ルパン三世~月下に女怪盗は笑う~ (makky)
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第一章『月下に花は咲く』
泥棒達の協奏曲 前編


 勘違い系かな?勘違いになるといいなぁ


 ――あぁ、きっとこれは夢なんだろう

 あたりが警告灯で赤に染まり、警報が鳴り響く中で僕はそう思った

 

 白昼夢でも胡蝶の夢でも夢遊病でもなんでもいいけど、これは現実の出来事じゃない

 今まで散々非現実な出来事を体験してきたけど、これは群を抜いてバカげている

 そう、そうなんだ

 だってそうじゃなきゃ――

 

 

「さぁてと…初対面で申し訳ないけんどよ、共同作業と行きましょうか?怪盗ルナさん?」

 

 

 ――モンキー面した世紀の大怪盗と手を組んで大脱走するわけがないんだから

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 さて、いきなり身の上話から入ろうか

 僕の名前はルナ、苗字は知らない

 生まれつきフランスの貧民街で生活してたんで親の名前はおろか顔すら知らない

 僕は所謂『転生者』ってやつらしい

 とはいっても前世をぼんやりと覚えているだけで、死んだ経緯や今世にやってきた過程もさっぱり覚えていない

 もしかしたら前世の記憶ってやつも自分の妄想なのかもしれないけど、それはどうでもいい

 

 僕はこの世界でもう15年生きている

 けれどもどうやら僕自身はこの世界では異端に属しているらしい

 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚――要するに五感であるが――、さらに身体能力に第六感まで滅茶苦茶研ぎ澄まされている

 どれくらい凄いかって言うと説明が難しいんだが、僕はこいつのおかげで今までほぼ一人で生きてこられた

 

 さて、そんな僕だがある日片田舎にあった貧民街である噂が流れた

 

 『オルレアン朝時代に紛失した王家の宝物が金持ちに売られた』と

 

 ぶっちゃけものすんごく眉唾物だった

 こんな貧乏人しかいないような街で流れる噂なんて、地方紙の誤報をゴシップ紙が面白おかしく書き換えたものくらいしかない

 実物を見たわけでもないし、そんな情報に興味なんて――

 

 

 ――そう、誰かが持ってきた新聞で、そのお宝を見るまではそう思っていた

 

 

 鮮やかなアメジストとルビーに彩られたイヤリング

 かつて嫁いできた王女たちが付けていたとされるそのお宝を見て

 

 僕は今の道を歩み始めた

 

 

 

 まあ要するに泥棒になったってことだね☆

 その顛末については、色々込み入った事情があったので割愛するとして

 とにかく僕は最初のお仕事を見事大成功で締めくくった

 

 そのあとはもう自分の感覚に身を任せて盗みまくった――と言いたい所だけど、実はまだ5回しか盗みに入ってなかったりする

 いやーフランス出るのにもお金がかかってねぇ、EU同士のつながりが無かったらとてもじゃないけど国外活動なんてできなかった

 

 フランスのほかにはイタリア・ドイツ・オーストリア・ベルギーでお仕事をさせてもらった

 そのすべてが個人蔵、要は公営の施設にないお宝である

 

 だって国相手にするのはちょっと怖いし(本音)

 まあ、マフィアのお宅に家庭訪問させてもらったりもして結構恨み買ってるらしいけどね

 

 僕のお仕事はとってもシンプル

 

 1.前日に下見をする

 2.予告状を送る

 3.盗む

 4.逃げる

 

 とまあこんな感じだ

 …一つだけシンプルじゃ終われないところもあるんだけども

 

 さて、そんな僕だけど次の狙いはベルギーのお隣オランダと決めていた

 

 オランダ王国のオラニエ=ナッサウ家は今のインドネシアを植民地として統治していた時、様々な貴重品をヨーロッパ本国に送らせていたらしい

 その中で特に欲しくなったのが「太陽の輝石」だ

 コーラルアゲート(サンゴの化石)でできているそうで、本来は見たまんま化石な色なのだがこの太陽の輝石は何と全体が真っ黄色なのだ

 理由は不明だが、サンゴの模様と合わせて輝く太陽に見えたことからこの名が付いた

 

 もともとは王室保管物だったのだが戦争やらなんやらでごたごたした結果、とある製薬会社がこの度新たな所有者となったという経緯がある

 個人所有物なら、盗ってもいいよね!ということで速攻オランダに不法入国(パスポートなんてあるわけないので)

 

 んで軽ーく下見をした結果盗まれるとは露ほど思ってないのか警備は結構薄いことが判明

 仮拠点を見つけて予告状を送り付けてお仕事開始

 無事目的のブツが置いてある保管庫まで潜り込み

 

 そして冒頭に戻る

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 いやー油断したねぇ

 まさか他の人とダブルブッキングしちゃうなんて

 ルナったらおドジさん☆

 

 …って言ってる場合じゃねぇ!!

 

 え?なんで?なしてルパン三世?え?転生は転生でもアニメ世界に転生とか想定外だYO!

 

 …ふう、落ち着こう

 状況の整理だ

 

 

 まず僕は床下の通気口から侵入

 ↓

 お目当ての石がある保管庫を開けて中に

 ↓

 センサーやらなんやら掻い潜って目標を捕捉

 ↓

 やったぜと思いながら盗ろうとしたところでルパン三世が登場

 ↓

 初対面なのにワルサー突き付けられて固まっていると、警備に気付かれたらしく警報が鳴る

 ↓

 ワルサー仕舞ったルパンからお誘いを受ける←今ここ

 

 

 どういうことなの…

 百歩譲ってルパンに脅されるのはいいとしよう

 多分ルパン自身も同じお宝かそれに近いお宝を狙っているんだ

 だから僕を脅した、筋は通ってる

 

 でも共闘を持ちかけるのはよく分からない

 彼ならば自力で脱出できるはずだ

 相棒の(本人は否定するが)次元大介や同じく仲間の(これまた本人は否定するが)石川五右衛門がいるはずなんだ

 お宝奪って僕をおいてはいさよなら~できるはずなんだ

 

 

「あんまり余裕がなくてねぇ、女の子には乱暴しないってのが俺のポリシーなんで――返事を聞かせてもらうぜ」

 

 

 めっちゃすごまれた、きゃーかっくいーなんて言う余裕もない

 ワルサー早撃ちされて仏様にはなりたくないなぁ

 

 ま、脅されなくてもお受けするんですけどね

 漫画・アニメ界屈指の大泥棒との共闘なんて心が躍るZE!

 

 …あ、そうだ。もう1つ言い忘れてた

 僕の欠点、というか癖というかそんな感じのあれだ

 

 僕は盗みに入る時――

 

 

 

 

「仕方ありませんわね…では、エスコートをお願いいたしますわ――名無しの泥棒さま?」

 

 

 

 

 ――なんか人格変わっちゃうんだよねぇ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ~Side:Lupin III~

 

 

 

 

 

 怪盗ルナ

 ここ最近裏世界で名を上げ始めた女怪盗の名だ

 

 フランス王家に伝わる王女のイヤリングを白昼堂々と盗み出し一躍有名になった

 ――いや、有名になった理由は別にあるけどな

 

 同じ泥棒家業を営む者として俺様――ルパン三世はこいつに興味を持ち始めた

 ()()()()()()()()()()()()()()()俺にとって、背中を預けられる有能な相棒は必要不可欠だと感じていた

 

 カリオストロ公国の一件でドジ踏んで以来、いろんな奴と組んできたがどうもしっくりこねぇ

 そんな折目に入ったのがこの女怪盗だ

 

 調べていくうちにこいつはどうも面倒な奴だと感じた

 

 手口は俺に似てるが予告は必ず前日にしか入れない

 個人が所有しているもの――中には表に出せないような代物も盗んでやがる

 

 そしてこいつは盗みに入る前後以外の足取りを一切残していないときたもんだ

 接触できないんじゃあ勧誘もできやしない

 だったら直接会いに行くしかねぇ

 

 次に予告状が届いたのはオランダにある製薬会社だ

 ちょいと探ってみるとこの会社もなかなかにきな臭い

 怪盗ルナが入るところは基本的に裏社会と何かしらつながりのある連中だ

 この会社は人体実験のうわさだけじゃなく、アフリカや中東あたりでも人体強化薬の試験を行っている

 バレりゃ速攻お縄だろうに、会長は次の欧州議会に出馬するとか

 んふふふ、世の中金ってことか

 

 そこにある太陽の輝石っていうお宝がルナの次のターゲットだ

 予告状出してねぇのに忍び込むってのは上品じゃないが、仕方がない

 さて、お手並み拝見と行こうか――怪盗ルナさんよ

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 床下の通気口から出てきたそいつを見た時、俺は最初想像よりも小柄なことに驚いた

 てっきりスレンダーな美女だとばっかり思ってたもんだからなぁ

 しかし手口は見事の一言

 無駄は一切なく、目的のお宝まで必要最低限の手順だけ踏む

 同業者ながら目を奪われちまった

 

 流れるようにお宝の目の前まで進む――おいおいそこに行くまでに何本赤外線センサーあると思ってんだ?

 手に取る前にごたーいめーん、暗がりだった怪盗ルナがよく見えるようになった

 

 身長は155㎝くらい、マジで小柄だな

 だけんどそのキャットスーツはいけませんねぇ、目の毒だぜ

 機能美追求すればそれが一番なんだろうけども、ピッチリしすぎってのも考えもんだぜ

 

 ま、いい女なのは認めるとしてここで最後の仕上げ

 

 わざと警報鳴らしてすたこらさっさだぜぇ~

 

 ちょっと深刻そうに話してみれば、怪盗ルナはこちらの提案に乗ってきた

 ま、言いくるめたとも言うけどな

 

 さぁて、そんじゃ始めるとしますか




キャラクター紹介 

・ルナ(15)
 転生者っぽい感じで二度目の生を受けた主人公
 泥棒に運命感じちゃった系女子でそれを補うチート設計の体で世界を飛び回りお宝を狙う
 なお大泥棒からは逃げられん模様

・ルパン三世(??)
 世紀の大泥棒――として名を馳せる前のルパン
 ガンマン・サムライ・ガールフレンドと出会う前で、カリオストロ公国から逃げてちょっと後くらい
 どうにかいい感じの相棒探してルナちゃんをターゲットにしたが、時代が時代なら事案ですよルパンさん


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泥棒達の協奏曲 後編

高評価と感想ありがとう
みんなルパン三世好きだね


~Side Luna~

 

 

 

 というわけで始まりました「ルパン三世と行くチキチキ!脱出大作戦!」(命名ルナ)

 やぁみんなこの間ぶり、成り行きなのか何なのかよく分からないうちにルパン三世と一緒に脱出することになっちゃったルナダヨー

 

 只今保管室抜けて正面玄関目指して猛ダッシュ中

 え?床下の通気口使わないのかって?

 かーー!これだから泥棒初心者は困るぜ!

 いいかい?おんなじ道で帰ったらいつ盗みに入ったのか分からないじゃないか!

 スリルのない盗みはごめんだね

 

 っと、持論展開してる場合じゃないんだった

 走ってる最中に飛び出してくるガードマン君たちの銃をきれいに撃ち落としていく

 これやると手がしびれてしばらく銃がモテないから実質無力化してるようなもんだ

 人をコロコロ(穏健表現)しちゃうと万が一警察とかにつかまった時が怖いからね☆

 お隣を走ってるルパンも「お前銃の腕前もピカ一なんだな」と感心してる

 いや違うんすよルパン先生

 僕のこれは知らないうちになんか身についてたやつなんで才能とかそんな感じのじゃないです

 

 僕は愛銃――エンフィールド No.2 Mk.Iに弾を込めながらさらに加速する

 

 イギリスのR S A F(Royal Small Arms Factory, Enfield)社が作った中折れ式リボルバー銃だ

 なぜこの銃使ってるかと言えば完全にロマンだ

 だって中折れ式だぜ?!機能美とかそんなのよりもうこの駆動がかっこよすぎる!!

 これ以外だと日本の二十六年式拳銃もいい感じなんだけどさすがにヨーロッパでは手に入らなかったよ…

 愛銃との出会いにもちょっとしたロマンがあるんだけど…今は割愛

 

 はーいこの距離は銃じゃ厳しいので膝蹴りで対応しますねー

 

 1、2、3、4、5、6、ローダーでリロード、後は繰り返し

 

 結構使ってるけどいまだに片手撃ちがマスターできない

 反動キツイよこれ

 

 でもそこがいい

 

 撃つときの、なんていうの?解放感というか

 説明しづらいけどいつもと違った感じを味わわせてくれる

 

 そうこうしているうちに見えたぜ正面玄関

 …の前に製薬会社の社長さんが待ち構えておりました

 うん、普通に考えて僕たちが正面玄関目指してるのバレッバレだよねぇ

 

「コソ泥風情が私の会社に土足で上がり込むとは、身の程知らずめ」

 

 そのセリフはドイツで聞いたぜ

 

「さてお遊びはここまでだ、大人しく『太陽の輝石』を返してもらおうか」

 

 それはオーストリアとベルギーで聞いたなぁ

 

「下手な真似はしないことだ、ここにいる部下だけでお前ら二人をハチの巣にするなんて簡単なのだからな」

 

 それはフランスで…いやあの時は「自分一人で十分だ」だったかな?

 

 見れば社長さんの部下っぽい人たち20人ほどの囲まれている

 世間一般的に言えばこれは絶体絶命ってやつだ

 

 うーん…

 

 た ぎ る ね ぇ (ねっとり)

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side:Lupin III~

 

 

 

 

 怪盗ルナと手を組んで脱出することになったのは俺の想定通り

 

 …だったんだけども、このおてんばちゃんのことを甘く見てたわ

 

 まずいきなり「ではわたくしの後についてきてくださいまし」つって正面ホール目掛けて走り始めやがった

 てっきり侵入した時と同じ通気口で脱出するもんだと思ってたから度肝を抜かれたぜ

 

 しかもこいつ銃の扱いが滅茶苦茶うまい

 両手で撃ってはいるが的確に相手の銃を撃ち落としていく

 距離が近けりゃ膝蹴りして対応するし、ほんとこいつすげぇぜ

 

 …けど空中で三回転半する意味はあったのか?

 

 色々あった道中だがようやく正面ホールが見えてきた

 しかしさすがにばれてたようで、敵の大ボスとご対面だ

 初老の白髪白髭じいさんだが、顔にあくどさが出てるぜ?

 んでルナが失敬したお宝を返せと言い出す

 ま~泥棒に奪われちゃ自分とこの会社の面子丸つぶれだしな

 

 

 

「…ふふふ、残念ですけれどもそれは聞けないお願いですわね」

 

 

 

 さてどうやって遊ぼうかと思ってるとルナの奴が話し出した

 …おいおいひょっとして()()やるつもりなのか?

 

 

 

「なぜなら…私は怪盗『ルナ』、狙いを付けたお宝は――」

 

 そう言いながらキャットスーツの端を思いっきり引っ張って――

 

「――必ず、いただくのですから」

 

 ドレスに変身したルナは笑顔でそう言った

 

 ……うん、やっぱお前すげぇ奴だわ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side Luna~

 

 

 

 青を基調にして白と黒のラインを入れ、フランス風なロングドレス

 それに着替えて高らかに勝利宣言をする

 

 僕がこっちの性格になった時に「これしないと泥棒じゃないや」と心で感じわざわざ用意した衣装だ

 

 いや君たちが言いたいことは分かる、素の僕も「なんでこんな面倒なことやってんのこいつ、馬鹿なの?」って思う時があるから

 ルパン三世ってより嵐を呼ぶ幼稚園児な世界観だけど、やってる時は滅茶苦茶気持ちがいいので考えるのをやめつつある

 

 周りにいる全員が呆然として――ルパン三世は驚きつつも呆れた表情だけど――固まったので総仕上げだ

 

「それでは皆様、Au revoir(ごきげんよう)

 

 スカートの裾に仕込んでいた煙幕弾をばら撒いて視界を遮る

 と同時に大きく天井目掛けてフックを射出!天井の通気口に入っておさらばDA☆ZE!

 

 外に出たら宵闇に乗じて猛ダッシュ、わざわざ正面から出たのは警備の目を建物内に集中させるためだったのさ!(今さっき気が付いた)

 

 

 

 

 

 しばらく走って誰もいない海岸の岩場に隠しておいた逃走用ボートに乗り込む

 あ、ここまで逃げておいてあれだけどルパン三世忘れてた

 まあ大丈夫でしょ、なんてったってあのルパン三世なんだから

 

 さぁてあとはここからおさらばすれば今回のミッションは終了――

 

「そこまでだコソ泥」

 

 ワッザ?!今さっきやってきたところからこれまたさっき聞いた声が?!

 アイエエ?!シャチョー=サン?!シャチョー=サンナンデ?!

 

 最初の煙幕以外にもいろいろ仕込んでたのに追いつくの早くないっすか?!

 ええいここまで来て諦められるものか!!かくなる上は僕の愛銃で…

 

 ん?あれ?

 なんか違和感が…というか…さっきと違う…?んー?…

 

 

 

 全然分からん(ウィー(ジャガー))

 

 

 

 まぁこのままお宝を返すのもしゃくだし(そもそも返す気はさらさらないので)、愛銃を突き付けて脅すことにした

 

 

「あらあら困りましたわね…私、あなたに銃を向けるつもりはございませんのに」

 

 

 へっへっへ、さっきまで持ってた銃はどうしたのか知らないけどこっちにはチャカがあるんだぜ旦那ぁ…

 

 

「……やれやれ、まさかお見通しとは恐れ入った」

 

 

 白髪白髪の社長さんから聞こえてきたのはさっきと違う声

 

 あ、あれ…突然の声変わり、じゃないっすよね

 と言うかこの声ってもしかして――

 

 

「さすが俺の見込んだ通りの女だぜ、怪盗ルナ」

 

 

 顔を思いっきり引きはがしたモンキー顔の大泥棒がそこにいた

 

 

 ――あれこれってデジャヴ?

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side:Lupin III~

 

 

 

 服の中から煙幕弾をばら撒いたルナは、周りなんてお構いなしといった感じで天井の通気口から脱出していった

 一応この俺様もいるんだけどなぁなんて思いながら、目の前にいた会長を俺様に変装させる

 

 すぐに俺はそいつに成り代わって煙幕が晴れたら身代わりに会長を突き出してルナの後を追った

 

 んふふ、俺様の変装術は世界一なんだぜぇ?

 

 

 ルナの逃走経路はいくつか想定してあった

 空を飛ぶ、変装して陸路で逃げる、そして海に出るのどれかだ

 あの場にいた誰かに変装するっていう手もあったが…あいつはそんな手は使わないだろう

 これまで入った盗みのすべて見たうえで俺様は確信していた、こいつは盗みの後()()()()()()()()()()

 できるだけ目立たず、できるだけ早くその場から立ち去る、それが怪盗ルナの手口だ

 

 つーまーりー、今回一番目立たない逃走手段は海から逃げる方法だけってわけだ

 

 しっかしあいつ、逃げながらフラッシュグレネードを自分の逃げた方向と違う方に落としておくなんて器用な真似するなぁ

 足跡とか絶対前もって仕込んでいただろって細工までしてまぁ用心深いことで

 

 海岸につくとルナはボートに乗り込もうとしているところだった

 そのまま放っておけばルナはこの場から居なくなっちまうだろう

 すかさず俺はあの意地悪そうなボスとして話しかける

 

「そこまでだコソ泥」

 

 振り向いたルナは慌てず――それでいて少し驚いたような表情をしていた

 衣装も相まってどこかの国の王女様が城から逃げ出すのを見つかったみたいなそんな顔してるぜ

 このまま話を続けて、いい感じの所で種明かしを――

 

 

 ――そう考えていた俺は、まだまだ甘ちゃんだったと思い知る

 

 

 

「あらあら困りましたわね…私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ルナの愛銃――エンフィールド No.2 Mk.Iで笑顔で俺をしっかり狙いながらそう言った

 

 ――さっきのボスには平気で銃を向けていたのに、今は向けられないだぁ?

 

 ――俺の変装が完全にバレてるってことか

 

 …あっはっは、力量を見極めるつもりがとんだ大誤算だぜこれは

 俺自身がまだまだ未熟だったとはなぁ

 

 

「……やれやれ、まさかお見通しとは恐れ入った――さすが俺の見込んだ通りの女だぜ、怪盗ルナ」

 

 

 変装をとくとルナは笑顔をさらに深めた

 

 

「あら、失礼いたしましたわ…貴方とは知らずに」

 

「謙遜するなよ…俺が変装しているってはじめっから分かっていたんだろう?」

 

「買い被りすぎですわ」

 

 

 そう言いながらエンフィールドを下ろすルナには、余裕すら感じられた

 

 ――こいつは本当にまだ六回しか盗みをしてない泥棒なのか?

 

 底が知れない、まるで泥棒になるために生まれてきたような女だ

 

 

「それで、わたくしに何か御用でしょうか…あぁ、申し訳ありませんが太陽の輝石はお渡しできませんわ」

 

 

 ドレスの裾から取り出した今回の獲物を見せながらルナは言う

 

 

「安心しな、今回の狙いはそれじゃねぇよ」

 

「…では、ご用は一体?」

 

 

 

 

 

「――ルナ、俺と一緒に泥棒しねぇか?」

 

 

 

 

 

 

「……相棒にならないか、そう聞いているように聞こえますわね」

 

「あぁその通りだ」

 

 

 包み隠さず俺はそう言った

 さっきのことが無ければ、もしかしたらあの手この手誤魔化して勧誘したかもしれねぇ

 

 だがこいつにそれは通用しない

 嘘をついても間違いなく見抜かれちまう

 それに――俺はこいつと対等な立場でコンビが組みたい

 心の底からそう思っていた

 

 

「あんたの手口は見させてもらった、完璧という他なかったよ」

 

「まぁ、過ぎたお言葉ですわ」

 

「謙遜すんなって…俺とあんたが手を組めばどんなお宝だって盗めるんだ――手を組まないか、ルナ」

 

 

 アルセーヌ・ルパンの孫として、ルパン一族と末裔として、俺はこいつと一緒に世界を目指したい

 生まれて初めての本気の言葉だ

 

 

「……お名前」

 

「ん?」

 

「お名前、そう言えば聞いておりませんでしたわね――お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「ルパンだ、ルパン三世」

 

「良いお名前ですわね、確かに覚えましたわ――ルパン三世」

 

 

 瞬間、俺の視界は真っ白に染まった

 

 煙幕か?!そう気が付いた時にはボートの発進する音が聞こえてきた

 

 

「今宵は良い出会いをありがとうございますわ――()()()()()()()()()()()()()()()Au revoir(ごきげんよう)

 

 

 エンジン音に負けないほどの声で、ルナはそう言って――消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぬふふふ…あっはははははは!!」

 

 

 答えはNon(いいえ)か、これまた見事にフラれちまったなぁ…

 

 

「諦めねぇからな、怪盗ルナ」

 

 

 今回は残念だったが、まだチャンスは消えたわけじゃねぇ

 

 今度こそお前を手にして見せる

 

 なんたって俺様は――ルパン三世なんだからな

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side Luna~

 

 

 

 どうしてこうなった

 

 

 




キャラクター紹介

・ルナ(15歳)
 盗みに入ると第二人格がこんにちはしちゃう泥棒
 盗んで逃げる前にド派手なドレスに着替えて大勢の前に出る特殊性癖の持ち主
 ルパンに相棒のお誘いを受けたのは完全に想定外で、最後は誤魔化すように逃げたのはヒミツだぞ☆

・ルパン三世(??)
 紆余曲折あって自分の未熟さを思い知らされたのちの大泥棒、なお思い知らしめた本人は無自覚の模様
 ルナこそ俺の相棒にふさわしいと今後も勧誘を続けていくつもりだが、はたから見るとやっぱり事案ですよルパンさん


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Gunslinger's Logic

 ――重い銃撃音が鳴り響き、僕の隠れている柱がまた小さくなる

 

 今ので六発目、ちょうどリロード中のはずだ

 その隙を縫って僕は相対しているであろうガンマン目掛けでエンフィールドを撃ち込む

 

 硝煙の臭いが充満し、そして相手の隠れている柱の残骸が飛び散る

 (めくら)撃ちではないものの、ほぼ勘で装填数全弾を撃ち込めばお返しと言わんばかりに同じ数の弾丸が飛んでくる

 

 あぁ、どうしてこうなったんだと柱の陰から見えている黒い帽子を被ったガンマンとの出会いを僕は思い出していた

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side Luna~

 

 

 

 やぁみんな、美少女怪盗のルナだよ

 前回ルパン三世からまさかのプロポーズ――じゃないお誘いを受けてテンパっちゃったけど僕は元気だよ

 

 あの後変装して警察に潜り込んだりいろんな国の新聞取り寄せたりして分かったんだけど――ルパンってまだソロ怪盗だったんだね

 

 てっきり次元や五右衛門と一緒に泥棒家業してるとばっかり思ってたよ、ルナったらお茶目さん☆

 

 …いやふざけている場合じゃないのよ

 ルパンの相棒?15歳のおこちゃまが?冗談はブルズ・アイだけにしてくれ

 とりあえずベルギー周辺、というか中央ヨーロッパにいるとルパンに補足される可能性が急上昇しそうなので、今僕はロシアのサンクトペテルブルクに来ています

 

 今回狙うお宝はロシア帝国最後の王朝ロマノフ家の財宝――じゃなくてソヴィエト連邦時代に作られたという金細工だ

 

 えーなんかしょぼくない?と思うなかれ、狙うは共産党結成80周年記念に制作された純金製の鎌と槌をあしらった勲章なのだ

 

 本当は結構多めに作る予定だったらしいんだけど…ほら、結党80年を目前にしてソヴィエト壊れちゃったから…

 結局試作で造った唯一の勲章だけがこの世に出ることとなった

 これはもうプレミア価格が付いて凄い値段に――ならなかったんだよねぇ

 

 そらそうだ、いくら純金製でこの世に一つしかないと言っても結党80周年記念は流石にキリが悪すぎるし、探せば金製の勲章なんて山ほど出てくる

 コレクターの間ではそこそこ有名だけど、無理して集めるものかと聞かれればそうでもないらしい

 

 まぁ僕はそういうお宝が大好きなんだけどねぇ!(ニンマリ)

 

 保有しているのはいつも通りの個人資産家

 オリガルヒ?っていうソヴィエト崩壊後のロシアに生まれた新興財閥が持っているらしい

 

 事前に手に入れた見取り図によると…ふむふむ、結構しっかりとした防犯設備がそろっているみたいだ

 

 暗証番号式の防火扉に、赤外線センサー、それから…おぉ、この時代じゃまだ普及してない指紋認証式の機密扉まであるじゃないか

 

 滅茶苦茶厳重だけど、これは多分表に出せないまっ黒な書類や密輸品やらをしこたま溜め込んでますねぇ間違いない

 

 とりあえず侵入方法を考えよう

 

 何はともあれ指紋認証が最大のカギだろう、開けるにはおそらく幹部級か社長本人の指紋でしか開かないはず

 最低でも警備担当の指紋がないと突破は不可能だ、こういう所は通気口とかもないパターンが多い

 

 それならやることは一つ――正面突破だ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『…認証いたしました、ロックを解除します』

 

「無事に開きましたわね…お手伝いありがとうございましたわ」

 

「うっ…ぐぅ…」

 

 

 うめき声を出して床に倒れた警備責任者を一瞥して保管庫へと歩き出す

 

 さて、今回僕が取った作戦はこうだ

 気密性の高い保管庫とはいえ監視カメラなどの防犯設備はまた別に用意されていた

 そしてだいたいそういうのは壁に埋め込んであるのが大半だけど、部屋と部屋の間に通っているケーブルも必ずある

 

 そこで事前にこっそり侵入して遠隔操作で特定の監視カメラだけ落ちるように細工をしておく

 これだけならただの監視カメラの故障と思うかもしれないけどそこで効果を発揮するのが予告状だ

 

 「今日お前んちに無断で入って色々物色しちゃうからね~」と言われているところに監視カメラの故障、まず間違いなく疑ってくれるだろう

 

 そうなると建物全体が警戒態勢に入る、一見すると悪手だけど該当区域以外に警備員が回される可能性がグッと上がる

 ここで肝心なのは保管庫に繋がる通路の監視カメラを順に落としていくことだ

 こうすることで僕が順番にカメラを切っていると思わせられる

 ついでにド素人って侮ってくれれば儲けものだね

 

 案の定僕がのんびりと保管庫に近づいていると思って警備をそっちに廻して、扉を開けられる警備担当が1人だけ連れて中の確認へと向かってくれた

 

 え?結局僕はどこにいたのかって?やだなぁ――警備担当の後ろにちゃんといるじゃないか

 暗証番号の解除も、赤外線センサーの解除も、そして指紋認証もぜーんぶ警備責任者の人しかできないって言うのは確認済みなんだよ

 後ろからついてくる警備員がここに来た時から入れ替わっているとは思うまい

 でもこれじゃあ一緒に保管庫まで行けるかどうかわからないって?そこそこ役職高い人選んだし、これもしかして保管庫に近づいてるんじゃねって煽ってすぐ行きましょうって進言するというテクニックも使ったからね

 

 ――まぁマッチポンプってやつだね☆

 

 僕がその泥棒とは知らず責任者さんは大半の隊員を配置につかせて、保管庫に案内してくれました

 

 無線で聞こえてくるのは監視カメラと一緒に通路の電源を落として真っ暗になってるという報告

 しかもどんどん保管庫に向けて照明とカメラが落ちるから警備は混乱していた

 

 そんな無線を聴きながら保管庫に向かい、責任者さんに全部開けてもらう

 

 最後に指紋認証中に残りのカメラと保管庫以外の照明を落とせば完成

 

 無線が飛んでくる前に責任者さんをノックダウンして、無線で責任者さんに成りすまして「ここも照明が落ちた、中を確認するので警戒態勢を保て」っていえばもう終わったも同然ってね

 

 保管庫に入ると…ヴォースゲー…所狭しと並ぶ芸術品や美術品の数々

 

 小さな書類入れも並んでいてちょっと中を見てみたら…うわぁワルシャワ条約機構のあーんな報告書やこーんな報告書が山ほどあるし

 これはいざって時に西側へ高飛びするときのお土産で間違いないなぁ…

 

 まあこれは今回欲しいものじゃないからいいんだ、お目当てのものは――お、あった

 

 色々な勲章と一緒に飾られていたのでちょちょいと開けていただきまーす

 

 さーて用は済んだ、後はいつも通り脱出して――

 

 

 

 

「――おいおい、騒いでいるから来てみれば、なんだこりゃ」

 

 

 

 

 保管庫入り口から聞こえてきたダンディな声

 かすかに煙草の臭いも漂ってくる

 

 入り口を見ると、そこに男が立っていた

 

 黒い帽子に黒いスーツ、黒の靴と全身黒ずくめ

 

 火気厳禁であろう保管庫で平然と煙草を吸っている東洋人――

 

 

「とりあえず懐にしまったもん出して手を挙げてもらおうか、嬢ちゃん」

 

 

 射撃の名手、次元大介がそこにいた――

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 以上回想、そして冒頭に戻る

 

 いやーやっちゃったぜ☆

 咄嗟にエンフィールドで威嚇射撃を試みようとして――そう言えばこの人早撃ちの名人じゃん、と思い出して大慌てで後ろに飛びのいた

 次の瞬間僕が照準を合わせるより早く僕のいたところを弾丸が通り過ぎていった

 

 次元大介に一発撃たせてしまったけど僕も遅れて一発撃ち込む

 当たったかどうかを確認することなく保管庫の柱の裏に隠れる

 するとすぐに弾が撃ち込まれて、冒頭の状況が出来上がったってわけだ

 

 ……どうしよう(汗)

 

 まずい、流石に撃ち合いは想定してなかった

 エンフィールドの弾2ダース分しかねぇや

 撃ち合いになったら確実に僕が不利だ

 しかも今ので多分異変に気が付いて応援にやってくる警備員もいるだろう

 そうなったら絶体絶命だ

 

 どうする?どうやって脱出する?

 ぶっちゃけ最初に得物抜いたのは僕だからごめんなさいして許される可能性は低い

 かといってこのまま無駄に時間を消費するのは愚策中の愚策

 

 …あ、そう言えば見取り図になんか使えそうなのが書かれていたな

 えぇっと確か…あった

 

 ふっふっふ、すまないね次元く…いえ次元さん

 悪いけど僕は逃げさせてもらうよ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side:Daisuke Jigen~

 

 

 

 俺がこの会社の用心棒を請け負ったのは今から一月ほど前だった

 

 世界中を転々としながら用心棒だけじゃなく傭兵や暗殺の仕事なんかも請け負っていた俺は、妙に金払いのいいここに雇われた

 

 入ってみれば、なんてことない

 現ロシア政府に睨まれているだけじゃなく、地元のマフィアにも恨まれている大企業ってだけの話だった

 他人の島を荒らして金を稼いで、その稼いだ金で密輸や他の企業への恐喝なんかもやっているらしい

 

 ま、俺にとっちゃどうでもいい話だがな、金さえ払ってもらえれば

 

 そんな会社に入って一か月、俺は警備の連中がしている妙なうわさ話を耳にした

 

 

 ――ヨーロッパ各地で盗みをしている女怪盗がここに予告状を送ってきた、と

 

 

 聞いた時は最初、ずいぶん陳腐な泥棒がいたもんだと呆れた

 泥棒に入るのにわざわざ相手に教えるだなんて、伊達や酔狂じゃねぇんだぞ

 警備の連中もどうせ大した奴じゃないし、ここの警備を見れば諦めるだろうと高を括っていた

 

 予告当日になっても、怪しい人間が入り込んだ様子はなかった

 俺はあくまで用心棒だからって自分の部屋で待機していた

 

 

 夜21時前になって、建物内がざわつき始めた

 

 出てみると廊下のあちこちで停電が起きていやがる

 近くにいた警備に話を聞くと、例の女怪盗とやらが照明と監視カメラを切りながら保管庫に向かってるらしい

 

 ――いやな予感がする

 

 どうもこいつはただのコソ泥がやってるちんけな盗みとは思えない

 まるでこっちにわざと誘導しているようだ

 

 俺は警備員が廊下を右往左往している合間を縫って保管庫へ向かう

 仮にも用心棒だ、雇い主の大事なものが盗まれたんじゃ面目丸つぶれだからな

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 保管庫前の指紋認証装置の前で倒れている警備隊長の横を通り過ぎる

 

 部屋の前には警備員の服が落ちていて、扉は開きっぱなしだ

 

 

(警備員に成りすまして侵入したってところか、こりゃちょいと厄介だな…)

 

 

 ここまで変装がバレなかったって言うことは、よほど上手く警備員に化けてやがったな

 ただのコソ泥ってわけでもなさそうだ

 

 部屋の中を覗くと、奥の方で黒い影がうごめいていた

 

 編み込んだ金髪が肩の下までぶら下がり、まっ黒なウェットスーツみてぇな服を着た見た感じ14、5歳の女だ

 

 勲章やらなんやらが入ったケースから金ぴかの勲章を取り出したところで俺は声を掛けた

 

 

 

「おいおい、騒いでいるから来てみれば、なんだこりゃ」

 

 

 

 少しわざとらしくしてやったってのに、目の前のコソ泥は驚いたそぶりをちっとも見せずに振り向いた

 

 すらっとした顔立ち、少しきつめの表情をして、蒼い瞳が俺をじっと見ていた

 

 

 

「とりあえず懐にしまったもん出して手を挙げてもらおうか、嬢ちゃん」

 

 

 

 表情一つ変えないまま俺を見ていたコソ泥に投降するように話す

 

 ――多分俺は、そいつをただのガキだとどこかで見下していたんだろうな

 

 

「――っふ!」

 

「んな?!」

 

 

 次の瞬間その女は懐から得物を取り出すそぶりを見せた

 咄嗟だったから俺も愛銃を出して引き金を引いた

 

 だがヤツは銃を抜くと同時に後ろに飛びのいた

 

 ――おいおい、まるで俺がすぐに撃ってくるって分かってたみたいじゃねぇか

 

 そのまま俺に威嚇射撃をして、奴は柱の陰に飛び込んだ

 

 銃の扱いに慣れてやがる、こいつはコソ泥どころの話じゃねぇな

 

 俺がリロードに入らなきゃ奴は撃ってこないみたいだが、これはこれでやり辛ぇ

 つまり奴も撃ち終わったら引っ込むってわけだ、互いに決定打に欠けていた

 

 形状から見て奴の銃はエンフィールド No.2 Mk.Iだろう

 

 中折れ式でおまけに採用は二次大戦前の骨董品だ

 そんな銃で俺のマグナムと撃ち合うとは肝が据わりすぎだろう

 

 相手の弾丸が何発あるのか分からない以上無駄撃ちは避けたいところだが、撃たなけりゃ突っ込んでくる

 あえて弾切れを装う作戦もあるがリスクが大きい

 ま、このまま待ってれば警備の誰かがやってくるだろう

 俺はそれまで奴が逃げないようにしておくだけ――

 

 

 不意に銃声が止む

 

 俺はまだリロードを終えてないのに奴が銃撃をやめた

 

 ――弾切れか?そう思った

 

 

 しかしすぐに奴が撃ち始め、それは杞憂だと考える

 

 ジャムったかなんかしたんだろうと軽く考えていた

 

 

 ――次の瞬間、俺はずぶ濡れになっていた

 

 

「な…?!」

 

 

 天井から降り注いでくる水、こいつはまさか――

 

 

「スプリンクラー、だと…」

 

 

 それに気が付いた時には――

 

 

「申し訳ありませんがこれで失礼させていただきますわ――Mr.Gunslinger?」

 

 

 そう言って奴はテーブルを踏み台にして勢いよく保管庫から逃げていった

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side Luna~

 

 

 

 大☆成☆功

 

 いやー僕自分の発想力が怖いわー

 

 …やったことはスプリンクラー作動させただけなんだけどね

 

 防火扉があったとはいえ、ここには燃えて困る物が山ほどある

 万が一火事にでもなったら目を覆う大惨事になるに違いない

 

 見取り図にもちゃんとスプリンクラーとそれを作動させるスイッチが載っていたので利用させてもらったってわけ

 

 …しかし、間一髪だったぜ

 なんせあの次元大介とちょっとの間とはいえ撃ち合ったんだ、寿命が5年位縮んだよ

 

 

 

 さてさて、後はここから脱出すれば今回のミッションも無事完了だ

 配線を直して照明を復旧させていた警備員たちの目の前をあえて通って屋上へ

 

 ぞろぞろと警備員が連なって追ってくる様は正直気持ち悪い

 

 屋上にたどり着くと観念しろと言わんばかりに睨んでくる屈強なお兄さんたち

 

 ふっふっふ、この僕を追い詰めたと思っているだろう

 甘い、甘いんだよ諸君!

 ベルギーワッフルにバニラアイスとチョコスプレーのっけたくらい甘いのだ!

 

 僕が何の準備もしないでここにやってくるわけないじゃないか

 

 ではサラバダー、ハーッハッハッハ!!

 

 

 

「――待ちやがれ!!」

 

 

 

 ファッ?!

 

 仕掛けを動かしたとほぼ同時に次元大介が叫んで僕にリボルバーぶっ放してきやがった

 

 お、おま…いくら不法侵入者だからって警告なしに撃つのはどうなんだ!?

 

 え?さっき撃ちまくってたじゃないかって?知らない子ですね…

 

 咄嗟に躱したけど右頬がめっちゃ熱い、これ絶対掠ったでしょ?!ジロッと次元大介を睨むがそんな余裕はないと逃げの体勢に入る

 仕掛け――花火に紛れ込ませた音響弾が警備員たちの視覚と聴覚を奪っている最中に僕は屋上から飛び降りる

 

 そして事前に調べていた監視カメラのない窓(花火と同時に小型の爆弾で吹き飛ばしておいた)に飛び込んで、これまた事前に用意してあった警備員の服に着替える

 いまだに熱の残る右頬を触ると――案の定血が流れていた

 ぐぬぬ、いてぇよ、いてぇよ~!!

 

 ま、このくらいなら変装ついでに隠せるからいいや(アッサリ)

 

 しかし、危なかった

 逃げるその瞬間まで絶対気を抜かない、ちぃおぼえた

 

 よし、それじゃあ混乱に乗じておさらばだぜぇ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side:Daisuke Jigen~

 

 

 

 屋上についた奴はいつの間に着替えたのか青いドレスに身を包んでいた

 周りを取り囲まれているっていうのに余裕な表情だ

 

 

「確かに、ソヴィエトの純金製勲章頂きましたわ――それでは皆様、Au revoir(ごきげんよう)

 

 

 保管庫から盗んだ勲章を持っているのと反対の手が動く

 銃か?それとも別の何かか?

 考えるより早く俺は叫んだ

 

 

 

「――待ちやがれ!!」

 

 

 

 奴がこっちを向く前にマグナムを撃ち込む

 奴の反応速度ならこいつを避けられるはずだ、逃げるのを阻止できれば――

 

 だが奴はその場で顔を少し動かして俺のマグナムを躱しただけだった

 ――俺が撃つ場所を見抜いていたのか?

 

 考えを張り巡らせるより早く、音と光があたり一面を覆いつくした

 

 ――スタングレネードか!!

 

 咄嗟に顔を庇う前に、俺は奴と目が合った

 

 

 

 

 右頬から血を流し、心の底が冷え込むような笑みを浮かべているやつを――

 

 

 

 

「…っち、完敗だぜ」

 

 

 あちこちの窓が割れ、警備員たちが大慌ての中俺はそう呟いた

 

 俺たちは最初から最後まで奴の手の上で踊っていたというわけだ

 

 騒ぎを聞きつけたのか警察や軍の装甲車まで来てやがる

 今回の件を口実に色々と探りを入れるつもりなんだろう

 

 今回の件で俺は用心棒をクビになるそうだ

 雇い主がついさっき怒鳴り散らして連絡してきたからな

 

 まぁ今の俺としてはありがたいがな

 

 

 「『怪盗ルナ』、か…今日の所は勝負はお預けだ」

 

 

 久しぶりに本気で戦ってみたい――らしくなく自分の感情に笑いが零れた

 

 

 




キャラクター紹介
・ルナ(15)
 ルパンに目を付けられたのでヨーロッパから活動拠点を動かそうと思い、今回見事にルパンファミリー(未加入)の次元に出会っちゃった怪盗
 本人は次元とのつながりは切れたと思ってるけど次元自身はまだ終わってないと思っていることに気が付いて無いかわいそうなお友達なんDA!

・次元大介(??)
 ルパンと出会う前の傭兵時代の次元大介
 ルナとの出会いは完全に偶然だったが自分を出し抜いたルナに柄にもなく興味が湧いちゃったガンマン、やっぱり事案臭がする


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切リ斬リ舞イ

日間1位だよ、やったねルナちゃん




 風の吹き抜ける切り立った崖の上で、2人の人間が相対していた

 

 片や、すっとした出で立ちの男

 腰に差した片刃の長剣――日本刀に手を添える時代錯誤な服装をした長髪の東洋人

 

 片や幼さの残る金髪碧眼の少女

 手には緑色のわずかに曲がった細身の片刃刀――シャムシールを構える欧州貴族のようなドレスに身を包んだ西欧人

 

 互いに構えたまま三間――5.5mほどの間合いを保ち微動だにしなかった

 

 

「――そなたのような可憐な少女と相見えることになるとは」

 

 

「――わたくしも、あなた様のような方と出会うとは思いもよりませんでしたわ」

 

 

 ざぁ、と一陣の風が通り抜ける

 男の黒髪と、少女の金髪が相反するかのようにたなびく

 

 

 

「十三代目石川五エ門、女を斬るつもりはないが――お相手願おうか」

 

 

「怪盗ルナ、あなた様と手合わせする理由はございませんが――押し通らせていただきましょう」

 

 

 

 男は少女を睨み、少女は男に微笑み返す

 

 

 日が傾き夕暮れに染まる死合い場

 

 2人の剣士の息遣い以外に聞こえるものはなく――

 

 

 

 

 

(あああああああもうやだああああああああ!!!)

 

 

 

 

 

 ――ここ最近不幸まみれなのはなぜかと絶望する少女の心中を察する者もいない

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

~Side:Luna~

 

 

 

 

 やぁみんな、ここ最近自分は厄年なんじゃないかと思い始めてるルナだよ~

 さて、ロシアでの一件の後僕は大慌てでカフカース――グルジアとかアゼルバイジャンのある地域に逃げ出した

 あのままロシアでお宝探しを続行するほど僕は神経図太くないよ

 それに、あの騒ぎを聞きつけてルパンがロシアにまでやってきたら面倒とかそういうレベルじゃないからね、仕方ないね

 

 じゃあどうしようかとカフカースからイランを経由して中央アジア諸国を巡っているとき、面白いお宝の情報を聞いた

 

 

 13世紀末、騎兵を率いて東は朝鮮、西はポーランドを征服し、世界の2割を手中に収めた遊牧民族国家――モンゴル帝国

 

 歴史の文化も民族も何もかも飲み込み、ユーラシアに戦禍を広げたかの国は同時に多くの恩恵も与えた

 

 その一つに中近東の刀剣シャムシールがある

 

 これはもともとまっすぐな長剣だったらしいんだけど、モンゴルとかほかの国の文化の影響を受けた結果ちょっとまがった形になったらしい

 

 モンゴル帝国はこの後なんやかんやあってバラバラになっちゃうんだけど、中近東地域を支配する国は残って、ここが元――中国にあった国の皇帝への贈り物として翡翠製のシャムシールを作ったらしい

 そしてそれは元の皇帝のところまで――届かなかったんだってさ

 なんか輸送中に中央アジアでいざこざに巻き込まれて、つい最近まで「作ったのは分かるんだけどどこにあるのか分かんないお宝」になってたってわけ

 ちなみにこいつにはちゃんとした名前があって、名を『宝剣 翠』という(そのまんまじゃん)

 

 これを見つけたのはカザフスタンの鉱山経営企業、この辺レアメタルがよく取れるから最近繁盛してるみたいでそこの成金の一つが掘り当てたってわけ

 

 当然カザフスタン政府はそれを回収したいわけだけどこの会社の社長ってのがなかなかの守銭奴って噂で、目ん玉飛び出るくらいのお金を要求したとか

 

 これで終わればまだ一国だけの話なんだけど、ここに中国とロシアが口を挟んでもう滅茶苦茶

 さながらルパン三世TVSPの1$マネーウォーのオークションである

 

 どんどん上がっていく値段に最初は気をよくしていた社長も、値段が小国の国家予算を超えたあたりからさすがに恐怖心が芽生えたらしくとりあえず3ヵ国の代表集めて話し合いをすることにした

 んでそれを近々ロシアに運ぶらしいのでこれを頂くことにした

 

 どう考えても3ヶ国から袋叩きに合いそうだけどそんなの関係ない、僕は欲しいお宝を頂くだけさ

 

 というか指をくわえて待ってるとお宝がどっかの国の博物館に放り込まれる、それは絶対ダメだ

 とりあえず輸送される日時と保管場所を探り当てないと

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 お目当てのお宝の保管場所はあっさりと見つかった

 所有してる鉱山会社の廃坑の一つに隠してあった

 隠してあったのはいいんだけど…うーん

 下見してて思ったんだけど、なにこの滅茶苦茶ゆるい警備体制

 

 廃坑周辺にフェンスなんて無いし、監視カメラの一台だって設置してない

 変装して中に潜り込んでも身分証の確認すらしないし何の障害もなく廃坑に入れた

 

 肝心の廃坑には警備員はいるのに全員妙にやる気なさげだし、見えないところでトランプやったりしてさぼってる始末

 極めつけがお宝の翡翠製シャムシールで、金庫かなんかに入れているのかと思ったら運搬用のケースに入れて床に直置き

 

 なにこれ僕を舐めてるの?こんなスリルもなにもない下見は初めてだよ

 

 とキレるのは簡単なんだけど、ここで僕の「ルナちゃんセンサー(命名:ルナ)」がビビット反応した

 ――これはダミーなんじゃないかと

 

 本物はどこか別の場所に保管してあるんだ、というかそうじゃないと色々と心が折れそう

 

 

 

 

 一回目の下見が空振りに終わり、僕は本物のお宝のありかを探し始める

 ここじゃないとすればあとは本社か社長の自宅だろう、基本的にそういう場所に厳重に保管されるものだ

 

 と最初は思ってたんだけどダミーの廃坑からちょっと離れたところにある掘立小屋を見た瞬間僕は確信した

 

 ――あれじゃん絶対

 

 

 もし泥棒が来てダミーだとわかった時、もっと厳重な場所にあるに違いないと思うものだ

 

 しかし!僕の『ルナちゃんアイ(命名:ルナ)』は誤魔化せないのだよ!

 

 

 

 滅茶苦茶地雷埋めてますやんか(顔面蒼白)

 

 

 

 うわっえっぐ、見たところ百個近くが掘っ立て小屋周りに埋められてる

 いくら私有地の一角だからって従業員がうっかり踏んだりしたらどうするんだこれ

 連鎖的に周りの地雷まで吹き飛ばすんじゃないの?

 

 地雷の方はまだ何とかなるとして、問題は掘立小屋そのものだ

 外側は木の板を張り付けただけの装甲板で、窓からは重機関銃っぽい銃身がコンニチハしてる

 

 常駐してる人間も結構な数いるみたいだし、ハードモード超えてルナティックモード入ってないこれ?

 

 ま、やりようはいくらでもあるんだけどね~へへ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 あたり一面に充満する煙

 咳き込みながらもなんとか視界を確保しようとする警備員たち

 それを見下すかのように鋼鉄の箱は白い気球に吊るされ離れていく

 

 

「天下の名剣が一つ『宝剣 翠』確かに頂きましたわ、では皆様Au revoir(ごきげんよう)

 

 

 青いドレスに身を包んだ金髪の少女を載せたまま――

 

 

 

 あーーースッキリした!!

 こういう大掛かりな仕掛け一回はやってみたかったんだよねぇ僕

 まーその分準備にちょっと時間かかっちゃったけど

 

 

 結局掘立小屋にはどう頑張っても近づけなかったので離れた場所から観察して分かったことがいくつかある

 

 まずあの小屋にはセンサー類の警報装置はない

 鳥が小屋に留まっても何の反応も示さなかった、少なくとも接触系センサーは備わってないだろう

 え?重量センサーとかはどうなのかって?急ごしらえっぽい掘立小屋にあんな大掛かりな装置取り付ける暇はないよ、多分

 

 次に地雷は遠隔操作である程度つけたり切ったりすることができる

 交代要員の屈強なお兄さんたちが出入りしていたけど歩く場所に規則性はなかった

 つまりある範囲の地雷を時間になったら切って交代要員と入れ替わっているんだ

 

 最後に、あの建物は床と壁が別々――いや壁が地面に食い込んでいる

 重機とかで引っこ抜かれないようにそこそこ深めに突き刺してあるっぽい

 壁周りの土から見えたのが土台じゃなくて壁の端だったのでこれも間違いないはず

 

 それを踏まえて今回の計画を立てた

 名付けて「怪盗ルナちゃんの空飛ぶお宝」作戦だ!

 

 

 

 …あ、やめて石投げ付けないで、ピ〇サーに通報するのもやめて

 

 コホン、改めて説明しよう

 

 今回は大掛かりな作戦になりそうだったから前日の夜の段階で準備をある程度終えておいた

 小屋の周りに小型爆弾をセットし、気が付かれないように埋めて隠す

 次に屋根と装甲版の間に大型バルーンを仕込む

 準備が終わったらワイヤーで元の場所に戻ってその日の仕込みは終了

 

 予告当日はこれまた難しいんだけど、警備がかなり厚くなっているところを潜り抜けて小屋に行く必要がある

 サーチライトとか警備犬とかその辺だ

 まあそこはこの怪盗向けの身体能力が役に立つってわけさ

 時間ギリギリまで崖で待機して直前にタイミングを見計らってワイヤーを射出

 屋根の上に到着すればこっちのもんよ

 

 予告時刻になったら一斉に爆弾を起動――と同時にスモークグレネードをこれでもかとばら撒く

 

 壁が完全に土から出てきたらバルーンを起動、壁ごと小屋を引っこ抜いたら部屋に置いてあるお宝のケースを手持ちのワイヤーで回収

 

 そして後はフラッシュグレネードやスモークグレネードを落としたり投げたりしながら小屋に括りつけてあるワイヤーを巻き取るだけ

 

 前世でルパンたちがやってできたんだ、このルナちゃんに出来ない道理はぬぁいのだ!!

 

 お宝は頂いた!さらば!警備員諸君!ぬぁっはっはっはっは!!あーっはっはっはっは!

 

 

 ――あれ、なんかまた見覚えがあるような

 

 

 

「――でぃやぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 そう思っていた僕目掛けて銀色に光る何かが襲い掛かる

 

 咄嗟にお宝を掴んで崖の上目掛けて飛び降りる

 

 ――次の瞬間僕の乗っていた掘立小屋は真っ二つになった

 

 

 これもう厄年とかそんなじゃなくて死神か祟り神にでも取りつかれてるんじゃないかな?

 

 

 着物に身を包み長髪を垂らしながら鋭い目つきで睨んでくる東洋人――石川五エ門を見て僕はそう思った

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

~Side:Goemon Ishikawa~

 

 

 修行の一環として世界を巡って幾星霜、いまだに悟りを得ることなくこのカザフスタンという国にたどり着いた

 修行の合間に路銀を稼ぐのが拙者の生活であったが、ある日とある鉱山会社に雇われた

 

 お宝を守ってほしい――会社の代表にそう言われて訳を聞くと、鉱山を掘っている最中に見つけた物が想像以上の高値になりそうなのだという

 俗物的ではあるが人は霞を食べ生きているわけではない、現に拙者もこうして雇われの身となっているのだから

 

 そのお宝とやらは今は使われなくなった廃坑近くに隠してあるという

 

 地雷で周りを囲み戦車の砲弾にさえ耐えられる壁で四方を囲み、中には兵士と言って差し支えない部下を配置して守りを固めている

 そこまでしておるのなら拙者は必要ないのではないか、そう返すと「保険はいくらかけても十分ではない」そうだ

 

 よほど大切なものと見えて報酬もかなりの額を払ってきた、これならしばらくは修行に集中できるであろう

 

 

 

 そうして雇われの身となってから2日後、会社に奇妙な文が届いた

 

 

『明日の午後9時に天下の名剣を頂きに参上致します 怪盗ルナ』

 

 

 それを見た代表はこれまでになく狼狽していた、いや他の者たちも大なり小なり似たような状況であった

 

 怪盗ルナ――欧州を中心にあらゆるお宝を盗み出している女怪盗の名だ

 その手口は恐ろしいほどに手慣れており、これまで予告されて盗まれなかった宝はないという

 

 予告を見た代表は警備員の増員と怪しいものが近寄ったら警告なく撃てという命令を部下たちに出していた

 拙者も保管場所で待機しておくようにと命令されその場所へ向かった

 

 

 予告された日は朝から快晴であり、それは夜になっても同じであった

 周囲をサーチライトで照らし、鼻の利く犬も数多く巡回している

 これでは近づくことさえ困難であろう

 

 ――予告時間直前になり、拙者は何か違和感を覚えた

 

 何かが空を切る音、そして滑車が回る音も聞こえる

 あたりを見渡すが、サーチライトの照らされたところには何もない

 小屋の方はとそちらに目を向け――拙者はしてやられたと直感した

 

 小屋を照らしていたサーチライトの一つが消えていたのだ、先ほど見ていた時は確かに小屋を照らしていたものの一つが

 

 

 ――出し抜かれたか!!そう考える間もなくことは始まった

 

 

 爆音とともに小屋が白煙に包まれる

 

同時に周囲を照らしていた照明が一斉に消える

 

 暗闇の中目を凝らして小屋を見ると

 

 

 

 ――巨大な気球に吊り上げられて今まさに飛び立とうとしているところであった

 

 

 

 なんと大胆な、拙者は柄にもなくそう感じた

 

 

 周りの者たちは何とか状況を把握しようとしているが、空を飛ぶ小屋からは白煙筒だけではなく閃光弾もばら撒かれ夜目に慣れていない者たちの目をつぶしていく

 

 どうにか追おうとする者もいるが、小屋は地雷原の中を悠々と飛んでおり迂闊に手が出せないだろう

 

 

 ――拙者はその小屋を真っ二つにした

 

 

 崖の上に到達するかというところで崖上に登り斬鉄剣でもって切り裂く

 

 

 またつまらぬものを――そう考えるより先に小屋から何かが飛び降りる

 

 

 

 青い西洋ドレスに身を包み、金色(こんじき)の長髪を夜風にたなびかせた幼さ残る少女

 

 これが怪盗ルナかと、正直に言ってしまえば驚いた

 

 女怪盗とは聞いていたが、あまりにも幼い

 

 

 手元には翡翠色の長剣――あれが代表の言っていたお宝であろう、小屋を斬った時にケースも斬ったか

 

 まだまだ修行が足りぬか

 

 

 

「――そなたのような可憐な少女と相見えることになるとは」

 

 

「――わたくしも、あなた様のような方と出会うとは思いもよりませんでしたわ」

 

 

 透き通るような声で眼前の少女は言葉を返す

 

 

 

「十三代目石川五エ門、女を斬るつもりはないが――お相手願おうか」

 

 

「怪盗ルナ、あなた様と手合わせする理由はございませんが――押し通らせていただきましょう」

 

 

 斬鉄剣を構える拙者に臆することなく、怪盗ルナは翡翠の長剣を構える

 

 

「――でぃやああ!!」

 

「はっ!!」

 

 

 相手の獲物をはじけば早々に決着がつく、そう考えた拙者は一気に踏み込む

 

 だが怪盗ルナはこれをいなした

 

 

 逆手持ちで斬鉄剣を受け止めるとすぐに後ろに向かって飛びのいた

 

 それを追い再び剣を振るうが、右に左に流れるように流される

 

 

 ――どの剣の流派とも合わない、いやそもそも型とも言えないような動き

 

 読めぬ、この少女の動きが

 

 まるで流水を斬っているかのような、そのような感覚だ

 

 

「おぬし、剣の腕はどこで知った?」

 

「生憎ですがこれが初めてでございますわ剣士様!」

 

 

 振り下ろされた長剣を受け止めた時拙者は抱えていた違和感の正体に気が付く

 

 

 ――まるで舞を舞うかのように剣を振るっている

 

 

 相対する者を斬るのではなく魅了するかのような剣捌き

 空を舞い地を滑る

 斬り上げ、そして振り下ろす様もまるで西洋の精霊「妖精」と見間違うような軽やかさがある

 

 かような身のこなしを独学で身に着けたというのか――

 

 

 ふと少女の動きが止まる

 

「……」

 

 手元の長剣に目を落とし暫し思考する素振りを見せると

 

「――ふふっ」

 

 その長剣をこちらに投げてよこした

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「いいえ、ただ予定が少しだけ狂ってしまいまして――お暇させていただきますわ」

 

 

 言うや否や少女は服の袖から大量の筒のようなものをばら撒き後ろに跳ねる

 

 それを追おうとして――視界が白一色に塗りつぶされる

 

 またしても閃光弾か!――だが拙者に二度同じ技は通じん!

 

「イヤァッ!!」

 

 後ろに飛んだであろう少女目掛けて剣を振るう、先ほどの動きを見る限りこれも躱して――

 

 

 

「・・なっ?!」

 

 

 

 斬鉄剣が空しく空を切る、その事実に拙者は一瞬我を忘れた

 

 

 その場にいるはずの少女に掠るどころか少女自身がその場から消えていた

 

 咄嗟にあたりを見渡す

 

 先ほどまで金髪を風になびかせていた少女は忽然と消え、彼女が狙っていた翡翠色の長剣のみがその場に残されていた

 

 

 

 ――見失った、あの一瞬のうちに人一人を

 

 

 

「……くっ」

 

 

 

 なんという失態、なんという未熟さ

 

 斬り合いの最中に相手に隙を作られ見失うとは…!

 

 

 

「怪盗ルナ…此度は拙者の負けでござる」

 

 

 

 潔く負けを認める、それほどまでに拙者は自分自身に怒り震えていた

 

 

 これまでの修行のすべてを否定されたかのような胸中

 

 女子であるという慢心が心のどこかにあった証拠であろう

 

 もし

 

 もし再び相まみえることがあれば

 

 次こそは必ず…!

 

 

 不甲斐ない拙者を見せぬと誓おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Side:Luna~

 

 

 

 

 

 

 ルナは激怒した

 

 必ずかの邪知暴虐の社長を除かねばならぬと決意した

 

 ルナにはお宝の価値が詳しくは分からぬ

 

 だが適当に作ったシャムシールを翡翠色に塗っただけの偽物を掴ませようとした挙句、サムライに細切れにされそうになったのでとりあえず一発殴っておこうと思った

 

 

 まさかの二段構え、小屋においてある方すら偽物とか用意周到過ぎるだろ

 

 あからさまに翡翠より重かったし斬鉄剣受け止めていないところにさえ傷はあるし一目見れば分かるレベルで偽物だよちくしょう

 

 咄嗟に真っ二つにされた小屋を使って忍法隠れ身の術していなかったら今頃上半身と下半身が永遠にさようならしてたよ

 

 

 だけどこれで本物はほぼ間違いなく社長さんが持っていることが分かった、ここまでやってさらに別の場所に隠すとなれば自分で持ってると相場は決まってるんだ

 

 

 

 

 

 偽物が盗まれそうになったけど無事守られたと聞いて油断したのか社長さんは自宅でお宝を眺めながら晩酌してました、キレそう

 今すぐ突入してやってもいいんだけど、部屋にいた秘書にベラベラ今回の計画話し始めたので聞き終わるまで待つことにした

 曰く「一つの国に貸すとそこからしか金貰えないけど全部に貸せば三倍の金が入るんじゃね?うはwww俺って天才www」とのこと

 金額にビビったというのは真っ赤な嘘で、3ヶ国全部を騙して金をふんだくろうという魂胆だったのだ

 

 

 ぜ、銭ゲバにもほどがあるでしょ…さすがの僕もドン引きだわ…

 まぁ本物は僕がいただくので関係ないんですけどね!!というわけでガラス窓から失礼するよ!!

 盛大にガラスが飛び散る中、今回の黒幕である社長さんに愛銃突きつけてこれでもかと嫌味をぶちまける

 スッキリしたら『宝剣 翠』を掴んで退散、早くしないとあのサムライが後を追ってきかねないもんね!もう嫌だよあんな死ぬほどつらいこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかカザフスタンから逃げ出すことに成功したが、今回も色々と酷い仕事だった

 そして僕は思った――とりあえず移動手段を用意しよう

 単車でも四輪でもなんでもいいけどこればっかりはないとさすがに辛すぎる

 どうしようかなぁ、なんかいい感じの車種探してみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――次の目的地、香港で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Side:?? ???~

 

 

 

 

 

 

 『いけませんわね、油断されるなんて…泥棒に慈悲などございませんことよ?』

 

 

 『私はこう見えて執念深いものですので、獲物は必ず頂くことにしておりますの』

 

 

 『あなた様の事情など露ほど興味がございませんが…お約束の品は頂きますわね』

 

 

 『――ふふっ、それではAu revoir(ごきげんよう)…よい夢を』

 

 

 

 

 部屋の窓を蹴り破り入ってきたドレス姿の女は、すべてを知っているような口ぶりでわたしの仮の雇い主に銃口を突き付けてそう言った

 

 

 

 手際の良さ、素早い判断力、そしてあの誰を前にしても啖呵を斬る豪胆さ

 

 

 噂通りの…いいえ、噂以上のおてんばちゃんってとこかしら

 

 

 まさか下見をしていた会社に予告状を送り付けてくるなんて、狙い澄ましたかのよう

 

 

 

 

 いいわね、貴女

 

 

 抱えているヒミツが多いほど、女は美しくなるものよ

 

 

 

 

 「いつかまたどこかで会いましょう――その時はきちんと面と向かって、ね」

 

 

 

 かわいいかわいい子猫ちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Side:?? ??~

 

 

 

 

 

 

 部屋一面に飛び散った窓ガラスを横目に、この国の警察があわただしく動き回る

 

 先日の盗難事件の現場となったこの場所で、国家警察の威信をかけた捜査をしている姿を見て――俺は全く違うことを考えていた

 

 

 怪盗ルナ――ICPOにその名前が出たのはフランスの古物商からブルボン王朝の秘宝が盗まれた事件からだ

 

 その後はヨーロッパ各地を転々としながらオランダでの事件で――奴の名前と並んだ

 

 奴と一緒に盗みに入ったのかそれとも予告が被ったのか…どちらかだと思っていた俺は面食らった

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう――奴は怪盗ルナに会うためだけにあの日オランダに向かったのだ

 

 

 今の今まで女関係こそ確認されていたが、1人の泥棒に会うために予告を出さずに行動したのはこれが初めてだった

 

 奴と怪盗ルナには何か関係性がある――俺の勘がそう言っている

 

 

 

 ならばそれを利用するだけだ

 

 奴を――()()()()()()()()()()()()()ためなら、なんであろうと利用してやろう

 

 それが俺のやり方なのだから

 

 

 

「覚悟しておけ…怪盗ルパン三世…」

 

 

 

 例え地の果てであろうと、あきらめたりはしない

 




キャラクター紹介

・ルナ(15)
 大泥棒の次はガンマンに出会っちゃったので思い切ってアジアに逃げたら東洋のサムラーイに見つかって死合い(本人にとっては)をしちゃった怪盗
 自分の超人的身体能力で適当に剣を振り回して、お宝が偽物だとわかったらサムライそっちのけでいなくなっちゃう習性がある、猫かな?
 例に漏れず今回も目を付けられた(というか武士的なあれを刺激しちゃった)とは露ほど知らず次のお宝探しに向かったのであった

・十三代目石川五ェ門
 ルパンファミリーで多分一番ヤバい奴
 物理法則を文字通り叩き斬るのでルパンや他の人のピンチを結構あっさり解決してる
 今回自分の不甲斐なさを寄りにもよって年下の女の子見られちゃって(見せつけられたともいう)次あったら全力で手合わせする気満々のヤバい奴、もう事案とかそういうレベルじゃないよこれ





・?? ???
 シャムシールとは別のお宝のうわさを聞きつけてこの掘削会社の秘書に成りすましていたとある怪盗
 部屋から出てしばらくして滅茶苦茶デカい音するんで覗いてみたら激おこぷんぷん丸のルナちゃんに遭遇
 あの手この手の搦手を多用してお宝を盗むわ同業者騙して自分だけおいしい思いしようとするわでちゃっかりというかしたたかというか、まぁそんな感じの人種
 ちなみに出し抜いたと思ってその実全部とある大泥棒の掌の上だった――ということばっかりなので多分天敵は彼に違いない
 同性にしか分からない感性的なものがあるのか興味が出ちゃったらしく、ルナちゃんの苦悩はまだまだ続きそう

・?? ??
 もうやめて!ルナちゃんの精神力はゼロよ!と言われようが何しようがルパン逮捕(排除ともいう)のためなら文字通り何でもするヤバい刑事
 はるばる日本から世界へ飛び出し寝ても覚めてもルパン一族を滅するために努力を怠らない日本男児の鑑だけど人間性を失っちゃダメだよ
 ルパンに繋がる何かを握っている、もしくは夏の夜の蛍光灯よろしくルパンが誘き寄せられているのかと結構近いところまで推理しているので、ルナちゃんは今後安心して寝れるのか心配である


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黒猫は宵越しに鳴く ≪上の段≫

何だか一年以上振りな気がするよルナちゃん


 

 ――けたたましいエンジン音を響かせて、二台のバイクが香港の夜を走り抜ける

 

 一台はピンク色に装飾された、世界でも有名なオートバイメーカーが作った傑作車――ハーレー

 

 もう一台は水色を基調とした、ドイツが世界に誇るオートバイメーカーの名車――BMW・F650ST

 

 

 

 香港島から九龍半島――すなわち中国本土へと高速で飛ばす水色のBMWをピンクのハーレーがぴったりとついていた

 

 

 本土へつながる道に至るまでにも、この二台は熾烈なレースを繰り広げており現地警察に追われる場面もあったが、この道にいるのはたった二台だけであった

 

 

 ――後方にいたハーレーが仕掛けたことで、この危険なチェイスにも終止符が打たれようとしていた

 

 一気に加速したハーレーとの間隔を保とうと左右に振れながら進んでいたBMW――その眼前に大型トラックが待ち構えていた

 

 

 道を防ぐように止まっているトラックを避ける術はなく、BMWはここで急停止せざるを得なかった

 

 長い長いチェイスはハーレーに軍配が上がる

 

 

 

 

 

「――まさか私とのチェイスをここまで続けられるとは思っていなかったわ」

 

 

 

 

 赤いライダースーツに身を包んだハーレーの操縦者はヘルメットを脱ぎながらそう言った

 

 

 茶色のロングヘアーを風に揺らし、妖艶な表情を浮かべる女怪盗――峰不二子

 

 

 

 

「――わたくしとしては、貴女様に追われるような覚えはございませんけれど…」

 

 

 一方BMWの操縦者は青いドレスを着て今までチェイスを繰り広げていた相手に応える

 

 金髪のロングヘアーを腰まで伸ばし、幼さを残しつつどことなく神秘的な表情をする少女――怪盗ルナ

 

 

 

「あなたとは一度お話をしておきたくてね…かわいい怪盗さん?」

 

 

「あら、光栄ですわ。あなた様のような有名な怪盗にそう言っていただけるなんて」

 

 

 

 ――まるで猫同士の喧嘩のようだ

 

 

 ここで彼女たちを見る人間がいれば、きっとそう評したに違いない

 

 互いに間合いを保ちながら、しかし最大限に威嚇を続ける

 

 この橋の上はさながら()()()()()()()()()()()()()()()であった

 

 

 

 

 

「じゃあ、よろしくってところかしら?――怪盗ルナさん」

 

 

「えぇこちらこそお願いいたしますわ――峰不二子様」

 

 

 

 

 

 香港の街明かりと橋の街灯に照らされ、まるで首輪のない猫のような2人の女怪盗は出会った

 

 

 

 

 

 

 

(もうやだだれかたしゅけて)

 

 

 

 

 

 

 ――少なくとも片方は現状に全く納得していなかったとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

~Side:Luna~

 

 

 やぁみんな、本格的に自分が悪いものに憑りつかれているんじゃないかと思い始めてるルナだよー

 中央アジアでのやらかしの後大急ぎで東アジアに移ったはいいけど、この先またルパンファミリー(予定)と遭遇する可能性が高いと予測した僕は香港―今はまだイギリスの租借地だけど―で逃走用の乗り物をサクッと探すことにした

 

 そんな大きなもの買ったらあっちこっち行けなくなるんじゃないのって思うかもしれないけど、そこは無駄にハイスペックな僕の書類偽装能力で何とでもなるさ(現に今もどうにかなってるしね)

 

 いやーしかしイギリス領ともあってどこもかしこもイギリス企業だらけ、当然と言えば当然だけどね

 さてそうなってくると買うものもイギリス製品になるんだろうけど、一通り見てどうもしっくりこない

 いやいいものばっかりなんだけどね?僕の琴線に触れないというかなんというか…

 

 そうやってウィンドウショッピングしていると珍しいことにBMWのお店を発見

 え?ここ香港だけどいいの?まぁイギリス領って言ったって別に外国企業締め出しているわけじゃないからいいんだろうけど…

 

 そんなお店に入ってみると、これまた凄い品ぞろえ

 さすがドイツが世界に誇るバイクメーカーと思っていると――見つけた

 

 新商品と書かれた札、目を引く真っ青なボディ、運転しやすそうなシート、そして何より日本円にして約90万円というお手頃価格…!!

 

 BMW製F650ST――僕は極東の地でもう一つの相棒と出会った

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 いやー即金で思わず買っちゃったけどいい買い物したと個人的には思ってるよ

 あ、ちゃんと変装して買ったからね?偽名も使って安心安全!

 

 さてせっかくだからこのままお宝さがしと行きましょうか

 事前にいくつかピックアップしてあるけどその中でも目を引いたのが北宋の龍を模した銀細工だ

 

 北宋って言うのは10世紀後半に中国にあった王朝なんだけど、この国160年位で北の民族に実質滅ぼされちゃったんだよね…

 その後12世紀前半に北宋から逃げてきた人たちが南宋を建国したりしたけど最終的に13世紀後半に滅んじゃったんだって、カナシイネ…

 

 そんな北宋の龍の銀細工なんだけど、一言で言うとお土産屋さんに売ってあるよく分からない龍のキーホルダーみたいなやつだよ

 剣とかついてはいないけど大きさ大体一緒だし、なんか知らないけど中国じゃああんまり目立たないお宝っぽいんだよね(似たようなお宝がその辺にいっぱいあるからかもしれないけど)

 

 持っているのはイギリス人実業家、近づいてきてる香港返還に先駆けて本国にいろんな芸術品や美術品送るつもりらしくその中にこの銀細工が含まれている

 そんなもったいない使い方するくらいなら僕が貰っちゃおうと言うことで、さっそく予告状送付DA!!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ちくしょう!ちくしょう!運命の馬鹿野郎!世界の馬鹿野郎!そして僕の馬鹿野郎!アホ!マヌケ!おたんこなす!

 

 状況を整理しよう

 侵入は上手くいった、間違いなくこれは言える

 予告状送付からお宝を盗み出すところまでに何一つ落ち度はなかった、問題はその後だ

 

 実業家の秘書さんと廊下でばったり遭遇しちゃって横すり抜けようとしたらいきなり回し蹴り食らいました、なんで?

 

 いきなりだったので両手で庇ったけど滅茶苦茶痛いと思っていたら追撃で飛び蹴りが飛んできました、なんで??

 

 思わず下を潜り抜けたら今度は掌底打ちをしてきました、なんで???

 

 え、待って本当に待ってなんでこの人こんなに殺意高いの?僕そんなに悪いことした?してたわゴメンね

 でもちょっとやりすぎだと僕は思うんだ、だからちょっと待とう?お話ししようよ?ね?ダメ?そっかー(´・ω・`)

 

 こうなってしまったらもう気絶させるつもりでやるしかない、対人格闘の経験ないけど

 そう思って色々技を繰り出すが、悲しいほど当たらない

 

 ば、馬鹿な…このハイスペッコゥボディ(ネイティブ)で以てして圧倒どころか互角だと?

 なんなのこの秘書さん?極東のチャンピオンかなにかなの?

 

「――噂通りいえ、噂以上の実力ね」

 

 最悪閃光手榴弾で目くらまししようかと考えていたら秘書さんが話し始める

 

()()()()()()()()()()()()()()()()という評価は間違いじゃなかったようね」

 

 ルパン三世――少なくとも英国人実業家の秘書の口から出てこない人物名を聞いて僕は察した

 

 

 ――あぁまたこのパターンかちくしょう

 

 

「初めまして、怪盗ルナさん?」

 

 

 黒色のカツラを取り茶髪のロングヘアーを靡かせて――女怪盗『峰不二子』ニヤリと笑った

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

~Side:Fujiko Mine~

 

 

 怪盗ルナが極東はここ香港にやってくる――裏社会に流れたその噂を真に受けた人間はそう多くなかった

 理由はここ香港が今最大級の警戒態勢だから

 返還の期限が迫っている関係でイギリスに向けて色々と送っているためそのどさくさで混乱が起きないようにあちこち警戒網が張られている

 そんな危険地域にお宝のためとはいえわざわざ危険を冒してやってくるか、ほとんどの人はNOと答えるでしょうね

 でも私は違う、確信にも似た直感でルナがここに来ると感じていた

 

 香港にルナが来ること前提で私はいくつか彼女が盗みそうなものをピックアップした

 そう、盗んでも大した価値の無いようなお宝ばかりを

 

 私が彼女を追う理由の一つが『見せしめ』

 このまま彼女が世界各地で名を上げていき、そのうち価値のあるお宝を盗むようになればきっと私の邪魔になる

 

 困るのよね、そう言うの

 私としては目立たない泥棒として生きてくれるのがうれしいけれど、彼女相当な目立ちたがり屋さんみたいだし

 

 そうしてお宝にあたりを付けていくと、古い龍の銀細工が目に入った

 持っている実業家が近いうちにイギリスに戻るようで、手に入らなくなると知れば狙う可能性は高い

 

 

「ふふふ、ちゃんとお話ししないとね――」

 

 ――かわいい怪盗さん?

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 イギリス人実業家の秘書として潜入した数日後、私の思った通り彼女は予告状を送ってきた

 ヨーロッパでの彼女の活躍を実業家さんも知っていたようで、搬入作業を止めて用心棒を雇ってまで阻止するようね

 盗まれても大して懐も痛まないでしょうに、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()が明るみになるのが怖いのかしらね?

 とはいえこの程度じゃあ彼女を止めることはできないでしょうけどね

 

 

 

 

 そしてやってきた当日、それまで過剰なほど警戒していたにもかかわらず彼女が下見に入った形跡はない

 時間になり、私は金庫室に向かう

 彼女がいつも通りのやり方で侵入しているとしたら――

 

 ――いた、黒いライダースーツに身を包んで金庫室のほうから走ってくる小柄な人影

 

 私を認識したらしく小さな体をさらにかがめて脇をすり抜けようとする

 油断かしら?少しがっかりしながら回し蹴りをする

 しかし彼女は体を捻り両腕でそれをいなしてきた

 後ろに後ずさった彼女目掛けて今度は飛び蹴りをすればそれをくぐり抜けて避ける

 それならと掌底打ちを繰り出すと彼女も避けるのをやめてこちらに技をかけてくる

 

 洗練された動き、とは言えないけれど素人とは思えない動き

 常に私に対して有利なポジションを取ろうとしてくる

 ――どうやら彼女へ対する評価を変えなければいけないようね

 

 

「噂通りいえ、噂以上の実力ね」

 

 

 私が動きを止めると彼女も構えを解く

 

 

「あのルパン三世を出し抜いた女盗賊という評価は間違いじゃなかったようね…初めまして、怪盗ルナさん?」

 

 

 微笑んでそう言うとしばらくこちらをじっと見ていた彼女も頬を緩め――

 

 

「…同業の方とはとんだご無礼を、少々急いでおりましたので」

 

 

 ライダースーツを脱ぎ去り青いドレスに身を包んだ怪盗――ルナは微笑みながらそう言った

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

~Side:Luna~

 

 

 分かってた、あぁ分かっていたさ

 なんとなくこうなるんじゃないかってね!ちくしょう!

 

 状況を整理しよう、目の前にいるのはルパンファミリー…ルパンファミリーでいいんだよね?の峰不二子

 見た感じいつものようにお宝目当てで潜入していたっぽい

 そこに僕が予告状を送り付けて…なるほど

 

 つまり今度こそダブルブッキングだな!(名推理)

 

 …いやどうすんのよこれマジで

 よりによって一番面倒な人とブッキングしちゃった感じじゃんこれ

 狙った獲物がブッキングしたとは考えにくい…というか峰不二子がこんな銀細工のために秘書に成りすますとは思えない

 大方もっと別のもの、例えばそれこそイギリス向けに運び出されている美術品のどれかだろう

 しかし僕が先に動いてしまったせいで計画がご破算、そこで僕をっていやちょっと待て

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに彼女はお宝――というかお金や美貌――に対する執着心はあるが邪魔された程度で報復するような人間ではない

 何かしら不都合なことがあってもその段階で計画を変更して盗み出すなんてお手のものだろう

 

 そう――相手はあの峰不二子だぞ?

 

 じゃあ一体何のためにここにいるんだ?まさか僕に会いに来たとかそんな理由ではない、よね?

 

 無いと信じたい、いや無いに決まってる、そうだそうに違いない、うん(自己暗示)

 

 状況確認という名の現実逃避をしつつ、さてどうしようかという話だけれでやることは変わらない

 しかしこうなってしまうと脱出も面倒になる、目の前の峰不二子を無視できないし

 いつもみたいに閃光弾か煙幕弾使うってのもありだけど…絶対手の内バレてるよねぇこの様子じゃあ

 

 しかたねぇ、一か八かでやってみよう

 

 まず不二子ちゃんに殴りかかるふりをします

 そうすると不二子ちゃんはいったん避けてカウンターを入れてきます

 そのカウンターを空中一回転で回避してその流れで不二子ちゃんの方を支点にして飛び越えます

 あとはいつも通り

 

 

 

 

 逃げるんだよォ!全速前進DA!

 

 

 

 

「えぇ?!」

 

 驚いている不二子ちゃんを尻目に猛ダッシュ、僕の目的はとっくに達成されてるんだから長居は無用だ!

 うおォン、僕はまるで人間蒸気機関車だ

 

 あらかじめ仕込んでおいた催涙弾をあちこちで作動させ視界を奪いつつ正面ホールへ

 騒ぎを聞きつけた警備員や地元警察、あとついでに実業家さんたちが勢ぞろい

 

 

「こ、このコソ泥…!」

 

 

 懐から銃を取り出して撃とうとしたのでジャンプで華麗に避ける

 着地と同時に相棒(エンフィールド)を取り出して実業家さんの銃を撃ち落とす

 

 

「たしかに、北宋の龍の銀細工頂きましたわ――それでは皆様Au revoir(ごきげんよう)

 

 

 そう言って残ったすべての仕掛けを作動させるとあたり一面煙だらけ

 懐から取り出したガスマスクを被って正面玄関…ではなく裏口から逃走

 

 近くに隠してあった新しい相棒(BMW)にまたがり逃☆走

 

 

 青いドレス着た少女がBMWに乗って逃げるとなればいくら地元警察が無能でもすぐ見つかるだろう

 そこで僕は全力でここ香港を脱出し中国本土へと逃げることにした

 警察は、まぁ途中で撒けばいいでしょ

 

 と言ってる間にもさっそく4台ほどのパトカーが追っかけてきた

 フフーン!でもこの僕に隙は無いんですよ!

 

 道を右へ左へ移動しているといつの間にかパトカーのおかわりが来ているけど小さな問題だ

 

 いい感じに距離が詰まってきたところで細いわき道にそれる

 さすがのパトカーもこんな細道には入ってこれない、きっと出口を封鎖しようとするだろう

 しかーし!僕は事前に逃走経路を頭に叩き込んでいるのさ!

 

 案の定封鎖が間に合っていないようで難なく撒くことに成功する

 

 いやー色々あったけど今回も無事に仕事を終えられる――

 

 

 

 

 

 

 ――真後ろから鳴り響くエンジン音に気が付くのにそう時間はかからなかった

 

 

 いつの間に――そう考える暇もなく僕はそのエンジン音の正体が思い浮かんでいた

 

 

 この状況でバイクを使って追いかけてくる相手、それは――

 

 

 ――ピンク色のハーレーに跨った彼女しかありえないのだから




キャラクター紹介 

・ルナ(15)
 ルパンファミリーの三人衆と出会いいよいよ逃れられぬカルマを背負っていることを実感しつつもお宝の欲には逆らえずやっぱり厄介ごとに出会ってしまった怪盗
 新しい相棒との出会いを喜ぶ暇もなく逃げの一手を打つがどうやらお相手さんは逃してくれるつもりはないようで…

・峰 不二子(??)
 皆さんご存知の女怪盗、自分と同じ女怪盗のルナが気になったというか邪魔に感じているというかまあ商売敵になられても困るので早いうちに芽を潰してしまおうみたいな感じで接触してきた
 思った以上に実力があることは認めているっぽいけど最初の目的は忘れていないご様子


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