止められ鍔迫合う。

 

 

「ちいっ…!レオン!お前、どうした……!」

 

「ベルセポネ様の愛を受け入れろ…!」

 

「フフフッ、レオンはいい子ね……。獲物がより取り見取り……私が愛してあげる!」

 

「もうマザーからもらった!お前の愛は、いらない!」

 

「お前から愛は感じないわ…!」

 

「私達の住処だった場所にこんなのがいるなんてね…!」

 

「大方、私達も操ろうとしていたのだ。気に喰わないのだ!」

 

 

 ベルセポネの蔦による攻撃やイビーの組み付きも、各々薙ぎ払って応戦しているが、様子がおかしい。動きがみんな鈍いというかなんというか。クイーンが操られているレオンに圧倒されてるのがまずおかしい。特にリヒト、ヨナ、グラが涎を垂らして息が荒い。私は特に異常ないのに……みんなにあって、私にないもの?視覚はある、聴覚はある、触覚もある。ないのは味覚と、嗅覚…!

 

 

「くそっ、なんだこの甘ったるい匂いは……気が散る!」

 

「その子供に効かないから心配したけど、ちゃんと効果があるようで嬉しいわ。私の愛が欲しければ、屈服なさい?」

 

『あの蜜か…!クイーン、みんな!鼻を塞いで!あれヤバイ!』

 

「わかったわ!」

 

 

 私の言葉に、クイーンとヘカトちゃんはそれぞれヒルとムカデ腕でマスクの様に口元を塞ぐが、リヒトとヨナとグラは塞ごうとする素振りすら見せない。そうか、この三人はもともと嗅覚が発達している鰐と蛇と鮫……こういう攻撃に弱いんだ!

 

 

「ま、マザー……でも俺、あの蜜が欲しい……」

 

「匂いだけでこんなに涎が出るのよ…?絶対美味しいわ…」

 

「もう我慢できないのだ…!」

 

「我慢する必要はないのよ……私の愛を受け入れて?」

 

「させないわ…!」

 

 

 ついには蜜を求めるようになってしまった三人に蔦を伸ばすベルセポネに、左腕で顔を覆いながら右腕を伸ばしたヘカトちゃんのムカデ腕が突撃。ベルセポネを貫き、引き裂く。

 

 

『やった!?』

 

「―――――無駄よ」

 

 

 しかし本体は破壊されたはずなのに声が聞こえ、蔦が生い茂って新たなベルセポネが生成されてしまった。そんな馬鹿なことある?

 

 

『みんな、ダメ!飲まないで!?』

 

「美味しい……もっと、もっと…!」

 

「甘美な味……ベルセポネ様、もっとちょうだい…!」

 

「美味い!美味いのだ!」

 

「ええ、いいわよ?聞き分けのない子達を捕まえたらもっとあげるわ…」

 

 

 静止の声虚しく、虚ろな目で蜜を求めベルセポネの声に応えて私とクイーン、ヘカトちゃんに向けて構えるレオン、リヒト、ヨナ、グラ。イブリースを思い出すなちくしょうめ!

 

 

 

 

 

 

 

 

~部屋の片隅の落ちていた手記~

 ベルセポネ。別名ドライアド43は制御できないヨーン・エキドナととネプチューン・グラトニーを支配下に置くために、私が洋館の研究所から持ち込んだドライアド42の欠片を分析して得たデータを基に遺伝子改良されて生み出された植物型のB.O.W.。

 ドライアド42の遺伝子情報から酷似しながらも母親か女神の如く包容力のある女性の姿を取るがこれは疑似餌の物の様らしく本体はドライアド42と同じく球根で、女性の姿をしている疑似餌はいくら破壊しても再生する。複数の植物の遺伝子を組み合わせたので元がなんだったのか判別しづらいがベースは蔦植物であり、鉄だろうがコンクリートだろうが根付いて繁殖する。

 張り巡らせた蔦の先に人間やB.O.W.を虜にする麻薬並みに中毒性の高い甘い蜜を分泌する花が咲いており、これをに種子を混ぜ込み直接蜜を飲ませ支配下に置き、植物人間「イビー」に変貌させて繁殖する他、匂いを嗅がせて獲物を誘引して蔦を絡ませて吸血する。種子入りの蜜を飲まされた人間は一定期間は人の姿のままだが、浸食が完全に進むと「果実」となりイビーと化してしまう。研究員が何名か犠牲になってしまったがこれは不幸中の幸いだ、兵器としての運用もできるだろう。

 この中毒の特効薬は存在せず、禁断症状が治まるまで待つしかない強力な物。この中毒性による支配はあのイブリースの洗脳に匹敵するほどであり、蛇や鮫をベースにしており、血の匂いに反応していたヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニーには特に効果を発揮するだろう。

問題は制御方法だが……身動き取れない上に炎に弱いからこれを用いてゆっくり調整していくとしよう。

 

サミュエル・アイザックス




レオン、リヒト、ヨナ、グラを支配してしまったベルセポネの特性、言っちゃうとプラーガが一番近いです。マザー・ミランダよりマザーしている。イブリース以来の洗脳系ですね。ヨナとグラ対策のためにアイザックスが手ずから作り出したっていう。あの二人とリヒト、元が元だけに匂いに弱すぎるのだ。クイーンとヘカトは蛭と百足だからそこまでだったっていう。

そんなリヒト達の姿も更新。
二メートル半の長身で緑色の髪を短く切り揃えた中性的な女性の姿で服装はシンプルな黒のTシャツとジーパンでボーイッシュなリヒト。
蛇の尻尾みたいな床までかかる茶色い長髪で、蛇柄のジャケットと黄緑のキャミソールにシックなロングスカートで大人風のヨナ。
背鰭と鰭を合わせたみたいな髪型(けものフレンズのイルカみたいな)の水色の長髪で白のタンクトップとホットパンツで生足魅惑のマーメイドなグラ。
せっかく新しい姿になったのに最初の活躍が洗脳なのは本当にすまない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:37【この親にしてこの子あり】

どうも、放仮ごです。ポケモン蟲も更新したいんだけど、2編も佳境だからこっちを優先させたい気持ちががががが。

強敵ベルセポネを相手に、エヴリン本領発揮。楽しんでいただけたら幸いです。


 どうしよう。どうしよう、どうしようどうしよう。考える、考える。イブリースみたいに角を破壊すれば戻る、みたいな攻略法があればいいんだけどこれ完全に麻薬の類だ。中毒性のあるやつ。

 

 

「くそっ…!?」

 

「ベルセポネ様に銃を向けるな」

 

「貴女も楽になればいいのよ!」

 

 

 イビーの群れに囲まれながらもゴクとマゴクを構えてベルセポネを狙うクイーンだったが、レオンの銃撃で二丁とも弾かれ、ヨナの尻尾で拘束され頭から壁に叩きつけられる。

 

 

「よりにもよってこの二人相手なの嫌がらせかしら…!」

 

「蜜、欲しい!」

 

「噛みちぎってやるのだ!」

 

 

 ヘカトちゃんは単純に強く手も足も出なかったリヒトと、洋館でトラウマ必至な目に遭わされたらしいグラにムカデ腕に噛みつかれて振り回している。……家族相手だからか甘噛みだ、こっちは平和そうだな。よし!(現実逃避)

 

 

「あなた、実体がないのかしら…?どうすれば私の子になってくれるかしら…?」

 

『私の親はイーサンとミアだけだ!お前みたいな似非母親なんてこっちから願い下げじゃい!』

 

「悲しいわ、悲しいわ……悲しいからあなたの子供を全員奪っちゃおうかしら。マザーさん?」

 

『ふざけんな!リヒト達を返せ!』

 

 

 ニヤァと意地の悪い笑みを浮かべるベルセポネにブチギレる。アイツも菌根が使われてるなら、憑依もできるはずだ!しかし、触れてもその肉体が崩れ落ちるだけで入ることができない。そればかりか蔦を伸ばし、クイーンとヘカトちゃんに無理矢理花の蜜を飲ませようとしてきた。させるか!

 

 

『んにゃろ!そっちがその気ならこっちも考えがあるぞ!偽・領域展開!なんちゃってむりょーくーしょ!』

 

 

 咄嗟に右手で帝釈天の印を結び、前髪を左手でかき上げ菌根世界と接続。ベルセポネを引きずり込んで放心状態にするが、直後に後悔する。こいつだけは、菌根世界で挑んじゃダメだった。

 

 

「なにをしたのかわからないけど……私の優位は変わらないわ」

 

「……そうみたい、だね」

 

 

 場所は、ミランダとの決戦の地。ハイゼンベルクの工場の敷地。その最奥に陣取ったベルセポネを守るように、大量のイビーと、レオン、ヨナ、リヒト、グラ丸ごと配置されていた。精神的も細胞的にも繋がってるから一緒に引き込んじゃった……。クイーンとヘカトちゃんは避難できたみたいだけど。配下を持つタイプにはこれ使ったらダメだな、一つ学んだ。

 

 

「感じるわ、感じるわ……今の貴方には実体があるわね?」

 

「……そうなんだよねえ。この世界でも効果あるのかな?」

 

 

 なんなら私は衝撃波を操る能力とか菌根操作とかできるようになるし、現実の力はそっくりそのままあるんだろうなあ。精神だけの世界でもリヒト達に影響を与えてるとか怖すぎる。

 

 

「行きなさい、可愛い可愛い我が子達。あの子も私の子供にしてあげなさい」

 

「「「「「ウァアア…!」」」」」

 

「エヴリン、ようやく顔を合わせてさっそくで悪いが……覚悟しろ」

 

「ベルセポネ様のために…!」

 

「マザーも一緒に飲もう?」

 

「美味しいのだ!遠慮くすることないのだ!」

 

「謹んで遠慮させてもらいますぅ!?」

 

 

 一斉に襲い掛かってくるイビー軍団の組み付き、レオンの射撃に、ヨナの突進、リヒトの斬撃、グラの噛みつきを、身を捻って回避。その隙をついて伸ばしてきた先端に花が生えた蔦を鷲掴みにして何とか口に入るのを防ぎ、引きちぎる。この世界でこれを飲んだら私もどうなるかわからない!やばい!

 

 

「そう遠慮しないで。美味しさは保証するわ。抵抗しない方が楽よ?」

 

「洗脳系はトラウマ呼び起こされるからノーセンキュー!」

 

 

 昔の私を思い出すからやめて。本当に。やってること昔の私と同じだからね?何ならもっと性質(たち)が悪いからね!?いやそれは言い過ぎた、性質が悪いの私の方だった。そんなことを考えながら圧倒的な物量攻めてくるベルセポネ陣営の猛攻を避ける。避ける、避ける!

 

 

「しゃらくさいわ!」

 

 

 衝撃波を下から発生させてレオン、リヒト、ヨナ、グラの足元をひっくりかえす。イビー達を衝撃波で丸く纏めて、グルンと周囲を一回転させて薙ぎ倒す。性懲りもなく口を狙う蔦の攻撃を、衝撃波で散らす。駄目だ、数が多すぎる。

 

 

「いやあ、多勢に無勢すぎるな!」

 

 

 なら多勢に無勢に強い奴を真似しよう。心底嫌だけど。……菌根世界の記憶層と接続。目的の人間を引きずり出して記憶を抽出(ダウンロード)する。背中から生やすのは、六枚のカラスのような黒い翼と光臨の様な装飾。

 

 

「力を貸せ、マザー・ミランダ!」

 

 

 心底大嫌いな私の本当の母親、マザー・ミランダの力を引き出す。別世界線でも嫌と言うほど「私」たちを大苦戦させたミランダの力は本物だ。その力とは、精巧なまでに繊細なおかつ大胆な菌根操作能力。地面から菌根を生やし、イビー達やレオン、リヒト、ヨナ、グラをまとめて捕まえて空中に拘束する。イビー達は全力で締め上げて寸断して撃破、レオン達も手加減して締め上げて気絶させる。

 

 

「貴女も、私と同じぃいいいい!」

 

「……大怪獣と一緒にしてほしくはないなあ」

 

 

 ベルセポネも菌根の触手で締め上げ、持ち上げると出てきたのは、恐らく現実でも研究所の地下に根付いていた、巨大な球根の形状をした蔦植物の怪物。一番近いのは某怪獣王の映画に出てきたビオランテとかいう名前だったはずの怪獣だ。頭頂部に生えた花からベルセポネの上半身が出て狂ったように笑いながら蔦を幾重にも伸ばしてくる。合点がいった、これが本体か。本体でもないやつを倒しても倒しても死なないはずだわ。でも身動き取れないっぽいな。私を捕まえて無理矢理飲ませようって魂胆か。

 

 

「なめるな!」

 

 

 巨体で薙ぎ倒そうとしてくるベルセポネに対抗するべく張り巡らせた菌根を吸収。背中から巨大な翼を広げ蜘蛛の様な節足を展開、両腕を変異ドミトレスクの様なドラゴンの腕に、下半身が膨れ上がり怪魚モローの様に大口を開き、背中から伸びた尻尾の様な部位の先端には死神ベイビーを彷彿とさせる鋭い鎌がついている、ドミトレスク・ドナ・モローのハイゼンベルク以外の四貴族の戦闘形態を合わせた異形の怪物……ハイゼンベルクが生存した世界線でミランダが変貌した姿に変身。その巨体の薙ぎ払いを蜘蛛の節足と竜の腕で受け止める。

 

 

「イーサンは否定してくれたけど、私は怪物だ……!」

 

 

 胴体のモローの口から胃液を放射、表面をドロドロに溶かしたベルセポネの皮膚を死神ベイビーの鎌のような尻尾で引き裂き、蜘蛛の節足と竜の腕で傷口を掴んで無理矢理拡げていく。

 

 

「ギャアアアアアアアッ!?」

 

「この偽・領域展開は私も現実世界にダメージが反映されるという縛りをつけている代わりに、現実の肉体にも影響を及ぼす!なにが言いたいかわかる?この世界で死んだら現実でも死を迎えるってことだよ!」

 

「っ!」

 

 

 無理矢理私に蜜を飲ませようとしてくるベルセポネだったが、その蔦全てを翼を変形させた刃で切り刻み、突貫。鎌を竜の腕で握って胴体を貫き、球根を引き裂いてそのまま翼を羽ばたかせ、上昇していく。

 

 

「そんな、うそうそうそ!私が滅びるだなんてうそよぉおおお!?」

 

「何が敗因かわかる?お前はレオンを、リヒトを、ヨナを、グラを狂わせた。あまつさえ私からすべてを奪うと言った。―――――お前は私を怒らせた。ただそれだけだ!」

 

 

 そして、ベルセポネは縦に真っ二つに引き裂かれて、沈黙。ボロボロと崩れていき、そして散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なにが、起きた?」

 

 

 一瞬意識が飛んで、目を覚ましたらベルセポネやイビー達、レオン、リヒト、ヨナ、グラ、そしてエヴリンが放心状態で停止していて。どうしようか考えた結果、私は蛭だからレオン達から蜜とやらを吸って吐き出せばいいんじゃね?という結論に至り、ヘカトに警戒させながら実行していたところ、次々とイビー達が砕けた柘榴の如く弾け飛んでいき、ベルセポネも枯れていく光景に目を見開く。

 

 

『……ふう。あー、やばかった』

 

「エヴリン?お前か?なにをした?」

 

 

 意識を取り戻したこの現象の元凶であろうエヴリンに問いかけると、心底疲れた顔で一言。

 

 

『やっぱり私、アイツの娘なんだって思い知ったよ』

 

「???」




なんちゃってむりょーくーしょはもしもエヴリンが菌根世界で殺されたら消滅します。代わりに「お前も家族だ」などの攻撃の効果はそのまま現実世界にも伝わります。デメリットがすごいだけに強力。

ベルセポネはかくして滅び、蜜もクイーンのヒルの特性でとりあえず取り除きはしました。

次回は脱出開始。立ちはだかるのは…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:38【暴君阿修羅】

どうも、放仮ごです。こちらは五日ぶりでちょっとお久しぶりです。話は変わりますがバイオの小説を書く前に原作にして書いてたカプコンのゲームがあるのですが、これをご存じの方はだいぶ古参じゃなかろうか。

楽しんでいただけたら幸いです。


 T-103型タイラント【ハーキュリー】。アンブレラへの成果とするべくセルゲイ・ウラジミールが送り出した、タイラント型の新兵器。ハーキュリー、すなわちギリシャ神話の英雄ヘラクレスの様に試練にぶつかるたび適応し変異、強くなっていく生物兵器。ただでさえタイラントを作るだけでもそれなりのコストがかかる上に、タイラントを用いた最強の兵器を開発中なのにそんな強力なものをポンポン量産できるわけがなかった。

 

 

 

 今回、ラクーンシティに送り込まれたタイラント・ハーキュリーは三体。

 

 

 一体目は変異することなくモールデッド・クイーンに善戦したものの結局敗れ。

 

 

 二体目はタイラント・リッカー→タイラント・マスキュラーと進化を続け優位に立ったもののクイーンの機転で敗北した。

 

 

 

 

 

 

―――――ではもう一体はどこにいるのか?

 

 

 

 今回、タイラント・ハーキュリーに求められたのは「実績を立てること」それは以前のタイラントを倒したクイーンたちを打倒することでもあるし、生存者を抹殺することでもあるし、……U.S.S.が回収できなかったものを回収することでもある。

 

 

――――――すなわち三体目がいる場所は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんなに毛嫌いしていたミランダの力に頼ってまでなにしてんだろうなあ……思わず黄昏る。ミランダの記憶を呼び覚ましたことで強制的に思い出された。四貴族と、家族ごっこ。……今の私がやってることと何が違うというのか。クイーンとヘカトちゃんが四人の肩を揺らして起こしているのを尻目に、空中で体育座りして落ち込む。もっと他に方法があっただろうけどベルセポネにリヒト達を奪われて頭に血が上ってた。……体ないはずなのにね。

 

 

「起きろ、レオン」

 

「大丈夫?リヒト、ヨナ、グラ」

 

「うう……うえっ、……甘ったるい……」

 

「頭がくらくらするわ……」

 

「ヘカト美味かったのだ。もっと齧らせて」

 

「普通に嫌よ!?」

 

「蜜……蜜……」

 

「リヒトは重症だな。本当に麻薬みたいだ」

 

 

 警官時代に麻薬も取り締まってた経験があるクイーンがそう言いながら掌をヒルの口に戻して噛みついて吸い上げる。相手が私達だからよかったけど、ベルセポネと相対したのがレオンやクレアだけだったら間違いなく終わってたな。……本来の歴史だとどうなってたんだろ。あのベルセポネを倒せるとは思えないけどな…………もしかして私が介入したことでクイーンとかが参戦したから少し変わってる?

 

 

「うっ……マザー、ごめんなさい……」

 

『えっ、ああ。リヒトは気にしなくていいよ、下水道で飲食してたらそりゃ甘美な蜜には勝てないよ』

 

 

 正気を取り戻すなり謝ってくるリヒトを諫める。ほっといたら自傷行為とかしちゃいそうだもんね。さてどうしたもんか。とりあえずクイーン経由でレオンから今どうなってるか聞いた方がいいか、とレオンに視線を向けると目が合った。うん?

 

 

「……やっぱりお前が、エヴリン……なのか?」

 

『ありゃ、まだ見えてるの?ベルセポネの菌根が体内にちょっと残っちゃった?』

 

「クイーンに入ってた時をちびっ子にしたような姿なんだな………」

 

『邂逅一番失礼だな!?言っとくけどパクったのあっち!私がオリジナル!いや私もオリジナルじゃないけど!ややこしいなあもう!』

 

 

 いきなり失礼かますレオンにうがーっ!と威嚇しながらブチギレる。この野郎女性に優しいくせして私を女性扱いしてないな!許せん!うじうじ悩んでたのどうでもよくなったわ!

 

 

「ああ、放っておけ。こいつ沸点低いくせにすぐ鎮まるから。そんなことより今どうなってる?なんでお前はここでベルセポネに操られていた?G-ウイルスのワクチンは?」

 

『なんだとクイーンこの野郎、馬鹿野郎怒るぞ私おいこら聞け』

 

「ベルセポネの相手を俺が引き受けて、同行していたエイダにワクチンは任せたんだ。何事もなければいいが……」

 

『レオンも無視するなー!』

 

「マザー、大丈夫?」

 

「エヴリン怒ると可愛いのdむぐっ」

 

「リヒトにグラ、触らぬ神に祟りなしよ」

 

「痴話喧嘩は蛇も食わないわ」

 

 

 私を無視して会話を進めるクイーンとレオンに怒ってたらリヒトが心配しグラがからかおうとしてたけど、ヘカトちゃんとヨナに止められてた。解せぬ。

 

 

「レオン、上級職員用のリストタグを見つけたわ。これでウェストエリアに行けばワクチンが手に入るはず………なんだか大所帯になってるわね?」

 

 

 するとそこにエイダが扉を開けてやってきて、人の姿に擬態したみんなを見て苦笑する。ああ、傍から見ればレオンしか男がいないからハーレムに見えるのか。マービン別行動してるからなあ。リヒトは心は男の子だけどね。

 

 

「エイダ!無事だったのか!」

 

「こっちの台詞よレオン。イビー相手にてこずってたけど、いきなり全滅して、なんとか入手できたわ」

 

 

 そう言って紫色に光るリストタグを見せるエイダ。仕事が速いな、まるである場所を知っていたような。考えすぎかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、みんなの紹介はそこそこに、ウェストエリアに向かう私達、途中ヘカトちゃんがシェリーを運ぶためとクレア、オメガちゃん、プサイちゃんを呼ぶために別れ、先を進んでいくと死体が落ちていた。研究員じゃない、特殊部隊の格好をしている。

 

 

「ラクーンシティを拠点に運営する警備会社にしてアンブレラの機密を保守する目的で設立された特殊部隊U.S.S.(Umbrella Security Service)ね。恐らくバーキン博士夫妻を狙って返り討ちに遭ったのね」

 

「よくわかるな。まるで見てきたように言うんだな」

 

「その情報を掴んだからFBIは介入したのよ?」

 

「クイーン。エイダは味方だ。疑う余地はない」

 

『FBIなら悪い人じゃないでしょ。FIBだったらわからないけど』

 

「なんだそれ」

 

『五個目の車両泥棒の腐ったミカン』

 

「???」

 

 

 なんか最近ずっとクイーンを簡易むりょーくーしょしてる気がする。わかりやすくでかい隙になるし未来ネタはできるだけやめとこ。そう考えながら、振り向いた先で、先に進むための扉が開く。上級職員用のリストタグで開くはずのそれは、ギギギギギッ!ときしむ音を立てながら無理矢理こじ開けられていく。

 

 

『――――みんな!』

 

 

 それに気づいた瞬間、腕や足の擬態を解いて突撃するクイーンとリヒトとヨナ、援護するように牙を射出するグラ。銃を構えるレオンと、一拍遅れて気づくエイダ。そして完全に扉が無理やり開けられた先から現れたそれは、目にも留まらぬ速度で中に入ってくると広い部屋の生体培養槽になってる下層まで私以外の全員を叩き落としてしまう。そして私に視線を向けたそれは、異形の姿をしていた。

 

 

『タイラント……!?』

 

 

 肩から生えた複腕含めて片腕三本ずつの計六本の腕。上半身の服は破けて残骸が引っかかった下半身のズボンしか身に着けていなくて、上は裸だが皮膚が岩石の様に固まっている。その表情は白目をむいて修羅の様に歪み、憤怒を露にしている様だ。それはまるで、阿修羅の様で。

 

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 六本腕を振り上げて、咆哮を上げるタイラント・アシュラ(仮称)。自分から飛び降りて、リヒトの顔を掴み無理矢理床に叩きつける。その背後からヨナが尻尾を伸ばして首を締めあげようとするも、逆に腕の一本で掴まれて背中から床に叩きつけられ、振り回されてクイーンとグラも薙ぎ払われる。

 

 

「ぐああっ!?」

 

「あいつ、G-ウイルスとワクチンを持ってるわ!取り返さないと!」

 

 

 エイダが指摘した通り、見てみれば腰のベルトから下げたホルダーにいくつかの容器が収まっているのが見える。あれを回収しに来たのか…!じゃあこいつを倒さないと、シェリーが……!

 

 

「死ぬ気で盗るぞ!」

 

 

 クイーンの号令が響く。でも正直、勝てるか不安だった。




・タイラント・アシュラ
ゾンビやらイビーやらに対抗しながら孤立奮闘でG-ウイルスとそのワクチンを根こそぎ奪い取ってたタイラント・ハーキュリーが自己進化した姿。
モチーフはDLCで結末を描くという前代未聞だけどストーリーが神で、評価が賛否両論になってるカプコンのゲーム及びそれを原作にした漫画“アスラズラース”の主人公アスラ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:39【ただの人間の底力】

どうも、放仮ごです。本日はちょっとアクシデントがあってぎりぎりになりました。刹那的な快楽を求めるのはやめましょう、はい(ガチャ)


VSタイラント・アシュラ。見どころなかったレオン、リヒト、ヨナ、グラが大暴れ。楽しんでいただけたら幸いです。


「ウオオオオオアアアアアアッ!!」

 

 

 ヨナの長い胴体を六本腕で掴んで、輪を描くように高速で振り回したヨナを鞭の様にして薙ぎ払ってくるタイラント・アシュラ。六本の腕はそれだけで圧倒的な手数になりうる。残像が残るほどの速度で回されたヨナ大丈夫かな…?

 

 

「噛み砕いてやるのだ!」

 

 

 他は距離を開けて回避したそれを腹ばいになって手をバタフライでもするかのように動かして床を泳ぎ、滑るように回避、立ち上がって横に一回転し擬態を解いた尻尾でビンタを叩き込むとそのままひっくり返りタイラント・アシュラの足に噛みつくグラ。でも駄目だ、岩の様な肌が見た目より頑強なのか鉄すら噛み砕くグラの顎が通じてない。でもダメージからかヨナの回転が止まる。

 

 

「レオンとエイダは下がってろ!」

 

「引き裂く…!」

 

「よくもやってくれたわね!」

 

 

 そこで間髪入れず動き出したのはクイーンと、リヒト。そして目を覚ましたらしいヨナだ。尻尾を掴まれたまま這い廻り、六本腕をまとめて締め上げて拘束したところに、クイーンの粘液硬化した拳と、リヒトが擬態を解いた巨大な右腕の爪を振るう。顔面を殴りつけて、続けざまに斬撃が拘束された右腕三本を纏めてぶった切る。皮膚は固いけど稼働する関係上、関節部分は脆いんだ!

 

 

「ぐうっ!?」

 

「あぐっ!?」

 

 

 拘束していた部分を切断されたことで緩んだヨナを左腕三本で掴んで投げ飛ばし、噛みつかれている足を振るってグラを蹴り飛ばしたタイラント・アシュラ。その隙を突いてクイーンとレオン、エイダがハンドガンを手にして弾丸の雨を叩き込むがしかし、頑強な皮膚に弾かれてしまう。

 

 

「お熱いのは好きか!?」

 

 

 ならばと突進したレオンが構えたのは、火炎放射器。ゼロ距離から火炎が放たれ、上半身が炎に飲み込まれる。右腕を失い、炎上するタイラント・アシュラ。明かな致命傷だ。さらにエイダが燃えているにも関わらず、柔らかい肢体を活かした蹴り上げでタイラント・アシュラの顎を蹴りつけながら華麗に一回転。

 

 

「レオン!」

 

「ああ、エイダ!」

 

 

 呼びかけたレオンと一緒に腹部に蹴りを叩き込み、蹴り飛ばした先にいるのはリヒト。

 

 

「うおおおりゃあああっ!」

 

 

 タイラント・アシュラの燃えてる顔面を掴み、熱さに耐えながらも後頭部から床に亀裂ができるほどの勢いで叩きつけ、床に埋め込ませてしまうリヒト。さすがのパワーだああ……炎のせいでクイーンやヨナやグラが近づけなくてどうしようと思ったけどレオンとエイダとリヒトが根性を見せたなあ。

 

 

「今のうちに…!?」

 

 

 倒れ伏したタイラント・アシュラに近づき、腰のホルダーに手をかけるエイダ。この攻防の中でも奇跡的に割れてない。あのホルダーが衝撃吸収とかそういう素材なんだろうか。……アイアンズのシャッターといい、どんな技術力してるんだアンブレラの変態技術者め。しかしその手が阻まれる。タイラント・アシュラの左上腕が動いてエイダの右手を掴み、握りしめたのだ。

 

 

「あぐっ…!?」

 

「エイダ!?」

 

 

 そのまま投げ飛ばされ、壁に頭から打ち付けられて気を失うエイダ。それに気を取られる間もなく、タイラント・アシュラが起き上がる。

 

 

「……」

 

 

 上半身黒焦げの火傷だらけで頭部から血を流し、右腕を失ったタイラント・アシュラ。肘先から切断された己の右腕三本を無言で見やると、蒸気と共にジュポンッという音と共に腕が三本とも生えて再生、火傷も治癒されていき頭部の血も止まる。……やっぱり首落とさないと駄目か。

 

 

「……コノ程度カ」

 

『喋った!?』

 

 

 すると片言ながらも英語で喋りだしたタイラント・アシュラに全員に戦慄が走る。この戦闘能力にくわえて、喋れるぐらいの知能もあるとかなんの冗談だ。

 

 

「腹立タシイ、腹立タシイゾ!コノ程度デ俺ノ相手ニナルト思ウナア!」

 

 

 瞬間、右下腕の拳、右中腕の拳、右上腕の拳を瞬間的に連続で床を殴りつけ、とんでもない衝撃波が起こって全員足を取られて転倒する。そして真っ先にタイラント・アシュラが狙ったのは、クイーンだった。

 

 

「オ前ガ一番強イ、叩キ潰ス!」

 

「ちい!」

 

 

 足を粘液で床に固定して腹筋の要領で立ち上がり、両腕を粘液硬化して迎え撃つクイーンだが、拳と拳をぶつけ合うも数の関係上一方的に殴りつけられ、クイーンは苦悶に顔を歪ませる。

 

 

「お前え!」

 

「毒カ。慣レッコダア!」

 

 

 それを止めさせるべくヨナが背後から飛びつき、右中腕に噛みつく。ヨナの牙には強力な猛毒がある。それなら……そう思った矢先、噛みつかれた右中腕をもぎ取って投げ捨てるタイラント・アシュラ。すぐに再生した拳を含めた三つの拳の三連打で殴り飛ばされるヨナの尻尾の先端を掴み、そのまま天高く振り回して突進しようとしていたリヒトに頭と頭をぶつけダウンさせるタイラント・アシュラ。背後から噛みつかんとしていたグラの口を掴むとその勢いで一本背負いし頭から床に叩きつけダウンさせる。

 

 

「ヨナ!リヒト!グラ!?」

 

「オ前ハ喋ルナ!」

 

 

 そしてタイラント・アシュラはクイーンに向き直ってアッパーカット。左上腕、左中腕、左下腕が立て続けにクイーンの腹部に打ち込まれ、クイーンは粘液を吐き散らしながら天高く打ち上げられ、天井に背中からぶつかって落下、さらに三連打の拳を叩き込まれて壁にクレーターが刻まれ埋まるクイーン。ぐったりしている、ヤバい。治さないと…!

 

 

「何ヲシテイル?」

 

『しまっ……!?』

 

 

 クイーンに飛び込もうとしたところを、タイラント・アシュラに阻まれその中に入ってしまう。まずい、こいつは知性持ち…!菌根世界に入る条件は……!?

 

 

「ナンダ、ココハ?」

 

「あなたの墓場だよ……だといいなあ……」

 

 

 ドナ・ベネヴィエントの家と同じ世界にタイラント・アシュラと私、二人がいる。冷や汗がやばいやばいやばい。勝てない、勝てるわけがない、ちょっと待って私死ぬ本当に死ぬ!

 

 

「オ前ヲ殺セバイイノカ?」

 

「なんで障害物多い場所になっちゃうかなあ!」

 

 

 机をむんずと掴み、無造作に投げつけてくるタイラント・アシュラ。私は階段を駆け上って次から次へと投げつけられる机、椅子、棚などを避けていく。上からなら…!

 

 

「衝撃波パンチ!」

 

 

 頭上を取って飛び降り、急降下の勢いを乗せた衝撃波パンチを叩き込む。しかしむんずと無造作に背中を掴まれ、摘まみ上げられるとギョロリと白目が動いて睨まれる。

 

 

「……調子こいてすみませんでした」

 

「許サン」

 

 

 そのまま残り五本の腕でボコボコに殴りつけられ、とどめとばかりに出入り口の扉目掛けて投げ捨てられると同時、私はタイラント・アシュラから排出され現実に戻ってきた。見れば殴られた傷はそのままだ。私が負けるとこうなるのかあ……初めてだなあ痛い!

 

 

「マザー!?マザーをよくも…!」

 

 

 するとヨナとぶつかった頭をふるふると振っていたところ私が傷つけられたことに怒ったリヒトが、尻尾の擬態を解いて床を叩き、跳躍。右上腕と右中腕に鋭い牙を突き立てて噛みつき、そのまま長い腕で地面を引っ掻いて回転。デスロールしようとするがしかし、ビクともしない。

 

 

「何ガシタイ?腹立タシイ!」

 

「うぐあああっ!?」

 

『リヒトぉ!?』

 

 

 噛みついたまま殴ったのか勢いよく床に叩きつけられ、血反吐を吐いて倒れるリヒトを見下ろして「フンッ」と鼻を鳴らしたタイラント・アシュラの背後から迫る影。レオンだ。

 

 

「炎は効くはずだ!」

 

「無駄ダ。ソレハ適応シタ!」

 

 

 零距離から火炎放射を叩き込むレオンだったが、タイラント・アシュラは涼しい顔で黒焦げになることもなく岩の様な肌で耐え抜きながら、レオンを腕一本だけで殴りつけ、転倒したレオンを持ち上げ締め上げる。

 

 

「腹立タシイ!弱イ奴ガ俺ニ抗ウナ!」

 

「……ベルセポネと言い、お前らは俺たち人間を見下して………俺をなめたな?」

 

「ムッ……!?」

 

 

 次の瞬間、ドパン!とタイラント・アシュラの頭部が吹き飛ぶ。見れば、レオンの手にはショットガンが。あれを口の中に突っ込んでぶっ放したのか。投げ出され、尻餅をついたレオンはごちる。

 

 

「泣けるぜ」




クイーンとエヴリンの最強コンビをフルボッコにし、ボス組を蹴散らすタイラント・アシュラ。人間への侮りに足をすくわれ撃破です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:40【モールデッド・ラミア】

どうも、放仮ごです。今回は序盤が読みにくいと思いますが「誤字報告」を利用すると読むことができます。

今回から最終盤です。楽しんでいただけたら幸いです。


―――――――ああ?何が起きた

 

 

 目覚める。

 

 

―――――――なぜ動けない?なぜ負けた

 

 

 それは、本来の歴史では生まれないはずのものだった。

 

 

―――――――瓦礫に押しつぶされている

 

 

 それは、既に限界まで力を出し尽くしたはずだった。

 

 

―――――――治る先から潰される、限りがない

 

 

 短期間で何度も致命傷を負い生と死の瀬戸際を何度も味わった。

 

 

―――――――大きすぎるこの体が邪魔

 

 

 そのたびに進化し続けるそれは、人の言葉を覚え、自ら考える知性をも獲得しようとしていた。

 

 

―――――――エヴリンとかいうあの子供、小さくて身軽そうだった……

 

 

 際限なく進化し続ける肉体に、明確なイメージの伴った指向性が付与される。

 

 

―――――――いらない木偶でしかないこの体はもういらない

 

 

 膨れ上がりすぎた己が肉体に嫌気がさし、考えることを覚えた怪物は試行する。

 

 

―――――――大きくなり過ぎたことで鈍重で当たる部位も多く、攻撃手段も乏しくなったのならば……

 

 

 この新たな種の宿主であるアネット・バーキンの、たぐいまれない頭脳を利用し、ただ際限なく膨れ上がるだけだった肉体を最適化していく。

 

 

―――――――我が身を作り変えよう。小さく、身軽で、強く。究極の生命へと至ろう。

 

 

 瓦礫の山の下で、その巨体が破裂。大量の肉片と血液だけとなったそれが、ギュンッ!と圧縮されるようにして新たな肉体を作り上げていき、隙間ができた瓦礫の山はガラガラと崩れ落ちて、それは瓦礫を押しのけるようにして立ち上がった。異形の右目がギョロギョロ動き、遥か上を見やるとひと跳躍で自分が落ちてきた階層へと戻ってきた。

 

 

「―――――悪くない。……シェリー」

 

 

 そうして、神の名を与えられし獣は“人”に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェリーはこれで安心よ」

 

 

 G-ウイルスのワクチン“DEVIL”を打ち込んで、シェリーの呼吸が安定したのを確認したエイダのそんな言葉に、私、クイーン、レオン、クレア、オメガちゃん、ヘカトちゃん、プサイちゃん、リヒト、ヨナ、グラの安堵の声が漏れる。擬態させていても数が多すぎてキツキツだったのでB.O.W.組は廊下に出て顔だけ出している。可愛い。でも12人は多いわ、うん。

 

 

「よかった……間に合ったか」

 

『クイーンこそ大丈夫?フラフラだけど』

 

「同胞たちが何匹か潰れたぐらいだ。問題はない」

 

 

 私達がタイラント・アシュラにボコボコにされたもののレオンが倒した後、シェリーを連れたクレアたちと合流。目を覚ましたエイダにワクチンを投与してもらって事なきを得たが、私達のダメージは大きい。タイラント特有の爪がなかったから切り傷こそないが打撲に内出血に脳震盪、まあひどい。私も殴られた痣が全身に残ってる。不用意に菌根世界使うのだめだなあ、うん。

 

 

《警告。ただいま破壊から復旧したところ、レベル4ウイルスの不正な持ち出しを検出しました。施設封鎖を開始します。施設封鎖完了後、自己破壊コードを実行します》

 

「な、なに?」

 

 

 するといきなりアラート音と共に鳴り響いた電子音声に、目を覚ましたシェリーが怯える。これは……マジか。洋館の研究所と一緒か!今回ウェスカーはいないぞ!……多分!

 

 

「何が起こっているの……?」

 

「おそらく、G-ウイルスの漏洩を防ぐために自爆装置が作動したみたいね。潮時よ」

 

「何を言って…?」

 

 

 エイダの言葉にレオンが首を傾げた瞬間だった。扉の外のリヒト達が何かに反応した途端、高速で移動してきた黒い人影が次々と六人を殴りつけ、文字通り蹴散らしてしまう。身構えるクイーンとレオンとクレア。しかしエイダは、まだ意識が朦朧としているシェリーを立ち上がらせると、ハンドガンの銃口をレオンに向ける。……そういうことだよねえ。

 

 

「エイダ?何の冗談だ」

 

「シェリーを離しなさい…!」

 

「悪いわねレオン。これが仕事なの。随分待ったわよウェスカー、バーキン博士」

 

 

 その言葉と共に中に入ってきたのは、金髪をオールバックに纏め黒いサングラスと黒い戦闘服を身に着けた女性というか元男。アルバート・ウェスカーと、金髪の白衣の男、ウィリアム・バーキン。警察署以来だ。リヒト達を蹴散らしたのはウェスカーか、此奴なら確かにできるかも……。

 

 

「よくやったエイダ。期待以上の働きだ」

 

「おお、シェリー!心配させて……無事で本当によかった」

 

「パパ……」

 

「やはりエイダ、お前は此奴らの部下だったか……」

 

 

 レオンを人質にされたようなものであるクイーンが忌々しそうに吐き捨てるとエイダは不敵な笑みを浮かべてシェリーを連れてウェスカーとバーキン側に移動する。

 

 

「アイアンズから取引で保護したはずだったがアクシデントでG生物に襲われてしまってな。ベルセポネのいるここに戻るのも悪手だったからお前たちを利用させてもらった」

 

「なるほどな……合点がいったよウェスカー。相変らずの卑怯者め」

 

「お前こそ卑怯者だろうクイーン!貴様、私を信頼させて我々に復讐するべくシェリーを攫うつもりだったな!この悪人め!」

 

 

 怒り狂うウィリアムをウェスカーが手で制する。頸を少しだけずらして背後に視線を向けているようなので、リヒト達が回復してこないか気が気でないのだろう。

 

 

「完全な不意打ちだったからどうにかできたが、B.O.W.がクイーン含めて七体もいるのは厄介だ。いつの間にヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニーも手駒にして……お前はそう言う能力の持ち主なのか?エヴリン」

 

『シェリーを返してくれるならその質問に答えてあげてもいいよ?』

 

「それはできない相談だな。怒れる父親というのは御せないものらしい」

 

「クイーン、クレア……!私、パパよりも二人の方が……」

 

「行くぞシェリー!こんなところからさっさとおさらばするんだ!」

 

 

 エイダからウィリアムの手元に移動され、逃げ出そうとするシェリーの手を掴んで部屋を出ていくウィリアムと、それに続くウェスカー。おいこら、出ていくついでにリヒトの顎を蹴ったの許さないからな貴様。ダメージがなければ考えなく突っ込んで菌根世界でタイマンするってのに……!

 

 

《警告。自己破壊コードが実行されました。中央エレベーターから最下層のプラットホームへと至急避難してください》

 

「じゃあねレオン。運が良ければまた会いましょう?」

 

「っ、待て!」

 

 

 最後までレオンに銃口を向けていたエイダが、ウェスカーたちを追って出ていった瞬間、駆け出す三人。なんとか立ち上がっていたリヒト達も連れて、ウェスカーたちを追いかけるもエレベーターで下に降りて行ってしまう。

 

 

「どうしよう、シェリーが…!」

 

「くそっ、こうなったらここをじかに降りて追いかけるしか…!」

 

「私に任せて!」

 

 

 クイーンが粘液糸を伸ばし、吹き抜けになっているところから強引に降りようと試みていたところ、突撃したのは蛇の下半身の擬態を解いたヨナ。素早い動きでエレベーターまでやってくると、強引に扉を少しだけ開いて、その隙間から入り込み降りていくエレベーターの真上に落ちるのを、私も追いかける。後ろ目に、レオンを抱えたクイーンと、クレア、ヘカトちゃん、グラをそれぞれ担いで爪を引っ掻けてスピードを落としながら降りてくるリヒト、オメガちゃん、プサイちゃんの姿が見えた。あっちは大丈夫そうだな。

 

 

『ヨナ、頑張れ!』

 

「シャア!」

 

 

 エレベーターの天井に落ちたヨナは、牙を突き立てて穴を開けると指を入れて怪力で無理矢理引っぺがそうと試みるがしかし、銃弾の雨がヨナの全身を撃ち抜いて倒れ込んでしまう。ウェスカーとエイダだ。顔を突っ込んで覗き込んだ私を確認するなりウェスカーが銃撃してきて、思わず引っ込む。くそう、当たらないとわかってても怖いものは怖い。

 

 

「がはっ……エヴリン!私と合体しなさい!」

 

『え?いや、でも……それしかないか!』

 

 

 血反吐を吐きながら私に手を伸ばしたヨナの手を握るようにして飛び込む。クイーン、ハンター姉妹に続いて三度目だ。さすがに暴走しないでほしいけど……。現れるはモールデッドの上半身と、カビで覆われた蛇の下半身を持ち耳元まで裂けた口で三日月を描く異形。尻尾を突き刺して、ウェスカーを引きずり出して頭上にぶん投げる。

 

 

「「モールデッド・ラミア!行くぞウェスカァアアッ!!」」

 

「それがエヴリン、お前の力か……!面白い!」

 

 

 そして、急降下してきたウェスカーの拳と私達の拳が激突した。




裏切りのエイダ。襲来マッドコンビ。ヨナとエヴリン合体。

そして、人となった神の名を持つ獣。この章のタイトルは嘘でも何でもないのだ。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:41【最悪の夫妻】

どうも、放仮ごです。2編も最終盤面になってまいりました。

今回はモールデッド・ラミアVSウェスカーから。楽しんでいただけたら幸いです。


「『シャアアアアッ!!』」

 

 

 ヨナと意識が混在するが、今まで程じゃない。クイーンと、オメガとプサイと、三組目の組み合わせで私が慣れてきたというのもあるのだろう。そもそもヨナの蛇の肉体は全身筋肉の塊だ。菌根で新たな筋繊維を形成して身体能力を底上げするモールデッド化はすこぶる相性がいいからそこもあるのかな。

 

 

「ぐあっ…!?」

 

 

 ウェスカーの右の抜き手をピット器官で感知、先読みして右手で掴み取り、引き寄せて牙を突き立てる。ヨナ()の猛毒だ、ただではすまないぞ。

 

 

「毒か……対策をしてないとでも?」

 

「『がっ…!?』」

 

 

 ネリチャギで肩を砕かれ、怯んだところで懐から取り出したブルーハーブを咀嚼するウェスカー。さすがに一筋縄じゃ行かないか。

 

 

「『じゃあこういうのはどうかしら!』」

 

 

 尻尾を下から伸ばしてウェスカーの足を巻き取り、引っ張って顔からエレベーター外壁の強化ガラスに叩きつける。サングラスが取れたウェスカーは控えめに言っても美人な顔でこちらを振り返って睨むと強化ガラスを蹴って自分から飛び込んできて、振りぬいた拳が顔面に炸裂。エレベーターの天井に後頭部から叩きつけられる。

 

 

「おいアルバート!加減しろ!エレベーターが落ちるだろう!」

 

「加減ができる相手じゃないさ」

 

 

 下からのウィリアムの言葉にウェスカーが応え、横蹴りがあばらを砕いて強化ガラスに叩きつけられる私達。そのまま顔面を掴まれ降りていくエレベーターの強化ガラスに押し付け外皮を削ってくるウェスカー。やってくれたわね…!

 

 

「『シャアア…!』」

 

「むっ…!?」

 

 

 背後に回した尻尾で首を絞め上げ、後ろに引っ張って後頭部から強化ガラスに叩きつけて何とか逃れ、蛇だけど馬乗りになって両腕でひたすらパンチ、パンチ、パンチ。顔面をタコ殴りにしていく。必死だった。ヨナは、憶病だ。もともとペットの蛇だと言うこともあるのだろう、あまりに繊細で用心深い。だけど食欲旺盛で執念深くもある蛇の印象そのままといった性格だ。命の危機に瀕して、私の意識にまでその影響が出た。すなわち、やらなければやられる。私たちは狂乱状態に陥っていた。

 

 

「『がっ…!?』」

 

 

 ターンと言う音が聞こえたかと思えば、腹部から激痛。一瞬で頭が冷静になる。弾丸だ。撃たれた。貫くことなく私の体内に残っている。痛い、痛い。痛い。肉体を持っている故の痛みが襲ってくる、見れば、エイダが不敵に微笑んでハンドガンを両手で掲げていた。必死過ぎて気づいていなかった。

 

 

「『エイダ…!』」

 

「悪いわね。まだ報酬をもらってないの」

 

「よくやった、エイダ」

 

「『がっ…!?』」

 

 

 ウェスカーの掌底のアッパーカットが顎を打ち抜き、私達は宙を舞う。脳が揺れた。意識が薄れていく。くそっ。モールデッド化が敗れるなんて……せっかく、エヴリンの役に立てると……こんな私を受け入れてくれた恩が返せると思ったのに……。ヨナ、そんなことを…?

 

 

『この!』

 

「出てきたか。だがお前は肉体がなければ無力だ?そうだろう?」

 

『ぐぬぬ……』

 

 

 意識を失ったヨナから排出されて、ウェスカーと睨み合っているうちに、エレベーターが止まりウェスカーがスタッと下に着地する。まずい、逃げられる…!

 

 

「さあ来るんだシェリー!脱出するぞ!」

 

「いやっ、クイーン!」

 

「随分と嫌われたもんだなウィリアム」

 

「仕事じゃなければ逃がしてあげたいぐらいよ」

 

『待て!シェリーを返せ!返してよ!』

 

 

 シェリーを連れたウィリアム、ウェスカー、エイダが通路を歩いていく。こうなったらウェスカーに飛び込むぐらいしか……っ!

 

 

「マザー!」

 

「シェリー!」

 

 

 瞬間、天井を突き破って現れたのは、クレアを抱え擬態を完全に解いたリヒト。自分の体重と頑丈さを利用してスピードを落とすことなく落下してきたの!?

 

 

「なんだこいつは…!?」

 

「し、知らない!私は知らないぞ!私達を守れ!エイダ!」

 

「はいはい。そのデカブツはウェスカー、任せたわ」

 

「お願いリヒト、シェリーを!」

 

「任せろ!」

 

 

 どうやらリヒト……アリゲーター・ステュクスの存在を知らなかったのか面食らっているウェスカーたちに、リヒトが襲い掛かりウェスカーとがっつり組み合う。クレアも続き、シェリーに手を伸ばすがエイダがその手を握って受け止めると横蹴り。クレアはバックステップ避けて、間髪入れず飛び込みハイキック。エイダもそれを避けて壁を蹴って跳躍すると急降下を乗せたパンチで殴り飛ばし、クレアは壁に叩きつけられる。

 

 

「姉さんの仇!ウガアアッ!」

 

「姉さんとはヨーン・エキドナの事か?興味深いが、時間もない…!」

 

 

 ヨナがやられたのを見てたのか怒り狂ったリヒトが両腕と牙と尻尾を振り回し、ウェスカーはたまらないとばかりにバックステップで回避。腹部にジャブを叩き込み、二段蹴りを続けざまに放ってリヒトを後退させる。ウェスカーちょっと強すぎない?本当に元ただの人間?私みたいにデザインベビーされてない?

 

 

「シェリー、こっちだ!」

 

 

 するとシェリーを連れて奥に逃げるウィリアム。一人だけシェリーを連れて逃げるつもりか!

 

 

『クイーン!こっちだよ!』

 

「オメガ!プサイ!」

 

 

 ダメもとで呼んでみると、天井が斬り裂かれてオメガちゃんとプサイちゃんが顔を出し、レオンを抱えたクイーンが飛び降りてきた。見れば、ヘカトちゃんとグラも一緒だ。

 

 

『誰かヨナを!気絶しちゃってる!あとリヒトとクレアに加勢してやって!』

 

「シェリーを返せ!」

 

「待て!ウィリアム・バーキン!」

 

 

 ヘカトちゃんがヨナの回収に向かい、オメガちゃんとプサイちゃんがリヒトとクレアの加勢を、クイーン、レオン、グラが私と一緒にウィリアムを追いかける。そして辿り着いたのは、車両が鎮座しているプラットホームで。ウィリアムが機械を操作して下降させようとしているところだった。

 

 

「逃げるな卑怯者!逃げるな!」

 

「この状況で逃げない方がどうかしている…!シェリーを連れて私は脱出するんだあ!」

 

 

 手にしたハンドガンを乱射しながら車両に移動するウィリアムに、クイーンとレオンとグラは入り口の物陰に隠れて弾丸を避ける。その間に私は、下降していく車両の中を覗き込む。シェリーが気絶した状態で倒れ込んでいた。多分抵抗したから殴られたんだ。父親としてどうなんだそれは。

 

 

「ウェスカー悪いな!私は逃げさせてもらうぞ!ハハハハハッ!……ハッ?」

 

 

 車両の入り口で銃弾を撃ちまくって高笑いを上げていたウィリアムの声が困惑に染まる。見れば、弾丸をものともせずに降りてきたグラに驚いている様だった。

 

 

「……お前、仲間を見捨てて逃げるなんて最低なのだ!」

 

「う、うるさい!バケモノが……!」

 

「鮫パンチ!」

 

「ぶべっ!?」

 

 

 ハンドガンで頭部を狙うウィリアムだったが、体勢を低くして突撃したグラの拳が横っ面に炸裂して殴り飛ばす。はえー、グラちゃんが決めちゃった……。

 

 

「…終わったか」

 

「ウィリアム・バーキン。生物兵器製造その他の容疑で逮捕する」

 

 

 粘液糸を使って降りてきたクイーンに連れられたレオンが、ウィリアムに手錠をかける。これで一件落着だ。……これどんどん降りてるけどみんな追いつけるかな?いやまあ最悪落下すればいいか。そう、安堵している時だった。

 

 

「……ああ、ウィリアム。無様ね」

 

 

 ドン!という轟音と共に、なにかが車両の上に落ちてきた。思わず見た私と、それの異形の右目の視線が交差する。それは、一見人間だった。金髪のロングヘア―が腰まで伸ばし、170センチの比較的長身で見てわかるほどの筋肉で覆われたすらりとした体躯は白衣一枚しか身に纏っておらず、裸足なのだが見る限り生殖器が存在していないように見える。しかし全身赤黒い筋肉の様な色で、左目の綺麗な碧眼と異なり大きくギョロギョロと動いている右目は誰がどう見ても人外、というかアネットが変貌した怪物のそれだった。

 

 

「……おまえ、誰だ?」

 

「アネット・バーキンよ。忘れたかしら、クイーン・サマーズ」

 

「アネットは死んだはず、だ…!?」

 

 

 瞬間、アネットの右腕が変形して触手となり、クイーンの腹部を貫く。……見た目は人に近くなったけど、とんでもない。こいつ……あの質量そのままにここまで圧縮してるんだ。

 

 

「まずは一人……貴女なら優秀な母体になれるわ。究極の生命体の糧となりなさい」

 

 

 最強最悪の敵が、そこにいた。




強すぎるウェスカー。厄介なエイダ。クズ過ぎるバーキン。そして、究極の生命体へと至ったアネット。原作に存在しない形態、G6誕生です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:42【無限大な進化-G6-】

どうも、放仮ごです。この物語は、エヴリンによる壮大な時を超えたやり直しの物語である。

これはバイオハザードである。楽しんでいただけたら幸いです。


「…ふーん、シェリーはワクチンを使ってしまったのね……残念だわ」

 

「ぐっ、がっ…!?」

 

 

 グチグチと音を立てて右腕が変形した触手を突き刺したクイーンの腹部を抉りながら、視線を自分が屋根に乗ってる車両の中に向けるアネット。あれは……見えてるわけじゃない、気配を感じ取っているのか。

 

 

「クイーンから離れろ!」

 

「食い千切ってやる!」

 

「貴女もいい母体になりそうね…!」

 

 

 レオンが銃撃、グラが口を開けて噛みつこうとする。しかしアネットの肉体は弾丸で撃ち抜かれても血飛沫が上がるだけで怯みもせず、噛みつきも左腕を伸ばしてグラの首根っこを掴んでねじ伏せてしまうと右腕をクイーンから引き抜き、今度はグラの腹部に突き刺してきた。解放されたクイーンだが様子がおかしい。まさかまた洗脳!?

 

 

『クイーン、大丈夫!?』

 

「ぐうっ…なにをした…!?」

 

 

 だけど洗脳じゃなかったようで、吐き気を抑え込むように口元を押さえている。私はその行動を見たことあった。具体的にはローズを身籠ったミアで。

 

 

『つわり…?』

 

「こんなときにふざけるなエヴリン、ぐうっ……」

 

「あら、なかなか鋭いわよ?()の胎を植え付けたの。貴女たちの存在を犠牲にして可愛い子を産んでね?」

 

「なんだと!?」

 

 

 見ればアネットに腕を引き抜かれたグラも吐きそうな顔でレオンに背中を擦られてる。うわ、凶悪……。というかやばいね!?

 

 

『わ、ワクチン。ワクチンだよクイーン!』

 

「いや、それには及ばない。……植え付けられた同胞だけ切り離せばいい話だ!」

 

 

 そう言って自分の腹部に腕を突き刺し、ヒルの一体を鷲掴みにして投げ捨てるクイーンはそのまま粘液糸を伸ばしてアネットの右腕に取り付け、引っ張って引き寄せようとするが逆に引っ張られて持ち上げられ、ブクブクと膨れ上がり一瞬で巨大な爪に変形した右腕でクイーンを引き裂こうとするアネット。

 

 

「なんて力だ…!?」

 

「子を産んでくれないなら死になさい」

 

「させるか!」

 

 

 ガキンッと、粘液硬化で防いだのか吹き飛ばされるクイーンをカバーするようにレオンが手にしたショットガンで狙う。散弾で撃ち抜かれた風穴を複数開けるアネットだったが、特に気にすることなく傷はもぞもぞと動いて再生していく。こいつ、モールデッド・ハンターで斬り刻んだ時と同じ……不死身だ!

 

 

「男に用はないわ」

 

「があ!?」

 

 

 するとドクン!という音と共に一瞬でアネットの姿がかき消え、レオンは吹き飛ばされアネットの姿がその前に現れる。下降していく外壁に叩きつけられて崩れ落ちるレオン。息していない。…そんな、嘘っ。

 

 

『嘘だよね…?』

 

「レオン!貴様…!」

 

「礼を言うわ、クイーン。そしてエヴリン。貴方たちが何度も殺してくれたおかげで進化し続けた私は、G-ウイルスに完全に適合したのよ。今や私の身体の隅々にまでG-ウイルスが行き渡っている。脳、筋肉、骨、髪、爪、心臓を始めとした内臓……そして血液。私はそのすべてを自在に操作できる…!さっきのは血液の流れを加速させて身体能力を底上げしたのよ。心臓と血管は負担に耐え切れず破壊されるけどすぐに再生される……ああ、素晴らしいと思わない!?」

 

 

 粘液硬化して殴りかかったクイーンの一撃を宙返りで避け、床に着地すると両手を合掌して指先を向けてくるアネット。ギョロギョロと異形の右目を動かし、私とクイーンに視線を向ける。

 

 

「例えばこういうのはどうかしら?筋肉を操作して血管を圧迫、血液を合わせた掌の中で加圧して限界まで圧縮した血液を一点から解放、音速を超えて撃ち出す……!」

 

 

 瞬間。合掌した掌の間から赤いビームが放射。一瞬粘液硬化で防ごうとして、判断を改めたのか回避を選んだクイーンの硬化したままの右腕を切断、そのまま壁を両断して頭上に振りぬかれる。あまりの威力にアネットも面食らっていた。切断された箇所は赤く塗られていた。あれは血か。ウォーターカッターの要領で直線で放たれた血のレーザー…!

 

 

「くそっ…!」

 

「我ながらすごい威力ね。素晴らしいわ…!」

 

『そんなことしたらすぐに血がなくなる……いや、G-ウイルスの力で再生し続けるのか…!』

 

「ご明察。それよりも、いいのかしら。そんなに母体が小さくなっちゃったら浸食も早まるわよ?」

 

「なに?」

 

 

 グシャッと言う音が聞こえて、振り返る。そこには、頭部が潰された少女の死体を握った不格好な人型のヒルの様な、正体を現した時のマスターリーチとよく似た生命体がいた。その手に握られた死体には尾鰭があって。

 

 

『グラ…?』

 

「あらら、殺しちゃったのね。残念。G成体、とでも呼ぶべきか。まあ不完全なヒルが母体だから当たり前よね」

 

「『We are family(私達は、家族だ)ィイイイイイイッ!』」

 

 

 私とクイーンは同時に激高、合体してモールデッド・クイーンに変身してG成体に飛び掛かり、頭部を掴んで床に叩きつけて粉砕する。再生しない、ただのできそこないだ。そのままアネットに飛び掛かる。

 

 

「『ぶちのめす!』」

 

「できるものならやってみなさい!」

 

 

 そう嗤って合掌し、次々と血のレーザーが発射され、切断されるたびに再生して斧状に変形させた右腕でぶった切るも右腕の筋肉を膨張させて肉にめり込ませて防いでしまうアネット。そのまま私達を投げ飛ばし、再び合掌。血のレーザーが発射され、左胸を撃ち抜かれ、そのままグルングルンと血のレーザーが振りまわされて四肢を切断され、続けて放たれた血のレーザーで頭部を貫かれて真っ二つに引き裂かれる。今ので分かった。この攻撃、初速だけ音速を超えているがその後はただの高圧水流みたいなもので斬ることしかできないんだ。だから……!

 

 

「あら…?」

 

「『見切ったぞ!お前相手は、楽しくない!』」

 

 

 なんとか再生し、再度放たれた血のレーザーの最初だけ避けるのに集中して回避、そのまま血のレーザーを掻い潜りながら突進して胸部を引き裂く。血が噴出するが、すぐ再生される。モールデッド・ハンターより万能だけど攻撃力が低いこの姿じゃダメか…!

 

 

「ならこういうのはどう?」

 

 

 自らの胸部に手を突っ込み、ブチブチブチッ!と肋骨を二本引き抜くと、両掌から溢れだした血液を集束させて凝固、二本の鎌を作り出して構えるアネット。私達も両腕をブレードにして構える。

 

 

「『はあああああっ!!』」

 

 

 両手の血液鎌を振るって私達のブレードを受け止め、左腕の筋肉を膨張させて振るい、私達の右腕を叩き斬ると私達の側頭部に右手の血液鎌を突き刺し、引っ張られて膝蹴りが顔面に突き刺さる。文字通り、突き刺さる。骨を変形させて杭の様にしている…!?

 

 

「人間なら頭蓋骨を貫いて死ぬんだろうけど……ヒルの身体は厄介ね?女王ヒル。でもエヴリンの方は痛みに慣れてないみたい?」

 

「『っぁ……!この!』」

 

 

 頭部を穿たれた激痛に泣きそうになるが、私達は拳を振りぬくも、全身から鋭い骨が伸びてハリネズミのようになったアネットに全身を貫かれる。あまりのダメージに、私は排出されクイーンは蛭の塊に戻って崩れ落ちた。

 

 

『クイーン!』

 

「私の血はG-ウイルスそのもの。他の生物にとっては猛毒よ。さすがに別のウイルスを直接打ち込まれたら肉体が耐えきれなかったみたいね?」

 

「――――ハハッ、ハハハハハハッ!」

 

 

 すると突然笑い声が聞こえて、振り向くとそこには狂ったように笑う手錠されたままのウィリアム・バーキンがいた。なにがおかしいんだ。

 

 

「素晴らしい、素晴らしいぞ!己の肉体を自在に操り、どんな傷を負おうと即座に再生し、こんな短期間で繁殖し増えていく!まさしく究極の生命だ!君にG-ウイルスを打ち込んで正解だったよアネット!」

 

「ええそうね、随分苦しめられたけど……感謝してるわ。あなたにも分けてあげるわ、ウィリアム。私みたいに自我が残ればいいわね?」

 

「え……っ!?」

 

 

 瞬間、右腕が伸びて心臓を貫かれ持ち上げられるウィリアム。ドクドクと音を立てて、その身体にアネットの血液……奴の言うところのG-ウイルスが大量に流し込まれて、投げ捨てられた。がったんがったんと不気味に揺れ動くウィリアム。その右腕が膨張し、肩に眼が形成されていく。どれだけ打ち込めば速攻変異するんだ…!

 

 

「マザー!」

 

「シェリー!無事なの!?」

 

『あっ……』

 

 

 すると上の方から声が聞こえて、思わず安堵のため息が漏れる。だけどアネットに視線を向けて、気付く。気づいてしまう。周りを見る。血を吐いて倒れ伏したレオン。頭部を失ったグラ。崩れ落ちて力なく転がったクイーンだったヒルたち。暴走したヘカトちゃんの悪夢を思い出す。

 

 

「優秀な母体が死んでしまったのは残念だけど……まだだだいるみたいね?嬉しいわ……」

 

『っダメ…リヒト!みんな!来ちゃ、ダメええええ!!』

 

 

 静止の声虚しく。みんなが降りてきて。アネットと、そしてG生物に変異したウィリアムと対峙する。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁああ、あぁあああああああぁぁああぁあああぁああああああ』

 

 

 

 私達は、全滅した。




ゼウのIF以来の全滅エンド。エヴリンの地獄コンティニューが始まります。

肉体全てがG-ウイルスが行き渡って変異し、ジャンプ漫画の血液使った技大体再現できるアネット。具体的に言うとゴム人間+お兄ちゃん+鬼いちゃん。

感動してたら道連れにされたウィリアム。形態はG2。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:42【叫喚地獄の呪い歌】

どうも、放仮ごです。なんでこんなに強い奴ばかり出るのかの答え合わせ。かつて7編ではお姉ちゃんの自負があったエヴリンは挫けなかったけど、今のエヴリンは…?

エヴリンが目を背けてきた「事実」と向き合う話。楽しんでいただけたら幸いです。


 爆発が、全てを飲み込み焼却していく。クイーンも、レオンも、グラも、クレアも、オメガちゃんも、リヒトも、ヘカトちゃんも、ヨナも、プサイちゃんも。全部が全部、燃えていく。唯一燃えない私はそれを、見届けるしかなかった。列車に乗って逃れたアネットたちを追う気にもなれなかった。

 

 奴の“胎”は凶悪だった。クイーンが分離したヒルでさえ母体にして、不完全とはいえグラを殺害した力を持つG成体が生まれたのだ。合流してきたリヒト達がそれを喰らえばどうなるかは目に見えていた。

 

 母体に寄生し、養分を奪い取って5分かかるかどうかという急速的な成長を遂げ、それぞれの特徴を持つ子供のG生物の誕生。それが、オメガちゃん、リヒト、ヘカトちゃん、ヨナ、プサイちゃんの五人に行使された。体力根こそぎ奪い取られたデバフ状態でアネットと戦い、さらに新手。クレアがウィリアムの相手をしていたこともあって、致命的すぎた。

 

 唯一無事だったクレアもウィリアムに手古摺ってたところをアネットにやられ、全滅した。ウェスカーとエイダがどうなったかは知らないが、アネットたちが車両に乗って去った後に、NESTは爆発して燃えていった。

 

 アレを放っておいたら、世界は大変なことになるとは理解している。アリサなりに伝えて何とか倒すべきなんだろうけど、私は完全に心が折れた。理解してしまったからだ。こうなってしまったのは、私のせいだと。

 

 

『あぁああ、あぁあああああああぁぁああぁあああぁああああああ』

 

 

 ヘカトちゃんを死の運命から救うためにちょっと戻っただけでも、本来現れなかったモリグナが出現した。それ以降も、なにかボタンをかけ間違えれば死んでいてもおかしくなかった強敵の連続の出現。極めつけはGと完全に適合し最強最悪の怪物になったアネット。

 

 本来なら私やクイーンたちは関わらなかったものの、本来の歴史でも発生していたラクーンシティでのバイオハザード。本当ならば、恐らくだけどレオンとクレアがシェリーを助けて共に脱出する……そんな感じなのだろう。

 

 でもレオンとクレアは一切敵わず、手も足も出ずにアネットに殺された。つまり、本来戦う敵じゃなかったということだ。いやアネットだとしてももう少し弱いはずだ。ではどうしてこうなったのか?理由なんて、一つしか思いつかない。

 

 

『……私が過去を変えたからだ……』

 

 

 私が過去を変えたから、小さな歪みが生じてそれはいつの間にか膨れ上がった。バタフライエフェクトと言うんだっけ。気象学者のエドワード・ローレンツが1972年に行った講演のタイトルに由来する、カオス理論における些細な事象がどこかで大きな影響を与えているという意味合いの言葉。これを蝶の大したことのない羽ばたきが地球のどこかで竜巻を起こしているという喩えを用いて表現した為、バタフライ効果と名付けられたそれは、SFものにおいては微々たる事象の集合により、大きな歴史が作られていたのだから、少しでも歴史が変わると歴史の大きな流れが変わってしまうのではないか?という考え方だ。

 

 

『私がいなければ、みんな死なずに済んだ……!』

 

 

 少なくともクイーンたちは元の時間軸でも存在していたはずだ。もしかしたらもっと平穏に過ごしたかもしれないし、もっとひどい目に遭ってたかもしれない。そうでなくとも、アネットが……奴の言うところの“G6”が生まれたのは私の責任だ。奴は言っていた。何度も殺されたおかげで進化し続けたと。どう考えても、モールデッド・ハンターになったことで行ったあのオーバーキルが原因だ。私はG-ウイルスの能力を考えることを放棄して、殺し続ければ勝てると過去の体験から過信して、そして……奴を殺しきれずに、あそこまで進化させてしまった。

 

 

『私の、せいだ……』

 

「エヴリン、どの……」

 

『プサイちゃん!?生きて、……っ!』

 

 

 声が聞こえて、燃え盛る中振り向く。そこには腹部が大きく抉れ、顔の右半分が爆発の直撃を受けたのか焼けただれているのに壁にもたれかかり、愛想笑いを浮かべているプサイちゃんがいた。

 

 

「ははは……子を身籠ったばかりかその子供に致命の傷を負わされるとは、参ったでござるな……」

 

『無理しないで!その傷、治すから……』

 

「ははは。無理でござる。再生能力もとことん奪われた。気力で立っているだけの我が身のことぐらいわかるでござるよ。げふっ」

 

『そんな、こと……』

 

 

 吐血するプサイちゃんに反論しようとするが、その口から吐かれた血の色は赤ではなく黒色であるのを見て、察してしまう。今のプサイちゃんは死体を使ったモールデッドみたいなものだ。ベイカー邸以降のイーサンみたいに、菌根の力で無理矢理生きているだけに過ぎない。そして、モールデッドは灼熱の炎の中ではそう長く持たない。もう、死ぬしかなかった。

 

 

『ごめん……ごめんなさい……わたしの、せいで……』

 

「エヴリン殿は何も悪くないでござる。静止されたのに策もなく飛び込んだ拙者たちの不徳故」

 

『違う、違うの。私のせいであの怪物は生まれたの……!』

 

「……奴はあの時、オメガ殿と二人でエヴリン殿と合体して戦った怪物のなれの果てでござるな。なら、奴を生んだのは拙者も同罪でござるよ」

 

『違うの、そうじゃなくて……私がそもそもこの時代に来なければ、こんなことには……』

 

 

 責めてほしいのに、優しく責任を背負おうとするプサイちゃんに、私は泣き崩れる。優しくしないで。貴女の大事な妹を、家族分を、殺したのは私なのに……。

 

 

「……モールデッド・ハンターになった時にエヴリン殿の事情というか記憶は共有した故、なんとなく察したでござる。ござるが……それでもやはり、エヴリン殿がこの時代に来ない方がよかったなどと、あるわけがござらぬよ」

 

『…なんで?』

 

 

 笑顔を崩さずに告げられた言葉に、純粋な疑問が口から出る。

 

 

『なんで。なんで、なんで?なんで!なんで!?』

 

「拙者たちが巡り合えたのはエヴリン殿がいたからでござる。少なくとも、拙者たち姉妹が殺しから足を洗えたのはエヴリン殿がいたからでござる。その事実は覆らぬよ」

 

『でも、でも……私がいなかったら、少なくとも生きてはいられた……』

 

「否。それはあえりぬでござるな」

 

『え……?』

 

「拙者たちはどう転んでもB.O.W.…すなわち人類の敵でござる。受け入れてもらえたのも、クイーン殿やアリサ殿という前例があったから。二人を導いたエヴリン殿がいなければ……まあ、拙者たちはクリス殿たちと戦って、倒されていたでござろうな。そもそも人間とB.O.W.が手を取り合ってアンブレラに挑むという事自体、エヴリン殿のいた歴史ではありえなかった出来事でござろう。断言するでござる、エヴリン殿がいなければ……拙者たちは、全員ここに来る前に死んでいた」

 

 

 そう言われて、反論できなくて。すとんと、胸に落ちた。そうだった、みんないい子だから忘れてたけど……私達は、B.O.W.だった……。

 

 

『じゃあ、どうすればよかったの?私が来たからみんな死んで、私が来なくてもみんな死んで、どうすれば…!』

 

「そんなこと聞かれても困るでござる。拙者はもうお供できぬが……燃え尽きる前に、我が身を使って過去に戻る。それしかないでござろうな」

 

『でも、そんなことしたらまた歴史が歪む!アネットも今回以上に強くなるかもしれない!そんなの、どうしようも……!』

 

「エヴリン殿の記憶から、拙者の印象に残った漫画の言葉を言わせてもらえば……泣いていい。逃げてもいい。ただ諦めるな、でござる」

 

 

 炎上していく身体で私を真剣に見つめながら、そんな言葉を送ってくるプサイちゃん。……そんなこと言われたら、諦めることなんて、できないじゃないか……。

 

 

『……ははは、もうそれ、呪いじゃん』

 

「呪いの言葉でござるからな。こうでもしないとエヴリン殿はくじけてしまうよわよわメンタル故仕方ないでござろう。拙者じゃなくてもこう言うと思うでござるよ?それにエヴリン殿は拙者たちの母親なんでござろう?エヴリン殿の父親の如く、どんな困難も乗り越えて幸せの未来を掴み取るでござる」

 

『イーサンみたいに、できるかなあ……』

 

「また何時かの明日で……約束でござるよ……母上……」

 

 

 そう言ってプサイちゃんは力尽き、私は意を決してその身体に飛び込む。やってやる、この無理ゲー……何度コンティニューしてでもクリアする!




まさかのプサイちゃんの発破がけ。この子だけ精神が異様に強いので根性で生きてました。呪いの言葉でエヴリンを縛って過去に送り届ける。これが彼女の侍道。

前回は端折ったけどだいぶ悍ましいG6の脅威。G-ウイルスの一番の脅威ってこれだと思うんだ。忘れちゃならないけどこの世界のG-ウイルス、菌根も混じってるのでB.O.W.はみんな血縁なんですよねえ。だからG生物の標的なのだ。肉体的にも精神的にも最強の敵。



 敗北し、過去に戻ったエヴリンが発見したのは、正体不明の黒衣の巨人から逃げるアリサとジルの姿だった。家族を取り戻すための、彼女のやり直しが始まる。

BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】

file3【追跡者(ネメシス)編】

近日公開。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】file3【追跡者(ネメシス)編】
file2:43× →file3:1【諦めなかった先で】


どうも、放仮ごです、2編はまだFinを迎えてませんが、3編スタートです。そもそも文書などを見る限りでは

バイオ3の1998年九月末。ジルがネメシス第二形態と戦って倒れるまで→バイオ2、レオンとクレアが到着、シェリーを救出して脱出→10月1日。ジルが目覚めてバイオ3終盤戦。

みたいな時系列らしいです(アウトブレイクとかもあるので諸説あり)。ここにエヴリンを突っ込むわけでどう関わらせるか迷いました。

今回はバイオプレイヤーなら体験したことがあるであろう、リトライ祭り。楽しんでいただけたら幸いです。


 

 

 

 

▼file2【G生物編】to be continued?

BAD END‼

 

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 2巡目。遡る。遡る。最下層に辿り着いた時まで戻る。シェリーを追いかけるのを後回しにして、ウェスカーとエイダを倒して全員で向かい数の暴力で攻める作戦。

 

 

 ウィリアムを殺して変異こそ止められたが、そもそもアネットに敵わずG生物を量産されて敗北。失敗。

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 5巡目。遡る。遡る。今度はアネットが自我がある菌根感染者ということでなんちゃってむりょーくーしょを発動。他のみんなを巻き込まない作戦。

 

 

 私まで身籠ってしまうというよくわからない状態になっただけで瞬殺され、結局繁殖を止められず敗北。失敗。でも奴の記憶が読めた、どうしてああなったのか理解できた。とりあえずウィリアムは死ねばいいと思う。

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 16巡目。遡る。遡る。今度はアネットの記憶から読んだ、アネットが感染しT-ウイルスが広がった時まで飛んで最初からG生物にならせない作戦。

 

 

 そもそも干渉できない私じゃ肉盾にもならないので普通になにもできず、同じことを(ヘカトちゃんはG-ウイルスに感染しなかったけどモリグナは普通に出現した)繰り返して、何も変わらず失敗。

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 34巡目。遡る。遡る。今度は第二形態に変貌したアネットと一足早く対峙。形態変化していく前に瓦礫で生き埋めにして封印する作戦。

 

 

 あの変化しまくるタイラントの乱入で結局G6が誕生。失敗。やはり歴史に変化が起きている。

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 87巡目。遡る。遡る。今度はリヒトやヨナ、グラと出会うことを諦めて、死んでも心が痛まないという理由でモリグナが出てくるなり憑依して強制合体、モールデッド・クロウに変貌した状態でRTAを行い、意図的に暴走させて菌根の力を暴走させたフルパワー状態で死ぬまで殺し尽くす作戦。

 

 

 イソギンチャクの様に変形したアネットにカラス全てに胎を埋め込まれ、とんでもない数のG成体が溢れ出すことになり、精神的にも肉体的にもズタボロにされた。クイーンたちもリヒトやヨナ、グラに喰われてここまで来れなかった。すべてが裏目に出た。失敗。

 

 ごめんリヒト、ヨナ、グラ。もう、あなた達のことも諦めないから。

 

 

 

 

 

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

WARNING‼

 

 

 

 368巡目。遡る。遡る。目が霞んできた。疲れた。もう、諦めても……いいかな。

 

 

 

―――――泣いてもいい。逃げてもいい。ただ諦めるな、でござる

 

 

 

 プサイちゃんから告げられた言葉が脳裏によぎる。ああ、プサイちゃん。すごいよ。それはただしく呪いだ。

 

 

 

コンティニューしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 

 だめだ、頭の中で響く声もバグって来た。考えろ、考えろ。どうすればいい?どこからやり直しても、結局G6が誕生して敗北した。まるでどう進行しても結局同じラスボスが出てくるゲームと一緒だ。なら逆に考えろ。これはゲームだ、ならどう攻略する?

 

 

 

 

 

どこからやりなおしますか? YES ▽NO

 

 

 

 

 …答えは簡単だ。今ある手札で勝てないなら、手札を増やすしかない。思い出すのは、ガンショップケンドの置手紙。いるじゃないか、ラクーンシティにはまだ、頼れる仲間が。

 

 

 

『アリサ!ジル!リサ!ブラッド!』

 

 

 戻ったのは、バイオハザードが起きて間もなくの時間軸。ラクーンシティ中でパニックが起き、まだ騒がしかった頃。レオンとクレアの二人と、今頃街中で人助けしているであろうクイーンが出会う一日ぐらい前。別行動している中でなぜかアリサと音信不通になった、9月28日。街を駆けて情報を集めるプサイちゃんの身体から飛び出し、目指すのは謹慎処分を受けているジルの自宅。眼下に見えてきたところで、爆発が起きて何かが飛び出してきたのが見えた。

 

 

「ジル!逃げて!」

 

「グォオオアアアアアッ!」

 

 

 それは、頭まで黒衣で覆われた黒コートの巨人と取っ組み合いながら隣の建物に突っ込むアリサで。その真下の道を、ボロボロのジルが歩いていくのが視界に入る。

 

 

『あれは……タイラント?いや、なんかセルケトにも似てる?』

 

 

 よくわからないけど、こっちもこっちで修羅場だったらしい。まあG6よりはましでしょ。レオンとクレアが来るまであと一日、あんなデカブツちゃっちゃと倒して備えなきゃ。さあ、切り替えろ。いつも通りの私を演じろ。アリサを心配させるな。

 

 

『やっほ。アリサ、元気?』

 

 

 

 

 

 

file3【追跡者(ネメシス)編】NEW!




ホラーチックに見えていたら幸い。

いろいろ試したエヴリン。地味に妊婦さんにされたり、モリグナとも合体しているっていうね。

アリサVSネメシス。またこの娘、ネメシスと殴り合ってるよ……(セルケトはプロトネメシス)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:2【襲撃、追跡者】

どうも、放仮ごです。コンティニューすればするほど難易度が上がっていくの端的に言ってクソゲーであるが人生ってそういうものだよね。

今回はアリサVSネメシス。楽しんでいただけたら幸いです。


「へーんだアイアンズのくそ野郎め!なにが懲戒処分じゃー!」

 

「気持ちはわかるけど、あんまり飲まないでよ?アリサ」

 

 

 9月28日。私は自宅に遊びにやってきたアリサと共に、同僚から送られてきたピザをいただいていた。どこから持ってきたのか日本酒の瓶をラッパ飲みするアリサに思わず窘める。さすがに身体に悪い。

 

 

「大丈夫大丈夫、私酔えないから」

 

「酔えない?」

 

「私の身体が飲んだ先からアルコールに適応しちゃうみたいでね。だから、酔った気分を味わってるだけ。だから苦いだけのジュースだよ、これは」

 

「…それは」

 

 

 どんなに辛いことがあっても酔って忘れることができないということじゃないのか、と尋ねようとした時だった。電話が鳴り響く。誰だろう。それに、なんだか外が騒がしいような。

 

 

《「ジルか?アリサも一緒か?」》

 

「ブラッド?どうしたの?」

 

 

 電話に出たのはブラッド。確か、謹慎処分になった私の代わりに、擬態しているリサと一緒にアンブレラの事を調べてくれていたはずだけど。他のS.T.A.R.S.はアンブレラの調査のためにヨーロッパに向かってしまったから、今この街に残ってるS.T.A.R.S.は私とアリサ、ブラッドと、今どこにいるかわからないクイーンだけのはずだ。

 

 

《「リサがやられた!今すぐそこから逃げろ!」》

 

「え?リサがやられた?なにがあったの?」

 

「リサがどうしたって?…っ!」

 

 

 ラッパ飲みをやめて私の方に向いたアリサが、なにかに気付いて険しい顔を浮かべて視線を彷徨わせる。

 

 

《「説明している暇はない!そこから逃げろ!今すぐ!」》

 

「ジル、離れて!」

 

 

 瞬間、アリサの背から伸びた触手が私の全身に絡みついて引き寄せる、と同時。電話のすぐそばの壁が吹き飛んで、私の今の今までいた場所が瓦礫に埋まる。何事かと見てみれば、トラックが頭から突っ込んできていた。…って!

 

 

「嘘でしょ?ここ四階よ?」

 

「ジル、銃を!」

 

 

 武器を持ってきてないのか、日本酒の酒瓶を壁にぶつけて割って即席のナイフを作って構えるアリサに、尋常ならざる雰囲気を感じ取った私は机の上に置いてある銃を取りに行く中で。高速でトラックが何かに引っ張られるかのように引っ込み、代わりになにかが跳躍してきて、着地。そこにいたのは、黒い包帯?で顔と胴体がグルグル巻きにされている黒衣の巨人だった。

 

 

「なんだ、お前!」

 

「スタァズ!」

 

 

 咄嗟に酒瓶ナイフを手に斬りかかろうとしたアリサの胸ぐらを掴むと、私達S.T.A.R.S.の名を叫びながら床に叩きつけ、床に亀裂が走ってひび割れ、瓦解。真下の部屋まで巨人とアリサ、二人揃って落ちていく。慌てて見に行けば、巨人はマウンティングを取ってアリサに拳を何度も叩きつけ、そのたびに床に罅が入って落下していく。アリサは触手を出して応戦しているものの防戦一方だ。このアパートも、もう持たない。

 

 

「アリサ!」

 

 

 手にしたサムライエッジで巨人の頭部を狙い、狙い撃つ。明かに人間じゃないし、敵だ。躊躇する理由はなかった。しかし、弾丸は確かに頭部に着弾し血飛沫を上げたというのに巨人は動じない。三階上にいる私を見上げると、跳躍。私の部屋にまで戻ってきた。

 

 

「ッ…!?」

 

「スタァズ!」

 

 

 巨人は私の左肩を掴み持ち上げ、咄嗟に銃弾をゼロ距離から頭部に叩き込んで応戦。しかし包帯が爆ぜて血飛沫が出るだけでびくともせず、床に叩きつけられそのままパンチ。床を破壊するパンチだ、当たれば死ぬことを察した私は咄嗟にローリングで回避。備え付けられている消火器を撃って消火剤で目くらまし、その間に立ち上がって扉から外に出て一息つく。そうだ、アリサ…!?

 

 

「ぐうっ!?」

 

「スタァズ」

 

 

 しかし扉が木っ端みじんに吹き飛んで、私は壁に叩きつけられる。そのまま追撃のパンチを何とか回避。壁が吹き飛び、巨大な風穴があいて冷や汗をかく。なんてパワーなの…!?

 

 

「ジルから離れろ!」

 

「スタァズ…!?」

 

 

 そこに、真下から突き破りながらアリサが現れて、巨人にアッパーカット。大きく怯んで後退した巨人に、ミドルキックを突き刺して廊下の奥まで蹴り飛ばすアリサ。ああ、私のアパート……荷造りは諦めた方がよさそうね。

 

 

「逃げるよジル!アイツはやばい!セルケトと同じ感じがする!」

 

「セルケトと!?」

 

 

 セルケトは、戦闘技術においてはクイーン一派の中でも抜きんでている実力者だ。アリサがそこまで言うってことは、勝てる見込みがないってことか。アリサに連れられて近くの部屋に飛び込み、ベランダに出て絶句する。ラクーンシティが炎上し、パニックになった人々が逃げている光景がそこにはあった。

 

 

「ジルの部屋、機密が云々で防音だから気付かなかった……」

 

「いったい何が起きているの…?」

 

「スタァズ!」

 

 

 その光景を見ながら非常階段で下に降りた瞬間、壁を突き破って巨人の手が飛び込んできて、アリサの顔を鷲掴みにすると引っ張って中に引きずり込んでしまう。慌てて追いかけ窓から中に入ると、壁という壁、棚や調度品を破壊しながら取っ組み合い、殴り合っている巨人とアリサがいて。

 

 

「グオオオオッ!」

 

「ぐっ……うそっ!?」

 

 

 アリサの胸ぐらを掴み、壁に叩きつけながら振り回して廊下までぶん投げた巨人は、間髪入れず腰のホルダーに手をかけ、なにかを手に取り放り投げる。見ればそれは、先の大戦でドイツ軍が使っていたM24型柄付手榴弾だった。

 

 

「ジル!逃げて!」

 

「グォオオアアアアアッ!」

 

 

 そして、爆発して吹き飛ぶアパートの一角。爆発の直前、巨人に取っ組み合い壁に激突して共に外に飛び出すアリサ。私は慌てて一階に降りて外に出て、追いかける先で。

 

 

「……何の冗談なのかしら」

 

 

 次々とアリサと巨人が突っ込んで瓦解し、瓦礫の山となって崩れていく建物群が見えて呆然としていると、見覚えのある顔が道の先の逃げる市民の中に見えた。

 

 

「ジル!こっちだ!」

 

「ブラッド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々と建物に激突しては、支柱を粉砕して崩れていく建物から取っ組み合いつつ外に出る。そんなバカげている光景を作り出しているのは、S.T.A..R.S.が誇るスーパーガール、アリサ・オータムスと、アンブレラがS.T.A.R.S.を抹殺すべく送り込んだ刺客、追跡者(ネメシス)の二人。

 

 このネメシスは、本来の歴史とは決定的にかけ離れたところがある。プロトネメシスことセルケトを介して、生み出されていることである。つまり彼にもRT-ウイルスが少なからず使われている。ここでアンブレラが目を付けたのは、サミュエル・アイザックスの編み出したRT-ウイルスを用いた理論の一つ、サーベラスなどにも使われた「融合」。では何を融合させたのか?答えは簡単。ネメシスに至るまでのクローンを作る過程で失敗に終わったタイラントたちの肉体である。つまりこのネメシスは、圧倒的な質量の筋肉を備えた驚異的なフィジカルを誇るゴリラなのである。

 

 トラックをぶん投げ、一撃で床を粉砕し、施錠した鉄の扉をも殴り飛ばす圧倒的なパワーは、アリサを確実に追い込んでいた。

 

 

「こんのおおおおおお!」

 

 

 両手を突き出して踏ん張り、何とか押しとどめようとするアリサ。しかしネメシスはアリサを持ち上げると跳躍。天井に自ら激突し、粉砕された瓦礫の山でアリサにダメージを与えながら空に舞い上がる。

 

 

「あ、やば……」

 

「スタァズ!」

 

 

 夜空に舞い上がり、放り投げられて自分がどうなるかを察してしまうアリサ。次の瞬間、急降下してきたネメシスの拳を受けて建物に激突。しかし咄嗟に殴られた瞬間にネメシスを蹴り飛ばして別の建物に叩きつけたものの、ガラガラと倒壊させながら一階まで叩きつけられたアリサ。風穴が開いて夜空が綺麗に見えるそこに、見覚えのある顔を見て苦笑する。

 

 

『やっほ。アリサ、元気?……じゃないね?』

 

「エヴリン…困った時にいつも来てくれるねあなたは」

 

 

 逆さまで顔を出してこちらを見下ろすエヴリンに、思わず苦笑するアリサだった。




タイラント・アシュラもG6もそうだけどシンプルに筋力上げた方が強いのである。原作より大惨事になってるラクーンシティです。

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file3:2.5【うしろのしょうめんだあれ】

どうも、放仮ごです。今日は疲れたので短め。ホラー回です。楽しんでいただけたら幸いです。

※1/26 少女だと問題があったので女性に修正しました


 本格的にバイオハザードが始まる少し前のラクーンシティ北部。人気(ひとけ)のない黄昏時、ラクーンシティのシンボルでもある時計塔の北にある墓地と隣接しているラクーン市立公園で。一人の女性が、自宅に戻ろうと、近道である公園を抜けていた。

 

 

「フンフフンフン♪」

 

 

 上機嫌に鼻歌を奏でる彼女は、友達の家に遊びに行って、話し込んでいるうちにすっかり夜が更けてしまっていて慌てて帰っていた。そんな、ありふれた普通の女性は、地面のでっぱりに引っかかって転倒し、特に怪我もなく立ち上がって、ふと違和感に気付く。

 

 

 あまりにも、人がいなさすぎる。警備員や人目も気にせずいちゃつくアベックなどがいつもはいるはずだ。

 

 

 今自分が引っかかったでっぱりの様な盛り上がった土が点々と存在している。こんなものあっただろうか。

 

 

 なにか大きなものが土の中で蠢く音が聞こえる、様な気がする。行きの時に聞こえただろうか?

 

 

 そんな、いつもの日常に浸食する違和感。女性は首を傾げながらも、ジーパンについた土ぼこりをぱっぱと軽く落として帰宅するべく歩みを再開する。

 

 

 

 

 

 

「けらけらけら」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 一瞬、不気味な笑い声が聞こえて振り返る。なにもいない、気のせいかと胸を撫で下ろした女性は気づく。気づいてしまう。なにもいない代わりに。盛り上がった土が増えていた。ちょうど、女性の真後ろだ。

 

 

「な、なに?なん、なの?」

 

 

 黄昏時も夕陽が落ち始め、夜の帳が落ちていく。人気(ひとけ)のない公園ほど、不気味な物はない。女性は薄気味が悪くなって、歩いていた足が走り出す。

 

 

 

「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ、ハッ!」

 

 

 気のせいではない。何かが自分を嘲笑っている。息も絶え絶えで、真っすぐ走り抜ける女性だがしかし、また違和感に気付く。もうとっくに公園を抜けていてもおかしくないのに、まっすぐ走ったはずなのに。いつまでたっても、公園から出られない?

 

 

「なんで、なんで、なんでよ!?」

 

 

 あまりの恐怖に涙を流しながら、女性は走るしかないのでひた走る。そんな女性を嘲笑うように不気味な笑い声もついてくる。

 

 

 

 「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

 

「やだ、やだ!こないで!」

 

 

 両耳を押さえて泣き叫びながら走って、走って。ようやく出口が見えてきた。安堵のため息が漏れる。もうすぐ家だ、この恐怖からも解放される。そう、思おうとした。しかし無情にも、女性は落下していた。突如、足元に出現した大穴に、落下したのだ。

 

 

 

 

 

「たすけ……」

 

 

グシャッ

 

 

 

 

 

 助けを求めて伸ばされた手は何も掴むことはなく、紅い液体が飛び散る。大穴の下に落下した女性だったものの前の地面が盛り上がり、それは現れる。上半身だけ地面から飛び出した子供の様なそれは女性だったものに顔を近づけ、死んでいることを確認すると心底楽し気に嗤う。

 

 

「あはぁ」

 

 

 いつの間にか地面に空いた大穴はなくなっていて、誰もいない公園は静寂が支配していた。




女性を襲ったのは何者だったのか。

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file3:3【ドラキュラ】

どうも、放仮ごです。アメリカだと少女は一人で出歩かないらしいです。ホラーのお約束的な意味合いで書いてたのですが、前回は修正しました。日本の常識でアメリカを舞台にしたのを書くのはダメやんね。

今回はさらなる惨劇。楽しんでいただけたら幸いです。



 今回、というかラクーンシティ事件において蠢く悪意は複数存在する。まずは、自社に関する不祥事の証拠隠滅と共にB.O.W.の実践データを得る一石二鳥を狙いU.S.S.やハンター部隊を送り込んだアンブレラ。

 

 二つ目は、そのアンブレラに従いながらも制御が難しいB.O.W.を作るだけ作って一人だけ離脱し、得たデータで再起を図ろうと目論むサミュエル・アイザックス。

 

 三つ目は、アンブレラを裏切りH.C.F.に逃げ延びようとしているアルバート・ウェスカーことアルテ・W・ミューラーとウィリアム・バーキン、エイダの一派。

 

 四つ目はタイラントの面目躍如を目的としタイラント・ハーキュリーを送り込んだセルゲイ・ウラジミール。

 

 五つ目はG生物に変貌し自らの種の繁殖を第一としているアネット・バーキン。

 

 六つ目はモリグナやヨーン・エキドナ、ネプチューン・グラトニーにアリゲーター・ステュクスなど、解き放たれ自らの本能のままに虐殺するアイザックス製B.O.W.

 

 七つ目はアイザックス関係なく、漏出したT-ウイルスを始めとしたウイルスの影響で怪物になったゾンビやリッカーを始めとした野良B.O.W.たち。

 

 そして八つ目。アリサとジルを強襲した追跡者、ネメシス。一つ目であるアンブレラと、四つ目のセルゲイが手配した存在ではあるが、原作とは一つ違うところが存在する。彼のプロトタイプであるプロトネメシスことセルケト、寄生生物ネメシスを通じてその記憶も継承している。ウェスカーとウィリアムに切り捨てられる前だから彼らへの悪感情こそ存在しないものの、一つだけ、厄介な記憶まで継承された。それは敗北の記憶。アリサという、自分たちより前に寄生生物ネメシスを埋め込まれた存在に敗北した屈辱の記憶。それはろくな記憶を持たない彼にとって、S.T.A.R.S.を抹殺するというミッションよりも、優先された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこっちに来たの?クイーンは?」

 

『えっと……なんかアリサのピンチを感じ取って?』

 

 

 頭から血を流しながら瓦礫を押しのけ立ち上がるアリサの問いかけに、そっぽを向きながら答える。そうだわ、そうだったわ。この時間の私って、クイーンのサポートをするって言ってアリサとその援護によこしたリサと別れてたんだった。

 

 

「そっか。ありがと、エヴリン。でも下がってて……アイツの狙いは私とジルだ」

 

「スタァズ」

 

 

 重量感のある足音と共に、瓦礫が押しのけられる。そこにいたのは、顔に巻いていた黒い包帯が破けて下のグロテスクな顔が見えてしまっているタイラントによく似たフォルムの怪物。しかしこちらの方はセルケトを思わせるしっかりとした戦闘服に見えるコートを装着している。

 

 

『もしかして、セルケトの後継機…?』

 

「…ああ、なるほど。道理でなんか覚えがあるわけだ。じゃあネメシスとで呼ぶかな。確か、私やセルケトに使われてた寄生体がそんな名前だったよね」

 

『セルケトがたしかプロトネメシスと呼ばれてたんだってね…』

 

 

 鉄製なのか靴底が瓦礫を踏み潰して、地を踏みしめるグググッと身構えるネメシス。外を逃げていく人々は怪物であるネメシスの存在に怯えながらも、アリサの事を知っているためかためらっている姿もあった。それを見て動揺するのは、優しいアリサだ。アリサは、どこか達観している私やクイーンと異なり、他人でも犠牲を出すことを忌避する。

 

 

「だめ、逃げて!」

 

「スタァズ!」

 

 

 アリサの明らかな隙を見て、巨人が動き出す。ドスンドスンドスンドスン!重量感あふれる足音と共に、真っすぐ走って突進してくるネメシス。アリサは咄嗟に傍に転がった消火器を手に取り、両手で端っこを持ってフルスイング。ゴイン!という音と共に、側頭部に消火器が炸裂し殴り飛ばされるネメシス。しかしそれでも、頭を軽く振るって立ち上がる。

 

 

「ゴアアアッ……スタァズ!」

 

『ターミネーターかなってぐらい効かないな!?』

 

「顔を隠してたのは弱点とかじゃなかったのか……でも!」

 

 

 洋館の戦いでものにした菌根操作で右腕を覆い、硬化したアリサは踏み込み、跳躍。ストレートパンチをネメシスに叩き込んで殴り飛ばさんとするも、ネメシスはその動きを読んでいたのかスッと上半身を捻って回避。空ぶって体勢が崩れたアリサの右腕を掴むと捻ってひっくり返し、捻った勢いで回転させながら床に叩きつける。

 

 

「があっ!?」

 

「スタァアズ!」

 

『スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

「スタァズ!?」

 

 

 そのまま意識が飛んだアリサの頭部目掛けて拳を振りかぶろうとしたので、咄嗟に虎の子である超至近距離鼓膜絶叫で牽制。その間に意識を取り戻したアリサの腹筋で起き上がった頭突きが顔面に炸裂。怯んだネメシスの襟を掴み、足払い。日本の柔道の技、一本背負いが決まった。某迷宮なしの名探偵の眠りの某の得意技のあれだ。

 

 

『わお…どこで習ったの?』

 

「日本人の同僚にちょっと手ほどきをね。よし、ジルのところに戻ろう。エヴリン、案内してくれる?」

 

『任せて!』

 

 

 完全にダウンしたネメシスを一瞥したアリサの声に応えて、空に出る。ジルは……いた。ブラッドと…なんかボロボロのリサと一緒だ。擬態は解けてないみたいだけど……。

 

 

『北の通りにいたよ!ブラッドとリサもいる!』

 

「リサ、無事だったんだ!よかった!』

 

『なにかあったの?』

 

「ブラッドからの電話で、リサがやられたって言ってたから心配で……」

 

『なるほど?』

 

 

 アリサの言葉に納得しながら人ごみの上を浮かんで先導する。しかしすごい人だな、ラクーンシティ中の人間がいっせいに逃げてるんだから当たり前か。うわ、ゾンビの群れも迫ってる。時間の問題かこれ?

 

 

「アリサ、大丈夫だったかい?あんなバケモノの相手をして……」

 

「大丈夫よサリバンさん。今はとにかく逃げて。私達、R.P.D.が必ず守るから」

 

「ああ、立派になったねえ……」

 

 

 アリサが顔見知りのサリバン夫人に話しかけられて相手をしている。たしか、クイーンとアリサがラクーンシティに来てからずっと応援してくれている人だったはずだ。市民に応援されるヒーローみたいでいいなあ、とほんわかしていて油断してそれに気づくのが遅れた。

 

 

「スタァズ……アリサ・オータムスゥ…!」

 

『……アリサ!避けて!』

 

 

 いつの間に意識を取り戻したのか、瓦礫を押しのけながら出てきたネメシスが右腕を振りかぶると、服の下が蠢いて、右腕を振りぬくと同時に手首からアリサのそれを彷彿させる触手が一本伸びて、高速で射出。私が警告した時にはすでに、人々を何人も貫きながら迫っていて。サリバンさんが背中から貫かれた光景に、アリサは気を取られてしまい回避が遅れた。

 

 

「がはっ……!?」

 

『アリサ!?』

 

「きゃああああああっ!?」

 

 

 人々ごと触手で串刺しにされたアリサが吐血し、崩れ落ちる。アリサが刺されたぐらいで吐血するなんて、尋常じゃない。なにかされたんだ。そして右腕を振るい、何人もの人々を串刺しにした触手が引き抜かれてネメシスの右腕に収まる。人間だぞ?肉と骨をいくつもぶち抜くなんてどんなパワーだ。

 

 

「みんな!逃げて!」

 

「こっちだ!おい、逃げろみんな!」

 

 

 騒ぎを聞きつけて、ジルとブラッドが人々を扇動する。その中をかき分けて、憤怒の顔でネメシスに突撃する存在がいた。リサだった。

 

 

「よくもアリサを……妹を!」

 

「スタァズ…!」

 

 

 擬態を解いて本来の異形の姿をさらけ出した右腕を振るうリサ。ネメシスは左腕でガードすると、触手を出して鞭の様に振るい、あまりのパワーで振るわれたそれをノーガードで受けたリサは大きく出血するもネメシスの胸ぐらを掴み、近場の店に投げつけ追撃する。……私達の知らないところで起きていた、いや恐らく私が過去に戻ったから起きてしまった惨劇に、私は見ていることしかできなかった。




セルケトの記憶を引き継いでアリサに対する敵意満タンなネメシス。タイトルは串刺し公の異名から。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:4【ダリオ・ロッソ】

どうも、放仮ごです。最近心に来る出来事ばかりでちょっと参ってますが私は元気です。

今回はリサVSネメシス。コア的な人気がある(?)キャラも登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「はあああああ!」

 

 

 長い両腕を駆使して瓦礫と化した建物から出てきて、ネメシスに掴みかかるリサ。ネメシスは右腕から触手を伸ばしてリサの首を絞めると地面に叩きつけ、そのまま触手を引っ込めてからサッカーボールキック。建物を三つぐらいぶち抜いて吹き飛んでいくリサ。しかし、ぶち抜いていった建物に髪の毛を蜘蛛の巣のように張り巡らせて停止、反動で弾丸のように突っ込んで長い右腕によるストレートパンチをネメシスの胴体に突き刺し、ひっくり返す。

 

 

「スタァズ!」

 

 

 すると起き上がるなり近くの消火栓を触手で引っこ抜いてぶん投げてくるネメシス。リサはそれを跳び箱でもするかのように長い腕を駆使してジャンプして回避、空中でネメシスの襟を掴んで空中にぶん投げ、跳躍して追撃。髪の毛を伸ばして拘束し、引っ張ってぶん殴るリサ。髪の毛を引きちぎってアッパーカットを叩き込むネメシス。

 

 

「これ以上、家族を失ってたまるか!」

 

「スタァアアアズ!!」

 

 

 そのまま上空で殴り合い、ジャンプアニメ並みの超絶人外バトルを繰り広げているリサとネメシスから目を逸らし、倒れ伏したアリサにジル、ブラッドと共に駆け寄る。目を見開き、口からとめどなく血を溢れさせている姿は明らかに尋常じゃない。

 

 

「アリサ!?いったい何が……」

 

「しっかりしろ!アリサ!」

 

『アリサ!アリサ!その程度の傷なんていつもならすぐ塞ぐじゃん!』

 

「けふっ……多分、高濃度のT-ウイルスを打ち込まれた……」

 

 

 そう言って力なく指さすアリサの視線の先では、先ほどネメシスの触手に貫かれたサリバンさんを始めとした人々が立ち上がり、ウーッウーッ!と唸りながら歩み寄る光景が。即座にゾンビ化するほどのT-ウイルス…!同じものが、アリサにも!?

 

 

『アネットと言い、触手で何でもかんでも打ち込むの流行ってるの…?』

 

「じゃ、じゃあゾンビ化するんじゃ……」

 

「大丈夫……今の私にとっては猛毒だけど、すぐ適応して見せる、から……」

 

「と、とにかく逃げないと!ブラッド、手伝って!……ブラッド?」

 

 

 迫りくるゾンビの大群に、ジルがアリサに肩を貸して移動しようとするが、呼びかけられたブラッドはホルダーからサムライエッジを引き抜いて構える。

 

 

「ジル、アリサ。君たちは逃げろ。ここは俺が引き受ける!」

 

「そんな、だめ……ブラッド!」

 

「馬鹿なこと言ってないで手を貸しなさい!あなた、死ぬ気なの!?」

 

「誰かが足止めしないといけないんだ!俺だってS.T.A.R.S.だ。一度仲間を見捨てて逃げてしまったが……今度こそ、仲間を守ってみせる!うおおおおおっ!」

 

『ブラッド……』

 

 

 咄嗟に、アリサに入ってコンティニューを試みようとして、すぐ思いとどまる。たしか、マービンはゾンビ化したブラッドにやられたと言っていた。つまりこういうことがあって……あそこに繋がる。それに最後辺りのコンティニュー、確実にバグってた。とんでもない数のコンティニューで、私は精神と力ともども消耗している。回復を待たずにこれ以上ちゃんとコンティニューできる確証がない。……つまり、アリサを生かすために誰かを犠牲にするしか、ない。

 

 

『行こうアリサ。ブラッドの覚悟を無駄にしちゃダメ』

 

 

 詭弁だ。これは、私の家族のアリサを生かすためにアリサの仲間を犠牲にするための詭弁だ。罪悪感で吐きそうだ。

 

 

「そんな、ブラッド!」

 

「……今度、S.T.A.R.S.みんなに酒を奢りなさい。それでチャラにしてあげるわ。だから、生きて戻って」

 

「はっ。そいつは、死ねないな…いけ、二人とも!いけえ!」

 

 

 サムライエッジを乱射しながら積み重なった木箱や看板を倒してバリケードにしながら時間を稼ぐブラッドに頷き、嫌がるアリサに肩を貸して近くのBARに入るジル。それを追おうとして私は見た。見てしまった。

 

 

「く、くそっ……うおおおおおおっ!?」

 

 

 必死の応戦虚しく群がられ、ゾンビの大群に沈んでいくブラッドの最期。肉を引き裂く音と咀嚼音が聞こえる中、私は目を逸らして二人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生存者の皆さん!立体駐車場の屋上へ向かってください!」

 

 

 BARを抜けると、頭上から呼びかけながらヘリコプターが通っていくのが見えた。ああ、あれでジルとアリサはラクーンシティを脱出したのかな。その前にどうにか、クイーンたちと合流するように言えればいいんだけど……音信不通だったのは町の外にいたから?

 

 

「駐車場ね、了解。アリサ、動ける?」

 

「なんとか……」

 

 

 少し回復してきたアリサを、サムライエッジ片手にゾンビの魔の手から守りながらジルが立体駐車場に向かうべく、近道である倉庫を抜けようと入ると、壮年の男性がヘリコプターのライトに照らされる天窓を眺めている姿があった。こちらに気付いてあからさまに警戒する。まあそうもなるよね、こんな状況だし。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、来るな。近づくんじゃない!そいつ、ゾンビに嚙まれたんだろ!?近づけるな!」

 

「わた、しは……」

 

「この子は大丈夫、それに聞いたでしょ。ヘリが救助に来てるの」

 

「は?救助だと?俺はここから出ないぞ!」

 

「駐車場は近いわ。私たちが案内する」

 

「この中がどこよりも安全だ!」

 

 

 そう言って倉庫内のコンテナに隠れてしまう男。ジルはコンテナを叩いて男を出そうと試みる。

 

 

「ねえ、あなた名前は?ここにいたら取り残されるわ」

 

「ダリオ・ロッソだ!助けるふりして俺からこの場所を奪うつもりなんだろう!他を当たれお嬢ちゃん!」

 

「お嬢ちゃん?私達は警官よ!」

 

「くそっ!俺は娘と一緒に旅行に来ただけだ!何でこんな目に遭わなきゃならない!?ああ、ルチア……おまえが食われたなんて俺は信じない,信じないぞ……」

 

「………なら、あなただけでも生き残ってよ」

 

 

 すると頭に来たのか額に青筋を浮かべたアリサが、コンテナの取っ手を掴むと無理矢理扉を引っこ抜いてしまった。あまりの出来事に腰を抜かしてがくがくと震えているダリオ・ロッソに、無茶したからか出血量が上がっているが、アリサは気にせず手を伸ばす。

 

 

「ば、ばけもの……」

 

「私の事はどうでもいい!娘さんの分まで生きて!お父さんなら……娘さんの最後の願いぐらい、叶えてあげて……」

 

 

 父親。正確にはアリサの父親はアイザックスだけど、オリジナルであるリサの父親であるジョージ・トレヴァーを思い出したのか泣きそうな顔で訴えるアリサ。その様子に、ダリオ・ロッソは怯えるばかりだった顔を、引き締める。

 

 

「………あんた、警官だったな。名前は」

 

「アリサ・オータムスだよ。ダリオ・ロッソさん。一緒に行こう、そして生きよう」

 

「……私にはまねできないわね」

 

『同感』

 

 

 聞こえてないだろうけど、ジルに同意する。こういう、人を惹きつけるところがアリサのいいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリオ・ロッソを連れて、倉庫の外に出るアリサたち。数人のゾンビが徘徊しており、アリサは倉庫内で手に入れた消防斧を、ジルはサムライエッジを構えて応戦する。今のうちに、リサはどうなってるか確認しとこう。

 

 

「スタァアズ!!」

 

「うおおおおっ!」

 

 

 リサは触手と一体化している髪の毛を巧みに動かして建物間を飛び、同じく右手からの触手をクイーンの粘液糸みたいに使って空に舞い上がるネメシスと殴り合っていた。さすが私達の中で最高峰のスペックを誇ってるリサだ、あの怪物と互角にやり合ってる。でもやっぱりパワーで押し負けている様で、蜘蛛の巣のように張り巡らせた髪の毛で固定して無理やり耐え抜いている。

 

 

「どりゃああ!」

 

 

 そのまま長い右腕を振りぬいて、ネメシスを殴り飛ばすリサ。しかし殴り飛ばした先は、よりにもよってヘリが上空に待機している立体駐車場で。ネメシスはキレたのか、車を片っ端から掴んでぶん投げてきた。

 

 

『ふるべ、ゆらゆら!?』

 

「っ!?」

 

 

 車の流星群がリサに襲い掛かるも、髪の毛を伸ばして触手状にして弾いていくリサ。余裕がないからしょうがないとは思うけど、車が次々と街に落下して炎上している。それは正しく、地獄の光景だった。




3だと顛末まで描かれたけど、RE3だとファンサービスだったのか出るだけ出て特に言及なくフェードアウトしたダリオ・ロッソ。アウトブレイクだとルチア・ロッソという娘がいると描かれてるそうな。

ブラッド脱落。マービンに繋がるからこれは変えれない運命でした。そして今更だけどネメシス大暴れの元ネタは某渋谷です。

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file3:5【モールデッド・エンプレス】

どうも、放仮ごです。強敵相手だとどうしても話数を分けてしまうジレンマ。これ、RE3で言えばプロローグに当たるんですよね……。

今回はリサVSネメシス。楽しんでいただけたら幸いです。


「なんだ…?」

 

 

 ズゴゴゴゴッ!という地響きが聞こえてきて、俺ことアンブレラ社のバイオハザード対策のための私営部隊U.B.C.S.デルタ小隊A分隊所属の伍長、カルロス・オリヴェイラは地上の方角に視線を向ける。逃げ遅れていた生存者をゾンビから守りながらシェルター代わりにしている路面電車の地下鉄の車両に送り届ける任務の途中だ。地上にはまだ、逃げ遅れた人々が……

 

 

「隊長!いったい何が……」

 

「様子を見に行ったニコライとマーフィーから連絡がない。何かが起きているとみるべきだが…万が一に備えてそれを持っていけ」

 

「了解!」

 

 

 先のゾンビの襲撃で負傷していて動けない隊長、ミハイル・ヴィクトールの指示したそれを手に取り、外への階段を目指す。そしてシャッターを開け、外に出た俺が見たのは……

 

 

「うそ、だろ…?」

 

 

 現実だと認識したくなかった。まるで出来の悪い映画の如く、大男と両腕が異様に長い女が空中で殴り合っている。そのうち大男の方が立体駐車場まで殴り飛ばされ、空中に浮かんでいる女目掛けて立体駐車場から複数の車が投擲され、女が触手の様に伸ばした髪の毛でそれを全部弾いている。次々と空から車が落下し、次々と爆発する光景は現実感がないが、爆発によって襲い来る熱風の熱さが現実だと実感させる。

 

 

「どうなっているんだラクーンシティは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――今更ではあるが、今のリサの格好は襤褸切れの様な服を着てデスマスクを被っていた洋館事件の時の風貌とはまるで違う。妹であるアリサの説得で恥ずかしいからと被っていたデスマスクは脱いで、武器にもなってた鎖付きの手錠も外し、白く大きなつば付き帽子を目深に被り、白いワンピースを身に着けている……まあ言っちゃうといわゆる八尺様スタイルだ。でも今は帽子が脱げ、お気に入りのワンピースが血で汚れるのもいとわずネメシスと殺し合っている。あとで改めて擬態させて服変えてあげないとな……お願いだから生きてよ、リサ。

 

 

「アリサは、助かったみたい…?」

 

「スタァズ!」

 

「私はS.T.A.R.S.じゃない!」

 

 

 アリサの無事を確認して安堵していた、空中で蜘蛛の巣のように髪の毛を張り巡らせて浮いているリサに向けてタクシーを放り投げるネメシス。しかしリサは激高しながらそれを両手で受け止めて、メリメリメリッ!と音を立てて真っ二つに引き裂くと投擲して返却。返ってきたタクシーの残骸を触手で薙ぎ払ったネメシスは、埒が明かないと思ったのか跳躍して飛び出し、リサに組み付くとあまりの重量に支えていた髪の毛がちぎれていく。

 

 

「っ……!?」

 

 

 そして耐え切れずにリサはネメシスと取っ組み合ったまま落下。トレーラーの荷台に激突して、ネメシスに蹴り飛ばされたのか荷台から吹っ飛びビルの外壁に背中から叩きつけられる。リサの持ち味は髪の毛操作と長いリーチを誇る両腕による猛攻だ。これに加えて手錠の鎖もあったのだけど、それが失われたリサは洋館の時より弱くなってる。平穏な暮らしを手に入れたら弱くなるなんて皮肉すぎないか神様。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

「っ…!?」

 

 

 トレーラーを両手で持ち上げ、勢いよく振り下ろさんとするネメシス。リサはダメージがでかいのか動けない。……こうなったら!見て居られなくなった私は、エレベーターに乗ろうとするアリサ、ジル、ダリオとどっちを優先するかを一瞬迷ったけど、意を決して急降下する。

 

 

『リサぁああああ!!』

 

「エヴリン…?」

 

『合体だああああ!!』

 

「わかったわ……待って、なんて!?」

 

 

 勢いに飲まれて了承したリサの身体に飛び込もうとして、ごっつん!と音が響いて激痛が走る。私とリサのおでこが正面からぶつかったのだ。忘れてた……リサ、私に触れるんだった……。

 

 

「『あいたたた……』」

 

「スタァズ?」

 

 

 頭上にトレーラーを両手で構えたまま首を傾げるネメシス。あ、ちょっと待ってね。

 

 

『説明している暇はないからリサ!私を受け入れて!』

 

「意味が分からなすぎるわ!?」

 

『ほら!ウィーアーウェルカム!』

 

「……なんとかなるのなら、まあ」

 

 

 リサの了承を改めて取って、憑依!クイーン・モールデッドの要領でリサと一体化する。リサの体内に埋め込まれた菌根が増殖し、シルエットはそのままに肥大化、刺々しい外装を作り上げていく。そして私達は触手にもなる髪の毛はそのままに、異様に長い腕をナックルウォークの体勢で地面につかせた、モールデッド・クイーンの時よりも鋭利な刺々しいフォルムの剣山みたいな姿で、複数の顔が合わさったような頭部を持つ大柄なモールデッドに変貌する。

 

 

「『……ケヒヒッ。アハハハハハッ!』」

 

 

 洋館の時のリサ()を彷彿させるその姿に満足し、口をいつもの三日月の形にして不敵に笑う。ああ、ダメだこれ。今までのどの形態より、攻撃的だァ。

 

 

「『アハハハッ!いいわね、これ!』」

 

「スタァアズ!」

 

 

 瞬間、危険を感じ取ったのかトレーラーを叩きつけてくるネメシス。しかし私達は鋭利に硬質化し刃と化した腕で真っ二つに切断。引き裂かれたトレーラーが転がって爆発するのをバックに、ネメシスの顔面を掴んで、カエルの様に深く腰を沈み込んで跳躍する。

 

 

「『ブギーマンより愉しめそうね!アハハハハハッ!』」

 

 

 そのままネメシスを窓を引き裂くようにビルの外壁に頭から押し付けながら上へ駆け抜けていく。顔面にガラスとレンガを次々とぶつけられたネメシスは呻き声を上げながらも右腕から触手を伸ばして私達の首に巻き付けると引っ張りながら殴りつけ、同時に触手を戻して殴り飛ばしてきた。

 

 

「『無駄無駄ァ!』」

 

「スタァズ!?」

 

 

 しかし私達は髪の毛を翼のように変形させて羽ばたき、空中で急停止。外壁に掴まりながら眼を見開かせたネメシスは着地して近くのフェンスや標識を引っこ抜いて上空の私たち目掛けて投げつけてくるのを、羽ばたいて避けていく。

 

 

「『今の私達は、誰よりも自由だあ!』」

 

 

 そしてネメシスの頭上に羽ばたいてから急降下、両腕を同時に振り下ろして、奴の胴体をズタズタに引き裂こうとするも、ネメシスの取り出したものに阻まれる。それは、スタングレネードだった。

 

 

「『しまっ……!?』」

 

 

 閃光と爆音が至近距離で炸裂。平衡感覚を完全に失った私達は落下していくが、咄嗟に髪の毛を四方八方に伸ばしてストッパーにすることで落下を免れるも、そこになにか重い一撃が胴体に突き刺さり無理矢理地上に背中から叩きつけられる。ギリギリ復活した視界で知覚できたのは、跳躍してきたネメシスの飛び蹴りだった。

 

 

「『ぐぅあっ!?』」

 

 

 いかにも重い大男の重量級の足でアスファルトにめり込まされた私達。潰れた内臓を無理矢理再生させて、右腕をでたらめに振り回してネメシスを殴り飛ばして立ち上がる。ああ、死んだかと思った。油断した。こいつ、ステゴロより武器を扱う方が慣れてる。厄介なタイプだ。

 

 

「『いいね。洋館のやつらとは比べ物にならないぐらい愉しい。ならこういうのはどうかしら!?』」

 

 

 パチパチパチ、と頭上で拍手する。そのまま両手の手首を連結。広げると両手首を繋いだ菌根でできた鎖の手錠が完成し、私達は前かがみでだらんと両腕をぶら下げた状態で構えると、そのまま突進。ネメシスに組み付いて手錠を首の後ろに回すと引っ張り、頭から地面に叩きつける。そのまま手錠の左手首との連結を解いて右拳に巻き付けメリケンサックの様にすると、ひたすらネメシスの顔面を殴りつけていく。

 

 

「グオオオオアアアッ!!」

 

 

 するとネメシスは顔面をボロボロにしながらも咆哮を上げ、傍のゾンビに触手を巻きつかせると引っ張って私達にぶつけてきた。なんかアリサの大事な人だった気がするけど、邪魔してきたので容赦なく引き裂くと、距離を取ったネメシスが腰に手をやり、円柱の形状のものを取り出し放り投げる。スモークグレネードだ。カランカランと音を立てて、充満していく。違和感。

 

 

「『そんな目くらまし!』」

 

 

 再度髪の毛を変形させた翼を羽ばたかせ、煙を吹き飛ばしながらネメシスのいた場所に右腕を叩きつける。違和感。

 

 

 

 

 

「『…あれ?』」

 

 

 

 しかしその一撃は虚空を引き裂き、空振り。違和感。それは、なんで今更視界を奪ってきたのかという事。ピピピピっという音に振り返れば、近くのアンブレラのマークが描かれたトレーラーの荷台からなにかを取り出して構えたネメシスが見えて。

 

 

「『しくったあ……』」

 

 

 後悔してもすでに遅く。それ……ロケットランチャーの直撃が私達を襲い、吹き飛ばされながら見えたのは、間髪入れず放たれたロケット弾頭で撃ち落とされるヘリコプターの光景だった。




現状最強の形態モールデッド・エンプレス。髪の毛型の触手を変形させたり、攻撃的なフォルムを持つ形態です。モチーフはリサ・トレヴァーとビルドのハザードフォーム。手錠の攻撃はウェルカムトゥラクーンシティのリサから。束縛から解放され自由になったリサ、というコンセプトです。

そして武装することで本領発揮のネメシス。今作ではアンブレラの全面的カバーで武装が充実してます。

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file3:6【カルロス・オリヴェイラ】

どうも、放仮ごです。どうしても最近日を跨ぐぎりぎりになってしまう……。

今回はカルロス参戦。楽しんでいただけたら幸いです。


「そんなっ……」

 

 

 エヴリンとリサが、見覚えのない異形の姿に変貌して凶暴な様子でネメシスと渡り合っていたと思ったら、突然爆発して吹き飛ばされるのが見えて、間髪入れず上空のヘリまで爆発して墜落してきた。私は咄嗟にジルとダリオを両手に抱いて飛び退き、立体駐車場の屋上に落ちてきて爆発、炎上するヘリから逃れる。

 

 

「な、なんなんだ!?助かるんじゃないのか!?」

 

「今のは……ロケットランチャー!?」

 

「あいつだ、ネメシスが…!」

 

「スタァズ」

 

 

 言ってる傍から、リサとエヴリンを倒して次の標的を私達と定めたのか、触手を使って目の前に降り立ってくるネメシス。その手にはドラム式マシンガンが握られていて。私は消防斧を、ジルはサムライエッジを構えてダリオを守るべく応戦。しかし圧倒的な弾幕が襲い掛かってきて、ジルは咄嗟にダリオの手を引いて車の陰に退避。私は弾丸の直撃を受けながらも再生しながら突き進み、消防斧を頸目掛けて振り下ろすも左手で受け止められ、私が掴まったまま投げ飛ばされ空中で弾幕に晒される。

 

 

「ぐうううっ!?」

 

 

 足を地に着けてないため衝撃をもろに受け、弾丸を受けるたびに体が跳ねて吹き飛ばされる。そのまま弾丸に晒され続けていると、弾が切れたのか弾幕が止んで。そこに、ジルが車体から身を乗り出して連射。ネメシスの手からドラム式マシンガンを弾き飛ばすことに成功。そのままヘッドショットを連続で叩き込んで怯ませる。

 

 

「おい、大丈夫か!?信じられん、あれで生きているとは……」

 

「ダリオ……」

 

 

 その間にこっちまでやってきたダリオが肩を貸してくれて、立ち上がる。いやあ、常人ならミンチにされてたね。くそっ、ネメシスの襲撃の際に銃を落としてしまったのはまずかったなあ。

 

 

「ダリオは離れてて……大丈夫、絶対切り抜けるから…!」

 

「っ……」

 

 

 私の言葉に頷き、離れていくダリオ。私は支えを失った体に鞭打ち、体内に撃ち込まれた弾丸の所在を確認。意識を集中させて両手を前に突き出す。

 

 

「……適応」

 

 

 体内の筋肉を隆起させて、血管が傷つくのも構わず指先に集中させていく。ピストルの仕組みは以前、ケンドから聞いたことがある。火薬を筒の中で炸裂させ、弾丸を撃ち放つ。どんな銃でもそこだけは共通している。ならば、指先に弾丸を集中。意図的に体温を上げて血液を過熱させ、血管を破裂。その圧で撃ち放つ。

 

 

「指鉄砲!」

 

 

 パパパパン!と、親指、人差し指、中指、薬指の先端から弾丸が飛び出して、八連発ネメシスに殺到。通常のハンドガンよりも威力が出て、防弾であろうコートの上から衝撃で吹き飛ばし後退させる。いったい………けど、行ける!残りの弾丸も指先に集中させ…!?

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

 ネメシスが背中から引き抜いたのは、単発式のグレネードランチャー。シュポン!という小気味いい音と共に、私のいる場所目掛けて射出。咄嗟に飛びのくと爆発が背中を焼いて吹き飛ばされた。

 

 

「アリサ!…!?」

 

 

 さらに次弾が装填されてシュポン!と発射されて、ジルの隠れている車体が爆発。木っ端みじんに吹き飛んだそれの陰からジルが転がり出ながら連射。しかしネメシスはびくともせずに、ジルに銃口を向ける。まずい……!?するとパッパー!とクラクションの音が鳴り響いてライトがネメシスを照らした。

 

 

「おりゃああああああああ!!」

 

「スタァズ!?」

 

 

 それは、恐らく屋上に停められていたであろう自動車に乗ったダリオだった。真正面からネメシスに激突し、屋上だというのにアクセルベタ踏みで縁に押しやってる。

 

 

「ダリオ!?なにをしているの!?」

 

「俺の娘の年齢ぐらいの女性が二人、死ぬ気で戦っているんだ!俺も命を張らないでどうする!」

 

「グオオオオアアアアッ!!」

 

「もう逃げないって決めたんだああああああ!」

 

 

 グレネードランチャーを構えるネメシスだったが、自爆の可能性を考慮してか背中にしまって両腕で自動車の突進を受け止める体勢となる。しかしさらにアクセルをふかしたダリオの勢いは止められず、壁に激突。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

 

 ネメシスは右腕を突き出してフロントガラスを破ってダリオの首に手をかけるも、同時に壁を粉砕して空中に投げ出される。同時に、ダリオの車も落ちようとしていて。

 

 

「そんな、だめよ!」

 

「ダリオ!」

 

 

 咄嗟に手を伸ばしながら走るも、駄目だ、間に合わない。虚しく落ちていく自動車。爆発音が響き渡り、私はジルを抱えて自動車が粉砕した壁から飛び降りてダリオの安否を確かめる。だめだ、完全に爆発炎上している。これじゃ、ネメシスはともかくダリオは……!

 

 

「ダリオ…!」

 

「『おじさんなら無事よ』」

 

 

 すると、そんな声が聞こえて異様な影が立体駐車場の二階から出てくる。それは、全身が焼けただれている、異形と化したリサだった。その髪の毛の様な触手には、ダリオがグルグル巻きで持ち上げられていた。

 

 

「おおおお……おろせえ!?」

 

「ダリオ!よかった……」

 

「リサ、其の姿は…?」

 

エヴリン()の新しい力よ。爆発に吹き飛ばされて、いざ戻ろうとしたら落ちてきたから回収しておいたわ』

 

「ありがとう、本当に……」

 

 

 ゆっくりと下ろされたダリオの無事な姿に、安堵のため息を零す。本当に良かった。ダリオのおかげでネメシスも倒せたし……って。

 

 

「うそ……」

 

「スタァアズ!」

 

 

 炎上する車体を持ち上げて、姿を現すネメシス。顔を覆っていた黒衣が完全に燃えて、その素顔がさらけ出される。その顔面には鼻や耳、唇がなく剥き出しの歯茎に、大きな手術痕により右目は潰れているという異形の顔のそれは、咄嗟に飛び出したリサを文字通り前蹴りで一蹴して、咆哮を上げる。

 

 

「よう!クソ野郎!こっちだ!」

 

「スタァズ?」

 

 

 すると横から声をかけられて、振り向くネメシスの眼前にロケットミサイルが迫り。右腕から伸ばした触手でミサイルを受け止めて投げ捨て、爆発させるネメシス。振り向いた先には、もじゃもじゃの髪の武装した男がロケットランチャーを構えて立っていて。

 

 

「二の矢って知ってるか?」

 

「スタァズ!?」

 

 

 瞬間、間髪入れずに放たれた二発目がネメシスに直撃。膝をついたネメシスを、リサが渾身の力で右拳を振るって殴り飛ばす。

 

 

「もう大丈夫だ。助かったぜ、お前は味方って事でいいよな?」

 

「貴方が敵じゃないならね」

 

『あちち……ロケットランチャーの熱で戻っちゃった』

 

 

 駆け寄ってきた男にそう言って、エヴリンと分離してボロボロの姿に戻るリサ。弾が切れたのかロケットランチャーを投げ捨ててアサルトライフルを構える男にダリオが問いかける。

 

 

「あんたは?」

 

「俺はカルロス・オリヴェイラ。U.B.C.S.だ。あんたたち、生存者を助けにきた。こっちだ、安全な場所へ案内する」

 

 

 そう言って先導するカルロス。案内されたのは、最寄りの地下鉄のステーションだった。

 

 

「もう大丈夫。ここは安全だ。あんたたちで仲間は全員か?他に生存者は?」

 

「ひとり、いたわ……でも」

 

「そうか……悪いことを聞いた」

 

「ふん。ここが安全な場所だといいがな」

 

 

 憎まれ口を叩くダリオに苦笑する。まだ人を信用できないらしい。

 

 

「この先に生存者を集めている。地下鉄の車両をシェルター代わりにしてるんだ。ところで名前を聞いてもいいか?」

 

「アリサ。アリサ・オータムス」

 

「……リサ・オータムス。アリサの姉よ」

 

「ジル・バレンタインよ。ほら、ダリオも」

 

「ダリオ・ロッソだ」

 

『エヴリンだよ!聞こえてないだろうけどね!慣れた!』

 

「そうか、アリサ。リサ。ジル。ダリオ。俺に守らせてくれ」

 

 

 そう言うカルロスの眼には、真摯な光が宿っていた。




命を懸けてアリサたちを守ったダリオ。貴重な男枠として奮闘してもらいます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:7【ニコライ・ジノビエフ】

どうも、放仮ごです。最近リベレーションズをやり直してるんですが、あのドラマみたいな話をどう取り入れるかめちゃくちゃ迷ってます。456とかナンバリングは固まってるのだけどね。

今回はある意味みんな大好きあの男が参戦。楽しんでいただけたら幸いです。


9/26

13:00 RCに潜入 混乱は局地的 行動を開始

19:30 RPD×5 20体規模の群れと交戦 20分で壊滅

20:00 RPDの生き残りが群れを成した鴉に襲われる光景を目撃。報告にあった“モリグナ”と推測される。

 

 

9/27

12:00 大学を利用し実験 犬含む群れを誘導

   2時間で64%が感染 発症 生存者0

16:00 連絡が取れなくなったU.B.C.S.から最後に連絡があった墓地に確認しに行ったところ、隊員を貪る未確認の人型B.O.W.を確認。データを参照、S・Iの開発し逃亡したというRT型の“グレイブディガー”と推測。要観察。

23:00 M隊に合流 明朝実行

 

 

 

 

9/28

04:30 拠点に群れを誘導

   夜間密室での多人数戦(映像添付)

08:00 戦闘終了 生存者7名が脱出に成功

18:00 ポイントD18に未知のB.O.W.―――特徴から新型のNと推測される―――が投下される

   観測開始 何かを探している様子

20:00 Nを観測中 三ツ星3名と民間人一名発見

   唯一の男のは群れに襲われ脱落 民間人と思われていた女が未確認のB.O.W.だったと判明、Nを圧倒する。記録開始。

 

 

 

 ここまで手帳に書き記した男は不敵に笑む。これはー―――高く、売れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの怪物……ネメシスを知ってるの?」

 

「ネメシスっていうのか?いや、初めて見た。でもゾンビとは違う、明確な意思を持ってあんたたちを狙っていた。奴の装備を見る限り俺達と同じアンブレラの差し金らしいが、残念ながら知らないな」

 

『でかでかとロゴマーク引っ提げてきてるの完全に目撃者を始末しに来てるよねえ』

 

 

 地下鉄の通路を歩きながら、ネメシスについてカルロスに尋ねてみると、聞き捨てならない言葉が返ってきた。アンブレラ、アンブレラだって?

 

 

「アンブレラ……?あなた、アンブレラなの?」

 

「アンブレラっていうと、あれか。グローバル製薬企業の」

 

「言わなかったか?俺らはU.B.C.S.。アンブレラ・バイオハザード対策部隊(Umbrella Bio Hazard Countermeasure Service)の略称だ」

 

 

 それを聞いたジルの態度が一変する。私も同じ気持ちだ。アンブレラがこの事態を引き起こして、助けに来た?マッチポンプにもほどがある!

 

 

「アンブレラ?ちょっと、冗談でしょ?あなたたちがこのすべてを引き起こしたんじゃない!」

 

「お前たちが…!返せ!俺の娘を、返せ!」

 

「はあ?なあ落ち着けよ。なんのことだ?俺らはみんなを助けに来た。誓ってもいい。アンブレラの何が悪い?」

 

「“アンブレラの何が悪い?”信じられない!あなたたちアンブレラが開発したT-ウイルスのせいで感染者が次々と出て、こんなことになったんじゃない!」

 

「待て。それは初耳だ」

 

「どの口が…!」

 

『本当に悪い奴なら馬鹿正直に言わないと思うけど』

 

 

 ジルが非難し、それを聞いて怒りの矛先を探していたダリオが掴みかかる。カルロスは本当になんのことだかわかってないらしい。さっきから冷静に様子を見ているリサに問いかける。

 

 

「リサ。どう思う?」

 

「…ネメシスも十中八九アンブレラの差し金。アンブレラ同士で戦う理由がないわ。しかも高価なロケットランチャーを使ってまで私達を助けるメリットがない。U.B.C.S.はともかく、少なくともカルロスは本気で私達を助けようとしているんだと思うわ」

 

「たしかに……カルロス、本当に何も知らないの?」

 

「アンブレラが原因だなんて俺達はそんなこと聞かされてない。そもそも俺達は雇われの身だ。U.B.C.S.の多くが傭兵で占められた非正規部隊で、隊員の大半は服役中の戦争犯罪人や大罪を犯して無期懲役か死刑判決を受けた元軍人、亡命軍人、元ゲリラで構成されている。中には贖罪不問を条件に傭兵として雇用されているならず者もいる。俺達はただ、ラクーンシティの住人を助けるように言われてきただけだ」

 

「……なるほどね。U.B.C.S.はアンブレラの体裁を保つための捨て駒ってことか」

 

「なんだって?」

 

 

 リサの結論に、眉を顰めるカルロス。それなら納得のいく話だ。それ以外にこんな死地に私設部隊を送り込む理由がない。カルロスは本気で住人を助けるために来たけど、実態は……。

 

 

「ネメシスの性能実験でもあるのかも。比較的戦える人間を相手にした方が、データも取りやすいから……」

 

「そいつは聞き捨てならないな。アンブレラが信用できないことはわかった。別に俺のことを信じなくてもいい。だがまずはシェルターに行こう。そこに隊長もいる。もしかしたら事情を知ってるかもしれない」

 

「隊長?貴方たちは何人いるの?」

 

「4個小隊120名が投入されたが、ほとんど全滅だ。俺と隊長の他には三人しか残ってない。ゾンビや、爬虫類の様な人型の怪物……それに、北の公園付近で詳細がわからない何かによって消息不明になった人間も十数名。俺達は壊滅した。だからできることを精一杯やろうとしてるわけだ」

 

「……ハンター」

 

 

 その特徴から間違いない。オメガちゃんかプサイちゃんがいればな、と少し思ってしまう。ハンターなら彼女たちの指示に従うはずだから。

 

 

『プサイちゃんだけでも連れてくるべきかな……いや、プサイちゃんがいなかったら情報収集ができなくなって色々影響が出るか……ううーん』

 

「ついたぞ。ここだ」

 

 

 そう言って階段を下りたカルロスの先には、ラクーンシティを走る路面電車カイトブロス・レールウェイの車両が三両線路に上に鎮座していた。なるほど、これなら。プラットホームにはU.B.C.S.が持ち込んだのか資材が入っていると思われる箱が大量に置かれてある。食料や水も問題なさそうだ。

 

 

「……?」

 

『どうしたの、リサ。なんかいた?』

 

 

 すると不思議そうな顔で来た道を振り返るリサにエヴリンが問いかけていた。まさかネメシスが?と私含めてジルもカルロスも身構えるが、なにもいない。リサはため息をつき、来た道を引き返し始めた。

 

 

「いきなりどうしたの?リサ!」

 

「……ちょっと行ってくるわ。エヴリンは連れてく。隊長とやらによろしくね」

 

『あ、待ってよ!こっちも気になるんだけど!ねえ!』

 

「おい、外は危険だぞ!」

 

 

 慌ててついていくエヴリン。私達はそれをポカーンと見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、勘づかれたか?なんにしても不味い!B.O.W.を相手にするなんて冗談じゃない!」

 

 

 秘かにアリサたちの後を尾行していた男は、慌てて外に逃げ出していた。男の目的は観察及び監視。高みの見物を決め込むつもりだったのに、一番危惧していた相手に勘づかれた。駅の出口から外に出て、ゾンビを気を付けながらひた走る。

 

 

『みーつけた』

 

「待ちなさい」

 

「っ!?」

 

 

 そんな男の目の前の炎上する自動車を踏み潰しながら、それは降り立つ。擬態を解いて両腕が長い八尺様とでもいうべき姿に戻ったリサである。カエルの様に足を曲げて腰を深く下し両手をついた体勢で男を睨みつけるリサに、男は咄嗟に拳銃を引き抜いて構える。

 

 

「うおおおっ!?」

 

「無駄よ」

 

 

 しかし銃口に手を被せられて一発目は肉を抉ってあらぬ方向に着弾し、リサは風穴が開いた掌をそのまま押し付けて、撃たれながらも気にせず銃身を風穴に入れて握りこむと取り上げる。

 

 

『見てるだけで痛い痛い痛い』

 

「あなた、何者?なんで私達を見張っていたの?」

 

 

 ひゃーっと言いながら自分の身体を抱きしめて痛がるエヴリンを無視して、リサは銃を頭上に掲げて取れないようにしながら問いかけると、男は観念したように両手を上げる。

 

 

「参った。勘弁してくれ。俺はU.B.C.S.のニコライ・ジノビエフ軍曹だ。敵じゃない。びーお……怪物を警戒するのは仕方ないだろう?おっと、気を悪くしないでくrぐはあああ!?」

 

「ふんす」

 

『あちゃー』

 

 

 ニコライを名乗った男からなんか嫌な感じがしたリサは問答無用でぶん殴った。残当である。




※この間にジル達は原作まんまのイベント進んでますが割愛。

7編のルーカスポジのニコライくん。そう簡単に悪だくみできると思うなよ。エヴリンとかいう誰にも見えないどこでも監視カメラと、リサとかいう圧倒的危険察知能力の持ち主とかいう天敵コンビ。

REにてリストラされたグレイブディガーはまんまグレイブディガー、これには理由がありますが後々。

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file3:8【ミハイル・ヴィクトール】

どうも、放仮ごです。5と6、リベレーションズやアウトブレイクなど以外のバイオで言えることですが、単独で進むストーリーだと大人数で行動するのを考えるのは結構難しい。

割愛しようと思ったけどアリサがいるからできなかったアリサSideがこちらです。楽しんでいただけたら幸いです。


 私達がカルロスに案内された地下鉄にいたのは、傷を負っているらしいいかにも軍人という風体の男だった。

 

 

「隊長。こちら、ジル・バレンタインにアリサ・オータムス。ダリオ・ロッソだ」

 

「ジル・バレンタインにアリサ・オータムス?あの洋館事件を生き残ったラクーン市警の特殊救助部隊S.T.A.R.S.に所属するエリート隊員二人に力を貸してもらえるとは光栄だ。俺はU.B.C.S.小隊長のミハイル・ヴィクトールだ」

 

「私達の事を知っているの?」

 

 

 ミハイルと名乗った男が私達の事を知っていることに警戒し、消防斧を構える。するとミハイルは笑いながら続ける。

 

 

「信用してもらうために言うが、俺はソ連崩壊後に退役した元ソ連軍大尉だ。少数民族出身の妻と共に民族独立を目的としたゲリラ組織のリーダーとして数々のテロ活動をやっていたんだが逮捕されて、同じく逮捕された仲間の銃殺刑免除のためにこうして働いている。その時のつてで戦争を変えるB.O.W.について話を聞いていたんだ。それが引き起こした洋館事件についてもな」

 

「さっきカルロスが言ってたやつか」

 

「隊長は元ゲリラのリーダーをしていただけあって指揮能力が高いんだ。人間性についても、信用していい」

 

「我が隊は市民救助のために派遣された。見たところ、ダリオ・ロッソといったか?彼は一般人だろう。我が隊で身柄を引き受けよう」

 

「…信用して、いいのか?」

 

「ダリオ。悪いこと言わない、保護された方がいいよ」

 

 

 さっきの無茶で確信した。ダリオは勢いに任せがちで、見ていてハラハラする危険性を持ち合わせている。また私達がピンチになったら今度こそ特攻しかねない。ミハイルに保護してもらう方がいいだろう。

 

 

「俺はこのざまだが……まだ動ける隊員はいるから安心していい。タイレル、来てくれ」

 

「はい隊長。俺はタイレル・パトリックだ。ここの護衛をしている。よろしくな」

 

 

 ミハイルに呼ばれて、奥の車両からオレンジ色のサングラスを掛けた黒人の傭兵が出てくる。故S.T.A.R.S.の仲間、ケネスと似た雰囲気を感じる。かなりできる人だ。信用できる。タイレルがダリオを連れて行き、残された私とジルはミハイルに促されて、ミハイルの反対側の座席に座る。

 

 

「それで、状況を聞かせてくれるかな。力になれるかも」

 

「この街は完全に分断され孤立してしまっている。10万人もいたはずの市民がほとんど死ぬ……いや、ゾンビになってしまうだろう。厄介なことに生存者が減るたびに奴らの物量は増えていく。すべて駆逐するのは不可能だ。我が隊にも甚大な被害が出ている。他の部隊が生きていればいいが……恐らく、望み薄だろう。生き残るだけで精一杯の状況だ」

 

「ご立派な雇い主のおかげね」

 

「ジル、言い方。……まあアンブレラは滅ぶべきだけど」

 

「随分と過激派だな?」

 

「私はアンブレラの人体実験で生み出されたクローンだからね。しかも体を散々弄られたんだ、これぐらいぼやいても(バチ)は当たらないよ」

 

「それは、悪かった……」

 

 

 カルロスの茶々に、私は右腕を菌根で覆って実践しながら反論すると、カルロスは苦虫を噛み潰したような顔で謝罪する。怪物だって言わないだけマシだな。

 

 

「アンブレラが首魁なのはうすうすわかってはいたが……そこまでとはな。まあ我々としてもあらゆる手を尽くしている。一つ思いついたのは、この地下鉄を動かすことだ。シェルターごと移動すれば、生存者を全員連れて安全に街を脱出できる。だが問題がいくつかある。助けがいる、我々だけでは生存者を探して保護するだけで精一杯だ。手が足りない」

 

 

 そこまで言って、ミハイルは頭を下げる。私とジルは顔を見合わせて、続きを促す。

 

 

「頼む。そこまで恨んでいるアンブレラの子飼いである我々だ。厚顔無恥なのはわかっている。だが、君達に手を貸してもらいたい」

 

「…………わかったわ。力になる。市民のためよ。あなた達じゃない」

 

「私達も警察官だもの。私怨よりも、市民を救う方を優先するよ」

 

 

 少し熟考してから頷いたジルに続いて笑みを浮かべる。目の前でサリバンさんを、私を信用して安心していた人が、ネメシスに殺された。今度こそ、守って見せる。そう頷いた私達に、顔を上げたミハイルは心底安堵した笑みを浮かべる。それを見て、ああ、このミハイルという男は……信用できる。そう思った。

 

 

「ありがとう、ジル。アリサ。これが無線だ、死んだ隊員の物で申し訳ないが連絡が取れる。銃や物資は上階にあるから補給してくれ。消防斧じゃ分が悪いだろう。カルロス、地図を」

 

「了解。これは、ラクーンシティの地図だ。エナーデイル通りを隔てて、北側に存在する「ダウンタウン」と南側に存在する「アップタウン」の2つに区画が分かれている。俺達がいるのはダウンタウンだ」

 

 

 ミハイルから一つずつ無線機を渡されながら、私とアリサはカルロスが床に敷いた地図に視線を向ける。改めて見たら広い街だなあ。

 

 

「俺は線路の瓦礫を撤去するから、二人は地下鉄の運行システムの復旧を頼む。先ずは電力を確保してくれ。電源が入ってないからまずは変電所に向かうんだ。ダウンタウンの北端に変電所がある。大通りに出たら連絡してくれ、ナビゲートする」

 

「わかったわ」

 

「ちょっと待ってね。《エヴリン、聞こえる?》……だめか」

 

 

 菌根通信できないかなと思ったが、やはり混戦している様だ。ゾンビだらけならと思ったが、他にも菌根を有している上に自我を持つなにかがいるみたいだ。

 

 

「どうした?」

 

「エヴ…リサに連絡しようと思ったんだけど。駄目みたい」

 

「リサ?」

 

「アリサの姉だ。ここに来る直前にどこかに行ってしまった」

 

「そうか……ならこれを持っていけ。そのリサに出会ったら渡すんだ」

 

「助かる。ありがとう」

 

 

 ミハイルから追加でもう一個、血に濡れた無線をもらい、頷くと私とジルは車両から出て階段で上に向かう。先ずは銃か。ハンドガンでもいいからとりあえず欲しいな。

 

 

『やっほ、アリサ』

 

「わ」

 

 

 すると、壁をすり抜けてエヴリンが現れびくっと体が跳ねる。普通にびっくりした。

 

 

「エヴリンがいるの?アリサ」

 

「うん……どこに行ってたの?リサは?」

 

『ニコライって名乗ったU.B.C.S.と合流したんだけど怪しすぎたからリサがぶん殴っちゃった』

 

「はあ?」

 

 

 なんて?英語でもう一回お願い。

 

 

『そういうわけだからこっちはニコライと一緒に行動するねー』

 

「そういうわけってどういうこと!?」

 

「どういうことなのはこっちの台詞なんだけど」

 

 

 言うだけ言ってふわふわ浮いて壁に入っていくエヴリンにツッコむしかなかった。怪しい奴と行動するってどういうことだ。……なんかエヴリン、違和感あるなあ。無理矢理明るくしてるみたいな……気のせいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『伝えてきたよー』

 

「お疲れ。いい感じにごまかした?」

 

『無理矢理誤魔化したよー』

 

 

 アリサに伝えて戻ってくると、奪われたハンドガンを背中に突きつけられたニコライを先導にしたリサが街中を歩いていた。目指すは、気絶したニコライから拝借した手帳に書かれていたグレイブディガーなるB.O.W.がいるという公園だ。

 

 

「独り言か?いい気なものだな」

 

「貴方がいるから独り言じゃないわ。ニコライ・ジノビエフ。ほら、さっさと歩く。アリサたちは絶対、生存者を救うために行動する。その邪魔になる奴は全部駆逐する。そうすれば……エヴリン。貴女の目指す、よりよい未来につながるはず。そうよね?」

 

『うん……ありがとう』

 

 

 融合した影響で私の記憶を知ったリサは、どうやら彼女なりにRTA(リアルタイムアタック)を目指してくれるようだ。洋館の時から本当に頼れるなあ。

 

 

「エヴリンってどこにいるんだ……わかった、わかったから銃口を押し付けるのはやめてくれ!」

 

「もっと早く進みなさい。死にたくなければね」

 

 

 あの手帳でニコライがアンブレラの手先なのは確定したからなあ。道すがら、聞ける情報は全部引き出したいところだ。今の私はあの未来に行かないためならなんでもするぞ。リサも同じだ。優しくなんてしてやらないから覚悟しろ、ニコライ・ジノビエフ軍曹さん。




ミハイルの過去は原作3の裏設定から。RE3でもこうなのかどうかはわかりませんが、今作では適用してます。ダリオはさすがに保護です。活躍はもう少し後で。

マップはRE3をメインにしながら原作版も入り混じったごっちゃになってます。地下鉄の移動とかも加味するとわけわからんことになる。

ニコライ、リサの傀儡となる。融合は記憶を共有するから説明しなくていいのが便利。

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file3:9【大地の支配者】

どうも、放仮ごです。バイオハザードなんだからホラーを書きたい。けどそもそもこの小説のコンセプトがホラーブレイカーだからその機会も少ないのが残念なところ。

感想でも怖いと言わしめた公園の怪異グレイブディガー、参戦。楽しんでいただけたら幸いです。


 モリグナ。アリゲーター・ステュクス。洋館事件が起きてからサミュエル・アイザックスがNESTに缶詰めになっていたこの二ヶ月の間、RT-ウイルスの新たな可能性を求めて片っ端から試した結果生まれた数少ない成功作。しかし、アイザックスも予見してない成功作が存在していた。

 

 それは度重なる実験の影響でT-ウイルスとRT-ウイルスで汚染された地中に生息していたミミズが突然変異し巨大化・異形と化した存在。生みの親であるアイザックスにも知覚されず、人知れずラクーンシティに巣食っていた怪異。のちにNESTの職員を襲撃したことで存在が確認され、その地中潜航能力から墓堀人(グレイブディガー)と名付けられた。アイザックスは今までにない変異に興奮を禁じえなかったという、其の厄介さは。

 

 

 

 

――――――すべてのB.O.W.の中でも群を抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここだ」

 

 

 ニコライに銃を突きつけながら案内させ、ゾンビを文字通り長い腕で薙ぎ払いながらリサがやってきたのは、ラクーン市立公園。セントミカエル時計塔の裏手に位置する市営公園で、墓地も併設した緑豊かな園内は豊富な水に溢れて整備が行き届いている。しかし妙だ。あまりにも、人間やゾンビどころか生物の気配がまるでしない。

 

 

「どういうこと?なにもいないじゃない」

 

『いや、リサ。おかしいよ。ゾンビも一切姿を見せない。異常だよ』

 

「悪いことは言わない。逃げた方が賢明だ。あんたがどんなに強くても、奴には敵わない」

 

「私、これでも洋館で一番強かったんだけど」

 

『そうだぞ、普通に生態系的に上位のヨナが縮こまってたぐらいなんだから!』

 

「強さは関係ないさ。奴には勝てない。それは絶対だぐはあああっ!?」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるニコライを、銃を握ってない方の手でぶん殴って昏倒させたリサに呆れる。まだ情報引き出してないのに。

 

 

『あーあ、またやった』

 

「ふんす。むかつく言い方をするニコライが悪いわ」

 

「けらけらけら」

 

「『っ!』」

 

 

 瞬間、この場に似つかわしくない邪気たっぷりな子供の笑い声が聞こえて、振り返る。そこにはなにもいない。ただちょこんと盛り上がった土がそこにあった。やばいやばいやばいやばいやばい。G6と化したアネットと対峙した時にも感じた、警鐘が頭の中に鳴り響く。こんなところにいる子供は絶対ろくでもないんだ!私がそうだったから確信できる!そして、私もそうだったけどに洒落ならないぐらいやばいんだ!

 

 

『リサ、警戒!』

 

「……なにか、いるわね」

 

 

 触手の髪の毛を広げて展開し、長い両腕を構えるリサ。シーンと静まり変える公園を、警戒しながら歩く。入口で気絶しているニコライはこの際無視だ。逃げられても、私ならすぐ見つけられる。

 

 

「けらけらけら」

 

「そこ!」

 

 

 また笑い声が聞こえ、振り返ることなく右斜め後方に向けて髪の毛を纏めた鋭い触手を地面に突き刺すリサ。しかし空振り。ただ盛り上がった土を貫いただけだった。速い、リサが反応速度で負けた!?

 

 

 「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

「はあああああああっ!」

 

 

 声が聞こえるたびに、その方向に髪の毛触手を伸ばして突き刺していくリサだがしかし、まるでもぐら叩きの様に、すぐ引っ込んで消えていく。……間違いなく、地下にいる。こうなったら私が……!

 

 

『ちょっと見てくる!とお!』

 

 

 あんまり意味ないけど息を大きく吸い込んで、鼻をつまんで地面に飛び込む。すると地面の下は空洞のトンネルになっていて、高速でなにか巨大な物が蠢いていた。

 

 

『なに、あれ』

 

「キシャアアアアアッ!」

 

 

 すると、それ……恐らくニコライの言っていたグレイブディガーが私に気付いて地中を掘り進んで大口を開けながら突撃してきて、私に触れられるリサの前例や、ベビーという丸呑みにされた苦い記憶も合わさって全力で浮上して回避する。この見た目でこいつが喋ってたの!?

 

 

『来るよ、リサ!』

 

「餌役いいわよ感謝永遠に!」

 

『嫌な感謝だなあ!?』

 

 

 そんな会話のすぐ後に、地面が陥没。その陥没した竪穴の横穴から飛び出してきた、四つに分かれた顎に一つずつ牙を備えた大口しかない顔が特徴の巨大な芋虫のような姿をしているグレイブディガーが現れ、空中に私に噛みつかんとしてきたので高度を上げて回避。姿を現したその巨体のどてっぱらに、構えていたリサの振りかぶった右ストレートが突き刺さる。

 

 

「やっとでてきたわね、デカブツ!!」

 

「キシャアアアアッ!?」

 

 

 グレイブディガーは腹部に風穴を開けられて、体液をまき散らしながら吹き飛び三メートルほどの全長が跳ねてビタン!と地面に叩きつけられビクンビクンと痙攣する。明かに致命傷だった。ニコライがあんなに言ってた割にはあっけない……。

 

 

『うわあ、死に方ぐろい……』

 

「……人を散々嗤っといて、これで終わり?」

 

 

 違和感。決してぬぐえない違和感が、私達に言いようのない不快感を感じさせる。それは……。

 

 

『……こいつ、喋らなかったね』

 

「もしかして、他にいる……?」

 

 

 拳を握り、辺りを警戒するリサ。私も警戒しながら、ニコライの様子を見に行く。気絶したふりかはわからないがまだ横になってるな、よし!すると突如、地面が揺れ動いて足場を取られるリサ。ニコライも跳ねて転がっていく。あ、外灯に顔面からぶつかって顔を手で覆ってる。痛そう。

 

 

「地震…!?」

 

「けらけらけら」

 

「そこか!……!?」

 

『えっ……』

 

 

 地震が続く中で、声に反応して振り向くリサと私の視界に入ったのは、いつの間にかそこに現れていた少女だった。黄色いレインコートを着て顔の目元を隠している私の容姿よりさらに幼い印象の、恐らく少女が嘲笑を浮かべて立っていて。細い手足、裸足、120センチぐらいの小さな体躯。予想よりも全然恐ろしくないその姿に、思わず呆ける私達。

 

 

「あはぁ」

 

 

 しかし、涎を垂らして鋭い牙を剥いた姿に危機感を感じた直後、ひときわ大きい地震が起きてさっきの個体とは別のグレイブディガーが少女の足元から出現。鎌首をもたげているその上に少女を乗せて、咆哮を上げる。

 

 

「キシャアアアアアッ!」

 

「二体の怪物を率いる子供……それがグレイブディガーの正体!」

 

『でもさっきと同じならまた瞬殺して………して……?』

 

 

 一撃で決めるべくグググッと拳を構えていたリサが、背後から襲い掛かってきたグレイブディガーに丸呑みにされる。驚愕する間もなく、次から次へと地面からグレイブディガーが出現。私に噛みつかんとしてきたので、とにかく身をよじって避ける。その数、(ひー)(ふー)(みー)(よー)(いーつ)(むー)(なー)(やー)……とにかくいっぱい!数えられるかあ!?

 

 

『リサ!大丈夫!?』

 

「うがああああ!……大丈夫!」

 

「けらけらけら」

 

 

 リサに声をかけるが、丸呑みにしていたグレイブディガーの身体を突き破って現れ、近場のグレイブディガーの胴体に拳をぶちこんで風穴を開けるが、次の瞬間体当たりを受けて吹き飛ばされる。だめだ、数が多すぎる。そんな、グレイブディガーに翻弄される私達を見て嘲笑う子供。

 

 

 

 

 

 

―――――これまでの前提と異なり。グレイブディガーは一体だけではない。モリグナやワスプ・キャリアーという、群れで一体をなしていた個体こそいたが、グレイブディガーが100個単位で産卵した卵から孵化したスライディングワームという幼体が存在する。それが一週間足らずの異常な速さで成長し繁殖するという、これまでにない群れの強さ。その最古個体にして母たる個体の名はグレイブディガー・ハスタ。クトウルフ神話の黄衣の王に由来する、旧支配者の名を与えられてふさわしいラクーンシティの大地の支配者である。

 

 

「わたしぃ、ハスタ。あぁそびぃましょぉ?」

 




原作で一回目を倒すことなく進んだ場合の強さの奴が複数現れているとご想像ください。無理ゲーである(なお原作設定からこんな)

グレイブディガー・ハスタ。モチーフはホラーゲーム、リトルナイトメアのシックスです。2の無邪気に指を折ってた方をイメージしてます。レインコートは親子連れの子供から奪いました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:10【グレイブディガー・ハスタ】

どうも、放仮ごです。いつにもましてぎりぎりで申し訳ねえ。

今回はグレイブディガー・ハスタ戦。楽しんでいただけたら幸いです。


「わたしぃ、ハスタ。あぁそびぃましょぉ?」

 

 

 グレイブディガーの上でハスタと名乗った黄色いレインコートの少女が掌を上に向けて人差し指を向ける独特の構えをすると、彼女の乗るグレイブディガーを囲むように5体のグレイブディガーが大地を食い破って現れ、私とリサに襲い掛かる。

 

 

『わーわーわーわーわー!?』

 

「っ!こんの!」

 

 

 触れないとは思うが念のためにと全力で空中を逃げまどう私と、四肢と頭部に噛みつかれながらも振り回して吹き飛ばすリサ。しかし吹き飛ばす先から次から次へと現れ、リサに噛みついていくグレイブディガー。一体一体はリサが一撃で倒せるぐらいの脆さでタフとかではない。だけど、あまりにも数が多すぎる。地下に何体いるんだ!?

 

 

「けらけら。まだいきのこってる。おもしろいおもしろい。けらけらけら」

 

 

 鎌首をもたげたグレイブディガーの上で手を叩きながら笑い転げるハスタと名乗った、恐らくグレイブディガーのRT型の個体。レインコートで顔が隠れているが、嬉々として邪気たっぷりに喜んでいるのがわかる。相当性格悪いなこの野郎。

 

 

『でも自我があるなら飛び込めば………』

 

 

 そこまで考えて、思いとどまる。そうだった。ベルセポネ相手にもこの考えでやらかして逆に追い詰められたんだった。ベルセポネの時と同じ……いや、それ以上に厄介だ。イビーみたいな眷属じゃない、同一のB.O.W.の群れ。もし此奴ら一体一体に意識があった場合……完全に私は詰む。

 

 

「このおおお!」

 

「きゃっきゃっ。なんどかみついてもなおっちゃう?たのしいたのしい!」

 

 

 ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、真っ二つに引きちぎって投げ捨てていくリサ。その暴れ方は獣の様で、洋館の時に戻ってしまったかのようだ。どうしようどうしよう、アリサを連れてくるにしても遠すぎるし……。

 

 

「ふっ……とてつもない暴れっぷりだ。今なら……」

 

『あ』

 

 

 すると視界の端で顔を押さえながら逃げようとするニコライが見えた。……あ、そうだ!思い出すのはイーサンとあの村を冒険した珍道中。でっかい狼相手に囮を買って出たあの時だ。

 

 

『やーい!やーい!ここまで来れるもんなら来てみろー!』

 

「あっちだって。いってらっしゃぁい」

 

「なっ……なんでこっちに来るんだ!?」

 

『こっち!こっちだよ!鬼さんこちら!手の鳴る方へ!』

 

 

 狼狽えるニコライの方に移動して、パチパチと手を叩いてグレイブディガー達を誘導。ニコライは咄嗟に背中に背負っていたアサルトライフルを取り出し連射。的確にグレイブディガーを撃ち抜いて倒していく。おおー、腐ってもU.B.C.S.。さすがあ。

 

 

「冗談じゃない!こんなんじゃ割に合わないぞくそったれ!」

 

 

 近づいた奴にはナイフを引き抜いてCQCで引き裂いて。飛び掛かってきたグレイブディガーはアッパーカットで殴り飛ばし。口の中に銃口を突っ込んで弾丸をばら撒いて粉砕する。……あれ、ニコライ強くね?S.T.A.R.S.のみんなより強くない?

 

 

「ばぁ」

 

「うわっ!?」

 

 

 すると、地中からボコッと飛び出してきた手がニコライの足を掴んで動きを止めさせ、そこにグレイブディガーが殺到。アサルトライフルを単発モードに切り替え、一撃で撃ち殺していき対応するニコライ。しかし、足にしがみついたまま顔を出したグレイブディガー・ハスタに足を噛みつかれ、激痛のあまり怯んでしまう。

 

 

「がぁぶがぶぅー」

 

「ぐおおおおっ!?」

 

「させない!」

 

 

 そこに、跳躍したリサが上空から急降下してきて、急降下した勢いを乗せた拳を大地に叩き込んでクレーターを発生させ、地面を瓦解させる。無理矢理地面から追い出されて空中に投げ出されるグレイブディガー・ハスタに、リサはニコライに視線を向ける。

 

 

「ニコライ!死にたくなかったら手伝って!切り抜けるよ!」

 

「巻き込んどいてさらに脅すとか俺よりも外道だなお前!?」

 

「私はお前じゃない!リサ!リサ・トレヴァー!名前で呼んで!」

 

 

 そしてリサが手にしたハンドガンと、ニコライの手にしたアサルトライフルの弾丸がグレイブディガー・ハスタに襲い掛かる。

 

 

「あぶぅなぁい」

 

「なに!?」

 

 

 しかし真下からグレイブディガーを出現させたグレイブディガー・ハスタはその上に乗って宙返りして着地。ブンブンと振りまわした両手の指がぐにょぐにょとミミズみたいに伸びて、地面に突き刺さる。するとボコボコと地面が隆起して、渦巻きが発生。竜巻の様にリサとニコライを打ち上げる。

 

 

「たかーいたかぁーい!」

 

「なめるな!」

 

「エヴリン!合体!」

 

『了解!』

 

 

 空中でリサに重なって、モールデッド・エンプレスに変身。棘の刃を生やして、ナイフを手に急降下したニコライに続いて斬撃。グレイブディガー・ハスタを中心に生えてきたグレイブディガーの群れを引き裂きながら降りていく。

 

 

「あはぁ」

 

 

 すると自身の下から飛び出してきたグレイブディガーを指を伸ばした両手でむんずと掴むと、ぐるりと一回転。グレイブディガーの巨体を鈍器の様にして叩きつけてきて、私達とニコライは纏めて薙ぎ払われ、池の水面に落ちる。水……そうだ!

 

 

「ちいいっ!なんか策があるなら早くしろ!長くはもたないぞ!俺を生かすためならなんだってしてやる!金も命には代えられん!」

 

「『そういう現金なとこ好きだよニコライ!』」

 

 

 ナイフとアサルトライフルを手にグレイブディガーの群れに応戦するニコライを尻目に、池から水を吸収して菌の身体を膨れ上がらせていく私達。菌というものは水分で繁殖するんだ!

 

 

「きゃっきゃっ。たのしいねぇ」

 

 

 グレイブディガーを引っ込めさせて、触手と化した指を振り回してニコライのナイフを弾いていくグレイブディガー・ハスタ。ナイフを絡めとって放り投げると、レインコートの中に引っ込んだ右腕が巨大なグレイブディガーの形に変形、ニコライに噛みつかんと迫るのを、菌根の壁で受け止める。

 

 

「あれぇ?ほれないなぁ」

 

「『物量には物量よ!喰らええええええ!』」

 

 

 右腕に集束させた菌根を一気に開放し、津波と化してグレイブディガー・ハスタごと公園を飲み込んでいく。圧倒的な質量が、木々ごと地面を押しつぶしていく。

 

 

「『全員圧死させる!うおおおおおおおっ!』」

 

「あぁれぇえ」

 

 

 そのままニコライを長い左腕で一本釣りして、公園のすべてを押しつぶして、切り離す。さすがにやったでしょ……。ぽひゅん!と小気味いい音を立ててリサから排出され空中をくるくる回転する。疲れたぁあ。

 

 

『ぜぇ、ぜぇ……』

 

「お疲れ、エヴリン……」

 

「どこまで規格外なんだ、リサ・トレヴァー……」

 

 

 ニコライもさすがに疲れたのか投げ出された瞬間ぶっ倒れ、リサに担がれその場を後にする。私もふわふわとついていって、確認を怠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、みんなやられちゃったぁ」

 

 

 ボコッと切り離した菌根の大地を掘り進んで、顔を出したのは無傷のグレイブディガー・ハスタ。グレイブディガーのすべては圧死できたらしいが、グレイブディガーを球状にしてその空洞に入り込んでいたことで助かっていた怪物は、死に絶えた同族の死骸を裸足で踏みつけにしながら、縄張りであった公園から外に出る。

 

 

「つかれたなぁ。おなかすいたなぁ」

 

 

 その視線の先には、ゾンビがいて。グレイブディガー・ハスタは舌なめずりをして右腕をグレイブディガーに変えてゾンビの頭を食い千切るとそのまま丸呑みにしてしまう。

 

 

「あはぁ」

 

 

 邪神の名を持つ悪魔は嗤い、ラクーンシティに歩を進めたのだった。




菌根を応用した変形能力を持ち、大地を自在に操り、地中を高速で音もなく移動するグレイブディガー・ハスタ。実はこの子、共食いしていて異様に内包しているウイルスが濃厚になってるっていう。

ニコライは設定上結構強いらしいです。オリジナル版ではヘリに乗ってジルと直接対決してましたね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:11【今啼いた烏がもう嗤う】

どうも、放仮ごです。今回のタイトルはことわざのもじりです。こういう言葉遊びが大好きなのだ。

今回は時系列的にはこっちが初登場のアイツが登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 U.B.C.S.の資材から軍用ハンドガンを手に入れた私とジル。途中の道が燃えてたけどジルを抱えて飛び越えたり、鎖で錠されていた扉は無理矢理引きちぎって先に進んでいく。

 

 

「よっと。やったね、ショットガンだ!」

 

「……馬鹿正直にチェーンカッターとか探すのが馬鹿らしくなるわね」

 

 

 なんかジルがドン引きしていたけど気にしない、気にしない。っと、ガレージの扉を塞ぐ鎖を引きちぎって開けると、車に背を付けて座っているニット帽の武装した男がいた。足はゾンビに噛みつかれたのか怪我している。重症だ。

 

 

「大丈夫!?」

 

「あなた、U.B.C.S.?」

 

「ああ、ああ……もしかして味方か?ゾンビの大群と戦って、生きのこったのは俺一人で……ゆっくり頼む……そんな目で見ないでくれ、感染はしていない、してないはずなんだ……」

 

 

 泣きそうな顔で説明する男に、思わず沈んだ気持ちになる。私はエヴリンとクイーンに出会った時から自分を怪物だと思ってたからそんなにダメージはなかったけど、普通自分が怪物になるかもしれないって人間はこう反応するんだよね……。そこらへん、やっぱり私は狂ってるなあ。

 

 

「自意識過剰だよ。大丈夫、必ず助けるから」

 

「安心して、ミハイルとカルロスに頼まれてU.B.C.S.に協力しているの。私はジル・バレンタイン」

 

「アリサ・オータムスだよ。あなたは?」

 

「マーフィー……マーフィー・シーカーだ。カルロスは親友だ」

 

「マーフィー・シーカー?もしかして、ギャングをライフルの狙撃だけで計20人を殺害した殺人犯として逮捕された元アメリカ海兵の?」

 

 

 私はピンとこなかったが、元軍属のジルは知ってた様で、マーフィーは目に見えて狼狽える。ライフル狙撃だけで20人はすごいな。と、そんな感心の視線をマーフィーは悪く捉えたのか慌てて言い訳する。

 

 

「あ、あれは俺の兄弟を殺したギャングに復讐しただけだ!そんな危険人物みたいに言わないでくれ!今はU.B.C.S.に雇われて、また人々のために戦ってるんだ!」

 

「いや、私ライフル銃は全然だから単純に感心しただけだよ?落ち着いて」

 

「カルロスからU.B.C.S.が訳あり揃いなのは聞いているから今更問い質したりしないわ。とりあえず応急処置は済んだ。カルロス、聞こえる?U.B.C.S.のマーフィーを保護したわ。怪我している」

 

《「なんだって?マーフィーは大丈夫か!感染の兆候は?」》

 

 

 カルロスに無線で連絡すると、焦った声が聞こえてきた。やはり親友だけあって心配らしい。私は「ちょっと失礼するね」と断りを入れてから目をじっと見つめる。感染者特有のビキビキとした模様は眼球には見られない。あとは、例のメモで見た「かゆい」か。

 

 

「かゆみは感じる?」

 

「かゆみはない…本当だ」

 

「うーん、なら大丈夫かな?」

 

「自他ともに判断した限り問題ないわ。どうする?」

 

《「たしか、アリサは怪力だったな?いや、女性に失礼だったか」》

 

「気にしなくていいよ。私がマーフィーを連れて戻ればいいんだね」

 

《「頼む。ジルには一人で変電所を目指してもらいたいが……無理そうなら二人でマーフィーを連れて戻ってくれ」》

 

「了解。アリサ、任せたわ」

 

「任されたよ」

 

《「気を付けてくれ。変電所付近は特に被害が多い。ゾンビの他に、得体のしれないなにかがいる」》

 

「わかった、気を付ける」

 

 

 ネメシスじゃなければなんとかなると思うな。とか油断もあったのだと思う。ジルとその場で別れて、来た道を引き返した私は、死神に遭遇することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

カア! カア! カア! カア!

 

 

 

 

 

 

 

 遠くからカラスの鳴き声が聞こえる。餌がいっぱいで飛び回っているんだろうな。と、目の前に出てきた女ゾンビに、目にとどまらぬ速度で放った上段蹴りを叩き込んで頭部を粉砕する。

 

 

「邪魔!」

 

「あんた……本当に強いんだな」

 

 

 今私はマーフィーを背負っていて両手が使えない状態で、立ちはだかるゾンビを蹴り飛ばしながらカルロス達のいるRedstone Street駅に向かっていた。ゾンビ程度なら前蹴りで一撃で壁に叩きつけて即死させられる。普通じゃないけど、今はこの普通じゃない身体に感謝だ。

 

 

「リサみたいに触手を自由に出し入れ出来たらな…」

 

 

 私は背中から触手を出せるのだが、制御が効かないのが難点だ。感情的になった時に出しちゃうけど。それがあればもっと楽に戦えたかもしれない。

 

 

「触手って……アリサは人間じゃないのか?だとしたらなんで人間の味方を?」

 

「失礼な。私は人間……だと思ってたよ。実際は姉のクローンだったけど。でも人間として、人を助けるのは当たり前。違う?」

 

「いや……違わない。安心した、ちゃんと人間なんだな」

 

 

 その言葉に嬉しくなる。我ながら単純だなあ、と苦笑いしている時だった。

 

 

「え……?」

 

 

 Redstone Street駅までもう少し、というところの大通り。そこには異様な光景が広がっていた。血だまりが辺りかしこに散らばっている。その光景はあまりに凄惨で、惨劇が起きた後だと示していた。確かに私とジルは、ここを通るときに邪魔になるゾンビを数体撃破したが、こんな大量じゃない。なにかが、ゾンビを食い荒らしたんだ。

 

 

「……マーフィー。警戒して」

 

「あ、ああ……」

 

 

 辺りを見渡す。ゾンビだったと思われる血だまり、おもちゃ屋、薬局、以前シェリーと来たドーナツショップ……何も変なところはない。すると、殺気を感じてその方向を見上げる。空を飛び回る、カラスの群れが見えた。あまりに多すぎて空の一部を黒く覆い尽くしている。………まさか。

 

 

 

 

カア!

    カア!

       カァー!

   ガァー!

ギァー!

  グエーッ!

 

 

「マーフィー、走るよ!しっかり掴まって!」

 

「お、おう!?」

 

 

 返事を待たずに走り出す。そんな私を追い立てるようにけたたましく鳴り響く鳴き声。地上の街並みの光を受けて夜空を飛んでいる、空を埋め尽くすほどのとんでもない数のカラスの群れは、空中で渦を巻いて吸い込まれるように集束していく。

 

 

「アリサ、だと!?」

 

「ああ、またこのタイプか!アイザックスめ!肖像権で訴えてやるんだからあ!」

 

 

 渦を巻いたカラスが人型を形作りバサアッ!と黒衣を翻して滑空し追いかけてくる。それは三メートル以上の巨体で、黒い羽毛のローブを身に着けているような死神を彷彿させる黒づくめの女の姿をした怪物。その悪辣に歪む顔は私の顔にそっくりだった。アイザックスを殴る理由が一つ増えた。

 

 

我が名はモリグナ!活きのいい餌だなア!喰ってやる!

 

「マーフィー、撃って、撃って!」

 

「俺は生き延びたんだ!こんなところで死んでたまるかぁあああ!」

 

 

 モリグナと名乗ったカラスの怪物から全速力で逃げる私はマーフィーの下半身をしっかりと抱えながら叫ぶと、私の肩から手を離してベルトで上半身にかけていたアサルトライフルを構えたマーフィーが乱射。しかし弾丸はモリグナを構成しているカラスを一匹一匹撃ち落としているが、全然応えてない。クイーンみたいなタイプだ、たくさんのB.O.W.化した群体で肉体を構成している!ああいうのは本体が生きている限り不滅だってクイーンから聞いた気がする!(マスターリーチ)

 

 

「マーフィー、掴まって!振り落とされないでよ!こんのお!」

 

「おわああああっ!?」

 

 

 アサルトライフルから手を離したマーフィーが私の肩にしがみついたのを確認、私は壁を蹴って宙返り、モリグナの頭部に飛び回し蹴りを叩きこむがモリグナは済んでのところでカラスの群れに分裂して回避、空振りに終わった私は着地して再び走り出すと、おもちゃ屋の錠を蹴飛ばして破壊し、中に入り込むとマーフィーをおもちゃの箱の山の陰に降ろした。

 

 

「マーフィーはここで隠れてて!この無線を預かってて。ここは駅に近い、あいつさえ近くにいなければカルロスに連絡すれば助けてもらえるはず!」

 

「待て!まさか、一人で戦う気か!?」

 

「負けるつもりはないよ。私は警察官だから、戦う!」

 

 

 軍用ハンドガンを片手に飛び出す。そこにはまるで死神みたいな風貌のモリグナが、空中に漂って待っていて。

 

 

同じ顔だな。お前もあの男の作品か?

 

「こっちの台詞だよ。同族嫌悪って知ってる?ぶっ潰す!」

 

 

 私は怒りのままに触手を背中から伸ばしながら突撃し、モリグナは距離を取りカラスを飛ばしながら嗤う。




時系列的にはこっちが先、モリグナ登場。アイザックスの作品だという自負があるらしいけどこいつ烏なので、餌を効率的に得る手段にさえなればどうでもいいって感じ。

マーフィー・シーカー。実はオリジナルではカルロスの親友だったけどREではタイレルにその座を取られた男。この男もバックストーリーがえぐいです。少なくともニコライが「弱い」と断じる実力じゃないはずの男。

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file3:12【烏も啼かずば打たれまい】

どうも、放仮ごです。何事なのか日刊ランキング28位に浮上してました。ありがとうございます!

今回はアリサVSモリグナ。クイーンもマスターリーチもハスタもそうだけど、群体系は異常に強くなってる気がするけど多分小学生の頃に読んだ鉄腕アトムのせいです。楽しんでいただけたら幸いです。


――――――カラスは「羽の生えた類人猿」と呼ばれるほど極めて知能が高く、インコみたいに喋ることも可能という、学習能力や記憶力にも秀でている。とくに都市部のカラスで顕著であり、非常に狡猾な害鳥として知られている。そんなマイナスイメージが非常に強い鳥だが、その知性から神聖視される例も少なからず存在する。

 

 ハシブトガラスの様に死肉をあさる姿などから、とりわけ生と死に関するシンボルとされる場合が多く、太陽の黒点にそっくりな色をしているから、太陽や太陽の使い、太陽の化身ともされた。有名なのは北欧神話の主神オーディンの遣いとしてだろうか。

 

 そのカラスがB.O.W.化したモリグナが、非常に強力な部類なのは自明の理である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンパンパンパン!連射の効く軍用ピストルが火を噴いて、モリグナを構成しているカラスを撃ち抜いていくが、ラクーンシティ中のカラスがモリグナと化しているのか、倒すたびに補充されてしまいきりがない。本体を狙うしかない、けど判別が不可能だ。先ずどんな姿をしているのか、そもそも他の個体とは別の姿をしているのかすべてが不明だ。見極めないといけない、この猛攻を耐えながら。

 

 

いくら啄ばんでも再生する。貪り甲斐がありそうだ

 

 

 体当たりで全身のカラスで私の身体を啄ばみ、まるで複数がエコーし合っているみたいな不思議な声でモリグナは嗤う。そして次々と分離させたカラスを誘導ミサイルの如く飛ばしてきて、なんとか身を捩って避けるとカラスの肉体は爆発四散。その骨が手榴弾の様な礫となって私の全身を貫いていく。

 

 

私はいくらでもいるぞ。いくらでもだ!

 

「ぐううっ!?まだまだあ!」

 

 

 全身撃ち抜かれた傷を即再生させた私は背中から触手をいくつも出して、着弾前に貫くことで迎撃。しかし掻い潜って私の胴体を抉りながら爆裂していくカラスはあまりに厄介だ。それに、モリグナ自体は空中にずっと滞空することでこちらの攻撃は軍用ハンドガンしか届かないし、肉体を分散させて避けられる。クイーンと違って空も飛べるし強すぎないかな?さすがにヒルたちみたいな防御力がないのが救いだけど。

 

 

「お前、仲間を自爆させて心が痛まないの!?」

 

仲間?何の話だ。モリグナはモリグナだ。私が私の肉体を消費して何が悪い?ああそうか、本体ではないから気にしているのか。人間の感性はわからんな……私は個にして群れ。群れにして個だ。納得できないというのならこう言おう。モリグナのために死んでくれ

 

 

カア!

    カア!

       カァー!

   ガァー!

ギァー!

  グエーッ!

 

 

 心があるなら訴えかけようと呼びかけてみるも、モリグナの身体から飛び出してくるカラスミサイルの勢いが増していく。だめだ、こいつ……クイーンとエヴリンから話に聞いたマスターリーチと同じ、いやそれ以上にたちが悪い。仲間を仲間と思ってない、まるで手足か道具の様に……!

 

 

「怒ったぞ!」

 

 

 軍用ハンドガンを腰に戻して怒りを力に変えて、菌根で四肢を覆ってカラスミサイルを直接ぶん殴り、蹴りつけて撃墜する。爆裂した礫も硬化した腕で防ぎ、そのまま跳躍。空中のモリグナに突貫する。

 

 

 

いいぞ!私もモリグナの力を試したい。例えばこんなのはどうだ?

 

「なっ…!?」

 

 

 するとモリグナはバサッと黒衣を広げてカラスで形作った首から下を始めて見せると、バキボキバキッ!と嫌な音を立てて右足を形成しているカラスたちを結合させて変形させ、茶色い猛禽類の足を形作ると、跳躍した私の左肩を鷲掴みにするとそのまま両腕を結合し変形させた巨大な両翼を羽ばたかせて急降下。飛び蹴りの様に私は背中からアスファルトの地面に叩きつけられ、ひびが入る。やばい、背骨が逝った。再生……!?

 

 

クケケッ!ケヒッ!ギャハハハハハハハハッ!

 

「ぐうっ、ああっ!?」

 

 

 そのまま嘲笑を浮かべながら羽ばたいて何度も空中に移動しては急降下し、何度も何度も私を地面に叩きつけてくるモリグナ。再生が追い付かない、再生しようとするタイミングで叩きつけてくるから体内がめちゃくちゃだ。骨がめちゃくちゃに全身に突き刺さって痛い、肺に血が満ちて苦しい。

 

 

「うおおおおっ!」

 

ケヒッ?

 

 

 根性で適応。背中から触手を出して、叩きつけられる地面に伸ばして支えることでモリグナの攻撃を受け止め、そのまま右足を振り上げてつま先を後頭部に叩き込んで解放させる。攻撃を受けたモリグナは過剰なまでにばらけて、空中で再び集束して猛禽類の足を持つ人型を形作り滞空する。攻撃を受けるのは嫌らしい。自分の仲間の犠牲はいとわないくせに変なの。……いや、逆に考えるんだ。あそこまで距離を開けるってことは、今攻撃した後頭部に本体が…?

 

 

死にぞこないの死肉風情が生意気な…!

 

「はあ、はあ……」

 

 

 距離が離れた今しかない。深呼吸して、肉体のきちんとした再生に集中する。大丈夫だ、スティンガーに腕を切断された時だって生やして再生できたんだ。この程度……………あっ。

 

 

「ふっ、ぐぐぐぐっ!」

 

なんのつもりだ、血迷ったか?

 

 

 突然、左手で右手首を掴んで握りしめ、ブチブチと音を立てて肉を抉り始めた私に空中で滞空しながら困惑するモリグナ。カラスなんだから頭はいいんだろうけど、人間を舐めるなよ。私はちぎれかけの右拳を振りかぶる。

 

 

「喰らえ!必殺……!」

 

ケヒッ!(大丈夫だ、奴の拳は届かん…!)

 

 

 とか考えているのは目に見える。銃弾の面積じゃ避けられる、ならそれよりも面積がある拳で。でも拳は届かない、届かないなら届かせればいい!私は馬鹿だ。クイーンやエヴリンなら他の方法を思いついたんだろうけど、痛い方法しか思いつかなかった!

 

 

爆血(ばっけつ)ロケットパンチ!」

 

グゲエ!?

 

 

 瞬間、ちぎれかけの拳が完全にちぎれて宙を飛び、拳の切り離した手首の部位からあらかじめ圧縮した血が破裂して、加速。空中をかっとび、完全に油断していたモリグナの顔面を捉える。

 

 

ぐあはっ!?

 

 

 するとモリグナの頭部を貫いた拳が、なにかを殴りつけて分散した身体から排出させていた。それはカラスのサイズの、全身が青みを帯びた黒い羽毛に包まれたハーピーみたいに両手が翼で足が猛禽類の物になっている、黒目に紅い眼光を持つ小さな私と同じ顔を持つ何か。あれが、モリグナの本体!?仲間を集めて、自分を大きく見せていたのか。

 

 

「見つけたぞ!」

 

こんな、馬鹿げたことが……!?

 

 

拳に殴りつけられたまま吹っ飛ぶモリグナの本体は小さな翼を懸命に羽ばたかせるも飛べていない。今だ!すぐさま再生させて生やした右手で握った軍用ハンドガンに左手を添えて、照準を合わせる。

 

 

「狙い撃つ!」

 

ま、まだだあ!ガァー!

 

 

 しかしモリグナは仲間を呼び寄せて私の拳を弾き飛ばすと集束させて元の姿に戻ると弾丸を別のカラスを盾にして防ぎ、そのまま両腕を巨大な翼に変えて羽ばたいて闇夜に消えていく。

 

 

「っ、待て!」

 

付き合っていられるか!お前以外にも餌はいくらでもいるんだ!

 

 

ピピピピピピピピッ

 

 

 すると電子音と共に、逃げていくモリグナに赤いレーザーサイトが当てられる。そのレーザーサイトの出どころに視線を向けて、絶句する。ロケットランチャーを構えた追跡者……ネメシスがそこにいた。バシュン!という音と共に発射されるロケット弾頭がモリグナに迫る。

 

 

ケヒッ!?

 

 

 そんな困惑の声と共に爆発。夜空を赤が染め上げ、その光に当てられてカラスの群れが我先にと死に物狂いで逃げていく光景が見えた。

 

 

「スタァアズ」

 

「……勘弁してほしいんだけどなあ」

 

 

 私に視線を向け、弾切れなのかロケットランチャーを投げ捨ててサブマシンガンを取り出し、乱射してくるネメシスに、私は咄嗟に車の陰に隠れてやり過ごす。今のうちにジルは変電所で電気を復旧させてるといいけど。

 

 

 

 その頃ジルが蟲の群れに襲われているのもつゆ知らず、私は車を持ち上げてぶん投げることで反撃。ネメシス相手に挑みかかった。




実は本体がいたモリグナ。カラスサイズの超小型B.O.W.でした。自分が矮小だから自分が上だと判断すると執拗に襲うわけですね。猛禽類の足に変形させたりの芸当も披露。エヴリンのコンティニューのせいで地味に強くなってます。

アリサ必殺、爆血ロケットパンチ。ぐろいロケットパンチです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:13【ハンター・アーマード】

どうも、放仮ごです。pixivで エレメンタル㏇ さんが2編のオリジナルクリーチャーたちほとんどのイラストを描いてくださいました。本当にありがとうございます!「特異菌感染者の聖地」タグから見れるので是非ともご覧あれ。

今回はまた新たな刺客。エヴリンのコンティニューのからくりも判明です。楽しんでいただけたら幸いです。


 アークレイ山地、スペンサー卿の有する洋館の地下にある研究所での研究。RT-ウイルスばかり注目されているが、成果を上げているのはRT-ウイルスだけではない。アイザックスとかいう主任こそ役に立たなかったが、ハンターを始めとしてT-ウイルスの研究はちゃんと進められていた。そのノウハウはヨーロッパにあるアンブレラ支部や、洋館近辺の研究所であるラクーンシティ地下の巨大研究施設NESTや、スペンサー記念病院の地下施設に併設してあるNEST2でも引き継がれ、10年近くしっかりと研究されていた。

 

 特に有用とされているのがアイザックスが得意とするクローン作製技術である。特にタイラント型とハンター型はこの恩恵を強く受けており、安定した量産がなされている。特に成功作と言えるのはハンターΩとハンターΨを始めとしたリサ・シリーズに該当する姉妹だろう。

 

 ところでセルゲイ・ウラジミールが現在ネメシスを参考にして開発しているTyrant-Armored(タイラント装甲化) Lethal Organic System(致死的制圧、生体システム)……通称「T-ALOS(テイロス)」が存在する。簡単に言えば機械の装甲で武装されたタイラントの発展型である。イブリース、タイラント・ハーキュリーとはまた異なる究極系と言えよう。

 

 生物の極致である生物兵器B.O.W.を、科学の極致である機械化させる。これぞ兵器の究極系と言えよう。

 

 ここでエヴリンのコンティニューの話をするとしよう。エヴリンのコンティニューは、正確にはやり直しではなく新たな平行世界線の構築である。しかし当たり前の話だが、平行世界とは決して交わらない世界のことを指し、完全に同一の平行世界など存在しない。故に何かがずれてしまい、新たな可能性を生み出して結果どんどん敵が強力になっていく。しかしそれはゼロから生まれるものではなく、本来存在しているものが何かしら歪んだものだ。

 

 改めて言うが生物兵器の機械化という発想自体はエヴリン関係なく、もともと存在している。そして優秀なハンターという生物兵器は、エヴリンが関わったことで有用性がさらに証明されている。すなわち……ハンターに機械装甲を取り付けるという発想は、特になんもおかしくないのである。

 

 そして、リサの存在を知っていて、なおかつハンターに命令できる人物がまだラクーンシティに残っていた。本来はマーフィーと同じでニコライに殺されてしまう運命にある男。怯えてスペンサー記念病院の研究室に閉じこもっている男。その名を……ナサニエル・バード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレイブディガーを退けた私とリサ、そしてニコライは、引き続き街に出没するB.O.W.の排除をしていた。ゾンビ、リッカー、犬、カラス、蜂、蜘蛛、ムカデ、蛭、蛇、鮫となんか覚えのある怪物たちが襲い掛かってくるのを返り討ちにしていく。人型じゃないからいいけど。いやアリサの顔をしてない普通の動物の姿をしているだけで新鮮だな。

 

 

「……なんで市街地に鮫がいるのよ」

 

『グラの仲間が野生化したやつかな……?』

 

「成功したB.O.W.は病院地下のT-ウイルス応用研究棟……通称NEST2で量産実験されているんだ。知らないのkぶべっ!?」

 

「アンブレラ本当にろくでもないわね」

 

 

 担がれながらも懲りないのか煽ってくるニコライを殴って黙らせながら、長い腕を使って建物の外壁を駆け上るリサ。

 

 

「自然発生じゃないってことはNEST2ってところを潰さないときりがないって事かしら」

 

『さすがにもう作られてないと思うけど……ミハイル達を無事脱出させないとアリサとジルを連れて行くのは無理だもんねえ』

 

「それなんだけど、ジルとアリサ、私を連れて行ったところでG6に勝算はあるの?」

 

『………ない、んだよね』

 

 

 痛いところ突いてくるなあ。やり直しの過程でジルとアリサ、リサに頼らなかったから、参戦したら何かが変わるかもしれないという希望的観測でしかない。なんなら当初考えていたブラッド脱落しちゃったし。

 

 

『U.B.C.S.の協力を取り付けられればまだ、って感じかなあ。多分だけどアネットの胎の植え付け、男には通用しないんじゃないかな。どのやり直しでも、必ず最初に一人だけ男だったレオンが殺されていた。ウィリアムも、血を流し込まれてG生物化されてたし』

 

「そもそも女性だらけのパーティーで、胎を植え付けてくる奴に挑むのが無謀じゃない…?」

 

『ごもっともだけどそれ以外に方法なかったんだよ……』

 

 

 逃げ道があの車両しかないのに、それがエレベーターで移動している時に絶対Gアネット出てくるんだもん。それこそ絶対出てくるラスボスみたいな感じで。女性の場合、触手を受けると胎を植え込まれて、新たなGが誕生して腹を食い破れて即死のゲームオーバー。リサの言う通り無理ゲーだ。でもプサイちゃんに約束したんだ、諦めないって。

 

 

『正直、時間がどれだけ残ってるかもわからないんだ。クイーンたちに私が合流しないと、詰む場面がいくつかある。それまでに、ミハイル達を送り届けるのを終わらせないといけない』

 

「やっぱり、邪魔するやつを片っ端から潰すのが近道って事ね」

 

 

 まあそうなるね。ジルとアリサが少しでも早く目的を終わらせられるようにしないといけない。そのためにはニコライも使いつぶさないと。アンブレラの手先だから全然罪悪感感じないのいいね。

 

 

「こら、起きなさい。ニコライ・ジノビエフ。こら」

 

「……こちとら怪我人だぞ。もう少し労われ」

 

「感染してなかったからいいでしょ。それより、他のB.O.W.の情報を教えなさい」

 

 

 ぺちぺちと頬を叩いてニコライを覚醒させると憎まれ口を叩いてきたがリサは一蹴する。グレイブディガーにガブガブ噛まれてたけど感染の傾向はなくてよかったね。

 

 

「あらかた潰したと思うぞ。後は変電所を縄張りにしていて動かない虫……ドレインディモスの群れと、ゾンビ。そしてネメシスだけだろう」

 

「…ドレインディモスとかいうのは動かないならいいけど、ネメシスが一番の問題よね」

 

「悪いことは言わない。勝てないから戦うな」

 

『さっきも同じこと言ってたグレイブディガー倒したんだけどそれは、って茶々を入れたいけどまあ文句なし』

 

「ネメシスの弱点は?」

 

「知るはずがない!だが奴の狙いはS.T.A.R.S.だ。ジル・バレンタインとアリサ・オータムスは優先的に狙われるぞ。同じ顔のお前もだ」

 

「なら派手に暴れて、おびき寄せるしかないわね」

 

「いや待て、なんでそうなる!せめて俺を置いていけ!まだ俺には仕事があるんだ…!」

 

「させるわけないでしょ、アンブレラの手先の仕事なんて。ゾンビの餌になりたくなければ私に使われてもらうわよ」

 

「ぐぬ……」

 

 

 その気になれば髪の毛で縛ってゾンビの群れに放り込むぞと暗に脅すアリサにぐうの音も出ないニコライ。諦めて視線を後ろに向けて、絶句した。私は何事かと振り返ると、予想外のものがいた。

 

 

「っ、避けろリサ・トレヴァー!」

 

「え?」

 

 

 リサ目掛けて背後から飛んできたのは、小型ミサイル。咄嗟にニコライを庇って受けとめたリサの右腕を吹き飛ばし、その勢いに合わせて後ろに跳躍することで爆発から逃れるリサ。

 

 

『リサ、大丈夫!?』

 

「このぐらい……ニコライ、今のは!?ネメシス!?」

 

「いや、あれは……」

 

 

 ニコライの視線の先、ビルの屋上にそれはいた。赤い眼光を輝かせる全身(くろがね)の鋼鉄に包まれた、頭と首の境目が分からないフォルムはハンターを思わせて。片部分の開いたパーツからはミサイルを発射したと思われる機構がついており、両腕には鋼鉄の三本のクローが取り付けられている。機械化したハンター、としか言いようがなかった。

 

 

「ハンター・アーマード……ナサニエル・バードの刺客だ!」

 

「ナサニエル……誰?」

 

『来るよ!』

 

 

 左腕を突き出し、ワイヤーに繋がれたクローが射出されてビルの壁に突き刺さり、飛び降りてスイング、一気に距離を詰めてくるハンター・アーマード。リサは手ごろな瓦礫を手に取ってぶん投げるも、鋼鉄の装甲に当たって砕けるだけでまるで意にも介さず、リサの目前に接近すると右手のクローを突き出してきて、リサはそれを握って受け止める。次から次へと本当に魔窟だなラクーンシティ!私のせいか!?考えないようにしようそうしよう!




ベルセポネに引き続きエレメンタル社-覇亜愛瑠さんからいただいたアイデアを基に改良してみたハンター・アーマード。もう完全にターミネーターである。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:14【ラクーンシティ・プルガトリオ】

どうも、放仮ごです。以前に使ったものをもじって使う題名シリーズそのニ。第五話‐Purgatory【煉獄】‐って2021/05/17なんですね。三年かあ。長いこと書いてるなあ。

今回はアリサVSネメシス再び。楽しんでいただけたら幸いです。



 モリグナを何とか撃退した私の前に、逃走したモリグナにロケット弾頭を叩き込みながら現れたネメシス。正直モリグナとの戦いで疲弊しているが、タフなことが私の強みだ。やってやる!

 

 

「でりゃああああああ!」

 

 

 ネメシスのマシンガンの掃射を自動車を盾にして回避した私が両手で掴んでグルングルンと振りまわしてぶん投げた自動車を、右腕から触手を伸ばして横に飛び出すことで回避するネメシス。

 

 

「スタァアアアズ!!」

 

 

そのまま右手に握ったサブマシンガンを乱射し、私はぶん投げるときに引きちぎった自動車のドアを盾にして防御。そのまま弾切れまで耐えきると放り投げたドアを蹴り飛ばし、クルクルクル!と横回転したドアがネメシスの顔面に炸裂して怯ませる。

 

 

「今!」

 

 

 私は両腕を菌根で武装して突撃。ダウンして片膝をついているネメシスの顔面に連続パンチを叩き込んでいく。パンチの瞬間に菌根を波立たせて途轍もない衝撃を叩き込み、見た目以上の大ダメージを与える。顔面が抉れ、血反吐を吐き、しかし攻撃を受けながらも一切ぶれることなく立ち上がるネメシス。

 

 

「うおおおっ!」

 

「スタァズ!」

 

 

 そして。私の渾身の右の拳を受けながらネメシスの放った右腕のラリアットが私の首に叩き込まれ、窒息して意識が飛んだ瞬間、私は高速で宙を吹っ飛んでビルの外壁に背中から叩きつけられ埋もれてしまいめり込んで拘束される。

 

 

「しまっ……ぐう!」

 

「グオオオオアアアアッ!」

 

 

 咆哮し、サブマシンガンを連射しながら突進するネメシス。弾丸の掃射をまともに受け再生しながら私は脱出を諦めて右腕に菌根を集中、菌根を体外に張り巡らせてビルの外壁に根付かせると無理矢理引っこ抜いた巨大な瓦礫を右腕にくっつけた状態で振りまわし、ネメシスの顔面に叩き込んで瓦礫が粉砕する勢いで殴り飛ばす。

 

 

「よし!」

 

 

 その衝撃で左腕と両足を拘束していた外壁が崩れ、私は着地。背中を地面に打ち付けて水切りの石の様に跳ねていくネメシスを追いすがり、サッカーボールキックをその胴体に叩き込み、予想以上の重さに目を見開きながらも全力で蹴り飛ばす。

 

 

「いっつ……」

 

 

 バキボキと音を立てて右足の骨が複雑骨折し、倒れ込む私。ネメシスはベンチに頭から突っ込み叩き割りながらひっくり返り、手でベンチを粉々に踏み潰しながら立ち上がる。

 

 

「スタァアズ…!」

 

「なにそれ!?」

 

 

 するとサブマシンガンを腰にしまい、ブィインン!!と鈍い音を立ててネメシスが取り出し逆手に構えたのは赤熱し光り輝く刀身のナイフ。ホットダガーとでも呼ぶべきそれを構えて突撃し、私は咄嗟に地面を引っこ抜いたアスファルトの塊を盾にするも左上から右下に滑らせるように一文字に斬撃。斬り裂いた部位から赤熱し、炎を発して溶断されるアスファルトの塊に、私は無事な左足で跳躍して距離を取る。

 

 

「アンブレラは普通の兵器も開発してるのか……素直にそれだけ作っててよねくそったれ……!」

 

 

 咄嗟に着地した右足のバランスを崩しながらも触手を伸ばして攻撃するも、ホットダガーが高速で振り回されて斬り刻まれ、斬り裂かれた触手の傷口が発火。慌ててアスファルトに押し付けて火を消す。あぶなっ、斬り裂かれただけで延焼とかふざけてるのかあの武器。

 

 

「…しょうがないか」

 

 

 複雑骨折した足が治りそうにないので、手刀で膝から下を斬り落として即座に生やすことで対応。裸足になった右足を踏み込み、ネメシスの追撃であるホットダガーの振り下ろしをバックステップで回避。右足の太腿から下を菌根で覆って二―ソックスの様にすると見た目よりも硬いそれを横蹴りで叩き込んで、ネメシスが咄嗟に左腕を盾にするも骨が砕ける音と共に蹴り飛ばす。今度はあっちの骨が折れた音だ。

 

 

「スタァズ!?」

 

「腕の骨が折れた?人間には215本も骨があるのよ!1本くらい何よ!……なんてね。すぐ治るでしょ、油断させるための悲鳴なんだろうけど騙されないからね」

 

 

 結構前に見た映画の台詞を吐きながら、すぐ再生したらしいネメシスが右手で構えて刺突してきたホットダガーを身を捩って避けて、右足を振り上げてホットダガーを持つ手を蹴り上げ手放させる。アスファルトに突き刺さり溶解させて刀身がめり込んだホットダガーを無視して、右手首から触手を伸ばし鞭のように振るって攻撃してくるネメシス。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

「ふっ!」

 

 

 私はその場でバク転して触手を菌根で武装している右足で蹴り弾きながら宙返り。空中で引き抜いた軍用ハンドガンを連射してネメシスの胴体に当てて衝撃で後退させながら着地し、ホットダガーを引き抜いて順手で構える。

 

 

「もらうよ!」

 

「スタァズ!」

 

 

 そのまま殴りかかってきたネメシスに、咄嗟にホットダガーを手にして横に斬撃。鋼鉄製のコートを溶断しながらその胸部に一文字の赤熱する傷を作り、炎上させる。すごいなこの武器。

 

 

「グオオアアッ!」

 

「えっ」

 

 

 すると咆哮と共にネメシスはその場で勢いよく右足で地面を踏みしめ、ちょっとした地震が起きてバランスを崩したところに、ミドルキックを叩き込んできて私はホットダガーを手放し蹴り飛ばされアスファルトを転がっていく。ホットダガーはそのまま触手を伸ばしたネメシスが隙なく回収して腰の鞘に納めた。

 

 

「スタァズ」

 

 

 そして、ここまで来るのが目的だったのか、アンブレラのマークが描かれたトレーラーの荷台から燃料タンクを背負い火炎放射器を装備。……ああ、それはまずい。再生力を持つ私でも燃焼して継続的にダメージを与えてくる火炎放射器の相性は最悪だ。なんなら菌根の弱点でもある。無理だ。

 

 

「くっそ!」

 

 

 ゴォオオオ!と轟音を上げて放出される灼熱の業火から、全速力で走って逃げ、物陰に隠れる。すると火炎放射器で周りを燃やして退路を塞ぎながら迫ってきたかと思えば、火炎放射器の銃口を上に向けて広範囲に炎の雨を降らせて炙り出そうとしてきた。たまらず、炎の範囲の外に跳躍して逃げた私はその先にあった自動車を見てあることを思いつくと持ち上げ、空中に放り投げる。

 

 

「これでも喰らえ!」

 

「スタァズ」

 

 

 それに反応して火炎放射を空中の自動車に叩き込むネメシス。するともちろんというべきか自動車は爆散してそのまま残骸がネメシスに降り注ぎ、咄嗟に火炎放射器を盾にして防ぐべネメシスだったが背中に背負った大きなタンクに引火して大爆発。上手くいった。これで火炎放射器は使い物にならないはずだし、大ダメージも受けてる。このまま決める!

 

 

「脳天かち割ってやる…!」

 

 

 俯せに倒れ伏したネメシスの傍に立ち、菌根で武装した右足を大きく振り上げて、渾身の踵落としを後頭部に叩き込む。しかしそれは、関節を無視してぐりんと可動した右腕で受け止められてしまった。人の可動域を無視した動きとかあり!?

 

 

「スタァアアアズ!」

 

 

 そのまま私の右足を掴んだまま咆哮を上げて立ち上がり、勢いよく地面に叩きつけるネメシス。さらに燃料タンクを失った火炎放射器を棍棒のように持ち変えて振り回して攻撃してきた。側頭部を殴られ、ふら付く私に前蹴りが突き刺さりひっくり返り、触手を伸ばして足に巻き付けて引きずり、振り回されて投げ飛ばされる。

 

 

「ぐへっ」

 

 

 地面を跳ねてそのまま転がっていった先で、なにかに受け止められる。下がりそうな眉を何とか上げて見上げると、そこには鏡で見慣れた顔があって。

 

 

「え、リサ…?」

 

「なんでアリサが吹っ飛んでくるの?」

 

『私が聞きたい』

 

「来てるぞリサ・トレヴァー!」

 

 

 瞬間、空中から突撃してきた鋼鉄の何かが鋭い爪を叩きつけてきて、リサは左手に銀髪の男を、右手に私を担いで、傍にエヴリンを伴いながら跳躍して回避する。それは洋館でプサイちゃんに付き従ってたハンターに酷似していて。

 

 

「キシャーッ」

 

「スタァズ」

 

「ネメシスも来たぁ……」

 

『ネメシス、アリサの方にいたかあ、そっかあ…』

 

「…どうしたものかしらね」

 

「何でもいいが俺は生かせよ」

 

 

 前門のハンター、後門のネメシス。完全に挟まれた形になった私達。本当にどうしよう。あとこの馬鹿ほざいてるやつ殴っていいかな。




ホットダガー登場。隠し武器は出す方法を考えるのが一番大変。今作ではアンブレラの兵器として登場です。

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file3:14.5【ナサニエル・バード】

どうも、放仮ごです。最近まで勘違いしてたんですが、アンブレラのヨーロッパのって本部じゃなくて支部なんですね。本部はあくまでラクーンシティにあるらしいというのを調べなおしてようやく気付きました。そこらへんややこしいよね。

 今回は短いです。一方その頃こんなことがあったんですよって回。楽しんでいただけたら幸いです。


 最先端の技術と真心のケア、ラクーンシティの医療を担う「スペンサー記念病院」。ラクーンシティを本拠地とする巨大製薬企業アンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサーが率いるスペンサー記念財団が地域医療の中核を担う存在として設立した総合病院。

 

 高度な医療を受けられる外来棟や大規模な入院棟のほか、最先端の医薬品臨床試験を行う国内最大級の研究棟も併設しており、ラクーンシティや合衆国のみならず、世界の医療技術を一新する拠点となっている場所。

 

 しかしそれが災いして、T-ウイルスの感染者を軒並み受け入れてしまったがためにパンデミックが引き起こされた場所であり……今では唯一生き残ったこのスペンサー記念病院に勤務するスペンサー記念病院の主任研究員で生物学博士、ナサニエル・バードが立てこもっていた。この男、実はアンブレラの研究院の一人であり、RT-02“Blank”…つまりアリサが生み出された場に立ち会ったこともある、サミュエル・アイザックスの部下だった男である。

 

 

「S.T.A.R.S.に助けを求めるつもりが、まさかリサ・トレヴァーがいるとはな……」

 

 

 パソコンを用いてラクーンシティ中の監視カメラにハッキングして、アンブレラから送り込まれたU.B.C.S.の動向を窺っていたナサニエル。洋館事件勃発後、スペンサー記念病院の地下にあるアンブレラの研究所「NEST2」の主任もしている彼はアンブレラからの命令でT-ウイルスのワクチンを研究・開発していた。

 

 しかしアンブレラの終焉を悟っていたナサニエルは万が一の時に自身の免責を図るため、アンブレラの告発の準備を行っていた彼は、街を襲っているゾンビの正体やアンブレラの実情を暴露した映像を作成。さらにラクーンシティの病院の研究所でワクチンの開発に成功して備蓄まで完了していたのではあるが、自らの息のかかった研究員からのメールでアンブレラにそのことが露呈したことが判明。

 

 アンブレラからの刺客に怯え、アンブレラの送り込んだU.B.C.S.を信用できるはずもなく研究室に籠城する羽目になり、洋館事件のレポートからアンブレラと敵対していることが確定しており優秀な隊員が所属しているS.T.A.R.S.に、取引し助けを求めようとしたナサニエル。

 

 しかし自分が開発に関わったアリサと、洋館事件にて死んだはずのリサの姿を見つけ、その戦闘力を監視カメラの映像で見てしまい報復を恐れた彼は、まだNEST2で開発途中だったハンター・アーマードを起動し送り込んだのだった。

 

 ちなみに、ハンター・アーマードに助けてもらえばよくね?とは考えたが、攻撃特化すぎて救出なんてできるはずがないので諦めた。そもそも開発コンセプトが、ターゲットの殲滅である。適材適所とは言うがここまで当てはまる事例もないだろう。

 

 

「はあ、はあ……私は終わらん、終わらんぞ……」

 

 

 しかし既にナサニエルは手遅れだった。研究室に閉じこもる過程でゾンビの襲撃を受け、噛みつかれてしまったのだ。お手製のワクチンで感染の進行を遅らせてこそいるが、そもそもワクチンとは感染予防のための抗原体である。感染した後に完治できる代物では決してない。

 

 ある世界線ではラクーンシティの大学内で極秘裏に研究開発されてきた、「日の光」の名を冠し「日の光があれば傘(=アンブレラ)は要らない」という皮肉に由来する、使用された生物は体内のT-ウィルスが全て死滅し、以降のT-ウィルスによる感染も永続的に防げる「デイライト」という特効薬が存在するが残念ながらこの世界で生まれるかどうかは定かではない。

 

 

「私はナサニエル・バードだぞ!死んでたまるか…!」

 

 

 貯蔵庫に向かってありったけのワクチンを取りだし、片っ端から注射器に入れて、もう既に新陳代謝が高まりすぎて腐り始めている自身の右腕に打ち込むナサニエル。もう完全に狂乱しており、ワクチンを残してやろうという傲慢な考えは既になくなっていた。

 

 

「くそっ……そうだ、リサ・トレヴァー……「適応」に特化している奴の血があれば、治療薬を作れるかもしれない…!」

 

 

 脳にT-ウイルスが回り始め、RT-ウイルスの効果を知りながら馬鹿げたことを考え始めるナサニエル。肩で息をしながらパソコンのキーボードを操作、ハンター・アーマードに新たな指示を送る。

 

 

「どうせ奴は不死身みたいなものだ!四肢をもいででも生け捕りにしろ!ハンター・アーマード!」

 

 

 この命令が、幸か不幸か運命を分けることとなる。




なんかどっかで見たシチュエーションですね?(すっとぼけ)

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file3:15【二人のリサ】

どうも、放仮ごです。実はこの間の鎧武者然り、結構先(具体的に言うと6)まで敵キャラを考えてるんですが、出す機会が全然得られなくてちょっとうずうずしてます。毎日投稿の都合で3000字超えたらにしてますがいつまでかかることやら。

今回は今作驚異の規格外を誇るリサコンビとネメシス&ハンター・アーマードの対決。楽しんでいただけたら幸いです。


 飛び掛かってくるネメシスとハンター・アーマードという脅威を前に、アリサとニコライを担いだリサの行動は速かった。

 

 

「ごめんニコライ!」

 

『必殺!そこにいたのが悪いガードベント!』

 

「きさっ……リサ・トレヴァァアアアッ!?」

 

「ええ!?仲間じゃないの!?」

 

「ノースタァアズッ!」

 

 

 今だ燃える火炎放射器をこん棒のように構えたネメシス目掛けてニコライをぶん投げるリサ。ネメシスは邪魔だと言わんばかりにニコライを左手で受け止めると背後に投げ捨て、火炎放射器を構えて刺突。しかし一瞬だけできた隙を突いてアリサを下ろすという動作を行えたリサは、アリサと共に背中合わせに身構えると火炎放射器を燃えるのも構わず両手で受け止め、力ずくで奪い取って持ち手の部分でネメシスの頭部をぶん殴った。

 

 

「キシャアアアアッ!」

 

「直線的だね!」

 

 

 そして驚きながらも即座にリサの意図を読み取ったアリサは、着地と同時に菌根で覆った右足を振り上げて突き出し、上段蹴りをハンター・アーマードの喉元に突き刺して圧迫させ怯ませ転倒させる。

 

 

「スタァアズ!」

 

「キシャァアアアッ!」

 

 

 予期せぬ反撃から立ち直ったネメシスとハンター・アーマードが吠える。右と左から、示し合わせたかのように同時に飛び出してくる両者に、アリサとリサはエヴリンを挟むようにして背中合わせに向かい打つ。それぞれ、相方は苦戦していただろうと考え相手をスイッチ(交換)している。

 

 

「鋼鉄だろうと砕く菌根の硬さを見せてやる…!」

 

 

 ハンター・アーマードの鋼鉄のクローに迎え撃つのはアリサ。菌根で覆った右足を横蹴りの要領でクローを受け止め蹴り飛ばし、振り下ろした拳の一撃で後頭部を殴りつける。さらによろめくハンター・アーマードの顔面に膝蹴りが突き刺さり打ち上げるがしかし、機械で無理矢理姿勢を制御されたハンター・アーマードは体勢を立て直して反撃のクローを叩き込んでアリサの腹部を大きく抉った。

 

 

「武器を使うのか、戦い方が原始人なアリサと相性が悪いはずね!」

 

 

 一方、アンブレラ脅威の兵器ホットダガーを再び引き抜いたネメシスに笑みすら浮かべて跳躍するのはリサ。ホットダガーを振るったネメシスの右腕を長い腕で握って受け止め、その振るわれた勢いのままに着地して一本背負いでネメシスを遠くに投げ飛ばす。しかしネメシスも負けてはいない。触手を使ったワイヤーアクションですぐ復帰、自身の重量を乗せた左拳を叩き込み、両腕を交差して受け止めたリサを吹き飛ばす。

 

 

『この二人理不尽なぐらい強いのになんで張り合えてるの此奴ら……』

 

「ネメシスにハンター・アーマード……アンブレラが誇る傑作兵器だぞ、勝てるわけがない……」

 

『前にも傑作言われてたセルケトとかイブリースとか倒したんだけどね。そう言いながら逃げようとしている辺りニコライも強いね。サバイバル術に長けてるというか』

 

 

 人外決戦をよそにネメシスに投げ捨てられたものの普通に生きていて、逃げる隙を窺うニコライと、見ていることしかできないがにコライを見張りながらぼやくエヴリン。ゾンビすら近づこうとしてこないのである意味安全であった。

 

 

「こなくそ!」

 

 

 抉られた脇腹を急速再生したアリサはもうズタボロな衣服を身に纏い軍用ハンドガンを引き抜いて乱射するがしかし、鋼鉄の鎧はびくともしない。ハンター・アーマードはハンターの攻撃力に加えて鋼鉄の防御力を併せ持つ兵器。銃撃に対しては滅法強かった。

 

 

「キシャアーッ!」

 

 

 ハンター・アーマードは衝撃すら地面に逃がして一声唸ると、両腕のクローを手首部分からギュイーン!と音を立ててドリルの如く高速回転。そのまま左腕でストレートパンチを叩き込んできて、肉を削ぎ取る攻撃を行うハンター・アーマードの一撃を右足を上げて受け止めるも、覆っている菌根すら削ぎ取ってきて目を見開くアリサにクリーンヒット。右肩を穿たれて、ねじれた重傷を受けてしまうアリサ。

 

 

「つう…!?」

 

「アリサ!…!?」

 

 

 それに気を取られ集中が切れたリサの顔面に、ネメシスの拳が突き刺さる。さらに右手に握られたホットダガーが振るわれて、リサの両腕を肘先から骨ごと両断。傷口が焼き切れて再生が遅れるが、気にせず腕を伸ばして炭化した傷口で直接ネメシスをぶん殴る。

 

 

「ごあっ…!?」

 

「こちとら苦痛には慣れっこなのよ!なにせ30年以上、あの洋館で苦痛を味わってきたんだから!」

 

 

 髪の毛の触手を刃に変形させて炭化した部分を切り落とし、アリサほど瞬時にではないが即座に再生させるリサ。なんならエヴリンのせいで400回以上コンティニューした記憶まで+だ。さらにリサは「適応」に特化している。こと苦痛にかけて慣れてるというのは過言じゃない。そして長い両腕で拳を組んで勢いよく地面に振り下ろし、亀裂を起こしてネメシスの足場を取ると、髪の毛の触手を一斉に鋭く伸ばしてネメシスの全身を貫いた。

 

 

「こんな傷ぅ!」

 

 

 逆に「再生」に特化しているアリサは超速再生。骨さえ無事なら即座に完全に修復できるアリサは自分の右肩に突き刺さっていたハンター・アーマードの左腕を鷲掴みにすると握りしめ、内蔵されてある機械部分がショートを起こす。回転が止まった左手に、ハンター・アーマードは瞬時にまだ回転する右手による抜き手を敢行。

 

 

―――――リサ・トレヴァーを生け捕りにしろ

 

「キシャッ!?」

 

「ん?そうか…!」

 

 

しかしその瞬間、ナサニエル・バードの「生け捕り」の命令が伝えられ、明らかに即死させる動きを躊躇。その一瞬の隙で手首部分しか回転してないことを見抜いたアリサに左手で手首と肘の間を握りしめられて受け止められ、渾身の前蹴りを胴体に受けて蹴り飛ばされるハンター・アーマード。

 

 

「キシャァアアアッ!」

 

「おわっと、なんか弱くなった?」

 

 

 しかし無理矢理機械が姿勢を制御して受け身を取り、回転する右手の手首から先をワイヤーに繋いで射出して反撃。だがそんな直線的な攻撃が通じるはずもなく、身を捩って紙一重で避けられ、ワイヤーを両手で掴まれて振り回されるハンター・アーマード。アリサは高速でグルグルグル!と回転し、遠心力を乗せてビルの外壁に叩きつける。

 

 

「スタァアズ!」

 

「っ、ぐっ!?」

 

 

 一方、鋼鉄のコートすら貫いて自身の肉体突き刺さった触手をホットダガーですべて斬り払うネメシス。さらにサブマシンガンを取りだして弾丸を掃射、弾丸を受けたリサは怯み、その隙に触手を伸ばして口からリサの体内に寄生させるネメシス。

 

 この触手の正体はNE-α、別名ネメシス。アンブレラのヨーロッパ支部がある寄生生物をモデルにして開発した寄生生物であり、B.O.W.の問題点であった制御の難しさを克服する目的で作られ、知能に特化して戦闘力こそ無いが、生物に寄生する事で独自の脳が形成された宿主は高度な知能を得るという代物。追跡者(ネメシス)の正体はこれを寄生されたタイラントであり、自身の一部を寄生体として他者に寄生させることで(しもべ)にすることが可能という、イブリースやベルセポネとはまた違った凶悪性を有している。しかし相手が悪かった。

 

 

「……?気持ち悪いわね!」

 

「スタァズ!?」

 

 

 自身に寄生した触手を無理矢理引っこ抜いて無事な姿を見せるリサ・トレヴァーは何を隠そうこのNE-αの試作品であるプロトネメシスを植え付けられて寄生されるどころか取り込んでしまった当時本物のリサ・トレヴァーと思われていたアリサのオリジナル。自身もこのプロトタイプを植え付けられ無事取り込んで見せたリサには効果はなく。ネメシスは驚愕する羽目となる。

 

 

「キシャアアアッ!」

 

「さすがに効かないか!」

 

 

 ビルに叩きつけられながらも普通に復帰してきたハンター・アーマードの、四肢をもぎとってでも生け捕りにしてやるという目的を孕んだ可動域を無視して流麗な動きで繰り出してきた斬撃の嵐を、受け止めるのは諦めてバックステップで回避していくアリサ。あまりの打たれ強さに、じり貧であった。

 

 

「す、スタァズ」

 

「こんなもの!っ、うあああっ!?」

 

 

 そして狼狽えるネメシスが慌てて取り出したのは、焼夷手榴弾。放り投げられたそれを咄嗟に長い腕で迎撃するリサだったが、触れた瞬間に破裂して炎が噴き出し、炎上する。

 

 

「き、キシャアアアッ……」

 

 

 しかしその熱気で限界が来たのはハンター・アーマードだった。このアーマーは銃器に対して絶対の防御力を持ち、さらに機械的な攻撃力を有しているが、その代償に重量化した身体の素早さを維持するため装着した増幅装置の冷却機能に難があった。そもそもこの時代は1998年。オーバーテクノロジーではあるが、そんな高性能な物を作れるはずもなく。長時間稼働すると熱が溜まり回路が焼き切れて機能不全を起こしてしまう。さらに無理矢理な動きをしていたために熱が溜まっていたところに、追加で高熱の炎が近くで放たれ続けて、さすがに限界を迎えた。

 

 

「あれ、どこに…?」

 

 

 冷却するために川を目指し、よろよろと歩いていくハンター・アーマード。燃えるリサに追撃しようとするネメシスの攻撃を何とか防いでいたアリサはそれが気になったものの見過ごすほかなく、ハンター・アーマードの逃亡を見逃すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その手に、アリサから抉り取った肉片と血液が保管されているとは夢にも思わなかったが。




人外魔境決戦ラクーンシティ。ようやくメインに行くための準備が終わりました。

※一方その頃ジルはネメシスに襲われることなく順調に電源復旧と列車を進めていた。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:16【追跡者、転臨】

どうも、放仮ごです。3ってネメシスとゾンビで大体終わってて他のは生息地が決まってるからちょうどいい敵キャラが意外と少ないんですよね。

多分誰もが想像してないであろう敵が登場。エヴリン、ジル、アリサの順の視点でお送りします。楽しんでいただけたら幸いです。


「燃え、燃える…!?」

 

『リサが炎上してるー!?イブリースもそうだったけどこの手の再生持ちは炎に弱いんだって!だ、誰かー!大人の人ー!?』

 

「ちっ……!」

 

 

 焼夷手榴弾の不意打ちを受けて炎上するリサに右往左往していると、近くの水道からバケツ一杯の水を持ってきたニコライが水をかけて鎮火してくれた。黒焦げでゼーハーと肩で息をしながらリサはニコライに尋ねる。

 

 

「に、ニコライ……なんで?」

 

『デレた?』

 

「ふん、貸し一だ。せっかく安全圏から暗躍しようとしていた俺のプランがパーだ。こうなったらアンブレラからの大金は期待できないからな。お前らに味方する、なにがあろうと俺を生かせ」

 

「……いいね、そういう打算的な方がわかりやすい」

 

 

 ニコライの差し出した手を、にやりと笑って手に取り立ち上がるリサ。洋館で人の悪意に晒されながら生きていたリサにはこっちの方がわかりやすいのかな。

 

 

「こっちそろそろ限界なんだけどー!?」

 

 

 するとネメシスのホットダガーを握る拳を転がってた火炎放射器で巧みに突いて耐えていたアリサが絶叫を上げた。あ、そうだった。リサが燃えてた間ネメシスの猛攻を耐え抜いてたんだった。

 

 

『なんか知らないけどアーマーのハンターはいなくなった!あとはネメシスを倒すだけだよリサ!』

 

「了解…!ニコライ、援護!」

 

「人使い荒いな…射線に入っても遠慮なく撃つからな!」

 

「上等!」

 

 

 両の手で瓦礫を掴み、ニコライの銃撃の援護を受けながら突撃するリサ。そのまま瓦礫を持った手で連続パンチをネメシスに叩き込み、単純に質量で攻めてきたリサに面食らいつつもホットダガーで瓦礫を斬り裂いて応戦するも、リサを貫いて放たれた弾丸をもろに食らい怯むネメシス。それはアリサに対して隙を作るという意味で。

 

 

「どっせい!」

 

『わあい、血の花火だあ』

 

 

 火炎放射器を両手で持って跳躍し、勢いよく唐竹割をネメシスの脳天に叩き込むアリサ。そのアグレッシブさはイーサンを思い出す。頭が割れて血が噴き出してホットダガーを手放したネメシスに、リサを貫くことお構いなしで銃弾の雨が注がれ、よろよろと後退させる。

 

 

「アリサ!」

 

「うん、リサ!」

 

「「ぶちのめす!」」

 

 

 スーパータイラントの時を思い出すやり取りのあとに、リサは長い右腕の拳を、アリサは菌根を纏った左拳を、それぞれ振り上げて並んで突撃する。私の眼にはその姿が、ジャック・ベイカーと、イーサンの幻と重なった。

 

 

「エヴリン直伝!」

 

「ファミリーパンチ!」

 

『私のじゃないけどね!?』

 

「スタァズ……!?」

 

 

 まずリサの長い右腕の拳が突き刺さり、続いてアリサの左拳が叩き込まれて、数メートルも転がって吹き飛んでいくネメシス。タンクローリーに激突して大爆発を起こし、ネメシスの姿が見えなくなる。今度こそ、やった……?するとアリサの持っていた無線機に連絡が。アリサはホットダガーと、転がっていたネメシスから外れたその鞘を拾い上げながら通話に出る。

 

 

《「アリサ!電源を復旧して列車の指令室で運行ルートを設定して駅に戻ってたらマーフィーを見つけたけど、あなたどこにいるの!?」》

 

『マーフィーって誰?』

 

 

 相手はジルだった。あっちはあっちで仕事してるなあ。私達邪魔者の掃除しかしてないや。多分だけどそのマーフィーっていうのを駅に送り届けてる途中でアリサはネメシスに襲われたのかな。

 

 

「今、リサと一緒!モリグナって名乗ってたカラスの化け物とネメシスを倒したよ!ここは………どこだろ?」

 

「U.B.C.S.のニコライ・ジノビエフも一緒よ。ニコライが居場所は把握しているはずだから、今からそっちに向かって合流する」

 

「そういうことらしいからマーフィーと一緒に駅に向かってて!」

 

《「わかったわ。カルロスに言って待ってるから、急いで」》

 

 

 ジルとの通話を終わり、「俺?」と言わんばかりに人差し指を己に向けてるニコライに向き直り、ニヤァと意地悪く笑みを浮かべるリサとアリサ。双子の様なそれは可愛らしくもあった。

 

 

「……はあ。また貸し一だ。高くつくぞ」

 

「敵にならないならいくらでも返してあげるわ」

 

「どういう関係なの?」

 

『話すと長いよ本当に』

 

 

 ホットダガーを鞘に納めてベルトに下げながら訪ねてくるアリサに苦笑い。なんかモリグナもいたみたいだけど、脅威は排除した。ゾンビ相手なら後れを取ることはないし、このままゆっくり駅に向かおう。

 

 

カア! カア! カア! カア!

 

 

 夜空で烏が啼いていた。この時ネメシスの死を確認しなかったのは幸か不幸か。……私達の運命は、変わりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今戻ったわ、カルロス」

 

 

 マーフィーに肩を貸して連れて駅に戻ると、シャッターを抜けた先でカルロスが出迎えてくれた。私からマーフィーを受け取り、階段を下りていく。

 

 

「上出来だスーパーコップ。恐れ入った。まさかマーフィーまで救出してくれるとはな。半ば諦めていた」

 

「ははっ、カルロス。俺は死なない。兄貴のやりたかったことをやるんだ、この街は無理でも人々は救う」

 

「その調子だ親友。……ところでアリサはどうした?マーフィーはアリサが連れてくるはずだったが……」

 

「アイツが生きていたの。マーフィーの話だと襲ったのは別の奴だったみたいだけど……アイツを倒して、今リサと一緒に向かっているらしいわ。あとニコライ・ジノビエフが合流したとも言ってた」

 

 

 親友らしいマーフィーの無事に喜ぶカルロスの問いかけに、私は神妙な顔で答える。

 

 

「ニコライか。あいつの無線は壊れているらしく連絡できなかったんだ。ありがたい。それにあの巨人を倒すとは、さすがアリサとリサだな」

 

「それで、列車は動く?」

 

「実はダリオが手伝ってくれてな。3~40分かかるところを、タイレルと一緒にあと10分程度まで短縮した。アリサたちが到着するなり出発するつもりだ」

 

「なら問題ないわね。アリサたちなら、すぐ来れる。……何事もないといいけど」

 

 

 そんな私の嫌な予感は的中することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちをまっすぐ進めば地下鉄だ。機動力があるというのは羨ましいな」

 

 

 リサがニコライを担いで道案内してもらいながら、ビル間を駆け抜ける私たち。ゾンビに襲われないルートがこれだったというだけだが、クイーンと共に駆け抜けたあの街がここまで変わり果てるなんて…………ん?

 

 

「なに、あれ…」

 

 

 私達がさっきまでいた場所に、空から滝でも落ちるかのように夜ですらわかるほど黒い濁流が降り注いでいた。いや、濁流じゃない。あれは……カラスの群れ?まさか、まさか。

 

 

「モリグナ……?」

 

 

カア!

    カア!

       カァー!

   ガァー!

ギァー!

  グエーッ!

 

 

 けたたましい鳴き声の大合唱が響き渡る。それは悪意に満ちた祝福にも聞こえて。その意味を、すぐに思い知ることになる。

 

 

スタァアズ!!

 

 

 バサッバサッ!と羽ばたきの音と共に、それは高速で飛来、私達が走っていたビルを踏みつけるようにして猛禽類の様な両の足で着地して屋上にクレーターを作り上げる。それは、見覚えのある巨体だった。潰れた異形の顔は左目しか開いて無くて歯を剥き出しにしている。しかし共通点はそれだけ。前述の猛禽類に似た異形の足に、顔は黒い羽毛にも似た鱗に包まれ悪魔のような形相に、全身をローブの様に覆った黒い羽毛は刺々しくドラゴンを思わせ、両腕は巨大な翼に変化していて、伝承に出てくるハーピーの様だがそんな生易しいものでは断じてない。

 

 

「なんだ、こいつは…!?」

 

「ネメシス…いや、違う…!

 

『もしかして……モリグナ?』

 

取り込んだ同胞の目撃情報で知った。お前たちは合体して強くなっていたと!ならば我等も真似よう!より強い肉体を、我等で覆い尽くし支配する!

 

 

 低い男と甲高い女の声が重なって聞こえる。それはモリグナで、ネメシスだった。モリグナを形成しているカラスがネメシスを取り込んだってこと…!?

 

 

礼を言う。私に死の恐怖を味わせた此奴の肉体を安全に得ることができた。我が名はモリグナ・ネメシス!スタァアズ!を殺し尽くす死神だ…!

 

「……なんか逆に混ざってない?」

 

ええいうるさいぞスタァアアアズ!!!

 

 

 翼を羽ばたかせ、空に舞い上がる巨体が降りてくる。私とリサは目配せし、同時に反対側に跳躍。今の今までいたビルが一撃で粉砕され崩れ落ちていくのを見てひやひやする。あんなのを駅まで連れていけない、ここで倒す!ここで終わらせてやる…!




エヴリンができるなら他の奴もできるのだ。特にモリグナは本体に他のカラスが合体して生まれてる存在だったので猶更。

ニコライ、借りを作ると言うことで正式に仲間入り。こんなことになってアンブレラにつくの馬鹿のやることってね。折れてなかったのではなく自分が旨味あるように立ちまわっていたのだ。

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file3:17【大空の追跡者】

どうも、放仮ごです。ちょっとずつずれている世界線を説明することがとんでもなく難しいことを今更気づいた。なんとなく、フィーリングで考えてください。

モリグナ・ネメシス大暴れ。楽しんでいただけたら幸いです。


 モリグナは、アリゲーター・ステュクスことリヒトと同じでアイザックス手ずから洋館事件後にRT-ウイルスの実験台として生み出されたB.O.W.である。カラスの群れにRT-ウイルスを混ぜた餌を接種させる実験から生まれた、いわば想定外から生まれた彼女の存在を、アイザックスは歓喜し餌を与えるだけ与えた。獲物が襲い掛かってくる狩りという形でだ。

 

 

 モリグナに当てられたのはNESTで保管されていた小規模なゾンビの群れだ。モリグナは効率的な狩り方と、自らの身体の使い方、人の肉と血の味を知った。変異させられるだけして下水道に捨てられたアリゲーター・ステュクスとはえらい違いの待遇ではあるが、適合する可能性の高い爬虫類のワニと適合の可能性が低かった鳥類のカラスの期待の差は大きかった。実際、NESTで生まれたRT型のB.O.W.の中では特に優秀だったと言っていいだろう。単体の戦闘能力こそアリゲーター・ステュクスに劣るが、B.O.W.としての完成度はあのタイラントにも匹敵する。

 

 

 以来、モリグナは人間を餌と認識し殺戮の限りを尽くしている。もともと持ち合わせていた知能の高さから学習し、平常時には人前には決して現れず、闇夜に紛れて人間を襲い仲間を増やし。バイオハザードが起きてからはこれ幸いとばかりに目につく人間を襲撃する。

 

 

 ある世界線ではエヴリンがコンティニューした影響で警察署にも現れるようになり。しかし自分よりも強い存在が現れたことで幾度も敗走した。

 

 

 しかし人間を食べ過ぎたせいか、ある変化があった。最初にモリグナになった個体が単体で人型になり、本体になってしまったのだ。群れ全体で共有している意識を持っているモリグナは突如その意識から外れ、同胞を支配できるようになったことで混乱した。もともと持っていた自我が、集合意思から個人の意思へと昇華したのである。

 

 少なくとも、エヴリンがG6へと変貌したアネットに敗れコンティニューする前のモリグナの強みは、「本体がいない」ことだった。しかし本体が生まれてしまった。これはモリグナの類まれな知能からすぐに結論が出た。弱点にしかならない、と。

 

 

――――カラスは凶兆の象徴、凶鳥だ。しかしそれは人からの印象で。確かに行動が卑しく狡猾で凶暴だが、人間に関わることで、悪魔の遣いだの死神のお供だのマイナスなイメージで呼ばれる。皮肉にも、モリグナは自ら人間を喰らい襲うと言う形で関わることで、自らに災禍を招いたのだった。

 

 

 だから群れで作った肉体の体内に隠れることで補った。強気な言葉で相手を威圧し自分が本当は弱いことを見せないようにした。しかしそれは暴かれた。あのアリサと呼ばれた女に見抜かれ、ネメシスと呼ばれた大男に殺されかけた。許さない、許さない、許すわけがない。

 

 

 ならばとネメシスがアリサとその仲間と戦うところをこっそり観察して弱ったところを襲撃、その肉体を覆い尽くすことで操り人形とし、胸部をくりぬいて巣として住みつき、支配した。巣に籠ることで弱点である己の本体を守り、そして生身の肉体という芯があることでより群れは強固な肉体となる。エヴリンとミアがはまっている、まだこの時代では放送されてない仮面ライダーで例えれば、コアメダルとセルメダルの関係と言えばわかるだろうか?

 

 

 こうしてモリグナ・ネメシスは生まれた。大空を駆り、圧倒的なパワーですべてを薙ぎ払う、スピードとパワー、防御力と優れた知能を兼ね備えた最強のB.O.W.だ。ただひとつだけ、モリグナの想定外があった。ネメシスに寄生するNE-αの存在だ。第二の脳ともいうべき寄生体は、ネメシスの肉体を介してモリグナにも干渉した。その結果、ネメシスの「S.T.A.R.S.殲滅」の命令と、モリグナのアリサへの殺意が合わさって、身体だけでなく意思まで融合してしまったのだ。

 

 

 

アリサ!貴様だけは許さないぞスタァアアアズ!!!

 

 

 夜空を旋回し、モリグナ本来の鳥目をネメシスの視界で補ったモリグナ・ネメシスの飛び蹴りを、菌根を纏い強化した右足の跳躍で回避するアリサ。一撃でビルが蹴り砕かれて倒壊していく光景にひやひやしていると、反対方向に逃げたリサの抱えたニコライがアサルトライフルで援護射撃。さらにエヴリンも突撃して息を吸い込み、虎の子である超至近距離鼓膜絶叫を発動する。

 

 

『スゥウウ……ワアアアアアッ!!

 

ええい邪魔だ、スタァアアアズ!!!

 

『わきゃあ!?』

 

 

 しかしモリグナ・ネメシスは強固な竜の鱗の様な羽毛で弾丸を弾き、ネメシスの記憶からエヴリンの攻撃を、耳元を翼で覆い耳栓することで回避。両腕の翼を振るい、鋭く硬化した羽を手裏剣の如く飛ばしてリサとニコライ、エヴリンを襲う。

 

 

「ぐううっ、近づけない!」

 

『こうなったら、あんまりなりたくないけど奥の手だあああああ!』

 

 

 リサはあまりの威力に距離を取ることを選択、エヴリンは羽手裏剣がすり抜けながらも、少しでも隙を作ろうとその姿が黒い液体の様になって溶けたかと思うとその場に黒いカビ溜まりを作ると顔が形成され、首が伸びる様にして異形の怪物と化して空に飛び出した。過去にイーサンとの決戦やドミトレスク戦やドナ戦で用いた暴走形態…の姿を真似たものだ。

 

 

『待てやごらぁああああっ!』

 

スタァアアアズ!!殺す、殺してやるぞアリサァアアアッ!

 

「っ、しまっ」

 

 

 怪物と化したエヴリンの猛攻を翼を羽ばたかせて回避しながら、次の建物の屋上に飛び乗りさらに跳躍しようとしていたアリサを、急降下して飛び蹴りを叩きこむのと同時に猛禽類の様なその右足で鷲掴みにして拘束。そのまま何度も何度も建物の屋上に叩きつけ、一回転して踵落としの様にアリサを頭から鉄筋コンクリートに叩きつける。

 

 

「があああっ!?」

 

死ね、死ね、スタァアアアズ!!!

 

 

 そのまま頭から血を流すアリサを空中に放り投げると、モリグナ・ネメシスは右翼を押し付けて硬質な鱗の様な羽で包み込んで拘束。一気に引き抜いてズタズタに引き裂いて鮮血が空に舞い、アリサは落ちていく。

 

 

このままとどめっ、スタァズ!?

 

 

 羽ばたいて滞空していたモリグナ・ネメシスだったが違和感を感じて体勢が崩れる。見れば、己の武器だったものが右翼に突き刺さっていた。ホットダガーだ。高熱と炎による痛みが襲い掛かってきて、モリグナ・ネメシスは慣れない激痛に呻きながらそのまま落下。ホットダガーが突き刺さったカラス二体を切り離すと、羽ばたいて勢いを弱めながらアスファルトの地面に着地。ギロリと落ちてきたアリサを受け止めていたリサに視線を向ける。

 

 

余計な真似をッ、スタァアアアズ!!!

 

 

 そして咆哮。自らの腕を形成しているカラスを分離させてまるで空中を流れる濁流の様にエヴリンを飲み込みながらアリサを抱えたリサに叩き込んでいく。叩き込んでは再生し、またモリグナ・ネメシスの両腕に集めて翼を形成、空に舞い上がる。

 

 

『だめだ足止めにもならない~菌根世界に引き込んだら逆に負けそうだし……一回乗っ取ったことあるんだけどなあ』

 

「また貸しだぞ。リサ・トレヴァー!これで三度目だ!」

 

 

 そのままリサとアリサに向けて急降下、襲い掛かろうとしたモリグナ・ネメシスの頭部に寸分違わず弾丸が叩き込まれて怯む。ニコライだ。

 

 

「アリサ、治った?」

 

「何とか…!」

 

「じゃあ一人で離れられるわね?エヴリン!あれ、やるわよ!」

 

『それしかないね!目には目を、歯には歯を、合体には合体を!』

 

 

 その隙を突いてアリサを逃がしたリサに、エヴリンが重なり菌根が溢れ出てモールデッド・エンプレスを形成。跳躍してモリグナ・ネメシスに組み付き、殴りまくる。モリグナ・ネメシスも負けじと翼で殴りつけ、滞空できずに落ちていく。そして地面を叩き割り、モリグナ・ネメシスとモールデッド・エンプレスが着地したのは、下水道。

 

 

「『ウオオオオオッ!!』」

 

スタァアアアズ!!!

 

 

 びしょ濡れになった二体の怪物が咆哮を上げる。その威圧に、下水道に潜んでいたそれはのそりと動いた。




元々本体はなかったけど、人間を喰いすぎて適応しちゃって本体が生まれちゃったタイプ。ネメシスの胸部を巣にしてます。

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file3:18【女帝モリグナ】

どうも、放仮ごです。たまに忘れそうになるけど、この小説はエヴリンが主役です。

今回は下水道での戦い、そして出会い。楽しんでいただけたら幸いです。


 空中で取っ組み合い、地上に落下したモリグナ・ネメシスとモールデッド・エンプレス。それを追いかけたアリサとニコライが見たのは、道路のど真ん中に空いた大穴だった。

 

 

「落ちた…!?ここは……」

 

「下水道だな。たしか駅に繋がってたはずだ」

 

「よく知ってるね?」

 

「もしもの時の避難経路にするつもりだったからな」

 

「卑怯もの」

 

「誉め言葉だ」

 

 

 瞬間、地響きが起きて足をとられるアリサとニコライ。下で大暴れしてるらしい。次々と道路がボコボコと波打ち、それが移動していく。

 

 

「この先は…!?」

 

「…駅だ。カルロス達がいる…!」

 

「そんな、今すぐ避難させないと…聞こえる!?ジル…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃下水道では、上のことなど知ったことかと言わんばかりの大暴れが行われていた。

 

 

くたばれえ、スタァアアアズ!!!

 

「『ケヒヒッ!アハハハハハッ!』」

 

 

 下水道内の狭い通路を飛行し、飛び蹴りを叩きこむモリグナ・ネメシス。全身から生えた棘を伸び縮みさせて壁に突き刺して引っ付きながら天井を移動し、長い腕で殴りつけるモールデッド・エンプレス。互いに吹き飛ばされ、追いつき、殴り蹴りを繰り返す。

 

 

スタァアアアズ!!生埋めになれ!

 

「『ゆーびきーりげんまーん!うそつーいたらはーりせんぼん、の~ますッ!ゆーびきったァ!』」

 

 

 翼を天井に突き刺し、引き裂いて瓦解させながら自分は飛んで退避するモリグナ・ネメシスに、モールデッド・エンプレスは上機嫌に拙い日本語で笑いながら全身から棘ならぬさらに鋭くした針を伸ばして、瓦礫をすべて針の先端に突き刺して受け止める。その姿はまさにハリセンボン。そのままアルマジロの様に丸まって回転、某鞭が似合う考古学教授の映画の如く一方通行で転がってくる岩の様に突撃。慌てて低空飛行して逃げるモリグナ・ネメシス。

 

 

「『ケヒ、ケヒヒヒ!アハハハハハッ!』」

 

こんの……っ、スタァアアアズ!!!

 

 

 笑いながら迫る瓦礫の塊に、逃げきれないと悟ったモリグナ・ネメシスは着地して猛禽類の様な脚で掴んで地面に固定し、翼になってる両腕をさらに広げて巨大な掌の様にすると受け止める。その場で留まりながら高速回転する瓦礫の塊と化したモールデッド・エンプレスは、突然瓦礫を突き刺していた針を引っ込めると瓦礫が雪崩となってモリグナ・ネメシスにのしかかり、生き埋めになった瓦礫の山に勢いよく前蹴り。

 

 

「『ケヒハハハハハハッ!お前なんか相手している暇はないんだよぉ!』」

 

 

 瓦礫の山から蹴り飛ばされたモリグナ・ネメシスはグルングルンと転がり下水道を転がっていき、モールデッド・エンプレスはそれに追いついて顔面を鷲掴みにするとその場で縦に一回転、頭からモリグナ・ネメシスを下水の中に叩き込んだ。

 

 

ぐおおおおっ、スタァアアアズ!!!

 

 

 たまらず、カラスの群れを分離させてただでさえ狭く暗い下水道を埋め尽くすモリグナ・ネメシス。一部だけ残して猛禽類の足と羽毛に包まれた頭部と胸部以外はただのネメシスとなったモリグナ・ネメシスはカラスの群れに紛れて突撃して右ストレート。しかし、カラスの群れに動じずすべて全身から伸ばした棘で追い払っていたモールデッド・エンプレスはその接近に気付いており、カウンターでパンチを顔面に叩き込んで殴り飛ばした。

 

 

す、スタァアズ……

 

「『ケヒヒッ。……ハア。手間、かけさせないでよね』」

 

 

 ひっくり返ったモリグナ・ネメシスに笑っていたかと思えば深いため息をついたモールデッド・エンプレスが跳躍して馬乗りになり、両手の拳を連続で叩き込んでいく。まるで八つ当たりの様な、リンチにも見える。しかしモリグナ・ネメシスの本体は頭部ではなく胴体にいる。モリグナ・ネメシスは再度カラスの群れを呼び戻して、自分(ネメシス)の肉体にではなく、モールデッド・エンプレスに向けて嘴で啄ばませ爪で抉り羽を休ませ、足元から包み込むように浸食していく。

 

 

「『なっ……!?』」

 

このままお前も取り込んでやるぞ、スタァアアアズ!!!

 

 

 予想外の反撃に流石に狼狽えるモールデッド・エンプレス。棘を伸ばして突き刺すことでまた散らそうと試みるが、死なばもろともと言わんばかりに死んでもなおくらいついてくるカラスたちになすすべがなかった。

 

 

「エヴ、リン……!」

 

 

 ならばとモールデッド・エンプレスが……リサがとった手段は、自らの胸に手を突き刺して、物理的に自分の中にいるエヴリンを引っこ抜いて融合を解くことだった。エヴリンに触れることができるリサならではの荒業だった。

 

 

『待って、リサ…!?』

 

 

 引っこ抜かれた勢いのままにくるくる縦に回転しながら天井を突き抜けて地上に出てしまうエヴリンは手を伸ばすが、届かない。慌てて地面に飛び込み、下水道に戻るエヴリン。しかし移動したのか、モリグナ・ネメシスも、リサの姿もどこにもなかった。

 

 

『どうしよう、どうしよう…!』

 

 

 頭を抱え、焦るエヴリン。また、自分が安易に合体を選んだせいで強敵が生まれて、仲間を失ってしまうという恐怖に苛まれる。何のために戻ってきたのか、今度はやり直せるのか、そんな考えに苛まれるが、突然自分の頭に勢いよく拳を振り下ろした。

 

 

『っ……落ち着け!リサを救うにはどうすればいい!?考えろ、考えろ考えろ………ここは下水道、なら……いるはず!リヒト……!』

 

 

 そして自分を殴って痛みで冷静になったエヴリンが選んだのは、下水道に潜むリヒト……アリゲーター・ステュクスを一足早く仲間に引き入れること。しかし迷路みたいな下水道だ。壁をすり抜けることができるエヴリンでも、探し出すのは困難。もう行き当たりばったりででたらめに下水道を浮遊して移動する。

 

 

『っ、見つけた!』

 

 

 すると下水道内を移動する巨大な影を見つけ、その前方に飛び出すエヴリン。

 

 

『いろいろすっ飛ばすけど、私が親になってあげ……る?』

 

 

 そしてその影の主を見て、エヴリンは首を傾げる。二本足。牙の生え揃ったでっかい口。尻尾。ぬめぬめ。特徴はアリゲーター・ステュクスと一致している。はて。リヒトはこんな薄い白っぽいピンク色だっただろうか。こんな丸いフォルムだっただろうか。そもそも目はどこかな?

 

 

『人違いでした、ごめんね?』

 

「おや?…だでぃ?」

 

 

 ぺこりと頭を下げ、踵を返そうとするエヴリンの耳にその声は届いた。振り返る。明かに人語を話すとは思えない、両生類ではあるんだろうが致命的にまでにアリゲーター・ステュクスと異なる何かしかいない。するとその上半身の大半を占める巨大な口ががぱっと開く。その中にあったものを見て、エヴリンは。

 

 

―――――――カチリ

 

 

 運命の歯車がかみ合い、動き出す音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここ、は……」

 

 

 微睡みの中で目が覚める。体力が奪われ続けていて喋ることさえままならない。どうやら自分は、真っ黒な何かに覆わているらしい。菌根と同じ暖かさを感じるが、悍ましささえ感じる。これは、洋館で嗅ぎなれてしまった死の匂いだった。するといきなり視界が開け、下水道内の管理室なのかガラスに映る自分が見えて、絶句した。

 

 

スタァアズ!目が覚めたかリサ

 

 

 そこにいたのはモリグナ・ネメシスの様だった。だがしかし、姿が変わっている。両手が翼になっている鳥人間の様だったモリグナ・ネメシスと異なり、恐らく自分の四肢が変貌したであろう四枚の翼を生やし、それとは別に四肢を持ち、全身棘だらけで頭部はリサの顔に近いそれに戻り、御伽話の悪魔か死神を思わせるフォルムへと変化していた。

 

 

「……モリグナ」

 

抵抗しても無駄だリサ、お前は我らが一部となった。意識は残っているようだが身体は既に我々のものだスタァアズ!

 

 

 なにかが私の脳に入り込もうとして弾かれているのを感じる。多分だけど、寄生体の方のネメシスだ。しかしこれでは、自我を保ったまま操り人形にされて、この手でアリサを殺すことになってしまう。こんな状態、生殺しだ。そんなの嫌だ。助けてと、洋館ではついぞ諦めた救いを求める。そうだ、そんな私の手を取ってくれたのは………

 

 

『モリグナ!リサは返してもらうから!』

 

喰えないお前に用はない、それから今の私は女帝モリグナだ、スタァアアアズ!!!

 

 

 あの時と同じ、エヴリンが目の前にふよふよ浮かんでいて。エヴリンは不敵に笑んで、手をかざす。

 

 

「やっちゃえ……ガンマちゃん!」

 

「はぁあい!」

 

 

 無邪気な声が聞こえて振り向くモリグナ。そこには、巨大な口と、その中で両手を広げている真珠色の髪を持つ私と同じ顔の少女がいた。ああ、またかぁ。そんな達観した感情と共に、私もろともモリグナは丸呑みにされたのだった。




リサまで取り込んだモリグナ最強形態、女帝モリグナ。偶然だけどゼウにフォルムがすごい似てます。ゼウを異形の怪人化させたイメージ。

そして新登場、ガンマちゃん。そう、あのB.O.W.です。エヴリンまた誑し込んでるよ……

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:19【ハンターγ(?)】

どうも、放仮ごです。結構立つけど読者の皆様はオメガの成り立ちとか覚えているだろうか。

今回は今までちまちまとばら撒いてきたハンターシリーズのフラグを一気に回収する話。楽しんでいただけたら幸いです。


【研究助手の飼育日誌】

3月4日 水温:18度 pH値:6.8

γ個体を初めて培養槽から出す

動きはやや緩慢で攻撃性は低い

Ω、Ψと比べると型落ちだという声が聞こえるがとんでもない

Haは殲滅力こそ命だ γこそ究極のHaだ

 

 

4月18日 水温:20度 pH値:6.8

いくつかのホルモンや薬剤を投与

うちひとつが効果を示し攻撃性が著しく上昇

素早い動きでターゲットを丸呑みにする

人間の大きさ程度なら一口だ

 

 

6月30日 水温:22度 pH値:6.2

Dr.Iがかつて生み出したΩ、Ψを始めとしたHa/RT(ハート)-シリーズの後継機の量産化の目処が立ったという

U本社でのγ研究打ち切りが正式に決定した

破棄直前に特に高い知能指数を示す個体を密かに搬出

かねてから用意していた新ラボに無事移送完了

すべてはγの実用化に心血を注ぐ

Dr.ローガン・カーライルの熱意の賜だ

 

 

8月14日 水温:25度 pH値:5.8

下水管を利用した飼育を開始して2週間

猛暑による水質悪化が心配だったが問題ない様子

γは複雑な下水の構造を2日ほどで完璧に理解し

ラクーンシティの地下を自由に散策している

どの個体も博士には非常に慣れているが

制御不能に陥った場合に備え高火力の武器を導入した

中古品らしく精度に不安はあるが保険にはなるだろう

 

※上記の様に何故かこの下水道に放し飼いにしてからある個体を中心に知能の高さが伺え始めた。何か影響があるのだろうか

 

 

8月24日 水温:24度 pH値:5.6

予想外の事態が起きた

苦しんでいたγの個体の一つをレントゲンで検査したら骨格が変容していたのだ

特に悪食な個体だ 恐らくNESTから排出される実験体のウイルスでも取り込んでしまったのだろうか

このままでは管理不足を博士に問い詰められるのも時間の問題だ 

他の個体も検査 少しでも変化が見えた個体を 死んだことにして離れた区域に隔離することにした

悪食の個体を含めて三匹に異変を確認 

 

 

9月1日 水温:23度 pH値:6.1

隔離したうちの二体が正体不明の何かに捕食された

この下水道には怪物が潜んでいるという噂があったが本当だったのか

残された悪食の個体は危険を察知したのか隠れてしまった 好都合だ

下水局の現場主任に賄賂を握らせ確保したこのラボだが

γの増産を行うには少々手狭だ 移転を検討する

 

 

9月9日 水温:21度 pH値:6.1

ラボに迷い込んだ清掃作業員1名をγが的確に処理

更に逃がした清掃作業員2名も例の悪食個体がいる区域に逃げ込んでから音沙汰がない

十分に実用に耐えうることを証明した

明日にも報告書をUヨーロッパ支社に送付する 悪食個体も回収しなければ

 

 

――――記録はここで終わっている

 

 

 

 

 

 

 アナーキア、というB.O.W.を覚えているだろうか。無秩序という意味するアナーキーから取られた名でありRT-ウイルスに適合したなかった生物のなれの果て。健康な部位まで再生しようとして細胞が弾けて肉だるまの様に膨れあがり破裂したところに菌根が周囲の物体をあつめて無理矢理再生していく、ブクブク肥大化し続ける肉塊である。亜種にアナーキア・リッカー、アイアンズ変異体などいるが基本は変わらない。

 

 さて、このアナーキア。再生能力の弱点である炎で焼却処分されてNESTに隣接している下水道に捨てられていたのだが、そこは天下のRT-ウイルス。完全に死滅することなく下水道を漂っていた。アリゲーター・ステュクスの餌になるのがほとんどだったが、全てではなかった。

 

 漂流したそれを、喰らうものがいた。もともと別の場所で開発されていたが研究が打ち止めにされて、やむをえず下水道にて研究が続けられていたハンターの亜種、ハンターγ(ガンマ)である。その中でも特別悪食な個体と、他二体がアナーキアの亡骸を捕食。アナーキア内で濃縮されたRT-ウイルスの影響で、普段主に捕食している人間の特徴が変異という形で現れた。ここはモリグナと同じである。

 

 さて思い出してほしいのは、オメガやプサイ……ハンターΩとハンターΨの姉妹は、セルケトの様にリサの細胞とB.O.W.の残骸を組み合わされて作られたわけでも、ヘカトの様にリサの血を大量に浴びて偶発的に生まれたわけでも、ヨナの様に実験と称されてRT-ウイルスを投与されたわけでも、グラの様に母体にRT-ウイルスを人工授精の様に投与されて産まれてきたわけでもない。

 

 RT-ウイルスを用いたハンター……通称「Ha/RT(ハート)-シリーズ」は、完全なデザイナーベビーだ。受精卵段階での遺伝子操作による、先天・有機的な改造・強化人間。グラも近いっちゃ近いがこちらは母体を利用していない、培養器を用いた完全に人工だ。

 

 知能が低下するというT-ウイルスの欠点や、司令塔の不在。これらを解決するために、元々人間の遺伝子にT-ウイルスと爬虫類の遺伝子を掛け合わせてクローニングすることで生み出すハンターを、RT-ウイルスを用いて誕生させた個体。ハンターと作成方法は同じ。ただ用いるウイルスが違うだけ。純粋にRT-ウイルスのみを利用したそれは、彼女らが最初からRT-ウイルスを固有の遺伝子として有することを指している。ハンターの特徴を持つリサ、ともいうべき容姿なのはそのためだ。

 

 

 ここで話は戻るのだが、さて。RT-ウイルスを身体の一部として最初から生み出されたオメガとプサイと、T-ウイルスで生み出されたハンターγ。この差は歴然だ。最初から適応していたのと、あとから適応したのでは天と地ほどの差がある。結果どうなったかというと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……着ぐるみ?』

 

「しつ、れい、なぁー」

 

 

 真珠色のフ●フルみたいな、二足歩行でオタマジャクシに似た尻尾が伸びた、巨大な口だけが上半身の大半を埋めているグロテスクなゆるキャラの様な何かの口からひょこっとリサによく似た顔を出した真珠色の短い髪を持つ子供に、エヴリンは思わずツッコむと気が抜けるゆるりとした声を放つ。

 

 

「だあれー?」

 

『私はエヴリンだけど……あなたこそ、だれ?』

 

「わたし、はんたーがんまー。だでぃ……じゃなかった、どくたーのこどもー」

 

『はんたー?………ハンター!?』

 

 

 正確にはでっかい口の中に、舌の代わりに胸から上の上半身が生えた様な、中途半端に来た着ぐるみみたいな恰好のハンターγを名乗った少女に、いろんな意味で困惑するエヴリン。御世辞にもハンターと同一種には見えないからしょうがない。別の世界線だとカエルに似ているだけでまだ面影はあったのだが、どうしてこんな狩猟ゲームに出てきそうな見た目になってしまったのだろうか。あとなんでその口からリサをちっこくした上半身が生えているのか。もうわけがわからないよ。

 

 

『じゃ、じゃあガンマちゃん……でいい?』

 

「がんまちゃん、がんまちゃん……がちゃんがちゃんー!」

 

『がちゃんがちゃーん……?喜んでくれてるのかな?』

 

 

 口の中でキャッキャと喜んで手を叩くガンマちゃんに本気で困惑するエヴリン。今そんな場合じゃないのだが、もうなんかいろいろすっ飛んでしまった。リヒトを探してたのにどうしてこうなった。そしてよくこんな無邪気な子が生きてたな?と不思議に思っていると、すぐ理由が分かった。下水の中から浮かび上がって現れたゾンビが背後から襲い掛かってきたのだが、その鈍重な見た目とは裏腹に素早い身のこなしで振り返ると大口で食らいつき、ボキッグシャア!という音と共にゾンビは丸呑みにされていったのだ。

 

 

『ええ……』

 

「おいしかったー」

 

 

 そして振り返ると、その真珠色の外皮と、口の中の少女がにぱーと笑いながら返り血にまみれていた。どうやらガワで丸呑みにした後、口内の人型の剛力でバラバラにして飲み込んだらしい。納得した。リヒトと並ぶ下水道の覇者である。若干シュールだが。

 

 

『ってそれどころじゃなかった!リサを助けないと!……でもリヒトがどこにいるかわからないし、どうしよう……』

 

 

 完全に時間を無駄にしたエヴリンは空中で体育座りして足の間に顔をうずめてくるくる回る。それを見て面白そうにキャッキャと笑っているガンマちゃんに、ジーッと視線を向けたエヴリンはダメもとで聞いてみることにした。

 

 

『ねえ。助けたい人がいるの。でも私は触ることができない、助けてくれたり……しないよね?』

 

「エヴリン、おや?」

 

『あ、さっきのは違くてね?』

 

「おや、かぞく!かぞくはだいじにしろって、どくたーいってた!わたしたすける!かぞくこまってるなら、たすける!」

 

『いい子過ぎない?』

 

 

 教育どうなってるんだとエヴリンは戦慄したが好都合だった。どうやら下水道にも詳しいようなので、モリグナの後を追ってもらい……そして、現在に至る。




地味に登場、RTを用いたハンターシリーズの総称「Ha/RT(ハート)-シリーズ」まあ本来の綴りはheartなんですが呼びやすいのでこう呼びます。

ガンマちゃんについては、この小説はクリーチャー擬人化小説じゃなくてバイオハザードなんやでって。小説的に描写がめちゃくちゃめんどくさいタイプの子ですね。外側と内側を表現するのが難しすぎる。

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file3:EX1:EvelineRemnantsResistance

どうも、放仮ごです。300話記念でバイオハザードレジスタンスを今作でやってみた、な話を書いてみました。レジスタンス結構好きなんですよね。完全にIFです。腹痛の中で書いたのでちょっと最後辺り雑かもしれない。楽しんでいただけたら幸いです。


 恐怖の夜会(テラーナイト)、と呼ばれる実験がある。アルバート・ウェスカーの妹を自称する「ウェスカー計画」における第一次候補者の12番目にあたる人物で「実験」の責任者を務める、いい年にも関わらずカフカの「変身」が大好きで中二病を拗らせている天才科学者アレックス・ウェスカーが考案した、アンブレラに関することを知ってしまった民間人を拉致して恐怖が一定量を超えることで発症する特殊なウイルスを投与し、極限状況下における恐怖への対処に関するデータ採取を執り行う、という悪趣味にもほどがある実験だ。

 

 生存者(サバイバー)は与えられた武器やハーブ等を用いて脱出を目指し、支配者(マスターマインド)が監視カメラ越しにクリーチャーや罠を仕掛けて彼らの脱出を阻む。それだけのシンプルなゲーム。マスターマインドにはアレックスを始めとして、曲者が揃っている。

 

 

 スペンサーに雇われて被験者たちの拉致や実験場を用意した片づけ屋ダニエル・ファブロン。声がどっかの工場長に似ている。

 

 アンブレラ者の主任研究員であり、G-ウイルスを投与されずウィリアムがG生物と化した世界線のアネット・バーキン。夫が怪物になったのに実験に利用している辺りやはり夫婦だ。

 

 「退屈しのぎ」という目的のために参加したアンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサー。退屈どころの騒ぎではないはずなのだが。

 

 U,B.C.S.の監視員でありネメシスの実験をするために参加させられたサバイバルの達人ニコライ・ジノビエフ。殴られたり脅されることもなくなった、よかったね。

 

 そしてスペンサーに招待され、菌根の実験をしにわざわざルーマニアの辺境の村からやって来た、スペンサーの師であるマザー・ミランダ。なんでも最近娘を蘇らせる実験をしているとか。

 

 

 ダニエル、アネット、アレックス、スペンサー、ニコライの数多の実験を生き延びたクイーンとアリサ、そして他二名の生存者に、悪しき聖母が迫る。

 

 

 

 

 

 

《「さあ、儀式を始めよう。恐れるな、死は一瞬だ。抗っても苦しむ時間が長くなるだけだ。我が娘の糧となるがいい…!」》

 

 

 その宣言と共に、ライカンやモロアイカを設置している部屋に入っていくサバイバーにご満悦なミランダ。しかし監視カメラ越しに見えたそれに首を傾げる。宙に浮かぶ、小娘……?はて、子供でそれも超能力者などサバイバーにいただろうか?宙に浮いているのは自分も飛べるので特に不思議に思わず、資料で見た中にいなかった覚えのない人物に首を傾げる。

 

 どこかで見たことあるような、ないような。そう思考を巡らせるこの聖母、100年近くも頑張っているうちに自分の娘の顔をド忘れしていた。

 

 後ろを見る。スペンサーやアレックスはにやついた笑みを浮かべているので、まあ普通の事なんだろうと納得することにして、サバイバー四人がライカンとモロアイカひしめく部屋に入ったのを確認すると鍵をかける。

 

 

《「そこから先は地獄への一方通行だ」》

 

 

 するとまたもや不思議なことが起こった。決して狭くない、カジノのBARを模した実験室。無様に這いずるサバイバーたちを観察するはずの監視カメラの映像に、なにかが横切った。不思議に思って監視カメラの映像を切り替えて横切ったものの正体を探る。見つけた。壁に頭からめり込んだライカンだった。

 

 

「は?」

 

 

 思わず呆けた声が出る。今回のサバイバー四人は、レーザートラップでサバイバーを全滅させたスペンサー以外の四人のマスターマインドが行った実験で生き延びた最後の生存者を集めた蟲毒の様なものだ。タイラント、Gウィリアム、アレックスが独自開発した巨大な食人植物の生物兵器ヤテベオ、ネメシス。それらから生き延びた実力を持つ、だが供物でしかない人間たち。

 

 

「…ゾンビ、じゃない?こいつらはなんだ?」

 

「狼男と…ミイラ?」

 

『ライカンとモロアイカだよ。懐かしいなあ。まさかと思ったけどマジでミランダみたい』

 

 

 面識あるアネットは担当してなかったので知る由もない事実なのであるが、サバイバーにはアメリカ中から集められた正真正銘の一般人の他、拉致されたクイーンやアリサの姿もあった。哀れ対面したタイラントとヤテペオは完膚なきまでに叩きのめされていた。南無三。

 

 

《「ど、どうやら存外やるようだ。だが次はそうはいかないぞ」》

 

 

 それなりに数をそろえたライカンとモロアイカを薙ぎ払われ、粘液糸で監視カメラも塞がれ、さらに施錠した扉も蹴破られてしまったミランダは震え声を上げながらも虚勢を張り、ある植物の粉塵を内蔵した地雷を先の部屋に設置する。これは彼女の部下の一人、ドナ・ベネヴィエントの幻覚に用いる、菌根に感染した特殊なものだ。上質な恐怖を味わせ、ショック死にまで至らせることができるこれは今回の実験と実に噛みあっていた。

 

 

「うわぁあああああっ!?」

 

「きゃああああああっ!?」

 

 

 ライカンとモロアイカが相手にならず恐いものがないからこそずんずん進むアリサが引っかかり、粉塵が巻かれて案の定、同行していた一般人二名が悲鳴を上げる。クイーンとアリサも恐怖に顔を慄かせておりご満悦のミランダ。しかし、監視カメラ内の少女……つまりエヴリンが指を変な形に組んだと思ったら、すぐ正気に戻ってしまった。残り二名もクイーンとアリサに揺さぶられて正気に戻る。失敗だ。

 

 

「ぐぬぬ……何なんだあの子供は!?」

 

「子供?ミセスミランダ、いったい何のことを言ってるんだ?」

 

「師よ。子供などどこにもおらんですよ」

 

 

 憤慨するミランダだったが、ダニエルとスペンサーに子供などいないと言われて血の気が引く。幽霊でも見ているというのか。ならばと、切札を切ることにした。

 

 

《「興味深いが、無駄な抵抗だ。殺戮の限りを尽くせ、ドミトレスク」》

 

「マザー・ミランダ。あなた様に最高の血をご用意することを約束いたしますわ」

 

 

 ミランダの言葉と共に降り立つのは、白いドレスに身を包み帽子を被った巨大な夫人。オルチーナ・ドミトレスク。とっておきを持ってきてくれとスペンサーに言われたミランダが持ち込んだ自分に忠実で無敵を誇る(しもべ)である。

 

 

「バラバラに斬り刻んであげる…!」

 

 

 ドミトレスクの鋭い爪が、アリサが防御のために構えた両腕を斬り裂いて両断、血が噴き出てドミトレスクは舌なめずりすると、糸を伸ばして背後から襲い掛かってきたクイーンのパンチを受け止め振り返りざまに腹部をざっくり斬り裂いた。

 

 

「……スペンサー。人間は、手から糸を出すのか?」

 

「……多分、できるのでは?」

 

「そうか……」

 

「いや出ねーからな?」

 

 

 その光景に首を傾げるミランダとスペンサーにツッコむダニエル。師弟二人は馬鹿だった。

 

 

「あら?血が出ないわね。つまんないわ!」

 

 

 斬り裂いても血一つでないクイーンに首を傾げ、頸を掴んで締め上げるドミトレスク。しかし、両腕を即座に再生させたアリサが背後から羽交い絞めにしてクイーンを開放、特に苦しんでもなかったクイーンは粘液硬化した右拳をドミトレスクの腹部に叩き込み、アリサが離れた瞬間に殴り飛ばした。

 

 

「よくもやってくれたわね…!」

 

 

 スロットマシンに頭から突っ込んで、その衝撃でスリーセブンが出てけたたましい音が鳴り響く中、憤怒の顔でのしのしと歩くドミトレスク。障害物を破壊しながら迫りくるドミトレスクの前に、エヴリンが飛び出してクイクイッと人差し指を動かして一言。

 

 

『この、態度も身長も胸もお尻も顔も全部クソデカオバサン!』

 

「誰がよ、クソガキ…!」

 

『鬼さんこちら、ここまでおいでー!』

 

「待ちなさい!」

 

 

 壁をすり抜けて逃げるエヴリンを、壁を粉砕しながら追いかけるドミトレスク。彼女以外にクイーンやアリサたちを阻めるはずがなく、あっさりと攻略されて脱出を許してしまう。

 

 

「なんなんだやつは!?」

 

 

 ミランダは恥をかかされた怒りでキレた。




ハイゼンベルクと同じ声のダニエルさん。結構好き。

久々登場したのにろくな目に遭ってないミランダとドミトレスクは泣いていい。けどレムナンツ本編はこんなノリだったのよね。

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file3:20【烏の涙】

どうも、放仮ごです。最近サイコブレイクとか夜廻とかforestとか昔のホラゲに再度はまってます。人ならざるクリーチャーが出るホラゲはやっぱりいいものですねえ。

今回はモリグナとの決着。楽しんでいただけたら幸いです。


「つーかまえーたー!」

 

は、はなせ!スタぁあああああああ!?

 

 

 上半身を丸齧りされ、少女とは思えぬ剛力で“咀嚼”され絶叫を上げる女帝モリグナに、エヴリンは思わず合掌する。自分が囮になって、結構素早いガンマちゃんが背後に近寄って不意打ちする、それだけの作戦だったが効果覿面だったようだ。

 

 

なめるな!スタァアアアズ!

 

「ふがっ!?」

 

 

 すると背中の翼が触手の様に蠢いて、無理矢理ガンマちゃんの大口をこじ開けて脱出する女帝モリグナ。しかし痣だらけで赤い血を滴らせているので決してノーダメージではないらしい。その怒りからか、ガンマちゃん本体の首を一本の翼を変形させた触手で絞め上げ、残り三枚の翼を羽ばたかせて天井を突き破って急上昇、夜のラクーンシティに舞い上がる。ちょうど駅のすぐ傍だった。

 

 

「んん……があぶ!」

 

ぐああっ!?

 

 

 ガワの口を勢いよく閉じて翼を噛みちぎることで逃れたガンマちゃんが、そのゆるキャラの如きぽよよんとした体を跳ねさせて、もぞもぞしながら立ち上がり、口を開いて本体で両腕をかざしてがおーと威嚇する。通常の人間と違って腕を外側に出せないため、一人で立ち上がるのにコツがいるらしい。

 

 

いいだろう、お前も食い殺してやるぞスタァアアズ!

 

「エヴリンと、やくそくしたー。おまえからー、リサ?をとりかえすー!」

 

 

 リサの身体である噛みちぎられた翼を再生させ、四枚の翼を羽ばたかせネメシスの巨体を突撃させる女帝モリグナ。ガンマちゃんはぼてぼてと可愛らしい足音を立てながら突進、大口を閉じてその丸い頭で頭突き、女帝モリグナの振るったネメシスの拳を皮膚の弾力を持って弾き返す。弱点である本体さえさらさなければ打撃に対して滅法強かった。

 

 

きさまっ…!?

 

「どっこいしょー!」

 

うおおおおおおっスタァアアズ!?

 

 

 ならば右拳を突き出し、右手首から触手を伸ばして串刺しにせんとする女帝モリグナだったが、突き刺す直前に大口が開いて本体が顔を出したガンマちゃんが両手を伸ばして触手をキャッチ。その、腕いらずの両足でめいっぱい踏み込んで、グルグルグル!とその場で回転。触手を斬り取る間もなく振り回されて、己を構成しているすべての脳をシェイクされた女帝モリグナはそのまま手を離され、ダウンタウンのクリスタルプロムナードを吹っ飛んでいきおもちゃ屋「トイアンクル」の看板に激突。

 

 

体が、重い……リサが抵抗しているのか…?

 

 

 上半身を起こして頭を振る女帝モリグナの頭上で、店の屋根の上に設置された、それがぐらりと揺れる。トイアンクル社の創業者Mr.チャーリーをモデルに作られたマスコットであるチャーリーくんの陶器製の首ふり人形を模した巨大な立体看板だった。不幸にもねじが取れかかっていたそれが、女帝モリグナが吹っ飛んできて激突した衝撃で完全に外れ、落ちてきたのだ。

 

 

ぬううおおおおおおおっ!?

 

 

 情けない声を出しながらチャーリーくんの巨大な頭部に押しつぶされる女帝モリグナ。それを見たガンマちゃんは「やっちゃったー……」と言わんばかりに大口の中の本体が口を手で覆ってはわはわしてる。エヴリンはそんなガンマちゃんを見てほっこりしていたが、地響きと共にトイアンクルから少し離れた道路が吹き飛んで女帝モリグナが顔を出したことで気を引き締める。どうやら道路をぶち抜いて下水道に入ることで難を逃れたらしい。

 

 

『完全に怒っている……ごめん、こんなことしか言えないけど気を付けてガンマちゃん!』

 

「がんばるー!」

 

お前は喰う価値もない。ただ殺す。死んでも殺す。殺し続けてやる!スタァアアアズ!!

 

 

 ブチギレながら四枚の翼を羽ばたかせ、咄嗟に大口を閉じて身を守ったガンマちゃんの顎を蹴り上げて空中に蹴り飛ばし、触手で足を掴んで勢いよくアスファルトに落下させるネメシス。

 

 

「ぐえーっ」

 

『ガンマちゃん!?』

 

 

さすがのガンマちゃんも目を回して本体の顔を出してしまい、女帝モリグナはその顔目掛けて拳を振り下ろそうと、して。頭部に炸裂した弾丸に、首を横に向けるとそこには駅から出てきてハンドガンを構えたジルがいた。

 

 

『ジル!』

 

邪魔をするな、スタァアズ!

 

「生憎とその子の顔、知ってる顔でね……殺されたら目覚めが悪いのよ」

 

 

 ネメシスが使っていたものを回収したグレネードランチャーを構えて、シュポンと音を立てて榴弾を発射するジル。女帝モリグナはネメシスの右手で榴弾を掴んで爆発を握りつぶし、のしのしと歩いて突進。翼を変形させた触手を叩き込み、ジルはローリングで回避。回避しながら装填されている弾を取り換えて、射出するジル。女帝モリグナは再度握りつぶして対抗しようとするが、握った瞬間その弾丸……焼夷弾が炎上。

 

 

『それは熱い』

 

ギアアアアアアアアッ!?

 

 

 全身のカラスの羽毛に燃え移って、炎上し絶叫を上げる女帝モリグナ。体を振り回し、無理矢理火を消そうと暴れていると、そこにアリサとニコライがやってきた。

 

 

「また姿が変わってるな……なんなんだやつは」

 

「え、何事!?エヴリン、リサは!?」

 

『あいつに取り込まれた!そこの白いずんぐりしてるのはガンマちゃん!味方だから攻撃しないで!』

 

「アリサ!そっちがニコライ?リサはどうしたの?」

 

「そのデカブツに取り込まれたってエヴリンが!取り返さないと!」

 

 

 速やかに情報交換を終えるアリサ、エヴリン、ジル。そうこうしている間にガンマちゃんが回復、もぞもぞと器用に立ち上がり炎上する女帝モリグナに突進、炎がガワに燃え移ってわたわたと悶える。

 

 

「いくぞー!あつーい!?」

 

『ガンマちゃーん!?』

 

「えっと……アホの子?」

 

「そうみたい……」

 

「本当にB.O.W.か…?」

 

おのれ……!スタァアアズ!!

 

 

 呆れている面々の前で、炎を消して黒焦げになりながらも咆哮を上げる女帝モリグナ。怒り狂いながらジルに手を伸ばそうとするも、アリサの軍用ハンドガンで撃たれて阻まれる。

 

 

「リサを返せ…!」

 

できん相談だ…!スタァアアズ!

 

 

 アリサ目掛けて四枚の翼を触手に変形させて串刺しにしようとし、アリサはバックステップで回避。触手を纏めて鷲掴みにすると力任せに引っ張り、意表を突かれた女帝モリグナは抵抗する。

 

 

放せ!スタァアアズ!

 

「いやだ!これ、さっきまでなかった…!リサが絶対関係してる…!」

 

「させない!」

 

「俺のボディガードだ、返してもらうぞ…!」

 

 

 抵抗して鉄拳を叩き込もうとする女帝モリグナだったが、近づいたジルがショットガンを顔面に叩き込んで怯ませ、スライディングしたニコライがサバイバルナイフで足の腱を斬り裂いて膝をつかせ、体勢を崩す。

 

 

『今だ!ガンマちゃん!』

 

「やっと、ひ、きえたー!」

 

 

 そこに、エヴリンの指示を受けたガンマちゃんが突撃。女帝モリグナの上半身を再び丸呑みにして、アリサが引っ張る中、口内で女帝モリグナの外皮であるカラスをむしり取っていくと、目的のものを見つけアリサに引っ張られる形で んべっとそれを吐き出した。

 

 

「ぐっ……」

 

「リサ!」

 

 

 それは四肢の皮膚がズタズタに裂けた状態のリサで、アリサに抱き留められる。ガンマちゃんは体内で特殊な消化液を用いて丸呑みにした相手をドロドロに溶かしてしまう効果があった。ゾンビを丸呑みにしたのもこの力があっての事だった。

 

 

馬鹿な…!?

 

 

 一方、リサを無理矢理引きはがされた女帝…否、モリグナ・ネメシスは上半身を飲まれたまま振り返る勢いでガンマちゃんの口から吐き出され、よろよろと翼を羽ばたかせてその場からの逃走を試みる。しかしそれを許すアリサではない。大事な姉貴分をひどい目にあわされて、堪忍袋の緒が切れていた。

 

 

覚えていろスタァアアズ!!体勢を立て直した次にはお前ら全員、取り込んで………!?

 

「いい加減にして!次なんてないんだから!」

 

 

 誰も追いかけることのできない空に逃れて性懲りもないことをほざくモリグナ・ネメシスに、アリサが持ち上げて投げ飛ばしたチャーリーくんの顔が激突。途轍もない衝撃に、不細工な顔がさらに不細工に歪んでいく。

 

 

またこれかぁああああああっ!?

 

 

 チャーリーくんの顔に押しつぶされたモリグナ・ネメシスは情けない断末魔を上げて、街中に落ちて行った。




ハンターγの一番の脅威って驚異的な消化能力だと思うの。

RE3名物(?)チャーリーくん回収。ネメシスがあれを利用した時、恐怖を感じるより先に爆笑したよね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:21【片付け屋】

どうも、放仮ごです。レジスタンス回を書いたのはなにも記念ってだけじゃないのだ。

まさかの参戦。楽しんでいただけたら幸いです。


「とんでもない轟音がしてたが大丈夫か、ジル!アリサ!リサ!ニコライ!……と、なんだ?」

 

 

 リサを私がおんぶして、ジルとニコライ、エヴリンとガンマちゃんと共に地下鉄に降りていくと、アサルトライフルを手にしたカルロスが出迎えてくれた。ガンマちゃんを見て目が点になってる。まあ見た目がちょっとぐろいゆるキャラだからしょうがないよね。

 

 

「ガンマちゃんだよ。こんな見た目だけど味方」

 

「ガンマちゃんですー」

 

「お、おう…?」

 

「気にしたら負けだぞカルロス」

 

「お前からそんな台詞が聞けるとはなニコライ」

 

 

 ため息をつくニコライにカルロスが驚いた声を上げる。エヴリンとリサがしっかり教育したらしいけどそんな驚くぐらい変わってるのか。打算ありきだけどリサの事、助けてくれたし信用してもいいんじゃないかなあ。

 

 

「わかった。その子も仲間と認めよう。今は戦力がいる。みんな、中に入ってくれ。これからの事を伝える」

 

 

 するとミハイルが列車の席からそう言ってきて、ちょっとだけガンマちゃんがつっかえるという問題が起きたものの、私、席に寝かされたリサ、エヴリン、ジル、カルロス、ミハイル、ニコライ、タイレルが後部車両内に集まる。マーフィーはどこだろ?

 

 

「準備は終わったわ。これでラクーンシティから脱出できるのよね?」

 

「ああ。お手柄だジル。君達と負傷している俺、運転席のマーフィーはこのまま市民と一緒に脱出する。カルロス、ニコライ、タイレル。お前たちは次の任務だ。街を救う手段になりうる」

 

『え。それは困るんだけど』

 

「これが最終列車じゃないよね?」

 

「心配するな。君達と市民を送り届けたらすぐにとんぼ返りだ」

 

「街を救うためならなんだってやる。なにをすればいい?隊長」

 

「それは…」

 

 

 なんか困ってるエヴリンをよそに、決意を胸に問いかけるカルロス。ミハイルが続けようとしていた、その時だった。

 

 

「そいつは困るな。全員、この地獄への急行列車に乗ってもらわないと非常に困る。おっと、動くな」

 

「ジル……アリサ……すまん」

 

 

 聞こえてきたのは、知らない声と知ってる声。振り向くと、避難してきた市民がいるはずの車両の中から、黒いレインコートを着用し右手から伸ばした鋭い三本の刃をダリオに突きつけている謎の人物を従えている、男が立っていた。カーキ色のジャケットに黒いインナー、黒い革のズボンとブーツを身に着けた、ウェスカーを一見思い出す、丸い黒のサングラスとオールバックの茶髪が特徴の白人だった。

 

 

『え、誰?本当に誰?』

 

「お前は、昨日保護した……」

 

「ボンジュール、崩れ落ちる運命にある時計塔の歯車に組み込まれた諸君。俺はダニエル。ダニエル・ファブロン。しがない片付け屋だ。こいつらは量産型B.O.W.のハンターπ(パイ)。おいしそうな名前だろ?記号の由来は円周率からだそうだ」

 

「…こいつ()?」

 

 

 意気揚々と聞いてもないのにジルが尋ねる。すると車両の中心にいる私達を囲むように窓を突き破って黒衣の人物が次々と来襲。ダリオに爪を突きつけ人質にしている奴含めて五体もいる。それだけじゃない、市民のいる車両にも二体同じような気配がする。全部で七体。そしてそのフードの下の顔は…!

 

 

「…また私の顔!しかもたくさん!肖像権!」

 

「その反応。お前がリサ・トレヴァーだな?いやあ、市民のふりして外の様子を窺っていたらお前の顔を見た時から我慢した甲斐があったというもんだ。サプライズは成功した!最高に上手くいったぜ、やっぱ俺最強!」

 

 

 私と、正確にはリサと瓜二つの顔が無表情で並んでいる光景は不気味そのものだ。いや、リサというよりはオメガちゃんやプサイちゃんに似ている。あの男の言葉が正しいなら、量産型のハンターらしいけど…!

 

 

「こいつらより前に作られたハンターΩとハンターΨは失敗作らしくてな?どうも自我が強くて失敗したらしい。だから、スペンサー卿直々の命令で俺が調教して心を奪った。今や此奴らは俺の言うことだけを聞く奴隷だ。素晴らしいだろう?」

 

『また、私のせいなの…?』

 

「何が素晴らしいだ、イカレ野郎め!」

 

「悪趣味な…!生物兵器と言っても、人の姿をしているのにそんなことができるなんて…!」

 

「おっと、動くなよ。少しでも動けばこの男だけじゃない、俺の後ろにいる市民の首も飛ぶぜ。ハンターπどもなら一瞬だ」

 

「くっ……」

 

 

 カルロスとジルが後ろ手に銃を構えようとしていたが、ダニエルに釘を刺されてしまう。この場にいる誰もが、動けない。

 

 

「これまで革命も、殺戮も、貧困も富も見た。いろいろな。この程度の狂気、世界中に在るもんだ。だが今日は新しい何かを目撃するかもな?いつだってさらなる狂気が見つかるもんだ。目をこらせばな。極限状態ならなおさらだ。そいつを一緒に見よう。いいな?よし。ミハイル・ヴィクトール。命令だ。車両を出発させろ。今すぐだ」

 

「…わかった。だから手を出すな」

 

 

 そうしてミハイルからマーフィーに連絡が入れられ、ダニエルの言うところの地獄への急行列車が動き出す。そしてダニエルは席に座って、煙草を取りだし一服し始めた。完全に舐め腐ってる…!

 

 

「そう怒るな。諸君にはたくさんの楽しいものを味わってほしいんだ。例えば死や、破壊や、病気。現代社会が与えてくれる楽しみ全部だ」

 

「……何をする気?」

 

「無論、殺戮だ。ゲームにしてもいい。最後の一人になれば生かしてやるってゲームだ。市民ってのは扇動で暴徒と化すもんだ。市民を守る立場なんだろう?ウィイイ?」

 

「この、外道め…!」

 

「お?いいねえ。気丈な奴は好きだぜ俺ぁ。活きがいいのはいいことだ。そうだろう?」

 

 

 人質にされながらもダリオが吐き捨てるも、ダニエルは愉し気にそんな私達に視線を向けてにやつく。すると、動いたものがいた。ニコライだった。だがそれは、決して事態が好転するものじゃなかった。

 

 

「素晴らしい。これが噂の片付け屋ダニエル・ファブロンのお手並みか!アンブレラも素晴らしい人間を雇ったものだ」

 

「あん?誰だお前」

 

「俺はニコライ・ジノビエフ。U.B.C.S.の監視員、つまりあんたと同じアンブレラに雇われた人間だ」

 

『この、蝙蝠野郎!』

 

「ニコライ!お前…!」

 

 

 エヴリンとカルロスが怒りに顔を歪める。ミハイルも眉を顰める。……信用しようとしたのが馬鹿だった。

 

 

「ああ、そういやそんなのがいるって聞いたなあ。それで?」

 

「俺を殺すことはあんたにとって不利益だ。そうだろう?」

 

「だな。味方をわざわざ殺すのは馬鹿のやることだ。そして俺は馬鹿じゃない。だが此奴らが許すかな?」

 

「……は?」

 

 

 瞬間、ニコライは右腕をすっぱりと切断されていた。私達を囲んでいたハンターπが腕を振り上げてその鋭い爪で斬り裂いたのだ。

 

 

「うおおおおっ!?」

 

「言ったよな?動くなって。俺が許可したか?してないだろ?ちゃんと忠告しといたぜ、俺は。こいつらは俺の言うことしか聞かないってな」

 

 

 右肘から先を失い、血が噴き出るそれを押さえて絶叫するニコライにダニエルが足を組みながら諭す。こいつは危険だと、確信させる出来事だった。

 

 

「まったく。アンブレラの事もペラペラ喋っちまって……誰一人生かす理由がなくなっちまったよ。実に残念でならないよ……恨むならこのニコライとやらを恨むんだな。やれ」

 

「だめ!」

 

 

 ダニエルの言葉に、ダリオを捉えているハンターπが腕を振り上げる。咄嗟に止めようと手を伸ばすが、他のハンターπに阻まれ斬撃が襲い掛かってきたので咄嗟に腕を盾にするが切断されてしまう。強さはオメガちゃんやプサイちゃんと相違ないなんて……いや、そんなことよりもダリオが!

 

 

「……黙って聞いてれば随分なことをしてくれるじゃない」

 

 

 しかし、ダリオに振り下ろされようとした腕が停止する。否、伸びてきた触手に止められた。椅子に寝かされていたリサの髪の毛から伸びたものだった。その瞬間、ジルとカルロスが動く。咄嗟にハンドガンを引き抜き、列車を繋いでいる扉に狙撃。窓ガラスを突き破り、市民に手を出そうとしていたハンターπたちの頭に当てて動きを止める。

 

 

「どりゃああああ!」

 

『ガンマちゃん!』

 

「りょーかーい!」

 

 

 その隙を突いて、切断された部位から生やした腕でダリオを押さえていたハンターπを殴りつけて、ダリオの手を取って引き寄せる。背後から襲い掛かってきたハンターπはエヴリンの指示でガンマちゃんが体当たりで弾き飛ばしてくれていた。

 

 

「形勢逆転、だよ!」

 

「正直に言おう。その一生懸命さには脱帽する。だが望みはない。今すぐ諦めろ」

 

 

 そう言って煙草を投げ捨てながら立ち上がり踏みにじったダニエルの傍に、ハンターπたちが控える。走る列車の中での戦いが始まった。




バイオハザードレジスタンスからダニエル参戦!市民のふりして部下と共に潜んでました。

ガンマちゃんの文書で存在を明かしていた量産型Ha-RT、πが登場。量産型ってことで円周率を意味する名前なんだけど別の意味にも聞こえるのはなぜだろう。

ニコライは、うん。リサ達の影響でちょっと詰めが甘くなってしまったゆえの結果。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:22【ネプチューン・ルスカ】

どうも、放仮ごです。完全異形のクリーチャーも書きたいけど、条件がなかなか難しい。

とんでもB.O.W.が登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「ようやく同じ土俵に立てたと思い込んで勝ち誇るとはおめでたいやつらだ。いいか?俺はゲームマスターでお前たちはプレイヤー。同じ土俵に立つことは、絶対にない」

 

「ダリオはニコライを連れて下がってて!」

 

 

 そう肩を竦めて言いながらダニエルは何もすることなく、ジル、カルロス、ミハイル、タイレルの放った弾丸の雨をハンターπたちが斬り弾き、己の身体を盾にして防いでいく。ならばと起き上がったリサが触手を、ガンマちゃんが体当たりを、私が拳を叩き込もうとするも、ハンターπが阻む。近づけない…!

 

 

「司令塔の欠如。往来のハンターの弱点だ。だがこいつらは教育により、自発的に動き俺を守り、俺の命令を遂行する。最高だぜ。なあ、そう思わないか?」

 

『司令塔があるハンターの強さはオメガちゃんでよく知ってるから強く言えない……ぐぬぬぬ』

 

「でも、その要が前に出てきたのは悪手だよ!」

 

 

 虎の子であるホットダガーを引き抜き、立ちはだかるハンターπに一瞬躊躇しながらも斬り捨て、ダニエルに肉薄する。こいつさえ殺せば、このハンターπたちだって殺さずにすむ……!

 

 

「…生憎だったな」

 

 

 瞬間、走行中の列車の壁に何かが外から突き立てられたかと思うと、横に大きく引き裂かれて壁が突破られてしまい、その衝撃で吹き飛ばされる私達。ダニエルは平然とポケットに手を突っ込みながら佇み、その背後……引き裂かれた壁だった場所の向こうに、反対車線の線路を爆走するなにかがいた。それは驚くべき存在だった。

 

 

「え、鮫!?」

 

『グラちゃん……じゃないなこれ!?なにこれきもっ!?』

 

 

 それは大きな鮫だった。某モンスターパニック映画に出てきたあの巨大鮫の様だ。ゾンビ化しているのか所々が腐った鮫ではあるが、目を引くのは下部。腹部を突き破って複数の人間の足や腕が生えていて、それがムカデの様にドタバタと動いて走っている。エヴリンがきもいというのもわかるが困惑の方が勝つ。なにこれ。

 

 

「そいつはネプチューン・ルスカ。ゾンビの足がタコみたいだろう?半分サメ、半分タコの怪物から取ったんだ洒落てるだろ?お前らが知ってるであろう洋館で飼われていたネプチューン・グラトニーとは別のB.O.W.さ。いやまあ正確には、餌にした人間の死体が腹ん中でゾンビ化しちまって、そいつらに噛まれて変異しちまったサメだからイレギュラーミュータントというんだったか?RT-ウイルスの影響も受けていてな、体内で結合しちまっているんだとよ。そいつを調教して、水路を使って連れてきたんだ。大変だったぜ?」

 

 

 言いながらハンターπの一体に抱えてもらい、列車と同じ速度で並走するネプチューン・ルスカと呼ばれたバケモノの上に飛び乗り巨大な背鰭に掴まり直立するダニエル。くそっ、距離を離された!あんな隠し玉がいるなんて!

 

 

「逃がすか!」

 

「逃げやしねえよ。せっかくの楽しい見世物だ、愉しまないとなあ?」

 

 

 ミハイルがが手榴弾を投げつけるも、ダニエルと一緒にネプチューン・ルスカの上に乗ったハンターπが斬り弾いて後方で爆発する。だめだ、手出しできない!それに、列車内で攻撃してくるハンターπたちも厄介すぎる!右腕を失ったニコライと負傷しているミハイル、戦えないダリオがいて庇いながらだから、ただでさえ戦いにくいってのに。今はカルロスやタイレルが応戦したり、ガンマちゃんが身を挺して盾になってくれてるおかげで無事だけどもたない!

 

 

「生き残りたきゃ素早く考えろ、逃げ切れるかもしれん」

 

『さっきの攻撃が来るよ!』

 

「その可能性は低いが、歴史ってのはいつも一番思いがけない方向に動くもんだ」

 

 

 エヴリンの警告と詩めいたダニエルの言葉。ダニエルが乗っているネプチューン・ルスカが並走しながら近づいてきて、鰭を押し付けてきて車体を斬り裂いていく。さっきの壁を破壊した攻撃か!このまま足場を奪うつもり!?

 

 

「させるか!」

 

 

 咄嗟に、菌根強化した右足を振り下ろして鰭を受け止める。鍔競り合う私とネプチューン・ルスカ。しかしそんなことお構いなく、背後から襲ってきたハンターπに背中を大きく斬り裂かれてしまった。さらにネプチューン・ルスカの口から鮫の歯を弾丸として乱射してきて、全身を貫かれた私は体勢が崩れて落ちそうになる。

 

 

「ぐううっ!?」

 

「アリサ!」

 

「お前たち、殺しちゃだめだぞ。RTに連なる奴は全員回収しないとだからな?」

 

「アンブレラは、性懲りもなく私達を利用するつもりなのか…!」

 

 

 私を触手で受け止め、長い腕で握ったネプチューン・ルスカの鰭を押し返しながら、ダニエルの言葉にブチギレるリサ。三十年近くも幽閉されていたリサだからこその怒りだった。

 

 

「おいおい。勘違いするなよ。生憎と俺はアンブレラの刺客じゃあないんだ」

 

「なんですって?」

 

「こいつらは確かにアンブレラ製のB.O.W.だがな。俺もスペンサー卿に雇われていたが今は違う。このままじゃ蜥蜴の尻尾みたいに簡単に切り捨てられそうだったからな、乗り換えたんだ」

 

 

 アンブレラの刺客じゃ、ない?なのに私達の身柄を狙うなんて、まさか。

 

 

「お、その顔。心当たりがあるみたいだな?じゃあ答え合わせだ。俺を雇ったのはサミュエル・アイザックスってやつだ。リサ・シリーズをできるだけ回収してこいってお達しさ」

 

「『「!」』」

 

 

 その言葉を聞いて、ジルやカルロス達はピンと来てなかったみたいだけど、私とエヴリン、リサの顔が鬼気迫る。サミュエル・アイザックス。私を作った、リサの尊厳を踏みにじった、怨敵。あいつの、手先。このハンターπたちも、奴が………そうと分かれば話は別だ。

 

 

「俺の目標は「RT-01“Empress(リサ・トレヴァー)」「RT-02“Blank”(アリサ・オータムス)」「Serket(セルケト)」「Centurion.Hekatoncheir(センチュリオン・ヘカトンケイル)」「Hunter.Ω(ハンターオメガ)」「Hunter.Ψ(ハンタープサイ)」「Yawn.Echidna(ヨーン・エキドナ)」「Neptune.Gluttony(ネプチューン・グラトニー)」「Morríguna(モリグナ)」「Alligator.Styx(アリゲーター・ステュクス)」「GraveDigger.Hastur(グレイブディガー・ハスタ)」…か。お前らはどれだ?見た感じ特徴からしてEmpressとBlankか?」

 

『ヨナやグラ、リヒトまで……』

 

 

 手帳を取り出しライトを当てて読み上げながらそう尋ねてくるダニエル。なめくさっている。ハンターπの連携を前に私達は完全に劣勢。しかも遠距離攻撃で妨害してくるネプチューン・ルスカまでいる。完全に奴が優勢だ。それは認める。だけど、だけどだ。

 

 

「お前たちの思い通りになってたまるか!」

 

「こりゃすげえ!自信と勇気にあふれてる。いいことだ。だが現実も直視しないとなあ?アッハッハァー!」

 

 

 ダニエルが取り出した悪趣味な金のライター……型のスイッチが押される。するとネプチューン・ルスカの外皮を突き破って無骨な銃口が出現。その矛先が、ミハイルに向けられる。タレット!?

 

 

「なあミハイル・ヴィクトール!U.B.C.S.の荒くれ者はお前がみんなを1つにしてんだよな?ウィイ!?だったらお前から消すとしよう。お前が死んだら仲間達はあとに続くかな?どれ見てみよう」

 

「ミハイル!」

 

 

 銃撃が、動けないミハイルと、ミハイルを守っていたカルロスとタイレル、その傍のニコライとダリオに襲い掛かる。咄嗟に私は飛び込んでミハイルの盾となり、他の二人はリサが触手で引き寄せて回避させ、ニコライとダリオはハンターπにズタボロにされていたガンマちゃんが庇う。途轍もない衝撃が背中に襲いかかってきた。

 

 

「ぐうううっ!?」

 

「アリサ!おい、しっかりしろ!?」

 

「美しい背中が台無しだぞ。お前たちがその程度じゃ死なないことは知っている。なあ、不死身ってのはどういう気分だ?痛みも快楽に変換されるのか?」

 

 

 ミハイルに介抱されながら、煽ってくるダニエルを睨みつける。今なら視線で人を殺せそうだ。だけど、私達はみんな生きて、時間を稼げればそれでよかったんだ。

 

 

「私達の勝ちだ」

 

「なに?」

 

『不死身じゃないことを呪え!スゥウウ……ワアアアアアッ!!』』

 

「ギギギ…!?」

 

 

 隙を窺っていたエヴリンが、ネプチューン・ルスカの目の前で超至近距離鼓膜絶叫を炸裂させる。足を踏み外し、転倒。そのまま上に乗ってたダニエルやハンターπも巻き込んで、線路にぶつかって派手に吹っ飛んでいった。この列車と並走する速度で走ってたんだ、衝撃は計り知れない。さすがに、疲れたな……。




ネプチューン・ルスカのノリはシャークネードとかシャークトパスみたいなサメ映画。元ネタはちょっと前にアニメにもなってたゾン100の鮫と、バイオ6のシモンズ・ビーストです。系統としてはサーベラスやエリミネート・スクナタイプ。列車に並走するスピードを持ち、鰭で斬り裂いてくる他、グラでお馴染み牙マシンガンや、体内に銃器も内蔵してたりかなり厄介。

ダニエルを雇っていたのがアイザックスだとも判明。あの男、ちゃっかり国外逃亡してるくせに欲張っております。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:23【最悪の現実】

どうも、放仮ごです。いろんな意味で閲覧注意回。書いてて申し訳なくなって一回執筆やめて一日かかりました。心してお読みください。


「「「「「……」」」」」

 

 

 ダニエルがネプチューン・ルスカと一緒に乗ってたハンターπ一体と共に吹っ飛んだあと、残った六体のハンターπたちはまるでロボットの様に静止。市民と協力して縛り上げ、私達は市民が怪我してないかの確認と、ニコライの治療を行っていた。市民に信頼あるアリサとジルが安否確認、U.B.C.S.の面々とリサ、ガンマちゃんがハンターπの見張りとニコライの治療に当たっていた。

 

 

「ちくしょう!あのキザ野郎め、よくも俺の腕を……」

 

『これだけ元気なら問題ないね』

 

「裏切った報いよ。あれだけ言い聞かせたのに」

 

「ぐっ…」

 

「ニコライ。お前の言ってたことは本当か?」

 

 

 リサの辛口に押し黙るニコライの傷口に赤緑ハーブを施してから包帯で縛り上げて、カルロスが問いかける。ニコライは逃げられないと悟ったのか、視線を逸らしながら続けた。

 

 

「……俺たち監視員は派遣先の地域でアンブレラにとって存在すると都合の悪くなる記録や人物等の抹消や抹殺、現地に投入したB.O.W.や発生したイレギュラーミュータントの調査や情報収集を任務とする特命を受けた人間の一人だ。他にも何人かいたはずだ。アンブレラにとってお前らU.B.C.S.は、余計なことを知れば死んでもらうだけの捨て駒に過ぎない」

 

「ダニエルはそのアンブレラじゃなかったわけだけど」

 

「……ならもう、アンブレラのために働く必要はないな」

 

「そうか、お前も人間だ。逃げるのは賢明だよ」

 

「俺はアンブレラに関係なく、救える市民を救う。それは変わらない」

 

「その通りだカルロス。俺も同じ気持ちだ。絶対に救うぞ」

 

「俺も尽力させてもらうよ」

 

「……本当の馬鹿かお前たちは」

 

 

 改めて決意するカルロスとそれに頷くミハイルとタイレルに、心底信じられないとでも言いたげな表情を見せるニコライ。

 

 

「……理解できん。誰だって自分の利益が大事だろう。大事なのは自分の命だけだ。他人のために自分の命を懸ける?金にもならないのに」

 

「守銭奴には理解できないでしょ。こういうところがあるから、私は人間が好きだよ。……貴方を見捨てることだってできたんだ。カルロス達がそんな人間だったら今頃死んでるよ?」

 

「っ……」

 

 

 リサの諭しにぐうの音も出ないニコライ。ハンターπたちの猛攻から手負いのニコライを守り抜いたのはカルロス達だ。それは決して覆せない事実だ。

 

 

「市民を一人でも多く救うためにも、……確保しないといけない人間がいる。スペンサー記念病院の主任研究員で、生物学博士のナサニエル・バードだ。彼がウイルスのワクチンを開発したという情報がある。これが本当なら確保しなければならない」

 

『ワクチン作れるってアンブレラじゃね?違う?』

 

「なるほど。それが本当なら、街を救う鍵になる…!」

 

「そのためには……マーフィー、いったん列車を止めろ。……どうした?マーフィー」

 

「どうしたんだ、隊長?」

 

 

 運転席にいるマーフィーに無線を入れるミハイルだったが、反応がない。嫌な予感がして、私は壁をすり抜け人々の頭上を越え、運転席に飛び込む。フラッシュバックしたのはビリーと出会った黄道特急の一幕だった。

 

 

『マーフィー!?』

 

 

 そこには、静止している八匹目のハンターπと、頸動脈を斬られて倒れているマーフィーがいた。明かに致命傷だった。なんで気付かなかった?伏兵がいた……!嫌な予感がして見てみれば、ブレーキが斬撃破壊されて火花が散っていた。ダニエルめ、ミハイルがマーフィーに発進する指示を送った後で始末したんだ…!

 

 

『リサ!アリサ!不味いよ!ハンターπがもう一匹いた!マーフィーが殺されていて、ブレーキが壊れてる!』

 

「え!?」

 

「ミハイル!マーフィーがやられた…!」

 

「なんだって!?」

 

 

 慌てて運転席の中に入ってくるカルロス。ブレーキが壊れ、ノンストップで走り続ける列車が脱線しかけて、線路と車輪の間から悲鳴を上げる。まずい、まずい!まずいよ!黄道特急の時はクイーンが身体を張って止めたけど、それでも脱線して大惨事は免れなかった。今回は、地下だ!脱線したら終わりだ!

 

 

「私が止める!」

 

 

 ネプチューン・ルスカに斬り裂かれた壁からリサが長い腕を使って外に出て、天井を四つん這いで這って先頭車両まで進んでいき前方まで来たがしかし、そうは問屋が卸さなかった。列車が、傾いたのだ。

 

 

「「「うわあああああああっ!?」」」

 

「ッ…!?」

 

 

 悲鳴を上げる市民たち。目を見開き、咄嗟に右側に寄って髪の毛を伸ばし、地面を突いて車両を無理矢理戻し、弾かれたように運転席に飛び込むリサ。それだけで髪の触手の先端がズタボロだ。走る列車を支えるのは無茶だって!

 

 

『やめて!リサが死んじゃう!』

 

「止めなきゃ、みんな死ぬ…!」

 

『ううっ……どうとでもなれぇええええ!』

 

 

 私の目的はあくまでG6の打倒と、みんな揃って生き抜くことだ。リサもそのひとりだ、一人で無茶させるよりは…!そんな思いと共にリサに飛び込み、モールデッド・エンプレスになって窓から前方に飛び出し、反転して足で線路を踏みしめ菌根を伸ばして固定、両腕を突き出して列車を受け止める。

 

 

「『とまれぇええええええっ!』」

 

 

 死力を振り絞って列車を止めようと試みて、徐々にスピードが落ちていく中で、強化された五感で気付く。気づいてしまう。フードで隠されたハンターπたちの耳元に付けられた、無線機に。まずい……!?

 

 

《「オイオイオイ。そこは大人しく一回死んでおけよ?そしたら回収が楽になる」》

 

「『だっ……!?』」

 

 

 生きていたダニエルの声と共に動き出す。静止してただけで唯一拘束されてなかった、運転席のハンターπがカルロスたちを薙ぎ払った窓の外に身を乗り出し、私達の腕を斬り裂いてきた。踏ん張りがきかず、私達は列車に足から引きずり込まれ、列車が跳ねる。もう私達には、止められなかった。

 

 

「『ぐ、ううううううっ!?アリサ、ジル、カルロス、ガンマちゃん、みんな……!?』

 

 

 そして爆発。列車に轢かれて後方に弾かれて、ズタボロの姿でそれを見てしまった私達は、爆風に吹き飛ばされ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……起きて、起きてよ!ジル!カルロス!」

 

 

 脱線の直前、運転席にジルと共に飛び込んでた私は、ジルとカルロスを咄嗟に出した触手の束で覆うことで守りながら列車から投げだされ線路を転がっていた。列車は爆発、炎上して爆発の衝撃で崩れ落ちてきた瓦礫に埋もれていた。私はその現実から目を逸らし、気を失っているジルとカルロスに呼びかける。お願い、せめて二人だけでも生きて…!

 

 

「……アリサ?何が起きたの?」

 

「助かったのか…?」

 

「ジル!カルロス!」

 

 

 目を覚ました二人に抱き着く。よかった、本当に……。ジルとカルロスは、炎上している列車の残骸を目にして、言葉を失い立ち尽くしていた。

 

 

「そんな……こんなことって」

 

「……俺達は、守れなかったのか」

 

「生き残りを、探そう。誰か生きているはず、そうだよね?」

 

「…アリサ」

 

 

 慌てて炎に巻かれるのも構わず瓦礫を持ち上げて、言葉を失う。黒焦げの人型がそこにあった。嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 

 

「…このままここにいたら私達も危ないわ。移動しましょう、アリサ」

 

「…隊長たちならきっと無事だ。ああ、そのはずさ」

 

「…うん」

 

 

 呆然と立ち尽くしていた私を連れて、非常口から地上に続く道を進み、地下道から出るとサーキュラー川沿いの公園に出た。川の向こうにはセントミカエル時計塔と、その横のスペンサー記念病院が見えた。こんなところまで来たんだ……。

 

 

「……あのスペンサー記念病院にナサニエル・バードがいる可能性が高い。ワクチンを手に入れて、街を救う。それしかない」

 

「ええ、そうね……アリサ、行きましょう」

 

「うん……」

 

 

 カルロスが提案した言葉に頷き、痛む体に鞭打たせて三人で歩いていく。その先、サーキュラー川にかかる橋の前にあるベンチに、男は座ってくつろいでいた。傍には黒衣の人物が一人だけ佇んでいる。…あのサメの怪物に乗っていた個体だろうか。

 

 

「よっ。アリサ・オータムス。俺の用意したアトラクションは楽しんでくれたかい?」

 

「ダニエル…!」

 

 

 私はジルとカルロスの静止の声を聴かずに飛び出し、ボロボロのダニエルを守るように立ちはだかったハンターπと激突した。




全てを覆す絶望の現実。マーフィー死亡、エヴリン、リサ、ミハイル、ニコライ、タイレル、ダリオ、ガンマちゃんが行方不明という最悪の結果。

ハンターπに助けてもらってボロボロになりながらも生きていたダニエル。ハンターπに仕込んでいた無線と控えさせていたハンターπ八匹目を使って、列車に乗ってたハンターπごと大惨事を引き起こす結果に。イメージは某コーヒーを淹れるのが苦手な地球外生命体。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:24【災獣胎転(バイオたいてん)

どうも、放仮ごです。バイオ3編も佳境に入ってまいりました。最初に位置関係をおさらいしてます。スマホだと見にくいのは申し訳ない。

楽しんでいただけたら幸いです。


列                 B

車                 地

の                 点 

残 ―――――――――― 線路 ―――――――――――――――

骸         A

          地

          点                 C

                            地

                            点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さすがに、列車に轢きつぶされたらどうしようもないわね」

 

『……』

 

 

 C地点の線路では、四肢が潰れて大の字に転がっている血に濡れた白いワンピースを着た女性と、空中で体育座りしている黒髪黒服の少女がいた。女性は力なく虚空を見つめ、少女は頭を抱えて足の間に顔をうずめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 B地点。列車が脱線した線路と反対車線の線路に、奇妙なものが転がっていた。異様に膨らんだ真珠色の眼鼻がない口だけのゆるキャラみたいなものだった。もぞもぞと動くそれは、苦しそうに悶えるとんべっと口に含んでいたそれを吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐううっ……生きてる、のか…?」

 

 

 そしてA地点。線路の上でニコライ・ジノビエフは目を覚ます。なぜか自分は死んでいなかったことにまず疑問が出る。片腕を失い、血も大部分を失い、受け身を取ることすらままならなかったはず。脱線に巻き込まれたのになぜ生きて、と自分の身体を確認しようとして、目の前に誰かが立っていることに気付いた。

 

 

「あはぁ。めぇさめたぁ?」

 

「グレイブディガー…!?」

 

 

 そこにいたのは、グレイブディガー・ハスタ。慌てて身構えるニコライだったが、黄色いレインコートを身に纏いフードに隠れ影になっている顔から視線を感じるが、殺意は感じない。それどころか、親しみさえ……

 

 

「まじった。なかまぁ」

 

「仲間…?俺が…?何の冗談だ…!?」

 

 

 笑って流そうとするニコライだったが、グレイブディガー・ハスタの指さした個所を見て絶句する。それは、ニコライの右足だった。ズボンに覆われてなお分かるほど、複数の並んだ穴が開き少ない血が流れている。見るからに軽傷、だがどこで負ったのかを思い出して血の気が引いた。 

 

 

 

―――――「ばぁ」

 

―――――「うわっ!?」

 

―――――「がぁぶがぶぅー」

 

―――――「ぐおおおおっ!?」

 

 

 あの時、リサの援護をしていた時に、地中から不意打ちしてきたグレイブディガー・ハスタに足を掴まれ、噛みつかれた。まさか、まさかと脳に鳴り響く警鐘を無視して、カルロスが巻いてくれた包帯を剥がしていくニコライ。そこには、綺麗に斬り裂かれてまっすぐな断面があるはずだった。しかし、既に傷口が肉で埋められて再生を始めていて。自分が、よりにもよって適合しなければ生き地獄を見るRT-ウイルスに感染してしまったと確信してしまった。

 

 

「けらけらけら。なおして、あげる」

 

「い、いやだ。俺はお前の仲間じゃない……人間だ、人間なんだ…!」

 

 

 「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

「けらけらけら」

 

 

      「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

   「けらけらけら」

 

 

 

       「けらけらけら」

 

 

                       「けらけらけら」

 

 

  「けらけらけら」

 

 

 

 心底怯えて腰が抜け、四つん這い……片腕がないので三つん這いで逃げ出すニコライを、地下ゆえ反響する笑い声と共に歩いて追いかけるグレイブディガー・ハスタ。掌を上に向けて人差し指を向ける独特の構えをすると、壁を突き破ってリサ達を襲った時と比べると格段に細くて小さいグレイブディガーが姿を現し、ニコライの失われた右腕に飛び込み噛みついてしまう。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 痛みを感じず首を傾げるニコライの視界で、噛みついたグレイブディガーが圧縮されるようにして縮んで変形していき、新たな右腕になったことに驚愕する。指を動かしてみる、グーパーと握って開く。自在に動く。右腕が帰ってきたことに笑うニコライ。ただただ、嬉しかったがすぐに損得勘定が顔を出す。

 

 

「…こいつはいい。リサと同じ不死身の肉体……こいつがあれば、俺は大儲けできる。そうだ、ハスタといったか?お前と組めば命の保証と大金が……」

 

「たりない?もっと、もっと、もっと!」

 

「え…?」

 

 

 するとハスタの声に呼応するように次々と壁を突き破って姿を現す未成熟のグレイブディガーたち。そのすべてが自分を向いていることに、困惑のあとに何が起きるのか理解してしまって恐怖するニコライ。踵を返し走って逃げようとして転び、今度こそ四つん這いで逃げようとするニコライに、無情にも掌を上に向けて人差し指を向ける独特の構えがニコライに向けられた。

 

 

「なかま、なかま!みんないっしょ、いっしょだ!」

 

「や、やめろ!来るな!もういい、もういいんだ!うわああああああああっ!?」

 

 

 背中に、肩に、右腕に、左手に、後頭部に、腰に、左足に、右足首に、後頭部に、胸に、首に、顔に。追いかけ、先回りし、思わず立ち上がったニコライに次々と噛みついて食い破り吸い込まれるようにして、次々と取り留めなく壁から飛び出してくる、ラクーンシティ中に潜んでいた未成熟のグレイブディガーすべてが取り込まれていく。

 

 

「すごい!すごい!みんな、はいった!ぜんいん、いっしょ!」

 

「うぐぐぐっ……!?」

 

 

 なのに一切姿が変わることなく、体内で蠢くものに必死に耐えながら、よたよたと外を目指して歩いていくニコライ。しかし耐え切れず、アナーキアの様にブクブクと膨れ上がっていき、全身から未成熟のグレイブディガーが飛び出して纏わりつかれる触手の塊のような姿になり果ててしまう。

 

 

「けらけらけら。たのしい、たのしい」

 

 

 変わり果てた姿に変貌し、グレイブディガー達が地面を掘り進んで降下していくニコライだったものを嘲笑うグレイブディガー・ハスタ。まさに悪魔の様な笑みだったがしかし、グレイブディガーに纏わりつかれたニコライだったものが両手を伸ばし、伸びたグレイブディガーにグレイブディガー・ハスタも纏わりつかれてしまう。

 

 

「まさか。やだ、やだ、やだ!やめて、やめて!?」

 

 

 グレイブディガー・ハスタは焦りから暴れてフードが取れ、紅い瞳に黒い髪の素顔をぐちゃぐちゃに涙で歪ませながら、降下し続けるニコライだったものに引きずり込まれていき、そして誰もいなくなった。

 

 

 ―――――――ラクーンシティの地下にて、物言わぬ繭は胎動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スペンサー記念病院。その研究室にて、白衣の男が注射器を手に震えていた。傍らには機械仕掛けの鐵の装甲を身に着けたずんぐりとした人型、ハンター・アーマードを侍らせている。

 

 

「わ、私は生きるぞ!死んでたまるか!」

 

 

 焦点を失った目で注射器を見つめ、それ……ハンター・アーマードが回収してきたアリサの血と肉片から作った血清を自らの心臓に突き刺す男、その名はナサニエル・バード。T-ウイルスに感染し、ワクチンでギリギリ人としての人格を保っていた男を照らす照明が壁に映し出す影が膨れ上がっていく。

 

 

「グオオオッ、オオオオオオオオッ!?」

 

 

 雄叫びを上げるその存在は、ハンター・アーマードをその強固な鎧ごと踏み潰してミンチにすると貪り食らう。肥大化する肉体の重さに四つん這いとなり、皮膚を突き破った全身がドス黒く変色した赤黒い筋肉に覆われ、両手両足には鋭く太い爪が、肥大化した天才たる脳に視界を潰され、口が裂けて縦に裂けている舌が顔を出す。それは、リッカーに酷似していた。

 

 

 取り込んだ血清が心臓を介して全身に伝搬し、ゾンビに噛まれて感染していたT-ウイルスに「適応」し、投与していたワクチンに「適応」し、ハンター・アーマードという栄養を摂取し「適応」した。

 

 

 本来適合していない肉体を、大量のワクチンを用いていたことで、人型ではない異形の姿で適応してしまった存在。

 

 

 ―――――その名を、ブラインドストーカー




実はハスタに噛まれてたニコライ、脱落。光堕ちしかけたとしても、こいつがゾンビを誘導したせいでU.B.C.S.が壊滅したという罪は消えないのだ。利用しようとしたものと同じものになり果てるという罰を受けてもらいました。

同時にハスタも脱落してグレイブディガーの繭が完成。そしてスペンサー記念病院ではブラインドストーカーなる怪物まで誕生していて……?ハンター・アーマードは犠牲となったのだ……。


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file3:25【不撓不屈で立ち上がれ】

どうも、放仮ごです。ヴィレッジ編結構端折ってたから追加で書きたいなと思う今日この頃。流れの都合上ゲームの展開が優先になったけどもう少し四貴族、深堀できたよなあって。

今回は詰め込みまっせ。楽しんでいただけたら幸いです。


 空中で体育座りして蹲り、くるくる回る私を見つめる五つの影があった。帽子を被ったでかい影。人形を持った小柄な影。ずんぐりとした人間とは思えない影。ハンマーを担いだシルエットだけでカッコイイ影。六枚の翼を有している知らなければ天使と間違えるかもしれない神々しい影。それは私にしか見えない、私の弱い心を菌根が形にした影だった。

 

 

―――――「一人じゃ何もできない子供のくせに、あの男と同じことができると思ったのかしら?」

 

 

 うるさい。私だって、イーサンの娘でローズの姉だ。私にだって、何か変えられるはずなんだ。

 

 

―――――「ヴェェエエエエイ!ザマァ!……って言いたいところだけど、あんまり哀れすぎて同情するぜ」「過去に囚われた私達にはなにも変えられないわ」

 

 

 やめて。同情はやめて。私はお前たちとは違う。あの滝の傍の屋敷に囚われてままごとをしていたお前たちとは。

 

 

―――――「お前も俺様と同じだ!親がいないと、泣き叫ぶことしかできない!」

 

 

 違う。同じじゃない、お前と同じなわけがない。私は、私……は……。

 

 

―――――「もう諦めちまえ。そっちの方が楽だぜ」

 

 

 やだ。マダオも、カールも諦めないで自由になったんだ。プサイちゃんとも約束したんだ、諦めないって。

 

 

―――――「足掻いても無駄だ。お前はあの男ではない。奇跡は起こせない。そういう意味では、私の娘だな」

 

 

 うざい。今更母親面するな。私の親はイーサンとミアだ。お前じゃない。……だけど、だけど。100年以上もかけて、成し遂げられない悲願と同じと言われたら……否定、できない。

 

 

「「「「「「お前には無理だ」」」」」」

 

 

 四貴族と聖母全員の声が重なり、ずしっとのしかかってくる。あの時。脱線した瞬間。私はこの時間軸でアネットを倒すことを諦めた。また、やり直そうとした。でもできなかった。まるでゲームでコンティニュー回数を使い切ったかのように、うんともすんとも言わなかった。そこで思い出す。368巡目、つまり今回。最後のコンティニューの際、頭の中で響く声がバグっていたことを。そして察する。少なくとも今の私に、コンティニューは使えないのだと。もしかしたらもう二度と使えないかもしれない。

 

 

『ごめんなさい、ごめんなさい……』

 

 

 救えなかったことの懺悔。すぐに、アリサたちの力を借りようとしなかった私の思い至らなさへの懺悔。クイーンたちを救えない私の不甲斐なさへの懺悔。強大な敵を生み出しといて何もできないことへの懺悔。プサイちゃんに約束は守れそうにない、という懺悔。謝ることしかできない。意味がないとわかっていても、謝ることしかできないんだ。

 

 

「あなたのせいじゃないわ、エヴリン。やり直したから敵が強くなるなんてそんな証拠何処にもない」

 

 

 列車に轢きつぶされて四肢を潰され、じわじわと再生中で動けないリサがそんなことを言ってくる。リサだからこそ言えることなんだろうけど、私はそうは思わない。

 

 

『……モールデッド・エンプレスになった時に私と記憶を同化したなら知ってるでしょ?戦うたびに強くなっていた。アネットだけじゃない、みんな!みんな!……モリグナだって、最初はリサを取り込めるだけの強さはなかった!あなたが死にかけたのは、私のせいで……こうなったのも、私の……』

 

「……それは違う。きっと違う。ボタンの掛け違いみたいな些細なことが違うだけで、大きく変わってしまうだけ。私が死にかけたのも我儘を貫き通したからよ。貴女のせいじゃない。貴女はできることを全力でやった、だから謝ることはないわ」

 

 

 そうなのかもしれない。私のせいじゃないのかもしれない。だけど、だけど…!

 

 

『でも、アリサも、ジルも、ガンマちゃんも、カルロスも、ダリオも、ミハイルも、ニコライも……みんな、みんな死んじゃった。もうやりなおせない、取り戻せない!もうどうしようも……』

 

 

 あの脱線して吹き飛んだ列車が爆発、炎上する光景がフラッシュバックする。いくらしぶといアリサでも、間違いなく木っ端微塵に吹き飛んでいるだろう爆発だった。モールデッド・エンプレスになってた影響で受けた余波だけで少しの間意識を失ってたのだ。爆心地にいたみんなは……考えたくもなかった。

 

 

「……さすがに市民はどうしようもないとは思うけど、アリサたちがそう簡単に死ぬと思う?」

 

『はえ?』

 

 

 リサの言葉に、呆ける。……それは、それは…………いや、でもさ?あの爆発は死ぬよ?やばいよ?あの村消滅させた爆弾ほどとは言わないけどさ。爆発って普通死ぬんだよ?

 

 

「まだ生死を確認してないし、死んでるって思うより生きてるって信じる方が建設的じゃないかしら」

 

『いや、でも…………そうかなあ。そう、かなあ……』

 

 

 涙が出てくる。もしも、もしも生きてるんだとしたら……信じたい、な。そう、涙をぬぐった時だった。

 

 

「すたぁず……」

 

「『!』」

 

 

 聞き覚えしかない声が聞こえて、私とリサの顔が引きつる。リサは首だけ動かして、私は体ごとその声の聞こえた方を向いて、絶句する。そこには、随分少なくなったものの黒い羽毛に包まれた大男が、立っていた。

 

 

『嘘でしょ……まだ生きてたの、モリグナ!?』

 

「スタァアアアズ…!あの程度で、死んでたまるか……!

 

 

 そうは言いつつ見てわかるぐらい満身創痍だ。アリサのぶん投げたチャーリーくんはしっかり効いてたらしいが待ってほしい。今リサは四肢が潰れて再生途中なのだ。いくら満身創痍だろうが勝てるわけがない。私は咄嗟右手で帝釈天の印を結び、前髪を左手でかき上げる。一か八かだ!

 

 

「リサに手は出させない!偽・領域展開!なんちゃってむりょーくーしょ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンターπはハンターΩ…オメガちゃんを基にした量産型Ha-RTである。そもそもHa-RTの姉妹はオメガちゃんとハンターΨ…プサイちゃんだけではない。失敗し名を与えられなかったHa-RTシリーズは実は結構多い。ハンターを生み出すノウハウと、アイザックスの得意とするクローン技術、そして再生・適応に特化したRT-ウイルスが組み合わさり生まれた奇跡の生物兵器。アイザックスは自我を始めとして言語能力や再生能力、ハンターと同じ遺伝子の量を犠牲にすることでリソースを割いてその量産を可能とした。そのため喋ることはできないし、オメガやプサイの様な鱗の防御力を持たない。しかしそれでも、一つだけオメガたちよりも優秀なところがあった。それは自我を持たないゆえの、“ためらいのなさ”だ。

 

 

「はあ!」

 

 

 アリサの菌根で硬化した右腕と、ハンターπの右手の爪が激突し火花を散らして弾かれる。ここでオメガならば体勢を立て直すことを優先する、しかしハンターπにそれはない。愚直に、ひたすら愚直に。命令の遂行を優先する。

 

 

「……」

 

「ぐっ!?」

 

 

 ハンターπが合理的な思考で選んだのは、ごり押し。アリサがあくまで背後のダニエルを狙ってることをいいことに、人間と大差ない左手の指を尋常ではない怪力によりアリサの腹部にめり込ませ、大きく抉っていく。

 

 

「はなして!」

 

「……」

 

 

 ホットダガーを引き抜いてハンターπの背中に突き刺すアリサだったが、ハンターπは痛覚すらないのかフードの下の顔を一切歪ませることなく指を沈み込ませる。

 

 

「があああああああっ!?」

 

 

 そしてゴキッと、鳴ってはならない音が鳴り響く。背骨の一部を無理矢理引っこ抜いたのだ。尋常ならざる激痛に絶叫を上げ、崩れ落ちるアリサ。その手から、血まみれの左手でホットダガーを手に取るハンターπ。そして躊躇なく、アリサの背中に何度も何度も突き立てる。

 

 

「覚悟しなさい、ダニエル!」

 

「隊長たちの仇だ!」

 

 

 一方、アリサがハンターπを引き受けたのでダニエルを狙っていたジルとカルロスだったが、ダニエルは射線をハンターπと戦っているアリサと被らせるように動いて銃撃を阻害し、ならばとナイフを手に接近戦を仕掛けていたものの、電撃を帯びた警棒…スタンロッドを手にしたダニエルにジルのナイフを叩き落とされ殴りつけられ、カルロスが応戦するも打ち合えば電撃が襲い、二対一なのに逆に追い詰められてしまっていた。

 

 

「いいのか?仲間がピンチだぞ?」

 

「アリサ!」

 

 

 咄嗟に拳銃を引き抜くジルだったが、ダニエルに指摘されアリサの苦悶の声を聴いて、カルロスと共に振り向く。それが致命的な隙となった。

 

 

 ピピピピッ!と電子音が鳴り響き再びダニエルに視線を向けると、背負っていた大型の銃の様な武器を構えていて。足元を見れば、赤い光を放つ大きな弾丸が突き刺さっていた。瞬間、爆発。ジルとカルロスは吹き飛ばされる。

 

 

「片付け屋をなめるなよ?」




自分の生み出した四貴族+聖母の幻影に苦しめられ、自分を責めるエヴリン。

30年地獄を味わっただけに達観しているリサ。

まだ生きてたしぶといモリグナ・ネメシス。

わりかし洒落にならない重傷を負うアリサ。

ためらいのなさを持つハンターπ。

用意周到な武器を扱うダニエル。

多分二話ぐらいに分けられる内容があってちょっと詰め込み過ぎた気がするけど反省はしない。

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file3:26【追跡者、再始動】

どうも、放仮ごです。ここで3編のサブタイトルを思い出してみよう。

いろんな決着。楽しんでいただけたら幸いです。


 ダニエル・ファブロンは裏社会では名の知れた片付け屋である。依頼された仕事は間違いなく完璧に片付ける。そのためなら準備は怠らないし金も惜しまない。お得意様であるアンブレラが用済みとなれば即座に切り捨てることがあるということをよく理解していたダニエルは、サミュエル・アイザックスに雇い主を乗り換える際に自らが調教したハンターπ軍団やネプチューン・ルスカの他に、自らが試用したアンブレラの新兵器をいくつかかっぱらってきていた。

 

 

「こいつはマインスロアー。アンブレラの開発した兵器の試作機だ。即席地雷を作る、というシンプルな効果だ。即効性はないがなかなか使える。完成したらグレネードランチャー用の弾丸になるらしい。まあお前らが知ったことではないが?」

 

「ぐっ……」

 

「くそっ……」

 

 

 マインスロアーを担ぎなおし、ダニエルが構えたのはS&W M29の改造銃「アンブレラ マグナムリボルバー」。卓越した技術で早撃ちを繰り出し、咄嗟に転がって回避するジルとカルロス。

 

 

「俺はダニエルを!」

 

「私はアリサを助けるわ!」

 

 

 ダニエルが薬莢を排出して弾丸を入れ替える隙を突いてカルロスはダニエルに突進して掴みかかる。ジルはアリサをホットダガーでめった刺しにしているハンターπに向けてグレネードランチャーを向け、発射。炸裂弾がハンターπに炸裂して吹き飛ばし、アリサはぐったりと倒れ込みジルに受け止められる。

 

 

「大丈夫!?アリサ!」

 

「だいじょばない……」

 

「冗談言える元気はあるみたいね!」

 

 

 そして転がったホットダガーを右手で拾い、左手にアリサを抱えたまま声もなく再度襲いかかってきたハンターπの爪を受け止めるジル。ホットダガーの熱でじりじりと焦げているというのに、フードが外れて現れた黒髪をショートヘアに纏めていてハイライトのない黒い瞳のリサともいうべき顔は無表情のまま歪みもしない。ゾクッとジルの背筋に冷たいものが走る感覚と共に、ハンターπは横蹴り。アリサもろとも蹴り飛ばされ、ベンチを粉々に破壊し転がるジル。

 

 

「ジル!」

 

「よそ見はいけないな?カルロス・オリヴェイラ」

 

「があっ!?」

 

 

 それに気を取られたカルロスにサブミッションで関節を極められていたダニエルは閃光手榴弾を落とし、閃光に目を焼かれ解放してしまうカルロス。すぐさまアンブレラ マグナムリボルバーを引き抜いて三連射。弾丸が防弾チョッキに衝撃を与え、苦悶に顔を歪ませるカルロスにダニエルはスタンロッドで刺突。電流が襲い掛かりカルロスは倒れ伏す。

 

 

「先ずは一人……四肢をぶった切ってもいい。回収しろハンターπ」

 

「(コクッ)」

 

 

 くるくる回転させたリボルバーを腰にしまったダニエルの言葉に無表情で頷き、転がったホットダガーを手に取りアリサに歩み寄るハンターπ。アリサは背骨を一部引き抜かれた激痛で動けず、ジルは頭を打って立つことができず、カルロスは打撲に感電で満身創痍。万事休すと思われた、その時。ハンターπの振り上げたホットダガーを握られた左手に何かが巻き付いて動きを止めた。

 

 

「!」

 

「おいおい、今度はなんだ?」

 

 

 訝しみ、振り向くダニエルとハンターπ。その先には、ラクーンシティの光に照らされた大柄な人影があった。それは跳躍し、ダニエルとハンターπの間に着地。ハンターπからホットダガーを右手から伸びた触手で奪い取ると、左拳をその腹部に叩き込んだ。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

「!?!?!?!?」

 

「ぐっ!?オイオイ、冗談きついぜ」

 

 

 あまりに特徴的すぎる咆哮と共に、ハンターπは初めてその無表情を驚愕に歪めながら腹部に大穴を開けて殴り飛ばされ勢いよく川に沈んでいき、ダニエルも触手で首を絞められ失神、マインスロアーとスタンロッド、アンブレラ マグナムリボルバーを奪い取り腰のベルトに取り付けていく。

 

 

「スタァアズ!」

 

「吠えるなうるさい!」

 

「スタァアズ……」

 

『よかった!アリサ!ジル!カルロス!生きてた!』

 

「エヴリンにリサ!?それに……」

 

 

 それは咆哮を上げていたが、背中にいるリサから怒鳴られてシュンとなり、その影からひょこっとエヴリンが顔を出し、アリサが痛みも忘れて思わず目を見開く。それは、右にある心臓がむき出しになってる胴体に大穴が開いた黒いコートを身に着けていた。消火栓からかっぱらってきたのか消火用のホースでリサを背中に括りつけているそれは、散々苦戦した強敵のはずだった。

 

 

「……ネメシス?」

 

『安心して!今は味方だよ!』

 

「スタァアアアズ!」

 

「うるさい!」

 

 

 困惑するアリサ。手を広げて顔を輝かせるエヴリン。表情が乏しい顔で嬉しそうに咆哮を上げるネメシス。怒鳴るリサ。どうしてこうなったかというと、数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽・領域展開(imaginary domain expansion)なんちゃってむりょーくーしょ(fake Infinity Void)!』

 

 

 漫画の技を再現した、周囲の菌根感染者の意識を菌根世界に送り込んで、一時的に肉体から意識を奪うエヴリンの奥の手中の奥の手。デメリットとして相手がどんなに多かろうと取り込んでしまい、さらに菌根世界での戦闘力を得るとはいえエヴリンは一人で戦うことを強いられる。ベルセポネ相手の際は前者の理由で一時窮地に追いやられ、タイラント・アシュラに用いた場合は逆にボコボコにされて敗北に追いやられた、諸刃の剣。

 

 

「……きっさま……なにをした!」

 

「……へえ、複数体の場合はこうなるんだ」

 

 

 ドミトレスク城の屋根の上に複数の声が重なったおどろおどろしい声ではない、甲高い声が響き渡り、エヴリンは笑みを浮かべる。モリグナ・ネメシスは群体の怪物だ。モリグナの本体、モリグナを形成しているカラスたち、そして止まり木という名の肉体にされているネメシス。それらが一体になったもの。それがなんちゃってむりょーくーしょに巻き込まれるとどうなるかというと、明確な自我を持つモリグナの本体と、ネメシスだけが菌根世界のここに顕現していた。

 

 

「自我を持たないカラスたちはこの世界に入れない……勉強になったよモリグナ」

 

「くそっ……起きろ!このデクノボー!戦え!」

 

 

 サイズそのままのカラスのハーピーみたいな姿のモリグナ本体は、バサバサと羽ばたいてバルコニーに転がっているネメシスに近寄るとげしげし蹴りつける。この期に及んで自分で戦う気がないらしい。本体となってしまったこの最初のモリグナは、群れて強気になるひどく憶病な性格だった。

 

 

「すたぁず……」

 

「戦う気はないってさ!」

 

 

 しかしネメシスは弱弱しく吠えるだけで動こうとしなかった。モリグナに乗っ取られていたためひどく衰弱している様だった。タタタタタッ!と斜めの屋根を駆け抜け、小柄な体を衝撃波の反動で跳躍して、衝撃波を纏ったパンチを叩き込むエヴリン。

 

 

「ギャギャア!こうなればぁあああ!」

 

 

 モリグナ本体はギリギリ身を捩って回避し、意を決して翼を羽ばたかせ、高速で空を移動して猛禽類の様な脚でエヴリンを貫こうと試みる。しかしエヴリンはわざと屋根の上を滑走することで回避。屋根の縁に掴まるとその身から衝撃波を放出。モリグナ本体は衝撃波を受けて体勢が崩れ、さらなる衝撃波を受けてグルグルグルと回転して落ちていく。

 

 

「一人だと弱いね…私と同じだ」

 

「弱い?弱いだと!こんな強大な力を持つお前に、私の何がわかる…!」

 

 

 激高し、屋根に両足を付けて跳躍、高速で体当たりを叩き込み空中に押し出してきたモリグナ本体の頭部を、両手で鷲掴みにするエヴリン。彼女の脳内には、接続したモリグナの記憶がすべて流れていた。群れを己が手足として利用し、ネメシスやリサを巣として寄生し、生き汚く邪悪の限りを尽くした悪魔の記憶が。

 

 

「お前が、人の身体に寄生する害鳥だってことぐらいはわかるよ」

 

「ギッアアアアアッ!?」

 

 

 ヨナとグラの時は驚異的なタフさに「家族にする」ぐらいしか勝ち方がなかった。だがモリグナはそうではない。そのあまりに厄介だったタフさは失われている。エヴリンは直接両手からサンドイッチにするように衝撃波を叩き込み、モリグナ本体を圧殺した。

 

 

「……ネメシス」

 

 

 そのまま屋根に着地。歩いてネメシスに歩み寄るエヴリン。モリグナと同じく、ネメシスの記憶が見えていた。兵器として生まれ、S.T.A.R.S.を壊滅させるために調整され、寄生体を植え付けられた、自由意思を持たない怪物。それにエヴリンは手を伸ばし……同じく菌根世界にやってきていた背中の寄生生物を、握りつぶした。

 

 

「……すたぁず?」

 

「もうこれで自由だよ。もうアリサたちは襲わないよね?」

 

 

 顔を上げるネメシスに笑顔を浮かべるエヴリン。自分と同じく兵器として生まれたネメシスを手にかけることはできなかったのだ。そうして菌根世界から浮上すると、ちょうどネメシスに巣食っていたモリグナ本体が石灰化して崩れていき、残りのカラスたちが飛び立っていったところだった。

 

 

「……倒したの?」

 

『なんとかね。……ネメシス?』

 

 

 リサの問いかけに応えていると、重い足音が近づいてきて。振り返ると、モリグナ本体が巣食っていた胸部を再生させたネメシスが、エヴリンに跪いていた。

 

 

「スタァアズ……」

 

『え?いや、もう自由なんだからリサに殺される前にどっか行ってよ』

 

「貴方は私を何だと思ってるのよ」

 

『顔の皮マニアのバーサーカー?』

 

「殺すわよ」

 

『冗談だって!…はえ?』

 

「スタァアアアアズ」

 

 

 睨みつけてくるリサに怯えるエヴリンを庇うように間に立つネメシス。それはエヴリンを守ろうとしているようにも見えた。エヴリンはため息を吐く。

 

 

『……私についてくると死ぬかもだよ』

 

「スタァアズ」

 

『それでも、私を助けてくれるの?』

 

「スタァアアアズ」

 

『命令がないと生きられないってのも不便だね。わかった、あなたも家族だ!とりあえずリサを連れて地上に出よう!』

 

「スタァアアアアアアアズ!」

 

「ちょっ、トンネルで反響する!うるさい!」

 

 

 そうして今に至る。エヴリンは打算なく、その人の良さから最強の鬼札を手に入れたのだった。




ネメシス、エヴリンに陥落。

ネメシス(寄生体)、握りつぶされる。

モリグナ本体、菌根世界で衝撃波でサンドイッチにされ完全消滅。

リサ、四肢が潰れてネメシスに担がれる。

アリサ、背骨の一部を抜かれて悶絶。

ジル、ベンチに頭をぶつけて意識朦朧。

カルロス、防弾チョッキ越しにリボルバーを喰らい電撃を浴びダウン。

最後のハンターπ、胴体に大穴を開けられ水没。

ダニエル、首を絞められ気絶。

さすがに内容がこんだけ濃かったのでいつもより1000字多い4000字になりました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:27【ブラインドストーカー】

どうも、放仮ごです。感想で言及されてたので断言しておきますが、ネプチューン・ルスカはあれでやられてます。ダニエルだけハンターπに離脱してもらって助かってましたが列車の速度で走って転んだらさすがに耐えきれません。ただその死体は…?

今回は変異ナサニエル改めブラインドストーカー出現。楽しんでいただけたら幸いです。


 アリサたちとダニエルが争っていた同時刻。スペンサー記念病院の廊下の天井を這い廻る巨大な影があった。それは強化された聴力で獲物を探し当てると、縦に裂けている舌を器用に伸ばして次々とゾンビを締め上げ、捕食していく。巨大なリッカーに酷似したそれは後世に盲目の追跡獣(ブラインドストーカー)の名で伝えられる怪物だった。

 

 

「……コレガアイザックス博士ノ魅入ラレタ人類の頂点ニ立ツ遺伝子ノパワーカ、素晴ラシイ…!」

 

 

 そう長い舌にも関わらず片言で喋りながら天井から飛び掛かってゾンビを押し倒して着地。頭を押さえつけ胸を掻っ捌いて血のシャワーを浴び、舌を伸ばして味わうブラインドストーカー。しかし何が気に入らないのか、押さえつけているゾンビを八つ裂きにすると両手を振り上げ、咆哮を上げる。

 

 

「ウオオオオオッ!足リナイ、足リナイ!ゾンビノ血ジャア物足リナイ!モット!モットダ!アァアアアルティイイイイッ、リサ・トレヴァー!奴ノ血ガ欲シイィイイイッ!」

 

 

 ワクチンを開発した天才の面影はどこにやら。狂ったように叫び散らすブラインドストーカーは縦に裂かれた舌を伸ばして窓を粉砕、窓枠を鋭い爪で抉り、無理矢理その巨体で外に這い出した。舌をちらつかせ、なにかを探るようにスペンサー記念病院と隣接するセントミカエル時計塔の壁を這い上がり、文字盤の針に手をかけ、頂上まで登るとサーキュラー川に顔を向ける。

 

 

 ブラインドストーカー。T-ウイルスから生まれたリッカーのRT版ともいうべき存在であり、サイズが異なるもののそのマッシブな筋肉が露出した肉体や鋭い爪、脳が肥大化していて目が見えないのは同じだか、ブラインドストーカーは蛇のヤコプソン器官の様に舌で匂いを嗅げるよう嗅覚が発達し、より索敵能力に優れていた。

 

 

「見ィツケタゾォ!リサァッ!トレヴァァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーキュラー川沿いの公園にて、ネメシスをまじまじと見つめるジルとカルロス。アリサは弁護するもやはり半信半疑だった。

 

 

「本当に信用して大丈夫なの?」

 

「助けられたのは事実だからな…」

 

「大丈夫、ネメシスは味方だってエヴリンが。だよね?」

 

「裏切ろうとしてもその瞬間私が首を折ってやるから安心して」

 

「スタァアズ!?」

 

『リサ、冗談下手くそすぎる』

 

 

 背中に括り付けているリサの冗談に聞こえない冗談に怯えるネメシスに、以前の威圧感を感じないアリサたちは納得することにした。そうなると次の問題は、ネメシスの触手で首を絞められ失神しているダニエルである。

 

 

「何か縛るもの誰か持ってない?」

 

「リサを括り付けているホース…はもうないよね」

 

「というか武器を全部ネメシスが回収してたけどいいのか?」

 

 

 ホットダガー、マインスロアー、スタンロッド、アンブレラ マグナムリボルバー、あともともと装備していたサブマシンガンや手榴弾類で武装しているネメシスにカルロスが不安げな声を上げる。モリグナはどうやら武器を扱う知能はなかったようで手は付けられていなかった。

 

 

「まあホットダガー、私は使いこなせなかったしいいんじゃないかな?ダニエルが持つよりはよっぽどいいよ」

 

『引くほど変な武器を持ってるなこの偽ウェスカ―』

 

「とりあえずダニエルは放っておくしかないわね。連れて行くわけにもいかないし……ゾンビの跋扈するここに見捨てるのは気が引けるけど」

 

「……あれだけの数の市民を殺したのよ。見捨てても罰は当たらないわ。四肢が無事なら今ここで殺しているわ」

 

 

 憤怒の形相のリサの言葉に、頷くしかない一同。そんな時、なにか巨大なものが飛び込む水音がして。サーキュラー川に振り向く面々。ハンターπも落ちた水面は静かで。気のせいとも言い切れず、アリサは軍用ハンドガンを、ジルはグレネードランチャーを、カルロスはアサルトライフルを、リサを背負ったネメシスはサブマシンガンを構え、エヴリンは高度を上げて見張る。

 

 

『……気のせい、じゃないよね』

 

「確かに何かが水に落ちた音がしたよ」

 

「新手?」

 

「それも気になるが今はスペンサー記念病院に急ぎたい。ワクチンを作ったナサニエル・バードを確保したい。隊長の意志だ」

 

「スタァアズ」

 

「……エヴリンと私が見張っておくわ。カルロスの言う通りにしましょう」

 

 

 カルロスが先導し、エヴリンが頭上高くに浮かび、近くのサーキュラー川にかかる橋を進む面々。

 

 

「ナサニエル・バードが無事な根拠は?」

 

「ない。だが賭けるしかない。街を救うにはそれしかないんだ」

 

「ワクチンを独り占めにする気なら脅してでも確保しないとね」

 

 

 そんな物騒な会話を繰り広げるジル、カルロス、アリサ。それを微笑ましそうに眺めていたリサの第六感が、危険を告げる。エヴリンも同時に、闇夜の水面を蠢く影を見つけた。

 

 

『なんかやばいのが来た!』

 

「ネメシス、三人を!」

 

「スタァアズ!」

 

 

 リサの声に頷き、その大柄な体でジル達三人を押し倒すネメシス。その頭上を、サーキュラー川から飛び出してきた怪物……ブラインドストーカーの爪が通り過ぎる。そのまま橋の柱に張り付いて舌を伸ばして裂けた口を三日月の形に歪めて歓喜の笑みを浮かべるブラインドストーカー。

 

 

「見ツケタ!見ツケタゾ!オ前ノ血ヲ啜ラセロ!リサ・トレヴァァアアアッ!」

 

「なんだこいつは…!?」

 

『喋るリッカー!?にしてはでかいし!』

 

「こんなストーカーがいるなんて聞いてないんだけどリサ!」

 

「私も知らないわよこんなやつ!」

 

「ナサニエル・バードのところに向かわないといけないってのにまた新たな怪物?ついてないわね!」

 

 

 そう吐き捨てるジルの言葉に、ブラインドストーカーは嘲笑する。

 

 

「オ前タチハツイテイルゾ!私ガ天才ナサニエル・バード ダ!」

 

「何の冗談だ?バードがお前みたいな化け物なはずないだろ!」

 

「貴方がバードだとして、ワクチンはどうしたの!」

 

「ソンナコトドウデモイイ!血ダァ、血ヲヨコセエ!」

 

「スタァアズ!」

 

 

 柱から跳躍し、リサ目掛けて飛び掛かるブラインドストーカーの爪を、ネメシスが咄嗟に拳を突き出して迎撃。殴り飛ばされるブラインドストーカーだが、器用に柱に張り付くと登っていき、屋根から次々と両腕を突き刺してきて攻撃。大柄なネメシスは避けられず、リサもろとも肩を突き刺され体勢を崩す。一方的に居場所を探って繰り出してくる攻撃に、面々は橋を駆け抜けていくしかなかった。

 

 

「狙いはリサ!?それともアリサ!?」

 

「おそらくどっちもだ!それよりワクチンだ、アイツの言い分からまだ残っている可能性が高い!ジルとアリサはワクチンの確保を!ここは俺が引き受ける!リサ、ネメシス!悪いが付き合ってくれ!」

 

「スタァアズ!」

 

「囮になれって?上等よ」

 

 

 走りながらそう言うカルロス。リサを背負ったネメシスと共に、橋の真ん中で陣取りアサルトライフルで屋根に銃撃を叩き込むカルロスに、先を進んでいたジルとアリサはそれに気づいて慌てて引き返そうとするが、それはカルロスに手で制された。

 

 

「リサは必ず守る!行け!ジル!アリサ!」

 

「スタァアアズ!」

 

「カルロス!」

 

「リサ!」

 

「安心しろ。俺は死なない。俺のいない世界なんて寂しすぎるだろ?」

 

「30年近く死にそびれたのよ、今更死なないわ」

 

 

 躊躇するジルとアリサだったが、カルロスとリサの言葉に意を決して先を進む。エヴリンもそれに続いた。

 

 

『ネメシス!二人を頼んだよ!』

 

「スタァアズ!」

 

「……頼もしいよネメシス。俺一人じゃどうしようもなかった」

 

「そんなことない。あなたもS.T.A.R.S.に負けず劣らず頼もしいわ」

 

「はっ。そいつは最高の誉め言葉だ!」

 

「血ダア!血ヲヨコセェエエエッ!!」

 

 

 そうしてカルロス、ネメシス、リサは迫りくるブラインドストーカーを迎え撃つのだった。




ブラインドストーカーのキャラモチーフは分かる人にわかるように言うと血の刻印の氷室。やべー奴の血で覚醒したインテリってあれのイメージしかなかった。簡単に言うと索敵能力を得た実写版Vぐらいで出てた巨大リッカー。原作RE3でいうネメシス第二形態に当たります。ネタを提供していただいたのはお馴染み、エレメンタル社-覇亜愛瑠さんです。いつもありがとうございます。

ワクチンを手に入れるため、殿を務めるカルロス、リサ、ネメシス。そろそろ終幕も近いです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:28【ペイルキラー】

どうも、放仮ごです。クロニクル編の終盤お馴染み強敵ラッシュ。もっと早く出したいけど設定的に最後が近くなるのはしょうがないと思うんだ。

いそうでいなかったシリーズ。楽しんでいただけたら幸いです。


・ペイルキラーについて

 先日発生した突然変異によって驚異的な再生能力を得たゾンビ「ペイルヘッド」から採取された遺伝子を用いて作ったアイザックス博士が考案したクローニング技術により生み出されたハンター。RT-ウイルスとも合わせることが検討されたが、遺伝子改良とかみ合わないため断念された。驚異的再生能力と俊敏さを持つ強力な生物兵器だが、ウイルスが脳にまで影響を及ぼしており制御困難。さらなる実験のため、睡眠剤を与え拘束、NEST2からアンブレラ本部に移送する。

 

開発責任者:NEST2 主任研究員 コーネル・ガーナー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鍵なんてぶっ壊す!」

 

「キーピック得意だなんて誇れないわね…」

 

『それは普通にすごいと思う…』

 

 

 施錠されていた正面玄関を蹴破り、スペンサー記念病院の中に突入するアリサと、それに続くジルについていく私。あっちも気になるけど、こんな入り組んでる病院で私のナビなしだと時間がかかってしまうのは明白だ。カルロスとネメシスならリサを守りながらも戦えるはずだ。

 

 

「って、普通のハンター!?なんでいるの!?」

 

「スペンサーってアンブレラの総帥の名前よね……洋館と同じように…」

 

『アンブレラの秘密の研究所って事か。地図を見た感じ、こっち!』

 

 

 拳やグレネードランチャーで廊下を徘徊しているゾンビやハンターを蹴散らしながら、突き進んでいく二人をナビする。脳内マップはイーサンと冒険したころから得意だ。さっきちょっとだけ見た見取り図は大体把握した。多分だけど奥の研究室ってところだ。

 

 

「ここ!?」

 

「なんか閉まってるけど……」

 

《音声データと一致しません》

 

『音声認証みたい?……ここ1998年だよね?』

 

 

 2000年代でも結構珍しいんだけど1998年でそれはハイテク過ぎない?

 

 

「多分バードの音声がいるんだわ。どうすれば……」

 

「こんなのに時間かけてられるかあ!」

 

『至極ごもっとも』

 

 

 まあアリサが蹴り壊しちゃうんだけどね。ギミックブレイカー(製作者泣かせ)は健在なり。煙を吐きながら開いた扉から中に入ると、そこにあったのは実験器具の数々と、床に転がりいくつか割れてしまっている大量のガラス容器の光景があった。

 

 

「これは…!?」

 

「ワクチンの空容器…?どこか、どこかに一本ぐらい残ってないの!?」

 

『多分、アイツが使ったんだ……』

 

 

 ジルが調べた、実験記録とファイル名がなされたパソコンの画面には、ナサニエル・バードの名前とT-ウイルスに感染しワクチンを大量投与した自らの肉体に、さらにハンター・アーマードが回収したアリサの血と肉片で作った血清を打ち込むことで唯一無二の存在になれるという文章とナサニエルが変異する様子が録画された動画がどこかにアップロードされた痕跡があった。変異する途中で殺されたハンター・アーマード君は泣いていい。いやこいつがアリサの血と肉片を回収したせいだった。ギルティ。

 

 

「ここにあったワクチンは奴が全部使ったみたいね……なんて悍ましい」

 

「だめ、奥の部屋にもない!」

 

『あとは考えられるのはさっき言ってた秘密の研究所……洋館の時と同じなら、地下かな?』

 

「地下かも、だってエヴリンが!」

 

「行ってみる価値はあるわね」

 

『多分、こっち!』

 

 

 来た道を引き返し、機関室を通ってガレージか倉庫の様な場所に出る。ご丁寧にアンブレラと描かれ傘のエンブレムが記されたトレーラーが停められていた。間違いなさそうだ。奥にあった車両ごと移動させる巨大なエレベーターを起動し、巨大な地下倉庫に出た私達。たくさんの物資が棚に並べられている。そこに、それはいた。

 

 

「……なに?あれは……」

 

 

 全身の体毛が抜け落ちたような青白い肌のゾンビだった。それが光に照らされて突っ立ってるもんだからすごく怖い。

 

 

『コンプライアンス違反の擬人化!』

 

「こんぷら……天ぷら?なに?」

 

「アリサこそいきなりどうしたの…?」

 

 

 あっ。アリサのワンパンチで沈んだ。頭を吹き飛ばされてまだ突っ立ってたけど蹴り飛ばされて壁に叩きつけられてミンチになった。ここまでギャグみたいなやられ方すると怖くないな……。これからも出てくるか知らないけどはげちゃびんと呼ぼうそうしよう。

 

 

 ガコン!

 

「っ!…なに?」

 

「私達が来た方向から…?」

 

『ちょっと見てくるねー』

 

 

 なんか重いものが落ちた音が聞こえてきて、和んでた私は軽い気持ちで来た方向の壁をすり抜けて、公開した。一緒にエレベーターで降りてきたアンブレラのトレーラーの荷台の蓋が何故か落ちていて、荷台の縁に鋭い爪が生えた指が握られ、そこからちょうどそれが顔を出したところに出くわし目が合う。

 

 

『………』

 

「………シャーッ!」

 

『にゃあああああああっ!?』

 

 

 さっきのゾンビと同じ青白い肌で、眼が血の様に赤く光る、他のハンターに比べると細身で小柄な印象だけどひときわ獰猛なハンターの様な何かだった。咆哮を上げて追いかけてくるそれは、多分だけど荷台に眠っていたところをさっきのはげちゃびんが壁に叩きつけられた衝撃で起きちゃったんだ!私を斬り裂くつもりなのかトレーラーの荷台に飛び乗り、そのまま一跳躍でこっちまで飛んでくる白ハンター。めっちゃ速いんだけど!ねえ此奴なんて呼べばいいのー!?

 

 

『あぶなっ!?』

 

 

 なんとか隣の部屋に逃げ込むも扉がギャリギャリギャリと引き裂かれ、顔を出す白ハンター。そのまま邪魔な壁を引き裂いて中まで入ってくると、私目掛けてどこまでも追いすがってくる。ついにはアリサとジルのいる地下倉庫まで来てしまった。まずいって!

 

 

「うーん、ヒューズが壊れてるならしょうがないけどジルを抱えて跳ぶ…?いや、窓に阻まれるか…」

 

「普通に替えのヒューズ探さない?あるかは知らないけど」

 

『二人とも逃げてえ!』

 

 

 すると奥に進む昇降機の前で二人が考え込んでいたので、慌てて叫ぶと聞こえてるアリサだけこちらを向いて、げっと顔を歪ませる。どうでもいいけど感情豊かになったね嬉しいよお母さん(代わり)!

 

 

「ジル!グレラン!」

 

「え?…え!?」

 

 

 軍用ハンドガンを向けて発砲するアリサだったが、焼け石に水とばかりに当たった傍からめちゃくちゃ速い速度で再生してしまう。はげちゃびんも再生しようとしてたしそういう特性なのか!アリサに言われて振り向き、驚愕したジルがグレネードランチャーを発射。しかし白ハンターは見切ったように飛び退いて棚の上に乗ると、急降下してアリサ目掛けて爪を振るってきた。こいつ、眼に入れば何でも襲うのか…!

 

 

「速い…!?」

 

 

 咄嗟に拳を握って迎撃を試みるアリサの右腕を、肩口からすっぱり斬り飛ばしてしまう白ハンター。アリサは傷口から触手を伸ばして無理矢理つなぎ合わせると左手で握った軍用ハンドガンで狙い、発砲。白ハンターは高速で何度も宙返りして回避すると、今度はジル目掛けて突撃する。まずい、ジルはダメ!

 

 

「くっ……」

 

「『ジル!?』」

 

 

 

 

 

ズダダダダダダダダダダッ!

 

 

 すると上……私達が目指していた方向から銃弾の雨が降り注ぎ、白ハンターは蜂の巣にされて倒れ伏す。慌てて上を見やると、そこには…!?

 

 

「どうやら間に合ったみたいだな!」

 

「エヴリン~お待たせ~!」

 

「タイレル!?」

 

『ガンマちゃん!』

 

 

 タイレル・パトリック。車両の横転で死んだと思っていたU.B.C.S.の隊員と、大きな口から出した本体の手を大きく手を振っているガンマちゃんそこにいた。

 

 

「ミハイル隊長とダリオも無事だ!今、隊長が護衛してダリオが上にあったヘリを整備している!それで脱出できるぞ!カルロス達はどこにいる?無事なのか!」

 

「他のみんなは今、外でナサニエル・バードが変貌した怪物と戦ってる!」

 

「無事でよかったわ!でもどうして?」

 

「あの時、この子……ガンマちゃんが俺達を咄嗟に口の中に入れて横の大穴から飛び降りることで爆発を回避していたんだ。ゴム質の身体のおかげで三人を頬張って跳ねてくれたおかげで助かった」

 

「あつかったー」

 

『ガンマちゃん……よくやった!』

 

 

 いや本当によくやった!そう歓喜していると、立ち上がる音が。白ハンターが、まだ起き上がっていた。しぶとい……弾丸くらいじゃ死なないのか、どうすれば…。

 

 

「シャアアアアッ!」

 

「本気のパンチでぶっ飛ばしてや……る?」

 

「がぁあぶ!」

 

 

 アリサがグルングルンと再生した右腕を振り回して意気揚々と殴ろうとしていたが、その前にガラスを突き破って飛び降りてきたガンマちゃんが丸呑みにしてしまった。白ハンターが口の中で暴れていたが、バキボコグシャゴキメキドゴッ!と擬音が鳴り響いて静かになり、血まみれだけどにぱーと笑顔のガンマちゃんだけ顔を出す。

 

 

「ごちそうさまー」

 

「え、あ、うん……」

 

『再生能力持ちの天敵とは、たまげたなあ』

 

 

 ネメシスにガンマちゃん。完全に予想外の仲間だけど、すごく頼もしい。これならアネットに勝てるかもしれない?




お馴染み、エレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案の一つ、ペイルキラー。ゲーム的には強すぎてやらなかったんだろうね、うん。

コンプライアンス違反の擬人化は某びびりな牛の人から。語彙力の塊よねこの名前。

そして生きてたタイレル、ガンマちゃん、ミハイル、ダリオの四人。ガンマちゃんが頑張って助けてました。RE3のエンディングの場所から逆算してここまで来た次第です。

次回、3編最後の敵が登場。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:29【15年ぐらい早くない?】

どうも、放仮ごです。ハスタはもともとリトルナイトメア2の最後辺りのシックスみたいに変異させて出す予定でしたがいい案をもらってそれを基に変更した裏話。

描写が一番大変な3編最後のB.O.W.登場。楽しんでいただけたら幸いです。


「コノ天才ッ!ナサニエル・バードガ望ンデイルノダ!大人シク、リサ・トレヴァーノ血ヲ渡セェエエエエエッ!!」

 

 

 戦いの場所を、セントミカエル時計塔前広場に移したリサ、ネメシス、カルロス。ブラインドストーカーは周囲の壁に爪を喰い込ませて走り回って攻撃を避け続けていたが、高速で壁を駆け上ったブラインドストーカーはセントミカエル時計塔の文字盤を陣取り急降下。爪を振り下ろして強烈な斬撃をネメシスに叩き込む。

 

 

「捕らえたわ!」

 

「スタァアアアズ!」

 

「喰らえ!」

 

 

 しかしそれは、リサの触手で受け止められて捕らえられ、引き寄せられてリサを背負いホットダガーを手にしたネメシスと、アサルトライフルを構えたカルロスの同時攻撃を受けて大ダメージに呻きながら石畳に着地。

 

 

「オノレ!」

 

 

 ブラインドストーカーは舌を伸ばして横転しているバイクに巻き付け、勢いよく体ごと振るって投げつける。

 

 

「スタァズ!」

 

 

 投げ飛ばされたバイクを真正面から受け止めるネメシス。その隙を突いて舌を伸ばしてカルロスの足に巻き付け引っ張って転倒させ頭を強くぶつけさせたブラインドストーカーは、爪で大地を引き裂きながら両手と両足を力強く動かし加速。その巨体で体当たりを叩き込み、ネメシスを停まっているバスまで吹き飛ばす。

 

 

「ハハハハハッ!例エ傑作B.O.W.ノ追跡者(ネメシスT-型)ダロウト、コノ力ヲ得タ私ニハ敵ワナイ!見ヨ、コノ頭脳!見ヨ、コノ肉体ヲ!究極ノ知能ト肉体ヲ有スル私コソ、ナサニエル・バードダァア!」

 

 

 わかりやすく調子に乗るブラインドストーカー。長い舌を持つくせに器用に喋るものである。だがしかし、この程度でやられるくらいなら追跡者などという名前は与えられていなかった。

 

 

「スタァアズ!」

 

「私の方が痛いんだけど…」

 

 

 バスの中で起き上がり、飛び降りて両手でバスの下部を掴むと、力んで持ち上げていくネメシス。そのまま首を曲げて乗せる形でバスを頭上に持ち上げ、ゆっくりと振り返っていく。

 

 

「ソンナ馬鹿丸出シノ攻撃ナゾォオ……ウギャアアアアアアアッ!?」

 

「脳も丸出しだぜ天才様」

 

 

それに驚いたブラインドストーカーは、強靭な舌でネメシスの頭部を貫こうと試みるも、その前にむき出しの脳に弾丸を浴びせられて悲鳴を上げる。ダメージから立ち直ったカルロスだった。寸分違わずアサルトライフルの弾丸をブラインドストーカー自慢の脳に浴びせていく。皮肉なことに、その天才だと豪語する頭脳こそブラインドストーカーの弱点だった。

 

 

「やっちゃいなさい、ネメシス!」

 

「スタァアアアアアズッッ!」

 

 

 リサの言葉に応え、バスを持ち上げたまま足に力を込めて跳躍するネメシス。そのままバスを抱えて急降下する。その狙いはもちろん、ブラインドストーカーだ。

 

 

「ヤメッ!?」

 

ドゴォオオオオオン!!

 

 

 

 バスは脳を撃たれて身動きが取れないブラインドストーカーに直撃し、大爆発。轟音が轟き。ネメシスは爆発の範囲外に着地する。

 

 

「……改めて、貴方が味方になってくれてよかったわ」

 

「まったくだ。末恐ろしいぜ」

 

「スタァズ」

 

 

 呆れ半分のリサとカルロスにふんすっと鼻息を鳴らすネメシス。しかしすぐにそれに気づき、サブマシンガンを構えて掃射する。すると炎の中から炎上するブラインドストーカーが飛び出し、時計塔の壁面に着地。咆哮を上げる。

 

 

「ヨクモ、ヨクモヨクモヨクモォオオオオ!許サン許サン許サンゾォオオオッ!」

 

「スタァズ」

 

「ええほんとね、しつこい」

 

「あいつ、ああなる前もねちっこいクズ野郎だったんだろうな」

 

 

 あまりのしつこさに心成しかげんなりした声を上げるネメシスにリサとカルロスも頷く。すっかり仲良しだ。しかしそんな緩い雰囲気も、次の瞬間には緊張したものに変わった。

 

 

「リサ・トレヴァーノ血ダケジャスマサッ…!?」

 

 

 サーキュラー川から飛び出してきた、ブラインドストーカーが小さく見えるほど巨大な触手の様な物にブラインドストーカーが丸呑みにされたのだ。

 

 

「スタァアズ!」

 

「なんだ…!?」

 

「見て、あそこ!」

 

 

 そのままネメシス目掛けて迫ってきた触手をネメシスが殴り飛ばし、カルロスがアサルトライフルを向けたその先では、まだ生きてたらしいハンターπが触手に貪り喰われている光景があった。

 

 

「この触手……まさかグレイブディガー!?何が起こってるっていうの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで完成したはずよ…!」

 

 

 ワクチンが完成した。タイレルとガンマちゃんが地下倉庫の奥にあったNEST2という研究所のゾンビをあらかた始末してくれていたおかげでスムーズに事は進んだ。一度作成したものだからか作製方法と材料がそっくりそのまま残っていたおかげで、試験管一本分しか作れなかったものの作成することに成功した。あとはこれを、ラクーンシティ外のアンブレラじゃない信頼できる製薬会社に持っていけば、大量に複製して街を救える。そうと決まればと先を急ぐ私達。目指すはダリオが整備しミハイルが守っているであろうヘリだ。でも、その前に…。

 

 

『ねえアリサ、ガンマちゃん。お願いがあるの』

 

「いきなりどうしたのエヴリン」

 

「なあにい?」

 

 

 走りながらもキョトンと首を傾げる二人に、一瞬考えなおそうとするも頭を振って振り払う。必要な事なんだ。

 

 

『……リサとネメシスにも頼むつもりなんだけど……クイーンたちを救いたい。そのために、来てほしいの。地獄に』

 

「…地獄って?」

 

『……アリサは知ってると思うけど、私は時間を超えれるの。私は、ちょっと後の時間から来たんだ。やり直しに』

 

「……そういえばクイーンたちの方にいたんだもんね。なにかあったの?」

 

『それは……』

 

 

 アネットについて説明しようとしていた時だった。ちょうど廃棄物処理場に差し掛かったところで、地震が起きて私の方を向いていてよそ見をしていたアリサの足がとられ、一番下まで落下してしまったのだ。

 

 

「うわああああっ!?あいたた……」

 

「アリサ!大丈夫!?」

 

「なんとか……」

 

「今クレーンを降ろす!それに掴まってくれ!」

 

 

 タイレルが作業用のクレーンまで急ぐが次の瞬間、廃棄物処理場の底をぶち抜いて巨大な触手の様なものが現れ、アリサに襲いかかった。

 

 

「うわわ!?」

 

 

 先端から体当たりしてきた触手の攻撃を避けるアリサ。触手は合計四本現れ、鎌首をもたげてアリサを取り囲む。ジルがグレネードランチャーを発射するもまるで意に介していない。そして私は、サイズこそ違うがそれに見覚えがあった。

 

 

『グレイブディガー…!?なんかでかいけど!』

 

「アリサをはなせー!」

 

『あ、だめガンマちゃん!』

 

 

 静止の声も聞かずに飛び降りて、口を広げてグレイブディガーの一本に文字通り食らいつくガンマちゃん。するとそれに反応して、グレイブディガーはのたうち回り、アリサが咄嗟にしがみついたそれは天井をぶち抜き、どんどん地上に上がっていく。

 

 

『っ、待て!』

 

「タイレル、ヘリに案内して!地上に追いかけるわ!」

 

 

 慌てて天井に飛び込んで追いかけた私は、グレイブディガーの出所のそれを見つけて思わず思う。

 

 

『ハオス……?15年ぐらい早くない?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで膝を抱えて蹲っている人の様な歪な形状の半透明な繭の様なそれは、アリサたちのいた地下施設のさらに地下深くでドクン、ドクンと胎動していた。まるで根っこの様に上へ上へと複数のグレイブディガーを伸ばし、手当たり次第にゾンビやドレインディモスといったB.O.W.や家屋の床すら突き破ってまだ生きている人間たちも貪っていく。

 

 それは供物。(ニコライ)を貪り、(ハスタ)すら喰らい、それでも足りぬと給仕の様にグレイブディガーは地中を蠢き、各地に散らばり好機を窺っていたカラスたちやその仲間の死骸、列車から投げ出され燃えている鋭い爪の人型や、人間の手足が生えた鮫の残骸すらも取り込んでいく。

 

 そうして生まれるのは、その存在をとある男の報告から知ったアイザックスが、一つの頭を斬り落とすと傷口から二つの頭が再生するギリシャ神話の怪物から名を取った最大・最強のB.O.W.

 

 ―――――其の名を、グレイブディガー・ヒュドラ。




3編最後の敵、グレイブディガー・ヒュドラ。昨日の投稿した前後位にpixivの方でうちのイラストを投稿してくださっていた、お馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案の一つ、ヒュドラ(エキドナの亜種)をグレイブディガー仕様に仕上げた自信作です。

ニコライを喰らい、ハスタを喰らい、モリグナのカラスたちやハンターπやネプチューン・ルスカを喰らい、超巨大なB.O.W.にまで変貌したグレイブディガー。その全貌は…?
※ネメシスに腹をぶち抜かれたハンターπは生きてたけど踊り食いされました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:30【時至れば蚯蚓も竜になる】

どうも、放仮ごです。わたくし、みんなが集結する最終決戦が大好きです。つまりなにが言いたいかというとだ……2編でネタとして使った王様戦隊の最終決戦本当に良かった…!(今更)

今回はグレイブディガー・ヒュドラ戦。楽しんでいただけたら幸いです。


「うぐぐぐぐぐっ!?」

 

 

 ドゴンドゴンドゴンドゴン!と、地盤を叩き割り掘り進んでいく巨大な触手に思わずしがみついてしまった。ガンマちゃんが噛みついてしまって戻そうとしたら私もしがみついちゃった。痛い、痛い。トンネルみたいになってるけど落ちてくる土砂が痛い。

 

 

「こんのぉおおお……止まれえ!」

 

 

 左手でしがみつきながら、右手を振りかぶりパンチ。触手はのたうち回り、たまらず私が両手でしがみつくとどこからともなく鉄砲水が襲いかかってきた。

 

 

「ごぼぼぼぼっ!?」

 

 

 鉄砲水に巻き込まれ、手を離してしまった私は水中に投げ出される。そのまま水面に飛び出て、近くのものにしがみつく。死ぬかと思った……ここは……?ライトアップされたセントミカエル時計塔が見える。サーキュラー川かな…?

 

 

 ズゴゴゴゴゴゴッ!!

 

「え?」

 

 

 すると水面が波打ち、私の掴まっていたものが勢いよく水中に沈んでいく。見てみて今頃気づく。さっきまでしがみついていた触手と瓜二つなものに私は掴まっていたのだ。触手は水中を高速で動き、勢いよく空中に飛び出して私は打ち上げられる。宙を舞い、私はその全貌に気付いた。水中にある巨大な球体を中心に、私を丸呑みできそうなぐらい巨大な触手が九本伸びている。巨大なB.O.W.だったのか!すると水面からエヴリンが飛び出してきて、私に気付いた。

 

 

『見つけた!アリサ、そいつは多分グレイブディガー!リサとニコライでその親玉みたいな人型を倒したんだけど生きてたみたい!』

 

「親玉がいるってことは……あの中心をぶん殴れば倒せる!?」

 

『多分!』

 

「キシャァアアアッ!」

 

 

 するとグレイブディガーたちが気付いて、九本のうち四本が私目掛けて動き出した。高速で空中を這い回るように動き、私に殺到する。

 

 

「そうと決まれば!うおおおおっ!」

 

 

 私は噛みつこうとし来るグレイブディガーを片っ端から空中で殴り飛ばし、蹴り飛ばし、背中から伸ばした触手で口を受け止め、弾かれるようにしてさらに空に跳び上がり、拳を叩き込んでいく。しかし駄目だ、巨大な分、硬い。弾けこそすれど全く効いてない。多分弾丸とかの貫通力ならいけるんだろうけど拳じゃダメだ。このままじゃじり貧だ。触手の一本に着地し、私はグググッと足に力を籠め菌根で膝から下を武装。チーターと飛蝗を混ぜた様な脚力だけに特化した形状に適応する。……ここから直下、ほぼ垂直。行ける!

 

 

「菌根、武装!」

 

『え?なにするつもり?アリサ』

 

「本体をぶん殴れば終わるんでしょ!」

 

 

 でこぼこの体表と言ってもほぼ垂直、さらには不規則に蠢く触手の上を、ノンストップで駆け下りる。水中の本体さえ潰すことさえできれば、それでこの怪獣は終わりだ!強化した脚力でもはや落下しながらさらに表面を駆け下りて加速していく。

 

 

握力×スピード×体重……×脚力×重力×回転=破壊力!

 

 

「いっけええええええっ!」

 

 

 そして水面に迫るとまっすぐ真下に向けて跳躍、くるりと一回転して遠心力を加え、飛び蹴りの体勢となって急降下。下に本体らしき球体が見える水面に向けて思いっきり右足を叩き込み、水を弾き飛ばしながら蹴りを水底に沈んでいた球体に叩き込む。バキバキバキ、と球体がひび割れていく。やったか!?

 

 

『水面を一時的に吹っ飛ばしちゃった……脳筋ここに極まれり……ん?』

 

 

 上からそんなエヴリンの声が聞こえてきた。同時に、横から巨大触手が襲いかかってきて噛みつかれ、水面の上まで持ち上げられてしまう。私の蹴りで吹き飛んできた水が戻ってきて渦を巻く。しかしとんでもない剛力だ。不意打ちで触手を展開するのが遅れた、噛み砕かれる…!?

 

 

「アリサ!」

 

「スタァアアアズ!」

 

「撃て!」

 

 

 するとそこに、銃弾の嵐が叩き込まれて蜂の巣にされ、さらにぶっ飛んできた自動車の直撃を受けたグレイブディガーは私を開放、落下したところをグレイブディガーのごつごつしている表皮を掴み足を付けて落下を逃れる。見れば、岸にナサニエルと戦ってたはずの三人がいた。

 

 

「無事!?アリサ!」

 

「スタァアズ」

 

「ヒーローみたいな大立ち回りだったな!アリサ!」

 

「リサ、ネメシス、カルロス!ありがとう!本体を叩き割ったから多分もう動かなくなるよ!」

 

 

 どうやら四肢が再生したらしいリサ、サブマシンガンを構えたネメシス、アサルトライフルを手にしたカルロスだった。私はグレイブディガーにしがみつきながらそう伝えるが、様子が変だ。動かなくなるどころか、グレイブディガーたちの動きが活発で、私も投げ出され橋に着地する。

 

 

「嘘…!?」

 

『……多分、卵だったんだ。アリサはそれを割っただけで、中身は…!』

 

 

 まるでグレイブディガー達に持ち上げられるようにして、水底から浮上していく本体の球体が見えた。ひび割れた外殻を破るようにしてその球体に収まっていたとは思えないほどの巨体が姿を現した。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 空気が振動する、甲高い歌声の様な産声が響き渡る。それは、やっぱり私やリサと瓜二つの姿をしていた。背中から4匹、両腕の肩から先から5匹ずつ、計14匹のグレイブディガーを生やし、拘束具の様なグレイブディガーの表皮にも似た甲殻で首から下が覆われており、目元を隠した真っ白な肩まで伸びた長髪と真っ黒な孔の様な目を持つ、全長64mはあろう女性巨人型B.O.W.その下半身は木の根みたいに枝分かれしてサーキュラー川の水底に根付いており、その場から動けないのは見て取れる。だがしかし。

 

 

「でか……すぎない?」

 

「あんなのが暴れたらラクーンシティは……」

 

「スタァアズ……」

 

「なんてこった……」

 

 

 リサの嫌な推測は当たるもので。一斉に全身のグレイブディガーを伸ばし、建物を次々と突き破り、乗り物を横転させ、崩壊させ蹂躙していく女巨人。次々と町中から、まだ生きていた人たちの悲鳴が上がる。私達など気にもとどめてもいない。あれは、他を蹂躙するだけの怪物だ。

 

 

「こっちを向け!」

 

 

 咄嗟に軍用ハンドガンを引き抜いて、下のカルロス達と共に弾丸を浴びせるがしかし、やはりまるで気にしてない。豆鉄砲よりひどい。ならばとリサがグレイブディガーに破壊された時計塔の瓦礫を手に取りぶん投げる。ゴンッと鈍い音が響き、女巨人の頭にぶつかって砕け散った。その顔が、こちらにゆっくりとむけられる。その無表情な顔は怒っているようにも見えた。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

「こっち向いた!向いたけど!」

 

「明らかにお怒りね!ごめん!」

 

「スタァアアズ!」

 

「来るぞ!」

 

 

 持ち上げられた右腕がうなりを上げ、五匹のグレイブディガーが勢いよく時計塔前広場に叩きつけられ、薙ぎ払う。巨体に見合う破壊力だった。

 

 

「逃げろ!」

 

「スタァアズ!」

 

 

 私達は逃げながら、ネメシスが手榴弾を投げて応戦。しかしその硬い表皮がちょっと傷つくだけで怯みもせず、雪崩れ込む様にグレイブディガーが襲いかかってきて、私達は橋を駆け抜けてダニエルと戦ったところまでやってきた。そう言えば、エヴリンはどこ行ったんだろうか!って、あれ?

 

 

「ダニエルがいない!」

 

「そんなの気にしてる場合じゃないわ!」

 

 

 と、私を突き飛ばしたリサと、カルロスを突き飛ばしたネメシスが、襲い掛かってきたグレイブディガーたちに飲み込まれる。そのまま天高く空まで上がっていくグレイブディガーたち。2人が持ってかれた!

 

 

「助けないと!」

 

「わかってる、だがどうやって!?」

 

《「助けに来たぞ!」》

 

 

 カルロスと二人で慌てていると、空からライトが私達を照らしてくる。見上げれば、一台のヘリが空を飛んでいた。常人より優れている視力で見れば、ダリオが操縦しているのが見えた。ヘリ操縦できるのダリオ!?ミハイルも助手席に座っている、無事だったんだ。

 

 

《「俺も役立たずじゃ終わらないぞ!戦えはしないが、これぐらいは…!」》

 

《「行くぞジル、タイレル!ぶちかませ!」》

 

「ええ!」

 

「了解…!今助けるぞカルロス!」

 

 

 更に後部に乗ったジル、タイレルがそれぞれグレネードランチャー、アサルトライフルを手にして一斉掃射。リサとネメシスを飲み込んだグレイブディガーに次々と炸裂させ、二人が吐き出され公園に転がる。

 

 

「ぐう……」

 

「スタァズ」

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

《「やったぜ!」》

 

《「こっちに興味がわいた様だ。避けろダリオ・ロッソ!」》

 

 

 しかしまあそんなことしたらあの女巨人の興味がそっちに行くわけで。襲い掛かってくるグレイブディガーを巧みな操縦で回避していくヘリ。ダリオすごいな、ブラッドぐらい上手い……ブラッドがいれば、なあ。

 

 

「ヘリが危ない!くそっ、あんなのどうすれば……」

 

 

 逃げることしかできない。打つ手がない。水上でなければ近づいてぶん殴るくらいはできるのに。すると、なにか動きがあった。女巨人が、グレイブディガー達を自らの足元……水中に攻撃させ始めたのだ。見てみれば、水上にはいつの間にかエヴリンがいて。その下で、明かりに照らされて動く異形たちがいた。

 

 

『もうしょうがないから空から下水道の入口通って逆算で探してきた!もうこれしかない!』

 

「行くぞ、マザー!」

 

「水中なら任せるのだー!」

 

「なんか丸っこい奴も助けたわ!」

 

 

 ……えっと、ネプチューン・グラトニーとヨーン・エキドナ、あとヨーン・エキドナの尻尾で抱えられて気絶しているらしいガンマちゃんはギリギリわかるけど……あのワニっぽいのは誰だろう?




デカいやつのサイズなんて気にしたことなくて、とりあえずFateシリーズのセファールが一番イメージしやすかったので同じサイズにしました。ちなみにサイズ的には初代ウルトラマンよりでかいです。モチーフはFGOのティアマト(ファム・ファタール)。圧倒的なサイズによる攻撃力と防御力、制圧力を有しています。

そこに援軍として到着したのはジル達ヘリ組と、まさかまさかのエヴリン一家捕食者三姉妹。ダリオはやればできる男。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:31【グレイブディガー・ヒュドラ】

どうも、放仮ごです。今回はいいところで切ることができなくて時間がかかりました。

グレイブディガー・ヒュドラとの決戦。楽しんでいただけたら幸いです。


 グレイブディガーたちの本体が羽化もしくは脱皮を始めた瞬間、あ、これ勝てないなと確信して。私は急いでラクーンシティ上空に向かい、警察署裏手の下水道の入り口から飛び込んでリヒトとグラとヨナを探しに行き、出会うなり速攻した。

 

 

『なんちゃってむりょーくーしょで一巡目の出会った時の記憶を無理矢理叩き込んで仲間にしたけど、賭けだったなあ。最悪反発されることも危惧してたけど……三人とも受け入れてくれてよかった』

 

 

 襲いかかってくるグレイブディガーの表皮を引き裂くリヒト、グレイブディガーに噛みついて噛み砕くグラ、水中で溺れていたガンマちゃんを抱えたまま尻尾を振るって、ガンマちゃんの硬い外側の頭を叩きつけて弾き飛ばすヨナ。おいヨナこら、いくら頑丈だからってガンマちゃんを鈍器にするな、お馬鹿。

 

 

「エヴリン!あれ、なに!?」

 

『私はー―――ちょっとだけ未来から戻ってきた。あれは、未来で仲間になった……新しい家族だよ。ワニのリヒト、ヘビのヨナ、サメのグラ。頼もしい私の子供達』

 

「子供…?」

 

『あ、変な意味じゃないよ?お腹を痛めて産んだ子じゃないし』

 

 

 橋の上から様子を窺っていたアリサの問いかけに答える。説明が難しいんだよなあの子達。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 すると巨人が歌うように咆哮を上げると、背中の四匹のグレイブディガーを水面から持ち上げて天高く鎌首をもたげさせ、グレイブディガーの先端を嘴状に変形させると、取り込んでいたのか細い水流を勢いよく発射してきた。その軌跡に、最悪の光景がよぎる。アネットの使った、圧縮した血流のレーザービームとそっくりだった。

 

 

『みんな、避けて!』

 

「はやっ…!?」

 

 

 四本の水流レーザーはグルグルグルと発射しているグレイブディガーを回転させて広範囲を薙ぎ払い、避けようとしたアリサの左腕を橋ごと真っ二つに斬り裂いてしまう。さらにはジル達のいる広場まで斬り裂き、咄嗟に水中で高速に動けるため回避を試みたものの間に合わなかったリヒト達の頑丈な体も血飛沫が上がる。なんて威力だ。デカさも相まって避けきれないし、最悪の技だ。水を溜め込む予備動作がいるみたいだけど。

 

 

「スタァアアズ!」

 

「AAAAAA?‼」

 

 

 すると動いたのは、避けながらサブマシンガンで応戦していたネメシス。触手を巨人の右腕から生えた五匹のグレイブディガーのうち一匹の表皮に突き刺し、ワイヤーアクションで飛び上がる。いきなり眼前に飛び上がってきたネメシスに目を見開く巨人の顔面に、ネメシスの拳が突き刺さる。しかし巨人は仰け反っただけでびくともせずに不機嫌そうにネメシスを睨みつけ、左腕のグレイブディガーを伸ばしてネメシスを叩き落とす。

 

 

「スタァアズ……」

 

「大丈夫か!?」

 

 

 落ちてきたネメシスを受け止めるリヒト。そんな微笑ましい光景など知ったことかと言わんばかりに滝の如くグレイブディガーたちが降り注いでくる。それを、リヒトは体を大きく振って尻尾で迎撃。ネメシスごと水底まで押し飛ばされる。

 

 

「くーらーえー!」

 

「毒でもめしあがれ!」

 

 

 尻尾による張力で水面に跳ね上がり、ププププッ!と尖らせた口から抜けた牙を纏めてショットガンの如く乱射するグラ。ガンマちゃんを岸まで放り投げて、グレイブディガーの一匹にその長い体で巻き付いて締め上げ、毒の牙を突き刺すヨナ。しかし甲殻に弾かれてまるで通用しない。

 

 

「グレネードランチャーでも怯みもしないなんて…!」

 

「くそっ、火力不足だ!」

 

《「今すぐワクチンを持っていかないとミサイルでラクーンシティが消し飛ぶってのに、こいつが邪魔だ!」》

 

《「これは民間のヘリだ、武装はない!今ある戦力で何とかするしかないぞ!」》

 

「くそっ、弾がもう……」

 

「何か弱点はないのあのデカブツ!?」

 

 

 空を飛び回るヘリに乗るジル達、地上から攻撃するカルロスとリサ、水面から攻撃するヨナとグラでいい感じに狙いが分散され、グレイブディガーによる制圧攻撃や水流レーザーが飛び交う。うーん、体内に飛び込んで超至近距離鼓膜絶叫でも叩き込んでやろうか?いや、あの巨体ででたらめに暴れられたらそれこそ大惨事だ。どうしよう。

 

 

「よっ、と!」

 

「アリサ…!?なにを……」

 

「私を上まで連れてって!」

 

 

 すると跳躍してヘリの下部に掴まるアリサが、頷いたダリオの操縦でグレイブディガーの猛撃を避けながら空高く上がっていく。なにを…!?

 

 

「行くぞ!」

 

「スタァアアズ!」

 

 

 同時に、水面にリヒトとその上に乗ったネメシスが浮上。ネメシスが引き抜いたホットダガーを巨人の水面の上の足(?)に突き刺して、リヒトがぐるりと周りを一周、灼熱の刃で斬り裂いていく。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼??」

 

 

 灼熱の刃に下半身を引き裂かれ、さすがに効いたのか絶叫を上げる巨人は狙いをリヒトとネメシスに絞り、グレイブディガーをすべてサーキュラー川に突っ込ませ、ゴクゴクゴクと水を取り込んで持ち上げると、水流レーザーの雨を足元目掛けて注ぎ込む。

 

 

「「なあああああっ!?」」

 

 

 リヒトはネメシスを乗せたまま高速で水面を泳ぎ、水流レーザーを回避。とばっちりを喰ったのは同じく足元にいたグラとヨナだ。慌てて回避すると地上に上がり、ぜーぜーと息を吐く。

 

 

「大丈夫?」

 

「げ」

 

「a」

 

 

 それに手を差しのべたリサを見て顔を引きつらせてしまうヨナとグラ。あ、そう言えばこの二人、リサが怖くて自分の縄張りに引きこもってたんだっけ……。顔とか印象とかか変わってるんだけどわかるもんだなあ。

 

 

《「これ以上は無理だ!俺の娘の分までぶちかませ、アリサ!」》

 

「この高さなら……どう、だぁああああああああっ!!」

 

 

 すると上空から咆哮が聞こえて見上げれば、結構な高度まで行ったのか隕石の様に炎を纏い拳を突き出しながら落下してくるアリサが見えて。それに気づいた巨人はリヒトとネメシスを追っていたグレイブディガーをすべて上空のアリサに向けて水流レーザーを発射する。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

「ぁあああああああああっ!!」

 

 

 束になって襲い掛かった水流レーザーだがしかし、アリサは纏った炎で蒸発させて相殺していき、ついには水切れ。邪魔するものがなくなったアリサは急降下、突き出した拳を巨人が咄嗟にグレイブディガーを重ねた頭上に叩き込み、途轍もない衝撃波が発生して暴風となって吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水煙で何も見えない。なにが起きた?あのデカブツをアリサが倒したのか?

 

 

「はあ、はあ、はあ………」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「スタァアズ!」

 

 

 衝撃波で津波が発生しえらいことになっているサーキュラー川に上手く波に乗って耐えていたリヒトの上に乗ったネメシスが落下してきたアリサを受け止める。見た感じ、隕石のような衝撃で全身バッキバキに骨折しているらしい。再生力に定評のあるアリサでも再生に時間がかかりそうだ。だけどこれで、あのデカブツも………!?

 

 

『うそ……』

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 しかし、健在。あの巨人は生きていた。グレイブディガーが全部ひしゃげてお釈迦になったようだが、本体の巨人は生きていた。バキボキと絶望の音を立てて、グレイブディガーが急速に再生されていく。その様子は、ミランダを倒した後の菌根や、炎上してなお生きていたイブリースを思い出させた。

 

 

『こんなの、一撃で全部吹き飛ばすしかない……でも、この質量を、この巨体を、どうやって?』

 

 

 生きていることに気付いたジル達が再び攻撃を始める中で、私は空中で立ち尽くす。ロケットランチャーでも無理だ。何か、何か方法は…………

 

 

「このままじゃじり貧よ……弾もなくなる!」

 

「くそっ、地下にあったレールガンをここまで持ってこれればもしかしたら……!」

 

 

 ジルとタイレルのそんな弱音が聞こえてきた。……レールガン?そんなものがあるのか。いやでも、地下じゃ持ってくることも、多分電源もいるだろうからどっちにしろ使えない……………いや、待てよ?

 

 

 

 

 

 私は知っている、鉄ならば自在に操る磁力をそれを生み出す電気の力を有していた男を。私は知っている、その男の力が菌根由来の物であると。

 

 

 

『……もしかして、できる?』

 

 

 右手を見て震える。これは賭けだ。できるかどうかもわからない、究極の賭け。それでも、やるしか、なかった。

 

 

『…………力を貸して、カール・ハイゼンベルクッ…!』




アリサのスターライトアンパンチみたいななにか。この娘も結構ぶっ壊れ。

決死の猛反撃もなにかしたかと言わんばかりに再生してなかったことにするグレイブディガー・ヒュドラ。レールガンも地下深くにあるので無理ゲー、だけどエヴリンは何か思いついたようで?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:32【モールデッド・シュタール】

どうも、放仮ごです。小説情報からUAを確認して一喜一憂するのが日課なんですが、前回を投稿する直前からたくさん読んでくれてるな…と思ってたら、日刊ランキング25位に入ってました。ありがとうございます!

今回はエヴリンの秘策発動。楽しんでいただけたら幸いです。


 ずっと、頭の中に声が響いていた。声にならない、だけど決して抗うことのできない命令の様な声。心臓の代わりに鳴り響くキンキンとうるさい金切り声。そんな二つの声に、悩み苦しまされていた。

 

 水面の見えない深い深い水底をもがいているような感覚だった。自由に息継ぎできない、水の重さに囚われてただもがくしかない感覚。抗えない、逃げられない。ただ導かれるままに、終わりの見えない水中を上がり続けるしかなかった、そんな感覚だった。

 

 ついには胸にぽっかり空けられた大穴に得体のしれない何かが巣食い、体の自由すら奪われて、勝手に身体を動かされて水底に閉じ込められたような感覚に陥った。声すら奪われて、助けを求めることもできない。操り人形として自分の意志もないままに支配され続けるしかないと思った。

 

 

 そんなとき、苦しみがいきなり消えた。何かに引きずり込まれる感覚はあったと思う。そして暗闇で先が見えないはずだった水面に月光が差した。水中に沈んでいく己の大きな手に、小さな手が差し伸べられた。その持ち主は、聖母の様な優しい笑みを浮かべていて、いとも容易く、永遠に続くと思われた苦しいだけの水底から引っ張り上げてくれたのだ。

 

 

 もう命令なんて聞かなくていい。自由だと、そう言ってもらえて。困った。本当に困った。己は命令なしで生きることを知らないのだ。だがあんな苦しみに戻るのはごめんだ。ならば、答えは1つだ。決して返せない恩がある。この人のために生きよう。あなたに忠誠を誓おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………力を貸して、カール・ハイゼンベルクッ…!』

 

 

 右手で拳を握るエヴリン。その拳に握られた見えない鎖を引っ張るように動かして、菌根の記憶をこじ開ける。見えない鎖で手繰り寄せるように引き出したのは、ローズの傍にいるはずの本物とは違う、怪しげな工場長の記憶、その残滓(レムナンツ)。ただし、エヴリン本人もぶっつけ本番で始めてやるから何が起こるかわからない。そしてそれは、最悪の形で現れた。

 

 

『っ、あぁあああああっ!?頭が、痛い……』

 

「エヴリン?」

 

 

 存在しないはずの脳が熱を持ち焼かれるように痛む感覚に、脂汗を垂れ流し目を見開くエヴリン。全身にバグったようにノイズが走り、その姿が……正確には服装が書き換わっていく。その様子が目に入り目を見開くアリサ。

 

 

『ああ、なんだ…?何が起きている…?』

 

 

 目元に丸いサングラスを掛けて、首には吊りはかりとペンダント、ドッグタグをかけて、黒いソフトハットとオリーブ色のロングコートを着用した姿に変わったエヴリンは、痛む頭を帽子越しに押さえながら、サングラスの下の眼を見開く。そして目の前で暴れ狂うグレイブディガー・ヒュドラに視線を向けるとにやりと嘲笑を浮かべた。

 

 

『これはこれは…面白え。ミランダが見たら喜びそうだ……いいぜ!全員が楽しめるショーを見せてやる!』

 

 

 両手を広げて、そう宣言するエヴリンに、彼女を知覚できるすべての存在が惹きつけられる。アリサが、リサが、ネメシスが、リヒトが、グラが、ヨナが、オメガちゃんが、そしてグレイブディガー・ヒュドラまでもがその一挙手一投足にまで注目する。無視したら死ぬ、そう思わせるだけの生物としての格の違いが、今のエヴリンから醸し出されていた。

 

 

『だがそれを始めるには肉体が必要だ!俺の電圧に耐えられる肉体がな!』

 

「ど、どうしちゃったのエヴリン……」

 

『お前じゃダメだ!タフだが電気に慣れてねえ!』

 

 

 動きが止まったグレイブディガーに困惑しながらも、豹変したエヴリンを心配するアリサの言葉を一蹴し、エヴリンは踊るように空を舞い、次々と自分が見えるリサ、リヒト、グラ、ヨナ、ガンマちゃんと見繕っていく。

 

 

『お前も駄目だな。電気の檻で閉じ込められてたんだろう?』

 

「は?」

 

『お前たちは論外だな。電気に弱すぎる』

 

「マザー…?」

 

「電気はやめてほしいのだ……」

 

「喧嘩売ってるのなら買うけど」

 

『お前は……電気無効にしちまいそうだから、駄目だ』

 

「なにがー?」

 

 

 そして、まるで子供の様に楽しげに値踏みするかの如く向けられていた視線が、一人に向けられる。リヒトの上で困惑しているネメシスだった。

 

 

「スタァズ?」

 

『そうだ、お前だ。お前の肉体なら耐えられる!俺を受け入れろネメシス!』

 

 

 ネメシスは、エヴリンに絶大な恩義を感じている。それこそ自分の生殺与奪の権利さえ差し出す覚悟を。エヴリン(?)に求められて、その身を差し出さない理由はなかった。

 

 

「え……わあ!?」

 

「『フハハハハハハハハアッ!』」

 

 

 エヴリンとネメシスが重なったかと思うと、水底に沈んでいた残骸が浮かび上がってきてその上にネメシスは飛び乗り、高笑いと共にリヒトを持ち上げて岸までぶん投げたかと思うとネメシスが身体を中心に放電が発生。サーキュラー川に浸かっているグレイブディガー・ヒュドラを問答無用で感電させると途轍もない磁力が発生。鉄の残骸がネメシスに集束して、鋼鉄の鎧を作り上げていきネメシスを覆うように溢れた菌根が内側で強固に固めている。

 

 

「『3(スリー)2(ツー)1(ワン)……ショータイム!!』」

 

 

 そしてグレイブディガー・ヒュドラの腕を形成しているグレイブディガー一匹の上に飛び乗ったのは、鋼鉄の戦士だった。ゾルダート・パンツァーに酷似しているが、モールデッドの特徴である黒カビが内側に敷き詰められておりゾルダート化したモールデッドを思わせる。

 

 

「『名づけるならモールデッド・シュタール。少々物足りないが完成だ。さあ、この鋼鉄の肉体にひざまずけ!』」

 

 

 残骸を空中に浮かばせ、それを足場にしてトンットンットンッと重量を感じさせない足取りで空中を駆け抜け、タイヤの外れたホイールに尖った鉄片をくっつけ作り上げたドリルにした右腕を、グレイブディガー・ヒュドラの胴体に叩き込む。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 しかし放電のショックから立ち直ったグレイブディガー・ヒュドラはびくともせず、右腕の五匹のグレイブディガーを叩きつけ、モールデッド・シュタールは足場の残骸を蹴って回避、別の残骸に飛び乗ると宙返り。今度は鉄の残骸で巨大なハンマーを作り上げると直接グレイブディガー・ヒュドラの側頭部を殴りつけ、ぐらりとその巨体が揺れた。

 

 

「『ハッハアア!これ最高だろ!?』」

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 初めて表情を歪めて怒りを見せたグレイブディガー・ヒュドラが両腕と背中のグレイブディガー14匹を、前後左右上下、全方向からモールデッド・シュタールに叩き込み、鉄の残骸が飛び散った。

 

 

「『その程度か?デカブツ』」

 

 

しかし、シュポンッという音と共に鎧の磁力を反発させて空に打ちあがった、むき出しの歯と潰れた片目が特徴の漆黒の大男……モールデッド・ネメシスは再度鉄の残骸を集めてモールデッド・シュタールに戻ると急降下。右手の先端に取り付けたタイヤのホイールを利用した回転する鉄拳をグレイブディガー・ヒュドラの顎に叩き込んだ。

 

 

「『狙いは良かったが、ダメだ』」

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 ぐらりと揺れて、サーキュラー川に倒れ込むグレイブディガー・ヒュドラ。むかつくと言わんばかりに頬を膨らませると、グレイブディガー14匹すべてをサーキュラー川に突っ込み、水を取り込んで嘴状に先端を変形させる。しかしモールデッド・シュタールはまるで気にせず人差し指を立てて挑発する。

 

 

「『さあ撃ってこい』」

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

 

 水流レーザーが14門が一斉に放出される。しかしモールデッド・シュタールは再度放電。円形に放出された電撃がバリアの様な役割を持ち、水流をすべて弾いていく。菌根でネメシスの体内に再現した発電器官から発生させた電気だった。

 

 

「……すごい」

 

《「ヘリが引き込まれないように操縦するだけで精一杯だ!」》

 

「でも、エヴリンだけどエヴリンじゃない」

 

「…マザー」

 

 

 そんな神話と見紛う戦いを、見ていることしかできないジル達。特にエヴリンと付き合いの長いアリサは鋼鉄の鎧の下で脂汗をにじませているエヴリンの姿を幻視する。

 

 

「……大丈夫、だよね?エヴリン……」




記憶を引き出して無理矢理使うという無茶をぶっつけ本番で使った結果、ハイゼンベルクになってしまったエヴリン。エヴリンの声そのままでハイゼンベルクみたいに喋ってます。ハイゼンベルク本人ではないですし、エヴリンでもない状態です。近いのはプリズマ☆イリヤの夢幻召喚かな?ただ無償ではないようで…?

ネメシスの身体を使っていつものモールデッド合体、にさらにハイゼンベルクの力を引き出したモールデッド・シュタール。名前はそのままドイツ語で鋼鉄という意味。電気を操り、磁力に変換して散々グレイブディガー・ヒュドラに破壊された鉄類の残骸を利用した形態。これまでのモールデッド形態にはない防御力と変幻自在の攻撃が持ち味。

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file3:33【とある工場長の超電磁砲】

どうも、放仮ごです。RE3と無印バイオハザード3だと後者の方が好きです。時計塔とか公園のステージの他、最終決戦のパラケルススの魔剣のチャージをしている間に時間を稼ぎ、マグナムでとどめを刺す一連の流れホント好き。

グレイブディガー・ヒュドラの正体。楽しんでいただけたら幸いです。


■■■■■

PJ名 :Ferromagnetic Infantry-use

      Next Generation Railgun

     (強磁性歩兵連隊用次世代レールガン)

開発コード:FINGeR

旧開発コード:パラケルススの魔剣

開発責任者:NEST2 主任研究員 コーネル・ガーナー

開発協力 :アメリカ合衆国陸軍

 

口径   :60mm

目標初速 :6000m/秒

 

使用目的 :

新型B.O.W.の暴走に備えた制圧用兵器

備考   :

高い火力の二次的効果として、

対象物の痕跡を一切残さず廃棄処理が可能。

 

 

現場からの意見:

・「The Finger」は最高にクールな兵器だ

 気に入った!

・威力は文句ナシ 出力の調整ができればなお良し

・戦地での運用に向け機動性の確保が課題

 台座の改良でカバーできないか

・外部電源が複数必要だが、実戦では確保が難しい

 電源は1つで稼動するようにしてほしい

                      以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電気のバリアで水流レーザーを完全に耐えきると、足場にしている残骸を移動させ疲弊しているグレイブディガー・ヒュドラの眼前までやってくるモールデッド・シュタール。両手を掲げて傍に手の形に集束させた鉄くずの塊を浮かばせると、その場で両拳を大雑把に振るい、連動して動く鉄くずの拳を連続で叩き込んでいく。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

「『思ったよりやるな?お前はタフだ、それは認めよう。だがこいつを喰らっても同じ顔ができるかな?』」

 

 

 メカアームの様な両手の間に浮かんだネジに、バチバチバチと瞬く電気が集束されていく。ネジを媒体に電気を集束させたモールデッド・シュタールは左手の人差し指と親指で丸を作り照準をグレイブディガー・ヒュドラの胸に向けると、突き出した右掌に浮かばせた帯電したネジを、電磁加速を加えて毎分8発、音速の3倍以上という速さで撃ち出した。いわゆる超電磁砲、レールガンだ。

 

 

「『さあ派手に死んで見せてくれ!』」

 

 

 空気との摩擦熱でネジは溶けてしまったが、ネジを利用して指向性を持たせた圧縮された電撃は胸部の甲殻を撃ち抜き、轟音と共にグレイブディガー・ヒュドラの胸部に風穴を開けた。

 

 

「『……あん?』」

 

 

 鉄くずで覆われていてもわかるぐらい眉根を潜めるモールデッド・シュタール。エヴリンの予想通りなら、この一撃で中核となりうるコアに当たる部位が現れると思っていた。しかしその予想とは裏腹に……風穴を開けられた胸部には、影すらない。心臓や肺の様な重要臓器すら見られない。

 

 

「『もう一発だ…!』」

 

 

 グレイブディガー・ヒュドラが回復しきる前にと、今度は質量の大きい車のエンジンを眼前に浮かばせて、両手から放出した電気を集束させていき、発射。今度はグレイブディガー・ヒュドラの右目を中心に、右半分を吹き飛ばす。しかしやはり、脳に当たる部位もない。頭部、胸部。コアがありそうなところを全部吹き飛ばしても、影すら見えないのはやはりおかしい。すぐに胸部と顔の風穴を再生して塞ぎ、グレイブディガー・ヒュドラは不快だと言わんばかりに咆哮を上げる。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

「『ちい!なんなんだ、お前は!?』」

 

 

 両腕が振り下ろされ、先端の十匹のグレイブディガーが複雑な軌道を描いて殺到。咄嗟に電気のバリアを張るが知ったことかと言わんばかりに一匹が黒焦げになりながらも突撃してきて、吹き飛ばされる。

 

 

「『ぐっ、ああっ!?』」

 

 

 咄嗟に鉄の残骸で作った足場を水面の上に浮かばせて、受け身を取って飛び石の様に跳ねて時計塔の外壁に凄まじい勢いで激突。罅が入って崩れ落ちていく時計塔だったものの瓦礫が降り注ぎ、モールデッド・シュタールは自らを追っている鉄くずをパージしてモールデッド・ネメシスになると、拳を地面に叩きつけて磁力の竜巻を放ち鉄くずを回転させて瓦礫を吹き飛ばす。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

「『くそっ!』」

 

 

 しかしそんな分かりやすい隙を見逃すグレイブディガー・ヒュドラではなかった。モールデッド・ネメシスを、否エヴリンを自らの敵だと定めて背中の四匹のグレイブディガーに水を取り込ませて四筋の水流レーザーを発射、集中砲火を浴びせて水煙が立ち込める。

 

 

「『……うん?生きてる……だと?』」

 

「その口調、似合わないわよエヴリン」

 

 

 しかしそれは、髪の毛を触手の様に伸ばしたリサと、尻尾を伸ばしたヨナが同時に巻き付けて引き寄せることで回避していた。リサとヨナだけではない、アリサ、カルロス、ガンマちゃん、グラ、リヒトと地上組も勢ぞろいだ。空ではヘリが眼前を飛び回ってグレイブディガー・ヒュドラの気を惹いている。リサに言われた言葉に、首を傾げるモールデッド・ネメシス。

 

 

「『ああ?俺はカール・ハイゼンベルク……いやエヴリン……俺は、私は誰だ?』」

 

「エヴリン?本当に大丈夫?」

 

「来るぞ!」

 

 

 頭を押さえるモールデッド・ネメシス……エヴリンの様子に心配の声をかけるアリサだがしかし、カルロスの叫びに振り向くとグレイブディガー・ヒュドラのグレイブディガーが自分たち目掛けて落ちてきて。咄嗟に全身に瓦礫の下から飛び出してきた鉄の残骸を身に纏い、両手を突き出して鋼鉄の肉体で受け止める。

 

 

「『……家族は、殺させねえ!』」

 

「まだ回復しきってないけど…!」

 

「エヴリンにだけ暴れさせるのも癪よね…!」

 

「どうなっても、俺はマザーを守る…!」

 

「でかい顔していい気になってるじゃない…!」

 

「水場で最強なのは私だ!」

 

「いーくーぞー!」

 

 

 そしてアリサ、リサ、リヒト、ヨナ、グラ、ガンマちゃん本体が右手を振りかぶり、同時にパンチ。怪力六人が全力で振るった拳の衝撃を真正面から受け止めたグレイブディガーはブクブクと膨張して破裂。血肉の雨が降り注ぎ、カルロスがグレイブディガー・ヒュドラの腰まで放り投げた手榴弾にアサルトライフルの弾丸を当てて爆発させて怯ませる。

 

 

「やったぜ!」

 

「AAAAAAAAAAA‼‼??」

 

「『今だ、偽・領域展開ッ!』」

 

 

 怯んだ今しかないと右手で帝釈天の印を結び、瞬間的になんちゃってむりょーくーしょ……正確には、単なる菌根世界への接続でしかないそれに名前を与えたそれを発動するモールデッド・シュタール…エヴリン。

 

 

「……そうか、その触手全部がお前の核そのものか」

 

 

 菌根世界にグレイブディガー・ヒュドラを引きずり込んで、理解する。その実態は、クイーンやモリグナの様な、群体ではなかった。もともと繁殖力の高い無数のグレイブディガーが、ニコライの肉体を基点にして崩壊と再生を短期間の間に数万回も繰り返して、完全に一つとなった生命体。全てが本体。14体どころではない、その巨体全てがグレイブディガーの集合体。グレイブディガーが一匹でも残っていれば、ヒュドラの如く増えて再生する、正真正銘の怪物。グレイブディガー・ヒュドラの脅威はその巨体ではなく、圧倒的な不死身性にある。

 

 

「あの巨大な美女の正体がこんなんだと世の男どもは残念がるだろうぜ」

 

 

 菌根世界、雨のラクーンシティに蔓延る万を超えるグレイブディガーに、肩に鉄槌を担いで不敵に笑むエヴリン。そのまま現実に戻ってきて、ネメシスの肉体で瞑目し、再び鉄の残骸を足場にして空に舞い上がる。

 

 

「『デカブツにはデカブツをぶつけるか…!磁力に指向性を持たせる…!』」

 

 

 グレイブディガーの体当たりや水流レーザーによる猛攻を、鉄の残骸を集束させて盾にして防ぎながら、地下目掛けて左手をかざすモールデッド・シュタール。遥か地下から指向性を持った磁力で引っこ抜いてきたのは、巨大な鋼鉄の砲門。レールキャノン「FINGeR」。

 

 

「私を飛ばして!リサ!」

 

「おねがいー!」

 

「私もよ、リヒト!」

 

 

 それを見て勝機を見出したジルとタイレルはヘリから銃撃、カルロスもアサルトライフルを撃ちまり、その横でグラが牙を飛ばして気を逸らし。リサはアリサを、リヒトはガンマちゃんを投擲。拳と頭部をグレイブディガー・ヒュドラの顔に叩き込んで吹き飛ばし、さらにリヒトに両手で持たれて投擲されたヨナが首に巻き付いて締め上げる。

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」

 

『そんじゃ派手にブチかまして、盛大なフィナーレの幕開けといこうじゃねえか!っはっはっはぁ!』

 

 

 みんなが時間稼ぎをしている間に、本来外部電源からの供給が必要なバッテリーに己から迸る電気を集束させ、グレイブディガー・ヒュドラの頭上に浮かばせるモールデッド・シュタール。雷鳴が轟き、電撃が迸る。

 

 

『ご愁傷様!』

 

 

 そして頭から下まで貫くように、亜光速まで加速した電気の塊と化した砲弾が発射、グレイブディガー・ヒュドラは眩い電光に包まれた。




感想でも指摘されてた通り、このハイゼンベルクエヴリンは、正確に言うと記憶を引き出して自分がハイゼンベルクだと思い込んでいるエヴリン、という存在になってます。菌根の弊害は実際これだと思う。

グレイブディガー・ヒュドラは単一の生命としてのグレイブディガーの集合体。名前の通りヒュドラみたいな存在でした。とどめはやっぱりレールキャノン。地下から引っこ抜いて電源をハイゼンベルクの電撃で補い最高出力をさらに超えて撃ちだす無茶でした。

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file3:33.5【その国の名は】

どうも、放仮ごです。次回3編最終回なのですが、その前にいつの間にか消えていたあの男について短編をお送りします。楽しんでいただけたら幸いです。


 莫大な電光にグレイブディガー・ヒュドラが飲み込まれていくのと同時刻。サーキュラー川と繋がっている河口を浮かぶモーターボートがあった。モーターボートの上には男が一人乗っており、サングラスを胸ポケットに下げて双眼鏡を構え、グレイブディガーの最期を見届けていた男は、携帯電話を取りだし専用の国際通話に繋げる。

 

 

Prrrrrr……Prrrrrr……Prrrrr……ガチャッ!

 

《「もしもし?ああ、ダニエル。ゲームは楽しめたかい?」》

 

 

 聞こえてきた声は今回の依頼主である人物。モーターボートの上でバランスを取り、双眼鏡で崩れ落ちていくグレイブディガー・ヒュドラを見ながら男……ダニエル・ファブロンは飄々とした態度で続けた。

 

 

「悪いなサミュエル・アイザックス。誰一人確保はできなかった。せっかく連れてきたB.O.W.も全滅だ。「RT-01“Empress(リサ・トレヴァー)」「RT-02“Blank”(アリサ・オータムス)」「Serket(セルケト)」「Centurion.Hekatoncheir(センチュリオン・ヘカトンケイル)」「Hunter.Ω(ハンターオメガ)」「Hunter.Ψ(ハンタープサイ)」「Yawn.Echidna(ヨーン・エキドナ)」「Neptune.Gluttony(ネプチューン・グラトニー)」「Morríguna(モリグナ)」「Alligator.Styx(アリゲーター・ステュクス)」「GraveDigger.Hastur(グレイブディガー・ハスタ)」……半分は見つからなかったが、RT-01と02は作戦を立て直さなくちゃならん。ヨーン・エキドナとネプチューン・グラトニーとアリゲーター・ステュクスはあっちから来てくれたが例の存在の言うことを聞いてるようだ。ハスタってやつに関しては……今しがた見届けたでかいのがそうだったのかもな?」

 

《「そうか、そうか……やはりいるか、エヴリンと呼ばれている菌根に連なる少女が」》

 

「眉唾物だな……存在を聞かされた時は狂ったのかと思ったが……奴らの動きは明らかに指示を受けていた。そして極めつけは……リサ・トレヴァーとネメシスの変貌だ」

 

《「ほう、ネメシスも変貌したというのか。詳しく聞かせてもらえるかい?」》

 

 

 アイザックスの言葉に、ダニエルは頷いて自分が目覚めてから逃げる準備をしながら見物していた一部始終について説明する。エヴリンが名乗っていた、名前についても。

 

 

《「……カール・ハイゼンベルク。そう名乗ったのかい?」》

 

「ああ、確かにそう言ってた。エヴリンってのはあだ名か?男みたいな名前だな。知人か?」

 

《「知人……というのはちょっと語弊がある。一方的に知っているだけだからね。スペンサー卿の資料にあった“村”の四貴族の一人と同じ名前だ。確か能力は……胸部に形成されたシビレエイのような「発電器官」と酷似した臓器と直結した脳を通じて全身の神経に電流を流す事で、自らの肉体をコイルと化して周囲に磁界を形成し、思うがままに金属製の物体を操る……だったかな?」》

 

「おい、それは……あの鉄の怪物になったネメシスと同じ力だっていうのか?どういうことだ?」

 

 

 電話の先からクックックッと笑い声が聞こえてきて眉根を潜めるダニエル。自分だけわかったつもりにならないでほしかった。

 

 

《「そうか、そういうことか……面白い。ダニエル、よければこれからも私と組む気はないかな?報酬は色を付けよう」》

 

「今更スペンサー卿の元にも戻れれないしな。いいぜ、乗ってやる。それで、あんたは今どこにいるんだ?」

 

《「ああ、ここは……」》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイザックスは、給仕係が入れてくれた米を発酵した酒を一口飲み、舌鼓を打つ。その視線の先には、赤い丸が描かれた白い旗が掲げられていた。

 

 

「黄金の国ジパング。極東の国。またの名を、日本(ジャパン)さ」




生きてたダニエル。どさくさに紛れてモーターボートに乗って川から脱出してました。仕事のできる男なのでしたたかである。

アイザックスの亡命した国は、バイオハザードではちょくちょく日本人やアジア系が出てくるだけで今だに直接関連はない日本でした。映画バイオハザードIVで東京がちょろっと出てくるぐらいしかなかったはず。そしてエヴリンについて何か気づいた様子。

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file3:Fin→file2:44【ノーコンティニューで!】

どうも、放仮ごです。エヴリンの声の諸星すみれさんが本日始まった新戦隊の敵幹部の声で出てた様で。エヴリンだあ!と一人別の意味で盛り上がってなんかいつもより早く書き上げることができました。

今回は3編の終幕と、再開。楽しんでいただけたら幸いです。


「…あぶなかったわ」

 

 

 レールキャノンの直撃で消し飛ばされたグレイブディガー・ヒュドラから、ギリギリ離れていたヨナが深く息を吐く。ギリギリまで首を絞めて時間稼ぎをしていたMVPである。一部が膨大な熱を持って水が蒸発し、川底が見える穴が水面に空いている。恐ろしい威力だとビビりな彼女は震え、対岸の公園に視線を向ける。

 

 

『ハッハッハア!』

 

「スタァアズ……」

 

 

 地面に降りるなりバチバチと全身に稲妻が走り片膝をついてダウンしたネメシスから排出された、ハイゼンベルクの格好をしているエヴリンが拳を握りガッツポーズをしている光景がそこにあった。彼女と家族だという存在しない記憶を叩き込まれてほいほいついてきたが、あんなだっただろうか?と疑問符が浮かぶ。

 

 

「a。……あー?」

 

「ま、マザー…?」

 

「いのちのおんじん!エヴリンだいじょーぶ?」

 

 

横を見れば、研究所から一緒に逃げ出した仲のグラと、特にエヴリンを「マザー」と慕っているリヒト、そしてサーキュラー川に来るなり溺れてたので助けたら懐かれたガンマちゃんも困惑している。反対側を見れば、ヘリが降り立ちカルロスが駆け寄りリサと何事か話し合っているジル達と、やはり困惑を隠せていないアリサがいた。

 

 

「あ、あの……エヴリン?」

 

『なんだアリサ。俺はハイゼンベルクだ』

 

「じゃあエヴリンって呼ばれて反応するのおかしくない!?」

 

 

 アリサが勇気を振り絞って問いかけたが一蹴されてる。どうしたもんか、触ることもできないしな……と、一応動物組内では精神的に最年長(?)である自分がどうにかしなければとヨナが蜷局を巻いて悶々としていると、ジル達と何かを話し終えたリサがすたすた歩いてエヴリンに近づくと、問答無用で殴りつけた。

 

 

「ふんすっ」

 

『あいたっ!?なにすんだリサてめえ!』

 

 

 ぽかんッと小気味いい音が鳴り響き、リサとアリサ以外のエヴリンが見えるB.O.W.たちがありえない光景に驚いていると、この場で唯一エヴリンを見て触ることができるリサは帽子が持ち上がるぐらいのたんこぶができたエヴリンの胸ぐらを掴んで眼前まで引き寄せるとニコニコ笑顔で圧を発する。

 

 

「てめえとはご挨拶ねエヴリン。いつまでごっこ遊びをしているつもり?何をしたのか知らないけど、急がないとなのにまだこんなめんどくさいことをするなら、私にも考えがあるわ」

 

『待て、待て。落ち着け。考えってなんだ』

 

「正気に戻るまでフルパワーでぶん殴る」

 

『戻った!戻ったから勘弁して!?』

 

 

 ひぇええええっと情けない声を上げながらその姿にノイズが走りいつもの姿に戻って涙目で両手を上げて降参の意を示すエヴリン。すっかり元に戻ったエヴリンに、リサは「よしっ」と頷くと背後のアリサに親指をさした。

 

 

「ほら、アリサにもなんとか展開しなさい。説明している時間がない。ジル達には私達はこの街に残ってあとから脱出すると説明したから」

 

「え、なんで?一緒に脱出すれば……」

 

「洋館の時と同じだけど、まずヘリに乗れる人数が限られてる。私達だけ脱出したらガンマちゃんたちを見捨てないといけないし、なにより……私達には、やることがある。エヴリン」

 

『はーい……偽・領域展開。なんちゃってむりょーくーしょ』

 

「あばばばばばっ!?」

 

 

 リサには逆らえないのか掌印を結んだエヴリンが直接記憶をアリサに流し込み、目を回して倒れ込むアリサ。それを見て、腕を組んでうんうんと訳知り顔で頷くヨナとグラ、ニコニコ笑顔のリヒト、ぽけーっと空を見ているガンマちゃん、ダウンから持ち直して直立不動のネメシス。

 

 

(そうなるわよね。わかる……)

 

(情報量が、情報量が多すぎるのだ……)

 

(マザーが戻って俺、安心した)

 

(おなかすいたー)

 

(すたぁず)

 

 

 フリーダムである。そしてぷるぷるぷると頭を振るわせて流れ込んできた情報を整理し、エヴリンを見るアリサ。エヴリンは申し訳なさそうに俯いていた。

 

 

「…エヴリン。なんで、すぐ、話してくれなかったの!?」

 

『え、いや、だって……私が不甲斐ないせいで脱出できるかもしれないアリサを巻き込むのが嫌で……』

 

「そんな遠慮不要だよ。私達、家族じゃないの?」

 

『うっ。……ごめんなさい』

 

「マザーを泣かせるな」

 

 

 泣きじゃくるエヴリンとアリサの間に割り込むリヒト。この子供、マザーの涙は許せぬ男(女)であった。

 

 

「あ、ごめん。えっと……リヒトだっけ。でっかい子供ができたねエヴリン。子供にかっこわるいところ見せられないね?」

 

『うん。…うん!』

 

「私エヴリンの姉だと思ってるから、甥っ子になるのかな…?私アリサ。よろしくね、リヒト。ヨナとグラも!」

 

「え、あ、うん…?」

 

 

 和やかに挨拶するアリサに呆気に取られるリヒト。ヨナとグラも顔を見合わせている。そしてエヴリンは、ネメシスの前に浮かんで頭を下げた。

 

 

『…ごめん。ハイゼンベルクの力を使うためとはいえ、電気は苦しかったよね。でもあなたのおかげで勝てた。ありがとう』

 

「スタァアズ」

 

『今度こそ、貴方は自由だよ。戦わない道だってある。できればまだ手を貸してほしいけど、あなたの好きなように……』

 

 

 そこまで言って、エヴリンは気づく。ネメシスが、じっとおのれを見つめていることを。その視線に含まれる信頼と親愛の感情に気付く、気付いてしまう。

 

 

『……本当にいいの?ひどい目に遭わせたんだよ?』

 

「むしろ、今更蚊帳の外にする方が薄情じゃないかしら」

 

「スタァアズ!」

 

 

 リサの言葉にそうだそうだと言わんばかりに頷くネメシス。エヴリンは観念して、頷いた。

 

 

『…わかった。これからも、力を貸して。ネメシス』

 

「私を容赦なくぶん殴ったのは許さないからね」

 

「す、スタァズ……」

 

「冗談だよ」

 

「それで……私達はいくけど、本当にいいのね!?アリサ!」

 

 

 アリサがネメシスと軽口を叩いていると、カルロスを乗せたヘリがふわっと少しだけ浮上し、後部に乗ったジルがヘリのローター音に負けないくらい声を張り上げながら呼び掛ける。

 

 

「うん。クイーンたちを助けなきゃ。ジルは早くサンプルを持って外に行って。それぞれ、やることをやってから外で合流しよう」

 

《「一緒に戦えて光栄だった。生きろよ。アリサ、リサ」》

 

「うん、カルロス。それにタイレル、ミハイルも。今度、ラクーンシティの外のいいお店を教えてよ!みんなで行こう!」

 

『アリサそれフラグになるからやめよう?』

 

《「ニコライやマーフィーの事は残念だったが……負傷した俺が生き延びられたのは君たちのおかげだ。きっとな。わかった、探しておくとしよう」》

 

 

 そう言い残して、ダリオの操縦するヘリは飛び立っていった。ワクチンサンプルという希望を乗せて。それを見送り、リサはエヴリンに向き直る。

 

 

「…馬鹿ニコライ………ま、いいわ。さあ、神殺しを始めましょうか」

 

『うん、まずはクイーンと合流しよう。…みんなで生きて、この地獄を出るんだ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼file3【追跡者(ネメシス)編】~完~to be continued?

 

OVER TIME‼

 

▼file2【G生物編】RESTART‼

 

 

 

 

 

 

 

「礼を言うわ、クイーン。そしてエヴリン。貴方たちが何度も殺してくれたおかげで進化し続けた私は、G-ウイルスに完全に適合したのよ!」

 

 

 もう何度目かわからないこの台詞。だがアネット……G6と対峙するのは、今までとは訳が違う。まず場所は下水道。そう、一巡目ではモールデッド・ハンターとして戦ったあそこだ。そして、迎え撃つのは厳選したこの四人。

 

 

『むしろ、そのために何度も殺したからね。いくよ……クイーン!アリサ!リサ!ネメシス!』

 

「ああ。今度は負けない…!」

 

「アネット……シェリーのお母さんだろうと容赦しないからね!」

 

「エヴリンを散々苦しめたお礼をしてあげるわ」

 

「スタァアアアズ!」

 

 

 長かった。本当に長かった。もうコンティニューはできない、失敗は許されない。それでも、やってやる。そして、偶発的に得た新たな力……私が記憶の持ち主本人だと思い込んでしまう欠点はあるけど……なんかリサの威圧で戻れるっぽいし、有効活用しない手はない。名前も付けた。名づけて、記憶継承(アンダーテイカー)。クイーンたちには不評だったけど、私は中二病なんじゃい文句があるか。

 

 そして、コンティニュー地獄を味わう前はコンティニューしてでもクリアするって息巻いてたけど、今は違う。痛感したことがある。コンティニューは逃げ道だ、次があるからと思ってしまい絶対にやり遂げる!なんて思えなくなってしまう。退路を断つためにも、ここで宣言してやる。

 

 

『ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!ってね!』




大活躍の偽・領域展開。アリサは地獄の記憶を手に入れた!

エヴリンの憑依モード「記憶継承(アンダーテイカー)」は直接触れることができるリサがいれば何とかなる模様。意味は「引受人」「請負人」「葬儀屋」。

そしてG2戦の場所でG6アネットと対峙。どうしてこうなったか、他の面子はどうしているのかは次回にて。ダイジェスト気味になるけど許して。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】file2【G生物編 裏】
file2:45【記憶継承(アンダーテイカー)、吸血鬼】


どうも、放仮ごです。シェリーのG投与とか未来のための投資もしないといけないので、組み立てるの本当に難航しました。

今回はタイトル通り、イーサンとエヴリンを苦しめたあいつが参戦。楽しんでいただけたら幸いです。


 この時間軸でリヒト、ヨナ、グラたちを仲間にした方法、なんちゃってむりょーくーしょ。今回の寄り道のおかげでその使い方をマスターした私は、合流するなりクイーンたちにもこれを使ってクレア、シェリー以外、つまり菌根を有しているみんなと記憶を共有。クイーンには怒鳴られた。それはもう怒られた。二度と一人で頑張るなと言われた。本当にごめん。プサイちゃんには「呪いを残して申し訳ないでござる」と謝られたが、そのおかげで頑張れたと言ったら泣かれた。本当にありがとね、プサイちゃん。

 

 

 今回のやり直しでは、いろんなことが変わっている。モリグナの襲撃やリヒトとの対決で分断されることはそもそもなくなったし。だいぶ時間を取られたアイアンズはそもそもウェスカーたちと取引させることなく子供を利用していることにキレたアリサが殴り倒した。以前は加減して殴ってたけど今度はマジ殴り、慈悲はない。

 

 

 そして得られた大量の猶予時間で、作戦は考えた。その分、ここに来るまでウェスカーたちがシェリーを狙って襲撃してきたりエイダと敵対したり、変異するタイラント三体がまとめて襲い掛かってきたりで大変だったけど……あえて言わせてもらおう、数が違う。なんならタイラントの亜種のリサやネメシスもいるのだ、負けるはずがなかった。普通に強いウェスカーたちについては後でね。

 

 

 厄介なベルセポネについては、ネメシスのホットダガーや焼夷手榴弾で瞬殺するのも考えたが、そうなるとこの作戦が使えないため、動けないのをいいことにスルーしてもらうことにした。そもそも怪力で扉をこじ開ければあそこを通る必要はないのだ。レオンが私を見ることはなくなってしまったけど……まあしょうがないね。

 

 

 だけど、元々NESTから脱出する計画だったとはいえ警察署地下で遭遇し、全員で殺せるだけ殺してから逃げるように落ちた後に姿をくらまし、警察署を出たところで襲撃してきたアネットに、シェリーを一回攫われるというハプニングは本当に想定外だった。ケンド親子を放っておくわけにもいかなかったので、T-ウイルスに菌根が混じっているためなんちゃってむりょーくーしょに巻き込まれ事情を把握していたマービンが、ケンド親子を全力で守ると約束してくれたためリヒトの案内で最速で下水道を攻略。

 

 

 そして、G6に進化を果たしたアネットに追いついた。←今ここ。

 

 

『シェリーを返せ!アネット!』

 

「どの口が。シェリーは私のものよ。すでに植え付けた、時間の問題ね。あなた達も究極の生命体の糧となりなさい!」

 

 

 アネットの伸ばしてきた触手を、散開して回避。まずは母体としての価値がない男から狙うのは分かっていたので、ネメシスがホットダガーで触手を斬り裂いて迎え撃ち、クイーンとアリサとリサが拳を握り接近、ぶん殴って隙を作る。

 

 

『今だ!プサイちゃん、シェリーを!』

 

「承知!ワクチンの元まで連れて行くでござる!」

 

 

 そこに物陰から飛び込んできたプサイちゃんが気絶しているシェリーを回収し、下水道を高速で駆け抜けていく。よし、上手くいった。

 

 

 道中で話し合い考えに考え抜いた結果、アネットの相手に選んだのはクイーン、アリサ、リサ、ネメシスの四人。それぞれ、クイーンは打ち込まれた部位を切り離すことができる、そもそもG-ウイルスはアリサから生まれたため効かない、リサはアリサのオリジナルでさらに適応速度が速い、ネメシスは男であるため胎の効果が薄い、と対抗策を持っているのが決め手だ。

 

 

 そして私たちがシェリーを連れていると思ったのか下水道で襲撃してきたウェスカー、エイダ、ウィリアムをヘカトちゃん、リヒト、ヨナ、グラ、ガンマちゃんのB.O.W.組5人で足止めしており、今頃先行してNESTを進んでいるはずのレオンとクレアをオメガちゃんと、そしてシェリーを連れて駆け抜けたプサイちゃんが護衛をしてG-ウイルスのワクチンを手に入れ、列車のターンテーブルを降下させて脱出の準備をする手はずだ。そこにこいつをいかせず倒せば、私たちの勝ちだ。……問題は勝てれば、なのだが。

 

 

「血液の流れを加速させる……破裂する心臓と血管は即再生する!」

 

「ぐっ!?」

 

「わかってても、速い…!?」

 

「がっ!?」

 

「スタァアズ!?」

 

 

 血流を加速させ身体能力を底上げしたアネットが、高速移動で次々と殴りつけて四人を吹き飛ばす。本人曰く脳、筋肉、骨、髪、爪、心臓を始めとした内臓、血液。そのすべてにG-ウイルスが浸透し、自在に操ることができるようになったG6。なんでわざわざこの形態になるまで事前に殺していたかというと、永遠に進化し続けるG-ウイルスの終着点がこれだと思ったからだ。これ以上何を進化するのかっていう話だ。そんなバケモノならば正史でも猛威を振るったはずだ。つまりこれ以上の形態は存在しない。前の形態で倒した気になって後から襲われるぐらいならこっちのタイミングで戦えた方がいい。そう思ったんだけど……!

 

 

「次はこういうのはどうかしら!筋肉を操作して血管を圧迫、血液を合わせた掌の中で加圧して限界まで圧縮した血液を一点から解放、音速を超えて撃ち出す……!」

 

「それは予想済み……くっ!?」

 

「はやっ…!?」

 

「ぐっ!?こんなもの、すぐ適応して…!」

 

「スタァアアズ!」

 

 

 合掌した先端から血のレーザーを放出して振り回して攻撃してくるアネット。クイーンとアリサ、リサは斬り刻まれ、即座に再生して対応。ネメシスはホットダガーを驚異的な反射神経で血のレーザーにぶつけて蒸発させ弾き飛ばすことで応戦する。他者にとっては毒の血を、高速で射出してウォーターカッターの様に斬り刻んでくるこの技が本当に厄介なんだ。対策は考えてきたんだけど、使う隙がない。クイーンは血が触れた部位を切り離して難を逃れ、アリサは動きが止まったものの、すぐ復帰したリサと共に適応している。

 

 

『やっぱり強いな…!出し惜しみはなしだ!リサ、あとは任せた!』

 

 

 クイーンが粘液糸で蜘蛛の巣を張りアネットをくっつけて無理矢理動きを止めている間に、菌根に接続。引き出すのは私の知る限り最強の肉体を持っていた貴婦人。

 

 

記憶継承(アンダーテイカー)!……力を貸して、オルチーナ・ドミトレスク!』

 

 

 私の身体にノイズが走り、姿が変わっていく。黒い帽子を被り、裾がめっちゃ余るけど浮いてるから巨体に見える、白いカーテンの様な貴婦人の様なドレスと黒手袋を身に纏い深紅の口紅が唇に塗られる。……私はオルチーナ・ドミトレスク。偉大なるマザー・ミランダの娘なり。

 

 

『……さて、たっぷり楽しませてもらうとしましょう。肉体は……そうね、クイーン。借りるわ』

 

「なに?おい、待て……!?」

 

 

 私にふさわしい肉体としてクイーンを選び、憑依する。クイーンは私の記憶に合わせて擬態、肥大化してオルチーナ・ドミトレスクの姿そのものとなり、右手だけ菌根を纏って手袋の様にして、指の先端からサーベルの様な刃を生やして擦り合わせる。

 

 

「『バラバラに斬り刻んでやるわ…!』」

 

 

 そして血のレーザーを胴体で弾きながら(・・・・・)歩いて接近、右手の平手打ちを浴びせて胸部を斬り刻む。銃はもちろん地雷による攻撃でさえ傷付ける事はおろか怯みすらしないという無敵と言っていい不死の血肉。それが私の能力…!

 

 

「ぐっ……そんなもの、すぐ再生するわ!」

 

「『アーハッハッハッハ!小賢しい!』」

 

 

 だけどこのめんどうくさい女は即座に傷を再生させ、右手に巨大な爪を生やして私の右手の刃とかち合わせ、次々とぶつけ合い火花が散る。埒が明かないと思ったので左手に拳を握り、圧倒的な体格差から拳を叩き込んで殴り飛ばし、さらにアリサが背後から羽交い絞め。その怪力でアネットを持ち上げる。

 

 

「これで、どうだああああっ!」

 

「くっ、放しなさい…!?」

 

「『上出来よ、アリサ!』」

 

 

 そこに、振り上げた右手を勢いよく振り下ろした渾身の斬撃が斜めに炸裂。血飛沫が上がる。毒でなければ味わいたいものね。しかしアリサに拘束され、私の渾身の一撃を受けてそれでも、アネットは喜悦に表情を歪ませる。

 

 

「ハァアア……!本当に素晴らしい力を与えてくれたわウィリアム……究極の生命体の力を引き出すのに、申し分のない敵……!最ッ高!」

 

「がああっ!?」

 

 

 瞬間、全身から白い刃をいくつも生やして、アリサを串刺しにして拘束から逃れるアネット。その正体はすぐに分かった。骨だ。全身の骨を変形させて、剣山になったのか。小癪な真似を…!私はすぐに右手の爪を振り上げる。がしかし、その前に全身剣山で動きがよく見えないアネットは合掌してその先端を私の腹部に突きつけていて。

 

 

「そして今の私と似たような無敵の身体……からくりは読めたわ。驚異的な新陳代謝の影響ね。毒で代謝を狂わされるのに弱いんじゃないかしら?」

 

「『ぐうっ!?』」

 

 

 瞬間、血のレーザーがゼロ距離で私の腹部を撃ち抜き、今はヒルを分離して逃れることができない毒で弱り片膝をついたところに膝蹴り。膝の骨が変形して杭の様になっているそれが顔面を貫き、私はなすすべなく吹き飛ばされた。




万全な策を立てようとも使えないんじゃ意味がなかった。

現状説明
・現在のアネット
初戦で殺しまくってどんどん形態変化した挙句落ちて逃亡、その後シェリーを連れ攫い、G6に進化する。まだ自分の身体を理解はしたが慣れていなかったが、ドミトレスクとの戦いで自由な発想を得る。血と肉と骨のバケモノ。

・みんなの記憶
むりょーくーしょで菌根使われてる組は同期済み。プサイは泣いた。

・モリグナ戦とリヒト戦、ベルセポネ戦などカット
モリグナは討伐済み、リヒトヨナグラは仲間入りしているのでそもそもカット。G2戦はG1戦で消費してます。そしてベルセポネはスルー。いやほんと、動けないから用がないならスルーが安定なのです。ガチ勝負すると炎武器持っているネメシスがいるのでどっちにしろ勝てます。

・アイアンズ
アリサの必殺マジシリーズ、マジ殴り炸裂。ミンチよりひでえや。

・ウェスカー組
エイダは最初からばれてるので共闘なし(ベン・ベルトリッチは犠牲になった)。下水道で襲撃したもののヘカトちゃん、リヒト、ヨナ、グラ、ガンマちゃんというガチメンバーと対決。ウィリアムがG生物にならないためにも時間稼ぎされる。

・タイラント・ハーキュリー×3
警察署にてエヴリン一行で総力戦。機会があれば描くかも?

・マービン
一巡目通りエヴリンに助けられ、ケンド親子を連れて脱出中。がんばれ。

・レオン、クレア、オメガ、プサイ
脱出手段確保係。さすがに普通の人間じゃG6の相手はまずかった。オメガとプサイは何かあった時のための護衛。

・対アネット組
クイーン、アリサ、リサ、ネメシス。それぞれ胎植え付けの対抗手段を持つため採用。少数精鋭なのは迂闊に胎を植え付けられて戦力増強されるのを防ぐため。エヴリンはコンティニュー祭りでどんなことしようと結局G6が出現するのを知っているので、早めに出るように調整。これ以上進化しない、は希望論でしかない。

・エヴリンの秘策
下水道を選んだことに意味がある模様。出し惜しみできないのでドミトレスクを記憶継承させる。


参戦、ドミトレスク夫人。変異最小限でG6と殴り合えてるやべースペックの持ち主。服装的にはリサが適任なのだけどストッパーなので断念。その代わり擬態でドミトレスクそのものになれるクイーンを肉体に採用です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:46【究極(アルテ)のチカラ】

どうも、放仮ごです。実はG6よりもやばいかもしれない遺伝子の持ち主がいるんです……。

アルテとかいう出てくるたびに無双するやべーやつとエヴリン一家の対決です。楽しんでいただけたら幸いです。


 シェリーがいないと脱出しないと駄々をこねるウィリアム・バーキンにしょうがなく付き合い、シェリーを回収しようと動くアルバート・ウェスカーことアルテ・W・ミューラーを名乗るRT-ウイルスで蘇生した女は、自分が護衛しているウィリアムと、合流したエイダを連れて下水道を急いでいた。

 

 それもこれも、シェリーを保護しているはずのアイアンズとは音信不通。エイダにベン・ベルトリッチから情報を得させるついでにクイーン一行に潜入させるつもりが、最初からばれてて門前払い(というかリヒトに喰われそうになった)。全てが上手くいかない、違和感。そして。

 

 

「……なにか用だろうか。我々は急いでいるんだがな」

 

 

 アルテがため息をついてサングラスのずれを直しながら問いかけた先には、同じ顔の、だがしかし百足、鰐、蛇、鮫と全く異なる特徴の異形の身体を持つ少女たち。その体格というかサイズはでかく、脇をすり抜けようにも、比較的広いエリアだというのに完全に行く手を塞がれている。

 

 

「悪いけど、ここから先は行かせないわ。愛を教えてあげる」

 

「マザーの邪魔は、俺達がさせない…!」

 

「前回の借りを返してやるわ…!」

 

「よくも洋館では騙してくれたな!今度はお前を喰ってやるのだ!」

 

「……ウェスカー。この可愛い子を騙したの?」

 

「…覚えがないな。その顔には見飽きた」

 

「そんなことどうでもいい!シェリーを取り返す邪魔をするな!」

 

 

 立ちふさがるヘカトちゃん、リヒト、ヨナ、グラの四人に、エイダはグラとの関係をアルテに問い質しアルテは素知らぬ顔でとぼけ、ウィリアムは臆さないどころか苛立ちを隠さずにハンドグレネードランチャーを取りだし硫酸弾を装填して発射する。しかしその弾丸は、クイーン一派の中でも特に強固な防御力を持つヘカトちゃんが球体の様に展開したムカデ腕の甲殻で防御。硫酸が爆ぜて煙が発生し、見えないその中から高速で動く影。ヨナだ。その長い体で渦を巻き、竜巻の様に回転して襲い掛かる。

 

 

「シャアア!」

 

「無駄だ!」

 

 

 それに対し一瞬で右足を天高く上げたアルテは、愚直に股下まで飛び込んできたヨナにネリチャギを叩き込み、首をへし折る。だがしかし、折られる瞬間脱力して力の流れに逆らわなかったヨナは床に叩きつけられた勢いのまま尻尾を振り上げてアルテに巻き付ける。

 

 

「ぐっ……ペットの分際で…!」

 

「貴女、あのクソ蠍の想い人らしいわね!私たちが殺したらどんな顔するかしら……リヒト!」

 

「わかった、姉さん!」

 

 

 尻尾で捕らえて締め上げてバキバキと全身の骨を折ったアルテを、背後に投げ飛ばすヨナ。その先には、ヘカトちゃんの防御から抜け出したリヒトが四つん這いで突進してきて、大口を開けて両腕ごと胴体に噛みついた。そのまま噛みついたまま回転し、デスロール。アルテの身体を引きちぎろうと試みる。

 

 

「アルバート!くそっ、エイダ・ウォン!どうにかしろ!」

 

「人使いが、荒いわね!貴方を守るので精一杯ってわかってる!?」

 

「くーらーえー!」

 

 

 押されるアルテに怒りのママに怒鳴り散らすウィリアムを狙い、ププププッ!と尖らせた口から抜けた牙を乱射してくるグラの攻撃を、ウィリアムを守るようにナイフを振るって弾き返すという神業を行いつつ文句を垂れるエイダ。ウィリアムが死ねば報酬はパーであるため、がらにもなく必死だった。しかしそんなの知ったことかと言わんばかりに、横からムカデ腕が襲う。ヘカトちゃんだ。

 

 

「私を覚えているかしら!ウィリアム・バーキン!貴方に教えてもらった(いたみ)を、そっくりそのまま返してやるわ!」

 

「お前、百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイルか…!」

 

「くっ…!口を閉じてないと、舌噛むわよ!」

 

 

 ウィリアムの襟を掴みながらヘカトちゃんの甲殻を蹴り飛ばし、跳躍。ウィリアムの身体を引っ張って宙を舞い、着地。そのままダンスでも踊るかのように降ろしたウィリアムの手を取り、次々と襲いかかってくるムカデ腕二本の連撃を回避していくエイダは、牙を再装填させていて隙だらけのグラを視界に入れる。

 

 

「さよならよ」

 

 

 そして、エイダはハンドガンを手にして速射でグラの頭部に弾丸を三連発叩き込む。しかし肉を撃ち抜く音は聞こえず、代わりにガキンキンキン!という音のあとにコロコロと弾丸が転がる音が聞こえる。生憎とその攻撃をグラは、既にクリスを相手に味わっていた。あの時と同じように噛み締めた牙で弾丸を弾いていたグラはにやりと笑う。

 

 

「エイダ…だっけ。お前については何も言われてないけど、喰い殺してもいいのだ?ヘカトちゃん」

 

「こんなクズを守る時点でギルティよ」

 

「それについては同感だけどこっちも仕事なのよ」

 

 

 リヒトのデスロールでバラバラに引きちぎられたアルテを見ながら、そう言ってフックショットを取りだしたエイダがまっすぐ射出。ヘカトの背後のパイプ管に突き刺さり、エイダはウィリアムの手を引いて宙を舞い、背後を取る。賢くなったと言っても元が蟲と魚類でしかないヘカトちゃんとグラはつられて背後を振り向く。

 

 

「遅いわ」

 

 

 2人が完全に振り向く、その前に。エイダはフックショットを二人の右を通るように飛ばして壁に取り付け、素早くぐるりと二人の周りを回ると、びしっとフックショットを持った右手を突き出すと、ピンと張られたワイヤーが二人を縛り上げて圧迫する。

 

 

「ぐううっ!?」

 

「のだああ!?」

 

 

 腕ごと胸部を細いワイヤーで圧迫され、窒息しかけるヘカトちゃんとグラ。それを見て、アルテを仕留めたと確信していたヨナとリヒトがエイダに迫り、エイダは片手でフックショットを握りながらサブマシンガンの弾幕で寄せ付けないように応戦する。

 

 

「いいぞ、エイダ・ウォン!おい、アルバート!お前、致命傷からでも復活したんだろ!?その程度、なんだ!」

 

 

 エイダの優勢に調子を取り戻したウィリアムが吠える。しかしアルテは、バラバラに引きちぎられた見るも無残なバラバラ死体で。ヨナが骨をバキバキに折って脆くしたところにリヒトがデスロールするという必殺のコンボを受ければ、クイーンの様な群体でもない限り再生は不可能なはずだった。しかし、ちぎれた右手の指がピクリと動いて。断面から黒い触手が伸びて、繋いでいく。

 

 

「下ががら空きよ!」

 

「ぐああっ!?」

 

「俺にそんなもの、効かない!」

 

「くっ…!?」

 

 

 そして、ヨナが下から忍ばせた尻尾でウィリアムに巻き付き、サブマシンガンの弾丸の衝撃にも慣れてきたリヒトが突撃してエイダの顔を鷲掴みにした、その時。漆黒の触手が、二人を背後から突き刺した。

 

 

「っあ…!?」

 

「ぐふっ…!?」

 

「……クッ、フハハハハハハッ!」

 

 

 その触手の先には、黒い触手で自らの身体を持ち上げ繋いで、人型の触手の様な姿で立ち上がる異形の身体となったアルテが、逆さまの頭で笑っていて。触手が縮んでパズルのように組み合わさり、元の姿に戻ったアルテは両手の手首から伸びた黒い触手……菌根と自身の血肉が入り混じったもの……を引っ張ってヨナとリヒトを背中から床にぶつけて縮ませることで引きずり込みながら、不敵に笑う。

 

 

「素晴らしい……これが菌根の、いや新たな私のチカラか…!これほどの致命傷を負ってもなお復活できるとはな…!さすがに死んだかと思ったぞ?」

 

「ぐうっ、放せっ……!?」

 

「負け、るかあああ!」

 

 

 自身を貫いている触手を掴んで引きちぎりながら振り向き、巨大な腕の爪を振るうリヒト。しかしウェスカーは引きずり込んで右手で首を掴んだヨナを盾にして爪を受け止めると投げ捨て、其の姿がかき消えたかと思えば多方向から衝撃が走り、リヒトの巨体が右へ左に跳ね、倒れ伏す。高速移動したアルテに四方八方から殴られたのである。

 

 

「手も足も出ないけど、牙は飛ぶのだ…!」

 

「私は手も伸びるわよ…!」

 

「しまっ……」

 

 

 そこに、縛られていて脳に酸素が回っていなかったグラとヘカトちゃんも動き出し、グラは牙を飛ばし、ヘカトちゃんは腕を伸ばして、アルテの滅茶苦茶さにドン引きしていたエイダを襲う。しかし、エイダの手からフックショットを手放させ自由になった彼女たちの反撃は目標に届く前に、牙はすべて瞬間移動したアルテに受け止められてぽろぽろと床に転がり、ヘカトちゃんのムカデ腕は高速のネリチャギで床に埋められてしまって、双方止められてしまうとグラとヘカトちゃんの顎に衝撃が走って脳が揺れる。人型になったことによる弱点だった。通常の速度に戻り姿を現したアルテに、エイダはため息を吐く。

 

 

「あなた……無茶苦茶ね」

 

「エイダ、この四匹は私が始末する。ウィリアムは私が連れて行くからお前は先に行ってシェリーを確保、脱出のための列車も起動させろ」

 

「了解したわ」

 

 

 ヨナに締め上げられて気絶しているウィリアムを尻目にそう告げたアルテにエイダは頷き、白目をむいているヘカトちゃんの横を通って走り抜けていく。それを見届け、リヒトの斬撃の盾にされて倒れたヨナ、高速で殴られて倒れ伏したリヒト、脳を揺らされふら付いているグラとヘカトちゃんに視線を向けて、サングラスのずれを直しながら不敵に笑むアルテ。

 

 

「ゾンビは多量の栄養を摂取することでリッカーに進化するという。お前たちの細胞も摂取すれば、私は新たな力を得られると思わないか?」

 

「……それは、そうかもね。でも、やっと隙ができたわ……」

 

 

 アルテの言葉に、倒れながらそう微笑むヨナ。

 

 

「エイダは行かせてしまったけど、オメガちゃんたちがいるもの…」

 

 

 ふらつきながらもそう口にするヘカトちゃん。

 

 

「やっぱりマザーはすごい……ここまで、見越してた……」

 

 

 なんとか立ち上がりながら、そう感動したように目を輝かせるリヒト。

 

 

「やっちゃうのだ、ガンマちゃん!」

 

 

 頭を振って最速で復活したグラがそう吠えたその時、傍の水中からそれが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がーぶっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ……!?」

 

 

 あまりのできごとに絶句したアルテが目にしたのは、ずっと隠れていたガンマちゃんがウィリアムを丸呑みにする光景だった。




ウィリアムをアネットに合流させないための大奮闘でした。合流されたら厄介なG生物が増えてしまうから……。

それぞれセルケト関連でアルテもといウェスカーと、自分が調教されたためウィリアムと、因縁を持つヨナとヘカトちゃん。複雑な人間関係になってまいりました。

バラバラ触手アルテのイメージは、サムライミ版スパイダーマン3でエディから分離されたヴェノムもといシンビオートです。エイダもドン引きするレベルのやべーやつ。

そんなエイダも実力を発揮。グラとヘカトちゃん相手に一時的に動けなくする大健闘。しかし大ピンチのところに飛び込んできたのは、隠密性が高いので急襲が得意なガンマちゃん。最初からウィリアムしか狙ってないっていう。

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file2:47【下水も滴る良い秘策】

どうも、放仮ごです。今更だけど某呪術にえらいことはまってます。赤血操術ほんと好き。

今回はアネット相手に秘策炸裂。楽しんでいただけたら幸いです。


 エヴリンはクイーンたちに合流した瞬間になんちゃってむりょーくーしょを叩き込んで状況を共有するなり、作戦会議していた。ちなみにヘカトちゃんは出会うなり記憶を引き出して大人化している。

 

 

『復習するよ。狙いはまずウィリアム。それがリヒト達にやってほしいこと。ウェスカーとエイダさえどうにかすればガンマちゃんが間違いなく仕留めてくれるはず。ウィリアムさえ始末すれば、ウェスカーは最悪見逃して逃走してもいい。その時はヨナとグラの連携がカギになるよ』

 

「俺、任された!」

 

「洋館ではいいようにされたし、愛を教えてあげないとね」

 

「別に、倒してしまっても構わないんでしょう?」

 

「ヨナはその慢心どうにかするのだ」

 

「わたし、せきにんじゅうだい?」

 

 

 やいのやいのと細かい作戦を話し合い始めた対ウェスカー組の五人を尻目に、エヴリンはクイーン、アリサ、リサ、ネメシスと向き直る。

 

 

『じゃあ次は一番の要になる私達だね。いい?アネット攻略で一番重要なのは、触手攻撃を絶対に受けちゃダメってところ』

 

「……思い出したくもない、胎の植え付けだな?」

 

「私達は体験してなくて記憶でしか見てないけど……そんなにやばいの?」

 

『強制的に子宮に胎を打ち込んで子供を身籠らせて腹を食い破って繁殖するんだよ?喰らったら一撃必殺だと思った方がいい。菌根世界で戦ったせいとはいえ私もやられたけど……あれは二度とごめんだ』

 

「すたぁあず」

 

 

 なんちゃってむりょーくーしょをするに辺り、そう言う知識に疎い子供(リヒト)達もいるのでほとんどカットして説明した最大の脅威についてエヴリンは心底嫌そうな顔を浮かべる。5巡目が相当トラウマらしい。

 

 

『特にクイーンは本当に気を付けて。子宮を狙わないと意味ないのは確認してるけど、クイーンは全身がそうなんだから』

 

「その言い方やめろ倫理観がないのか、ババアめ」

 

『人が気にしてること言ったなあ!ごばあっ!?』

 

「喧嘩してる場合じゃないでしょ、二人とも」

 

「『ごべんばはい(ごめんなさい)

 

 

 ヒートアップして喧嘩になりそうだったのでリサがエヴリンとクイーンを殴って無理やり止める。頬を叩かれたエヴリンとクイーンは揃って頭を下げた。

 

 

「でも、それだけ警戒してても負けたんだよね?」

 

『うん、そう。そもそも肉体を自在に操ることができるから、なんでもありなんだけど……心臓と血管が破れるのも気にせず高速で血を巡らせるドーピングによる高速移動、腕を視認できない程の速度で伸縮と変形を繰り返して繰り出す伸び縮みする刃に変形する腕、いろいろあるけど……特にやばいのが、他者には猛毒のG-ウイルスを多量に含んだ血液をレーザービームのように飛ばしてくる攻撃……長いからイーサンが昔読んでた漫画の似たような技から「穿血(せんけつ)」って呼ぶね」

 

 

 なんちゃってむりょーくーしょと元ネタは同じ漫画である。当時エヴリンは日本のアニメの躍動感にイーサンともども感動していた。

 

 

「その穿血は、多分だけど初速が音速を超えていて、もし避けれたとしてもそのまま持続してウォーターカッターみたいに斬り刻んでくる。一巡目でそれを喰らってしまったクイーンはヒルの構成を維持できなくて負けちゃった』

 

「そんなの、対抗策はあるのか?」

 

『あるよ。アレが同じ原理ならね。ただ、場所を整えないといけない』

 

「その場所は?」

 

『決戦の舞台は……下水道最深部、だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ぐう、うううっ……よくもやってくれたわね!』」

 

 

 顔に風穴を開けられる感覚。奴の変形した膝による膝蹴りで右目を抉られて潰された。視界が一時的に塞がれる。駄目ね、毒が回っているせいで再生しない。早く毒を分解しなければ。この怒りは倍返しにしてやらないと気が済まない。

 

 

「エヴ……近づけない!」

 

「その程度?もっと私の実験に付き合いなさい!」

 

 

 先にこの四人には胎の植え付けが効かないと印象付けた為か、先端に刃がついた三つの触手に変形した右腕を縦横無尽に振り回し、下水道内を次々と斬り裂いてアリサ、リサ、ネメシスを追い詰めるアネットに、私は右目の再生をやめて突進。触手部分を左手で掴んで引っ張ると、お返しとばかりに右手の刃でアネットの胴体を串刺しにしてやる。

 

 

「『光栄に思いなさい!串刺しの時間よ!』」

 

 

 そのまま串刺しにしたまま振り回し、頭から壁や天井に叩きつけ、勢いよく引き抜いて投げ捨てる。吹き飛んだアネットは白衣をはためかせながら両手を鉤爪状にして床を引っ掻くことで勢いを殺すと、手を床から引き抜いて合掌。穿血が発射され……たかと思えば、一瞬だけで次の瞬間全身を撃ち抜かれる。何事かと見れば、先端を少しだけ開いて構えたアネットがいて。速度を犠牲に、範囲を広げてきたのか…!

 

 

「血のショットガンよ。お気に召した?」

 

「『ぐっ……おのれっ』」

 

 

 あまりのダメージにふら付いたところに、ドクン!と一際響く心臓の音。アネットのドーピングの合図だ。グググググッ!とクラウチングスタートの様な構えを取るアネットに、アリサとネメシスの構えた銃の弾丸が次々と着弾し血飛沫が噴き出るが全く意に介してない。ブチブチブチッ!と血管のちぎれる音と、パズン!という心臓の破裂する音がここまで聞こえてくる。凄まじい速度で血流を巡らせているらしく、失血量も多いがすぐに足から体に戻っていく。どんな身体だ。

 

 

「あなたたちはもう、私についてこれないわ」

 

 

 瞬間、アネットの姿が消えてアリサとリサが吹き飛ばされ壁に叩きつけられ、ネメシスの振りかぶったホットダガーも弾き飛ばされネメシスは床に叩きつけられる。そして、胴体に重たい一撃が叩き込まれ、私の巨体が宙を舞っていた。見えない、速すぎる……!?

 

 

「でも、そんなに速いなら直線的になるでしょ…!?」

 

 

 立ち上がったアリサが、右手で正拳突きを放つも、次の瞬間には突き出した腕が消し飛んでいて。その背後に、アリサの右手の肘から先を持ってつまらなそうにしているアネットが現れる。

 

 

「ぐっ…!?」

 

「リサ・トレヴァーの実力はこんなもの?遺伝子情報にしか価値がないのかしら」

 

「お生憎、リサ・トレヴァーは私よ!」

 

 

 その間にリサが髪の毛触手を下水道の通路に張り巡らせる。細く強靭なそれで高速移動したアネットを斬り刻む作戦だ。今のうちに解毒を………。

 

 

「ふうん、それで?究極の生物相手にそんな小手先が通用するとでも?」

 

 

だけど知ったことかと言わんばかりにリサの目の前まで瞬間移動するアネット。血の匂い……斬り刻まれた次の瞬間に再生して髪の毛触手を抜けたというの…!?

 

 

「今よ、ネメシス!」

 

「スタァアズ!」

 

 

 しかし、リサの挑戦をわざわざ受けたアネットに明確な隙が生まれ、そこに何かを投げつけるネメシス。アネットは余裕の表情で受け止め、掌のそれを見て初めて顔を焦燥に歪める。同時に眩い閃光が下水道内を照らす。閃光手榴弾だ。

 

 

「っ、目が……!?」

 

「『そんなでかい目、閃光を防げるわけがないわよねえ!』」

 

 

 解毒を終えて奴の血を吐き捨てた私は、右目を押さえて左目を瞑りブンブンと右手を変形させた巨大な爪を振り回すだけのアネットの顔面を鷲掴み。そのまま、下水道通路の床に渾身の力で叩きつけると、ひび割れていき、私の巨体の重さも相まって落下、下水道の底の水たまりに勢いよく頭からアネットを叩きつける。

 

 

「ぐううあああああっ!?」

 

 

 落下速度も合わせたその一撃にアネットもたまらず声を上げ、巨大な水飛沫を上げて私もろとも着水。上から腕を再生させたアリサとリサ、ネメシスも降りてくる。ようやくここまで来れた。チェックメイトだ。アリサは触手を背中から出して両腕を菌根で武装し、リサも長い腕を構え髪の毛触手を伸ばし、ネメシスはホットダガーとマグナムを両手に構える。

 

 

「『下水に塗れるのは屈辱だけど貴女を殺すためならいくらでも被ってやるわ…モールデッド・バラウル!』」

 

 

 最大の好機に、私は自らの身体から菌根が溢れ出させ、人型ならざる巨体を作り上げて咆哮を上げる。西洋の竜に似た、異形の怪物。オルチーナ・ドミトレスク戦闘形態と酷似した姿。ルーマニアに伝わる竜の名を持つモールデッドだ。

 

 

「『その肉も…骨も…その体すべて貪り喰ってやるわ!』」

 

「…………やってくれるじゃない。でもこんな狭いところに来て、いいのかしら……!」

 

 

 肉を蠢かせ再生しながら立ち上がり、合掌した両手を向けてくるアネット。確かに穿血……というか毒の血はドミトレスク、つまり私の弱点だ。一発逆転するぐらいの威力はある。だけど、その穿血が、放たれる……ことはないのよね。

 

 

「え……?」

 

 

 合掌した掌の間から放たれた瞬間、勢いが死んで溶けて下水と混じり合った己の血液に、信じられないといった表情を浮かべるアネットに、前足を振り上げた渾身の振り下ろしが叩き込まれ、吹き飛ぶアネット。

 

 

「『凝固してない血液は水に溶けやすいのよ?勉強不足ね、究極生物』」

 

「これで!」

 

「終わり!」

 

「スタァアアアズ!」

 

 

 そして、触手を伸ばしたアネットを引き寄せたアリサの渾身の拳とリサのラリアット、マグナムを叩き込んでからホットダガーで首を叩き斬るネメシスの攻撃が決まり、究極の生物を自称した怪物は、下水に伏したのだった。




穿血は水に弱いのも含め呪術廻戦の脹相、腕変形は寄生獣の後藤、ドーピングはワンピースのルフィのギア2、毒の血(と前に使った血鎌)は鬼滅の刃の上弦の陸、髪の毛触手を抜けるのはターミネーター2のT-1000と他作品ネタ盛りだくさんのアネット。あそこらへん妙に科学的だよね。T-1000はいくら何でも科学の域超えてるけど。

ドミトレスク版モールデッド形態、モールデッド・バラウル。空中じゃないから披露できませんでしたが空中戦が得意な形態だけど今回はその巨体の一撃で他のみんなの技に繋げました。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:48【受け継がれるもの】

どうも、放仮ごです。お気づきだろうか、2編を再開した時にひっそりと以前の2編の章名に追加された「表」という表記に。

今回はVSアルテの結末。楽しんでいただけたら幸いです。



 目覚めたら、肉の中だった。なにを言っているかわからないだろうが私も何言ってるかわからん。ただヨーン・エキドナに締め上げられて、気を失ったかと思えば四方八方肉の中にいて、目の前には忌々しいリサ・トレヴァーの顔がある。ここは地獄か?

 

 

「いらっしゃーい」

 

 

 肉と下半身が一体化しているらしい真珠色の短い髪を持つ子供は人懐っこい笑みを浮かべると、私の右腕を手に取ったかと思えば曲がらない方向に向けて折り曲げ始める。

 

 

「っ、ぐあああああああっ!?」

 

 

 一瞬理解が及ばず、襲い掛かってきた激痛に悲鳴を上げるも一切躊躇を見せず、子供とは思えない剛力で完全に関節を砕かれ折り曲げられ、さらに肉壁に閉じ込められて自然と丸まっていた身体にも手をかけられる。この後、私がなにをされるのか理解してしまった。

 

 

「ま、まさか……やめっ」

 

「えいっ」

 

 

 バキッボキッガキンゴキンメキッグシャッドガッ

 

 

 およそ人体からは聞こえないと思っていた音が自分の身体から響き渡っていき、とんでもない激痛に意識が遠のいていく。ああ、私はここで終わるのか………

 

 

―――――「まだ現実が見えないのか?はっきり言うぞ。……シェリーは切り捨てろ、ウィリアム。お前の溺愛っぷりは知っているが、お前は家族だろうと冷酷に切り捨てられる人間だ。今優先すべきはお前の身柄を無事に外まで送り届けることだ」

 

 

 親友に言われた言葉が走馬灯のように浮かぶ。ああそうだ、長い時間を共に過ごしたパートナーすら、死にかけたらすぐに切り捨てG-ウイルスの実験台にした。親友であるアルバートだって、平気で見捨てるだろうクズだ。だがシェリーは、そんな私に愛を教えてくれた大事な一人娘なんだ。切り捨てることなど、選択肢にすら上がらない。

 

 

―――――「…ふっ、お前はとんだエゴイストだな。自分の妻にとどめを刺した人間の言葉とは思えん。矛盾しているとは思わないのか?」

 

 

 思うさ。だがシェリーのことは理由も外聞もなく、ただひたすらに愛していたんだ。およそ人の尊厳を無視した肉塊に変えられながらも、思い浮かぶのは愛娘の安否だけだった。同時に思い浮かぶのは、シェリーが心底楽しそうな笑みを浮かべながら語ったベビーシッター二人のことだった。ああ、わかっていた。わかっていたさ。家族の時間より研究を優先した私たちよりも、彼女たちと一緒に過ごす時間の方がシェリーは望んでいたことは。嫉妬しなかったかと言えば嘘になる。だがどうしようもなく、シェリーの心が私たちより乖離してしまったのは理解していた。

 

 

「―――――ああ、シェリー。どうか、幸せに……」

 

 

 あの二人なら、シェリーを守ってくれる。そんな確信と安堵を胸に、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィリアムを返してもらおうか…!」

 

「残念だけど、そうはいかないわ!」

 

 

 ウィリアムを咀嚼しもぐもぐと口を動かすガンマちゃんを狙って両手首から放つ触手で貫こうとしたアルテの攻撃を、ヘカトちゃんがガンマちゃんを守るように、リヒト、ヨナ、グラも包み込んだムカデ腕を防壁の様に展開して防御。ムカデ腕の陰から飛び出したリヒトが両手の爪を振り回して突撃。アルテは触手を手首に戻すとバックステップで回避していく。その直後、人体からは聞こえない擬音が響いてウィリアムの生存は絶望的だと察する。

 

 

「逃がさないのだ!」

 

 

 接近戦を仕掛けたリヒトから逃れたアルテを、グラが口をもごもごさせて放った抜けた牙の連射が襲い掛かる。リヒトも横に飛びのいて回避した、飛んでくる牙の弾幕を最初は高速移動で避けていたアルテだったが、なにかに気付くと高速移動するのをやめて静止。右手だけを高速で動かして牙の弾幕をすべて掌で受け止めていき、グラは様子がおかしいと気付いて攻撃を止める。

 

 

「効いてないのだ…?」

 

「……ただの牙なら避ける必要もないと言うことだ。ウィリアムの事は残念だが、死んだものは仕方ない。……この身体の有効活用法の実験に付き合ってもらうぞ」

 

 

 そう言ったアルテが逆さにしてゆっくりと拳を開いた右手から、ポロポロと大量の牙が零れ落ちる。その隙を突いてリヒトが噛みつきを仕掛けるも、裏拳を顎に叩き込まれてひっくり返る。ヘカトちゃんに守ってもらって再生していたヨナはそのことに戦慄する。その様子をサングラスの下で眺めていたアルテは嘲笑する。

 

 

「ヨーン・エキドナ。アイザックスからの報告で知っているぞ。リサ・トレヴァーの存在に怯えて逃げ隠れていた臆病者。聡いな。決して敵わぬ者の前には決して出てこない。利口だ。最もRT-ウイルスの恩恵を受けていると言ってもいいだろう。力の差がわからないほどの愚か者でもないだろう?私の下につけば見逃してやらんでもないぞ」

 

「……それは死んでもごめんね。貴女みたいな胡散臭い奴の下についたらいつ切り捨てられるかわかったもんじゃない。私は私自身を求めてくれる人の、エヴリンの望むとおりに生きる!グラ、続けて!」

 

「え、でも……」

 

「私が何とかするから!私、お姉ちゃんだもの」

 

 

 牙の連射を続けることを命じるヨナに二度見するグラだったが、ヨナの真剣な顔を見て頷き、それに反応したアルテが伸ばしてきた触手を、目ざとく気付いたヘカトちゃんがムカデ腕で防いでくれるのを尻目に大きく息を吸い込んで、肺活量のままに牙を再び乱射する。リヒトもそれに合わせて立ちあがり、爪を振るう。

 

 

「くらえぇえええええええっ!」

 

「うおおおおおっ!」

 

「愚か者どもが。無駄だ!」

 

 

 アルテはその場で軽く跳躍しながら一回転。回し蹴りでリヒトの顎に足先を叩き込んで脳震盪を起こしつつ乱射される牙を両手で受け止め、弾込めの隙を突いて投げ返して攻撃するアルテ。牙のショットガンの様なそれはヘカトちゃんでも防ぎきれず、ヘカトちゃんとグラとヨナと、ウィリアムを食べ終わったガンマちゃんは切り傷を負ってダメージを負う。それでも負けじと牙を乱射するグラ。全てはヨナを信じての必死の行動だった。

 

 

「自分でものを考えられん低能の動物が人間の知能を得たところでこの程度か……む、うっ?」

 

 

 リヒトを踏みつけながら牙を受け止め続けていたアルテ。そろそろ高速移動で全員仕留めるか、と考えていたところで違和感を感じた瞬間、気怠さと共に身体が重くなる。なにが、と違和感を感じた右肩を見る。そこには、鮫の牙とは明らかに違う湾曲した牙が突き刺さっていた。そして気怠さの正体に気付く。ただの人間では動くことすらままならないほどの猛毒だった。

 

 

「グラの牙に紛れて私の牙を投げたのよ。ただの牙だと思って全部受け止めていたのが仇になったわね」

 

 

 そう言いながら、ゼーハーと肩で息をするグラをヘカトちゃんとガンマちゃんに押し付けつつ、牙の折れた口で笑みを浮かべながら姿勢を低くして高速で蛇行して迫るヨナ。アルテは重い体に鞭打って、リヒトを踏みつけていた右足を振り上げる。ネリチャギだ。近づいた瞬間に頭部を踏み潰して仕留める、そう言う魂胆だった。しかしネリチャギが炸裂する瞬間、左足が引っ張られて体勢が崩れる。根性で持ち直したリヒトだった。

 

 

「危なかった、助かったわリヒト!」

 

「やってくれ、姉さん!」

 

 

 右手で拳を握りしめた上半身を天井近くまで持ち上げ、急降下するヨナ。この場で唯一、エヴリンと融合した記憶を持つヨナだからこそ芽生えた使命感。姉としての責務を全うすること。

 

 

「全力でお姉ちゃんを遂行する!」

 

 

 そうして握りしめた右の拳が、体勢が崩れて宙を舞っていたアルテの顔面に突き刺さり、サングラスを叩き割りながらコンクリートの床に叩きつける。

 

 

「蠍女に自慢できるわね」

 

 

 蜘蛛の巣状の罅が入った床に倒れ気を失ったアルテを見下ろし、ヨナは笑った。




今回のタイトルはダブルネーミング。ウィリアムからクイーンとアリサに受け継がれたシェリー、と、姉の生き様を受け継いだヨナ、という意味でした。7編やローズ編ではエヴリンがそうだったお姉ちゃんの意地(生まれた順ではヘカトちゃんがダントツお姉ちゃん)

悪魔にも人の心はちょっとだけ残ってた。だけど容赦ないガンマちゃんの必殺攻撃に脱落。アルテからも「まあしょうがない」とあまり気にされてないっていう。ウィリアムの身柄が目的だったけど、覚醒したアルテの能力があるから問題なくなりました。

そして四人の連携でアルテに勝利したヨナ達。セルケトは本当にこの場にいなかったことを後悔してそう。まさかアルテがいる本命だと思ってたアンブレラヨーロッパ支部にいないとは思わなんだからしょうがないね。

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file2:49【一人の警官として】

どうも、放仮ごです。変な能力を持たない人間同士の戦い地味に初めて書くんじゃないかな。

そんなわけで今回はレオンVSエイダです。楽しんでいただけたら幸いです。


 倒れ伏す、アネット……いや、G生物の身体がホットダガーの炎で炎上していく。苦しみ悶えることなく、炭と化していくそれに、モールデッド・バラウルは拳を何度も叩きつけて追撃する。

 

 

「『ハハハハッ!フフフフフッ!ざまあみなさい!私に傷をつけた罪は重いわよ!』」

 

「いい加減にしなさい!」

 

「『ぐふう!?』」

 

 

 そこに、跳躍したリサの拳が頬にめり込んで殴り飛ばされたエヴリンが排出され、貴族の様な姿にノイズが走ってもとの姿に戻ると同時、ドロドロと身に纏っていた菌根が崩れていき、吸血鬼が現世に出てくるための依り代にされていたクイーンが意識を取り戻した。

 

 

「はあ、はあ……承知の上だったが……気分のいいものじゃないな」

 

『もうクソデカオバサンには絶対ならないぞ……』

 

「吐き気がする選民思想だったな。ああなったら終わりか」

 

 

 げんなりしているエヴリンに同調するクイーン。

 

 

「ネメシス、やっぱり頼もしいわね貴方」

 

「スタァアズ」

 

「一緒にアンブレラ撲滅しようね!」

 

「すたぁあず?」

 

『モテモテだねネメシス!』

 

 

 リサとアリサに絡まれてるネメシスを茶化すエヴリン。しかしすぐに気を取り直し、上を向く。ここは下水道最下層。NESTに向かうためには上る必要があった。クイーンも見上げ、それを察して更にげんなりする。

 

 

「……とりあえず、上るか」

 

『「「賛成」」』「スタァズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Gアネット、アルテとの激闘が行われる一方。機械とかよくわからなかったのでオメガがぶっ壊した機材から手に入れたG-ウイルスのワクチン“DEVIL”を打ち込んで、シェリーの呼吸が安定したのを確認したレオン、クレア、オメガ、プサイはひとまず安堵していた。ベルセポネは完全に無視、タイラント・アシュラは道中で既に倒していたので邪魔者はなくスムーズに事は進んだ。そうして地下のプラットホームまで向かおうとエレベーターに乗り込んでいた彼らの元に、女スパイは銃を突きつける。

 

 

「待ちなさい。シェリーは置いていってもらうわ」

 

「……エイダ」

 

 

 ハンドガンを突きつけるエイダから、シェリーを背負っているクレアを庇うように前に立つレオン。オメガとプサイが前に出ようとするのを、手で制する。

 

 

「二人はクレアとシェリーを守ってくれ。エイダは俺が」

 

「レオン殿……ご武運を」

 

「シェリーを置いていかないと逃がさない、と言っているのだけど?」

 

 

 躊躇なくパパパン!と音を立て三点バーストの弾丸がクレアに向かって放たれ、反応したオメガが弾丸を叩き斬り、プサイが端末を操作し先導してエレベーターに乗り込むクレアたち。その間に走るレオン。オメガとプサイを信用しているが故の行動だった。

 

 

「エイダあ!」

 

「っ…!」

 

 

 狙いをレオンに変えてハンドガンを向けるエイダ。レオンは瞬時にハンドガンを引き抜くと弾丸を連射。それらは寸分たがわずエイダの手にしたハンドガンを弾き飛ばしたうえで空中でさらに弾き、吹き抜けになっている通路の下に落下させる。しかし諦めるエイダではない。身柄を押さえようと突進してきたレオンに一回転してからのミドルキックを叩き込むと、レオンのハンドガンを奪い取り、俯せのレオンの背中に乗ると頭部に突きつける。

 

 

「終わりよ」

 

「それはどうかな?」

 

 

 笑うレオンに不思議に思いつつ引き金を引くエイダだったが、弾が出ない。なぜ、と思って見てみれば弾倉が抜かれていた。奪い取られる際の瞬時にレオンがグリップ底からマガジンを引き抜いていたのだ。

 

 

「返してもらうぞ!」

 

 

 一瞬見せた隙を見逃さず、くるりと反転してエイダの体勢を崩すと、エイダの手からハンドガンを奪い取り手に持ったままだった弾倉を装填し足を狙うレオン。しかしエイダも負けてはおらず、蹴り上げてハンドガンを頭上に弾き飛ばすと飛び込むように跳躍、足を開いて右足の膝でレオンの頭部を挟み込むと床につけた左足を軸にレオンを投げ飛ばす。

 

 

「ぐああっ!?」

 

 

 入口側の壁にぶつかり、落ちそうになるレオンは間一髪、右手で通路の端を掴んで落下を回避する。その間にフックショットを取りだしたエイダがそれを使って下層に降りようとしていた。

 

 

「さようならレオン、楽しかったわ」

 

「っ、待て!」

 

 

 それを見て、レオンは意を決すると両手で通路の端を掴むと体を振り子の様に揺らし、エイダが飛び出したのを見計らって手を放し、勢いのままに空中を駆るエイダに飛び込んだ。

 

 

「レオン!?なにを……!?」

 

「俺は警官だ!民間人を守る義務がある!」

 

 

 エイダを抱き込みながら外周の壁に激突、わずかな足場に投げ出される二人。なんとか立ち上がりつつ、レオンは峰を前にしたナイフを、エイダはショートナイフを取り出して構える。このレオンはまだ“教官”からナイフ術を始めとした戦法を習ってはいない、単なる警官だ。それでも果敢に挑みかかる。

 

 

「私に勝てると思っているの?」

 

「泣けるぜ」

 

 

 キン!キン!キン!とナイフがかち合い火花を散らす。エイダの突いてくるショートナイフをレオンがギリギリで弾いていく。足場も小さく、小回りが利くエイダが非常に有利だ。下を見る余裕がないため迂闊に踏み込めない。経験の差もあり、完全に押されていた。

 

 

「うおおおおっ!」

 

「なっ……!?」

 

 

 しかし負けていられないとばかりにレオンは吠えて奮起、ナイフを力任せに振るい、その勢いに押されて一転、防御に回ったエイダを押していく。刃は向いていないとはいえナイフは鉄の塊だ。当たれば痛いし当たり所が悪ければ骨も折れる。故にエイダの動きにも若干の乱れが生じる。

 

 

「ふっ!」

 

「っ、待て!」

 

 

 ならばと大きく後退したエイダは取りだしたフックショットを射出して吹き抜けに飛び上がり、弧を描きながら降りていく。レオンは背負っていたショットガンを抜くが、エイダに照準を向けて、躊躇してしまった。怪物でもない人間を撃つ勇気は今のレオンにはなかった。

 

 

「くっ……」

 

「じゃあね、レオン。そこで立ち尽くしてなさい」

 

 

 手を振りながら降りていくエイダ。レオンは周囲に視線を向けると、壁にかけられた緊急用の梯子を見つけて、跳躍して飛び降り梯子に手をかけ滑り降りて追いかける。追いすがるレオンに、エイダはため息を吐く。

 

 

「待て!エイダ!なぜシェリーを狙うんだ!」

 

「そういう任務なのよ。邪魔をしないでくれる?」

 

 

 そう言って右手でフックショットを握り降下するエイダが左手で取りだしたのは、マシンピストル。弾丸を適当にばら撒き、牽制する。必要以上に命を取る気はないエイダ。この時も狙いもしなかったのだが、レオンはマシンピストルの牽制に怯んで梯子から手を放してしまった。

 

 

「う、うわああああああっ!?」

 

「レオン!」

 

 

 手足をばたつかせながら落下するレオン。壁を掴もうにも手が届いていない。絶体絶命。それに反応したのも、エイダだ。

 

 

「世話が焼けるわね!」

 

 

 一回ワイヤーを切り離し、もう一度今度は下に向けてフックショットを射出してレオンを抱き留め、弧を描いて吹き抜け内を舞うエイダ。受け止められたレオンは急制動により脳が揺れながらも、エイダを見つめる。

 

 

「……エイダ。お前は、なんなんだ?」

 

「さあね。シェリーにも逃げられたみたいだし……迎えが来たみたいね」

 

「え」

 

 

 そう言ったエイダに放り投げられたレオン。放心していたその手に妙にねっとりしている糸が絡みつき、持ち上げられる。見上げれば、そこには壁にくっついているクイーンがいた。振り返ればすでにエイダは消えていた。

 

 

「レオン、なにがあった?今のはエイダか?」

 

「あ、ああ……多分、もう大丈夫だ」

 

 

 妙な確信を抱いてそう告げるレオンに、クイーンは首を傾げたのだった。




※このレオンはまだクラウザーに鍛えられてない新米警官です

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:50【家族の団欒】

どうも、放仮ごです。ついに一章で50話という大台に乗ってしまいました。2はバイオ史上でも結構なボリュームだと言うことで……。

今回は穏やかなひと時、そして。楽しんでいただけたら幸いです。


『ほっ、危なかったあ』

 

 

 ヨナ達と合流し、NESTに来るなりすごい勝負をエイダと繰り広げていたレオンを見つけ、ギリギリ落ちそうになってたところをクイーンが間に合った。エイダは……逃げられたか。アネットとウェスカーは倒したから問題はないか。

 

 

『クイーン、そのままレオンを連れて降りて!アリサ、リサ、ネメシス、ヘカトちゃん、リヒト!ヨナとグラとガンマちゃんを連れて降りるよ!エレベーターを待ってる暇ないし、みんなは乗れない!』

 

 

 私の指示に頷き、触手による空中移動やムカデ腕、爪を用いた壁を伝う能力を持つ面々が、そうでない三人を連れて降りていく。多分だけど、もうそろそろ……。

 

 

《警告。ただいま破壊から復旧したところ、レベル4の不正な持ち出しを検出しました。施設封鎖を開始します。施設封鎖完了後、自己破壊コードを実行します》

 

 

 多分だけど、G-ウイルスのワクチン“DEVIL”を手に入れた際にタイラント・アシュラと同じように機械を破壊したんだろう。自爆装置は前の研究所にもあったからともかく、自己修復機能あるとか時代設定間違えてるよね本当に。本当に1998年?

 

 

《警告。自己破壊コードが実行されました。中央エレベーターから最下層のプラットホームへと至急避難してください》

 

『エレベーターは使ってないんだ、ごめんね?』

 

 

 明らかに時代背景を間違っている機械音声に手を合わせて謝りながら、みんなを追いかけて降りていく。リヒトが天板を叩き割って侵入した下層を進み、辿り着いたのは既に下降を始めているプラットホームのターンテーブル。あの列車に乗せるためには普通の人間よりサイズが大きいリサとヘカトちゃん、リヒト、ヨナ、グラ、ガンマちゃんは人型に擬態させないと駄目だな。

 

 

「おっ、お待ちしていたでござるエヴリン殿!レオン殿!」

 

「無事でよかった……」

 

『二人も無事でよかった。アリサ、身体貸して』

 

「うん、いいよ」

 

 

 車両から出てきたプサイちゃんとオメガちゃんも合流したので、一緒に菌根を操作し擬態させる。何人かは以前通りで大丈夫だ。

 リサは服もボロボロだったので改めてお嬢様みたいな白いワンピースと帽子を身に着けている清楚な180センチぐらいの長身の美女の姿に。

 オメガちゃんはツンツンしている深緑色の髪をショートにした、黄緑のパーカーと青い短パン、黒ニーソックスと赤い運動シューズを身に着けた少女の姿に。

 プサイちゃんはオメガちゃんと似た顔で黒髪をポニーテールにし青いマフラーはそのままに、さらしを胸に巻いた軽装の侍みたいな恰好の少女の姿に。

 ヘカトちゃんは腕を普通のものにして黒いタンクトップと白のハーフパンツを身に着けた薄着で裸足の女性の姿に。

 リヒトはサイズが段違いなのでやっぱりそんなに縮めることはできず二メートル半の長身で緑色の髪を短く切り揃えた、シンプルな黒のTシャツとジーパンでボーイッシュな中性的な女性の姿に。

 ヨナは蛇の尻尾みたいな床までかかる茶色い長髪で、蛇柄のジャケットと黄緑のキャミソールにシックなロングスカートで大人風の女性の姿に。

 グラは背鰭と鰭を合わせたみたいな髪型の水色の長髪で白のタンクトップとホットパンツで生足魅惑のマーメイドみたいな少女の姿に。

 ガンマちゃんは初めてだったけど、ガンマちゃんのガワを模しただぼだぼの白い着ぐるみパーカーを身に着け素足の真珠色の髪の少女の姿に。

 ネメシスは……まあいいか。それぞれ異形要素を取り除いた人に見える姿に擬態させ、アリサの身体で私は一息つく。リサも心なしか機嫌よさそうだし、みんなも気に行ったようでなにより。

 

 

「…見違えたな。まるで魔法だ」

 

「『残念、種はあるんだなこれが』」

 

 

 驚くレオンにそう言いながらアリサの身体から出て、伸びをする。……そういやアリサの身体でモールデッドになったことはないな。まあ使う機会なんてない方がいいんだけどさ。

 

 

「クレア殿、皆が揃ったでござるよ」

 

「今開けるわプサイちゃん。…って、見違えたわ……」

 

「クイーン、アリサ!」

 

 

 プサイちゃんがノックして車両の扉を開けると、出てきたクレアが人間姿のプサイに驚いた様子を見せ、続けてその横からシェリーが飛び出してきて、アリサに抱き着き、アリサも抱きしめ返す。クイーンが受け止めようとした手が虚しく空を切る。……えっと、ドンマイ。ギャー!?腹いせで腕をすり抜けるのやめてー!?

 

 

「無事で本当に良かった……」

 

「シェリーも、なんともなさそうだね!アネットに連れ去られた時は本当にどうしようかと……」

 

「え……?あれ、ママだったの…?」

 

「あ」

 

『馬鹿アリサ……』

 

 

 まだG1の時は見分けがついたのだろうけど、さすがにG6の姿から母親を連想することはできなかったらしいシェリーの顔がみるみる沈んでいく。口を滑らせ焦ったアリサの頭をクイーンがどつく。しょうがないね。

 

 

「……パパは?どうなったの…?」

 

「それならー、もごもごっ」

 

「……黙ってろ」

 

 

 シェリーの問いかけにオメガちゃんが馬鹿正直に応えようとして、リヒトに口を塞がれる。こんな子に食べられたとか、言えるわけがないよなあ。

 

 

「……ウィリアムは、死んだ」

 

「…そう、なんだ……」

 

 

 プラットホームが下降し機械音が鳴り響く中で、クイーンが静かに告げる。シェリーはショックを受けた表情になると俯く。

 

 

「ウィリアムは私の父を殺した一人だ。もうそのことは恨んでない……と言えば嘘になるが、生きてここにくるために私達が殺した。恨んでくれても構わない。嫌いだと言われても仕方のないことだ。だけど、信じてくれ」

 

 

 淡々と、そう言葉を紡いでいくクイーン。誠実であろうとしているのだろう。言葉を紡ぐために呼吸を荒くしていくシェリーを、抱きしめる。アリサも、我慢できないとばかりに其の上からさらに抱きしめる。

 

 

「ー――――お前と過ごした時間に、お前に注いだ愛情に、嘘偽りはなかった」

 

 

 その言葉でシェリーの涙が決壊した。わんわんと泣くシェリーを、クイーンとアリサ2人で抱きしめる。やっぱり、“親”って……血のつながりなんて、関係ないんだなあ。そこまで考えて、思い至り手を後ろで組んで笑顔を向けると、レオンとクレア、リサとネメシスの他、クイーンたちを見守っていたみんなは首を傾げた。

 

 

『みんな、私の子供たち』

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

『生きててくれて、ありがとう』

 

 

 そう告げると嬉しそうにはにかむリヒト、ヨナ、グラ、ヘカトちゃん、オメガちゃん、プサイちゃん、ガンマちゃん。この七人の親として、私も頑張ろうと、そう思えたんだ。するとネメシスが抗議せんとばかりに私の前に出て手を振ってきた。可愛いなこの大男。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

「ネメシスが、俺も!だってさ」

 

『え。いいの?』

 

 

 代弁するリサに頷くネメシスに困惑する。ネメシスはラクーンシティから脱出できたら改めて意思を聞いてから自由になってもらおうと思ってたんだけど……いや、放逐するのも無責任か。

 

 

『いいよ、ネメシスも!みんな家族だ!』

 

「スタァアアズ!」

 

 

 そうこうしていると、ガコン、と大きく揺れてプラットホームが下降するのが止まる。これは……。

 

 

「ついた、みたいだな」

 

「ええ、出発しましょう」

 

 

 そうレオンとクレアが告げて列車の中に入っていくと、自動的に別の車両が連結して四両の列車ができあがる。みんな乗れるかなと思ったけど心配なさそうだな。

 

 

「行こう、シェリー」

 

「ラクーンシティを出たら、また一緒に暮らそ?」

 

「うん…!」

 

 

 シェリーを抱え上げたクイーンを筆頭に、ぞろぞろと車両に入っていく私達。全員乗ったことを確認したクレアがレバーを引き、列車が動き出す。運転は必要なさそうだ。アンブレラ脅威の技術力だと思うことにしようそうしよう。

 

 

「……黄道特急を思い出すな」

 

『やめてよ脱線した時の事思い出すから』

 

「地下鉄が脱線したこと思い出しちゃった……」

 

『縁起でもないから!?』

 

 

 それぞれ脱線を経験しているクイーンとアリサが不安げな顔を浮かべるので思わずツッコむ。ヘリじゃないんだからそうそう壊れたりは……

 

 

ィイイイイイイイイイイイ

 

 

「a。何か言ったのだ?」

 

「マザー、変な声が……」

 

 

 するとグラとリヒトがなにかに気付いたように首を傾げる。2人は水中で過ごしてたから音に敏感なのかな。まあ気のせい程度なら問題ないか。

 

 

ィイイイイイイイイイイイ

 

「ござっ?聞きたくもない声が聞こえてきたでござる……」

 

「……耳障りな声が」

 

「本当に、しつこいわね…」

 

『冗談だと言ってほしいんだけど』

 

 

 今度は勘が鋭いプサイちゃんとヨナにリサまで反応してきて。私は察してしまう。こんな状況で考えられる“最悪”は一つしかない。

 

 

ィイイイイイイイイイイイッ!

 

「……エヴリン。なにかが、来てる」

 

「シェリー、ガンマちゃんとオメガちゃんと一緒にクレアたちのところに行ってて」

 

「え、うん。わかった…」

 

「スタァアズ」

 

 

 まだ気づいていないガンマちゃんとオメガちゃんと共にシェリーをクレアたちのいる先頭車両に向かわせてから、腕の擬態を解いてムカデ腕を展開するヘカトちゃんと、軍用ハンドガンのセーフティを外すアリサ。ネメシスもサブマシンガンを構えて臨戦態勢だ。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

「エヴリン、腹をくくれ」

 

『嘘だと言ってよクイーン……』

 

 

 聞こえてきた咆哮に、ゴクとマゴクを引き抜いたクイーンが、一番後ろの車両の後部ドアを開く。そこには暗闇が広がっていて。一瞬安堵するが、暗闇の中心で瞬きをした人型の赤い光が輝いて、暗闇から四つの人間大の巨大な手が伸びてトンネルを指で抉って掴むのを高速で繰り返しながら、それが現れた。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 それは、アネット……G6と酷似していた。しかし人型の肉の下には大量の“眼”が存在しており赤い輝きを宿し、ぶら下がっているG6の背中から、巨大な爪がついた三本指の人間大サイズの四本の巨腕が生えて手足の代わりをなして移動しており、G6のうちに潜んでいた“G”が食い破って現れたかの様な姿をしているそれに名を付けるなら――――G7。正真正銘ラクーンシティ最後の敵が、私たちの前に現れたのだ。




ラスボス降臨、G7。2編を書いてた当初から出すことは決めていた怪物です。

ガンマちゃんも人型のデザイン決定。他のキャラのは前すぎて読者のほとんどが忘れていると思うので改めて。

シェリーの心の中の原作におけるクレアの位置にクイーンとアリサはいます。そしてネメシスも正式に家族入り。

G7のモチーフは以前タイラント・アシュラの元ネタとして紹介した「アスラズラース」の大ボスの一人、ゴーマ・ヴリトラの形態の一つ「噴帝 ヴリトラ」です。簡単に言うと背中の四本腕だけ巨大でドクター・オクトパスの触手の様に移動に使う阿修羅。その実態は…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:51【進化の終着点-G7-】

どうも、放仮ごです。夜まで頭痛でダウンしてました。さすがに二日は開けられないよね。

ラクーンシティ最終決戦スタート。総力戦です。楽しんでいただけたら幸いです。


 下水道最深部で燃え盛る肉塊があった。エヴリンとクイーン扮したオルチーナ・ドミトレスクが変異したモールデッド・バラウル、アリサ、リサ、ネメシスの怒涛の連携攻撃で再生する暇なく打ちのめされ生命活動を停止して俯せとなったG6……アネット・バーキンだった。燃え盛っていた炎は溜まった水によって鎮火し、白衣も燃えて黒焦げとなったその身体が、突如脈動する。

 

 

 G6の能力の一つであった、血流操作。それが心臓を無理矢理動かして、G生物は蘇生する。それだけではない。蘇生したものの意識は覚醒せず暴走する再生能力が急速で肉体を変異させていく。人型に集束させていたものが抑えきれなくなった質量が背中から体外に排出される。質量保存の法則を無視して五倍ものサイズに膨れ上がった質量は形が定まらず背中で蠢いていたものの、朧げな意識の覚醒と共にその方向性が定まっていく。

 

 

「シェリィイイイイ……ッ」

 

 

 それはG6になったことで忘却していた原初の想い。それは、最愛の娘を置いてこの世を去ることへの未練。生命の危機に直面し思い出した希望そのものであるシェリーをその手にしたいという想いが暴走し、背中から飛び出した質量は四つの巨大な腕を形作って、水場を踏みしめその身体を宙に持ち上げる。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 決して逃がしはしないとでも言うように全身の皮膚の下に形成された“眼”がギョロギョロと動いて、自分が落ちてきた地上を見上げて、壁を指で抉りながら掴んで登っていく。自我もなくしただ妄念の想いで動くそれは、知能を見せた第六形態とも異なり、ただの怪物でしかなかった。

 

 

 本来存在しないG6の、さらに存在しなかったはずの進化の終着点。それが第七形態、G7だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な四つの腕をせわしなく動かし、迫るG7。アネットとも呼べなくなった怪物はその全身の眼で私達を捉えると、四つの巨腕を動かして追いかけながら中央の人型の両手を合掌させて向けてくる。あの構えは……穿血だ!

 

 

『屈んで!』

 

 

 私が吠えた瞬間、鮮血のレーザービームが横薙ぎに振るわれる。壁を斬り裂きながら列車に迫ったそれは後部車両の上部を斜めに斬り裂き、転がり落ちてえらく開放的になってしまった。まずい、遮蔽物が消えた!

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 咆哮を上げたG7は転がってきた車両上部を右上の巨腕で掴むと、投げ返してきた。綺麗に切断されているから断面が鋭く、単純に凶器だ。

 

 

「させるか!」

 

 

 それに対してクイーンがゴクとマゴクを構え、連射。弾丸を何発も受けて弾かれた車両上部を吹き飛ばし、逆にG7の胴体に叩きつける。斬り裂かれた胴体からブシャッと鮮血が噴き出し、中央の人型が引き抜いた車両上部を背後に投げ捨てる。斬り裂かれた肉の下は、大量の眼が蠢いていて控えめに言ってきもい。あれ全部コアとか言わないよね?いやありえるな。眼が弱点なのは変わらなかったし。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 すると全身の眼がギョロギョロと動き回り、全ての眼がこちらを見据える。なにをっ、と思った次の瞬間、眼が斬り裂かれてそこから血液が高速で噴き出し、まるでショットガンの連射の様に連続で射出される。なにそれ目からビーム!?自傷行為で攻撃してくるとか正気か!?……正気じゃないな!言ってる場合か!

 

 

「危ない!」

 

 

 ギリギリ腕だけ擬態を解いたヘカトちゃんがムカデ腕を壁の様に展開してみんなに当たるのを防ぐも、攻撃を受けた甲殻が灼けた様に溶解していた。そう何度も受けられる攻撃じゃない…!だけど、さすがにあの攻撃がそう何度も打てるものじゃないらしく、血涙を流しながら止まる。同時にヘカトちゃんがムカデ腕をどけて、射線が開く。

 

 

「撃て!とにかく撃ちまくれ!」

 

 

 クイーンの指示で、クイーン、アリサ、ネメシス、擬態を解いたグラがそれぞれの遠距離攻撃で応戦する。それらはG7の全身の眼を次々と撃ち抜いていくが、すぐさま再生していき話にならない。レオンとクレアを連れてくる?いや、万が一あの穿血を喰らったらアウトだ。せっかく生き延びたのにそれはまずい。まだ耐性があるこの面子でどうにかするしかない。でもどうやって?

 

 

「スタァアアズ!」

 

「いいぞ、ネメシス!」

 

 

 ネメシスが手榴弾を取りだし、ピンを抜いて放り投げる。カランコロンと音を立てて跳ねながら転がっていったそれに、クイーンが弾丸を炸裂させ、爆発。一気に眼の大半を潰すも、まだまだ残っているのかすぐ再生させてしまう。一個でも残っていれば再生するってどんな無理ゲーだ。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 そのうち、四つの巨腕を動かして車両に追いついてくるG7。そのまま下の巨腕二本を動かして速度を維持したまま、上の巨腕二本を振り回して攻撃してきた。

 

 

「アリサ!」

 

「させるか…っ!?」

 

「重い…!?」

 

「ござぁ…!」

 

 

 咄嗟に動けなかった遠距離攻撃組を庇うように人間態のままで受け止めるリサ、ヨナ、リヒト、プサイちゃんを掌で押し潰そうとするG7。それに対しそれぞれ両腕の擬態を解いたリサ、リヒトの拳と、下半身の擬態を解いたヨナ、プサイちゃんの尻尾と蹴りが突き刺さり、巨腕二つを肉片にして吹き飛ばす。やったか!?

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 しかしG7は動じることなく咆哮を上げ、骨が伸びて肉が増殖し血管が張り巡らされて急速で再生されていく巨腕二本。さらに至近距離から弾丸の雨が撃ち込まれるが、破壊された眼はすぐさま再生されていく。この……本当に化け物だ。でも精度はG6より低い。あの時みたいな細やかな変形はしていない。だけど…!

 

 

『嘘でしょ…!?』

 

 

 また、中央の人型の両手が合掌される。穿血だ。あの速度をこの距離で撃たれたら避けられない。絶望が私の脳裏を支配する中、動く者がいた。クイーンだ。

 

 

「これなら……どうだ!」

 

 

 こちらも合掌し、両手の間に発生させた粘液を捏ねて粘つかせたクイーンは、それを弾丸にして両手の間から射出。それはせわしなく動いていたG7の下側の巨腕右の指にくっつき、線路に縫い付けられてガクンッと体勢を崩し列車に置いてかれたG7の放った穿血が見当違いの方に振り回され、天井や壁を斬り裂いて崩壊、G7はそれに巻き込まれる。今度こそ、終わりだ。

 

 

『ナイス、クイーン!』

 

「いや、まだだ…!」

 

 

 G7を押しつぶした瓦礫がガラガラと音を立てて崩れ落ち、四本の巨腕が飛び出して中央の人型を持ち上げたのが見えた。するとどんどん距離を開けていく列車をすべての眼で見据えて何を考えたのか、中央の人型が両手をかざす。なにを、と思った瞬間、クイーンの粘液糸の様に粘つかせた血が伸びてきて、列車にこそ届かなかったもののすぐ傍の壁にくっついて巨腕で跳躍、勢いよくこっちまで飛んできた。いやいやいや、その質量がぶつかったら……!?

 

 

『た、退避ぃいいい!?』

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 ズゴォオオオオオンッ!!と轟音を立てて、後部車両に激突するG7。それにより列車が揺れて、後部車両に安全装置の急ブレーキがかかりバチバチバチ!と車輪が火花を散らす。まずい、このままだとスピードが落ちて、爆発から逃げられなくなる!

 

 

『みんな、前の車両に!急いで!』

 

「シェリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 私の言葉に急いで三両目の車両に逃げようとするクイーンたち。しかし列車にしがみついてきたG7は三本の巨腕で列車を掴みながら右上腕を伸ばし、皆をまとめて握って捕らえようとしてくる。三両目に移動したネメシスが顔と手だけだしてサブマシンガンを連射して押しとどめているが、衝撃で怯んではいるものの再生するんじゃ時間稼ぎも難しい。まずい、このままじゃ……!

 

 

「こんの…!」

 

「アリサ。これ、頼んだ。ネメシス、悪いが貰っていくぞ」

 

「え……クイーン!?」

 

 

 最後のアリサがやけくそとばかりに拳を握って殴りかかろうとするが、それはクイーンに肩を引っ張られ無理矢理三両目に投げ飛ばされたことで止められる。すれ違いざまに、アリサにゴクとマゴクともう一個を手渡しネメシスからホットダガーを引き抜いたクイーンは、自分以外のみんなが三両目に移動したことを確認すると出入り口を粘液で塞いで、ホットダガーを怪力で振るって連結部を斬り裂き外してしまった。

 

 

「一人じゃ寂しいだろ?……最期の勝負だ、アネット。(ヒル)達みんなで相手してやるよ」

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

『クイーン……まさか』

 

 

 クイーンとG7を乗せた後部車両を置き去りにして、どんどん加速していく。壁なんか関係ない私は、それを傍で見ていることしかできなかった。




G7。G6の弱点であったコアを、複数にすることで補った脳筋怪物。単純に巨大な腕による攻撃や全身の眼から体液を射出したり、クイーンの粘液糸を学習して血で再現したりできるが、本能で動いているためG6ほどの精度はない。しかし戦いの舞台が走る列車の上なためかなり厄介。

みんなを逃がし、一人残ったクイーン。似たようなことをヴィレッジ本編でエヴリンがやらかしてるから止められないっていうね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:52【クイーンズ・ラストサマー】

どうも、放仮ごです。この結末は、0編の時点で何となく決めてはいました。

人の心を失った人間と、人の心を得た怪物の終幕。楽しんでいただけたら幸いです。


「ダメ!クイーン!」

 

「なにを!クイーン殿!?」

 

 

 連結器を外し、粘液で出入り口を閉じ進んでいく列車から、アリサとプサイの悲痛な叫び声が聞こえてくる。傍にい続けるエヴリンは……まあこいつは死ぬことはないだろう。死ぬのは私一人で十分だ。

 

 

「一人じゃ寂しいだろ?……最期の勝負だ、アネット。(ヒル)達みんなで相手してやるよ」

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

『クイーン……まさか』

 

 

 エヴリンの泣きそうな声に笑いながら、前を見る。その巨大な四つの腕で車両に掴まり落ちそうになっているアネットがいた。アネットがどうしてこうなったのかは、エヴリンから共有された何巡目だかの記憶で見た。アンブレラを見限り逃げようとしたバーキン夫妻。U.S.S.の襲撃。ウェスカーが乱入し、アネットだけ凶弾を受けて致命傷を負ったこと。人の心を持たないウィリアムがもったいないという理由でG-ウイルスを投与したこと。怪物になり果てても心残りのシェリーを保護しようと、シェリーを誘拐したと思い込んだ私を狙っていたこと。究極の生物、と自惚れるようになったのは理解できないが……まあそう言う気質だったんだろう。そんなアネットの変わり果てた姿に、私はもう憐れみを向けるしかない。

 

 

「そういえば腹を割って話したことはなかったな、アネット。私はクイーン・サマーズ。エヴリンの共犯者で、アリサの相棒で、シェリーの育ての親。S.T.A.R.S.の一人である元警察官だが、人間ですらないヒルの塊。それが私だ」

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

 

 咆哮を上げながら巨腕の一つで薙ぎ払ってくるアネットの攻撃を、背後に粘液糸を飛ばして移動することで回避。粘液糸を次々と飛ばし、壁とアネットの巨腕を次々と繋ぎ留めて動きを制限させていき、跳躍。上から斜めに斬り裂くようにホットダガーを振るい、アネットの身体を炎上させるも、全身の眼から噴き出した体液の勢いで炎を消されてしまう。ホットダガーは完全に攻略されてるか。

 

 

「ああそうだ。お前と違って本来なら人権すらない。エヴリンが作った偽の戸籍でしか私は人権を得られない。今のお前に人権があるのかは(はなは)だ疑問だが……私よりはよっぽどましだろう。どうだ?今から正気に戻れないか?エヴリンなら、人の姿に戻すことはできるぞ」

 

「シェリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

「……まあ駄目もとだったがこれですむならこうなってないか」

 

 

 宙返りで穿血を避け、粘液糸を飛ばして中央の人型の右手にくっつけ引っ張ることで合掌させないようにしながらミドルキックを腹部に叩き込む。ブシャッ!と体液を散らしながら複数の眼の一部が潰れる。再生していくその悍ましさは、元人間とは到底思えない。

 

 

「―――――こうなったのは私の責任だ」

 

『クイーン、いきなりなにを?』

 

 

 言いながら、突き出してきた巨腕の拳の上に手をやって逆立ちして舞い上がり、天井に張り付いて量手からの粘液糸で上巨腕をX字に交差させて拘束させることで動きを止めながら、私は胸中に抱いていた本音を暴露する。別に倒さなくていい、スピードが完全に落ちて停車した後部車両にこいつを押しとどめさせておけば私の勝ちだ。

 

 

「私には大罪がある。始祖ウイルスを我が身に取り込み、T-ウイルスとして世に出してしまった罪が。RT-ウイルスも、G-ウイルスも……元を辿れば私が誕生の原因だ」

 

 

 ジェームス・マーカスから投与された始祖ウイルスを取り込んだ私から生まれたウイルスから、T-ウイルスが作られ、それがリサやアリサに投与されることでRT-ウイルスが、G-ウイルスが生まれ………そしてこの大規模バイオハザードを引き起こした。この街を守る警官?笑わせる。この街を滅ぼしたのは、この私だ。

 

 

『でもそれは、マーカスが……ウェスカーが、バーキンが……アイザックスが!』

 

「そうかもしれない。だけど、私から生まれた事実は変わらないんだよ。お前も同じだろ?エヴリン」

 

『うぐっ……それは、そうかもだけど……』

 

 

 エヴリンが、自分が過去に来たせいで運命がねじ曲がって苦悩していたことは共有した記憶から伝わった。苦悩したのがお前だけだと思っていたのか?言っただろう、エヴリン。私とお前は、共犯者だ。

 

 

『だからって……死んで責任を取ろうだなんて、無責任すぎるよ……』

 

「お前にだけは言われたくないな、エヴリン。ああ。お前と会っていなければこんなこと考えもせず、私はただアンブレラへの復讐をするだけで済んでいたのかもな」

 

 

 エヴリンと出会わなかったら。この10年。そんな夢想をすることは一度や二度ではなかった。一番あり得るのは、マスターリーチの位置に私がいる状況だろう。何かを間違えれば私はああなっていたという確信はあるし、なんならアンブレラへの復讐だけを考えていた奴を羨ましくすら思ったこともある。そんなことを考えながら、下の巨腕で私を潰そうと合掌してきたのを、粘液を両刃の槍状に形成して、串刺しにすることで受け止める。そのまま粘液槍を粘液糸で繋げて天井に括り付ければ、六本腕すべて拘束完了だ。私はホットダガーを両手で構え、中央の人型の頭部に勢いよく突き刺した。

 

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!」

 

「……だけどな。お前がいたから、私は生涯の相棒であるアリサと出会えた。敵の子でありながら愛おしいとすら思えたシェリーとも巡り合えた。クリスにレベッカ、ジルにバリー……ブラッド、ジョセフ、エンリコ、ケネス、リチャード、フォレスト、エドワード……S.T.A.R.S.やレオンにマービン……R.P.D.のみんなとも出会えた。似たような境遇のヘカト、オメガ、プサイ、ヨナ、グラ、リヒト、ガンマ、ネメシスと肩を並べることだってできたし、他にもビリーにクレア、ロバート……この10年で巡り合えた人間はたくさんいる」

 

 

 しかし炎上しながらも、拘束している粘液糸を全身の眼から高速で射出した体液で弾き飛ばして、自由になったアネットが下の巨腕二本で身体を持ち上げながら上の巨腕二本を押し付けてきたのを、こちらは両手を床に押し付けて粘液の壁を作り上げて受け止め絡みつかせるが、力ずくで突き破ってきたそれに、身体を鷲掴みにされる。頭に突き刺さったままのホットダガーを中心に燃える傍から再生していくアネットに、イブリースを思い出した。

 

 

「ぐうっ、ううううっ!?」

 

『もういい、もういいよ!私が、なんとか止めるから……逃げてっ』

 

 

 締め上げられる苦悶の声を上げる私を見て、エヴリンが指で掌印を結ぼうとしながら声が震えてるのを、感じた。エヴリンはアネットの存在がトラウマになっている。恐らく精神世界に引き込んで時間稼ぎをしようとしているのだろうが、そこでやられた傷は反映されるのを私は知っている。それを視線で止めながら、私は笑顔をエヴリンに向けた。

 

 

「ああ、エヴリン。礼を言わせてくれ。最高の人生だった。そうだ、私は“人”に、“クイーン・サマーズ”になれたんだ」

 

『クイーン……』

 

 

 私の精一杯の感謝の言葉に、エヴリンはその場で立ち尽くした。そろそろか。私は、全身から粘液をにじませてドロドロにして、床まで滝の様に垂らしたそれで足場とアネットを固定する。鋼鉄より硬い粘度の粘液だ。もう、アネットは、ここから逃げられない。そして私の視界には、待ち望んでいた“瞬間”が迫っているのが確認できて、口角を上げる。

 

 

「もうすぐ9月も終わる。サマーズ()が潰えるにはちょうどいい時期だと思わないか?」

 

「シェエエエエエエリィイイイイイイイイッ!!!!???」

 

 

 煌々と光り輝く、炎がトンネルを飲み込みながら迫る。NESTの爆発がついにここまで届いたのだ。アネットを殺す唯一の方法、それは……爆発ですべてを纏めて吹き飛ばすしか、ない。だから誰か一人は、ここで奴を足止めする必要があった。なら死ぬのは、私しかいないだろう。

 

 

「エヴリン、アリサ………あとは、任せた(・・・)




神の名を与えられし究極の生物は、女王の覚悟の前にこうして潰える。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:EX2【野望の誕生日】

どうも、放仮ごです。五分ぐらい遅れましたが2024/3/14分となります。ネタ集めのためにバイオ動画見てたら時間が過ぎてて慌てて書いたけど間に合わなかっただけです、はい。

凄まじく短いけど2の時系列の話で次につながる話ということで幕間です。


「ウィリアムは死に、私も危うく爆発に飲まれるところだった……踏んだり蹴ったりだな」

 

 

 結局地上に舞い戻り、夜明けの陽光を眺めながら私は自嘲気味に笑う。あんな蛇にしてやられて、いっそ死にたい気分だが、生憎とこの身は死ねないのだ。

 

 

「RT-ウイルスの特性は「適応」だったか。多種多様で元になった動物で能力が変わるのは興味深いことだな」

 

 

 帰りのヘリを待つ間に確認した限りをおさらいしておこう。私も有している超再生能力はおそらくデフォルトだ。身体的特徴が異能としてその身体に現れている。

 

 アリサ・オータムスとリサ・トレヴァー。恐らく寄生生物(プロトネメシス)由来の触手生成及び操作。

 

 百卒長(センチュリオン・)ヘカトンケイル。ムカデ腕ともいうべき硬質な甲殻を有する腕の操作と、現在は失われているらしい猛毒の棘。

 

 セルケト。マグナム弾すら弾く甲殻と、尻尾操作。

 

 ハンターΩ、Ψ。の高速移動を可能とする脚力。

 

 ヨーン・エキドナ。蛇の身体特有の筋力と猛毒。

 

 ネプチューン・グラトニー。常軌を逸した速度の再生する牙と、魚類でありながら地上を歩く力。

 

 リヒトと呼ばれていた恐らくワニのB.O.W.。喰らった身だからわかる、奴の牙と爪の破壊力と異様なタフさがそれだろう。

 

 

 こんなところか?アイザックスめ、ファイルを残すなら同じ場所においておけばいいものを……すべてを把握するのは不可能だな。すると、奇跡的に壊れていなかった携帯電話に着信。確認すればエイダだった。

 

 

「…うん?エイダか。なに?G-ウイルスのサンプルは確保した?よくやった。H.C.F.に先に戻っておけ。私も直ぐに戻る」

 

 

 行幸だ。エイダがG-ウイルスのサンプルを確保したという。シェリーを確保することはできなかったようだが、十分すぎる成果だ。さて、そういえば私の特性はなんだろうか。超再生能力は精度の差こそあれどRT-ウイルスの被験者すべてに見られる特徴だ。だがしかし、私だけの力があるはずだ。

 

 

「私の他人と違うところと言えば、RT-ウイルスへの適合を可能とした遺伝子……そうか、私のチカラはすべてのウイルスに適合する、か。フフフ……ハハハハハハッ!」

 

 

 一つだけ分かった。結局ウィリアムの頭脳はいらなかった。H.C.F.への手土産は、エイダのG-ウイルスと私の遺伝子そのものでいいだろう。いや、H.C.F.すらそのうち見限ることができる。全てのウイルスに適合できると言うことは、新たなウイルスが生まれるたびに我が身に取り込めば、新たな力を有していく……G生物の様に無限に進化できると言うことなのだから。

 

 

「さすがにG-ウイルスを投与するつもりはないがな……ああなるのはごめんだ。ならば次狙うのは、決まっている。彼の天才少女研究者の生み出した誰にも制御できなかった凶悪なウイルス!」

 

 

 若干12歳で大学を首席で卒業する才女。ウィリアムがライバル視していたアレクシア・アシュフォードが生み出し、アンブレラでも一部しかその存在を知らないウイルスが存在する。その名は。

 

 

「……T-Veronica!」

 

 

 それが次の標的だ。




というわけで……次はバイオハザード_CODE:Veronicaでございます。正直RE4の前にリメイクされると思ってたよね。リメイクはよ。あの兄妹に日本語ボイスをください。

誰が主役なのか、どのキャラがメインになるのかは次回、2編最終回のラストにて。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file2:Fin【それぞれの行く先】

どうも、放仮ごです。お陰様でUAが800,000超えましたありがとうございます。これからも頑張らせていただきます。

四ヶ月ぐらい続いたラクーンシティ編最後の話となります。楽しんでいただけると幸いです。


 朝日が昇る道路を、私達はトラックで移動する。レオンが運転し、クレアが助手席に座ったその荷台の上で、みんなの乗っている隅っこで私は体育座りして顔をうずめて蹲っていた。手には、クイーンから託されたものがそのまま握られている。傍では泣き疲れて眠ってしまったシェリーが壁に背を付けて眠っていた。

 

 

「クイーン…」

 

『アリサ……そろそろ立ち直ってくれない?』

 

「スタァアズ」

 

 

 私が漏らした声に、傍に浮かんでいるエヴリンがぼやく。クイーンは、帰ってこなかった。クイーンが一人だけ残って切り離した後部車両を残した列車は、ラクーンシティ郊外まで繋がる引き込み線に通じていた線路を通り、ラクーンシティ外の車両基地まで辿り着き、そこにあったトラックを拝借してみんなで移動していた。窃盗かあ……クイーンがいたら怒るかな……。もういないんだったな、はあ……。

 

 

「アリサ。しっかりしなさい。クイーンがいなくなった今、この子たちのリーダーは貴方なのよ」

 

「私じゃ無理だよ……エヴリンかリサが代わりに……」

 

 

 リサの励ましにも聞こえる激励の言葉にそう反論すると、エヴリンとリサは手を振って否定してきた。

 

 

『いや私はクイーンほどのリーダーシップないし……』

 

「私みたいな殺人鬼の言うことなんて誰が聞くのよ。ねえ?」

 

「ひゃい!」

 

「ここに一人いるのだ」

 

 

 リサが同意を求めようとして振り返ったら、縮こまっていたヨナの肩が跳ねる。どうやら不機嫌を隠そうとしなかったリサに怯えていたようだ。そのやりとりに、少しだけ口角が上がる。

 

 

「…クイーンの代わりなんていない。だけど、私達は人間をよく知らない」

 

「身分証はあってもオメガ殿などは常識などを身に着ける暇もなかったでござるからな。拙者はそうでもないでござるが」

 

「愛を教えてくれる人が必要なの」

 

「そうなのかー?」

 

『違う、そうじゃない。ヘカトちゃん、ややこしくなるから黙ってよ?』

 

 

 そう言うのは、クイーンと共にここ数ヶ月逃亡生活をしていた一人であるオメガちゃんとプサイちゃんとヘカトちゃんだった。ヘカトちゃんの言葉に首を傾げるガンマちゃんに、エヴリンがツッコミを入れていて。思わず、小さく吹き出してしまう。

 

 

「フフフッ…」

 

『よかった。やっと笑った』

 

「え…?」

 

『アリサが泣いてたらクイーンも悲しむよ』

 

「……うん。そうだね。クイーンの分まで頑張るよ、私」

 

 

 エヴリンの言葉に、顔を上げる。私はクイーンに託されたのだ。一番不安なのは、人に姿に擬態していても以前の私と同じように、外の世界を知らない皆なんだ。年長者の私が、導かないと。

 

 

「まずは先に脱出しているジルやU.B.C.S.の三人やマービンと合流しよう。ジルやカルロスたちなら、私達も保護してくれるはず」

 

『そうだね。それが現実的かな』

 

「クリス達とは合流しないの?」

 

「したいけど、こんな大人数じゃ目立つよ。アンブレラから追手がないとも限らないし……まずは安全な場所に行かないと」

 

『でもどうやってジルと合流する?』

 

「それなんだよなあ……レオン、近くに街は見える?」

 

「道路とガソリンスタンドぐらいしかないな」

 

 

 そんな話し合いをエヴリンとリサ、レオンとしている時だった。

 

 

「レオン。ここまででいいわ」

 

 

 寂れたガソリンスタンドまで差し掛かると、クレアが口を開きレオンがトラックを停車させる。荷台の扉を開けて見てみれば、ガソリンスタンドにはバイクが一台鎮座してあった。

 

 

「ここは私とレオンが初めて出会った場所よ。この置き去りにしてた愛車のガソリンを入れてた時にゾンビに出くわして……もう、ゾンビはいないみたい。名残惜しいけど、私はこのままクリスを探しにヨーロッパのアンブレラ支部を目指すわ。ここでお別れね」

 

「そうか……クレア。俺の方でもクリスを探してみる。いつか、必ず連絡するよ」

 

「私は、貴方とあんまり接点はないんだけど……クレア。……クリスによろしくね」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 

 バイクのエンジンを吹かしながら笑って頷くクレア。レオンとクレアとは、エヴリンの記憶でしかちゃんと知らない。仲間だから一緒に戦ってただけの関係だ。ちょっと淡白なのもしょうがないと思う。しかし、仲間の一人は違ったようだ。

 

 

「ならば拙者もクレア殿に同行するでござる。クリス殿たちとは顔見知りであるが故。アンブレラ支部に乗り込むなら潜入が得意な拙者は有用でござるよ!」

 

 

 そう荷台から飛び降りながら進言したのは、プサイちゃんだった。プサイちゃんは潜伏期間中に身分証も作ってたはずで、オメガちゃんとも違って社交的だから適任だろう。

 

 

「え、…いいの?確かに一人ぐらいなら乗せれるけど、オメガとは姉妹なんでしょ?離れ離れに……」

 

「もともと離れ離れでござったから今更でござる。それに、血気盛んなセルケト殿に出会った時に説明できる人間も必要でござろう」

 

「姉さん……」

 

「おおっと。オメガ殿が思ったよりしゅんとしててときめいたでござる!」

 

「…馬鹿」

 

 

 おどけるプサイちゃんに、しかしオメガちゃんが寂しそうに見上げる。感情が薄い妹の姿に、プサイちゃんは動揺している様だったがしかし、深呼吸して真面目な顔を向ける。

 

 

「拙者、姉故。クリス殿の妹であるクレア殿が放っておけないのでござる。永遠に別れではないのでござるからそう心配めされるな。アリサ殿を、みんなを頼んだでござるよ」

 

「…了承。ヘカトもみんなも、私が守る」

 

「それでこそ我が自慢の妹でござる!」

 

 

 そう言って、クレアは寝ているシェリーにお別れの挨拶を言えなくてごめん、と伝えるように頼むとプサイちゃんを後部座席に乗せてバイクを駆って走り去っていった。

 

 

『マフラーが絵になるなあ』

 

「ほんとにね」

 

 

 その際のプサイちゃんのマフラーが風に靡いてかっこよかったことをエヴリンとぼやく。いつもの空気が戻ってきたな。

 

 

「……うん?」

 

 

 プサイちゃんのマフラーになんかくっついてたような……気のせいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガソリンスタンドで食料や飲み物を補給し、レオンが運転し助手席にリサが座ったトラックがひた走る。この数だから食料は真面目に問題だ。シェリーは特に年頃だから切らさないようにしないと。

 

 

『あ、やばっ』

 

「……構えなさい、アリサ」

 

「え?」

 

 

 するとそんなリサの声が聞こえ、何事かと運転席と荷台を繋ぐ小窓を開けると、その意味がわかった。軍事車両と戦車が並んで道を塞ぎ、その前にはずらりと軍人と思われる重武装した男たちが並んでいる。ラクーンシティを閉鎖したとかいう軍隊か。さすがに強行突破するわけにもいかないので、停車させたレオンが手を上げながらトラックから降りる。私もそれに続いた。

 

 

「撃たないでくれ!警官のレオン・S・ケネディだ!代表者はどこにいる?」

 

「R.P.D.特殊部隊S.T.A.R.S.のアリサ・オータムスです!避難民を連れて逃げてきました!」

 

『嘘は言ってないね』

 

 

 私たちがB.O.W.だとばれたら一巻の終わりだ。お願いだから、穏便にすんで、お願い……。すると、メガネの男が前に出てきた。雰囲気からして、この軍隊のまとめ役の様だ。

 

 

「私がこの部隊の隊長のアダム・ベンフォードだ。我々は、ラクーンシティから逃げ延びたものを厳しく取り締まらなければならない。すまないが、事情聴取や検査を受けてもらう。……それとも、なにか言えないことでも?」

 

「……えっ、とお……逃げて、みんな!」

 

 

 一か八かだ。呼びかけた瞬間。荷台から飛び出したのは、カバの様に太い胴体を持つ巨大な鰐にも似た顔に獅子の鬣を持つ漆黒の獣と、それにしがみついたリサ、オメガちゃん、ヘカトちゃん、ヨナ、グラ、ガンマちゃん、ネメシス。どうやらエヴリンが合体したリヒトらしいそれは、咄嗟に銃を構えた軍隊を蹴散らして走っていく。

 

 

「撃て!逃がすな!」

 

「待って、撃たないで!」

 

「待て!」

 

 

 軍人の一人が指示して銃を撃とうとする軍隊の前に、手を広げて立ちはだかる。それはアダム・ベンフォードを名乗った男が止めると、こちらに顔を向けてきた。

 

 

「訳があるようだ。詳しく、聞かせてもらおうか」

 

「はい……」

 

 

 こうして私とレオンは政府に降ることになった。……エヴリンたち、私は導くことはできないけど、無事でいて。そして……

 

 

 

 

アンブレラを、ぶっ潰して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一日もたたないうちに、事態を懸念した大統領と連邦議会は滅菌策「コードXX(ダブルエックス)」を発令。10月1日早朝、日の出とともに「コードXX」が決行され、アメリカ統合特殊作戦司令部・通称“ヘブンズゲート”による指揮の下、戦略ミサイルによるラクーンシティへの核攻撃を実行。コールサイン“エンジェル”の攻撃機6機が燃料気化爆弾を搭載した巡航ミサイル“アロー”10基を発射し、中心市街地の破壊後に全市域を破壊する戦術核が使用され、ラクーンシティは地図上から消滅した。ジル達が政府に持ち込んだワクチンは結局、それを止めることはできなかったらしい。

 

 避難することができず街に残っていた生存者はゾンビ……報告書には暴徒とされたそれもろとも、一人残らず死亡。この事実はテレビやラジオで報道され、政府はマスコミや世論から激しく糾弾され、大統領が辞任にまで追いやられたと報道されている。同時にアンブレラによる生物兵器製造や人体実験、ウイルス研究なども明るみに出るが、やはりというかすぐにもみ消されてしまう。しかしそれでも、アンブレラへの懸念は世界に刻まれた。

 

 

 そんな中、アダム・ベンフォードの擁護を受けてすべてを話した私とレオンは政府のエージェントとして起用されることとなる。

 

 

 そして、懲りもせず戦争に投下されたB.O.W.を殲滅する反アンブレラを表明する組織「オルタナティブ」が立ち上げられたと噂で聞いた。もしかしたら……そうだと、いいな。




名前は出なかったけどリヒトとエヴリンの合体形態、モールデッド・アメミット。その巨体からみんなの乗り物として活躍でした。でかすぎて使いどころがなかった。

クレアはプサイと共にヨーロッパへ。アリサはレオンと同じルートを辿ることに。そして逃亡したエヴリンたちは……?

登場、反アンブレラ組織「オルタナティブ」これほど合う名称もないかなと。




 ラクーンシティ消滅から3ヶ月後。クレアとプサイ、そしてシェリーは、アンブレラ社調査のためヨーロッパに渡ったと情報を得たクレアの兄、クリスを追ってフランスに渡る。そしてアンブレラ支部のパリ研究所に潜入したものの、警備隊に捕まり、孤島ロックフォートの刑務所へ移送されてしまった。

 投獄されたクレアと異なり、責任者の前に突き出されるプサイとシェリー。そこにいたのは、悪魔の様な双子だった。


BIOHAZARD VILLAGE【EvelineRemnantsChronicle】

fileCV【アレクシア・アシュフォード編】

近日公開。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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【EvelineRemnantsChronicle】fileCV【アレクシア・アシュフォード編】
fileCV:1【マノイーター】


どうも、放仮ごです。バイオハザード_CODE:Veronicaに当たるfileCV【アレクシア編】が始まります。

よーく読んでた人には混乱必至な内容の始まり始まり。楽しんでいただけると幸いです。


 ラクーンシティ壊滅から三ヶ月後。ヨーロッパ、フランス。製薬会社アンブレラ支部は、けたましいサイレンが鳴り響いていた。ライトが照らし、銃撃が襲いかかる廊下を、少女を背負い走る女性がいた。

 

 

「っ、シェリー、大丈夫!?」

 

「ええ!私の事は心配しないで、クレア!」

 

 

 女性……クレアの呼びかけに、元気よく答える少女…シェリー。クレアはリボルバータイプの大型拳銃クイックドロウアーミーを腰から引き抜くと、左手でシェリーを抱えたまま右手で乱射。銃を手に追いかけてきていた警備員の肩を撃ち抜き、銃を手放させる。シェリーにしがみついてもらい、弾をリロードするクレア。

 

 

「子供相手にも容赦なく撃つなんて、ひどいやつらね!」

 

「正当性はあっちにあると思うよクレア……」

 

 

 そんなことをぼやきつつ脱出口を目指すクレアたちの前、廊下の壁一面のガラスの向こうに、大人げないと言うべきか製薬会社にしては過剰戦力と言うべきか、軍用ヘリコプターが現れ機銃の照準がクレアたちに向く。

 

 

「嘘でしょ…!?」

 

 

 咄嗟にシェリーを前に回し、庇いながら射線から遮る壁に飛び込むクレア。瞬間、ガトリング掃射が襲い掛かり、逃げ遅れた警備員をミンチにし、クレアの隠れた壁の一部を粉砕する高威力を見せる。

 

 

「切り捨てソーリー、でござる!」

 

 

 しかし次の瞬間、ヘリが滞空している上階のガラスを突き破って飛び出したミニスカートの様な和服姿に青いマフラーに草履というちぐはぐな格好の黒髪をポニーテールにした少女が軍用ヘリコプターの下部にしがみつき、異形の左手の爪を下から操縦席に突き刺して操縦士(パイロット)を刺突。操縦士はぐったりと倒れ込み、レバーが引かれてグルングルンと回転したヘリは、身体を揺らしてクレアたちのいる階までプサイが飛び込んだ勢いのまま落下。地面に激突して大爆発を起こす。

 

 

「プサイ!ナイスタイミング!」

 

「そっちはどう?プサイ」

 

「こちらでもクリス殿たちの手掛かりは影も形もなかったでござる!ここはハズレかと!」

 

 

 シェリーの問いかけに、まるで主君に仕える忍者……本人は侍のつもり……の様に膝をつきながら報告するプサイ。クレアはそれを聞いて一瞬思案する。

 

 

「…じゃあ用もないしとっとと出るわよ」

 

「……そうもいかないみたいだよ、クレア」

 

「で、ござるな」

 

 

 シェリーが廊下を見てそうぼやき、構えるプサイにクレアもクイックドロウアーミーを手にしながら振り向く。そこには、牛の様なシルエットを持つB.O.W.と、それを従えた警備員たちがいた。

 

 

「目にもの見せてやれ……!」

 

「イブリースを基に生み出された最新兵器!」

 

「新型B.O.W.のマノイーターだ!」

 

「ブモオオオオッ!!」

 

 

 それは、頭部が眼窩に二つの眼球を入れたような目をした、金属製の二本の角と猛獣の様な牙を有した牛の様なフォルムの頭部の人型B.O.W.だった。黒い体色のタイラントみたいに筋骨隆々なボディを有し、腕はリッカーみたいに皮膚が裂けて爪が発達しており、タイラント・マスキュラーの如く上半身裸で黒い腰布とズボンを身につけている。ブーツを履いて草摺の様な防具を身につけ、腕や胴体にもベルトが巻かれているそれは、ネメシスも思わせた。

 

 

「……趣味が悪いわね!」

 

「正々堂々、不意打たせてもらうでござるよ!」

 

 

 それを目にしたクレアとプサイの動きは速かった。伊達にエヴリンの指示のもと警察署RTAをしたわけではないのである。とんでもないパワーで床を砕きながら突進してくるマノイーターに対し、クレアが急所だと思われる頭部を狙って動きを止め、プサイが一瞬で距離を詰め、その首を断ち切る。しかしマノイーターも伊達にアンブレラの最新兵器ではなかった。

 

 

「ブモッ!」

 

「なっ!?」

 

 

 断ち切られた頭部は床に転がってもなお生きていた。そのまま、金属製の角から脳波を出して首が立たれた胴体を操り、プサイの頭部を鷲掴みにして、その怪力で勢いよく壁に叩きつけダウンさせる。

 

 

「プサイ!」

 

「きゃあああっ!?」

 

 

 それにクレアが気を取られた隙に、断面部からタコの様な触手を生やしたマノイーターの頭部がドタバタと走ってシェリーに肉薄、その触手で拘束してしまい、クレアがそちらに気を取られた隙に、崩れ落ちたプサイを投げ捨てて肉薄してくるマノイーターの胴体。

 

 

「くっ……!」

 

 

 クレアは後退しながらクイックドロウアーミーを乱射。バスバスと弾丸が当たるが、大した効果は見られない。唯一の弱点である頭部は安全圏から操作できるという特性なのだろう。その不死身性はアリサたちを彷彿とさせた。さすがにアリサも首がもげたら死ぬだろうが、なんてどうでもいい考えが頭をよぎる。

 

 

「なめないでよね!」

 

 

 しかしクレアは壁を蹴り、反転。飛び蹴りをマノイーターの胴体に叩き込み、突撃してきた勢いを利用した威力で蹴り飛ばす。床に転倒するマノイーター。それでも立ち上がろうとするマノイーターに、悲劇が襲う。

 

 

「ブモッ!?」

 

 

 ぐしゃり、と肉の潰れた音がした。立ち上がってクレアに襲いかかろうとしたマノイーターが、勢い余って自分の頭部を踏みつけにしてしまったのだ。頭部を自ら失ったマノイーターはその場にひっくり返る。その傍には、マノイーターの頭部に拘束されてはずのシェリーが縛られたまま移動していた。マノイーターが胴体を操作している隙に、這い這いで移動し踏み潰されるように誘導したのだ。

 

 

「シェリー!今、助け……」

 

「そこまでだ」

 

「クレア!」

 

 

 駆け寄ろうとしたクレアに、電撃が襲う。警備員がテーザー銃を撃ったのだ。まさかマノイーターが倒されるとは思わなかった警備員だったが、明確な隙が必要なこれを撃つ瞬間を窺っていたのだ。なすすべなく倒れるクレアに悲鳴を上げるシェリーも、改めて捕らえられ。気絶したプサイもまた、例のシャッターと同じ材質の手錠で拘束され連行される。

 

 

 そして護送ヘリに気を失ったまま乗せられ、クレアたちはとある孤島に送られることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から貴様はナンバーWKD4496だ。貴様はここで暮らすんだ!」

 

「ぐっ……プサイは?シェリーはどこ?」

 

 

 牢屋で目覚めたクレア。すぐに仲間二人の安否を問いただす。

 

 

「その二人なら今頃、この島の主であるアルフレッド様とその妹君のアレクシア様の元に連れていかれたぞ。あの兄妹はサディストで有名だ。諦めることだな」

 

「…その二人はアンブレラの幹部なの?」

 

「そうだ。我々に逆らったことを後悔するんだな」

 

 

 絶望的な情報を聞かされてなおふてぶてしく問いかけてくるクレアに、看守は首を傾げながらも自分たちの優位性を語り去っていく。看守の目がなくなったことを確認したクレアは、一息ついて壁にもたれかかりながら、笑みを浮かべた。

 

 

「……上手くいったみたいね」




マノイーターはいつもお世話になってるお馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案の一つです。強すぎて逆に使いどころが思いつきませんでした。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:2【アシュフォード兄妹】

どうも、放仮ごです。前回のマノイーター実は名前が違ったらしいですがこのまま通します。欠伸してるみたいだからヨーンとか名づけるアンブレラだしってことで。

この兄妹のこのパターンだとどんな口調になってるかわからないからほぼオリジナルになってしまった気がする。楽しんでいただけると幸いです。


 アンブレラが所有する南米付近の孤島・ロックフォート島。「囚人棟」「訓練所」「公邸」「私邸」「空港」といった孤島とは思えない充実した施設が存在するそこの、私設刑務所に隣接する公邸アシュフォード邸。その執務室にて、机に座って書類を手に取る男がいた。赤と金で彩られた軍服を身に纏った金髪を撫でつけた様な髪型の女と見紛う容姿の美男だ。

 

 

「ふぅむ……」

 

 

 顎に手をやり思案する男の名はアルフレッド・アシュフォード。アンブレラ幹部である彼の手にある書類には、ハンター及びHaRTシリーズについて記された書類の束があった。ハンターα、ハンターμ、ハンターβ、ハンターΩ、ハンターΨ、ハンターγ(通常)、ハンター・アーマード、ペイルキラーなど、いくつも種類が作られたハンターの詳細が記されているそれの、アルフレッドが開いている頁にはハンターΨについての情報が記されている。

 

 

「姿こそ報告書とは変わっているが、あの脚力と左腕の鉤爪に青いマフラー……彼女こそハンターΨと見て間違いないだろう。アレクシア」

 

「そう。ついに来たのね、お兄様。私たちの元に、RT-ウイルスを研究するチャンスが…!」

 

 

 アルフレッドの座っている机の目の前、来客用のソファに腰かけ紅茶を嗜んでいるのは、紫色のドレスを身に纏ったアルフレッドとよく似た顔を持つ美女だった。彼女の名はアレクシア・アシュフォード。アルフレッドの双子の妹にして、かつて10歳で大学を主席卒業したほどの頭脳を持ち、卒業後すぐアンブレラ・南極研究所の主任研究員として迎え入れられた天才だった。

 

 

「やれやれ。君は研究熱心だな、アレクシア。私としてはハンターΨの兵器としての実用性にしか興味ないのだがね」

 

「だって、RT-ウイルスが手に入れば、今だ開発中で未完成のB.O.W.たちを完成させることができるのよ?いくらアンブレラに要望しても貴重な品だと一点張りで一欠けらも得られなかったのだから。それに加えて、ウィリアム・バーキンがただの偶然から見つけたG-ウイルスまで!T-Veronicaの問題点を改善できるかもしれないよ?考えるだけで素晴らしいわ…!アッハハハハハ!ハァ~ハハハハハ…!」

 

 

 下卑た笑い声を上げるアレクシアの嬉しそうな姿に、アルフレッドも無邪気に顔を綻ばせる。確かな兄妹愛がそこにはあった。

 

 

「一年前、君が目覚めてくれて本当に嬉しかった。私は今、幸せだ。だからこそ、君の望むことならなんだってしてみせよう。それで、シェリー・バーキンとハンターΨの身柄はどうする?ここに連行してもらっているが、南極基地に移送するかい?」

 

「いいえ、お兄様。時間が惜しいわ。訓練所の生物実験室を使う。あそこには調整するために一匹ずつ連れてきているから、すぐにでも試すことができる。G-ウイルスとRT-ウイルス……フフフッ、虫けらにしては上出来よ……全部私のものにしてあげる……」

 

「アレクシアが楽しそうで何よりだ」

 

 

 自分と兄以外のすべてを虫けらだと見下しているアレクシアに、さも当然だと言わんばかりに笑いながら書類を纏め、ブザーが鳴ったことを確認して来訪者に入るように促すアルフレッド。すると兵士二人に連れられた、拘束されたプサイとシェリーが執務室に入ってきた。それぞれの手には、アイアンズのシャッターと同じ素材の大きな手錠と、普通の手錠が付けられている。プサイは抵抗したのか青痣を右目に作っていた。

 

 

「ようこそ、ハンターΨ。シェリー・バーキン。私がこのロックフォート島の責任者、アルフレッド・アシュフォードだ」

 

「アシュフォード……アンブレラを生み出した三人……オズウェル・E・スペンサー、ジェームス・マーカスと並ぶ三人目……エドワード・アシュフォードの血縁でござるか」

 

「ケダモノにしてはずいぶんと博識だな?お前は優秀な暗殺者だったと聞いた。我々のこともちゃんと学んでいる様だ。その珍妙な口調はどうかと思うが」

 

「余計なお世話でござる、ぐっ!?」

 

「頭が高いぞ貴様!」

 

「プサイ!?やめて!やめてよ!」

 

 

 顔を上げて噛みつかんばかりに吠えるものの、兵士の一人が手にしたアサルトライフルの銃床で殴りつけられ、膝をつくプサイにシェリーが目じりに涙を溜めて叫ぶ。サディスト気質のアルフレッドはそれを見て気分をよくして、二人に歩み寄った。

 

 

「安心しろ。お前たちは貴重な研究サンプルだ……アレクシアもそう悪くはしないさ。なあ?」

 

「ええそうね。お兄様。悪いようにはしない。せいぜい先端を斬り刻むぐらいよ。それぐらい、貴方たちならすぐ治るでしょ?」

 

「アレクシア…?バカな、アレクシア・アシュフォードは……15年も前に亡くなっているはずでござるのに……!?」

 

 

 アレクシアの名前に驚愕するプサイ。少なくとも彼女の記憶では、アレクシア・アシュフォードという人間は1983年12月31日、ウィルスの感染事故により12歳の若さで死亡しているはずだった。ゾンビなどを見てきて、己も異形のものであるのに信じられないものを見る様な目をアレクシアに向けるプサイ。それが気に喰わなかったのか、スンッと笑みが消えた顔で注射銃を取りだし、プサイの首筋に打ち込んで採血するアレクシア。そのまま腰に下げた警棒を引き抜くと容赦なくプサイの頭部に打ち付け、血が飛び散った。あまりの蛮行に兵士たちはドン引きしているがアレクシアの視線に気づいて姿勢を正す。

 

 

「…失礼なやつね。私はちゃんとここに生きているわ。貴方たちはこれから未来永劫、私の研究材料として生きるの!光栄に思いなさい、虫けらがこの私に目をかけてもらったのだから!」

 

「……女王にでもなったつもりなの?」

 

「ええそうよ。全て私が支配する…。私が女王として君臨するのよ」

 

 

 シェリーの問いかけに、気をよくして肯定しそう宣言するアレクシア。すると、なにがおかしいのかシェリーが笑みを浮かべる。

 

 

「フフフッ」

 

「……なにがおかしいのかしら、シェリー・バーキン」

 

「笑いたくもなるよ。女王(クイーン)だなんて、自分から名乗る人がいるなんて」

 

「貴方も痛い目を見たいみたいね?」

 

 

 シェリーに馬鹿にされた怒りから額に青筋を浮かべながら警棒を振りかぶるアレクシア。しかし次の瞬間、驚愕から動きを止める。殴りつけた瞬間、シェリーの顔が警棒に合わせてぐにゃりと変形して回避したのだ。

 

 

「なっ……!?」

 

「お前、いったい……!?」

 

 

 驚き、後退するアシュフォード兄妹。一方で兵士たちはあまりのことに言葉を失い突っ立っている。右目部分だけ凹んでいる異形の顔で、シェリーは大人っぽく嘲笑を浮かべた。

 

 

「あーあ……ばれちゃった。まあいいや、プサイを甚振る悪党なら容赦なく喰えるもの」

 

「えっ」

 

 

 瞬間、シェリーの姿がばらけて、大量のアワビにも見える巨大なヒルの群れに変貌。手錠がゴトン、と虚しく床に落ちて、すぐ傍で呆けていた兵士に足元から纏わりついて全身を這い回る。皮膚を食い破られて皮膚の下を蠢くヒルたちに、兵士は悲鳴を上げて暴れる。

 

 

「うわあああああああっ!?助けて、たすけっぁあああああああぁっ!?」

 

「ひ、ひいいっ!」

 

 

 蠢くヒルに骨も残さず食い尽くされていく同僚に、完全にパニックに陥ったプサイの傍にいた兵士が銃を乱射するが、弾丸はその身に纏う硬化した粘液で弾かれ、完全に餌を食い尽くして人型になったヒルの塊はそのまま飛び掛かってもう一人の兵士にも襲いかかり、瞬く間に喰らい尽くしてしまう。その間に形勢不利を悟ったアシュフォード兄妹は隠し通路から外に出て私邸に逃れていた。

 

 

「……これが手錠の鍵だな」

 

「助かったでござる。―――――クイーン殿」

 

 

 そして、兵士二名を生贄にしてたった今繁殖し、必要数を取り戻したシェリーだったものが姿を変えたのは、動きやすそうなラフなシャツに、迷彩パンツとブーツを身に着けている、青みがかった銀髪をポニーテールにした女性。

 

 

「クレアと合流して奴らを追うぞ。どうも、嫌な気配がする」

 

 

 周囲の異様な気配に顔をしかめるそれはトレードマークだった白衣こそないものの紛れもなく、三ヶ月前に死んだはずのクイーン・サマーズその人だった。




一年前に目覚めたらしいアレクシア。シェリーに化けていたクイーン、復活。さてはてどういうことなのか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:3【想定外のバイオハザード】

どうも、放仮ごです。前回はサプライズ成功したようで何より。

今回は種明かしと事件開始。楽しんでいただけると幸いです。


「虫けらの分際で、よくも私達をコケにしてくれたな……!」

 

 

 公邸アシュフォード邸と鉄橋で繋がっている私邸アシュフォード邸にて。己のミリタリーコレクションであるスナイパーライフル 、MR7を手に取り、アルフレッドは憤りながら弾込めしていた。怒る兄に若干怯えながらもアレクシアは宥める。

 

 

「落ち着いて、……お兄様。綺麗なお顔が台無しよ」

 

「すぅう……ああ、すまない。私としたことが取り乱してしまったようだ、アレクシア」

 

 

 不安げなアレクシアに、安心させるように笑みを浮かべスナイパーライフルを構えるアルフレッド。するとけたたましいサイレンが鳴り響き、それに目を見開いたアルフレッドは通信端末を取りだした。

 

 

「何事だ!」

 

《「しゅ、襲撃です!どこの部隊かはわかりませんが完全武装した部隊が……うわぁああああっ!?」》

 

 

 通信端末から聞こえる銃声と断末魔に、汚らわしいものでも聞いたかのように顔をしかめるアルフレッド。アレクシアはクイーンたちへの強気な態度はどこに行ったのか、警棒を手にしているものの不安げだった。

 

 

「どうするの?お兄様」

 

「心配しなくていい、アレクシア。例のB.O.W.たちを完成させて対抗しよう。君は私が必ず守る。ああそうとも、もう二度と……二度と失ってたまるもんか」

 

 

 そう決意を固めるアルフレッド。その眼には、愛情以上のなにかが見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クイーン・サマーズは、死んだ。だが私は生きていた。死ぬ直前に、エヴリンの菌根の力を自分なりに応用して記憶を宿したヒル一匹を、ゴクとマゴクを託した時に一緒にアリサにくっつけていたのだ。その後、その時はクイーン・サマーズとしての自我がなかった私は、特に理由もなく移動しようとして、プサイのマフラーにくっつき、そのままクレアとプサイに同行した。

 

 

 そして私の存在に気付いたプサイに寄生させてもらい、彼女の得る栄養を分けてもらって三ヶ月の時間をかけてゆっくりと繁殖。子供ぐらいの大きさに擬態できる程度に増えた私はクイーンとしての自我を確立。アンブレラの監視網を混乱させる意も込めてシェリーの姿に擬態した。本物のシェリーは眠っていて逃げ出したエヴリンたちに置いていかれ、レオンやアリサと共に政府に秘密裏に保護されたらしい、とクレアに連絡を取ってきたレオンからの報告で聞いた。なら表立って活動しているこちらが本物だと思われ狙われる、という目的だった。

 

 私が生存していることもアリサたちには隠すことにした。そもそも私はお尋ね者だ、政府に保護されたアリサたちと繋がりが残っていると思われるのも不味い。なんなら政府にはアンブレラの手のものがいる可能性もあるのだ。死んでいることにしておいた方が、都合がいい。然るときに明かすつもりではある。一方、政府から逃亡したエヴリンたちと連絡を取ることは叶わなかった。レオン達も連絡は取れてないらしい。オルタナティブとかいう組織を作って紛争地帯に投入されてるアンブレラのB.O.W.を片っ端から殲滅しているようだが……やってることはテロリストのそれだ。大丈夫だろうか。

 

 

 しかし、ヨーロッパに渡ったものの世界規模の製薬会社であるアンブレラの支部は多岐に渡り、隠密活動しているクリスたちを探すのは難航していた。何なら捕まっている可能性すらある。そこで思いついたのが、アンブレラ……の収容施設に潜り込んで事実確認をする作戦だった。同時に、これ以上プサイを頼らない方法で私が本来の力を取り戻す……人間という餌を得るために、喰らっても罪悪感が出ない人間を手に入れるのも目的だった。

 

 

 シェリーである私は無力だとアピールしながら、クレアやプサイと共にアンブレラ支部を強襲。一応クリスがいないかを確認しつつ、派手に大立ち回り。普通に収容されるであろうクレアと、実験に利用されそうな可能性が高いプサイとは別に、シェリーのG-ウイルスの利用価値から幹部の前に連れて行かれるであろう私がヒルの特性を利用して拘束から逃れ幹部を制圧。そのままクレアとプサイを救出し、クリス達が捕まっていないかを確認する。そういうシンプルな作戦。

 

 

 まさかプサイを無力化する手錠をアンブレラが有していて、共に幹部の元に連れていかれるのは想定外だったが手間が省けた。そして、収容所であるロックフォート島の主であるアンブレラの幹部の正体もわかったのは僥倖だ。アルフレッド・アシュフォードとアレクシア・アシュフォード。後者の名前は聞き覚えがある。父マーカスが殺される少し前にエヴリンが新聞を見てぼやいていた名前だったはずだ。しかしアシュフォードほどの大物がいるとは思わなかった。スペンサー、マーカスに並ぶアンブレラ創設者三人のうちの一人、歳からしてその孫だろうか。プサイによればアレクシアは既に死んでいるはずだというが、まあマーカスに擬態していたマスターリーチという前例があるからそこまで驚かなかった。

 

 

 急速に繁殖している間にアシュフォード兄妹を取り逃がしてしまったものの、兵士の残骸から手錠の鍵を入手してプサイを開放。クレアを救出するべく、公邸の外に出て、目を見開く。そこにはラクーンシティを思い出す、いやそれ以上の地獄が広がっていたのだ。

 

 

「嫌な気配の正体は、これか…!」

 

「何が起きているのでござるか…!?」

 

 

 爆発、炎上する収容施設。絶え間なく聞こえる銃声と、悲鳴。人間よりも高い視力で状況を確認する。空を見れば、航空機から爆撃が行われ、地上ではどこかの特殊部隊が、島の兵士を殲滅している様だった。しかも最悪なことに、ここでもT-ウイルスの研究をしていたらしい。それが漏れたのか、墓地を中心にゾンビがぽつぽつと見える。

 

 

「そこの女二人。両手を上げろ!」

 

 

 すると、特殊部隊らしき完全武装の男が三人やってきてアサルトライフルの銃口をこちらに向けてきた。プサイと目配せし、大人しく両手を上げる。

 

 

「動くと撃つ。聞き分けのいい女は好きだぜ」

 

「へっへっへ、見ろよ。こいつは上物だ。せっかくだ、楽しませてもらおうぜ」

 

「おい。ウェスカーさんからの指示を忘れたのか?アレクシア・アシュフォード以外は殺せとのお達しだ」

 

「…ウェスカーだと?」

 

 

 思わぬ名前が出てきた。ウェスカーがアンブレラを裏切ったとはエヴリンの何巡目かの記憶で見たが、その組織がここを襲撃したのか?なんのために?アレクシア・アシュフォードが関係しているのか?

 

 

「悪いが死んでもらうぞ。例外はなしだ」

 

「……ここまでか。情報はこれ以上得られそうにないな」

 

 

 瞬間、両手を上げながら掌から粘液糸を飛ばしてこちらに突きつけられていた銃口にくっつけ、引っ張ってアサルトライフルを奪い取り、引き金を引いて銃を奪い取られて混乱している一人を撃ち抜く。同時に、プサイが跳躍。くるりと空中で宙返り、身を捩じって回転蹴りを両足揃って残りの二人を纏めて蹴り飛ばした。心臓を撃ち抜かれ、首を蹴り砕かれて崩れ落ちる男たちから私はアサルトライフルの弾丸を奪い取り、弾込めして構える。

 

 

「クレアのところへ急ぐぞ、プサイ!」

 

「了解でござる!」

 

 

 銃声につられてこっちにやってくる、恐らくこの島の兵士や、襲撃してきた特殊部隊が感染したと思われるゾンビを蹴散らしていく。そうして囚人棟までやってきた私たちは、墓場から湧き出してくるゾンビ相手に大立ち回りを演じているクレアと、茶髪の青年を見つけた。糸を伸ばし、飛び込んでゾンビを蹴り飛ばし、プサイも宙返りしてゾンビの首に足を組み付かせへし折って着地する。

 

 

「クレア!」

 

「無事でござるか!」

 

「クイーン!プサイ!貴方たちも、無事だったのね!」

 

「おいおい今度はスパイダーウーマンにニンジャか!?」

 

「拙者は侍でござる」

 

「は?」

 

 

 プサイの訂正に首を傾げる青年。これが、スティーブ・バーンサイドとの出会いだった。




ベロニカを馬鹿正直に攻略すると時間がかかりすぎるので、ダークサイドクロニクルズの流れも採用してます。というか僕、ベロニカは実際にやったことなくて、ダークサイドクロニクルズで初めてそのストーリーを体験したんですよね。アレクシアの屑っぷりに戦慄した記憶が今でも残ってます。

というわけで、実は2編最終話でシェリーがどうなったかは語らないことで、できるだけ違和感を減らしていた、というトリックでした。よーく見てみたらシェリーが寝てる間にエヴリンたちに置いてかれてるのよね。なんならクレアが「シェリーによろしく」って言ってたっていう。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file3:EX2【これがクイーン一派】

どうも、放仮ごです。クイーンの安否を書けたのでベロニカ編の真っ最中ですがこちらを投稿させていただきます。キャラが多すぎるのでまずはクイーン一派からです。前回のキャラ説明がアイアンズ戦の前ってまじぃ…?いやまあ、途中でできなかったからですが。楽しんでいただけたら幸いです。



・クイーン一派→オルタナティブ

 G生物という最大最強の敵を打ち倒し、ラクーンシティを乗り越えたエヴリンを中心としたB.O.W.たちの総称。最終的にエヴリン、リサ、オメガ、ヘカト、リヒト、ヨナ、グラ、ガンマ、ネメシスが政府から逃亡し、「オルタナティブ」と名を改めて戦争のB.O.W.を殲滅するなどの反アンブレラ活動を行う様になった。別行動中のクイーンはもちろん、プサイ、アリサ、セルケトも一応含まれる。

 

 

・エヴリン・ウィンターズ

 ラクーンシティでの戦いでコンティニュー、憑依合体モールデッド変身、疑似・領域展開なんちゃってむりょーくーしょ、他者の擬態、記憶継承(アンダーテイカー)など、たくさんの能力を獲得した。最終決戦の時点でコンティニュー能力は原因不明の使用不可状態。何百回もやり直したため結構荒んでいる。

 

 ・コンティニュー:菌根が混ざっているウイルス感染者の少量の菌根を用いて、やり直す力。あくまでやり直すだけのため、世界線はずれてしまい敵を強力にしてしまうデメリットがある。

 

 ・憑依合体モールデッド変身:菌根が混ざっているウイルス感染者に憑依して菌根を暴走させることで強力な戦闘形態に変貌させる能力。デメリットとして凶暴化、炎に弱くなる、自力で解除不可能などがある。モールデッド・クイーン、モールデッド・ハンター、モールデッド・ラミア、モールデッド・クロウ、モールデッド・エンプレス、モールデッド・シュタール、モールデッド・バラウル、モールデッド・アメミットなどが存在する。

 

 ・疑似・領域展開なんちゃってむりょーくーしょ:イーサンが読んでた「呪術廻戦」に登場する技、無量空処を、能力の範囲を広げて周囲の菌根感染者の意識を菌根世界に送り込み、一時的に肉体から意識を奪うという形で再現したもの。菌根世界で直接対決する必要があるが、ローズ編の時の様に菌根の能力をフルに扱える。デメリットとして菌根世界で受けたダメージは幻影エヴリンにもフィードバックされてしまう。

 

 ・他者の擬態:ミランダの擬態能力を、菌根を有しているなら他者に用いることが可能となった。サイズや異形まで変えられるため、リヒトなどを人間の姿にするなどに活用している。

 

 ・記憶継承(アンダーテイカー):菌根に溜め込まれた記憶をこじ開けてダウンロードすることで、菌根感染者の能力を人格もろとも使えるようになるチカラ。正確には自分がその人物だと思い込んでしまう状態であり、服装もろとも言動も変化する。デメリットとしてエヴリンの自我が消えかける他、他人の肉体を用いないと現実に干渉できないのは同じ。カール・ハイゼンベルクとオルチーナ・ドミトレスクをダウンロードしてグレイブディガー・ヒュドラやG6と戦った。

 

 

・クイーン・サマーズ

 エヴリンと合体してモールデッド・クイーンになれるようになった他、スパイダーマン戦法が洗練されている。モールデッド・クイーンになったことで己の内の凶暴性を理解した。G生物との最終決戦で己を犠牲にしたものの、「二代目」という形で生き延びていた。クレアと行動を共にする。

 

 

・アリサ・オータムス

 3編から活躍。特に強化こそないものの、馬鹿力がより洗練された。最終決戦後、エヴリンたちと別れてアメリカ政府に保護されエージェントになる道を選ぶ。

 

 

・リサ・トレヴァー

 3編から活躍。エヴリンと合体してモールデッド・エンプレスになれるようになった。ニコライを脅してアリサとジルの邪魔者になるB.O.W.を排除したりなど、姉として責務を全うしていたものの、モリグナの巣にされたり地下鉄に轢かれたり散々な目に遭った。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

・オメガちゃん

 エヴリン、プサイと合体してモールデッド・ハンターになれるようになった。それ以外は基本的に人間組の護衛を担当し、活躍はそこそこだがプサイとの連携は強力。エヴリンの娘として扱われることに。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

・プサイちゃん

 エヴリン、オメガと合体してモールデッド・ハンターになれるようになった。実はメンバーの中で一番精神力が長けており、モールデッド化の凶暴化を抑え込んだ他、一巡目の世界では心が折れかけたエヴリンを不屈の精神力で叱咤激励しコンティニューに繋げた。エヴリンの娘と扱われることになり、上記の激励の際には母と呼んだ。最終決戦後はクレアと共に行動する。

 

 

・ヘカトちゃん

 G生物に変貌してしまったがエヴリンのコンティニューで難を逃れて子供の姿から大人の姿に戻った終身名誉盾役。復活後は基本的にその頑強さからムカデ腕を用いた防御を担当する。エヴリンの娘として扱われることとなり、最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

・リヒト/アリゲーター・ステュクス

 洋館事件後にNESTに移ったアイザックスの実験で、下水道に捨てられたペットのワニがRT-ウイルスで変貌したB.O.W. ステュクスの名はギリシャ神話に登場するテテュスの娘の1人である女神の一柱、あるいは冥界を流れる5つの大河の内で生者と死者の領域を峻別する川の名称から。リヒトの名はドイツ語で「光」から。

 頑強な皮膚と再生力によるタフさと強靭な牙と爪、尻尾を用いて巨体に見合わぬ素早さを利用したインファイトで敵を圧倒する。噛みついてデスロールするコンボはアルテすら一時戦闘不能に追い込んだほどの威力を誇る。

 一人称は「俺」。肉体は女性だが自我はオスの物であり、ちぐはぐな存在に変えられてしまったことや、理不尽に廃棄と実験を繰り返されたことで人間に憎悪を抱いていたが、エヴリンに愛を与えられ子供として受け入れられ、マザーと慕う様に。

 一巡目の世界ではG6にやられてしまったものの、3編でエヴリンに記憶を共有されて参戦。グレイブディガー・ヒュドラを相手に奮戦した他、アルテ戦では情報を知られていないアドバンテージで一時戦闘不能にまで追い込む。最終決戦後はエヴリンと合体してモールデッド・アメミットになることで政府を突破し逃亡の一助となり、エヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

・ヨナ/ヨーン・エキドナ

 実は生きていてアイザックスに研究のため保護されていた1編のボスの一人。グラと共に下水道で襲撃するも、エヴリンのなんちゃってむりょーくーしょ+お前も家族だを受けて仲間入り、そのまま家族入りした。

 全身筋肉による高速蛇行は相変らず強力で、怪力によるインファイトや毒の牙で戦う。エヴリンと合体してモールデッド・ラミアになれるようになった。3編でもエヴリンに記憶を共有されて参戦、水中戦での強さも見せた。エヴリンの家族組では大人びているためリーダー格。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

・グラ/ネプチューン・グラトニー

 実は生きていてアイザックスに研究のため保護されていた1編のボスの一人。ヨナと共に下水道で襲撃するも、エヴリンのなんちゃってむりょーくーしょ+お前も家族だを受けて仲間入り、そのまま家族入りした。

 相変らず水中戦が得意で、すぐ生え変わる牙を用いた遠距離攻撃も行う。3編でもエヴリンに記憶を共有されて参戦した。一巡目ではウィリアムを倒す役目も担うものの、G6の生み出したG成体に喰われて死亡してしまった。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 没設定で、G6を追い詰める「水責め」作戦でエヴリンと合体してキーパーソンとなる予定だったが、他に活躍の場があったため断念した裏事情がある。

 

 

・ガンマちゃん

 3編から登場。ラクーンシティの下水道でRT-ウイルスの廃棄物を喰らって変異してしまったハンターγの悪食個体。見た目と生態はぐろいが癒し枠。ひょんなことからエヴリンを家族認定し、以降尽力する。硬いガワと怪力を誇る本体が存在しており、丸呑みしたものを口内で本体がぐちゃぐちゃにして喰らってしまう。見た目のわりに隠密性に優れており、主に救出役兼奇襲役であり、リサやミハイル達の命を救ったり、ウィリアムに引導を引き渡したりした。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。末っ子。

 

 

・ネメシス

 3編から登場。完全武装でS.T.A.R.S.の殲滅を目的としていた生体兵器。寄生生物ネメシスにより思考を制御されていたが、アリサに敗北したところをモリグナに取り込まれ、エヴリンに救われた際に寄生生物も死に絶えて解放され、エヴリンを恩人と慕って仲間となる。寄生生物の自我は死したものの触手はそのまま扱える他、ホットダガーなど最新兵器を用いてアリサたちを追い詰めたやべーやつ。ハイゼンベルクを記憶継承したエヴリンの肉体となりモールデッド・シュタールにもなった。最終決戦後はエヴリンについていってオルタナティブに所属する。

 

 

 

 

・ゼウ・ヌーグル

 リヒトの処遇を決めてる際にエヴリンに呼ばれた人。リヒトを痛い目に遭わせようとするなど危険なのは相変らずだが、菌根に対しては誰よりも詳しい知恵袋。エヴリンのなんちゃってむりょーくーしょや記憶継承はゼウの力を参考にしている。




リヒトだけ長くなってしまったけどこの子だけで三千字ぐらいいけそうなぐらい情報量がある。

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fileCV:4【スティーブ・バーンサイド】

どうも、放仮ごです。オリジナルB.O.W.を考えてたものを書いてたWordがパソコンを買い替えた時に使えなくなったので結構考え直すのに苦労してたりしてます。10年ぐらいパソコンで書いてるけど根本的に機械音痴なんですよね。

 スティーブとの邂逅。そして新たな脅威。楽しんでいただけると幸いです。


 クレアは檻の中でクイーンたちを待っていたが、襲撃に伴いアンブレラのヨーロッパ支部・パリ研究所の第3警備部隊長であり島の刑務官でクレアたちをとらえた張本人、ロドリゴ・ファン・ラバルという男に出してもらった。襲撃を受けて瀕死のロドリゴに止血帯を調達して渡し、外に出たクレアはゾンビの襲撃を受け、これを倒れた兵士から手に入れたハンドガンで応戦。墓地を脱出しようとしているところで、ゾンビ相手に逃げ回っていた青年と出会った。警戒して銃を向けるクレアに、両手を上げる青年。その服の背には「ROCKFORT PRISON 0267」とあった。

 

 

「脱獄じゃねえって、待てよ!警報が鳴って鍵が開いて、しまいにゃゾンビだぜ?誰だって……」

 

「…どうやらアンブレラじゃなさそうね。動かないで」

 

「なんだ、女かよ……なめるんじゃ、ねえ!」

 

 

 クレアが女だとわかるや否や殴りかかる青年の攻撃を、後退して余裕で回避するクレア。身体能力が高い人外たちの動きを見てきた身としては拍子抜けだ。腕を押さえ込み、銃を頭部に突きつけると青年は音を上げた。

 

 

「いてえ!悪かった、悪かったよ!性格の悪い女に下手くそな拷問されてたんだ!そりゃ警戒するだろ!?」

 

「生憎だったわね。女だけどすごく強い人たちを私は知ってるわ。私はクレア・レッドフィールド。貴方の名前は?」

 

「スティーブだ。スティーブ・バーンサイド」

 

 

 スティーブと名乗った青年に、クレアは銃口を頭部からずらしながら不敵に笑う。

 

 

「そう。スティーブ、ゾンビが跋扈するここを丸腰で逃げるか、私に協力するか。どっちがいい?」

 

「……お供させていただきますよ、お姫様」

 

 

 丸腰のスティーブには選択肢はなく、ひきつった笑みを浮かべながら頷くしかなかった。

 

 

「さっきは勘違いされるようなこと言って悪かったわ」

 

「君もアンブレラじゃないみたいだな……捕まったのか?」

 

「ううん。捕まってあげたの」

 

「は?」

 

 

 呆けるスティーブに、ヘッドショットで倒したゾンビの兵士からハンドガン、ルガーP08を拾い上げ手渡しながらクレアは笑う。

 

 

「わざと捕まったのよ。アンブレラを潰して兄を見つけるために。仲間が来てくれる手はずだったのだけど……こんなことになったし、手古摺ってるのかしらね」

 

「そいつはクレイジーだな。そいつらが死んでいるとは思わないのか?」

 

「死んでも生きてたから心配いらないわ。すごく強いし」

 

「そいつは頼もしいな。ところで狙ってきたなら、こいつもクレアたちの計画通りなのかい?」

 

「まさか。誰かがここを襲ってバイオハザードを引き起こしたのよ」

 

「…もしかして、ラクーンシティのあれか?」

 

「よく知ってるわね。私はその当事者よ。あいつらに躊躇はしないで。やるかやられるかしかない。……まあ一部を味方にしてしまったすごい女の子がいたんだけどね」

 

「それは、期待しない方がよさそうだな!」

 

 

 話していると、クレアの背後の地面から出てきたゾンビを、スティーブが構えたルガーで頭を撃ち抜いて吹き飛ばす。クレアもM93Rを構えてスティーブの背後の金網を上ってこようとしていたゾンビを撃ち抜いて転倒させる。気づけば、既に墓場から出てきた多数のゾンビで囲まれてしまっていた。

 

 

「くそっ、どんだけいるんだよ!かかってきやがれ!」

 

「数が多すぎる!逃げるわよ!」

 

「え、あ、ちょっと待てよ!」

 

 

 囲まれてしまい、全員相手取ろうとするスティーブだったが、冷静に状況を見極めたクレアが退路に立ちふさがるゾンビだけを撃ち抜いて離脱を試み、スティーブも慌ててついていくがいかんせん数が多すぎる。今まで収監され死んでいった死体がすべてゾンビ化したと言われても信じたくなるほどの量だった。

 

 

「クレア!」

 

「無事でござるか!」

 

「クイーン!プサイ!貴方たちも、無事だったのね!」

 

「おいおい今度はスパイダーウーマンにニンジャか!?」

 

「拙者は侍でござる」

 

「は?」

 

 

 そこに、乱入してきたクイーンとプサイがゾンビを文字通り蹴散らして登場。退路の一本道を粘液で塞ぐことでゾンビを分断し、一息つく。

 

 

「助かったわクイーン、プサイ。彼はスティーブ。ここの囚人よ」

 

「悪人……ではなさそうだな。アンブレラの傲慢の被害者か。私はクイーン・サマーズ。見ての通り、人間じゃない」

 

「拙者はプサイ、侍でござる」

 

「いやそれは嘘だろ。俺はスティーブ・バーンサイドだ。人じゃないってのは気にしないでおくぜ」

 

「そうしてくれると助かる。それでここは……囚人棟か」

 

 

 逃げ込んだ建物を見てクイーンが呟く。細長い、無機質なレンガ造りの建物だった。さっきまでいた公邸に比べると質素感が強い。辺りに囚人服を着た死体が倒れていることから、どんな建物かは明白だった。

 

 

「ああ、俺もここにいた」

 

「それなら、パソコンがあるか知ってる?知りたいことがあって」

 

「ああ、わざわざ捕まった理由がそれかい?3台あった。看守はゲームとエロ画像専門だったけどね」

 

「男というやつは、どこも一緒だな」

 

「えろがぞーとはなんでござるか?」

 

「プサイ、あなたはそのままでいて?」

 

 

 スティーブの情報に、S.T.A.R.S.の(馬鹿)どもを思い出したのか呆れた顔を浮かべるクイーンと、知らない単語に首を傾げるプサイに真剣な顔で諭すクレア。ヘンテコな女性陣にスティーブは肩を竦めて先導する。

 

 

「パソコンを使いたいんだろ。案内するよ。…っ!?」

 

 

 すると中から物音が聞こえ、クレアとスティーブはハンドガンを、クイーンは背負っていたアサルトライフルを、プサイは爪を構える。

 

 

「行くぜ……まだ誰かいんのか!お邪魔するぜ!」

 

 

 扉を蹴破り、ルガーを向けるスティーブ。しかし中は死体がいくつかあるだけで、動いているものはなかった。肩透かしを喰らったスティーブはきょろきょろと辺りを見渡すと、首を動かして促す。

 

 

「……ええっと、散らかってるけど、どうぞ」

 

「油断はするな。隠密性が高い奴が隠れていてもおかしくない。プサイ」

 

「心得た、でござる」

 

 

 クイーンが呼び掛けると、プサイは跳躍して天板を押しのけ天井裏に侵入。そのまま這いながら進んで下手人を探す。クイーンも一応全身の眼をフルに利かして警戒しながら、中を確認する。

 

 

「ひどいわね……なにがあったのかしら」

 

「さあ?俺は逃げたんでね」

 

「……銃による傷ではない。気を付けろ、奴ら……H.C.F.が持ち込んだB.O.W.が潜んでいるかもしれない」

 

 

 死体の傷を確認し、ドロドロに溶けた顔を見たクイーンが警戒を促す。その瞬間だった。

 

 

「ござぁあああっ!?」

 

 

 プサイが悲鳴を上げながら天井をぶち抜いて机の上に落下。机を粉砕しながらプサイにのしかかり落ちてきたそれは、巨大な虎の様な黄色い模様が走った漆黒の蜘蛛の様だった。しかし蜘蛛の頭に当たる部分から、金と黒の縞々の短髪を有している、黒い糸を水着の様に纏わりつかせた少女の上半身が生えており、一見華奢な両腕でプサイを押さえつけている。それはクイーンたちにも視線を向けて舌なめずりする。

 

 

「ドロドロ……溶かすゥゥ…!」

 

 

 かつてアークレイ山地の洋館の地下に潜んでいた、ジルとアリサの手で倒された巨大な蜘蛛の怪物、ブラックタイガー。H.C.F.がそのデータを基にアルテのRT-ウイルスを用いて生み出した、改良型。名を、ブラックタイガー・アラクネ。口の端から鋭い鋏角を伸ばし、カチカチと音を鳴らすそのグロテスクな姿の怪物に、スティーブは腰を抜かして倒れ込み、クイーンとクレアが庇う様に前に立つ。

 

 

「話し合う余地はなさそうだ…!」

 

「アリサの顔は正直気が引けるけど、倒させてもらうわ!」




アンブレラ以外もついに手を出してしまったRTの魔力。アイザックス氏知らんところでRT型作られてて憤慨してそう。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:5【ブラックタイガー・アラクネ】

どうも、放仮ごです。わたくし蜘蛛という生物の機能美が大好きでして、ポケモン蟲という別作品では蜘蛛を中心とした蟲を題材に書いてたりしてるのでブラックタイガー・アラクネはお気に入りだったりします。早く出したかった。

というわけでブラックタイガー・アラクネ戦です。楽しんでいただけると幸いです。


 プサイが見つけたのは、屋根裏に形成された巨大な蜘蛛の巣。餌なのかドロドロに溶けた囚人や看守の死体が糸に纏わりつかれてぶら下がっており、それを斬りながら先に進もうとした矢先。暗闇に潜んでいたブラックタイガー・アラクネに襲撃され、押さえつけられ天板を破壊しながらクイーンたちの元に落下してきた。

 

 

「お前らも、溶けろォオオ!」

 

「避けろ!」

 

 

 息を大きく吸い込み、クイーンたちに向けて黄緑色の液体の弾丸を口から射出するブラックタイガー・アラクネ。咄嗟に倒れているスティーブを抱えながら粘液糸を飛ばしたクイーンと、ローリングで横に回避したクレアたちのいた扉に炸裂し、シューシューと煙を立てながらドロドロに溶けて崩れ落ちる。強酸性の消化液だ。咀嚼ができない蜘蛛という生物は消化液を放って獲物を溶かして啜ることで捕食する。人間の形をとっているその上半身、特に喉は焼けてしまっているのだが、RT-ウイルスの特徴である再生力で治癒してしまい特に気にせず次々と発射するブラックタイガー・アラクネ。狭い室内だ、逃げまどうしかなかった。

 

 

「クイーンと違ってマジのスパイダーウーマンじゃねえかよ!?現実で見たくなかったぜ!」

 

「私はどっちかというとリーチウーマンだぞ」

 

「そんなこと言ってる場合!?」

 

「ドロドロになれえ!」

 

「それ以上は、させないでござる!」

 

 

 するとクイーンたちを狙って、自分を押さえつけたまま特に追撃もしてこないブラックタイガー・アラクネの蜘蛛の右前足に、何とか引き抜いた左手の爪を突き刺すプサイ。ブラックタイガー・アラクネは悲鳴を上げてプサイを投げ出し、のたうち回る。

 

 

「アァアアアッ!?」

 

「ぐっ……隙ありでござる!」

 

 

 投げ出されたプサイは飛ばされた先にあった隣の部屋に続く扉を蹴飛ばしながら反転すると、飛び回し蹴りをブラックタイガー・アラクネの後頭部に叩きつける。さらにクイーンが粘液糸を両手から飛ばしてブラックタイガー・アラクネの両腕にくっつけ引っ張って拘束。クレアとスティーブが弾丸を叩き込むものの、全身を覆っている蜘蛛の糸が防弾チョッキの役割を果たして弾いてしまった。

 

 

「弾丸が効かない!?」

 

「バケモノかよ、バケモノだったぜ!」

 

「ドロドロロロロォオオ!!」

 

 

 すると消化液を口から飛ばして粘液糸を溶かして切断し、拘束から逃れたブラックタイガー・アラクネは長机をむんずと掴み、八本足で踏ん張り歩きながらでたらめに振り回してきた。力任せに振るわれるそれは単純な破壊力を有し、建物の壁すら粉砕してクイーンたちを追い詰めていく。

 

 

「っ……あ、あれ!」

 

 

 すると金網で仕切られた先にパソコンがあるのを見つけるクレア。しかしそんな隙を見逃すブラックタイガー・アラクネではなく。投げつけられた長机がクルクル回転しながら迫ってきていた。

 

 

「あぶねえ!クレア!」

 

 

 すると、スティーブが飛び込むようにしてクレアを抱きかかえ、床を転がりながらギリギリ回避。長机は入り口側の壁に激突して粉々に砕け散る。ならばと、ドタドタと蜘蛛脚を動かし、その巨体で迫ってくるブラックタイガー・アラクネ。

 

 

「潰すゥウウ!」

 

「そうはいくか!」

 

 

 クイーンはパワーでは敵わないと確信し、粘液を足元に飛ばしてそれを踏みつけた蜘蛛脚を拘束。力任せに引きちぎったものの、つんのめって体勢が崩れたブラックタイガー・アラクネの首に、プサイが迫る。カエルの遺伝子による跳躍力を合わせた一撃必殺の爪の斬撃「首狩り」だ。例え糸の装甲で隠されていても、それごと引き裂ける……はずだった。

 

 

「切り捨てソーリー!」

 

「!」

 

 

 するとギョロギョロギョロッと、真っ赤な三つの瞳が片方ずつ、計六つの眼が瞳孔の中に存在していたブラックタイガーの複眼がそれを目ざとく確認。その身体が尻から引っ張られるようにしてスライド。後退してプサイの斬撃を回避、そのまま天井裏に吸い込まれていくブラックタイガー・アラクネ。

 

 

「なあ!?」

 

 

 空を斬り裂き、床に激突したプサイとクイーンが天井裏を見上げて驚愕する。「しおり糸」と呼ばれるものが蜘蛛の生態には存在する。巣などから落下してしまった際に、どんな時でも尻から出し続けている糸である。これを辿ることで巣に戻る機能的な面を持つ。そしてそれを、ブラックタイガー・アラクネは保険として用意していた。言動のわりには狡猾だった。

 

 

「逃がさないでござる!もう不意打ちは通用せぬよ!」

 

「奴は狡猾だ!気を付けろプサイ!」

 

 

 再び天井裏に突撃してブラックタイガー・アラクネを追いかけるプサイ。すると取っ組み合っているのかミシミシと天井が悲鳴を上げる。もともとそんな頑丈とは思えない建物だ、限界らしかった。

 

 

「あいたた……スティーブ、大丈夫!?」

 

「俺は平気だぜ……お姫様を守るナイトだからな」

 

「冗談を言える元気があるなら大丈夫だな。クレア、パソコンは後だ!スティーブも、いったん外に出るぞ!」

 

 

 安否を確認し合っていたクレアとスティーブは、クイーンに言われて溶け落ちた扉から外に出る。一方屋根裏では、壮絶な格闘戦が繰り広げられていた。そんなに広くない屋根裏に張り巡らされた蜘蛛の巣の上を、その巨体で人間の上半身を前屈姿勢にすることで屋根裏を移動していたブラックタイガー・アラクネに、同じく前屈姿勢の、それこそカエルの様な体勢で脚力に物を言わせて急接近。爪を振るうプサイ。ブラックタイガー・アラクネは蜘蛛の巣の上に乗っていることで、振動を感知して鋭い爪を備えた蜘蛛脚を振り下ろすことで迎撃。硬質な爪と爪がぶつかり合い、火花を散らす。

 

 

「なんてやつ……!」

 

「ドロドロォオッ!」

 

 

 首だけ振り返り、次々と消化液を飛ばして攻撃するブラックタイガー・アラクネ。プサイはカエルの様な体勢のまま跳躍してブラックタイガー・アラクネの周りを高速で回ることで回避。ブラックタイガー・アラクネを翻弄し、蜘蛛脚の一つを斬り裂いて体勢を崩させると、今度こそ首を斬り捨てようとして。

 

 

「ぐっ……!?」

 

「ククククッ。お前、実にバカだな」

 

 

 嘲笑するブラックタイガー・アラクネの目の前で、空中で静止してしまう。よく見てみれば、細い糸がいくつも絡まりプサイを空中に縛り付けていた。ブラックタイガー・アラクネはそれまでの原始的な言動が嘘のように知性に満ちた嘲りの表情を見せた。

 

 

「私が能無しのバカだと思ったか?そうだろう。そう思わせていたんだ。油断した獲物は簡単に狩れる。私の創造主すら、私が知能を有しているとは知らないからな」

 

 

 邪悪な本性を現し、自分以外の他者を見下し嘲笑うブラックタイガー・アラクネ。もともと狡猾で罠の達人ともいえる蜘蛛に人間の知能を与えたらどうなるかは明白だった。H.C.F.は自分たちが制御できない怪物を生み出してしまっていたのだ。

 

 

「さあどうしてくれようか……?溶かして喰うのも味気ないな。せっかく歯を得たんだ、その華奢な腕を噛み砕いてやろうか?」

 

「不覚でござるぅ……」

 

 

 自分の掌の上と言ってもいい獲物の顎に手をやり、舌なめずりするブラックタイガー・アラクネに、悔し気に項垂れるプサイ。しかし彼女は、一人ではない。

 

 

「お前、やっぱり嘘つきだったな?」

 

「なっ…!?」

 

 

 瞬間、爆発が下から襲い掛かり巣が破れてプサイを置き去りに落下するブラックタイガー・アラクネ。下の部屋に着地すると同時に、もう一発……爆発の原因である、ガスボンベが目の前に迫り、その向こうの扉だった先に、何かを投げた体勢のクイーンと、ハンドガンを構えるクレアとスティーブが見えて。

 

 

「なに、が…!?」

 

 

 目の前でガスボンベが爆発。ブラックタイガー・アラクネは全身の蜘蛛の糸が剝がされながら吹き飛ばされ、壁を突き破って姿を消した。完全に吹き飛んで風通しのよくなった建物の上でプサイはぷらんぷらんと糸に吊り下げられながら、呆れた視線をクイーンに向けた。

 

 

「……クイーン殿、ガス爆発はいささかやりすぎでは?」

 

「敵のテリトリーに自分から飛び込むよりはましだろ」

 

「ぐうの音も出ないでござる……」




正直贔屓しすぎてると自覚してるぐらい多彩な能力の持ち主となりました。蜘蛛って強いんやで。スパイダーマンだってトップクラスのヒーローですし。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:6【三つ首犬再び】

どうも、放仮ごです。FGOのオーディールコール二章をやってたら遅くなってしまった。あまりの容赦のなさに心が壊れそうだけど引き込まれるの本当に良ゲー。

今回はさらに新型登場。楽しんでいただけると幸いです。


「アレクシアを守れるのはこの私だけなのだ」

 

「フフッ。さすが……お兄様。こんな……虫けら、相手にならないわね」

 

 

 H.C.F.の特殊部隊三人を相手にスナイパーライフル一丁で迎え撃ち、撃退したアルフレッドに、物陰に隠れていたアレクシアが満面の笑みを浮かべて出てくる。筋金入りのミリタリーマニアと言えど本来ならばアルフレッドの腕前では撃退など不可能なのだが、二度とアレクシアを失いたくないという想いがこの男を強くしていた。無能無能と蔑まれているこの男に必要だったのは心から守りたいと思えるものだったらしい。

 

 

「こんなにたくさんゾンビが……」

 

「有象無象の雑魚どもが!アレクシアの目に入れるのも汚らわしい!ええい、どけえ!」

 

 

 現状に慄くアレクシア。銃声に釣られて群がるゾンビを高威力の銃撃に物言わせて蹴散らすアルフレッド。

 

 

「こうなった原因となった特殊部隊はおそらく、クレア・レッドフィールドとハンターΨ、そしてあのバケモノが手引きしたに違いない。絶対に許さない、卑怯者どもめ!許してなるものか、私とアレクシアの安寧を(おびや)かして……!」

 

「大丈夫よ、お兄様。この子たちが……虫けらなんか、やっつけてしまうから」

 

 

 そうして襲ってくるゾンビをすべてアルフレッドが撃ち抜きつつ、訓練所の生物実験室までやってきたアレクシアは、さっそくパソコンを操作して、専用の機械に注射銃を装填。解析、分解し、必要な遺伝子情報のみを抽出し、前持って持ち込んでいた培養槽のB.O.W.たちに注入する。

 

 

「……これでよし。ハンタープサイから採取したRT-ウイルスを投与したわ。あとは調整が終わったら自動的に解放されるように設定したわ。これであの忌々しい……虫けらたちを排除できるわ、お兄様」

 

「さすがだ。前に作ったサンドレギオンも優秀だった。今回も期待してるよ、アレクシア」

 

 

 手放しに称賛するアルフレッドに、アレクシアは得意げな笑みを見せていたが、ふと不安そうに視線を下にずらすとおずおずと兄に問いかける。

 

 

「ねえ……お兄様?私、ちゃんとできてる?」

 

「ああ、お前は何時だって完璧な私の妹、アレクシアだよ」

 

 

 一見意味が分からない問いかけに、即答の返事をしたアルフレッドに満足げに頷いたアレクシア。生物実験室を後にするアシュフォード兄妹を、培養槽の中にいたなにかはジトーッと視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの蜘蛛女は、爆発のどさくさに紛れて逃げたか」

 

 

 ブラックタイガー・アラクネとの戦いによる爆発で上半分が吹き飛んだ囚人棟にて。ブラックタイガー・アラクネがいなくなっていることを確認したクイーンが、スティーブと一緒に吊り下げられたプサイを助けようとしている中で、クレアは発見したパソコンを確認していた。

 

 

「動くといいけど……このパソコン生きているわ。これなら使えるかも………兄はやっぱりここにはいないみたいよ、クイーン」

 

「まあ、だろうな。クリスたちの手掛かりはあるか?」

 

「今調べるわ」

 

「そのクリスってのがクレアの兄さんか。それのためにここまで来るなんて、いかれてるぜ」

 

「そう言うスティーブは何でここに来たの?」

 

「助かったでござる……」

 

 

 クイーンを肩車してプサイに絡みついている糸をナイフで斬るのを眺めながらぼやいたスティーブに、クレアが問い返すとバツが悪そうな表情を浮かべる。

 

 

「マヌケすぎて話す気になれねえが……俺だけ聞くのもフェアじゃないな。何もしてねえのに、ある大馬鹿野郎がアンブレラに捕まって、俺も道連れってわけ。身内の恥ってやつだよ。情けねえ」

 

「……それは父親か?」

 

「だったらなんだって言うんだ?」

 

「……私は父親をアンブレラに殺されていてな。とんでもない馬鹿野郎だった。だが親は親だ。失った喪失感はひどいものだ。……無事だといいな」

 

「……あんなやつ、野垂れ死んでいればいいんだよ……」

 

「せ、拙者も!父親に当たるサミュエル・アイザックスは野垂れ死んでいればいいと思っているでござるよ!」

 

「プサイ、それ逆効果だ」

 

「ござぁ……」

 

 

 スティーブの返答に重苦しくなった空気に耐え切れずプサイが明るく言うが、スティーブはさらに沈んだ顔になってしまってプサイは涙目だ。それを振り払うように、クレアは手に入れた情報を開示した。

 

 

「ここは、南半球なのね。北半球のフランスにいたはずなのに、こんなところまでわざわざ送ったのね」

 

「案外、ここのことをなんにも知らねえんだな。ここはロックフォート島。アシュフォード家って没落貴族が仕切っている。…いや、今は名誉が回復してるんだったか?まあどうでもいいか」

 

「アルフレッド・アシュフォードとアレクシア・アシュフォードだな。私達はそいつらに会ってきたところだ。逃がしてしまったが」

 

「不覚でござった…」

 

「おいおいマジかよ。あのイカレ野郎と、拷問下手くそな女のところに連れていかれて五体満足なのか!?俺はひどい目に遭ったぜ……」

 

「というと?」

 

「そのアレクシアとかいう女が拷問大好きとか言いながら、へったくそなやり方で必要以上に痛めつけてきたんだ。しかも本人も痛そうな顔してな。刑務官の方がよっぽど上手だぜ」

 

「……確かに言動の割には、憶病な雰囲気だったな」

 

 

 スティーブの証言に、対面した際の記憶を掘り起こして首を傾げるクイーン。するとパソコンを操作していたクレアが、一息ついてパソコンから離れる。

 

 

「……クイーン。シェリーに化けてたあなたの事は伏せて事情を説明したメールをレオンに送ったわ。迎えを頼んだ。政府に借りを作ることになるかもだけど……」

 

「致し方ないな。こんな孤島から脱出する術なんてそれぐらいしかあるまい。脱出時にはまた別人に化けないとな」

 

「なんだ?変装とかできるのかい?」

 

「ああ。お前にもなれるぞ」

 

 

 そう言って一瞬人が他のヒルの集合体の姿になってから、スティーブと瓜二つの姿に変わるクイーン。己の顔で不敵に笑んで見せるクイーンにスティーブは慄いた、その瞬間だった。

 

 

「なっ、うわああああああ!?」

 

「スティーブ!?」

 

 

 慌てて元に戻ったクイーンの目の前で、足を何かに掴まれて転倒し、引きずられていくスティーブ。暗がりから飛び出したそれは太い触手の様にも見えた。

 

 

「拙者が!」

 

 

 半壊した壁を飛び越え、裏口から引きずられていったスティーブを追いかけるプサイだったが、床下換気口から飛び出してきた、肉が腐り落ちた大型犬に噛みつかれて身動きを封じられる。それは洋館事件で洋館を包囲していた犬型B.O.W.に酷似していた。

 

 

「ケルベロスでござるか!?何故ここに…!?」

 

「そいつらがいるってことは、サーベラスもいる可能性が高いぞ!」

 

 

 アサルトライフルで犬の頭を吹き飛ばしてプサイを救出しながらそう警戒するクイーン。クレアは何のことだかわかってないが、警察署で見かけたゾンビ犬を思い出してハンドガンを構えると、囚人棟に集うようにして大量のゾンビ犬が出現。その数は、あまりに異様だった。

 

 

「……こいつらも外から持ち込まれたB.O.W.か…!」

 

「このっ、放せ!犬女!」

 

 

 するとそんなスティーブの声が聞こえ、ゾンビ犬を蹴散らしながら進むと、公邸に通じる鉄橋の出入り口である扉の近くに、それはいた。

 

 

「……サーベラス、じゃない?」

 

 

 そこには、異様な怪物がいた。上半身は犬の毛皮に胸部だけ覆われたボサボサの長髪を持つアリサによく似た女性のものだが、右腕は異形の触手の様な形状になっており、それでスティーブを捕えている。なにより目を引くのは下半身であり、毛深い大型犬になっており、その左右に皮膚が剥がれ落ちたゾンビ犬が1体ずつ融合した姿をしていた。

 

 

「ご主人様の命令だ……金髪以外、生き残りは殺す」

 

 

 クイーンたちに気付いて宣言する、周囲にゾンビ犬を従えた、三つ首犬(ケルベロス)半人半馬ならぬ半犬(ケンタウロス)ともいうべき姿をしたそれの名は、サーベラス・スキュラ。H.C.F.がサーベラスのデータを基にした改良型B.O.W.であった。




いつもお世話になってるお馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案の一つ、スキュラを基にしたB.O.W.となります。サーベラスはRT-ウイルスで外装を改造されてるB.O.W.なので改造の余地はあったんですよね。量産型だし。

エヴリンと因縁あるH.C.F.の内情はかなり魔改造してます。アイザックス関連で一波乱あるとだけ言っておきます。

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fileCV:7【サーベラス・スキュラ】

どうも、放仮ごです。前回の説明だとわかりにくいかもしれませんが、サーベラス・スキュラはケルベロスの上に女の上半身がある犬タウロスみたいな姿をしてます。だいぶ異形。

今回はVSサーベラス・スキュラ。楽しんでいただけると幸いです。


 サーベラス・スキュラ。…スキュラ。十二本の垂れ下がった足と六本の長い首、三列に並んだ歯を持つとも、上半身は女で下半身は魚、胴体から六頭の犬が生えているとも言われている、魔神テュポーンと半人半蛇の怪物エキドナの娘とされるケロべロス(サーベラス)の兄妹ともいえる怪物の名を持つそれは、人の上半身と三つ首の犬の下半身と触手の右腕を有しておりその名に恥じない異形の姿で。不気味な姿に、触手で引きずり出されたスティーブは完全に臆していた。

 

 

「行け、我が同胞たち。金髪じゃないものは全員殺せ!」

 

 

 臆するスティーブを六本の犬の足で踏みつけ押さえつつ、右腕の触手を振るって地面に打ち付け、それは調教師の鞭の様な役割を果たし、周囲に控えていたゾンビ犬が一斉にクイーンたちに襲いかかる。

 

 

「くっ……!」

 

 

 掌を上に向けながら構えた手から次々と粘液糸を丸めた糸弾を発射し、ゾンビ犬に当たると糸が広がって網の様になり絡みついて拘束するそれで応戦するクイーン。転がったゾンビ犬は片っ端からプサイとナイフを構えたクレアが首を斬りつけてとどめを刺していく。

 

 

「統率されている上に速い…!」

 

「数も多いでござる!」

 

「スティーブを助けないと!」

 

 

 しかし何処に潜んでいたのか、いや島中に放たれていたのが集合して数十匹はいて隊列を組みながら一定数ずつ一斉に襲い掛かってくるゾンビ犬に徐々に追い込まれていき、そのうち対処が追い付かずに飛び込んできたゾンビ犬の牙に右腕を引き裂かれるクイーン。血こそ流れないが大ダメージに、動きが止まる。

 

 

「クイーン殿!」

 

「遅い!」

 

 

 それに気を取られたプサイに、六本足で駆け抜け突進してきたサーベラス・スキュラの左腕で右手首を掴まれ、引っ張られて犬の三つ首で嚙みつき攻撃を受けてしまう。ガブガブと深々と突き刺さった牙で腸を引き裂かれ、激痛に呻くプサイ。

 

 

「ううぐああああっ!?」

 

「プサイから、離れて!」

 

「キャイン!?」

 

 

 そこに、ナイフを両手で構えたクレアが飛び込み、サーベラス・スキュラの下半身の右側を形成するゾンビ犬の頭部を突き刺した。鮮血が舞い、よろめいてプサイから離れるサーベラス・スキュラ。そこに、粘液糸で複数のゾンビ犬を纏めた塊を遠心力を伴って投げつけたクイーンの追撃が炸裂。吹き飛ばされるサーベラス・スキュラ。崩れ落ちた右の犬の足がだらんと引きずられ不格好だ。

 

 

「ぐうっ……よくも我が同胞を」

 

「昔の私みたいだな、お前」

 

「だが無駄だ。私は我が同胞がいる限り、不死身だ」

 

 

 そう言った瞬間、死んでいる右の犬が切り離されて、代わりに別のゾンビ犬が近づくと切り離した断面から無数の触手が伸びてゾンビ犬に突き刺さって引き寄せ、接合。再び三つ首犬の下半身に戻るサーベラス・スキュラ。配下のゾンビ犬がいる限り、いくら頭を潰しても意味がなかった。

 

 

「そんなのあり…!?」

 

「G生物に比べたらマシだが、それでも反則と言わざるを得ないな…!」

 

 

 言いながら、糸を飛ばしてサーベラス・スキュラの顔面に取り付け引っ張って膝蹴りを叩き込もうとするクイーン。しかし六つの足は伊達ではない。とんでもない怪力で百以上のヒルで構成されているクイーンを逆に引っ張り、飛んできたクイーンに左拳を叩き込むサーベラス・スキュラ。胸をぶち抜かれたクイーンの口から逆流したヒルがボトボトと零れ落ち、そのまま触手で薙ぎ払われ吹き飛んで転がるクイーン。クレアが駆け寄ろうとするが、ゾンビ犬に囲まれ近づくことができない。

 

 

「手間取らせてくれたな。綺麗に喰い尽くしてやる…!」

 

「クイーン、どのっ…!」

 

 

 それを見て奮起し、立ち上がるプサイ。噛みつきでぐちゃぐちゃに引き裂かれた腸こそ回復が追い付いてないが、不屈の精神力で立ち上がった女侍は血反吐を吐きながら渾身の力を持って跳躍。弾丸の様にサーベラス・スキュラに肉薄する。

 

 

「ござあああっ!」

 

 

 のたうつサーベラス・スキュラの右腕の触手に左腕の爪を突き刺して掴まり、振り回されるプサイ。しかし振り回され、地面に足がつく瞬間に踏み込んで引っ張り、サーベラス・スキュラの触手を右手で掴んで一本背負い。背中から地面に叩きつける、瞬間。

 

 

「分離!ぐあああっ!?」

 

 

 サーベラス・スキュラの下半身の両側を形成しているゾンビ犬が分離、宙返りして着地。背中から叩きつけられてダメージを受けたのは中央の犬と上半身だけで、二体のゾンビ犬は駆け抜けてプサイの右肩と左太腿に噛みつく。しがみついてガブガブと牙を動かし傷口を広げるゾンビ犬を振り払おうと暴れるプサイ。しかしその間に別のゾンビ犬二体を取り込んで三つ首犬に戻ったサーベラス・スキュラは立ち上がり、再び六本足で踏ん張り右腕の触手を振りかぶる。

 

 

「しまっ……」

 

「くたばれ。………!?」

 

 

 そして勢いよく振り下ろしてプサイを叩きつぶそうとするサーベラス・スキュラだったが、逆につんのめって触手の方向にひっくり返ってしまう。何事かと見てみれば、触手の腕の先端に粘液糸がつけられ、それが地面に繋げられて鎖の様な役割を果たしていた。クイーンである。

 

 

「こんなもの……!」

 

「ああ、すぐに外れるだろう。だが、時間は稼げる。スティーブ!」

 

「待たせたな!」

 

 

 そこに、いつの間にか離脱していたスティーブが持ってきたのは、酒瓶だった。看守室にあったものだ。

 

 

「これ、苦手だろ!」

 

 

 犬の摂取してはいけないものとして有名なものは玉ねぎなどのネギ類、チョコレートだろう。それ以外にも複数存在するが、その中にアルコールというものがあった。手にした酒瓶を勢いよく投げつけ、触手が拘束され身動きが取れないサーベラス・スキュラの目の前に迫ったそれを手にしたルガーで撃って割ることで中身を飛び散らせるスティーブ。

 

 

「「「キャイン!?」」」

 

「な、なんだこれは…!?」

 

 

 もろに中身の蒸留酒を浴びてしまった三つ首犬は悶え苦しみ、サーベラス・スキュラ本体も顔を赤らめよろよろとふら付く。さらに周囲にいた犬もアルコールの臭いを嗅いでしまって動きが鈍り、クレアとスティーブの銃撃で次々と倒れていく。

 

 

「プサイ!真ん中の犬を狙え!恐らく、そこだけは替えが効かないはずだ!」

 

「了解、でござる!」

 

 

 さらにクイーンの言葉を受けて、体勢を低くしながら左腕の爪を真正面から中央の犬の頭部に突き刺すプサイ。サーベラス・スキュラも自由な左腕で妨害しようとするが、自由が利かない身体ではどうしようもなく。アッパーカットの様にして顎から中央の犬の頭部を貫いた爪がそのままサーベラス・スキュラの胴体に突き刺さり、こふっ、と吐血する。

 

 

「あああ、たすけて、ごしゅじんさまぁあああ……」

 

 

 左手を掲げて主人に助けを求めるサーベラス・スキュラだったが、そのまま俯くようにして血だまりの中に崩れ落ち、沈黙する。残ったゾンビ犬も恐れをなして「キャインキャイン!」と悲鳴を上げながら逃げて行った。

 

 

「……悪いな。G生物で懲りたんだ、嫌という程な」

 

 

 それでも油断することなく、サーベラス・スキュラの頭部を鷲掴みにして手首を杭状に変形させて頭部を貫き、完全に絶命させたクイーン。相棒と同じ顔の怪物に複雑な心境を抱きながら手を放し、倒れ伏した死骸を一瞥して、鉄橋の方に向き直る。そのまま進もうとして、ふと自分の胸と、プサイの姿に視線を向け、そのまま尻餅をついて倒れ込んだ。

 

 

「……とりあえず、休むか……」

 

「賛成でござる……」

 

「私達が見張ってるからゆっくり休んで」

 

「食事ぐらいならあると思うぜ。探してくる」

 

 

 そうしてようやく、囚人棟での死闘を終えたのだった。




改良型なだけあって強敵でした。単純に考えてゾンビ犬×3の怪力なんだから普通に強い。

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fileCV:8【カマソッソ】

どうも、放仮ごです。ボスが序盤からたくさん出てるけどこれもちゃんと意味があります。まあそもそもベロニカはストーリーが濃厚な割にボスが少ないんですけども。

ようやく囚人棟から移動。鉄橋での死闘。楽しんでいただけると幸いです。


 囚人棟まで戻り、吹き飛んだ机と椅子を片付けて、腰かけるクイーンとプサイ。クレアはハンドガンを構えながら部屋を確認して安全を確認し、スティーブは倉庫を漁っていた。上半分が吹き飛んで風通しがよくなったそこで、クイーンとプサイは椅子の背もたれに背を預けて力なく垂れていた。

 

 

「……なあ、プサイ。ウェスカーの組織がこの島を襲ったとして、その目的は何だと思う?」

 

「………見当もつかぬでござるなあ。さっきの蜘蛛と犬がRT-ウイルスから作られたのはほぼ確定、ということは戦力にも困っているとは思えぬし……気になったのは、犬が言ってた「金髪以外は殺せ」って言葉でござるな」

 

「金髪と言えばウェスカー……いや、この島だとアイツらか」

 

 

 逆さまに背後に顔を向けていたクイーンの視線が、爆発で斜めにずれたまま壁にかかっているアルフレッド・アシュフォードの肖像画に向かれる。無駄にむかつくいい笑顔だ。

 

 

「アシュフォード兄妹、でござるか。たしか妹のアレクシアは天才科学者でござったな……もしや?」

 

「……だとするなら、奴らの手に渡る前に押さえないといけないな。誘拐でもするか?」

 

「拙者たち何時から悪党になったでござるか……?」

 

「暗殺者をやってたお前が言うか?」

 

「それもそうでござるな」

 

「「ハッハッハッ!」」

 

「いやこえーよ!?」

 

 

 そうツッコミながらスティーブがフランスパンがたくさん入った紙袋と箱を持ってきた。倉庫から見つけてきたらしい。

 

 

「カチコチのパンがあったぜ。インスタントスープもあったから、これに浸せば食えるんじゃないか?」

 

「お湯は?」

 

「……………………た、多分ここから出るぜ。あ、あと酒も!」

 

「水道管ならぶっ壊れてるぞ。あと酒はさすがに酔うわけにはいかないからノーサンキューだ」

 

「あの爆発だったでござるからなあ」

 

「じゃあパンだけもらってくれ……」

 

「なにしてるの?」

 

 

 項垂れるスティーブと、ガリガリと鉄の様に硬いフランスパンを貪るクイーンとプサイに、戻ってきたクレアのツッコミが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゾンビもほとんどいなくなってたわ。一人で対処できるぐらいに」

 

「もぐもぐ。だが、長居は危険だぞ。あの蜘蛛女がまた帰ってこないとも限らないからな。もぐもぐ」

 

 

 クレアの報告を聞きながらバリボリと明らかな異音を響かせながらフランスパンを齧るクイーンを無視して、スティーブが続ける。

 

 

「ゾンビがいないならレオンってやつが来るまでここで耐えるのはダメなのか?」

 

「優先事項ができたでござる。アレクシア・アシュフォードを確保せねばならぬ」

 

「げえ、あの拷問女を?なんでだ?」

 

「ん。放っておけない奴が狙っているみたいだからな……」

 

 

 フランスパンを咀嚼しつつウェスカーについて説明しようとして、元自分の父親であるマーカスの弟子の研究者で元S.T.A.R.S.隊長で、元男で現女の超人とか一言で説明できないと気付いて真顔でそっぽを向き誤魔化すクイーン。プサイも苦笑いだ。

 

 

「でも具体的にどうするんだ?アルフレッドもいるんだぜ?」

 

「アルフレッドをぶん殴ってアレクシア拉致って脱出、でござろうなあ。レオン殿を待っている暇はないかもでござる。脱出手段を探した方がよいでござるな」

 

「とりあえず公邸に向かうか。手掛かりぐらいはあるかもしれん」

 

「そうね。行きましょ」

 

 

 サーベラス・スキュラの死骸があるところまでやってきて、死骸に特に変化がないことを確認。鉄橋を進み、橋を遮っている軍用車両を乗り越えようと試み、車両に乗ってた人間と思われる死体がミイラになっていることに驚くクイーンたち。

 

 

「これ、ミイラか?なんで?」

 

「車もこんなところで止まってるし、なにがあったのかしら……」

 

「……ちっ、モリグナタイプか」

 

「クイーン殿?」

 

「逃げろ、やばいぞ!」

 

 

 鳥の鳴き声の様な金切り声に、クイーンが振り向いて舌打ちする。瞬間、鉄橋の下の洞窟からバサバサと音を立てながら、それらが現れる。それは、通常のものの二倍を誇る巨大な蝙蝠、その群れ。蝙蝠の群れはクイーンたちの頭上を飛んで旋回し、空中で集まって、蝙蝠の一部が翼が硬化して牙の様になり、集束したそれが落ちてくる。

 

 

「うわあああああっ!?」

 

「掴まれ!」

 

 

 逃げ遅れたスティーブに粘液糸を伸ばして引き寄せるクイーンに向けて前足の翼脚を伸ばしながら鉄橋に着地したそれは、巨大な怪物だった。獅子と狼と蜥蜴と蝙蝠を掛け合わせた様な、短い後ろ脚と、長く翼がついている前脚を持つ、赤と黒で彩られた異形の巨躯の竜。名をカマソッソ。アレクシアがT-ウイルスで生み出した蝙蝠たちが集結した擬態である。プサイが跳躍して斬りかかるも、分裂して斬撃を回避、再び集ってカマソッソの巨体を作り上げる蝙蝠たち。

 

 

「グオオオオアアアアアッ!」

 

「モリグナの方が自我があった分ましだったかもな…!」

 

 

 ドタバタと巨躯を橋の上で精一杯バランスを取ろうとしているカマソッソに、アサルトライフルを乱射するクイーン。クレアとスティーブも加わり、次々と構成している蝙蝠たちを撃ち落としていく。すると煩わしいとばかりに首を振るい、右の前翼脚を動かして翼膜を利用した突風を放ってクイーンたちを転倒させると、突進。狼の様な蜥蜴の様な、獅子の鬣を有する頭部で噛みつこうと大口を開けて首を伸ばし、粘液硬化で腕をコーティングしたクイーンに受け止められる。

 

 

「ぐっ、ううううっ!」

 

「はあ!」

 

 

 その隙を突いてカマソッソの目に弾丸を撃ち込んで怯ませ、ローリングソバットを顎に叩き込んで顔を吹き飛ばすクレア。「ヒュウ♪」とスティーブが思わず口笛を鳴らすほど鮮やかな連携攻撃であった。

 

 

「グオオオッ!」

 

 

 頭部を再生させ、怒りに顔を歪ませると大きな口を開けて可視化されるほどの衝撃を伴う超音波を放つカマソッソ。ビリビリと大気を振動させるそれに、耳を塞いで蹲るクレアとスティーブ。クイーンに至っては全身のヒルが怯んでぞわぞわと蠢いており、橋から落下しそうになったところをプサイに抱えられ正気に戻る。

 

 

「グオオオアアアアアアアアッ!!」

 

「クイーン殿、しっかりするでござる!」

 

「くっそ……相性最悪だ……!」

 

「そうだ!スティーブ、動物なら火を怖がるはず!」

 

「そうか、爆発で追い払うんだ!」

 

 

 狙いを変えるスティーブ。狙う先は、ミイラが乗っていた車両のガソリンタンク。ルガーから放たれた弾丸がガソリンタンクを撃ち抜き、大爆発。炎上する火炎に、分離して空に舞い上がる蝙蝠たち。

 

 

「放っておいたら面倒な事になるのは目に見えているんだよ!逃がすか!」

 

 

 クイーンが両手を突き出して、粘液糸を上空にシャワーの様に放出するクイーン。粘液糸は網を作り上げ、蝙蝠を一匹残らず纏めて捕らえた糸の端を掴み、勢いよく振り下ろし炎の中に叩き込む。

 

 

「「「ギッギギーッ!?」」」

 

 

 悲鳴を上げ、糸の檻の中で暴れる蝙蝠たち。クイーンはダメ押しとばかりに糸が焼けて飛び立つことで逃げようとする蝙蝠たちに粘液糸を叩き込んで炎の中に戻していく。

 

 

「ギギーッ!」

 

 

 するとカマソッソの牙を形成していた、牙の様に硬質化して鋭く尖った蝙蝠が燃える身体のままクイーン目掛けて突撃してきた。ダメージを覚悟し、身構えるクイーン。しかしそれは、真っ二つに引き裂かれて両サイドに力なく落ちて行った。クイーンの目の前に着地したプサイだった。

 

 

「斬り捨てソーリー。いい加減、邪魔はやめてほしいでござるな」

 

「助かったプサイ。この庭を通れば公邸だ!急ぐぞ!」

 

 

 蝙蝠たちが炎上するのを見届けて門を開け、庭に飛び込むクイーンに続くクレア、スティーブ、プサイ。そうしてアシュフォード公邸に侵入を果たすのだった。




この時代の囚人って実際何食ってたんでしょうね。比較対象がFGOの監獄塔やデスジェイルサマーエスケイプぐらいしかないのだ……。

というわけで登場、カマソッソ。FGOの彼をモチーフにしてます。モリグナタイプだけど人型じゃない純粋な怪物タイプです。初期のモリグナと同じ群体的な強さを持ってます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:9【狂気のゲーム】

どうも、放仮ごです。まだまだ続くよボスラッシュ。

遂にアルフレッドとの再びの邂逅です。楽しんでいただけると幸いです。


 アシュフォード公邸、その玄関ホール。不気味な絵がたくさん飾られたそこで、それぞれ手にした銃器を構えてゾンビがいないか確認するクイーンたち。頭を撃ち抜かれたゾンビの死体こそ複数転がっているものの、

 

 

「来るのは二度目だが……無駄に豪勢だな」

 

「たしかに、立派な邸宅ね……」

 

「不気味な絵ばかり飾っていて、なんか不気味だな」

 

「むっ、足音!誰かいるでござる!」

 

 

 銃を持ってないため気配を探って警戒していたプサイがわずかな足音を聞き取り、階段を駆け上っていく。クイーンたちもついていき、階段を上った目の前には、アレクシアの巨大な肖像画があって。その下には、「アレクシア・アシュフォード 1983年没」とプレートに記してあった。

 

 

「……?」

 

「クイーン、なにしてるの?」

 

「こっちだぜ!」

 

「…ああ、今行く」

 

 

 それにわずかな違和感を感じながらも、クイーンはプサイを追いかけるクレアたちの後をついていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二階の突き当りの部屋の前に、身構えるプサイに合流したクイーンたち。扉の向こうからは綺麗な歌声が聞こえてくる。この不気味な空間にはあまりに場違いなほど澄んだ歌声だった。

 

 

「ここでござる。確か、拙者たちが連れてこられたのも……」

 

「ああ、この執務室、だな」

 

「これは……歌声?」

 

「誘っているみたいだな。どうする?」

 

「無論、押しとおる!」

 

 

 扉を蹴破るプサイに続き、クイーンたち四人は執務室に突入する。クイーンが食い荒らした跡の夥しい血の跡が生々しいが、誰もいない。ひとまず銃を下ろしながら、クイーンは机に歩み寄る。そこには、二人分のティーポットとティーカップが置かれていた。まだ温かい紅茶が湯気を立てている。

 

 

「まだ温かい。……ここにいたんだ」

 

「こんな血生臭いところでティータイムだなんて、イカレているわ」

 

「お、おい。見ろよ!」

 

 

 すると、なにかの拍子で作動したのか壁にプロジェクターが起動し、壁に映し出された映像が流れていく。金髪の双子。少年と少女が、生きたトンボの翅をもぎ取り、蟻の餌にしているのを見つめ合って微笑んでいる残酷な光景が映し出される。ホームビデオにしてはなかなか悪趣味だった。それを見終えて、クイーンは顎に手をやり考える。

 

 

「……おかしい」

 

「なにがおかしいの?」

 

「私が抱いたアレクシアの印象と正反対だ。アルフレッドは確かにこんなやつなんだろうが、アレクシアは……なんだ、その……強い言葉を並べて無理しているように、見えた」

 

「そうでござるか?傲慢な外道、という印象でござったが」

 

「そこまで印象が変わること、あるか?」

 

「……すまない、私の見当違いかもしれない。……確かこの壁のオルゴールに隠し扉があったはずだ。仕掛けのヒントを探しに他の部屋を探ろう」

 

 

 そう言って、破壊された扉から外に出ようとした時だった。なにかに気付き、クレアとスティーブを両手で押し飛ばすクイーン。

 

 

「っ!?下がれ!」

 

「「クイーン!?」」

 

 

 クイーンの側頭部に赤いレーザーポイントが当てられた、と確認した時にはクイーンの頭が撃ち抜かれ身体が壁に叩きつけられていた。あまりの出来事に言葉を失うクレアとスティーブを押し退け、高速で部屋から飛び出し部屋の外の手すりの裏に隠れるプサイに目掛けてさらに銃撃。確認すれば、アレクシアの肖像画を挟んだ反対側の部屋から、アルフレッドがスナイパーライフルを構えて立っていた。

 

 

「我こそはアルフレッド・アシュフォード。アレクサンダー・アシュフォードの息子にしてアレクシア・アシュフォードの唯一の兄。卑怯なお前たちに引導を渡す高貴な者である」

 

「卑怯?不意打ちで頭を吹き飛ばす奴に言われたくないでござるな!」

 

 

 名乗りを上げるアルフレッドに、プサイは手すりを乗り越えて一階に飛び降り自分に狙いを集中させ、遠距離攻撃を持つクレアとスティーブが執務室の外に出る時間を稼ぎ、クレアとスティーブは執務室から出るなりハンドガンで反撃。しかしアルフレッドは扉の陰に隠れて銃撃を防いでスナイパーライフルの銃口だけ出して牽制。跳弾する弾丸に、クレアとスティーブは手すりに隠れる。視線の先には、頭が吹き飛んだクイーンが倒れている姿が見えた。

 

 

「なぜ、私たちの幸せな世界を乱す?お前達なんだろう?お前たちが、私達を騙して襲おうとしただけでは飽き足らず、私たちの島にウイルスをまき散らしたのだろう!」

 

「言いがかりよ!私たちは関係ないわ!」

 

「なんならお前も早く島から出た方がいいぜ!ここはもう終わりだ!」

 

「いいや、いいや!馬鹿なことを。去ると思うか?ゾンビ如き我らの手で駆逐してやる。アシュフォード家の財産を手放したりなどしない!アレクシアが帰ってきたのだ、彼女の家を、彼女の安寧を、(おびや)かしてなるものか!」

 

 

 言いながらスナイパーライフルを狙いもせずに乱射。跳弾しまくる危険地帯と化した玄関ホールで隠れるしかないクレアたち。数の不利を完全に覆している。

 

 

「貴様たちの狙いはどうせ脱出用の飛行機だろう。確かに我等アシュフォード家が有しているが、鍵は私が持っている。残念だったな!」

 

「それはいい情報をもらったぜ!あんたを殺して奪い取るゲームだ、そうだろう!」

 

「ゲーム。ゲームか。素晴らしい、アレクシアはゲームが大好きなんだ!いいだろう、私を打ち倒すことができたらアシュフォード家の飛行機を進呈しよう。だが私は妹を守る愛の戦士(ラブウォリアー)だ。そう簡単に勝てると思わないことだ!」

 

 

 そう言ってスナイパーライフルを引っ込め、なにかを操作するアルフレッド。その間に、遮蔽物が多い一階に移動するクレアとスティーブはプサイと合流する。なにをしてくるかわからない以上、迂闊に動けない。

 

 

「アレクシアが生み出した素晴らしい兵器を紹介しよう!」

 

 

 すると、アルフレッドの隠れている部屋から何かが出てくる。風船の様に膨らんだ体と蝙蝠の羽みたいな耳、白い鬣と鋭い牙を持ち、鼻の穴が3つあるバク型B.O.W.だった。アルフレッドが再び銃撃をして牽制する中、バク型B.O.W.口からシューシューと音を立てながら何かを放出し、ゆっくりと廊下を進み、階段を降りてくる。咄嗟にプサイが突撃して、首を掻き斬ろうと試みるが、風船の様な体は見た目にそぐわぬ硬質性を見せ、ゴム風船の様に爪を弾き飛ばしてしまう。

 

 

「なっ……!?」

 

「プォオオオッ!」

 

 

 そして、鼻先を向けてきたバク型B.O.W.の鼻から鳴き声なのか音波が発生。弾かれて体勢が崩れたプサイと、柱の裏に隠れていたクレアとスティーブはもろに喰らってしまう。

 

 

「こんなもの……!」

 

 

 眼を閉じ、音波を振り払う様に手を振り回すクレア。そして目を開けると、スティーブとプサイが姿を消していて。

 

 

「え…?スティーブ!プサイ!?」

 

 

 アルフレッドの気配も消え、玄関ホールの中央に立ち探し回るクレア。すると瞬きした次の瞬間には、玄関ホールを埋め尽くすほどの大量のゾンビが現れていて。咄嗟にハンドガンを構えて、乱射する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルフレッドは玄関ホール二階の手すりにスナイパーライフルを持った手を置いてにやにやと、その光景を見下ろしていた。クレアとスティーブがあらぬ方向にハンドガンを撃ち、プサイはその場ででたらめに爪を振るっている。その間を、とてとてとバク型B.O.W.が歩いていた。

 

 

「名を、アルプ。こいつは口から暗示に掛かりやすくなるガスを放ち、鼻から催眠音波を出して幻覚を見せる。悪夢を食うバクが悪夢を見せるとは、なかなか皮肉がきいているだろう?」




いつもお世話になってるお馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案の一つ、アルプ。同士討ちを目的とした凶悪なB.O.W.です。やってることはドナ・ベネヴィエントと大体同じ。だけど物理的なものなのでもしエヴリンがいた場合効きませんね。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:10【悪夢に魅せられて】

どうも、放仮ごです。悪夢ってコンテンツとしてはかなり優秀ですよねって話。某鬼を滅するアニメ映画でも猛威を振るってましたし。

それぞれの悪夢。楽しんでいただけると幸いです。


「おい、クレア!?プサイ!?どこにいった!?」

 

 

 目を開ける。さっきまでいたはずの仲間が、いなくなっていた。アルフレッドの野郎も消えている。たしかあいつが丸々としたバクみたいななにかをけしかけて、それで……何が起きた?銃は、ある。捕らえられたわけじゃない。ワンチャンクレアたちが裏切って俺をはめたのかと思ったがそれも違う。そうならクイーンが俺達を庇って撃ち殺されるわけがない。

 

 

「なんのつもりだ!アルフレッド!俺を一人にして、勝ち誇ってやがるのか!?おい、何とか言えよ!出てこないならこっちから行ってやるぜ!」

 

 

 階段を上り、アルフレッドのいた部屋の前までやってくる。ハンドガンを構え、そっと扉を開け、銃口を向ける。するとそこから、大量のゾンビが溢れ出してきた。いずれも囚人服を着ている。くそっ、またかよ!

 

 

「なんで、アンブレラの理不尽への怒りを語り合った奴らを殺さなきゃならねえ!」

 

 

 クレアたちは良いだろう。今日来たばかりの部外者だ。だが俺は違う。数日とはいえこいつらと語り合い、寝食を共にした、そんな気心の知れたやつらだ。いい奴らだったとは言えねえが、こんなの……こんなの、あんまりだろ!

 

 

「くそっ、くそっ!くそっ!ようミッキー、久しぶり!アディオス、アントニオ!殺された嫁さんによろしく!……くそったれ!」

 

 

 見覚えのある顔を次々と撃ち抜いていく。クレアたちほど躊躇なく、とはいかない。だけど死なないために、撃ち続けるしかない。こんなの、悪夢だ。

 

 

「ふざけないとやってられないぜ……あいつら、どんな修羅場をくぐったらあそこまで達観できるんだよ……」

 

 

 そうして撃ち続けていた時だった。背後から唸り声が聞こえて、銃口を向ける。そして、その顔を見て、固まってしまった。その隙を突いて、噛みついてくるそのゾンビに、俺は銃を向けながらも……抵抗できなかった。

 

 

「嘘だ、冗談だろ……親父!!」

 

 

 世界的製薬企業アンブレラで事務員をしていた男。社内じゃ虫けら扱いなそんなやつが、小銭を稼ぐため情報を売ろうとして、捕まった。ちょうど洋館事件やらラクーンシティ事件やらが起きて気が立っているときにそんなことをすればどうなるかなんて一目瞭然だったのに。お袋は殺され、抵抗した俺まで一緒に捕まってこんなところまで連れてこられた。こうなったのは、全部親父のせいだ。

 

 だけど、だけどよ。こんな奴でも俺の親父なんだ。唯一この世に残った肉親なんだ。無事だと思っていたんだ。みんなこうなっても、俺が無事だったんだから親父だって無事だって。でも、こうも思ったんだ。親父も、そうなっているんじゃないかって。それが、それがこんな……!

 

 

「くそったれえええええええええっ!」

 

 

 たっぷり躊躇った挙句、引き金を引いてもカチッカチッと弾切れの音が虚しく響き渡る。さっきまで弾があったはずなのに。親父のゾンビに首に噛みつかれ、血が噴き出る。そこで気付く。ああ。これは、夢だ。悪夢だ。俺の恐怖が見せている、悪夢。悔しいことに、――――効果覿面だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よくわからぬ丸々としたB.O.W.の放った音波に、耳を押さえ目を瞑って耐えるも、塞いだ手を貫いて耳をつんざく音波が響き渡る。数秒ほど耐えると静かになり、恐る恐ると耳を塞いだまま目を開ける。クレア殿とスティーブ殿の姿が見えない。あの音波から逃れたのでござろうか?

 

 

「……何の冗談でござるか」

 

 

 周囲を見渡していると、いつの間にか囲まれていた。黒いレインコートを着用した小柄な少女が、十数名。そのフードで隠れた顔は拙者やオメガ殿の本来の顔と瓜二つで、顔の前に掲げた右手から伸びた鋭い三本の刃が照明を受けて輝いている。……記憶でだけなら知っている。エヴリン殿が遭遇したという、ダニエル・ファブロンの手先。ハンターπ。拙者とオメガ殿のIF(もしも)だ。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 瞬間、背後から飛び掛かってきたハンターπに背中を斬り裂かれ、ダメージに呻く。反応が遅れた、不覚だ。振り返りながら回し蹴りで襲ってきたハンターπを蹴り飛ばすも、ハンターπたちはいっせいに襲い掛かってきて。爪を振るい、拳を振るい、足を振り上げ、その場で応戦する。吹き飛ばされた傍から消えていき、やはりどこからともなく増えてくる。ハンターπは円周率を意味するという。その名前が意味するところは、無限。

 

 

「……これは夢か幻か!痛みを伴うから現実でござるか!?ええい、答えるでござる!」

 

「「「……」」」

 

 

 問いかけるも、ハンターπたちは無言を貫き答えが返ってくることは叶わない。終わりが見えない。眩暈がする。なぜ、拙者の妹たちともいえるハンターπと延々と殺し合わなければならないのでござる。ええいくそっ、これがあのバクの思惑通りだというのなら……なんと効果的な。

 

 

「こんなの、悪夢でござるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾンビの群れを、次々と撃ち抜いていく。人じゃなくなっても、この感覚には一生慣れやしない。だけども撃つ、撃つ、撃つ。躊躇すればどうなるかは痛感しているから。そういえば、マービンとケンド親子は無事ラクーンシティを出れたのだろうか。再会するって約束、何時叶うのか……。

 

 

「っ……」

 

 

 銃を向けた先を見て、絶句する。マービン・ブラナー。エマ・ケンド。レオン・S・ケネディ。アリサ・オータムス。シェリー・バーキン。今ここにいないはずの人たちが、ゾンビとなってそこにいた。

 

 

「来ないで……」

 

 

 引き金をひこうとするが、知人の顔にどうしても躊躇してしまう。見ず知らずの人間ならともかく、こんなもの……悪夢でしかない。それでも、意を決して撃つ、撃つ、撃つ。そのままリロードしながら他のゾンビにも引き金をひこうとして、すぐ傍に陣取るゾンビの大群の中心に、それはいた。

 

 

「……クリス」

 

 

 もう何ヶ月もあっていない、唯一の肉親。幼いころに両親を失った私を、男手一つで育ててくれた、家族と同じ顔をしたゾンビが、そこにいて。現実にありえない出来事に、これが夢か幻覚だと自覚する。だけどそれでどうにかなるとは思えない。……クリスを殺すぐらいだったら。

 

 

「こんなの、卑怯よ……」

 

 

 側頭部に銃口を突きつけ、目を瞑る。ああ、これで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ、冗談だろ……親父!!」

 

 

「……何の冗談でござるか」

 

 

「来ないで……」

 

 

 

 アルフレッド・アシュフォードは、ライフルを構えながらアレクシアの肖像画の前で、その混沌の惨状を眺めていた。

 

 

「アレクシア曰くその人間に最も効果的な悪夢を見せ同士討ちをさせる、というコンセプトだったはずだが……上手くいかないものだな」

 

 

 その眼下では。クレアが、プサイが、スティーブが。それぞれ、その場で立ち尽くしながら目を瞑り魘され、その間をとてとてとアルプが歩く。時々武器を振るっているが、見当違いの壁を引き裂き、撃ち抜くだけで当たりそうにない。アルフレッドは退屈そうに欠伸をする。

 

 

「もう少し愉しんだら、殺すとするか。せっかくのゲームが台無しだが、アレクシアが待っている。…お?」

 

 

 すると動きがあった。魘されるクレアが、その手に持つ銃を己の側頭部に突きつけたのだ。これから起こる惨劇を想像し、身を乗り出して悪辣な笑みを浮かべるアルフレッド。そして、引き金をひこうとするクレア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな幕引き(エンドロール)、私が認めない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手に、突然上から伸びてきた糸がくっついて無理矢理引っ張ることでクレアの側頭部から逸らされたハンドガンが天井を撃ち抜きぱらぱらと欠片が舞い落ちる。振り返ったアルフレッドは、そこに立っていた人物に驚愕する。確かに、頭を撃ち抜いたはずだ。倒れ伏した、はずだ。思わず、いつもの優雅な佇まいすら忘れて激高していた。

 

 

「お前は……お前はなんなんだあああああ!!?」

 

「なんだ?名乗ってなかったか?私は、クイーン・サマーズだ」




並の人間だと同士討ち、悪夢を抱える人間も追い詰められ、しまいにゃ自傷。しかも本体は防御力高め。厄介、の一言に尽きるB.O.W.がアルプです。心が強いプサイでもこれですからね。

ちなみにミッキーとかアントニオとかはダークサイドクロニクルズから。決して某夢の国に喧嘩を売ってるわけじゃないです、念のため。

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fileCV:11【悪夢の清算】

どうも、放仮ごです。そろそろ情報開示の時間だ。

クイーンVSアルフレッド&アルプ。楽しんでいただけると幸いです。


 約一年前。1997年12月。南極基地、と呼ばれる場所にて。アルフレッドは、帰ってきた(・・・・・)最愛の妹アレクシアを抱きしめていた。

 

 

「え、えっと……お父様?」

 

「ああ、アレクシア!忘れてしまったのかい?いや、無理もない。14年も前だ、私もお前も大きく変わった。子供から大人になった。私はお前の兄のアルフレッドだよ!あの愚鈍な父親はいない!ああ、アレクシア!アレクシア!やっと帰ってきてくれた!」

 

「おにい、さま……」

 

 

 ぎこちなく、それでもしっかりと、自らを抱きしめ返してくれる妹に、アルフレッドは涙すら浮かべながら力いっぱい抱きしめる。

 

 

「14年間、待ち続けた!ああ、私は壊れてしまいそうだったんだ。そうだ、待てなかった!だから私はこうした!恨んでもいい、蔑んでくれたってかまわない!だから、頼む、アレクシア!私に君を守らせてくれ!もう二度と、私を置いてどこかに行ってしまわないでくれ……」

 

「……ええ。私は、何処にもいかないわ」

 

 

 アルフレッドを抱きしめる、アレクシアの視線には諦念と悲哀が宿っていたが、アルフレッドは知ったことかと言わんばかりに抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意打ちで頭をぶち抜かれ、倒れていたためにアルプのガスを吸わず音波も浴びなかったために無事(?)悪夢を見ずにすんでいたクイーンが名乗り、アルフレッドはライフルを構えて愕然とする。

 

 

「クイーン・サマーズだと……?」

 

「おや、ご存じないか。それはそれは、アシュフォード家の嫡男などには私みたいな下々のことなど耳にも入りませんか。このような人ですらない不肖の輩が貴殿の前に出てきて申し訳ない」

 

「貴様……私を愚弄するつもりか!」

 

 

 アサルトライフルを背中に下げた姿でクレアの手にくっつけた粘液糸を引っ張りハンドガンを奪い取り、仰々しく畏まるクイーン。胸元に右手をやり左手を腰に当ててお辞儀をし、ウィンクするクイーンにアルフレッドは怒りのままにスナイパーライフルを構え、射撃。クイーンは粘液糸を天井に伸ばして宙返り。逆さまに天井に張り付くと、糸を伸ばして蜘蛛の様に逆さまにぶら下がりながら怪しく笑う。

 

 

「女王ヒル、と言えばわかるかな?私もお前の同類だよ。アンブレラ三大創設者の縁者だ」

 

「貴様、ジェームス・マーカスの子供……いや、ヒルか!」

 

「そうだとも。エドワード・アシュフォードの孫殿」

 

「貴様そもそも何故生きて……手品でも使ったのか?いや、ハンターΨのRT-ウイルスと同じ……再生能力か!」

 

「半ッ分ッ、正ッ解ッ!」

 

 

 バチバチと睨み合い、獰猛に笑ったクイーンはクレアのハンドガンを逆さまの状態で構えて乱射。アルフレッドは躊躇なく後退して元居た部屋に戻り、そこに置いていた手のひらサイズのリモコンを操作する。それは、モスキート音と呼ばれる未成年にしか聞こえない音を利用した、アルプに指向性を持たせる装置だった。リモコンのボタンを操作して、床に着地しハンドガンを構えながらゆっくり近づいてくるクイーンに標的を切り替える。

 

 

「アルプ!やれ!」

 

「プォオオオッ!」

 

 

 アルプが短い四肢をばたつかせてゴム鞠の様な質感の丸々とした体をぽよんと弾ませてまるで砲弾の様に階段上のクイーンを襲撃。クイーンはその一撃を回避し、アレクシアの肖像画に激突して跳ね返ってきたアルプの胴体に蹴りを叩き込んでサッカーボールの如く蹴り飛ばす。

 

 

「プオォオオオッ!?」

 

 

 ボヨンポインバインポヨンペインビヨョン!と壁や天井に跳ね返りまくりまるでピンボールの様な複雑な軌道を描くアルプ。しかも、その状態で催眠音波をばら撒いてくるので性質(たち)が悪い。クイーンは状況を理解しているのか首をギリギリ傾げたり、天井に逃れたりしながら回避。アルプから視線を外さず観察していく。

 

 

「思ってたのと違うがいいぞ!アルプ!そいつにも悪夢を見せてやれ!虫けらめ、無様に逃げるがいい!……あっ」

 

「あっ」

 

 

 アルフレッドが顔だけ出してアルプを応援するが、その瞬間に跳ね返ってきたアルプが目の前を横切り、運が悪いことに催眠音波が当たってしまいガスも吸ってたため悪夢に囚われてしまうアルフレッド。クイーンは主人すら制御不可能のそれの恐ろしさを痛感した。

 

 

「……だが、わかってきたぞ。お前の生態」

 

 

 天井から宙返りで一階の机に着地しつつ、さらに宙返りするクイーン。壁、天井、壁、床、天井と次々と移動し、アルプはそれに追いすがる。

 

 

「私は蜘蛛ではないが、擬態が得意でな。生物のいいな、と思ったところを真似するのだけは得意だ。例えば、そう。蜘蛛の巣、とかな」

 

「プゥォオオオオンッ!?」

 

 

 宙返りのたびに注視しないと見えないぐらい細く頑丈なピアノ線の様な粘液糸を出して、蜘蛛の巣を作り上げていたクイーンの目の前に、粘液糸に絡めとられて丸っこい体を拘束されてじたばたと四肢をばたつかせて暴れるアルプ。音波を放とうとするが、その瞬間鼻を拳で砕かれて、結構脆い鼻は折れ曲がり見当違いの方向に放たれる。身動きが取れない今、どう足掻いてもクイーンに当てることは叶わなかった。

 

 

「チェックメイトだ。…普段は行き当たりばったりで、ここまで計画的にしたのはGアネットぐらいの物だったんだが……」

 

 

そんなアルプの眼前に、手にしたハンドガンの銃口を突きつけながら、苦しむクレア、スティーブ、プサイ、アルフレッドに視線を向けて目を瞑り、再び目を開けると冷え切った視線がアルプを貫く。

 

 

「ここまでむかついたのは初めてだ。お前は存在してはならない生き物だ」

 

「プォオッ」

 

 

 命乞いの様に小さな声を上げたが、ターンという乾いた銃声と共に、糸に拘束されぶら下がって見せしめにでもされるかの様な姿で頭を撃ち抜かれ、無情にもアルプは処刑された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚める。悪夢だった。永い眠りから目覚めたアレクシアに、「忠実なだけの無能な兵隊蟻」と蔑まわれ、「お仕事から解放してあげる」と惨殺される、短いながらも現実感のある悪夢。……ああ、そんなことはありえないとわかっている。アレクシアを私は愛し、私もアレクシアに愛されている。故に私は、アレクシアを私から奪おうとするものを、許さない。

 

 

「おい、起きろ!」

 

 

 よろめきながら、手すりに掴まり階下でコップに入れた水をかけて赤い女を正気に戻そうとしているクイーン・サマーズに銃口を向ける。

 

 

「ゲームをもっと楽しめ、虫けらどもめ!」

 

「っ!」

 

 

 愛用のスナイパーライフルの銃撃が襲いかかるが、全身に目でもあるのか赤い女と青い男を抱えて二階通路の真下まで飛び退くクイーン・サマーズ。くっ、この角度では狙えない……執務室前の手すりからならば!

 

 

「なんだ!妹と一緒で臆病者だな!アシュフォード兄妹は双子揃って卑怯者か!」

 

「っ……!お前たちに言われたくはない!」

 

 

 移動しきる前に、中央に出てきたクイーン・サマーズをクイックショットで狙う。荒い狙いのそれはクイーン・サマーズの右腕を撃ち抜いたものの、左手から糸を出してハンターΨを回収し物陰まで隠れるのは許してしまった。

 

 

「この程度か?“虫けら”!」

 

「虫けら風情が……私とアレクシアを侮辱するなあ!」

 

 

 執務室前廊下の戸棚からM24型柄付手榴弾を取りだし、安全キャップを外して投げつける。この屋敷は私のミリタリーコレクションで溢れている。どこにでも、武器はあるのだ!

 

 

「死ね!クイーン・サマーズ!」

 

「お返しするよ!」

 

 

 しかし、なんとクイーン・サマーズは再生させた右手から放った糸でM24型柄付手榴弾をキャッチすると、振り回して投げ返してきた。咄嗟に銃弾を当てるも、目の前で爆発。私は爆風を受けて転がるも、執務室に逃れる。アレクシアがアレを準備する時間は稼げたか…。

 

 

「まだまだゲームはコンティニューだ!次は訓練所まで来るがいい!我が“猟犬”がお前たちを喰い尽くすだろう!」

 

 

 そう言い残し、仕掛けを作動させて隠し通路に出る。ああ、アレクシア……私は、お前を守って見せる……。




仲間を苦しめるアルプはクイーンからしたら絶対に許せない怨敵。そして、ある事情で間違いなく自分より強いはずのアレクシアを守ることにこだわるアルフレッドの真意とは……?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:12【サンドレギオン】

どうも、放仮ごです。意外と有能なアルフレッドの破綻した人間性はだいぶ好みだったりします。

訓練所にて。ちょっといつもより短いけど楽しんでいただけると幸いです。


アルフレッド・アシュフォード。アンブレラの創設メンバーの一人であるエドワード・アシュフォードを祖父に持つ、名門貴族であるアシュフォード家の現当主。父アレクサンダー・アシュフォードの代で衰退したアシュフォード家に、かつて祖父が存命であった頃の隆盛を取り戻すべく、再興のため奮闘しているアンブレラの幹部。アンブレラに逆らった人間を収容するロックフォート島の刑務所と軍事施設を指揮する司令官で、南極基地の所長を兼任しているという肩書きだけは立派な男。

 

 アンブレラの幹部とは名ばかりであり、その実態は他の幹部や部下にさえ侮られている凡人。ロックフォート島では刑務所や軍事訓練施設の建造にも携わっているが、そのほとんどが趣味のミリタリーコレクションによるもので、重要部門と呼ぶには実用性に欠けるものばかりで、なんなら公邸だろうが辺りかしこに本物の手榴弾やらミリタリーコレクションを配置しているのは完全に趣味である。

 

 しかし、独断で導入したB.O.W.を用いた軍事訓練によってアンブレラの私設軍隊でも精鋭であるU.S.S.を養成し、更にこの中でどんなに過酷な任務も完遂、部隊が全滅するような戦場からもただ一人生還する優秀な兵士―――――名をハンクという―――――を育てて世に送り出した功績、すなわち優秀な者を育成する能力だけは一級品だ。

 

 

 それは、人間に限った話ではない。アルフレッドがプロデュースしたB.O.W.はアンブレラ本部で有用性を認められていたハンターやタイラントも含めて、実力以上の力を発揮できる。

 

 その中でも最もその力を発揮するのは、世界で唯一その愛情を向けている最愛の妹、アレクシアが生み出したB.O.W.だ。非常に呑気な性格で兵器らしからぬアルプすら、モスキート音で指向性を持たせることで制御しその力を発揮させることに成功している。

 

 そして、試作段階のものをロックフォート島の訓練施設に移送し、対B.O.W.対策部隊の訓練生と模擬戦闘を繰り返してデータを収集していた「砂虫」と呼ばれたB.O.W.をアレクシアが改良して生み出した「サンドレギオン」は、一線を画していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正気に目覚めたスティーブの案内で公邸の外に出ながら、隣接している訓練所を目指すクイーンたち。クイーンがどうやって三人を正気に戻したかというと、至極単純であった。

 

 

「ううっ……嫌な夢を見ていたでござる……」

 

「お前が魘されるなんて相当だな。クレア、スティーブも。大丈夫か?」

 

「びしょ濡れってこと以外は大丈夫よ……」

 

「ぶえっくしょい!」

 

 

 公邸一階にあったBARから調達した冷凍庫の氷をめいっぱい入れたバケツ一杯の氷水を被せられた三人は恨めしげにジト目をクイーンに向ける。時は12月真っただ中。ロックフォート島が南半球にあるからよかったが、もし日本辺りの国だったら間違いなく風邪をひいている季節である。

 

 

「ぶっても起きなかったんだからしょうがないだろ。音波の影響なら水で断ち切れると思ったんだ」

 

「氷水にしなくてもよかったんじゃないかしら…」

 

「あのアルプとかいうのが他にもいないことを祈るでござるよ…」

 

「ずびっ……こっちが訓練所、だったはずだぜ」

 

 

 そう言って、鉄橋の傍までやってくると脇の鉄の大扉を開けて中に入るスティーブについていく。そこには、ドラム缶や木箱が並ぶ砂地の敷地にそびえる無骨な施設があった。

 

 

「ここが……訓練所。生活感はあるのに、人の気配がしない」

 

「気を付けろ。敵が待ち構えているかもしれねえ」

 

「……面妖な気配。なにかがいるでござる」

 

「奴の言っていた“猟犬”か?まったく、ここはB.O.W.のバーゲンセールか?」

 

 

 クイーンから返されたハンドガンを構えてそっと入口の扉を開けるクレアとスティーブ。ゾンビの唸り声すらしないが夥しい血痕はたくさん残っていた。まるで、なにかによって排除されたような……。その間に、敷地内の物陰を探るクイーンとプサイ。

 

 

「……ドラム缶や木箱の中にも、陰にも何もいない。外にはいないらしい。いるとしたら中か?」

 

「気配はすれども姿が見えず。一体どこに……!?」

 

 

 入り口前まで集って施設内の廊下を覗き込むクイーンたち四人。やはり人影すら見えない。真っ暗なので確認も難しいのだが。スティーブが代表して中に入っていくのを見守る女性陣。すると、自分に影が差したことに気付いて振り返るプサイ。そこには――――

 

 

「なっ」

 

「プサイ?」

 

 

 プサイの驚いた声を聴いて振り返るクイーン。そこにいたはずのプサイの姿が消えていて。きょろきょろと辺りを見渡す。

 

 

「プサイ?どこにいったんだ?」

 

 

 ドラム缶か木箱の陰に何かを見つけたのかと推測し、アサルトライフルを手に警戒しながら砂地を歩くクイーン。そこで気付く、どこかに移動したにしても、砂を踏みしめる足音が聞こえたはずだ。自分がただ歩くだけでもそこそこ響くのに、何も聞こえずプサイが姿を消したのは妙だ。

 

 

「クレア。気を付け……ろ?」

 

「クイーン!クレアとプサイはどうしたんだ!?」

 

 

 振り返る。入り口前にいたはずのクレアまで消えていた。異変に気付いたスティーブが駆けて戻ってくる。なんだ。なにが起きた。あまりの出来事に、クイーンの思考が混乱する。だがしかし、似たような事例をエヴリンと共有した記憶から呼び起こす。それは、ラクーン市立公園を根城にしていた怪物。地中を潜航し、数の暴力でリサを追い詰めた怪物。

 

 

「下か!」

 

 

 瞬間、スティーブを抱えて訓練所の屋根まで粘液糸を伸ばして逃れるクイーン。同時に地面が音もなく隆起して伸びてきた赤銅色の細長い触手がクイーンのいた虚空を巻き付く。クイーンは粘液糸を下に飛ばして触手にくっつけ、それを引っ張り出した。

 

 

「ハァアアアッ……」

 

 

 引っ張り出されたそれはビチビチと地上に打ち上げられた魚の様にのたうち、四肢に力を入れてため息の様な長い息を吐きながら立ち上がる、人型……に一見 見える異形の怪物。 前傾姿勢の赤銅色の甲殻に包まれたひょろ長い体躯に、鞭の様な細長い触手の様な後頭部と両腕を有した、つぶらな瞳とシュレッダーの様な大きな口に占領された凶悪な顔。グレイブディガーを無理やり人型にしたかの様なそれは、砂の悪霊を意味する名を冠されたアルフレッド自慢の猟犬。

 

 

―――――サンドレギオン。

 

 

「お前がクレアとプサイをどこかにやったのか、返してもらうぞ」

 

「観念しやがれ!」

 

「ハアァアアアッ……」

 

 

 その大口で大きく息を吐き、ビシイッ!と右腕の触手を地面に打ち付けるサンドレギオン。すると触手が地面に突き刺さり、大地が音すら上げずに脈動。盛り上がり、砂の津波としてクイーンとスティーブに襲いかかった。




ちょっと前に名前だけ出てたサンドレギオン。一応T-ウイルス製のB.O.W.。同じ蚯蚓でもRTを使ったらハスタに、T-ウイルスで品種改良するとこいつになります。ハスタと同じで地面を隆起させて操作する能力持ち。隠密性が高いのも一緒。
見た目のモチーフというかイメージはデルトラクエストのブラール(二部三巻の表紙のやつ)です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:13【孤軍奮闘】

どうも、放仮ごです。サンドレギオンはかなり力作。この作品を作るうえで砂虫は改造することは最初から決まってました。

スティーブVSサンドレギオン。楽しんでいただけると幸いです。


 アレクシアが「砂虫」を魔改造した、アルフレッドが“猟犬”と称するほど信頼を寄せるB.O.W.サンドレギオン。人型の蚯蚓とも言うべきその異形の怪人の能力は、鞭の様な後頭部と両腕を用いて微細な振動を放つことで微細な粒子…つまり砂を操作すること。グレイブディガー・ハスタも地面を操作していたがあれは配下のグレイブディガーを動かしてそう見せていただけで同じ力ではない。

 

 この仕組みは、大きな口による異常な肺活量にある。一見溜め息の様にも見える呼吸法で大量の空気を吸い込み、全身に脈動させて振動に変える。そして肺活量による吸引、放出により砂の軌道を操作する。これにより砂地を自在に隆起させ、音もなく潜行と浮上を繰り返してプサイとクレアを攫ったのであった。そしてその応用により、砂を津波の様に隆起させ範囲攻撃を行うことも可能。

 

 

「ハァアアアアッ…」

 

 

 サンドレギオンが腕を地面に突き刺し、操作した砂の津波がクイーンとスティーブに襲いかかる。クイーンはそれを、かつて見たウェスカーの動きを一挙手一投足そのまま真似て、足を揃えて膝で軽くしゃがみ、踏み出して下方向に向かって背中で体当たりする鉄山靠(てつざんこう)をスティーブを庇う様に叩き込んでその衝撃で砂を散らし、防御。それをつぶらな瞳で見つめたサンドレギオンは、ぐるんと頭を振り回して後頭部の触手を振り回し、掃除機にでも吸い込まれるようにして砂が集まり砂の大竜巻を発生。制御をやめて解き放ち、砂嵐が訓練所を覆い尽くしていく。とんでもない範囲攻撃だった。

 

 

「ぐっ、あっ……なんなんだこいつは!?」

 

「スティーブ、中に逃げろ!」

 

「あんたもだクイーン!お前、身体が崩れてるぞ!」

 

 

 次々と襲ってくる鋭い砂塵にスティーブを屋内に逃がそうとするクイーンだったが、押しやった腕をそのまま掴まれて中に引きずり込まれる。扉を閉めたスティーブに言われてみて見れば、左腕がボロボロと崩れ落ちて行っていた。下を見ればクイーンの左腕を構成していたヒルたちが崩れて零れ落ちて慌ててクイーンの足元に集っていた。よく見れば全員、砂が身体に付着している。

 

 

「これは……砂に、粘液の水分を吸われたのか……」

 

「どういうことだ?いやあんたが普通じゃないのは、頭をぶち抜かれても生きていたからわかるけどさ」

 

「…私を構成しているのは、同胞のヒルたちと菌根と呼ばれる特殊な菌類だ。全身に張り巡らされた菌根が神経の役目を果たしているが、私自体は軸となる骨は存在しない、言うなれば接着剤で無理矢理くっつけたジグソーパズルみたいなものだ」

 

「つまり、その接着剤がなくなれば崩れてしまうってことだな!相性最悪じゃねえか……どうする?」

 

「どうするもこうするも、あいつを倒してクレアとプサイをどこに連れ去ったのか聞き出さねばならん……」

 

「いや、喋れるとは思えないぜ。それにあんたは今度こそ全身バラバラにされちまう!ここは俺に任せて、あんたはクレアとプサイを探してくれ!多分、近くにいるはずだ!こんな短時間で人二人も遠くに隠せるはずがねえ!」

 

「……だが、お前を一人には……」

 

「前から思ってたけど。俺は男だ。女に守られてるだけじゃないんだぜ!」

 

 

 ルガーを手に不敵に笑んで見せるスティーブに、クイーンは呆気に取られる。その姿は、彼女の同僚の男どもを想起させた。

 

 

「………私は雌雄同体だから厳密には女じゃないぞ」

 

「え」

 

「いや、だが……なんだ。見直した。私はお前を侮ってた様だ。ただの人を心配してしまうのは昔からの悪い癖だな……。わかった、あの怪人はお前に任せる。クレアとプサイの事は任せろ。必ず見つける」

 

「かっこわるいところばっかり見せちまったからな。汚名返上だ!」

 

 

 言いながら、扉を蹴破り外に出るスティーブ。同時の飛び出たクイーンはそそくさと物陰に隠れ、スティーブに気付いたサンドレギオンは地面に触手を突き刺し、砂の津波を発生させてスティーブを飲み込もうと試みる。

 

 

「ハアァアアッ」

 

「そうは問屋が卸さねえぜ!」

 

 

 しかしそれは、身を翻し建物の壁を蹴って宙返りしたスティーブの下を通り、壁に激突することで霧散する。スティーブはしてやったりと言いたげな少年の様な笑顔を浮かべた。

 

 

「そのデカ口!弱点だろ!今まで会ってきた怪物どもは、その能力の基点が弱点だった!お前も例外じゃないはずだ!」

 

 

 ルガーから弾丸を放ちながら突進するスティーブ。大きく空気を吸い込もうとしていた口内に弾丸を叩き込まれ血飛沫を上げながら、足元を払う様に後頭部の触手を振るうサンドレギオン。スティーブは飛び込む様に跳躍して足元の攻撃を避け、体当たりをサンドレギオンのどてっぱらに叩きこむ。

 

 

「ハアアァアアアッ……」

 

「うおっ」

 

 

 すると強力な掃除機の様にサンドレギオンの口に空気が吸い込まれ、足を取られ転倒するスティーブ。サンドレギオンはそのまま右腕の触手を地面に突き刺し振動、地面を隆起させて砂を次々と槍状に形成してスティーブを串刺しとせんとするも、スティーブはごろごろ砂地を横に転がって回避しながらルガーを乱射。全身に弾丸を受け、硬質な体が次々と砕けてよろめき、たまらず身を捩り両手の触手を地面に突き刺し頭から砂地に飛び込むサンドレギオン。

 

 

「逃がすかよ!」

 

 

 スティーブは怒りに燃えながら、サンドレギオンは潜った直後でまだ柔らかい地面に手を突っ込んで、後頭部の触手の先端を手探りで掴んで引っ張り上げる。強制的に地上に頭を出すことになったサンドレギオンは両腕含めた体の大半を地面に埋めた状態になってしまい、これ幸いとスティーブは何もさせないと言わんばかりに触手を掴んだまま銃のグリップと足で殴り蹴りと子供の喧嘩の様な猛攻を叩き込む。空気を吸い込めないため砂を操る反撃もできずにタコ殴りにされるサンドレギオン。

 

 

「……奴は地下に逃げようとした。……下か」

 

 

 その一部始終を物陰に隠れて見ていたクイーンは、ある仮説に気付いて辺りのドラム缶を改めて調べる。コンコンと縁を叩くのを繰り返し、そして。明かに、空洞があることを示す反響音を響かせるドラム缶を見つけた。そのドラム缶を持ち上げると、ドラム缶に隠れるようにして丸い穴が存在し、その下には空洞が広がっていた。

 

 

「空気穴か。あの生態だ、空気を吸い込むための空洞があると思ったが……ビンゴだ」

 

 

 外壁に糸を取り付けて命綱の代わりにして躊躇なく飛び込むクイーン。その裏で、スティーブとサンドレギオンの戦いは佳境を迎えていた。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 後頭部の触手を掴んでチェーンデスマッチを繰り広げていたスティーブだったが、サンドレギオンは地面の下で両腕を伸ばせばいいことに気付いて不意打ち。スティーブは建物の壁まで吹き飛ばされ、解放された後頭部の触手を振り回し、自らを覆っている砂塵を打ち上げて竜巻を作り上げる。

 

 

「ハアァアアアアアアアアアアアアアアアッ……!!」

 

 

 そして触手を何度も地面に叩きつけて怒り狂い、大きく空気を吸い込み後頭部だけでなく両腕の触手も回転させて竜巻の規模を広げていくサンドレギオン。まるで台風でも来たかの様な暴風が吹き荒れる。

 

 

「うおおっ、おおおおお!?」

 

 

 とうとう竜巻に打ち上げられるのは砂塵だけではなくなり、ドラム缶や木箱、更にスティーブも浮き上がり、空中でぶつけ合わされて意識が遠のいていく。それでもスティーブは根性で意識を保ち、大きく息を吸い込み続けるサンドレギオンに目を向ける。そしてあることを思いついた。

 

 

「……こいつでも喰らっとけ!」

 

 

 竜巻に振り回される中で、スティーブは足を畳んで縮めて力を込め、ドラム缶が真下に来たところでドロップキック。流れから外れたドラム缶は勢いよく落下していき、サンドレギオンの吸い込んでいる空気の流れに乗せられて、サンドレギオンの顔面に吸引の威力のまま叩き込まれる。それは、サンドレギオンの顔面を潰すには十分すぎる威力で。

 

 

アディオス(さよならだ)!」

 

 

 そしてサンドレギオンは崩れ落ち、竜巻が収まり落下したものの受け身を取って着地するスティーブは不敵な笑みを見せる。

 

 

「やってやったぜ!どうだ!見たか!」

 

「ああ、見ていたよ。お前はすごい、スティーブ」

 

 

 そこに、いつの間にか地上に戻ってきていたのかクレアとプサイを連れたクイーンがいて。賞賛の拍手を送ったのだった。




※クレアとプサイは地下で砂の中から頭を出した状態で固められてました。

肺活量と振動を用いて砂を操る脅威のサンドレギオン。クイーンの天敵なまであったのだけど、男スティーブの意地を前に頭が潰れて敗北。まあ竜巻を生み出したりとんでも枠だったんですけどね。

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fileCV:13.5【目覚めし恐怖が五つ】

どうも、放仮ごです。今日は疲れてて時間がなかったのでいつもの.5話です。今回のイメージはヴィレッジの四貴族登場シーン。

短いですが、楽しんでいただけると幸いです。


 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン、ドクン。

 

 訓練所の二階、生物実験室に持ち込まれた大小様々な五つの培養カプセルに浮かんだ影が、脈動する。その五つ全てが異形の姿をしており、打ち込まれたプサイの血液を基としたRT-ウイルスにより意識を持ち始めて、ゴンッゴンッ!と培養カプセルのガラス蓋を叩く。すると設定された“時間”が過ぎ去り、頑丈なカプセルが開いて、ボトリと落ちる五つの影。

 

 

「に、に、にいさま。わた、わたしたちは、どこに?/おお、おお、いも、いもうとよ。ああるじの、のぞむ、ままに」

 

 

 そう男女二つの声を響かせるのは、頭部に角が上を向いた水牛と角が下を向いたバッファローの皮を半分ずつ被った、上半身裸でタイラントの様に筋骨隆々で腕や腰にベルトを幾つも巻き付けて、下半身は黒い腰布と黒いズボンを履いた二メートル大の巨人。タイラントによく似ていた。

 

 

「ああ。お腹が空いたわ。そこの牛、食べてしまおうかしら」

 

 

 赤いツリ目が6つ存在する頭部に、色白の肌で腰まで届く黒い長髪をした6本腕を持った上半身、下半身は巨大な蛇が腰まで飲み込んでいるような形状をして境目には牙が生えている女性の姿をしているヨナを思わせる、リヒトを超える巨女がお腹を擦りながら呻く。明かに自分とサイズが合っていない部屋に不満なようだ。

 

 

「それはダメよ、ご主人様に怒られてしまうわ」

 

 

 体格は人間の女性と同じだが、頭部は青緑色の長髪をした蛇そのもので首が長く、尻尾こそ生えているがハンター姉妹同様、鱗で覆われている手足を持つ小柄な女が嘲笑する。

 

 

「主に逆らったら私たち全員殺されてしまいます……」

 

 

 複数の目がない蛇の様な触手が頭部と一体化した髪の様に生えている、口から上が鱗で覆われた仮面の様になっており中央に縦に裂けた赤い単眼が存在する、下半身は布で隠している小柄な人型の少女が、自分と同じ蛇の特徴を持つ二人を諫める。

 

 

「……ああ、ああああああああ……顔、顔を隠さなければ……!」

 

 

 そして最後の一人は、爪で引き裂くのも構わず自分の顔を覆い隠し、前が見えないまま歩いて右手で顔を覆ったまま左手で辺りを手探りで探し、ちょうどいい紙袋を見つけて頭に被ることで落ち着いた。金色の毛皮に覆われ鋭い爪を持つ明らかに身体のサイズに合っていない異様に長く足は獣の骨格をしている四肢と、金色の毛皮の長いモフモフとした尻尾を有している。シルエットからして女の様だ。

 

 

「ああ、落ち着く……っ!」

 

 

 指で目の部分に穴を開けて辺りをきょろきょろと見渡す五人目。匂いが嗅ぎ分けられるらしいそれが反応してすぐ、扉が開いて大きなカバンを持ったアレクシア・アシュフォードが姿を現した。アルフレッドが時間を稼いでいる間に、“作品”たちが完成されるのを待っていたのだ。

 

 

「貴方たちは設計して生み出したまでは良いけど、能力の強さにT-ウイルスの方が追い付いてなかった。だけど、RT-ウイルスを用いてあなた達は完成されたわ。お……兄様は、彼女たちの死を望んでいる。これはゲームよ。私達兄妹以外の人間を、玩び、苦しめ、痛めつけてから殺しなさい。……そうすればお兄様は満足してくれるわ」

 

 

 そう告げるアレクシアに頷き、壁を破壊し、窓を突き破り、五体の“恐怖”は解き放たれた。




本当に意図してなかったのだけど完全にボスラッシュになってます。ベロニカ基本的に探索が長いので、それをカットすると戦闘になりがち。

今回登場したある真実に気付けた人はすごいと思う。

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fileCV:14【ゴルゴーン三姉妹】

どうも、放仮ごです。前回の描写が足りなくてわかりにくかったと思いますが、捕捉すると牛の特徴を持つタイラント→六つの眼と腕を持つでかいヨナみたいなやつ→蛇の顔と尻尾を持つ人型→蛇の髪を持つ少女→顔を隠している獣人、です。

今回はそのうち三体とクイーンたちが邂逅。楽しんでいただけると幸いです。


「……?」

 

 

 クレアとプサイを地下の空洞から救出し、糸を伝って外に出てきて無事にあの蚯蚓の怪物に勝っていたスティーブを賞賛したところで、嫌な気配を感じてその方向に視線を向ける。……この建物の、二階か…?

 

 

「クレア!プサイ!無事だったのか、よかったぜ!」

 

「スティーブも無事でよかった。クイーン一人だけで助けに来たときはどうなるものかと……」

 

「拙者はスティーブ殿の強さを信じてたでござるよ!」

 

「へへっ、ありがとなプサイ」

 

 

 クレアとスティーブ、プサイが会話している。その傍らには、ドラム缶で頭が潰されたさっきの怪物。……こいつがあのアルフレッドの言ってた猟犬、なのは間違いない。だが私の弱点に気付いている様子はなかった。確かに厄介だったし、実際クレアとプサイは捕らえられていたのだが、わざわざここに誘導してぶつける意図がわからない。奴の言うゲームの一環だとしたら、此奴は囮……?

 

 

ドゴン!

 

アーハッハッハッハッハッハッハッ!!!!

 

「なに…!?」

 

 

 瞬間、二階の壁の一角が吹き飛び、そこからなにかが這い出してきた。色白の肌と長い黒髪、巨大な蛇が腰まで飲み込んでいるような形状をして境目には牙が生えている女性の姿はヨナを彷彿とさせたが、違う。ギョロギョロと絶え間なく動いて周囲を睨みつける六つの紅い瞳、壁を掴み蟲の様に動かしてその巨体を移動させる六本の腕、そしてリヒトを超える巨体。その長い体で建物に巻き付きながら六本腕を動かして高笑いを上げながら屋根まで上る怪物に、全員の視線が向く。

 

 

「今度は何だってんだよ!」

 

「ヨナ…じゃ、ないわね」

 

「エヴリン殿の記憶で見たグレイブディガーの巨人ほどではないがでかいでござるな…!」

 

「あんなの、何処に潜んで……」

 

「あら、鋭いわね。姉はもともとあのサイズではないわ。ちょっとでかい程度だったのだけどRT-ウイルス?ってのを投与されて、化石から採取されたティタノボアのDNAに適応されてああなっている、らしいわ」

 

「見つけ、ました。生きてる人間……」

 

 

 そう言って、六目六腕の蛇の巨人の下半身の尾にしがみついていた小柄な影が二つ、飛び降りてきた。蛇の尻尾が生えて腰にポーチを付けた水色の手術衣を身に着けた女……の首から上が青緑色の髪を生やした蛇そのもので手足が鱗に覆われているすらりとした長身のB.O.W.と、同じく手術衣を身に着けていて下半身をドレススカートの様な赤い腰布で覆い隠した、口から上が鱗で覆われ中央が縦に裂けた単眼がついた仮面の様になっている頭部に髪の毛の代わりに複数の目がない蛇の様な触手が生えてうねうね動いている少女型B.O.W.だ。私達を挟むように降り立った二体に、身構える私達。

 

 

「全然似てないが、お前たち姉妹なのか…?」

 

「私達はヨーン・エキドナの非公認後継機「ゴルゴーン三姉妹」よ。私は次女のエウリュアレー」

 

「私はメデューサ、です」

 

「そしてあれが長女のステンノーよ。以後、お見知りおきを?」

 

 

 蛇の顔で流暢に喋るエウリュアレーを名乗ったB.O.W.は優雅に一礼し、メデューサを名乗った少女も軽く頭の蛇たちと一緒に一礼する。ギリシャ神話のゴルゴーン三姉妹か。怪物になったのは妹のメデューサだけだったという話だが、むしろ姉の二人の方が怪物染みているのは皮肉か?

 

 

「なんのつもりだ…?礼儀をわきまえたところで殺し合う未来は変わらないが?」

 

「エヴリン殿なら家族にする選択肢もあったでござろうが、生憎と油断したら終わる怪物揃いでござるからな。油断はできぬでござる」

 

 

 ハンドガンを構えるクレアとスティーブを手で制しながら、プサイと共に牽制する。なにかすればすぐ攻撃する、という意だ。するとプサイに視線を向けたエウリュアレーは眼を瞬かせて不気味な笑みを形作る。

 

 

「まず最初に。ハンターΨ、貴方には礼を言うわ。貴方の血で私達は完成した。もともと囚人の三姉妹を素体にしているのだけど、蛇の遺伝子に適応できていなかったのよね……こうして喋れるようになったのもあなたのおかげってわけ」

 

「そうなのですか?エウリュアレー姉さま」

 

「そうなのよ。そこのマフラーは私たちのお母さんみたいなものよ、メデューサ」

 

「……ならお母さんの言うことを聞いて大人しくしてほしいのでござるがな?」

 

「それはできない相談よ。私達が従うのは、アレクシア・アシュフォード様だけ」

 

「!」

 

 

 こいつら、アルプと同じでアレクシア・アシュフォードが生み出したのか……。ならアイツもこの建物に?エウリュアレーとメデューサを警戒しながらも視線を上に向ける。ステンノーは建物の裏に上半身を移動させ、持ち上げるとその手にはゾンビが握られていて。それを躊躇なく丸呑みにしてしまう光景が見えた。……アイツに捕まったら終わりだな。

 

 

「私達がこうやって挨拶しているのもアレクシア様の言うゲームに基づいてのことよ。すなわち、玩び、苦しめ、痛めつけてから殺す。そう言うゲームよ」

 

 

 そう言って、ポーチに手を伸ばすエウリュアレー。私達はそれを、見過ごさなかった。アサルトライフルと、クレアとスティーブのハンドガンが火を噴く。しかしエウリュアレーはお見通しとばかりに尻尾を地面に叩きつけると跳躍して外壁の上に着地。同時に、後ろで肉を引き裂く音。メデューサの伸ばしてきた蛇の髪をプサイが斬り裂いた音だった。

 

 

「エウリュアレー姉さまを狙ったな!」

 

 

 すると、布に隠されていたメデューサの下半身が見えた。そこには、複数の蛇の尻尾がまるでタコの足の様に存在する下半身があった。それをせかせかと伸縮させて動かし、振り返った私のアサルトライフルの弾丸を器用に足を動かして回避しながら、足を曲げて私の目の前に顔を移動させてくるメデューサと視線が交わされ、単眼が不気味に赤く輝く。同時に、違和感。私の右手が崩れ落ちる。

 

 

「ぐあっ…!?」

 

「私に見られたものは、石になる」

 

 

 見れば私から分離した同胞たちはまるで石になったかのように動かない。なにをされた…!?そのままメデューサの足にからめとられ、押し倒されてしまった。

 

 

「クイーン!」

 

「貴方の相手は私よ」

 

 

 スティーブがこちらを助けようと試みるも、外壁から宙返りしてきたエウリュアレーの尻尾に腕を絡めとられて転倒。プサイが跳躍して爪を叩き込むも、鱗に覆われた右手で受け止め弾き飛ばすエウリュアレー。そしてポーチから取り出した小瓶のコルク栓を指で弾くとその中身を飲み干した。クレアが銃で狙い撃つも、小瓶を割っただけで手遅れだった。

 

 

「ぷはあっ。まずいわ……ね!」

 

「なっ……!?」

 

 

 追撃で飛び掛かり爪を振るおうとしていたプサイの右足に、口をもごもごさせたエウリュアレーがペッ!と液体を口から吐き出すと、それが当たったプサイの右足が粘着く液体が纏わりついて動きを止められる。

 

 

「なんでござるか、これは…!?」

 

「特殊な薬品と私の胃液を混ぜた凝固剤よ。十数秒で、この通り。セメントの様に、固まる。全身に浴びなくてよかったわね?」

 

「動けぬ…!?」

 

 

 液体をかけられたプサイの右足がセメントの様に凝固し、地面と固定されてしまうプサイ。さらにエウリュアレーの尻尾の一撃を頭部にもらい、ふらつくプサイ。

 

 

「それ以上、させるかよ!」

 

「クイーンから離れなさい!」

 

 

 するとスティーブがエウリュアレーの尻尾を両腕で締め上げて拘束し、クレアが前蹴りでメデューサを蹴り飛ばす。その間に私は急いで体のサイズを縮めて右腕を再生。プサイは右足を膝から下を斬り落として無理矢理解放される。

 

 

「プサイ!再生するからってそんな無茶な……」

 

「クイーン殿にだけは言われたくないでござるな?」

 

「おい、仲間割れしている場合じゃないぜ!」

 

「ただでさえ厄介なのに、二体同時だなんて……!」

 

 

 

 

 

 

私を忘れてないかしら~?

 

「「「「!」」」」

 

 

 私達を月光から覆い隠した巨大な影に、視線を上に向ける。そこには、私達を丸呑みにしようと建物に巻き付いた状態で龍か何かの様に弧を描いて落ちてこようとしているステンノーがいた。

 

 

「ちょっ、ステンノー……私たちまで飲み込むつもり!?」

 

「姉さん…!?」

 

「中に逃げろ!体勢を立て直す!」

 

 

 エウリュアレーとメデューサすら狼狽える中、私はプサイに粘液糸を飛ばして抱えながら建物の入り口に跳躍。クレアとスティーブも飛び込み、地響きと共に衝撃波が私達を廊下の突き当りまで吹き飛ばす。

 

 

「どこまで保つかは知らんが…!」

 

 

 同時に粘液糸を飛ばして扉を閉めて、粘液糸を射出して扉の取っ手を縛り上げる。時間は稼げるだろうが、閉じ込められた。もう外には出られない。

 

 

「どうする、クイーン?」

 

「あいつら、止められないわ…」

 

「面目ないでござる……」

 

「……対抗策を探すしかないだろうな」

 

 

 ……少なくともあのデカブツをどうにかする方法を考えないとな。




ステージギミック的なステンノー、一番異形なのに理性的なエウリュアレー、姉が大好き不気味なメデューサ、合わせてゴルゴーン三姉妹。いつもお世話になってるお馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案をベロニカ編に合わせて改良したものになってます。
素体は囚人の三姉妹で、ヨナの後継機的な扱いです(アレクシアが勝手に作ったため非公認)。ステンノーはアンブレラ脅威の技術力でティタノボアのDNAが使われてるためでかいです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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file?【嘘か真か】

どうも、放仮ごです。今日はエイプリルフールだったのでまたまた特別編です。時系列は一応不明だけど明らかにベロニカ編の後です。

存在だけ示唆されていた【EvelineRemnantsChronicle】の物語の鍵を握るオリキャラたちが登場。短いですが楽しんでいただけると幸いです。


 20■■年。日本、九州某所のそこそこ広い都市。天ヶ沢(“あまがさ”わ)大学病院、と呼ばれる五階建ての大きな建物の廊下を、外国から派遣された医者という形で居ついているサミュエル・アイザックスが歩いていた。

 

 

「お邪魔するよ、アマガサワ」

 

 

 流暢な日本語でそう言いながら、ノックをして院長室の戸を開けるアイザックス。一角がガラス張りで大きな山と海が一望できるその部屋の大きなデスクに、その人物は座っていた。傍には、190cmの並外れた体格を持つ女秘書が控えている。

 

 

「事前の連絡もなしに鉄舟(てっしゅう)様の部屋に来るとは何様のつもりだ貴様、アイザックス!」

 

「やめなさい(レイ)クン。そう邪険にするものじゃないよ、アイザックス氏は大事なビジネスパートナーだ」

 

 

 女秘書が番犬の様に吠えて威嚇するも、デスクに座った軽薄そうな丸眼鏡をかけた日本人の男が制しながら微笑む。彼の名を、天ヶ沢鉄舟(あまがさわ てっしゅう)。30代でありながら医師として確固たる地位を築き上げ、結構大きな病院を一代で築き上げた院長。彼こそがサミュエル・アイザックスのクライアント、支援者であった。

 

 

「失礼した。ミス・イヌガミ。私も気が急いていてね」

 

「アイザックス、お前は雇われている身だ。鉄舟様の恩情にかまけて礼儀を忘れるな」

 

 

 グルル、と猛犬が威嚇している幻覚が見えるほどアイザックスに怒りを向けるのは、天ヶ沢鉄舟の秘書を務める犬上冷(いぬがみ レイ)。明かに異常な体格を有している彼女に、アイザックスは怖気もしなかった。亡命した際の飛行機で世話された時からの仲だ、嫌われていようが関係なかった。

 

 

「僕からも君に連絡をしようと思っていたところだ。実は、G-ウイルスから生み出した例のB.O.W.の買い手が決まってね。近々大金が入る手筈になっている。そうだね?冷クン」

 

「はい。東スラブ共和国のオリガルヒ(大富豪)、スベトラーナ・ベリコバ様。アメリカ合衆国の■■■様。他には……」

 

「研究の資金はこれで足りるだろう。我々の目的にさらに一歩近づいたわけだ」

 

 

 そうにっこり笑う天ヶ沢鉄舟の胡散臭い笑みに、アイザックスも笑って書類を取りだす。

 

 

「アマガサワ、君と組んでよかった。アンブレラに負けずとも劣らない、むしろ商才だけならかのスペンサーすら超えるだろう。医者にしておくのはもったいないぐらいだ」

 

「この地位にいるからこそ、この病院を運営できる。やめるわけにはいかないのさ。それで?君の用とはそれかい?」

 

「ああ、いい知らせだ。RT-ウイルスと■■■■ウイルスを組み合わせた我々の目的の終着点……其の名も、“I-ウイルス”。その基盤が完成した」

 

 

 そう言って机に置いた書類にはいくつかの数式と「insanity」「雪姫」「Remnants」「怪鳥」「immortal」「伊弉冉」「if」「恵風」「Eveline」「妖花」「intact」「双月」といった英語と漢字が入り混じった文字がびっしりと描かれていた。

 

 

「おお、ついに!」

 

「ああ、ついに。我らが悲願、RT計画は遂行される……!すべては君のおかげだ!エヴリン、いや……」

 

 

 そう言ってアイザックスが視線を向けた先には、エヴリンと同じ顔の少女がにっこりと笑って立っていた。




アイザックスの協力者、天ヶ沢鉄舟(あまがさわ てっしゅう)。名前はエヴリンたち因縁の敵、アンブレラとアイアンズをもじったもの。
そして、以前アイザックスを飛行機で世話してた犬上冷(いぬがみ レイ)も再登場。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:15【サクリファイスコヤン】

どうも、放仮ごです。前回の時系列に早く行きたい、けどベロニカの濃厚さがそうさせてくれないジレンマ。

多分初登場で一番謎だったB.O.W.が本格登場です。楽しんでいただけると幸いです。


 ガンッ!ガンッ!ガンッガンッ!と、六本の腕が訓練所の入り口扉に叩きつけられる。ヨーン・エキドナの後継機ゴルゴーン三姉妹の長女、ステンノーだった。

 

 

「なんで!なんで!なんで!壊れないのよ!」

 

 

 六つの眼をギョロギョロと忙しなく動かしながら、扉をこじ開けようとするステンノー。しかし蛇故の全身筋肉であるため怪力を誇るステンノーですらびくともしない。なのに関わらずとにかくぶん殴る脳筋ステンノーに、妹二人は呆れ顔だ。

 

 

「無駄よ。ここの扉はアルフレッド様の生み出した特殊合金が使われてる。反対側から鍵をかけられてるならこじ開けるのは不可能よ」

 

「べたべたします……ステンノーお姉さまは猛省してください」

 

 

 上空からクイーンたち目掛けて襲い掛かってきたステンノーの大口を避けそこなって、咀嚼されてから吐き出されたエウリュアレーとメデューサの視線は冷たい。それが耐えきれなかったのか、壁に向けて拳を振りかぶるステンノー。

 

 

「ならさっきみたいに壁を破壊すればいいのかしら!」

 

「やめなさい。これ以上壊されたらアレクシア様が悲しんでしまうわ」

 

「そうです、アレクシア様はアルフレッド様のお作りになったこの建物を気に行っています。悲しませたくありません」

 

「……じゃあどうするのよ」

 

「出口はここしかない。出てくるまで待てばいいのよ」

 

 

 そう言って尻尾を曲げて椅子代わりにして座り込むエウリュアレーと、器用に蛸足の様な複数の尻尾の足を折り曲げてぺたんと座り込むメデューサに、ステンノーは分かりやすくため息を吐く。

 

 

「ハア……妙に真面目ね、私の妹達は。アレクシア様、ねえ……」

 

 

 右の三つ目をギョロリと動かして建物に視線を向けながら、ステンノーは体を持ち上げて月光をその身に浴びながら呟く。

 

 

「あんな哀れな人形が私たちの主人だなんて、何の悪い冗談なのかしら?」

 

 

 その呟きが妹たちの耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇に蠢く巨大な蜘蛛の群れを掃討しながらが廊下を進む私達。そうして集会広場、とプレートに記された屋外に出る。上の通路に続く階段があるが、資材もいろいろ置かれている様だ。なにかないか調べないとな。

 

 

「風が強いわ」

 

「ここから上にいけるみたいだ」

 

「屋外でござるが……ゴルゴーン三姉妹が先回りしていないことを祈るしかないでござるな」

 

「連携はできるが頭の出来はよさそうじゃなかったからな。そこまで頭が回るか謎なところだ」

 

 

 しかし、あれはなんだったんだ?エウリュアレーの攻撃の原理は分かった。十中八九、あの時飲んだ小瓶の中身が必要なのだろう。だがメデューサを名乗った末妹は原理がまるで分らない。眼が光った瞬間、違和感を感じて同胞たちの一部が石にでもなったかのように固まって崩れ落ちた。本当に石にでもされたというのか?目からの光で石になるだなんてそんな神話みたいな出来事が………。

 

 

「G生物ですらその能力は科学で説明ができるものだったんだぞ…?オカルトなんてありえるはずが……」

 

「それを言ったらエヴリン殿の存在がオカルトでござるが」

 

「それを言われたらぐうの音も出ないな!」

 

「エヴリンってやつ、そんなにオカルトなのか?」

 

「私も見たことはないのよね……話したことはあるけど」

 

「どういう意味だ?」

 

 

 そんな会話が弾んでいた時だった。レーザーサイトが私達四人に狙いをつけるように通りすぎた。アルフレッドのスナイパーライフルを思わせた。

 

 

「上だ!」

 

「ようこそ、お……兄様の兵隊の訓練所へ!よくゴルゴーン三姉妹の襲撃をしのいでここまで来れたわね!褒めてあげるわ!」

 

 

 咄嗟に資材の裏に隠れる私達。同時に発砲音と共に私たちのいた地面に着弾する。二階通路に、明らかにぎこちない動きでスナイパーライフルを持ったアレクシアがいた。紫色のドレス姿でクラシカルなスナイパーライフルを持っている姿は絵にすらなるが、明かに使い慣れてない。レーザーサイトもぶれぶれだ。

 

 

「隠れてないで出ておいで!今ならあっさり殺しはしないわ!私の作品たちの相手をしてもらいたいもの!」

 

「あのゴルゴーン三姉妹はお前が生み出したのか!」

 

「ええ、その通りよ!でもそれだけじゃないわ。ハンターΨ、貴方からいただいたRT-ウイルスで完成させ、目覚めさせたのは全部で五体!出番よ、サクリファイスコヤン!」

 

「わたし、わたしわたしわたし……!」

 

 

 するとアレクシアの呼びかけに応えるように、目の部分に穴を開けた茶色い四角い紙袋を被って顔を隠した、金色の毛皮に覆われ鋭い爪を持つ明らかに身体のサイズに合っていない異様に長く、足は獣の骨格をしている四肢と、金色の毛皮の長いモフモフとした尻尾を有している獣人の女が上から飛び降りてきて現れた。サクリファイスコヤン…?長い名前だな。それに、明かに正気じゃない。

 

 

「ああ、ああああ……」

 

「アッハハハハハ!ハァ~ハハハハハ…!貴女に刻まれたイヌ科の遺伝子が、私の命令には逆らえない!貴女は私の作品、私の言う通りに暴れるのよ!さあ、行きなさい!」

 

「ウオォオオオンッ!」

 

 

 手すりに手をかけ、飛び降りてくるサクリファイスコヤンにアサルトライフルを叩き込むがしかし、その金色の体毛が弾丸を弾いてしまう。そう言う感じか!

 

 

「あああああっ!」

 

「ぐっ…!?」

 

 

奴の爪の引っ掻きを、咄嗟にアサルトライフルを手放して粘液硬化した腕で受け止め、横のフェンスを突き破り、もみ合いながら下に続く穴から落下する。ここは、地下道か!

 

 

「ああ、隠さなきゃ……」

 

「吹き飛べ!」

 

 

 ずれた紙袋を直していたサクリファイスコヤンの胸元に粘液糸を飛ばし、引き寄せた勢いのままにぶん殴って扉を破壊しながら殴り飛ばす。なんだ?こいつ、弱い……?

 

 

「ああ、あああ……死ね!死ね!死んでしまええっ!」

 

「っ!?」

 

 

 瞬間、左手の爪で自分の右腕を引き裂いて血を吹き出させたサクリファイスコヤンが腕を振るうと、血が発火し業火となって襲い掛かってきたのを、ギリギリ飛び退いて回避する。なんだ、血が発火した!?またオカルトか!?アレクシアの作るB.O.W.はどうなっている!?

 

 

「ああああっ、燃えろ!」

 

「相性最悪な奴が続くな…!」

 

 

 サクリファイスコヤンが腕を振るい飛ばしてくる血の塊が変化した業火球を、地下室の天井に粘液糸を飛ばし天井にくっついて回避。アサルトライフルは上に置いてきてしまった。相性最悪な上に武器なしか、きっついな!

 

 

「ウォオオンッ!」

 

「させるか!」

 

 

 狼の様に吠えながら、血に濡れ発火した右腕を振るいながら跳躍してくるサクリファイスコヤンに、粘液糸を丸めた弾を連射して胴体に当てて地面まで吹き飛ばす。そのまま私も着地し、粘液糸を飛ばして血に濡れてない左腕にくっつけて引っ張り、回し蹴り。脇腹を蹴り飛ばされたサクリファイスコヤンは「きゃいんっ」と悲鳴を上げて横に倒れるも、尻尾で地面を叩くことで宙返り。壁に爪を突き刺しくっついた状態でこちらを睨みつけると、尻尾で壁を叩いてすごい勢いで炎に燃える右腕を叩きつけてきた。

 

 

「ぐっ、ああああああっ!?」

 

「燃えろ、燃えろ!」

 

 

 首を掴まれ、炎上する私の身体。まずい、ヒルと菌根でできた私の身体は、炎に途轍もなく弱い。慌てて胴体を蹴りつけて解放された私は、地下道の一角を沈めている水の中に飛び込んで炎を消して再生能力で回復する。……水?待てよ。そうだ。

 

 

「……筋肉を操作して血管を圧迫、合わせた掌の中で加圧して限界まで圧縮し一点から解放、音速を超えて撃ち出す……だったか」

 

「ウォオオンンッ!」

 

 

 再び右腕を左手の爪で引き裂いて、更に火力を上げた業火球を飛ばしてくるサクリファイスコヤンに、私は水場に足を浸からせながら、合掌した両手の先端を向ける。

 

 

「穿水!」

 

 

 そして、Gアネットの様に、水を血液の代わりに全身に循環させて放った水のレーザーが業火球を貫き打ち消しながら、サクリファイスコヤンの頭部を撃ち抜いた。ズタズタに引き裂かれた紙袋が宙を舞い、その下の顔があらわになって。私は絶句した。

 

 

「……なん、だと?」

 

「ああ、私の顔を見るなアア……」

 

 

 顔があらわとなったサクリファイスコヤンは血をばら撒いて炎の壁を作り上げながら逃走。私は茫然と、その場に立ち尽くすのだった。




クイーンが目撃したその素顔とは…?

 炎を操る力(すっとぼけ)を持つサクリファイスコヤン。名前はサクリファイスと、ルー・ガルーの女性「スコヤン」を合わせたもの。その名前の真意は…?

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fileCV:15.5【その頃一方オルタナティブ】

どうも、放仮ごです。色々あって書く時間が無くなったので急遽書いたものとなります。2000字ちょい。

エヴリンたち「オルタナティブ」の今現在。楽しんでいただけると幸いです。


 1998年。中東、紛争地帯。アンブレラの暗躍により戦争が引き起こされたその国では、正規軍と反乱軍が争っていた。そこに反乱軍の最新兵器として投入されたハンターの群れと十数体のタイラントに追い詰められていた正規軍。

 

 

「やったぞー!巨人を倒したz」

 

 

 タイラントは倒すという大戦果を挙げたものの、次の瞬間にはスーパータイラントとして復活した巨人たちに戦車をひっくりかえされ、兵士たちは薙ぎ払われ、背を向けて逃げればハンター軍団に塵殺されていく。

 

 

「もう終わりだ、おしまいだ……」

 

 

 アサルトライフルの弾丸をものともせず迫るスーパータイラントに、兵士の一人は涙を流しながら絶望の声を漏らす。しかしそれは、突如乱入した黒い戦車の様な巨体によってスーパータイラントの上半身が食い千切られたことでヒュコッと空気を吸い込む音を立てて引っ込んだ。

 

 

「『だいじょうぶ?』」

 

「う、うわああああああ!?」

 

 

 ワニと獅子の鬣が合わさった凶悪な顔でこちらを向いてスーパータイラントの上半身を咀嚼して血まみれの口を開いた、カバの様に太い胴体を持つ漆黒の獣が二重の女の声を響かせたことで、兵士は恐怖に駆られて逃げて行ってしまった。置いていかれた獣は、ズルリと音を立てて黒い液体が拭い去られるようにして二メートル半の長身で緑色の髪を短く切り揃えた、シンプルな黒のTシャツとジーパンでボーイッシュな中性的な女性の姿になって、傍らに浮かんだ常人には見えない少女に語り掛ける。

 

 

「マザー。俺、間違えたかな?」

 

『助けられておいてなんの感謝もなしに逃げる方が悪いと思う』

 

 

 それは、モールデッド・アメミットに変貌していたリヒトとエヴリンのサイズがちぐはぐな親子。リヒトは襲い掛かってくるハンターの顔を鷲掴みにして頭から地面に叩きつけてトマトの様にぐしゃっと潰しながら、自分たち以外にも乱入している面々に視線を向ける。

 

 

「私に従え…止まれ!」

 

 

 ハンターたち相手にそう告げて、無理矢理に一瞬動きを止めたところを爪で頸を断っていくのは、ツンツンしている深緑色の髪をショートにした、黄緑のパーカーと青い短パン、黒ニーソックスと赤い運動シューズを身に着けた少女の姿をしたハンターの上位種であるオメガちゃん。すっかり使ってなかったが、彼女とプサイの姉妹の能力としてハンターへの指揮能力がある。コンビネーションを培った直接の配下でないとそこまで操れないのだが、それ以外のハンターでも動きを一瞬止める程度の事ならできた。

 

 

「痛みを知らないから、人間たちにひどいことできるのよね…?」

 

 

 そう勝手に解釈しながら、タイラントやハンターの胴体を縦横無尽に伸ばしたムカデ腕で引き裂いて血飛沫を上げていくのは、黒いタンクトップと白のハーフパンツを身に着けた薄着で裸足の女性の姿のヘカトちゃん。やはりその異形の腕に正規軍の兵士は恐れおののいて逃げ出し、寂しそうに視線を向ける。

 

 

「タイラントがちょっと強いわね。改良型かしら」

 

 

 いつものお嬢様然とした服装から、戦場に適した軍服を身に着けて長い腕でタイラントを押さえつけているのはリサ・トレヴァー。口ではそう言いながらもタイラントが子ども扱いであり、背中から伸ばした触手で貫くとそのまま投げ飛ばし、別のタイラントに叩きつけた。

 

 

「毒に弱いんじゃ話にならないわ!」

 

「大漁大漁、なのだ!」

 

 

 蛇の尻尾みたいな床までかかる茶色い長髪で、蛇柄のジャケットと黄緑のキャミソールにシックなロングスカートの下から伸びた蛇の尾で締め上げたタイラントを毒で弱らせ、怪力で半分に分けて投げ捨てるのはヨナ。その背後で、背鰭と鰭を合わせたみたいな髪型の水色の長髪で白のタンクトップとホットパンツで生足の少女の姿でハンターを噛み砕いてカバーするのはグラだった。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

「そんなもの~きかーん!」

 

 

 そして、反乱軍相手に触手を振り回しサブマシンガンを連射するネメシスと、反乱軍の弾丸をガワの表皮で弾く真珠色の髪の少女の姿をしたガンマちゃんが相手をする。こちらは殺さないように、が目的なので適任だった。

 

 

『……まあ、「オルタナティブ」の活動としては順調かなあ』

 

 

 それを見守り、安定してB.O.W.やそれを嗾けたアンブレラと取引したと思われる反乱軍が壊滅していく光景に、溜め息をつくエヴリン。反アンブレラ組織「オルタナティブ」。その行動理念は、アンブレラの生物兵器を駆逐すること。主要メンバー以外にも、アンブレラに恨みを持つラクーンシティの生き残りなどで構成されたその組織は、世間的にはテロ組織扱いなれど順調に活動していた。

 

 

「リヒトさん。こっちも制圧完了しました」

 

『あ、カーティス』

 

「おつかれ。でも俺じゃなくてそういうのはリサに…」

 

「いえ、ここにいるんでしょう?エヴリンさんが。伝えたいことが」

 

 

 そこに、別動隊で動いていた人間の構成員たちを纏めていたカーティス・ミラーという男がやってきた。彼には見えないエヴリンに伝えたいことがあるらしい。

 

 

『どうしたの?』「ってマザーは言ってる」

 

「アメリカ政府に潜り込んでいる人員から連絡が。クレア・レッドフィールド、プサイの所在が判明しました。レオン・S・ケネディに助けを求めたらしく……」

 

『あの二人が!?』

 

「二人はどこに?」

 

「それが……アンブレラに捕縛されて、ロックフォート島に連行されたと……」

 

 

 その報告を聞いて、エヴリンは瞑目する。2人は馬鹿じゃないというのは分かっている。ならば目的がきっとあるはずだ、そう考えて。

 

 

『リヒト。伝えて。部隊を再編制、ロックフォート島に攻め込むよ。2人を救出する』

 

 

 組織の長としてではなく、二人の友人としてエヴリンは決断した。




エヴリンは「クイーンもいないし自分は馬鹿なのでとりあえず殲滅しよう」の精神でアンブレラ相手に大暴れしてます。せっかくコストをかけて作った生物兵器が殲滅されているので地味にアンブレラ打撃を受けているっていう。

カーティス・ミラー。知っている人は知っているマイナーだけどれっきとしたバイオのキャラです。反生物兵器の噂を知って参加しました。こういう未来があってもいいよね。妹さんは警察を続けてます。

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fileCV:16【ハンターΘ】

どうも、放仮ごです。pixivで エレメンタル㏇ さんが3編のオリジナルクリーチャーたちほとんどのイラストを描いてくださいました。本当にありがとうございます!「特異菌感染者の聖地」タグから見れるので是非ともご覧あれ。

コードベロニカにはH.C.F.が持ってきた二種類の強化個体が出るハンター。まあ、強化しないはずがないよね。新たなHaRT登場。楽しんでいただけると幸いです。


 ロックフォート島訓練所、集会場。サクリファイスコヤンがクイーンと共に下に落下したのを見ていることしかできなかったクレア、スティーブ、プサイ。慌てて追いかけようとするが、上階からアレクシアがスナイパーライフルを撃ち放った。

 

 

「くっ!クイーンが……」

 

チュイン!

 

「あぶねえ!クイーンを気にしてる余裕はなさそうだぜクレア!」

 

 

 クレアを狙って放たれた弾丸から、スティーブが手を引いて回避させる。さらに弾丸が連射され、クレアとスティーブの隠れている障害物を砕いていき、その隙を突いて動こうとしたプサイにも抜け目なく狙いをつけ、引き金を引いて牽制する。

 

 

「あの銃はリロードが必須!連射できぬはず!バラバラに動くでござる!」

 

「あら!作戦をそんな大声で言っていいのかしら!」

 

 

 そう言って、ボルトアクションを行ったアレクシアが綺麗な放物線を描いて放り投げたのは、手榴弾。

 

 

「避けろ、クレア!」

 

「こっちよ!」

 

 

 咄嗟に隠れている物陰の角度を変えて爆発防ぐクレアとスティーブ。その隙を狙ってアレクシアの弾丸が放たれるも、その前に割り込んだプサイが胴体で受け止める。

 

 

「がはっ…」

 

「っ……庇うなんて、バカね!そのまま蜂の巣になりなさい!」

 

 

 血を流し苦痛に声を漏らすプサイにアレクシアは一瞬表情を歪め、すぐに嘲笑を浮かべてボルトアクションを次々と行って連射。寸分違わずクレアとスティーブを庇うように立ったプサイの胴体に炸裂。常人より硬い表皮のおかげで貫通こそしなかったものの、それが災いして弾丸が体内に残ったままのプサイはついに崩れ落ちた。

 

 

「横ががら空きだぜ!…っ」

 

 

 しかし同時に、階段を駆け上がっていたスティーブが横からアレクシアにルガーの銃口を向けたものの、一瞬躊躇いを見せてしまった。スティーブという男の善性が、いくら仲間を傷つけた悪党だとしても、ただの人間を撃つことに抵抗を見せてしまったのだ。

 

 

「甘いわ、ね!」

 

「うぐっ!?」

 

 

 至近距離からスナイパーライフルで狙うことは危険と判断したのか、ライフルを棍棒の様に構えてグリップ部分で突いて胸に打ち付けるアレクシア。胸を強く打ち付けられたスティーブはひっくり返り、アレクシアは形勢不利と見たのかそそくさと扉に退散していった。

 

 

「待て…、逃がすかよ!」

 

 

 なんとか立ち上がり、追いかけようとするスティーブ。しかしそれは、追いかけてきたクレアに止められた。

 

 

「スティーブ、冷静にならないと危険よ。さっきアレクシアはゴルゴーン三姉妹やサクリファイスコヤンみたいなのが五体いるって言ってた。最後の一体が待ち伏せしていたら危ないわ」

 

「わかってるよ…言われなくてもな。だけど、プサイが」

 

「拙者は大事(だいじ)ないでござる……」

 

「「プサイ!」」

 

 

 よろよろと立ち上がったプサイに、スティーブとクレアは階段を駆け下りて肩を貸す。自分で傷口に爪を突き刺し、弾丸をほじくり出す様は痛々しい。

 

 

「拙者よりも、クイーン殿を……」

 

「……私は無事だ」

 

 

 そこに、梯子を上ってクイーンが姿を見せる。落としたアサルトライフルを手に取り、残弾数を確かめる無事な姿に、三人は安堵する。

 

 

「クイーン、無事だったのね」

 

「心配したぜ。……どうした?幽霊でも見たような顔だぞ」

 

「いや……なんでもない。アレクシアは?」

 

 

 どことなく血の気の引いた青ざめた表情のクイーンの様子に訝しむスティーブ。クイーンは首を横に振り、視線を上に向ける。

 

 

「悪い、逃がしてしまった。あの扉だ。そっちこそ、さっきの……サク……サク……サックス野郎はどうしたんだ!?」

 

「サクリファイスコヤンよ、スティーブ。変な名前よね。英語とフランス語を混ぜた造語っぽいけど」

 

「こちらも取り逃がした。奴の血は発火する、気を付けろ。……サクリファイスか、言い得て妙だな」

 

「え?」

 

「発火するってなんだよ?」

 

「からくりなんて私が聞きたいさ。それよりプサイ、弾丸は取りだせたか?今、傷を塞いでやる」

 

 

 そう言って右掌を上に向け、ヒルを何匹か分離させてプサイの傷口に押さえつけるクイーン。ヒルたちはプサイの傷口を塞ぐように表皮に擬態し、粘液を分泌して治療。失血が止まる。

 

 

「助かったでござる…」

 

「ライフルの直撃を何発も受けて助かるってすげえな……」

 

「あら。一晩ぐらい一緒にいると慣れるわよ?」

 

「慣れちゃだめだぞクレア。アレクシアを追いかけるぞ。……聞きたいこともできたしな」

 

 

 そう言って、先ほどスティーブが示した上階通路の階段とは反対側の扉に手をかけるクイーンと、それにクレア、スティーブ、プサイの順でついていく。

 

 

「(……残弾が少ない。武器を調達しなければ、まずいな)」

 

 

 元々H.C.F.の兵士から予備の弾倉もろともパクったアサルトライフルだったが、連戦続きで弾に終わりが見えてきていることに焦りを感じるクイーン。ここで強敵がまた出てきたら、まずい。そんな確信と予感と共に、それは現れた。

 

 

「みつけたぜい、生存者~!」

 

 

 パリンパリンと窓ガラスを蹴り砕きながら、乱入してきたのは赤紫色の身体を持つハンターが四体。そして、妙にテンションの高い声と共にその中心に宙返りして着地したのは、肩まで伸びる鮮やかな赤紫色の長髪を靡かせた、鱗を赤紫色に変えたオメガと瓜二つ、つまりはアリサの顔をした姿の少女。少女はプサイを視界に入れるとにこやかに手を上げて配下らしきハンター四体を制した。

 

 

「あんれ?お仲間いるじゃん!なになに?今から掃討するところだった?あたしたち、お邪魔ー?…でもおっかしいなあ。あたし以外に統率個体が来ているなんて聞いてないんですけどー。蜘蛛とか犬が蹴散らして、生き残りをあたしたちが掃討するって作戦だったはずじゃなかったの!?」

 

「……拙者の方こそ、おぬしらの様なハンターや姉妹は知らないでござるな。何者でござるか?」

 

 

 そんなプサイの問いかけに、少女は鋭い爪を持つ……桃色に塗られてネイルの様にも見える……右手の人差し指を立てて、わかってないなあとも言いたげにどや顔で左右に揺らした。

 

 

「ちっちっちっ。この子たちはただの狩人(ハンター)じゃなくて掃討者(スィーパー)、猛毒の爪を持つ次世代型ハンター!そしてあたしはそのスィーパー統率個体のハンターΘ(シータ)!スィーパー素体なのにハンターって名前なのウケなくない!?でもH.C.F.自慢のHaRT(ハート)型B.O.W.とはあたしのことだぜい!」

 

「…RT。ウェスカーの仕業か」

 

 

 元気に自己紹介するハンターΘ。ブラックタイガー・アラクネ。サーベラス・スキュラに続く、見覚えのあるB.O.W.の強化個体。しかもそのペラペラ喋った情報によれば爪に猛毒を持つという。厄介だ。

 

 

「拙者も人のことを言えないでござるが……暗殺者として大失格でござるな」

 

「あたしは暗殺者じゃなくて掃除屋だからいいんですー!今度はそっちの番だぞ!あんた誰?あたしとそっくりだけど!型番は!?」

 

「……ハンターΨ、といえばわかるでござろう?」

 

「なーんだ、くそ雑魚アンブレラの失敗作じゃん。ハンターΩとΨだっけ?失敗作のくせして名前は立派なの恥ずかしくないの!?ざーこ、ざーこ!」

 

「……なんかむかつくな」

 

 

 スティーブがぼやく。あまりにも時代を先取りし過ぎている気もするが、時代が時代なら「メスガキ」と親しまれている口調であった。ハンターΘはぐるぐるぐると右腕を振り回し、びしっと左手の指をクイーンたちに突きつけ、スウィーパーたちが爪を振り上げ身構える。狭い廊下を陣取られて、前には進めない。

 

 

「雑魚でも仕事だから掃除しないとね!さあ、掃討すんぞー!あたしのスウィーパーズ!えいえいおー!」

 

「……なんか、やる気がそがれるな」

 

「油断させるためだとしたら完璧なまであるわね……」

 

「え、そういうことか!?あぶねえ、騙されるところだったぜ!」

 

「多分アレが素でござるよ。拙者たちハンターは演技できるほど頭がよくないでござる」

 

「お前それでいいのか?」

 

 

 あまりにもしまらない戦いが始まった。




メスガキハンター降臨。スウィーパー版オメガです。直前に最重要標的であるアレクシアが通っているのに気づいていないアホの子だったりします。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:17【女王の恐怖】

どうも、放仮ごです。口調のせいなんだろうけどハンターΘ感想欄ですごく侮られてて笑うしかなかった。でも残念ながらその逆なのだ。

H.C.F.が生み出した最凶のハンターの力を見よ。楽しんでいただけると幸いです。


 洋館事件後。アンブレラを裏切り寝返ったアルテ・W・ミューラーというRT-ウイルスの温床を手に入れたアンブレラ社のライバルである製薬会社H.C.F.もやはりというか、RT-ウイルスのB.O.W.の開発に着手した。そのベースはアルテの遺伝子を用いたクローンであり、つまりリサ→アリサ→アルテ→そのクローンたちというややこしい存在だ。端的に言ってしまえばアルテの劣化版であり、RT-ウイルスへの耐性しかその特殊性を引き継いでいない。

 しかしH.C.F.にはマーカスやアイザックスの様な独創性を持つ研究者は存在しない。そのため、アルテが入手したアンブレラのB.O.W.リストを参考に既存のB.O.W.を強化することでいわゆるパクリ……もといリスペクト作品を生み出すに至った。

 

 そのリストの中で最も目を付けられたのが、優秀な生物兵器とされたハンターπと、そのプロトタイプともいえるハンターΩとハンターΨ。他にも優秀とされるサーベラスを用いたサーベラス・スキュラも生み出されたが、やはりハンターという生物兵器の優秀さ、およびその司令塔としてのHaRTシリーズの採用による殲滅力は群を抜く。

 

 そうして生み出されたのがハンターに猛毒を有させるやけくそとでも言うべき強化がなされた掃討者(スウィーパー)と、オメガと同じようにスウィーパーと同じ技法でアルテの遺伝子を用いてクローン培養して作り出したハンターΘ。

 しかし、嗜虐的な側面があるΩといらない知識を身に着けたΨひいてはアンブレラを超える存在として言い聞かせてハンターΘを育成したせいで、アンブレラを見下すH.C.F.上層部の思想をそっくりそのまま受け継いだばかりか、生まれたばかりの自分の方が優秀なんだという自尊心に満ちたモンスターが生まれてしまった。これには遺伝子の提供元であるアルテも頭を抱えたが、優秀なのに変わりはない。

 

 実際、血液に毒を回すことで全身に毒を回すことに成功しており、スウィーパーたちはただ毒を有するハンターというだけだが、ハンターΘはその影響で毒が肉体にも変調を齎し、アリサやアルテに及ばないものの異様な再生能力を与えている。腕力や脚力こそハンターΩやハンターΨには劣るものの、耐久力または経線能力はずば抜けているのだ。脳に回った毒が脳内麻薬の代わりをなしており、頭部に弾丸を受けようが腕がもげようが骨が折れようが意にも介さず作戦を実行する狂気を有していた。それに加えて掠るだけで数分で死に至る猛毒まで有しているので性質が悪い。

 

 たった四体とリーダー格のハンターΘだけでありながらラクーンシティ崩壊前のとある戦場では弾丸の雨を浴びながらほぼハンターΘ一人で敵兵を殲滅するという大戦果を挙げている。戦場における経験値だけなら、戦いよりも暗殺を任務としていたオメガやプサイ以上ともいえる。

 

 そんなハンターΘたちの部隊に与えられた命令は、ロックフォート島の襲撃で導入される新型であるブラックタイガー・アラクネやサーベラス・スキュラ、本体である襲撃部隊が取り逃した敵戦力の掃討。しかし上記の二体が優秀でほとんどが死体もしくはゾンビになってしまったために暇だったところに、遭遇した失敗作(プサイ)。ハンターΘの深層心理に刻まれた在り方が囁く。すなわち、己の方が強いという証明を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「援護する!突破するぞ!」

 

 

 開戦。間髪入れず、ズダダダダダダダッ!と、ありったけの弾丸をアサルトライフルで叩き込む。残りの弾丸全てを費やす勢いで放たれたそれをしかし、赤紫色のハンター……スウィーパーを率いたハンターΘを名乗った少女は避けもしないどころか、自らあたりに行ってスウィーパーたちへの攻撃を庇っている。弾いているわけではない、血は噴き出てるし当たっている。なのに、身じろぎ一つしない…!痛みを感じてないのか…!?

 

 

「んべっ。まっず!あたしの大事なスウィーパーたちになにしてくれてんのさ!」

 

「くっ…なら!」

 

 

 体内に撃ち込まれた弾をちょこっと出した舌の上に乗せ、吐き捨てたハンターΘに、飛び込んで体当たり。壁に叩きつけ、破壊して外……ゴルゴーン三姉妹の位置とは真逆の場所……に投げ出されながら、月光に照らされながら転がる私とハンターΘ。見れば、クレアとスティーブとプサイが力を合わせてスウィーパーたちに応戦していた。そっちは任せるぞ!

 

 

「必死過ぎてウケる!その程度じゃあたしには通用しないっつーの!」

 

 

 爪を振り上げ飛び掛かってくるハンターΘの顔面に、カウンターに拳を叩き込む。確かに鼻を砕いた感触がしたがしかし、やはり怯まず爪を叩きつけてきた。鼻血を流しながらも楽しげにハンターΘは嗤っている。

 

 

「あはっ!まずは一人……あれ、手ごたえない…!?」

 

 

 鳩尾に突き刺さるハンターΘの爪。しかし、それは突き刺さった部位ごと沈み込み、背後に抜けてその腕を私の胴体で拘束する。貫かれた部位だけを分離して、その穴に奴を拘束したのだ。

 

 

「はあ!?きもちわるっ!?」

 

「気持ち悪くて悪かったな!」

 

 

 そして驚愕しているハンターΘの頭頂部に、肘打ちを叩き込むがハンターΘも負けてはおらず、拘束している腕が折れるのも構わずにくるりと身体をひっくりかえし、その長く素肌を晒している足の太腿で締め上げてきた。さらに左腕で窓枠を掴み、更に反転。今度は私の身体がひっくり返され、頭から床に叩きつけられ、胸からも腕が引き抜かれる。

 

 

「があ!?」

 

「よっわ。ざーこ、ざーこ!」

 

 

 そのままごきゃッと音を立てながら折れた腕をはめなおして再生させたハンターΘの、勢いよく振り上げた右足によるサッカーボールキックが顔面に炸裂。蹴り飛ばされ、訓練所の壁を破壊してバスルームに転がり込む。壊れたシャワーから水が噴き出てびしょ濡れになりながらも、立ち上がる。常人だったら蹴り砕かれている威力だ。プサイには及ばないが、とんでもない身体能力だ。

 

 

「あはっ、真っ赤!ウケる!」

 

 

 だらだらと再生した鼻から垂れる血に塗れた左手を見ながら首を傾げ、狂気の嘲笑を浮かべながら歩いてくるハンターΘの姿に、恐怖が頭によぎる。G生物に対する根源的な恐怖とは違う。理解できない、そう言う恐怖。私の身体を構成しているヒルたちが怯えているのがわかる。痛みを我慢して頑張るアリサとよく似た再生能力だが違う。これは別物だ。

 

 

「お前は、なんなんだ……?」

 

「あたしはハンターΘって言わなかった?物覚えも悪いの?ざーこ!」

 

「……ならこういうのはどうだ」

 

 

 合掌した両手の先端を突きつける。さっき覚えたばかりの新技。足元を浸す水を吸収し、循環させたそれを圧迫。合わせた掌の中で加圧して限界まで圧縮し一点から解放、音速を超えて撃ち出す…!

 

 

「穿水!」

 

「っ!」

 

 

 音速を超えた水のレーザーが射出され、反応が遅れたハンターΘの胸を穿つ。水の勢いに踏ん張り切れず、吹き飛ばされるハンターΘ。合掌したまま両手を下ろし、様子を窺う。やったか…?

 

 

「……あっは!」

 

 

 しかし、ハンターΘは足を基点に腰から持ち上げ、上半身をだらんと背後に垂らした姿で立ち上がり反動で起き上がる。胸の上半分が吹き飛び、首もえぐれて血まみれだ。なのに、血を吐きながらも嘲笑をやめないハンターΘに、思わず後ずさる。

 

 

「びっくりしたあ。ウケる!すごいすごい!」

 

「……バケモノめ」

 

「負け惜しみしかできないわけ?ざーこ!」

 

 

 瞬間、穿水を放つも今度は簡単に避けて、そのまま薙ぎ払ったウォーターカッターを爪で弾きながら笑顔で肉薄してくるハンターΘ。認めるしかない、強敵だ。




つまり腐ってないゾンビみたいな毒持ちハンター、それがハンターΘ。クイーンが恐怖を抱くほどの狂気。なにも生み出されたばかりだとは一言も言ってなかったのだ。では勝てるのは…?

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:18【スウィーパー】

どうも、放仮ごです。ロックフォート島編が思ったより長くなりそうな件について。プロットよりも文章が長くなったせいですね、はい。

プサイVSスウィーパー。楽しんでいただけると幸いです。


「……ぐうっ、やられたな。たかが人間とそれに与するものだと侮った挙句に海まで吹き飛ばされるとは」

 

 

 ロックフォート島の、公邸・訓練所と囚人棟を繋ぐ鉄橋の下。海に通じる崖になってる岩壁に横に張り付き移動する異形がいた。ブラックタイガー・アラクネだ。クイーンの策によるガス爆発をもろに受けた彼女は海まで吹き飛んだものの、糸を飛ばして壁にくっつけることで水没を回避していたのだ。ブラックタイガー・アラクネは焼けただれている右腕でぐちゃぐちゃになってた左腕をコキコキと動かして元に戻しながら、八本の節足をシャカシャカ動かして、崖の上までやってくる。その視線の先には、巨大な六本腕の影……ステンノーが鎮座しているのが見える訓練所があった。

 

 

「……ははは、あんなのに比べたら私なんか虫けらじゃないか…………」

 

 

 彼女は聡明だった。生物としてもともと知能が高く、頭がいいことを創造主たちに知られたらロクな目に遭わないとわかった上で馬鹿な言動で知能が低く見えるように偽った。故にわかる、わかってしまう。あの六本腕の蛇に、己は絶対に敵わない。あれは肉体の強さが別格だ。見つかれば終わりだ。ギョロリ、とその六つの眼がこちらに向けられ咄嗟に物陰に隠れるブラックタイガー・アラクネ。

 

 

「……私はH.C.F.に思い知らせるんだ。私を支配できるなんて思い上がりも甚だしいと。奴らの人形なんかではないと証明する。……アンブレラかH.C.F.かどっちかは知らんが、上等だ。私を下に見る者全員殺してやる」

 

 

 そう己に誓ったブラックタイガー・アラクネは、ステンノーの視線に入らないようにしながら移動し始めた。彼女馬鹿じゃない。一人で挑んだら返り討ちに遭うのは目に見えて居る。だから、やるべきことは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スウィーパー二体の腕を鷲掴みにし、振るわれるもう片方の爪を避けながら残りのスウィーパー二体と戦うクレア殿とスティーブ殿に視線を向ける。クイーン殿に一番厄介なハンターΘを押し付けた形になってしまったのだ。この四体は拙者たちで倒さなくてはならない、絶対に!

 

 

「絶対に攻撃を受けちゃだめでござる!」

 

「オーライ!」

 

「承知してるぜ!」

 

 

 ナイフで鍔競り合うクレア殿と、振るわれる腕を蹴り上げて対応しているスティーブ殿。やはりこの二人は強い。心配しなくてよさそうだ。

 

 

「司令塔がいなければお前たちなど!」

 

 

 鷲掴みにしたままの腕をひいて体勢を崩し、飛び上がって二段蹴り。一発ずつスウィーパー二体に叩き込み、後退させる。拙者は遠距離攻撃を持たない。故に攻めるのみ!

 

 

「行くでござる行くでござる!」

 

 

 左腕の爪を振るう。右手で握った拳を振るう。カエルの様な太腿の脚で蹴り上げる。拙者の持てる全ての攻撃を織り交ぜる。スウィーパーたちは「防ぐ」という行動を知らないのか、回避に専念していたが角まで追い込まれると、一転攻勢。猛毒の爪の猛攻を叩き込んできて、咄嗟に天井に飛びついて左手の爪を天井に突き刺し逆さまになることで回避。一体が気付いて爪を振り上げてきたのを、右手で手首を握って受け止め、怪力で持ち上げる。

 

 

「キシャア!?」

 

「とりゃああああっ!」

 

 

 そして空中で投げ出し、左手の爪を基点に天井に張り付いたまま振り子の様に身体を振って、空中で身動きが取れないスウィーパーに横蹴り。カエルの遺伝子を持ち脚力に関していえばオメガ殿すら上回る威力が叩き込まれ。スウィーパーは吹き飛び角の自動販売機に激突して、缶ジュースを転がしながら崩れ落ちた。まずは一体。そのまま左手の爪を動かし、天井から外れて着地する。

 

 

「シャア!」

 

「おっと」

 

 

 すると、鋭い爪がついた右足による飛び蹴りを繰り出してきたもう一体のスウィーパーの攻撃を、跳躍して回避。煙を上げる自動販売機の傍まで近づき、炭酸ジュースの入っている缶を手に取り放り投げる。飛んできたそれを、反射的に斬り裂いたスウィーパーは中身の炭酸をもろに顔に被り、目が染みたのか目元を押さえるその肩を左手で掴み無理矢理振り返らせる。がら空きでござるよ。

 

 

「エヴリン殿直伝!」

 

「キシャ…!?」

 

「ファミリーパンチでござる!」

 

 

 そして、正確には直伝ではないでござるがエヴリン殿の記憶から学んだ、一番威力が出るパンチの仕方で右の拳を叩き込む。必殺の拳を受けたスウィーパーは頭がもがれて血を噴き出させながら倒れ込み、拙者はクレア殿とスティーブ殿が相手をしている二体に振り返る。

 

 

「次は、おぬしたちでござる」

 

「「キシャッ!?」」

 

 

 するとクレア殿とスティーブ殿の相手をやめて、壁の穴に飛び込み逃亡する二体のスウィーパー。

 

 

「クレア殿とスティーブ殿はアレクシアを!クイーン殿は拙者が!待つでござるよ!」

 

 

 二人にアレクシアの追跡を任せ、拙者も飛び降りる。すると水のレーザーが飛び交う戦場に出る。見れば、G生物のしていた様な構えをしたクイーン殿が、水のレーザーを乱射し、それを受けて吹き飛びながら何度も飛び掛かるハンターΘの姿が見えた。それに駆け寄るスウィーパー二体も。

 

 

「あれえ?残り二人は?もしかしてやられちゃった?……ムカつくかも」

 

 

 スウィーパーに向けて放たれた水のレーザーを、側頭部で受け止めて庇いながらスウィーパー二体に問いかけるハンターΘの視線が、こちらを向く。純粋な殺意が、拙者に突き刺さる。身がたじろぐ。

 

 

「あーもう、うざい!」

 

 

 ハンターΘが指を突きつけると、スウィーパー二体がクイーン殿目掛けて飛び込んでいく。そして、ハンターΘの標的はこちらに移り変わったらしく獰猛な笑みを浮かべている。

 

 

「せんぱぁい。あたしの可愛いスウィーパーを二人も倒して調子に乗ってるみたいだけどぉ……ざこの失敗作があたしに勝てるとでも思ってんの?ウケる!」

 

 

 何故か血まみれの顔で挑発してくるハンターΘに、恐怖が植え付けられる。それでもと、深く腰を落とし爪の切っ先を相手に向け、軽く右手を添えて突撃する。エヴリン殿の記憶にある、中距離を一気に詰める剣技。これで心の蔵を貫く…!

 

 

「名付けるならば、爪突(そうとつ)!」

 

「アッハ」

 

 

 それはハンターΘの反応すら許さずに、その左胸を穿つことに成功。しかしそれでも、ハンターΘの笑みは崩れない。

 

 

「ざぁーこ」

 

「くっ…かはっ!?」

 

 

 返しの刃を、咄嗟に身を捻って避けるも、続けて繰り出された膝蹴りが胸部に突き刺さる。吐血し、吹き飛ばされる。確かに心臓を抉っている。心臓を潰されて、なぜ生きているのでござるか…!?

 

 

「あーあ、止まっちゃった。よっと」

 

 

 すると露出した心臓に爪を突き刺したかと思えば、ドクン!と胸が跳ねて再び動き出す。…蘇生!?毒を使ったでござるか?いや、まず、そもそも胸を抉られて平然といられるはずが…!?

 

 

「くっ……プサイ、そいつは!恐らく、痛覚が存在しない!」

 

「まことでござるか!?」

 

「そ・ゆ・こ・と。これでわかったでしょ?お前たちはざこであたしは最強ってこと。そこに隠れてるざこも出てこいよ、あたしが気付かないとでも思った?」

 

「……」

 

 

 するといきなり背後、外壁に視線を向けるハンターΘ。すると壁が解けて、見覚えのある異形の姿が現れる。金と黒の縞々の短髪を有している黒い糸を水着の様に纏わりつかせた少女の上半身が生えた、巨大な虎の様な黄色い模様が走った漆黒の蜘蛛……囚人棟で一戦交えた、やつだ。生きていたのでござるか!?

 

 

「なんだ、ブラックタイガー・アラクネじゃん。先行部隊の出番は終わったから。ざこはざこらしく帰っていいよ」

 

「……そいつらにしてやられた……しかえし、したいぃ……」

 

「あ、そう。ざこに負けるなんてやっぱりざこじゃん。ウケる!いいよいいよ、好きにして」

 

 

 ひらひらと手を振って、ブラックタイガー・アラクネを受け入れるハンターΘ。厄介なことになったでござる…。




生きていたブラックタイガー・アラクネ参戦。仕返しするためにハンターΘと組んで悪夢のタッグ誕生です。

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fileCV:19【ディオスクロイ】

どうも、放仮ごです。ロックフォート島編が長い理由って仕掛けというかあまりにも入り組んでいるせいだと思ってます。マップ読み取るだけでも時間がかかる。

今回は五つの恐怖の最後の一体が登場。楽しんでいただけると幸いです。


 その双子は、それはそれは仲睦まじかった。その兄妹は、アンブレラの研究者とスペンサー記念病院の患者だった。不治の病を患った妹と、それを治そうと奮闘する兄。兄はどんなに悪事に手を染めようと妹を治療しようと試みて、妹は自分なんかを忘れて兄には幸せになって欲しいと心から願っていた。互いに互いを思い、愛し合っていたと言っても過言ではないほどだった。

 

 しかし、互いを互いに思いすぎるが故に、悲劇は起きた。兄は眠っている妹に無断でアンブレラから持ち出したT-ウイルスを投与してしまい、あとから知らされた妹はそのことに激怒。さらには弁明する暇すらなく嗅ぎつけたアンブレラに2人揃って拘束されてしまい、妹は兄に大嫌いだと拒絶の意を示し、兄も妹に理解されないことを嘆き怒り慟哭し、憎み合ってしまった。憎み合ったまま、ロックフォート島に連行された。T-ウイルスに適合してしまった妹と遺伝子情報が酷似している双子である兄はアレクシアに目を付けられ、そして。

 

 ステンノー。エウリュアレー。メデューサ。サクリファイスコヤンに続く、五つの“恐怖”の一つとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二階廊下を抜けて、倉庫までやってきたクレアとスティーブ。そこには、落書きが大量になされた異様な空間が広がっていた。ゾンビ化しかけた警備員と思われる死体が、頭を失った状態で何人も倒れている。何かに排除されたらしい。

 

 

「……ここが、訓練所の中心……」

 

「アルフレッドが所長なんだろ?頭の検査が必要だな。早くアレクシアを見つけてとっ捕まえようぜ」

 

《「スティーブ。冷静にならないと危険よ。でないとあなた死ぬわよ」「お兄様、趣味が悪いわ」「なにをいう。お前を捕まえようとしている奴らの方が趣味が悪いだろう」》

 

 

 スピーカーから響き渡るアルフレッドの声。クレアの物まねをして気色悪い声出して、アレクシアに窘められてる。アルフレッドとアレクシアが合流したらしい。

 

 

「兄妹揃ってイカれてんな!」

 

《「なんだと!我々を侮辱したな!」「落ち着いてお兄様」》

 

「スティーブ、挑発に乗らないで。悔しいけどあいつの言う通り、一回冷静になって」

 

「冷静になれるかよ!クイーンとプサイは危険な奴らを相手にしてるんだぞ!俺達は足手まといだ!やれることをやらなきゃ、男が廃るぜ!」

 

《「心外だな。親切心から言ってやってるのに。だがいいだろう、お相手仕る。……バンダースナッチ」》

 

 

 一階に降りたクレアとスティーブの進んできた上に、いつの間にかやってきていた、下半身が退化し、左腕が欠損した代わりに右腕が極端に異常に肥大化しているアンバランスなシルエットが特徴のタイラントの様な怪物が二体、姿を現した。アルフレッドが考案したタイラントをベースにした量産型B.O.W.の試作品で、1つの兵器としての完成度よりも実用性を重視されて生み出されたそれの名はバンダースナッチ。

 

 

「タイラント……の出来損ない!?」

 

「気味の悪いやつばっかりだな!」

 

 

 巨大な右腕を伸ばしてくるバンダースナッチ二体の攻撃を、クレアとスティーブは咄嗟に横転して回避。床に落ちていた警備員の物と思われるショットガンをクレアが、二丁のキャリコをスティーブが拾い上げ、腕を伸ばして降りてきたバンダースナッチ二体に銃撃を叩き込む。タイラントほど耐久力を持っていないバンダースナッチはすぐさま沈黙。まだ弾数の残っているキャリコを振り回し、スティーブはどこから見ているかわからないアシュフォード兄妹を威圧する。

 

 

「どうした、こんなもんか!変態兄妹め!」

 

《「誰が変態だ貴様っ、侮辱するのもいい加減にしろ!それに、そんなわけがないだろう。それは前座だ。そこまで言うのならばお見せしよう。アレクシアの傑作、其の名を……!」》

 

 

 そんな言葉と共に、目の前のGoTo Heaven!と落書きされた扉が強引に開けられて、それが姿を現した。頭部に角が上を向いた水牛と角が下を向いたバッファローの皮を半分ずつ被った、上半身裸でタイラントの様に筋骨隆々で腕や腰にベルトを幾つも巻き付けて、下半身は黒い腰布と黒いズボン、そして鉄の音を鳴らすブーツを履いた二メートル大の巨人。水牛の皮を被った右半身は角が上を向いていて皮膚は金色に近く目は吊り上がって赤く、バッファローの皮を被った左半身は角が下に向いていて皮膚は銀色に近く目は垂れ下がって青い。まるで異なる二種の巨人を無理やり結合させたような、そんな不気味な容姿。

 

 

《「「ディオスクロイ」」》

 

「おれ、おれれれれれれ/わた、しししししししねねねねねねね」

 

 

 アルフレッドとアレクシアの声が重なり紡がれたのは双子座を意味する名前。ギリシャ神話のアルゴノーツに乗っていたというゼウス神の子である双子、ディオスクロイが右拳を振り上げ、叩きつけてきた。

 

 

「タイラントの色違い…!?」

 

「さっきの出来損ないの完成形か!?金銀なんて豪勢だぜ!」

 

 

 咄嗟に後退して回避したクレアとスティーブは怯まない。ショットガンを連射して頭部に当て、キャリコの弾丸を胴体に掃射する。しかし防弾になっているらしいベルトが巻かれている腕を頭部と胴体を隠すように移動させて防御。煩わしそうに唸ると、右の角を向けて突進。

 

 

「しまっ…」

 

「クレア!」

 

 

 右手でクレアの脚を掴み、振り回してGoTo Heaven!と落書きされた扉目掛けて投げ飛ばし、ディオスクロイは自分でやったにもかかわらず不機嫌そうにそれを追いかけながら左腕を動かし腰の腰布からなにかを引き抜いた。それはダークと呼ばれる暗器だった。投擲し、追いかけようとするスティーブを牽制するディオスクロイ。スティーブは違和感を抱く。見た目通りのパワー型かと思いきや、武器を使ってくるなど狡猾な一面もある。その行動はちぐはぐで、まるで二人同時に相手しているような。

 

 

「スティーブ!私がおびき寄せる!」

 

「……っ、待て!クレア!その役目は俺だ!」

 

 

 扉の向こうの部屋の中に入れられ、狭い中を逃げ始めるクレア。それを追いかけようとしながら、こちらにも視線を向けるディオスクロイ。どちらを選んでも狙われていないもう片方が反撃できる。そう考えたクレアとスティーブだったが、ディオスクロイの行動は予想を超えていた。

 

 

「おれれれれれ、おまえといっしょやだ!/わたたたたしししももも、いやだ!」

 

「「ふんっ!」」

 

「なあ!?」

 

 

 なんと、己の肉体の色が違う境界線に両手をかけたかと思うと、力任せに右半身と左半身を縦真っ二つに分断。それだけではない。両者共に分離をするとそれぞれの断面部から黒い触手を出し、それを絡ませて同じシルエットのもう半身を形作り、人型として二体に別れて行動してきたのだ。これがディオスクロイのディオスクロイたる由縁。2人で1人。一人で二人の怪物。金色の水牛の方がカストール。銀色のバッファローの方がポルックスと呼ばれていた。

 

 

「おれれれれ、おまえよりりりつよいいいいい!」

 

「ぐっ…!?」

 

 

 カストールは牛の如き突進でクレアに猛追すると、助走をつけてドロップキック。鉄板が仕込まれたブーツにより壁を容易く粉砕する一撃の余波でクレアは吹き飛び、ゴロゴロと通路を転がっていく。

 

 

「わたししししし、きれれれれいいい!?」

 

「趣味じゃないぜ…!」

 

 

 ポルックスは左の腰布からダークを始めとした暗器を次々と引き抜いて投擲。スティーブはキャリコを振って払いのけていくが、ポルックスが左足を振り上げ、踵に仕込まれていた鉄板…ではなく飛び出した鉄の刃で回し蹴りの要領で壁を引き裂き、スティーブに冷や汗をかかせる。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 キャリコの弾丸を浴びせることで、黒い触手で形作ったもう半身は脆いと気付いたスティーブ。それを見てクレアも気づき、弱点だとして集中的に狙って攻撃する。しかしそれはわかっているのか、カストールとポルックスは視線を交わして頷くと、飛び込むようにして再び合体。両腕の防弾ベルトで弾丸を弾いてしまう。

 

 

「はあああ!」

 

「はなれろろろろ!/いわれれれえなくてもぉお!」

 

 

 ならばと、合体したところを纏めてダメージを与えようと、右足を振り上げハイキックを叩き込むクレア。しかしディオスクロイは再び分離して攻撃を回避。カストールとポルックスが同時攻撃でクレアを襲い、スティーブが援護射撃をしてその場から逃がす。

 

 

「片方だけでも強いのに、厄介ね…!」

 

「仲悪いならそのまま同士討ちしてしまえよ!」

 

「「あに/いもうとをころすすすわけがあががなぁああい!」」

 

「ごもっともだぜこんちくしょう!」

 

 

 スティーブの文句に声を揃えて反論した双子の怪物の答えに投げやり気味にスティーブは吐き捨てキャリコを構える。

 

 

「やるしかないぜ!クレア!」

 

「ええ、スティーブ!」

 

 

 頷き合い、銃を構えるクレアとスティーブに、ディオスクロイは再び合体して襲い掛かるのだった。




その頃一方ゴルゴーン三姉妹は暇していた……!サクリファイスコヤンはなぜかゾンビ犬狩りをしていた…!……いやまあ出番の問題とはいえ正直もう少し何とかなったと思う。

 モチーフが一見わかりにくいオリジナルB.O.W.ディオスクロイ。いつもお世話になってるお馴染みエレメンタル社-覇亜愛瑠さんから提供されたクリーチャーの案をベロニカ編に合わせて改良したものになってます。もともとは兄弟だったけどある理由のためにアシュフォードやレッドフィールドみたいに兄妹になりました。モチーフは金角銀角です。

 兄の方カストールはプロレスが得意な単純な肉体派。妹の方であるポルックスはからめ手を得意とする狡猾な技巧派。合体すると防御力が高く、分離するとその特技を100%活かしてくる、という仕様になりました。バイオのボスっぽいと思っていただければ幸い。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:20【嘘つきの咎人】

どうも、放仮ごです。序盤の大量に出てくる名前でめちゃくちゃ時間がかかったのは内緒。どういう奴なのかは秒で思いついたんですけどね……。

今回はクイーン&プサイコンビVSハンターΘ&ブラックタイガー・アラクネコンビ。楽しんでいただけると幸いです。


 H.C.F.はアットホームな職場である。……というのは冗談だが、H.C.F.製の自我があるB.O.W.たちは、間違っても同士討ちしないように、新しく誕生するたびに“顔合わせ”をする。そうすることで仲間意識を培う、事が目的ではない。仲間としての助け合い、ではなく、どんな時でもより優秀な者の命令に従う様に上下関係を徹底的に叩き込まれるのだ。

 

 一部の人間……特にH.C.F.に援助しているスポンサーである金持ちや軍の人間への忠誠心と、アンブレラとそのB.O.W.への対抗心と敵意はすべてのH.C.F.製B.O.W.に植え付けられるのだが、明確な自我を持ち癖がありすぎる性格になってしまうRT-ウイルスを用いたB.O.W.には、弱肉強食の生存競争を伴ってヒエラルキーを確立させ、命令系統を掌握することで制御する、が目的だった。

 

 その中でも頂点の位置にいるのがハンターΘだ。パピルサグ。サーベラス・スキュラ。スコロペンドラ。エリミネート・イエティ。ブラックタイガー・アラクネ。ウアジェト。バロメッツ45。ネプチューン・レモラ。ワスプ・ワイバーン。節操なしに作り上げたアンブレラのパク……リスペクトした怪物たちを、軒並み叩きのめして圧倒的な力の差を見せつけたのがハンターΘだった。なにをしようがビクともせず、嘲笑を浮かべながら執拗に攻めてくるハンターΘに、生まれたばかりのものが多い怪物たちは泣き喚いた。ブラックタイガー・アラクネも、強酸性の消化液を飛ばしてドロドロに溶かしたのに笑って襲い掛かってこられたので即座に降参した一人だった。

 

 故にブラックタイガー・アラクネがハンターΘに従うことは自然の摂理であり、道理だった。……たとえ、それが演技で、内心H.C.F.に対する反抗心をメラメラと燃え上がらせていたとしても、生物である以上、弱肉強食には抗えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ……お前たちはそこに張り付いてろ!」

 

 

 プサイの乱入。ブラックタイガー・アラクネの参戦。ハンターΘとの戦いで劣勢を強いられていたクイーンは、自らに嗾けられたスウィーパー二体を粘液糸で壁に磔にして拘束。身動きが取れない二体を一瞥し、ハンターΘとブラックタイガー・アラクネを同時に相手取ってるプサイに助力せんと突撃する。

 

 

「ざーこ、ざーこ!せんぱぁい、虫けらの相手もできないんですかぁ?」

 

「とらえるぅ!」

 

「ええい、黙るでござる!」

 

 

 八本の節足をシャカシャカと動かし、黒い蜘蛛の糸で鋭利に武装した両腕を振り回して突撃してくるブラックタイガー・アラクネの連続攻撃を避けながら、高みの見物で煽り散らしてくるハンターΘに怒鳴るプサイ。心が広い彼女にも我慢できないものがあるらしい。そんなハンターΘの右腕に粘液糸を飛ばし、引っ張ろうとするが逆に引っ張られたクイーンがラリアットを受けてひっくり返り、腰から叩きつけられる。

 

 

「くそっ…!?」

 

「不意打ちなら勝てると思った?ざーこ!」

 

 

 そのまま糸が繋がったままクイーンを蹴り飛ばし、ピンと張られた糸を引っ張って戻ってきたクイーンをさらに蹴り飛ばし、咄嗟に糸が繋がった右腕の肘から先を切り離してゴロゴロと転がり立ち上がるクイーンの動きを読んでいたかのように、眼前に迫るハンターΘ。

 

 

「はい、ドーン!」

 

「クイーン殿ぉ!?」

 

 

 飛び膝蹴りが顔面に突き刺さり、吹き飛び転がるクイーンに、その右腕を投げ捨てるハンターΘは嗜虐的に嘲笑う。プサイもそれに気を取られ、ブラックタイガー・アラクネの鋭利に黒い糸で武装した五指によって胴体を引き裂かれる。

 

 

「不覚……」

 

「どろどろにぃ、とけろぉお!」

 

 

 右手で傷口を押さえながら後退し、即座に再生を始めるプサイ。追撃とばかりに息を大きく吸い込み、クイーンたちに向けて黄緑色の液体の弾丸を口から射出するブラックタイガー・アラクネ。強酸性の消化液の弾丸がプサイに迫る。

 

 

「プサイ!」

 

 

 顔に炸裂する、その寸前で倒れたままのクイーンが粘液糸を飛ばし、プサイの右足にくっつけ引っ張ることでひっくり返して回避させ、引き寄せた勢いでプサイを抱きしめ、ゴロゴロと回転。追いかけてきたブラックタイガー・アラクネの鋭い節足によるストンプを、プサイを抱きしめたまま回避していくクイーン。そのまま外壁にぶつかり止まったところに、跳躍したハンターΘの飛び蹴りが炸裂。咄嗟に立ち上がって左右に避けたことでクイーンとプサイは回避する。

 

 

「ふーん、やるじゃん。ざこにしては、だけど。なに仕留めそこなってるのさブラックタイガー・アラクネ。だからざこなんだよ、虫けら」

 

「ごめん……なさい……」

 

 

 外壁を粉砕したハンターΘに項垂れて謝罪するブラックタイガー・アラクネ。つかの間の休息で深呼吸し体力を回復させながら、敵から目を離さずにクイーンはプサイに問いかけた。

 

 

「……気付いているかプサイ」

 

「うむ。……明かに知能がまた下がっているでござる。演技かそれとも頭をぶつけでもしたか……」

 

「こんどこそ、ころす……」

 

 

 すると、蜘蛛の下半身の尻に手を伸ばし、そこから糸を引っ張り出したブラックタイガー・アラクネは、尻から伸びたまま両手で握りピンと張ったそれに、口をもごもごさせてペッ!と吐き捨てる。背後のハンターΘも口に手を当ててドン引きしている中、強酸性の消化液を被せた糸をグルングルンと振りまわし、当たった地面を融解させていく光景に、青ざめるクイーンとプサイは、自然と脚に力を込めていた。

 

 

「し、ねええええ!」

 

 

 ブン、と横に高速で振るわれた強酸性の鞭が、外壁を両断しながら二人に迫り、プサイは跳躍して上に、クイーンは一回その姿を崩して下に回避。

 

 

「なんの…!?」

 

「見え見えなんだよ、ざーこ!」

 

 

 しかし、上に避けたプサイを待ってましたとばかりにハンターΘが飛び回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばし、腕立て伏せの体勢で元の形に戻り腕だけの力で立ち上がったクイーンを、振り回されて上空に上げられた強酸性の鞭が、上から下に振るわれて襲い掛かる。

 

 

「ぐ、うううううっ!?」

 

 

 咄嗟に粘液硬化した両腕をクロスして受け止め、弾き飛ばされたクイーンは、吹き飛びながらも粘液を弾丸にして連射。次々と上半身に叩き込まれた粘液糸の弾丸はブラックタイガー・アラクネに衝撃を与え、たたらを踏ませて後退させるも、プサイを蹴り飛ばして着地したハンターΘに斬り払われてしまい、そのままガッシャーン!と大きな音を立てながらバスルームに激突し、浴槽を破壊して転がった。

 

 

「今のはよかったじゃん虫けら」

 

 

 思ったより強いブラックタイガー・アラクネに気分を良くして背中をバンバンと強めに叩くハンターΘ。ブラックタイガー・アラクネの手では消化液の影響で糸が完全に溶け落ちてしまった。

 

 

「ほらほら、好きにしていいよー。お腹空いているんでしょ?きったない食べ方しちゃいなー?」

 

「…では、お言葉に甘えて」

 

 

 ブラックタイガー・アラクネに食事を煽るハンターΘ。ギョロギョロギョロッと、真っ赤な三つの瞳が片方ずつ、計六つの眼が瞳孔の中に存在しているブラックタイガー・アラクネの複眼が睨みつけ、そして前に向けられた。

 

 

「………好きにさせてもらう…!」

 

「ぐっ…!?」

 

 

 瞬間だった。ブラックタイガー・アラクネは蜘蛛の尻から糸を飛ばし、その直上にいたハンターΘの首を絞め上げた。右手で糸を握り、引っ張って締め付けるブラックタイガー・アラクネに、ハンターΘは右手の爪で糸を斬り裂こうとして、その手首を左手で握られ無力化される。

 

 

「おっ、まえぇ……!」

 

「この時を待っていた……お前が私に気を許し、油断するこの時を……!私がバカだと思ったか?」

 

「なにが、起きているでござるか…?」

 

 

 首を絞め上げられ、泡を吹いてもがき苦しむハンターΘの姿に、クイーンを助け起こしながら動揺するプサイに、顔を向けたブラックタイガー・アラクネは満面の笑みを浮かべて、告げた。

 

 

「私と組め!お前たちとなら、あのでか蛇にも勝てる…!」

 

「…なるほど、やっぱり嘘つきだな、お前」

 

 

 その言葉に、よろめきながら不敵な笑みを浮かべるクイーン。ブラックタイガー・アラクネが選んだのは、知恵を持って自らを打倒してみせたクイーンたちとの共闘だったのだった。




痛覚がなくても気道を封じられたら息できない、のがハンターΘの弱点でした。そして嘘つきの蜘蛛女、参戦です。以下H.C.F.製B.O.W.一覧。

・パピルサグ:遠距離攻撃型セルケト。

・スコロペンドラ:水棲型ヘカトちゃん。

・エリミネート・イエティ:雪山対応エリミネーター。

・ウアジェト:コブラ型のヨナ。

・バロメッツ45:もこもこの綿毛を扱うドライアドまたはベルセポネ。

・ネプチューン・レモラ:コバンザメ型グラ。とにかくくっつく。

・ワスプ・ワイバーン:飛行能力に特化したワスプ。


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fileCV:21【その名はモリアーティ】

どうも、放仮ごです。タイトルで「?」と思った人たちとピンと来た人たちで分かれそう。

今回はハンターΘの真実が明らかに?楽しんでいただけると幸いです。


 もがくハンターΘの首を糸で締め上げながら、クイーンとプサイに共闘を持ちかけるブラックタイガー・アラクネ。

 

 

「私と組むのか組まないのか。今すぐ決めろ!……えっと、名前なんだったか!」

 

「クイーンだ。名前すら覚えてない相手と組むつもりだったのか?」

 

「プサイでござる。いやはや、豪胆でござるな。やり方は褒められないでござるが気に入ったでござる!」

 

「それで、ブラックタイガー・アラクネだったか……策はあるのか?」

 

 

 そう尋ねるクイーンに、ブラックタイガー・アラクネは不満げに口を膨らませる。

 

 

「その名前は、好きじゃない……」

 

「リヒト殿と同じでござるな。では名前を決めるでござる。この役割はいつもエヴリン殿だったでござるが……」

 

「あぎぎぎっ……」

 

 

 腕を組んで悩むプサイ。首を絞められていて今にも意識が飛びそうなハンターΘは視界に入っていないらしい。クイーンはそれを哀れそうに一瞥し、エヴリンの思考を思い出す。家族思いのバカ。時には手段を選ばないアホ。家族と認識した相手にはとことん甘く、家族を害するものには殺意をむき出しにする問題児。奴なら、プサイを一度殺しかけた相手には警戒し、どんなに気を許しても警戒を忘れないための名前を付けるだろう。

 

 

「……そうだな。蜘蛛……お前はモリアーティだ」

 

「モリアーティ?」

 

「すべてを蜘蛛の如く狡猾に支配し華麗な手口で遂行させる最凶の策士の名前だ。お前にぴったりだろう」

 

「モリアーティ……いいぞ。気に行った」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべてご満悦のブラックタイガー・アラクネ改めモリアーティ。その手にはいまだに糸が握られており、ハンターΘの首を絞め上げている姿は悪の教授の名にふさわしい。手を伸ばし、助けを求めるハンターΘを冷ややかに見降ろすモリアーティ。

 

 

「た、たすけ……ぐふっ……」

 

「誰が助けるものか。もはや用済みだ、そのまま死ね」

 

「待て。殺す必要はない。糸で拘束すれば無力化できる。……殺す価値もないだろう」

 

 

 そう言ってモリアーティを制し、膝立ちでプルプル震えているハンターΘを粘液糸で首から下をすべてグルグル巻きにするクイーン。プサイが首を絞めている糸を斬り裂いて、ハンターΘはびたーんと地面に頭から倒れ込んだ。

 

 

「ぷぎゅっ」

 

「こいつを放っておいたらどうなるかわからないぞ」

 

「必要以上に苦しめる必要はないでござる」

 

「こ、この……ざこのくせに……あたしを、殺す価値もない…?う、動けない……」

 

 

 芋虫の様にもぞもぞと身動ぎするハンターΘだったが、頼みの綱の爪は両腕を念入りに縛られて振るうことができず、もがくことしかできない。その事実に行きついたのか、顔を青ざめさせるハンターΘは、冷ややかに自分を見下ろすクイーン、プサイ、モリアーティを見上げて

 

 

「あたしを縛って調子に乗るとかざーこ、ざーこ!解放するなら今のうちなんだから!」

 

「そうなったらもう怖くもなんともないぞ。お前は無痛覚と再生能力に頼り過ぎだ。…それで?私たちと組みたいっていうからには策があるんだろうな」

 

「それは保証する。欲を言えばもう一人B.O.W.が欲しいところだが」

 

「正直この三人で1人一体ずつ相手にしても苦戦は必至でござるからなあ…」

 

「解放してくれたら手伝ってやらないこともないんだけど!?」

 

 

 モリアーティの言葉にこれ幸いとぴょんぴょん跳ねてアピールするハンターΘ。しかし無視されていることに気付くと、目を潤ませる。……ハンターΘが強さに固執していたことには理由がある。

 

 

「待って!謝る!謝るから!負けも認める!でも、ね、あたし強いでしょ!?力になるから!ねえ、だから無視しないで!」

 

「……悪いが信用できない。それに、今はお前のせいで分断されたクレアとスティーブが心配だ」

 

「二人とも、無事だといいでござるが……」

 

「それに今のお前は弱者だ。殺されないだけありがたく思え」

 

「じゃく、しゃ……?あたしが……?」

 

 

 モリアーティの言葉を受けてショックを受けるハンターΘ。ハンターΘはH.C.F.最強だ。そのことを自負しているし、誇りに思っている。その自我は自分が強いと思うことで保たれている。敵どころか仲間まで煽るのは自分が最強だと自覚したいからだ。至極単純な思考回路だが、そもそも生まれて一年未満の子供どころか赤ん坊である。負けを認めなきゃいけない状況に追い込まれ、その矮小な心は折れた。

 

 

「うわあああああんっ!!やだ、やだよお!弱いって言われて捨てられるのやだあああ!一人ぼっち怖いのお!なんでもするからあたしを一人にしないでえええ!!」

 

「え、ええ……」

 

「お、落ち着くでござる…」

 

「お、お前そんな奴だったのか…?」

 

 

 号泣。今までにない性格のハンターΘにたじたじのクイーンとプサイ。モリアーティすら見たことない姿に動揺を隠せない。そして、ただでさえ騒々しい戦闘音を起こしていたのにそんな大声を出せば、どうなるかは明白で。

 

 

「なんか聞こえるなーと思って見に来てみれば…壁を破壊して外に出てきたのかしら?かしこいわね」

 

「「「!?」」」

 

 

 ひょこっと、屋根に手をかけて顔を出して邪悪な笑みを浮かべたのは、ゴルゴーン三姉妹の長女にして巨体の持ち主、ステンノー。六つの眼をギョロギョロ動かしながら六本の腕で身体を持ち上げて身を乗り出し、その横にスタッと着地したのは、尻尾で少女を抱えたすらりとした蛇の顔を持つ女性。メデューサとエウリュアレーだ。

 

 

「エウリュアレー姉さま、出入り口は一つしかないはずでは……?」

 

「いや、壁に穴開けるのは思いつかないわよ」

 

「私達、壁に穴開けて出てきたんだけどねえ」

 

「………」

 

「あ、ぐうの音も出ない」

 

「うるっさいわよ!?」

 

 

 呑気に痴話喧嘩を繰り広げているゴルゴーン三姉妹に、身構えるクイーン、プサイ、モリアーティ。その下で、泣き喚いていたハンターΘは状況を確認すると泣き止んで、自信満々な顔で告げた。

 

 

「あんなのざこで余裕だし、解放してくれたらこのあたしが、手伝ってあげてもいいわよ?」

 

「お前、いい加減に……」

 

 

 この期に及んで生意気な態度をとるハンターΘに、モリアーティが苛立つもクイーンがその間に立って首根っこを掴みハンターΘを持ち上げて顔を寄せる。

 

 

「おい、質問だ。あのスウィーパー二体はお前の指示に従うか?」

 

「ひ。え。あ、うん。あたしの命令を最優先に従うけど……」

 

「なら次の質問だ。お前は、H.C.F.を裏切れるか?」

 

「え、いや、その……」

 

 

 二つ目の質問に、目を泳がせて言いよどむハンターΘ。冷や汗がだらだら流れているが、それを見てクイーンは不敵な笑みを浮かべると、右手の人差し指を刃に変形させて糸に手をかける。プサイも頷いて、スウィーパー二体が拘束されている目の前に一瞬で移動して爪を振りかぶる。

 

 

「嘘を付けないんだな。嘘つきと、正直者か。…わかった。お前を信じる」

 

「やれやれ。クイーン殿なら、…いや、エヴリン殿やアリサ殿でもそうするでござるな」

 

「正気か!?」

 

 

 ハンターΘを縛る粘液糸を斬り裂いて解放してみせるクイーンに、目を見開いて驚愕するモリアーティ。ハンターΘは信じられないとばかりに解放された己の手と、同じくプサイに解放されたスウィーパー二体を見て困惑する。

 

 

「いいの……?」

 

「お前はただの生意気な子供だとわかったからな。シータと呼ぶぞ、いいな?」

 

「ふ、ふーん!あたしに存分に頼っていいのよ!」

 

「それと…モリアーティ。お望みのB.O.W.をもう一人どころか、一人と二体確保だ。文句はあるまい?」

 

「……ちいっ!好きにしろ!あとから困っても知らんからな!私の騙し討ちはもう効かないんだぞ!」

 

「あからさまな舌打ちでござるな」

 

 

 クイーン。モリアーティ。プサイ。シータ。スィーパー二体が、並び立つ。屋根の上で様子を窺っていたゴルゴーン三姉妹も臨戦態勢だ。

 

 

「……あのデカブツは私とクイーンでやる。ハンター組は、残りの二体を足止めしろ」

 

「あっしどめー?倒しちゃえば文句ないでしょ?」

 

「「キシャーッ」」

 

「同感でござるな。リベンジでござる」

 

「さっさと倒してクレアとスティーブと合流するぞ!」

 

「私達を倒すつもりらしいわよ?」

 

「尻尾まくって逃げたくせに、勝てると思ってるのかしら」

 

「尻尾あるのむしろ私たちですけどね」

 

 

 そして、ロックフォート島最大の決戦が幕を開いた。




自分が強いと自覚することで自我を保ってたタイプだったハンターΘことシータ、仲間入り。

そしてブラックタイガー・アラクネの名前いい加減長いので命名、モリアーティ。某名探偵の宿敵からです。地味にシャーロキアンなクイーン。

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fileCV:22【テオドアとベアトリクス】

どうも、放仮ごです。完全に「?」な題名シリーズ。

クレア&スティーブVSディオスクロイ。楽しんでいただけると幸いです。


「なにが訓練所だ!」

 

「イカれてる!」

 

「いいいいいかかかかれてるるるる?」

 

「わた、わわわたたしししたたたたち、いかれれれてててる!」

 

 

 倉庫の床が下降し、KILLHouseと称された迷路内をディオスクロイから分離したカストールとポルックスから逃げるクレアとスティーブ。

 

 

《「イカれてない戦場などあるものか!兵士たるもの殺戮への迷いがあれば、戦況を生き抜く足枷となるのだ!お前たちにできるのか?この虫けらどもめ!もちろんここでやめても構わんよ?あっさり死んでもらうだけだがな!せいぜいディオスクロイの訓練相手になってくれたまえ!」》

 

 

 スピーカーの向こうでアルフレッドが嘲笑う。言ってることは理不尽だが正論ではある。

 

 

「スティーブ、ここじゃ不利よ!まずはこの迷路を脱出して先に進みましょう!恐らくこの先にアレクシアもいるはず!」

 

「それしかなさそうだな!」

 

《「見てごらんアレクシア!やつら、逃げることしかできてないみたいだよ!」「クレア、スティーブ?残念なお知らせよ。所属不明のハンター部隊と小競り合いしていたクイーン・サマーズとハンターΨがゴルゴーン三姉妹に見つかったわ。もう終わりよ」「「アッハハハハハ!ハァ~ハハハハハ…!」」》

 

 

 揃って下卑た笑い声を上げるスピーカーの向こうのアシュフォード兄妹に、ディオスクロイの相手をしながら悔しさから歯噛みする。2人に危険な奴を相手にさせているというのに、自分たちはアレクシアを捕らえるどころか足止めされている。それが歯がゆかった。なんにしても、ディオスクロイを倒さなくては始まらない。しかし、こうも狭いところでは回避もままならない。ディオスクロイの猛攻を避けながら突破するしかなかった。

 

 

「うおお、ううううおおおおおおっ!」

 

「危ない!」

 

 

 カストールの角を前に向けた突進を、横道に逸れて回避するクレアとスティーブ。カストールはそのまま壁をぶち抜いて姿を消していき、続いてポルックスが両手にダークを持って斬りかかり、スティーブがキャリコの銃身で受け止める。

 

 

「きれいきれいちちちちちちちはははははきれれれれれい!」

 

「喰らいなさい!」

 

 

 ショットガンの一撃がポルックスの右半身を粉砕するが、それは触手としてほどかれて、左半身だけで跳躍して上に姿を消したかと思えば、上から合体したディオスクロイが落ちてきて両手を握ったアームハンマーで床を叩き割り、衝撃で転倒するクレアとスティーブは、近づこうとするディオスクロイに集中砲火して退かせる。猪突猛進の兄と、それに合わせて奇襲してくる妹、そして合体すれば防御力に物言わせてインファイトを繰り出してくる。厄介極まりない。

 

 

「いい加減姿を表せ腰抜けアレクシア!」

 

「それとも腰抜けアルフレッドもいるのかしら!?」

 

《「なにを……偉そうな口を叩きおって!よくも私のみならず、アレクシアまで馬鹿にしたな!許さん!ディオスクロイ、縊り殺せ!」「落ち着いてお兄様。早く仕留めなさいカストール、ポルックス。そうすればあなた達を完全に二人に分けてあげるわよ」》

 

「おれれれ、れれれ、がんばばばばばるるるるるるうっ!いも、いももももうとととととにぃいいいいたたたたいおこおとととががががっああああ」

 

「に、に、にいさまままままと、はななれれれるるるっ!そして、ああああややややままるるれるうううう」

 

「兄の方は案外簡単にキレるな。どっちもな」

 

「妹の方は冷静ね。どっちも」

 

 

 アシュフォード兄妹と、ディオスクロイ兄妹。二つの兄妹の特性は案外似ていた。瞬間、壁を突き破って横から突進してきたカストールが目の前を横切っていき、曲がりくねった通路を駆け抜けてきたポルックスの飛び蹴りが襲いかかる。クレアはショットガンを盾に受け止め、スティーブがキャリコの弾丸を叩き込むとよろよろと後退するポルックス。すると横から壁を突き破ってカストールが飛び込んできて、合体。しかし何故か追撃することなく跳躍してその場から逃れる。

 

 

「今のは……?」

 

「妹の方にはがっつり弾を叩き込んだ!兄貴が合体することで退避させたように見えた」

 

「別々に耐久力があるって事かしら……なら!」

 

「ああ、まずは片方から仕留める!」

 

 

 先に進み、これまで通ってきた迷路が一望できる二階通路までやってきたクレアとスティーブ。ここからなら全体が丸見えだ。また分離して徘徊するカストールとポルックスが見えた。カストールは次々と壁を突進で粉砕して突き進み、ポルックスはゆっくりと歩きながら周囲を見渡している。

 

 

「ここからなら…!」

 

「狙い撃つぜ!」

 

 

 2人がまず狙いを付けたのは、ポルックス。ハンドガンを手にして、ポルックス目掛けて乱射。何発か炸裂し、二人の居場所に気付いたポルックスが跳躍してこちらまで迫ってくる。迷路の壁の上をぴょんぴょんと器用に跳躍しながら迫るポルックスに、集中砲火が浴びせられる。

 

 

「わわわわたたたたしししししししししししねねねねねねえっ!しねねねねねね!わたしししししししぃ!!」

 

「「!?」」

 

 

 そして、触手の身体がボロボロと崩れていくポルックスが最期に上げたのは、自らを呪う断末魔だった。左半身のみとなったポルックスが迷路に激突し、通路に転がっていくのを見て、息を呑むクレアとスティーブ。

 

 

「……なあ、今の」

 

「……どんなに考えても無駄よ。あそこまで変わり果てた人間は、どっちにしろ助からない」

 

 

 アイアンズやアネットを見てきたクレアは断言できる。あれは人じゃない。クイーンたちが異常なだけで、アレが普通なのだと。だがしかし、そう断ずる心は、その光景を見て揺さぶられる。

 

 

「……いも、うと………?っ、…ベアトリクス!」

 

 

 呆然と倒れた半身(いもうと)を抱きかかえ、我に返ってその名前を呼ぶカストール。返事をしない半身(いもうと)を揺さぶり、力なく首を垂れるその姿に、その表情が悲哀、絶望、憤怒が入り混じったものに変わり、クレアとスティーブの姿を見つけ、ただでさえ吊り上がった眼を真っ赤に染めるカストール。

 

 

「ゆゆゆゆゆるるるるるるるるるるるるさななななあああああああいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 

 そして、跳躍。右手を伸ばしながら吹っ飛んできて、スティーブの胸ぐらを掴みながら壁に叩きつける。そのまま壁を突き破り、下まで落ちて両手で殴りつけていく。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「スティーブ!」

 

「いいいいいもうととととをををををををおおおおおおっ!よくくくももおおおっ!!」

 

 

 怒りのまま殴り続けるカストールに、スティーブは咄嗟に右足を持ち上げ後頭部にオーバーヘッドキックの要領で蹴りを叩き込んだ。よろよろと倒れ込んだカストールから離れて立ち上がったスティーブは口の中が切れて溢れた血を吐き捨てる。

 

 

「……家族を殺して悪いな。来いよ、相手になるぜ」

 

「ううううおおおおおおおぉおおっ!!」

 

 

 カストールの猛攻が、次々とスティーブに叩き込まれるも、スティーブはキャリコを撃ちながら両手を振り回して対抗。銃弾で衝撃を和らげつつキャリコで腕を受け止め、弾丸の乱射を叩き込む。もう補うことができない左半身に銃撃が叩き込まれ、徐々に崩れていくその身体。

 

 

「ううう、ううううっ!ベアトリクスゥウウうううッ!!」

 

「二人揃ったお前らは、強かったぜ」

 

 

 もはや右半身しか残っていないカストールの激昂しながらの大振りの一撃を回避し、左手のキャリコを撃ちながら銃身をカストールの顔に叩き込むスティーブ。カストールは崩れ落ち、動かなくなった。そこにクレアが駆け付ける。

 

 

「……大丈夫?スティーブ」

 

「ああ。……なあ、こんなやつばかりなのか?こいつらって……」

 

「……そうでない人たちも知っている。だけど、奴らは人の尊厳すら踏みにじっているのはたしかよ」

 

「そうかよ。……決めたぜ、アシュフォード兄妹!お前たちはこの手で、直接ぶん殴ってやるから覚悟しやがれ!」

 

《「そんな……」「気にしなくていい、アレクシア。素体になったやつらが弱かっただけだ。お前たちの兵士としての素質を認めよう虫けら。やれるものならやってみるがいい」》

 

 

 スティーブの激昂に、妹の傑作を台無しにされた怒りを返すアルフレッド。新たな目的を掲げ、クレアと共に突き進むスティーブ。その先で彼は、絶望に出会う。




ゲーム的に言うと攻略方法は、分離したところを狙う事。上手く分断すれば結構簡単なのがディオスクロイでした。

カストールの本名:テオドア・グレイス
ポルックスの本名:ベアトリクス・グレイス

意味は……皮肉にしかならないかもしれません。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:アレクシアの書記【ゴルゴーン三姉妹について】

どうも、放仮ごです。いろいろ忙しくて今回はアレクシアのファイルとなります。色々真実に迫っているかも…?楽しんでいただけると幸いです。


 ゴルゴーン三姉妹は、実際に血の繋がった三姉妹を素体にしたB.O.W.である。これは今までのB.O.W.にないチームワークを生み出すために、私とお兄様の様な、血縁を採用したためである。

 

 リサ・トレヴァーの血を基にしているRT-ウイルスを用いたB.O.W.たちもサミュエル・アイザックスの報告によると「エヴリン」と呼ばれる謎の絆があるようだが、そんな不確かなものは信用できない。血縁こそ、なによりも信用できるものであり、決して裏切らないつながりだ。

 

 ディオスクロイの素体となったグレイス兄妹の様に横領した研究員とその家族というわけではなく、アンブレラに盗みを働いて捕らえられた、泥棒を生業としていた孤児の名前もない三姉妹が素体になっている。

 

 それぞれステンノーは化石からアンブレラが採取したティタノボア、エウリュアレーはブラックマンバ、メデューサはモールバイパーの遺伝子をT-ウイルスと共に投与したものの安定せず定着することなく、保管されていたものにハンターΨから採取したRT-ウイルスを投与したことでようやく安定して実践投入できた。保管している間に刷り込みを行ったために深層心理に私たちアシュフォード兄妹がご主人様だと植え付けられ従順な存在と化した。

 

 ステンノーは圧倒的な巨体と六つの眼に六本の腕、蛇の下半身と最も異形な姿をしており、二メートル弱だったのが数分でティタノボアの遺伝子に適応し、リヒトを丸呑みにできるほど巨大化した、RT-ウイルスの恩恵を最も受けている。

 

 エウリュアレーもまた首が長い蛇の頭部と鱗に包まれた四肢、長い尻尾を有する異形の姿をしており、私の開発したエウリュアレーの胃液と混ぜて空気に触れると数十秒で固まるセメントの様な凝固剤となる液体を装備しており、一度固まると手榴弾の直撃ですらびくともしない硬さになり、これを使って獲物を固めて動けなくした所を胃液で穴を開けてから体液を吸い取って捕食する。

 

 メデューサは口から上が鱗で覆われた単眼の顔に、複数の目がない蛇の様な触手が頭部と一体化して髪のように生えており、布で隠して見えない下半身は無数の蛇の尻尾みたいに枝分かれ、タコの様に動かして移動し、目が輝き石化と見まごう現象を起こすという能力を持つ。

 

 こうした特殊能力を宿している目的は、敵対者の拘束を目的としている故だ。脱走者や侵入者、faお兄様を害するありとあらゆる敵を捕らえて、苦しませる。そのためだけに設計された。

 

 ディオスクロイとサクリファイスコヤンはそもそも運用思想が違うが、設計時期が同じだったため一緒に保管してある。

 

 

 

 

 どうやらお兄様が足止めしていた奴らが来たようだ。私の、私個人としての傑作である五体の成果が楽しみだ。




そろそろお気づきかと思いますが今章のテーマはきょうだい、特に妹となっております。ティタノボアの遺伝子云々は某恐竜映画から。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:23【蛇の道はヘビー級】

どうも、放仮ごです。ゴルゴーン三姉妹との決戦開始。地味に初登場から12話ぐらいかかってるんですよね。楽しんでいただけると幸いです。


 ディオスクロイ戦に置いてクレアとスティーブはアレクシアを追い詰めていたと思ったいたが実は、訓練所にいたアレクシアは逃亡直後に既に移動しており、公邸にてアルフレッドと合流。公邸の執務室から一部始終をカメラで眺め、スピーカーから声を出して接触していたのだ。ディオスクロイがやられ、サクリファイスコヤンはクイーンに撃退されたまま行方不明。ゴルゴーン三姉妹とクイーンたちが激突を始め被害がこちらにまで及びそうなので、隠し通路から私邸へと移動している最中だ。

 

 

「ディオスクロイ……ごめんなさい………お兄様」

 

「気にするな、ディオスクロイの素体が脆弱すぎただけだ。次からは心も失わせないとな。操りにくいというのはわかるが」

 

「わかったわ……今度からは、そうする……」

 

「……アレクシア」

 

 

 何故かとても落ちこんでいるアレクシアを横目で見たアルフレッドは立ち止まり、これまでの妹に甘々な態度はどこへ行ったのか厳格な雰囲気を出し表情に影を差しながら、背中越しにアレクシアに告げた。

 

 

「間違っても、虫けらたちに同情しようとは思うな。我々は偉大なるベロニカ・アシュフォードの血を継いだ高潔なる一族なのだから。お前がアレクシアの名を持っているのはそう言うことだと忘れるな」

 

「……は、い」

 

 

 顔を青くして頷くアレクシアに、アルフレッドは満足げに唸る。その背後では、巨大な六つの腕の影が蠢いて爆音と共に土煙が舞い上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練所の一角が吹き飛び、空を舞う影がいた。右手から粘液糸を伸ばしたクイーンと、蜘蛛の尻から伸ばした糸を手にしたモリアーティ、そしてそれを薙ぎ払うゴルゴーン三姉妹の長女ステンノーだ。モリアーティは口から溶解液を連射。クイーンはスイングの勢いのまま飛び蹴りを顎に叩き込み、しかしそれは鱗に包まれた六本の腕の圧倒的な範囲で薙ぎ払われる。

 

 

「シンプルに巨体と範囲がバカでかい六本の腕、六つの眼の視野の広さが厄介だな!」

 

「だが脳は一つだ、天才でもないやつが二人を相手にそれを使いこなせる動きをそう長く続けられないはずだ!」

 

私がバカだって言いたいのかしらあああああ!

 

 

 三つの右腕を纏めて叩きつけてくる拳が、島の地表を抉って爆発したかのように土が巻き上げられる。空中を移動できるクイーンとモリアーティでなければ回避も難しいとんでも範囲攻撃だ。さらに持ち上げられ、振り回される尻尾も襲いかかってくるが、でかすぎるそれを逆に足場にして駆け上り、粘液硬化した拳を叩き込まんとするクイーン。しかし六つの眼の一つに見咎められ、六本の腕で防がれたうえで殴り飛ばされてしまった。

 

 

「エーくんはハンターΨを援護してやって!いくよビーくん!あたしは、弱くない!」

 

「その自信へし折ってあげるわ!」

 

 

 一方、ビーくんと呼ばれたスウィーパーと共にエウリュアレーと対峙するシータ。二本足で大地を駆け抜けて、鱗に包まれた手で抜き手を繰り出すエウリュアレーの一撃を、ビーくんを庇う様に前に立ち、どてっ腹を貫かれ血を吐きながらもにやりと笑うシータ。

 

 

「ざーこ。自分から近づいてくるなんてバカなのぉ?」

 

「狂人か…!」

 

 

 先程の戦いで舐めプとばかりに強みである毒の爪を使ってなかったシータ。学習して慢心を忘れ、容赦なく毒の爪をカウンターで突き立てる。鱗を貫き、確かに肉を抉る毒の爪。掠るだけで生物を塵殺する猛毒がエウリュアレーの肉体に流れるがしかし、尻尾で殴り飛ばされ距離を取られてしまう。エウリュアレーは、まるで堪えていなかった。

 

 

「私はブラックマンバの遺伝子で作られたB.O.W.!毒には耐性があるわ!」

 

「毒蛇だから毒が効かないは暴論じゃね?」

 

「腹ぶち抜かれて平然としている奴に言われたくないんだけど」

 

 

 言いながら、飛び掛かってきたスウィーパーを回し蹴りで蹴り飛ばすエウリュアレー。刺さっていた腕を引き抜かれてぼたぼたと血を流しながらシータは突撃。ジャブを繰り出し、左手で受け止めたエウリュアレーの顎に、無茶な体勢から放たれた膝蹴りを叩き込む。長い首が打ち上げられて、よろめくエウリュアレー。

 

 

「ぐうっ…!?」

 

「アハッ!当たった!ざーこ!」

 

「やってくれたわね…!」

 

 

 上半身にたすき掛けしているポーチから取り出した小瓶のコルク栓を指で弾くとその中身を飲み干し、口をもごもごさせたエウリュアレーがペッ!と液体を口から吐き出すと、それを防いだシータの右腕が粘着く液体が纏わりつき、固まってしまう。

 

 

「いくら再生しようが関係ない、凝固剤で固めてしまえばどんなやつもそれで…!」

 

「こんなんで止まると思ったの?」

 

 

 しかしシータは知ったことかとばかりに突撃し、固まった右腕でパンチ。右腕ごと砕け散り、右腕を失ったもののエウリュアレーを数メートル殴り飛ばしたシータは再生を始める右腕を掲げながら自慢気に嗤う。

 

 

「痛くもかゆくもないわよ、ざーこ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クイーン殿のいう“石化”が気になるでござるが…!」

 

「シャー!」

 

「くっ……!」

 

 

 こちらはメデューサと戦うプサイとエーくんと呼ばれたスウィーパー。メデューサの伸ばしてくる蛇髪と蛸の様な足を、次々と切り裂いていく。そもそも上2人と違って戦闘力が低いメデューサだ。2VS1は分が悪い。ならばと、先端が斬られた触手の脚をせわしなく動かして、距離を取るメデューサ。プサイとスウィーパーは逃がさんとばかりに追いすがる。

 

 

「……動くな!」

 

「キシャッ…!?」

 

 

 メデューサの単眼が光り輝き、真っすぐ突き進んでいたため真正面から受けて目が眩んだプサイとスウィーパー。違和感をプサイが感じた瞬間には、視界がぼやけて体に力が入らなくなり膝をつく。横を見ればスウィーパーも同じで、こっちは完全に倒れ伏してぴくぴくと震えていた。

 

 

「な、にが……?」

 

「ふふっ……安心しなさい。死にはしないわ。最初は軽い幻覚症状、次に身体に力が入らなくなり、そして最後には石の様に固まり動けなくなる。そうなったあとにゆっくりと仕留めるの」

 

「毒……でござるか……!」

 

「ご名答」

 

 

 メデューサ……そのもとになったメドゥーサは伝承によれば、直視した者は恐怖のあまり体が硬直して石になる、または目から光線を放って石にしてしまうといわれている。メデューサの単眼は光を放つだけの代物で、その真骨頂は頭の蛇髪にある。触手の口から目に見えないくらい細くて小さい毒針を放つ能力を持ち、撃ち込まれた者は強力な神経毒に苛まれてしまう。これを、単眼の発光と共に行うことで初見では光線で石化すると錯覚してしまうわけだ。完全な初見殺しである。クイーンの時は、クイーンが群体だからこそ毒を受けた個体だけが引き受けて体が崩れるだけで済んだのだ。

 

 

「こうなったら非力な私でも仕留められるわ」

 

 

 言いながら倒れ伏したスウィーパーに近づき、触手の足を首に巻き付けて締め上げるメデューサ。ゴキゴキと音を立ててへし折れていく様は、見るに堪えないが視線を逸らすこともできない。結局、なすすべもなく、シータからエーくんと呼ばれていたスウィーパーは絶命した。

 

 

「動け……動くでござる、拙者の身体…!」

 

 

 上半分が鱗で覆われているため表情が見えないものの口元だけでニタニタ笑いながら、単眼を光らせ迫るメデューサに、プサイは歯を噛み締めた。

 

 

 

 瞬間、プサイに糸が繋がり空に搔っ攫われる。粘液糸を飛ばしたクイーンである。

 

 

「大丈夫か、プサイ!?」

 

「大丈夫じゃないでござるな…してやられたでござる」

 

 

 悔し気に自分を見上げるメデューサを眺めながらぼやくプサイ。その眼前に拳が迫り、クイーンがスイングの勢いのまま蹴り飛ばす。

 

 

「ここじゃ不味い、場所を移す!」

 

「どこにでござるか!?」

 

「あっちの屋敷だ!」

 

 

 そうクイーンが視線を向ける先には、高所に聳える屋敷があった。




というわけでメデューサの能力、石化と見紛う神経毒でした。クイーンと相性は悪いですね。

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fileCV:24【桎梏エウリュアレー】

どうも、放仮ごです。桎梏(しっこく)は人の行動を厳しく制限して自由を束縛するもの、という意味。

 VSゴルゴーン三姉妹戦その三。楽しんでいただけると幸いです。


 高速でスイングし、高台の屋敷……アシュフォード私邸に移動することを提案したクイーン。しかし、ステンノーはそれを許さなかった。

 

 

「ござぁ~」

 

「モリアーティ!なにか策はないのか!」

 

「奴の六本腕はそれだけで範囲攻撃だ!まずはそれを封じる!私たちなら、それができる!」

 

 

 体が麻痺して動けないプサイを抱えて、モリアーティと共に空を駆るクイーン。それを六つの眼で捉えたステンノーがその巨体を蛇の下半身で持ち上げ、身を乗り出して六本の腕で握ろうと伸ばしてきた。

 

 

つかまえたぁああああっ!

 

「プサイを頼む!」

 

 

 クイーンはそれを見て、空中でモリアーティにプサイを投げ渡すとステンノーの伸ばしてきた右の三つの腕の周りをぐるりと回って粘液糸で縛り上げ、下に飛び降りながら引っ張ることで三本腕を一つに纏めて引きずりおろし、無理矢理ダウンさせる。

 

 

あぁああああああ!?

 

「そんな不安定な下半身じゃ踏ん張れないと思ったよ!」

 

「無茶をする……ふむ」

 

「え、なんでござるか?まっ、待つでござる!?拙者にその気は……あああああああああ!?」

 

 

 クイーンの雄姿を、右手で糸を握りながら空中から眺めていたモリアーティ。何を思ったのか、左手で抱えているプサイを眺めると何を思ったのか、抵抗するのも気にせず首筋に噛みついた。

 

 

「動けないことをいいことに!エッチ!でござる!」

 

「…ぺっ。毒は吸い取ったぞ、これで動けるだろう」

 

「……へ?お?おおおおお?」

 

 

 真剣な顔でモリアーティが吸いだした何かを吐き捨てて促すと、プサイは身動きができるようになった腕を見て感激する。蜘蛛の捕食方法……咀嚼ができないため消化液を放って獲物を溶かして啜ることで捕食する……を利用して、プサイの血液から毒を吸い出したのだ。器用である。

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 上空のモリアーティと抱えられたプサイを見上げ、絶句するメデューサ。まさか自分の必殺だったはずの唯一の取り得を簡単に攻略されて、唖然とするしかない。その横で、エウリュアレーとシータが殴り合いしていた。

 

 

「アッハハハハッ!やるじゃん蛇の癖に!」

 

「全身筋肉の蛇の拳を喰らって笑ってんじゃないわよ!」

 

「アハハ!蛇が拳とか矛盾過ぎて笑える!」

 

 

 蛇であるために全身筋肉であり、自在に動く尻尾と鉄壁の防御力を持つ鱗を有するエウリュアレーと、無痛覚と再生能力を持つシータの殴り合いは千日手と言えるほど相手にまるで効果がなかった。殴り、蹴り、引っ掻き、尻尾で打ち、突き刺し、それでも両者にダメージは見られない。傍にいるスウィーパーは本能のまま危険すぎる対決から逃げている。その横に、ステンノーの蛇の下半身の巨体が薙ぎ払ってきて、シータはエウリュアレーとスウィーパーともども跳躍して回避した。

 

 

小さいくせにちょこまかと…!

 

「ステンノー!邪魔よ!そのでかい図体をどかしなさい!」

 

うるさいわよエウリュアレー!アレクシア“様”の本性も知らないバカが姉に命令するな!

 

 

 エウリュアレーの文句に怒鳴り散らしながら、三本を縛り上げられた右腕で地面を支えて体勢を立て直しながら、次々と糸を飛ばして地べたを駆け抜けるクイーンに左の三本腕を叩き込むステンノー。

 

 

「…アレクシアの本性ってなんだ」

 

おま、えなんかに言うわけないでしょ…!」

 

 

 しかしそれもぐるりと周りを回ったクイーンに縛られ、強みである六本腕を二本腕に封じられてしまい、モリアーティが投げつけたプサイが並外れた脚力で飛び蹴りを叩き込み、蹴り飛ばされ訓練所を破壊しながら倒れ込んでしまった。そのことにキレたステンノーは、尻尾の先端を握ると、力任せに引きちぎった。非常時に下半身をトカゲの尻尾みたいに自切する事が可能なのだ。

 

 

「なっ!?」

 

ぶっ殺す!

 

 

 そのままちぎれた尻尾を鞭の様に振り回し、広範囲を薙ぎ払うステンノー。メデューサもそれに巻き込まれ、クイーンは全身を粘液で固めて吹き飛ばされた衝撃から身を守り、モリアーティも跳躍してきたプサイを回収して糸を巻き上げ空中に回避。しかし、空中に逃れたモリアーティとプサイを尻尾鞭が追撃。2人も薙ぎ払われてしまう。

 

 

「ちょっと、あたしが手伝ってるんだから負けないでよ!?」

 

「よそ見なんて余裕ね」

 

 

 ステンノーの薙ぎ払いを跳躍して回避し訓練所に粉砕された壁から廊下に飛び移ったシータに、追いかけてきたエウリュアレーが頬まで裂けた口を開くとペッ!と液体を口から吐き出した。凝固剤だが、今度は量が違う。シータを丸ごと覆うほどの量の凝固剤が滝のような勢いで吐き出される。

 

 

「しまっ…!?」

 

 

 まだ完全に固まっていない凝固剤で全身を固められてしまったシータ。こうなると不味い。まず、傷や欠損ではない上に一部だけなら斬り飛ばすという方法が使える再生能力でどうこうできるものじゃない。次に、顔を塞がれるとそもそも生物として必須な呼吸が封じられてしまい、酸素を取り込められず窒息してしまう。そのことに頭脳で気付いたシータは、まだ固まってないため両手で顔を覆う凝固剤だけでも引きはがそうとして、しかしそれは、エウリュアレーに手首を握られて止められてしまう。

 

 

「くっそ……」

 

「だめよ。そのまま固まって私の餌になりなさい」

 

 

 そうして、完全に固まってしまったシータの腹部に胃液を垂らした牙で穴を開け、吸い付くことで体液を吸い取って捕食するエウリュアレー。しかし、そんな隙だらけのところに飛び込んできたのがステンノーの攻撃から復帰したモリアーティだった。背後では、クイーンとプサイにスウィーパーが加わってステンノーを翻弄していた。

 

 

「なっ…!?」

 

「そいつは気に喰わないが最高戦力だからな、返してもらうぞ」

 

 

 ガシッ!と蜘蛛の脚でハグすることでエウリュアレーの腕ごと拘束。糸で巻き上げられた身体が舞い上がり、天高く持ち上げられて、急降下。パイルドライバーのような一撃で頭部を地面に叩きつけ、ダウンさせる。

 

 

「いつまで寝ている。ざこ」

 

 

 そのまま頭の上に陣取り、口から吐き出した溶解液でシータの表皮を固めた凝固剤を溶かしていくモリアーティ。そもそもエウリュアレーの胃液で溶ける仕様なためか、あっさりと溶けて怒りに全身を震わせたシータが顔を出す。

 

 

「うがーっ!誰がざこだー!聞こえてるのよ、ざーこ!」

 

「油断して固められた方がざこだろ。命の恩人だぞ、敬え。ざーこ」

 

「ざーこ!ざーこ!」

 

「お前言い返せないからって語彙力なさすぎないか…?」

 

 

 吠えるシータにモリアーティが呆れていると、モリアーティの身体がむんずと掴まれる。ステンノーだった。見れば既に尻尾は再生し、左手に尻尾鞭を持ったまま右手でモリアーティを掴んだらしい。

 

 

生意気な奴は喰ってやるわ…!

 

「ちい……!?」

 

「モリアーティ殿!」

 

 

 プサイが飛び込むも既に遅く、ステンノーに丸呑みにされるモリアーティ。ステンノーは妹二人と違ってその巨体ゆえの丸呑みにして強力な胃酸で仕留めるのが強みだった。もともと嫌っていたモリアーティの安否を気にすることなく、何とか顔を出して女豹のポーズにも似た構えを取るエウリュアレーに、限界まで体勢を低くして飛び掛かる体勢となるシータ。

 

 

「……ふーん、なんとなくわかってきた。ざこね貴女」

 

「なにがかしら!固められといてよく言うわ…!」

 

 

 瞬間、全身筋肉をバネにして飛び掛かるエウリュアレーの突撃を真正面から受け止め、がっつり組み合って無痛覚と再生力ならではの、筋繊維がちぎれることも厭わず全身の筋肉をフルに使った投げを敢行。しかし尻尾で支えてすぐに体勢を立て直すと首を伸ばして蛇の顔で肩口に噛みつき、上空に投げ飛ばしたところに尻尾を腹部に叩きつけてシータを地面に激突させるエウリュアレー。しかしシータは頭から血を流しつつも、不敵な笑みを隠さない。

 

 

「あー、真っ赤……でも、終わりよ」

 

「なに、が…!?」

 

 

 エウリュアレーは眼を見開く。胴体に、シータの抜き手が突き刺さっていた。噛みついた際にカウンターを入れられたのだろう。そこまではいい。問題は、抜き手がポーチまで貫いていると言うことだった。中身の液体が、エウリュアレーの体に(・・・・・・・・・)流れ出していた。

 

 

「そんな……そん、な……!?」

 

「アハハハッ!ざーこ!」

 

 

 更にシータは右腕を引き抜くとそのまま、腕が胃酸で溶けるのも構わず下腹部を貫き貫通させると一気に引き抜く。傷口から溢れだした胃酸が液体と混ざり合い、凝固剤となって狼狽えるエウリュアレーの胴体を固めてしまい、シータは容赦なく斬撃。エウリュアレーは胴体を両断され、固められたことにより再生することも叶わず、上下真っ二つにされて崩れ落ち、痙攣しながら虚空に手を伸ばす。

 

 

「あ、ぎっ、ぎぎっ……たすけて、アレクシアさまぁ……」

 

「自分も固まっちゃうなんて、貴方を作った人はとんだばかだったみたいね!ざーこ!」

 

 

 口元に手を当てて嘲笑うシータに、エウリュアレーは蛇の顔を悔し気に歪ませ、その命を終えたのだった。




地味にMVPモリアーティ。尻尾をちぎる凶行を見せたステンノーに丸呑みにされる。活躍し過ぎてたからしょうがないね。

そして脱落、エウリュアレー。モリアーティという同じく強酸性の胃液を武器にする相性が悪すぎるのがいた挙句ステンノーには邪魔をされ、相手していたのが狂人のシータだったため敗北。少なくともクイーンとかならこんな戦法は取らないから本当に相手が悪すぎた。

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fileCV:25【修羅のステンノー】

どうも、放仮ごです。ようやく私邸まで来れました。道中の仕掛けが行ったり来たりすぎるからショートカットするのがこの小説のスタイル。
???「これで大幅ショートカットだ」

VSゴルゴーン三姉妹戦その四。楽しんでいただけると幸いです。


 ゴルゴーン三姉妹の次女、エウリュアレーの死。無惨にも引き裂かれて上下バラバラに転がる妹の亡骸を見て、六つの眼を見開くステンノー。モリアーティを丸呑みにし、引きちぎった尻尾を鞭にしてクイーンとプサイ、スウィーパーの相手をしていたが、標的をシータに変えて、動き出す。

 

 

妹を、殺したな?!

 

「え、ぎゃっ!?」

 

 

 尻尾鞭が唸り、薙ぎ払われるシータ。吹き飛んで空中に舞い上がったそれを、クイーンは粘液糸を飛ばしてキャッチしたものの、返しの刃ならぬ尻尾鞭に巻き込まれて吹き飛ばされ、訓練所を飛び越え公邸の屋根に叩きつけられてしまう。血涙を六つの眼から流しながら、追撃せんとするステンノー。

 

 

「やめるでござる!」

 

邪魔っだああ!!

 

 

 粘液糸で縛られ二本腕になった六本腕の両拳を振り上げたステンノーのうなじに着地し、左手の爪を振り上げるプサイ。しかし頭を振られて投げ出され、右腕でキャッチされてその爪を利用して左腕を纏めた粘液糸を斬ってしまう。解放された左の三本腕で右腕の粘液糸も引きちぎり、六本腕を開放するステンノー。右腕の一本でプサイを拘束し、クイーンの傍にいるシータを憤怒の表情で睨みつけたステンノーは、クイーンとシータが吹き飛ばされた公邸まで、巨体を動かして迫っていく。

 

 

「なに?何が起きたの?」

 

「痛みでわからないのは逆に不便だな……吹っ飛ばされたんだ。さすがに分が悪いな……移動するぞ!」

 

「…わかった!ビーくん、こっち!」

 

 

 痛みは感じないながらも自分を睨みながら迫るステンノーにさすがに危機を感じたのか、スウィーパーを呼び寄せながら跳躍。プサイを握りしめながら左の三本腕で握って勢いを増した尻尾鞭が凄まじい速さで襲い掛かり、私邸を砕く。空を舞う瓦礫の間を縫う様に粘液糸を握って空を舞うクイーンと、瓦礫を乗り継ぎ跳躍して移動するシータとスウィーパーは、私邸の横にかかる石橋に差し掛かり、その屋根の上を駆け抜けていく。

 

 

逃がすかぁああああっ!

 

 

 咆哮を上げ、尻尾鞭とプサイを投げ捨てると怒りの赴くままに六本腕を動かして公邸の屋根に這い上り、上半身を持ち上げて勢いよく振り下ろしてボディプレスを行うステンノー。クイーンとシータ、スウィーパーはギリギリ回避し、石橋の一部を破壊しながらなんとか石橋に六本腕でしがみつき、ステンノーは這い上がっていく。その執念はまさに蛇だった。

 

 

「あった、水だ!」

 

「水ぅ!?あ、もしかして風呂場でやってたあれ?」

 

「奴を倒すには、奴の強固な鱗を貫くにはこれしかない!穿水!」

 

 

 逃げた先で見つけたのは、私邸の噴水広場。クイーンはその中に飛び込み、両手を合掌してその先端をステンノーに向けて体内を巡らせた水流をレーザーの様に発射。そのあまりの速さにさすがに面食らったステンノーの右の三つの眼を下から上に斬り裂いて、続けざまに頭部を撃ち抜く水流レーザー。

 

 

うううあああああぁああああっ!?

 

「あははっ、図体でかいだけのざこじゃん!ぎゃああ!?」

 

「質量差を考えろバカ!?」

 

 

 右目を右手の一本で押さえながら悲鳴を上げ、仰け反るステンノー。そこに、シータとスウィーパーが息の合った動きで毒の爪を左目に叩き込もうと試みるも、右目を押さえている以外の五本腕をでたらめに振り回されて弾き飛ばされてしまう。如何に痛みが無かろうと質量には敵わなかった。慌てて再び穿水を放つクイーンだったが、ステンノーは左目でそれを見ると首を横に動かして避けられてしまい、慌てて横に動かして斬り裂こうとするクイーンに肉薄。左三つの腕を連続で叩き込み、回避しきれなかったクイーンは私邸入り口まで殴り飛ばされてしまった。

 

 

「……エヴリン殿の記憶にあるグレイブディガーの集合体よりは小さいでござるがそれでもあの巨体は脅威でござるな…!」

 

 

 その光景を見ながらステンノーのあとを追いかけるプサイ。もうこうなったらやけだ、とばかりにステンノーの尻尾の先端を掴んで引っ張ることで少しでも進行を遅らせようとする。しかし既に私邸の噴水広場まで入っていたステンノーは邪魔だとばかりに尻尾を振ってプサイを吹き飛ばし、プサイは真っすぐ吹っ飛んで私邸の石造りの壁に激突。穴を開けてその中に飛び込んでしまった。

 

 

「アイツ、あたしと相性最悪なんだけど。どうすんの?ハンターΨは吹っ飛ばされてるしブラックタイガー・アラクネなんか喰われてない?」

 

「……眼を斬り裂かれてそれでも冷静に動く奴に勝つ方法なんか知らんぞ」

 

 

 Gアネットですら弱点だったとはいえ眼を攻撃されたら滅茶苦茶怯んでいた。しかしステンノーは怒り故か、冷静に対処してこちらを確実に潰さんとしてくる。手は尽くした、もうお手上げである。そもそもサイズがまだ小さい……いや普通にでかいがステンノーに比べれば小さい……エキドナでさえ結構強いのだ。それが六つの眼と腕を有して更に巨体まで手に入れればどうなるかは明白だった。しかし終わりは、あっさり訪れる。

 

 

うっ!?ぐぅうううううう!?

 

 

 瞬間、ステンノーの腹を突き破ってなにかが飛び出してきた。クイーンとシータの前に降り立ったそれは、全身に黒い糸を身に纏って漆黒の蜘蛛の下半身を持つ異形の姿をした怪物。表面がドロドロに融解している糸のマスクが溶けて、その下の顔が出てくる。モリアーティだった。

 

 

「モリアーティ!」

 

「なんだ、無事だったのねざーこ」

 

「まだいうか貴様。咄嗟に糸で全身を覆ってなかったら危なかったな……」

 

 

 一寸法師、という御伽話が日本に存在する。小さな小さな一寸法師という名の少年が、無敵の鬼を相手に、喰われたことを利用して内側から針で刺しまくって降参させたという話である。無敵の鬼でさえ内側からの攻撃には弱いのだ。例え無敵だろうと、内側が弱いのは必然。あらゆる物質を溶解する胃を持っているステンノーだったが、モリアーティはそれを糸で自分の表面に層をいくつか作ることで防御し、逆に蜘蛛の脚で引き裂いて出てきたのだった。

 

 

げほっ、ごほっ!?そんな……

 

 

 ぶち抜かれた腹を押さえていたステンノーだったが、六本腕の一つで押さえた口から吐血し、己の血のついた掌を見て、胃を破壊されたことで胃液が全身に浸透し内臓があらかた融解していることを察してしまった時にはすでに遅く。私邸の壁を破壊しながら倒れ込み、趣味の悪い人形やアンティークが飾られた一階ホールで、ステンノーは力尽きて息絶えたのだった。

 

 

「勝った……のか?」

 

「その程度の傷も再生できないなんて、ざーこ!」

 

「常に溶け続けるものを再生するなんて無理だ。丸呑みにされるのは想定外だったが上手くいったな」

 

「クイーン殿!こっちに隠し部屋があるでござる!もしかしたらアレクシア・アシュフォードもここに…!」

 

「プサイ、無事だったか」

 

 

 そこに、ホールの階段を降りてきてプサイが合流。クイーンとプサイ、シータとスウィーパー、そしてモリアーティが揃う。

 

 

「モリアーティ。まだメデューサが残っているが、私たちの目的はアレクシア・アシュフォードの確保だ。このまま向かうが、お前はどうする?」

 

「え、あたしは無視?」

 

「どうせH.C.F.は裏切るんだ、行く当てもないしこのまま付き合うしかないだろう。メデューサは最悪放っておいてもいい。奴の毒はどうにかなるからな」

 

「やめてよ、無視しないでよ。あれ?あたしまで裏切ることになってる?」

 

「裏切らないでござるか?」

 

「え、そう言われると……」

 

「意志が弱々すぎないかお前」

 

キシャー……(姉御はくそざこメンタルだから)

 

「だあああれがくそざこメンタルだああああ?」

 

 

 会話に参加してきたスウィーパーを締め上げるシータに笑う面々は、私邸を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、さま」

 

 

 同時刻。エウリュアレーの上半身を引きずってやっとのことでここまでやってきた末妹が、ステンノーの亡骸を前にして単眼を怪しく輝かせて跪く。

 

 

 

がつっ ざしゅっ ぐしゃっ ぐちゅっ ぶちっ ずぞぞっ




エウリュアレーに続きステンノーも敗退。2人揃って胃袋が敗因っていうね。

最後のは生理的な恐怖が演出できていれば幸い。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:26【呪怨のメデューサ】

どうも、放仮ごです。ここら辺の構成がすごい難しい。原作だとアレクシア()と戦うところなのだけど、今作だとそうもいかないので…。

バイオ世界の呪い顕現。楽しんでいただけると幸いです。


 ここでRT-ウイルスの効果をおさらいしよう。始祖ウイルスと寄生体ネメシスプロトタイプを投与されたリサ・トレヴァーの血液からサミュエル・アイザックスが発見した、始祖ウイルスやT-ウイルスやG-ウイルスとも全く異なる、新種のウイルス。効果は「融合」と「適応」だ。

 

 「融合」は外付けで使用した際に有機物と癒着し結合される。新しいB.O.W.だとサーベラス・スキュラがこれを用いて配下のゾンビ犬と融合し三つ首犬の下半身を手に入れていた。

 

 「適応」は文字通り環境への適応、特に脱皮の特性を持つ生物に投与したり、クローニングの際に用いればRT-ウイルスに刻まれた遺伝子情報を持つリサ・トレヴァーと酷似した肉体を形成するように適応、さらに適応を繰り返すことで強化されていく。ゴルゴーン三姉妹は人間にこれを投与したうえで結合させた蛇の遺伝子に融合、適応させることで完成した。

 

 さてここで思い出してほしいのが、グレイブディガー・ヒュドラだ。グレイブディガー・ヒュドラはRT-ウイルスの総体性ともいえるB.O.W.だ。RT-ウイルスに感染していたグレイブディガー・ハスタとニコライ・ジノビエフの二人を核として、ラクーンシティ中に蔓延っていたグレイブディガーが「融合」し、その肉体の肥大に「適応」して適した肉体を形成。さらにゾンビやら生存者やらを際限なく取り込んで「融合」し、「適応」してあの巨体と戦闘能力を手に入れた。

 

 つまりは、G-ウイルスの宿主(しゅくしゅ)は単体で進化し続ける「究極の個」だが、RT-ウイルスの宿主は自分以外の有機物を取り込み適応し続ける「究極の多」である。それはつまりどういうことか。

 

 

 

がつっ ざしゅっ ぐしゃっ ぐちゅっ ぶちっ ずぞぞっ

 

 

 なにかに憑りつかれたかのように単眼をギラギラと輝かせながら黙々と、持ってきたエウリュアレーの死骸と、ステンノーの死骸に顔を近づけるメデューサ。そして髪の触手ともども噛みつくと、歯で噛みちぎり、肉と骨を歯で磨り潰し、骨を潰し、皮を引き裂き、血を啜っていく音が響き渡る。もともと人であったメデューサの倫理観なら絶対に行わないであろう、姉たちを貪るという凶行。姉を一気に喪った悲しみと絶望、家族を奪った者たちへの怒りと憎しみが、彼女を狂わせた。ただひたすらに求めたのは力。非力な己が、仇を塵殺するために必要な、力への渇望。

 

 蠱毒、という言葉が日本には存在する。蠱道(こどう)蠱術(こじゅつ)巫蠱(ふこ)などとも呼ばれる呪術の一つ。小さな入れ物の中に百足や蛇といった大量の生き物を閉じ込めて共食いさせ、最後に残った1匹を呪詛の媒体に用いると言う、何ともエグい呪術のことをいう。古文書『隋書』には蠱毒の作り方、畜蠱としてこんな記述がある。

 

 

―――――「五月五日に百種の虫を集め、大きなものは蛇、小さなものは虱と、併せて器の中に置き、互いに喰らわせ、最後の一種に残ったものを留める。蛇であれば蛇蠱、虱であれば虱蠱である。これを行って人を殺す。」

 

 

 つまり蠱毒とゴルゴーン姉妹たちの素体となった蛇という生物は途轍もなく相性がいい。そして相手はよりにもよって蛭や蜥蜴、蜘蛛といった蠱毒の材料となる生物たちのB.O.W.である。それは明確に結果を表した。死んでも死にきれない姉たちの怨念をも血肉と共に喰らい、少女でしかない自我は喰い潰されて、思考は呪詛で満たされる。

 

 

「アアアアアアア!!ねえさまねえさまねえさまねええさまねえええええさまああああああああああっ!!悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎――――――コロス」

 

 

 慟哭と共に少女の身が膨れ上がる、ボコボコと膨れ上がる。タコの様な脚はそのまま根の様に広がり、顔と上半身は一体化して膨れ上がる。髪の触手はそのまま蛇の様な形状をしたイソギンチャクの様に肥大化して蠢き、騒ぎに乗じて近くにやってきていたゾンやバンダースナッチを捕らえると頭頂部の穴のような口に放り込んで取り込んでいき、どんどん大きくなっていく。上下に蠢く触手の束を有する巨大な胃袋に単眼がついたという、妖怪バックベアードにも似た、もはや人の面影がない異形。メデューサ第二形態、またの名を三姉妹の融合体「ゴルゴーン」。ここに顕現せり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を上った先の廊下の突き当りの部屋まで息を忍ばせやってきたクイーンたち。中で物音がして、クイーンは人差し指を口元にやりジェスチャーで静かにするように伝えると、扉を蹴り開ける。中には、なにやらオルゴールを弄っていたアレクシアがいた。

 

 

「見つけたぞ、アレクシア!」

 

「そんな、いつの間に…!?」

 

 

 アレクシアの姿を見つけるなり、粘液糸を飛ばすクイーン。アレクシアはなすすべなく、粘液糸で縛られ拘束されてしまう。

 

 

「アレクシアに何をする!」

 

「させるか!」

 

 

 するとベッドの天蓋が降りてきて上に繋がる梯子が姿を現し、そこから伸びたライフルの銃口がクイーンを狙って弾丸が放たれる。それは、次に部屋に飛び込んだモリアーティが糸で覆ったままの右腕を盾に防御。続けざまに放たれた弾丸がアレクシアとクイーンを繋ぐ粘液糸を撃ち抜き、自由になったアレクシアは粘液糸を払いのけて奥の石像を操作し、石像はぐるりと回って反対側の部屋に逃れてしまった。

 

 

「アレクシアを追え!私は、上のアルフレッドを!奴の持つ飛行機の鍵がいる!」

 

「了解でござる!」

 

「そもそもこの屋敷が私のサイズに合わなすぎる…」

 

「ええー、やる気起きない……」

 

キシャー(ほら姉御、こっち)

 

 

 通ってきた廊下を踵を返して反対側の部屋に向かうプサイとモリアーティ、スウィーパーに引きずられたシータ。下半身が巨大な蜘蛛なモリアーティだとそもそも部屋の中に入れなかったし、シータと一緒だと心配なのでプサイも付けた。大丈夫だ、一人でもやれる。クイーンはそう意気込んで、梯子を上っていく。

 

 

「なんだ、ここは……」

 

 

 そこには室内だというのにメリーゴーランドが存在し、クイーンが来たことを合図としたように電源がが入り、不協和音のメロディーを流しながら動き出す。その中央に、その男は立っていた。

 

 

「ここは我らが幼少期を過ごしたオモチャ部屋だ。我らのゲームの駒、玩具に過ぎないお前にはふさわしい墓標だろう?」

 

「趣味が悪いな。まだ幼少期を研究所で過ごした私の方がまともだと思うぞ」

 

「言っていろ!アレクシアを害そうとした報いを受けさせてやる!」

 

 

 その手に持ったスナイパーライフルが火を噴いた。シータの強襲でアサルトライフルを失っているクイーンはアルフレッドから死角になるような位置に移動して回避し、粘液糸を玉状にして、中指と薬指を畳んで人差し指と小指の間を照準、親指を引き金として弾丸の様に放つことで応戦。しかしアルフレッドは動き続けるメリーゴーランドを巧みに盾にしながら応戦し、メリーゴーランドを中心に銃撃戦が繰り広げられる。

 

 

「なんだそれは!おもちゃの様な鉄砲だな!」

 

「そっちこそどうした!すごいのは武器だけか!?」

 

「よくも私を愚弄したな!…?どこにいった!」

 

 

 挑発すると、あっさり顔を出すアルフレッドだが、姿を消したクイーンに訝しむ。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 その背後から、メリーゴーランドに掴まったクイーンが回ってきて、掴まったまま両手で支えて己が身を振り子の様にした両脚蹴りが炸裂。アルフレッドは蹴り飛ばされて、宙を舞い蟻の絵が描かれた壁に叩きつけられる。その懐から、なにかが転がり落ちた。鍵だ。

 

 

「ぐ、うっ……」

 

「これが飛行機の鍵か?お前の妹と一緒にいただいていくぞ」

 

「っ、待て……むぐう!?」

 

 

 アルフレッドは抵抗しようとするも、粘液糸で口を塞がれ壁に粘液糸で繭の様に縫い付けられ、クイーンは鍵を拾って梯子を下りていく。

 

 

「~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 

 虚しく回り続けるメリーゴーランドのBGMをかき消す、アルフレッドの声にならない絶叫が木霊した。




メデューサの変異とアルフレッド戦を同時に描写するのはさすがに無茶だった。よく考えたらモリアーティ、容姿的にあの金持ちのわりに小ぢんまりした部屋は入れないんですよね……。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:27【アルビノイド・オーバーフロー】

どうも、放仮ごです。恒例の自爆がやってまいりました。そして出すのを忘れていたB.O.W.が一匹。実はもっと早く出る予定だったんだけどもっといい案をもらったから後回しにしてたら本家の方を忘れてた。

ついにロックフォート島からの脱出開始。楽しんでいただけると幸いです。


「止まれ……止まれってくれ、親父!」

 

 

 ディオスクロイを倒した先の訓練所のガレージで、ゾンビと化した父親と遭遇したスティーブは、襲われたクレアを助けるためにその手にかけてしまう。アルプに見せられた悪夢が現実に。唯一残った家族を自らの手で殺すという、絶望。クレアは立ち尽くすスティーブに何と言ったものかと迷っていたが、しかしそれは突然のアラートで吹き飛ばされる。

 

 

《爆破装置が作動しました。島内全ての施設を爆破します。全員速やかに避難してください》

 

「爆破!?冗談じゃないわ!私達を纏めて始末するつもり!?」

 

「……もうたくさんだ。こんなところ、出て行こうぜ!クイーンたちがやってくれたかもしれねえ。俺達は先に飛行場に急ごう!」

 

 

 空元気でそう叫ぶスティーブに、クレアも頷きガレージを後にし、サンドレギオンを倒した広場を抜けてスティーブの案内で空港に向かうのだった。その、背後。サンドレギオンの掘った地下に続く穴から。

 

 

「…………シィイイッ!」

 

 

 這い出してきた頭が異様に小さい人影が、蠢いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、あれなに!?」

 

「知らんでござる!アレクシア!お前の差し金でござるか!?」

 

「私も知らないわよ!?」

 

「見た感じ蛇だな。あの生き延びた妹か…?だがどうしてあんな…」

 

 

 一方、逃げたアレクシアを素早い足であっさり捕らえたシータとプサイ、モリアーティとスウィーパー一行。アレクシアをモリアーティの糸でグルグル巻きにしてスウィーパーが肩に抱え、迫るゾンビを蹴散らしつつ私邸の廊下を走りながら、半壊した壁の向こうで蠢いてゾンビやバンダースナッチを捕食しているゴルゴーンを見て戦慄するが、それどころではない。アレクシアが焦りのあまりアルフレッドの部屋にあった自爆スイッチを押してしまったのだ。大惨事である。

 

 

「とにかく、クイーン殿がアルフレッドから鍵を手に入れることを期待して先に飛行場に向かうでござる!」

 

「天才って聞いてたけどこんなことやらかすなんてばかよ、ばか!おおばか!」

 

「ぐっ……」

 

「それについては同感だが、来るぞ!」

 

 

 モリアーティの警告の直後、壁を貫きながら襲い掛かってくる目のない蛇の様に口を開いた巨大な触手。目ざとくこちらを見つけたゴルゴーンの頭部から伸びた触手だった。

 

 

「はっ、ざーこ!」

 

 

 振り返ったシータが勢いよく蹴り上げて天井に叩きつけるも、次から次に襲い掛かってくる。咄嗟にモリアーティが尻部を背後に向けながら上半身だけ振り返り、糸を噴射して蜘蛛の巣を形成して受け止めるも、触手は一瞬だけ受け止められるも噛みちぎって突き進んでくる。

 

 

「ちっ、だめか!」

 

「ちょっ、そんなには無理!?」

 

「最強なんだろ?なんとかしてみせろ」

 

「物量は一人じゃどうにもならないんですけど!?あたしのビーくん、荷物運びに使ってるし!」

 

「なら拙者が合わせるでござる!」

 

 

 ならばと、それぞれ右手と左手の爪を構えてシータとプサイが迎え撃つ。高速で鋭い爪を有する片腕を振り回し、触手を次々と斬り裂いていき際限なく雪崩れ込んでくる触手の津波に対抗する。

 

 

「じゃきんじゃきんじゃきん!ふざけないと、やってられないでござる!」

 

「ねぇえぇえ!やだやだやだ!ざこの癖に多すぎ!」

 

 

 しかし斬られた傍から引っ込み再生したら戻ってくるという、圧倒的な物量に二人は泣きそうになる。すると、アレクシアを抱えたスウィーパーを庇う体勢をとっていたモリアーティが伸ばした糸に溶解液をかけてグルグルと回転させながら叫ぶ。

 

 

「頭を下げろ!」

 

「「はい!」」

 

 

 モリアーティの言葉に、いったん攻撃をやめてしゃがんで頭を抱えるプサイとシータの頭上を溶解液を纏った糸がまっすぐ遠心力のままに飛んでいき、接触するかどうかというところでモリアーティは糸を振ってたわませると、引っ掻けるようにして触手の波を纏めて溶断。纏めて触手を斬り裂かれたゴルゴーンは、食道の様な口で絶叫を上げる。

 

 

アァァァァァァアアアアアアアア!?

 

「今でござる!」

 

 

 私邸のホールの階段を降り切って、入り口から外に出て外階段を駆け抜け、ゴルゴーンの横を抜けて石橋を渡るプサイたち。しかしゴルゴーンは逃がさんとばかりに、下部触手を蠢かせて追跡を開始。石橋を破壊しながらその巨体でプサイたちに迫る。

 

 

まちなさぁあああああああああい!! にぃいいがさないわぁああああああああ!! ねえさまねえさまねえさまねえさまねええええええええさまぁああああああっ!!!

 

「爆破する前に全部破壊する勢いでござるな!」

 

「なんか三人で喋ってない?きもちわるっ!!」

 

「妹に姉二体が合体したのか?どういう仕組みだ、アレクシア!」

 

「だから知らないわよ!?放して、お父様が!」

 

 

 モリアーティが溶解液を放って牽制しつつ。公邸に逃げ込むプサイたち。飛び出したのは、執務室だ。例の隠し扉らしかった。建物に逃げ込んで安心したのもつかの間、地響きと共に、屋根が破壊されていく音が地響きと共に響き渡る。

 

 

「ここなら安全……なわけ、ないでござるよなあ」

 

「たしか、この公邸とかいう屋敷の先が飛行場よ!」

 

「そこまで逃げればいいわけだ。…だがクイーン待ちだぞ、どうする?」

 

「どうするもなにも、信じるしかないでござるよ」

 

 

 執務室を抜け、アルプの死骸が転がるホールを駆け抜け、私邸とは反対側の外に出る。そこに、公邸の向こう側で暴れるゴルゴーンが見えたのか焦った様子のクレアとスティーブがやってきた。

 

 

「え!?蜘蛛のやつに、さっき襲ってきたシータとスウィーパーとかいう…!?」

 

「プサイ!何でそいつらと一緒にいるんだ!?」

 

「なに?あたしがいたら悪いわけ?」

 

「まあ無理もないな。特に私は殺し合った仲だ」

 

「シータ殿とモリアーティ殿でござる、今は味方故!アレクシアも捕まえたでござるが、メデューサが変貌した怪物が追いかけてきているでござる!飛行場に向かってクイーン殿を待つでござるよ!」

 

「っ、避けろ!」

 

 

 プサイが軽く説明して、いざ飛行場に向かおうという時だった。青い電光が瞬き、放電が襲いかかってきて、咄嗟に蜘蛛の巣を道に張って地面に通電させることで盾にしたモリアーティが防御。クレアとスティーブがやってきた訓練所の方から放たれたそれの主は、ひたひたと足音を立てながら四つん這いでやってきた。頭部が異様に小さく四肢が長く長い尻尾が生えたオオサンショウウオの様な怪物で、背中に赤いトゲがいくつも生えている出来損ないの人間の様な何か。それに反応したのは、アレクシアだった。

 

 

「…アルビノイド・オーバーフロー……」

 

「知ってるでござるかアレクシア!吐くでござる!」

 

「……オオサンショウウオで作られた放電能力を持つアルビノイドというB.O.W.を私が強制的に成体に成長させたB.O.W.よ。制御できないから閉じ込めてた部屋の機械を放電で壊して出てきたのね…」

 

「そんなのがついてきたら飛行機がイカレてしまうぜ!」

 

「電気?何それ美味しいの?あたしが足止めしてやるからさっさと行っちゃえば?ざーこ」

 

 

 プサイに脅されてアレクシアが情報を吐くと、アルビノイド・オーバーフローの前に立ちはだかったのはシータだった。誰かが何かを言う前に、高速で突撃。長い人の手に似た形状の前脚で掴みかかろうとしてきたアルビノイド・オーバーフローの一撃を避けて、踵落としを腕に叩き込んで叩き折るシータ。反撃で放たれた電撃を浴びてもびくともしないのは無痛覚故か。ちょっと痙攣しているが。

 

 

「行くでござる!シータ殿の犠牲を無駄にしないためにも!」

 

「ちょっと、勝手に殺さないでくれる!?」

 

「クレア!これを受け取れ!」

 

 

 プサイがモリアーティ、アレクシアを抱えたスウィーパー、クレア、スティーブを連れて飛行場に急ごうとすると、空を舞い上がって駆け付けたのはクイーン。クレアに向けて鍵を投げ渡し、背後から伸びてきたゴルゴーンの触手を宙返りで回避。シータも自分に向かってきた触手を斬り裂いて迎撃する。見れば、公邸を半壊させたゴルゴーンがすぐそこまで迫ってきていた。

 

 

「クイーン殿!」

 

「こいつらの足止めは必要だ!ここは私とシータに任せろ!すぐ合流する!」

 

「……自分を犠牲にだけはご法度でござるよ!」

 

「わかってるさ!行け!」

 

 

 クイーンの必死の言葉に頷いたプサイ。スティーブの先導で飛行場に急ぐ。それを見届け、ゴルゴーンの触手を蹴り飛ばしながら向き直るクイーン。その横に、電撃をそう何度も浴びたらやばいと気付いたシータが着地した。

 

 

「で、どうするの?」

 

「倒さなくていい。飛行機の準備ができるまで耐えれば私たちの勝ちだ」

 

「あたし、耐えるのは得意よ」

 

「頼りにしてるさ」

 

 

 ゴルゴーンとアルビノイド・オーバーフローが迫り、クイーンとシータは迎え撃った。




完全に出番を喰われていたアルビノイド・オーバーフローくん降臨。オーバーフローと枕詞がついてますが、要は強制的に成体にしてるだけなのでただのアルビノイドです。

あっさり拘束され連れ去られたアレクシア。まさかの自爆スイッチオン。なにしてるんでしょうねこの妹は(すっとぼけ)

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:27.5【Whatアレクシア?】

どうも、放仮ごです。感想で何人かに気付かれてるみたいなので、あえてヒントをばら撒いていくスタイル。

これまでのヒントのおさらいタイム。気づいている人も気づいていない人も、楽しんでいただけると幸いです。


~fileCV:2【アシュフォード兄妹】より~

 1983年12月31日、ウィルスの感染事故により12歳の若さで死亡しているはずだったアレクシア・アシュフォード。今から一年前、“目覚めた”アレクシアに、アルフレッド・アシュフォードは本当に、心の底から喜んだ。

 

 

「そう。ついに来たのね、お兄様。私たちの元に、RT-ウイルスを研究するチャンスが…!」

 

「だって、RT-ウイルスが手に入れば、今だ開発中で未完成のB.O.W.たちを完成させることができるのよ?いくらアンブレラに要望しても貴重な品だと一点張りで一欠けらも得られなかったのだから。それに加えて、ウィリアム・バーキンがただの偶然から見つけたG-ウイルスまで!T-Veronicaの問題点を改善できるかもしれないよ?考えるだけで素晴らしいわ…!アッハハハハハ!ハァ~ハハハハハ…!」

 

「いいえ、お兄様。時間が惜しいわ。訓練所の生物実験室を使う。あそこには調整するために一匹ずつ連れてきているから、すぐにでも試すことができる。G-ウイルスとRT-ウイルス……フフフッ、虫けらにしては上出来よ……全部私のものにしてあげる……」

 

「ええそうね。お兄様。悪いようにはしない。せいぜい先端を斬り刻むぐらいよ。それぐらい、貴方たちならすぐ治るでしょ?」

 

「…失礼なやつね。私はちゃんとここに生きているわ。貴方たちはこれから未来永劫、私の研究材料として生きるの!光栄に思いなさい、虫けらがこの私に目をかけてもらったのだから!」

 

「ええそうよ。全て私が支配する…。私が女王として君臨するのよ」

 

 

 自分をすべてを支配する女王だと驕り己とアルフレッド以外のすべてを研究材料と称する、天賦の才を与えられた傲岸不遜の女。それがアレクシア・アシュフォードだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:3【想定外のバイオハザード】より~

 

「落ち着いて、……お兄様。綺麗なお顔が台無しよ」

 

 

~fileCV:6【三つ首犬再び】より~

 

「フフッ。さすが……お兄様。こんな……虫けら、相手にならないわね」

 

「大丈夫よ、お兄様。この子たちが……虫けらなんか、やっつけてしまうから」

 

「……これでよし。ハンタープサイから採取したRT-ウイルスを投与したわ。あとは調整が終わったら自動的に解放されるように設定したわ。これであの忌々しい……虫けらたちを排除できるわ、お兄様」

 

「ねえ……お兄様?私、ちゃんとできてる?」

 

 

 しかしアルフレッドを呼ぶ際に、他の人間のことを虫けらと呼ぶ際に、一瞬どもる癖があることに気付いていただろうか?最後の台詞を問う際に、不安そうに視線を下にずらすとおずおずと兄に問いかけたことに気付いただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:9【狂気のゲーム】より~

 

「私が抱いたアレクシアの印象と正反対だ。アルフレッドは確かにこんなやつなんだろうが、アレクシアは……なんだ、その……強い言葉を並べて無理しているように、見えた」

 

 

 少年と少女が、生きたトンボの翅をもぎ取り、蟻の餌にしているのを見つめ合って微笑んでいる残酷な光景が映されたホームビデオを見て抱いたクイーンの感想は、本当に見当違いなのだろうか?直感、第六感において敵の不意打ちすら予期するクイーンの感想がこれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:11【悪夢の清算】より~

 

「え、えっと……お父様?」

 

「ああ、アレクシア!忘れてしまったのかい?いや、無理もない。14年も前だ、私もお前も大きく変わった。子供から大人になった。私はお前の兄のアルフレッドだよ!あの愚鈍な父親はいない!ああ、アレクシア!アレクシア!やっと帰ってきてくれた!」

 

「おにい、さま……」

 

「14年間、待ち続けた!ああ、私は壊れてしまいそうだったんだ。そうだ、待てなかった!だから私はこうした!恨んでもいい、蔑んでくれたってかまわない!だから、頼む、アレクシア!私に君を守らせてくれ!もう二度と、私を置いてどこかに行ってしまわないでくれ……」

 

「……ええ。私は、何処にもいかないわ」

 

 

 これは、アルプの能力で見せられたアルフレッドが見た夢の会話である。夢というものは本人の願望か、過去の記憶から作られるものだ。そして、この際のアレクシアの視線には諦念と悲哀が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:13.5【目覚めし恐怖が五つ】より~

 

「貴方たちは設計して生み出したまでは良いけど、能力の強さにT-ウイルスの方が追い付いてなかった。だけど、RT-ウイルスを用いてあなた達は完成されたわ。お……兄様は、彼女たちの死を望んでいる。これはゲームよ。私達兄妹以外の人間を、玩び、苦しめ、痛めつけてから殺しなさい。……そうすればお兄様は満足してくれるわ」

 

 

 これは、ゴルゴーン三姉妹とディオスクロイ、サクリファイスコヤンを目覚めさせた時の台詞である。この言葉の羅列から予想できることはなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:15【サクリファイスコヤン】より~

 

「あんな哀れな人形が私たちの主人だなんて、何の悪い冗談なのかしら?」

 

 

 これは、六つの眼を持ち常人以上の観察力を有するステンノーの口から出た言葉だ。アレクシア様、とエウリュアレーとメデューサがアレクシアを心酔している言葉への返し。あとの台詞によれば、本性を知っているのだという。この意味とは?

 

 

「ようこそ、お……兄様の兵隊の訓練所へ!よくゴルゴーン三姉妹の襲撃をしのいでここまで来れたわね!褒めてあげるわ!」

 

「隠れてないで出ておいで!今ならあっさり殺しはしないわ!私の作品たちの相手をしてもらいたいもの!」

 

「ええ、その通りよ!でもそれだけじゃないわ。ハンターΨ、貴方からいただいたRT-ウイルスで完成させ、目覚めさせたのは全部で五体!出番よ、サクリファイスコヤン!」

 

「アッハハハハハ!ハァ~ハハハハハ…!貴女に刻まれたイヌ科の遺伝子が、私の命令には逆らえない!貴女は私の作品、私の言う通りに暴れるのよ!さあ、行きなさい!」

 

 

 これは、サクリファイスコヤンを伴いスナイパーライフルを手にクイーンたちの迎撃に出たアレクシアの台詞だ。やはり傲岸不遜、しかし端々から礼儀正しさが見え隠れする。そして、サクリファイスコヤンだけイヌ科の遺伝子を植え付けて念入りに言うことを聞くようにしていた。そこまでしてサクリファイスコヤンを従僕させる意味とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:16【ハンターΘ】より~

 

「っ……庇うなんて、バカね!そのまま蜂の巣になりなさい!」

 

 

 ライフルからクレアたちを庇ったことで血を流し苦痛に声を漏らすプサイに対し、アレクシアは一瞬表情を歪めたが、すぐに嘲笑を浮かべた。なぜか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:23【蛇の道はヘビー級】より~

 

「ディオスクロイ……ごめんなさい………お兄様」

 

「気にするな、ディオスクロイの素体が脆弱すぎただけだ。次からは心も失わせないとな。操りにくいというのはわかるが」

 

「わかったわ……今度からは、そうする……」

 

「……アレクシア。間違っても、虫けらたちに同情しようとは思うな。我々は偉大なるベロニカ・アシュフォードの血を継いだ高潔なる一族なのだから。お前がアレクシアの名を持っているのはそう言うことだと忘れるな」

 

「……は、い」

 

 

 ディオスクロイのやられた際の会話がこれだ。何かをひどく後悔するアレクシアと、何時もの甘々な態度はどこへやら厳格な雰囲気で釘を刺したアルフレッド。この会話に隠された、ある真実が存在する。実はタイトルにも…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~fileCV:27【アルビノイド・オーバーフロー】より~

 

「私も知らないわよ!?」

 

「だから知らないわよ!?放して、お父様が!」

 

「…アルビノイド・オーバーフロー……」

 

「……オオサンショウウオで作られた放電能力を持つアルビノイドというB.O.W.を私が強制的に成体に成長させたB.O.W.よ。制御できないから閉じ込めてた部屋の機械を放電で壊して出てきたのね…」

 

 

 あっさりプサイたちに捕まり、その際にうっかり自爆スイッチを起動し、兄を差し置いて“お父様”を心配し、聞かれたため自分の作ったB.O.W.の詳細を話してしまう、度を越したポンコツぶり。ここまでくればさすがになにかがおかしいと誰もが気付くはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はたしかにアレクシア・アシュフォードだ。

 パズルのピースは

 

 

 

 それは断言しよう。

 ここに揃った。

 

 

 

 それだけは間違いではない。

 あとは答えに

 

 

 

 間違いではない、のだ。

 行きつくのみ。

 

 

 




全部の全部にヒントをばらめかせてたけど小出しにしてたから意外と気づかれてないのかなとも思ってる。最後のがやりたかっただけともいう。

次回、ロックフォート島編最終決戦、そして真相解明のお時間です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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fileCV:28【兄の狂愛、娘の悲哀(CODE:Alexia)

どうも、放仮ごです。【EvelineRemnantsChronicle】で過去一早い時間に投稿できたかもしれない。

濃すぎて戦闘シーンまでいけなかった真相解明。楽しんでいただけると幸いです。


「…ああ、アレクシア……私は、また……お前を、失ったのか」

 

 

 オモチャ部屋で粘液糸で縛られ、ついでにアレクシアが引き起こしたとは知らないが自爆スイッチが起動し、身動きが取れないまま絶望に目を瞑るアルフレッド。そこに、下に繋がる梯子の穴からひょこっとそれが顔を出した。

 

 

「みつ、けた……」

 

「おまえ、は……」

 

 

 ゾンビ犬から剥ぎ取ったのか、犬の顔の毛皮を顔に被り口元だけ露出した、金色の毛皮に覆われ鋭い爪を持つ明らかに身体のサイズに合っていない異様に長く、足は獣の骨格をしている四肢と、金色の毛皮の長いモフモフとした尻尾を有している獣人の女、サクリファイスコヤン。顔に被った毛皮の端からは、以前は紙袋で隠していた金髪が飛び出していた。サクリファイスコヤンは鋭い爪でアルフレッドを拘束する糸を斬り裂くと、手を差しのべる。

 

 

「おにいさま……」

 

「…ああ、アレクシア!すまない!私は……私は……!」

 

 

 何故かサクリファイスコヤンを抱きしめて、アレクシアに謝りだすアルフレッド。サクリファイスコヤンは動揺することなく、受け入れて爪で引き裂かないようにアルフレッドの頭を撫でている。

 

 

「ああ、アレクシア!私はお前がいないと生きていけない!あの愚かな父と同じ道を辿ったのは腹立たしいが……ん?いや、そんなバカなことがある訳ない。あんな所業など、父の代で終わりだ。そう、アレクシア。アレクシアはここにいるのだから、私がそんなことをやるはずないだろう。ああ、その顔をもっと近くで見せておくれ」

 

「……わたし、は……アレクシアで、いいの……?」

 

 

 アルフレッドに乞われて、サクリファイスコヤンが犬の毛皮を取り外し、クイーンが目撃した素顔を見せる。そこにあったのは、目の前の男と瓜二つの顔。いや、正確にはアレクシアと同じ顔がそこにあった。

 

 

 

 

 これが答え合わせだ。ああ、どうしようもなく。この男は壊れてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真実は、一年前の南極研究所まで遡る。アシュフォード家が所有するもう一つの施設に、アルフレッドはいた。ここはもともと、とある研究のために双子の父親であるアレクサンダー・アシュフォードが南極の廃坑跡を利用した輸送ターミナルに設立させた大規模な最新研究設備である。ちなみにリサの父親ジョージ・トレヴァーがやっぱり設計に関わっていたりする。この世界の変な建設は大体この男が関わってるが今回は関係ない。

 

 そのとある研究とは、アレクサンダーの父にしてアンブレラ設立にかかわったエドワード・アシュフォードの研究をサポートするべく遺伝子工学が専門だったアレクサンダーが進めていたアシュフォード家の始祖にして最も優秀だった女傑ベロニカをこの世に再誕させ衰退したアシュフォード家を復興しようというあまりにも馬鹿げた計画「CODE:Veronica」。

 

 アレクサンダーは長年に渡る研究により、知能を司る遺伝因子を特定した。してしまった。その因子の塩基配列を組み替える事によって人工的に知能の絶対値を操作する事に成功したのだ。偉大なる始祖ベロニカの遺伝子を基にその因子を操作して、代理母体の未受精卵に移植した。そうして生まれたのがアルフレッド・アシュフォードとアレクシア・アシュフォードの双子だった。アレクシアが天才なのも、アルフレッドが変なところで優秀なのもこのためである。

 

 アレクシアが死亡したとされる事故。それは、アレクシアによる偽装死だった。アレクサンダーを当時研究していた新型ウイルス「T-Veronica」の実験体とし、問題点を洗い出したアレクシアは自身にウイルスを投与しコールドスリープすることによって、ウイルスを身体に馴染ませるという方法を編み出し実行したのだ。アルフレッドは、然るべき時間が経った際にアレクシアを目覚めさせる大役を仰せつかった。

 

 しかし15年、この当時は14年間。その時を待ち続けたアルフレッドは、マリアナ海溝より深くアレクシアを溺愛していた。溺愛していた故に、徐々に壊れて行ってしまった。アレクシアが帰ってくるまでに地盤を整えるべく、アシュフォード家を再興しようと尽力した。しかしそれは、遺伝子改造によって生み出された、ベロニカ・アシュフォードのクローンとしての孤独は癒せなかった。この孤独を癒せるのは、この世で唯一ただ一人。同じ様に生まれ、生まれた時から共に過ごしたアレクシアだけだ。故にアルフレッドは壊れた。壊れてしまった。

 

 ここで史実ならば、女装して自らがアレクシアになりきることで幻想の世界を作り出すことに逃避していた。だがこの世界のアルフレッドは逃げなかった。ある男がいたためだ。その男の名を、サミュエル・アイザックス。そう、またこの男である。アンブレラ1のクローニング技術を持つこの男に、アルフレッドはある取引を持ち掛けた。南極研究所に保管されている「T-Veronica」のサンプルを渡す代わりに、その技術を教えてほしいと。アイザックスは快く受け入れた。

 

 そしてアルフレッドは取引で得たクローニング技術と南極基地に残っていた父の残した遺伝子工学の設備を用いて、己の遺伝子、そして眠り続けるアレクシアから採取した遺伝子を使ってそれを生み出してしまった。そう、アルフレッドは、よりにもよって忌避していたはずの父親と同じことをしでかしてしまったのだ。己の遺伝子と最愛の妹の遺伝子を掛け合わせた、しかし元が同じ遺伝子であるためベロニカ…いやアレクシアと瓜二つの自分の子供とも言うべき……アレクシア“たち”を作り出してしまったのだ。アルフレッドは彼女たちを個人として見ることなく、全員に「アレクシア」の名前を与えた。狂気の所業である。そのプロジェクトの名を「CODE:Alexia」という。

 

 何人か生み出されたアレクシアたち。しかしド素人な上にそちらの才能は一切ないアルフレッドが単独で生み出したために、身体の一部が欠損していたり、言語能力に問題があったりと失敗作続きだったのだが、その中で唯一五体満足でさらに会話できる知能を有した“アレクシア”がいた。

 

 自分を「お父様」と呼んだそのアレクシアに、アルフレッドは洗脳まがいの言葉で兄と呼ばせた、心の底からそう思い込んでいた。目の前のマガイモノを、アレクシアだと思い込むことで心の安寧を保とうとしたのだ。こうして“目覚めて”自分の役割を認識したそのアレクシアは、父の……いや、兄の期待に応えられるよう頑張ることにした。

 

 過去の記録を漁ってアレクシアらしい言動を勉強して理想の妹を演じて。本当に気が進まなかったが兄の力になれるようにと持ち前の頭脳を使ってB.O.W.を作るために数多の実験を行い。時には囚人たちに拷問まがいの事を行って兄を満足させ。時には、アレクシアは一人でいいと断じたアルフレッドのために自分の姉妹ともいえるアレクシアたちを実験体として使い潰した。その一人が、上記の言語能力に問題があるアレクシア。のちのサクリファイスコヤン(犠牲の女人狼)である。その結果、父親から自らの存在を否定された彼女は、自らの顔を忌避するようになってしまっていた。

 

 しかしこのアレクシア。本物と違って半分はアルフレッドの遺伝子である。どうしても詰めが甘いポンコツなところまで受け継いでしまった挙句に、凡人なところまで受け継がれてしまった。あまりにも人間らしいのである。人を傷つければ心が痛むし、心根なのか言葉の端々から礼儀正しさが見え隠れする。天才の頭脳、凡人の心。それが同居してしまった故に、有能なポンコツという異様なものができてしまった。それこそが、クイーンたちの相対してきたアレクシア・アシュフォードの正体だった。

 

 

「……お父様、無事でいて……」

 

「父親までこの島にいるのかよ?」

 

 

 縛られた飛行機の中に入れられた状態でなお、兄を……父親の身を案じるアレクシアに、計器の調整と見張りを引き受けたスティーブが忙しなく動きながらぼやく。残りのクレアたちは外を駆け回って飛行機が動き出すための準備を行っていた。そこに、プサイを戦闘に一行が戻ってくる。

 

 

「準備ができたでござる。アレクシアも確保したでござるし、あとはクイーン殿たちを待って脱出するだけでござるな」

 

「……それは、残念だったわね。私は貴方たちの捕まえたかったアレクシア・アシュフォードじゃないわ」

 

「え」

 

 

 衝撃のカミングアウト。そうして語られる真実とその生々しさに、絶句する一同。H.C.F.ひいてはそれを率いるウェスカーの目的であろうアレクシア・アシュフォードを奪ってロックフォート島から脱出する。それがクイーンたちの目的であり、勝利条件だ。…本物のアレクシアでない以上、…意味があるかどうかはわからない。

 

 

 クイーンたちは、まだ来ない。




 というわけで答えはクローニング技術を利用したアルフレッドの娘、でした。コードベロニカを父親がやらかしてんだからアルフレッドも技術提供者がいればやってもおかしくないよねって。なおこの男、妹に無断で、その遺伝子を使って、しかも何人も作って、それ全員に妹の名を付けて、一番それっぽい1人だけ妹として扱うという、究極なまでに気持ち悪いことをしてます。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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