蛇獣書房 (ヘビとマングース)
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一騎当千
呂蒙子明と初めて in体育倉庫


 「んっ……はぁ……んちゅ」

 

 勾玉、というものがある。

 聞いた話でしかないが、なんでもあの有名な話「三国志」に出てくる武将たちの魂が込められたものらしく、とても特別な物らしい。

 どことなく胡散臭いおっさんから渡されたせいで俺も持っているが、正直言ってあまり信用できる話でもない。だから実際のところ、俺とはあまり関係の無い話だと思っていた。

 

 「ふぅ、んんっ……はぁん……」

 

 それから、闘士、という人たちがいる。

 こちらも本当かどうか怪しい話で、その勾玉を持ち、三国志の英雄たちの名前を受け継いでいる人たちのことを闘士と呼ぶらしい。なんでも、武将の力を最大限引き出して戦うことができるとか。

 ただまぁこちらも俺とは別に関係の無い話だ。戦いだとか格闘だとか、喧嘩すらしたことない俺には遠い世界の話なんだから。

 少なくとも、今まではそのはずだった。

 

 「んちゅ、ちゅる……はむっ」

 

 だがこの状況では認めざるを得ない。それらは俺にとって全く関係の無い話なんかじゃない。

 先程から耳に聞こえている水音も、とても男心をくすぐるいやらしい声も、夢や妄想なんかじゃなくて現実のものだ。

 そしてそれらを生みだしている可憐な少女は、あまり関わりの無い俺が知っている限りはその闘士という存在で、現在の俺の状況は彼女によって起こされている。

 つまり。

 

 「んっ、ちゅっ……何を考えている?」

 

 今現在、俺が彼女に犯されようとしている事実に、闘士や勾玉といった存在が関係していないわけがない。だってこれを渡されるまで、俺は平凡な日常を過ごしていたんだ。

 特におもしろいこともなく、いじめられることもなく、不良っぽい闘士たちに絡まれることもなくて、なんだか知らないが平平凡凡と暮らせてこれた。なのに、あの胡散臭いおっさんから勾玉を受け取って以来、俺のまわりは突然騒がしくなってる。

 どう考えても悪いのは俺じゃない。あのおっさんと、この勾玉、それと知ってるようで知らなかった俺のまわりにいる闘士たちが悪いはず。

 

 「おい。……余計なことは、考えるな」

 

 俺の顎に青い手袋をつけたすらりとした指が触れ、少しだけ力を加えられてくいっと上を見させられる。

 俺の顔の前、至近距離ににあったのは、青い髪のボブカット。左目を隠す医療用の眼帯。きれいな顔と、趣味かは知らないけど短いスカートの青いメイド服、それとやっぱり目が離せない大きな胸。

 彼女は、呂蒙(りょもう)子明(しめい)という闘士。俺と直接の知り合いじゃないけど、あまりにも有名な彼女のことはある程度誰でも知ってる。

 俺も通ってる“南陽学院”の四天王に数えられる実力を持つ彼女。そんな呂蒙はかなり強く、普通の闘士じゃまず太刀打ちできないだろう。並みの闘士が二十人居たって彼女一人に敵わない。

 だから、俺がこの状況におとし入れられてるのは必然なはず。ここまでの一連の行動はあまりに卑怯と説明せざるを得ない。

 

 「……」

 

 何も言わない俺を訝しげな顔で見ながら、もう一度呂蒙が顔を近付けてきた。おそらく、もう一度俺にキスするために。

 だから俺は両腕を伸ばして、今持っている力をすべて注いで彼女の肩を押さえ、なんとか彼女を俺から離そうとする。もっとも俺より強い彼女にしてみれば、それはこれから捕食されるだけの人間のみじめな抵抗と同じなんだろうけど。

 これだ。この状況の中で、これが一番わからない。

 始まりは突然だった。勾玉をもらった次の日、つまり今日、俺は普通に学校に登校して、大人しく授業を受けて、友達と駄弁りながらうまくもないメシを食って、そのあと普通に帰るはずだった。

 なのに、今日ばかりはいつもと違った。放課後、帰ろうとする俺に声をかけてきたのが、今現在俺の目の前でぶすっと怒ったような顔をしている彼女だったわけである。しかもその内容は突然、「私と戦え」なんて無茶苦茶なもの。

 必死に、且つ素直に嫌がった俺の話なんて最後まで聞いてもらえず、結局は戦う羽目になってしまったのだが、四天王である呂蒙と戦いどころか喧嘩すらしたことない俺では、結果なんて目に見えてる。

 そしてその予想に反することなく俺は彼女に負けたわけだが……なぜかはまったくわからないが、勝負に勝った呂蒙は俺の体を要求してきたのである。なんでも、「敗者は勝者に食われるのが自然の摂理だ」とかなんとかで。

 

 「……この期に及んでまだ抵抗するつもりか……?」

 

 さっき話してた時よりよっぽど冷たい声でそう言う呂蒙は、なんとなく怒っているような顔をしていた。

 なんでこんな状況になってるか、まるで理解できない。納得もできない。受け入れられるはずがない。

 確かに一対一の格闘戦で、俺は負けた。それはもう勝ち目なんて微塵も感じられないほどにコテンパンに。試合開始からたった数秒、しかもかなり手加減された状態で。

 だから勝者である彼女の言うことに従わなきゃいけないってことも、完全にではないが理解できる。だが、これはあまりにもおかしな状況ではないだろうか。

 全力で抵抗したのに体育倉庫に連れ込まれて、ほとんど説明もなくファーストキスを奪われて、力任せに壁に押さえつけられて、あろうことか女の子に襲われようとしている。そりゃあ抵抗だってするし、嫌がるのも当たり前だろう。いくら相手が可愛くても、俺みたいな小市民は突然すぎて怖がるにきまってるんだから。

 

 「待て、ちょっと待ってくれ……まるで意味がわからない。どうして、こんなことを……?」

 「言っただろう。おまえは私に負けた」

 「いや……それはいい。そんなこと俺だって理解できるし、別に反論したいわけじゃない。だけど、これは―――」

 「負けたことは認めるくせに、体を明け渡すことは嫌がるのか?」

 

 ぐっ、と何も言えないでいる俺を見る彼女は無表情。

 そのまま呂蒙は肩を押さえていた俺の手首を掴んで壁に押さえつけ、また強引にキスをしてきた。最初は唇同士だけを合わせて、次第に俺の口内へと割って入ってきた舌が乱暴に動き始める。しかし初めは喰らいつくように好き勝手動いていた舌の動きに、だんだん甘さが混じっていく。力強さを感じさせながらもやさしい、少しは俺を気遣うかのような動き。

 正直言って、今にも腰が抜けそうだった。現になんとか今も立ち続けている俺の膝はがくがくと震えており、思考が流れていって何も考えられなくなる。なにせ、今まで恋人なんてできたことないんだから、そんなことをするなんてまったくの初めてなんだから。

 人生初めてのキスは、とても乱暴で、少しだけやさしくて、かなり気持ちがよかった。

 

 「―――ぷはっ。目を潤ませて、体から力を抜いて、女に迫られて悦んでいる。それでも、まだ嫌だと駄々をこねる気か?」

 「よ、喜ぶって……別に、そんな―――」

 「黙ってろ」

 

 また唇が塞がれる。さっきより深く、情熱的に。

 すべてがわからなかった。どうして彼女にこんなことをされているのか。どうして彼女が怒っているのか。とにかくわからなくて、なんだか不安になってしまって、いつの間にか俺はぴたりと抵抗を止めていた。

 それで気分を良くしたのか、そっと唇を離した彼女は薄く笑みを浮かべていた。そして彼女の笑みに見惚れると同時、腰の辺りに強い快感が走る。

 

 「ここをこんなにしてるくせに、まだ私を拒むつもりか?」

 「うっ、あっ……!」

 

 呂蒙の右手にぎゅっと握られていたのは、あろうことか俺のイチモツだ。ズボンの上から戸惑うことなく握られてる。柔らかく包み込むような、それでいて少し痛みが走るほどぎゅっと握られているような。

 今の彼女はとてもサディスティックな笑みを浮かべていた。……あまりこういうことは言いたくないが、あまりそっちの気がない俺でも、マゾヒストの気持ちが少しわかってしまった気がする。

 俺の急所を握ってとても楽しそうに笑う彼女は、さっきと大きく違ってるわけじゃないけど……なぜかとてもきれいだった。一瞬我を忘れて、ぼんやりと見惚れてしまうほどに。

 

 「ふふっ、気持ちいいのか?女に力で負けて、壁に押さえつけられて、これから犯されようとしてるのに?……変態だな」

 「うっ、くっ……ち、違う……!」

 「ならこれはなんだ?こんなに固くなってるぞ」

 

 ぐにぐにと先端をいじめたり、竿の部分を上下にこすったり、根元を締め上げるように掴まれたり、或いは玉の方をやわやわ揉まれたり。

 彼女の手淫はとにかくうまかった。多分初めてではないのかもしれないが、初めての人じゃまずできなさそうな手慣れた動き。男という生き物をよく理解して、うまく弱点を突いてきているような……。

 呂蒙の手は常に動き続けて、俺に与える刺激を途切れさせない。そのせいで俺の腰は自然とかすかに動いて、押し寄せてくる初めての快感のせいで平静さが取り戻せそうにない。手の動きに合わせて、小さく声を洩らして、これじゃあまるでおもちゃだ。

 

 「声が出てるぞ。気持ちいいんだろう?」

 「そん、な、こと……!」

 「強情だな。認めた方が楽になれるぞ。……私とセックスしたいんだろ?」

 「……ッ!」

 

 彼女の手の動きに、彼女の言葉に、何もできない俺は激しく揺さぶられる。体から力が抜けてしまっているため、抵抗ができない。できたところできっと無駄なんだろうけど。

 声を呑んで快感に耐えていると、また呂蒙が俺にキスをしてくる。今度は首筋やほっぺた、瞼や鼻、もちろん唇も。

 たったそれだけ、なんて言われてしまうかもしれないけど、俺にとってはもう限界だった。もう、耐えられない。耐えられるはずがない。

 

 「……はっ、ッ!」

 

 がくん、と膝が曲がって落ちるようにしてその場に座り込んでしまう。壁に背中を預けたまま、俺は動くこともできずに荒く呼吸を繰り返していた。

 恥ずかしい話、下着の中がひどく気持ち悪い。ここまで強引にされた、たったあれだけのことで、俺は絶頂してしまっていたのだ。

 俺は呂蒙に、それほど深くお互いのことを知らない女の子に、イカされていた。

 

 「ど、どうした?何かあったのか?」

 「くっ、はっ、はっ……」

 「い、痛かったのか?す、すまん、加減がわからなくて……見せてみろ」

 

 だけど、どうしたのだろうか。かなり手慣れた様子で俺のを弄っていた呂蒙は、俺がイッたことに気付いてないようだった。

 ひょっとして、経験がない……?いや、そんなはずはない。いくら俺が何の経験もない童貞野郎でも、全く経験の無い相手にイカされるなんてことはないだろう。それにあの手つき、やっぱり手慣れた様子だったとしか思えない。

 そんなことをつらつら考える俺は体から力を抜いて、呂蒙がズボンを脱がそうとしているのを止めようとしなかった。もう、どうでもいいんだ。どうでもよくなってきた。

 そしてついに、俺のさほどすごいわけでもない、あくまでも平凡なモノが外気に晒された。つまり、ついに俺の恥ずかしい場所が呂蒙に見られてしまったのだ。

 

 「……!?」

 

 呂蒙は、どうやら驚いてるようだった。だけどどういう意味でだったのかはわからない。思ってたより大きかったのか、それとも小さかったのか、形に問題があったのかもしれない。だけど初めて見るなんてことはないだろう。多分としか言いようがないけど。

 今、呂蒙の視線の先には、一度イッておきながらすぐにまたフル勃起した俺のモノがある。白いどろどろに汚れた状態で、手だけで勝手にイッた直後というひどく情けない姿でだが。

 

 「こ、これが……思っていたよりも……」

 「り、呂蒙……もうやめよう、こんなこと……」

 「うるさい、静かにしてろ。おまえはじっとしてればいいんだ。……い、行くぞ……」

 

 何をするんだ、とは言えなかった。その前に呂蒙は頭を動かして、俺のを口の中に入れていたから。

 彼女の口の中は、とてもあたたかかった。

 

 「うっ、あっ……ッ……!」

 

 息が洩れる。呼吸が荒れる。気付けば腰が勝手に動いてて、初めての感覚に頭がおかしくなりそうだった。

 だけどまだイッてない。正直ヤバかったけど我慢できた。腰が動いた時に先っぽがかなり奥まで入り込んで、呂蒙は結構苦しそうな顔をしていた。それなのに口を離さなかったのはなんでだろう、なんて頭をかすめたりもしたけど、今はそれどころじゃない。

 これは、気持ちよすぎる。本番どころかあまり自慰さえしたことない俺には、刺激が強すぎる。これじゃあ暴発するのも時間の問題だろう。

 だというのに、俺のを深くまで(くわ)えた呂蒙はゆっくりと頭を動かし始めた。吸いつくように唇をすぼめて、たまにモノに歯が当たりながらだが、俺に快感を与えようと。

 これには参った。中にいるだけでヤバいのに、与えられる刺激は確実に俺を絶頂へと導いてる。今はなんとかギリギリ我慢できているが、すでにもう限界は近い。

 

 「りょ、もう……こんな……あっ!」

 「ふぅー……ふぅー……」

 「んんっ、はぁ、あっ!」

 

 男としてはみっともないし、絶対に気色悪いだろう。だけど口から出る甘い声は止められない。

 すでに体は言うことを聞いてくれなかった。逃げることなんてもちろん、腰は勝手に小刻みに動いてるし、知らない間に俺の手は呂蒙の頭に置かれていた。まるでもっと深くまで銜えさせようとするかのように。

 苦しそうに息を繰り返す呂蒙。なのに彼女は絶対に口を離そうとはしなかった。俺はすごく気持ちいいけど、こんなに深く銜えてるんだ。ひょっとしたら先っぽが喉まで届いてるかもしれない。そうだったら苦しいに決まってる。

 どうして、なんで。そう思ってたけど、すぐにそんな場合じゃなくなる。

 呂蒙の舌が動き始めて、俺のモノに絡みついていた。

 

 「―――ッ!」

 

 すぐに限界が来た。我慢なんてできるはずがない。むしろ初めてにしては頑張った方だろう。

 俺は思いっきり射精した。呂蒙の口の中に、遠慮することなく。

 きっとすごい量だっただろう。自分の感覚としては、これまでで一番長い射精だったと思う。しかも一番気持ちよかった。腰の中から全部抜き取られていくような感覚で、思わず腰が抜けそうで、俺自身は何もしてないのに腰が勝手にかくかく動いていたほどだ。

 あまりの快感に考えがまとまらない。頭が真っ白になって何も考えられなくなる。気付けば俺は、ぐったりしたまますべての体重を壁に預けていた。

 

 「ふぅー……ふぅー……んっ、ろぉっ、んちゅ」

 

 起きてるんだか、寝てるんだか、それすらわからなくなってぼーっと天井を眺めていると、また腰に鈍い快感が戻ってくる。止まっていた呂蒙の頭が、また動き始めていた。

 彼女はゆっくりとした動きで頭と舌を動かして、俺のをきれいにしてくれてるようだ。たまにくる吸われるような感覚がひどく気持ちいい。尿道に残ってた精液すら吸いとられるような感触があった。

 気持ちいい、と同時に、そうされていると呂蒙に対して愛しさのようなものが生まれてしまう。さっきまで少し怖がってて、なんならずっとこの行為を嫌がってたのに。

 初めてはせめて、好きな人とロマンチックに、なんて想いはもうどこにもない。こんなにも単純だから「男ってバカね」なんて言われるんだろうけど、でも仕方ないと思う。だって、必死に俺のを銜えて愛撫してくれる彼女は、きれいで、可愛くて、とても愛しい。

 自然と、俺は呂蒙の青い髪を撫でていた。やさしく、ゆっくり。

 

 「ん……じゅるっ、ちゅちゅっ、んろぉ」

 

 目を閉じたまま吸い続けてくれる呂蒙。左手で根元を押さえて、右手で玉を揉みながらだ。

 正直これは、ヤバい。明らかにシチュエーションとかに流されちゃってるんだろうけど、このままじゃこの子に惚れそうだ。さっきまではわけがわからなくて怖かったのに……。

 それに、この感じ。俺が射精してから一度も口を離してない。ということは多分、呂蒙は俺の精液を全部飲んじゃったんだろう。それがまた男としての支配欲なんかを掻きたててくる。

 

 「んっ、ちゅ……はぁ」

 

 最後に、先端にやさしいキスをしてから。

 呂蒙はやっと俺のモノから口を離して、俺の顔を見た。さっきは余裕のある顔をしてたのに、今はずいぶん顔が赤くなってる。

 

 「んっ、はっ……もういいだろう。おまえは、そのままでいろ……」

 「え……?まだ、なにか……?」

 「当たり前だ。おまえがしたかったのは……私とセックス、だろ」

 

 そう言ってから、俺の首筋に舌を這わせ始める呂蒙。じれったいような快感のせいで、また勝手に体がぴくぴく反応してしまうが、今度は彼女の行動がしっかり見れた。

 俺の体を舐めながら、呂蒙は自分のスカートの中に手を入れて、ゆっくり下着をおろしていった。そのまま下着から片足だけ抜いた光景を見たところで、彼女の顔が俺の顔に近付く。

 また、キスをされた。だけど今度はさっきよりよっぽどやさしく、まるで恋人同士のようなキス。勝手に舌が口内に乱入してきて、舌を絡め取られるのも、口内を舐めまわされるのも、さっきと比べてかなりやさしい。これはこれで気持ちいいが、さっきの激しいのもそれはそれですてがた―――いや、なんでもない。

 しばらくキスに没頭して、ゆるやかな快感に酔っていると、俺の勃起したモノに水っぽい何かが触れた。多分、呂蒙のアソコだろう。先っぽしか触れてないが、かなり濡れてるらしいことがわかった。

 本当にするんだろうか。今さらながら戸惑いが生まれる。だって俺と彼女はほぼ初対面で、世間話すらまともにしたことがなくて、なのにこんなことしてる。……こんなこと、やっぱり普通じゃない。

 

 「……呂蒙、その……ほんとに?」

 「おまえの意見は聞いてない。勝ったのは私だ」

 「で、でも……ぁッ!?」

 「―――!?かはっ、あっ、んんっ!くっ、はっ……はぁ、これでもう文句は言えないだろう……!」

 

 不意打ちのように、まるで奇襲のように、彼女がいきなり腰を落としたせいで俺のイチモツは彼女の膣内(なか)へずるりと入っていった。

 さっき以上の快感に襲われる。俺のをすべて呑みこんだそこは、とても熱くて、きゅうきゅうと締め付けるように動き続けていて、さっきまでの快感とは段違いだ。気付けば俺は彼女の体に抱きついていて、やわらかい巨乳に顔を埋めていた。どうしてそうしたかわからないが、多分そうして体に力を入れていないとすぐにイッてしまいそうだったから。

 胸に抱きつく俺の頭を、呂蒙の手が押さえた。そのせいで顔は見えなくなってしまったが、どうやら彼女も感じてるらしい。俺を銜えこんでる膣内が、腰を動かしてないのに動き続けてる。多分、いや、きっと気持ちよがってるに違いない。

 

 「くふぅ、はぁあっ……!ど、どうだ……念願の私とのセックスだ……!」

 「うぁっ、くぅ……!」

 「ふっ、はっ、あぁっ……!おまえも、動けっ……くふぅん……!」

 「……ッ!はぁっ、あっ……!」

 

 俺が腰が抜けそうな快感に負けて、固まったまま動けないでいると、呂蒙はゆっくり腰を動かし始めた。そのせいで俺はすでに何度もイキそうになってる。

 出したい。イキたい。孕ませたい。そんな言葉が次々俺の頭に浮かびあがって、快感のせいですぐに溶けてなくなっていく。だけど限界は近い。あまり腰を動かしたら、きっと呆気なく出てしまうだろう。

 それでも俺は、自分から腰を振りはじめた。おそらくこの体勢は、対面座位、という形なんだろう。彼女の胸に顔をうずめながら、彼女の尻を掴んで、下から上へと突き上げる。何も考えずに本能で。

 すると呂蒙はわかりやすく反応した。

 

 「ひあっ!?んはぁっ、あぁっ、くぅんっ、はぁっ!」

 

 がしがしと腰を振って、とにかく快楽を得ようとする。一突きするごとにぐちょぐちょといやらしい音が鳴って、同時に呂蒙が甘い声を上げ、ぎゅっと俺の頭を抱きしめてくる。

 俺はとにかく必死に快楽をむさぼった。掴んでいるすべすべでやわらかい尻を揉んで、白いエプロンと青い服の上から胸にしゃぶりつき、ビンビンに立っている乳首を舐めて、彼女の膣内を掻きまわす。バカみたいに何度も、それらの同じ行動を繰り返した。

 だけどやはり、それほど長い時間は持たない。限界が来たのは挿入してから数分もしてなかったかもしれない。正確な時間なんて、わかるはずもない。とにかく俺は必死だった。

 

 「んんっ!あはぁっ!あぁっ!」

 「りょ、もう……ダメだ、イキそう……!」

 「んっ!いっ!いいっ!」

 

 俺は素直にそう言った。もう限界だったし、彼女の膣内に射精したくてたまらなかったから。そうすると彼女は甘い悲鳴のような声でそう言ったのだ。

 呂蒙のその声は、ただの嬌声だったのか、それともイッてもいい許可だったのか、正直なところわからない。だけど俺はそれ以上我慢するつもりなんてさらさらなかったし、ダメだと言われても我慢なんてできなかった。

 

 「はぁっ、ダメだ、イクっ!」

 「んんんっ!あぁああっ!」

 

 ついに限界が来た。俺は彼女の膣内に入ったまま、コンドームもつけてない状態で、我慢せずに思いっきり射精した。人生で初めての中だしだ。

 そうして俺が目を閉じて快感に腰を震わせながら、びゅくびゅくと精液を吐きだしていると、抱きしめている呂蒙の体がかすかに震えた。ひょっとしたらイッたのかもしれない。だとしたらちょっと、いや、かなり嬉しい。

 初めてのセックスの相手が、俺で感じてくれている。それだけのことがとても幸せなことに思えたからだ。

 震えが止まった呂蒙は胸に埋まっていた俺の顔を遠ざけて、目と目を合わせてくる。頬は赤くなって、目は潤んでて、すごく色っぽい表情だ。

 

 「まだ、おまえは、元気だな……まだ足りないか……?」

 

 そう言って彼女は下に手を伸ばし、二人が繋がっている場所をやさしく撫でた。そこには、出したばかりでもまたすぐ立ち上がった俺の息子と、それを銜えこんだままの彼女の膣がある。

 俺は何も言わず、期待を込めながら何度も頷く。気持ちよかった、だけどまだ足りない。もっとこの快感を味わいたい。彼女といっしょに。

 

 「……わかった」

 

 そう言って彼女は一度俺を抜いて、立ち上がる。その後、すぐに青いメイド服を脱いで、全裸になった。

 初めて見る生の女性の裸。すごくきれいで、わかってたことだけどやっぱりエッチだった。

 もう辛抱たまらん。そんな俺の想いを、ギンギンに立ってる息子を見て理解したのか、妖艶に笑った彼女はそこに敷かれていたマットに寝そべる。仰向けの状態、股を開いて俺の体がわりこみやすいようにして。

 

 「さぁ、来い。今度はおまえから挿入()れてくれ」

 「あ、ああ……」

 

 そう言われたので俺は急いで彼女の股の間に体を入れ、自分のを右手で持って入口を探ろうとする。

 その時になって気付いた。俺のイチモツと、彼女の性器、両方だ。

 まっ白いどろどろの精液に混じって……微量ながら、赤い鮮血が、確かに混じっていた。

 

 

 

 「んあっ!はぁっ!んんあっ!」

 

 今日が初めてだったから今まで知らなかった。だけど今になってようやくわかった。

 セックスというものは、とても気持ちいい。

 

 「あはぁっ!んんっ!はぅんっ!」

 

 どうしてこんな状況になったのか。なぜ彼女は俺を選んだのか。

 そんなことはもうどうでもいい。そんなことより俺はもっともっと彼女を抱きたい。

 

 「んっ!んんっ!んんんっ!」

 

 俺の下で喘ぐ全裸の彼女。その体はとても美しく、その顔はとても愛らしい。

 あぁ、疑いようもない。俺はもう、彼女を愛してしまっている。

 

 「はぁっ!ああっ!ああんっ!」

 

 その日、俺は呂蒙子明とセックスした。何度も中だしを繰り返しつつ。

 そしてその日を境に、俺の平凡だった日常は淫靡なものへと変わっていく。

 原因はおそらく、俺が手にした勾玉なんじゃないだろうか、なんて思うわけだけど、今となってはもうどうでもいい。

 

 「んあっ!あぁっ、だめっ、イクっ、イクぅっ!!」

 「ぐっ、俺も……また膣内に出すぞ!」

 「来てぇ!膣内にっ!膣内にいっぱい出してっ!ザーメンいっぱい注ぎこんでっ!!」

 「ぐっ、うぉっ……あぁっ!」

 「あはぁっ!出てるぅっ!私の膣内にっ、ザーメンいっぱい入ってくるぅっ!!」

 

 今はただ、俺の下で喘ぐ彼女を見ながら、心地いい快楽に酔いながら。

 

 「はぁっ、はぁっ……呂蒙、もう一回……」

 「んんっ、はぁ……し、仕方ないな……いいぞ……」

 

 もっともっと、愛しい彼女とセックスすることにしよう。

 



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呂蒙子明と生活 in彼女の自宅

一応、簡単なストーリーの流れみたいなものがあります。他のシリーズを書く時も同様。
できれば一人に二話くらいで次のキャラに行くつもり。


 俺と呂蒙が初めて体を重ねた日から、約一週間が経った。

 この一週間、一から全部説明してたんじゃとても言葉では表しきれない。なにしろとても濃厚な日々だったから。

 だからダイジェスト、なんていいもんじゃないけど、簡単に説明だけしてみたいと思う。

 俺と彼女がどういう日々を過ごして、そこでわかった呂蒙子明という女性、或いは人間について。

 

 まず簡単に言えることは、お互いの初めてを交換し合った日から今日まで、俺はずっと彼女の家で生活しているということ。

 もちろん、平凡な家系に育った俺には家族がいるし、帰る家だってちゃんとある。ただ今は少し理由があって、家族には「一人暮らしの友達に頼まれて、しばらく共同生活してくる」と言っているのだ。といってもそれは嘘ではない。彼女は一人暮らしだし、少し変わった形だが友達のような関係には違いない。

 そしてなにより、俺が呂蒙の家に入り浸りなのは、彼女から頼まれたからという理由に他ならない。そして、なぜ男である俺が、女である呂蒙の家で生活しているのかというと、理由は一つだ。

 最初の日から今日まで毎日、俺と呂蒙はとにかくセックスしまくっているからである。

 

 料理、食事、入浴、トイレ、そして睡眠。それら以外の時間は常に、まるで盛りのついた猿のようにセックスばかりしていたのだ。

 家にいる時は二人ともほとんど全裸。いつでもどこでもやれるようにそうしていて、事実どこにいたってやってる。そのすべてが呂蒙から襲いかかってきてるので、俺は彼女に促されるまま相手をしているわけだ。

 家にいない時、例えば学校にいる時とかでも、時間を見つけたらすることもある。昼休みなんかがいい例で、ふらっと俺の前に現れた呂蒙が俺を連れて、初めてやった体育倉庫へ連行していく。もう何度あそこでお世話になったかわからない。もちろん、他の場所にもお世話になっているが。

 

 それで、わかったこと。

 まず一つは、怖いと思っていた彼女は意外とやさしかったということがある。初めての時なんかまさしくそうだったけど、こっちの都合とかお構いなしに襲ってくる癖に、しかしいざ事が始まったりすると俺をやさしく扱ってくれるのだ。だったら初めからやさしくしてくれ、とはやっぱり怖くて言えなかったりするけども。

 この一週間ほどもそうだった。いつも呂蒙から手を出してきて、まるで恋人が愛を確かめるかのように体を重ねる。しかも多分俺のため(だと思いたいが自分のためかもしれない)に色々と工夫すらしてくれたりするのである。

 例えば、服装一つとってもそうだ。現在の俺が帰る家は呂蒙の家なのだが、周囲の人間に俺たちの関係がばれないためにも帰る時間をずらしている。で、俺が帰った時に彼女はコスプレとも取れるような格好で出迎えてくれるわけである。ウチの学校の制服はもちろん、青いチャイナ服とか、薄いピンクのナース服とか、初めての時の青いメイド服とか。

 

 ここまでの話だけならば、まわりの人からすれば羨ましい限りの話に聞こえるかもしれない。しかし当事者である俺からすれば問題点はある。たとえ相手が学校を代表するほどの美少女であったとしても。

 彼女と一週間ほど同居して、他にもわかったことがある。それは、呂蒙子明という女性は、意外とやさしい代わりに嫉妬深くて執着心が強いということである。

 そしてその強すぎる執着心が俺に向いているからこそ、俺は現状を素直に喜べたり喜べなかったりするわけだ。

 

 例えば、家に帰った時。まず初めに呂蒙が俺にしてくることは、深くて甘いキス、と同時に俺の制服をすべて脱がせることである。

 そして次に、いつもなぜなんだと思っていることだが、呂蒙は俺と彼女の手を手錠で繋ぐ。どこから入手したんだかわからないが、明らかに玩具じゃなさそうなそれで。

 そうなってからはもう、先程言った通りだ。いつでもどこでも二人いっしょにいて、暇さえあれば俺の体をまさぐってきて、流された俺が彼女を抱く。いや、むしろ抱かれることの方が多いのだけど。しかもいつもゴム無しで中だし、すべて呂蒙の命令で行われている。「つけた方がいいと思う」という俺の意見は何度もガン無視されて。

 そんな生活が一週間だ。おそらく常人ならもう死んでるだろう、毎日精液を絞り取られ過ぎて。男なら誰もが憧れる腹上死ってやつで。え?憧れない?あぁ、俺だけか……。

 

 しかしそんな肉食女性と草食男性のような俺たちが淫らな生活を続けて、なんだかんだで呂蒙が満足して、且つ俺がいまだ死んでいないのにはおそらく理由がある。

 確証は何もないが、何度も精を放ちながらも全く薄まらず、常に濃いドロドロの精液が出続けるのは、おそらく俺がもらった勾玉にあるんじゃないだろうか。

 俺だって健全な男子高校生だ、自慰の経験だって何度もある。だからこそわかることだが、変なおっさんから勾玉をもらう前と後じゃ全然違う。さっき言ったように何度射精しても精液は濃いままだし、何度出しても尽きることがない。その上一度に出てくる量がかなり増量されているし、なんだか感度も上がってるような気がする。いっつも呂蒙から「早漏が」と罵られるのはそのためだ。断じて本来の俺のせいじゃない。

 

 ……話が色々と左右したが、そう、今は呂蒙の話だ。

 で、彼女の何がすごいって、かなり嫉妬深いという話だ。

 そしてそれを説明するいい機会が、ズバリ今なわけである。

 

 「んっ、ふっ……じゅっ……じゅるっ」

 

 さて。

 今日も今日とて家の扉を閉めた瞬間、いつも通り呂蒙が飛びつくようにキスをしてきて、そのまんま流れで服を全部脱がされて、さらに俺の息子を手で弄ばれているわけなんだが。ちなみにすでに手錠で俺の右手と彼女の左手が繋がれてる。

 そこまではいつも通りなんだが、今日はちょっと様子が違うようだった。何と言ってもキスの熱烈さが尋常じゃないし、俺を抱きしめる力がやけに強い。これは多分、何か怒ってるんだろう。すでに何度か経験していることなので、今となっては簡単に理解できる。

 こういうことは初めてじゃない。俺は何もしてないのに、彼女がなぜか怒っている時はいつも同じ理由だから。

 ちなみに今日の格好はスクール水着らしい。胸とか尻とか今にもこぼれそうなほどパッツンパッツンなんだが……すごくいいです。

 

 「んっ、ちゅっ……はぁ、今日の昼、伯符と何を話していた……?」

 

 呂蒙の怒りの原因はいつも同じ。要は「俺が他の女の子と話している姿を見た」ことに尽きる。

 彼女が言った名前、孫策伯符は俺の友人でクラスメイト、同時に呂蒙の友人だ。これは彼女も知っている事実だから怒られるようなことではないし、なんなら呂蒙がいる場で普通に孫策とだってしゃべってる。

 なのになぜ彼女が今怒っているのかというと、結局「呂蒙がいない場所でしゃべってた」ことが問題らしい。どうやら俺と孫策が普通にしゃべってるところを、どこかから見てしまったようだ。たまたまなのか、それとも監視みたいなことしてたのかは知らないが、それだけのことで彼女は怒ってるのである。

 

 「んっ、はっ……別に、普通の話だって……ッ」

 「んん、どんな……?」

 「はっ、あいつが、ッ……最近、あんまり戦ってないから、つまんないって……それだけっ、だ」

 「本当か……?嘘じゃないな?」

 「ん、はぁ、嘘じゃない、ほんとに、それだけ……」

 

 首筋を吸われて、右手でモノをしごかれて、左手で尻の穴を撫でられる。かくいう俺も左手で彼女の胸を揉んで、右手で尻を揉んでるわけだけど。

 いまだに玄関でお互いの体をまさぐりつつ、俺たちは今日も必死に快楽をむさぼり合っていた。しかもその間、尋問にも似た呂蒙の質問を受けながら、だ。当然俺は素直に真実だけを答えて、できるだけ波風が立たないように頑張ってるわけだが、どうやら彼女の機嫌はよくならなかったらしい。

 突然、俺のイチモツが、なんと玉ごと、万力のような握力でぎゅっと握られたのである。尋常じゃないくらい痛かった。

 

 「痛ッ……!?」

 「約束しただろう。私以外の女と、気安くしゃべるなと」

 

 ギリギリと根元を強く握られ、体から力が抜けていく。思わず俺は呂蒙に抱きついて、思いっきり顔をしかめながら、みじめに体を震わせていた。

 その間も彼女の愛撫は続いていて、顔や首筋を舐められて、尻の穴を撫でられる。しかもイチモツを締め上げられながら、である。これにはもう参った。

 まだ呂蒙の怒りは収まっていないらしい。確かに、彼女の言う通り、俺は呂蒙と約束した。あまりにも無茶なことだが、内容は「呂蒙以外の女の子としゃべらない」こと。だが普通に生きてるだけで、そんな約束守れるはずもないわけで。

 だからこそ俺はいつも通り、知らない内に約束を破ってしまって、彼女にその現場を目撃されて、いつも通りに彼女から一方的に攻め立てられているわけである。主に性的な意味で。

 

 「で、でも呂蒙、他の女の子としゃべらないなんて、できるわけ……」

 「できるかどうかじゃない、やるんだ。私の体を好きにしていい代わりの条件だろう。何がなんでもやれ」

 「そ、それだって元々、呂蒙の方から襲ってきて――うっ!」

 「おまえが物欲しそうな顔して誘うから、ヘタレなおまえに代わって私から手を出してやったんだろう。……今みたいに、な」

 

 逃げようとしてなんとか体をよじるけど、いまだに快感が抜け切ってないせいでうまく動けない。しかも呂蒙に体を押さえこまれてるから、どのみち無理だ。

 片手で尻を揉まれながら、片手でイチモツを強く握られて、横から抱きつかれて両側を押さえられてるので、俺は前にも後ろにも進めない。しかも最大の弱点を文字通り握られてるせいで、抵抗しようなんて意思すら殺される。

 今の俺は完全に、呂蒙に支配されていたのだ。

 

 「うあっ、くぅ……!わ、わかった、わかったから……!」

 「ん?なんだ、何がわかった?」

 「りょ、呂蒙の言う通りにする……!はぁ、だから、早くっ……!」

 「言う通りに何をするんだ?それだけじゃわからない、ちゃんと口に出して言ってみろ」

 

 抱きついてるせいで顔は見えなかった。だがずいぶんと楽しそうな声が聞こえてきたせいで、思わずムカッとしてしまったが、直後に彼女の右手に更なる力が込められたので後悔する。どうやら彼女には俺の心が読めるらしい、戦意なんて一瞬で奪われた。

 なので俺は屈辱に苦しみながらも、必死に声を絞り出して、彼女の望む通りの言葉を伝える。のんきに俺の耳をぺろぺろしてる彼女に向かって。

 

 「お、俺は、呂蒙以外の女の子と、ッ……しゃ、しゃべらない……!だから、早く離して……!」

 「本当に約束できるか?この前もそう言って、今日伯符と話していたんだろう?……今度こそ、信じていいんだな?」

 「いい、いいから……絶対守るから……!だから、もう……!」

 「ふぅ、仕方ないな」

 

 その直後、ようやく手がするりと離れていった。だけど次の瞬間には先端を手のひらでぐりぐりされて、さっきまでとは違う意味で体がびくっと震えてしまう。

 根元と玉には鈍い痛みが残ってるのに、先端はかなりの快楽がある。しかもかなりやさしくそうされてるせいでさっきまでとのギャップも大きく、いい加減頭がおかしくなりそうだった。

 なのでいつものことではあるが、俺は今日も彼女にお願いする。ただしその理由は、そうした方が彼女の気分がよくなるからに他ならない。決して俺の趣味とか、そういうことではない。断じてない。

 

 「はぁっ、呂蒙、そろそろ、その……」

 「ん?なんだ?」

 

 抱きしめていた腕から少しだけ力を抜いて、至近距離で見つめた顔は非常に楽しそうで、もうこれ以上ないほどサディスティックな表情をしてらっしゃった。

 思わずイラッとしてしまったが、後が怖いので余計なことは言わない。よって俺が発する言葉は彼女の望む言葉だけである。

 ただ俺の小さなプライドのためにも言っておきたいことなので言おう、決して、調教なんてされてないぞ。

 

 「お、俺、呂蒙にいれたい……」

 「何を、どこに挿入()れたいんだ?ちゃんと全部言ってくれないとわからない」

 「だ、だから、その……あのだな」

 「はっきり言ってくれ。私に、何を、どうしてほしいのか」

 

 非常に楽しそうな笑顔である。思わず無理やり押し倒して力ずくでやってやろうかと思ったけども、もちろん、その後十倍くらいにして返されるだろうからそんなことしない。今日の怒りなんてまだ序の口、彼女が本気出すともっとすごい折檻が待ってるんだから。

 

 「……俺、の、チンポを……呂蒙のおまんこに、いれたい……」

 「もう少し大きな声で言ってくれ。……できるだろ?」

 「……ッ!だ、だから、俺のチンポを、呂蒙のおまんこに、挿入()れたいッ……!」

 「ふふふ」

 

 俺がこんなに顔を熱くして嫌がってるというのに、呂蒙がすごくいい笑顔になった。もういっそのこと玉砕覚悟で押し倒してやろうかと思ったけど、数秒でひっくり返されて徹底的に犯されるのでやっぱりやめた。でも俺はヘタレではない、断じて違うと言っておこう。

 にっこり笑った呂蒙が、両腕を俺の首にまわして、ちゅっとやさしい口づけをくれた。

 

 「んっ……はっ……」

 

 その直後に、スクール水着の股の部分がずらされて、俺のモノがずるりと彼女の秘所に入っていく。ぎゅっと締め付けつつも、やさしく包み込むかのような、ひどく気持ちがいいそこにすべてが納まった。

 あまりの気持ちよさに、俺は天井を見上げながら大きく息を吐いた。何度も経験しているそこはやはりあたたかく、じっとりと湿っていて、全く飽きさせないほどの快感があるのだ。

 俺が腰を動かそうとすると、なぜか呂蒙は俺の尻を両手でぎゅっと掴んで、動かせまいとし始めた。

 

 「なぁ、風呂場に行こう。ふふ、せっかく水着を着てるんだから、らしい方がいいだろう?」

 「あ、ああ」

 「ふふ、じゃあ、このまま行こう。運んでくれ」

 

 そう言って呂蒙がひょいっと両足を地面から離して、すらりと長い脚を俺の腰にまわしてくる。ちなみに両腕は首にまわして。いわゆる、なんだ、駅弁スタイル?とかいうやつ。

 要するに彼女は、俺と一つになったまま移動したいらしい。まぁその気持ちもわかる。だって帰ってきてからというもの、ずっと玄関でやってるんだから、いい加減ここから離れた方がいいだろう。しかもできればお互い気持ちいいまま。

 というわけで俺は彼女のすべすべの尻を掴んで、ゆっくりと歩き始めた。

 一歩前に進むごとに、彼女の膣がぎゅっと締まって、同時に小さくも甘い声が口から洩れる。呂蒙が俺の首にしがみついてるせいで、甘い声がダイレクトに届くのだ。

 ついつい俺も調子に乗ってしまって、できるだけ歩幅を小さく、しがみついてる彼女が揺れるように歩いてみた。するとやはり彼女の声が大きくなる。うむ、なんとも気分がいいものだ。

 ちなみに、ちらっと呂蒙の顔を見てみると、ちょっと拗ねたかのように唇を尖らせていたが、怒るまではいかなかったらしい。無事に俺たちは風呂場に到着できた。

 呂蒙の家は風呂、トイレ別で、浴室にはちょっと広いシャワースペースと、そこそこいい感じの浴槽がある。

 とりあえず呂蒙を俺と壁で挟んで落とさないようにしつつ、シャワーを出す。最初は水が出てきたが、彼女の体と触れているし、さっきまでのやり取りのせいで体が熱くなってたからむしろ気持ちがいい。無論、呂蒙との行為の方がよっぽど気持ちいいけど。

 

 「ふぅっ、はぁん……」

 「はぁ、呂蒙……気持ちいい……」

 「んんっ、あぁっ……わ、私もだ……はっ、キス、キスを……」

 「ん……わかった」

 

 シャワーから出てくる水がお湯に変わるまで、俺と呂蒙はキスをしながら、立ったままで快楽をむさぼっていた。

 小刻みに腰を振るごとにぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴って、同時に舌と舌が絡まる小さな音もあって、水が床に落ちる音と混じってる。それらを耳にしながら、とにかくお互いを求めまくった。

 初めてわかったことだが、スクール水着というものは、なんだかこう、いいものだ。水に濡れて呂蒙の体にぴったり張り付いて、さっきと同じ格好なのに、なんだか濡れる前よりエロい。それはもう、思わず俺も余計に元気になってしまったほどだ。

 

 「んっ、はっ、な、なぁ」

 「ん?」

 「わ、私以外の、んんっ!あぁ……私以外の女と、セックスするなよ」

 「え?」

 「おまえがセックスしていいのは、んっ……私だけだからな」

 

 突然の言葉を聞いて、思わず腰の動きを止めてしまった。いや、予想はできていたが、それでも驚きは隠せなかったのだ。

 いや、もちろん呂蒙とできるってだけで嬉しいことだし、全く飽きることなんてないんだけども……なんかこう、そう言われてしまうとちょっと、寂しくなるというか。褒められた話ではないけれども、俺だってできれば色んな人と……ねぇ?

 なぁんて思ってるのがおそらくバレたんだろう。急に彼女の膣の中がぎゅううと締まって、俺のモノが痛いくらいに締め付けられた。っていうか正直、痛すぎる。

 

 「痛ッ!?あっ、呂蒙、それは……ッ!」

 「おい。なんだその顔は。まさか、残念だとでも思ったのか?そんなわけはないよなぁ、なぁ?」

 「いや、ちょっと待って、まず落ち着いて……!あの、終わってから!まず色々終わってから話をしよう、ゆっくりと!」

 「あれだけ体を重ねたというのに、どうやらまだわかってないらしいな……いいだろう。今までは手加減が過ぎた、今日は徹底的にわからせてやる」

 「ちょっと、痛ッ……!わ、わかったから、まず落ち着いて、あっ!?」

 

 さらにぎゅうっと締め付けられて、気付けば俺は彼女に押し倒されていた。

 シャワースペースに押し倒され、シャワーから出る温かいお湯をかぶりながら、俺と呂蒙の立場が一変する。せっかく今日は主導権を渡してくれていたのに、なぜだか今は、正常位で男女が逆になったかのような構図になっている。俺が床に寝転がされて、俺の両足を手で開けさせながら彼女が乗っかっているのだ。しかも、いまだに繋がったまま。

 

 「おまえは私のものだ。だから私以外の女とセックスすることは許さない。いいな?」

 「呂蒙、ちょっと、待っ――!」

 

 急に、呂蒙が激しく腰を振り始めた。叩きつけるような動きのせいで肉がぶつかる音が鳴り、彼女の秘所からしぶきが上がる。

 セックスをする、というよりも、女の子に犯されるかのような性交。俺はこれが苦手だった。多分初めての時のトラウマがあるからかもしれないが、なぜか妙に体から力が抜けて、何の抵抗もできなくなってしまう。

 そしてなにより、バカみたいに感じまくって、涙目になりながらされるがままになるしかできない。だから今回も、俺は呂蒙に犯されるばかりだった。

 

 「くぅっ、んんっ、ああっ!」

 「ほら、ほら!はぁっ、変態のおまえにこんなことしてやるのは、私だけだぞ!んんっ、あっ、はぁんっ!」

 

 男性の役と女性の役が逆転して、呂蒙の攻めで俺が鳴かされる。できれば避けたい光景ではあるが、彼女がキレたらまず間違いなくこうなる。

 こうなった時はもう力で負けてる俺はどうすることもできず、ただされるがまま。もうちょっと速度を落として欲しい、と思ったところで聞きいれてもらえるわけがなく、自然と俺は、歯を食いしばって叫んでいた。

 

 「はぁぁ、もうダメだ!呂蒙、俺はもう……!」

 「んはぁっ、いいぞ、私の膣内(なか)でイッてしまえ!」

 

 自分で動く時はペースも調整できるが、彼女が主導権を握った時はそうはいかない。早ければ数分もせずに終わりが来る。

 だから限界はすぐにやってきた。俺は下半身を彼女に押さえこまれたまま、呂蒙の攻めで、絶頂に至る。

 

 「うぐっ、ダメだ……イクッ!」

 「んんっ!んあっ!あっ……んん!」

 

 陰茎の先からどぷっ、どぷっと精が放たれる。すべて呂蒙の膣内に吐き出され、彼女は嫌がることなくそれを受け入れた。

 だがここでは終わらない。地獄はむしろこれからだ。

 俺が今イッたばかりだというのに、呂蒙はすぐに腰を動かし始めて、またさっきと同じ、速すぎる速度で俺を攻め立ててきたのだ。

 

 「~~~ッ!?うっ、ううっ、りょ、もう……!」

 「はぁっ、はぁっ、まだだぞ。ちゃんとおまえの全身に教え込んでやる。おまえは気にせずただ鳴いていればいい」

 「わ、わかった!もうわかったから!」

 「いいや、その言い方はわかってない時のだ。とにかく黙ってろ。私がしっかり教育してやる」

 

 強引に与えられる快感が強すぎる。数秒もせずに俺のモノが大きくなって、すぐに第二ラウンドが開始された。

 いつものことだが、こうなってしまうと呂蒙は俺を十回以上イカせないと満足しない。だから俺は嫌でも、彼女が満足するまで犯されなければいけないわけである。

 

 「はぁっ、りょもう、ごめっ……!」

 「んっ、あっ、謝るということは、んっ、やっぱりそう思っていたんだろう。はぁっ、くっ、これは、きつめにしないといけないな……あんっ」

 

 快感が強すぎて、一分だって我慢できない。もう一度俺が射精すると、呂蒙は一度立ちあがって、俺のモノを外へと解放した。抜いたばかりでぱっくり開いた秘所から、ぼとぼとと大量の精液が滴り落ちる。

 そんなことも気にせず、呂蒙は俺の体をまたいで、またすぐに挿入し直した。今度は騎乗位の体勢、精神的に攻めたい逆の正常位じゃなくて、本格的に搾りとりたい姿になった。

 

 「ん、そのままでいろ……ちゃんと私が、気持ちよくしてやるから……」

 

 うっとりと目を潤ませながら、頬を赤くして寄ってくる顔。とてもきれいではあるのだが、今日もまた長くなりそうだ。

 でも、なんでだろうか。俺は抵抗するつもりもなく、そんな彼女を受け入れようとしてる。俺もずいぶんと毒されてるらしい。

 正直言うと少し怖かったけど、俺はやさしく口づけをしてくる呂蒙を拒否することなく、やわらかいそれを感じながら目を閉じた。

 こういうのも悪くないかもしれない、なんて思ったのもつかの間、一気に激しくなった腰の動きのせいで、やっぱりさっき抵抗しとけばよかったと後悔したのは、その五秒後だった。

 

 

 

 温かい湯に胸まで浸かりながら、はぁ、と息を吐いてみる。体はぐったり疲れてるが、その疲れをすべて溶かしてくれるような、やさしい気持ちよさがあった。決して、俺を気絶させるような、激しい気持ちよさではない。

 結局、俺は計十二発ほど射精するまで犯されていたらしく、何度か気絶させられたのでどこか頭がぼーっとしている。しかも俺が気絶しても、呂蒙は攻める動きを止めず、そのせいで気絶と覚醒を何度も繰り返したのだ。むしろ生きててよかった、くらいの気持ちである。

 そして俺を気絶させた張本人は、俺の胸元に頬を預けて上機嫌そうに微笑んでいる。当然とばかりにまだ繋がったまま。

 

 「あー……疲れた。何もここまでしなくても……」

 「む、元はといえばおまえが悪いんだろう。私の言うことを聞かないからだ」

 「いや、でも、なんだかなぁ……」

 

 俺の不用意な発言がきっかけで、どうやらまた呂蒙の機嫌が変化したらしい。といってもほんの少しだけで、さっきみたいに激怒してるわけでもない。

 現に彼女はまだ繋がったままなのに腰を動かそうとはせず、せいぜい膣をぎゅっ、ぎゅっと動かすくらいだ。まぁそのせいで俺のイチモツがまた元気になってるわけだが、これくらいなら問題もない。

 むしろさっきまでと比べれば、普通に落ち着いて気持ちよく思える。ずっとこのままでいてもらいと思ってしまうほどである。

 

 「大体おまえはいつもそうだ。私のこともほったらかしで、他の女ばかり構って……」

 「え、そんなことないだろ。俺、ほとんどずっと呂蒙といっしょにいるけど」

 「ええい、うるさい。それくらいじゃ足りないんだ」

 

 俺の胸元に頭を預けながら、少し怒ったようにそう言う呂蒙。ひょっとしたら拗ねてるのかもしれない。

 ただ、どうしてだろう、とは思う。そりゃあ約束は破ってしまったかもしれないけど、俺と彼女が共有してる時間は多い。なのに何か不満なんだろうか。

 そういえば、と俺はふと一つの疑問を頭に浮かべて、何も考えずに言ってみた。呂蒙の濡れた髪をゆっくり撫でながら。

 右の手首に巻かれた手錠が、小さな音を立てながら揺れる。

 

 「なぁ呂蒙、どうして俺だったんだ?」

 「な、何がだ?」

 「いや、友達だったわけでもないのに、なんで急に呂蒙とこんなことになってんのかなぁと思って。なんか理由があったんだろ?」

 「うっ、い、今さらそんなことを聞くのか?むぅ……そ、それはだな……」

 

 俺がそう聞くと、呂蒙は顔を上げて目を合わせてきたんだが、どうにも顔が赤い。まるでゆでダコのようだ、なんて言ったらまた犯されるから言わないけど。

 もごもごと言いづらそうに、どこか躊躇してる様子で、中々理由を言いだそうとしない呂蒙。見てて非常に可愛いが、そんな姿を見せられると余計に気になってくる。

 俺は期待を込めてじっと彼女の目を見つめた。すると呂蒙はさらに顔を真っ赤にさせて、もごもごしながら小さな声で答えてくれた。

 

 「そ、その、前々からおまえのことは知っていたんだが……なぜか、ある日突然、あの、き、気になってしょうがなくなったというか……だから、その……」

 

 顔を真っ赤にして、俺の視線から逃れようとするかのように少しだけ俯きながら、呂蒙が言う。俺は余計なこと言わずに聞き役に徹した。ただまぁ、そうして彼女を見ているだけで、何もしてないのにさらにガチガチになってるわけだけど。

 

 「お、おまえのことが、あの、その……す、すすす、す、好き、で、好きで好きでたまらなくなったというか、だから、そういう――きゃっ!?」

 

 ああもう、可愛い。なにこの子、もう可愛すぎる。

 ぎゅっとやわらかい体を抱きしめて、呂蒙の顔を胸元に押し付ける。そのまま、彼女の青い髪を撫でつつ、できるだけやさしく言ってみる。

 

 「呂蒙、好きだ」

 「……え?」

 「好きだ。大好き。愛してる」

 「え、な、は、はぁっ!?」

 

 腕の中で呂蒙がじたばた暴れ出すが、離す気はなかった。あんな顔で、あんなに必死に告白されたのでは、もう離せるわけない。

 いきなり襲われて、いきなりヤリまくって、今まで何が何だかわかってなかったけど、そうか、そういうことだったんだ。

 ようやく気付けた。彼女の想いと、俺の想いに。

 

 「あーなるほどなぁ。そうかそうか、だから他の女の子としゃべんなって言ってたのか。ふむふむ、へぇー」

 「うっ、うっ、うるさい!大体なんだいきなり!わ、私をからかうんじゃ――!」

 「好きだぞ、呂蒙。愛してる」

 「はわぁっ!?きゅ、急に言うなバカッ!この、大バカ者がッ!」

 

 耳元で叫ぶな、鼓膜が破れるだろ。でも、その声はかなり嬉しそうだった。

 ああ、そうか。ようやく納得できた。そういうことなら理解できる。

 呂蒙は俺のことが好きだったんだ。そしてそれを知った今、俺の中の不安が全部吹っ飛んだ。

 うん、俺は呂蒙が好きだ。体が、とか、セックスが、じゃなくて、一人の人間として、一人の女性として。

 ちょっと方法が怖かったけど、俺のことを想ってたからこそ彼女は一心に俺を求めてくれていた。それがわかって、彼女に対する恐怖が無くなって、俺はこの可愛い女の子への想いに気付けた。

 

 「あぁ、なんか、安心した。うん、よかった。ありがとな呂蒙」

 「う、うむ……なんだか知らないが、その……こちらこそ、ありがとう」

 「あーもう、可愛いなぁおまえは」

 「かっ!?ば、バカッ!急に変なこと言うな!別に可愛いとか、そういう……!」

 

 繋がったままの場所が、きゅんきゅんと弱弱しく締め付けてくる。こういう反応も、真実がわかった今では愛らしい。

 らしくもないが、俺はちゅっと、彼女の唇を奪ってみた。すると面白いことに、呂蒙の顔がまた真っ赤に染まる。耳とか首とかも、もう全身赤いんじゃないかってくらい。

 

 「なっ、あっ、かっ」

 「どうしたんだよ。こんなのもう何回も、っていうかもっとすごいことだってやってるだろ?ほら、今だって」

 「きゃんっ!?こ、こら、今はダメだ!動かすなっ!」

 

 腰を緩く動かしてみると、嬉しがるようにきゅんきゅん締めてくる彼女の秘所。

 この状況に、なんだか俺は感動すらしていた。いつも俺を鳴かせてばかりだった呂蒙が、俺に攻められて焦っている。

 そこで俺は確信する。ついに政権交代の時が来たのだ。

 

 「ふっふっふ、どうした呂蒙。ずいぶんと可愛い声なんて出しちゃって。いつものおまえらしくないぞ」

 「かっ、可愛いなんて、言うなと――ひあっ!?だ、ダメだ!今は、くぅんっ、動かすなぁ……!」

 「愛してるぞ、呂蒙」

 「――!?あっ、ダメッ、んん~~~~ッ!!」

 

 ビクビクと全身を震わせ、膣内すら痙攣させて、呂蒙が盛大にイッた。俺がまだイッてないのに、彼女だけがイッたのだ。

 ついに来た。虐げられてきた者が上位の者を押しのけ、主導権を握る。下剋上はついに成った。

 よし、これからは俺の時代だ!ふっふっふ、はっはっはっは!いやぁ笑いが止まらないなぁ!

 

 「~~~!はっ、くぅ、はぁっ……!……おい」

 

 くっくっく、これまで色々と好き勝手されて、男なのにいやんうふんと鳴かされたこの屈辱、これからはもう倍にして――

 

 「おまえは、少し調子に乗りすぎだ……」

 

 などと考えてたら、いつの間にやら、目の前にある顔がまるで別人かのようになっている。目はギラギラ輝いていて、口元はへの字にきゅっと噤んでいて、両手は俺の腰を掴んでいる。ふむ、呂蒙が俺を犯そうとする時の癖だな。

 おや?ひょっとして呂蒙さん、怒ってらっしゃる?

 

 「ようやくわかったかと思えば、どうやらまだ教育しなければならないことがあるようだな。いいだろう。今日と明日、学校も休んで、これからたっぷり可愛がってやる。あぁ、心配するな。これからはもう二度と間違えないように、あるべき立場をしっかりその体に叩きこんでやるとも」

 

 ふむ、どうやらずいぶんとお怒りになってらっしゃる。これはなんとかして逃げないと、いくら勾玉をもらってから体質が変わったとはいえ、死んでしまう。

 あれ、おかしいな、体が震えて動けない。ははっ、なんだか知らないが目から汗が……うん、覚えがあるぞ、これはきっと恐怖という感情だな。

 

 「ふ、ふふ、ふふふ。そうだ、おまえはそういう表情の方がよく似合ってる。私とセックスする時、常にそんな顔をしていられるよう、ゆっくり、じっくり開発してやるとするか」

 

 あぁ、やっぱり調子に乗らなきゃよかった。これから俺は一晩中、いや、明日を迎えてそして終わるまで、休む暇すらなくずっと犯されるに違いない。

 政権交代はあまりにも短かった……具体的には、一分にも満たない数十秒。これはもう短すぎる。せめてもうちょっと攻めさせてほしかった。

 

 「……ただ、まぁなんだ、その……おまえに愛してると言われたのは、ほんの少し、ほんの少しだぞ?その……う、うれしかっ――ええい!やっぱり無しだ!おまえはただ私の下で鳴かされていろっ!」

 

 ――あぁ、さっきまでは絶望してたのに、そのツンデレ的発言は卑怯すぎる。かなり萎えてたのにまたギンギンになってしまったじゃないか。

 まぁ、彼女のそういう一面を、たとえたまにでも見られるのであれば、あの気絶させられるほど刺激が強すぎる逆レイプも、悪くないかもしれない。

 そんなことを想いながら、俺は呂蒙に唇を奪われ、今までで一番激しく腰を振られながら、また彼女と体を重ねるのだった。

 もちろん、彼女に犯され始めて数十秒、やっぱりもっとやさしくしてほしい、と大きな後悔を持ちながら。

 



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関羽雲長の誘惑 in道場

 俺と呂蒙が、多分だけど恋人同士となってから一週間ほどが経った。

 飽きもせずに毎日毎日セックスして、平穏なんだか激しいんだかわからない日々を過ごしていたのである。たまに思うんだが、あれだけやっていまだに元気に生きてる自分を褒めたくなるほどだ。

 俺が彼女と出会ったのは、そんなだらけきった毎日の中でだった。

 

 「す、すまない。ちょっといいか?」

 

 学校へ行こうと一人で道を歩いている時、後ろから女の人の声が聞こえたのだ。

 振り返ってまず見えたのは、少し紫がかった長い黒髪。左目を隠して、後ろは地面につくんじゃないだろうかってくらいに長かった。

 それから目に入ったのは、かなり整ったきれいな顔と、やけに露出度の高いセーラー服だった。かなりのミニスカなのはいい、まだ理解できる。しかしなぜかその人は腹を露出していて、高校生としてどうなんだ?みたいな格好をしていた。

 しかも、その手に槍的な何かを持っている。明らかに怪しいと思わざるをえない。予想でしかないが、きっとこの人も闘士とかいう存在だろう。

 そんな怪しい人がなにやら顔を赤らめながらもじもじと、照れた様子で俺の方を見ながら声をかけてきているのだ。これはつられて俺もいっしょに緊張してもおかしくないはず。

 

 「あのー……何か用ですか?」

 「あ、ああ、その……す、少し聞きたいことがあって……」

 

 やけに挙動不審だが、どうやらそれほど怖い人ではないらしい。俺より身長が高かったり、妙に鍛えられた体だったり、明らかに武器だろっていう棒を持ってはいるけども、おそらくそんなに悪い人ではないだろう。っていうかそう信じたい。

 彼女はおどおどしながら、俺の顔をちらちら見つつ、小さな声で言った。

 

 「え、えっと、そうだな……み、道を教えてほしいんだ!少し、困っていてな……」

 

 そうだな、なんてところが不審に思えたが、どうやら彼女は道に迷っているらしい。

 ということで俺は彼女の目的地を聞いて、自分が知ってる場所かどうかを確認する。そうすると、彼女の口から出た場所の名前は俺の知ってる場所だったのだ。

 

 「ああ、そこなら知ってますよ。えっと、ここからなら――」

 

 それなら任せろとばかりに、俺が後ろを振り向いて頭の中に地図を想い浮かべていた時のことだ。

 突然、首の後ろにトンッと何かが触れた感触がして、その直後にはなぜか体から力が抜けていく。

 

 「――へ?」

 

 急に体から力が抜け、なぜだか意識が遠くなっていく。気付けば視界は暗くなっていた。

 ただ一言。俺の意識が完全に消え去る一瞬前。

 

 「……す、すまない……だが、もう、我慢の限界なんだ……!」

 

 そんな、なんだかやけに力のこもった声が聞こえた、気がした。

 

 

 

 気がついてみれば、どうやら俺の唇はまたも奪われているらしかった。

 とても柔らかい何かが俺の唇に押し当てられて、ちゅっちゅっと弱く吸いついてくるのだ。

 

 「んんっ、ふぅ……んむっ、ちゅ……」

 

 あぁ、きっと呂蒙がまた起きぬけにイタズラしてきてるんだな。朝になるといつもしてくることなので、自然とそう思うことができる。

 ただ気がかりだったのは、相手が呂蒙にしては妙にやさしかったことだろうか。いつもなら有無を言わさず舌をねじ込んできて、とにかく俺の口の中を舐めまわしてるはずなのに、今日はかなりやさしく唇を吸われてる。というか、舌すら使われてない。

 何かおかしいな、とは思いながら、俺は自分から舌を伸ばしてみた。彼女がちょうどキスをしてきた瞬間に、その唇を舐めてみたのだ。

 

 「んん!?……んっ、はっ……」

 

 どうやら舌が触れた瞬間に震えたみたいだけど、唇が離れていくことはなかった。

 何かおかしいという感じは消え去らないが、まぁ問題はないだろう。いつもやってることだから抵抗もない。

 めずらしく攻めてこないのをいいことに、俺は自分から攻めを開始する。舌を彼女の口内に挿しこみながら、両手で胸を揉んでみる。その瞬間、また妙に体が震えたみたいだし、いつもよりすこーしだけ胸が大きいような気もするけど、まぁ多分気のせいだろう。まだ寝起きだからよくわかってないだけだ。

 

 「んっ、ふっ……あぁっ、はぅ……!」

 

 色っぽい声が耳に聞こえる。いつもよりやけに感じてるらしい。

 どうやら今日は受けに徹してくれる日のようだ。かなりめずらしいことだがたまにある。呂蒙は攻めるばかりでなく、たまにすべてを俺に預けてくれる日があるのだ。めずらしすぎて普段は男のプライドが粉みじんにまで砕かれそうになるけど、これがあるからやめられない。

 俺は俄然調子に乗って、さらに動きを激しくする。舌を乱暴に動かして、彼女の口内をすべて舐め上げ、両手で大きな胸をぐにぐにと揉んでやる。するとやっぱり甘い声が聞こえた。

 

 「んぁ、はぅん、んむぅ……ひぁ……!」

 

 あぁ、どうしたんだろうか。やっぱり今日の呂蒙は変だ。いつもより女らしい声を上げるし、唇や手から伝わってくる限りいつもよりよっぽど感じてる。

 そんなことを想いながら愛撫を続けていると、やはりいつもとは違う異変が起こった。

 彼女の体が大きく痙攣したのである。

 

 「んんっ!ふむぅ!んんっ、あっ、はぁぁっ!?」

 

 服の上から両方の乳首を思いっきり引っ張って、彼女の舌を思いっきり吸った時のことだ。

 いつもならじゃれあいくらいのこの行為で、彼女はその肉付きのいい体をびくびくと震わせ、まるで絶頂したかのような雰囲気を醸し出していた。

 やっぱり、おかしい。呂蒙ならもっと長くやらないと怒ってくるくらいだし、この程度でイッたりしない。

 不思議に思った俺がちらっと目を開けて、まだ唇に感じる柔らかい感触の元を確認した時だ。

 

 「ん……ふ……あ……」

 「……あれ?」

 

 まさかとは思ったが、間近にあった顔は呂蒙のものではなく、まだ名前も知らない、気を失う直前に見た長髪美人のもの。

 あのやたらと露出度の多い制服を着ていた美人さんが、俺を見ながらうっとりしていたのである。

 

 「あ……き、気がついたか?す、すまない、別に私もこういうことをする人間ではないつもりだが、その……おまえを見た瞬間に、なぜか、そういう気持ちになってしまってだな……」

 

 可愛い、というよりは美しいとかかっこいいという言葉が似合いそうな女の人が、俺を横抱きにして正座しながら、可愛らしい様子でそわそわと俺の手を握っていた。

 どうやらここはどこかの道場らしい。木目の床と、木で造られた天井、シーンとした空間が目の前にある。

 そんな中で俺と、美人さん。俺は正座した彼女に膝枕された状態で寝かされていて、いつの間にか片手を繋がれて、もう片方の手はわしっと胸を掴んだまま、朝っぱらから顔を突き合わせていた。

 えっと、なんだこの状況?

 

 「あのー、これって一体どういう……?」

 「あ、ああ、そういえば忘れていた。私は関羽。そう呼んでくれ」

 

 うん、自己紹介は大事だよね、なんてことを言う前にもっと大事なことがあるだろ。

 俺は今朝、学校へ行こうと制服を着て、多少いやらしいことをされた後だが呂蒙の家を無事に出たはず。そしてその後、学校へ向かって歩いていたことは覚えている。

 問題は、そう、その時だ。その時この、関羽さんとやらが声をかけてきて、道を教えてくれというから教えようとしたんだ。そしたらその後、なぜか気を失ってしまって――

 あれ?俺、ひょっとして誘拐されてる?

 

 「あの、関羽さん?そういうことではなくて、この状況のことを――」

 「わ、私のことは、か、関羽と。さんなどつけなくていい」

 「……えっと、関羽」

 「……ッ!!あ、あぁ……そう呼んでくれると、嬉しい……」

 

 ぎゅっと手を握られて、もう片方の手で俺の頭が撫でられる。しかもかなり顔を真っ赤にして、目を潤ませながら俺を見てる状態だ。

 試しに、握ったままだった胸をぎゅっと揉んでみる。すると関羽は顔をさらに赤くしながら、目を閉じてぐっと歯を食いしばって、だけど俺の手を払おうとはしない。

 調子に乗ってもう何回か揉んでみる。やっぱり関羽は俺の手を止めようとはせず、かなり感じてる様子を見せながらも、俺の顔を見てにこっと微笑んできた。

 なにこの子、すごく可愛いんだけど。

 

 「か、関羽、いいのか?俺、ずっと関羽の胸揉んでるんだぞ?」

 「うっ……だ、だが、先に手荒な真似をしたのは私だ……それに」

 

 視線を俺の目からはずした後、恥ずかしそうな表情で関羽が小さく告げる。

 

 「できれば、私も……おまえと、その、こういうことを……」

 

 彼女がそう言った時、俺はすべてを理解した。

 こんなのもう、我慢できるわけないじゃん。

 

 「だ、だから、もし嫌でなければ……私と――きゃあっ!?」

 

 関羽が何かを言っている途中で、俺は上半身を起こして関羽を押し倒した。道場の磨かれた床に、黒く長い髪がバサッと広がる。

 まずは唇を合わせる。舐めるように、つつくように舌を出して、関羽の唇や口内へとにかく舌を触れさせた。彼女の口の中は熱く、たどたどしい舌使いがまた俺をひどく興奮させる。

 同時に両手で胸を揉んでやった。セーラー服の下にある大きな塊が、俺の手の動きに合わせてぐにぐにと形を変えていくのが面白く、気持ちいい。夢中になってしばらく揉んでいたが、途中で気がついて動きを変えてみる。

 関羽のセーラー服はかなり丈が短い。腹とへそがずいぶんと見えてるほどだ。

 なので、セーラー服の下から手を突っ込んで、思いっきり上へ引っ張る。すぐに服を脱がすことができて、関羽の下着が目の前に現れた。

 

 「あっ……!」

 

 関羽の口から驚いたような吐息が聞こえたが、気にしない。どうせもう止められるわけがないのだから。

 俺の目の前に現れた関羽の胸は、やはりでかい。揉みごたえがあるのも納得、見ているだけで幸せになれるようなサイズだ。

 そして彼女がつけているブラジャーは、黒だった。やけにセクシーで、上半身にそれしか纏ってないということもあって、もう嫌でも興奮してしまう。もちろん嫌なわけがないが。

 ついでに、超ミニのスカートも脱がしておく。やっぱりその下には黒いパンツがあって、それがまた肌との対比もあって非常に色っぽいのである。

 すでに俺の方の準備は万端だ。が、ちらっと目で確認した限り、彼女もかなり準備ができているらしい。

 

 「あぅ……あ、あんまり見ないでくれ……恥ずかしい……!」

 

 自分の体を抱きしめるかのように腕を回す関羽。しかしその動きのせいでさらに胸がむぎゅっと強調させていて、さっき以上に官能的になっているだけだ。

 そんな事情もあって、俺はゆっくりと手を伸ばして、関羽の胸に触れる。一瞬体がびくっとしたけど、拒否されることはなかった。

 

 「か、関羽……」

 「やっ、ま、待っ――!」

 

 するり、とブラジャーの中に手を滑りこませてみた。まずは右手、それから左手。

 すると見事に関羽は敏感に反応して、目を閉じて歯を食いしばりながら、襲ってくる快感に耐えているらしい。

 そこでピンと思いつく俺。すっかり恋人気分で、普段はできないことをやってみたいという気持ちに包まれているせいだろう。

 

 「なぁ、関羽……声、我慢しないで……」

 「ひゃう……そ、そんな……!」

 

 髪に隠れた耳に近付いて、できるだけ声を低くしながら言ってみた。

 関羽はそれだけでびくっと体を震わせて、俺の手の下にある乳首をさらに固くしている。なんという可愛らしい反応だろうか。

 だんだん理解できてきた。途方もないドSな呂蒙に対し、関羽はいささかM寄りのようである。これは非常に良い反応だ。

 両手で円を描くように胸を揉みながら、俺はさらに囁いてみる。

 

 「関羽、気持ちいい?言ってみて」

 「うっ、はぁっ、なに、をっ……!」

 

 手のひらや指の腹を使って、すっかり自己主張し始めた乳首をイジってみる。それだけで関羽は面白いほど体を震わせて、俺の背中に腕をまわしてぎゅっとしがみついてきた。

 うんうん、とてもいい反応である。

 

 「気持ちいいんだろ?気持ちいいって、言ってみて」

 「んふぅ、はぁぁ……き、きもちいい……!」

 「じゃあ、こっちは……?」

 「んひゃ!?」

 

 非常に心が満たされる一言を言ってもらえたので、すぐさま右手を下へと降ろす。

 これはわりとお気に入りなんだが、関羽が履いたままだったパンツの中へと手を入れて、脱がせることなく秘所をイジる。関羽のそこはすでにびしょびしょだった。

 手をパンツの中に入れただけで手が濡れて、指でそこへ触れただけで指が濡れる。そのまま軽く指を動かしてみると、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が道場に響いた。

 

 「んああっ!そこは……だめっ……!」

 「関羽、すごい濡れてる……」

 「なっ、んんっ……言うなぁ……!」

 

 なんとも分かりやすい、そして嬉しい反応だ。俺に抱きついたまま、頭を俺の首筋に埋めて、いやいやと首を振っている。非常に愛らしい仕草である。

 ただ、俺の方が身長が低いので、ともすれば俺が抱かれてるような印象を受けることだけが悲しい。いや、考え過ぎかな?うん、考え過ぎなだけのはずだ、大丈夫。

 

 「はぁっ……んっ、そこはっ……あっ……!」

 

 指の動きを早くしてやると、それだけで声が大きくなった。しかもいまだに左手で乳首をイジッてる途中だ。初めてらしいし、かなり感じやすいみたいだから、これだけで凄まじい刺激だろう。

 だが正直、もう俺の方が限界だ。これ以上はもう余裕がない。

 というわけで俺は一度関羽への愛撫を止めて、自分の服をすべて脱ぎ去る。ついでに関羽のパンツも脱がして、片足だけ抜いた状態にしておいた。うむ、やはりなんかこの方がいい。

 

 「関羽、俺もうだめだ……い、いくぞ……!」

 「あ、あの……できれば、やさしくしてくれ……」

 

 彼女の呟きに、こくりと頷きつつ、俺は自分のモノを関羽の秘所へと触れさせた。

 先端の感触で入口を確認して、腰を前に突き出す。それだけで濡れそぼったそこへずるっと入っていって、熱くてキツイ場所へとモノが入っていった。

 かなりキツクて、でもやさしく包み込もうとする呂蒙に対し、関羽のそこはただキツイだけのものだった。やはり俺を相手に経験値を積んだ彼女とは違う。だけどそれだけに刺激が強く、ぎゅうぎゅうと痛いほどに締め付けられる感触が気持ちいい。

 気付けば俺の腰は自然と動いて、やさしくなんて言葉が似合わないほど、本能のままに激しく腰を振っていた。

 

 「ああっ!ま、まてっ!はやすぎ、んああっ!」

 「うあっ……これ、ヤバい……!」

 「んんんっ!あはぁ!だめだ、か、感じすぎ、るぅっ!」

 

 俺は必死で腰を振っていた。関羽は、舌をだらりと伸ばしながら喘いでいた。

 俺たちは二人とも、必死になって快感をむさぼっていた。

 しかしふと気付いたんだが、俺たちは今日会ったばかりのはず。名前だってさっき教えてもらったばっかりだし、なんだったらまだ俺の名前教えてない気がする。

 ……それに今さらだが、たとえ俺から手を出したんじゃなく、関羽に誘拐された結果だとしても、こんなことが呂蒙にバレたら――

 

 「んああっ!き、気持ちいいっ……ああんっ!」

 

 いや、しかし今はそんなこと考えてる場合じゃない。もうこれだけ気持ちいいんだ、仕方ない。

 邪念を振りはらって、腰を動かすことだけに集中する。それだけで関羽は面白いように大声でよがっていた。

 

 「くはぁっ!はぅんっ!んあっ!いいっ!」

 「はぁっ、はぁっ、関羽……そろそろ……!」

 「あっあっ、わ、私、もっ……んんっ!」

 

 俺たちは二人で意識を合わせて、同時にラストスパートへかかっていた。

 さっきまでは腰を掴んでいたが、上半身を倒して、唇を合わせる。両手で胸を揉みながら、お互い舌を絡めて、体を一つにする。

 タイミングは全く同じだった。

 

 「んんっ!んんっ!んんっ!」

 「はぁっ、はぁっ……くっ!」

 「んんっ!?んあっ、はっ、んはぁっ!!」

 

 腰を思いっきり押しつけて、俺はいつもの癖で一番奥に射精していた。関羽もそれを受け入れて、全身で俺にしがみついて体を痙攣させている。

 ドクドクとすべてを出し終えてからようやく、体の力を抜いて彼女に覆いかぶさった。大きな胸に俺の顔が挟まる。

 すると、少ししてからようやく落ち着いたらしい関羽が俺の頭を撫で始めた。目線を上げて見てみると、彼女はやさしく微笑んでいたのだ。

 とても美しくて、真っ赤なままの可愛い表情で。

 

 「あ……その、できれば、もう一度……」

 「……あぁ、関羽は可愛いなぁ……」

 「なっ!?か、かわ……!?な、な、何を言って――ひゃん!?」

 

 再び激しく腰を動かす。今度はさっきより速くしようと、腰を掴んで全力でだ。

 

 「んっ、もう一回だけじゃなくて、何度だってやるよ……あっ、関羽の、ためなら……」

 「はぁっ、んっ、あっ、あっ!あぁっ、嬉し、いっ、あっ!」

 「はぁっ、気持ちいい……気持ちいい……」

 「んんあっ!私、もっ、気持ち、いいっ……!」

 

 それから俺たちは、何度も何度もセックスした。

 合計で、結局はいつもと変わらない十発くらいは中に出しただろうか。

 終わってから当然二人ともぐったりしていて、道場の真ん中で抱き合ったまま、色んな液体にまみれながら横たわっていたのである。

 

 

 

 「ありがとう……それと、すまなかった。突然、それも無理やりこんなことを……」

 

 行為が終わってから、関羽は俺の頭を胸に抱きしめて、やさしく撫でながらそう言った。

 始まる前と違って妙に落ち着いた、すっきりしたかのような表情に見える。相当に溜まってたのか、それとももう我慢せずによくなったからなのか。

 しかし不思議なこともあるもんだ。初めてなのに、俺を見た途端に我慢できなくなるなんて普通じゃ考えられないだろう。こんなことが起こるということは、やっぱり俺自身に妙な変化が起こってるのかもしれない。

 

 「私は、知らなかったよ……別段興味もなかったが、案外いいものだな……」

 

 憑き物が落ちたかのような表情でそう言う関羽。その手つきはかなりやさしく、頭を撫でられるだけで気持ちがいい。

 だが、正直言ってこれは、まずいことになった。せっかく呂蒙の行動の意味を理解して、恋人的な関係になったというのに、あっさりと別の女性に連れ去られて流されてしまって、この状況。明らかにまずい。

 そりゃあ気持ちよかったし、嬉しかったし、後悔はないけども、これがバレてしまうと俺の命がどうなってしまうかわからない。

 ひとまず、心苦しい想いがあるが、一刻も早く関羽の元から去らないと――

 

 「いや、今まで結婚に対して興味を持ったことはなかったが、それほど悪いものではないんだな」

 「……あれ?」

 「ん?どうかしたか?」

 

 はて、俺の聞き間違いか、或いは俺の耳が妙な電波を受信し始めたのか。

 今関羽はなんと言った?結婚?何かの間違いではないのだろうか。

 つまり、なんだ、俺と関羽はたった今体を重ねたがばっかりに、もう結婚したのだと。ひょっとしてそういうことなのだろうか。

 

 「ふふ、どうしたんだ?そんなに驚いた顔をして……あぁ、そうか。まだ言ってなかったな」

 

 やけに余裕たっぷりな表情を見せる関羽が、俺へ微笑みかけながらゆっくり、わかりやすく伝えてくれる。

 俺にわかりやすいように、はっきりと単刀直入に。

 

 「私は、おまえを、愛している……」

 

 直後に、ちゅっと可愛らしい口づけを送られた。すごくやさしくて、すごく愛しいキス。

 それだけに俺はもう笑うことしかできなかった。いや、この状況下で笑わずにいられる奴などいるだろうか。きっといないに違いない。

 

 「は、はは、そうか、そうだよね……あはははは、はは、は……」

 「ふふ、ありがとう。それほど喜んでもらえるなら、思い切って声をかけてよかった。ま、まぁ確かに、その後のことは少し乱暴にし過ぎたが……」

 

 これは非常にまずいことになった。せっかく俺を脅しながら抱いていた呂蒙とわかりあえたというのに、どうやら俺は彼女の知らないところでいつの間にか結婚してしまったらしい。いや、俺も知らない間にだったんだけど。

 だが、こんなにも嬉しそうに笑う女性を見て、「実はそんな気はなかったんだよ、ははは」なんて言える男がいるだろうか。いや、いない。存在していいはずがない。

 

 「これからは私がおまえを守る。だから安心してくれ。……それに、その、なんだ……い、いつでも、おまえの相手もしてやるし、な……」

 「……はーい……」

 「きゃ!?ちょ、ちょっと待て、確かに相手はするが、いくらなんでも今は早すぎ――ひゃうんっ!?」

 

 どちらかに本当のことを言えば、きっと俺はこの世にいられなくなるだろう。だってどっちも俺の百倍以上強いんだから。

 だから結局、俺はどちらにも本当のことを言えるわけはなく。

 

 「んっ、関羽は可愛いなぁ……」

 「んんっ、こらぁ……そんなこと、言うな……あんっ」

 

 もはや俺は考えることをやめて、関羽とのイチャイチャを楽しむことにしたのである。

 



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関羽雲長の嗜好 in彼女の自宅

 

 なぜだか知らないけども、俺はひょっとしたら監禁されてるのかもしれない。そんなことを想いながら毎日を過ごしているわけです。

 出会ったばかりの関羽に拉致、もといちょっとだけ強引に招待されて、彼女の家に連れて来られて早三日。俺は自分の家に帰ることを許されず、いつの間にやら関羽の家で暮らしてしまっているのであった。

 いやほんとに、なんでこんなことになったのか。

 

 この三日間、俺は家から外に出ることを一切許されず、っていうかそう言われたわけでもないんだけど、俺が関羽不在の時にちょっとばかり家から出ようと玄関の扉を開けようとしたら、鍵を内側から開けたにも関わらず、扉自体は全く開かなかった。これがもう、押そうが引こうが体当たりしようが、何をやっても開かなかった。そのくせ、関羽が帰ってくるとあっさり開いてしまうんだから不思議である。一体何をしてるっていうのか。

 というわけで、俺は自分の家に帰ることもできず、また呂蒙の家に帰ることもできずに関羽の家でお世話になっている。いや、お世話になってるのか、お世話をしてるのか……。

 

 関羽は俺を家から出さない。だから必然的に俺はまるでヒモ男のように彼女の世話になりっぱなしなわけだが、なんというか、ふと考えてみればどっちが世話をしてるんだかわからなくなったりする。

 例えば、家事なんかがそうだ。毎日の食事や掃除、洗濯。まぁ掃除やら洗濯なんてもんは一日家の中にいるしかできない俺が勝手にやったりしてるけど、関羽がいる場合の食事というものが少し事情が違ったりする。要するに彼女が料理をしようと頑張ってくれるのだ。

 もちろんその気持ちは嬉しいし、俺としても女の子が料理を作ってくれるというシチュエーションはとても好きだが、あまり言いたくないが彼女は料理のような細かいことは苦手なようだった。

 実際に俺は彼女の料理を食べてみた。味は悪くない、むしろ普通においしい。見た目だって普通だ。では何が問題かと言うと、料理をし終わった後の台所が中々の惨状になっていたりするわけである。あれほど問題のない料理を作れているのにも関わらず、いったい何をどうしたらここまで汚れるんだ、と想うほどに凄まじかったりする。

 なので申し訳なさそうな顔をする彼女の前で、俺が片づけたりするんだけど。

 

 それから、関羽はやけに俺の面倒を見ようと体をひっ付けてくる。家の中であればどこへ行こうとしてもぴったり体をつけて隣を歩くほどだ。

 いっしょに風呂に入って全身を洗われるなんてのは当たり前。食事ですら全部自分の手で食わせてくれずに「あーん」だし、なんなら服を着るのも彼女が無理やり全部やってしまう。抵抗しようものなら髪に隠れてない方の目をギラリと光らせて、俺の体を抱きすくめて固定しながら酸欠寸前までキスをされて、俺が気持ちいいやら苦しいやらで動けない間に全部終わらせてしまうのだ。

 そこまではまだ許せる。いや、許せるというのは語弊があるが、百歩譲って受け入れてもいい、かもしれない。

 しかしさすがに、キスをされながら俺のモノを掴まれて、うっとりと目じりを下げる彼女に見られながら排尿するのは精神的なダメージがでかかった。トラウマになるんじゃないかと怖がったほどだ。ちなみに、大きい方はさすがに全力で抵抗して、これまで一度たりとも世話になってない。さすがにそんなことされたらもう自分の足で立ち上がれなくなるだろう。

 いつもそれくらい抵抗できればな、と思うがこれもあまり有効な手段じゃない。なにせ用を終えてトイレから出た瞬間、かなり勢いよく抱きしめられて唇を塞がれ、その後は一晩中のしかかられたままキスだけで一夜を終えることになる。押しても引いてもびくともしないだけに、もっと強い快感が欲しくて頭がおかしくなりそうになるのだ。

 もっとも、朝近くになると関羽も我慢できなくなるから、結局はお互い必死になってセックスすることになるので、どっちのお仕置きになってるんだかわからないけど。

 

 とにかくそんな生活がすでに三日終わり、今日が四日目。

 今日も彼女はいつも通り俺を家に残して、学校へ登校していった。昨日だって俺の服の袖を引っ張って、顔を真っ赤にしながら「その……どうだ?」なんて誘ってきて一晩中ヤッてたのに、なんという体力だろう。っていうか、毎日シテて全部自分から誘ってるのに、毎回恥ずかしがっているのは一体どういうことか。

 こうして彼女の家の中で何をするでもなくぼーっとしてると、考えるのはそんなことばかりだ。確かに楽しくないと言えば嘘になるし、色んな意味で充実した生活だけど、こんなことをしていていいのだろうか、と思ってしまうのも仕方ない。

 そもそも俺は呂蒙と付き合ってる風な関係だったはずなのに、一体何の因果でこんな――

 

 「ただいま」

 

 なんてことをリビングのソファでつらつらと考えていると、いつの間にか関羽が帰ってきていた。玄関から声が聞こえてきたので、学校が終わったんだろう。

 俺はゆっくりと立ち上がり、玄関へ向かう。別にそうした決まりはないが、出迎えてやった方が関羽は喜ぶ。逆に洗い物か何かをしててたまたま出迎えなかった時には、かなり肩を降ろして某ホラー映画に出てくる女の人みたいに髪で顔が隠されちゃうほど顔を俯かせてリビングまで来た。おまけに今にも泣きだしそうだったのでご機嫌とりにかなり苦労したほどである。

 出会ったその瞬間は「かっこいい人だなぁ」なんて思ってただけに、このギャップはなんとも言えないものに思える。とはいえ、人間味があって愛らしいとも思えるけど。

 

 「おかえり、関羽」

 「ああ、ただいま。……ふふ」

 

 俺の顔を見て微笑む関羽。すでに靴は脱ぎ終えているようで、嬉しそうにしながら俺に抱きついてきた。これもいつものことだ。

 その後、彼女は俺に顔を近付けてじっと目を覗きこんだ後、ゆっくりと目を閉じる。何かを期待するような顔つきで。

 なぜかは知らないが、関羽はいつも俺に対して自分から手を出すことはない。俺を誘ってるのは彼女だけど、実際にキスをするとか、本番に移行していくとか、そういうのは絶対俺にやらせようとする。言葉にしないけど態度でバレバレなのである。

 そして多分、今日もいつもみたいに俺からキスして欲しいんだろう。たった三日でもそれがいとも簡単に理解できるようになったので、考える間もなくそう思える。

 なので俺は多少面白がって、敢えて何もせず突っ立ったままだった。

 

 「ぁ……あの、その……」

 「ん? どうした?」

 「その、いつもみたいに……」

 「いつもみたいにしたかったら、関羽の方からしてくれば?」

 

 俺はできるだけやさしく微笑みながら、彼女の目を見てそう言ってみた。すると関羽は途端に顔を真っ赤にして、首まで赤くなりそうなまま視線を下に向けてウロウロさせ始める。

 

 「だ、だがそれは……お、おまえの方からしてほしいんだ……」

 

 俺より背が高いのに、やけに可愛らしい姿で俺の視線から逃れようと目をそらす。ああ、つまりこれだ。無理やり誘拐された、もとい、ちょっと強引に家に招待されて家に帰れなくなったというのに、俺が逃げようともせずにここに留まってるのはこれなのだ。

 ちょっとだけめんどくさかったり、愛情の表現方法が間違ってる気がしないでもない彼女だが、俺を想ってくれているその気持ちはとてもまっすぐなものだ。彼女は確かに、俺を好いてくれている。これほどまでに愛しい彼女を置いて、どうしてこの場を去ることができるだろうか。

 別になんとか逃げようとして色んな試行錯誤をしたけど無駄だったからそう思うことにしたとか、そういうんじゃない。断じて違う。彼女が不在というチャンスを有効に使えなかった俺自身に絶望なんて全くしてない。

 

 余計な思考を捨てて、俺は関羽へとゆっくり顔を近付ける。若干唇を尖らせていたせいで、関羽も俺の意図に気付いたんだろう。すぐに目を閉じて俺を待つ姿勢になった。

 そして、俺たちの唇は触れあった。真っ正面から、ひどくやさしい調子で。

 ぷるりとしたやわらかい感触が唇に伝わり、かすかな息遣いが直に伝わってくる。そのまま彼女は俺の体をより一層強く抱きしめてきて、離れないようにと背中のところで腕を組む。強い力も相まって簡易的な拘束具のようだ。

 彼女に抱きすくめられたまま、俺はわずかに顔を離してキスを終える。いつまでも玄関に立ってるのもどうかと思って、リビングに移動するためだ。

 

 「あっ……」

 

 どことなく寂しそうな声が聞こえたが、どうせ今日だって何度もすることになるんだ。キスだけで玄関に立ってる時間を増やすわけにもいかない。

 というわけで俺と関羽は抱き合ったままリビングにやってきてソファに座ったのだが、そこで俺は異変に気付いた。

 関羽は学校に行く時には持っていなかった紙袋を持っていたのだ。気になった俺はすぐに質問してみる。それは一体何なのかと。

 

 「ああ、これか。実は私の友人からアドバイスを受けてな。マンネリ化を防ぐためにも、選択肢は多い方がいいと説明されたのだ」

 

 そう言って嬉々とした様子で紙袋から何かを取りだす関羽。彼女は両手で黒いそれを持って、自分の頭へと運んでいく。

 

 「ど、どうだ? 私にはこれが似合うと言われたんだが」

 

 そして俺の目の前に現れたのは、頭に黒い猫耳を装着した関羽であったのだ。

 ふむ……一体どういうことだろう。

 

 「あのー関羽さん? これって一体……」

 「い、いや、あの、おまえにはずっとこの家にいてもらっているからな。悪いとは思ってるんだ。だけど外に出すのも心配だし……せめて私がいる間だけは、できることをなんでもしてやりたいと思って、楽しめるような物を用意した方がいいんじゃないかと思ったんだ」

 

 外に出すのが心配って、俺はペットか? いや、現状だとあながち間違いでもないが。

 とにかく関羽は俺を楽しませるために色々と買ってきたらしい。一番最初に猫耳が出てきたところを見ると多分エロいアイテムばっかりだろう。これじゃあ俺を楽しませるためか、それとも自分が楽しむためなのかわかったもんじゃない。

 それを裏付けるかのように、彼女は生き生きとして袋からまた何かを取りだした。やっぱりおまえが一番楽しんでるじゃないか。

 

 「そ、それから、こんなのもあるぞ? サイズもぴったりだ」

 

 そう言って取り出されたのは、まさにペットにつけるような赤い首輪だった。さっきの発言のこともあるし、まさか彼女は本当に俺をペットのように扱おうと――

 

 「それじゃあ、試しに着けてみてくれるか? その、やはり自分でつけるより、つけてもらった方が嬉しいから……」

 

 かと思ってたがどうやら違うらしい。首にかかっていた長い髪を手で掻きあげているあたり、どうやら俺の手で関羽につけろってことらしい。

 すっかり忘れていた。この子はあの眼帯少女とは違うんだから、俺に首輪を巻こうなんてするはずがない。むしろ俺の方から色々と手を出して欲しがる子だったのだ。

 それがわかって一安心したので、俺は素直に関羽の首へと首輪を巻く。ここで拒否したり焦らしたら、きっと拗ねたり泣いたりして襲われるだろう。それはあまり頂けない。まわりに流されてばかりにしたって、俺も男の子、できれば優位に立っていたい。

 首輪を巻き終えると、関羽は嬉しそうに微笑みながら指でそれへと触れていた。自分の首にあることを確認するかのように、何度も何度も。

 

 「これでいいのか?」

 「ああ、ありがとう。ふふ……なんだか、私はおまえのものだと言われている気がして、嬉しく思うよ……」

 「ふむ、なるほど……でもさ、関羽。だとすると今のおまえは、俺の飼い猫ってことになるんだろ?」

 「うん? ああ、そうだな。ふふふ、私はおまえの飼い猫だ」

 「じゃあ猫が服を着てるってのはおかしな状況じゃないのかな?」

 

 できるだけ平坦に、「だって当然でしょ?」と言わんばかりに発言してみた。もちろん狙いなど一つしかない。

 すると関羽はビクッと体を震えさせた後、一瞬で顔を真っ赤にして、俯きつつもこくりと小さく頷いた。どうやら否定する気はないようである。

 なので俺はダメ押しとばかりにできるだけやさしく微笑んで、彼女に顔を近付けて言う。きっと拒否しないと確信しながら。

 

 「さっき自分で言っただろ、関羽は俺の飼い猫だって。でさ、俺は動物に服を着せるの反対な人なんだけど……脱がしちゃってもいい?」

 「う……い、いいぞ。私が自分で言ったことだからな、うん」

 「ありがと。じゃあ早速」

 

 そう言って俺は言葉通りに関羽の服を脱がそうと手を伸ばす。なるほど、マンネリ化を防ぐためにとは言ってたが、これだけで確かに効果がありそうだ。

 セーラー服を脱がせて、スカートを抜きとる。その後は残っていた下着を上も下も迷わず一気に脱がしたのだが、彼女が身に着けていたのはこれだけではない。足首辺りにはルーズソックスがあるままだし、手には指貫グローブがはめられたまま。これらは脱がせずにそのままにしておくことにした。その方が全裸でいるよりもむしろエロい。

 そうした後、顔を真っ赤にした猫耳、首輪装着の関羽がソファに座っている。こんな環境は今まではなかった。どことなくシュールな光景にも思えるが、まぁ本人が嫌がってないのでいいだろう。むしろ嬉しそうだし。

 身を縮めるようにして太ももをぴったり合わせて座り、膝の上にぎゅっと握った両手を置いて、伸ばした腕で胸を隠そうと位置を調整している。もう何度も見せているはずなのに、やはり彼女は恥ずかしがっているようだ。

 

 「あぅ……さすがにこれは、少し恥ずかしいな……」

 「関羽。思ったんだけどさ、猫ってしゃべらないよな?」

 「え? それはそうだろう、当然だ。……待て、それはつまり、ひょっとして……」

 「今からしゃべったらお仕置きするから」

 

 どうせするなら優位に立っていたい。さらにはせっかくのシチュエーションなのだから楽しみたい。

 そんなただの思いつきで俺がそう伝えると、関羽はビクッと体を跳ねさせて黙りこむ。顔は真っ赤になっているが、おそらくあの顔は喜んでいるんだろう。

 この三日間の間、実は一度だけ関羽に対して「お仕置き」をしている。といってもそんな大したものじゃない、ただ単に彼女にやられたことをやりかえしただけ。彼女の膣に挿入したかったのに、お仕置きだからとさせてもらえなかったことを思い出して、徹底的に彼女の体を愛撫しまくった後に関羽が本番がしたいと泣きながら縋ってきたのを無視して、それでも愛撫だけねっとり続けてやったってだけだ。もちろん最後は俺も限界だったから本番をしたけども。

 あの時の関羽は本当にすごかった。うるさいくらいの大声で俺への愛の言葉を叫んで、頼んでもないのに卑猥な言葉を連発して、俺のモノが欲しいはずなのに力ずくで俺を押し倒そうとはしない。ただ俺の手と舌で鳴きながら、あくまでもお願いして俺に抱かれようとしていたのである。

 これらの行動や普段のこだわりから推測できる限り、どうやら関羽はすべての主導権を俺に渡しているようだ。まさしく聞きわけのいいペットのように。たまに反抗するのは見逃せないが、なんというかこう、俺の中のS的な部分が刺激される人間だと言える。

 

 「そんな……し、しかしそうすると、私はどうやっておまえとコミュニケーションを――」

 「はい、しゃべったからお仕置きね」

 「なっ!? ま、待て、今のは――きゃあっ!?」

 

 関羽の肩を押し、ソファに寝転ばせる。そうしながら俺はソファから降りて床に膝をつき、倒れた彼女の横に位置取りした。これならどこにでも手を届かせられる。

 うむ、やはりなんとなく気分がいい。猫耳、首輪のおかげだな。全裸になった関羽は自分の体を隠そうと腕を伸ばして、そのせいでボリュームのある胸がむぎゅっと形を変えている。大変エロい光景だった。

 

 「猫だって言ったばかりだろ? だったらほら、にゃんとかにゃおとかそういうのじゃないと」

 「うぅ……にゃ、にゃん?」

 「……まぁ、今回は可愛いから許すけど、この格好するんならちゃんとそうしてくれよ?」

 「……にゃ」

 

 可愛らしく猫の鳴き真似をする関羽だが、どことなく残念そうに見えるのは気のせいだろうか。なんだ、お仕置きが欲しかったのか? せっかく俺が寛大な心を見せつけようとしたというのに。

 とにかく、せっかくのシチュエーションなので俺は彼女への愛撫を開始する。左手で胸を揉みながら、右手で秘所へとかすかに触れる。じんわり焦らすように触れてやる方が、彼女の気分を高めるのにいいからだ。

 

 「うわ、もうすでに濡れてるな……ひょっとして期待してた?」

 「ふぅぅ、んにゃ……」

 「あー、なんて言ってるかわからんな……肯定してる?」

 「うぅ……にゃ……」

 

 本格的な愛撫を始める前から濡れそぼっている秘所に触れてそう言ったのだが、関羽は顔を真っ赤にして首を横に振るばかり。

 しかし何と言ってるのかは正確にわかるわけではないので、少しばかり意地悪してやると、彼女はさらに顔を赤くして小さく頷いた。どうやら恥ずかしくて言えなかっただけで、こうなるのを期待してたらしい。

 というか、うん、非常に可愛い。普段は凛とした雰囲気なだけに、この可愛い感じは犯罪的だろう。

 俺は自分のモノが一層固くなるのを感じながら、彼女の秘所と胸に触れていく。もちろん声をかけるのも忘れない。

 

 「気持ちいい?」

 「ふぅ、ふぅ……にゃん」

 「はぁ、すっごいエロい……感度もいいし、ここ数日でどんどんエロくなってくな」

 「んんっ、ふぁ……」

 

 膣の入り口辺りを撫でて、すでに勃起しかけてるクリトリスのまわりをなぞる。関羽は直接触る前にこうしてやった方が、後でもっと乱れるようになる。ただあんまりやり過ぎると後が怖いので注意が必要だが。力で負けてるのはやっぱり大きい。

 同時に胸も同じように触る。基本的には乳房を触れてるか触れてないかくらいで手を移動させて、乳首にギリギリ触れない辺りを何度も往復する。これだけで関羽はまだ直接触ってないのに最大にまで乳首を立たせてる。

 あとはたまにかすかに割れたきれいな腹筋とか、きれいな形のへそとか、ほっぺたや唇なんかもいい。関羽はゆっくり、じっくり手で全身を触られるのが好きらしいので、できるだけ時間をかけて触ってやる。

 するとやはり効果があるらしく、すでに彼女は目をとろんとさせて全身から力を抜いていた。もうすべてを俺に預けてるようだ。

 

 「関羽、膝立てて」

 「……んっ……」

 

 俺がそう言うと、関羽はソファで仰向けになったまま両膝を立てる。そのせいで股間がさっきよりも開かれて、尻の方にまで手を伸ばせる。

 俺は太ももを伝うようにして手を動かしながら、ゆっくりと尻へ近づいていく。そうして、時間をかけて柔らかい尻肉に触れられる地点にたどり着いた後、その割れ目の中へ指を進めていった。

 

 「んっ」

 

 右手の人さし指が、関羽の尻穴に触れると、彼女が小さく声を洩らして体を震わせた。多分、驚いたのと怖かったのと両方。

 関羽が潤んだ瞳をとろんとさせたまま、俺の顔を見つめてくる。だから俺はできるだけやさしい声で伝えてやった。

 

 「大丈夫だ。無茶をする気はないから」

 「……ん」

 

 安心するような声を出して、関羽が顔の向きを戻して目を閉じる。

 それを目で確認した後、俺は指先に少しだけ力を込めて尻穴をぐにぐにと押してみた。彼女とこんなことをするようになって三日、そこは何度か軽く弄ったりしてる。だけどまだ指を埋めるようなことはせず、入口をぐにぐにと遊ぶだけに終わらせていた。

 そうする一方で、左手を彼女の口元に持っていく。人さし指と中指を唇に触れさせると、彼女はひどくゆったりした動作でそれを口の中に迎え入れた。

 

 「んっ、はむっ、ふにゃあ……」

 

 丹念に、やさしくねぶられる俺の指。まるで赤ん坊のように吸われ、だけど赤ん坊ならまずありえない妖艶さで舌を絡められる。

 関羽はこれが好きだった。事あるごとに俺の体に触れようと彼女の方から手を伸ばしてくるのだが、結構多かったのが自分から頭を撫でさせようとするのと、俺の手を舐めることなのだ。

 例えば隣に座ってテレビを見てるだけ、なんて珍しい瞬間とか、いっしょに風呂に浸かってる時とか、情事が終わって二人で布団にくるまってる時とか。彼女はそうして、俺の手や指を舐めると安心するかのように目を細める。

 今もどうやら安心しきってるようで、尻穴を押されながらも腕をだらりとさせて吐息を洩らしている。ひどく無防備な姿だった。

 

 もうそろそろいいだろう。正直言って彼女とこうしたやり取りをする時に一番辛いのが、俺のモノが痛くなるほど固くなってるのに、手を出せないことだ。

 確かにこうして入念な準備をした方が関羽の感度は上がるが、代わりに俺の暴発率だって高くなる。色々と我慢できなくなって気持ちが先走ってしまうせいだろう。まぁ結局何発も出さされるから大して気にしてないんだけど。

 しかしもう我慢できない。俺は尻穴を押していた手を移動させて、彼女の秘所に再び近付ける。

 そして待たせることなく、一気に人さし指をずぶりと押し入れた。

 

 「はっ……くぅ……!」

 

 十分に膣内が濡れていたせいで、指は一気に奥まで入る。しかも途端に中がぐねぐねと動いて、俺の指を呑みこもうとしてるかのように吸いついてくるのだ。

 しかし多分、今の彼女には一本だけじゃ足りないだろう。すでに十分準備ができてるだけに、本番に移ったっておかしくはない。それだけに指が一本だけじゃ物足りないはず。

 だがここは敢えて一本だけでしばらくイジる。そうした方がもっと可愛くなることを知ってるからである。

 その証拠に、俺の指を舐める動きが変わった。まるでフェラをするかのように頭を振って俺の指を口から出し入れし始めたのだから。

 

 「んっ、んっ、んっ……」

 「関羽、なかがすっごく動いてる。もう欲しいんじゃないの?」

 「んっ、はっ――ほ、ほしいっ」

 

 俺が質問したその時、関羽は俺の左手首に手を添えて、口から指を抜いた後に言葉を発した。

 潤んだ瞳でしっかり俺を見つめて、哀願するかのように。

 

 「もうっ、もうだめなんだ……いつもとは違う、何か、おかしいんだ……は、はやく挿入れてほしい……」

 「……ん、そっか」

 

 どうやら猫耳と、それから首輪をつけた飼い主プレイはかなりの効果があるらしい。いつもは散々俺のこと「好きだ」とか「愛してる」とか言ってるだけに、黙ってるだけでも勝手が違うんだろう。

 俺は彼女の必死な言葉を聞いて、必死な表情を見て、薄く笑みを見せる。

 すると彼女もやさしく微笑んで、可愛い表情で俺に笑いかけてくれた。

 

 「でもやっぱダメだな」

 「んああっ!?」

 

 膣に入れる指を三本に増やして、一気に奥まで突く。そうすると関羽は目を見開いて嬌声を上げて、同時に股間からは大きな水音が立っていた。

 

 「しゃべっちゃダメだって言っただろ? 欲しかったら仕草だけで伝えてくれないと」

 「んんっ、あっ、だ、だって……」

 「それとも、わざとだったり? 関羽はわりとお仕置きされるの好きだもんな」

 「あぁっ、んふぅ……ち、違うぅ……」

 

 三本の指を同時に動かしたり、それぞれ別の動きを加えてみたり、少しだけ乱暴に膣内を抉る。すると関羽は目をぎゅっと閉じて、だけど抵抗することなくそれを受け入れている。

 秘所からはいやらしい水音が鳴って、それに混じるように関羽の喘ぎが聞こえてくる。声からするに間違いなく、関羽は悦んでいた。

 しばらく同じ動作をただ淡々と続けてみる。たまに変化を加えながらだが、基本的には指でイジるだけであり、おそらくは彼女が望んでいる本番行為をお預けし続けている状態だろう。

 そのせいですでに関羽は涙目になって、何かを伝えようとするかのように体をもじもじと動かしている。鼻で繰り返される呼吸はひどく荒いままで、関羽の興奮がどんどん高まっているようだ。

 もうそろそろ彼女の限界は近いはず。だがそれは俺も同じ。

 

 「なぁ関羽、そろそろ……」

 「んぅ、ふっ……」

 

 関羽は必死になって首を縦に振る。俺が何を想ってるのかもうすでにわかってるらしい。

 ただ猫プレイは忘れてはいないようで、今度は言葉で伝えようとはしなかった。或いは、ただ単にしゃべる余裕がないだけなのか。

 まぁでもどっちでもいい。俺はこの時になってようやくズボンと下着を一気に脱いで、さっきから勃起しっぱなしのイチモツを取りだした。

 その途端、関羽の顔がまた赤くなり、潤んだ瞳でじっと俺の股間を見つめる。期待値はかなり高いようだ。

 

 「じゃあ行くぞ、関羽」

 「ん……」

 

 ソファの上に乗り、彼女の股の間に体を入れてそう呟く。すると関羽はこくりと小さく頷いて目を閉じた。

 自分の手でモノを掴んで、こするようにして彼女の中へ入れる場所を探す。すでにそこはぬるぬるで、このまま挿入れても痛くはないだろう。

 そうして少しの間先端で感触を確かめていると、関羽の腰が焦った様子で動き出した。もう我慢できないらしい。

 もうちょっとそのまま焦らしてもよかったかもしれないが、正直俺も我慢の限界だ。なのでそれ以上は遊ばず、入口に先端を当てて一気に腰を突き出した。

 

 「あっ、はっ……!」

 

 関羽の口から声が漏れる。精一杯にまで目が見開かれ、まるで犬か何かのように舌を突き出している。

 その頃にはすでに俺のイチモツの先端は彼女の子宮の入り口を叩いていて、熱くて柔らかい肉の壁が強い刺激を与えてきていた。

 俺は彼女の一番奥に到達した時点で動きを止める。そのまま彼女に質問してみたかったのだ。

 

 「関羽……まさか、今のでイッた?」

 「うっ……あっ……かっ……!」

 「あーやばいな、またモード入ってる……まさかやりすぎた?」

 

 顔を近付けて問いかけてみたけど、ビクビクと痙攣したまま何も答えてくれなかった。それどころか目の焦点すら合ってなくて俺と視線が合わない。多分挿入れただけでイッたんだと思う。

 これはおそらく焦らし過ぎたんだろう。こうなってしまうとおそらく、一日中、もしくは二日くらいは離してくれないかもしれない。そうなってしまうとただでさえ毎日で疲れてるのに、疲労はさらに倍増で、その上また関羽の無断欠席で友人にも怪しく思われるだろう。関羽の口から怪しまれると聞いてるし。

 しかしそう考えていた時にはもう遅かった。

 関羽は急に俺の首へ手を回すと熱烈なキスをしてきて、さらには円を描くように自分から腰を動かし始めていた。

 

 「んっ、ふっ、うっ……!」

 「んんっ、かん、う……」

 「ふー、んふー!」

 

 舌で乱暴に口内を荒らされ、下からせがむように腰を刺激される。関羽はかなり必死のようだった。

 なので俺も前後に腰を動かし始める。その途端に待ち望んでいた快感が腰を中心に広がって、頭の芯まで痺れてくる。

 そこからはもうお互い一心不乱だ。とにかく必死で腰を動かし、お互いの体に快感を与えていく。ついでに関羽の胸も強めに揉んでおいた。

 深く口を繋げたまま、どれだけそうしていただろうか。多分、我慢してたせいで五分と経ってないかもしれない。

 わりと早々に俺は限界を迎えて、何も言うことなく彼女の膣内へと勢いよく射精していた。といっても、彼女が俺の口を塞いでたから言いたくても言えなかったんだが。

 

 「んんんっ、んふぅーッ!!」

 

 ただでさえ乱暴だった関羽の膣の動きが、射精と同時にさらに激しくなる。俺のイチモツを深々と銜えてるそこがぐねぐねと絶えず動いて、俺のイチモツをさらに深くへ呑みこもうとしているようだ。

 舌を絡ませながら、メロンのような巨乳をぎゅううっと掴んで、子宮目掛けて射精し続けた後、俺は一度イチモツを抜いた。すると大量の精液が彼女の膣から溢れだして、シミ一つないソファの生地にしみ込んでいく。

 

 「はぁ、はぁ……関羽……」

 「はぁっ、はぁっ、んっ……もっと、もっと欲しい……」

 「……うん」

 「はぁっ、おまえが、おまえが全然足りないんだ……もっと、もっと私の膣内に出して欲しい……赤ちゃんできちゃうくらい、いっぱい、いっぱい注ぎこんで欲しいんだ……!」

 

 俺の首に腕をまわして、懇願するようにそう言う関羽。非常にエロく、何より可愛い。

 が、言うべきことは言わなければならないので、俺は精液が流れ出るそこをやさしく撫でながら呟いてみる。

 

 「違うだろ、関羽。今のおまえは猫で、俺のペットだ。だから……」

 「う……にゃ、にゃあ。にゃあ、にゃあ、んにゃ」

 「くくくっ、わかったわかった。じゃあ……猫らしく、四つん這いになって」

 「うぅ……ん……」

 

 くちゅくちゅと入口を弄ってやると、どんどん奥から白い粘液が出てくる。

 そうして彼女の秘所を弄っていると、関羽は慌てながら体勢を変えて四つん這いになった。

 俺は彼女の尻の後ろに位置を取り、再び先端を秘所に当てる。するとそこはすぐに吸いつく様な動きを見せた。

 

 「うあっ……相変わらずすごい締め付け……」

 「んんんっ……あぁっ……!」

 

 後ろからずっぷり挿しいれると、嬉しそうな声が聞こえた。体勢的に今は関羽の背中しか見えないが、きっとその顔はだらしないアへ顔になってるんだろう。

 その証拠に膣の中は締め付けるというより、喰らいついて離さない、みたいなほどきつい。

 それでも俺はまた腰を動かし、関羽の膣内を抉り始める。といっても今度はさっきよりゆっくり、時間をかけて。

 

 「んんっ、あぁ……んっ、にゃぁ……」

 「ん? ……もっと速い方がいい?」

 「……ふにゅん……」

 「はは、正直だな、関羽は」

 

 ひどく気持ちよさそうなのに、声からすると不満そうだったので、彼女の要望に応えて腰の動きを速めてやった。

 途端に関羽は満足そうに、大きな声で鳴き始めたのである。

 

 「あはぁっ! んんっ、んほぉ、あぁっ!」

 「くぅ……こんなの、もたないっての……」

 

 両手で腰を掴んで、ぶつけるようにして腰を振る。パンッ、パンッと肉がぶつかり合う音が室内に響いた。

 一突きするごとに関羽は嬉しそうな悲鳴を上げて、さらに気持ちよくなろうとしているのか自分からも腰をぶつけてきていた。その度に彼女の秘所から小さなしぶきが出て、俺の太ももやソファを濡らす。

 これまでも何度かあったが、ひどく激しいセックスだった。おかげで関羽の胸はブルンブルンと縦横無尽に震えて、背中を見ているはずなのに大きな乳房のほとんどが見えたり、跳ねるような動きのせいで乳首が見えたりもした。

 その巨乳を揉みしだきたい欲求をなんとか抑えつつ、俺は必死に腰をぶつけることに集中する。その方が彼女も犯されてる気がして気持ちいいはず。

 彼女の好みに合わせた行動だ。

 

 「はぁっ、んふぅ、あぁっ、はぁんっ! もっと、もっと……!」

 「はっ、くっ、よく言うよ……体勢変えてから、もう何回もイッてる癖に……!」

 「いやぁ……んっ、そんなのぉ、言わないでぇ……!」

 「こらっ、返事するなって、言ってるだろ……!」

 「きゃん!?」

 

 パチンッ、と関羽の小麦色の尻を叩いてしつけをしながら、俺は自然と彼女のことを考えていた。

 関羽が好きな本番の流れは、まず最初にひたすら激しく、犯されるように乱暴に抱かれる。尻を叩かれたりだとか、胸や乳首をちぎろうとするかのように強く引っ張ったり揉んだりだとか、テクニックよりとにかくスピード重視で膣内を抉ったりだとか、ひたすら子宮に精液を注ぎこんだりだとかがそうだ。

 その調子で数時間と犯されて、最後の一回だけ、恋人のようにひたすら甘い感じでゆっくり抱いてほしい、ということなのだ。

 これらは本人から聞いたので間違いない。

 なので今はまだとにかく激しくしてやった方がいいはずである。具体的には今みたいに尻を叩いたり、尻の穴に指を入れてかき混ぜたり、一心不乱に膣内を突きさしたり。

 

 「あはぁっ、気持ち、いいッ、気持ちいいィッ! 壊れ、こわ、れ、ちゃうぅ……!」

 「はぁ、いいよ関羽、壊れていい、俺が壊してやるっ!」

 「いやぁ、だめぇ、激し、はげし、すぎっ――!」

 「しゃべるなって、言ったばかりだろっ!」

 「きゃぁあっ!? ご、ごめんなさ――にゃ、にゃぁぁ……!」

 「この、バカ猫……くっ、まだしつけが、足りないのか!」

 「にゃぁんっ!? んんっ、にゃぁ……あぁぁ……!」

 

 膣内を抉って、尻を叩いて、穴をほじって、どれだけそうし続けたか。

 ついに俺は限界を迎え、再び射精の予感を感じていた。

 ただ、今度はさっきと違ってそれを伝えることもできるが、俺は敢えて言わない。何も言わないままに勝手に達して、いきなり彼女の膣内に精液を注ぎこみ始める。

 こうする方が犯されてるみたいで興奮する。それもまた彼女から直接教えてもらったことだ。

 

 「んにゃ!? にゃっ、あっ、ああああっ!!?」

 

 またも関羽が全身を痙攣させて、顔を天井へ向けながら背中を弓なりに反らした。すでに体中に玉のような汗が浮かんでおり、この行為がどれだけ激しかったのかを物語っている。

 一番深いところで繋がったままお互いにイッて、しばらく固まる。

 そうした後に関羽はぐったりと疲れた様子でソファに倒れ、繋がったまま静かになる。部屋の中には二人分の荒い呼吸があるだけで、さっきの獣のような鳴き声がなくなっている。

 ただこれで終わるわけにはいかない。せっかく繋がったままなのだし、ちょうど関羽が油断してるようなので、俺はすでに固くなっていたイチモツをそのままに再び腰を動かす。

 いわゆる、寝バックとかいう状態である。

 

 「ふはぁっ!? あっ、んっ、やっ……ま、まだぁ、だめぇ……!」

 「ほら、またしゃべってる。油断しすぎ」

 「だっ、だって、はぁっ……!」

 

 激しく腰が前後する度に聞こえる鳴き声が、また気分をよくしてくれる。

 結局、俺と関羽はこの後何時間も繋がったまま、家の中をうろうろ移動しつつ、何回も絶頂していった。キッチン、風呂場、便座の上、玄関、ベランダ、リビング、そして寝室のベッド。

 とりあえず、一回目の休憩をすることができたのは、朝日が顔を出し始める寸前の頃のことだった。

 

 

 

 「はっ、はっ、はっ……」

 「んんっ、はぁっ、あっ……」

 

 もう何発出したのかわからない。これまでの分が全部種付け成功してたとしたら、一体何人の子供が生まれたんだろう。

 そんなどうでもいいことを考えつつ、俺たちはとりあえずの終わりを迎えるために、さっきまでと一転して甘いセックスをしていた。

 ベッドの上で正常位、どこかのタイミングで猫耳ははずしたが、まだ首輪をつけたままの状態だ。

 顔を近付けてお互いのとろけきった表情を眺めつつ、速くもなく遅くもないスピードで腰を動かし続けている。

 

 「関羽、気持ちいいよ……やっぱりおまえは、最高だっ……」

 「はぁん、わ、私も、おまえじゃなきゃだめだっ……もう絶対、離さないっ……」

 「うぅ、関羽っ……」

 「んあぁ、来て、きてくれ……もう一度、おまえのを、膣内にっ……」

 

 触れるだけのやさしいキスをして、ラストスパートに入っていく。

 腰を動かすスピードを若干速めて快感を高めていくと、関羽の長い足が俺の腰へ回された。

 深く繋がり、最後の瞬間を待ち望む。

 そして俺たちは、二人同時に果てていた。

 

 「うあっ、出るっ……」

 「あぁっ、あっ……」

 

 ドクドクと、またかなりの量が彼女の子宮へ注がれていく。一番奥で放ったのだから当たり前だ。

 しかしこれまで何度もそうしているせいですでに関羽の膣内は満杯、行き場を失くした精液が決壊したダムから出る水のようにベッドのシーツへと溢れてきた。

 それでも俺と関羽は深く繋がったまま、全身の力を抜いてベッドの上に体を横たえた。一応重くならないように俺が体の位置を変えて、二人で向き合いながら寝るように。

 ただしまだ下半身は合体したままだが。

 

 「はぁ、はぁ、関羽……」

 「んっ、はっ、はっ……」

 

 荒れた呼吸を落ち着けようとしながら、俺が彼女の名前を呼ぶ。すると彼女は閉じていた目をゆっくりと開けて、潤んだ瞳で俺を見る。

 そこで俺たちは二人とも目を閉じ、ゆっくりと顔を前に進めて、また触れるだけの恋人同士のようなキスをした。

 

 「「んっ……」」

 

 時が止まったかのように静かになり、空間が変わる。室内には俺と関羽、二人分の静かな呼吸音だけ。

 どれほどそうしていたかわからない。だけど気付けばどちらからともなく唇を離し、また目を開けてお互いの顔を見ていた。

 至近距離にある関羽の顔はひどく満足そうで、これまでにないほどとてもやさしい笑顔を見せていた。

 

 「ふふ……なんだか、幸せだな。こんな時が、ずっと続けばいいのに……」

 「幸せって、ペットみたいに扱われてひたすら犯されること?」

 「うっ、そ、それは……す、少しくらいならあるかもしれないが、そういうことじゃなくて……おまえとこうしていっしょに過ごして、愛し合える時間のことだよ」

 「……あー、そういうこと」

 

 関羽の手が、ゆっくりと俺の頭を撫でる。つられて俺も彼女の頭を撫でて、きれいでさらさらな黒い髪の感触を楽しむ。

 くすぐったそうな顔はしても、彼女の微笑みは消えない。嬉しそうに首をすくめて、すぐに自分から手に押しつけるかのように頭を動かすと、まるで本当の猫になったかのようだ。

 近くの窓から徐々に朝日が差し込もうとしてるのに、俺と関羽はベッドに寝転んだまま。家中に汗やお互いの恥ずかしい液をまき散らした後でようやく眠ろうとしているのだ。

 だけどきっと、寝たら終わりってことでもないし、起きたら終わりってことでもない。今はただ一旦休憩するだけで、俺と彼女はまだまだ愛し合うのだろう。

 関羽が嬉しそうにそう言うのだ、間違いない。

 

 「あぁ……不思議だ。疲れているはずなのに、ひどく気分がいい。こんなこと今までは一度もなかった。……きっとおまえのおかげだな」

 「いや、そんな褒められるようなことはしてないけど……」

 「いいんだ。おまえはそれでいい……ずっと、私の傍にいてくれれば……」

 「……関羽……」

 

 顎に手が触れ、ちゅっと額に口づけをされた。

 関羽は微笑んで、囁くように俺に伝える。

 

 「私は必ず、おまえを守る。約束だ。これからもずっとずっと、おまえのことを守っていくぞ」

 「あ……ど、どうも」

 「ふふ……言っただろ? 私はおまえを、愛している」

 

 彼女が目を細めて微笑む姿を見て、今度は俺の方から彼女へ口づけをした。

 それだけで彼女はまた幸せになったんだろう。俺の背にまわされた腕にぎゅっと力が込められ、今はさすがに萎えている俺のイチモツをぎゅっと締め付けた。

 唇を離してまた少しだけ笑いあい、二人一緒に目を閉じる。俺たちはそのまま休憩を取って、起きてからまたセックスするために眠ることにした。

 いまだにお互いの体を一つにしたままで。

 

 ただこれは俺だけだろうが、なんとなぁく嫌な予感がしたりしなかったりしたまま。

 



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竜虎相搏つ 1

これまでは適当にやってましたけど、もうちょっとまじめになって適当にやることにします。
つまりは詳しい描写を増やすために書き方を変えました。なのでタイトルの付け方も変わります。
ただ書き方が変わったので、主人公の名前を決めるべきか決めないべきかと悩んでおります。どっちがいいとかあれば、ご一報ください。どっちでもよければ何も言わなくて大丈夫なので。


 じゅぷじゅぷ、といやらしい音が室内に広がっていた。

 他には音を発する物はなく、いつもならついてるテレビは消されたまま、季節的にエアコンが働く必要はないし、たまに冷蔵庫がブゥンと鳴くくらい。

 では音の出所はなんだ、と聞かれると、それは俺の股間から発生している。

 素っ裸に首輪、今日は犬耳をつけた関羽が俺の股に顔を埋めて、うっとりとした目で俺のイチモツを舐めまわしている音だった。

 

 「必死だな、関羽。そんなに俺のがおいしい?」

 「んっ、おいひぃ……」

 「あーほら、またしゃべった。またちょっとの間お預けだな」

 「んふ、ひょ、ひょんな……あっ」

 

 根元に手を添えて、玉をやさしく揉まれながら、竿の部分に舌を巻かれたり頬の内側で先端を押しつぶされたり、そうした関羽の奉仕は非常に気持ちいい。

 しかしウチのバカ犬はまだ俺の言いつけを守る気がないらしく、俺は首輪につけられた鎖をぐいっと引っ張って、彼女の顔を俺のモノから引き剥がす。それだけで関羽は残念そうな表情を見せて、ともすれば俺の同情を買ってまた奉仕を続けさせようと試みてくる。しかしそんな簡単に流されるほど、今の俺は以前のように弱くはない。

 腕っ節では完全に負けるだろう俺は、すでに性的な面では関羽を圧倒しているのだ。今となっては彼女の体をどう弄れば悦ぶか、焦らすことができるか、理性を飛ばせるか完璧に理解している。これも監禁生活八日目になった成果だろう。無論、監禁されてるのは俺だけど。

 鎖を引っ張って関羽が俺のモノを舐めないようにしつつ、テレビでも見ようかとリモコンに手を伸ばす。その頃には関羽は舌をだらりと伸ばし、頭の悪い犬のようによだれを垂らしながら俺のモノをじっと見つめていた。手を伸ばして俺のモノを弄ろうとしないのは、調教がうまくいっている証拠かもしれない。

 浅ましいとも、いやらしいとも思える裸の女の姿。これに俺は気分を良くしつつ、そのままテレビを見始めた。どうせすぐに抗議してくるだろうなと思いながら。

 

 「うっ……わ、わぅん」

 「ん? 何?」

 「んん、んや、わぉぉん……」

 「はいはい、ちゃんと聞いてるよ。どうかした関羽?」

 

 やっぱり、と思わずにはいられない。

 関羽はソファの下に正座したまま俺の顔をじっと見上げ、真っ赤な顔で、唇辺りをべちょべちょに濡らしながら鳴き始める。盛りのついた本物の犬のように。もじもじと小刻みに腰が揺れているのはおそらく無意識だろう。

 俺は彼女ににこっと笑いかけてやり、頭を撫でながら返事をする。黒い髪はさらさらで手触りがよく、たまに黒髪に紛れるようにする犬耳にも触れるのだが、これが意外と出来がよくて感心してしまう。当然、こうして彼女の声を聞きながらも鎖は手放さない。

 本当は関羽が何を言いたいのかちゃんと理解できているが、このまま言うことを聞いてしまったのではどちらが飼い主かわからない。ペットにはしっかりとしつけをしなければならない、とどこかで聞いた。

 だから俺は尚も関羽が何を伝えたいのかがわからないふりをし続け、ただやさしく頭を撫でるだけ。そのほかのことは一切しなかった。

 

 「はっ、はっ、はっ……くぅん、あふ、わんッ……」

 「こら、前にも言っただろ。床によだれ落とすなって。舌を仕舞いなさい」

 「うう……わ、わん……」

 「おいおい、泣くなって。しょうがないなぁもう」

 

 そうし続けて一分もしない内に、初めは興奮した面持ちだった関羽も徐々に涙目になっていき、最終的には目にこぼれんばかりの水滴を貯めて俺をじっと見つめてきた。

 これはずるい、と思うのだがさすがにそのまま放置できるほど俺のレベルは高くなく、胸がズキズキと痛み始めたので手に持っていた鎖を離す。するともう彼女の動きを制限するものはないので、関羽は再び自由になった。

 だけどまだ関羽は動かず、その事実に気付いていながらもじっと俺の顔を見続け、動かない。どうやら命令を待っているようだ。

 このままにしておけばどうするんだろう。そんな想いに囚われた俺は、ぽろりと頬を伝っていった水滴を確認しつつ関羽の顔をじっと見た。

 

 「……」

 「うっ、うう……はっ、はっ、はっ」

 

 やはり関羽は動かない。裸でぺたりと地面に座り込んで、かすかに腰を前後に動かしてはいるが、本能のままに俺のモノを銜えこもうとはしなかった。

 さすがに、今日は頑張った。ここまでよく我慢できた方だろう。

 俺はついに関羽の頭をやさしく撫でながら、やさしい口調で言ってやる。

 ここ数日でずいぶん俺も変わったよなぁ、なんて思いながら。

 

 「いいよ、関羽。好きにして」

 「ッ!? わ、わぉんッ!」

 

 叫ぶように犬の鳴き真似をした関羽は嬉しそうに体を震わせ、俺の腰に勢いよく抱きついてくる。そのままの勢いで大口を開けて俺のモノを口内に含み、長い舌をじゅるじゅると竿に絡ませてきた。

 さらに焦りすら見える調子で頭を上下に振り、勢いよく俺のモノを唇で扱きあげる。強く吸いつきながら、根元を手で扱き、玉を揉んで俺を絶頂へと導いていく。

 ここ数日で、関羽の口淫はどんどんうまくなっていった。本人の「奉仕したい」という気持ちが強いからだろうし、あとは暇さえあれば俺の命令を聞いていたせいだろう。

 ソファでテレビを見ている時に銜えてもらったり、学校へ行こうとする彼女を呼び止めて銜えてもらったり、俺が食事をしている時に銜えさせたり、散々犯し抜いた後に銜えさせたり。一体何度彼女の口の中に精を吐き出したかわからない。

 そうして技術力の向上に従事していたおかげで、関羽は完璧に俺のツボを理解しているようだったし、俺が悦ぶ責め方なんかもわかっていた。

 だから、さっきまで必死に頭を振っていた関羽はようやく冷静になり、頭を止めた代わりに舌で先端をちろちろと舐め、上目遣いで俺の顔を見るようになっていた。

 

 「ッ、はぁ……関羽、うまくなったな。さすが、一日中俺に犯されること考えてるだけはあるな」

 「んっ、ふっ、ふぅぅ……」

 「あぁ、はぁ……なぁ関羽、ちょっとだけ、下の方も頼む」

 「んっ、はっ、わふっ」

 

 肯定の返事か、それとも犬になりきってるだけか。関羽は息を洩らした後にだんだん顔を下げていく。同時に俺はソファに乗せた尻をずいっとずらして、座り方をかなり崩した。

 そうすることで、今関羽の目の前にはそそり立った俺のモノと、だらりと力なくぶら下がってる二つの玉、それから足を開いたせいで露わになっている尻穴がある。

 ごくり、と息を呑む音が聞こえた。基本的に関羽はMだし、自分でも認めるほど変態なので、普通の人が拒むような屈辱的な行為も自ら進んでする。

 彼女にとって、俺の下半身すべてを舐めまわすというのは、屈辱的であるが故にご褒美にも近いのである。

 

 「あ、あんまりがっつくなよ? 結構デリケートなんだからな?」

 「……わふ」

 「ほ、ほんとにわかってる?」

 

 自分から勧めたことだが、いざその時になるとなんとなく不安になった俺の問いに、明確な答えが返されることはなかった。

 関羽がゆっくりと俺の尻に顔を近付け、ぺろりと穴を舐める。初めはその感触を確かめるように、ぺろぺろとやさしく、まわりからだんだん中心に向かっていくような動きで舐められる。

 そして中心に触れるようになると動きが変わって、穴の中に入り込もうとするかのように舌に強い力が加わる。いや、それはまるでなんていう動きじゃない、しっかりと穴の中に入ろうという意思が伺える動きだった。

 ぺろぺろっていうよりもぐりぐりって感じ。ねじ込もうとするかのように、それでいて感触やら何やらを味わおうとするかのように。

 関羽は一心に俺の尻の穴を舐めまわす。それも嬉しそうに、涙なんてすっかり引っ込めて目元をやさしくしてである。

 

 「ん、ふっ……は、あぁ……」

 「ふぅ、うぅ、おまえほんとに、これが好きだよなぁ……」

 「んん、ふんっ……」

 

 しばらくは穴の入口をぐりぐりと舌で押されていたが、次第に舌が舐める場所が上に向かってくる。

 ゆっくり、舌先でつつっと体を撫でられ、次に関羽は俺の玉を片方、口の中にすっぽりと銜えこんだ。舌で転がすように遊び、頭をゆっくり小さく振ってフェラの真似ごとをする。尻を責められるより淡い快感だが、これもどちらかと言えば気持ちいい。

 片方を舐めまわすと、次はもう片方。そうして両方を口に入れられてべとべとにされた後、関羽の口は再び俺のモノへ近付けられた。

 しかも今度は持ち前の巨乳をぎゅっと俺の玉の辺りに押しつけて、先端を銜えてさっきよりも激しく頭を振る。

 俺はその頭を撫でながら、裸でソファに座ったまま天井を見上げる。そうすると視覚からの情報がなくなって、じゅぷじゅぷという音と柔らかい感触、それらに与えられる快感がより一層高まったように感じられた。

 我慢していたことも相まって限界が近づいてくる。それがわかったのか、俺も関羽も息が荒くなるばかりだ。

 

 「関羽……も、もうそろそろ……」

 「うっ、ふっ、んんっ」

 

 関羽のフェラチオがさらに激しくなる。こっちが歯を食いしばってしまうくらい、すごい気持ちよさだ。

 そしてついに限界が来て、俺は急いで関羽の頭を押しのけ、彼女が銜えていたモノを外へ解放した。

 

 「か、関羽、口開けろッ」

 「んあっ」

 

 関羽が手で竿を激しく扱いていたおかげもあり、直後に俺は絶頂し、自分でもえげつないと思うほどの精液を吐き出していた。

 大口を開けて待ちかまえていた関羽の口に、舌の上に、顔や髪や小麦色の巨乳に、ボタボタと大量の粘液が降りかかる。関羽はそれを嬉しそうに受け止めている。

 関羽の学校が休みである今日は、まだ朝の早い時間だっていうのにすでに三発目、膣内と喉に射精した後だっていうのに多すぎる量。思わず出してる俺も引いてしまうほどだが、関羽はむしろそっちの方が嬉しそうである。射精が終わったことを確認してから俺のモノを再び銜え、凄まじい吸いつきで尿道に残っていた分を吸い取り、しっかりと舐めてきれいにしてから、舌の上に残っていた精液をうまそうに飲み干した。

 さらには今も額や頭から垂れ落ちてくる精液をべろりと舐めとり、顎から滴り落ちる分は手を使って胸に塗りたくっている。さすがにそれは、と想い、俺は慌てて止めたのだが。

 

 「こらバカ犬、そんなことしたらまたシャワー浴びなきゃいけないだろ。せっかくさっき昨日の分落としたのに」

 「くぅん……」

 「甘えてもダメ」

 

 実際にペットを飼ったことはない俺でも、おそらくしつけはこうやってやるんだろうな、と思う。そうやって悪い癖を当たり前のようにやり始める裸の女を叱りながら、傍に置いといたティッシュで精液が塗られた胸元を拭うのだ。

 精液っていうのは出した瞬間はねっとりした液体でも、時間が経てば全く違う状態になる。今こうしておかないと後々大変なことになるのだ。おまけに勾玉をもらってから量が尋常じゃなくなってるから、被害の拡大もえげつない。

 なので大惨事にならないようにと、俺はティッシュ越しに関羽の胸を全体的に揉んでいるわけだ。顔についた分を指で掬って、ぺろぺろと赤い舌で舐めとっている彼女にげんなりしながら。

 

 「おまえ、またそんな……うまくなんかないだろ、それ」

 「んっ、ふぅ……わんっ」

 「あー今はしゃべっていいよ。ちょっと休憩」

 「ん――いいや、おまえの体から出されたんだ。嘘や冗談じゃなくこれはおいしい。なんというか、癖になる甘さがあって、ずっと舐めていたくなるような――」

 「いや、いい。細かい説明なんかしなくていいから」

 

 一旦手を止めたかと思えば、やけに生き生きと語りだす関羽。せっかく楽しそうにしているところ申し訳ないが、正直言ってあんまり気分のいい話じゃない。

 だから俺はすぐにやめるようにと胸を揉みながら伝える。すると関羽は不満そうに唇を尖らせながら「むぅ」と唸り、俺に伝えられないことが不満だと態度で示してきた。

 いや、俺男だし、自分の精液のこと細かく伝えられても嬉しくないから、絶対。

 しばらく時間はかかったが、俺は関羽の胸と髪や顔についていた精液をティッシュで拭きとることに成功する。「舐めたいんだ」と主張して妨害してくる関羽を、乳首やクリトリスを弄ってへにゃりと無力化させてから。

 

 「腹減ったな。さすがにそろそろ朝飯食おうか」

 「わかった。では私が作ろうか?」

 「いや、いいよ。ちょっと疲れただろ? 俺がやるって」

 「む……すまないな」

 

 朝から、いや、正確には昨日の夜から何度も休憩を挟みながらやりっぱなしだったのだ。さすがに疲れもするし、腹も減る。

 なので朝食を取ろうと提案してから、俺たちはお互い素っ裸のまま動き出した。

 俺はキッチンに入って料理を作るためエプロンに手を伸ばし、ただその瞬間、関羽がトイレに行く姿を見たのでぴたりと手を止めた。

 すらりと伸びた足の上にはきゅっと締まった尻があり、長くてさらさらした黒髪に隠されかけているが、玉のような汗を掻いたその後ろ姿はとてもきれいだ。

 いつも想うのだがそれがいけない。ここで無心になれるほど俺が大人だったのならまだしも、ただ歩くだけの彼女の仕草が妙にかっこよくて、しかも全裸なために妙に艶めかしい。思わずさっき出したばかりなのに、またむくむくと反応してしまうほどである。

 俺はエプロンを取るのをやめ、少し時間差ができるようにゆっくりと歩き始めた。もちろん足音を立てないよう注意しつつ。

 そして関羽から遅れること数秒、俺もまた風呂とトイレが一緒のユニットバスの前に辿り着き、おもむろに扉を開けてみた。

 

 「あっ……」

 

 やはり想像通り、関羽は全裸で洋式便器に腰かけ、小便している真っ最中だった。

 チロチロと小さな水音が耳に届き、それと同時に彼女の顔がかっと赤くなったのが目に見えた。

 俺は何も言わずにその狭い空間に入り込み、風呂が隣接している関羽の左側に立って、すでに半立ちになっていたモノを左頬に押しつける。すると関羽は見られることを恥ずかしそうにしながらも、すぐに俺のそれを銜えた。

 

 「んっ、ふっ、んっ……」

 

 小さく頭を振ることで、また心地よい快感が俺に与えられる。イッてしまうような激しいものじゃなく、思わず息を吐いて安心してしまうかのような淡い感覚。

 じゅぽじゅぽと関羽のよだれが元で音が鳴り、同時にまだ便器の中に尿が出される音が響いている。俺は上体を倒して関羽の胸を揉みつつ、モノを銜えさせたまま、関羽の放尿シーンをじっと眺めた。

 とてつもない背徳感と、赤くなった顔を見てしてやったりという満足感、さらには文句も言わずにされるがままの彼女の姿にとてつもない充実感が得られる。

 それからさほど時間が経たない内に関羽の用は終わり、室内の音が一つ減った。それを目で見ていてわかったので、俺は関羽の頭をぽんぽんと叩いて口を離させる。次いで彼女に命令した。

 

 「関羽、両足持って股広げて。俺が拭いてあげるから」

 「あ、う、でも――んむっ」

 「ほら、早く」

 

 口答えしようとした愛らしい唇にモノをぐいっと当てると、すぐにそれは彼女の口内に導かれた。

 それで諦めがついたのか、ふるりと身を震わせた関羽は自分の手で両足を持ちあげ、さっきまで尿を出していたそこを俺に見えるように広げる。

 立ち位置的に真っ正面からとはいかなかったが、それを目で確認できた俺はぞくぞくと背が震えるのを自覚しつつ、トイレットペーパーを取ってそこを拭き始める。できるだけやさしく、でも時間がかかるように。

 ちなみにこの時関羽は顔を真っ赤にしながらもやっぱり抵抗せず、俺のを熱心にしゃぶりながら、俺の右手の指に左の乳首を摘まれて小さな喘ぎ声を発していた。

 

 「よし、これでいいだろ。関羽、もういいよ」

 「うっ、あっ……は、恥ずかしい……」

 「でも結構よかっただろ? それに俺がしてるところに強引に押し入ってきたんだ、お返しだよ」

 「うぅ……」

 

 恥ずかしさのせいで目も合わせてくれない関羽を立たせ、水を流して一緒に狭いユニットバスから出る。

 するともうすぐ傍には玄関があるわけだが、俺は何も気にしないようにして、彼女に対してまた命令する。

 

 「関羽、そこに立って。壁に背中つけて。あ、あと足もちょっと開き気味で」

 「うん? こうか」

 「そうそう、そんな感じ」

 

 玄関のすぐ傍、話しているだけで外まで声が聞こえるそこに立ち、関羽は壁に背を預けて肩幅に足を開く。まだ何をされるのかわかってないらしい。

 俺は彼女の足元にしゃがみ込んで、関羽のアソコを下から見上げてみた。ここまでならば関羽も抵抗しようとは思わなかったんだろう、何をされてるかわかりながらも何も言わない。

 しかし俺は好奇心が止められず、そのままそこをぺろりと舐めてみた。さっきまで関羽が排尿していた、彼女の一番大事な部分を。

 

 「なっ!? い、一体何を――そこはだめだッ!」

 「なんで? 別にいつものことだろ」

 「だ、だってさっき、その……よ、汚れてるから……!」

 「大丈夫だって。俺が丁寧に拭いたからさ」

 

 いつものことではあるのに、タイミングの問題か。関羽はいやいやというように首を左右に振っている。それでも俺は気にせず、彼女の腰を掴んで、羞恥に歪む顔を見ながら舐め続けた。

 確かに彼女の言う通り、膣にちょっとばかり舌先を埋めるとしょっぱいというか、いつもと違う感覚はある。しかしこれはいつも俺がやられていることでもあるし、どうやら関羽も口で色々言う割に喜んでいるらしいので大丈夫だろう。

 咄嗟に、俺は関羽が自分の顔を隠してしまわないようにお互いの両手を握り合わせて、目を潤ませてこちらを見下ろす表情をじっと見続けた。舌で丹念に関羽のアソコを舐めながら。

 

 「うぅ、はぁぁ……い、いやだ、恥ずかしい……」

 「関羽、すごい濡れてきてるな。吸っても吸っても出てくるぞ」

 「いやぁぁ……そ、そんなこと、言うな……」

 「ほら、聞こえる? 吸ったらさ、一気にどばって関羽の愛液が俺の口ん中に入るんだよ」

 「んんっ、やぁぁ……」

 

 ずずっ、と卑猥な音が俺の口元と関羽のアソコから聞こえる。彼女に言った通り、そこはすでに数分愛撫した後みたいに濡れそぼってて、挿入も簡単にできるような状態だった。

 そして多分、もう関羽はそれを望んでるんだろう。わずかに腰を前後に揺らし始めたのがその証拠だ。

 それでも俺はしばらくそのまま舐め続け、逆に言うと舐めることしかせず、それ以上の快感は与えなかった。

 しかしそれも限界だったのか、関羽はついに腰を揺らしながらおねだりし始めた。

 

 「はぁっ、もう、もう挿入れてぇ……はやくっ……」

 

 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、今にもこぼさんばかりに目に涙を貯めて懇願する関羽。さすがにもう限界だろう。

 俺は立ちあがって、彼女の手を握ったままキスをした。男の俺が見上げて、女の関羽が顔を下に向けてするキスも、今ではもう慣れてしまった。

 そのままお互いに体勢を変えて、腰の位置を合わせる。関羽は左足を上げて挿入しやすいようにしてくれる一方、若干腰を降ろして俺の腰の高さに合わせてくれる。

 

 「いくぞ、関羽」

 「ああ……」

 

 そのままずぶりと完全に勃起したそれを、熱く濡れそぼった膣の中に入れ、一番奥に到達したところで「ほぅ……」と息をついた。

 熱くもあり、ぎゅうぎゅうと締め付けるようでいて、やさしく包み込んでくれるかのような感覚。もう何度も味わっているが、いつまで経っても飽きない感触だった。

 俺たちはしばらく動かず、お互いの熱を感じて抱き合ったまま、どちらからともなくキスを続けていた。

 

 「関羽……」

 「んっ、ふぅ……」

 

 舌が絡み合い、お互いの唾液がこれでもかと混ざり合って、口の端からこぼれた分が小麦色の巨乳に落ちていく。それでも甘い何かが感じられるそれをやめられるはずもなく、俺たちはしばらくキスを続けた。

 そしてようやく、俺が腰を動かそうかと、ぷるりと震える胸を両手で揉みながら繋がっているそこを見下ろしたその時。

 突然、驚くほどの大轟音と共に俺たちがいる部屋の扉が蹴り飛ばされ、あっという間に玄関の扉を粉々に破壊されて、外から全裸で繋がってるという俺たちの姿が丸見えになってしまう。

 しかし実際そんなことはどうでもよくて、そんなことよりも――

 

 「あ」

 「む? おまえは……」

 

 問題なのは、そこに立っていたのが俺の知り合い、なんて言葉では説明できないほどの関係の人で――

 

 「ようやく見つけたぞ……この、浮気者がッ」

 

 蹴りを放ったままの格好のせいで、青いメイド服のスカートから純白の下着が丸見えで。

 わなわなと震える両手には青いグローブ、髪も鮮やかな青のボブカットで、左目には眼帯。

 俺と何度も体を重ねた、俺の初体験の相手――恋人になったはずの呂蒙と、何日振りかでついに再会できた瞬間だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 呂蒙子明はこれまでにないほど激怒していた。

 その怒りというものは凄まじく、何も言っていないのに彼女の姿を見た者が「ひぃッ!?」と悲鳴を上げてしまうほどに恐ろしい。鬼や悪魔がいたところで今の彼女ならば数秒で殺害できるだろう。それほどまでに彼女の全身から発される怒りの念というものは凄まじかった。

 しかし本来の彼女は至極冷静で、それほど自分の感情を波立たせるような人間ではない。優れた闘士に見合った精神力を持つ、味方にしておけばまず損はない人材なのである。

 なのにここまで、一目でわかるほどに激怒しているのはなぜか。

 誰も理由は知らなかったが、それは彼女と同棲していたはずの少年がある日を境に行方不明になってしまったからだった。

 

 いつものように学校へ行き、周囲にバレてはいけないからと帰る時間をずらし、それぞれ一人ずつ同じ家に帰る。それが少し前の日常だった。

 だというのにある日を境に、なぜか後から帰ってくるはずの少年は一向に帰ってこず、心配になった呂蒙が彼の家へ赴き、親に聞いても「友達の家で寝泊まりしているはず」と答えるばかり。本来の自分の家へ帰ったわけではないというのだ。

 まさか、と呂蒙は想う。勘が鋭く、頭もいい彼女はすぐに気付いたのだ。

 闘士である自分が理由もわからぬのに彼に惹かれ、同時期に彼女の主君たる孫策という女の子もやたらと彼といっしょに時間を過ごそうとしていた。つまりこれは、何らかの理由で闘士を引き寄せる彼が、誰かに誘拐されてしまったのではないかと。

 

 そう気付いてからの彼女の行動は早かった。

 まず孫策に尋ねて、彼女は悲しげな顔で「知らない」と言うと、ひとまずは主君への疑いは晴れた。嘘をつけるような少女ではないのだ、おそらく彼を連れ去っていたとしたら一発で顔に出るだろう。

 ならばと、呂蒙は頭を使って考え始める。勾玉を持つ闘士という存在は、少ないように思えて意外に多い。一つ一つ当たるしかないにしても、それなりの時間がかかるのは明白だった。

 それでも呂蒙は諦めず、根気強く探し始める。たとえどれほど時間がかかっても見つけ出してみせる、そう想いながら。

 

 それからの彼女はらしくもなく、自分から様々な人間に会いに行って、一人ずつ話を聞いていった。

 本来ならばそれほど好んでいない、緑の髪のツインテールの少女にも会った。感情が読み取りにくい長い黒髪をオールバックにする、暗殺者のような少女にも会った。いつも目を閉じて刀を携行する、剣士のような少女にも会った。

 しかし彼女たちから返ってくる答えは「知らない」というものばかり。

 ならばと呂蒙は可能性が低いと見ていた人物に会いに行く。普段からぽややんとしたメガネの少女に話を聞くと、たまたま傍に居た勝ち気そうなショートカットの少女にも話を聞くことができたのである。

 

 「あ、ひょっとしたら関さんの彼氏さんじゃないですか?」

 「……関羽の……彼氏……?」

 「そうなんですよ。関さん、いつの間にか彼氏さんができてて、最近は学校が終わるとすぐ帰っちゃうんです。私たちも何回か会わせてほしいって頼んだんですけど、全然会わせてくれなくって」

 「その割にはやけに幸せそうな顔でのろけてくんねんなぁ。別に男ができるんはええけど、さすがにあれだけは勘弁してほしいわ」

 「あの関羽が……彼氏……?」

 

 その話を聞いた時、まさか、と呂蒙は想う。

 彼女が知る関羽という女は、どことなく怪しげな雰囲気を持っており、話を聞かせてくれたメガネの女しか愛していないのだと考えていた。いわゆる同性愛者、レズというものだとばかり思っていたのである。

 だが関羽に対するその意見はわりと有名な話で、真実か否かは定かではないにしても、そういった噂を聞いたことがあるのは一人や二人ではないはず。

 そんな女が突然、男を作った。しかも自慢するだけ自慢して一切他人に会わせず、学校が終わるとそそくさと家に帰るという。

 ますます怪しいと睨んだ呂蒙は自分の学業を大事にする一方、以前は自分とも戦ったことがある関羽という女を調べ始めた。

 

 しかしこの女が厄介なのだ。

 現在の住居は全く掴めず、尾行しようにもそもそも呂蒙が成都学園に到着した頃にはすでに姿が見えず、ならばと聞きこみをしたところで誰も知らないという状況。

 それでも諦めずに調査を続けたものの、その労力やかかった時間はかなりなものだ。

 

 しかし、掴んだ。

 本来ならばあまり友好的にしたくない、どうやら話を聞いて面白がっているらしい、自分の宿敵のような緑髪の女からの情報提供によって、ついに彼女の住居を掴むことができた。

 町の中でも特に目立たないところ、とでも言えばいいのか。どうやら以前の家から引っ越したらしい、あまりパッと目立つような場所に立っていない隠れ家のような小さなアパートに、彼女は住んでいるらしい。

 そうして呂蒙は話に聞いた部屋の前に訪れ。

 

 「関羽……」

 「んっ、ふぅ……」

 

 あの仏頂面が似合う女のやけに色っぽい声と、耳にした途端に愛しくてたまらないと思う男の声を聞いたのだ。

 気付けば体が勝手に動き出していた。木で作られた古い扉を一発で蹴り砕き、そのままの体勢で眼帯をしていない方の目を光らせ、室内を見る。

 そしてようやく見つけることができた。

 扉にほど近い廊下だというのに、全裸で抱き合い、明らかに行為の途中だということが分かる接合部分がこちらに見える体勢で二人は固まり、こちらを見る。

 彼女は小さく呟いた。

 

 「ようやく見つけたぞ……この、浮気者がッ」

 



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竜虎相搏つ 2

もっとヤンデレ的なやりとりを書きたかったですけど、思い通りに書けなかったのでわりとあっさりと。


 トンッ、と軽い音がしたかと思った直後には、耳元で恐ろしいほどの風の音が聞こえてきた。かと思いきや、バシッという尋常じゃない大きな音が耳元で轟く。

 見たくない、見たくないと思っていたが、そういうわけにはいかないのだろう。恐る恐る右に目線を向けてみると、俺の顔のすぐ横には、呂蒙が突き出した青いグローブ付きの拳。関羽の左手に受け止められたそれがある。

 次いで恐る恐る振り返ってみると、やっぱりさっき見たとおり、かなり激怒しているらしい呂蒙の顔。ひさしぶりに見る眼帯付きのその顔はやっぱりきれいだが、額に青筋を立ててほしくはなかった。

 認めたくはないがこの現状、恐らくは俺がすぐ傍にいるからまだ始まっていないだけで、俺がいなければ今すぐにでも戦いが始まっていただろう。いや、正確には俺がもう少し離れた場所にいれば、だ。

 なんとなく怖いせいでちらりと確認した呂蒙の顔も、どことなく行為を邪魔されて不機嫌そうな関羽も、きっと今すぐにでも戦い始めてしまう。俺が邪魔にならない場所に行った、その瞬間に。

 つまり現在の俺、大ピンチである。色んな意味で。

 

 「ふ、ふふ、ふっふっふ、どこをほっつき歩いて帰って来ないのかと思えば、まさか他の女と乳繰り合っているとは――これは一体どういうことなんだろうなぁ?」

 

 やばい、完全に怒ってらっしゃる。

 眼帯のせいで片方しか見えない目はギラリと光って俺を見据え、その一方で右手に力を込めて関羽を攻撃しようという意思を見せる。呂蒙の闘士としての姿、しかも俺が見たことがない本気の、と言ってもいいだろう。

 呂蒙は完全にキレていた。思わず俺がぶるりと体を震わせるほど、これまでに見たことがない姿で。

 なのに関羽は多少驚いてはいるものの、余裕を失っているわけではないようで、右手で俺の体をぎゅっと抱き寄せる。全身が触れあっているせいで俺の状態に気付いたようだ。なにせ挿入中だった俺のイチモツが一気に萎えてしまったのだ、仕方ない。

 ブチギレて冷静に話を聞いてくれそうにない呂蒙に向かって、関羽がむっとした声で尋ねる。

 

 「いきなりなんだ、物騒な奴だな。私の旦那が怯えてしまったじゃないか」

 「だんな……? おい、一体何の話だ。というよりそもそも、どうしてこいつがおまえのところに――おまえと体を重ねてるんだ? 今すぐに理由を話せ。今、すぐに。理由によっては、許してやらんこともない。ぐうの音も出ないほど、完全に、私を納得させてくれるというのなら、だが」

 

 右の拳を突き出したまま、左の拳をぎゅっと固く握りしめて、呂蒙は歯をむき出しにしながら怒る。

 対して関羽は俺の体を離すまいと背をぎゅっと抱き寄せ、不満そうな顔でじっと呂蒙を見つめている。

 そしてその二人に挟まれて、泣きべそを掻きながらも全く動けない俺。

 なんという地獄絵図だろうか。恐れていたことがついに起きた。一触即発な闘士に挟まれる一般人など、世界中見渡しても俺以外には一人だっていないに決まってる。

 しかも怖がった俺が不安に悩まされて一層強く関羽に抱きつくと、呂蒙は余計に怒りの念を放出してこちらを睨む。悪循環の繰り返しだ。

 そんな状態で二人は厳しい目を向け合い、落ちついてるように見えてどこか刺々しい声で会話を続ける。いや、会話ってよりかは尋問みたいな感じだけど。

 

 「なぜ? それは決まっているだろう。私と彼は非常に深い仲にある、つまり――すでに夫婦となっているからさ。夫と妻が自宅で体を重ねていて何が悪い?」

 「ほう、夫婦、か。しばらく会っていない内に成都学園の関羽は頭がどうにかしたらしいな。おまえとこいつが夫婦だと? 寝言は寝てから、いや、妄想なら一人で勝手に呟いてろ。そんな話が信じられるわけないだろう」

 「妄想だと……この状況を見てもそう思えるというのか? おまえの突飛な行動のせいで彼は怯え、私に助けを望んで力強く抱きついている。それに私の胸に顔をうずめて、とても気持ちが良さそうだろう。私の体に満足して、必要としてる証だ」

 「フフン、それはどうかな――見ろ、大事な部分がすっかり萎えているぞ。もうおまえの体じゃ感じることができないんじゃないか?」

 「それは――おまえが突然現れたからだろう。おまけに扉を蹴り飛ばして、粉々に破壊して。ここは私たちの愛の巣であると同時に、私の家でもあるんだぞ、どうしてくれる」

 「フン、白々しい。こいつをかっさらうためにわざわざ新しく借りた癖に。計画的な犯行だということはすでにわかっているんだぞ、関羽」

 「証拠でもあるのか?」

 「必要ないさ、おまえには別に興味もないんだから――私は今すぐにこいつを返して欲しいだけ。それさえ終われば何もせずにここから離れる。私からこいつを――私の恋人を横取りしたおまえには何もせずにな」

 「――なに?」

 

 正直俺は二人が話している間、怖くて一切そちらを見ることができなかった。関羽の胸に顔を埋めて、情けなくも小動物のようにぷるぷると震えるばかりだったのだ。

 しかし、恐らく関羽の顔色が変わったであろうことは理解できた。俺の背を抱きしめていた腕にぎゅっと力が入り、俺の頭を胸に押し付けようとするかのように後頭部に手を添えられたから。

 多分この場は俺が何かを言って、二人の喧嘩を止めた方がいいのだと思うが、とてもそんな大それたことできるような状況じゃない。

 不安やら恐怖やらに苛まれる俺は、幼い子供のようにただぎゅっと関羽に抱きつくばかりだ。

 

 「恋人、だと」

 「そんなことも知らなかったのか? ならば重ねて教えてやる――彼の初めてをもらったのは私だよ、関羽。二人でお互いの初めてを交換し合ったんだ――私たちはおまえが横入りしてくるまで、深く深く愛しあってたんだよ」

 「なっ――か、彼の初めてを、だと……」

 「あぁ、そうだとも。こいつに女の体を教えてやったのはこの私だ。そして最も愛している女も、私だ。後から横入りしてきた女なんて眼中にないんだよ」

 「くっ――勝手なことを言うな。彼がそう言ったわけでもあるまいし。私と彼の愛は本物なんだぞ」

 「おや、そうか。勝手なことを言っているのはおまえの方だと思ってたんだが、そう言うか――なら仕方ない。こいつの前でやりたくはなかったが、実力行使するしかないようだな」

 

 俺が何も言わずにいると、止まらずに続く話し合いの流れが妙な方向へ流れていった。しかも一番恐れていた方向だ。

 このままだと二人はすぐにでも喧嘩を、というよりも闘士の本格的な戦いを始めてしまう。しかし現状、関羽は裸で、扉は壊されて外から部屋の中が丸見え。誰かが来たらどう言い訳していいかもわからない状況だ。

 なにより、俺自身が間に挟まってるというのにそんなことを始められたのでは、命がいくつあっても足りない。忘れてはいけないのは、俺はただの一般人、闘士に勝てるはずもない人間である。

 ならばと、ようやく決心を固めた俺は二人に向かって恐る恐る言ってみる。

 

 「あのぅ……二人共、できれば落ちついて話をしませんか……? ほ、ほら、俺たちも服を着てからさ、どこかで座って話でもして、これからのことはそこで決めれば――こ、ここでこのままの状態が続くと、誰かに見られちゃうかもしれないし……」

 

 小さな声で呟かれた俺の声は二人に届いたらしいが、如何せん直後に二人分のギロッという視線を感じた俺は、すぐに頭を下げて「ごめんなさい」と言っていた。

 だって本当に怖かったんだもん。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 結論から言うと、俺の意見は受け入れてもらえた。ただし俺の想像していたものとは違う形で、だが。

 とりあえず俺と関羽は服を着て、先導する呂蒙についていって場所を移動し、壊れた扉から風が入り込むアパートから足を遠ざけた。ただでさえ卑猥な嬌声を響かせてたのに、そこへ扉が壊れるという轟音と、二人の女が言い争う声までしていたのだ。あそこにはもう多分いられない。

 もっともひさしぶりに外へ出られた俺からすれば万々歳だったりする。すぐ傍に俺との距離を測り合って、どっちかが勝手に隣に並ばないようにけん制し合う二人がいなければ、だけど。

 そして俺たちはしばらく歩いた後、ようやくそこへ辿り着いた。

 場所は他でもない、俺の実家だった。

 

 「ええっと……どうして俺の家?」

 「今日はおまえの家族が出かけてていない。話をするにはうってつけだろう」

 「ふむ、確か二泊三日の温泉旅行だったか。出発は今朝だから、時間はたっぷりあるな」

 「……どうして二人はさ、俺が知らない俺の家族の予定を知ってるんだ?」

 

 俺の疑問が明かされることなく、俺たちは今やすでに懐かしさすら感じられる家の中へ、そして俺の部屋へと移動したのだが、話しあいが混迷して二人が実力行使に出たのはわりとすぐのことだった。

 

 「ええいっ、埒が明かん! こうなったら一番早い解決法は一つだ――!」

 「ああ、同感だな。こうなったら最後の方法で解決しよう――」

 「「やはり拳で決めるしか――!」」

 「ちょ、ちょっと待ったァ! 俺の部屋でそれだけは困るッ!」

 

 そして一応俺の言葉に耳を傾けて、考え直してくれたらしい二人がすべての服を脱いで裸になり、俺もまた全裸に剥かれるのに、さほどの時間はかからなかったのである。

 

 「えぇ~……と……」

 

 今、俺の部屋には三人の人間。

 裸の俺と、裸の呂蒙と、裸の関羽が、三人並んでベッドに腰掛け、何も言わない痛々しい時間が続いていた。

 当然、真ん中にいるのはこの俺だ。

 

 「あ、あのー……呂蒙さん? これは一体、どういう……?」

 「本当に、本ッ当に不愉快だが、戦いで決められない以上はこうするしかない――私とおまえ以上に、体の相性がいい組み合わせはない。それを今この場で証明してやるんだ」

 「そ、そうですか……あのー……関羽さんはそれでいいので?」

 「本来ならばこんな不貞行為は許されないのだが、雌雄を決さなければならないというなら、受けて立とう――彼の心も体も満足させられるのは、本妻である私を置いて他にはないのだから」

 「う、うぅ……」

 

 この調子なのである。

 俺が戦いを望んでいないと知った二人はとりあえず拳を納めてくれたのだが全く仲良くしようとはせず、ずっと睨みあうばかり。最終的には「気にいらない」と言って、体の相性でどちらが俺にふさわしいのか決めよう、と不満げな様子を隠しもせずに服を脱いだ。そこに恥じらいはない。

 なにせどちらも、かつて短期間とはいえ俺を監禁しながらひたすら体を重ねていた二人だ。裸なんて何度も見せあっている。

 だからこの瞬間に気にすべきことは彼女たちが服を脱いだことではなく、服を脱いだ後もギスギスした空気が漂っていて、これから何が始められるのかということだ。

 何が始められるのかなんて、気付けないはずもないんだけど。

 

 「まずは私からだ。出会った時期からしても、当然のことだろう」

 

 呂蒙がそう言って、俺の頭を自分の胸に抱え込む。ふにゅりと柔らかい、だけど張りのある感触が頬に当たって心地いい。

 しかし俺の左手をぎゅっと握っていた関羽はやはり面白くないようで、手を握られる力がさらに強まる。

 だけど聞こえてきた声は、予想に反するものだった。

 

 「むぅ……仕方ない。まぁいいだろう――愛する夫の愛人に先を譲ってやって、本妻の余裕を見せつけるのもいいものだからな」

 「こら。誰が愛人で、誰が本妻だ。そもそもおまえら結婚してないだろう――それに、どちらかと言えば本妻は私――」

 「ま、まぁまぁ、ほら、まずは呂蒙からだろ? ち、ちゃんと二人共相手するから、喧嘩はしないで……」

 「「フン……」」

 

 いつまでもいがみ合うことをやめない二人をなんとか止めて、直後に呂蒙が俺の体を抱きしめて、ベッドの上に寝そべった。

 体勢的には正常位に近い形、ただし呂蒙の両腕両足は俺の体をぎゅっと捕まえて離さず、しがみつくような姿になっている。顔が至近距離にまで近くなり、ひさしぶりに見る彼女の顔に思わず心臓が跳ねた。

 顔が熱くなっていくのがわかる。それを見た呂蒙は小さな笑い声を洩らして、徐々に唇を近付けてきた。

 

 「ふふ、どこかの誰かのせいでひさしぶりだな――おまえとこうして、愛情を確認し合うのは……」

 

 柔らかい唇が、俺のそれへと重ねられる。触れるだけのやさしいキス。まるで本当に愛情を確かめあうかのような動作だった。

 俺も彼女に倣って目を閉じ、その感触に集中する。あぁ、確かにそうだ、呂蒙とこうするのも、顔を合わせることすらひどくひさしぶりに感じられる。

 関羽に出会う前は、俺は何度もこうしていた。今はなぜだかその頃の日々が、そんなに時間が経ったわけでもないのに、遠い昔のことのように感じられる。

 

 「むぅ……」

 

 不満そうな関羽の声が聞こえる。心のどこかでは彼女に悪い、と思っているのに、なぜか動くことができない。

 少し時間を置いて感じることが出来た呂蒙の存在。キス自体は関羽と何度も交わしていたはずなのに、彼女とするのとではまた違いがある。

 気付けば俺は、自然と呂蒙の唇に舌を這わせ、一心不乱に吸っていた。両手も半ば勝手に動いて大きな胸をやさしく揉み、腰は一人でに動いて勃起したモノを彼女のそこにすりつけている。

 ひどく心地よい気分だった。ただそうしているだけで、なぜか安心してしまう自分がいることに驚きを隠せない。

 俺はもっと目の前の彼女を感じようと、思うままに体を動かし続けていた。

 

 「んんっ、んむっ、んふぅ――はぁっ、お、落ち着け、はげしすぎ――んっ」

 「んっ、ふっ、ふっ」

 

 乱暴、というよりも丹念に、唇をべろりと舐めまわしていく。同時に両手では柔らかくて、でも張りがあって、いつまで経っても飽きることがない感触の胸を弄ぶ。

 そうしているだけで、自分がなぜか獣になるかのような、自分自身を抑えきれないような錯覚を起こす。これらは自分でしているはずなのに、まるで勝手に体が動いているかのようだ。

 ぐにぐにと白い乳房の形を変えて遊び、戸惑いを見せながら受け入れてくれる口内を舌で荒らし、目を開けたままだんだん蕩けていく彼女の表情を見つめ続ける。

 そんな最中に、すでに十分なほど濡れそぼっていた呂蒙のそこに、半ば無意識に俺のモノを当てていたのだ。

 

 「はぁっ、はぁっ、呂蒙――」

 「んっ、くっ――い、いいぞ。私の準備はできている、いつでもおまえの――あっ、はっ」

 「くぅ……」

 

 呂蒙が答えをくれている間から、挿入を開始してずぶりと肉の中へと沈めていく。そうしてまず感じられたのは吸いついてくるような締め付けと、少しばかりの懐かしさだった。

 

 「んあっ、くふぅ――は、はいった……あぁぁ、これだ、これがほしかっ――んんんっ、あぁっ」

 「はぁっ、くあっ、呂蒙――」

 

 ぎゅうぎゅうと締めつけてくる膣内を感じ、ゆっくりと腰を振り始める。途端に肉の壁は絡みつくように俺の息子を締めつけてきて、呂蒙の声は跳ねるように吐き出される。

 とても気持ちがいい。同時に、安心する感触だ。俺はじっくりとそこを楽しむため、できるだけ速度を抑えて、深くまで先端を押し進める。引き抜く際も急ぎ過ぎず、時たま壁に先端を押しつけるようにしながら動く。そうすると呂蒙は嬉しそうに口の端を歪め、よだれを垂らすことも気にせず嬌声をあげていた。

 しかしこうしていると気持ちいいが、いつまでも淡い快感しか得られず、お互いにとって焦らされるばかりの時間だった。

 そのまま動き続けていると、先に呂蒙が根をあげた。

 

 「んあぁっ、ふっ、うぅ、ど、どうしてこんなに上手く――うぅぅ、はぁぁっ――」

 

 悲鳴のような嬌声を出して、さらに強く抱きついてくる呂蒙。眼帯に覆われていない片目はすっかり潤みきっている。

 これまで見たこともないほど快楽に染められたその目を見て、俺は思わずくすっと笑ってしまった。かつてこれほどまでに我を忘れている呂蒙を見たことがあっただろうか。

 少し気分を良くした俺は、だんだんと腰を振る速度を上げていく。彼女もまた、自分から腰を振って俺の動きに合わせていた。

 

 「んんっ、んっ、んはぁっ――あぁっ、ダメだ、もっと、もっと速くしてっ……」

 「もっと速く?」

 「そ、そうっ――このままだと、んぅっ、頭がおかしくなるっ。は、早くイカせて……」

 

 あの呂蒙が、あのドSのお人が俺に向かってお願いをしている。俺の気分を良くするにはこれ以上ないほどの姿だった。

 興奮が抑えきれなくなって、思わずいきなり腰の動きを大きく、強くしてしまった。先端が勢いよく彼女の最奥にぶつかり、呂蒙が背を逸らしながら目を剥く。

 それでも俺は腰を止めずに、勢いよく前後に動かす。卑猥な水音が響くと同時に、その分だけ快感が伝わってくる。

 俺はぶるりと揺れる巨乳を掴んだまま、彼女を激しく責め立てていた。彼女の赤くなった顔を目で楽しみながら。

 

 「あぁっ、あんっ、んんっ! す、すごい――ひ、ひさしぶりだからっ、感じすぎっ、ああっ!」

 「はぁっ、呂蒙のなか、すごく動いてる――す、吸いこまれそうだ」

 「んんっ、はんっ、突いて――もっと、もっと強くっ」

 「くぅ、呂蒙……」

 

 一突きする度に、可愛い声が室内に広がる。それを聞く俺は必死に腰を動かし、彼女をイカせることに集中する。

 じゅぷじゅぷと音を立てて、自分のベットのシーツを濡らしながら、とにかく膣の中を掻きまわす。次第にお互いの気持ちが高まっていくのは、体を通して理解できた。

 その時、俺の首に手を回していた呂蒙が動き、俺たちの唇が重なる。

 

 「ふっ、んっ、むっ――」

 

 淫らに舌が絡まり、必死な様子でむしゃぶりついてくる呂蒙。

 二人で限界を迎えたのは、その時だった。

 膣内がぎゅうっと締めつけを強くしたことをきっかけとして、俺も呂蒙につられて達する。勢いよく大量の精液を吐き出して、それらをすべて膣へ注ぎこみ、のしかかって唇と腰をぐっと押しつける。呂蒙も俺にしがみつく四肢に力を込めていた。

 どくどくと自分の体から何かが抜けていく感触。それを受け止める呂蒙は、うねうねと膣を動かしている。

 射精は一分近く続いて、見るも無残なほどの大量の精液が放出された。俺たちが繋がり合ったままだったこともあり、入りきらなくなった分があっさりと外へ溢れ出て、尻を伝ってシーツを汚す。

 俺と呂蒙はそれを感じても尚動かず、しばらく抱き合ったままキスを続けて、行為の後味を楽しんでいた。潤んだ瞳は、俺を捉えて離さない。

 その背中へと、焦った様子の関羽の声がかけられた。激しい行為ですっかり忘れていたが、俺はこの後、彼女の相手をしなければならないのである。

 

 「よ、よし、終わったな? じゃあ次は私だ。は、早く交代を――私だってもう限界なんだぞっ」

 

 そういえば、さっきは肝心なところで中断していた。そのせいなのか、関羽はすでに涙目になって自分の秘所に指を這わせ、片手でぺしぺしと俺の尻を叩いている。

 それじゃあ約束通り、彼女の相手も――と、動き出した俺の体は、しかし解放されることはなかった。

 首にまわされた両腕と、腰のあたりに巻かれた両足、そして俺の息子をぎゅっと締めつけた膣によって、俺の頭は再び呂蒙の胸の中へと連れ戻された。

 つまり呂蒙は最初から俺を独占するつもりで、この状況を提案したらしい。おかげで俺は彼女から抱きつかれて解放されず、半勃ちだったモノを深くまで呑みこまれる。

 途端に関羽の顔色が青ざめ、声色が明らかに変わった。

 

 「フン、誰がおまえなんぞに渡すか。こいつは私のものだ。男が欲しいなら他のを探せ」

 「なっ、そ、それでは話が違うだろう!? 私たちが交代に彼の相手をして、どちらが優れているのか勝負するはずだぞ! 早く私にも――!」

 「断る。こいつは元々私のものだったんだ。なぜ無理やり拉致したおまえに渡さなければならない。まぁ、仮にも同じ男を悦ばせたよしみだ、そこで見ながら自慰することだけは許してやるがな」

 「なっ、くっ、このっ――」

 「んんっ、さぁ続きを始めるか――」

 

 当人の俺をそっちのけのまま会話は終わり、また呂蒙の唇が俺のそれを塞ぐ。すぐに舌が絡まり合い、俺は言葉が発せなくなった。

 その間にも呂蒙は自分から腰を振って、今や完全に勃起した俺のモノを擦り始める。さっき以上にどろどろになった膣は元気よく動いているようだ。

 それを見る関羽は、多分相当に怒ってるんだろうけども。

 

 「んっ、んっ、あっ」

 「くぅ、また締め付けが――」

 「うっ、うっ、うぅっ――わ、私もっ……」

 

 呂蒙が必死に腰を振って、上に乗る俺を犯すせいで大きな水音が鳴って、関羽の小さな呟きが遠いものに思えた。

 そのまま俺たちは二回戦に入るわけだが、関羽の手によって俺の尻が叩かれるのは止まらない。非常に弱い力で痛くもないけれど、抗議しようとしているのだけはすぐに理解できる。

 ちらり、と目を閉じる呂蒙にバレないようにそちらを伺ってみた。

 関羽はやはり寂しそうな表情で目を潤ませ、子犬か子猫のような姿で俺をじっと見つめていた。正直、すごく心が痛む。

 なんとか彼女の相手をしてあげたい。そう想いはするが、しかし呂蒙の体に拘束されてるせいでそれも叶わず、しかも気持ちいいから離れたくないし、という激しいジレンマに悩まされる。

 まぁどちらにしても俺の力じゃ呂蒙の力に敵わないんだから、どうすることもできないんだけど。

 

 「んんっ、んんっ、あぁっ」

 「はぁっ、はぁっ」

 

 どちらからともなく腰をぶつけて、胸を揉んで、たまに舌を絡ませる。俺たち二人はこの時間を楽しんでいた。寂しげな関羽を、そのままに。

 しかしやっぱりこのままではいけない。いつの間にか、俺は呂蒙を抱きながらそう思っていた。

 確かに方法はちょっとおかしくて、無理やりなままで過ごした日々だったけど、別段俺もひどいことをされたわけではないし、あれはあれで楽しかった。関羽はずっとやさしくて、俺のことをとても大事にしてくれた。

 それなのに、今になってこの仕打ちはあまりにもひどすぎるだろう。呂蒙には悪いと思うけど、俺は関羽のことも満足させてあげたい。

 しおらしい表情を見せる彼女を見て、俺はすでに決意を固めていた。

 

 「あはぁっ!? そん、なっ、いきなり……はげ、しっ」

 「ふぅ、ふぅ、んんっ」

 

 俺は呂蒙の腰を掴んで、思いっきり力を込めた、奥まで届くようにと腰を振る。ぶつけるようなその動きは呂蒙にかなりの驚きを与えたようで、目を見開きながら舌をピンと伸ばしためずらしい表情が見れた。

 速度を緩めず、必死に彼女の奥まで叩きこむ。激しさに連動して、膣から溢れ出る精液と愛液は音を立てながらシーツの上にばら撒かれ、俺たちの下腹部も濡らす。

 二度目で余裕があるとはいえ、これでは長く我慢できないだろう。その証拠に、俺ももう腰が抜けそうなほどの快感に悩まされていた。

 呂蒙の顔はどんどん限界に近付いている。もうすぐだ。

 最後のひと押しのため、片手で左の乳首を強く抓り、歯を使って右の乳首を強く噛んで、余った手で彼女のクリトリスを強めに捻った。

 すると呂蒙は悲鳴をあげて全身を震わせ、イッた。直後に俺も射精する。

 

 「あぁぁぁぁっ!」

 「うっ、くっ――」

 

 またしても大量の精液が膣内を満たし、勢いよく外まで逆流していった。

 呂蒙はさっき以上の痴態を晒して、足をピンと伸ばしてイッていたようだ。いつの間にか俺の腰辺りに絡みついていた両足は降ろされ、首の後ろで組んでいた腕もするりと解けて、完全に脱力した呂蒙は目を閉じて、荒く呼吸を繰り返しながら横たわる。

 俺はその間に、かなりの名残惜しさを感じつつも動き出し、自分のモノを彼女の中から抜いた。

 そしてベッドの端に腰かけ、俺の動きをじっと見つめていた関羽に向かって声をかける。自分の両腕を、パッと開きながら。

 

 「関羽、おいで」

 

 俺がそう言うと、関羽は表情を一変させて俺を見つめ、ぽろりと一筋の涙を垂らしながら飛びついてきた。

 

 「あ――ああっ」

 

 少し浅黒い裸を抱きとめ、二人でいっしょに立ち上がる。ベッドは気をやったまま帰ってこない呂蒙が独占してるので、立ったままやろうと考えたのだ。

 扉近くの壁に関羽の背を押しつけ、今朝と同じような体勢で向き合う。関羽の胸は俺の胸に当たってむにゅりと形を変え、すでに潤っている秘所とモノとが触れあった。その状態で関羽は片足を上げて、呂蒙がそうしたように俺の尻あたりへ絡みつかせる。今度は彼女が独占する気らしい。

 俺は自分のモノを右手で掴んで狙いを定めると、ぐっと腰を前に突き出した。すると、もう何度も味わった気持ちいい膣の中へ呑みこまれる。

 二人同時に口を開いて、俺は小さく息を吐き、関羽は「あぁっ」と悦んでいた。

 

 「んっ、はっ、来たぁぁ――うあぁっ、くぅっ」

 「はっ、んっ、すごっ――濡れまくってるな、関羽」

 「んんっ、んんんっ、い、言うなぁ……」

 

 挿入した途端に絡みついてくる関羽の膣は、やはり呂蒙のものとは違う。だけどどちらも甲乙つけがたいくらい気持ちよくて、どちらが優れているかなんて決められるはずがない。

 そう想いながらも腰を動かし、ゆっくりと膣の感触を楽しむ。締め付けもあって、包みこむようでもあって、いやらしく絡みついてくる感触。とても気持ちがよくて、安心もできる。

 俺たちは立ったまま、激しく舌を絡ませながら快感を与えあい始めた。ちなみに俺の手はちゃっかり彼女の胸を揉んでたりする。

 

 「あぁっ、んんっ、あんっ、あっ、あっ」

 「はぁ、関羽、関羽っ――」

 

 大量の水滴が繋がってる部分から滴り落ち、床に小さな水たまりを作っている。しかしそんなことも気にせず、二人で協力して快楽を貪る。

 ぐねぐねと動く膣内に包まれながら、できるだけの刺激を与えようと奥まで突っ込み、時には腰を回して壁を抉ったり、関羽の一番感じるところを何度も擦ったりする。

 そうしていると、ベッドの上で復活したらしい呂蒙の声が聞こえた。

 

 「なっ――何をやっている!? こらっ、他の女とはするなと前に言っておいただろう!」

 「い、いや、そうなんだけどさ、やっぱり約束は守らないとダメだって。どっちがいいのか、両方抱いて決めるはずだっただろ?」

 「こ、このバカっ! 私の気持ちも知らずに、そんな――」

 「だ、大丈夫だって呂蒙。あの、その、ふ――二人共満足させるから!」

 

 そう言いながら、俺は尚も腰を振る。関羽の口から洩れる声はどんどん甘くなってきているのだ。絶頂はもう近い。

 ラストスパートをかけるべく、両手で両方の乳首をひっぱり、キスをする。関羽の口の中へ舌を侵入させていると、彼女はすぐに限界を告げてきた。それは俺も同じだ。

 俺が先に膣内で射精を開始すると、関羽も直後に絶頂する。膣内と言わず、全身がぶるぶると大きく震え、俺の背にまわされていた手にぎゅっと力が込められた。

 すべてを出し切ってからモノを引き抜くと、途端に関羽は腰を抜かしてその場に座り込んだ。ハァハァと息は荒く、壁に背を預けたまま動かない。

 俺は何気なく彼女の頭に手を置いて、少し上を見上げさせ、同時に腰を突き出した。関羽は萎えかけている俺のモノを口に銜えて、頭を振る。いわゆるお掃除フェラというやつだ。

 また、怒りに染まった呂蒙の声が聞こえてくる。

 

 「こ、このっ――いつまでそうしてるつもりだ! 早く離れろッ!」

 「お、落ち着いてって呂蒙……も、もうそっちに行くから」

 

 ぐぽっ、とよだれにまみれたモノを口から抜きだし、またすぐに勃起したそれを揺らしながらベッドに近付く。口では色々と言っている呂蒙も、すぐに手を出すようなことはせず、ベッドに腰掛けて身を乗り出しながらもじっとしててくれた。

 俺が呂蒙の目の前まで辿り着くと、呂蒙はすぐに俺のモノを口に銜えた。それも深く、喉まで使って根元まで入れようと。

 どうやら関羽が銜えてたのが気にいらないらしい。自分の唾液で関羽につけられた唾液を取り除くつもりだろう。

 これは、おそらく二人が仲良くなることはなさそうだ。ありえたとしても、かなりの時間がかかるに違いない。

 俺がため息をついている中、呂蒙は熱心に舌を動かしていた。

 

 「えっと、関羽もこっちにおいで。二人でいっしょに相手するからさ」

 「あ、あぁ、わかっ――」

 「ええい、いい加減にしろッ! おまえには私がいればいいんだ! わからないなら、直接わからせてやる!」

 「うわっ、ちょっと――」

 

 関羽が気だるげに動き出したその瞬間に、俺の体は力ずくでベッドに押し倒された。しかもそこにのしかかってきて、すぐに結合を始める呂蒙。呂蒙が腰を振り始めてすぐに関羽も飛びかかるようにそこへ乱入してきて、状況は二人が歯をむき出しにしながら俺を奪い合うようなことになっていた。

 やっぱりこの二人は出会わない方がよかったかもしれない。少なくとも、俺を間に挟んだ状態では。

 そう思いながら、俺は手を伸ばして二人への愛撫を始めていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 いつの間にやら、気付けば部屋の中は真っ暗になっていた。

 それなのに俺たちはいまだに裸のまま、汗まみれになって遊んでいる。全身が精液まみれになった二人がベッドの上で横向きになって抱き合い、舌を絡ませ合って唾液や精液を口に含みながら、交互に俺に突かれていたのだ。

 二人共ベッドについた足は伸ばして、片足を上げて色んな体液でドロドロになっている秘所を俺に向けている。

 今、俺が挿入しているのは呂蒙。初めはなんだかんだと文句を言っていたのに、今となっては何も言わずに関羽と唇を合わせ、互いの口内に舌を這わせている彼女だ。

 あまりにも大量に精液を注ぎこみ過ぎたのか、長時間こうして行為を続けているせいか、もはや呂蒙はされるがまま。それでも膣は俺のモノをきゅっと締め付け、離すまいと動いている。

 だけど俺は、射精する前にそこから引き抜き、すぐ横にある関羽の方へ挿入した。直後に精液を吐き出し、呂蒙ではなく関羽へと膣内射精を行う。

 本来であればひどい行為でも、Mの彼女はこれが結構気にいってるらしい。今回もまた舌を伸ばしてだらしない顔を晒して、そのまま絶頂したようだ。

 代わりにこれは呂蒙が怒る行為なので、「私に出せ」と叱られたりするのだが。

 

 「こ、らぁ……んん、また、関羽に……」

 「ごめん、呂蒙。でも関羽はこれが好きみたいだからさ」

 「あはぁぁ……ま、また、びゅーびゅーって……」

 

 呆けた様子で呟く関羽は、幸せそうだ。対して、呂蒙は赤らめた顔を不満そうにしながら俺を見つめる。

 俺はそれに謝罪の言葉を向けつつ、白い尻を撫で、揉む。同時に関羽のそこにも手を伸ばした。

 二人の柔らかい尻を撫でまわして満足した後は、二人を立たせてベッドから降りる。色々な体液が混ざり合って落ちるシーツはもうドロドロで、一目見ただけで悲惨な姿になっていた。

 それを横目で確認しつつ、立たせた二人へ壁に手をついて足を広げるよう指示して、尻を掲げさせる。

 まっ白いのと、浅黒いの、二つの尻が俺の方へ掲げられて、その時を今か今かと待っているわけだ。

 

 「さて、どっちからにしようか――」

 「わ、私は、さっきの分を出してもらってないぞ……」

 「ふぅ、はぁ――わ、私は一回分、挿れてもらってない……」

 「んー、そうだな。よし」

 

 少し考えるふりをしてから、俺は左側の尻に両手を置いて、腰を突き出す。

 選んだのは浅黒い方、関羽だった。

 

 「あはぁっ」

 

 ずぶりと入った瞬間に関羽の甘い声が暗い室内へ広がる。それを聞く俺は満足感を得て、呂蒙は関羽の顔を見ながら悔しそうに眉を寄せていた。

 腰を振って、自分の一部が関羽の中にずぶずぶ埋まっていくのを感じる。今日だけでも何度目なのかわからないが、やはりそれは気持ちいい。

 俺と関羽は呂蒙に見守られながら、尻の肉を揺らして快楽を貪った。

 

 「あっ、あっ、すごいっ、いいっ」

 

 しかし、何度か腰を振ると、俺は何も言わずに関羽の背後から離れた。瞬間、俺が与える快感に酔い痴れていた関羽は驚き、「えっ」と声を洩らしながら勢いよく後ろを振り返る。

 それを気にしないように目を合わせないまま、俺は呂蒙の後ろに回って彼女の膣に狙いをつける。

 そして、まだ余裕のある自分の息子をそこへ侵入させた。

 

 「んんんっ……んくっ、はっ」

 「はぁ……呂蒙、なかが震えたな。軽くイッたのか?」

 「んんっ、くぅ――う、うるさいっ」

 

 挿入した瞬間、呂蒙は顔を俯かせて背中をぶるりと震わせた。おそらく軽めの絶頂を感じたんだろう。

 だからといって容赦はせず、初めから勢いよく腰を振る。もう何度も繰り返して、もう何度もイッてるんだ。これでも全く問題ないだろう。

 呂蒙は途端に甘い声をあげて、律儀に壁に手を突いたまま俺を受け止める。命令されることへの抵抗感とか、俺たちの本来の立ち位置とか、もう全く気になってないらしい。

 少し気分の良くなった俺はさらに腰の速度を上げて、必死に呂蒙を突きまくる。

 お互い感度が高まっているだけに、同時にイッたのはさほど時間が経ってない頃のことだ。

 

 「あああっ、んんんっ……!」

 「はぁっ、はぁっ、くっ……」

 

 すぐ隣で関羽が見守る中、今度は呂蒙の膣内に射精する。どくどくと竿の部分が何度も脈動し、体から力が抜けると同時に精液が外へと吐き出されていく。

 それがすべて終わって、もう出ないという時まで繋がっていると、突然呂蒙が膝から崩れ落ちて座り込んだ。

 顔を俯かせて、荒い呼吸を繰り返す呂蒙。また絶頂後の余韻を楽しんで、一人でぼうっとしているらしい。

 その間に俺は、お預けを喰らわせた関羽の後ろへ移動する。それだけで関羽は喜びからパッと表情を輝かせ、すぐに壁の方へ顔を向けて尻を高く掲げた。

 肉付きのいいそれを掴んで、再び挿入する。心なしかさっきよりも締まりが強くなった、気がした。

 

 「ああっ、はぁっ、うううっ」

 「――はっ、すごっ……」

 

 ずりずりと力を込めて肉壁を押し上げながら奥へ進み、子宮口を何度か小刻みに叩く。関羽は面白いように反応した。

 小麦色の尻を上下に振って喜びを表し、俺が腰を止めると嫌がるように腰を振って、絶え間ない快感を欲しがる。浅ましくも見えるのに、彼女がすると愛らしいと思える仕草だった。

 仕方がないので俺も腰を振る。モノが奥を突くのに連動して、関羽は悦びの声をあげていた。

 しばらく二人で息を合わせて動き続けて、どれほど経ったか。

 射精が近いことを感じた俺は先に関羽だけをイカせようと考え、汗や精液にまみれる背中に覆いかぶさって胸を掴んだ。手が触れたそこすらも精液がどろりとついていたりするが、気にせず力を込めて揉みしだく。

 そうして油断させたところでぎゅっと乳首を引っ張り、奥を小刻みに突いてやる。すると関羽は高い声を出しながら膣を震わせ、絶頂した。

 それにつられて俺も出しそうになるがなんとかこらえ、急いで膣から引き抜いて右手で扱き、それから射精する。

 小麦色の尻に、目立ちやすい白い液体がどっと降りかかった。

 

 「あぁっ、んんっ、はぁぁ……」

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 関羽もまた、ずるずると壁に手を突いたまま膝を曲げて、床に座り込む。背中を見ただけでもわかるほど疲れ切った姿で、俯いて顔を上げることすらせず荒く呼吸を繰り返している。

 だから俺は、ぼうっとそれを見つめていた呂蒙に近付き、射精したばかりのモノを彼女の口の中に突っ込む。呂蒙もそれを拒まず、口の中に入った途端に舌を絡ませてくれる。

 彼女の舌での奉仕を受けながら、白い精液がへばりつく青いボブカットの髪を撫でて、俺は二人を見ながら声をかけてみた。

 

 「もうそろそろいい加減、飯とか、風呂とか、色々しないとな。腹も減ったし、体中ドロドロだし、部屋の中もきれいにしないと。二人も疲れただろ?」

 「んっ、ふっ、んろぉ」

 「ハァ、ハァ……ああ、そうだな」

 

 呂蒙は俺のを銜えてるせいで答えられなかったけど、関羽はぼんやりとした目を俺に向けてそう答えてくれた。いくらなんでも長くやりすぎた。疲労も溜まってるし、いい加減終わりにしないと。

 とは思いつつ、正気を取り戻したらしい関羽に手招きするあたり、やっぱり俺自身も彼女たちに負けず劣らずどうかしてると思うけど。

 関羽はそれだけで俺の言いたいことがわかったのか、動物のように四つん這いでゆっくりと俺たちの傍までやってくる。そして大口を開けて、先端を銜える呂蒙に倣って、根元に唇を当てて吸い始めた。

 二人の美少女による、丹念な奉仕。丁寧でありながら大胆に行われるそれを感じながら、大きく息を吐く。

 非常に気持ちがよくて、ひどく気分がいい状況だった。

 

 「うっ、ふっ……やっぱ、二人共上手いな……いっしょにやると、なおさらだ」

 「んんっ、ふむっ、じゅぷ――本妻は私だからな」

 「うむっ、むっ、じゅる――何を言う、私が本妻だ」

 「あー、まぁその話はまた今度で……ほら、もうちょっとで出そうだからさ。二人で協力して」

 「「むぅ……」」

 

 そう言うと、二人共素直に従って、協力しながら俺のをねっとりと舐めてくれる。呂蒙が先端を銜えると、関羽が根元に唇を当てて吸う。関羽が交代を望んで先端を銜えると、呂蒙が玉を一つずつ口に入れる。また呂蒙が先端へ移動していくと、今度は二人で同時に舌を伸ばして膨らんだそこを舐めまわす。

 口ではなんだかんだといがみ合う割に、結構息のあった行動だと思う。それに朝の時点よりもよっぽど友好的だし、思っていた以上にいい関係になれるのかもしれない。

 そんなことを考えている内に、快感はどんどん俺の体に溜まっていって、すぐにその時がやってきた。

 ちょうど二人がいっしょに先端を舐めてる時だったので、ちょうどいいだろう。

 

 「ふ、二人共、口開けろっ」

 「「あー」」

 「くぅ、もう出すぞ――で、出るっ」

 

 最後は二人の手がぎゅっと俺の息子を握ってリズムよく上下に扱き、限界に達する。同時に先端から勢いよく精液が発射された。

 宙を舞ってボタボタと二人の顔に落ちるそれは大量で、二人の顔をあっという間に白く染めていく。我ながら量が多すぎる気がするが、自分では制御できないので仕方ない。

 口の中や髪も含め、顔中に精液を塗られた二人は舌を伸ばして、それを口内に導いている。しばらくは自分にかけられたそれを口にしていた二人も、やがてどちらからともなく顔を寄せ合って、お互いの顔に飛んだ分を舐めとっていった。

 美少女二人のそんな姿を見ているだけで、俺の息子はあっさりと反応し、やりすぎだから我慢しなければと思っていた矢先に臨戦態勢に突入する。

 あともう一回だけ。俺がそう思うのにさほど時間はかからなかった。

 

 「よ、よし。呂蒙、関羽、どっちかが仰向けに寝て、どっちかがその上に乗って。そしたら一気に相手できるから」

 「う、上に……? だ、だが」

 「じゃあ私が下になろう。呂蒙、おまえが上に乗れ」

 

 そう言って先に関羽が床に仰向けで寝て、戸惑う呂蒙の手を引く。様々なプレイをしてきた彼女にとっては、三人でしかできない体勢もさほど恥ずかしくはないらしい。

 関羽のそんな態度を見て、渋々呂蒙もそれに従う。二人が上下に体を重ねて、大きな胸が合わさってむにゅっと形を変え、淫らに濡れた秘所が重なりあう。

 二人の合わさったそこを目掛けて、勃起したモノを突きいれる。といっても膣の中に挿入するわけではなく、二人の女性器の間に擦り付け、素股のような状態で快感を得るのである。

 ずりずりと割れ目に擦りつけ、大きくなってるクリトリスにも刺激を与える。二人は同じように嬌声をあげて、悦んでいた。

 二人の姿に、俺もまた気分が良くなる。

 

 「あぁっ、あぁっ、んんんっ、はぁっ」

 「んっ、んぅ、はぁ、あぁっ」

 

 嬉しそうな声を聞きながら何度も腰を前に突き出し、二人の秘所を楽しみ続けて。

 二人の秘所にモノを挟まれながら達して、密着する腹へ精液をぶちまけながら、二人の姿を見て思う。

 

 「くぅっ、ふぅぅ……す、すごい、な……いつの間に、こんな……」

 「はぁっ、はぁっ……もっと、もっと……もっと、欲しい……」

 

 あと、もう一回だけ。

 そんなことを思いながら、俺もどうしようもないやつだ、と自覚しつつ、今度は上に乗る呂蒙の膣へ狙いを定めて腰を突き出す。

 今夜はまだまだ続きそうだった。

 



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歴史が動く時 1

今更になってちょっとストーリーが固まってきました。かなり遅いですけど。
戦国乱世が荒れているなら、やっぱり天下統一を目指さないと。


 小鳥のさえずりと共に目を覚ますと、今日は俺を溺愛して、物理的に片時も離してくれない二人はしかし、俺の部屋のどこにもいなかった。

 それも当たり前だ。なんせ昨日、俺の家族は旅行から帰ってきて、ここ二日間ほどは熱烈に愛してくれる妖艶なお二人と共に自宅で過ごしていたのだが、いきなり会うのはまずいとお帰りになったのだから。っていうか俺が帰らせたんだけど。「ご両親に挨拶を」とか言って、やたらと目を輝かす二人を、説得という名の調教によってなんとか。

 ひさしぶりに会った家族を前に、俺なんかはわりと泣きそうになりながら会話したわけだが、何をしていたのかと聞かれて正直に「誘拐されてたんだよ」と言うと、「あらぁ、そうなの、大変だったわねぇ」とさらりと受け流されて違う意味で泣いた。確かに安全な感じではあったけど、わりと大変だったのに……。

 まぁそれはともかく、一夜終えて、ようやく今日から俺は学生生活に復帰、平穏にとはいかないまでも監禁生活とはおさらばできたわけである。

 そして、家族と過ごす平凡な朝を迎えて、至って普通の朝食を済まし、制服に着替えて鞄を持って、さぁ学校へ行こうと家を出た瞬間。

 なぜだか俺は家のすぐ目の前で声をかけられて足を止め、見たこともない美少女を前にして困惑していたのだ。

 

 「あなたが、あの呂蒙と関羽を射止めた男の子よね? ふぅん――なるほどねぇ……」

 

 緑の髪のツインテール、小麦色の肌、楽しげに笑う顔はどこぞのおとぎ話に出てきそうな意地悪そうな猫にも似てる気がする。

 赤いブレザーの下には何も着てないらしく、パンと張った大きな乳房の谷間が出来ていて、スカートは今にも下着が見えるんじゃないかってほどかなり短く、足元には最近じゃめずらしいルーズソックス。

 一目見ればまず忘れないような、全身から色気をムンムンに出してる人だった。

 その人が俺を見つめて、というよりも全身をじろじろと舐めまわすように見て、何かを納得したかのようにうんうんと頷いている。

 一体これはどういう状況なんだろう。せっかく平穏な生活を取り戻せそうだというのに、その矢先に新たな出会い。嫌な予感しかしない。

 

 「一見すると普通の男だけど、これは確かになんかクルものがあるわね――ねぇあなた、これから時間ある?」

 「は? いや、俺はこれから学校に――」

 「これでも?」

 

 なんだか知らないが俺はこの人に気にいられたらしく、そんな誘い文句を向けられた。だけど学校があるので当然その事実を伝えようとする。

 すると突然、その女の子が俺の手を取って自分の胸へ導き、自分から大ぶりのそれをふにゅりと掴ませた。

 驚いた俺は直後に、ぴきりと全身が硬直する。これは正直、色々な意味でまずいだろう。

 

 「……だめ?」

 「い、いいえっ、時間ならありますっ! 山ほど!」

 「あら、そうなんだ」

 

 朗らかに笑う美女の胸を掴みながら、気付けばそう答えていた俺はきっと悪くない。ただこれをきっかけとして、俺が彼女についていったのは事実。

 

 「それじゃあ行きましょうか。あ、それから、あたしは呂布。これからよろしくね――できることなら、末永く」

 「あ、は、はぁ……」

 

 そうして、俺たちは学校にも行かずに場所を移動して、朝っぱらからそんなところへと訪れていた。

 場所は、俺が生まれて初めて入った、でもすぐにどこなんだかわかる場所。

 つまりは。

 

 「あのー、呂布さん……こ、ここって……」

 「ん? 知らないの? ここ、あたしの知り合いがやってるラブホ――エッチなことをする場所、よ」

 

 彼女が言う通り、ラブホテルと呼ばれる場所へとやってきていたわけである。

 部屋の大半を巨大なベッドが占めており、やたらと広い風呂場があったり、壁に埋められた大きなテレビがあったり、とにかく旅行先で泊まるような部屋ではないことは確かだ。

 そこにいる俺と呂布さんはそのベッドに並んで座り、肩と肩を触れさせながらテレビの方向を向いている。すぐ傍にはテーブルを持ってきて、その上に俺が手にしたこともない飲み物やお菓子なんかを置いている。

 特に目につくのが、明らかに酒だろ、って感じの小さな瓶がいくつか。すべて彼女が部屋にある冷蔵庫から持ってきた物だ。

 いや、百歩譲ってもそれはいいが、そもそもおかしなこの状況はなんなのだろうか。不思議に思う俺は初めての場所と、初対面にしては距離が近すぎる彼女だとかに困惑しつつ、呂布さんの説明を待つ。

 だというのに彼女は何やら楽しそうに、テレビのリモコンを手に持ったのだ。

 

 「い、いや、それはなんとなくわかるけど……俺が言いたいのは、どうして俺たちがここに来たのかということであって――」

 「まぁその話はゆっくりしましょう。ほら、色々飲んだり食べたりしながらさ。それにタダで色んなDVDを見れたりするのよ。知り合いのコネもあって安く使えるしさ、時間を忘れて楽しみましょう」

 「いや……でもさ――あ」

 「うふふ、こういうのは好き?」

 

 リモコンの操作によって電源がつけられたテレビは、すぐにある映像を流し始めた。それはいいのだが、何かのDVDを再生して流しているらしいそれは、今この状況ではあまりにもまずいものだ。

 要するに、明らかにエロDVDだろってことが丸わかりな、情事の最中の映像が始まっていた。きれいな女の人が甲高い声で叫んで、男の人がいやらしい言葉を呟いている。

 それを見せられた俺は、呂布さんが密着していることもあって顔を熱くしながら硬直する。呂布さんは楽しそうに笑っていたけれど。

 

 「気にいらなかったら別のに変えていいわよ? 単体、企画、SMもレイプもナンパ物とかもあるし、野外とかスカトロも揃ってるから。あなたが見たい物――興奮する物を選んでくれれば」

 「も、もう、なんでも……」

 「そう? それじゃあほら、ちょっと飲みながら話しましょうか。ふふ、そんなに緊張しなくてもいいからね」

 「は、はぁ……」

 

 テレビのスピーカーから聞こえてくる女の人の嬌声を聞きながら、呂布さんに手渡された瓶を傾ける。すると、口に入り込んできた液体は予想していた通り、若干の酒精が感じられる弱い酒だった。飲みやすくてどちらかと言うとジュースに近いから、カクテルとかそういうものなのかもしれない。

 しかし正直に言うと、味なんてほとんどわからない。なにせ女の子とラブホテルで二人きり、目の前には激しい情事の映像、そして隣には俺の肩へ頭を預ける美女。

 いくら童貞を卒業したとは言っても、女の子の扱いなんて全く学んでいない俺に、上手く対応できるはずもない状況だった。

 呂布さんは俺にしなだれかかって、楽しそうな声色で聞いてくる。

 

 「お酒は初めて?」

 「あ、あぁ……一度も、飲んだことない」

 「ふふ、そう。実はあたしも初めて。ここに来る時はやることが決まってるからね。あたしもね、男との経験は何人かあるけど、最近の相手もここを使ったのも女の子とだけ。いつもあたしがリードを取って、部屋に入ったらすぐ脱がして、ベッドに放り込んで、ずっとエッチしてるから、こんな風にゆっくりすることなんかないの」

 「へ、へぇ……そうなんだ……」

 「ふむ、そんなに悪くはないわね。あんまりたくさんもいらないけど――あなたはどう?」

 「お、俺は、まぁまぁ、かな」

 「そう」

 

 二人で並んでベッドに座り、酒を口にしながらAVを見る。なんという大人で卑猥な光景だろう。

 それを俺がやっているのだと思うと心臓が大きく跳ねて仕方がない。しかも隣にいるのは初対面で、俺をこの場へ連れてきた美女。心の中を埋めるのが緊張なのか、期待なのか、それすらもわからない。

 そして尚も、たどたどしい俺の返答に気を悪くした様子もなく、呂布さんの声がテレビの声に負けずに俺の耳へと届く。

 

 「そんなに緊張しないで。もっとリラックスして、楽しんでくれればいいの。この場所や、この時間、あたしのことも――ねぇ、あたしが飲ませてあげようか?」

 「へ? あ、いや、別に――」

 「貸して。やってあげる――ん」

 

 突然、呂布さんの手が俺が持っていた瓶を取り上げる。すると彼女はそれを自分の口元へと運んで、口をつけ、中身を口内に含む。

 自分が飲むのか、とか、間接キスだ、とか思っていると、呂布さんがベッドの上に膝をついて体勢を変える。

 彼女は、身を乗り出して俺の顔を覗き込み、目を閉じながら徐々に唇を近付けてきた。わけがわからず混乱してる俺が動けない間に。

 

 「ん――」

 

 そして、キスをされた。直後には舌を使って唇が割られ、口と口とが深く重なりあい、生温かい液体が口の中へと注ぎこまれる。

 あぁ、あたしが飲ませるって、口うつしのことか。そう気付いたのは、呂布さんが俺の舌にぬるりと動くそれを少しだけ絡め、柔らかい感触が唇から離れていった時のこと。

 何も言えずに離れていく呂布さんの顔を見つめていると、猫科を連想させる目はひどく上機嫌に笑っていた。

 

 「うふふ、こうした方がおいしいでしょ――もっと欲しい?」

 「あ……ほ、欲しい。今の方が、いい」

 「ふふ、わかったわ。じゃあ今度は自分から口を開けて」

 

 彼女に言われるがまま、即座に口を開ける。我ながら情けない姿だとは思うが、この囁きに勝てる男なんてきっといないだろう。

 呂布さんは笑みを深めつつ、再び口内に酒を含んでから、さっきと同じように唇を突き出してくる。俺も目を閉じて、それを受け入れた。

 口内に注がれる酒は、正直言ってどうでもいい。別にこれがウーロン茶でも緑茶でもジュースでもいいし、なんだったら醤油か何かでも飲み干せる気がする。そんなことよりも大事なのは、自分では一切手を使わずに、呂布さんの口から飲まされるということだ。

 俺は一瞬にして彼女の雰囲気に呑まれていた。口うつしという行為はひどく心地よく、目の前にあるAVよりもよっぽど興奮する。しかも目的はキスではなく飲み物を飲ませることなので、俺がそれを飲んでしまえば唇は自然と離れて行ってしまう。それがまたもどかしくて、もう一度して欲しい、という想いを掻きたてる。

 何も言っていないのに、唇を離した呂布さんはそんな俺の感情を読み取ったのか、片手に持った瓶を掲げる。

 しかし彼女は俺が望んでいることではないことを言っていた。もっともそれもまた魅力的な提案だったんだけど。

 

 「ねぇ、あたしもあなたと同じ物が飲みたいの――飲ませてくれる?」

 「うっ、も、もちろん」

 「ありがと。それじゃ、これ――」

 

 瓶を手渡され、俺はすぐにそれに口をつけた。中身を少量口に含んで、呂布さんの顔を見る。

 彼女は俺に瓶を渡した後、少し移動して、俺の右足に尻を置き、胸に頭を預けてきた。だから俺の顔は俯くかのように下を向いて、上目遣いに顔を見つめてくる呂布さんの唇に狙いをつける。

 再び、柔らかい感触。ただし今度は俺の口内から液体を送り、呂布さんがそれをすべて受け止め、こくんと喉を鳴らして飲み干す。しかし今度の主導権は俺が握っているせいで、唇はすぐには離れず、俺の舌が彼女の口内から戻ってくることもない。

 きれいに並んだ白い歯に舌先を当て、左右に上下にと動かし、頬の裏側にも舌を這わせて、受け入れるように俺の舌を追ってくる舌と絡み合う。ひどく淫靡な遊びだった。

 俺がいつまでも口を離さず、そうして遊んでいると、ズボンの股間部分に手が触れた。もうパンパンに膨らんでいるそこを、呂布さんのしなやかな指が這っていたのだ。

 思わず唇を離して、目を開ける。呂布さんはそんな俺と目を合わして微笑み、やさしい声色で語りかけてくる。

 

 「んっ……もっと飲ましてあげたいけど、ちょっとズボンが邪魔ね。こんなになってるなら、早く外に出してあげないと可哀そうだもの。だから――ズボン、脱いでくれる?」

 「あっ、う、で、でも――」

 「あたしもいっしょに脱いであげる。その後はまたこうして、ゆっくり楽しみましょう? ――だめ?」

 「……ッ! ぬ、ぬぎますっ、今すぐ!」

 「うふふ、ありがと」

 

 初めは羞恥心とか、戸惑いとかもあったけど、彼女にそう言われた瞬間すべてが吹っ飛んだ。

 俺は急いでズボンを脱ごうと制服のベルトに手をかけ、呂布さんに見られながら体を動かす。

 その後は当然、俺が望んでいた最高の時間が待っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ラブホテルの中である。ならばそうした行為もさほどおかしなものではない。

 おかしな点と言えば、普段はなんだかんだと正気を保っているはずの少年が、めずらしく自分らしさを失くしていたことだろう。

 彼は今、全裸でベッドの端に座り、ぼんやりとアダルトビデオを映すテレビを見つめながら、股間にある緑色の髪を撫でている。左手には中身が入った缶が握られており、飲み物を喉に通しながらぼーっとしているわけである。

 その彼の股間に口をつける少女、呂布は熱心に少年の陰茎を口に含んでいた。何かを命令されたわけでもないのに、彼の隣に座ったまま上体を傾かせ、片手を動かすと同時に口で愛撫を続けている。

 右手は竿の部分を上下に強く扱き、口の中に迎え入れた亀頭は頬をすぼませて強く吸い、先端の割れ目には舌を這わせて、目を閉じて行為に耽る。ひどく慣れた様子で、男の喜ぶ場所が手に取るようにわかるかのような、そんな姿であった。

 少年は何も言わず、右手で呂布の頭を撫でながら酒を飲む。慣れない飲み物を口にし続けたせいか、その顔は一目でわかるほど赤く、彼が酔っ払っているのは明らかである。

 それでも少年はそれを飲むことをやめず、やけに据わった目でアダルトビデオを見続けていた。テレビの中では一組の男女が、森の中で裸になって性行為をしている。

 ぽつりと、少年が小さく呟いた。

 

 「呂布」

 「んっ、ちゅ、んむぅ――ぷはっ。なぁに? 今いいとこなのに――」

 「立ちバックをしよう」

 「え? ……あぁ、AVでやってるのね。んー、最初は正常位で、と思ってたけど――まぁいいか」

 「それじゃあ立って。壁に手をついて」

 「もう、焦らないで。時間はたっぷりあるんだから」

 

 ゆらりと立ちあがり、ベッドから降りて壁へと移動する少年は妙な雰囲気を纏っており、それは呂布もまた気付いていた。

 酔っぱらうまではおどおどして落ち着きがなく、まるで初体験すらまだのような雰囲気を持っていた。それが酒が回るにつれて変貌していき、どこか命令口調で話すようになっていたのだ。それも目つきを悪くして、明らかに性質の悪い酔い方を見せている。

 彼は呂布に壁へ手をついて腰を突き出すよう指示すると、忠実にそう行動する彼女の背後に立って、勃起した陰茎を右手で掴んだ。

 ぬるり、と水っぽさを感じられる柔らかい肉を亀頭で感じ、すぐに腰を突き出す。少年の陰茎は見る見るうちに呂布の膣へと呑みこまれていき、巧みに絡みつくそこを深くまで味わう。

 呂布の膣は、男を悦ばせる動きを知っているものだった。

 

 「あっ、はぁぁ……き、きたぁ――んんっ、これ、これが欲しかったのっ」

 

 締めつけがあり、絡みつく動きは呂蒙や関羽のそれとは違う。少年の感じる部分はどこかと探り、見つけて、そこを集中的に責めたり、弱弱しく全体を包んだりと忙しない。しかしそれらがすべて、少年への快感となっているのだ。

 少年は小さなうめき声を出しつつ、じっと呂布の尻を見つめ、両手でそこを掴んだまま腰を振っている。潤ったそこは小さな音を立てながらも陰茎を銜えて離さず、ずるずると肥大化した亀頭に抉られることを享受する。

 呂布は顔を紅潮させて嬉しそうに声をあげ、少年は気合の入った無表情で彼女を突く。

 二人きりの室内には途端に彼女の甘い声が広がり、テレビから流れる嬌声と混じり合った。

 

 「あっ、あっ、んっ、んっ――はっ、あっ」

 

 一定のリズムで前後する腰に合わせて、呂布の声もリズムよく吐かれる。

 少年にしてはめずらしい、時間をかけた性交だった。いつもは感度がよいせいか、それとも本人に根気がないせいか、わりとあっさり射精し、持ち前の異常な回復力で回数をこなすのに対し、現在は何分も同じ体位で行為を続けていたのだ。

 おかげで二人の体は大量の汗が噴き出して、人間というよりも獣のような姿だった。

 快楽を貪り、肉体だけを求めて、顔すら向き合わずに背中越しに行為をする。

 そのまま二人は佳境に入っていたアダルトビデオが終わるまでその体位を続け、少年がテレビに流れる映像が次のものになったことに気付くと、固いままの陰茎はずるりと抜かれた。

 直後に支えを失くした呂布は膝の力を抜いて座り込み、荒い息を繰り返す。少年はその後ろにまわりこんでしゃがみ、汗が垂れる大きな乳房へと手を這わせた。ひどく遠慮のない、力のこもった動きだった。

 

 「あっ、んっ、はっ――もう、ちょっと強すぎるわよ……もうちょっとやさしくして」

 「ハァ、ハァ、ハァ……呂布……」

 「んんっ、もう、ちゃんと聞いて――あっ、あっ、あぁっ」

 

 言葉ではそう語る呂布も、少年の胸に背を預けて、すぐ傍に来た顔を覗き込み、悦楽に染まった声で鳴き続ける。そればかりか口づけを望むかのおように唇を尖らせ、熱心に胸を見つめて揉む彼の頬に触れさせる。

 少年はそこで気付き、彼女とキスをした。舌を伸ばしてべろりと舐め、自分を迎え入れるように舌を動かす呂布の口内へと侵入する。

 その一方で両手はいやらしく動いており、張りのある乳房を下から掬い上げるかのように揉み、指を使って乳首を摘み、時には引っ張ったりひねったりもする。

 呂布を気持ちよくさせるためというより、自分のためだけの、自分の好奇心を満たすための行為にも見える。愛撫というよりも女体を弄んだ研究のようだ。

 少年は飽きもせずに乳房を力強く揉みしだき、その動きの度に呂布が甘い声をあげる。

 ふと、少年は手を止めて立ちあがると、呂布を横抱きにしてベッドの上へと歩いて行った。そこへ彼女の体を放り、大の字に寝かせた後に自身もベッドに乗る。

 

 「呂布、正常位でしよう」

 「んんっ、んぅ……はぁっ、い、いいわ。い、いれてぇ――あたしのおまんこ、あなたのチンポでぐちゃぐちゃに掻きまわしてぇ……」

 

 言われた人間すら赤面しそうなセリフを吐いて、呂布は足を広げると同時に、自分の両手を使って秘所を大きく開いた。割れ目の端に指を置き、両側に引っ張ると、少しくすんだ色をしているそこが少年の眼前へと露わになる。

 少年は小さく頷き、さほど表情も変えずに腰を動かして挿入を開始した。再びずぶりと陰茎が膣に入り込み、激しいピストン運動が開始される。

 呂布はそれを嬉しそうに受け入れ、ぶるぶると揺れる乳房を両手で掴まれながら、またしても甘い声を出していた。

 激しさと同時に、ひどい淫靡さを感じさせる男と女の性交。それはテレビで流れている、本業のそれよりも淫らに見える。

 

 「あぁっ、うんんっ、あはぁっ、はぁっ! だ、だめっ、はげし――!」

 「くぅ、この淫乱女がッ……いいかっ! おまえを抱いていいのはこの俺だけだッ! もう二度と他の男に股を開くなよっ! わかったか呂布!」

 「はぁぁっ、はぁっ、はいぃぃっ! わかりましたぁっ、もう二度と、んんっ、あなた以外の男に股は開きませぇぇんっ!」

 「そうだ、それでいいんだッ! おらっ、わかったらもっと中を締めろ!」

 「はぁぁぁんっ!」

 

 突然叫びだした少年は語気も荒くそう命令し、呂布の胸を痛いほどに掴んで必死に腰を振るう。あまりにも唐突な発言ではあったが、しかしそうされる呂布も嫌がってる風には見えず、むしろそう言ってもらえて嬉しいとばかりに口元を歪め、口の端からよだれを垂らしていた。

 蜜壺から溢れる愛液もより一層に分泌され、ぴゅっぴゅと小さく噴き出しながら、ぐちょぐちょと音を立てつつ貫かれている。

 二人の興奮はなぜかこの瞬間を持って非常に高まっていた。少年が動かす腰はかつてないほど滑らかに動き、陰茎は固く膨張し、ずるずると肉の壁を擦る亀頭は絶えず透明な液を垂れ流している。

 それを受け入れる呂布もまた浅ましく舌を伸ばし、されるがままに体を揺り動かされ、触れられる場所から快感を得て嬌声をあげている。

 まるで狂っているかのような痴態だ。酒に呑まれた少年と、それすらを受け止める少女、どちらも普通ではない。

 

 「うぅ、くぅっ、イクぞ! 種付けしてやるっ、お、俺の子供を孕めっ!」

 「あはぁっ! 孕ませてぇっ! あなたの赤ちゃん、いっぱい、いっぱい孕ませてっ!」

 「うぅぅ、おぉぉっ」

 「ああぁぁぁっ!」

 

 うめき声と大絶叫が重なり合い、ずいぶんと大きくしたテレビの音量すらかき消すそれが放たれると、少年は射精して呂布の膣内を汚し、彼女もそれを受けて絶頂した。

 常人よりも多い精液が一瞬で膣内を満たし、ごぽっと音を立てて外へと溢れだす。しかもその最中にも少年は腰を動かし続けるため、放たれる傍から掻きまわされてさらに外へ溢れ出る。

 射精を終えて、数度腰を振った後に陰茎が抜かれると、呂布のそこからはドロドロと濃厚な精液が出てくる。

 少年は膝立ちになってベッドの上を移動し、彼女の頭を跨ぐと、萎えた陰茎を唇に押しつけた。すると呂布もぼうっとした目をそちらに向けて、自然と口を開ける。

 そのまま、ぼうっとしたままのフェラチオが開始された。

 

 「んっ、むぐっ、んんんっ」

 「ハァ、ハァ――呂布、パイズリしてくれ」

 「んっ、んっ、ふむぅ――は、はい……ど、どうぞ、あたしの胸で気持ちよくなって」

 

 口の中で瞬く間に大きくなり、陰茎が再び勃起した。しかし少年の命令により、べったりと唾液のついたそれは呂布の胸元へと移動して、小麦色の張りの良い巨乳に挟まれる。

 むにゅりと柔らかい感触が左右から肉棒を包み、潤滑油がたっぷりついていることもあって、少年はすぐさま腰を前後させる。動きに合わせて寄せられた乳房がぷるぷると揺れ、勃起した乳首がツンと少年の方を向く。

 おもむろに両手を伸ばし、指で乳首を摘んで引っ張る少年。その行動を受けた呂布は首を逸らして悦び、だらしなくも舌を伸ばしていた。

 

 「あぁっ、はぁっ、すごいおっぱいだな……柔らかいのに張りがあって、マンコに突っ込んでるのと同じくらい気持ちいい……」

 「んんあっ、はぁぁっ、う、嬉しい――あ、あたしのおっぱいまんこ、好きなだけ使ってぇ……」

 「ああ、使ってやる、上でも下でも孕ませてやるっ」

 「あぁっ、嬉しいっ――んんっ、んくっ、あはぁっ」

 

 乳首をぐりぐりと抓られながら、少年の腰はリズムよく振られていく。その度に彼の下腹部が胸に当たり、小麦色の乳房がたぷんと跳ねた。

 しかしある時、少年は乳房の間から肉棒を取り出し、改めて呂布の口へと挿入する。彼女が苦しげな声を出すほどに深く突きいれ、喉に先端が届くような状態で腰を振り始めたのだ。

 初めこそ抵抗を見せた呂布も、すぐに目をぎゅっと閉じて少年を受け入れ、文句の一つもなく口をすぼめて陰茎に吸いつく。

 しかし十回も腰を動かすと、少年はまた肉棒を抜いて位置を変え、今度はぶらりと垂れ下がる玉を彼女の口へと運んだ。呂布も素直に口で吸いつき、舌で刺激する。

 少年が限界を迎えたのはその頃だった。彼は自分の手で竿を激しく扱き、亀頭を呂布の顔に押しつけながら喘いだ。

 

 「呂布、呂布っ、もう限界だ――だ、出すぞっ」

 「か、かけてっ、あたしの顔に全部っ」

 「うっ、うぅっ」

 

 またしても射精が始まり、大量の精液が呂布の顔へと降りかかる。べたべたと粘つくそれは彼女の顔面すべてを塗り替え、白く染め上げる。

 どくどくと何度も肉棒が脈動し、その度に飛び出る液体は外すことなく呂布の顔へと放たれ、やがては尽きる。

 すべてを出し終えた後、息を荒くした少年は彼女を跨いだままじっと動かず、胸を揉みながら休憩を取った。呂布もまた幸せそうに目を閉じ、指で精液に触れたり、舌を伸ばして口に含んだりと楽しんでいる。

 しばらく止まったまま息を整えた二人だったが、またも少年の方から動き出し、ベッドに背を預けて動かない呂布を抱き上げ、歩き出した。

 

 「呂布、風呂場に行こう。さっき言ってたやつ、やってくれ」

 「ええ、いいわよ――うふふ、いっぱい気持ちよくしてくれたお返しに、あなたのこともいっぱい気持ちよくしてあげる」

 

 そう語る二人は風呂場に行き、いそいそと準備を始めて、すぐに終えた。

 始められるようになった後、まず少年は青いマットの上へと寝転ぶ。最初はうつ伏せで、と言われた通りにうつ伏せになっている。

 その傍では顔についていた精液を落とした呂布が、桶に入ったやけにねっとりとした透明な液体を手で掻き混ぜており、それを自分の体に塗りたくり始めた。

 小麦色の肌に光を反射するほどねっとりとした液体、ローションが絡み、その状態で呂布は少年の背へと己が体を重ねる。

 それが酒を飲み始めて少しの頃、呂布の方から提案したサービス、ローションプレイだったのだ。

 

 「うふふふ、それじゃあ始めるわよ――まずは全身に塗らないとねー」

 

 そう言って呂布は動きだし、自身の体に塗ったローションを、体を動かして少年の体へと塗っていく。大きな胸がぐにゃりと形を変え、鍛えた腹筋も肉付きのいい太ももも、無毛の股間すらもナメクジのように少年の体を這いまわる。

 時間をかけて丁寧に、自分の体を楽しませるかのように動いた呂布は少年の背中側全体にローションを塗り終えると、初めから決めていたかのようにするすると尻のあたりまで下がっていった。

 そして初めからもくろんでいた通り、少年の尻に両手を置くと、開くためにぐっと指先に力を込めた。直後には広げられた谷間に、赤い舌が迷いなくすっと挿しこまれる。

 

 「うっ――」

 「んふふ、ここも気持ちいいのね? じっくり舐めてあげる――んちゅ」

 

 言葉の通り、呂布は少年の尻の穴へ舌を這わせ始めた。

 まずは舌を伸ばしてねっとりと尻を舐めていき、焦らすようにゆっくり動いた後に、徐々に尻の奥へ向かって舌が這いまわり、最終的には尻の穴をちろちろと舐める。

 彼女の動きはそればかりでは終わらず、尻を刺激したかと思えばまた動き出し、自身の股を少年の足に押しつけて腰を動かしたり、少年の背に舌を這わせたり、勃起した乳首で尻の穴を刺激したりと次々に動きを変えていた。

 しかし最終的にはまた顔を尻の前まで持っていき、舌を伸ばして丁寧な愛撫を始める。自ら提案するだけあって、中々に慣れた手つきであった。

 少年は何も言わずにそれを受け入れ、されるがままにじっとしていた。とはいえ、酒に酔って強気になった彼がただ黙っているはずもなく、ついには自分から体をひっくり返して呂布を見る。

 仰向けになった彼は勃起した陰茎を指さし、ただ一言「跨げ」と言う。呂布はそれを聞いてくすぐったそうに身をよじった。

 

 「ふふ、はぁい――やっぱり気持ちよくされるより、気持ちよくする方が好きなのかしら?」

 「早く」

 「わかったわ……それじゃあたっぷり可愛がって――あんっ」

 

 呂布が先っぽを挿入すると同時に、少年は彼女の腰を掴んで勢いよく突きあげる。

 そこからは一方的に少年が主導権を握っていた。呂布は騎乗位の格好で激しく喘ぎ、顔を紅潮させながら胸をぶるりと揺らす。膣内は亀頭に抉られ、いともあっさりと少年の物として認識し、彼の陰茎に合う形へとなっていく。

 少年もまたその感触を楽しみ、飽きることなく何度も突いた。たとえ呂布が快感を得過ぎて悲鳴をあげようとも、休憩を求めて逃げるように接合を解こうとも、少年は呂布の体にのしかかり、何度も彼女を抱いたのだ。

 

 「あぁっ、いやぁっ、だめぇっ――お、おかしくなるぅっ」

 「くっ、はっ、呂布――」

 「あぁぁっ、だめっ――んんんんっ」

 

 彼らの性交が終わったのは、朝から始まって深夜を越えた頃。

 何発射精したのか、もはや数える方が億劫な頃だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 朝、目覚めてまず気付くことができたのは、なぜだか頭が結構痛いということ。

 それから、あの二人は俺の家から帰ったはずなのに、なぜか股間が気持ちいいということだった。

 

 「んっ、ふむっ、じゅる、ちゅ――あ、起きた?」

 

 次に目を開けて、ガンガン痛む頭を押さえながら部屋の中を見ると、そこはどうしてか俺の部屋ではないことに気付く。一体どういうことだ、と思わず狼狽してしまった。

 しかし、俺の股間に顔を埋めていた女の子の顔を見て、大体のことを思い出す。

 そうだ、俺は彼女といっしょにラブホへ来たんだ。そしてAVを見ながら酒を飲んで、初対面のこの子、呂布さんとイチャイチャして――それからどうなったというのだろうか。

 あぁ、でも、何も教えられなくても大体予想できる。だって呂布さんは裸だし、俺も裸でイチモツを大きくしてるし、それを彼女が丁寧にぺろぺろと舐めてるし。

 つまり俺はまたしても経験人数を増やしてしまったようだ。しかも困ったことに、その情景を一切覚えていないというのに。

 

 「おはよう、ダーリン。よく眠れた?」

 「だ、だーりん? それは、なんでしょうか、ひょっとして俺のこと?」

 「ええ、そうよ。だって――うふふ。ねぇ、ちょっとだけ話、聞いてくれる?」

 「え、あ、あぁ……」

 「あのね。実はあたし、病気だったの」

 

 朝勃ちしてらっしゃる俺のモノを掴みながら、可愛らしい笑顔でそこに頬ずりする呂布さん。確かに外見は愛らしいが、どことなく昨日と雰囲気が違って、だけどエロいことに変わりはない。

 そしていきなりの驚愕の事実。彼女が、病気だった? 病気なのに俺とイタしてしまった?

 顔面からさっと血の気が失せたのが理解できた。

 

 「あ、でも大丈夫よ? 性病とかじゃないから。もっと違う――ちょっと命にかかわるようなもので、治せないって言われてる病気」

 「そ、そうだったのか……」

 「うん、でもね、あなたとエッチした後、寝て起きてびっくりしたんだけどさ――すっごく体が楽になってたの! 詳しい理由は全くわからないけど、多分あなたとエッチしたからだと思う。ひょっとしたら病気が治りかけてるのかもしれない」

 「へ――俺と?」

 

 この子は一体何を言ってらっしゃるのだろうか。俺とエッチをしたから、病気が治った? ドッキリか何かかな?

 しかしそう語る呂布さんの顔はやけに嬉しそうで、嘘を言っているようには見えない。いや、嘘が上手い人だとしたら別だけど、俺はそこまで彼女のことを知らないし。

 困惑が止まらずに頭を悩ませている途中、呂布さんが続けて言ってくる。

 

 「まだ詳しい検査したわけじゃないけど、可能性は高いと思うわ。自分の体のことだもの、自分が一番わかってるつもり。――あなたとのエッチがあたしを変えたのよ」

 「いや、まさか、そんな無茶苦茶な――う、嘘じゃないの?」

 「嘘なんかつかないわよ。だってあたし、もうあなたにメロメロなんだから。ただでさえハマるほどエッチが上手くて、まんこの形が専用に変わっちゃうほど犯されたのに、命まで救われちゃったらもう――うふふ、これからはあたしのすべて、あなたに捧げるわ」

 「そ、そんな急に……だ、ダメだって! お、俺にはその、なんて説明したらいいか――ち、近しい関係の人がいて」

 「あぁ、それはいいの。呂蒙と関羽でしょ? あたしは容認するわよ――新たな覇を唱えるには、女闘士が三人だけじゃ少なすぎるくらいだもの」

 「へ? それって、どういう意味――」

 「だ・か・ら」

 

 俺の息子に頬ずりをしていた呂布さんが体を動かし、仰向けに寝る俺を跨いだ。そのまま腰を降ろして接合を開始し、ゆっくりと腰を上下させる。

 ひどく気持ちいい感触に包まれ、思わず息を呑んでしまった。だけどこの感触は、覚えてないだけでもう味わっていたんだろう。呂布さんは酒に酔ったみたいにやけに気持ちよさそうな顔になっている。

 

 「はぁぁ……あたしも、呂蒙も、関羽も、みんな愛してくれればいい――みんなあなたの女にすればいいのよ。あなたにはそれだけの魅力があるんだから」

 「ちょ、ちょっと待ってって、そんな急に――」

 「あっ、あっ、あっ、あっ――」

 「うぅ、くぅ」

 

 なんだか知らないがやけに上機嫌で、やけに懐かれてしまったみたいだ。俺の上に乗る呂布さんは、上機嫌に俺を犯してくる。されるがままの俺も嫌がってるわけではないので、犯されるというのはおかしいのかもしれないけど。

 寝起きに舐められてるのとは違って、今の方がよっぽど快感が大きい。彼女のなかはとても暖かくて、刺激が強くて、別の生き物みたいに淫らに絡みついてくる。

 起きたばっかりで頭が上手く働いてないせい、だと思いたいが、俺はあっという間に果てていた。暖かい呂布さんに包まれながら、どくどくと射精を始める。

 

 「ふぁあああっ、こ、これぇ……!」

 

 呂布さんの腰が一層俺の腰に押しつけられ、ぐりぐりとまわされる。さらに刺激が強くなって、なかがぐねぐね動いていた。

 なぜか妙に安心したまま最後まで射精し終わると、呂布さんの体がぱたりと胸の上に倒れてくる。彼女は幸せそうに口元をゆるめて、目を閉じていた。

 やけに俺を信頼してくれてるような姿だが、なぜこんな関係になってるのだろう。昨日の記憶が全くないせいで、全くわからない。

 あぁ、絶対酒のせいだ。酒に呑まれて色々してしまったに違いない。

 

 「はぁぁ、やっぱり最高ぉ――ダーリンの中出し。これは癖になっちゃうのも仕方ないわね」

 

 もう二度と酒なんか呑むもんか。

 幸せそうな呂布さんに乳首を弄られながら、秘かに心の中で誓った瞬間だった。

 



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歴史が動く時 2

 

 朝、目が覚めた瞬間に全裸の美女とイタしていた、というのが夢であるはずもなく。かといって一人身の男の痛い妄想でもなく。

 俺は今、朝目覚めた瞬間にはセックスしていた彼女に言われるがまま、連れられるままに行動していた。前日に学校をサボって、とりあえず保留ということで話が落ちついていたあの二人と再会することもなく、一日中ラブホテルで過ごした後だ。

 どうしてこんなことになったんだろう、と思ってしまう。

 なにせ俺は楽しげな呂布さん――呂布と呼べと言われたのでそう呼ぶが、呂布に腕組みされながらホテルを出て、そのまま近くの公園に行き、呂布が呼びだしたという少女と出会って。

 そして三人で公衆トイレの女子用に入り、ひどく突然すぎるが、一番奥の個室で淫らな行為をしているのだから。

 

 「あっ、んんっ――呂布さん、だめです、み、見られてるのに……」

 「大丈夫よ、彼は私のダーリンなんだから。私といっしょに、たくさん愛してもらいましょう」

 「そんな……私は、呂布さんが――あぁっ」

 

 目の前で繰り広げられる、美少女二人による痴態。便座に座る少女は陳宮という女の子らしく、髪は濃い茶色でショートカット、呂布と同じ制服なのにきっちりと着こなす、やけにエロい雰囲気がある呂布とは正反対にまじめそうな子だ。

 その彼女は今、便座の上で股を大きく開き、ショーツを脱いで露わになった股間を俺に見せながら、呂布の指で秘所を撫でられている。上着とワイシャツもはだけられて、小ぶりの乳房がブラジャーに押さえられている姿もばっちり見える。

 彼女をそんな状態にした呂布もまた、自分の上着を脱ぎ棄てて小麦色の巨乳を露わにし、パンツを履いてない尻を突き出し、スカートから秘所がわずかに見える状態で俺に見せつけている。ちなみに彼女のパンツは今、ホテルで渡されたせいで俺のズボンのポケットに入っているのだが。

 ともかく、この状況はいきなり作りだされていた。俺たち二人はホテルを出てすぐにここへ来たし、陳宮も呂布に呼び出されて学校にも行かず駆けつけ、三人でいっしょの個室に入って服を脱ぎながら愛撫を始める。それがもうすでに終えられたこと。

 現在行われていることは、呂布が陳宮の体を弄って、とろりと透明な愛液を垂らす陳宮の膣が指で掻きまわされている。

 ほんと、一体どうしてこんなことになったんだか。

 

 「ねぇ、見てるだけじゃなくてダーリンもしましょ? ほら――陳宮のおまんこ、もう準備万端だから」

 「りょ、呂布さん――そんな、私……」

 「大丈夫よ陳宮、私のダーリンだもの。痛いことはしない――みんなで気持ちよくなりましょう」

 

 不安げな瞳で俺を見る陳宮は、明らかに混乱してる。彼女もまた、どうしてこんなことになったか理解できていないんだろう。だけどちっとも股を閉じようとしないあたり、抵抗の意思はなさそうだ。

 やさしげな瞳で陳宮を見る呂布。彼女はこの中で一番余裕があって、一番妖艶な姿だった。挑発的に尻を振るのも、たまに俺へ見せつけるように自分の秘所を撫でるのも、すごく彼女に似合っている。

 そういう俺はあまり余裕がない。すでに息子さんは大きく立ちあがってるし、ズボンを押し上げて痛いくらいに完全な状態だ。朝に呂布と一発、どころか四発やったとも思えない姿である。正直自分でも信じられない。この現状にも、朝から呂布とやりまくっている事実にも。

 

 「んふふ、ほら、こんなに元気になって――朝からあんなに抜いてあげたのに……」

 「あ、ちょっと、呂布――」

 「ふわぁ――呂布さん、ちょっとっ」

 

 呂布が陳宮から俺に向き直り、慣れた様子でズボンとパンツを一気にずりおろす。途端に俺のモノが外気に晒されて、ブルンと外へ出された。

 すぐに呂布の手が竿の部分を掴んで、ゴシゴシと強く上下に擦る。力の強弱が上手いそれはやっぱり気持ちよく、歯を食いしばって耐えなければならないほどだ。

 そんな俺たちを見つめる陳宮は顔を真っ赤にして、扱かれる俺の分身から片時も目を離さない。興味津々、そんな言葉が似合う表情だ。

 

 「すごい、こんなにも固く――もう我慢できないのね。先走りがこんなに……」

 「ちょ、ちょっと呂布さん、ダメですよ! そ、そんなはしたない――」

 「何言ってるのよ、あなたも私とエッチしたことなんていくらでもあるじゃない。さぁダーリン、こっちおいで――陳宮のおまんこ、味わわせてあげる」

 「うぅ、呂布さぁん……」

 

 手を引かれるまま一歩を踏み出し、便座の上で股を広げる陳宮の前に立つ。だが口では色々と言っている割に、陳宮の膣からはとろりとした液が分泌され続けていた。

 おそらく、彼女も俺と同じようにずっと期待していたに違いない。いや、俺の勘違いなら失礼な考えだろうが、実際彼女は逃げることもなく、俺を攻撃することもなく、呂布に言われるがまま股を開いて待っていたのだから。

 瞳は潤み、頬を上気させて、じっと俺のモノを見つめて離さない。それは他の女の子たちの時にも見た、何かを期待して仕方ないという表情だろう。

 それだけに俺はさらにモノが固くなっていく感覚を覚えて、自分から腰を落として位置を合わせた。

 呂布の手が挿入のための手伝いをしてくれて、狙いがきっちりと定まり、先っぽがくちゅりと膣に触れる。

 

 「いいわよ、入れてあげて――陳宮のおまんこぐじゅぐじゅに掻きまわして、強情なこの子を素直にさせてあげて」

 「う――い、いいのかな?」

 「大丈夫よ、心配しないで。私が上手く導いてあげる――あなたはただ快楽を楽しめばいいのよ」

 

 まるで悪魔の囁きのようだ。しかし、それに抗えず、逃げられないのも事実。

 それならばいっそ楽しもう、と思えるほどに少し強くなれた俺は、ゆっくりと腰を前に突き出した。

 そうすると見る見るうちに俺のモノが陳宮の膣内に呑みこまれていき、暖かくも柔らかい、締め付けのいい肉の感触に包まれた。呂布からは処女だと聞かされていたが、頻繁に彼女と女同士でしていただけに若干慣れた様子に思える。

 俺が息を吐きだすと同時に、陳宮も甘く小さな声を洩らして、感じているかのような表情を見せる。目はぎゅっと閉じられているが、口元ははっきりと緩んでいるのだ。

 それを見た呂布もにやりと笑って嬉しそうに俺に身を寄せ、自分の唾液をつけた指を、俺の尻の穴に差し込んでくる。途端に体の中に感じる異物感と、小さな快感とがやってきた。

 

 「うっ……」

 「いいのよ、大丈夫。感じていいのよ、男でもアナルは気持ちいいものだから」

 

 身勝手な様子で動きまわる指を受け入れながら、腰を振る。そうする中で、俺と陳宮は同じように喘いで、この時を楽しんでいた。

 これも呂布が持つ魅力のせいなのかもしれない。どことなく余裕たっぷりで、男も女も魅了する存在に誘われ、ただセックスを楽しむ。この気分は案外、悪くない。

 大きな胸を腕に押しつけられつつ、卑猥な言葉を投げかけてくる呂布の唇を塞ぎながら、俺は尚も楽しもうと腰を振るった。

 

 「あぁっ、んぅっ、はぁんっ――呂布さん、私っ、気持ちいいですっ。男の人と、ふぅぅ、エッチして――か、感じちゃってますっ」

 「んっ、んっ――ええ、それでいいの。もっと感じなさい、陳宮。私のダーリンにイカせてもらうの」

 「あんっ、んっ、はぁぁっ、あぁぁっ――」

 

 陳宮の声が高くなっていく。それに気を良くしてさらに強く腰を振る。

 淫らに動く膣がぐねぐねと絡みついてくるところを見ると、陳宮もこの状況を楽しんでるようだ。

 だんだん腰を動かすにも二人の息があってきて、お互いに刺激を与えあう動きがいい感じになってきた。おまけに呂布から尻の穴を刺激されながら、キスまでされているのだ。いい加減に限界も近い。

 ラストスパートに入るべく、陳宮にのしかかって腰を振ると、彼女も自分の限界を伝えてきた。

 

 「あぁっ、うぅ、だめ、もうだめっ!」

 「くぅ、お、俺も――!」

 「いいわ、イキなさい、二人いっしょに――陳宮の中にたくさん出してあげて」

 「うぅ、うっ――」

 

 そうして、呂布から尻の穴と玉を刺激されながら、射精する。いつもの癖で、一番奥まで先端を押しつけて。

 いつも通りびゅくびゅくと大量の精液が勢いよく出て、陳宮の膣を汚していく。同時に彼女も気持ちよさそうに俺自身を締めつけつつ、大きな声で鳴いていた。

 

 「あぁぁぁっ、うぅぅ、んんんんっ――」

 

 全身を震わせながら、トイレ全体に反響する大声を出す陳宮。すべてを注ぎ終えるまで彼女はじっと動かず、便座の上で股を広げていた。

 だけど俺が射精を終えてすぐ、膣の感触を味わいながら乱れた息を整えようとしていると、急に動き出した陳宮は焦った様子で俺の腹を手で押してきた。

 

 「あっ、だ、だめですっ、あぁっ、いやっ――」

 

 されるがままに体を離して膣から出ると、すぐに彼女は便座の上に座り直し、足を揃えてぎゅっと目を閉じた。

 直後に聞こえてくる、小さな水音。便座の下に液体が落とされる音だった。

 俺から体を離した陳宮はそのまま小便を始めていたのである。頬を赤らめて恥ずかしがりながらも、どうやら我慢できなかったらしい。

 俺と呂布と同じ個室に入って、じっと見つめられながら、それでも水音を立て続けていた。

 

 「あらあら、陳宮ってば大胆ね。ダーリンに見られてるのに、粗相しちゃって――んっ」

 「あぁぁっ、いや、見ないでください――んっ、んんんっ」

 「う、うわ――」

 

 ちょろちょろと小さな音が静かなトイレに広がって、それを聞きながら、俺は呂布に相変わらず尻の穴と玉を弄られつつ、同時に呂布のねっとりとしたフェラチオを受けていた。

 女性の排尿を見た経験はあるが、今回は陳宮がひどく恥ずかしがってることもあって、見ているだけでも自分が興奮してくるのがわかる。その上で呂布からの愛撫があるのだ、これはもう、男なら勃起して当然だ。

 違う意味での小さな水音が二つ重なり、呂布は口の端から唾液をこぼして、陳宮はトイレで尿を排出する。そんな中で俺は、自分の性器を舐められる快感に酔い痴れていた。もちろん、陳宮の姿をじっと見つめながら。

 しばらく経った後、陳宮が恥ずかしそうにトイレットペーパーで自分の秘所を拭いている時、上目遣いに俺を見ながらフェラしていた呂布が、ちろちろと先端を舐めながら言った。

 

 「うふふ、ダーリン――あなたは本物よ。呂蒙、関羽、私、それだけじゃなく陳宮まで、みんなあなたに逆らうことなく股を開いてセックスしてる。こんなこと、他の誰にもできはしない」

 「へ? い、いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何の話なんだか――」

 「心配しないで、これは提案よダーリン――ねぇ、自分専用のハーレムが欲しくない?」

 「は……はーれむ?」

 

 いやらしく舌を伸ばしながら、呂布は俺の目をしっかりと見つめて呟く。だけどその言葉はちょっと、いやかなり聞き覚えのない言葉だ。

 意味だけならもちろん知ってる。それが男の夢だということも知ってるし、俺だってそんなことできたらなぁくらいの妄想をしたりもする。

 だが呂布の言葉は、それを実際に作ろう、みたいな言い方に聞こえる。まさか、この俺にハーレムを?

 さっぱり意味がわからないでいると、楽しそうに呂布が説明してくれる。

 

 「私が作ってあげる。あなただけを愛する女たちによる、最高のハーレム――この暴れん坊のおちんぽが満足するような天国をね」

 「は、はぁ? ちょ、ちょっと待てよ、なんでそんなこと――」

 「なんでって、そんなの――あなたを愛してるからに決まってるでしょ?」

 

 うふふ、なんて小悪魔的な笑い声を出しながら俺のモノを握る呂布は、まるで淫魔か何かのようにも見える。陳宮をあっさり俺に抱かせたことといい、巧みに、楽しそうに舌を這わせる姿なんかも、なんとも淫らな姿だ。

 そう言う俺も、多分彼女たちからすればそういう風に見えているのかもしれないけど。なんせわけのわからん勾玉のせいで闘士たちからモテて、尽きることのない性欲で一晩中セックスしてるような奴なんだから。

 ともかく、どうやらまた、俺は美人の女の子から絶大な好意を向けられてしまったらしい。しかも、いまだに嬉しそうに愛撫を仕掛けてくる呂布と、顔を真っ赤にしたままおずおずと近寄ってきて、自分から俺の首に手を回してキスをねだってくる陳宮。一気に二人から惚れられたようだ。

 呂布の楽しげな言葉は続く。

 

 「それでね、ダーリン。めんどくさそうな呂蒙と関羽は私が説得してあげる。だからその間に、ダーリンにもやってほしいことがあるの」

 「やってほしい、こと? そりゃ、あの二人が喧嘩しなくなるのは嬉しいことだけど――何をさせる気だ?」

 「うふふ、簡単なことよ――これを見て」

 

 そう言いながら呂布はスカートのポケットから一枚の写真を取り出した。あれはあらかじめ、陳宮と出会ったその時に受け取ったものだ。

 会話が終わったと思ったのか、さっきまで首筋を撫でていたのに急に唇にキスしてきた陳宮をそのままに、写真を受け取って目を向ける。そこには一人の少女の姿が写っていた。

 長い栗色の髪に、真ん丸い眼鏡。人の良さそうな愛らしい顔と、にこりとした可愛い笑顔。着てる制服は関羽と同じものだった。

 陳宮の舌に応えながら、呂布の方に目を向けて、これは誰だと目で伝える。すると呂布はそれをわかってくれたのか、赤い舌で割れ目を突きながら答えてくれた。

 

 「関羽を味方にする最強の手札よ。ダーリンがすることは簡単――その子をレイプしてくれればいいの」

 

 彼女が楽しそうにそう言うと同時、気付けば俺は呂布の顔に向かって勢いよく射精していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その日、二人はやけにイライラしていた。

 自分の大事な男がなぜか自分の家におらず、大事な話し合いも終わっていないというのに姿をくらまし、何一つ連絡を寄こさない。まさかまた誰かに誘拐されたのか、前科もあることだし、ということでひどく心配しているのだ。

 しかしその二人が犯人でないことはわかっている。ならば誰なんだ、と二人揃って犯人捜しを始めようかとしていたその時。

 どこからともなく現れた二人が、南陽学院の校門前でイライラと眉根を寄せている二人に声をかけ、ようやく謎が判明したのである。

 後からやってきた呂布と陳宮を目にした時、同時にそちらを見た呂蒙と関羽は苛立ちを倍増させていた。こんなに怪しい奴は他にいない、と。

 

 「はぁい、お二人さん。ずいぶんイラついてるみたいだけどどうかした?」

 「呂布、嘘偽りなく答えろ――私の彼氏をどこに隠した?」

 「私の夫はどこだ?」

 「おい、誰が夫だ、誰が。勝手なことばかり言うなとあれほど――」

 「勝手を言ってるのはそっちだろう。私と彼は深く愛しあって――」

 「あーはいはい、終わりのない言い合いはどうでもいいわ。でも今日はそのことについて話があるのよ――私のダーリンと、あんたたちの関係を上手くできないかなぁ、と思って」

 「「――なに?」」

 

 呂布がそう言った途端、呂蒙と関羽は同時に彼女の顔をぎろりと睨み、声を合わせて疑念を露わにした。

 私の、ダーリン。怒り狂っている状態であってもその言葉だけははっきりと聞き取れたのだ。その言葉が誰を指すのか、二人は瞬時に理解したのだろう。

 これまでいがみ合ってばかりだった二人は呼吸を合わせて呂布に敵対意思を見せ、拳を強く握りながら目を怪しく光らせる。

 その姿は思わず陳宮が怯え、呂布の背後に隠れてしまうほど恐ろしい。それどころか周囲に居たはずの下校する生徒たちが一人もいなくなっていたりするほどである。

 しかし呂布だけは全く怯えていない様子で、懐から何かを取り出しながら呟いた。

 

 「これなーんだ?」

 「「そ、それは……!?」」

 

 彼女が取りだしたのは、何があったか知らないはずの呂蒙や関羽が一瞬で気付ける物。男物の下着だった。

 一メートルほど距離を置いて対峙しているというのに、漂ってくる匂いですぐに誰の物かわかるそれ。それは持ち主と親しくしている呂蒙や関羽が持っているならまだしも、知り合ってすらいないはずの呂布が持っていてはいけない物。

 呂蒙が「彼氏」、関羽が「夫」、そして呂布が「ダーリン」と呼ぶ男が少し前まで履いていた下着である。

 二人はすぐに表情を変えてそれを凝視し、求めていた匂いに頬を緩める。しかし直後には現状のおかしさに気付いて、呂布へ向かって厳しい目を向けるのだ。

 それを持っているということは、まさか知らない間に手を出したのか、と二人の目が語っている。

 それを理解していながら、呂布はただ笑みを深めるだけだ。

 

 「少し落ち着いて、大人の話し合いをしましょう――同じ男を愛した者同士、彼を幸せにしたいって想いは同じはずでしょう?」

 「……一体、何が望みだ」

 「彼はどこにいる?」

 「ふふ、それは今は教えられない。でもあなたたちが私たちの考えに賛同してくれるなら、きっと幸福な未来を手に入れられる――でもここで私たちとやり合うことになれば、あなたたちは大事な男と会うことはできない。どう? こう言えば、話を聞いてくれる気になった?」

 「「……」」

 

 二人は同時に黙りこみ、呂布の顔をじっと見つめながら、向けられた言葉を頭の中で反芻する。

 ふざけるな、という想いが一瞬で胸の内を満杯にするが、だからといってそれを口にすれば、ひょっとしたら最愛の彼に会えなくなるかもしれないという危険性もある。ただのハッタリである可能性もあるとはいえ、もしもそれが本当なら、それだけは避けなければならないのだから安易な行動はできない。

 しばらくは沈黙が続く。この日の南陽学院の校門前には美少女が四人。男の下着を握りしめる呂布、その背中に隠れて震える陳宮、そしてその前に仁王立ちする呂蒙と関羽。恐ろしい雰囲気を感じ取っているのか、歩行者どころか烏や鳩すらそこにはいない。

 沈黙を破ったのは呂蒙だった。胸の内では絶対に嫌だと思いながら、現状を打開するには仕方ないと判断した言葉を呂布へと向ける。

 

 「……いいだろう、聞くだけ聞いてやる――だがもし、おまえがあいつに危害を加えるつもりなら、何をしてでもおまえを始末する」

 「ええ、それでいいわ。だけど安心して――心から愛してる男を危険に晒すほど、バカじゃないつもりよ」

 「くっ……そうするしか、ないのか……」

 「う、うぅ、どうしてこっちについてきちゃったんだろう――私もご主人様のお手伝いに行けばよかった……」

 

 四人それぞれの表情で、それぞれの胸の内を表す言葉を吐きだす。そうしてから彼女たち四人は場所を変え、しかしギスギスした雰囲気は変えずに会議を始めることにした。

 結論から言えば、ひとまず呂蒙と関羽は渋々納得することになる。それは呂布が彼女たちの心中を察し、先に彼と出会った二人を優先するような条件を出したからに他ならない。それでも嫌々だったのは、やはり彼を一人で独占したかったからなのだろうが。

 呂布が呂蒙と関羽に聞かせた話は一つで、提示した条件も一つ。

 彼を新たな党首にして新たな勢力を作り出し、天下統一を目指すと同時、彼のハーレムを作り出す。その際、初めに彼を見出した二人を側近として、一番近い立場に置く。

 そうした話し合いをしたところで、二人の気分が晴れるというわけでもなかったのだが、ひとまずのところは会議が終わった。

 結局のところこの時、呂蒙と関羽は何も言わないだけで、心の中ではなんとしても全員出し抜いてやると思っていたせいだろう。

 それすらも理解していた呂布は静かに笑い、心の中で思う。

 果たして彼の肉声を聞いても、この二人は同じように思えるのだろうか、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 正直言って、彼女にとって俺は不審者でしかなかったように思える。だってこれまで一度も会ったことないのに、突然現れて、告げられてもいない名前を呼んで、話したいことがあるからついてきてくれ、なんて言うんだから。

 それでも頷いてくれた彼女、呂布から教えられた劉備という女の子はそれだけにやさしい性格だと言えるだろう。普通だったらこんな怪しい他校の生徒、先生に教えるか警察を呼ぶかするに違いない。

 しかし俺たちはいっしょに歩いて、さっきまでいた成都学園から離れ、呂布に教えられた通りの場所に赴いていた。

 小動物のようにトコトコついてくる劉備を連れて辿り着いたのは、今日は休業しているらしい小さな個人病院。ここも呂布の知り合いがやってるらしい。

 渡された合い鍵を使って扉を開け、中へと入る。すると劉備も素直についてきて、俺たちは固そうなベッドがある診察室へとやってきた。

 そこへ入るよう促したこともあって、劉備が先に室内へ入り、不思議そうな顔できょろきょろとあたりを見回す。俺はその後ろで、静かに扉の鍵を閉めた。

 

 「ええっと……ここで何があるんですか? 大事な用ってなんですか?」

 

 すでに覚悟は決まってる。後は実行するだけ。

 正直、心配も緊張も何度深呼吸したって消えはしなかったが、ここまで来て逃げることもできはしない。なら後は覚悟を決めて、やらなければ。

 大丈夫、呂布からのお墨付きもあるし、必ず成功する。そう自分に言い聞かせた俺は覚悟を決め、いきなり劉備の背後から抱きついた。

 

 「きゃあっ!?」

 

 当然、彼女は驚きの声をあげて身を固くし、抵抗しようとする素振りを見せる。それを見越していた俺は申し訳ないなと思いつつも、一気に顔を近付けた。

 すぐに唇が重なり、柔らかい感触が触れる。俺も彼女も目を開けていたからわかったが、その瞳は驚愕で揺れていた。

 だけど、すぐに弱弱しい抵抗は無くなった。劉備の体はくたりと力が抜け、俺にすべての体重を預けるように寄りかかってきたのだ。

 第一段階は問題なく終わった。後は言われた通り、俺が彼女を、レイプするだけ。それもすべて、呂布に言われた通り闘士たちの長年の悩みを解消するため、ひいては、俺自身の身を守るためだ。

 もっともレイプなんて表現を使ってるけど、頬を赤くしながら目を閉じる劉備を見る限り、それほど嫌がってるようにも思えないけど。

 

 「んんっ、ふむっ、んむぅ……」

 

 舌を使って唇を押し、舐めまわし、劉備の機嫌を伺う。すると彼女はやはり俺に気を許してるようで、何の抵抗もないどころか、自分から両腕を伸ばして俺に抱きついてきた。

 そのまま、彼女の体を押してベッドの上に寝かせ、覆いかぶさるように俺もベッドの上に乗った。こんなにも純真そうな女の子を無理やり抱くのは嫌だったけど、呂布の説明と、俺の推測通り、その心配はなかったらしい。

 唇を離して正面から目を合わせてみると、潤んだ瞳は俺だけを映して離さない。そこに敵意や殺意はなく、これまで出会った闘士の中で一番普通の女の子に近い。というかまさにそれしか見えない。

 俺がこの話に乗ったのもそれが理由だ。明らかに俺より強いだろって呂蒙や関羽、呂布や陳宮、いや、みんなのことも好きだけど、やっぱり俺だって男らしく振舞いたい。

 そこへ来て彼女、劉備はとても女の子らしい。俺がリードしてあげなければいけないような相手だ。

 だからだろう、俺のモノはすでに限界まで固くなっており、今にも暴発しそうなほどに興奮している。この瞳や、不安そうにきゅっとセーラー服の胸元を掴む手、それでも逃げようとしないいじらしい姿。

 これだ、俺はこういう、普通の関係が欲しかった。

 

 「その……いきなりでごめん。でも、その、こうしなきゃならないみたいで……や、やさしくするから――いいかな?」

 「……はい」

 

 突然過ぎる言葉に、劉備は素直に頷いてくれた。どことなく不安そうな表情にも見えるけど、頬は赤くなってて目も期待してるような雰囲気を持ったままだ。

 その言葉を聞いて安心した俺は、彼女の大きな胸の上にそっと手を置きながら、もう一度唇を寄せる。彼女は自然に目を閉じていた。

 重なる唇に合わせて手を動かし、ふにゅりと形を変える胸に触れる。制服越しでも如実にわかる柔らかさは女の子特有のもので、とても張りがあった、これまで相手した女の子の誰よりも柔らかいように感じる。まるでマシュマロ、いやプリンか、とにかく柔らかい。

 ぐにぐにとそこを揉みつつ、舌を伸ばして劉備の口内を堪能する。どうやら劉備はこういうことに経験がないようで、反撃らしきものは全くなく、ベッドに体を預けてされるがままだ。

 それをいいことに、胸から手を離してセーラー服を脱がそうと試みた。正直言って何もしてないのにもう出そうなので、いい加減急がないとヤバいかもしれない。

 すべてを脱がすわけではなく、上着はぐっと胸の上辺りにまで押し上げて、スカートをめくり上げ、薄い緑色の下着を露わにする。そうした後は俺もズボンを脱いでベッドの下に放り、いきり立つ息子を取り出す。朝は履いてたパンツは呂布に奪われたため、ここにはない。

 劉備はそこを見てずいぶんと驚いていたようだったけど、その視線すらも興奮を掻き立てる材料になる。もはや先端からはだらだらと大量の先走り汁が出ているが、それでも手順は踏むべきだと思い、劉備の体に手を伸ばした。

 

 「あっ、そんな、んっ、んぅ――」

 

 驚く劉備の胸に手を這わせ、するりとブラジャーの内側に手を差し込む。直接触るそこは制服越しなんて目じゃないほどに柔らかく、やさしい感触で、指を動かす度に呑みこまれそうほど指先が沈む。動く度に形が変わるのだ。

 おまけに手のひらで感じる乳首はもうすでにツンと固くなっているようで、力を込めてぐっと押す度、劉備がぴくんと体を跳ねさせる。初めてでも感度はいいらしい。それとも、これもまた勾玉が関係しているのか。

 しかし今だけはそんなことどうでもいい。暴発しそうな息子を抑えるためには、早々に事を進めないと。

 俺は劉備の下半身に右手を移動させ、すでに濡れてるらしいそこをゆっくりと撫でる。感触的に、やっぱりもう準備はいいようだ。

 これ以上我慢できない。すぐに劉備のパンツを横にずらして、濡れそぼってる膣に先端を触れさせる。

 それだけで劉備は小さく息を吐きつつ、ぴくりと体を震わせていた。

 

 「えっと……ごめん、もういいかな?」

 「は、はい、大丈夫です――あの、やさしくしてください……」

 「わ、わかった」

 

 かなりすんなりと了承を得て、ついに俺は腰を前に押し進めた。十分に濡れてはいても、全くほぐれていないそこはひどくきつく、痛みすらあるほどに締めつけてくる。そして当然と言うべきか、一気に奥まで先端を押し込むと、やはりそこからは少量の血が流れ出た。

 俺はそこに入ってすぐ、大きく息を吐き、自分のモノを伝ってシーツに落ちる血を見つめる。彼女の振る舞いといい、弱弱しい女の子の外見といい、さほど話したわけでもないのに処女を奪ったことといい、ひどい興奮状態だったのだ。

 そのせいだと思うが、っていうかそうに違いないが、おかげで俺は挿入した数秒後に射精してしまった。劉備の女の子らしさに当てられてしまったに違いない、決して俺が早漏だとかそういうことではなく。

 

 「あっ、あぁっ、あっ――」

 

 挿入したまま射精、つまり中出ししてしまったせいで劉備は体を震わせながら声を出し、胸に置いた俺の手を両手で握りしめてくる。だけど嫌な顔をしてるわけではなく、むしろ悦んでるように口の端を歪めていた。

 しかも直後に、きつくて動くことすら困難だったはずの膣内が徐々に柔らかくなっていく。締めつけるばかりで動く気配すら見せなかったのに、ゆっくりとぎこちない動きを見せ始めていたのだ。

 俺たちは劉備の胸の上で手を重ねたまま、じっと目を合わせてしばらく動かなかった。

 そうしている間にも膣からはドロドロと精液が溢れ出て、白いシーツの赤く染まった部分に落ちていく。

 

 「はぅぅ、んんっ――はぁぁ、いい匂い……」

 「うっ、ふぅ――劉備……」

 「ふぇ? あ、は、はいっ」

 

 うっとりした目でぼんやりしていた劉備に声をかけ、やさしく、触れるだけのキスを送る。すると彼女は目を閉じて、それを受け入れてくれた。

 しばらくは深く繋がったまま、キスをしながら静かに抱き合う。

 そうして数分経った後、俺から唇を離して体の位置を整え、再び立ち上がったモノを入れたままで彼女に声をかける。一度出してもまだ興奮は止まらず、ともすれば潤んだ瞳で見上げてくる劉備をめちゃくちゃにしたい欲求が沸き上がる。

 とはいえ、ここまで半ば無理やりにやっておきながら今さらだが、力ずくでというのも気が引ける。

 だから俺は今さらながらに劉備へ声をかけ、念のための確認を取った。

 

 「えっと、その、正直に言ってくれていいんだけど――も、もう一回いいかな?」

 「は、はい、大丈夫です――ちょっとだけ痛いけど、私ももっと、気持ちよくしてほしいです……」

 「そ、そうか。じゃあ――」

 

 劉備の許可を得てから、ゆっくりと腰を動かし始める。ぐちゅぐちゅと精液が潤滑油になって音を立て、さっきより幾分積極的な動きを見せる膣内を味わう。

 あまり速く動くとすぐにイキそうだからスピードはゆっくりだが、俺も劉備も同じように感じていた。初めてのはずの彼女も、シーツをぎゅっと握りしめながら声を出している。

 俺はそんな彼女を突きつつ、右手で胸を揉みながら、左手でクリトリスに触れて刺激を与える。すると時間をかけていくごとに、劉備の声もどんどん甘くなっていった。

 何度も射精を我慢しながら愛撫を続けて、じっくりと時間をかけること数分。ついに俺の我慢も限界を迎えて、気付けば俺はとっさに劉備の腰を両手で掴んで、激しく腰を振っていた。

 

 「うぅ、くっ――イクっ、もうイクぞっ」

 「あぁっ、はぁんっ、はいぃぃ――わ、たし……わたしもぉっ」

 「うっ、くっ、あぁっ――」

 「はぁっ、んんっ、んんんんっ」

 

 俺がまたしても劉備の膣内に射精し、奥までどくどくと精液を注ぎこみ始めた、その瞬間。

 内側から鍵を閉めていたはずの扉が大きな音を立てて倒れ、俺たちは思わずその音に驚くこととなった。

 

 「「えっ――」」

 「党首、お怪我は――なっ」

 

 射精をしながら扉に目を向けると、そこに立っていたのは長い銀髪を持つ、目を閉じたまま驚く美少女。見たことのない制服を着ていて、手には刀を持っていた。しかもどうやら抜き身のそれで扉を切ったらしく、鉄でできた扉がいくつかに分断されている。

 まさか、というよりもこれは確信だ。おそらく彼女は劉備の知り合いで、彼女を助けにやってきた人。

 つまりこれは、もしかしなくても俺にとって大ピンチなんじゃないだろうか――

 

 「あ、あなたは、これは――」

 「あ、あの、お、俺は、えっと――」

 「あんっ、んふぅ――あ、しーさん……」

 

 劉備の口から出た、しーさんというのはおそらく彼女のことだろう。やっぱり知り合いのようだ。

 そしてそのしーさんとやらは体をわなわなと震わせて、目を閉じたままの顔を俺たち二人に向け、なぜかその場から動かない。でもあれはおそらく怒ってるに違いないだろう。

 慌てた俺はすぐに劉備の中からイチモツを抜いてベッドから降り、裸で土下座でもしようと床に膝をついた。でも頭を下げるその前に、突然素早く動き出したしーさんとやらに驚いて体を止めてしまった。

 彼女は、地面を蹴って俺の方向に向かってきて、まるでラグビーのタックルのように跳んできたのだ。

 

 「うわっ、ちょ、待っ……は、話せばわか――!?」

 「私も抱いてください、旦那様ッ!!」

 「ええっ、なにそれ――うわっ」

 

 反応できるはずもなく、俺はそう叫ぶ彼女に押し倒され、固い床に頭を強く打ちつけながら、強い痛みで目を閉じた。

 しかし直後には別の意味で驚き、俺は出会ったばかりの女の子に無理やり唇を奪われ、男としての急所を強く握られていたのだった。

 



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歴史が動く時 3

お待たせしました。が、勢いで一気に書いたのでミスとかわかりにくい場所があるかもしれません。でも手こずっていたところを頑張ったので許してね、と言いたいです。


 

 ぬらりと舌を口の奥まで差しこまれ、玉を揉みほぐすようにぎゅっと握られ、正直なところ俺は混乱を隠しきれずにいた。確かに初対面で襲われたことは何度かあるが、ここまで熱烈だったことは――あったかもしれないが、少なくとも誰かに見られながらというのは一度もなかった。これまで俺を襲った人は、俺を独占しようという気持ちが強かったせいで拉致のようなことをして一対一の状況になってたし、唯一の例外で自分の友達を抱かせた呂布などがいるが、彼女の場合はちょっと特別だ。

 見知らぬ誰か、劉備の言葉を借りるなら「しーさん」とやらにキスをされながら、俺はつらつらとそんなことを考えていた。執拗なまでに唇を吸われ、直後には首筋や耳まで丹念についばまれながらも、抵抗できずに。

 彼女のそれは俺が今まで経験したことのない快感を与えてくれていたせいだ。呂蒙に力ずくで抱かれた時のような強すぎる快感ではなく、関羽を抱いた時に得られた我を忘れる快感ではなく、呂布を抱いた時の蕩けるような快感でもない。体の芯からじんわり温められるような、もっと欲しいと思ってしまう弱弱しい快感。しーさんとやらの唇が俺の体に触れる度、確実に俺の心は揺さぶられていった。

 女の子が主導になって抱かれるのは、何も今日が初めてではない。しかし、抵抗したいと想いながらできなかった呂蒙の時とは違って、今はもっと強くしてほしいとすら思っている。そもそも抵抗する気を奪われてしまっている状態なのである。

 ナメクジのように唇が首筋をゆっくりと這っていく度、耳の中まで舌で掻きまわされる度、触れられてもいないイチモツがぴくぴくと反応してしまう。気付けば俺は知らない内に、しーさんの背中に手を回して強く抱きしめていた。もっとほしい、体でそう伝えるかのように。

 傍では顔を真っ赤にした劉備が、もじもじと股をすり合わせながら俺たちを見ているというのに。

 

 「ふわぁ……しーさん、とってもえっちです……」

 

 劉備のか細い声が聞こえたが、それに反応しているような暇はない。今の俺はもう正直余裕がないのだ。

 体にのしかかられて、両手首をしっかり掴まれて押さえつけられ、じっくり楽しむように顔全体や首も含めてぺろぺろと舐められる。しかも相手は、銀髪ロングに、どこぞの制服に豊満な体を押しこんだ、なぜか目を閉じているが明らかな美少女だ。普通の男なら我慢できるはずもない。

 押さえられてさえいなければ今すぐにでも飛びかかりたいくらいだ。ただ、押さえつけられてる上に全力で抵抗しても敵わないせいで、俺の願望は全く叶いそうもないというだけで。

 この状況でどう反応すればいいかわからない俺は、ただされるがままに首筋にキスマークをつけられ、耳たぶを甘噛みされるばかり。張本人のしーさんに声をかけることもできず、近くにいる全裸の劉備に助けを求めることもできなかった。

 

 「はぁっ、すごい……これが、殿方の……」

 

 ちゅっ、ちゅっと短く、何度も唇にキスしてくるしーさんが、小さな声で呟くと同時、素っ裸のせいで完全に露わになっている俺のイチモツへ手を伸ばした。さっきからずっとだらだらと我慢汁を垂れ流している先端に、左の手のひらが押しつけられる。

 これによって俺の右手も自由になったわけだが、俺はできるはずの抵抗ができなかった。予想以上にさっきの愛撫で骨抜きにされていたらしく、想うように力が入らない。ひょっとしたら劉備との行為の疲労が残っているせいなのかも。

 それでもわずかに手を動かした俺は、制服に包まれているしーさんの大きな胸に触れ、むにゅりと柔らかく形を変えるそれを掴んだ。必死の抵抗、というよりは気になってしょうがなかったからなのだが。

 するとしーさんは俺の方を向きながら微笑んで、イチモツを握った手を上下に動かしながら、囁いてくる。きれいな声が鼓膜に届くだけで、腰が抜けそうな快感があった。

 

 「ふふふ、私の体で満足できそうですか、旦那様? はぁっ、私は、こんな気持ちになったのは初めてです――あなたにすべてを捧げたい。あなたのすべてを、私色に染め上げてしまいたい……」

 「んっ、あっ、し、しーさん――」

 「あぁっ、旦那様、私のことをそんなにも気安く呼ぶなんて――う、嬉しいです。どうか、この身も心も、あなた様の想うがままにしてくださいっ」

 

 強く握られたイチモツがゴシゴシと強く上下に扱かれ、再び唇が塞がれる。今度は迷う様子もなく、舌が入ってきた。自分勝手に思える動きなのにどこかやさしい、やはり俺が体験したことがない動き。しーさんのキスは、思いやりが伝わってくるようでひどく気持ちがよかった。

 そのせいなのか、心を掻きまわされた感覚すらある俺は彼女に甘えるように強く抱きつき、抵抗するつもりもなくぎゅっと目を閉じた。このまま彼女に任せてもいい、そんな風に思っていたのかもしれない。

 だが少なくとも、彼女はそう受け取ったのだろう。俺に抱きつかれたしーさんは嬉しそうに舌を動かしながら、扱いていたイチモツからそっと手を離した。

 次いで、キスを続けたまま下着を脱いだらしく、唇を離したしーさんは俺の眼前で純白のパンティを見せつける。同時に、くちゅりと先端に濡れた何かが触れるのがわかった。

 

 「旦那様、私はもう決めました。これからは全身全霊を持って、あなた様をお守り致します――私の命に代えても」

 

 そう言うとしーさんはパンティから手を離し、それをふわりと俺の顔にかぶせながらも、一気に腰を降ろした。すると俺のイチモツはあっさりと彼女の膣に迎え入れられ、奥にある子宮口へゴツンと先端がぶつかった。

 凄まじい快感だった、と説明しなければならないだろう。不意打ちであったことも大きいが、それ以上に、彼女の膣の締め付けは素晴らしくいいものだったのだ。

 柔らかく、やさしいとすら感じられる肉の壁が、まるで俺の息子を捕えて離さないとでも言うかのように精一杯に締めつけてくる。暖かく、力強くて、気持ちいい。誰にも似ていない、彼女だけの感触だ。

 すぐにしーさんが腰を上下に振って、俺のイチモツを出しいれさせる。ずるずると肉を押し上げる感触はとても気持ちがよく、でも他の女の子とした時とは違う安心感があった。

 またついばむように首筋や耳、唇にもキスを送られながらも、俺はぐったりと脱力したまま彼女の動きを受け入れていた。もっとしてほしい、なんて男が持つには気持ちの悪い思考を持ちながら。

 

 「ふ、ふふ、旦那様、感じておられるのですね……もっと、もっと気持ちよくなってください。私の体で」

 「うぅ、うあぁ」

 

 ずぷずぷとリズムよく、腰が上下に動いて肉棒を扱く。手や口では決して味わえない、女性の体特有の感触。しーさんとの行為はとても気持ちがよかった。

 こちらが気を抜けないような、気を抜けばすぐにでもイッてしまいそうな激しい腰遣い。でも、彼女の唇が相変わらずやさしい愛撫を繰り返しているせいで、自然と体を任せてしまっている自分がいる。

 詰まる所、彼女のそうした仕草がすべて安心できる材料になっているのだ。両手をぎゅっと握り合うのも、軽いキスの雨を顔中に振らせるのも、彼女のやさしさが簡単に伝わってくるようで気分がいい。もっとも腰を動かす速度に関しては、他の女の子たちと変わらずかなり激しいのだが。

 目を閉じているにも関わらず、器用にも俺が感じるように至る所へ愛撫を施すしーさんは、本当に男女逆転して俺を抱いているようだった。そして、この体勢やそういった状況が彼女を興奮させているのかもしれない。

 頬を真っ赤にしたしーさんはどんどん腰を動かす速度を速くしていき、お互いに絶頂を迎えるまで行為は続いた。その間、俺はずっと体の力を抜いてベッドに横たわったままで、彼女に主導権を渡していたのである。

 

 「あっ、あぁっ――出てるっ。旦那様の子種が、私の膣内に……」

 「うっ、くっ……はっ」

 

 彼女の膣の動きに誘われるまま、俺はしーさんの膣内で射精を始めた。どくどくと竿が律動する度、大量の精液が放出されていく。彼女の膣内はすでに一杯に満たされた。

 それでも俺たち二人は動かず、力を抜いたままベッドに重なり合って横たわり、呼吸を荒くして黙り込んだ。お互いの息遣いが耳元で聞こえて、それが妙に安心できる。

 俺たちはしばらくの間ずっと黙ったまま、お互いの体温を感じて目を閉じていた。そうするのが一番、気分が楽になるような気がして。

 そしてそんな時、ずっと俺たちの行為を見ていた劉備が声を発するのと、扉が開いて誰かが室内に入ってくるのが同じタイミングだった。ついでに言うと、復活したしーさんが俺の唇を塞ぐのも。

 

 「はわわ、しーさん、すごい……わ、私もさっきまであんなことして――」

 「はぁい、ダーリン。上手くやれた? こっちは概ね――あれ?」

 

 俺たちを見つめる人間が二人に増えた瞬間だった。裸のまま自分の体を抱きしめ、顔を真っ赤にして今にも倒れそうな劉備と、それから、新たに現れたのは制服を着崩して身に纏う呂布。俺たちをここへ来させた張本人だ。

 呂布は入ってきた瞬間は機嫌よく笑っていたものの、重なり合って倒れる俺としーさんを見た途端、目を真ん丸に広げて言葉を失くしていた。おそらくこういう状況は予想できていなかったのだろう。

 しかし驚いていたのも数秒で、すぐに笑顔を浮かべた彼女は楽しそうに言う。どことなく猫を連想させるような笑みだった。

 

 「んふふ、ダーリンったら、さすがね。あたしは劉備だけをターゲットにしてたのに、まさか趙雲まで仕留めちゃうなんて――ますます惚れ直しちゃったわ」

 「あ、えと、これは……」

 「いいのいいの。むしろこっちの方があたしたちにとって都合がいい。仲間とエッチの相手は多い方がいいでしょ?」

 「う、あ……えーっと」

 

 上機嫌そうな呂布に言われ、また首筋を舐め始めたしーさんにされるがままにされながら、俺は何も言えずに口を閉じてしまう。反論するにも、何かを話すにも、あまりにも適していない状況だった。

 結局、自分の意見を伝えることを諦めた俺はしーさんに愛撫されながら呂布の言葉を待ち、もう一度脱力する。いまだに劉備が「はわわわ……」と独特な驚きの声を発していたりするが、気にしないことにしよう。

 徐々に動きを大胆にして、しーさんがもう一度俺の口内に舌を這わせ始めた頃、ようやく呂布は次の行動を指示してくれる。だが当然のことながら、唇を塞がれている俺は答えを返すことなどできなかった。

 

 「それじゃあ、いつまでもここにいるわけにはいかないし、とりあえず行きましょうか――みんなも待ってるし、ね」

 

 彼女の号令に従って、俺たち三人は服を着直して、呂布の後に続いてどこかへと歩いて行くのだった。

 隣にはそれぞれ二人の女の子、劉備としーさんに腕を組まれながら。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 呂布の口から、現在の俺を取り巻く環境について色々と二人の少女へ説明しながら、しばらく歩いた俺たちが到着したのは、都内で有名な高級マンションだった。周囲を見下ろすような高層ビルで、選ばれた人間にしか入れないその場所に、呂布はズカズカと遠慮なく入っていく。

 至って普通な小市民である俺としては怖くて仕方なかったが、まさかここで逃げるわけにもいかず、両腕を劉備としーさんに取られているせいで逃げられるはずもなく、恐る恐る彼女たちについていった。だが正直なところ、場違いな気がして怖くて仕方ない。

 しかしそうしてビビって、色々考えながらエレベーターに乗り、耳に息を吹きかけながら尻をまさぐってくるしーさん、負けじと持ち前の巨乳に俺の腕を挟む劉備、真っ正面から俺のイチモツをズボンの上から強く揉む呂布などを無視し続ける内、すぐに目当てのフロアについた。

 エレベーターが止まったのは十二階。最上階ではないが、中々に高い場所で、入った部屋もかなり広く豪華な様子だったのである。やはり小市民の俺には似つかわしくない場所だ。

 

 「今日からここがダーリンの家よ。私たちも入れ替わりで来ていっしょに住むことになるわ。みんなで仲良くしましょう」

 

 そこで目についたのは、豪華な調度品よりも、ガラス張りの壁から見下ろせる町の光景よりも、そこで妙な雰囲気で待っていた知り合いたちだったのだ。

 具体的に言えば、立ったまま腕を組んでこちらを睨む呂蒙、俺たちが来た途端に立ちあがってなぜか目を輝かせている関羽、そしてソファに縮こまって座っている顔色の悪い陳宮。誰もが俺と体で繋がったことがある美少女たち。呂布に何を言われたのかも理解できないほど、彼女たちの方が気になってしまった。

 それと言うのも、その場にある雰囲気はどうにも妙なものだったせいだ。陳宮が疲れている様子から察するに、おそらく呂蒙はずっと怒っていたのであろうが、同じように怒っていてもおかしくはない関羽がなぜか笑みすら浮かべて俺を見ている。正確には、俺の右腕を胸に挟んでいる劉備を見て。

 

 「げ、玄徳! そ、そうか、玄徳も私と同じで――つ、つまり、私も玄徳と共に彼に抱かれるということだなっ」

 「あ、関さん。こんなところで何してるんですか? いつもなら彼氏さんのところへ――あ、ひょっとして関さんの彼氏さんって……」

 

 劉備がとことこと関羽へ寄っていって話し始めたことで、俺の右腕は解放されたが、まだ危機が去ったわけではない。目の前では明らかに額に血管を浮かびあがらせ、怒りを全身から放出していることがよく理解できるお人がいるのだから。

 どうやらこれまでになく激怒してらっしゃるらしい呂蒙は眼帯をしていない方の目でギラリと俺を睨んでおり、同時に俺の左腕に絡みついているしーさんに睨みを利かせていた。だがしーさんの方はその視線もどこ吹く風で、いまだに俺の尻を揉んでいたりする。

 呂布が間に入っていなければどうなっていたことか。状況は決して良いものになってなどいなかった。

 

 「さて、それじゃあ各々言いたいことがあるでしょうけど、とりあえず始めましょうか。主張はあるかもしれないけど、愛しい男が自分のところへ帰って来たのよ――細かいことはぐちぐち言わず、体で癒してあげるのがいい女ってものじゃない?」

 

 俺の目の前に立っていた呂布が前に進み出て、ソファの上でしょぼくれている陳宮の隣に座り、抱きよせながらそう言った。途端に陳宮は情けない顔でほろりと涙を落としながら強く呂布に抱きついている。二人がさっさと深いキスを始めるまで、十秒もいらなかった。

 あまりにも説明が足りない現状だが、呂布はすでに事を始めようとしていたようだ。陳宮の唇をそっと奪い、体をまさぐりながらソファの上に二人で倒れていくわけである。俺はまだ困惑したままだし、呂蒙は苛立ちを隠し切れていないというのに。そして睨まれてるはずのしーさんは厳しい視線をガン無視して、俺の首筋を舐め始めている。混沌としているようにも思えるが、場は明らかにそういうことをする空気が漂い始めていた。

 その雰囲気に流されたのか、それとも単純に我慢できなかっただけか、関羽も嬉々とした様子で劉備に抱きついているのが見えた。彼女本人から聞いたことがある、何があっても自分が守るべき存在の党首がいる、と。そして呂布は劉備の情報を俺に渡す時、「関羽が惚れてる子よ」と言っていた。

 今日という日は、彼女にとって待ちに待った日なのかもしれない。自分が大好きな女の子と、同姓であったこともあって決して触れあうことができなかった相手と、俺という存在を通して堂々と触れあうことができる。今、関羽は戸惑う劉備の体をそっと抱き寄せ、安心させるように頭を撫でていた。

 近くで見なくてもわかったのだが、ひょっとしたら彼女はうっすらと目に涙を溜めていたのかもしれない。

 

 「か、関さん……」

 「大丈夫だ玄徳。私の夫に抱かれたんだろう? 私もいっしょだ――いっしょに気持ちよくなろう」

 「え、でも、そんなの……関さんの好きな人なんでしょう?」

 「いいんだ。おまえならいい。何も問題なんてないから――」

 

 立ったまま抱き合い、目を閉じてそっと唇を合わせる二人を見ながら、俺の服が徐々に脱がされていく。犯人は当然、俺への愛撫に飽きないしーさんだ。

 制服の上着を脱がされ、シャツを脱がされ、ズボンに手をかけた頃、すでに我が愚息は雰囲気に呑まれてビンビンに立ちあがっており、しーさんの手で撫でられながら嬉しそうに我慢汁を垂らしている。

 すっかり裸にされた俺はいきり立ったイチモツを口の中に含まれ、あまりの気持ちよさに目を閉じて息を乱す。呂蒙はそんな俺たちを見て観念したのか、渋々といった様子で俺に歩み寄ってから、俺の唇にやさしいキスを送ってくれた。

 ただし、眼帯に隠れていない目はまだ明確な怒りが燃えていて、現状に不満を抱いていることは間違いない。何度もついばむように唇を吸われながら、今日初めての呂蒙の言葉を聞いた。

 

 「んっ、ふっ――あとできっちり説明してもらうぞ。おまえにとっての一番が誰なのかを」

 「は、はいっ」

 

 どすの利いた声でそう囁かれ、直後にはねっとりと舌を絡ませて口を塞がれる。怒りながらそう言っている彼女も、どうやらお預けを喰らって興奮していたらしい。

 すぐに口内へ差しこまれてきた舌は荒々しく中を舐めまわして、俺への愛撫を執拗なまでにしてくる。おまけに下半身はしーさんからねっとりと舌を絡められ、余すところなく刺激を与えられている。先端だけでなく、喉に当たりそうなほど呑みこまれて全体を扱かれているのだ。

 協力し合っているとは言えないが、それぞれがそれぞれの意思で、ご奉仕と言われるものを遂行してくる。二人の女体を感じているという認識もあって、おかげで俺の気分はどんどん高められ、さほど時間も経っていないというのにあっという間に射精まで追い込まれた。

 唇を呂蒙に塞がれているため、自己申告することができなかったが、おそらく予感はしていたんだろう。射精の瞬間、くぐもった声を出したその時には、亀頭はしーさんの喉にまで届いていて、そのまま精液を放ってしまった。しーさんは尋常じゃない量のそれを、ごくごくとうまそうに飲み干していく。

 口を離した時、しーさんの口内には俺の精液は全く存在せず、何度も口にしながら呂蒙や関羽ですら飲みきれなかったそれがあっさりと腹の中に納まったのだと理解できた。俺と同じように彼女を見ていた呂蒙もそれに気付いていて、さすがに目を見開いて驚いているようだった。

 

 「うわ、すごいな、しーさん……全部飲んだの?」

 「ええ。これくらいできなくては、あなた様に仕えることなどできませんから――他とは愛が違うのです、愛が」

 「むっ……」

 

 しーさんの一言でまたイラッとしたらしい呂蒙は、すぐさまその場で屈んで彼女を押しのけ、萎えた俺のイチモツにちゅっと軽いキスをする。その後、俺の顔を下から見上げながら、意を決したように呟いた。

 

 「今度は私がやる。さっきみたいにさっさと出せ、この早漏色魔め」

 「うっ……相変わらず扱いがひどいな」

 

 ぱくりと亀頭を銜えて、舌を絡めながら頭を振る呂蒙。そうしながら片手は竿を扱いていて、もう片方は玉を揉んで言葉通りすぐに射精を促そうとしている。

 その間に移動したしーさんは、俺の尻に目標を定めたらしく、両手で尻を揉んできた。しかもそれだけではなく、当たり前のようにそこへ顔を埋めて、穴に舌を這わせてきたのだ。

 ただでさえ感じやすいのに、弱点と言われる場所を責められてしまっては我慢できるものもできなくなる。必死に歯を食いしばって我慢してはいるが、正直限界は近かった。

 裸の俺が、違う制服に身を包んだ女の子二人に下半身を舐められる。目の前では四人の少女が二人ずつ、徐々に服を脱ぎながら淫らに体を絡ませ、快感から出る声を発している。

 この空間がいけなかった。あまりにもあっさりと気分を高められた俺は背筋をピンと伸ばして目を閉じるのだが、聞こえてくる淫らな水音や可愛らしい喘ぎ声のせいで押し寄せる快感から逃げることもできない。

 

 「んっ、ふむっ、じゅっ――ぷあっ、今日は中々しぶといじゃないか。いつもはバカスカ射精する癖に」

 「うっ、うぅ、そんなことないって……」

 「ふふん、まだ早漏を認めたがらない気か。まぁいい、どうせわかりきってることだしな」

 

 再びぱくりと銜えられ、頭を振ってイチモツを扱かれる。手でされるよりもよっぽど気持ちいいそれは、唇と舌とが巧みな動きを見せているせいだ。

 ここに来る前に数度射精したし、さっき出したばかりだが、だからと言って我慢できるようなものでもない。俺の感じる場所を知っている呂蒙のフェラチオを相手に、勝てるわけがないのだから。しかも今はしーさんに尻を責められているということもあるのだ。

 すぐに限界に到達して、絶頂を感じた俺は再び同じ量の精液を勢いよく放つ。亀頭を銜えられているため、すべて呂蒙の口内へと。

 

 「ふぐっ――むぅ、うっ」

 

 一度は苦しそうな表情を見せて、勢いのせいで口の端からたらりと少量垂らしながらも、俺の息子をさらに奥までぐっと飲み込んだ呂蒙は出される分をすべて飲み干していく。俺が射精を終えた時、いつもならこらえ切れずに吐きだしてしまう量の精液を、こぼすことなく呑みこんだ。凄まじい気合いがあったのだろう。

 さすがに俺も驚いて、目を丸くしながら彼女の顔をじっと眺めてしまう。元々、奉仕するよりも俺を好き勝手に抱く方が好きな呂蒙だ、あまりフェラチオみたいな行為も好きではないだろうにそこまでするとは。

 少し感動すらしている俺は思わず呂蒙の頭に手を触れ、さらさらの髪をやさしく撫でる。すると彼女は苦しそうに喉を鳴らしながらも、にやりと口の端を歪ませて俺としーさんの顔を見つめてきた。

 

 「ふ、ふふ、どうだ。愛で言うなら私の方が深いんじゃないか? おまえが望むことはなんでもしてやれるぞ」

 「ほう――私と張り合おうと言うのですか。面白い」

 

 尻の穴を丹念に舐めていたしーさんが立ちあがり、全く同じタイミングで呂蒙も立ちあがる。俺もまだ立ったままだったので、俺を挟んで二人は向かい合い、厳しい視線を向け合う。

 といってもしーさんは後ろにいたし、おそらく目を閉じたままなんだろうが、この状況でそれを確認できるほどの勇気は俺にはない。

 何を始める気だ、と小さく震える俺を気にしていないかのように、二人はそそくさと服を脱いでどんどん裸になっていく。恥ずかしげもなく豊満な裸体を晒し、同じく裸である俺にそれを見せつけた。

 まず先に動いたのは呂蒙で、彼女はその体を隠すこともせずにそっと俺に抱きつき、自分の腹で勃起したイチモツをぐりぐりと刺激しながら、俺の首に腕を回す。恋人同士がそうするように唇を寄せ、至近距離で向かい合いながら怪しく囁くのだ。

 

 「さぁ、どうしたい? どうとでもしてくれていいぞ。おまえにだけ許すんだ――この体は、ずっと前からもうおまえのものだから」

 

 妖艶な笑みと共にそう言われると、今すぐにでも彼女へしゃぶりつきたくなる。気付けば俺は、ごくりと喉を鳴らして呂蒙の背へと腕を回していた。

 抱きしめるためではない。背中側のさらにその下、彼女の肉付きのいい尻をがしっと掴むためだ。意識するまでもなく自然と小刻みに腰を振っていた俺に、これ以上の我慢ができるはずもない。このまま、呂蒙の中に入りたかった。

 抗いがたい誘惑に乗り、俺が呂蒙にばかり集中していると、背後ではしーさんも動いていたようだ。彼女はまたも俺の尻に手を触れ、しかし先程とは違って、背中に舌を這わせながらゆっくりと穴の中に指を差しこんできていたのである。

 滅多に触れられない、だけど触れられれば非常に気持ちがいいそこへ触れられたことにより、俺はまたも歯をぐっと食いしばって我慢しながら呼吸を荒くする。それに気付いた呂蒙は少し怒った様子で、片足を上げて立ち、俺のイチモツを片手で掴んで位置を定めた。

 まだ触れてすらいないのに、彼女の蜜壺はすでに十分すぎるほどに濡れそぼっていたのである。

 

 「はぁっ、ふっ、ヘタレぶりは相変わらずだな。私がしてやらないと挿入もできないのか――やっぱりおまえは、私がいないと、ダメなんだな」

 

 興奮した面持ちでそう言うと、呂蒙はぐっと腰を落として、俺の息子を迎え入れた。慣れ親しんだ膣の感触は、文句のつけようがないほど気持ちいい。

 ほぅとため息をつきつつ、お互いに呼吸を合わせて腰を前後させ始める。そうすると呂蒙は顔を赤くして小さな喘ぎ声を発し、俺は俺で腰を動かす度に尻に入れられた指が出入りするせいで、どんどん息を乱していく。しーさんの舌は俺の筋肉を丹念に確かめるように、非常にゆったりと背中を這っていた。

 ゆっくりとした速度で、感触を楽しむように淡い快感だけを享受する。今にも暴発してしまいそうな雰囲気ではあったが、この時間は非常に心休まるものだった。

 呂蒙の膣は気持ちがいいだけでなく、俺をしっかりと絡め取ってぐねぐねと動き、刺激を途絶えさせない。だから今日のようにひどく興奮している時など、特にいやらしく絡みついてきたりして、嬉しい気持ちにすらなる。

 ずぶずぶと肉の壁を押し上げて奥へ行く度、彼女が喜んでいるのが手に取るようにわかる。唇をぐっと噛んで声を出さないようにしながらも、体で繋がっているのだから隠せるはずもない。

 この期に及んで声を我慢する呂蒙を見て、彼女が愛おしく思えた俺はそっと唇を寄せ、触れるだけのキスをした。同時に、両手はもはや定位置になりつつある、大きな胸の上に置いて。

 

 「んっ、ふっ、はっ――はぅ、うっ」

 

 徐々に声を洩らし始めた呂蒙は自ら口を開いて、俺の唇に舌を這わせてくる。求められている、と感じた俺もすぐに口を開いて、即座に侵入してくる彼女の舌を受け入れた。

 口では呂蒙の好きにさせながらも、下半身は俺の好きに動かして快感を貪る。難しいようで、今では当たり前になっている俺と呂蒙のやり方だ。

 自分たちだけがする行為のやり方になって、これまで共有した時間や抱いたり抱かれたりといった時間が思い出されるようになって、興奮の具合がさらに高まったような気がする。彼女に言われる通り、ほんの少しばかり射精するのが早い俺はすでに我慢できなくなっているし、呂蒙もそれを理解してかくいっと腰を跳ねさせている。

 だからラストスパートへ入るため、俺は彼女の腰を掴んで、思い切り下半身を打ちつけることにした。そのせいでしーさんの指が出し入れされる速度も速くなるが、もう我慢する気もないのでそれもいいだろう。

 腰が激しくぶつかり合う音を響かせながら、俺たちは同時に絶頂へと昇っていった。

 

 「ふぅ、うぅ、イクぞ呂蒙、もうイクっ……!」

 「あはぁっ、はぁっ! 来てっ、はやくきてっ……!」

 

 思い切り射精を始めて、勢いよく精液を子宮口に叩きつける。それだけで呂蒙は背筋を逸らし、目をぎゅっと閉じながら大声を出した。そういう俺も声を出しつつ、しつこいほどに彼女へ腰を押しつける。

 すべてを出し終えるまで繋がったままだった俺たちは、射精が終わってもそのまま離れず、しばらくは息を荒くしたまま繋がり合っていた。

 しかし、尻に指を入れていたしーさんが、指を折り曲げて前立腺を刺激してきたことで再び勃起してしまい、呂蒙の膣内で大きくなってしまう。

 別にそれでもよかったのだが、気をやってる様子の呂蒙が小さく喘いだことで慌て、俺は彼女の中からイチモツを抜いてしまった。それを好機と見たのか、すぐさましーさんが尻から指を抜いて俺の前にまわりこんでくる。

 力が入らないらしい呂蒙はその場でへたり込み、股からドロドロと精液を垂れ流しながら、俺たちの姿をぼんやり見ていた。

 その間に迅速な行動を見せたしーさんに促され、仰向けで寝転んだ俺は呂蒙の膝に頭を置き、少しだけ驚く彼女の顔を見ながらもしーさんに跨がれていた。直後にすぐ、彼女が腰を降ろしたことで挿入が始められる。さっき味わったばかりの膣に入り込んで、喜ぶかのように亀頭が一層膨らんだのが理解できた。

 暖かく包みこむようでいて、でもしっかりと締めつけてくる感触。だけどさっきよりも少し、締め付けが強くなっているようにも思えた。

 

 「はぁっ、ふぅ――旦那様、気持ちいいですか? ほら、これが私の感触ですよ」

 「うっ、うぅ、気持ちいい……」

 

 呂蒙が見ている前で、しーさんに跨られて犯される。心苦しく思えるようであって、どうにも気持ちよすぎる状況だった。

 しーさんが腰を振り始める。俺の乳首に吸いつきながら、抵抗できないように両手首を押さえて、本格的に俺を犯すような状況。彼女はどうやらこういう風に、やさしくありながらも一方的に俺を抱くのが好みのようだ。

 けれど、それを嫌とは思えない俺は彼女の動きに合わせて感じ、小さく声を洩らす。するとこういう時はいの一番に怒り狂いそうな呂蒙が、先程とは打って変わって、やさしい微笑みを見せながら俺の髪を撫でてくれていた。

 その表情を見ながら、珍しいこともあるもんだ、なんて考えていると、しーさんの腰の動きがさらに激しさを増していた。注意を自分に向けさせるかのような、射精したばかりでなければ今にも出してしまいそうな速度と力強さである。

 

 「はっ、ふっ、どうですか旦那様? き、気持ちいいですか? こういうこともできますよ」

 

 そう言いながらしーさんの腰が円を描くようにくねりだす。まっすぐ突くのとは違う感触や快感が、俺のイチモツを伝って全身に広がっていく。

 二人の女性から奪い合うかのように抱かれ、気分が悪くなるわけがない。巧みな動きで膣内を楽しませるしーさんの動きによって、体内に溜まる快感はどんどん大きくなっていった。

 腰が上から下へ打ちつけられる度に、洪水のようなそこから少量の愛液が飛び出して腹を濡らし、わずかに漏れ出る喘ぎ声が耳を楽しませる。その一方で呂蒙の胸が顔に押しつけられ、やさしく首や顔を撫でられる。しーさんにつけられたキスマークに触れてぎゅっと抓られるのも、今だけは可愛らしく感じられる。

 しーさんの必死な腰遣いに満足していた俺はついに絶頂へ達し、激しく上下に動かされる膣へ向かって精液を放った。しーさんは嬉しそうに頬を綻ばせると、ぐっと腰を落として受け止める。

 

 「んっ、ふっ、んんんんっ……」

 

 ドクドクと注ぎこんでいくと、もう精液が出なくなる頃には脱力したしーさんが、俺の胸に倒れ込んで全身を預けてくる。それでも愛撫を施そうと舌を伸ばして乳首に触れるあたり、彼女の執念みたいなものが伺えたりするが。

 そのまま、呂蒙の時と同じように二人揃って脱力し、息を整えようとしていた時、ぐちゃりと音を立てて二人の接合部が離される。犯人は俺の傍を離れて移動していた呂蒙だ。

 先程までは力が抜けていたが、まだ満足していないらしい彼女が次の行為を求めて無理やりしーさんの体をどかせたのだ。

 「あっ」という小さな声と共にしーさんの裸体はカーペットの上に転がされ、代わりに呂蒙が俺の体を跨ぐ。きれいな顔に浮かんでいるのはサディスティックな笑みだった。

 

 「ふふふ、これで終わりじゃないよな? 今日まで好きな女を好きなだけ抱いてきたんだ。おまえも私が満足するまで――」

 「あら、ダメよ蒙ちゃん。順番はちゃんと守らないと。あなたたち二人はもう一回ずつ中出ししてもらったんだから、次の順番は私たちが終わってからね」

 

 大事な場所が触れあって、腰を降ろせば行為が始まる、というその時。呂蒙の肩に手をかけて彼女を押しやった人がいた。いつの間にかソファの上から俺たちの傍まで来ていた、全裸の呂布だ。

 少しも自分の体を隠さず、惜しげもなく見せつけるように立つ彼女は寝そべる俺から見上げれば、非常に卑猥な姿に見える。おそらく陳宮とお互いに刺激しあっていたのだろう、股から太ももにかけて透明な液が垂れていた。その根元にある彼女の秘所は、物欲しそうにパクパクと動いていたりする。

 思わずイチモツを固くしてしまうのも仕方ない光景だった。下から立ったままの全裸の女体を見上げるのは初めてだが、中々に感動するものだ。

 しかしそんな悠長なことを言ってられる状況でもないらしく、目の前の光景に集中しすぎて聞いていなかったが、呂布と呂蒙の話はすでに終わっていたらしい。そのせいに違いないだろうが、呂蒙はまたしてもぎろりと眼光を鋭くして呂布を睨んでいる。

 どうやらまた彼女の気に食わない展開らしく、渋々といった様子がありありと伝わってくる態度で俺の上から退く呂蒙。ただ視線だけは相変わらず怖いほどに厳しい状態だったが。

 その代わりと言っては何だが、呂蒙が退いた後にまた横から新たな影が現れる。抱き合ったまま俺の顔の傍に立った、下から見上げると体のボリュームが素晴らしい劉備と関羽の二人だった。

 

 「はぁ、ふぅ、か、関さん……もう私……」

 「ああ、わかってる。玄徳に先を譲ろう――私も手伝う。たっぷり気持ちよくなってくれ」

 

 先程まで二人で触れあっていたらしく、興奮しきっている様子の劉備が俺の腰を跨ぐと、関羽はそれに向かい合うように俺の顔を跨ぐ。彼女の濡れそぼった秘所が、至近距離で目の前に来ていた。

 イチモツが暖かい場所に包まれると同時、興奮しているのがわかる声で関羽が呟き、ぐっと腰が落ちてくる。目の前いっぱいが彼女の股で塞がれ、自然と俺は受け入れるように舌を伸ばしていた。

 

 「はぁっ、はやく、はやく舐めてくれ……いつもみたいに、乱暴に――」

 「んっ、んんっ、んむっ」

 

 望まれるがままに、舌先に力を込めて強く関羽の膣内を掻きまわす。すでに濡れているそこは熱く、舌を動かすだけで腰がぴくぴくと震えていた。

 しかも一方で、俺のイチモツが劉備に呑みこまれてぐちゃぐちゃという音と共に刺激を与えられている。まだ慣れていないせいか感触が独特で気持ちがよく、動きもこなれていないがそれが味になって気分が高まる。

 自分が愛撫をする一方、一方的に急所から快感を与えられる。気分的にも肉体的にも心地よい体験だった。ただ少し、妙に関羽が腰を押しつけてきて苦しかったりもするのだが。おそらく彼女は目の前の劉備に手を伸ばし、愛撫でもしているのだろう。それで興奮しながら腰を振ってしまったに違いない。

 いつもより鼻息が荒く言葉も浮ついているのは、きっとそういう理由があるからなんだろう。

 

 「げ、玄徳、気持ちいいのか? あぁ、いい顔をしている……感じてるんだな? 頬もそんなに赤くして――ほら、顔をこっちに寄せてくれ。もっともっと、キスをしよう」

 「はぁっ、あぁんっ、関さんっ、気持ちいい……気持ちいいですぅ……」

 「あぁ、玄徳、なんて可愛いんだ……!」

 

 ひどく興奮してるらしい関羽の声を聞きながら、俺はひたすら彼女の秘所を舐め続け、劉備の拙い腰振りに合わせて下から彼女を突きあげる。途端に劉備の声は甘さが増して、溢れてくる愛液も多くなった気がした。

 息苦しさも感じながらだったが、ともかく興奮する時間だった。視界を塞がれて、音や自分で触れて感じることに集中していたせいかもしれない。舌で関羽の膣内を掻き混ぜ、クリトリスと尻穴に指を伸ばし、イチモツで劉備の膣内を感じる。同時進行であるだけに集中力も増して、気持ちよさが凄まじかった。

 しかしその時間もやがては終わりに辿り着く。俺がそろそろヤバいと思い出した頃、先に根を上げたらしい劉備の甲高い声が室内に響き渡ったのだ。

 

 「はぁぁ、んあぁっ! 関さん、もうだめですっ! 私、わたし……イッちゃいますっ!」

 「あぁっ、玄徳、イッてもいいぞ――その顔を私に見せてくれ……!」

 

 一際興奮がひどくなった状態で達したらしい劉備は、ぎゅうっと膣内を締めつけ、その刺激によって俺も射精を始める。まだ固さの残る彼女のそこが、一瞬で俺の精液で満たされていった。

 途絶えることなく精液を吐きだし続け、尋常ではない量を注ぎこんだ後、先に関羽が腰を上げて俺の上から退いた。その後、関羽によって運ばれた劉備が俺の隣に寝かされる。

 俺の腕枕に頭を預けた彼女は疲労のせいか、絶頂してからすぐ眠りこんでしまい、小さな寝息を立てている。そんな劉備と俺とを視界に入れたまま、関羽が俺の腰を跨いで足を広げた。

 いわゆる、M字開脚というやつだ。俺に秘所を見えやすいように大きく足を広げ、後ろの床に手を突いた関羽は口元をだらしなくさせたままよだれを垂らして、淫らな姿を見せながら挿入を開始した。

 俺の舌で改めて濡らした秘所に、すぐに固くなったイチモツがずぶずぶと呑みこまれていく。あまりにも動きがゆっくりだったため、まるで何かの動物に捕食されているようにも見える。

 先端から根元まで銜えこまれた後、全身を小さく震わせた関羽は小さな絶頂を感じていたらしく、背を逸らしながら少量の潮を噴いていた。

 

 「あっ、はっ……これは、すごい……なんか、いつもよりも、感じてしまう――!」

 

 狂気的にそう言った関羽は凄まじい興奮状態にあるようで、俺に全身を見せつけるポーズのままで激しく腰を上下に振り始めた。長い黒髪を振り乱しながら感じるその姿は、これまで見たどんな時よりも平常心を失い、快楽に埋もれているようだった。

 膣の締め付けも以前より強く、うねうねと動く肉の壁もイチモツに吸いついてくるよう。まるで本当に捕食されたかのように、俺のすべてが搾りとられるかのように思える。

 この間にすでに何度もイッているらしい関羽の喘ぎ声は獣の鳴き声のようにも聞こえて、これまで見たことの無い一面をさらけ出していた。それほどまでに劉備との一時が良かったのか、それとも会えない時間でお預けを喰らっていたせいかもしれない。

 ただどちらにしても今わかることは、そんな彼女を相手にして長く我慢ができるわけがない、ということである。関羽と繋がった俺は五分も持たず、ひどくあっさりと射精していた。

 すでに慣れたと思っていたが、これまでにない締め付けにイチモツを捕らわれながら、一番奥に向けて精液を叩きこむ。そうするとさらに関羽の鳴き声が大きなものとなっていた。

 

 「あああっ、うぅぅ、はあぁぁぁっ!!」

 

 憑き物が取れたかのようにふらりと揺れる関羽は、射精が続いている間に俺の方へ倒れ込み、そのままの流れで俺の唇を奪った。意識が朦朧としているらしく、半目になってぴくぴくと痙攣しながら、それでも精液を受け取りつつねっとりと俺の口内を舐めてくる。彼女の愛情が伝わってくるようだった。

 射精が終わってからもしばらくは舌を絡めて楽しんでいた俺たちだが、やはりそれを許さないらしいのが呂布。彼女が関羽の腰を持ち上げたことによって、またも俺のイチモツがぶるんと外へ解放される。もうこの部屋へ来てから何発も出しているのに、いまだに衰えを見せないのは我が息子ながら恐ろしさすら感じられる。

 しかしその姿を見た呂布はむしろ嬉しいようで、俺のイチモツに頬ずりまでし始めていた。だが順序があるらしく、俺の腕枕で寝ていた劉備を脱力したまま寝転ぶ関羽の上に置くと、今度は俺に手を差し伸べて体を起こされる。

 彼女が視線で促したのは、ソファの背もたれに寄りかかって股を広げる裸の少女。顔を真っ赤にしながら、どこか戸惑ってるようにも見える陳宮だった。

 呂布が俺の手を引き、彼女の元まで連れていく。それでも陳宮は己の秘所に指を這わすことを止めず、顔をそむけながらも逃げようとはしなかった。

 

 「次は陳宮よ。好きにしていいわ、ダーリン。この体勢のままでいい?」

 「あ、ああ」

 「あの、呂布さん……私、やっぱり――」

 「心配しないで、陳宮。素直になってもいいの。ダーリンに抱かれて、チンポでマンコぐちゃぐちゃに掻きまわされて気持ちよかったんでしょう? それなら素直になって、いっしょに気持ちよくなりましょうよ」

 

 呂布の口からそう伝えられた途端、陳宮はぐっと言葉を失くして黙りこむ。もう反論するつもりも、不安を口にするつもりもないらしい。

 そうなってから呂布に促され、尻を押されたことで俺は前に出て、陳宮の秘所をじっと見る。太ももまで濡れていることから、もう準備は万端すぎる状態なようだ。

 ごくりと喉が鳴る。これほどまでに女性を抱いておきながら、陳宮や劉備のような恥じらう女の子とした機会は滅多になかったせいかもしれない。

 意を決した俺はそっと陳宮に腰を寄せ、視線を外してぴくりと反応する彼女の膣に先端を当てて、一息にずぶりと押しこんでいく。陳宮がぎゅっと目を閉じ、歯を食いしばって耐えているような表情を見せるが、膣内の動きは俺に吸いついてくるようだった。

 以前からよく呂布に弄られていただけあって、彼女の感触は驚くほどに巧みだ。亀頭を押しこめばすんなりと奥まで迎え入れてくれるのに、出そうと思って腰を引けば痛いほどに締めつけてくる。よく仕込まれていることがわかる、処女だったことが信じられないような膣だ。

 しかし実際に感じている彼女自身はやはり初心らしく、呂蒙やしーさんにはあった余裕が感じられない。俺の動きを楽しむ暇がなく、押し寄せる快感に必死に耐えているような印象だ。

 だからこそ、なぜか燃え上がってしまう俺は敢えて動きを大きく、激しくして強く陳宮の膣を突く。すると動きに比例して彼女の喘ぎ声も高くなっていった。

 

 「あぁっ、あぁぁっ、んんんっいぃぃっ」

 「凄い感じ方ね。私としてる時はそんなに鳴いたことないのに――ちょっと妬けちゃうわね」

 「あはぁっ、ごめんなさっ、ごめんなさいぃぃ、呂布さぁぁんっ」

 「いいのよ。それが正しい反応なんだから――思う存分イキなさい、陳宮。そのために彼と会わせたんだから」

 

 呂布にキスされ、口を塞がれたまま、俺に突かれてくぐもった声を出す陳宮。軽い絶頂ならもうすでに何度か感じているらしく、うねうねと動く体内は忙しない様子だ。

 そのまま激しく突き続けるとすぐ、俺の方も我慢ができなくなってきた。まだ陳宮も本格的にイッていないこともあって、最後の瞬間を迎えるために思い切り腰を叩きつける。

 室内に響く声は回数を重ねるごとに大きくなり、ついには叫ぶような声量で部屋を満たした。

 お互いにタイミングは違えど、絶頂を感じて体を震わせたのは、最後の一声が響いている途中だった。

 

 「あぁぁぁぁっ!! んんんんっ、んんっ!」

 

 膣内で射精を受け、ドクドクと精液を注がれている最中、陳宮はずっと声を出し続けていた。しかしすべて出し終えた後は、電池が切れたかのようにぐったりと動かなくなり、自分で抱えていた足もだらりと伸ばして静かになる。ぼーっと開かれてどこかを見つめる半目は、まるで犯された後にも見える。膣から精液が溢れだしてソファが汚れるのも、なんとなくそう見えてしまって申し訳ない。

 俺がそんな陳宮を心配していると、横から抱きついてきた呂布が小さく「大丈夫」と伝える。俺よりも陳宮を知っている彼女が言うことだ、おそらくいつもこうなのだろう。そう想うことにした。

 抱きつかれた勢いもそのままに、誘われるままにガラス張りの壁へ近付いた俺と呂布。そこで彼女は自らガラス張りの壁へ体を押しつけ、大きな胸の形をむぎゅっと変える。そのまま、尻を後ろに突き出して俺を待つ体勢になった。

 何をすればいいか、言われるまでもなく理解できた俺もそっと体を寄せ、彼女の膣にイチモツの先端を侵入させる。このまま進んでも大丈夫だと確認した後は、勢いをつけて腰を前に突き出した。

 すると驚いた様子の呂布はくぐもった声を出し、それでも不満を口にせず俺を受け止める。最初から激しく奥を突く動きを見せれば、彼女はすぐに蕩けた声を出しながら感じ始めた。

 

 「あはぁっ、すごいぃ。これっ、これが欲しかったの――今朝、ダーリンと別れてからもずっと欲しくて欲しくてしょうがなかったのぉっ」

 

 ぐちゃぐちゃと音が鳴り、こらえ切れなくなったのかぷしゅっと潮が噴き出す。彼女と俺が繋がっているその真下は、どんどん溢れ出て来る体液のせいであっという間にびしょ濡れになった。

 二人で立ったまま、可能性は低いかもしれないが誰かに見られるかもしれない環境で、獣のように快楽を貪り合う。それはもはや性交というより、交尾に近い姿だったかもしれない。

 俺も呂布も言葉を捨てて、ただ荒い呼吸と快感に染まった声だけを発して、汗にまみれながら腰を振り続ける。余計なものは他にない、股から全身に伝わる快感だけを感じて。

 腰を掴んで必死にイチモツを前後にさせていると、それだけで呂布のすべてがわかるような錯覚すらあった。彼女の呼吸、感じる場所、心音や後ろ向きで見えないはずの表情まで。彼女の存在をこれまで以上に近く感じた。

 きっと多くの女性を抱いた疲労感が体に溜まっていたせいもあったのだろう。性行為に対する俺の集中力はこれまでの比ではなく、自分の存在すべてで呂布を感じようとしていたのだ。

 呂布をイカせることだけを考え、彼女のことだけを頭に残し、他のすべてを投げ捨てて一心不乱に腰を動かす。その時の感覚は確かにこれまで感じたことがないものだった。

 

 「ああぁっ、うんんんっ、いいぃぃっ!」

 

 彼女も俺と同じ状態のようで、髪を振り乱して声を出し、汗が飛び散ることも気にしない程度にはまわりがわからなくなっている。つまりは俺と同じ、この行為にだけ集中しているのだ。

 一体何度突いたかわからない。しかし、やがて限界がやってきて、俺たちは呼吸をぴったり合わせて感度を高め、全くの同時に絶頂した。

 射精を始めたのは、彼女の奥に強く亀頭を叩きつけたその瞬間。その瞬間に呂布もイッて、俺も精液を吐きだして、声を混じらせて絶叫していた。

 しかも二人で揃って、最後の瞬間まで快感を感じていようと腰を振り続け、精液を出しつくすその時まで動きを止めなかった。後になって見てみれば、俺と呂布が立ってる場所は汗や精液や潮噴きのせいでびしょびしょに濡れていて、もはや見るも無残な状態だった。

 ようやく一息ついた時、俺たちは二人揃ってそこへ座り込んで、どちらからともなくキスを始めた。最初は唇同士で触れあうだけで、やがては舌をねっとりと絡めていやらしく。

 びしょびしょに濡れたカーペットで尻が濡れることも気にせず、俺たちは本番が終わってからもただひたすらに快感を求め続けた。

 

 「んっ、ふぅむっ、呂布――」

 「あんっ、はぁぁっ、大好きよダーリン――」

 

 今度は下半身ではなく、口で深く繋がり合う俺たち。先程の叫びとは一転して、部屋の中には一定の静けさが戻っていた。

 しかしいつまでもこんな時間が許されるはずもなく、恋人同士のようなキスはすぐに止められることになった。止めたのは当然、この瞬間を順番待ちしていた二人である。

 

 「おい、いつまでそうしている気だ。こっちはずっと待っていたんだぞ――順番は守らなきゃいけないんだったな、呂布?」

 「お待たせしました、旦那様。さぁ、今度はどんなプレイがお望みですか? 上も下も、前も後ろも、どこでも使ってくれて構いません。ぜひとも私の体で性処理を」

 

 振り返るとそこには、心なしかイライラした様子の呂蒙としーさんが。どうやらこれ以上待ってくれそうにないらしい。

 勾玉のおかげで精液が尽きることはないし、腹上死の可能性も少なそうだが、さっきまでの疲労は着実に溜まってる。できればここらで休憩をさせてほしいんだが、そういうわけにはいかないのだろう。

 獣のように貪り合っていた俺たちだが、今では目の前の二人の方が獣に近い状態になっている。お預けされたことに加えて、他の女とやり合っていたんだ。肉食動物並みに睨みを利かせて俺の体を舐めるように見つめるのも、仕方のないことなのだろう。

 

 「あのー……できれば少しだけ、五分だけでも、休憩させてもらえればなぁなんて――」

 「「今、なんて?」」

 「いえ、嘘です。わかりました、やりましょう。ええ、いくらでもやりますとも」

 「うふふ、モテる男は大変ねダーリン。私ももっとしたいから、また後でね。お願いだからそれまで倒れちゃわないでよ」

 

 そう言って陳宮の傍まで歩いて行く呂布を見送りながら、俺は小さくため息をついて頭を振る。

 今日もまた、夜は長くなりそうだ。

 



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新生活、及び怠惰な日々 1

 朝目覚めて、知らない天井があると、思わず呟いてしまいたくなるセリフがある。なんて思う俺はいまだに子供なんだろうか。

 昨日、呂布に紹介された俺の家はひどく豪華な場所だ。一人じゃ使いきれないだろってくらいたくさん部屋があるし、置いてある家具も明らかに高そうな物ばかり。風呂場なんて広すぎだろってくらいスペースがあって、どうやら俺を愛してくれているらしい女の子全員と入っても余裕があったほどだ。

 小市民でしかない俺には場違いすぎる場所としか思えない。だが、今日からここが俺の自宅になるのだ。交代で俺の世話をしに来るらしい女の子たちと過ごすために。

 なので、俺が起きたその瞬間にはすでにしーさんが俺の愚息を口に銜えていたとしても、なんらおかしくはないのである。だってこれからはおそらく毎日こんな調子だろうから。

 

 「んふっ、んっ、んっ――ん、おはようございます旦那様。今朝のご気分は?」

 「あー……悪くない、んだけど、どうしていきなりこんなことになってるんでしょうか……?」

 「旦那様のおちんぽが大きくなっておられたので、このままでは辛いでしょうと判断しました。もう少しお待ちください、すぐにイカせますので」

 「い、いや、別にイカせる必要もないし、舐めなくてもいいんだけど――うっ」

 

 後から聞いてわかったことだが、しーさんは趙雲という名前なんだそうだ。で、知らない間に俺は彼女のご主人様とやらになってしまったらしく、彼女に対しては命令するように話しかけろと、本人から指示された。

 とにかく彼女は出会った日から俺にかしずいて、まるで俺の部下か奴隷になったかのように忠実な態度を取っている。俺を手助けするという点では他の女の子と変わりないのかもしれないが、彼女だけは特別な感じもした。

 呂蒙が「彼氏」、関羽が「夫」、意味合いは同じかも知れないが呂布は「ダーリン」など、みんなは俺のことを勝手にそんな風に扱ってる。それが嫌かと言われればそんなわけでもないが、むしろ嬉しかったりもするが、あまりにも一人の時間がないと嫌になったりもする。

 だがこの趙雲は初日に俺の世話をすると言って、他の子がそれぞれ帰路についたのに俺の家に残り、色々と家事をやってくれたあと、なんと俺を気遣って一人にしてくれたりもしたのだ。無論、それは俺から指示したのだが、他のメンバーならまず却下されることを趙雲だけは納得してくれた。

 目を閉じたまま、笑顔で「ご主人様もお一人になりたい時間はありますものね」と言ってくれた時は、俺も思わず彼女を抱きしめそうになったほどである。こうも誰かに密着されてる生活が続くと、そんな言葉が嬉しかったりするのである。

 そういう経緯があって、俺は自室に設定された部屋のキングサイズのベッドの上で、ひさしぶりに一人でのびのびと大の字になって寝たのであった。

 そして朝、起きてみればこの有様だ。俺の下半身にはなぜか浴衣姿の趙雲が覆いかぶさっていて、大きくなった俺のモノに彼女の舌が絡みついている。彼女のやさしい態度に油断して甘えてみれば、あっさりと急所を握られていた状態だ。

 

 「んっ、ふっ、また固くなった……気持ちいいんですね。ここですか?」

 「うあっ、はぁっ、あぁっ――」

 「うふふ、その調子です旦那様。すべてを私に委ねて、今はただ気持ちよくなってください――」

 

 力のこもった舌先がぐりぐりと先端の割れ目へ押し付けられる。非常に気持ちがよく、知らない内に少しだけ背を逸らしてしまっていた。

 趙雲はすでに俺の感じる場所とか、感じ方とかをよく理解していたようだ。巧みな動きでどんどん俺を責めてきて声が抑えられない。

 愛情や尊敬、そういったものが感じられる丁寧な動きだった。手は使わずに口と舌だけで色んな角度から快感を与えてくる。頬の裏側に先端を押しつけたり、舌を竿に絡みつかせたり、時にはちょっとだけ歯を触れさせてみたり。色んな感触が同じ口の中で与えられていた。

 気持ちよくて、落ち着く様な行為とはまた違う、興奮を抑えるのに苦労するほど強い快感が与えられる行為だ。射精感が見る見るうちに高まっていくのが自分でも理解できる。

 そうしている間にあっさりと堪え切れなくなった俺は、彼女に懇願するように頼んだ。我ながら情けない声で、男らしくない態度だが、やっぱりエロゲーやらAVやらで見るような態度は俺には無理らしい。

 ゆっくりと頭を上下させる趙雲の銀髪に触れながら、我ながら恥ずかしいお願いをしてみた。

 

 「あっ、ちょ、趙雲――お、俺も趙雲のが舐めたい……」

 「んふっ? んっ――ぷはっ。本当ですか? ふふ、旦那さまが私のあそこを――はぁっ」

 

 嬉しそうに吐息を洩らした後、「わかりました」と答えた趙雲は体の位置を変え、お互いに顔の前に股間が来るような体勢になった。ちなみに俺がベッドの上で寝そべっていて、彼女がその俺の上に乗っている。

 はだけられた浴衣の奥に水色のショーツが見える。秘所に触れるその場所はすでに少し湿っていて、彼女もまた興奮しているらしいことがわかった。

 俺は手を伸ばしてぐっと彼女の尻に触れ、むっと強い雌の匂いを放つそこへ顔を寄せながら、彼女へ尋ねてみた。すでに趙雲は再び俺の愚息に食いついて嬉しそうに頭を振ってるが、律儀に答えようとしてくれたために口が離れる。

 

 「あのさ趙雲、どうして浴衣なんだ? 昨日はこんなの着てなかったけど……」

 「んんっ、むふっ、はっ――こ、この方が脱がせやすいかと思いまして。胸元や足の間から手を差し込みやすく、旦那様が私を犯しやすいでしょう?」

 「あ、ああ、そういう……」

 「その、じ、実は昨日、裸で寝ていたのですが旦那様が夜這いに来られず、いつ来られるのだろうと悶々としながら眠れなくて――旦那様から一晩中焦らされてしまったので、今朝から激しくなるかもしれないと想い、脱がせやすい物を選んでおきました」

 「あ、う、うん、ありがとう。そこまで考えてくれてたんだ、ははは……」

 

 まるで褒めてくださいと言わんばかりの口調と共に尻を振りながら、趙雲はさっきよりも激しい動きで俺のモノを銜えこんだ。視界は彼女の股間とショーツで埋め尽くされているためその光景が見えないが、我がいきり立った愚息が暖かい場所へ包まれたのでよくわかる。

 そうか、どうやら彼女は俺を気遣って一人にしてくれたわけではなく、それも一種のプレイだと思って命令を聞いてくれたらしい。一旦別々に寝ておいて夜這いに来るのか、もしくは一晩中焦らすというプレイだったと認識しているのだろう。なぜか今凄く上機嫌なのはそういう理由だ。

 もちろん俺にはそんなつもりなど一切もなかった。ほんの一ミリたりとも考えていないのである。ここ最近はずっと女の子に拉致やら誘拐やら監禁やらされてたからとりあえず一人になりたいと、そういうつもりで言っていた。

 どうしてこれほどまでに食い違うのだろう、などと想いながらも嬉々として趙雲の秘所へ舌を這わせ始めるあたり、かなり俺も毒されてきたようだ。たった一夜、たった数時間とはいえ一人で休めたことが功を奏したのか、今さら趙雲を跳ねのけるような気分にはなれない。むしろ思い切り彼女とエロいことをしたい気分だった。

 少しだけ湿り気を帯びていたショーツに舌を伸ばし、その奥にある秘所を刺激するために強く触れる。それだけで彼女のショーツは外と内からどんどん濡れていくようで、あっという間に下着の意味を成さないほどびしょびしょになってしまった。

 同時に趙雲からの奉仕も速度や力強さが変わっていく。動きの巧みさはそのままで、激しさばかりが増していた。

 俺の舌の動きを感じているようで、彼女の甘い喘ぎ声は部屋いっぱいに広がるようだった。

 

 「んんっ、んむぅ、んふぅぅ――だんなひゃまぁ……!」

 「うっ、ふっ、ふぅっ――」

 

 二人分の激しい息遣いが室内に広がり、与えられる快感と共に気分も盛り上がっていく。少なくとも俺の限界は間近だった。

 丹念にねっとりと舐められ続けたせいで限度が近くなり、さらにそこで彼女の手が玉をぎゅっと握って、もう片方の手で竿を扱かれたため、俺はあっさりと絶頂へ到達する。

 何も告げずに、あっさりと達した俺は彼女の口内で射精を始めて、いつもの異常な量の精液を勢いよく放ってしまった。でも趙雲は一瞬も口を離そうとはせず、むしろより一層深くにまで先端を押しこんだ。先端が喉の奥にまで呑みこまれる。

 そのまま喉の奥でびゅーびゅーと精液を吐き出し続け、数分が経ってからようやく終わると、趙雲は肩で息をしながら身を起こした。感触でわかっていながらもちらりと見てみたら、俺の下半身には精液がこぼれていない。すべて彼女が呑んでいたようだ。

 趙雲は俺の顔が見えるように体勢を変えると、中にある物をこぼさないようにしながらゆっくりと口を開いた。やはりそこには俺が出した濃厚な精液があって、ひどく卑猥な様子で舌と絡み合っている。

 思わず顔が熱くなってしまった。しかし趙雲は見せつけるように舌を動かしつつ、少しずつ喉を鳴らして飲み干していきながら、いつの間にか腰を降ろして秘所とモノとを触れ合わせていた。このままだと間違いなく挿入されるだろう。

 だが今の気分で抵抗するはずもなく、俺はあっさりとその行為を受け入れた。趙雲の目を見ながら小さく頷くと、彼女が嬉しそうに喉を鳴らした直後にずぶりとモノが膣の中へと入りこむ。

 暖かく、締まりのいいそこは挿入しただけで出してしまいそうなほど気持ちいい。今出したばかりでなければやばかったかもしれない。そう想いながらも俺は手を伸ばして浴衣の中に手を滑りこませ、趙雲の乳房へと触れていた。どうやら彼女はノーブラだったようで、いきなりふにゅりと柔らかい感触が手のひらに伝わる。

 胸を揉みながら腰を動かそうと思ったその時だ。趙雲も開脚してベッドに足をつき、腰を上げようとしたところ、部屋の扉ががちゃりと開いた音がした。

 

 「おい、まだ寝ているのか? 休日だからっていつまで――なっ」

 

 嫌な予感をビンビンに感じながらもそちらへ視線を送ってみれば、案の定そこには一番こんな姿を見てほしくなかった相手、呂蒙の姿が。まるで浮気相手との情事を正妻に見つかってしまったかのようだ。つまり完璧に詰みの状況である。

 その証拠に呂蒙は瞬間的に怒髪天を突くくらいのイメージで怒り始め、今にも俺たち二人を殺せそうなほどに危機迫る迫力を放っている。情けない話だが、その姿が怖すぎて勃起してたはずのモノが縮んでしまったほどだ。

 挿入したはずのそれが縮んでしまったことでようやく振り向く気になったのか、趙雲は俺よりも遅いタイミングで呂蒙に目をやった。そして、興味なさげな声でぽつりと告げる。

 

 「ああ、あなたでしたか。旦那様に何か御用でも?」

 「なにか、だと……ふ、ふふ、ふふふ、どの口がそう言う――なんでおまえがここにいるんだッ!!」

 

 見ていたはずなのに、全く見えなかった。気付けば俺の体の真上では、呂蒙が本気の怒声と共に拳を突き出していて、趙雲は俺の息子を銜えこんだままで体を捻り、彼女の拳を受け止めている。しかもいつの間にかもう片方の手には日本刀が握られていた。

 状況は一転して天国から地獄へ。気持ちよくて幸せだった時間は終わり、この場はもはや本気の殺し合いにも発展しかねない戦場へと変化している。

 そうしているのは俺よりよっぽど強いお二人なため、一瞬で縮こまった俺にはどうすることもできない。ただ呆然と、ガタガタ震えながら見守るしかないのだ。

 

 「趙雲、なぜ貴様がここにいるッ――こいつの世話は日替わりで担当すると約束したはずッ。渋々納得してやったというのにあっさりとその掟を破るとは、今この場で殺されても文句はないなッ」

 「はて、なぜそういった話になるのでしょう。確かにその約束には同意しましたし、裏切るつもりもありませんよ。私だって旦那様のことが大事ですから」

 「よくもまぁぬけぬけとそんなことを……! 今日は私が担当で、貴様は昨日の担当だろうッ! 交代するのは遅くとも朝の七時! それ以降はこいつの部屋には立ちよらない約束だろうがッ!」

 「ええ、お世話係の約束で言えばそうです――しかし、私は個人的に旦那様の下僕となりました。家事はお世話係がやるにしても、彼の護衛をするのは日常のこと。彼に危険が及ばぬよう、毎日お傍でお守りするのが私個人の役目です」

 「き、貴様ッ、そんなわけのわからん理由で私たち全員を出し抜くつもりだったのか……!? ふざけるなッ! そんな話があってたまるか――今すぐこいつの世話係からはずれろ! そうすれば命だけは助けてやる、非常に不本意だがこいつの前だしな……!」

 「残念ですがお断りします。私の忠誠はあなた如きの言葉で変わるものではない――もしあなたの言うことを聞いて、旦那様の身に危険が起こった場合はどうするのです? 私が傍に居続けるということは、あなたたちのためにもなることなんですよ?」

 「こいつの身は私が守るッ。たとえ誰が相手でもな――つまり、貴様が相手になってでも、私の彼氏は守り通すということだッ!」

 

 長らく語り合ってた二人だが、ついに呂蒙がブチ切れたことにより、事態が動き出してしまった。凄まじい一撃で趙雲をぶっ飛ばそうとうねりを上げる呂蒙の拳と、ついに俺の息子を解放した趙雲が構える刀の鞘とがぶつかり、広いとはいえ限りのある部屋の中に嘘みたいな暴風が吹き荒れた。

 爆心地のすぐ傍にいた俺はいまにも気を失いそうな想いだ。いや、失ってた方が楽だっただろう。普段は臆病な自分が嫌になったりするが、こんな時だけはもっと臆病に生まれたかったと真剣に思ってしまう。

 ギリギリと拳と鞘とで押しあう二人は間近で顔を突き合わせ、なお且つたまにちらりと俺に視線を投げかけながら、今度は同時に動き出した。一般市民の俺に見えたのはそこまでで、その後は目にもとまらぬ攻防を始めていたことだけはわかった。

 

 「大体が呂布のバカの提案そのものが気にいらなかったんだ! こいつは私が最初に見つけたというのに、後から後からウジ虫のように湧いてきやがって……! そもそもの権利から言えば、こいつを抱いていいのは私だけだッ! 私の彼氏なんだからなッ!」

 「フンッ、それもあなたの勝手な押しつけでしょう。旦那様が誰を抱き、誰に抱かれるかは旦那様が決めること。殿方を自分の勝手で縛りつけるなど愚の骨頂。男は自由に遊ばせつつ、なお且つ手のひらの上で転がすのが良き女というものです」

 「貴様の意見など知るかッ! そう思ってるなら他所の男を転がしてろッ! こいつは私のものだ、やっぱり他の誰にだって渡してなるものか――特に貴様なんかにッ!」

 「やれやれ、南陽の四天王ともあろうものがはしたない。あなたは冷静沈着な武人かと思っていましたが、蓋を開けてみればただの狂犬でしたか――いいでしょう。首輪が必要なら私がつけてあげますよ。そして二度と旦那様に害を成さないように調教してやります、バカ犬」

 

 そんなこんなで始まってしまった激闘だったが、最近当たり前のように女の子に組み敷かれてる俺に止められるはずもなく、声をかけることすらできるはずがない。

 というわけで俺は自分でも驚くほどの速度で部屋の隅にエスケープし、二人の激闘を見守ることにした。さすがに命を奪うようなことはやめてほしいので、もしもの時に止められるようにと念のための保険だ。

 ちなみに、できれば第一希望としては部屋から逃げ出して誰かに助けを呼ぶか、争いが終わるまでどこか別の部屋に逃げたかったところだが、出入り口の扉付近で二人が戦っているために逃げ出せなかったのである。だって見えないほどのスピードでパンチとか蹴りとか日本刀とかが飛び交ってるのだ、あそこへ行けば確実に死ぬ。

 結局俺は豪華な新居を手に入れても彼女たちとの付き合いがある限り、部屋の隅っこで三角座りなどしているのがお似合いのようだ。

 

 「誰がバカ犬だッ、バカは貴様だろう! 上等だ、もう二度とこいつに近付かないと宣言するまで全力で締め上げてやる――失禁だけで済むと思うなよッ!」

 「いいでしょう、お相手します――腕一本で済むとは思わないでください。私の旦那様に近付く危険因子は、すべて排除します」

 「貴様が後から近付いてきたんだ、横取り強欲女ッ!」

 「ふっかけてきたのはそっちでしょう、ヤンデレわがまま女」

 

 あぁ、早く終わらないだろうか――

 

 

 

 ◆

 

 

 

 結局勝負の決着はお預け。散々暴れ回って部屋に置かれてた物をある程度破壊した二人は、その破片が俺の間近の壁に突き刺さって俺が悲鳴を上げたことで勝負を止め、ひとまず休戦することとなった。

 どちらも渋々といった様子でお互いを睨みあうのを今でもやめていないが、とりあえず俺に危害が加わるくらいなら、と我慢してくれることにしたらしい。ただこの二人が一歩でも俺の家から外へ出た時、またさっきのような激闘が始まるのではないかと心配でならない。

 ただまぁ少なくとも俺といっしょにいる間は大人しくしてくれるようなので、今はまだ大丈夫だろう。俺は呂蒙に促されるままリビングへ赴いて、彼女が用意してくれたらしい朝食を食べることにした。

 テーブルの上に置かれていたのは見事な料理ばかりだった。といっても朝だからボリュームも控えめで、バランスも考えられているようだ。以前からの料理上手にさらに磨きがかかったらしい。

 食べるのが楽しみだ、なんて思いながらイスに座ったその時、またしても問題が起こってしまう。呂蒙が作っていたのは俺と彼女の分だけで、本来は世話係の交代によって帰るはずだった趙雲の分は作っていない。

 だというのに彼女は帰ろうともせず俺たちといっしょにリビングへ来て、あろうことかイスに座った俺の足元の床にぺたんと座り、裸でいるように言われていた俺の股間に顔を寄せてきたのである。はだけられた浴衣はそのままで、大ぶりの乳房が片方、ぽろんと外へこぼれている。

 瞬時にその状況に気付いた呂蒙はまた顔を真っ赤にして怒り、視線だけで人を殺せそうな表情でテーブルの下へ潜り込むと、萎えていた俺のモノに舌を這わせる趙雲に掴みかかった。一発目に拳を突き出さないあたり、多分さっきの反省が利いているんだろう。

 彼女たちはテーブルの下でまたちょっとした争いを始め、どうしていいかわからない俺を置いてきぼりにしたままごちゃごちゃと言い合っていた。

 

 「貴様、やっぱりバカなのかッ!? もう交代だと言っただろう、とっとと帰れ!」

 「あなたこそバカですか? 言ったでしょう、私は常に旦那様の護衛として傍にいます」

 「そんなわがままが通用するか! とにかく帰れ! 今日は私が護衛も兼ねるから問題など起こらん!」

 「信用できるんですか? 大体があなた、彼と共に暮らしていたというのに次から次に他の女性に旦那様を取られてこんな状況になってるんでしょう――このまま任せては、また新たな女性に奪われてしまうのでは?」

 「うぐっ、う、うるさいッ! 二度と同じミスは犯さない! 誰が来ても私が近付けさせないに決まってるだろう!」

 「ふふん、それはどうでしょうか。あなたも自らの過ちを理解しているのでしょう? ならば同じ轍を踏まないためにも私をここに置いておく方がいいと思いますが」

 「うぐぅ……!」

 

 人の下半身を目前にしながらの会話だろうか、これが。呂蒙に攫われた日から奇妙な体験はかなりしてきたが、こんな体験は初めてだ。

 だがもうさっきみたいな派手な喧嘩はしないだろう。そう判断して、俺は先に呂蒙の料理を頂くことにする。冷ましてしまうにはもったいないし、腹も減ってるので早く食べたい。

 というわけで俺が箸を持って食事を始めようとしたところ、テーブルの下では少し進展があったようだった。

 

 「ではこうしましょう。ひとまず今日一日、私を外へ追い出せるか、それともここへ置いておくか――どちらが早く旦那様を絶頂させられるか勝負です」

 「はい?」

 「チッ、不本意だが他に方法がないか――いいだろう。私が先にイカせられるに決まってるからな」

 「いや、ちょっとお二人さん、俺これから食事なわけだからそんな――うっ」

 

 抗議をしようと口を開いたその瞬間には、俺のモノはぱくりと口内へ迎え入れられていた。テーブルの舌を覗きこんでみれば、そうしていたのは趙雲だ。

 彼女は頬の裏側へ先端を押しつけながらも舌を動かし、俺に刺激を与えながら視線を合わせてくる。やめてほしい、と目で訴えれば、彼女は目を閉じたままにこやかに微笑んで口を離した。

 

 「ええ、わかっていますよ旦那様――必ず、私の方が旦那様を早くイカせてみせます。大丈夫です、早いことは恥ずかしいことではありません。だから我慢せずにあっさり出してしまって構いませんよ」

 

 うん、全然伝わらなかった。しかも俺のコンプレックスを真っ正面から直撃する言葉のおまけつき。絶望感のせいで思わず握った箸を落としそうになったよ。

 ともかく、やはり俺を取り巻く女性たちに俺の言葉は通用しないらしい。気を取り直した俺はそのまま食事を続けることにした。幸い股間を弄られる以上の妨害はないようで、上半身は自由に動かせる。

 などと思っていたのは間違いだったようだ。趙雲の奉仕は最初から全力で、ベッドの上でしてくれたやさしい感じとは真逆なほど力強く、速度が速い。どうやら唇をすぼめて離さないようにしながら、高速で頭を振ってるらしい。その上で舌も絡みついてくる。

 しかも丁寧にやってたさっきとは違って、今回は最初から両手を使ってきていて、片方は勃起した息子の根元を扱いて、片方は尻の間に入り込んで穴の入口を探っている。俺の弱い部分を知っているからこそ、最初から全力でイカせようとする動きだ。

 あまりにも刺激が強すぎて、力が入らなくなった俺は箸を持っているのも必死で、テーブルの上に頭を伏せて声を抑えるのが精いっぱいだった。食事を続けようなんてこと、できるわけがない。

 ただ、声を我慢してることに気づいたのか、趙雲の声が聞こえた。頬張ったまましゃべってるせいか聞き取りづらく、おまけにその口の動きが更なる快感となって腰の奥まで突きぬけてくる。

 

 「んふぅ、んほぉ――だんなひゃま、がまんなひゃらないでくだひゃい。いつでもだひてくだひゃってけっこうでふ」

 「ううっ、くぅ、あぁっ……!」

 

 腰を中心にしてビリビリと痺れるような強い感覚が全身を駆け巡って、頭の中が蕩けそうになる。結構前からただれた生活を送っていて抵抗力も薄くなっているのか、もう我慢できそうになかった。

 我慢の甲斐もなくあっさりと達した俺は、本日二度目となる射精を趙雲の口内へと行う。今度も彼女はすべて飲み干すつもりらしく、竿の部分がどくどくと脈打ってる間は一瞬も口が離されることはなかった。

 

 「うむぅ、んむっ、むふぅ……」

 「三分二十秒。フン、まずまずだな――だが私ならもっと早くイカせられる」

 

 射精が終わって、テーブルに頬を乗せて荒く呼吸を繰り返してると、イッた直後だというのにまたしても俺のモノが銜えこまれた。声と状況から察するに、おそらく今度は呂蒙だろう。

 ちゅう、と弱く吸いつき、感触を楽しむように舌が先端の割れ目を撫でてくる。イッたばかりの今ではそれだけで脳が痺れるほど快感が強く、思わず腰が引けてしまった。だけどそれを見越していたらしい呂蒙が腰を掴んでいるため、逃げられない。

 そのまま舌がちろちろと動いていると、今度はテーブルの下から趙雲の声が聞こえてきた。語りかけている相手はどうやら俺ではなく、俺のモノを銜えている呂蒙のようだ。

 

 「待ってください。旦那様は今イッたばかりです。ただでさえ敏感で早漏な方ですから、これではあなたの方が圧倒的に有利というものでしょう。これは不正になりますよ」

 「先を選んだのは貴様だろう――だがまぁいい。ハンデとして一分加算でやってやる。始めるぞ」

 

 駄目元でもう一度抗議してみようか、と思う俺の声を待つこともなく、呂蒙も先程の趙雲のように激しく頭を振り始める。口から喉まで使うような深いストロークが、竿の全体を呑みこんでいるのが感触でわかる。

 その上で彼女の両手は俺の尻の穴を弄っていて、片方で広げながら、片方は奥深くまでずぶずぶと侵入してきていた。そこで俺の弱点を執拗に責めてくる。

 じゅぷじゅぷと音が鳴る激しい口淫。俺のツボをわかっているそれは非常に巧みで、俺をイカせることにこれでもかと言うほど特化していた。

 そのせいで俺は趙雲の時よりも早くイッてしまい、またしても大量の精液を呂蒙の喉の奥へと吐き出していく。すると呂蒙もすべて飲み干すまで口を離さず、同時に俺の尻穴の内部を刺激し続けた。

 長い時間をかけて精液を吐き出し終えた後、美味そうな料理を前にして箸を持ちあげることすらできない俺はぐったりと倒れ込んだままだった。

 

 「んっ、ぷはっ――どうだ?」

 「むっ――ハンデの一分を加算して、二分三十秒……」

 「フフン、どうやら私の勝ちのようだな。ハンデまでつけたんだから、これ以上ないほど完璧に、完全に」 

 

 テーブルの下からは二人分の声が聞こえる。しかし立て続けに二回イカされた今、集中してそれを聞き取れるほどの冷静さはない。ぼーっとする頭はいつもより重く、荒いままの呼吸を整えるのも一苦労なのだ。

 これで終わってくれればいいなぁ、などと思う俺は冷えていく美味そうな料理を目前にして、ずっと「待て」をさせられている飼い犬の状態にも等しい。

 

 「しかしこれは卑怯です。確かに順番を選んだのは私ですが、ハンデをつけるのならばもっと時間をもらわなければいけなかったはず。一分だけでは覆せないのが旦那様の早漏でしょう。やり直しを要求します」

 「チッ、わがままなのはどっちだ――ではどうする気だ? これで文句をつけるようではイカせるまでの時間を競っても同じことの繰り返しだぞ」

 「ならば別のことで競いましょう。このまま旦那様を犯し、全員でやった時の痴態を引き出した方の勝ちです」

 「それではまた順番が関わってくるだろう。私はそれでも勝つ自信があるが、今度負けても文句は言うなよ」

 「ええ、もちろんです。勝つのは私ですから」

 

 なんだか失礼なことを言われた気もするが、今や気にしてられるような状況ではない。正直朝だというのにもう疲れたのでこのまま眠ってしまいたい。

 などと考えても無駄らしく、裸体を晒したままぐったりしていた俺はひょいっと軽く呂蒙に横抱きにされ、いわゆるお姫様だっこの状態で運ばれていた。どうして彼女は俺のプライドを粉々に潰すのがこれほど上手なのだろう。羞恥と情けなさで死にそうだ。

 そんな俺の心情とは裏腹に、俺たち三人はさっきまでの激闘の名残を残す寝室に戻り、俺の体は再びベッドの上へ転がされる。そして俺が呆けて動けないのをいいことに、呂蒙は慣れた調子で俺の両手首を手錠で拘束し、動けないような状態にしていた。

 萎えていた息子を扱きながら腰に跨ってきたのはにやりと笑う呂蒙で、そのサディスティックな表情を見せられた俺は思わず背筋を凍らせて意識を覚醒させた。

 まずい、このままでは犯されてしまう。勾玉のせいで限りがないのに「全部搾りとるまでやる」と言って延々やられた時のように。

 

 「さて、そもそもを言えば、おまえがあっさり関羽に拉致されたあげく監禁されて、その後懲りもせずに呂布にほいほいついて行ったことが悪いんだったな。ふ、ふふ、今一度の教育が必要だと思ってたところだ――今この場で、二度と他の女に目がいかないように教育してやる」

 「ま、待ってください呂蒙さんッ! 元はと言えばあれもこれもそれも俺のせいじゃなく、俺がもらった勾玉――」

 「その話は聞き飽きた。勾玉が女を寄せ集め、私とおまえを引き合わせたというならば――そのことだけに感謝して後の女は力ずくで振ればいいだけの話だろう。それができないというなら、できるようになるまで教育してやる」

 「ちょ、ちょっと待って、考え直して――!」

 「なぁに、心配するな。今日という日はまだ始まったばかり、時間はたっぷりある――明日になっても私を離したくないと、おまえの口から、おまえの意思で言えるようになるまで、今日はたっぷり可愛がってやるから……ふふ」

 

 そう言って呂蒙の膣に俺のモノが入りこんで、痛いほどの締めつけがぎゅっと俺の分身を襲う。直後にはすでに彼女の腰は上下に激しく動いていて、我慢できないほどの快感が一瞬で俺の全身を満たしていった。

 遠慮も気遣いもない様子で勢いよく腰を振られ、右手は俺の乳首をきつく抓り、左手の指が俺の口に入り込んで思うように舌で遊んでいる。息が苦しくて、痛みと快感が混ざり合って、考える暇もなく頭はぼーっと蕩けていた。

 何も考えられずにただ喘いでいると、俺の首筋に舌を這わせた呂蒙が何事かを呟いてくる。熱に浮かされたような小声はひどく艶めかしく、普段の彼女とは違う色気を持っていた。

 

 「なぁ、気持ちいいんだろう? ふっ、はっ、女を抱いてる時より、女に抱かれてる時の方が――はぁぅ、うくぅ、ほら、鏡があったら見せてやりたい。私に犯されてる時のおまえは、最高にいい顔してるぞ」

 

 されるがままに俺の声が徐々に大きくなっているのがわかる。何も考えられない頭の中へ、俺自身の平常心を失くした声と、ひどく感じている呂蒙の声だけが響いてくる。

 

 「んぅ、出してもいいぞ。壊れてしまえ。私の手で、マンコで、いつもみたいにアヘ顔晒して壊れてしまえ――」

 「んんっ、あぁっ、あぁぁっ!」

 

 気付いた時にはすでに射精していた。呂蒙の膣の中でとめどなく体液が溢れ出て、自分の下半身すらもびしゃびしゃに濡れる。

 どくどくと動いていた竿が止まると、包まれていたはずの俺のモノが外気に触れて、呂蒙が上から退いたのがわかった。だけど数秒もしない内に再び暖かい場所へ取り込まれ、きつく締めあげられる。

 

 「さぁ旦那様、次は私です――今日は私のおマンコで壊してあげますから、存分に気持ちよくなってくださいね」

 

 射精の直後にまたしても強い快感が全身へ広がっていく。趙雲が俺の腰に跨って挿入し、呂蒙と同じように激しく腰を上下に振っていたのだ。

 ただ彼女と呂蒙で違ったのは、呂蒙が指で口を弄ってきたのに対し、趙雲は唇を合わせて舌を入れてきたということ。彼女の長い舌が俺の口内を這いまわって、歯列や舌に入念なほど絡みついてくる。

 息苦しさと同時に快感がやってくる感じだ。腰の動きも単調なものだが、だからこそ気持ちいい。自分から目を閉じた俺は、彼女にすべてを任せていた。

 でも余裕があったのはそこまでで、さらに強く腰を押しつけてきた趙雲の動きで、子宮と思われる場所に先端が強く激突し、自然と俺の目は見開かれていたのである。しかし大口を開けた趙雲に唇ごと口内へ迎え入れられているため、苦悶の声を上げるくらいにしか抵抗ができなかった。

 

 「うむぅっ、うぐぅ、んおぉぉ……!」

 「んっ、ふっ、ぢゅ、む……」

 

 犯されるような速度で一方的に腰を振られ、またしても俺は呆気なく射精する。趙雲に唇を塞がれて息苦しいまま、気がおかしくなりそうな快感に襲われて声すら出せなかった。

 自分でも長いと思うほど大量に、趙雲の膣内へ精液を送り込んでいる。その間も彼女は俺の唇を解放してくれず、俺の口内はされるがままに舐めつくされていた。

 長かった射精が終わると、ようやく趙雲は俺の口とモノを解放してくれた。と思ったのも束の間で、その瞬間を狙っていたかのようにまたも呂蒙が挿入する。出しては抜かれ、抜かれては入れ、違う感触の膣に交互に取り込まれる感触。

 気が狂いそうなほどの快楽だった。イッた直後に勢いよく膣へ挿入されたせいで全身が痺れ、知らぬ内に俺は舌を伸ばして目を見開いていた。そうでもしなければ、もうおかしくなりそうなのだ。

 俺が必死に最後の一線を越えないように頑張っていると、楽しげな呂蒙の声が聞こえてくる。すでに腰はリズムよく上下に振られていて、俺のモノへ凄まじい快感を与えていた。

 

 「ふふ、もうすでに墜ちそうだな。いや、これはもう何も考えられないだろうから墜ちたと言っても過言ではない――今度も私の勝ちなんじゃないか?」

 「おや、そうなると私の勝ちとも言えるのでは? 旦那様は私に中出ししている時からそんな表情でした。ならば自然と勝ちは私になるのではないかと」

 「む――前言撤回だ。まだ堕ちてない。こいつが本当に墜ちた時はもっと凄い顔をしているからな」

 「ええ、そうでしょうとも。私もまだやめるつもりはありません」

 

 楽しげな二人の声を聞きながら、一方で俺は浅ましく大声を発していた。もはや意識があるのかもわからない宙ぶらりんな状態が続く。

 それからのことはよく覚えていないが、後になって聞いてみれば、結局は二人がかりで俺を徹底的に犯し抜いたらしい。俺もすぐに自分を見失うほどに乱れて、二人も当初の目的を忘れて気付けばもっと俺を乱そうと協力していたらしい。

 つまり後になって振り返ってみれば、結局は呂蒙の念願がかなうように状況が変化したわけでもないので、俺の犯され損だったということである。今までもこれからも、頼むからそれだけは勘弁して欲しい……。

 



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新生活、及び怠惰な日々 2

 新しい家に住んで、この生活に慣れてからのこと。

 ずいぶん時間が経ったようにも思えるが、俺は再び以前のように家と学校とを行き来する生活へと戻ることができた。

 ただ以前と違うのは、帰る家が違っていることと、そこには日替わりでやってくる女の子がいること。あとは学校で呂蒙がやたらと干渉してくることくらいか。俺の中からは現在の生活に関する不満や不安は徐々に薄れてきたのに対し、彼女の不満はとてつもなく大きいようで、学校へ通うようになってから頻繁に校内で拉致同然に連れ去られ、人気の無い場所で服を剥かれては犯された。今となっては周囲に関係がバレても構わないかのように。

 そんな彼女は自分が担当の日を狙って趙雲が家に来るのが気に障るらしく、あの二人はお互いの邪魔ばかりしている。当然俺を中心に置いて。

 しかし趙雲、呂蒙以外の日は概ね平和で、二人には悪いが、近頃の俺の心を癒してくれるのは他の四人の女性たちだった。いや、別に嫌いになったとかそういうわけではないし、一人ずつ会ったら結構いい人なんだけど、とにかく俺を巻き込みながら激しい喧嘩をするのだけは勘弁してほしい。本人たちには怖くて絶対に言えないけど。

 今日は関羽が来ている日だと聞かされていた。また一日中解放してもらえないんだろうな、などとは思うものの、俺は少し、というより結構喜びながら帰路へついた。

 そして分不相応な家に帰って、扉を開けると、そこには俺を待ちかまえていたらしい関羽が立っていた。

 なぜか薄いピンクのナース服姿だが、恥ずかしそうにもじもじしているのはいつも通りである。

 

 「お、おかえり。その……待っていたぞ」

 

 どう見てもサイズの合っていないそれは、胸元は今にもボタンがはじけ飛ばんばかりにパツパツで、股下ギリギリのスカートはむっちりした太ももを強調していて。

 首元にはいつかのペット用首輪。ご丁寧に頭には猫耳もつけていて、どういうつもりなのか明白すぎる。

 さっそく張り切っているらしい関羽に驚きを隠せなかったのは事実だが、もはやこれが日常だ。

 俺は努めて冷静に靴を脱ぎつつ、彼女へ声をかける。

 

 「ただいま。もしかしてちょっと待たせたか?」

 「いや、そんなことはない……えと、ちょうど、準備があったから――あっ、んっ」

 「あぁ、準備ね」

 

 玄関へ上がってすぐ服の上から関羽の巨乳を揉みしだく。すると彼女はびくりと反応して、でも抵抗せず、目を潤ませながら俺を見てくる。

 闘士と呼ばれる人間の中じゃ、一、二を争うほど有名で強い人間とは思えない。なんとも健気で、従順で、何より変態な女だ。

 それをそのまま言葉で伝えてやると、関羽は体を震わせて喜び、熱い吐息を吐いて軽くイッたようだった。今日も平常運転のようである。

 

 「はぁぁっ、ふぅぅ……む、胸ばっかり、そんなに触らないでくれ……」

 「じゃあ、胸じゃないところなら触っていいの?」

 「ん……」

 「どこがいいとか、ある? それとも、触られるより触りたい?」

 「それ、は……」

 

 顔を真っ赤にした関羽は態度も普段と違い、妙にしおらしく、女性というより女の子らしい姿になる。俺が命令する大抵のことはすぐ引きうけるのに、自分がしたいことは恥ずかしがって言い出せない。

 それでも、毎回自分から俺を求めてくるあたり、完全にしおらしいわけでもないけど、こうして彼女を手玉に取るのはひどく気分が良かった。

 彼女に抱きつき、小麦色の豊満な胸の谷間へ顔をうずめながら、恥ずかしがる顔を見上げる。やはり嫌とは言わないし、むしろ嬉しそうに口角を上げている。

 そのままの体勢で、ついでにギリギリナース服に隠れてる尻を揉んでやると、体の震えはさらに大きくなった。

 

 「なぁ、関羽はどうしたいんだ? 今日は何言ってくれてもいいよ。関羽がしたいようにするから」

 「ほ、本当か? なら――」

 

 ごくりと喉を鳴らした関羽が、俺の目を真剣に覗き込んでくる。意外に何か要望があったらしい。

 すべすべとした肌、胸の谷間に舌を這わせながら聞いてやることにする。幾分緊張した様子の顔からして、またとんでもない発言が来そうだ。

 

 「し、縛ってほしいんだ」

 「……はい?」

 「だ、だから、その、私を縛ってほしい。抵抗できないように、腕と足を拘束して、滅茶苦茶にしてほしいんだ……」

 「なるほど、そう来たか」

 「あと、できれば、嫌がる私を無理やり犯すような……せ、せっかくこういう格好もしているし、きつく叱られながら教育される設定で――」

 「あー……」

 

 なんでもするとは言ったけれども、これは流石に予想外だった。まさか、自ら「叱られたい」と志願してくるとは。

 つまり医者とナースの説教プレイのための、ナース服だったわけだ。縛られて無理やり犯されたいから、敢えてこの格好を選んだのだと……一体何を見てそんな発想に至ったのか。

 しかしまぁ、別に悪い気もしないので軽く頷いて受け入れる。そういう設定をつけてしたことなんて一度もないわけだし、新鮮さもあるのだろう。

 俺が頷くと関羽は一気に表情を輝かせた。自分が滅茶苦茶にされる予定ができて喜ぶとは、もはや完全に覚醒しているとしか思えない。無論、間違った方向に。

 

 「そ、それじゃあさっそく、行こう。実は、玄徳も来ているんだ――二人で私を、いじめてくれ」

 

 なんともすごい発言であるが、今さらなので引くこともなく軽く頷く。

 関羽が担当の日は大抵の場合、劉備も連れて来られていっしょにいるし、劉備が担当の日も同じ。予想していたが、やっぱり彼女たち二人はただならぬ関係のようで、俺がいない場所でもずいぶんよろしくしてるらしい。

 そうでなくても関羽がMなのは前からわかってたことだ。今更驚いたりはしない。

 関羽に抱きつき、後ろから胸を揉みながらリビングへ移動する。彼女の歩みがやけに遅いのは多分、こうして宣言もなく揉まれるのが気持ちよくて、止めてほしくないからに違いない。

 でもそこまで長い距離があるわけでもなく、すぐにリビングへ到達し、それを見た。

 何やら部屋の中には分娩台みたいな物が置かれており、その傍で同じくナース服姿の劉備が立っていた。

 俺たちに微笑みかける彼女はまさしく病院の天使の名にふさわしく、明らかに恥辱を求めてる人とは別の姿に見えた。

 

 「あ、おかえりなさい。もう、こっちに来るのが遅いから、先に関さんと始めてるのかと思いましたよ」

 「ごめん、関羽からおねだりされててさ。なんでも縛ってほしいんだって?」

 「うふふ、そうなんです。関さんったら、あなたに乱暴されたいって。昨日も私が玩具でいっぱいイカせてあげたのに、犯されたくてしょうがないんです」

 「うぅ、あっ――げ、玄徳、そんなことを、言わないでくれ……」

 

 どうやら、俺がいない場所でも関羽はマゾで、逆に劉備はサドみたいだ。少し意外だけど関羽の性質から考えればそんなに不思議でもないかもしれない。

 今も彼女は俺に胸を揉まれ、すすすっと寄ってきた劉備に股間を触れるか触れないかで手を寄せられ、明らかに声と表情を蕩かせている。お互いツボを理解してるとはいえ、なんとも呆気ない。

 

 「それじゃ、早く縛っちゃいましょうか。関さん、こっちに来て下さい。とってもエッチで変態マゾヒストな関さんを拘束しちゃいますよ」

 「う、うん……」

 

 少し体を離した劉備が顔に似合わずそう言うと、関羽は逆らうどころか嬉しそうに後に続く。もうすでにすっかり調教されているらしい。

 自分から分娩台に上がって、股を開いて、その状態で両腕と両足を拘束される。瞬く間に関羽の自由は奪われ、そこには自分では動けないナースがいた。

 ただでさえスカートが短いのに、そこまで足を開いてしまっては下着なんて丸見えだ。ぐっしょり濡れている白いパンツが、俺の視界に入る。

 

 「う、うぅ、そんなに、見ないでくれ……は、恥ずかしい……」

 

 何を今さら、と思いながら俺がそこへ顔を寄せて濡れまくってるパンツを見つめていると、俺の後ろに立った劉備が俺の肩を叩いた。

 振り返ると俺にも何か手渡される。見かけからして、白衣。どうやら設定上、やっぱり俺は医者になるようだ。

 学校の制服の上着を脱ぎ、白衣に袖を通す。その時にはすでに床へ膝をついていた劉備が、俺のズボンと下着を一気にずりおろし、すっかり大きくなっている息子を取り出した。

 興奮してたのは関羽だけじゃない、一応隠してたつもりだったけど俺もだ。

 劉備の指示に逆らわず、足からズボンと下着を抜いて、下半身だけは裸になる。白衣も含めて上が着たままだから妙に恥ずかしい。が、だんだん興奮してくるのがよくわかる。

 ますます固くなって先走りを垂れ流すモノは、劉備の頬にぺちんと当たって、微笑む彼女の口の中に銜えられる。

 やさしく笑う彼女は可愛く、きれいで、その口がグロテスクにも見える俺のを簡単に銜えているのは、ともすれば目に毒である。

 だが興奮する。頭を振る劉備の髪に手を触れて、撫でるようにしてやれば舌の動きが一層激しくなった。

 

 「うっ……はぁ、気持ちいい……」

 「んっ、じゅ、ぢゅるっ、むふぅん……すごく、匂いがエッチです……はむっ」

 「うぅ、吸いつきが……!」

 

 目を閉じて集中しているとすぐにイッてしまいそうだった。ここ最近で劉備の技術は驚くほどに上達している。俺が居ぬ間に関羽としてることも、かなりプラスになってるのかもしれない。

 しかしこの状況、美少女に銜えさせている俺には天国だが、見せつけられて放置されている関羽にとっては地獄のようなものだ。

 すっかり忘れかけていたことに気付き、そちらを見てみると、目にこぼれんばかりの涙を溜めた関羽が俺たちを見ていた。

 ぐすんと鼻を鳴らし、激しくいじめられるのが好きな割に放置プレイは嫌がる関羽は、仲間外れにされていることを悲しんでいるみたいだ。

 腰も小刻みに揺すられてるし、パンツをぐちょぐちょにした愛液は分娩台も濡らしていた。

 

 「うぅ、ずるいぞ、二人共……わ、私に、色々してくれるんじゃなかったのか……」

 「んんっ、ふむっ、ぢゅ――ぷはぁ。だめですよ関さん、お仕置きされるのに欲しがっちゃ、設定が崩れるじゃないですか。愛し合う私と先生が、セックスライフのマンネリを防ぐために、後輩ナースの関さんを騙して無理やり犯しちゃう――そういうお話だったでしょう?」

 「そ、それは、そうだが……だからって、一人だけこんな――」

 「もうしばらく待っててくださいねぇ。今、先生のおちんぽ元気にしますから――ふっ、むっ、ぢゅうっ」

 

 まさかそこまで設定を考えていたとは思ってなかった。っていうか劉備さん、初めての時とは打って変わって別人のようじゃないですか? まさかここまでエロく育つとは……。

 すっかりこの場の主導権を握ってらっしゃる劉備さん、いや、劉備の口で俺のモノが完全に勃起し、準備とやらが整った。

 しかし彼女はすぐに俺を関羽へ向かわせようとせず、立ちあがって俺の胸にしなだれかかって、小悪魔っぽく顔を見上げてきて囁いた。

 

 「先生、関さんの前にまずは私としませんか? ぐちゅぐちゅおまんこ、先生のおちんぽで鎮めてほしいんです……いかがですか?」

 

 左手を俺の胸に添え、右手でスカートをまくり上げながら、彼女が言う。

 理性を破壊する強烈な攻撃に、俺の答えは一つしかなかった。

 

 「もちろん喜んで!」

 「ふふふ、ありがとうございます。それじゃあ、いっぱい気持ちよくなってくださいね?」

 

 こくこくと何度も頷き、彼女を近くのソファへと押し倒す。劉備は「あんっ」なんていう楽しげな悲鳴を上げて、ちっとも嫌そうじゃなかった。

 真横からのじっとりした視線が少し怖くもあるが、これで断れるのは男じゃない。こんな美少女に、パンツを見せられながら誘われるのだ。そりゃあ心が動くのだって当たり前である。

 だからできれば俺を責めないでほしいと、なぜか無言になっている彼女に願いつつ、劉備のスカートの裾へと手を伸ばす。

 左手で胸を揉みながら、右手でパンツに触れる。するとそこは彼女が言う通り、すでに濡れまくっていて、もはや下着の意味をなしていない。

 笑顔のまま小さく喘ぐ劉備にキスを送り、パンツの下へ手を忍ばせる。指先に触れる柔らかな感触はたっぷりとした水気を伴っていて、少し上下に動かすだけでくちゅくちゅと卑猥な音が鳴る。これならすぐに挿れても問題ないかもしれない。

 しかし、この魅力的な肉体を前にして、そんなにもあっさりと先へ進んでいいものだろうか。いや、いいはずがない。

 そういうわけで俺はせっかくのナース服、せっかくの恋人設定、これを楽しまない手はないだろうという気持ちで、劉備の体を余すところなく愛撫していく。

 といっても普段から恋人のようなものなので、今さら感もあるわけだが、コスプレの力なのだと理解すべきだ。

 右手の中指を膣の中へ差し込み、ゆっくりと奥へ進めつつ、服の上から胸を揉み、同時に首筋にキスを送る。劉備は嬉しそうに身を捩り、俺の服を掴んで目を潤ませていた。

 

 「あぁっ、んんっ、指ぃ……そんなに、焦らさないでぇ……」

 

 彼女の方から何度もキスが送られるため、頭が熱くなるほどの興奮に襲われる。

 指をゆっくり動かして、温かい感触、淫らに吸いついてくる柔らかな感触、楽しみながら絶対に急がない。口ではそう言っていても、今の劉備は喜んでいる表情だ。焦らした方が、後でもっといい反応になる。

 焦らず、急がす、俺は劉備を焦らすためにじっくりと時間をかけて体に触れる。

 

 「あっ、あっ、先生、だめぇ……もっと、いつもみたいにもっと、激しくっ」

 「こういうのは嫌いかな?」

 「き、嫌い、じゃないです……あんっ、んっ、でも、もっと、んんんっ……先生のこと、もっと、いっぱい感じたいんです――あっ、あっ、あっ」

 

 音を鳴らして膣内を掻き混ぜている最中、劉備の両手が俺の頬へ触れ、視線を合わせようと持ち上げられる。

 首筋は唾液に濡れて怪しく光り、ナース服の胸の部分もべっとり濡れて、股間は自分の愛液でびしょ濡れ。今や快楽に染まった彼女の顔は普段とはまるで違っていて、潤ませた瞳すらとてもエロい。

 

 「あぁっ、先生……もう早く、挿れてください……先生のがちがちおちんぽ、私の専用おまんこでずぽずぽして気持ちよくなってください……」

 「うぅ、劉備っ、いつの間にそんなにエロく……!」

 

 真っ正面から目を合わせてそう言われ、ついには俺も我慢できなくなった。

 先走りに濡れる自分のモノを掴んで位置を整え、十二分に濡れそぼっているそこへ、ずぶりと先端を押しこむ。後はさほどの抵抗もなく、いっそ熱いとも感じられるそこをずるずると奥まで進んでいった。

 ぎゅうぎゅうと締めつけ、うねうねと動き、ともすればちゅうと吸いついてくる。なんとも幸せな感触であった。

 挿入した途端にイキそうになるのをなんとか堪え、尻の穴に力を入れて、はぁと一つため息をつく。

 劉備もぎゅっと目を閉じて感じているようで、俺の頬に添えられた手にも力が入っていた。

 その顔を見つめているとやはり我慢ができず、許可を取ることもなく一気に腰を動かし始める。

 ずるずると肉を引きずりながらモノが動いてとても気持ちいい。自然と腰を前後させるスピードが速くなっていく。

 劉備も俺の動きでしっかり感じていて、甘い声を弾むように発していた。

 

 「あっ、あっ、あぁっ! んんっ、すごいっ、んっ、んんっ!」

 「ハァ、ハァ、すごっ、締め付けが……!」

 「あぁっ、もっと、もっと掻きまわして……淫乱おまんこいっぱい犯してぇ……!」

 「うぅ、劉備っ」

 

 噴き出すように愛液が飛び出して、俺の太ももを濡らしている。それを感じながら俺は、彼女をもっと感じさせようと必死に動いた。

 腰を全力で前後に振って膣内をかき混ぜ、胸を鷲掴みにして乱暴に揉み、口内へ舌を伸ばして力強く舐める。そうして、まわりを忘れて彼女にだけ集中した。

 しかしそう長くは続かず、ついに限界がやってきて、射精感がいよいよ我慢できなくなってきた。

 俺は彼女の唇を塞いだまま、最後に思い切り子宮へ向けてモノを叩きこむと、彼女へのしかかるようにしながら射精する。大量の精液が膣内を満たしていって、すぐに入りきらない分が外まで溢れだしてきたのがわかった。

 

 「んんんっ、んんんんっ!?」

 

 劉備の膣もびくびくと震えて、どうやらイッたみたいだ。腰をぐねぐねと跳ねさせた彼女も少しすれば動きを止め、潤んだ目を半開きにしながら脱力した。

 それからようやく、俺たちは絶頂後の余韻に浸りながら舌を絡ませ、お互いの体を手で撫でる。

 繋がったままのモノをゆっくり前後させれば、すぐに固さが戻ってくるようだったが、少しいたずらっぽく怒った劉備に舌を甘噛みされてしまった。

 そんな風に二人だけの世界でイチャイチャしている時、はたと思い出した。

 すぐ傍には拘束されたまま放置されている関羽がいるではないか、と。

 幸せそうに目を閉じ、俺の唇を吸う劉備から視線を外し、ちらりとそちらを伺ってみると、俺は自分の失態を知った。

 

 「うっ、うぅ、うー……」

 

 なんと、大股を開いた状態の関羽はぽろぽろと涙をこぼしていたのだ。

 分娩台も丸見えのパンツもびしょびしょで、彼女がどれほど愛液を垂れ流したか、凄い光景になっている。

 しかし何より、恐ろしいのはその顔。キッと睨むような目、剥きだしにされた歯、浅黒い肌を伝い落ちる滴。悲しんでいるのか怒っているのか、或いはその両方か、関羽は明らかにもう限界だった。否、むしろ限界を越えた状態なのかもしれない。

 咄嗟に俺は劉備から口を離し、渋る彼女を促してそちらを見させる。するとやっぱり彼女も忘れていたようで、顔を青ざめさせた後になんとか苦笑を浮かべていた。

 

 「あ、はは、ごめんなさい、関さん。ちょっと、予想外に盛り上がっちゃいまして――あ、でもでも、我慢はセックスにとって最高のスパイスですし、これならきっといつもより気持ちよく――」

 「うー、うー……」

 「え、えっと……ごめんなさい」

 

 なぜか言葉を発しようとはせず、涙を流す関羽は小動物のように抗議の声だけを上げ続けている。言葉で怒られるよりも胸に来る姿だ。まるで本当に機嫌を損ねた小動物のようでもある。

 いい加減このまま唸らせておくわけにもいかないので、俺はそっと劉備から離れ、寂しそうに「あっ」と声を洩らした彼女の膣からモノを抜き、関羽の方へと歩み寄る。

 もはや医者とナースなんていう設定も関係ないような状況だが、怒った関羽を満足させない限りは今日は寝かせてもらえない。これはもう、経験からわかる。

 そんなわけで俺は、本気ではなさそうだが睨みつけてくる関羽に顔を寄せ、やさしい言葉をかけながらキスをした。

 

 「待たせてごめん、関羽。ほら、そんな泣かないで。今から抜かずに三発するから。そういうの好きだろ?」

 「うー……」

 

 明らかに拗ねている関羽はそう言っても機嫌を直してくれず、ちゅっと軽くキスをしても寄せた眉を戻してはくれない。

 仕方がないので、無理やりにでも機嫌を直してもらおう。

 俺は彼女に挿入するため、腰の位置を合わし、すでにしっかりと立ちあがっているモノを、パンツをずらして露わになった膣へと当てる。

 それだけでも関羽はびくりと震えて、思わずといった様子で頬を緩ませそうになった。とはいえ、俺が見ていることを理解しているから慌てて不機嫌な顔を作り、また俺を睨んでくるのだが。

 健気でちょっと間抜けな可愛い彼女を喜ばせたいと、股間がさらに熱くなる。

 すぐにでも感じさせたいと考えた俺は、位置を合わせて動きを止め、一気に腰を突き出した。ひどく濡れていた膣内に勢いよくモノが入り込んで、強く子宮を叩く。

 その瞬間、関羽は拘束された状態で背を逸らし、唇を震わせて、声を出すこともなくイッたようだ。涙を流す見開いた目がそれを表しているし、膣の内部がびくびく痙攣しているのがいい証拠だった。

 

 「あっ……かっ、はっ……」

 「うくっ、感触が、すごい……これは、気持ちいいな」

 「いいなぁ、関さん。抜かずの三発、私も欲しい……」

 

 傍にやってきて俺の背に抱きつく劉備がそう言うが、今は気にしてられる状況でもない。少しでも気をやれば、我慢できなくなって射精してしまいそうなのだ。

 必死にこらえつつ、ゆっくりと腰を前後させる。でも我慢しながらのゆっくりな動きは俺にとっても拷問に近く、関羽にとっても刺激が足りない様子。

 我慢をやめ、思い切り腰を叩きつけて膣内を味わいながら、尻に入れた力を抜いてさらに速度を上げる。

 関羽も喉を震わせて声を発し、腰を跳ねさせながら気持ちよがっていた。

 ただ、俺もそれほど長くは耐えられず、すぐに一発目を射精してしまう。

 

 「あっ、はっ……っ、あっ――」

 

 劉備に出したのと変わらない量のそれが関羽の膣内をこれでもかと汚していくのが、体感でわかった。一気に溢れだすそれが俺の太ももや玉を濡らしたからだ。

 関羽はもう、声を出すことすらできていない。でもイッているのは確かである。

 竿の律動が止まると同時に独特の疲労感が体を襲って、眠るとはいかないまでも少しばかり寝転んでゆっくりしたいものだが、約束した以上は続けなければならないだろう。

 俺も関羽もイッたばかりだというのに、再び腰を動かし始め、ぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴るそこを責める。

 さっきよりもゆっくりなペースでも、彼女は驚いたように鳴いて腰を跳ねあげ、焦点の合わない目を俺へと向けてきた。

 

 「なっ、あぁっ、んんんっ――だ、だめっ、まだイッたばかりで……!?」

 「くっ、それは俺もそうだって。はぁ、言っただろ? このまま抜かずに、中出し三発するからって」

 

 驚きから一転、堪え切れずに頬を赤めながら緩める関羽はわかりやすく嬉しそうで、今度こそ普段より高い声で鳴き始めた。

 俺の背後からは劉備の手が伸びてきて、根元の辺りと玉が揉まれる。健気ながらも淫らなサポートが気分良く、まるで本物の医者としてナースをこき使っているようでもある。

 

 「あはぁっ! あぁっ! んんっ、んんんっ、んぃぃっ――お、おかしくなるっ。頭バカになって、セックスのことしか考えられなくなるぅぅ……!」

 「先生、早く私も、抜かずの三発欲しいです。ううん、三発と言わず、専用おまんこドロドロになっちゃうまで中出しして欲しいです。先生の子供なら、何人だって孕みますからぁ」

 

 驚くほどエロい彼女たちに前後から挟まれた俺は、ひどく気分がいいままに喜んで腰を振り、我慢することなくバカスカ精液を射精していった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「んんっ、んふっ、んろぉ……ちゅっ。はぁ、熱くて、固い……おいしぃ……」

 「んっ、ふっ、んー、ぢゅるっ――うふふ、先生のアナル、きれいですね」

 

 俺は今、最高に幸せな空間に佇んでいる。

 自宅のリビング、その中央でなぜか裸の上に白衣という、もし誰かに見られれば変態のレッテルを貼られること間違いなしの格好だが、問題なのはそこじゃあない。

 俺の前と後ろ、腰のあたりに顔を寄せる二人の女性が、とんでもなくエロくて可愛かったのだ。

 髪の毛や服や露わになった肌、あらゆるところに大量の精液をかけられた関羽と劉備は、ナース服を着たまま、俺のモノと尻穴とに舌を這わせているのである。

 拘束を解かれた関羽は俺の前、何度射精しても元気を失わないモノを嬉しそうに銜えて頭を振り、時には俺の顔を見上げながらぺろぺろとアイスキャンディーを舐めるように舌で触れてくる。

 後ろにいる劉備は、恥ずかしがる様子もなく俺の尻の穴に舌を伸ばし、しゃぶりつくように丹念に舐め、それどころか中に差しこもうとすらしてくる。

 これほど平和で、俺のことを想ってやさしくしてくれる時間があっただろうか。少なくともここ最近、様々な出来事に巻き込まれ続けている俺の記憶にはない。

 自分の好きなようにしながらも、あくまでやさしく、俺を気持ちよくするためにそうしてくれる彼女たちはまるで天使のようにすら思える。

 じゅぷじゅぷという唾液が混じった卑猥な音と、ずずっという明らかに何かを吸う音。

 形容できないほど気持ちいい、同時になぜか安心する感触の中、最近では珍しいほど俺はにやけた笑みを浮かべていた。

 

 「そうだ。二人共、ちょっとそこに寝てくれるか? 関羽が下になって、劉備が上に乗ってくれ」

 「んむっ?」

 「はい、先生」

 

 俺の息子を銜えたまま、不思議そうに小首をかしげる関羽とは違い、すぐに返事をした劉備はもう俺の狙いがわかってるようだ。ちなみに、今となっては完全に設定が崩壊した今でも彼女は俺を先生と呼び、ナース気分でいるらしい。

 二人は俺の指示通り、上下に重なってソファへ寝そべった。二人の胸がむにゅりと合わさって形を変え、見ているだけで興奮が増してくる。

 よし、と自分へ気合を入れ、俺は二人の足元へ位置取り、モノを掴んで狙いを定めた。

 いまだに大量の精液を垂れ流す秘所が、上下に重なって妙な光沢を見せている。これから俺は、そのどちらに挿入してもいいわけだ。なんなら途中で抜いて、狙う先を変えてもいい。

 自然と喉が鳴って、股間の高ぶりがさらに高まる。

 どちらからしようかと俺が先端をそれぞれに少しだけ触れさせながら迷っていると、焦れた様子の二人がそれぞれ声をかけてきた。多分、先に自分を、という気持ちなのだろう。

 

 「わ、私に、先に私にくれ……た、たくさん、気持ちよくするから……」

 「先生、私から挿れてください。私のおまんこ、もう先生のおちんぽの形になっちゃってるから、挿れられてないと寂しくて仕方ないんです」

 

 下にいる関羽が興奮で揺れる声で言い、彼女の上にいる劉備が尻を振りながらそう言う。どっちも捨てがたい、非常に頭を悩ませる問題だ。

 結局俺は、先に劉備から挿れることにし、上下に跳ねる尻を掴んで狙いをつけた。

 先端を当てて、ゆっくり侵入していく。もう何度も膣内射精しているだけに、浅く挿れただけでも精液が溢れ出て、ソファの上や関羽の秘所へと垂れていく。

 気持ちがいいせいで思わず息がこぼれた。何もしなくても腰が震え、射精感がどんどん高まる。

 劉備を見れば、彼女も首を逸らして悦んでいるのがわかる。表情は見えないものの、その下にいる関羽の顔はあからさまに悔しがっていて、しかし劉備からキスをされると途端に嬉しそうに目元を緩める。

 全身精液まみれの二人の美少女が、見ている方が恥ずかしくなるほどねっとり舌を絡めて、ともすればお互いの顔についた精液を舐め合う。ひどく淫靡で、目を奪われておかしくない光景だった。

 俺はそれを見ながら腰をゆっくりと前後させ、自分も快感に耽る。しかし少しすれば、俺は楽しみでもあったそれを行動に移した。

 劉備の膣からモノを抜きだし、今度は関羽のそこに突きいれたのだ。

 

 「うぅ、うぅぅ――あはぁっ、きたぁぁ……熱くて、固いのがっ……!」

 「あんっ、先生、そんな……私、まだ出してもらってないのに」

 

 劉備が残念そうな声を出すが、関羽はやけに嬉しがって腰を動かした。

 関羽の動きと俺の動きが上手くマッチして、さほど速くしなくても十分気持ちがいい。ただ彼女はそれでも満足できないようで、相変わらず必死に俺を射精させようと躍起になっていた。

 だが、そういつもいつもやられてばかりだと思ったら大間違いだ。

 悔しいことにわりとあっさり射精しそうになった俺は、急いで関羽の膣から抜き、直後に劉備の膣へ挿入する。

 大口を開けて絶望的な表情を浮かべる関羽の一方、再び悦んだ劉備は首を逸らして熱い吐息を吐いた。

 

 「なっ――」

 「はぁぁ……また、きたっ、先生のおちんぽ様ぁ……!」

 「ど、どうして今なんだっ。も、もう少しだったのに……!」

 

 今度はさっきよりも速度を上げて、ただひたすら愚直に前後へ責め続ける。劉備の甘い声はどんどん大きくなり、悔しそうな関羽の首筋に顔を埋めて嬉しそうに尻を振っていた。

 ただ、また今度も俺がイキそうになるとモノを抜き、関羽の膣へと侵入させる。同じように劉備が不満そうに唇を尖らせて振り返り、俺の顔を見てくる。

 代わりに関羽が嬉しそうに声を出し、腰を上下に動かす。

 そうして何度も二人の膣内を行ったり来たり、飽きることなく移動を繰り返した。

 我慢を続け、時間をかけて、ついに俺も限界に達した時。執拗なまでに焦らされた二人も玉のような汗を掻いて、いい加減限界のようだった。

 俺は最後を決めるため、どちらにも挿入せず、二人の秘所の間にずるりとモノを潜り込ませた。

 

 「うぐっ、イクぞ二人ともっ」

 「あぁっ、んんっ、んぅ――わ、たし、もっ、私もイクぅっ!」

 「はぁぁっ、イクっ、イクっ、うんんっ――」

 

 二人の秘所の間をずるりと抜け、陰毛に先が当たるくらいのところで大量に射精する。

 彼女たちの腹にまで勢いよく精液が飛び、ばしゃばしゃと彼女たちを汚す。

 少し時間をかけて射精を終えた後、俺はそのまま後ろに腰を降ろして、ソファに座りこんだ。

 荒れた呼吸を整えようと上を向いて目を閉じていると、二人の荒い呼吸に混じって劉備の声が聞こえる。気になって視線を向けてみれば、彼女は体の向きを真逆に入れ替え、関羽の股間へ顔を寄せようとしていた。

 

 「んっ、もったいない……」

 

 そう小さく呟いて、先程の分も含めた大量の精液へ舌を伸ばし、ぺろぺろと舐め始める。

 しばらくは黙って眺めていたが、どうやら関羽もそうしているらしく、二人の美少女がシックスナインの体勢で股間を舐め合っている姿を見て、興奮せずにいられるわけがない。

 またむくむくと元気になってしまったモノを掴み、関羽の秘所を丁寧に舐める劉備の顔へ押しつける。彼女はすぐ俺の方を見て、笑顔を浮かべて先端を口に含む。

 たっぷりの唾液を絡めながら強く吸いつき、頭を振って、舌を使って裏筋が舐められる。

 腰が抜けそうな快感に腰が震え、俺は我慢できずに劉備の頭を押さえながら腰を引いた。

 すぐ狙いを変え、真下にある関羽の秘所へ狙いをつける。そのままずぶりと押しいれて、なんとなくほっとする感覚に息を吐いた。

 

 「うあっ!? あっ、んんっ、またきたぁ……!」

 

 喜ぶ関羽の声を聞きながら腰を振り、蕩けるような感覚の膣内をたっぷり味わう。

 しかし先程同様、ある程度動いた後はあっさり抜き、すぐに上へと先端を向ける。

 たださっきと違うのは、劉備の顔がこちらにあって、秘所が関羽の顔の上にあること。自然と劉備にモノを向ければ、彼女が嬉しそうに大口を開けてぱくりと銜えこむ。

 楽しげな様子にも見える姿で、彼女は強く俺の息子へ吸いついてくる。しかし多少無理やりにもそこから抜いて、また何度か次々上下に移動して、関羽の膣と劉備の口を存分に楽しんだ。

 

 「んっ、んっ、んっ、むっ――あっ」

 「あはぁっ、あっ、あっ、あっ、あっ――んんぅ、んんっ」

 

 飽きることなく何度も繰り返し、またしても限界が近づいてきた。

 そこで俺は劉備の口に先端を突っ込み、軽く腰を振りながら、限界であることを言葉で伝える。

 

 「うぅ、劉備、もうイクぞっ。く、口開けろ」

 「はい――んあぁっ」

 

 最後は自分の手で扱き、口を開けた劉備の顔に盛大にぶちまける。大きく開けられたその中にかなりの量も飛び込み、舌の上にたっぷりと乗り、ただでさえ汚れていた髪や顔に新たなそれが付き、今は眼鏡すら白くべったりと濡れてしまった。

 劉備は嬉しそうにそれを舌の上で転がした後、俺に見せつけるようにゆっくりと飲み干す。

 途中、喉につっかえたらしくて少しむせたが、笑顔は最後まで消えなかった。

 

 「ふっ、んっ――はぁ。先生、おいしかったです」

 「ず、ずるいぞ、玄徳。わ、私も欲しかったのに」

 

 嬉しそうな劉備と違い、悔しそうな関羽は恨みを込めているかのような声でそう言う。

 散々した後だっていうのに元気なものだ。そしてそのまま放っておけば、おそらくさっきみたいに面倒なことになる。

 つまり今回もまたご機嫌をしなければならないだろう。

 

 「まぁまぁ、次は関羽の中に出すから。ほら、行くぞ」

 「あっ、んっ――膣内と口の、両方だぞ」

 

 拗ねたように言う関羽の膣にまたゆっくり侵入していく。劉備はそれを見守りながら、くすくすと小さく笑っていた。

 また聞こえてきた甘い声に耳を癒され、少し考える。

 はたしてさっきのように焦らすべきか、それともこのままイクまで続けるか。

 珍しく穏やかな時間が続くため、どうにも気が緩みまくっているらしい俺はそんなことを考え、平和とは幸せなものだなぁと、この時を大事に噛みしめた。

 




そういうわけで、今回の話で随分と劉備が壊れてますが、どうしてこうなったのかは作者にもわかりません。おそらく関羽とイチャイチャしてる内に、逆に調教されてしまったのでしょう。関羽が求めるサディストへと。
こんな調子でキャラ崩壊も起こしておりますが、このシリーズはこんな調子で続けます。できれば許昌のキャラも出したいと思いつつ、実はキャラの詳細をあんまり知らないので苦戦しているところもあります。
とりあえず呂布と陳宮がまだなので、いつになるのか、次回はその方向で。


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新生活、及び怠惰な日々 3

 自宅の扉を開けると、そこは桃源郷だった。

 

 「ご主人様ぁ、お帰りなさぁい。ご飯にします? お風呂にします? それとも、あ・た・し?」

 「うぅ、呂布さん……さすがに、これは……」

 

 裸エプロン。キッチンに立つ者がつけるそれを、裸の女体が身に纏うことで、健全さとエロスを同居させるという荒技。それが今、俺の前にいる呂布と陳宮の姿だった。

 今日は陳宮が俺の世話をしてくれる日。しかし、彼女が担当の日には必ず呂布が現れる。ただこれは邪魔をするためというより、むしろ陳宮を助けるためだったりする。

 基本的に、俺と陳宮は二人きりで何かをするということはない。確かに彼女は家事もできるため、炊事、洗濯、掃除と、俺の世話はしてくれる。でも誰かさんみたいに夜這いをしかけてきたり、自ら縛ってくれと言ったりしない。それどころか、記憶が正しければ二人きりの空間でやらしいことをした経験は一度もないだろう。

 これはおそらく、彼女がいまだに照れを残していて、自らアプローチをしかけてこないためだ。俺は俺で珍しく穏やかな休息を取れるということでそういう声をかけないわけだし。多分嫌われてるわけでもないと思うのだが、お互いそういう性格じゃないのが大きいと思う。

 しかし実際には俺の家に来た後は必ず、陳宮は呂布に激しく抱かれることを望むらしく、なんだかんだで性欲は溜まってるらしい。

 それなら、自分からも俺からも手を出さないなら、あたしが間に入りましょうと。そういう理由で呂布が来るようになった。

 そんなわけでの裸エプロンである。ご丁寧に頭にはメイドがするような白いカチューシャまでつけて、むっちりとした太ももの真上が見えそうで見えない丈のエプロン、これがなんとももどかしい。

 玄関に着いて数秒。女らしく肉付きのいい褐色の裸体を晒す呂布はノリノリで、今にも色々見えるんじゃないかってポーズまでつけて俺を誘っている。けど陳宮は恥ずかしそうに自分の体を抱きしめて動かず、少し泣きそうな顔すらしてた。

 肌の色も態度も体つきにしても、すごく対象的な二人である。

 俺のズボンがむくむくとテントを張り始めるのも当然の光景だった。

 

 「えーっと……これは?」

 「うふふ、見てわからない? 裸エプロンでお出迎えよ。新妻、メイド、奴隷でもペットでも好きに見てくれていいわ。なんにしても、今日は私たちがダーリンを癒してあげるから」

 「陳宮はずいぶん嫌がってるけど」

 「あら、恥ずかしがってるだけよ。嫌がってはいないわ、これっぽっちも。陳宮だってダーリンに滅茶苦茶にされたいんだから」

 「そ、そんなことないです……」

 

 もじもじと体を揺らす陳宮、俺の胸にしなだれかかって笑う呂布。なんとも幸せな光景である。

 思わず腕を伸ばして呂布の腰に回し、きゅっと抱きよせる。それだけで彼女は嬉しそうに悲鳴をあげて、すかさず俺の下半身に手を触れさせた。

 やさしい力で揉みほぐすようにぐりぐりと押され、首筋にちろりと舌を伸ばされる。手慣れた様子のそれにつられて、俺も彼女の胸に触れると、張りのある手触りがいい乳房がふにゅりと形を変えた。思わずエプロンの下に手を差し込んで直接触れたくなるほど、なぜか安心する感触である。

 俺たちが当たり前のようにそうし始めても、陳宮は恥ずかしがって微塵も動かず、ただちらちらと俺たちを眺めているだけ。

 呂布はそんな彼女を見てついに焦れたらしく、靴を脱いだ俺の手を引いてリビングへ行って、ちゃっかりついてきた陳宮もいっしょにキッチンへと入った。

 

 「せっかくのコスプレなんだし、それなりの場所で、それなりの体位で、ね? ダーリンのチンポは準備できちゃってるみたいだから、もう本番にしましょう――ダーリンのぶっといチンポで、あたしのおまんこぐちょぐちょにしてぇ……」

 「う、よ、よし。それじゃあ、早速だけどいれるぞ……」

 

 キッチンに手をついて尻を突き出す呂布に誘われるがまま、急いでズボンと下着をずりおろしてモノを取り出し、位置を合わせた。

 我ながら恥ずかしいぐらいギンギンになってるそれは、みっともなく我慢汁を垂れ流していて、早速とばかりにびくびくと動いている。

 先っぽをすでに濡れている入口へ押し当て、会話もそこそこに腰をゆっくりと前へ進めた。戸惑っている様子の陳宮の目の前、当然とばかりに。

 蕩けた肉が絡みついてきて、腰が抜けそうな快感に襲われる。

 俺と呂布はほとんど同時の瞬間、重なるように深く息を吐いた。

 

 「はぁぁ……あつ、い……やっぱりこれ、さいこぉぉ……!」

 「うぐぅ、あっ、と、とけそうだ……」

 

 楽しげにも思える喘ぎ声が聞こえてきて、呂布は自分から腰を振り始めた。形のいい尻が気ままに上下し、上へ下へと俺のモノを出し入れする様子はひどく艶めかしい。

 その度に手とも口とも違う感触が俺のモノを強く扱いて、吸いつくように絡みつきながらも、抜けそうな位置まで来ると握るようにぎゅっと締めつける。

 彼女の動きはやっぱり他の子と違ってすごく慣れていた。呂蒙みたいに激しくするんでもなく、関羽みたいに受ける一方なわけでもなく、かといって趙雲や劉備とも違う。

 俺に突かれながらも小麦色の尻はわずかに動いており、その動きが、俺を感じさせると同時に自分のいい場所へ先端を当てるよう誘導しているようだ。おまけに俺の呼吸に合わせるようにそうしているものだから、いつもいつも我慢が長続きしない。断じてこれは俺がそもそも早いとかそういうことではなく。

 じゅぷじゅぷと音を立てながら、尻を掴んで必死に腰を振る。別段いつもと変わりない、バカみたいに出したり入れたりするだけの動きだけど、どうしようもなく気持ちよくて思わずため息が洩れてしまった。

 でもそれは呂布も同じなようで、背中を逸らしながらこちらを見る彼女はすでに汗を噴き出していて、だらしなく緩んだ笑顔で俺の顔を見つめていた。

 

 「はぁぅ、あぁぅ――んっ、んっ、はっ……」

 「ふぅ、ふぅ、ふぅ――」

 「んんっ、ダーリン、激し――あっ、あっ、あぁっ」

 

 突いている内に自然と腰の動きが速くなり、水音もさらに大きくなってくる。

 呂布もすでに脚や腕が震えて限界も近そうだ。そういう俺もあまりの快感に精神がガリガリ削られてきて、そろそろ我慢の限界だった。

 覆いかぶさるように上体を倒し、目の端にぶるんぶるん揺れる様が映っていた呂布の胸を掴んで、ラストスパートに入る。

 痛いくらいの力を込めて、彼女の巨乳をエプロンの上から揉みながら腰の動きをさらに加速させると、呂布も頭を下げてより一層声を高くした。

 そのままいつも通り、自分のモノを外へ解放することなく、射精する。勢いよく大量に飛び出す精液が彼女の膣内を逆流し、俺の股や玉が濡れる。

 呂布はこの瞬間に達していたようで、首と背を逸らしながら、それでも嬉しそうに小刻みに振っていた。

 

 「あぁぁっ、んんんっ……! はぁ……」

 

 がくりと膝から崩れ落ちて、呂布がその場に座りこむ。その拍子に接合が解かれてしまい、俺もまだ彼女に触れていたかったため、床に膝をついて後ろから呂布に抱きつく。

 エプロンの下に手を差し入れ、激しい運動で汗を掻いた暗い色の肌に触れる。ふにゅりと形を変える柔らかい胸や、うっすらと腹筋が割れて美しい腹、さらにその下の秘所なんかにも。柔らかくて、良い匂いがして、どれだけ触れても飽きることはない。

 呂布はすぐに俺に背を預けて力を抜き、触られるままに声を出していた。とても嬉しそうな、まるでペットにでもなったかのような甘えた姿にも見える。

 体勢は変えず、呂布が俺の方へ顔を寄せてきたため、何も言わずに唇を重ねる。するとすぐに彼女の方から唇を舌で突いてきて、逆らうことなく口を開いた。

 直後に舌が割り込んできて俺の舌をつつき、唇をぴたりと合わせたまま舌を絡める。溢れ出た唾液が口の端から垂れ、でも気にせずにお互いの唾液を交換し合う。

 そうして行為後の余韻をたっぷり楽しんだ後、俺は呂布の肩口に顔を埋めて休憩に入り、呂布は立ったままの陳宮を見上げていた。

 

 「はぁ、やっぱり最高ぉ……ねぇ陳宮、あなたもしたいんでしょう? 欲しいなら欲しいってちゃんと言わないと、ダーリンは抱いてくれないわよ。彼、素直でいやらしい女の子が好きなんだから」

 「いや別にそんなことは」

 「あら本当? じゃあ私のこと、嫌い? エッチなダーリンのこと大好きで他の男が目に入らない変態淫乱雌豚に甘えられるの、嫌なの?」

 「……そう言われたら、そりゃ大好きだけど」

 「ふふふ、あん、もう、また大きくしちゃって……。ほらね、陳宮も、そんなところで隠れてこそこそオナニーするくらいなら正直に言っちゃいなさい。私たちのダーリンなら快く受け入れてくれるから」

 「なっ、ち、ちがっ……私は、じ、自分でなんて……!」

 

 呂布に言われて見てみると、陳宮の太ももは股から溢れてきたらしい透明な愛液で濡れていて、どうやら俺たちの行為を見ながら自分で弄っていたらしい。俺は気付かなかったのに、俺より喘いでる呂布が気付いているとは末恐ろしい。

 彼女の指摘はばっちり当たってるようで、陳宮は体をもじもじ捩らせて恥ずかしがり、真っ赤な顔で俯いている。

 素直になれ、と言われてる通り、本心では彼女もしたいのかもしれない。当人の俺が言うのはなんだか気が引けるが、しかし興奮しているのはどう見ても明白なのだ。

 そして正直なことを言えば、俺だって陳宮としたい。自分からすり寄ってきて幸せそうに甘える呂布も大好きだけれど、恥ずかしがってほとんど目も合わないのに普段から世話を焼いてくれる陳宮だって、他とは違う魅力で一杯なんだから。

 ただ、普段は俺の自由時間が少ないし、その上こういう行為は好きだけど無理やりというのは気分が乗らない。いつも俺が無理やりされてる方だから、できれば合意の上でのことが一番いいと思うわけで。

 呂布に言わせれば「嫌よ嫌よも好きの内、男なら無理やりしなきゃいけない時もある」らしいけど、どうにもそんな気になれなくて、陳宮との行為は呂布を交えてじゃないと実現してこなかったわけだ。

 

 「ほら陳宮、どうして欲しいか言ってみて。じゃないといつまで経っても自分の指でしかイケないわよ。もっと強いアクメ、欲しくない?」

 「わ、私は……大丈夫、です。全然、して欲しいことなんて、ありませんから……」

 「もう、強情なんだから。仕方ないわね……じゃあ、私が素直にさせてあげる。ちょっと待っててねダーリン」

 「あ、うん……」

 

 そう言って呂布は俺から離れて、もじもじしながら立つ陳宮へ近寄る。彼女は慌て始めるものの、逃げることもなく呂布に抱きつかれて身を縮めた。

 エプロンの上から、下から掬いあげるようにして胸に手が添えられ、呂布より少しばかり小さなそれがふにゅっと形を変える。見ているだけでもなんとなく幸せになる光景だ。

 陳宮は顔を赤くして、恥ずかしがりながら呂布の顔を見るのだが、彼女にやめるつもりはないらしく、呂布の手は力強く陳宮の胸をぐにぐにと揉んだ。

 正直、とても羨ましい。思わず俺も飛びついてしまおうかと思ったほどに。

 

 「うふふ、可愛いおっぱい……あらぁ、乳首もこんなに大きくしちゃって。やっぱりしたかったんじゃないの、陳宮ちゃんってば」

 「ち、違います……私は、そんな、あっ――」

 「耳が弱いのよね、陳宮は……」

 「あっ、んんっ、わ、たし、私は、呂布さんだからこうなるだけで、他の人のことなんて――あぁっ」

 

 俺が見ている前で、呂布は陳宮の胸を揉み、耳を舐めていやらしく声をかける。すると陳宮は面白いほど反応して、吐く息の量を多くし、もどかしそうに太ももをすり合わせ始める。

 呂布の愛撫は非常に手慣れた様子で、あっという間に陳宮を骨抜きにしてしまう。これはおそらく、陳宮が感じやすいという理由だけでなく、どこが弱いのかよく理解されているせいなのだろう。

 最初は抵抗するかのような態度だった陳宮も、少しすれば体の力を抜いて、背後に立つ呂布へ背を預ける始末。俺がいないところでの二人の姿がこれでもかとわかる姿だった。

 

 「見て、ダーリンのおチンポ、あんなに大きくなってる。陳宮が感じてるとこ見て興奮してるのよ」

 「いやぁ……だめです、呂布さん、私――」

 「恥ずかしがらないで。いいのよ、もっと乱れても。ほら、もっと気持ちよくなりなさい……」

 「んんっ、んぅ、あっ――」

 

 体を伝うように両手が下へ降りていって、左手がエプロンをめくりあげると、かろうじて隠れていた陳宮の股間が露わになる。

 薄く毛が生えた、ぴたりと閉じられた女陰。まだ経験も少なそうだと見た目でわかるそこに、呂布の指がするりと近付いて、止める暇もなく膣の中に入っていく。ひどく興奮する光景で、俺は思わず身を乗り出して見守っていた。股間の息子はさっきからずっと痛いほどに張りつめている。

 ずぶずぶと指先が埋められていき、それに応じて陳宮の口から深いため息が漏れる。興奮して感じているのは明らかだった。

 もう少し近付いて、近くで見ようと俺が少し動いた時だ。意地悪そうに笑った呂布の顔がちらりと見え、彼女の手が、陳宮の股を開かせるように動く。

 

 「あっ、やっ――」

 「近くでたっぷり見てね、ダーリン。陳宮のおまんこ、もう濡れ濡れなの。ダーリンのおチンポ欲しいってずうっとひくひくしてるんだから」

 「ほ、ほう、そうなのか」

 「ち、違いますっ。私は、そんな……!」

 「隠さなくてもいいの。私はちゃあんとわかってるからねぇ――んっ」

 「ひうっ」

 

 呂布が陳宮の首筋に強く吸いつくと同時、膣に入っていた指がつぷんと抜けて、濡れていることがわかるそこがはっきりと見えた。

 確かに、ひくひく動いていた。まるで何かを欲しがるかのように、愛液を垂らしながら動きが見える。

 知らず知らずの内に喉を鳴らしてしまったようだ。直後に呂布は小さな笑い声を発して、陳宮はパッと膝を閉じて秘所を隠す。

 しかし今さら俺は自分を止めることができず、さらに顔を近づけて、両手で彼女の太ももに触れ、無理やり脚を開かせようと手のひらに力を入れる。

 すると陳宮はいやいやと首を振りながらも、どうやら呂布が乳首を弄っているせいで力が入らないようで、濡れたそこが、再び俺の視界に入った。

 

 「あぁっ、だめ、だめです、そんなの……!」

 「うふふ、いいのよダーリン。好きなだけ舐めて。陳宮のぐずぐずおマンコ、いっぱい気持ちよくしてあげて」

 「いやぁぁ……」

 

 嫌がる風な陳宮の股に舌を近付け、べろりと舐める。頭上にある顔が、体が、びくんと大きく反応した。

 陳宮は態度とは裏腹、かなり感度がいい女の子だ。乳首を摘むだけで息を荒くするし、秘所を舐めれば膝を震わせて悦ぶほど。

 そして今のようにクリトリスを舐めてやれば、軽くイッて潮を吹くこともしばしば。

 たび重なる呂布の調教によって、生来以上の敏感さを得た陳宮は俺の舌で簡単にイッてしまい、びゅっびゅっと断続的に潮を吹いて俺の顔を濡らした。

 そのままぐったりと倒れ込むように、陳宮は床に座りこんで脱力する。一方で呂布はまだ陳宮の胸を揉んでいて、俺も彼女の太ももに舌を這わせて離れようとしなかった。

 

 「んんっ、ふっ、りょふ、さぁん……」

 「うふふ、もう陳宮ったら、また出しちゃったの? ダーリンの顔がびしょびしょじゃない……ほんと、エッチな子ねぇ」

 「そ、そんな、ことは……」

 「ねぇダーリン、入れたくなぁい? 陳宮の、こ・こ。もう準備はばっちりだけど、どう?」

 「そ、そうだな……よし」

 

 床に膝をついた呂布に膝の裏を抱えられ、股を開いた状態で陳宮が押さえられる。それを機に、俺も勃起したモノに手を添えて位置を合わせ、狙いを定めた。

 陳宮は一瞬、恐怖とも歓喜ともわからない顔で俺の目を見つめ、すぐに固くなったモノへ視線を向けた。

 しかし体は抵抗らしい動きを見せるものの、決して嫌がっているような表情ではなく、むしろどんどん顔の赤みが増していって、期待しているようにも見える。

 ちらりと呂布に視線を送ってみれば、彼女は何も言わずに小さく頷く。

 それがきっかけで俺の中の戸惑いもなくなり、覚悟を決めて膣の入り口へモノを宛がうと、ゆっくりと腰を突き出した。

 ずぶり、と頭の部分が入り込み、温かな肉の壁に包まれ、強く締め付けられる。

 痛みにも近い刺激の中、そこを見たままゆっくり押し進めていく途中、声にもならない陳宮の声が聞こえていた。

 

 「あっ……あぁっ……!」

 「またイッちゃった? もう、早漏なんだから。そんなんじゃダーリンのこと笑えないわよ、陳宮」

 「あのー、呂布さん? それって一体どういう――」

 「ふふ、冗談よ。心配しないでダーリン、あたしはダーリンがたっくさん射精してくれるの大好きなんだから。早いのだって、あなたの魅力の一つなの」

 「い、いや、俺としては早くないって言われた方が……」

 

 なんとなく心に深い傷をつけられたような気もするが、全力で気にしないようにしつつ、陳宮の膣内を味わうことに専念する。

 腰を前後に動かして感触を確かめれば、彼女の膣内は吸いつくように締めつけてきて、誰とも違う快感を与えてくる。まだどこか緊張しているかのような固さが残りながら、ひだの一枚一枚がいやらしく絡みついてくるかのよう。

 抵抗する意思と受け入れる気持ち。おそらくその両方があるからこその肉体。

 俺と出会う前から呂布とよろしくやってた陳宮だけだ、いまだに初々しさを残しているのは。他のみんなは日に日に強かになっていくし、今では驚くほど淫靡に俺を襲ってくる。

 だからだろうか、呂布に見守られながらとはいえ、陳宮とこうして繋がるのは、気持ちがいいと同時にどこか安心するようでもあった。

 

 「陳宮、いやらしい顔……ダーリン、もっと激しくしちゃって。それじゃあまだ満足できないでしょう?」

 「え、あぁ、まぁ」

 「それとも、あたしに手伝ってほしい? 例えば、そうねぇ、こういうのとか」

 

 呂布が手をすっと伸ばして、繋がり合ってる場所にやさしく触れる。俺のモノを根元辺りから扱いて、たまに指先で陳宮のクリトリスを転がしたりする。

 ぐちゃぐちゃと音が鳴る速度は遅く、腰を振るスピードは変わっていないのに、襲い掛かってくる快感はさっきよりもよっぽど大きくなっていた。

 ふふふ、なんて楽しげな声が聞こえる。陳宮の唇を塞ぎながらも、呂布は笑っていた。

 手伝いに応じて快感の度合いが強まり、だんだん我慢が利かなくなる。俺はよしと気合いを入れ直し、彼女の腰を掴むと、腰の動きを一気に速めた。

 

 「んっ、んんっ、んふぅ――」

 「はぁ、うっ、すごっ――」

 

 目を閉じて感覚に集中し、思い切りピストンを繰り返す。どうしようもなく全身が熱くなって、特に股間が熱くて蕩けそうになる。まるで、このまま体が一つになってしまうかのような、そんな錯覚すらあった。

 呂布に見つめられながらただ音だけが響き、しばらくは無言で腰を振る。室内に広がるのは俺の荒い息遣いと陳宮の小さな喘ぎ声ばかり。

 ここ最近でも珍しいほどの静寂、それとどこか狂ってるようにも思える淫靡な空間。汗だけ掻いて無言で快楽を貪るのは、我を忘れてしまうほどにすごい。

 極度の興奮の中、ついに限界を迎える。叩きつけるみたいに膣内を抉って、最後は一番奥で子宮へ向けて精液を放つ。奪うようにして呂布が塞いでいた陳宮の唇にキスを送り、そのまま小刻みに腰を振る。

 射精しながらまだ動かしていれば、本当に腰が抜けてしまいそうなほど強烈な快感に襲われた。

 

 「んんんっ、んんんんっ――!」

 「んっ、ふっ、うっ」

 「あらあら、二人共すごいイキッぷり。ほんとに気持ちよさそう……ちょっと嫉妬しちゃうわね」

 

 竿がどくどくと脈動するのがわかる。いつも通りの、おぞましいほどの精液の量。それらが逆流して外へ飛び出たのも、下半身でわかった。

 俺はそのまま凄まじい疲労感を感じて、がくりと体の力を抜く。ここ最近の乱れた生活で慣れたはずだったけど、今日ばかりは気を取り直すことが不可能だったようだ。

 裸の陳宮に強く抱きつきながら、抜くこともなく目を閉じる。あまり感じたことのない感覚。でもひどく慣れた感じの、幸福感。

 何かを思う前に、俺は自然と目を閉じて眠りに就こうとしていた。

 

 「あん、もう休んじゃうの? ダーリンったらしょうがないわねぇ。ふふ、でもいいよ。毎日頑張ってるんだもの、今くらいはゆっくり休んで――」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 目が覚めてまず、体に纏わりついていた疲労感が抜けていたことに気付いた。

 続いて、自分の下半身が温かい物に包まれているのがわかる。具体的には、また勃起してるらしい俺のモノに、覚えのある感触が絡みついているのだ。

 顔を起こして見てみれば、やはりと言うべきか全裸の二人がそこにいた。まだまだ元気そうな俺のモノへちろちろと舌を絡ませ、時には口内へ迎え入れてずるずると音を立てている。

 楽しそうな呂布と、うっとりした様子の陳宮。どっちもいやらしい姿で俺の下半身に乗っていて、俺が起きたことに気付いても、恥ずかしがることもなくそこにいた。ただ、陳宮だけは俺の視線に気づくとハッと取り乱した様子を見せて、顔を赤らめたまますぐに俺のモノから顔を逸らしたのだけれど。

 

 「おはよう、ダーリン。よく眠れた? こっちはちょっと前から元気そうだったけど」

 「あ、ああ、おはよう。なんか、ひさしぶりだな……こんな感じで、寝ちゃったの」

 「うふふ、そうね。どうしてかしら。陳宮とあんなに激しく抱き合っちゃったから?」

 「う、いや、どうだろう。俺もあんまりない経験だし」

 「でもこれまでにはあった?」

 「まぁ、なくはないけど」

 

 するすると俺の顔の方までやってきて、呂布が軽くキスをくれながら話しかけてくる。その間、陳宮は俺のモノを一人占めにして深く銜え、リズムよく頭を振っていた。多分、俺の視線が顔を寄せてきた呂布にだけ集中してると思ったからだろう。俺の目に映る嬉しそうな表情は、どことなく間抜けな小動物を連想させる。

 呂布の胸が俺の胸に当たって、ふにゅりと潰れる柔らかい乳房だけでなく、裸の全身が心地いい。その上、繰り返しキスをくれるものだから、自然と笑顔になってくる。

 興奮していたさっきとは違って、ある程度落ち着いた状態なのがいいのだろう。与えられる快感も不思議と心を落ちつかせられるものだった。

 

 「ダーリン、ここでの生活はもう慣れた? 不満なこととかある? 突然ここに連れてきて住み始めちゃったから、やっぱりちょっと気にかかることもあってね」

 「今のところは多分ない、かな。みんなよくしてくれるし、愛されてるなぁって思うよ。ちょっと、いやたまにはかなり、困ることとかあるけど、それを差し引いても幸せだなぁと感じることが多いし」

 「そう、よかった。体調とか、大丈夫?」

 「うん。それはもう全然。たまに搾り取られ過ぎて足腰立たなくなるくらいで」

 「それでもここは元気に立つのにね」

 「いや、そういうのはべつにいいから」

 

 陳宮が銜える俺のモノ、その根元を指でつつきながら言われた。確かに、俺が無理だって言ってるのに跨られることなんて日常茶飯事だけど、できることならそれだけでもやめてくれないだろうか。気分的に犯されてる感じなので、男だって意外と胸に来るものがある。

 とはいえ、彼女たちとの生活が楽しいのは事実だ。他人に見せられないくらい乱れ切っているものの、当人たちはそれなりに幸せなわけだし。

 ただ、最近は呂蒙も妙にピリピリしてるとか、心配事がないわけでもない。担当で家に来る時と学校の中、明らかに呂蒙は現状に不満を持っている風に見える。多分、そもそもは俺との関係を持ったのは彼女だけだった、つまり最初に俺を独占してたのが呂蒙だったからだろう。

 このまま、何も起こらなければいいが。何が原因になるかわからない、誰が何をしでかすかわからないから、心からそう思う。

 みんな俺との生活でどんどん変わっていくのが目に見えていた。劉備はいつの間にか驚くほどエロくなって、趙雲は呂蒙に対抗心を燃やしてるようだし、陳宮だって嫌がるポーズを取りつつも俺のモノを素直に銜えてる。関羽は言わずもがな、出会った頃から平常運転で爆走してる。

 一体いつまでこの生活が続くんだろう。たまにふと、そんな風に思うことがある。

 

 「どうしたのダーリン。何か不安なことでもあるの?」

 「いや……そういうわけじゃないけど」

 「心配なんて何もしなくていいのよ。ダーリンはあたしたちが守るから。何より、あたしたちがダーリンを見捨てることなんて、ありえないわ」

 

 呂布が俺の唇を軽くちゅっと吸い、そのまま移動して脚を開いて俺の顔を跨ぐ。

 てらてらと光る、愛液に濡れた秘所。そこが俺の口のすぐ傍まで迫って、呂布の指が自分から開いていく。

 求められるまま、俺は彼女のそこに舌を這わせ始めた。呂布は微笑みながら熱いため息を吐いた。

 

 「いつまでもいっしょにいましょう。そのためならあたしたちはなんでもするわ。あなたのこと、これからもずっと守ってあげる」

 

 呂布はいつも、俺を優先して動いてくれる。今までも今日も、俺を囲うために方々から手を回してくれる。

 いつまで続くのか、とも思ったが、この調子じゃ確かにこれからもずっと傍に居続けるのだろう。

 俺のモノが温かい感触に包まれる。多分、陳宮の膣の中だ。淫らに絡みついて上下に扱かれる感覚もあって、すぐに気付くことができた。

 この幸せな空間はずっと俺の傍にある。そのことを再認識しながら、俺は呂布と陳宮の膣をそれぞれ味わった。

 



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憤怒と欲求

 全くエロが書けないスランプとなっていたので、リハビリ的に。
 正直一騎当千ってそんな詳しくないんだよ……。


 室内は暗く、閉じられていた。窓や扉は施錠され、内側から鍵を開けない限り外へは出られないだろう。かといって内側に居るのは、俺と彼女のみ。どちらもそれをする気はないのだから、結局は外へ出ることはできないということになる。

 否、正しく言うなら、その気がないのは彼女のみ。俺は出たいと思う心も一部あるが、それができないだけ。

 小さなライトで照らされて、ここはぼんやりと薄暗い。そこに彼女が立っていた。

 肌にぴったり張り付き、体のラインがはっきり見える黒いボンテージ姿。腰に手を当てて、右手には鞭。俺の肌を打つそれが握られている。

 もうすでに数度、俺は胸から腹にかけてをその鞭で打たれていた。痛いけれど、耐えられないわけでもない力。計算されつくしたそれで何度も何度も。

 かくいう俺はイスに座らされて腰と足首の辺りで固定され、腕は両方上げた状態で手首を縛られて身動きが取れない状態。もちろんと言うべきか、裸だ。

 幸いにも視界は奪われずにそのままだが、口には猿ぐつわ用のアダルトグッズをはめ込まれて、自由に話せるわけでもない状況。

 そんな空間で、俺をそんな状態にした彼女、呂蒙は楽しげに笑っていた。

 

 「ふ、ふふふ。なんだこれは? 鞭で叩かれているのにこんなに勃起するなんて……本当に変態だな」

 

 手に持った鞭の先で、ぐいっと、俺のイチモツが強く押される。我慢できるはずもなく、体がびくっと跳ねるように動いた。

 薄暗くてもよくわかる。目で見える顔が、耳に届く声が、どうしようもなく嬉しそうだ。

 そのボンテージもよく似合っていた。生来のいじめっ子気質らしい彼女にはこれ以上なく似合ってる。手に持った鞭も、サディスティックな笑みも、そう思わされるだけの雰囲気と共に俺の目に映っていた。

 だから、仕方のないことである。

 俺のイチモツが興奮に従って、いつものようにやさしく触られたわけでもないのに、痛いほど固くなってしまっているのは。

 

 「ふっ、ぐっ」

 「ん? 違うって? 違わないだろう……痛みを与えられているのに、こんなにだらだら我慢汁出すほど感じて、興奮してるじゃないか。この、変態」

 「ふぅぅ、ふっ……」

 

 腰がびくんと反応してしまう。そんなつもりはないのに、体が勝手に反応していた。

 俺は別に、そっちの趣味があるわけじゃない。痛いことは嫌いだし、喧嘩は殴り合うどころか口喧嘩だってしたくない。できればどんな悪人とだって仲良くしていたいのだ。

 けれど呂蒙の色気のある声が耳をくすぐる度、鞭でぐりぐりと勃起したイチモツの先端を押される度、体が震えて電流に似た何かが走りまわる。

 自然と呼吸が乱れていたようだ。呂蒙はくすくす笑いながら俺の耳元に顔を寄せ、囁くようなさらに小さな声で呟く。

 

 「どうしたいんだ? ちゃんと言わないとわからないだろう。何をして欲しいか言ってみろ、ん?」

 「んんぐっ、んぐっ」

 「聞こえないな。声が小さいんじゃないか」

 「んんんっ! んんっ、ふぅっ」

 「ああ、やっぱりだめだな。わからない。それじゃあ、仕方ないからもう少し素直になってもらう必要があるかな」

 

 頬を紅潮させながら笑って、呂蒙がまた背筋を伸ばした。それだけで大きな胸がぶるんと揺れる。

 彼女のボンテージは、胸の部分がざっくり開けられている。だからその大きな胸は全く隠されず、ピンと立った乳首も、柔らかそうな乳房も、すべて俺の目で確認できた。

 下に目を向ければ、長い脚の、むっちりとした太ももが薄暗い中でも白く見え、股の部分は今にも見えそうなほど際どい。先程見た尻に至っては、半分ほど出てしまっている。

 こんな美少女が目の前にいて、勃起しないわけがない。興奮しないわけがない。俺が何をしたいかなんて、言わなくたって彼女は理解しているだろう。

 それなのに呂蒙は鞭を振り上げ、全力ではないにしても思い切り振り下ろす。

 肩に当たったそれはやはり痛く、思わず悲鳴を上げてしまう。でも猿ぐつわのせいで自分の耳にもくぐもった悲鳴しか聞こえなかった。

 

 「んんぐっ!?」

 「ハァ、なんだ、嬉しいのか? んっ、またチンポが嬉しそうに震えたぞ……ハァ、た、叩かれて喜ぶなんて、なんていやらしい……」

 

 呂蒙の目がうっとりと細められているのが見えた。頬は真っ赤に染まって、呼吸も乱れている。興奮のせいなのか、自分の左手で自分の胸を揉んですらいた。

 下から掬いあげるように揉んだり、乳首を摘んだりして、動きには慣れが見えて。全裸で痛がる俺を見ながら興奮を高めている。

 またも鞭が何度か振られ、自分の胸を弄りながら俺を痛めつけてくる。俺も悲鳴を堪えられず、何度も呻く。

 目で見るだけでもますます彼女の興奮が高まっていくのがわかって、俺は呂蒙から目が離せなかった。どれほどの痛みに襲われても、目を閉じられるわけがない。

 なにせ目の前では俺をオカズに、卑猥な格好をした美少女が胸を弄ってオナニーしていたのだから。

 

 「んんっ、ハァ、あっ……ま、また固くなってる。我慢汁垂れ流して、金玉まで濡らして……ふふふふ。もう出したいんだな」

 「んっ、ふぅ」

 「でもまだだめだ。いいか? 私が出していいと言うまでだ。それまではずっと我慢しろ」

 

 意識しなくても腰が小刻みに動きだす。それはもう自分自身が我慢できないと悟っているからの自然な反応だった。

 俺はもう、今すぐに射精したくてたまらない。呂蒙の痴態を見せつけられて、痛みまで快感なんじゃないかと錯覚しかけて、頭がどうにかなりそうだった。勃起したまま放っておかれてるイチモツがなんとも辛い。

 いつもならやさしく扱かれて、とっくに出してる時間である。なのに癖をつけておいて急に我慢させるだなんて、こんなにひどいことはない。

 俺は懇願する意味も込めて、必死に呂蒙の顔を凝視した。もういつも通りに接して欲しい、そう伝えるために心を込めて。

 しかし呂蒙は、俺の顔を見返し、にやりと笑ってまた顔を寄せてきた。

 

 「いいか、これはおまえへの罰なんだ。私というものがありながらあっちで浮気、こっちで浮気。そんなことを許した覚えはない。嫌なら嫌とはっきり言っておけば、あんな痴女どもと関係を持つこともなかったのに」

 「ふぐぅん、んんぐっ」

 「だから今日は徹底的に罰を与える。その上で、私がいればそれだけでいいということをわからせてやろう。それまで、私の許可なく射精するな」

 

 左手の指先がイチモツの先端に当てられ、ぐりぐりと指の腹で押さえられる。そんな感触だけでも途方もない快感だった。

 本心では、その刺激だけでも出してしまいたい。我慢さえしなければ、いつだって暴発しそうなのだから。

 でもそんなことをすれば後で何をされるかわからない。そのため俺は必死に耐えた。与えられる快感を無視するため、必死に目を閉じて全身に力を入れる。

 視界がゼロになっても、呂蒙の声は耳元で聞こえていた。

 

 「そうだなぁ、もし出してしまった場合は……ふふ、おまえの教室のど真ん中でレイプしてやろう。他の男に裸を見られるのは嫌だが、そうしておけば、おまえが誰のものなのかよくわかる。もう他の女どもに目をつけられることもないだろう」

 「ふっ、ふぅ、うぅっ……」

 「あぁ、それはそれで楽しみだ。きっと全校生徒が覗きに来るだろうな。全生徒に見守られながら犯されるんだぞ。私に力ずくで押さえつけられて、服を脱がされて、裸になって騎乗位で何度もイカされるんだ。男も女も見ている前で、みっともなく何度も私に中出しして、子宮を精液で満たして……んんっ、私たちの子供を作る。はぁ、それはそれで、んっ、楽しそうだな……」

 

 どうやら鞭を置いたらしい。かすかに目を開けて確認してみると、呂蒙は左手の指先で俺のモノを弄りながら、右手でまた胸を揉んでいる。

 いやらしく指先が乳房に埋まって、乳首を捻る。それを見ているとやっぱり、射精したくてたまらない。だけどそれはできるわけがない。もしここで出してしまったら、呂蒙は今言ったことを実行してしまうだろう。

 何が何でも我慢しなければならなかった。俺は尻の穴に力を入れて、尚も耐えようと力を込める。

 

 「んっ、はぁ。くっ、どうやら私も、もう我慢が――あぁっ」

 

 呂蒙の唇から嬌声が洩れる。自分で胸を弄って高まってきたのだろうか。

 彼女はおもむろに俺の下半身へ胸を寄せると、右手で俺のイチモツを握って、左手は自分の胸へ添える。そして、自分の乳首をイチモツの先端へ当て始めたのである。

 コリコリとした固い感触が、敏感な先端へ触れて確かな快感を与えてきた。俺は腰が抜けそうになりながらも、突然の感触に全力で耐えることとなる。

 

 「んんっ、はぁ、あぁいいっ。チンポで乳首オナニーするの、気持ちいい……!」

 「ふぐっ、ぐっ、うぅっ」

 

 ぐりぐりと力強く押しつけられ、小刻みに体を揺すって更なる感覚を与えてくる。彼女はどうやら俺を使ってオナニーしているようだが、それはこっちにとって地獄にも等しい。

 こんなにも気持ちいいのに、イッてはいけないなんて。思わず天を見上げて神を呪ってしまうほど、押しつけられる呂蒙の乳首が気持ちよかった。

 ぐりぐり、こりこりと、連続して感触が襲い掛かってくる。しかも少しすれば、その感触は二つ分に変わった。

 慌てて呂蒙を見ると、彼女は両方の乳首を俺のイチモツに擦りつけ、快楽を貪っている様子だ。耐えなければならないのに快感が強くなり、俺はいよいよ覚悟を決めようかと逡巡してしまう。それでも死力を尽くして我慢した。

 

 「あぁっ、いいっ、チンポオナニーいいっ。乳首こりこりって、亀頭固くてぇぇ……! んんっ、んんっ、あはぁっ――」

 

 あくまで楽しそうに、呂蒙の嬌声が耳に入る。けれど俺はそれを聞いて悦に入る余裕もなかった。

 拷問にも等しい環境だ。イッたらダメ、だけど気持ちいい。いよいよ頭がおかしくなりそうになる。

 

 「くぅ、気持ちいっ……あっ、だめだ、イキそうっ。イクイクっ、あぁ、チンポに乳首擦りつけるだけでイッちゃう……」

 

 さっきよりも強く押しつけられる。呂蒙は腰をかくかく震わせ、目を閉じて必死に乳首を擦りつけてきた。

 まずい、とは思うのだがどうすることもできず。だが結局は事なきを得た。

 

 「あっ、あっ、あぁっ、イク、イクっ、イクぅぅっ……!」

 

 俺がイッてしまう前に呂蒙はイッてしまったらしく、ふいに乳首が離れて体が俺の方へ倒れ込んできた。胸が俺のモノを挟みこんでむにゅりと潰れ、息も絶え絶えに目を閉じて上半身を預けてくる。

 イッた直後で疲れた様子。彼女は少しの間黙りこんで動かなくなってしまう。

 一方で俺は射精せずに済んだことを安心し、しかし同時に胸の谷間に挟まれたことでこれまた危機を迎えてしまったようだ。ピンポイントで乳首を押しあてられるよりマシだが、だからって我慢の限界となった今じゃ柔らかい乳房に挟まれているだけでも地獄。天国が故に地獄なのだ。

 呂蒙が安心していても俺は安心できず、まだしばらく我慢しなければならないらしかった。

 

 「はぁ、ん……ふふ、軽くイッてしまった。案外いいものだな、おまえを使ったオナニーというのは。触ったのは乳首だけなのに、これまで経験したどんなオナニーより気持ちよかった気がする」

 

 へたり込んで俺の太ももに頭を預けていた呂蒙が、上体を起こす。そうして改めて俺のイチモツを胸で挟み、眼前にそれを置いた。

 むっとした表情でじろりとモノを睨み、低く唸る。どうしてそんな顔になったのかわからないが、何かが気に入らないらしい。

 かといって俺は猿ぐつわで質問することもできないため、黙って見守るしかないまま、呂蒙が俺のモノを指先でピンと弾いた。少しの痛みを伴うその動作だけで、気持ちがいい。

 

 「まったく、悪いチンポだ。これだけ気持ちいいんだから私の膣内(なか)にだけ入っておけばいいものを、あちこち色んな女の中に……チッ、思い出すだけでムカムカする」

 「んんっ、んふ」

 「そろそろ挿入しようかとも思ったが、まだ早いな。罰を与えるなら、たっぷりわからせないと」

 

 そう言って呂蒙は、大口を開けて俺のモノを口に含んだ。先端の部分がぱくりと銜えられ、舌でちろちろと舐められたかと思えば、頭が上下に動いて唇をすぼめ、強く吸いついてくる。

 何度か繰り返されるものの、果てなかったのは奇跡だ。俺はたまらず体を揺らして抗議の姿勢を見せる。このまま我慢できるわけがない。

 すると彼女は思った以上にあっさりと口を離して、下から俺の顔を見上げてきた。上目遣いなその表情はなんとも可愛らしく、にやりと口角が上がって意地悪そうなのも心をときめかせる。

 ただそれだけで思い切り射精し、このまま汚してしまいたいと思ったほど、きれいな顔だった。

 

 「ふふふ、ガチガチだな。いつも早漏な癖によく暴発しなかったもんだ――さて、次はどこを使ってオナニーしようか」

 「んん、んんんっ」

 「ん? もうイカせて欲しいのか? だがだめだ。まだ私が満足してないからな」

 

 呂蒙は地面に膝をついたまま、するりと俺の体にすり寄ってきて、至るところに舌を這わせ始める。それが妙に色気のある仕草と表情なのだ。

 イチモツだけじゃなく、自分が鞭で打ったところや、するすると肌を伝って俺の上半身まで。舌が俺から離れることはなく、ゆっくりと楽しそうに、上へ向かってくる。

 焦らすようにしながら彼女はついに、俺の胸を通ると脇へ口を寄せ始めた。汗を掻いたし、シャワーもまだ。最も触れられたくない場所を狙って、しかも拘束されてるから逃げることもできないし、そこに舌を伸ばされる。毛までそのままなのに。

 呂蒙が楽しげに俺の脇まで舐め始める。同時に手は俺の乳首を弄っていて、気を抜けばすぐ出てしまいそうな状態だった。

 その時、膝に呂蒙の股が擦りつけられる。どうやら俺を使ってオナニーというのは本気のようで、彼女は自分だけ純粋に気持ちよくなろうとしていた。

 

 「んっ、あっ、膝も気持ちいい……あぁでも、だめ。私もそろそろ、限界……」

 

 俺の脇に顔を埋めて、荒く息を吐きながら呂蒙が呟く。それはこっちが言いたいセリフだが、どうせ言ってもわからないため黙っているしかない。

 しばらくすると呂蒙は、少しだけ体を離して俺の顔を真っ正面から覗き込んできた。

 片目は眼帯に隠され、片目はきれいな青にも近い薄緑。端整な顔立ちは今日も可愛らしく、見ていて惚れ惚れするほど。

 それなのになぜ、これほどまでにサディスティックなのか。それが似合ってもいるのだが、俺自身縛られている状況でふと不思議に思ってしまうほど、彼女は美しく、同時にエロかった。

 

 「なぁ……もう、したいんだろう? 私の子宮に、ザーメンたくさん注ぎこみたいんじゃないか?」

 

 聞かれて、迷いもなく全力で頷いた。わかりやすいように何度も、何度も。

 すると呂蒙は嬉しそうに微笑み、俺の首に腕を回してさらに顔と顔との距離を詰め、命令するように囁いてきた。

 

 「だったら、まず、これを解いてやる。でも勝手なことはするな。もし私の命令に従わなかったら、その時も白昼堂々学校の中で犯してやる。いいな?」

 

 確認されて、強く頷く。俺だって学校に友達くらいいるのだ、こんな姿見られたいとは思わない。そんな趣味だってないのだから。

 呂蒙は満足げに微笑んで俺の拘束を解いてくれる。縛られていた箇所には革製のベルトの痕が少し残り、自分の手で触って確認してもそれは同じだ。

 さらにもう一つ、猿ぐつわも外された。これで俺はもっと呼吸がしやすくなったし、自分の意思を言葉として伝えることもできるようになった。

 相変わらず俺の太ももの上に座っている呂蒙は、ベルトをその辺に投げ捨てると再び俺の首に腕を回し、また顔を近付けてくる。

 

 「それじゃあまず最初の命令だ。私が言ったことをそのまま復唱しろ――俺には呂蒙様しか必要ありません。もう金輪際他の女とは寝ません。呂蒙様、愛しています」

 「え、い、いや、それって――」

 「言えないのか? じゃあ、仕方ないな」

 「ま、待って待って。わかったから。え、ええと……お、俺には呂蒙様しかいません。もう、金輪際、他の女の人とは、ね、寝ません。呂蒙様、愛してます」

 「ふ、ふふふふ。そうかそうか。ようやく素直になったか」

 

 さっきより頬を赤く染めて、嬉しそうに呂蒙が俺の唇を塞いでくる。柔らかな彼女の唇はちゅっと弱く吸いついてきて、それだけで嬉しい気持ちになった。

 しかし、今言わされた言葉は。別に俺だって嬉しいことなわけだから否定する気もないのだが、今は他にも親しい女性たちが数人いる状況。もしそんな言葉を口走った日には、彼女たち全員からどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。主に性的な意味で。

 嬉しい気持ちと怖いのが混じり合ってなんとも言えない気分になる。複雑な心中のまま、俺は呂蒙に唇を吸われ続けた。

 

 「ん――言ったからにはちゃんと守れよ。嫌なら嫌だとちゃんと言えばいいんだ。それなのにおまえはいつもいつも……」

 「うぅ、いや、だってさ。そう言ったら言ったで絶対問題起きるだろうし……俺は拉致監禁された経験があるんだぞ」

 「バカ。だったらもっと私を頼れ。私なら、いや、私だけがおまえを守ってやれるんだから」

 

 再び唇を塞がれ、今度はするりと舌が入り込んでくる。俺の口の中なのに、まるで自分の居場所のように。

 簡単に舌が絡め取られて、一方的に蹂躙される。もはやいつものこと、歯列を丹念に舐められ、舌が唇で吸われ、しばらくすれば今度は彼女の口内へ導かれる。いつものことながら、時を忘れるほどハマってしまう感触だ。

 俺たちはしばらくキスに没頭し、ねっとりと舌を絡め続けた。しかしそもそもは下半身の方が限界だったため、同じ考えで唇を離す。

 真っ正面から見つめ合い、お互い真っ赤になった顔を見せて。今度こそと呂蒙が口を開いた。

 

 「ん、よし。それじゃあ、床に寝るんだ。仰向けだぞ」

 「わ、わかった」

 

 呂蒙がまず俺の上から立ち上がり、言われた通り俺が床の上で仰向けに寝転がる。勃起したイチモツは、いい加減痛みすら感じてまずかった。

 早く彼女のなかに入りたい。頭の中にあるのはもうそればかり。他のことを考える余裕なんてなかった。

 一刻も早く射精することばかりを考え、俺は大きな期待を胸に床の上で気をつけをする。すると呂蒙は俺の姿を見下ろし、またしてもにやりと笑ったのだ。

 

 「今すぐ挿入してもどうせ長くは持たないだろう。だったら――」

 

 なんだか失礼なことは言われたが、多分事実だろう。すでに俺の息子は限界だった。今なら先端が入った瞬間に出せる自信がある。

 そんなバカなことを考えていると、呂蒙がおもむろに右足を上げた。まさか、と嫌な予感がよぎる。

 しかし抗議する暇もなく、ゆっくりとではあったが、呂蒙の足が俺のイチモツを踏みつけたのである。俺はそれを快感と取るべきか痛みと取るべきかもわからず、自然な反応で腰がびくりと跳ねあがった。

 

 「う、あっ……くぅっ」

 「まずは一回イッておけ。ほらほら、私の足も気持ちいいだろう」

 

 踏まれたまま、擦るように足が動かされる。それだけでもうダメだった。

 柔らかい感触に少し強めの力。刺激は十分すぎるほどにある。

 俺は促されることに抗おうともせず、許可が出たこともあって、今度こそ我慢しなかった。そのためすぐに先端の割れ目から異常な量の精液が飛び出す。

 腹や胸、どころか俺の顔にまで。勢いが強すぎたせいで精液が俺の体へと降り注いだ。でもそんなこと気にしていられないほど気持ちよ過ぎて、俺はしばらく目を閉じ、歯を食いしばったまま固まってしまった。

 ようやく射精が終わった後も全身の力が抜けて動けず、呆然としてしまう。乱れた呼吸を落ちつけながらよく考えてみれば、股間から上の俺の全身が大量の精液で濡れていた。

 正直、あまりいい気分はしない。でも普段からわりとこういうことが多い上、これはこれでなんとなく卑猥なことをしている気にもなり、股間のイチモツがすぐに元気を取り戻し始める。

 俺がようやく自分の頭上を見れるようになった時、その時ようやく気付いた。俺の顔を跨いで立つ呂蒙がにんまりと楽しそうに笑っていることに。

 

 「またこんなに出して……すごい匂いだな。はぁ、次は私だ。ちゃんと、気持ちよくするんだぞ」

 

 俺の頭上で、ボンテージの股間にあるチャックを開く。するとそこから呂蒙の秘所が見え、尻の方まで開いたところで徐々に腰を下ろし始めた。

 そのまま、俺の顔の上に秘所が乗せられる。狙った通りなのだろう、ちゃっかり俺の唇に宛がう位置だ。

 どうすべきかはわかっていたが、一応約束なのでそのまま動かず黙っていると、呂蒙の手が俺の頭へ添えられ、さらに強く股を押しつけられて、ようやく命令が出る。

 

 「さぁ、舐めろ。舌だけで私をイカせられたら、挿入させてやるぞ。それまではどれだけ勃起していようとお預けだ」

 「むぅっ、ふむぅん」

 

 想像通りの命令だった。なので別に抵抗感もなく、舌を伸ばす。

 舌先で触れたそこはひどく潤んでいる。柔らかい肉を押し開いて、目で見なくてもわかるくらい、そこに舌を差し込んできたのだ。俺は迷いもせずに呂蒙の秘所を舐め始める。

 できるだけゆっくり、時間をかけて焦らすように。力の入れ具合にも気をつけながら、ひたすら彼女の大事な場所に触れ続けた。

 

 「んっ、あっ――いいぞ、上手だ。そのまま、クリの方まで……ひぅっ」

 

 命令通りに舐める場所を変え、今度は上の方に。包皮に包まれたクリトリスへと触れる。

 できるだけやさしく、強い刺激を与えないよう、でも感じることのできる力で。顔に乗られたままだが、むしろそれを良しとして、そちらにばかり集中していた。

 どれほど舐めていたかは自分でもわからない。それほど熱中していたのだろう。

 しかし気付けば呂蒙が小さな声で喘ぎ、体を震わせていたことだけは確かだ。俺はラストスパートをかけるべく彼女の尻を掴んで、力強く揉みながらさらに舌先に力を込める。

 膣の中へと舌先を入れて、小刻みに頭を振った。それだけで呂蒙は声を高くし、いよいよその時を迎えようとしていたのである。

 

 「んっ、んんんっ、はぁ、あぁぁっ――い、イクぅっ」

 

 小さく叫んでぐっと腰を下ろし、彼女の膣内が震えた。どうやら本当にイッてしまったらしい。

 俺は目で確認することはできなかったが、彼女の荒い息遣いだけが室内に広がり、ぐったりと体の力を抜いたまま動かなくなる。当然、俺の顔に座ったままだ。

 何気なく俺は舌を動かし続けていた。非常に濡れそぼったそこはまだ熱く、淫らなうねりを感じさせる。

 呂蒙は俺の髪をくしゃりと撫でた後、ゆっくりと俺の顔の上から立ち上がる。再び、立った状態で上から見下ろされた。

 

 「い、いつまで舐めてるんだ、まったく……はぁ、よし。合格だ。それじゃあそろそろ」

 

 呂蒙が立ち位置を変えて、俺の腰の辺りを跨いだ。濡れそぼった秘所が俺のイチモツの真上にある。

 自分の指で濡れたそこを見せつけるように開き、挑発的に笑いかけてきた。

 

 「さぁ入れるぞ。今度はすぐにイクなよ」

 「は、はい。努力します」

 

 ゆっくりと腰を下ろして股間が触れ合う。そしてそのまま、大した抵抗もなく受け入れられる。

 徐々に、ゆっくりと奥まで呑みこまれていって、最後にはコツンと何かに当たった。すでに俺自身、確かな快感と心地よさを感じていた。

 自然とため息がこぼれ出る。しかしそれは彼女も同じようで、うっとりとした表情がはっきりと目に映った。

 幸せそうとも取れる顔。彼女は俺の股間の上に腰を下ろし、M字に脚を開いてその場所を見せつけ、両腕を上げて脇を見せていた。

 

 「んっ、良いことを思いついたぞ。少しゲームをしようか」

 「う、はぁ、ゲームなんかする余裕は……」

 「まぁ聞け。これから私が、全力でおまえのチンポを締めあげて動く。ゆっくり動いて、十回耐えられればおまえの勝ちだ。その前に出してしまったらおまえの負け。どうだ、簡単だろう?」

 「それって、メリットとかあるのか? あんまり良い予感はしないけど」

 「ふふ、罰ゲームは当然あるさ。まぁ、それは追々だ――行くぞ」

 

 俺が承諾する前に、呂蒙がぐっと腹筋に力を入れたらしい。それだけで膣の中がぎゅううと締まって、中にある俺自身が強く囚われる。これは簡単に抜けない状態だ。

 途端に凄まじい快感が襲ってきた。これで射精するなというのは、あまりに厳しい。まだ一回も動いてないのにこれが凄まじい感触だった。

 歯を食いしばって耐え、一方で縋る気持ちで呂蒙の胸を掴む。彼女の嬉しそうな顔が見えた。

 

 「はぁ、固さは相変わらずだな……んんっ、動くぞ。一回目……」

 

 ずるずると肉が動く感触がして、いつもとは違う感覚だと理解する。全力で締めつけられるこの感じは普段滅多に味わえないものだ。

 それだけに我慢できるわけがない。きつく締められた後でずるずると引き抜かれていき、柔らかさと力強さが同時に襲い掛かってくる。

 ため息が抑えきれず、力を入れていなければ今にも達してしまいそう。

 俺がそうして我慢していると、呂蒙の動きが止まって抜けてしまうギリギリで、先端だけが締めつけられる。これはこれで気持ちいいが、次に奥へ進む時が怖くもある。気持ちいいのに射精してしまってはいけないのだから、まだ気を抜くわけにはいかなかった。

 彼女は、再び腰を落としてくる。またあの気持ちいい感触で、俺自身を強く締めつけるために。

 

 「二回、目……」

 「うぅ、くっ、うあっ……!」

 

 ずるりと奥まで呑みこまれる。俺の意思とは関係なく、彼女の動きによって刺激が与えられた。

 もしもこれで自分から動いていれば、それこそ耐えられないだろう。だから俺は棒のようにじっとしたまま、耐えていることしかできない。

 その間にも呂蒙は汗を掻きながら大股を開いて、ゆっくり腰を上下させる。三回、四回と慈悲なく続けられた。赤くなった顔は明らかに緩んでいて、彼女もまた快感に包まれて耐えているだろうことがわかる。

 とはいえ、どう考えても辛いのは俺の方だ。なんせ、いつイクのも自由な彼女と違い、よしと言われるまで我慢しなければならないのだから。

 

 「くぅ、五回目……ふ、ふふふ。そろそろ辛いんじゃないか? 別に、出したいなら出してもいいんだぞ。その場合は、はぁっ、当然、罰ゲームだが」

 「うぅぅ、あっ、ま、まずいって……あっ」

 

 罰ゲームだけは避けなければならなかった。これが相手が関羽なら、俺が罰ゲームとなってもどちらかと言えば関羽が罰ゲームを受けているような状況となるので安心できるが、相手が呂蒙なら何をされるかわかったもんじゃない。

 言葉にせずそんなことを考えていると、唐突に呂蒙が勢いよく腰を下ろしてきた。叩きつけるような勢いで、尻が太もも辺りに当たってパンっと鳴る。

 当然、俺はあまりの衝撃に一瞬呼吸を忘れ、大口を開けて舌を伸ばした。

 

 「こら、今誰のことを考えていた? 私を抱いているのに他の女のことか?」

 「ち、ちがっ……ば、罰ゲームとか言われたから、それが怖くてっ」

 「ふん、どうだか」

 

 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。目を合わせた呂蒙はさっきまでと一転して不機嫌そうな顔をしていた。

 今度は俺の腹に両手を置いて、前かがみの体勢。嫌な予感がした。

 

 「さぁ、これで七回目だ。んっ、まだ我慢できるかな」

 「ふっ、うぅぅ」

 

 またしてもゆっくりと引き抜かれて、入れられる。さっきの勢いのいい一発があっただけに、なんだかやさしくなった印象すらあって困ってしまう。一度緊張した以上、その後の緩和がなんとも恐ろしかった。

 このじっくり味わうような速度が卑怯だ。これなら確かな快感がありながらも、もっと早くして欲しいという欲求まで生まれてくる。完全に手玉に取られているらしい。

 けれど俺には余裕もなく、今となっては胸を揉むことすらできていない。ただ必死に両手を握りしめ、襲い掛かる波が過ぎるのを待つしかない。

 また、呂蒙の下半身が上がっていった。

 

 「はぁっ、んっ、固い……先走りが、私の膣を汚して――んああっ」

 

 呂蒙も相当来ているらしい。でもそれは俺も同じだった。

 うねうねと動く内部が常に刺激を与えて、締めつけられるのに揉みほぐすようでもある。止まっていることは決して救済ではなかった。

 呂蒙はついに地面へ手をつき、さらに前かがみになって、四つん這いに近い体勢となった。がくんと頭を振ったことで髪が揺れ、大粒の汗が俺の胸へと落ちる。

 そのまま腰が上下にゆっくりと動く。

 

 「きゅう、かいめ……」

 「おおおっ……やば、むり、もうむりだって……!」

 

 声が抑えられなくなる。もういい加減限界だった。

 よくやった、と自分で思う。慣れているとはいえ今日はやけに呂蒙の気合いが入っていた。だからここまで我慢できたのはむしろよくやった方だろう。いつもならもっと早かったかもしれない。

 そんな声が頭の中に聞こえてきた途端、全く同じタイミングで俺の胸に汗とは違う物が落ちてきた。どうやら結びが弱まっていたらしい、落ちてきたのは眼帯だ。

 いつも彼女が外さないそれ。思わずふと、上へ視線を向ける。

 右目とは違う、きれいな金色。竜を想わせるその目を見た瞬間、自分でも不思議だが、俺の全身がぶるりと震えた。

 

 「じゅっ、かいめ――あっ」

 「うぅぅっ、ああぁぁぁっ!」

 

 気付いた時には射精が始まっていて、凄まじい快感が全身を駆け巡っていた。いっそ暴力的なそれは電流にも似て、俺自身、何がなんだか何もわからなくなる。

 ただ気持ちいい。そのことだけは確かで、尿道を通って精液が呂蒙の子宮へ注ぎこまれていくのもよくわかった。

 後から後から出てくるそれらはいつまで経っても止まる様子がなく、途中からあまりにも量が多すぎて、快感が大きすぎるため、イッているはずの俺まで不安になってくる。ひょっとして俺はこのまま、狂ってしまうんじゃないかと。

 俺はついに心細さから呂蒙の体を抱きしめ、縋りつくように胸の間へ顔を埋めた。大きなそれに包まれても、やっぱり射精は止まらない。

 聞こえてくる声で呂蒙も戸惑っているらしいことが伝わった。俺の頭を抱き締めつつ、彼女も悲鳴に近い嬌声を発している。

 

 「うああっ、すごいっ……お、多い、多すぎるっ。ひぃんっ、やっ、こんなの、初めてぇぇぇっ……!」

 「ああぁぁっ、呂蒙、りょもうっ……!」

 「ひぃぃ、またイクっ。私も、何回もイッてる――あぁぁっ、すごいのぉ! こんな、こんなきもちいいのおかしくなるぅ!」

 

 俺たちが繋がっている部分からは異常なほど、バシャバシャと大きな音が聞こえた。逆流した精液がそれだけ出ているのだろう。

 ようやく射精が止まった時、俺も呂蒙も息が絶え絶えで、繋がったまま重なり合って倒れた。体に力が入らず、目の焦点が合ってないことが自分でわかる。

 部屋の中に荒い呼吸音だけが広がる。いつまで待っても体の感覚がなんとなく戻らず、これまで感じたことのない大きな疲労だけが体に纏わりついていた。

 呂蒙の顔が俺を見上げ、視線がぶつかる。そのままなんとなく、唇を触れ合わせた。

 

 「んっ――」

 

 彼女の息遣いが疲れた体に心地よく、触れるだけのキスが途方もなく嬉しい。

 結局俺たちはそのまま、少し眠って体力を回復することにした。というよりもむしろ、二人揃って気を失うように眠り始めてしまったのである。

 腕の中に抱き締めた、柔らかくて温かい感触を離さないよう、俺もゆっくりと目を閉じる。

 さっきまでの痴態が嘘のように、俺たちは落ち着いた眠りの中に吸い込まれていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 目が覚めた後、俺はボンテージを脱ぎ去った呂蒙に連れられてベッドの上へ陣取り、何度も何度も体を重ねた。

 さっきまでの焦らすようなプレイとは一転、ただ激しく突いて腰を動かす、ただそれだけの簡単な動作。無心になってそれを繰り返し、俺は求められるがままに何度も射精して、彼女はそれを膣で受け止めた。

 どうして二人揃って必死になってるのかわからない。でも、気絶する寸前の絶頂が凄まじかったことだけは確かだった。

 呂蒙は眼帯をつけ直すことすら忘れているらしく、俺の首に腕を回して離さない。何度出しても「もっと、もっと」とせがんでくる。

 だがそれは俺も望むところだった。不思議とひと眠りしたら今度はどうしようもなく体が元気になってしまって、何度出しても出し足りないと思ってしまうせいだ。

 俺は呂蒙に覆いかぶさり、右手では胸を揉んで、左手はくびれた腰に添え、何度も首の角度を変えてキスをしながらイチモツを膣へと出し入れさせていたのだ。

 

 「あぁぁっ、すごい、きもちいいっ! うんんっ、だめ、またイク、またイッちゃうぅ!」

 「くぅ、呂蒙、俺もまたいく! 中に出すぞ!」

 「はぁぁっ、きて、もっと深くに! んんっ、んくっ――あっ、あぁぁぁっ!」

 

 がしがしとイチモツを突っ込んで強い刺激を与え続け、先に呂蒙がイッた。びくんびくんと腰を大きく跳ねさせながら潮を吹き、それが俺の下腹部に当たる。ただ、すでにお互いが何度となく出しているため、そこはもう何がどうなっているかわからないほど混じり合っているのだが。

 ぎゅううと強く締められ、俺も射精する。やはり量は多いのだが、気絶する前の一発に比べればまだ健全だろうか。それでも常人が引くほどの量なのに変わりはないのだけれど。

 すべて呂蒙の膣の中へ発射し、しかし当然もう何発も出したため入りきらず、外へ逆流してくる。

 シーツの上には異常な量の精液と、呂蒙が出した少量の潮が混じって広がっている。冷静になってこれを全部自分が出したのかと思えば、ちょっと我ながら怖くなるが、もはやそんなこと気にならないくらい二人共全身がどろどろだ。

 どれが唾液で、どれが精液で、どれが愛液かもわからない。俺たちはそんな状態のまま、絶頂後の余韻を連れてシーツの上へと倒れ込む。

 お互い肌を合わせて、呼吸を乱しているというのにまた深くキスをする。この瞬間、とても落ち着く。それはお互いが思っていたことだろう。

 しばらく疲れにまみれたままキスを続けてから、ようやく落ち着いて話をすることができた。

 呂蒙は片手でまた少しだけ元気になろうとするイチモツを根元から扱き、笑みを見せつつ、俺の顔の目の前で話しだす。

 

 「もう、またこんなになってる……一体何度出せば気が済むんだ。ベッドもこんなにしておいて」

 「う、ご、ごめん。でもなんか、さっきのあれから治まりがつかなくなってさ」

 「まったく、仕方ないな。ほら、しばらく手でしてやるから、出したい時に出せ」

 「うん……」

 

 やさしく微笑んでくる彼女に、どうしても見とれてしまう。彼女は怒るとものすごく怖いが、笑っていれば驚くほどきれいだ。きれいで、可愛くて、守りたいと思ってしまう。結局俺の方が弱いんだから守られるのが当たり前なんだろうけど。

 彼女が手で扱いてくれるので、俺も彼女の胸に両手を伸ばし、柔らかな乳房を揉み始めた。そこも当然どろどろだが、どうせ全身がこうなのだから気にならない。

 そんな風にまどろむ時間が心地よかった。いつも行為後の疲労は大きく、今日など特別凄かったが、やっぱりこうしていると相手の女の子が愛おしくて仕方ない。みんな、本当に俺を愛してくれているのだと感じる。ちょっと表現の方法は問題があるとも思うが。

 特に呂蒙は、俺の初めての相手で、確かに最初こそレイプまがいだったかもしれないがその後は大切にしてくれた。こういう時間、そのことをよく思い出す。

 呂蒙の表情は柔らかい。そしてその笑みは、今日も俺にだけ向けられていた。

 

 「呂蒙の左目、こんな色だったんだな。なんか……きれいだ。俺はこの目、好きだな」

 「な、何を急に……別にきれいでもなんでもない、こんな物」

 「いいや、きれいだよ。どうして隠す必要があるのか、わからないくらい……なぁ、たまにでいいからさ、俺にだけ見せてよ。知られたくないなら、絶対誰にも言わないって約束するから」

 「う、くっ」

 

 自分でも何を口走ってるのかいまいちわからない。でも本心だった。初めて見た瞬間から、俺はその呂蒙の左目がきれいだと想い、どうしようもなく惹かれてる。

 ひょっとして、その目を見たから体の調子が良くなって、射精が止まらなくなったのかとも思ったが。バカバカしい。そんなはずがないだろう。

 だけどやっぱり何度見てもきれいで、目が離せなくなる。

 そうしていると呂蒙が恥ずかしがったようで、俺の目から逃げるために俺の首筋へ顔を埋めてきた。そこだって色んな体液がべったりついてるのに。

 

 「ば、バカなことを言うなっ。……まぁその、なんだ……ど、どうしてもと言うなら、見せてやらんこともないが……」

 「あーうん、どうしても。今が嫌なら今度でいいから」

 「あ、ああ。そういうことなら、まぁ……また今度、な」

 

 怒ったような口調だったが、耳は赤いし、恥ずかしがってるだけなのは目に見えてる。そんなに嫌がっていないようで、よかった。

 そうこうしている内に、扱かれたままだったため、イキそうになってきた。今はお互い落ちついてるし、隠す必要もなく伝える。

 

 「呂蒙、俺イキそう……両手でしてくれる?」

 「ん。腹の辺りにかけてくれ」

 

 またぐいっとさらに近付いて、先端が呂蒙の下腹部に当てられた。同時に彼女の細い指が竿へ絡みつき、両手で力強く扱かれる。

 上から下へ、ゴシゴシと、体液を塗りつけるような動作で。呂蒙の手の動きでさらに気持ちよくなる。

 俺は今度こそ我慢せず、射精を始める。大量の精液が呂蒙の腹へぶつけられ、またシーツに大きな水たまりを作った。

 

 「ん……またこんなに。一体どれだけ出せば枯れるんだ」

 「か、枯らそうとしないでくれよ。俺だってまだ元気でいたいんだから」

 「だからってこれは、出しすぎだろう。いつにも増して多いようだし、またすぐに大きくなっている。さすがにここまでだと呆れてくるな」

 「うぅ、面目ない……でもこればっかりは俺でも制御できないから」

 

 射精が終わってからも呂蒙は俺のイチモツをシコシコと扱いて、少しため息を吐きながら俺の目を見つめてくる。やっぱりきれいな薄緑と金だが、さすがに責められる色が見えて呆けているわけにもいかなかった。

 俺もお詫びの意味を込めて、呂蒙の胸と、秘所の辺りへ手を伸ばす。軽く触れただけでも彼女は体をぴくんと反応させて、性欲の旺盛さは俺とそう変わらないじゃないか、と思う。

 お互いに相手の体へ触れて手を動かす。指を動かし、手首を捻って、慣れた様子で微弱な快感を与え続けた。

 一方で呂蒙がまた声をかけてくる。今度は少し楽しげな、わずかに口元が弧を描く笑みと共に。

 

 「そういえばすっかり忘れていた。罰ゲームがまだだったな」

 「へ? 罰ゲーム……?」

 「たった十回でイッたことへの罰だ。まだ早漏を返還するには早かったようだな」

 「あ」

 

 にたにたと悪戯っぽく楽しそうに。呂蒙は俺の頬をぺろりと舐めながら言い放った。

 罰ゲーム。性欲に負けてすっかり忘れていた。そういえばそんなことをしていたと覚えている。

 そう聞いてから一気に顔から血の気が引いてきた。一体何をされるのだろう。相手は俺の知り合いの中でも極端にドSな呂蒙。もっと前に言っていたように、俺のクラスのど真ん中で俺をレイプすることすら躊躇わなさそうでひどく恐ろしい。

 俺が恐怖におののいてがくがく震え始めると、呂蒙はその反応でさらに気分を良くしたらしく、俺の玉を揉みながら尻まで揉み始めた。

 おのれサディストめ。好き勝手しやがって。こんなこと言ったら俺の人生が終わるので、口が裂けても言えないけど。

 

 「あのー、それってどうにかなりませんか……? ほ、ほら、カウント途中で出しちゃったわけだから、状況としてはイーブンだと思うし。俺の成長具合を考えれば、五分五分ということで終わらせてもいいかと思いますが……」

 「ふふふ、だめだ。ルールはルール。十秒数え終わる前に出したんだから、勝負は私の勝ち。それともまだ文句が?」

 「うぅ、いいえ、ありません……何言ってもどうせ勝てる気はしないし」

 「よろしい。ふむ、そうだな。それじゃあ罰ゲームを……」

 「あ、あの、せめてあんまり重い物にはしないで。さくっと簡単に終わるようなやつを」

 

 呂蒙は真剣な顔で考え始めた。でも両手を巧みに動かして俺を射精に導こうとしている辺り、かなりの慣れが見える。それだけ俺は彼女に抱かれていたということか。

 ここで俺が呂蒙を抱いたと言えないのが辛いところ。正直パワーバランスは出会った頃から一ミリも変わってない。

 だからたとえどれだけ辛いことであっても、俺が彼女の命令に逆らえるわけがなかったのである。

 

 「そうだ、面白いことを考えた。確か明日は、関羽の担当の日だったな?」

 「え? あぁまぁ、そうだけど。……まさか」

 「ふふふ。それじゃあ明日も私の担当にしてもらおうか。もちろん、関羽へはおまえの口から説明してもらう。ゲームをして、自分が負けたからそうなったと。悪いのはすべて俺だ、とな」

 「なっ、なっ、なっ――」

 

 とんでもないことを言い渡された。そんなこと、できるはずがない。

 俺は呂蒙の胸を両手でぎゅっと掴み、顔を近くして抗議を始める。しかし呂蒙は気持ちよがって声を洩らすだけで、痛そうとか怯えているとか、そういう表情は微塵も見せなかった。

 

 「何言ってんだよ、絶対無理だってっ。まずオーケーしてくれないだろうし、もし納得してくれたとして、そんなことしたら次の回にどんなことを要求されるか――」

 「そもそも、私はおまえが他の女と寝ることを認めてない。だがどうせおまえのような尻軽では断り切れないだろうともわかっているし、本気で腹が立つがあいつらだけは目をつむってやろうと言ってるんだ。これが最大の譲歩だぞ。本当なら連中を全員その辺の山にでも埋めて、おまえを独占したいところなんだから」

 「う、うぅ、うぅぅ……確かにその点は感謝してる、けどもっ。やっぱりそればっかりはどうやったって悪い方向に――」

 「もう命令は決定だ。それとも、私に逆らってみるか? 別に嫌なら嫌でいいんだぞ。その代わり明日の授業中にでも私が教室に乗り込んで、全力でおまえをレイプするかもしれないが」

 

 今度こそ顔から血の気が引く。もうだめだ、俺は後にやってくる波乱を理解した上で地雷を踏まねばならない。

 やっぱり勝てなかったか、と少し落ち込みつつ、頭を垂れる。すると呂蒙の楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 

 「わ、わかりました……じゃあ、俺の口からちゃんと説明するので、お願いですから俺のことを守ってください、お願いします……」

 「ふふふ、いいぞ。素直になったおまえは可愛いなぁ。今日はたくさんおっぱい吸ってもいいぞ」

 

 体液にまみれた胸の谷間に頭を抱き締められるが、嬉しいのやら悲しいのやら。明日には激怒する関羽の顔を見なければならないというのに。

 しかし珍しく呂蒙から甘えていいと言われたので、これ幸いと胸にしがみつき、可愛らしい乳首を口に含んで吸いつきながら考えることをやめる。色んな体液にまみれていたが、彼女の胸に触れているとやっぱり安心した。

 同時に、呂蒙の手によって再び射精する。今度は呂蒙も呆れず、全部を掌で受け止めて指を動かし、ぐちゃぐちゃと音を鳴らす。

 明日もあるのに、今日はまだまだ続きそうだ。

 

 余談にはなるが。

 翌日、放課後に意気揚々と俺の家へ来た関羽へ腕に呂蒙がしがみついたまま事情を説明してみれば、予想していた通り怒髪天を突く勢いで烈火の如く怒りまくった。順番の変動はなく、次に関羽と二人きりになれるのは次回の自分の番まで待たなければならないため、それは当然だろう。

 とにかく怒りまくった彼女を説得するのには骨が折れたが、「次の関羽の時はなんでもする。絶対言われたことを断ったりしない」と約束をつけることで納得してもらった。涙目で吠えまくり、今にも薙刀を使って呂蒙に襲いかかろうとしたのは危なかった。

 正直なんとかなるにはなったが、あの関羽の様子から察するに次回はすごく荒れそうなので、なんとなく怖い気持ちになる。

 しかし原因たる呂蒙は上機嫌そうに微笑んでいて、我が物顔で俺の腕にしがみついていた。

 その後、前日と同じように、我を忘れるまで色んな体液にまみれながら激しくセックスしたのである。

 



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飢えた獣

 滅多にない二万字越え。
 でもほとんどエロいことしてます。


 ここ最近、幸か不幸か、俺の周りから争いは消えていた。

 何をきっかけにしたのかもわからない、俺の生活の急変はここに来てようやくの落ち着きを見せ始めていて、ようやく穏やかになりつつある。と言ってもいいだろう。

 まぁそうは言ってもそれはやっぱり麗しき女性たちに深く愛され、囲われて、半ば動物よろしく飼育されているような気もするので、純粋に喜んでいいものかはわからないが。

 とある出来事をきっかけにすっかり様変わりしてしまった俺の日常は、毎日が淫らな行為で埋め尽くされている。原因は俺を深く愛してくれているらしい美少女たち以外に考えられなかった。

 朝起きた時から夜眠る瞬間まで。気付けば俺を囲っていた六人の美少女が抜け目なく、隙間なく俺を脱がすため、一日の大半を裸で過ごしていると言っていい。というか実際そうだ。

 そしてそんな生活が続く中、俺の対応力もずいぶん上がってきたと思う。ひとえに俺が彼女たちに飽きられないのはそのためではないかと自惚れてしまうくらい。いや、本当はもうちょっとくらい飽きてくれてもいいのかな、と思う瞬間もあるけれど。

 例えばそれは、彼女たち一人一人の趣味趣向に対する反応について。当然六人も居ればそれぞれ好みも違うわけで、他の男子諸君に知られれば滅多打ちにされること間違いなしだろうが、そんなハーレム状態にある俺は彼女たちを満足させるためにも日々頑張っているのだ。時に俺の意思とは関係なく無理やりだったりすることがあったとしても。今日まではとりあえず平穏にやってこれた。

 呂蒙なんかはわかりやすくドSなわけだから俺は受け身になって彼女の責めに耐えるし、趙雲は俺に敬意を払っているもののセクハラが後を絶たず、でもやっぱりやさしくて、劉備とはとにかく甘くイチャイチャしてる。

 俺がした初体験の大半は呂布の手によるもので、どことなくプロっぽさすらある彼女に甘えることはすごく多かったし、陳宮とはいまだにぎくしゃくしながらもやっぱりお互いに興味があるわけだし、一応やることはやってる。

 他人、特に男が知ればまず間違いなく俺を殺しに来るだろう幸せな日常は、ひとまずの平穏を保っているわけだ。が、実はこれが薄氷の上を歩むが如く、女性陣のけん制し合いが絶えなかったりする。

 一応は仲良くしている風な彼女たちも、実際には俺を独占しようとあれこれ手を尽くそうとしてたり、頭の中で考えてたりするわけで、きっかけ一つあればこの環境すべてが壊れかねないギリギリの状態にあると言っていい。少なくとも俺は毎日向けられる嫉妬や独占欲やねっとりした愛情を感じてそう思っていた。

 そしてようやく本題。今日、たった今、この非常に危険でギリギリな状況の導火線に火を点けられ、後は爆発するのを待つのみとなってしまったらしい。おかげで俺は今からその時を想って冷や汗を掻いているわけだ。

 何を隠そう、不思議と俺は今朝からかつてと同じように関羽によって再び誘拐されてしまい、着の身着のままの私服と彼女が用意した鞄一つを手に、どこへ向かうかもわからない電車に乗せられていたのである。

 

 「あのー、関羽さん。そろそろ教えてほしいんだけど……俺たちどこ行こうとしてるんだ?」

 「ふぅーっ、ふぅーっ……」

 

 ガタンゴトンと揺れる電車はすでに走り出していて、俺たちが乗り込んだ駅からはすでに七つほど離れた駅を出発したところだ。

 おそらく田舎に向かってるのだろう。窓の外に見える風景は徐々に自然が多くなり、今や高い山々がそびえ、田んぼが所せましとあるのが見える。人の姿もまるで見えない。

 静かな緑の風景へ向かう旅路。見ようによっては駆け落ちと思えなくもない。

 なぜか俺たちが居る車両に他の乗客の姿はなく、今は二人掛けの席に俺たち二人だけ、隣り合わせで並んで座っていた。

 そして先程から俺を誘拐した犯人は、俺の耳元に鼻をぶつけて髪の匂いを嗅いでいる。物凄く鼻息を荒くして。まるで痴漢か変態にでも出会ってしまったような感じだ。

 今朝、学校へ行こうと一人で歩いていた俺の前に突如現れ、力ずくで家まで連れ戻し、荷物を纏めて無理やり電車まで歩かせた彼女。関羽と会うのは、これが一週間ぶりくらいにはなると思う。

 俺を囲う彼女たちは日替わりで俺と過ごす当番を決めているので、本来は先週、二人きりで会うはずだった。だがあいにくと先週は俺が呂蒙との賭けに負けたばっかりに、関羽と過ごすはずの一日が呂蒙によって奪われてしまったのだ。

 しかもいつもならいっしょに過ごすこともある劉備も、悪戯のつもりか関羽が俺と会うことを許可しなかったし、他の女性たちも同じく。自分を優先する者が大半、ただ悪戯がしたいだけの者が一名で、俺との時間を楽しみにしていた関羽は会えないと知ると今までにないくらいの勢いで怒り狂っていた。

 その結果がこれだろう。思えば初対面の時も気絶させられて拉致された。こうなることも考慮しておくべきだったのかもしれない。

 朝っぱらから俺を誘拐した関羽は非常に幸せそうに俺の匂いを嗅いでおり、太ももを撫でたり、シャツの上から乳首をいじったりととにかく落ち着きがなかった。本当に痴漢されてるような心境と状況。妙な時間だ。

 思わずため息が出る。こうなってしまったらもう、腕力で劣る俺にはどうしようもなかった。

 

 「あの、関羽さん? 一応電車の中だし、こういうのはちょっと控えた方がいいのではないかと……」

 「んふーっ、ふぅーっ……はぁぁ、いい匂い」

 「聞いてる? こら関羽、いい加減にしないと俺も怒る――」

 

 耳を舐めたり、髪や首筋の匂いを嗅いで悦に入ってる関羽に業を煮やし、ついに両手で頬をぎゅっと摘んでみる。

 単純な力比べじゃ敵わないことは知ってる。でもよく考えれば彼女はドがつくMだし、ベッドの上じゃ俺の言うことには絶対逆らわないわけで。ひょっとしたら行けるかもしれないと思っての行動だった。

 しかし強気な態度も束の間。

 俺の両手首をがしっと掴んだ関羽は止まるどころか、俺の頬にキスの雨を降らし、そのまま唇ではむはむと噛むような仕草までしてくる。まるでライオンか何かに襲われてる気分だ。

 押されるままに背もたれに体重を預け、押さえられた俺に逃げ出す暇はなく、問答無用の拘束は彼女の覚悟を感じさせる。というか明らかに暴走状態らしかった。

 獲物として捕えられた俺に逃げ出す術はない。なによりさっき一瞬合った目が明らかに据わっていた。

 

 「あぁぁぁ、ごめんなさい、俺が間違ってましたっ。もう好きにしていいから、ちょっと、話だけでもさせてくださいませんか……?」

 「んんっ、ふっ、ふんんっ――」

 

 右の頬をぺろぺろ舐められ、左の頬を唇ではむはむされ、しまいには唇を舌だけで荒々しく撫でられた。

 関羽は明らかに自分の欲望を抑えきれてない状態だ。初めて会った時のような暴走状態は若干のトラウマさえ思い出させ、逆らってはいけないと本能が告げる。

 俺が従順な態度で彼女を受け入れ、手首を押さえられたままとはいえ関羽のキスに応じるよう動くと、ようやく少しだけ顔を離して正面から目を合わしてくれる。

 頬が紅潮して、どこかぼんやりとした、怪しげな雰囲気。いつにも増して妖艶な関羽は、俺が見ている前でまた舌を伸ばし、ゆっくりと俺の顔に近付いてきた。

 

 「んっ――」

 「うひっ」

 

 変な声が出てしまう。関羽の舌で、眼球を舐められたせいだった。

 どんなに変態的な行為をしてきても、こんなことは初めてである。咄嗟に右目を閉じたから触れられたのは一度だけだったが、彼女はまだ瞼にぺろぺろと舌を這わせている。

 これは、思っていた以上にすごいスイッチが入っているのかもしれない。そういえば表情もどことなく今まで見たことがないものだ。

 いよいよ身の危険を感じてきたわけだが、両手で両方の手首を掴まれてる以上俺も逃げようはないし、ねちっこく舐めてくる関羽から逃げるような動きをするしかなかった。

 ひょっとしたら初対面の時以上なのだろうか。一週間ほどの我慢もあったわけだし、マゾヒストだけど放置プレイが嫌いな関羽がおかしくなる理由は驚くほど簡単に納得できた。

 

 「んんっ、んっ、ちゅ、ふむっ――」

 「ちょ、ちょっと待って関羽、ここ電車……!」

 「はぁっ」

 

 瞼から額へつつっと上がり、そこからゆっくり頬を経由して耳に触れ、穴の中に舌先をねじ込むようにした後顎のラインをなぞられる。その後また唇が舌先で押さえられて、鼻の穴辺りも入念に、鼻先にじゅるると強く吸いつかれた。

 それから首筋へ降りてしつこく舌の腹で撫でられ、たっぷり唾液を塗りたくられた後、一際強く肌が吸われた。痛みにも近い感覚で思わずびくっと反応してしまうほどだ。

 そこまで一通りやって満足したのか、関羽はそっと俺から顔を離した。

 目を合わせてみれば全く満足していない。でもやっと話せる状態になったんだろう。

 息を乱して悶えてる俺をじっと見つめ、手首を握る手にぐっと力を入れた関羽は、鼻先が触れあいそうな距離で囁く。

 

 「心配はいらない……今向かっているのは、闘士のために解放された温泉宿だ。闘士である勾玉さえ持っていれば、無料で使える秘湯だぞ」

 「お、温泉? しかも無料? なんかいかにも怪しい」

 「何も害がないことはすでに証明されている。だから、心配なんて何もしなくていい。ただ二人きりで旅行がしたかっただけだ」

 「あ、ああ。先週ちょっと会えなかったもんな。じゃあ二人きりの温泉旅行ってことで、日帰り?」

 

 できるだけ明るく聞いてみた。何か嫌な予感を感じたからだ。

 すると関羽はぼんやりした目のまま閉口する。やっぱり俺が思った通り、一日で帰るつもりなんてないらしい。

 一度家に戻って荷物を鞄に詰めたのもそのためだろう。彼女はこれから数日間、俺を独占して帰すつもりがない。それは間違いないはず。

 明確な意図が見て取れ、それでもぐうの音も出なかった。普段とは明らかに目の色が違う彼女を相手に下手なことをしてしまえば、俺の身がどうなるかわからないからだ。

 まぁ命を取られるわけではないし、きっと愛情から来る行動なのだろうから、抵抗する必要なんてないだろう。

 背筋が震えるのを感じつつ、気付かぬ内に汗を掻いてたようだが、そう思った俺はにっこり笑って頷くことにした。

 

 「いやいや、せっかくの旅行なんだし、日帰りなわけないよな。実は俺も纏まった休日で温泉旅行とか行きたかったんだよ」

 「ふふふ、そうか。ということは私と同じことを考えてたというわけだな」

 「あぁ、うん。ちなみにさ。俺今日学校だったような気がするんだけど、違ったっけ?」

 「それは、私より学校の方が大事ということか?」

 

 関羽がにこりと微笑む。でも目は笑ってなかった。

 

 「はっはっは、まさか。めんどくさい学校より関羽と二人きりになれるから幸せを噛みしめてたところなんだ」

 「ふふふ、そうか。そう言ってくれると私も嬉しい。今日からは二人っきりだ」

 

 ようやく手首が解放されて、嬉しそうな関羽に抱き締められる。頭をやさしく抱えられ、シャツの下にあるはちきれんばかりの巨乳に顔を埋められた。

 その感触には安堵するが、ほんの数秒前に向けられた笑顔はまずかった。あそこで答えを間違えていたら、ひょっとしたら俺は再びどこかで監禁されてたか、もしくはバッドエンドよろしく刺される展開があったかもしれない。

 多少気を遣って俺も彼女を抱きしめつつ、何もわかってないような素振りで聞いてみる。

 今の関羽に下手なことを言ってはいけない。だからこそ注意が必要だった。

 

 「でもさ、二人きりで何するんだ? まぁ、温泉に行くんだから大体はわかるけど」

 「何もしなくたっていい。二人だけで過ごそう。この一週間できなかったことを一つずつやりながら、お互いの愛を確かめ合おう。ふふふ、楽しみだ」

 「ははは……俺もすごく楽しみだなぁ、ほんと」

 

 胸に顔を埋めたままだったが笑顔で呟く。

 まぁ、考え方を変えればいいことなのかもしれない。別に学校が好きだと言う優等生なわけでもないし、愛されることは嬉しいが休みらしい休みもない毎日だった。

 温泉でゆっくりできるなら――と一瞬でも考えた自分が馬鹿らしい。この状態の関羽が隣に居てゆっくりできるはずもなかったか。

 やっぱり大変そうだからやばいかもしれない。

 さらに強く抱きしめられながら、胸の谷間に口を押しつけて小さくため息を吐いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 関羽が言っていた闘士御用達の温泉宿は、大自然に囲まれた田舎風景の駅に降りて、さらに歩くこと三十分以上の位置にある山奥にあった。

 古びた木造の外観ながら大きな建物で、古さがある分雰囲気がある。

 乗り気なのか乗り気じゃないのか、どっちつかずな俺でもテンションが上がったほど良い見た目だ。

 散々電車の中でねちっこい愛撫をして上機嫌らしい関羽に手を引かれ、玄関から宿へと入る。するとすぐに着物を着た女将さんが顔を見せた。

 それはいいのだが、問題なのはその顔があまりに見覚えがあったことだ。

 桃色の着物に身を包んだ妙齢の女性、俺の同級生の母親である。

 以前何度か会ったことのある、呉栄さんという人が宿の人間らしい態度で俺たちに近付き、顔見知りである俺に気付くと幾分驚いていたようだ。

 

 「いらっしゃいませぇ。あらあら、これは一体どういうことかしら」

 「ど、どうも。ご無沙汰してます、呉栄さん」

 「知り合いか?」

 

 気まずい。別に俺とその同級生の間に何かあるわけじゃないが、以前会ったことがあるだけに妙な気恥かしさがあった。

 なにせ関羽は相変わらず俺の手を強く握ってるし、肩もぴったり触れあってる。どう見たって友達同士には見えないだろう。

 呉栄さんはにこにこ笑って右手を頬へ当て、何かを楽しむかのように俺たちを見つめている。それが考えが見えない笑みなせいで変な緊張感が生まれていた。

 関羽は関羽で嫉妬するように目付きを鋭くしてるし、できれば厄介事は避けたい。

 内心ドギマギしながら顔を見つめていると、呉栄さんはそっと右手を動かし、自分の首筋を指差した。

 意味がわからず、首をかしげてしまう。その直後に短い説明が俺に向けられた。

 

 「なんだかいい仲みたいね。てっきり伯符とくっつくのかと思ってたんだけど」

 「え? なんか付いてます?」

 「ええ、はっきり。お隣の美女がつけたキスマークが」

 「あっ」

 

 言われた瞬間に肩が震えた。反射的に指された場所を手で押さえる。そういえば電車の中でやけに何回も首筋を吸われていた。

 慌てて関羽に目を向けてみれば、彼女は満足そうなな顔で微笑んで俺を見ている。どうやら確信犯だったらしい。なんてことをしてくれるのか。

 知人に会っただけではなく、キスマークまで見られるとは。

 どうしようもなく顔が熱くなり、視線を落とさずにはいられなかった。相手は年上の女性なわけだし、達観した様子で色々と納得されるのも妙に恥ずかしい。おまけに普通に会話できる程度には知り合いなわけだからなおさらだ。

 

 「うふふ、若いっていいわねぇ。青春よねぇ。あ、私のことは気にしないでいいから。お二人の邪魔なんてしないからねぇ」

 「は、はぁ……ええと、呉栄さんはどうしてここに?」

 「ちょっとお仕事の手伝いをしてるの。ここの人たちと友達ってこともあって」

 「そうなんですか。それで、あの」

 「わかってる。いっしょの部屋でいいのよね?」

 「はい。よろしくお願いします」

 

 なんとか話題を逸らそうとするけど、結局泊まりに来てるわけだから見逃してもらえるはずもなし。

 関羽が丁寧に頭を下げたことをきっかけに、パッと輝くような笑顔になった呉栄さんは軽やかに回ると俺たちの案内を始めてくれた。

 

 「はぁーい。闘士様ご案なーいっ。こちらへどうぞー」

 「さぁ、行こうか。ふふ、ようやく二人きりになれる」

 「あーそうだねぇ」

 

 もはや悩んでいても無駄だろう。俺も笑顔になって関羽に従った。

 玄関で靴を脱ぎ、木目の床を歩いて二階へ上がる。先導する呉栄さんについていって通されたのは結構広い部屋だった。

 窓からは大自然を伺える和室。雰囲気はあるし、不思議と心が落ち着く。部屋の匂いが懐かしい、とも感じられた。

 関羽に手を引かれるがまま、窓の傍に立った俺もまずは景色を眺める。木々に囲まれた山の中ながら少し開けた場所が見え、聞けば近くには川も流れているらしい。地元の人間も近寄らないため、静かなひと時を楽しめるとか。

 なんだか今になって遠くへ来たという実感が沸いてきた。

 

 「知ってると思うけど、ウチは闘士さんならお代はいりません。それに今は他のお客様も一組だけだから、細かいことは気にしなくてもいいわ」

 「細かいことってなんですか」

 「もう、私の口からそんなこと言わせちゃうの? 例えば声とか出ちゃったら、他の人に迷惑かけちゃうかもしれないでしょ」

 「ちょ、呉栄さん、何言って――!」

 「でも気にしないで。ちゃあんともう一組とは部屋を離しておいたから。しっかり声出しちゃってもいいわよぉ」

 

 言いたいことだけ言って、顔見知りであるせいなのか呉栄さんはそそくさと部屋から出て行ってしまう。いやまだ何も説明されてないけど。

 ぱたんと襖が閉められ、一つの空間に二人きりになる。瞬間、空気が変わった気がした。

 恐る恐る関羽を見てみると、すでに俺を見つめて目の色を変えている。完全にターゲットロックオンの目だ。

 そう考えた途端に俺は関羽に押し倒され、勢いよく畳に背中をぶつけていた。

 

 「いたっ」

 「はぁっ、はぁっ、や、やっと、二人きりだな……!」

 

 鼻息は荒く、目は潤みつつも妖艶な色があり、明らかに平静を欠いた表情。俺からしてみれば襲われてると感じるほどの力強さがあった。

 肩をぐっと押さえられ、起き上がることはできない。関羽に組み敷かれた状態で、思わずごくりと息を呑んでしまった。

 無茶されるのだろうか。そう考えると自然に不安が募ってくる。

 

 「だ、大丈夫だ。ちゃんとやさしくするから。しっかり愛撫して、痛くないように気持ちよくするから」

 「俺がされる側なわけ? いや関羽さん、ちょっと待った。落ち着こうって。ほら、いつもの感じとかあるわけじゃん。俺頑張るから、もうちょっとやさしい目で俺を見てほしい――」

 「あぁっ、可愛いっ。どうしてそんなに可愛いんだっ」

 

 感極まったような声と同時に唇が塞がれる。電車の中でのキスとも違う、思い切り押し付けるようなそれだ。

 柔らかい感触がぐっと強く触れて、呼吸ができないほどの力強さ。

 いつの間にかまた両手首が押さえられて身動きが取れず、逃がさないとばかりにのしかかられる。近頃じゃ感じなかった荒々しさだった。

 痛みを感じるまでではないが、多少の息苦しさはある。しかも驚くほど熱烈で逃げようがない。

 

 「んんっ、んんんっ!」

 「んふっ、はぁ、ふ、服も脱がすぞ」

 

 長めのキスが終わると同時、俺が苦しげに呼吸している最中にも関羽のキスは首筋にやってきて、また強く吸いついてくる。電車の中でキスマークを残された時のような強さで。

 触れられる度に体が震え、力が抜ける。彼女に触れられるだけで抵抗する気力があっという間に削がれていった。これも毎日の経験のせいかもしれない。

 俺がキスで震えている間に服にも手がかけられる。慣れた様子で次々服が脱がされ、肌を晒すのにも時間はかからない。

 上半身が裸にされて、すぐに下半身も脱がされる。

 そうなっただけで息子は徐々に大きくなり始めており、全裸になると同時に手で触れられ、思わず歯を食いしばってしまった。

 頭が蕩けるような熱気と微弱な快感の中、俺のモノが完全に勃起したのがわかる。

 右も左も首筋を吸い終えた後、関羽の唇は俺の肌に触れたまま胸の方へ移動していた。あまり筋肉がついている方ではないが、胸板を撫でられ、乳首を転がされる。気付かない内に大きくなってたらしい。

 一方でモノが握られ、感触を確かめるようにやわやわと揉まれる。勃起して固くなったとこも、ぶら下がってるだけの玉の方までやさしく。

 

 「はぁっ、んんっ……ふふふ、大きくなった。熱くて、固い。こんなにもびくびく震えて、私のなかに入りたがってるんだな」

 「関、羽……うぐっ」

 

 うっとりした声が鼓膜を揺らす。非常に嬉しそうだ。

 関羽の頭はさらに下へ移動して股間の前まで行ったようだった。少し頭を起こして見てみるとやはり期待した目がそそり立つそれに向けられている。鼻先が触れそうなほど間近で。

 かく言う俺も先走りを垂れ流してる姿で、これから行われる行為を期待しているのは間違いなかった。もう抵抗の意思はない。

 そりゃあ美少女にキスされながら急所を握られて服をはぎ取られれば、誰だってそうなる。俺が悪いわけじゃないだろう。

 期待する様子の関羽はおよそ一週間ぶり、大きな口を開けて一息に俺のモノを銜えこんだ。

 

 「うっ、うぅ……」

 「んんっ、んふっ、ほむっ――」

 

 暖かい口内の熱を感じ、ねっとりと舌が絡みついてくる。

 久々であるせいか関羽の口内は非常に心地よく、また熱すぎるほど強い熱を感じた。大胆な動きを感じさせる舌も落ち着きがなく、言い方を変えれば気合いが入っていて刺激の波が飽きさせない。

 頭も振って口全体を使い、丹念に全体を舐められる。先端から根元まで、手で玉を揉みながらの奉仕だった。

 平常心を失くしているせいで野性味すら感じられるのだ。こちらも当然冷静ではいられなくなる。

 上から下までしっかり舐められ、全体に唾液がたっぷり塗られた頃。

 体を動かした関羽は体勢を変えて俺の顔を跨ぐ。ミニスカートから見える純白の下着が真上にあり、ぐっしょりと濡れた状態であることがよく確認できた。

 

 「わ、私も、舐めてほしい……」

 「あぁ、わかった。よ、よし」

 

 ゆっくり腰を降ろすにつれて股間が俺の顔に近付く。そのまま躊躇いなく俺の顔にむぎゅりと押し付けられた。

 ぐしょぐしょに濡れた下着。決して良い感触ではない。だがその奥にある肉の柔らかさは、どうしても香ってくる雌の匂いは、どうしようもなく惹かれるものがある。

 俺も舌を伸ばして下着のクロッチ部分に触れる。舌先で強く押すように刺激を与え、間接的とはいえ肉の柔らかさを味わった。

 少し触れただけでも雌の匂いがぷんと香る。決して嫌なものではなく、むしろ自分の中の興奮が増す。

 さらに楽しむようにぐりぐり押して感触を確かめた。すると関羽は背筋を震わせて、目に見えて尻が震え、モノを銜えたままくぐもった声を出していた。

 それでも口は外されずに、今も強く吸いつかれる。ずずずっと音が鳴るほど淫らだった。

 

 「んんっ、んんぅ、ふっ、うぅ――」

 

 関羽の声が徐々に大きくなる。俺の舌で感じてるみたいだった。

 下着越しにぴちゃぴちゃ鳴って、クロッチの冷たさとその奥の熱さ。入り混じって妙な感覚になる。

 力を入れて何度も舐めれば、どんどん関羽の余裕は失われているようで、あまり限界は遠くなさそうに思える。

 そう言いつつ、俺もそこまで余裕があるわけじゃない。関羽は久々だから感度が上がってるんだろうが、俺は毎日色んな女性たちに多方面から快楽を教え込まれているわけで、そう長くは我慢できないような体になってしまっている。毎日のようにイカされるためそもそもの体質が変わったのだ。絶対そうだ。

 あまり長くは続かない。そう思うからこそ、その前に一度だけでも関羽を先に。

 俺は両手で関羽の尻を掴み、一層力を込めて彼女の股を舐め、唇を尖らせて吸いついた。もう少しで到達するはずだと信じて。

 

 「んんあっ、はぁんっ! んんっ、んんんっ、んっ、ふぅっ――!」

 

 一度は俺から口を離してしまったものの、すぐに再びしゃぶりつく。関羽も必死だった。

 もはや勝負にも見える時間だ。俺も関羽も精一杯の技量と動きで相手を責め、絶頂へ導こうとしている。

 どっちが先にイクのか。もうその時は遠くない。どっちも力が増していく。

 ただ、やっぱりというべきか、お互い条件は違えど体の状態はそう違わず。俺はそもそも敏感になってる上、イキ癖がついてしまっているというか、我慢ができない状態になっていたし、関羽は俺と一週間会わずに性欲が溜まりに溜まって暴走状態。冷静に状況判断できる顔つきじゃなかった。

 じゅぽじゅぽと音が鳴り、関羽の喘ぎ声が大きくなる。尻の動きも跳ねるようで明らかに我慢できていなかった。

 いよいよやばくなってきた時、俺は思い切って下着を横へずらし、直接関羽の秘所へ吸いつく。唇でちゅうと吸いついて、膣に触れた途端関羽が小さく悲鳴を洩らし、勢いづいてそのままクリトリスへ吸いついた。

 唇をすぼめて口内に含み、思い切り吸ってやる。それだけで関羽の腰は大きく上下へ跳ね、大きな声が聞こえてきた。

 

 「んんんっ!? んふぅぅぅっ!」

 「うぅっ、うっ」

 

 体が小刻みに、だが激しく震えて絶頂したことを表す。彼女の声もそれをわかりやすく物語っていた。

 ただ残念ながら。関羽がイッたのにつられて俺も我慢の限界を迎え、震えを感じた直後に暴発してしまう。竿がポンプのように律動し、体内から外へ精液が飛び出していくのがわかった。

 今も口の中に銜えられたまま。つまり関羽の口内、喉まで到達するほど勢いよく放たれたはずだ。

 凄まじい快感がモノを通して全身へ広がる。心地よい射精感とずっしり纏わりつくような重い疲労とが重なり、瞬間的に思考が蕩ける。

 多分、関羽も同じだっただろう。俺の顔へ向けて股をおっぴろげたまま、俺に乗ったままでぐったり力を抜いていた。

 疲労が大きく、動くのが億劫になる。だが目の前の秘所をぼんやり見ていれば当然、また男が騒ぐというもの。

 首を起こして再び唇を膣へ当てる。ちゅ、と小さな音が鳴り、尻がぴくんと少しだけ跳ねた。

 きっとまだ満足してない。なお且つ、セックスを一週間もお預けされていた彼女は抑えが利かなくなった獣も同然。暴走させたまま野放しにしていてはこれからどうされるかわからない。

 形勢逆転を狙うなら、今。

 俺はもう一度関羽の肉付きがいい褐色の尻をがしっと掴むと、さっきと同じように思い切り吸いついた。

 途端に関羽は起き上がろうと暴れる素振りを見せる。だが俺が尻を離さないため、完全に逃げ切ることはできない。

 どうせ嬉しがってるだろうから本気で逃げる気もなかったんだろうけど。

 

 「ま、待ってくれっ。まだイッたばかりで体が――あっ、あぁっ、はぁぁっ……!」

 「んっ、ふっ。関羽、俺のも舐めてくれ。ほら、サボんないで早く」

 「うぅぅ、はぁっ。わ、わかっ……はぅ」

 

 色っぽい声を出して態度が少し軟化する。

 性欲を溜めこんで暴走してても基本はドがつくマゾヒストだ。少し強めな態度に出ればスイッチは簡単に入る。どうやら形勢逆転は上手くいったらしい。

 関羽は俺の命令通り、あっさり勃起してたモノにしゃぶりついてくれる。熱心な様子で、奥深くまで一気に呑みこむほど。

 俺も続けて関羽の秘所を舐める。べろりと全体の形を確かめるように舐め、ピンと立ったクリトリスを転がし、膣に舌先を差し込もうと力を入れて押す。中から溢れ出た愛液のせいだろう、思った以上にするりと舌先が膣の内側へ入り込んだ。

 柔らかい感触ととろりとした液体。心地よい熱が感じられる。

 舌を動かして揉みほぐすように動いた。関羽の反応は面白いほどわかる。尻が上下に弾むおかげだ。

 彼女もモノに舌を絡めて、頭を動かし、慣れた様子でじゅぽじゅぽ鳴らしている。多分顔は嬉しそうにだらしなくなってるに違いない。

 お互いの性器を舐め合ってしばらく時間が流れる。

 無言で舌だけ動かして、相手の体を刺激することだけ考える。思えばまだ宿についたばかりだった。

 

 「うっ、はぁ。関羽、そろそろ俺が上になりたいんだけど、いいかな?」

 「う、上に? わかった……それじゃあ」

 

 ゆっくりした動きで俺の上から退き、自分から畳の上に寝転がる。仰向けだ。

 恥ずかしげに眼を泳がせる彼女は美しく、さっき俺が出した精液が少量、口の周りに付着している。飲み切れなかった分だろう。

 抵抗する意思はなく、俺の行動を待っている。あれだけ冷静さを欠いて暴走してたというのに、俺がその気になった途端、なんとも従順なものだ。

 まずは服を脱がせることから始めよう。

 俺は関羽の服に手をかけ、そっと脱がし始める。

 いつものセーラー服。上着を脱がせて、ブラジャーを外す。スカートと下着も一気に脱がした。それで完全な裸になる。抵抗らしい抵抗は微塵もなく、自分から協力的な姿勢を持って脱いでくれたおかげで苦労はなかった。

 何度見ても飽きないほどきれいだ。小麦色の肌は汗をかいて独特の光沢があるようにも見え、均整の取れた外見で、腹にも確認できる筋肉は彼女の力強さを示していて、胸は大きく、尻は丸い。服を着ていても、裸になっても美しい。

 久々に見る関羽の裸は驚くほどきれいだった。見ているだけでも股間は熱くなり、頭がうだるほどの興奮に包まれる。今すぐめちゃくちゃにしてしまいたい。彼女がMじゃなくてもそう思うはずだ。

 ゆっくり体を倒して覆いかぶさる。体重をかけないようにしながらも、肌と肌が触れあった。

 

 「相変わらず、関羽はきれいだな……いい体してる」

 「そ、そんなこと……」

 

 照れて顔を背け、視線を逸らす関羽の顔を見つめ、何も言わずに胸を掴む。

 左手で柔らかい、大きな乳房をぐっと掴み、ぐにゅりと形を変えるそこに指先を埋める。動かせば動かすほど形が変わった。

 一瞬驚き、恥ずかしさから慌てる関羽が何かを言う前、右手で口元に付着した精液を取り、半ば無理やりに口の中へ突っ込んだ。途端に彼女は慣れた調子で舌で舐め取る。ねっとりいやらしく指を舐める姿は何かを連想させる様子で、非常にいやらしい、恥辱に染まった雌の表情が俺をじっと見つめる。

 従順な態度と嬉しそうな表情。いつも通りの姿だった。

 

 「んっ……ふっ、ふぁ」

 「もういいよな。このまま、入れたって」

 

 右手で何度か顔にある精液を口内へ運びつつ、胸を揉んで、左手だけが徐々にそこから下へ降ろしていく。

 肌の上を指先で撫でながら、薄くついた腹筋も愛でて、陰毛が生えた地点も越えてさらに下。さっき口で存分に味わった秘所へ辿り着いた。

 遊ぶようにクリトリスを撫で、目を潤ませて見つめてくる関羽の表情を楽しむ。スイッチが入ったらあっという間に可愛らしくなるのだから、その気にならずにはいられない。

 全体を揉むように撫でてから、膣の入り口から指を挿入する。

 中指を一本、奥まで進める。ずるずると肉の壁を擦りつつ、奥まで進んでから再び抜きだす。初めはゆっくりと、しかし徐々に速度を変えて。感触を確かめるように、それでいて快感を与えるために淫らに動く。

 関羽の表情はわかりやすく変わった。内壁をかりかりと擦られて強く歯を食いしばり、関節を曲げながらゆっくり引き抜かれてため息を洩らし、ゆっくり奥まで進められると声が吐き出された。

 そんな顔も可愛らしい。すぐにでも挿入して腰を振りたいのが本音だが、指先一つで得られる反応が楽しく、しばらくそのまま楽しんでしまう。

 時間も忘れて膣の中を指で弄り続けた。関羽の息は乱れ、じっとり汗を掻き、快感が溜まっていくのがわかる。

 これを一気に解放させる方法もわかっていた。

 いよいよという瞬間を迎え、俺も自分を抑えきれなくなり、腰の位置を整える。ようやく我慢を続けたモノを挿入する時だった。

 

 「よし。関羽、入れるぞ。もうこうなったら、思いっきり行くからな」

 「んんん、はぁぁ……う、うん」

 

 恥じらう顔で視線を逸らされた。でも嫌がってはいない、むしろ喜んでる。

 狙いを定めて、一気に腰を前へ突き出す。すでにぐっしょり濡れていた膣は簡単に俺を受け入れて奥まで受け入れる。

 瞬間、カハッと強く息が吐き出された。ひょっとしたら勢いがありすぎたかもしれない。

 でもとにかく感じてることだけは確かだった。膣の中はうねうね動いて絡みついてくるし、ぎゅっと握りしめるような締めつけもある。気付けば彼女の手も俺の首にまわされていた。

 思わず口元が緩んで笑みが出てしまった。それだけ彼女の体は気持ちよかったのだ。

 

 「うぅぅ、はぁぁっ……き、きたぁぁ」

 「うあ、すごい、絡みついて……こ、これは、長くは持ちそうにない」

 

 久々に感じる関羽の体は普段感じる以上に刺激が強かった。痛いほどに締めつけてくるし、その癖やさしく絡みついてくる。色んな味わいが感じられた。一週間の会えない期間が効いているのかもしれない。

 腰を前後へ動かして、内部を刺激する。両手で胸を強く掴んで腰だけ振り、強く叩きつけるように出し入れする。

 絶対長く続くはずがなかった。動きは最初からラストスパートだ。

 体が内側から熱くなって汗が噴き出す。途方もない快感が脳天まで貫いて、正常な思考がどんどん失われていく。

 これで冷静でいられるわけがない。気付けば思い切り腰を振って快楽だけを貪っていた。

 それは関羽も同じだったようだ。ただ突かれるがままに喘ぎ声を出して感じている。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――こ、これっ、これが欲しかったっ」

 「う、やばっ。こんなの、耐えられな――」

 

 必死に、全力で腰を前後させる。関羽の体内で俺が激しく動いて、お互いの快感が凄まじい勢いで高まっていく。

 もはや呼吸をすることすら難しい。すべての感覚が乱されているようですらある。ただ気持ちいいという事実だけが残っていた。

 多分、関羽の胸を掴む力は痛いくらいに必死になってただろう。それでも関羽は嫌な顔一つせず、本心から気持ちよさそうな声で喘いでいる。俺も気遣ってやれるほど冷静さはなかった。

 限界は近い。だからこそ余計に力を入れて腰を振る。

 もうこのままイッてしまいたい。思い切り射精して関羽の子宮に子種を注ぎこみたい。男としての本能がそう叫んでいた。

 冷静な思考なんて微塵もなく、俺は本能のままに行動した。覆いかぶさって両方の胸を全力で掴み、握りつぶすようにしながら奥まで思い切り突き上げる。

 そうして、俺が先に絶頂を迎えた。耐えきれない快感が全身を駆け抜け、モノを中心にすべての感覚が一気に狂う。

 射精は思い切り、届く範囲の一番奥で関羽の子宮目掛けて始められた。勢いよく大量の精液が飛び出し、膣内を汚して、満たされていくのが体感としてわかる。なにせ勢いが強すぎて逆流してきたのだから。

 さっきの口でイッた時とは違う。その時よりも多い量が竿の律動と共に吐き出され、畳に白く溜まるほど放出される。

 びゅーびゅーと時間をかけて出しきった後、俺はもう腰砕けになって動けなかった。強すぎる快感が体の力をすべて奪ってしまったらしい。動きたいわけでもないのに腰がかくかく動いて止まらず、もはや関羽に抱きついて頼らなければ前後左右すらわからなかった。

 一方の関羽も、俺とそう違わないタイミングでイッていたようだ。俺がそれに気付いたのは自分が少しだけ落ち着いてから。乳房の間に顔を挟んで荒く呼吸をしていたら、関羽の腰が独りでにかくかく上下しているのがわかったのだ。

 お互いにイッて、息も乱れたまま体を重ねて抱き合う。しばらく動けそうになかった。

 久々のセックスは俺たちの平静を奪うほどだった。そのことに満足し、でも多分二人共満足してなくて、まだ続きを望んでいる部分がある。

 視線を合わせて何度か唇同士のキスをした後、抱き合った状態でもう一度胸の間に顔を挟んでもらって、俺たちは話しだした。

 

 「はぁ、気持ちよかった。なぁ関羽。次は、まず、胸でして欲しいんだけど」

 「ふぅ、ふぅ……そ、そうか。いいぞ。私はまだ、動けそうにないから、う、上に乗って動いてくれると助かる……」

 「よし。わかった」

 

 体が鉛のように重かった。でも頬に触れる感触を下半身でも味わいたくて、体を起こして関羽の腹の辺りを跨ぐ。

 寝そべっていても形が崩れない双丘は張りがあって、でも柔らかくて。ずっと触れていたいと思える感触とやさしさがある。自分だけのものにしてしまいたいと思う。

 その間に俺の、自分の精液でべっとり濡れたモノを差し込んで両手で挟みこむ。ぎゅむ、とやさしく、それでいて強く挟まれた。

 感触は柔らかい。でもその行為には特別な興奮が付き纏って、モノは一瞬で完璧な状態までに勃起する。

 そのまま腰を前後に動かし始めた。白い精液を少し浅黒い肌に塗りたくりながら感じる快感。征服感も合わさってすごいものだった。

 動き始めたばかりなのにあっという間にため息が洩れる。息が乱れて思考が溶ける。長くは持ちそうになかった。

 だがどちらかと言えば今は、早く出して彼女を汚してしまいたいと思ってしまっている。

 片目を隠す長い前髪も、情欲に濡れた端整な顔立ちも、俺を挟みこむほど大きな乳房も。なんならもっと下がって、魅力的な腹筋や薄い陰毛、長い髪の大部分だってそうだし、もっと口の中へ放出して飲んで欲しいとも思う。無理やり喉の奥まで突っ込んで直接飲ませたいとも思った。

 頭の中で浮かべる光景が、言葉にして想像される姿が強い刺激になり、俺はあっという間に射精の準備を整える。

 我慢する気はない。早かろうがなんだろうがこのまま出して汚してしまいたい。

 俺はのしかかって関羽の顔を見下ろし、胸でモノを扱きながら宣言した。今からおまえを汚す、と。

 

 「くぅ、関羽、イクぞ。顔にぶっかけるからな。ちゃんと受け止めろよ。顔も、髪も、胸も、全身全部汚してやるっ」

 「はぁぁ、来てくれ。私の全身を、熱いザーメンで真っ白に染めてくれっ」

 「うぅ、関羽、関羽っ――あっ」

 

 ぶしゅ、と勢いよく射精が始まった。

 胸の間から飛び出した精液はまず関羽の顔を汚し、次いで首筋や前髪にも勢いよく付着して、まだ後続が止まらない。

 俺が腰を動かして先端を谷間で挟みこむと、隙間から凄まじい勢いでボタボタと飛び散り、それすらも勢いがある。常人ではない異様な量だが、それでも精液は出続けた。

 顔と胸をたっぷり汚した後、俺は急いで立ちあがって下半身に先端を向ける。片手で狙いを定め、上から降り注ぐように腹や下腹部に精液を垂らし、足まで行けるか、と考えたところで射精が終わった。

 一度で全身に塗りたくれるほどの異常な量。やっぱり俺の体はおかしくなっているようだ。

 だけどだからこそ、ここまでの征服感を得られる。一人の女を自分だけの色で染め上げてやったと。視覚的な情報からも得られるのだ。

 立ったままモノを扱いている最中、急に膝の力が抜けてよろよろと座りこむ。俺は寝そべる関羽の隣に座っていた。

 女座りみたいな中途半端な格好で、改めて関羽の全身を見る。

 顔から上半身、さらに下半身の股に至るまで精液がぶっかけられている。とろりと粘度の高いそれだ。纏わりつくような光景だった。

 試しに俺は、自分が出した子種に触れてみる。少し躊躇いはあったものの好奇心が強く、腹の辺り、腹筋によってわずかにできた溝にも塗りたくるように掌でぐっと押しつける。

 知らない内に頬がにやけていたらしい。女体に自分の遺伝子を擦りこむというのは、なんとも言えない幸福感があった。

 今まで何度も抱いた人物だが、こうして自分の女なのだと認識できるのが言葉にできないほど嬉しい。

 またむくむくと頭が持ちあがり始めたため、俺は関羽の顔の横にまで体を移動させ、膝立ちで少し腰を突きだした。

 

 「関羽、舐めてくれ。もっともっとおまえを抱きたい。隅から隅まで使って、おまえの体は俺のためにあるんだぞって教え込みたい。口もマンコも尻も、手も足も胸も、脇や髪や腹筋だって。全部俺のものだ」

 「んんっ、はぁ、そうしてくれ。私をもっと、おまえの色で染め上げてほしい」

 

 再び口で銜えられる。舌先で割れ目を刺激され、亀頭を舐められ、ぢゅるると吸われるだけでまた元気になった。

 こうしてみると、やっぱり主導権を握るというのは良い。暴走してる彼女に抱かれるよりよっぽど気分が良く、心地よかった。

 俺はやっぱり関羽が好きだ。優柔不断でうろちょろしてるけど、こういう瞬間には毎回強く思う。

 再び思う存分乱してやろうと心に決めて、俺は彼女の胸を右手で鷲掴みにした。

 

 「失礼しまーすっ。ごめんなさい、私よく考えたらこの宿の説明を何も――あら?」

 「……あっ」

 

 しかし、である。

 俺が決心を固めた直後、襖ががらりと開いて、俺たちの淫靡な姿ははっきりと目撃されてしまった。

 驚いた顔をした呉栄さんは、確かに俺と目が合って、俺たち二人の姿をじっくり観察して状況を理解して。

 なぜか不思議と、一拍を置いた後ににっこり笑ったのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「あぁぁぁ、見られた。友達の母親に、俺の親にも見られたことないとこ見られた……」

 「んふぅ、ふむぅ」

 

 部屋の中での痴態をばっちり呉栄さんに見られてしまった後。俺と関羽はやっと温泉に入っていた。

 あの人が部屋に来たのは俺たちに温泉のことを教えるためだった。今のお客は全員女性だし、宿の人間も呉栄さんだけだから、男湯なら貸し切り状態だと。多分俺たちの関係を邪知した結果の提案だろう。

 それを伝えようとして、俺が関羽に銜えさせてるところを見てしまったのだ。しかも全身に精液をぶっかけた直後。

 俺としては非常に気まずい。以前から顔見知りであるのが大きかった。ただでさえ人に見られただけでも恥ずかしいというのに、普通に話したことあるくらいの関係でこれはきつい。

 縁に座って足先を温泉につけた今、まだ立ち直れそうにはなかった。ただし関羽は全然気にしてないらしく、平然とした調子で俺のモノをぴちゃぴちゃ舐めているわけで。

 よくよく考えればおかしな状況だ。俺は今朝まで普通に学校へ行こうとしてたはず。それがなぜ温泉旅行に来てしまっているのか。

 嬉しそうに頬張っている関羽を見下ろし、頭を撫でながら問うてみる。まぁ多分この子は帰るつもりなんてないだろうけど。

 

 「なぁ関羽。この旅行って何日滞在するのかな?」

 「ふむっ? 特に決めてなかった」

 「だろうな。あのさ、ちょっと仲間外れにされて怒ってたのはわかるけど、これはちょっとやりすぎなんじゃないか。多分戻ったら相当怒られるぞ、俺込みで」

 「じゃあ……戻らなければいいじゃないか」

 

 えっ、と間抜けな声が洩れる。その考えは予想してなかった。

 駆け落ちしてそのまま逃避行。そんなことは可能なんだろうか。なぜか俺の頭の中ではあっという間に見つかって折檻される光景が見えているのだが、それは間違いなのか。

 今日の内とは言わないまでも明日に戻ればまだ許してもらえそうな気はする。おそらく呂蒙あたりは大激怒だろうけど、まぁ殺されることはないだろう。

 ただ、このまま長い期間説明も無しに離れたままではどうなってしまうか。俺でも想像はできなかった。ただ漠然と危険だということだけわかってる。

 なんとか説得した方が良いだろう。そう思って関羽に声をかけようとするのだが、まるでそうはさせまいとするように、関羽の吸いつきが強くなった。

 手を使わず口だけでモノが扱かれ、強く吸われる。亀頭の先やカリに唇を当て、キスするような吸いつきが堪らなかった。しかも右手では俺の尻を揉んで、左手はずうっと太ももを撫でて、どこからどう見てもいやらしい。痴女だと言われても反論できないだろう。

 堪え切れない感覚が体の奥からふつふつとわき上がってくる。飛び出す瞬間は近かった。

 

 「んんっ、んふっ、じゅるっ、ぢゅ――二人きりでもいいじゃないか。どうせ見つかるなら、その時までここで過ごせばいい」

 「そういう、わけにも、くっ……いかないだろ」

 

 自分の中で余裕が薄れていくのがわかる。こみ上げる物を抑えきれない。

 舌先で割れ目をぐりぐりされて、堪らず背をのけ反らせた。関羽の上目遣いもすごい力だったのだ。

 

 「ふふふ、びくびくしてきた。もうイキそうなんだな」

 

 彼女はそう言って湯船の中で膝をつく。

 関羽は今、髪が浸からないように後頭部のあたりで纏めている。普段とは違った姿に鼓動が高鳴り、不思議と気恥かしさすら感じる。

 潤んだ瞳を上目遣いに。じっと見つめられてしまっては強く否定することもできない。

 勃起したまま、唾液に濡れた俺のモノが関羽の胸によって挟まれ、むぎゅっと圧力をかけられた。

 やさしい感触ながら責める気は満々で、そのちぐはぐさすら興奮に変わって、また一団と固くなるようだ。

 関羽は微笑んで俺を見つめ、舌先と胸を動かしながら射精へ導こうとしてくる。

 

 「こうして、ぱふぱふされるのが好きだろう。いつでもイッてくれ。私の顔と胸にたくさん、熱くて濃いのをぶっかけてくれ」

 「くぅ、おまえ、こらぁ……!」

 

 ばちゅ、ばちゅん、と卑猥な肉の音が鳴る。

 温泉の湯で濡れた乳房が激しく動いて俺の太ももに当たり、なお且つモノを扱いていた。

 我慢しきれずついには射精してしまう。またしても大量の精液が飛び出し、関羽へ襲い掛かった。量は多く、射精時間も長い。

 顔や胸にべたりと張り付き、垂れ落ちた分が谷間に溜まって、なんとも卑猥な姿だ。

 俺が息を乱して動けずにいる中、嬉しそうな関羽はモノを胸に挟んだまま、舌を伸ばして精液を舐め始める。指先で掬って口元まで運ぶほどの執着だった。

 挟まれたままその姿を眺める。やっぱり、エロい。どうしようもなくエロい姿だ。

 

 「はぁ、んっ……また、いっぱい出た」

 「まったく、おまえは」

 

 ここまでされて黙ってるというのも無理だろう。呉栄さんの件も、他の少女たちの件も、一時忘れてしまうのも無理はない。

 俺もいい加減覚悟を決め、おもむろに立ちあがると関羽に後ろを向くよう命令した。すると彼女は言われた通り向こうを向いて、上半身を倒して尻をこっちに突き出してくる。

 浅黒くて丸い、光沢のある尻。見ているだけでもエロく、手を伸ばさずにはいられなくて、触ればすべすべだ。

 そこをぐっと掴んで自分の方へ引き寄せ、モノを膣へ触れさせる。

 犯したい、と。体の奥底から本能が強く叫んでいた。彼女を後ろからガンガン突いて、膣も尻も汚してしまいたいと。

 彼女もすでにその気のようで、小刻みに尻を振ってすらいる。まるで俺を挑発するようだった。

 その気になったなら問題ない。手加減抜きで犯してやろうと、思い切り腰を突き出してやった。

 ずるんっ、と一気に奥まで入り込む。

 

 「あはっ!? あ、あぁぁっ、おく、まで……!」

 「はぁ、手加減は、できないぞ」

 

 尻を掴んで腰を振り始める。途端に関羽は甘い声で鳴き始め、勢いによって巨乳がぶるりと揺れる。

 試しに左手で彼女の腕を掴んでみれば、もっとよく見えるような気もした。

 腰が前後する度に体が揺れ、同じ分だけ胸が前後に大きく弾む。ぶるんぶるんと柔らかそうな挙動で、水滴が飛んで温泉に波紋が生まれた。

 そこに精液が多少飛んでしまっていることが少し気になったが、何度も味わった膣の感触を思えばすぐに気にならなくなる。さっきも思ったがやっぱり気持ちがよかった。

 一心不乱になって腰を振る。力を入れれば入れるだけ関羽の喘ぎが甘くなり、高い声で鳴いていた。

 露天風呂で声も通るというのに、これじゃあ男湯だけ貸し切りでも意味がない。きっと女湯にも俺たちが何をしてるかよくわかるだろう。

 けれどやめることはできなかった。細かいことなど気にしてられない。

 もうすでにお互い夢中で快楽だけを欲していた。

 

 「はぁっ、あぁっ、んっ、んっ――!」

 

 俺たちが動けば水面が揺れて波紋が走る。広い湯船を見渡して腰を動かすのは解放感があり、見上げればまだ太陽も高くにある青い空、背の高い塀を越えて木々も見え、大自然が感じられる。

 自然に囲まれた中で男女が裸、しかも一つになって淫らな行為に耽っている。改めて考えてみると幸せな環境だった。

 たとえこれが拉致の結果だとしても、帰れば恐ろしいことが待っているにせよ、幸せを感じずにはいられなかった。

 

 「んんっ、んんっ、あっ、あっ、あっ――!」

 

 しばらく淡々と腰を振り続けた。会話などなく、肉体の感触だけで相手を理解しようとするような。

 汗を掻き、声を出して、体内の感触を感じる。それだけでわかることもあった。

 関羽の声が徐々に大きくなってくる。多分そろそろのはずだ。俺も限界は近いわけだし、最後の時は近い。

 ラストスパートをかけてさらに強く腰をぶつける。玉がぶつかって渇いた音がしているわけで、きっとそれも女湯まで聞こえてるだろうが、関係なかった。

 両手で彼女の腰を支え、責め立てるように最後を迎える。そうしてまた、俺は射精した。

 

 「うわっ、まずっ。で、出る!」

 「うぅぅ、うああっ! あぁぁぁっ!」

 

 吠えるような関羽の声と共にびゅっと飛び出し、慌てて腰を引いて引き抜いた。びゅーびゅー飛び出す精液は少量が膣内に、大半は彼女の尻を汚した。

 べっとりと張り付くせいで白く染まる。妙ないやらしさを醸し出す外見で、見ているだけでも征服感に満たされる。

 心地よかった。繋がっている最中から出し終えた後まで。関羽の体は最高に心地よかった。

 俺はそのまま湯船の中に座りこまず、縁まで後ずさりしてから座る。まだ汚れたままで湯に浸かるわけにはいかない。

 関羽も多分そう思ったのだろう、ぶるぶる膝が震えてる癖によろよろ歩いてきて、立ったまま上半身だけ折って俺のモノに口を近付けた。それでも脚を伝って湯に垂れ落ちる分もあるにはあったのだが。

 さっきと同じ尻を突き出した格好で、じゅるじゅる音を立ててしゃぶられる。淡い快感が心地よく、疲れた体をいやしてくれるようだった。

 

 「んんっ、んふっ。もごっ、もあっ――はぁっ、はぁっ。んん、おいしい……」

 「ふぅ、はぁ。こんなもん美味しいって言うの、多分世界でおまえだけだと思うぞ」

 

 力尽きたのか、ある程度しゃぶってくれた関羽は風呂から上がり、タイルの上でうつ伏せに寝転ぶ。きっと足が限界だったのだろう。

 体に力が入らない様子でぐったりと。投げ出すように寝ている関羽は目をつぶり、腰をわずかに動かしながら余韻に浸っていたようだった。

 その姿がまたどうしようもなくエロい。この子はあれか、立ってようが座ってようが寝てようが俺を誘惑するのか。

 俺も風呂から上がってそっちへ近付く。関羽は気付いていたようだが反応はせず、ただぼうっとした目で俺の裸を見ただけだ。

 四つん這いではいはいをするかの如く接近する。裸体を横から見下ろせば、すぐにもむしゃぶりつきたくなるきれいさがあった。

 肌はきめ細かくてすべすべで、水滴が形を崩さず乗るほど張りがあり、胸はタイルで潰れてぐにゅっと横にはみ出し、尻には精液が大量に降りかかっている。

 これを見逃すわけがない。

 俺は無理やり彼女の脚を開かせ、その間に自分が入り込んで足を伸ばして倒れかかる。勃起したそれを膣に宛がい、まっすぐ寝そべるような体勢で、挿入した。

 

 「ふあぁっ!? ひぃっ、ま、またきた……きもちいいの、また入ってきたぁ……!」

 「うぐ、蕩けた声しやがって。こんなの見せられて我慢できるわけないだろっ」

 

 今度はタイルに手をついて必死に腰を振り、べたりと倒れて起き上がれない関羽を責め続けた。

 自分が責めに回るというのは楽しいし嬉しいが、それはそれでデメリットがあるようで、一度ムラムラ来るとやめられない。でも受けにならなきゃならない時は相手が中々満足しないため、やっぱり終わらない。

 結局はいつも通りということだ。ただれた性生活に慣れてしまった俺たちがそう簡単に満足できるわけがなかったようである。

 俺はその後も何度も関羽に中出しし、温泉に入って休憩しては、また脱衣所やトイレや湯船の中で繋がって、何度も何度も行為を重ねた。

 




 赤壁温泉大決戦という映像があるわけでして。
 イメージはそんな感じです。あんまり風景的なことは書いてない気もしますが、気になる方は調べていただいて想像していただければ。ビーチクもばっちりの映像ですから。


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一騎当千お試し版 趙雲

 こんな感じはどうでしょうというお話。
 ざっくりしてます。


 夜の帳が降りた後。

 時刻はすでに深夜に差し掛かり、辺りは静寂に包まれていた。

 

 山の中に在る小さな和風の屋敷からはすでに灯りが消されている。

 寝室とも言うべき一室に、一人の青年が居た。

 なぜか布団の上に正座していて妙に緊張した面持ち。下着を履いて上半身は素肌、その上には薄手の浴衣を着て、身軽な格好をしていた。

 だが妙に熱い。暑いのではなく体も頭も熱いのだ。

 緊張しているせいか自分自身でも訳が分からなくなっていて、混乱は深まるばかりの様子だ。

 

 目の前には一人の女性が居る。

 年の頃こそ高校生だが、体の肉付きは常人のそれではない。胸と尻が大きく張り出て、腰は括れてほっそりしており、脚は長くて身長も高く、肌は白くきめ細やか。どこからどう見ても完璧な出来栄えの美少女。その身に纏う雰囲気さえ美しい。

 

 長い銀髪を持ち、常時目を閉じる彼女は今、彼と同じく薄い浴衣一つを着るのみ。

 本来ならその下に下着をつけていてもおかしくはないのだが、これから始まる時間を知っているためかあらかじめ自ら外しており、経験のない彼を気遣っている。

 そうは言っても彼女自身、経験はない。

 その方がいいのかという予想で動いていただけであった。

 

 どちらにとっても初体験の時間。両者による緊張感が室内を満たしている。

 二人は正座して向かい合い、少し俯いて体を固くしていた。

 

 知り合って少しになる二人は互いの名を知っている。

 彼は司馬炎という名を持ち。

 彼女は趙雲という名を持っていた。

 

 暗い一室で正座したままどちらも動かず、ただし今から何を始めることだけはわかっていて、しばらく黙り込んだままで時が止まったかのようだった。

 

 「そろそろ、始めましょうか」

 

 先に口を開いて沈黙を破ったのは趙雲の方だ。

 ぽつりと小さく呟いただけで司馬炎の肩が震え、緊張は明らか。声を出そうにも気付けば口が上手く回らなくなっていて動揺し、返答を出すだけでひどく慌ててしまった。

 それでも彼は身じろぎ一つせぬまま、小声で返答を出す。

 

 「そ、そ、そうだな。いつまでもこうしてたって、仕方ないし……」

 「ええ」

 「あぅ、その、あの」

 「ご心配なく。私はすでに心の準備は出来ていますから」

 

 暗闇の中で趙雲がにこりと笑って、彼を安心させようとする。司馬炎の目にもその顔は見えた。

 緊張はますます大きくなり、喉が大きく鳴る。

 

 どうすればいいかはわかっていない。そのため動き出すのが遅れた。

 自分から何かをしなければと思う反面、緊張で全身が硬直し、それは気付かれていただろう。

 司馬炎がリードする前に趙雲が自らの服へ手をかける。

 

 浴衣がゆっくり脱ぎ捨てられて、裸体が露わになる。

 息を呑むほど美しい体だった。

 肌の一切が隠されず、ピンク色の乳首も、下腹部に少しだけ生えた銀色の陰毛もよく見える。

 どれもこれも初めて見る物。ただ映像や写真では見ていたものの、それらとも違う気さえする。自分の目の前にある女性の裸体は迫力という物が違っていた。

 

 時間や思考すら忘れてじっと見入る。司馬炎の目は彼女の全てに釘付けだった。

 露わになった肉体。ほんのり桜色に染まる頬。障子越しに差し込む月明りで輝く銀髪。

 全てが今、自分の手の届く場所にあって美しい。

 

 それらを今、触ってもいいと許可されているのだ。

 

 震える右手をそっと持ち上げた瞬間、自らの体をきゅっと抱きしめ、しかし恥じらいながらも胸を隠さなかった趙雲は、彼の視線を受け止めて小さく呟く。

 

 「司馬炎様も、脱いで頂けませんか……」

 「あっ、そ、そうだよな。う、うん。じゃあ――」

 

 緊張しながら浴衣に手をかける。

 一人で部屋に居た時は裸になるのが恥ずかしかったが、今になってどうでもいい。緊張が大き過ぎるせいで自身の体がどう見られるかなど気にならなくなり、あっさり脱いでしまった。

 

 すでに股間の異物が硬くそそり立っている。

 司馬炎は恥じる余裕を失って趙雲の体を上から下まで見つめていて、彼女は勃起するペニスをちらりと確認し、わずかだが目を開いていた。しかし彼が気付く素振りはない。

 今度こそいいだろうと手が伸ばされる。

 趙雲も抵抗しなかった。

 

 指先が触れて、ふにゅりと形が変わった。予想以上の柔らかさだ。

 荒くなる鼻息は落ち着けることができない。

 右手だけでなく左手も伸ばし、両手で乳房に触れる。やさしく押し当て、すぐに掴んだ。掌に伝わる柔らかさは言葉では言い表せないほどの感動を持っている。

 

 しばし無言で揉み続けた。趙雲もそれを受け入れている。

 恥ずかしそうに顔を俯かせ、正座したままで手は居場所が分からず膝の上にある。

 

 「ハァ、はぁっ……」

 「んっ……いかがでしょうか。私の、胸は」

 「う、うん。すごく、やわらかい……」

 「お気に召して、頂けましたか?」

 「もちろんっ」

 

 興奮した面持ちで顔を真っ赤にし、司馬炎は尚も揉み続ける。

 相手を気遣うというより、遊ぶかの様子でぐにぐに、自分の好奇心のままに指を動かす。お世辞にも技巧に優れる姿ではないが相手も初体験。それだけで羞恥心が掻き立てられ、快感とはまた別とはいえ、自らの肉体に与えられる何かは感じ取っていた。

 

 緊張した空気に包まれたまま時間が過ぎていく。

 司馬炎が一方的に胸を触り、趙雲はそれを享受して、そんな状態がしばらく続いた。

 

 どちらも初体験。知識はあってもそれを実践した経験がなく、緊張のせいで思うように動くことができずに、悪戯に時間が過ぎるばかりだ。

 わかっているが手を離せない。司馬炎は胸にだけ興味を持って触れ続けた。

 身じろぎする趙雲はそんな彼を気遣い、自らそっと手を伸ばす。

 

 触れたのは彼のペニスだった。

 痛いほどに勃起したそれをやんわり握ってやり、ぴくりと反応する様に驚きつつ、恐る恐る指で揉むように触れてみる。明らかに司馬炎の表情が変わった瞬間だ。

 気持ちよさそうに声を漏らして、きつく目を閉じ、甘い声は可愛らしいと思ってしまった。

 趙雲の顔がより一層柔らかくなる。

 

 「うぅ、うあっ……!?」

 「いかがですか、司馬炎様。痛くはありませんか?」

 「ぐ、だいじょう、ぶ……うぅぅ」

 

 声が上ずる。

 司馬炎の手の動きが目に見えて弱々しくなった。どうやら余裕が薄れてきたらしい。

 自身のペニスから発する快感に負け、見る見るうちに状況が逆転していく。

 

 今や彼の手は乳房に触れているだけで、指先に力を入れることさえ叶わず、趙雲に触れられてされるがまま。しかしそれを喜んでいることは確かだった。

 触れているとまた硬くなってくるような気がする。

 限界だと思っていたのに、気の持ちようか。趙雲がほぅと溜息をつく。

 

 我を忘れて触ってしまう気持ちを理解できた。

 女性である彼女は女の胸に対して興味を持たないため、ずっと触られていて不思議に思う部分もあった。だが男のそれを触ってわかる。好奇心か、それとも別の感情か、手が離せなくなるのだ。

 今になって彼の感動を理解する。

 趙雲もまた、一心不乱な様子で彼のペニスを刺激し続けた。

 

 「う、はぁぁ……!」

 「気持ちいいですか? 出したい時はいつでも出して構いませんから」

 

 触れるだけで体が震える。びくびくしている様は可愛いとさえ思う。

 しばしそうして弄り続ければ、負けじと司馬炎も手を伸ばした。趙雲の胸に触れて揉み始める。

 互いの体を刺激し合い、ゆったりとしながらねっとりした空気に包まれる。

 

 異常な興奮があった。

 同時に熱量が上がっていく。

 

 熱中している姿で触れ続けて、やがて司馬炎が先に動き、手を降ろす。指先が肌を撫でながら下腹部まで達し、わずかに生え揃った陰毛へ到達する。

 趙雲の体が小さく震えた。

 下腹部を通り過ぎてさらに下へ行き、ぴたりと閉じられた陰部へ触れる。

 そこはまだ男を知らない場所だ。それを意識すれば二人とも顔が熱くなって、注意していても意識せずには居られなかった。

 

 割れ目にそっと指を這わせる。

 趙雲の口から吐息が漏れ、ぴくぴくと腰が反応する。

 

 その姿が素直に嬉しく、鼻息が荒くなって動きが大胆になったらしい。

 指先に力を入れて陰部を撫でる。もはやそれは愛撫というより、好奇心を満たすための自分勝手な動きだった。しかし触れられていることは事実で趙雲にも刺激が伝わる。

 慣れないながら、彼女は快感を得ていたようだ。

 

 「んっ、ふっ、あっ――」

 「ハァハァ……うっ。あのさ、そろそろ……」

 「は、はい」

 

 冷静に振舞い、なんとかしたいと思うものの、茹った頭では冷静な判断ができない。本当ならば技巧があるところを見せたいのだがそれだけの余裕がなかった。

 

 趙雲をその場へ寝かせ、布団に体を横たえた。

 彼女は自ら脚を開き、司馬炎はその間へ体を入れる。

 いきり立ったペニスが彼女の股間に触れていた。

 

 いよいよこの時が来た。

 性に興味を持ってからずっと、この時を待っていた気がする。期待していた通り、自分はこれから彼女の膣に挿入して、童貞を捨てる。

 ただただ嬉しく、気付けば心が躍っていた。

 

 右手で押さえて位置を合わせる。そうすれば微調整は趙雲がやってくれた。

 わずかに腰を動かし、先端が膣の入り口へと触れたようだ。

 

 「え、えっと……」

 「んっ、もう少し下です」

 「あ、ああ」

 

 焦った様子で位置を直して、ゆっくり押し当てる。

 ぐっと力を込めれば柔らかな肉がぐにと動き、女体の神秘に驚いた。その柔らかさは不思議だと感じるもので、今まで感じたことがなく、蜜壺はまだ少ししか濡れていないが彼を受け入れようとしているかのよう。それだけで暴発してしまいそうだった。

 必死に堪えつつ、腰を前に出す。

 ペニスはゆっくりと小さな穴の中へ入っていった。

 

 まだ硬さの残るそこはなんとも狭い。初体験であっても締め付けが半端ではないと理解できた。

 強い力を込めて包まれるそこに溜息が漏れる。

 司馬炎は動きを止めてしまって微塵も動けなくなったらしい。

 

 今すぐにも射精してしまいそうな快感があった。全身が震え、目を瞑り、歯を食いしばって耐えようとするのだが、これが意外にも難しい。普段の感覚とは全く違った。

 本能に従い腰を動かそうとする。

 しかし些細な動きによってペニスがびくりと跳ね、暴発の恐れを感じてまた動きが止まった。

 司馬炎は趙雲に抱きついてわずかに呻く。

 

 「うぅ、おぉぉ……!?」

 「あ、あぁ……来ましたよ。司馬炎様の、おチンポ、奥まで」

 

 趙雲もまた司馬炎を掻き抱き、胸に顔を埋めさせて吐息を受ける。

 どちらも余裕は失っていたものの、抱き合う姿はどことなく幸せそうだった。

 

 できれば動いて彼女に快感を与えたいところだが、今少しでも動いてしまえばそれよりも先に自分が参ってしまいそうで動けない。幸福を感じる一方、もどかしさも感じていただろう。

 そこに気付いている趙雲は目を閉じたまま、彼の頭をやさしく撫でた。

 

 「うぅ、くっ、やばっ……!」

 「いいんですよ。我慢しないで、イってください。私のことはお気になさらずに」

 「ハァ、でも、それじゃ」

 「私も……嬉しいんです。司馬炎様が私で感じてくださると」

 

 慈愛を感じる微笑みである。

 息を呑んだ司馬炎は彼女に多大な感謝をした後、ゆっくり腰を動かし始めた。

 

 戸惑いを持ったままペニスが前後する。

 まだ男に慣れていないそこは痛いほどに締め付けてきて、楽しむ暇も無ければ慣れようとする素振りすら許可しない。ほんの些細な動作一つが命取りだ。

 肉を押し広げてずるりと先へ進む。そして引き抜こうとしてカリがひだに引っかかる。

 大口を開けた司馬炎は耐え切れずに涎を垂らし、もはや思考を投げ捨てていた。

 

 非常にゆったりした動きで数度のピストン。

 何も処女である趙雲を気遣ってのことではない。そうしなければ彼が耐えられないからだ。

 それも長くは続かず、彼は唐突にあっと声を漏らした。

 

 何も告げずに射精してしまう。突発的にびゅっと精液が飛び出し、一度堰を切って出てしまえば抑えることはできないようで、全てを注ぎ込むまで勢いは止まらなかった。

 びゅくびゅくと大量に吐き出しつつ、恍惚とした顔で司馬炎は背を反らす。

 趙雲は抱きしめる手に更なる力を加えて、彼の姿を見ながらそれを受け取っていた。

 

 「おぅ、おおっ、あぁっ……!」

 「あっ、んっ。出てます、司馬炎様の、精子が……」

 

 ぶつけるように精液が子宮口まで届けられ、射精が止まるとぐったり倒れ込む。

 脱力した司馬炎はペニスを抜く気力すらないらしい。挿入したまま趙雲の上に寝そべり、大ぶりの乳房に手を添えて、穏やかな顔になって目を閉じた。

 甘えられている。趙雲は嬉しそうに彼の頭を撫で始めた。

 

 ねっとりした熱気に包まれて静かになる。

 夜の静寂は彼らをやさしく包み込み、しばし荒い呼吸音だけが木霊した。

 酔いしれるとはこういうことを言うのだろう。二人は共にそう思っていた。

 

 やがて呼吸が落ち着く頃。

 司馬炎のペニスは硬いままで、一度射精したところで少しも萎えずに彼女の中にある。出したばかりなのにびくびく震えてすらいた。これは、足りないと言っているに違いない。

 期待を込めた視線がちらりと顔を見た。

 趙雲は待っていたと言わんばかり、迷わずに頷く。

 

 「ご、ごめん。それじゃ――」

 「はい。満足するまで、お付き合いしますから。好きに動いてください」

 

 こくりと頷いて反応する。直後、すぐに動き始めた。恐る恐るながらペニスが膣を穿ち、慣れない動きだが確実に体は反応していて、両者は小さく声を漏らす。

 拙い動きで必死に快感を追い求める。

 その様は惨めにも見えただろうが、彼らが喜んでいるのは確かだ。

 単調だが速度はどんどん速まっていく。

 

 一度目の射精で滑りが良くなったようで、見る見るうちに慣れていくらしい。

 きつく抱きしめ合ってひたすら無言で行為を続けた。

 

 「んっ、ふっ、んっ、んっ――!」

 

 突く度に股からしぶきが飛び、彼の体を濡らす。

 唇を噛むが声は止まらず。必死にしがみつく趙雲にはすでに余裕がない。

 激しく動いて汗が浮かんで、一心不乱になっていた様子だ。

 

 柔らかな肉ひだを硬くなったペニスで押し上げて、ただ前後するだけが驚くほど気持ちいい。

 もはや余裕や思考などかなぐり捨てた姿だった。

 司馬炎は淡々と腰を振り、趙雲はそれを受けて小さく喘ぐ。

 しばらくただそれだけの行為が続けられる。時を忘れて淫らな瞬間を過ごした。

 

 我を忘れ、どれほど動いただろうか。

 再びペニスが律動した時、やはり膣内に射精されて、趙雲があっと甘い声を出した。

 

 「う、うぅぅ、こんなの、耐えられるわけない……!」

 「あぁっ、はぁ、い、いいんですよ。いつでも、出してください」

 「あああっ、だめだっ、イクっ!」

 「あっ、はっ――」

 

 一際強く押し付けて注ぎ込まれる。

 どうやら彼のペニスは子宮まで届いていたらしく、熱い精液がかけられる度に体が震えていた。息を乱す趙雲はひどく幸せそうにしており、両手と両足を彼に絡みつけてしがみついている。

 司馬炎もまた、言葉にできぬほどの幸福感を味わい、尻に力を入れて深く息を吐いた。

 

 どちらも脱力して倒れ込む。抱き合ったまま、互いの汗が全身を濡らし、疲労感も大きい。

 重くなってはいけないだろうと司馬炎が趙雲の上から降り、隣に寝そべる。

 

 呼吸を整えようとする一方で、じっと見つめ合うとどちらからともなくキスを始めた。顔の角度を変えて唇を合わせ、淫らに舌を絡めて、体をまさぐり合う。

 心が穏やかになり、落ち着いた状態で口を離し、やっと平然と話せるようになったようだ。

 

 「はぁ、ん……すげぇ気持ちよかった」

 「うふふ。そう言って頂けると、私も嬉しい限りです」

 「趙雲は気持ちよかったか?」

 「ええ、もちろん。司馬炎様のお相手ができて幸福でした」

 「そ、そうか。よかった」

 

 照れがあるからか、直視することができなかった。

 咄嗟に司馬炎が視線を逸らし、初心な反応に趙雲の頬が綻ぶ。

 抱き合い、体に触れ合って、まるで恋人同士のような雰囲気に包まれる。彼らは事実、この時にはすでにその自覚があっただろう。上辺ではない相手への愛情があった。

 二人はそれを自覚するからこそ、互いを見つめる瞳に温かな感情が生まれている。

 

 また何度かキスをした後。

 胸をそっと押して、司馬炎を仰向けにした趙雲が微笑んだ。

 彼の肌をやさしく撫で、不思議とその笑みが妖艶に見え、司馬炎は少し緊張した面持ちになる。

 

 「私ので汚れてしまいましたね。きれいにします」

 「あ、ああ。それじゃ、えっと、ティッシュは――」

 「必要ありません。これで」

 

 そう言うと趙雲は室内を見回す司馬炎を押し留め、胸元に舌を這わせると、そこから肌を舐めながら下腹部へ向かっていく。それだけで司馬炎の顔は期待に満たされていった。

 疲労からか萎えていたペニスが掴まれ、ゆっくり口が寄せられる。

 やはり期待している通りで、わずかに目を開いた趙雲が目を合わせた。

 

 「よろしいですか?」

 「そ、それって、ひょっとして……」

 「うふふ」

 

 ちろりと伸ばされた舌が亀頭へと触れ、それだけで司馬炎が息を呑んだ。

 手で触れられることにさえ慣れていないのに刺激の強い光景である。まるで慈しむように、穏やかな表情で右手が添えられ、ゆっくり口が付けられる。

 趙雲はペニスを口内に含み、舌を絡めて刺激し始めた。

 

 初めてのフェラチオに強く歯を食いしばる。

 半ばほど勃起していたペニスは瞬く間に硬くなり、再びそそり立った。

 未知の感触と感動を得たらしく、今や司馬炎の顔は普段が嘘のように緩み切っていた。

 

 唾液を塗りたくり、口をすぼめて頭を振ることによって卑猥な水音が立っている。小さなそれは決して聞き取りやすい物ではないが、なぜかよく耳に残った。

 

 「んっ、んんっ、ぢゅる――」

 「おっ、おおおっ……!」

 

 初めてとは思えぬほど、彼女の動きは大胆だった。

 亀頭から口を離したかと思えば、裏筋に舌を這わせて下へ向かい、根元まで舐める。

 ペニス全体に唾液を塗りたくるようだ。そうしながら時には唇を尖らせ、ちゅっと吸い付き、一際強い刺激を与えてくる時もある。遊んでいる風にも見えた。

 余裕ができたのか、いつしか趙雲は楽しそうにしゃぶっていた。

 

 司馬炎の嬌声が甘くなったことに気を良くし、右手でゆるりと扱きながら完全に口を離した。

 小さな笑い声を漏らすと、睾丸を舌でつつきながら話し始める。

 

 「司馬炎様。こういうのはいかがでしょうか」

 「はぁ、はっ……え? な、なに」

 「胸がお好きなようですから、気に入って頂けるかと」

 

 そう言うと趙雲は自身の胸の谷間に唾液を落とし、指を使って塗る。

 もはや呆けきって動けない司馬炎はその動きを見ることすら叶わない。ただされるがままだ。

 彼の視界の外、楽しげな笑みを浮かべて趙雲の胸が、司馬炎のペニスをぎゅっと挟み込む。

 

 「うおおっ、や、やわらかっ」

 「これもお好きなのではありませんか?」

 「す、好きですっ。大好きですっ」

 「それはよかった。それでは、んっ――」

 

 両手で重そうな乳房を支え、上下に動かし始める。胸を使ってペニスを扱くのだ。

 柔らかい感触にすっぽり包まれてしまい、力を感じて圧迫され、快感と同時に安堵を感じる。

 上機嫌な様子で動かす趙雲に見守られながら、司馬炎は体を震わせてシーツを掴んでいた。

 

 「はぁぁ、うぅぅ、無理だってっ。こんなの、耐えられない……!」

 「いいですよ。我慢なんてしないでください。いつでもびゅっびゅっしてくださいね」

 「うああっ、ああぁ――!」

 

 そう長い時間は我慢できなかった。

 再び司馬炎が射精し、勢いよく飛んだ精液が自身の腹に、趙雲の胸に、顔に降り注ぐ。それらを浴びて嫌がるどころか、趙雲はどことなく嬉しそうだ。

 

 指を使い、舌を伸ばして、顔に付着した物を舐め取る。

 そればかりか自身の胸を拭い、舐め取った後で司馬炎のペニスを口に含む。じゅるりと音を立てて漏れ出た精液を口にし、全体をきれいに舐めあげると彼の腹をも舐め、全ての精液を口にする。ぐったりして動けない司馬炎は顔を上げる気力もないが、肌に触れる舌の感触でそれを知った。

 

 時間をかけて体をきれいにされ、どちらも息を吐き出す。

 意識せずともそれが事の終わりを告げる一息だったらしい。

 

 趙雲が司馬炎の体へ寄り添い、半ばのしかかるようにしながら足を絡め、そっと抱き着く。彼もそれを嬉しいと思いながら疲労感には抗えず、指先を動かすことすら億劫だ。

 それでも何かしらの想いはあっただろう。

 なんとか左腕を趙雲の腰に回し、抱き寄せる。些細な仕草だがそれが精一杯で、趙雲も嬉しそうに口元を緩ませ、彼の頬にキスを与える。

 

 風が冷たくなる夜に温かな空気があった。

 安堵する二人は互いの体温に気を良くしつつ、心地良い疲労感に包まれて脱力する。

 語る声にも力が入らず、しかしどこか幸せそうだった。

 

 「すっかり汗だくですね。大丈夫ですか?」

 「あ、ああ。でも、ちょっと」

 「お疲れのようですね。少し休みますか」

 「悪いけど、いいかな。ちょっと眠くなってきた……」

 「ふふ、いいですよ。ゆっくりお休みになってください」

 

 趙雲は彼の頭を胸に抱き、襲い掛かる睡魔に抗えなかった司馬炎は目を閉じる。

 母の如き慈愛で頭を撫でてやり、その影響で、穏やかな心のままで眠りに就こうとしていた。

 

 「おやすみなさい、司馬炎様。また明日」

 

 笑みを湛えてそう言った。直後には司馬炎は眠りに就いたらしく、力なく趙雲に抱きついた状態のまま、しかし離さないための力を失わずに意識を手放した。

 長らく安眠できずに居た彼が落ち着いた寝息を立て始めたのだ。

 趙雲は彼が眠りに就いても傍を離れず、安心させるよう頭を撫で続ける。

 

 その出自や立場が故、これまで人を信じようとしなかった彼にもようやく変化が現れたのか。

 今日まで護衛として傍で支え続けた意味はあったに違いない。

 彼を深く知り、理解し、体を重ねた今、趙雲もまた安堵して眠ろうとしていた。

 

 明日になればまた司馬炎との日々が始まる。これから先もずっとそうなのだろう。

 不思議と気分が良くなって、彼女は人知れずくすりと笑った。

 



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Dead Or Alive5:Paradise
楽園での生活:かすみの場合


一騎当千が終わった、というわけではありません。
色々なシリーズを気まぐれに更新していくつもりです。だからこれ以外にもまた増えるかも。

あと、このシリーズは基本的に頭の悪い文章です。ご注意を。


 シオン、というのは日本人の青年の名前だ。

 今年で二十二となり、色々と事情があって大学を辞めてしまったニート候補の一人である。

 ただ、彼には特技があった。それが仕事へとつながりそうな可能性を生み出しているのだ。

 幼少の頃から親に仕込まれた格闘技を引っ提げ、とある格闘大会に出場し始めたのが数年前。それからというもの、彼は様々な国の、様々な立場の友人を作っており、およそ普通とはいえない人脈を持っていたのである。

 

 そして、大学を辞めてしまって仕事を探していた彼は、とある派手好きな男に協力することとなった。

 ザックという男、あらゆる分野において天才的な才能を発揮するお調子者の指令を受けて、彼はひょんなことからある仕事に就くことになったのである。

 それは、忙しくて年中色んなところを駆けまわっている彼に代わって、ザックアイランドという孤島の管理をすることであった。

 

 ザックアイランド。

 そこは男子禁制で女人のみが入ることを許された楽園。常夏の環境下、美しい海や壮大な大自然、或いはプールやカジノといったレジャー設備もある、まさしくこの世の楽園とも思える場所である。

 しかもそこにいるのは管理者となったシオンを除いて、すべて女性。知り合いしかやってこないという奇妙な状況ではあったが、雑務をこなして管理するだけのシオンからしても楽園であろう。

 

 「あぁ……もう、だめだ……!」

 

 しかし、そんな彼にも悩みがあった。それはむしろ幸せな悩みでもあるし、我慢しきれるはずもなかった問題でもある。

 これまでの人生、彼女の一人もできず、自分の性欲を右手だけで発散してきた彼にとって、その環境は天国であると同時に地獄でもあったのだ。

 

 晴れ渡る青空からさんさんと降り注ぐ太陽の光。それを受けて輝く波しぶきと、真っ青な海。島を見渡せば目を癒してくれる緑の大自然があり、同時に心を癒す施設がたくさん存在する。

 そしてそんな島にいるのは、小さな水着からこぼれんばかりのわがままボディを見せつけて、元気にはしゃいで人生を謳歌する、世界的に見てトップだろう美女ばかり。

 これで性欲を持て余すな、という方が無理という状況だろう。故に、本来は大人しい性格で目立つような行動をしないむっつりスケベのシオンも、ついにはおかしくなってしまったのだ。

 

 「ええいっ!もうどうなっても知るか!うおおっ、ボクは人間をやめるぞザックぅ!!」

 

 色々あってザックアイランドの管理者となってから約三日目、わりと早めに精神の限界を迎えたシオンはそう叫んで、自分が唯一身に着けていたビキニタイプの水着を脱ぎ去り、天高くへと放り投げた。

 そうして、シオンは全裸となった。白昼堂々、外で、いくら島に居る人間が少ないとはいえ目撃者がいたところでおかしくはない状況下で。

 さんさんと輝く太陽の光を、海の方からやってくるやさしい潮風を、大自然から漂ってくる木々の香りを、まさに文字通り全身で感じる。

 隠すものはなく、隠した部分もない。彼は今、まさしく自由を感じていた。

 

 「あぁ……気持ちいい……」

 

 うっとりと呟くシオン。彼はこの時、初めて自分の欲求に素直に従い、その結果新たに生まれ変わったのである。

 自分の欲求に素直に従う、これ以上ないほどの変態として。

 

 すべてを解放して変態へとランクアップした彼は、まずぐりんと首を動かしてそちらを見た。昼間っから外で裸になることは気持ちいいが、今の彼にはそれだけでは足りないのだ。

 彼が求めるもの、それは想像すらできない快楽である。

 今、シオンの視線の先には、プールサイドに置かれた白いリクライニングチェアで眠る、一人の美少女があった。

 

 栗色の髪を黄色いリボンでポニーテールにして、はちきれんばかりのボリュームを持つ肢体を水色のビキニに詰め込み、体を隠そうともせずリクライニングしたイスで眠りこける少女。

 彼女はシオンと同じく日本人、かすみというくのいちだった。とある格闘大会でシオンと知り合い、以来友達として友好な関係を築いているのである。

 今、シオンは彼女を見ていた。ギラギラと光り、なんならきゅぴーんと物理的に光を発しそうな危うい視線で、友人であるかすみを見つめているのだ。

 

 シオンはゆっくりと動き始めた。

 寝ているかすみが起きないように、そろりそろりと、忍び足でゆっくり接近していく。無論、全裸で。

 すでに彼の股間にある肉棒はこれ以上ないほど天を見上げ、己の存在を誇示しており、もう辛抱たまらんと全体で主張していた。

 そのため、今さらシオンが我慢などできるはずもなく、かすみが眠る傍へと立ったシオンは荒い呼吸のままで覚悟を決める。

 

 「よ、よし……!ボクはもうやるぞ……もう決めたんだ……!」

 

 小さくそう呟いてから、シオンはゆっくりと手を伸ばしていった。その先には眠りこけるかすみの体。

 突然、ふにゅんとした感触が彼の右手に触れる。かすみの胸に、シオンの右手が置かれていたのだ。

 

 「んっ……」

 

 寝ているかすみが小さく声を洩らすが、起きる気配はない。しかしそんなことを確認できるほど今のシオンは冷静ではなく、その感触を理解した途端、彼は大きな感動に包まれていたのだ。

 

 (や、やわらかい!すっごいやわらかい!)

 

 かすみを起こさないように、なんて考えをすっかり忘れ去ったシオンは欲望のままに行動し始めた。

 白いイスを跨いでかすみの体を自分の下に置き、両手で彼女の大きな胸を揉み始めたのだ。しかも先っぽの割れ目からだらだらとだらしなく我慢汁を垂れ流す肉棒を、薄く腹筋のついた彼女の腹にすりつけながら。

 シオンは今、明らかに興奮していた。そして同時に感激すらしていた。

 初めて触った女性の胸、いわゆるおっぱいというものの凄さを理解して、もうどうにも自分を押さえられなくなっているのである。

 

 (うわぁなにこれ!?やわらかい!やわらかすぎる!マシュマロ!?おもち!?いやいや、おっぱいだ!かすみさんのおっぱい!)

 

 やさしくしよう、なんて考えは微塵もなく、シオンは思いっきりかすみの胸を揉みまくった。

 彼の手の中で大きな乳房はぐにゅぐにゅと形を変え、面白いほどに彼の手によって波打っている。しかも気付けば水着に覆われている部分から、小さな突起が自己主張を始めており、シオンが「かすみの乳首が立っている」ということに気付くのはすぐのことだった。

 さらにシオンは調子に乗って、我慢汁を出し続ける肉棒を腹にこすりつけながら、ゆっくりと顔をかすみの顔へと近付けていった。

 

 「んっ……あっ、はっ……」

 (すごい、かすみさん、乳首立ってる!寝てても気持ちいいのかな……。あ、顔も赤くなってる。やっぱり気持ちいいんだろうな……)

 

 かすかに頬を赤く染めているかすみに、どうしようもない愛おしさすら感じつつ、シオンはぷっくらとした唇へ己の唇を合わせた。かすみの唇は、非常に柔らかかった。

 初めはただぐっと押しつけるだけ。しかしすぐに舌で唇を舐めはじめ、何度も柔らかいその上を這って、その後口の中へと舌を侵入させる。

 ぴったりと合わさった二人の口から、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が鳴った。唾液を口の端からだらだらと垂れさせながら、そんなことすら気にせず深いキスを続ける。

 そうしながらもシオンは両手でかすみの胸を揉んでおり、乳房を抱え上げるようにして揉んだり、時には乳首を指で挟んでぐりぐりといじめたり、とにかく忙しない動きで愛撫を続けている。

 さらに、勃起した肉棒を腹にこすりつけ、粘着性の高い透明な液体で彼女の体を汚しながら、だ。

 

 (あぁ、すごい、気持ちいい!もう挿入()れたい!かすみさんの膣内(なか)に入りたい!もういいよね、挿入()れてもいいよね!?)

 「はぅんっ、んあっ、はっ……」

 

 加速する想いを言葉にすることなく、シオンは激しい口づけを続けた。

 その一方で、かすみが唯一着ているビキニを脱がし始め、彼女を全裸へと剥いていった。幸いにして、かすみが着ていたのは紐でくくるタイプのものだったので、紐さえ解けば簡単に脱がすことができたのである。

 お互いに全裸になった後、しばらく続いていた長いキスをようやくやめて、シオンはかすみの体を見下ろした。

 頬は赤く染まり、荒く呼吸をしながら、それでもまだ起きないかすみ。ぷるんとそびえ立つ乳房はとても美しく、さらに下を眺めてみれば、そこには無毛の小高い丘がある。

 思わずシオンは目を輝かせながら腰を突き出した。完全に勃起した陰茎を右手で掴み、彼女の秘所へと触れさせたのである。

 

 (よし!もう行くぞ!誰が止めたってやめるもんか!何があったってボクはかすみさんとセックスする!)

 

 ふるり、とかすかに波立つ左の乳房にしゃぶりつき、口の中に入りこんだ乳首を舌で転がす。錯覚からか甘さすら感じられるその行為に、シオンは簡単にのめり込んでいった。何度も何度も舌を上下左右に動かして、ぴんと張り詰めた乳首を舐めまわす。

 そして一方で、彼は己の陰茎を彼女の秘所に差し込もうとしているわけだが、これがうまくいかなかった。きちんと見ながらしていないことも関係しているのかもしれないが、陰茎はずるりと秘所を撫でまわすだけで、一向に膣に入ろうとはしないのだ。

 

 (あ、あれ?ここ、かな?まずいぞ、あんまり時間かかったら、かすみさんが起きちゃうな――)

 「んっ……」

 

 多少焦りながらも乳首をしゃぶることはやめず、シオンは再び狙いを定めて腰を前へと突き出した。

 その瞬間、いまだに寝ているはずのかすみの腰がくいっと動いた。するとシオンの勃起した陰茎がずるりとかすみの秘所へと入っていき、ようやく二人は合体を果たしたのだ。

 

 「はぁっ、あふっ」

 (うおおっ、入った!こ、これは気持ちいい……!)

 

 また両手で胸をまさぐりながら、シオンの心は歓喜に包まれていた。

 かすみの膣内はあたたかく、かなり強めにぎゅううと締め付けてくるのだが、シオンにしてみればそれがどうしようもなく気持ちいい。

 気付けばシオンはイスの上、またもかすみに深い口づけを送りながら、両手で胸を揉みしだき、獣のように激しく腰を振り始めていた。コンドームすらつけていない、生の状態で、彼はそのまま射精する気でいるのだ。

 

 「んっ、んっ、んっ」

 (かすみさん、気持ちいい、気持ちいいよ!今までの人生で一番気持ちいい!)

 「んっ、じゅるっ、んあっ、ちゅるっ」

 

 快楽に浸って、必死に絶頂へ向かって突き進む。シオンは完全に快楽に支配されていた。

 そのせいで彼は気付いていない。いつの間にかかすみの舌が意志を持って動いていて、両腕は首にまわされ、両足がシオンの腰にまわされていることに。

 全身で抱きつくかのような体勢、俗称で「だいしゅきホールド」というそれは、見方を変えれば女が男を逃さないための姿勢にすら見えるのだが、シオンは全く気付くことなく腰を振り続けているのである。

 

 「んっ、んんっ、んっ」

 (あぁ、やばい、そろそろイキそうだ……!このまま中に出していいかな、いや、むしろ出さなければ!ここまで来てもう引き返すことなんてないぞ!全部かすみさんの中に出してしまえばいいんだ!)

 「んんっ、あふっ、んにゅうっ」

 

 一突きする度に二人の接合部がぐちゅぐちゅと音を立て、噴き出した愛液が二人の下腹部を濡らす。

 ぴったりと体を重ねながら、格闘技で鍛えた筋肉を無駄に駆使して、二人は尚も激しく腰を動き続けていた。もはやかすみも起きていることを隠すつもりはないらしく、自らも腰を振りながらもぎゅっとシオンに抱きついている。まるで、もう離さないとでも言わんばかりの態度だ。

 しかし、必死すぎるシオンにはそんなことすら気付けず、だんだん高まりつつある射精感を感じてさらに腰の動きを速めていった。唇どころか口すらぴったり接合させて、大きな胸を揉みながら。

 

 「んふぅ、んにゅ、んんんっ」

 (かすみさん、かすみさん!もうヤバい、イキそうだ!このまま出すよ!かすみさんの中に全部出すよ!)

 「んっ、んっ、んっ、んっ!」

 

 パンッ、パンッともはや叩きつけるかのように腰をぶつけて、ついに二人は絶頂を迎える。

 

 「んんっ!んふぅっ!んんぁっ!」

 (ううっ、出るっ!イクッ、イクぅッ!)

 

 遮る物もなく繋がったまま、シオンはかすみの膣の中へと勢いよく精を吐きだし、かすみはそのすべてを受け止めていく。

 びゅくびゅくと何度も陰茎が膣の中で跳ねて、その度に熱い精液が吐き出されていく。それでもかすみはシオンの腰を捕まえた足をどけようとはせず、むしろ一層力を込めて彼を抱きしめた。抱きつく、というよりかはしがみつくようにも見える。

 しばらく続いた射精が終わった時、二人とも目をとろんとさせながら脱力し、全身から力を抜いていた。重なり合ったまま一つのイスの上で抱き合い、やがてゆっくりと視線を合わせた。

 

 「……かすみさん……大好きです……」

 「はい……私もです。初めてだったんですよ?だから……これからも、よろしくお願いします……」

 「んっ……」

 「んんっ……」

 

 ちゅっ、とやさしい口づけを交わす。

 シオンが異変に気付いたのはその後のことだ。彼は急に「あれ?」と首をかしげてかすみの顔を見て、先程までの気だるい雰囲気を霧散させていた。

 

 「……かすみさん、起きてます?」

 「ええ。ぱっちりと」

 「……いつから起きてましたか?」

 「えっと、『ボクは人間をやめるぞザックぅ!!』ってところからです」

 「ああ、じゃあ初めからってことですね。……え?」

 「うふふ、そうですね。じゃあ初めからってことです」

 

 はっきりと顔を青ざめさせるシオンとは裏腹に、かすみはにっこりと笑っていた。しっかりと下半身が繋がったままで。

 慌てたシオンは思わず「あわわ……!」などと情けない声を出しながら、いまだに膣に挿入したままの陰茎を抜こうと腰を動かすが、それより速くかすみがぎゅっと膣に力を加えた。

 その結果、シオンの肉棒がぎゅっと締めつけられ、強い快感を与えながらも抜けなくするという、前にも後ろにも進めない状況が生み出されてしまったのである。

 

 「うっ、あぁ……!か、かすみさん?あの、これは、その……」

 「いいんですよ、シオンさん。私、嬉しかったんです。この島に来てからずっと、せっかくのチャンスだと思ってシオンさんを誘惑してるのに、今まで全然手を出してくれなかったから……私の初めて、シオンさんのためにずっと守ってきたんですよ?」

 「へ?え?そ、それって……」

 「うふふ、私、ずっとシオンさんとこうなりたかったんです。だから今、とっても嬉しい」

 

 にっこりと笑って、こてんと首を傾けながらそう言ったかすみ。それはあまりにも予想外過ぎる発言だった。

 清純で、やさしくて、非常に仲のいい友人だったかすみから告げられた、告白とも思える愛に満ちた言葉。

 それをしっかりと耳にしたシオンはごくりと息を呑み、頬を赤くしながら次のシオンの言葉を待つかすみに向かって、ゆっくりと口を開いた。

 

 「か、かすみさん……」

 「はい」

 

 唇が震える。それだけでなく腕が、体が、心が震えていた。

 しかし、言わなければ。せっかく彼女から勇気を出して言ってくれたのだから。

 意を決して、目をキリッとさせたシオンが、ついにその言葉を発した。

 

 「――つまりかすみルート突入ってことですか!?」

 「うふふ――犯しますよシオンさん」

 

 しかし、どうやら彼の発言がかすみに気にいられることはなかったらしく、なぜだかかすみの目からはすっと光沢が消えてしまい。

 彼女の言葉通り、シオンはその直後にかすみが宿泊するホテルへと連れ帰られ、かすみが満足する言葉を発するまで精液を絞り取られたそうな。

 ただ、夜が明ける頃にはかすみも満足そうな微笑みを称えながら眠りにつき。

 その腕の中にはカラッカラに干からびたシオンらしきものが抱きしめられていたらしい。

 



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楽園での日々:あやねの場合

 ザックアイランドにおけるシオンの仕事は多岐に渡っている。

 ホテルや売店、或いはレジャー施設には専用の女性スタッフがいるので、そこには彼の仕事はない。

 ではのどかな南国の孤島で何をしているのかといえば、主に島にやってくる客の要望に答えることだ。

 

 「ハッハッハ! 最初からおまえに何かやってもらおうなんて考えてねぇよ!……ただ、おまえがいなかったら、俺の命が危なくなるからな……」

 

 そう言っていたのはシオンをこの島へと送りこんだ男、ザックである。何かに怯えるようにしながらそう言い残し、さっさとどこかへ消えていったわけだが、その後の行動をシオンは知らない。

 風の噂では、休暇中の新DOATEC会長の代わりに各地を飛び回っている、ということらしい。

 もっとも、シオンにしてみればあまり興味のない話なので、別に気にしているわけでもないのだが。

 

 現在のシオンの興味はすべて島の内側に向けられている。それこそ全神経を注ぎこんでいると言っても過言ではない。

 その島に訪れている麗しい女性たちの要望を聞き、半ば使用人のようにこき使われるばかりの日々。確かに賃金はもらっているが、仕事に見合ったものかどうかは疑問が残るところである。

 なによりこれまで最も辛かったのは、その一目見ただけで心を奪われてしまうかのような美女たちを前にして、精一杯の我慢をしなければならない、ということだった。こぼれんばかりのボリュームの体を目撃しながら、一切手を出すことなく見ているばかり、そんな天国のような地獄で生きなければならなかったのである。

 しかし、現在のシオンはついにふっきれた。張り詰めていた精神がついに限界を迎え、考えることをやめてしまったのだ。それだけに地獄のように思えていた孤島の中が、一瞬で天国へと早変わりする。

 

 今日の仕事は、あやねという少女に頼まれた客室清掃。担当の部署があり、ちゃんと毎日部屋を掃除してくれる女性がいるにも関わらず、彼を指名して自分の部屋をやってほしいとの要望が入っていた。といってもこれは初めてのことではなく、あやねという少女に関してはすでに何度もそうした要望が出されている。

 そのためシオンは嫌な顔など微塵もすることなく、掃除用具一式を持って、彼女が待つ部屋へと向かって行ったのであった。

 無論、全裸で。

 

 「バカじゃないの? なんで服どころか水着すら着てないのよ。あんた、バカじゃないの?」

 「ぎゃああすいませんでしたぁ! なんかちょっと調子乗っちゃってすいませんでしたぁ!」

 

 そして当然、優れたくのいちでもあるあやねの手により、その裸の体を一瞬の内に縄でぐるぐる巻きにされた状態で、彼女の部屋の床に転がされているわけである。あまりにも自業自得な展開であった。

 

 あやねはかすみと同じく、日本で生まれ、日本で育った少女である。年齢的に言えばかすみよりも一つ下の十六歳。の割には非常に凹凸のある肉体をしていて、しかも小生意気な態度でやたらとシオンにちょっかいをかけ、年齢にそぐわない毒舌を振りまくという過激な女なのだ。

 髪は薄い紫色で、ショートカット。今日は白いTシャツの腰回りを少しくくってへそを出し、下半身はデニムのショートパンツで覆っている。

 彼女はその均整の取れた体ですらりと立ち、全く平静を崩していない冷静な表情でそこにあるものを見下ろし、どことなく冷たい声で言う。もちろん、見下ろされているのはぐるぐる巻きでうねうねと動く全裸のシオンだ。

 

 「まったく……あんたがそんな変態だなんて知らなかったわ。昨日の今日で一体何があったのよ?」

 「あああすいませんでしたぁ! ちょっとばかり調子に乗ってましたぁ! ハーレムルートなんて目指しちゃってすいませんでしたぁ!」

 「はぁ、もう、うるさいわね。……数日前までこんな奴じゃなかったのに、なんでこんな――」

 「いやもうほんとすいませんでしたぁ! もう身の丈に合わない理想は追い求めませんからぁ! これからはかすみルート一本でいきますぅ!」

 「……かすみ?」

 

 トチ狂ったシオンが一心不乱にそう叫んでいる時だった。彼の言葉を聞いたあやねがぴくりと顔をひきつらせる。理由はただ一つ、たった今彼の口から飛び出した女性の名前にある。

 それは同じ国で生まれ、同じ村で育った二人が、決して浅くはない関係にあるからであった。

 

 くのいちとして生まれたかすみと、あやね。二人はかつて姉妹のように育っていた。

 しかし、あることをきっかけにしてかすみは自分の里を捨て、抜け忍として追手と戦う日々を過ごすことになり、そして同時に、追手として選ばれた忍びこそ、妹のようなあやねだったのである。

 以来、二人は以前とは違って険悪な関係になってしまい、また同じ男を好いてしまったという理由も合わせて、今ではすっかり敵対し合う関係へとなってしまったのだ。

 

 「……なに、あんた? かすみとなんかあったの?……まさか、かすみとヤッたとかじゃないでしょうね?」

 

 シオンの言葉を聞いたあやねは今、明らかに眉間のしわを寄せて怒りを露わにし、さらには拳を握りしめながら額には青筋を浮かべている。

 しかしつい先日からただの性獣となりつつあるシオンがそんなことに気付けるはずもなく、頭の中には桃色空間が広がっているために素直な想いを吐露してしまうのだ。現在の彼はなんにも考えていないバカである。

 

 「え? しましたけど」

 「……は?」

 「いやぁ、もう色々と我慢できなくなっちゃって。ただかすみさんは、僕が初めてだって言うのに一晩中離してくれなくて……なんかちょっと怖くなったので逃げ出して来たのです、はい」

 「……」

 

 愚かにも赤裸々に語るシオン。そのすぐ目前には、ぴたりと固まってしまったあやね。

 もはや怒りを見せることもなく、無表情で立ちつくしていたあやねはゆっくりと視線を下に持っていき、全裸で縛られるシオンの体を見る。

 なぜだかわからないが、シオンの陰部はすでに勃起していた。

 

 「……」

 「な、なんですかあやねさん……あぁ、そんなところを、そんなに見つめられると……!」

 

 あやねの視線に気づいて、だんだんと悦に入り始めたシオンは身を捩って仰向けになり、自己主張を続ける陰茎を天へと向けた。隠すよりもむしろあやねに見せつけるかのように。

 むくむくと頭をもたげるそれをじっと注視していたあやねは、やがてゆっくりと動き出す。部屋の中ということで裸足だった足をゆっくりと上げ、一度ぴたりと空中で止めた後、思いっきり振り下ろしたのだ。

 もちろん、真下にはシオンの陰部を置いた状態で。

 

 「あいだァッ!? 痛いッ、痛いッ!? なんですかあやねさん、なにするんですか急にッ!」

 「うるさい。……まったく、前々から流されやすいバカだとは思ってたけど、まさかかすみと……おのれかすみ、すでに動いていたとは……!」

 「痛い痛い! は、早く踏むのをやめてくださ――ああ、でも、ちょっと気持ちいいかも……!」

 「フンッ」

 「ぎゃああやっぱだめだぁ!?」

 

 再びドズンッと足を振り下ろされて、シオンの陰茎が玉もろとも勢いよく踏まれる。それだけでシオンは顔をゆがめながら悲鳴を上げて、その一方でさらに陰茎を固くしていた。

 裸足であるせいでそれがよく理解できたのだろう。すでに気を取り直したあやねはにんまりと口の端を上げ、ねっとりとした声で囁き始めた。

 

 「なぁにあんた、まさか踏まれて気持ちいいとか思ってるわけ? ハァ、ほんと最悪……とんだ変態だわ」

 「う、うぅ……」

 

 さっきとは一転して弱い力で踏まれている陰茎が、グググッと頭をもたげ始める。今まで以上に反り上がって、少しばかりあやねの足を持ち上げようとするのだ。

 足の裏からその感触が伝わり、あやねの笑みがさらに深まる。

 

 「あははっ、やっぱり興奮してるんじゃない。ねぇ、あたしの素足、気持ちいい?」

 「うぅ、い、いや、そういうわけでは……」

 「今さら隠すなんて無駄よ。あんたの隠すべき場所はもう全部見ちゃってるんだから。……ほら、ここなんか見るだけじゃなくて触ってるんだもん」

 「う、うぅ……!」

 

 先程まではただ触れていた、というより踏んでいただけの足が、まるでゆっくりとさするかのように上下に動き始める。もちろん、さするのはシオンの勃起した陰茎である。

 ゆっくりと、撫でるように、弱い力を込めて上下に動く。たったそれだけですべすべとした足の裏に快感を与えられ、シオンは歯を食いしばって快感に耐えていた。もっともいくら体を縛られているとはいえ、抵抗しようともしない辺り、すでに彼もその状況を楽しみ始めているのだろうが。

 しばらくはゆっくりと弱い快感を与えていた足だが、突如としてまた先程のように強い力を持って陰茎を踏む。しかも一度高く振り上げてから。

 

 「ふぐっ!? うぐっ、あがぁっ!?」

 「ほら、すっごく気持ちよさそうじゃない。これだけでイッちゃうんじゃないの?……変態ッ」

 

 ドスンッと踏みぬかれた後、グリッ、と足首をねじりながら、シオンの陰茎に強い刺激が与えられた。そしてそれだけでシオンは限界へ到達する。

 固く反り返った陰茎が脈動を繰り返し、亀頭にある割れ目から大量の精液が飛びだしていたのだ。

 これにより、あやねの白い足にも大量の精液が降りかかり、べたりと張り付く様な液体が彼女の素足を汚していく。それを冷たい目で見たあやねは、それでも若干頬を赤らめつつ、ぞくぞくと背筋を震わせながら口を開いた。

 

 「フン、汚らしい……なに勝手にイッてんのよ。しかもあたしの足をこんなに汚して」

 「うぅ、はぁぁ……気持ちよかった……」

 「って聞いてないし」

 

 悦に入ったまま目を閉じて喜ぶシオンの顔を見て、あやねは悔しそうな表情を浮かべて歯噛みした。自分がイニシアチブを取ろうとしていたのに全く効果がなかったため、色々と気にいらなかったのだろう。

 そのため、しばし思案するように立ちつくしたあやねは汚れた足もそのままに、身をかがめて地面へと膝をついた。

 そのまま頭を下げて舌を突き出し、赤い舌でぺろりと、白濁した液に濡れるシオンの陰茎を舐めはじめたのである。

 

 「うひゃッ!?」

 「ん……まずっ」

 「あ、ああ、あやねさん!? いったい何を――これはもう、色々とオーケーということで――!」

 「うるさい。ちょっと黙ってなさいよ……んんっ」

 

 ぺろぺろと、まるでアイスを舐めるかのように。あやねはシオンの陰茎を丹念に舐めていく。

 根元にまで垂れた精液を舐めとり、薄い部類に入るだろう少量の陰毛を舌で掻きわけながら、腹のあたりまで飛んだ精液を残さず口にしていったのである。

 大体の放出された精液を舐め終えた後は、再び陰毛に舌を絡めながら陰茎の根元まで戻って行き、そこからは上を目指して舐め上げる。そこにはまだ粘度の高い液体が残っているからだ。

 片手で固くそそり立ったそれを押さえ、ゆっくりと舌を這わせ、液を舐めとりながらも頂点を目指す。そうして一番上まで到達した時、彼女は大きく口を開けてぱくりとそれを口に含んだ。一切迷いのない行動である。

 

 「うおぉっ!? そ、そんないきなり……!」

 「んろっ、ぢゅむ……うるはいわね」

 

 丹念に、そして丁寧に舐められることに変わりはないが、先程と違ってシオンの肉棒はそのほとんどがあやねの口内へと入れられている。

 頭を上下に動かすことで余った包皮がずるずると動き、口の中では固い棒へと舌を巻かれ、先端をほじるように舐め、頬の裏へと先端を押しつけられることによってあやねの頬が内から押される。そうした見事なまでの口淫が繰り広げられているのだ。

 シオンは突然過ぎる事態に大層驚き、を持つこともなくただ嬉しいとあっさりと受け入れ、目を閉じながら快感に浸っていた。もう少し前の彼ならば「やめてください!」と羞恥を感じつつも抵抗していたはずだが、残念ながら今の彼にそれほどの平常心などない。今となっては快感に酔い痴れたただの獣でしかないのだから。

 縄で縛られて体の自由を奪われながらも、シオンは腰を動かして更なる快感を得ようとしていたのである。

 

 「うはぁぁ、気持ちいい……! まさかここが天国だったのか……!」

 「んむ、じゅるっ、まはバカはこと言っへるわね。そんらわへらいでしょ……んむっ」

 

 シオンの腰の動きのせいで、たまに肉棒の先端で喉を突かれながら、それでもあやねはそれから口を離そうとはしなかった。痛みや苦しさからうっすらと目を潤ませているのに、である。

 これに気付いたシオンはむしろより一層に燃え上がり、先程までの動きをさらに加速させていった。もはやただ本能に従うばかりの彼に、相手を気遣う心があるのかどうかはわからない。

 ただ気持ちよくなりたい。その強すぎる意思だけはすぐに理解することができるのだが。

 

 「んふっ、ふぐっ、んくっ……!」

 「くぅ……だめだ……!」

 

 そして、すぐに限界はやってきた。

 またしても快感の頂点に達したシオンは陰茎から精液をほとばしらせ、あやねの喉の奥を狙ってビュクビュクと精を吐き出させる。あやねはそれをすべて受け止め、飛び出してくる物がなくなるまで陰茎を銜え続けていた。

 しばらく続いた射精が終わった後、あやねはもう一度肉棒に舌を這わせ始める。口をすぼめて何かを吸引するかのような姿を見せ、尿道に残っていた精液をすべて自分の体内へと取り込んでいく。

 ぢゅぽん、と音を立てながら肉棒を解放した頃には、彼女はひどく満足そうな表情をしていた。

 

 「やっぱりバカね。イク時はイクって言いなさいよ。びっくりするじゃない」

 「あぁぁ、すいません……もうイキました」

 「知ってるわよ。全部飲んだんだから」

 

 文句を言うかのようにそう言いながら立ち上がり、あやねは自分の腰へと手をやった。そうした後はまるでそうするのが当然だとばかりに、自分が履いていたショートパンツと下着をいっしょくたにして脱ぎ去った。

 露わになる下半身。何も纏わぬすらりと伸びた足と、その付け根にある秘密の場所。本来毛が生えているはずの場所はつるりとしていて、その場を隠すものがなく、地面に寝転んだ状態からではさらに卑猥な姿に見えた。

 シオンはあやねの秘所を見て、再び陰茎を固く屹立させ、床に転がったままうねうねと体を動かし始めた。まだ拘束されているせいでミノ虫が如き動作しかできないが、もし今彼が自由の身であったならば四の五の言わずに襲い掛かっていただろう。

 それが如実に理解できたのか、あやねはふっと笑みをこぼして、腰に手を当てて足を開きながら、楽しそうな声で告げていた。

 

 「ねぇ。私とヤリたい?」

 「は、はいっ」

 「かすみとどっちがいい?」

 「あ、あやねさんですっ」

 「それじゃあ今後一切かすみとはヤラずに、私とだけヤリなさい。いいわね?」

 「いやぁ、それはちょっと寂しい……」

 

 正直な感想を口にしたシオン目掛けて、再び勢いよく足が振り下ろされた。ただし今度は先程と違って、いまだに精液だらけだった足を、シオンの顔に目掛けてだ。

 べちゃりという音を立てながら、シオンの左頬があやねの足に踏まれてしまう。

 

 「何か言った?」

 「ぎゃああ僕の分身が僕を襲うっ!?」

 「ごめん、ちょっとぼーっとしてて聞こえなかったわ。ほら、なんて言ったの? もう一回言ってみて」

 「わかりましたわかりました! あやねさんとだけヤリます!」

 「それでいいのよ」

 

 ぬちゃ、という不快にも思える音を立てながら足がどけられ、そのすぐ後にはあやねはシオンの体を跨いで腰を降ろしていった。

 陰茎が彼女の手に掴まれ、くちゅりと音を立てて二人の秘所が触れあったのは、何の迷いも見られぬ動作の直後のことだ。

 

 「このまま襲われたい?」

 「お、襲われたいです」

 「私のことはどう思ってるの?」

 「それはもう、大好きです」

 「そう……フフッ」

 

 そう言った後、嬉しそうに顔を輝かせてから、あやねは一息に腰を下ろした。そうしたことでずるりとシオンの陰茎があやねの膣へと入っていく。

 二人は思わず歯を食いしばり、唐突な快感に身を振るわせ始めていた。まだ挿入しただけだというのに、あやねは熱いそれを感じ取って全身を震わせ、シオンは熱いそこを感じ取って腰を突き動かす。

 ついに本番となる行為が開始されて、二人は呼吸を荒げながら息の合った動きでお互いの腰をぶつけていった。

 

 「んんっ、はぁっ、あぁ……」

 「うぅ、締め付けが、すごい……!」

 

 卑猥な水音を立てて、同時にぶつかり合った肉が音を立て、二人の接合部からは水が滴り落ちる。現在はあやねがシオンの上に乗っかっているので、あやねの秘所から噴き出した愛液が彼の腹に降りかかっているのだ。

 二人はとにかく一心不乱に腰を振った。シオンが腰を浮かす度にあやねが腰を落としてさらに深く繋がり、あやねが腰を上げる時にはシオンが腰を落として奥まで届いていたものをギリギリまで抜き去る。そうして息の合った動きを見せて、二人は深く情熱的に体を重ねていた。

 二人の肉体は、意思は、この時まさに一つとなっていたのである。

 

 「んっ、んっ、あっ……す、ごいぃ……」

 「あぁぁ、気持ちいい……こんなの、我慢できない……!」

 

 奥まで突きこみ、飲みこんで。動きにひねりを加えて内部をえぐるように肉を押し上げ。最も深いところを叩くようにして腰を上げる。

 すでにシオンは二回も射精しているというのに全く衰えることなく、むしろさっきまでよりも固さを持って、己の肉棒であやねに快感を与えていく。同時にあやねは彼に対して抗いようの無い快楽と、どうしようもない愛しさで彼の心を満たしていった。

 二人が限界を迎えるのはほぼ同時。まだ数分と行為を続けていない内から絶頂へと至った。

 

 「んんっ、くぅ……も、もう、限界……」

 「はぁっ、あやねさん、ぼ、僕も……!」

 「んっ、んっ、くふぅ、ふあぁっ――い、イクっ!」

 「うあぁ、ぼ、僕もイキますッ!」

 

 シオンはまたも先端から勢いよく精液を吐き出し、あやねは膣内でそのすべてを受け止める。そうして、二人は絶頂したのだ。

 全身をビクビクと痙攣させながら、いつの間にか縄が緩んでいたせいで共に腕を伸ばして抱き合って、体をぴたりと合わせた状態で。

 いまだドクドクと内部に精を注ぎながら、二人はまっすぐに目を合わせた。

 

 「シオン……」

 「あ、あやねさん……」

 

 ゆっくりと近づき、やさしく合わされる二つの唇。二人がキスを交わすのは、この時が初めてだった。

 この直後、二人は唇を合わせたまま再び腰を律動させ始め、再び快楽をむさぼり合う。その行為に限界はなく、ただひたすら、一心に快感を与えあった。

 夜の中でも浅い時間に始まった二人の行為が終わったのは、朝が近づく深夜の時間帯。二人はそれまで数時間、恋人というよりもただの動物のようにお互いの体を求めあっていたのだ。

 この次の日も、例の彼女と顔を合わせなければならないということをすっかり忘れたままで。

 



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楽園での戦い:紅葉の場合

 ザックアイランドのなんでも屋、シオンという青年を呼び出すのは簡単なことである。

 それぞれ客に手渡された小型端末を使い、専用のボタンを押すだけ。それだけでシオンが持つ端末へ連絡が入り、GPSが内蔵されたそれを使って、客がどこにいようとも駆けつけるのが彼の仕事だ。

 よって島を訪れた女性客は全員がシオンを呼び出す権利を持っており、順番待ちになることはあっても、基本的に彼が呼び出せないなどという時はない。

 にも関わらず、今朝はかすみが何度そのボタンを押していても、シオンが姿を現すことは一向になかったようである。

 怪しい、と思わずにはいられない。なにせ彼は外見がそこそこ良く、性格も穏やかで礼儀正しく、近頃は全裸で徘徊するほど明らかに様子がおかしいが、前々から多数の女性に可愛がられていた。

 まさか自分以外の女性が手を出しているのではないだろうか。

 そんな風に思うのも仕方の無い状況であった。現在島の中にいるのは女性のみ、その中には彼へ好意を抱いていたとはっきり認識できる者も多い。

 もはや立ち止まってはいられず、朝っぱらからかすみはシオンを探すために走り出した。否、さらに言うのであれば行方が知れなかったのは昨日からのこと、彼女は昨日からこうして彼の姿を探しまわっている。

 昨夜にめぼしいところは探したし、島を出たなどという話も聞いていない。ならばあとは、まず間違いなく誰かが彼を隠している。

 そう想いながらコテージの傍を歩いていた時だ。

 隣接するプールから声が聞こえ、思わず足を止めてそちらを見る。

 目標はあまりにもあっさりと見つかった。しかし、予想していた通りの最悪の形で。

 

 「あぁんっ、バカっ、そんな、激しく――くぅぅっ!」

 「あぁぁ、きもちいい。あやねさん、すごくきもちいいです……おまんこがきゅんきゅん締めつけてきて、また出ちゃいそうで……」

 「ちょ、バカぁ、昨日から何回出せば済むと思って――あんっ、あんっ、あっ、あっ――」

 「うぅ、でる、でる、もうでちゃ、あっ――」

 

 プールサイドに立つ裸の男女、シオンとあやねが、立ちバックの体勢で激しく腰をぶつけ合っていたのである。

 パンパンと肉が震える音が周囲へ響いていて、当然かすみの耳にもそれは聞こえる。

 彼女はゆっくりと音もなく二人へ歩み寄り、必死に快楽を貪って全く気付かずにいる彼らの傍に立った。

 そして、にっこりと笑顔を浮かべて、やさしく声をかける。

 

 「何を、してるのかな……かな?」

 「あっ、んっ、んっ――え?」

 「あぁでます、あやねさん、でるぅ……!」

 「あっ、ちょ、バカっ、んん――!」

 

 かすみの目の前で、たった今、シオンはあやねの膣内に肉棒を突っ込んだままで射精した。

 ぶしゅっと音を立てて逆流してきた精液がプールサイドに落ち、朝焼けに染められた空の下、その光景が非常にわかりやすく目に映る。

 あやねはすでにかすみの存在に気付いて慌て始めていたが、やはり快感には勝てないらしく、膝を震わせながら絶頂を感じて目を閉じ、表情を歪め、シオンは射精の快感に悦ぶことで精一杯なようで気付いてすらいない。

 かすみはまだ、笑ったままだ。

 

 「んっ、ふぅっ……もう、また膣内に……しかもバカみたいにいっぱい出して、ほんっと変態……」

 「ハァ、ハァ、あやねさん、もう一回、もう一回だけ……!」

 「あ、ちょっと、こらぁ。そう言ってもう何回目なのよ、もう――それより、見なさい。後ろにお客さんよ」

 「え? お客さ――わぁっ!?」

 「うふふふふふ、おはようございますシオンさん。なんだか、朝から、とっても気持ちよさそうですね――私以外の女のなかで」

 「ひぃっ!? 修羅がいる!?」

 「あんた、この期に及んで自分から地雷踏んでどうすんのよ」

 

 いつもは朗らかで美しいその笑みも、今だけは妙に恐ろしく、まるで鬼か天狗か、修羅が如き雰囲気を放っている。

 思わずシオンの陰茎も縮みあがり、一瞬前の雄大さもすぐに消えてなくなって、精液が垂れ流れる膣からずるりと抜けてしまう。

 唇を尖らせるあやねであったが、状況を省みてすぐに視線を下から上へと移動させ、やはりにこにこと笑うかすみが気になった。

 見つかってしまった以上、どんな形であれ戦いは避けられない。否、むしろこうなることを望んでわざわざ部屋から出てプールサイドでイタしていたのだ。見つけてくれたことに感謝すべきであろう。

 下半身を離し、直立不動で顔を青ざめさせるシオンへ身を寄せ、あやねは微笑んだ。まるで恋人がそうするかのような愛らしさ、彼を独占しているぞと伝えるような仕草である。

 これは明らかな挑発だった。自然とかすみの笑みも深まり、それに伴い、瞳の中からどんどん光沢が消えていった。

 

 「おはよう、かすみ。ご機嫌はいかが? あたしは最高よ、だって……ようやく欲しかったものが手に入ったんだもん。あんたじゃもう手に入れられない、この世で一つだけのもの――」

 「もう、あやねったら。間違えちゃだめでしょ? シオンさんは物じゃないし――あなたのものになるはずがない」

 「どうしてそう言い切れるの?」

 「シオンさんは、私の大事な人だから。相思相愛なんだから」

 

 ガタガタと震えるシオンを抱き締めるあやねはくすくすと笑い、かすみもまた小さく笑い声を発した。

 風もないのにプールの水面が揺れ、辺りの木々が震え始める。この世とは思えない、独特の重い空気が漂っていたのだ。

 二人は口元こそ弧を描いて笑みだったが、目は一切笑っておらず、そんな状態で視線を交わしていた。

 

 「あやね、そこ、どいてくれるかな。シオンさんの胸の中、私の居場所だから」

 「でも逃げられたんでしょ? あんたはまだ聞いてないかもしれないけど、シオンは一晩中無理やり搾り取ってくるヤンデレ女より、あたしの方がいいんだって。セックスの相性だっていいし、ドMの変態だし、これ以上ないほどいい関係なんじゃないかしら」

 「あやね。嘘、ついちゃだめだよ。シオンさんが、私以外に、興味あるわけ、ないもの」

 「あらぁ? じゃあどうしてこんなところでセックスしてたか説明できる? 答えなんか一つでしょ。あんたから鞍替えして、あたしに乗り換えたの。もうあんたなんかに興味はないのよ。今はあたしの……ここに、興味津津だから」

 

 くちゅり、と音を立ててあやねの指先が膣内へ入り、中からどろりと精液が溢れ出てきた。

 ぼたぼたとプールサイドに落ちて、ただでさえ大量に溜まっていたそこへ新たな量が加わる。

 すると瞬間、かすみの笑みがすっと消えた。無表情になり、少し俯き加減に二人を見る彼女は、明らかに先程とは違う声色で呟いていた。

 

 「もう、ほんとに、あやねは悪い子だね……私にイタズラして、嘘ばっかり言って……だめだよ? そんなことばっかり言っちゃ。だって、ありもしないもの。シオンさんは私が好き。私はシオンさんが好き。だから二人で幸せになるの――他の女なんていらない。あやねもいらない。二人っきりで幸せになるんだよ? 私のこと、見捨てたなんて、ありもしない作り話だよ」

 「もし、本当の話だったら?」

 「本当なはずがない。そんな可能性すらないよ。だって、私たちは、愛し合ってるんだから――」

 

 ついに脂汗で全身を濡らしたシオンから離れ、あやねが一歩前に出る。今のかすみからは、非常に危険な香りが漂ってきた。

 ギラリと光る眼、ビキニと薄手のパーカーを羽織っただけの美しい肉体から放たれる奇妙な雰囲気、ぎゅっと握りしめられた拳。このままでは何をしでかすかわからない。

 しかしこの時、あやねも黙ってはいない。シオンを守るため、同時に、様々な意味でライバルであった彼女と決着をつけるため、彼女もまた嬉々として自らも拳を握った。

 ただでさえ仲などよくなかった。その上で同じ男を好きになって奪い合うような構図だ。

 もはやお互い、我慢するつもりなどありはしないようだった。

 

 「なによ、やる気? せっかくのバカンスだから見逃してあげようかと思ったけど、そっちがその気なら……」

 「嘘つくような、悪い子は、ちょっとお仕置きが必要だよね――」

 「覚悟!」

 「うふふふふ」

 

 直後、二人は同時に地面を蹴って飛び出し、ほぼ裸の状態でぶつかり合った。

 かずみはビキニにパーカーを羽織っただけの姿、あやねはすでに行為を終えた後のため、ビキニの上も下も傍に捨てた全裸の状態、さらには股からはシオンの精液が垂れ流れている。

 両者共に足を振り上げ、蹴りを放ち、バチンと音を立てて肌が触れ合う。

 

 「そもそも、抜け忍のあんたと慣れ合ってる今の状況が気に食わなかったのよ!」

 「あやね、シオンさんとべたべた、べたべた……子供、できちゃわないように、シオンさんの精液全部掻きださなきゃ……うふ、うふふ、うふふふふ――」

 

 しかし、二人が距離を取り、拳を構えて再び走り出そうとした時だ。

 目の端に映っていたはずのシオンの姿がなぜか忽然と消えていて、全く同じ瞬間に気付いた二人は思わず動きを止め、至近距離に相手を捉えていながら顔色を変えた。

 

 「あ、れ……?」

 「は? なんで、シオンがいなくなってんのよ……」

 

 ピンと、頭の中に閃くものがあった。

 ザックアイランドに来てから手の着けようがない変態になったが、基本的にやさしい性格のあの青年だ。自ら逃げ出し、肉体関係にまでなった大事な二人を無視するようなことはしないだろう。

 ならば考えられるのは、第三者による手引き。何者かがこの混乱を機にシオンを連れ去ったと考えるのが当然。

 かすみとあやねは即座に視線を合わせ、同時に頷く。今まさに戦おうとしていたことすら忘れたかのように、思考はシオンのことばかりを、そして彼を連れ去った別の女への敵意に満ちていた。

 

 「あのバカ、女と見れば誰にでもホイホイついていくなんて……ふ、ふっふっふ、まだまだ教育が足りないようね」

 「シオンさん、もう、私を嫉妬させようとしてわざとこんなことするなんて、悪い人。でも、姿を消すだけならともかく、他の女とエッチしちゃうのは、やりすぎだよね……」

 

 目の色まで変えた二人は協力して彼を探すことにし、いがみ合っていたとは思えないほどのコンビネーションを見せようとしていた。

 ただし、どちらも相棒を出しぬくつもりで行動し始めていたのだから、本当の意味で協力していたというわけでもないのだが。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 木々が生い茂る見渡す限りが緑の場所。浜辺から離れ、岩陰となるそこに裸のシオンの姿があった。

 傍らには彼をここまで連れてきた水着の美女の姿もあり、二人がどこぞより逃げてきたのは明らかである。

 まっ白いビキニを着た黒髪ポニーテールの女性、紅葉は小さく息を吐くと、安堵したかのように笑みを浮かべてシオンを見た。

 全裸で、なお且つ陰茎をビンと立たせた彼を前にして、彼女の笑みはどこまでも清純でやさしい。

 

 「ふぅ……ここまで来れば、もう大丈夫でしょうか」

 「も、紅葉さん、一体どうして……」

 「大変でしたね、シオンさん。でも、ここまで来ればもう大丈夫です」

 「ひょっとして僕を助けてくれたんですか?」

 「はい。シオンさんの危機を感じたので、居ても立ってもいられずに……ちょっと驚いちゃいました。だってあの二人、本気で戦おうとしてるんですもの。シオンさんが間にいるのに」

 

 微笑む彼女を見つめるだけで、固くなった陰茎がさらに力を増していく。ガチガチに固まったそれは紅葉の腹に触れかける位置にあり、興奮が抑えきれないシオンは今にも彼女に襲いかかろうかと鼻息を荒くしていた。

 しかし、先に紅葉がそれに気付き、視線を下げると当然勃起した肉棒が目に入った。

 頬を赤らめ、そこをじっと見つめる紅葉は小さく頷き、それからシオンの目を見る。

 すでに彼女の中では決意が固まっており、紅葉の手がそっと、シオンの肉棒をやさしく握った。膨らんだ亀頭を両手で包みこむよう、ひどくやんわりと。

 それだけでシオンは嬉しそうに口の端を歪め、思わず紅葉の両肩に手を置いてしまっていた。体はすでに期待を抑えきれないようである。

 

 「も、も、紅葉さんっ。い、いきなり、何を……?」

 「あ……す、すみません。シオンさんのここ、とても辛そうだったから……私が、気持ちしてよくあげなきゃって思って」

 「い、い、いいんですか、そんなことして。いえ、僕はむしろ全然オッケーでバッチ来いですけども、今すぐしたいですけども」

 「大丈夫です……シオンさんは、私のこと、お嫌いですか?」

 「大好きです!」

 「ふふ、よかった。実は私も、シオンさんと、ずっとこうしたいって想ってたんです。……いいですか?」

 「もちろんです!」

 

 傍から見ればそのために連れてきたのだろう、と言いたげだが、シオンは全く気付くことなく、紅葉の要求にイエスを出した。

 すでに股間は準備万端で、その瞬間を今か今かと待ち望んでいる。びくびくと震え、大量に先走り汁を垂らしているほどだ。

 しかし紅葉は手のひらで亀頭を弱弱しく揉むばかり、それ以上の刺激を与えない。

 これにはさすがにシオンも困った顔を見せ、腰を小刻みに前後させながらも、紅葉へ対して声をかけた。

 

 「あの、紅葉さん? ちょっとこれではイケそうにないかなぁというか、刺激が弱いと言いましょうか」

 「あ、ごめんなさい。私、こういうこと、したことなくて……できればシオンさんが気持ちよくなれるように、教えてくださいませんか?」

 「あぁ、そういうことですか。それなら僕に任せて――ハッ!? これがまさか、オレ色に染めてやるってやつですか!」

 「よ、よくわかりませんけど……シオンさんになら、私の体、好きにしていただいても構いませんよ?」

 「うぅ、天使だ、僕はようやく天使に出会えた……」

 

 上目遣いに、健気な言葉を向けられては男ならば感動せずにはいられない。ましてやそれが、恥ずかしそうに自分の肉棒を握りながらのことだ。

 シオンはあっという間に調子に乗ってしまい、溢れだしてしまう涙をぬぐいながら、まずは紅葉にしゃがむよう言った。

 柔らかな土の上に膝をつき、いきり立つ肉棒を目の前にした紅葉はさっと顔を赤らめつつ、しかし視線をそこに注いで逃げようとはしなかった。

 この態度にもまた感動し、シオンは紅葉の髪へと触れる一方で、彼女への指示を始める。

 何も知らない女性に一から十まで自分好みのテクニックを教え込む。この時彼の心は面白いほどに舞い上がり、まるで天国にいるかのような気分だったという。

 

 「じゃあまず、手で扱いてみましょう。両手でも片手でもいいので、こう、竿の部分を――」

 「えっと、こう、ですか?」

 「うっ、ふぅ、そういう感じで……あぁっ、気持ちいい……」

 

 紅葉の右手が竿の部分を掴み、弱弱しい力を加えながら上下へ動き始める。

 同時に左手は亀頭をやんわりと包みこんだまま、恥ずかしそうに指先へ力を込めていた。

 

 「あの、気持ちいいですか? 痛かったらすぐ言って下さいね」

 「うぅ、大丈夫です……あぁでも、もう少し力を入れてもらった方が、あっ」

 「こう、ですか」

 「あぁそれっ、それがすごく気持ちいい……」

 

 シオンの指示に従って紅葉の手に加わる力が変わり、ゴシゴシと速度をつけて扱かれ、シオンの表情は見る見るうちに変わっていく。

 ぎゅっと目を閉じ、抑えようともせずに声を出して口元を緩める顔は見るからに気持ちよさそうで、とても幸せそうだった。その表情が紅葉へと良い影響を与えたようで、再び肉棒を見た彼女は更なる熱心さで手を動かす。

 単調ながらも上下に、愛情を込めて。シオンの声が聞こえる度に速度を徐々に上げていくと、それだけで卓越した技術を持っているように見えてしまう。

 彼は思いのほか上手な動きを見せる紅葉の手により、あっさりと限界へ達し、真剣な表情で肉棒へ向かいあう紅葉の顔を見る。

 

 「うぅ、もうだめ、出ます紅葉さんっ。口、口開けてっ」

 「え? こ、こうですか?」

 「うぅ、出る、出るぅ!」

 

 最後の瞬間まで紅葉は手を離さず、動きを止めず、しっかりとシオンの面倒を見た。おかげで最高の状態で絶頂へ到達したシオンは、肉棒の先からびゅくびゅくと精液を吐き出し、すぐ目の前にあった紅葉の顔を濡らす。

 勢いのいいそれに驚く彼女は身をのけ反らせようとするが、シオンがしっかりと両手で頭を押さえていたせいで逃げられず、さらには口を開けろと言われていたことからも自ら逃げ出してはいけないと思いとどまり、口を開けたままそこから動かなかった。

 大量の精液が口内へ飛び込み、喉の奥まで入り込む。それでも彼女は肩を震わせながら逃げず、射精が終わるまでその場に居続けた。

 嬉しい態度に、ますますシオンの胸は温かくなって紅葉の頭を撫でる。

 せき込みながらも決して口の中の物を出そうとしない紅葉は、時間をかけてすべてを飲み干した。

 口を開いたのはそれからのことで、涙目になって見上げてくる紅葉の顔もまた精液に濡れ、シオンの陰茎をあっという間に勃起させるには十分過ぎる力があった。

 

 「ま、まさか紅葉さん、全部飲んじゃったんですか? は、初めてなのに?」

 「けほっ、でも、こうした方が男の人は喜ぶと……ひょっとして、間違えてましたか?」

 「いいえむしろ正解です! 百点です!」

 「そうですか……よかった」

 

 顔にべっとりと付着した精液を指で掬い、不思議そうに見つめる紅葉を見て、シオンは小さく頷きながら決めた。

 彼女の頭へ手で触れつつ、腰をぐいと突き出し、またも完璧な姿となった肉棒を押しつけて、彼は嬉しそうに笑みを見せる。

 

 「よし、このままフェラチオも実践してしまいましょう。さぁ紅葉さん、これを口の中へ!」

 「く、口の中へ? でも、シオンさんの、その、これは大きくて、入らないかも……」

 「大丈夫です、成せば成りますよ、さぁ! そしてできればこれとは言わずにチンポと言っていただきたい! ぜひとも紅葉さんの口から!」

 「あ、あの……ち、ちん、ぽ……を、銜えればいいんですね?」

 「そうです! 僕のチンポを紅葉さんに銜えてほしいんです!」

 「そ、そんなに大きい声で言わないでください……」

 

 顔を赤くして焦り、恥ずかしがっている様子の紅葉は手でしっかり握りながらも、それを呼ぶことは嫌がった。どうやら単純に呼ぶことが恥ずかしいだけでなく、大声によって他者に位置が特定されてしまわないか心配なようでもある。

 黙らせるため、満足させるため、紅葉は恥ずかしそうでありながら大口を開け、ぱくりと亀頭を口内へ含んだ。

 途端にシオンは小さく声を洩らして黙りこみ、彼女の口内を楽しむかのよう、ゆっくりと腰を前へ進める。

 

 「はぁぁ、気持ちいい……紅葉さん、吸ってください。歯を当てないように、唇で吸いついてっ」

 「んっ、ふむっ……」

 

 ずずっ、と音を立て、紅葉が肉棒へ吸いつく。同時に彼女の頭を掴むシオンがゆっくりと腰を前後させ、口の中へと肉棒を出入りさせる。

 グロテスクにも見えるそれが、ずるずると厚ぼったい唇を割って中へ姿を消し、唾液に包まれてまた出てくる。なんとも淫靡な光景であった。

 紅葉のような美女が従順な態度でされるがままになっているのは、男として極度の興奮を与えられるに違いない。

 シオンは我慢できずにぐっと思い切り腰を突き出してしまった。それがきっかけでパンパンに膨らむ亀頭が紅葉の喉にまで届く。

 彼女の顔が驚愕に染まり、目が真ん丸と開かれる。

 

 「んんっ!? んっ、んんぅ」

 「あぁぁ、紅葉さん、紅葉さんっ……!」

 

 もはや我慢するつもりなどなく、思い切り腰が前後に振られて、紅葉の口内だけでなく喉までも犯す。

 シオンの動きは必死に続けられ、紅葉もそれを抵抗することなく受け入れ、木々の間にじゅぷじゅぷという卑猥な音が抜けていく。

 多大な興奮も手伝って絶頂を迎えるのは早かった。シオンは最後の瞬間、思い切り彼女の喉へ亀頭をぶつけ、精液を送りだすのもそこで行った。

 

 「うぅ、出るっ。紅葉さん、呑んで、さっきみたいに全部呑んでくださいっ」

 「んんんんっ!?」

 

 またしても大量の精液が放出され、紅葉の喉を叩き、そのまま肉の壁に沿って精液が呑みこまれていく。

 結局、シオンは竿の律動が止まるまで肉棒を抜かず、すべての精液を彼女の腹の中へと送った。その間苦しそうに眉をひそめていた紅葉だが、頭と口を解放されたところで文句を言おうとはしない。

 涙目でせき込みながらもその目は一切シオンを責めておらず、そんな健気とも思える態度がより一層シオンの心を高ぶらせる。

 同時に股間の陰茎も高ぶっており、休む間もなく立ち上がるそれは男として元気過ぎるほどで、もはや手のつけようがないほどだ。

 

 「げほっ、ごほっ……シオンさん、まだこんなに……」

 「ふぅ、気持ちよかった。それじゃあ紅葉さん、そろそろ……本番を始めましょう」

 「は、はい……本番というと、やっぱり――」

 「ええ。紅葉さん、僕と一つになりましょう」

 

 シオンの手が紅葉の肩をぐっと掴み、自分の方へと抱きよせる。自然と、紅葉はシオンの腕の中に入ることになった。

 ビキニにしか守られていない肉付きのいい肢体が、大きな乳房が、彼の裸体へ触れてその柔らかさを感じさせる。

 途端に肉棒の固さはさらに増していき、彼女の下腹部に当たる今、独特の熱さは逃れようがないほどに紅葉へも伝えられていた。

 

 「あ……」

 「うーん、ここで寝ちゃうと汚れちゃうし、立ったままするしかなさそうですね。ふっふっふ、でも大丈夫です。すでに予習は済んでますから」

 「予習……あやねさんと、してたことですか……」

 「あ……ひょっとして、見てました? あぁいやでも、あれは――」

 「いいんです。私、気にしませんから。シオンさんがどこの誰とえっちなことをしてても、怒ったりしません……ですから、代わりに、もし許されるのなら」

 「な、なんですか?」

 「私のことを、常に一番にしておいてほしいんです。ずっと私のことだけを考えて、なんて言いません。少しくらいなら浮気だって許します。だから……私を、ずっとお傍に置いてください」

 「あぁ……あなたこそ、あなたこそ本物だ……本物の天使だ――!」

 

 紅葉にそう言われて、なにやら感動した様子のシオンは天を仰いで喜びに震えた。

 そのまま何も言わずに黙りこんだまま、シオンの手は彼女の下半身へ伸び、ビキニに隠されていた秘所を撫で始める。薄い布切れの中に手を忍びこませるのはひどく興奮して、彼女自身も興奮しているのかそこはすでに濡れていた。

 これならば問題ないと判断し、その上でもはや我慢が利かなかった。

 片手ではビキニの中に手を差し込み、大ぶりの乳房を揉みながら、もう片方で下半身の水着をずらすと同時、肉棒の位置を合わせる。

 困惑する紅葉への説明もなく、そのまま挿入が行われ、彼女の狭い膣内へ熱い肉棒がずるずると入りこんだ。

 

 「んんっ、あぁっ、あつ、い……!」

 「ハァ、ハァ、紅葉さん……僕と、僕と結婚してください!」

 「んんっ、は、はいぃ? え、な、なっ――」

 「僕は本気ですっ。それほどまでの大きな心、見ても触れても完璧なボディ、あなたほど完璧な女性はいません。ならば妻にしたいと思うのは扱く当然のこと――!」

 「あんっ、あっ、あっ――」

 

 正面から抱きあい、じゅぷじゅぷと音を鳴らして、二人の行為は始まった。それもずいぶんな大声による盛大なプロポーズ付きで。

 シオンの腰の動きは最初からラストスパートを決めるかの如く早い。

 素早い速度で肉棒の出し入れが繰り返され、その度に大量の愛液が飛び、紅葉の口から甘い声が飛んだ。

 どうやら先程のプロポーズは功を奏したらしく、挿入した瞬間に比べ、言った瞬間にはきゅんと締めつけてきて、腰を動かして刺激を与えながら言葉の意味を理解し始めると、ますます内部のひだがいやらしく絡みついてくる。

 紅葉のそこは、まさしく名器と呼ぶにふさわしい。いまだ女性経験は二人しかないシオンだが、それはすぐに理解できる。

 彼女自身は全く動いていないのに、男を悦ばせることに長けた内部の動き。意思に反したようにも思えるそれは、明らかに特別だった。

 

 「あんっ、あんっ、あっ――ほ、本当、ですかっ?」

 「え?」

 「わ、私と、んんっ、私と結婚……して、くれますか、あぁっ」

 「もちろんです! 僕にはもう紅葉さんしかありえませんから!」

 「あぁっ、嬉しい――あんっ、んっ、んっ、あぁんっ」

 

 なんとも気のいい言葉である。頭の中からはすっかり先程までの危険な光景が抜けているらしく、本気でこう言っているのだから性質が悪い。

 腰の速度もどんどん早まっていき、声の高まりもますます凄まじくなる。

 今や紅葉は嬌声を我慢しようとすらしておらず、突かれる度に甲高い声で嬉しそうに鳴いていた。結婚、その言葉がきっかけでずいぶんと表情も緩んでしまっている。

 いつしか彼女もまた腰を振ってシオンへ刺激を与えようとしており、呼吸もすぐにぴたりと重なって、嬌声も徐々に大きくなっていった。

 

 「うぅ、紅葉さん、気持ちいい……!」

 「あぁっ、んんっ、私も……私も、気持ちいいですぅ」

 「はぁっ、イキます、もうイキますっ! 紅葉さん、膣内に出します! 僕の、僕の子供産んでくださいっ!」

 「あぁんっ、はい、はいぃ……産みますっ。産みますから、孕ませてください――シオンさんの物だって証を、私にくださいっ」

 「うぅ、出る、出るぅ、うぅぅ……」

 

 膣内に居るまま射精が始まって、濃厚な精液がどくどくと奥へ注ぎこまれる。紅葉は歓喜の悲鳴をあげ、シオンも喉を震わせて喜んだ。

 衰えを見せない肉棒は飽きることもなく大量の精を放っており、これも精神を解放したが故の恩恵なのか、常人では不可能なほどの回復力と精力の強さで自分の言葉を実現させようとしている。まさしく彼女を孕ませようとするかのよう、腰を小刻みに振って、精液が逆流してくることすら気にせず、子宮の中まで満たそうとしていた。

 暑い日差しに激しい運動、紅葉の背を汗が伝い落ち、荒くなった呼吸すらも一つになって消えていく。

 ゆっくりと目を開き、精液まみれの顔へ唇が近付き、キスを交わしたのはこの時が初めてのことであった。

 

 「ん――」

 「ハァ、紅葉さん……すっごく、よかったです」

 「本当ですか? それなら、すごく嬉しいです。やっと念願が叶いましたから……えへへ」

 

 嬉しそうに頬を綻ばせる、腕の中の彼女を見て、シオンのそれは再び力を取り戻す。

 出したばかりだというのにビンと立った陰茎は尚も紅葉の腹へ触れ、存在感をこれでもかと醸し出していた。

 自然、彼女の頬はまた赤くなり、視線は下の方へと向く。

 

 「あっ……」

 「も、紅葉さん、こうなったらこのまま、先へ進んでしまいましょう。僕としてはぜひ、紅葉さんのこの胸で、ぎゅっと挟んでほしいです」

 「む、胸で? はい……シオンさんがそう仰るなら」

 

 両手でぐにぐにと紅葉の乳房を揉んだシオンがそう言い、彼女はその場で跪くこととなった。

 最初のように顔の前に天を向く肉棒が置かれ、恐る恐るといった風情で紅葉が自分の胸に手を添え、谷間になったそこへ肉棒を挟みこむ。

 柔らかく、温かな感触。他では味わえない独特の感覚がシオンの心を幸福で満たし、彼は満面の笑みで空を見上げた。

 朝焼けが見えていた空はすっかり青く染まり、今日も快晴、とても気持ちの良い一日となりそうである。

 

 「あぁ、幸せだぁ……どうしてパイズリというのはここまで幸せな気分になるのか。ううむ、不思議だ。でも気持ちがいい」

 「あ、あの、これでいいですか? シオンさん、気持ちいいですか?」

 「はい、とっても。あ、でもできればその状態で先っぽを銜えてもらえればさらに気持ちいいかと」

 「はい――んっ、ふっ、こうれふか?」

 「は、はい、そうですぅ……あぁ気持ちいい。まさかここまでしてくれるなんて……やっぱり僕には、もう紅葉さんしか――」

 「紅葉さんしか、というのは、どういうことですか?」

 

 紅葉が胸の谷間に肉棒を埋め、乳房で竿を扱きながら、顔を出した亀頭を口内へ含んでいたその時。ふと、シオンの背後から声が聞こえた。

 やけに感情が薄いように感じる声色、しかしその声自体、非常に聞き覚えがあるものだ。

 瞬間、なぜか感じた危機感に全身が硬直し、冷や汗のような物が頬を伝う。

 恐る恐るシオンが後ろを振り向いてみるとそこには、にっこりと笑顔で立つかすみ、般若が如き表情で立つあやねが存在していた。

 

 「なんだかずいぶん楽しそうねぇ、シオン。あたしのこと、すっかり忘れてるみたいで」

 「うふふ、シオンさんったら、いけない人……私を嫉妬させるために、色んな人と、私としかしちゃいけないことするなんて……」

 「か、かすみさん、あやねさん……あの、えっと、これはですね――」

 「んっ、ふっ、ぢゅる――シオンさん、どうですか? こういうのは、気持ちいいんでしょうか」

 「うぅぅ、あぁっ」

 

 水着姿の美女が二人、不本意ながらとはいえ見守る中、紅葉の熱心な奉仕は続けられた。それどころか二人が現れたことでさらに力が加わり、シオンへ与える快感も、行為への集中力もますます強まる。

 おかげでシオンは二人を振り返ったまま、思わず緩んだ表情を見せてしまい、途端にかすみとあやねは、鬼の形相で紅葉を見た。

 

 「ふむぅ、んふっ――お二人共、シオンさんに殺気を向けないで頂けませんか。彼、私の夫になる人なんです。一夜限りのお遊びはともかく、その殺気は許せませんよ」

 「はぁ? あんた、バカじゃないの。なんでシオンがあんたの夫になんかなんのよ。そんなわけないでしょ、その変態はあたしが面倒見るって決めてるんだから」

 「うふふ、うふふふ、うふふふふ――もう、二人共、勝手なことばっかり言っちゃ、だめだよ。シオンさんは、私が、私とだけ、いっしょにいるんだから。今は、私を嫉妬させようって、嫌々そんなことしてるだけなんだから――」

 「んんっ、別に、お二人がシオンさんを好きでいるのは構いませんよ。それにたまになら、シオンさんとえっちなことしてもいいです。ふふ、シオンさんが最後に帰ってくるところは、いつだって私のところなんですから」

 

 女神のように慈愛に満ちた微笑みを見せる紅葉の言葉は、明らかな挑発とも、勝者の余裕とも取れるものであった。

 おかげでかすみとあやねの表情は一瞬で変わり、浮かんでいるのは笑みであっても、これまでにないほど激怒しているのは簡単に理解できる状態となる。

 

 「へぇぇ、そう。そういうこと言うわけ。こっちが黙ってれば、ずいぶん調子に乗ってくれるじゃない」

 「ちょっと、おはなしする必要があるよね……ね、紅葉さん」

 「ふふ、いいですよ。でも、シオンさんには危害を加えないでくださいね。でないと私、どんなことをしてしまうかわかりませんから」

 「フンッ、それはこっちのセリフよ。あんたみたいな奴にシオンを任せられるわけないでしょ。わかったらとっとと退きなさい、パイズリ女」

 「シオンさん……待っててね。今、私が、あなたの試練に打ち勝つから……」

 

 愛されているはずが、まるで四面楚歌。戦いとは無縁なリゾートの中で、もはや争いは避けられないだろう。

 三人の美女たちは一人の男を囲み、爛々と目を輝かせ、今にも飛び出して戦おうとしていた。

 しかしこの状況を生み出した張本人であるところのシオンは、紅葉の乳房が離れてしまったことを非常に残念に想い、直後にはすでに別のことに気を取られていたようだ。

 

 「ハァ、ハァ、水着美女のキャットファイトか……しかも紅葉さんもあやねさんも、股から僕の精液が垂れてるし……ううん、なんというパラダイス!」

 

 本気の闘志を見せる三人を目にし、独自の観点から大きな興奮を得て、この状況を生み出し最も悪いはずのシオンは悪びれるどころか自らの手でいきり立つ肉棒を扱いていたのだ。

 もはやこの男、どうしようもない状態のようである。

 



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楽園での休息:エレナの場合

 今朝は格段と騒がしかった。

 別段気をつけていたわけでもなかったのだが、普段から仲が良いとは言えないかすみとあやねが言い争いをしている姿はよく目についたし、その二人が紅葉へ詰め寄って激しく言い争う姿も見られた。これまでの平穏な毎日には不釣り合いなほど剣呑な雰囲気である。

 何があったのか、と思えば。先日から挙動がおかしいシオンが何かしでかしたという。

 いつからだったか平気な顔して全裸で外を歩き回り、他人に局部を見られようが気にせず、それどころか勃起したそれを見せたがっているとすら思える挙動。目下のところ、平和なザックアイランドにおける唯一の問題となっているのだとか。

 彼が裸で歩く以外にどんな問題を起こしたのだ、と想いはしたものの、彼女はさほど大きな反応を見せなかった。ただの噂でしかないが、我慢の限界を迎えた彼がとんでもない変態になって全裸で外を歩き回っていることはすでに聞かされていたせいかもしれない。

 時刻はまだ朝。太陽が青々と広がる空にあり、昼になるにはまだ時間があるが皆も起きて活動しているだろう時間帯。

 せっかくの休暇を楽しむため、エレナはプールサイドにある白いチェアの背もたれを倒して寝そべり、パラソルの下で目を閉じながら風を感じていた。

 当然昨日のようにビキニ姿。自身のポニーテールの髪と同じく金色の派手なそれで、白い肌は均整の取れた肉体をこれ以上なく魅力的に見せており、そうして寝転んだまま涼む姿もなんとも絵になる。まさに絶世の美女という呼び名がふさわしいだろう。

 ふぅと吐息を出せば、体の中の毒素がすべて抜けていく。

 途方もない心地よさに包まれており、気分が良くなったエレナは今朝の顛末など何も気にせず、ザックアイランドに訪れた者は全員持っている小型端末を手にした。

 

 「少し喉が渇いたわね。あの子に何が起こったのかも知りたいし、一度呼んでみようかしら」

 

 テーブルの上に置いていたそれを操作し、画面に指を触れてシオンを呼びだすためのボタンを押す。飲み物を注文するためだ。

 島の中では金を使うことがほとんどない。宿泊費は無料、食事やレジャーにも金銭の動きはなく、せいぜい自分の金を使うのはカジノでギャンブルをする時くらい。

 ジュースや酒を頼むのもシオンに連絡をすればいいだけで、わざわざ店に行く必要もなければ財布を持ち歩く必要もない。

 非常に簡単な注文を終えるとテーブルへ端末を置き、再び横になる。柔らかな風が落ち着きを与え、目を閉じる間際も気付けば微笑みが浮かんでいた。

 暖かな太陽の日差しと涼しさを与える風に海の波の音。ただ寝転んでいるだけでも心が安らぐ。

 いつの間にかうたた寝してしまったようだ。意識が浮上し始めた時、ちょうどやってきたのだろう、すぐ傍から島唯一の男の声が聞こえた。

 

 「エレナさん。ご注文の品、お持ちしましたよ」

 「ん……」

 

 やさしげな声。少し低音で落ち着く物腰の声だった。

 右手で目元を擦りながらエレナは意識を覚醒させ、寝転んだまま寝ぼけ眼で左側を見る。そこからシオンが前かがみに顔を覗き込んでいた。

 差し出されているのはお盆に乗ったグラス。鮮やかな色のジュースが中身として入っている。

 来てくれたのだと理解し、いつもの柔らかな物腰に何も問題なんてないではないかと微笑み、体を起こしてグラスを受け取る。冷たい氷が入っているため指先に感じる温度はひんやり冷たく、徐々に目が覚めるようでくすりと笑う。

 エレナはシオンの顔を見つめて礼を言う。聞いていた噂は嘘だったのかと思いながら。

 

 「ありがとう、シオン。なんだか今朝は騒がしかったようだから来れないかと思ったけれど、見たところ元気そうね」

 「はい。もうすでに解決しましたから」

 「あらそうなの。それはよかっ――」

 

 ストローへ唇を触れさせ、ジュースを飲もうかと思った直後。エレナの動きはぴたりと止まった。

 視線は、背筋を伸ばしたシオンの股間へ向かっている。つい先日までそこにあったはずの水着がなくなっているのだ。

 つまり彼は今、全裸でエレナの視線を受け止めていた。しかもそこはなぜかギンギンに勃起しており、体は直立不動だというのにびくびくと震えている。

 思わず瞬きを繰り返す。何度目を閉じ、目を開けようと目の前の光景は変わらない。

 理由は全く分からない。なぜかシオンは全裸で、逸物を勃起させて、隠そうともせず目の前に立っている。一体どういうことであろうか。

 言葉では表せないほどの驚きを抱きつつ、けれど至って冷静に、エレナは当たり前のように仁王立ちする彼を見つめ、素直な疑問をぶつけてみた。

 

 「シオン。あなたなぜ裸なのかしら?」

 「え? なぜ、と言われても」

 「理由もないのに裸になっているの?」

 「気持ちいいからです」

 

 あくまで平然と、何を決まりきったことなど聞いているのだと言わんばかり、別段恥ずかしがる様子もないシオンが答える。

 くらりとめまいがするようだった。何気なく額へ手をやったエレナは目を閉じ、幾分眉間に皺を寄せる。

 気持ちいいから裸になった。確かにそう言われたのだ。なるほど、理由はきちんと伝えられている。しかしその言葉だけではいかに聡明な彼女でも納得しきれなかったらしい。

 グラスを傍らのテーブルへ置き、体の向きを変えて彼と正面から向かい合い、とはいっても座ったまま、今度はエレナもきちんと彼に向き合う。

 どうやら奇行が始まったという噂に間違いはなかったようだ。

 一体なぜこんなことになったのだろうと考えつつ、尚も胸を張る彼の顔を集中して見る。

 

 「そう、それはよかったわね。でもねシオン、あなたも知ってると思うけれど、世の中の大人は気持ちいいからという理由だけで公共の場で裸になれば逮捕されるのよ。あなたが生まれ育った日本でもそうでしょう?」

 「ああ、そうですね」

 「わかってもらえて嬉しいわ。だからせめて水着くらい着た方がいいんじゃなくって? 前に着ていた水着も、肌の露出が多くて十分気持ちいいんじゃないかしら」

 「いえ、それは違います。両方体験したからわかりますけど絶対こっちの方が気持ちいいですよ」

 「どうして?」

 「やっぱりチンポが出てるからじゃないですかね」

 「私はそれが問題だと言ったのよ。たった今」

 

 胸の下で腕を組んでため息をつく。するとビキニに隠されたエレナの胸が揺れ、明らかにシオンの鼻の下が伸びた。露わになっているペニスも元気に揺れている。

 以前に見たはずの彼とは何もかもが違う。出会ったばかりのシオンと言えば、礼儀正しくて初心なところがあり、非常に好感が持てる真面目な青年だったはず。

 島に来てまだ数日。一体何がここまで彼を変えてしまったというのか。

 思い当たらない節がないわけでもないが、だからといってあまりに大きすぎる変化に上手く思考がついていかず、気をつけようと思っても眉間に皺が寄ってしまう。

 

 「そうね、別に悪いことだとは言わないわ。開放的な気分になってしまう島ですもの。あなたを強く責めはしない。けれど、外で裸になるには場所に気を付けた方がいいんじゃないかしら。例えばあなた以外誰もいない場所で裸になるのは構わない、でも誰かが傍に居る時は水着を履くとか」

 「はぁ」

 「納得してくれた?」

 

 どうも納得していない様子の顔と声のシオンだったが、エレナは気にせず強行することとした。

 彼女もすでに大人、年下の青年が全裸で勃起しながら話しかけてきたところで冷静さを失うことはなかったものの、やはりこのままではいけないと思っているのだろう。少し叱るような口調で彼に注意を促す。

 しかしシオンはわかっているのかいないのか、顎に手を当てて何やら考え始めた。

 全裸で勃起しているというのに真面目な表情。笑みを浮かべて彼を安心させようとしたエレナですら、馬鹿馬鹿しい光景だと思っていた。

 

 「うーん、でもそれはそれで困る気もしますね」

 「あら、どうして?」

 「確かに一人になっても気持ちいいんです。暖かい太陽の日差しとか、海の方から来る風とか、普段直接触れないようなものが触れてくるのってすごく興奮して、あぁ、今僕外で裸になってるんだなって」

 「私にはあまりわからない感覚ね。でもいいわ、続けて」

 「でもねエレナさん。僕が思うに、それだけじゃいけない気がするんです」

 「どういう意味?」

 「一番興奮するのはやはり、誰かに見られてる時だと思うんですよ」

 「あなたはもうどうしようもないわね」

 

 ぐっと握り拳を作り、良い笑顔でそう告げたシオンには開いた口が塞がらない。

 エレナは考える前にめんどくさくなってにこりと微笑みかけ、彼を真人間に戻すための説得など早々に諦めた。

 

 「やっぱりこう、見られるっていうのはすごく良い刺激だと思うんです。大きいと言われたらそれはそれで嬉しいし、小さいと蔑まれたらそれはそれで気持ちいい。つまりどっちに転んでも隠す意味なんてないんじゃないかと。男のチンポなんて人それぞれで大きさも長さも違うんだから、見られてなんぼじゃないでしょうか」

 「違うと思うけど、あなたがそう思うなら無理に否定はしないわ」

 「同意してくれますか! いやぁ、やっぱりそうですよねぇ。大体ジーンズ履いてようが水着履いてようが勃起したらどうせバレるんだし、もういいんですよ。見せればいいじゃないか、見てもらえばいいじゃないか。それで冷たい目で蔑まれたら、それだけで十分なご褒美じゃないか!」

 「すごいわねシオン、そう思えるのはあなただけよ。他に居たとしてもきっと少数」

 「エレナさんはどうですか? 僕のチンポ見てどう思ったんでしょう。ぜひとも感想を聞かせていただきたい」

 「ノーコメントよ。さすがにそこまでふっきれてない」

 

 何を話しているんだろう。自分と相手の発言を思い返してエレナが不思議に思う。

 確かに俗世間を離れて天国のような島へ来たはずだが、あいにく自分はまだ人間をやめてなかったはず。にもかかわらずこの意味のわからない問答は一体何なのだろう。

 もはやジュースを飲む気にもなれず、目の前の彼も去ろうとしないので仕方なく相手をする。そうしながらも思うことがあった。

 ひょっとして彼は、自分を抱きたいのだろうかと。試しにじっと見つめてみたペニスを視界の中心に置いて考える。

 体を委ねるほど深い関係ではない。しかし何やら全体的におかしくなっている彼は自分を抑えきれていないようだし、何よりおかしくなる前まではあまり女性とも関わりを持たないような真面目な人間だった。抑圧された性欲が一気に爆発した結果ならば、ひょっとしたら自分も体を狙われている一人なのでは。ペニスだけを見つめて思う。

 何も言わずにじいっと見つめ、シオンが悦に入っているのも気付かずに想像してみる。

 流石に男を知らない年齢ではないが、前に恋人が居た時などいつのことだろう。思い出すのも嫌になるほど前のことだった気もする。

 エレナは巨大な会社を纏めあげる社長だ。自分のプライベートを削って仕事をするなどざらにあり、いつしか自分をないがしろにするようになっていたようにも思う。恋人を作らないのもそのせいだった。

 前に男に抱かれた時など思い出せない。ふと冷静になって考えてから、ゆっくりと自分の思考から浮上していく。

 考えながらぼんやりしていたのだろう。いつの間にか目の前でシオンが己のペニスを手で扱いていた。

 

 「ちょっと。あなた何をやってるの?」

 「い、いえ、ちょっとエレナさんの視線を受けながらオナニーを……うぅ、はぁ」

 「本気? 外だとか言う前に知人の女性の前で自慰をするなんて」

 「あ、お気遣いなく。僕自分でイクのは得意なんで。うぁぁっ」

 「不思議ね。あなたと話してると考えるのが嫌になってくる。これって仕事を忘れて休めてるってことかしら」

 

 どこか憮然とした様子でエレナが言う。シオンは尚もペニスをゴシゴシと扱いていた。

 竿を握る手が上下する度、余った包皮がずりずりと動く。赤々とした亀頭が見えたり隠れたり、大量のカウパーを溢れさせながら、面白い光景だ。

 へぇ、とエレナが感心する。思えば男性の自慰行為など見たことがない。知識としては知っていても自分の目で見るのは初めてだった。

 考えることが面倒になったついでにしばし観察する。腰を小刻みに動かしながらも、浅ましくもペニスが自分の手で悦んでいた。

 

 「ふぅん、男性はこうやって自慰をするのね……そういえば私も、人生で数えるほどしかしたことがないわ」

 「はぁはぁ、エレナさんが見てる、僕の勃起チンポ見られちゃってる……!」

 「見られてるというより、私の方が見せつけられてるような気がするけれど。あなたにとっては真実なんてどうでもいいのかしら」

 「あぁぁっ、気持ちいいっ! 見られながらオナニー気持ちいいっ!」

 「聞いてないのね。まぁいいわ」

 

 長い脚を組み、肘をついて手に顎を置く。そのままじっと見つめ続けてみた。

 シオンの顔は真っ赤になり、緩んだ頬はだらしなく、嬉しそうにペニスを扱いている。それが本当に幸せそうに見えたのだから不思議なものだった。

 思い返してみて、今まで彼がそこまで幸せそうにしている顔など見たことがあっただろうか。笑顔なら何度も見たことがあるが、たった今目にした笑顔を見た後では、今までが他人を気遣って無理やり作っていたのではとすら感じてしまう。それだけ現在の彼は心から幸せそうにしていた。

 おかしなものだ。誰からも好かれる頃には幸せそうでなくて、誰からも妙な目で見られるだろう今の方が幸せそうだなんて。

 

 「ねぇシオン、さっきのあなたの持論。あれは女性にも当てはまるのかしら」

 「え? どういうことでしょう」

 

 気付けばそんなことを口走っていた。

 必死にペニスを扱くシオンとそれを見つめる自分。傍から見ればなんともおかしな二人組だろうな、なんて想いつつ。

 ひょっとしたら自分が命令しているのだと思われてしまうかもしれない。脚を組んで、偉そうに一人だけイスに座ったりして。彼が来る前からの体勢だったから仕方ないのに、きっと周りの目があればそうなるだろうとも思う。

 知らぬ間に楽しくなっている自分がいた。ここまでのバカが相手だと気分が緩むものなのか、全裸の男を前にしても危機感はなく、楽しみながら平然と話せている。

 これだけリラックスしていれば、きっと良い休暇になるだろう。そんな気がした。

 

 「裸を見られるのは良い刺激って話。体の形が違うのは男性だけじゃなく女性も同じでしょう? だから男性だけに当てはまる推論ではない気がするの。と言うことはつまり、あなたは私にも脱げと言うつもりかしら?」

 「いえ、一概にはそうは言えません」

 「あらどうして?」

 「裸になればエロいみたいたこと考えてる人がいますけど、そうじゃありません。見えなくたってエロいんです。いやむしろ見えないからこそエロい状況だってあり得るわけです。例えばそう、むっちむちの体をちょっとだけ隠してるビキニとか」

 「そうかしら。自分ではあまり考えたことないけれど」

 「見えないからこそ見たいと、男は強く思うわけです。あぁその布切れ一枚の下はどうなってるんだ、と想像して妄想して、興奮します。かといって薄着であればエロいのかとかそういう単純なことでもなく、この辺は状況とおしゃれの具合で変わってきますが、厚着してたってエロい人はエロいんです」

 「難しい話ね。じゃあ、今ここで私が裸になってもあなたは興奮したりしないのかしら?」

 「物凄く興奮します!」

 「話に矛盾がない? 結局裸になっても興奮するのね。ふふっ、それとも私だから?」

 

 くすくすと大人びた顔で笑う。そんなエレナを間近に、いよいよシオンは射精感を堪え切れなくなっていた。

 透き通るような白い肌に、金色のビキニのコントラスト。太陽の下で彼女だけはパラソルの影に入り、大自然の解放感も心地よい。

 もはや一切の我慢もなく激しくペニスを扱きたて、エレナの全身を見つめながら目が血走っていた。

 そしてついにその時を迎える。さらに一歩を踏み出して前へ出て、腰を突き出して少しでもペニスの先端を彼女へ近付けようとする。

 

 「あぁぁっ、イクっ、イキますエレナさんっ! 精子大量に出ちゃいますぅ!」

 「えっ、あっ――」

 

 反射的にエレナは後ろへのけ反った。しかしそれで逃げられる距離ではない。

 先端の割れ目からびゅっと勢いよく精液が飛び出し、エレナの胸へとかけられる。それだけでなく大量に降り注いだそれは腹や股を覆う水着にも飛び、当然とばかりに太ももへも多量に降りかかった。

 シオンは満足そうに息を吐いた。徐々に固さを失くすペニスを尚も扱き、プールサイドへぼたぼたと精液を垂らしながら。

 エレナは、呆然としていたようだ。体に精液をかけられ、犯人は謝るどころか満足げな表情。突然過ぎる事態に思考が上手く働いていない。

 

 「ふぅーっ、気持ちよかったぁ。いやぁ、エレナさんの体がどう見てもエロすぎるものでつい――あれ? エレナさん?」

 

 自分の体を見下ろす。見慣れた体に、自分の物ではない体液が付着している。

 とろりと粘度があって臭い匂い。肌の上を這いまわるように重力に従って下へ向かい、垂れている。汗を掻くのとはまた違った感覚だ。

 改めて間近に見て、さほど嫌がっていない自分に気付いた。

 試しに指先で胸に張り付いた少量を掬いあげてみる。不思議と嫌ではない。気持ち悪がってもいない。

 かといって好きなのかと言われれば、舐められるかと考えればそれも違うが、久々となる男の精液に恐怖心や抵抗はなかった。

 指先をじっと見つめた後、エレナはゆっくりとシオンの顔へ目をやる。

 

 「呆れた。自分の恋人でもない女性にこんなものかけるなんて」

 「うぅ、すみません。ハッ!? ひょっとして僕、叱られるんですか? エレナさんにきつく叱られてしまうのでしょうか?」

 

 なぜかハァハァと息を乱すシオンを凝視し、片時も目を離さない。

 指先の上を滑った精液の塊が、糸を引きながらぽたりとプールサイドへと落ちる。

 

 「あぁっ、叱られるんなら踏まれたり金玉を蹴られたりしてみたい。いやむしろ何もされない系? して欲しいのにされないという焦らしもあり?」

 「叱ったりしないわ。あなたを喜ばせるだけでしょうし」

 「えー、叱らないんですか?」

 「残念そうね。やっぱり怒鳴らなくてよかったわ」

 

 塗りこむように肌の上を撫で、ねっとりと絡みつく精液で遊ぶ。

 なぜそうしていたのか自分でもわからない。ただ、きっと常夏の日差しにあてられたシオンに感化されたか、或いはおかしな姿と思考の彼自身にあてられてしまったのだろうと考えれば納得できた。

 いつしか体が火照るようで。久しぶりに間近に感じた男に興奮してしまったようだ。

 わずかに目の色を変えたエレナは濡れた指先を口元へ運び、熱くなった息を当てた。

 日差しのせいではない。彼女はパラソルの下に居る。徐々に強くなる熱は自分自身の内側から溢れてくるものだ。

 ついに最後の一線、精液がついた指先に舌を這わせる。

 興奮した面持ちでペニスを勃起させたシオンを挑発するかのように、薄く笑うエレナはわかりやすくちろちろと指を舐めてみせた。

 

 「また勃起しちゃったの? こんなに出したのに満足できなかったようね」

 「それはもちろん。エレナさんのエロボディを見てたら何度だって勃起できますよ!」

 「正面から堂々と言われてこんなに困ったことはないわ。それにエロボディなんて」

 「最大級の賛辞のつもりです」

 「ありがとう。嬉しいかどうかは別として」

 

 指を口から離し、ふふっと小さく笑う。

 その直後、ゆっくりと組まれた脚が解かれ、股が開かれていった。

 誘っているとしか思えない表情と姿勢。暴れる性の化け物となったシオンに我慢ができるはずもなく、迷う素振りもなく視線はそこへ注がれて目が血走り、思わずゆっくりとだが顔を近付けようとすらしている。

 エレナはそんな彼を制止しようとはせずにそのまま見つめ、楽しげに声をかけた。

 

 「私を抱きたいの?」

 「はい! もちろん!」

 「ふふ、素直なのね。でもね、私もしばらくしてないの」

 「大丈夫です! 僕が満足させますから!」

 「そう。そこまで言うなら、お願いしようかしら」

 

 股間を覆うビキニへそっと指先を這わせ、わずかに力を入れて押してみる。

 普段よりも熱があり、少しだけ湿っているようにも感じる。自分で思っている以上に興奮していたようだ。

 

 「あなたの自慰を見てその気になっちゃったみたい。シオンのペニス、入れてくれる?」

 「もちろんですとも!」

 

 誘いに乗ってシオンががばりとエレナへ抱きついた。

 力強く抱きしめ、豊満な胸に顔を埋め、精液で汚れることすら厭わない。女体の柔らかさを確かめるべくぐりぐりと顔を押しつけた。

 非常に幸せそうな表情である。呼吸は荒く興奮しきった様子で、されるがままのエレナも苦笑していた。

 

 「ハァハァ、エレナさんのおっぱい……!」

 「ふふっ、もう少し落ち着いて。誰も逃げたりは――あっ」

 「んんんんっ、エレナさんの香りがっ、こんなにっ」

 

 首筋に吸いつきながら金色の髪の匂いを嗅ぎ、やけに強くペニスを彼女の股間へ押し付ける。我慢できない様子はまるで発情期の犬のようだ。

 彼女は慌てずシオンを抱きとめてやり、自らの指で秘所を隠すビキニをずらし、彼のペニスに手を添えた。

 挿入を促すべく先端を膣の入り口に当ててやる。途端にシオンは目を見開き、思い切り腰を前に突き出して膣の中へ入りこんだ。

 少し潤っていたとはいえ、まだ固さが残る感触。多少の痛みは伴ったがずるりと奥まで亀頭が進み、エレナは唇を噛んで目を閉じ、だらしない表情のシオンはびくびく震えてとても心地良さそうだった。

 

 「あっ、あぁぁぁ、気持ちいいっ」

 「うぅっ、くっ……んっ、まだ少し、早かったかしら」

 「はぁっ、エレナさん、エレナさんっ――!」

 

 両手でしっかりと乳房を掴み、唇をしっかりと塞いで、初めから全力で腰が叩きつけられた。

 ぐちゃりと肉が動く音が聞こえ、固くそそり立つペニスで体内を荒らされたエレナの体に力が入る。

 想像していた以上に強かった彼の腰使いは驚くほど膣内を敏感にさせ、思いやりを感じる暇もないというのに強い快感が伴っている。痛みも次第に薄れていくようだ。

 自然と呼吸は荒くなり、しかし口を塞がれ舌を絡められているため、鼻息ばかりが荒くなった。

 

 「んんんっ、んふぅー、んふぅーっ……!」

 「ふぅんっ、んんっ、んふっ……」

 

 堂々と外で、プールサイドで繋がり合う二人。解放感が凄まじく、興奮はいまだ治まるところを知らない。

 激しく腰を打ちつけ、ひたすら快感を貪った。

 大きな水音が辺りへ響き、止められることなく広がっていく。

 エレナは一度、逃げるようにキスをやめた。首を振ってシオンの口から離れ、思い切り口から息を吸う。

 その間も膣内は固いペニスが素早く出入りし、大きなカリ首がいちいち引っ掛かって、亀頭が子宮の入口を叩いた。

 自分でも意識せず高ぶりが大きくなっていき、気付けば知らぬ間にエレナの腕は彼の背中を強く抱きしめ、爪で傷跡を残してすらいた。

 

 「はぁっ、んんっ、は、激しいっ……!」

 「おおおっ、エレナさんっ、すごいですっ! すごく気持ちいいですよぉっ!」

 「くぅ、ふっ、あぁぁっ……」

 

 シオンの動きは落ち着くどころか、さらに激しくなろうとしていた。

 唐突に自身へ抱きつくエレナに体の向きを変えさせ、彼女を背後から抱きしめる。チェアの上で四つん這い、その後ろからシオンが覆いかぶさり、動物のように腰をぶつける。

 激しく揺れる睾丸が彼女に当たって乾いた音を立て、ますます興奮度が高まるかのよう。

 まさしく二人は今ばかりは人間であることを忘れ、一匹の雄と雌になっていた。

 野外という開放的なロケーションでただ性欲のみに執着し、これまで培った経験もモラルも捨て、膣から全身へ波紋のように広がる快楽に犯される。それがとても気持ちいい。

 今までの人生で、様々なことを経験したエレナにとっても初めての感覚だった。

 

 「あぁっ、んっ、あっ、あっ……あぁだめっ、おかしくなりそう……!」

 「くぅぅ、エレナさん、気持ちいいですよ! エレナさんのおまんこ最高です! 柔らかくて絡みついてきて、あぁ早く射精して精液注ぎこみたい!」

 

 握っていた胸から手を離し、両手で腰を掴んで腰を振ることに集中すると、今まで押さえられていた乳房がぶるぶると激しく揺れていた。

 背後から見ていてもしっかり確認できる大きさ。下半身がぶつかる度に衝撃のまま揺れ、それが見ていて気分が良くなる。

 幸せそうに頬を緩ませたシオンは俯いて嬌声を発するエレナの後頭部、垂れる金髪、白い背中、そこから垣間見える弾んだ乳房によってまたペニスを固くさせた。

 

 「んんっ、んっ、あっ、あっ――!」

 「あぁぁ気持ちいい。うぅぅ、出したいけど、ずっとこうしてたいなぁ」

 「はぁっ、あっ、あんっ、す、ごい……!」

 

 叩きつけるようにペニスが突っ込まれていたが、徐々に速度が緩やかになり、ゆっくりと止まろうとしている。

 大声で喘いでいたエレナだがそうなると不思議そうに表情を変え、息も絶え絶えに背後を振り返った。

 じっとりと汗を掻いて肌がきらりと光り、尚のこと美しさが増したと見える。気のせいかもしれないが、シオンは満足げに深呼吸し、ついに完全に動きを止めてしまう。

 

 「むふーっ」

 「んん、はぁ……どうしたの? 疲れた?」

 「いえいえ、まだいけますとも。ただせっかくエレナさんとの初セックスですし、もうちょっと色々したいなぁと思いまして」

 「んっ……例えば?」

 「じゃあまず立ちバックをしましょう! さっきからおっぱいが揺れまくってるのが気になってました!」

 「ふふ、もっと見たいの?」

 「はい!」

 「正直ね。それじゃあ、いいけど、あんまりやりすぎちゃだめよ。揺れると痛くなっちゃうから」

 「気をつけます!」

 

 繋がったまま、シオンの動きに従ってエレナがチェアから脚を降ろし、立ちあがった。

 互いに背を伸ばし、ふぅと息をついて。ほんの一瞬落ち着いてからまたゆるりと腰が動き始める。

 

 「んっ……これでいい?」

 「はい、最高ですっ。あぁでも、もっと色々してみたい気も……!」

 「はぁ、ふぅ、いいのよ。この島なら時間はたっぷりあるから。ゆっくり楽しめばいいじゃない」

 「はいっ、そうですよね! じゃあ遠慮なく!」

 

 括れた腰をしっかりと掴み、ぐいと強く腰が前後し始めた。

 途端にまた睾丸がぶつかり、パンっという音と共に水音が発して行為が再開する。二人の表情もすぐに変わった。

 どちらも快感を得て満足げな様子。

 今度は我慢せずに激しくペニスを出し入れする。だんだん余裕がなくなってきたエレナの膣からはわずかに潮が噴き出していた。

 

 「あんっ、あっ、あっ、あっ――だ、だめぇっ」

 「おおおおっ、やばいやばいイキそうだっ!」

 

 プールサイドにぽたぽたと滴が落ち、水たまりを作るよう。

 一心不乱にぶつけられる腰は尚も止まらず、しばらくは嬌声のみが広がる。淡々とした動きのまま時間だけが経った。

 邪魔する者はない。密室に居るわけでもないのに二人きりの空間。

 青空の下で性交していることを咎められないのはまるで自分たちが地球最後の人間なのではないかと思えてくる。気分はアダムとイヴであった。

 気持ちの高まりは抑えられず、二人が抱き合う姿は恋人にも近い。

 

 「うううっ、もうイキそうっ。イキますよエレナさん、中出ししますっ! 孕んでください! 僕の子供産んでくださいっ!」

 「あぁんっ、ちょ、ちょっと待って――ふぁあっ!?」

 「うぅぅーっ、せ、責任は取りますから! 結婚しましょう! ね! 僕と結婚しましょうエレナさん!」

 「あっ、そんな、あっ、あっ……!」

 

 大きな音が鳴る尻が揺れ、いよいよラストスパートがかけられた。

 シオンは荒々しくエレナを責め立て、彼女を絶頂へと導く。一方で自らも射精の予感を感じていた。

 

 「うおおっ、イクっ、イキますぅっ!」

 「はぁっ、あぁぁっ――!」

 

 ゴツっ、と子宮へ亀頭がぶつかった途端、勢いよく精液が放たれる。

 勢いよく大量に放たれるそれらは子孫を残すべく子宮の内側を目指し、しかし納まりきらずに逆流してくる始末。

 びゅっと外へ勢いよく洩れでて、繋がったままプールサイドへ精液が落ちた。

 二人はびくびくと震えたまま動かず、背伸びをするように脚を伸ばして気をやる。息をつけたのは数秒、じっと静止してからのことだった。

 

 「あっ、はぁっ、んっ……す、すごい量。こんなに、んんっ、中に出されるなんて……」

 「はぁぁぁっ、気持ちよかった……でもまだやりたいないです、エレナさん。もっとこのおまんこで射精したいです」

 「あっ、ちょっと」

 

 射精したばかりなのにも関わらず、いまだシオンのペニスは衰えを見せない。エレナの膣の中で固くそそり立ったままだった。

 これにはエレナも驚くばかり。だが尚も勇ましい彼の姿に、先程の絶頂の名残に頬が緩み、更なる快楽を得られるのだと知って嫌な気はしなかったようだ。

 またゆるりと腰が動き始める。鼻息は荒く、興奮は途絶えない。

 

 「んんっ、気持ちいいですよエレナさん。今度はエレナさんが上になってください。僕、そこに座りますから」

 「はっ、んっ、あっ。い、いいわよ」

 

 またしても繋がったまま位置を変え、シオンがチェアへと尻を降ろし、エレナもその上へ。

 軽くエレナの腰が上下しただけで、剛直なペニスがずるりと出入りして混じり合った体液が落ちた。

 二人は体勢を変えて快楽を貪ることをやめなかった。今やエレナも楽しむ様子で自ら腰を振り、彼のペニスを刺激してシオンの顔を蕩けさせている。

 そうして動いている最中、何かを思いついたらしいシオンが言った。

 

 「はぁっ、エレナさん、こっち向いてくださいっ。おっぱい、おっぱい欲しいですっ」

 「んっ、こ、このまま? もう、仕方ないわね」

 

 少し眉をひそめたエレナだが、接合を解かずに体だけを回そうと動く。彼の意図することを理解しているらしかった。

 ペニスを基点にぐるりと回って今度は正面から。豊満な乳房で顔を挟みこみ、再び背中へ腕を回して尻を跳ねさせる。

 同じ膣でも感触が変わるようで心地よい。

 ずこずこと下から突き上げ、たわわな体が大きく揺れる。まさに至福の一時だった。

 シオンの顔はさらに緩み、すでに怖いものなしと言わんばかりの態度。彼女の尻をしっかり掴んで離さない。

 

 「くぅぅ、最高だっ。ねぇエレナさん、気持ちいいですか? おまんこもうとろとろですよねっ」

 「あんっ、んっ、んふっ、き、気持ちいいわ……」

 「はぁ、じゃあもういいですよねっ。これからたくさんセックスしましょうね。僕たち相性ばっちりなんですからっ」

 「うんんっ、ふぅっ、あぁっ……そ、そうね。それも、いいかもしれ、ないっ――」

 

 強く抱き合った性交はなんとも心地よく、意識を集中すればすぐに気をやってしまいそうなほど快楽が伴う。

 どちらも全身に汗を掻いていた。互いの体液にまみれて尚気にすることなく続く性交。動物のようだという感覚が尚のこと強くなる。

 

 「またイッちゃいます! エレナさん、中に出しますよっ! うぅ、うぅぅ、孕めぇっ!」

 「あぁぁっ、あぁぁぁっ!」

 

 今度はぴたりと息を合わせて絶頂へ到達し、再び膣内に射精が行われた。

 勢いよく放たれたのだがそのままの勢いで逆流し、びゅっとプールサイドへ放たれていた。

 全身が震えて意識が揺れる。途方もない快感で今までに味わったことがないものだ。

 荒れた呼吸を整えるため、腰を止めて強く抱き合う。そのまま動かず、ただねっとりと舌を絡めて余韻を感じた。

 

 「んんっ――」

 

 数分間、体を微塵も動かさずに舌だけに集中する。深いキスが長く続いた。

 呆れるほど落ち着く時間だった。これまでの男に感じたことがない安堵。頼りがいがある、と言ってもいいのだろうか。

 ともかく最高の性交だったことに間違いない。二度の絶頂を経た今、エレナは確かにそう思う。

 

 「んっ……満足できた?」

 「いいえ、まだまだ!」

 「あらそうなの? もう、本当に強いのね。んんっ、確かに、固いまま……」

 「今すぐにでもできますよ! というわけで続きしましょう、続き! 今度はプールの中なんてどうでしょう!」

 「あんっ、そんな急に……あぁっ」

 

 ぐっと指が埋まるほど強く尻を掴み、彼女を持ちあげて立ちあがった。

 驚くエレナを落ち着かせる暇もなく下から突き上げながら歩き出し、軽々とプールの淵まで運んでしまう。

 しかし流石にそこでまずいと思ったか、ようやく接合が解かれ、エレナの脚が地面へ着く。

 並んで立った後、二人でゆっくりとプールの中へと入っていった。肌の表面には汗が浮かび、股からは男女の体液が混じり合って流れ出る状態。

 プールを汚してしまうのでは、と気付いたのは冷たい水の中に入ってしまった後のことだった。とはいえエレナの笑みが曇るわけでもなく、赤ん坊のように乳首へ吸いついてくるシオンの頭を撫でながら、ひどくやさしげな声色だ。

 

 「このまま入ってしまっていいのかしら。あなたの精液、プールに広がっちゃうわね」

 「はぁはぁ、いいんじゃないでしょうか。それはそれでなんだかすごくいけないことをしている感じが……!」

 「ふふふ、確かに。もう私たち、こんなことまでしちゃってるのだし」

 

 水中でペニスがぐいぐい腹の辺りへ押し付けられている。相変わらず興奮しきって我慢できない様子だ。

 仕方ないな、と思ってしまう程度には絆されてしまったらしい。エレナは嫌がるつもりもなく彼のペニスに手を添え、自らの膣に宛がった。

 

 「もう一度、する? 水の中でなんて初めてだけど」

 「もちろんしましょう! 初めてなら尚更!」

 「仕方ない子ね。それじゃあ、ここに――」

 

 そうやってエレナの主導でペニスが挿入されようとした時、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

 「シオンさん、少し話が違いますよ」

 

 凛とした、どこか怒ったように聞こえる声。それが聞こえた直後にプールに大きな水しぶきが立ち、隅に居た二人も頭上から大量の水をかぶる。

 何事かと思ってそちらに目をやれば、プールの中央へ飛び込んだのはビキニ姿の紅葉だった。

 長い髪がしっとり濡れ、顔を隠してしまうせいで表情が上手く読み取れない。ただし、きゅっと結ばれた唇から怒っているらしいことだけは理解できた。

 エレナはぽかんとした表情、対称的にシオンは何やら慌てている顔であった。

 

 「も、紅葉さんっ!? なぜか殺気を感じますが一体どうしてっ?」

 「私、確かに浮気は許しました。シオンさん、えっちな人だから仕方ないかなって。でもシオンさん、さっき、結婚しようって言ってましたよね。私と結婚する約束したのに」

 「ハァッ!? そういえば言ってしまったような気が! でもそれはエレナさんのおまんこが気持ちよすぎるせいで……!」

 「あら、私のせいなの?」

 「浮気は許しても、他の人との結婚なんて許せません。シオンさんのお嫁さんになるのは私だけです」

 

 やけに鬼気迫る顔つきでぶつぶつ呟きつつ、水面を揺らしながらにじり寄ってくる紅葉。そんな彼女を見てシオンは青ざめてひぃぃと悲鳴を上げていた。

 上手く状況が呑みこめない気もするが、とりあえず修羅場なのだろうということだけは理解できる。

 何やら危なそうだと感じたエレナはそっとシオンの傍を離れ、当事者とならないことを決めたらしい。

 ずらしたビキニを戻し、股を覆って、それからプールサイドへ上がって二人に背を向けた。

 

 「なんだか私はお邪魔みたいね。あとは二人で話し合ってちょうだい」

 「待って下さいエレナさん! まだ水中セックスの初体験が終わってない――!」

 「水の中でしたいなら私がお相手しますよ、シオンさん。浮気相手ではなく妻である私が」

 「あぁっ、目が怖い!? この目どこかで見たことあるぞ! 病んだ時のかすみさんと同じだ!」

 「シオンさんのお嫁さんは私です、私だけでいいんです。妻と呼ばれるのは、私一人なんですから――」

 

 物々しい雰囲気で聞こえるばしゃばしゃという水の音を背後に、くすくすと微笑むエレナは楽しげにその場を後にした。

 冷静になってみればなんだか雰囲気に呑まれていただけのような気もするが、悪くはない。今思い返しても充実した時間だったと思える。

 久しく忘れていた女としての喜び。彼はそれを思い出させてくれた。

 ザックアイランドに来て少しばかりおかしくなってしまったようだが、窮屈そうにしていた以前よりも自由奔放で自分に正直な今の方が好感が持てる。先程のひどい姿を見ておきながらそう思ってすらいた。

 またお願いしようか。どの道結婚も考えていない以上、そんな楽しい計画を脳内で立てつつ、ふと目についたの屋外のシャワースペースへ立ち寄る。

 隔てる物も何もない、本来は水着を着たまま水を浴びるための場所。ただぽつんとシャワーが伸びるだけのそこだ。

 シオンの姿を思い出し、くすりと笑ったエレナは、何を想ったかビキニを脱ぎ去ってそこへ立った。

 シャワーから水を出し、頭から浴びる。白昼堂々、誰に気を遣うでもなく全裸になって。

 

 「あぁ、気持ちいい……彼の言っていたことや気持ちも、わからなくはないわね」

 

 不思議な解放感。太陽の日差しと柔らかな風、そしてシャワーから降り注ぐ冷たい水を同時に感じる幸福感。なんともいえないものがある。

 腹を押さえればそこには確かに彼が放った精液があって、股から今も垂れ流れるのは彼との性交の証明で。

 楽しげなエレナは一通りに汗を流し終え、シャワーを止めた後、置いていた水着を手に取って歩き始める。もう一度身に着ける気はない。

 まるでシオンを真似るよう、堂々と胸を張って裸で外を歩き、エレナはひとまず自分が泊まるコテージへ向かっていった。

 日の光を浴びて、水滴を纏った白い肌と金色の髪が美しく輝き、同じだけ彼女の笑顔も輝くようだった。

 



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楽園での静寂:クリスティの場合

 ザックアイランドに夜が来た。

 ただでさえ人の姿が少なく、静かな島内で更なる静寂が存在している。

 こんな時間帯には出歩く人間も少なかった。

 時刻は深夜。すでに寝静まっている者も多く、一日を終えている者も少なくない。

 

 そんな中で彼女は一人、バーに居た。

 グラスの中でわずかに揺れた氷を眺め、ウイスキーの美しい色を眺める。その表情は微笑みを称えつつ、彼女特有の冷たさも持ち合わせており、近寄り難い雰囲気を持ちながら妙に艶めかしい。

 蛇柄のビキニだけを身に纏い、室内であっても肌を露出させている。

 夜になってもまだ暖かさを感じるのが原因だった。

 

 不思議と眠れない夜だ。グラスに口をつけて喉を鳴らした彼女は熱い吐息を吐き、カウンターの向こう側に居る人物へ声をかける。

 

 「ふぅ……ここに来てから何もしていないな。自分がダメになっていく気がするよ」

 「たまにはいいんじゃないですか? 働いてばかりだと疲れちゃいますから」

 「たまにあるんだ。全部どうでもよくなる瞬間が。このまま危ない橋を渡らず、平和に暮らせたとしたら、それもいいかもしれないって……フッ。似合わないな」

 「そんなことありませんよ。クリスティさんにだって幸せになる権利はあるんです」

 

 視線を上げれば、人懐っこい笑顔が見えた。

 少し前とも違う堂々とした立ち姿。

 親しげに笑う彼は子供に言い聞かせるようにやさしく語る。

 

 「クリスティさんも頑張ってきたんでしょう? そりゃ悪い事してたのかもしれませんけど、でもやり直すチャンスだってきっとあるはずですし。どう生きるかなんてクリスティさん次第ですよ。このまま平和に生きるのだって、難しくありませんって」

 「やり直すチャンス、か」

 「必要があるなら僕も手伝います。もう太陽の下で暮らしてもいいんじゃないですか」

 

 やさしく問われてみれば、ふと考えてしまう。

 これまでは裏の仕事に関わっていた。いつしかそこでプロとなった。敵う者などおらず、嘘をついて他人を蹴落とし、そちらの道では有名になった。

 仕事にありつけたのもそのためだが、考えてみたことはある。それもごく最近。

 もしこの道に居なければどんな人生だっただろうかと。

 

 彼を見つめて考える。しかし真剣に考えてみようとしたのだが、今になって彼の姿を思い出し、ぷっと噴き出してしまった。

 

 「裸で立ってる奴に言われてもね。そもそもあんたが太陽の下で生きられないだろう」

 「はっはっは」

 

 素っ裸で立つシオンはカウンターの向こうで笑っただけだった。

 その体に布切れ一つ纏わず、美女を前にしたせいか勃起するペニスを見せつけたまま、隠すどころかむしろ腰を突き出すように、仕事をしながら悦に入っている。

 雰囲気や態度とは裏腹な光景は常人ならば戸惑いを隠せないだろう。

 案の定クリスティは呆れた顔になっていたが、それでも不意に微笑み、肩の力が抜けたようだ。

 

 「いやこれが意外と心地いいんですよ。クリスティさんもどうですか?」

 「私に、ここで裸になれって?」

 「是非とも見たいです。あっ、いや、是非とも体感してもらいたいです。ヌーディストの素晴らしさを」

 「ヌーディストと言うよりただの犯罪者に見えるが」

 「仕方ありません。芸術の極みと犯罪は紙一重ですから。すごく遠いようで実はすごく近い場所にあるんだと思います、僕は。なのでそんなつもりはありませんけど、これで犯罪者と言われるならば甘んじて受けましょう。さぁ、罵ればいいじゃないですか」

 「まさか罵られて喜ぶ訳じゃないよな?」

 「はっはっは、そんなまさか」

 「このクズ野郎が」

 「おふぅ……!」

 

 瞬時に頬を赤らめ、天を仰いだシオンは、自らの手でペニスを扱き出した。明らかに興奮している面持ちで我慢しきれておらず、きっかけとなったのは先の一言だろう。

 言葉にせずとも分かり易過ぎる。

 

 クリスティは上機嫌に微笑み、頬杖をついて楽しげにしていた。

 突然始まったシオンの自慰を見守ってやり、そのやさしげな視線が余計に彼を高ぶらせる。

 

 「はぁはぁ、そんな目で見つめられると、僕はもう……」

 「言ってることと反応がちぐはぐだね。冗談で言ったつもりだったけど」

 

 見る見るうちに割れ目から体液が漏れ出してきて、指に絡まってくちゅくちゅ鳴り始めた。

 手の動きはどんどん速くなり、頬は緩んで紅潮し、一人で勝手に気持ちよくなっているようだ。なんとなく見ているもののおかしな状況である。

 

 クリスティは口を閉ざして見つめていた。

 別に嫌悪感がある訳ではない。かと言って見つめるものでもないが、他にやることがなかった。

 興味を持つ訳でもなく、恥ずかしがる訳でもなく、ただなんとなく見つめられる。そんな素振りのせいか、余計にシオンが興奮してしまうらしい。目の色が明らかに違った。

 

 「あぁ、うぅ、イキそうですよクリスティさん」

 「へぇそう。別に頼んだ覚えはないけど」

 

 ゴシゴシ激しく扱きながら、シオンがクリスティを見る。懇願するようでありつつ全身を舐め回すような視線でもあり、器用なことができるものだと感心した。

 

 「どうでしょうかクリスティさん。この島に居ると男照りがひどいでしょう」

 「そうだね」

 「ここに活きのいいのが居るんですけど、どうでしょうか」

 「何が? 遠まわし過ぎてよくわからないね」

 「ああもうはっきり言いましょう。僕とセックスしませんか?」

 

 明らかに興奮した面持ちを隠さず、問うてみれば、クリスティは表情を変えて淫らに微笑む。

 彼の顔を見つめ、気分を害した様子もなく答えを出した。

 

 「私としたいのか?」

 「はい!」

 「迷いがないな。確かに、ちょっと退屈にはなってきた感じはあるか」

 

 ふむと頷いて、扱き続けられるペニスを見る。

 カウンターの向こうで見えにくいはずが、彼が腰を突き出すせいで見せびらかすかのよう。そのせいで良くも悪くも分かり易く確認できた。

 

 それなりのサイズではあるだろう。生娘ではない故に見た経験もあるとはいえ、前に見たのがいつだったかさえ思い出せない。ご無沙汰と言えばその通りだ。

 面白い、と思ってしまう。

 普段ならばまず思わないだろうがこの環境のせいだろうか。

 男の自慰をじっと見つめる自分はおかしいと気付くも、悪い気分ではない。

 

 たまには羽を伸ばして楽しんでもいいかもしれない。

 艶めかしく手を動かして、左手で自分の胸を軽く持ち上げ、ぽよんと揺らした。

 その柔らかな動きを見てより一層、シオンが鼻息を荒くする。

 

 「なら、試してみなよ。そこから飛ばして一滴でも私に届かせれば、その時はこの場で裸になって股開いてやる。あとは好きにしな」

 「マジですか!?」

 「どうせやることもなかったしな。ま、たまにはいいだろう」

 「絶対届かせます! そしてその時にはもう、そりゃあもう――!」

 「うるさいな。さっさとイケよ変態」

 「あふぅ……!」

 「やっぱり喜ぶのか」

 

 さらに手の動きが激しくなって、腰を揺らしながら射精した。

 勢いよく飛び出した精液は宙を舞い、カウンターに落ちる物もあるが、越える分もあって、気合いの表れか確実にクリスティの頬へと届いた。

 

 ほんの少量。ぺたりと付着する。

 彼女は笑ってそれを感じ、指先で掬って眺めてみた。

 ずいぶん濃い。濃厚と言うべきか、真っ白でどろりとしたそれは久々に見る物。微笑んだクリスティは試しにぺろりと舐めてみた。これは初めての経験である。

 

 気分は良くない。従って床を目掛けて思い切り吐き出した。

 あまりに乱暴で男っぽい仕草。

 若干ではあるものの機嫌を害した表情も伺えたが、それを見てもシオンは怯むどころか喜んでいる様子にも見え、頬を紅潮させ、口元がだらしなく緩んでいた。

 

 「まずっ」

 「そ、そんなに言わなくてもいいじゃないですか……ハァハァ」

 「まぁしかし、本当に届かせたね。じゃあしょうがない」

 

 席を立ったクリスティは、全く考える素振りもなく水着に手を伸ばした。

 ビキニを脱いで胸を露わにし、股を露わにし、ついでにサンダルを脱ぎ捨てる。

 完全に裸となって、彼女は誇らしげな笑顔で腰に手を当てて立つ。薄暗いバーのライトの下、あまりにも美しい姿である。見惚れぬ男など居るはずがない。

 

 射精したばかりのシオンはすぐに勃起して、慌ててカウンターを飛び越えた。

 堂々と立つクリスティの前へ移動し、体の震えを抑え切れず、わなわなと手を伸ばす。

 

 「お、おおぉ……!」

 「約束だからしょうがないね。相手してやるよ」

 「ぜひ!」

 

 許可を待たずにシオンが彼女へ抱き着いた。

 左手で乳房を掴み、右手で股間を撫でる。興奮し切ってどことなく乱暴に、熱い吐息を白い肌に吹きかけながら、さらには股間まで彼女へ擦り付け始める。痛いほど勃起したペニスが、カウパー液を太ももに塗りたくって強い刺激を求めていた。

 

 浅ましい姿に、クリスティは笑みを深めて抱きしめ返す。すると間を置かず、髪を掴んでぐいっと顎を上げさせ、無理やり唇を奪った。

 彼の口内に舌を突っ込み、縦横無尽に舐め回す。

 嫌がるどころかシオンは喜び、自らも舌を動かした。

 

 キスをしながら愛撫を始める。

 クリスティも彼の肌に手を這わせて、やがてペニスにも触れた。

 指を絡めて緩やかに撫でてやり、表情を変えたシオンが吐息を漏らす。反応してクリスティも、にんまり頬を緩めて喜びを表した。

 

 「んんっ、ふぅ……はぁ」

 「あんまり乱暴にするんじゃないよ。適当にやるならへし折るぞ」

 「へし折られるんですか……そ、そんなっ」

 「おかしいな。なんでそこで笑うんだろうな」

 

 だらしない笑みを見せるシオンに呆れつつ、彼のペニスをきつく握りしめた。それもまた彼にとっての喜びとなっているらしく、彼女にとっては素直に喜べる様子ではない。

 

 シオンはすでに我慢できないらしい。

 荒々しく彼女の乳首を舐め、指が膣内へ侵入して内壁を撫でており、もはや自制できない状態。

 そんな彼にクリスティが言った。思いのほか上機嫌な表情で、楽しんでいるのが伝わる。

 

 「そんなにがっつくなよ。童貞みたいだぞ」

 「クリスティさん、僕は中出しが好きなんですっ」

 「はっきり言うね。もう入れたいって意味か?」

 「もちろんそうです」

 「前戯もそこそこなのに」

 「でもクリスティさんだって濡れてるじゃないですか。もう入れましょうよ、ね?」

 「気の早い男はモテないよ」

 「いえ、一回出せば落ち着けますから。むしろそこから本番ですよ」

 「さっき一回出してただろう」

 「あれはオナニーですから、ノーカンということで。やっぱり中に出してからじゃないと」

 「別に私は、中出しを許した訳じゃないけど」

 「責任は取りますっ」

 「今まで何人にそのセリフを言ったんだ?」

 「大体四人くらいじゃないですかね」

 

 発言を聞いてクリスティはやれやれと頭を振った。

 あまり真面目に話してはいけないらしい。すぐに思考を投げ打って、仕方ないと割り切るようになった。そうできたのも事前に島内での彼の行動を耳にしていたせいでもある。

 やはり暑さで頭のネジが飛んでしまったようだ。

 

 ペニスを擦り付けてくる彼を受け止め、苦笑するも、逃げはしない。

 あくまで仕方ないという態度で、手でペニスを導いて亀頭を股に擦り付けさせた。こうなればシオンの体が喜んで反応する。今すぐにも挿入したいと強く擦り付けて前後に動き出す。

 

 射精したいと全身で訴え、表情には余裕がない姿だった。

 

 「い、入れましょうクリスティさん。そっちの方が気持ちいいですから」

 「ハァ、まぁいいよ。ちょっと面倒になってきたし」

 「いいんですか!? じゃあもうイっちゃいますよ!」

 「はいはい。好きにしな」

 「それじゃあ、後ろ向いてもらえますか。そっちの方が、ね。良いですから」

 「何が良いんだか……」

 

 そう言いつつもクリスティは後ろを向いて、指示通りに尻を突き出す。挿入しやすい格好である。これを見てさらに興奮したシオンは尻を強く掴み、ペニスを膣口へ擦り付ける。

 すでに濡れていることが確認できた。同じく彼もまた我慢できない。

 

 狙いを定め、腰を前へ突き出した。

 ずるりと膣へ入っていくペニスはぎゅっと締め付けられる。

 心地良く、慣れを感じさせながら刺激が強くて、思わず溜息が漏れ出た。

 

 しっかり腰を掴んでピストンが始められる。

 座っていた椅子に手をつき、クリスティは淡々とそれを受け止める。表情こそ冷静で感じていないようにも見えるものの、わずかに声が漏れ、確かに感じてはいるらしい。しかしそこに気付く様子もなく、シオンは我武者羅に腰を振って楽しんでいた。

 

 「はぁ、あぁっ、きもちいいぃ……!」

 「んっ、んっ、んっ――」

 「クリスティさん、どうですかっ? クリスティさんのおマンコ、いい具合ですよっ」

 「ふっ、ふっ、そうか……んっ、んっ」

 「僕のチンポはどうですか? これでもそれなりだと思うんですっ」

 「んっ、あっ、いい、感じだよ……これはこれで、んっ、んっ」

 

 突かれるままに体が揺すられ、胸が動き、尻が波打つ。

 裸体の彼女はどこから見ようとも艶めかしく、背中に惚れたシオンは思わず上体を倒して口付ける。それでも腰は止めない。ペニスへの刺激が絶えず与えられていた。

 

 静かな店内で肉がぶつかる音だけが聞こえる。他に雑音はなく、それこそが雑音だとも言えるが、余計な会話もせずに二人は行為に集中していた。

 否、本気で集中していたのはどうやらシオンだけのようだ。

 クリスティは彼の動きに合わせて喘ぎつつ、ぼんやり中空を見ている。感じてはいた。しかしそれに集中している様子ではなくて、片手間に楽しんでいる姿である。

 

 淡々とした姿でしばし快楽を貪っていた。

 雰囲気はちぐはぐで噛み合っていない気もするが、両者が共に快感を得ているのは確からしい。

 シオンが天を向いて目を閉じ、気分を高ぶらせて叫び出した。

 

 「ああぁっ、イキます! イキますよクリスティさん、中に出しますから孕んでくださいっ!」

 「んっ、あっ、あぁっ――」

 「おおおっ、奥に、奥に……孕めぇっ!」

 

 膣内で勢いよく射精された。

 クリスティは目を閉じて身を硬くし、シオンは全身を痙攣させて天を仰ぐ。直後に脱力してシオンが彼女の上へのしかかり、絶頂の余韻から動けなくなる。

 

 膣からは大量に出された精液が溢れ出していた。一方でペニスの硬度は全く衰えず、今も彼女の中で硬くそそり立っている。

 クリスティが気だるげに振り返れば彼と目が合った。

 すでにシオンもその気で、緩やかな速度でペニスを前後させており、辛抱堪らんといった顔。

 出したばかりでずいぶん元気だ。呆れながら苦笑する。

 

 「クリスティさん、僕まだできますよ。もう一回しましょ、ね?」

 「ん……仕方ないな」

 「今度はクリスティさんが上になってくださいよ。僕を犯すみたいに!」

 「おまえはどうなっちまったんだ」

 

 何やら興奮した面持ちの彼に気圧され、仕方なく従ってやることにした。予想よりも良かったこともある。これくらいならば良い遊びになるだろうと、楽しくなってきた節すらあった。

 

 シオンが床に寝そべった。

 ペニスだけがビンと立っており、生真面目に気をつけする姿は間抜けである。しかし彼は恥じることもなくクリスティを待っていた。呆れを通り越して尊敬すらできてしまう。

 溜息を一つ。

 クリスティは足を伸ばし、何気なく彼のペニスを踏みつけた。

 

 「おふっ!?」

 「おまえ、マゾなんだろ? だから犯して欲しいとか言うんだろうが。だったらこういうのも好きなんじゃないか?」

 「べ、べべべ別に好きなんかじゃ……」

 「素直になれよ。ほら、ほらぁ。こうやって踏みつけられて嬉しいんだろ」

 「ああぅ、う、嬉しいですっ。クリスティ様に踏まれて嬉しいですぅ!」

 「ハハハッ、こりゃいいや」

 

 最初は戯れに踏んでやっただけだが、予想以上の反応に気を良くする。

 クリスティの顔は悪戯っぽい笑みで輝いていた。

 

 「いいおもちゃを見つけたな。おいシオン、私の下僕になるって言うなら足でイカセてやってもいいけど、どうする?」

 「なります! いえ、ならせてください女王様!」

 「ちょっと従順過ぎて張り合いない感じだけど、まぁいいか。ならイカセてやるよ」

 「はぅぅ……!」

 

 踏みつけたままで足を使い、根元から亀頭まで扱きあげる。

 力は強く、痛めつけるようだがそれで満足らしい。シオンは明らかに喜んでいて、我慢せずに声を出していた。バーの中には彼の声が響き、さらにクリスティの機嫌を良くする。

 異質な二人のみが存在する空間。

 そこへ静かに乱入する人影が一つあった。

 

 「ククッ、浅ましいな。人間のクズみたいな格好だ。こんなんで気持ちよくなるなんてなぁ」

 「あぁ、言わないでください……でも言って欲しいっ」

 「強くして欲しいんだろう? ならもっと鳴いてみな。そんな声じゃ聞こえないよ」

 「あああっ、きもちいいですぅ!」

 「あら、ずいぶん楽しそうね」

 

 聞こえてきた声にクリスティが振り返る。

 店の扉を開き、入ってきたのは笑顔を称えるエレナだった。彼女が島に居ることは知っているが、その姿、全裸にも見えかねないほど小さな水着を纏うのみ。ライトに照らされた白い肌はあまりにも妖艶で、水着というよりほとんどヒモである。

 踏まれるシオンは気付ける余裕がない。朗らかに喘いで目を閉じていた。

 必然的に二人の視線が交わる。

 

 店の中で全裸になり、股から精液を垂らすクリスティ。

 ヒモ同然の水着でほとんど裸体を晒し、一人でやってきたエレナ。

 似ていなくとも卑猥な格好で、不思議な空気に包まれるのも仕方ないだろう。さらにその場にはシオンが居て、全裸で寝そべり、暴発寸前のペニスを踏みつけられて喜んでいるのである。

 

 ぐりぐりと動く足を動かさぬまま、クリスティはエレナを見て笑った。

 表情は笑みでも、友好的な態度ではない。警戒しているのか、態度は決して柔らかくなかった。

 

 「妙な格好してるね、お嬢様。こいつよりはマシだけど、男漁りでもご所望かな?」

 「あいにくあなたが望んでいる通りではないわ。彼を探していたのは事実だけれど」

 「男が喜びそうな格好で、こいつに会いに来たんだろ? なら思ってる通りじゃないか」

 「あなたの方こそ、他人のこと言えないじゃない」

 

 淫らな動きでペニスを踏む足は嫌がっておらず、自ら喜々として動かされている。

 それを見てエレナが首をかしげれば、クリスティは鼻を鳴らした。

 

 「私はいいんだよ。こいつは可愛いペットだからね。精処理くらいは手伝ってやるさ」

 「あら、奇遇ね。私も似たような関係よ」

 「へぇそう。別に驚かないけどね、こんな状態じゃ」

 「うぅぅ、すべすべな足が僕を襲う――ハッ、新たな爆乳が!? エレナさんじゃないですか」

 「楽しそうねシオン。相変わらずで安心したわ」

 

 寝そべったままエレナを見つけ、扇情的な姿にシオンが目を輝かせた。何を想像しているのか、またしても口元がにやけている。

 二人は呆れてしまい、対立の意志を失くしてしまう。

 

 それでもクリスティの足は止まらず、尚もシオンを責め続ける。

 奇特な空気の中で淫らな行為。独特の緊張感は失われたものの、やはり異常だと感じる。

 今を異常だと感じるからこそ、シオンの声は大きくなっていたようだ。

 

 「あはぁぁっ、もうだめですっ、出ますっ!」

 「はぁ? まったく、堪え性がない奴だね」

 「あああっイク! イクイクぅ!」

 「うるさいな。イクなら早くイケよ、早漏変態男」

 

 踏まれた衝撃でまたシオンがイッた。

 勢いもそのまま、全く薄まらない精液が自身の体へ降りかかる。

 

 クリスティとエレナはその様をじっと見つめており、落ちていく光景まで確認していた。

 静寂の後、ふとエレナがくすりと笑う。

 振り返るクリスティが訝しむ視線を向けても、ひどく楽しそうにしていた。

 

 「ふふふ」

 「何笑ってるんだ。面白い物じゃないだろう」 

 「そうね。面白くはないけれど、これが素直に生きている人間の姿なのかしら。そう思うと少しおかしくなって。私も見習った方がいいのかもしれない」

 「フン、それでその水着かい?」

 「どうせ誰も見ていないわ。それに風が当たって案外気持ちいいものよ」

 「私は真似する気にはなれないね」

 「その格好で言うの? 残念だけど説得力はないわね」

 

 全裸でシオンのペニスを踏む姿を見て、クリスティはむっとして言葉を詰まらせた。人の事は言えない。彼女も裸で、しかもシオンと一戦終えたばかりだ。おまけに彼をペットだと称し、踏んづけて射精させて、少し前までは得意げにしていた。

 エレナはそんな彼女の様子を笑っている。

 同じ穴のムジナ、といった状況か。

 強く言い返せずに眉間に皺が寄った。

 

 その空気も感じずにシオンが顔を上げ、二人に目をやった。

 何やら目は輝いていて、すぐに嫌な予感を覚えるも、彼は予想通りの言葉を発する。

 

 「爆乳美女二人が揃ったということは、これはもう乱交ですかっ!?」

 「何言ってんだ、おまえ」

 「ふふ、本物のシオンね。全く変化が無くて安心したわ」

 

 ようやくシオンのペニスを解放し、精液が着いた足を床へ下ろしたクリスティはエレナを見る。とても正気の発言とは思えない彼の言動だが、非難する様子は一切ない。

 水着といい、態度といい、品行方正なお嬢様とは思えない姿だった。

 

 「嫌がらないんだな」

 「ええ、どうしてかしら。人生観が変わったのかもしれないわ」

 「良い変化じゃないね……」

 「あなたも嫌がってないじゃない。もう変わってしまったかしら」

 「誰が。こっちはただ呆れてるだけだよ」

 「二人とも早くっ。僕はもうこれ以上焦らされるのは……いや、それもいいけど、でも――!」

 「うるさい」

 「おふっ……!」

 

 クリスティは呆れた顔で、エレナは笑顔で。

 なんだかんだと言いながら彼女たち二人はシオンへ体を寄せ、バーの床で肌を合わせた。

 

 良くも悪くも彼に関わると変化があるらしい。

 島には女性しかおらず、唯一の男性が彼のみである。それもまた大きな影響となっていて、気分を解放的にしてしまう島の環境が、どうやら彼の大きな味方となっていたようだ。

 



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楽園での誘惑:ティナの場合

 久々に帰ってきました。
 特に意味なしのバカみたいな内容です。


 ザックアイランドに来て数日。

 毎日が穏やかに過ぎていき、同じく島を訪れていた女性と遊ぶことはあっても、戦いどころか喧嘩さえ存在しない安寧とした日々が続いている。これが一時だけのバカンスだということは理解していたが、いつまでもこんな日々が続けば、と思わずにはいられない。

 

 ビキニ姿のティナは砂浜に立ち、んーっと背伸びをした。

 美しい海。風景を輝かせる太陽の光。温暖な気候で、通り抜ける風が爽やかに感じる。

 彼女は上機嫌に微笑んでおり、日頃のストレスを忘れて開放的な気分になっていた。

 

 太陽が海から昇ってくる早朝。風が吹けば少し肌寒さを感じるとはいえ、流石は南の島。都会に比べれば水着だけで十分な気温だ。

 ティナは朝の爽快さを全身で感じている。

 しばらくは一人で海や島にある大自然を眺めていたのだが、一人ではもったいないと思い、誰か居ないものかと辺りを見回して歩き始める。

 

 外を歩いている人間を一人見つけた。シオンという名の青年がスタッフとして雇われているのは以前から知っていた。彼の姿を見つけてティナは駆け寄る。

 小走りで近寄り、大きな胸を揺らすティナに気付いて、シオンはにこやかに笑った。

 

 「やっほーシオン! おはよう!」

 「おはようございます。早いですねティナさん」

 「ええ! だってこんなに素敵な場所なんだもの。せっかくのバカンスなのにいつまでも眠ってちゃもったいないでしょ?」

 「あはは、確かにそうですね」

 

 溌剌とした様子のティナは疲れを一切感じさせない。日がある内は砂浜でビーチバレーをしたり海で泳いだりジェットスキーをしたり、夜になればカジノで豪遊し、連日遊んでばかりいるのだが睡眠の時間さえ惜しんでいるらしい。シオンはにこりと笑って応対した。

 ティナはうふふと楽しげに笑っており、二人が如何に良好な関係かはその姿を見るだけでわかるだろう。ティナがシオンを見る目はひどく優しかった。

 

 「ところでシオン、本当に裸なのね」

 「あ、気付きました?」

 「もっちろんよ。それにそんなに大きくしちゃって」

 「いやぁ、毎日出してるんですけど落ち着かなくって」

 

 ギンギンにそそり立ったペニスを揺らしながら、突き出すようにわずかに腰を前へ出して、シオンは恥ずかしげも無く堂々と胸を張っている。

 噂話なら聞いていた。しかしシオンはスタッフとしてそれなりに忙しいらしく、裸になった後に顔を合わせることはなかった。ティナがその姿を見たのは今が初めてである。

 

 中々の物。サイズはさほどすごいと思わないが、腹の方へ反り返っている様は硬そうで、思わず凝視してしまう。

 興味津々という態度のティナは恥ずかしがることもなく、表情は友人に対して柔らかく微笑んだまま、面白い物を見るようにペニスを見ていた。本人を気遣いもせずじっくり眺めたことでシオンはむしろ喜んでおり、アピールをするかのように自らペニスを揺らし始めて、気付けばカウパーが垂れていた。

 

 いずれ会うことになるだろうと思っていて、その時にはぜひとも味見を。以前からそう思っていたティナは大股でシオンに歩み寄り、躊躇いもせずぎゅっとペニスを握った。

 突然の行動でシオンの腰が引け、おふっと声を洩らす。

 

 「んふふ。ひょっとして私の体見て興奮しちゃった?」

 「は、はい! その通りです!」

 「あぁすごーい、かたーい……こんなに硬いペニス初めてかも」

 「おっ、おぉぉ、そんなお褒めの言葉を……」

 

 指先でそっとつまんで、わずかな力を入れて上下に擦る。感触を確かめたことでティナはうっとりした目でペニスを見つめ、頬を赤らめていた。

 彼女が体を寄せたことで素肌に胸が当たり、ふにゅっと形が潰れて押しつけられ、ビキニ越しとはいえその柔らかさを感じたシオンは自ら体を寄せようとする。今すぐにでも肉付きの良い尻を掴んでやりたかったがそうしなかったのは、彼が責められることを良しとしていたからだった。

 

 ティナが耳元へ顔を寄せ、ふぅと息を吹きかけながら、艶っぽい声で呟いてくる。

 シオンはびくびく体を震わせ、情けない声を出しながら喜んでいた。

 

 「ねぇ、私としてみる?」

 「はい! ぜひ!」

 「うふふ。ちょうどこの島には男が足りないって思ってたの。せっかくのバカンスなんだから、あなたの体で楽しませてもらうわね」

 

 ザックアイランドに来て数日。天国のような島だと思う気持ちに嘘はない。確かに心身ともにリフレッシュしていたのだが、ティナにしてみれば、せっかく楽しいこの場所に男が居なくて、普段ならできない楽しく開放的なセックスが足りないと思っていたところだ。

 シオンは顔見知りで友人。だが奥手で常識的な人間だと思っていたのに、何かあったのだろう。気付けば裸で外を歩き回る変態になっていて、この状況においてはティナにしてみれば好都合だ。

 

 了解を得たことで早速ティナは砂浜に膝を着き、眼前に置いたペニスへキスをする。シオンがびくりと震える反応も心地よくて、あぁ、ようやくだとにんまり笑う。

 ほんの数日とはいえ図らずも禁欲生活になってしまって、オナニーをするのもバカらしくて、代わりに日がある内に疲れ果てるまで体を動かして遊び、夜になれば毎晩のようにカジノへ行き、気が済むまでぐっすり眠った。それでなんとかしようと思っていたのだがもういいだろう。ちょうどそろそろシオンを捕まえてセックスしようと考えていたところだった。

 

 パンパンに膨らんだ亀頭に舌を這わせて、カウパーを舐め取る。

 久々のペニスに体が疼く。おまんこがすでに濡れているのは自覚していた。

 ティナは待ち切れずに大口を開けて銜え込み、激しく頭を振ってじゅじゅっと吸いついた。

 

 「おおぁ、そんないきなり……!」

 「んぢゅっ、ずちゅっ、んぶっ、んっ――!」

 

 激しいフェラチオにシオンの体が大きく動く。

 ティナは逃がさないように彼の腰に腕を回して、片手で尻の間を撫で、穴を見つけると指の腹をぐりぐりと押しつけた。

 じゅぽじゅぽと激しく音を鳴らして、溢れた唾液が口の端を濡らし、胸の谷間に落ちる。そのことに気付いていないのか、ティナは一切手を抜こうとはしなかった。

 

 待ち望んだ感触。否、期待以上である。サイズはともかく硬さが素晴らしい。これが自分の中に入ってきたら。そう思うだけで体が熱くなる。

 唇を尖らせてちゅううううっと強く吸い、じゅぽんっと音を立てて口を離した時、ティナは恍惚とした表情で目を細めていた。

 

 「はぁぁ……♡ これよこれ。これが足りないと思ってたの」

 「うぅぅ、す、すごい吸いつきだった……出なかったのが奇跡なくらい」

 「まだまだこれからよ。もっともっと楽しませてね」

 

 言って立ち上がったティナは瞬く間に自らのビキニを剥ぎ取った。シオンの前で裸体を晒して、彼の視線が鋭く突き刺さっていることを当然としており、恥ずかしがるどころかむしろ誇るようにして見せている。

 

 押さえつけられていた大きな乳房が解放されたことでぶるんと揺れる。

 腰は括れ、腹筋は薄く割れているのが非常にセクシーで、視線をさらに下げれば、想像していたがパイパンである。毛の無い股に視線が釘付けになった。

 シオンのペニスはさらに硬くなり、待ち切れずに自身の手で擦り始めた。

 

 彼が見惚れているのは間違いなくて、隠すつもりもなく、誰が見ても我を忘れるくらい注目していると感じるだろう。

 ティナは彼に近付き、もったいないと言わんばかりにペニスを擦る手を払いのけ、自らの手でこしこしと弱く擦ってやる。シオンはおふぅと声を出して喜ぶも、刺激が足りないのか、自分から腰を振ってさらに強い刺激を得ようとしていた。あまりにも浅ましい姿にティナは笑みを深める。

 

 「うふふ。だめよ、自分でしちゃ。これは私のなんだから」

 「あぁぁ、すいません……!」

 「もう我慢できないのね? いいわ。早速しましょう」

 「はい! 喜んで!」

 

 そう言いながらティナは彼のペニスを引っ張って歩き出し、ほんの少しだけ移動する。

 波打ち際に立ち、海を向いて、膝に手を置いて尻を突き出すとシオンに振り返る。

 差し出されたそこはおそらく多くの経験があるのだろう、すでに濡れそぼり、いやらしい形でシオンを待ち受けている。鼻先が触れそうなほど顔を近付けて、じっくり観察したシオンは、自分のペニスを扱きながら待ち切れないと鼻息を触れさせた。

 

 「一度海でしてみたかったの。さあ、来て。今日は一日離さないからね」

 「は、はぁい! 失礼しまーす!」

 「あぁんっ!」

 

 ズパン、と一気に奥まで突き入れられた。

 熱を持った鉄の棒が入ってきたかのように感じられ、ティナは息を詰まらせる。ぶつかった衝撃で尻の肉が大きく揺れて、シオンは咄嗟に尻を掴み、落ち着かない様子で深く息を吐き出す。

 男を捕えて絡みつき、決して逃がそうとしない柔らかい感触に強い締め付け。なんという肉穴。数多の男がこの穴で果てたのだろうと想像し、それを証明するかの如く、まだ衝撃で我を忘れたままのティナが自ら腰を動かし始める。

 

 ずるりと引っ掛かって引き摺りこまれるような感覚。抜かれようとする時に全体が強く吸いついてきて、奥へ入れ込む時には柔らかく包み込む。

 シオンはだらしない顔で口元を緩ませて空を見上げていた。自分が動かずともティナが動いてピストンしている。

 

 なんて気持ちがいいのだろう。

 シオンは脱力し、すでに自身が射精しているのにも気付かず、ティナもまた腰を振るために必死になっているようで、気付かぬまま熱い溜息を洩らした。

 

 「はああぁ、これ、すごぉい……! んんっ、これが欲しかったのぉ……♡」

 「うおおぉぉ、僕も、これが欲しかったでぇす……!」

 

 吐き出された精液があっという間に膣内を汚していたが、気にすることもなく、二人は互いに腰を振ってリズムを合わせる。

 主導権を握っているのは、激しく突かれるティナであった。高い声で鳴きながら動きはますます大胆になり、激しく尻を振る姿は見ているだけでも気分が良い。そこに自分のペニスを突き立てているのだ。シオンが黙っているはずがなかった。

 

 覆いかぶさるようにして胸を掴み、ぶるぶる揺れる柔らかいそれを、握り潰すかのように激しく揉みしだく。ティナは声を弾ませ、あっさり受け入れた。乳首をぎゅっと摘まれたことで全身を震わせて、まるで排尿するかのように愛液が飛び散る。

 

 「んんおぉ、あぁっ、あはぁん……! なかっ、はげしっ、かきまわされてぇ……!」

 「ふおおぉ……! すごいですよ、ティナさんっ。ティナさんのゆるふわおまんこがすごく絡みついてきて、僕を掴んで離しません……!」

 「んんっ、もっと突いて……子宮こじ開けるくらい強く突いてぇ!」

 「はいぃ!」

 

 シオンは言われた通りにピストンを激しくする。

 ティナは突かれる度に声を発し、嬉しそうに突き出した尻を回した。

 

 「あんっ、あんっ、くふぅ、んああんっ! そこぉ、おくぅ……♡」

 「うはぁ! ティナさん、もうぐちゃぐちゃですごいですよ!」

 「んはぁんっ! もっとぉ、かきまぜてぇん……! んんんっ、はんっ、くぅん……!」

 

 更なる快感を求めるティナは激しく体を動かしていた。

 シオンもまた応えようと腰を振っているのだが、やがては気をやってしまい、今度ははっきりと意識した状態で射精する。再びティナの膣内に精子を放った。

 ティナも気付いていたが止めるつもりなど毛頭なく、熱いものを感じながら、ペニスを奥までねじ込んでにやりと笑う。

 

 「あぁぁぁ、出されてるぅ……♡ これぇ、これが欲しかったのぉ……!」

 「おっ、ふぅ、はぁぁ……すごいですよ。たくさん出ましたよ、ティナさん」

 「んんっ、そうねぇ。でもまだまだ」

 

 ティナは前へ動いてペニスを抜き、正面から彼に向き直ると、わずかにくたびれた様子で下を向くペニスを優しく掴み、にぎにぎと指先で揉む。

 うおっと反応したシオンは瞬く間に硬くして、早くも次の準備ができている。

 にこやかに笑ったティナが彼に抱きつき、右足を上げた。

 

 「もっとしたいでしょう? ほら、おいで。もっともっと楽しみましょう」

 「はい!」

 

 良い返事をしたシオンはすかさず彼女の膣にペニスを突き入れた。ずんっと奥まで届き、悲鳴のようだが嬉しそうな嬌声が響き渡る。

 ただでさえ静かな島に、今は早朝。彼女の高く弾む声は遠くまでよく届いた。

 

 繋がったままでティナがシオンを押し倒し、寝そべったシオンの上で腰を振り始める。

 じゅぽじゅぽと掻き回されて愛液が噴き出す。

 待ち望んだ分、こんなにも気持ちよかっただろうかと思うほど満足感を得ている。しかしまだまだ足りない。もっともっととさらに求めるのだ。

 

 「あんっ。フフ、あなたのペニス、気に入ったわ。私が満足するまで使わせてもらうからそのつもりでね。頑張ってもらうわよー」

 「は、はぁーい!」

 

 シオンは嬉しそうに返事をした。嫌がる素振りなど微塵も見せない。

 自分の上でティナが激しく腰を動かし、ぶるんと胸が揺れているのを眺めながら、微笑む彼女の誘惑に乗って両手で尻を鷲掴みにして、自らも腰を動かし始めた。

 



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閃乱カグラ ~蒼の章~
若様、その護衛


半蔵学院に所属する特別な忍者。卓越した実力を持ち、最も「カグラ」に近い男と称される男は現在、ある任務を受け取っていた。
「半蔵」から与えられたそれは、「早くに自身の子孫を残すこと」だった。


 その少年、「若様」の愛称で知られる彼は元々捨て子だった。しかし現在ではすっかり、卓越した教育を施した霧夜という男の最も優れた懐刀として知られている。

 昼の顔はやさしく朗らか、どことなくおっとりとした姿なのだが、夜の顔を見せる時にはまるで違う顔を見せる。

 黒い着流しに赤い羽織と狐の面。二本の長刀を巧みに操ってあらゆる物を両断する姿はまるで鬼のようにも見え、互いの姿を見せた戦闘においては無類の強さを誇り、これまで彼と対峙して生き残った者は五人を越えないともっぱらの噂だ。しかもその内の一人が自身によくしてくれる「半蔵」という偉大な男であり、ただの試合で彼に汗を掻かせたのは早くも伝説として語られている。

 あれは決して怒らせてはいけない鬼だ。しかし仲間にすることができれば、必ずや自身の得になる。

 そうした話は当然のように人々の耳に入り、いつしか彼は「半蔵」を支える存在から、「半蔵」に守られる身となっていった。

 そう遠くない未来には忍者の最高峰「カグラ」に到達し、現代に残る忍者たちの中で、現在の忍のバランスを簡単に変えてしまうただ一人の忍者。

 その身を狙う者は多く、今では常に護衛が欠かせない。

 

 「あっ、んんっ、若ぁ――もうちょっと、待って――こ、このまま動かないで」

 「あぁ、わかった……飛鳥、痛い?」

 「ううん……でもこの方が、なんだか安心するから」

 

 と言っても、半蔵学院に所属する忍者の中で、彼の護衛を任されたのはまだ学生である五人の少女たち。若い男と女が文字通り毎日同じ時を過ごして、さらには互いの性格も合うというのであれば、結末は一つだ。

 おまけに学院の責任者である半蔵も若と呼ばれる少年に対し、「おまえの遺伝子を後世に残せ」と命令するため、近頃の彼の任務は「護衛の少女たちに子を孕ませる」ということに尽きていた。

 よって、護衛を務める彼女たちとそうするのは常日頃の当たり前のこと。

 今日も若は彼女たちに催促されて、五人を同時に相手してやろうとしているのである。

 

 「飛鳥のなか、やっぱり狭いな。こうしてるだけでも気持ちいいよ――きゅって締め付けてくる」

 「いやぁ……そんなこと、言わないでぇ……」

 「照れ屋なんだな、飛鳥は――あ、また締まった」

 「うぅ、ナチュラルなのに変態だよ、若ぁ」

 

 場所はいつも通り、山のふもとにぽつんと立つ彼だけが住む日本家屋。私室にしている縁側に面した部屋で障子をすべて開け、穏やかな陽光や緑の木々を見ながら。

 若は清潔な布団の上に飛鳥という少女を寝かせ、大きく開かれた股に自分の股を寄せて、すでに慣れ親しんだ膣へ勃起した陰茎を侵入させていた。

 黒髪のポニーテールはへにゃりと白いシーツの上に横たわり、普段は溢れる元気を感じさせる大きな黒目はとろんと呆けて、一糸纏わぬ裸体を陽光の下にさらけ出している。唯一の例外は首元の赤いスカーフだけだ。大きな胸は恥ずかしがった腕に隠されようとぎゅっと寄せられ、頂点にあるはずの物が見えず、しかしすべてを隠すことはできずにくびれのある腹や薄い陰毛が少しばかり生えた陰部などは、すべて若の目にも見えている。

 何度も交わした行為だが、やはり日のある内に、明るい中ですべてを見られながらは恥ずかしい。そう恥じらいを見せる飛鳥ではあったが、相手は朝も昼も夜もなく、交代してきた女たちを必ず満足させなければならない若。恥ずかしいならやめよう、などという展開になるはずもない。

 すでに一つになっていた彼らはそのまま言葉を交わし、少しもすれば若の方から続きを促す。すでに小刻みに動き始めており、大きくなった亀頭がコツコツと子宮口を叩いていた。

 

 「飛鳥、そろそろ……」

 「うん……いいよ。来て、若。若が満足するまで、いっぱい――」

 「ちょっと待ったァッ! 二人だけでラブラブな感じなんて許さぁんッ!」

 「ふぇ? あっ――きゃんっ!」

 

 若が誘い、飛鳥が顔を覗き込んでくるその首に腕を回そうとしたその時、傍で見ていた内の一人が我慢ならないとついに飛び出した。

 これまで飛鳥が丁寧に愛撫されるのをじっと見続け、我慢できずに自慰を続け、挙句の果てには隣にいた者同志で慰め合っていたのだ。いい加減自分を見てほしい、と思うのも仕方がないことだし、早くああしてやさしく抱かれたいと思うのも無理はないことである。

 ただでさえ交代制を続けるおかげで時間が少ないと感じているのに、これ以上のお預けなど許せない。

 そうした考えから飛び出したのは、上半身裸で大きな胸をぶるりと揺らし、すでに下着を脱ぎ去って青いミニスカートだけを身に纏っている、金髪ロングで青いリボンをカチューシャのようにしている少女。飛鳥よりも年上の葛城が、辛抱たまらんといった調子で飛鳥の巨乳に顔を埋めたのであった。

 当然飛鳥は困惑し、胸から与えられる快感に悲鳴を上げ、それを見ながら腰を振り始めた若は「まぁいいか」と行為を続ける。こうした展開も日常茶飯事なせいであった。

 

 「ちょ、ちょっとかつ姉っ、ジャンケンは私が勝ったんだから、順番はまず私から――あんっ」

 「うるさーい! 一分一秒が大事なこの瞬間に、こぉんなに待たされて、なお且つこんなわがままおっぱいがブルンブルン揺れてるのを見過ごすことなんてできるかぁ! アタイは揉まれるよりも揉む方が好きなんだよぉっ!」

 「あぅ、あぁん、かつ姉ぇ、激しすぎる――あっ、あっ、若っ、だめっ――今動いちゃ、あぁっ」

 「はぅぅ、飛鳥のおっぱいやーらかいよぉ。もう乳首もピンピンに立っちゃって――あむっ」

 「あはぁっ、噛んじゃだめぇっ!」

 「んっ、はっ、二人とも仲いいな」

 

 若が腰を振って膣内を刺激する一方で、葛城はここぞとばかりに飛鳥の上半身を楽しみ始める。彼女の体に覆いかぶさり、腰を高々と上げてスカートから露わになる秘所を若に見せながら。

 突かれる度にふるりと揺れる乳房を鷲掴みにして、指を動かして絶えずぷるぷると揺らしながら感触を楽しみ、手のひら全体で円を描くような動きを見せたり、中央に寄せて隆起する乳首を合わせて口に含んだりと、やりたい放題だ。

 様々な性癖を持つ五人の少女たちの中で、至ってノーマルな性交を好む飛鳥を除いた四人は、それぞれが特徴的なプレイを好んでいる。葛城の場合は一体一で若に抱かれることも好んでいるが、それよりも好きだと公言するのは他の女の子の体を弄り回している最中に突かれることだという。この場にいる自分以外の四人はもちろん、とにかく自分が女の子を抱いている最中に、若に抱かれるのが好きらしい。

 そのため、この場は葛城にとって天国のような時間だ。数秒前までは他の女の子の体を弄り、今は若に大事な部分を見られながら飛鳥の体を弄る。思わず鼻息が荒くなるほど興奮してしまう。

 すっと伸ばされた若の左手が、葛城の秘所へと触れた。これだけでひどく興奮した彼女はびくりと背を揺らし、露わになった大きな乳房をブルブルと揺らす。それでも飛鳥の両乳首から口を離さない辺り、凄まじい執念というものが伺えるだろう。

 

 「葛城もすごく濡れてる。興奮してるみたいだな」

 「んんっ、ふむぅん、じゅるっ、ちゅるっ」

 「あっ、あっ、すごいぃ……おっぱいとあそこ、どっちも気持ちい、あっ」

 

 ぱちゅぱちゅと小さな水音が何度も連続する。若は本気で責め立てるというより、その時間や感触を楽しむかのような腰の動きをしていた。

 奥まで進んで陰茎をすべて埋める時はひどくゆっくり、膣にあるひだを一枚一枚確認するかのような動きで、抜く時もまた同じくゆっくり、時間をかけて。入口付近を何度も往復する時は、あまり速すぎないように速度に気をつけ、奥に入りすぎないように動く。時には奥まで突っ込んでからのの字を書くように腰を回したり、抜く動きを見せずに小刻みに何度も子宮口をノックしたりもする。

 その間飛鳥は口を半開きにしたまま嬌声を発し、乳房を揉まれ、乳首から伝わるジンとした快感に酔わされ、若の思うがままに動かされる膣の感覚に思考を鈍らされていた。体に溜まる快感は高まる一方で、意識もしていないのに入り込んだ陰茎をそのまま呑みこもうと膣内がぎゅっと吸いつき、両方の手と足をだらりと布団の上に投げて、二人からされるがままに犯されているのだ。

 だんだんと若の気分も高まり、汗を掻きながらも腰を縦横無尽に動かし続ける。葛城も自分が愛撫をする一方、巧みな動きを見せる指によって秘所を掻きまわされ、する方とされる方、二つの快感によってどんどんと高められていった。今では膣から溢れだす液はひどい量にまでなっており、若の指はもちろん、自身の太ももや飛鳥の下腹部すらもびしょびしょに濡らしていた。

 三者三様の楽しみ方を続け、激しいとまではいかないまったりとした快楽を楽しんでいた時だ。

 先程までは葛城の愛撫を受け、彼女が飛び出してからは自分の指で自身を慰めていた少女もついに動き出し、ぴたりと若の背にひっつく。

 長く黒い髪は露わになった背に垂らされ、制服を脱いで上下とも黒の下着を見せつつ、股間をびしょびしょに濡らした少女、斑鳩は愛おしそうに若の顔に両手を添えて、ゆっくりと目を閉じながら唇を合わせた。ひどく柔らかい感触に、若の目元も緩む。

 

 「んっ、ふっ、むっ――若様」

 「んん、むぅ――斑鳩」

 

 優等生で、あまり自分の欲望を露わにしない斑鳩は、若との出会いでほんの少しだけ変化を見せた。彼と共に居る時は常にその唇に触れようと抱きつき、顔を寄せ、暇さえあればキスを送るのである。いわゆる、彼女は重度のキス魔であった。

 普段はキリッとしたクールな女性であるにも関わらず、若の護衛についている時はまず間違いなく「話すとき以外は口づけをしていたい」と思っており、事実そうしているのが彼女だ。家事をしている時も、入浴中も、トイレに行く時も、とにかく若について回ってキスをねだり、また彼に対して同行を望む。離れてしまってはキスができないからである。

 故に彼女は若に抱かれる時も、ずっと口づけをしたまましてほしいと思っている。口での奉仕もあまり行わず、キスをしたまま手で奉仕するか、体をぴったりと密着させてキスをしながら突かれるのが好きだから。

 今日も斑鳩はまず真っ先に自分から若の唇を奪い、しばらくはただ押しつけるだけで固まり、やがて首の角度を変えながら唇の感触を楽しみ、ついには舌を出してねっとりと唇を舐めはじめる。まだ満足できないものの、ひとまず次に移ろうと思った彼女はすぐに若の口内へと割って入り、口の中にある舌や歯や歯茎なんかの感触を楽しみながら唾液をすする。

 普通ならば避けようとするほどの熱烈さと深すぎる愛情だが、すでに若は慣れっこなのだ。彼女が与えてくるそのキスを受け止めつつ、右手で黒いブラジャーに包まれた巨乳を揉みながら、左手で葛城の秘所を撫で、陰茎で飛鳥を感じさせることも当然のようにできる。

 嬉しそうにじゅるじゅると若の口内をすする斑鳩も加えて、四人の快感は一層高まっていった。

 

 「はぁっ、あぁっ、きもちいい、若ぁ、すごく気持ちいいよぉ」

 「ふぅ、ふぅ、あー飛鳥は可愛いなぁ。やっぱセクハラのし甲斐があるよ、うん――んっ、あぁっ」

 「んむっ、じゅる、んちゅ、じゅちゅ」

 「んんっ、あぁ、はっ」

 

 深いキスで感じ、右手では柔らかい感触を楽しんで、左手は相手を悦ばせようと蠢き、陰茎は尚も壮観な姿で出入りする。そうして三人の女をだらしない表情に変える若は妖魔ですら驚くほど淫靡な存在だろう。

 まだ二人、お互いの体に手を伸ばして慰め合いながら傍観している少女たちがいる中、それぞれに溜まる快感はどんどん高まるばかり。

 しかし一番最初に限界を迎えたのは、一方的に快感を与えられるばかりだった飛鳥だった。彼女は突然目をきつく閉じ、全身に力を込めながらも小さく震え、「あっ」と小さく声を洩らした。

 それがきっかけで、他の二人は気付かなかったことも、彼女と深々と繋がっている若は気付くことができた。突然膣内がぎゅううっと若を締め付けるのだ、どう考えても飛鳥の身に変化が起こったとしか思えない。

 彼は一度、右手で斑鳩の顔を遠ざけ、眉を寄せて不満を表す彼女の追撃から逃れるように首を動かしつつ、飛鳥へと声をかけた。

 

 「飛鳥、ひょっとしてイッた?」

 「あれ? いっしっし、飛鳥ってばもうイッちゃったのか? いやぁーアタイの技が強力すぎたのかもなぁ」

 「い、イッてない、イッてないよぉ――だから、イッてないから、早く続きを――」

 「嘘はいけませんよ、飛鳥さん」

 

 イッてない、と主張する飛鳥は両腕を伸ばして若に触れようとするが、それよりも早く彼の体を後ろへ引き、ずぽんっと陰茎を膣から取り除いてしまった人物がいた。彼の頭を大事そうに胸に抱える斑鳩である。

 これを恐れたからこその発言だったのだろう。飛鳥は蕩け切った表情のまま残念そうな声を発し、名残惜しむかのように己の秘所を自らの指で撫でていた。

 それを見た葛城が独特な笑い声を上げ、飛鳥の手を押しのけてまで彼女の秘所を弄り始める。戸惑いもなく指を膣内に突っ込み、二本の指を素早く出し入れさせるのだ。

 どこか怒った様子にも見える斑鳩が飛鳥へ注意を始めたのはそんな時だった。

 

 「飛鳥さん、その、終わったのなら終わったと正直に言わなくてはダメでしょう。若様の肉棒を頂いて、絶頂したのなら早く交代しないと、後がつかえてるんですから。いつまでも独占していてはいけません」

 「んっ、あっ、いかるが、さ――私まだ、終わってな、んんっ」

 「いいえ、終わりました。誰の膣で、いつ射精するかは若様のご自由。しかし私たちは若様の肉棒を頂いた時には、一度絶頂するごとに他の方に譲るのがルールだと決めたはずです。あなたが気持ちよくなっている間に、私も葛城さんも、柳生さんや雲雀さんだって切ない想いをしているのですよ」

 「そ、そんなっ――あぁんっ」

 

 なんとか抗議しようと口を開く飛鳥は、葛城が施す愛撫のせいで上手く言葉を伝えることができない。その間、片手で陰核をひねりながらぐちゃぐちゃと膣内を荒らす葛城は楽しそうだった。

 そしてこの時、ようやく解放された陰茎をじっと見つめる斑鳩はいそいそと動き出し、何かを告げることなく若の唇を奪いながら座り込む彼の腰を跨いでいた。直後にぴとりとずぶ濡れとなった黒いパンティーと、天を向く陰茎とが触れあう。

 結局のところ、彼女は飛鳥にもっともらしいことを言いつつ、実際は早く自分が彼とイチャイチャしたかっただけなのである。

 しかし、若がのけ反るほど口を押しつけ、舌を口内に押し込んで舐め続けていた斑鳩の行動を遮るかのように、若に向かって声がかかる。彼女が若の両手を導き、自分のパンティーを脱がせようとしていた時のことだ。

 

 「わ、若様ぁ……私もう、切ないよぉ……」

 

 蚊の泣く様な小さな声で告げ、狙いもせずに若の父性を刺激したのは、彼の背後の壁に背を預けて、もう一人の少女に耳を舐められていた桃色の髪の少女だった。

 たぷんと揺れる大きな胸は少女の手の中でぐにぐにと弄ばれ、凹凸がありながらも幼さを感じさせる肢体は服を纏うことなく露わにされ、毛が一切生えていない陰部からはとろりと粘性が高い液体が垂れて畳を濡らしている。顔はひどく上気し、相棒とも言える少女から愛撫を続けられていたせいか、もはや我慢ができないほどに消耗しているようだ。

 その少女、雲雀は銀髪の少女、柳生に体中をまさぐられながらもじっと若を見つめており、恐る恐るといった様子で足を広げていく。その上、弄りまわされてすっかり蕩けた秘所を自分の指で開き、やったこともない誘惑をし始めたのだ。言葉にした通りもはや我慢の限界らしい。

 ちなみに柳生はすでに裸になってぴったりと雲雀にひっついているのだが、彼女の場合は雲雀とそうした行為をしているだけで心と体が満たされていくので、順番がもう少し後でも問題はないようである。もっともやはり若としなければ満足しないようだが。

 

 「若様ぁ……はやく、いれてぇ――もう我慢できないよぉ……」

 「あぁ、雲雀、可愛い……」

 

 柳生の手がいやらしく動き、丸みを帯びている体は至る所から快感を与えられている。しかしそれでも、否、それだからこそ雲雀は目にいっぱいの涙を溜めながらもじもじと体を揺らしているのだ。

 与えられる感覚は確かに気持ちがいい。しかし、体を気遣うようなやさしい手の動きでは辿り着きたい場所へは辿りつけない。

 そこへ行くにはやはり若の力がなければ。

 甘い声で小さく言う雲雀に若が振り返り、ゆったりとした動きでそちらに向かおうとすした。そのせいで彼と抱き合っていた斑鳩がひどく驚き、絶望したと言わんばかりの表情で固まっているのだが。

 

 「ん、雲雀か。わかった。じゃあ今行くよ」

 「ええっ!? なっ、わ、若様……!」

 

 薄く筋肉がついた細身を動かし、立ちあがろうという意思を見せる若。だが彼が完全にその行動を追える前に、斑鳩が両手で掴んでいた彼の顔をぐきっという音が聞こえそうなほど勢いよく自分の方へ向けさせる。それでも和やかな微笑みを消さずにいられるのは彼だけだろう。

 

 「お待ちください若様っ、限界なのは私も同じですっ。さ、先に私がお情けを頂いてからでも遅くはないかと……!」

 「でも、斑鳩は昨日の夜から今朝まで相手してくれたじゃないか。それにローテーションの関係で、一番前にやったのが雲雀だし」

 「そ、それは、順番のせいですから仕方がないことです。今この場で限界を迎えてるのは二人共同じですし――なんなら私の方が早くに限界を迎えてましたっ。もう切なくて我慢できないんです、若様、どうかお相手を――!」

 「うん、わかってるわかってる。でもまずは雲雀からね」

 「う、うぅ……若様、そんな、殺生な……このまま生殺しは辛すぎます……」

 

 必死の説得も空しく、雲雀に目をつけた若は斑鳩から離れていく。

 その頃には雲雀の体は畳の上に仰向けで横たえられており、表情を幸せそうに蕩けさせた柳生が主導を取って二人の秘所同士を合わせて擦り合わせていた。だらしないほどに透明な蜜を垂らす二人のそこは、ぐちゅぐちゅと液体をかけ合わせながら快楽を感じているのだ。

 若はそっとそこへ近付き、体を起こしたまま雲雀へ股を押しつける柳生の背にまわり、彼女の大きな乳房を下から持ち上げながら声をかける。その瞬間、隙を突かれた柳生は「はぁん」と官能的な声を上げ、銅銭で作った眼帯をしていない方の目を嬉しそうに輝かせていた。

 

 「柳生、雲雀の上に重なって。その方が柳生も楽しめるでしょ?」

 「う、うぅ、若――ひ、雲雀にはやさしくしろよ。オレは少しばかり乱暴に使ってもいいから、雲雀だけは――」

 「わかってる。ちゃんと二人共気持ちよくするから」

 「そ、そうか」

 

 両方の胸をやさしい手つきで揉みながらそう言う若に従って、柳生は仰向けに寝る雲雀の上へと重なった。二人の巨乳がむにゅっと形を変えながら重なり、とろりと蜜を垂らす秘所が上下に重なって若の前にある。

 若は微笑みを深めながら、指で二人分の秘所を撫でつつ体を寄せる。いきり立つ陰茎は、いまだ健在だ。

 その時、放っておかれて悔しそうな表情をしていた斑鳩もまた「えいやっ」と若の背に飛びつき、すぐに彼の頭を両手で掴んでまたも深いキスを再開させた。口の端から大量の唾液が垂れ落ちるのも構わず、卑猥な水音を立てながら激しく口を吸っていく。それが彼女の好みなのだ。

 同時に斑鳩のしなやかな指は勃起した陰茎をそっと握り、天井を向くそれの向きを変えて雲雀の膣へと近付けた。

 ぴとっと先端が触れた瞬間、覆いかぶさる柳生に胸を揉まれ、首筋を舐められていた雲雀がか細く呟く。

 

 「若様ぁ……ちゅー……雲雀も若様とちゅーしたいよぉ……」

 「ひ、雲雀、オレがしてやるっ。オレが雲雀にちゅーしてやるぞっ」

 「ち、違うの柳生ちゃん、私若様と――んんっ」

 

 嬉しそうに微笑む柳生が雲雀に口づけを送り、深く繋がり始める。その直後には若の唇に強く吸いつく斑鳩の手によって、固くそそり立つ陰茎が雲雀の膣へと迎え入れられた。

 飛鳥のそれとは違い、雲雀のそこはさらに強い締め付けがあった。肉の棒をきゅっと締めつつ、吸いつくように蠢く飛鳥に対し、雲雀はとにかくぎゅーぎゅーと締め付けるばかり。

 これまで柳生の手によって十分にほぐされた状態でそれなのだ。大事な部分を包みこむ暖かさを感じる暇もなく快感を与えられ、斑鳩の舌に口内を荒らされる若は「うっ」と声を洩らした。

 しかし戸惑いは一瞬、すぐにゆっくりと腰を前後させ始め、雲雀の中を楽しみ始める。両手は柳生の尻を掴んでおり、時には彼女の膣の入り口を指で撫でながらの動きである。

 

 「んんっ、んちゅ、はっ、柳生ちゃ――わ、若様っ、あんっ」

 「はぁっ、雲雀、雲雀っ」

 

 若が腰を動かして一突きする度、雲雀は小さな悲鳴を上げて喜びに震える。しかし彼女は何かを求めるように若へ向かって両手を伸ばして、潤んだ瞳で斑鳩に口を吸われるその顔を見る。が、柳生の巧みな口づけによって頬や首筋や唇を吸われ、乳房を揉まれて乳首をひねられると、思うように言葉が出ないようだ。

 その間にも若は一心に腰を動かし、上半身を這いまわる斑鳩の手と、唇から離れない柔らかい感触を受け止め、あらゆる場所から快楽を得る。それでも彼はまるで辛そうな様子を見せず、むしろそれらを楽しむかのような余裕の表情を変えない。

 微笑みのままに自分に群がる女三人を相手にした若。先程から行為を続けているだけに射精は近いかと思われたが、彼が限界を迎えるよりも先に、雲雀が根を上げた。

 ぐっと歯を食いしばりながら、届かない両手をそれでも若の方へと伸ばして、もう限界なんだと言わんばかりに膣内を大きくぐねぐねと動かす。それに気付いた若は咄嗟に両手を伸ばして雲雀の手を取り、お互いに手を繋いだ状態となる。

 瞬間、雲雀は声を上げながら全身を震わせ、自身の中に迎え入れた若の陰茎をこれまで以上にきつく締めあげた。思わず若も眉を寄せてしまうほどの感触だ。

 

 「んやっ、やだ、いっちゃ――んんっ、んんんっ」

 「あっ――ひ、雲雀、イッたのか? うぅ、雲雀、なんて可愛いイキ顔……!」

 

 ぎゅううっと全体を締め上げ、それが落ち着くとさらに奥へ呑みこもうとするかのように肉の壁で扱くような動きを見せ、若が自身の陰茎を解放しようと腰を引いたその時にはさらに強く締め付ける。雲雀の膣は最後までそうした動きを見せていた。

 膣から出て、愛液や先走りのせいでぬらぬらと濡れる亀頭は再び外気を浴びると、すぐに柳生の秘所へと向かっていった。雲雀と重なるようにしてあるそこはすでに十分なほど潤っていて、今すぐにでも若の陰茎を受け止めるだろう。

 しかし腰を突き出したはいいものの、角度のせいか限界まで膨れ上がったピンク色の亀頭は目の前の膣に入ることができず、びしょびしょになったそこを撫でるばかりであった。

 柳生が辛そうに顔をしかめて眉を寄せる。雲雀が絶頂したその瞬間の顔を見て、程度の軽い絶頂を感じ、秘所から小さく潮を吹いたばかりなのだ。できれば早く挿入してもらって、いつも通り激しく動いてもらいたい。そう思うのに、いつまで経ってもそれはこなかった。

 何度か陰茎をこすりつけるがそれでも挿入は成功せず、ついに見かねた斑鳩の指がそこを掴み、位置を正す。大好きなキスで我慢しているものの、自分を突いてほしいという想いが変わるわけはないのだ。早く代わってほしい、その想いが簡単に見て取れる行動である。

 斑鳩の手助けもあってついに挿入は成功し、若の陰茎は柳生の膣へと呑みこまれていく。しかしお互い相当な焦らしがあった後のせいで、初めから限界は近くなっていた。

 若は突然、勢いよく腰を前後に振り始める。ノーマルが好きな飛鳥や、恋人同士のような甘いプレイを好む雲雀の時とは違い、今度の相手が雲雀を抱きながら激しく突かれることを好む柳生だからである。「雲雀にはやさしくしろ」と口うるさい彼女は、しかし自分に対しての行為は乱暴にしてほしいらしい。

 パンッパンッと肉と肉がぶつかる音が響く中、気持ちよさそうな柳生の嬌声と、羨ましそうな雲雀の声が混じる。

 

 「あっ、あっ、あっ、んんっ――ひ、雲雀、雲雀ぃっ」

 「いいなぁー柳生ちゃん。すごく気持ちよさそう。私ももっとして欲しい――ねぇ柳生ちゃん、気持ちいい?」

 「んあぁっ、はぁっ、あぅっ――きもちい、気持ちいいっ。雲雀、ちゅー、ちゅーしようっ」

 「うん、いいよ柳生ちゃん。はい、ちゅー」

 

 今度は柳生が突かれながら、二人で口づけを交わす。名残惜しそうに若の手を離した雲雀が柳生の頬に触れ、ちゅっと可愛らしいキスをする。すると途端に柳生の舌はべろりと伸びて、ぴくりと震える雲雀の口内をやさしく舐めていく。

 その間も若の陰茎は、締め付けるというよりもいやらしく絡みついてくるような膣に翻弄され、どんどん限界へと近付いていた。

 片方は雲雀の口内を存分に楽しみ、片方は斑鳩によって口内を好き放題楽しまれる。どちらもそうして唇を塞いだまま、くぐもった声で嬌声を発する。

 腰の動きは速まるばかりで、最後にはバチッバチッと痛そうな音がするほど両者の腰がぶつかっていた。

 そのまま二人は同時に限界を迎え、若は最後の一突きを終えると膣の一番奥でぐっと腰を止め、勢いよく射精を始める。たび重なる性交のために毎日自分で調合した薬を呑んでいることもあって、その量は凄まじく、一瞬で柳生の中を満たしていった。

 

 「あっ、あっ、あっ――」

 

 どくどくと注ぎこまれる精液。どろりとしつつも熱いそれを感じ、柳生は口を半開きにしたまま体を震わせる。

 やがて完全に射精が終わった後、片手で根元を扱いていた斑鳩によって陰茎が抜かれ、二人の接合が終わった。その瞬間にぽっかりと開いた膣の奥から、どろどろと濃厚な精液が垂れ流れてきて、それは柳生の下に居る雲雀の秘所へも垂れていった。

 雲雀は自分の体に触れる熱く粘りのあるそれを感じると「あっ」と小さく声を出し、次いで小さな声で言い始めた。

 

 「いいなぁ、柳生ちゃん。若様のえっちなおつゆもらったの? いいなぁー、私も欲しい」

 「はぁっ、くぅ、あはぁっ――そ、そうか。それなら、雲雀、シックスナインをしよう」

 「しっくすないん? 柳生ちゃん、それってどんな――あ」

 

 激しい性交を終えたばかりで、快感が抜けきらないせいでうまく動けない柳生はそれでも必死に体を動かし、重なり合う自分たちの体勢を変える。

 雲雀は同じく畳に背をつけて仰向けに寝たまま、柳生は体の向きを変えて、頭を雲雀の股近くに、そして自分の股間を雲雀の顔へと向ける。

 シックスナイン、お互いの秘所を口で奉仕するための体位を取ったのだ。

 柳生はここぞとばかりに舌を伸ばして雲雀のそこを舐め、同時に彼女に「同じようにしてくれ」と告げて舌を動かす。

 本来ならば戸惑ったかもしれないが、今雲雀の目の前にある膣からはどろりと若の精液が漏れ出してくるのだ。そのせいで雲雀は柳生のやさしさを感じ、嬉しそうに笑いながら自身も舌を這わせ始める。それがただ単に柳生がしてみたかっただけの行為だった、ということにも気付かずに。

 

 「えへへ、ありがとう柳生ちゃん。それじゃあ、悪いけど私もちょっともらうね――んっ」

 「うっ、あぁ――ひ、雲雀が、雲雀の愛らしい舌が、オレのあそこを――!」

 「んっ、ちゅ、若様のおつゆ、おいしい――」

 

 それぞれ違う部分で気持ちを高めながら、楽しげに膣を舐め合う二人。

 そのすぐ傍では、ついにチャンスが来たと言わんばかりに若へとのしかかり、唇を強く吸いながら、もう一度勃起させようと片手で陰茎を扱いている斑鳩の姿がある。

 彼女は狂気すら感じられそうな必死な目で若の顔を見つめ、鼻息を荒くしながら彼の体をまさぐっていた。それから幾ばくかもせぬ内に仰向けで横たわる彼の体を跨ぎ、勃起した陰茎に膣を宛がって、四股を踏むかのようにしゃがみ込むのは当たり前のことだったのだ。

 

 「ふ、ふふ、若様のいやらしい肉棒が、ついに私の中に……!」

 「今朝も入ってたけどね」

 「それとこれとは別です、若様。私は何度でも入れてほしいのですから」

 

 横にずらされた下着の奥から、くちゅり、と音が立って亀頭と膣とが触れあった。

 この時、斑鳩の全神経は若とその陰茎へと注がれていた。だからだ、としか言いようがないだろう。

 

 「にっしっし――隙ありィッ!」

 「え――なっ、きゃあっ!?」

 

 あまりにも突然に、今まさに挿入が開始されようとしていたその瞬間を狙って、横合いから葛城が飛び込んできた。それも斑鳩の大きな胸に頭を突っ込むかのように、勢いよく抱きついたのだ。

 体勢的に踏ん張ることができなかった斑鳩は、油断していたこともあって見事に転倒し、葛城に押し倒されるような形で畳の上を転がった。

 そればかりかその一瞬で彼女の胸を隠していた黒いブラジャーが外され、流れるような動きでパンティーも同様に脱がされる。直後にそれらは斑鳩の手には届かないように遠くへ投げられた。

 当然、この行動に対して斑鳩は怒り、葛城は楽しそうに笑いながら彼女の胸に頬ずりしている。

 それを見た若は苦笑いしつつも体を起こし、ゆっくりと二人へ向かっていった。

 

 「ちょ、ちょっと葛城さん!? 一体何をするんですか、次は私の番――」

 「あー、斑鳩のおっぱいは相変わらずやーらかいなぁー。ううん、こう、頬ずりする度にぷるぷるって震えるのがなんとも幸せ――」

 「やめなさいっ。私の体は若様のものです、いくらあなたでも勝手に――んんっ、こら、やめなさいと――」

 

 尻を高く掲げながら、露わになった斑鳩の胸を弄る葛城。その顔は至福の表情を浮かべていて、非常にだらしのない姿となっている。

 対する斑鳩は乳房を揉まれ、乳首をちゅーちゅーと吸われつつも怒りを露わにしており、自分の体が葛城に弄られることをよく思っていないらしい。なにせ今まさに若と繋がろうとしていたところを、ついにという瞬間を邪魔されたのだから当然だ。

 しかし、邪魔された当人である若は別段気にした様子もなく二人に近寄り、勃起した陰茎を自分の右手で扱きながら、じっと視線を一点に注ぐ。そこは一目でわかるほど濡れている、挑発的に掲げられた葛城の秘所だった。

 

 「ちょっとくらいいいじゃんかよー。さっきまで飛鳥の体で楽しんでたんだけどさー、しつこく責めてたら潮吹いて気絶しちゃってさ。相手がいなくなっちゃったんだ」

 「だ、だからって私の体を触っていいとは――あんっ、んっ、やっ」

 「にっしっし、口ではそう言いつつも体は正直ですなぁ、斑鳩ちゃんは。――あっ」

 

 ぬるり、と葛城の膣に一本の指が差しこまれる。くちゅくちゅと入口辺りを動くそれは、淡い快感を葛城へと与える。

 しかしそれはすぐに抜かれてしまい、代わりにとばかりに指よりも大きく、太い物が差しこまれた。若の陰茎である。

 濡れた膣の入り口を大きく押し開けて入り込んだそれはとても熱く、一瞬で葛城の体を火照らせる。それが両者共に理解できた瞬間にはずぷずぷと入口の辺りをほじるように、浅く腰を前後し始めていた。

 葛城の声が甘くなる。それと同時に、斑鳩の怒りはさらに燃え上がった。

 

 「あはぁっ――んんっ、おっぱいを枕にしながら、おマンコ突かれるのってやっぱ最高ぉ……」

 「か、葛城さん、若様のものである私の体を好き勝手するばかりか、私が求めてやまないものを横取りするなんて――ふ、ふふ、葛城さん、後で覚えておきなさい」

 「あぁんっ、いいっ、若のおチンポきもちい、あっ」

 「俺も葛城のおまんこ、気持ちいいよ」

 「うぅ……若様ぁ……」

 

 最初は入り口周辺を動いていた陰茎が、徐々に奥へ向かって進み始める。膨らんだ亀頭が膣の壁を押し上げ、しっかりと存在するカリ首が壁を抉り、ゆっくりでありながらも彼女に与えられる快感は大きい。

 葛城は面白いように鳴いて、快感に染まった笑顔を斑鳩の巨乳に押し付けて幸せそうに喘いでいる。それを体で感じる若も嬉しそうだ。

 悔しがるのは斑鳩ばかり。本当ならばもっと早くに相手をしてもらえるはずだったのに、色々と邪魔が入ったせいでどんどん後回しになり、最終的には五人の中で一番最後になってしまった。それが彼女にとっては絶望にも等しい悲しみだったのである。

 

 「あっ、あっ、あぅ――すご、いぃ、若のチンポすごいよぉ」

 「はぁっ、葛城、今日はすごくエロいな。斑鳩のおかげかな?」

 「うぅ、あまり嬉しくないです、若様。お褒めになるのでしたら早く私のお相手を……」

 「ごめんごめん。次は斑鳩の相手をするから、葛城が終わってからね」

 「うっ、はい――早くイッてください、葛城さん」

 「うぅ、うあっ、ちょっと斑鳩っ、そんな急にっ……!」

 

 腰を動かす傍ら、思うがままにスカートがめくれ上がった先にある丸い尻をぐにぐにと揉む若。それを手伝おうとするかの如く、斑鳩もまた両手を伸ばし、葛城の胸を揉み始めた。すべては一刻も早く自分が抱かれるためである。

 しかしその途端、葛城は全身を大きく震わせて感じていた。

 基本的に彼女は他の女の子の胸を揉む、いわゆるセクハラというものが非常に大好きなのだが、他人に自分の胸を揉まれることは極端に嫌う。理由は単純、ただでさえ平均より感度がいいのに、羞恥によってさらにひどく感じてしまうせいであった。

 ただでさえ若に抱かれている最中なのだ、斑鳩による胸への愛撫が加わると、葛城の嬌声はより一層高くなる。

 膣から大きく弧を描く潮を吹きだしながら絶頂するまで、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 「ああぁぁっ!?」

 「うわっ、と。すごいな、潮を吹きやすい葛城でも、こんなに飛ばしたのは初めてだ」

 

 葛城はすぐに背を反らせて全身を大きく震わせ、膣から勢いよく愛液を飛ばして若の腹にかけ、直後にはがっくりと倒れて動かなくなった。目を閉じて、幸せそうに口元を緩め、斑鳩に覆いかぶさったまま。

 しかし気絶した葛城の下にいた斑鳩は彼女を力で押しのけ、慌てたようにも見える動きで即座に若の胸へと飛び込んだ。

 そして彼の唇にちゅっと軽いキスを送った後、斑鳩は若に微笑みかける。

 

 「あぁ――若様、ついに、私と……」

 「うん、お待たせ。それじゃあしようか」

 「はい、私をお使いください」

 

 うっとりと呟き、頬を染めて語る斑鳩がまず動き、若の体がゆっくりと後ろへ倒れていく。

 本来、斑鳩は自分が下になって抱かれる方が好みである。しかし現状、自分以外のメンバーがいることもあって様々な展開が考えられる。要するに邪魔や横取りが入ることを拒んだのだ。

 そこで斑鳩は考えた。若の上に乗って自らの中へ陰茎を誘い入れたのはそのためだ。

 ずぶりと入りこんだ熱く固い棒に笑顔を浮かべつつ、彼女はすぐに上体を折って若とキスをしながら、ぴったりと体を密着させた。その状態で腰を上下に振り、時には回すように動かしながら、若へ快感を与えていくのだ。

 

 「んっ、ふぅ――若様……」

 「んんっ、んむぅ――斑鳩……」

 

 これこそが斑鳩の好みの体位なのだ。上でも下でも、立った状態でも座った状態でも寝た状態でも、正面から若と抱き合い、隙間がないほどぴったりと体を密着させながらキスを続け、他の誰にも渡さないとばかりに独占するのだ。

 そのため、五人同時に若に抱かれようとした時、大抵斑鳩が先に抱かれることは嫌がられる。なにせ彼女が相手の時、若は手も口も陰茎も独占されてしまって他の者へ愛撫をすることすらできなくなるからである。

 現に今も二人は他に目を向けられない状態で快楽を貪っていた。両手を繋いで、胸を合わせ、舌を絡めて、腰を一つにして。

 今は他のメンバーがわりこめないほど、二人は二人だけの世界へと埋没していく。

 

 「んんっ、はむぅ、じゅるっ、ちゅる」

 「んっ、んっ、はぁ」

 

 上から斑鳩が腰を振り、下から若が腰を突きあげ、一番浅い場所から子宮口まで亀頭がずるずると移動する。しかしそれが十回も続かない内のことだ。

 まず一度、斑鳩が絶頂した。我慢を続けていたせいでいつもよりよっぽど早く、全身をびくりと震わせて嬌声を上げる。その上名器と称される彼女の蜜壺がいつも以上にうねうねと蠢き、締まりをきつくしていた。

 ようやく求めていた感覚を得られた彼女は荒く呼吸を繰り返し、それでも唇を離そうとはせずキスを続け、びくびくと絶頂が終わらない内から再び腰を動かし始めて、イキながらも更なる快感を求める。

 普段は凛とした優等生の顔も、今ではだらしのない様相で若の眼前にあった。

 

 「ふぅ、ふぅ、ふぅ――」

 

 息を荒くしつつも決して動きは止めず、どんどん両者の快感を高めていく斑鳩。さながらそれは彼女が若を犯している光景にも見えた。

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り、淫靡な交わりはさらに激しさを増していく。

 そこに怒っているかのような言葉をかけたのは、葛城の手によって幾度も絶頂し、疲労からか少しの間気絶していたはずの飛鳥であった。

 

 「ちょっと斑鳩さん! 今完全にイッたでしょ! 一度イッたらすぐ交代、だから早く私と代わってよ!」

 

 かつては若の手により快楽にまみれた表情を見せていた飛鳥も、少し寝て回復した今ではいつもの元気な姿だ。赤いスカーフを首に巻いただけ、後は全裸の状態で布団の上に仁王立ちし、腰に手を当てて若を独占する斑鳩を叱りつける。

 しかし、ほんの少し前の自分の言葉で叱られた斑鳩は微塵も表情を変えず、顔を真っ赤にして若にキスを続けたまま、腰を止めることすらせず飛鳥へと顔を向ける。まるで反省していない姿である。

 

 「んむぅ、むふぅ、んーんんっ、んふぅ」

 「話すならキスをやめてからにしなよ! 何言ってるかわかんない!」

 「んむっ、ちゅ――ぷはっ。飛鳥さん、これは仕方ないことなんです。んっ、はっ、若様が私の膣内で出したいと、そうおっしゃるので――」

 「言ってなかったよね!? ずるいよ、斑鳩さんばっかり! 私だってあのまま中に出してほしかったのに!」

 「はぁん、んんっ、若様……」

 「無視しないでよっ、斑鳩さん! 一回イッたら交代、次は私だよっ!」

 

 拗ねた飛鳥が何を言っても斑鳩は聞き入れず、ついに怒った飛鳥もまた若の体へと飛びついた。

 といっても大部分は斑鳩が押さえているため、斑鳩にとって最も欲しい場所、唇を狙って動いたのだ。

 相も変わらずキスを楽しむ彼女の顔を押しのけ、飛鳥の唇が若の唇を奪う。そのせいで斑鳩は本当の悲鳴を上げていた。

 

 「なぁっ!? あ、飛鳥さん、何をするんですか! 私と若様の口づけを――!」

 「んむふぅ、ふぅん、んんっ」

 「何を言ってるのかわかりません! とにかくすぐに離して下さい、今は私と若様が――あぁっ、うぅんっ――若様っ、急にそんなに突いてはっ、あぁっ!」

 

 飛鳥が若の唇を吸い、同時に若が腰の上に乗る斑鳩を下から責め立てる。

 先程までは手を抜いて二人の時間を楽しんでいた若は、二人が妙な雰囲気を醸し出し始めたことで本気を出し始めたのだ。

 おかげで斑鳩は本気の責めを受けて、彼の腰の上で体を跳ねさせ、胸をぶるんと揺らしながら喘ぐ。ぐにぐにと動く膣内が喜ぶかのように陰茎に纏わりつき、大きな水音を発しながら嬌声が部屋に響く。

 

 「あぁっ、はぁっ、若様、若様っ――そ、そんなに激しくされると、あぅんっ、くふぅ、わ、私っ――」

 

 大きな胸を揺らし、尻を震わせ、髪を振り乱しながら感じる斑鳩。それに対する若も相当に高まっているらしく、飛鳥と舌を絡ませながらも限界を伝える声を発していた。

 だが結局は舌を絡め取られ、唇を塞がれた状態なのだ。声が出せるはずもなく、若は何も言わずに射精を開始する。

 斑鳩もまたそれにつられて絶頂し、大声を上げながら全身を震わせていた。

 

 「ああぁぁぁっ!」

 

 どくどくと子宮へ向けて精液を注がれ、斑鳩は気をやったように天井を見上げ、焦点の合っていない目をぼうっと漂わせる。

 そこでようやく飛鳥は唇を離し、全身を痙攣させる斑鳩の体に抱きつき、抱き上げ、二人の接合を解いた。

 されるがままになって傍にある布団の上に斑鳩を寝かせた飛鳥は、代わりにとばかりに愛液や精液にまみれながら萎えた陰茎に顔を寄せ、ぺろりと舌を這わせた。

 彼女はもごもごと小さくなったそれを口で楽しみながらも、期待する目を若に向けて、小悪魔的に笑う。

 

 「ねぇ、若。今度は私に――ね?」

 「ああ、わかったよ。それじゃあ今度は――っと、その前に精力丸だけ飲んでおくか」

 

 裸で向き合い、笑顔を向け合う少年少女。

 彼らの淫靡な楽しみは終わらない。

 

 「今日はまだまだ長いしな」

 「うん――!」

 

 なにせ今日は五人の少女たちにとってせっかくの休日であり、今はまだ昼なのだから。

 常日頃の短い時間では満たせない欲求をどうにかするには、今日という大事な時間を使うしかないのである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時刻はすっかり夜になっていた。辺りはすぐ目の前が見えないほどの暗闇に包まれ、若の家もまた暗闇に囲まれている。

 おまけに家の中ではすべての電気が消されており、夜目が利く彼らでなければそこにある光景が見えていなかったことだろう。

 若にははっきりと見えている。

 今、全裸で仁王立ちする彼の目の前には、高々と掲げられた丸い尻が五つ並んでいた。どれもこれもむしゃぶりつきたくなるほど肉厚で、奥にある割れ目からはどろりと大量の白い液体が溢れだしている。さらにはそこにある者たちの髪にもまた等しく白い液体がかけられており、愛らしい少女たちの顔にもぶちまけられている。

 

 「うん、いい眺めだな――じゃあ、行くぞ」

 

 暗闇の中でやさしく微笑み、五つの尻にそう言った若はいきり立つ陰茎を扱きながらしゃがみ込んだ。

 そして一番真ん中にある尻に狙いをつけ、ぷるんと揺れるそのたぶを両手で掴んで、両側に開いた後、濡れそぼった膣へ目掛けて陰茎を突き出した。

 ずぶりと肉棒を突きいれて感じた膣は、きゅっと締め付けてくるもの。

 白濁した液に黒髪を濡らす、蕩けた表情を見せる飛鳥だった。

 

 「あはぁっ――きたっ。んんんっ、若の、おちんぽぉ――」

 

 ぐぐぐっ、と力を込めて一番奥まで亀頭を押し込み、子宮口をノックするかのように小刻みに腰を振る。それだけで飛鳥の全身はぶるりと震え、思わず彼女は軽い絶頂を感じていた。

 びくびくと膣の中が痙攣し、若の陰茎に新たな快感を与える。しかしそれに満足するような彼ではなく、若は続けて素早く腰を振るっていた。

 飛鳥の膣を突きながら、両隣りにある尻に手を伸ばし、その奥にある秘所に指を触れさせながら。

 

 「んっ、んっ、あっ、あっ――」

 「んはぁっ! 若様の指が、私に……! んっ、くっ、くふぅ――だ、ダメです若様、そんなに掻きまわしては、せっかく注いでもらった若様の子種がっ」

 「んんっ、はぁっ、ひ、雲雀、見てくれ――あっ、お、オレは、若にあそこを弄られて、くぅ……か、感じてるんだっ」

 

 人さし指と中指を纏めて膣の中に押し込み、素早い動作で抜き差しつつ、時には指の関節を曲げて刺激する場所を変えてやる。すると飛鳥の右にある尻、斑鳩は快楽を得ながらも悲鳴を上げて、せっかく中出しされた精液が外に出ていくことを拒んでいた。若の指の動きはまさしく膣内をほじくり返すような動きなので、彼女の想いを考えれば悲鳴は当然のことだろう。

 逆に左側の尻、柳生は自分の左隣にいる雲雀に顔を向け、自分の痴態を見てもらってさらに興奮を高めようとしていた。

 二人のそんな姿を見て、若は微笑みながらさらに腰の速度を速めた。飛鳥の嬌声が、跳ねるように室内に広がる。

 

 「大丈夫だよ、斑鳩。今日はせっかく五人いっしょの日なんだ。俺もまだまだ頑張れる――今から何回だって出してあげるから」

 「あぁっ、うぅ、嬉しいです、わか、さまぁ――はぁぁっ、だ、ダメです、もう、イキますぅ」

 「くうぅ、あぁっ、わ、若っ、オレもイクっ。イク、イクっ、あっ、あぁっ――」

 「若ぁっ、もうダメ、イクっ、イクのぉっ、イッちゃうぅっ!」

 「くっ、俺も、もう――」

 

 どぷっ、と今日何度目かわからない射精を行った若は、再び飛鳥の膣内に精液を放つ。これまでに何度も同じ行動が繰り返されているため、飛鳥の膣は彼の精液でいっぱいだ。そのため、新しく出した分が奥へ出され、手前にあった分の精液が勢いよく外へ飛び出す。

 飛鳥は白目をむきながらも体を震わせ、何も言えずにべしゃりと畳へ倒れ込んだ。

 若はふぅと一息吐くと、倒れ込んだ飛鳥の尻を撫で、次へ移動する。目をつけたのは一番右端、挑発するかのように左右に振られている尻だった。

 

 「んはぁっ! あぁっ、すっごい――膣内がっ、抉られて……!」

 

 金色の髪に精液を塗りたくられ、口の端からは呑みこみ損ねた精液が付着した、だらしない顔を晒す葛城が大声で喘いだ。

 尻を掴まれて勢いよく腰を振られて、普段ならばまずしないプレイでイカされる。普通ならば屈辱にも感じられるかもしれないが、この時なぜか彼女は、それを快感として見ていた。

 若はすっと手を伸ばし、左隣にいた斑鳩の膣へとまた指を突っ込んだ。指で激しく愛撫されるばかりの斑鳩はもうすでに何度も小さな絶頂を繰り返しているのだが、まだ倒れてはいけないと四肢に力を込めている。必死に歯を食いしばっているのもそのためだ。

 

 「葛城、もうヤバい――そろそろ、イクぞっ」

 「あはぁっ、アタイも、もう無理ぃっ――イクっ、イクイクっ、イクぅっ」

 「んんっ、くぅっ、ひぅぅっ」

 

 若の顔が天を仰ぎ、葛城が口を大きく開けて絶叫し、斑鳩が歯を食いしばって四肢をがくがくと震わせる。

 絶頂を迎えたのは三人同時。若は葛城の膣内に勢いよく精液を吐き出し、葛城はそれを体内で感じて喜びにうち震え、斑鳩はその時を待って我慢を続ける。

 しかし、立ちあがった若が次に向かったのはすぐ隣にあった尻ではなく一番左端、自分自身の指で秘所を慰めていた雲雀の下だった。

 感度を高め、すぐに射精してしまう代わりに凄まじい回復力を得た彼の陰茎はすでに勃起しており、臨戦態勢を取っている。

 それを雲雀の中に埋めたのはその直後のこと。すでにぐずぐずに蕩けている膣の中に異物が銜えこまれ、固い肉棒はぎゅっと力強く締め付けられた。

 

 「んんっ、あぁっ、若様ぁ……!」

 「はぁっ、はぁっ、雲雀……」

 

 腰を振っていやらしい音を立てながら快楽を貪り、肉と肉がぶつかり合うほどの激しい性交。

 これまでやさしく抱かれてばかりいた雲雀にとっては初めての経験であった。まるで物のように五つの尻を並べられ、道具のように選ばれて肉棒を差し込まれ、獣のように中を荒らされる。しかしそれは、初めてでありながらも、意外と雲雀に好まれていた。

 かつてないほどの興奮と、かつてない快感を与えられた雲雀は、他の面々の痴態を見ながら我慢していたこともあってすぐに高まり、ぎゅうぎゅうと痛いほどに膣の中を狭めていった。

 おかげでただでさえ射精が近くなっている若はすぐに限界へ追い詰められ、二人の行為は言葉もないままに終わりを迎える。

 

 「うっ、くぅ……」

 「はぁぁんっ、ひぃんっ……!」

 

 もはや何度目かも知れない射精は雲雀の膣内で行われ、ピンク色のそこを白く染め上げていく。

 射精が続いたのは長く、受け止めた者からすれば短い時間。大量のそれを注ぎこまれた雲雀は呆けた顔で全身の力を失くし、ばたりと倒れ込んだ。

 目を閉じ、呼吸を荒くしながらも幸せそうな顔。それを確認した若は移動し、次の標的に手をかける。

 次に彼の肉棒を感じることができたのは、今にも限界を迎えそうな斑鳩である。

 

 「んんんっ、あぁぁっ!」

 「くぅっ、はぁぁ……」

 

 挿入した瞬間、斑鳩は背を反らせて絶頂した。ついに我慢が切れて腕の力が抜けた彼女は上半身を畳へと伏した。それでも膝に力を込めて尻の位置を変えない辺り、彼女の執念が伺えるのだが。

 痛いほどにきつく締め付けてくるその感触はいつもの彼女とは違い、しかし名器であることに違いはない。中にあるひだひだは男のツボをすべて理解しているかのように動き、蠢き、確実に彼を限界へと高める。その中でも若は腰を振って快感を与え、行為をやめようとはしなかった。

 やがては二人共限界を迎え、またも若は射精する。その直前には斑鳩も数度目かわからない絶頂に首を伸ばし、背を逸らして、ついには足の力さえも抜けて倒れ伏す。

 そこで若はまたも立ちあがり、膣から大量の精液を垂れ流しながら幸せそうに目を閉じる斑鳩を見た後、最後の一人へ向かう。

 勢いよく突きさし、五人の中で一番強く腰を振る。そうして予想通りに悦んだのが柳生だ。

 

 「うくぅ、うあぁっ! あっ、んっ、はっ――」

 

 丸くまっ白い尻を掴み、勢いよく腰をぶつけ、蕩け切った膣の中を乱暴に抉る。いつもよりも激しいそれは瞬く間に二人の気分を高め、快楽を溜めこみ、限界へ近付く。

 腰を振った数は、せいぜい十と数回だ。

 お預けを喰らっていた柳生と、昨今の度重なる性交のおかげで射精をコントロールしつつある若、二人は全くの同時に果てる。

 濃厚な精液はびゅーびゅーと子宮の入り口にぶつけられ、同時にどぷりと大量の精液が噴き出した。

 

 「あっ、あっ、あっ――」

 「はぁっ、気持ちよかったよ、柳生」

 

 柳生もまた、ばたりと倒れて目を閉じた。

 これで五人。裸の女が至るところに精液を浴びたまま、力尽きたようにぐったりと眠る。誰もかれもが限界で、たった一人の男にイカされたのだ。

 しかしまだその男は限界を迎えていない。幾度となく射精し、幾度となく絶頂しながらも、彼だけはまだ全裸で部屋の中に立っている。

 彼はまたもいきり立つその肉棒を右手で掴み、激しく竿を扱きつつ、裸の女たちを見つめながら自らを慰めた。

 そして、射精する。またしても量の変わらぬ精液は宙へ吐き出され、すぐに目の前にいる飛鳥の尻へと降り注いだ。

 それを見た若は肩で息を繰り返し、やがてゆっくりと腰を降ろした。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ――」

 

 うつ伏せで倒れ、ぴくりともせず静かな寝息を立てる飛鳥。その精液が溢れだす膣の中へと、いきり立つ肉棒を突き刺したのだ。

 

 「うんっ、はっ――あぁっ」

 「くっ、はぁっ、はぁっ」

 

 ぐちゅぐちゅと音を立てながら膣内を掻きまわし、眠ったままの飛鳥に快楽を与えていく若。この後も彼はまだ眠りにつかず、彼女たちの体を味わい尽くすのだろう。

 夜はまだまだ始まったばかりなのだから。

 



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斑鳩、献身的な愛情

結構前から月閃を書こうとしてるのに、全然書けないからリハビリ的に。
時系列的には多分一番最初、半蔵、紅蓮隊よりも前の話。主要メンバーの中で一番最初に若の相手をしたのは、斑鳩という設定です。
ただ若の方は……という感じ。でもそこまで気にしなくても大丈夫です。


 その二人が出会ったのは、いわば必然というものだったに違いない。

 否、最も古い記憶で言えば、二人が出会うその前にある小さな出来事があった。たまたまではあるが、校内にいた斑鳩が外にいる、見慣れない男の姿を見かけたのである。

 学校の片隅で、自分たちを鍛える教師、霧夜と何かを話している狐面をかぶった少年。その外見は思いのほか衝撃が大きかったらしく、一体誰なのかと気になった斑鳩は後に霧夜へと尋ねたことがあるのだ。

 「彼はこの学校の学生ですか?」と。

 すると霧夜は真剣な顔で答えた。

 

 「近々、おまえたちにも紹介する。ただ、よく覚えておけ――あれは他にはない貴重な存在だ」

 

 斑鳩はその言葉を、なぜだか忘れることができずにいた。理由は自分でもわからない。ただなんとなく、そう言っている時の霧夜の顔はいつもとは違う気がしたのだ。やさしいような、困ったような、何とも言えない表情。斑鳩がその出来事を忘れずにいたのはきっと彼の影響もあったに違いない。

 そしてその言葉や、彼が立っていた情景を、理由もわからないのに心の中へとどめ続けていた頃。

 ついに霧夜の招集によって彼を紹介され、顔を合わせた後、斑鳩は自分がなぜそこまで彼のことが気になっていたのかを知ることができた。

 

 「どうも――蒼炎です。呼びにくかったら、若って呼んでください。師匠がそう決めたんで」

 

 初めて見たその瞬間から、その存在はあまりにも独特過ぎた。だからこそ頭に残って離れなかったのだ。

 本当にそこに実在するのか、しないのか、はっきりと姿が見えているというのにそれすら希薄に思える立ち姿。まるで影か、或いは幻のように虚ろに見える存在。

 だというのに、同じ忍だからこそ気付ける隙の無さや、ともすれば背筋が凍りそうなほどの殺気の無さ。そこにいたのはまさしく完璧に作り上げられた、唯一無二の忍だった。

 善ではなく、悪でもない。だからこそそのどちらにも傾くことができ、どちらであっても完全な存在に変貌する忍。

 それが斑鳩の目に映った蒼炎、通称「若様」という男の姿だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 護衛の任について、すっかりその生活が板につき、屋敷に赴くのが楽しみになってしまった後。

 斑鳩の朝は早くなった。泊まりであっても、任務に就いていない日でも、どちらにしても彼女が屋敷に行く日はとても早く目が覚めてしまうのである。その姿はまるで、明日の遠足が楽しみで眠れない無邪気な子供のようであると、自分自身ですら思ってしまうほどだ。

 例えばこの日は彼女が若の家に泊まり、同じ布団で眠りについた場合であった。

 彼よりも早く、目覚まし時計も何もなく自然と起きた彼女は、まず動くことなくそのままの体勢で目を開ける。そして目の前にある子供のように安心しきった寝顔をじっと見つめ、生娘のように頬を赤らめながら見つめ続けるのだ。

 

 「――若様……」

 

 その行動に意味があるのかと問われれば、さほどあるようには思えない。しかし本人ははっきりとした口調で主張するのである。

 「若様の寝顔を拝顔せずして、どうして良い一日が過ごせましょうか!!」

 強くそう言う彼女はいつも通り、今日も隣で眠る裸の若を舐めるように見つめ続け、一日を頑張るための英気を養う。その時の彼女はひどく頬を緩ませていて、だらしないと表現できるような笑みを浮かべていて、とても他人には見せられない顔なのだが。

 しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。別段若が指示したわけでもないが、彼が起きる前に朝食を用意したり、着替えを用意したり、風呂を焚いておかなければならないのだから。どこかで自分だけ起きだして、すべての準備を終えておかなければならない。無論、風呂はいっしょに入るためである。

 そこで数分間身じろぎもせず若の寝顔を見つめ続けた斑鳩は、そっと動き出して若に近付き、ちゅっと口づけを送った。それも何度も、起きないようにと配慮しながらもしつこいくらいに、顔中へ唇を落としていく。

 これまで、若との信頼関係が築けるまでは、彼は人前で無防備な姿を見せることはなかった。ぼんやりした外見は変わらないものの、常に隙のない姿だけを見せていたのだ。寝顔を見せるなどもってのほか、自分が彼を起こそうと部屋へ近付いただけでも、直前には完全に目を覚ましていたほどである。

 それなのに今は、穏やかな寝顔を斑鳩に見せて、落ち着いて安眠を取っている。その事実もまた、今の斑鳩にとっては嬉しいものだ。

 静かながらも数十回、若の顔にキスの雨を降らした斑鳩はゆっくりと身を起こし、若の体が冷えないように布団をしっかりとかけ直して、裸のままで部屋を出る。

 そこから斑鳩はテキパキと慣れた様子でいくつかの仕事を終え、快く若を迎えるために準備を進めていく。風呂を沸かし、風呂上がりに着るための着流しを用意して、いつでも出せるようにと食事の準備を始める。豊満な肉体には自分専用の白いエプロンをつけ、誰にも言わないが気分は明確に新妻である。

 そうして動いている中で、普段以上にぼんやりした様子の若がふらふらとキッチンに現れ、斑鳩へと声をかけた。

 明らかに眠そうな声がまた斑鳩の胸をきゅんとさせるのだが、彼はそんな思惑も持たずに「おはよう」と告げる。するとパッと輝いた斑鳩の顔は若の全身を見つめ、まだ服を着ていない全裸を見た。それでまた斑鳩はポッと頬を赤らめるのだが、微塵も嫌そうな顔ではないのである。

 

 「おはようございます、若様。まだ寝ていてくださってもよろしかったのに――よく眠れましたか?」

 「ん……」

 「あ、もう、若様、いけませんよ。ちゃんと歩かないと転んでしまいます」

 

 ふらふらと歩く若は少しずつ前に進んでいるのだが、その姿は戦闘時の頼もしさと違ってなんとも危なっかしい。

 斑鳩はすぐに包丁を置いて料理を中断し、今にも転びそうな彼へと駆け寄って体を支える。彼女も裸の上に白いエプロンをつけただけのやけに扇情的な格好をしているので、裸で抱き合う二人は朝っぱらから淫らな姿にしか見えない。

 近寄ってきた斑鳩に、倒れかかるようにして抱きついた若は、ただの寝起きの子供のようにぎゅうっと彼女を抱きしめる。そうされる斑鳩はわたわたと両手を動かしながら、やけに嬉しそうに口元を歪めて、まるで抵抗する気を見せようとはしなかった。

 

 「わ、若様っ、だめですよ――ま、まだ朝ですからぁ……」

 「んー……ねむい……」

 「も、もう、仕方ありませんわね――では、先にお風呂に入りましょうか。お食事はその後にしましょう」

 「ん……」

 

 呟きにすらなっていない返答を返す若と抱き合いながら、裸にエプロンだけを纏った斑鳩は風呂場へ向かって歩き出す。彼女がそんな格好をしていたのは、結局のところ朝から若といっしょに風呂に入るためだったのだ。

 なにせ二人共、昨夜の激しい性交のせいで汗にまみれ、あらゆる体液なども混じってひどい状態にある。しかも、夜に二人並んで布団に入って、何もせぬままに朝を迎えることなどまずないため、朝になると必ず最初に風呂に入る必要があるのだった。

 まるで幼子をあやすかのように若を連れていく斑鳩だが、その両手は怪しい動きを見せており、彼の体を這いまわるようにしてあらゆる場所を触っている。もっとも眠気に負けている若はそんなことを気にする状態ではないので、抵抗の一つもありはしないのだが。

 

 「さぁ若様、つきましたよ。いっしょに入りましょう」

 

 やがて広い風呂場に到着した二人。エプロンを脱いだ斑鳩が先導して風呂場に入り、二人は最初にシャワーを出して体を洗うことにした。

 木製の小さなイスに腰掛け、まだ完全に開かない目をしばしばと開閉させる若の背後に、うきうきした様子の斑鳩が陣取ってボディーソープを手に乗せる。

 彼女はそれを自分の裸体に塗りたくり、泡立てた後に自分の大きな胸を若の背へと押し当てた。すでにツンと立っている乳首は自己主張するように若の背に触れ、そこで斑鳩の声が発せられる。

 ひどく嬉しそうなその声は、明らかにこの瞬間を期待しているとわかるようなものだった。

 

 「それでは若様、失礼します――どうかお気を楽にしてくださいね」

 「ん」

 

 豊満な裸体が動いて、泡まみれの胸がずりずりと若の背に触れて動き出す。丁寧に、丹念に、若の体を洗うために胸を押しつける。断じて自分が気持ちよくなるためにそうするわけではないのだ。

 張りがあると同時に柔らかい乳房がむにゅりと形を変え、男にはない柔らかさを楽しませる。それと同時に体を洗うという、奉仕する人間にとってはとても役立つ動きだ。

 そうする斑鳩は悦に満ちた表情で、寝ぼける若を愛おしそうに見つめながら熱心に体を動かしていた。

 それでもまだ、若の目は覚めていない。

 

 「気持ちいいですか、若様? 他にしてほしいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」

 「うん……だいじょうぶ」

 「あぁ――若様っ」

 

 ぼんやりした声を耳にし、ぶるりと体を震わせた斑鳩は感情を抑えきれないとばかりに動き出した。

 乳房を押しつけ、背中を洗っていたはずがついに両手を動かし、彼に強く抱きつきながら首の角度を変えさせ、唇を強く塞ぎ始めたのだ。二人の唇はむっちりと押しつけ合い、直後には斑鳩の舌が若の口内に侵入する。

 キスが好きな斑鳩は、暇さえあればそうして若の唇を奪い、じっくりと味わう。そうすることに慣れた斑鳩は今もねっとりと舌を絡ませていき、されることに慣れた若は文句もなく受け入れる。

 その間も斑鳩の手は淫らな様子で若の体に触れ、洗うというよりただ愛撫を与えるばかりの動きを加えた。

 おかげで大人しかったはずの若の陰茎がむくむくと首をもたげ、どんどん固くなっていく。すっかり大きくなってしまったそれはしっかりと斑鳩の目にも確認されており、胸から腹に伝って下りていく手が、ぎゅうっと嬉しそうに竿を掴んだ。

 直後にはゆっくりとした速度で上下に扱かれ、さらに固さを増していく陰茎は先端の割れ目からだらだらと先走りを分泌し、泡にまみれながらもピクピクと震え始めていた。

 

 「あぁ、とってもたくましい……若様、興奮なさっているのですね――んっ、ふむっ、んちゅ」

 「んんっ、んっ、んっ」

 

 扱く手の動きはどんどん速くなり、若に与える刺激が強くなっていく。その上、口内をべろりと舐められる感触も確かな快感を与えてきて、抵抗しない若は寝ぼけ眼のまま高まっていった。

 柔らかい体を押しつけられ、固くそそり立つ肉棒を扱かれ、口内を舐めまわされる。そうして気分を高められた若は、いまだ寝ぼけていたこともあって、突然勢いよく射精した。

 天井を向いたままだった亀頭の先からびゅくびゅくと白濁した液が発射され、重力に従ってすぐに落ちてくる。それらは若の陰茎や足、さらには竿や亀頭を扱き続けていた斑鳩の手に落ち、白い泡と混じってしまう。

 熱く、どろりとした感触に触れた斑鳩は「あっ……」と小さく息を洩らし、どくどくと元気に脈動する肉棒を掴みながら頬を赤らめた。

 そこでようやく若の意識ははっきりしたようで、彼は気持ちよさそうに目を閉じて、最後まで吐きだそうとするかのように腰を小刻みに揺らす。斑鳩もすぐに手を上下に動かし、手伝いをする。

 すべてを出し切った後、ゆっくりと目を開けた若はまっすぐに斑鳩の顔を見つめ、その視線を受け止めた彼女は嬉しそうに微笑みながら、またも自分からキスを送る。

 ねっとりと彼の唇を舐めつつ、徐々に萎えていく肉棒をきれいにしようと両手を動かす斑鳩は、触っていた陰茎が完全に落ちついてから唇を離した。

 

 「んっ、むっ、ぷはっ――はぁ、ふぅ、若様、全部出し切られましたね。それでは、体を流させていただきます」

 

 蕩けた目をシャワーへ向けた斑鳩がやさしい手つきで泡を流し、二人一緒に体を洗っていく。その間も斑鳩は時折若にキスをして、ぼーっとしたまま動かない彼の体に自分の胸を押しつけた。

 暖かいお湯で泡を流し、昨夜の情事の名残を流し終えた二人は気分をさっぱりさせるためにも同時に動き、シャワーを止めて湯船へと浸かる。

 若が先に入り、十人ほどは入れる広さがあるというに、彼に覆いかぶさるようにして斑鳩が入ると、二人の体はぴったりと触れあったまま暖を取る。

 そのまま二人はそれぞれ違う意味で、深く息を吐いた。若はたっぷりの湯で暖まる気持ちよさに、斑鳩は若の体に触れ、そのたくましさに頬を緩めて。

 その後、いつものようにすぐに斑鳩の唇が若のそれを塞ぐ。ひどく手慣れた様子で、たとえ若が油断していなくとも止められない動きであった。

 

 「んんっ、ふぅんっ、若様ぁ――」

 「んむっ、うんっ、んんっ」

 

 目が覚めたとはいえ、やはりぼんやりした様子の若は迫られるがままにキスをされ、口内を舐められ、熱烈なまでの愛情表現に溺れさせられる。

 二人は湯船の中でそうし続け、というよりも斑鳩が一方的に若の体に抱きついて離れず、一秒たりとも唇を離すことなく数分が過ぎた。

 そして約十分ほど言葉もなくそうし続けた後、これはさすがにと思ったのか、やっと抵抗らしい抵抗を見せた若が斑鳩の顔を離し、彼女の顔を改めて見つめる。その時もまた斑鳩はかなりの抵抗を見せ、離れたくないとばかりにさらに強く抱きつき、舌を執拗に絡めていたが。

 

 「斑鳩、時間は大丈夫なのか? 今日も学校があるだろう?」

 「あっ……え、ええ、そうですわね。うぅ、でも――」

 「帰ってきてからも時間はあるから。な?」

 「うっ――はい」

 

 若の口から、いつまでもこうしているわけにもいかないと提案したことにより、ようやく落ちついたらしい斑鳩は渋々といった調子で立ちあがる。若もそれに続き、二人は尚も体をぴったりとくっつけながら風呂場を出た。

 二人は仲が良い様子でタオルを使って、体に付着した水分を拭き取っていく。これもまた斑鳩が率先して若の体に手をやり、やさしい手つきでそうしながらもまたキスをねだる。

 ちゅっと軽い音を立てながら両者の体を拭いた後、斑鳩は若に服を着せるため、健気にも手伝いを始めた。まずは黒い下着を手に取って、足をあげるよう促してから履かせ、次に用意しておいた白い生地に青い模様の着流しを着せる。

 

 「ふふっ、素敵です、若様――やっぱり何を着てもお似合いになられますよ」

 「そうか、ありがとう」

 

 若の着替えはすぐに終わった。それから斑鳩はテキパキと自分の服、学校に行くための制服を身に纏い、二人揃ってキッチンへと赴く。

 そこで斑鳩は若に、すぐ近くの居間で座って待つように言って途中だった料理を再開させるのだが、なぜか若はじっと立ちつくして動かなかった。

 包丁を持ってトントンと軽い音を立てる斑鳩の背にそっと近付き、ゆっくりとではあるが急に彼女を抱きしめたのである。

 当然、そんな事態を予想すらしていなかった斑鳩は大層驚き、小さな悲鳴をあげて思わず包丁を落としてしまう。それがまな板の上を転がったのは、不幸中の幸いであった。

 

 「きゃん!? わ、若様っ!? と、ととと、突然、どうなされたのですか――あ、いえ、その、嫌というわけではなくて、少し驚いただけで……!」

 

 子供のように、しかし見方によっては恋人にそうする男のように、若は目を閉じて斑鳩の首筋へと顔を埋める。目を閉じた顔は安堵に満ちていた。

 思わず慌てていた斑鳩も動きを止め、おずおずと首のあたりにまわされた腕に手を添える。こうしたような、若から手を出すようなことは非常にめずらしい。そのめずらしい機会を逃してなるものかと、すでに思考はそのことで一杯なのだろう。

 もはや今日も学校の授業があることすら忘れ、彼女は若に全神経を向けることに必死だった。

 そんな中で、少しだけかすれた若の小さな声が、斑鳩の耳に届く。

 

 「斑鳩、少し変わったな。前よりちょっとやさしくなった――敵意がなくなった、って言うのかな」

 「そ、そんな、私は最初から若様に敵意なんて――」

 「うん、わかってる。でも緊張はしてた。いつでも俺に反応できるようにって」

 「あ……それは、確かに……でも」

 「いいんだよ。それは忍として正しい。俺も気にしてない――それに今は、信用してもらってるんだってわかってる」

 「はい――いいえ、やっぱり違いますよ、若様。信用ではなく、信頼です」

 

 きゅっと腕を握り返し、斑鳩は微笑みながらそう言う。直後に聞こえてきた若の「そうか」という声に、また少し胸の奥を暖かくしながら。

 いつの間にやら、若の手がするすると動き、斑鳩の胸へむにゅりと触れる。途端に彼女は甘い声を出し、じゃれつくように後頭部を若の胸へとすりよせた。

 再び若の小さな声が、斑鳩の耳元で囁く。

 

 「斑鳩、おっぱい欲しい」

 「わ、若様ったら、もう――はい、いいですよ」

 

 斑鳩がそう返すと、若の手が迷いもなく斑鳩が着るワイシャツのボタンをはずしていき、すぐにすべてを外し終えた。

 それから若は斑鳩の胸に手を触れ、黒いブラジャーを一気に上へずらすと、興奮したように大きくなった乳首が露わになる。彼は体勢を変えてすぐにそこへ吸いつき、口いっぱいに乳房を頬張りながら、舌で乳首を転がす。

 嬉しそうに身を震わす斑鳩はそれを受け止め、興奮した面持ちでぎゅうっと若の頭を胸に掻き抱いた。やさしい力ながらも、もう離したくない、と言わんばかりの姿である。

 ちゅっ、ちゅっという小さな音を立てながら、赤ん坊のように乳を吸う若によって快感を与えられ、斑鳩はだんだん腰砕けになって足を震わせ始めた。

 

 「あぁっ、だめです、若様ぁ――そんな、そんなに強く吸われては……」

 

 目を閉じて上を向きながら、それでも彼を押しのけようとせずそんなことを言う斑鳩は、確かに快感を感じている。同時に、その時間を楽しんでいた。

 愛しい男との一時であれば、何をしていても幸せだと思える彼女。そんな斑鳩が、若から手を出されて抱かれようとしているのだ。これを幸せと思わぬわけがない。

 もはや斑鳩の頭の中に「学校」という概念など微塵もなく、あるのは「若様」という目の前の男の存在だけ。

 そんな彼女の状態を理解しているのか、それとも自分がしたいように動いているだけなのか、おそらくは後者だろうが若の手はゆっくりと下へ降りていった。乳房をもみしだき、乳首をつまむ左手と違い、下腹部を通り過ぎた右手は、スカートと黒いパンティに守られた秘部へと到達する。

 

 「はぅ……若様、そんなところまで……」

 「もう濡れてるな。さっき、風呂に入った時から濡れてたのか?」

 「んんっ、そんなっ、こと、言わないでください……」

 「うわ、すごいな、触ってるだけでどんどん溢れてくる――この調子だと、風呂に入るもっと前からかも」

 「うぅ、そ、それはもういつでもいいじゃないですか」

 

 両方の乳房を交互に口に含まれ、指先で膣の入り口を掻き混ぜられながら、とろりと愛液を垂らす斑鳩は身を捩って甘い声を出す。対する若はだんだん気分が乗ってきたようで、動きの速さや大胆さが増していく。

 キッチンの中で、がくがくと足を震わせる斑鳩の体が若に思う存分弄られていき、それだけで彼女の限界が近付いているようだ。

 しかしある時、存分に乳房を舐めまわした若は満足した様子で口を離し、同時に指も膣から離して身を起こした。

 そのせいで、いいところで中断されてしまった斑鳩は寂しげに眉を寄せつつ、無言のまま彼の顔へ目を向けて抗議をし始める。もっと気持ちよくしてもらいたいということは、口で語らずとも目が語っていた。

 それなのに若は気にした様子もなく、着流しの前をはだけて肌を出し、黒い下着を少し下へずりおろす。いつの間にか隆起していた肉棒がビンと勢いよく外気に触れ、斑鳩も思わず驚いたように目を見開いた。

 

 「斑鳩、頼めるか?」

 「――はい」

 

 何をすればいいかなど、すべてを言われずともわかる。斑鳩は自ら床に膝をつき、眼前にいきり立つ肉棒を置いた。

 びくびくと震えるそれは若が腰を突き出したことで、斑鳩の顔に熱い肉棒がぺたりと乗せられ、ゆっくりとした動きで擦りつけられる。しかしそんなことをされているのに、頬を赤らめる斑鳩は嬉しそうな表情だ。

 ある時、彼女はゆっくりと舌を伸ばして若の陰茎に触れ始めた。口の端からよだれが落ちることも気にせず、丹念な様子で竿に舌を絡ませる。

 その悦に入った顔はひどく淫靡で、同時に至福を感じているようにも見える。

 まるで犬か何かのように舌を伸ばして肉棒をぺろぺろと舐める斑鳩は、飽きもせずにその行動を続けた。若もまた彼女の頭に手を置き、さらりと手触りのいい黒髪を撫でてそれを受ける。

 キッチンの中でするにはふさわしくない行為だが、二人は気にせず、誰にも見られていないことをいいことにひたすら楽しみ続けた。

 

 「んんっ、ふむぅ、んっ、じゅぷ――若様、気持ちいいですか?」

 「ああ、気持ちいい――最高だ」

 「ふふっ、それならよかったです――んっ」

 

 膨らんだ亀頭をぐっと口内に含み、リズムよく小刻みに頭を前後させる斑鳩。大量の唾液が分泌されていることもあり、じゅぷじゅぷという淫らな音がリズムよく鳴って、二人の耳にも届く。

 暖かくも柔らかい口の中に包まれたこともあり、熱い肉棒には大きな刺激が与えられ、さらには竿の部分とその下にある玉を手で揉まれて、気分はどんどん高まる。さらには口の中で、亀頭にある割れ目に舌先が強く押しつけられ、やさしい動きなのに必死に射精を促しているかのようだ。

 若は目を閉じて徐々に息を荒くしていき、斑鳩もその顔を見上げながら楽しげに頭と舌、それから両手を動かす。

 だが限界を迎えるその前に、十分に彼女の奉仕を堪能した若は頭を押して肉棒から口を離させ、斑鳩をその場に押し倒す。すると即座に順応してみせた斑鳩も小さな悲鳴を上げながらすぐに若の首に腕を回し、潤んだ瞳を彼の顔に向けた。

 視線がぶつかるその中で、若はいつもと表情を変えずに静かに告げる。

 

 「斑鳩、してもいい?」

 「はい――もちろんです。私はもう、若様のものですから。好きな時に、好きなだけ抱いてください」

 「ああ、わかった。それじゃあ――行くぞ」

 「はいっ」

 

 短い言葉のやり取りを終えて、位置を正した後に二人の腰が一つになる。固く勃起した陰茎が斑鳩の体内に押し入り、ずぶずぶと肉の壁を押しながら奥を目指して進み、すぐに亀頭が行き止まりにコツンとぶつかった。

 斑鳩の甘い声が室内に響き、若のくぐもった声が彼女の耳に届く。

 二人はぐっと目を閉じながらも互いの肉体を感じ取り、その熱さに、柔らかさや固さに気を良くして気分が高まるのを感じていた。

 口からは熱い吐息を吐き出し、快楽に染まった表情を眺め合う彼らは正しく心を一つにしていて、現実から切り離されたような感覚の中にあった。

 

 「はぁ、気持ちいいよ、斑鳩――」

 「あぁっ、はぅっ、う、嬉しいです――若様っ、若様ぁっ……」

 

 まるで世界に二人だけしかいないような、他のすべてを排外した中で見つめ合う二人は、やがてどちらからともなく唇を触れさせる。しかしその後は若の思惑と違い、斑鳩が首の後ろに腕を回して、腰に両足を回したことでぴったりと体を密着させ、そのまま解放されることなく行為が続けられる。

 初めはひどくゆっくりと。肉のひだを一枚ずつ確認するかのように陰茎を前後させたり、途中で亀頭を止めて円を描くように腰を回したり、若は彼女の肉体を楽しむための動きを加える。同じく斑鳩も若の存在を明確に感じるため、彼の肉体を余すところなく楽しむため、口の中を乱暴に舐めまわしていた。

 しばらくはそうして楽しんでいたものの、我慢できなったのか、若は腰を前後に激しく動かし、透明な液が溢れるそこを掻き混ぜるようにぐちゅぐちゅと突く。

 斑鳩は我慢していたこともあってすぐに限界まで押し上げられていき、抵抗する間もなく一息に絶頂させられた。全身をびくびくと震わせ、より一層強く肉棒を締めつけ、自身がイッたことを体で示す。

 

 「んんっ、んふぅ、んんんんっ――んむぅっ」

 

 しかし彼女はそれでも若の体を離さず、口をぴったりと合わせたままで尚も舌を動かした。まだやめるな、という意思表示なのかもしれない。

 どちらにせよ、解放してもらえない若は自分がイッていないこともあって、尚も腰を激しく動かす。一度射精したとはいえ、相性がバッチリな斑鳩の相手をしていることもあり、若もすぐに限界へと近付いていく。

 その上彼はあまり我慢したりしないのだ。出したくなった時はすぐに出す、そんな若がそう長く行為を続けることもない。

 おかげでひどい興奮状態にある斑鳩が二度目の絶頂を迎える時には、タイミングよく若も射精を開始していて、膣の一番奥に濃厚な精液を注ぎこむ。陰茎がどくどくと脈動する度、凄まじい勢いで子種が飛び出した。

 その後であっても斑鳩は若の口を離さず、射精が終わって肉棒が大人しくなるまで、否、なってからも変わらず濃厚なキスを続けていた。

 彼女が若の口を解放したのは、何かを言おうとした若が無理やり拘束から逃げ出してからだ。離れるのを嫌がった彼女が尚も抱きつこうとするのをなんとか押さえ、せっかく風呂に入ったのにまたじっとりと汗を掻きながら斑鳩を見つめたのである。

 

 「斑鳩、気持ちは嬉しいけど――今日は学校だろ? いつまでもこうしてられないって」

 「うぅ、でも、そんな――若様はひどいです。自分からしてきたのに、こんな状態で――」

 「帰ってきたら、いくらでも相手するから。俺でよければ、いくらでも好きにしてくれていいよ。だから、な?」

 「むぅ……絶対ですよ? 今日はすぐ帰ってきますから、私の言う通りにしてもらいますからね?」

 「ああ、わかった。それでいい。だからとりあえず学校に行く準備しよう」

 「うぅ、わかりました……」

 

 ひとまず行為を終えた二人は、それから若に手伝ってもらいながら様々な準備を終え、一つ一つの出来事を終えていった。

 まずは汚れてしまった体を湯で濡らしたタオルで拭き清め、それから朝食を終えて、ねっとりとキスをしてから斑鳩を送り出す。少し急がなければ遅刻してしまうかもしれない時間ではあったが、忍である斑鳩が遅れることはないだろう。

 そう思って安心した若は斑鳩を見送った後、ようやく落ち着いた朝を迎えることができ、眠たげな足取りで縁側へ行くとごろりと横になった。

 

 「ふわぁぁ……ねむ」

 

 そして起きたばかりだというのにまた眠り始め、ぽかぽかと暖かい陽光に包まれながら、穏やかな寝顔で静かになる。

 ひどくのんきで、穏やかな光景。その顔を見れない斑鳩がこの情景を知っていれば、きっと悔しがるほど平和な姿だった。

 しかし、それが消えてなくなり、騒がしくなるのも今日のこと。斑鳩が帰ってきた後は彼女の好き勝手にされてしまうというのだから、それまでは少しでも体力を温存しておこうという彼の判断は、ひどく正しいものである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「んっ、ふっ、むっ――」

 

 満月が出ている頃。つまりは夜である。

 学校からまっすぐ帰ってきて、休む暇もなく若を好き勝手にし始めた斑鳩の行為は今も尚続き、食事を終えた後も続けられていた。

 一糸まとわぬ裸体を晒した二人は一つになったまま広い庭に出て、駅弁スタイルで囲いの中にある庭を歩きまわっていたのだ。

 口はぴったりと隙間なく合わさり、股はだらだらと溢れる透明と白い液体に汚れながら繋がって、がしっと抱きつく斑鳩を抱える若が草履を履いて歩く。その姿はひどく淫靡で、全身が汗にまみれた状態で快楽を貪る姿は健康的とは程遠い場所にあった。

 ぐちゃぐちゃと音を鳴らし、ゆさゆさと女体を揺らす彼らは、もはや誰かに見られてもいいというような様子で行為を続ける。否、むしろたまには誰かに見られたいとでも言うかのように、斑鳩の熱望によってそんなことをしている。確かに個人所有の庭の中であれども、裸で外を出歩き、必死に性行為をしていることに変わりはないのだ。

 おかげで二人の興奮はかつてないほどまでに高まり、これまでに何度絶頂したのかすらもわからない。しかし何度もイキながら、斑鳩がもっととせがむために繰り返されているのである。

 

 「んんっ、ふむぅ、んむぅんっ」

 「んっ、んっ、はっ」

 

 熱烈なキスはほとんど離されることなく継続され、斑鳩の狂気じみた執着が伺える行為として今も行われている。彼女が帰ってきてから、服を脱いで、愛撫をして、最初に繋がって、その間もそれからもずっと彼女はキスをねだってし続けているのだから。

 きっと彼女にとって、若にとっても、これほどまでの執着というのは見たことがないだろう。その行為にどれほどの想いが込められているのか、今となっては誰もわからないが、ともかく凄まじいことだけは理解できる。

 斑鳩の唇は常に若のそれをむちゅっと押さえており、微塵も離したがらない。そのままで二人は繋がった腰を振って、呼吸の合った様子で快楽を貪っている。

 夜の風が、汗にまみれた裸の体を冷ます中、独特の熱さに包まれた彼らは必死に動き続けた。

 そして、またしても限界を迎える。

 

 「んんんっ、んんんっ、んんんんっ――!」

 「んむ、むぅぅ――はぁっ」

 

 びゅくびゅくと勢いよく子種が噴き出し、それらをすべて膣で受け止めて、繋がり合った場所からどろりと大量の液が垂れ落ちる。もはや何度目かの中出しかわからないため、注ぎこむ瞬間から溢れ出て草へ落ちていくのだ。

 絶頂を感じ、射精が終わっても、斑鳩は若の口を解放せずに口内へ舌を這わしている。快感のため、というよりもむしろどうかしている姿に見える。

 そんな時、呼吸を乱した二人が庭の真ん中で裸で繋がり合い、ぼたぼたと液体を垂らしながら立ちつくしていた時のこと。

 急に屋敷の縁側の方から、驚いたような声が聞こえてきた。

 

 「なっ、ななな、なっ――なにしてるの、二人ともっ!?」

 

 驚愕に満ちた、ひどく聞きなれた声。それは二人の知り合いの声だった。

 即座に若はそちらへ目を向け、誰がいるのかを確認しようと首を振る。斑鳩はそんな彼の口を吸い続けており、聞こえたはずの声には微塵も注意を向けていない。

 そのせいで彼らは今も深すぎるキスを続けたまま、縁側に立つ人影を見つけた。

 白いリボンで一つにくくった黒髪、豊満な胸、幼さを残した愛らしい顔。普段は元気の良さを映している丸々とした目は驚愕に染められ、心細いと言わんばかりに抱き締める体は制服を纏っていて、まっすぐに二人を見つめる視線は涙で揺らぎながらも離そうとはしない。

 そこに立っていたのは二人の知り合い、近々若の護衛につくはずだった、飛鳥という少女であった。

 そんな彼女を前にして、斑鳩は尚もキスを続けていたのである。

 

 「い、斑鳩さん、どうして若様と――ふ、二人共裸で、そ、そんなえっちなこと……!?」

 「ん、むぅ、ふっ――いか、るがっ」

 「はむっ、んむぅ、んちゅ、じゅる――はふっ、むふっ、ふはっ」

 

 若がなんとかして唇を離そうとしているのに、優れた動きでその唇を追いすがる斑鳩は尚もキスを求めており、まだ飛鳥に注意を向けようとはしていない。

 そこで困った若は抱えていた彼女の足を降ろし、手慣れた様子でくるりと体の向きを変え、斑鳩の体を背後から抱きしめた。無論、腰はまだ繋がったままで、固い肉棒で膣内を再び掻き混ぜながらである。

 いわゆる立ちバックという体勢で繋がったため、斑鳩の意思に反して彼女の口は無理やりに若から離され、そこでようやく若は言葉を口にすることができた。その体勢になるということは斑鳩の激怒を買う可能性すらあったが、黙ったままで飛鳥を無視するわけにもいかない。

 そこで若は抗議の叫びを続ける斑鳩を突きながら、飛鳥へ目を向け、何を言えばいいのかわからないためとりあえず挨拶することにした。

 

 「わ、若様っ、何をするのですかっ!? 今日は私の好きにしていいと言ったはず! それなのにこんな仕打ちだなんて、いくらあなた様でも許しませんよっ!! はやく、はやくもう一度口吸いをっ――!」

 「そんなに怒るな、斑鳩。せっかくの美人が台無しになるぞ――それと、こんばんわ、飛鳥。挨拶が遅れてごめん。よく来たな」

 「わ、若様……斑鳩さん……その、それって、ひょっとして……」

 

 ぎゃーぎゃーと叫び、「キスをさせろ」とうるさい斑鳩をそのままに、二つの巨乳を揉みしだきながら腰を振る若。そんな二人を見る飛鳥はもじもじと身をよじらせ、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも視線を外さず、裸の彼らを見続ける。

 その時になってようやく斑鳩は飛鳥の存在に気付いたらしく、瞬間的に顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。どうやら自分から提案しておいて、いざ人に見られたとあっては思った以上に恥ずかしかったらしい。

 

 「あ、飛鳥さんっ!? ど、どうしてあなたがここに――た、確か修行があったはず、ってそんな場合じゃなく!? 若様、若様っ、す、少しお待ちください! 後でお相手いたしますから、ひとまずここはおやめになって――ひゃんっ」

 「飛鳥、ちょっとだけ待ってくれるか? もうちょっとでイケそうだから、話はそれから――んっ」

 「い、いけそうって、それってもしかして――あ、あわわわわっ……!?」

 

 飛鳥に見られているというのに、斑鳩の乳房を揉む若の動きはさらに激しくなり、彼女の体をすべて見せつけるように逸らさせながら、ぐちゅぐちゅと音を鳴らして腰をぶつけた。

 それだけに斑鳩の羞恥はここへ来て限界を越えるほどに溜まり切り、もはや甘い声を出すばかりで抗議することすらできないようである。それを知る若はここぞとばかりに責め立て、斑鳩を絶頂させようと膣内を激しく掻きまわす。

 飛鳥が見つめるその先で、淫らな行為に耽る二人はいつもとは違う状況に凄まじく興奮していた。

 

 「あぁっ、あはぁっ、んんぅ、若様ぁ――み、見ないで、見ないでくださいっ、飛鳥さんっ」

 「はぁ、くぅ、イクぞ斑鳩――また、膣内に……」

 「ま、待って下さい若様っ、そんな急に――あぁぁっ」

 

 再び若が射精を開始すると、つられて斑鳩も全身を震わせて絶頂する。飛鳥に見られながら、ひどく興奮した状態で。

 縁側で立ちつくす飛鳥からは裸で背後から抱きしめられる斑鳩と、若の顔と肩ほどまでの裸体しか見えなかったし、辺りに明かりのない暗闇ではあったが、二人が繋がっている場所から大量の液体がボタボタと落ちていったのは見えた。そしてそれが若から出された精液だということも、飛鳥は知っている。

 そこでようやく、これまでずっと行為を続けていた斑鳩が体の力を抜き、背後にいた若へともたれかかった。彼はそれを受け止め、あらゆる体液にまみれた豊満な体を横抱きにして、屋敷の方へと足を向ける。

 草履を履いた足でぺたぺたと庭の中を横切り、縁側に辿り着いた若は己の裸体を隠そうともせず、まずは斑鳩を木目の床に寝かせた。その時、飛鳥の熱意に満ちた視線は裸の斑鳩ではなく、いまだに半立ち程度の陰茎へと注がれている。

 若はそのまま、自分も縁側に腰掛け、飛鳥にも隣へ座るように促してから話をしようと試みる。大人しく座る彼女がちらちらと勃起しかけている陰茎に目を向け、顔を真っ赤にしながら恥じらいでいることも気にせずに。

 

 「ごめん、待たせたな。ちょっと斑鳩のスイッチが入ってたから――それで、何か用事か?」

 「え、えと、そのつもりだったんだけど――その、なんだか、ごめんなさい……邪魔、しちゃった、よね?」

 「いや、いいよ。どうせ昼からずっとやってたし」

 「ず、ずっと――そ、そうなんだ……」

 

 恥ずかしそうに身を捩る飛鳥とは対照的に、若は裸で座っているというのに微塵も恥ずかしそうではなく、むしろ堂々とした姿にも見える。それが逆に飛鳥の羞恥を増やすことになるのだが、本人はそれに気付いていない。

 何かを言いたいけど、恥ずかしくて言えない。本来の用事を済ますこともできなければ、この状況に関する質問を向けることもできない。そうして困る飛鳥は何かを言いだすこともできず、不思議そうに首をかしげる若の視線から逃れることもできず、ただ黙り続けて困ることしかできなかった。

 その時、荒い呼吸を繰り返し、若の隣で寝転んでいた斑鳩がゆっくりと起き上がって、自分の体を隠すように若の陰へと体を寄せた。

 彼女はそこで顔を赤くしたまま、明らかに恥ずかしがっている姿で飛鳥を見つめ、抗議するように若へと語りかける。どう見てもテンパっていることが丸わかりな姿だ。

 

 「わ、若様、何を悠長に話しているのですかっ。は、早く服を着て下さい、飛鳥さんに失礼でしょう」

 「でも斑鳩がたまに言ってたんじゃないか。エッチしてるところを誰かに見られたいって」

 「そ、それはちょっとした冗談というか、気分を盛り上げるためのスパイスでして――ほ、本気でそう思ってたわけじゃありませんし、なにより相手に不快感を与えることだってあるわけでっ」

 「せっかく念願叶ったんだから、このまますればいいじゃないか。ほら、おいで」

 「だ、だめですよ若様っ、あ、飛鳥さんが見ている前で――あぁっ」

 

 渋る斑鳩を半ば無理やりに抱きよせて、彼女の体を膝の上に乗せて、胸や股間へ手を伸ばす。柔らかい肉がぐにゅりと形を変え、押されるがままに動いて、同時に強弱様々な快感を与える。

 飛鳥がじっと見つめる、その前でだ。

 最初は嫌がっていた斑鳩も、動きが徐々に変わる内にだんだんと甘い声を洩らし始めて、膣内を指でほぐされだした頃にはついに嫌がりながらも悲鳴のような嬌声をあげて悦んでいた。

 ちらりと、若が飛鳥を見る。彼女は顔どころか全身を赤くしながらも、ぴくりとも視線を逸らさず、指に掻きまわされる斑鳩の膣を眺めている。

 しかしふと、自分を見つめる若の視線に気付いた時、飛鳥はパッと顔を逸らしながら座りなおした。知らない間に自分の股間を手が這っていた事実を隠そうとするかのように。

 しっかりとその動きを見ていた若は、斑鳩を気持ちよくさせながらもにこりと笑い、飛鳥へとやさしい声をかける。

 

 「……飛鳥もいっしょに、する?」

 

 そう尋ねてみると、明らかに体を重ねる二人以外から、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

 

 「わ、私は――」

 

 その日を境にして、若の屋敷へ通う人間は一人ではなくなり、当番制でそこへ訪れる人間は二人になったという。

 この事実に最も反対していたのは他の誰でもない、まず最初に若の相手をしていた斑鳩だったのだが、彼女も結局は若に勝つことなどできず、渋々と承諾することになる。

 代わりに、彼女の要望によって半ば隠居に近い生活をしていた若が学園に赴き、戦術指南役として働くようになり、授業や訓練の合い間に斑鳩や飛鳥と体を重ねたりもするのだが、結局はそれが原因で他の面々にも若との関係がバレてしまい、屋敷に通う護衛が増えてしまったので、要望を叶えてもらった彼女にしてみれば予想外過ぎることばかりが続いて本末転倒だったのである。

 



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柳生、変質的な愛情

 白く長い髪のツインテールに銅銭で作られた眼帯。ある一時を除いて常に冷静沈着な彼女の忍としての名は、柳生という。

 半蔵学院の忍クラスに所属する一人で、同クラスの少女、雲雀にしか興味を示さない変わった人間だ。

 成績は優秀、クラスメイトとの仲も良好。ただ一つの問題を上げるとすればまず真っ先に思い浮かぶのが、その雲雀への執着心の高さだろう。昔亡くなった妹に似ているとかで、決して他の者へは見せない緩んだ表情が雲雀にだけ見せられるのである。

 しかしここ最近、そんな彼女に変化があったというのだ。一番初めに言いだしたのは、その柳生とよくいっしょにいる雲雀だった。

 他人の前ではよく仏頂面を見せることが多かった彼女だが、近頃は若の家に赴く時もやけに緩んだ表情を見せるらしい。確かな筋からの話なので、仲間たちは決して疑おうとはしなかった。

 だがお互いの時間を邪魔しないようにと決めているため、確認できないのも事実。

 果たして本当に柳生は、雲雀に見せるような顔を若にも見せているのかどうかは、当の本人たちにしかわからないことなのである。

 

 「んんっ……あぁっ……若……」

 

 これも当人の二人しか知りえないことだが、近頃の柳生にはハマっていることがある。それは若といっしょにいる時にしかできないことだ。

 基本的に、日替わりで若の護衛に就く者は彼の性処理も担っている。もちろん、本人の意思にそぐわない場合は強制されることはない。今のところ全員がその任を受け入れている。

 そんな中の話。ここのところ柳生はある体験に目覚めたらしく、事あるごとに若へとその行為を迫っているようだ。

 今日も彼が住む屋敷へ到着して早々、リビングにある背の低いテーブルの上に座った彼女は、股を広げ、若干の汗を吸う己のショーツを若に舐めさせていたのである。

 

 「あっ、若、そこだ……もっと強くっ……」

 「ん、こうか?」

 「あぁっ、そうっ、それ……!」

 

 べろりと伸びる赤い舌が、薄い青の水玉模様の布へと触れて、いやらしく何度も上下に往復する。

 今、若の舌が触れているのは小さな陰核、すでに勃起している柳生のクリトリスだ。

 さほど目立つ様子ではないとはいえ、舌で触れれば布越しでも感触がわかるそれは柳生の弱点でもあるらしく、若の動きに応じて小さな声がこぼれる。

 舌先でつつけばぴくりと震え、大胆に舐めれば大きく息を吐き、唇を寄せてちゅっと吸いつけばあまりの衝撃に息を飲む。若から与えられる刺激で一喜一憂する柳生は普段では見れないほどの百面相を披露しており、すでに頬は真っ赤になっている。

 近頃の柳生の趣味。それは若から全身を舐め清められることにある。

 一人前の忍となるための厳しい修行を終え、その結果流れた汗がしみ込むこととなった下着が若の口へ触れている。本来であれば最も隠したがるそれが、今は彼の眼前に晒され、あろうことか顔を寄せられて触れられている。

 柳生にとってはそれが快感なのだ。加虐的な発想なのか、それとも被虐的な発想なのかはわからない。ただ少なくとも、学校から直接若の家へ赴いた柳生が着替えもせずに彼へと迫ったのには理由があるのだろう。

 実際、自身の股に顔を埋められている柳生はひどく満足そうな表情で、もっと強く押しつけさせようと若の後頭部に片手を置いている始末だ。

 

 「はぁぅ、若、今度は、吸ってくれ……音が鳴るくらい、強くっ」

 「わかった。ここでいいんだな」

 「はぁぁ、そこぉ……もっといっぱい――」

 

 わざと唾液を分泌させた若がずずっと音を立ててクリトリスへ吸いつくと、柳生は長いツインテールをふわりと揺らしながら首を逸らした。

 現在、いまだ彼女は制服姿のままだ。傍から見れば着崩したりもしていない、れっきとした学生の姿。なのに今は、若とこれほどまでに淫らな行為に耽っている。

 大なり小なり匂いがするはずの下着と、己の最も恥ずかしい部分を舐められながら、気分はますます高まっていくかのようだった。

 ふと、柳生は若へ離れるように手の動きだけで伝える。頭を引っ張られてようやく唇を離した若は口の周りを自身の唾液で濡らしていて、それがまた柳生の心をぞくりと震わせた。

 彼女は行儀も悪く食卓の上に尻を置いたまま、右足に履いていた長いソックスを脱ぎ棄てる。そしてごくりと喉を鳴らしながら、恐る恐るその足を伸ばしていくのだ。

 

 「わ、若……次は、こっちを頼む。若の舌で、きれいにしてくれ」

 

 命令なのかお願いなのか、自分ですらよくわかっていない。だが少なくとも若には伝わり、彼は迷う様子もなく小さく頷いた。

 ゆっくりと動いた若の頭が柳生の足へ近寄り、柔らかな唇が足の甲へと触れる。瞬間、柳生の背筋がぞくりと震えた。当然良い意味から来る感覚である。

 次の瞬間には白く美しい、しかし一日の汗で匂いがあるはずの肌がべろりと舐められた。妙に色っぽく、艶めかしく動くそれは微塵の迷いも見せずにするすると肌の上を移動して、まず足の指へと辿り着いた。

 一息に親指がぱくりと銜えられる。しかも動きはそこで止まらず、舌は誘うように蒸れたそこへ触れていく。指と指の間すらも丁寧に濡らされた。

 若はこうした行為に嫌悪感を持っておらず、ひどく丁寧でやさしい動きによって柳生の足を清めている。おかげでその光景をじっと見ている柳生は心臓の鼓動をさらに大きくしながら頬を染め、知らぬ内に股を濡らすほど興奮していた。

 親指が終わり、人さし指へ移動して、次は中指。そうして舌はすべての指に触れつつも止まることなく移動して、柳生の右足の指をすべてきれいに舐めとった。

 だがそこで終わらず、足の裏やかかと、それだけでなく足首から膝の裏に至るまで、若は丹念に舌と唇で柳生へ触れる。

 ごくり、とまたも喉が鳴る。同時に、もっとして欲しいという欲求が沸き上がっていた。

 

 「若、まだお願いしてもいいか?」

 

 自然と己の秘所へ指を伸ばしていた柳生が、ついに太ももまで到達していた若へ向かって問いかける。すると彼は心得たとばかりに小さく頷く。

 言い知れない喜びが胸の内へ広がった。これはもはや歓喜と言ってもいい。

 いそいそと動きだした柳生は残っていた左足のソックスも脱ぎ、そっと若の眼前へ突き出す。若は何のためらいもなくその足を手で受け止めた。

 

 「こっちも、頼む。さっきみたいに舐めてくれ……」

 「わかった」

 

 上ずった声がそう言うと、自身の唾液にまみれた唇が再び足へと触れる。非常に丹念に、思いやりが込められた様子で舌が伸びた。

 今度も時間をかけて足の全体が舐められていき、柳生がショーツをずらして直接性器へ触れ始めた頃には若の動きが終わる。彼女の両足にべっとりと唾液が塗りたくられ、縁側から差し込む日差しでうっすらと光っていた。

 若の視線は自然と、柳生が自ら露わにしたそこを吸いこまれるように注視する。じわりと液が溢れだすほどに濡れた秘所は、わずかだが彼女の指先を呑みこんでいる。

 指がふやけるほどの大量の愛液に、先程混じった若の唾液。彼女のそこはすっかり準備も万端で、来るべき時を待って疼いているようだ。

 だが本人はそれよりも気になることがあるようで、じっと見上げてくる若を見てぞくりと背筋を震わせ、自らの膣を指で押し開いた。

 

 「若、ど、どうしたい?」

 

 自らがして欲しいことはすでに決まっているのに、虚勢を張った柳生は若を見下ろしてそう言った。

 頬は綻び、顔は真っ赤で、普段とは違ってあまりにも感情がわかりやすい表情だ。だが、今度は自分からお願いしたりはしない。

 彼女は聞きたくなったのだ。若が自らを求める、その言葉を。その口で、その目で、自分の体を求めてほしいと。

 柳生のそんな願いが届いたのか、ぺろりと口の端を舐めた若は恥じらいもせずに告げる。

 

 「舐めたい。柳生の体中、全部に触れたいんだ」

 「そ、そうか。よ、よし、それなら――」

 

 ためらいのない、本心からの声を聞いて嬉しそうに微笑んだ柳生は、自ら制服へと手をかけた。

 焦らすように一つずつ、ゆっくりとボタンをはずしていく姿は何とも艶めかしい。まだ制服を着る少女でありながら、肉体は凹凸がはっきりとして女らしく、普段は男っぽいとすら思える話し方や態度をする彼女。外見や内面、あらゆる点でギャップが見られる。

 着流しを身につけている若はすでに股間部分を大きく盛り上げていて、いつでも挿入は可能である。だというのに先延ばしを喰らうのは彼にとっても厳しいことだ。

 だが彼は柳生の想いを、欲求を優先するつもりでいる。彼女の全身を余すところなく舐めつくし、彼女自身が満足するまでこの行為を続けるつもりだった。

 白いシャツが畳の上に放られ、水玉模様のブラジャーとショーツも降ろされると、柳生はスカートだけを身に纏って残りは裸の状態となる。

 大ぶりの乳房はゆさりと揺れて、ツンと立った乳首は桃色で愛らしく、まだ少女の頃を抜けきらない裸体。それが今、股間を隠しただけの姿で目の前にある。

 無表情ながらも興奮を抑えられない若が自ら動きだすまでさほど時間はかからなかった。

 

 「きれいだよ、柳生」

 「うっ……真顔でそんなことを言わないでくれ。は、恥ずかしいだろう」

 「本当のことだ。いつも思ってる。柳生はきれいで、可愛いよ」

 「うっ、ぐっ、わ、わかったからやめてくれ……恥ずかしさで死にそうだ……」

 

 直立不動で畳の上に立ち、ぎゅっとスカートの裾を握る柳生は、恥ずかしげに俯く一方で自ら足を広げた。

 これが最近の彼女が一番気にいっている体勢だ。自身が立ったまま、若がスカートの中へ顔を突っ込み、下着ないしは直接股を舐められる。ひどい興奮と快感、その両方がいっぺんに全身を駆け巡る体勢だった。

 今も事情を知る若はおもむろにスカートの中へと顔面を侵入させて、そのまま舌を伸ばして潤った秘所を舐めている。小さな水音が静かな部屋に響いて、しかしその姿はスカートの中身が見えない柳生には直接確認することはできない。

 見えない場所で確かな快感が与えられ、崩れ落ちることは許されず、じっと立ったまま責められる。この時の柳生は露わになっている目を快楽で揺らめかせ、熱い吐息を吐いていた。

 

 「うぅっ、はぁっ、あぁっ――きもち、いいっ……」

 

 なんて気持ちいいのだろう。若の舌を己の股で感じている彼女は静かにそう思う。

 思えばこれまで、あまり若の性処理を担うことに意味を感じていなかったのかもしれない。そもそもを言えば、柳生が若の家へ訪れるようになったのは、彼女が大事にしている雲雀という少女が自ら進んで若の性処理を行っていたからだ。

 雲雀だけに辛い目は遭わせん、と意気込んだからこそ、柳生は若と頻繁に会うようになり、しかし当初は抱かれてすらいなかった。それがなぜ肉体を重ねるようになったか、もはや彼女は覚えていない。

 だがそれでも思うことは、こんなことならもっと早くから抱かれておくべきだった、ということ。これほどまでに気持ちが良く、心地よく、夢中になってしまうのならば、もっと早くに知りたかったと。立ったまま秘所をねっとり舐められる柳生はそう思う。

 気付けばすらりと伸びる白魚のような指は、若の黒い髪に触れていて、もっと己の体へ押し付けるように力を込めている。

 我を失って覚えたばかりの性交に夢中になった柳生は自分で気付かぬままに、かくかくと小刻みに腰を振っていて、更なる快感を求めようとしていた。目を閉じて首を逸らし、うわごとのように呟くのはやはり普段の彼女らしくないものばかりである。

 

 「あぁっ、はぁっ、きもちいい、きもちいい――若、若っ、うぅ」

 「んっ、ふっ、むっ――」

 

 必死に、丹念に舌を動かす若も目を閉じ、行為に集中していた。射精したい、柳生の膣へ肉棒を突っ込みたい、そうした想いを持ちながらのことだ。

 唇で吸いつき、舌先で蜜壺をこじ開け、溢れ出る体液を飲みながら。若は柳生のために奉仕を続ける。

 そうした彼のやさしさ、気遣い、丁寧な舌使いがすべて柳生へと伝わる。舌で触れられる股間から、じんわりと体が温まるかのように広がっていく。

 柳生の喘ぎはますます大きくなっていき、若の頭を押さえつける手の力もさらに強まった。

 直立不動だったはずが、背筋を曲げ、膝を震わせ、若へ触れる手に力を込めるのは、もうすでに限界が近かったからのようだ。

 

 「はぁぁっ、若っ、もうだめだ――イクっ、イクぅっ! うぅ、うぅぅっ――」

 

 びくん、と体を震わせた直後。膣内を刺激され続けた柳生は激しい絶頂を感じ、大量の潮を吹いて若の顔へとぶちまけた。

 すぐに大口を開いて飲みこもうとする若だが、勢いのいい噴射を止めるには一足遅く、いくらかは顔を濡らし、ある程度は喉の奥へと通っていく。

 自分の秘所に口を当て、喉を鳴らす若に対して柳生は顔を赤らめて困惑するのだが、決して嫌がることはなく、むしろ彼の頭を押さえる手にもう少しだけ力を加えた。

 勢いよく飛び出した愛液が止まった後、脱力した柳生は呆気なくその場へ崩れ落ちる。すぐさま若が抱きとめていなければ、すぐ傍にあるテーブルへ頭を打ち付けてもおかしくはなかっただろう。

 若が柳生を横抱きにし、二人は座って動きを止めた。まだ絶頂の余韻が引かない柳生が元に戻らず、荒く息を繰り返しながらぼんやりしているためである。

 彼女の頭を撫でながらしばらく若が待っていると、ようやく回復した柳生は若の胸へと頭を寄せた。

 恥じらいが混じる小さな声が放たれる。

 

 「ん、ふっ――すまない、若。俺ばかりが気持ちよくなって……」

 「いいさ。まだ終わりってわけじゃないだろう?」

 「あ、ああ。若が望むなら、その……俺を好きにしてくれて構わない」

 

 伏せ目がちにそう言い、恥ずかしくなった柳生は顔を俯かせる。

 だが若はそんな彼女の唇を追い、ちゅっと軽く触れてからすぐに離れる。

 それだけで効果はてきめんで、ますます赤くなって狼狽する柳生は若の胸へ抱きついて顔を隠した。

 

 「柳生、まだ舐めてほしいところがあるんじゃないか? 俺を気遣う必要はない。して欲しいこと、なんでも言ってくれ」

 「え? だ、だが今日は俺ばかりが気持ちよくしてもらってばかりで――」

 「俺がしたいからそうしたんだ。俺はもっと、柳生に気持ちよくなってほしい」

 「うっ――若は、ずるいな。そんな顔で、そんなこと言うな……」

 

 この時、若は薄く微笑んでいた。あまり感情を表に出さず、表情を変えることも少ない彼だ。その表情は頻繁に会っている柳生であってもめずらしいと感じる。

 恥ずかしいやら、幸せやら。あらゆる感情に悩まされる柳生はしかし悪い気分ではなく、むしろ心地よさを感じている。雲雀が傍にいないのに、と思うほどに、こちらもまためずらしい。

 そう理解したところで、彼女は自らの希望を口にした。若の言う通り、このまま気持ちよくしてもらおうと考えたのだ。

 やってほしかったことなら、数えるのも面倒なほどたくさんある。その中からいくつかだけ、比較的叶えてもらえるだろう確立の高い物から言葉とした。

 

 「そ、それなら若、やってもらいたいことがあるんだが、いいか?」

 「ああ。俺にできることなら、なんでも」

 「う、うん……それじゃあ――」

 

 着流しの胸元をぎゅっと握り、吐息に混じった願望は、ひどくあっさりと若を頷かせた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 湯気が立ち上るそこでは、裸になった若が動いていた。

 白いタイルの床に青いビニールマットを敷き、そのすぐ傍で桶に入れた液体とお湯を掻き混ぜる。それはいわゆる、ローションというものだ。

 巧みな手さばきで粘り気を生みだす彼は勃起した陰茎を隠すこともなく、ぶるりとそれを揺らしながらも準備を進めている。

 その背や、形のいい尻を眺める柳生は湯船の中にいて、体の芯からじんわりと温まる心地よさを感じながら吐息をこぼした。

 柳生のお願い、その一つ。それは若とローションプレイがしたい、というもの。若の手と体全体を使って、自分の体をマッサージして欲しいというものだった。

 ただしそこへもう一つのお願いも加わる。それは、お尻を舐めてほしい、というもの。ここ最近は全身リップを好んでいる柳生だが、若の舌で全身くまなく舐められた、という経験はない。そうして欲しいと願望を抱きながらも、嫌われることが怖くて中々言い出せなかったのだ。

 これから柳生の全身は、若の舌によって舐められる。それは文字通り、触れないところはないようにである。

 想像しただけで、柳生の股はきゅんと寂しくなって、期待が表れるかのように愛液がこぼれ出てきていた。

 徐々に我慢できなくなってきた柳生を理解しているかのように、準備を終えた若が彼女を呼んだのはちょうどそんな瞬間だった。

 

 「柳生、準備できたよ。そこへ寝転んでくれ」

 「あ、ああ……」

 

 若の呼びかけに応じ、いそいそと湯船から上がった柳生は体を隠そうともせず、床に敷かれたマットの上でうつ伏せになった。

 簡易の枕へ口元を押しつけ、高鳴る鼓動を示すかのように瞳は期待で揺れている。まるで借りてきた猫のような態度も普段とのギャップを感じさせた。

 しかし彼女を理解している若はさほど驚こうともしないまま、手に掬ったローションを自らの体へ塗りたくっていたのである。

 

 「じゃあ行くぞ。楽にしてていいからな」

 「わかった。じ、じゃあ、頼む」

 「ああ」

 

 ぬるり、と奇妙な滑らかさを持つ物が背に触れる。それが若の胸板だと気付くのに数秒がかかった。

 いつも触れている場所なのに、ローションがついただけでこうも違うのか。柳生は少し驚き、その独特の感触へ更なる興味を示して、黙って若の奉仕に集中した。

 まずは白く小さな背中へ胸を寄せ、体を使ってローションを塗る。彼がそうした行為を知っているのは、以前に自分が体感したことがあるからだ。

 若へ奉仕することが生きがいな斑鳩もそうであるし、彼に自らの体を使って女の扱いを教えた女性もこうして若の上に乗っていた。若自身、自らが動くのは初めての経験で想像でしかないのだが、ともかくやるべきことはわかっているのだ。

 そのため、あまり時間もかけず、全身を使ってローションを塗りたくった彼は、早々に事を進めようとしていた。

 肌を触れ合わせるだけならいつもやっている。しかし、柳生が望んだものはその先にあるのだから。

 

 「ん、これくらいでいいのかな。じゃあ、始めるぞ」

 

 うつ伏せになったことでむぎゅと潰れる胸を弄りつつ、柳生のうなじへ口づけを落とした若が言う。

 彼としては、そうして女性の乳房や股で触れているのが心地良かったが、今日は目的が違う。柳生の望みをかなえようとする若は舌を伸ばし、独特の光沢を放つ背へと触れる。

 瞬間、柳生はぴくりと震えて歓喜を感じていた。

 

 「んっ……」

 「どうした?」

 「だ、大丈夫だ。その、今までとは違う感じだったから……気にせず続けてくれ」

 「わかった。じゃあ、このまま――」

 

 唇で軽く吸いつき、舌先で強く肌へ触れ、同時に若は体を擦りつけていた。

 両手は彼女の大ぶりの乳房へと伸び、包み込むように揉みしだく。一方で股間の怒張した陰茎は柳生の尻へ押し付けられていて、存在をはっきりと主張している。

 そうしながら動きはゆっくりと、焦らすように下へ向かって舌が移動する。徐々に彼女の期待を煽るかのような動きにも見えた。

 柳生は今、かつてない興奮に苛まれている。目で若の動きが見えないため、いつ触れられるのか、どうやって触れられるのかが全くわからないのだ。

 緊張か興奮か、彼女の体は妙に固くなってしまっている。それを少しずつ揉みほぐそうと若は手を動かし、口で触れる位置を移動させて、己の怒張を押しつけた。

 

 「どうした柳生、怖いか?」

 「い、いや、恐怖とは違う。ただ、やっぱり何か変だ。い、いつも通りにはできない」

 「そうか。それならそのままでもいい。ただしっかり感じてくれれば、それで」

 

 若の舌が、ついに尻たぶへと触れた。まだ固さは残るものの肉付きのいい、女らしいそこは丸々としたきれいな形を保っている。

 そこへ、赤い舌がやさしく触れ、舌先で形をなぞるようにゆっくりと動く。この時、彼女の足には若の肉棒が押し付けられていて、目で見ずとも、手で触れずともその形がはっきりとわかるようだった。

 もっとも、手で触れたことも口内へ含んだことも、自らの体内に迎え入れたこともあるのでは、すでに以前から理解していたと言って過言ではないが。

 

 「うぅ、若っ、そんなに焦らさないでくれ――わかったからっ。気持ちいいのはわかったから、はやく、そこを……!」

 「そこって、どこ?」

 「うっ、意地悪だぞ若。さっきは素直に頷いて――」

 「ごめん。でも、はっきり言われないとわからないこともあるから」

 

 変わらず若はマイペースで舌を動かす。尻たぶを大きな動きで舐めまわし、割れ目にわずか入ったところでまた引き、肝心のその場所へ触れようとしない。

 柳生はついに堪え切れず、懇願するかのような声色で若へと言った。プライドも何もかも捨て去った、彼女にとってはあまりにもめずらしい一言だ。

 

 「若、俺の――俺の、尻の穴を、な、舐めてくれ……お願いだ」

 「どういう風にされたいんだっけ」

 「くっ、し、舌を突っ込んで、乱暴に掻き混ぜてほしい……! は、早くやってくれっ。なんでもするから、お願いだっ――」

 

 柳生がそう言った瞬間、若の舌が、ずぶりと彼女の尻の穴へと侵入していた。

 乱暴に、力強く。普段の彼からは想像できない舌使いが彼女を襲う。だがむしろ、柳生はその舌使いこそを待っていた。

 今の柳生は目を見開き、背を逸らして体を震わせながら、激しい絶頂を感じていた。散々焦らされ、ようやく求めていたものが強い快感と共にやってきたのだ。その興奮や満足感はひとしおだろう。

 ぶるぶると震える柳生を休ませることなく、若はさらに深くまで舌先を突きいれ、あらかじめ洗っておいたそこを入念に舐める。いやらしく、艶めかしい動きは彼女が求めていた通りの快感だった。

 おかげですでに潤っていた蜜壺からはまた小さく潮が吹かれ、ローションと混じりながらマットへ落ちる。

 

 「うぅぅ……くぅっ、はぁぁっ……!」

 

 たまらないとばかりに首を振り乱し、白い長髪をばさりと揺らす。この瞬間確かに、柳生は幸福を感じていた。

 苛烈な若の動きがペースを速めて大胆さを増し、両手で尻たぶを押し開きながらさらに顔を押しつけてくる様は、見えなくても更なる興奮を与えてくれる。あの若が、自分の尻へ顔を埋めて熱心に舐めている。奇妙な興奮と満足度があった。

 しかしこの時、彼女はあまりにも油断していた。若に言うことを聞かせ、自分のやりたかったことをしてもらっているという思考が、全身を駆け巡る熱い快楽が柳生から忍の感覚を奪い去っていたのだ。

 突如として命令にない行動を始めた若は、右手の中指を彼女の膣内へと突っ込み、内部を乱暴に掻き混ぜ始めたのである。

 

 「ひっ――!」

 「こういうのも好きだろ、柳生は」

 

 尻の穴を舐められながらのそれは普段以上の快感がある。途端に柳生の表情はだらしなく崩れた。

 ぐちゃぐちゃという卑猥な音を立てながら指は高速で出入りし、大量の愛液を撒き散らす結果となる。ただでさえローションで濡れていた指が、別の液体で淫らな光沢を持つのだ。

 挿入する指をもう一本増やす頃、いい加減若の方も限界になってきていて、尻の内部を掻きまわしながらも彼は肉棒を足の裏へと強く擦りつけていた。

 ずりずりと包皮が動いて、先走り汁が間抜けなほど大量に溢れだしている。普段であれば体力に任せて我慢もせずにどんどん放出しているだけに、いまだ一発も出していないというこの日の我慢は辛かったようだ。

 尻を舐め、膣を掻き混ぜ、その一方で同時に若は己の肉棒を扱き始める。ここで一度出すことに決めたらしい。

 長く我慢を続けていただけあって絶頂へはあっという間に到達し、この日初めての射精は、柳生の尻を目掛けて行われた。

 

 「くっ、柳生……出るっ……」

 「えっ、あっ――んんっ」

 

 与えられていた二つの刺激が去ると共に、バシャリと尻に大量の精液を振らされ、驚いた柳生は表情を変えた。しかし決して嫌そうなものではなく、それを嬉しがるように目を細めている。

 自らの手で射精した若はその後も何度か竿を扱き、尿道に残っていた体液もすべて出し終えると、膨れ上がったままの亀頭を丸い尻へ押し付けた。

 自らが出した体液を塗りたくるように、何度も柳生の尻へ先端を押しつけ、その弾力を楽しんでいる。彼女自身も恥ずかしがる一方、嬉しそうだった。

 だが次の瞬間、柳生は驚愕と恐怖から全身を固くし、先程とは違う意味で目を見開くこととなる。

 そうして遊んでいた若が突如、屹立した肉棒の先端を柳生の尻の穴へと当てたのだ。

 

 「まっ、待て若っ、そこは入れる場所がちが――うぐぅっ、うぅぅっ!?」

 

 ぐいと、まるで遠慮も何もなく、若は力強く柳生のそこへ肉棒を埋める。唾液とローションの働きがあったおかげか、初めてだというのにずるりと内部へ到達する。

 入る場所の限界まで到達すると、ほっとしたように一息つき、若が動きを止めた。締め付けが膣よりも強烈なため、その感触が心地よいと共にあっさりと射精してしまうと感じたのだろう。

 だが休まれてはそれはそれで、柳生へかかる負担も変わる。ただでさえそんな体験は初めてなのだ。

 先程までの幸せも忘れ、全身に力を入れながらぎゅっと拳を握る柳生はどこかを見ながら舌を伸ばしており、快感とも苦痛とも取れる奇妙な感覚に打ちのめされていた。

 

 「かはっ、あがっ、はっ――わ、か……それは、無理ぃ……」

 「大丈夫だ。思ったよりすんなり入った。それに、斑鳩はこっちも気持ちいいって言ってたよ」

 「そん、なっ――おぉぉぉっ、おほぉっ」

 

 腰がゆっくりと後ろに引かれて、同じように肉棒が抜かれていき、しっかりと主張するカリ首が内部を擦る度、内臓をすべて持って行かれそうな独特の感覚がある。

 だが、悪いわけでもない。獣のような唸り声を上げてその感触を確かめる柳生は、まだ自分がそう想っていることに気付いていない。

 今はただ、若のされるがままに内部をかき乱され、うつ伏せのまま強くマットにしがみつくしかなかった。

 

 「うぐぅ、んんんっ、んひぃぃっ――わかっ、はげしいっ、はげしすぎるっ」

 「はっ、んっ、でも気持ちいいんだろ? ほら、頬が緩んでる」

 「いやぁ……むりぃ、こわされるっ、あっ――」

 

 徐々に、だが確実に、若の腰の動きは速くなった。最初はまだ柳生を気遣うような気配もあったものの、今ではそれすらもなくただひたすら乱暴に腰を打ち付けている。

 肌と肌がぶつかる衝撃で柳生の尻が揺れ、パンっという肉を打つ音が鳴る。そこにある快感は彼女のろれつを回らなくさせるほどで、抵抗らしい抵抗もできない彼女を存分に責め立てていく。

 ローションが広がるマットの上、滑りのせいでわずかに体が滑るまま、二人は激しく絡み合った。その度に肉がぶつかる音と、だらしのない柳生の嬌声が風呂場に広がる。

 ますます勢いを増していく一方、何度絶頂しているかもわからない柳生につられて、ついに若も限界に達した。それでも彼は己の陰茎を外へ出そうとはしなかったのである。

 

 「くっ、だめだ、もう出るっ――」

 「あはぁぁっ、わかぁ、だめっ、なかは――あぁぁぅ、うぅぅっ」

 

 最後に一度、力強く腰を打ちつけ、若は柳生の最奥で達した。先程同様に大量の精が放たれる。

 荒い呼吸が続く中でそれが終わると、若がようやく陰茎を抜いたことにより、体勢を変えて横向きに寝た柳生はおぼつかない動きで己の尻へ手をやる。

 どろりと溢れてくる体液は熱く、中で発射されたことを示すように次から次へ溢れて出ていた。

 

 「あぁっ、んんぅ、はぁっ――中は、だめって、言ったのに……」

 

 恨みがましく言う彼女だが、赤らんだ頬や緩んだ口元は隠し切れていない。中に出されたことがむしろ嬉しいと言うようであった。

 即座に若が動き出し、横向きに寝ていた彼女を仰向けにして押し倒す。驚く表情を見つめたまま、今度は物欲しそうに蠢く膣への挿入を開始したのだ。

 

 「んんんっ、若っ、ちょっと待て――まだ、イッたばかりで……!」

 「心配しなくても、俺もイッたばかりだ」

 「そうだがっ、これはっ、んんんっ! あぁっ、だめだ、また、またおかしくなるぅ……!」

 「いいよ、おかしくなっても。気を失ってもちゃんと俺が面倒見るから」

 

 いきり立つ肉棒がずぶりと穴へ挿入され、嬉しそうな悲鳴がまた上がる。途端にそこからはぐちゃりと独特の粘っこい水音が聞こえてきた。

 マットの上での二回戦は休む暇もなく始められ、柳生が我を忘れるまで続けられた。

 その時の乱れ切った彼女は、あくまでも若の視点からではあるが、普段以上にとても美しかったらしい。

 



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紅蓮隊、同盟

 これは、若がまだ頻繁に任務に駆り出されていた頃の話。

 飛鳥たちとは知り合いながらも、まだただの仲のいい友人、体を重ねることはなかった日の出来事。

 任務を終えて帰路につく若が、飛鳥の話に出てきた少女と出会い、彼女の提案によって軽く剣を合わせることになったのはとある秋のことだった。

 紅葉芽吹く森の中で向かい合った二人の戦いは、まさに熾烈を極めていた。

 

 「くっ……!?」

 

 ガキィン、と甲高い金属音が響いたその時には、黒いセーラー服を纏う少女の右手から三本の刀が弾き飛ばされる。

 両手の指の間に日本刀を挟んで持ち、動物の爪のようにして振るっていたその武器が、ひどくあっさりとした様子で奪われたのだ。

 そう、弾き飛ばしただけでなく、奪われた。宙を舞ってからバラバラに落ちてくるそれを見た若は、右手でそれらを掴みとり、見よう見まねで彼女の構えを同じくしていた。

 自身の刀は左手と口に一本ずつ、右手には少女から奪った三本の刀、まるで彼女の戦法をそのまま真似したかのような立ち姿。

 しかしあまりにも形になっているその立ち姿はただの真似ではなく、刀と同時に戦法まで奪われたかのようにも見える。

 少女は思わず表情を引き締め直し、頬を伝い落ちる汗を自覚していた。心の中を占めるのは大きな驚きと、少しの困惑、そして抑えようがない興奮だった。

 黒い着流し。赤い羽織。今は頭の側面にある狐面。左手には自身の長刀、口にもう一本の刀を噛み、右手には敵から奪った三本の刀。そして何よりも目に残るのは、冷たく、怪しく光る青い眼光。

 その男は間違いなく、これまで出会った中で最も強い。

 常に自身の強さを求める少女にとって、そう思えるだけの現状はとても嬉しいものなのだ。

 

 「ふっ、くっくっく……まさか、ここまでとはな。あぁ、認めよう。私は今、確かに恐怖を感じている――それもこれまでの経験なんか比べ物にならないほどに」

 

 今、少女は笑っていた。

 黒いセーラー服の胸元を縦に切り裂かれ、その下にある黒い下着すらも左右に分かたれて、同じくスカートも腰の部分を見事に縦に両断されて今や遠く離れた地面に落ち、露わになった黒いショーツを隠そうともせず、それでも少し浅黒い肌には微塵も傷がない状態。

 若は完全に手加減をしている。それが飛鳥という共通の知り合いを持つからだということは少女も理解しているが、それでもここまで侮辱されたことがあっただろうか。

 裸に剥きたいからそうしているのではない。その気になればいつでも殺せる、無表情の男の太刀筋はそう語っているのだ。

 それを理解できるからこそ、少女の中でとてつもない闘争心が燃え上がる。必ずこの男に勝ってみせる、その想いは今や全身から見て取れた。

 

 「飛鳥め、何がやさしくていい人だ。忍としてのこの姿は――噂通りで鬼のようじゃないか」

 

 そう呟く少女は左手に残った三本の刀を若へと向けて突き出し、同時に右手で背中に背負った一本の刀を抜き取る。

 その瞬間、少女の体から沸き上がる何かがあった。

 

 「いいだろう。ここからは試合であると同時に、本気の戦いだ――焔、舞い殉じよう」

 

 少女は刀を抜くと同時に長い黒髪を真っ赤に変貌させ、獣のように歯をむき出しながらそう言い、駆けだす。対して若も静かにその行動を見続けた後、黒い着流しの裾を翻しながら駆けだした。

 二人が持つ刀がぶつかったのはその直後のこと。

 その戦いの行く末は、当人同士しか知らない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 焔紅蓮隊。それは、元々は秘立蛇女子学園に所属していたものの、現在は抜け忍となって共同生活を送る集団の名だ。

 元は選抜メンバーと呼ばれ、焔という少女を筆頭にした五名。それぞれが学生でありながら、一流と呼んで遜色ない少女たちばかりである。

 そして抜け忍とは、忍の掟では本来始末されるべき存在だ。今までもこれからも、それは事実として変わらないだろう。

 だというのに、忍の世界では近頃、ある噂で持ちきりだった。

 「半蔵学院の半蔵が、抜け忍の集団と同盟を組んだ」

 詰まる所、忍ならば誰もがその名を知っている男、半蔵から抜け忍へと声をかけ、始末されるべき彼女たちを保護する代わりに自身の戦力にしようとしたようだ、という話である。それを聞いた多くの忍、及び忍の集団は揺れ動いた。ある者は動揺し、ある者は疑い、ある者は憤慨した。

 あの最強の男がなぜ、それほど愚かしい行動をするのか。普通に考えればあらゆる忍から非難され、半蔵自身の立場や評価を下げかねない。なのに、なぜ。様々な憶測が飛び交ったが、誰もがすぐに一つの答えへと辿り着く。

 今では誰もが囁いている、「鬼の子を使って何かを始めるつもりだ」と。

 そして事実、半蔵が懐へと迎え入れた五人の少女たちは今、「若様」と呼ばれる少年の傍で仕事をしている。

 それは夏が近づくある日、暑い日差しが照りつける中、半蔵の護衛たちが学校で授業を受けている頃、彼女たちは若と共に山奥にある滝とそこにある大きな川で涼を取っていた。

 腰まで冷たい水が来る深さで、バチャバチャと水を掛け合って遊ぶ二人の少女を遠巻きにしながら、若の傍には二人の少女がいる。

 大きな木の下に敷かれたビニールシートの上に、水着姿で寝そべる若。彼の頭は春花という、上半身裸でとても大きな胸を露わにし、下半身には隠す面積が少なすぎる桃色の水着、そういったやけに妖艶な姿の少女に膝枕されている。しかもその大ぶりの乳房を、仰向けで寝る若の顔に押しつけながら、さらりと手触りのいい黒髪を撫でながらであった。

 さらには彼の下半身の上には、自身は着ていた水着をすべて脱いで裸になり、若の水着をずりおろして、隆起する陰茎を口に含む緑の短髪の少女がいた。彼女の名は、日影。妙に生気が薄い半目をいきり立つ肉棒に向けつつ、あまり感情が感じられない姿を見せていた。

 

 「へぇ、そんなことがあったのね。焔ちゃん、初めて若様と出会った時から妙にライバル心むき出しにしてたから、何かあったんだろうなぁとは思ってたけど」

 「ああ。それ以来、顔を合わす度に勝負を挑まれるようになったんだ。みんなと会った時もそうだったっけ」

 「んっ、んっ――そういえばそうやったな。若様と出会った時、焔さんだけやたらと牙剥いとったわ」

 

 若が昔話を語る中、それを聞く二人の少女は平気で淫靡な姿を晒しているのだ。春花は自らの手で乳房をたぷたぷと波打たせながら若へと与え、日影は大きく口をあけて亀頭を口内へと迎え入れているのだから。

 じゅぷじゅぷと音を立てて口で亀頭を扱き続けていた日影が顔を上げた後、ちろちろと舌先で割れ目を舐めながらそう言うと、若は「うっ」と声を洩らし、春花は嬉しそうにくすくすと笑う。

 辺りはひどく爽やかな様相だった。多くの緑が生い茂り、木々の間と滝の真上からは青い空が覗き、燦々と照りつける太陽は暑さを感じさせながらも気持ちのいい情景を降り注がせる。

 だというのに、その下にある姿はひどく淫靡なものである。若は股間を隆起させて露わにし、日影がそれを口に含んで、春花は胸を若の顔へと押し付ける。近くで水着姿の二人の少女が遊んでいるというのに、三人共恥じらうこともなくそうしているのだ。

 もしも今この場に、アルバイトのために遅れているリーダーがいたとすれば、きっと顔を真っ赤にして声を荒げることだろう。

 なにせここ最近、若とのふしだらな行為に耽る仲間たちへ向けられる言葉は「は、破廉恥だッ!」という言葉が大部分なのだから。もっとも彼女もまたその破廉恥な行為を経験し、例に漏れることなく夢中になっているのだが。

 

 「それにしてもやっぱりすごいのね。焔ちゃんに勝てる人なんて少ないのに……私も若様が戦ってるところ、一度でいいから見てみた――あら? ふふっ、若様ったら、こんなに表情を蕩けさせて……気持ちいいのね?」

 「あ、あぁ……日影はフェラチオが上手いな。すごく、はぁっ、気持ちいい……」

 「ふふふっ、それはもう。若様のためにいっぱい練習したものね、日影ちゃん」

 「んっ、んっ、ふっ――まぁ、春花さんにやらされた、とも言えるけどな」

 

 そう言う日影ではあったがやはり声からは感情が感じ取れず、無表情のまま。しかし若の陰茎を舐めるその仕草や、動作、それらは妙に嬉しそうに見えるのだから不思議である。

 ぷっくりと膨れた亀頭を口内に迎え入れて頭を振り、蛇のように怪しく動く舌を絡ませて、そこを解放したかと思えば裏筋を丹念にゆっくりと舐め、竿に唇を当てたままずるずると下へ下がっていく。そうした後は、薄く陰毛が整えられた根元に唇を寄せ、鼻先に縮れ毛を触れさせたままじゅるじゅると音を立てる。大量の唾液がまんべんなく彼の肉棒に付けられ、垂れた分が玉までを濡らす。

 春花の指導を受けながら練習しただけあって、日影の口淫は見事なものだった。長い舌がまるで別の生き物のように艶めかしく動いて、余すところなくねっとりと絡みついていく。その姿は、さすが春花を持ってして「天才的な舌使い」、或いは「フェラチオの天才」と言わせただけのことはあるというもの。

 若はその技術を自身の体で存分に堪能し、目を閉じて歯を食いしばりながら、だんだんと呼吸を荒くしていった。当然、顔の大部分を春花の乳房で押さえられながら。

 

 「はっ、くっ、はぁっ――日影、春花っ……んぅ」

 「うふふ、若様、イキそうなの? いいわよ、このままイッて。日影ちゃんの口の中に出してあげて。彼女もそれを望んでるから」

 「んんっ、むふっ、うむぅ」

 

 再びぱくりと亀頭を銜えた日影がそこに舌を絡ませながらこくこくと頷く。やる気のない目はしているが、右手でしっかりと竿を扱いている姿を見る限り、若を気持ちよくさせようという気持ちが伺える。

 若は思わず春花の両手をぎゅっと握りしめ、彼女の胸に自分から顔を押しつけながら、最後に小さなうめき声を出した。

 それと同時に、銜えられた亀頭の割れ目から大量の精液が飛び出し始める。その量は多く、質も濃厚で、常人ならばすぐにでも顔を離してしまうほどの勢いだろう。しかし日影は微塵も頭を動かすことなく、表情すら変えず、当然とばかりに飛び出てくるそれをすべて口の中に迎え入れる。右手は尿道に精液が残らないようにと激しく上下に動いていた。

 春花のくすくすと笑う声が聞こえる中、長い射精が終わった時、ようやく日影は若の肉棒から口を離した。いつもと変わらない半目を中空に漂わせ、膨らませた頬をもごもごと動かしている。

 それを見た春花は日影に笑いかけつつ、荒い息を吐く若の上から胸を浮かせた。

 

 「ねぇ日影ちゃん。若様のザーメン、おいしい?」

 「んー……あんまりわからん。でも、あんまり悪いもんでもないかもしれん」

 「ふふ、そう。ねぇ、少しでいいから私にもちょうだい? 匂いを嗅いでるだけで我慢できなくなっちゃったの」

 「ん、ええよ。わしもちょっと呑んだから、残りは春花さんにあげるわ――ん」

 「ありがとう――んん」

 

 ぐったりと体から力を抜く若の上で、二人の少女が口づけを交わす。春花は若の呼吸を邪魔しないようにと配慮しつつ首を伸ばし、日影は彼に覆いかぶさるように移動してから舌を伸ばした。

 長く赤い舌に乗せられていた、たっぷりの濃厚な精液。それは舌ごと春花の口内に絡め取られてから、残すことなく飲みこまれていく。

 喉を鳴らしながら、少しだけ頬を赤らめながら精液を飲む春花。その表情はとても幸せそうで、心から溢れ出る喜色を全身からにじみ出させるかのようだった。

 日影はキスをしたまま半目を開けて、目を閉じながらも感情を表す春花の顔をじっと見つめていた。まるで興味深そうに観察するかのように。

 そんな彼女の胸が真下からぎゅっと掴まれたのはそんな時だ。

 

 「む?」

 「んっ、ちゅ、はっ――どうしたの、日影ちゃん?」

 「いや、若様が胸を、な」

 「あら――ふふっ、もう若様ったら、私のおっぱいもあるのに日影ちゃんのおっぱいを触っちゃって。私のを揉んでもいいのに」

 「あーいや、なんとなく」

 

 二人がそちらに目を向ければ、そこには寝そべったまま頭上にある日影の胸を揉む若の姿。遠慮のない手つきで彼女の双丘をがっちりと掴んでおり、指を動かしてぐにぐにと乳房の感触を楽しんでいた。

 それに合わせて、日影の体がぴくぴくと震える。表情が変わらないからわかりづらいが、どうやら感じているようなのだ。

 若の経験上、日影は彼と夜を共にした女たちの中で最も感度がいい。ほんの少し体に触れた程度で途端に快感を得て、無表情で声を出さないままに絶頂することもざらにある。

 今も体が触れていないとわからない程度に小さく身を震わせ、奥が見えない半目を若に向けたまま動かない。抱かれる間にどういう反応を見せていいかわからない彼女は、抱かれている間微塵も動かないことが多いが、今回もそうした反応だった。

 若はさらに手に力を入れると共に、腰を動かして更なる行動を始めようとしていた。

 

 「ほぉら若様、おっぱいですよー。日影ちゃんのだって大きいけど、私の方が大きいですよー」

 「んっ」

 「どうしたの日影ちゃん? 何かあった?」

 「いや、若様のちんちんが、な」

 「あん、もう――若様、相手を一人一人選ぶのは悪い癖よ。抱かれてる相手は嬉しくても、まわりでほったらかしにされてる女の子はすごく辛いんだから。指でも口でも使って、その子も相手にしてくれないと――だから、はい、若様の手は私のおっぱいに」

 

 再び完全に勃起した若の陰茎が日影の秘所に触れると、眉をひそめて怒る春花の行動によって、若の両手は彼女の胸に移動させられた。大きくも張りがあって形が崩れず、なによりやわらかいその肉の中に手が沈む。すると春花は嬉しそうに微笑んだ。

 その間も若は腰を動かして位置を調整しており、日影の膣を探して自身の亀頭を割れ目全体に撫でつけていた。唾液と先走りで濡れるそこが割れ目を押し上げながら形を変え、何度かそうして擦りつけているとようやく位置が定まる。

 若の目は自分たちの下半身から日影の顔に向かい、そこでようやくお互いの視線が合う。しかし二人が何か言葉を交わす前に、若は腰を上へと突きあげた。

 

 「んっ、あっ――んんんっ」

 「あ、また。もう日影ちゃん、挿れられた瞬間にイッチャだめじゃない。相変わらずイキやすいんだから……それじゃ若様が満足できないでしょう?」

 「んんっ、はぁっ、あぁっ――」

 「一回スイッチ入っちゃうとイキまくっちゃうし。自分ばっかり気持ちよくなっちゃダメでしょ、日影ちゃん。膣を締めて、若様のおチンポじゅぽじゅぽしないと。いつまでも若様のザーメン受け取れないんだから」

 「んっ、んんっ、んはぁっ、あっ、あっ――」

 

 ぼんやりとした半目は変わらないが、確実に今の日影は快楽に酔っている姿であった。

 半目はそのまま、表情も何もないままで、すでに水着を脱いだしなやかな裸体を若に弄ばれる。自分から動くことはないものの、日影は若の体の上で悦んでいる。

 若が上手く腰だけを動かし、ずぷずぷとゆっくり肉棒を抜き差ししている内、またしても日影の膣内がぎゅっと一際強く引き締まった。ただでさえ全体をきつく締め付けているのに、その感触たるや凄まじいものである。

 若はぐっと歯を食いしばって耐え、春花はやれやれと言わんばかりに首を左右に振っていた。

 確かに日影は常人以上に感度がいいが、ここまですぐに絶頂してしまうのはどうなのだろうか。仲間たちの中で最も性的なことに興味がある春花は常々そう想っていたが、こればかりはどうしようもない。

 若がまだ本気を出さず、時間をかけて楽しもうとしているその間に絶頂してしまう日影は、春花が若に胸を揉ませながらそう考えている間にまたも全身を震わせていた。

 あくまでも無表情、まわりには悟らせないような姿で。

 

 「んんっ、あぁっ、はぁぁっ――」

 「うくっ、締め付けが、また……」

 「日影ちゃんったら、自分だけ何度もイッチャって――まぁいいわ。その分、私が若様を気持ちよくすればいいのよね」

 

 合計で三回。日影は若から愛撫程度に膣の中を貫かれて、表情を変えぬままに絶頂した。

 しかし、彼女が目の色を変えたのはその直後のことだ。

 先程までは眠たそうにも見えた目をギラリと光らせ、赤い色を灯しながら、やけに興奮した様子で若を見つめ始め、日影は突然勢いよく腰を振り始めた。腹に手を置いて繰り返されるそれにより、二人の接合部から聞こえる水音はさらに大きくなって、二人の身に走る快感はさらに高まる。

 若が驚いた様子で声を出すその時、日影はべろりと長い舌で己の唇を舐めながら、猟奇的な笑みを浮かべていた。

 

 「あらあら、狂乱モードに入っちゃったのね。これはこれで問題なんだけど――まぁ大丈夫でしょう。若様、少しだけ付き合ってね。日影ちゃんがこうなるのは若様だけだけど、感度は変わらないからすぐへばっちゃうわ。今だってイキ続けながら腰振ってるみたいだし」

 「うっ、くっ、あぁっ――これ、は、すごい……」

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、あぁっ」

 

 全身と膣内、両方をびくびくと震わせながらも日影は必死に腰を上下に動かし、絶え間ない絶頂を感じながらも止まろうとはしていない。ぐねぐねと怪しく動く膣にすっぽりと肉棒を銜えこんで、まるでそれは自分の物だと言わんばかりに奥へ奥へと呑みこんでいく。

 これまで何度か日影と体を重ね、すでにこの出来事も体験している若であっても、その他の人間では味わえない動きには声が洩れる。まだまだ余裕だと思って気楽に考えていたのに、日影が動き出した途端に限界へと高められていったのだ。

 人は日影のこの状態のことを、狂乱モードと呼ぶ。本来は戦いが激化した時にしか見れない、異常なほど攻撃的な姿なのだが、最近の彼女は若との性交中に何度も絶頂すると、いつの間にかこうなっている。

 その後はこの日と同じ。自分は感じまくってイキ続けているのに、とにかく必死に若を押し倒して犯し続ける。

 そして最後には自分の方が限界になって、最後に激しく絶頂した後に意識を飛ばすのだ。

 

 「あっ、あぁっ、あぁあああああっ!」

 「くぅ、で、出るっ……!」

 

 限界を迎えたのは、二人同時に。

 日影は普段は聞かせないような大絶叫と共に天を仰ぎみて背を逸らし、ぶるりと大きく体を震わせた。また同時に若が陰茎から大量の精液を噴き出し、膣の中でどくどくと竿を脈打たせる。

 そのまま一分ほど繋がったままだった二人は、ぐったりと力を抜いて倒れ込み、目を閉じたまま荒い呼吸を繰り返していた。

 その時にはすでに日影は自分の意識を手放しており、小さな寝息を立てていた。若は右手を春花の胸から離して、自分の胸に頬を預けて眠る日影の頭を撫で始めた。

 一部始終を見守っていた春花もまた、若の頭をやさしく撫で、やさしい声で呟く。

 

 「うふふ、若様、日影ちゃんの膣内で気持ちよくなれた?」

 「うん、すごく」

 「ふふ、それならよかった。でも――お腹のあたり、すごく汚れちゃったわね」

 

 春花がそう言いながら、二人が尚も結合している場所に目を向ける。若の陰茎は射精の影響ですっかり萎えてしまい、先程よりも威圧感のない姿となって、今にも膣からどろどろと垂れる精液に混じって出てきそうだ。しかしそうならなかったのは、意識を失いながらも日影がそれをきゅうきゅうと締め付けているからだろう。

 ふふふ、という小さな笑い声に混じって、二人分の少しだけ荒れた呼吸が聞こえる。

 そんな中で、春花はゆっくりと動き出し、若の頭を膝の上からどけてから立ちあがった。

 そして彼が見ているその前で、ゆっくりと股間を覆っていた水着を脱ぎ、完全な裸の状態になる。そうすると若の視界に、きれいに整えられてはいるものの、他の面々より少しばかり濃い陰毛がすぐに視界へ飛び込む。

 春花はその視線を感じながらも背に太陽を背負ったまま微笑んで、若を誘うように言葉を吐いた。

 

 「若様、せっかくここまで来たんだから、私たちも涼みましょう。汚れも流さなきゃいけないし、それに――あの二人だって気付かないふりしてるだけで、ずっと待ってるから」

 「ん、わかった。じゃあ行くよ」

 

 春花の問いかけに、そう答える若は丁寧な動きで日影をビニールシートの上に寝かせ、汗を掻きながらも穏やかな寝顔を見せる彼女を見てくすりと笑う。立ちあがったのはくしゃり、と柔らかい髪を撫でてからだ。

 

 「ん……」

 

 小さな呟きが洩れる。思わず抱きしめたくなるような欲求が生まれたが、日影は寝ているし、春花と他の二人は待っている。そうした理由もあって若はそのまま立ちあがり、豊かな体を隠しもせずに陽光の下に立つ春花と並んで歩きだした。

 裸の男女が森の中にある滝壺に近づいて行き、砂利が多いそこを裸足で歩いていく。一歩前に出る度に、若は己の陰茎をぶるんと揺らして、彼と自然に手を繋いだ春花も豊かな乳房をぶるりと揺らす。

 誰にも見せられないような光景であった。が、若がお気に入りにしているこの場に入ってくる者は、彼の許しを得た者以外にはいない。なにせあたりには無数の罠と、若が用意した結界が張られているのだから。

 ここは彼らにとっての安全な遊び場で、すべてをさらけ出せる楽園だった。

 

 「さぁ若様、こちらへ。私が洗って差し上げますわ」

 「うん、頼むよ」

 

 二人で手を繋いだまま、ゆっくりと水の中へと入っていく。近頃はだんだん気温が高くなって、暑い気候になっているとはいえ、水はやはり冷たかった。

 腰まで浸かる深さまで歩いた後、思わず若は体を震わせて驚く。それを見た春花は楽しそうにくすくす笑うだけで、水の冷たさにさほど驚いたような様子もない。

 自然と彼女は動き出していた。すぐ傍にある若の体を両手でぎゅっと抱きしめ、自身の柔らかい体を密着させて肉体の温度を分けるようにしながら、左手だけをするりと下へ落としていく。

 愛液と精液で濡れる下腹部を撫で、普段は半蔵学院の斑鳩が整えているらしい陰毛を撫でて、それから迷いのない動作で若の陰茎を掴む。

 それだけで春花はうっとりとしたため息をつき、若はくすぐったそうに身をよじった。一部の者が「愛らしくてたまらない」と表現する微笑みを称えて。

 

 「あ、若様のおチンポ、また大きく――うふふ、いつもながら素敵。何度出しても元気なのね」

 「鍛えてるから。こういう時のために」

 「それならよかった――私のことも、たくさん可愛がってもらえるのよね?」

 「もちろん」

 

 二本の指で輪っかを作り、竿を強く締め付けて扱きあげる度にだんだんと陰茎が固くなっていく。

 同時に春花の頬はどんどん赤く上気していき、若の下半身に向ける視線に熱が入っていった。しばらく彼女がそうしていると、若もまた彼女の下腹部へ手を伸ばしていき、ひどくゆったりと白い肌を撫でた後に秘所へと触れた。割れ目をなぞるように指が動き、何度か往復した後、すでに内側から濡れているそこにつぷりと指が差しこまれる。

 二人は抱き合い、お互いの肌のぬくもりを感じ取りながら、上から降り注ぐ暑い日差しと下半身を包む冷たい水を全身で感じ、ひどく落ち着きながらも気分を良くしていた。

 春花はくすくすと笑い、若は不思議そうに小首を傾げた。

 

 「なんだか不思議な気持ち……これまでと変わったつもりはないのに、なんだか、忍として生きるようになってから初めてこんなに楽な気持ちになったような気がする。若様のおかげ、なんでしょうね」

 「そう。ここに連れてきてそう想ってもらえたんなら、よかった」

 「ええ……ありがとう、若様。私たちをここへ連れてきてくれて。あの子たちだってきっと喜んで――いいえ、違うわね。お礼を言うのはそこじゃないわ――若様、ありがとう。私たちを、抜け忍である私たちを受け入れてくれて」

 

 話す内にだんだんと小さくなった声は、最後には囁くかのような大きさになり、春花は語りながらも上体を傾けて、若の胸に頭を預けた。

 そのまま目を閉じ、小さく息を吐く。やけに顔が熱っぽいのは、おそらく暑さのせいではないのだろう。

 若はそんな彼女の頭を片手で撫で、もう片方の手は相変わらず膣の中を掻きまわしている。若もまた、固くなった陰茎を扱かれ続けている。

 まじめなのか、ふざけているのか、なんとも判別しにくい姿のまま、二人は言葉を交わしていた。無論、相手の体に触れる手を止めずに。

 

 「本当なら私たちは、あなたたち善忍にも、昔の仲間である悪人からも疎まれ、狙われる存在。それだけのことをしたんだもの、仕方ないわ。だけど、あなたは――いいえ、あなたたちは、私たちを受け入れてくれた。それがどれほど難しくて、それだけのことがどれほど嬉しかったか、きっとあなたはわからないんでしょうね」

 「うん、まぁな。抜け忍になった経験がないから」

 「ふふふ、ええ、そうね――若様、あなたは決して抜け忍にはならないで。悪に染まるあなたなんて、きっとらしくないもの。今日と同じ、今と同じ、あなたは影の中に生きる忍だけど、ずっとこうして陽だまりの中にいて。そのためなら私たちはなんでもするから――命を救われて、生きる意味を与えてもらった代わりに」

 「――うん」

 

 春花はすでに知っている。自分たちを半蔵学院に迎え入れるよう、最高責任者の半蔵に進言したのは、他でもないこの男なのだと。焔紅蓮隊の一人と戦ったことがあるが、妖魔の動きが活発になっている現状において、あの力を失うのは惜しい。そうした提案によって、彼女たちは対妖魔の戦闘員として迎え入れられたのだ。

 もっとも、現状のような裸で陰部を刺激し合う関係になるなど、提案した彼にも予想できていなかったことだが。

 尚も片手を動かしつつ、快感を与えあいながら抱き合う二人。大きな音を立てて水を落とす滝を後ろに置く春花の背から、声がかかった。

 今までその二人が、若と日影が何をしていたのかを知りながらも、火照った体を水の中で治めていた二人がついに近付いてきたのだ。春花はそのことに気付き、ゆっくりと若の前方を開ける。

 そこへ一人の少女が一目散に進んできた。

 

 「あぁっ、若様っ」

 

 腰まである水をざばざばと掻きわけながらまず彼に飛びついたのは、きれいなブロンドの長い髪を濡らし、豊かな肉体を小さな水色のビキニに押しこみ、たゆんと大きな乳房を揺らす詠という少女であった。

 彼女は我慢できないと言うかのように目にこぼれんばかりの涙を溜めて、勢いよく若の胸へと飛び込む。手を彼の胸へと当て、同時に頭も強く押しつけ、ぐりぐりとさらに押しつける。まるで自分の匂いをなすりつける動物のようだ。

 といっても、彼女がそうするのはめずらしいことではない。若は微笑んで彼女を受け止め、猫や犬にそうするようにやさしく頭を撫でてやった。

 それだけで詠はうっとりとしたため息をつき、嬉しそうに身をよじりながら顔を真っ赤にする。それからさらに自分の体を若へと押しつけ、胸板へ頬ずりを繰り返す。

 彼女の熱は独りでにどんどん高まっていく。

 そうしている間、近くまで来ていたもう一人の少女は春花に掴まり、後ろから手を伸ばす彼女によって体を弄ばれていた。

 

 「はぅ……若様、切ないです――どうかわたくしのお相手を、どうか――」

 「わかった、いいよ。よろしくな、詠」

 「は、はいっ。若様、どうかお願いします、わたくしの名前をもっと、もっとお呼びください」

 「詠」

 「はぁぁん……!」

 

 頭を撫でられ、名前を呼ばれて、それだけで詠は満足そうに嬌声を洩らした。先程まで水の中でこっそりと自分を慰めていただけに、念願であるものを手に入れた彼女は小さく体を震わせ、ほんの少しの満足を手に入れる。

 だが、足りない。求めていたものはそんな程度では全く足りないのだ。

 もっと欲しい、そう小さく呟きながら詠は自分の両手をするすると若の体に這わせ、柔らかい女のものとは違うその感触を楽しみ始めた。

 それを認識してから、若もまた両手を伸ばして詠の肉体に触れ始める。

 

 「ふぁ、はぅ……うんんっ」

 「詠も結構感じやすいよなぁ。それになんか小動物みたいだ」

 「あんんっ、わ、若様ぁ……」

 

 詠の手が、脱いだら意外としっかりしている胸板や薄く割れた腹筋、背中などを撫でまわすと、若も同じところを手で撫でる。時に彼は詠の頭をぎゅっと抱き寄せ、髪を撫でたりもする。

 肝心な部分は触られていないというのに、それだけで詠はひどく幸せそうに表情を蕩けさせ、少し尖らせた唇をちゅっと若の胸に触れさせた。

 詠は、若から言わせれば斑鳩に似ているとの評価だ。ぴったりと体を密着させることを好み、行為は二人きりで行う時が最も燃え、それぞれ若に対して望むものがある。大きな違いはその部分、斑鳩がキスをしたままずっと離れないのに対し、詠は若に名前を呼ばれながら甘やかされるのを好みにしているところだ。

 

 「詠、可愛いよ」

 「はぅぅ、若様ぁ……」

 

 頭を撫でられる、体を撫でられる、キスをされる。愛情が含まれたそれらを受けただけで、彼女は酒に酔ったかのように体の力を失ってしまうのである。

 現に今も、するすると体を撫でながら移動した片手が大ぶりの胸をむにゅっと掴むと、詠は官能的な悲鳴を上げながら若の胸の中へ倒れ込んだ。彼が咄嗟に受け止めなければそのまま水の中へ沈んでいただろう。

 

 「大丈夫か、詠? 川から上がるか?」

 「い、いえ、大丈夫です。それよりも早く、若様のものを、わたくしのなかへ……」

 「ん、もういいのか? まだちょっとしか触ってないけど」

 「だ、大丈夫ですの。その、準備は――じ、自分で終えておきましたから。後は若様の固いもので、わたくしを――」

 「わかった。それじゃあ、あー……うん、このままやろうか」

 

 そう言うと、若は軽い調子で詠の体を抱え上げた。両足の膝の裏を持ち、ぐっと股を開かせて、詠が「きゃっ」と悲鳴を上げるのも構わずに二人の股間を密着させたのだ。慌てた詠が両腕を若の首へと回す。

 勃起した陰茎が水着越しに秘所へと触れて、そのままずりずりと上下に擦りつけられる。恥ずかしいやら、気持ちいいやらで、詠は顔を真っ赤にしながら目を閉じて、されるがままだった。

 若が小さく呟く。いつもとは変わらぬ声色で、いつもと同じ微笑みで卑猥なことを言うものだから、詠を襲う羞恥はさらに倍増する。

 

 「詠、水着ずらして、おマンコ出して。このまま挿れるから」

 「ええっ、うぅ、でも――わ、わかりました。恥ずかしいですけど、若様のためなら……」

 

 非常に小さな声でそう呟く詠は恐る恐る、自身の股間へと右手を持っていく。そして陰茎がすりつけられるそこへ到達すると、大事な場所を覆っている水着をぐいと横にずらした。

 その途端、若の陰茎が秘所へと触れ、冷たい水の中で熱い肉棒がそこを擦る。詠は背筋がぞくぞくと震えているのを自覚し、大きく、ゆっくりと息を吐く。

 陰茎の先端が膣内に押し入ったのは、彼女が息を吐ききった時だった。

 

 「――ッ!? かっ、はぁぁぁ……す、ご、いぃ……」

 

 亀頭で閉じた肉を押し上げ、奥に進む途中、若は詠が絶頂したのを理解していた。挿入された瞬間に肉の壁がぎゅうぎゅうと締めつけてくるのだからバレバレである。

 詠は背をのけぞらせて震え続け、浅ましくも舌をだらりと伸ばして目を見開いている。しかし若はそれをくすっと笑いながら見て、さほど気にせず腰を動かし始めた。

 ひどくゆっくりとした速度で陰茎が前後にずるずると動き、詠の震えはさらに大きくなる。

 

 「うっ、うぅ、うぅぅ……!」

 「はぁ、きついな。詠、ひょっとしてイキっぱなし?」

 「あぅ、はぅぅ、すごいです、若様っ……す、すごく、あぁっ」

 「そっか。気持ちよかったんならよかったよ」

 

 冷たい水の中で、熱を持った肉棒がゆっくりと動いて膣を出入りする。その度に詠は甲高い声をあげて膣内を締め付ける。

 腰まで届く川の水に波紋を生みだし、二人の腰が繋がったままゆるりと動く。

 詠は若に抱えられながらしがみつくので精一杯で、若はそんな彼女を可愛がるかのように微笑み、キスを送って、突き続けた。

 二人の体液が、すぐに水に混じって流れていく。

 

 「んんっ、んぅ、はぅぅ――わ、若様ぁ……」

 「はぁっ、はぁっ、んっ――気持ちいいよ、詠」

 「う、嬉しいですっ、若様が、わたくしの体で――あぁっ」

 「ふっ、ふっ、ふっ……」

 

 上半身には暑い日差しがじりじりと照りつけているのに対し、下半身は冷たい水の中、陰茎はさらに別の場所に入り込んでいる。

 詠の蕩けた表情も相まって、いくら安全とは言え外で行為を行う興奮にどんどん若は埋没していき、いつの間にか自然と強く腰を振っていた。そしてこの時、彼は我慢しようとはしていない。

 

 「詠、なかで――」

 「はぁ、はいぃっ! 若様のっ、子種を――わたくしの膣内にっ!」

 「うっ、出る……」

 

 故に、若はいつもよりもあっさりと射精を開始した。ぎゅっと詠の体を自分に寄せ、一番奥に亀頭を押しあてた瞬間、どぴゅりと精液を吐き出していく。

 途端に詠の膣は喜びだし、ぐねぐねと蠢きながらもそこはそれをすべて受け取っていった。

 

 「あはぁっ! 出てるぅ、若様の子種が、わたくしの膣内にっ!!」

 「くぅ、全部、全部なかに出すぞ、詠」

 「はいっ、ください――全部くださいっ、若様ぁっ!」

 

 抱きつく力が一層強まる。二人は体をぴったりと合わせたまま、どくどくと脈打つ振動と、それに伴って感じられる熱を二人で共有していた。

 二人はそのまま静止し、触れるだけのやさしいキスを交わした。

 結合が解かれたのは約一分が経った後のこと。名残惜しげに目を潤ませる詠の頭を撫でた若が、腰を引いて萎えた肉棒を抜きだした。

 直後には彼の視線は、先程から春花の手によって大きな嬌声を上げている、外見が幼く見える少女へと向かっていたのである。

 

 「うふふ――次はこちらですか、若様? 相変わらずの絶倫ね……さぁ未来ちゃん、ぐずぐずに蕩けちゃったおマンコ、若様のおチンポですっきりさせてもらいましょう。まずはあなたから、ね」

 「んぅ、ふぅ、はぁぁ――わ、若ぁ……」

 

 春花の腕の中にすっぽりと収まるほどの小さな少女、未来は妖艶に動く彼女の手に撫でられながら、よだれを垂らして悦んでいる。すでに肉体の準備は万全なほどに終えられていて、それ以上焦らされたのでは精神に支障をきたすだろう。

 若は水を掻きわけながら二人の傍へ寄る。その間に春花は抱きしめていた未来の膝の裏に手を回し、彼女の足を大きく押し広げながら持ち上げた。まるで小さい子供に小便をさせるかのような格好である。

 しかしそれでも、水の深さの関係で未来の下半身は見えにくいまま。それを不満に想ったらしい春花は唇を尖らせ、体の横からぴったりと抱きついて、熱心に陰茎を扱く詠の頭を撫でる若へと提案する。

 

 「若様、もう少し浅瀬にいきましょうか。これじゃあせっかくの濡れ濡れおマンコが全然見えないもの。せっかくならおチンポだけじゃなくて、五感すべてで楽しまないと」

 「そうか? わかった。それじゃあ、移動しようか」

 「はーい。さぁ未来ちゃん、行くわよ。あなたのおマンコ、日の光が当たる場所まで持っていくからねぇ」

 「えっ、えっ、ちょっと――きゃあっ」

 

 春花は未来の体を抱えたまま先に行き、次いでお互いの体を撫で合う若と詠とが続く。

 やがて四人は水の高さが膝あたりまでしかない場所で足を止め、改めて向き直る。

 若の陰茎は詠の手で扱かれたことにより、すでに勃起した状態。未来の体はたび重なる軽い絶頂と多大な我慢のせいで少しばかり紅潮しており、黒い眼帯をつけていない方の目はすっかり潤み、春花が着用を強制したらしいスクール水着は股間部分をずらされて、すっかり準備が整っている秘所を露わにしている。

 若はゆっくりと未来の体に歩み寄り、右手で掴んだ陰茎の狙いを定め、ぴとっと先端を膣へと触れさせた。

 

 「うん、準備はよさそうだな。それじゃあ行くぞ、未来」

 「う、うん……若、お願いだからやさしく……」

 「ああ、わかってるよ」

 

 微笑む若の手が未来の頭を撫でる。するとくすぐったそうに目を細めた未来は、喜びを表すためなのか自分からその手に頭を押しつけていた。

 そうして少しばかりの交流をしながら、ずぬっ、と凶悪な様相を見せる亀頭が未来の膣に侵入を試みる。

 狭く、小さく、きついそこに入るのは濡れそぼっていても容易ではない。下手をすれば両者に痛みが走ることだってありえるのだ。

 だから若はできるだけゆっくり腰を前に突き出し、徐々に陰茎を進めていく。そうしている間にも快感は得られていて、凄まじい締め付けに歯を食いしばりながら。

 未来もまた、感じていた。他の面々に比べて体が小さい彼女にとって、平均程度の若の陰茎を受け止めることすら難しい。しかし春花のねっとりとした愛撫を受け、若に気遣いをもらい、やさしく挿入されたとあっては受け入れることも不可能ではない。

 ひどくゆっくりと肉の壁を押し上げ、奥へ向かって侵入してくるそれを感じ、未来はだらしなく開いた口の端からよだれを垂れ流す。それを、彼女を持ちあげる春花が舐めとった。

 

 「うふふ、未来ちゃん、すごく気持ちよさそう――さすがは若様。どんな女でも陥落させる男よねぇ」

 「はぅ、羨ましい……できれば私も、もう一度……」

 「あら、ダメよ詠ちゃん。順番は守らなきゃ。次は私、それから――うふふ、そろそろ来る頃かしらね、あの子も」

 「あぁ、うぅぅ、ふぅぅぅ――」

 

 未来はできるだけの深呼吸を繰り返す。腹の中にまで異物が入り込む感覚は、彼女の体が小さいからかもしれない。しかし、膣内に肉棒を迎え入れて快楽を得ているのも事実。

 動きはひどくゆっくりで、丁寧なものだ。何度も繰り返してはいるものの、本来ならばさほど快感を得られないかもしれない。

 だが未来のそこであれば別であった。痛いほどに締め付けてくるそこは動かなくとも快感が感じられ、また未来の外見のこともあって、非常にいけないことをしているようにも思えてくる。

 長身の女に後ろから抱きかかえられ、無理やりとも思える姿で腰を突き出し、男の陰茎を銜えこむ。しかも彼女は目を潤ませて荒く呼吸を繰り返し、事あるごとに膣内をビクビクと振動させ、全身も同じように震わせるのだ。

 体位が特別過ぎることも原因だった。ゆったりと腰を動かす内に、二人は自然と高みへ昇っていき、やがて限界を感じる。

 若は何も言わずに未来の唇へ己のそれを重ね、片方の目が見開くのも気にせずに目を閉じた。

 そして、射精する。

 

 「んっ、んんっ、んんんっ――」

 「あらあら、二人共イッチャったのね――羨ましいわ。私も早く、若様に抱かれたい」

 「わたくしもですわ。んん、若様の背中、たくましい――」

 

 詠の時とは違い、今度は水に浸からないままどくどくと撃ちだす。しかも二人は、唇を合わせながら。

 未来はくぐもった嬌声を上げて全身を震わせ、若の両手が自身の薄い胸に触れたことを認識しつつ、目を閉じる。

 柔らかい女のそれとは違う、少し固さのある指が水着の中に入り込んで立ちあがった乳首を弄っていく。まわりの薄い乳房を弱弱しく撫でたり、乳首をピンとはじいたり、若は舌を絡ませながら指を怪しく動かした。

 その一方で腰を引き、ずるり、と様々なもので濡れた陰茎が出てくる。するとすぐに詠が手を伸ばしてそれを掴み、弱くそれを握って弄り始めた。

 はぁ、と一つ息を吐き、若は達してから動かない未来に目を向け、やさしい声で言った。

 

 「ありがとう、未来。気持ちよかったよ」

 「はぁっ、ふぅ――う、うん。私も、すごくよかった……」

 「ん、そっか」

 「うん――えへへ」

 

 またも頭を撫でられ、未来は嬉しそうに笑う。それを見た詠は羨ましそうに頬を膨らませ、春花は、笑みを浮かべながらもすぐに動き出した。

 抱え上げていた未来の足を降ろし、彼女の背を押して移動させたかと思えば詠へと押しつけ、二人を若からぐいと離す。

 驚いた様子で、同時に拗ねるような表情を見せる彼女たちを気にすることもなく、春花はしなやかな腕を伸ばして若の首にまわし、恋人のように顔を寄せてから呟くのだ。

 

 「さぁ若様、私の番よ。たくさんの女の子を鳴かしてきたこのおチンポで、私のおマンコをたっぷり味わって」

 「うん、それじゃあ――お待たせ、春花」

 「うふふ、待たされた分、たっぷりサービスしてくれるんでしょう? 期待してるわ――若様」

 

 ちゅっ、とまずは口づけを交わす。そのまま春花は詠によって起たされた陰茎を激しく手で扱き、若もまた手を伸ばして彼女の体へと触れる。彼が見た中でも最も大きい乳房を持ちあげ、柔らかい尻を揉み、女ならではの感触をその手で楽しんでいく。

 図らずもお預け状態となった二人はすぐ傍でその姿を見つめ、不満そうに唇を尖らせていた。

 

 「むぅ……春花さんばっかり、ずるいですわ。わたくしもああいう風に、恋人みたいなイチャイチャを――」

 「わ、私なんて、春花様に抱えられたままだったんだからっ。そ、そりゃ場所が場所だけど、もうちょっと普通にしてくれたって――」

 

 ぐちぐちと不満をこぼす二人を傍に置き、二人の行為は進んでいく。

 舌を絡ませ、口内に含む唾液を交換し合い、そうしながらも彼らの手は止まらない。春花の手は片方で陰茎を擦る一方、若の乳首を撫でるようにして怪しく動き、若の手はゆったりとした動きで乳房や尻、今はさらに彼女の秘所を触れていた。

 そうし続ける時間は、傍にいる二人にとっては地獄のような瞬間だ。若が他の女と寝ることは多少受け入れてはいるが、本来であれば自分だけを見てほしいという想いもあるし、なんなら自分以外の時はさっさと終わって交代して欲しい。だからこそ彼女たちは協力し合ってお互いに愛撫を施したりするのだ。

 だというのに、春花と若がやっていることは最初の段階から。二人がまだ満足していないことを知っていながら、纏めて焦らすかのような手順で行為を始めたのである。

 二人は恨めしく春花を見つめ、羨ましそうに若を見る。

 それでも二人のペースが変わることはなく、彼らは三分ほどそうし続けてから次へと移った。

 

 「春花、後ろからがいいな。頼める?」

 「ええ、いいわよ。ふふ――いっぱい突いてね」

 

 若が春花にそう言うと、彼女は自分から体の向きを変え、自分の背を若の胸へと預けた。若もすぐに手を伸ばし、彼女の腰と胸に手を回す。乳房に指が沈められると同時、二人の腰が合わさった。

 

 「行くぞ」

 「はいっ――」

 

 興奮した面持ちで春花が答えると、若の陰茎が彼女の膣へと入りこむ。

 彼がこれまで経験した女たちの中で、彼女ほど巧みに男へ絡みつく膣を持つ女はいない。入り込んだ陰茎の亀頭へ、竿へと怪しく動くひだが絡みつき、柔らかい感触を固いそれへと押しつける。

 若が腰を前へ動かせば押し返すように力をこめ、腰を後ろへ動かせば呑みこもうとするかのように絡みつき、飽きさせないように動くそれは若の快感をどんどん高めていった。

 思わず彼は唇を噛みながら目をきつく閉じ、両手で春花の胸を掴んでぎゅっと抱きついた。腰の動きは意識しないのにどんどん素早くなっていき、普段は余裕を持って動く若が余裕のない状態で動き続けている。

 それを全身で理解する春花は貫かれながらも微笑み、妖艶な声を出しながらも悦んでいた。

 

 「あはぁっ――さすがはっ、うぅっ、若様……こんなに気持ちいいの、んんっ、女の子同士じゃ無理ぃ……」

 「くぅ、すごい――はぁっ、すごく、絡みついて……」

 「ああんっ、んぅっ、ふっ――ああっ」

 

 膝まである水に波紋を作り、それとは違う水音を響かせ、二人の腰がパンッパンッという音を立てながら激しくぶつかる。

 二人の少女が見守る中、二人の動きは上手く意思を同調させたまま続けられ、何度となく同じ音を繰り返した。

 肉を抉り、大事な部分を抉られ、快感ばかりが高まっていく。しかしその中でも二人は互いへの愛情を確かに認識し、頬をだらしなく緩ませながら声を洩らす。

 限界は近い。二人が共にそう思っていた時のことだった。

 

 「すまない、遅くなった――なぁっ!? な、何をやってるんだおまえたちは!? は、破廉恥だぞッ!」

 

 そんないつもの悲鳴を耳にしつつ、しかしそれどころではなかった二人はラストスパートへ向けて全力を出していた。

 大きな胸に手を埋めて必死に抱きつく若は、そのままの格好で勢いよく腰を前後し、それを受け止める春花もまた下腹部にきゅっと力を入れて一層膣を強く締める。

 二人の口からは荒い呼吸と共に嬌声が吐きだされて、それがどんどん大きくなっていったのだ。

 

 「こ、こらっ、おまえら! とりあえず服を着て私の話を――!」

 「あぁっ! あはぁっ、あんんっ――イックぅぅぅっ!」

 

 岸から聞こえる声の途中に、二人は絶頂を迎える。

 若は本日四度目となる膣内射精を開始して全身を震わせ、強く春花の体を抱きしめ、春花もまた全身を震わせながら背を逸らせ、天を仰ぎ見る。口の端からよだれを垂らし、同時に水面に向かって勢いよく潮を吹きながら。

 ぴったりと体を合わせる二人は、後から遅れてきた少女、焔に見守られながらイッた。

 だからこそ、日焼けした顔を真っ赤に染めて、一つに結った黒髪を大きく揺らし、「踊り子号」と書かれた白いTシャツの胸元をぶるんと揺らす焔は憤慨し、また再び同じ言葉を飛ばす。

 

 「は、は――破廉恥だぞっ、おまえら!?」

 

 川べりに立って裸、もしくはそれに近い格好でお互いの体を触り合う四人にビシッと指を指し、真っ赤な顔で叫ぶ焔。彼女とてこれまで何度か若に抱かれたことがあるのに、その初心な部分はいつまでも消えないものらしい。

 そんな焔がわなわなと震えながら川の中にいる四人を見つめ、わりとあっさり無視されていると、彼女の背後にぬっと現われる人影があった。

 絶頂した後に力尽きて眠っていた日影がようやく起き出し、音もなく焔の背に近付いてから、突然彼女の巨乳をわしっと掴んだのである。

 

 「なぁっ!? ひ、日影、一体何を――!」

 「いらっしゃい、焔さん。みんな待っとったで。特に、若様が」

 「うっ、うぅ――わ、若が私を? そ、それは、つまり、その――」

 「まぁとりあえず脱ごか。それでみんなのところに行こ。話はそれからや」

 「うわっ、ちょ、日影――ふ、服を脱がすなっ。外だぞ、ここはっ」

 

 手慣れた様子で次々に服を脱がし、瞬く間に焔を裸に剥いていく日影。淡々とした様子に見えるが、実は焔がほとんど抵抗していないことに本人以外の全員が気付いていた。

 あっという間に焔もまた裸になり、日焼けした肌が白日の下に晒される。顔は真っ赤なままで、両腕を使って胸の頂点と股間を隠してはいるが、さほど嫌がっていないことは明白な姿である。

 焔はぎゅっと自身を抱きしめつつもちらちらと川の中にいる四人に目を向け、彼らが自分の姿をじっと見ていることに気付きながらじっと立ちつくしたままだ。

 日影がそんな彼女の手を取り、歩を進める。向かう場所は若と彼に群がる三人の少女がいる場所だ。

 

 「ほら、はよ行こうや。みんな待ってるから」

 「ちょ、ちょっと待て日影っ! や、やっぱり、こういうのは、その――よ、夜に布団の中でするものでは――」

 「なにを乙女みたいなこと言うてんねん。生娘やあるまいし」

 「し、しかしこんな時間から、こんな場所で――あっ」

 

 ざぶざぶと水を掻きわけて進んでいく日影と焔ではあったが、ある時焔はぴたりと足を止めてしまった。

 彼女が見ているのは自分が向かうべき方向、体に三人の少女を纏わりつかせた若。

 焔を見つめてにこりと微笑みかけ、手招きしながら穏やかな声を発する彼がいた。

 

 「おいで、焔」

 「――あ、ああ」

 

 若の声を聞いた途端、焔は繋いでいた日影の手を振り切って歩き出し、先を歩いていた彼女よりも早く若の下へ到着する。そして勢いよく水の下にある地面を蹴って、彼の胸へ飛びついた。

 日影は思わずその場で立ち止まり、いつもの半目をキスし合う二人へ向けながらぽつりと呟いた。

 

 「ふぅむ――わしと若とのこの違いはなんやねん、焔さん……なんやかんや言うて、あんたも結構好きなんやんか」

 

 呆れたようにそう言いつつ、日影もまた歩を進めてそこに加わった。

 今、若の体は若々しい少女たちの肉体に囲まれ、包まれている。

 夏の日差しと、豊かな自然の爽やかさ、女体の甘さに酔いしれる一時だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 学校の授業が終わるとすぐ、斑鳩は学校を飛び出して若の家へと向かっていた。この日は待ちに待った彼女が若の護衛をする日、つまりは、若と二人きりの一時を過ごせる日だったのである。

 五人の中でも特に若への依存が強く、四六時中彼のことを考えては悶々しているような彼女だ、この一時をどれほど心待ちにしているかは他人では理解できない。

 だというのにこの日、若の家に喜び勇んで辿り着いた斑鳩は、若の自室へ行くとさっと顔を青ざめさせて、途端に顔を俯かせて震え始めた。

 

 「あぁっ、んんっ、んあぁっ、はぁぁっ!」

 「おー、焔さん、気持ちよさそうやなぁ。帰って来てからもう三回くらい出されてんのに、全然若様のこと離さへんし」

 「うぅ、もう――っていうか、日影もなに静観してるのよ! 焔ってば若のこと独占しすぎでしょ!? あの二人がいないからって調子にのっちゃって、これじゃあたしたちに順番回ってこないじゃない!」

 

 なにせ、若の私室へと早足で到達し、勢いよく襖を開けて真っ先に見ることができたのは、若と焔との性行為の真っ最中という姿。

 畳の上に敷かれた布団に焔が背を預けて寝そべり、大きく股を開いて、その間に入った若が肉棒を膣内へと差し込んでいる。正常位のままで上体を倒して焔の体を抱きしめ、首筋に舌を這わせながら勢いよく腰を前後に振っているのだ。

 そのすぐ傍では日影と未来の姿がある。夕食の準備のために台所へと向かった春花と詠とは違い、彼女たちもまだ若の相手をしようと残ったのに、妙に興奮しているらしい焔が若を離さないために手持無沙汰らしい。

 おかげで日影は若の尻の穴に指を這わせつつ、長時間続く激しい運動で汗まみれになった若の背中を長い舌でべろりと舐め、空いたもう片方の手は若の乳首を弄っている。

 未来もまた、頬を赤くしながら悔しそうに小さな声を洩らしつつ、片手で若の尻を揉み、片手で自身の秘所を慰めながら彼の傍を離れない。

 全員が全員裸であり、室内にむっとした熱気がこもるほどの行為を続けていたのだ。斑鳩が待ち望んでいた、その日に限って。

 ぷつん、と小さな音が聞こえた直後、斑鳩はかっと目を見開いて声を発していた。

 

 「あなたたち――いつまで若様の家にいるつもりですか! 今日は私が護衛をする日です、早く自分の家に帰りなさいッ!!」

 「あ、斑鳩さん。こんにちは」

 「ひぃっ!? よ、よりにもよって今日の当番が斑鳩だったなんて……他の人ならちょっとくらいはって想ってたのに――!」

 「んあっ、んふっ、んはぁぁぁっ――わ、若っ、舌を……ちゅー、ちゅーして欲しいっ」

 「ああ、いいよ。んっ、気持ちいいよ、焔――」

 

 明らかに激怒していることがわかる怒声。それが聞こえると日影はのんきに挨拶を返し、未来は即座に怯え始めた。これまでにも彼女の逆鱗に触れ、ちょっととは言えないまでの損害を生みだす激闘が行われたりしたせいである。

 しかし若に抱かれている真っ最中の焔には彼の姿しか見えず、両手と両足を彼の体に絡ませた状態でキスをねだり、唇を合わせると幸せそうに目を閉じ、より一層の嬌声を上げ始めていた。

 これを見た斑鳩の怒りはさらに燃え上がる。ただでさえこの時間は自分と若だけの時間、それを邪魔されただけでなく、自分が最も好きな体位で、自分が最も好きなキスをされながらというシチュエーションで焔が若に抱かれている。

 すらり、と斑鳩の手の中にあった日本刀が刀身を露わにしたのも仕方のないことである。

 

 「ふ、ふふふ、うふふふふふ――あぁ、なるほど、これも修行の一環なのですね。若様の護衛役として、若様に傷一つ負わせることもなく敵を排除できるかどうか、私は今試されているのですね」

 「や、やばっ――ちょっと若、焔、斑鳩のスイッチが入っちゃったわよ!? ちょっと二人とも、とりあえずそっちは後回しにしてこっちをなんとかしてよっ!?」

 「あー、これはなんかやばい感じやなぁ。しゃあないわ――ほんなら、わしらで相手するしかないな。わしらも若様の護衛役やし」

 「ほ、本気なの日影!? いや、でも、護衛役同士でこれはまずいんじゃ――って言ってる場合でもないんだけどっ」

 「うふふふふ――うふふふふふふ」

 

 怪しげに笑う斑鳩は刀を抜き、目から光沢を消してただ笑い続け、まるで幽鬼のように体をふらふらと揺らしていた。

 思わず日影と未来も、己の武器を手に取り、立ち上がる。日影はナイフを、未来は様々な武器を仕込んだ洋傘を持ち、素っ裸のままで斑鳩の前に対峙した。

 そして、今も焔の膣内を味わい続ける若の邪魔になってはならないと、日影と未来は斑鳩に襲い掛かり、咄嗟に後ろに跳んだ斑鳩が広い庭に下りたことによって、本格的に戦闘の構図が出来あがる。

 部屋を守る護衛に、素っ裸の日影と未来。若を奪おうとする泥棒猫を懲らしめる護衛に、斑鳩。そして部屋の中では焔を抱く若と、彼を独占し続け、甲高い嬌声を上げる焔。

 なんともシュールな構図である。

 

 「こ、こんなことして大丈夫なの、日影!? 護衛同士で戦っちゃって、あたしたち若の傍から離されちゃうかもしれないし――!」

 「どっちにしてもこのままやったらあの人に殺されるやろ。それやったら、多少のリスクは承知で、また若様に抱かれるチャンスを得られるように生き残った方がええやんか」

 「うっ、うぅぅ、どうしてこんなことに……」

 「うふふふふふふ――若様ぁ、もう少しだけ待っていてください。今すぐこの試練を乗り越えて、私があなた様のお相手をいたしますぅ」

 

 覚悟を決めた三人は誰からともなく駆けだし、武器を振るって戦いを開始した。大きな和風の屋敷を囲む塀と屋敷との間にある広い庭の中、甲高い金属音が何度も反響する。

 この場が人里離れた山のふもとでよかった。でなければすぐに警察かどこかへ通報されていたことだろう。

 結局、怒り狂う斑鳩と、それを押しとどめようとする全裸の少女二人との戦いは、夕食を作り終えた春花と詠がその姿を見つけるまで続けられた。

 

 「ど、どうして斑鳩さんが、お二人と戦っているのですか? それに、なんだか――す、すごく怖いんですけど!?」

 「あーらら、こうなることは予想できてたけど、まさか本当にやってるとは――若様ったら、ほんとに罪作りなんだから」

 

 戦いが終わったのは春花と詠とが協力して三人を押しとどめたことによってなんとかなり、斑鳩には後にお詫びをするということもあって一件落着となった。ついでに春花からの「今日は六人で若様を相手しましょう」という提案があり、怒りがおさまらない様子の斑鳩も半ば無理やりに納得させられることとなり、事態は終結を迎えた。

 ただ彼女たちがそうした騒動を起こしている間も、自室にいた焔と若はずっと繋がったままで快楽を貪っており、仲間たちがどれほど苦労したかも知らずに高い声をあげていた。

 つまりこの日、最も幸せな時間を過ごしていたのは、他ならぬ焔だったということである。

 

 「あぁっ、あぁぁっ、若っ、ダメだ――ま、また、イクぅっ……!」

 「ぐっ、俺も、イクぞっ……!」

 

 とはいえ、何度膣内に射精されたかわからない焔だけが、女性陣全員からの反感を買い、夜の時間の若の相手をさせてもらえなかった。

 そういう意味では、彼女を除く全員が抱かれ疲れて気を失うまで、若の相手をさせてもらえなかった焔こそ、この日一番の不幸を体感していたと言えるのかもしれない。

 ただそれでも、楽しみにしていた一対一の時間を邪魔され、焔紅蓮隊に混じってでしか若との時間を過ごせなかった斑鳩ほどではなかっただろうが。

 



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善忍、参入

 妖魔、と呼ばれる生物は忍にとって大敵であり、人類にとっても害となる。だからこそ忍は善忍、悪忍問わずに妖魔を討ち、その祖たる存在を滅ぼすことを目的としている。そのための存在と言っても過言ではない。

 しかし妖魔を討つための使命を与えられるのは、忍の中でも最上位、「カグラ」の名を与えられた者たちのみ。彼らのように実力を認められなければ妖魔と戦うことすらできず、またカグラであっても必ず妖魔に勝てるとも限らない。

 話は一年前にまでさかのぼり、その日、それは月下の中で行われていた。

 暗闇の中で突発的に沸いて出た妖魔と敵対していたのは、たまたまその場にいて襲われていた少女と、そこに駆けつけた少年だった。

 少女は戦闘の名残を感じさせる、ボロボロになった白い着物をかろうじて着ており、そこに到着したばかりの少年は黒い着流しと赤い羽織を着て、白い狐の面をかぶっていた。

 忍であっても、いまだカグラに到達していない二人。少女は雪泉という名であり、少年は「若様」という愛称で呼ばれている。

 

 「――あ」

 「下がってろ。すぐに終わらせるから」

 

 二本の刀を両手に持った若が一歩前に出ると、妖魔たちは喉を鳴らして威嚇を始め、雪泉は呆然とした様子でその背を見つめた。

 妖魔は、そして雪泉もまた知らない。その少年が戦いに出るというのはどういうことなのか。

 

 「ふむ、百や二百はくだらないか。まぁ大丈夫だろう――皆殺しだ」

 

 この後、懐から一本の巻き物を取り出した、若と呼ばれる少年は無数に群がる妖魔たちとの戦いを始め、ただの一太刀も浴びることなくすべてを殲滅した。

 それを間近で見ていた雪泉はきっと、生涯その姿を忘れることはないだろう。

 自分を窮地から救い上げてくれたのは、妖魔よりもよっぽど恐ろしい人間だったのだから。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 夏が近付くある日。護衛の葛城が若の膝枕でうたた寝をしていた頃、彼の前には一人の少女が正座で座っていた。

 噂を聞きつけて誰よりも早く動き出していた少女、雪泉はかつての自身を助けた少年の家へと足を運んでいたのである。理由はただ一つ、近頃の噂にあやかって、自分たちもまた彼らの繋がりに加わること。

 半蔵が作り出そうとしている“妖魔殲滅部隊”、その頂点に立つともっぱらの噂の若の力となるため、彼に対して直談判を行うつもりなのだ。

 

 「ずるいです」

 

 と言っても、頬を膨らませて拗ねたようにそう言う彼女を見る限り、本来の目的を忘れて別のことを狙っているようにしか見えないのだが。

 

 「ずるい?」

 「ええ、ずるいです。半蔵学院の生徒だけならともかく、抜け忍である焔紅蓮隊のみなさんまで若様の相手をして――ずるいです」

 「はぁ」

 

 いまいちピンときてない若に向かって、雪泉は何度も言葉を重ねた。皆さんだけずるいです、と。

 彼女もまた影の中に生きる忍である。女である前に影としての使命、影としての生き方は心得ている。

 しかし、だからといって自分とそう変わらぬ存在である半蔵の生徒たち、並びに抜け忍である焔紅蓮隊ばかりが若と親しく、近しい関係で居続けるというのはどうなのだろうか。

 これまで無理やり胸の中に押しとどめていた想いはこの時、ついに爆発し、若に直接問いかけることにしたのである。

 もっともその際、先に責任者たる半蔵から許可を取っているあたり、雪泉のまじめで用心深い性格が伺えるのだが。

 

 「というわけで、ぜひとも(わたくし)たちも仲間にしていただきたいと思うのです。妖魔を倒すことは、すべての忍にとっての使命ですから」

 「なるほど。じゃあ妖魔討伐任務の際にはいっしょに――」

 「そしてもちろん、私たちも若様の護衛につき、若様の性処理にもお役に立ちます。これはもう、護衛に就いた者の宿命なので」

 「はぁ」

 

 小首をかしげつつ、眠りこける葛城の髪を撫で、金色の長髪を指で遊ばせる若。その姿は明らかに納得できていない様子だ。

 しかし雪泉はえっへんと胸を張ってそう言い、満足げに頷いたりもしている。結局のところ、口では忍だからとか妖魔だとか言っている彼女もまた、女を捨て切れていないだけのようだが。

 いまいち理解できていない様子の若はそれでも頷き、彼女の申し出を受けた。断るような話でもないし、むしろ戦力が増えることは好ましいことだ。

 よって雪泉の提案、「月閃女学館のメンバーも若の護衛につく」という提案はいともあっさりと受け入れられ、つまりは善忍を排出する二つの学校が手を組んだという事実が生まれたわけである。

 雪泉はさっそく、獣のように四つん這いで前へ進みだし、ゆっくりと若に近付きながら笑みを浮かべた。頭の中を占めているのは、ずっと以前から望んでいたことだ。

 

 「というわけで、私たちも若様のお役に立てるのだということを証明致しますので、しばしお付き合いください」

 「もうやることは決まってるんだな。でも、今日は葛城がいるし――」

 「問題ありません。その辺に転がしておきましょう。さぁ若様、そういうわけで私と――」

 「ちょっと待ったァ!」

 

 おずおずと若に抱きつこうとしていた雪泉を押しのけるようにして、若の膝枕で寝ていた葛城が飛び起き、場の空気が一瞬で変わる。妙に桃色の雰囲気を醸し出していた雪泉と、やけにぽかんとしていた若の間に怒った様子の葛城が立ち、ビシッと指を突き付けながら叫ぶのである。

 当然、指し示されたのはそれでも熱っぽく若を見つめる雪泉だった。

 

 「こら、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。護衛のあたいを無視して若に手ェ出そうなんざ、百年はや――ってこらァ! 言ってる傍からッ!」

 「はぁんっ、若様――ずっとこうしたかった……」

 「ん、よしよし」

 

 しかしこの日の雪泉はなぜか様子がおかしく、少し前に起こった学炎祭の頃の姿もどこへやら、一直線に若へ向かって葛城の話を聞いていない。

 両肩を出した白い着物姿で、遊女か何かのように若の胸へしなだれかかって、うっとりとしたため息を吐きながら安心したように目を閉じる。そうした雪泉を抱きとめた若は彼女の頭をやさしく撫で、拒否するような態度は見えない。

 これにより、結果的に無視された葛城は血相を変えて雪泉に詰め寄り、声を荒げて自分の想いを主張した。それを聞かされた雪泉はむっと眉をひそめ、強く若に抱きつきながらも葛城を見上げる。

 それから、至近距離にいる若を放っておいたまま、二人はそれぞれの主張を曲げずに言い合いを始めたのである。

 

 「あのなぁ、こっちはただでさえ紅蓮隊が増えたせいで困ってるんだ。今さらおまえらが来ると余計に若に会う時間が減るだろうが」

 「むっ、しかしこうでもしなければ私が――いえ、我々が若と体を重ねられな、もとい、協力して妖魔を滅することができないでしょう」

 「本音が漏れ出て支離滅裂だな。要するに若に抱かれたかったっていうことなんだな?」

 「私をそんなふしだらな娘みたいに言わないでください。私はただ、若様の御体を心配して、常に傍で守って差し上げなければと思っただけです」

 「だったらその手を話せ。今日はあたいの番だ、あたいに譲れ」

 「それは断ります。それと若様を物みたいに扱わないでください」

 

 ぎゅうっと力強く抱きつき、ともすれば着流しを挟みながらも若の胸板へ頬ずりする雪泉は至福の表情を浮かべている。それがまた葛城の神経を逆なでしているとも知らずに。

 気分は自分の主人を奪われた愛犬にも近い。せっかく膝枕で安心して寝ていたのに邪魔しやがって、と思う葛城は尚も若にすり寄る雪泉に厳しい顔を見せ、今にも襲いかからんばかりにわなわなと肩を震わせていた。

 我慢をしていたのはほんの数秒。キッと目の色を変えた葛城は突然の訪問者の肩を掴み、無理やり若から離そうと力を込めた。だがそれを見越していたのか、肩に触れられた瞬間にはさらに強い力で若へ抱きついていた彼女を剥がすのは至難の技で、どれほど力を入れても離れない。

 結局彼女たちは若を巻きこみながらぐいぐいと引っ張ったり引っ張られたりを繰り返し、雪泉は若に頭を撫でられて幸せそうに頬を緩ませ、そんな彼女を見る葛城はますます眉をひそめていった。

 

 「このっ、離れろぉ……!」

 「むぅ、私と若様の邪魔をしないでください。人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて死んじまえ、などと言うじゃないですか」

 「邪魔をしてるのはどっちだ!? それにあたいは馬に蹴られて死ぬほどやわじゃねぇよ!」

 「ふぅ、仕方ないですね。ここまで認めてもらえないのなら、こうするしかありません――(むらくも)さん」

 

 しばらくは見苦しく抵抗していた雪泉がついに諦め、ため息交じりにそう言うと同時、屋敷の外へと繋がる縁側の傍に何者かが現れた。

 気配を察した葛城がそちらを見ると、そこに立っていたのは般若の面をかぶった見覚えのある少女。すでに忍の本領発揮するための衣装に着替える“忍転身”を終え、古風な鎧にも思える少し露出の高い服を着た、叢という少女が大きな包丁と歪みを持つ槍を持って存在していた。

 途端に葛城は表情を引き締め、彼女を見つめてゆっくりと立ちあがる。制服の胸元を緩めながら、戦闘の気配を感じて佇まいを直した。

 その間に隙を見つけた雪泉はちゃっかり若の頬や首筋に軽いキスを送って、ちゅっと小さな音を出し、興奮した面持ちを見せている。そんな状態でちらりと叢へ視線を送った後、またしても葛城を見た雪泉は頬ずりし続けながら言う。

 

 「私もこんなことはしたくありませんが、認めていただけないなら仕方ありません。叢さん、わかっていますわね?」

 「……役目は果たそう」

 「ヘッ、結局はそういう心づもりだったってことか。望むところだ、言ってもわからん奴は力ずくで――!」

 「では葛城さん――ウチの叢さんは好きにしてくださって構いませんよ」

 「「――は?」」

 

 葛城が準備運動をするかのように足首を回し、叢が手の中にあった武器をくるりと回して、今にも戦いが始まろうとしていたその時。さも当たり前のように告げられた雪泉の一言によって、二人は突然ぴたりと動きを止めた。

 ひどく緩慢な様子で恐る恐る視線を動かし、若の腕の中に居る雪泉を見る。すると彼女は若の胸に耳を当て、とくんと静かに鳴る鼓動を聞きながら二人に対して言った。

 それは言ってみれば自分の邪魔をさせないための、策を用いた発言とも取れた。

 

 「残念ながら私は若様のお相手で忙しいですが、こちらも何もせずに認めてもらおうとは思っていません。ですのでとりあえず、葛城さんには叢さんを好きなように抱いてくださっても構わない、と言ったのです」

 「なっ、ま、待てっ、そんな命令は聞いていない――」

 「ふっ――ふっふっふ。うっふっふっふっふ」

 「ひぃっ」

 

 雪泉が何を言っているのか理解した途端、表情を隠したままでもわかるほど狼狽し始めた叢と違い、葛城は肩を震わせながら俯き、怪しく笑い始めていた。

 おかげで叢は反射的に自分の体を抱きしめ、後ずさりをする。葛城の醸し出す雰囲気に押され、嫌な予感を感じたらしい。

 だがその頃にはすでに葛城は自分の欲望に素直になっていて、ギュピィーンと目を光らせながら叢を見ている状態、もはや若でも止められない姿だ。

 そして葛城は少しずつ息を荒くしながらも必死に自分を抑え、ゆっくりとした調子で雪泉へと尋ねた。

 

 「つまり、それは、アレか――あの乳をあたいの好きなようにしてもいいってことだよな?」

 「ええ、もちろん。お好きにどうぞ――こちらは私が十分に働いておきますから」

 「ふふっ、うふふっ、ふっふっふっふ――」

 「ひっ、待て、来るなッ。我はそんなことをするために来たのでは――」

 

 小動物のように体を震わせて怯える叢へ向かって、葛城がゆっくりと一歩ずつ進んでいく。すでに頭の中ではありとあらゆる妄想が繰り広げられているため、危機迫る表情を見せる彼女は明らかに怖い。

 その頃になると雪泉の眼中にはすでにその二人の姿などなく、心行くまで若の顔をじっと見つめ、遊ぶようにキスを繰り返す。若もされるがままを受け止めているため、必然的に二人の姿を見ることはできない状態にあった。

 そのため、どうしようもない恐れを抱いて動けない叢を助ける人間などおらず、葛城の歩みを止める者などいない。

 結果、鋭い動きで走り出した葛城は叢へ向かって飛びつき、しかし寸前で避けられたことにより叢はそのまま走って逃げだし、目を血走らせる葛城は地面からすぐに起き上がってその後を追って同じように走り出した。

 

 「待て待て待てーーッ! その乳をあたいに揉ませろーーッ!!」

 「ひぃぃっ、来るなっ、来るなァァァッ!?」

 

 ドタドタと騒がしく走り去っていく二人を気にもとめず、雪泉の愛情が込められた愛撫は続けられる。そのまま二人は屋敷を囲う高い塀を越え、外へ向かって姿を消した。

 そして雪泉は舌をちろりと伸ばして、頬や首筋を舐めながら熱い吐息を洩らし、ゆっくりと怪しく動く手が着流しの内側へと差しこまれ、するすると緩慢な動きで胸板を撫でる。

 至福の笑みをこぼす雪泉に対し、どこかへ去った二人を見ていた若はどことなくぽかんとした顔で、発される言葉も彼女たちを心配するかのようなものだった。

 

 「……いいのか? 叢、物凄く嫌がってたように見えたけど」

 「仕方ないのです。この世は無情なものですから――多かれ少なかれ、犠牲がなくては生きていけません」

 「そういう話なんだろうか……」

 「そんなことよりも若様、今だけは、この時だけは私に集中してください――若様のすべてを、私だけのものに……」

 

 そう言って、普段よりも目を潤ませた雪泉は小さく唇を尖らせ、目を閉じてからひどくゆっくりとした動きで若の顔へ唇を寄せる。

 呆然と二人の行方を見守っていた若の唇に、ちゅっと柔らかいそれが押し付けられて、ようやく彼の視線も雪泉に向く。ぱちくりと驚く視線にしっかりと気付いているのか、それだけで雪泉は幸せそうに頬を緩めて、彼の首に回した腕にぎゅっと力を入れた。

 その時になって若も彼女の背に腕を回して強く抱きよせ、さわさわと動く雪泉の手に倣うかのようにやさしくその背を撫で始める。

 

 「んぅ、ふぅん――若様っ、もっと、もっと愛して……」

 「あぁ、いいよ雪泉。おまえがそう望むならいくらでも――」

 

 小さな呟きが終わると同時にぴったりと唇が重なり合い、先程よりも深く繋がる。感触を確かめるように押し付け合っていたのもほんの少しの間で、どちらからともなくすぐに舌が差しだされた。

 ぺろりと唇を舐めて、雪泉が甘えるように舌を伸ばすと、誘われた若が舌を伸ばして彼女の口内に侵入し、物足りないと感じるほどのゆったりした動きで歯の列をなぞり、舌を絡ませる。口では呼吸が出来ないほどくっついた状態で、雪泉はそれを嬉しそうに受け取っている。

 だが逆に、若が彼女を迎え入れるような動きを見せる瞬間もあった。さっきまで好き勝手に、しかし焦らすように動いていた舌が雪泉の舌を引き寄せ、それらは共に若の口内へと入っていったのだ。

 おずおずと雪泉が舌を動かし、自分がされたように若の口内を撫でていく。舌先に力を込めて、愛情が込められた動きでゆっくりと、若のすべてを感じるように舐めつくしていく。

 その時の彼女の表情はこれまでにないほど緩んでだらしなく、頬を真っ赤にしてうっとりと潤んだ半目を開き、快楽に溺れきった姿を晒していた。

 

 「んんっ、んふぅ、んんむっ、若様ぁ――」

 

 蕩け切った表情で、若を捕食するかのようにしっかりと自分の方へ抱きよせ、頭を抱え込みながら舌で口全体を味わう。そうする雪泉はもはやいつもの毅然とした姿を投げ捨て、冷静さや誇りさえも隅に追いやった、ただの一人の女と成り変わっている。必死すぎる姿はむしろ獣のようにすら見えた。

 しかし今さら、様々な性癖を持つ女を相手にしてきた若が引く様なこともなく、彼は己の口内を雪泉の好きにさせておいたまま、両手を動かして彼女の纏う白い着物へと手をかけた。

 露出した肩の白い肌に触れ、やさしくさすって彼女へ意思を伝えると、迷いの無い手がゆっくりと着物の胸元へと入りこんでいく。まだ若いながらも男らしさのある右手が、手のひらも甲もむにゅりと柔らかい乳房に挟まれ、そこで指を動かせば彼女の胸は簡単に形を変えて指を埋めた。

 その一方で若は左手を使って帯をほどき、かすかに開いた着物の裾へと手を忍ばせるとむっちりと肉付きのいい太ももへ手を這わせ、焦らすような動きを見せながら手を移動させる。

 そして右手がきゅっと乳房の先で立つ乳首を捻った頃、左手は白い下着の中へするりと入り込み、すでに水気を帯びている秘所へとやさしく触れていた。

 

 「んふっ、んぅ……若様、そこは――あっ」

 「大丈夫だ。俺に任せろ」

 「あっ、んっ、はっ、はいっ」

 

 誰にも触れられたことがない大事な場所へ触れられ、少しの戸惑いを見せた雪泉だったが、若の声を聞いた途端に身を震わせてすぐに従う。そのままより一層強く抱きつき、彼の首筋に舌を這わせながら全身を預けるほど信頼しているらしい。

 その信頼に応えるべく、若も丁寧な様子で指を動かし、彼女の秘部を撫で始める。ゆっくりとやさしく、雪泉の反応を楽しみながらの愛撫だった。

 同時にもう片方の手は彼女の大きな乳房を楽しんでいて、触れるだけでふるりと揺れるそこははだけた着物からはみ出している。すでに肩ひものないブラジャーも外され、勃起した乳首も両方露わになっている状態だ。

 若は片手で膣の入り口を弱弱しく撫で、片手で乳首を摘んで弱い快感を与えている。これには思わず雪泉も羞恥と興奮で頭がおかしくなりそうになって、自分からもっと強い快感を望む声を発していた。

 

 「わ、若様っ、どうか、どうかもっと激しく――」

 「ん、そうか? 雪泉も初めてだって聞いたから、やさしくした方がいいのかと思ったけど」

 「んっ、んぅ、た、確かに私は初めてですが、これでは――これでは気が狂ってしまいます。お心遣いは嬉しいですし、十分に気持ちいいですが、んんっ、できればもっと一思いに強くしていただきたいのです」

 「そうか。それじゃあもうちょっと強くする」

 

 そう言って若は雪泉の声を聞き、指先にぐっと力を込めた。すると雪泉の乳首がぎゅっと摘まれ、膣にはつぷりと指の先だけが侵入する。

 これだけで先程とは全く違う感覚を得る雪泉は首を逸らして声を出し、甘い悲鳴で若の耳を楽しませた。

 気分を良くした若は膣に挿入した指をさらに奥までずぶずぶと押しいれていき、そこで指を折り曲げたり、激しいとは言わないまでも素早く指を出しいれさせる。胸を揉んでていた手もさらに力が加わって、ぎゅうっと乳房が掴まれる度、口元をだらしなくさせた雪泉が甘い声を出しつつも若の唇を塞ぐ。ちろちろ舌を動かすという弱い力の、小動物が甘えるような姿だった。

 雪泉はしっかりと若を抱きしめながら、彼から与えられるすべてを受け取って笑みを浮かべた。ようやくこの時が来た、やっとこの人に愛してもらえた、胸の中に溢れる想いはそんな嬉しいものばかりだ。

 彼女がそうして喜びに包まれながら幸せそうに鳴いている間も、若による愛撫は続けられている。

 

 「んんっ、んんぅ、はぅ――気持ちいいです、若様。私、今とても幸せです……あぁっ」

 「そうか。雪泉、俺のも触ってくれ。ほら、こっちの手でさ」

 「あっ、は、はい」

 

 若がそう言いながら雪泉の手を取り、自分の下半身へと触れさせた。柔らかい布地の着流しを押し上げる股間に、白い指がきゅっと絡みつく。

 その途端に雪泉はほぅとため息を洩らし、固くそそり立つそれを握って手を上下に動かして若への奉仕を始める。初めてという割に事情をわかっているらしいその動きは若が感じる場所を上手く捉えており、戸惑う様子すらなく速度をあげていく。

 同時に彼女も膣の中を掻きまわされて、身を捩りながらも悦んでいる。先程まで胸を揉んでいた片手が、今は背に回されて抱きしめられているため、とても気分がいいらしい。

 雪泉は手を動かす一方で己の舌でまた若の首筋を舐めていき、若は彼女の好きにさせながらも首の角度を変え、大ぶりの乳房に強く吸いついた。乳首やその周りすらも、大口を開けて食べるかのように、豪快な様子で口の中へ迎え入れている。

 

 「んんっ、ふあっ、そ、そんなに強く……んんんっ」

 「んっ、ふっ、はっ――」

 「あぁっ、若様が、若様が私の体で興奮をっ……!」

 

 肉体から快楽を得て、精神から幸福を得る、今の雪泉はまさに充実した一時を感じていた。

 いつからだったか頭から離れなくなった男に出会い、普通に声をかけることを許され、あまつさえ自分が理想としていた瞬間を味わうことができる。荒々しい姿で並び立つ大量の妖魔を皆殺しにした男に、今は自分の体が思う存分喰らわれている。

 頭で少し思うだけで心が反応し、自然と若の指が入り込む膣内がしっとりと濡れていき、そこへ快感も合わされば見る見るうちに彼女の体は性交のための準備を終えていった。

 そしてそんな彼女に触れて、どこまでも素直な想いを吐露する若は小さく呟く。ぎゅっと頭を抱えてくる雪泉の乳房を舐めながらだ。

 

 「ん、すごい濡れてきたな……雪泉、気持ちいい?」

 「は、はいぃ……すごく、すごく気持ちいいですっ」

 「そうなのか。それじゃあもう、いれてもいい?」

 「あぁっ、んんぅ、き、来てください――若様との子作りをずっと楽しみにしてましたからっ」

 

 ぐいっと雪泉が若の体を抱きよせ、自分から畳の上へと背をつけた。これで若が彼女を押し倒す形で体を重ねるようになり、二人の顔が至近距離にまで近付いた。

 今にも唇がくっつきそうな距離で若は口を開き、言葉を発して、ドキドキと胸を高鳴らせる雪泉は彼の目をしっかりと見つめながら言葉を失くしていた。

 彼女の下半身、詳しく言えば期待と愛撫によって濡れそぼった膣の入口に、我慢汁を垂らす亀頭が触れていたのである。

 

 「雪泉、いくぞ。体の力を抜いて」

 「は、はいっ」

 「……そう緊張しなくていい。大丈夫、やさしくするから」

 

 そう言った直後、若の肉棒はずぶずぶと彼女の体内に埋め込まれていき、ぶるりと体を震わせた雪泉の口からは高い嬌声が放たれる。

 

 「あぁっ、はぁっ――若様、あぁ、あなたが愛おしい……」

 

 ぎゅっと彼へ抱きつき、着流しから垣間見える胸板へ頬を寄せ、気持ちが溢れた言葉が吐かれた。

 若は非常にゆっくりと肉棒を前に進めていき、まだほぐれていないそこの感触を味わいつつ、雪泉の唇を塞ぎながら腰を前後させる。やさしさが溢れる動きは確かに彼女へ快感を与えるためのもので、実質、雪泉もすぐにその行為の気持ちよさというものを理解した。

 愛しい男の体の一部が体内へ入り込み、形や熱がはっきりと伝わり、彼の感情までも伝わるかのような状況下で自分の大事な場所がずるずると動きを感じている。その感触は一瞬で雪泉を性行為の虜にし、彼女はすぐさま若の首に腕を回してさらに深くキスをして、先程とは比べ物にならないほど興奮した様子で若の口内を荒らし始めた。

 雪泉は初体験でありながらもその行為を確実に楽しんでおり、もっと強く若を感じたいと、本能で理解したのか自らも腰を振る始末であった。

 若は思わず頬を緩めて、尚も彼女の好きなように口内を舐められまくっている。

 熱心なキスが続けられる間も、若はゆっくりと腰を前後させていて、しかし雪泉が順応して自分から腰を振るようになってからはだんだんと速度を速めていった。

 膣の全体をほぐすかのように大きく前後していた肉棒は小刻みに入口を突くようにもなっており、素早いそれは雪泉の快感を更なるスピードで高めていく。

 二人の体液が混じり合い、屋敷の一室から縁側を通して外にまでぐちゃぐちゃと卑猥な音が響くようになった頃、ようやく雪泉の口は若から離れて大きな嬌声をあげる。

 その顔にはやはり至福の表情が存在していた。

 

 「あぁっ! はぁんっ、んんあっ――若様っ、すご、いぃぃ……!」

 「ふっ、はぁ、凄い感じ方だな。雪泉、可愛いよ」

 「んんっ、ふぅんっ、う、嬉しい、若様ぁ――うんんっ、んんっ、ふぅぅ……」

 

 最初の時とは違って、パンパンッと肉がぶつかる音が鳴るほど激しくぶつかる腰。そこに雪泉の嬌声が混じって、二人の淫靡な行為は次第に佳境へと向かっていった。

 もはや自分から愛撫を施すことができないほど感じている雪泉はただ必死に若の体に抱きつくばかり。ぶるんと胸を揺らしながら、必死に若の名を呼んで愛おしいという感情を伝える。

 若もそんな彼女を可愛いと想い、ぶつける腰に力を入れ、膣内を抉る肉棒をさらに固くしながら雪泉の唇へ吸いついた。

 二人は呼吸を荒くしているにも関わらず口づけを交わし、その状態のままでラストスパートへ突入していった。

 

 「んんっ、んんっ、んんっ!」

 「んっ、ふっ、ちゅっ――」

 

 激しく肉棒を出し入れし、狭い膣内を荒々しく掻き混ぜて、そうして二人は絶頂を迎えた。

 先に雪泉が全身を、足の指すらもピンと伸ばして激しいオーガズムを感じ、ただでさえ狭かった膣がぎゅううと締まったことで若もすぐに射精する。タイミング的にはほぼ同時、ほんの一瞬しか違いがない状態だった。

 亀頭の割れ目からびゅくびゅくと精液が放出され、同じようにぴくぴくと震える膣の中へと付着していく。その熱がまた雪泉の心を満たすかのように気持ちがよく、彼女は若に唇を吸われながらも嬉しそうに頬を緩めた。

 そのまましばらく繋がったまま、最後の一時まで楽しもうと腰をゆるりと動かしていた若は、すべての精液を出し切ってから陰茎を抜こうと腰を浮かす。しかしそれを阻止するために、素早く動いた雪泉の両足が彼の腰をがっちりと捕まえ、彼が解放されることはなかった。

 不思議そうに若が首をかしげ、すぐ傍にある雪泉の顔を見ると、彼女は幸せそうな表情で唇を尖らせ、ちゅっと若の頬にキスをした。

 

 「若様……もう少し、このままで……」

 「わかった。いいよ」

 

 再び唇同士がちゅっと重なり、繋がり合ったまま二人はお互いの位置を入れ替え、若の体の上に雪泉が乗る形となった。大きな乳房が胸に合わさり、ふにゅりと形を変えている。若はそれを手で揉みながら雪泉の口内を舐めていく。

 そうして性交後の、独特の気だるさや疲労を感じながら、ゆったりとした時を楽しんでいた時のことだ。二人は突然、どちらからともなく唇を離し、縁側の外へと目を向ける。

 そこには素早い動きで高い塀を乗り越え、庭の中に侵入し、ドドドドッという音を立てながら猛烈な速度で走ってくる二人の少女がいた。

 

 「ごめんなさいごめんなさい! 我なんかが言うこと聞かずに逃げちゃってごめんなさいっ! でもお願いですからもう許して下さいっ! あの、それと、そのお面だけは、早く返してくださ――!」

 「ふっふっふ、返して欲しいなら方法は一つだ! 今すぐ立ち止まって、その乳をあたいに揉ませろーーッ!」

 「ひぃぃぃっ!?」

 

 般若面を外して可愛い素顔を晒し、やけに泣き言を連発しながら逃げる叢と、彼女のお面を奪って形相を変えたまま突っ走る恐ろしい時の葛城。二人はドタドタと庭の中を駆けまわり、それぞれ自分のために躍起になっていた。

 それを見た若はまたしてもぽかんと口を開け、猫のように頭を胸に擦り付けてくる雪泉の頭を撫でながら、そのままぼんやりと空を見上げた。

 

 「はぅぅ、若様のたくましい胸板……愛しております若様。あなたこそが、私の正義ですぅ……」

 「……平和だなぁ」

 

 騒がしかったり、何かを間違えてるらしかったり、そんな少女たちに囲まれて呟いた言葉は、穏やかに雲を流す青空へと消えていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 少し前に起こった「学炎祭」の時に、ほんの少しだけ顔を会わせていた月閃女学館の忍たちが若と再会したのは、その筆頭たる雪泉の手引きによるものだった。

 見事に自分から若の護衛となった雪泉の紹介により、日ごとに四人の生徒が交代で現れ、顔合わせと同時に初体験を迎えていったのである。

 まず最初に訪れたのは実年齢よりよっぽど下に見える少女、言ってみれば子供っぽいと表現できる美野里だ。

 彼女は無邪気な様子で若の元に現れ、迷う暇もなく自らすっぽんぽんになって、若と楽しく性交した。

 

 「あはぁっ! 若ぁ、若ぁっ、気持ちいいよぉっ!」

 

 弾むような腰振りと、底知らずの元気さで若を圧倒した彼女は膣の狭さも相まって、これまで若が経験したことがないような性交で感じさせ、しっかりとすべての精液を体内へ注ぎこまれた。

 次に現れたのは青いおかっぱ髪に白い花をつけた少女、今となっては若一筋でおかしくなってしまった雪泉よりまじめな夜桜である。

 貞操観念が強く、一生を共にする男以外に体を許すなど言語道断、などと思っていた彼女もいつの間にか若に陥落されていたらしく、さほど問題もない様子で彼と体を重ねた。

 

 「ハァ、ハァ、ふぅ――若様、で、できれば子供は、わしの兄弟を越えるくらいの人数を……」

 

 幸せそうな顔や髪、どころか膣内だけでなく大ぶりの胸や下腹部や尻に至るまで精液を塗りたくられた彼女は、そんな状態で荒く呼吸をしながら若の子供をたくさん産むことを望んでいたという。

 その次に現れたのはブロンドの長髪とやけに妖艶な雰囲気を持った少女、いわゆるギャルに分類される性格の四季であった。

 見た目や言動に反して、これまで男を知らなかった彼女もこの時を持って立派な女となり、若との時間を楽しみながら繰り返し快楽を貪ったらしい。

 

 「んっ、ぢゅっ――ぷはっ。やっぱり濃いねー、若様のせーえき。……ね、まだ出そう?」

 

 小悪魔的に笑う彼女はその足で若を連れ回し、深夜の町を徘徊した後に彼女の遊び仲間と合流して、朝まで激しい性交を楽しんだ。無論、集まった女友達全員に若が与える快感の凄さを教え込んで。

 そして最後の一人、に少し我慢をさせて、もう我慢できなくなった雪泉が若との幸せな一日を楽しんだ後、ようやく月閃女学館の忍で最後となった彼女が送り込まれた。

 名は叢。おかしな正義を胸に抱くようになってしまった雪泉により、とある一日は葛城の生贄となって心行くまで体を弄ばれ、決まっていた順番すらも勝手に変更された不運な彼女は若に会える日をとても楽しみにしていた。

 般若の面をつけたまま、自分がイニシアチブを取って若の体を思う存分味わおう。そんな風に思って喜び勇んで現れた彼女の立場は、呆気なく逆転され、若の下で愛らしい嬌声を響かせることとなる。

 

 「あぁっ、だめぇっ――若っ、お面、お面は返してっ、んああっ!」

 

 般若面を取り上げられてしまったことで羞恥心が倍増された叢に若を抱けるはずもなく、一方的に抱かれる彼女は最後までようやく感じられた幸せに鳴いていたのだ。

 そんな日々が続き、半蔵学院と焔紅蓮隊の面々がイライラしながらも黙認していたある日、「ようやく全員の顔合わせが済んだので、一度全員でご挨拶に伺います」と告げた雪泉を筆頭に現れた五人の少女たちは、一斉に若との性交を楽しんでいる最中だった。

 具体的な現在の状況は、全裸になった美野里が仰向けで寝る若の肉棒を膣に銜えこみ、ほとんどが紐でしかない、乳輪や秘所の大部分が出てしまっている水着を着た四季が玉をしゃぶり、時に尻の穴を舐めている。サイズの小さいスクール水着姿の夜桜と、般若面にブルマ姿の叢はそれぞれ若の指によって膣の中を掻きまわされており、喘ぐ彼女たちは呼吸を荒げながらも若の乳首を舐めていた。そして新妻気分で裸エプロンとなった雪泉は若の唇をむちゅっと塞ぎ、無防備となっている口内をれろれろと遠慮なく舐めまわしていた。

 一人の男に群がる美しい五人の少女たち。若の屋敷の中では、誰にも見せられない淫靡な宴が繰り広げられているのである。

 

 「ひゃぁぁんっ、んぅっ、やんっ、気持ちい――あっ」

 「んふ、むちゅ、もー若様ってばやっぱり変態だね。お尻の穴舐めてたら、物欲しそうにひくひくしてるよ? んふふ、何か入れてあげた方がいい?」

 「あぁっ、ひゃああっ――若様っ、そこっ、そこがいいっ……!」

 「はぁっ、はぁっ、んんっ……若、気持ちよいか? 我は早く、あなたの男根が欲しい……」

 「んんっ、ふっ、むちゅ――あぁ、私じゃない女性でも感じていらっしゃる若様も愛おしい」

 

 五人それぞれの声が耳を打つ中、若は目を閉じ、素晴らしいほどの集中力で五感すべてから彼女たちを感じていた。

 狭くきゅうきゅうと締めつける美野里の膣、淫らに動く四季の舌、固さがほぐれていないながらも誰よりも強く指を締めつける夜桜と、凄まじいほど愛液を垂らして若の手を濡らす叢、そして吐息や舌使いから感じられる雪泉の愛情。それらはどれも心地よいものだ。

 よって若にとってはこの状況に不満はなく、ただ求められるままに快楽を楽しんでいる。そしてそれは彼女たちも全員が同じ気持ちだ。

 誰もが自分の力を存分に振るって若を気持ちよくしようとする中で、まず真っ先に若の息子を銜えこんだ美野里はぷるぷると巨乳を揺らしながら腰を上下に振っており、その表情はもはや限界が近いことを物語っていた。

 

 「若様っ、若様ぁ、美野里もうだめだよ――もうイッちゃうぅ」

 「んっ、はっ、いいよ美野里。俺もイキそうだから、もう出すよ」

 「んんっ、んんんっ、若様ぁ――あっ」

 「うくっ」

 

 最後の精一杯で強く腰を振った美野里はやがて膣の奥まで若の肉棒を押し込み、体の位置をぴたりと固定したまま、ぷるぷると全身を震わせた。絶頂を感じて肌が震える度、大きな胸がぷるぷると揺れる。射精された精液はすべて彼女の体内に呑みこまれていたのだ。

 やがて射精が止まると、美野里はくたりと若の胸の上に倒れて、嬉しそうに頬を緩めたままあっさりと寝息を立て始めてしまった。これには同じ学校の仲間たちも驚いて、汗を掻いたまま全裸で眠る少女を見つめる。

 しかしいつまでもそうさせておくわけにはいかず、このまま美野里が若の陰茎を銜えていたのでは続きが出来ない。そこでそそくさと動き出した四季が何も言わずに美野里の体を持ち上げ、膣から陰茎を抜き、ごぽりと精液を吐き出すそこを気にしながらも美野里の小さな体を運んだ。

 四季は畳の上に美野里を仰向けで寝させると、彼女の足元に体を移動させて足の間に割って入り、両手で両足を広げさせると、精液の垂れ流れる秘所へと目を向けた。

 ふふっ、と小さく笑みをこぼした彼女の頭がゆっくりと動き、吸い寄せられるように美野里のそこへ舌を近付ける。

 

 「すっごくいっぱい出てるね、若様のせーえき――あたしも欲しいから、ちょっとだけもらっちゃうね」

 

 眠り続ける美野里にそう告げると、四季は恥ずかしがりもせずに秘所を舐め始め、膣から溢れ出るそれを舐めとっていった。感触や味、生温かさなどを楽しんで、四季は嬉しそうに目を細める。

 高々と掲げた尻を振っている彼女がそうして更なる痴態を見せている時、すでに夜桜と叢は位置を変えており、それぞれ若との繋がり方を変えようとしていた。

 叢は濡れそぼった秘所を若の陰茎の上に置いており、夜桜は若の顔を跨いで指で掻きまわされた秘所を見せつけている。その間、同じく移動した雪泉は若の腹に舌を置いていて、ぺろぺろと薄く割れた腹筋やへそを舐めていた。

 

 「はぁっ、若、行くぞ。今日こそは我があなたを犯す」

 「わ、若様、よろしかったらわしのおまんこを――若様の舌で、ほぐしてください……」

 

 二人の少女が腰を降ろすと同時、甘い声が室内を満たした。むっとするほどの熱気と、乱れた女が発する独特の匂い、それらが充満する場所に新たな音が加わったのである。

 叢の膣はひどく濡れていたこともあってひどくあっさりと若の肉棒を体の奥まで迎え入れ、夜桜の膣には元気に動く舌が入った。どちらも慣れた様子で彼女たちの内部を刺激して、快感を与えている。

 特に反応がよかったのは濡れやすい体質を持つ叢で、前に抱かれた時と同様にぴゅっ、ぴゅっと少量の潮を拭きながらの性交であった。おかげで若の腹付近を舐める雪泉の顔にまで彼女の愛液が届き、驚いた雪泉は困ったように笑いながら二人が繋がるそこへと口を寄せた。

 夜桜が膣の中やクリトリスを舐められて感じている時、肉棒を銜えこんで悦んでいた叢は雪泉の舌でクリトリスをつつかれ、更なる刺激に快感を得ていたのだ。

 

 「はぁんっ――な、何をっ」

 「ふふふ、叢さんが気持ちよくなるお手伝いですよ――さっさとイッて、さっさと代わってください」

 「なっ、そ、そんな――あぁっ」

 

 ぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴るほどに濡れた膣と、立派にピンと自己主張するクリトリスを同時に責められ、ただでさえ感じやすい叢はすぐに背を逸らし始めていた。

 もはや限界も近いのだろう。呼吸を荒くして、いつしか鳴く声もなく頭を振り、側面で縛ったサイドテールをぶんぶんと揺らしている。そして気付けば、叢が片時も離さない般若の面はぽろりと畳の上に落ち、だらしなくよだれを垂らす気弱そうな顔が露わとなっていた。

 しかしそんなことに気を回している余裕がない叢はひたすら感じ、絶頂へと近付いていく。

 彼女が声もなく全身をぶるりと震わせ、大量の潮吹きで雪泉の顔を濡らしたのはすぐのことだった。

 

 「あっ……あっ……あっ……!」

 「あんっ、んっ――もう、叢さん、顔にかけないでくださいよ。私の顔にぶっかけしてもいいのは、若様だけです」

 

 透明の愛液でびっしょりと顔を濡らされた雪泉は困った顔でそう呟き、騎乗位の状態からゆっくりと後ろへ倒れて畳に背を預け、やがてずるんと若の陰茎を膣から滑りださせて解放した後、荒い呼吸のまま目を閉じた。気絶したわけでもないが、こうなった彼女はしばらく動けないことに変わりはない。ずらされたブルマの奥に見える膣はぱくぱくと物欲しそうに動いていて、しかし精液は出て来ない。若はまだ絶頂していなかったからだ。

 上手く叢だけを絶頂させた雪泉は尚も勃起したままの肉棒にぺろりと舌を這わせ、ちろちろと亀頭の割れ目を舐めながら、若の顔に股を乗せる夜桜へ視線を向けた。

 雪泉は余裕の態度で肉棒を扱き、舐めつつ、顔を真っ赤にして秘所を舐められる夜桜へと声をかける。

 

 「夜桜さん、お先にどうぞ。ふふ、その顔ではもう我慢できないのでしょう?」

 「うぅ、はぁぁ――う、は、はいっ。そうさせて、もらいます」

 「あれー? 夜桜ちんってばもうイッちゃったの? 相変わらず早漏だよねー。ねぇねぇ、それじゃあ二人でいっしょにしてもらおっか。んふふ、その方が若様も興奮するでしょー?」

 

 舌で舐められただけでふらふらになり、今にも倒れそうな危うい状態にある夜桜は顔を真っ赤にしたまま畳の上に寝そべり、若を迎える準備をする。そこへ美野里の秘所を舐め終えた四季が乱入して、胸をぴったりと合わせて体を横たえた。

 愛する男と一体一で体を重ねたい夜桜は不満そうだったが、快感のせいで上手く動けないこともあって渋々ながらもそれを受け、言葉もなくぱたりと横たわって大人しくなる。

 上に乗る四季は自らの秘所を指で撫でながら、ゆっくりと起き上がって背後に来た若へ向けて、膣を広げて挑発を始める。

 体を隠す面積が極端に違う水着を着た二人が、上下に重なって秘所を並べる。どちらも違う魅力があって、先程は射精出来なかった若の肉棒がぴくんと震えるほど、いやらしい光景だ。

 

 「若様、どちらからになさいますか? なんなら両方いっしょに、でもいいんですよ」

 「ああ、じゃあそうしようか」

 

 そう言って、背に抱きつく雪泉をそのままにした若は二人へ近寄り、腰をぐっと突き出した。膨れ上がった亀頭はまず下にある夜桜の膣へと入りこむ。

 しっかりと濡らしておいたおかげでずるりと入った肉棒は瞬く間にぎゅううと強く締め付けられ、あまりの強さに若は天井を見上げて小さく吐息を洩らした。目を閉じて光悦とした表情はひどく幸せそうだ。

 雪泉はそんな彼の顔をすぐ横から眺め、ますます胸の鼓動を大きくしながらも、片手で自分の秘所を撫で、勃起した乳首を裸になった若の背に擦りつけ、自慰を始める。

 夜桜が突かれて悦んでいる時、自分は尻を掴まれているだけで何もされない四季は拗ねるように唇を尖らせ、強く目を閉じて喘ぐ夜桜の顔を見つめながら言った。

 

 「あーあー、いいなぁ夜桜ちん。こんなに気持ちよさそうな顔しちゃって――マンコだけじゃなくて、子宮まで感じさせられちゃってる感じ?」

 「四季、おまえもいくぞ。いっしょにだ」

 「えっ? それって――あっ」

 

 退屈そうに呟いていた四季に若が声をかけた瞬間、夜桜の膣からずるりと抜けた肉棒が四季のそこへと押し当てられ、驚く暇もなく挿入が行われた。

 若からの満足な愛撫はされていないものの、精液を舐め、激しい自慰を行っていたそこはあっさりと若の肉棒を呑みこみ、すぐさま巧みな動きを見せて彼を翻弄する。初めてからたった数日、あまりにも早い成長である。

 彼女はずぶずぶと子宮口にまで押しあてられる亀頭を感じて、笑みを浮かべながら大口を開けて声を出していた。

 

 「あはぁっ、きたぁぁっ――若の、生ちんぽっ……!」

 「うっ、ハァ、ハァ……わ、若様、わしはまだ――」

 「わかってる。二人一緒にするからさ」

 

 亀頭を奥まで差しこんでから、小刻みに腰を振って四季の奥ばかりを刺激する若は、彼女の好みをわかっての動きをしているのだ。流石に一晩中彼女とその仲間たちを抱き続けていただけはあり、弱点を集中的に狙うようなそれは瞬く間に四季の気分を高めていく。

 

 「んっ、んっ、んぅ」

 「じゃあ次は夜桜だな」

 「えっ? あ、ちょっと――んあっ」

 

 しかし彼女がようやく気持ちよくなってきたところ、美野里にいいところを取られたためにしばらく我慢していた彼女がやっと若に気持ちよくしてもらった時に、若はあっさりと彼女の膣から肉棒を抜いた。

 そして下にある夜桜の膣へもう一度突きいれ、今度は彼女が好む腰の動かし方で快感を与える。四季が驚いて後ろを振り返る瞬間には、すでに夜桜が歓喜の声をあげていた。

 四季が不満の表情で彼女の顔を見つめていると、油断したところを狙って彼女の膣へも肉棒が突っ込まれる。少しの間嬌声をあげて悦んでいると、また抜かれて夜桜が声を出す。

 繰り返される行為は興奮と物足りなさを積み重ねさせ、実際に感じている快感よりもそれらが加わったことで気分だけがどんどん高まり、二人はいつしか気が狂いそうな状態で声を出し、もっと激しい快感が欲しいと必死にねだるようになっていた。

 そこで若は二人の秘所がぴったりと重なるように体を動かさせ、多量の水気を帯びた二つの秘所が重なる間に、自分の肉棒を差し込む。

 包皮を剥かれたクリトリスを同時に刺激され、二人は声を重ならせて感じていた。

 

 「あっ、あっ、んんっ、これ、すごいぃ……」

 「ふぅっ、はぁぁっ、あぁぁぁっ――」

 「あっ、はっ、これはいいな」

 

 気分が高まっただけでなく、非常に敏感な場所を亀頭で擦られていることもあって、これほどまでにクリトリスを弄られたことがない二人はあっという間に限界を迎えた。

 若が射精しようかというその直前、二人はほとんど同時に絶頂を感じて体を震えさせ、互いの体を強く抱きしめながら絶叫した。

 そして若が快感に任せて精液を放とうとしたその瞬間には、一瞬早く行動していた雪泉によって若の陰茎の根元がぎゅっと強く握られ、勢いよく後ろに腰を引かされたことで寸止めのような状態で快感から引き剥がされた。

 

 「あぁぁっ、はぁぁぁっ!」

 「イクイクっ――イックぅぅぅっ!」

 

 嬉しそうに絶叫する二人を見る若はどことなく切なそうで、肩で息をしながら背を雪泉の胸に預けていた。

 かくいう雪泉は幸せそうに微笑んでおり、腕の中に抱えた彼を愛おしそうに見つめ、やがて若をそこへ立たせて勃起したままの陰茎を口に含んだ。

 愛おしそうに亀頭へ舌を絡ませながら、この瞬間をずっと待っていた彼女は上目遣いに若を見上げ、熱い吐息と共に話しだす。うっとりとした様子は可愛らしく見えると同時、ひどく妖艶な雰囲気にも見えた。

 

 「若様、あとは私だけです。皆さんは気持ちよくなって満足しています――だから今度は私に、思う存分あなた様の性欲をぶつけてください」

 「あ、ああ……雪泉、とりあえず一回、イッてもいいか?」

 「はい、来てください――すべてこぼさず受け止めますから」

 

 言葉と共に雪泉は若の陰茎を口内に含み、勢いよく頭を前後に振った。口をすぼめて歯を立てないように気をつけつつ、舌を絡ませて更なる刺激を与えながらだ。

 一度とはいえ、これまで滅多にされたことがない寸止めをされたせいで息を荒くしていた若はすぐに歯を食いしばって目を閉じ、今度こそ射精を始める。

 びゅくびゅくと飛び出す精液がすべて雪泉の口内へ吐き出され、彼女はそれを嬉しそうに受け止めると同時、喉を鳴らして飲み干していく。

 竿の脈動が止まり、ようやく射精が終わった時、雪泉は微笑んだままで若の顔を見上げ、すべて飲み干したことを見せるために舌を精一杯伸ばした。

 

 「若様、ごちそうさまでした。次はぜひ、私のここに、若様の子種を――」

 「「ちょっと待ったァッ!!」」

 

 そしてついに若と繋がろうと、雪泉も立ちあがって萎えた陰茎に膣を擦り付けた瞬間。突然、若を含む六人がいる部屋の襖がパンッと勢いよく開かれ、怒っているらしいことが容易にわかる少女が二人、現れた。

 両手にそれぞれ武器を持ち、肩を並べて若に寄り添う雪泉を睨むのは、すでに忍転身を終えた状態の飛鳥と焔であった。

 

 「雪泉さん、今日までは仲良くしたいと思って我慢してきたけど、今日という今日は許さないよッ!」

 「おまえら、いい加減若を独占しすぎだッ! 後からやってきたのに私たちの予定まで押しのけて――これ以上の好き勝手が許せるかッ!」

 

 抜き身の刃をを突き付けられ、本気の怒りを向けられる雪泉。しかし彼女はそんな状況下でも若の傍を離れず、冷静な面持ちで彼女たちを見据え、若の胸に頬をぴたりと寄せながら口を開いた。片手では若の陰茎を勃起させようと、激しい動きで扱いている最中である。

 

 「むぅ、仕方ないではありませんか。ずっと若様の傍にいたあなた方と違って、私たちはようやくこの時を得られたのです。少しくらい大目に見てくださっても――」

 「それにしたって限度があるだろう! 特におまえはひどいッ!」

 「若様も若様だよ! みんなを平等に愛してくれるって約束したのに、こんなのひどいッ!」

 

 怒り狂う二人が武器を納めるよう説得するのは容易なことではないだろう。若はそう思うわけだが黙っているわけにもいかず、徐々にむくむくと陰茎を大きくしながらも、口を開こうと二人の少女を見つめていた。

 しかし、その時に気付く。いつの間にか、彼が気付かない内に飛鳥と焔の背後には一人の少女が立っており、まるで妖怪かと言わんばかりに毛を逆立てて怒り狂っている。

 怪しげな雰囲気と、怪しげな笑い声。それを発する長刀を持った少女、斑鳩はゆっくりと飛鳥と焔を押しのけ、若へ向かって進んできた。

 途端に、月閃女学館が若を独占していたことに怒り、同時にこれを恐れていた二人の顔からさっと血の気が失せ、思わず後ずさりして怒りを潜める。

 それでも雪泉の表情は変わらず、若に抱きつく姿も、陰茎を扱く動作も変わらない。うねうねと毛を逆立てながら目を血走らせた斑鳩は、そんな彼女に向かって声をかけた。

 

 「雪泉、さん、といったかしら、この女狐は――どうして、こんなにも、私が大好きな若様にくっついているのかしら?」

 

 目は恐ろしいほど血走り、体からは恐ろしいほどの迫力を醸し出して、両手をぶるぶると病的なほどに震わせる彼女は声すらも震わせていた。まるで強く自制をしていなければ、今すぐにも雪泉を切り捨ててしまいそうだ、とでもいうかのようである。

 しかしやはり雪泉の態度は変わらず、むしろ見せつけるかのように若に抱きついた彼女はふっと勝ち誇った笑みを浮かべ、しっかりと斑鳩の目を見ながら伝えた。

 後になって飛鳥と焔が語るには、その時の彼女はまさしく意地の悪い女狐のようだったという。

 

 「どうして、とは不思議なことを。そんなこと、考えずともおのずと答えが見えるでしょう? そうですねぇ……敢えて説明するのでしたら――私と若様が深く愛しあっているから……でしょうか」

 「愛し、あう? はて、それは、あなたと若様が? 私と若様ではなく? あら? そうだったかしら? うふふ、うふふふふ――」

 「ひぃぃ、恐れていたことが――ど、どうする飛鳥、おまえの仲間だろう」

 「ええっ、私? む、無理だよ、禁断症状が出ちゃうと斑鳩さんは止められないもんっ」

 

 斑鳩の腕の震えはさらに大きくなり、彼女はゆっくりとした動作で左手に持った長刀の鞘を持ち、居合いを行う構えを取った。若に出会えない時間が長すぎると出てしまう禁断症状、若の傍にいる女へ刀を向けてしまう癖が出たらしい。

 しかも今回は運が悪いことに、その相手は彼女と同じくらい深く若に執着している雪泉であり、話し合いで物事を解決できるような状況ではない。

 よって二人の視線はバチバチと音が鳴りそうなほど激しくぶつかり合い、同じような人種であると匂いでわかったためか、両者一歩も引かない状態で睨みあった。

 そして突然、斑鳩の服が弾け飛んだその瞬間、黒い上下の下着を露わにした斑鳩は目にもとまらぬ速度で居合い抜きを放った。その時の斑鳩の顔は、理性を失くした獣のようだった。

 

 「――若様の前で、そんな物騒な物を抜かないでください」

 

 だが相対する雪泉も相当なもので、どこから取りだしたのか一本の鉄扇で斑鳩の刀を受け止め、怪しく光る目を下着姿の斑鳩へ向ける。もっともその雪泉も裸エプロンの状態なので、下着すらつけずに尻を丸出しにしているのだが。

 二人はまんじりともせず睨みあい、互いの武器を持つ腕に全力の力を込めて対峙し、やがて素早い動きで同時に庭の方へと勢いよく跳び、若に被害が及ばぬようにと配慮を見せながら戦いを始めた。

 

 「今すぐ、若様に近付けないよう、去勢してやります女狐ッ――!!」

 「二度と、若様に触れられないよう、調教してやりましょう駄犬――!!」

 

 一瞬のうちに屋敷の庭では半裸の女性二人による激闘が始まり、甲高い金属音と強い冷気とが支配する戦場の風景が繰り広げられた。

 残された三人は呆然と立ち尽くし、乱入してきた二人に至っては怒りすら忘れてぴくりとも動けず、妙に青ざめた顔のままその光景を眺めている。

 先にぽつりと言葉を洩らしたのは、この場へ来ることを提案した飛鳥だ。

 

 「ど、どうしよう……斑鳩さんが暴走する前になんとかしようと思ってたのに……」

 「あ、ああ……でもどうするも何も、今さらあれを止めることなんてできないぞ」

 「そうだよね……でも、このままじゃ若様のお庭が――」

 「飛鳥、焔」

 

 どうするべきかと頭を悩ませる二人の少女のすぐ傍に、裸のまま近付いてきた若がいた。彼は股間にある肉棒を完全に勃起させたまま、まだ顔を青ざめさせている二人に声をかける。

 すると彼女たちはひさしぶりに見るその顔にほっと安堵の表情を見せ、次いで裸であることと勃起していることを確認し、ぽっと頬を赤らめた。

 今さらな話ではあるが初心な反応を見せる彼女たちの肩に手を置き、ぐっと引きよせて部屋を後にするように動きつつ、若は小さな声で言った。

 

 「俺、まだ寂しいんだ。相手を頼めるか?」

 「う、し、しょうがないな。そこまで言うのなら、まぁ、なんだ、その……あ、相手をしてやらんこともない」

 「ふふふ、もう焔ちゃんったら、素直じゃないんだから――斑鳩さん、ごめんなさい。でも若様から誘ってくれたことだから……」

 

 そんなやり取りをした三人は、縁側に面した部屋を後にし、疲れきって倒れたままの少女たちもそのままに別の部屋で楽しみ始めた。

 寝ている四人は良いとしても、そのすぐ傍で戦っている二人は止めなければいけない、という事実から目をそむけたまま。

 

 「うふふふ、うふふ、うふふふふ――若様、若様、待っていてください。今、あなたを狙う女狐を絞めて、私が傍に参ります――」

 「そうはいきません。私の正義は、若様という存在すべて――盲目な駄犬に彼を任せることなどできません」

 

 結局、放っておかれたまま戦い続けた二人が止まったのは、騒ぎを聞きつけて強力な睡眠薬を持ってきた春花の協力が得られた後のことであったという。

 



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悪忍、乱入

 前々からずっと不満に思っていたことである。自分の理想が、願望が叶えられる日は来るのだろうかと、ずっと頭にこびりついて離れなかった。

 夜な夜な部屋を抜けだしては辺りを散策し、火照った体を冷ますために一人遊びに興じ、部屋に戻っても遊びがやめられない。退屈で刺激の少ない、なんともつまらない日常だった。

 ではどうすれば自分は満たされるのか。そんな問題、答えなどとっくの昔に判明している。

 だから彼女は夜道を一人歩き、重苦しいため息と共に自らの願いを口にするのだ。

 

 「あーあ、どこかに両奈ちゃんを上手にイジメてくれるご主人様はいないかなぁ」

 

 これである。秘立蛇女子学園の忍学生、両奈という少女は事あるごとにそう呟き、毎日を悶々としたまま過ごしていた。

 何かきっかけがあったのか、それとも生来の性質か、彼女は他者から痛めつけられることを快感と感じ取る。いわゆる、強いマゾヒズムを持つ重度のマゾヒストなのである。相手が誰でも、というわけではないが、それでも余りある性への探究心は、忍としての戦闘中ですら発揮されるほどだった。敵の攻撃を敢えて尻で受ける忍など彼女しか存在しないだろう。

 できるだけ痛めつけてほしい。言葉で汚く罵ってほしい。なんならいっそ、この人だと思う人に縛りつけられて常に監視してもらいたい。もしくはペットのように甲斐甲斐しく世話をしてもらいたい。もちろん粗相をした際には激しい折檻付きで。

 そんなことを考えて夜道を一人でふらふらと歩き、たまたま無人の公園へ立ち寄った時だ。時刻はすでに十二時を回って、物音と言えば風に揺られて木々の葉が揺れることくらい。多くの緑に囲まれた公園は昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

 しかし忍学生である両奈の耳は、しっかりとかすかな物音を聞きつける。弱弱しい風によって葉が揺れる音に混じって、わずかな水音が聞こえてくる。それも聞き覚えのある、何やらいやらしい音。考えるまでもなく瞬間的に脳裏に浮かぶ映像がある。

 瞬く間に目を輝かせ、両奈は自身の足音を殺して公園の中へと入り込んだ。音の出所を聞きつけ、できるだけ静かに接近を試みる。

 気配を殺し、音を消して、彼女は期待に満ちた状態で草むらの向こう側をそっと伺い見た。すると期待していた通りの光景が目に飛び込んできたのである。

 

 「あぁっ、あぁぁっ……若、若っ、これ以上されると我は、我はもう……!」

 「叢、声が大きいぞ。もう少し静かに」

 「で、でも、んっ、んんっ――!」

 

 着ていた物をすべて脱ぎ去り、裸で抱き合う二人の男女。女の方は木の幹に両手をつき、腰砕けになりそうになりながらも尻を突き出して、声を絞り出している。一方の男は彼女の腰へ手を回し、片手で大きな乳房を掴んで、慣れた調子で腰を動かしていた。

 反りかえった大きなペニスがずるずると膣の中を出入りし、卑猥な水音が断続的に聞こえる。出所は確かにそれだった。ひどく淫靡で、魅惑的で、思わず惹きつけられる光景。彼女はいつしか声を押し殺し、食い入るようにその姿を見つめていた。

 大きな期待で瞳が輝き、興奮から頬が上気して、ともすれば体が熱くなる。奥の奥、芯の部分から独特の熱が感じられた。

 男の手が、女の顔を覆っていた般若面を取り上げる。

 

 「あっ、だめ、若……そ、それがないと我は、我はっ」

 「素顔が見たいんだ。可愛いよ、叢」

 「んんんんっ、そんな、そんなこと――あっ」

 

 びくり、と女の背が震えた。直後には腰がびくびくと大きく揺れ始め、女が絶頂を感じていることは傍目から見て明らかだ。

 それでも男は腰を止めず、一方的に女を責め続ける。絶頂の波が引かないせいか、女は悲鳴にも似た声を発しながら体を揺らし、顔を振って嫌だという感情を伝えていた。なのに男はやめない。パタパタと揺れるサイドポニーの髪を上機嫌に眺め、笑みすら浮かべた状態で腰を振り続ける。

 威容を放つ怒張が何度も膣へ出入りして、その度に大量の愛液が外へ飛び出した。

 

 「うんんっ、んあぁ、あぁぁっ!? だめっ、若、だめですぅ! イキました、もうイキましたからぁ!」

 「まだ大丈夫だろう。もう少しこのまま気持ちよくなれ」

 「いやぁぁ、だめぇ! 声、声我慢できないからぁ……んんっ、んんんっ、また、またイクっ……! いやっ、またイッちゃうよ、イクイクイクっ……!」

 「見つけた――」

 

 思わず呟いてしまっていたようだ。両奈がぽつりと発したそれに男が気付いたようで、迷うわけでもなく、声が聞こえたその方向へすぐさま顔を向ける。一方で女は強く歯を食いしばって目を閉じ、与えられる快感に耐えることで必死なようで、少しも気付く気配はない。

 もはや無意識の行動だった。気付けば両奈は自ら草むらの向こうへと足を進め、その姿を現していたのである。隠れることもなく、仁王立ちで。男の視線を受けた両奈は再度小さく呟く。

 

 「見つけた……両奈ちゃんの、ご主人様!」

 「あああぁぁぁっ、イクぅぅぅっ!」

 

 男が動きを止めなかったために、女が今度こそ大声で吠えた。そのせいで彼女の呟きは、その瞬間にはまだ男には届いていなかったようだ。女の絶叫が空に響き渡る。

 ただ、二人の視線がまっすぐに絡まっていたことは確かである。

 

 

 *

 

 

 若の屋敷に秘立蛇女子学園の忍学生選抜メンバーが訪れるようになって少し。

 蛇女子学園の選抜メンバーは若の屋敷に入り浸るようになっていた。以前に彼と戦った経験を持ち、少しと言わず彼と知り合ったためか他の少女たちと同じ役目を持つようになり、今や若の下には善悪その他関係なく、麗しい忍の少女たちが集まるのである。

 彼は善悪を問わず、自らが出会った人物は一人の人間として触れ合う。そこに忍としての打算はなく、驚くほど無防備だ。本来ならば忍としての在り方を疑問視されるほどである。

 しかしそんな裏の世界での常識を知らないかのような態度が、むしろ心地よさを与えてくれるのだろうか。不思議と彼女たちは彼の傍に居る間だけただの人間として振る舞える。

 屋敷に居る間だけ、彼女たちは普段とあまりに違う姿。いつもの姿を知る者が頭を抱えてしまうほどの変貌ぶりを見せる。

 それはとある日の昼間のことであった。

 

 「はぅぅんっ、ご主人様ぁ。両奈ちゃんいつまで放置されるの? 両備ちゃんにイジメられるのもいいけど、やっぱりご主人様がいいよぉ」

 

 金髪ショートカットの少女、両奈は全裸になって豊満な肉体を惜しげもなく披露し、畳の上に置かれた背の低いテーブルの上でなぜか大股を広げて自らの脚を抱えており、淫らに濡れた秘所を見せつけるかのような格好。美しいと感じる笑顔だった。

 大きく張り出した乳房も、ピンと自己主張する桃色の乳首も、だらだらと愛液を垂れ流し、何かを求めるようにぱくぱくと口を開閉させる膣も。彼女のすべてが淫靡な雰囲気を称えていて、彼女を中心に一室すべてがむっとした空気に包まれていた。

 しかしなぜか、部屋の中央でそうしている彼女は多くの者から無視されており、それがまた堪らないとばかりに両奈の口からは熱い吐息が洩れるのだ。

 

 「うっさいわね、バカ犬。若様があんたみたいな雌豚相手にするわけないでしょ。わかったら黙って自分の指でマンコ掻き混ぜて潮でも噴いてなさい。そうね、一リットルくらい噴いたら両備が顔に座ってあげるわ。好きでしょ、顔面圧迫されてマンコ舐めるの。あんたみたいな淫乱ビッチにはご褒美よね」

 「はぅぅっ、好きっ、好きですぅ。両備ちゃんのおマンコぺろぺろするの大好きですぅ。だから早く乗ってぇ、顔の上にぎゅって座ってぇ」

 「ふん、やっぱりバカ犬ね。座ってほしいならどうすればいいかもう言ったでしょ。あ、その代わり両備が満足するくらい激しくするのよ、わかった? わかったらとっとと一人寂しくオナニーしてなさい。でないとケツをぶっ叩いて真っ赤にしてやるわ」

 「はぅぅんっ、両備ちゃん、やっぱり鬼畜だよぉ……うんん、でもやっぱり好きぃ。お尻も叩いてぇ。真っ赤になるまで何発でも引っ叩いてぇ!」

 

 にへらとだらしない笑みを見せながら自分の指で秘所に触れ、くちゅくちゅという音を立て始めた両奈を見るのは彼女の妹、両備だ。

 栗色の長い髪を二つに纏めて背へ垂らし、全裸の姉とは違って蛇女子学院の制服を身に纏っているのだが、布越しに見ても胸は小さく、ミニスカートからすらりと伸びる脚も含めて全体がほっそりとした印象。ただ尻だけが魅力的なほど大きい。

 それがコンプレックスとなっているためか、先程から手の動きに合わせてぷるぷると揺れる両奈の胸を見つめる目はどこか危険な色を孕み、今にも自身の武器である銃を抜きかねないほどの危険な雰囲気があった。胸が大きな女性は基本的にすべて彼女の敵である。

 大きな喘ぎ声を発する両奈と、彼女へうるさいと声をかける両備。

 騒がしい姉妹を傍目に、いつも通りのほほんと壁に背を預ける若の隣には、彼に寄りそうようにして座る少女が居た。

 紫色の長い髪を持ち、どこか憂鬱そうな暗い表情の少女。若の肩に頭を預け、体からは一切の力を抜き、子供っぽく甘える姿。そのせいか歳よりも幼く見える彼女は紫といい、普段は滅多に自室を出ないいわゆる引きこもりだ。近頃は自室だけでなく若の家にも引きこもるようになり、信頼しているのか彼が傍に居ると精神が落ち着いている姿がよく見られる。

 彼の肩に頭を擦りつけて甘える彼女も今だけはわずかに笑みを浮かべ、レースがついた黒の下着姿になって愛用している間抜けな顔のぬいぐるみを抱いていた。

 

 「んぅ……若様は、えっちなこと、好き?」

 

 紫の小さな声が若に問いかけた。彼は何気なく彼女の頭を撫でながら答える。

 

 「そうだな。好きなんだと思う」

 「そう……じゃあ、私も好き」

 「いいのか? ちょっと前はいい顔してなかったのに」

 「うん……お姉ちゃん、気持ちよさそうだし。それに若様、やさしいから」

 

 まるで娘か恋人のよう。無邪気に甘える紫は若に抱きつき、安堵した様子で目を閉じる。普段の陰鬱とした表情は鳴りを潜めていた。それだけ彼を信頼しているらしい。

 彼女を抱きとめて頭を撫でる若は、ふと視線の先を変える。

 両奈が両備を虐める傍ら、裸の少女が下着姿の少女に体を弄られている。戸惑いが感じられる小さな甘い声が聞こえ、手を動かす少女はやけに鼻息が荒い。距離に関わらず両奈に負けず劣らずの異常なほどの興奮具合が見て取れた。

 裸で全身に触れられ、恥じらいながらも快感を感じているのは普段冷静な素振りを崩さない、雅緋という少女だった。真っ白なショートカットの髪でどこか男っぽくも見えるが、胸は大きく、腰はくびれ、上背は五人の中で一番高い。脚は肉付きが良くも太すぎず、長いため、非常に女の魅力に溢れている。そんな彼女が普段の冷静さなどかなぐり捨て、体に触れられる度に甘い声を出し、頬を紅潮させて目は潤み、身を捩って感じていた。

 この様子に辛抱たまらんと鼻血を垂らしていたのが、刺激を与えていた少女だ。

 同じくショートカットで、縁なしの眼鏡をかけており、多くの肌を晒しているものの胸と股間は迷彩柄の下着で覆い、脱ぐことすら忘れて雅緋の体に集中している。頬が赤く染まり、目はぐるぐると興奮し過ぎて焦点が合っておらず、異様な雰囲気を纏っている。決して雅緋を離さないと普段にはない力が発揮されていた。

 彼女が紫の姉、忌夢である。自身も豊満な胸と尻を持ちながら、同じく女性の雅緋の裸体に夢中となって我を忘れた様子。周囲の情報もすべて断絶し、ただ自らの本能に素直に従ってすべての意識を雅緋に向ける様は凄まじい執念を感じさせていた。

 少し離れて彼女たちを眺め、妙に落ち着いている若は無表情でありながら感心している様子だ。

 

 「はぁっ。い、忌夢、少し待ってくれ。私は、若には体を許したが、どうしておまえが――」

 「はふぅ、ふんんっ。雅緋のおっぱい、雅緋の腰、雅緋のおまんこ……!」

 「こ、こらぁ。女同士でなんて、私は……くふぅっ」

 「はふはふ、雅緋のお尻、すべすべだ。乳首可愛い。おまんこきれい。あぁもう雅緋っ、大好きだ! 雅緋のすべてが可愛過ぎるんだ!」

 「やぁ、あぁぁっ――!」

 

 熱っぽい様子で激しく愛撫が続けられている。その様は一方的ながら深い愛が感じられた。

 その近くではテーブルの上で脚を広げる両奈が居て、サディスティックな笑みを浮かべながら嬉々として彼女の膣に指を突き入れ、素早く腕を振る両備が居る。こちらも負けないくらい淫靡で激しいやり取りをしていた。

 

 「ほらほら、どうなのよバカ犬! この雌豚! 血が繋がった姉妹に手マンされて気持ちいいんでしょ、この変態! ド変態! 若様のチンポは両備が頂くから! あんたなんか両備の指で十分なのよ、身の程をわきまえなさい!」

 「きゃぅぅんっ、気持ちいいぃ! あぁぁだめだめ、そんなに激しくされると壊れちゃうぅ! 頭バカになって、おまんこゆるゆるで、ご主人様に捨てられちゃうぅ!」

 「当たり前でしょ、あんたみたいなド変態が若様のチンポもらえるわけないじゃない! やっぱり両備の指すらふさわしくないわ、あんたには両備の足の指で十分なのよ! ほら、ほらぁ!」

 「あぁぁんっ、ごめんなさいっ! ご主人様にふさわしくない雌豚でごめんなさいぃ!」

 「ごちそうさまと言いなさい、ごちそうさまと!」

 「ごちそうさまですぅぅぅっ!」

 

 荒々しくも楽しげな空気は若の目にも伝わって、四人の美少女たちはそれぞれ幸せそうである。

 紫の頭を撫でながら、ぽつりと呟いた。

 

 「日本は、平和なんだなぁ」

 

 気のない声で平坦に告げられた。どことなく呆れている風にも見える無表情である。

 

 「若様……私も、えっちなことしたい」

 「うん? いいのか、ベベタンは」

 「うん。ベベタンは、若様が相手なら、構わないって」

 「そうか。それなら俺も問題ない。紫がそう言うならいつだって相手をする」

 「んっ……」

 

 柔らかな髪を指で梳き、下から顔を覗き込んでくる紫が目を細めたのを見る。

 若はそっと彼女の頭を後ろから抱き寄せ、自ら唇を奪った。

 二人の唇が触れ合う。感触は柔らかく、ふと頬が緩んでしまう幸福な瞬間。

 すぐに離れてしまったが紫は満足した様子。やさしい手つきでぬいぐるみを傍らへ置く。

 それから両手で強く若に抱きつき、首筋へ頬ずりした。幼い子供が甘える様相でもあり、若は珍しく柔らかい微笑みを浮かべて、手で彼女の頬に触れるとやさしく撫でる。

 目が細められて気持ちよさげな表情だ。

 

 「ん、若様……やっぱりやさしい」

 「そうか? 自分じゃよくわからない」

 「若様に触られると、なんだか落ち着く」

 「それはいいことだな」

 

 頬に触れて、額にキスを落とし、表情が和らぐ紫を愛でる。

 すでに彼女も身に着けているのは下着のみの状態。上下黒のそれが白い肌に映え、魅惑的な雰囲気を醸し出している。肉体は仕草と違って妙に大人っぽさを持っていた。

 若は右手で頭を撫でつつ、左手は頬、唇、首筋へと順に降りて撫でていき、ついに胸元へ触れ始める。柔らかい体はどこへ触れても心地よく、若の心が安堵に包まれた。

 指先でつんとつつくだけでふるりと揺れる柔らかな乳房。大ぶりのそれは谷間を作るほどで、左手は狙って谷間に滑り込んだ。シミ一つない白い肌、柔らかな感触に手が挟まれる。彼はそうするのが好きだったようだ。紫が恥ずかしげに唇をきゅっと結ぶ。

 

 「んぅ……ちょっと、恥ずかしい」

 「嫌か?」

 「ううん。嫌じゃ、ない」

 「もっと触りたいんだ。いいか?」

 「うん……若様なら、いくらでも」

 「わかった」

 

 谷間にある手を動かし、ぐにと乳房を鷲掴みにした。

 快感よりも羞恥心の方が大きい様子。紫はわずかに肩を動かして反応を見せる。

 左手で揉みつつ、右手もまた下へ降りていき、ブラジャーに覆われる乳房を掴んだ。

 持ち上げるように下から、紫を横抱きにするため背面から触れてふにゅりと形が変わる。指先が白い肌に埋まるようで、力を入れる度に面白いほど丸々とした形が潰れていた。

 遊ぶような手つきに恥ずかしさが大きくなり、紫の口から吐息が出る。

 若の手は女を愛でることに慣れていて、どうしてもそれを意識してしまって顔が熱くなった。

 左手は尚も胸を揉むが、右手はさらに下へ進み、腹を撫でる。何処を目指しているのか、すぐにわかった。恥ずかしいとは思うものの、しかし止めるのも悪いと思い、紫は若の着流しを掴んで体を小さくする。円を描くように腹を撫でられて、はぁと熱いため息をつく。

 いつしか紫の目はわずかに潤んでいた。若の顔を見上げて、熱っぽくじっと注視する。

 

 「そっちも、触るの?」

 「ああ。ちゃんと濡らしておかないと」

 「ん、でも……恥ずかしい」

 「すぐに済むから」

 

 腹を撫でていた右手が下腹部へ降り、下着の中に滑り込む。

 紫の肩がびくつく中、指先は確かに秘所を撫で、ぴたりと閉じたそこの形を確かめた。わずかに湿り気を帯びているもののまだ固く、準備が整っていないようだ。

 中指でゆっくりと撫で始める。柔らかい感触だが挿入には早い。

 指先でぐにぐに揉んで刺激を与え、紫の呼吸が徐々に乱れていた。

 

 「んっ、ふっ」

 「まだ固いな」

 「あっ、若様……」

 

 秘所を弄る一方、胸を揉んでいた左手がブラジャーに指を引っかけ、勢いよく下へ降ろす。ぶるりと二つの乳房が揺れて、すでに勃起した乳首が露わになった。

 途端に紫の顔が恥ずかしげに伏せられ、真っ赤になって視線を避けようとする。

 それを許さないと、若が顔を寄せて半ば無理やり唇を塞いだ。

 

 「若様、あの……んんっ」

 

 ぐっと唇を押しつけて、伸ばされた舌が紫の唇に触れた。表面をなぞって濡らした後、唇を割って口内に入り、無防備なそこを舐め始める。まだ紫が反応できていない内に慣れた様子で歯列を舐め、戸惑う舌を絡め取っていた。

 口の中すら犯されて紫の目が閉じられる。淡い快感が確かにあって、抑えきれない羞恥心から逃げたくなったようだ。

 力が入っているのか体がぴくぴく震えるようだが、若は彼女を労りつつ、やさしい手つきでじんわりとした快感を与えていく。

 右手は秘所を撫で、左手は露わになった乳首を摘んで捻り、時折ピンと弾いて。反応の良い体を常に飽きさせないよう刺激を続ける。その甲斐あって膣からは徐々に愛液が分泌されつつあった。

 ある時若は抱えていた紫の体を畳の上へ押し倒し、間を置かずに上から覆いかぶさった。短い悲鳴が彼女の口の中で飲み込まれる。

 床に押さえつけ、おもむろに右の乳房に口をつけて乳首を舌で転がす。左の乳房は左手で揉み、乳首を弾いて刺激しつつ、右手は相変わらず下着の内側に滑り込んで秘所を撫でてている。

 執拗なまでの、しかし丁寧な愛撫はなんとも心地よく、気持ちよくもあって、紫の声は確実に大きくなっていった。掴む物を失くした両手は力無く畳の上へ投げ出され、気付けば体は敏感になり、腰が独りでにゆるりと揺れていた。

 

 「あっ、んっ、はっ、はっ――」

 「大分良くなってきた。もう少しで入れられそうだな」

 「やぁ、言わないで」

 「パンツ、脱がすぞ」

 

 そう言うと若の顔が胸から離れて上半身が起こされ、両手が下へ移動し、腰の辺りで止まる。膣から出た愛液でわずかに濡れたショーツが掴まれて一息に脚から抜き取られた。脱がされたショーツは一度若の顔の前で掲げられ、まじまじと確認されてから畳の上に置かれる。

 すでに紫は恥ずかしそうに両手で股を隠していた。その手を握ってやさしく退けさせ、彼女の裸体を見つめる。どれだけ見ても飽きない美しい裸体だ。

 ブラジャーはずらされただけでいまだ身に着けているが、右も左も乳頭が露わになってあられもない姿。さらに股間は下着を取られて今や白日の下へ晒され、ぴたりと閉じた秘所に、つるりと毛の生えていない下腹部が確認できる。

 紫の顔はますます真っ赤に染まっていき、壁に向いて目を合わせようとしない。

 それでも若は彼女の全身を眺め続け、満足した様子で口を開いた。

 

 「きれいだよ紫。やっぱり毛は生えてないんだな」

 「う、ん……変、かな」

 「そんなことない。気にしなくていいぞ。これだけきれいな良い体してるんだから」

 「そう、なのかな。でも、若様がそう言ってくれるのは……嬉しい」

 

 何も言わず、唐突な動きで若の顔が下腹部へ向かった。思わずあっと声が洩れる。

 紫が驚いている間に彼は手を使って脚を広げさせ、その付け根にある秘所へ口をつけた。

 じゅるりと音が鳴る。唇で吸いつき、舌での愛撫が始まっていたのだ。

 

 「あっ、んっ……」

 「声、我慢しなくていいぞ。みんなも我慢してない。思い切り鳴いてくれ」

 

 わざと音を立てながら彼女の膣をすする。分泌される愛液が吸い取られ、飲み込まれているようだ。若はそうすることに恥も感じず戸惑いも抱かず、平気でやってのけている。舌先もまた慣れた調子で動いていた。

 膣の内部へわずかに入り込み、穴を広げるように縦横無尽に動く。そうしながらも味を確かめるような気すらして、時折口を離す若は包皮を剥いたクリトリスに口づけ、ちゅっと音を立てつつ紫の顔を見た。ふと視線が合い、尚更紫の顔が真っ赤に染まる。

 

 「気持ちいいか?」

 「う、うん。いいよ……」

 「よかった。やっと慣れてきたみたいだな。初めての時より、緊張も緩んでる」

 

 若は丁寧に、それでいて激しく、紫のそこを舐めていく。

 卑猥な水音が小さく立てられ、反応して紫も声を洩らしていた。

 しかしそれ以上に室内は少女たちの嬌声で溢れ、開かれた障子の向こう側、縁側すら越えて外へ洩れ聞こえている。ここが人がやってこない屋敷だから良かったものの、本来ならば大騒ぎになっていたところだ。

 いくつもの嬌声に触れて、徐々に気にあてられ、感化されていく。次第に紫の声も大きくなっていくようで、若の舌の動きに合わせて体が震え、嬌声を上げ始めていた。

 

 「あぁっ、んんっ、気持ちいい……あぁぁっ――!」

 

 普段は引っ込み思案な彼女だが素直な感情を吐露していた。声は震え、体が赤らみを得るほどの快楽を感じている。時間がかけられればかけられるほど、彼女の声は甘く、大きく、高ぶっていった。今では恥ずかしがるだけの余裕すら失われている。

 部屋が嬌声で満たされる。凄まじい音と光景であった。

 裸の女たちが恥も外聞もかなぐり捨てて快楽に満たされる。どこか異常性すら感じさせる空間。

 若もついに大人びた様相を捨てたのか、着流しを脱ぎ捨てて下着も放り、全裸になる。股間にあるペニスは固くそそり立って我慢できないといった様子。それを紫に見せつけ、驚いた表情を見た後、赤らむ亀頭を秘所にゆっくりとした動きで擦りつける。

 

 「あっ、若様……」

 「入れるぞ」

 「はぁ……うん」

 

 端的に告げられて腰が前へ進んでいく。根元に手が添えられ、ゆっくり亀頭が膣へ入り込んでいった。膣が押し広げられるようで、濡れた熱い感触にペニスが喜ぶ。若の表情はわずかな変化だが確かに喜んでいた。

 噛みしめるように亀頭が肉を分けて奥へ進む。その間にも愛液がペニスに絡みついた。

 

 「うっ、ふぅ――」

 「くっ、きついな。もう少し慣れないとな」

 

 腰が振られて膣内が掻き混ぜられ、ぐちゅぐちゅと音が鳴る。

 掻き出す度に愛液が畳を濡らし、甘い嬌声が室内へ響いた。

 ペニスが出入りする速度は時間が経つごとに速くなり、徐々にではあるが紫の表情から余裕が失われていく。口は半開きになってよだれを垂らし、突かれるがままに乳房が大きく揺れて、腕は為す術もなく投げ出されている。

 速度は増し、行為は激しくなっていった。

 若は無言で彼女の胸を掴み、ぐにぐにと揉みほぐしながら膣を突く。

 子宮まで届く衝撃が確実に快感へと変えられていた。まだ初体験を終えてからそう日が経っていない。それでも紫の体はどんどん性に開放的になる様子。抵抗しない投げ出された手が印象的だ。

 紫はぼんやりした目で若の顔を見つめ、突かれる衝撃で体を揺らすのみ。自ら動き出すことはなく、されるがままで快感を受け取っていた。

 

 「んっ、んっ、んっ、あっ……わか、さま。きもちいっ。イッちゃいそうっ……」

 「よし。じゃあ俺もすぐに」

 「えっ、あっ、はぁぁっ」

 

 さらに速度が増した。すると数度と突かず、紫が口を大開に大声を出していた。

 どうやら気をやったらしい。全身が思わず震えて、膣内がうねうねと淫らに蠢く。ただでさえ締まりが強いそこだが若のペニスがさらにきつく締めつけられた。

 先に絶頂へ達してしまったと知って若が腰を止める。先程までは集中して彼女を責めていたはずだが、今は労るように頬を撫でてやり、ひどくやさしい姿に見えた。

 震えが止まるまで待ってやり、落ち着いてから声をかける。

 手で頬を撫でつつ、だらしない笑みを浮かべる紫は甘えるように自分の手を彼に重ね、膣内では呆けた表情とは裏腹に強く締めつけていた。見ているだけで非常に愛らしい様子である。

 

 「紫、イッたのか?」

 「う、うん……イッちゃった。ごめんなさい。我慢できなくて……」

 「謝る必要はない。俺の方こそすまん。いっしょにと思ったんだが気遣ってやれなかった」

 「うん……だけど、気持ちよかった」

 

 手を握り合ったまま、再び腰が振られ始める。

 紫は達したが若はまだ満足していない。おそらくこれから長い時間行為を続けねばならないだろうという想いもあったが、紫のため、自分のために一度彼女の膣内に射精しておきたいところだ。すかさず自分も達するため動き出す。

 腰の動きが段階を置かずに速くなっていき、途端に彼女の平静は消え去った。

 再び紫は表情を歪めて快楽に打ち震え、体を固くして目を閉じて耐える。

 

 「んっ、んっ、んぅっ――!」

 「もうちょっと我慢してくれ。今出すから」

 

 ずるずると膣内が動かされ、カリが引っ掛かって快感が全身に伝えられる。びりびりと震えるようであって、目を閉じれば余計に体内のそれが際立つようであった。

 ある時から気遣わずに全力で腰が振られた。叩きつけるようでもあり、愛液を撒き散らすほど激しく出入りが繰り返される。我慢せずに声を発する内、紫の両手が若の首に回され、出来る限り肌を合わせて強く抱きしめ合った。

 

 「あんっ、んぅ、はぅ……若様、私っ」

 「いいぞ。またイクんだな」

 「う、んんっ。あっ、あっ――」

 

 激しい水音と共に肉が叩きつけられる音が響き、激しい様子でラストスパートがかけられた。

 若の腰がびたりと止まり、亀頭が子宮にゴツンと当たって、射精が始められる。

 大量に精液が放たれ、子宮へ遠慮もなくぶっかけられた。熱く、どろりとした感触は体内でもわかりやすい。放たれた途端に紫の体がびくりと震えた。

 またしても達したようだ。抱きついていたはずだが、四肢を弛緩させた紫は力無く倒れ込む。

 精液すべてを紫の膣に納め、それから若がペニスを抜く。

 ずるりと出てきたそれは幾分硬さを失くしつつ、二人の体液を付着させてなんとも淫靡な様相となっていた。

 紫はぼうっとした目でペニスを見つめ、ふと自分の手を股へ伸ばす。そっと撫でてみれば溢れてきた精液がわずかにこぼれ出していて、どろりとしたそれで指が濡れる。

 なんとなく嬉しくなる状況だ。自らの内に彼の子種があるのだと、気付けば頬が緩んでいた。

 若は何をするでもなくぼんやりとそんな彼女を見つめる。

 膝立ちになって動きを止めていれば、突然後ろから抱きつかれた。振り返る前からすでにペニスが握られており、元気づけようと軽く握られて上下に擦られている。

 それが誰なのかなんとなくわかる気はしたが、確信を持つ前に若が首だけで振り返る。

 肩に顎を乗せて覗き込んできていたのは、いつの間にやら下着姿になった両備だった。頬は赤く染まり、目はやけに潤んでいて、先程より興奮している様子が伝わる。

 見れば他の少女たちも完全に動きを止めて二人の姿を見つめていた。

 それほどおかしなことをしただろうか、と思って動きを止めて熟考していると、ペニスをゆるりと扱いていた両備が耳元で囁いてくる。自然と若の意識はそちらに集中された。疲れながらも満足した様子の紫が寝返りを打つ様を見つつ、些か表情が変わる。

 

 「若様。さっきの、すごく素敵だった。両備たちも見てるだけで興奮しちゃったの。だから今度は順番に、ね。みんなのこと相手にして欲しいな」

 「ああ。いいぞ」

 「うふふ。それじゃ早速、両備からね。若様、体面座位でしましょ。座ったまま正面から抱きつくの。両備はぎゅうって抱きつけるあれが好きなんだ」

 

 若が畳に尻をつけて座り、正面に回りこんだ両備が股を開いて彼の脚の上に座ろうとする。

 がに股になって腰を落とし、再び天を剥いたペニスを目で確認すると楽しげに笑い、自ら下着を横へずらした。薄い桃色のショーツの下から、ピンク色の女陰がわずかに顔を出す。

 右手で若の肩に触れつつ、ゆっくり腰を落として位置を整える。手でペニスを支える気はなく、そのまま挿入するつもりのようだ。膣の入り口に亀頭が当たってぐっと押しつけられる。

 挿入する直前、よほど気になったのか若の両手が同色のブラジャーに包まれる胸に触れた。

 そこは両備にとって最大のコンプレックスだ。自分の体で自慢できる部位は大きな尻、一番見て欲しくないのが小さな胸。あまり膨らみが感じられない、ほぼ真っ平らなそこは周囲に居る女性が爆乳ばかりだという事実もあって彼女の怒りの引き金になっており、不用意に注目すれば烈火の如く怒り狂う。しかし若がやさしく触れて撫でたところで怒りの念は表れず、恥ずかしげに唇を噛みつつ、少々気まずげな目で若の顔を見ていた。

 

 「んっ、若様。そこ、そんなに気にしなくていいから」

 「なんで」

 「なんでって――」

 「俺は好きだぞ。だって両備の胸だ」

 「ば、ばかっ」

 

 恥ずかしげだったが一言で機嫌は回復したらしい。一転して嬉々とした表情になる。

 今度こそぐっと腰が沈められ、ペニスが膣へ挿入された。寸前までよっぽど期待していたのか、内部はじっとり濡れており、ペニスを包み込んだ瞬間に意識せずともひだが絡みつく。

 深くため息がつかれる。

 銜え込んだそれは固く、熱い。体内を抉られたと感じて一気に全身が熱くなった。

 両備の顔は至福で歪んでおり、傍目から見ても気持ちよさそうな表情。そのせいなのだろう、放置されてしまった少女から寂しげな声が聞こえてくる。だが慣れているのだろう、二人は気付いていながら特別反応を見せるでもなかった。

 

 「はぅぅ、ずるいよ両備ちゃん。両奈ちゃんのご主人様なのにぃ」

 「うるさいバカ犬。はぁ、くっ、大きい……」

 「うぅぅ、両奈ちゃんもずぼずぼして欲しいよぉ。くぅぅん、ご主人様ぁ」

 「バカ犬、そこで鳴いてなさい。気が向けば若様が相手してくれるかもね」

 「はぅはぅ、わんわんっ」

 

 寂しがる両奈をそっちのけに、両備が自ら腰を振ってペニスを刺激する。両手は若の肩に置き、脚は開いて惜しげもなく股間を見せ、若の両手で薄い胸を揉まれながらだった。

 水音を発して出入りを繰り返し、膣内を刺激する。

 そうするとさほど時間もかけずに両備の表情はわかりやすく変わった。

 我慢を続けた分、快感を与えられると脳天まで貫かれるようにとめどなく、頭が真っ白になる。自然に声が出て何も考えられない。幸福感が身を包むようで、意識も肉体も快楽に支配されながら彼女は微笑んでいた。

 

 「はぁんっ、んんっ、あはっ……すごっ。これ、きもちいい……!」

 「いいなぁ両備ちゃん。気持ちよさそう」

 「黙りなさいバカ犬。気が散るでしょ……うぐっ、ふんんっ、んちゅ」

 

 一心不乱に腰を振りながら、両備が強く若に抱きついた。流れるように唇を合わせる。

 乳房を揉んでいた両手を押し退け、胸と胸がぴたりと触れ合う。二人は強く抱き合って腰だけを動かし、主導権は両備が握っていたが、若も応じて腰を上下へ小刻みに振っていたようだ。

 

 「んっ、んっ、んっ――ぷあっ」

 「んふぅぅ、両奈ちゃん、とっても切ないの。ねぇ誰かいじめてぇ。紫ちゃん、両奈ちゃんのおまんこぐちゃぐちゃに掻き回したくない? もうめちゃくちゃにして欲しいのっ」

 「いい……興味、ないから」

 「そんなぁ」

 

 何やら周りでやる気を削ぐ声が聞こえる気がするが、気にしないことに決めて相手に集中する。

 鼻先を触れさせて至近距離で見つめ合い、荒い呼吸をぶつけながら腰を振っていた。

 いつしか両備も若も汗を掻いており、濡れた背中が光を受けて怪しく光る。集中すればするほど体が熱くなって抜け出せず、腰の動きはさらに大胆に激しくなった。

 両備の動きには気合いが感じ取れ、大きな疲労が伴うことも覚悟した上での速度だ。

 叩きつける音が聞こえるほど激しく腰がぶつかる。快感を得るごとにどんどん硬さを増していくようなペニスを相手に、膣内は素早く擦られていて、一瞬でも気を抜けば達してしまいそうになる。しかしまだ早いと我慢を続けていた。

 はぁと一際重く息を吐き、目は蕩けて我慢の限界を表す。

 出来るだけ長く繋がっていたいというのが本音だったが、どうにもそうはいかないらしい。名残惜しさを感じつつ最後の力を振り絞る。その際、気持ちを合わせるように深いキスを交わす。

 汗だくになってまるでスポーツのような激しさでピストンを繰り返し、ついに果てた。

 タイミングは奇跡的に同時。両備が膣を震わすと、若も膣内で射精を始めていて、彼女の中に大量の精液がぶちまけられた。

 

 「んんんんんっ!? んんぅ、んっ、ふぅ……」

 

 唇を合わせたまま達し、落ち着く頃に舌を絡め始めた。

 ぴちゃりと音が鳴って静かになった部屋に木霊する。皆が羨ましそうに二人を見つめていた。それで気を良くしたのか舌を絡めたまま、目を閉じた両備が微笑む。まるで勝ち誇ったかのようだ。

 舌が離れ、二人の間に唾液の橋がかかるも、距離が離れれば重力によって切られて落ちる。

 両備が落ち着いた顔で腰を動かせば、膣内でまたペニスが刺激され、見せつけるように抜かれた。流石の精力でペニスはすぐに硬くなる。

 立ち上がって胸を張り、腰に手を置いて若を見下ろす彼女は意地悪そうな顔だ。すでに何やら思いついているらしく、そっと若の頬へ手をやるとやさしく語りかける。

 

 「若様、ありがとう。すっごく気持ちよかったわ」

 「いや。俺の方こそありがとう」

 「うふふ。でもまだ寂しそうな人たちが居るから、相手してあげてくれる?」

 「ああ、わかった。それじゃあ――」

 「じゃあ先にあっちの二人ね。もう我慢できないみたいだから」

 

 そう言って両備が促したのは、秘所同士を擦りつけ合う雅緋と忌夢だ。

 彼女たちはもはや辛抱たまらんといった様子で脚を組み合わせ、股を擦りつけて少しでも気持ちよくなろうとしている。忌夢の目は相変わらず雅緋を見つめたままだが、雅緋は懇願するように若を見ていて、その瞳は珍しく潤んですらいた。

 わずかに頷いて承認し、若も立ち上がって彼女たちの下へ向かう。

 そうなれば当然文句を言う人物が居るわけで、一足早く両備がそちらに向かっていた。

 

 「えぇぇっ、両奈ちゃんは? ご主人様ぁ、両奈ちゃんもデカマラセックスして欲しいのぉ」

 「黙りなさい。あんたは両備が相手してあげる。若様に中出ししてもらってちょっとだけ満足したしね。まだ物足りないけど」

 「ふんんぅ、両奈ちゃんも欲しいー。若様のザーメン、若様の中出しーっ」

 「うるさい。黙れって言ってるでしょこの雌豚」

 「はぅぅぅんっ。気持ちいいけど、もっと気持ちよくなりたいーっ」

 

 騒がしくなった姉妹を尻目に、近付く若に気付いた忌夢がパッと笑顔を輝かせた。

 股間から響く快感に気を良くしていた彼女の更なる笑顔。雅緋は嫌な予感を感じるも、全身を執拗に責められたため、呆けて身動きが取れない。抵抗することは不可能そうだった。

 忌夢は立ち上がると嬉々として若を手招きし、呼び寄せ、彼を見上げて妙に興奮しつつ言う。

 

 「わ、若っ。いつものあれをしよう! ボクの股の間からアレを出してくれ!」

 「わかった」

 「い、忌夢。またあれをするのか……まぁ、若が気持ちよくなるなら、拒みはしないが」

 

 呼びつけられた若が忌夢の背後に立つ。

 慣れた様子で太ももの間からペニスがずるりと現れ、忌夢の秘所を押し上げるよう。見ようによっては、忌夢の股間にペニスが生えているようにも見える。途端に忌夢の表情が至福を表し、恥じらいながらも雅緋の目がそこに釘付けとなった。

 これが彼女たちの普段の光景。雅緋を心から愛する忌夢が、彼女からの疑似フェラを味わうための体勢。この状態になれば自然と雅緋も期待せざるを得なかった。

 雅緋は若に心酔している。彼が言うことには決して逆らわないほどだ。

 忌夢が期待して雅緋を見れば、やることはわかっているらしく、そっと口がペニスに近付く。恐る恐るといった様相だったが口が開かれて、亀頭が銜えられる。

 じゅるりと音を立てて唾液が絡みつき、舌が亀頭に巻きつくようだ。

 そうされているのは本来若だったが、立ち位置の関係上、どうしても忌夢がしゃぶられているように見える。それが狙いだったらしく、目を閉じて熱心に若のペニスを銜えて頭を動かす雅緋を見下ろす忌夢は口元がだらしなく開かれていた。

 男に生まれなかったせいで女の雅緋とは結ばれない。しかしこうして疑似的に男の気分を味わうことができる。これに気付いた時、忌夢が若へ向ける忠誠心はそれまで以上となった。

 まさにこの世の天国に居るかのような夢心地の気分。忌夢は熱くなった息を吐き、一瞬たりとも雅緋から目を離さない。自らが刺激を受けるわけでもないのに気付けば肌を震わせていた。

 後ろから若の手が伸び、忌夢の乳房を掴む。

 それすらも嬉しい刺激で彼女はわずかに若の顔へ振り返った。

 

 「あぁんっ、若っ。雅緋が、雅緋がボクのチンポをしゃぶってる! あぁ、気持ちいい……」

 「ああ、よかったな」

 「んっ、むっ……ち、違うぞ忌夢。私は若のを口にしているだけで――」

 「ほら雅緋、もっと奥まで。いつもみたいに喉まで使って、もっと気持ちよくして」

 「むぅ……違うのにな。あむっ、ふっ――」

 

 雅緋のハスキーな声は聞こえていても言葉の意味まで受け止めようとしていない。異様なほど興奮した忌夢は行為にばかり集中していた。

 彼女を促してさらに銜えさせ、さらに奥までを求める。すると雅緋も若のペニスならと抵抗せず、忌夢の言葉には渋々といった反応を見せながら、深くペニスを銜えた。

 亀頭を口内に含み、その先をも含もうと首を伸ばして亀頭を喉まで進めていく。

 流石に苦しげな表情は見せていた。しかしやめるつもりはなく、嫌がっている様子でもない。苦しさを感じながらも奥まで進め、ゆっくり引き抜き、もう一度奥まで進める。そうして何度もピストン運動を繰り返した。

 若は腰を動かさず、忌夢もまた雅緋の顔を見つめるのに忙しい。余計な会話もなく荒くなる呼吸だけが部屋に広がる。他の少女たちも三人の痴態を目にしていた。

 

 「はぁ、んっ、すごい……雅緋、そんなにおいしそうな顔して」

 

 うっとりした声で忌夢が呟く。

 熱心に、すべての情報が耳に入らないような様子でペニスをしゃぶる雅緋を見つめていると、どうしても股が寂しくなってくる。疑似的に体験できてもやはり自分は女なのだと強く認識した。膣が刺激を求めて疼いている。

 時間をかけて徐々に、忌夢も刺激を欲して寂しく思うようになっていた。

 後ろから胸を揉まれつつ、一応とはいえ秘所にペニスが押し当てられ、そして雅緋の可愛らしい顔と愛らしいフェラチオ、裸の肉体も目が離せず、気付けば忌夢は右手を股に伸ばし、クリトリスを指先で転がして自分を慰めているようだった。何から何まで興奮を高める材料となり、喉まで使って苦しげな顔の雅緋に膣から愛液が溢れ出る。

 

 「も、もうだめだ。雅緋、今すぐ入れてあげるからね。それと若、ボクにも入れて欲しいんだ。もう切なくて、苦しくて、我慢できそうにない」

 「いいよ。そうしよう」

 

 若が忌夢から離れたことで、雅緋の口からペニスが無理やり引き抜かれ、幾分寂しそうな顔をする。瞬間的に忌夢が彼女を押し倒していて、驚く間もなく二人で倒れた。

 上から覆いかぶさった忌夢は雅緋の両手首を押さえ、逃げられないようにした上で唇を奪う。先程まで若のペニスを銜えていた口で、それを思い出せば女としての自分が興奮を覚え、そうでなくとも雅緋とキスをすれば股が濡れる。目を白黒させる雅緋とは裏腹に彼女ばかりは楽しそうだった。

 

 「んっ、ふっ、い、忌夢っ。こら、また――」

 「はふっ、ふむぅ、雅緋の唇柔らかくて、舌使いもエロくて……!」

 「あっ、んっ、ふむぅんっ……」

 

 二人は肌を隙間なく合わせ、爆乳と称される胸がぎゅっと押し潰される。

 ねっとりと舌を絡めながら何かを待つようで、どちらも何を言うでもなく脚を開いており、そこに人が来ても問題ないようにしていた。そこへ、若が腰を降ろしてペニスを突き出す。

 

 「あっ、うぅ、若……やっと、来てくれた」

 

 先に亀頭を当てられたのは雅緋の膣だった。彼女は嬉しそうに頬を緩め、普段誰にも見せない蕩けた表情で見えない若の顔を想う。

 その表情を引き出せるのは若だけで、思わず忌夢は嫉妬を覚えた。

 一方で彼ならば仕方ないと思う自分も居て、複雑な胸中の彼女は自分のことを忘れるなとばかり、再び雅緋の唇を塞いで舌と舌を絡ませる。

 若の動きに気を取られていたのか今度はさほど抵抗はなかった。

 勃起したペニスが雅緋の膣へ一息に挿入される。

 

 「うむぅ、うっ、ふぅ――」

 「はぁ、締めつけてくるぞ雅緋。気持ちいいか?」

 「うっ、ふむっ」

 「そうか」

 

 上に乗る忌夢の尻を掴んで、その下に仰向けで横たわる雅緋の膣を突く。少し奇妙な体勢だったがいつも通りではあったため抵抗はなかった。

 マイペースに動いて一定の速度を保ち、ペニスが膣の内部を刺激する。

 一突きごとに甘い声が聞こえた。深いキスのせいでくぐもってはいたが感じているらしい。

 若の動きには余裕が感じられる。ペニスを前後に動かしつつ、両手は忌夢の尻を揉みしだいていた。二人同時に刺激されることを嬉しく想い、二人は同じ男に抱かれて確かに気分が良くなっていたようだ。

 

 「んっ、ふっ、ひゃあ……わかぁ」

 「はふっ、んんんっ、みやびぃ」

 「はっ、はっ、気持ちいいぞ二人共。もう少し速くするからな」

 

 宣言通り、若が腰を動かすペースが速まった。先程以上の快感に雅緋の顔から余裕が消える。

 しかし数度突かれ、腰を回して掻き回されただけで、すぐにペニスが抜かれてしまった。あっと思った時には亀頭も外へ抜け出していて、呆気ない様子に雅緋は思わず呆然とする。

 かと思えば数秒とせず、今度は忌夢の膣に挿入された。途端に忌夢がだらしない笑みを浮かべて喘ぎ始め、悔しく思う雅緋は拗ねた表情を見せていた。

 

 「うっ、また……若は、それが好きなんだな」

 「あはぁっ、きたぁ。チンポ、雅のなかに入った若のチンポっ」

 

 気持ちよさげな嬌声を発する忌夢は自然な動きで雅緋の胸に顔を挟み、両手で横から鷲掴みにした。柔らかい感触で心まで満たされ、体の快楽は若が与えてくれる。

 彼女にとって最高の一瞬だった。

 先に雅緋の膣で感じていたせいか、挿入直後から腰が動く速度は速く、すぐに気分が高められていく。満足できずに唇を尖らせる雅緋の上で、強い快感を得る忌夢は耐え切れずに、気付けば腰をがくがくと淫らに振っていた。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――!」

 「むぅ、いいな忌夢。私だってそんな風にして欲しいぞ」

 「んんんぅ、あぁ、はぁぁっ!」

 

 すでにラストスパートへ入っていたようで、腰が掴まれて尚も一方的な責めが続けられる。

 ある時、若はぐっと忌夢の腰を持ち上げ、無理やり彼女を立たせた。

 脚が震えておぼつかない足取りだが、押されてわずかに前へ歩く。ちょうど仰向けで寝転ぶ雅緋の顔の真上に二人の接合部がやってきて、見上げれば愛液を掻き出しながらペニスが膣へ出入りする様がよく見える。

 立ったままの後背位で激しく突き、尻の肉がぶるりと揺れるところまで見えていた。

 雅緋は羨ましげに、しかしどこか美しい物を見る目で二人を眺め、ぽたぽたと降って来る体液を避けもせず顔で受け止めながらじっと寝転んだままだった。

 

 「んんんっ、だめ、イッちゃう、イッちゃうよぉ!」

 「俺も、出すぞ。このまま中に出すからな」

 「あぁっ、はぁっ、あぁぁっ――!」

 

 パンパンと渇いた音が響き、嫌でも耳に残る。

 凄まじい勢いでピストンが繰り返されていたが、突如ぐっと腰が押し付けられるように体が一つになり、動きが止まる。その瞬間に忌夢は口を限界まで開くが、声は出ず、白目を剥かんばかりの様子で達し、膣から潮を吹いていた。真下に居る雅緋の顔が余すところなく濡らされる。

 すでに射精もしていたらしく、少し遅れて若がペニスを抜くと、溢れだしたそれもまた雅緋の顔に落ちた。こちらは受け止めると表情が嬉しげになり、ふと伸ばした指で掬って、わざわざ見て確認する。そのまま舌を伸ばして舐め取ってすらいた。

 忌夢の脚が限界を迎え、そのまま崩れ落ちそうになるも、若が抱えて事なきを得る。

 彼は何を言うでもなく彼女を雅緋の隣へ横たえ、それから座ることなく立ち上がった。

 自分の手で数度ペニスを扱けばすぐに勃起する。まだまだ精力は限界を見せないようだ。

 今度は雅緋に手を差し出し、彼女を立たせようとする。気にかけてもらったことが何より嬉しく、パッと少女じみた笑顔を見せた雅緋はその手を取って立ち上がり、急激に裸で向かい合うことに羞恥を感じたらしくもじもじと恥じらいを見せ始めた。

 若は気にせず、彼女の腰と乳房に手を置き、そっと抱き寄せて唇を奪う。抵抗することなくすぐに雅緋も目を閉じた。恋人のような甘いキスがしばし続く。

 唇が離れた後、わずかに腰を揺らした若がペニスを秘所へ擦りつけ、掠れた声で囁いた。

 

 「このまま入れるぞ。いいな?」

 「わ、わかった。私を好きに使ってくれ――あっ」

 

 数秒とかけずにペニスが膣へ挿入された。手慣れた様子である。

 雅緋の目が閉じられ、甘い吐息が吐き出される。

 好き勝手に侵入してくるペニスは彼女がどこで感じるかを的確に理解していて、亀頭が狙って押し付けられる度、痺れるような快感が全身に響き渡っていた。

 ゆっくりとしたペースで腰が振られる。速度はなんとも遅いがツボは確実に心得ており、もどかしさが加わるだけに雅緋の余裕は見る見るうちに削られていく。一方の若は淡々とした様子だが楽しげにしていた。

 

 「あんっ、くぅ、そこぉ……!」

 

 立ったままの見事な腰使いで突き上げられ、若に抱きつく雅緋は子宮への刺激を感じていた。

 その様を見ていた紫は、自分も我慢できなくなったか、二人の傍らで倒れたまま呆けている自身の姉を見つける。じっと見つめると好奇心は驚くほど早く大きくなる。何かを考える前に体は動き出していて、気付けば忌夢に近寄って彼女の体に抱きついていた。

 

 「はぁ、んん、雅緋が、気持ちよさそうだ……」

 「お姉ちゃん」

 「ん? 紫、どうした」

 「私、もっと気持ちよくなりたい」

 「そ、そうなのか。でも若は雅緋の相手をしてるから――」

 「お姉ちゃん、きれいな肌だね」

 

 腰を動かす二人の傍ら、なぜか妹が姉を襲い始めていた。慣れていない手つきで忌夢の肌を撫で、滑らかな感触に気分を良くし、微笑む紫は次々その体に触れる。乳房を揉み、くびれのある腰を撫でて、尻の肉を強く掴む。そこまで行けば当然そこも気になり、若に精液を注ぎ込まれたばかりの膣へ指を挿入しようとしていた。

 

 「ひゃっ。こら、紫! 何をする! ボクたちは血を分けた姉妹だぞ!」

 「うん。だけど、両備さんや両奈さんも、だよ?」

 「あの二人はちょっと変わってる。でもボクたちはそういうわけには――」

 「お姉ちゃん、いつも雅緋さんとえっちなことしてる。私も、お姉ちゃんとしたい」

 「そ、それはまたちょっと違う感情があるわけで、って。こら、そんなところ……あんっ」

 

 すぐ隣で姉妹が絡み合い始めたが、二人は一向に気にしない。深くキスをしながら続けていた。

 ペニスは今や彼女の愛液でべっとり濡れ、洩れ出たそれが竿を伝って睾丸をも濡らしている。

 繋がっている時間は長く、否が応でも体内にある快感が抑えられなくなった。

 頭を振って髪を乱して汗を飛ばし、蕩けた目で若を見つめる雅緋は冷静さなどかなぐり捨てて我を忘れていたようだ。

 

 「んんむっ、ふんんっ、ふぁぁ……若っ」

 「ああ。もう少しだ」

 

 若の両手が尻を掴んでぐいと引き寄せ、最後の瞬間のために猛烈に腰が振られる。

 もはや雅緋は彼にしがみつくことしかできず、外まで届く大声で喘いだ。

 

 「あんっ、あっ、あっ、あぁっ――!」

 「ふぅ、もう少しで出すぞ。中でいいか?」

 「う、んんっ、中にっ。中にくれっ。若の子供を孕めるように、全部中にっ……!」

 「わかった。全部中に出す」

 

 宣言するように言えば雅緋が嬉しそうに笑った。

 大きな嬌声は他の少女たちにも影響を与えるが気にしていられる状態でもない。自分がどう見られているかを気にする余裕はなく、ただ若の存在のみを強く感じる。

 さほど時間もかからずに二人は限界を迎えた。

 一際強く腰が打ちつけられ、膣内で射精が始まる。何度目かだが精液の量に衰えは見られない。彼女を孕ませようと言わんばかりに勢いよく奥まで注ぎ込まれた。

 

 「はぁぁぁっ、うぅぅぅっ!」

 

 雅緋が背を逸らして絶叫した。

 全身が大きく震え、立っているのも難しいほど脚が震える。がくがくと一目でわかるほど余裕がない。それでも表情は幸せそうであった。

 対する若はいまだに余裕が見え、立てなくなって寄りかかる雅緋を難なく受け止める。そのまま背と頭を撫でてやる程度には冷静なようだ。

 

 「はぁ、うぅ、す、すまない若。こ、腰が、抜けて……」

 「すまん。無理をさせ過ぎたか」

 「だ、大丈夫だ。ちょっと、気持ちよ過ぎただけだから」

 

 倒れかかる雅緋を抱きしめ、あやすように背を撫でる。

 そうして二人が立ったまま落ち着こうとしていると、すぐに声をかけてくる人物があった。

 

 「ねぇねぇご主人様ぁ、次は両奈ちゃんの番だよぉ。早く早くぅ。おまんこにおちんぽ突っ込んでぇ、ぐりぐりって子宮いじめてぇ。赤ちゃんの種いっぱいいっぱい注いでぇ」

 

 テーブルの上で大股開きになる両奈が余裕のない声で言った。

 度重なる我慢と放置と数多の快感で思考が蕩け、普段から卑猥なことばかり考える頭脳だが、今ではそれがさらに助長されている節すらある。両備の手による愛撫は少々激し過ぎたようだ。

 両方の乳首にピンクローターをテープで貼り付けられ、絶えず振動が与えられており、包皮が剥かれたクリトリスには電動マッサージ機が押し当てられ、膣の中には台所から持ってきただろうきゅうりが差し込まれて激しく出し入れされている。顔は涙でぐちゃぐちゃになり、らしくもなく気弱な様子だった。

 徹底的なまでの責めは彼女の表情に限界だと語らせ、もはや見ていて悲惨な姿である。

 普段物静かな若ですらため息をついた。

 

 「雅緋、いっしょに来てくれるか?」

 「え? あ、ああ」

 

 若が雅緋からペニスを抜き、呆けた彼女を抱きしめたまま移動する。

 両奈の下に辿り着けば、横から抱きついてくる雅緋の背に腕を回しつつ、勃起したペニスを両奈の膣に触れさせる。途端に両奈は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 雅緋の手によって竿が握られ、支えられる。腰を前に出せば挿入はスムーズに終わり、彼女の中に入ることに成功した。

 蕩け切った膣内は柔らかく、ひだが激しく動いてペニスを飲み込もうとするよう。

 思わず若の表情も変わる。眉がひそめられ、凄まじい快感に耐える様子だ。

 徐々に余裕を取り戻しつつあった雅緋がそんな彼の耳に口付けし、尻を撫でて甘えていた。男っぽい外見ながら甘える姿は存外可愛らしく、若も片手で頭を撫でてやって反応する。するとそれだけでひどく嬉しそうだった。

 

 「はぅぅぅんっ、きたっ! きたきたぁ! 両奈ちゃん、ずっとこれが欲しかったのぉ! 若様のおちんぽでいっぱいずぼずぼして欲しかったのぉぉ!」

 「くっ、こいつは、いつもながら凄い感触で……」

 「わぉわぉぉんっ! 出して出して! いつでもいいから何発でもいっぱい中出ししてぇ!」

 「うっ、出そうだ……」

 

 まだ動いていない内から若の表情は厳しく、非常にゆっくりと前後に動き出す。

 緩慢にペニスが前後するだけでもひだが強く絡みつき、数度射精した後でもペニスを敏感にさせて射精を促してくる。そう長くは我慢できそうになかった。

 そのため意を決し、唐突に若はピストンの速度を速める。すぐに射精するため最初からラストスパートに入り、全力で両奈の膣内を荒らす。それに応じて悲鳴のような嬌声が響き渡った。

 

 「んひぃぃぃっ!? しゅごい、おちんぽしゅごいのぉぉぉ! わかさまのおちんぽっ、りょうなちゃんのおまんこ、ぶっこわしちゃうぅぅ!」

 「す、すごい乱れようね。両奈がこんなになるなんて、ちょっと虐め過ぎたかしら」

 「若、気持ちいいのか? あぁ、感じている顔も勇ましい……」

 

 両奈の絶叫で流石にやり過ぎたかと思ったか、彼女をそんな状態にした両備は冷や汗を垂らしていた。普段から少し変わっている人物だが両奈がここまで乱れる姿は見たことがない。少々調子に乗り過ぎたのかもしれない。愛撫し合っていた紫や忌夢も抱き合ったまま彼女を見ていた。

 ただ、腰を動かす若は気にする様子はなく、雅緋もまた若の顔を見つめて頬を赤らめ、唇を舐めたり頬に触れるだけのキスをしたりと忙しそうだ。さほど大きな反応はない。

 バチバチと揺れる睾丸が叩きつけられ、ペニスは高速で出入りを繰り返す。

 耐えられる時間もそう長くはなかったらしい。歯を食いしばった若はその歯列を雅緋に舐められながら、両奈の腰を掴んでぐっと体を寄せ、一番奥まで亀頭を押し込む。

 そこで思い切り射精が始められた。

 竿の律動によって勢いよく飛び出した精液が両奈の膣内を白く汚し、自分の色に染めていく。まるで支配するかのようだった。それを感じた両奈は背を逸らして両目を見開き、思い切りピンと舌を伸ばして、声すら出せずに絶頂へ至る。

 四人の少女に見守られながら膣内射精が終わり、若の震える尻が止まった。

 すべての精液が膣内に納められ、溢れた分が膣から洩れだす。テーブルの上には二人の体液が垂れると同時に混じって水たまりを生み出している。

 行為は終わった、かに見えた。

 不思議と若は休みも取らず、即座に再び腰を動かし始める。ぐっと力を入れて亀頭で子宮を押し、呆けていた両奈の目がまた見開かれる。思わぬ衝撃と快感で瞬間的に肉体に火が点き、すでに彼女も嬌声を上げて感じ始めていた。

 

 「あんっ、んんっ、いいぃ……おちんぽしゅごすぎぃ! またイッちゃうぅ!」

 「な、なによ、バカ犬の癖に二回続けてなんて」

 「むぅ、ずるいぞ両奈。私ももう二回目ができるのに」

 

 再び少女たちに見守られながら若が両奈を犯し始めた。幾分両備や雅緋からは不評を買っていたようだが、今さら若が気にする様子もなく、全力で彼女を孕ませようとしている。最初から非常に素早い腰使いだった。

 少しだけ離れた位置に居た紫と忌夢は、互いの指で膣を弄り合い、そろそろ若が欲しいと思ったところでその光景を見ていた。どちらも快楽のせいでぼんやりとした目つき、力が入っていない様子で、状況が読み切れていないかのような顔である。

 動きを止めて強く抱き合い、畳の上に横たわったままキスを交わす。

 目を閉じて舌の動きに集中し、相手の唾液を飲んで喉を鳴らした後。忌夢は紫の顔を胸に掻き抱いて落ち着いた。妹と体を重ねるのも悪くない。彼女のテクニックで気を良くしたためそう思っていたらしい。

 ただ、落ち着ける時間はそう長くはなかったようだ。

 抱き合っていた二人が一番早くその声に気付いた。

 

 「ずるいです」

 

 不思議な冷たさを感じさせる平坦な声。忌夢が気付き、縁側の向こうへと視線を動かす。

 そこに彼女が立っていた。戦闘時でもないというの戦闘装束の真っ白い着物を身に纏って、両手には武器となる扇子を持ち、蒼い瞳をギラつかせて一心に若を見つめている。

 奇妙な雰囲気を感じる。目を閉じて呼吸を整える紫とは違い、忌夢は思わず体に残る熱を忘れて冷や汗を垂らした。

 月閃女学館の雪泉。若に異常なほどの愛情を向ける厄介な女だ。

 どこから嗅ぎつけたのか五人が若と交わっていると知って駆けつけたのだろう。その姿は鬼のようでもあり、大事な人を守ろうとする戦士のようであった。

 

 「私が愛する若様と、私が居ないところで愛し合うなんてずるいです。別に独り占めしようとは思っていませんが、せめて一声かけてくだされば、すぐに私も馳せ参じましたのに」

 「あー、なんだかやばい? ような……」

 「さぁ若様、雪泉が参りました。ぜひとも私の体をお使いください――」

 「あはぁぁぁんっ!」

 

 物々しい雰囲気を醸し出す雪泉の言葉を遮って、両奈が絶頂を感じる絶叫を上げた。

 若は両奈の膣内に精液を注ぎ込み、二度目の膣内射精を行う。これによって両奈は満面の笑みで途方もない快楽に包まれていた。とても幸せそうな顔である。

 発言が遮られたことにより、雪泉の表情が変わる。薄い笑みを浮かべているが口の端がわずかに動いた。同時に寒気を感じるほどの冷気が全身に纏われる。

 それでようやく全員が気付いたらしく、ペニスを抜いた若の目も雪泉を見た。それぞれの反応は違い、両備は怪訝そうに眉間へ皺を寄せ、雅緋は気にした様子もなく若のペニスを口に含み、両奈は痙攣するかのようにびくびく震えていた。

 

 「何? もう、せっかく盛り上がってきたところなのに邪魔しに来たのね。そうはいかないわ、今日は蛇女が優遇されるんだから。バカ犬」

 「はぅぅ、お腹の中にザーメンいっぱい……次は顔にぶっかけて欲しいなぁ」

 「聞きなさいバカ犬」

 「ひゃうんっ」

 

 両備が思い切り両奈の乳房を踏みつけた。衝撃でピンクローターがテープから外れて落ちる。本来ならば怒りか悲しみを抱くだろうその行為も、両奈にとっては喜びしか生み出さないようで、嬉々とした表情の両奈は何も気にせず傍らに立つ両備を見上げた。

 

 「なぁに両備ちゃん。あっ、両備ちゃんのおまんこ舐める? それとも両奈ちゃんのおまんこから若様のザーメンすすって取り上げちゃう? はぅぅん、どっちも気持ちよさそぉ」

 「どっちもしないわよ。あの女を追い払いなさい」

 「えーっ? 気持ちいいことはぁ?」

 「あの女がケツぶっ叩いてくれるわよ。わかったらさっさと行きなさい」

 「はーいっ。ほんとはご主人様にぶっ叩いて欲しいけど、気持ちいいなら行ってきまーす」

 

 裸の両奈がどこから取り出したか両手に銃を持ち、股から精液を垂れ流しながら雪泉の下へ向かう。冷やかな眼差しでそれを見る雪泉は自然な動作で扇子を構えた。

 全身から冷気を放ち、戦闘を避ける気はない様子。

 その寒々しい殺気がなぜか両奈を興奮させてしまったようで、目に歓喜が浮かぶ。

 

 「邪魔をする気ですか、両奈さん。私と若様との睦言を――」

 「もしかして、もしかしてっ、両奈ちゃんお仕置きされちゃうの? 雪泉ちゃんに気絶するまでお尻ぶっ叩かれちゃうの? はぅぅんっ、そんなの気持ちよ過ぎぃ」

 「邪魔をすると言うのなら、誰であっても許しません」

 「叩いて叩いてっ。いっぱい両奈ちゃんをいじめてぇ!」

 

 興奮しきった様子で両奈が雪泉へ跳びかかり、応戦が始まる。二人は広い庭で熾烈な戦いを始めてしまい、至るところに次々氷が飛び交うようになった。

 両備は満足した顔で頷く。

 

 「よし、バカが行ったわね。これで少しは時間を稼げるはず」

 「若、次は私に……もう大丈夫だから、もっとして欲しいんだ」

 「いいぞ。それじゃあ今度は寝てくれ」

 「は、はい。若が言うならどんな格好でも」

 

 そうなれば他の者たちはまた何も気にせずに行為を続けてしまう。

 雅緋が畳の上で寝そべり、股を開いて若のペニスを膣へ受け入れると、両備は彼の背中に抱きついて体を押しつけ、耳を舐める。今度は紫と忌夢も合流し、若の両側から抱きついて彼の体に触れ始めた。その際、忌夢だけは雅緋の体にも手を伸ばす。

 

 「はぁ、あぁっ、若、激しっ……!」

 「いい具合だ。少し強く行くぞ」

 「はぁぁ、若にチンポ突っ込まれてる雅緋も可愛いなぁ。若、もっと速くしてくれ。鳴いてる雅緋がとっても可愛くてもっと見たいんだ」

 「んぅ、若様の乳首……可愛い」

 「両奈が問題起こす前にもう一回全員に中出ししてもらわないとね。頑張ってよ、若様。あんまり時間はなさそうだからね」

 

 今日もまた彼の屋敷は騒がしく、物静かな彼だが仲が良いのか悪いのかわからない美少女達に囲まれ、平穏で淫靡な日常を過ごしていた。

 



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カグラ千年祭編 Prologue

 長期シリーズ編。
 エロだけじゃなくて戦ったりすると思います。なのでエロがない話もあります。
 今回はプロローグなので短いしエロありません。ちょっとわからなくなったんでぐちゃっとなった部分もあります。
 それでもよければどうぞ。


 波の音が聞こえる。

 山の中で暮らし、育った彼にとってあまり馴染みのない音。忍務で海へ行った経験はある。太陽が落ちた後の暗闇の中で、月明かりに照らされる時間帯に眺めたことが一度きりだが、とても美しいと思わず見惚れたのを覚えている。

 またいつか。そう思わなかったわけではない。普段あまり感情を表に出さず、感情の起伏があまりに少ない彼でもそう思い、海へ行く日を望んでいた。

 徐々に意識が浮上してくる。眠りから覚めようとしている彼は、聞こえる音に期待を抱くでもなく、不思議がる気持ちを持ちながら至って冷静に目を開けた。

 一番最初に飛び込んできたのは澄んだ青。屋敷の中の自分の部屋で寝ていたはずなのに天井がない。どうやら開けたビーチに寝転んでいたようだ。布団に背を預けるわけもなく、意識が覚醒するに従って砂の感触が肌で感じ取れる。

 若の呼称で知られる忍の青年はしばし沈黙したまま空を眺めていた。

 なぜこんな場所に居るのだろうと思う。外で眠った覚えはない上、海に訪れたことなど人生で一度しかない。この環境が不思議だと、ゆっくり上体を起き上がらせた。

 砂浜に座り、海を眺める。

 空の色よりも深い青。日の光を浴びて輝き、波によって水面が動くと輝きもつられて動いた。ぼんやりとした表情はいつもと同じだが普段とはどこか違って、らしくもない顔である。驚きは傍目から見てもわかりやすく表れていた。

 美しい。口を半開きにして、言葉が出ないほどそう思う。

 初めて見るわけではないものの、日の光を浴びる姿は初めてだった。夜に見る姿とは違う。月明りを浴びて放つ輝きとは何かが違い、心底不思議に思ったようだ。手を伸ばせば触れられるほど近くにある美しい風景に見惚れて動き出せなくなる。

 若はしばらくそのまま海を眺め続けた。

 山の中にある風景とは何もかも違う。木々の間から落ちる日光とは輝きが違っていて、潮の香りが鼻腔をくすぐって気分が落ち着き、見ているだけで不思議な幸福感を得られた。

 そうしていると砂を踏みしめる音が聞こえて、そちらを気にしようとせずに波の音を聞いていると、呆れたと言わんばかりにため息をつかれたのがわかる。そのわずかな息遣いで、ふと懐かしさを感じたようだ。

 ようやく若は後ろへ振り返って、数メートル離れた位置に立つ人物を見つける。

 腰が曲がって、白が混じった灰色の髪。皺が多く見られる顔にはやさしさがにじみ出て口には煙管を銜え、ぷかりと煙を吐きだしている。妙に見覚えのある外見だった。

 左腕にある腕章の文字は、生涯現役。

 記憶の中にある姿がそこに見えて若の表情が些か変わった。

 

 「おはよう寝坊助。こんなところでもすやすや眠るなんて、あんたは相変わらずだねぇ」

 「小百合様……?」

 「そうだよ。あんたの後見人の小百合ちゃんさ。やっと目が覚めたかい?」

 

 小百合、というのが彼女の名だった。

 生きる場所を探して彷徨っていた若を拾い、面倒を見た女性で、彼にとっては親同然の人物。彼女に教えられたことは多く、自身が住む屋敷を与えたのも小百合だった。

 ここ最近は家を離れて旅に出ていたはず。思わぬ場所で出会ったことにより、流石の若も驚きを隠せない様子。言うべき言葉を見失っていた。

 呆然とした若を見て珍しいと笑い、小百合は上機嫌に言う。

 

 「色々聞きたいことがあるだろう。でも他にも困ってる子がいるんでねぇ。説明はその子たちにもいっしょにするよ。ついてきてくれるかい」

 「はい。わかりました」

 「素直な子だねぇ。あんたはもう少し人を疑うことを知った方がいい。もっとも、いちいちあたしのことを疑ってもらっても困るけどね」

 

 小百合に会えたというだけで若はまるで心配することなく立ち上がり、彼女の傍へ立つ。以前は室内に居たためか、普段履く草履もなしに裸足で砂を踏みしめた。

 突き刺さるような日の光で温かい。感触は驚くほどやさしくて若は思わず薄く笑みを浮かべる。普段は滅多に見れない彼の些細な表情の変化、珍しい姿だ。

 驚いた小百合だが柔らかく微笑み、特別声をかけることなく前を向く。

 

 「さぁ行くよ。みんなが待ってる」

 「小百合様、お怪我や御病気もなくお元気そうでよかったです」

 「あぁありがとう。あんたも元気そうで安心したよ。あの子たちとは仲良くやってるだろうね。まぁこんなこと聞くのはどうかと思うけど、あっちの方も」

 「はい。皆には世話になっています。問題ありません」

 「そうかい。大きな問題がないなら何も言わないよ。あんたも、あたしの言うことばかり聞いてないでたまには自分の好きにしな。忍務だけが人生じゃないんだよ」

 「わかりました」

 「やれやれ、本当にわかってるのかねぇ」

 

 先を小百合が歩き、後から若がついてくる。まるで生まれたばかりの雛鳥のようで、思わずくすりと笑ってしまう。何年経っても彼の姿というのはあまり変わっていなかった。

 ひどく美しい風景の中を歩く。

 若が住んでいた山とは何もかもが違う。広大な海、熱い砂浜。見慣れたはずの空や木々の色まで違っているように見える。それに匂いが違っていた。

 不思議そうに、ただ表情は浮かべずゆっくり辺りを見回しながら。

 二人は言葉を交わすでもなくどこかへと向かっていた。

 

 

 *

 

 

 辿り着いたその先には、見慣れた顔がすべて揃っていた。

 以前から付き合いがある顔も、つい最近出会った顔も間違えずによく見える。すべて少女の物だ。それも美少女と呼んで差し支えないほど可憐な、或いは美しい女性ばかり居る。

 ビーチにずらりと並んで、燦々と輝く太陽の光を受け。風景と相まって美しさはますます向上するようにも見える。海をバックに立つ彼女たちから目を離せば、近くにはリゾート地に見られるような巨大なホテルが設けられていた。傍らにはプールの存在も認識できる。

 若にとっては見たことのない風景。覚えはない。

 並びに少女たちも同じだったようで、戸惑いを隠しきれていないのが表情から伝わる。

 小百合に連れられた若は彼女たちの姿を見回し、相手も気付いたようだ。

 一番先に声を発したのは若に気付き、パッと笑みを浮かべて、しかしそれよりも気になる相手が居たようで表情を変えると大声を上げた飛鳥だった。目を真ん丸に開いて見つめるのは前を歩く小百合であり、周りも気にせず、とても親しげに彼女を呼ぶ。

 

 「ば、ばっちゃん!? どうしたの、こんなところで」

 「おぉ飛鳥、元気そうだね。そろそろ若のやや子は孕んだかい?」

 「ええっ!? い、いきなり何言い出すのっ」

 「ふえっふえっふえっ。男が出来てもまだまだ愛いのう」

 

 小百合は、彼女の祖母である。祖父との仲は良かったのにずいぶん前に家を出て、時折連絡はあったものの、顔を合わせることはここ数年なかった身内の人物。

 余裕を感じさせる小百合とは裏腹に、突然の再会に驚きを隠せない。

 飛鳥は驚いて大口を開けているが小百合はあまり取り合わず、それよりも気になることがある様子。笑みを見せるだけでなぜ再会することとなったか、あまり多くは語らなかった。

 立ち並ぶ少女たちは総勢二十名。皆が小百合と若に注目している。

 整列するわけでもなくバラバラと立つ少女たち。その前に立って小百合は教師のように顔を見渡す。全員が注目していることがわかってわずかに頷き、彼女が話し始める。

 自然とその場の全員が集中し、惹きつけられた。

 

 「若き忍たち。ようこそ、カグラ千年祭へ。歓迎するよ」

 「カグラ……千年祭?」

 

 一番前に立った飛鳥が呟く。首を傾げればポニーテールの髪がふわりと揺れた。

 彼女を始め、少女たちは皆自身が所属する学校の制服か、或いは学校に所属していない者は私服姿で立っている。どこか所在なさげで、中には警戒心を露わに武器を持っている者もいた。些か物々しい雰囲気が感じられる。

 飛鳥の隣まで一人の少女が進み出た。

 白いTシャツに青いジーンズを履き、飛鳥よりも長い黒髪のポニーテールを持つ少女、焔だ。警戒心をはっきりと露わに、小百合を睨むような目つきで見ている。

 目覚めれば見知らぬビーチだった。この状況に納得がいかないらしく、些か怒りを感じさせる声。年長者である小百合に食ってかかるように発言した。血気盛んな様子に小百合の頬が緩む。

 存外、見込みがある人物のようだ。密かにそう思って目を合わせる。

 

 「いきなり呼び出しておいて、ずいぶん身勝手な言い分だな。一体ここはどこだ。どうやって私たちを呼び出した。今から何をしようとしている」

 「質問が多いのう。せめて一つずつにして欲しいもんじゃが」

 「そもそもおまえは誰だ。ただの忍じゃないようだな」

 「あ、焔ちゃん。あの人はね――」

 「飛鳥の祖母じゃよ。小百合ちゃんと呼んでもいいぞ」

 

 右手を上げてピースをする小百合を見て、焔はげんなりと肩を落とす。

 ライバルである飛鳥の祖母。別段想像したこともなかったが、思った以上に似ていないし、立っているだけで妙な力強さを感じる。やはり一流の忍ということだろう。

 煙管を手に持ち、煙を吐きつつ、さらに小百合が言葉を重ねる。

 

 「では一つずつ説明を始めるとしようかの。まず、カグラ千年祭とは」

 「ねぇばっちゃん、若様も居るけどどうして――」

 「ええい、質問したなら最後まで聞かんか。物事には順序があるんだよ」

 「ご、ごめんなさい……」

 「カグラ千年祭とは。死んだ忍の魂を成仏させるための祭りじゃ」

 

 一同は首をかしげる。

 説明をするとは言うが、聞かされた言葉はすぐに信じることも納得することもできない。死んだ忍の魂を成仏させる。そう聞かされて、一体どんな反応を見せればいいというのか。

 

 「死んだ忍の、魂? それってひょっとして、幽霊ってこと?」

 「なんだ飛鳥、まさか幽霊が怖いのか?」

 「だ、だって幽霊だよ。焔ちゃんは怖くないの」

 「フン。ただちょっと体が透けてるだけの人間だろう。怖がる理由はない」

 「こらこら。人の話はきちんと最後まで聞くもんだよ。まだ説明は終わっていない。現状を理解するのはちゃんと最後まで聞いてからにしな」

 「あ、うん」

 

 再び煙管を銜えて小百合が笑う。孫に対する声は幾分柔らかく、叱っているように聞こえながら本気で怒っているようには思えない。飛鳥はすぐに口を噤み、少し緊張した面持ちで耳を傾ける。

 

 「この世界はあたしたち千年祭執行委員が作った巨大で複雑な忍結界。この中には死んでも尚未練を捨てきれない忍たちの魂が集まり、死者が蘇る。死者と出会い、最後の言葉を聞いて見送ってやるのじゃ。それがカグラ千年祭。しかしおまえたちにやってもらいたいことは別にある」

 「なんだ? お経でも唱えればいいのか」

 「それよりも簡単じゃ。特別なヤグラを用意した。これを使う」

 

 小百合が指を鳴らせば、彼女の近くに音を立てて煙が発生した。

 何処からともなく現れたのは木材で組まれた小さなヤグラ。装飾も最低限、一見しただけでは何の変哲もない、ただの木の固まりだ。不思議に思って一同は不審な表情を浮かべる。

 それに対し、小百合は不敵に笑った。

 

 「半蔵、月閃、蛇女、紅蓮隊、そして千年祭執行委員と、各勢力ごとにヤグラを五つずつ用意しておる。全部で二十五個になる。互いにこれを破壊し合ってくれ。その名も忍の盆踊りと言う」

 「忍の盆踊り? どうしてそんなことするの」

 「さぁて、どうしてだろうねぇ。ふえっふえっふえっ」

 

 いまいち要領を得ていない様子で、一同は疑念を隠しきれてはいなかった。

 あまりに唐突過ぎる。一つの世界を作ってしまうほどの特別な忍結界に加え、死んだ者が蘇る世界。簡単に信じられる話ではなく、何から何まで疑問が残る。

 小百合もそれは承知のようで、敢えて歯痒さを感じる説明をしているらしい。

 やりきれない感覚を抱き、疑念を持つ少女たちは違和感を取り除くために質問せずにはいられない様子。その代表が飛鳥や焔、或いは選抜メンバーを束ねる雪泉や雅緋であった。

 これまで沈黙を保っていた雪泉や雅緋も意見を口にし始めていた。

 

 「小百合様、と仰いましたね。今の説明では納得できない部分があります。互いにヤグラを壊し合う、これに何の意味があるのでしょうか。ひょっとして、私たちにまだ伝えていないことがあるのではありませんか?」

 「察しがいいね。確かにそんな気もする」

 「理解に苦しむな。そもそもなぜ私たちがそんなことをしなければならない。これほど大規模な忍結界を作れるのなら私たちの力なんて必要ないだろう。おまえたちで勝手にやっていればいい」

 「さて、そう思うかね」

 「ああ。この話、今一つ信用できない。悪いが帰らせてもらう」

 

 そう言って雅緋は小百合に背を向けて歩き出そうとした。

 すぐさま足を止めようと声がかけられる。

 

 「そうは言うけどねぇ、あいにく千年祭が終わるまでこの島から出ることはできん。元の世界に戻るにはカグラ千年祭をやり終え、祭りを終わらせる必要がある。さて何日かかることか」

 「なんだとっ」

 「あぁでも心配はいらないよ。ここは外の世界と隔絶されて時間の概念が変わり、何日間過ごそうが外の時間は止まっておる。急用があっても外へ戻った暁には十分間に合う」

 「時間を、だと。なんて異常な空間だ」

 

 時間の流れすら変えてしまう忍結界に驚きが隠せず、一同は驚愕した。

 その中には喜んでいる様子の者も居て、おそらくは南の島でバカンスが楽しめると考えたのだろう。嬉々として海を眺める者も少なくはなく、小百合の言葉を正しく受け取っているのか、怪しいものだ。緊張感はさほど感じられない。

 気にせず、にかっと笑った小百合が言い切る。

 

 「まぁそう言わずに付き合っておくれよ。悪いようにはしないさ」

 「ばっちゃん、どうして私たちにこんなことを? それに家を出たまんま帰って来ないし、ずっと心配してたんだよ。せっかくまた会えたのにこんな状況だなんて……ちょっと話が急過ぎるよ」

 「面倒かけてすまないね。だが必要なことなんだ。わかっておくれ」

 「ええい、まどろっこしい! 要は派手なケンカをおっぱじめようってことだよ!」

 

 突然小百合のものではない声が聞こえて、一同は辺りを見回した。

 小百合の背後にあった木々の間から影が三つ飛び出してくる。見紛うまでもない、人の物だ。軽やかに跳んだ三人は空中でくるりと回って小百合の目の前に着地し、ずらりと横に並んで、困惑する一同に対し胸を張って対峙する。

 白と赤の布、まるで巫女のような服装だ。

 三者三様、それぞれ違っているが容姿は似ており、おそらく姉妹なのだろうということがわかる。先程勇ましい声を出したのは、中央に立つ薄い茶色の長髪を持つ少女のようだ。

 凛とした様子で一同を眺めており、腰に手を当て胸を張って得意気な様子。

 一斉に向けられる不審そうな眼差しを受け、笑みを浮かべる。ひどく堂々とした姿だ。

 全員の注目を集めて、蓮華という少女が皆に対して言った。

 

 「こんなに面白そうな勝負はねぇだろ! さぁ、私と戦うのは一体誰だい!」

 「だ、誰?」

 「巫神楽(みかぐら)三姉妹。カグラ千年祭執行部として協力してもらっておる。そんなに歳も離れていないじゃろう。まぁ仲良くしてやっておくれ」

 

 太鼓を打つ撥を両手に持ち、大声で蓮華が叫んだ。

 男勝りな姿には開いた口が塞がらず、返答となる声は誰も出さない。

 やれやれと小百合が首を振り、いまだ信じようとしない一同を見て嘆息した。

 証拠が必要、ということか。

 ならばと彼女は考えを変える。どうやら会わせなければいけない人間が居るようだ。背を向けたままで首だけ振り返る雅緋と視線を合わせ、やさしい声色でゆっくり伝えた。

 

 「今でも信用できないかい?」

 「ああ。くだらない与太話に付き合う気はないんだ」

 「ここでは死者が蘇る。もし死んだあんたの知り合いに会えれば、考えは変わるかね」

 「バカな。あり得ない。死者が蘇るなんて、禁忌の忍術でも不可能なことだ」

 「それがあり得る。さぁ、こっちへおいで」

 

 後ろへ振り返って呼びかければ、林から一人の女性が歩み出てくる。

 静かにゆっくりと足を運んで、優雅な仕草から美しさが滲み出ていた。

 小百合の隣で足を止める彼女を見つめ、雅緋は目を見開き、驚く。確かに彼女の知り合いだった。忘れることなどできない、彼女の最期だって雅緋の脳裏に焼き付いている。

 ふわりと微笑む笑顔は雅緋に向けられて、それがかつてと同じもので、思わず絶句した。

 

 「久しぶり、雅緋ちゃん」

 「ば、バカなっ。おまえ、りょう――」

 「お姉ちゃん!」

 

 彼女が現れた途端、二人の少女が走り出して人垣の前までやって来る。

 群れを掻き分け、女性の前に立ったのは姉妹である両備と両奈だ。今にも泣き出しそうな顔で、目にはいっぱいの涙を溜めて彼女を見れば、辛いのか感動しているのか、あまりに大き過ぎる驚きのせいで些か混乱しているらしい。

 長い黒髪、白いワンピースの女性は二人の顔を見て、幸せそうに微笑む。

 

 「両備ちゃん、両奈ちゃん」

 

 聞こえる声は確かに二人が知るもの。

 彼女は、死んだ二人の姉である。生きているかの状態で笑顔を向けられればもはや感情が抑えられず、ぐっと唇を噛んで、涙が一筋頬を伝った。

 

 「お姉ちゃん、生き返っちゃいました」

 

 ごく一部の者だが息を飲む音が聞こえた。

 小百合は笑みを浮かべたまま目を閉じ、傍らに立つ若は何の感慨も見せずに無表情。しかし初めて見る彼女たちの様子に何か想うところがあったのか、決して声をかけることはなく、じっと二人の少女を見つめていた。

 



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一日目 1

 爽やかさを感じさせる波の音。肌をじりじりと焦がすような強い日差し。周囲に溢れているそれらはあまり馴染みがなく、どれほど眺めても飽きが来なかった。

 若はいつもの着流し姿、ぼんやりとした姿で砂浜に座って、波打ち際で遊んでいる水着姿の少女たちを眺める。普段は忍としての修行に明け暮れる彼女たちも、今ばかりはその時を忘れて、普段滅多に見れない光景の中で遊び、楽しんでいた。

 少女然とした元気な女の子は楽しげに笑って水の冷たさに気分を良くし、それよりも子供っぽさが残る桃色の髪の少女が彼女へ水をかけていた。その傍では微笑ましい光景を見るかのような、それでいて色気を含む目で桃色の髪の少女を見る銀髪の少女がおり、さらに三人を均等の距離に置く金髪の少女は何かを虎視眈々と狙うよう、膝のあたりに打ち寄せる波を感じながら両手をわきわきと怪しく動かす。ずいぶん個性的な少女たちである。

 独特ではあったが平和な姿であった。若の表情もどこか柔らかく、年上らしいと言うべきか、妙な余裕を持って彼女たちを眺めていた。

 その彼の下へ一人、少女が訪れる。他の少女と同じく水着姿、白色の薄い布地に局所を隠した格好で親しげな微笑み、どこか色っぽい感情を感じさせる。若の隣に歩み寄る姿は礼儀正しく、堂に入っていると言えるほど慣れて見えた。

 

 「若様、飲み物とタオルをお持ちしました。暑いですから汗を拭って、水分補給を怠らないでください。ここでは特に日射病や脱水症状には気をつけないといけませんよ」

 「ああ、ありがとう斑鳩」

 

 若に目を向けられ、感謝の言葉をもらった後、斑鳩と呼ばれた少女はふわりと微笑んだ。彼からの言葉がたまらなく嬉しいと、そう書いてある表情である。

 

 「いいえ、若様のためですもの。これくらいなんでもありません」

 「そうか。だけど、俺はいつも助けてもらってばかりだ。斑鳩が居てくれてよかった」

 「そ、そんな、大したことではありません。こちらこそありがとうございます。そう言って頂けるだけで、私はとても幸せです」

 

 やさしげに微笑み、頬は赤らんで可憐な姿。斑鳩は滅多に見せない顔を彼にだけ見せて、甲斐甲斐しく若の世話を始めていた。

 緩やかなラインを見せる肌に纏うのはまっ白のビキニのみ。肌の大半を見せ、長い脚や、大きく張り出した胸元にも汗をかき、それでもにこにこと笑顔が消え去ることはない。

 普段は背に垂らされている長い黒髪も、今ばかりは頭の後ろで一つに纏められ、気分はすでに南国リゾートでの休暇。彼女は若の世話に喜びを見出し、何かを期待しているかのような挙動で、やけに自分の肌を若へと近付けながら体を動かしていた。

 涼しげな表情を見せていても、さすがに強い日差しにやられたか、じんわりと汗を掻いた頬をタオルで拭う。一方でジュースが入ったグラスを若へと手渡し、水分の補給を促す。

 母にも近い、恋人とも妻とも見える姿である。親しげでやさしい仕草は堂に入ったもの、昨日今日だけ続けたわけではないことが簡単に伺い知れる。

 せっせと若を気遣いながら、できるだけ体を近付けようとするのもいつものこと。水着によって大部分が露わとなった白い肌を彼へ触れさせながら、斑鳩はさらに笑みを深める。

 

 「若様、少し気になるのですが……若様は水着にならないのでしょうか?」

 「ん? どうして」

 「い、いえ、その、別に私が若様の水着姿を見たいとか、たくましい体を見たいだとかそういうことではなく、あ、暑い気候ですから。いくら薄い生地だと言っても服を着たままだと体温調節が難しくなります。ですから、水着になってはいかがでしょうかと提案しただけであって、な、何も若様を脱がせようなどということでは――」

 

 やけに慌てた口調で、斑鳩は何かをごまかすように手を振りながらそう説明する。今、この場において服と呼べる物を身に着けているのは若のみ。他の少女たちは皆そそくさと水着に着替え、涼を取るために海辺で遊んでいる始末。

 知らない土地とはいえ、危険がないとは知っている。しかしだからといって些か平和ボケした光景だ。ただ、それは彼女たちが普通とは違った存在、忍であるからだと言える。己の実力に自信があるからこそ、警戒心を抱いていないようだった。

 若は無言で辺りを見回し、水辺で遊ぶ少女たちを、隣で必死に弁解しようと言葉を吐く斑鳩を見、納得したようにふむと小さく頷く。

 確かにこの場は海に囲まれた島。突然連れて来られてしまった場所ではあるが、目に見える危機はなく、先程からどうしようもない暑さを感じていた。斑鳩の提案は渡りに船とも言えるだろう。

 

 「うん、そうだな。確かにそれもいいかもしれない。でも俺は水着を持ってないぞ」

 「その点に関しましては問題ありません。私たちの水着を借りた購買部では、男性用の水着も用意されていました。お金はいらないそうです。なのでこんなこともあろうかと、すでに若様にお似合いになる水着もお借りしてあります」

 「そうか。なんだか妙に準備がいいな」

 「そ、そそそ、そんなことはありません! 私はただ若様のことを想い、お待たせする時間がないよう前もって行動していたのみであって、別に私が選んだ水着を着た若様のお姿を見たいなどと思ったわけでは――!」

 「でも、斑鳩が準備がいいのはいつものことか。いつもいつもすまないな」

 「……い、いいえ、これくらいなんでもありませんから」

 

 若に微笑みかけられ、斑鳩はまた少し頬を赤らめつつ、ふにゃりと表情を緩める。何やら慌てていた様子だが、彼の顔を見ただけでそんな心配も吹き飛んだようだ。

 話が纏まった以上、斑鳩としては一刻も早く若に着替えを渡したかった。別段他意があるわけでもない、と本人は主張しているが、その怪しい何かを感じさせる態度は若以外の者は全員が気付けただろう。準備が早いことといい、何やら怪しげな姿である。

 斑鳩が彼の手を握ったその時。この場から連れ出すために声をかけようとしたまさにその瞬間、海から上がってきた少女が二人へ声をかけた。

 頭の後ろで髪を縛った、元気な少女。やけに目立つ二人の姿に気付いたためだろう。飛鳥は楽しげな笑みを浮かべて二人へ近寄り、普段より弾んだ声で語りかける。

 

 「あれ? 若様も水着になるの?」

 「そうらしい。斑鳩が用意してくれたみたいだ」

 「へぇ、そうなんだ。さすが斑鳩さんだね。私全然気付かなかったよ」

 「実を言うと俺もだ。あんまり泳いだことはないから」

 

 ぽたぽたと体から滴り落ちる水が砂浜へ吸い込まれる。飛鳥は前かがみに上体を倒し、自分の膝に手を置いて若の顔を見る。ポーズのせいか、胸元が自然と寄せられ、強調するような姿勢。若自身はあまり気にしていないものの、傍から見ていた斑鳩は明らかにむっと唇を尖らせた。

 

 「え? でも若様、泳ぎは上手だよね」

 「うん、訓練を受けたから。でも海には来たことないし、泳いだことはない」

 「へぇ、海に来るの、何回くらいなの?」

 「一回だけ。山育ちだからな。海に来る理由があまりなかった」

 

 海の方向から吹く風が、やさしげに若の髪を揺らす。

 ひどく落ち着いた姿だ。普段から表情の変化に乏しく、はしゃぐ姿など見せないほど落ち着いた性格だが、今はそれがより顕著になっている。

 真昼間で空から降り注ぐ暑い日差し、真上に位置する太陽。波の音やどこまでも広がる海原。すべてが雰囲気を作る要因となって、若を包み込んでいた。

 ぼんやりとしながらも、どこか儚げで、なんとも言えない不思議な姿。飛鳥と斑鳩は時を忘れて彼の姿に見入り、じっと見つめるだけで頬を赤く染め始める。

 穏やかな時間、平和だと感じられる空間だった。争いのない海は彼と彼女たちをやさしく受け入れ、普段とはまた違った時間を与えてくれている。

 唐突に与えられた状況であったが、こうして落ち着いてみればなんとも心地よい。

 若の顔は無表情ながらも不思議とやさしく見え、ぽつりと呟かれる言葉は不思議と今まで聞いたことがないような気がして、聞き入れば感動すら含んでいそうだった。

 

 「昼間に見たのは初めてだ。案外きれいなものなんだな」

 「ええ、そうですね」

 「えへへ……若様も気に入った?」

 「ああ。これならもう少し早く知っておけばよかった」

 

 にこりと口元を上げ、今度こそ若がはっきりと笑った。

 その表情を目にして恥じらうように笑みを見せる二人はとても幸せそうで、普段の忍としての責務から離れ、今ばかりは一人の少女の顔が見える。

 飛鳥はくすぐったそうに体を揺らして微笑み、斑鳩はさらに若へと身を寄せた。今となってはその大きな胸がむぎゅりと彼の左肩へ押し付けられている。

 ずいぶんとのどかな光景である。これも彼らが常々マイペースに生きているが故か。緊張感は薄れて肩から余分な力が抜けており、忍としての立ち振る舞いなど残されていない。

 

 「で、では若様、そろそろお着替えの方を。私もお手伝い致しますので、あちらの方に」

 「あ、そういえば斑鳩さん。若様の水着ってどんなの?」

 「えっ、ええ? いえ、それは、その、見てのお楽しみということにしておいてください。先に言ってしまっては楽しみがなくなってしまうでしょう?」

 「斑鳩さん、ちょっと焦ってる……ひょっとしてまた何か変なこと考えてる?」

 「な、何を言うんですか飛鳥さん。そんなはずありません。私はただ、発表するのならちゃんと時を選んだ方がいいというだけで――」

 「わかった! えっちな水着買ってきたんでしょう! それとも更衣室で二人っきりになってえっちなことするつもりだったか!」

 「な、ななな、何を根拠にそんなことを!?」

 「斑鳩さんが焦ってる時って、絶対変なこと考えてるんだから。どうせまた抜け駆けしようとしてたんでしょ? だめだよ、若様独占して斑鳩さんばっかり良い想いしちゃ」

 

 突然何事かを思いついたらしく、飛鳥は唐突に腕を組んでしかめっ面を見せ始めた。どうやら斑鳩の態度が怪しいと気付いたらしい。

 彼女は若への忠誠心、及び執着心というものが他よりずば抜けて大きい。それゆえに普段から不穏な行動が多く、ともすれば自分の仲間たちを差し置いて彼と深い仲になろうと画策する。今となってはもはや当たり前だと感じられるほどその頻度が多いようだ。

 つい今しがたもその空気を感じたようで、飛鳥の目はじっとりとした視線を斑鳩へ投げかけ、慌てふためく彼女は必死に弁解しようとする。ただその慌てる態度から尚更怪しいと感じられるようになり、許すどころか、ますます飛鳥の態度は彼女を疑い始めた。

 

 「ち、違います。私はただ、若様の御体を心配して、体調を崩さぬようにと配慮していただけです。人聞きの悪いことを言わないでください」

 「うーん、ほんとかなぁ……」

 「大体、私が抜け駆けなどしたことがありますか? そういう誤解を招くような発言は控えてください、イメージが悪くなるでしょう。若様の前では特にやめて頂きたい――」

 「抜け駆けはしたことあるよ。それもたくさん。いっつも気付いた時には若様と斑鳩さん、二人だけどこかへ消えちゃってるんだもん。あれは抜け駆けじゃないって言うの?」

 「うっ……そ、それは、若様の体調のことを考えてのことでして」

 

 あたふたとしながら弁明を続ける斑鳩に、片時も彼女から厳しい視線を離さない飛鳥。二人に前後を挟まれ、若は尚ものんびりと海を眺めている。どことなく異様な光景であった。

 そうしていると若の目にそれが入った。海から上がってこそこそと、白昼堂々で見晴らしのいい砂浜だというのに妙に慎重に歩いてくる人物がいる。

 徐々に近付いてくる彼女もまた、三人の知り合いであり、仲間だ。警戒する理由もないため、若は別段気にした様子もなく、その行動の行方を見守る。

 歩き方を見れば目的などすぐにわかる。なにせ彼女が常々欲していることなどたった一つだ。それはもはや日常茶飯事、いつもの光景。今さら止める理由もない。

 弁明と事情聴取に必死になっていた二人に気付かれることもなく。いつの間にやら飛鳥の背後には長い金髪を揺らす青の水着姿の少女が立っており、砂が大きく動かないようそっと足を動かして、不思議と前に掲げられた両手は怪しげに指を動かしていた。

 そして意を決したように勢いよく、両手は脇の下を通って飛鳥の胸を鷲掴みにする。

 

 「もらったァ!」

 「きゃあっ!?」

 

 突如として背後から胸を鷲掴みにされ、そのまま得意げに指が動いて揉みしだかれたせいで、予想外の状況に飛鳥は思わず悲鳴を上げる。対して彼女の胸を揉む少女、葛城は上機嫌そうに笑みを浮かべ、光悦とした表情すら見せて嬉しがっていた。

 半蔵学院の忍学生、三年。飛鳥よりも年上となる彼女は胸の大きな少女へのセクハラを己が至福と感じており、こうした出来事は日常茶飯事となるほど繰り返している。飛鳥の胸を揉み、至福を感じて吐息を洩らし、恥ずかしがる彼女の反応を楽しむのもいつものことだ。

 下から掬いあげるようにしてたわわに実ったそこを掴み、上へ持ち上げてたゆんと揺らし、指に力を込めてぐっと肌の中に埋もれる。非常に手慣れた様子を見せる両手の動きはなんとも鮮やかで、これでもかと巧みさを感じさせた。

 葛城が指を動かす度、飛鳥は驚きながらも体を小さく震わせ、ある時目を閉じて声を洩らしてしまう。驚きと衝撃が大きくて抵抗はほんのわずか。そんな恥じらいを感じる反応を見せるが故に、葛城の笑みはさらに深くなって調子に乗ってしまうのだ。

 

 「やっ、ちょっとかつ姉、急に何して、んっ――」

 「うっしっし、よいではないかよいではないか。どうせ減るもんじゃあるまいし、ちょっとくらい揉ませろよぉ。抵抗しても無駄だ、夏がアタイを強くさせる……!」

 「もう、いやっ、離してよかつ姉――あんっ」

 

 ぐにぐにと形を押し潰し、指を埋めて感触を楽しむ。驚くほど柔らかくて、同時に張りもあって、若さというものが嫌というほど掌に伝わる。

 彼女自身も同世代なのだが、葛城はとにかく飛鳥の体を存分に堪能し、若い女体をこれでもかと楽しんだ。その表情は危険だと思えるほどだらしなく緩み、そうそう見れた物ではない。

 次第に鼻息が荒くなり、頬まで赤くなって徐々に雰囲気が変わってくる。葛城はついに飛鳥の耳元で小さく、痴漢する男のように怪しく囁いた。

 

 「ハァ、ハァ、飛鳥のおっぱいやーらかいよぉ……オジサンこのまま、行くところまで行っちゃおうかな。いいよね? ちょっとだけだから、すぐ終わるから」

 「やっ、だめ……うくっ、かつ姉、いい加減に――」

 

 ついに葛城の手が肌の上を伝って、胸を覆うビキニの下へ潜り込もうとした時だ。危機感を感じて咄嗟に顔色を変えた飛鳥はぐっと歯を食いしばり、覚悟を決め、素早く自身の両手を動かした。

 

 「もうっ、調子に乗り過ぎだよかつ姉!」

 「ん? あ――ぶへぇっ!?」

 

 気付けば頭上から大きな影が迫っており、突然葛城の背には巨大な蛙がのしかかって、砂浜に思い切り倒れることとなった。大量の砂が宙を舞い、自然と葛城が静かになる。

 唐突にどこかから現れ、そして消えていった蛙は飛鳥が呼びだしたものだった。秘伝忍法、という技法を使って行われる召喚忍術。蛙は彼女が得意とする召喚相手である。

 されるがままだった状態から一転、自らの力で暴漢を対峙した飛鳥はずれかけていた水着の位置を正し、恥ずかしそうに胸元を抱き締める。

 いくら忍であるからとはいえ、やはり恥じらいは捨て切れないらしい。しかし彼女もまだ十七歳、むしろそれが当たり前のように思えた。

 恥じらいを見せて唇を尖らせる飛鳥はジト目で葛城を見やり、倒れたままで砂に埋まる葛城はその体勢のままで顔を上げ、拗ねたように唇を尖らせる。二人の視線は合わさり、互いに距離を取ったままようやく落ち着いて話し始めた。

 

 「チェッ、なんだよ飛鳥、ちょっとくらいいいじゃんかよー。ただおっぱい触っただけだろ?」

 「それが問題なの。触らないでっていっつも言ってるじゃない」

 「わかってない。わかってないな、飛鳥。女性の胸がなぜ大きくなるのか知ってるか? それはな、揉まれるためだ。アタイに揉まれるために、世の女性の胸は日に日に大きくなって――」

 「そんなわけないでしょ! もう、いい加減にしないと怒るよ、かつ姉」

 

 砂まみれで倒れて不敵な笑い声を発する葛城に向け、ついに我慢できないとばかりに飛鳥が大声を出した。肩を怒らせて日頃の鬱憤をすべてぶつけるかのようである。

 彼女がセクハラを働く時、大抵真っ先に被害を受けるのが飛鳥だ。それは単純に胸が大きいからであり、反応が面白いためであり、同時に成長期真っ盛りなせいでもある。

 葛城曰く、揉めば揉むほど大きくなる。そんな飛鳥の体は彼女にとって絶好のターゲットでしかなく、こうして度々セクハラを働かれているのだった。

 

 「そんなにおっぱいを触りたいなら、自分のを触ればいいじゃない。かつ姉だって十分大きいんだし。私じゃなきゃいけない理由なんてないでしょ」

 「バカッ! 自分のを触って何が楽しい! 自分以外の可愛い女の子のおっぱいを揉むからこそ価値があるんだろうがッ!」

 「そ、そんなに必死に怒られても……とにかく、私のはだめ。かつ姉がいっぱい触るせいで、またサイズ大きくなっちゃったんだから」

 「いいことじゃないか。大きいことは魅力だぞ、飛鳥」

 「そんなこと言ってもだめ。大きくなっちゃうと、また下着変えなきゃいけなくなっちゃうんだよ。動く時に邪魔になったり、最近は肩だって凝って――」

 

 胸を下から持ち上げ、ゆさゆさと揺らし、思わず鼻息を荒くして凝視してくる葛城に対してそう説明している時、ふと飛鳥が気付いた。

 先程から妙に静かな自身の背後。そちらが気になって視線を向けてみれば、いつの間にか斑鳩が若と腕を絡ませ、どこかへ行こうとしているではないか。

 すぐさま状況を理解する。ついさっき注意したばかりで、ほんのわずかな時間の間に抜け駆けするつもりだ。飛鳥は咄嗟に大声を出して二人を呼びとめ、そこでようやく葛城も気付く。

 

 「斑鳩さん! 若様をどこへ連れて行くの! 抜け駆け禁止って言ったばかりじゃない!」

 「ハッ!? ち、ちち、違いますよ。これは抜け駆けなどではなく、その、た、ただ着替えをするために更衣室へ行くだけです。流石にこんな場所では着替えられませんから」

 

 油断も隙もあったものではない。若に関する事柄だけ、我を忘れて暴走しがちな斑鳩に向けた仲間たちからの共通の評価だ。

 普段は冷静で落ち着きがあり、皆を纏める上級生然とした彼女も、若が関わった時だけ冷静さを掻いて自身の欲望に走る。そのため常に目を離してはいけない人物であり、何をしでかすかわからない人間だった。いつでも若のことばかり考えている。

 若は基本的に趣味趣向を持たない。流れるままに生きると言うのか、普段からさほど自分の意思を表そうとしないのだ。いやむしろ、自分の意思を持っていないとさえ見える。

 斑鳩はそんな彼だからこそ甲斐甲斐しく世話をし、常に身辺警護を怠っていないわけだが、時にはその性質を利用してどこかへ連れ去ろうとしているらしい。

 この時ばかりは飛鳥も年上である斑鳩へ詰め寄り、再び問い詰めるように声をかけ始めた。今度は逃がさぬようにと、斑鳩が腕を組んでいるのとは逆側で若の手をぎゅっと握りしめて。

 

 「まったくもう、いつもそうやって二人で隠れちゃうんだもん。斑鳩さん、また二人っきりでしようとしたでしょ。ほんとにいつもいつも、そうはいかないんだから」

 「い、いいえ、全く違います。見当違いもいいところですよ。若様が水着に着替えられると仰るので、私は更衣室まで案内しようとしただけです。一切他意はありません」

 「斑鳩さんが連れていこうとしたんじゃなくて、若様が言ったんだね」

 「え、ええ」

 「つまり斑鳩さんが若様をどうこうしようってつもりじゃなかったんだよね」

 「当然です」

 「若様、ほんと? 若様がそう言ったの?」

 「斑鳩に着替えに行こうって言われた」

 「わ、若様っ!? それは内緒って今言ったばかりじゃ――!」

 「斑鳩さん……」

 

 じっとりとした視線が斑鳩へ向けられる。これまで何度も出し抜かれた経験があるせいで、飛鳥の視線も自然と厳しくなっていた。

 またしてもあたふたと慌て始める斑鳩に、視線も厳しく詰め寄る飛鳥、そして再び立ち上がってゆっくり彼女の背へと近付く葛城。誰もが普段通りの態度を崩してはいなかった。

 再び胸を鷲掴みにされた飛鳥の悲鳴が上がる頃、海に入っていた二人の少女も砂浜へとやってくる。幼さが見える桃色の髪の少女と、銀髪をツインテールに結んで右目に眼帯をつける少女。楽しげな雰囲気を嗅ぎつけて駆け寄ってくる雲雀と、世話をするように彼女を追う柳生が、再び砂浜へと腰を降ろした若へと近付いていった。

 

 「なんだかみんな楽しそうだねー。ねぇ、若様も楽しい?」

 「ああ。楽しいよ」

 「雲雀、水分はきちんと摂取しておけ。水に浸かっていたとはいえこの暑さだからな。気をつけないと日射病になってしまう。ほら、これを飲むんだ」

 「うん。ありがとう柳生ちゃん」

 

 雲雀もまた前かがみに若の顔を覗きこみ、警戒心もなく顔を寄せる。当然とばかりに胸が強調される格好となり、若ではなく柳生がそこへ吸い寄せられるように視線を向けていた。

 若はぼんやりした様子で言葉を返す。普段より少し表情が柔らかいのがわかった。

 楽しそうで何よりだと雲雀がくすぐったそうに笑う一方、その背後からは柳生が雲雀へと近寄り、彼女を心配するよう、斑鳩が用意していた水筒を手にしている。彼女を妹のように溺愛する柳生ならではの行動。抜け目がない姿は尊敬に値するほどだ。

 誰もかれもが普段通りの振る舞い、いつもと少しも変わらぬ態度。しかしやはり夏の気候がそうさせるのか、普段よりも少しばかり騒がしく、無邪気に楽しんでいる姿にも見える。

 暑い日差し、広い海、美しい景色。それらが彼女たちの気分を高めていたようだった。

 少女たちは一時、今ばかりは忍ということを忘れ、青春とも言うべきひと夏を楽しんでいた。

 喧嘩をするように騒がしい、それでいて幸せそうな声。それぞれ違っているとはいえ輝かんばかりの笑顔。心からこの瞬間を楽しむ彼女たちの姿を眺めて、若は落ち着いていた。

 突然やってきた夏と孤島。それらは彼女たちに困惑を与えたが、同時にこうして笑顔を与えてもいる。この時間は彼女たちにとって、確かに良いものとして受け入れられていたようだ。

 戦いとは無縁な平和は彼らから忍としての自覚を奪ったらしく、ひどく穏やかな一時であった。

 

 「コラァ! おまえら一体何やってんだ!」

 

 そんな平和な一時を切り裂く声が聞こえて、若は、或いは彼の傍に居た柳生と雲雀はそちらに顔を向ける。ずいぶんと怒りを感じる叫びだった。無視はできない。

 巫女装束に身を包む少女が三人、砂浜を大股で歩いてくる。

 目には燃えるような怒りが灯っていた様子。何気なくそちらを見つめて到着を待つも、あいにく何かをした覚えはない。三人は不思議そうな顔でじっと待つばかりだった。

 彼らの前にやってきたのは巫神楽三姉妹と紹介された三人で、何やら怒り心頭といった様子で若たちを見ている。特に怒りの念が強いのは先頭の少女、長女らしき人物である。

 そういえば名前を聞くのを忘れていた。若は首をかしげる。

 

 「おまえたちは……」

 「さっき会ったばっかりだろ。巫神楽三姉妹、蓮華(れんか)だよ」

 「うちは華毘(はなび)っす」

 「華風流(かふる)よ」

 

 三人横並びで、中央に立つ蓮華が答えた。

 次に口を開いたのが彼女の右側に立つ、ショートカットの髪を持つ華毘だった。活発そうで人懐っこい笑顔を見せる彼女が可愛らしい仕草と共に自らの名を告げる。

 さらに反対側、華風流が口を開いた。愛想のない顔で視線は厳しく、若を見る目も敵対意思はあっても友好的な物はない。華毘とはあまりに対称的な表情である。

 自分たちの名を告げた後、ふと蓮華が首をかしげた。

 そういえばと、先程顔を合わせた時は名前を告げる暇すらなかったと思い出す。

 加えてその青年、美少女たちに囲まれた唯一の男性が話に聞いていた人物だと気付き、途端に数秒前の怒りに似た感情を忘れ、パッと笑顔を輝かせて彼にのみ意識を集中させていた。

 

 「そういえば自己紹介はしてなかったか。あんたが噂の若様かい?」

 「噂?」

 「小百合様から話を聞いたんだ。ずいぶん腕が立つらしいね」

 

 にこりと笑みが浮かべられる。

 好奇心を表す顔は親しげに見えて、一方で戦意を滲みだそうともしている。

 些か奇妙な雰囲気に感じられ、気付いた柳生が眉をひそめた。本来彼女たちは若の護衛のために日頃から傍に居る。平和な日常の中では彼が襲われることなど滅多にないが、今この瞬間には緊張感を持たずにはいられなかった。隣に立つ雲雀は別段何を気にするでもないものの、柳生は姿勢を整えて蓮華に厳しい目を向ける。

 何も気にせず、若は蓮華から感じる戦意を受け止めた。

 

 「俺と戦いたいのか」

 「そりゃもちろん。あんたとのケンカは面白そうだからね。でも――」

 

 蓮華の目がちらりと柳生を見て、笑みを深くする。

 この場で武器を取ったところで邪魔されるだけだろう。よく訓練された護衛役だ。油断もなければ隙もなく、一目で相当の実力者なのだと理解できる。

 今はまだ早いと判断した蓮華は腰に手を当て武器を取らず、あくまで友好的な態度で話した。

 

 「流石にここじゃやれないね。それよりあんたたち、何遊んでんだい。もう忍の盆踊りは始まってるんだよ。さっさと他の学校のヤグラを壊しに行ったらどうだ」

 「あの、本当に戦わなきゃいけないの?」

 

 叱るような口調で蓮華が言えば、首をかしげる雲雀が尋ねる。

 幼い仕草で人さし指を唇に当てて、不思議そうな声色。心底わからないと言わんばかり、嘘や嫌味が一切感じられない純粋な瞳で、前方に立つ三人の少女たちを見つめていた。

 

 「だって私たち、戦う理由なんてないよ。こんなにきれいなビーチに来たのにどうして戦わなきゃいけないのかな。みんな仲良くした方がいいと思う。若様だって、そんなの望んでないよ」

 「あんたバカ? 話を聞いてたらわかるでしょ。あんたたちがここに来たのは忍の盆踊りをするため、夏休みじゃないのよ。きれいなビーチがあったって忍は戦わなきゃいけない運命にあるの。はい論破」

 「そうっす、忍の盆踊りのための忍結界っすよ。準備にかなり時間かかったんすから」

 

 華風流と華毘が続けて言う。すると雲雀はぐっと唇を噛んだ。

 言い返すことができない。確かに自分は忍であってただの学生ではない。戦うための訓練は毎日継続しているし、実際にこれまで忍と戦ったこともある。戦いが避けられない運命にあることも以前から理解していたはずだ。

 可愛らしい容姿の眉間に皺が寄って、思い悩む様子。

 途端に隣に立つ柳生が彼女を庇うように前へ出て、鋭い視線を二人へとぶつけた。

 華風流は鼻を鳴らして受け止めるが、唐突なことに華毘は肩をびくつかせて驚いた。忍学生とは思えないほど強烈な殺気。数分前まで遊び呆けていた少女には見えなくなっていたようだ。

 

 「ずいぶん一方的な意見だな。オレたちは勝手に呼び出されたに過ぎない。そんな物に参加すると言った覚えはないぞ。つまり、おまえたちに従う理由などない」

 「それは忍の本分を忘れてるって言うのよ。自分の恥部を自ら晒すなんてね」

 「なんだと……」

 「フフン、プライドも持ってない忍学生って哀れよね。何か反論ある? あるなら聞くけど、もう何も言えそうにないわね。だったらこれで終わり、はい論破」

 

 穏やかな風景の中で剣呑な空気が漂う。

 柳生と華風流は睨み合い、周囲で見る雲雀や華毘が恐れるほどの迫力が伝わり、今や大気の震えすら感じさせた。ただし蓮華だけは笑みを浮かべ、余裕綽々といった様子。むしろこの空気を楽しんですらいる。若は静かにそんな彼女たちを眺めていた。

 どちらかが手を出さないか、と思える頃、割り込むように斑鳩が二人の間に入る。

 少し離れた位置には動揺した様子の飛鳥が心配そうにしており、ふざけるのをやめた葛城も彼女たちを見つめていた。いつの間にやらビーチにある雰囲気は変わっており、呆れているらしい斑鳩が仲裁しなければ止まらなかったようだ。

 両手を伸ばして二人を止めて、斑鳩は小さくため息をつく。

 

 「お二人共、そこまでにしておきましょう。いがみ合っているだけでは何も解決しません。お互いにわかり合えないのなら、まず落ち着いて話し合った方がよろしいのでは?」

 「そ、そうだよみんな。こんなところでケンカなんてやめよう」

 「出会ったばっかで仲悪いなぁ。気分が和まないならお姉さんがマッサージしてやろうか?」

 

 葛城が両手を怪しく動かしながら笑うと、三姉妹の顔に緊張が走った。

 妙な動きにねっとりしたいやらしい声。同じ女性でありながら嫌な予感が背筋を這い回り、流石に平静を保つのも難しい。三人の視線は葛城に集まり、毒気を抜かれた柳生も敵意を霧散させてため息をつき、傍に立つ飛鳥ですら呆れた目を彼女に向ける。

 ひとまず戦闘の危機は去ったようだ。空気が一気に緩んでいく。

 そこでようやく雲雀は安堵してため息をつき、柳生の顔を見て微笑んだ。

 気付いた柳生も彼女に目をやって薄く微笑む。彼女を見れば肩の力が抜けたらしい。

 仕方なくといった様相を残しつつ、蓮華と華風流も戦意を納めた。どうやら今すぐにも戦いたかったようで、望んだ展開にならなかったのは残念だったと見える。ただ華毘だけは戦闘を回避できて安堵したのか、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 その後で雲雀が辺りを見回し、ようやく気付く。

 いつの間にやらそこに居たはずの若と斑鳩の姿が見えない。どこへ行ったのかとビーチを見回してもどこにも姿はなく、心配して表情を変えながら遠くまで見渡す。

 やはり二人を見つけることはできず、多少気落ちした声で呟いた。

 

 「あれ? 若様と斑鳩さん、どこに行ったのかな。さっきまで居たのに」

 「え? あっ、斑鳩さん、また――」

 

 一足遅く気付いた様子の飛鳥が小さく呟いた。

 先程一人だけ抜け駆けしようとした人物の姿はすでにその場へなく。

 呆れた飛鳥は緊張感を完全に消し去り、呆れて思わず盛大なため息をついた。

 



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一日目 2

 妙に急かして若の手を引く斑鳩は誰かから逃げるようで。速足で歩く二人はビーチを離れ、近くにあった簡易の更衣室へと入った。こじんまりとした男性用の一室で固く扉を閉める。

 しっかりと鍵をかける様を見つめても若はぼんやり眺めるまま。

 この状況を理解しているのかいないのか、文句の一つも言わずに立ち尽くしていた。

 

 「ふぅ。騒がしくして申し訳ありません。さぁ若様、早速お着替えをしましょうか」

 

 振り返った斑鳩は喜々とした笑みを表していて、普段の冷静さとは裏腹、わかりやすい様子がありありと見えた。ビーチに居た時とは目の輝きまで違っている。

 彼女は片手に持った鞄を床へ置いて静々と若に歩み寄り、そっと胸に手を置く。

 控えめながら甘える素振りに見え、受け止めるのも慣れている若は顔を見つめていた。

 頬を上気させ、目は潤みを帯びて何かを期待するよう。

 斑鳩はの胸に頬を預けて、上目遣いで普段とは違う声を発した。

 

 「私がお手伝い致します。水着に着替えましょう」

 「俺も泳ぐのか?」

 「できればお願いしたいです。普段はこういった機会もないのですから、思い出を作るにはいい場所ですし……ですが無理にとは言いません。若様のしたいように振舞っていただければ。ただ、やはりこの気候では汗を掻くでしょうし、体のことを労わって肌を出した方がいいと思います。決して、いやらしい意味ではなく。若様の御体のことを考えればこそです」

 「俺は別に構わない」

 「ありがとうございます。ふふ、それでは、まず服を脱ぎましょうか。私がお手伝いしますので、どうぞ体の力を抜いてください。すぐに済みますよ」

 「悪いな」

 

 端的に答えれば斑鳩の手が若の体から服を剥ぐ。

 帯を解いて床に落とし、着流しを脱がせる。するりと手の中に持てば若の肌があっという間に露わになり、熱っぽい溜息が吐き出された。妙に色気のある音である。

 着流しを畳んで、帯もきちんと回収し、室内にあるベンチへ置いた後。鞄の中に用意している水着を取り出すよりも先に斑鳩は若の胸に頬を寄せ、何も言わずにちゅっと音を立てて口付けした。

 大した反応はない。だが無言で頭が撫でられる。

 彼なりに受け入れる気があるということだろうか。或いはただの習慣か、どちらにしても怒る気は微塵も感じられない。嬉しくなって思わず強く頬ずりしてしまう。

 すでに斑鳩は当初の目的をほとんど忘れて、自らの欲求ばかりを優先している様子。

 それを咎めることなく若の手が彼女の背を抱き、髪に指を絡ませる。すると斑鳩の笑みがさらに深くなり、だらしなく呆けて、今や目も当てられなくなっていた。

 鍛えられた胸板に何度もキスを送る。ちゅっちゅっと小さな音が鳴って、所々わずかながらに赤い痕が残り、その度に部屋の静けさが余計に際立つようで。

 顔を上げた斑鳩の目は恥辱と興奮で濡れていて、ただ視線を合わせるだけで彼女の意思が若へ伝わった。とめどない興奮はもはや抑えようがなく、彼の体を求めていることが伝わる。

 

 「若様、なんてたくましいお体……私、もう我慢できません」

 「したいのか?」

 「も、申し訳ありません。我慢しなければと思っていたんですが」

 「いいぞ。俺は構わない。斑鳩がそうしたいなら」

 

 斑鳩の笑みは輝き、目は期待に満ちてキラキラしていた。

 わずかに頷いて首を伸ばす。再び若と口付けを交わし、今度は舌を出した。

 積極的な態度で斑鳩が若の唇を舐め、応えた若も舌を絡める。ぴちゃぴちゃと卑猥な音が鳴って、ますます斑鳩の頬の紅潮が増していった。

 そうしながらも手が下に降り、彼の下腹部へ触れる。

 若の股間を覆う物は白のふんどしだ。そっと指で触れて脱がせようとし、着せ方を知っているためか、ひどく簡単にそれを脱がしてしまった。

 萎えたペニスが露わになる。

 キスに没頭しながらそちらにも意識を移動させ、持ち上げるように掌がそっと亀頭に触れる。やさしい力でぐりぐりと押し付けるよう触れてやれば、徐々に力が入って芯が感じられる。

 固さは徐々に増し、ゆっくりと勃起してきた。

 舌を絡めながら斑鳩は笑みを浮かべ、固くなったそれを握って上下に扱き始める。

 そっと唇を離し、至近距離で見つめ合う。斑鳩は幸せそうに微笑んでいて、いつしかそれを見た若も普段より幾分表情を柔らかくしていた。

 恋人のように抱き合いながら、若が彼女の髪を撫でた。

 

 「んっ……若様」

 「なんだ」

 「体が、熱いです。どうかこの火照りを治めてください」

 「わかった。それで斑鳩が喜ぶなら」

 

 胸板に頬を擦り付けて、感極まった彼女は濡れた声で甘えるように告げた。

 

 「私はもう、若様なしでは生きていけません」

 

 顔を見上げ、目を閉じて唇を尖らせ、キスを要求しながら。右手だけでペニスを扱く様はひどく手慣れて淫靡さを感じさせ、常に冷静な若の表情を変えさせる。

 確実に快感は与えられていた。

 その気になった若は彼女の唇を塞ぎ、両手を尻に伸ばして肉をぎゅっと掴む。途端に甘い声。嫌がるどころか斑鳩は彼の行為を気持ちよさげに受け入れている。繋がった唇の隙間から甘い声すら出ていた。とても大きな幸福感に包まれる。

 また無言で愛撫を続け、静かな時間が続いた。

 換気も行わない、冷房もつけない密室はむっとした空気に包まれていくようで、徐々に体温が上がっていく。端的に言えば熱いのだ。二人は深いキスを続けながら玉のような汗を掻き始めた。

 頬を伝い落ち、全身を濡らす大量の汗。海水に触れるのとはまた違った状況だ。

 もはや互いの汗を舐めることすら気にならず、一心不乱にキスを続ける。そうしながらも斑鳩の手はペニスをやさしく揉んで刺激を続けて、若の両手は肉厚の尻を揉んで離さなかった。

 しばらく続いたキスが終わると、異様に厚い室内で二人は汗まみれ。

 それでも外へ出ようという気はなく、斑鳩がその場へしゃがみ込んだ。

 

 「はぁ、失礼します。これを、ご奉仕させて頂きますね」

 「ああ。頼む」

 

 手で触り続けた、汗に濡れるペニス。勃起したそれにゆっくり舌を這わせる。

 アイスを舐めるのと同じように。美味そうにも見える顔で集中し、色欲に支配された目は彼のペニスを見つめて離さない。凄まじい執着が感じられた。

 自分の存在を擦り込もうとしているのか、熱心に唾液を絡める。竿に舌を巻きつけ、カリを丹念に舐め、割れ目に舌先を突っ込もうとした。慣れた様子で余すところなく刺激する。

 しばし舌での愛撫を堪能した後、亀頭をぱくりと銜えた。

 口をすぼめて強く吸い付き、頭を振って頬の内側を自ら突かせ、ペニスを口内の至る所に擦り付けていた。彼女のそれはひどく熱心でとても心地よく、気持ちがいいと溜息が漏れる。

 若は斑鳩の頭を撫でてじっと顔を見下ろした。

 嬉しそうな表情は嘘ではなく、視線に気付くと上目遣いに、若の顔を見つめながらしゃぶりつく。じゅるじゅると卑猥な音が鳴り、快感が波のように襲い掛かっていた。

 腰の内側から伝わる波に気分を良くし、薄いながらも若は笑みを浮かべる。

 

 「気持ちいいぞ、斑鳩。おまえは上手いな」

 「んんっ、んふっ、ふっ……んぷ、ありがとうございます。若様のためならこれくらい、努力も惜しみません。私で気持ちよくなって頂きたいですから」

 

 上機嫌な彼女はさらにペニスを深く銜える。

 亀頭は喉に達するほど呑み込まれ、苦しげにも見える表情だがどこか幸せそうで、喜々として自らペニスをしゃぶっている。彼女の献身的な奉仕は驚くほど熱烈だった。

 決して若を離さずにじゅるりと音を鳴らす。

 丹念な舌使いはしばらく無言で続けられたものの、ある時若が彼女の頭に手を置き、気付いた斑鳩と目を合わせると声をかけた。竿に手を添え、亀頭に吸い付いたまま話を聞く。

 

 「おれも斑鳩を舐めたい。横になってくれるか」

 「んんっ、んぶっ、はっ、若様、それは――」

 「互いに舐め合おう。俺もこのまましてもらいたい」

 「わ、わかりました。恥ずかしいですが、若様がそう仰るなら」

 

 そう言うと斑鳩は自ら彼の体を離れ、おずおずと更衣室の床へ寝そべった。

 大ぶりの胸がたぷんと揺れて、恥ずかしげにそっぽを向く。けれど逃げるような素振りはなくて、頬を赤らめて期待を伺わせる目は若の行動を待っていた。

 落ち着いた様子で若が彼女の上へ覆いかぶさる。ただし体の上下は逆だ。

 斑鳩の顔へペニスが突き出され、若の顔の前には水着に覆われた股間がある。

 態勢が整えばどうすればいいかは言われずともわかるようだ。互いに何も言わず、斑鳩は差し出されたペニスを再び口に含み、舌を絡め始めて、若は片手で水着をずらすとそこを舌で舐めた。

 ほんのわずかに毛が生えた秘所。割れ目を舌でつついて徐々に濡らす。

 くぐもった声が聞こえて、感じているのが伝わった。亀頭をしゃぶる動きに変化はないが羞恥心を感じて股を擦り合わせて反応する。冷静とは些か遠い、可愛らしい仕草だ。

 汗のしょっぱさを感じながら、丹念な舌使いで没頭し続けた。

 室温がさらに上がるようにも感じられ、それも気にせず相手の股を刺激する。そうしていると確かに心地いいが、更なる快感を求めて欲求が首をもたげる。

 勃起して包皮を剥いたクリトリスを軽く歯で噛んだ若は、腰を跳ねさせて反応する斑鳩の下半身を見やり、小さな声で告げていた。

 

 「もう十分濡れてるんじゃないか。溢れてきてるぞ」

 「んんっ、はぁ、はい……大丈夫です」

 「そうか。なら、入れよう」

 「お、お願いします。あ、でも少し待って」

 

 体を起こし、向きを変えて抱き合おうとした若を斑鳩が止める。

 ぐったりした様子だがなんとか起き上がって、若と共に立ち上がった。二人は正面から抱き合って肌をぴたりと合わせ、吸い付くような感触を覚え、頬を緩ませながら見つめ合う。

 背に手を回し、斑鳩の右手はペニスを掴んで自らの下腹部に擦り付けた。

 潤んだ目は期待を表す。熱い吐息が若の胸を打った。

 

 「できればこの態勢で挿入してください。あの、激しくしてほしいです」

 「わかった。期待に応えられるよう努力する」

 

 狙いが斑鳩につけられたため、腰をぐっと突き上げればペニスが膣の中に挿入された。途端に斑鳩は首を振って吐息を漏らし、光悦とした表情に変わる。

 気分が高ぶって強く抱きついて来る彼女を受け止め、ゆっくり腰を動かし始めた。

 肉をかき分けるようにペニスが前後する。その擦り付ける動きがなんとも心地よくて快感を与えられ、どうしようもなく体が震える。斑鳩の唇が若の首筋へ吸い付いた。

 熱い息を吹きかけながら無意識のうちに腰を振っていたようだ。

 自らの股から卑猥な水音が鳴るのを知りながら、自分の意思では止めることができない。かくかくと浅ましい様子で腰を振ると一心不乱に膣でペニスを扱きあげた。

 

 「んんっ、はぁ、あぁっ……」

 

 ぐるりと腰を回せば刺激される場所が変わるようで、思いのほか刺激がいい。

 気付いた斑鳩は少々動きを変える。

 目を閉じて集中し、ますます息は乱れていった。

 

 「はぁっ、あぁっ、すごいです若様……たくましいっ」

 「斑鳩、気持ちいいぞ」

 「はいっ。わ、私も、最高です……!」

 

 徐々に前へ体重を寄せるため、若が足を踏ん張って耐えることとなった。

 腰を動かすのは斑鳩だけとなり、一方的に刺激する。きつく締める膣でペニスが上下に激しく擦られて、快感は強まるばかり。しかしより感じているのは彼女の方だ。

 冷静さを失っていない若は余裕を称えて快楽を楽しむ余裕があるが、すでに斑鳩は気分ばかりが高まって冷静さを欠いている。自らが責め立てながらも追い詰められていくのは自分だった。

 息が乱れる。汗が噴き出して首を振れば髪から飛んだそれが地面へ落ちる。また、抱き合う若の肌をも濡らしていた。目を開けてその様を見つめると不思議に嬉しくなり、自分と彼とが一つになっている感覚が、体と体液が交わって隔たりがなくなっていく感覚が得られる。

 まるで肉体と精神が一つになっていくようだ。そんな風にすら思っていた。

 だらしない笑みを浮かべて若の顔を見る斑鳩は、疲れたのか腰を止める。緩慢な動きで若に全身を預け、一人では立つことすらできていない。信頼してすべてを預けていた。

 荒い呼吸が室内に響く。重苦しいほど熱い空気に包まれ、二人はしばし立ち尽くす。

 環境が違えば感じ方も違うのか。どちらも新鮮な気持ちを味わっていたようだ。

 

 「ふぅ、んん、すみません。少し、力が抜けて……」

 「熱いからな。辛ければいいんだぞ」

 「い、いいえ。若様が満足するまでやめるわけには」

 「俺が動けば問題ない」

 「えっ、あっ――」

 

 若の手が左足をぐっと上げさせ、片足を上げた状態の斑鳩はさらに強く若に寄りかかる。

 驚きを感じている暇はないらしい。今度は若が腰を振り始め、ずぶりと深くまでペニスが膣へ突き立てられたかと思えば、子宮口に先端がぶつかる。

 一瞬、呼吸を忘れるほどの衝撃。脳髄までビリビリと震わされた彼女は驚愕した。

 彼との行為には慣れたと思っている。もう何度となく抱き合っているし、そこを亀頭で叩かれた回数も数えきれず、子種を注がれるなど日常茶飯事。今更驚くことはないと思い、脚を持たれた時点で覚悟もしていた。なのにたった一度ペニスで肉を抉られただけで自分のすべてが乱される。

 思考が形を成さなくなって、音もなく涙がこぼれる。

 深く息を吐いた彼女はもはや顔を上げることもできなくなり、顔を若の胸板に押し付け、声を我慢するかのように唇をきゅっと結ぶ。無駄な行動だろう、とは思いつつ。

 我慢できるはずがない。彼はあまりに彼女のことを知り過ぎている。感じる部分もどうすれば喜ぶかも、今日まで共に過ごした時間で多くを理解しているのだ。

 勝てるわけがないと思っていると、勢いをつけて若が腰を振った。

 

 「あっ、あっ、あぁっ、はぁぁっ――!」

 

 まだ余力を残して反応を伺うかのような速度。けれどすでに斑鳩が動いた時より速い。

 カリが引っかかって肉をかき分け、膣内で分泌された体液が掻き出される。無色透明なそれは床に落ちるとわずかな音を発して、見る見るうちに広範囲を濡らしていく。

 一度動かす度に量が増えていくかのようで、次々足元が濡れていった。

 裸足でそれを感じる若は、もう余裕がない斑鳩の顔を見下ろし、頭に口付けを与える。

 感じ取っている余裕などないのだろう。泣き叫ぶような嬌声を聞き、右手で尻を掴んでぐっと引き寄せた。動きに応じてさらに深くペニスが突き刺さる。

 

 「んあっ!? はぁ、うぅ……!」

 「イキそうか」

 

 掠れた声で囁けば必死な様子でがくがくと頭を縦に振る。

 限界は近い。会話することもできそうにないか。

 左脚から手を離し、下ろさせて、若の両手が尻の肉を掴んだ。

 さらに強く腰がぶつけられる。亀頭が子宮へ叩きつけられ、嬌声が高くなった。

 

 「はぁっ、あぁっ、あっ!」

 「もういいぞ。いつでもイケ」

 「んんあっ、あぁぁっ――!」

 

 首を逸らせたかと思えば唇を塞がれていた。

 二人は深くキスをし、舌を絡めた状態で最後の瞬間を迎える。斑鳩の腰が淫らに前後して誘うよう、直後に全身が震えて絶頂へ至っていた。潮を吹いて若の脚が濡らされる。

 一方の若はまだ射精には至っておらず、気持ちいいと感じながら冷静な表情。必死に唇で舌に吸い付いてくる彼女の頭を撫でてやり、あやすように触れ続けていた。

 呼吸が落ち着いていない。だが震えが止まる頃には目を閉じた顔に笑みが浮かんでいた。

 唇を離し、名残惜しそうにする顔を見つめる。

 いまだ呼吸が整わない斑鳩は若の頬に両手を置き、うっとりした目でじっと見つめる。その表情は恋をする少女の物であって、向けられる感情がわからないほど若も子供ではなかった。

 お返しに頬を撫でてやり、くすぐったく笑う彼女へ声を出す。

 

 「イったか?」

 「は、はい。お恥ずかしながら……申し訳ありません。私一人だけが気持ちよくなって、勝手に達してしまって」

 「気にするな。俺も気持ちよかった、感じていたのは斑鳩だけじゃない」

 「ですがまだ大丈夫です。どうか続きを。若様にも満足して欲しいですから」

 

 再び斑鳩が数度キスを与え、応じるべく若も顔の向きを変える。

 ちゅっと小さな音が何度も起こった。飽きることなく繰り返し、十回はしただろうか。それでも満足した様子はないが斑鳩の方から顔を離して、目を見つめ合った状態で言う。

 

 「私が動きましょうか?」

 「いや。態勢を変えたいな」

 「お好きな体位を仰ってください。若様のためならどんなポーズでも取ります」

 「後ろからがいいな。立ったまましよう」

 「わかりました。それでは……んっ」

 

 繋がったまま、斑鳩が器用に足を動かして体の向きを変える。

 向き合う態勢から若が彼女の後ろに立つ状況へ。大きな尻が下腹部に押し当てられて、膣の内部に触れる角度が若干変わり、両手はおもむろに乳房を掴む。

 よっぽど胸が好きなのだろうと、気を悪くするどころか良くした斑鳩が微笑み、体の全面まで伸びてきた腕を掴み、自ら小刻みに腰を振る。

 ペニスが刺激され、即座に若もその気になった。胸を掴んで態勢に問題はなく、ペニスの出し入れを再開する。その瞬間からぐちゃりと音が鳴って、愛液が掻き出された。

 一突きごとに体を揺り動かされる斑鳩は若の腕を持ちつつ、前を向いて目を閉じ、声を発した。

 

 「あっ、あっ、んっ、んっ――!」

 「すごく蕩けてる。いい感触だ」

 

 若のペースで突かれるのは気分がいい。自分で動くよりよっぽど気持ちよかった。

 どちらも彼と繋がっているのならば文句はないのだが、やはり抱かれている時の方が安心する。口元にわずかな笑みを浮かべる斑鳩は幸せそうな表情で、我慢せず安心して嬌声を放つ。その声が室内で妙に反響し、耳の中に残るのは彼女の声が大半だった。

 腰と尻がぶつかり、肉を打つ音が連続する。

 淡々と腰を動かす若はまだ余裕があるように見えるも、斑鳩を気遣ったのか、それとも長くその場に居続ける気がなかったのかもしれない。ある時から急速にペースを上げ始める。最初はただただ気持ちよさそうに喘いでいた斑鳩だがすぐに余裕を失っていき、笑みが消えた。

 眉間に皺を寄せて妙に力が入った表情。高い声で大きく鳴いている。

 一度達したばかりだというのに気分はぐんぐん高まっていき、このままではまた先に一人で限界を迎えてしまう恐れがある。それはいけないと唇を噛んで耐えるのだが、努力も空しく全身を苛む快感は抗いきれないもので、若の責めは本気で手加減がない。

 ハァと息を漏らせばもう声が我慢できず、再び口を閉じることなど不可能。

 斑鳩は達することの恐怖感と期待を抱きながら、大声で叫んだ。

 若の両手が強く乳首を捻った瞬間に限界へ達し、また頭が真っ白になる。脚ががくがく震えて今にも倒れそうな様子、口の端から唾液を垂らしてみっともない表情だった。

 

 「あっ、あっ、だめ、だめっ! イクイク、イキますっ、あっ、あぁっ――!」

 

 強烈な快感が体の内側で弾け、自分という存在が一気に揺らいだ。

 パンっと弾けるように視界を失くした斑鳩は我を忘れ、脚の力が抜けて崩れ落ちた。若が抱えるため怪我を負うことはない。二人して床へ座り込む。

 荒い呼吸を待つように動きを止めるが尚も二人は繋がったままだった。

 力が入らず背を預けてくる斑鳩を抱きしめ、膣内にあるペニスがぴくぴくと動かされ、微弱な快感で刺激を続ける。まだ一度も精を吐き出していないためそろそろ出したかったようだ。無理に動かそうとはせずに些細な動きをすれば、斑鳩が気付かないわけもなく、ひどくゆっくりな動きで若の顔を見る。快楽に支配された表情は普段とは違う美しさを称えていた。

 

 「はぁ、んんっ……わか、さま」

 「悪いな。まだ治まらない」

 「い、いいんです。私のことは、気にせず、続けてください」

 「だが疲れただろう。今日はいつもより感じてるように見える」

 

 乳房を離した右手が股間へ降りてクリトリスを触る。確かに存在感を示すそれを指の腹で撫でて、押し潰すように力を込めれば反射的に首が逸らされた。

 少量潮を吹いて、軽く達した様子。耐えきれずにだらしなく舌を伸ばしていた。

 斑鳩の痴態に気を良くする若は左手で胸を揉み、耳に舌を突き入れながらもやさしく声をかける。行動と彼女を気遣う言葉がそぐわないものの、別段何を気にするでもなかった。

 

 「もう少しだけだ。我慢してくれ」

 「はいぃ……どうぞお好きに。お好きに使ってください」

 「ああ」

 

 腰を振る。ゆっくりとした動作から始まり、徐々に速度を上げていく。

 卑猥な音がいくつも重なって、一秒たりとも休む暇は与えられなかった。

 それでも嫌がる素振りは皆無。光悦として声が出された。

 

 「あっ、んっ、あっ、あっ――」

 「今日はどこに出そうか。口に出したら飲んでくれるか?」

 「は、はいっ、もちろんっ。んっ、んっ、若様がお望みならいくらでも……!」

 「わかった。じゃあそうしよう」

 

 股に触れていた右手が口元へ運ばれ、開いた口から入り込んで舌を絡め取る。左手では相変わらず乳房を掴んでこねくり回し、妙に強気な態度。ペニスの出入りも速くなっていく。

 しばし無言で突き続け、静かなまま時間が流れる。

 どれほどそうしていただろうか。正確な時間はわからない。それほど長い時間はかかっていなかったが体感では数時間にも思える。汗が滴り落ちて全身が熱く、疲労や快楽でもはや忘我の状態。

 短い時間でさらに何度か達した斑鳩に対し、ようやく若が限界を感じる。

 激しく腰を叩きつけた状態で、落ち着きのある声で囁いた。

 

 「イクぞ。斑鳩、いいか?」

 「んっ、はっ、はいっ。い、いつでも……ううんっ、あぁっ!」

 「よし。おまえもイケ。最後の一回だ」

 

 ごつごつと亀頭で子宮を叩けば、斑鳩は全身を震わせて首を逸らすと絶頂を感じ。

 射精直前となった若は勢いよくペニスを引き抜き、へたり込んだ斑鳩が床に尻をついてなんとか座った態勢を維持すると、がに股になってペニスを突き出し、唇を割って口内に亀頭を突っ込む。

 数度腰を振り、舌の上でペニスを刺激させて射精を始める。

 濃厚な精液が大量に放たれ、喉の奥まで飛び込んだ。抵抗せずにごくりと飲み干す。

 目元で笑みを作る斑鳩は自らの意思でペニスへ吸い付き、尿道に残った精液をも吸い出した。嬉しそうにすべてを腹の中に納め、それからわずかに頭を振った。

 唇でペニスを挟んでずるずると扱く。名残惜しそうに口を離せば、唾液がたっぷり塗りたくられていた。それを見て満足そうに右手で握ってやわやわと刺激する。

 若は表情を変えず、何も言わずに彼女を押し倒し、あっと声を出す斑鳩に覆いかぶさる。

 至近距離で見つめ合った後、どちらからともなくキスを交わした。

 

 「んっ、ふっ……はぁ、若様、素敵でした」

 「俺も気持ちよかった」

 「満足、できましたか?」

 「ああ。ありがとう」

 「ふふふ、いいえ。私も若様に愛して頂けて満足です」

 

 舌を絡めてぴちゃりと音を発し、まどろむ時間が続く。

 一分ほどは舌を触れさせていただろうか。そっと顔を離すと斑鳩が強く抱きついた。

 互いに全身が汗まみれでべたべたする。そのことを再認識すると笑って若の頬を舐め、しょっぱいと感じながら嫌な顔一つせず、甘える声色の彼女が言った。

 

 「少し時間がかかってしまいましたね。みなさん待っているかもしれませんから、着替えて戻りましょうか。きっと今頃、飛鳥さんが探しているかもしれませんし」

 「そうだな」

 「でも、その前にシャワーを浴びた方がいいですね。このままだと私たちが何をしていたかバレてしまいます。せめて汗だけ流しましょう」

 「わかった。多分、バレると思うけどな」

 

 のろのろと二人で起き上がって、斑鳩が鞄を手に持つと、二人はそのまま外へ出た。

 暑い日差しの中へ淫らな格好のまま立つが、肌に風を感じたことにより気分が変わる。若は裸のまま外の空気を感じ、その場に立ってから斑鳩がずれた水着を正した。

 辺りに人目がないことを確認すると、鞄を下ろして中から若の水着を取り出す。

 両手でそれを広げた斑鳩は可憐に微笑み、ひどく布の面積が少ないそれを若へ見せた。

 競泳用か、或いはそれ以上に小さいビキニパンツ。光沢のある黒色で股を隠すだけの用途。裸に着れば健康的というよりも卑猥な様子を感じさせるだろう。

 斑鳩は心底楽しそうな笑顔でそれを見せ、若は大した反応を見せずに見つめていた。

 

 「さぁ若様、これを履いてください。若様の肉体美にはぴったりです」

 「それは、小さいんじゃないか」

 「そんなことはありません。若様が身に着けてかっこいいと思われるちょうどいいサイズを選びました。さぁどうぞ、足を上げてください。私がお手伝い致します」

 

 妙に生き生きとした様子で言われ、しゃがんだ斑鳩が萎えたペニスの眼前で若の顔を見上げ、微笑む。構えるように水着を足元へ運んで彼の行動を待っていた。

 仕方ないと、若が足を上げる。

 片足ずつ足を通して、腰まで上げられる。ようやくこれで裸ではなくなった。

 立ち上がる斑鳩は上機嫌に若の手を握ると、まるで恋人がするように手を引いて歩き出す。ひとまず更衣室の近くにあるシャワーへ向かった。

 外に設置されたシャワースペースへ辿り着き、水を出して頭からかぶる。

 抱き合いながら二人は互いの肌を撫で、汗を流す。そんな瞬間にふと斑鳩が彼の唇を奪い、キスを始め、すぐに舌を絡めるほど濃厚になっていった。

 

 「んんっ、んっ、ふぁっ……」

 

 色っぽい声が口の端から漏れた。目を閉じる二人は唇の柔らかさを感じて没頭し、周囲の状況もまるで意に介さず、野外の風を感じて独特の心地よさを覚える。

 しばしそうして体の火照りを取ろうとしていた。

 そこへ怒りを含めた声がかけられ、途端に斑鳩の肩がびくりと反応する。

 

 「斑鳩さんっ! もう、また若様を連れ回して!」

 「あ、飛鳥さん?」

 

 怒りを感じさせる足取りでやってきた飛鳥がシャワーを止め、強い眼差しで斑鳩を睨む。危惧していた通りだ。やはり目を離した隙に抜け駆けした。

 この状況では厳しい視線から逃れることもできず、斑鳩はただ苦笑することしかできない。

 

 「抜け駆けするつもりはないって言ったのに」

 「た、ただお着替えを手伝っただけですよ。私は別に何も……」

 「若様、本当に何もなかった?」

 「更衣室で一回出した」

 「ほらやっぱり!」

 「わ、若様、それを言ってはいけません……!」

 

 慌てふためく斑鳩に飛鳥は腕を組んで憮然とした様子。注意する者とされる者、普段とは立場が逆転していて若が不思議そうに二人を眺める。しかし一方的に責めるような雰囲気も一変して、表情を変えた飛鳥が若を見た。眉根を寄せて何やら困惑した顔だ。

 

 「まぁ、斑鳩さんへのお説教は後にするとして」

 「う、一応私、年上なんですけど」

 「それより若様、大変なんだよ。柳生ちゃんとあの華風流って子がいがみ合ってて――」

 「ん?」

 

 いじけるように唇を尖らせ、そっぽを向く斑鳩をそっちのけに。

 若は飛鳥の言葉に頷きを返した。

 



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ストリートファイター “悪を生む者”
蠢く悪(スト4・ジュリ)


シャドルーを相手に遊び続けていたジュリは、某国の山奥でアジトを発見する。
目標こそ見つけられなかったものの、そこで彼女はかつて拳を交えた男を見つけ、ある一つの遊びを思いついた。

・主人公の名前は『ストリートファイターZERO』から。適当です。


 

 ガシャン、と音を立てて棚ごと地面に倒れ込んだ瞬間、すでに彼女は意識を失っていた。

 肌にぴったりと張り付く紺色のスーツに身を包んで豊かな肢体を晒し、腕には赤いグローブ、足には長いブーツを履いて、戦闘員らしい彼女たちはたった一人の女に負かされていたのだ。

 その証拠に、明かりすら灯らない暗い廊下の中にある足音はたった一つだけ。コツコツという靴音ではなく、おそらくは素足だろうことが予想できるぺたぺたという小さな音。

 その音を広い空間に響かせ、巨大な建物の一番奥にあった広い部屋に入ったのは、にたりとした笑みを浮かべる女であった。

 

 「なんだ……ここもはずれかよ。まぁたあのおっさんがいねぇじゃねぇか」

 

 重低音を響かせて稼働するいくつもの巨大な装置を見つつ、女、ジュリはゆっくりと室内を歩いて辺りを確認する。彼女がここへやってきたのは目的があるからだが、ここにはその目的がないらしい。

 しかしある時、ジュリはぴたりと足を止めた。そのまま目の前にある装置に目を向け、トレードマークとも思える笑みすら消してじっと立ちつくし始めた。

 彼女の目の前には、影がある。ゴボゴボと所々が泡立つ緑の液体に包まれながら、円形の装置らしき物に入れられ、膝を抱えてじっと動かない人影。それはまさしく人間の姿であった。

 そして同時に、その人間はジュリにとって見覚えがあることが理解できた。かつて彼女が様々な土地を飛びまわっていた時、どこかで一度だけ戦ったことがある相手。自分に負かされながらも、決して諦めようとはしなかった変な奴。その記憶は確かに彼女の中に残っていた。

 その男が、服も着せられていない状態で何らかの装置に入れられている。これによって推測できる状況は、ジュリの知る限り一つだけだった。

 シャドルーによる洗脳行為。それ以外にはありえないだろう。

 

 「ふぅん、なるほど――こりゃおもしろい。こうやって手駒を増やしてるわけね」

 

 ジュリはにやりと笑って、軽い動きで飛びあがった。そのままの勢いを保ったまま素早い動作で足を振り上げ、一思いに振りおろす。

 すると当然とばかりに、男を包んでいた丸い装置はバリンという音と共に破壊され、男は中の液体もろとも装置の外側へと出された。

 べちゃりと床に落ち、小さくせき込みながらゆっくりと体を動かす男。筋肉はついているものの細い体には服の切れ端すら纏われておらず、完全な裸の状態だ。

 そんな彼の前に立つジュリは少しも恥ずかしがることもなくじろじろとその体を眺めた後、自力で立てそうにないほど弱っている男の前に膝をついて彼に声をかけた。

 

 「おい、あたしの声が聞こえるか? あんたの名前は? なんか覚えてることとかあるのか」

 「うっ……あっ……」

 「わからねぇのか? 何も? ふぅん……なるほど、つまり一度忘れさせてから新しい記憶を埋め込むのか。洗脳ってよりかは、新しく生まれ変わるって感じだな」

 「うぅ……」

 「あぁ、心配いらねぇ。あんたの世話はあたしがきっちり見てやるからよ。ふむ、そうだな……」

 

 面白そうだ、と笑うジュリは想いついたばかりの言葉をそのまま告げ、急に立ち上がるときょろきょろとあたりを見回し始める。

 まず必要としたのは彼の服、ではなく、彼に関する情報や資料だった。実際に顔を合わせたことがあると言っても、やったことは拳や蹴りを交えただけ、本当にただの戦いだけだったのだ。名前を聞いたわけでもなく、細かな話や噂を聞いたわけでもない。まずは彼のことを知る必要がある。

 そうして辺りを散策し、いくつもの資料を床にばらまいて、使えなくなっているコンピューターを破壊して、ようやく彼女は一枚の紙を見つけた。

 一番わかりやすく書かれている一つの言葉。ジュリは面倒だと言わんばかりに、それを男の名前として与えることにしたのである。

 いまだに意識を朦朧とさせているらしい男に近寄り、ジュリは屈んで紙を見つめながらぽつりと呟く。ひどく楽しそうな表情で。

 

 「おい、聞こえてるか? いいもの見つけたんだよ、クククッ――ゼロ・チルドレン計画。世界中の優秀なガキどもを使って、ベガの親衛隊を新しく作り直す計画だったみてぇだな。あんたはその記念すべき一人目ってわけだ。ご丁寧にあんたの顔写真が載ってるぜ。名前は残っちゃいないが――あんた、日本人だったんだな」

 「ベ、ガ……?」

 「ああ、あんたの記憶を洗いざらい奪っちまった奴さ。いけすかねぇ男だろ――だけどまぁ気にすんなよ。これからはあたしがあんたを飼ってやるから。っつうわけで、今日からおまえの名前はゼロだ。なんにもなくなっちまったあんたにはちょうどいい名前だろ?」

 「うっ……俺は……ゼロ……?」

 「ああ、そうだ。それであたしがあんたの主人、ジュリ様だよ。よく覚えておけ、その名前だけは忘れないように」

 「……ジュリ……」

 

 ぽつりと呟く男、ゼロの目にはどことなく生気が欠けたように見え、まるで人形のような姿にも見える。それでもジュリは彼が発したかすれた声に満足し、無理やりゼロを立たせて体を支え、どこかへ連れて行こうと歩き出す。

 助け出そうとしているわけではない、自分が彼をうまく使うためにいい物を与えようとしているのだ。うまく行けば自分の手駒がもう少し増える、そう想いながら。

 独自の理想を思い描きつつ、ゼロに合わせてゆっくりと歩き、ようやく辿り着いたのは先程ほんの少しの戦闘を行った暗い廊下。倒したばかりの女が二人、気絶したまま倒れている場所であった。

 ジュリは広い通路の壁に寄りかからせるようにしてゼロを座らせ、裸の彼の体を一度舐めまわすように眺めた後、にたりと笑って踵を返す。

 そして向かった先には倒れたまま動かない二人の女性。ジュリは自分に近かった方の女、ユーリという人間に近付くとすぐ、彼女の体に手を伸ばした。直後、ビリッという大きな音が廊下に響く。

 しばらくジュリは両手を動かしてビリビリと何かを破く音を響かせ、ゼロに背中を向けたまましゃがみ込んで動かなかった。しかしそれもようやく終わり、にやりとした笑みがゼロに向けられた時、陰になっていた場所に横たわるユーリが彼の眼にも映った。

 先程まではぴったりとした戦闘服のような物を着ていた彼女は、その大部分を破られて裸に近い格好となっていた。胸や股、本来ならば隠したがるそこを完全に見えるような格好にされていたのである。

 ジュリはユーリの細身を軽々と持ち上げ、のっしのっしと大股でゼロに近付いていく。そうして彼の前に来た時、ジュリはユーリの体を床に横たえながら小さく言った。

 

 「ゼロ、これだけは覚えときな。あんたがあたしに忠誠を誓ってる限り、あんたはとても気持ちのいい想いをすることができる。理解できたか?」

 「ちゅう、せい……? 俺はジュリに、忠誠を誓うのか?」

 「そうだよ。記憶を失う前のあんたとあたしはそりゃあ親しい関係だったんだ――こんなことする程度にはな」

 

 そう言って、するりとゼロにしなだれかかったジュリが、迷いのない動作で彼の唇を奪った。むっちりと厚い唇を力強く押しつけ、そればかりか舌を使って彼の口内に割って入り、ぼんやりと見開かれたままの瞳を見つめながら舌を絡ませていく。

 ゼロはそうされながらも何の反応も見せることなく、ただされるがままに口内を舐められる。かと思えば、ジュリの舌が熱くねっとりと彼の口の中で愛撫を続ける内に、舌を絡め、歯を丁寧に舐められ、そうした行為が続く内に徐々にではあるがだらりと力なく垂れ下がっていた陰茎がピクピクと反応し始めていた。

 記憶をすべて奪われ、これまでの十数年の体験や経験が無くなった彼にとって、その行為はひどく不思議なものだったのだ。人と人とが唇を合わせ、舌を相手の口内に這わせる。あまり意味が理解できない行為だったのである。

 しかし、なぜだか体は反応してしまう。何もされていない陰茎がピクピクと動き出し、むくむくと大きくなろうとしている。さらには彼女の指が乳首をピンと弾く度、なぜか全身がびくりと小さく震えてしまう。

 その不思議な反応を自分の体で体験しつつ、ゼロはぼんやりと目を開けてジュリの顔を見続けた。それだけでジュリは楽しそうに目元を緩めて、さらに深く口を合わせる。

 しばらく続いたキスが終わった時、触れられてもいないというのにゼロの陰茎はすっかり起ち上がって上を向いており、それを目で確認したジュリは満足そうな笑みを見せた。

 

 「どうだい、気持ちよかっただろ? あたしに協力し続ける限り、こういうことはいつだってできるってことさ。理解できたか?」

 「あ、ああ……不思議な感覚だったけど、悪くない」

 「そうそう、人間素直な方がいいぜ――というわけで、次の段階に進もうか。準備も万端らしいしな」

 

 すくっと立ちあがり、ジュリは突然服を脱ぎだして下半身を露わにした。

 すらりと伸びる足はつま先まで何も纏わず、つるりと毛の生えていない秘所はすでに水気を感じさせて、彼女もすでに興奮している様子を見せている。といってもジュリの場合はゼロとは違い、彼自身に興奮を向けているというより、無理やり無知にされた彼が言われるがままに自身に従っていることに対して興奮しているのだろう。

 ゼロの視線が自身の股に集中することを自覚しつつ、ジュリは彼の体を跨いでからゆっくりと屈んでいく。

 二人の股間、そそり立つ陰茎と、濡れそぼった秘所が触れあうのはすぐのことであった。

 

 「後がつかえててあんまり時間がねぇからな。とっとと終わらせて、次に行くとしようぜ」

 「うっ、おっ――」

 

 ずぶり、と陰茎が膣の中へと迎え入れられる。ジュリが座り込む彼の腰へと座り込んだせいであった。

 それからジュリはゼロの肩へ両手を置き、股を広げて床に足をついたまま、腰を上下に振り始めた。初めから情緒も何もない、ただ射精を促すだけの動き。性交を楽しむというより、単純な作業にも見える動作である。

 事実、ジュリが必要としているのは行為による快楽だけではないのだ。単純な快楽というのも好ましいが、頭に思い描いている快楽も早く欲しい。そのためには何も知らないゼロに教え込む必要がある。

 男が女の体を貪り犯す快楽というものを。

 そのために彼女は今、自分の体でゼロの上に跨り、自分の気持ちを高めながら自身の部下となる男に教育しているのである。

 

 「んっ、ふっ、あっ――」

 「ほら、気持ちいいだろう? 男と女ってのはこうやって、んっ、いっしょに気持ちよくなるもんだ――よく覚えとけ。女の抱き方って奴をな」

 「ふぅっ、くぅ――あ、あぁ、わかった」

 

 スクワットをするかのように、ゼロの体を跨いで勢いよく腰を振るジュリ。彼女もまた彼のようにだんだんと呼吸を荒くしていき、最終的にはきつく目を閉じてぎゅっと彼の頭を胸に抱きしめる。

 そうして何回ピストン運動を繰り返しただろうか。二人はさほど時間もかけずに限界に達し、それほどタイミングの違いもなく絶頂へと到達する。

 二人は呼吸を荒げたまま何も告げることなく同時に達し、ゼロは勢いよく射精を開始して、ジュリはその瞬間を見計らって腰をぐっと沈めて一番奥で受け止めた。

 あくまでも性欲を満たすだけのような、甘い言葉も愛情の表現もない行為。それは早々に終えられ、少しの休息も挟まれない。

 荒く息を繰り返して数十秒、ジュリは休憩する気も見せずに動き出し、まずは彼の陰茎を自分の膣から抜いた。ぬとりとした白い精液が、彼女の太ももを伝って床へと落ちる。

 

 「休んでんなよ、まだやることは終わってないんだから――むしろ本番はこっからなんだ」

 

 下半身を剥きだしにして歩く彼女は、ついさっき服を破って半裸に剥いたユーリの傍へと赴き、そこで体勢を低くした。気を失ったまま動かないユーリの体に跨り、腹に座って、ゼロに向けて股を開く女の足をさらに広げ出したのである。

 さらには秘所に指を這わせ、舌を這わせて、意識のないユーリの体を弄っていく。主に下半身ばかりを。

 ゼロはその姿をしっかりと視界に入れ、またしても股間が熱く滾っていく感覚を自覚していた。その時、ジュリの楽しげな声が耳に届く。

 

 「女の体の使い方はわかっただろ? だったらほら、今度は自分で動いてこいつをイカせてみな。それがこれからのあんたの仕事になるからさ」

 「俺の、仕事……? あの、気持ちいいのが……?」

 「そうそう、あの気持ちいいやつがあんたの仕事になるんだ。だからまず、こいつで試してみろって」

 「……」

 

 ジュリに告げられて、ゼロはゆっくりと動き出す。確かめるように自分の体をゆっくり動かし、立ちあがって、二人が重なるそこへ近付く。

 薄暗く幅の広い廊下を、ひどくゆったりと前に進んだゼロはユーリが足を広げたその間に体を挟みこみ、いきり立っている陰茎に右手を添える。もうどうすればいいのかはわかっているようだった。

 しかし実際に挿入を始めようとした時、彼はどこへ入れればいいのかわからず、薄く毛の生えたその場所に何度も陰茎をこすりつけ、それだけで快感を高めていく。

 見かねたジュリはやれやれと首を振りつつ、彼の陰茎に自分の手を添え、ユーリの膣の入り口へと導いてやった。

 

 「ほら、ここだ。思いっきり奥まで突っ込んでやんな」

 「ああ」

 

 そしてようやく、ずぶり、とゼロはユーリの膣の中へと入ることができた。それも勢いよく腰が突き出されたせいで赤く膨れ上がった亀頭はすぐさま子宮の入り口にまで届き、勢いもそのままに強くぶつかる。

 それだけでなく、ジュリが少しばかり唾液を塗りつけたとはいえ、ほとんど愛撫もされずに濡れていない膣内だ。相応の痛みがあったのか、ユーリは全身をビクッと震わせ、気を失いながらも確かな反応を見せた。

 しかし二人がそれを気にすることはなく、ジュリはにやにやと楽しげな態度のまま指示を出し、ゼロはジュリに従って腰を振る。ユーリの秘所からは、或いはゼロの陰茎には、少量の血が纏わりついていた。

 

 「ハハッ、なんだよ、洗脳されといてこいつ処女だったのか? おいおい、シャドルーの人間は全員ホモかよ。普通は犯すだろ、自我を失くした人形なんかよぉ。それとも案外、あれだけで裂けちゃったのかな?」

 「くぅ――ジュリ、なんか、動かしにくい」

 「んあ? あぁ、まだ濡れてねぇからだろ。心配しなくても突っ込んだり抜いたりしてる内に動きやすくなる。今は無理やりにでも続けてろよ」

 「ああ、わかった」

 

 ジュリの言葉に従い、ゼロは痛いほどに締め付けてくるそこに陰茎を差し込んだままゆっくりと腰を前後させる。ジュリの時と違ってその動きは苦痛すらある、気持ちよさのない動作ではあったが、ジュリが言うのだから、と彼は我慢しつつも続けた。ぐちぐちという色気のない音が、静かな廊下の天井にまで反響する。

 そうし続けるゼロの顔があまりにもひどかったのか。見かねたジュリはほんの少しのやさしさを見せ、自らの指を使ってユーリの陰核を撫で始めた。と言ってもそれは「撫でる」というほどのやさしさではなく、指で押し潰そうとするかのような荒い手つきであるのだが、いまだに意識を取り戻さないユーリはそんな手荒い愛撫に全身を震わせながら反応を見せる。

 ジュリが手伝い始めて少し。ようやく膣の中が少しずつ潤ってきたようで、苦悶の表情を見せていたゼロの顔色もゆっくりと落ちついていく。そればかりか「ほう」とため息をつきながら、表情を緩ませて快感を感じているようなのだ。

 時間はかかったがようやく見れたその表情に口の端を上げ、ジュリは乱暴に動かし続ける指より少し下、勃起した陰茎が出入りするそこを眺めながら呟く。

 

 「これだけ濡れにくいところを見ると、まさか本当に使われてなかったんじゃねぇだろうな。悪の秘密結社が聞いて呆れるよな、誘拐してきた女をマワさねぇってんだから――つっても、人形を抱いてるのと変わらないんじゃ、そりゃ面白くもないか。いや、っていうかそもそもやっぱシャドルーはホモ組織なのかもな。あたしもマワされた記憶とかねぇしよぉ。ゼロ、あんたはどう思う?」

 「んっ、あっ、あっ――き、気持ちいい……」

 「そうじゃねぇっての。あ、そうか、あんたのケツを調べりゃいいことだよな。使われた形跡があるなら、あたしの予想は確定ってことだ」

 

 そう言いつつ、まだたらりと白い液体を垂れ流す腰を動かして、ジュリは体を移動させる。ユーリの腰を掴んで一心不乱にピストン運動を続けるゼロの上半身を抱きしめ、まだ外気に晒していない胸に彼の頭を押しつけ、その状態から手を伸ばしたのだ。

 紫色のグローブをつけた手がするすると背中を伝って下りていき、やがてはきゅっと締まった尻肉の間へと指を這わせる。すぐに肝心の場所となる穴は見つかり、彼女の手は迷いもなく力を込めてそこに触れた。

 途端にゼロの体はビクッと大きな反応を見せ、それだけでぞくぞくと背筋を刺激されたジュリは一息に指先に力を込めて、ずぶりとそこへ指を埋める。ひどくあっさりとした光景で、ユーリの膣を弄るよりも簡単に終わった動作であった。

 

 「うあっ――くっ」

 「おやぁ? ずいぶんすんなり受け入れるじゃねぇか――まさかもうガバガバになってんじゃねぇだろうな? クックックッ、アッハッハ! 悪の秘密結社のボスは誘拐した女どもより顔のいい男を選んだってかぁ! 最ッ高に笑える話じゃねぇかよ、おいッ! あんたベガにケツ掘られて親衛隊入りする予定だったってことらしいな!」

 「あっ、はぁっ――ううん、んっ」

 「クックック、それともこいつはもっと前からか? まさか出会ったファイターども全員にケツ向けてたとかそういう話かよ? どっちにしても以前のあんたはずいぶんこっちでお楽しみだったみたいだなぁ。ほら、わかるだろ? 指を二本もすんなり受け入れてるぜ、あんたのケツ穴」

 

 突かれるがままに動かないユーリの腰から手を離し、ゼロはぎゅうっとジュリの腰に手を回して抱きつく。あまり大きくはない彼女の胸に顔が押し付けられ、得体の知れない歓喜に染められた表情は隠されていた。

 しかしジュリにはすべてわかっているらしく、彼の頭に左手をやって黒い髪を撫でつつも、右手の指は器用に折り曲げられて、勝手知ったるとばかりに尻の中を掻きまわしていく。それだけでゼロは面白いようにぴくぴくと反応し、自身の感覚に戸惑う様子のそれは存分にジュリを楽しませる。

 指の動きはますます速く、いやらしくなり、腰の動きを速めるゼロの快感をさらに高めていった。口の端を上げ、目元を潤ませ、頬をかすかに紅潮させて興奮を表すジュリの手によって。

 今となっては全力で振るわれる腰はぶつかるようにしてユーリのそこに叩きこまれており、力のこもらない眠ったままの体は一突きごとにぶるんと大きく揺れ、大きな乳房とがふるりと揺れるほどに衝撃は大きい。膣の中は最初が嘘のように湿っており、小さな呻き声を出すほどにユーリは快感を得ているようだ。

 そして彼女がようやく意識を取り戻し、うっすらと目を開けたその瞬間、ゼロは再び限界を迎えていた。

 

 「うっ、くっ、ジュリ――ジュリッ」

 「イキそうか? いいか、よく覚えときな。チンポの先からザーメン出す時はイクってちゃんと言うんだよ。それで、さっきと同じ――女の膣の一番奥で出してやるんだ。いいな?」

 「うぅ、わかった――あっ、ジュリ、イク、イクゥッ」

 「はいよ、出してやんな――この女の中にびゅーびゅーってね」

 「うっ、あっ――」

 

 最後の三振りほどを全力で叩きこみ、ゼロはユーリの膣の中で射精を開始した。ジュリの体をぎゅっと抱きしめたまま、彼女の乳房に頬を預けて上を見て、キスをねだるようにしながらだ。

 ジュリはこれに応えてやり、そっと唇を落として口づけを交わす。そうしながらも右手の指は尚も尻の中を掻きまわしており、同時に左手はドクンと脈動する陰茎の根元を掴んで、素早い動作で扱いていた。尿道の中に一滴も精液を残さぬようにとの配慮だろう。

 ジュリから与えられる新たな快楽を感じながら、ゼロは呆けた顔で彼女に身を任せ、二度目ともなって全く衰えのない射精を先程以上の長さで続けていた。

 ドクンドクンと陰茎が動く度、先端からは大量の白い粘液が吐き出され、ユーリの子宮口へとぶつけられていく。彼女はそれをぼんやりとした意識のまま受け止め、なんとなく理解し、それでも正常に動けずにいた。

 

 「あっ――ん」

 「おっ、やっと起きたのか。ようやく面白くなってきやがった――ゼロ、まだイケるんだろ? 出し終えたんならさっさと腰を振りな。それがあんたの仕事なんだから」

 「ああ、わかった――んっ、あっ」

 

 するりと体を離していったジュリの言葉に応え、ゼロは再び腰を動かし始める。絶頂したばかりだというのにすでに陰茎は固くそそり立っており、まだユーリの膣内にあるということもあって、彼女の肉の壁を中からぐっと押し上げている。

 これに対してまたもユーリはぴくりと反応し、ぼんやりと開けた目が焦点を合わすまでの短い時間、腰を動かす速度を速めたゼロにいいように突かれながら黙りこむばかり。目も口もぼんやりと開いたまま、まさしく人形のような姿である。

 しかしそんな状態も長くは続かず、ようやく意識が覚醒したユーリは突然表情を一変させて、驚きを隠せないとばかりに上体を起こそうと床に肘を置く。

 その瞬間、ジュリは一糸纏わぬ下半身を持って彼女の頭部を跨ぎ、淫らに濡れた股間を大きく開いたまま、一気に腰を降ろした。狙い澄ましたかのようにユーリの口元は彼女の陰部に押さえつけられ、再び冷たい床に倒れながらジュリの股で顔を押さえられる。

 くぐもった声しか出せないユーリは、楽しげに語るジュリの声を聞くしかなかったのだ。

 

 「んんっ、ぐっ、んっ――」

 「はいはい、わかってるわかってる。そう焦んなよ、すぐに気持ちよくしてやるから――だから代わりによぉ、あたしのも舐めてくんねぇか? 本当ならここにこいつのもんが突っ込まれてるはずなのに、あんたに無償で貸し出してやってるんだ、それくらいの奉仕は当然だろ?」

 「はっ、あっ、ジュリ――」

 「おいゼロ、ついでにこいつの胸揉んでやれよ。女を抱く時はマンコだけじゃなくて、色々弄ってやんねぇと感じねぇ奴もいるからよぉ、ただ犯すだけよりは速くものにできるだろうぜ。ほら、教えてやるから手ぇ伸ばせ」

 

 ぐちゅぐちゅと音を立てて、陰茎を使って膣の中を抉るゼロはジュリに手を取られて、ユーリが持つ大ぶりな乳房へと手を置いた。

 ふわりとした感触に多少驚きつつ、先程頬で感じたジュリのものとは少し違うその柔らかさは彼の心をときめかせ、ぴくりとまた陰茎を反応させる。

 ゼロはジュリに教えられるがまま、乳房を下から掬い上げるように揉んだり、左右から中央に寄せるようにして遊んだりと、感触を楽しむかのような両手は戸惑いなく動き続けていく。

 そんな中で、ユーリの口に秘部を押しつけたまま腰を上下や前後に動かしていたジュリが、笑い声に混じりながら言う。されるがままに体を弄ばれるユーリはくぐもった声を出すばかりだ。

 

 「よしよし、ついでに乳首も舐めてやれ。そこも感じるところだからな」

 「乳首――ジュリ、俺、ジュリの乳首舐めたい」

 「あぁん? あたしの? クックック、可愛いこと言ってくれるじゃねぇか――しょうがねぇなぁ。まぁこれから大事なパートナーになるんだ、それくらいは許してやるか」

 

 ゼロの言葉を聞いたジュリは嬉しそうに笑い、蜘蛛を模したような上半身を覆う服を脱ぎ捨て、小ぶりだが形のいい胸を露わにした。そのまま胸を張るようにして上体を傾け、ゼロもまた上体を前に傾ける。

 そうして彼の唇はジュリの胸に届き、小さく口を開けたその中にかすかに隆起したピンク色の乳首が含まれた。ぷっくりと膨らむそれはゼロの舌によって縦横無尽に転がされ、弱いながらも確かな快感をジュリに与える。

 思わずため息が漏れてしまうほどの感覚だった。二人は共に快感に身をよじり、ゼロは腰を激しく振りながらも口の中に広がる感触に意識を集中させ、ジュリは彼の頭を抱きしめ、撫でながらも愛おしそうに目を細める。

 ジュリの叱責が飛んだのはそんな時のことだ。

 

 「はぁ、ん、うまいじゃねぇか。初めてとは思えない――おい、手は止めるなよ。指でこいつの乳首を弄るんだ。ふぅ、あっ、使えるところは全部使ってイカせてやれよ」

 「んっ、ふっ、わかった」

 「んぅー! んふぅー!」

 「あぁ? うるせぇな。騒いでる暇があったらとっとと舐めろよ。新しい主人の命令にも従えねぇのか、このお人形ちゃんは」

 

 ジュリがゼロへ女の抱き方を指南しつつ、胸を吸われながら秘所をユーリの顔へと押し付けていると、今まではされるがままだったユーリがくぐもった声を上げ始めた。悲鳴、というよりも抗議や怒りのものに近い。

 しかしそれは虚しくも言葉に成ることはなく、さらには今までは機嫌のよかったジュリの顔色も一瞬で変わる。胸を熱心に吸うゼロの頭を撫でる手つきは変わらないものの、一目でわかるほどに表情が怒りに染まっていくのだ。

 だが顔面に女性器をこすりつけられているユーリにそれが見えるはずもなく、続けて抗議の声を上げていた彼女は急に先程よりも重くのしかかってきた股のせいで声すら出せなくなる。

 先程までは気分もよかったため手加減されていたものを、今や見るからに不機嫌になったジュリが一気に体重をかけたのだ。

 ユーリの悲鳴は、聞こえるかどうかというほど小さくなる。

 

 「ふっ、ぐ――」

 「おら、命令はすでにしただろうが。舐めろ。今のあんたにはそれ以外許されてねぇんだよ」

 「むぅぅ、ふぐっ、んんっ――」

 「ハハッ、このままだと窒息するかもな。あたしのマンコに押しつぶされてさぁ――そうなりたくねぇなら、早く命令を遂行しなよ、お譲ちゃん。まぁこのまま本物の天国に行きたいって言うなら別だけどさぁ。と言っても、あんたの場合は地獄の方がお似合いだろうけどねぇ」

 

 すでに愛液が分泌されて潤っているとはいえ、膣の中を乱暴に抉られ、男の陰茎に好き放題されながら胸を揉みしだかれ、さらには重くのしかかる股間によって呼吸ができない。ユーリの混乱は酸欠と共に頂点を迎え、彼女はじたばたと両手両足を動かしながらも状況を変えることはできず、ついには諦めた。

 焦りが見える必死の姿で唇の奥から舌を出し、すでに顔面に触れているジュリの秘所を舐め始めたのだ。

 できる限りの範囲で舌を動かし、技術も何もなくとにかく秘所へと触れ、彼女が満足することを願って舐める。呼吸ができないせいで死が目前にまで迫っているのだ、こうなるともはや誇りも何もあったものではない。

 従ってユーリは必死にジュリへの愛撫を続けるのだが、それでも彼女は気にいらない様子で表情を変えない。胸を吸い続けるゼロを見る目はやさしくとも、自分の股の下にいる人間には微塵も慈悲を与えないつもりだ。

 ふいに、ジュリが腰を上げて濡れそぼった股をユーリの顔から離す。

 

 「ぷはっ――かはっ、はっ――んむ゛っ」

 

 しかしユーリが息継ぎをした瞬間にまたも体重をかけてのしかかり、再び彼女の呼吸を奪う。

 押しつけられた股間は一度の性交で非常に濡れており、ユーリのすっと線が通った高い鼻や、ぷっくりと厚い唇を見事に塞ぎながらも透明な液体を塗りたくり、もはや冷静さを保てないユーリは体をバタつかせることすら忘れて必死に舌を伸ばした。

 濡れたそこをしっかりと舌の全体を使って舐めまわし、時に膣の中へ差し込むようにと舌先に力を入れ、思考もはっきりしないままにジュリへ快楽を与えようと努力を続ける。

 そんな最中に、今の今までユーリの膣を穿っていたゼロが限界の声を上げる。

 

 「くぅ、はぁ、ジュリ、イク――もう、イクっ」

 「いいぞ、その代わり一番奥だからな」

 「むふぅー! んんっ、んふぅー……!」

 「ああっ、イクっ」

 

 そう言った途端、三度目となる射精は開始され、ユーリの中で二度目の膣内射精が始められる。

 すでに三度も絶頂しているにも関わらず、ゼロの陰茎から子宮口に向かって飛び出す精液には何の陰りも見られない。量も変わらず、ぷるりとした粘着性も変わらず、白濁していることにも変わりはない。

 そのせいで入りきらなくなった分の精液がユーリの膣から溢れだし、大量の精液がゼロの下半身と床を汚す。

 それを見たジュリはまた楽しそうに笑いつつ、腰を上げ、今まで股の下敷きにしていたユーリの顔を見ながら話し始めた。呼吸を乱すユーリの顔はひどい有様になっており、だらしなく開けられた口からはだらりと舌が伸び、目は正気を失くしたかのように白目をむいていて、そのまま呼吸を整えようと何度も空気を吸っているのだ。

 この時彼女は朦朧とした意識の中、顔を解放されて呼吸ができるようになったこと、自分の膣の奥に射精されたこと、そして今まで自分の体に与えられていたのは嫌悪感や不快感ではなく、快感だったということが理解できた。ありとあらゆる情報は正常な思考を取り戻した彼女をさらに大きく混乱させ、どうすればいいのかという判断を失くさせてしまう。

 にやりと、ジュリが笑っていた。

 

 「どうよ、気持ちよかっただろ? あたしのパートナーは中々筋が良くてよぉ、こいつといっしょにいられたらこれから毎日でも気持ちよくなれるんだぜ」

 「はぁっ……はぁっ……まい、にち」

 「ああ、そうさ。そういうわけだからよぉ――あんたはもうあたしの奴隷だから」

 「な、なにを――んぐっ」

 

 何を言われたのかわからず、目を見開いて驚くユーリ。そんな彼女の膣の中を再びゼロの陰茎が抉り始める。

 三度の射精を終えても尚即座に回復し、完全に勃起した状態で腰を振る。それを可能とするのは、やはりシャドルーの肉体改造のせいなのだろう。

 そう当たりをつけるジュリではあったが、実際のところさほど興味がある問題でもない。彼女にとって重要なのは、見るからに絶倫な彼は想像していた以上に使える男だったということだ。

 

 「アッハッハ、こりゃいいや。もう三回もイッといてすぐ勃つのか。やっぱあんたはいいパートナーになりそうだなぁ、ゼロ」

 「んっ、はっ、ジュリ、キスしたい」

 「あたしとか? クククッ、おまけにいい感じに惚れこんでるらしい。こりゃいいもん見つけたな」

 「んっ――」

 「あっ、はっ、はぁんっ!」

 

 ゼロは勢いよく腰を振ってユーリの膣を責め立て、乳首をぐりぐりと指先で弄り、同時にジュリと唇を合わせて舌を絡める。ひどく淫靡で、およそ普通ではない光景だ。

 それを少し前からじっと眺め続ける存在があった。

 彼女は顔を真っ赤にしながらもゆっくりと後ずさりを始め、尻もちをついたままバレないようにと動き続ける。傍にあった倒れた棚に触れ、カシャンと音が鳴ったのはその時だった。

 

 「あっ――」

 「――なぁんだ、もう起きちまったのか。もうちょっとこいつで遊んでからと思ったのによぉ」

 

 その時、ユーニという女は覚悟を決める。

 自身の相棒があんな痴態を見せるほど変えられたのに、自分だけが助かるわけがない、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 友人から手紙が来た。

 そのことに思いのほか喜んでしまったことを恥ずかしいと感じつつ、しかし嫌な気持ちではないことを理解して少し笑ってしまった。

 彼に会ったのは今から二年ほど前。忘れもしない、よく覚えている。

 当時、少しばかり腕っ節が立つことから多くのファイターに目をつけられた彼は疲労困憊のまま連戦をこなし、見かねた私が乱入して彼を助けた。

 それがきっかけだった。

 

 「あ、あの……ありがとうございます。ええっと、え~……た、助かりました」

 

 拙い英語で、必死に気持ちを伝えようとする姿は愛嬌さえあり、幼い外見のせいもあってどこか可愛らしいと思える子だった。

 聞けば、日本で英語を勉強していたものの初めての海外旅行だったらしい。おかげでたまたま出会った相手が何を言ってるのかわからず、ファイティングポーズを向けられたから自分もファイティングポーズを取るとすぐにストリートファイトが始まり、断ろうにも英語がわからず何も言えなかったそうな。

 そこで私が乱入して助けに入ったものだから、彼の私への懐き具合は凄まじいものだった。これまで外国では他人と関わる時間が少なかったのだろう。彼はたどたどしい英語でしきりに私へ話しかけ、しばらく二人で話をした。

 大したきっかけではなかったかもしれない。他にドラマのような展開があったわけでもないし、誰かに聞かせて楽しませられるような出来事もなかった。しかし私たちが仲良くなるにはそれだけで十分だったんだ。

 そんな、しばらく会っていなかった彼から手紙が届いた。しかも、私に会いたいのだという。これを嬉しいと思うのは至極当然だろう、うん。

 

 「手紙か……ふふ、会いたいだなんて、らしくもない。いつもは気まぐれに、突然私の前に現れるのに」

 

 手にした薄っぺらい紙を読みながら呟くと、近くの窓からにゃあんと声が聞こえた。そちらを見てみると、もうずいぶんと前に私と顔見知りになった子猫がいる。

 ちょうど、彼と私とで助けてやった黒猫だ。

 

 「そうだな――おまえみたいに、自分の都合でふらりと現れる男なのにな」

 

 頭の中に彼の姿を思い浮かべて、くすりと笑みをこぼしてしまう。自分でも、まさかこれほどまでに楽しみになるとは思わなかった。

 あぁ、楽しみだ。早く彼に会いたいな。

 らしくもなくそう想いながら、私は窓から跳んできた子猫を腕に抱きとめた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「んはぁっ! すごいぃっ! おマンコぐじゅぐじゅでぇ、ゼロ様のチンポに掻きまわされちゃうのォッ!」

 「おー、すげぇなゼロ。もう八人目だってのにあっという間に陥落か。相変わらず女鳴かせの絶倫だなぁ、おい。あたしと会った時は刀を振りまわしてた女が、今じゃあんたの上で必死に腰振ってるじゃねぇか」

 「ん、ジュリ」

 「はいはい。まったくとんでもねぇ野郎だな。これだけ裸の女に囲まれてるってのに、帰ったらすぐあたしとキスか――んっ」

 

 その暗く広い室内は、淫靡という言葉では足らないほど快楽で満ち足りていた。

 中央に置かれた大きな円形のベッドには一糸纏わぬ裸の美女たち。あらゆる国からやってきた女たちが自ら股を開き、乳を寄せ、唇を尖らせて一人の男に群がっている。

 ベッドの中心には、一人の男。細い体には薄い筋肉がついており、さほど頼りになる外見というわけでもないがやけに目を惹く形をしている。顔は幼くも見えるあどけないものなのだが、目つきばかりはやけに鋭い様相を持っていた。

 男は無表情のままで大の字に寝そべり、サツキという女を腰に跨らせて下から突き上げ、右手をフェヴリエという女の股に差しいれ、左手をメルツという女の胸に挟ませて指先を舐めさせている。さらに仰向けに寝る彼の胸にはアプリーレとユーニが唇を寄せてぺろぺろと乳首を舐めまわしており、じゅぷじゅぷと水音を立てる根元ではジウユーが舌を突き出して玉を転がし、ユーリが尻の穴を舐めて、最後の一人であるディカープリは彼の顔に跨って秘所を舐めまわされていた。

 しかし、ジュリが仮面で顔を隠すディカープリを蹴り飛ばしたことによって、彼女の体はベッドの上へと投げ出され、代わりにジュリの唇が男の唇を塞ぐ。そこからはねっとりと舌を絡ませる行為がしばらく続き、仮面のせいで混じることができないディカープリは仕方なしに自慰を始める。

 それらがすべて、無理やりこの場へ連れて来られたキャミィの目の前で行われているのだ。

 すでに緑色のレオタードは力ずくで破られて捨てられ、身に纏っているのは赤いグローブとブーツのみ。赤いベレー帽は彼女が驚いた際に床へ落ちてしまい、今は金色の三つ編みも力なく垂れさがるばかり。まるで彼女が感じた驚愕や絶望をそのまま体現したかのようだ。

 今、腕を縛られ、裸に剥かれたまま床に転がされるキャミィの目の前で、ひどく現実離れした痴態が繰り広げられている。

 その中心には、彼女が会いたがっていた大事な友人の姿があった。

 

 「――ぷはっ。さぁてそろそろ説明してやらねぇとな。えっと……キャミィ、でよかったっけ、お人形さん。まぁいいや――ほら、あんたが会いたがってた男だよ」

 「あっ、あっ――」

 

 男と唇を離したジュリがベッドの上に座ったまま振り向き、じっと目の前を見つめ続けるキャミィへと声をかける。しかし彼女にその声は届かない。

 そんなことよりも大事なことは、目の前にいる友人がなぜ、そんなことをしているのかということだった。

 

 「あはぁっ! ぜ、ろ……ゼロ様ァッ! んんぎっ、きもち、いいっ――」

 「ふはぁっ、んんっ、ゼロ様……は、早く私にも、お情けを――」

 「ゼロ様ッ、ゼロ様ァッ――んっ、はっ、あぁっ……」

 「どうよ。ちょっと見ない間に男前になっただろ? なんせ女八人を同時に侍らせてイカせてんだからな。見てみろよ、ベッドの上なんか精液だらけだぜ。クククッ、これじゃあここに座っただけで妊娠しちまうかもな。あーあー、そうなりゃあたしもこいつのガキを授かるのかねぇ」

 「なっ……あっ、かっ……」

 

 ジュリが言う通り、ベッドの上はキャミィから見ても凄惨たる光景だった。

 裸の女たちの体がそうであるように、部屋中至るところが白い粘液に覆われていて、鼻にツンと来るようなきつい匂いがこれでもかと充満しているのである。しかし女たちも男もそれを全く苦にはしておらず、淫らに体を揺らす女たちに至っては好んでそれらを体に付着させ、指で掬って口に運んでいるようだ。しかも頬を赤く染めて、うっとりと眼を細めながら体を震わせる始末。とても正常な光景とは思えない。

 少なくともキャミィはじっと目の前を見つめて戦慄している。これは、この世の光景ではないと。

 彼がこんなことをするのはありえない、夢ではないのかと、現実逃避をするほどに。

 

 「クッ、クックック――アッハッハッハッハ! なんつー無様なツラ晒してんだよッ! 最ッ高……! あんたのその顔最ッ高だよ、そうだよそれ、そういうのが見たかったんだ!」

 「なん、で……だって彼は、そんな、どうして……」

 「ククッ、自分の目が信用できねぇってか? そりゃあそうだよなぁ――自分が惚れてる男がザーメンまみれで腰振って、女を八人も同時に相手して、あんたに目を向けることなくセックスしまくってるんだからなぁ……そりゃあそういう顔にもなるよなぁ」

 「うそだ……そんな、だって――彼は」

 

 自分は今、ひどい顔をしている。

 するすると服を脱ぎながら近寄ってくるジュリを視界の端に入れながら、キャミィはちゃんと自覚していた。しかしそんなことは関係ない。それよりも、そこで行われていることが信じられなかった。

 あの人懐っこい少年が、ベッドの上で寝そべり、あらゆる女たちを全身で相手しながら、以前からは考えられなかった行為を続けている。それも無表情で、あの愛くるしかった笑みはないまま、自分に一瞥すら寄こすこともなく。

 

 「自分が好かれてるとでも思ったか? クックック、思い上がりもここまで来ると面白れぇよ。所詮あんたもあいつらと同じ、要するに性欲を処理させるだけの道具でしかねぇんだよ。あぁ、でも心配すんな、あいつはやさしいから自分専用の肉便器は大事に扱うぜ? 見ろよ。あいつの顔に跨ってるあんたにそっくりの女なんか、連れて来られてから三日三晩犯されちゃってさ、今じゃ常にマンコ弄ってないと気が狂いそうになるらしいぜ。ただ、あんなどうしようもねぇ感じになってもちゃぁんと相手してもらえるんだ、それだけで満足ってもんだろ?」

 「う……あ……」

 「はっきり言っといてやるぜ――あいつの一番は、このあたしなんだよ。さっきの甘ーいキスだって見たろ? あたしが帰ってきた時と、どっかへ出かける時、必ずあたしがキスしてやらねぇと寂しそうな顔してさぁ、ほんとまいっちゃうんだよなぁ――」

 「そんな――いやだ、いやだ、いやだ――」

 

 ガラガラと何かが崩れていく。それと同時に、自分という存在が浮かびあがって体を離れ、どこか遠くへふわふわと飛んでいくような錯覚を覚える。

 キャミィは間違いなく、自身の精神を崩壊させていた。認めたくない現実と、こうであってほしいと願った空想とがせめぎ合い、捻じれ、互いに形を壊して最後にはゼロになる。

 いつしかその目の中からは先程まで存在していた強い光が消え去り、代わりに空虚さを伺わせるぼんやりとした瞳だけが残る。

 ジュリは高らかに笑い、大きくのけぞって天を仰ぎながら笑い声を響かせた。

 

 「アッハッハッハッハ! アッハッハッハッハッハッハッハ!」

 「いやだ――いやだ――」

 

 ジュリはただ笑い、キャミィは力なくぶつぶつと呟き続ける。そしてそんな二人の声に混じるかのように、女たちは更なる快楽を貪って声を上げ、横たわる男、ゼロへと群がっていく。

 

 「あぁっ、あはぁっ、ゼロ様ァッ」

 「私も、もっと、もっと欲しいですッ。ゼロ様の子種、もっとたくさんたくさんくださいッ」

 「あはぅぅ、あへぇぇ、えへへへ――せーし出てるぅ。私のおまんこ、しきゅうに向かってせーし出てるぅ」

 「ふっ、ふっ、んっ、はっ」

 

 ぐちゅぐちゅという淫らな音はいくつも重なって室内に響き、床の上でだらりと体を投げるキャミィの耳にも届いている。しかし、今さら彼女に何かしようと思えるほどの気持ちもなかった。

 なにせジュリが両手の拘束を解いても暴れ始めることもなく、ただ黙って床に寝ころび、じっと下から女を突き上げるゼロを見つめ続けるばかりなのだ。もはや真新しい反応を期待できるような姿でもないだろう。

 しかしジュリには考えがあった。かつては人形と呼ばれた自分をやさしい姿に変えてくれた一人の男、それを奪われて放心する彼女に、かける言葉がある。

 ジュリは近くの床に飛んでいた精液を指で掬いあげ、それをキャミィの視界に入るよう持っていく一方で身を倒し、うつ伏せで横たわって動かない彼女の上に体を重ねた。

 右手でキャミィの唇にどろりとした精液を塗りつけ、左手で尻の奥にある無毛の割れ目をゆっくりと撫でる。そうした愛撫を丹念に続けながら話し始めた。

 

 「あいつを振り向かせる方法はあるぜ――あんたがあいつの肉便器になればいいんだ」

 

 つつっ、とキャミィの視線がゆっくり動く。光を失くしたそれは確かに動き、今はすぐ傍にあるジュリの顔へと向けられている。

 それを見たジュリは背筋がぞくぞくと震えるのを抑えきることができなかった。かつての人形が再び人形に戻ったのに、まだ救いを求めて自分を縋っている。そうした想いがたまらないのだろう。

 彼女は尚もキャミィの秘所をやさしく指でほぐしながら、希望を失ったキャミィにとっての救いを与える。

 

 「言っただろ? あいつは自分の肉便器は丁寧に、やさしぃく扱うんだ。つまりあんたがあいつと一生いっしょにいたいと思うなら、一番手っ取り早いのは好きな時に抱いてもらえる肉便器になることだよ。そうすりゃあんたはいつでもあいつのチンポを拝める。触るもよし、舐めるもよし、マンコに入れてザーメンが噴き出すほど中出しされるもよし。すべてはあんたら二人の思うがままだ」

 「私と、彼が……」

 「そうさ。それにうまくいきさえすればよぉ、あんたとあいつの間に子供が生まれるかもしれない。あんたはそれほど長い寿命は持っちゃいないだろうが、ガキはどうかわかんねぇだろ? 未来に希望を残すって奴さ。どうだ、泣けてくるだろ?」

 「私と、彼の、赤ちゃん……」

 「そう、そうなんだよ。それじゃあそれが理解できたところで――あとはどうすればいいかわかるよな?」

 「……うん」

 

 嬌声が重なり、淫靡な宴は続く。

 しかしその中に少しの変化をもたらしたのは、やはりこの空間を完全に支配する彼女。

 

 「おら、てめぇらちょっとどいてな。さぁて――今日のメインディッシュを味わうとしようじゃねぇか」

 

 ふるりと小さく震えるキャミィを横抱きにし、群がっていた女たちをすべて脇に追いやってベッドの上へと陣取るジュリ。

 彼女が近くに来たことによってゼロは体を起こし、胡坐を掻いて座る。その前には大量の精液で汚れるベッドの上に降ろされた、どこか恥ずかしそうな仕草を見せるキャミィがいる。

 まだ体が触れあってもいないのに、ゼロの体から放出された精液に肢体を汚され、妙な匂いに囲まれながら、じっと視線を向けられる。まるで人形のようになっていたキャミィもさすがに平常心ではいられず、これから始まることへの期待ばかりを抱いているようだ。

 二人を向かい合わせたジュリが間に入り、三角形を作るかのように座った三人は互いに視線を交えた後、少しばかりの会話を始めた。

 

 「ゼロ、こいつはキャミィって女だ。たった今からあんたのものになる。周りにいるこいつらみてぇにうまく使ってくれ」

 「わかった」

 「んで、キャミィ。こいつはもう前の名前を持っちゃいねぇ。今からはゼロって呼べ。由来は聞くなよ」

 「わ、わかった……ゼロ、だな……」

 「さて、必要なのはこれくらいだろ。とっとと始めようぜ――もう準備はできてんだろ?」

 

 ほんの少しの会話を終えてそう言うなり、ジュリはするりと妖艶な動きでキャミィに近寄り、その体を抱きしめながら押し倒した。三つ編みにした金髪に、赤いグローブやブーツに、きゅっと引き締まった尻や背中にべちょりと精液が付着する。

 しかしそれはまだほんの序の口だった。まずジュリは両手を使って辺りの精液を掬い上げ、ローションか何かのようにキャミィの体へと塗りたくる。はっきりと割れた腹筋には指を使って丁寧に塗り込み、小ぶりの乳房を乱暴に握りつぶすかのように塗り、股間の割れ目や顔にまで丹念に濃厚な精液を塗りつけていく。

 そうしてすっかり、まだ本人が手を触れていない状態から精液まみれになったキャミィはぼんやりとした目をゼロに向けつつ、快楽を抑えきれないかのようなだらしない笑みを浮かべていた。

 ジュリの笑みはさらに深まり、同時にゼロの勃起した陰茎がキャミィの秘所へと触れる。

 

 「あっ――」

 「動くな。ゼロ、一気にな」

 「ああ」

 

 そして言葉通り、ずぶりと一気に挿入が終わった。

 パンパンに膨らんだ亀頭は数十の射精を越えても尚健在で、固さと共に熱を持ったそれは数える間もなく一番奥へと到達し、ゴツンッと強く体当たりを繰り出す。

 それだけでキャミィは背をのけぞらせて絶頂に達し、ビクビクと大きく痙攣しながら舌を伸ばして動けずにいた。いともたやすく昇りつめた絶頂はこれまで自分自身を慰めた時のものよりよっぽど強く、たった一度でキャミィの心の溝を埋める。

 ようやく、繋がった。ただそれだけの淡い想いが彼女の中で息吹いていた。

 

 「おおっ、もうイキやがった。いくらなんでも早すぎんじゃねぇか、淫乱女。それほど使いこんでねぇと思ってたら、さては自分で弄ってやがったんだな」

 「おっ、ほっ――あはぁっ、すご、いぃぃ」

 「くっ――締まる」

 

 勢いよく最深部へと到達したものの、その後はそれ以上の速さで激しい出入りを繰り返す。

 腰を引いた時には大きく膨らんだカリ首が膣の内壁をゴリゴリと抉り、腰を前に出した時は膨らんだ亀頭がずずっと内壁を押しやりながら進んでいく。

 ただ前後に移動するだけの単調な動きではあったが、勢いは通常のそれよりも凄まじい。仰向けに転がったキャミィの腰を掴んで実直に腰を振り、叩きつけるような速度で繰り返し突き続ける。

 キャミィの嬌声は見る見るうちに高くなり、楽しげに笑うジュリが彼女の体に覆いかぶさったのは直後のことだった。

 

 「んあっ、あはぁっ、んいいっ、いいッ、すごいのォッ!」

 「アハハッ、バカみたいに感じやがって、そんなにチンポが好きなのかよ?」

 「好きィ、好きなのォ、ゼロのチンポ――ゼロのチンポが好きなのォッ! これ、これがずっと、んんっ、欲しかったっ、あんっ」

 「クククッ、いつかのクソまじめな顔が嘘みてぇなアヘ顔だな。ゼロ――ちょっとあたしにも突っ込めよ」

 「わかった」

 

 ずぷっ、と陰茎が抜けると同時にキャミィが寂しそうな声を上げ、直後にはジュリの口から嬉しそうな声が洩れる。

 二人の表情は入れ替わったかのように変化を見せ、だらしない表情を見せていたキャミィは寂しそうに眉をひそめ、代わりに今度はジュリがだらしなくも舌を伸ばして目を反転させていた。

 普段は忙しく世界を飛びまわって、ベガ親衛隊と呼ばれる女たちを狩ってはこの場に連行する彼女だ、他の女たちに比べて格段にゼロと交わる時間は少ない。にも関わらず、ゼロは一番と言っていいほど彼女に入れ込んでいる。そのせいで腰の動きは必死のようにも感じられる速度で一気に叩きつけられ、興奮によってさらに固く、大きくなった陰茎がぐちゅぐちゅと透明な液をまき散らしながらジュリの膣内で暴れ回る。

 しかし、ゼロがこのままジュリの中で果てようか、そう思っていた時だ。突然彼女はびくんと背をのけぞらせて、天に向かって舌を伸ばしながらあえなく果てた。

 キャミィの胸に両手をつき、腰を掴まれて膣内を抉られ、久方ぶりの絶頂を味わうジュリ。彼女はひとしきり体を震わせ、それでも激しく膣内を荒らされながら楽しげな悲鳴を上げると、すぐにゼロへと振り返る。

 

 「くあっ、あはぁっ――やっぱ、すげぇ……あ、あたしはもういいからよ、こいつを突いてやれ。んはっ、物欲しそうな顔してやがるからよぉ」

 「うん――でも」

 「またいつでも、はっ、相手してやるから――んんっ」

 「……わかった」

 

 ジュリの言葉、命令というよりも諭すようなそれはやはり無視されることはなく、ゼロは言われた通りに動き出す。

 ジュリの膣内から陰茎を抜き、またしてもずぶりとキャミィの中へ入る。途端に泣きそうになっていたキャミィは嬉しそうに顔を歪め、口の端からよだれを垂らしながら快感に浸る。

 ただでさえ限界が近かったゼロと、黙っているだけですでに何度も繰り返し絶頂しているキャミィだ。行為がそのまま長続きするはずもなく、やがて二人はすぐに限界へと達する。

 するりとゼロの後ろへ回ったジュリは彼の尻の穴を指でほじくりつつ、赤く長い舌で彼の耳を舐めながら言う。

 

 「ほら、見ててやるから、もうイケよ――あんたの好きなここを弄ってやるからさ」

 「ううっ、イク、イクっ」

 「あはぁっ、わたし、わたしもっ、イクッ――!」

 

 そう言って二人は同時に絶頂へと達した。

 ゼロは以前に教え込まれた通りにキャミィの一番奥へと先端を押しつけ、それから射精を開始する。キャミィはそうして腰を押しつけてくる彼の尻に自分の足を回して固定し、一瞬も抜かせないようにと力を込めつつ全身をぶるりと震わせた。

 二人が共に体を震わせて快楽の頂点を感じていた時、ジュリはにやりと笑って辺りを見回しつつ、床に放り捨てていた自身の服を目指して歩く。

 辺りでは激しい性交を見つめていた女たち、元ベガ親衛隊のメンバーたちが互いの体に手や舌を伸ばし、女同士で慰め合っていた。自分たちに順番が回ってくる、その時を待って。

 

 「あんっ、あんっ、あっ、あっ」

 「んふぅー、はふぅ、ふあっ、あっ」

 「あっ、ダメっ、イクっ、イクッ」

 「はんっ、あぁぁ、んぃぃ、やはぁっ」

 

 背後ではすでにキャミィとゼロが再び性交を始めており、周囲では全裸の女たちが獣のように体を重ねている。

 その光景に満足したジュリはふっと小さな笑みをこぼし、決して大きくはない声で辺りへ告げた。

 

 「ユーリ、ユーニ、ディカープリ、ついてこい。残ったお仲間を探しに行くぞ」

 「「は、はい……」」

 「おっと、その前に、と――」

 

 中でも腕が立つ三人に声をかけたジュリは床に落ちていた精液に汚れた服を拾い上げ、一度は部屋を出ようとするものの、何かを思い出したように踵を返した。持っていた服は傍に立ったユーリに放り投げて渡す。

 裸ですたすたと床に溜まった精液を踏みつけ、一直線にベッドへ向かっていく。やがてそこで激しく交わる二人の下へ辿り着いたジュリはしなだれかかるようにしてゼロへ顔を寄せ、彼の唇を奪いながら陰茎の根元を扱き始めた。

 

 「んっ、ふっ――行ってくるぞ、ゼロ。ちゃんとこいつら調教しとけよ」

 「ああ、大丈夫だ」

 「まぁその前に、せっかくだからあたしも新鮮なやつをもらっていくか」

 

 右の手のひらすべてを使って陰茎を扱き、ジュリはすぐにゼロの体を押し倒してキャミィとの接合を解いた。途端にキャミィが「あっ」という寂しそうな声を出し、快楽に染まっていた表情から一転して眉をひそめる。

 それでもジュリは気にした様子もなく彼の股間に顔を埋め、いきり立った陰茎を口いっぱいに含み始めた。腰を高々と上げ、視線だけでキャミィに対し「舐めろ」と命令しながら。

 渋々という様子を微塵も隠そうとしていなかったが、キャミィは素直に従ってジュリの秘所へと舌を這わせる。

 それで機嫌を良くしたのか、ジュリは深い笑みを浮かべてゼロの陰茎を舐めまわした。まるで美味な食べ物に舌を伸ばすかのように、やけに生き生きとした調子だ。

 

 「あぁ、ジュリ、気持ちいい――」

 「んふっ、んっ、いつでもいけよ」

 

 先端の割れ目をなぞるように舌先を動かし、竿の部分を下から上に向かって舐め、片手で玉を揉みながら、片手で尻の穴に指を入れて前立腺を刺激する。尻が弱いゼロはそれだけで「うっ」と悲鳴を洩らして目を閉じ、強い快感を受け止めていた。

 しかも相手は彼が最も敬愛する人間だ。体に触れられているだけでも気分が高揚するのに、献身的な奉仕をされるとあっては、限界はすぐにでもやってくる。

 それでも絶倫な彼だからこそそれほどまでに射精できるわけであり、普通の人間ならばとっくの昔に死んでいるのだろうが。

 

 「ああっ、ダメだ、もうイクっ」

 「ん――」

 

 ゼロがそう言った瞬間、ジュリはすぐに先端から口を離して竿を激しく扱き、大口を開けて射精を待ちかまえる。そうしてそのまま、どぷりと大量の精液が飛び出した。

 周囲で見ていた者が全員その位置を羨み、じっと熱い視線が注がれる中、彼女は自身の顔をまっ白に染めた精液をぺろりと舌で一舐めし。

 

 「ジュリ――」

 「フフッ、気持ちよかっただろ――それとももっと欲しいかい?」

 

 ひどく妖艶な面持ちで、自分の愛しい部下へと笑いかけるのだ。

 



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悪の誘い(スト4・さくら)

「ふぇ? いい男の人?」

 

 ひさしぶりに骨のあるストリートファイトをすることができた。

 小さく息を吐きながらそう想い、持参していたスポーツドリンクを口にする日本人の少女、さくらはきょとんと首をかしげていた。

 理由は今しがた戦った相手から告げられた言葉。「いい男を紹介したいんだ」と告げられたせい。

 格闘にばかり興味を向け、年齢に見合わぬほど恋愛に興味を向けない彼女にとってはあまり耳慣れない、異性の紹介。それはさくらを驚かせるには十分な力を持っていた。

 いまだになぜそんなことを言われたのかわかっていないさくらに、語りかける声はまだ止まらない。

 

 「あぁ、そうさ。聞けば、あんたは女の楽しみも知らずに、ファイトばっかりしてんだろ? それじゃ人生損してるってもんさ。せっかくだからあたしがいい男紹介してやるよ」

 「うーん、でもなぁ……私そういうの苦手だし」

 

 自分を誘う女の言葉にあまり乗り気ではなく、さくらは腕を組んで首をかしげながら思い悩む。

 彼女にとって最も優先すべきことは、自分の格闘家としての力量を向上させ、昔からずっと憧れている背中に追いつくこと。男だ、恋愛だ、とうつつを抜かしている場合じゃない、と思うのである。

 しかしそれではダメだ、とその女は言うのだ。女に生まれたのであれば、たとえ格闘家であったとしても、女としての生き方をしなければ決して強くはなれないと。

 男には男の、女には女の強くなる方法がある。それを今から教えてやるのだと、女は説明した。

 そこまでを聞くと、さくらの表情が変わる。強くなる方法がある、その言葉が決定的だった。

 

 「ほ、本当ッ!? 私、もっと強くなれるのかな?」

 「ああ、もちろんさ。あたしが上手く教えてやるよ――あんたが知らない、あんたが今より何倍も強くなれる方法」

 

 この時、さくらの中で彼女を信じようとする心の動きがあった。素直で人懐っこい、あまり他人を疑ったりしない人のいい性格が災いした。

 さくらは深く物を考えず、素直に彼女の提案に乗ってしまったのである。

 

 「うん、わかった! じゃあ私、あなたについていくよ! 強くなるためだもんね!」

 「その意気だ。それじゃあさっそく行くとしようか――あたしらのアジトへ、さ」

 

 にたりと笑うジュリが自分をどこへ連れていき、何をさせようとしているのかも、全く知らずに。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ジュリが肩に手を回すさくらは、その部屋に入ると同時に全身を硬直させた。その後すぐにも見る見るうちに顔を真っ赤にさせ、しかし直後には青ざめさせ、身に振りかかる不安に精神を揺らす。

 目の前にあるのは彼女が見たこともない光景。ただでさえ初心であり、ほとんど知識もなく、本や何かですら見たこともない光景。

 一人の男が一人の少女を犯し、ほとんど裸の女性たちが数人の女たちの体を弄り回す、なんとも淫靡で奇怪な室内だった。

 

 「あ、あの、ジュリさん、これって――」

 「やぁやぁ諸君、今日のゲストの登場だよ――仲良くしてやってくれ」

 

 室内はぼんやりと紫色の小さな照明がいくつも灯り、薄暗い上に怪しげな空間が作られていた。

 広い部屋の中心にある円形の大きなベッドには、二人の男女。全裸の少年が玉のような汗を掻きながら必死に腰を前後させ、それを一人の少女が受け止めている。

 白い髪と褐色の肌、筋肉質な体は裸にされて、細い腕はピンと伸ばされて白いシーツを掴んでおり、体をひっくり返されたせいで細く長い脚は顔の横にある。

 いわゆるまんぐり返しという格好だ。

 上から下へと向かって思いっきり肉棒が振られて、ぐちょぐちょと膣をほじくり返されるのは、エレナという少女であった。

 

 「あはぁっ! すごいぃっ! うぅぅ、んんんっ――あぁぁっ!」

 「あ、ジュリ。おかえり」

 「おーただいま、ゼロ。どうよ、調教は進んでるか? あぁ、そうだ――エネーロ、サンタム、お客様を丁重に裸にひんむいてあげな。それからやさしく愛撫をして差し上げろ。大事な処女だ、運動しすぎて膜は破れたらしいが、膣にはあんま深くいれんなよ」

 「「はい」」

 「えっ、あっ、ちょっと――」

 

 すたすたとベッドに近付いて行くジュリがそう言うと、入口付近に待機していた二人、ピンク色の髪を持つエネーロと、黒い肌を持つサンタムがそっと動き出した。彼女たちは戸惑っている様子のさくらへ手をかけ、頬を赤らめさせたままやさしい手つきで彼女の服を脱がせていく。戸惑うさくらは強い抵抗すらできない。

 ちなみに彼女たち、元ベガ親衛隊であり、現在はゼロ親衛隊と名乗っている十二人と新たに加わったキャミィは、透けた素材で作られた紺色のボディスーツを着ている。ぴったりと肌に吸いつき、股間は大きな食いこみがあるハイレグで、しかし透けているせいでピンと立つ乳首や毛が整えられた秘所は一目で確認できた。明らかに痴女としか思えない格好である。

 彼女たちの仕事はゼロに抱かれることと、ジュリの手足となってターゲットを捕獲すること。そして、そうして集められた女たちをゼロの命令に従って調教することにある。

 ゼロがベッドの上で犯している一人もそうだ。キャミィが連れてきた彼のお気に入りは、浅ましくも舌を伸ばしながら犯されるのを悦んでいた。

 そこにジュリが近寄り、ゼロの唇にやさしいキスを送りながらも、自らの下半身を露わにしてエレナの口へ股間を乗せる。すっかり調教が進んだエレナは文句も言わずにそこを舐めはじめていた。

 

 「さてと、調教はどうなってる、ゼロ? 報告を始めてくれるか――この女を可愛がりながらな」

 「んんっ、んんっ、んんんっ!」

 「わかった。誰からがいい?」

 「そうだなぁ、それじゃあまず――あのポイズンとかいう生意気な女はどうだ? 強めに虐めろって言っといたはずだけどよぉ」

 「ああ、彼女はあっち」

 

 固く大きくそそり立つ肉棒でエレナの膣内を掻きまわしつつ、ゼロは自身の指を部屋の片隅へと向けた。ジュリはそちらへ目を向ける。

 するとそこには全裸で立ったまま両手と両足をそれぞれ拘束され、脚を開いたまま尻を突き出し、膣に細く小さいバイブを入れられてひたすら焦らされる、目隠しされた女がいた。

 桃色の長い髪を振り乱し、大きな胸をブルブルと揺らし、ギャグボールをはめられた口からうめき声と唾液を出して助けを求め、それでも放置される彼女、ポイズンは股間をびしょびしょに濡らしながらかくかくと腰を前後に振っていた。しかしその行動も空しく、振動しているとは言っても細いバイブではそれ以上の快感は得られない。

 ポイズンは絶頂しないようにとの配慮をされたままイカせてもらえず、ひどいレベルで長時間焦らされ続けていたのだ。

 

 「アッハッハ! あたしに向かって偉そうな口利いてた女が、今じゃ犯して欲しくてしょうがないってか? 浅ましく腰なんか振りやがって情けねぇ――いいぜ、あたしが後で直々に抱いてやるよ。気が狂うまで犯し続けてやる」

 「休憩と食事は与えてるけど、それ以外はほとんどあの状態だ。あと最近はフェヴリエが乳首を仕込んでるけど、ちょっと弄っただけですぐにイクから全然進んでないって」

 「ふぅん、まぁある意味じゃ成功とも言えるけどな――それじゃあ次、いぶきって小娘は?」

 「んんんっ、んほぉ、ひぃぃいいっ」

 「あん? うるせぇぞカポエイラ使い。舌が止まってんだよ、黙って舐めてろ」

 「えっと、いぶきは――あっち」

 

 ポイズンから目を離した二人は違う部屋の片隅に目を向け、そこで二人の女に群がられる少女を見つめた。

 少女の名はいぶき。壁に背を預けて一括りにした長い黒髪を垂らし、自身の裸を晒してぐっと歯を食いしばり、メルツによって小さな乳房を揉まれながら唇を吸われつつ、ヤンユーの膣に刺された双頭ディルドで膣を貫かれている。濡れそぼったそこを固い棒でめくり上げられる度に、彼女はくぐもった嬌声を上げている。

 さらにこの時、ジュリとゼロの視線を感じたメルツが動き出し、自身の膣にも双頭ディルドを挿入すると、いぶきの体勢を変えた。

 ヤンユーの激しい腰使いに喘ぐいぶきの体を押し、二人を騎乗位の体勢にさせると、メルツは自身のディルドをいぶきの尻の穴へと挿入した。そして直後には、唾液と自身の愛液でしっかりと濡らされていたそこを、激しく腰を動かすことで責め始める。

 途端にいぶきは甘い声を上げて悦んだ。二人が激しく腰をぶつける度、彼女は快楽に染まりきった顔で嬌声を上げる。

 

 「あぅ、くぅっ――んはぁぁぁっ!」

 「へぇ、二穴同時挿入か。クククッ、マンコとアナルにずっぽりディルド銜えこんでよぉ、ずいぶん嬉しそうに鳴いてんじゃねぇか」

 「うん。マンコの締まりがよかったから、多分アナルも締まりがいいと思って、拡張したんだ。今じゃ両方突かれるのが一番反応いいよ」

 「クククッ、アッハッハ! いい調子で進んでるじゃねぇか。それじゃあ他のは――あたしのお気に入りのエージェントちゃんはどうなった?」

 「ああ、ヴァイパーか。あの人はあっち」

 

 続けてゼロが違う方向を指し示す。そう言った次の瞬間には射精を始めて、エレナの膣内へと大量の精液をぶちまける。それをすべて受け入れた彼女は白目をむいて舌を伸ばし、「んほぉぉっ」と声を上げながら絶頂、そのまま失神した。

 ゼロはずるりと肉棒を膣から出し、すぐ傍にいたジュリに抱きつきながら説明を始める。彼を抱きとめたジュリもまた微笑みつつ、そちらを見てさらに笑みを深める。

 二人が見る方向には、黒いパンツスーツに身を包む赤毛の女が、サツキにディルドで犯されている光景があった。

 ただ普通ではないところは、その赤毛の女、ヴァイパーは上から下まで服を着ているのに、布を切り取られた場所から両の乳首と秘所、尻の穴までを露出しているところだ。

 

 「おお、中々趣味のいい格好してるじゃねぇか。服は着てんのに乳首勃起させて、マンコ貫かれてるなんてよぉ」

 「あの人はジュリが言ってた通りにしたよ。三日三晩犯して、ザーメンまみれでアヘ顔してるとこいっぱい写真に撮ってさ、娘さんに送りつけといた。本人はいまだに俺たちのこと殺すって言ってるけど、毎日サツキに突かれてイキまくってるから説得力ないよ」

 「クククッ、いいねぇ。あれでシングルマザーなんだもんな、あいつ。写真を見た娘がどんな顔してるのか知りてぇよ。近いうちにそいつもご招待してやらねぇとな――二人揃って裸にひんむいて、アヘ顔晒して喘ぐようになるまで犯しまくってやろうぜ」

 「そうだね」

 

 部屋の隅、右手と右足を縄で縛って、左手と左足を繋がれたヴァイパーは、自分で動けないままにごろりと転がされていた。その上から自身の膣にもディルドを銜えこんだサツキがのしかかり、乱暴に腰を振られて喘ぎ声をあげている。

 獣のようにも思える声は歯を食いしばった口から聞こえており、悦ぶ声に混じって時折小さな呟きも聞こえる。

 ジュリはその声を正確に聞きとって歓喜した。途端に股間を濡らした彼女はゼロを押し倒し、元気にそそり立つ陰茎を自身の膣に迎え入れる。

 そのままジュリはヴァイパーへと目を向け、床に転がされて犯されながらも自分を見つめる彼女と目を合わせたまま、腰を激しく上下に振った。

 呟きはまだ聞こえている。

 

 「殺す……殺すッ……おまえたちは、絶対に――んあああぁっ!? ひぎぃ、くぅんっ、ころ、すっ――ああああああっ!」

 「アハハハハハッ! やっぱ最ッ高だよあいつ! マンコぐちょぐちょにして悦びながら殺すとかって言ってんの! 殺せるわけねぇだろ、てめぇ如きによォッ! おいゼロ、あいつだけは絶対に孕ませろよ。あいつのガキはあたしが取り出してやる。そんでその後にあいつのガキが出てきた穴にあんたのチンポ突っ込んでよぉ、生まれたばっかのガキの目の前で犯してやるんだ。クックック、さすがのあいつも泣いて嫌がるだろうなぁ――あぁ、楽しみだ」

 「んっ、んっ、趣味が悪いぞ、ジュリ」

 「うるせぇ。こんだけの女ども犯して、調教してるおまえに言われたくねぇんだよ――あぁっ、んん、おら、もっと突きあげろ」

 

 心身ともに強い快楽を得るジュリはゼロの両手を握って、リズムよく腰を上下させる。

 そうしていると、ゼロはエレナを相手にしている時よりも声を大きくして感じ、幸せそうに頬を緩めていた。それを見るジュリもまた、幸せそうに笑う。もっとも彼女の場合は非常にサディスティックな笑みに見えるのだが。

 陰茎で膣をほじくり、頬を緩めるゼロは突然、視線を流して別の方向へ目を向けた。そしてそちらに向かって声をかけるのだ。

 それもまた報告の一つ。彼が調教した女をジュリに見せるための行動であった。

 

 「ローズ、こっち来て。俺にマンコ舐めさせてよ」

 

 彼が声をかけたのはやけに色っぽい雰囲気を持つ女性。

 肉付きのいい豊満な肉体を多くの女の手で弄られ、膣の中には双頭ディルドを銜えこみ、同様に尻の穴にも銜えこんで、両手はそれぞれ一人ずつ膣から生えたディルドを扱いて、口の中にも深々と銜えさせられている。

 親衛隊の隊長、キャミィを除けば一番最初に連れて来られたローズという女は、すでに心身ともにゼロへの忠誠心が溢れる女へと変えられている。裸になれと言われればいつどこでも裸になり、股を開けと言われればいつでもゼロの陰茎を銜えこむ。それが現在の彼女である。

 故に、今まで数時間も親衛隊のメンバーに犯されていたローズはゼロに声をかけられると、彼女たちから解放されてすぐにゼロがいる場所へと向かっていった。

 そして透明な液体を絶えず垂れ流す股を大きく広げ、スクワットをするかのようながに股でゼロの顔を跨ぎ、ゆっくりと腰を降ろした。

 

 「どうぞ、ゼロ様。私のおまんこ、たっぷり可愛がってください」

 

 ゼロの舌が伸び、何かを欲しがるようにパクパクと開閉する膣が舐められる。ローズの口からは小さな甘い声が出て、思わず目を閉じていた。

 それでも彼女は微塵も動くことなく、腰をぴたりと静止したままゼロからの愛撫を受ける。

 目の前で行われる痴態を見て、ジュリはより一層興奮して腰を速めながら、楽しげに両手を伸ばしてローズの大きな胸を掴んでいた。

 

 「アハハッ、しっかり躾けられてるじゃねぇか。涼しい表情が剥がれて本性が出てるぜ、雌豚ッ。そんなに犯されるのが好きかよ、あ?」

 「はぅぅ、はぁっ――す、好きですっ。物みたいに扱われて、上も下も、前も後ろもたくさん犯されるのが大好きですぅっ」

 「アッハッハ、こりゃ傑作だ! あの冷静ぶってた奴がすっかり堕ちちまってるんだからなぁ! いいぜ、後でたっぷり犯してやるよ――ここにいる奴ら全員でな」

 「うっ、ジュリ、もう――」

 

 ゼロの動きがラストスパートに入り、すぐに射精が開始される。ゼロは目を閉じながらジュリの胸を揉み、ジュリは首と背を逸らして全身を震わせた。

 絶頂が治まったのにはしばらくかかったが、二人はその後もまるで疲れた様子もなく動き出す。

 ジュリは股の間から垂れ落ちる精液もそのままに、ベッドの上でへたり込むローズの頭を掴むと、自身の股へ顔を押しつけた。そのまま秘所を舐めるように命令し、かくかくと小刻みに腰を動かしながらゼロに言う。

 視線はすぐに、入口付近で裸に剥かれ、二人の女によってねっとりとした愛撫を施されている少女へと向かっていた。

 

 「ゼロ、こいつはあたしが遊んでやるからよ、あんたはお客様をおもてなししてあげな――初めてらしいから、壊さないように犯せ」

 「うん、了解。キャミィ、こっちにおいで。いっしょに遊んであげるから」

 「は、はいっ」

 

 裸でベッドを降り、尚も雄大な姿を誇る陰茎を揺らす彼は、ゆっくりとなぶられる少女へと近付いて行く。それに続いて、今までは親衛隊のメンバーに愛撫を施していたキャミィが続き、もじもじと体を揺らしながら頬を赤らめている。

 二人はすぐに彼女の下へ到達し、二人の女に遊ばれるさくらは、顔を真っ赤にしたまま裸体を隠そうともせず、蕩け切った目をぼんやりとゼロに向けている。

 彼の陰茎が、さらに固くそそり立った。

 

 「エネーロ、準備は?」

 「すでに整っております、ゼロ様」

 「よし、ならもう始めようか。二人はさくらへの愛撫を続けろ。キャミィ、俺の後ろに来い――あとはわかるな?」

 「は、はい」

 

 腰の位置を正して、サンタムに背を預けて控え目な胸を揉まれながら、エネーロに唇を奪われるさくらの膣に、ぴたりと亀頭が触れる。それだけで感じられる水気は挿入には十分なほどで、ゼロは無表情のままに頷いた。その背後ではキャミィが四つん這いになって頭を下げ、ゼロの尻の穴に狙いをつけて舌を伸ばしている。

 挿入が開始され、膨れ上がった亀頭がずぶりと膣へ入り込んだのはそれからすぐのこと。

 さくらは驚きで目を見開き、しかし口内に舌を這わされているせいで声をあげられず、両手両足をじたばたと動かしながら、それでも侵入してくる肉棒をすんなりと受け入れていた。

 そのあまりにもきつく締め付けてくる感触に、ゼロは思わずため息をついた。

 

 「はぁ、うっ――きついな。でも意外と具合がいい」

 「いやぁっ、うぅ――いやぁぁ……」

 

 ゆっくりと奥まで進み、もうこれ以上入らないという地点まで辿り着くと、ゼロはそこを小刻みに突きながら呟く。感情がないように思えて、どことなく熱っぽさが感じられる声だ。

 しかしそれに対して、さくらは目に涙を溜めて嫌がるように首を振っている。頬や首筋に舌を這わすエネーロに唇を与えないようにと逃げつつ、あまりにも弱弱しい抗議の声を出しているのだ。

 それでもゼロは腰を止めず、彼女の状態を気にすることなく膣内を抉っていく。ずぷずぷという動きに遠慮はなく、やさしくするよう心がけていてもさくらを人とは思っていないかのようだった。

 キャミィに尻の穴を舐められながら、小刻みな動きは続く。すると時間が経つにつれて、さくらの表情も変わっていった。

 

 「あぁ、んぅ――いやぁっ、はぁぁん」

 「気持ちよくなってきた? そのまま任せていい。気持ちよくなってもいいよ」

 「ふぅぅん――はぁっ、んんっ、やぁぁ……」

 

 否定しようとする意思は完全に消えていなかったが、彼女は初めから快感を得ていた。

 声には甘さが混じり、自分では触ったこともない場所に他人の手が触れる度、なぜかびくんと震えてしまう電流のような何かが全身に走り、男の象徴が腹の中で動く度、体の芯から響き渡る感覚がある。

 生まれて初めて与えられるその感覚に酔いしれるようになるまで、さほどの時間もかからなかった。

 いつしかさくらは、何も考えられない状態で自然と腰を動かしており、更なる快感を得たいと思うようになっていたのだ。以前は特定の誰かに向けられていたはずの憧れや淡い感情、それすらも瞬く間に溶かされて。

 

 「あぁ、はんっ、んやぁ――きもち、いぃ……」

 

 女としての快感を知らぬ少女を女に変えることは、もはやゼロにとって難しくはなかった。

 正しくは、ゼロが存在するジュリの一派にとっては、なのだが。

 

 「はぁっ、んんっ、だめっ……なんか、なんか変だよぉ――頭がぼーっとして、体が、言うことをっ」

 「それでいい。すべてを俺に預けるんだ。そうすればもっと、おまえは高みへいける――人間としての進化を果たせる」

 「んんっ、んんっ、んんんっ――し、しん、か……?」

 

 小さな呟きと共に、腰が大きく引かれ、直後に固い肉棒が奥まで一気に突き出される。

 先程までのような甘く、淡い感覚ではなく、全身を貫かれたかのような絶大な衝撃。それはまぎれもなくゼロからさくらへと与えられ、彼女は目を見開き、舌を伸ばして悲鳴をあげる。

 そんな中でもゼロの呟きは続き、彼は快楽に取り込まれようとしているさくらを、更なる深みへ引きずり込もうと声を発した。

 

 「俺が連れて行ってやる。誰にも行けない、俺たちだけが知る地点へ。すべてを解放して、俺に身を委ねろ――俺たちはもう心と体で繋がった仲間なんだから」

 「な、かま、に――んんっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ――!」

 

 最初はゆっくりと大きなストロークを見せていた動きも、だんだんと荒く、速くなり、最後にはぶつかるかのような動きでさくらを責め立てた。

 二人の気分はどんどん高まり、同時に意思が一つになるかのように、二人の体は自然な動きで同調していく。

 

 「さくら、イクぞ。俺のすべてを受け止めろ――おまえも自分自身を解放しろっ」

 「うんんっ、はぁぁっ、あはぁぁぁっ!」

 

 そうして二人は絶頂した。

 ゼロの陰茎からは大量の精液が飛びだし、さくらの膣内を白く汚していき、肉の壁は嬉しそうに動きながらそれを受け止めていく。

 この時さくらは、生まれて初めての絶頂を体感していた。目をぎゅっと閉じて、全身を震わせ、足は指先までピンと伸ばして自身の中に出された物を感じ、これまでになかった感覚に酔いしれる。

 しばらく経って落ち着いた後、さくらは自分の中にある熱い物を腹越しに撫でながら、だらしのない笑みを浮かべていた。

 しかしゼロはその笑みこそ美しいと思うのだ。口の端からはよだれを垂らして、目はとろんと呆けており、自我すら忘れて快楽に気をやった哀れな女。それこそが人間の極致であると。

 ゼロは再び腰を動かし、途端に悦び始めたさくらの唇を舐めながら、またも快楽に酔っていく。

 

 「さくら――おまえはもう、俺のものだ」

 「はぃぃ……わ、私は、あなたのっ――あなたのものですっ」

 

 ぐちょぐちょと音が鳴るたびに透明な液体がぴゅっと飛びだし、腰は自然と浮き上がる。二人はまた息の合った動作で快楽を貪り、お互いの肉体に刺激を与えていった。

 そんな最中に、声がかかる。

 

 「キャミィ――おまえは俺のなんだ?」

 

 いつの間にかゼロの後ろで自慰に励んでいたキャミィが、その言葉を持って我に返る。

 ただ一つの物しか求めていないその瞳にはゼロしか映っておらず、答えはすぐにも口を突いて出た。

 

 「わ、私は――ゼロ様のものです。どうか、あなた様のお情けを――」

 「良い子だ。なら、俺から見える場所に来てオナニーしろ。さくらに二発目を出したら、次はおまえだ」

 「はいっ」

 

 そう言われたキャミィは立ちあがり、ゼロの前方へと移動する。サンタム、エネーロに囲まれながらさくらを責めるゼロは、最初から激しく腰を動かしながらもその姿を見て、すぐに呟く。

 

 「キャミィ、服を脱げ――何も隠さずに、そこに立ったままオナニーしろ。ちゃんと足も広げてな」

 「はい――どうか、私のオナニーをご覧ください……!」

 

 興奮した面持ちで、キャミィは自身が纏う半透明のボディスーツに手をかける。

 卑猥なボディスーツは初めから彼女の乳首や秘所、隠すべき場所を他人に見せつけていたが、それを脱ぐとまた見方が変わる。しなやかさを感じさせる筋肉に覆われた肢体を露わにし、すべてを脱ぎ去ったキャミィはかぶっていた赤いベレー帽も床に置き、一糸纏わぬ姿となった。

 その状態で足を開き、見えやすいようにと腰を前へ突き出しながら、ゆっくりと秘所に指を這わす。そこはすでに潤っており、人さし指が触れただけでくちゅりと音が鳴った。

 キャミィはうっとりとしたため息をつき、さくらの口内を舐めまわしながらもじっと目を離さないゼロに目をやり、ぶるりと体を震わせた。

 

 「はぁっ、はぁっ、ゼロ様、ゼロ様っ――あなた様が欲しいっ、早くここにぶち込んでほしい――!」

 「んぅっ、むふぅ、ふむぅっ」

 

 音を鳴らしながら腰がぶつかり、唇が合わさった二人の限界はどんどん高まる。

 結果、しばらくの結合を経て再びゼロは射精を行い、処女を失ったばかりのさくらに二度目の膣内射精を終えた。

 

 「んんん~~っ!」

 

 ビクビクと震えて絶頂し、直後に気を失ったさくらを他の二人に与え、そのまま犯すように告げると、ゼロはまたも移動して他の女に手を伸ばした。

 伸ばされた指が侵入した膣は、やはりキャミィのものだ。

 

 「はぁんっ――ゼロ様っ」

 「キャミィ、このままするぞ。股を開け」

 「はいっ――」

 

 二人は立ったまま向かい合い、お互いに腰を突き出して体を一つにした。ずぶずぶと肉の壁を突き進む肉棒は固く、熱く、さっきまでとは微塵の違いもない。

 そのままゆっくりと性交は開始され、焦らすような速度で肉棒が出入りを繰り返す。

 キャミィは悦び、ゼロは息を荒くする。ぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴り響く中で、室内の温度は一層高まったかのようだった。

 部屋の中央にあるベッドで、股を大きく開いたローズの膣を双頭ディルドで犯すジュリは、そんな彼らを見てにやりと笑う。

 

 「ククッ、だんだん盛り上がってきたなァ――それじゃあそろそろお楽しみのパーティーでも始めるとしようか。どいつこいつも、自分を忘れるまで犯しつくしてやるよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ジュリの命令によって、新たなメンバーが一堂に横一列で並べられた。

 誰もかれもが裸で、腕は鎖のついたベルトで拘束され、足は広げられるようにと地面に固定された足かせに繋がれ、女たちは四つん這いで尻を並べていた。

 一番左にはぐしょぐしょに濡れた秘部を晒すポイズン。その隣に精液を垂れ流すエレナ。尻穴にディルドを銜えこんだままのいぶきが続いて、全裸に剥かれてギャグボールを噛まされたヴァイパーも並ぶ。その隣には挑発的に尻を小刻みに振るローズもおり、新参者のさくらも並んで、一番右にはキャミィがいた。

 その後方では膣に双頭ディルドを装着した親衛隊メンバー十二人が並び、彼女たちもまた全裸の状態で股を濡らしている。

 そして彼女たちよりも一歩前に、股間を屹立させたゼロと、その肉棒を愛おしげに撫でる裸のジュリがいた。

 

 「壮観な眺めだろう? これが全部、あんたのためのケツだよ――さぁゼロ、犯したい奴から犯しな。イカせるのもイカせないのも、中出しする奴も使わない奴も、全部あんたが決めていい――こいつらの生殺与奪はあんたが握ってるんだよ」

 「そうらしいな」

 「あぁ、そうさ。それじゃあ始めよう――楽しい宴の始まりだよ」

 

 ゼロはゆっくりと歩き出し、まず最初の獲物に目をつける。

 自身の手で握った肉棒を差し込んだのは、最も自分たちに対して攻撃的な姿勢を持ち続ける女、ヴァイパーだった。

 

 「んむぅっ!」

 「クククッ、まずはそいつか。いいねぇ、そろそろ従順になってくれなきゃ困るからな。たっぷり犯してやれ」

 

 口答えをしないようにとギャグボールを噛まされた口から、大量のよだれと共に悦びの声があがる。彼女は自分に嘘をついているだけで、肉体はすっかりゼロのものに成り変わっているのだ。

 亀頭が肉壁を抉る度、子宮口を叩く度、彼女の口からは嫌がる声ではなく、喘ぎ声としか思えないくぐもった声が聞こえてきた。

 ゼロは最初から思いっきり腰を振って膣を叩き、背を逸らす彼女を犯し続ける。その動きに連動して、陰茎を包む肉の壁は嬉しそうにぐねぐねと動く。

 言葉を発せないこともあって、ヴァイパーの態度が堕ちるのはすぐのことだった。

 

 「んむぅ、んんっ、んんぉっ」

 

 しかし、悦びが続いたのも束の間。ゼロはすぐに彼女の尻から離れると、ずるりと勃起したままの陰茎を取り出した。

 そしてすぐ横にあるいぶきの尻に近付き、尻に刺さったディルドを手で掴みながら、肉棒を突き刺す。

 前と後ろ、両方の穴を刺激されるいぶきの背は、瞬く間に反り上がって絶頂を告げる。口から飛び出す声もまたそれを示していた。

 

 「あっ、はっ――あぁぁぁっ!」

 「くぅ、やっぱりきついな。いいマンコだ」

 

 またしても勢いよく腰を振って肉棒を前後させ、浅ましく叫ぶいぶきを責める。そうするゼロの姿には幾分余裕がなく、直前までヴァイパーを責めていた影響が濃く出ていた。

 そして彼女の膣がかなりきついことも相まっている。

 さほど時間もかけずに射精は開始され、いぶきの膣内を白い液体が満たしていった。

 

 「あぁぁぁっ!」

 

 部屋中に響く大絶叫。いぶきは手と足を拘束する枷に繋がる鎖をガチャガチャと鳴らし、背を逸らして天を見上げながら絶頂した。

 その後、いぶきは体から力を抜いて倒れ、目を閉じた。気を失ってしまったのだろう。

 ゼロの陰茎がゆっくりと抜き取られ、別の獲物に狙いをつける。その間にジュリはいぶきの拘束をはずし、眠る彼女の体を軽々と抱えた。

 

 「やれやれ、こいつは脱落だな。たった一回で気をやっちまうとは使えねぇなぁ――おい、おまえら」

 

 ジュリは立ち並ぶ親衛隊に近付いていき、腕の中に抱えていたいぶきを放り投げて、彼女たちに渡す。

 

 「調教のやり直しだ。しっかりとゼロの相手が出来るように、こいつを仕込み直せ」

 「「「御意」」」

 

 全員が頷き、十二人が同時にいぶきを床に押し倒して動き出す。全員が協力して役目を果たし、彼女の体を弄り、ゼロの相手が出来るようにと肉体と精神を作り変えるのだ。

 親衛隊がそうしている間にも、ゼロの動きは続いている。一番端にいるポイズンの膣の中を味わいつくし、最も浅ましい姿を見せる彼女を突いていた。

 

 「んほぉぉっ! しゅごいぃぃっ! ゼロ様のおちんぽっ、最高なのぉぉっ!」

 「おお? アッハッハ、こりゃいいや。あのサディスト気取りがすっかりただの雌豚だァ。ゼロ、そいつは後であたしに寄こせよ。本格的にぶっ壊してやるから」

 「あんまりやりすぎるなよ、ジュリ。こいつだって具合はいいんだから」

 「わかってるよ。心配すんな」

 「あはぁぁっ! んんんっ、んおぉぉっ! ひぎぃぃぃ!」

 

 尻と腰とがぶつかり合い、パンッパンッと肉の音が鳴り響き、ポイズンの悲鳴にも似た嬌声が響いた。

 両手を伸ばしたゼロは彼女の巨乳すらも楽しみ、力を込めてぐにぐにと形を変えて遊びながら、必死に腰を振るう。

 しかし彼が限界を迎えるその前に、長時間、長期間に及ぶ放置プレイを続けられていたポイズンの方が先に限界を迎え、彼女だけが絶頂した。

 

 「んひぃぃぃぃぃっ!!」

 「あ、イッちゃった」

 「あーあー、使えねぇなぁ、アバズレ女。男をイカせることすらできねぇのかよ」

 

 ビクビクと全身を痙攣させ、白目をむきながら舌を伸ばして絶頂するポイズン。彼女もまたすぐに肉棒を抜かれ、ジュリの手によって自由にされる。

 そしてその後は、乱暴な手つきでベッドに運ぶジュリの手で、気遣いの無い手つきで荒々しく愛撫を施されるのだ。

 

 「あぁぁっ、はぁぁっ!」

 「こっちはもらったぜ。後はお好きにどうぞ、ボス――まぁ言われるまでもねぇと思うけどよ」

 

 再び、ゼロの狙いは変わった。ジュリとポイズンによる淫靡な声を聞きながら、次に狙われたのは小麦色の尻を掲げる、エレナだ。

 濡れそぼった膣に固い肉棒が押し入り、激しく腰を振る。幾度か続く我慢により、彼の限界は間近だった。

 それでも彼は全力で腰を振り続け、笑顔で悦ぶエレナを高みへと連れていく。

 

 「あんっ、あぁっ、はぁっ、んあぁぁっ!」

 

 そして限界を迎えたその時、ゼロはすぐさま肉棒を抜いてそこに指を突きいれ、急いだ動きで肉棒を別の膣へと突きさした。

 指で絶頂させられるエレナとは少しだけ距離を置いて、肉棒を突きいれられ、その瞬間に射精されたのはヴァイパーだった。

 二人分の絶叫が、淫らな声に満ちる室内に響き渡る。

 

 「あぁっ、んあぁっ、あぁぁぁっ!」

 「んほぉぉぉっ! ほぉっ、んむぉぉっ!」

 

 ひどい痴態だ。二人は獣のように声をあげて絶頂し、ぐったりと体を横たえる。

 それをまた親衛隊の何人かが拘束をはずし、自分たちが控える方へと連れていく。そちらではすでに囲まれたいぶきが絶え間ない愛撫を続けられ、悲鳴にも思える嬌声を続けている。

 続いてゼロはさくらの膣へと突きいれ、同時に両手を左右に伸ばして、女たちの秘所へと指を突きさした。

 さくらの声に遅れること数秒、ローズとキャミィもまた悦びの悲鳴をあげていた。

 

 「うあぁんっ! あはぁっ、ふぅぅん……!」

 「あぁっ、ゼロ様っ」

 「うぅ、ふっ――はぁっ、ゆ、指がっ……」

 

 両手の指を巧みに動かして膣を掻きまわしながら、陰茎を使ってさくらを責め立てる。三人同時に相手をする様はいっそ壮観ですらあった。

 特に反応がよかったのはさくらだ。ただでさえ初めての性交を経験したばかり、その上で激しく動きまわる肉棒を銜えたというのであれば、すぐに気をやってしまうのは当たり前である。特に彼女自身の感度が高かったことも関係しているだろう。

 さくらはあっという間に絶頂し、顔を俯かせて目をぎゅっと閉じると、拳を握ってうめき声をあげた。しかしそれでもゼロは腰を止めず、さくらの膣を突くのをやめなかった。

 

 「あぁっ、んんっ、イッた――もうイッたからぁ……んあぁっ!」

 「はぁっ、あぁっ、ゼロ様、私にも早く、そのおちんぽを――」

 「あっ、あっ、んっ――ゼロ様っ、ゼロ様ぁ……」

 

 三人の嬌声がリズムよく連動し、室内には様々な女たちの声が入り混じっていた。そしてそれらがすべて、快楽に染まりきった声なのだ。

 部屋の至る所で裸の女が好き勝手に動き、互いに快感を与えあって鳴いているのだから、ひどく淫靡で、常識とはかけ離れた場所である。

 それを生みだした大きな要因は、新たな肉体を精神を持って生まれ変わった、ゼロという少年。

 何度目かもわからない絶頂を得たさくらの膣内に、大量の精液を吐き出す彼こそが、この場を支配する存在であった。

 

 「うぁぁぁっ、あぁぁぁっ!」

 

 全身を震わせて、直後に気を失ったさくらをそのままに、ゼロはローズの膣に肉棒を挿入した。その瞬間に彼女は背を逸らして首を上げ、瞳を潤ませながら絶頂したようだ。

 それでも腰の動きは止まらず、ずぶずぶと深くまで亀頭が押しこまれていく。そのまま激しい律動が続き、二人の快感は即座に高まっていく。

 しかし射精するその瞬間、ゼロの陰茎は勢いよく抜き取られ、直後にローズの尻の穴へと亀頭を埋め込んだ。

 彼はそこで精液を吐き出し、腰を震わせながら奥まで自身の子種を注ぎこんでいく。それを受け止めたローズもまた何度目かの絶頂を感じ、吐きだされるすべてを受け止めた。

 

 「んんんぅっ、んんんんっ――あはぁぁっ」

 

 体の力を抜いたローズは、尻だけを掲げた状態で腕の力を抜き、地面に頬を寄せる。掲げられた尻の穴からは、ドロドロと白い濃厚な液体が垂れ流れていた。

 まだ相手をされていない女は一人だけ、ゼロはそちらの方向へ向かう。その間に親衛隊がまたも訪れ、さくらとローズもまた彼女たちに連れて行かれた。

 最後に残ったキャミィの下へ着くと、彼は即座に肉棒を挿入して腰を振り始めた。途端にキャミィは笑みを浮かべながら甘い声を出し、彼の動きに合わせて快楽を貪る。

 誰よりも積極的で、誰よりも快楽に染まった姿だった。

 

 「あぁっ、んんっ、ゼロ様っ――あっ」

 「ハァ、ハァ、キャミィ――」

 

 腰が前後する度に快楽は肉体に溜まり、何度も射精しているはずの陰茎はまたも限界へと高まっていく。

 それもまたシャドルーによる人体改造の賜物なのだが、本人がそれを理解している様子はなく、また知る必要のないことでもある。

 彼にとって最も大事なことは、ジュリから与えられた仕事をこなすこと、つまりは、女を抱いて快楽に染め上げることなのだから。

 

 「あぁっ、ゼロ様っ、もう、もうっ――」

 「ああ――イクぞ、キャミィ。おまえもイケ」

 「は、はぃぃ――んんっ、んんっ、んっ」

 

 そして射精が始まり、もはや数え切れないほど繰り返された膣内射精が行われた。どくどくと流れ込む精液が、キャミィをさらに堕ちさせる。

 これですべての女を絶頂させ、多くの女に精液を分け与えた。そうした事実もあって、立ちあがったゼロは辺りを見回し、恐ろしさすら伺える痴態を眺め始める。

 ジュリは一方的にポイズンの肉体を嬲り、嘲り、弄り回して籠絡させている。キャミィ以外の女たちを連れ去った親衛隊は自身が銜えこんだディルドを使って、或いは手や口を使って激しい愛撫を施し、多くの嬌声を生みだしている。

 まるで淫魔が実在するのではないかと錯覚してしまうような光景だ。

 それに満足したゼロは皆に聞こえる声を発して命令を送り、手を触れさせることもなく肉棒を大きくさせる。

 

 「親衛隊、ここに尻を並べろ――次はおまえらだ」

 「「「は、はい」」」

 「お、いいねぇ。じゃあ他の奴らはあたしがもらうぜ――親衛隊、そいつらもこっち持ってこい」

 

 ゼロの命令により、またジュリからの指令もあって親衛隊は動き出した。

 自分たちが犯していた女たちを全員、ベッドの上に横たえ、自分たちは膣からディルドを抜いてから、地面に四つん這いになって高く尻を掲げる。人種も、国籍もバラバラな女たちが十二人、肌の色も様々な尻が十二個並ぶ。

 まずゼロは一つ一つ、やさしい手つきでその尻を撫で、十二人全員が期待に満ちた様子で尻を振るようになるまで待った。

 それから自分の肉棒を掴んで、どこから狙おうかと先っぽを彷徨わせつつ、薄い笑みを浮かべる。

 

 「さぁ、おまえたちも自分を解放しろ――俺がその手助けをしてやる」

 

 そう呟くゼロを見つめる、ベッドの上で複数の女たちを弄ぶジュリは楽しげな笑みを浮かべ、巧みな指使いで女たちを鳴かせながらも呟いた。

 

 「クククッ、言うようになったじゃねぇか――そろそろ最終段階に進めてかねぇとな。まぁその前に、おまえらをきっちり調教してやらねぇと」

 

 淫靡な宴はまだ終わらない。

 



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悪を成す(スト4・春麗)

 

 彼女は頭がいい。状況を冷静に判断するだけの落ち着きもあるし、決して現実逃避をするような女でもない。これまで何度も危険な目にあってきたし、命が失われてもおかしくない状況だって見てきた。でもそれらをすべて乗り越えてきた経験を持つのだから、彼女は最後まで諦めるようなことはしないだろう。

 しかし、今回に限ってはだからこそわかってしまった。頭がいいことが災いして、諦めるつもりがなくとも正しく理解してしまう状況というものがある。

 春麗がジュリには勝てないと理解してしまったのは、彼女の蹴りが今まさに顔面に当たろうかというその瞬間だった。

 

 「あうっ!?」

 「あーあー……全ッ然つまんねぇ」

 

 左頬に蹴りが当たって、春麗の体はいとも簡単に宙を舞う。無人の広い廃工場の中、彼女の体は砂塵を巻き上げながら地に落ちた。

 ジュリの蹴りは強力にしてしなやかでありつつ、以前戦った時とは似て非なるもの、まるで別人のような動きだった。それが春麗を一方的に負かした要因に他ならず、彼女が困惑している理由である。

 なぜこれほどまでに強くなったのか。なぜこれほどまでに差ができてしまったのか。キャミィが姿を消し、世界中から名のあるファイターが行方をくらましていた間に、一体何が。

 そう思う春麗はジュリから受けた一方的な攻撃により、もはや立つことすら困難な状態だった。それも、手加減された状態で、ひどい怪我は一つも与えられることなく、体力を削るためのような長時間にも及ぶ戦いの末に。

 いかに私情を挟まないようにと心がけている春麗であっても、これには屈辱を覚えずにはいられない。ほんの少し前まで、自分たちはほぼ同格の実力だった。それがほんの少しの期間で、圧倒的なまでの差ができている。これを無視することなどできない。

 退屈そうに頭の後ろで腕を組むジュリの足元で、彼女は強く歯を食いしばっていた。

 

 「もうちょっと楽しめるかと思ったのにさぁ、これじゃ全然気持ちよくならねぇよ。せっかくデザートにしようと思ってたのに、案外その価値はなかったかな? がっかりさせられちまったなぁ」

 「くっ……ジュリ、あなた一体……?」

 「フン、まぁいいか――ファイトはつまんなかったけど、その目ができるんならもう一つの方は楽しめそうだ……おい」

 

 ジュリが呼びかけると同時、いつの間にか近くまで来ていたもう一人の人間がジュリと肩を並べる。

 全身を真っ黒いマントで覆い、目深にかぶったフードで顔すら見せない人影はジュリより頭一つ分小さく、体を隠しながらもどこか禍々しい雰囲気を放っていた。

 

 「ゼロ、遊んでやりな――アジトに帰る前にまず一発だ」

 

 そう呟かれた途端、全身を覆っていたマントが投げられる。その下から現れたのは、靴以外何も身に纏っていない、全裸の少年だ。

 股間をビンと大きくさせて晒し、無表情で直立、瞳の中には空虚さだけが感じられる奇妙な少年。

 彼の顔には、春麗にも見覚えがあった。確かキャミィの知り合いで、彼女がずいぶんと気にかけていた日本人だ、と。

 しかしそう思った直後には、違う、と心のどこかがざわめく。それも当然だ、全裸で股間を隆起させたまま倒れた女に近付くなど、かつて見た本来の彼の姿ではない。

 春麗はジュリに強い眼差しを向け、歯をむき出しにしながら怒鳴った。

 

 「――彼に何をしたのッ!?」

 「あたしじゃねぇよ。シャドルーがやって、たまたまあたしが先に拾っただけでな」

 「くっ、どうしてこんなことを――!」

 「うるせぇ奴だなぁ。おいゼロ、とっとと始めろ。一発やったら連れて帰るからよ」

 「うん」

 

 痛みと疲労で動けない春麗の体に、ゼロの手がすっと伸ばされる。触れられたのは大きくて丸い、尻だった。

 直後、彼女の下半身を覆っていたストッキングがビリビリと破かれ、秘部を隠していた布も無残な姿になり、肉付きのいい白い尻が露わになる。

 悲鳴をあげる暇もなく、驚愕していた春麗が目を見開いて背後に振り返ったその時、すでにゼロの固い陰茎が彼女の秘所にぶち込まれていた。

 愛撫もされず、まだ潤っていないそこへと。

 

 「あぁぁぁっ!?」

 「クククッ、アッハッハ! いい顔すんじゃねぇか、おまわりさんよォ! いいぜ、その声が最ッ高に気持ちいいよ――もっと鳴いたらどんなに気持ちよくなれるんだろうなぁ?」

 「うぐぅ、くっ、ふっ――あぁぁ、だ、だめぇ……」

 

 か細く吐きだされる声には従わず、肉の中に入り込んだ陰茎は激しく動き出した。しかも春麗の体をいたわることもない、ひどく身勝手な様子で勢いよく奥を叩くのだ。

 亀頭の割れ目からだらだらと垂れ流れる大量のカウパー液だけがほんの少しの潤滑油になり、乱暴でやさしさのない行為が春麗を責め立てる。快感よりも痛みの方が大きく、彼女の顔は明らかに苦痛が原因で歪んでいた。

 だからこそ、地面に倒れ込んだ春麗を見るため、股を開いてしゃがみ込んだジュリは楽しそうに笑っているのだ。その顔が見たかった、楽しくて仕方ないと訴えるかのように。

 気付けばジュリも自らズボンとパンツを脱いでいて、しっとりと濡れる秘所を外気に晒していた。右手の指がいやらしく動いて、小さな水音を立てながら快感を生み出す。

 さながらそれは、至近距離で股を向けられる春麗を挑発するかのような自慰だった。

 

 「あはぁっ、いいっ、最高だよ――あの生意気な口叩いてた女が、涙流しながら犯されてるんだぜ。こんな最高なセックスシーンはねぇよ。あぁっ、そんな顔するなよ――もっとぐちゃぐちゃにしたくなっちまうだろ」

 「いぎぃぃ、うぐぅ、あぁぁぁっ」

 

 甲高い悲鳴が工場内に響く中、ゼロは顔色を変えることなく淡々と腰を振る。それもかなり速い速度で、彼女を攻撃するかのような激しい動きだ。

 冷たい地面に無理やり押し倒され、尻を高々と掲げられてぎゅっと掴まれて、潤っていないそこを掻きまわされる。ただでさえ仕事が忙しく、男と交わったことがないまじめな女だったのだ。春麗がその行為に慣れるには時間が足らず、やさしさが足らず、もはや苦痛しか感じられない。

 しかしその愛がないように見える行為が、いつしか泣き喚いていた春麗の膣を揉みほぐしていくのを、彼女自身は気付いていない。

 パンパンに膨れ上がった赤黒い亀頭が膣の肉壁をぐっと押し上げ、無理やりに形を変えながら浅い場所と奥とを移動する。カウパー液を出しながらのそんな単純な動きが、気付かぬ内に春麗の顔色を変えているようである。

 経験はなかったはずの春麗はだんだんと甘い声を洩らし始め、それを受け入れたくないと言うかのようにぐっと目を閉じ、唇を噛んで声を抑えようとしていた。するとジュリは機嫌も良さそうに言う。

 

 「なんだよ、もう気持ちよくなってんのか? クククッ、思った以上に淫乱だったな。これじゃあ調教する甲斐がねぇじゃねぇか――まぁ相手がゼロじゃあ仕方ねぇか。もはや本物の淫魔だからな、あれは」

 「ふぐぅぅ、うぅっ、ふぅぅ――ひぃぃっ」

 

 涙と共に流れる声。それは多大な悲痛そうな色を含めつつ、ほんの少しの甘さも加わっている。

 その証拠に、春麗はわずかとはいえ自分から腰を振っていた。頑張ってゼロの動きに合わせようとするかのような、痛みから逃れるための本能に任せた動きに見える。

 ぎこちないがそんな春麗の動きも手伝って、すでに限界を近くしていたゼロは思い切り射精を開始し、彼女の膣内を一気に満たしていった。そこにもまた気遣いも何もない、自分勝手でしかない行動だ。

 すべてを注がれた春麗は思わず目を見開き、全身を痙攣させながら小さな声を発し、言葉にならない想いを吐露する。だがそれは誰かに伝えられるようなものではなく、その声を耳にしていたジュリはわけがわからないと口にしながらも楽しそうに笑っていた。

 

 「アッハッハッハッハ!! 最ッ高、あんた最高だよおまわりさん! しゃべれねぇほどイキまくってんのか、おいッ! なんて言ってるかわかんねぇよ!」

 「あっ……あっ……あっ」

 「ククククッ、アハハハッ、アッハッハッハッハ!! そうだよ、その顔だッ! それが見たかったんだよ、この雌豚女ァ! いいか、たった今からあんたは人間なんかじゃねぇ――あんたを犯したこの男の性奴隷なんだよ。身の程を知ったか雌豚ちゃん? アハハハハハッ!!」

 

 膣を貫いていた肉棒を抜かれ、自分の体を解放されたというのにぴくりとも動かず、地面に倒れたままだった春麗の頭はジュリによって足蹴にされた。裸足の右足が彼女の頭を踏みつけ、屈辱を与えるかのようにぐりぐりと左右へひねられている。

 その時のジュリはこれまでゼロと過ごした時間の中で、最も幸せそうな顔をしていた。少なくとも彼本人は彼女の姿を見てそう想い、それを口にすることなくジュリを見つめる。

 ぽつりと呟かれた言葉は、彼の表情に見合った無感情なものだった。

 

 「ジュリ、やり過ぎだ。ここで壊しちゃうと意味ないだろ。言ってたじゃないか――お楽しみは、アジトに帰ってからだって」

 

 ゼロがそう言ったことをきっかけにして、その場にいた三人は某国の某場所、元はシャドルーの基地だったアジトへと戻っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アジトに連れ帰られた春麗がまずされたことは、自分専用に与えられた部屋に閉じ込められることだった。

 服はすべてはぎ取られ、素っ裸の状態で体の自由を奪われた上でだ。右手は右足首と革のベルトで縛られ、左手は左足首と縛られ、股を開いた上に動けない状態。彼女はそのまま一室に押し込められ、自分一人では生活できない環境に置かれていた。

 このままでは食事を取ることも、トイレへ行くこともできない。そこで同じ部屋で生活し、終始春麗の面倒を見るためにやってきたのが、一切服を纏っていないゼロだったのだ。

 裸の男女が同じ部屋で、すべての時間を共有する、そこは異質な空間だった。春麗の食事はすべてゼロの手から食べさせられ、排便を行う際は移動や性器を拭くことすら含めたすべてを世話され、何も隠せないままですべてをさらけ出す。これはプライドの高い春麗にとって、予想だにできなかった屈辱だった。

 しかもその上、自分を世話する男が常に裸というのも大きい。いまだに見慣れぬ大きな陰茎は彼女が思わず赤面してしまうほど自然に外気に晒され、力なくぷらぷらと揺れている。おまけに気ままに勃起した時には部屋の外から女を呼び、春麗が見ている前で激しい性交を行ったりもするのだ。一日につき、三回程度ならば少ない方、多い時では一日中女を抱きながら彼女の世話をすることもある。

 さらに一週間も経たない内から、ジュリから指示を受けたのか、それまで普通に世話をしていたゼロが突然、直接的ではないにしても春麗にちょっかいをかけ始めたこともあった。彼女がトイレで用を足しているその時、目の前で勃起した陰茎を激しく扱いたり、彼女のために運ばれてきた料理に大量の精液をかけたり、することがないが故に彼女の裸体を見て自慰を行い、春麗の全身をきつい匂いを放つドロドロの液体で白く染めたことも一度だけではない。その度、汚したゼロ自身が風呂で春麗の体をきれいにするのだ。ただ彼女にとって不思議だったのは、ここまでしておきながらゼロは全く春麗を犯そうとしなかったことだった。

 それだけでなく、春麗の精神を削り取るようにしていたのは、新たに連れて来られた女を初めて犯す瞬間を見せられたことだ。

 日本の格闘家だという、空手の道着を着た「まこと」という女の子がアジトへ来た際、彼女は真っ先に春麗の部屋へと連れて来られ、ジュリとゼロによって犯される様をむざむざと見せつけられた。

 

 「クククッ、よぉく観とけよ雌豚。おまえが負けたせいでここへ来た、おまえが救えなかった人間だ。いずれはおまえもこうなる――肉便器は肉便器らしく、いつもみたいにマンコ濡らして犯されるの期待してなよ。ま、相手するかどうかはゼロの勝手だけどな」

 「――あぁっ、いぃぃっ、あがぁぁっ」

 「ん、きついな。ちゃんと濡らしたのに」

 

 黒々と光る陰茎がぴったりと閉じた秘所を無理やりこじ開け、ずるずると押し進む光景も。その痛みでまことが泣き叫び、涙を流しながら首を振る、拘束されて動けない哀れな姿も。そのすべてが春麗のために生み出されている。

 彼女がジュリを倒し、ゼロと合わせて二人を捕まえていれば、こんなことにはならなかったのに。まことが苦しむ必要はなかったのに。ジュリは唇が触れそうなほどの至近距離まで顔を寄せて何度もそう呟き、疲労に包まれる春麗を揺さぶる。そしてその効果は確かにあった。

 まことが正常位でゼロに貫かれている時、悲鳴にも思える声を聞き、犯されるその姿をはっきりと見ていた春麗は静かに涙を流して、眉を寄せて顔をしかめながらも目を逸らすことはなかった。だがその一方で、大きく開かれた足の奥では、とろりと液を垂らしてもいたのである。

 

 「あぁ~……また濡れちゃったなぁ。欲しいのか? ゼロのあれが――おまえのせいで被害に遭ってる女を犯してる、ゼロのチンポがよォ」

 「ふぅー……ふぅぅ……」

 「鼻息が荒いぜ。もうそろそろ素直になったらどうだ? ここはわかりやすく濡れてんだからさ。ククッ、弄ってもねェのに勝手にパクパクしてるぜ、何か欲しいんじゃねェのか?」

 

 いやらしく動く指によって、春麗の秘所が触れるか触れないかというところで弱く触れられ、それだけで反応して震える体にジュリの笑みがますます深くなる。さすがの強情さ、まだ堕ちるには早いと思う一方で、彼女は誰よりもこの時を楽しんでいた。

 その眼前では激しく腰を振るゼロがまことの膣内を荒らしており、その最中に引き裂くようにして道着を脱がしていく。もはやまことの体に纏わりついているのはただの布切れで、およそ服と呼べるようなものではない。

 半裸を晒した女が、男の気ままによって犯され、抵抗する気力すら失くして泣いている状況。縛られている春麗はそれを見ていることしかできない。

 

 「あぁっ、あぁぁっ、んんんっ、んいいっ」

 「はっ、はっ――締まりがいいな。ちょっと固いけど」

 

 それは初体験を迎えたまことが絶頂するまで、さらに言えばゼロが三度射精するまで続けられ、その日以降、春麗の部屋では毎日二時間ずつのまことの調教が行われ、熱心なそれはまたしても春麗の精神を削る出来事となった。

 また、それ以外に彼女が体験したことでいえば、最も大きかったのはゼロが呼びだして抱いた一人の女のことだ。

 とある日、まことの調教を終え、ゼロ親衛隊から半分の六人を一斉に抱いて盛大な乱交を行ったゼロは、その直後に一人の女を呼びだして性交を始めた。

 親衛隊のメンバーと入れ替わるようにして部屋にやってきたのは、いつからか春麗の大切な友人となった、キャミィだったのである。

 

 「きゃ、キャミィ……!?」

 「はぁっ、はぁっ――春麗……」

 「キャミィ、おいで」

 

 着てる意味があるのかどうかもわからない、乳首や陰毛すら透かして見せるボディスーツを着て、股間には一本の振動するバイブを銜えこみ、紅潮した顔で呼吸を乱す友人。その目は春麗を映しておきながら、彼女を見てはおらず、ただ恥辱と快楽、そしてゼロだけを映していた。

 ペットを呼ぶかのようにやさしい声色と手招きを向けられ、すぐさま歩き出したキャミィは迷いもせずゼロの胸の中へ飛び込み、猫がそうするように頭を押しつけて甘え始める。すぐ傍には両手と両足を拘束されて、淫靡な格好をさせられて動けない友人がいるというのに助けもせずに。

 それは春麗にとって、アジトへ来て初めて感じる絶望というものだったに違いない。これまでは気丈に振る舞い、自分を叱咤して心を奮い立たせ、なんとしても彼らを捕まえると思っていた。絶対に諦めるものか、そう決意してザーメンにまみれた料理も口にしたし、ゼロの自慰のためのネタにされても泣かなかったし、全身をザーメンまみれにされても諦めなかった。

 肉棒を無理やり銜えさせられたこともあった。全身に擦り付けられたこともあった。手と口で体のすべてを遊ばれ、一日中舐められ続けたこともあった。アジトにいる親衛隊が入れ替わりで部屋に来て、休む暇もなく三日三晩愛撫され続けたこともあった。

 それでも頑張ってきたのに、この瞬間にこれまでの努力すべてを忘れた春麗はただ呆然と、嬉しそうにゼロとキスをするキャミィを見つめていた。

 

 「んんっ、んふっ、んんむっ」

 「んっ、ふっ。キャミィ、がっつき過ぎだ。もうちょっと落ち着け」

 「はぁんっ、んんぅ――もう、もう無理ぃ……我慢できないのぉ……」

 

 あの強気で冷静だったキャミィが、遊女のように男へ媚びて尻を振り、自らの指を秘所へ這わしている。同時に、勃起した陰茎をぐっと掴んで、慣れた様子で上下に扱く。

 そんな彼女の姿を見た春麗は言葉を失くし、身動き一つ取れずに、ただ呆然とすることしかできなかった。

 その間にも二人の動きは変わって、あっさりと裸に剥かれたキャミィは春麗が座るベッドに両手をつき、自分から高々と尻をあげて、ゼロを迎え入れる準備をした。体勢を指示されたとはいえ、それにしても迷いのない速さである。

 ゼロは自分の陰茎を手で掴んで位置を正し、もう何度目かもわからないキャミィの膣への挿入を始める。途端にキャミィは甲高い嬌声をあげて悦び、力が抜けた腕と共にベッドへ顔をつけながら、口の端からよだれを垂らしていた。そこにある表情はまさに至福の一時を感じている時のもの、これ以上の幸せはないと伝えるかのようだった。

 

 「あぁっ、んんっ、あはぁぁぁっ――すまない、春麗、すまないっ、あぁぁぁんっ」

 「うっ、ふぅ、今日はいつも以上に締まりがいいなキャミィ。これならひさしぶりに、丸一日やるとするか」

 「あっ、はぁっ、う、うれしい――ゼロ、もっと、もっと強くっ、いっぱい突いてっ。壊れるまで専用マンコ使ってぇ」

 

 ぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴って、しばらくすればキャミィの膣から大量の精液が溢れ出て、当事者ではない春麗でも膣内射精されたことが理解できた。その一連の動きをすべて、彼女は見せられていたのだ。

 この日から約五日間、春麗の部屋にはゼロと共にキャミィも滞在するようになり、二人で春麗の世話をするようになったのである。生殺与奪、そのすべてを二人に握られた状態で寝食を共にし、おもちゃのように体のすべてを遊ばれる日々だ。

 しかも彼らは暇さえあれば春麗に見せつけるように、激しくも甘い性交を何度も繰り返した。様々な体勢で、時にはベッドの上に転がした春麗に覆いかぶさるようにして、二人は何度も体を重ねてそれを見せつけた。

 そんな日々が続いて、春麗がアジトへ連れて来られて、三ヶ月が経った頃。

 二人きりの室内でゼロがねっとりと春麗の乳房や膣を弄っていた時にジュリが現れ、心身ともに疲弊しきっていた春麗がついに自ら口を開いた。

 

 「もう、いいわ……もう殺しなさい……」

 「まぁだ自分の役割がわかってねぇようだな。まったく強情な奴だぜ――そんなアヘ顔晒してまだ知らんぷりとは」

 「くっ……あなたは、最低よ……」

 

 膣をひくひくと動かし、拘束を解かれているのに動くこともできない春麗は、真っ赤な顔で目を潤ませながらそう言う。しかしその姿に覇気はなく、ただ弄ばれるだけの人形にも等しい。

 そのためジュリは機嫌よく笑ってゼロの体にしなだれかかり、背後から屹立した肉棒を掴んで刺激する。非常に手慣れた様子なのは春麗も何度もジュリの痴態を見せられたおかげで知っている。

 ゼロが春麗に愛撫を施し、ジュリがゼロに愛撫を施して、そんな中で会話が行われた。

 

 「あははっ、最低だって? よく言うよ、口ではそう言いながらあんたも楽しんでるんだろ? 三日前から拘束を解いてるってのに、逃げ出すどころかこれまで通りゼロに全部任せっきりで、こいつに体を触られるのも喜んでるじゃないか。クククッ、それなのによくそんなこと言えるな」

 「私はこんなこと、望んでない――」

 「ほんとにそうか? あんたは今日までたくさんの女を見たはずだ――ゼロに抱かれて喜ぶ女を。あんたのお友達のキャミィも、新しいメンバーのまことも、親衛隊もあんたの先輩も、それにあたしだって、みぃんなゼロに抱かれて気持ちよくなってる。誰も逃げられないのさ、ゼロから与えてもらえる快楽からはな」

 「私は、違う……!」

 「フン、そうかよ」

 

 つまらなそうに吐き捨てたジュリは見つめていた春麗から視線をはずし、次いでゼロへと向き直ると彼を立ちあがらせるように促した。

 全裸で向かい合い、春麗の前に立って抱き合う二人はすでに体の準備も出来ており、淫靡な雰囲気を纏っている。また見つめ合う姿も様になっていて、二人が深い仲にあることが容易に確認できた。

 春麗はほんの一瞬だけ、その目と目でわかり合う姿を「羨ましい」と感じてしまっていた。気付いた時にはもう遅く、一度そのような想いを抱いてしまってはもう戻れない。

 悔しそうにぐっと唇を噛みながら、それでも春麗は二人の姿から目が離せなかった。

 

 「それじゃああたしはこのままやらせてもらおうかな。あんたと違ってあたしは素直で、ゼロもゼロのチンポも大好きだから――さぁゼロ、おいで。いっぱい気持ちよくなっていいよ」

 「ああ、わかった」

 

 どんな女でも抱くゼロだが、彼はジュリを相手にする時だけは雰囲気を変える。まるで子供に戻ったように、愛しい女にそうするかのようにやけに熱っぽく抱くのだ。

 太ももまで垂れるほど愛液を出す膣へ、ゼロの陰茎がずぶりと差しこまれる。その時もやはりゼロはジュリへ熱い視線を向けており、彼女もそれを嬉しそうに受け取っている。

 深くキスをしながらの性交は、二人が特別な関係であることを示すかのようなものだった。それをすぐ傍で見せられる春麗は二人から目が離せず、知らず知らずのうちに自分の腰が勝手に動いているのを理解できていなかった。

 

 「んんっ、あぁっ、ジュリ、ジュリぃ――」

 「んっ、はっ、相変わらずの興奮具合だな。そんなにがっつかなくても逃げないっての――あっ」

 

 まさしく見せつけるために、ジュリは立ったまま片足をあげて、二人の接合部を春麗に見せやすい体勢でゼロを受け止めていた。太い肉棒が滑らかに彼女の体内へ入り込んで、じゅぷじゅぷと音を立てながら素早く出しいれされている。しかもその時のゼロはこれまで通り幸せそうな表情で、他の女を相手にしている時より気持ちよさそうだ。

 拘束されていないこともあって、無理やり見させられる春麗はついに動き出し、自分が意識していない中でそっと腕を動かしていた。

 今ならば敵を倒せるこの状況下、春麗が選んだ行動は、自らの指で秘所を慰めることだった。

 

 「はぁっ、んんっ、はっ――」

 

 二人が激しく腰をぶつけ合う光景をじっと見つめ、もはや何を考えているのかわからない表情で、一心不乱に自分の秘所を撫でる春麗。その手つきは初めこそ戸惑い混じりのものだったが、時間が経つにつれ、ゼロがジュリを突く度に大胆に、力強くなっていく。

 そしてついには春麗は自らの指を膣の中へと埋め、くちゅくちゅと中を掻きまわし、水音が立つのも気にせず快感を貪り始めていた。それが、彼女が最後の一線を越えた瞬間であったのだ。

 激しいピストンを続けていたゼロがおもむろに射精したその瞬間、ジュリはしっかりとそんな彼女の姿を確認しており、甘い声を発しながらも口元をいやらしく歪めていた。

 

 「あはぁぁぁっ、イクぅぅぅっ!」

 「くぅ、ジュリ……!」

 

 勢いの凄まじい膣内射精が行われ、思わずジュリは春麗がいるベッドへ倒れ込むようにして膝を折り、汗にまみれた背を春麗の愛液がしみ込んだシーツへと預ける。繋がったままだったゼロもそれにつられてベッドへ昇る。

 彼はそのまま射精が終わっていない間からまたも腰を振り、ジュリはそれを当たり前のように受けながら、だらしなく緩んだ口元をそのままに春麗へと目を向けた。

 咄嗟に壁に背にし、体を縮めて彼らを見ていた春麗の手は止まっており、驚いたような目で激しい性交を目にしている。

 

 「あはぁっ、んんあっ、春麗――き、気持ちいいよ。最ッ高だよ、ゼロのチンポ。そんなに怖がらなくたっていい、だって、こんなにっ、んあぁっ……き、気持ちいいんだからっ」

 「じゅ、ジュリ……」

 「んふぅぅっ、はぁぁ――な、なぁ、聞いたか? キャミィの奴はつい先日、つっ、ついに受精したって喜んでたよ。はぁっ、あっ、ゼロの子を孕んだんだ――人体改造されたあいつに、んんっ、か、家族が出来たんだよ」

 「キャミィに、家族が……?」

 「んあぁっ、そうさ、家族だ。孤独だったあいつが、んんっ、自分の娘を持った。ゼロとっ、キャミィの子――あいつは跳びはねて喜んでたんだよ。シャドルーに操られてたことを、後悔してたからっ」

 

 勢いよくゼロに貫かれながらの言葉は、甘い吐息混じりにしっかりと春麗に伝えられる。潤んだ目はしっかりと戸惑う彼女を捉えており、以前のようなサディスティックな感情は消えている。

 そのせいもあって、これまで決してジュリに対して良い感情を持とうとしなかった春麗が、自ら彼女の傍へと近寄った。体の疼きもいまだに消えず、むしろどんどん増しているが、それでもその話を聞きたかったから。今の彼女はすでに正常な思考など持っておらず、まるで赤子のように無垢に、無知な状態にあった。

 キャミィはこの場所で苦しんでいたのではない、喜んでいた。ぐちゃぐちゃになった思考の中で輝いていたのはその言葉だけだったのだ。

 だからこそジュリは急激に態度を軟化させ、いたわるような声色で春麗に話しかけている。

 

 「あんたはっ、誤解してたかもしれないけど、あたしはあんたと仲良くなりたかっただけさ。んんっ、はぁっ、ここにいる奴らはみんな、仲間を欲してた奴ばかり――ああんっ! はっ、ふっ、あたしらは……な、仲間を集めてただけだった」

 「仲間、を――それは、なんのために……?」

 「シャドルーを倒すため」

 

 その時、再び限界を迎えたゼロが膣の奥まで亀頭を叩きこみ、またしても激しい射精を開始した。あまりにも勢いが強すぎるため、先に出された分が大量にボタボタと噴き出し、白いシーツへと落ちていく。

 彼女と目をしっかりと合わせたまま絶頂を迎えたジュリは甲高い嬌声をあげ、全身を震わせ、春麗を見ながら精液を受け止める。

 春麗はその快楽に染まった表情を、微塵も目を逸らすことなく見据えていた。

 

 「はぁっ、あぁっ……ゼロ、来な。このまま舐めてやる」

 「わかった」

 

 呼吸も荒いジュリがそう言うと、まだ衰えを見せない陰茎を揺らすゼロが動き、ジュリの体を跨いで陰茎を口元へ押し付けるように腰を前に出した。

 彼女はそのあらゆる液体にまみれた亀頭へぺろりと舌を伸ばしながら、尚も春麗へと語りかける。両手はすでに竿と玉を触っていて、巧みな様子で絡みついていた。

 

 「はぁ、ふぅ――わかってほしいのは、あたしらはべつに、悪いことをしたくてこんなことしてるわけじゃないってこと。シャドルーに立ち向かうためには戦力が必要で、あんたらへの協力を頼みたかった。でもほら、あたしらの関係は最悪だっただろ? だから方法を間違えるしかなかったんだよ」

 「ふぅっ……ふぅっ……」

 「それに仲良くしたいのはほんとだ。ほら、こうして――んっ、ゼロに気持ちよくしてもらえば、つまんないこと気にせず頭まっ白にできるだろ?」

 

 にたりと笑ったジュリが愛撫を行ったせいで、ゼロの肉棒はあっという間に精液を吐き出し、彼女の顔を白く染めていく。同時に、勢いよく飛んだ少量が春麗の体まで届き、膣の入り口を出入りしていた右手の甲に付着した。

 春麗はそれをじっと見つめ、顔を真っ赤にして、全身をぶるりと震えさせる。

 

 「あっ――」

 「ふふっ、熱いだろ? これが癖になるんだよ。どうだい、試してみたくはないか?」

 「た、試す?」

 「もうわかってるだろ。要するにゼロとやるんだよ――あたしがしたみたいな、気持ちいいセックスをさ」

 

 そう言うとジュリはゼロをどかせてゆっくりと身を起こし、にじり寄るようにして春麗へと近付いた。

 すぐ近くにいたこともあって彼女はすぐに春麗の肌へ手を触れ、やさしく、体の線をなぞるように手を動かす。

 慈愛が込められたとすら思える手つきに、緊張と混乱に包まれていた春麗の心がゆっくりと揉みほぐされるようだった。

 

 「ゼロ、君と……私が?」

 「そうさ。男と女だ、問題ない。何も間違っちゃいない。動物が子供を産むためにセックスするのはこの世の摂理だ。それにしたいと思ってるなら、迷う必要なんかない――あんたもただの女なんだから」

 「あっ……でも、私は――」

 「難しい仕事のことなんか忘れちまえよ。けいさつかんの前に、あんたは一人の女、普通の人間だろ。セックスするのは当たり前だし、気持ちよくなるのも罪じゃない。いっしょに気持ちよくなって、力を合わせてシャドルーを倒そうぜ――あたしと仲良くやろう」

 「シャドルー……そう、父さんの仇……」

 「あぁそうだ。あいつらを見逃しておくと不幸になる人間がたくさんいる。あんたや、キャミィ、親衛隊の連中も――でもゼロなら、みんなを幸せにできる。実際、親衛隊はゼロを心から心酔してるし、キャミィは孤独じゃなくなった。今のあいつらは不幸じゃなくて、どうしようもないくらい心から幸せなんだ――あんたももう救われてもいいんじゃないか?」

 

 大ぶりの胸をゆっくりと撫でられ、濡れそぼった秘所へ触れられ、奥にある子宮を感じさせるように下腹部を撫でる。ジュリの手はやさしく、春麗の体から困惑を取り除いていった。

 そうしてようやく、春麗の顔つきが変わる。その瞬間にジュリは春麗にぎゅっと抱きつき、彼女からは見えない場所でにやりと口の端をあげた。

 二人は正面から体をくっつけたままベッドの上に倒れ、抵抗も恐怖もない状態で四肢をシーツの上へ放りだす。春麗がそうなったことを確認すると、ジュリは移動し、そんな彼女を膝枕するために頭の方へと裸体を運んだ。

 肉付きのいい太ももに春麗の頭を置き、準備が整ったところでゼロへ声がかけられる。

 

 「さぁゼロ、春麗にもやさしくしてやってくれ。彼女は疲れてる。心も体も癒されるような、甘いセックスを――」

 「ああ、わかった」

 

 ベッドの上で仰向けに横たわる春麗にそっと近付き、固く屹立している肉棒を扱きながら、ゼロはまず彼女へキスを送った。触れるだけの、安心させるようなキス。それを受け取った春麗はそっと目を閉じ、これまでにない安堵した表情で身を捩った。

 頭上ではジュリが目を爛々と輝かせて笑っているとは少しも気付かず、二人は目を閉じてキスをしながら、非常にゆっくりと体を一つにしていく。

 

 「んっ――」

 「痛い?」

 「だ、大丈夫……少し、驚いただけだから」

 「そうか。じゃあ、このまま」

 

 ぐっと亀頭が割れ目を押し開き、中にあるひだを一枚一枚押し上げるようにしてゆっくりと進み、二つの肉体が一つへ繋がっていく。春麗は未知なる感覚にきゅっと眉根を寄せ、不安を感じるかのようにゼロへとしがみついていた。

 しかし彼は安心させるように、やさしい手つきでそんな彼女の頭を撫でながら、かすれた小声で伝える。

 

 「大丈夫だ。全部俺に任せろ」

 「……はい」

 

 春麗が目を開き、嬉しそうに微笑んだ後のことだ。ジュリの時とは違って非常に遅いペースながらもゼロは腰を振り、膣内の状態を確認するかのようにゆっくりと肉棒を前後させる。

 一度奥まで亀頭が押し込められ、カリ首が肉壁を引っ掻きながら入口まで戻り、また奥まで肉を押し開きながら進む。単調ではあったが、その効果は確実に存在し、回数が十を越える前に春麗の甘い声が室内に広がる。

 ずるずると慣れた様子で動く肉棒によって、春麗は確かな快感を得ていた。待ち望んでいたものが得られた、と言ってもいい。

 故に至福の表情で嬌声をあげ、真っ赤になった顔の口元を緩やかに上げる春麗を見たジュリは彼女へ声をかけた。

 

 「どうだい、気持ちいいだろ?」

 「あぁっ、んんっ、気持ちいい……気持ちいいっ」

 「クククッ、いいよ。全部忘れて感じろよ。あんたもちゃんと、あたしらの仲間だから――」

 「あっ、んっ、んふぅっ……な、かま」

 

 徐々にゼロの腰の動きは早くなっていき、春麗を責める動作も変化が見える。一番奥をゴツゴツと亀頭で叩いたり、全体を舐めるように大きな動きで突いたり、相手を気遣いながらも巧みな技術を見せ始めていた。

 その気遣いの効果もあってか、それとも我慢していた期間が長く、感度が異常なほど高まっていたせいか。春麗はあっという間に限界を迎え、それを感じたゼロも腰の動きを速めて続こうとする。

 二人同時に、とはいかなかったが、先に春麗が絶頂し、すぐにゼロが射精するまでそれほど時間もかからなかった。

 

 「ああんっ、あぁぁぁっ!?」

 「うっ、くっ……」

 

 膣内へ飛び散る熱い精液。春麗はその温度を如実に感じて舌を伸ばし、絶叫と共に全身を震わせた。おまけに衝撃が強すぎたのか、尿道からちょろちょろと失禁しながらである。

 二人が体を震わせて絶頂したその後。ジュリの判断によってまだ行為は終わらず、楽しげな声によって続行が告げられる。

 

 「ゼロ、春麗、まだだ。三ヶ月分溜めたんだ、全部発散するまで止まるなよ――お楽しみはこれからだろ?」

 

 言われた途端、ゼロの萎えていない陰茎が再び動き出し、先程よりもスムーズに腰が振られる。春麗も甘い声で順応してみせ、二人は対面座位になって行為を続けた。

 ゼロの顔が春麗の乳房に埋められ、ピンと勃起した乳首やぷるりと揺れる乳房の形をなぞるように舐めながらも、抱きついた春麗の体がリズムよく上下に動いて水音が鳴る。一度動く度に彼女の膣から精液が溢れ出る状態であった。

 速度はさっきよりもよほど速く、最初から強い快感を求めるためのもの。その状態で二人の体は止まることなく動き続け、更なる快感を求めて呼吸を合わせる。

 ジュリはそうした彼らを前にして、指を自らの膣の中へ突っ込み、どろどろと垂れ出てくる精液を塗りたくった後に春麗の尻へ触れた。白い液体に覆われた人さし指が、やさしい力で尻の穴を撫でる。

 これに驚いた春麗は思わず後ろを振り返ろうとしたが、それよりも速く首を伸ばしたゼロに唇を塞がれ、ねっとりと舌を絡まされることで抗議の声も上げられないようになってしまった。

 

 「んんっ、んんっ、んんんっ!」

 「そんなに心配すんなって。大丈夫、こっちで悦ぶ奴も多いから」

 

 しばらく遊ぶようにそこを撫でていたジュリだが、そう呟いた直後には一思いにずぶりと指を穴へと挿入し、中をほぐすように掻きまわす。

 その最中もゼロによる激しいピストンは続いているため、前と後ろの両方から刺激を与えられる春麗は悲鳴のような声を発し、しかし唇を塞がれているせいでくぐもった声しか出せずに感じるばかりだった。

 ジュリが参加し始めて数分、またも早々に限界を迎えた春麗は自分から唇を離してから、ゼロの頭を胸の中に抱き締めながら大声で言う。

 

 「あはぁぁっ、だめぇぇ、イクっ、イクのっ、もうイッちゃうぅぅっ!!」

 

 上手くタイミングを合わせたゼロが射精をすると同時、春麗は全身を痙攣させて絶頂し、それでもぐっと腰を降ろして肉棒を奥まで呑みこんだ。

 長く続いた射精が終わり、溢れた精液がどぷりと飛び出してくるまで、ジュリは指を抜くことなく尻の穴を刺激していたが、二人が再び動き出す前に体を離した。

 そしてゼロが尚も元気よく腰を振るう姿を見てにやりと笑いながら、だらしない顔で悦ぶ春麗を見ながら小さく呟く。

 

 「あーあー、墜ちちゃったねぇ……クククッ、アハハハハッ。時間はかかったが、まぁ楽しめたよ――これでおまえもただの雌豚だなぁ」

 

 聞こえないほどの小さな声で、楽しげに笑うジュリは二人の姿から目を離さない。幸せそうに繋がり、動く彼らもまた止まらない。

 先程と同じように自分の膣へ指を突っ込み、掬いあげた精液を舌の上に運ぶ彼女は人知れず、妖艶な雰囲気で呟く。

 

 「もうめぼしいとこは手に入れたしなぁ。そろそろ動くか――つまんねぇ鬼ごっこはやめて、とっととフィナーレと洒落こもうじゃねぇか、変態ジジイ」

 

 甘く大きな嬌声に紛れて消えていったその言葉は、宣戦布告にも等しかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 それはある日突然、何の前触れもなく始まった。

 某国、とある辺境の地に存在する建物の中で響いた轟音は本来ならばそこにはありえないはずのもので、つまりは侵入者があったことを示すものに他ならなかった。

 音の出所は一人の男と、一人の女。赤い軍服に身を包む男、ベガと、突如として現れて彼に襲い掛かったジュリとの、鋭い攻撃がぶつかり合ったことで生じたものである。

 二人は最初の一撃をぶつけ合い、強い衝撃を受けながらも距離を取って、改めて対峙した。

 ベガは怒りを表す表情で、対するジュリは余裕が醸し出される笑みである。

 

 「よォベガちゃん。束の間の休息は楽しめたかよ? もうおまえと遊ぶのも飽きたからとどめ刺しに来たぜ」

 「小娘が――我が組織を相手にずいぶんと好き勝手してくれたようだな」

 

 距離を置いて向き合った二人の間にあるのは明確な敵意と、思わず背筋が凍る濃厚な殺気。しかし当人二人は少しも怯える様子もなく、お互いに意識を向けながら平然と言葉を交わしている。

 これまで自分のアジトをいくつも潰され、親衛隊のメンバーを奪われていたベガは怒りを露わに拳を握り、自分に敵対するジュリを睨みつけている。その拳を止める必要などなく、ベガは彼女をこの場で始末するつもりだろう。

 だが対峙するジュリは余裕の態度を崩さず、以前に会った時とは何かが違うと感じさせる姿だった。そのせいでベガはさらに警戒心を高め、いつでも動けるようにと警戒心を高めていた。

 それすらもどうでもいいと言うかのような、ジュリの声が広い廊下に木霊する。

 

 「そりゃあだって、こっちは大ボス探してんのに全ッ然出てきてくれねぇからさぁ。ちょっとイラついちゃったりもしたんだよね――で、ついでだからあいつらもらっていったわけ」

 「どうやって懐柔した? あれらはすでに洗脳を終えている。おまえを敵と認識することはあっても、味方と思うことはない」

 「あぁ、そうだったそうだった。出会いがしらにいきなり襲いかかって来たもんな。ま、わりと簡単に返り討ちにしたんだけど。……懐柔した方法? そんなもんただ一つだよ。あたしがあいつらを仲間にできたのは――すべてあんたのおかげ」

 「何?」

 

 ジュリがそう言うと、ベガは怪訝な表情を浮かべていたのだが、その瞬間にも動く人影があった。

 暗い廊下の中では顔も確認しづらいが、ゆっくりと廊下を歩いて新たに現れたのは真っ黒いマントをかぶった人間。隣に立つジュリが親しげに頭を撫でる、フードをかぶった誰かだった。

 この時点ではまだベガはそれが誰なのかを理解していない。ただ少なくとも自分の敵であることは理解していた。

 まだわかっていない、という事実に反応してジュリが低く笑い声を発する中、彼女の手によって黒いフードが降ろされる。するとすべてを理解したのか、ベガは先程以上の怒りを露わにし始めた。

 

 「あんたが残した最高の贈り物だよ――あたしが捕えたのは全部女。男に抱かせるための、な。つまりあいつらは一人残らずこいつの生贄で、性奴隷にするために集めてやったのさ。色んな国を回って、アジトを潰して、一人ずつ蹴り飛ばして連行してなぁ。そりゃあ大変な仕事だった」

 「貴様ッ、その少年は――越えてはならん一線を行ったな。もはや肉塊すら残らぬと思えッ!」

 「アハハッ、そうキィキィわめくなよジジイ。どうせあんたはもう、終わりだ――こっからはこいつが覇権を握る。あんたのすべてを奪い取って」

 「小娘がッ、生意気な口を――!」

 

 怒り狂ったベガが前へ飛びだし、ジュリを今にも始末しようと素早い動きを見せる。だがその瞬間、二人の背後から現れた新たな人間が彼の体を勢いよく蹴り飛ばし、思わぬ反撃を受けたベガはあっけなく宙を飛ぶ。

 歯を強く噛みしめ、くるりと体を回した彼は見事に着地し、飛び出してきた影に目をやる。

 新たに現れたのは一人、ではなく、後からゆっくり歩いてくる者を含めて十二人。

 

 「貴様らはッ――!」

 「みんなあんたに言いたいことがあるんだとさ。ただし、語るのは言葉じゃなくて拳でだけど」

 

 ゼロに寄りかかるようにして背後から抱きしめるジュリがそう言うのは、周囲に立つ十二人のゼロ親衛隊についてであった。元はベガ親衛隊と呼ばれた彼女たちが、今は全員が強い意思を持ってベガを睨み、拳を向けている。

 更なる怒りが心底から沸き上がり、思わず言葉を失くしてしまうベガだが、現在の状況がどういったものなのかわかっている。自分の絶対的不利も、逃げる隙すらないことも。

 素早く行動したゼロ親衛隊は瞬く間にベガの周囲を取り囲み、決して逃す隙は与えないと厳しい視線を向けているのだ。これではいくら彼が強力な“サイコパワー”の持ち主であっても、全員に勝つことはおろか、上手く逃げることすら難しい。

 包囲が完了すると同時にゼロの体を離し、この状況に心を躍らせるジュリは自身もゆっくりと前へ進みつつ、にたりとした笑みをベガに向けて口を開いた。

 

 「悪党ってのは、最後にはやっぱり滅ぼされるものなんだよ。今の状況だと、言わばあたしらは正義の味方――どっちが勝つかなんて、もうわかりきっちゃってるよなァ?」

 「貴様ら如きが、このベガ様に勝てるとでも――」

 「あぁ思ってるさ。なんたって最初っからモノが違う。ボスの器じゃウチのが上だぜ、男色ジジイ――てめぇ如きじゃ百人居たって感じねぇんだよ」

 

 そう言うとジュリはトンッと軽く地面を蹴って、ふわりとした動きでベガへと肉薄する。

 軽やかな動きと違ってその速度はあまりにも速く、以前に戦ったことがあるベガが思わず驚愕してしまうほどの違いがあった。

 彼女のしなやかな蹴りはあっさりとベガの頬へ叩きこまれ、呆気ないほど簡単に攻撃が届いたその瞬間、ジュリは変わらぬ笑みのまま小さく告げていた。

 

 「自分の部下を満足に支配できねぇ奴は、とっととその席を開けろ――ゼロが座れねぇだろうが」

 

 小さな声は勢いよく地面に叩きつけられたベガの耳にも届いていたが、そこから何かしらの返答が聞こえることもなく、シャドルーアジト内での戦いは三十分とかからず終わった。

 この日を境に、全世界へ規模を広げていたシャドルーは壊滅。頭を潰されたことで傘下にあった組織や構成員も次々に各国で捕えられ、罪を問われた。

 しかし世界中でそんなことが起こっても、シャドルー総帥であったベガの姿は発見されず、また組織を潰した張本人の名は出なかった。

 そして同時に、世界各国で行方不明となった数人の女たちの行方も、わからぬままだったという。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「シャドルーは終わった。こっから先は、ゼロ、あんたの自由だ」

 「俺の自由?」

 「そうさ。あんたが思い描く世界を作ればいい。そのための戦力と道具、基地も資金もすべて揃った。あとはあんたがこれだと言えば、思うがままに変えられる――さて、どうしたい?」

 「うーん、そうだなぁ……」

 

 そこは幾人もの女たちの嬌声が木霊する、淫靡で狂気的な空間であった。

 すべての人間は生まれたままの姿になり、すべての人間が快楽を貪り、すべての人間が人の持つ欲求に従った本来の姿を晒している。ある者は獣のように尻を突きあげて低い声を発し、ある者は前も後ろも女に犯されて尿を垂らし、ある者は愛情を確認し合うかのようにねっとりと舌を絡ませる。そういう常軌を逸したような、女ばかりが性を貪る光景が広がっていた。

 その中央に位置するベッドに腰掛け、一度に数人の女を相手にする男と、彼の背に抱きつく女がいた。その二人こそこの痴態が満たされた空間を作り出した張本人、性と快楽を操ってみせた淫魔のような人間である。

 彼らは舌をちろちろと合わせながら話を続けていた。その一方で男は己の陰茎で金髪三つ編みの女を貫き、片手をお団子頭の女の秘所へ触れさせ、片手を十代のショートカットの女の胸に挟ませて指を舐めさせている。さらに足元では一人の女、褐色の肌と白い短髪を持つ少女が陰茎の根元へ顔を寄せ、玉を口内に含んで転がしている。

 周囲で様々な女たちが入り乱れ、体を重ねて快楽を欲する中、彼らだけが一際異彩を放っていたのだ。

 

 「俺はジュリが望む世界を作りたい。これまでのことも、全部ジュリに任せておいたからできたことだ」

 「クククッ、わかってるじゃねぇか。それにしたって欲がない答えだが――ま、あたしに惚れてるあんたらしい、可愛い答えだよ」

 「ただ、できることなら」

 「ん?」

 「もっと色々な女を抱いてみたい――それが俺の仕事だし、ジュリからもらった大事な役割だ」

 

 これまで様々な女を手中に迎え、今も尚その女たちに愛される男は、さらに望む。世界中の女を抱いてみたいと。それはまさしく悪魔にも等しい、快楽を支配する一人の王の姿だった。

 故に、女は笑顔で彼の返答を喜び、愛おしそうに頭を撫でながらつつき合うように舌を絡ませる。彼女の姿も男とそう違うようには見えず、裸で淫らに体を捩る女たちの中でも特別に見える。

 夢見がちな、しかし実現不可能なわけでもない空想を続ける二人は尚も語り合った。それもすべて、大きな嬌声に包まれる室内の中のことである。

 

 「アハハッ、そうか、いい答えだ。あんたがそれを望むなら、叶えてやることはできるよ。ちょうど目標がいなくなって退屈になるところだったしな――めぼしい女どもは全部、あたしらがもらうとしようか」

 「ああ、それがいい。組織はできても、まだ人員は少ない。大きくするためにはもっと仲間が必要だ――それならやっぱり、俺は自由に抱ける女がいい」

 「わかってるよ。あんたが望む女は、すべてあんたのもの――あたしが持って来てやるよ、ゼロ。裏社会の時代を掴んだあんたは何をしても許される。許さない奴らは、あたしらがすべて消してやる」

 「ありがとう、ジュリ。……でもやっぱり俺は、色んな女を抱いても、一番好きなのはジュリだ」

 

 勢いのいい射精を始めて、三つ編みの女へ何度目かもわからない中出しを行った男はそう言って笑い、己の男根を包む快感に目を細める。

 すると背から抱きついていた女も微笑んで、普段はまず見せることのないやさしい表情のまま、男の唇をぺろりと舐めて呟いた。

 

 「わかってるさゼロ、それはよくわかってる――あたしもあんたが大好きだよ」

 

 数多の敵を打ち破り、数多の女を奪った一つの組織はひとまずの目標を果たした。しかし彼らがそこで立ち止まるとは思えない。

 なぜなら組織のトップに立つ男を支える女は、他の誰にも言わないだけで海より深い愛情を胸に秘めており、男の望むことはすべて叶えてやりたいと思っているのだから。

 たとえ世界を敵に回しても、彼の願望を邪魔する者は一人として許さない。男ならば絶望の淵へ叩き落とし、二度と這いあがれないように腕と足を潰してやろう。女は一度落としてそこから掬い上げ、彼への生贄に捧げよう。

 そう心に決めているジュリはゼロの願いをまた耳にし、今度はシャドルーなどという一部の敵ではなく、世界を相手にして活動することを決めたのだった。

 




とりあえず「ストリートファイター」シリーズはここで終わろうかと思います。
ただ感想の方でも「他の格闘ゲームとクロスオーバーさせてはどうか?」というご意見もありましたので、そちらの方面では考えようかなぁという感じです。鉄拳は公式でクロスオーバーしてますし、一番有力かと。


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征服開始(鉄拳)

スト4続編、クロスオーバーです。エロく書けてるかどうかはわからないけど、とりあえずこのシリーズの基本は「悪堕ち」です。凌辱、洗脳、調教など、絶対的な強者が人間を弄ぶシリーズにできればなと思ってます。


 

 木々の間から差し込む陽光は暖かく、風は穏やかに頬を撫でつけている。とてもやさしく、平和な光景だった。

 そんな平和な光景の中で、彼女は広大な敷地を持つ庭の中で、木陰にある白いテーブルを前にしたイスに座って微笑んでおり、やさしく腕を動かしている。腕の中でリズムよく揺られ、落ち着いた顔で眠るのは小さな赤ん坊だ。

 キャミィはいつもの過激なハイレグ姿で外に出て、誰もいないその場所で自分が産んだ赤ん坊をあやしているのである。頬が緩みきった、これ以上ないほどに幸せだと伝わる姿で。

 

 「あら、こんなところにいたのねキャミィ。ちょっと探しちゃった」

 

 場所は、元はシャドルーが保有していた某国のとある大きな屋敷。険しい山間部にひっそりと立ち、大自然に囲まれるこの場所に到達するには航空機を使うか、死を覚悟して歩く以外に方法がない。だからこそキャミィは自身の裸体が丸見えになる透けた素材のハイレグ姿で、陽光が降り注ぐ庭にまで出ていたのだ。

 そこへゆっくりと歩み寄り、親しげに声をかけたのも同じくほぼ裸に近い格好の女性、やけに卑猥な雰囲気を醸し出すチャイナドレスを身に纏った春麗であった。

 彼女は、大胆すぎるスリットから惜しげもなく白い太ももを露わにし、以前ならば気にしたであろうそれを少しも気にすることなく、キャミィに向かって歩いていく。いくら女しか存在しない屋敷の敷地内とはいえ、羞恥の欠片も抱いていない様子は彼女らしくなかった。

 だが春麗はそれが当然だと言わんばかりに、今にもこぼれおちそうな尻や胸もそのままに、キャミィが座る前の席に腰を降ろして、テーブルに肘をつきながら口を開く。安眠する赤ん坊を見たその顔には、キャミィと同じく幸せそうな微笑みがある。

 

 「春麗、今日は動いても大丈夫なのか? 近頃体調が悪かったようだが……」

 「うふふ、実はそのことなの。私も初めてのことだったから、お医者さんに診てもらったの――ほら、中国の腕のいい、最近ここへ来た人」

 「あぁ、例の……三十越えるまで処女で、ゼロに抱かれてからは毎日オナニー三昧らしいな。診断してもらうのはいいが、信用できるのか」

 「もちろんよ。私もなんとなくそうならいいなぁと思ってたんだけど、彼女のおかげでわかったんだもの。実は私――ようやくできたらしいの」

 

 溢れ出る感情が抑えきれないのか、にやにやと頬を緩ませながら春麗がそう言うと、キャミィは驚愕から目を見開いた。同時に腕の中にいる赤ん坊をきゅっと抱きしめ、身を乗り出しながらも春麗に詰め寄る。

 喜色満面で体を捩る彼女につられたようで、徐々に状況を理解していけたらしいキャミィもまた嬉しそうな笑顔を見せ、弾むような声で言った。

 少し声のボリュームを大きくし過ぎたようで、間近で聞かされた赤ん坊が眉を寄せて、慌てて口を噤んだりもするのだが。

 

 「ほ、本当かッ――っと、ごめんな。よしよし、大丈夫だよ」

 「うふふ、キャミィもすっかりお母さんね――ええ、そうなの。本当よ。私もようやくお母さんになるの。ゼロの子供を孕んだのよ」

 

 改めて自分の口から、春麗ははっきりと検査の結果を伝えた。するとキャミィはまるで自分のことのように笑顔で喜び、赤ん坊をあやす手を動かしながら春麗に声をかける。

 言葉の中に込められた感情は、嘘も偽りも混じらない、心からの賛辞だ。

 

 「そうか、よかったな春麗。おめでとう――ずっと言っていたものな。自分も早くゼロとの子が欲しいって」

 「ええ、そう。これでキャミィとさくらに続いて、三人目。私も彼の赤ちゃんを産めるのよ……」

 

 うっとりと、幸せそうな声色でそう呟く春麗の視線は下がり、新たな命が宿った自分の腹を見つめながら撫でていた。嬉しくなってキャミィも同じくそこを見る。

 屋敷の設備は完ぺきだ。襲撃に対しての警備、自給自足も加えた豊富な食料、あらゆる局面に対するための優秀なスタッフたち。この場にいるのは全員女性だが、赤ん坊を産むための設備も施設も人員も揃っている。キャミィやさくらがそうであったように、春麗の子供を取り出すのに苦労はしないだろう。

 これまでの人生の中で、最上の喜びを噛みしめる二人はどちらからともなく笑顔を向け合い、言葉もないままに穏やかな今の時を楽しんでいた。美しい自然に囲まれ、争いから遠いところにいて、愛する男との普遍的な日々を楽しむ。ここはまさしくこの世の楽園だった。

 この場を作り出し、連れてきたゼロへの想いは募るばかり。彼といっしょになれてよかったと、同じ男を愛する二人は青い空を見上げながらぽつりと呟く。

 

 「あぁ……今日も平和だな」

 「ええ……本当に」

 

 そうして穏やかな時を過ごしていると、ふぇぇっとキャミィの子供が泣き出した。それだけで頬を緩ませる二人にとっては、それもまた幸福の一部なのである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 世間は今、大きな話題で持ちきりになっていた。これまでは数少ない者だけが知っていた事実が世界中に露見し、それによる世界の大きな変化を実感しているのである。

 悪の秘密結社、シャドルーの壊滅。世界を股にかけて悪事を働いていたこの巨大な組織が崩壊したことにより、傘下にあった様々な組織も次々に国家から摘発され、構成員が捕えられていった。これまでうまく姿を隠していた犯罪者たちが一斉に逮捕され、世界は平和に向かって大きな一歩を踏み出したと、世界中の誰もが思っている。

 しかしそう思っているのはのんきな人間たちばかりで、彼らはまだ隠された真実を知らない。シャドルーは壊滅しても、その総帥であったベガは捕まっていないこと、ベガを倒してシャドルーを潰した者に関する情報は全く存在しないこと。

 世界はまだ真なる平和には辿りついておらず、むしろシャドルーが壊れたことによって混沌の道を辿ろうとしていたのだ。

 新たな事態が起こり始めたのは、とある日の夜のこと。とある一件からシャドルーと敵対し、近頃は活動していなかった三島財閥、その所有の高層ビルで事は起こった。

 誰にも言わずに覚悟を決め、孤独を感じながらも計画を止めるつもりのなかった風間仁はこの日、ビルの最上階フロアにある大きな一室で立ち、町を一望できるガラス張りの壁の前で目を閉じていた。

 そこへ、彼を狙う狼藉者が堂々と現れたのである。

 

 「よォ色男、戦争ごっこの準備はできたか? おまえが武器やら兵器やら準備してるせいで、世間じゃ三島財閥は非難ごうごうだぜ」

 

 聞こえてきたのは楽しげな女の声。無礼で傲慢、目の前に立つ男を道端の小石程度にしか思っていないかのような、気にいらなければ蹴散らせばいいと態度で伝えてくる女だった。

 その女、ハン・ジュリのことは仁もよく知っている。といってもそれは彼女が以前、裏世界の組織に所属していた時の話だ。凶暴で行動の読めない彼女は裏の世界では有名だったせいである。

 しかしある時から、彼女の噂はぱったりと途絶えた。死んだとも、殺されたとも、何も語られることなく噂すら立たない。あの有名な女がどこへ消えた、と一時は話題になっていたほどである。これを仁が見逃すはずはない。

 シャドルーほどの巨大な組織、そしてベガほどの用心深い男が倒されたのには理由がある。ならばまず真っ先に考えられるのは、内部からの裏切り行為。重要な情報が流れて、ベガが逃げ出す間もなく迅速な行動でやられた、と仁は推測していた。

 そこで考えられるのは、シャドルーの下部組織に所属し、彼への復讐の機会を望んでいたハン・ジュリの存在だ。復讐どうこうという話自体は仁も知らないが、彼女が誰かにつき従うような性格でないことは裏社会でも広がっている。それにしばらくの間、彼女は痕跡一つ残さず姿を隠していたのだ。動機は十分、そのための実力も潜伏期間もバッチリ合う。

 黒幕はこの女しかいない。そう思いながら仁は閉じていた目をゆっくりと開け、わずかに背後を振り返った。そこには、噂でしか聞かなかった女、ハン・ジュリ本人がにやけた笑みで立っていた。

 

 「……不可解な話だ。シャドルーを潰して、ベガの姿も消えた。だがそこにはおまえの影がない、おまえがやったという証明がない――何を考えてる?」

 「何をだって? そんなの簡単だよ――あたしには愛しい男がいる。身も心も、すべて捧げた大事な男さ。そいつが望むんだよ――世界が欲しいって」

 

 ギラついた瞳が、まっすぐに仁を射抜く。肌がビリビリと震えるような、強烈な雰囲気がそこにあった。

 今のジュリはすでに本気だ。微塵の油断もなく、遊ぶつもりもなく、興味のない男との一時を終えて愛しい男に会う。そのことだけを考えている。だから彼女が望むのは噂で聞いたことがあるだけの男との深夜の密会ではなく、愛する男に生贄をささげること。若く美しい女を抱かせることだ。

 シャドルーが作り出した“風水エンジン”という義眼を左目に持つ彼女は、その目を紫色に怪しく光らせ、狂気的な笑みを見せながら妖艶に腰をくねらせる。その目的は一つしかない。

 

 「何考えてんのか知らねぇけど、あんたが起こす戦争で世界を荒らされちゃ困るんだよ。だってここはあたしの大好きな男のものになるんだから――どっかの犯罪組織がいた頃は役に立ったけど、もうあんたは必要ないんだよ」

 「フン、大体はわかった。だがそう言われてはいと頷けるほど、俺も物わかりはよくないぞ」

 「ああ、わかってるさ。だからちょっとした趣向を凝らしてみた」

 

 ジュリがそう言った瞬間、ビル全体の電気が一斉に消える。二人がいる最上階フロアも同じだ。電気系統を管理する施設に問題が起こったらしく、あまりにも突然な事態は復旧するまで時間がかかりそうだった。

 仁が暗くなった室内を見回し、警戒心を高めながらそう考えていると、ジュリの近くで異変が起こった。

 ずぶり、と音が立ちそうな波紋が暗闇に広がり、そこから一人の男が音もなく姿を現した。軍服とも思える赤い服、赤い帽子、黒いマント。そしてギラリと光るその眼光と、手から迸る強力なサイコパワーを操れるのはただ一人。

 少し前に姿を消したはずの元シャドルー総帥、ベガが、ジュリに従わされるような形でそこに立つ。仁は驚きのあまり全身を強張らせ、愚かにも棒立ちのまま疑問を口にすることしかできなかった。

 

 「なぜ、その男がここに――シャドルーは壊滅した。てっきりどこかで死んだものと……」

 「誰がそんな話ししたんだよ。こいつは今もピンピンしてるぜ。ただし、今は昔と違ってあたしらのおもちゃだけどなァ」

 

 強力な悪が二つ揃い、今一つによって統べられている。その光景を目の前で見せつけられた仁は、知らず知らずのうちに冷や汗を流し、胸中に確信を抱いていた。

 世界はまだ、平和になどなっていないのだ。

 

 「洗脳、したのか……あのベガを」

 「おっと、ひどいなんて言うなよ。こいつが今までしてきたことを考えれば、妥当な最後って奴さ。これからは存分に働いてもらうつもりだよ――ただし今度はボスじゃなくて、ただの平社員としてな」

 「クッ……!」

 

 その時になって仁は拳を強く握り、腰を落として戦闘態勢を整えた。もはやこの場に、安全な場所などない。

 強力なサイコパワーだけでなく、格闘家としてもそこらの人間では倒せなかったレベルの達人であるベガが、ああもあっさりと従えられている。ならばそれを倒したジュリも合わせて二対一、状況は圧倒的に敵の有利にある。

 仁は慌てた様子で心を落ち着け、体の余分な力を抜き、戦うための準備を終える。しかしそこで揺さぶりの言葉をかけたのが、にやりと笑うジュリだった。

 

 「そう心配すんなよ、あたしは一旦ここを離れる。だからあんたと戦うのはこいつだけさ」

 「何……?」

 「――ここに到着するまでに、イキのいい中華娘がいたなァ。あれはゼロが気にいりそうだ」

 

 ジュリが振り返り、部屋の出口へ向かって歩き出す。妖艶にすら見えるゆったりとした歩き方で。

 だがその言葉を聞いた仁は何かに思い当たったらしく、慌てた様子で手を伸ばし、ジュリの後を追おうとした。

 彼女が楽しげに口の端を上げているとも知らずに。

 

 「なっ、待て、そいつはッ――うぐッ!?」

 

 仁が拳を解き、一歩を踏み出したその瞬間、恐るべきスピードで前へ進んだベガは強烈な一撃を繰り出し、仁の顔面に右拳が当てられた。

 その間にジュリはフロアからの脱出を果たし、戦闘が激化するその場所を後にする。直後、先程まで彼女がいた大きな部屋からは巨大な爆発音と爆炎が立ち上った。

 その頃、ビルの電気系統が狂ったことによりエレベーターを使えず、最上階の異変を察知した少女は外に面した場所に配置された非常階段を使ってビルの上を目指していた。

 オレンジ色のチャイナドレスの裾をはためかせ、荒れる呼吸を整えようともせずひた走る少女、暁雨(シャオユウ)はビル全体を揺るがすほどの轟音を耳にして心を痛めている。思うことはたった一つ、そこにいるはずの仁のこと。

 

 「ハァ、ハァ、仁……無事でいて……!」

 

 彼女とて仁の腕前は知っている。彼が強いことも、そんじゃそこらの格闘家には負けないことも。しかしこの瞬間にも胸を焦がす想いはそれとは別物なのだ。

 彼が心配でたまらない。今すぐに動きださずにはいられなかった暁雨は尚も足を止めず、最上階を目指して走る。

 だがその時、一際大きな爆発音が鳴り響き、ビルだけでなく非常階段を揺らしながらも最上階から様々な物が降ってきた。ガラスや壁の破片、室内にあったであろう高価そうなテーブル、本や何らかの資料であろう紙の束もたくさん。

 その中に混じって、小さく悲鳴を上げて体勢を崩した暁雨の元に、上から降って来たらしい女が軽やかに階段へと着地した。獲物を捕える目をした、ジュリだ。

 

 「よぉお譲さん。遊ぼうぜ」

 「なっ、だ、誰よあんた! 邪魔しないで、私は仁のところに――!」

 「あんな奴よりもっといい男紹介してやるよ――マンコにチンポ突っ込まれて、二度と離したくなくなるような、な」

 「なっ、なっ――サイテーッ!!」

 

 足場も悪いその場所で二人の女が蹴りを繰り出し、互いの足をぶつける。ここでもまた新たな戦いが始まった。

 そしてこの時、遡ること数十分前からずっと戦い続けている面々が、このビルの最下層に存在したのだ。ビルの電気がすべて消えてしまったのも、このためである。

 三島財閥のビルへ忍び込んだ人間を捕えるべく動き出した、仁に雇われた暗殺者、ニーナ。金髪をうなじ辺りで括り、紫色のボディスーツに肢体を包む彼女は、現在三人の侵入者によって悩まされていた。

 着る意味の無さそうな透けるハイレグを着て、乳首や陰毛を見られながらも立ちはだかる二人の女性、ユーリとユーニ。この二人はふざけた格好をしているがこれまでニーナが出会った人間の中で最も強く、元も連携が取れている。あまりにも隙がないその連携は逃げることすら許されないような厄介さを持っていた。

 しかし何よりも厄介だったのは、彼女たちに守られる一人の男の方だ。全裸の上に体を隠せる黒いマントを巻いて、靴を履いただけのこのふざけた男、ゼロは、今は隆起した肉棒をニーナに見せつけながら彼女へ向かう歩みを止めない。それがまた凄まじく面倒なのだ。

 彼がすることは、ニーナが繰り出す本気の一撃を軽やかに紙一重で避け、彼女の胸や尻や股に触れ、豊満で柔らかい感触を楽しんだり、あまつさえ強靭な握力でボディースーツを破ったりしている。あくまでもニーナを敵としてではなく、女として見ている様子だ。そしてそれだけでなく、彼女をこの場で抱こうとすらしている。

 これにより、ニーナは言い知れない恐怖を感じていた。これまで美女と称するにふさわしい彼女の体を狙う輩は多かったが、彼女は優れた格闘家で暗殺者だ。そうそう簡単に言いよれるはずもなく、バカな男はすべて文字通り足蹴にしてきた。それが彼女の自信にも繋がっているのである。

 だがこの男は、ニーナを女として見るばかりか、彼女の卓越した戦闘技術を持ってしても一撃も当てられない。すべて完璧に見極められ、ギリギリのところで避けられ、彼女が避けられないという場所を選んで手を伸ばしてくる。

 しかもゼロは一目見ただけでわかるほど、他とは違うと想わせる奇妙な雰囲気を持っていた。絶対的な強者と言えばいいのか、敵うはずの無い存在だと認識させられる。攻撃が一度も当たらないのもいい証明になっていた。

 その上でユーリとユーニが彼を傷つけさせまいと攻撃してくるのだ。もはやニーナは自分の勝機を感じ取ることができず、また実力差のせいで逃亡すればその時点に捕えられるような気もして、前にも後ろにも行けなくなっていた。

 攻防は彼女の全身が汗にまみれても終わらず、ついに業を煮やしたらしいゼロが、ぽつりと呟く。

 

 「きりがないな……仕方ない。ユーリ、ユーニ、俺だけで捕まえるのはやめだ。おまえたちもあいつを捕まえろ」

 「「御意」」

 

 どうすればいいんだ、と体を動かしながら聞いていたニーナは、ゼロが発したその言葉を聞いて愕然とする。まるでそれは、「おまえなどいつでも捕えられたぞ」とでも言われているかのような気分にさせられたせいだ。

 今までは遊ばれていたとでもいうのか、とニーナが憤慨しそうになったその瞬間、ユーリとユーニが素早く動いた。戸惑いを隠せないニーナを前後から挟み込むようにして動いたのである。

 彼女が対応しようと両足に力を入れた瞬間、地面を蹴る寸前に、すでに彼女の懐にはマントすら捨てた全裸のゼロが入り込んでいた。

 

 「なっ――」

 

 驚く暇もなく、ゼロはニーナの体へと手を伸ばし、力ずくで彼女が身につけるボディスーツを引きちぎった。固い繊維でできていたはずのそれはあっさりとバラバラにされ、肉付きのいい胸や鍛えられた腹筋のつく腹が外気に晒される。

 それだけでは終わらず、咄嗟に逃げようと後ろに跳んだニーナを待ちかまえていたかのように、ユーニが彼女の腰へ腕を回す。気付いた時にはすでに遅く、ニーナは跳んだ勢いもそのままにユーニによって投げられ、ジャーマンスープレックスの要領で地面に叩きつけられた。しかもそこにはすでにユーリが待ちかまえており、大股を広げて頭から落ちたニーナを、その状態のままで拘束する。ユーリが足を掴んで固定し、体勢を整えたユーニが両手を掴んで床に縫いつける形だ。

 これでついに、ニーナは完全に動けない状態に固定され、悠々と歩くゼロがそこへ到達する。時間にして十秒も経っていない間のこと、あまりにも速すぎる決着であった。

 ぶるんと肉棒を揺らし、吟味するかのような視線でニーナを眺めるゼロは彼女の傍に立つと、顎に手を当てて考え始めた。苛立つ彼女が憎らしげに彼を見ていることに気付きながらも。

 

 「よし、ようやくだな。さてと、どこから始めようか――」

 

 口、胸、腹と、全身を舐めるように視線が移ろっていくのがわかった。悔しさでニーナは強く歯噛みする。これほどの屈辱は初めてだと。

 焦らすように自分の陰茎を扱いていたゼロはようやく心を決めたらしく、ゆっくりと動き出してニーナに近付く。正しくは、拘束されている彼女と、拘束している二人の傍に、だ。

 三人に触れられる位置に来たゼロはまず、ニーナの大事な部分を隠していた残りのボディスーツを手で破り、彼女の秘所を露わにする。途端にむっとした汗の匂いが広がり、機嫌良さそうにゼロの陰茎がぴくりと反応した。

 羞恥を感じるよりもまず、敵に対する強烈な殺意に身を包まれるニーナであったが、彼女の想いに反して拘束された体はぴくりとも動かない。完璧に動きを封じられていた。

 その間にもゼロは最初の狙いを定めたらしく、きれいに陰毛が整えられた秘所へと亀頭を擦り付け、割れ目から垂れ流れる先走り液をなすりつける。それだけでニーナは彼が考えていることがわかった。

 同時に、この状況から抜け出すことが不可能なことにも、聡明な彼女はすでに気付いている。

 

 「まずは濡らさないとダメか……ユーリ、舐めてくれ」

 「はい、わかりました――んっ、ふっ」

 

 ぐっと腰を突き出すと、グロテスクとも思える肉棒がユーリの口内へと含まれる。彼女は慣れた様子でそれに舌を絡め、拘束する手により一層の力を加えながらも頬を赤く染める。

 同時に、ゼロの尻を目の前にしたユーニはためらいもなく舌を伸ばして、ゼロの尻の穴を舐め始めた。舌先で穴の外も中も揉みほぐすかのような、愛情が込められた動きである。

 ゼロは一度射精して、自分の精液を潤滑油にしてニーナを犯すつもりなのだ。しかしそれがわかったところで、拘束を解けないニーナにはどうすることもできない。なんとか振りほどこうと全身に力を込め、血が出そうになるほど強く歯噛みすることしかできない。それでは何の解決法にもならないと知りながら、そうせざるを得なかったのである。

 彼女がそうして無駄な抵抗を試みている間に、どうやら限界まで高まってきたらしいゼロは二人の奉仕を受け入れた後、腰を引いて解放した肉棒を自らの手で激しく扱き、ニーナの秘所へ亀頭を押しつけて射精した。その瞬間、状況を予測していたニーナであったが目を見開いて驚き、全身を硬直させてしまう。

 凄まじい勢いで放たれた精液は、まるで自らの意思があるかのようにいとも簡単に膣の中へと侵入していき、自身が持つ熱をニーナにも感じさせる。しかも大量に出されているせいですべてが膣内に納まったわけではなく、秘所だけでなく顔や胸にまで飛び散り、悔しさで満ちた表情まで白く染め上げた。

 そしてすべての精液を出し終えた時、納得したように小さく頷いた彼は腰の位置を正して、まだ精液がぽたぽたと垂れ落ちる亀頭をニーナの膣に当て、ずぶりと一息に侵入を開始した。体内に異物が入り込み、その感触を理解したニーナは苦しそうに表情を歪める。

 ただ、そこに確かな快楽が感じられたことは、心を閉じた彼女にも理解できていたようだ。

 

 「うっ、ぐっ――はっ……」

 「締まりがいいな。やっぱり抱くのは格闘家の方がいい。これならすぐにイケそうだ」

 

 この後のことも考え、早々に達しようと考えるゼロではあったが、その割には腰は浅い場所を執拗に突くような動作を繰り返している。嫌がるニーナを嘲笑い、快楽の坩堝に落とし込もうとするかのような、絶対的な強者による遊びに見える。

 ニーナは彼が思う通り、浅い場所を突かれる度、徐々にではあるがゼロの責めで精神を崩されようとしていた。ただの性交ではない、自分という存在すべてが徐々に犯され、支配されていくかのような感覚。すでに男を知っているニーナであっても、彼との性交は初めての体験と思えるものだった。

 次第に動きは大きくなり、ニーナの膣はゼロの肉棒によって掻きまわされる。膨らんだ亀頭が肉を押し分け、カリ首が内壁を引っ掻く度、感じたことのない快感が全身を駆け抜ける。抗いがたい、と思ってしまうような感覚だ。

 こんな短時間でそう思わされている事実に、ニーナは背筋を凍らせて怖くなった。まるで本当に心を操られているかのような、あまりにも強力な催眠だとしか思えない。

 しかし実際に体を駆け抜ける快感は、逆らうことは難しい。否、むしろ実際にその味を知ってしまった今では強い女であるニーナでも逃れることは不可能だと感じてしまうほどだ。

 今、彼女の膣内では先に出された精液がぐちゃぐちゃと音を立てて塗りたくられ、肉棒によって全体を抉られる。気付いた時には、すでにニーナは逃げられない場所まで引きずりこまれていた。

 いつの間にか脱力し、抵抗をやめたニーナは素直に抱かれているようにしか見えない。なにせ今ではユーリもユーニも、さほど彼女に触れる腕には力を入れていないのだから。押さえつけているというより、本当に手を置いているだけなのだ。

 その状態で彼女はゼロに突かれ続け、いつしか顔を紅潮させながら高い喘ぎ声をこぼしていた。性交で快感を得て、自分の体を相手に預けている姿は、いっそ楽しんでいるかのようにすら見える。

 次第にゼロの腰の動きは大きく、速くなり、叩きつけるように膣内を抉る。固くなった陰茎は今になって更なる硬度を持つようになっていた。

 限界は近い。それに気付いていたのは本人であるゼロだけでなく、彼と一つになっているニーナも同じだった。

 

 「くっ、もう出る……!」

 「あぁっ、はぁっ、あぁぁっ!」

 

 叫び声のような嬌声があがる頃、ゼロはまたしても射精を開始した。ただし今度は、ニーナの膣の一番奥に亀頭を強く押しあてた状態で。

 びゅくびゅくと竿が律動し、勢いよく精液が放たれる。それらはすべて大口を開けて叫び、背を逸らしながら全身を震わせるニーナの中へと注ぎこまれていった。

 しかし量が多すぎるせいで中からごぽりと溢れ出る分もあり、ニーナの股が精液でべっとりと濡れた後、すべて吐きだして満足したらしいゼロは数回腰を前後に振ってから、ニーナの膣から自身の肉棒を抜く。すると途端に、中からどっと精液が溢れ出てきた。

 好き放題にされたニーナも絶頂したらしく、先程までの抵抗が嘘のように、今は全身に汗を掻いた状態で脱力し、動けずにいる。ぼんやりと開かれた目はどこを見ているかわからず、せっかくユーリとユーニが手を離しているのに逃げるそぶりも見せない。

 その時、暗闇の中で機械音が響き渡った。ゼロのマントの内ポケットに入れられた、通信機だった。

 ゼロはまたしてもむくむくと頭をもたげ始める肉棒を揺らしつつ、その通信機を取り出し、通話のためのボタンを押す。その際、ユーリには自分の肉棒をしゃぶるように命令し、ユーニには倒れたまま動かないニーナに更なる愛撫を施すよう命じて。

 

 「ジュリか、俺だ。こっちは終わった。予想以上にいい感じだったよ。今はイッたまま大人しくしてる」

 

 通話の相手は同じビル内にいるジュリだ。あらかじめ立てていた作戦がうまく進んだことを伝え、標的を捕えたことを報告する。その時のゼロはユーリに肉棒を銜えられ、淡くも心地よい快感に包まれたままの状態だった。

 ゼロが今起こったことを自分の感想も交えながら伝えると、満足したらしいジュリは笑みを深くしながら彼へと伝え、撤退することを告げる。

 用事は終わった。手に入れたいものも手にした。後は逃げるだけなのだ。

 そう言うジュリは現在、最上階にまで昇り、自分が仕留めた獲物を床に転がして頭を踏みつけていた。サディスティックな笑みを浮かべながら、しこたま蹴られて動けない暁雨の頭を。

 

 「そうか。こっちももう終わる。脱出の準備しとけよ――うまそうな女も手に入ったことだ、帰ったらゆっくり楽しもうぜ」

 

 通信が終わり、楽しそうに笑うジュリは足を動かして暁雨の頭を地面へと押し付ける。相手が屈辱を味わうようにぐりぐりと、力を込めて何度も。

 そうしている二人の前方では、戦いを終えた二人の男がいた。地面にしゃがみ込んで動けないボロボロの仁と、幾度かの攻撃を受けながらもほぼ無傷で立っているベガ。

 今の二人はあまりにも対照的な姿であった。昔、一度だけ戦った時は互角だったはずなのに、今では圧倒的なまでに差が生まれてしまっている。シャドルーが崩壊した、その直後に。

 膝をついて荒く息を吐く仁は闘志を失っていない瞳で、暁雨を踏みつけるジュリを見つめた。その瞳の奥に、憎悪という彼が最も忌むべき物を映しながら。

 

 「ぐっ、なぜここまで……ただの洗脳ではないのか……」

 「さてね。それはおまえには教えねぇよ。それよりとっとと降参しちまえば? どうせあんた一人じゃ勝てっこないんだからさァ」

 「うぅ、仁……」

 

 暁雨が悔しそうな声を出し、仁が地に伏せる彼女に目をやった時だ。ほんの一瞬の隙間、彼がわずかな油断を見せた瞬間に、ベガは勢いよく前方へと突進していた。

 サイコパワーも利用した素早い動きは、疲弊した仁に反応できるようなものではなく、突き出された拳によって彼はまたも紙のように宙を舞う。そして勢いよくガラス張りの壁へと激突し、苦悶の表情を浮かべたままガラスを突き破る。

 そのままなら、仁の体は十階を軽く越える高層ビルの一番上から落下し、地面に叩きつけられるはずだった。だがそうならなかったのは、彼の体に変化が起こっていたからである。

 暁雨の悲痛な悲鳴を、彼の名を呼ぶ声を聞いた瞬間、仁の表情は一変する。ガラスを突き破って空の上へと躍り出た体はそこでぴたりと静止し、黒いスーツを破いて露わになった背から一対の大きな黒い翼が生え、ばさりと音を立てて彼の体を滞空させている。

 翼の色も相まって、今の仁の姿はまるで悪魔のようにも見えた。

 

 「デビル因子――ついに見せたか、悪魔野郎。それを待ってたんだよッ」

 「仁……だめ、それは――」

 「黙って見てろ、負け犬。もうおまえが関与していい時間は終わったんだよ」

 

 ジュリがにやりと笑みを深め、暁雨がさらに心配そうに顔を歪め、攻撃を放ったベガが凶悪なほどに口の端を上げた頃。

 閉じていた目をゆっくりと開いた仁は、目の色を変えた状態で小さく告げた。

 

 「貴様らに――本当の恐怖を教えてやろう」

 

 静寂が訪れた室内へ向けて言い放った、その直後。仁は気配を感じて背後を振り返る。

 するとその途端、彼は自らの背後に接近していた存在に気付き、その時には恐るべき速度で振りかぶられた拳に顔面が撃ち抜かれ、翼がある甲斐もなくあっさりと室内へ殴り飛ばされる。

 勢いよく床に叩きつけられ、数度体を跳ねさせながらも、仁は確かに敵の姿を視認していた。

 ふわりと羽毛のように、仁の後を追って壊れた壁から室内へと侵入したのは、鉛色の肉体を持つ、筋肉隆々の坊主頭の男。セス、それが彼を表す呼び名だ。

 あまりにも強すぎる一撃を受けた仁はたったそれだけで体の自由が利かなくなり、体内で暴走するもう一人の自分のせいで自我を失いそうになりながらも、必死に地面に拳を当てて顔を上げる。そして睨みつけるようにセスを見つめ、振り絞るようにして声を発した。

 

 「なんだ……こいつはッ……!」

 「クックック、アッハッハッハ! おまえみたいな悪魔を相手に何の策も用意してねぇとでも思ったかよ! くだらねェ、そんな使えない奴だとは思わなかったよクソ悪魔!」

 

 体を震わせ、立つことのできない仁を嘲笑い、ジュリが言う。額に手を当てて天を仰ぎながら、ひどく楽しそうな様子だ。

 ベガとセス、洗脳された二人の強者に前後を挟まれ、満身創痍の状態。仁にはもはや勝機はない。彼本人もそれは痛いほどによく理解できていた。

 ジュリの言葉は続き、暁雨の叫びも空しく、状況は終焉へと向かっていたのだ。

 

 「あたしらのおもちゃに勝てないようじゃ、デビル(そいつ)に打ち勝つなんざ無理無理無理ィッ! ただ心配すんな、おまえのこともうまく使ってやるよ――せいぜいあたしらの役に立てよ。おまえが嫌いな、その悪魔の力を使ってなァ」

 「うっ、ぐっ……!」

 

 とどめの一撃を叩きこまれ、仁の意識が刈り取られる。それ以降、彼はぴたりと動きを止めて大人しくなった。

 後に残されたのは楽しげな様子のジュリと、彼女の命令に忠実に動くベガとセス。

 

 「仁……!」

 

 そして絶望を感じて顔色を失う、ジュリに足蹴にされる暁雨と、彼女に見つめられながらも動かない仁がいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アジトにボスであるゼロが戻ってきた時、ポイズンはちょうど、自分の仕事部屋である調教部屋にいるところだった。世界中から集められた美女ばかりが裸に剥かれ、彼女の足の下でこびへつらい、更なる快感を求めてだらしなく舌を伸ばしているのだ。サディストのポイズンにとって、最高の仕事であると同時に幸せな瞬間でもある。

 彼女が裸で四つん這いになる女の背に座り、目の前に立つ女の膣をディルドでかき混ぜながら、ボンテージを着た自分の膣を一人の女に舐めさせている時。外から女を連れ帰ってきたゼロが部屋を訪れたのを見て、ポイズンはやさしい笑みを浮かべながら腰を浮かせた。

 乳頭を露わにしたボンテージ姿で、ぶるりと乳房を揺らしつつ、他の女たちが浅ましく自らの体を慰める中、ポイズンは妖艶な雰囲気を纏ってゼロへと歩み寄った。

 彼が近くにあったベッドへ金髪の女を寝かせると同時、ゼロの唇をそっと奪ったのである。

 

 「んっ――おかえりなさいませ、ゼロ様。成果はいかほどに?」

 「上々だ。こっちでこいつを頼む。かなり具合がいいんだ、緩めないようにな」

 

 物を扱うかのように、二人はベッドで眠りこける金髪の美女に目を向ける。裸で、ほぼ全身と言っていいほど精液を塗りたくられ、ツンと鼻に異臭が届くほど匂いを放っている裸の女。帰りの航空機の中で散々犯されていたその人物は、ポイズンが初めて見る女だった。

 当然、彼女は不思議そうに首をかしげる。見たことない女であったということもそうだが、外から連れて来られて、具合がいい女を調教部屋へ運ぶというのもめずらしい。この異質な部屋に連れて来られるのは、ポイズンが好きにしていい、彼女の奴隷にするための女ばかりだからだ。

 彼のお気に入りを調教させるのか、とポイズンは不思議に思っている。その疑念に答えるため、ゼロが口を開くのだが、彼の手は当たり前のようにポイズンの胸へと触れていた。

 左手は乳房を下から持ち上げるかのように揉み、右手は片方の乳首を抓って遊んでいる。熱くなった吐息が、すぐ傍にあるゼロの顔へと吹きかかった。

 

 「この女は?」

 「三島財閥に雇われてた暗殺者だ。腕も立つし、体もいい。でも頭がいいのと精神が強いのは少し問題だ――従順に作り直せるまで、ある程度壊してやってくれ」

 「ふふふ、そういうことならお任せを」

 「たださっきも言ったけど、体はいいんだ。つまらなくするなよ」

 「ええ、もちろん。心得ていますとも」

 

 愛し合うようにちゅっ、ちゅっと唇を合わせて遊びつつ、ゼロの手はゆっくりとポイズンの体を這っていく。胸に触れ、腹を撫で、股を弄って尻を弄ぶ。まるで自分の所有物のように、彼の手は自由気ままに女体を遊ぶ。

 しかしポイズンも嫌がるどころか、それが幸せだとばかりに頬をだらしなく緩めているのだ。まわりで互いの体を触り合い、快楽に満ちた声を発する女たちのように。

 もはや今の彼女に、ゼロに逆らう心など微塵たりともありはしない。すべては彼のパートナー、ジュリによって破壊し尽くされ、ゼロによって新たな人間へと生まれ変わったのだから。

 今のポイズンは、ゼロの部下にして拷問、調教のスペシャリスト。ゼロが性のはけ口として使うための女奴隷たちを管理する、重要性の高いメンバーの一人なのだ。

 

 「方法は任せる。うまくやれたら、おまえのして欲しいことを叶えてやろう。それと――今夜は俺の部屋に来い。ひさしぶりに一晩中犯してやる」

 「あぁ、ゼロ様――私にとっては、それが何よりの願いです……!」

 

 うっとりと呟くポイズンをその場に跪かせて、ゼロは自身が纏っていた黒いマントを取る。するとやはり全裸の体が露わになって、すぐに股間にある陰茎がむくむくと大きくなる。

 調教部屋にいる女たちは誰もが言葉を失って、その威容を持つ姿を見つめていた。彼女たち全員が、一度はゼロに抱かれたことがある。そして全員が全員、その時の快感が忘れられずに今も狂っているのだ。今、手の届く場所にその肉棒がある。自分を狂わせた、あの気持ちよさを与えてくれる肉棒がある。

 女たちはギラついた目でゼロの股間を凝視し、己を慰める自慰の手や隣の女の膣を掻きまわしていた動作すら止めて、二人の行動を見守っていた。

 しかし彼女たちの誰も、求めてやまない肉棒に触れることを許されず、代わりにその部屋のボスたるポイズンだけが己の権威を誇示するかのように、ちゅっと膨れ上がった亀頭にキスをする。

 最初は丁寧に、挨拶をするかのように全体へと舌を這わせる。ぺろぺろと弱く、亀頭から玉まで丹念にだ。うっとりと頬を紅潮させたポイズンは熱い吐息を出しながらゼロの股へと顔を埋める。口に含んだ肉棒の先が、喉を突いても苦しそうにすることもなく。

 彼女は自分の口だけでなく、喉まで使ってゼロへの奉仕を始めた。リズムよく頭を前後に振って、固くなった竿に歯を当てないようにと気を配りつつ、しかし唇で扱くように力を込める。昨日今日ではまずできない動きだった。

 しかもポイズンはそれだけではなく、艶めかしく動かした手で彼の玉を揉み、尻の穴に指を突っ込んで出し入れする。彼の弱い場所や感じやすい場所、すべてを知った上でそうしていた。

 楽しむような、それでいて熱心に奉仕するかのような、情熱的な仕草が続く。ポイズンによる口淫は数分間、言葉も命令もないままに行われた。すべて彼女自身の意思によって。

 そして数分後、限界を感じたゼロはポイズンの頭をやさしく撫で、何も言わずに射精を開始した。大量の精液がどっと溢れだし、尿道を通って亀頭の割れ目からポイズンの口内へと放たれていく。彼女はその瞬間にぐっと先端を喉の奥まで呑みこみ、出される精液をすべて飲み干そうと喉を鳴らす。

 しかしだからといってすべてを呑むことはできず、凄まじい勢いのせいで口から溢れだした精液が、彼女の唇から漏れ出て、顎を伝って大きな胸の谷間へと落ちる。

 すべてを出し終え、射精後の肉棒の掃除も舌でし終えた後、ポイズンはようやく口を離した。ゼロも彼女の頭を撫でていた手を止め、ぶるんと萎えた陰茎を揺らしながら一歩後ずさる。

 

 「よかったぞ、ポイズン。今夜も頼む」

 「ええ、ゼロ様――あなたが望むままに」

 

 そう言ってゼロは踵を返し、調教室を後にした。これからそこで彼が連れてきた新しい女、ニーナが調教されるのだと知りながら。

 シャドルーから奪い取った巨大な屋敷を全裸で歩きながら、ゼロは一つの部屋を目指していた。地下にある調教部屋を出て、廊下を歩いている最中に屋敷で働く女たちに出会い、顔を赤らめる彼女たちを次々に犯しながら移動し、何発も射精しながら目的地へ向かう。

 幾人もの女たちを犯し終えた彼がやってきたのは屋敷に隣接する巨大な建造物の一つ。屋敷、研究施設の隣にある、以前は実験スペースとも呼ばれていた場所だ。

 正方形の空間で屋根が高く、闘技場か体育館のように周囲には観客席のような観覧スペースが設けられており、その中央部で実験の成果を確認するらしい。しかし今ではもっぱら、ジュリの趣味を行う場所と化している。そういう意味ではやはり闘技場に近いのだろう。

 その日、そこへ入れられていたのは新たにこの場へ連れて来られた少女、暁雨。服をすべてはぎ取られ、裸の状態で中央に立っており、自分の手と腕で胸や股間を隠しながら、不安そうに周囲を見回している。

 そこへ新たな人間が現れた。今しがたここへ到着したゼロと、自らの意思ですっかり裸になっているジュリであった。

 二人は共に裸で、体を隠そうともせず、困惑する暁雨の前までゆっくり歩いていく。その時の彼女は、他人の裸を見た羞恥心や、これから何が起こるのかという不安が見て取れる表情だった。

 

 「よォお嬢さん。待たせて悪かったな」

 「な、なによあなたたち……私に何するつもり? 仁は? 彼は無事なんでしょうね?」

 「さぁね。知りたいんなら教えてやってもいいけど、条件がある――そう心配しなくていい。ちょっとしたゲームだ」

 

 腰に手を当て、胸を張るジュリは自らの体を少しも隠していない。ふるりと揺れる胸も、整えられた陰毛も、その下にある大事な部分も、すべてが暁雨の前に晒されている。

 横には全裸のゼロもいる。すでに自己主張を始めて固くそそり立っている肉棒が、隠されることもなく暁雨の目に見えていた。

 だからこそ、暁雨はさらに強く自らの体を抱きしめ、少しでも二人の視線から隠そうとする。特に舐めまわすように上から下まで眺めてくるゼロ、彼の視線が特に性質が悪い。想い人がいる少女にとって、耐えられない屈辱だろう。

 そんなことも気にせず、ジュリは軽い口調で、楽しげに語る。彼女にとってはひどく楽しい、相手にとっては屈辱でしかない、特異なゲームについて。

 

 「ルールは簡単、要するにストリートファイトだ。簡単だろ? あたしを倒せばあんたは自由の身、あの悪魔野郎もいっしょに解放してやるよ――ただし、戦うのはお互い裸で、だ。このまんま、すっぽんぽんでやり合おうぜ」

 「なっ――あなた、自分が何言ってるのか――!」

 「ああ、わかってるさ。なに、簡単なことだ。お得意の拳法を使って、あの時のリベンジマッチをする。このまま、裸で。たったそれだけだ。だってそうしなきゃここから逃げられないんだから」

 「くっ……!」

 

 堂々と胸を張るジュリに対し、より一層暁雨は身を小さくしていった。羞恥だけではない、この異常な雰囲気や空間に耐えられなくなっているのだろう。

 裸で戦う、しかも憎い女と、男根を固くしている男の前で。それはまだ少女と呼べる年代にいる彼女を揺さぶり、絶望の淵に叩き落とすにはもってこいの状況だ。これほどの屈辱と憎悪に身を包まれるのは彼女にとって初めての経験だった。

 だがどれほど悩んでいても、どれほど嫌がっていても、答えなど最初から決まっている。戦わなければ解放されない。それはつまり、戦って勝てなければ、仁と共に帰ることができないのだ。

 ならば一時の恥など無視して、体を晒して敵に勝つ。それが最も有効な手段だと考えた暁雨は、ゆっくりと腕を降ろした。

 そして自身が得意とする中国拳法の構えを取り、腰を落とす。自らの小さな胸や薄く割れた腹筋、まだ毛が生えそろっていない股間などを見られていると知りながらも、彼女はすでに決意している。必ず勝って、仁と共に元の生活へ帰る。

 にやけるジュリに向かって、彼女は気丈にも言い放つ。

 

 「あなたたち、絶対に許さない――仁は絶対に、私が助けるんだからッ!」

 「クククッ、勇ましいねぇ。いいぜ、やってみろよ――できるもんならなァ!」

 

 そう叫ぶや否や、ジュリは地面を蹴って前に飛び出し、ゆらりと体を回転させて鋭い蹴りを放った。あまりにも素早いため、驚愕した暁雨が反応できない速度である。

 暁雨はいともあっさりと彼女に蹴り飛ばされ、勢いよくゴロゴロと地面を転がる。裸で、マットが敷いているわけでもないコンクリートの上をだ。

 しかし彼女はすぐさま立ちあがろうと床に手をつき、顔を上げる。のだが、その頃にはすでにジュリは彼女の目前に立っており、小さな虫を踏み殺すかのように、彼女を見上げた暁雨の顔の側面を強く踏みつけた。

 前に戦った時と全く同じ、絶対的な強者と、捕食されるだけの敗者、その構図があっさりと作られていたのである。

 

 「あうッ!?」

 「アッハッハ、遅ェ遅ェ! そんなんであたしに勝とうっての? ずいぶんと舐めてくれるじゃねぇか、おいッ!」

 

 ぐりぐりと足首を動かして踏みしめ、屈辱を与えるように言葉を投げかける。その時のジュリはひどく楽しそうだった。

 しかしこれだけではゲームの醍醐味を味わえていない。ジュリが提案する「裸同士の決闘」は、服を纏っていない無防備さにこそ意味がある。

 その場に屈んだジュリは暁雨の体に手を伸ばし、顔を踏んだまま小ぶりの乳房をぎゅっと掴む。愛撫などという手つきではない、物を取り扱うような無遠慮さだった。

 

 「ふぅん、結構小せぇんだな。まだ芯が残ってる感じがするし、マジでガキの体じゃねぇか」

 「ぐっ……離しな、さいよ……!」

 「やだね。触られたくないんなら、しっかり自分を守れ。それができないんなら――」

 

 突如として足を退けたジュリは、次の瞬間には暁雨の足の方へと回りこんでいた。そしてそこで、彼女の両足首を強く掴み、勢いよく上へと持ち上げる。

 自然と、暁雨の股が大きく広げられるような形となり、暁雨はまたも驚愕する。裸で戦うことは承諾しても、このような事態になるとは思っていなかったのだろう。

 自らの秘所を至近距離から見つめられ、彼女は何かを考える前に顔が熱くなっていくことを自覚していた。

 

 「黙って犯されてろ」

 「なっ、何を――!」

 

 暁雨が声を発した瞬間、べろり、と赤い舌に割れ目を舐められる。唾液に濡れた舌先が大事な場所に触れたことにより、知らず知らずのうちに「ひっ」と小さく声が洩れていた。

 可愛らしい反応と声を得られたジュリは上機嫌そうに口の端を上げ、さらに力を入れて秘所を舐める。まずは大事な場所には触れず、外側の大陰唇から濡らしていく。

 徐々に、ゆっくりと舐めていくその動きは、ジュリ本人のイメージとは違ってどこかやさしいとすら感じられるものだ。初めての体験に心が揺れ動くが、想像していたよりもずっと怖くはない。それが暁雨の警戒心をゆっくりとではあるが崩していく。

 外側から内側へ向かってゆっくり舐め進めると、ついには暁雨の膣へと触れる。すると途端に、彼女はぴくんと全身を反応させた。あまりにも初々しい、ジュリにとっては心の中へ踏み込みやすくて仕方ない相手である。

 

 「ククッ、舐められただけで感じてんの? 感じやすいんだなァ。いいのか? あいつが捕まってるっていうのに、自分だけ気持ちよくなっちゃってさ」

 「――!?」

 

 暁雨の表情がまた変わる。やさしく、弱い快感を与えられたことで気が緩んでいた暁雨は何かを思い出したかのように、ぐっと歯を食いしばって快感に耐える。膣の入り口を舌でほじくり返されていても、もう彼女は薄く笑みを浮かべていない。

 それが嬉しい反応だったのか、ジュリはさらに笑みを深めながら攻撃を再開させる。舌先に力を入れて膣内に侵入していき、うねうねと動くそれで暁雨に刺激を与えていく。じっくりと焦らすためとも思える、弱い刺激ばかりを。

 初めは歯を食いしばって耐えていた暁雨であったが、いつの間にか体に力が入らないのは相変わらずで、何よりジュリに力ずくで押さえつけられていてはひっくり返すのも難しい。ではどうするか、と考えようと思っても股から全身に広がってくる感覚のせいで、落ち着いて考えることもできない。

 まさに八方ふさがり。暁雨は確かに快感を認識しているが、反抗するための手段を持たない。力では敵わず、そもそも快感のせいで上手く体に力が入らない。

 今、膣内を掻きまわすジュリの舌はより一層激しさを増し、好き勝手に彼女をいじめ抜いていた。気にしないようにと気をつけつつも、快感が暁雨の体から離れることはなかったのだ。

 

 「うぅ、ふぅ――」

 「クックック、意外と耐えるじゃねぇか。でもあたしを押しのけられないなんて、根性ねぇんじゃねぇか? 他の奴らはもうちょっと抵抗してくれたぜ」

 「う、うるさいわね……誰が、あなたなんかに……!」

 「そうそう、その意気だ。もっとちゃんと抵抗しろよ。でないとつまんねぇ」

 

 舌だけを使っていたジュリが、包皮を剥かれたクリトリスを舐め始めると同時、指を使って膣をいじり始める。足を押さえていた手を離しての行動ではあったが、今の脱力し切った暁雨では逃げ出すことも難しいのだろう。床に背を預けたまま動かないままだ。

 今の彼女はただされるがままに股を弄られるばかり。なんとか逃げようと身じろぎするものの、せいぜい出来てそれだけだ。

 だから無防備な彼女の秘所へと、ジュリの指が無遠慮に差しこまれ、リズムよく出し入れを繰り返される。時折指を曲げて引っ掻くように刺激したり、時には指を増やして二本挿入したりと、巧みな技術が見せつけられるようだった。

 経験のない暁雨はこれだけでさらに体の自由を失くしていき、果ては動けなくなったまま喘ぐばかりの状態になっていった。それでも心が折れていないからこそ、いまだに屈服していないからこそジュリは楽しそうに笑っているのだが。

 

 「あーあー、こんなにだらだら垂れ流しちゃって。あたしの指が気持ちいいんだ? それともクリの方が気持ちいい?」

 「うぅ、気持ちよく、ない……!」

 「嘘つくなよ。あたしの指がもうびちょびちょなんだぜ? 気持ちよくて仕方ねぇんだろうが――ハハハッ、発情期の犬の方が今のあんたよりマシだろうなァ」

 

 ジュリの言葉の一つ一つが、暁雨の精神をガリガリと削る。同時に体を駆け抜ける痺れるような感覚が、彼女の平静を崩していく。

 愛しい男を想い浮かべて、何度も自慰をしていた体だ。すでに快感というものを知っている。だが他人の手によって与えられるそれは彼女にとって初体験のため、抗いきれないことを知ったのは今日が初めてのことだったのだ。

 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が立つ中で、暁雨はだんだんと限界に近付いて行く。その感覚は彼女にもわかった。絶頂するのはもう時間の問題だ。

 そして最後の瞬間を迎えようとしたその時、与えられていた刺激がぱたりとなくなる。ジュリがするりと体を離し、彼女を見下ろすように立っていたせいで。

 

 「――え?」

 

 咄嗟に、暁雨は口に両手を当てる。先程漏れた声が信じられないとでも言うかのように。

 だが解放されたその瞬間に漏れ出た声はしっかりとジュリに聞かれていたようだ。彼女は腰に手を当てて暁雨を見下ろし、上半身を傾けて胸を揺らしながら、にやけた笑みで問いかける。非常にサディスティックに見える楽しそうな笑みだった。

 

 「あれー、どうしたのかな? まさかイケると思ったのにイケなかったから物足りなくなっちゃった? やめろって言うからせっかくやめてやったのにさぁ、これじゃ言ってることが違うんじゃねぇの?」

 「なっ、くっ――あなたは……!」

 「忘れんなよ、まだ勝負の途中だろうが。決着は拳でつけようぜ――それともやっぱり、今すぐこの場であたしに抱かれたい?」

 「……ッ!」

 

 目の色を変えてキッとジュリを睨んだ暁雨はすぐさま立ちあがり、再び構えを取って拳を握る。それを見てから、ゆっくりとジュリも構えを取った。

 しかしその後も、結果は同じ。暁雨が繰り出す攻撃はすべてするりと避けられ、ジュリの攻撃はすべて急所に決まって、裸の細身を蹴り飛ばされる。そして無様に倒れた後は、またジュリに体を弄ばれ、絶頂する寸前で解放される。

 終わることの許されない、拷問にも等しい遊戯だった。暁雨は実力でジュリに負けているせいで彼女に勝つこともできず、かといって仁の安否がわからないせいで逃げ出すこともできず、ジュリに向かい合うしかない。ただジュリのおもちゃにされるしかないのだ。

 何度蹴られ、何度膣内に指を突っ込まれたかわからない。そして何度絶頂の淵まで連れて行かれて、そこから先をお預けされたのかも。

 時間が立つにつれ、行為が重ねられるにつれて、暁雨の精神力は衰弱していった。立ちあがる意思はそのままなのに、体が言うことを聞かなくなってきて、ついには立ちあがることさえ難しくなる。

 その時ようやく、ゼロが動き出す。ジュリに誘われて前に出た彼は今も肉棒を固くそそり立たせていて、一歩を踏み出す度にぶるんと揺らしている。

 全裸の彼が目の前に立ったその時も、暁雨は強い意思を伺わせる目を変えず、しかし疲労で動けない。ゼロは彼女の顔の前で、見せつけるように肉棒を扱いた。

 

 「さぁ、メインディッシュの時間だ。イキすぎて気をやんなよ、中華娘」

 

 ジュリが見ているその前で、ゼロが暁雨に覆いかぶさる。二人の股間がぴたりと触れた。

 亀頭がぐっと膣の入口に力を入れた瞬間、ゼロの顔を睨んでいた暁雨は絞り出すような声で告げる。

 

 「やっぱり――あなたたちは最低よ」

 「ああ――自覚はある」

 

 そしてずぶりと、いきり立つ肉棒が挿入された。濡れそぼった蜜壺は固くなったそれをいとも簡単に呑みこみ、これまでの我慢が加わったことで内部がうねうねと勝手に動き出す。嫌がる彼女の意思とは裏腹に、待ち望んでいた物を与えられて喜ぶかのように。

 彼女本人も途方もない快感と絶頂を感じているはずなのだが、ぐっと歯を食いしばって声を洩らさないように必死に我慢する。これまでの屈辱がそうさせているのだ。その上、愛しい男以外に処女を渡したとあったのでは、反抗心を生むのも当然のこと。

 しかしゼロは暁雨の状態も気にせず、腰の律動を開始する。腰が前後に動く度、熱い肉棒が前後に出入りして、暁雨の膣内を抉っていく。彼女はそれを必死に我慢した。

 声に出さずにはいられないほどの凄まじい感覚に、全身を駆け抜ける強烈な幸福感。気付けば暁雨は自分の意思とは無関係に、甘えるような喘ぎ声を発していた。

 

 「うっ、くっ――うぁぁんっ」

 「クククッ、気持ちよさそうだな。早くもハマっちまったのかな?」

 

 ずるずるとカリ首が内壁に引っ掛かり、ひだが吸いつくように淫らに動く。長時間に渡って行われたジュリのゲームのせいで、初めてとは思えない動きである。

 その感触に満足したのか、ゼロは小さな声でぽつりと呟く。腰がぶつかる音に混じって聞こえるそれは、暁雨にしか聞こえないような声量だった。

 

 「いいぞ。これならすぐにイケそうだ」

 「ふぁぁっ、あぁっ、はぁぁっ」

 

 膣の感触を楽しむ余裕があるゼロと違い、すでに限界が近い暁雨は憎まれ口を叩くことすらできていない。イキそうでイケない、その状態でゼロに突かれている。否、もはや自分がイッているのかどうかすらわからない状態なのだ。

 ただ途方もない快感だけを感じていたことだけは確かだ。そのまま、ゼロの思うがままに膣内を荒らされ、胸を揉まれて、唇を吸われる。口内も舐められていないところがなかった。

 そうして押し倒されて散々に犯され、激しい腰遣いがより一層の速度に達した時、暁雨はぼんやりとした思考の中で終わりの時を察知する。口からは大きな喘ぎ声を発しながらも、ようやくこの時間が終わると認識していた。

 イキっぱなしで突かれ続けた彼女はすでにひどいレベルまで疲弊している。そしてようやく、ゼロは射精を始めた。

 一滴もこぼさないようにと一番奥に亀頭を押しつけ、膣内に精液を放っていった。

 

 「あぁ……あぁぁ……」

 

 最後の最後に、頭が真っ白になった暁雨はくらりと頭を振った。もはや正気を保っていることすら難しい、極限状態にまで追い込まれている。

 しかし、それで終わりではなかった。まだ射精が続いていて、大量の精液が注ぎこまれているその最中に、再びゼロが激しく腰を振り始める。あまりの衝撃に困惑した暁雨は目を見開き、動物のような悲鳴を上げながら絶句して、彼の体にしがみついた。

 もはや何かの感情を抱いている暇もない。心を壊されそうになっている今はただ、死にたくない一心で彼にしがみつくだけなのだ。

 

 「ひぎぃぃッ!? イッた、もうイッたからッ……もう、もう許してぇぇ!」

 「クックック……アッハッハッハッハ!! 良い声で鳴くじゃねぇか! 最初ッからそうしとけばいいんだよ、雌豚ァ!」

 

 ぐちゃぐちゃと、もはや何の液体が混じっているのかもわからない、ひどい状態にある股をぶつけ合い、更なる快楽を貪る二人。その姿は傍から見ていれば異常としか思えない姿だった。

 しかしすぐ傍で二人を見守るジュリは自らの膣を指で掻きまわしながらも、幸せそうに頬を赤らめて笑っている。敢えて時間をかけてゲームをしていた時よりもよっぽどいい表情だ。

 ジュリに見守られながらの性交はさらに激しさを増していき、広い建物の中には淫らな音と暁雨の喘ぎ声、そしてジュリの甲高い笑い声が響き渡る。

 

 「いやぁぁぁ、イクっ、またイッちゃうぅぅッ!?」

 「アハハハッ、イケよ! 好きな男のことなんざ忘れてイッちまえッ!」

 

 三人による淫らな宴はまだ終わらず、その後数時間に渡って続けられた性交により、涙を流し続けた少女の精神はだんだんと壊されていった。

 ゼロとジュリは、こうして味方となる女たちを増やしているのだ。

 



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支配者の遊戯(ランブルローズ)

 ぼんやりと思考が形を成さない。気持ち悪いわけではなく、どちらかと言えば気持ちいい状態。しかし、何が、とはわからなかった。

 一体自分がどういう状態にあるのか、何が起こって気持ちよくなっているのかが理解できない。ただなんとなく、気持ちいい、そう思えるのだ。

 ゆっくりと目を開き、体の自由が利くのか、手の指を動かして確認してみる。目に映った右手の五指は意思に沿ってしっかりと動いた。

 ならばと腕を地面へつけ、体を起こしてみる。視界は良好、体の状態も悪くなく、痛いところはどこもない。むしろ体が妙にぽかぽかと温かく、好調なほどで、室内が過ごしやすい温度であると推測する。

 しかし現状が明らかな異常にあるということは、体を起こして見れた光景ですぐに理解できた。

 

 「な、なに、これ……?」

 

 周囲を取り囲む観客席、中央に佇む何もない正方形のスペース。彼女がぽつんといる中央を取り囲む観客はすべて、裸に近しいひどく卑猥な格好の女たちだった。

 顔を隠すためか、匿名性を高めるためか、誰もが形も様々な仮面をつけている。だが体のほとんどを隠さぬ格好では性別を隠せるはずもなく、女ばかりが集う、あまりにも奇妙で恐ろしい空間であった。

 彼女、日ノ本零子は自身を取り巻く異常な空間に気付き、その直後に自分の身に起きた変化に気付いた。

 女らしく肉付きのいい、しかしプロレスラーとして鍛えられた彼女の肉体は、なぜか大事な部分を隠すだけの凄く小さな白いビキニによって隠されるのみ、服と言われる物は何も纏っていなかったのだ。

 今にも透けてしまいそうなその薄い生地により、大ぶりの乳房の先端、二つの乳首と、股間のみ隠されている。下などは尻たぶを大きく露出し、前を見れば秘所こそ隠れているものの、存外に濃い陰毛は少しも水着に覆われることもなく露わになっている。

 周囲の観客と変わらず、彼女自身ですら卑猥な格好になっていた。

 零子は思わず自分の体を抱きしめ、起こしたばかりの体で座りこみ、少しでも肌を隠そうとする。しかしそんな程度で隠せるはずもなく、物言わぬ観客から送られる視線が突きささるように白い肌へと注がれた。

 広がる静寂、冷たさを感じる空気。零子は自分が置かれたこの状況に対し、恐怖を覚えずにはいられなかった。

 なぜ、こんな場所に。覚えの無いこんな格好で、誰とも知らぬ観客の前へ。

 不安そうに表情を歪める彼女は立ちあがることすらできず、羞恥によって頬を赤らめながらも、恐怖から顔色を青くしていた。

 その時、周囲へ目を走らせていたためか、ようやくその声が聞こえた。

 弾むような、嬉しげに濡れる色っぽい悲鳴。音の出所を探って二階の一角へ目を向ければ、零子を見下ろす特等席のような大きなイスの上、裸の男と女が絡み合っている。

 特徴的な髪型、艶めかしくも独特の強靭さを感じさせる肉体。膣に勃起した陰茎を呑みこみ、男を犯すように腰を上下へ振るのは、零子に視線を向ける女。

 あっ、と声が洩れる。その顔は気を失う前、出会ったばかりだった人間のものだ。

 ゼロの肉棒を呑みこみ、彼へ背面を見せながら、肘置きに足を置いて繰り返しスクワット運動を繰り返すのは、零子へ向かってジュリと名乗った人間だった。

 快楽に歪み、零子を見下す、かつてとはあまりに違う表情。

 ぶるりと体を震わす零子は、自分が騙されたのだとようやく気付いた。

 

 「あ、あなたは――」

 「あぁっ、んんっ、んあぁぁっ、いいっ――ははっ、いい顔だ、その顔が見たかったんだよっ。あっ、あっ、あぁぁっ――」

 「な、何を……何を、しているの……? これは一体、どういうことなのよ!」

 「はぁんっ、ん……そ、れは、そいつが説明する……くぅっ、ゼロ、そこっ……!」

 

 必死に腰を振り、膣から何度もびゅっと潮を吹くジュリは、今はゼロとの遊びに夢中な様子。困惑と恥辱に混乱する零子に注意を向けようとすらしていない。

 代わりに、彼女の背後からぴしゃんと、地面を打つ音が聞こえた。

 振り返ってみればそこには、観客同様に卑猥な格好をした女の姿。

 背が高く、凹凸の素晴らしいその肉体は零子と違って日本人の物ではなく、わずかながらにも零子を上回るボリュームの肉体は彼女同様に小さなビキニで覆われていた。

 ツンと勃起した乳首は黒い生地の下からはっきり存在を主張していて、陰毛を剃られた股間は今にも見えそう、尻に至っては紐になっていて隠せてすらいない。ほとんど裸と変わりない格好だ。

 長い金髪の上には真っ黒な帽子をかぶり、目元には大きなサングラス。黒い色のそれは彼女の目を隠しているが、零子にはあまりにも見覚えがある姿だった。

 まさか、と思う。不思議と喉が震えて声が出せず、自分の腕を抱き締める手にも力がこもる。

 言葉を失くした零子であったが、やはり見間違えるはずはなく、彼女はゆっくりと呟く。

 

 「デキシー……あなた、どうして……?」

 

 ランブルローズというリングに立つ女子プロレスラーとして、零子とはライバルだったはずの、デキシー・クレメッツ。少し前から行方不明になっていたはずの彼女に間違いなかった。

 だが彼女は零子の呟きを聞き、フンと鼻を鳴らすと、腰に手を当ててぶるんと胸を揺らしながら答えた。

 

 「デキシー? いいえ、そんな人間はもういない。私はクレメッツ署長――この闘技場を取り仕切る、この閉鎖的な国で唯一の警察。言わば私は、この空間の支配者」

 

 胸を張って立つ彼女、デキシーと呼ばれていたはずの女は自らの肉体を誇示していた。

 威圧的な態度と、解放的な格好に肉厚な肢体。並び立つ女たちの中でも特に見栄えのする彼女は少しも恥ずかしがっていなかった。

 むしろ、自らの胸と股間に手をやり、魅惑的なポーズを取る姿は以前と比べてあまりにも違いすぎる。自分の名を捨てたとまで発言するところから見ても、失踪していた間に何かがあったのは明白だ。

 良いライバルだった彼女の変貌に心が追いつかず、平静を失った零子は立ちあがって口を開いた。その時も自分の体を隠す手はどけず、羞恥もいまだ存在しているようである。

 

 「な、何を言ってるのデキシー! あなたはデキシー・クレメッツ、ランブルローズの選手で――!」

 「そう、そしてあなたのライバルだった。でもねレイコ、もう時代は変わったの。そして私自身も――いいえ、私の場合は変化じゃない。これは進化。ねぇレイコ、私は進化したの。あなたと競い合っていた時代から大きく、比べ物にならないほどに」

 「デキシー……」

 「あなたが私をデキシーと呼ぶならそれでいいわ。でも、それはあなたが過去にしがみついているだけ。私はすでに新しいステージへ昇ったの……ゼロ様の御力のおかげで」

 

 そう言って女、デキシーがわずかに上を見上げ、サングラス越しに裸の男を見た。

 たくましくそそり立つ男根は今、ジュリの膣内で暴れ回って悦んでいるが、以前にはデキシーのそこにも入り、荒々しく動きまわった。

 その瞬間の悦びがどれほどのものか、経験していない零子ではわかるまい。過去に付き合った男が霞のように記憶から消えるほど、あの時間は幸福で、興奮に満たされ、言いようのない快感だったのだ。

 今やデキシーの心は、否、心だけでなく肉体も時間も快楽も、すべてがゼロの手の内の中。彼という存在にすべてを掌握されたがっている彼女は自らの役割を与えられ、真なる支配者たるゼロを悦ばせるため、闘技場の覇者となった。

 彼女はここで幾人もの女を侮辱し、侮蔑し、恥辱にまみれさせて敗北の味を教え込み、少量の快楽を覚えさせて、自身が崇拝するゼロへと献上する。すべては彼へ新たな快楽を与えるため。

 つまり今、裸同然の零子の前にデキシーが立つのは、新たな獲物を徹底的に踏みにじり、絶望の淵にいる瞬間をゼロに抱かせるためとなる。

 デキシーは零子すらもその毒牙にかけようとしていた。

 

 「立ちなさいレイコ。ここへ来たからにはやることは一つ。私と戦いなさい」

 「戦うって……そんな場合じゃないでしょう? ねぇ、帰りましょう。ここ、なんだか普通じゃないわ……それにあなた、世間では行方不明ってことに――」

 「世間のことなんてどうでもいいわ。帰りたいなら方法は一つ。あんたが自分の力で、私に勝つことよ」

 

 またぴしゃんと地面が打たれる。デキシーの右手には乗馬用の鞭が握られていた。

 一歩、高いヒールの靴が前へ出る。それに応じて零子の裸足の足が一歩後ろへ下がった。

 デキシーの体から放たれているのは、紛れもない闘志だ。それも今まで感じたことがないほどの、凶悪なまでに強い、禍々しさすら混じるそれ。

 零子は思わず恐れをなして、さらに一歩を下がる。

 しかしデキシーもまた一歩を踏み出し、逃げようとする彼女へ微笑みかける。

 

 「どうしたの、レイコ。そんな逃げ腰な態度、あんたらしくもない。さぁかかってきなさい。どこからでもいいわ」

 「デキシー、待って……ねぇ待ってよ。おかしいわ、こんなの。どうして私たち、こんなところで戦わなきゃいけないの?」

 「あら、もう忘れたの? 私は今ここの支配者なの。一度闘技場へ足を踏み入れてリングへ立った者は、私に勝てなきゃ出られない。それがこの場でのルール」

 「おかしい……あなた何か変よ、デキシー。お願い、正気に戻って……」

 「私は正気よ、レイコ。わかってないのはあなたの方。でも安心して、あなたもすぐに私が連れて行ってあげる――ゼロ様が与えて下さるこの世の楽園へ」

 

 突然デキシーが駆けだし、零子へ向かって鞭を振るう。横から迫りくるそれは腕で防御したところでとんでもない痛みを与えてくるだろう。

 よって零子は膝を曲げて頭を下げ、軌道の下へ潜り込むことで攻撃を回避した。

 すかさず自らも駆けだし、隙だらけの腹へタックルを仕掛けながら、零子は叫んだ。

 

 「お願い、やめて! 私こんなところであなたと戦いたくない! 元に戻って!」

 

 だがそれこそが狙いだったのだろう。

 懐へ飛び込んできた零子を受け止め、デキシーはしっかりと地に足をつけたまま、彼女をその体勢で捕まえてしまった。首へ腕を回されては、早々簡単に逃げられはしないだろう。

 口の端がにやりと上がり、改めて右腕を振り上げる。

 何をされるかわかった零子が恐怖から息を呑む瞬間、デキシーは鞭を持った右手を振り下ろし、風を切りながらしなるそれを零子の尻へと叩きつけた。

 白く丸い尻に黒い鞭が当たり、打たれた赤い痕をはっきりと残す。

 

 「ああぅっ!?」

 「よく見たらいい尻してるわね、レイコ……ゼロ様が気にいりそうな、なまっちろくて犯しがいのある尻だよ。でもゼロ様に触れられる前に、入念に準備しとかないとねぇ」

 「ま、待って、やめ――!」

 「ホラァ!」

 

 ぴしゃり、と肉を打つ音を立てて、二度目の折檻が入る。

 ぐっと強く歯を食いしばって耐える零子だが、痛みはあまりにも大きく、何度も受けてはいけないと本能が告げている。

 途端に暴れ出し、なんとか頭を押さえられた現状から逃げ出そうと動くのだが、抵抗は無意味に過ぎなかった。

 三度目の鞭が当たった時、零子は苦渋の表情で悲鳴を堪え切れなかった。

 

 「うっ、ぎぃっ……!?」

 「ウフフ、可愛くない悲鳴。それじゃだめよレイコ、もっと大きな声で、みっともなく鳴かなきゃ!」

 「あぁっ、いやぁぁっ!」

 

 デキシーが零子の首を解放した直後、零子の体をかろうじて隠していたビキニが、あっさりと引きちぎられる。

 全裸になった彼女は勢いよく地面へ倒れてしまい、まず最初に零子がしたことは、立ちあがってファイティングポーズを取ることではなく、露わになった自分の胸元を隠すことだった。

 それを見たデキシーはやれやれと首を振り、わざとらしくため息をつく。

 

 「まだ自分が置かれた状況がわかってないみたいね。仕方ないわ……」

 

 デキシーもまた、自らビキニを脱いで裸になった。

 毛のない股間も、ずっしりと重そうな乳房も、ピンと立つ乳首も、張りのある尻も、すべてが衆人環視の前へ晒される。

 この時零子はますます大きくなる胸中の恐怖に打ち勝つことができずにいた。

 やはりこの空間は、狂っている。

 自ら裸体を晒して、かたくなに戦いをやめようとしないデキシー。声を発することなく黙って戦いを見守る観客。そして唯一声と音を発して快楽を貪る、王様のような裸の男女。

 異常な空間の中、かつてのライバルに追い詰められ、零子はもはや泣きだしたい気持ちでいっぱいだった。できることならば、誰でもいい、助けてほしい。戦いたくもなければこれ以上目の前の光景を見たくない。

 しかしそんな願いが叶えられることはなく、ゆっくりと歩いて近づいてきたデキシーは、零子の体を無理やりひっくり返した。

 うつ伏せになった零子の頭はデキシーの履くパンプスで踏みつけられ、叩かれたばかりの尻が晒される。その体勢で、彼女は観客に向けて大声を張り上げた。

 

 「さて、それじゃあ始めようか――まずは十ぱぁぁつ! 行くぞオラァ!」

 

 鞭を振り上げてそう言うと、今までシンと黙りこんでいた観客が途端に声を張り上げ、場内を盛り上げる。

 しかし倒れ込んだまま後ろを振り返ることもできない零子には何が起こっているか理解できず、聞こえてくる大勢の声がさらに恐怖を掻きたてる。

 わけもわからず立ちあがろうと抵抗している最中、再び、鞭による強い打撃が尻を襲った。

 悲鳴をあげかけ、大口を開く。だが声を発する前にすでに、二発目が襲い掛かっていた。

 

 「二発目ぇぇっ!」

 

 バチンッ、と強烈な音。白い肌にくっきりと赤い線が残る打撃、零子は周囲も気にせず悲鳴をあげた。

 なぜこれほどの痛みを与えられなければならないのか。どうして、変わり果てたライバル、ともすれば親友とも呼べる彼女からこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

 鞭が振り下ろされる度、強烈な痛みに耐えつつ、きつく閉じられた零子の目からはぽろりと涙がこぼれた。獣のような悲鳴をあげる一方で、彼女は子供のように泣きじゃくった。

 そして尻への打撃が九発目になる頃には、意識してもいないのに裸のまま小便を垂らし、噴き出すようなそれをすべての観客とデキシーによって目撃されてしまう。

 十発目を終えた後、屈んで顔を寄せてきたデキシーに責めるような言葉を向けられては、さらに涙の量を増やさずにはいられなかった。

 

 「あーあ、おもらししちゃった。我慢できなかったのレイコ? それとも、気持ちよくて出ちゃったの? あれあれぇ、潔癖なレイコちゃんって、実は尻を叩かれて悦ぶ変態さんだったのかなぁ?」

 「うぅ、うっ……デキ、シー……あなた――」

 「ほら、いつまで寝てんのよ。さっさと起きな、まだ勝負は始まったばっかりじゃないの」

 「うっ!?」

 

 髪を掴まれ、嫌だと思っているのに無理やり立たされる。そんな乱暴な振るまいも、零子の心を一層痛めつけた。

 確かに、本人が言う通りだった。デキシーはこれまでプロレスにプライドを持って挑んでいた。決して相手を侮辱したりしなかったし、ファイトの最中に髪を掴むなどと、卑怯なこともしなかった。

 股からぽたぽたと、小便の滴を落とす零子は裸で立ち、自分の体を隠すこともなく、初めて拳を構えた。

 目の前にいるのはもはやデキシーではない。その想いが、目の前の女への怒りを倍増させていた。

 それを見てデキシーも笑い、裸で笑う彼女は唯一の凶器だった鞭を遠くへ投げ捨てると、サングラスすらも同じように放り捨てる。

 露わになった目と目が合わさり、片やファイティングポーズを取った状態、片や腰に手を当てた仁王立ちで対峙した。どちらも一糸まとわぬ裸、妖艶な女たちが見た目にも麗しい様子で戦おうとしている。

 

 「ようやくその気になったようね。来なさいレイコ、あっという間に返り討ちにしてあげる。あんたに本当の強さってのを教えてあげるわ」

 「デキシー……私、あなたを許さない。私が尊敬していたデキシーは、あなたみたいな人間じゃない」

 「そう言えるのも、今の内。すぐに忘れさせてあげるわよ、あたしのテクでね」

 

 零子が自分から駆けだして、拳を振り上げてデキシーへ迫る。

 力のこもったそれはストレスもなく前へ突き出されるため、速度も上々。怒りによってわかりやすい動きになってはいたが、十分過ぎるほど素晴らしい一撃だった。

 だが、デキシーはそれを真っ正面からあっさりと片手で受け止める。パシンと軽い音を立てて止められた拳は、彼女にダメージを与えることもなく、止まった。

 零子の表情が絶望に染まり、デキシーの頬が緩む。

 反撃のために繰り出された右足での蹴りは、恐ろしい速度で零子の腹へ当たり、強烈な痛みと衝撃によって、胃の中にあった物を逆流させてしまう。

 

 「ごほぉ……おえっ、げほっ、ごほっ」

 「吐いちゃった。きたなーい」

 「ぐっ、うっ、うぅ――」

 「ほらまた休む。休憩じゃないって言ったでしょう?」

 

 四つん這いになって動けずにいた零子の腹に、再びデキシーの蹴りが叩きこまれた。

 いつしか観客の歓声は徐々に大きくなっていて、まるで尻を叩かれていた時のように、零子が痛みを感じる度に歓声が沸いていた。

 彼女の中でどんどん怒りが、憎しみが膨らんでいく。しかしそれを発散する暇もなく、また新たな痛みを感じ、堪え切れない涙が溢れ出た。

 それでも零子は立ちあがり、小便を垂らしても、人前で嘔吐しようとも、デキシーに勝つべく拳を構えた。

 

 「ウフフ、いい顔よ。でもまだまだ足りない……もっともっと、必死になりなさい」

 

 今度はデキシーから前へ出て、腕を振り抜く。すると零子が対応できない速度で繰り出されたビンタが、彼女の頬を強く打ち、ぐらりと頭が奇妙に揺れる。

 倒れるわけにはいかないと零子がふらつく足で立っていれば、デキシーのビンタはさらに彼女を打った。

 二発、三発目が当たった時だ。ついに零子は痛みと衝撃で立っていられず、倒れ込むようにその場へ尻をついた。

 ハァハァと呼吸が荒れ、体に力を入れるのが困難になる。

 そんな時にデキシーは零子の背後にまわり、膝の後ろを掴んで持ち上げ、彼女の股間を見せびらかすように観客の前に立った。

 流石に零子もこの体勢で黙っていられることはできず、先程の迫力もどこへやら、懇願するかのようにデキシーへと声をかけていた。

 

 「いやぁっ、やめてっ! お願いデキシー、やめてぇ!」

 「ウフフフ、いいじゃない、みんなに見せてあげなさいよ。せっかくきれいなプッシーなんだから。なんなら、この格好でもう一度おもらししてみる?」

 「い、いやぁぁ……」

 「ウフフ」

 

 ジタバタともがいても拘束から逃れられず、怒りに満ちていた表情が今度は悲しみで染められていく。

 彼女を抱えて歩くデキシーにより、自身の体は余すところなく、最も見られたくない部分も含めて多くの人間の目に晒されてしまった。同性だとか、そんなものは関係ない。この望まぬ展開の中、無理やりにされ、抵抗のすべてを叩き潰されているのだ。

 レスラーとして多くの勝利と、いくつかの敗北を得てきた。だがそれらを帳消しにするほどのひどい屈辱と巨大すぎる敗北感。どうしてこうなってしまっているかより、今は、変貌してしまったデキシーに完敗していることが悔しくて恥ずかしくて仕方なかった。

 少しすれば零子の抵抗はぴたりと止み、和気あいあいと喜びの声を発する観客に見守られながら、涙と共に小さな泣き声が出ていた。

 デキシーの顔にはとても嬉しそうな笑みが浮かぶ。

 

 「うぅ、ぐすっ、ひぃんっ……」

 「あらぁ、どうしたのよレイコ、もう諦めちゃったの? 別に死んだわけでもないんだし、まだまだ戦えるでしょう? ほらほら、かかってきなさいよ。さっきみたいに抵抗しなさいな」

 「うっ、うっ、うぅ……」

 

 抱えた零子をゆさゆさと上下に振るのだが、彼女は顔を手で隠して涙を流すばかり。もはやプロレスラーの顔はなく、少女のような弱弱しい姿のみが残っていた。

 デキシーはその場でゆっくりと彼女を降ろしてやり、真っ正面にまわってから、地面に膝をついて顔を覗きこむ。

 やさしげにも見える笑みはひどく楽しげで、まるで姉が泣きじゃくる妹をあやすかのよう、やさしく頭を撫で始める。

 

 「ごめんなさい、レイコ。無理させちゃったわね。でも大丈夫。もうひどいことはしないわ」

 「う、うぅ、デキシー……」

 「私も悪かったって思ってるわ。だから今からは――あなたが気持ちよくってむせび泣いちゃうまで愛してあげる」

 「え――?」

 

 あまりにも突然、デキシーは零子をその場へ押し倒し、力ずくで彼女の脚を開かせた。頭を下に、股を上にするような、歪な体勢に変えてまで。

 小便で濡れた股が照明の下に晒され、おおっ、と観客から声が洩れた。

 子供のように涙を流していた零子だが、あんまりな体勢に顔をひきつらせ、すぐにデキシーを押しのけようと腕を伸ばす。

 だがその時にはすでに彼女の顔は零子の股に埋められており、わずかに濡れたそこへ吸いつくように唇を触れさせ、舌さえも伸ばしていた。

 奇妙な快感と大きな混乱、衝撃が大きすぎて、零子は悲鳴すら出せずにひっと鋭く息を吸った。

 

 「んっ、むぅっ――ん、ふふ。レイコのおしっこの味がするわね……なんか、私まで濡れちゃいそう」

 「な、なっ、なにして――やめてっ! そんな、汚いから、舐めないで!」

 「いいじゃない。どうせすぐに誰が誰のかわからないほどぐちゃぐちゃになるんだから、これくらい汚くもなんともないわ――んっ、ちゅ、はっ」

 「いやぁ……いやぁぁ……」

 

 多くの人間に見守られながら、零子はデキシーに股を舐められ続けた。垂れて付着していた小便の滴も残らず舌で拭いとられ、秘所全体を舌で揉みほぐし、膣の中に差しいれて内部をしゃぶる。

 できるだけ音を立たせて行われるそれは多くの観客にため息を洩らさせ、逆に零子の精神を見る見るうちに崩していった。

 嫌だと思っているのに体に力が入らず、殴ることも蹴ることも逃げることもできない。それなのに舐められるそこを起点にしてじんわりとした快感が全身へ広がり、涙を流しているのに、口からは自分の物とは思えない甘い声が出る。

 気付いた時にはすでに零子の抵抗は消えていた。彼女は足に力を入れることもなく、両手で顔を隠すことすら忘れて、濡れた瞳を天井に向けたまま甘い悲鳴を繰り返していた。

 

 「んんっ、むっ、ぷはっ――ふふ、かなりいい感じ。じゃあもっと気持ちよくなりましょうねぇ」

 「はぁっ、んっ、はっ――もっと、きもち、よく……?」

 「ええ。ゼロ様のおチンポを頂く前に、私の指でイカせてあげる」

 

 体勢もそのままに、デキシーの口が離れた後、彼女の細く長い指がずるりと膣の中へ侵入した。

 零子がまたも悲鳴をあげ、体を震わすが、奥まで遠慮なく入り込んだ指はすぐに抜かれるかのように来た道を戻り、しかし外へ出る前にまた奥を目指して進んでいく。

 あとはその繰り返しである。奥まで入って、入口まで戻って、また進む。まっすぐに伸ばされた指は何度も往復を繰り返した。

 零子の喘ぎ声も徐々に大きくなっており、今や羞恥よりも快感の方が大きくなっているようだ。赤くなった頬を隠していたはずの手も力なく横へ投げ出されていて、もはや抵抗の意思は微塵も見られない。

 そのためデキシーは彼女のクリトリスを唇で吸いながら、指を少し折り曲げて別の場所を刺激し始める。すると反応の素早さは素晴らしいものがあった。

 

 「ひあっ!? あぁっ、だめっ、そこは――!」

 「良いおマンコね。きゅうきゅう吸いついて、とっても熱いの。これならゼロ様もお喜びになるわ……んん、でも、ちょっと嫉妬しちゃうけど」

 

 指をもう一本増やし、二本を挿入して内部を掻き混ぜる。今では内部から分泌された体液がぐちょぐちょと音を発していて、零子の耳にもはっきりと聞こえているだろう。

 もはや言い逃れはできない。零子はデキシーの愛撫でしっかりと感じていた。

 甘い声を聞きながら、気分よく彼女の体を自由に虐める。デキシーはふるりと震える胸にも手を伸ばし、いつの間にか勃起している乳首を捻ってやったりもした。

 零子は面白いほどに鳴いてよがり、嫌だ嫌だと首を振りながらも、少しも逃げるような様子は見せない。

 そうしてたっぷり時間をかけながら遊んでいると、背後から高い声が聞こえてきた。一定のリズムで繰り返される、いつもより色っぽい声。

 振り返ってみればやはり、二階にいたはずのジュリとゼロが、繋がったままその場へ来ていた。正面から抱きあう二人は股間から一つになっていて、歩く度にじゅぷじゅぷと水音を立てながら、やがてデキシーと零子の前へ到達する。

 

 「あら、ゼロ様。もうレイコをご所望ですか? 失礼ながらまだ勝負は終わっておりませんが」

 「わかってる。でもいい加減待てそうもなくてな」

 「そうですか。では、いつでもどうぞ。まだ完璧にではありませんけど、ある程度は仕込み終えています」

 「そうか。なら――うっ」

 「あはぁぁっ!」

 

 ゼロが射精し、ジュリの膣内へ精液を放つ。途端にジュリは背を逸らして絶頂を感じ、びくびくと全身を痙攣させながらゼロの唇を奪った。

 ねっとりと舌を絡ませながら接合が解かれ、溢れ出た精液が床へとこぼれる。デキシーはそれを、物欲しげに見つめていた。

 頬は赤くなり、零子を刺激しても濡れなかった股間が見る見るうちに水気を帯びていき、触れられてもいないのに男を迎える準備が終わる。これもゼロと体を重ねた影響、或いは調教係から長い時間をかけて調教された成果であり、彼女たちはゼロを前にすればいつでも股を濡らすことができるのだ。

 ジュリを解放したゼロの目は、まず真っ先に零子ではなく、デキシーへと向かう。瞬間、頬を赤らめた彼女は期待するように彼の顔を見た。

 

 「だがまずはおまえからだ、デキシー。おまえを今この場で抱く」

 「あぁ、そんな、ゼロ様……部下も零子も見ているのに、そんなこと――あっ、あぁっ」

 

 嫌がる素振りを見せながらも、表情から期待していることは丸わかりだった彼女はあっさりとゼロに捕まり、正面から抱きあって立ったまま挿入される。

 熱い怒張を腹の中で感じ、闘技場の中心で観客から見られていることをしっかり認識して、デキシーの気分はこれまでにないほど高ぶった。

 

 「あぁっ、太い……!」

 「行くぞ。今から全力で壊してやる――」

 「あはぁっ、そんなっ、は、はげしっ、はげしすぎますぅっ! んんっ、ほ、ほんとに、こわれちゃ、あぁっ!」

 「あぁ……デキシー……」

 

 ぼんやりと目を開く、脱力した零子に見守られながら、デキシーはゼロに突かれて淫らに表情を緩ませる。

 頭を振ったことで帽子が飛び、生まれたままの姿になった彼女も、今や支配者の仮面を投げ捨て、一匹の雌になり下がった。

 この場における本当の支配者は、ゼロと名付けられた男ただ一人。横に並ぶ者はなく、ジュリであっても彼の上に立つことはない。

 だが代わりに、彼女はゼロと並ぶほどに性の技術に長けており、女を落とす方法もよく知っていた。

 解放されて自由になったジュリは、ぼんやりとした目でデキシーとゼロを見つめる零子に近寄り、寝転んだまま動かない彼女の足元へ座った。

 

 「おーおー、よく濡れてんじゃねぇか。さっきまで嫌がってた奴とは思えねぇな」

 「あ、あなたは……」

 「クックック、久しぶりとでも言っといた方がいいか? でも今はそんなことどうでもいいだろ。少なくとも今のあんたは、あたしといっしょに気持ちよくなるってことだけわかってりゃいいんだよ」

 「え……何、を――あっ」

 

 ジュリが動いたことで、淫らにも見える様で足が絡まり、二人の秘所がぴたりと合わさって、どちらもひどく濡れているそこがキスをするかのように一つになる。

 ジュリは楽しげに笑い、零子は快感を無視することができず目を細めた。

 その状態でジュリが巧みに腰を振り始め、二人は同時に快感を感じて、声を洩らした。

 主導権を握って余裕があるジュリとは違い、零子はただされるがままに鳴いている様子だ。

 

 「あっ、あっ、んんっ、いやぁ、こんなの、いやぁぁ……」

 「ハッ、嫌とか言いつつ、しっかり感じてんじゃねぇか。んっ、おらっ、おまえも腰振れよ。マンコ擦り付けろ。もっと気持ちよくなりたいんだろうがっ」

 「ち、がうっ、気持ちよくなんか、あんっ、なりたくないぃぃ……」

 

 ずりずりと上下に擦り合わせ、男と触れあうそれとは違う快感を得る。

 そうする二人のすぐ傍ではすでにデキシーが限界へ至ろうとしており、ゼロもタイミングを合わせるため腰を前後させる速度を速めていた。

 

 「あぁっ、レイコっ、見て、見てぇ! あたし、おマンコ突かれて気持ちいいのぉっ! ゼロ様のおチンポ気持ちイイっ! おチンポ気持ちよすぎるのぉっ!!」

 「ハァ、デキシー、イクぞ」

 「はぁぁっ、イッてぇ! イッてくださいゼロ様ぁっ! 私にも、私にも赤ちゃんできちゃうチンポザーメンいっぱいくださいぃっ! ゼロ様の子供孕ませてぇっ!」

 「うっ、出るっ」

 「あぁぁぁっ! きたぁぁぁっ!!」

 

 ほとんど狂乱の姿であった。

 ゼロは膣内へ向けて衰えを知らない射精を始め、デキシーは子宮へ感じた精液の熱により絶頂へ至り、盛大に悦びの声を出す。

 他人に見られるには恥ずかしいとか、それどころではない激しい性交を終え、白目を剥きかねん表情のデキシーは大口を開けて地面に膝をつき、ばったりと倒れてしまった。

 荒い呼吸もそう簡単には整えられず、ほとんど気を失っているのと変わらぬ状態である。

 だがひとまず体を味わうことはできた。ゼロはデキシーから零子へと視線を移し、無表情で移動を始める。

 ジュリに責められ、彼に近寄られていることに気付いていながらも反応できない零子に、彼の手が伸びる。

 ふにゅりと、乳房が鷲掴みにされた。男に触れられたのならば、本来なら即座に手を振り払うところなのに、ジュリから与えられたじんわりと広がる快感に酔った今ではそう考えることすらできない。

 股間にはジュリが与える快感が、胸からはゼロが与える快感が。零子の心をこれまでになく揺さぶり、首を逸らして声を出した。

 ジュリが退いて、ゼロが足の間に入り、いきり立った肉棒が膣へ触れても、零子はぼんやりと彼を見るばかりだった。

 

 「行くぞ」

 「んっ、はっ……」

 

 大した抵抗もなく、それどころか無意識の内に自ら股を開いて、零子はゼロを受け入れた。狭い膣を押し広げて肉棒がずるりと入り込む。

 瞬間、何も考えられなくなっていた零子が、突然背を逸らして目を見開き、体内に入った肉棒をきつく締めあげた。どうやら挿入しただけで絶頂したらしく、大きく開かれた口の端からはよだれが垂れている。

 気にせず、ゼロは動き出した。勢いをつけて前後に腰を動かし、挿入した肉棒で膣内のひだを押し割って、平常心を取り戻せない彼女をさらに追い詰める。

 

 「かっ、はっ、あぁいやっ、だめっ……お、おかしく、おかしくなるぅ……!」

 

 身に襲い掛かる快感はこれまでの人生で得たことがないほど大きなもの。抗いがたいと理解させるほどに強烈で、自分自身を保つことなど不可能に近い。

 デキシー同様、零子もすっかりゼロに魅了されてしまい、ほんの一瞬の間に彼の首へ抱きつき、自ら腰を振るほどの変貌である。

 彼女は自らも動きを加えることでゼロを気持ちよくしようと健気に頑張り、自我を失いそうなほどの快楽で頭の中がまっ白になりながら、ただひたすらにゼロの姿を見つめ続けた。

 たくましい肉体、動きの凶暴さとは裏腹な小奇麗な顔、何より、膣内で暴れまわる彼の陰茎。

 そのすべてが、愛おしい。

 自分でも気付かぬ内、零子はそう想い、彼の唇へキスを送っていた。

 

 「んっ、んっ、んんっ、んっ――!」

 

 パンパンと肉と肉がぶつかる音が響いて、ゼロへ心酔する女たちに見守られ、零子は抱かれた。

 愛おしげに彼を抱き締める彼女に倣い、ゼロもまた零子を抱き締め、二人はぴたりと肌を触れ合わせて下半身を必死に動かす。

 そして零子が何度絶頂したかわからず、快楽に溺れそうになりながら数分が経った後。

 ゼロが子宮目掛けて射精し、大量の精液が彼女を内側から汚していった。

 

 「んんんっ、んはぁぁっ、あぁぁぁぁっ!」

 

 全身を激しく痙攣させ、零子は一際大きな波を感じて脱力した。

 もはやゼロを抱き締めることすらできない。指先一つにも力が入らず、ぐったりと倒れた彼女は呼吸音も小さく、どこを見ているかもわからない瞳を天井の方へ向けていた。

 ここが限界だった。すでに半ば廃人のようになっている零子には体力など残されていないため、これ以上は何もすることができないだろう。戦うことも、逃げることも、抱かれることすら。

 しかし、ゼロにはまだやめるつもりなど毛頭ないらしく、膣内で萎えた陰茎を数度腰を振ることでまた大きくした彼は、ぐっと力強く彼女の子宮口を打った。

 途端に零子は声を洩らし、力も入らないひどい状態で抱かれ始めたのだ。

 

 「いやぁ、もうらめぇ……もうむり、しんじゃう、しんじゃうからぁ……んむっ、んんっ」

 

 本人の制止も聞かずに、ゼロは彼女の唇を塞ぎ、変わらぬ速度で膣内へ刺激を与え続けた。

 そのすぐ傍、気をやっていたデキシーを叩き起こし、自分の秘所を舐めさせていたジュリはにやりと笑い、呟く。

 

 「クックック、一丁上がりぃ。戦力確保完了っと……んっ」

 

 ぷしっ、と膣から潮を吹いてデキシーの顔を濡らしながら、彼女は気持ちよさそうに息を吐いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「アッハッハ、いい格好になったじゃねぇか。そっちの方がよっぽど似合ってるぜ」

 

 暗い一室の中、ベッドの上には二人の男女が絡み合っていた。

 片方はゼロ。相変わらず全裸で、ガチガチに固くなった肉棒を女の膣に挿入しており、バックから激しく突いている。

 もう片方はショートカットの髪を金色に染め、裸に数回分の精液を塗りたくられ、首にかけられた首輪とそこから伸びるチェーンを掴まれ、犬のように扱われる零子であった。

 四つん這いになった彼女は激しく突かれて悦んでおり、口からはだらだらとよだれを垂らして、まるで本物の犬のように鳴いていた。

 目の前で股を近付けるジュリに言葉をかけられても、膣内にある熱い肉棒を感じることに必死で、他には何も考えられなさそうな様子だ。

 

 「ずいぶんいい顔になったな。甘っちょろいレスラーの時よりよっぽどいい。で、今日からこれがおまえのコスチュームになる」

 「はっ、はっ、はっ、んっ――」

 

 舌を伸ばして息を吐き、快感に酔いながらぼんやりと視線を上げる。するとジュリが持っていたコスチュームとやらが目に入った。

 彼女が持っていたのは競泳用の水着だった。ただ、股の部分には穴が開けられ、秘所が丸見えになる形になっており、さらには乳首が来るだろう胸の部分にも穴が開いている。

 にんまり笑う顔は楽しげでサディスティックだとわかるもの。今の零子にノーという返事は許されなかった。

 

 「着てみろ。おまえにはこれを着てクレメッツといっしょに闘技場を仕切ってもらう。恥ずかしがるんじゃねぇぞ、もう今さらだ」

 「ん――」

 「もうおまえの恥ずかしいところはぜーんぶここの連中に見られてんだ。排尿、ズタボロに負ける姿、泣きじゃくりながら股濡らして、そんでゼロに抱かれて悦んでるとこ。全部しっかり全員の記憶に焼き付いてんだ。だから恥ずかしがる必要なんざない」

 「は、い――」

 

 零子はゆっくりと体を起こし、ゼロの許可をもらって肉棒を抜くと、その競泳水着を着る。

 白色のそれは肌が透けるようで、局部も丸見え、本当に着る意味があるのかわからない代物だ。これでは裸と変わらないだろう。

 しかしジュリは満足そうに笑って彼女へ近寄り、露わになっている秘所へ指を触れさせながら、なぶるように囁きかけるのだ。

 

 「いい設計だろ? 着てるのにゼロのチンポを突っ込んでもらえるんだ。一体どうしてだろうな? ほら、あたしの指も簡単に入っちゃって……あーあー、せっかく注いでもらったゼロのザーメン、どんどん出てきちゃったよ。もったいないもったいない」

 「あっ、んっ、あっ――」

 

 膣内へ指を差し込まれ、浅い場所で出し入れされると、何度出されたかもわからない精液が溢れ出てきた。

 自分でそうしておきながらもったいないと言うジュリは顔を下げ、彼女の股に舌を触れさせると力を入れて舐めとり、音を立てて吸いつく。零子の声がまた高くなった。

 そのまま尻の肉を掴み、外へぐっと開かせると、ジュリがゼロを誘う。このまま入れろと、言葉もなく指示しているようだ。

 するとゼロもその意図をくみ取り、まだ萎えない肉棒を膣の中へ入れ、腰を振り始める。

 クリトリスを舐められ、子宮の入り口を叩かれて、零子はますます声を大きくして感じる。

 またしてもゼロが膣内へ射精すると、声も出ないほどの快楽に犯され、全身を震わせた直後にシーツの上へと倒れ込んだ。

 

 「あっ、はぁ、あぁぁ……うぅ、う」

 「またみっともなくイッたなぁ。おら、何勝手に寝てんだよ、ゼロのチンポをきれいにしてからって教えられなかったか?」

 「あぁ、ごめんなさい、ゼロ様ぁ……いま、いまきれいに、しますから……」

 「ったく、まだ体力が足んねぇな。次からはちゃんとフェラで掃除までしろよ――んっ、ちゅ」

 「うぅ、すみません、ジュリ様……」

 

 ぐったり倒れて動けない零子に代わり、ジュリがゼロの肉棒を口に含んで舌を絡め始める。じゅぷじゅぷと音を立て、いやらしく、妖艶に見えるよう丹念に。

 ゼロの顔を見上げながら行われたそれはさほどもせず終わり、唇が離れ、ジュリが彼の胸へしなだれがかる。

 彼もまたジュリの腰へ腕を回し、まるで恋人同士がするよう、裸で寄り添った。

 寝転んだまま動けない零子は目を閉じて必死に息を整えようとしており、二人の姿を見る余裕すらない様子である。

 

 「適当に見つけただけだったけど、クレメッツはいい拾い物だったな。ランブルローズか……美しくて強い女が集まるプロレスなんだと。あたしらにとっちゃ絶好のカモだ。楽しくなりそうだぜ」

 「また攫うのか?」

 「そりゃ当然。あんたもまだまだ女を抱き足りないだろ? いっそ、世界中の女をあんたのものにするのもいいかもな」

 「悪い奴だ」

 「あんたがそれを言うのか? クックック、あたしに全部なすりつけるなんて、ひどい奴だよ」

 

 恋人のように唇を合わせた後、二人はまたも零子も交えて熱く深く体を重ねた。

 この後も零子の体を襲う快感は止まらず、極度の快楽にむせび泣く彼女もいつしかゼロの部下らしい表情を見せるようになり、みっともないほどに緩んだ笑みを彼に向けるようになるのだ。

 



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饗宴(KOF)

例のごとくリョナ表現があります。ご注意を。


 猿ぐつわのせいで声を出すことができず、不知火舞にはもはやどうしようもなかった。

 目の前で繰り広げられる地獄絵図のような光景、彼女たちにとっては苦痛でしかないそれは妙に遅々として続けられ、いまだ終わる様子は見せない。彼女の体感ではそれどころではないため理解できていないが、すべてが始まっておよそ二時間が経とうとしている。一人目に一時間、二人目もそろそろ一時間が経つ頃である。

 壁に張り付けられた状態で拘束される彼女の目の前、闘技場のような円形のステージの上で、二人の女が戦っている。だがそれは戦いなどという形式からは程遠く、言ってみれば形を変えた一方的な拷問だ。

 薄く透ける素材の上下の下着のみを纏い、肌の大部分を衆人環視の下へ晒して拳を構える姿。普通の人間なら羞恥を感じて当然、その上で良いようにいたぶられているのでは精神に変貌があったとしてもおかしくはない。

 拳を構える片割れ、いまだ余裕そうな顔色なのは頭の後ろで髪を丸く結った、ユーリという女だ。鍛えられた美しい肢体に薄いピンクの下着を身につけ、若干頬を赤く染め、凛とした表情で対戦相手を見ている。ただ一番目についたのは彼女の下着の下に仕込まれていたそれだった。

 彼女は、ショーツがぐっと張りだすほどのバイブを膣に突っ込み、わずかに上下して動くそれは傍目から見て明確に存在を確認できた。ブラジャーの下からもコードが伸び、乳首があるだろう部分は通常よりも張りだしているため、そこにもローターが仕込まれていることがわかるだろう。

 現在行われている試合、というよりも興行は、特殊な条件を加えた上での格闘戦である。ユーリは絶えず振動を続ける道具によって強制的に快感を与えながら戦っているのだ。

 しかしそれは相手も同じこと。ユーリの前には一方的に攻撃を加えられた対戦相手、舞の仲間がひどく疲弊した様子で倒れている。薄い紫の下着、その下には同じく専用の道具が仕込まれていて、しかしユーリとは違ってブラジャーの下には何もなく、ショーツの内側で膣へバイブが挿入されているのみ。彼女にはハンデが与えられているようだ。

 興行の審判を務めるジュリは倒れたまま動かない女に近寄り、しゃがみ込むと、楽しそうな笑みを浮かべて話し始めた。

 

 「ほらほらぁ、どうしたんだよ。もっと頑張らないといつまで経っても終わらないぜ。もっと頑張れよ」

 

 倒れた女性、キングは悶えながらもわずかに顔を上げ、頬を上気させて荒く息をついた。

 短く切った金色の髪は汗でびっしょりと濡れ、普段とは違ってひどく乱れた状態。無駄な贅肉のない体にも汗は噴き出し、股間を覆うショーツはまた違う体液で濡れて、他人に見られたくはないだろう姿であった。

 受けた攻撃は何発か、もはや数える方が面倒だろう。腕や脚、腹にも痣が残っており、一体一でありながらリンチのような戦いの激しさが、彼女の全身へ証拠となって残っている。

 痛みだけでなく疲労も激しく、キングは立ち上がることすらできず、気を抜けば目を閉じて諦めてしまいそうだった。しかしそれを許さないのが審判を務めるジュリである。

 ともすれば気絶してしまいそうなキングの髪を掴み、無理やり顔を上げさせると、耳元でやさしく囁きかける。それだけでキングの視線は必ずそちらへ向くはずだった。

 

 「なんだよ、もうギブアップか? 別にいいけどさぁ、ルールを忘れたわけじゃねぇだろ? 勝者にはご褒美、敗者には罰ゲーム。最初に説明したよなぁ。勝負に負けたら、あんたもああなっちまうんだぞ?」

 「あっ――」

 

 疲れ切っていたキングの目が揺らぎ、再び感情が戻ってくる。それはステージの傍、会場となるその場所の端で行われいた遊びを見たせいだった。

 

 「あっ、はぁっ、はぁぁっ! ゼロ様っ、ゼロ様ぁ……!」

 

 一つだけ用意された豪華なイスに座り、正面から抱きつく前の試合の勝者、ユーニを抱いているのはこの場における唯一の男、ゼロと呼ばれる者。彼は無表情で淡々と、ユーニへ褒美を与えるが如く彼女の膣へペニスを突き立て、激しく腰を振っている。

 一度上へ動く度、ユーニの膣からは嬉しがるかのようにびゅっと潮が噴き出し、休まる間もなくペニスが引かれ、再び強く奥へ進む。その繰り返しであった。媚薬にも似たカウパー液を出しながら動く亀頭が膣を抉ればその分だけ、ユーニは声も甲高く表情を変え、必死に彼へ抱きつこうと腕に力を込め、あられもなく喘ぎ続けていた。

 その声だけがよく耳に残り、決して騒ごうとしない静かな観衆に見られながら、キングは辛そうに目をそむけようとする。だがジュリの手が無理やり方向を指定するため、それは敵わない。

 問題なのは彼ら二人ではなく、そのすぐ隣。二人の女たちに嬲られ、辱められる少女のことだった。

 

 「誰が寝ていいって言った? さっさとイスになりなさいよ、負け犬。私が座ってあげるって言ってるの。惨めったらしくケツを上げて、ゆるゆるマンコ見せつけながら四つん這いになりなさい」

 「ふむぅっ、んぐぅぅっ……!」

 

 試合の後に裸に剥かれ、ステージの隅で拷問に等しい行為を強要されているのは前の試合の敗者、キングの知り合いでもある、ユリ・サカザキという少女。舞と同様に猿ぐつわを噛まされ、さらには目隠しまでされて、涙を流しているというのに徹底的に嬲られている。これが、敗者としての振る舞い、彼女たちから与えられる扱いだ。

 与えられた痛みか、恐怖か、それとも快楽のせいなのか。ユリは言われるがままに四つん這いになり、鞭で打たれた痣がある背へ無遠慮に尻を置かれる。それでもくぐもった声を出すだけ、決して反抗しようとはしなかった。

 彼女をそうして扱う一人は、女王様然とした雰囲気を漂わせて鞭を持つデキシーである。いつものようにサングラスをかけ、署長を表す帽子をかぶり、乳輪や女陰がはみ出す水着を身につけて澄ました様子。二試合目の間中、一試合目で敗北したユリへ鞭で打たれる痛みを教え込み、自分に逆らうとどうなるかを理解させた後、とにかく徹底的に調教していたのが彼女の仕事だ。

 その傍ではもう一人、遊ぶような態度でユリの膣へ指を突っ込み、無遠慮な様子で乱暴に掻きまわす零子がいた。彼女は以前に渡された局部の布を切り取った競泳水着に身を包み、片手では自らの股を弄りながらユリを虐めている。その様は女王様たるデキシーとは違い、せいぜい悪ガキと言った方が正しい。

 

 「おお、すんごい濡れ濡れ。ケツ叩かれて感じちゃったかな? それとも、試合中にうんこ漏らしてみんなに見られちゃったせい? あれは惨めだったなぁ。腹殴られてブリブリブリィって、試合開始早々に一発目だもん。全部で何回出したかわかんないし」

 「フフフ、これだからユルイ女は嫌いなのよね。浣腸に慣れてないユーニでさえ一試合もったのに、腹殴られたからってあっさり出しちゃう普通?」

 「んんっ、んんっ、んごぉっ……!?」

 「アハハ、ケツ穴もずっぽり指入っちゃうね。これじゃあんなに出るのも当然かぁ」

 

 執拗なまでにねちねちと、二人はユリの体で遊ぶように体を動かし、言葉を投げかける。零子は彼女の下半身、前も後ろも穴へ指を突っ込んで乱暴に掻き混ぜ、デキシーはユリをイスにして背に座りながら、まるで太鼓を叩くかのように強弱をつけて尻を叩いている。おかげで彼女の尻は真っ赤に染まり、快感と痛みの両方で四肢はがくがくと震えていた。

 だがもしも腕と膝を折って体勢を崩し、上にいるデキシーを落としてしまうえばどうなるか、この状況下でわからぬ彼女ではなかった。よってユリは屈辱を感じる暇もなくただ必死に耐え、イスであり続けることにのみ従事していた。一刻も早く解放されたいのは山々だが、それ以上に鞭で打たれることが恐怖だったのである。

 そう思っていた時に、彼女からは見えない位置、零子がにやりと笑う。彼女は明確な狙いを持ってユリのクリトリスを指で強く捻り、同時に震えを隠せていない太ももを叩いた。

 それだけで結果は明らか。凄まじい快感が襲い掛かり、力が抜けるのと同時で足の支えがなくなって、ユリはくぐもった悲鳴を発しながら倒れ込んでしまう。当然その上に居たデキシーは転げ落ち、珍しくも無様な様子で股を開いて、倒れ込む。

 

 「あらら、デキシーってば転んじゃった。はっずかしー」

 「うるさいっ。……あんた、イスの代わりすらできないなんて、ほんと使えない女ね。そんなんじゃゼロ様に献上するなんて程遠い。根本から鍛え直す必要があるわ――零子」

 「はいはい、わかってますよー」

 

 キングが見ている前で、デキシーは鞭を構え、零子は両手に蝋燭を持った。これから何が始められるかは、火を見るより明らかだ。

 ジュリはキングの頬へ軽く口づけし、またしても囁く。

 

 「今度はよぉく見えただろ? あんたが負けたらああなるばかりか、あんたが勝たない限りあいつはずうっといじめられてるんだ。しかもさぁ、こっちはかなりハンデやってるんだぜ。三回勝負であんたらが一回でも勝てば全員解放してやるってんだから、これ以上の譲歩はないじゃんか。それなのに負けそうになってんだもん、興がそがれるってこのことだな」

 「くっ、まだ、負けてない……!」

 「あぁそう、そう言ってくれるんだ。それじゃあ試合再開、邪魔して悪かったよ」

 

 ジュリがそう言って離れると、キングはちらりとユリの姿を確認し、よろめきながらも立ち上がった。

 猿ぐつわをはめていても悲鳴は嫌と言うほど聞こえてくる。このまま無視することなどできはしない。

 再び拳を構えて、キングは深呼吸を繰り返した。確かに膣内で震えるバイブによる快感はあるものの、全身が痛む今の状況なら我慢できないほどではない。加えて、相手へのハンデは確実に効果が出ている。キングが倒れている間、羨ましそうにユーニが抱かれる姿を見ていたせいか、ユーリは自らの手でバイブを掴んで動かしていた。発情しきった表情は初対面であってもよくわかる。

 今度はキングが先に前へ出た。対戦相手を倒し、ユリを救うため、自分たちが逃げるため、思いのたけを拳に乗せて思い切り前へ突き出す。

 しかし、悦に入っていたはずのユーリの姿は掻き消えるように彼女の視界から消え、一瞬とはいえキングは呆然自失の状態となった。

 

 「なっ――!」

 

 ユーリは膝を折り曲げてその場へしゃがみ、キングの懐へ入っていた。気付いたのはすでにユーリが拳を構えている時で、一瞬の油断が体を上手く動かさない。

 ユーリの拳は勢いよくキングの腹へ叩きこまれ、鈍い音を立てて肌が打たれると、彼女は呼吸ができずに妙な声を発していた。

 

 「ガハッ……!?」

 「あっはっは、またクリーンヒットぉ。そこで休むとあとが危ないよ?」

 

 一旦離れなければ、と思考するものの、腹の痛みが動きを鈍くする。その間にユーリは高く足を振り上げていて、腰の回転を利用して回し蹴りを放とうとしていた。

 鋭く振るわれる足先が風の音と共に襲い掛かり、キングの頬へ蹴りが入る。裸足ではあったが痛みは強く、卓越した技術のせいか、靴を履いた状態とさほど変わるわけでもなかったようだ。

 キングは受け身も取れずにステージの上を転がり、そのまま頬を押さえて起き上がれなかった。痛み、屈辱、歓声が上がることへの怒り。または自分を取り巻く環境への憎悪。彼女を変える要因は多いが、彼女を捕える現状は何一つ変わっていない。

 親衛隊の筆頭、ユーニとユーリは確実に彼女たちよりも強い。どれほどのハンデをつけたところで、勝ち目がないのは明らかだった。それでも審判は試合を止めようとはせず、けたけたと子供のように楽しそうな笑みを見せている。

 

 「まだハンデが足りないのか? 仕方ねぇなぁ……じゃあ特別にもう一つだけだぞ。もうこれ以上は場所がねぇんだから」

 

 ジュリがユーリへ近付き、彼女の下着へ手をかける。ぐいと前の部分を降ろし、与えられる快感と興奮のせいで肥大したクリトリスを確認すると、新たに持ち出したローターを触れさせる。そこへテープで離れないよう固定すると、スイッチを下着へ挟みこみ、一番強い状態で振動させた。

 

 「よし、もう一つおまけだ。これならなんとかなるだろ」

 「あっ、んっ――」

 

 さらにもう一つ、同じ型のローターを尻の穴へ差し込み、他と同じく最も強いレベルで振動させる。さすがにユーリも我慢できなかった様子で、控えめな態度だが思わずジュリへ声をかけていた。

 

 「あの、ジュリ様、さすがにこれは――んぅっ……」

 「仕方ねぇだろ、こうでもしないと勝てないんだから。その代わりおまえが勝ったら三日間ぶっ続けでゼロに犯させてやるよ。どうだ?」

 「あぁっ、そんな――う、嬉しいです。ゼロ様に満足していただけるよう、頑張ります……」

 「くっくっく、いい子だ」

 

 もじもじと体を揺らしながらだが、ユーリはゆっくりと構えを取る。頬は赤く染まり、瞳は潤み、唇は疲労とはまた違った色の吐息を発する。彼女が何かを期待しているのは明らかで、もはやこの試合に興味を持ってはいない。

 キングはまだ立ち上がらない。否、立ち上がることができないのだ。今、彼女に襲い掛かるのは自分が相手に勝てないという敗北感、痛みによる恐怖、そしてずっと付きまとって離れない微弱な快感。精神力は限界に達し、今や体を丸めて更なる暴力から逃れるばかり。

 格闘家として、あまりにも情けない姿である。勝利を求める姿勢ではなく、だからと言って敗北を認めているわけでもない。負けたくない、だけど勝てないから戦いたくない。らしくもなく、キングはそんな態度を見せていた。

 思わずジュリはため息をつき、面倒そうにキングへと向かって歩き出した。それが理由となってびくりと震えるほど、キングの様子はおかしい。先程固めた決意もどこへやら、すっかり心を折られたようである。

 

 「そろそろはっきりしろよ。降参ならはっきりそう言えばいいんだ。そんな中途半端な状態でいつまで黙りこんでんだよ。それともあれか? そういう趣味でも持ってんのか?」

 「う、ぐっ、まだ……」

 「あぁはいはい、聞き飽きたよその発言。悪いけどこれ以上それ続けるつもりなら、強制的にあんたの負けってことに――」

 「ま、待って、もう少しだけ待って。そうすれば戦えるから」

 「おまえバカだなぁ。試合中に堂々と休憩する奴がどこにいんだよ。あんまり面倒なこと言ってると、あたしが直々に手ぇ出しちまうぜ、あ?」

 

 しゃがみ込み、至近距離からそう言われてしまっては、キングには返す言葉もない。彼女とて理解している。もはや自分に勝ち目はないことくらい。

 だがそれを認めてしまえばユリの状況は変わらない。自分が勝たなくては、いつまで経っても彼女は救われない。舞も何もされていないとはいえ拘束されたまま、助けたい気持ちは止まらなかった。

 そうして思い悩んでいると、ジュリが話し始める。それはまるで悪魔の囁き、彼女が想いもしないようなことだった。

 

 「なぁに、心配しなくてももう一人いる。あんたが勝てなくたって最後の一人が勝負に勝てば、あんたとあっちでよがってる女は解放されるんだ。だったら無理に戦う必要なんてないだろ? もう諦めて降参すればいい、あとはあのエロい格好した女に任せるのさ。大丈夫、きっとあんたらを助けてくれる。あんたがこれだけ頑張ったのを見てたんだ、その想いを引き継いで頑張ってくれるさ」

 「う……で、でも、それじゃあ――」

 「少しだけの辛抱だ。確かにあんたも色々されちまうかもしれないけど、考え方を変えればただで気持ちいいことしてもらえる。今までずっと痛かっただろ? でも今度はそんなことされない、殴ったり蹴ったりなんて野蛮な時間は終わりだ。あとはやさしく丁寧に肌を撫でられて、気持ちよぉくなってくんだよ。ほんとにそれだけ」

 「ほ、本当に?」

 「ああ。その証拠に見てみろよ。ずいぶん気持ちよさそうに声出してるぜ、あんたのチームメイト」

 

 促されるままユリを見る。鞭と蝋燭を使われて悲鳴を上げていたはずの彼女は、今は零子に股間をまさぐられ、猿ぐつわを外されデキシーの股を舐めさせられつつ、くぐもりながらも明らかに先程とは違う声を発している。まるで快感にむせび泣く様な、少なくともキングの耳にはそう聞こえたようだ。

 

 「あたしらだって鬼じゃない。素直な態度を見せてくれれば、ちゃぁんと素直に気持ちよくしてやる。どうだ? まだ痛い目に会いたいのか?」

 「う、くっ――」

 

 キングは咄嗟に首を振っていた。幼い子供が嫌だと伝えるかのよう、考える間もなく体が勝手に反応し、髪を揺らしながら左右に振っていたのである。

 それを見て口元がにんまりと笑い、ジュリはキングの顎へ手を添えると頬へ触れるだけのキスを与える。ちゅっと小さな音が鳴る、やさしいと感じられる力だ。

 

 「あんたは今までよく頑張った。仲間を救おうとして、痛い想いして限界まで努力したんだ。誰も責めることなんてできねぇさ。大丈夫、仲間はもう一人いるだろう? そいつに任せておけば万事解決するからさぁ、ちょっとだけあいつらのところで我慢しときな」

 「うん――舞、ごめんなさい……」

 

 囁くような小さな声だったが、不思議と舞にははっきりと聞き取れた。視線を合わせた彼女は泣いているのか、微笑んでいるのか、どちらともわからない、しかしどちらとも言える表情だった。

 ジュリの宣言により、キングの敗北が確定、ユーリの勝利が告げられる。これにより観客は二人の選手へ向けて盛大な拍手を送り、場内は大きな音で埋め尽くされた。

 しかしそれで終わりというわけではない。座りこんだまま項垂れていたキングへ手を差し出し、ジュリは楽しげに声をかける。

 

 「さぁお譲さん、あたしがエスコートしてやるよ。ここからは楽しい楽しい第二ラウンドだぜ」

 

 そう言われて、もう一度ちらりとユリを見る。彼女はやはり二人に全身を弄ばれ、喘いでいるように見て取れた。

 ルールはルール。自分の心の中でそう告げ、キングはもたもたとジュリの手を取り、やけに遅い歩調でそちらへ向けて歩き出す。遠いようで近い、いっそのこともっと遠くであったなら、と思わずにはいられなかったが、到着してしまった後では逃れようもない。

 試合を始める前なら、舞と同じように張り付けにされてユリの試合を見せられていた時は、絶対に嫌だと思っていた。しかし今もそう思っているのかと問われれば、キングは返答する言葉は持っていない。疲労、痛み、屈辱、それらは彼女の中に大きな存在として残っており、怒りや殺意が擦り切れて減ってしまった今、以前のように牙を剥くことはなんとも難しい。今となっては何が正しいのかなど何もわからず、まごつく思考は何の答えも持っていなかった。

 ついに到着し、嬉しそうな零子に出迎えられたキングは俯き、抵抗する素振りもなく彼女に手を引かれて足を動かした。そこは地獄か天国か、判断するには体感するしかないのかもしれないが、少なくとも今のキングにも理解できていたことがある。一度入ってしまえば、もう二度と出られはしないのだと。

 

 「さて、それじゃあ最後の一人だ。おまえはもうちょっと面白い試合をしろよ、くの一」

 

 キングを見送ったジュリはその足で舞の下へ向かい、ようやく彼女の拘束が外される。その時に猿ぐつわも外されていた。

 自由になってまず彼女はこの状況の原因たるジュリを睨みつけ、混乱して上手く口が動かないことに気付きつつも、一言言ってやらねば気が済まなかったようだ。

 手錠を掛けられていた手首を擦りつつ、怒りが込められた声がジュリを打つ。

 

 「あんたたちどうかしてる……! 今すぐ二人を解放して! あんなのひどすぎるわ!」

 「おいおい、まだなんにもしてねぇ内からヒス起こしてんじゃねぇよ。最初にルール説明はしたはずだ、解放して欲しけりゃ自分の力で勝ってみな。おまえの相手はあいつだよ」

 

 指で指し示されたことにより、舞の目がステージの上へ向かう。怒りで血走り、普段よりも狭まっている視界に一人の人物が映った。

 その瞬間に驚いてしまう。彼女の目に映ったのは、美しい女ではあったが格好がひどすぎた。観衆の下、立っていたのは全裸の女だったのである。

 強靭ながらしなやかな筋肉で覆われた全身を惜しげなく晒し、三つ編みにした金髪を揺らす、キャミィの姿は堂々としていていっそかっこよくすら見える。さすがに羞恥を感じているのか、頬は赤くなっているものの、それすらも女としての魅力に見えて美しい。

 だが荒れた精神状態の舞から見れば、やはり狂っているとしか見えない。戦えとは言われるが、勝てば解放するとは言われるが、まさかあの人物と戦わなければいけないのか。かつてない空間に怯え、未知なる恐怖を感じた彼女は一瞬怒りを忘れ、息を呑んで黙り込んだ。

 

 「おまえも見てたろ? 試合ごとにルールは変わる。だから今回は、全裸で戦ってもらおうか」

 「はぁっ!? あんた、バカじゃないの! そんなことできるわけ――!」

 「あぁもちろん、嫌ならリタイアしてもいいぜ。あっちの二人と仲良くするだけだ。別に大した罰ゲームが待ってるわけでもねぇし、解放されるって選択肢を捨てれば、簡単なことだろ」

 

 にやけたジュリに促され、見たくはなかった現実を、試合に敗北した二人の姿を見る。デキシーに鞭を打たれるユリ、零子に全身を弄ばれるキング、彼女たちを救えるのは今や舞だけになってしまった。

 その事実が、彼女の肩へ重くのしかかり、逃れられない現実として再度強烈に認識される。ぐっと歯を食いしばり、悔しい気持ちを抑えるも、もはや選択肢など一つしか残されていない現実からは逃れられなかった。

 裸になって敵と戦い、勝利する。そして二人を救出し、自分も含めて解放してもらう。どこともわからぬ場所に連れて来られた以上、逃れられるならそこに居る人間から解放してもらわなければならないのだ。

 舞は小さく頷く。目の前に立つ女を今すぐ殺してやりたい気持ちすらあったが、そんなことをすれば自分たちの身が危なくなると、暴走しそうになる自分を必死に律して。

 

 「わかったわ……戦って、勝てばいいんでしょ」

 「物わかりがよくて助かるぜ。それじゃあ、自分で脱いでもらおうか。下着まで残らず全部な」

 「くっ、わかってるわよ……」

 

 さらに強く歯を食いしばりながら、自らが纏う赤い装束を脱いでいく。言われた通り下着まで残さず、自らのすべてを衆人環視の下へ晒すように。

 裸になった舞は恥ずかしそうに体を抱きしめ、少しでも肌を隠そうと苦心する。大きく張り出した胸を腕でぎゅっと抱え、黒々とした茂みが見える股に手をやり、妙に遅々とした調子でステージへ向かって歩き始めるのだが、やはり羞恥心は大きく、歯を食いしばる様子から怒りを感じていることは明白だった。

 しかしステージの端に上がったところで焦れた様子のジュリが迫り、背中を蹴られてみっともなく転倒してしまう。受け身を取ったせいで隠していた部分まで露わになって、観客のくすくすという小さな笑い声が聞こえ、凄まじい怒りが沸いてきたせいかようやく覚悟が決まった。

 立ち上がった彼女はもはや自分の肌を隠そうとはせず、腕を広げて堂々と仁王立ちする。見たいなら見ろ、と言わんばかりの立ち姿だ。

 今この場において重要なのは羞恥心などではなく、対戦相手を負かして、勝利を掴み取ること。幸い観客のすべてが女性であることも知っていたため、腹をくくれば羞恥心を捨てるのはさほど難しくもなかった。

 舞とキャミィが全裸で向かい合い、拳を強く握り締める。すでに戦闘が始まる気配は漂っていた。

 

 「せいぜい頑張れよくの一。つまんねぇ試合なんかしちまったら、あっちの二人が怒って何するかわからねぇからな」

 

 ジュリが開始の合図を出すと、途端に舞は前へ飛びだした。早期決着を考えてのことだ。

 彼女の中にある考えはただ一つ、この馬鹿げた試合をさっさと終わらせて、元の生活に戻る。ただそれだけを考えて拳を握っていた。

 二人はすぐに接近し、駆けだした舞が思い切り拳を突き出す。狙うのは相手の顔、冷静な面持ちで慌てもしないキャミィの顔面を真っ正面へまっすぐに向かっていた。

 だが拳が届く前、舞は自身の視界がぐらりとブレたことに気付く。腹部には強烈な痛みが走っていて、気付いた時には体が後方へと飛んでいたようだ。

 視線で確認してみれば、キャミィの左足が伸ばされていた。それでようやく、自分の腹が蹴られたのだと理解する。

 衝撃と痛み、それから驚愕によって我を忘れていたせいか、彼女は受け身を取ることすらできず、背中を強く地面へ打ちつける。一瞬とはいえ呼吸が止まり、途方もない痛みが上半身の両側から広がった。

 

 「あーあー、おまえらの悪い癖だな。焦って勝負を急ぎすぎて、相手の力量を確かめようともしねぇんだから。言っとくけど、こいつはゼロの親衛隊の中で一番強い。さっきのユーリも越える奴だぜ」

 「ぐぅ、あぁっ……!?」

 

 腹を抱えて強烈な痛みに悶え苦しみ、舞はすぐに立つことができなかった。ジュリはそれを見てケタケタと笑い、キャミィは追撃することもなくその場で立ちつくす。

 ひどい侮辱である。それなりに自分の力量に自信を持っていた彼女のすべてを否定するような、嘲笑って侮蔑するかのような態度だ。忘れかけた怒りが猛烈な勢いで沸き上がってくる。

 怒りを原動力に立ち上がり、舞は再びキャミィへ目を向ける。彼女は肌を隠そうともせず立ち、待ちかまえる様子で舞を見ていた。

 その余裕の態度も、今では嫌みにしか感じられない。舞は明確な殺意を表情へ浮かべて、再び自分から攻撃を始めた。

 拳を突き出し、蹴りを繰り出し、驚くほどの速度で連続して攻撃を繰り出す。しかしそれらすべてが華麗に避けられ、ただの一発も当たりはしない。

 まるで子供をあやすかのような姿だ。キャミィはただ黙々と攻撃を避け続け、舞はそれでも動きを止めない。攻めているのは舞のはずなのに、傍から見ていれば優勢に立っているのは明らかにキャミィなのである。

 ジュリの笑いはますます大きくなり、審判でありながら腹を抱えて笑う始末だ。

 

 「あっはっはっは! 当たらねぇ、当たらねぇ! ほらほら、もっと速くしないとあいつは止められないよぉ。もっと気合い入れて動けよ、ほらぁ」

 「くっ、うるさい! 気が散るから黙ってなさ――!」

 

 視線はそのままだったが、舞の注意が一瞬逸れた。ジュリに返答を返したせいで注意力が散漫になり、そのほんの一瞬でキャミィが動いた。

 低く這いつくばるような体勢から繰り出される蹴りは凄まじい勢いで、彼女の姿を見失った舞の足を払い、体勢が崩れる。しかも倒れそうになる舞へ向け、コンマ数秒の判断の上、更なる追撃が送られたのだ。

 下から上へ突き上げる蹴りが大ぶりの胸へ直撃し、舞の体は軽々と宙を飛んだ。その上地面に落ちることは許されず、軽やかに飛んだキャミィは舞の背後を取り、受け身を取ることもできずに地に落ちた。

 関節を決められ、体が自由に動かせない。しかし締めつけられる痛みは確実に骨の髄まで響いてきて、声も出せずに呼吸だけで喘いだ。

 今一度冷静になれたことで、舞は他の二人同様、一つの真実に辿り着く。自分ではこの相手に勝てない。理屈ではなく本能で、数度のやり取りで嫌と言うほど理解させられた。

 それでも試合は終わらない。絡み合いながら地に寝そべる二人を見下ろし、楽しげに笑うジュリが止めない限り、彼女に与えられる苦痛は続けられそうだ。

 

 「くくくくっ、あっはっはっは! 無様だねぇくの一! 手も足も出ねぇとはこのことじゃねぇか!」

 「うぅ、あっ、がぁっ……!?」

 「でもあんまり一方的でもつまんねぇよなぁ。じゃあ、一つハンデでもつけてやるか」

 

 そう言うとジュリはキャミィをどかして舞に自由を与える。しかしまだ彼女は動けず、むせび泣くようにしながら自分を抱きしめ、横たわったまま。

 その間にジュリはどこからか持ちだしたバイブを手に、キャミィの膣へとそれを差し込んだ。目に見える場所でゼロがユーリを抱いているためか、すでに湿り気は十分、キャミィの膣は慣れた様子で彼のとサイズが変わらないバイブを呑みこんでいく。

 舞はなんとか立ち上がろうと腕を突っ張るが、やはりすぐには立てずに、キャミィとジュリによって見下ろされた。屈辱を感じ、怒りが沸き上がり、今すぐどうにかしてやりたい衝動に駆られるが体が上手く言うことを聞かない。

 もどかしさを感じながらそれでもなんとか立ち上がり、ふらつく足に気合いを入れて二人を見る。目に浮かぶ闘志に変化はない様子だが、肉体的な疲労は目に見えて大きかった。

 

 「ほらよ、これなら充分だろ。簡単に蹴り飛ばされずに済むんじゃねぇか、股のバイブでよがってるんだから」

 「あんたたち、どんな神経してるの……イカレてる。こんなの普通じゃないわ。どうしてこんなことができるの……?」

 「どうして? そんなもん決まってる。人間の欲望を満たそうとする行動の結果だろ。誰だって願うことだ。連中を見てみろよ」

 

 ジュリの指先が伸び、片隅で翻弄される二人の姿を舞へ見せた。

 どちらもデキシーと零子に体中を遊びつくされ、猿ぐつわを外された今、羞恥心すらかなぐり捨ててあられもない嬌声を上げている。人間が持つ動物としての欲望、性欲を満たそうと躍起になっている姿だ。

 そちらを指さし、顔を赤く染めながらも怒りに満たされていく舞を見やりつつ、ジュリは言う。あれこそが人間のあるべき姿だと。

 

 「人間ってのはいつだって自分の欲望に忠実で、だから今の世界が作られてる。金が欲しいからあくどいことして、人気が欲しいから心にもねぇ嘘ついて、権力が欲しいから他人を蹴り落として、自分の思い通りに動かせる世界が欲しいから戦争する。あたしらだってそうさ、セックスしてぇ男と女がセックスして生まれてきたんだろ? ここにあるのは人間のあるべき姿ばかりだ。誰も体験したことのない快楽が欲しくて女同志でレズって、一人の男にかしずくことの何がおかしい。ここにあるものこそ、人間らしく生きてるって実感だよ」

 「狂ってる……人間すべてがこんなことを望んでるとでも思ってるの?」

 「ああ、思ってるね。人間不信もインポもヒスもガキも老人も、自分をだましてようが心のどっかじゃ思ってる。セックスしたいとか気持ちよくなりたいとか、度合いが違っても欲望を止めることなんざできねぇさ。だってそれが人間だろ?」

 「あんたは、おかしい。ここの人たちも、みんな……どうかしてる!」

 「見ろよ」

 

 呟くジュリがキャミィを背後から抱きしめ、彼女の胸へ、股へ手を伸ばす。力強く乳房を揉み、膣へ挿入したバイブを握り、ますます表情を蕩かせるキャミィを虐めるのである。

 彼女は舞に見つめられ、観客たちが見守るステージの中央で、恥ずかしげもなく与えられる快感を享受する。その姿は人間というより、本能に従う獣にも近いだろう。

 やはりますます、舞の中で不信感ばかりが大きくなった。こんなのはおかしい、この場のすべてを否定する想いばかりが強くなるのだ。

 

 「こいつもちょっと前はあんたと同じだった。他人の前でセックスするなんてどうかしてるって。でも今じゃ、よぉく見てみろよ。こんだけの人数に見られながら感じて、アヘ顔晒して潮吹くのもためらわねぇ。あんただってすぐにこうなる」

 「バカにして……! あんたたちといっしょにしないで!」

 「口ではなんとでも言えるよなぁ。そうだ、いいこと思いついた。なんならあんたも弄ってみるか? こいつの体は敏感だ。気持ちよさそうなとこ見たらちょっとは考え変わるかもしれないぜ」

 「んぁっ、はぁっ……」

 

 キャミィが喘ぎ声をこぼし、観客たちは誰もがその声に聞き入っていた。すぐ近くから聞こえるよほど大きな二人の声すら気にせず、滅多に見れない親衛隊長の痴態へ集中している。

 その空気がひどく気持ちの悪いものに感じられ、舞は建物内を見回すと苛立ちを抑えきれずにため息をついた。

 直後には言葉もなく歩き出して、二人へ近付く。ジュリはにやりと笑い、舞は真剣な眼差しで二人を見つめたまま、目の前へと立った。

 

 「さぁ、バイブを動かしてみろ、前と後ろに。やる方の気持ちがわかれば、やられたいって思うはずだぜ」

 

 ジュリの片手がキャミィの股間から離れ、大きく振動するバイブが独りでに暴れ出す。舞の視線がちらり、そちらへ向かう。

 そっと、手を差し出した。だがジュリがさらに笑みを深めたその瞬間、舞の右手は固く拳を握りしめ、思い切り振りかぶった後に前へと突き出す。

 彼女の拳はまっすぐにジュリの顔面を目指し、だが触れる間近で左手によって受け止められ、視線がぶつかったまま二人は至近距離で対峙した。

 

 「思うわけないでしょ……あんたたち相手に!」

 「ああ、そう、そうなっちゃうか……だったらしょうがねぇよなぁ」

 

 キャミィの体が軽く押され、彼女だけが二人の間から抜け出て離れる。すでにその場の雰囲気は理解しているようで、自らの手で抜けそうになったバイブを抑えながらも、自分の足でステージ脇まで歩いていく。

 二人は手を合わせたまま、さらに顔を近づけて向かいあった。

 

 「審判に手を出すのはルール違反だ。だから、せっかくハンデをやったとこだがペナルティを与えないとなぁ……ついでに、相応の罰ゲームも」

 「くっ、好きにすれば? あたしはあんたになんか負けない――最初からこうしておけばよかったのよ。性根の悪いあんたをぶっ飛ばして、他の二人も今すぐ――」

 「そんなこと、できればいいなぁ」

 

 突如、ぐらりと視界が揺れた。何が起きたかもわからず体が飛び、気付けば自分が空中に居たのである。

 腹の側面へ蹴りを喰らったのだと理解できたのは勢いよく地面の上を転がってから。遅れてやってきた痛みが至るところへ現れ、舞は目を白黒とさせて息を吐いた。

 思考が追いつかず、呼吸が上手くできずに、立ち上がることすらままならない。まるで赤ん坊のよう、手足を地面へつけるものの体勢を立て直すことができずにいる。

 目の前を見ることすら困難な状況の中、ゆっくり歩いて近付いてきたジュリが足を上げ、地べたに這いつくばる舞の顔を踏みつけた。痛みに苦しむ彼女は抵抗もできずにさらに痛みを感じ、ただうめき声だけを発する。

 

 「あははっ、全然大したことねぇな。そんなんで大口叩いてんの? くっだらねぇ、こんなんじゃ全ッ然気持ちよくなんねぇよ。それともなに、ウケでも狙ってた? 悪いけど全ッ然笑えねぇ。もっと本気でやれよ。ほらほらぁ、あたしの足をどかして立ちあがって。今なら半分くらいの力で踏んでやるからさぁ」

 「がふっ、がはっ、あぁっ……!?」

 「あっはっは、そんなんじゃ全然無理無理無理ィ! おまえみたいな奴があたしらに勝てるわけがねぇだろ! 身の程わきまえろよ、このザコが!」

 

 今度は顔面を思い切り蹴られ、舞の体が軽々と舞う。どすんと音を立ててステージの上を転がった時、衝撃で鼻血を噴き出したまま、彼女はすでに気絶していたようだ。

 けらけらと笑うジュリは腰に手を当て、やれやれと首を振って辺りを見回した。観客席からはパチパチと惜しみない拍手が送られ、ステージの端では今も甲高い嬌声が響いている。与える者と、与えられる者。この場における真理の中、人間たちは純粋に快楽を楽しんでいた。

 

 「あーあー、いまいち締まんない終わり方だったなぁ……まぁいいや。手を焼かされた分、こいつらはじっくり躾けてやるとするか」

 

 ジュリはにやりと笑いながら気絶した舞へ歩み寄り、露わになった乳房を強く鷲掴みにする。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 彼女たちが本拠地とする場所、大きな屋敷と闘技場の間にある中庭。裸に剥かれた三人はそこへ連れて来られていた。

 何をしたという気もない。なのにある日無理やり連れ去られ、理由もなくステージの上で殴られ、突然外気に肌を晒して繋がれているのである。当人たちにとっては全くわけがわからなかった。

 三人は全裸の状態に目隠しをされ、屋根もないそこへぽつんと立つ一本の支柱、そこから伸びる鎖の首輪を装着されて、ひどく情けない姿で立っていた。両手も背中側で拘束されたため自由はなく、まるで飼われた犬のようですらある。

 何をされるかはなんとなく想像できるものの、目隠しをされている以上、武器や凶器を持ってこられても逃げることもできなければ回避することもできない。三人は怯え、わずかに体を震わせて荒く呼吸を続けていた。

 そのまわりには哀れな飼い犬を見つめる観衆の姿。そのどれもが女で、中には豪華な服を纏っている者、メイドのような服装の者、裸に近い格好の者がいる。そしてすべての服を脱ぎ捨て、裸になっている者もいた。

 円を描いて三人を見つめる観衆たち、一番三人に近い場所へ立っていたのは普段着姿のジュリだった。彼女は腰に手を当て、楽しげに三人の裸を見つめ、くつくつと笑う。

 

 「ゲームに負けたあんたたちには罰ゲームだ――ここには、ゼロを満足させるために集められた女たちがいる。数十じゃきかねぇ、今じゃもう数百人単位でな。だがあたしらのボスがどれだけ精力が旺盛でも、一度に相手できる人数は限られてくる。そのせいで欲求不満な連中も多くてな。そこでだ」

 

 前へ踏み出し、びくりと体を震わせる舞の顎を掴んで顔を寄せると、妖艶な声で小さく囁く。

 

 「おまえらは今日から、ここにいるすべての女たちの性奴隷だ。欲求不満で喘いでる奴らに股開いて、好き放題されな。もちろんたまにはゼロも抱いてくれる。ただ奴は気まぐれだから、そう頻繁に相手してもらえるとは思わない方がいい」

 「う、うぅ……」

 「そうだなぁ、一ヶ月もすれば解放してやるよ。それまで、おまえらはここから離れることはできない。四六時中女たちに犯されながら、屋根のないここですべてを晒して生きろ。そうすりゃあたしに楯突いたことがどれほど愚かだったかよぉくわかるだろ」

 

 べろりと涙で濡れた頬を舐め、一旦離れる。それからジュリは後ろに控えていた男、ゼロへと寄り添い、裸のまま立つ彼の下腹部へ手を伸ばす。

 先程から何度も射精し、さらに背後へ立つユーニとユーリの膣からごぽりと大量の精液が噴き出すほど絶頂したにも関わらず、いまだ治まる気のない肉棒。それを手で扱きながら、彼女は彼の耳元へ唇を寄せて話す。

 ゼロは彼女が触れてきた途端、服の内側へ納められた大きな乳房を揉み、尻を撫でて、少しばかり表情を緩めて微笑んだ。

 

 「さぁゼロ、最初はあんたに任せるよ。どいつからでもいい、三人ともあんたのこれで犯してやんな。それがスタートの合図になるから」

 「ああ、わかった」

 

 小さく返し、今度はゼロが前へ出る。最初に目をつけ、真っ先に向かうのは一試合目の敗者であるユリだ。

 怯えたように身を縮め、立つことすらできずにしゃがみ込む彼女はとても弱弱しい印象。見る人が見れば、加虐心を刺激させる姿でもあった。

 だがゼロにとって、さほど気にする部分ではない。彼にとってはサディズムもマゾヒズムもさしたる問題ではなく、それよりももっと大事なのは荒々しく女を抱き、そのすべてを服従させることにある。

 よって彼は遠慮のない力でユリの脇へ手を滑り込ませ、無理やり彼女を立たせると背後に立ち、勃起したままのペニスをすぐさま濡れそぼった膣へと触れさせた。

 

 「あっ、あぁっ、いやっ……」

 「いくぞ」

 

 ユリの膣は、先程までデキシーや零子から弄ばれていたせいであられもないほど濡れていて、いつでも男を受け入れられる態勢にあった。

 か細い否定も虚しく、ゼロは思い切りよく腰を突き出し、挿入はあっさりと成功する。大きく反りかえった彼のペニスはずるりと膣の中へ入り込み、迷う素振りもなく奥へ進む。

 勢いは強く、ゴツンと子宮口へ亀頭が当たり、ユリは舌を伸ばして悲鳴を上げた。だがそれは決して嫌がるための悲鳴ではなく、むしろ喜んでいるように聞こえる声だったのだ。

 

 「あっ、かっ……ひぎぃぃっ」

 

 腰の振りは大きく、ゼロはユリを責め始める。立ったまま後ろから犯されるその体位は、彼女の弱い部分を刺激していたようだ。

 バチンバチンと音が鳴るほど激しく下腹部と尻がぶつかり合い、荒々しく膣内を犯されるユリは極度の快感で我を失っているように見える。たった数度、亀頭で子宮口を叩かれ、カリ首で内壁を抉られて、彼女の声には悦びが混じり、浅ましい姿で舌を伸ばしているのである。

 今まで築き上げてきたすべてが壊されていくかのよう。すでにユリは何も考えられなくなっており、自ら腰を振りながら、思うがままに声を出していた。

 

 「あぁっ、はぁっ、ひぃぃんっ。す、ごいっ、なにこれぇ……きもち、よすぎ、よすぎちゃううっ」

 

 尻を掴まれ、乱暴に腰を叩きつけ、激しい興奮に包まれながら高みへ昇っていく。凄まじい快感が全身を刺激していて、これが快楽なのだと、嫌でも教え込まれて記憶する。

 ユリはもはや、冷静な思考など持っていなかった。自分ではない誰かに、自分自身を根底から変えられていく感覚。強すぎる快感と相まって、そんな感覚は今まで生きてきて初めてのことだ。

 気付けば彼女自身、ゼロのそれを肯定する考えを持つようになっていた。もっとして欲しい、まだ足りない、心がそう囁いてくるのである。

 抗えるはずがない。自分自身の体でそう教え込まれ、ユリの中で確かな変貌が起こる。

 

 「うくぅ、きもちい、きもちいいよぉ……! あはぁ、すごい、こんなの初めてっ……あぁぁ、だめだめっ、イッちゃう、こんなにすごいの、すぐイッちゃうっ」

 「イッてもいいんだぞ。俺も合わせて中に注ぎこんでやる」

 「んんっ、んんぅ、あぁぁ無理無理、こんなのだめ、あっ――」

 

 襲い掛かる波に負けてユリの体がぶるりと震え、直後にゼロは一際強く腰を打ちつけた。痛そうにも思えるほど肉がぶつかる音が聞こえて、その時にゼロは射精していたようである。

 膣内へ思い切りぶちまけられる精液は凄まじい量、入りきらずについには外へ飛び出し、緑の芝生へボタボタと垂れていくほど。観衆の女たちはそれを見てため息をつき、羨ましそうに股をすり合わせた。

 だが本人であるユリはその状況がわからぬ様子で、がくがくと膝を震わせながら倒れることを許されず、尻を掴まれたまま、最後の一滴まで注ぎこまれる。この時すでに彼女は絶頂を感じていて、これまで感じたことがないほど大きな快感に唇を震わせ、歯をカチカチと打ち鳴らしていた。

 

 「あっ、あっ、あっ――」

 「ふぅ。中々だったな」

 

 射精が止まるとすぐに腰を引き、いまだ萎えない彼のペニスが外へ出てくる。その途端に彼女の膣からはさらに大量の精液が噴き出し、辺りを白く染めた。

 ユリは自らの足で立っていることができず、ゼロに解放された途端にその場へ膝をつき、地面へ手をつくこともなく顔から倒れ込んだ。目隠しをしているせいでわからないが、ひょっとしたらその下では白目を剥いていたのかもしれない。気絶するかしないかのギリギリ、傍から見ればそんな風に見えた。

 他の二人も目隠しをされた状態のため、何が行われているか確認することはできない。聞こえてくる音と声によって状況を判断するしかないのだが、不思議とそれはあまりにも簡単だった。

 自分はこの後犯される。考えるまでもなく理解できることである。

 そして次に狙われたのは、キングだった。後ろから腰のあたりを掴まれた瞬間、驚きでびくりと震えてしまうが、逃げようはない。

 すでに大量の愛液で濡れる膣へペニスの先端が触れた時、キングはもう、抗えない現実を知った。

 見てはいないが、悦びの嬌声を聞かせたユリの気持ちがよくわかる。これには逆らえないと、触れただけで本能が伝えていた。

 ずるりと亀頭が押し込まれ、焦らすようにゆっくりと奥へ進んでくる。キングはうめき声を発し、歯を強く食いしばった。そうしながらも全身へ広がるのはやはり想像した通り、否、それよりも強力な力を持つ快楽である。

 

 「うぅぅ、うぅっ……くぅ、はぁっ」

 「気持ちいいか? 俺もだ」

 「あっ、はっ――」

 

 ゼロの囁きに答えを返す暇もなく腰が動かされ、内部を縦横無尽に掻きまわされる。想像していたよりよっぽど速度は遅く、円を描くような動き、徐々に女を蕩かせるための動作だ。

 犯されることへの覚悟はできていたものの、これほどやさしくされるとは思っておらず、一突きごとに嫌がる気持ちは溶かされていって、首を逸らすキングは徐々に抵抗する気持ちを失くしていった。

 だが真実を言えば、彼女が与えられる快感を享受し、更なる快感を求めるようになるまでかかった時間は一分にも満たない。以前に二人の女によって快感を教え込まされたせいか、それともゼロの動きが巧みだったためか、彼女はあっという間に考えを変えたのだ。

 

 「はぁぁっ、あぁぁぁっ……きもちいい、きもちいいです、ゼロ様ぁっ。もっと、もっと強く突いてくださ――くひぃっ」

 「あっはっは、いい態度じゃねぇか。言う通りにしてやれよ、ゼロ」

 「よし、わかった」

 「んっ、んっ、んんっ、うぅぅぅ……これ、が、これがすごいのぉっ!」

 

 噴き出す汗を気にすることなく、突かれるままに喘ぐ。キングは堕ちた。それは誰の目から見ても明らかである。

 ゼロは腰の動きを速くして彼女を激しく責め立て、キングはそれを抵抗なく受け入れ、全身をぶるぶると震わせる。どうやら軽い絶頂を連続して感じているようで、髪を振り乱し、喉を震わせる姿は必死だった。

 

 「あぁっ、くぅぅ、あっ――!」

 「もう、イクぞ」

 

 ゼロが射精したことにより、亀頭が押し付けられていた子宮口へ大量の精液が発射され、それらは彼女の子宮を満たして尚も止まらない。これにより与えられる熱が、彼女へ最後の一押しを与えたようだ。

 キングは膝を震わせ、倒れそうになるのをなんとか堪えながら、激しく絶頂を感じる。ドクドクと竿が律動し、精液が注がれることから逃げないよう、自らの意思ですべてを受け止めようと必死に立ち続けていた。

 

 「あぁぁっ、あぁぁぁっ……!」

 「くっ、はぁ。よくやったぞキング。最後までちゃんと受け止めたな」

 

 射精が終わると同時にキングの膝は折れ、地面に倒れ込むものの、ゼロはすぐにはペニスを抜かなかった。まるで褒美を与えるかのように数度弱く腰を振り、彼女の膣内を掻き混ぜてから抜く。

 ぐったりと倒れ込み、尻を掲げた状態で脱力する彼女はそれ以降動こうとはせず、わずかに体を震わせるばかり。それを見た後、ゼロは移動し、最後の一人の体へ触れる。

 重そうなほど大きな乳房を両手で掴み、荒々しく揉み、怯えていた舞へ自分の接近を伝えるのである。すると、快感より痛みの方が大きかったようで舞は表情を歪め、痛みに耐えるため歯を食いしばる。

 揉み潰すようにして力を込めて揉み、握り、ゼロの手は遠慮もなく舞の胸を遊ぶ。彼女はそれを受け入れようとはせず、嫌な気持ちだけを感じ、明らかに敵対意思を持っていた。

 それでも、手を拘束されて首輪へ繋がれ、目隠しされた状態ではできることもない。ついには彼女も背後を取られて、自らの膣にペニスを当てられた。

 

 「くっ、こんなことして、ただで済むと思ってるの? 今に見てなさい……私の婚約者が必ず助けに来てくれる。力ずくで私を犯したって、私は絶対あんたなんかに――」

 「うるせぇぞくの一」

 

 挿入の瞬間になっても口を閉じようとしない舞へ、ジュリが思い切り足を振り上げる。鈍い音が鳴り、拘束された状態の舞の左頬が蹴られたのだ。

 彼女は、止まったはずの鼻血をまたしても垂らし、言葉を呑んで黙り込む。衝撃で脳が揺れたか、上手く口を動かせないようで、落ち着いたはずの呼吸も一気に乱れた様子である。

 

 「がふっ、がはっ……」

 「つまんねぇこと言ってんな。罰ゲームだ、黙って犯されてろよ。それともその婚約者とやらの目の前でぐちゃぐちゃにされてぇのか? ご所望なら今すぐにでも連れてくるぜ。ま、ここには男なんざいらねぇから使った後にどうなるかわかんねぇけどな」

 「う、うぅぅ……」

 

 強烈な痛みによってすっかり気持ちは折られてしまい、舞は思わず反論の言葉を失くした。たった一撃で怒りすら消されたようで、今はただこれ以上の暴力を受けないようにと口を閉ざすばかり。

 ゼロが己のペニスを掴んで、舞のそこへ擦りつける。だが先の二人と違って彼女はデキシーや零子に遊ばれていない。しっとりと濡れてはいるものの、挿入できるかどうかは考えてしまうほどの状態だ。

 だがゼロは気にせず、思い切り腰を突きだす。膨らんだ亀頭が肉を押し分け、初めてではなさそうなそこにぐいと押しこまれ、すぐに肉によって包まれる。

 水気が足りないせいか痛いほどに締めつけられ、ゼロは思わずうめき声を発する。かなりきついその場所だが、快感を感じないわけでもない、むしろ味が変わって嬉しいというくらいの感想だった。

 

 「あぁぁ、いや、いやぁぁ……」

 「くぅ、すごい締め付けだ。これは無理すると裂けるかな」

 「気にすることねぇさ。ここにいる女は全部あんた専用のオナホだ。どうせいつ緩くなるマンコかもわかんねぇんだし、今だけの締まりを楽しんどけよ」

 「そうだな、わかった。それじゃあ――んっ」

 「あっ、あっ、あっ!」

 

 気遣うことなく腰が振られ始め、ペニスが前へ後ろへと動きだす。痛みと快感が入り混じるものの、今は痛みの方が強いらしく、舞は子供のように泣きじゃくり始めた。

 目隠しの下から溢れ出る涙が頬を濡らし、しかし誰も助ける者などおらず、彼女は屈辱にまみれて泣き続ける。悲痛な声は、誰の耳にも届きはしなかった。

 

 「いやっ、いやぁっ、うぅ、痛いよぉ……アンディ、アンディッ」

 「あははは、アンディってのがおまえの婚約者か? 助けてほしいんだな? でもそんな小せぇ声じゃ誰にも聞こえないだろ。ほら、もっと大声出せよ。アンディって叫べ。さっきと違って今は外だ、ひょっとしたら聞こえるかもしれないぞ、愛しの婚約者様に」

 「うぅ、あんっ、あぁっ――アンディ、アンディッ! アンディ、助けてっ!」

 「どうしたよほら、もっと大きく! 聞こえるように叫べ、もっと!」

 「アンディ、アンディ! 助けてぇ、アンディィ!」

 「あはははは、あっはっはっはっは!」

 

 犯されながら舞が大口を開けて叫び、ジュリが背を反らせて笑っているその瞬間、彼女の膣内にあったペニスがどぷりと精液を吐き出した。量は多く、凄まじい熱を持つそれが彼女の体内を一瞬で満たし、独特の感触が先程までの痛みと違って確かな快感をもたらす。まるで強力な媚薬だ。

 舞は自分の根幹から来る快感に驚き、中出しされたのだと気付くと、頭を振って悲鳴を上げた。脳裏には婚約者の姿、子宮へ子種を吐き出されたという事実が、強烈な嫌悪感となって彼の姿を思い出させる。

 それなのにその射精が気持ちいいと思ってしまっていることも、舞の心をかき乱していた。

 

 「いやぁ、いやぁぁぁっ! やめて、中に出さないで! 外に、お願いだから外に出してぇぇっ!」

 「あははははは! こりゃいいや! 最高にいい顔になったじゃねぇか! 初めっからその顔で鳴き叫んでりゃ許してやったのに!」

 「うぅぅ、うぅぅぅっ。いやだ、きもち、よくない、こんなの違う……アンディ、アンディ……」

 

 竿の律動が止まったことすら感じ取れ、改めて腹の中にある固い感触を認識してしまうと、繋ぎとめようとしていた気持ちはぽっきりと折れた。

 繋がったまま、舞はだらりと体から力を抜き、すべてをゼロへと預ける。その様子を見て笑うジュリは何かを思いつき、舞の前へ立つと彼女の乳房を強く鷲掴みにしながら口を開いた。

 

 「いっ、た……!?」

 「良いこと思いついた。おまえは罰ゲームを免除してやるよ。くくくっ、代わりに、何がなんでも孕ませてやる。ゼロの子種でガキが出来た後、膨らんだ腹をそのアンディって奴に見せてやろうぜ。それまでおまえ、アンディのことを覚えてられるかなぁ?」

 「なっ、い、いやだ……お願い、なんでもする。命令されたことなんでもするから、それだけは――」

 「なんでも? こりゃいいや。なら、一刻も早くゼロのガキを孕め。できないんならアンディをここへ連れてきておまえの姿を見せた後、その辺の谷底にでも捨ててやる。……わかったな?」

 「……わ、わかり、ました……」

 

 ジュリが鍵を使って舞の首輪を取ってやる。その瞬間にゼロは彼女の膝の裏を持ち、がばりと大股を広げさせた状態で持ちあげ、繋がったまま歩き出す。いきり立つペニスは彼が一歩を歩む度に膣の中へ突きたてられ、精液で塗りたくられたそこを強く抉る。

 今度は滑りが良くなったせいか、舞も快感を感じずにはいられなかった。彼女はゼロが一歩を踏み出す度、先程とは違う甘い声を発し、股から頭まで突きぬける電流を感じている。

 

 「あんっ、あっ、あっ――」

 「ゼロ、そいつはスペシャルメニューだ。最優先で孕ませるぞ。ユーリ、ユーニ、キャミィ、おまえらも褒美だ。いっしょにゼロに抱かれてこい」

 

 ゼロはわざと大股で歩き、衝撃を大きくしながら屋敷へ向け、全裸だというのに恥ずかしげもなく歩き出した。それに続いてゼロに抱かれるため裸で待機していたユーリ、ユーニ、キャミィも続き、四人はその場を後にする。

 その間にジュリはユリとキングの目隠しのみを外し、彼女たち二人に現状を確認された。まわりには興奮しきった表情の女たちが大勢、食い入るように二人を見ている。さながら、餌を前にして待たされる獣。二人はひっと小さく息を呑んだ。

 

 「おまえら、もういいぞ。こいつらで欲求不満を解消しな。ああそれと、飯とクソの世話は忘れんなよ」

 

 その場を離れながらジュリが言えば、女たちはこぞって二人へ殺到した。自らの服を脱ぎながら、膣に指を差し込む者、自分の膣へ指を差し込ませる者、唇を塞ぐ者、乳房を揉む者、尻の穴へバイブを突っ込む者、誰もが抑えの利かない動物のように二人を乱暴に扱った。

 ゆっくりと歩き、幾重にも重なる嬌声を耳にしながらその場を離れるジュリは、さほど大きくもない声でぽつりと呟く。すると直後に彼女の背後へ、どこからともなく人影が現れる。

 

 「ディカープリ。あのくの一からアンディとかいう男の情報を吐かせる。親衛隊から二人ほど引き連れて、そいつを連れてこい――面白いショーができそうだ」

 

 現れたのは仮面をつけた、キャミィそっくりの髪型を持つ女。彼女はこくりと頷き、来た時と同じく素早い動きでその場を離れる。

 従順な部下の動きに満足し、ジュリはくつくつと笑みをこぼした。

 彼女たちは今、挫折を感じることもなく、すべてを思うがままに操っている。これでは世界征服すら簡単にできてしまうのかもしれない。別段興味があるわけでもないのだが、なんとなくそんなことを思うのだ。

 



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HUNTER×HUNTER 4≠4
A crown


 前日譚の蜘蛛の話。
 五つほど投稿しまして、前の四話を改訂します。
 なんか最近になってハンターハンターにハマりました……。


 蝋燭の火で照らされる暗い一室。

 本が無数に積まれたこじんまりとした空間で、椅子に座る男が居た。暗がりの中でわずかな灯りを頼りに本を読み、痛いほどの沈黙を耳に、静寂に包まれて文字を読み進めている。

 

 恐ろしいほどの沈黙に全身が包まれた異質な空間。

 男は一切恐怖心を持っていない。人間が恐れるほどの静寂を間近にして、まるでその静寂を支配しているかのような、そんな風貌にすら見える。

 見る者が見れば独特の雰囲気だと固唾を飲んだだろう。

 男の姿それ自体は大しておかしくもないとはいえ、その空間に在るという佇まいは、明らかに異質。存在を消し去るほど静か過ぎる異様な空間が、むしろ彼の存在感を増しているようだった。

 

 ゆっくりとページを捲る。

 小さな明かりで着実に文字を読み進めている様子。仕草は至って普通で、どこにでも居る人間と同じ。特別な様子はない。

 しかし惜しむらくは彼の異常性を伝えるのは周囲の暗闇と巨大な静寂。

 闇に紛れてただそれだけに集中するのは異形にも思えた。

 

 そこへ、扉を開ける小さな物音と共に現れたのは一人の青年である。

 躊躇なく部屋へ入り込んで扉を閉め、軽く足を運んでくる。

 部屋の片隅に置かれていた椅子を運んで男の前へ置いた。静かに椅子へ座って、一切の警戒心も無く脚を組み、腰が落ち着けられる。

 

 本へ視線を落としたままで口が開かれた。

 先に声をかけたのは本を読む男。黒髪をオールバックに、額には独特な紋章が刻まれ、黒尽くめの服装に身を包んでいる。表情は無。感情の一切が見えず、隠されているのか、或いはそもそも持ってさえいないのか、真実はわからないが不思議な雰囲気だけが伝わってきた。

 感情を乗せない声は静寂に混じって伝わる。

 対する青年は微笑みを称えて聞いていた。

 

 「用があるらしいな」

 「ああ。欲しい物があってな。久々に盗みに出ようかと思ってる」

 「そうか。オレを呼んだ理由は?」

 「旅団の連中に手伝ってもらおうかと思ってるんだ。一応報告さ。団長なら話は通しといた方がいいだろ?」

 「律儀だな。そんな人間だとは思っていなかった」

 「あれ? 許可取らなくてもいいの?」

 「構わない。おまえが上手くやるならそれでいいだろう」

 「へぇ。そんなの初めて聞いたな」

 

 次のページが開かれ、話しながらも読み進められる。

 クロロ・ルシルフル。

 その男は尚も静かに語り掛ける。

 

 「そういえば初めてだな。おまえが蜘蛛を動かしたがるのは」

 「まぁな。大きい仕事なんだ」

 「狙いは?」

 「極秘裏で開かれる裏オークションがある。珍品ばっかり集まるような小さいもんだが、金になる物も多い。その中に一つ欲しい物があってな」

 「欲しい物、か」

 「成功したら教えてやるよ。ま、作業は長引きそうだからずいぶん後になるけどな」

 「そうか。なら深くは聞かないでおこう」

 

 ページを捲る小さな音が響く。

 暗闇の中、わずかに沈黙が生まれた。

 

 きっと言いたい事はもう言い終えたのだろう。用件がすぐに終わってしまうのはいつものこと。今更沈黙が生まれても慌てたりしないし、そんな程度の関係ではない。

 ただこの日だけいつもと違っていたのは、用件を終えて立ち去ろうとしなかった姿だ。

 

 彼の前に座る青年は微笑んだまま動かない。話したいことでもあるのだろうか。

 視線は上げず、気配だけでそれを知りながら口が動く。

 クロロの冷静さは微塵も変わらなかった。

 

 「まだ何かあるのか?」

 「いや、そういう訳じゃねぇけどさ……そういえばもう何年になるかと思ってな」

 「蜘蛛が出来て、か」

 「ここ最近さ。その、なんつーか」

 

 言い辛そうに青年が頬を掻く。

 珍しいこともあったものだ。想いのままに行動する人物が言いよどむなど、普段はない。

 それでもクロロは顔を上げない。

 本を読んだまま、文字を読み進めるスピードさえ変わらないようだ。

 

 「色々考えることがあってな。柄にもなく疲れたのかもしれねぇ……ひょっとしたらオレは、この仕事をやり終えたらしばらく休むかもな」

 「休む? 本当に柄でもない」

 「あぁ、自覚してる。ただそういう時って誰にでもあるだろ。どうしても今までと違う刺激が欲しくなったりする瞬間がある。オレは今ちょうどそんな時期に差し掛かってるんだ」

 「ほう」

 

 納得したのか、聞き流したのかはわからない。

 初めてクロロが顔を上げた。

 上げた視界に入るのは栗色の髪と人懐っこい笑顔。すっかり見慣れた友人の顔。

 いつもと変わったところなど見られない。

 しかしなぜか妙な感覚を覚えていて、それを言葉にすることもできず、胸中には少しの疑念を置き、いつも通り表情を浮かべずに彼へ問うた。

 

 「休んで回復するものか?」

 「さぁね。そりゃ試してみないとわからない」

 「それなら試してみればいい。蜘蛛が動く時には連絡する。それ以外は好きにしていろ」

 「はいよ。たださ、一ついいか?」

 「なんだ」

 「毎度毎度オレに連絡が来るってのもどうなんだろうな。別に他の奴でもいい気がするし、なんならあんたが直接全員呼びつけりゃいいだけの話だろ。面倒なのか?」

 「おまえの仕事が早いからな。甘えてるのさ」

 「嬉しくない甘え方」

 「あの連中は個性が強い。言って聞くようになったのもおまえが尽力したからだろう」

 「今思えばその辺りから失敗だった気もするけどな……まぁいいや」

 

 その時になって青年が立ちあがり、椅子を元の位置へ戻す。

 多少の距離を置いてクロロと対峙した。

 

 身に着けているのは黒いスーツ。大抵はそうして小奇麗な格好をしている。仕事柄、誰にも怪しまれない方がスムーズに事を進めやすい。そんな意図があるらしかった。

 ポケットに両手を突っ込んだまま言われる。

 すでにいつもの彼となっていた。

 

 「とりあえず何人か借りる。しばらくは蜘蛛も動かねぇんだろ?」

 「ああ」

 「ま、蜘蛛にとっても良い仕事になるよ。報酬は楽しみにしててくれ」

 「報酬? 自分のために()るんだろう」

 「まぁな。でも欲しいのは一つだけだ。他はいらない」

 「標的は?」

 「オークション品全部。そっちの方が派手だろ」

 「盗賊の美学か。面倒な奴だな」

 「うるせぇ。ちまちま一つ二つ()ってくよりよっぽど様になるだろうが」

 「フッ、そう思うなら好きにしろ。止めはしない」

 「サンキュ」

 

 それだけ言って青年は扉を開けて、部屋を出て行った。

 扉が閉められると再び室内は暗闇に包まれる。

 クロロは至って冷静に本を読み進め、まるで表情は変わらないままだった。

 



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Naked story

 朝日が昇るか否かという頃、二人は目を覚ました。ベッドの上で並んで寝そべっている。室内は暗く、そろそろ朝の時間帯だが雨が降っていて、陽の光はそこに入らない。

 気だるげな空気が漂う中、一様に天井を眺める二人。

 

 裸の男女だ。

 シーツにくるまった裸体は昨夜の名残を感じさせ、激しく乱れている。ただ二人は気にしない。青年が頭の後ろで手を組んで枕とし、女性は彼の胸に頭を預けている。

 

 魅惑的な体つきと金髪、それから鷲鼻が特徴的な大人の女性である。

 顔つきや表情こそクールに見えるものの、寄り添って胸に頭を預ける仕草はまさに女の物。

 恥も外聞もなく、慣れた姿勢で、窓の外を眺めながら女性がぽつりと呟いた。

 外では今日も雨が降っている。

 

 「この辺りは雨が降りやすいのね。また今日も止みそうにないわ」

 「雨季らしいからな。バーのねえちゃんが言ってた」

 「またナンパ? 飽きないわね。今でも色々関係持ってる癖に」

 「これも立派な情報収集なんだぜ。男とは違う観点からの情報が入る。それに、情報は多方面からあった方がいい。どれが正しくてどれが間違いか、判断材料が増える訳だからな」

 「結局尻軽なだけでしょ」

 「仕事に真面目なんだ。おまえの能力には負けるけどな」

 

 特に感情を波立たせるでもなく、冷静に話をしている。

 ある時、青年の手がふくよかな乳房を撫で、掴んだ。指先でむにむにと揉み始める。

 小さな溜息。

 だが止めようとはせず、女性――パクノダは目を閉じる。

 

 「で、何かわかったか?」

 「ええ。オークションは他の国で行われるみたい。ご丁寧に誰も近寄らないような山奥でね。そこに世界各国から、裏社会の要人が集まってくる」

 「金持ち連中ってのはやだねぇ。すぐ悪いことしたがる」

 「悪いことして金を稼いだからね。ああいう手合いは欲望を抑える気がない。欲しい物は全部手に入ると思ってるのよ」

 「ま、オレたちも変わらないけどな」

 「むしろ私たちの方がひどい人間でしょうね。傍から見れば」

 

 苦笑するパクノダの胸が揉まれる。勝手知ったるように、無遠慮に。

 それを嫌とも思わず脱力していると、青年が平然と言いのけた。

 

 「とりあえずシャルにメールしとくか。先に忍び込んどいてもらわねぇと」

 「私はここまでの約束だから、後は勝手にしてちょうだい」

 「なぁパク、フェラしてくれよ。ちょっとでいいから」

 「嫌よ。気分じゃないわ」

 「なら入れさせてくれ。何もしなくていいから。それならいいだろ?」

 「ハァもう。しょうがないわね」

 

 パクノダがシーツの下に潜り、彼の下半身に顔を近付けていく一方、青年は枕元に置いていた携帯電話を手に取った。どちらも慣れた姿である。

 なんだかんだと言いながら付き合ってくれるようだ。

 伊達にそれなりの時間を密接に関わっていない。

 

 メール機能を使って文章を打ち込んでいく。

 連絡する時は大体これだ。電話など普段滅多にしない。

 別段何を警戒する訳でもないのだが、ただ気分の問題だ。きっと世界にはネットでハッキングをしたり、電話の通信を盗聴したり、メールを奪って勝手に読んでしまう人間が居るに違いない。そんな考えもあって彼が好むのはメールを使い、ニュアンスだけを相手に伝え、明確な指示を与えないこと。傍から見れば意味のない文章に見えて、仲間が見れば何をすればいいのかが伝わるという、一風変わって、言ってしまえば面倒臭い連絡手段だった。

 

 萎えていた彼のペニスに舌を這わせながら、パクノダは可哀想にと思う。

 シャルという仲間はまず解読から始めなければならないのだ。

 彼は頭が良いし、青年の思考パターンや指示の方法などについてよく知っているから苦労はないだろうが、それでも余計な心配をせずにスパッと言って欲しいと思うのは無理もない。

 亀頭を口の中へ含みつつ、考えるのは仲間への同情だった。

 

 「これでよし。ま、あいつならもう知ってたかもしれないけど」

 「シャルは?」

 「近くに居る。でも昨日の段階じゃ掴んでる様子はなかった――おっ?」

 

 携帯が震えて着信を告げる。出したばかりでメールが返ってきたようだ。

 すぐに確認すれば件の人物からの返信だった。

 

 「シャルからだ。すぐに発つってよ」

 「ふぅん。私はどっちでもいいけどね」

 「冷たいな。もうちょっと心配してくれてもいいだろ」

 「心配したところで、あんたたちが死んだことなんてないでしょうが」

 

 パクノダがペニスをしゃぶったことで、むくむくと頭をもたげてくる。口をすぼめて吸い付き、舌を絡めて刺激すれば、勃起するのも躊躇わない。

 大きくなったそれから口を離し、手で数度扱いた。

 準備はいいだろう。

 口でするのは面倒だと言ったため、シーツを退けると腰を跨いでベッドにしゃがむ。

 見上げてくる青年の視線を受け止めつつ、裸体を晒して股を開いた。

 

 「もう濡れてんのか? 別に早いなら無理しなくていいぞ」

 「昨日の残り」

 「あぁそう。そりゃよかった」

 

 亀頭を膣に宛がい、ずるりと呑み込んでいく。

 スクワットをするように腰を落とし、また上げていった。

 膣でペニスを扱きあげて刺激する。

 慣れた感触だからか、動きは大胆で、速度は徐々に速くなった。

 

 青年はパクノダの動きを上機嫌に見つめる。

 動く度に大ぶりの乳房がぶるんと弾み、自分の一部が彼女に呑み込まれていく様を眺めることができる。ひどく興奮する景色だった。

 断りもなく右手で乳房を掴み、揉みながら眺める。

 やはりパクノダからの抵抗はない。

 

 「良い眺めだな」

 「んっ、はっ……それは、よかったね」

 「パクも楽しんでるか」

 「ええ。それなりにはね――ふっ、ふっ」

 

 腹に手をついて淡々と腰が振られる。

 動くほどに膣内が濡れていき、刺激から吐息が熱くなった。しかし少し動いたところでパクノダが動きを止め、じとっとした目つきで青年の顔を睨む。

 何やら不満があるようだが、気にせず青年は胸を揉み続けた。

 

 「ちょっと。そう言えばなんで私が動いてるのよ。あんたが動くんじゃなかったの?」

 「今頃か」

 「はぁ、まったくもう。このまましていいから動いてよ」

 「しょうがねぇなぁ。せっかく気持ちよかったのに」

 

 ぎしっとベッドが軋んで、上体を起こした青年が座ったままでパクノダを抱きしめる。

 音を立てて唇に吸い付きつつ、強く尻が掴まれた。

 パクノダは目を閉じて受け入れる。

 舌を絡ませながら腰を動かし始めて、ベッドが軋む音は連続して起こった。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 

 パクノダも熱中しているらしい。わずかに目を開けて確認した青年はほくそ笑む。

 舌を離さず、力を入れて何度も突き上げる。

 口の端からは甘い声が漏れ出ていて、我慢さえできない状態のようだった。

 

 突発的に口を離して、パクノダが彼の頬を掴む。

 青年も動きを止め、見つめ返す。

 熱っぽい性交は一旦止まって静寂の時間が訪れた。

 

 「ねぇ、何かあった?」

 「ん? 何が」

 「あんたが蜘蛛を使うなんて、珍しいでしょ。しかも一人ずつ呼び出すならまだしも、数人使うなんて特に」

 「珍しくてもたまにはそんな時あるさ。一人じゃ面倒な仕事だしな」

 「それだけ?」

 「何を疑ってんだよ。オレはいつも通りだぞ」

 「そうね。見た目は、そうだけど」

 「こっちもそうだろ?」

 

 腰を動かさず、筋肉の動きでペニスがぴくぴく跳ねる。膣の中ではその動きが如実に伝わり、からかうような動きがパクノダの眉間に皺を寄せさせた。

 感じているというよりはぐらかされたことへの不満だろう。

 それ以上は追求せず、パクノダも腹筋に力を入れる。

 膣内がぎゅうっと締まって彼を刺激した。嬉しそうに青年の頬が緩む。

 

 許可を取らずに胸の谷間へ顔を埋めて頬ずりする。子供のような仕草だが男ならばそう珍しくはないだろう。時折舌を這わせつつ、乳房の柔らかさを堪能する。

 仕方なさそうに溜息をついて、しかしパクノダも嫌そうではなかった。

 彼の頭を撫でる程度には快く受け入れている様子である。

 

 「ヤッてる最中に違うこと考えるなよ。気持ちいいだろ?」

 「別に……」

 「あ、そういうこと言うわけ。このっ」

 「んあぁっ!」

 

 両手で膝の裏を抱え、思い切り突き上げながら立ち上がった。そう簡単な動きではないものの、力があるためかよろけずに背筋が伸びる。

 彼女を完全に抱え上げた状態で腰を振る。

 体重がかかってズンっと奥まで突き刺さり、さっきより強い衝撃に襲われた。

 

 パクノダの表情が変わって声が抑えられなくなったらしい。

 体の奥まで響く快感。

 自由を奪うかのような力に抗えず、体が熱くなって、余裕さえも簡単に奪われてしまう。

 

 「あぅ、あぁっ――!」

 「おぉっ、こうすると締め付けが」

 「んんっ、んふぅ……!」

 

 がくがく揺らせば少量、潮を吹いてきつく唇を噛む。それでも責めの動きをやめない。

 一定のリズムで腰をぶつけて、独特の小さな音が繰り返される。

 しばし快感を貪るのに集中していた。

 じっとり汗を掻いていき、甘い声を発し続け、会話もないまま数分が経った。

 

 達することなく腰の動きが止められる。

 パクノダはどことなくぐったりしている様子で、青年もふぅと息をついた。

 抱えたままだった彼女をベッドへ下ろし、のしかかる。

 屈曲位の状態で、今度はゆったりとペニスが前後し始めた。

 

 「あぁーまだだめだな。イケそうにないや。パクは? 軽くイッたか」

 「はぁ、んっ……まだ」

 「あっそ。時間の問題ってとこだな」

 

 感触を楽しむかのように、暴れ回っていたペニスはゆっくり動いた。

 青年には徐々に平静が戻ってくる。だがペースが変わっても刺激され続けるパクノダは落ち着ける状態でもない。甘い声が口から出ていき、ゆっくりになってしまったことでもどかしさを感じる。むしろ速く動かれた方がマシだっただろう。

 パクノダの手が青年の首へ回される。

 何を言いたいのかわかっているのか、彼は上機嫌に笑うだけだった。速度は相変わらずで、もどかしさにはちっとも変化がない。

 

 「んっ、んっ――」

 「こういうのも、たまにはいいだろ。大人の遊びって感じで」

 「はぁ、バカっ……」

 「もうやばそうか? イキたいならイってもいいぞ」

 「あっ、あっ――!」

 

 緩く突きながら親指でクリトリスをこねくり回し、一気に速度を速めて突き上げる。すると反応は上々で、パクノダはすぐに気をやってしまった。

 体が大きく跳ねた直後、勢い強く潮が噴き出す。

 

 今度は完全に達したようだ。

 半ば無意識的、無我夢中に体が動いて大きな反応が返ってくる。

 青年の頬は緩んでいた。

 

 「お、イッたか。今日は激しいなぁ」

 「あぁっ、はぁっ……!?」

 「んじゃオレもイッとくか。悪いなパク、ちょっと耐えろよ」

 

 両手で脚を掴んで、一気に体重をかける。

 腰を動かすのに全力を注いで速度が一変していた。掻き回すようにペニスが膣内で暴れ回り、愛液を掻き出して、肉をほぐして何度も奥を小突く。

 

 パクノダは声を荒げた。苦しんでいるようにも見える様相で髪を振り乱す。

 快楽に呑み込まれる。

 そう思えるほどの快感が全身へ伝わっていて、もはや許容量を超えるほどだった。彼との関係において、こうした経験は何度かある。恐ろしくもあって、嬉しくもある独特の感覚。

 荒れ狂う波の中、パクノダは必死に呼吸を繰り返すので必死だ。

 その間にも叫ぶような嬌声は続く。

 

 ラストスパートになって青年の余裕も失われていた。というより、自身が達するために動いている。我慢する気を捨て去って、射精へ導く動きを取っていた。

 高速の突きを繰り返し、いよいよという瞬間。

 青年はパクノダが再び達した瞬間にペニスを引き抜いた。

 

 「あぅっ、あっ、あぁっ――!」

 「くっ、イク……パク、口開けろ!」

 「あああぅっ!」

 

 倒れ込む彼女の顔へ、急いでペニスを近付けて、自らの手でペニスを扱きながら射精する。勢いよく飛び出していったかと思えば、パクノダの顔を白く汚した。

 びゅくびゅくと律動し、熱い体液が肌へ触れる。

 全身を痙攣させて呆けていた彼女も、波が引いていくに従ってその熱さと感触を強く認識する。

 

 指を伸ばしてわずかに触れ、口元へ運んでぺろりと舐めた。

 美味くはない。

 アダルトビデオとは違うのだ、これを好んで飲む人間の気持ちがわからなかった。

 

 自身も余韻を楽しみつつ、青年は隣へ寝そべった。

 相変わらず胸がお気に入りのようで気軽に触れ、満足した顔で笑っている。

 

 いい気なものだ。人の顔を汚しておいて呑気に笑っているとは。

 充実感と共に虚無感を感じながら、パクノダはむっとした表情を作った。

 本気で怒っている訳ではない。しかしポーズは必要だろう。自分勝手で気ままな彼には文句の一つも言ってやらねば気が済まなかった。

 

 「膣内(なか)に出してよ。汚れたじゃない」

 「いやさ、ほんとは尻にかけたかったんだけどあの体勢じゃ無理だったろうから」

 「もう。こっちの迷惑とか考えないわけ?」

 「あれ? 嫌だった?」

 「好きな人間なんていないわよ、こんなの」

 「そうかなぁ。案外近くに居ると思うぜ、少なくとも一人は」

 「はいはい」

 

 ベッドを軋ませてパクノダが起き上がった。

 すぐにベッドから降りてしまい、離れていくため青年が声をかける。

 

 「どした?」

 「シャワー浴びるわ。汗も掻いたし、これを落とすならそっちの方がいいでしょ」

 「んじゃオレも行く」

 「もうしないわよ。抜くなら自分でしてよね」

 「じゃそうするから尻にかけさせてくれ。今はそういう気分なんだ」

 「いいわよ。すぐ洗い流されるだろうけどね」

 

 二人でシャワールームへ入り、頭からお湯をかぶり始める。

 水からお湯へ変わるまで目を閉じてキスをしていた。

 性欲に従ってではなく、互いの愛情を確認し合うような優しい愛撫。淫らに舌を絡ませていても極度の興奮はない。むしろ独特の落ち着きがあった。

 

 しばし愛撫を続けた後、お互いの手で相手の肌を撫で、汗を流す。

 どことなくいやらしさを感じるものの、ベッドの上とは明らかに違う姿ではあった。

 

 「そういやさ。一回聞いてみたいことがあったんだ」

 「何?」

 

 掬い上げるように胸を支え、青年が乳首を舐め、パクノダが微笑んで頭を撫でながらの会話。

 恋人同士にも見えつつ、親子のような雰囲気も漂う姿であって。

 前触れもなく唐突に青年が問いかけ始めた。

 

 「んー、なんつーか、その」

 「どうしたの。あんたが言いよどむなんてらしくない」

 「蜘蛛の在り方って言うのかな。たまに、このままでいいのかって思うんだが」

 「蜘蛛の、在り方?」

 

 乳首をしゃぶりながらする話ではないだろうに。

 思いのほか真剣なのかもしれない声色に呆れながらも、パクノダは答えを探そうとする。

 なぜ突然そんなことを言い出したのかはわからない。しかし前々から仲間たちに関して気を配り、何人か仲間も失う中、あくまで自分たちが集団として死なないよう気を配っていた彼だ。何があったとしても、真剣に考えているのは間違いないのだろう。

 

 彼の髪に触れて数秒考え、ただどう答えてよい物かわからない。

 漠然とした質問は存外答えにくいものだったようだ。

 

 「私は別にまずいと思ったことはないけど」

 「オモカゲについてどう思う」

 「彼は死んだわ。落ち込んでないんじゃなかったの?」

 「ううん、まぁな。落ち込む必要がなかったのは、疑問があったからなんだが……」

 

 言い辛そうに呟いて、胸から口が離れ。

 すぐに気を取り直したのか顔を上げ、彼はパクノダの唇を奪った。

 押し付けるだけのキスの後、勃起していたペニスを撫でつつ笑いかける。

 

 「パク、もう一回頼むよ。今度はバックで」

 「もうやらないって言ったはずでしょ」

 「ちょっとだけだって。すぐ済むから、な?」

 「もう……」

 

 大した抵抗もなく、パクノダが後ろを向いて壁に手をつき、尻を突き出した。嬉しそうに青年がその尻を掴んで、強く腰を突き出し、ペニスを膣へ挿入する。

 十分に潤っていてずるりと入り込んだ。

 睾丸がぶつかって渇いた音が鳴り、シャワーを浴びながらの性交が始まった。

 

 一度落ち着いたとはいえあの熱を覚えている。挿入して突かれ始めれば、意識せずとも自然に体が反応してしまい、口をついて声が出た。

 乳房を揺らし、されるがままを受け入れて膣の中に衝撃が走る。

 それら全てが味わい慣れた快感で、彼女の頬も紅潮していたようだ。

 

 「はっ、はっ、んっ――」

 「なんだ、おまえも楽しんでるじゃないか」

 「あっ、んんっ、仕方ないでしょ……あぁっ」

 

 それからしばらく、黙り込んで行為に集中する。

 パクノダは目を閉じてペニスの形や感触に集中し、青年は喘ぐ彼女の姿全てで気を良くする。

 シャワーを浴びながらの性交は中々新鮮だった。少なくともパクノダを相手にする分には。

 それが功を奏してか、二人の気は同時に、見る見るうちに高まっていった。

 

 どれほど会話が無かっただろうか。

 一定の速度で動き続けた末、ついに限界へ達し、呼吸を合わせて達する瞬間が来る。

 先にパクノダが背を逸らせて喉を震わせ、続いて青年がペニスを引き抜き、手で竿を扱きながら射精した。当初の願望通り彼女の白い尻にかけられ、満足した様子である。すぐにシャワーから出る湯によって流されてしまったのだが、ひとまず満足らしい。

 

 青年は後ろからパクノダを抱きしめ、体の前へ回した手が両方の乳房を掴む。やはり受け入れ、呼吸を整えながらも彼女はわずかに腰を揺らした。

 

 「はぁ、ん……満足した?」

 「あぁ~気持ちよかった。あとフェラしてもらえれば満足なんだけどな」

 「シャワー浴びてるんだから必要ないでしょ」

 「気分の問題なんだよ。してもらった方が嬉しいんだ」

 「もう……」

 

 文句を言って、渋々といった態度ながらも、そっと体を動かしたパクノダはその場でしゃがんだ。言葉と態度は裏腹で彼のペニスに口を寄せるのである。

 萎えたそれにちゅっとキスをした後、亀頭を口へ含んだ。

 舐めて、吸って、尿道に残っていた精液が口の中へ飛び込んでくる。

 

 やはり美味くはない。

 青年が頭を撫でているのは嬉しく思うが、楽しい行為ではないだろう。

 改めて確認しつつ、舌の上に乗った精液を飲み干した。

 



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whiteout

 車に揺られて山道を走る。

 町を出てすでに数時間。ずいぶん遠くまでやって来た。道中、同類たちも警戒しているのか、誰にも出会っていない。目的地に近付いているのかさえ不明瞭だった。

 目的地へ事前に仲間が潜入していなければ確認するのも一苦労だっただろう。

 後から追いかける彼らは、先に入った彼よりよっぽど気楽に移動している。

 

 運転するのはフランクリンという巨漢の男だった。

 顔色は悪く、一目見ただけで常人ではないことに気付ける風貌で、運転席に座っているだけでも異質な空気を感じる。念のため今回参加するメンバーは全員がドレスコードに従って正装しているとはいえ、彼だけは目立ってしまっても仕方ない姿である。

 助手席には青年が座っており、大あくびをしていた。

 長時間の移動ですっかり気疲れしている様子。思わずぼやけば、フランクリンが反応した。

 

 「ふわぁ~……ったく面倒な場所でやるんだな。行きも帰りも苦労するじゃねぇか」

 「それだけバレたくねぇってことだろ。裏社会の有名人も多いみてぇだしな」

 「悪人様の思考回路だけは真似たくねぇな。オレなら町中でやって警備を増やす」

 「あいつらは臆病なのさ。おまえほど肝が据わってねぇ」

 「尚更悪事なんてしなきゃいいのに。こりゃシャル一人に任せりゃよかったかな」

 「流石に全部持ち出すのは無理だろ。まぁ、俺たちが来るほどでもない気はするが」

 

 フランクリンは冷静に言う。

 以前からこの青年のことは知っているが、個性的な仲間たちの中で埋もれることの無い特徴があるのは知っている。それが盗賊としてのポリシーだ。

 

 彼は盗みを好み、強盗を嫌う。

 人を殺して奪うのは品の無い強盗。

 盗賊とは、誰にもバレることなく品だけを盗んでいく賊だ、というポリシーを持っているらしく、彼が立てる作戦は大抵が誰も殺さない内容である。

 自分たちは盗賊団であって強盗団ではないと豪語するのもそのためだろう。

 細々した動きを嫌う仲間との衝突はあるものの、一度として曲げたことはない。

 殺しをあまり好まないのは、殺しも辞さない集団の中では異常でもあった。

 

 今回もおそらく殺しはない。少なくとも本人はそう思っている。

 作戦を立てて、すでに仲間の一人が目的地へ潜入しており、速やかに競売品だけを盗み取って終わりだろう。詳細を知らずとも内容は理解できている。

 果たしてこの作戦に五人も必要だっただろうか、とは思った。

 潜入した一人に加え、青年とフランクリンを乗せた車の後部座席にあと二人。

 どちらも正装しているが、不機嫌そうな目つきの小柄な男と、眼鏡をかけたまま眠りこけている少女。ひょっとしたら彼らの力を借りずとも終わってしまう可能性がある。

 

 久々の大きな仕事だと聞いていたが、フランクリンは嘆息する。

 彼が居るとどんな大仕事でも簡単に終わってしまう。楽ではあるがそれだけは不満だった。

 それは後ろに座る男も同じようで、話していた二人に割って入ってくる。

 

 「私もそう思うね。わざわざ来る必要なかたよ」

 「到着してない内から言うなよ。ボディガードだ、ボディガード」

 「私たち盗賊よ。なぜおまえら守てやる必要あるか」

 「全部運び出そうと思ったら人手が必要なの。車回して、荷物運んで、誰かに見つかれば口封じて、最悪の場合始末しなきゃならない。役割分担する訳だ」

 「面倒ね。全員殺せば早いよ」

 「だーからそれじゃ足が着くだろ。ただでさえオレらA級で賞金かかってんだぞ。これ以上目ぇつけられると仕事しにくくなる」

 「どうせ今回もバレるね」

 「非協力的だな、おまえは。もうちょっとオレにやさしくできないのか」

 

 小柄な男――フェイタンは殺しが無いためつまらなそうにしていた。

 確かに青年の手腕は認めているし、作戦が必要なのも理解している。しかしそれで満足できるか否かとなれば話は別だ。彼との仕事はいつもスムーズに進むため退屈過ぎる。

 依頼されて引き受けたのは自分だが、こうしてついて来る度に毎回後悔してしまう。

 また苦労もなく終わる。

 それが初めからわかっているせいだった。

 

 青年が認められているのは確かでも、彼らが所属する盗賊団には個性的な面々が揃っていた。今は言う通りに従っているが、従わない場合も少なくはない。

 フェイタンは従わない側の人間。

 今は大人しいものの、勝手な行動を取ってもおかしくない人間として考慮している。

 そこも含めて、青年が決めた人選だった。

 

 「それでもウボォーよりはマシか。あいつなら全員殺しかねないし」

 「私もそれでいいよ。全員殺して終わりね」

 「どうせ強い奴なんていねぇぞ」

 「ウボォーとは違うね。殺せればそれでいい」

 「そっちの方が厄介なんだよ、悪いけど」

 

 軽口を叩き合う。そうしていても、仲が良いかと問われれば素直に頷く関係でもない。

 あくまでも仕事の付き合い。

 共に盗賊として活動しているだけであって、仲の良さなど二の次である。使えるから使う。彼らにとっては互いにそれだけで十分だ。

 

 話している最中にフランクリンが口を開く。

 この中では最も常識人であろう。他の三人はタイプこそ違えど我が強過ぎる。

 今後の予定について気をつけるのも彼が冷静に思考していたからだった。

 

 「シャルから連絡は? もうとっくに着いてんだろ」

 「ああ。直接裏に車回せばいいってよ。そこにトラックも用意してるらしい」

 「全部手で運び出すのか」

 「こういう場合めんどくさいよな。さくっと一発で全部盗めるような能力あればいいのに。団長、誰かから盗んでくれねぇかな」

 「団長が現場に来るの滅多にないよ。自分で作ればいいね」

 「つってもオレ具現化系だしな」

 「同じ具現化系でもシズクは回収に慣れてるね。能力の質の問題よ」

 「シズクのは回収だけして吐き出さねぇだろ。盗みには向いてねぇって」

 「おまえら喧嘩すんなよ。見えたぞ」

 

 フランクリンの言葉で前を見れば、山中奥深くにある大きな洋館が姿を現した。

 どのルートを使ったのか、今も尚車が続々集まっているらしい。近付くにつれて大勢の人の姿が確認できる。辺境の地とは思えぬほどの人数と車の台数だ。

 

 遠目に確認した青年とフェイタンが感心した声を出す。

 表立っていないとはいえ流石高額品を並べるオークション。否、隠されているからこそか。普段ならば手に入らない珍品を求めるコレクターたちがよだれを垂らして集まっているのだ。そこに悪名高い盗賊団が近付いているとも知らずに。

 車中は一層の興奮を見せ始めた。

 

 「おーおー、悪い皆さんが集まってらっしゃる。腕が鳴るな」

 「全員殺していいなら鳴るね。おまえが口出ししなければよかたのに」

 「あのな、話持ってきたのオレだぞ。宝もほとんどおまえらにくれてやるって言ってんのに、そこまで文句言うか、普通」

 「フェイは特におまえと相性悪いからな。難癖つけたいだけなんだろ」

 「殺しがないのは別にいいよ。ただおまえの思い通りに済むのが嫌なだけね」

 「この野郎、好き放題言いやがって……」

 

 やがて彼らが乗った車は屋敷に近付いていく。しかし駐車場には向かわず、多少迂回して屋敷の裏手へと回り、周囲から奇異の視線を向けられても気にせず進む。

 屋敷の裏に着くとスタッフが乗っていただろう車が見えた。その中には明らかに一つ、抜きんでて大きいトラックが停められていて、銀色のコンテナを積んでいるのを確認する。おそらく仲間が用意した運搬用の車両はそれなのだろう。

 

 車を運転するフランクリンはスタッフ用の駐車場へ停めようとする。

 動きが止まって、エンジンを停止させた時。屋敷の裏口付近で見ていたのか、スーツ姿の男たちが二名、彼らの下を目指して歩いて来た。

 用心棒を雇っていた、ということだろう。

 何も言わず先にフェイタンだけが車から降り、何をするかわかった青年は扉を開け、歩き出そうとする彼にそれを投げて渡した。

 

 「フェイ」

 

 投げられたのはナイフだった。

 刀身は肉厚。投げられても危険な様子はない。速度は緩く、くるりと回る。

 

 そのナイフが消えると同時、フェイタンの姿も消えていた。

 気付いた時には車へ近付こうとしていた用心棒二人の首が宙へ飛んでいて、一気に血を噴き出し、一声も発する暇もなくその場へと倒れた。

 地面に首から噴き出した鮮血が広がる。

 傍ではナイフを手にするフェイタンが立っており、自身のスーツには返り血一つ浴びず、冷酷な笑顔で死体を見下ろしていた。

 

 車の中で一連の動きを見ていた青年が溜息をつく。

 あり得なくはないと思っていたが、それにしても早いスタートだった。

 

 「ほらな、これが怖かったんだよ。やっぱシズクを連れてきたの正解だったな」

 「本人は寝てるけどな」

 「おいシズク、起きろ。仕事だぞ。早速だが死体吸い込んでくれるか」

 「んぅ……」

 

 今まで眠っていた黒いドレス姿の少女――シズクが目を覚ます。

 眼鏡の下へ指を入れ、目元を擦って眠そうにしている。パチッと目を開けたものの、まだ寝ぼけているらしい。どうにも気の抜けた表情だった。

 

 「あ、着いた?」

 「着いたし仕事だ。早速フェイがやりやがった」

 「そうなんだ。デメちゃん必要?」

 「誰かにバレない内にな。場所は外出ればすぐわかる」

 「いいよ。やろっか」

 

 そう言ってシズクは慌てず車を降りる。

 続いてフランクリンと青年も外へと出た。

 表情一つ変えずに突っ立って居るフェイタンは彼らを待っており、歩み寄ってくるまで動かない。手にあったはずのナイフは消えていてどこにも見当たらなかった。

 

 近付いて来た途端、フェイタンの目は青年を捉えて文句を言い始める。

 いつも通りの光景に、シズクは反応せず、フランクリンは気付かれない程度に嘆息した。

 

 「おまえのナイフ使い勝手悪いね。すぐ折れるよ」

 「アホ、おまえの馬鹿力が問題だろ。首すっ飛ばさなくても動脈切れば終わるんだよ」

 「無駄口叩いてる場合じゃねぇんじゃねぇか。ルツ、シャルに連絡は?」

 「おっと、忘れてた」

 「なら呼んどいてくれ。シズクは死体の掃除な」

 「オッケー」

 

 ペースを乱されたせいか、普段とは違ってフランクリンが指示を出し始めた。

 それを嫌とも思わずに青年は携帯で連絡を始め、フェイタンはポケットに手を突っ込んで静観し始める。笑みは消えてまた退屈そうだ。

 

 シズクは物言わぬ死体に近付くと、手をかざす。するとどこからともなく奇妙な形の掃除機が出現し、躊躇いもなくその手に握られた。

 スイッチを入れ、まるで平然と掃除をするように構えられる。

 彼女は何も考えていなさそうな顔で死体を見ていた。

 

 「デメちゃん、死体と広がった血を一つ残らず吸い込め」

 「ギョギョギョ!」

 

 奇声を発する掃除機が動き出し、地面に転がった死体と血液を吸い込み始めた。見る見るうちに吸い取られていき、牙の並んだ口へと消えていく。明らかに許容量を超えていそうな人体が二つ、大量の血液、口でつっかえた首でさえその中へ吸い込まれていった。

 掃除はほんの数秒で終わる。

 辺りは何事もなかったかのような景色となり、二人の用心棒など、初めから存在しなかったかのような様相。彼らもまた、消えた二人のことなど微塵も気にしていなかった。

 

 屋敷へ向かって歩き出しながら会話を始める。

 冷静な様子は当人たちにとって当然でも、他人から見れば異常。

 人の死を見ても平静を保つ彼らはどう見ても異質な存在だっただろう。

 

 「シャルか。こっちは着いたぞ、今裏口から入る」

 「いつの間にか着いてたね。ちょっと寝すぎちゃった」

 「気にすることないね。どうせ簡単な仕事よ」

 「荷物運び出して終わりか。大物集まってる割には警備が軽過ぎるな」

 

 扉を開き、勝手知ったる様子で屋敷へと入っていく。

 入ってすぐの位置が長い廊下。左右と前方へ道が伸びており、細かい経路を知らない彼らはひとまず足を止める。電話している青年に目を向ければ、通話を切って笑顔を浮かべた。

 

 「近くに居るとさ。もう来るよ」

 「突っ立ってていいのか。見つかったら怪しまれるぞ」

 「オレたちはなんとかなるにしても、フランクリンはまずいな。図体がでかいんだよ、縮め」

 「無茶言うな」

 「ま、見つかっても殺せばいいね」

 「私の仕事増えるよ」

 「おまえらその危険な思想やめろって。厄介事が増える」

 

 しばし待っていると数分もせずに廊下の向こうから人がやってきた。

 スーツ姿でサングラスをかけた若い青年。仕事を迅速に進める準備に加え、情報収集を兼ねて潜入していたシャルナークが笑顔で駆けつけてきたのである。

 

 「やっ、お待たせ。時間ぴったり。こっちは準備できてるよ」

 「競売品は?」

 「一室に集められてる。で、そろそろオークション開始だから急いだ方がいいかもね」

 「なら急ぐか。フランクリン、トラックこっちまで運んどいてくれ」

 「おう」

 

 フランクリンだけが外へ出て、他の三人はシャルナークに連れられて歩き始める。

 先に調べておいた甲斐があった。

 広大な屋敷の中でも迷わず歩いて、最短で目的地まで到達することができる。

 歩く道中、シャルナークは隣を歩く青年の顔へ目をやり、話し始めた。

 

 「たださ、用心棒は見たか?」

 「ああ。フェイが二人始末したよ。今はシズクの掃除機ん中だけどな」

 「そいつらは雑魚だろうけど、調べてみたら一人だけ強いのが居るみたいだ。ちょうどオレたちが向かってる場所に」

 「競売品の部屋か……」

 「盗まれるかもって危機感はあるみたいだ。データが本当なら念も使えると思う」

 「待ち伏せはいいとしても、競売品がある部屋ってのは頂けねぇな。戦闘で壊れる物があったらどうする気なんだよ。フェイ、相手はいいけど競売品は壊すなよ」

 「おまえ誰に言てるか。黙て見てればいいね」

 

 少し振り返って言えばフェイタンが笑っている。だが目つきは鋭く、決して友好的ではない。そう遠くないその時を楽しみにしている様子だ。

 

 シャルナークはさらに報告を続ける。

 作戦を考え、進めるのは基本的にいつもこの二人である。大枠と詳細を決めるのは青年だが、彼の作戦に従いながら状況に応じた行動に出て、良い方向へ進めようとするのがシャルナークの役目。仲間内ではかなり協力的な態度を見せる、有難い人物だった。

 今日に限ってはまだ不測の事態がない。

 用心棒の件を除けば当初の予定通りに進めているらしかった。

 

 「オークションの司会者にアンテナ刺しといた。時間は多少なら引き延ばせられるよ」

 「一応急いだ方がいいな。脱出は大丈夫か?」

 「オレはちょっと残ってから出るよ。堂々と正面から来たから、堂々と出ていけるし。多分パニックになるだろうから追手が無いことだけ確認する」

 「了解。じゃそういう運びで」

 「そっちこそ見つからないようにね。オレは二階から操作してるから」

 「心配すんな。こっちもプロだぞ」

 

 目的地である部屋の扉へ辿り着き、シャルナークは一人で離れていった。

 残されたのは三人だけ。

 青年がドアノブに触れて、視線で合図すると特に警戒心もなく扉を開いた。即座に視界へ入ってきたのは山と積まれた多種多様の骨董品。そして部屋の片隅に立つ一人の男だ。

 

 件の用心棒なのだろう、屈強な体つきをしている。顔も厳つく、スキンヘッドで、立っているだけで威圧感を放つかのよう。すぐに入室してきた三人に気付いた。

 警備していた彼は三人を止めようと歩き始める。

 対照的に全く警戒せず、青年とシズクが足を止めてもフェイタンが前へ進み出た。すれ違いざま、右手にはまたも青年から受け取ったナイフが握られている。

 

 「誰だおまえら、コソ泥か? 悪いが俺が居る限りは――」

 

 瞬間、フェイタンの姿が消えた。

 どこへ消えたのだ。そう思う暇もなく、首筋がカッと熱くなり、血が滴っているのに気付く。両手で押さえてみるものの血は止まらない。後を追うように激痛がやってきた。

 男は声も出せずにその場へ跪き、そのまま倒れてしまう。

 直後に脳天へ無骨なナイフが突き刺さった。

 それっきり、彼の意識が浮上してくることはなかった。

 

 攻撃を加えてとどめを刺すまで十秒も経っていない。

 あっさりと敵を仕留めたフェイタンはきょろきょろと辺りを見回し、事も無げに呟く。

 

 「で? 強い奴どこか」

 「おまえの足元で転がってるよ。シズク、掃除頼む」

 「うん」

 

 再びシズクが掃除機で死体を吸い込み始め、フェイタンはつまらなそうに肩をすくめた。

 それなりの使い手だったのだろう。しかし護衛に選んだ彼にかかれば、無傷で勝つどころか瞬殺するのも苦労しない。それだけ実力の差があった。

 

 青年は思惑通りに事が進んで満足そうにしている。やはりと言うかフェイタンが我慢していないとはいえ、それを見越してシズクを呼んでいる。痕跡は一つとして残っていない。

 しかしフェイタンは満足できずに決して良い表情を浮かべていなかった。

 

 「退屈ね。強いはずじゃなかたか」

 「シャルは一般的な意見を言ったんだよ。オレたちに当てはまるとも思ってないだろ」

 「私の仕事これで終わりか。だからおまえの仕事つまらないよ」

 「なら表の連中ぶち殺してくるか? 一文の得にもならないぞ」

 「チッ」

 

 不承不承とフェイタンがそっぽを向くと同時、死体を吸い終えたシズクの作業が終わる。

 死体はきれいさっぱり消えている。

 室内にあるのは彼ら三人と大量の競売品だけだ。

 

 「終わったよ。痕跡は無し」

 「よし、運び出すぞ。フランクリンも呼んでこないとな」

 「どうせなら見つかて欲しいね。始末する首増えるよ」

 「そん時ゃそれでいいけどな。シャルが居る限りはまぁ難しいだろうな、多分」

 

 その後、動き出した彼らは競売品を運び出し、一つ残さずトラックに積んで、シャルナークの陽動も手伝って誰に見つかることもなく屋敷を出た。

 

 これが彼らをA級犯罪者たらしめる要因である。

 団員それぞれが稀有な能力を持ち、それを束ねる頭脳が居て、戦闘となれば個人では止めるのが困難な実力者が揃い、甘えも妥協もないが故の絶対の結末。

 作戦成功は彼らにとって大したことでもない。常が成功であるからだ。

 

 人知れず行われるはずだった闇オークションは大失敗に終わることとなる。

 競売品は忽然と姿を消しており、雇った用心棒数名が発見されることも決してなかった。

 人々はこれらの手口から、ある有名な盗賊団が動いたのだろうと推測する。

 

 幻影旅団。

 影のように動き、蜘蛛のように獲物を捕らえて連れ去ってしまう、悪名高い者たち。

 謎に包まれた彼らが現れたのだと噂され、恐怖や怒りで震える人間も少なくなかった。

 



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失われた物語

 新聞に報じられることのない事件から一日経って。

 素早く町を移動していた青年はホテルの一室で上機嫌に頬を緩ませていた。

 

 膨大な盗品の多くは協力した面々へ譲渡している。出す所へ出せば相当な金になるだろうが彼は一切興味を持たず、シャルナークに一任してしまったほど。

 欲しかったのは一つだけ。現在、青年の前にそれが置かれている。

 

 テーブルに置かれていたのは一体の像だった。

 掌大のサイズ、人間の眼球を模した形のそれが、台に乗せられている。見かけこそ派手さはなく、価値がある物にも思えないとはいえ、青年はそれが欲しかったらしい。

 事前に知っていた様子で、大事そうに手を触れて、角度を変えながらあちこちを調べている。

 知的好奇心から来る行動も、表情が緩んで子供のような姿であった。

 

 しばらくそうしているとバスルームの扉が開いた。

 中からは風呂上がりらしいシズクが下着姿で出てきて、タオルで髪を拭いている。

 知っているためだろう、青年は振り返らない。あくまでも目玉の像に集中していた。

 

 「上がったよ」

 「おう」

 「あれ? ルツ、入らないの?」

 「んー? 入らないと気になるか」

 「私はどっちでもいいけど。それより、ずっと見てるね、それ」

 

 歩く彼女はベッドに腰掛け、足を投げ出す。

 仕事を終えて以来、青年は像のチェックに没頭していた。ネットで情報を集めたり、事前に集めていた資料の情報と照らし合わせたり、実際に自分の手で触れたり、ひどく楽しげにしている。今までこんな彼は見たことがなかった。

 

 よっぽど嬉しいのか、子供のような姿に見える。

 昨日も結局一度だけで終わってしまった。

 別に不満な訳ではないものの、如実な変化を不思議に思い、シズクは彼の背を見つめる。

 

 普段と違う。

 ただそれだけの言葉が胸に残るのはなぜだろうか。

 

 「どうしてそれだけ残したの? 他は全部あげちゃったのに」

 「最初からこれが欲しかったからさ。他のはどうでもいい」

 「お金になるのに?」

 「今んとこ金には困ってないからな。金以外の物が欲しくなるんだ」

 「ふぅん。どうしてそれが欲しかったの?」

 「こいつが歴史的な発見に繋がるから、かな」

 

 振り返らぬまま笑顔で言われる。

 声が弾む彼に、シズクの表情はぴくりとも動かないままだった。

 

 「ルツって歴史好きだっけ?」

 「ああ、つい最近からな」

 「なんで? 前はそんなことなかったよ」

 「そりゃ、こいつだけは盗めないからさ」

 

 ようやく振り返った青年はにっと笑って言い始める。

 やはり見た事が無い。そこまで生き生きとしている彼は。

 

 「オレたちに盗めない物って思いつくか? 驕りでも何でもなく、オレはないと思ってる」

 「うん。だってルツが作戦決めるから」

 「それにメンバーもあの感じだろ。時間さえかけりゃ、どんな難しい案件だってやれる。今回だって実質動いたのはシャルとフェイとおまえくらいで、オレとフランクリンに関しちゃただの荷物運びだからな。たった五人で過剰戦力だった」

 「フェイタン、退屈だって言ってたしね」

 「だから、盗れない物が欲しくなった。それだけだ」

 

 席を立った彼はシズクの隣へ腰を下ろす。

 視線を合わすでもなく、互いに前を向いて。

 唐突に青年が問いかけた。

 

 「蜘蛛について、どう思う? 特に最近のな」

 「どうって、何が?」

 「うん、まぁ、ちょっと有名になり過ぎた気がしてな。最近じゃオレたちに報復しようと近寄って来る連中もいる。あんまりいい傾向じゃない」

 「そうかな。私、気にしたことないよ」

 「ハハ、そんな気はしてた」

 「それって蜘蛛が危ないってこと?」

 「ああ。今は大丈夫でもいずれは、な」

 

 まさかの人物から、まさかの発言である。

 幻影旅団をよく理解している彼から聞ける言葉だとは思えなかった。

 

 団員の誰かが負ける姿など想像できない。

 確かに復讐のため現れた人間は知っているが、その度に団員の誰かが始末してきたではないか。どんなに強い敵でも、彼らに敵う人間などそう居ないのが事実。

 

 以前の話も聞いている。

 森の奥で隠れ住んでいたとある一族を虐殺した話。

 強かったが、団員が欠けることはなかったと。

 

 とても自分の知る青年の言葉とは思えず、シズクはただ首をかしげるばかりであった。

 何かあったのかもしれない。そう思いながらも聞くのは憚られた。

 おそらく彼の表情が真剣だったからだ。自分の目で確認しなくても雰囲気でわかる。いつも通りを装う声色が、実は彼の本音をチラつかせている様子だった。

 

 「最近よく考えるよ。蜘蛛が死なない方法とかな」

 「私はあんまり考えない。団長とルツが居れば大丈夫だもん」

 「どうかな――」

 

 妙に気になる発言だった。

 しかし真意を問いただすのを許さず、青年に肩を押されて、シズクの背がベッドに着く。

 驚きもせずに彼の顔を見上げた。これはいつものことだ。真面目な顔で語っているよりもよっぽど安心でき、かといって表情が変わることなく、じっと見つめる。

 青年は微笑んでいた。

 気分を変えようとしているのか、声色も違って話し始める。

 

 「難しい話はこの辺にしとこうぜ。オレも余計なこと言い過ぎた」

 「いいの? 溜め込むと体に悪いよ」

 「だから発散しようとしてんだろ」

 「あ、そっか」

 

 あっさり納得したらしく、近寄って来る顔をじっと見つめる。

 ちゅっと音が鳴った段階で目を閉じた。

 恋人同士がするようなキスを始め、しばし離れたりくっ付いたり、無心で繰り返す。そうしていると気分や雰囲気も変わってきたらしい。シズクの手がゆっくり彼の背へ回された。

 

 シズクは元々異性に対して興味がある訳でもない。常にぼーっとしていて、自分の意志は持っているものの、よっぽどの状況でなければ強く主張する性質ではなかった。

 青年とこうした関係になったのは、ひとえに青年が歩み寄ってきたためだろう。

 彼の女性関係が派手なのも知っている。

 知った上で、大した問題だとは捉えていなかった。

 

 「んっ……んちゅ」

 「眼鏡外すか」

 「うん」

 

 一度始まれば余計な詮索もない。シズクは大人しく彼に従った。

 顔中にキスを落とされつつ、抵抗せずに受け入れる。

 青年の手は慣れた動きでシズクの肌を撫で、腹や胸の谷間へ指を走らせた後、するりとブラジャーの下へ潜り込んでしまった。

 ふにふにと形が変わるそれを揉む。

 可愛らしい見た目に反して胸のサイズは大きかった。気を良くした青年は耳を甘噛みしながら、低くなった声で囁く。

 

 「また大きくなったか?」

 「そう? あんまり変わってないと思うけど」

 「きつくないのか、ブラジャー」

 「そう言えばきつい気もする」

 「おまえ……いつもながら心配になるよ」

 

 注意力がないのか、あまりに能天気なのか。

 胸への愛撫から小さな声が漏れ、わずかに身じろぎする。表情や仕草からどことなく鈍感に見える彼女でも感度は良好。確かな反応が返ってくる。

 

 しばし静かに愛撫が続いた。

 キスを続け、肌を撫で、胸や腹や腰、或いは首筋を指でくすぐる。

 甘ったるい雰囲気が嫌が応にも快感を意識させた。

 淫らな空気はあまりなく、独特の気怠い空気に包まれてのろのろと触れ合う。こうした雰囲気は彼女としか共有しない。というより、できないのが現状だった。

 

 シズクが持つ空気感は独特で、そこらの女性には真似できない物がある。独特の緩さが落ち着かせ、安心させ、とても進化を感じさせる物ではないがそれが良い。

 黙って触れ続けて、反応は大きくないとはいえ変化は如実に起こる。

 ゆっくりと腹を撫でた右手がショーツの中へ潜り込んだ。

 あまり使われずにぴたりと閉じた女陰が、じっとり濡れている。中指の腹で撫でてやると、体がぴくぴく反応していた。初めてではないが初心な反応である。

 

 「シズク、ちょっと銜えててくれるか」

 「んっ……いいよ。舐めるの?」

 「ああ。じっくりやりたい気分なんで」

 

 一度手を離し、青年が自らの手でズボンと下着を脱ぐ。

 シャツは着たまま、そうしてすぐにシズクの顔を跨いで腰を下ろし、ペニスを彼女の顔へ突きつけた。半ばほど硬くなっているがまだ完全に勃起していない。嫌がりもせず亀頭をぱくりと銜えて、すぐに唾液を絡めようと舌を伸ばして触れ始めた。

 

 笑顔になって青年がシズクの股に顔を埋める。

 下着の上から舌を這わせ、割れ目に沿うように舐める。

 反応は良く、特にクリトリスを弄った時には腰が緩やかに前後し始めた。

 

 ゆったりした時間。再び無言で愛撫が続く。

 性行為の最中で、実際いやらしいことをしているのだが、不思議にも普段とは違って落ち着く時間である。興奮はしている。しかしがっついて貪るような気になれないのが不思議なところだ。

 時間をかけてじっくり愛し合いたい。

 そんな気分で舌を動かし、女陰を舐めてペニスを舐めてもらった。

 

 数分経って彼女のショーツを下にずらす。

 態勢の関係上、全て脱がすには無理もあって、膝の辺りに放置されたまま。

 今度は直に舌を這わせ始め、さらに強く舌を突きつける。シズクの口から洩れる声が甘く、大きくなった気がして、対抗してかペニスを舐める舌に力が増した。

 

 「んんっ、ふむっ――」

 「ん、はぁ。もう結構ほぐれてるな」

 

 指を使って少し広げつつ、膣の入り口を舌先で撫でる。同時に親指でクリトリスを転がした。

 触れれば触れるほど蜜が溢れてくるかのよう。

 シーツを濡らしかねないそれをずずっと飲み込み、青年の機嫌はさらに良くなる。

 代わりにシズクは余裕を失くし、耐え切れずにペニスから口を離してしまった。

 

 「うんっ、はぁっ……」

 「離すなよ。イッたか?」

 「ううん、まだ。でも危ないかも」

 「別にいいぞ。時間はたっぷりあるんだし」

 

 右手の中指を膣へ挿入し、抜き差ししながら青年が窓の外を見る。近頃の彼は悪天候に好かれているらしい。暗い曇り空からは雨が降り出そうとしていた。

 シズクは両手でペニスを支え、先端をちろりと舐めだして、同じように窓を見る。

 いつもと違う。そう思ってしまうのはこの天候のせいもあるかもしれなかった。

 

 「雨やまねぇな。何かに憑りつかれてんのかね」

 「天気予報、良かったはずなのにね」

 「死んだ誰かが恨んでるんじゃねぇか? フェイが殺しまくるからだ」

 「ルツが止めればよかったんだよ」

 「やだよ、オレが殺される。あいつそれもちょっと狙ってるんじゃねぇかな」

 「そうかな。フェイタンは団の意志に従うよ。団員同士のマジギレ、ご法度だから。いつもちょっとじゃれてるだけじゃないかな」

 「どうだかね。ウボォーくらい分かり易かったら助かるんだけど」

 

 膣の内部に指の腹を当て、引っ掻くようにぬぽぬぽと肉を抉る。シズクの嬌声は小さくも確かに口から出ていた。ただし表情はそのまま、至って冷静な様子で会話も問題ない。

 こんな反応も彼女でしか見られず。恋人というより友人のような関係もそのせいだろう。

 シズクも淡々とペニスを刺激していて、快感は確かに伝わっている。

 

 遊ぶように時間を過ごし、しばらくした後青年が起き上がった。

 シズクの上に跨ぐのをやめ、今度は寝そべる彼女に覆いかぶさる。再びのキス。舌を伸ばして口の中まで割って入り、熱い吐息を掛け合いながら没頭した。

 

 口を離し、見つめ合った時。青年はあやすように彼女の黒髪を撫でる。

 子供っぽい部分を多く残す彼女だ。愛でる仕草を嫌と思わず、表情もそのまま、されるがままを受け入れていた。

 

 「シズク、キス好きか?」

 「うん。好きだよ。どうして?」

 「いや、あんまり変わんねぇなって思って」

 「もうちょっと声とか出した方がいいかな。あんまり他の人の感じ、知らないから」

 「そのままでいいよ。別に演技されたって嬉しくねぇし、おまえはそっちの方が印象がいい」

 「そっか。じゃそうする」

 

 もう一度深くキスをして舌を絡めた。今度はねちっこく、熱烈に。

 唾液を交換し合う勢いで二人の喉が鳴る。

 同じタイミングで青年の指がシズクの膣へと滑り込み、丁寧に中をほぐそうとしていた。すでに挿入しても問題ない柔らかさだが、この急がない時間を楽しんでいるらしい。

 

 おそらくシズクも、どちらでもいいと思っている。挿入しても、しなくても。

 彼と抱き合っている時間で気分が落ち着くのは事実だった。これで良いと思っているし、これ以上があっても構わないし、このまま終わっても多分文句は言わない。

 今は口内で動く彼の舌に気を良くし、彼の動きにもしたいようにさせていた。

 

 「オレやっぱ、この指でほじくる感じ好きだわ。クンニも好きなんだけど」

 「へぇー。そういうものなのかな」

 「シズクは? チンポ舐めるの好きか?」

 「んー……わかんない。嫌いじゃないけど、自分から頼むほどじゃないし」

 「んじゃセックスは。オレが頼んでも断らないけど」

 「ルツは安全だって知ってるから。知らない人に頼まれても頷かないと思う」

 「襲い掛かったとこで掃除機出してぶん殴るからな。その点に関しちゃ、正直おまえのことはそんなに心配してないよ。立ち振る舞い見てたら結構危なそうなのに」

 「私だってしっかりしてるよ、これでも」

 

 膣から指を抜き、透明な糸が伸びて落ちるのを体感で知りつつ、青年の腰の位置が変わる。

 脱がしかけたショーツを脚から抜き取り、舐められた末に勃起したペニスが、いよいよ彼女の秘所へ触れたのである。

 シズクは冷静に受け止め、理解し、ただ気になっただけという顔色で尋ねた。

 

 「入れるの?」

 「ああ。もう準備はできてるみたいだし」

 「ゴムは、しないよね」

 「しない方が気持ちいいだろ。ま、ガキが出来たらそん時は言ってくれ」

 「ルツって子供何人くらいいるの?」

 「さぁな」

 

 答えはせずにずるっとペニスが挿入された。

 閉じていた肉のひだを押し広げ、奥へ奥へと突き入れていく。痛みはない。潤っているそこから感じるのは快感のみ。シズクは、流石に目を閉じて感じているようだ。

 一番奥へ亀頭が達すると動きが止まる。

 包み込む感触を味わうように、青年はそのままの状態でキスを始めた。

 

 「んー、いい具合。そっちはどうだ?」

 「ん、硬いね。でも昨日もしたし」

 「そんなどうでもいいみたいに言うなよ」

 「どうでもいいとは言ってないよ。ただいつもと同じってだけ」

 「それもひどい気はするけどな」

 

 ゆっくり腰が動かされ始めた。きゅっと包んでくる肉ひだを押し広げ、ペニスが前後へ動く。

 白い肌に唇を触れさせ、胸の谷間に顔を埋めた青年は両側から押して乳房を寄せた。これにより彼の顔が乳房に挟まれた状態となる。

 そんな間抜けな姿で腰を振って、スローペースで快楽の中に身を浸した。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 「乳でけーな。揉まれず育ったんなら何食って育ったんだ」

 「うーん、なんだろ。あんまり気にしてなかった。えっとね」

 「思い出さなくていいぞ。どうせ思い出さないだろうし」

 「そう?」

 「おまえ、一度忘れたら二度と思い出さないだろ。そんな大した話じゃねぇし」

 「そうだね。それじゃ忘れとく」

 

 色っぽい雰囲気などなく、平然と話したまま続けられる。

 人が変われば内容も変わるものだ。

 わかっていたことだが如実に違えば思わず関心してしまう。

 

 スローペースとはいえ、腰を振り続けていれば快感も大きくなり、徐々に青年の動きが速くなってくる。分かりづらいだけでシズクも正常に感じており、決して集中していない訳ではない。加えて愛撫も続けていれば当然それだけ快感も増していたことだろう。

 胸を刺激しながらの膣へのピストン。

 確かにシズクの体には変化があり、抱き合っていればはっきり伝わってくる。

 

 小さな嬌声を聞きながら、汗を掻かない程度に動かれていた。

 雨の音が聞こえ始める頃になって、シズクがぽつりと呟く。

 

 「んっ、んっ――ねぇルツ」

 「ん?」

 「蜘蛛、やめないよね」

 

 なぜそんなことを言い出したか、思わず気になるほど突然の一言だった。

 青年は全く顔色を変えずに彼女の乳房を掴み、右側にある乳首を甘噛みしながら答える。

 

 「やめる訳ないだろ。なんだよそれ」

 「みんな言ってたよ。フェイタンもシャルもフランクリンも。最近のルツはおかしいって」

 「あいつらにおかしいって言われるのは心外だな。オレが一番まともだと思ってた」

 「ルツは、何も変わってない?」

 「さぁな。それはおまえらに判断してもらわなきゃどうにもできねぇことだ」

 

 胸を弄るのをやめ、顔を上げた彼は上からシズクを見下ろす。

 腰は振り続けたままだ。ペニスで膣内を刺激しながら微笑んで彼女を見つめる。

 シズクも彼を見つめ返し、脱力して寝そべった状態で話を聞いた。

 

 「おまえの目から見て、オレが変わったように見えるか?」

 「うん。ちょっとだけ。でもルツが団長を裏切る姿は想像できなくて」

 「ならそういうことだ。あんまり心配し過ぎんなよ」

 

 唇にちゅっとキスを落とし、頬と頬を触れさせて首筋に顔を埋めるような姿勢となった。

 彼の両手がシズクの腰を掴み、今になって全力で腰を振り始める。ペニスの動きはより一層強く、激しくなって彼女を責め立て、溜まっていた物が一気に破裂するように全身を駆け巡る。

 

 その最中にも耳元で囁かれる。

 おそらく彼は微笑んでいたことだろう。

 それを想像しながら目を閉じ、シズクは与えられる快感に従って声を漏らした。出していても小さいのだが、何度かの経験から感じていることは伝わっており、安心して行為が続けられる。

 

 「んんっ、んっ、はっ――」

 「いいかシズク、自分の感覚には従えよ。他の誰が何言ったって最後に決断を下すのはおまえ自身だ。だから最終的に信用するのは自分にしとけ。な?」

 「う、んんっ……」

 「はぁっ、もうイクぞ。全部膣内(なか)に出すからな」

 「んっ、いい、よっ――」

 

 もはや端的に答えることしかできずに、シズクが彼の両肩に手を置いた。

 しがみつくでもなく、好意的に見ていない訳でもなく、控えめな様子であって。

 そんな状態できつく腰が叩きつけられて、荒ぶるペニスが膣内を乱し回り、最後には果てて精液を放った。彼女の子宮を狙い、孕ませようとするかのようにその瞬間は亀頭が奥へ置かれる。

 勢いよく体内へぶっかけられ、体が震える。

 

 全てを受け止めたシズクは全身を弛緩させた。

 程よい疲労感と脱力感に包まれている。目を閉じればすぐに眠れそうな、穏やかな心地だ。

 青年は射精が終わった後でペニスを抜き、そこに絡みついた体液を、じゃれるように太ももへ擦り付けつつ、自身もシズクの隣へ寝そべった。

 

 右腕は自分の枕に、左手が大きな胸を掴んでやわやわと揉む。

 シズクも彼へ体の前面を向け、向かい合ってしばし脱力感の中で目を合わせた。

 

 「はぁ~、こういうのもやっぱいいな。サンキュな、シズク」

 「うん、いいよ。いつものことだし」

 

 もう少し身を寄せ合って、背に腕を回して抱き合う。恋人であるという意識はないが、キスをするのはどちらも自然な動作と流れであった。

 唇で触れ合うだけのキスを数度繰り返し、顔を離すと力を抜いて思考を投げる。

 

 良い状態だった。激しくはないせいか、疲労感とはまた違った理由で眠気に襲われ、まどろんでいる時間が楽しい。その上で相手の肌の柔らかさが心地よい。

 青年の手がシズクの尻へ触れ、掴んだり撫でたりしながら、耐え切れず目を閉じてしまう。

 シズクも彼の胸へ額を当て、同じように目を閉じた。

 

 「あぁ~今日はだめだな。一旦寝るか。どうせやることもねぇんだし」

 「そうだね。眠い……」

 「起きたらもう一発頼む。尻触ってるからバックがいいな」

 「ん……」

 

 先にシズクがうとうとし始めたらしい。

 苦笑した青年もまた意識を手放そうと言葉を止め、柔らかな空気の中に身を任せた。

 

 彼女はこれで意外に敏い。勘が鋭いと思ったことはないが、否、だからこそ意外な一面を見た。

 忘れさせるためには疲れて寝るのはちょうどいいだろう。

 なぜなら彼女は、一度忘れたことは二度と思い出さないから。

 

 自分に感じた違和感も忘れてしまえばいい。

 目を閉じる青年は密かにそう思っていた。

 



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doubt

 オークションへの侵入から数週間が経った頃。

 いつも通りと言えばそれまでだが、青年は姿を消し、一人で自由気ままに行動していた。

 その痕跡を追うのは決して簡単ではない。日頃から注意深く、細かなことにさえ気を配る彼を見つけるのは、親しい仲間たちですら難しいと口を揃える。

 

 某国の山奥。そこに彼の姿があった。

 一般人は立ち入ることが許可されていない、遺跡である。

 こじんまりとした規模ながらいまだ解明されていない事柄が多く、調査の手もすっかり止まってしまい、長い間放置されたままの状態。考古学者やプロのハンターも手を出さず、謎が解明できないのが原因か、今や人が近付く気配もなかった。

 人の目がないならば侵入はひどく簡単。崩れかけた石造りの建物へ入り、青年は勝手に調査を始めている。専門的な知識は持たないアマチュアだが、心は踊っている様子だ。

 

 素人の考えながら調査は進んでいる。

 ネットや本で調べた情報を下に、以前盗んだ目玉の像を手にし、遺跡の内部に刻まれた壁画を一つずつ確認していく。専門的な知識を持たずともわかることは多かった。

 

 ライトの光で暗闇を切り裂き、しゃがみ込んで調査を続ける。

 少し前からとはいえ、これがずっとしたかったことだ。彼は充実感を感じていた。

 しかしそれを邪魔する何かがやってくる。

 

 痛いほどの静寂の中、ある時奇妙な音が聞こえた。

 別段驚く様子もなく青年は振り返る。誰かの足音だ。滅多にどころか全く人が近付かない場所である。自分以外にも珍しい人間が居たものだと、笑みを浮かべてその誰かを待った。

 

 その足音、隠そうとしていない。

 気配を殺そうともしておらず、むしろ見つけてくれとばかりに足音を立てて、ゆっくりと近付いて来る。おそらく遺跡ではなく青年を目的としているらしい。

 理由はわからない。だがいい予感はしなかった。

 険しい山道を越えてわざわざやってきたのだ。ただ会話したいだけとは思えない。

 

 立ち上がって待っていれば、同じ空間に一人の人間がやってきた。

 逆立った髪で長身、頬にペイントを施した、奇術師然とした雰囲気の男。あからさまに奇妙な空気を纏っていて、どうも常人ではなさそうだった。

 言い知れない強さを感じる。目に見える物とそうでない物、両方で彼は普通ではない。

 男は背筋を伸ばして立ち、青年のライトに照らされて尚も態度が変わらず、笑顔で口を開いた。

 

 「やぁ♥」

 「オレに用か?」

 「うん♥ 君、凄く強そうだよね♠ ちょっと気になっちゃって♣」

 「それで尾けてきたって訳か。趣味の悪ぃ奴だ。用件は?」

 「一つだけだよ♠ 君と戦いたいと思ったんだ♦」

 

 簡単に言って青年の顔には笑みが浮かぶ。

 そんな気はしていた。風貌からして和やかに話がしたいだけの人物と思うのは無理だろう。少なくとも武器らしき物は持っていないようだが、独特の衣装なので隠しているのかも見抜けない。

 一応の警戒心を持ちつつ、冷静に話を聞く。

 青年は逃げずに彼と向き合っていた。

 

 「戦闘狂か愉快犯ってとこか。オレの一番苦手なタイプだな。残念ながらこっちにはその気がないもんで、遊び相手が欲しいなら他を当たれ。天空闘技場はどうだ?」

 「嫌♦ 君と遊ぶのが楽しそうだから来たんだ♥ 他には興味ないよ♣」

 「ほらみろ、めんどくせぇ。ウチにも似たようなのが何人か居るが説得に応じないんだよなぁ」

 

 青年がわざとらしく肩を落として溜息をつくと、奇術師の男はにやりと頬を釣り上げる。

 相手を見てまず得られるのは、確信。

 表情や態度に反して立ち姿に隙が無い。そしてそれを隠すのを得意としている。おそらく腕の無い者であれば今の彼を隙だらけだと称し、襲い掛かれば瞬く間に返り討ちとなるだろう。

 間違いなく強者だ。

 

 青年を見た男の機嫌はさらに良くなった様子で、懐からそれを取り出した。

 両手で遊ばせるのは何の変哲もないトランプの束である。

 

 「麓の町で君を見かけた時、ピンときたよ♣ 君は強い、それも尋常じゃないレベルだ♠」

 「何を根拠に」

 「君のオーラさ♥ すれ違っただけで伝わったよ♦」

 

 青年は笑顔のまま心中で、面倒だと毒づく。

 この手の人間は勘が鋭くておまけに頑固だ。交渉の余地はないに等しく、態度からして諦める気はなさそうだ。逃げるか、応じて倒すか、どちらかしかないと考えられる。

 

 どう転んでも良い方向には進みそうになかった。幸いなのは問答無用で襲い掛かってこないところか。話せるだけに解決策はゼロではないようにも思う。

 姿勢を崩した青年はおどけた様子で提案を始めた。

 構う気など毛頭ない。できれば煙に巻いて逃げたいところだ。

 

 「要はオレと戦いたいってことだろ?」

 「その通り♥ 命を賭けてね♠」

 「ハァ、わかった。でも少しだけ待ってくれないか。この遺跡を調べてる最中でな、興味本位とはいえやり遂げたい。その後なら応じてやっても構わないが」

 「そう♦ じゃあそれからでいいよ♣」

 「それじゃ麓の町でしばらく待っててもらえば――」

 「それは嫌♥」

 

 ぴしゃりと断り、男はほくそ笑んだ。

 鋭い目つきは考えを見透かすよう。

 青年も思わず口を噤んで彼の言葉を待った。

 

 「君の考えは大体わかるよ♠ 上手くはぐらかして逃げようって気だろ?」

 「オレが? なんでそんなこと」

 「嘘つきは相手が嘘をつく瞬間がわかるんだ♦ 頭の良い人間なら簡単に頷くはずないし、腕に自信のある人間なら挑発的な言葉を返してくる♣ だから少し待って欲しいなんて言うのは頭が良くて、尚且つ僕を騙そうとしている人間に違いない♥」

 「まさか。オレが嘘つく人間に見えるのかよ」

 「じゃあ僕はここで待たせてもらうよ♥ 君が約束通り逃げないように♣」

 

 そう言って男はそこに立ったまま動かず、じっと青年の姿を見つめる。

 これ以上無駄なことを言えばまずい事態になりそうだ。遺跡の調査もできないままに襲われて、遺跡を破壊される危険性すら高いだろう。

 

 この男は明らかに強い。

 警戒するからこそ青年はその提案を拒否することなく、壁画に向き直った。

 

 「わかった。その代わり大人しくしてろよ。もし襲おうもんなら全力で逃げるからな」

 「いいよ♥」

 

 男に見守られながら調査を再開させる。しかし後に向き合う気などさらさらなかった。

 青年の頭にあったのは遺跡に関する事柄と、如何にして男から逃げるかという算段。

 素直に受け入れた素振りも、この場だけの物であった。

 

 

 *

 

 

 「変? 最近のルツが?」

 「会ってないの? あんたも同じ意見だと思ってた」

 

 某国の昼下がり。

 人の入らないカフェの一席で会った二人は女性であった。

 

 片方はパクノダだ。普段と変わらずスーツ姿で、優雅に紅茶が入ったカップを傾けている。

 その対面に座ったのが独特の装束を身に着けた、桃色の髪を結った女性。元々目つきが鋭い容姿なのだが、今はどことなく不機嫌そうな顔に見える。

 

 店の人間すら奥に行ってしまい、二人きりの店内で話すのは一人の男について。

 パクノダが口火を切って話し、和装の女性は真剣に耳を傾ける。

 

 「妙に達観してるって言うか、どこか変なのよね。何がってのは言えないけど」

 「あいつが変なのはいつものことでしょ。別に今更驚くことでもない」

 「いつもとは違うから言ってるの。とにかく一度会ってみればいいわ。どうせ、そろそろ会いたくなったから嗅ぎ回ってるんでしょ? ほんとに分かり易い」

 「うるさいね。別にどうでもいいだろ」

 

 鼻を鳴らして女性がそっぽを向く。

 険が強いようで意外に可愛らしい性格だ。彼の話を聞いて嫉妬でもしたのか、不機嫌そうな様子はどんどん強くなっていき、自分でも抑え切れていない。

 普段は冷静に物事を見極められる性質だというのに、彼の話題となればその限りではない。

 なんとも微笑ましくて、分かり易い姿に思わず笑ってしまった。

 

 「この前の仕事、呼ばれなかったんでしょ」

 「別に、呼んで欲しいとも思ってないからね」

 「フランクリンやシャルも言ってたわ。いつものルツだったし、いつもとは違ったって」

 「……どういう意味?」

 「上手く言えないのよ。態度はいつも通りだけど何か隠してそう、って言うのかしら」

 「パクの能力ならわかるでしょ。あいつに触れてたんだろうし」

 「ふふ、妬かない妬かない。男と付き合うなら嫉妬なんて無意味よ」

 「嫉妬とか、そんなんじゃ」

 

 視線を外す和装の女性に微笑みかけていたが、ふと笑みが消える。

 和やかな雰囲気と反して真剣な話のようだった。

 

 「読めなかったの。ルツに触れてみても」

 「読めない? なんで」

 「さぁね。私が読めるのは触れた対象の記憶だけ。想いまで読み取れる訳じゃない。少なくともルツの行動はいつも通りだったし、怪しい動きはなかったわ」

 「一応、読んだのね」

 「本人も気付いてたけどね。だから、私が読むのを予測してた可能性はある」

 「どういう意味? ルツが、裏切ろうとしてるってこと?」

 「私を利用して、身の潔癖を証明しながら動くことはできるわ。ルツならそれくらい考える。あれでも頭は回る人間だから」

 「まさか。軽薄に見えてもあいつはそんな奴じゃない」

 「だといいんだけど……」

 

 パクノダは不安を消しきれないようで物憂げに呟く。

 強く言い切れず、女性も言葉を吐き出しにくかった様子だ。

 

 彼女たちの仲間は、一癖も二癖もある者ばかり。決して仲が良いと言える間柄ではなく、一種の信頼は確かな物でも、それぞれが隠し事を持っているのは周知の事実だった。

 現在話題に上がる青年にしても、一目で理解できるほど浅い人間性ではない。

 むしろ、厄介さで言えば頭一つ抜きんでている可能性まであった。

 

 殺しを好まず、戦闘を好まず、それでいて仕事は安全に終わらせるため、盗賊としての手腕は誰もが認めるところ。派手に動くのが好みな団員でさえ彼の指示には従う。それはひとえに彼の実力を認め、考え方に理解を示し、文句を言いながらも信頼しているからだ。

 一方で奥が見えない人間として見られている。

 腕は認めるが何をしでかすかわからないのも彼で、強く言い切れない理由はそこにあった。

 

 唇をきゅっと結んでいた和装の女性が、意を決したようにパクノダを見た。

 

 「団長はなんて?」

 「会ってないわ。居場所がわからないのは団長も同じだし、見つけられるのはルツだけでしょ」

 「そうね」

 「気になるなら自分で確かめてみれば? 蜘蛛の中でルツを見つけられるのはマチだけよ」

 

 しばし視線を落として考え、和装の女性が立ち上がる。

 出会ったばかりの人間ではわからないだろうが、深い関わりにある者からすれば表情は見るからに変わっていて、すぐに背が向けられた。しかし歩き出す前にパクノダへ言う。

 

 「支払い頼んでもいい?」

 「ええ。安いものよ。臨時収入が大きかったからね」

 「ちょっと会ってくるよ。変かどうかは確認してみないとわからない」

 「それがいいわ。ルツによろしく」

 

 そう言って和装の女性が歩き出し、店を出て行った。

 残ったパクノダは紅茶を口にしつつ、伏し目がちに考える。

 

 ここ最近で彼に会った者は、付き合った時間に関わらず同じ言葉を口にする。

 いつもとは何かが違う。

 たったそれだけの言葉が妙に頭に残って、パクノダは他の団員と同じく、なんとも言えない感覚に陥ってしまい、そこから抜け出す手立てが見つけられない様子だった。

 



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Rainy Soul

 雨が降っていたせいで一気に視界が悪くなった。

 濡れた髪が肌に張り付く。それが妙に鬱陶しい。ただでさえ雨が強くなり、風が吹いて集中力が途切れそうになるというのに、些細な変化が如実に邪魔に感じる。

 

 戦闘はおよそ一時間近く続いていた。

 逃げて隠れて、ぶつかって、その繰り返しで想像以上に長引いている。

 なぜこれほど決着がつかないのか。理由は一つだ。敵の実力が予想を遥かに上回り、一対一で戦うには厄介過ぎる。普通では考えられないほど戦闘能力が高かった。

 

 一時間近く戦っていまだに死んでいないのは奇跡に等しい。

 そう思うのは栗色の髪の青年だ。

 黒いスーツを身に纏い、敵を切り裂こうとするのは独特の形をしたナイフ。身軽な上に頑丈、命を狙うには適した武器である。意志の強さを表す目には忌々しげな光を灯して表情は歪んでいる。決して余裕がある姿には見えなかった。

 

 相対するのは奇術師のような風貌の男。

 逆立っていた髪は雨に濡れてすっかり垂れて、頬に描かれたメイクも落ちかかっている。

 この男のことは知っていた。

 

 ヒソカ。

 何か月も前から青年を狙っている男。

 奇術師とは名ばかり、ほとんどストーカーに近い。一体何を思っているのか青年に興味を示して以降はずっと後を追い続け、どれだけ撒こうが、説得しようが本気で戦おうと誘ってくる。それでいて奇襲の類はない。あくまで君とは正面から戦いたい、それが彼の言葉。

 後を追われるのが面倒で戦うと決めた。しかしそれが間違いだったのだ。

 

 この男は強い。

 適当に殴れば終わる戦いではなく、どちらかが命を落とすか、それに近い状態にならなければきっと終わらないだろう。実力が拮抗しているだけに戦闘は悪戯に長引いてしまい、いつまで経っても終わりが見えない展開となっている。

 

 それでも現状、二人は全くの無傷だった。

 一時間近く戦って無傷。本来ならあり得るはずがない。

 そんな事象を可能にしたのは二人が並みの実力者ではなかったからである。

 

 青年がナイフを使うのに対し、ヒソカが持つ武器はトランプ。なんの変哲もない、ただ紙で作られただけのトランプだ。

 それが驚くべき力を発揮している。刃物を受けても傷一つつかず、異常な強度が確認できる。指に挟んで持つだけ、特別な箇所は見られないのに、斬りつけられてわずかに欠けた程度の損傷でしかない。この強度には理由があるはずだった。

 

 その理由に念能力と呼ばれるものがある。

 肉体から溢れ出すオーラを操り、昇華させた物をそう言う。いまだ広くは知られていないこの特別な力を纏わせれば、ただのトランプがナイフと渡り合うことも不可能ではない。

 

 耳障りな音が続いている。もう一時間近くこの音を聞いていた。

 ナイフとトランプの攻防は一進一退で何度も状況を流転させている。

 いい加減飽き飽きしていた。体にも疲労が溜まる一方。決して良い状況ではなく、そのため青年は表情を歪ませるのだが、ヒソカは対照的で楽しそうにくつくつ笑っていた。

 

 「クックック……楽しいなぁ♥ あぁぁ、キミとはずっとこうしていたい……♥」

 (クソがっ。こっちはもういっぱいいっぱいだっての!)

 

 ヒソカの動きに疲労は感じない。否、むしろ疲労を感じてからの方がキレが増している様子か。

 

 戦い始めた時から、いやそれ以前に初めて出会った時から奇妙な人物だった。興味を持つのは強者との戦闘のみで、なぜ求めるかと言えば自らの欲求を満たすため。彼が戦闘や殺人の際に得るそれは性的な物に近い。普段は感じられないエクスタシーをこの一瞬に求めているのである。

 ますます嫌気が差して真面目に相手しているのが馬鹿らしくなる。

 

 あいにく男に惚れる趣味はない。あったとしてもこの男だけは選ばないだろう。いわゆる普通と呼ばれる道から外れない青年が惚れるとすれば女性に見紛う男以外にあり得ない。

 

 無駄な思考を持ちながらも敵の攻撃をいなし続けた。

 流石戦闘狂なだけはあって動きのキレは尋常ではない。

 首筋、手首、胴体。急所を狙う攻撃は正確無比であまりに素早い。これなら念能力を使えてもそこいらの人間には、たとえプロハンターでもそう簡単に止められないだろう。彼を止められるのは小細工や作戦などという生ぬるいものではなく、純粋な戦闘力。そして揺らがぬ殺意だ。

 

 青年はまだ本気になり切れていない。だから諦めた顔で戦おうと宣言して一時間、鬼ごっこやかくれんぼを繰り返した。適当に相手をして途中で撒けばいいと思っていたのだ。

 それが失敗した今、猛攻を潜り抜けながらどうしようかと考える。

 

 始末するには本気を出さねばならない。きっとそれでも難しいだろう。かといって逃げ出すのはすでに失敗しており、この戦いの終わりが簡単には見えない。

 自身の死か、或いはヒソカの死。

 どちらにしても簡単ではなく、ようやく理解して表情が歪む。

 そもそも彼に近付いてはいけなかったようだ。

 

 「結局はオレが不用心過ぎたってことか……」

 「何の話だい?」

 「もうおまえの顔は見たくないって話だよ」

 「ひどいな♣ ボクはこんなにキミを求めてるのに♦」

 「だから! それがうざってぇんだよ!」

 

 一際強く腕を振ってナイフを繰り出し、流石に回避しようとしたヒソカが後ろへ跳んだ。

 二人の間に空間ができ、一旦足を止めて睨み合う。

 雨が全身に当たって、奇妙な静けさが辺りを包み込む中、動きを止めたところでまだ安心はできない。むしろ距離を取って視線の鋭さは増すばかりであった。

 

 ヒソカが本気を出していないのは明らかだ。

 まだアレを見ていない。

 お披露目とばかりに一度だけわざと見せた技。ガムのように引っ付き、ゴムのように伸びるオーラ。間違いなくあれがヒソカの必殺技に違いない。一度見ただけ、しかも見れたのも一瞬だったがその特性はよくわかる。シンプルだからこそ利用法はいくらでもあるはずだ。

 

 出し惜しみしている、というより待っているといったところか。

 おそらく彼は青年が本気でないことを看破し、本気で戦うようになるまで待っている。あくまで望みは真剣勝負と考えて間違いない。

 つまり今から何度ナイフとトランプをぶつけても意味はないということになる。

 この一時間、一体何をしていたのかと考えると気が遠くなりそうだった。

 

 「なぁ、ここらで手打ちにしないか。オレじゃおまえに勝てなさそうだし、はっきり言ってもうその顔を見るのはいやだ。降参して勝ちは譲るからおしまいにしよう」

 「いやだ♠」

 「そう言うとは思ってたが」

 「嘘なんて言わなくていいよ♦ 本当はそんなこと思ってない癖に♥」

 「何を根拠に言ってんだ。殺すぞ」

 「嘘つきは嘘を見破れるの♥ だから勝てそうにないってのは嘘♠ その次は多分本心だろうけどね♣」

 

 改めて面倒な奴だと思った。

 こうなってはもう見逃してはくれないらしい。終わらせるための方法は一つ。

 戦ってヒソカに勝つ。

 もうそれしかないのだろう。

 

 佇まいが変わった青年の姿を見てヒソカの顔つきが変わる。歓喜を抱き、笑みが深まって、今なら有り余るほどの狂気が感じ取れた。

 それを見て青年は怯えない。肩の力を抜き、リラックスして敵を見ている。

 

 「嘘つきは嫌いなんだ。せっかく穏便に済ませてやろうとしてるってのに、余計なこと言って場を引っ掻き回しやがる」

 「それは自己嫌悪も入ってるのかな?」

 「かもな」

 

 青年は右手にナイフを持ち、それをくるりと回す。

 手慣れた手つきは長い経験を感じさせる。それを専門で扱ってきたに違いない。

 達人との戦闘はいつも心が躍る。特に一つの物を極めた人物は良い。中途半端にいくつも手を出す人間より、よっぽど熟練した技が見れるからだ。

 やはり面白そうだと感じて背筋がぞくぞくと震えた。

 

 「ククク……やっぱりキミはいいなぁ♥」

 

 目つきが変わっている。さっきとは明らかに別人で、外見はそのままでも雰囲気は比べ物にならなかった。長い時間はかかったがようやく本気になってくれたらしい。

 嬉しくなって体が震える。

 ヒソカの形相もまた、別人のように変化していく。

 常人ならば一目見れば恐怖で硬直してしまうほど、凄まじい狂気を感じる笑みだった。

 

 早く壊したい。

 そんな欲求を感じ取ってか、唐突に青年がナイフを投げた。

 ヒソカの眉間を狙い、高速で飛来する細身のナイフ。それを全く怯えずにトランプで弾いた。前へ進む力を失ったナイフは力なく宙を飛び、回転しながら地面へ落ちる。

 

 小さくも甲高い音。

 それがきっかけとなったように、両者は前へ跳び出していた。

 

 武器はナイフとトランプ。青年はまた新たなナイフを手にしていて、どうやら服の下にいくつも隠し持っているのだと推測し、近接戦闘を得意としているのだと予想する。肉弾戦なら望むところだ。相手を殴り、削り、互いの肌に触れ合って徐々に死へ近付いていく。相手へ触れられる距離というのは、最もヒソカが好む距離感でもある。

 

 互いに腕を振るって武器を打ち合わせた。

 掠るように通り過ぎて、わずかに触れ合い、独特の衝突音が鳴る。

 ひどく心地いい。たった一撃で彼の本気が伺えた。

 ナイフを投げた奇襲。腕を振るう速度も明らかに違う。逃げてばかりかほとんど防戦一方だったさっきとは比べ物にならないほど、ヒソカの急所を狙っていた。

 

 同一人物とは思えないほどの変化だと言っていい。

 これをヒソカが喜ばないはずがなかった。猛攻を受け流しつつ、舌なめずりを始める。

 

 (あぁ、いい……♪ そういう顔を待ってたんだよ♥)

 

 容赦のない連続攻撃。急所を狙い続け、少しでも隙を見つければ即座にそちらを突き、敵を傷つけるためならば多少の体勢の崩れなど気にしない。防ぎ切っているヒソカが凄まじかった。素早い動きと的確な狙いは人体を一瞬でズタズタにしていてもおかしくないだろう。

 全ての攻撃がいなされている。

 オーラで強化されたトランプは鉄の刃にも負けなかった。

 幾度もの攻撃を凌いで尚も余裕。笑みを称えたままのヒソカはもはや彼に釘付けだ。

 

 (初めて見た時からわかっていた♠ キミはボクによく似ている♥)

 

 状況を変えようと思ったのか、青年がしゃがんで蹴りを繰り出し、足払いを仕掛けようとする。それを跳んで回避した。

 着地と同時に下からの突きが迫る。

 ヒソカは後ろへ跳びながらその攻撃を払い、肉を抉られかけたことをほくそ笑む。

 

 (キミとボクは同じニオイがする……♪ だからこそボクにはキミがよくわかる♠ キミの強さも、キミが何かを隠しているのも……♥)

 

 跳んだ勢いで着地と同時に地面を滑り、ぬかるんだ足元に跡が残る。

 濡れて垂れ下がって来た髪を左手で掻き上げて、ひどく楽しげに笑っていた。気分は最高潮。もうこの欲求は誰にも止められない。

 青年はナイフを突き出したままヒソカへ向け、腕を伸ばした状態で動きを止めていた。

 

 (滅茶苦茶に壊したい……!)

 

 カチッと音がした。

 奇妙な体勢だと思ってはいたが、突如ナイフの刀身が柄から射出されて、ボンッと小さな爆発音と共に飛び出す。まるで弾丸。ヒソカの顔面を狙っていた。

 

 多少驚きはしたが問題ない。トランプで弾き飛ばす。

 刀身は軽い音を立てて地面を跳ねた後、不思議にもその場から消えてしまった。

 何の痕跡も残さずに消え去る。この現象は知っていた、念能力である。

 おそらくは具現化系能力者だと推測して青年を見た。

 

 念能力を使う者は六つの系統に分類される。その中で具現化系はオーラで模って本物同然の物体を作り出し、流動するオーラではなく物質として存在を確立させ、具現化することに長ける。

 

 今の一撃でバレたと理解しているのだろう。

 青年は胸の前に手を掲げ、何もないそこから急に現れたナイフを握りしめた。

 間違いない。具現化系能力者、ナイフを具現化する能力である。

 

 「そう♣ キミは具現化系なんだね♦ てっきり変化系かと思ってたけど♠」

 「あ? 何を根拠に思うんだよ」

 「ボクが考えた系統別性格診断によれば、気まぐれで嘘つきは変化形♥ キミもそうじゃないかと思ってたんだけどねぇ……キミはボクに似てる気がしたから♥」

 「アホか。似てる訳ねぇだろ。おまえに似てる人間なんか暗黒大陸探したって見つからねぇよ」

 「ククク♥」

 

 変わった風貌のナイフを逆手に構え、左手にも新たにナイフが現れる。そちらも逆手に持って二刀流だ。姿勢は低く、堂に入っている。

 彼の姿にヒソカが上機嫌になった。

 もう逃げの一手はない。決着がつくまで戦闘は続くだろう。

 

 「ベンズナイフ? そんなのも作れるのかい?」

 「見てわかったことを聞くんじゃねぇよ。心配しなくても毒抜きだ。流石にそこまでは具現化できなくてね」

 「それは安心♥ その分長く戦っていられるね♦」

 「そんなことねぇさ」

 

 青年が駆け出して一直線にヒソカへ向かう。

 対してヒソカは、自身もまた武器であるトランプを投げつけた。当然、前方から迫ってくればナイフによって弾かれるため、攻撃は無駄に終わって走る足は止まらない。だがヒソカは上機嫌だった。それ以上迎撃らしい行動を取らない。

 

 不審に思うが、何かされるより早く首を掻っ切ろうと一直線に向かう。

 その最中、一気に加速した。

 青年が何かした訳ではない。走る速度はそのままだが、まるで何かに引っ張られるような。それに気付いてまさかと思い、オーラを目に集めて自身のナイフを見る。

 

 一度だけ見た不思議なオーラが、ガムのように張り付き、ゴムの張力で青年の体を思い切り引っ張っていたのだ。しかも簡単にバレないようオーラを“隠”の技法で隠すという徹底ぶり。虚を突くための作戦は完璧だった。

 

 「伸縮自在の愛(バンジーガム)って言うんだ、これ♠ 一回見ただけじゃわからないよね♣」

 「う、おおっ――!?」

 

 もはや走る必要も無く引っ張られる。速度は高速、吹き付ける風がさらに強くなった。

 ガムは左手から伸びている。

 身構えて待つヒソカを目にし、意を決した青年はナイフを強く握った。

 

 迎えてくれるというなら好都合。走らなくていいならむしろ攻撃に専念できる。たとえ今の状態が危険とわかっていても恐怖心は捨て去った。

 変わり身の早さは強者としての覚悟に思える。

 ヒソカはその様を喜び、右拳を痛いほど握りしめた。

 

 「そうこなくっちゃ――♪」

 

 繋がった左手とナイフはそのままに。

 二人の姿が接近した一瞬、両者は右腕で攻撃を行った。

 強烈に振り切られたナイフがヒソカの首筋を裂き、大量の血液を噴き出させ、また、猛烈に繰り出されたヒソカの拳は青年の左頬に叩き込まれる。

 

 姿勢が変わり、瞬時に左手のナイフを消した青年が殴られた勢いで宙を飛ぶ。ガムとの繋がりを失くしたことでもう引き寄せられない。背中から地面へ落ちて泥に汚れる。しかし一旦距離を離すにはこれが一番手っ取り早かった。

 

 すぐに起き上がりながら右手のナイフを見る。

 刀身はヒソカの血で濡れていて、奇妙なほど赤々としている。

 青年は躊躇わずに刀身へ舌で触れ、血を舐め取った。

 その様子を見ていたヒソカは首筋に指先を触れて、バンジーガムで簡易的な止血を行い、噴き出していた血の流れをせき止める。これで失血死は免れたはずだ。

 まだ戦える。むしろ今からが本番にさえ感じていた。

 

 「今ので付けたよ♣」

 

 ぐいっと腕が引かれる。すると先程と全く同じ、青年の体が引っ張られた。

 殴られた瞬間に頬へバンジーガムを付けられたらしい。

 今更になって気付き、体が空中に浮かんでしまった後で表情を歪める。速度はやはり止め切れないほど速い。引き寄せられるまま、前へ飛ぶしかなかった。

 

 「チッ、そういうことか……!」

 「ボクの体からならどこにだってくっつけられる♦ もう逃がさないよ♥」

 

 再び接近して、今度はヒソカの左拳が振り切られた。

 両腕を交差して防御する。腕に当たったパンチの重さは尋常ではなく、たった一撃で骨が軋む。オーラを集中させていなければ折られていたに違いない。

 体は吹き飛ばされそうになるが、またバンジーガムで引っ張られ。

 急速に接近していくのを感じ、歯噛みした青年は防御を捨てた。

 

 左手に新たなナイフを出し、四肢を後ろへやってエビ反りの体勢で力を溜める。ここぞという瞬間、全力で攻撃を叩き込むために。

 望むところといった姿勢にヒソカは歓喜する。

 そうでなければならない。そう来なければ面白くない。

 

 今度は防御を考えず、左手にオーラを集束させる。本気で殴って、仕留める。彼の中に在ったのは単純な思考のみだ。自らの手で決着をつけたいと全ての力を注ぎ込んだ。だが一方で終わらせたくないと思っている。コンマ数秒の間、この時が永遠に続いて欲しいとも考える。

 

 反対に青年はこの戦いを終わらせる方法を思考する。

 ヒソカとは正反対に攻撃にオーラは使わない。全てのオーラを腹へ集め、防御にのみ使う。無手の敵と違って彼には武器があった。考えるのは二本のナイフでさっき以上の血を流させること。両方が特殊な刀身を持っているため、肉に突き刺しさえすれば後は手首を返すだけでいい。それだけでさっき以上の肉を抉り取れる。

 

 それぞれの思考を胸に距離が縮まる。

 攻撃は一瞬。全く同時に繰り出された。

 ヒソカの拳が青年の腹を捉えて鈍い音を奏で、振り下ろされたナイフは両肩へ突き刺さる。

 

 一瞬の出来事で、殴り飛ばされても不思議ではなかった。そのため青年は必死に歯を食いしばって耐え、深々と刺さるよう力ずくで押し込み、両手首を返して刀身をねじり込む。すると肉に埋まった刀身がぶちぶちと筋肉を裂いていくのがわかった。

 その後彼の体はまた飛ばされ、勢いよくヒソカから離れていく。殴られた腹は内部で骨が数本折れたのだとわかる。痛みのままに喉を駆け上がる血液があって、大量にそれを吐き出した。

 

 それでもバンジーガムは離れていない。また引っ張られて先の光景を繰り返すだけだ。

 分かり易い戦闘だった。どちらかが必ず壊れる仕組みになっている。

 興が乗ったヒソカは肩にナイフを埋め込んだまま右腕を引き、再度青年を呼び寄せた。

 

 自分たちはあと何度これを繰り返すだろう。どれだけ戦っていられるだろう。そんなことを考えながら、一撃一撃を楽しもうと考える。

 凶悪な笑みは隠されず、青年の目にもしっかり映った。

 

 「さぁ、もっとやろう……! もっともっと楽しみたいんだ――!」

 

 引き寄せられる中、青年がふと目を閉じる。

 奇妙な様子だった。これから攻撃が迫ろうかというのに、引っ張られている最中に目を閉じる。諦めたようには思えない。そんな人間だとは思っていない。

 

 瞬間、青年の姿が消えた。

 バンジーガムに繋がっていた姿が消え、縮む動作のガムだけが戻ってくる。

 

 ヒソカは瞬時に彼が何かの能力を使ったのだと考えた。消えたとか、実は幽霊だったとかではない。何かしらの理由があって彼は姿を意図的に消した。緊迫した状況下で敢えて目を閉じたのは、言わばそのための予備動作。

 

 絶対に離れないバンジーガムから逃れたというならもはや不要。すぐに能力を消して周囲に視線を走らせる。視界は悪いが雨が降っているのは幸いにも不幸にもなることだろう。

 匂いはかき消されて視界が狭くなる。だが足音は聞こえやすくなっているはずだ。

 

 物質を作るのが基本の具現化系でありながらそうとは思えない念能力。

 どうやって消えたかはわからなくても必ず近くに居る。根拠もないのに自信と確信があった。それは一種の信頼なのかもしれない。

 敵はどこかから自分を見ている。見失ったこれを機に仕留めようと動くに違いない。

 そう思う数秒間の後、唐突に膝から血が噴き出した。

 

 「おや……♠」

 

 膝が割られていた。左足に力が入らなくなってその場へ膝をつく。目視で確認すればナイフで斬られた訳ではない。傷跡は切り傷ではなく銃弾が通り過ぎた痕だった。

 銃声は聞こえなかったのに。

 そう思っていると右膝も同じように血を噴き出し、銃声がないまま銃弾に貫かれ、力が入らなくなる。彼はその場で両膝をつき、跪いた。

 その直後に気付く。

 距離にして一メートル。目の前に青年が立っているではないか。

 

 「ふむ、妙だね♦ さっきからずっとそこに居たのかい?」

 

 純粋に驚いて半ば呆然としながら、そうは見えない顔でヒソカが言う。

 青年は銃を構えていた。入手には決して困らない型で、ナイフとは違ってこだわりも見られない至って普通の一品。敢えて言うなら持ち運びに困らないサイズだというところか。

 右腕を伸ばして銃口をヒソカへ。ただし奇妙なことに目は閉じていて、銃口の狙いも胴体へ向けられている。ふざけている様子でもないのだろう。

 

 とどめを刺すために心臓を狙うなら理由はわかる。だがそれでは目を閉じる必要性はない。

 姿が消える前もそうだった。彼は目を閉じ、そして消え、再び現れた今も目を見せない。

 それが条件となっているのか、或いは見せたくない物があるのか。

 理由を考えながらヒソカは慌てていなかった。

 首、肩、そして両膝と、満身創痍の状態。流した血の量も多い。しかし死に対する恐怖はまるで持たず、それどころか戦闘をやめるつもりさえなかった。

 

 「確かに今、キミは消えた……だけど具現化系にそんな能力あるはずがないよね? ナイフに特別な能力を持たせるというのもできないはず♣ あくまで具現化系能力はオーラを物質化するのが本分だ♦ だとするとさっきの現象が説明できない……♠」

 

 ヒソカが語り掛けても青年は返事をしない。

 外見を見ていると無視するというより、聞こえていないかのようだった。

 

 不審に思ってヒソカが口を閉ざすと沈黙が数十秒。

 雨の音だけが聞こえる不思議な静けさの中で対峙した。

 一分は経っていなかったと思うが、少なくともそれに等しいくらいの時間、両者は沈黙を保って雨に打たれていた。

 

 数十秒経って、静かに青年が目を開く。

 何も変わったところはない。以前と同じ薄めの茶色が伺える瞳だ。

 特別な何かは見受けられず、ようやく青年が口を開く。

 吐き出した言葉はヒソカが投げかけた問いとは関係のない物だった。

 

 「終わりだ。どうせまだ動けるんだろうが、もうおまえと遊ぶ気はないぞ。これでやめるって言うならオレはおまえを撃たない。だがまだやる気なら引き金を引かざるを得ないな」

 「へぇ……なるほど♥」

 

 質問に対する返答はなし。それだけなら気にしなかっただけとも言えるが奇妙な沈黙は無視できなかった。ヒソカは笑みを称えて語り掛ける。

 

 「さっきの質問についてだけど♣」

 「知るか。答えてやる義理はない」

 「そう♦ じゃあ答えてくれなくていいけど、一つだけ確認させて欲しい……ちゃんと聞こえてたのかな?」

 

 青年は口を噤んだ。

 確信を得たヒソカは目を細める。

 

 「具現化系の能力じゃないね♠ さっきのナイフを作る能力は本物だと思うけれど、だとすればもう一つ別の能力を持っている、違うかな? ナイフを作って見せたのはボクに能力はこれだという認識を植え付けるため♦ そしてここぞという時にもう一つの能力を使った♣ ボクの油断を誘うために♥」

 

 素晴らしい観察力だと思う。あれだけ興奮しきって戦闘に臨んでいたのに、戦闘中の些細な仕草をよく見ている。

 青年が黙っていると、さらにヒソカは続けた。

 

 「目を閉じてたね♦ あれはきっと制約の一つだろ? 何をやったのかわからないけど目を閉じた後に姿が消え、目を開いた後で話し始めた♠ 話も聞こえていなかったようだし、結構厳しい条件つけたと見るけどどうかな?」

 「本当に、めんどくさい奴だな……」

 「能力の詳細がわからない以上考えても仕方ないけど、ボクの血も舐めてたね♥ ひょっとしてあれも関係してるんじゃない?」

 「聞けば答えてもらえるとでも思ってんのか? そんなもん自分で考えろ」

 「ククク、失敬♥ 確かにそうだよねぇ♣ だってその方が面白いもの……♪」

 

 ヒソカは足に力を入れて立ち上がろうとしていた。戦意はますます滾るばかり、目つきの鋭さが留まるところを知らない。その様は見る者に悪魔を連想させた。

 青年は無表情でそれを見ながらぽつりと呟く。

 

 「半分正解で半分不正解。血を舐めるのは確かに制約だ」

 

 唐突にそんな種明かしを始めた。

 きょとんとしてしまったヒソカの体から力が抜ける。

 

 「なんで言っちゃうんだい? 考えながら戦う楽しみがあったのに♣」

 「そうだろうと思って言った。これなら諦めもつくだろ」

 「……ひどいなぁ♦」

 「うるせぇ。それに、はっきり言ってもうおまえには負けねぇよ。奇襲でいきなり首持ってかれるとかじゃない限りはな」

 

 そう言って青年は銃を懐へ仕舞った。

 立とうとしていたヒソカも力を抜いて何気なく彼を見る。

 

 すっかり戦闘の緊張感が霧散していた。せっかくこれから面白くなりそうだったのに、残念な結末には溜息すら漏れてしまう。だが青年にとってはヒソカがやる気をなくしてよかった。

 

 明らかに彼は異常だ。両肩と両膝、自力では動けないくらいに傷つけたはずなのに自分で立とうとしていた。放っておけばきっと何としてでも立っただろう。そして戦闘は続けられ、下手をすれば殺されていたはず。その執念と狂気には肝が冷える。

 あいにく青年はそこまで戦闘狂ではない。

 戦いに対する躊躇いはないが、誰かを始末しなければならないならしっかり計画を立てるのがいつもの彼だ。今日は勢いで動き過ぎた。らしくないとは自分で思う。

 

 死ななくてよかった。

 冷静に状況を思い返して素直にそう思う。

 そして次に考えるのは、目の前の男についてだった。

 

 「あの町からずっと追ってきてたな。なんでオレを狙った。誰かの依頼か?」

 「いいや、ボク個人の趣味♥」

 「はた迷惑な趣味もあったもんだ。まぁ今更驚かねぇが」

 「キミとヤるのは楽しいって一目でわかったんだ♥ 今日は途中で中断されちゃったけどね♣」

 「まさかまだ諦めてねぇのか」

 「もちろん♥ 止めたいなら今ここでボクを殺しておいた方がいいと思うよ♠」

 「そう言ってまたやり合う気だろ。だったら手は出さねぇよ」

 「おやおや……♦ 残念だなぁ♣」

 

 今日のところはもう戦闘を続けるつもりはないらしい。ヒソカは自身のバンジーガムを傷口へつけ、止血を始める。刺さったままだった二本のナイフも抜き取り、地面へ捨てる。すると念能力で作られたそれらは役目を終えて消えてしまった。

 やはり本物ではない。具現化能力で作り出された虚像だ。

 そうなるともう一つの能力の存在が気になる。

 

 「さっき、気になることを言ってたね♦」

 「あん? 依頼がどうのってやつか」

 「そっちじゃない♣ オレには勝てないってやつさ♠」

 「ああ。それに関しちゃ嘘をついた覚えはない。現におまえは、オレの姿を見失った」

 

 改めて地面へ座ったヒソカを見つめ、青年は冷静に語る。

 

 「種明かしをしてやろう。条件を満たした今、オレはおそらくおまえに負けない」

 「ぜひ聞きたいね♥ 次の参考のために♠」

 「オレは盗賊、盗むのが生業だ。今、おまえの五感を盗んだ」

 

 事も無げに言われる。予想外の言葉でヒソカは目を丸くした。

 

 「対象の体液を体内に取り込む。効果が届く範囲の設定。制約はあと二つ、それで対象の五感を盗むことができる。目も耳も触覚もオレを認識できなかったはずだ」

 「なるほど……♣ 他人の感覚を盗む能力、か♠」

 「おまえのマーキングは済んだんだ。あとは範囲にさえ入れば、オレを認識させなくするのは簡単。いくらおまえでも認識できない相手に勝つのは不可能だろ?」

 「ふむ、確かに♥」

 

 それは明らかな勝利宣言であったにも関わらず、ヒソカは気分を害さずに笑う。

 恐れを抱いた様子はない。焦りも感じなかった。

 それでいて諦めたようでもないのだから厄介に思えて、やめておけと言ったつもりだったがまた襲ってきそうな気配がある。いよいよ青年は溜息を堪えきれなくなる。

 

 「それを聞いてまだやる気か?」

 「そりゃあねぇ♦ 決着はついてないから♥」

 「だったらどうすりゃ諦めるんだ」

 「うーん、さて、どうすればいいか……♪」

 

 おどけた仕草で考えるヒソカは青年から目を離さず、怪しげな空気を醸し出す。

 やがて彼へ一つの提案を与えた。

 

 「もしキミがボクに付き纏われたくないっていうなら、やっぱりどっちかが死ぬまでヤるしかないと思うんだけどね♥」

 

 結局この返答である。

 本当に始末した方が早いのかもしれないが今やそれも面倒に感じる。

 しばらく沈黙し、考えた。

 厄介な人物には違いない。だがひょっとしたらと考える。

 

 「おまえが興味あるかは知らないけど……オレより強い奴、知ってるよ」

 

 その一言にヒソカの表情が変わる。

 雨は徐々に弱まっていった。

 



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愛に似てる

 「ルツ。起きなよ」

 

 声をかけられて近くに誰かが居ることに気付き、青年は意識を浮上させて目を覚ました。

 寝ぼけ眼で辺りに目をやる。

 眠る前と変わらない景色だ。たまたま見つけて入った安いホテルの一室。せいぜいが寝るためのスペースしかなく、ベッドは一人用。他にあるのは小さな椅子とテーブルが一組のみ。ベッドの傍には窓があって、そこから日差しが差し込んでいた。

 

 暖かい光を浴びる青年は大きなあくびを一つ。

 警戒心もなく、冷静に室内を見回すことができたのはそれからで、さっきも見えていたはずだが、ようやく昨日にはいなかったはずの人物を見つけた。

 

 「あんたはいつもここまで近付かないと起きないね。ちょっと不用心すぎるんじゃない?」

 「マチか……なんでここに居んだ」

 

 ピンク色の髪を縛った、和装の少女がベッドの脇に立っている。

 マチ、と彼は名を呼んだ。

 以前からの仲間でこうした状況も初めてではなく、警戒しなかったのは入って来たのが彼女だとわかっていたためだ。気配は感じていたものの睡魔には勝てなかった。だから声をかけられるまでずっと睡眠の中に留まっていたのである。

 

 声をかけられた後も、寝ていたら叩き起こされると知っている。それも肩を叩く程度ではなく、本気で、腹を殴られる。嘔吐さえしかねないほど強く。

 声をかけられれば起きるのは間違いなく過去のトラウマ故だろう。

 上体を起こして、ベッドに座った状態で話を聞く姿勢になる。

 冷ややかな視線のマチはどことなく不機嫌そうに、静かな声で語り出した。

 

 「最近姿見せなかったじゃないか。悪巧み?」

 「ただの旅行。しばらく大人しくしてた」

 「ふぅん。大人しく、ねぇ」

 「なんだよ。あーそうか、オークションの件か? あれは手が足りてたから――」

 「そんなのはどうでもいい」

 「じゃあ何。言ってもらわねぇとわからねぇぞ」

 

 納得がいってない顔でマチが声を冷たくする。

 それに合わせて青年は表情を歪める。

 

 「別にいいけどね。アタシはあんたとは何の関係もないし」

 「ひどい言い草だな。何怒ってんだよ」

 「怒ってない」

 「とりあえず何考えてんのか言ってみろよ。怒ってるかどうかは別として」

 「……ジェシカって女と仲良くしてたそうだね」

 

 反射的に青年の顔色が変わり、そっぽを向いて視線を逸らす。

 いつしかマチの目は睨むような形となっていた。

 

 「情報屋だよ。そりゃ仲良くしてないともらえるもんもらえねぇだろ」

 「何をもらってるのか定かじゃないけどね。他にもそういう話は聞いてるんだ」

 「それより、今日はどうした? なんか用事でもあったか?」

 「ティナ、アリス、ユノ、メンチ。探ればいくらでも名前が出てくるけど、ただの旅行、ねぇ。単独行動が多いと思ってたけど案外社交的なんだね」

 「あー、それはほら、あれだ。ただの友達で、久しく会ってなかったんでちょっとな」

 「別にいいけどね。アタシとあんたは、何の関係もないわけだから」

 

 表情と声色で相当怒っていると簡単に理解できた。

 青年は気まずそうに頭を掻き、言葉を失くして視線をあちこちへ飛ばす。

 

 彼女が怒ると中々に厄介だ。しばらくへそを曲げたままの可能性が高くて、しかも放置してしまうと怒りが拳となって襲い掛かってくる。なんとか機嫌を直してもらわないと、数日は腹の痛みのせいで食事するのも億劫になるだろう。

 果たしてどうした物かと思うのだが、先にマチが次の言葉を吐いた。

 

 「団長が呼んでるよ。いつもの場所で会って話したいってさ」

 

 マチを見た目が驚きを表す。

 焦りを消して疑念を見せ、わからないといった表情で尋ねる。

 

 「団長が? なんで呼ばれるんだよ。オレに直接言ってこねぇし」

 「あんたが携帯持ってないのが悪いんだろ。おかげでアタシがいちいち探さなきゃならないんだ。女と遊んでる暇あったらいい加減買いなよ」

 「オレは縛られたくないの。たとえ相手が団長でもな」

 「カッコつけてるつもりかもしれないけどダサいからね」

 「それにおまえがオレ探してるのはいつものことだろうが。だから団長が頼むんだろ」

 「うっさい。死ね」

 

 マチは彼に背を向けて、無遠慮にベッドへ腰掛けた。

 まだ青年が動き出す様子はない。

 眠たげな目で彼女の背を見た後、再び寝転んでしまう。

 

 「なんであんただけなんだろうね。団長の居場所を知ってるのは」

 「羨ましいか?」

 「別に。アタシは命令が来れば従うだけだから。それまでは好きに行動する」

 「じゃあ好きでオレを追い回してるわけだ」

 「死ね」

 

 長い付き合いだ。軽口を叩くのも呼吸のように当然な物。

 ふと起き上がった青年は慣れた様子で彼女の肩へ触れ、ベッドへ押し倒す。

 マチは驚いていない。少し不機嫌そうな顔でじっと青年の顔を見ているだけだ。

 

 覆いかぶさって顔が近付き、至近距離から目が合う。

 互いの呼吸すら感じる距離で、表情を変えずにマチが唇を動かした。

 

 「用件は伝えたはずだけど」

 「知ってるよ。でも出て行かないのは理由があってのことだろ?」

 「自惚れるのも大概にしな。さっきも言ったけどさ、あんたに興味なんてないんだ」

 「あっそ。じゃいいよ、もうちょっと寝てから行くから」

 

 覆いかぶさるようにしていた青年が彼女から離れ、隣に寝転ぶと背を向けて目を閉じた。体を丸めてもう一度眠り始めようとしてしまう。

 無視される結果となったマチはそのままの姿勢、しばし無言で動かなかった。

 

 一分以上の沈黙があって。

 いよいよ青年が眠ろうかという頃、天井を見つめたままマチが呟く。

 

 「ヘタレ」

 「おまえ……どうしろってんだ。言ってること滅茶苦茶だぞ」

 「うるさいバカ。死ね」

 「ほんっとに口悪ぃ。団長の前じゃそんな言葉遣いじゃねぇだろ」

 「なんでかくらいすぐわかるだろ、バカ」

 「おまっ、またバカって」

 

 口汚い罵りを受けて流石に無視はできず、がばりと起きた青年は再びマチへ覆いかぶさった。

 先程同様に至近距離まで顔を近付け、鼻先が触れ合うほど近くから声をかける。

 上がった口角はわずかにひくついてどうやら怒っているらしい。その距離から青年は恨み言をぶつけ、マチはぴくりとも表情を動かさず睨み返す。

 

 「おまえはおまえで好き勝手言ってんな。犯すぞ、コラ」

 「上等だよ、早漏が。ふにゃちんだったら噛み切ってやる」

 「そ、そんなこと言うなよ……それだけはだめだろ」

 

 彼女の言葉には若干怯んだものの、いそいそと青年が彼女の服へ手を伸ばす。嫌な想像のせいかすっかり勢いは失っていた。妙に落ち着いた態度である。

 上着が取られて胸の谷間が露わになり、乳頭はさらしを巻いて隠されている。

 それすらも取っ払って桃色の乳首が露わになった。

 

 掌からこぼれそうな乳房を両手で掴み、口を近付ける。そのまま乳首に吸い付き、舌で転がし始めてもマチの抵抗はなかった。両腕から力を抜いてされるがままになっている。

 丹念に舐めながらもその顔を見て青年が言った。

 

 「ほら見ろ。なんだかんだ期待してんじゃねぇか」

 「ん、うるさい。期待なんて、してないだろ」

 「抵抗しないくせにか?」

 「はぁ、面倒になっただけだ。んっ……」

 「はいはい」

 

 その後も丹念に乳首をしゃぶって乳房を揉む。

 ずいぶん手慣れた動きだった。女体の扱い方を知った力加減と触り方で、決して少なくはない経験が見え、触れられているだけでマチの呼吸が乱れてくる。

 そうは言っても快感は大きくない。平静を失うほどではないし、せいぜい気分が高まる程度。

 徐々に乳首が勃起してくるが、いつまでも舐められていたところで満足はできない。

 頬を紅潮させ、もどかしそうに動き、マチが彼の頬を掴んで目線を上げさせた。

 

 「ねぇ。そこはいいから、下舐めなよ」

 「いやあのさ、オレが命令される側みたいになってるけど、おかしくない?」

 「細かいこといいから。舐めるの? 舐めないの?」

 「いや舐めるけど」

 「ならさっさとしな」

 「なんかおかしいけどなぁ……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながらも青年は従い、彼女の下半身を前にする。

 投げ出された脚からスパッツと下着を脱がしてやり、靴下はそのままで開かせる。多少恥じらう素振りも見られたが抵抗はなかった。

 

 マチの秘所が露わになる。

 陰毛は整えられて少量見受けられ、多少の経験があるだろう外見だ。

 見慣れたそこはやはり期待しているらしいと思われたが、もし口に出せば蹴られると知っているため敢えて言わない。無言でほくそ笑みながら青年が顔を寄せる。

 

 無遠慮に口がつけられた。

 反射的に腰が跳ねるものの、押さえつけて唇をぐっと押し付ける。

 舌を伸ばして水音が立てられるまで長くはなかった。期待からかすでに潤みを帯びている膣口の周りを舐めて、勃起したクリトリスの包皮を剥いてやる。

 

 今度こそはっきりとマチの息が乱れた。感じている様子で目を閉じ、甘い声を漏らし始める。はっきりした声ではないが青年の耳にくらいは届くため、彼の口角が得意げに上がった。

 

 「どうだ? ちょっとは認める気になったか」

 「ん、別に……はぁ」

 「強情なヤツ。セックスしてる時くらい素直になればいいものを」

 

 指で陰唇を開きながら周辺を舐め回す。初めは戸惑いがちに声が漏れていたものを、徐々に体が反応し始め、意識せずにかもどかしそうに足先が動く。

 

 柔らかい肉を押し広げて膣の中にまで舌先を埋め込もうとした。

 潤んだそこは愛液を垂らしているため、時折唇を尖らせてずずっと吸い込む。

 マチも声を抑えられないようになっていき、悶えながらも恥じらいが捨てられず、強くシーツを掴んでいた。今日まで何度彼に抱かれてきたのか。それも関係ないらしく、身を捩る様はあまり慣れている素振りには見えない。

 

 「あっ……んんっ」

 「はぁっ、すんげー出てくる。エロっ」

 「う、るさい」

 「なぁ、ひょっとして何回かイってる? 妙にうねってる気がすんだけど」

 「バカっ。イってない」

 「ほんとかねぇ。まぁどっちにしたってイクのは時間の問題だよな」

 「あっ、バカっ、んんっ……!」

 

 さらに舌先へ力を入れて舐められた。

 この時マチは、すでに何度か軽い絶頂の波を味わっていた。まだ如実な反応を見せるほどではないが、確実に気持ち良さが全身へ浸透していて、青年が言う通りその時は遠くないと自覚している。同時にその瞬間を、彼の愛撫によって達するのを待っている節すらあるだろう。

 そのせいであったか、青年の頭に手を置いて話しかけた。

 柔らかい栗色の髪を撫でると、秘所を舐め続ける彼と目が合う。

 

 「あんたのも、寄こしな。舐めてやるから」

 「お、いいの? 噛み千切んなよ」

 「ふん。それはあんた次第」

 「や、やめろって、怖いから……言っとくけどこれ弱点なんだぞ」

 「知るか。だったらほいほい人に見せてんじゃないよ」

 「妬いてる?」

 「食い千切るっ」

 「おいっ、バカ、やめろって! 冗談でも言うな!」

 

 青年が恐る恐るズボンと下着を脱ぎ、目の前に秘所を置いたまま、体勢を変えて彼女の顔を跨いだ。戸惑っていたが仕方ない。あまり時間をかければ余計に怒りを買うからだ。

 いきり立ったペニスがマチの顔に突きつけられる。

 

 ずいぶん遊んでいる割にはご立派に立っていた。呆れて物も言えないが溜息をついた後、躊躇いもなくマチの口が亀頭を含む。すぐにじゅるりと唾液を絡ませながら吸い付いた。

 尻を震わせた青年は心地よさそうで、自身も再び膣へ舌を伸ばす。

 

 「んんっ、んふぅ、んほぉ――」

 「はぁぁ、やっぱ上手いなマチ。それ、すげっ……!」

 

 強く吸い付いて来る刺激には抗えず声が大きくなる。負けじと彼もマチの股に口をつけた。互いに水音を立てて激しく相手を刺激する。

 

 しばらく無言だった。相手の味に陶酔するかのように舌を動かし続ける。

 青年は解きほぐすように。

 マチは首を振って根元まで苛めるように。

 時折彼女の体が小刻みに震えて、わずかに達していた様子だが青年は敢えて指摘せず、自分が射精するまで何度震えるだろうかと遊びのつもりで試していた。

 

 余裕があるのも相手が彼女だからか。

 なんだかんだと言いながら安心して体を預けられる。そう思うのはマチの性格を理解し、よく支えてくれているからだと理解している。

 かといってそれで女性関係が縮小されるかと言えばそうでもないのだが。

 遊びというより生き残るための立派な術。彼はそう考えて人に会っている。

 マチも多少は理解しつつ、やはり素直な感情には逆らえないのか、時折こうして怒りを爆発させようと襲いに来るのだ。

 

 時間をかけて互いに愛撫を続けていれば、やがて青年の限界も近付いて来る。

 それまでは静止したままだった腰が動き始めた頃、マチはおもむろに髪に忍ばせた糸を取り、素早くペニスの根元にきつく巻き付けてしまう。彼に射精させないためだった。

 もう少しだと思っていた矢先の行動には驚かずにはいられず、腰が止まって妙な声が出る。

 青年は思わずマチを振り返った。

 彼女もペニスから口を離し、手で扱きながら微笑む。

 

 「うぉっ!? おぉっ……!」

 「ん、どうかしたかい?」

 「お、まえ……なんて残酷なことを」

 「残酷? それってどんなことかな」

 「いやもうちょっとだったのに、なんでこのタイミングで――」

 

 左手で竿を押さえながら、右手の指先がぐりぐりと亀頭を強く押す。射精を目前にしてパンパンに膨らんだそこが弄ばれていた。さらには円を描くように表面を撫でられる。

 急激に態度は強きとなって、自分が上だと主張するかのような力強さ。

 マチは不敵に笑ってペニスを弄り、今度は青年が余裕を失くして低く声を出す。

 

 彼女がイっているのだからと我慢するつもりがなかった。それだけに射精を抑制されることは非常に辛い。しかも射精間近のタイミングが、余計に彼の精神を追い詰めていたらしい。これでは一種の苦行となっただろう。

 苦しむように呻く青年の声に、マチは一気に上機嫌となった。

 

 「うぐっ、くぅ……!」

 「さぁて、なんのことだか」

 「おまえぇ……あとで、覚えとけよ、うっ」

 「偉そうな口叩くじゃないか。言っとくけど主導権握るのはアタシだからね」

 「あ、おいっ」

 

 唐突にマチが青年の体を持ち上げ、体をひっくり返して力ずくで押し倒した。

 彼女は細身だが男にも負けない腕力がある。

 油断しきった青年を押さえ込むのは時間も必要なく、あっという間に下腹部の上へ跨る。秘所がペニスへ触れてぐっと押し、腹にぺたりと押さえつけた。

 

 「ふふ、これでもうどれだけ刺激しても出せない――んんっ」

 

 腰を揺らして、ペニスに秘所を擦り付ける。

 勝ち誇った顔のマチは楽しそうに責めており、青年は体の力を抜いてそれを眺めた。

 くちゅくちゅと音が鳴っている。二人の体液が混じっていて、肌に擦り付けられるせいで卑猥な音を奏でた。独特の光景が嫌でも彼らの興奮を高める。

 

 一方的に腰を振るマチは表情を緩ませて、主導権を握れたことを喜んでいた。では青年は無理やりされて嫌がっているかと思えば、そうではない。今も楽しんでいる節がある。笑みを浮かべる訳ではないが表情は柔らかく、マチの胸を掴んでやわやわと揉み始めており、上に乗られた姿を全く気にしていない。

 性器の擦り付け合いに感度はさらに良くなっていく。

 今すぐ射精したい心地にあるとはいえ、青年は思いのほか落ち着いた表情で彼女を見ており、対するマチは嬉しそうに腰を振る一方、動きの最中に何度か軽い絶頂を感じていたようだった。

 

 「んっ、はっ、はっ――」

 「なぁマチ、オレもうイキたいんだけど。外してくんない?」

 「ふっ、うっ、だめだよ。はぁ、どうせ出すなら――」

 

 その一言をきっかけに、片手でペニスを押さえたマチがわずかに腰を上げた。

 

 「ん、こっちで……」

 

 亀頭が膣へ触れ、ずるりと入り込む。

 腰は躊躇わずに落とされて一気に奥まで到達した。肉を掻き分けて奥にぶつかり、柔らかい感触に包まれながら、喜ぶひだが巧みに動く。

 背筋が伸びてびくびく震えて数秒。マチの動きが止まる。

 青年もまた眉間に皺を寄せて呻いており、今の一瞬で達してもおかしくなかっただろうに、縛られているせいで上手くイケない。

 

 彼女の異変に気付くより先、マチが平静を装って表情を変えた。それでも膣内の様子は一変しているためバレそうなものだが、幸いにも射精を禁じられて余裕がない青年に気付く素振りはない。

 腹に手をついて、マチが淫らに腰を振り始めた。

 喜色満面でペニスを弄り、彼の形に慣れた膣で扱く。

 

 「あんっ、はぁっ、はっ――!」

 「はぁ、エロい腰だな……もう出したいんだけどなぁ」

 「うんんっ、まだ、まだぁ……!」

 

 激しく動いて尻が跳ね、さほど時間も経たずにマチが背を反らせる。

 ぎゅうっと膣の中が一気に狭くなり、ペニスがきつく握られるようだった。

 青年もまたそれを機に喉を震わせて達しかけるのだが、如何せんペニスの根元を縛られているため、今にも発射されそうな精液が出てこない。

 

 結局マチだけが気持ちよくなっていた。

 彼女の動きが止まった途端、へたり込んで胸の上へ倒れてくる。

 もどかしいだけの青年は苦しげに歯噛みし、思わずマチを抱きしめた。辛さが重なってなぜか、まるで寂しがるかのような仕草だ。

 

 「ぐっ、お、おい。オレまだイってないんだが……」

 「はっ、ふっ……甘えんじゃないよ。イキたかったら自分で腰振りな。得意なんだろ?」

 「おまえは、ほんっとに、ここぞとばかりに言ってくるな」

 「はぁ、ほら、早くしないとどんどん辛く――あっ!」

 

 両手が尻を掴んでぐんっと腰が動く。膣の中ではペニスが反り返って肉壁を擦り上げ、余すところなく刺激し、敏感になったままだったそこが満たされる。手前から奥まで、すべてが彼で満たされていた。我慢できずに声が大きくなるのも無理はない。

 マチの顔から余裕は完全に消えてしまい、後はもうされるがままに叫ぶのみだった。

 

 「あっ! はっ、はぅ、あぁっ!」

 「ふん、ふんっ。人を舐めやがって。どうだ、このっ」

 「あぁっ、だめ、そんな、にぃ!?」

 

 愛液を大量に掻き出しながら全力で腰が振るわれる。

 前後するペニスの動きによって声が抑えられることはなく。壁を越えて隣にまで聞こえそうな声量だった。しかしバレても構わないと、青年が動きを止めることはない。

 望むのはただ一つ、射精したいというだけ。

 このままでは叶わぬ望みに向けて全力の責めは加熱していった。

 

 「あぁっ、もうだめぇ! イクイク、また、イクぅ……!」

 

 びくびくと尻が痙攣するほど激しく、再びマチが絶頂を感じた。だがそれを知りながら青年の動きは弱まらず、体力だけはあるせいか変わらぬペースで動き続けた。

 こうなればもはや拷問にも等しい。

 目を見開いて驚愕したマチは彼に抱き着くことしかできずに悲鳴を発した。

 

 「ひぃっ!? だめだめっ、今イったばっかりでぇ!」

 「うっ、ふっ、オレはまだイってない……!」

 「んああっ!? わかった……わかったからぁ! これ以上は、うくっ、狂っちゃうぅ!」

 

 かつてない速度で膣がかき乱される。この刺激には耐えられるはずがない。半狂乱になりながらマチはずっと絶頂を感じていた。

 

 亀頭が膨らんでいるのがわかる。限界まで我慢を強いられ、溜め込まれた精液は確実に彼女を孕ませようとしていたことだろう。

 理解しながらついに耐え切れず、マチが糸を外す。

 瞬間、凄まじい勢いで大量の精液が放たれ、一瞬でマチの体内を白く染め上げた。

 

 「うああっ!? あぁあああっ!」

 

 痛くなるほど青年の体にしがみついて初めて経験する波に呑みこまれる。

 絶叫の後、小声すら出せなくなった。全身がぶるぶる震えて平静が保てない。彼女にしては珍しいことに、呼吸をするのも難しい様子で疲れ切っていた。

 

 荒く呼吸するマチの頭を抱きしめながら、青年は待ち望んだ射精を楽しんでいる。

 びゅーびゅー吐き出される精液をすべて膣内へ。収まり切らずに溢れ出てくるがそれすらも心地よく、しばし安堵の表情で深く息を吐く。

 気絶寸前のマチとは裏腹にとても幸せそうだった。

 

 「おぉぉぉ、すげぇ出る。はぁーこれ気持ちいいっ」

 

 最後の一滴までマチの中へ吐き出した後、落ち着いた青年はマチの頭を撫でながら顔を見る。

 いつの間にか彼女は失神していた。あまりにも刺激が強過ぎたらしい。

 珍しい姿に目を丸くして驚く。

 ただ、直後には物足りなさを感じるペニスが彼女の中で頭をもたげ始めていて、きっとこのまま続ければ起きた時に殴られるだろうなと思いつつ、青年は困った表情を浮かべる。

 

 「マジかよ。もう一回は出したかったんだけどな」

 

 諦めた口調で呟くと体の力を抜いてベッドに体重を預ける。

 眠ってしまったマチを抱きしめ、頭を撫でてやりながら自分も目を閉じた。仕方なくこうする他ない。このまま続けるのはどうも無理そうだ。

 

 どちらにせよもう一度寝ようと決めていた。

 続きはお互いに起きた後でいい。

 

 「しょうがねぇな。その代わりあとで覚えてろよ」

 

 絶対にもう一戦付き合ってもらうと考えつつ、彼もまた眠りに就こうと肩の力を抜く。

 人肌に触れながらの睡眠は一人で眠るより心地よく、相手が見知った彼女であることもあって非常に肌が合い、彼は前よりもすんなり眠りに就くことができたようだ。

 



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Nora

 しばしの仮眠を取った後、二人はまた繋がっていた。

 ベッドの上、マチを四つん這いにさせた青年は後方へ陣取り、ペニスを膣へ突っ込んでいる。硬くなったペニスが奥を叩く度、すっかり甘くなった声が吐き出されていた。

 

 尻を掴む青年は非常に上機嫌だった。

 何度も抱いた経験を持つ体だがやはり良い。肌が合うと言うのか、この体だけは何度抱いても飽きることがなく、足りないと思う瞬間さえ多い。

 頬を緩ませて、しっとり汗を掻いて濡れる裸体を見下ろす。

 そんな瞬間も彼にとっては至福の一時だった。

 

 「やっぱ、いいケツしてるなぁ。しかも久しぶりだったからすげぇ乱れてるし。なぁマチ、必死になって探すくらいオレとしたかったのか?」

 「はぁ、あんっ、うるさいっ!」

 「怒るなよ。オレは嬉しいんだぜ。そんな状態で浮気もせずにオレんとこ来てくれたことが」

 「んはぁ、あっ、だれが、あんたなんかに……!」

 「でも実際オレに抱かれてるじゃん。ま、いつものことだけどさ」

 

 彼女がどこで気を良くするか知っている。

 青年の細かな動きは的確にマチの弱点を突き、余裕を奪っていった。

 強がって見せても些細な仕草や声色から変化は確実。終いには腕の力が入らずに突っ張れなくなり、へなへなと崩れ落ちて膝だけをつき、尻を掲げた状態になっている。

 もう何度気をやっているか、数えきれない状態だろう。

 それはそれでいいと青年はさらに叩きつけた。

 

 「んはぁっ!」

 「あぁーいいな。イクぞ、そろそろ出る……」

 「うんっ、んんっ、んんっ!」

 

 震える背に覆いかぶさって肌を合わせた。いよいよという時、右手で彼女の顔の向きを変えてやり、舌を絡ませるキスをして、左手は股へ伸びてクリトリスを摘まむ。

 それだけでぎゅっと締め付けられた。

 

 青年は射精し、再び膣の奥まで注ぎ込む。

 二度目となるが今度も我慢した後だったため勢いは強い。子宮へ届くほど勢いよく飛ぶ。

 マチはがくがく震えながらそれを受け止めていて、ぎゅっと目を瞑る姿が可愛らしい。

 すべて膣へ納めると、ぐったり倒れ込んだマチを見て微笑み、青年は縁に腰掛ける。ベッドの脇にあったティッシュを取ってペニスを拭い、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。

 うつ伏せに寝てぼんやりそれを見ていたマチが声をかける。

 

 達した疲労感からか、声に普段の力はない。妙に気の抜けた姿である。

 こんな姿の彼女を知るのも青年だけに違いなかった。

 独特の満足感を得つつ、彼はマチの髪を撫でる。

 

 「はぁ、ん……人を犯しといてごめんもありがとうもなし?」

 「バカ言え。オレを犯すって言ったのはおまえだろが」

 「今のはあんたが一方的に動いてた」

 「許可取った後だから合意の上ですぅ」

 

 立ち上がった青年は服を着ようとクローゼットを開ける。

 前に脱ぎ捨てた物ではなく、新しい服を取り出した。

 これから会う人間のためにおしゃれなどする必要はないが、現在地から移動すればそれなりの距離もある。清潔な服装でなければ怪しまれる瞬間もあるのだろう。

 取り出したそれをテキパキ身に着けていく。

 

 下着を履いた後に、白いシャツに黒いズボン。ベルトを巻いて、上着に着るのは薄手の黒いコートだ。ファーがついたフードがあって、その位置を正せば気分は一新する。

 そそくさと着替えた彼を見ながらマチは冷静になって声をかける。

 

 あっさりしたものだ。それなりに苦労して見つけ出してもすぐに去ってしまう。

 これだから割に合わないと、彼女は不満を持っていたらしい。それを正直に告げることなく、あくまで仲間の一人としての質問をぶつける。

 

 「行くの? 団長のとこ」

 「ああ。こっからだと移動もあるしな」

 「ふぅん……」

 「なんだ、寂しいか?」

 「バカ。そんなわけないだろ」

 

 拗ねた顔で背中を向けたマチはそう言って目を逸らしてしまう。

 その時、青年は苦笑して靴を履きながら呟いた。

 

 「そうだよな。オレが居なくても寂しくはないだろ」

 「……え?」

 

 いつもの軽口が返ってくると思っていた。しかし予想とは違って、驚くほど落ち着いた声色ながら、何か奇妙だと思える言葉が返ってくる。

 パクノダが口にしていた言葉が一斉に脳裏へ思い浮かんだ。

 マチは振り返って彼の背中を見つめる。

 青年は彼女に背を向けており、もう振り向こうとしていない。

 

 「なぁ、オレのことどんな奴だと思ってる?」

 「急に何? 死ぬ予定でもできた?」

 「そうじゃねぇけどさ。たまにはセンチメンタルになる時だってあるだろ」

 「あんたには似合わないよ、そういうの」

 「言ってくれるねぇ。オレだって人間だぜ」

 

 出かける準備を終えた青年はいつも通りの笑顔で振り返り、ベッドへ戻ってくる。裸で寝そべるマチを見ながら縁へ座ると、下ろされた彼女の桃色の髪へやさしい手つきで触れた。

 何か奇妙だと思った。だが何がとは言えない。

 よくわからないが気持ちの悪い感覚があって言葉にできないのがもどかしい。

 

 あぁ、これかと。呆けた思考でそれだけが思える。

 難しい顔をしたマチは彼の顔を真剣に見上げる。

 嫌な予感がしていた。勘が当たると評判の彼女が、言葉にできないほどの何か、嫌だと思う何かを感じ取っている。

 それに気付かず彼はやさしく微笑んでいた。

 

 「オレはずっと蜘蛛と団長に尽くしてきた。で、尚且つ盗賊だ」

 「そんなの当たり前だろ。確認するまでもない」

 「ならさ。オレたちはいつまでこうなんだろうな」

 「……何が言いたいんだよ」

 

 神妙な雰囲気になってきた。

 どうすればいいかわからず、どんな顔をしていればいいかわからない。

 彼の声は聞いたことのない色だった。

 

 「オレは外の世界を見過ぎた」

 「外の世界?」

 「あのゴミ山にずっと居れば、また違ってたのかもな」

 

 青年が立ちあがって扉へ歩き出す。

 次に目が合ったのはドアノブを捻ったところで、マチは奇妙な不安から目が離せなかった。

 

 「んじゃ行ってくる。あ、それと前々から言いたかったんだけどよぉ、団長から直接連絡来るならおまえが話聞いてやってくれよ。オレ今度から行かねぇからな」

 「はぁ? ちょっと待っ――」

 「団長のこと頼むぞ。じゃ」

 

 パタン、扉が閉められる。

 伸ばした腕はしばらく降ろせなかった。

 

 なぜ、今日に限ってそんなことを言うのだろう。今まで何度も団長からの呼び出しを伝えた。けれど嫌な顔一つせず向かっていたはずだ。今回だけはおかしい。強くそう思う。

 

 嫌な予感がして、胸騒ぎが抑えられなかった。

 彼女の勘は仲間内では当たると評判で、ただの勘でも信頼されている。それが今は恨めしい。

 嫌な感じがする時に当たっているのは最悪だと自分でも悔しく思う。けれど、今は何ができるかもわからない。彼の変化の原因も知らない。

 

 結局どうすることもできず、困った彼女はそのまま不貞寝を始めてしまった。

 何事も無く帰ってくればいい。そう思いながら。

 

 

 *

 

 

 ある町。雨がパラつく一日だった。

 人の気配がまるで感じられない通りを青年が一人で歩いている。

 雨を避けるためフードをかぶり、誰も見えないため道の真ん中を堂々と進んでいた。

 坂になっている石畳を歩き、山にあるせいかまるで山登りをするかのようだ。決して老人にはやさしくない道だが彼にとっては何の問題もなく、薄暗い町を気にせず前だけを見ている。まだ夜は来ていないがこの地方に降る雨が空気をどんよりさせているせいだろう。時間帯のせいで街灯がついていないのも手伝っている。それでも視界に問題が出るほどではない。

 

 この町に来るのは初めてではなかった。団長と会うのは常にこの町、決まった店。

 なぜそうなったかはしばらく忘れたままだが、理由はどうでもいい。要するに誰にも邪魔されずに話せる場所さえあればそれだけで。

 

 青年は古びた一軒の店に辿り着く。

 掲げられた看板には本のマークがある。本屋だ。

 数年前からの付き合いで通い慣れているため、気軽に扉を開けて中へ入る。

 雨に濡れていたが木目の床を踏むのに躊躇いはない。きっと主人も怒らないだろう。勝手知ったる様子でまず奥のカウンターへ向かった。

 

 カウンターの内側には小柄な老人が座っている。物音一つない静かな店内で古びた本を読んでいた。近くには猫がだらしない格好で寝ている。

 警戒心もなく近付いて、気軽に声をかけた。するとしゃがれた声で反応がある。まだ死んでいないようで一安心といったところか。

 

 「よぉ。商売はどうだ?」

 「近頃めっきり寂しいなぁ。お宝の一つも置いてってくれよ」

 「ああ、いいお宝があればな」

 

 会話もそこそこにカウンターの中へ入って店の奥へ進んだ。店主の許可は取っていない。正確に言うならば、この時は取っていなくとも数年前に許可を得たのだ。今更確認することはないし、止められることもないため気にしない。

 

 奥へ入って階段を上り、真っ直ぐ伸びる廊下を歩く。

 二つある木製の扉を素通りし、足を止めたのは突き当り、何もない場所だった。

 左側は窓がついた壁。雨に降られる街並みが見える。

 右手側にドアがあったがそれらも通り過ぎ、今あるのは白塗りの壁のみ。

 

 青年はおもむろに、壁にあった燭台を掴み、ガコンと音を立ててレバーのように動かす。すると不思議にも、壁がわずかに動いて隠し扉が少しだけ開いた。

 何の用途で作られたか、隠し部屋があるのだ。

 

 扉を押して中へ入り、すぐに閉める。

 室内を見回した青年は笑顔を浮かべた。

 こじんまりとした部屋の中は数本のろうそくの火で照らされている。窓はなく、本が山積みになったわずかなスペース。本に囲まれて椅子に座った男が居る。

 黒髪をオールバックに、額には独特の刺青があって、ちょうど青年が着ているコートに近い物を身に着けている。無音の部屋で本を読み、ページを捲る小さな音だけがあった。

 

 肩をすくめてわざとらしく嘆息。

 青年も椅子を動かして彼の前に座り、それから男――クロロが口を開いた。

 

 「たまにはオレより先に来れないのか?」

 「本を読む時間も必要だろ。良いことしたつもりだったんだけど」

 「フッ、相変わらずだな。遅刻をするのも、その口ぶりも」

 

 クロロは本に目線を落としたまま顔を上げない。

 話す相手はたった一人。どちらもそれを気にしなかった。

 

 「オレを呼んだってことは仕事か?」

 「ああ。一つ頼まれて欲しいと思ってな」

 「悪いけどそれはパスだ」

 

 青年がそう言うと初めてクロロが顔を上げた。

 二人の視線が合い、見つめ合う。

 

 「しばらく暇が欲しいんだよ。やりたい事ができた」

 「ほう。前に言ってたアレか」

 「まぁな。やりたい事っていうより、欲しい物、かな」

 「また悪巧みか?」

 「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

 「そうか」

 

 視線が降りて再びページへ。

 発言は決して多くない。しかしそれで十分といった顔だった。

 表情もほとんどなく、冷淡な顔つきのまま、冷ややかさは一切変わらない。

 いつも通りだ。何も変わらない。

 青年の態度も柔らかいままで、別段大きな反応を見せるでもなかった。

 

 「ならシャルに連絡を入れておいてくれ。内容はオレから伝える」

 「わかった。それと、結構面倒なこともあったぜ」

 「どうした? オークションの件は成功したと聞いてるが」

 「いや、それとは別で。妙な奴に気に入られてな。どうもオレを殺したがってるらしいんだ」

 

 またページが捲られる。

 

 「どんな奴だ」

 「ピエロみたいなメイクした奴。雨で流れたけど。とにかく変な奴だからすぐわかる」

 「戦ったのか?」

 「ああ。マーキングしたんで目ぇ盗んで逃げといた。あれだとまた来るだろうけどな」

 「それなら問題ないだろう。おまえの能力は強い」

 「ミスったら一発で殺されるのに?」

 「制約を理解してるおまえならそんなミスもないだろう。最悪逃げれば問題は解決するしな」

 「集団戦闘じゃそうも言ってられねぇんだよ。盗めたとしてもどうせ一人ずつだし」

 「負けそうか?」

 「んなこたぁねぇけどよ」

 

 唇を尖らせて青年が言った。

 初めて薄く笑みを見せ、クロロが本を下ろす。

 

 「必要なら護衛をつけろ。マチはおまえのところに行ったはずだ」

 「あの子は口が悪いからねぇ」

 「だが呼吸は合ってるだろう。仲良くやれよ」

 「親か、あんたは」

 

 ふぅーっと息を吐いて青年が席を立つ。

 椅子を適当に部屋の端へ寄せ、今度は立って男へ向き直った。

 すぐに出ていく。その前に一つだけ。

 何を想ったのだろうか、青年ははっきりと笑みを浮かべていた。

 

 「まぁとにかく、オレはしばらくふらっと歩いて来る。その間蜘蛛はよろしく。それと一応だけどピエロには注意しといてくれ。名前はヒソカ」

 「わかった」

 「じゃすぐに発つから。しばらくは連絡取れないかもなぁ」

 

 そう言って青年は部屋を出ようとした。

 内側から扉を開けようとしたところ、クロロに声をかけられる。

 

 「ルツ」

 「ん?」

 「何かあったか?」

 

 何気ない問い。振り返って視線が合うと妙な沈黙が生まれる。

 それも一瞬。

 青年が笑って肩をすくめた。

 

 「そういやあんたに隠してたことがあった。というよりオレにとっちゃどうでもいいことだったんだけど。一応言っといた方がいいか」

 「突然どうした」

 「まぁ聞けって。あんた、あの連中のこと気に入ってたよな」

 

 青年が自分の目を指差す。

 奇妙な仕草を見つめていれば、瞳の色がみるみる変わっていくのがわかった。

 茶色に近いはずだったが、気付けばとても美しい緋色。

 それがなんと呼ばれているかを知らないはずがなかった。クロロは少しだけ驚いた表情を見せ、大きな反応はせず、感心した様子で見つめる。

 

 「な? 聞いといてよかった」

 「そうか……確かに知らなかった」

 「ま、捨てられてたことに変わりねぇからな。なんとなく言いたくなった。ただそれだけだ」

 

 くるりと振り返って扉を開ける。

 首だけで彼を見ながら、行こうとする彼は最後に言った。

 

 「欲しかったら盗みに来てもいいぜ。盗賊だろ」

 「フッ、ああ。気が向けばな」

 

 扉は閉められ、また静かな空間に戻る。

 クロロはさほど動揺した様子もなく、再び本を読み始めた。

 



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かくれんぼ

 全員集結した日、その男は颯爽と現れた。

 髪は逆立ててセットされ、両頬にはピエロを思わせるペイント・高い上背で奇術師を思わせる格好の男がやってくる。右手には切断された人間の首を持って。

 

 地面に血が滴っていた。

 絶命したその顔は目が見開かれて壮絶な最期を遂げており、それ以上に驚愕したのがその場へ集められたメンバーだ。

 

 それは彼らの仲間だった。

 ヒソカに掴まれる髪は栗色で、見慣れた顔が見たこともない表情を見せている。

 彼らの仲間だった青年は変わり果てた姿で戻って来た。

 楽しげに笑うヒソカは、手に持った頭をそのままに、ある一人の男を見つめて口を開く。

 

 「やぁ♥」

 

 瞬間、同時に数名が動いていた。

 糸を操る者、刀を抜く者、大きな拳を握る者と、一様にヒソカへ強烈な殺意をぶつけて同時に襲い掛かろうとする。しかしそれより早く本が開かれていた。

 間近まで迫った時、三人の視界からヒソカが消える。移動した訳ではない。挙動が全く見えなかった。ならばと振り返った三人は背後に目を剥ける。

 

 本を開いた団長のクロロ、そして首を持つヒソカがそこに居た。

 移動したのはヒソカではなく、自分たちの方だったらしい。動揺を隠しきれない三人は制止されたことを知りつつ、抑えきれない感情を露わにし始め、中でも一人が叫び出した。

 

 「団長ォ! なんで邪魔する! そいつはルツを殺りやがったんだぞ!」

 「落ち着けウボォー」

 「旅団結成時からの仲間だぞ! クソ、あいつがそんな簡単に死ぬはずは……! てめぇだけはぜってぇ許さねぇ! オレが――!」

 「ウボォー」

 

 ヒソカしか見えなくなっていた大男に冷たい声がかぶせられた。

 怒気を放つ訳でもない。ただ静かで、暗い。

 一切の表情を排したクロロは、ヒソカを見つめたまま口を動かす。

 

 「少し黙れ」

 

 たった一言。それだけで大男は言葉を失う。

 他の二人も同様だった。

 初めて見る団長の表情と声色で背筋がぞっとする。こんなにも冷たい目は見たことがない。しかも殺気をぶつけられていないのにこの威圧感。冷静に考えれば余計に恐ろしかった。

 

 ちらりと首だけとなった仲間を見やり、すぐに視線が外れた。

 ヒソカを見る目に感情は見られない。

 怒りも表さず、殺気をぶつける訳でもない。ただ見つめていた。

 三人が動かなくなり、他の者も動かないことを知って、クロロが改めて話し出す。

 もはやこの場に、彼に逆らう者は居ない。至って冷静に会話が始められていた。

 

 「オレに用か?」

 「うん♥ 聞いてもらいたい話があって♠」

 「一応聞こう」

 「ボクを仲間に入れて欲しい♦ 資格はここ♥」

 

 首を差し出して言えば周囲からの殺気やプレッシャーが一気に強くなる。その中でクロロは微塵も感情を見せない。静かにじっと彼を見る。

 

 「そいつから聞いたんだな」

 「ご明察♥ ちょうど用があったからついでにね♣」

 「何が望みだ」

 「それは言えない♠ でも役には立つと思うよ、現に答えはあるわけだし♦」

 

 一言一言が周囲の者の怒りを煽る。特にそれが顕著なのは背後に陣取った三人だ。仲間意識が強いらしく、片時もヒソカから目を離さず、瞬きの回数まで如実に減っている。許しさえあればいつでも彼の首を胴体から切り離すだろう。危険だと感じるほどの殺気は無視できないほどであった。

 しかしヒソカは全く意に介さず、同じくクロロも取り合わない。

 彼らの殺気を平然と無視したまま、クロロが答えた。

 

 「いいだろう」

 「本気か団長!? こいつは――!」

 「ルールに従え。今に始まったことじゃない。欠番は誰かの推薦か、元団員を殺した者を補充する。以前もあったことだろう」

 「だけどよぉ、ルツは旅団になきゃならねぇ存在だったぜ! それを、こいつが……!」

 「そこまでにしろウボォー。これは命令だ」

 

 ぴしゃりと言われて大男は言葉を呑み、何も言えなくなる。

 反対にヒソカは笑みを深めてくつくつ笑った。

 

 「あぁよかった♥ 受け入れてもらえたみたいでほっとしたよ♣」

 「てめぇ……!」

 「それじゃいきなりで悪いけど、今日のところはちょっと出直すよ♦ みんな頭を冷やさなきゃならないようだし、ボクも血を落としてこないとね♠」

 

 振り返って歩き出したヒソカは首を持ったまま、三人の間を通り過ぎる。

 厳しい視線を物ともせずに鼻歌すら歌いかねない表情。その笑みが彼らの怒りを買っていることに本人は気付いているのだろうか。おそらく、気付いている。気付いていて笑っているのだろう。それが雰囲気で理解できて、だから手を出さずにはいられなかったのだ。

 

 クロロに止められている今は何もすることができず、ただ睨みつけて見送るだけ。

 しかし前を通り過ぎようとした時、マチだけは動いた。

 思わずといった様子で手を差し出し、彼が持つ首を受け取ろうとする。

 

 「それ、こっちに寄こしな。始末しといてやる」

 「いや♥」

 

 形相が変わって現れた憤怒をも気にせず、そのままヒソカは通り過ぎた。首を持ったまま遠ざかっていく背を見るとよっぽど殺してやろうかと思ったが、団長の手前それもできず、ただ見逃すことしかできない。痛いほどに拳が握り締められる。

 

 「ボクの大事な友達だから♥」

 

 ヒソカはすぐに部屋から出て行った。

 団員たちは誰もがその背を見送り、それぞれ違った感情を胸に秘める。だが数名の者は秘められず、思わずといった行動に出してしまう者も多かったようだ。

 

 部屋を出た後。ヒソカがほくそ笑むのは上手くいったと思ったからだ。

 見事な物だと思う。掴む髪も滴る血も本物と言って相違ない。準備した人間は今しがた確認したばかり。勢揃いするメンバーの中で一番後ろに座っていた、小柄な長髪の人物。戦闘タイプには見えなかったが、なるほど、これなら実力も理解できる。

 彼と同じ具現化系の能力者で、触った物体の完璧なコピーを作り出す能力。

 素晴らしい感触はまさしく本物同然であって、感心せずにはいられなかった。

 

 これが本物だったならばと思わざるを得ない。

 妙に本物に似ているせいで、必要ではあったが、それを手にするとやはり体が疼いてくる。

 本人と戦ってこうするべきだったか。

 そんな気持ちになるだろうと予想していても後悔は止められなかった。

 

 (確かに彼は強そうだったなぁ♥ でも、やっぱり彼も美味しそう……♦ うーん、あっちを立てればこっちが立たず♣)

 

 楽しげに歩く彼は人知れず舌なめずりする。

 

 (ま、いずれは、ね……♪)

 

 彼はまだ諦めてはいない。一度逃した獲物を、再び狩る日はきっと来るだろう。

 今はその時を待ち望み、ひとまず違った獲物を狙うことに決めたらしかった。

 

 ヒソカが去った後の一室。

 メンバーは皆、それぞれ違った反応を示していた。

 怒りを表す者。団長へ異議を唱える者。表情を変えずに何も反応しない者。関係性を表すのか、それとも個人の特徴を示すのか、同じに見える表情は一つとしてない。

 

 その中で、事の成り行きを静かに見守っていたシズクがぽつりと呟いた。

 さっきとは違う本を手に取ってもページを開かず、何を考えているのかわからない真面目な表情で、空を見つめるクロロの背を見て一言。

 

 「団長、すごく寂しそう」

 

 その呟きを聞いた者は何も言えずにただ目を伏せただけだった。

 

 

 *

 

 

 暖かな日差しが差し込むような、開放的な喫茶店に二人が座っていた。

 辺りに人の姿はない。閑静な町なのか、互いの顔を見るのみで雑音も聞こえてこない。

 

 片方は男とも女とも見える端正な顔立ちの人物だった。美しい金髪は耳を隠し、うなじに届く程度。雰囲気は柔らかいがその碧眼からは警戒心が見て取れ、まだ心を許していないことがわかる。独特の衣装を身に着けた、どことなく珍しい人物である。

 

 対するは黒髪の青年。黒縁の眼鏡をかけて髪型はわしゃわしゃと無造作。ラフな服装でどことなくだらしない人物に見え、それを助長するかのように毒気のない微笑みを称える。

 

 二人はたまたま出会っただけだった。

 ただ目的地を同じとしていて、そこまで一緒に行こうと決めただけの関係。

 互いについて知るのはこれからで、ちょっとした休憩の間に知り合おうと話していたのだ。

 

 「遺跡ハンター?」

 「あぁそうだ。オレはこの世界について知りたいって思ってる」

 

 眼鏡の青年が楽しそうに話している。

 まるで子供のように目を輝かせ、語る口調も出会った時より軽い。

 予想していなかった無邪気な姿にはどうにも苦笑を禁じ得なかった。

 

 「考えてみてくれ。人間なんて普通に生きてもたかだか百年くらいが限度。だけど遺跡は、百年なんて目じゃないくらいの歴史を持ってる。何百、何千、或いはそれ以上の年月をずっとこの世界で暮らしてるんだ。きっと時を越えてでも伝えたい何かがあって作られて、長い年月を過ごしてきたんだとオレは思ってる」

 「ふむ、なるほど」

 「それを受け取る仕事がしたい。ここ数年、色んな学者や教授に会って教えを乞うたけど、一番はやっぱりハンターだ。情報を集めるのも簡単になるし、本格的に仕事するならやっぱりライセンスは取っといた方がいいと思ってな。それで試験を受けることにした」

 「そうか。うん、私とは目的が違うが、立派な仕事だと思う」

 「クラピカはどうなんだ? 何かやりたいことがあってハンターになるんだろ?」

 

 クラピカ。それが金髪の人物の名のようだ。

 問われた後で多少の戸惑いを見せるものの、拒まずに答え始める。そう簡単にべらべらしゃべることではないが、相手の話を聞いて自分だけ黙っているのも悪いと思ったらしい。

 律儀な性格のようだと、仕草や表情の節々から感じ取れた。

 

 「私は賞金首ハンターを志望する。ターゲットは一つ。四年前、私の同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕まえることだ」

 「幻影旅団?」

 「知ってるのか」

 

 青年は驚きを表しつつ頷く。

 

 「そりゃ有名人だ。あいつら滅茶苦茶やるから噂立つのも早いし、情報だけは広まってる。ただどんな連中かは顔さえ割れてない。誰も手出しできない盗賊だって」

 「そうだな。危険であることは百も承知だ」

 「その、出会ったばっかでこんなこと言うのもどうかと思うけど、やめといた方がいいんじゃないか? 死ぬ確立はかなり高いぞ」

 「死は全く怖くない。それよりも、この怒りがいつか風化してしまうことの方が恐ろしいんだ」

 

 真剣な顔つきで視線を落とし、テーブルを見つめて呟いたクラピカに嘆息する。

 多分、命を簡単に捨ててしまうような、危険なタイプの人間だろう。

 青年はテーブルに頬杖を突き、呆れた様子で肩をすくめた。

 

 「なんか損な性格してそうだよなぁ。命は粗末にするもんじゃないぞ」

 「忠告は感謝する。しかし、私にはこうするより他はない」

 「復讐か。オレもさ、復讐のために生きてるって奴見たことあるけど、楽しいもんじゃないらしいぞ。道半ばで死んだら後悔するし、成し遂げてもそれはそれで後味悪くて後悔する。どっちにしても辛い道だとは思うが」

 「覚悟の上だ。私の命を引き換えにしても、同胞の無念を晴らす。少なくとも今は、それしか考えられない」

 「ふーん……ま、自分で決めたことならオレがとやかく言うことじゃないけど。とりあえず、怖い顔になってるぞ。せめてもうちょっと笑ったらどうだ?」

 

 青年に言われてクラピカはハッとし、自らの頬へ触れる。そんなに怖い顔をしていただろうか。意識してはいなかったが、相手に不快感を与えたなら悪いと思い、佇まいを直す。

 苦笑した青年は溜息をつき、それからぽつりと語り始めた。

 

 「同胞か……オレにはそういうのわかりそうにないな」

 「どういう意味だ?」

 「家族がいなかった。その代わり仲間がいたけど、もうずいぶん会ってないし、多分あいつらオレが死んだと思ってるんだろうな」

 「なぜそんなことを。生きてるなら会えばいいだろう」

 「うーん、そりゃそうなんだけど、そう簡単なことでもないと思うんだよ」

 

 コーヒーカップを持ち上げて中身を飲む。少し冷えていたが味は悪くない。

 クラピカは真面目に聞こうとしている。

 引き締められた表情は驚くほど真っ直ぐに青年へ向けられていた。

 以前なら苦手だったはずのそんな人間を相手に、不思議と居心地が悪いとは思わない。カップを置いて息を落ち着けた後、青年は考えながら言葉を吐き出した。

 

 「何年も一緒に居るとな、変わってくのがわかるんだよ。それはきっと悪いことじゃないし、嫌いになった訳じゃない。だけど違和感は年々大きくなっていく。始めはただ欲しかっただけのはず。それがいつの間にか、生きるためだけに仕事してるような気になって……誰だって考えるんじゃないか? 自分はなぜ生きてるんだろうってやつ。いつの間にかオレもそうなって、自分探しの旅に出かけたのさ」

 「仲間はいいのか? 君が生きてることを伝えなくて」

 「それが一番難しいよな。多分怒り狂って殺しにかかってくるかも」

 「過激な仲間なんだな……」

 「まぁな。でもオレは好きだよ」

 

 どんな人物なのだろうと、クラピカは想像する。けれど彼の話の中からは情報が少なすぎて読み取れず、結局は断念するしかない。

 

 「遺跡について調べてみるとさ、人間ってちっぽけだって気付くんだ。毎日仕事して、誰が定義したのかわからない金を集めて、偉そうにしたり這いつくばってみたり、長い歴史から見りゃそんなの全部どうでもいい。ほんと、ちっぽけな物が寄り集まってるだけだ。……だけどそのちっぽけな物が寄り集まって歴史が出来てる」

 「そうだな。私の恨みも、ひょっとしたらちっぽけな物かもしれない」

 「で、オレの悩みなんかもきっとどうでもいいことだ」

 「しかし私はそれでも、奴らを許すことはできそうにない」

 「それもきっと人間だ。哲学は嫌いだが、多分そういうもんじゃないか?」

 

 クラピカがコーヒーを口にする。何口目かで空になったカップが置かれた。

 青年もすでに飲み干している。

 出発の時はそう遠くないのではないかと思われていた。しかしまだ席は立たず、青年が窓の外を眺めながら言う。

 

 「今までの生活を否定する訳じゃない。でもあのままじゃいられなかった。これはオレのわがままだ。きっとあいつらはオレが裏切ったんだって思うだろうけど、自分のためなのか、仲間のためなのか、いざその時が来れば結果は自ずとわかる。今はただ進むしかないんだよ」

 

 自問自答するような言葉だった。

 その後で空気を変えようとしたのか、パッと表情が明るくなり、青年がクラピカへ右手を差し出して笑った。朗らかな様子は、彼の心からの感情なのだと思わせる。

 少し驚きつつ、その手をまじまじと見つめてみた。

 

 「どうだクラピカ、少しくらい歴史に興味持ったんじゃないか? おまえさえ良ければ一緒に遺跡ハンターとして世界を回るってのもいいと思うが」

 「いや、悪いが断っておこう。復讐するか否かを別にしても、私は同胞の眼をすべて集めて弔ってやりたい。それをするにはやはり荒っぽいことに関わるだろうからな」

 「そうか。まぁ自分で決めた以上はそれを否定したりしない」

 「だが……それもいいかもしれないとは思えた。ありがとう」

 

 ずっと真剣な表情を崩さなかったクラピカがようやく笑う。

 やはりきれいな顔をしている。

 男だろうと思っていなければ口説いていてもおかしくないほど美しい顔だ。

 

 「もしもすべてが終わって、まだ私がハンターを続けられる状態なら、その時は君と一緒に仕事をしてみるのもいいかもしれないな」

 「だろ? せっかく出会った縁だ。オレも電話一本寄こしてくれれば手伝えることはやるぜ」

 「ああ、ありがとう。少し肩に力が入っていたのかもな」

 

 ふぅと深く息を吐いて深呼吸。

 表情が柔らかくなってまるで別人のように見えた。やっと分かり合えそうだと思う。

 

 「必死に考えてみるさ。たとえちっぽけだったとしても、人間はきっとそうすることしかできないんだろう。君の話を無駄にしないよう努力してみる」

 「サンキュ。そうしてくれると腹割って話した甲斐がある」

 「ハンターになる頃には、私ももっと視野を広げなければいけないかもしれないな」

 「そう心配すんなよ。先は長い。試験もずいぶん厳しい内容らしいし、やってる内に自然と成長していくさ。変化しねぇ人間なんていないだろうしな」

 「フッ、それもそうか」

 

 そう言ってクラピカは穏やかに笑い、青年と笑顔を向け合う。

 初対面の時より二人の間にある空気は緩んでいる。信頼していると言うには時間があまりにも短いが、信用していい人間だろう、とは思った。

 過酷なハンター試験を前に良い出会いがあったと素直に思える。

 クラピカの表情は見るからに柔らかくなっていて、青年はそれを嬉しいと感じていた。

 

 ふと店にある時計を見上げれば、そろそろ予定の時間が迫っていた。

 席を立つのも二人で。一緒に行くために示し合わせる。

 

 「そろそろ行こう。船が出る時間が近付いてる」

 「確か一旦クジラ島に寄るんだっけ? 面倒な航路取るよなぁ」

 「ハンター試験参加者を募るんだ、仕方ないだろう。それに焦る必要はない。少なくともあの船は目的地へ近付くための物だよ」

 「せいぜい酔わないように気をつけるか」

 

 二人揃って席を離れ、会計を済ませ、店から出る。

 目の前に港があった。

 

 二人が出会うことになったのも目的地へ向かう船が同じだったため。船が出るまでの時間を潰すために話をすると決めたに過ぎない。

 ただ今はそうではないようだった。

 ほんの数十分の待ち時間で隣に立つのが自然となっていて、さっきより肩の力が抜けている。

 いい旅立ちになりそうだ。

 

 「ルツカ」

 「ルツでいいよ。仲間はみんなそう呼ぶ」

 「そうか。ではルツ、試験が始まれば我々の関係もどうなるかわからないが、互いにベストを尽くそう。競い合うことになっても手を抜くつもりはないぞ」

 「あー、でもお手柔らかにな」

 

 二人は歩調を合わせて、港へやってくる船へと向かっていく。

 この先どうなるかなど誰にもわからない。

 だから二人で歩いていくのだ。

 




 おそらくこの後、ハンター試験でゴンたちと出会い、主にクラピカと協力しながらプロハンターになることでしょう。
 ゆくゆくはヨークシン編で旅団との再会もあり、クラピカのこともより深く知っていく。

 その時彼は外部から蜘蛛を守る者として動き、同時にクラピカを説得。自分を餌に蜘蛛を殺させないよう動くのではないでしょうか。
 原作でも復讐に一区切りつけられたように思えるので、ウボォーは死ぬかもしれないけど、説得すれば応じる部分もあるかもしれない。

 幻影旅団で、だけど生粋の緋の眼を持っている。
 そんな人間が居たらどうだろうと思った次第でした。


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BLEACH
空に見る想い


夜一の口調を忘れました。とりあえず古臭い感じだったろうと、あやふやな感じでやってます。間違ってたらごめんなさい。


 夜一、という女は猫のような気質を持っている。それはソウル・ソサエティにいる者なら誰もが理解できる言葉である。

 考えや行動は自由気ままに、好きも嫌いも思うがままに。何にも縛られないその生き方はある者から反感を買う一方、ある者からは強い羨望を向けられた。

 そんな彼女だからこそ、ある日突然、どこかから捨て子を拾ってきたところで、わざわざまわりから何かを言われるようなこともなかったのだ。せいぜい「あぁ、またあの人の気まぐれが……」と囁かれる程度のことである。

 突然拾ってきた捨て子は彼女から「空」と名付けられ、夜一専用の小間使いとして、四楓院家の屋敷で働くこととなった。

 そうして、一人の小さな子供が新しい生き方を得て一週間が経った頃。屋敷の持ち主であり、親代わりでもある夜一から呼び出されたソラは彼女の部屋へ赴き、そこで新たな仕事を任される。

 大好きな女から聞かされたのは、彼からしてみれば聞いたこともない言葉だった。

 

 「――夜伽?」

 「そうじゃ。これから新しい仕事として、おまえにやってもらう」

 

 時刻は夜の頃。寝室で向かい合い、布団の上に座る二人はそれぞれ違う柄の浴衣を着ていた。

 結びを解いて長い紫がかった髪をさらりと布団の上に垂らす夜一は、小麦色の肌とは対照的なまっ白の浴衣。対して、黒髪とは対照的に白い肌を持つソラは夜一の勧めで黒い浴衣。相対的に見える二人が一つの布団の上にいた。

 そこでソラは正座をして、まじめな顔で夜一の言葉を聞き、夜一はにやりと楽しげに口の端をあげて語っている。

 夜伽とはつまり、簡単に言えば添い寝なのだと。

 

 「まぁ言ってみれば添い寝じゃ。おまえはこれから毎晩、わしの隣で、同じ布団で寝ろ。役に立つ仕事をしたいと言っておったじゃろう?」

 「は、はい……でも夜一様、それは――」

 「ほれ、そうと決まればさっそく寝るぞ。明日も早いからな」

 「あ……はい」

 

 先に夜一が布団の上で横になり、掛け布団を少しめくって手招きすると、従順なソラはすぐにその中へ入っていった。世話をしてもらっていると自覚している以上、自分のできることで恩を返さなければならないと思っているせいだ。

 そのため、彼の体はあっさりと夜一の腕の中へ入り、大きな胸の谷間へむぎゅっと顔が押し付けられた。そのまま夜一は嬉しそうな顔でぎゅうぎゅうと彼の頭を抱きしめ、呼吸に苦しむソラは全力でないながらも抵抗する。

 姉と弟がじゃれあうかのような光景の中、辛くも巨乳の中から抜け出したソラは大きく息を吸い、げほげほとむせながら彼女へ抗議した。もっともそれは羞恥の裏返し、嬉しかったという感情を隠さない声だったが。

 

 「もうっ、苦しいですよ夜一様」

 「くっくっく、すまんな。少々やりすぎた――じゃがおまえが可愛すぎるのがいかんのよ」

 「か、かわいくないですよっ」

 「いいや、おまえは可愛い。その証拠に――ここも、のう」

 

 そう言って夜一はゆっくりと手を伸ばし、やがてソラの下半身へと触れた。浴衣越しに、ふんどしを隔てて触れたのは彼の生殖器。まだ成熟しきっていない小さな陰茎だった。

 途端にソラは大きな反応を見せ、顔を真っ赤にして目を見開きながら、全身をぴくんと反応させる。次いで抵抗するかのように夜一の手を掴み、自分の体から離させようとする。

 これまで夜一に逆らったことがないソラにはめずらしく、本気の抵抗のようであった。しかし彼の細腕では鍛えられた夜一の腕をどかせることはできず、まだ柔らかいそこをぐにぐにと揉まれるばかり。

 夜一の顔にはますます喜色が増していき、対称的にソラの顔は真っ赤になって、だんだん目にも涙が浮かび始めていた。

 

 「よ、夜一様っ、いきなり何を……」

 「ふふ、夜伽とは言ったが、何も寝るだけが仕事ではないということじゃよ――ここまで言えばわかるか?」

 「わ、わかりません……とにかく手を、離して下さ――」

 「いいや、だめじゃ。おまえの言うことは聞けん」

 

 ぴくぴくと小さく反応する陰茎が、擦られる度に大きく、反り返るようになり、確かな変化が見られるようになった。

 手の動きだけでそれを感じた夜一は抱きしめたソラの体をぐっと自分に寄せ、浴衣の帯に手をかける。するりと外されたそれは布団の外へ放り捨てられ、直後にははだけた浴衣の間からふんどしすらも取り除かれる。夜一よりよっぽど小さな体は瞬く間に裸にされたのだ。

 すると今まで隠されていた大事な場所、小さいながらもしっかりと勃起した陰茎が目に映り、恥ずかしがって嫌がるソラをそっちのけに夜一は楽しげに笑みを深めた。

 ゆっくりと、淫靡な仕草すら見せる指がするすると伸び、立派に固くなったそこをきゅっと握りしめる。全体を握られるようにされたソラは大きく目を見開き、今にもこぼれそうなほど涙を溜めながらも、声を発することなく未知の感覚に耐えた。しかし口は開かれ、舌が伸ばされているその顔では、快楽に酔っていることは誰が見ても明らかなのだが。

 

 「あっ、かっ――」

 「ふふふっ、イキそうになったか? 遠慮はせんでいいぞ、夜は長いからな」

 

 ひどく緩慢な動きで竿が擦られ、じんわりとした快感が与えられる中、開かれていたソラの口の中に夜一の舌が差しこまれる。

 蠢くような動きで歯を、歯ぐきを、舌を舐める夜一の動きは巧みで、そんな経験など皆無なソラには刺激が強すぎて混乱させてしまっているようだった。

 今の彼のきつく閉じられた目の端からは確かに涙がこぼれでて、全身は力が込められ過ぎて動けない。まるで蛙に睨まれた蛇のようである。

 そんなソラを安心させようとしたのか、舌を抜いた夜一は、今度はやさしくちゅっと唇を合わせ、やさしい声色で語りかける。そちらこそソラの知る、いつもの夜一の姿だった。

 

 「そう心配するな、ソラ。わしはおまえを嫌いになったわけでも、叱りたいわけでもない――おまえのことが好きだから、こういうことを教えてるのじゃ」

 「んんっ、ふぅっ――おし、える?」

 「そうだ。ふふっ、だからそんな顔をするな――もっとめちゃくちゃにしたくなる」

 「んんっ」

 

 再びソラの口内に夜一の舌が入り込み、淫らに、自由気ままに動きまわる。しかし今度はソラも嫌がる気配はないようで、目をきゅっと閉じた彼は徐々にではあるが快感を感じ始めていた。

 さっきよりもやさしく、しかし力を込められて陰茎が触られ、もう一方の手も尻や背を撫でるためソラの不安はゆっくりと、確実に消されていく。

 そうしてしばらくはソラを安心させるための動きを続けた後、だんだんと落ち着きを取り戻した彼はついに快楽だけを受け取るようになり、すぐに自分の体の異変に気付いたようだった。

 小便ではなく、それに似た何かが陰茎から出ていこうと動くのだ。

 

 「んっ、んんっ、んんんっ!?」

 「お、イキそうか? いいぞ、たっぷりと出せ。まず一発目じゃ」

 「んんんんんっ!」

 

 すると夜一の催促に乗るようにして、ソラは陰茎の先からたっぷりと射精を開始した。元々自慰すら知らなかった子だ、その量は子供にしては多い方である。

 びくびくと竿が震える間も、夜一は余った皮を動かすようにして手を上下に動かし、最後の一滴まで絞りだそうとするかのように射精を手伝う。その甲斐もあってかソラは最後まで気持ちよく精液を出し切ることができ、しかしそれが快感だとは理解できていないのか、呆然としたまま視線を空中へ漂わせていた。

 その顔を見て、ひどく愛おしいと感じた夜一はまた首を伸ばして彼の唇へ触れ、舐めまわし、口内に至るまで存分に堪能する。

 唾液を注ぎこめば従順にそれを飲みほし、自分からねだるように催促すれば彼もまた唾液を飲ませてくれる。口内に入ったり、入られたり、ゆっくりと時間をかけてではあるが、行為に慣れてきたソラも自分から舌を伸ばし始めていた。

 彼からの熱烈なキスに喜ぶ夜一はその間に自分の浴衣を脱ぎ捨て、体を守っていた下着すら捨てるとその小麦色のボリュームある肉体を露わにし、見せつけるかのようにソラの上へと覆いかぶさった。

 腕を伸ばして布団に手をつき、ぶるりとはちきれんばかりに揺れる乳房をソラの顔の前に移動させ、にたりと笑いながら告げる。

 

 「ソラ、どうすればいいかわかるか?」

 「え、えっと……い、いえ、わかりません……」

 「ふむ、そうか。ならば教えてやる。舐めよ。胸の先っぽで勃起しとる乳首を、丹念に舐めるんじゃ」

 「……は、はい」

 

 命令するかのようにそう言うと、ソラは恐る恐る、戸惑いが見え隠れする様子で首を伸ばした。目の前にぶら下がる乳房、その先端にある乳首に唇をつけ、赤子がそうするかのようにちゅっと吸ってみる。たどたどしいながらも、彼はそうしてちゅーちゅーと吸い始めた。

 その顔や仕草がひどく愛らしく、乳首を吸われる快感以上に、夜一は別の意味で感じているのだがソラは気付かず、ただ熱心に乳首を吸った。

 しかしいつまでも同じ方向ばかりでは夜一も我慢ができないらしく、自分から体を振って胸を動かし、吸われていなかった方の乳房をソラの顔に寄せる。顔にある笑みは変わらぬままだ。

 

 「ふぅ、ふっ……筋は悪くないが、そっちばかりではだめじゃろう。ほれ、こっちもな」

 「は、はいっ」

 

 言われた通りにソラは逆側の乳首に吸いついて、同時に気付けば両手が柔らかな乳房を揉む動作をしていた。ふにゅりと揺れる乳房に指が埋め込まれ、気分を良くした夜一が小さく体を震わせる。

 それから夜一はしばらく、ソラに自身の乳を吸わせることに集中した。元々の目的を思い出せば、結局ソラを抱いて性欲を解消しようとしていたのだが、本番に入る前からひどく気分が高揚するような姿を見れた。だからと言ってこれで満足する気もないのだが、この瞬間を楽しむのもいいかもしれないと思ったのだ。

 ミルクが出るはずもないそこを、赤子のように必死に吸う愛しい男を見て、髪を撫でながら存分に堪能させてやる。これも女だからこその楽しみだろうと、彼女はどんどん気分を高めていた。

 そしてソラの上に覆いかぶさって、体重をかけないようにしていた腕が疲れてきた頃、夜一はやっと布団の上に身を横たえた。そのまま自身が仰向けになり、ソラに次の命令を下すと、彼女はすでに濡れそぼったそこを見せるために足を大きく開いたのである。

 

 「さぁ、ここからが本番じゃぞ。おいでソラ、私の膣内に挿れるんじゃ」

 「い、いれるって……」

 「おまえのここを、私のここにさ――ほら、気持ちいいじゃろう?」

 

 夜一の手に握られた陰茎が、ぐっと彼女の膣に押しつけられる。亀頭の先が膣に入り込もうとする中で、ソラはまたしても強い快感を得られることを知った。

 言われた通りにしなければならない、という想いもあっただろう。しかしこの時のソラはそれよりも、もっとあの感覚が欲しい、と強く願っていたのだ。

 そのため、彼は迷うことなくそのまま腰を突き出し、熱く濡れる夜一の膣へと陰茎を飛び込ませた。まだ小さいそれは確かな熱を持っていて、奥までは届かないがそのすべてを夜一の中へと埋める。

 それだけで夜一は声を高くして悦び、両足で彼の腰を捕えて離さないようにしがみついた。

 しかし、ただでさえ快感に酔い痴れているソラがそれ以上我慢できるはずもなく、彼は挿入を終えたその瞬間に射精していた。びゅくびゅくと震える肉棒が、先程よりも少ない精液を吐き出し、膣内を汚していく。

 その瞬間にソラは力いっぱい夜一の体に抱きつき、小麦色の巨乳に顔を埋めて震えていた。すべての精液を体内に受け取り、その顔を見る夜一も幸せそうで、期待に応えるかのように両腕を彼の背に回していた。

 肉棒の震えが止まると、だらしなくよだれを垂らした夜一がソラの顔を覗き見て、幸せそうに脱力する彼へ語りかける。

 

 「はぁ、はぁっ……んっ、また出したな。しかし、ちゃんと言わないとだめじゃろう」

 「う、す、すみません……すごく気持ちよかったから……」

 「ふふふっ、そういうことなら、まぁいい。さて――続きをしようか」

 「へ?」

 

 突然、体を起こした夜一はソラと繋がったままで体勢を変え、二人の位置を入れ替えた。

 今度はソラが布団に背を預け、その上に夜一が陣取る。無理やり繋がったままそうしたため、チンぐり返しのような体勢となっていた。

 そのまま夜一はにやりと笑い、またしても戸惑うソラは言葉を失くしておろおろと視線を漂わせる。しかし彼が困った表情をしたところで解放されるはずもなく、むしろより一層に燃え上がった夜一はそのまま腰を振り始めた。

 途端に半勃起状態だったソラの肉棒が刺激され、再び元気な姿を取り戻す。二人が感じられる快感もすぐさま倍以上になった。

 

 「あぁっ、はぁっ、よ、よるいちさまっ……!」

 「ふっふっふ、一度だけで終わるとでも思っておったか? そんなわけがないだろう。わしが満足するまで何度でも、毎晩付き合ってもらうぞ」

 「そ、そんなっ――んっ、ふぅっ、ふあぁっ、はげし、すぎっ」

 「はぁっ、いいぞっ、凄くいい顔だソラっ」

 

 ずぷずぷと音が鳴るほどに水気を帯び、ずっぽりとソラを呑みこむ夜一の膣は何度も上下し、先程とは比べ物にならないほどの快楽を与える。おかげでソラは女のように甘く鳴き、体だけでなく声や顔でも夜一を楽しませた。

 それだけに彼女の気分も見る見るうちに高まって、行為は激しすぎると表現できるほどにまでなり、叩きつけるような速度で腰がぶつけられる。

 我慢の限界は夜一よりもよっぽどソラの方が早く、またしても彼だけが先に絶頂してしまう。先程よりも勢いの弱い射精が膣の中で行われ、さらに少量となった精液が吐きだされる。

 確かにソラの表情や声、実際に膣を掻きまわした肉棒で絶頂に近い快感を得ていた夜一ではあったが、これで満足できるはずもなく、彼女は何も言わずに再び腰を振り始めた。だらしなく開いた口元からはやはりよだれが垂れたまま。するとまたしても、ソラの陰茎は即座に反応を見せるのだ。

 

 「あっ、んんっ、よるいちさまっ――そんな、もうだめっ」

 「何を言ってる、わしはまだイッておらんぞ。それに今言ったばかりだろう――これからは毎晩、わしが満足するまで何度でも、これをやるんじゃ」

 「そ、そんなの、むりぃ……」

 「はぁんっ、んんっ、やってみなければわからん――あはぁっ」

 

 その後も二人の激しい性交は続けられ、空が白むその時まで行われた。

 そしてこの日を境に、夜一の屋敷の管理を受け持つソラの仕事が一つ増え、彼は毎晩と言わず夜一がいる時ならばいつでも体を好きにされるようになる。

 しかしそんな日々が数年続き、ソラの肉体が成長を見せても尚行為が行われ、二人だけの性生活が続いたのもある日を迎えるまで。

 突如として夜一が失踪した時、ソラは一人、四楓院の屋敷に取り残されていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ソラという少年が管理する屋敷に、新たな住人が来たのは元の家主が失踪して直後のことだった。事情を知っていた彼女が、元家主が残した少年を含め、それらすべてを守ろうと後を継いだのである。

 そのため現在のソラと共に生活し、かつてのように夜伽の仕事を行うのは、現在の家主である砕蜂に対してだ。彼は屋敷を管理する傍ら、健気にも砕蜂に体を任せ、自分の仕事に従事している。

 それはソウル・ソサエティに侵入者が入り込んだという噂があっても変わらなかった。

 

 「あぁっ、んんっ、んあぁっ」

 「ソラ。おまえは今日からしばらく、一歩も屋敷の外に出るな。これは命令だ」

 

 いつもより表情を険しくする砕蜂が、全裸で寝そべるソラの肉棒を激しく扱きながら言う。手の動きはいつもより速く、楽しもうとする姿というよりは苛立ちを彼へぶつけているかのように見えた。

 それでもしっかりと快感を受け取れる力強さのため、なすすべもなく、命令には逆らえないソラは甘い声を発しながらそれを享受していた。

 しかしやはり不思議に思う。いつも冷静で、自分にはやさしくしてくれる砕蜂が、なぜこれほどまでに荒れているのかが。

 やはり気になる、聞いてみたいと思う彼は射精をする瞬間、甲高い声で鳴きながらも彼女の顔から目が離せなかった。

 

 「んんっ、はぁっ、ああぁっ!」

 「んっ――聞こえたな? とにかく、私がいいというまで一歩も出るな。わかったか?」

 「は、はいっ、わかりました――あっ、んっ、でも砕蜂様、どうしてそんな――」

 「おまえは知らなくていいっ」

 

 突如口調を荒くした砕蜂の手が、諌めるようにソラの玉を握りしめた。しかしそれはいつものように快感を与えるための力ではなく、まさに躾けをするかのような力だった。

 鋭い痛みを急所から感じたソラは激しく全身を震わせ、嫌がるように身をよじり、目に涙を溜めながら思わず謝る。いつものやさしい砕蜂にはされたこともない、恐怖すら感じる行動だったからだろう。

 自然と自分を抱きしめ、怯えるように身を縮めるソラを見た砕蜂はきゅっと眉根を寄せ、辛そうな顔を見せる。しかし今さら前言を撤回する気はなく、むしろそれだけは守らせねばならないと、彼女もこの時ばかりは心を鬼にした。

 音もなくすっと立ち上がり、隊長を示す羽織を脱いだ彼女はソラを見下ろし、冷たい声色で告げる。意識しようとはしたが、やはり心中を占める不安のせいでやさしい声色にはできなかったのだが。

 

 「ソラ、脱がせ。これからおまえを抱く」

 「は、はい……」

 

 命令を下すと、いつもと変わらず従順に従うソラはゆっくりと動き出し、砕蜂が着る服に手をかけた。慣れた様子で一枚一枚をはぎ取り、しなやかな筋肉に覆われる細身を露わにしていく。

 すべてをはぎ終え、砕蜂が全裸になった時、彼は自らも服を脱いだ。長年着用しているお気に入りの浴衣を脱ぎ捨て、裸になって畳の上に寝そべる。

 そんなソラの一挙一動を見ていた砕蜂は小さく頷くと、仰向けになって寝る彼の体を跨ぎ、またぴくぴくと反応している陰茎に手をやって、自分の膣に亀頭を触れさせながら数回扱いた。

 即座に反応して固く勃起した陰茎は、何かを欲しがるようにびくびくと震え、その振動を砕蜂に与える。ふぅと息を吐いた砕蜂が一気にそれを根元まで銜えこんだのは直後のことだった。

 

 「うっ、ふぅ――相変わらず、固いな……」

 「うぅ、くっ、ふぅぅ――」

 「ソラ、何をしている。早く手を動かせ、いつも通りだ」

 「は、はいぃ……」

 

 膣への挿入が終わった直後、ほんの数秒だけ一息入れた砕蜂はすぐに腰を振り始め、同時にソラへ愛撫をするように命令する。

 するとソラは咄嗟に両手を伸ばし、砕蜂の薄い胸に触れ、その先でピンと立つ乳首を指で弄っていく。飽きさせないように強弱を変えるそれは熟練の経験と慣れが見え、砕蜂も思わず声を洩らして頬を赤く染める。

 単調なリズムで繰り返される腰の動きに合わせて、両手で胸を弄られる快感を得ながら、砕蜂は淡い快感を楽しんでいたのだ。

 

 「あっ、んっ、はっ――ソラ、おまえも腰を動かせ。もっと突きあげろ」

 「は、はいっ――んっ、んっ、んっ」

 

 それまでは砕蜂が一方的に腰を動かすだけだったが、しばらくするとソラも自ら腰を振り、彼女の膣内を抉るようにして肉棒を動かす。二人のそれは非常に息の合ったものだった。

 おかげで砕蜂が得る快感もより一層大きくなり、しっとりと濡れていた膣も徐々に分泌する愛液が増していく。

 ずぷずぷという小さな音を伴って肉体が一つとなって、快楽を貪るようにする砕蜂は目を閉じながら集中していた。ソラはそんな彼女の顔をじっと見つめ、いつも通りの姿であることを確認する。

 二人の行為は静かなままに続けられ、時を忘れるほど長くやり続けた後、ようやく二人揃って限界へと近くなっていった。

 耐えきれなくなった様子の砕蜂は上体を倒し、胸を合わせたままキスを交わし、叩きつけるように激しく腰を振る。いつの間にか一方的になっていたそれは、速度も相まってまさしく砕蜂がソラを犯しているようにも見えた。

 

 「んっ、んんっ、んんんっ」

 「んっ、ちゅっ、ソラ、イケっ。私に犯されて、イケっ」

 「んんんっ、んふぅぅっ――」

 

 繋がり合ったままでソラの射精は開始され、すかさず砕蜂は一番奥まで肉棒を銜えこみ、孕ませられることを望むかのようにすべてを奥で受け止めた。二人の顔はきゅっと眉を寄せながらも幸せそうに見える。

 そうして長く続いた射精が終わるまで繋がっていた二人は、呼吸が落ち着くまでその体勢から動かず、荒れた息が元に戻った頃に体を離した。

 まだ外は明るく、時間も昼を越えたところだ。いつもならばこの時間に抱かれても、仕事がある砕蜂は大抵一度だけで終え、身支度を整えて出ていくのが常である。

 しかし今日ばかりは砕蜂の態度は違って、彼女は自ら畳の上に尻を置き、股を開いて指を伸ばし、己の秘所を開いてソラへ見せるような体勢を取った。ピンク色の小さな穴から、どろりと白い液体が垂れ落ちる。

 それを見たソラは知らず知らずのうちにごくりと喉を鳴らして、その場所から目が離せなくなっていた。そしてその状態のまま、自分の主に向けて質問する。

 

 「そ、砕蜂様……こ、これは……」

 「……さっきはすまなかった。おまえを怖がらせたかったわけじゃないんだ。ただ、危ない目に遭わせたくないからと、それだけのつもりだった。悪かったと思ってる、だから……今日は特別だ。私を、好きにしてもいい」

 「えっ、で、でも……」

 「は、はやくしろ――これ以上、待たせるな」

 「……はい」

 

 逡巡を見せたソラも、赤く染まった砕蜂の顔を見ると一思いに行動する。四つん這いでそっと近付き、触れるだけの軽いキスを送ったのだ。

 そのまま二人は自然な流れで畳の上に寝そべり、胸をぴったりと重ねたまま、淫らに舌を絡ませる。いつもとは違って主導権はソラが握ったまま、自由気ままに抱かれるばかりだった彼からの行為だ。

 ぴちゃぴちゃと音が鳴って、聴覚からも気分を高める二人は目を閉じ、お互いの感触だけに集中する。そのままでソラは腰の位置を正し、舌を絡めたまま挿入を開始する。

 一度行為を終えただけに、すでに濡れそぼっている膣内は陰茎を拒むはずもなく、ねっとりと絡みつくように熱い肉棒を締めつけた。普通よりも狭い、強く締め付けてくるその感覚を自分のペースで味わえるということもあって、ソラは嬉々とした様子で腰を振り始める。

 ぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴る中、砕蜂はめずらしくも自分から唇を離して、両手でソラの頬を掴みながら問いかけた。息も荒くなり、甘い声を混じらせながらのことである。

 

 「あっ、あっ、んはぁっ――ソラ、おまえ……また別の隊の女に、んんっ、体をっ、許したらしいな」

 「うっ、ふぅっ、そ、それは――」

 「んっ、ふっ、聞きわけの悪い奴だな――いつも言っているだろう。あいつらはおまえを使って性処理しているだけだ。おまえが世間知らずだと知っているから、言葉巧みに騙してな……いいか、あいつらの言うことは聞かなくていい。もう二度と私以外の女と寝るな」

 「そ、れは……」

 

 必死に腰を振るっていたソラが、そう言われた途端に表情を歪めて動きを止めてしまう。今にも泣き出しそうな、ひどく悲しそうな顔だ。

 彼が何を言いたいのか、付き合いが長い砕蜂にはわかる。気持ちは彼と同じなのだから。

 しかし二人が気にしていることは、もうすでに過ぎ去ったこと。いつまでも引きずってはいられないものでしかない。

 だから砕蜂は戸惑うソラに向かって、頭を撫でながらはっきりとした口調でやさしく伝える。もういい加減、前を向かなければならないのだ。

 

 「あの……砕蜂様、でもそれは……」

 「――忘れろ。過去は過去、もう終わったことだ。今は私がいる」

 「……そいふぉ――むぐっ」

 

 砕蜂が首を伸ばし、力強くソラの唇を塞ぐ。積極的に舌を絡ませ、ソラが苦しくなるまで荒く動かし、口内すべてを味わうかのようだ。

 そうし終えた後、口を離した砕蜂は瞳を潤ませ、普段ならばまず見れない儚げな雰囲気で語りかけた。

 

 「どうにもならないこともあるんだ……代わりにもなれないかもしれないが、私がずっと、傍にいてやる。だからもう忘れてしまえ」

 「……は、いっ」

 

 再び、突然だが勢いよく腰が振られる。途端に砕蜂も甘く鳴き、ソラも荒い息を吐きながら必死に動く。

 今や二人の気持ちは一つになっていた。それは二人で共有している記憶や光景、それらが頭の中に蘇っていたせいだろう。

 想いだけでなく、呼吸や動きすら一体化させた砕蜂とソラは激しく繋がり合い、同じだけの快楽を得て大声をあげる。

 そして最後の瞬間、二人は全く同時に絶頂を迎え、再び一番深くで熱い体液を感じていた。

 どくどくと精液が注ぎこまれる途中、荒くなった呼吸の中でもホッとため息をついた砕蜂が、安心したようにソラを抱きしめて頭を撫でる。それはまるで母親のような姿であった。

 

 「ふぅ、ふぅ……したくなったら私に言え。いつでも気持ちよくしてやるから――私がちゃんと、忘れさせてやるから」

 「はぁっ、んんっ……わかり、ました……」

 

 荒くなった息を整える間もなく、砕蜂が下から腰を振り始めたことでまた行為が始まり、上に乗るソラが喘ぎ始める。体勢的には完全に攻守が逆転した形である。

 二人の接合が解かれたのはそれから一時間後のことだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ようやく仕事に戻る気になった砕蜂に甲斐甲斐しく服を着せ、片手でイタズラをされながらも仕事を終えたソラは、顔を真っ赤にしたままいまだに服を着れずにいた。

 一からすべて砕蜂の服を着せている途中から、彼女が無表情でソラの陰茎をいじり始めたせいである。すでに何度も彼女の膣内に射精した後だというのに、ようやく仕事へ戻る気になったのに、またも手を出してきたのだ。

 しかし立場上、ソラが抵抗できるはずもなく、彼は手のひらで亀頭をぐりぐりと押されながらも砕蜂に服を着せたのだが、もうすでに出発できる状態だというのに砕蜂は中々動かない。今も尚ソラへのちょっかいを止めなかった。

 初めはむくむくと大きくなるだけだった陰茎も、今ではぐちゃぐちゃと卑猥な音が鳴るほどに先走りが溢れ、感じていることを隠すことすらできない状況にある。

 ソラはただ顔を赤くして立ちつくし、ぎゅっと目を閉じて行為が終わるのを待つ。しかし砕蜂はそんな彼で遊ぶかのように、顔をじっと見つめながら焦らす行動しかしなかった。

 

 「うっ、うっ――砕蜂様……」

 

 砕蜂は答えず、ただ手を動かすばかり。しかしその内、彼女も少し違う動きを見せ、空いていたもう片方の手をソラの尻へと伸ばした。

 人さし指の腹で、撫でるように尻の穴へと触れ、すぐにずぶりとその中へ入り込む。するとソラは思わず大口を開けて舌を伸ばし、声にならない声を出して背筋をピンと伸ばした。

 彼の顔を見て、反応を感じて、砕蜂は楽しそうに笑みをこぼす。

 

 「ソラ、出せ。射精しろ。これは命令だ」

 「うっ、は、はいっ……」

 「もしもあと三秒で射精できなければ――今日の夜はお仕置きだ」

 

 下された命令に「はい」と答えたものの、三秒経ってもソラは射精せず、十秒経ってもできなかった。彼がようやく精液を吐き出したのは一分以上経過してからのことである。

 時間をかけながらも必死で射精しきった後、がくりと膝を折ったソラは畳の上で座り込み、己の裸を隠そうともせずに荒い呼吸を繰り返す。その前には畳の上に吐きだされた、自分の精液が広がっていた。

 そんな彼を見下ろし、自分の手に付着した精液を舐めとった砕蜂はようやく踵を返して、玄関に向かう意思を見せる。ただ最後に後ろを振り返って、楽しそうな声がソラへと向けられた。

 

 「また私の言いつけを守れなかったな――ソラ、帰ってきたらおまえにお仕置きをする。今から私が帰ってくるまで、ずっと裸でいろ。いいな?」

 「は、はい……言う通りにします」

 「自慰は禁止だ。それと、屋敷に誰か訪ねてきても、決して相手をするな。ふふっ、自分が出した汚れはちゃんと掃除しておけよ」

 「はい……」

 

 そう言って砕蜂は歩き出し、玄関で履き物を履くと外へ出ていった。

 屋敷を出た途端、周囲を警戒するように見回した彼女はしばらくその場で佇み、ある時急に指を弾いて音を発した。それをきっかけにして黒ずくめの忍者のような男たちが現れ、彼女の前に跪く。

 砕蜂はそれを気にした様子もなく、ただ事務的に冷たく言い放つ。

 

 「この屋敷を死守しろ、中には誰もいれるな。それから、もしここへ先代が現れたその時は――中にいる男に会わせることなく、始末しろ」

 「「「御意」」」

 

 命令が下された直後、男たちは周囲の森の中へと姿を消した。残された砕蜂はゆっくりと歩いてその場を後にし、真剣な眼差しをどこかへと向けている。

 それはこの場にはいない、記憶の中にいる誰かを見つめているものだ。

 

 「私を置いて行ったこと、ソラを泣かせたこと――おまえの罪は重いぞ、夜一」

 

 何らかの覚悟を決めてそう呟く彼女の声が、誰かの耳に入ることはなく、青い空の下で消えていく。

 その呟きに、その想いに、屋敷の縁側から何かを思うように空を見上げる少年は、気付くことなどできなかった。

 



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過去との決別

 四楓院の屋敷に一つの人影が近付いてきた時、周囲に待機していた黒服の男たちが一斉にその行く手を阻んだ。

 彼らに下された命令は屋敷へ誰も入れぬこと。ひいては、現当主が溺愛する少年を守ることにある。

 砕蜂の部下であるところの彼ら、少年、ソラとの面識がある。付き合いもある。彼から怪我の治療や差しいれ、飯を食わせてもらったことなども数知れず。恩義を感じる彼らの使命感は強く、それは仲間である死神に対しても変わらない。

 命令なき場合は死神であっても通せない。しっかりと道を塞いだ後、一人の男が前へ進み出てそう言った。

 

 「失礼ながら、今現在は砕蜂隊長の命により、屋敷の中へ通すことはできません。御用がおありでしたらまた後ほど――」

 「その砕蜂隊長から言われて来てんの。悪いんだけど、そこ通してくれる?」

 「隊長から……?」

 

 その女性、ソウル・ソサエティに滞在する死神なら誰もが知るところの人物。

 十番隊副隊長、松本乱菊。

 酒に絡めば止めようの無いうわばみで、刀を握れば凄腕の剣客。真剣にしていれば良い女ながら、普段の勤務態度はひどいもので、男好きするような格好、胸元を大きく開いて谷間を見せつけるようにしている。

 これまで幾度となく砕蜂の目を盗み、実質バレていることも承知で懲りずにソラを狙っている女の一人だ。

 彼らの隊長、砕蜂から何か命令が下されてそこへ来たとは到底思えず、嫌な予感しかしない。応対するため一歩前へ出た男は少し後ろを振り返り、仲間の顔を見やって対応を考えた。

 普段の態度が知れているだけに、そう簡単に信用することはできない。かといって相手は副隊長、それほど素直に「信用できません」などと言えるはずもなく、言葉や態度は選ばなければならないのは明白。

 困った隠密機動隊の面々は悩み、返答に閊えた。するとその隙を縫うかのように乱菊は一歩を踏み出し、立ちふさがった男の肩をやさしい力で押しのけると、ずかずかと屋敷へ向けて歩き出した。

 

 「ほらほら、どいたどいた。あんたたちの隊長を信じないでどうするのよ。心配しなくても、ソラちゃんに危害を加えるようなことは万が一にもないって」

 

 にこやかにそう言い、乱菊は勝手知ったる様子で扉を開けて中へ入り、すぐに閉めてしまう。

 残された男たちはどうすることもできず、砕蜂の名前を出されてしまった以上、引かないわけにはいかなかった。

 ただでさえ今は外からの侵入者を許し、騒動が起こっている最中。仲間内で揉めている場合ではないことは誰もが理解できるところ。

 彼女が何のためにここへ来て、これから何をするかは、およそ多くの者が理解できている。

 しかしここで事を荒立てるわけにはいかないと、男たちは断腸の想いで彼女を見逃す決断をし、胸中で渦巻くもやもやとした感情から目を逸らしながら、再び屋敷の警護のために姿を隠した。

 一方で、のうのうと嘘をつき、個人的な用件だけを持って屋敷内部へ到達した乱菊は、まず玄関で立ち止まると奥の部屋へと声をかける。

 ここまではいつも通り。警備が厳重になっているとはいえ、隙を突くのは己が実力のみで副隊長にまで昇りつめた彼女にとってはお手の物。

 あとはいつも通り、可憐で愛しい少年との一時に逃げ込むだけだった。

 

 「おーい、ソラちゃーん。お姉ちゃんが来たよー、遊びましょー」

 

 厳戒態勢だというのにのんきにそう言い、自ら土間へ上がることなく待つ。彼の御出迎えを待つからだ。

 そうしているとすぐに廊下を歩く足音が聞こえ、乱菊の頬はさらに緩む。

 しかし奥から現れたソラはなぜか廊下の角から顔だけを出し、全身を見せることなく乱菊を出迎えた。これまでも彼女の期待を知っていた彼は戸惑い、弱気とはいえ拒む姿勢を取り続けていたものの、ここまで顕著なのは初めてのことである。

 

 「い、いらっしゃい、乱菊さん……え、と、今日は、どういったご用件で……?」

 「あら、今日は妙につれないわね、ソラちゃん。あたしが遊びに来ちゃだめ?」

 「だ、だめとは言いませんけど、その、砕蜂様が……あまりいい顔をしませんし……それに、いつもみたいなのは、やっぱりだめだと思うので……」

 「ふふ、そんなこと言っちゃうんだ。口ではいつもそう言いながら、体はあんなに喜んでるのに」

 

 乱菊は草履を脱ぎ、ソラへ近付こうと動きだす。

 しかし咄嗟に震えた彼自身の言葉により、一歩を踏み出した時点でその歩みは止められた。

 

 「だ、だめですっ! あ……その、今日は、砕蜂様の命令で、誰も中へ入れないようにと、仰せつかってますので」

 

 予想以上に大きな声。乱菊の動きはぴたりと止まり、思わず彼の顔を見る。

 恐れを抱いた、同時に、何かを隠したがっている羞恥の表情。廊下から顔を出さないあたりに加え、今の言動や態度から、普段の顔を知るだけにますます怪しく見えてくる。

 ふと、乱菊は角から覗いたソラの肩を見た。そこに見えたのは普段着ているはずのお気に入りの黒い浴衣ではなく、なぜか肌色。

 なんとなく予想がついた彼女はにやりといやらしい笑みを浮かべ、気にせず次の一歩を踏み出した。

 途端に慌て出すソラが逃げ出そうとする前、乱菊は角に隠れたソラの前に到達し、彼の全身を拝み見た。

 やはり予想した通り、なぜか彼は裸。布の切れ端すら纏わぬ裸体で廊下に立ち、ぎゅっと体を隠すように、特に股間を隠すように両手を下に降ろしていた。

 

 「なぁにソラちゃん、裸だったの? 昼間から一人で、それもすっ裸で、何してたのかなぁ?」

 「ち、ちがっ――こ、これは、砕蜂様からの命令で……!」

 「ふふん、ま、そんなとこだろうと思ったけど――さ、それじゃソラちゃんの部屋に行きましょ。鬼が居ぬ間にさくっと用事を済ませないとねぇ」

 「え、え――」

 

 ソラの裸体を見てもさほど大きな反応を見せない乱菊はその手を引き、ずかずかと奥へ向けて歩き出した。戸惑いは見られたソラの方が大きいようである。

 これまで何度か、二人は体を重ねている。すべて、ソラを気にいった乱菊がほとんど無理やりに。

 ソラの部屋、といってもそこは個人の物ではなく、正しく言えば砕蜂の部屋なのだが、人目を盗んでばれないようにと彼を誘い、嫌がる風でしっかり感じているソラを押し倒していたのだ。

 おかげで部屋までの道もしっかり頭の中に入っており、ソラの手を引いたままの歩みにも迷いがない。

 

 「あっ、わっ――」

 

 勝手知ったる様子で部屋まで辿り着いた乱菊はさっそくソラを畳の上へ引き倒し、その上へ覆いかぶさった。

 髪を掻き上げ、額に軽く口づけし、色気を含んだ女らしい声で囁く。

 ウェーブのかかった明るい色の長い髪が頬にかかり、心臓の鼓動を速くするソラはごくりと息を呑んだ。

 基本的に他人と関わる時間の少ない彼は、他人を傷つけることに慣れていない。もし自分の行動や言動が誰かを傷つけてしまったら、そんな想いが彼自身の抵抗力を失くさせていた。

 

 「ねぇ、昨日もしたんでしょう? 砕蜂隊長と」

 「は、はい……」

 「そう……ずるいわね。そりゃあ、お世話をしてるってのはわかってるけどさ。一人占めはよくないと思わない?」

 「ら、乱菊さ――んっ」

 

 荒っぽく唇を塞いで、そのまま乱菊はねっとりと舌でそこを舐める。

 怒っているかのような力強さは刺激が強く、息を詰まらせたソラは全身を硬直させ、懇願するように乱菊の肩を強く握った。

 目を閉じている彼に対し、目を開けたままの乱菊はふと笑みを見せた。

 

 「んっ……んふっ……」

 「んむっ、んぅ……!」

 

 ソラはなんとか彼女を押しのけようとするのだが、男と女という違いはあっても体格差は歴然。さらに相手は十番隊の副隊長を務めるほどの実力がある。

 早々簡単に返せるはずもなく、逆に両手を取られると、力の入った手のひらは張りのある大きな乳房へと運ばれる。

 ふにゅりと揺れるそれに手が添えられ、彼女の導きによってソラの指が動き始めた。

 これに気を良くし、乱菊はさらに口づけを深くして、唇の形をなぞっていた舌をその奥へと差しこんだ。

 だが、ソラはそれを拒むように歯を食いしばっており、途端に眉をひそめた乱菊は口を離して顔を覗き込む。

 

 「どうしたのよソラちゃん、今日はその気じゃないの? ほら、大好きなおっぱい、好きにしてくれていいのよ?」

 「あぅ、でも……やっぱり、砕蜂様の、ご命令が……」

 「たまにはいいじゃない。それにソラちゃんだって、おっきいおっぱいの方が好きなんでしょ? あんまりこのお屋敷から出られないんだから、あたしといっしょに気分転換しよう」

 「で、でも――」

 「それにほら、さっきから指が止まってないわよ? ふふふ、口と体が裏腹なのはいつも通りよねぇ、ソラちゃん」

 「うぅ……」

 

 頬をぺろぺろと舐めながら、声色には楽しげな物がますます混ざる。

 嫌がるのはいつものことだが、いつもは抑えきれない好奇心や快楽に負け、ソラ自身も楽しんで彼女と体を重ねるはず。しかし今日ばかりは勝手が違った。

 掴まされた胸を揉むことはやめられていないものの、口付けから逃れようと顔を背ける仕草はやはりおかしい。

 それだけに、胸中に溢れる嫉妬を押さえこむことなどできなかった。

 命令、そうは言うがソラは砕蜂の手足となって働くことを良しとしている。他者には見せない顔を向け、表情を見せ、慎ましくも穏やかに幸福という物を感じている。少なくとも乱菊には彼が幸せそうにしているよう見えた。

 そもそもの所属が違うのだからそれ自体が悪いことではない。死神ではなく使用人、彼が砕蜂に対して従順な態度を見せるのは当然のことだ。

 だがどこか、悔しいと感じている自分もいる。

 乱菊はソラの耳たぶを甘く噛み、熱い吐息と共に囁きを吐いた。

 

 「ねぇ、少しくらいならいいじゃない。ほらほら、パイズリだってパフパフだって、なんでもしてあげるからさ。裸で待ってたくらいなんだし、期待してなかったわけでもないんでしょ?」

 「う、うぅ、だから、これは砕蜂様の……」

 「そう言いながらも、こっちはかなり元気になってるわね。んふふ、もう先走りでぐちょぐちょ……」

 

 肌の上を滑るように移動した指先がどんどん下へと向かっていき、やがて下腹部へと触れる。

 股間でそそり立つ陰茎は子供にしては異様に大きく、女を知っているためか浅ましくもすでに体液を垂れ流しにしていた。乱菊の手が上下に扱く度、卑猥な水音が鼓膜を震わす。

 ソラは嬉しさや快感を噛み殺すように歯を食いしばり、きつく目を閉じて声を我慢しようとした。

 その表情に心を撃たれ、乱菊はさらに加虐的な笑みを深めて手の動きを速めた。

 

 「聞こえるでしょ? ぐちゃぐちゃって、ソラちゃんのおちんちんから鳴ってるの――うふふ、腰がかくかくしてるわよ? 気持ちいい?」

 「うっ、うっ、うっ――」

 「おっぱい揉むのもやめないし、やっぱり好きなんじゃない。ソラちゃん、あたしのこと、好き?」

 

 首筋を強く吸い、滾る肉棒を扱きながらそう尋ねると、ソラは必死に声を絞り出した。

 揉むというよりも握りしめるように乳房へ触れるのは乱菊にとって痛みを伴うものであったが、愛しい彼がそうしているなら不思議と怒りも生まれないようである。

 

 「す、好き……です、けど、こういうのはやっぱり、だめっ――うっ」

 「じゃあ、やめる? 砕蜂隊長が帰ってくるまでまだずいぶん時間あると思うけど、それまでソラちゃん、我慢できるの?」

 「そ、れは……」

 「私だって鬼じゃないんだから、ソラちゃんが本当に嫌ならやめるわよ。でも、ほんとはしたいんじゃなぁい? だって――砕蜂隊長じゃ、こんなこと、できないでしょ?」

 

 そう言って乱菊は彼の股間から手を離し、少し体を動かして位置を正した。

 身に纏っていた衣から肩を露出し、そのまま腰まで脱いだことで、ふるりと揺れる平均以上の乳房が、ツンと立った乳首も加えて、ソラの眼前に晒される。

 自然、ごくりと喉が鳴った。普段は胸の薄い砕蜂と同居しているわけだが、真実ソラは大ぶりの胸の方が好きだ。

 それが先代当主を忘れられていない故だと気付かぬままではあっても乱菊もちゃっかり気付いており、彼女がソラに付け入る隙を見出しているのもこのためである。

 両腕を畳へ突っ張り、顔の前でわざと体を揺らして、ゆっさゆっさと揺れるそれをソラへこれでもかと見せつける。

 すると見る見るうちに彼の目は平静を失っていき、しまいには自分からゆっくりと伸ばされた両手がそこへと触れた。

 まんまと餌に食らいついたと、乱菊はさっと体を伏せ、ソラの顔を己の胸の間に挟み込む。

 

 「むぐっ!? んんっ、むぅっ」

 「おっぱい大好きなソラちゃんは、こういうのも好きでしょ? して欲しいならそう言ってくれなきゃ。期待して目を潤ませてるだけじゃだめよ」

 

 柔らかく温かい感触が顔を包みこみ、呼吸が辛いながらもなぜか幸せな気分になる。

 この時すでにソラの体、及び精神からは抵抗する気がなくなっており、両手は嬉しそうに側面から乳房へ触れていた。まるで、自らの顔をそれで押しつぶそうかとするような動きである。

 むぎゅっと柔らかな肌を押し、感触を楽しむかのように指を動かす。すでに平常心はなく、あるのは抑えようのない極度の興奮。

 ソラの陰茎がさらに固くなったのが自身の腹で感じ取れ、乱菊は艶めかしい悲鳴を発した。しかし嫌な気持ちなど微塵もあるはずがないため、逃げ出すような愚行も犯さない。

 胸は彼の望む通りに任せ、自身は両手を腹の下にある肉棒へと伸ばし、しっかりと握って上下に扱き始めた。

 片手だった先程とは違って両手、全体を包み込むようにして動くそれはソラの口からうめき声を洩らさせ、さらに興奮を高めさせたようだ。乱菊の笑みも、さらに深くなる。

 

 「ね、パイズリ、してあげよっか。んっふふ、現世の本とかでしっかり学習してるからねぇ。前よりもっと気持ちいいかもよ?」

 「あ、はぁ……あの、乱菊さん……」

 「今からやめるっていうのは、ごめんだからね。ここまでやったんだから、ちゃんとあたしも満足させてもらうわ」

 

 乱菊は体の位置を変え、自身の胸の間にソラの肉棒を挟みこむ。ふにゅりと柔らかな感触に包まれ、気持ちいい、だけど淡い刺激にソラの表情も変わる。

 安心、なお且つ極度の興奮に染まった顔だ。子供のように目を輝かせる彼はいつしか前のめりになって自分の股間、引いては乱菊の胸を見つめていた。

 思わず彼女も嬉しくなり、自分の両手で胸を側面から支え、口から唾液を垂らして胸元に塗りつけると、挟んだ肉棒を扱くため上下に動かす。

 手で強く握られてそうされるのとは違い、確かな気持ちよさや安心感がありながらも、どこか刺激が足りないような、もどかしい感覚。女性の胸、特に大きな物が好きなソラにとっては天国にいるような感覚だ。

 自分でも意識しないのに、ソラは前に体を倒し、乱菊の頭に額をつけ、強く目を閉じながら繰り返し荒く息を吐く。

 至近距離にあって唇が届かない。少し寂しい気もするが、乱菊は胸を離そうとはせず、そのまま何度も上下に動かして刺激を与え続けた。

 

 「気持ちいいでしょ? ふふ、すっごく幸せそうな顔してる……ねぇ、いつでも出していいのよ。顔でも胸でも、好きなところにかけて」

 「あぁぅ、はぁぁっ……!」

 「ふふ、可愛い声……」

 

 楽しそうに胸を揺り動かし、時には舌を伸ばして亀頭へと触れ、頭を下げて口内に含む。

 彼女のそれはひどく慣れていて、このまま流されて射精したくなるほど、ソラの心と体を揺さぶった。

 今や彼はすっかり与えられる快楽に呑みこまれ、何も考えられなくなって与えられるすべてを享受していた。

 囁き声、肌の感触、行為からの快感。初めてではないだけに期待も合わさって体が言うことを聞かない。

 乱菊が胸の谷間から顔を出した亀頭を頬張って頭を振っている時、ついに我慢ができなくなってソラが射精を始める。

 勢いよく飛び散る精液が彼女の顔や髪、乳房を濡らし、しかし乱菊は逃げることなく嬉しそうにそれらを受け止めた。

 

 「うぅ、あぁっ……!」

 「あんっ――ふふ、イッちゃった。すごく元気ねぇ。昨日もしたなんて思えないくらい」

 

 うっとりと呟く彼女は、顔についたそれを指先で掬って口元へ運び、舌でちろちろと舐めながら微笑む。

 ソラは脱力して寝そべり、息を整えようと必死に呼吸を繰り返していた。

 少し力を失くしたものの、いまだ完全には萎えていない陰茎は天井を向いており、唾液や精液がついたまま。乱菊はそこに舌を伸ばし、ぺろぺろと舐めながら話しだす。

 

 「もう終わり、じゃないわよね。いつまで寝てるのよソラちゃん、ほら、続きしましょう。まだこっちも満足してないみたいだし」

 「うっ、うっ――」

 

 乱菊の手のひらがまたソラの陰茎を掴み、弱弱しい力でゆっくり上下に擦る。それだけでソラは声を出して感じ、再び陰茎を固くする。

 そろそろ本格的に楽しもうか、と乱菊が体勢を変えて気合を入れ直した時だ。

 ちょうど彼女が服を脱ぎ、後は下半身を覆う下着を残すのみ、となったその時、背後にあった襖が開いた。

 瞬間的に悪寒が走り、どっと汗が噴き出す。後ろへ振り返らずとも乱菊には部屋にやってきた人物が誰だかわかった。

 恐る恐る振り返ってみる。やはり立っていたのは、やけに冷たい瞳で無感情に見下ろしてくる、砕蜂。

 覇気とも殺気ともわからぬ異様な雰囲気を纏った彼女が、裸同然の乱菊と、裸で男根を屹立させて寝転ぶソラの姿を見ていた。

 この時乱菊は、思わぬ展開と自らのミスに、自身の死すら覚悟していたという。

 

 「あ……あの、砕蜂隊長。ええっと、これはですね、そのぉ……そ、ソラちゃんにも、たまには外にでてはどうかと提案に来た次第でして、お散歩の御誘いに――」

 「松本」

 「は、はいっ」

 「ひとまず服を着て、仕事に戻れ――夜になってから再びここへ来い。話はそれからだ」

 「は、はい……」

 

 感情のままに激怒されるならまだしも、冷たくそう言われては何も言い返せず、自分が悪いこともわかっている乱菊に拒否権はない。

 彼女は明らかに顔色を悪くしながらも脱いだばかりの服を身に纏い、小さく謝罪の言葉を口にすると逃げるように部屋から去っていった。

 残された砕蜂とソラの間に、言葉はない。ようやく呼吸を整え、快楽の余韻から我に返ったソラはハッと顔を青ざめさせ、慌ててその場で正座をする。

 眼前に立ち、腕を組んだ砕蜂が大きなため息をつくとそれだけでソラの心が締めつけられる。

 彼女から大事にされていることがわかっているだけに、その想いを裏切るような行為、しかも最中を見つかるというのはなんとも気分の悪いものだった。

 だからといって乱菊を恨むこともできないソラは、ただひたすら自分自身を責め続け、もはやまっすぐ前を見ることすらできずに俯くばかり。

 砕蜂はそんな彼の心境を理解しているのか、厳しく追及することもなく、淡々と話す。

 

 「現場を押さえたのは初めてだったな」

 「す、すみません――あ、あの、でも、砕蜂様……悪いのは、僕なんです。僕がちゃんと断れなかったから、もっとちゃんと、断れていれば――」

 「ソラ。おまえは、本当にバカだな」

 

 そっと膝を折り、砕蜂がソラの体を抱き締める。

 彼の頭を胸に抱え、あやすように髪を撫でる。そうする彼女の目はひどくやさしく、どこか寂しげにも見えた。

 以前から乱菊がそうしていたのは気付いていた。他にも彼を気にいっている女は多いし、実際によく会いたがる人間もいるし、ひょっとしたら把握していないだけで他の女とも体を重ねているかもしれない。

 だが問題なのはそのことではなく、忘れろと言ったのに過去を忘れていないこと。今まで何度も告げた命令がいまだに守られていないことだ。

 他の女を抱いて過去を切り捨てられるのならば、それでもいい。そう思ったからこそ見逃していた。

 しかし実際には、ソラは今も過去を決別できずにいる。これでは何のために見逃していたかわからない。

 ソウル・ソサエティに侵入者がいる今、事は急がなければならないだろう。

 

 「本当に、おまえはバカだ」

 「すみません……」

 

 すでに砕蜂の心は決まっていた。

 たとえ自分じゃなかったとしても、何をしてでも先代にだけは渡さない。

 腕の中で小さく鼻をすする彼の頭を撫でながら、胸の中には愛しさが溢れていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 夜になってから、乱菊は改めて砕蜂本人の招集を得、彼女とソラが住む屋敷へと赴いていた。

 果たして今日生きて帰れるのだろうか、などと不安に思っていた彼女であったが、実際に砕蜂に会ってみれば、間違いなく自分に言われただろう言葉は予想だにできないものだった。

 

 「え? そ、砕蜂隊長……今、なんて?」

 

 上座に座り、女中にお酌をさせて酒を口にする砕蜂の前、ぴしりと背筋を伸ばして正座する乱菊が驚いた声を発する。

 今しがた聞かされた言葉はとても信じられるものではなく、思わず自分の耳を疑ってしまったほど。

 しかし砕蜂はあくまでも冷静、平坦に語り、変わることの無い言葉を彼女へ聞かせた。

 

 「今ここで、ソラを抱け。それができないなら二度とこいつに近付くな」

 「あっ、そいふぉ、さま……!」

 

 胡坐を掻いた膝の上に座らされたソラは尚も裸、股を開き、砕蜂の手によって勃起した陰茎を扱かれ、恥ずかしがりながらも乱れた声を発していた。

 その痴態すら、一瞬忘れてしまう。乱菊は何を言われているのか、正しく理解するのに時間がかかった。

 怒られるとばかり思っていた。それどころか、最悪殺されることだって十分にあり得る。それだけのことをしているという自覚は以前からあったのだから、無事に帰れないかもしれないという予想すらしていたのだ。

 だが砕蜂が放った言葉はそれとは真逆。彼女が最も大事にしていると言っても過言ではない、ソラを、今この場で再び自分に抱かせようと言うのだから。

 ぽかんとした表情で思考を停止させた乱菊は上手く反応することができず、口を半開きにしたまま黙って砕蜂を見つめるばかりだった。

 その間にも砕蜂はソラを責める手は止めず、片手では彼の肉棒を扱き、片手では女中から受け取った酒を口に含む。普段は呼ばない女中を二人も侍らせているあたり、やはり普段とは何かが違った。

 隊長然とした雰囲気を持つ彼女は普段より冷徹に見え、背筋が凍るような空気すら周囲に漂っていた。

 

 「おまえがソラに手を出していたのは以前から知っていた。知っていて敢えて止めなかった――だが、だからと言って罪がないわけではない。おまえは私が大事にしている男に手を出し、あまつさえこそこそと隠れていたわけだ。それ相応の罪は償わなければならない。違うか?」

 「わかっています……覚悟はしてきました」

 「そうか。といっても、何もおまえの命が欲しいわけじゃない。護廷十三隊から去れとも言わん。……おまえはただ、ソラを悦ばせる道具になれ。こいつはすでに私のものだ、おまえに渡す気はないが、こいつを裏切らないと言うのなら……ソラと寝ることを許可する」

 「……あの、砕蜂隊長……本気ですか?」

 「本気だ。嫌なら断ってもいい、ただしその時は、二度とおまえにはソラを近付けさせん。どちらか選べ」

 

 ソラを虐めつつの言葉は明らかに本気であった。まっすぐ射抜くような視線や瞳がそう物語っているし、有無を言わせぬ迫力がある。

 どちらかを選ばなければならないのは明白。ならばどちらを選ぶかと問われれば、必ず前者を選ぶだろう。

 たとえ自分だけのものにならなくても、彼を手放すことなど今さら出来ない。

 すぐさま覚悟を決めた乱菊は目の色を変え、小さく頷いた。

 

 「……わかりました。では、あなたの目の前で、彼とすればいいんですね?」

 「ああ。その気があるなら、服を脱げ。こちらは準備ができている」

 

 指示に従い、ゆっくりと立ちあがった乱菊は急ぐことなく服を脱いでいく。

 一枚、また一枚と、まるで見せつけるかのように。ただ、今のソラが自分を見る余裕がないことは顔を見ればわかるため、むしろ見せつける相手は砕蜂だ。

 自信を持つ肉体を一部も隠さず晒し、彼女はそこへ仁王立ちした。

 身じろぎするだけで乳房が重そうに揺れ、むっちりと肉付きのいい、けれど太すぎない裸体。男が好むであろう、女としての魅力が存分に詰まっていた。

 真っ正面からその体を見た砕蜂は気にいらないとばかりに小さく鼻を鳴らし、ソラの肉棒から手を離した。

 荒く呼吸を繰り返し、ぼうっとした目で見つめてくるソラへ視線を合わせ、数度唇を奪いながら告げる。親のような、それでいて女だとわからせる、乱菊に向けるものとは違って色気のある声だ。

 

 「ソラ、聞いていたか? これからあいつを抱け」

 「え……砕蜂様、でも、それは――」

 「命令だ。逆らうことは許さん」

 

 最後に軽く唇を吸い、砕蜂は彼の背を押して乱菊の方へと向かわせる。

 いきなり解放されてしまったソラは戸惑うが、振り返った先にある目がひどく真剣だったため、逆らうこともできずに顔の向きを変える。

 目の前では裸で立つ乱菊が腕を広げて待っている。薄暗い室内でもよくわかる、彼女の股はひどく濡れていた。

 昼間の中断が効いているのだろう。もはや辛抱堪らんと、淫らに蕩ける笑みを見せて、ソラが来るのを待っている。

 

 「おいで、ソラちゃん。私と、しよ?」

 

 言われたソラは困ったようにちらりと背後を確認するのだが、砕蜂は無言で見詰めてくるばかり。

 命令に逆らうことはできない。再び視線を戻した彼は、こくりと小さく頷き、前へ進んだ。

 

 「……はい」

 

 ゆっくりと抱きつき、どちらからともなく口づけを交わして、畳の上へと二人で寝そべる。

 至近距離で視線を合わせ、両者は頬を赤く染めて言葉を失くす。

 かつてこれほどまでに熱っぽく見つめ合ったことがあっただろうか。いつもソラは快楽に身を沈めながらも脳裏に砕蜂の姿を思い浮かべており、乱菊はそんな彼の表情に苛立ちや嫉妬をぶつけ、どちらも純粋に楽しめてはいなかった。

 しかし今、命令とはいえようやく彼の目が自分だけに向けられている。ともすれば視線は下に落ち、胸に当たって潰れる乳房や、屹立したそれが触れる股間へ向かうが、彼女にとってはそれがとても嬉しい。

 体をぶるりと震わせた乱菊は自らソラの唇を奪い、熱っぽく舌を絡ませる。ソラもそれに、おずおずと戸惑いが残る様子で反応を返した。

 

 「んっ、ふっ、ソラちゃん……」

 「あっ、ふぅ、乱菊、さ――んんむっ」

 

 砕蜂が見ている前、裸で寝そべり、乱菊の上にソラが乗る形で口を隙間なく合わせている。それだけで室内には独特の熱気が溢れるようで、何が始められるか知っていた女中たち二人も、思わず頬を赤く染めた。

 近頃は屋敷に近付かないよう指示されていた彼女たちも、以前から四楓院の屋敷で働いていたのだ。砕蜂とソラがどんな生活をしていたのか、その目でもって知っているし、さらに言えば先代がいた頃の生活すら知っている。

 現当主が差し出す銚子に酒を注ぎつつ、視線はどうしてもちらちらと裸の二人へ向かってしまい、当事者でなくとも体が熱くなってくる。

 ぐいとそれを呑む砕蜂は冷めた目で体をまさぐり合う二人を見ているが、すでに女中たちの変化にも気付いているようで、決して大きくはない声ではっきりと言う。

 

 「おまえたちも服を脱げ。あとでソラに抱かせてやる」

 「えっ? し、しかし砕蜂様、それではあなたが……」

 「構わん。あれにはある程度女を与えることにした。おまえたちも時間とその気があれば、いつでも抱いていいぞ。その代わり、あいつを裏切ることがないと言い切れるならの話だが」

 

 多くは語らぬ目が、着物を脱げと女中へ向く。困惑する彼女たちもその気が止められなかったのか、抵抗は少なく、すぐに言うことを聞いてもたもたと服に手をかけ始める。

 二人の女中のストリップと、ソラと乱菊の熱烈な愛撫。両方を見ながら、砕蜂は酒を進める手を止めなかった。

 

 「それにソラがいないのでは私の体も寂しいのでな。向こうが終わるまで私の相手をしろ」

 「は、はい……」

 

 すっかり裸になった女中、どちらかがそう小さく答え、戸惑いがちに砕蜂へ体を寄せる。

 すると彼女は男らしい様子で女の腰をぐいと引き、おもむろに唇を奪った。奪われた女は目を白黒とさせ、それを見ていた女は思わず口元に手をやって驚愕を露わにした。

 彼女たち三人もまた痴態を繰り広げることにより、室内にはますます、他では得難い熱気に包まれていくようである。

 それに呼応するかのようにソラと乱菊の動きはますます激しさを増そうとしていた。

 何度も体勢を変え、上下を入れ替え、互いの体を丹念にねちっこく舐め清め、時には強く吸って肌に痕を残し、熱い吐息を相手に降りかける。次第に汗が噴き出し、与えられる弱弱しい快感で興奮が増していき、プンと香る雄と雌の匂いが彼らという存在すべてを高ぶらせる。

 ついには我慢できなくなって、ソラが乱菊を押し倒してのしかかり、彼女もそれを待っていたかのように口元を綻ばせて、自ら股を開いた。

 

 「ら、らん、乱菊さんっ。もう、もうっ、い、いれますっ」

 「あぁっ、来てぇ……ソラちゃんの固いの、私のなかに……」

 

 堪え切れない様子の肉棒が淫らに震え、乱菊の膣に頭を当てると、喜びを表すように一際大きく震えた。

 ソラは目を閉じ、強く歯を食いしばるものの、その顔は快楽に染められきっていると言える。また、乱菊も同じ、緩んだ口元はあまりにもわかりやすい。

 ゆっくり、己の体液や彼女の唾液で濡れた亀頭が、膣の中へと入りこむ。しかしその瞬間にはもはや気遣いなどというものはかなぐり捨て、ソラの腰は勢いよく動き、肉棒もまた勢いをつけて奥まで打ちこまれた。

 

 「んはぁんっ!?」

 

 衝撃と共に言い表せない快感が襲い掛かる。

 この時すでに乱菊はこれまでに感じたことがないほどの絶頂へ至っており、白目を剥きかねんほどに目を見開き、口を開けて震わせていた。

 入りこんだだけでそれなのだ。このまま動かれたら、一体どうなってしまうのか。

 乱菊がそれを考える前にソラは腰を引き、一度は抜きかける地点まで達し、続けて再び奥まで先端をねじ込む。勢いは強く、速度は速く、さらには腰遣いに慣れや技術もあるため、一突きごとに乱菊は我を忘れて高く鳴いた。

 ひどく興奮していたことも良い材料になっている。そして何より、ソラが砕蜂のことを一旦は頭からどかし、彼女だけを見ていることが大きい。

 ほとんど半狂乱で乱菊は体を捩り、彼へ抱きついて腰を振った。もはや自分自身を制御できず、ここまでの乱れぶりは生まれてきて初めてのことである。

 

 「はぁぁっ、あぁっ! すごいっ、すごいのぉ……おちんちん、熱くてぇ……気持ちいいのぉっ!」

 「うぅ、あぁっ、乱菊さんっ……」

 

 人というよりもまるで獣のよう。我を忘れて激しく水音を鳴らす二人は三人の女たちに見守られながら、畳の上を濡らして善がった。

 肉と肉がぶつかる音が響き、熱気が体に纏わりついて、汗を振り乱して快楽に耽る。

 体勢を変え、乱菊が四つん這いになって尻を掲げ、ソラが腰を掴んでまたしても激しく膣内を抉る。

 パンパンッという音がさらに大きくなり、やがて二人は同時に限界へと達した。

 ぐんと腰を突きあげて亀頭が子宮の入り口を叩き、熱い精液がそこへ注ぎこまれると、乱菊が背を逸らして声も高らかに叫んだ。

 

 「ああぁぁぁっ!」

 

 ソラは尚も押しつけるように腰をわずかに揺らし、最後の一滴まで膣内へ注ぎこみ、ようやく肉棒の動きが止まってから体の力を抜く。

 倒れ込んだ乱菊の上にぐったりと乗り、陰茎を抜くことなく目を閉じる。乱菊も目を閉じ、荒く息をついて脱力していた。

 しかしそんな二人に砕蜂が声をかけ、休憩を挟むことすら許されなかった。

 

 「ソラ、次はこの二人だ。同じように膣内へ注ぎこんでやれ」

 「よ、よろしくお願いします……」

 「はぁっ、んっ――は、はい……」

 

 先程まで散々砕蜂に体を弄られ、すでに我慢できなくなっている裸の女中二人がソラへ歩み寄り、彼の体を簡単に持ち上げて乱菊から離した。

 太ももまで濡らした彼女たちは快感を得ることしか考えておらず、浅ましくも畳の上に押し倒したソラへと群がり、片方は早々に彼の陰茎を膣内へと迎え入れ、片方は彼の頭を跨いで秘所を舐めさせた。

 放っておかれた乱菊はそれを見てようやく我に返り、まだ自分も満足していないと動き出そうとするのだが、それよりも一歩早く、裸になった砕蜂が彼女の腰を掴んで仰向けにひっくり返した。

 

 「おまえの相手は私がしてやる。さぁ、股を開け」

 「えっ、ちょ――あっ、んむっ……」

 

 咄嗟のことで戸惑う乱菊の唇を塞ぎ、砕蜂はねっとりと舌で触れる。

 巧みでやさしく、高圧的な態度。ソラとは正反対に位置する触れ方。まだ絶頂から完全に立ち直ったわけではないこともあり、予想外の技巧に乱菊も思わず抵抗せずに目を閉じる。

 しなやかな指が乳房へ触れて、手のひらで押すかのように揉まれる。しかしそう思った直後、砕蜂の手は乱菊の大きな胸を力強く握り、そのまま潰さんとするかのような力を込めた。

 唇を塞がれたままだったが、思わず乱菊は首を振って口付けから逃れ、声を発する。しかしそれは反抗する物と言うより、ひどく弱弱しい物だった。

 

 「んむっ、んんむぅっ――ぷはっ。いっ、たぁ……!」

 「私は、胸が大きい女が嫌いだ……ソラの奴に、思い出さなくていいことを思い出させる」

 

 憎しみを込めるかのように強くぐにぐにと揉みしだいて、砕蜂は目を細める。その目を見てしまった乱菊はなんとなく恐ろしくなって、痛みで顔を歪めることはできても、逃れることはできなかった。

 

 「いっ、たい、痛いです、砕蜂隊長……!」

 「ソラに抱かれるおまえは気に食わない。だが、もし、この胸を使ってソラがあいつを絶ち切れるなら、おまえを許してやる。ひどく腹立たしいことではあるがな」

 

 もう一度舌を使ってぴたりと閉じられた唇に触れた後、砕蜂は後悔を残すことなくさっと離れる。

 そしてすぐに乱菊の股を開かせ、自身もしっとりと濡れているそこを、秘所同士を擦り合わせた。

 彼女の動きはどこか慣れているようにも見え、どことなく不思議な感じもしたが、すぐにそれどころではなくなって乱菊は大きく喘ぎだす。

 

 「あぁっ、んんっ、すごっ、いっ、気持ちい……砕蜂、たいちょおぉ……!」

 「はぁっ、んっ、はぁっ……」

 

 しかし砕蜂の目は、女中たちに襲われて悦ぶソラを映して離さず、自分ではない女と気分を高ぶらせている彼の姿を見つめながら、砕蜂と乱菊はそのまま淡々と腰を振り続けた。

 



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たとえ目的が違っても

 あくまでおまえはソラの性欲を発散するための人間でしかない、という部分を強調して数度繰り返し、立場をわからせた上で追い出すように乱菊を屋敷から出した後。

 朝になり、仕事のために瀞霊廷を歩いている時のこと。

 二番隊の隊舎にある自室へ到達する前に現れたそいつはなんとも機嫌が良さそうで、普段滅多に見せない笑みを浮かべて話しかけてきていた。

 

 「やぁやぁ、砕蜂隊長殿。ご機嫌はいかがかな?」

 「うすら寒い口調はやめろ、涅。貴様が殿などと似つかわしくもない。何の用だ」

 

 涅マユリは、護邸十三隊で十二番隊の隊長を務めており、同時に技術開発局の局長を務める男である。顔には独特の化粧を施し、素顔を見せぬ上に性格まで珍妙な、十三隊の中でも特別異彩を放つ人物として知られていた。

 自身の探究心を満たすためならばある程度の規則違反や倫理を無視することすら厭わないマッドサイエンティストで、以前にはなぜかソラにも興味を持ったことがある。

 彼の興味は実験や研究という言葉にあり、特に人体実験を得意として様々な研究に明け暮れ、こうして自ら他の隊長へと話しかけるようなことなどない。ましてやこの状況、たまたま通りがかっただけのはずがなく、明らかに砕蜂を待っていた。

 自然、彼女の表情は不機嫌そうに変わってしまい、まるで睨みつけるような視線がマユリへと寄せられている。彼に出会ったのでは嫌な予感しかしない。しかし彼自身は睨まれたところで傷つく様子もなく、和やかとは程遠い笑顔を見せたまま、平然と彼女へ声をかけた。

 

 「面白い話を聞いたんだがネ。なんでもあのソラとかいう少年に女を与えているそうじゃないか。独占欲の強い君らしくもない。一体どういう風の吹きまわしだネ?」

 「なぜ、貴様がそれを知っている? いや、この際方法はいい。どうせ貴様のことだ。ソラの身辺に監視用の道具でも置いていたんだろう」

 「その通り。この前彼にプレゼントした時計に少しばかり仕掛けをネ。まぁそんなことはどうでもいい。私が聞きたいのはそんな話じゃあないんだ」

 「ではなんだと言うんだ。さっさと用件だけを言え」

 「では用件だけを。彼に与える女にネムはどうだ、と言いたいんだヨ」

 

 眉を寄せる砕蜂が、ふと彼の背後に視線をやる。

 そこにはやはり所在なさげに佇む女、マユリの娘、ネムが立っていた。

 死神としては他に見ないミニスカート丈の服装に、一つに結ったおさげの黒髪。人形のように精巧に作られた顔、肉体、雰囲気は美しく、同姓である砕蜂から見ても納得ができる美女だ。

 ついでにソラとの仲も良好。嫉妬する砕蜂に気付かずソラが彼女と会ったことを楽しげに話す程度には、彼らが親しい関係にあると知っている。

 容姿、性格、現在の関係。砕蜂個人の見解からすればそういったあらゆる点からネムはソラに会わせて問題ない気がする。激しい嫉妬心を除けば、ソラが傷つける可能性は非常に低い。

 問題なのはその隣、ネムの父にあたるというマユリの存在だ。以前からソラに研究対象として興味を寄せている彼を野放しにしておけば、何をされるかわからない。もしかしたら非人道的な人体実験で殺害されることすらあり得る。それだけ危険な思想の持ち主だ。

 隊長としての実力は一流でも、科学者としては凄まじい執念と狂気を見せて危険過ぎる。砕蜂が彼を良く思わないのもそこにあった。軽々しくソラに近付けるわけにはいかない。

 

 「なぜ突然そんなことを言いだす。前に言ったはずだぞ。ソラに手を出せば、たとえ隊長であってもおまえを殺すと」

 「わかっているとも。彼を殺したりなんてことはしない。だから方法を変えようと提案しているのだヨ。お互いのためにもネ」

 「お互いのため、だと?」

 「隊長同士が戦ってどちらかが死ぬともなれば大問題だ。ではそうならないように代案を考えるのは必然。つまり私はお互い殺し合わずに済む方法を考えてきたと言っているのだヨ」

 「もっと簡単な方法がある。ソラのことを忘れて研究を諦めろ」

 「それは無理だ。私は一度興味を持つと徹底的に研究しなければ気が済まない性質でネ。だが彼を使って実験しては、君と私の戦いが起こってしまう」

 「当然だ。ソラは私のものだからな」

 「ではこうしよう。彼の精子を使ってネムを孕ませてくれ。研究には彼の子供を使う」

 「なに……?」

 「あぁそれと、できれば精子以外の情報も欲しいところなんだがネ。髪の毛、血液、彼の細胞を寄こしてくれればさらに研究ははかどって彼自身への危害はなくなる。というわけだネ」

 

 上機嫌に話すマユリは普段より幾分興奮している様子で、どこか普段の冷静さを失っているように見えた。語る声はやけに熱っぽく感じられる。

 いい案を思いついた、とは言うのだが、砕蜂にとってみればそれはあまりいい案というわけでもない。確かにソラへ女を与えて、昔の女を忘れさせようとはしたのだが、だからといって子供を作るなど。産ませるなどとは一度も考えたこともない。

 はっきりとそう言えればどれほど楽か。しかし砕蜂は言葉を呑んだ。すぐさまそう言えないのはやはりソラの身を案じてのことだろう。マユリに目をつけられている以上、何をしでかすかわからない彼を相手にこの提案を蹴れば彼の身に何が起こってしまうのか。

 悔しいやら苛立つやら、砕蜂はマユリの顔へきつい視線をぶつけた。

 本気の怒気をぶつけられながら、それでも彼はやはり笑い続けるばかりだった。

 

 「なぜそうまでしてソラにこだわる。あいつを研究して何が得られるというんだ」

 「君は、本当にわかっていないのかネ? ずっと彼と暮らしているのに?」

 「奴は鬼道も斬魄刀も使えん。戦闘能力は皆無だ。脅威になることもありえんだろう。それなのに貴様は何を考えてソラを気にしている」

 「フゥ、やれやれ……これだから頭の固い人間は嫌なんだ。最も近くにいながら彼の本質を理解しようともしていない。がっかりだよ、非常にネ」

 

 ぐっと歯を食いしばり、砕蜂の目がさらに鋭くなる。

 やれやれと頭を振るマユリが。ソラのことをすべてわかっているかのように語るマユリが気に食わなかった。彼が何に喜び、何に悲しみ、何に泣いているかも知らぬのに。

 マッドサイエンティストに正常な思考を求めるのもどうかと、頭では理解していても心がそれを許さない。彼の辛そうな顔を見てきたのは自分だけなのだ。

 これではいけないと思いつつも一度火が点けば抑えきれない。挑発に乗るような形になってしまったが、砕蜂はますます苛立ちを募らせ、食ってかかるようにマユリへ言葉を返した。

 

 「貴様に何がわかるっ。何も知らん貴様が知った風な口でソラを――」

 「精神への直接的な干渉だヨ。或いは、洗脳に近い力なのかもしれない……彼の本質だヨ」

 「……なに?」

 

 マユリは、砕蜂の怒りをものともせず、それどころか気付いていないような素振りすら見せ、らしくもない恍惚とした表情を見せて語った。

 

 「考えてみたことはなかったかネ。世話をしていた君や拾ってきた本人ならいざ知らず、なぜ彼がこれほど他人から好かれるのかを。女だけでなく男まで、しかもあの十一番隊の更木までもが彼を好意的に見ている。あの戦闘狂までもだ。おかしいとは思わないかネ? いくら彼の容姿が整っていようとも、すべての隊長が彼を好意的に見て、隊員もそれを受け入れている。何の疑問も持たずに。別段特別な才能を持たない、ただの子供をだ」

 「な、何を言ってる……ソラが何かしているとでも言うつもりか?」

 「おそらく無意識の内にだがネ。私は、彼が持つ微弱な霊力が原因だと睨んでいるヨ。あの霊力が特殊な波長を持ち、精神への干渉を行っているのではないかと。鬼道も斬魄刀も使えぬ彼だが確かに霊力を持っている。それが無意識ながらも他人の霊力、或いは精神へ干渉を行い、自分自身を好意的に見せて……いや、違うな。実験的に私も顔を合わせたが好意的に見せようというのではない。おそらくあれは、癒し、とでも言えばいいのか。傍にいる人間の心を落ちつかせ、闘争心を失くさせる力を持っていると推測できる。その影響があって彼は他人から見れば傍にいるだけで心が落ち着く人間だと見られているのだろう」

 「ソラに力だと……? そんなはずは――」

 「ないと言い切れるかネ? では君がそこまで彼に惹かれている理由は。更木剣八が理由もなく彼を認めるのは、どうしてだと説明できる? 朽木隊長は、卯ノ花隊長は、京楽隊長や日番谷隊長は? すべての部隊の平隊員まで彼に対して悪感情を向ける者は居ない。それに私は実際自分で会ったことがある。一目見ただけでもわかるとも。彼は特別なのだと」

 

 マユリの長い講釈を聞き、砕蜂は何とも言えなくなった。

 四楓院夜一が連れ帰った捨て子、ソラと名付けられた男の子。まだ自分が見習いだった頃から付き合いのある彼に、そんな力があるなどと、聞いたことも確認したこともない。違和感を持って考えようとしたことさえなかった。全く可能性を考慮しなかったのである。

 だが確かに、彼は多くの死神たちから愛されていた。否、死神だけでなく、流魂街の住民の多くからも。誰かが彼を傷つけようとしている光景など一度も見たことがない。それは事実。

 彼が特別何かをしたというわけではないだろう。だが気付けば誰とでも仲良くなっていて、その日に出会った人、起こった出来事、様々な話を聞いたことがある。

 そして言われた通り、戦闘狂で強い人間を斬り殺すことにしか興味を持たない十一番隊隊長もまた、珍しく自身の隊の人間ではないソラを気にいったとの噂も聞いている。十一番隊だけでなく、他の隊長もまた、同じく。そんな噂はいくつもあった。

 マユリの持論を跳ねのけるだけの材料は砕蜂の手元にはない。

 憶測すら出せずに答えに詰まった砕蜂は口を噤み、深い思考の中へと落ちていった。

 そんな最中にもマユリは口を止めようとしない。

 

 「そこで、私が調べてあげようと言うのだヨ。君の側近が持つ不思議な力とやらを。なぁに心配には及ばない。本人には手を出さないという証明のため、先程言った通り接触するのはネムだけだ。ネムに彼の子を孕ませ、いくつかのデータを採取させ、生まれてきた子を使って実験を開始する。どうだ? これなら文句はあるまい」

 「調べた後で、どうする。結果が出て貴様がどう思おうとソラを渡す気はないぞ。たとえ貴様の推測が当たっていたとしてもな」

 「その時になってからまた考えるさ。とにかく今は、彼の持つ不思議な力を解き明かしたい。有効活用できるのなら、本人の細胞や遺伝子を使って何かしらを作るつもりだヨ」

 「チッ……まぁ、いいだろう」

 

 苦々しい口調ではあったが、砕蜂は吐き捨てるように小さく言った。その後はすぐに背を向けて歩き出そうとする。

 

 「屋敷への立ち入りを許可してやる。ただし、そっちの副隊長だけだ。貴様が入ることはおろか、近付くことも許さん」

 「ああ、いいだろう。それで十分だヨ」

 「それと念のためにもう一度言っておく。もしソラに危害を加えたり、悲しませるようなことがあったその時は――」

 

 背中を見せていた砕蜂がわずかに振り返り、マユリの目を正面から見る。

 その瞳の中には彼にも負けない狂気が現れていて、かつて見た戦闘中の姿などあっさりと越える威圧感を持っていた。いつ殺されてもおかしくないだけの殺気にマユリの全身が包まれる。

 

 「どんなことをしてでも貴様を殺す。肝に銘じておけ」

 「おぉ怖い。せいぜい気をつけることにするヨ。私も研究材料を遠ざけられては困るのでネ」

 

 再び振り返り、砕蜂は去っていく。

 その背を見送ったマユリは懐に手をやり、一つの小瓶を取りだした。

 彼女の背が十分に離れて見えなくなった後でその手を伸ばし、背後に立つネムへと向ける。妙な色の液体が入ったそれを彼女に手渡しつつ、先程より幾分落ち着いた声が命令を下した。

 

 「ネム。今すぐ奴の屋敷へ行って彼と接触してこい。その薬を飲むと卵子に精子を与えさえすれば一度で受精できるはず。そうすれば十月十日と言わず、数週間で生まれるだろう。そのためにおまえの腹を改造したのだから」

 「はい……わかりました」

 「それから、念のためいくつかのサンプルを取ってこい。精子、髪の毛、血液、皮膚、少量でいいから取れる物すべてだ。この研究を成功させるには多方面からのデータが必要だろうからネ」

 「はい……あ、あの、マユリ様……」

 「なんだネ?」

 

 薬を受け取ったネムはすぐには動こうとせず、何かを躊躇うような仕草をしながら、恐る恐るマユリへと声をかける。何かを恐れる様子ですらあった。

 彼の意識はすでにこの場にはなく、来るべき時に備えようと柔軟に思考を働かせている様子。従ってネムの話も適当に聞いていたと言っていい。

 しかし彼女は珍しく自分の意見を唱え、許可を取るべく口を開いた。

 

 「あの、できればでいいのですが……私と、ソラさんの、子供……ひ、一人くらい、私の手で育てては、いけないでしょうか……?」

 

 胸の前で組んだ手を揺らしながらもじもじと。

 普段は絶対マユリの命令に逆らわず、自分の意見を伝えることもない彼女がそう言った。

 マユリは無表情で、ゆっくりと振り返る。無機質な目が彼女を捉えた。

 

 「研究の邪魔はしません。止めもしませんから、どうか……どうか、私とソラさんの子を、一人だけでも、私の子供として……お願いします」

 

 ぺこりと頭を下げてそう言う彼女は震えていた。逆らったつもりもないが、ひょっとしたら機嫌を損ねる発言だったかもしれない。無駄なことのように思える提案だと彼女も理解していただろう。本来であればマユリはそこまでしないはず。必要がないことには一切興味を持たない人間だ。それを理解していながら、今度ばかりは言わずに居られなかったらしい。

 いつまで経っても返答は来ず、ネムは不思議そうな表情を浮かべる。

 下げた頭をゆっくりと戻してみれば、なぜかマユリは腕を組んで片手を顎に当てており、ぶつぶつと呟きながら考え事などしていたようだ。

 

 「そうか……もしあの力が遺伝されるのであれば、手元に置くことの有用性はある。いや待て、そもそもあれは他者に癒しを与えるだけの能力か? もしそうでないのならば、子によっては他者の精神へ干渉した結果が違うのかもしれない。性別による違いは? 同じ遺伝子から生まれて個体差はあるのか? もし、彼のあの力はいまだ発展途上で、成長させれば自在に他者の精神へ干渉できるとして、怒りも悲しみも喜びも癒しと同様に与えられるとしたら……他者の精神を支配することができるのだとしたら――面白い」

 「マユリ、様……?」

 「実に面白い研究内容だヨ。調べることは山ほどありそうだネ。……いいだろう。子の一人や二人、いくらでもおまえが育てればいい。そうだな、まず最初の一人は成長と訓練によって霊力の力と自在性について調べるとしようか。まぁもしも遺伝されない力なのだとしたら解剖でもして体組織から調べればいい」

 「あの、ではマユリ様……」

 「あぁうるさい奴だネ。わかったからさっさと行け。まずは彼の子を孕まないと始まらないじゃないか」

 「は、はい……」

 

 頭を下げた後、ネムは小走りでその場を去っていく。その顔には承諾を得たためか、わずかな笑みすら浮かんでいた。

 その背を見送ったマユリもまた、探究心から来る興奮、期待が浮かんでいる。

 

 「もしもあの力が緩やかな日々の中で成長が止まり、ただ一つの側面しか見せられていない状態なのだとしたら、そのすべてを自らの意思で操れるようになった時にはどうなるのか。ククク、なんとも面白い研究じゃあないか。隠されたその力の全貌……ぜひとも私の手で解き明かしたい」

 

 にんまりと笑うその彼にも、推測された力は効果を発揮していたとでもいうのか。

 マッドサイエンティストとしてはずいぶんと珍しく、ネムやソラに対しても、これから生まれてくる予定の子供に対しても、残虐で非道な考えを向けられることはなかったようだ。

 

 

 *

 

 

 仕方がないからと、彼女は言った。それがマユリ様の命令だからと。

 最初にそう説明されたのだが、ソラにはどうもそうは思えないのである。

 それはおそらく彼女の声が普段と違い、妙に嬉々とした調子を持っていたせいだった。

 

 「すごい、ソラさんのおちんぽ、こんなに……びくびくってして、おつゆに濡れて、なんだかとってもえっちです」

 「うぅ、うっ、ネムさん……」

 

 服をだらしなく肌蹴、大きな乳房でソラの後頭部を挟みこみ、背後から抱き締めながら彼のペニスを指で弄る。その仕草も声も、ちらりと確認した表情と上気した頬も、どう見たって幸せそうに見える。決して、命令だから仕方ない、と言いながら嫌々している様子には見えないのだ。

 後ろからすっぽりと抱きすくめられるソラに、今や拒否権はない。体が小さい彼は嬉しそうなネムに捕まり、一方的に体を弄られるばかり。

 それを良しとしているわけでもないが、抵抗することを諦める癖を持つ彼だ。いつもの通り、だめだと言いつつもしっかり感じて、目を潤ませ、ますますネムが興奮する表情を見せて抵抗できずにいる。与えられる快感に逆らうのはひどく難しかった。

 特に彼が逃げ出さなかったのは、砕蜂様からの命令です、という言葉があったからでもある。それでも抵抗感が完全に消え去ったわけではないが、免罪符とするには大きな力があった。

 

 「ネ、ネムさん。こんなこと、砕蜂様に悪いです……今からでもやめにしましょう、ね?」

 「いけません。その砕蜂様が、あなたと交わるようにとご命令されたのです。ですからやめてしまうのは、砕蜂様のご命令に逆らうことになるんですよ」

 「で、でも……うぅ」

 

 子供を叱りつけるようにそう強く言えば、ソラは強く言い返せない。元々がやさしい気質であるし、何より砕蜂の命令には従おうという態度があるためである。

 彼は固くなったペニスを手の中で弄ばれつつ、こんなことをしてはいけないと思いながら、それでも気持ちよくなっていた。言葉とは裏腹に表情は嘘をつけていない。

 ペニスを扱くネムの手の動きは非常にゆったりと、焦らすような力加減と速度で、もどかしさを感じるソラは気持ちいいやら物足りないやら、同時に強い羞恥心を感じて顔を赤く染めている。自分の裸体を見られるばかりか、後ろから抱きしめられてやんわりと拘束され、好き勝手に最も恥ずかしいその場所を弄られているのだ。嫌でも気分は高まった。

 裸を見られていると感じるほど、体に見合ったサイズの、しかしやはり体格にしては平均よりも大きなペニスがむくむくと頭を上げ、興奮の度合いを分かりやすく伝えている。熱を感じ、固くなった感触を感じ、変わらず手のひら全体で亀頭を揉みほぐすネムはふわりと微笑んだ。

 

 「ほら……ソラさんのおちんぽも嫌がってませんよ。きれいな色の先っぽからえっちなおつゆ垂れ流して、ぐちゅぐちゅって。気持ちよくなりたいんでしょう? 私を孕ませるせーしびゅーびゅーって、思い切り出したくないですか?」

 「う、うぅ、うぅぅ……」

 「我慢しなくていいんですよ。私の体なら、何度使ってもいいんですから。ほら、一度出しちゃいましょう。そうすればすぐに私のおまんこでびゅーびゅーしたくなりますよ」

 「うあっ、あぁっ……!」

 

 溢れ出た先走り汁でぐちゃりと音を立てながら、ペニスを扱く速度がさらに速くなった。動きに応じてビリビリとした感覚が体内を駆け廻り、ソラは目を閉じて眉を寄せる。わずかに洩れる声も妙に色気のあるもので、言葉とは裏腹な態度が明らかとなっていた。

 ネムの笑みはますます深まり、サディスティックでありながら、どこかやさしい母のようでもあるという、なんとも不思議な表情である。耳元で怪しく囁き、彼の精神を狂わすほど、彼女の姿は普段とは違うものだった。

 興奮はさらに高まり、手の動きがさらに速まる。

 

 「もう出ちゃいますね。いいですよ、いつでも好きな時にびゅーびゅーしちゃってください。ふふふ、ソラさんのえっちなせーし、ちゃんと手で受け止めてあげますからね」

 「あっ、だめ、そんな、うぅっ……」

 

 激しくなった手コキにより、ソラはうめき声を発する。直後には囁き声で耳を犯されているかのような錯覚で、我慢することもできずに小さく限界を告げる声が出ていた。

 手のひらで亀頭を包まれた状態、ソラの腰が大きく震えると、射精によって飛びだした精液が美しい指先を濡らす。ドクドクと竿が脈打ち、動きに合わせて飛びだすそれは非常に熱く、掌で熱を感じたネムは目を細めてため息をつく。

 うっとりとした目で脈動するそれを見つめ、吐息は甘く、興奮を抑えきれてはいない。嬉しげなネムはペニスの動きが止まると手を離し、指先と言わず右手全体に絡みついたその液体を見つめ、指を動かしてねちゃりと音を立てた後、ゆっくりと自らの口元へ運ぶ。

 どろりと粘着性の高い液体が舌の上に乗り、味わうかのように転がして、躊躇いもなく喉を鳴らして飲み込んだ。その行動によりネムは頬を緩ませ、言い知れない歓喜に酔いしれる。

 これが至福の一時。普段はあまり感情を表に出さない彼女が、一目でわかるほどの表情を見せていた。それだけ初めてのソラとの密事は幸せな物だったようだ。

 

 「はぁ……すごくおいしい。ソラさん、たくさん出しちゃいましたね。おちんぽびゅーびゅー、びゅくびゅくって、手がまっ白になっちゃうくらい。熱くて、濃厚で、どろどろのせーし……」

 「はぁっ、ううぅ、い、言わないでください……」

 「うふふ、乳首もこんなに大きくなって。くりくりって、されたいんですか?」

 「うあっ、はぁっ……!」

 

 精液で濡れた右手の指を自分で舐めつつ、左手はソラの胸へ。興奮から勃起している様子の乳首をきゅっと摘み、捻ったり、あくまで彼を悦ばせるために指を動かす。

 普段の大人しい姿とは違い、この時のネムは妙に上機嫌そうで、彼が知る姿とは様子が変わっていた。それも仕方がないだろう。今日まで彼女は自分の想いに蓋をし、自ら彼に近付かないようにと律してきた。だが本心では、ずっと彼とこうしたかったのだ。

 言わば今日はネムの念願が叶ったということになる。そのため彼女の上機嫌は終わることがなく、ソラの耳をねっとりと舐めながら、興奮を示す鼻息はさらに荒くなっていった。

 

 「乳首でも感じちゃうんですね。ソラさん、可愛いです……」

 「うぅ、やぁっ」

 「もっと鳴いてください。可愛い声、たくさん聞かせてください――」

 

 ツンと立つ乳首が指先で摘まれ、くりくりと捻るように刺激される。普段から全身余すところなく使われているソラだ、ただそれだけの行動で与えられる刺激もすっかり快感として受け止めている。唇を噛み、声を我慢しようとするもどうしたって洩れでてしまう。それを恥ずかしいと想いつつ、どうすることもできずにソラはただ強く目を閉じた。

 そんな彼の顔を愛おしげに眺め、頬に舌を這わせ、ネムは淫らに微笑む。

 人肌に触れるというのがこれほど幸せなことだとは。特に相手がずっと想い続けていた相手、ソラだというのが嬉しい。きっと相手が彼以外ならこれほど嬉しくはないだろう。むしろ想像することすら嫌だと思っている。

 ソラの肌に触れることが、声を聞くことが、快感を与えていることが幸福だ。

 右手を濡らした精液をすべて舐め取り、再びゆったりとペニスに触れる。一度射精してもまだ硬さを失わず、触れられた途端にびくりと反応する。可愛らしいと思う挙動だった。

 亀頭を包み込むように揉み、左手で乳首を強く引っ張る。すると歯を食いしばったソラの体が一際強く跳ねたような気がして、楽しくなったネムは顔を覗き込んで唇を奪う。

 まずは強く唇を押しつけ、満足するまで柔らかさを楽しむ。行為を始める際に経験したことだったが、やはり嬉しくなって仕方ない。体の内側からかっと熱くなって、確認しなくても股が濡れていくのがよくわかった。

 続けてわずかに舌を出し、柔らかな唇をぐっと押しつつ、形を確かめるようになぞっていく。

 繋がった口の間からソラの甘い声が聞こえた。また頭の中が熱くなる。

 今度は舌で唇を割って入り、口内にある舌を絡め取った。柔らかい感触で怯えた様子を見せるそれ。何度か撫でるように舐めると、恐る恐る反応を示す。嬉しくなってさらに深く繋がろうと唇を押しつけて舌の絡まりを強くした。

 一挙一動でソラの体が跳ねる。ペニスが独りでにびくびく震えて、いつ我慢できなくなってもおかしくはないが、それだけに彼が我慢する様子がいつまでも楽しめた。

 一挙一動、すべてが愛おしい。

 ネムはソラを溺愛している様子で、飽きることなく彼を愛でる。

 しばらくして一斉に体を離し、彼の小さな体をただ抱きしめた。ぐったりと胸に頭を預けてくるソラを抱きしめ、子供をあやすように頭を撫でてやる。そうする彼女の頬は普段誰にも見せたことがないほどに緩んでいた。

 

 「ソラさん、また出したいんですね。おちんぽぷるぷるしてるからすぐわかります」

 「う、そう、ですけど。だけど、あの」

 「いいんですよ。好きなだけ出してください。出したい時に出して、いっぱい気持ちよくなってくださいね。だけど今度は、手じゃなくて」

 「えっ……?」

 「立ってください」

 

 そう言ってネムはソラの両脇を持って立たせた。

 肩に触れて体の向きを変えさせ、ネムが正座をし、正面から向き合う。

 今にも暴発しかねないペニスが顔の前にあり、微笑んでそっとそこに顔を近付ける。ソラにしっかり見えるよう、ゆっくりと口を開けてペニスに寄っていった。

 ソラの目が真ん丸に広げられ、驚いているのがわかる。期待と不安が入り混じった様子。

 見つめられていることを理解して、ネムは嬉しげにペニスを口に含んだ。柔らかくも芯がある感触が舌の上に乗り、独特の熱さに思わず頬が緩む。

 途端にソラは気持ちいいのか声を発して、歯を食いしばってきつく目を閉じた。羞恥心にまみれた表情である。その顔を見上げてネムは嬉しげに口をすぼめた。

 

 「うっ、あっ――」

 

 ずるずると音を立てて吸いつき、亀頭に舌を絡める。

 ソラが声を発するのが嬉しかった。もっと聞きたい、もっと蕩かしたいと思う。それだけ力と気合いが入ったらしい。

 両手で腰を掴み、ゆっくりした動きで頭を振る。口をすぼめているおかげで吸いつきが強く、唾液が絡みついて、包皮がずるりと動く感触すら気持ちよく感じられた。

 そう長くは持たないと、二人共が思っていただろう。

 遠慮がちにソラがネムの頭へ手を置いた時、それだけで意図が伝わる。射精の瞬間はもう間近に迫っていた。我慢しているが、その上で限界がそこまで来ている。

 

 「うぅ、ネムさんっ、もう無理です……!」

 「んんっ、んふっ、いいんえふよ。いふえも、あして……」

 「あぁっ、はぁ、あっ――」

 

 いつしか自分でも気付かぬ内にソラの腰が前後に動いていた。自らの意思ではなく、我慢することもできないため、本能から来る行動だ。緩やかにかくかくと腰を揺らしている。

 徐々に速度は速くなってペニスが口に出入りする様が大胆になった。

 ソラの顔はもはや限界で、目は蕩けて焦点が合わず、口は半開きでよだれを垂らしている。

 ネムも承知でずずっと一際強く吸いついた。途端にソラの腰が跳ね、悲鳴のような声が出る。

 

 「うああっ、だめぇ!」

 「んっ、ふっ――」

 

 亀頭の割れ目から精液が飛び出した。勢いが強くて喉にまで到達する。一度目を経た後なのに量が多い。出される内からネムは飲み干していき、嬉しそうに喉を鳴らした。

 竿の律動が止まるとゆっくり口を離す。

 見せつけるように口を開いたネムの舌の上には、敢えて飲まなかった精液が乗せられている。唾液と混ざって白濁液の中に泡が見え、羞恥心を感じてソラの顔が赤く染まった。

 見せつけたまま、ネムがそれも飲み込む。

 再び口を開いた時には口内に精液は残されておらず、すべて体内に運ばれていたようだ。

 どこか誇らしげな顔のネムは最後にちゅっと萎えたペニスの先にキスをすると、膝立ちになってソラの顔を抱きしめた。豊満な胸に顔面が埋まり、力を失ったはずのペニスがまたむくむくと頭をもたげ始める。柔らかい感触に安心感が生まれ、ふと気付けば両手で触れていた。

 彼が女性の胸を好んでいるのは服を脱いだ時点でわかった。柔らかで大ぶりなそれが露わになった途端、恥ずかしがりながらも目が釘付けになり、しばらく我を忘れて見入っていたのだ。これで気付かないという方がおかしい。

 可愛らしい彼を力強くぎゅうと抱きしめ、息苦しさから暴れ始めるまで解放しなかった。

 離した後は正面から見つめ合い、またネムがソラの唇を奪う。小さなリップ音を鳴らしながら何度も触れて離れて遊び、最後に舌を絡めてやめる。主導権を握っていたのはネムだった。

 ネムから離れて見つめ合い、潤んだ瞳に気を良くする。

 大人ぶっていたがもう限界だ。すべて資料を読んで知識としていただけ、経験はない。そのため余裕など少しも残っておらず、股間が熱くなって今すぐそこを掻きまわして欲しい。落ち着いた笑顔を見せながらも今の彼女は飢えた獣のようであった。

 

 「んっ……ソラさん。子作り、しましょう」

 「あ、あ、あのっ」

 「したく、ないんですか? おちんぽギンギンなのに」

 「うっ……し、したい、です。お願いします……」

 「はい。よろしくお願いします」

 

 ネムが自ら布団の上へ横たわり、何も言わずに脚を広げ、両手を股へやる。

 そんなことをした経験は皆無だが、自らの指で秘所を開いた。昼時の室内ではそこがはっきりと目に映り、見惚れたソラが息を呑んで凝視する。

 まだ誰も知らない、きれいなピンク色のそこ。

 頬を赤らめて微笑むネムの顔を見て、意を決し、ソラは痛いほどに勃起したペニスを握る。

 

 「い、いいですか、このままで」

 「はい。もう十分濡れています。あとは、それを、ここへ。私のおまんこへ入れてください」

 「は、はい。それじゃあ、いきます」

 

 亀頭を膣の入り口へ当て、ゆっくりと腰を前へ突き出した。

 濡れたそこへずぶりと入りこんでいく。柔らかく、熱い感触。ソラが耐え切れずにため息を洩らした。どこか必死で呆けた顔である。

 ネムもまた、彼の感触を感じていた。柔らかいようで硬い、熱された鉄の棒にも思える。初めての感覚は思いのほか痛みを伴わず、ただ腹の中に入り込む異物感は否めない。

 ずぶずぶと奥へ進んでいくと、亀頭が膜を見つけた。触れた瞬間にソラが肩をびくつかせる。

 それを破れば、行為が始まったということになる。ネムと一つになったという証明だ。言いかえればそれを破らなければ真に彼女と一つになったことにはならないだろう。

 一瞬不安を露わにしたが、彼女と目を合わせて覚悟を決める。

 ソラの腰は勢いをつけて前へ進み、一思いに膜を破った。ネムがきつく目を閉じて小さく声を出す。しかし辛そうな顔には見えない。

 その時にはソラに余裕が無くなっており、気付けば自分も知らない内にネムに抱きついて腰を振っていた。大きな乳房に顔を埋め、挟むように両手で押さえている。我を失う快感の中であっても自分の好みは変わらないようであった。

 勢いをつけて腰が振るわれる。ペニスは思う存分好き勝手にネムの膣内を荒らし、亀頭で壁を抉り、狭い道を無理やりに広げた。

 初めて異性を受け入れる膣を自分の形に変えるように。無言で何度も出入りを繰り返す。

 荒い呼吸だけで室内が満たされ、二人は目を閉じて快感と行為に集中していた。

 

 「ハァ、ハァ、んんっ、はっ――」

 「あぁっ、んっ、んっ、ソラさん……」

 

 ネムの両腕はソラを抱きしめ、離さないと言わんばかりに頭を掻き抱く。同時に長い両脚が彼の体に回されて捕えていた。

 しばし無言で時を過ごす。腰が止まる時間は一秒となく、どれだけ疲れようが必死に動き続ける。ソラの動きには慣れが見えた。日頃から女を抱いている動きだ。

 それに気付きながら、今だけは無視したい気持ちで。ネムは目を閉じて彼の息遣いを耳にする。

 わずかな甘い声と荒くなった呼吸。自分で感じているのだ、という達成感にも似た何かを感じていた。それはそのまま、幸福感とも直結する。

 気付けばネムは蕩けた笑みを浮かべていた。目を閉じたまま、好きな男に抱かれる女の喜びを知る。快感を感じているかどうか、今はまだわからない。それでもソラと繋がって、彼が自分の体に夢中になり、感じてくれているのだと思うとそれだけで胸の中が温かくなってくる。そして同じだけ、股の内側が熱くなってくるようだった。

 甘い声をわずかに洩らし、ネムは何度となくソラの名を読んだ。

 彼の名を口にする度、言葉にする度体がぽっと熱くなる。どうしようもない感覚で頭が悩まされ、頬が緩んで仕方なかった。こうなっては自分を制御することもできない。

 ネムは尚のことソラに強く抱きつき、彼が苦しげに胸から顔を離しても力を緩めなかった。

 

 「あぁっ、ソラさんっ。ソラさん、ソラさん――」

 「はい……うくっ、ここに居ますよ、ネムさん」

 「んんんっ、あはっ、はぁんっ」

 

 いつの間にか下腹部から聞こえる音がぐちゃぐちゃという卑猥な水音に変わっていた。肉がぶつかる音に混じって中から掻き出された体液が飛び出ているらしい。認識するとネムの顔が赤くなり、恥ずかしがって逃げるようにそっぽを向く。

 ソラの目はそんな彼女の顔をしっかりと見つめており、余計に腰の速度が速くなった。

 もはやラストスパートをかける様子。上から両手で胸を鷲掴みに、押し潰すようにしつつ、彼女の体を押さえつけて腰を叩きつける。

 ネムの声は明らかに甘くなっていて、今では確かな快感を感じているようだ。これだけ濡れていれば当然か、とも思うが言葉にはしないでおく。今はそれよりも先に射精したかった。

 限界まで張りつめたペニスが膣内の愛液を掻き出しながら出入りを繰り返し、ついにその時が来ると、硬いそれは限界まで奥を目指して進む。

 ソラの腰が突如止まった。そこでうっと小さな声を洩らし、腰が震える。

 射精は何も告げられずに始まり、ネムの子宮を目指して子種が注ぎ込まれた。

 両者の腰がびくびくと震え、それから動きが止まる。

 しばし静寂が部屋を包み込んだ。どちらもすぐには動き出さずに倒れたまま、乱した呼吸を整えようと深く息を吸い、吐いてを繰り返す。

 しばらくして、ソラがゆっくりとペニスを抜いた。二人分の体液に濡れたペニスはいまだ半ばほど硬度を保って完全に萎えたわけではない。

 ソラは緩慢な動作でネムの腹を跨いで座り、乳房の間に濡れたペニスを置いた。そして両手で胸を寄せ、ペニスを挟むと腰を動かし始める。

 呆けたネムと目を合わせながら、卑猥な動作で頬が紅潮していた。

 

 「ハァ、ネムさん、ごめんなさい……もうちょっと、もうちょっとだけ」

 「はい、いいんですよ。もっとしてください。私もソラさんと、したいんです」

 

 ネムがソラの手を除け、自ら乳房を寄せてペニスを挟む。

 これによってソラの手が空き、今度は両の乳首を指で摘んだ。ネムがわずかに反応するが制止の言葉は出さない。されるがままを受け入れている。

 そうしてずるずると彼女の胸に体液を塗りたくり、快感もピークに達した頃。

 再びソラはその時を迎え、ネムの顔を見つめたまま喘ぎ、余裕がない状態で言った。

 

 「あぁっ、ネムさんっ。く、口を開けてっ」

 「はい、どうぞ。私の顔に、ぶっかけてください」

 「うぅ、うああっ――!」

 

 またも勢いよく精液が飛び出す。胸に扱かれて出たそれらは宙を舞い、口を開いて待ち受けたネムの顔面に降り注ぎ、容赦なく汚していく。

 肌に白く塗り、舌の上にも乗せて、射精が終わる頃には彼女の顔は白く染まっていた。怒るどころか満足げな表情である。

 呆けた顔でソラが見ていることを確認し、舌の上に乗った精液を飲み、その後で少し顔を起こしてペニスに舌を近付ける。亀頭の割れ目だけを舐めてきれいにしつつ、ダメ押しの刺激を与え、手で根元を扱くと尿道に残っている分も押しだした。

 すべて飲み終え、ソラの顔を見上げる。肩で息をする彼は不思議と心ここにあらずといった様相でしばらく黙ったまま動かず、ようやく口を開くと申し訳なさそうにしていた。

 

 「ご、ごめんなさい……顔、汚しちゃって」

 「いいえ、いいんです。私は嬉しかったんですから」

 

 ぺろりと亀頭の割れ目を舐め、ネムはソラに体の上から退くよう促した。

 言われるがまま彼が畳に正座して座ると、ネムも起き上がり、愛おしげに自身の股を撫でる。子種を注がれた秘所からは、少量内部から精液が垂れているものの、確かに子宮に届いた。

 肉体改造の影響か、すでに体内が動いている気がする。子供を作ろうとしているのか、或いはもう出来ているのか。どちらにしても嬉しいことだ。

 ネムは自身の腹を撫でて嬉しそうに微笑んでいた。これで任務は達成。マユリの言いつけは守ったことになり、これ以上の行為に意味はないとも言える。

 しかしネムはそんなこと一切言わず、呆けるソラへ笑いかけるとやさしく声をかけた。

 

 「ソラさん、もう少しお付き合い頂いていいですか? お願いしたいことがあるんです」

 「は、はい。なんでしょう」

 「お尻を、舐めさせてはくれませんか」

 「お、お尻?」

 「はい。お尻の穴を舐め舐めして、舌先でぐりぐりってして、ソラさんが感じる声を聞きたいんです。ほんとはもっとおちんぽも舐めて、たまたまもちゅぽちゅぽしてあげたいんですけど、私の顔に乗るとソラさんがおっぱい弄れるでしょう? 私のおっぱい、いくらでも好きにしていいですから。揉んでも、舐めても、吸っても構いません。ですからどうか、ソラさんの体にもっともっと触れさせてください。ソラさんの気持ちいい声、聞かせて欲しいんです」

 「う、あ、あの――」

 

 微笑んだネムが自分の胸を両手で下から持ち上げ、たぷんと揺らす。

 その柔らかそうな様でソラの顔は釘付けになり、抵抗よりも先に興奮で上り詰めた。

 途端にわかりやすくペニスが勃起し、ぶるりと揺れる。すでに先走り汁を垂れ流していて期待していることがよくわかった。おかげでネムの笑みにも余裕が浮かぶ。

 

 「いかがですか?」

 「お、お願いします……えっと、僕はどうすれば」

 「もう一度私が寝ますから、顔の上に座ってください。それだけでいいんです。その状態で、おっぱいを好きなだけ弄っていてください」

 「は、はい。そんなことでよければ」

 

 宣言通りにネムが仰向けで寝転び、その顔の上にソラが座る。一応気を遣って体重をかけないようにしつつ、尻の穴が口元へ行くようにした。

 そうした後は彼の視線は大ぶりの乳房しか見ておらず、嬉々として手を伸ばして揉み始める。指を埋めて掌を押しつけ、ふにゅりと柔らかい感触を楽しみ、二つを寄せてみたり、反対に引っ張って離してみたり、手を挟んだりと好き放題だ。

 乳首を弄ることも忘れなかった。指先で摘んで、引っ張って、飽きることなく楽しむ。

 ネムはそんな彼の刺激を味わいつつも、自らも舌を伸ばして尻の穴に触れる。

 本来ならば屈辱的な格好かもしれないが、彼女にとっては至福の一時。ソラに触れられて、触れることができるのだ。これほど幸せな時間はない。

 

 「んふっ、ソラさんの味……」

 「あぁ、恥ずかしいですっ」

 「我慢してください。これで気持ちよくなれますから。あとでおちんぽとたまたまもたくさんしゃぶってあげますね。それから、もう一度せっくすもしましょう。おまんこにおちんぽ突っ込んで、ぐちゅぐちゅ掻き回して、せーしは子宮に注ぎ込んでください。ソラさんの子供なら、何人でも産みますから。兄弟でも、双子でも、三つ子でも。たくさん家族を作りましょうね」

 「は、はいっ」

 

 力を入れて胸を揉むソラに気分を良くし、ネムの舌が尻穴の中へと突き入れられた。

 ぐりぐりと内部で動かせば面白いほど尻が跳ねて反応が来る。ネムの笑みが柔和になって執拗なまでにしゃぶり尽くし、丹念にそこをすすった。

 じゅるると卑猥な音を立てながら、彼女は心の中では謝っていたようだ。

 

 (申し訳ありませんマユリ様……もう少しだけ、ソラさんとせっくすすることをお許しください。せめて、今日だけでも。もう少し、このままで――)

 

 本来ならばすでに帰っているところを、命令無視と取られかねない行動で彼女は屋敷に留まり続けた。一重にソラとの行為に没頭していたためである。

 結局ネムはこの日、夜になって砕蜂が帰ってくるまでソラの傍を離れず、一度でいいところを何度も子宮に精液を受け取ったため、帰ってきた瞬間に嫉妬した砕蜂にしこたま叱られることとなった。それでも彼女の笑みは幸せそうで、どうやら説教も効果がなかったようである。

 



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 朝日が昇って眠りから覚めた後、ソウル・ソサエティの一角で、四楓院家の屋敷にある日常は問題なく続いていた。

 食事を取って、身支度を整え、今日も仕事へ出ようとしている。

 布団の上で目覚めた瞬間から二人はいつも通りに触れ合っていたが、玄関口に立ったその時、改めて向かい合い、そっと手を伸ばした砕蜂がソラの頬へ触れ、唇を合わせた。

 隙間が生まれないようぴったりくっつき、何度も舐り合う。

 舌が絡んで、彼女の体温が伝わり、それだけでソラは幸せそうだ。目を閉じているが、明らかに普段より表情が緩んでいる。これが好きだということだろう。

 目を開いたままそれを見る砕蜂も気分を良くしている。

 しかし近頃の彼には、少し気になることもあって。

 自らが決めた事柄とはいえ、近頃のソラの女性関係は派手になり、広くなっている。確かに好きにすればいいと言った。だが嫉妬しない訳ではないのだ。

 可愛らしい彼が他の女に誑かされているとあって、実は仕事中も気が気ではない。

 やはり失敗だったかと思う瞬間もある。

 唇を離した時、砕蜂はソラの目を覗き込み、囁くように注意する。それでいてどこか目つきはやさしく、声色には子供っぽく拗ねる様子が伺えた。

 ソラはキスで蕩けたまま、彼女の視線を受け止める。

 

 「ソラ。最近おまえは他の女にうつつを抜かし過ぎる。許可を出したのは私だが、ほどほどにしておけよ」

 「す、すみません。でも、みなさんがいらっしゃるので、その……」

 「おまえは求められれば誰にでも股を開くのか」

 「ち、違います。だけどみなさんは、知らない人じゃありませんから、断るのも悪いかと思って……」

 「自分の意志をしっかり持て。周りに流されてばかりでいるな」

 

 もう一度唇同士が触れ合い、強く押し付けられて、ソラが小さく呻く。

 甘く、切ない、どちらとも取れる感触だった。

 あっさり離れて、二人は静かに見つめ合う。

 

 「今まで何度も言った。これからも何度だって言う。ソラ、おまえは私の物だ」

 「はい……」

 「誰に抱かれてもそれだけは忘れるな。常に私の存在を頭に残しておけ。いいな?」

 「はい。わかりました」

 「それだけの時間もかけてきた。おまえとの間にある絆も、誰にも負けないつもりだ……そうだろう?」

 

 少し不安を感じさせる顔で言われた。

 ソラもまた不安げになってしまい、頬を掴んだままの彼女の手に、自分の手を重ねてしっかり握り、表情を変えてゆっくりと微笑む。まるで彼女を安心させようとするかのように。

 

 「僕もそう思います。砕蜂様のこと、誰よりもお慕いしています」

 「フッ……そうか」

 

 胸の中にやさしく抱き留められ、ソラは安堵した。

 自分の言葉に嘘はない。

 長い年月が二人の絆を確かな物とし、今や誰にも邪魔できないほどとなった。それはひとえに、二人が同じ痛みを抱いていたから。まるで傷を舐め合うが如く、互いの心を理解し合った。

 ソラもまた強く彼女へ抱き着き、離さないように腕へ力を込める。

 しばらく抱き合ってゆっくり離れた。

 こうした二人の時間は離れ難い物がある。けれど行かなければ。

 履物を履き、外へ歩き出した砕蜂は振り返らずに呟く。

 

 「前にも言ったが、外から人が来ても中には入れるな……旅禍の可能性がある」

 「まだ、見つからないんですか」

 「厄介な連中だ。何度か目撃して戦闘が行われているが、まだ捕まえられていない」

 「そうですか……あの、怪我人などは」

 「おまえが心配しなくていいことだ。治療なら四番隊が動いている」

 「でも、僕にできることならお手伝いを――」

 「おまえはここを離れるんじゃない。いつ危険が迫るとも知れんからな」

 

 横開きの扉を開けて、わずかに砕蜂が振り返った。

 表情には一抹の不安が伺える。

 

 「ここなら護衛が居る。危険はない」

 「はい……砕蜂様も、お気をつけて」

 「私のことなら心配いらない。すぐに帰ってくる」

 

 砕蜂がふわりと微笑んだことで、ソラの顔からも心配が消えた。

 

 「夕食を支度しておけ。今夜は二人で食べるぞ」

 「はいっ!」

 「他所の女は入れるなよ。今日だけでも絶対に断れ。いいな?」

 「う、努力します……」

 

 最後にソラの頭を撫で、砕蜂は出かけて行った。

 その背が見えなくなるまで見送った後、一人残ったソラは扉を閉めて屋敷の中へ戻る。

 大きな屋敷に二人暮らし。管理はすべてソラが行っている。家事全般はすでに得意と言える域に達しており、また本人も苦としておらず、楽しんでいる節がある。

 彼はいつも通りに自分の仕事を始めた。

 毎日掃除しているためか、部屋もさほど汚れておらず、簡単な作業だけであっさり終わる。

 優雅とも思える時間の過ごし方であった。

 ゆったりと一日を過ごしている中で、変化があったのは砕蜂の出発からほどなく。およそ一時間が経った頃だろうか。何の前触れもなく、それはやってきた。

 縁側を歩いている時に小さな鳴き声が聞こえてきたのだ。

 気付けば庭に一匹の黒猫が居る。

 珍しいこともあったものだ。普段四楓院の屋敷には、たとえ動物であっても近付かない。風格に怯えてか、それとも砕蜂を恐れてかは定かでないものの、ソラは猫を見つけて珍しいと思う。

 掃除もそこそこに足を止め、ふと気になって声をかけてみた。

 

 「どうしたんだおまえ。迷子になったのか?」

 

 黒猫はソラを見上げて鳴き声を発するだけ。動く素振りはない。妙に人懐っこいせいなのか、ソラに対する警戒心さえも感じられなかった。

 気になって見つめていると猫が歩き出す。

 縁側のすぐ傍までやってきて、間近から見上げてきた。

 ソラは縁側へ腰掛け、両手を伸ばしてその小さな体を抱え上げる。そうして、膝の上に乗せた。

 

 「どこから来たんだろう。この辺りでは見かけなかったけど」

 

 大人しく座ったままなのでやさしく頭を撫でてやる。

 不思議と心が安らいだ。

 久しぶりに肩の力が抜けたような気がして、なぜだか懐かしい気分にもなる。そういえば猫を見たのなどいつ以来か。初めてではないが、もうずいぶん昔のことのように思える。

 微笑んだ状態で、しばし黒猫を撫で続けた。

 すると、安堵していた様子の黒猫が、突如人の言葉を操り始める。

 

 「変わっていないようで安心したぞ、ソラ。もう何年振りじゃろうな」

 「えっ? 今のは――」

 

 他に誰かが居るのかと思って辺りを見回した。しかし誰も居ない。

 誰の声だったのだろう。

 それがわかるより先、ボフンと白い煙が立ち上って、ソラの全身が包まれた。視界が真っ白に染まって何も見えなくなる。同時に、誰かに押されて床へ倒されてしまった。

 

 「うっ、わっ――!?」

 

 訳も分からず悲鳴を上げて倒される。

 いつの間にか黒猫の姿が消えていて、代わりに真上に居るのが人間なのだとすぐに気付いた。褐色の肌で凹凸の激しい裸体を晒し、ソラの顔を挟むように手をついていて、にやりと笑う悪戯っぽい表情が視界に入る。あまりにも見覚えのある、もう努めて忘れようとすらしていた顔だ。

 ソラはひゅっと息を呑み、全身を硬直させた。

 忘れるはずがない。

 ずっと心の奥底に秘められていた思いが一気に溢れ出してくる。

 目の前に居るのは間違いなく、この屋敷を去ったはずの四楓院夜一だった。

 見るからに上機嫌で、それでいて懐かしさを滲ませる子供のような笑顔。間違いないという確信はさらに強まり、自覚した瞬間にソラの目に涙が溜まる。

 今にもこぼれ出しそうなそれを見やって夜一がくすぐったそうに笑う。

 両手で頬を掴み、ぎゅっと顔の形を変えて、おどけるように声をかけた。

 

 「ふふふ。ほれ、よく見ろ。おまえのよく知っとる顔じゃろう」

 「ど、どうして……?」

 「なんじゃ、せっかく会いに来てやったのに。もう少し喜んでくれるかと思っておったが」

 「だ、だって、夜一様っ――!」

 

 明らかに動揺しているソラを目にして、夜一は彼の頭を胸に抱いた。

 布も通さず、直に肌へ触れて、妙に懐かしい心地になる。昔はこうして抱かれていた。きゅっとやさしく力が入る手が久々で、自然と動揺した心が落ち着いていくかのよう。ふにゅりと柔らかい大ぶりの乳房。何度この胸で眠ったかわからない。

 すぐ大人しくなった彼の頭へ頬ずりする。

 彼女にとっても嬉しい瞬間。この感触は何も変わっていない。

 頬が緩んでしまうのも仕方なく、どうしてもだらしない笑みになってしまった。

 

 「はぁ~、これじゃこれ。やっぱりソラに触れていると落ち着く」

 「あ、あの、夜一様……」

 「うん? どうした?」

 「まだ、何がなんだかわからなくて。戻ってこられたんですか?」

 「うむ。まぁ、色々あった。すべて説明するには時間がかかる。とりあえず」

 

 両手がいそいそと服の下へ手を差し込まれ、脱がそうとする。

 突然且つ身勝手な行動で、思わずソラが抵抗しようするも、やんわりと夜一が押し留めてそうはできなかった。勝手知ったる様子で下着まで取り去って裸にしてしまう。

 再会から数秒。あっという間に裸で抱き合っている。

 異様な状況だが、まだ現状を正しく理解できないソラには何も言えない。

 いつ以来か。

 改めて抱き合って、肌と肌が触れる感触に両者とも頬の紅潮を抑えられなかった。

 

 「よ、夜一様……」

 「先に、こっちを楽しませてもらうとするかの」

 

 一体何年振りの瞬間となるのか。喜々として肌が撫でられる。

 その手触り、どれだけ待ち望んだかわからない。再びこの地へ来ると決まって以来、絶対に会おうとは決めていたがチャンスを待つ必要があった。それだけに我慢の時間は長く、この瞬間に辿り着くまで悶々とした時間も多くて、今更我慢などできない。するつもりもなかった。

 夜一がソラの首筋へ顔を埋め、ちろりと舌を伸ばす。

 わずかに触れられただけで彼は身じろぎして、嬉しさと戸惑いが入り混じり、小さく声を漏らす。そんな態度もまた夜一がよく知る物。だがソラの躊躇いにも気付いていた。

 

 「ひぃっ」

 「ん。良い反応じゃ」

 

 ちろちろと舌を動かして肌を撫でる。

 恥ずかしがっているが嫌がってはいない。ただ戸惑っているのは確か。

 ソラの中では複雑な気持ちが入り混じっていた。砕蜂に対する罪悪感、夜一に対する恋慕。同時にあってはならないと知っていながら自分ではどうすることもできない。どちらも大事で、捨てられるほどの軽さではないのだ。選ぶような真似はできずにいる。

 抵抗すべきか、受け入れてもいいのか。態度に迷いが表れていた。

 それを気にしつつ、我慢できない様子の夜一は尚も続ける。

 

 「どうした、嫌か? わしを嫌いになってしまったのか」

 「ち、違います。でも、ただ、僕は――」

 「なんじゃ、言ってくれ。気遣う必要はない。おまえの素直な気持ちを」

 「僕は……砕蜂様に、お仕えしています。ですので、夜一様とこういうことをするのは……」

 「ふむ。そういうことか」

 

 納得した様子で呟かれた。だが一方で肌を撫でる手は止まっていない。

 全く気にした様子もなく触れられるため、ソラはやはり戸惑ってしまう。

 

 「あ、あの……?」

 「それに関しても色々言いたいことはある。じゃが、まぁとりあえずは良いではないか」

 「ちょ、ちょっと!? その前に、砕蜂様に会いましょうよ。ね?」

 「だめじゃ。あれに見つかるとうるさくなる」

 「よ、夜一様ぁ……!」

 

 腕や腹、太ももを撫でていた手が不意にペニスへ触れる。すでに痛いほど勃起していた。首筋へのキスや肌への愛撫だけでなく、久々に合わさる彼女の肌に我慢できなかったらしい。

 複雑な心境とは裏腹に、体は夜一を求めている。

 それが恥ずかしくもあり、情けなくもあって。

 頭の中には砕蜂の顔があって、必死に抵抗しようとソラが顔を背けるのだが、それでも逃がそうとしない。夜一の手がペニスを扱き、閉じられた唇を舌で舐め始める。

 

 「うぅ、はぁ……」

 「おぉ~、久しぶりに見るのう、その顔。ずっとこうしたかったんじゃ」

 「はぁ、だめです、夜一様……僕には、砕蜂様が」

 「なぁに、元を正せばあれもわしの身内。おまえもわしの身内。ならこうすることになぜ罪悪感を抱く? まったく問題ないじゃろうに」

 「う、あぁ、だ、だけど……」

 「そうして感じていればよい。少なくとも今はまだ」

 

 指先で裏筋を撫で、明らかに息遣いが荒くなっていく。

 感じる場所は変わっていない。撫でているのが楽しくなってきた。

 夜一は上機嫌な笑顔になる。

 

 「ほれほれ、ここを弄られると我慢できんじゃろう? 出したい時に出していいぞ」

 「う、うぅぅ……」

 「くくくっ。おまえは変わらんなぁ。それでこそソラだ」

 

 しつこく何度もペニスを撫でながら、唇を舐って、頬にまで舌を這わせる。

 些細な挙動一つで動きが大きくなった。それが可愛らしくて、愛おしくて、久々の再会に心が躍る。嬉しくなって仕方ない。

 耳の中へ舌先を突き入れ、遊ぶように股を擦り付ける。

 まるで彼の脚を使って自慰をするようだ。また頬が緩んで、動きは大きくなるばかり。

 のしかかる様子でねっとりした責めが続き、ソラの声が艶やかに変化していった。

 

 「あっ、あぁっ……!」

 「ふふん。どうじゃ、衰えておらんだろう」

 「うぅっ。だ、だめですっ……!」

 「お、イクか?」

 

 抵抗の動きが徐々に大きくなってきて、ソラが強く歯噛みする。

 もう絶頂が近いのだろうとわかっていた。

 小刻みに震えて、きつく抱き着いてきて胸に顔を埋める。子供っぽくも昔と変わらない仕草だ。しがみついてくるのは愛情の表れで、また嬉しくなる。

 手の動きが速くなって、ペニスが高速で扱かれ始めた。

 ソラの動きがさらに顕著となり、悶えるように脚が震える。

 

 「うあぁっ、あっ――!」

 

 手による刺激でソラが達してしまう。ペニスからびゅっびゅっと精液が飛び出し、夜一の手や、自身の下腹部を汚した。ぬるりとした感触を得ながら尚も刺激し、最後の一滴まで搾り出される。

 ひとまず夜一は満足した様子だ。

 指を広げてねちゃりと伸びる感触を楽しみ、呼吸も荒く目を閉じるソラを眺める。

 胸に顔を埋めた状態で甘えるのは彼の癖。

 彼女もそれを受け入れて、左手で頭を撫でてやり、右手では尚もペニスをゆるりと撫でた。

 

 「んん、イッたな。どうだソラ?」

 「う、はぁ、んんっ……き、きもちよかった、です」

 「ふっふっふ、そうだろうそうだろう。では続きを」

 「あっ、それは……!」

 

 やさしく撫でられたことですぐに勃起してしまい、硬くなってそそり立つ。やはり彼のツボを理解しきっているようで手慣れた仕草。撫でる指にも余裕がある。

 体を起こした夜一は彼の体を跨いだ。

 触れられずともしとどに濡れている陰唇を自ら指で開き、ペニスの先端に宛がった。

 濡れた膣の入り口と亀頭が触れ合う。

 流石にそれはまずいと感じたのか、ソラが血相を変えて起き上がろうとした。しかし夜一が左手一本で胸を押さえ、起き上がれない状態にさせて腰をくねらせる。

 上機嫌でひどく楽しそうな笑顔だった。

 

 「久しぶりの、ソラのちんぽ。楽しませてもらうぞ」

 「ううぅ、あぁっ……だ、だめっ――」

 

 腰が下ろされ、ずるりと入り込んだ。

 蕩け切った肉の道にペニスが奥まで挿入される。

 包み込むようで、ぎゅっと握るような、柔らかくも強い感触。そんな不思議な空間に捕らわれてソラは首を逸らし、目を見開いた。

 こんな風に繋がったのはいつ以来だろう。

 焦りながらもその想いが重なって、凄まじい快感が骨の髄にまで響き渡る。

 膣に包み込まれたペニスは逃げられないように囚われているかのよう。

 夜一の表情が明るくなり、ソラの顔色も赤みを増していくばかりだった。

 

 「あっ、はぁ……やっぱり、んん、いいな。ソラ、どうじゃ?」

 「はっ、あぁっ……!」

 「ふふ、感じておるな。おまえはそのままでいい。わしが動くから――」

 

 夜一が腰を動かし始めて、上下にペニスが扱かれ始める。

 長い年月を越えて、再び味わうその感触。

 気分の高ぶりも相まって平静が保てなくなり、見る見るうちに余裕が削られていく。

 歯を食いしばるソラは夜一の乳房を掴んで、きつく目を閉じて縋るように抱き着いていた。見るからに余裕がないとはいえ、指は密かに動いており、柔らかい乳房を揉んでいる。本能的に彼女を求めているのかもしれない。可愛らしいと思って夜一の口の端が上がった。

 

 「おぉっ、おっ……! くっ、はぁぁ。すごい、な……体の芯まで、来るっ」

 「あっ、あっ、よるいちさま……! だ、だめです、も、もうっ――!」

 「ふっ、い、いいぞ。そのまま、ナカに」

 

 弾む尻の動きが活発になり、先端から根元までを激しく膣内で扱きあげる。

 ぐぽっと卑猥な音が鳴る度にしぶきが飛び、互いの呼吸が荒く、吐息が熱くなる。

 きつく抱き合ってもはや我慢すらならない。

 ソラは突発的に射精してしまっていた。

 いまだ余裕がある夜一は楽しげに彼の精液を受け止めてやり、膣内が精液で満たされる。それすらも甘美。長い間我慢していたせいか、激しい高揚感を感じて全身が震えていた。

 

 「あっ、で、るぅ……!」

 「んんんっ、来たぁ」

 

 びゅるびゅると注ぎ込まれていき、搾り取ろうと膣内のひだが激しく動く。

 体を震わすソラは凄まじい快感を覚えたまま、溺れるように時折呼吸を途切れさせた。平静を保つことができない。物を考える余裕さえなかった。

 全身が大きく震えた後、ぐったりして脱力してしまう。

 ただそれでも夜一の胸から手は離さなかった。初めての経験が彼女で、元々彼は大きい乳房に触れていると安堵する癖がある。そこに触れているだけでも落ち着けるようでそもそも離す気がなく、呼吸を荒れさせて我を忘れながら、しっかりと掴んだままだ。

 余裕を持ったままの夜一だったが、今の射精は堪えたらしい。

 久々に感じた、膣内を満たす子種。自らを孕まさんと活発に動く男の性。

 ソラとの日々が思い出されるようで、軽く絶頂を感じていたようだ。

 彼女もまたぐったりと四肢を投げ出してしまい、ソラの上へのしかかる。多少重さは感じるものの、決して嫌ではなく、胸に顔を埋めて頬ずりしながら顔が上げられた。

 

 「はぁ、んっ、夜一様……」

 「ああ……私も、イってしまったようじゃ。やはりおまえと居るのが一番良い」

 「そ、んな」

 「待たせて悪かった。じゃがな、これだけは言わせてくれ。儂がおまえのことを忘れた日など一日たりともない」

 

 目を合わせて真正面からそう言われる。

 その一言で、ソラは目に一杯の涙を溜めた。

 これまでずっと理由がわからなかった。なぜ彼女は姿を消してしまったのか。誰にも聞くことができず、砕蜂と二人、今日までずっと悶々としたまま過ごしてきた。

 まだ理由はわからない。それでもわかったことは一つ。

 彼女は自分を嫌いになったから置いて行った訳ではないらしい。

 それがわかっただけでも救いだった。

 安堵した様子でソラが胸に顔を押し付け、きつく目を瞑る。長い間、本当に苦悩していたのだろう。複雑そうに、薄い微笑みを浮かべて、夜一は彼の頭を撫でた。

 互いに抱きしめ合って時を過ごすのも、遠い日の記憶。

 今は触れられる距離に居る。

 離れていた期間の溝を埋めるように無言で抱き合う。いつの間にかソラは小さく嗚咽を漏らしているようで、涙を流していたのかもしれない。それを知るのは夜一だけだ。

 しばらくして、二人が落ち着き始めた頃。

 悪戯っぽく笑う夜一は、性交を続けようとまた腰を振り始めようとした。

 彼女の膣からずるずるとペニスが抜かれていく。

 ソラがあっと声を漏らすため、楽しそうに夜一が笑った。

 

 「これで終わりではなかろう。まだ足りんのじゃ、ソラ。もっとおまえを抱きたい」

 「あ、あの、でも……砕蜂様が」

 「あとでちゃんと説明する。だから今は、な?」

 「う……」

 

 夜一から唇を奪い、静かなキスが始まった。ただ押し付けるだけでむっちりと触れ合う。

 同時に再び膣がペニスを呑み込んでいき、根元まで納められる。

 声が聞こえてきたのはその瞬間だった。

 

 「ソラっ!」

 

 庭へ降ってきた声に気付き、二人はすぐに振り返った。

 血相を変えてやってきた砕蜂と目が合う。裸で抱き合い、繋がる姿をしっかり見られた。

 その時、確かに夜一と視線が合って、瞬時に砕蜂の顔から表情が消える。怒りも憎しみも、感動や驚愕もなく、悲しみも表されていない。全くの無であった。

 辺りの空気が一変する。

 彼女のせいだろうか。それとも他の理由があったかはわからない。

 重苦しい静寂が辺りへ降りかかり、しばしの間、何一つ音が消えてなくなる。

 動揺するソラにも気付けぬまま、砕蜂と夜一が、静かに見つめ合っていた。

 



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“雀蜂”

 今回はエロなし。
 ストーリー部分です。


 四楓院の屋敷を離れて数里。

 周囲に被害を及ぼさないよう移動した後、砕蜂はふと足を止めた。

 すぐ後ろからは夜一がついて来る。数メートルの距離を置いて地面に着地し、身に纏う余裕とは裏腹に、どことなく緊張した面持ちで彼女の背を見つめていた。

 

 服を着る時間を待ってやるだけの冷静さはあった。そのため今の夜一は裸ではない。

 一方で移動を終えた砕蜂は隊長であることを示す羽織を脱ぎ、足元へ捨てる。

 肩と背の布を省いた、肌を露出させる黒装束を露わにして、振り返る。

 

 重苦しい空気が漂う。

 それもこれも、いつ振りかという再会になるからだ。

 

 かつて砕蜂は夜一に心酔していた。彼女のために命を使い、その身を守り、いつ死んでも悔いはないという生き方をしていた。それは今から何年前の話であったか。

 だがそんな彼女を置いて、ある日を境に夜一は姿を消したのである。

 砕蜂を、そして彼女が無償の愛を与えたソラを残して、何も言わずに消えてしまった。

 そうと知った瞬間から、敬愛はすでに憎悪へと変わっている。

 

 ゆっくり振り返った砕蜂の表情は驚くほど穏やかで、目にした夜一は思わず驚く。

 

 会えなくなった日を境にして、彼と自身がどれほど悲しんだか、目の前の彼女は知らない。

 それでいいと思う。知って欲しい訳でもない。

 今はただ彼に会わせたくないだけだ。

 

 自身のことはまだいい。我慢もしようと考え直す。だが決してその件について口を開こうとしなかったソラが、人知れず涙を流していると知っている現状、悪びれもせず戻ってきた彼女を許す気はなかった。彼の涙を見たその日から必ず殺すと決めている。

 言わば今はチャンスを与えられたのだろう。願っても無い機会だ。

 

 砕蜂は夜一を見つめ、穏やかな笑みを見せる。

 意外なその姿には夜一も動揺を隠せない様子だった。

 

 「まさか、こうして貴様と再会できる日が来るとはな」

 「んん? 嬉しそうじゃな。ひょっとして儂に会いたかったのか?」

 「そうとも。会いたくて会いたくて堪らなかった」

 

 緩慢な動作で腰にあった刀が抜かれる。

 彼女の斬魄刀は他の隊員が持つ物よりよほど短い。せいぜいが脇差程度の刃渡りだ。

 それを逆手に持ち、右腕をだらりと伸ばして、力を抜いて立つ。

 

 奇妙なほど穏やかであると気付いていた。しかしそれも一言交わす間だけ。

 次の瞬間には全身から殺気が発され、凄まじいプレッシャーが叩きつけられる。

 

 「嬉しいよ。貴様をこの手で殺す日が来て」

 

 笑みを消して、殺意を込めた目で睨み、砕蜂は刀の柄を握る手に力を込めた。

 周囲の空気が一変している。まるで小柄な彼女に怯えるように空気がざわめき、どこからともなく現れた風が周囲の木々を揺らす。

 静かな森の中で、否、静かだからこそか。

 圧倒的な威圧感を発する砕蜂の存在はひどく恐ろしい物に見えていた。

 

 人の気配がない森の中では静寂が五月蠅く耳に残る。

 今はその存在を強烈に感じるだけの条件が揃っており、無視することはできなかった。

 

 ふぅと溜息をついて夜一が首を振る。

 恐れた様子はなく、至っていつも通りといった顔つき。

 おどけるように肩をすくめた彼女は笑みさえ湛えていた。

 

 「やれやれ。久しぶりに会ったというのにつまらん態度じゃのう。憧れの先輩が帰ってきたのだからもう少し喜んでくれてもよいだろう。ソラの奴は泣いてくれたもんじゃが」

 「そうか」

 

 端的に答え、目を伏せる。そして一瞬の後に瞼が上げられた。

 砕蜂は自らの心を明かそうとはしない。

 

 「尽敵螫殺(じんてきしゃくせつ)――“雀蜂(すずめばち)”」

 

 そうして小さく呟いた時、砕蜂が握っていた斬魄刀が消え、右手に奇妙な物が装備されていた。籠手のような物が腕に纏わりつき、中指には蜂のそれを思わせる針がある。

 斬魄刀の力を十全に発揮させる形態、その第一段階であった。

 始解と呼ばれる形態を発動させて、砕蜂は改めて構えを見せて姿勢を変える。

 

 刀とは呼べぬ独特の武器だ。目的が斬撃ではなく徒手空拳にあると素早く見切る。

 それでなくとも見たことがあった。夜一はすでにその武器の力を知っており、非常に危険な物であることも知っている。今から遠い昔に知識を得たのだ。

 

 彼女は本気だった。

 本気で夜一を殺そうとしていて、確信を強めるかの如く殺意が膨れ上がる。

 

 「すでに知っているだろうが改めて説明しておこう。“雀蜂”の能力は弐撃決殺(にげきけっさつ)。一度目の攻撃で貴様の体に蜂紋華(ほうもんか)を刻み込み、蜂紋華を打てば二撃目で確実に命を奪う。死にたくなければ一撃も受けないことを勧めておく」

 「ああ、覚えているさ。わざわざ教えてくれるとはずいぶんやさしいのう」

 「そうでもしなければいつ終わってもおかしくない。遺言なら今の内に聞いておくが?」

 「ふぅむ、急にそう言われても何も思いつかんし……」

 「ただし」

 

 些細な仕草を見て、両脚にぐっと力が入ったのを見た。

 半ば本能的な反射で夜一は腰を落として警戒する。

 それを見ても砕蜂は態度を変えなかった。

 

 「その口で二度とソラを語るな。貴様の遺言があいつに届くことはない」

 「ほう……ま、予想はしておったがな」

 

 フッと、砕蜂の姿が掻き消えた。地面を蹴って移動しただけだが想像していたよりずっと速く、油断していたせいか、もはや目視では捉え切れないと気付く。

 夜一もまた素早くその場を移動した。

 

 鍛錬を終えた死神が操る歩法、瞬歩は今しがた見た通り、まるで消えたかのように移動できる。

 かつて夜一はその瞬歩を誰よりも得意とし、“瞬神”とまで呼ばれていた。ブランクはあるが回避は難しくないと思っていただろう。そしてそう思っても不思議でないほど卓越した技術と慣れを感じさせ、久方ぶりに使ったところでかつてと比べ遜色はないはずだった。

 

 惜しむらくは、砕蜂がそれ以上の地点へ到達していたというだけのこと。

 風邪を置き去りにする高速移動の最中、夜一は左頬に鋭い痛みが走ったのを知った。

 

 地面に着地して左頬に手を伸ばす。

 わずかだが皮膚が裂けて血が流れていた。一撃を受けている。その場所では自分の目で確認することはできないが、以前はなかったはずの文様が刻まれていると想像はできた。

 事実、彼女の頬には死の刻印、蜂紋華が刻まれている。

 これにもう一度攻撃を受ければ、抵抗する術もなく死に至らしめられるのだ。自然と表情は緊迫感を表して、余裕を見せている状況ではないと判断していた。

 

 砕蜂は数メートルの距離を置いて彼女の背後へ立つ。

 表情こそ冷ややかだが、目には隠し切れない憤怒がある。

 一度戦闘が始まってしまえば抑え込む術はない。今は隠しもせずに怒気が溢れていたようだ。

 

 「貴様が消えたあの日から、私は己を苛め抜いたよ。いつかこの手で殺してやろうと」

 「フッ、儂も衰えたかのう……まさか見えぬとは」

 「あいつはやさしいんだ、誰に対しても。貴様を勘違いさせてしまったかもしれない。だから私が教えてやろう。貴様の居場所はここにはないと」

 

 ゆらりと腕が上げられる。

 咄嗟に振り返り、気付いた夜一は即座に地面を蹴った。

 瞬歩を使い、目にも止まらぬ速さで空へ飛び出して、木の枝を使ってさらに遠くへ跳ぼうとしたらしい。だが気付いた時には背後に砕蜂が居て、すでに腕を振りかぶっていた。

 目視で気付いた夜一は考える間もなく背をのけ反らせた。

 

 「ソラは私が守る。もう二度と、貴様の顔を見せる気はない」

 

 右腕による鋭い突きが繰り出された。中指に装着された針が右頬の蜂紋華を狙い、背が反らされたことで夜一の顔に触れることはできず、攻撃は空を切る。

 

 ひとまず即死は免れた。しかし安堵はできない。

 木の枝を蹴った夜一が跳べば、即座に砕蜂も続いて追い縋る。

 どうやら逃げることはできなさそうだと判断して、思わず夜一は舌を打った。

 

 速度はほぼ互角か、或いは砕蜂に分がある様子。

 かつてとはあまりにも違う速度が夜一の平静を乱しかけ、心を律して平静を保つも、それがいつまで保てるかは定かではない。それほど追い詰められていたようだ。

 砕蜂の攻撃は二度受ければ即死する。加えて、その速度は“瞬神”夜一を確実に捉えていた。

 かつてとは違う姿には驚きを隠せずに、瞬歩の最中に視線が合う光景が信じられないのである。

 

 「くっ……速くなったな、砕蜂。見違えるようじゃ」

 「当然だ。貴様を超えようと必死だったからな」

 

 再び木の枝を蹴って跳ぶ。しかし完全に捕捉されていた。

 夜一は決して手を抜いていない。自らが出せる最高速度で距離を取ろうと走っているのに、砕蜂は焦るどころか涼しい顔で横に並んでくる。つかず離れず、敢えて見逃すような、いつでも攻撃できるぞという目で冷淡に焦る夜一を観察していた。

 

 その目の冷たさたるや、過去の姿を忘れてしまいそうなほど。

 よほど憎まれているらしい。夜一は苦笑し、一方胸の内では焦りが増していた。

 

 何度目かの瞬歩に入った瞬間、突然砕蜂が夜一へ躍りかかって攻撃へ出た。

 右手に装備した雀蜂が危険なのだ。夜一の注意は当然そこに向けられることになるのだが、そうだろうと知っているため、砕蜂は右手を構えながら冷静に敵を見ていた。

 

 警戒されていると知りながら右手を突き出す。その一撃は夜一に避けられ、空中で体勢を変えたことで再び空を切ってしまう。

 それでも砕蜂は慌てない。

 むしろそれを待っていたかのように、直後に夜一の腹へ左足による蹴りが突き刺さった。

 

 「ぐっ、ふっ……!?」

 「まだだ」

 

 痛みを受けて全身が硬直したことを機に、雀蜂で二撃目を狙う。

 それだけはまずいと知るため、夜一は左腕を犠牲に頬を守ろうとした。

 その瞬間、狙いを変えた雀蜂は軌道を変えて、すとんと彼女の胸に突き立てられた。

 

 まだ一撃目。だがそれ以前に針はそれ自体が攻撃力を持っている。

 針は胸に蜂紋華を刻むと同時に、彼女の柔肌を裂き、赤々とした血液を宙へ撒き散らした。すぐに抜かれて攻撃のため構えられ、咳き込む暇すら許さず、二撃目が放たれようとする。

 夜一は防御のため咄嗟に両手で胸と頬を守るのだが、砕蜂はそれを見た後で脚を切り裂いた。

 

 動きを見た後で攻撃を与えられている。それだけ二人の間に速度の差があるということだ。

 夜一は枝にぶつかりながら地面へ落ちて、やっとの想いで体勢を変え、着地する。

 

 そのダメージを無視することは不可能だった。

 一つ一つは些細な物でも、一撃受ける度に死の刻印が施されていく。

 現時点で体に刻まれた蜂紋華は三か所。守らなければならない場所が増えていた。

 すでに両手を犠牲に守れる数を超えており、尚且つ完璧に対応し切らない限り、この先も危険が増え続けるだけ。これには夜一も表情を歪めてしまった。

 

 彼女の前へ砕蜂が降りてくる。

 敢えて一度足を止め、刻まれた蜂紋華を眺める。左の頬、胸、左足の太股だ。

 確認した後、何かを想い出したのか、表情が変わって怒りが放出される。

 

 「自分で言うだけはある。やはり、衰えたな」

 「ハァ、ハァ……」

 「二撃目を警戒する判断力は見事。しかしそれだけだ。全盛期の貴様なら上手く攻撃をいなし、反撃に転ずることさえ可能だっただろうに。それが貴様の限界だ」

 「言ってくれるのう。悪いが儂はまだ死にたくない」

 

 些細な言葉だが砕蜂の眉が動いた。

 忌々しい。そんな感情をぶつけるかの如く、だが一方で感情を隠すようでもあり、不可解な様子のまま返答が出される。

 

 「ソラのことか? 心配するな、貴様が居なくても私が面倒を看る。今まで通りにな」

 「理由があった、と言っても無駄じゃろうなぁ」

 「今となってはどうでもいいことだ。貴様と私の絶対的な違いを言ってやろうか?」

 「違いか。速度か力か? それとも白打や鬼道とでも言うつもりか」

 「いや」

 

 砕蜂の姿勢が低くなり、飛び出すための力が全身に込められる。

 

 「ソラを泣かすか否かだ。私ならあいつを泣かせたりしない」

 「耳が痛いな」

 

 一瞬で砕蜂の姿が消える。

 直後、右の脇腹に痛みを感じ、視線を下ろした時には砕蜂が通り過ぎて切り裂いていた。

 また新たな蜂紋華が刻み込まれる。これで四か所。

 

 移動を終えた砕蜂は夜一の背後で無防備に背を見せていて、余裕を見せつけるかのようだ。わずかに振り返って確認するが反応している暇はない。

 自身の想像を遥かに超えて、状況は不利に傾いていた。

 この状況を力ずくで盛り返せると判断するほど馬鹿ではなく、夜一は冷静に思考しなければならないと考えており、そのためには一度体勢を整えるべきと判断する。

 

 敵から離れるため瞬歩へ入る。衰えたとはいえ、彼女の瞬歩は常人のそれを遥かに凌駕する。

 ただし、今対峙する敵はそれさえも超える速度を手にしていた。

 

 瞬歩へ入ってすぐ、常人には見えないはずの夜一の前へ砕蜂が現れた。

 進行方向に立ち塞がり、速度など物ともせず視線が合って、迎え撃つべく右手が掲げられる。このまま進めば体のどこかが貫かれるだろう。そう思うのは決して間違いではない。

 慌ててその場へ足を着き、地面を滑って削りながら体を止めた。

 

 体を止めることには成功した。だが今度は砕蜂の姿が見えなくなっている。

 ぞくりとした何かを感じ取るより先。

 背中を走った痛みで体が前へ転びかけた時、すでに後ろを取られているのだと理解した。

 

 数歩進んで、よろめいた体を足で支えると体勢を整える。

 即座に振り返れば砕蜂は静かな姿で動きを止めていた。まるで彼女を嘲笑うかのように。

 

 「うっ……ここまでとは」

 「これでわかっただろう。今の私ならいつでも貴様を殺せる」

 「どうやらそうらしい。じゃが、なぜそうしない?」

 「わからせてやるためさ。簡単になんて殺しはしない」

 

 そう言った時は少し、悲しそうな顔をしていた。

 攻撃する意思が感じられない。唐突に姿が変わって見えた。

 砕蜂はどこか物悲しげな顔で語り、抵抗せずに夜一はその呟きを聞く。

 

 「理由があると言ったな。そうなのだろう、貴様は理由があってここを離れた。我々に言うことができない何かだった。私も、そう結論付けた日があったさ」

 「それなら話を聞いてくれぬか。儂はおぬしと戦いたくはない」

 「だがそれも関係ない。貴様が消えた後、ソラがどうなったか知っているか?」

 

 その言葉を聞いては言い返すことができない。

 ぐっと歯を噛んだのがわかったのだろう。砕蜂は迷わず言い切った。

 

 「どんな理由であれ、あいつの下を去った貴様が、何も知らない貴様が軽々しく戻ってくるなど許さん。後悔しろ。ここが貴様の死に場所だ」

 「言うようになったな。流石隊長殿は違う」

 

 挑発するような一言が癇に障ったのか、砕蜂の姿が消えた。

 これで何度目かになる。

 やられっぱなしではいられず、夜一も瞬歩を使い、その場を移動しながら応対した。

 

 すでに蜂紋華が刻まれた場所は五つにまで増えている。増えれば増えるだけ死が近付き、不利になっていくはずだ。二撃目を受けてはならない蜂紋華は行動を制限する役目もあった。

 防御と攻撃。その両方を行う。

 そう決めて二人は接近した。

 

 砕蜂は右腕を振りかぶっていた。二撃目を考えているのは間違いない。

 一挙一動に注意する夜一は敢えて攻勢に出た。防御を考えては後手に回ってしまう。ならば先に攻撃を当て、行動を止めようという腹積もりだっただろう。

 雀蜂が振り下ろされる前に殴りつけようと拳を握る。

 その瞬間に砕蜂の左手が夜一の顔を殴り、驚きと衝撃で全身が硬直した。

 

 「がっ――!?」

 「隙だらけだな」

 

 次いで蹴りが一度、二度とやってきて腹や肩を打ち、彼女の体を叩き落とした。瞬歩の速度など一切意に介さず吹き飛ばして、夜一が地面へ叩きつけられて土煙が立つ。

 

 速度だけの人間ではない。

 一瞬の攻防で最善手を選べる判断力、実際に行動へ移せる身体能力、そして必殺の二撃目。

 地面に倒れ、思わず呻いた夜一は彼女の厄介さを今になって思い知った。

 

 「立て。まだ殺しはせんぞ」

 

 間近に砕蜂が立っていた。気付くのに一瞬遅れ、即座に夜一が起き上がり様に蹴りを放つ。

 地面へ両手を着いて体を跳ね上げ、長い脚がしなるように迫った。砕蜂はその動きを冷静に見極めており、夜一が動いた後になって動き出し、先に攻撃を当てる。

 腹に強かな蹴りが突き刺さって、体が軽く宙を舞う。

 受け身も取れず無様に草の生えた地面を転がった。

 

 「ゲホッ、ゴホッ……!」

 「立て」

 

 砕蜂は慌てず、歩いて近寄ってくる。

 対する夜一は焦りを抱いて立ち上がり、その場で姿勢を低く拳を構えた。

 

 徒手空拳においてはそこまで大きな差はない。そう思っていた。

 だが速度が違えば、互角の戦闘を演じることは難しい。

 自ら攻撃しようとした夜一だが、瞬歩を用いた砕蜂はあっさりその傍を通り抜け、通り過ぎる刹那に二度の攻撃を加える。どちらも雀蜂で皮膚を切り裂いていた。

 その結果、右手の甲と左の二の腕に蜂紋華が刻まれる。

 

 一方的な展開だった。

 絶句した夜一は思わず動きを止め、今しがた切り裂かれた両腕を眺める。

 彼女の瞬歩を見切ったつもりだった。それなのに姿を見ることさえ叶わず、攻撃を与えられてしまっている。やはり彼女の成長は夜一の想像を遥かに超えているらしい。

 

 今はまだ生かされているだけなのか。その気になれば即刻始末できるだろう。

 改めて思い知らされた夜一は緊迫した表情で砕蜂を見る。

 砕蜂は、ついに目の色を変える頃だった。

 

 「さぁどうする。このままでは蜂紋華が増えていくだけだぞ。このまま死ぬ気か?」

 「そうじゃなぁ……儂としてはやはり戦いたくないんじゃが」

 「その気がないならそれでいい。始末してやるだけだ」

 

 雀蜂に左手を添え、砕蜂は奇妙な動きを見せ始める。

 どこからともなく吹き荒れた風が腕に纏われていくのだ。

 

 「冥土の土産に見せてやろう。私が編み出した新たな戦法、白打と鬼道の融合だ」

 

 まるで風の鎧を身に纏うかのよう。

 周囲へ暴風が吹き荒れ、瞬時に夜一が表情を変える。

 脅威と見たか、或いは純粋な驚きか。些か違和感を感じる顔つきになっていた。

 そうとは気付かず、砕蜂は説明を続ける。

 

 「この技にまだ名前はない。先日完成したばかりだからな。だが急ごしらえと侮るな。完成したばかりでも、すでに貴様を倒すだけの力は――」

 「いや。名ならある」

 

 唐突に夜一が呟いた。耳にした砕蜂は眉を顰める。

 聞き捨てならない一言だ。

 あり得ないと思いつつ、彼女をよく知るからこそまさかと思って、人知れず冷や汗が流れる。

 

 「瞬閧(しゅんこう)、という。おぬしも刑戦装束を身に纏っているなら知っているじゃろう。装束には背と両肩に布が付いておらぬことを」

 「何を、言っている……」

 「付いていても無駄だからじゃ。完成されたこの技を使った時、肩と背の布は消し飛ぶ――!」

 

 夜一が横へ右腕を伸ばし、大きな動きを見せることなく奇妙な力を纏わせた。

 まるで雷。轟音と共に閃光が襲い掛かる。

 砕蜂はその姿を、目を離さずに見つめていた。

 

 瞬閧。そう名付けられたという技は、夜一の体に纏われて完成されていた。

 雷のようなエネルギーが背と両肩から立ち昇り、威圧感は以前の何倍にも膨れ上がって、まるで別人が立っているかのようにすら思える。

 それは砕蜂の物に似ていて、しかしその実別物であった。

 

 思わぬ驚愕を受け止めた後に、忌々しいと思う。

 いつも先を歩いている。悠々自適に暮らすくせに、置いて行ったくせに、まだ届かない。

 

 悔しげに歯噛みした砕蜂は言葉を失い、ただ握り締めた拳に力を込めた。

 

 「よくぞ己が鍛錬のみで辿り着いた。誇ってよいぞ」

 「貴様……! まだ私を愚弄するかッ!」

 

 穏やかな顔つきに変わって、ふとした瞬間に夜一が告げる。

 褒め称えるように見せて侮辱する言葉ではないか。少なくとも砕蜂はそう思う。

 怒りに身を任せて瞬歩を使い、正面から夜一へ接近した。

 

 もう長引かせない。風を纏わせた雀蜂で胸を貫いてやろうと決める。

 しかし駆ける砕蜂へそっと寄り添った夜一が、彼女の風をやさしく解いて、手を握る。外からの力で瞬閧を解除させる術には驚嘆するほどの技術があるものの、些細なことのように感じさせるほどの静けさ。その一瞬にこそ夜一の実力が集約されていた。

 

 懐かしい感触と体温に気付き、手を握られた砕蜂は動揺する。

 自身の全力が子をあやすように受け流された瞬間だった。

 

 「じゃが、今はやめておけ。おまえにはまだ早い」

 

 攻撃をするでもなく、むしろ助けようとするかのように。

 声はひどくやさしくて、あの頃と何も変わっていないと思わされてしまって。

 

 砕蜂は体から力を抜いた。追撃を行おうとせず、握られた手を振り払おうともせず、その場で俯いてしまって行動を停止する。そのまま数秒動かなかった。

 これで終わったのか。戦意を失ったように思えて、彼女の姿を見て思う。

 ただ、これで終わればいいと思った時だった。

 

 「なぜ……」

 

 小さく呟き、顔を上げた砕蜂を目にした瞬間、予想だにしない空気の冷たさを知った。

 感じたのは巨大過ぎる怒りの念。

 数秒前の比ではない。辺り一帯の雰囲気が変わってしまい、一瞬で夜一の全身を包み込んで、歴戦の猛者たる彼女を恐怖させてしまっていた。

 彼女は確かに怯え、たった一歩とはいえ後ずさりしてしまったのだ。

 

 隙を衝いて手を振り払い、自由になった砕蜂は後方目指して跳ぶ。

 宙返りをして距離を取る最中、空中で空を見上げ、怒りに染まる声で小さく呟いていた。

 

 「なぜ貴様なんだ」

 

 軽やかに着地し、即座に真上へ跳ぶ。

 砕蜂は空中で右腕を伸ばすと、雀蜂の先に夜一を置いた。

 まるで照準を定めるようだ、と思ったのは間違いではなかったか。その姿は変貌する。

 

 「卍解――」

 

 右腕に装備されていた雀蜂は巨大化して、形すら変わっている。ただの針でしかなかったそれが今や砲弾を打ち出す砲台だ。砕蜂が覗き込む照準器も付いており、自らの顔を守る盾もある。一撃必殺に秀でた武器が右腕に装備されていた。

 

 もはや二撃も必要ない。一撃で一帯ごと消し飛ばす。

 そう決めた彼女の表情に迷いはなく、恐怖を感じた夜一は移動さえ叶わない。

 

 圧倒的な威圧感から、もうだめか、とさえ思った一瞬。

 

 「雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)――!」

 「砕蜂様っ!!」

 

 彼の声が聞こえた。

 

 砕蜂と夜一の目が同時にそちらを向いていて、息を切らすソラの姿を見つける。

 背後には砕蜂の部下、刑軍の姿。彼らが連れてきたらしい。

 

 一瞬で砲台が消えてしまって、斬魄刀が地に落ちる。回収するだけの余裕もなかった。

 焦りを見せた砕蜂は刑軍へ向かって叫ぶ。

 彼らにはソラを近付けないよう言ったはずだ。全てはこの場を見られては困るため。夜一殺害の現場を見ることは彼の精神にとって良い影響を与えないと思っていた。

 見られてしまった以上、継続するのは不可能であった。

 

 「刑軍! なぜソラを連れてきた!」

 「も、申し訳ありません。ソラ様がどうしてもと……」

 「馬鹿者が……! これでは、奴を――」

 

 言葉にしている姿さえ見せたくないのか、口を噤んでそれ以上言えない。ソラを見る砕蜂は悔しげな顔であり、見るからに焦っている表情でもある。

 ソラ自身も動揺を隠せず、今しがた見た光景が信じられなかった。

 

 雀蜂雷公鞭。

 それは、砕蜂にとっての必殺でありながら、矜持に反するとして使いたがらない能力。一撃を受ければ敵は身を滅ぼし、回復する暇さえ許さない破壊力を持つ。

 知識としては理解していた。それだけに自然と胸の鼓動が速くなる。

 砕蜂は本気で夜一を殺そうとしていた。

 

 もう少し遅ければただでは済まなかっただろう。

 或いは、向かっていた自分たち諸共消し飛ばされてしまう可能性もあった。

 

 間に合ってよかったと心から思う。そんな予感はしていたのだ。

 運んでもらったというのに焦りからか呼吸が乱れ、必死に落ち着けようとしても難しく。

 結局ソラは落ち着かぬまま話し始める。

 二人を止めたい、その一心で。

 

 「もうやめましょう、砕蜂様。お二人が争うなんて嫌です」

 「だが……」

 「ボクは、お二人のどちらが居なくなっても悲しいです。だから」

 

 必死の形相を見てしまうと、ぐうの音も出なくなる。

 こうなるとわかっているから見せたくはなかった。ソラに懇願されて断れた試しがない。様々な想いがあるからこそ、涙に濡れる目を無視できるはずもないだろう。

 

 唇を噛んで苦悩し、頭を振って溜息をつく。

 彼の目の前で始末することだけは不可能だった。

 

 「ハァ……わかった。おまえがそう言うなら」

 「あ、ありがとうございます」

 「ふぅ~、やれやれじゃな。色々あったがまぁとにかくこれで」

 「ただしソラを任せられるかどうかは否だ。変わらず私が世話をする。あなたのやったことをお忘れなきよう。指一本触れられるとは思わないで頂きたい、夜一様」

 「何ぃ?」

 「当然の報いです。音沙汰もなく何年経ったとお思いですか」

 「ぬぐっ」

 

 戸惑いはあるが、かつてのように話し始める。上手くできたかわからないとはいえ、砕蜂が夜一へ向ける眼差しは確かに変わったらしく、辺りの空気は緩んでいった。

 それからソラが頬を緩め、心底嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 やはり自身が敬愛する二人は仲良しな方がいい。かつてを知るからそう思った。

 完全ではないが雪解けの兆候が見え、やっと過去を取り戻せる気がして、彼は心から喜んだ。

 

 ソラ本人は本心を告げてよかったと思っていた。ただそれだけなのだろう。

 周囲で見ていた者は、果たしてそれだけだと思っていただろうか。

 自身の怒りが徐々に消えていったこと。発射寸前だった砲台が彼女の精神に影響され、正しい行程を取らず瞬時に消えてしまったこと。不思議な事象はいくつかある。

 漠然と脳裏に浮かんだのは、以前マユリに聞かされた言葉だ。

 

 不意に考えようとして、しかしそれらの理由を考える暇すらないらしい。

 砕蜂はソラに抱き着こうとする夜一から彼を守るため瞬歩を使い、素早く抱き上げ、遠ざける。子供っぽく感情を露わにする夜一を見やり、怒った顔で取り上げたのだ。

 それは以前とは違う形であって、また昔のように戻れそうだと感じさせる光景だった。

 



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ゼルダの伝説 時のオカリナ
-七年後- ※


 ※ホモ描写です。
 苦手な方はブラウザバックを。


 ふと立ち止まり、リンクは素晴らしい景観を眺めた。

 広大な草原である。

 自身が感じる空白の時間で変わってしまった物があったが、変わっていない物もある。それがこの景色なのだろう。広い草原にぽつんと立ち、自分の存在などひどくちっぽけであって、彼は初めて外の世界を知った時の感動を思い出していた。

 

 緑の衣に、緑の帽子。あの頃と同じだが違う物もある。

 背丈は伸びて体つきも逞しくなり、今やすっかり青年と言える姿。

 もう子供ではない。世界に、そして自分の体には、きちんと七年という時間が経っていたのだ。

 

 草原を駆ける風に目を細める。

 崩壊してしまった城下町が嘘のよう。ここに居ればかつてと同じ平和を感じて、心が安らぐ。

 

 しかし、落ち込んでいる暇などないらしかった。

 背後から声が聞こえて、リンクは振り返る。

 そこには目覚めた彼を出迎えた青年が立っていたのである。

 

 「君はこれから五つの神殿を回る。賢者を目覚めさせるんだ。それは君にしかできない」

 

 涼やかな声。感情を感じない平坦な言葉。

 リンクの目に映ったのは特徴的な、シーカー族のシンボルが描かれた装束に身を包み、頭と鼻から下に包帯を巻いた、鋭い目だけを覗かせる奇妙な青年だった。

 彼はシークと名乗った。

 シーカー族の末裔。数少ない生き残り。

 そう語った彼はリンクの味方らしく、切れ長の鋭い目つきは予想に反して優しく見守る様子だ。

 

 同じく手には包帯を巻き、そこに持つのはハープ。

 ポロン、と優雅で清らかな音色を響かせ、彼は静かな口調で語る。

 

 「君は七年の眠りから覚めたばかり。今の世界を知るためにも色々見て回るといいだろう。その途上で森、炎、水、闇、そして魂。五人の賢者に光の賢者ラウルを加えて、ゼルダ姫と力を合わせることができれば、あのガノンドロフに打ち勝つこともできるはずだ」

 

 まるで歌うように、水が流れるかの如く美しく語られる。

 それを聞いて疑問を持ち、リンクは問う。

 なぜその使命は自分に与えられたのか、と。

 

 「勇気のトライフォースに選ばれた。君はすでに名実ともに“時の勇者”だ」

 

 伸ばされたシークの指がリンクの左手を指し、彼も自身の手の甲に目を向ける。

 革のグローブの下、そこに奇妙な紋章が刻まれているのは確認していた。

 

 聖なる紋章、トライフォース。

 その内の一つ“勇気”が彼の手に宿っているらしい。

 選ばれし者の証。彼を“時の勇者”と認める要素の一つ。

 事情は聞かされているとはいえ、まだ自覚はないまま。リンクの目には戸惑いが浮かぶ。

 

 視線を再びシークへ。

 ハープの音色は相変わらず。吟遊詩人といった雰囲気を湛えるも、やはり装束だけは奇抜。

 トライフォース、七年の空白だけでなく、彼に関しても謎が多かった。

 

 リンクはこれから旅立たなければならない。

 七年前とは違う。冒険心を持っていればいいだけではなく、この旅は戦いのための物だ。シークが言う通り賢者を解放し、魔王となったガノンドロフを倒すためである。

 まさかそんな事態になるとは、想像してもいない。

 だがゼルダ姫を助けるため、彼はすでにやり遂げる覚悟を持っていたようだ。

 

 七年前に出会ったハイラル王国の姫、ゼルダ。

 顔を合わす機会は多くなかった。交わした言葉も数えられる程度かもしれない。

 しかしリンクの脳裏にはその存在が強烈に残っており、世界を守るために覚悟したのだという彼女を見捨ててはおけず、助けられるのが自分だけならやり遂げる覚悟だ。

 

 ポロン、と音を鳴らし、シークが口を開く。

 素性が不明である彼はなぜかリンクに協力的だった。

 

 「まずは君の故郷を目指すといい。森の賢者に会うには“森の神殿”に行く必要がある。きっと賢者も神殿で待っているはずだから」

 

 どうしてそこまでわかる? と尋ねてみる。

 

 彼は色々なことを知っている。非常に物知りで、だがその知識が不思議にも思った。

 賢者のことだけではない。

 リンクの故郷はコキリの森、外部からは“禁断の森”と呼ばれる場所であることは、あまり人に知られていない。ゼルダ姫やその周辺の人間には少しだけ話したかもしれないが、少なくともシークの顔には見覚えが無く、ついさっき出会ったばかりのはず。

 

 するとシークはハープを弾く手を止めた。

 

 「君が眠っている間に調べる時間はたくさんあった。何せ七年だからね。ただそれだけさ」

 

 はぐらかしたのか、それとも本心か。ともかくシークは片手に持ったハープを下ろした。

 じっと見つめられて、不思議な感覚に陥りながらも視線を離さない。

 

 「目覚めたばかりで君も不安があるだろう。森までは僕が案内する。道中、必要な物を揃えながら剣の扱いも思い出すといい。少しで良ければ相手になろう」

 

 穏やかに言う彼に頷きつつ、不思議だと考える。

 なぜそこまで親切にしてくれるのだろう。

 彼と自分はついさっき出会った。共にハイラルの城下町を出て、ただそれだけの関係。七年前からの知り合いという訳ではない。なぜ、そこまで考えてくれるのか。

 

 聞いてもいいのか、考えて逡巡する。

 そんな時に横合いから小さく名前を呼ばれた。

 

 「リンク」

 

 白い妖精、ナビィだ。

 彼女を見ると嫌な予感は吹き飛び、一瞬で思考も晴れた気がする。その原因はおそらく安堵したから。彼女が居れば寂しくはないと思い返したのである。

 

 七年前から今でもずっと、ナビィは自身の相棒。

 共に窮地を乗り越えて、楽しい時も共有し、そして唯一共に時を超えた。

 自分だけ取り残されたと思わなかったのは彼女が居たから。

 時を超えた今の時代に何が起こって、これから何が起こったとしても、彼女と一緒ならば乗り越えられるはずだ。そう思えるだけで安心だった。

 

 心配そうにしていたナビィを掌で撫で、彼女も安堵したようだ。

 何が起こっていてもいい。これからも二人で進むのだ。

 

 リンクの顔に笑みが戻った。

 それを見たシークは少し俯きがちに笑みをこぼし、気取られないよう、フッと吐息を漏らす。

 ひとまず心配は要らないらしい。目覚めてからここまで不安そうにしていた顔が、ナビィが寄り添ったことで確かに変わった。タイミングを見る限り良いコンビだろう。

 

 シークはわずかに体の向きを変え、視線が向かう方向を変えて遠くを眺めた。

 これから向かうのは“禁断の森”と呼ばれる広大な森。

 実際、彼もまだ行ったことのない場所だった。

 

 良い噂は聞かない。おそらく行動を共にできたとしても森の入り口まで。その奥へ入れるのはトライフォースの力で守られたリンクと妖精であるナビだけだ。

 それまでに教えるべきことがある。

 これからの旅路で必ず必要になるだろうこと。七年の変革だけでなく、時の勇者として、賢者と向き合うために必要な知識を与えなければならない。

 シークは決して言葉にせず、静かに覚悟を決めていた。

 

 再びリンクへ振り返ると、そこにはやはり感情を窺わせない物静かな表情があった。

 

 「禁断の森まで案内する。一緒に行こう。君にはまだ、導いてくれる誰かが必要だ」

 

 頷くリンクと共に歩き出し、徒歩で草原を進み始めた。

 景色が変わった場所があろうと世界は広く、故郷は遠い。辿り着くまでには相応の距離が、相当な時間が必要になるだろう。それまでの間はシークと一緒だ。

 

 ナビィと共に彼の背中を眺め、まだ不思議な感覚は消え失せぬまま。

 リンクは着実に新たな一歩を踏み出した。

 

 

 *

 

 

 時間が経ち、夜になり、旅は一旦の休息を迎える。

 リンクとシークは大きな岩場に囲まれた場所に焚火を設け、そこで一夜を過ごそうとしていた。

 

 それなりに急ぐ旅ではある。だが着実に進まなければ命を落としかねない。どんな状況でも冷静に行動し、死なないことを最優先で考えろ、と彼に言われた。

 七年のブランクがあったこともある。

 シークはリンクに対して様々な事柄を教え、彼に生きる術を与えていた。

 

 焚火の作り方、火の起こし方。

 魔物に見つからない場所にはどんな特徴があるか。夜を過ごすための安全性を説き、睡眠と食事は毎日必ず取らなければならず、自身の健康に気をつけろと。

 すでに食事を終えた後。その食料も自分たちで調達した。

 木の幹に生った実、川で泳ぐ魚、森にあるキノコやその他。弓を使って狩りをしろとも言う。

 視界に広がる大自然は食料の宝庫。

 探せばどこにでもある。体力を衰えさせないためには必ず何かを口にし、己に活力を与えろ。それがしばらく一人で旅をしているというシークの教えだった。

 

 一日歩きながらの修練を終え、まるで気分は修行をしたかのよう。

 道中、小太刀を持つ彼と剣を合わせもした。

 剣を振る感覚を取り戻すにはもう少しかかるだろうが、思いのほか感触は良い。

 

 これなら一人旅も心配が薄れる。

 シークに感謝し、焚火の傍に座るリンクは表情も柔らかい。

 だが対照的にシークはどことなく暗い表情。元々顔を隠しているため分かり辛いとはいえ、何かを考え込むような、昼間とは打って変わった様子に見えた。

 何か、彼を傷つけてしまっただろうか。

 心配するリンクは彼の顔を覗き込む。するとようやく反応があって、視線が上がった。

 

 「ああ……何でもない。少し考え事をしていただけだ」

 

 やはり昼間とは違う。どこか気のない声だ。

 シークはすぐに視線を外して俯く。

 そんな彼が心配で、リンクは不思議そうに尋ねる。何を考えているのかと。

 再び顔を上げたシークは平坦に、あっさりと答え始めた。

 

 「リンク、君に聞きたいことがある」

 

 うん、と小さく頷く。

 問いは続けて伝えられた。

 

 「君は女を抱いたことがあるか?」

 

 唐突な質問で驚愕してしまった。リンクは目を見開いて背を仰け反らせ、口からは思わず驚きの声が漏れる。小さくはあったが珍しい姿だ。

 彼は今何と言ったのか。

 聞き逃してはいない。女を抱いたことがあるか、と聞いたのだ。

 理解はするものの、動揺は治まらず、自分にとって馴染みがない言葉だと気付いていた。

 

 はっきり言って経験はない。

 七年前はまだ子供で、七年の時を超えて今の姿になった彼にとって、そんな経験をする機会など一度もあるはずがなかった。目覚めてすぐに出会ったシークと旅立ち、今の世界で出会った人間はまだ彼だけなのである。この体ではまだ女性に会ってすらいない。

 

 リンクはそうやって正直に言った。

 頷くシークは言葉を受け取る。

 

 「そうか。無理もない、と言うよりはそれが当然だろう。七年前の君は子供だった。たとえ興味があったところで経験することも不可能だったはずだ。周りに居た大人に常識があれば、だが」

 

 理解する様子で小さく呟かれる。彼は自分に確認しながら言っているようだ。

 リンクも同意して小さく頷く。

 興味ならある。知識も、確か七年前の子供の頃に得た。だが実践する機会はなかったし、その行為は大事な人とだけするものだと聞いたため、むやみやたらと経験してはいけないと思っている。それは今でも変わらない。自分の体を大事にすべきだ。

 

 彼自身、興味はあっても経験するのはまだずっと先でいいと思っていた節がある。

 今はそれよりも賢者のこと、ゼルダ姫のこと。

 決意のため、戦いに集中することが最優先だと考えていた。

 

 しかしシークの考えは違っていたようで。

 静寂に包まれる辺りの風景で、やけに心地よい、静かな声色だった。

 

 「だが今からはそうも言っていられない。君にとって必要な物になる」

 

 そう言われて首をかしげた。リンクの表情は困った様子になる。

 

 「君は賢者の力を目覚めさせる使命がある。そしてその方法こそ、賢者の魂を解放すること。さらに単刀直入に言うなら、賢者との性交で、オーガズムに達した時だ。魂は解放され、賢者としての力が目覚めるはずだと聞いている」

 

 初耳だった。今になって自分の使命を知った。

 リンクは半ば呆然としながら話を聞き入れ、時間をかけて呑み込んでいく。

 

 嘘をつくような人間ではない。そう言うならばそうなのだろう。

 女性を抱いて賢者として覚醒する。とても信じられる話ではないが、シークが言うからにはそれが真実であり、自分の使命として為さねばならぬ行為。

 わずかに考え込み、どう反応して良いものか、リンクは困ってしまった。

 

 「君にとって、ひょっとしたら不本意なことかもしれない。だが、必要なことだ」

 

 リンクが頷く。

 不満かと言われれば、決してそんなことはない。ただ戸惑いがあるだけ。

 七年の時が経ったとはいえ、彼の価値観は子供の頃のまま。教えに背くようなその奔放さは、果たして許されるのだろうかと思う。しかし必要だからと言われてしまえば抗うことは難しい。彼がやらなければ世界はガノンドロフの支配下にあるままだ。

 

 やはり、やらねばならない。

 ガノンドロフに立ち向かえるのは自分だけらしいのだ。

 

 リンクは素直だ。見た目こそ大人だがその性質は子供の頃を色濃く残している。少々信じ過ぎるきらいがあり、それは利点でもあり、時として悪い面ともなり得るだろう。

 どちらにせよシークにとっては良い反応だった。

 これで拒まれてしまうようでは一緒に行動した意味がない。彼の覚悟に感謝する。

 

 それなら彼も力を貸す甲斐があるというもの。

 シークも同じく覚悟を決め、声色には力が戻った。

 

 「しかしいきなり賢者を前にしても困ってしまうだろう。練習は必要だ」

 

 そう言ってシークは立ち上がり、リンクに正面から向き合った。

 

 「僕は男だが、性技は叩き込まれている。君に教えられることもあるはずだ。もちろん、男同士なんて嫌だと言うなら無理にとは言わないが」

 

 そんな言葉を聞かされるとは思わず、再び驚愕する。

 教える、ということは男である彼と肌を合わせるということだろうか。

 男同士の性愛は異端だと聞かされている。その記憶がある。それ故すぐには答えることができなくなり、だが無下に断るのも悪い気がして困ってしまった。

 

 リンクは考え、シークはそれを当然だと考える。

 本来、男同士など悪趣味でしかない。シーク自身、そんな趣味はない訳で、確かに端正な顔立ちをしているが誰かに誘われたところで無下に断るのが事実。

 だがこればかりは違う。

 まだ多くを知らない彼に教えてやらねばならない。今の世界での生き方、勇者としての使命を。

 はっきりとは口にしないものの、彼はそんな使命感を持っているようだった。

 

 しばしの沈黙が生まれて、リンクは真剣に考える。

 彼はまだ何も知らない。ならば拒んで良いはずもなかった。

 リンクは頷いた。真っ直ぐシークを見つめ、すでに迷いは断ち切っている。

 

 シークがやれやれと首を振る。

 やはり彼は素直過ぎる。純真とも言うべきか。迷いがないのが、恐ろしくもあった。

 

 ともかく、頷いたならば教えてやらねばならない。女の抱き方を、自分は男であるが、己が体を使って。こればかりは実際に人と人とが触れ合ってみなければわからないだろう。

 すでに覚悟はある。女を抱いた経験もある。

 これは自分にしかできない役目だ。

 覚悟を決めたシークは静かに自分の服へ手をかけて、躊躇いなく脱ぎ始めようとしていた。

 

 「それなら早速始めよう。本来なら服を脱がせるところから始まっているが、シーカー族の装束は少し独特で脱がしにくい。自分で脱ぐから、君も脱いでくれ」

 

 シークが手早く脱いでいくのを見て、頷いたリンクも動き出した。

 冷静になれば男が二人、何をしているのだと思わないでもない。それだけの冷静さは互いに持ち合わせている。だが、不思議と妙に興奮してもいた。

 

 許されざる行為を、禁忌を楽しむ瞬間とでも言うのか。

 リンクにとっては初めての体験。相手が誰であれ緊張してしまうのも当然である。

 そしてシークは、なぜ自分の感情が揺らいでいるのかがわからない。自覚できずにいる。自分の感情は完璧にコントロールできるようになっていたはずだが、なぜか今だけはそれができず、その感情の名前すら理解できない状況だ。

 ただ、気分は悪くない。

 彼とのまぐわいを決して拒んではいなくて、それだけは確か。

 

 闇夜の中、小さな焚火に照らされて。

 裸になった二人は体を隠さずに向き合った。

 

 恥じることは悪くない。しかしそれで我を見失っていては正しい行いができず、興奮や独特の高揚感に包まれながらも、一部では冷静さを保たなければならない。

 丁寧に説明するシークの傍ら、リンクは、むくむくと頭をもたげていくのを自覚した。

 触ってもいないペニスが勃起していくのである。

 

 少なくとも、大人になってからは見られるのは初めてだ。

 まだ自分でも慣れていないそれが、他人の目に晒されている。しかも相手は出会ったばかりで、美青年で、同じく裸で、きれいな目をしていて。冷静に見える面持ちながら、意外にもじろじろとリンクの体を眺めている。慣れているのかと思ったがそうではないらしい。

 顔は隠されたままでも、明らかに様子が変わっていた。

 

 リンクもまた思わず溜息をついてしまう。

 互いに眺めて理解する。シークの体は惚れ惚れするほど美しかった。

 均整の取れた肉体は筋肉質で、鍛えられているのがわかるしなやかな筋肉がついている。力に長ける訳ではなく、だが弱々しくもない、素晴らしい形だ。

 例えるならば、伸縮性に長けた鋼。

 表面のそれは鋼のように硬質で逞しく、内側に秘めた物は彼の身軽な動き可能にする。

 まさにシークのための物。美しい上に有用性のある、理想の姿と言えるだろう。

 

 そこに加えて、リンクの視線はちらりと下へ落ちていく。

 だらりと力なく垂れ下がった陰茎。リンクの物もそれなりだが、長さだけで言えば彼だろうか。

 視線を受けてわずかに反応し、大きくなってきた。勃起したペニスもやはりきれいだ。

 

 「お互い、準備はできているということか」

 

 自嘲気味に呟いたシークが一歩前へ踏み出した。

 そっと差し出された右手はリンクの体に触れ、まずは胸を撫で、徐々に下へ向かっていく。

 リンクはどぎまぎしながらそれを見ていた。

 抵抗はしない。全てを受け入れるつもりがあるのか、シークの動きを観察しながらも自身はぴくりとも動かず、ただ時折ペニスはふるりと震えて、何かを期待する様子だ。

 

 へその辺りを撫で、腹の下を通り過ぎ、股間にある陰毛に少し触れた後。ついにリンクのペニスに触れられた。その頃には完全に勃起してひどく硬くなっている。

 根本から先端へ向かい、指の先だけで撫でられる。

 他人に触れられるのは初めてのため、背筋を震わすリンクは小さな声を出した。

 

 「相手に触れる時は優しく、丁寧に。特に女性は男ほど頑丈じゃない。無理に刺激すれば傷つけてしまう可能性もある。優しく、思いやりを持ってな」

 

 語って聞かせながら彼は五本の指を使い、亀頭をこね回すように触れている。

 露出していた亀頭は赤々としていて、やはり女を知らぬ外見、初心な様子が窺えた。

 少し触れただけで反応は如実。リンクは目を閉じて息を乱しかける。

 

 やはり女とは違う。

 男特有の肉棒は非常に硬く、熱を帯びていて、快感の波が手に取るようにわかる気がする。ドクドクと脈打つ様が掌を伝わってくるため、何とも言えぬ気分になった。

 シークは掌で亀頭を包み、少し動きを止めてみる。

 反応してリンクは少し寂しげな顔をして、さらに求めるようだった。

 

 気分は、悪くない。抵抗感さえ微塵も感じていない。

 顔を寄せ、シークがリンクに囁く。

 

 「君も触ってくれ。やり方は僕を真似て」

 

 言ってみればすぐに頷いた。もはや彼にも抵抗する気がない。

 そっと伸ばした手がシークの陰茎へ。

 下から優しく撫でるように触れ、感触を確かめつつ、徐々に亀頭へ向かっていく。そして自身が触られるのを意識しながら、同じようにそこへ触れた。

 

 思わず溜息が漏れる。

 硬くて、熱くて、似ているようで自分とも違う。

 

 他人の陰茎を触るなどこれが初めての体験だったが、妙に落ち着いている。そんな自分を冷静に見返せば驚きもするものの、もっと触れたいという欲求があった。

 戸惑いはすぐに無くなり、ゆっくりとだが彼に触れる力を徐々に強くしていく。

 

 互いに無言で、息遣いだけを聞いて触れ合う。

 快感は確かにある。

 男であるためか、力の入れ具合や触れ方が堂に入った物であり、お互いストレスもなく与えられる快感を受け入れている。自分で触れるのとも、女に触れられるのとも違っていた。

 ただ撫でるだけでも高揚感があって、しばらくその動きは続けられる。

 

 リンクの口から甘い声が漏れていることに気付き、シークは彼の顔を見つめた。

 

 「焦る必要はない。時間をかけて準備するんだ。その方が相手も心を許すし、君も落ち着きを取り戻せる。時には話しながら触れてみるのもいい」

 

 シークの言葉に頷きながら、リンクは徐々に余裕を失っていく様子だった。

 まだ快感に慣れていない。暴発していないのが奇跡なのだろう。

 限界を迎える時はそう遠くない。

 そう気付いたのはシークだけではないようで、黙って成り行きを見ていたナビィが近付き、リンクの耳元で元気付けようと声をかけた。

 

 「リンク、我慢だよ。賢者を目覚めさせるためだから頑張って」

 

 どうやら彼女も理解してくれているらしい。リンクを応援する気持ちはあれど、彼を責めたり、ましてや笑うようなことはなかった。

 

 ナビィに見守られながら尚も陰茎を撫でる。

 分泌されるカウパー液がくちゃくちゃと鳴り、感じているのは明らか。

 気付けばリンクだけでなくシークも濡れていて、リンクの指によって全体に塗りたくられる。

 言葉にはせず、人のことは言えないな、と独り言ちた。

 

 冷静さを窺わせるシークだが、その実予想外に自分が興奮していると気付いている。

 女を抱いた経験があり、或いは、性技のイロハを教わって熟知しているはずだが、彼自身も男を相手にするのは初体験であるせいなのか、それともリンクが相手だからなのか、体の奥から何かが湧き上がってくるような感覚はこれもまた初めてのことだった。

 常に冷静であれ、との言葉から顔色を変えることはない。

 しかし涼しい表情の下はわずかに胸が高鳴り、確かに動揺が生まれていた。

 

 「座ろう。立ったままでというのも、よくよく考えればあまり普通じゃないな」

 

 パッと手を離してシークが言う。同時にリンクがあっと声を出し、少し寂しそうな顔だ。

 促してやってその場に座る。

 そのまま、シークがリンクの肩を押してやり、二人は硬い地面に寝そべった。

 

 仰向けに寝転ぶリンクに覆いかぶさるよう、シークが身を寄せる。

 股間が寄り添い、勃起した陰茎が身じろぎの度に少し触れる。するりと触れる様がひどくいやらしい。視界に入っていないせいなのか、そこばかりが気になった。

 わざとそうしているらしく、シークはまるで動じぬまま。

 少しずつ腰を触れ合わせながら、彼の顔はリンクの顔に近付いていった。

 

 左手で口元の包帯を下ろし、顔が露わになる。

 想像した通り、いや、それ以上に整った容姿だ。同性であることを忘れてつい見入ってしまう。

 ただ、以前どこかで見た誰かに似ている気もして。

 不意に考えるリンクがぼーっとした時、静かに動くシークは彼の唇を奪った。

 

 少し押し付け、ちゅっと吸う。

 すぐに離れていったがリンクにとって生まれて初めてのキスだった。

 

 顔を上げ、呆然とする彼を見下ろすシークは冷静な表情。

 胸や腹を撫でた右手が再び陰茎に触れて、今度は少し力を入れて上下に扱き出す。

 強めに吐き出された息が顔に吹きかかる距離。シークはじっと彼を見つめる。

 

 「キスは有効的だ。親愛の証にもなるし、相手の呼吸を知ったり、乱すこともできる。それに好きな奴はやたらと好むしな。上手くなっていて損はないぞ」

 

 そう言ってまた唇を合わせる。

 啄ばむように何度か触れたり離れたりを繰り返し、緊張を解こうと試みた。

 戸惑いながら目を閉じたリンクはそれを受け、最初はきつく閉じていた唇も、少しずつ安堵して力を失っていく。

 シークも唇で感じ取っており、次の段階として舌を出した。

 

 ちろりと舐め、反射的に体が震えるものの、強い抵抗はない。

 閉じられた唇の形をなぞるように触れていき、唾液によって徐々に濡れていく。闇夜の中で焚火に照らされ、怪しく輝く。シークはその姿を眺めながらキスを続ける。

 

 キスで触れ合いながら陰茎は撫で続けられており、リンクの余裕はますます薄れていた。

 きつく目を閉じる顔は、もはや辛そうにさえ見えてしまう。

 

 うぅと声が漏れ、油断した一瞬、ついに口が割られて舌が入り込んだ。口内に侵入したシークの舌がリンクの舌を絡め取り、慣れた様子で淫らに舐め始める。

 初めての感覚に全身が震える。

 驚いた様子のリンクを押さえつけつつ、シークはさらに奥まで入り込もうと差し込み、口内全体に舌を這わせた。互いの唾液が混じり合い、時折飲ませ、自身も吸い上げて飲み込む。その一挙一動がリンクの平静を溶かして意識を蕩かせた。

 

 はち切れんばかりの陰茎は腹に当たるほど反り返っている。

 撫でていると射精感が高まっているのは手に取るようにわかった。

 一思いに出させるべきか、それとも今後のために我慢を覚えさせるべきか。

 考えながら舌を吸うと、その瞬間、低く呻いたリンクが腰をぐっと浮かせて射精した。

 

 シークの手に扱かれながら腰だけが上下し、びゅくびゅくと勢いよく飛び散る。

 吐き出された精がシークの手を汚し、リンク自身の腹や股間を汚して、勢いが収まる頃には濃厚な精液でひどく汚れてしまっていた。傍から見ても凄い量だ。

 

 キスを中断し、手を持ち上げたシークは、自身の手を汚すどろりとした体液を眺めた。

 

 愛おしい、と思うのはなぜだろうか。

 男色の気はなかったはずだが、嫌悪感どころか好意的な感想を抱いている。

 そんな自分に驚きながら、指を動かせばにちゃりと動き、見慣れたはずのそれを観察する。

 ずいぶん長く溜め込んでいたのか驚くほどの濃さだ。それも当然か、と思う。何せ七年もの間眠りに就き、その間女を抱くどころか自慰をする暇もない。これが当然だろう。

 

 我慢できなかったのも仕方ないと理解してやった方がいい。

 まだ硬いままの陰茎を撫で、頬にキスを与えながら穏やかに声をかけた。

 

 「リンク。イク時はイクと言った方がいい。意思の疎通も大事な物だ」

 

 呼吸を荒くするリンクは小刻みに頷いた。

 聞こえているか定かでないが、理解しようとする意志があるならそれでいい。シークは彼の頬にちゅうっと強く吸い付き、それを最後とした。

 

 少し移動して足の間に陣取る。

 勃起したままだが陰茎は少し力を失くしている。本番はこれからだというのにだ。

 このままではまずいだろうと思う訳で、中途半端に終わらせる気はない。

 大口を開けたシークは躊躇わずに、精液に濡れた陰茎を口に銜えた。

 

 「んぅ、ふっ……」

 

 驚愕するリンクの呻き声が聞こえる。だが気にせず銜え続けた。

 舌で刺激してやり、付着していた精液を舐め取ってやる。

 不思議と興奮してくる。自身の勃起したままの陰茎がさらに硬くなるような、カッと一際熱くなるような気がして、なぜだろうと思いながら一度口を離した。

 

 「性器を口で刺激してやるのも一つの技だ。女の物は形も違うし、力加減も注意しなければならないが基本は同じだろう。僕がやるから自分の体で覚えろ」

 

 再び口に銜え、口淫が始まる。

 初めてのこととはいえ理屈はわかる。女にされた経験もある。

 シークは慣れているのかと思わせるほど巧みに、一切の躊躇いを感じさせず、ぺろぺろと舌で全体を舐め、唇で吸い付いて口内に迎えてやり、できるだけ深くまで進める。経験もないのに喉まで使おうとするかのような、非常に大胆な動きだった。

 

 これに耐えられないリンクは歯を食いしばり、拳を握って射精を堪えようとした。

 さっき出したばかりとは思えないほど硬くなっている。すでに限界まで張り詰めていた。

 その様子を確認して、シークも安心して口を離す。

 

 少し寂しげにしているリンクを見やり、睾丸をきゅっと握ってやりながら言った。

 

 「今度は僕が下になる。君が上だ」

 

 訳も分からぬまま促されて、反射的に頷くリンクはのっそり動き出した。

 シークが仰向けで地面に寝そべり、その上にリンクが覆いかぶさる。

 

 そうしてすぐシークがリンクの陰茎を掴んだ。

 自身のそれと合わせ、互いに勃起したまま、両手で掴んで一纏めにする様子。

 戸惑うリンクが見つめていると、見上げてくるシークが説明する。

 

 「兜合わせ、という物がある。こうして陰茎を一つにして擦り合わせるんだ。男同士だとやはり女を抱く感覚とは違う。尻を使う手もあるが、今は準備が足りない。これで我慢してくれ」

 

 事も無げに説明されて、不満がある訳でもない。

 リンクは考えもせず快く承諾した。

 

 「君が腰を動かしてくれ。前後にな。女を抱く時もこうして君がリードするんだぞ」

 

 うん、と答えて、地面に両手を着いて前かがみに、恐る恐る腰を動かし始める。

 シークの手に握られたまま、ずりっと動き出し、ゆっくり擦り付けられる。

 先に出した精液が潤滑油代わりだろうか。痛みはなく、むしろ独特の感触が心地よくて、互いの性器が触れ合っているのだと思うだけで脳髄が熱くなってくる気がした。

 

 リンクは目を閉じ、一定のペースで丹念に腰を振った。

 シークはそんな彼の顔を見つめ、冷静な表情を崩さず、しかし確かに気持ちいいと感じる。

 

 淡々と腰を振っている中で、再びナビィがリンクの耳元へ移動した。

 鈴を鳴らすような美しい声。

 表情こそわからないものの慈愛が感じられて、その声は確かにリンクの背を後押しする。

 

 「頑張ってリンク。シークを気持ちよくしてあげてね」

 

 或いはそれは、リンクを成長させようという態度への感謝なのかもしれない。

 冷静に考えるシークは、そんなこと考えなくてもいいのに、と思うのだが、少なくともナビィの一言を受けたリンクの気持ちは変わり、わずかながら動きが変化する。

 

 目を開いてシークの顔を見つめ、さらに体を倒して彼の唇を塞いだのだ。

 押し付けるだけの幼いキス。しかし初めて見せた彼からの行動。

 腰も動き続けていて、どうやらシークのためという考えが生まれたらしかった。

 そんな姿に戸惑いつつ、何も言わずに舌を伸ばすシークはリンクとのキスを深くする。

 

 陰茎が擦り合わせられてくちゅくちゅという音。

 一定のペースは変わらず、最初はぎこちなかった動きも時間が経つにつれ慣れてくる。

 

 どちらに余裕があるかと言えば、当然それはシークであって、目を閉じて眉間に皺を寄せるリンクは必死に耐えている様子だ。気持ちと体のすれ違いとでも言うべきか、相手を気持ちよくしてやりたいと思いながら自分の方が舞い上がっている。

 それをシークは否定しない。

 それでいいとさえ思った。

 真摯な彼はこうした行為に慣れてしまわない方がいい。初心なままでいい。

 擦り付けられる彼の陰茎を心地よく想いながら、いつしかシークの心中は穏やかだった。

 

 しばらく動く内に見る見る速度が速くなる。

 我慢できない様子のリンクはシークを気遣いたいと思いながら、その余裕がない。

 心と体が乖離して、想いと裏腹に一刻も早い射精を望んでいるようだ。彼はそれを申し訳ないと思いつつも、もはや自分では止めることができない。

 

 傍から見ていてその葛藤は伝わった。

 ナビィは応援のため声をかけ、それとは対照的にシークはあっさり言う。

 

 「リンク、我慢だよ! 自分だけ気持ちよくなっちゃだめ! シークのことも考えて!」

 「いや、今はいい。よく考えれば彼は初めて、まだ慣れていない。僕を相手に、まずは人と触れ合うことに慣れてくれればそれだけでいいだろう」

 「そっか。それじゃ」

 「ああ。君の出したい時に出して――」

 

 言いかけた瞬間、リンクが気をやった声を出した。

 再び射精が始まって勢いよく精液が飛び出す。

 シークの陰茎を濡らすのは当然として、下腹部にまで届き、大量のそれで汚される。だが気分は悪くない。シークはその熱を感じており、リンクの声を聞きながら熱を受け取った。

 その一方で、自身はまだ射精していない。

 

 ぐったりするリンクが呼吸を乱しながらのしかかってきた。

 陰茎から手を離し、ふと彼の頬にキスをしながら、シークは彼の背を撫でる。

 

 「まだ時間はある。ゆっくりでいい。徐々に慣れて、賢者を目覚めさせることができれば」

 

 頷く仕草に力はないものの、リンクも納得した様子だった。

 しばしそのままで居たのだが、シークが口を開いたことで動き出す。

 リンクを上に置いたまま、自身もイキたいと言い出したのだ。

 

 「手で扱いてくれないか。一応、練習にはなるだろう」

 

 女には付いていない物を扱う訳だが、他人を絶頂へ導く感覚は知っておいた方が良い。加えて、シークも射精がしたかった。単純に気持ちよくなりたいのである。

 果たしてそれは相手がリンクだったからなのか。

 彼の手でイってみたいと思い、珍しく懇願するように、少し弱々しく告げた。

 

 リンクは頷く。少しばかり興奮した面持ちで。

 シークの陰茎を握り、恐る恐る上下に扱き始めた。ぎこちない手つきだがシークの真似をしようとしているらしく、少なくとも痛みを感じる力加減ではなかった。

 

 ふぅと吐息が漏れ出る。

 意外に心地良い。リンクの手の中で安堵する自分が居た。

 

 このまま、時が止まってしまえばいい。

 

 自然にそう思う自分に違和感を抱きつつ、シークは目を閉じ、与えられる感覚を受け入れた。

 そんな彼を見つめるリンクはそっと顔を寄せ、彼にキスを与えて、手を動かし続ける。

 動かす回数が増えれば手首の動きも滑らかになり、快感は増す一方。

 唇を合わせて舌を絡め、意識せずとも集中していき、射精感が高まって、対照的に心はどんどん落ち着いていった。離れ難い、とでも思っているのだろうか。

 自分は男。彼に愛情を抱くなどあるはずがないと思っていたのに。

 優しくキスを与えてくる彼が、愛おしくて堪らなかった。

 

 気付けば射精していた。

 脈動するシークの陰茎は勢いよく精液を吐き出し、自身の体、リンクの体へ大量に降り注ぐ。

 白い肌を汚して、幸福感に満たされる。

 

 陰茎の震えが止まった後でシークは目を開いた。

 見ればリンクが彼の精液に触れ、指の間に橋が架かる。淫靡な様子に興味津々な顔だ。熱っぽく見つめてシークの視線にも気付いていない。

 愛らしい、と思う心はおそらく間違いなのだろう。

 それでもシークは、自身の衝動に身を任せ、何も言わずに彼の唇を塞いだ。

 

 数秒のキス。

 すぐに離れて、視線は正面からぶつかる。

 

 「禁断の森までまだしばらくかかる。その間、君には教えられる全てを覚えてもらおう。この調子でやれば、できるな?」

 

 問いかければ恥ずかしそうに、赤面しながら頷いた。

 しかしその直後、消え入りそうな声で言われる。

 視線を下ろして下腹部を見ると、そこには完全に勃起している陰茎がある。

 シークは思わず薄い笑みを浮かべた。

 

 「しかしまずは慣れることだ。もう一度してみるか?」

 

 やはり拒否はしない。リンクは頷いた。

 シークにもそれを嫌だという気持ちはなくて、快く受け入れた様子。

 再びシークの手がリンクの陰茎を掴んで、ゆっくりとではあるが扱き始めた。

 

 この後、彼ら二人による旅路は数日続く。

 その間も夜になれば体を重ね、互いに触れ合い、女の抱き方を学ぶ毎日。

 日中は身の守り方、サバイバルの基礎、七年間の出来事など聞き、教えられ、夜には閨を共にして快楽に対する耐性を強め、二人の関係は徐々に変わっていく。

 そうやって時間は過ぎていった。

 

 リンクの精神はいまだ子供。導いてやらねばならない。

 本当に大人になるのはこれから様々な経験を積んだ後でだ。

 

 禁断の森に至るまで、シークは一日と欠かさず彼の隣に在り、その存在を守っていた。

 



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森の賢者

 苦しげな悲鳴と共に幻影が消えていく。

 ファントムガノンと名付けられたそれはガノンの影。存在しない幻。常人には触れることができないというのに、敵からは触れられるという、ひどく卑怯な存在であった。

 

 それを打ち払ったのは退魔の剣。

 リンクが持つマスターソードは幻影を切り裂き、死闘の末に敵を討ち滅ぼした。

 

 深い森の奥、森の神殿。

 静寂に包まれた広い一室での決闘。そして勝利。

 ファントムガノンが消えた直後、頭の中に響く声があり、リンクは剣を納めて辺りを見回す。

 それは懐かしい友の声だった。

 

 《リンク……ありがとう。あなたのおかげで、森に平和が戻ったよ》

 

 あの日と変わらぬ優しい声。

 懐かしさに胸が満たされ、不意に笑みが生まれた。

 頭に響く声は穏やかなままで、さらに言う。

 

 《ねぇ、外へ来て。あなたと話したいの》

 

 リンクは歩き出した。

 神殿の外へ出れば彼女に会える。それを楽しみにしている自分が居た。

 弾む足取りで神殿の中を進み、来た道を戻って、やがて出口を見つける。扉を押し開いて、彼は森の中へと足を踏み入れた。

 

 出てすぐの場所には誰も居なかった。

 すぐに頭の中へ声が届く。

 

 《こっち。来て》

 

 呼ばれただけだが方向がわかる。不思議だが事実だ。理由もわからぬまま、ただ彼女の声だけを信じてそちらへ向かい、小走りで森の中を進んでいく。

 迷いの森と呼ばれる場所でも迷うことなく。

 足を止めた時、リンクの視界にはステージのように大きい切り株と、その上に立つ少女。

 森の賢者で幼馴染でもある、サリアがそこに居た。

 

 背面で手を組んでいつかと同じ表情だ。

 優しい微笑みはあの頃のまま。それどころか外見も全く変わっていない。

 七年の時が経っても子供の姿で成長しておらず、それは昔の仲間たちと同じだった。

 

 コキリ族の人間は成長しない。子供しか存在しない種族なのだ。

 サリアもまた、七年前の姿でリンクの前に現れた。

 今はそれを驚きはしない。疑問を持ったタイミングでナビィに教えてもらったため、コキリ族には子供しかいないこと、そして彼らと共に育った自分がハイリア人であることを知った。

 

 大人になった自分と、子供のままの彼女。勇者と賢者。ハイリア人とコキリ族。

 七年後にこうして出会うとは、別れの瞬間にはまるで思わなかった。

 

 干渉に浸る。そんなリンクにサリアが微笑みかけた。

 

 「リンク」

 

 名前を呼ばれただけで様々な記憶が蘇ってくる。

 体感としてはつい昨日のことのよう。それも彼の場合は比喩ではなく、七年間の眠りにより、成長した外見とは裏腹に体験は子供の頃にあったことのみ。サリアと別れたのはそう遠い日のことではなく、懐かしいという感情も、ほんの数か月程度の物だ。

 

 だがサリアはそうではない。

 彼女は七年の時を過ごし、リンクとは違って時を止めることなく生きてきた。

 七年分の体験の後、ここにこうして立っているのだろう。

 

 なぜ森の賢者となったのか。いつ自分がそうであると気付いたのか、知ることはできない。しかし彼女はすでに森の賢者であるという自覚を持っているらしかった。

 

 リンクと向き合う彼女は以前にも増して美しい。

 ただリンクがそう思うだけか、それとも覚悟がそうさせるのか。

 どちらにしても互いに喜びを抱き、だがその奥には寂しさもあって、これからどうなるのかは正しく理解できている模様。もう昔のままではいられないのだ。

 それは成長と呼ぶのか。リンクにはまだわからなかった。

 

 「また会えて嬉しいよ。背、伸びたね。それにかっこよくなった」

 

 子供っぽく、少し弾むような、けれど愛らしい様子で。

 肩をすくめるサリアは心から喜んでいるようだった。

 リンクもまた喜んでおり、優しく微笑んで彼女を見つめて、同時に少し緊張してもいた。

 

 サリアも理解しているはず。緊張しないのだろうか。

 不思議に思う心を押しやって、今は彼女との再会を喜ぼうとする。

 

 「助けてくれて、ありがとう。あの人が来てから森の様子も変わっちゃったけど、リンクが倒してくれたからすっかり元通りになったよ。これでコキリ族のみんなも安心。私がこの森を離れてもみんなは安心して暮らせるね」

 

 そんなことはない、と言いたかった。

 サリアが居なくなればコキリ族の仲間たちはきっと寂しがる。実際、リンクが立ち寄った時もそうだった。突然サリアが居なくなったことで、みんなは明らかに気落ちしていた。

 

 元通りなんて嘘だ。

 何かが起こる度、森の姿は確かに変わっている。

 デクの樹サマが死んで、リンクが旅に出て、今度はサリアも居なくなる。

 その時ミドはどう思うだろう。彼はサリアに惚れていたはずだ。もしも居なくなったら悲しまないはずがない。それをサリアが気付いていたかは疑問だが、少なくともみんなにはバレていた。

 他のみんなだって悲しむ。サリアはみんなに優しく、平等に接していたから。

 

 そう言ってやろうかとも思ったが、言ったところで変えられないのだと気付いてやめる。

 森の賢者を目覚めさせなければならない。

 もはやハイリア王国だけでなく世界を賭けた戦いだ。個人の意見を優先してやめることはきっと許されない。それでは色んな人の覚悟を無下にすることになる。

 

 不意に口を噤んだリンクを見て、サリアが儚げに微笑む。

 多くの言葉は要らない。無粋になる。互いにそれがわかっていたようだ。

 

 そのため、ふと空を見上げた彼女は妙に達観した表情を見せた。

 初めて見た顔だ。長く一緒に居たのに、そんな顔をしたことは一度もない。

 やはり時の流れは現実として存在していて、彼が知らぬ間に時が流れていたのだ。

 

 「私、寂しくないよ。確かにみんなと離れちゃうけど、これからはリンクの傍に居る。森の賢者としてあなたを助けるから。この森を離れてもずっと一緒」

 

 サリアはそう言って笑う。

 ひょっとしたらそれは気遣いだったのかもしれない。

 自分が望んだ訳ではないだろう運命を知って、逃れられないと気付いたから、リンクを心配させまいとして言った可能性もある。だがその微笑みを見て、ただ素直に信じたかった。

 

 彼女は傷ついてなんかいない。これからはずっと自分と共に在る。

 そう信じて、リンクは力強く頷いた。

 些細なことだが、それだけでサリアは安堵した顔になる。

 

 「この森を離れるのは初めて。でも怖くないよ。先にリンクも外の世界へ出たんだし、今度は一人じゃないもんね。一人じゃないから、きっと何があっても大丈夫」

 

 うん、と笑顔で頷いた。

 その後すぐにリンクが歩き出して彼女の下へ向かっていく。

 

 「ほんとはね、嬉しいんだ。前はリンクに置いていかれたけど、もう離れなくていいから」

 

 間近に立ってリンクがサリアを見上げた時、彼女はくすぐったそうに笑って、トンッと軽く切り株を蹴って彼に向かって飛びついた。正面から受け止め、抱き上げる。

 軽い。体格差があるため当然だがそれにしても驚くほど。

 至近距離で見つめ合い、少し気恥ずかしさもあって、今になってようやく羞恥心も湧き上がる。

 

 「リンクが相手でよかった。恥ずかしくて、ちょっと怖いけど、リンクが相手なら大丈夫。初めてのことだから、任せちゃってもいいのかな?」

 

 リンクは安心させるべく頷く。

 自信のある風に装おうとするものの少し失敗して、緊張が相手に伝わってしまったらしい。

 そうでなくともサリアはずっとリンクを見てきた。七年の時を隔てようと、彼の変化は手に取るようにわかり、耐え切れなくてくすくす笑い出す。

 気付いたリンクも少し居心地が悪そうに、照れた様子で苦笑した。

 

 抱き上げたサリアを切り株に寝かせ、自身も上がって横になる。

 地面は硬いが今は気にならずに、二人とも寝転んだ状態で見つめ合った。

 

 切り株の中央、大自然の中。

 伸ばされたリンクの腕にサリアが頭を置き、しばし何も言わずに時を過ごす。

 再会を喜び、味わって、空白の時を埋めるかのよう。胸が高鳴り、だが妙に落ち着いていた。

 

 「やっぱり緊張するね。ちゃんとできるって思ってたつもりなんだけど」

 

 サリアの頬が紅潮している。それを見て可愛らしいと思った。

 思えば生活を共にしていた頃、彼女を女として見たことはないように思う。自分はまだまだ子供だったし、知識もなく、コキリ族にはそんな習慣もない。だから多少好き合うことがあっても結婚などという概念もなくて、それらを知ったのは外の世界を知ってからだ。

 性交について、サリアがどこで知ったかは定かでないが、こうする時が来るとは思わなかった。

 子供の頃に一緒に寝ていたのとは違う。今は、彼女を女として見ていた。

 

 右手でそっと頭を撫でる。

 グローブを着けたままだったことを後悔した。先に外しておけば、彼女の柔らかい髪をもっと感じることができただろう。指先だけでは足りないと思った。

 しかし左腕は彼女の頭の下。今はまだ我慢して右手だけで触れ続ける。

 

 太陽は高く、夜まではまだ時間がある。

 焦る必要はない。ともすれば逸る気持ちを必死に抑え、彼はサリアとの時を過ごした。

 

 リンクとサリアは、それからいくつかの話をした。

 コキリの森を離れた後のこと。自身の旅について。

 精霊石を求めてデスマウンテンやゾーラの里へ行ったことも話した。旅の道中、広大な草原にある牧場に立ち寄り、エポナという仔馬と仲良くなったことも告げた。

 サリアはその話を楽しそうに聞き、穏やかに微笑む。

 

 旅のあらましを話し終えて、今度はサリアが話し始める。

 リンクが旅立った後、やはりコキリの森は少しだけ様相が変わった。あれだけ彼をイジメていたミドは強がってはいても寂しがっていたし、その取り巻きも同じく。誰一人欠けることなくリンクの姿が見えない日常に違和感を抱き、寂しがっていたと。

 サリアも同じだったそうだ。

 みんなが落ち込まないよう元気付けながら、一人になったふとした瞬間、どうしようもなく寂しく感じる瞬間があったという。彼を思い出す度、別れを辛く思ったとも。

 

 初めて聞く話に少し申し訳なく思う。

 コキリ族の仲間と再会した際、それとなく聞かされてはいた。

 昔居た仲間が居なくなったのに、今度はサリアも居なくなって、それが辛いと言っていた。

 

 謝罪と感謝と、そして喜びと寂しさも。リンクの表情が変化して、サリアがそっと身を寄せる。

 

 「大人になるって良いことばかりじゃないね。私たちはずっと子供のままだけど、何も変わらないわけじゃない。時間が経てば心の形も変わっていくから」

 

 静かに語るサリアはリンクの胸に頭を乗せ、安堵した顔で目を閉じる。

 何も考えずにそんな彼女を抱きしめた。

 

 「でも、変わることも悪いことばかりじゃないよね」

 

 どういう意味合いなのかは、はっきり聞くことができない。それでいいと思う。はっきりとした答えを持っていなくても、彼女も自分も、変化することを拒んではいなかった。

 生きている限り、何も変わらずにいるなんて不可能だと思い知った。

 彼は今後も変わり続けなければならない。問題なのは変わった後がどうなるかであって、変化自体を恐れてはいけないのだ。

 それを、サリアとの語らいで気付けた気がする。

 

 言葉を止め、静かな時間が流れる。

 ゆっくりと空気が変わろうとしていた。

 大人になった自分と賢者になろうとしている彼女。やるべきことは一つ。

 

 首を上げて彼女を見れば、サリアも覚悟した顔でリンクを見つめた。

 時は来た、ということだったようだ。

 

 「リンク……」

 

 吐息交じりで艶っぽく、初めて実感する女の顔を見せ、囁く声に驚いた。

 女性とはこんな顔をするのか。

 練習のため抱き合ったシークとは違う。彼も男とは思えぬほどきれいだったが種類が違った。男と女ではこうも違うものかと、やっと実感を得て、また一つ知識が増える。

 

 急激に緊張感が増してきた。

 正真正銘、これが童貞を捨てる初めての体験となる。

 初めての相手がサリアで良かった。リンクは言葉にすることも忘れ、密かにそう思った。

 

 サリアが目を閉じる。それを見た後でリンクが動き出した。

 自身も目を閉じるため細めつつ、触れる場所を間違えないように直前まで顔を見て、ゆっくり顔を寄せていく。そしていざ触れようという時、唇を尖らせて目を閉じた。

 ふわりと触れる、柔らかい感触。

 思わず安堵してしまうそれは間違いなく女性の、サリアの唇だった。

 

 奇妙な感覚だ。

 興奮して頭が茹りそうになる一方、妙に冷静になっている自分が居る。

 嬉しさのあまり、今すぐにも暴れ出したいほど興奮しているのに、一方で現実の自分は冷静な行動ができているらしく、優しさに満ちたキスを繰り返す。

 心と体が一致しない一瞬。

 こんな感覚も初めてで、緩慢なキスを行いながら、彼は自分自身でも驚いていた。

 

 サリアはリンクの腕の中で、身を小さくして受け入れていた。

 子供同士の遊びじゃない、大人がする本気のキス。彼女も興奮している面持ちである。

 

 何度か触れ合って、あっさりと離れた。

 いつまで冷静で居られるのか。自分でもわかったものではない。

 少なからず不安を抱いている様子のサリアの髪に触れ、暴れ出しそうな自分を押さえつける。

 そうできるのもきっと、彼女を大切にしたい一心からだ。

 

 子供の頃の憧れ。再会への喜び。そして初めての女に対する尊敬や情念。

 単なる愛情に上乗せする物がこれでもかとある。

 喜びを噛みしめて、リンクは自身の素直な感情をつい吐露した。

 

 「うん……私も嬉しい。ここに居るのがリンクで、本当によかった」

 

 彼女も同じ想いであると知って、再びキスを始める。

 先程のように何度か触れた後、今度は舌で唇を割って、さらにその先を求める。多少は驚いた様子を感じるものの、予想していたのか、すぐにサリアも順応する。ひとまず訳も分からぬまま彼の舌を受け入れて、促されるがままに自分も動かしてみる。

 練習の成果はあり、リンクのそれはきちんとリードしていた。

 熱い舌が絡み合うだけで心が蕩けていくかのよう。平常心を溶かしていった。

 

 唇が離れた時、目を潤ませるサリアはさっきよりずっと色っぽかった。

 リンクを見つめて何とも言えぬ表情をしている。

 自然に彼の股間も熱くなり、服の下で限界まで大きくなっていた。

 

 「はぁ、ふぅ……ん、これがキスなんだね。大人の、愛し合う時のキス」

 

 嬉しそうに、視線を外して笑みを深めながら呟く。

 外見こそ子供でもれっきとした大人だ。彼女は少女ではなく、女の顔をしていた。

 

 リンクは先に両手のグローブを外し、少し遠くへ投げた。

 邪魔になってはいけない。彼女と触れ合う時に隔てる物はない方がいい。革のグローブも服も、普段は身を守るそれも今は邪魔になるだけだ。

 

 両手の素肌を晒して、警戒させないよう気をつけながら彼女へ触れた。

 背を撫で、太股を撫で、頭を撫でる。

 徐々に緊張を解していけばいい。急ぐ必要はないのだから。

 いずれはお互い服を脱がなければいけないのだが、まずは服の上から彼女に触って、その体の形状を少しずつ確認していく。くすぐったそうに、彼女もその手を受け入れた。

 

 「恥ずかしいよ……でも、しょうがないよね。これも必要なことなんだから」

 

 リンクが頷く。

 視線を合わせて、もう一度サリアが問いかけた。

 

 「ねぇリンク、私が子供で、ごめんね? 本当は大人の女の人がよかったよね……」

 

 気にした様子で言われたことで、リンクは即座にそんなことはない、と答える。

 年齢や外見は関係ない。

 サリアだから嬉しいのだ。昔からよく知る彼女と、恋かどうかは定かでないとはいえ好きだった相手と一つになれる。それだけで幸福過ぎるほど恵まれている。

 だからサリアで良かったと素直に告げて、彼女は嬉しそうに頬を緩めた。

 どうやら望んだ答えがもらえたようだ。

 

 「ありがとう」

 

 不安は消え失せた。ならば後は身を任せるだけ。

 サリアはリンクの胸に頭を預け、安堵した顔で目を閉じる。

 彼は頭を撫で、それからゆっくり動き出す。

 

 多少の緊張を残しつつ、サリアの服を脱がせ始めるのである。

 コキリ族特有の緑色の服。見慣れているそれはどんな構造かも理解していて、目を瞑っていたとしても苦労することはない。それだけ彼女を見ていたとも言える。

 そこだけは自信のある動きだ。

 一枚ずつ着実にサリアの服を脱がしていき、やがて彼女は、裸になる。

 

 仰向けに寝転がるリンクの上、今までとは違う姿がある。

 思い返せばコキリの森に住んでいた頃、みんなで裸になって川遊びをしたこともあった。子供だけで羞恥心もなく、それが当然の物として。

 だがその時、サリアはそうしなかった。他の女の子に誘われても川遊びをしていない。

 

 今にして思えばその頃から彼女だけは違っていたのだろうか。

 余計な思考が邪魔をしかけるが、すぐに消し去り、今は彼女に集中する。

 

 子供であることは否めない、小さく細い体。

 真っ白な肌はシミ一つさえ見つからず、予想していたよりずっと美しく可憐だ。

 彼の体はますます熱くなっていき、やはり我慢できそうにない。頭が沸騰しそうだった。

 

 「やっぱりちょっと……恥ずかしいな。ねぇ、変じゃないかな?」

 

 照れた顔でそう尋ねてくる彼女が愛おしくて堪らない。

 ぎゅっと強く抱きしめてやり、きれいだ、と掠れた声で呟く。それが答えになっただろう。きちんと意味を理解したサリアも微笑み、彼の体を抱きしめ返す。

 しかしまだ服を着たままだ。改めて考えれば、これが邪魔になる。

 余裕を取り戻した様子のサリアが、自分からリンクへ提案した。

 

 「リンクも脱いで。私だけなんてずるい」

 

 子供っぽくなっただろうか、と多少の後悔を抱きながら、やはり自分らしく言えなければおかしいのだから間違っていない、と思い直す。言い切ったサリアは敢えて自信満々にしていた。

 するとリンクも納得した顔で頷く。

 自分の手で服を脱ぎ始め、ゆっくり手をかけ始めた。

 

 「私も手伝うね。うふふ、こうした方が、興奮するんじゃない?」

 

 悪戯っぽく笑ってサリアの手がベルトに触れた。

 羞恥心が増すも言われた通りだ。そちらの方が興奮する。リンクはそれを拒まない。

 

 多少の時間はかかったが、リンクもまた全て脱ぎ去って裸になった。

 

 形の良い筋肉に覆われた白い肌。川遊びをしていた頃とは違う。

 逞しい胸板を手で撫でてみて、ほぅと溜息をつく。

 長い間ずっと見てきた相手だったが、これほど男を感じた経験は初めてのこと。七年の歳月を如実に感じるには十分な状況で、思わず胸が高鳴った。

 これが大人の喜びなのだと、初めて知った瞬間である。

 

 リンクの手がそっと彼女の肌に触れ始める。

 ゴツゴツした手の感触に驚くも、嫌ではない。むしろ少し嬉しかった。

 自分の体が性交に適しているとは思わず、不安もあった。

 しかしリンクの様子を見れば、それも杞憂だったと知って、今では安堵している。

 

 爛々と輝くような目は興奮し切って、股間の男根も硬くそそり立ち、すでに腹に触れている。その熱はどうあっても無視することはできない。

 自分も触れてみようか、と考え、リンクの愛撫を受けるサリアも手を伸ばした。

 

 背から移動した手は胸や尻を撫でる。

 負けじとサリアも彼のペニスを握って、初めての感触に動揺しながら力を入れる。知識も経験もないが痛くしないようにと心がけた。その甲斐あってか、リンクは苦しげに声を出し、しかし痛みからではなく、気持ちよさそうな声色だった。

 なんとなくそう感じ取ったサリアは笑みを深める。

 少し大胆に動かしてみて抵抗がないため、やはりそうなのだと確信を持った。

 彼女も見様見真似で愛撫を続け、互いの体を触り合う。

 

 ただ触れ合うだけで、大きな何かがある訳ではない。

 それなのにこの瞬間が、驚くほど心が安らいだ。

 

 リンクの手が優しく体を撫でている。

 胸の小さな膨らみ。小さいがわずかに丸みを帯びた尻。細い太股や、さらには股まで。

 誰にも触れられたことのない場所。毛が生えておらず、つるりとした印象。実際に目で見た訳ではなく、手で触れただけの彼は些か驚いた顔を見せる。

 

 柔らかい。それが最初の感想だ。

 男のそれと違うのは知識として知っていたし、シークにも教えてもらった。しかしこうも違うものか。二本の指で壊れ物を扱うかの如く触れ、胸の鼓動はさらに高鳴る。

 

 男を受け入れたことのないそこはまだ固い。

 彼のペニスを受け入れるには少々危なっかしくて、それがより一層の興奮を生んだ。

 

 「んぅ……そんなとこ。恥ずかしいよ」

 

 消え入りそうな声で呟かれた。

 今は、上手く反応してやることができない。

 リンクはすっかり彼女の股間に触れるのに熱中しており、自分をコントロールできない様子。

 指の動きは優しく、だが確実に、徐々に大胆になろうとしていた。

 

 今すぐ挿れたいと思うのは、浅ましいのだろうか。

 自分の煩悩を追い払うように、無理だと知りながらも、必死になって欲望を押さえつけた。

 

 揉みほぐすように円を描いて撫でてやる。

 それで変わるだろうか。何か違うことをしてやった方がいいのでは。

 考えるリンクはシークとの日々を振り返って、ある時はたと気付いた。

 

 挿入の際、女性器はよく濡らしてやらなければ痛みを感じる。そう聞かされた後、濡らすための方法を教えてもらったのだが、その一つが舌で舐めることだった。クンニリングスと言うらしい。気分を高めるだけで無理ならばそれが手っ取り早いと。

 焦ってはいけないと思っていながらも、自身の我慢にも限界がある。

 ましてや今は女性との初体験、初めての性交。相手はサリアだ。

 何かが起きてしまう前に、間違いが起こらないためにそうするのは悪くないはずだ。

 

 変わらぬペースで愛撫を続ける一方、リンクは提案する。

 舐めたい、と正直に言った。

 少々デリカシーに欠ける発言であろうが、経験がなければ無理からぬこと。加えてサリアはそれを許してしまうほどに心が広かったようだ。

 

 こくりと頷いて、恥ずかしそうに身を捩る。

 二人は体勢を変え始めた。

 

 「これで、いいのかな?」

 

 頬を赤くするものの拒否はしない。リンクの言う通り、彼女が仰向けに寝そべる。

 そして自ら足を開き、無毛の股間を晒し、両膝の裏を抱えた。

 隠されていた場所が露わになる。

 これだけでリンクの鼻息は荒くなり、限界までそそり立つペニスがふるりと震えて、先走りのカウパー液がとめどなく溢れ出てきた。

 

 まだだ。まだ我慢しなければならない。

 自分を律して必死に我慢して、顔を近付けるべく上体を倒した。

 サリアの秘部に唇を触れさせてちゅっと吸い付き、腰が震えるのを見た。

 耐え切れずに彼は右手でペニスを扱き始め、自らを慰めながらクンニを開始する。

 

 閉じられたままの二枚貝。どんな構造かは知らず、自らの舌で感じ取っていくことになる。密かに舌を伸ばす彼は、喜々としてそこを知ろうとしていた。

 

 ぴちゃぴちゃ、小さな音がする。

 やはり触れただけでは解せていない。判断は正解だったのだろう。

 それにしても小さな体だ。本当に挿入できるのだろうかと心配になって、優しくすることを心掛けながらも、舌先は必死に挿入すべき場所を探り、やっとの思いで彼女の膣を探し当てた。

 穴は小さく、閉じられていて、とてもではないがペニスが入るとは思えない。

 今更になって半信半疑になり、その一方でひどく興奮した。

 

 早く一つになりたい。強い衝動が体の奥底から湧き上がってくる。

 このまま我慢を続けるなど拷問に等しい。それでも秘部から口を離さず、舌で舐め解す行為をやめなかったのはサリアに対する気遣いがあり、自分がそこから離れたくなかったからだ。

 

 ただ舐め続けるだけの行為が、なぜこんなにも楽しいのか。

 楽しいと呼ぶのかはわからなくなるものの、とにかく口を離すのが惜しく感じられ、ずっとこうしていたいとさえ思う。初めて口で触れる女性の股間、頭がカッと熱くなって、湧き上がる興奮が止め切れなくなり、自分が淫らな行為をしているという実感が背を押すのだ。

 一度味わえばもう戻れない。そんな一時だった。

 

 熱中した様子で舐め続け、少しでも痛みを和らげられるよう、膣の辺りを丹念に舐め回す。

 そうした甲斐もあってサリアは甘い声を漏らし、そこから快感を得ている姿になった。

 着実に前へ進んでいる。そうして時間をかければきっとできるはず。

 リンクの全身を、更なるやる気が包み込む。

 

 「あっ……んんっ、はぁ」

 

 どれだけそうしていたのだろう。

 羞恥心に包まれるサリアは恥じらいを捨てきれず、股を開く自分にさえ興奮し、誰にも見せたことのない股を舐められて、体内にある熱は尋常な物ではない。

 軽くであれば何度かイっていたようだ。

 時折腰の辺りがビクビクと大きく震えるのだが、それがイっているとはリンクも気付けない。

 

 唾液と内から溢れる体液とで、すでに膣は濡れそぼっていた。

 ようやくそれを目で確認できるようになった頃、だがリンクも限界を迎えている。

 自分の右手でペニスを扱いたせいで、もはや射精寸前。これでは挿入を試みることさえ不可能だろう。触れた瞬間に出てしまうのは自分でも理解できている。

 

 そこでリンクは英断を下した。

 股から口を離してすぐ、体を起こし、サリアの体を跨ぐのである。

 

 次第に大きくなる快感の波に呑まれたせいで、ぼんやりしていたサリアは何をされるか、全く理解できなかった。ただリンクが腹の辺りを跨いだことだけは見えている。

 何も言わずにぼーっと眺めて、彼女は自分の呼吸を整えるので精いっぱいだった。

 

 ペニスを掴んだ右手が今までにないほど激しく動かされている。

 サリアの裸体を見下ろして、その刺激を使い、興奮は大きくなる一方。

 悪びれる様子もなく、リンクは、自らの手で射精した。

 

 「あっ、きゃあっ!?」

 

 突如宙を舞った白い体液。びゅっと飛び出すそれはサリアの胸や腹にかけられた。

 濃厚で量も多く、冷静になれば匂いも強い精液。

 自分の体に付着したその物体に半ば呆然とし、サリアは困った様子で呟いた。

 

 「あ……出しちゃったの? リンク、我慢できなかった?」

 

 肩で呼吸をしていたリンクは、そう言われて初めて罪悪感を覚えた。

 いつかナビィが言っていたではないか。自分だけ気持ちよくなってはいけないと。相手が居て初めてできることなのだから、相手に対する気遣いもきっと必要なはずだ。

 

 今のは彼の自己満足。自分だけで勝手に気持ちよくなった。

 これではサリアに対する侮辱とも取れる。

 あまりにも必死過ぎて、当然そんなつもりはなかったのだが、気遣いが無さ過ぎた。

 猛省する彼は射精直後の倦怠感を感じつつ、少し冷静になったこともあり、どこか落ち込んだ表情を見せる。子供っぽく見え、昔を思い出す様子だった。

 そんな彼に苦笑し、上体を起こしたサリアはぽんぽんと頭を撫でた。

 

 「落ち込まなくていいよ。私ばっかり気持ちよくなっちゃってたもんね。ごめんねリンク。何もしてあげなかったから、辛くなっちゃったんだよね」

 

 昔からその表情に弱かったという理由もある。

 落ち込まないよう、優しく声をかけて、昔のように頭を撫でてやる。

 その姿は何も変わらず対等な物だ。

 彼女の優しさが嬉しくなり、過去を思い出したこともあって、リンクの顔には笑みが戻る。

 

 「私、何をすればリンクが喜ぶかわからないから、して欲しいことがあったら言って? やっぱり任せてばっかりじゃだめだと思うから。力を合わせなきゃいけないんだよね」

 

 それはこれからのことを言っているのか。或いは先を見据えた考えだったのかもしれない。

 ただリンクにとっては純粋に嬉しい気遣いで、素直に頷くとすぐに答えを出す。

 

 挿れたい、というのが彼の要望だ。

 一度射精したとはいえまだ足りない。もっと彼女を感じたいと思う。

 欲望は収まるどころかさらに倍増するかのようで、我慢できない彼はサリアを抱きしめ、恐る恐るとだが唇を塞ぐ。彼女は嫌がらずに受け止めた。

 

 ちゅうっと音を立て、数秒。顔を離した時にはどちらも笑顔になっており、答えを待っていたリンクを見つめ、微笑むサリアが小さく頷いた。

 再び彼女の体を気遣い、痛みを感じないよう、胡坐を掻くリンクの上にサリアが乗った。

 

 「んしょ。重くない?」

 

 重くないと即座に告げる。むしろ軽過ぎるほどだ。

 肌をぴたりと合わせて正面から抱き合い、二人の性器が触れていた。

 まだ挿入には至っていないが、今の環境でするのならこれが最も適した体勢だろう。そう思ってのことだったがサリアは疑問を抱いたらしく、可愛らしく小首をかしげて尋ねる。

 

 「このままするの? 寝転んでするのかと思ってた」

 

 確かに彼女の言う通りだ。正直なところ、直前までリンクもそう思っていた。しかしそれなりに硬い切り株の上はベッドとは違い、彼女の背に痛みを与えてしまう可能性もある。それを恐れた彼はシークに教えてもらった体位の一つを選んだのだ。

 

 座ったままで抱き合い、自分が下になればサリアが傷つくことはない。

 そう説明すれば彼女もリンクを心配するが、その必要はないんだと告げる。

 

 今はとにかく、一つになりたい。

 ここで中断してベッドのある場所まで移動することは不可能である。そうやって素直な心情を吐露すればサリアも何も言えないのか、照れたように笑って頷くだけだ。

 そこまで強く求められて細かなことは言えないだろう。

 彼女も少し前からずっと、一刻も早くリンクが欲しくて堪らなかった。

 

 「それじゃあ、いれる? どうすればいいかな」

 

 腰を上げて、と要求して、切り株に膝をつくサリアが少し体を上げた。

 リンクがわずかに腰を振ると二人の性器が擦り付けられ、にちゃりと体液が混じり合い、長く糸を引いて一瞬繋がる。

 

 もはや我慢の限界だ。

 リンクは右手でペニスを支え、左手でサリアの腰を下ろさせ、膣に亀頭を触れさせた。

 

 「あっ……んんっ」

 

 少しずつ押し広げるように、ゆっくり腰を下ろさせていく。

 ペニスは、着実にサリアの膣へ入っていた。

 まだ固さの残るそこだがしっとり濡れていた甲斐はあり、想像よりずっと痛みは少なく、ずるずると呑み込まれていく様子で奥へ進む。中は熱く、きつい締め付けでペニスを掴み、今まで味わったことのない感触を硬い肉棒へ叩きつけるようだ。

 

 頭を振って、リンクが思わず声を出した。

 こんな世界があることを知らなかった。その衝撃が、彼の呼吸を一瞬で乱す。

 

 受け入れるサリアもまた、平常心を失くさずにはいられない。

 自分の体内に埋め込まれた異物。熱くて硬い、長い棒。しかもただ長いだけではなく、意外にも太くて、先端は閉じた道を押し開くべく、特に強い力を感じる。

 

 リンクと一つになった。

 その感動が彼女の体を大きく揺り動かして、とてつもない衝撃を生み出す。

 気付いた時にはすでに遅く、サリアは絶頂へ到達していた。

 全身がぶるりと震え、膣内の肉ひだまで激しく動き、さらにそれだけでは済まない状態となる。

 

 「あっ、あぁっ、だめぇ。リンク、ごめんっ。うっ、うぅぅ……」

 

 ぶるぶる震える彼女は必死でリンクにしがみつき、その肩口に顔を埋めた。その直後、腰の辺りに温かい水がかけられ、どうやら小便を漏らしてしまったらしい。

 凄まじい快感で体の制御ができなくなり、またその放尿さえ驚くほど気持ちが良い。

 かくかくと浅ましく腰を振るサリアは、淫らな表情で小さく喘いだ。

 

 「ごめんね、ごめんねリンク。かかっちゃってる、よね。でも、止まらないの。んんんっ、きもちいい……!」

 

 謝り続けながらも腰の動きは止まらず、放尿も続いた。

 内側から全身に纏わりつく快感が中々引かない。消え去らない。

 イキ続けているらしいサリアはその間もリンクのペニスを刺激していて、彼自身も耐えているのが辛くなり、必死に歯を食いしばって耐えなければ今にも射精しそうな状態だった。

 それも嬉しくはあるが、せっかくの状況。もっと楽しみたいと思うのも当然の思考。

 リンクは耐え抜き、改めて楽しむために我慢を続ける。

 

 やがてサリアが落ち着いた時、リンクが座る切り株は小便で濡れていて。

 冷静になって恥ずかしくなったサリアは顔を真っ赤にしていた。

 呼吸を乱しながら汗を掻き、動揺した声で、辛うじて聞き取れる声で話し出す。

 

 「うぅ……ごめん。汚いよね。えっと、どうしよう……」

 

 構わない、と考える間もなく言う。それにすごく興奮した、とも。

 その言葉を聞いてさらに羞恥心が増したらしく、もじもじと様子が変化する。

 

 「そ、そっか。えっと、うん……そうなのかな。リンクも大人になったってこと? 私にはあんまりわからないけど、でも……喜んでくれるなら、いいかな」

 

 半信半疑ではあるものの、恥ずかしそうに微笑んだ。

 サリアの顔を見てリンクも興奮し、両手で彼女の尻を掴んで、ぐっと持ち上げた。

 落として、腰を突き上げて、暴発寸前のペニスで思い切り奥を叩く。

 

 突然の行動でサリアが目を見開いた。

 全身に走る鋭い感覚。どうやらそれもまた先程と同じ快感のようだが、種類がまるで違う。電気のように一瞬で全身を駆け巡り、あまりの強さに訳が分からなくなって、呼吸もままならない。大口を開いて唾液が垂れてしまい、体ががくがく震えていた。

 それを見ながら、リンクは尚も腰を動かす。

 

 腰が巧みに上下へ動いて、ペニスの出入りが繰り返される。狭い膣を縦横無尽に暴れ回り、こうなればもはや気遣いなど考えている暇もない。

 ただ一心不乱に射精へ向けて全力で動いた。

 サリアが悲鳴を上げる暇もなく、余裕すら失われている。されるがままに声が漏れ出た。

 

 「あぁっ、うぅっ、はぁぁぁっ……!?」

 

 力のない嬌声が口をついて出ていき、悲鳴とも思える様子で途絶える瞬間がない。

 さっきよりも凄い。最初からずっとイキ続けていて、混乱の中でも幸福感を感じている。

 強く求めてくるリンクの愛を感じていた。

 それだけでなく途方もない快感によって苛まれ、幸福とも、辛いとも言える状態。

 少なくともこんな体験は生まれて初めて味わって、訳が分からないのも当然だ。

 

 サリアはリンクの首に両腕を回し、強く抱き着いた。

 決して離れぬように、己が持つ全ての力を使って抱きしめ、自分からも腰を振り始める。そうするとどうだ。自然と涙さえ流れ、呼吸すらできぬほど絶頂を感じる。

 

 リンクも全力で腰を振り続け、ペニスはぐりぐりと膣内を強く刺激し、ひどく喜んでいる。

 だがそう長くは続かず、あっと思った瞬間には射精してしまっていた。

 

 半ば反射的に、本能からの行動だったかもしれない。サリアの体をぐっと抱き寄せ、ペニスが一番奥まで突き刺さり、その瞬間に射精が始まる。

 勢いよく飛び出した精液は当然サリアの膣内へ注ぎ込まれる。

 あぁっ、と甲高い声。悲鳴のようなそれは確かに嬌声で、彼女の顔に笑みが戻る。

 

 体感としては何分続くのか、というほど長い射精だった。

 膣内に出された精液が溢れ出てきて、ペニスを伝って外まで出てくる。

 気にする余裕もない。リンクとサリアは互いに強く抱きしめ合い、呼吸は乱れ、大粒の汗を全身に掻き、時間は短かったかもしれないが凄い性交だったと振り返る。

 一つになった自分たちを包むのは、大きな疲労と幸福感、そして凄まじい快感だった。

 

 呼吸も落ち着かぬ内から、のっそり動き出した二人が顔を寄せる。

 どちらからともなく触れるだけのキス。

 心地良いそれは後に舌を絡め始め、落ち着くためではなく互いを感じるために続けられた。

 

 やがて唇が離れた時、しばしの静寂。

 森の静けさを近くに感じ、見つめ合う二人は、言い知れない寂しさを感じていた。

 

 「ありがとう……あなたのおかげで、私は森の賢者として目覚めることができました」

 

 口調が変わって、蕩けていたはずの声に少し冷静さが戻ってくる。

 来るべき時が来た。それを知ってリンクは表情を歪め、分かり易くも寂しがる様子を見せる。対するサリアは苦笑して、仕方ないとでも言うかのように語った。

 

 「そんな顔しないで。大丈夫。私はずっとリンクの傍に居る。ちょっとの間、会えなくなるかもしれないけど、これからもずっと……いつまでもリンクの友達だよ」

 

 そう言ったサリアの体は、気付けば光の粒子に変化しつつあった。

 体の端から徐々に、少しずつ光に変わって、空へ舞う。

 

 別れの時が来た。

 森の賢者として覚醒した今、隣に並んで行動することなどできない。

 二人にはそれぞれ役目があり、異なる場所で、互いに力を合わせる必要がある。

 ここで別れる必要があった。そうなると理解しているため、サリアは彼に笑顔を見せる。

 

 「私があなたを守るから……負けないでね、リンク」

 

 最後の最後まで、リンクは彼女を強く抱きしめて離さなかった。しかしやがて、サリアの体はその場から消えてしまい、後には緑色に輝く光だけが残る。

 腕の中から彼女の姿が消え、リンクは一人、裸でその場に取り残された。

 

 両腕は空を抱きしめたまま、しばらく動き出すことができなかった。

 必要なことだ。だが、やはり寂しさは拭えない。

 

 少し経つと見守っていたナビィがリンクの下へ赴き、穏やかな声で語り掛ける。

 

 「頑張ろうね、リンク。力を貸してくれるサリアのためにも、ガノンドロフを倒さなくちゃ」

 

 うん、と頷いて答える。

 立ち止まる訳にはいかない。サリアだけではない、多くのものを背負っているのだから。

 それでもやはり、胸の内には言いようのない寂しさが広がっていた。

 



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エアギア
自由な燕


 ひどく満月が美しく、同時にどこか怪しく見える夜だった。

 時間帯は深夜の頃。都心の辺りであっても人の姿は徐々に減り、静寂が町を包みこむ。当然住宅街の方になればさらに静けさが増し、家屋が少ない山間の方ではそれよりもさらに静けさが大きい。

 とある技術屋はそこに居を構えていた。

 元は無料奉仕のエア・トレックサポートチーム、道具屋(トゥール・トゥール・トゥ)に所属していた青年。あるきっかけでリーダーと仲違いし、一人でチームを抜け、個人でエア・トレックの技術屋を始めている。

 と言っても客などほとんどいない。昔馴染みが数人やってくるくらいのもの。

 中でも厄介なのは予約もせずに必ず深夜にやってきて、勝手に作った合鍵で彼の家へ入り、無理やり叩き起こしてくる人物であった。

 彼の家であり店でもあるそこはボロ小屋をわずかに改装しただけのこじんまりとした場所だ。一階にはガレージのみ、外に設置された階段から二階へ上がって扉を開ければ狭苦しい部屋。あらゆる物が雑多に置かれた一室で、ベッドは窓に面した壁の横に置かれている。

 その上で、踊るように動く人影があった。

 明かりのない薄暗い部屋に差し込む月の光。まるでスポットライトに照らされるようで、ベッドが軋む音をリズムとし、裸体で跳ねるように腰を上下させる。その下には裸の男が寝そべっていた。上に居る女性と違って一切動こうとはしていない。

 どれほどそうしていたのだろうか。玉のような汗が肌に浮き、股を濡らす液体がシーツをぐっしょり濡らしている。

 彼らは時も忘れて繋がり合っていた。

 女は尻にまで届く桃色の髪を持つ、やせ細った美しい容姿である。それでいて出るべきところは出て、ひどく魅惑的な、一方で若々しい外見をしている。脚は長く、腰はほっそりと括れを持ち、胸はゆさりと揺れるほど。男の胸に手を置いて甘える様子を見せながら、一心不乱に腰を動かしている。主導権を持つのは彼女だった。

 男は短髪で長身痩躯、筋肉質な肉体をしており、技術屋としてだけでなくライダーとして走ることができる筋力を持つ。珍しい部類の人間であった。

 渇いた肉の音を室内に反響させ、交わりは数時間をかけて丹念に行われる。滾りを見せるペニスがほぐれた膣の中で暴れまわり、体液を掻きだしながら肉のひだを踊らせる。辺りに散らばった体液は二人の物が混じり合ったそれであった。

 何度か果てようとも女が満足せず、今や半ば無理やりに彼の上で舞い踊る。

 またも男が果てた。女の体内に精液が注ぎこまれ、満足した女がわずかに背を震わせる。

 その後、力尽きたように男の胸板へ頬を預けた。倒れ込んだ彼女は満足した様子で微笑み、甘える素振りで頬ずりしていた。

 乱れた呼吸が室内で響く。しばらく黙りこんだ後、呼吸を整えた男が声を出す。

 

 「いつも言ってることなんだけどさ。俺は風俗嬢じゃなくて調律師だ。用もないのに来るんじゃねぇよ」

 「ん……だからいつも言ってるでしょ? 彼女にしてって。聞いてくれないシギが悪いんだからね」

 

 女らしい声色と表情で、男の名が呼ばれた。

 シギ。本名ではなく鳥から取って名乗っている名前。彼は言わばコードネームのようなそれしか他人に伝えなかった。そのため彼の本当の名前を知る者はいない。

 生まれも育ちも過去の多くが謎のまま。本人は決して語らず、周囲にも詳細を知る者はいない。

 それは今抱き合っている女も同じだ。

 燕のシムカ。広く名が知られているライダーで腕は一流。いつからだったかエア・トレックの調整をシギに任せ、事あるごとに彼へ付き纏っている人物でもある。合鍵も勝手に作り、頻繁に彼を訪ねては、隙を突いて彼と体を重ねるのが習慣。それでは性質の悪いストーカーではないかと本人に諭されたところで態度は変わらず、今夜もそうしている。

 幸せそうな顔で目を閉じ、胸の内側で響く心臓の鼓動に気を良くしている様子。

 しかしシギは行為が終わって、呆れた態度を隠そうともしていなかった。否、そもそも、自ら体を許そうと思っていたわけでもない。寝ている間に無断で入り込まれて叩き起こされ、寝ぼけ眼で居る内に挿入されていただけの話。しかも射精は三度。自分が満足するまで休ませようとすらしてくれなかった。むしろ怒らなかっただけマシだろうと、自分に言い聞かせている。

 慣れた調子で桃色の髪を撫でつつ、憮然とした顔で天井を眺める。一体いつからこうなってしまったのか。改めなくとも奇妙だとわかる関係である。

 不思議とため息が出た。確かに相手は良い女で、行為に満足したはずなのに、胸の内は晴れていない。やはりストーカーまがいの危険な行動が理由なのだろう。

 それにむっとした様子で、シムカが顔を上げてシギに目をやった。明らかに怒っている表情だが、悔しいことに、やはり愛らしい顔である。

 

 「ちょっと、どうしてため息つくのよ。私とえっちした直後なのに」

 「レイプだろ、これは」

 「レイプじゃないよ、合意だもん」

 「合意だったら俺は嫌がってない」

 「じゃあ嫌がってないから合意だね」

 「おまえの目は節穴か、こら。俺の寝込みを襲ったの忘れたとは言わせねぇぞ。今日で何度目だと思ってる。毎日とは言わないが一週間の内に何度も何度も。俺の安眠が何回妨害されたか知ってるのか?」

 「安眠なら私がいっしょの時もしてるじゃない」

 「それはまぁそうか……いやいや! そういうことじゃなくてだなぁ」

 「もー、せっかくのムードが台無しでしょ。そういうの後にしよ。とりあえず、今はぁ……」

 

 楽しげに笑んだシムカが下腹部に力を入れる。すると膣がぎゅっと締まり、挿入されたままのペニスに刺激を与えた。

 思わず声が洩れ、良い反応にシムカの機嫌はさらに良くなる。

 無邪気で幼くも見える笑顔は、可憐であり、妖艶であり、なんとも幸せそうでとても美しい。口では色々と言いながら思わずシギも見惚れてしまう。彼女が自覚している通り、好意を抱いているのは嘘ではなかった。

 少しばかり萎えていたそれを勃起させるため、わずかに腰を動かす。反応は見る見るうちに起こり、ペニスは瞬く間に勃起した。

 やはり男の性は彼女に勝てないのか。

 勝ち誇ったシムカが得意気にシギの首筋にキスを落とす。

 

 「続き、しよ。まだできるよね」

 「おい、もういいだろ。三回も中に出したんだぞ。ゴムもしてないし、いい加減――」

 「おとといは五回だったよ?」

 「体調によって変わるんだよ。しかもこの前だって最後はほとんど出てなかっただろ。男には弾数があるんだ。三回もすれば十分過ぎる」

 「潮吹きしたことあるもんねぇ。あの時のシギ、可愛かったなぁ」

 「うっ、おい……」

 

 くちゃりと卑猥な音が鳴る。

 ゆっくり、小刻みに動かす腰使いは卑猥で、眠気に襲われるシギを簡単にその気にさせてしまう。自ら快感を楽しむシムカは笑みを浮かべたまま目を閉じ、没頭するように膣内にある硬い感触を楽しんだ。

 

 「あっ、んんっ、ここきもちい……先っぽ、どう? カリが引っ掛かって……んんっ」

 「くっ、そりゃ、気持ちいいけどさ」

 「んっ、あっ、ここっ。ここ好きぃ」

 

 ペニスは膣の奥まで入れられ、腰が小刻みに振られることにより、亀頭が子宮の辺りを刺激する。シムカだけでなくシギにも嬉しい動きだった。しかし刺激はわずかで、さっきのように我を忘れるほどではない。すぐに物足りなくなった。

 先に焦れたシムカが一旦腰を止め、縋る目でシギの顔を見る。目を合わせないように気をつけていたシギもその視線から逃げきれず、最後には正面から受け止めてしまったようだ。

 見つめ合った後では逃げられない。わかっていたのに合わせてしまうのはおそらく彼女の容姿が整い過ぎているせいで、甘え上手なためなのだろう。彼女に勝てる自分の姿など想像できなかった。

 

 「ねぇ、しよ。もっかい私が上でいい?」

 「俺は寝たい」

 「それはだめ。最低でもあと二回だよ」

 「勘弁してくれ。明日だってあるんだぞ」

 「どうせお客なんか来ないくせにぃ。はっきりわかりやすく言ってあげるけど、私が仕事とお小遣いあげてなきゃ生活できないでしょ。シギはほとんど私のヒモみたいなものなんだからね」

 「……それを言うな」

 

 首筋をぺろりと舐め、顎のラインをなぞるように舌先が動き、唇へ到達する。シムカはシギの唇を一周、舌先で舐めると至近距離で彼を見つめ、悪戯っぽく笑った。

 

 「それにシギの浮気もわざと見逃してあげてるんだから。こんな時くらいサービスしてくれないと」

 「浮気じゃなくてあれは調律――」

 「言っとくけど、素肌と素肌で抱き合ったら誰がどう見たって浮気だから。今まで何も言わないであげたんだから感謝してよね。それとももっとがちがちに束縛した方がいい?」

 「そもそも俺とおまえが付き合ってるわけでもないのに――」

 「だったら付き合お。前から言ってるでしょ、恋人になった方がいいって。どうせ今も恋人みたいなものなんだし、シギは私のヒモなんだし」

 「ヒ、ヒモじゃねぇよ」

 「ふぅん。じゃあ私の調律もお小遣いもいらないんだ。炊事、洗濯、掃除も、それからレアパーツの差し入れとか、ぜーんぶ必要ないってわけ」

 「うぐっ」

 

 勝ち誇った顔を見せ、首に腕を回したシムカが強く抱きついた。

 決して離さぬと力を込め、脚も絡ませる。その執着は込められた力で嫌というほど理解でき、今までの生活に先程の言葉を重ねられれば、ぐうの音も出ない。習慣とは恐ろしいものだと改めてわかる。

 シギは深くため息を吐いた。応じるように彼女の背に手を回す。

 

 「世の中なんでもギブアンドテイクだよ。正常位がいいなぁ。時間かけてじっくり愛して欲しい」

 「くそっ、あと一回だけだからな」

 「だーめ。最低あと三回だよ。さっきの約束の二回とちょっと傷つけられたから一回追加」

 「で、出なくなるって」

 「んふふ。私、シギの潮吹き好きなんだ」

 

 押しても退かぬ相手では話し合いもできない。

 シギは改めて彼女の厄介さを知り、もはや何も言うまいと体勢を変えた。上に乗る彼女をシーツへ押し倒し、自身が上になる。当然繋がったままで、首と腰に回された腕と脚が一切離れない。

 上機嫌そうに笑う笑顔は可愛らしいのに、強行的な態度は悪魔にも似ている。

 困った顔のシギだったがちゅうと吸いついてくる膣の感触に負け、シムカの腰を掴むと、気分を変えてゆっくり腰を動かし始めた。

 

 「ん……ふぅ。あっ、その感じ、好きぃ」

 「ゆっくりって言ったってな、おまえ今何時かわかってるのか? あと二、三時間で朝になるぞ」

 「ふぅ、んんっ、昼まで寝ればいいよ。あっ、どうせ、くふぅん……仕事なんて、ないんだし」

 「あぁぁ、それを言われたら何も言い返せない、俺」

 「ん、やなこと忘れて、いっしょに楽しもう? 私でいっぱいきもちよくなってね」

 

 落ち込んでしまったシギの頬にキスを与え、ねだるようにシムカが腰を振る。それに応えて少し速度が変わり、ペニスがずるずると膣を出入りした。

 抱き合ったまま淡々と突く。時間をかけてじっくりと愛し合う恋人の時間。シムカはひどくこれを気に入り、一晩中繋がっているのも珍しくはなかった。

 口では拒んでも一度始まればシギもその気で時間をかける。数分、数十分と繋がったままでゆったり動き、丹念にシムカの膣を味わう。

 それだけでなく手で頭を撫で、頬を摘み、乳房を揉む。腰に触れ、腹に触れて、へそに触れる。そうする手つきはやさしいものだ。壊れ物を扱うかのような丁寧さがある。

 撫でられながら、手先が器用な技術屋だからか、と思った。

 こみ上げる嬉しさを抑えきれないシムカは強くシギに抱きついて離れず、幸せを噛みしめる。

 口では色々言いながらも彼はいつだってやさしい。ただあまのじゃくなだけなのだ。彼女がいつも強硬手段に出るのも彼の本心が伝わる気がするだけで、何も自分が性質の悪いストーカーになったからではない。と、本人は思っている。

 今も気遣いを感じる腰使いでペニスを出し入れしている。このやさしさが嬉しいと頬は緩み、我慢など少しもせずに正直な気持ちを言葉にした。

 

 「はぁぁ、そこ、そこきもちいいっ。んっ、もうちょっと奥も……」

 「あ、ああ」

 

 速度を速めたり遅めたりと繰り返しながら、時間も忘れて耽っていた。

 シムカの声は小さく、短く吐かれていたが、徐々に抑えきれず大きくなってくる。

 誘うようにシムカの手がシギの手を取り、自身の胸へ運ぶ。大ぶりの乳房がぐっと掴まれ、ぐにぐにと指の動きに沿って形が変わり揉みしだかれる。

 腰の動きも止まらず、ペニスが出入りする度に体液が噴き出してシーツが濡れる。シムカの気分はどんどん高まっていった。

 もはや我慢の限界。自分の手はシギの両肩を掴み、蕩けた目で彼を見つめる。

 

 「き、キス、キスしてっ。んんっ、もうイッちゃうっ」

 

 シギが彼女の唇を塞ぎ、期待に応えて腰の動きが加速する。途端にシムカの舌が口内に入り込んで彼に絡みついた。

 いよいよという瞬間は繋がっていればわかる。ひだの動きが些か変化し、絞り上げるように絞め付けられていた。そのため最後の一押しとすべく、シムカの両乳首を引っ張る。

 膣にぐっと力が入った。しかしシギはこれに耐え、シムカだけが限界に達する。

 シギの舌に強く吸いつきながら、脚が腰に巻きつき、腕は首に絡んで、決して離れないように抱きついた。

 全身が震える。彼女は確かに達した。

 くぐもった声が繋がった口の隙間から洩れる。膣の刺激に加えて乳首を捻られたことにより、耐えることもできず、一人で絶頂を感じている。

 びくびくと震え、動きが止まった後。止まっていた舌がゆっくりと動き出した。

 深いキスを繰り返し、余韻を存分に楽しむ。飽きることなくシギの口内を堪能し、満足したシムカは口を離してにやけた顔で彼の顔を見つめた。

 

 「んふ、イッちゃった……でもひどいよ、シギ。私はいっしょにイキたかったのに」

 「よし、あと二回だな」

 「違うよ。私じゃなくて、シギがイクのがあと三回。今のはカウントしないからね」

 「俺もう寝たいんだ。だから早く二回イッて終わってくれ」

 「むぅ、このまま強行するつもりでしょ。だめだよ、あと三回。言っとくけどそれまで絶対離さない――あっ、ちょっ、んんっ」

 

 抗議するシムカの声を無視してシギが動き出す。腰を動かしながら右手が下腹部を伝い、股へ触れて、ツンと立ったクリトリスを撫でた。中指の腹でぐりぐりと捏ね回し、彼女の弱点ともなるそこを重点的に責める。すると見るからに顔が赤くなって表情が途端に変わった。

 

 「あぁっ、だめっ、クリは弱いっ……くふぅん」

 「イッたばっかで辛いだろ。いつでもイッていいぞ。ほら、ほら」

 「はぁんっ、やぁ、だめっ、もうだめっ……イクっ、イクっ」

 

 再びシムカが達した。今度はしがみつくこともできずに脚をピンと伸ばし、首を勢いよく逸らして長い髪がシーツの上に舞い、衝撃から目が見開かれる。開かれた口からは声すら出ず、呼吸すら一瞬止まっていた。

 膣からはまるで小便のように潮を吹き、気付かぬ内にシギの下腹部を濡らす。

 そのまま彼女は力が抜けてくたりと倒れ、四肢を投げだした。目を閉じて荒い呼吸を繰り返し、快感の波が引いていくのを待つ。

 だがシギは彼女を待つ気はないようだ。

 繋がったままでシムカの腰を持ち、半ば無理やりに体の向きを変えさせ、横向きに寝させる。膣内をペニスでぐるりと捩じられるようだった。

 この刺激は無視できず、慌てたシムカが抵抗の意思を見せるもすでにピストンは始まっており、さらに押し寄せる波に思考がいとも容易く溶かされていく。

 

 「はぁぁ、あぁぁっ……待って、ちょっと待って、休ませてっ。んん、体が、敏感になっちゃって――」

 「だから続けた方がいいだろ。ほらあと一回」

 「んんっ、やぁ、だめぇ」

 

 淡々と腰を動かして突く。犯しているかのような感覚があった。

 シムカの艶やかな声が断続的に聞こえ、意識せずとも高ぶっていく。彼女を見つめ、月夜に照らされた裸体は汗によってわずかに輝き、驚くほどに艶っぽい。魅惑的な香りが溢れているようだった。

 速度を変えずに突き続ける。刺激は着実に彼女から余裕を奪っていき、だが同時にシギからも失せていった。徐々に彼の表情も変わっていく。

 水音だけがやけに際立つ。嬌声も大きくなっていき、目は美しい裸体を眺めながらも感覚はいつしか膣を掻き混ぜるペニスに集中していた。

 ついにその時を迎えようという時、シギはシムカの腰を強く掴んで一気に速度を速める。

 肉がぶつかる音が大きくなった。もはや我慢することなどできず、二人は叫ぶように声を出す。

 先に限界を迎えて達したのはシムカだった。脳天まで貫くような快感から頭が真っ白になって、膣の中がぎゅっと締まり、ぶるぶると痙攣するかのように肌が震える。長い髪を振り乱して汗が飛び散った。

 続けてシギが達した。ペニスを膣に埋めたまま射精が始まり、奥まで精液が注ぎこまれる。もうすでに今夜だけで四回目。自分でもずいぶん薄くなっていると実感があったが、受け止めるシムカは何とも満足そうな笑みを浮かべていた。くたりと力なく倒れたまま精液の感触を受けて膣が律動するように動く。ペニスをさらに扱こうという動きだった。

 射精が終わってもまだペニスは抜かれず、半ば力を失くしつつ、ゆっくり前後に出し入れが繰り返される。続けて始めるためであった。

 またシムカの体の向きを変え、うつ伏せにさせる。手で尻を掴んで掲げさせ、バックの体勢でピストンをゆっくり始めた。

 シムカは嬉しそうに、というよりも幸せそうに小さな嬌声を発し、嫌がる素振りはまるで見せない。シーツを強く掴みつつ、自らも腰を上下に振っていた。

 

 「うんんっ、はぁ、また、イッちゃった……あんっ、あんっ」

 「ハァ、あと一回イッたら終わるからな」

 「んあっ、だめぇ。もっと、もっとしたい……」

 「無茶言うな。こっちはもう色んな意味で限界だってのに」

 

 そう言いながらもシギの腰は止まらず、両手で肉付きの良い尻を力強く掴み、円を描くように膣の中を刺激した。

 シムカは突かれる度に甘い声を発し、目を閉じて快感に没頭する様子。膣の中が掻き乱されると全身の力が抜けて抵抗できない。これが至福の瞬間だった。

 彼と出会ったが故にすでに慣れたと言っていいが、もはや抜け出せない場所。彼の部屋で、彼のベッドで、彼と二人きりで抱き合う。これほど心が躍り、体が疼き、そして我を忘れて声を出すことなどない。最高に気持ちいいと思える瞬間である。

 二人は飽きることなく行為に没頭していた。汗と体液でひどい状態になったシーツが微塵も気にならず、今ばかりは最高の快楽を与えてくれる相手のことしか考えられなかった。

 

 「はぁっ、んっ、あっ、あっ――!」

 「うくっ、また……」

 

 またも限界を迎える。

 今度はほぼ同時に絶頂へ達し、再び膣内に精液が注ぎこまれた。シムカが唇を噛み、きつく目を閉じて首を反らせる。

 緩やかに何度か出し入れを繰り返した後、腰の動きが止まってペニスが抜き取られる。

 シムカが寂しげに小さな声を洩らしたがシギは気にせず、彼女の隣へ寝転ぶ。

 体はぐったりと疲れ、強い眠気に襲われて目を開けることすら億劫だ。シギは早々に目を閉じて眠りに就こうとし、脱力する。しかしそれを許さないと言わんばかりにシムカが彼の体にしがみつき、萎えたペニスを膝でぐいぐいと押し始めた。

 

 「ん、もう終わりなの? シギ、もっかい」

 「無茶言うな。二回出したんだからもういいだろ」

 「約束だとあと一回残ってる」

 「それだっておまえが勝手に決めたんだろ。当初の約束は守った。俺はもう寝る」

 「えーっ、つまんなぁい。私寂しいなぁ。もっといっぱい愛して欲しいのになぁ」

 「おまえな、それはもう脅迫だぞ。とにかく今日はもう終わり。いい加減寝させてくれ」

 「んん、こんなに想ってるのに無視されるなんて、私かわいそぉ……」

 「だめなものはだめ」

 

 ちぇっ、とわざとらしく言い、懇願をやめたシムカはわずかに移動して彼の股間に頭をやる。互いの体液に濡れたまま萎えたペニスをぺろりと舐め、慣れた様子で口に含み始めた。

 シギはわずかに眉間に皺を寄せて反応を見せるが、起き上がるのも面倒で抵抗はしない。どうせもう無理なんだからと彼女のしたいようにさせていた。

 

 「言っとくけどもう立たないぞ。精液も出ない」

 「んちゅ、そんなの、やってみなくちゃわからないでしょ」

 「俺の体だ、わかってるっての……まったく」

 

 尚も諦めようとしない彼女をそのままに、意識が遠ざかっていくのを感じた。

 これはこのまま寝てしまった方が良いだろう。覚悟は決まっており、シギは抵抗なく意識を手放そうとする。この幸福な拷問のような時間を終わらせるには逃げるのが一番だ。

 しかし眠りに落ちようとしたその瞬間、股間に鋭い痛みを感じ、噛み潰した悲鳴が口から出た。

 もはや寝ていられる状況ではなく、顔を起こして自らの股間を見た彼は、してやったりと笑うシムカの顔を見る。銜えたペニスに弱弱しく歯が立てられており、先程より弱い痛みだがこれが原因だとすぐにわかった。

 流石に怒りがこみ上げるも、強く言ったところでどうせ聞かない相手。彼は怒りをぶつけられる場所もなく深いため息をつく。

 

 「おまえ……それはだめだろ。他のことは目をつぶったとしてもそれだけは絶対にだめだろ」

 「だってシギが相手してくれないんだもん。おっきくなんないなら手と口で気持ちよくしてくれるとか、おもちゃ使うとか、キスしながら添い寝してくれるだけでもいいのに一人で寝ちゃおうとするんだもん。私結構寂しがり屋なんだからね」

 「俺は疲れてるの。で、その疲れさせてる相手がそれを言うか」

 「あ、そんなこと言っちゃうんだ。ほんとは私が来て喜んでるくせに」

 

 嬉しそうにペニスを口に含み、ゆっくり頭を振り始める彼女を見るとまだ眠れないのだと納得するしかなかった。

 彼女が来て喜んでいないと言えば嘘になるが、それでも限度がある。生活の世話をされて肉体は元気になるかもしれないが精神には些かまずい時間や触れあい方もあるのだ。終始離れない彼女にはどうしたって疲れさせられる瞬間というものがある。

 今日も朝まで起きていそうだ。そう考えてシギはまた枕に頭を預け、しかしそれではシムカが怒るだろうと彼女に自分の顔を跨ぐようにと指示した。

 まだ空には月が浮かんでいた。

 

 

 *

 

 

 日の光を瞼に感じて、意識が浮上してきたのだと気付いた。

 眠たげに目を開いたシギは室内が明るくなっていることを知り、幸福な眠りの時間が終わったことを知る。体はまだぐったりと疲れていて回復の兆しは見られない。数時間前に寝たままの状態だとすら思えた。

 目を開けた途端に隣で寝る人物がもそもそと動きだす。

 

 「あ、起きた」

 

 肌をぴたりと合わせてくるシムカが顔を覗き込み、視界の中心に現れて微笑む。

 どうやらずっと抱きついていたようで、シギが目を覚ますや否や頬に口づけを送り、ちゅっとリップ音が鳴る。

 部屋は相変わらずの状態。彼女が居ることも、誰かに起こされるでもなく眠り続けられるのも普段と変わらない。二人だけの寂しいとも幸せとも言える空間だった。

 いまだ眠気は晴れないものの、起きた途端にため息をついたシギはシムカの頭を撫で、動物のように頬ずりしてくる彼女を受け止めて目を閉じる。再び眠ることは難しそうだがもう少し体を横たえていたかった。

 

 「今、何時くらいだ?」

 「んっとね、多分お昼くらい」

 「ハァ、まだしんどい。だからあんなにすんのやめようって言ったのに……」

 「もー体力ないなぁ。私まだ全然元気だよ。もっかいする?」

 「しない」

 「えーっ? 残念」

 

 くすくすと笑う顔は幸せそうなもの。疲れ切ったシギの心境とは違いがあるようだった。

 しばらく甘える素振りを見せていたシムカがそっと起き上がり、裸体もそのままにシギを見下ろす。

 夜であろうが昼であろうが彼女の美しさに変わりない。堂々と裸を見せる彼女の姿にはどうしても視線が釘付けになってしまう。視線を惹きつけて離さない魅力は健在だ。

 それに気付いたシムカはにんまり口角を上げ、自慢げにシギの顔の横に手を置き、わずかに姿勢を低くした。ゆさりと揺れる乳房が目の前にあり、自然とシギの目はたわわなそこに奪われる。シムカの機嫌はさらに良くなった。

 

 「ふふん、そんなに私の体気になる? やっぱりもっかいする?」

 「いや、しない。……でもやっぱ、きれいだよなぁ」

 「えへへぇ、そうかなぁ。もっと好きになっちゃったでしょ」

 「黙ってればな」

 「んふふ、またまた。照れちゃって。素直になってもいいんだよ」

 

 腕を曲げて乳房が顔に押しつけられる。上から圧迫するような様子だ。

 柔らかい感触が顔を覆い、些か息苦しいものの嬉しい悲鳴である。シギは何気なく手をそこへ伸ばした。横から確かめるように指を埋める。するとシムカは嬉しそうで、嫌がる素振りは一切なく彼へ声をかけた。

 

 「舐めてもいいよ。それとも吸いたい?」

 「どっちもかな」

 

 胸を揉みながら乳首を口に含む。シムカはわずかに体を震わせた。

 

 「あんっ……ん、子供みたい。でも好き」

 

 乳首を舌で転がし、乳房の柔らかさを確かめるのに没頭する。指先に力を入れれば簡単に形が変わり、感触が心地よく、不思議と甘い香りすら感じられるようだった。

 女体というのは不思議なものだと実感する。抑えられない性欲に突き動かされている時にはさほど感じなかったが、妙に落ち着いてしまっている今なら驚くほど彼女の香りが感じ取れる。そのため胸に触れているだけで普段よりも大きな安堵が胸の内に広がった。

 味わうように舌を動かし、赤ん坊のように乳首を吸って、気持ちが子供の頃に戻ったかのようであった。

 一心不乱な動きにシムカの笑みはだらしなくなり、与えられる快感で我慢ができなくなってくる。自分でもわかるほど大口を開いて、よだれが垂れていないのは奇跡にも等しい。

 気付けば意識していないのに腰が小刻みに振られていた。更なる強い快感を求めるせいか。羞恥心を感じて唇を噛みつつも、ついに耐えきれなくなったシムカが甘い声でシギを誘い始める。

 

 「ねぇ、下も、下も触っていいんだよ?」

 「んちゅ、今はいいよ。もうちょっとこっちで遊びたい」

 「んっ、あっ、でもさ。ちょっと熱くなってきちゃって――」

 「オナニーとかしとけば? いっつも俺が処理してやってんだから、たまには自分で処理しなさい。あ、そうだ。手伝ってやるからオナニーすればいいじゃないか。俺が胸弄って、下は自分の指で弄る。どう?」

 「却下。全部シギにして欲しいもん」

 「子供じゃないんだから自分で出来ることは自分でしろよ」

 「子供みたいにおっぱい吸ってるシギに言われたくないよ、もう」

 

 拗ねるように頬を膨らませたシムカが体を起こした。まるでシギから胸を取り上げるようである。

 それを機にシギも起き上がって、まずは時計を確認した。時刻は十三時。昼時であった。

 ずいぶん寝たような気もするし、しかし体の内側にある疲労が大して時間は経っていないと言っているようで、なんとも不思議な気分だ。

 大きなあくびをするシギはベッドに座ったまま壁に背を預け、眠たげに何度も目を開閉させる。言わば隙だらけの姿であった。

 シムカは唐突に彼の唇を奪い、軽く吸いついてちゅっと音を立てる。

 触れたのは一瞬。すぐに離れたが頬は赤面した状態、笑顔も何かを期待していて、あからさまな様子にシギがため息をつく。

 

 「先に言っとくけどぼくはもう限界なので出来ません。精液も全然作られてません。射精とか無理です」

 「でもでも、ちょっと寝たんだし、一回くらい。ね?」

 「やだ。さっき言っただろ、手伝ってやるからオナニーしなさいよ。ほら、こっちおいで」

 「んん、違うの。シギがしてくれるから気持ちいいんであって、私が自分でやるのは違う――」

 「見ててやるから。シムカのオナニーしてるとこ見たいんだ、な?」

 

 不満そうな彼女を抱きよせ、背後から抱きしめる体勢となった。

 嫌がっていたはずの彼女は最初こそ抵抗を見せたが、シギの一言を聞いた途端、ぴたりと動きを止めて反応が変わる。

 シギの胸に頭を預け、しおらしい態度で彼の顔を見る。しかし目が期待で輝いていることは一目瞭然だった。どうやらシギが見たいならばと気持ちが変わったらしく、彼の本心を聞きたいと言うかのようである。

 シギはチャンスを掴んだとばかりにいやらしく笑った。

 

 「み、見たいの? でも、そんなに面白いものじゃないと思うよ」

 「別に面白いから見たいんじゃない。シムカが可愛いから見たいんだよ。自分で弄って感じてる姿、今まで一度も見たこと無いし、見たいなぁ」

 「しょ、しょうがないなぁ。そこまで言うなら、しないでもないけど……」

 「好きだよシムカ。だから俺が知らないシムカが居るなんて嫌なんだ。どんな姿でも見せて欲しい、俺だけに」

 「はふぅ……」

 

 顔を真っ赤に染めて、満足した表情で目を閉じた。吐息はやけに熱っぽく、数秒前の言葉を噛みしめる姿にすら見える。

 シギはその彼女を見、これは良い物を見つけたと微笑んだ。

 シムカが自分を溺愛しているのは明白。あまりの愛の深さにストーカーなのではないかと感じるほどだ。だからこそ、好きだよと耳元で囁き、愛してると伝えればある程度は言うことを聞いてもらえる可能性がある。それなりの付き合いになるのに今になって新たな発見であった。

 こうした思考を持つようになった自分に悲しくもあるが、背に腹は代えられない。腹上死を望む性質ではないのだ。使える手段はなんでも使っておかなければならないだろう。

 幸せそうな顔になったシムカは彼の胸に頭を擦りつけている。嬉しい時に見せる仕草だ。わかりやすい姿である。

 心中で一種の喜びを噛みしめ、シギもまた微笑んで彼女の頭を撫でる。桃色の長い髪は手触りもよく、普段から触れるのが好きな場所であったが今日は一段と嬉しさが大きいと思えた。

 少しの間頭を撫でた後、両手を乳房に持っていく。どっしりと重そうに見えるそれは驚くほど柔らかい。先程も確かめたが触れただけでふるりと揺れた。指を広げて掴めばぐにゅりと手が沈みこむ。

 唐突な行動でシムカが小さく声を洩らす。

 嫌がっている様子はなく覚悟は決めたらしい。今度こそシギに背中を預けて寄り掛かった。

 

 「じゃあ、いいか? 俺がおっぱい弄ってやるから、自分の指でマンコ気持ちよくしてみな」

 「う、うん……でも私、オナニーってあんまりしたことないよ」

 「大丈夫、怖いもんじゃないから。それに気持ちいいポイントがわからなかったら俺に聞いてくれ。おまえの体なら大概のことは知ってる」

 「そうだよね。えへへ」

 

 シギが彼女の首筋にキスを落としつつ、両手で胸を揉み始める。ぐにぐにと力を込めて揉み、時折思い出したように乳首を指でピンと弾く。慣れが見える動きだった。

 対して、シムカはあまり自分のそこに触れたことがない。今まではずっとシギに体を預けるばかりだった。従って幾分恐る恐るといった様子で手が股へ向かっていく。

 中指の腹で入り口付近を撫で、わずかに湿っていることを確認する。自分で触るのは驚くほど恥ずかしかった。これほど恥ずかしいのは初めてシギに抱かれた時くらいしか経験がないとも思い出す。しかし羞恥心が大きくなるにつれ、指の動きも速く活発になる。どうやら良いスパイスとなったようだ。

 しばし無言で膣の入り口を撫でる。力を入れれば指が侵入してしまいそうな予感があり、それはまだ少し怖く、時間をかけて準備していた。

 それを見たシギがシムカの耳元で囁く。小声でやけに低くなった声。反応したシムカの体が小さく跳ねる。

 

 「怖いか?」

 「う、うん。まだちょっと早いかも」

 「これくらい濡れてりゃ痛くないよ。見てな」

 

 胸を揉んでいた右手が肌を撫でながら下に降りてくる。そのゆっくりとした動きが妙に鼓動を速くさせ、静かにシムカは興奮していたらしい。

 シギの指が股を弄るシムカの手に触れ、遊ぶように軽く握った後、その下にあった膣内に中指一本を挿入していく。

 確かに痛くない。するりとスムーズに入った指は硬さを感じる男の物で、奥まで進まれると羞恥心がさらに大きくなる。

 指は膣内で関節を曲げ、あらゆるところが撫でられた。好き勝手に動く様はよっぽど彼女のそこに慣れているのだろうと感じさせる。必然的にシムカの反応は良い物が露わとなった。

 

 「あっ、んっ、そこぉ……」

 「気持ちいいだろ? 次は自分で弄ってみて」

 「うぅ、恥ずかしいよ。このままシギが触って。それも気持ちいいから」

 「だめ。俺はシムカがオナニーするとこが見たいの」

 

 ぬぽっと指が抜け、透明な体液が絡みついているのがよく見えた。

 シムカは目を大きくしてそれを見ていたが、自分の体液で濡れた指が顔の前まで運ばれてくると、おずおずとシギの顔へ視線を向ける。彼はやさしい表情で笑うだけだった。

 

 「舐めて。シムカのマン汁で濡れちゃった」

 「い、言わないでよ、そんなこと。んっ――」

 

 言われるがまま、従順に。舌を伸ばしたシムカがシギの指を口内に含む。

 フェラチオする時のように、唇をすぼめて指を捕まえ、緩やかに頭を振る。彼の指だと認識すれば抵抗感など一瞬で消え、目は細められて嬉しそうだった。

 シギは従順な態度に気分を良くし、そのままの状態でさらに耳元へ囁く。今なら言う通りにしてもらえそうだ。攻めるのならば今しかない。普段の鬱憤も含めて彼女に言葉を贈る。

 

 「シムカ、自分の指入れてみな。ちゃんと見ててやるから。気持ちよくなっていいんだぞ」

 「んっ、ふっ――」

 

 恐る恐る、中指が膣の入り口に触れる。そのままするりと内部へ入り込んだ。

 初めての感触に体が震えて気分が高まったようだ。思わずシムカは銜えたシギの指に軽く歯を立て、腰を揺らし、驚いたように声を洩らす。

 左手で乳房を揉みつつ、シギが彼女の耳を舐める。

 傍に彼が居るせいか、気付けば指の関節を曲げて内部を擦っており、確かな快感を得ていた。

 自分は自慰をしているのだと、妙に顔が熱くなった。しかもそれをシギに見られている。今や羞恥心のせいで彼の顔も見られなくなって、目を閉じた状態で指を動かし続ける。やめようという気になれないのはやはり気持ちがいいからだ。

 自分で自分の体を弄れば、意識しなくても感じるポイントがわかるよう。誰を頼るでもなく気持ちいい場所を撫で、腰が震えて、また愛液が溢れだしてくる。

 頭のどこかで冷静な思考がこれは癖になりそうだと感じ取っている。シギに見られていれば自慰も心地いい。

 

 「気持ちよさそうだな。いいもんだろ、案外」

 「んんふっ、ふぅ――」

 「別にもう指離してもいいんだけど……まぁいいか。喜んでるみたいだし」

 

 右手の指を吸わせつつ、左手で乳首を摘みながら微笑む。体が疲れ切ってもペニスさえ使わなければまだできそうだ。力を入れて乳首を捻ってやり、ほんのわずかに噴き出した愛液に気分を良くする。

 シムカも自ら指の動きを速くしているようで、互いにとって利のある状況。新しく発見した幸福だった。

 時間も忘れて体を弄る。どうやらシムカの方が没頭しているようだ。

 何気なく部屋を眺めながら彼女を感じさせていたシギが空腹に気付いた頃、ふとシムカが指から口を離し、くたりと胸板に頭を預けてシギの顔を見る。目は蕩けて開かれた口からはだらしなく唾液が垂れ、快楽に酔っている様相であった。

 

 「はぁ、だめ、イッちゃいそう……私、オナニーでイッちゃうっ」

 「見ててやるぞ。ほら、イケ」

 「んっ、んんっ、はっ、あっ――」

 

 速くなった指の動きに合わせてぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴る。

 シムカはラストスパートを迎え、全力で指を速く動かし、そして達した。

 体が大きく跳ねた後、腰がかくかく動いて快感の大きさを表す。

 しばし無意識で腰を跳ねさせ、動きが止まるとぐったりして体が動かなくなったようだ。呆けた顔で中空を眺め、シギに体のすべてを預ける。

 この状況に思いのほか気分が良くなり、興奮しているものの自分が一切疲れないで済むシギは喜んで彼女を受け止めた。胸から手を離して労るように腹の辺りを撫でてやる。

 一方で気分が良くなったせいか、ふと思いつくことがあった。

 耳を舐めながら右手を再度股に伸ばし、今度は中指と薬指の二本で膣に触れ、呆けたままのシムカへ声をかける。

 

 「気持ちよさそうだな。じゃあ俺も」

 「ん、ふぇ……? あっ、ちょ、んんっ――」

 

 ずるりと勢いをつけて二本同時に、奥まで挿入する。

 余裕を取り戻せていないシムカには強過ぎる刺激。首と背を逸らして見るからに反応を示した。

 それだけに悪戯のような楽しさがあったらしい。シギは嬉々として指で膣内を掻き混ぜ、反応の良い彼女を責め立てる。

 

 「んあっ、やっ、イッた、ばっかりなのに……!」

 「こうされるとすぐイッちゃうだろ。イケ、イケっ」

 「あぁぁっ、だめぇ、ほんとに、イッちゃ――!」

 

 膣からびゅっと潮が吹かれた。

 びくびく震える彼女は落ち着きを失くして悶え、腕や脚をバタつかせて必死に動く。しかし動けたのは一瞬で、絶頂を感じた瞬間には脚をピンと伸ばして震えていた。

 手の動きを止め、二本の指だけを動かして膣内を弄る。震えが止まったシムカだが正常な思考を取り戻すのには時間がかかった。とどめとばかりに刺激されても明確な反応を示すことすらできず、時折ぴくんと腰を跳ねさせるだけだ。

 口の端から唾液を流し、はしたない表情。もはや目が見えているかどうかすらわからない。

 ようやく反応できるようになるとシムカの手がシギの手を握って止める。覗き込んでくる顔を見る目はうっすらと涙を溜め、力の入らない表情でぼんやりと見つめていた。

 その表情は普段とは違う魅力があって、思わず見惚れる。シムカの反応で気分を高めて膣から指を抜き、濡れた指を再び口元まで運んだ。

 

 「また汚れちゃった。自分できれいにして」

 「ん……ふぁっ」

 

 二本とも指を口に含み、シギが動かして口の中を刺激する。

 ちゅぱちゅぱ音を立てて指が吸われる。今度は彼女が赤ん坊のようになっていた。達した直後の倦怠感から力が入らず、物も考えられない。ただされるがままだった。

 あやすようにしばらくそうしていれば、ようやくシムカも落ち着いてきたようだ。シギの指から口を離し、その手を掴んで自分の胸に押し当て、大事そうに抱える。

 大きく息を吸って、吐く。冷静さを取り戻すと脱力した体に幸せが満ちており、しかしそれだけでは満足できないのが彼女であって、またしても甘える声が彼に届けられた。

 

 「はぁ……また、イッちゃった。シギ、やっぱりもっかいしよ。おちんちんちょうだい」

 「だから無理だって。体力の限界」

 「でもさっきから背中におっきくなったの当たってるよ? ほんとはできるんでしょ」

 「勃起しても無理な場合だってあるの。それより腹減ったからメシにしよう。朝飯だって食ってないんだし」

 「やだ。もっかい入れてくれるまで動かない」

 「ハァァ、まったく。落ち着いたらこれだからな」

 

 胸の谷間にシギの手を挟むシムカは確かに梃子でも動きそうにない。どうしたものかと考える。流石に同じ手は使えそうにない、それではいつまで経ってもベッドから降りられないのだ。先程の手が使えるのはおそらく一日に一回といった程度だろう。なお且つすべてを終了させるには他の手段が必要なようだった。

 考えている間に部屋に置かれた固定電話が鳴った。仕事用にと用意したものである。

 良いタイミングだとシギが笑う。

 仕事を言い訳にすれば流石にシムカも無茶を言えないだろう。そう考えて嬉々とした様子で受話器を取りに移動する。反対にシムカはつまらなそうに眉を寄せていた。

 全裸のままベッドを降り、反対側の壁際にある棚から受話器を持ち上げる。

 シムカを放っておく状態で会話を始め、久々の依頼にシギの表情は緩んでいた。

 

 「はいもしもし、お待たせしました」

 「むぅーっ、シギィ……」

 

 ベッドの上に一人残されたシムカは寂しげな表情で膝を抱える。ずいぶんと傷心した顔だ。

 しかし数秒とせずに何かを思いつき、パッと笑顔を咲かせた彼女もまたベッドを降りた。

 立ったまま電話の応対をするシギに歩み寄り、背後まで到達すると床に膝をついて、四つん這いの体勢で密かに彼の前まで移動する。メモを取ることに夢中でシギは気付いていないようだった。

 前に到達するとようやくシギも気付いたらしく、驚いた表情でシムカの顔を見下ろしていた。してやったりのシムカは嬉しそうに微笑み、何も言わず勃起したペニスの先端を頬張る。すぐにずずっと音を立てて吸いついた。

 

 「おい、こらっ。あ、すいません。いえこちらの話で、ぺ、ペットがね。ちょっと粗相をしてしまいまして」

 「む。どうせ私はペットですよーだ」

 

 彼の発言に気を悪くしたシムカはふくれっ面で呟き、亀頭を口に含んでじゅるじゅると音を立てる。まるで受話器を通した向こうに居る相手に伝えようとするかのようだった。焦ったシギが頭に手を置いて離そうとするも、両手で強く腰を掴んでいるため離れない。自然と彼は快感に耐えながら応対することを強いられた。

 

 「くっ、おっ……あぁはい、すいません。大丈夫ですよ、ええ」

 「んっ、んっ、んっ――」

 「あぁ、今から。ハァ、はい、大丈夫です。ええっ、準備、して、待ってますよ……」

 

 息が乱れそうになるのを堪え、シギが必死に言葉を絞り出していた。その表情が堪らなく愛おしくなり、ペニスから口を離したシムカは立ち上がる。

 自ら背中を見せ、前かがみになって尻を突き出すと、股の間から手を伸ばしてペニスを掴んだ。そのまま背面から挿入しようというつもりらしい。

 本番はまずいとシギが背を軽く叩くが、シムカは取り合わない。無言で位置を合わせようとしていた。

 電話の相手は常連と呼べるほどの付き合いになる人物だが、今日に限ってやけに時間が長引いており、終わらせようとしない。タイミングが悪いとシギの機嫌が悪くなった。これではひょっとするとバレてしまうではないか。

 シギの抗議を一切気にせず、シムカの手と腰の動きによってペニスが膣に挿入された。すでに潤ったそこは柔らかくも締めつけが強く、シギの形にぴったり合うよう。奥へ進んでいくだけで歯を食いしばって息を呑んだ。

 ずるずると肉のひだを押しのけながら進み、見知った感触にシムカの機嫌が良くなる。幸せそうに目を細め、熱っぽい吐息をゆっくり吐き出していた。

 

 「あんっ、硬い」

 「しーっ、しーっ! あ、あぁ、なんでもありません。ただちょっと、ペットがね、今日はちょっと落ち着きがないみたいなんです、はい」

 「んふふふ、ペットが動きますよ。ほら、ほぉら」

 「うぐっ……い、いえ、問題ありません。はは、全然、全く、なんにも……うっ」

 

 シムカが腰を前後に動かす。自ら卑猥な腰付きでシギを刺激し、ペニスが膣の中を掻き回す。

 いつもの行為とはいえ状況が状況だ。絶対に変な声を出すわけにはいかない。ただでさえ数少ない常連なのに幻滅されて逃げられては生活に関わるのだ。

 まずいと感じつつもそろそろ電話が切られようとしている。声を我慢するのはもう少しだけ。シギは尻の穴に力を入れて必死に耐えた。

 

 「はっ、はっ、はっ、んっ、きもちい。おちんちん、きもちいい……」

 「くぅ、はい、はい。わかりました。それじゃあ、うぅ、また後で」

 

 ようやく電話が切られた。これに安堵したシギは多少荒々しい手つきで受話器を戻し、すぐさま両手でシムカの腰を掴む。

 括れたそこを力強く掴んで、狙いを定めて、自ら腰を振って思い切りピストンの速度を速くした。まるで攻撃するかのような素早さである。

 途端にシムカは大口を開けて叫ぶように甘い声を出し、怒りを隠せないシギも全力でシムカを責め立てた。

 

 「あっ! あっ! あっ! んんっ、んんんっ、は、激しっ……!」

 「このバカっ、いきなり何しやがるんだ! 危うくバレるとこだっただろ! 明らかに怪しまれてたんだぞ!」

 「んっ、あっ、あっ、だ、だって……シ、シギが、私のこと、無視するから……!」

 「ああそうかよっ。そこまで言うなら相手してやる、もう手加減しねぇからな。客が来るまでおまえのこと犯しつくしてやるっ!」

 

 一度火が点いたシギは妙に荒々しく、昨夜の落ち着きなど嘘のようにシムカの膣を荒らし回った。

 腰がぶつかって起きる肉の音は大きく部屋に反響する。ただでさえ二度達したことからどうしようもない快感が体内に溜まっていたせいで、シムカは見る見るうちに気を高めていった。

 

 「あんっ、あんっ、やぁぁんっ!」

 「くぅ、おぉっ、出るぞ! おまえが欲しかった精液だ! しっかり受け止めろ!」

 「やぁ、くぅ、うあっ――!」

 

 渇いた音が鳴り響き、何度目かで腰がぶつかった直後、動きが止まった。

 その瞬間にシギの射精が始まり、膣内に精液が注ぎこまれていく。決して量が多いとは言えないが昨夜の最後よりも多いのは確かである。

 すべて受け止め、ぐらりとシムカの体が揺れた。突っ張った両足が面白いほど震え、もはや立っていられない様子。

 

 「んんんんっ、あぁぁぁっ!」

 

 大声を発してシムカの全身から力が抜けた。シギに腰を掴まれたまま床に倒れ込んでしまう。

 尻を掲げる余裕すら無くなって寝そべった。それでも腰は離れず、倒れた体勢のままでシギが腰を振り始める。初めての体勢だったがこれが心地よく、全力のピストンだったため凄まじい快感で声が抑えられなくなった。シムカは顔だけ起こして叫び声を上げる。余裕など声の一片にすら感じられず、ただひたすら本能に従う姿であった。

 

 「ああんっ、シ、ギィ……! だめっ、んんっ、すごすぎぃ……! ばかに、ばかになっちゃうぅっ」

 「はっ、はっ、おまえが悪いんだぞ。そんなに俺のチンポ欲しいならバカになるまでやってやるよ」

 「して、いっぱいしてっ。シギのこと忘れられなくなるくらい、いっぱい、いっぱい犯してぇ」

 「ハハッ、よく言うよ。もうすでに俺がいないとダメな癖にっ」

 「うんんっ、そうなのっ。シギがいないと、生きていけないのぉ。もっと、もっと愛してっ!」

 

 シムカの懇願に応えてシギは一方的にシムカへ快感を与え続ける。

 この後仕事があるというのに手を抜かず、約束の時間は頭の隅に残しつつも、時間をかけてシムカを愛した。

 気絶しかねないほどの快楽の渦は数時間に及び、その間二人は服を着ることもなく全裸で、ひたすら体液にまみれて行為を続けていたようだ。

 



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南樹の日常

 前の話とは関係ない別の話です。
 原作再構成的な感じで、一応主人公はイッキです。


 南樹は、親の顔を知らない。

 幼い頃に知り合いの家に預けられたせいだ。

 以来、彼は物心ついても自分の親の顔は知らず、赤の他人を家族と思って育っている。

 

 中学生になった頃。

 昔からわんぱくだった彼は一つのものに熱中していた。

 

 世界初のコンピューターを搭載したインラインスケート、エア・トレックである。

 コンピュータ制御で4kWの出力が出せる超小型モーターを搭載したこれを履いて地面を蹴れば、それだけで人は翼を得て、まさしく空を飛べることができる。

 飛行機やヘリコプターとは違い、個人に翼を持たせることに成功した道具。

 人々はこれを“自由への道具(エアギア)”と呼んだ。

 

 いつからか樹はこれに夢中になり、暇さえあれば外へ飛び出して空を飛ぶ。

 勉強、努力、継続などは彼が苦手とするところだが、好きなものについてなら苦ではない。

 毎日飽きることなく空を飛び続ける姿にはいっそ狂気すら感じられるが、本人は至って真剣で、同時に楽しんでもいる。もはや無くてはならないものだった。

 

 しかし時にはそれが仇となり、ミスを犯すこともある。特にそれは日常生活においての問題であって、何度繰り返しても学ぼうとしないのも熱中の証だろう。

 小さなレジ袋一つを提げ、A・Tで必死に走る彼は心から焦っていた。

 

 「ハァ、やべぇ、やべぇっ。急がねぇとリカ姉ぇにキレられる……!」

 

 A・Tを始めて数年。力量が上がって彼は風のように走り、住宅街の屋根を蹴りつけ、何度も飛び上がって空の上を走っていた。速度はA・Tを操る“ライダー”の中でも上等なものだろう。特に彼は空中(エア)を得意としているため速度は上がる一方。

 しかしそれはそれとして、そもそも気付く時間が遅過ぎた。

 そのせいで焦り続けているのだ。

 

 外へ出たきっかけはお使いを頼まれたからだった。

 切らしてしまった調味料があるから買ってきて欲しい。ただそれだけの用事。

 何気なく引き受けた樹だったが、ついでにとA・Tを入れた鞄を持ったことが些細なミスで、ほんの少しだけと始めた練習が気付けば一時間を超えていた。

 

 風のように走る樹が焦るのには理由がある。

 彼には恐ろしい姉妹が四人居た。

 

 南樹が預けられた家、それが野山野家。こちらも両親はおらず、年の離れた四人の姉妹が協力して日々を暮らしており、特に長女は怒らせると最も怖い。

 現在の樹は彼女らの支配下にあり、同い年、或いは年下の女の子にさえ頭が上がらない。

 

 空から落ちてきて道路に着地、火花を散らしながら滑って速度を殺す。

 気付けば彼の家が目の前にあった。

 おそらく帰宅までかかった時間は自己ベストを超えただろう。今までで一番速いはず。などと言っている場合でもなく、玄関の前に到達した彼はA・Tを脱ぎ、鞄に入れていた靴に履き替え、今まで履いていたA・Tは鞄の中に隠して、息を整える。

 心を落ち着け、平静を装った顔で横開きの玄関を開けた。

 

 「ただいま~――」

 「遅ぇ」

 「はぐっ!?」

 

 扉を開けた途端、彼を襲ったのは姉による強烈なドロップキックだった。

 腹の辺りを思い切り蹴られ、玄関から外へ弾き出されて樹が倒れる。

 両手に持っていた鞄とレジ袋が地面を転がって、同時に彼も地面に背をつけていた。

 

 すっくと立ちあがるのは野山野家の次女、樒柑(ミカン)である。

 外ハネが目立つ薄い桃色のショートカットで、パーカーとショートパンツという格好。顔立ちにしろ表に出した脚にしろ、女性らしくてきれいなものだが、どことなく粗雑な様子も感じられる。悪く言うなら粗雑だが良く言えば男らしいとも表現できた。

 

 彼女は腰に手を当て、仁王立ちして倒れた樹を見下ろす。

 明確な上下関係にあり、よろよろ起き上がる彼は強く出れない態度で彼女を見た。

 

 「買い物一つで何時間かかってんだ。小学生以下かよお前は」

 「ぐっ、ミカンてめぇ、低空ドロップはやめろ……」

 「あ~? お姉様に向かって口の利き方がなってねぇなぁ。お仕置きするか?」

 「遅れて申し訳ありませんでした! お姉様ッ!」

 「それでいいんだよ」

 

 急いで立ち上がってビシッと敬礼する樹に、納得したように頷き、膝を曲げた樒柑は小さなレジ袋を拾い上げ、中身をちらりと確認した。

 どうやら買い物は終えたようだ。

 その一方で、もう一つの鞄にも気付いており、中身も理解する彼女はやれやれと苦笑する。

 

 「ま~たエア・トレックか? リカ姉ぇに言ってねぇんだろ? バレたら取り上げられるぞ」

 「うっ、んなことわかってるよ。だから秘密にしてんだろうが」

 「ケケケッ、お前にとっちゃエロ本バレるより死活問題か。お~いウメ~」

 

 しゃがんだ状態で振り返り、樒柑が妹の名前を呼ぶ。すると末の妹がやってきた。

 

 長い黒髪を持ち、少し奇妙な形で大きめの服を着た少女、白梅が現れる。

 独特なデザインの人形を腕に抱え、どこか無気力に見える表情。

 興味が無さそうな顔で近付いてきて、姉である樒柑に答えた。

 

 「なんでしか、一体。あっ、イッキちゃん帰ったんでしね」

 「補給物資だ。リカ姉ぇに持ってってくれ」

 「自分で持って行けばいいのに……」

 「俺はこれから用があるんだよ。こいつに折檻してやらねぇとな」

 「はぁ!? なんで! ちゃんと買ってきただろ!」

 「あぁん? 一時間以上も遅れた奴がちゃんと買ってきただぁ? てめぇのせいでこちとら肉お預けされてんだよ。もう一回聞くが、ちゃんと買ってきただと?」

 「うぐっ……すいませんでした……」

 「つーわけでよろしく~」

 「しょうがないでしねぇ。ま、遅れてきたのは事実なので、イッキちゃんが悪いでし」

 

 白梅はレジ袋を受け取り、廊下の向こうへ歩き去っていく。

 その間に樒柑は樹の首根っこを掴み、力尽くで無理やり引っ張って歩き出した。

 行先は違い、階段を上って二階へ向かうのである。

 

 「ちょっ、待てってっ。これから晩飯……」

 「あーあー聞こえなーい」

 

 引っ張られるように歩かされて、辿り着いたのは樹の部屋だった。乱暴に扉を開けて押し入り、足で扉を閉めると樒柑はすぐにベッドへ近付き、ぐいっと投げるように樹を倒す。

 ベッドに四肢をつき、樹は戸惑っていた様子だ。

 慌てて振り返るとにんまり笑う樒柑が居る。

 

 嫌な予感がする。彼女はゆっくり近付いてきた。

 樹の両肩に手を置き、力を入れて押し倒すと、彼の上に跨るのである。

 

 特別なことではない。これが普段の光景だった。

 彼女は、彼女だけでなく他の姉妹もだが、躾と称しては樹の体に教え込む。長女曰く、性の暴走で道行く人を傷つけないためらしい。そんな理由で、家族以上の繋がりがあった。

 

 「さぁ~てお仕置きの時間だ」

 「ま、待てよ。俺そこまで悪いことしてない……」

 「あ? なんか言ったか? 腹を空かせたお姉様を待たせまくった弟くん」

 「……い、いえ、なんでも」

 

 笑顔のままで威圧感を発し、無理やり黙らせた樒柑が樹の両頬を掴む。

 そしてぐっと力を入れて唇を塞いだ。互いの唇が触れ合い、柔らかい感触と、すぐにぬらりと動き出す舌が彼の唇を割り、口の中にまで侵入していく。

 樹は苦しそうな声を出した。

 だがそんな表情を眺める樒柑は嬉しそうな顔になり、さらに舌を躍らせる。

 

 「ンっ、むっ、ふっ……」

 

 深いキス。

 吐息が漏れて、一つになる。

 樒柑は喜々として舌を動かし続け、樹はされるがまま。一方的な光景だった。

 

 今や上に乗るというよりのしかかるという風にも見える。樒柑は彼の全てを支配するように、深く甘いキスで徐々に警戒心を溶かしていって、時間をかけて固さを取っていく。

 もはや慣れたものだ。

 本人が否定したところで、樹は樒柑の所有物であり、玩具であり、愛玩動物である。それでいて兄弟ながら恋人のようであって、家族でもある。とても言葉にはできない複雑な関係なのだが、ただ彼女本人が思っている以上に深く愛してもいた。

 

 樒柑の目つきが見る見るうちに変わっていく。

 苦しむ顔の樹を見下ろす、それだけで興奮してしまい、全身が熱くなる。それこそ頭の天辺から足の指先まで隙間なく。彼に対する異様な愛情が為す状態だった。

 彼女の目は蕩けて喜色を表し、興奮は荒々しくなる舌の動きでも明らかだった。

 

 初めこそ甘く、だんだん乱暴になっていった長いキスを終えて、唇が離れる。

 どちらも呼吸を乱し、暗い部屋に木霊した。

 

 至近距離で見つめ合う。

 相変わらず樒柑は樹の頬を掴んでいて、時折ぎゅうっと力を入れては顔を動かして遊んでいる。どうやらそれが気に入ったらしい。

 乱暴な手つきは彼女にとって最大限の愛情表現。

 樹が苦しむ度、困る度に、嬉しくなる樒柑はもっと虐めてやりたいと思うのだ。

 

 「あーあ、チンポ勃っちゃった。キスだけなのに。しかもお姉様相手にさ」

 「し、しょうがねぇだろ。こんなの、誰だってそうなる」

 「また口答えか、コラ」

 「いや、今のは別に口答えじゃ……!」

 「あーうっさい」

 

 再び樒柑がかぶりつくように唇を塞ぐ。強く吸い付き、舌を出して舐め始めた。

 今度は唇や口内だけに飽き足らず、そこから這い出て肌を撫で、顔中に舌を這わせる。まるで自分のものだと言わんばかりに、頬や鼻先、目玉まで舐めて、抵抗する樹を力で押さえ込む。

 

 「わっ、おまえ、目は……!?」

 「うるせぇって。あとパンツ下ろせよ。どうせヤラれんだから」

 

 舌や唇で触れながら耳へ移動して、まずは耳の中を舐め、次に耳たぶを甘噛みし、いつまで経っても動かないため歯を立てて噛んでやる。ぎゃっと悲鳴が漏れ、樹は手を動かしてズボンとパンツを脱ぎ始めた。その姿もやはり主従関係のものだ。

 

 下半身が露わになり、勃起したペニスが若々しく反り返る。

 今は樒柑の下腹部に触れていて、いつもながら元気な姿。彼女は笑みを深めた。

 

 耳を舐めながら右手が下に降りていく。

 外気に触れたペニスを掴み、その感触を確かめた。

 亀頭は膨らみ、陰茎はガチガチに硬くなって、勃起した拍子に皮が剥けている。これも彼女らに触られた結果のようで、もはや扱いは慣れたものだった。

 

 樒柑は男を作ったことがない。処女は樹にくれてやり、興味を持つ異性も彼だけだ。

 当然、ペニスを肉眼で見るのも触れるのも彼のものだけで、それだけに愛着を持っている。

 いつものように硬くなった陰茎を握り、上下に擦って反応を窺う顔はひどく楽しげであった。

 

 「ふぅ、うっ……」

 「なぁ、今日出したか?」

 「い、一回……学校で、リンゴが……」

 「またか。あいつはずりぃよなぁ。学校のトイレとか屋上でセックスしてるわけだろ?」

 「はぁ、あぁっ……!」

 「そうだ、今度忍び込んでみようぜ。たまにはベッド以外の場所でシタイだろ」

 「い、家でだって、ベッドだけじゃねぇだろ……うぐっ」

 「バーカ。そういうのとは違うんだよ。学校でヤることに意味があるんだろうが」

 

 上機嫌に陰茎を擦る樒柑は樹が苦しそうにする顔をじっと見つめていた。

 自分がどんどん機嫌を良くしていくのがわかる。

 快感に打ち震え、射精感が強まり、眉間に皺を寄せて歯を食いしばる。そんな樹の顔が、可愛く見えて仕方ない。目を輝かせる樒柑はその表情が大好きだった。

 自然と手を上下させる速度が速くなり、さらに強く射精感を感じさせようとする。

 

 「うぐっ、うぅ……!」

 「ほらほらぁ、きもちいい~きもちい~」

 「あぁっ、で、出そう――」

 

 射精感が高まり切り、樹がもう達するのではと考えた時、ぴたりと手が止まった。それだけでなく陰茎から離れて一瞬でどこかへ行ってしまう。

 射精の寸前で見放されてしまう絶望感。

 寂しさからか、反射的に顔を上げてしまった樹は樒柑の顔を見て、楽しげな様子に気付く。

 

 「あ~ごめ~ん。イキたかった? 全然気付かなかった。ごめんな~」

 「お、お前、そんなのありかよ」

 「だから悪かったつってんだろ。次はイカせてやるからよ」

 

 そう言って樒柑は体を起こし、彼の隣に座って見下ろした。

 

 「その前に全部脱げ。上もだぞ。全部な」

 「あのさぁ、もう晩飯――」

 「いいから早くしろよ。イキたくねぇのか?」

 「……イキたいけど」

 「じゃ早くしろ」

 

 言った直後に樒柑が服を脱ぎ始める。パーカー、ショートパンツ、他にも下着は全て脱ぎ捨て、裸になった。脱いだブラジャーとショーツは挑発的に樹の体の上に置かれる。

 樹もまた、のろのろと自分の服を脱いでいく。

 太股の辺りに下ろしただけだったズボンと下着、それからシャツも脱いで、こちらも裸。

 全裸になった彼を見下ろして、樒柑はいそいそと場所を変える。

 

 自分の股間が濡れているのがわかる。触られてもいないのにひどい状態だ。

 興奮はもはや抑え切れず、考えることは最初から一つ。

 

 樒柑が樹の足の間に入った。

 慣れた様子で両足首を掴むと、ぐいっと持ち上げ、脚を広げさせる。

 その間に体を置いて、股間を触れ合わせた。正常位を男女逆にしたような体勢である。

 

 樒柑は常にこの体位を好んだ。樹を責め立て、一方的に攻撃する快感に酔いしれる。

 いつものことであり、樹は不服そうにしながら、無駄な抵抗はしない。どうせ抵抗しても押さえつけられるだけだとは体験した上で理解していた。

 その不服そうな顔さえ興奮する材料になり、二人の性器がくちゅりと触れる。

 

 あっ。と樹が声を漏らした。

 大体の事情は察するが、樒柑は敢えて悪戯っぽく尋ねる。

 

 「どうかしたか?」

 「いや、ゴム……してないし」

 「ふ~ん。して欲しい、と」

 「そりゃそうだろ。リカ姉ぇだって、それだけはちゃんと守れって」

 「でもだめだッ」

 「あっ!?」

 

 ずるりと入り込む。

 腰を動かしただけでペニスが膣に挿入されてしまい、コンドームは付けられておらず、生身の感触が直に伝わる。樹の声は悲鳴でもあり、嬌声でもあった。

 

 しとどに濡れた感触が彼のペニスに絡みつく。

 初めてではないものの、久しぶりの感触に彼の腰はがくがく震えていた。

 

 「あっ、はっ――!」

 「別に初めてじゃねぇんだし、いいだろ別に。つーか今更ゴムとか生温いこと言ってんな」

 「うおおっ。やっ、べぇ……!」

 「はぁ、チンポ、ビクビクしてる……」

 

 うっとりした顔で樒柑が彼の膝を掴み、大胆に腰を振り始めた。

 慣れているため男女が逆になっても正常位として機能する。

 上が樒柑で、下が樹。

 男の方が一方的に攻められている状態でぐちゃぐちゃと音が鳴った。

 

 樹が眉間に皺を寄せて目を閉じ、快感に耐えながら震えている。

 樒柑からすればその表情が堪らなく愛おしい。気付けば彼女は自分でも気付かぬ内に、半開きになった口の端から涎が漏れて、目はとろんと呆けていた。

 

 激しく腰を打ち付けながら上体を倒す。

 樒柑が樹の唇を奪い、乱暴に動く舌で舐めながら声をかけた。

 

 「はぁっ、おまえ、またそんな目ぇしやがって……こっち見ろ。舌出せ。あと、絶対動くなよ。俺が動いてやるからじっとしてろ、なっ?」

 「うぅぅ、ミカン……」

 「あぁぁもうっ、そんな声、出すなってぇ……♡」

 

 高ぶった樒柑は彼の首筋に顔を埋め、ガリッ、と歯を立てて噛みついた。

 当然そこには歯形が残り、痛みも生じるわけだが、激しい腰使いが樹の言葉を止める。

 ペニスから感じる快楽が彼の抵抗を殺し、今は嬌声以外の声が出そうになかった。

 

 それをいいことに樒柑は次々証を刻んでいく。

 痛みが生じるほど強く手首を掴み、首筋や頬や耳たぶを噛んで、至る所にキスマークを残す。

 彼を愛したという証明。自分が抱いてやったのだという証。これらを肉体に刻み込むことが彼女の趣味の一つでもあって、喜々とした動きは止めることができない。

 同時に痛みを感じさせることが趣味でもあって、樒柑の動きは非常に大胆だった。

 

 射精の時が近付いている。樹の限界まで手に取るようにわかる彼女はちゃんと理解していた。

 樒柑自身もそう長く耐えられそうになくて、耐える力が歯型となって肌に残されていく。

 

 腰を叩きつける速度がより一層速くなり、言いようのない音が室内に広がっている。

 今となってはお仕置きだとか折檻などというものはどうでもいい。そもそも口実に過ぎない。

 樒柑は蕩け切った顔で樹にキスをして、最後の瞬間へ駆け上がっていった。

 

 「はぁっ、あぁっ、ミ、ミカン……!」

 「オラッ、イケっ! くぅ、うっ、ううっ――!」

 

 上から押し潰すようにして力を加え、弾む仕草でペニスが膣を貫く。一突きする度に樒柑の膣から飛沫が飛んで、どうやら彼女はイキ続けているようだった。

 ラストスパートを迎えた腰の動きはしばし続き、樹もぐっと歯を食いしばる。

 その瞬間に射精が始まり、彼女の膣内に精液を吐き出して、思わず樒柑の背が反り返った。

 

 びゅっ、びゅっと吐き出される動きに合わせ、彼女が震える。

 いつの間にか樹の頭を胸に抱きしめ、少し小ぶりな乳房の間に顔があり、きつく目を閉じて苦しげな顔をしている。だが頬は紅潮しており、辛いのではなく幸福そうにも見えた。

 

 大量に吐き出し、しばらく続いた射精が終わった。

 樹の頭を離した樒柑は彼の上に倒れ込む。

 

 体は一つになったまま。肌を合わせて寝そべり、荒れた呼吸が耳に入ってくる。

 汗を掻いた肌が吸い付くようで、ただ脱力して寝ているだけで心地いい。

 二人とも目を閉じ、独特の疲労感に身を委ねながら動かなかった。そっと動いた樹の腕が樒柑の背に回され、柄でもなく抱きしめる仕草で、気付いた樒柑が微笑む。

 抱かれるのは好きではないが思ったより気分は悪くない。

 

 ふーっと大きく息を吐いて。

 倦怠感はまだ残るもののセックスの快感で気分は良くなった。

 樹の胸に頭を預けた樒柑がそのまま動かず口を開く。

 

 「あ~出たなぁ。すげぇ出てきた、ザーメン。つーか出し過ぎ。溢れてるぞ」

 「んなこと俺に言われても知らねぇだろ」

 「まだ口の利き方がなってねぇな。んじゃ、もう一回」

 「もういいだろっ。だから晩飯があるから――」

 「残念だけど、晩御飯、もうちょっと待ってくれるかしら」

 

 寝そべったままで樒柑がゆるりと腰を振り始めた頃だった。わずかに硬さを失った、しかしまだ縮んではいないペニスが膣の中で動いた時、部屋の入り口から別の声が聞こえる。

 二人は同時にそちらを見た。

 そこには末の妹、白梅と共に、長女の梨花が立っている。

 何やらひどく威圧感を醸し出す笑顔だった。

 

 二人は経験から知っている。あれは怒っている時の顔だと。

 長身で髪が長く、プロポーションも抜群で、誰が見ても美人だと称する完璧な姉。

 料理もできて家族想いで収入も多い。まさに完璧な人物。しかし彼女は怒ると怖い。そのため姉妹たちと樹は梨花が怒る瞬間を何より恐れていて、必要以上に気を使うほどだ。

 

 今、その怒りが樹に向けられていた。

 彼自身はセックスの名残も忘れて顔を青ざめさせ、その上に居る樒柑は他人事のように呟く。

 

 「イッキ。お楽しみ中のところ悪いんだけど、少し話したいことがあります」

 「リ、リカ姉ぇ、本日もいつも通りとてもお美しくいらっしゃって――」

 「ありがとう。でもお世辞はいいから、座って?」

 「あーこれは完全キレられるわ」

 

 ぬぽっ、とペニスが膣から抜けて、先に樒柑が彼の上から降りる。脇に座って、自分は巻き込まれないようにと存在感を消し始めた。

 そんな彼女を恨めしく想いつつ、余裕のない顔で樹が床に正座する。

 梨花は樹の前までやってきて、同じく正座して彼と向かい合った。

 

 「まず最初に。私はあなたに何を任せましたか?」

 「か、買い物です」

 「そうね。それで買ってきて欲しいと頼んだ物は?」

 「えーっと、塩コショウ、でしょうか」

 「その通り。そこでこれを見て欲しいのですけれど」

 

 梨花が手に握っていた物を顔の前まで持ち上げる。

 そこにあったのは入れ物こそ塩コショウに似ていても、中身は似ても似つかない、別物。この瞬間に樹はようやく自らのミスに気付き、背筋に悪寒が走った。

 

 急いでいたことも理由の一つだ。走りながら適当に取ってしまったのも悪かった。

 全ては姉に怒られまいと急いでいたのだが、その理由が仇となってミスに繋がってしまった。

 

 そう説明すれば、おそらくさらに悪い結果となるだろう。

 正座したまま縮こまり、樹の声から覇気が無くなる。

 その様を見ていた樒柑はやれやれと首を振り、呆れた様子。自分の行いを反省する気はない。

 一方で彼の正面に居た白梅は、恐怖心からすっかり縮こまってしまったペニスを見やり、ふむふむと何かを納得する様子で観察していた。

 

 「これは、塩コショウですか?」

 「い、いいえ、違います」

 「そうですね。あーよかった。私の弟は塩コショウかそうでないかも判別できないのかと思いましたよ。ちゃんとわかってたんなら、なんで、別の品物を買ってきたんですかね?」

 「い、急いでて……」

 「ずいぶん時間もかかってましたが。どこで何をしていたのやら」

 「すみません……」

 

 一方的に追い詰められてぐうの音も出ない。

 頭を垂れてしょげ返ってしまった彼を眺めた梨花は、思わず溜息を零した。

 

 昔から手のかかる子だったが愛情はある。そこまで落ち込まれては何も想わないでもなく、怯えさせてしまったことに対しては多少悪いとも思う。

 しかしそれはそれ。別の問題として処理しなければならない。

 目つきを鋭くした梨花はにやりと笑って言った。

 

 「言ってもわからないようなら仕方ありませんね。お仕置きです」

 「ええっ!? いや、でも今、ミカンが、ほら……!」

 「何か?」

 「いいえなんでもありません!」

 「よろしい」

 

 笑顔で問い詰められ、反射的に言葉を呑んだ。これも長年の教育によるものらしい。

 立ちなさい、と言われれば立ち上がり、気をつけ、と言われれば直立する。

 全裸の彼をじっくり眺め、梨花は彼の肩に手を置いた。

 

 「これだけは慣れたところで辛いでしょう? いつも通りです」

 「リカ姉ぇ、俺ちゃんと反省するからっ。今度こそっ」

 「はいはい。そうやって反省していてね」

 

 床に跪き、萎えてしまったペニスを指で挟む。

 少し角度を上げ、ぺろりと舌で舐めた。

 

 「うっ――」

 「ミカン、ウメ、あなたたちも手伝って」

 「はいよ」

 「はいでし」

 

 声をかけられた二人も動き出す。どことなく待っていた様子だ。

 樒柑は彼の側面に立って身を寄せ、首をぐいっと引っ張って傾けさせ、深くキスをする。再び彼に舌を伸ばさせてそれを絡め取り、上機嫌な顔だった。

 そして白梅は樹の背後に立ち、梨花と同じように跪いて、両手で尻を開く。

 奥にある穴を見つめると、どこか楽しそうな顔で舌を這わせた。

 

 姉妹の趣味趣向は異なっており、それぞれの好みは違う。

 樒柑は力でねじ伏せ、一方的に追い詰め、樹の歪んだ顔を好む。苦しんでいたり痛がっている顔を可愛いと思い、どうしようもなく愛でたくなる。いわゆる逆レイプが趣味であった。

 

 白梅はそれを変わっていると称するが、彼女自身もまた変わった趣味を持っている。

 彼の尻の穴、アナルを弄り、開発することを趣味としていた。

 若いというより幼いとはいえ、彼女も樹のペニスを弄り、舐めたり膣に迎え入れたり、相手は樹のみだがそういった経験はすでにある。しかしそれら以上に尻に対する執着が強く、セックスがしたくなくても樹の尻の穴を責め、彼を鳴かせたいと考える時があるほどだ。

 どうやら白梅も樒柑とそう変わらぬサディストらしく、本人の自覚がないまま尻を愛で始める。

 

 一方、事の発起人、梨花は思いのほか普通だった。

 以前は恋人も居たようだが今は他に男を作る様子も見られない。

 樹を弟として、家族として愛す一方、男として愛している素振りが見られて、それは普段の会話では感じないものの、こうして肌を合わせる時が顕著だ。

 

 誰よりも優しく触れ、誰よりも愛情のある艶っぽい触れ方をする。

 今もペニスを舐め、先端を銜えて舌を絡め、そうしている姿は色気のある女の顔だった。

 

 樒柑がキスをしながら指で乳首を撫でる。

 白梅は尻の穴を舐め回し、それどころか中に舌を入れようとすらする。

 何より梨花がペニスを刺激して、手では玉を転がし、どんどんペニスが勃起していく。

 

 完全に大きくなった時、ちゅぽんと、梨花が音を鳴らして口を離した。

 樹の顔を見上げながら竿を扱き、掌で亀頭をこねくり回して、玉を舐めて濡らしてやる。動きを止めようとする気配は感じられず、さらに責めようとする姿勢はあった。

 そうして続けながら妹たちへ言い聞かせる。

 

 「あまりやり過ぎないでね。これは“おしおき”なんだから」

 「わかってるよ。まぁ一番重要なのはリカ姉ぇだけどな」

 「でもこっちも重要でし。イッキちゃん、もうお尻だけでイケるから」

 「マジ? つーかアナル好き過ぎだろお前。んなとこ舐めて面白いか?」

 「人に噛みつくミカン姉ぇに言われたくないでし。それに、ちんちん触ってないのにイッちゃうのは見てて楽しいでしよ。イッキちゃん、凄く追い詰められた顔するし」

 「へぇ……お前、こんなガキに追い詰められてんだ」

 「興味持ちました? あと年齢は関係ないでし」

 

 樒柑と白梅が平然と話をしている。家族が一致団結して裸の男を責めている状況で。

 妙な興奮があった。

 そこへ三人それぞれの刺激が無視できないほど大きくなり、射精しかけた樹は息を乱して、何も言わず射精しようとする。その瞬間、パッと梨花の手が離れた。

 

 お仕置きとは、射精を我慢させること、言わば寸止めのことである。

 梨花の動きに気付いた樒柑と白梅も彼から離れ、全ての刺激が無くなった。寂しげにペニスを震わせる樹は懇願するように梨花の顔を見下ろすが、微笑まれるだけで答えはない。

 当然、再びペニスを握ったり舐めたりすることもなく、ただ見るだけ。

 寂しく、辛い時間が続いて、やっと射精感が落ち着いた頃に手が伸ばされた。

 

 「ねぇイッキ、私たちだってこんなことしたくないのよ。あなたには気持ちよくなって欲しいって思ってるわ。だけどあなたが悪いのよ? 言うことを聞いてくれないから」

 「うっ、うぐっ、悪かったって。これからは、ちゃんと、はぁ……言うこと聞くから」

 「いつもそんなこと言う。でも実際、どこで何してるかもわからないで、買い物にもあんなに時間がかかって。まさか彼女ができたとかじゃないわよね?」

 「で、できてない、よ……」

 「そう。なら安心した。あなたは元気が良過ぎるから、無理やり襲っちゃうなんてことがあるかもしれないし、やっぱり射精は私たちが管理してあげないとね」

 「流石に、そんなこと……しないっての。うぅ、あぁっ――」

 

 年齢もバラバラ、経験もそれぞれ違う。

 三人の女が絡みつき、一人一人が喜々として彼に快感を与え、苛め抜く。

 奇妙ではあったが、慣れてしまうほどにこれが野山野家の普段だった。

 

 「今リンゴが代わりに買いに行ってくれてるから、それまで晩御飯はお預け。イッキは射精を我慢すること。いいわね?」

 「ふっ、んむっ、うっ……」

 「返事は?」

 「は、いぃぃ……」

 「あぁ~、んな顔すんなって。まためちゃくちゃにしたくなるだろうが」

 「ミカン姉ぇのそれはやり過ぎでし。体中キスマークとか歯形とかつけたり、他の人のこと考えてないでしよ。独占欲強過ぎ。あと趣味悪過ぎ」

 「うっせ。ケツばっか舐めてるお前に言われたくないね」

 「一回試してみればいいのに。イッキちゃんのお尻、可愛いでしよ」

 

 責められて、高められるのだが最後の一瞬だけは許されず、辛い時間が続く。

 いつものこととはいえ、樹は苦しみ、その苦しむ顔を見て姉妹は心から喜んでいた。

 




 本当はあと何話か続ける気だったけどとりあえず。
 その気になれば書くかもしれません。


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ONE PIECE
漂流者 ~Drifter~


 空は快晴。風は西。

 現在船は帆に受ける風に従い西へ向かっている。船といっても小型であり、乗り込めるのはせいぜい十数人、ここで生活しようと思えばその人数はさらに減る。決して頼りになるような、或いは見栄えが良い船ではなかったが一人で旅をするにはこの程度でよかった。

 

 グランドラインの航海は簡単なようで難しい。且つ、難しいようで簡単でもある。要は慣れと度胸で船の大きさに関わらずどこへでも行けるものである。

 少なくとも俺はそうしてきた。

 たった一人。しがない商人があちらの島からこちらの島まで。海賊に襲われることもなく割と平穏な毎日を過ごしているという自負がある。

 

 今日は気候も穏やかだ。見渡す限り船の姿はなく、脅威らしき物はない。

 昼寝をしていたって問題ないほど静かな一日だった。

 大海原は大きく荒れることもなくなだらかな波を作っていて、船はゆっくりその上を進む。

 

 不意に退屈を覚えるほどの安寧さに、甲板で仰向けに寝転んで目を閉じてみた。

 太陽の光が少し体を熱くするものの眠れないほどではない。むしろ心地よささえあった。

 

 今の生活が気に入っていないわけではない。島から島への根なし草。とある島で手に入れた品物を別の島へ持っていき、そこで手に入れた物をまた別の島で売り歩く。同じことの繰り返しで単調ながらこれが意外と飽きない。その点に関しては気に入っていた。

 ただ時折、一人でいることの寂しさを感じることもある。

 頻度としては多くないが、どうにか感じなくなるようにはできないだろうかと思ってしまった。

 

 自慢ではないが俺は世間一般からすれば変人の部類に入るという自覚がある。

 人嫌いで、陸の上での生活があまり好きではなく、特に村や町などという人がたくさん居るような場所で毎日を過ごすなんて考えられない。

 その一方でよく寂しいとも思う。

 自分で言うのもなんだが凄くめんどくさい人間だ。寂しくはなるけど人には会いたくなくて、陸で暮らすのは好きじゃないが海の上の生活が長引くとどうしたって陸が恋しくなる。わかってはいてもこればっかりはどうしようもない。

 

 前の島を出てから一週間と少し。食料の問題はないがちょっとだけ陸が恋しくなってきた。

 どこか島を探すべきか。だが人に会うのは嫌だから無人島が良い。

 だけど少し寂しい気もするし……。

 

 そんなことを考えているとイルカの鳴き声が聞こえた。体を起こして海を覗き込む。

 一緒に旅をしているイルカのナックが俺を呼んでいたようだ。

 

 動物は好きだ。人間とは違う。人間はめんどくさいが動物のことならなんでも好意的に受け止められると考えているほどだ。それは単に動物好きだからというのもあるんだろう。

 ナックはもう少し小さい頃、群れからはぐれて寂しそうにしているところに声をかけた。

 俺と一緒に旅を始めてもう数年。今やすっかり家族であり、大事な相棒でもある。

 

 ついさっきまでどこか散歩に行っていたはずだが帰りが早いのが気になった。

 よく見てみると背に何かを乗せていて、どうやらそれを俺に見せたかったらしい。

 もう少し船の縁に近付いて確認してみると、それが人間の形をしていたのがわかった。思わず反射的に表情を歪めてしまうが、おかしな点もある。

 

 人らしき形、という点に嘘はない。

 頭があって腕があって手があって足は二本。服を着ている。スカート、というよりは上着と一体化したワンピースを身に着けていることから女であるとわかる。うつ伏せに倒れて脱力しているせいで顔は確認できない。

 そこまでは言わば普通だが、普通じゃない点が一目でわかった。

 まず外見が白い。肌が、ではなく短い毛が全身に生えているのだ。まるで動物のように白い毛が全身を覆っている。そして頭には長くて大きな耳が二つついていた。その形状はまさしく、見間違えるわけもなく兎のもの。

 

 胸が高鳴る。

 そういえば噂に聞いたことがあった。

 動物と人間が一体化したかのような人種、獣人、と言っていいかもしれない。とにかくそんな種族が世界のどこかにはいるらしいと。

 確かその名は、ミンク族。いつかは会いたいと思っていた。

 

 恐る恐るナックの方へ手を伸ばし、彼が近付いてくるのを待つ。

 彼もその女を助けてほしいと思っていたようで、俺に託すかのように女の体を渡してきた。

 

 船に乗せて仰向けに寝かせた後、改めて確認する。

 肌、というよりも毛か。触れてみた感触はふわりと柔らかく、濡れていたが、人とは違う匂いをかすかだが感じた。今は潮の香りが強いが人間と違うことは間違いない。

 顔立ちは、人間と動物、どちらの特徴もあるように思う。

 目や鼻の位置は人間とそう変わらない。だが形状は動物のもの。この子の場合は兎。耳や鼻、それに服から敢えて出されていた尻尾などは兎そのものといった形だ。

 

 眠っている顔は、今まで見た誰よりも可愛いと思った。

 自分の思考がおかしくなっていることに気付きながらも彼女の姿から目が離せない。

 

 動物は好きだ。なぜって言われると答えに詰まるが、人間じゃないからという言い方もできる。

 だからといって動物に恋をすることはなかった。そこまで人間をやめたわけじゃない。

 少なくとも、今日までは。

 

 ミンク族に会いたい。そんな想いを抱くようになったのは、ひょっとしたらという気持ちが大部分を占めていたから。そのことはすでに自覚していた。

 俺だって男だ。恋人の一人くらい欲しくなる。だが人間を信じる気にはなれない。

 そんな歪んだ考え方で、ミンク族に会ってみたいと考えるようになっていた。

 

 初めて見る人間とは明確な違いがある人種。初めて目にしたミンク族。

 想像した通りなのか、俺の鼓動は確かに高鳴っていて、こんなことはずいぶん久しぶりだった。

 

 

 *

 

 

 纏わりつく眠気を振り払うかのように。重い瞼をゆっくり押し上げて。

 視界に入ったのは木製の天井だった。

 若干の古臭さを感じるが状態が悪いという訳ではなく、雨漏りなどの心配はないだろう、とぼんやり考えながら優れた聴覚が捉えるのは静かな波の音。しかし少しだけ遠い気もする。壁の向こうから聞こえてくるのかもしれないと思ったのは顔を動かした時だった。

 

 小さな部屋の中に居た。

 一人で寝るには大きなベッドに寝かされて、きちんと胸元まで布団を掛けられている。

 まだ眠気で意識がはっきりしていないらしく、彼女は気付いていなかったが、濡れていた服は着替えさせられて今は少し大きなTシャツと短パンを身に着けていた。

 

 ここはどこだろうか。まず最初にそう思った。

 見覚えのない場所。覚えのない匂い。わずかに揺れる地面。

 全て彼女にとって馴染みがない物であり、不思議そうに鼻を鳴らしながら部屋の中を観察する。

 

 部屋には決まった誰かが暮らしているのだろう。特に強い匂いを一つ感じる。それがおそらくこの部屋の主なのだろうと彼女は考えた。

 徐々に意識がはっきりしてくる。

 危機感や焦りを抱くよりも先に彼女はぐっと伸びをして、リラックスしてから脱力した。ふぅと息を吐いたちょうどその時に扉が開いたのだ。

 

 丸々とした目でそちらを見れば、入口に立っていた人物がビクッと震える。

 奇妙な人間だった。否、おそらく人間、という言い方が正しいだろう。コートのような裾の長い黒衣を身に纏い、フードをかぶって髪さえ見えず、顔は大きな仮面で隠されていた。

 

 動物でもない、人でもないその仮面は何やら悪意さえ感じそうな形状。

 驚いたのは彼女も同じでビクッと肩を震わせてしまう。

 

 そんな怪しい人物だったが、声を聞いてみれば思いのほか優しく感じられ、想像していたよりもよっぽど物腰が柔らかいことに気付く。

 驚いたのは一瞬。彼女はすぐに落ち着いた。

 一方でその奇妙な人物、おそらく男だろうとは思うが、彼は挙動不審に近付いてきた。

 

 「お、おおお、おはよう……気分はどうだ?」

 「大丈夫だよ。あの、あなたが助けてくれたの?」

 「あ、おおっ、俺っていうか、俺の相棒が見つけて、それで……ああそのっ、べ、別に見てないからっ! 見ないように目隠しまでして着替えさせたから、その……!」

 「着替え?」

 

 その時になってぱっちりした目で自分の体を見下ろした彼女は、服が変わっていると知った。

 呆然とした様子で理解したように呟く。

 

 「そっか……私、海に落ちたんだ」

 「あ、ああ。俺の相棒が多分、溺れてるところを助けた……んだと思う。だから、俺は君がどんな船に乗ってたかとか、そういうのは知らないんだけど」

 「船じゃないよ。象主(ズニーシャ)から落ちたの」

 「ん? ズニーシャ……?」

 「うん。足を滑らせて象主(ズニーシャ)の水浴びに巻き込まれちゃったみたい。そっかぁ……ってことはひょっとして、ここって海の上?」

 

 彼女がベッドから降りようとした時、つい視線が下がり、慌てて男が顔を上げる。

 その一瞬があったおかげか、彼女は男の傍を通り過ぎて甲板へ向かう。あっと気付いてから彼も追いかけると、狭い船であるため扉をくぐればすぐに甲板だった。

 

 太陽の下に立った兎のミンクは光を浴びて輝くかのようで。

 彼女は目を輝かせ、果てのない大海原を見る。

 

 「わぁっ……!」

 

 両手を広げ、踊るように、一歩一歩と進んでいく。

 その様子は初めて海を見たかのようで、子供のようでもあった。

 男は数歩追いかけるも、手が届く位置にまでは近付こうとしない。

 

 「すごーい! これが船なんだね! 海の上に浮いてるよー!」

 「え……まぁ船だから、そりゃ浮くようにはできてる……」

 「すごいね! あなた、海賊の人? それとも海軍?」

 「えっと……」

 「私、キャロット! 助けてくれてありがとう! あなたは?」

 

 感情が爆発したかの如く、嬉々とした様子で近寄り、顔を覗き込んで質問する少女。

 キャロットという名前だそうだ。

 薄気味悪い仮面をつけていても緊張している様子がありありと伝わる男は背をのけ反らせ、一歩下がりながら返答に詰まる。何か答えなければ。そう思いながらも上手く言葉が出てこないようだった。

 

 「俺は、クルス……ただの商人だ。島から島へ、品物を売って渡り歩いてる」

 「商人? へぇ~そうなんだ。どんな物売ってるの?」

 「えっと、そりゃあ、色々……」

 「どうしてそんなお面つけてるの? あっ、わかった。かっこいいから?」

 「いや……」

 

 一歩前へ進み、あっさり彼の懐へ入り込んだキャロットは楽しそうに顔を覗き込んでくる。

 そんな彼女の行動にクルスという男は相変わらず挙動不審だった。仮面で視線の動きが正確には伝わらないというのに、あちらこちらへ顔の向きを変え、逃げるように視線を動かし続けていた。外見の怪しさも相まって不審者としか思えない姿である。

 それでも彼に一切怯えず、キャロットは彼への興味を増していたようだ。

 

 その時、海の方からイルカの鳴き声が聞こえた。キャロットは咄嗟に振り返る。

 クルスの相棒、共に旅をしているナックが海面から顔を出していたのだ。

 

 「あぁっ! イルカだよ! 本物のイルカ!」

 「あ、ああ……俺の相棒だよ。さっき言った、君を助けた……」

 「イルカと友達なの! すごいね!」

 

 弾む声色で言った直後、キャロットは縁に近付いてしゃがみ、ナックの顔を間近で確認した。彼は大人しい気質のようで小さく鳴き声を発しても逃げようとはしなかった。

 距離が離れたことでクルスは大きく息を吐き出す。

 彼女の背中を見つめ、なんとも言いようがない感覚を覚えている。自分の体が普段と同じとは思えなかった。普段ならこれほど口ごもることはないし、聞く人が驚くほど流暢に言葉を操る。値段の交渉だって得意なはずだった。

 

 彼女の前ではそれができない。自分でも心底不思議だった。

 深呼吸を数度繰り返したクルスは歩き出し、キャロットへ話しかけようとする。彼女はまだ縁から身を乗り出してナックへ話しかけていた。

 

 キャロットの背後に立った時、体の奥底から沸き上がる衝動にクルスは気付いた。

 そんなことしてはいけない。いいはずがない。そう思っているのに気付けば手が動いていた。

 

 「君が助けてくれたの? ありがとう。ところで、イルカって海の中に潜ってても苦しくないのかなぁ――ん?」

 

 ふにっ、と耳が触られた。頭にある兎の耳だ。

 後ろを振り向けばクルスが右手を伸ばして恐る恐る触れていた。仮面をつけてフードをかぶり、前かがみの体勢で女の子に手を伸ばしている。誰に怖がられてもおかしくないほど恐ろしい姿であった。しかしキャロットは微塵も恐れず、不思議そうに彼を見上げる。

 

 「クルス? どうかした?」

 

 何も答えず、ただ呼吸が荒くなっているのが聞こえた。

 彼の右手は静かに動き、とても優しく耳を触る。

 ふわふわの毛を撫で、指先が慈しむように下から上へ擦っていく。

 これは流石に無視することができなかった。つい、思わずといった様子で、一瞬目を閉じたキャロットの口から小さな声が洩れた。

 

 「んぅ……」

 

 その一声がクルスの激情をさらに強くした。

 今度は左手も動き出し、あくまでも優しくだが、先程よりも力を入れて両方の耳を触る。ただ撫でるだけではなくもはや揉むといった動きですらあった。

 船から身を乗り出していたキャロットは大人しく座り込み、目を閉じてそれを受け入れる。

 

 「はぅ……」

 

 するり、するりと耳の全体を撫で続けると、力が抜けたのかまっすぐ立っていた耳が徐々に折れ曲がっていき、同じくキャロットの体からも力が抜けている。

 鼻息を荒くしたクルスが床に膝をついた。

 耳から手を離し、少し寂しげな声を聞いた次の瞬間、彼女の頭に手を置いた。

 

 さらりと手触りのいい金色の髪。体の毛は白だが頭髪は鮮やかな金色。それも不思議だ。

 それはともかく、優しい手つきで彼女の頭を撫で始める。

 手がゆっくり動く度にキャロットは息を吐き、顔の力も抜けてだらしない表情だった。

 

 「んぁ、はぁ……」

 (モフモフ……モフモフだ……)

 

 無言で頭を撫で続ける人間の姿は異常の一言。

 他人が見ていれば海軍に通報されること間違いなし。ただし今日はその現場を見ている人間が誰も居ない。大海原には船の一隻も存在せず、唯一すぐ傍に居るナックは呆れていた。

 どれほどそうしていただろうか。

 感情の赴くまま、気の向くままに彼女の頭を撫でたクルスは、唐突に手を離す。

 

 「モフモフ……すげー可愛い……」

 

 不気味な仮面とは裏腹に、うっとりと呟かれた一言。

 体から力が抜け、ぐったりした様子のキャロットは目を潤ませながら彼を見上げた。

 

 「んぅ、はぁ……えへへ。クルスはいい人なんだね」

 

 撫でられたことで気分が良くなったらしく、ふらりと立ち上がった彼女は両腕を伸ばす。

 

 「ガルチュー♡」

 「んっ、おおっ!? おおっ……」

 

 突然抱きつき、フードの中に顔を突っ込んで耳を甘噛みされたことでクルスは硬直してしまい、しかしその直後には迷いながらもキャロットの背に手を回した。

 そんなつもりはなかったのだが、動物の性質なのか、すっかり懐かれたようだ。

 

 人間は嫌いという反動なのかもしれないが、クルスの動物好きはかなり強烈になっていた。

 流石に性愛の対象にはしていないものの、モフモフを見ると撫でたくなる、モフりたくなると以前から言葉にしており、毛のないナックを見て残念がるという失礼な行動もあった。

 その光景を見て呆れたナックはやれやれと言いたげな顔で海中に姿を消してしまう。

 

 人前に出る際には必ず着けられる仮面の下で、彼の表情はひどいというほど力なく緩んでいる。

 その様子は抱きしめながら頭を撫でられ、恍惚とした顔のキャロットとそう変わらなかった。

 




 ウサギは性欲が強いと聞きまして。
 でも調べたら絶倫なのはオスだけだという話を聞きました。
 メスはいつでも妊娠できるとかなんとか……。


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帰路 ~Return trip~

 「ゾウ? そこがキャロットの故郷なのか」

 

 船内に入ったクルスはまずキャロットを休ませることに決め、彼女をベッドに座らせていた。

 体調は悪くないようだが溺れたばかりだという。大事を取るのは不自然ではなかった。

 ベッドの上に座って足を伸ばすキャロットの手には小さな器とスプーンがある。

 起きたら食べさせようと用意しておいたシチューには大きく切った人参が多めに入れられていたらしく、小躍りしそうなキャロットはそれを一口食し、頬を綻ばせた。

 

 「おいし~! クルス、これおいしいね!」

 「あ、ああ、そうか。それはよかった」

 

 まだそわそわと落ち着かない様子のクルスだが先程よりはマシになっていた。実際彼女の頭を撫でるまでは「触れてみたい」という衝動が大きく、話をするほどの冷静さは皆無。少し触れることができてようやく落ち着きを取り戻したようだ。

 それでもまだ満足していないあたり、彼の欲深さが仮面に隠された表情に表れていた。

 

 キャロットは嬉しそうな顔でスプーンを口にし、シチューを食べる。

 その様子を、綻んだ表情を可愛らしいと思いながら、クルスは冷静で居るよう努めた。

 

 聞けば彼女は海に出たことがないそうだ。

 航海の経験がないなら故郷まで一人で帰ることは不可能と断言してしまっていい。

 近くに島はない。頼りになるのは自分だけ。そんな自覚がすぐに彼の顔を引き締めさせた。

 

 「俺はしばらくこの辺りの海域を往来してるけど、ゾウなんて島は聞いたことがない。噂すら聞かない島なんてのは特に珍しいな。見つけるのは簡単じゃないかもしれないが……」

 「あ、大丈夫だよ。ビブルカードがあるからこれで帰れるんだ」

 

 そう言ってキャロットは自分の服のポケットを探ろうとして、そういえば着替えさせられていたのだと気付き、甲板で干しているだろう自分の服のところへ行こうとする。

 それを押しとどめ、クルスがあとで見ておくと再び彼女を座らせた。

 

 「ビブルカードか。知り合いのか?」

 「うん。もしもの時に持っておけってワンダが」

 「それがあれば帰れるな。しかし、ゾウか……」

 

 少し思案する様子を見せた後、クルスは明るい声で呟く。

 

 「これも何かの縁だ。俺が送っていくよ」

 「本当? ありがとうクルス」

 「いや、別に構わない。特に用事もない旅路だし……それと、一つ確認しておきたいんだが」

 「何?」

 

 そこで一度言葉を区切り、言うべきか言わないべきか、少しだけ逡巡する。しかし聞いたところで問題にはならないだろうと結局彼は判断を迷わなかった。

 明らかに様子のおかしい姿で、クルスがキャロットに尋ねる。

 

 「そのゾウって島には、他にもその……キャロットみたいな、ミンク族が住んでるのか?」

 「そうだよ。島っていうか、象主(ズニーシャ)だけどね」

 「伝説とさえ聞いてたミンク族が……まさか、こんな日が来るとは」

 

 モフモフが、モフモフが、とぶつぶつ呟き始めたクルスの様子がおかしいことはなんとなく理解していたものの、特に気にしなかったキャロットはシチューを平らげた。

 彼はきっといい人だ。助けてくれたし、食べ物をくれたし、頭を撫でてくれた。

 それが彼女が抱くクルスへの評価であり、疑う余地さえ持とうとしていなかったのだろう。

 

 それより何より、初めての航海。ゾウから出たのは初めての経験だ。

 彼女はこの航海を楽しみたくてうずうずしており、ベッドに居るのがもったいないとしか考えていなかった。少し前に溺れていたはずなのに疲れなど一切残っていない。

 できることなら甲板に出てもっと海を眺めていたい。

 一度はクルスに連れ戻されたとはいえ、腹も満たされ、体は居ても立っても居られなかった。

 

 「ねぇクルス、海を見ちゃだめ? 私象主(ズニーシャ)の外に出たことないから見たいの」

 「え? でも、体は大丈夫なのか?」

 「平気だよ! おいしいシチューも食べたし、ピンピンしてるもん!」

 「本当か? 海水を飲んだかもしれないし、自分ではそう思ってても体は休みたがってるなんて時もあるから、無理なんてしたら――」

 「無理してないよ! 大丈夫だって!」

 

 妙に心配してくるクルスに対して、キャロットは腕を元気よく動かすことでアピールした。

 それでも彼はすぐに納得しなかったため、ベッドを降りた彼女はクルスの顔を覗き込む。

 

 「それじゃあ元気になるように、また頭撫でてくれる?」

 

 それは何よりの誘い文句。明らかに指先がぴくっと揺れた。

 

 「い、いいのか? 嫌じゃないのか?」

 「嫌じゃないよ。だって頭撫でられるの嬉しいもん」

 「そ、そうか。いやまぁ、うん……平気なんだったら別に、見るくらい」

 「やったぁ!」

 

 ぴょんと跳ねてクルスの首に腕を回し、再び耳を狙って首を伸ばす。

 キャロットに甘噛みされた彼は戸惑いながらも嬉しそうだった。

 

 「ガルチュー♡」

 「おっ、おぉ、おぉぉ……!」

 

 咄嗟に抱きとめ、抱きしめ合う状態になる。

 気を良くしたクルスはキャロットに手を引かれても逆らわず、二人で甲板へ出る。帆船とはいえ小型でさほど大きくはない。部屋数は一つ一つは小さいが五つ。寝室、キッチン、そしてトイレと風呂場、商品を収納する倉庫だ。甲板へ出るまで数分とはかからなかった。

 

 室内から外へ出ると眩しい太陽の光で思わず目を細めた。今日はいつにも増して海が輝き、上機嫌とさえ捉えられそうなほど美しい風景である。

 キャロットは目を大きくして喜び、クルスはそんな彼女の様子に頬を緩める。

 

 航海へ出るのは初めて。その嬉しさが全身から滲み出るようで。

 懐かしい物を見るような目でクルスは同じ風景を目にした。

 

 「すごいねー。海ってやっぱり広いんだ」

 「ああ。船があればどこへでも行ける。時にはシケもあるが、慣れてれば越えることは難しく感じない。本当にどこまでだって行けるんだ」

 「クルスもたくさん冒険してきたの?」

 「ああ。たくさんした。色んな島へ行ったよ」

 

 仮面こそ不気味だが語る声は穏やかだ。

 やっぱりいい人。そう思ったからこそ不思議に思う。

 なぜ彼は顔を隠すのか。気になったキャロットは悩まず聞いてみた。

 

 「クルスはどうしてお面つけてるの? 顔を見せたくないの?」

 

 ほんの一瞬、口を閉ざした。しかし彼はすぐに答えた。

 

 「特に大きな理由はない。敢えて言うなら、仕事柄、顔を知られない方がいいからかな」

 「商人なんでしょ?」

 「そうだ。時には危ない連中と取引することもある。素性がバレると身の危険があるんだ」

 「ふーん、そうなんだ。危ない仕事なんだね」

 

 納得した様子でキャロットは呟く。

 その直後、うーんと悩む素振りを見せて、彼女はクルスの正面へ移動した。

 

 「でも私は危険じゃないよ。クルスのこと傷つけたりしないから」

 「ああ、そうだろうな」

 「私にも見せられない? 命を助けてくれた恩人だもん。クルスの顔見たいよ」

 

 少しの沈黙があって、悩む素振りだった。しかしクルスの決断は早かった。相手が相手であり、仮に人間が同じことを言ったならば彼は歯牙にもかけなかっただろう。

 そっと仮面に触れ、両手で外す。

 存外あっさり外れたそれを右手で持って、露わになった顔はそう特別な物でもなかった。

 

 肌は日に焼けておらず白く、髪は黒くて短い。

 顔立ちは目立って整っている訳でもないが精悍な青年といった印象だった。

 

 だがそれらを差し置き、キャロットの目を奪ったのは彼の瞳。

 フードの下で太陽の光を遮り、わずかな影の中で輝く金色。細められた瞳孔は猫を思わせ、明らかに人の物とは違う。

 冷たく、鋭く、声色の優しさとは裏腹に野性を感じさせる。

 キャロットはその目に魅入られ、しばし言葉を失った。

 

 「きれいな()……」

 「人はそう思わない」

 

 自嘲気味に笑った彼は仮面をつける代わりにフードを目深にかぶった。

 光から離された分、目の輝きは増す。

 

 「私は思うよ。だってきれいだもん」

 「そうか。それなら見せてよかった。あまり見せないようにしてるんだ」

 「どうして?」

 「トラブルはごめんだから」

 

 つぶらな瞳で見つめてくるキャロットに耐えられず、手を伸ばした彼は再び彼女の頭を撫でる。柔和に微笑んで落ち着いている風に見せていたがそうする時は鼓動が激しく脈打っていた。

 彼の手に触れられて嫌がるどころか、自ら頭を下げたキャロットは嬉しそうだ。

 痛みはないが力は感じる、そんな加減で撫でられ、彼女の頬はだらしないほど緩んでしまう。

 

 「えへへぇ……クルスは撫でるのがうまいね」

 「そ、そうか? あまり意識したことはないけど」

 

 褒められたことで調子に乗ったようで、その後もぐりぐりと撫で続ける。

 少し乱暴に感じられる時もあったが、それさえもキャロットは嬉しかった。

 頭を撫でられて、耳を触られ、丁寧な動きで愛情を感じ、時には指先にぐっと力を入れて触れられているという実感が増す。そんな風にして遊ぶように触れながら、クルスは興奮した面持ちで彼女の顔にも触れた。

 

 兎のミンクである彼女は全身が毛で覆われている。ふわふわ、モフモフしている白い毛だ。

 その柔らかさを愛で、手が離せなくなるほど惹かれながら両手で頬を挟んでみる。

 微笑むキャロットが彼の手に己の手を重ね、いつの間にか体をわずかに揺らしていた。

 

 「やぁん、撫ですぎだよぉ……」

 (うーむ、モフモフ……尊い)

 

 どちらも恍惚といった表情で、一向に止める気がない。

 いつしかクルスは淡々と彼女を撫で、キャロットはそれを享受してわずかな反応を見せる。

 

 「はぁ、ふぅ……」

 (なんか、動物っぽいんだけど)

 

 耳の後ろをひっかくように、くすぐるように指を動かす。

 逃げようとしないキャロットだが少し俯いて小さく震えており、気付けばぎゅっと目を閉じ、堪え切れないという様子で時折吐息が出てくる。

 

 「はぅ、うぅ……」

 (見た目が人間に近くなるだけで)

 

 首の下を指で掻いてやる。猫が喜ぶやつだろうとやってみれば意外に反応が良く、先程までは辛そうにも見える表情だったのに頬が緩んでいる。目を閉じていても嬉しそうな顔だ。

 正面に立ってじっと見ていると反応が手に取るようにわかる。

 彼女の手はもっとやれと言わんばかりにクルスの手を掴んでいた。

 

 「はぁ、あぅ、んぅ……!」

 (意外と、エロいな……)

 

 真剣な顔で頭に耳に顔を撫で続けること数分。

 上気した顔でキャロットは目を潤ませ、唐突に彼に抱きついた。

 背に腕を回して強く力を入れ、胸元に顔を擦りつけ、自分の匂いをつけるかのようにぐりぐりと頭を振る。クルスは彼女のそんな行動に驚いていた。

 

 細く見える外見とは裏腹に力は意外に強い。引き剥がすのはおそらく無理だ。

 しかしその前に彼は引き剥がすことを考えようとはしなかった。

 戸惑いながらも嬉しそうに彼女を抱きしめ返し、その後でどうすればいいかがわからなくなる。

 

 「ど、どうした……!?」

 「んー、んん……なんかね、変な感じだよ……」

 

 頬を上気させ、目は潤み、原因はわからないが体が熱くなっている。キャロットは混乱している様子でもあって、同時に力が入らなくて困惑してもいた。

 潤んだ瞳が見上げてくる。

 おそらくどうすればいいのかわからないのだろう。彼女は縋るようにクルスを見ていた。

 その時、彼はハッと気付く。そして自分の状態に困惑もした。

 

 (あれ……? 俺、モフモフだから愛でてたはずなんだが……)

 「んー、クルス~……」

 (思ったより、意外に、ちょっと……)

 

 すっかり懐いた様子のキャロットに、やり過ぎたか、と考えていた。

 瞳を潤ませ、顔が赤く、何かを求めるように頭を擦りつけてきて、さらに今頃気付いたのだがわずかに脚をすり合わせているのではないか。

 そんな様子で察しないほど、彼は人生経験が希薄な訳ではなかった。

 

 女を抱いた経験くらいはある。他人にはあまり近付かない彼でも性欲はある。好奇心もある。ただ日常的に必要かと言われればそうではないが、あくまでも経験はあった。

 あまり人と親しくしてこない人生だったがこれはわかる。

 それはわかったが、果たしていいのだろうかという迷いが生まれないでもない。

 自分はあくまでもその辺の野良猫や野良犬を可愛がるのと同じ理由で撫でまくっていたのだが、どうやら彼女の反応を見ているとそれだけでは済まなかったらしい。

 

 辛そうにも見える顔でキャロットは体の間に隙間が無くなるほどぴったり抱きついてくる。

 その上で訳がわからないと、助けを求めるようにクルスの顔を見上げていた。

 

 おそらく彼女は何も知らない。まだわかっていないのだろう。

 自分は一体どうすべきか、クルスは悩み始めてしまった。

 初めて出会ったミンク族。確かにやたらと可愛がった。しかしこんなことになるとは。

 

 (いや、でも、これは……いいのか? むしろいいことなのか? でもこのリアクションだと騙してしまったというか、無理やり手籠めにした感もあるし……)

 「んんぅ、はぁ、あぅ……」

 (あぁ……調子に乗り過ぎた)

 

 後悔しても今や遅く。

 キャロットは絶対に彼の体から離れようとはせず、辺りに人の姿はなし。相棒のナックは今頃海中散歩で忙しく顔を出すつもりもない。

 困ったクルスはひとまず彼女の頭を撫で、それでまたキャロットの体はピクピク震えていた。

 



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過ち ~First night~

 結局、結論を先延ばしにしたクルスは、キャロットに何もしなかった。

 何か気晴らしをしようと彼女に釣りを教えたり、旅の話を聞かせてみたり、一緒に料理をしようと誘い出したりした。しかしどれも反応はいまいち。困惑しながら、おそらく当人は気付いていないが興奮しながら、キャロットはずっとクルスにくっついていた。

 

 どうすることもできずに時間が経ち、夜。

 これ以上はもはや逃れることはできないと悟る。

 

 ベッドに並んで座った二人。クルスは緊張しながらも覚悟を決めた顔をしており、キャロットは相変わらず辛そうな、何かを我慢するような顔をしていた。

 彼女は今もクルスに腕を絡めており、肩に頭を預けた状態で体の力が抜けていた。

 

 ふーっと一息。クルスの手がキャロットの手を握った。

 

 「キャロット。辛いか?」

 「ふぇ? うん……よくわかんない」

 「今、どんな感じだ?」

 「よくわかんない……ぽかぽかして、ぎゅうっして、切ない感じ……」

 「そ、そうか」

 

 艶っぽい声。

 最初に声を聞いた時は元気な少女という印象を抱いたのに、今は全く違っていた。

 こうなってしまった、或いはしてしまった責任は取らなければいけない。騙し討ちのような気がして少し悪いと思ってしまうも、彼自身とて興奮が治まらなかった。

 

 キャロットが常にくっついて動いてくるため、色んなところが当たり、柔らかい何かに触れ、モフモフした感触が彼の心を暴れさせた。

 いつからだったか、服の下に隠した怒張は萎えることなく硬く在り続けていた。

 

 今こそ、解放する時。

 それは自分のためにもキャロットのためにもなる。

 

 「多分、なんとかしてやれると思うんだけど……」

 

 本当にいいか。

 おそらくわかっていないだろう彼女に聞くのはずるい気もするが、確認は必要だと思って尋ねようとした時だった。

 

 潤んだ瞳でじっと見つめてきて、身を乗り出し、何かを求めるように顔を近付けてくる彼女。

 本能なのかもしれない。知識としては知らなくても動物として体は知っている。

 戸惑い、驚く彼が反応できない間に、キャロットの顔は目と鼻の先にあった。そのまま少し動いただけでも触れそうなほど近い位置だった。

 クルスはごくりと喉を鳴らし、キャロットは熱い吐息を唇に当てる。

 

 「せ、責任は取るぞ」

 「うん――」

 

 咄嗟に出た一言に彼女はうっとりと目を閉じた。

 意味を理解していなくても嬉しく感じたのだろう。待つ体勢になった途端、彼女はどこか幸せそうな様子に見えて、クルスが動き出すきっかけを与えた。

 

 右手を頬に添え、左手で彼女の手を握ってやり、そっと顔を近付ける。

 小さな口に彼の唇が重ねられた。

 キャロットの体が一瞬小さく震えたが、それを感じる余裕もなく、彼女の方から強く口を押しつけてきた。積み重ねた我慢がそうさせたようでクルスは逆に驚かされる。

 彼の手を振り払い、両肩を掴まれ、気付いた時にはベッドへ押し倒されていた。

 

 どうすればいいかもわかっていない、とりあえず押しつけるだけの我武者羅なキス。何かが欲しいのだがその何かがない。ひたすら顔を動かして角度を変えたりするのだが、満足できていない様子でキャロットの動きは落ち着きがなかった。

 押さえつけられたクルスは身動きが取れずにいる。

 意外に力が強い。悪気はなかったとはいえ長時間の我慢を強いてしまったせいだろう、一切の遠慮なく全力をぶつけてくる感じに彼は目を白黒させていた。

 

 呼吸すら困難になるほど力強く押しつけられる口。色気も何もあったものではない。

 一度落ち着かせる必要があるとなんとか手を動かし、クルスは彼女の頭を撫でた。

 それが逆効果だったらしい。キャロットは口を離して勢いよく顔を上げる。

 

 目には今にもこぼれそうなほど涙が溜まって。

 腰のあたりががくがく震え、暴走した感情は止まらず、震える声は助けを求めていた。

 

 「はーっ、はぁぁっ、クルスぅ……! 体が、熱いよぅ……!」

 「わ、わかった。今なんとかしてやるから……」

 

 再び覆いかぶさってきたキャロットは無理やり口を塞ぎ、しかしそれ以上はどうすればいいのかわからずに何もできず、ただ乱暴に口を押しつけてくるばかり。

 一方で強く彼の体に抱きつき、勝手に腰が動いて乱暴に振っていた。

 もはや自分でも止められない様子のその動きは非常に卑猥で、服を着たままとはいえ、一方的に犯されるかのような動きにクルスは嫌な予感を覚えた。

 

 (なんか、想像したより激しい? 兎は性欲が強いなんて言うが……)

 

 かくかく振られる腰はクルスの下腹部に擦りつけられ、その勢いに危機感さえ覚える。

 冷静に考えている暇もなく、このままにしておくのは可哀そうだと、クルスは多少慌てた手つきで彼女の服に手をかけた。と同時にぶつけられる口に対して舌を出し、ぺろりと舐めてやる。

 それだけで舌を出せばいんだと気付いたキャロットは彼の唇を激しく舐め回し始めた。

 

 知識がないだけ。学ぶ頭脳はあり、本能はそれ以上の何かを持っている。

 舌を出すと、それだけを学んだはずのキャロットは即座に己の舌で唇の中に割って入り、驚くクルスの舌を絡め取り、舐め回し、歯列をなぞって唾液を啜った。

 たった一つ理解しただけであらゆることを試そうとする。更なる快感を求めている。

 一方的に口内を蹂躙されたクルスは服を脱がす手を止めてしまい、呼吸をしようと顔を振った。

 

 熱烈なキスから逃れて大きく息を吐き、すかさず吸う。この調子では再び即座に押しつけられても文句は言えない。先を呼んでの行動だった。

 しかしキャロットは唇を追わず、すかさず彼の首筋に噛みついた。

 

 「いっ!? いでっ、キャロット……!」

 「フ~っ、フーっ……!!」

 「あぎっ、がっ……!?」

 

 甘噛みなどではない、本気の噛みつき。痛みを感じるどころか死さえ近く感じたクルスは目を白黒させており、無我夢中で手を伸ばし、訳も分からず動く手が何かを探した。

 必死に探した結果、辛うじて掴むことに成功したのはキャロットの耳。

 かつてない力でぎゅっと掴めば、その途端に力が抜けた様子で口が離れる。クルスが死ぬことはなく咄嗟に安堵した様子で大きく息を吸い込んだ。

 

 「ふはぁっ……!? あうっ、くぅん……!」

 「あ、あっぶねぇ……!? 本気で、殺されるかと思った……!」

 

 右手でしっかりと耳を掴んだ状態だとキャロットは力が抜け、苦しげに声を洩らしていた。

 これはこれで後にひどい結果をもたらしそうな気がするものの、今は好都合。

 今の内に服を脱がそうとひとまずクルスは自身が履かせた短パンに手を伸ばした。

 

 初めは海で溺れた女性を介抱するために服を着替えさせただけだった。下着を履かせてやる余裕もなかったため、短パンをはぎ取ればそこは露わになった。

 興奮が引き起こした惨状。その全てを確認しようとする。

 彼女が抱きついてくるため指先で恐る恐る触れてみた。白く美しい毛並みは自らが分泌した愛液で濡れてしまい、まるで洪水。ずっと一緒に居て今までよく気付かなかったものだと反省してしまうほど濡れそぼっていた。

 

 興奮しきった挙句長時間焦らされ、耳まで掴まれたキャロットにもはや羞恥心などない。

 早くそこにある熱を冷ましてほしくて、何も考えずに脚を開いていた。ここをどうにかしてくれと伝えるかのように。

 思わず喉を鳴らして、クルスは彼女の耳から手を離すことなく自身のズボンと下着を降ろす。

 

 いきり立っていたペニスは外に出た瞬間ぶるりと揺れる。

 彼とて我慢はあった。辛かったのは焦らされたペニスも同じで、快楽を求めて天を向いている。

 

 もう挿入した方がいいのか。ふと考えた一瞬、迷いが生じる。

 確認はしていないとはいえおそらく彼女は初めて。こんな状態でも無理を強いるのは躊躇った。

 その迷いに気付いたかのようにキャロットが辛そうな声を出す。

 

 「あぁでも、どうしようっ。濡れてるだろうけどちゃんと指とか使った方がいいかな? 俺も久々だからわかんねぇし、初めてなら尚更……」

 「クル、スぅ」

 

 顔を上げて彼女と目を合わせる。

 すでに限界を超えているらしいキャロットはぽろぽろと大粒の涙を流し、気が狂いそうな衝動に今も耐えながら彼へ懇願していた。

 

 「ほしいよぉ……!」

 

 何が、とはわからないまま、生物としての本能がそう言わせていた。

 ハッとする暇もなく、咄嗟にクルスはペニスを彼女の膣へと勢いをつけて挿入する。

 

 「ああぁぁぁっ!?」

 

 悲鳴に近い絶叫。キャロットの全身に電気が走った。

 四肢を突っ張って絶頂を感じた後、脱力した彼女はクルスの上に倒れ込む。凄まじい衝撃だ。今まで感じたことのない感覚に目は虚ろになり、体のどこにも力が入らない。

 少なくとも一時、ようやく得られたものに安堵した様子だった。

 

 彼女がそうなった一方、クルスも必死に歯を食いしばって耐えていた。

 ただでさえ久しぶりの性行為。しかも相手が初めて、おまけに人間ではなくモフモフの、今日出会ったばかりとはいえ少なからず好意を持っていた相手。挿入しただけで達してしまいそうになるだけの条件は揃っていたように思う。

 ここで出しては男が廃る。

 小さなプライドにしがみついた彼は必死に我慢して波が去るのを待っていた。

 

 ようやく波が去って落ち着けるようになった後。

 自分の上で動かないキャロットを心配してクルスが顔を覗き込んでみる。

 それに気付いた彼女が視線を合わせた。

 

 少し惚けているようだが身体的な問題はなさそうだろう。

 クルスが目視で判断した瞬間だった。

 

 バチンッ、と腰が叩きつけられる。

 突然の行動で何をされたのか理解できなかった。

 惚けた顔のまま、焦点の定まらない目をクルスに向けたキャロットは、器用に腰を動かして限界までペニスを引き抜き、全力で腰を降ろして再び呑み込んだのである。

 膣の中を移動したその摩擦、その快感。クルスは目を剥いて射精感を堪えた。

 

 「おおっ、おっ……!?」

 「あっ、はぁ……これ、しゅごいぃ……」

 

 もう一度思い切り引きあげ、全力で叩き落とす。

 ズパンっと乾いた音が響いて根元まで吸いこまれる。その衝撃にクルスの体は激しく揺れ、本人は悲鳴が出そうになるのを必死に呑み込んだ。

 何度かの経験があるとはいってもこんな衝撃は感じたことはなかった。

 これは、まずいと、彼の本能が告げていた。

 

 反対にキャロットは嬉しそうに笑う。

 目は惚けているが口元ははっきりとした弧を描き、これを待っていたと言わんばかり。

 彼女は無我夢中で、嬉々として腰を振る。

 

 「これぇ……! これがほしかったのぉ……!」

 「うあっ、あっ……!? キャロット、ちょっと待っ――!」

 「んんんっ、あああぁっ! きもちいいっ! きもちいっ、きもちいいよぉ!!」

 

 ずんずんと小刻みに腰を振り、ペニスを抜いては差し込んで、ほとんど狂乱の域でピストンを繰り返す彼女にクルスの声など届いていなかった。慣れているかのようなスムーズさでクルスのペニスを扱い、自分の膣の中に擦りつける。

 内壁を抉り、先端が一番奥にぶつかって、また抜けてしまいそうになるほど引かれる。

 乱暴な動きがキャロットの精神を高ぶらせ、大声を出す彼女はとても幸せそうに笑んでいた。

 

 しかし一方的にそうされるクルスはとても平常心ではいられなかった。

 一突きする度に電気のような感覚が全身を駆け抜け、体の自由が利かず、抵抗することも不可能ならば我慢することさえできやしない。まさに今この瞬間、キャロットに生殺与奪を握られてしまったかのような状況だ。

 その証明と言うかのようにキャロットの両手がクルスの両手首を掴む。

 彼を動けないよう押さえつけて、ピストンは一切速度を緩めずに続けられる。

 

 悲鳴とも嬌声とも感じられる声が出た瞬間、キャロットはクルスの首筋に噛みついた。

 もはや彼は声の一つも出せず、されるがままを受けて声にならない声で叫んでいる。

 

 「フーっ、んんんっ……! これっ、しゅごいっ、きもちいい……!」

 「あ、あ、あ……」

 

 いつの間にかクルスの目は焦点が合っておらず、思考力の欠片も残ってはいない。

 ただ上に乗っかったキャロットの動きに応じてベッドの上で跳ねる。それほど脱力して為すがままの状態となっていた。

 

 キャロット自身、今自分がどうなっているのかわかっていない。

 イッているのかいないのか、その概念すら知らないままに暴走を始めてしまったのだろう。

 とにかく動く。とにかく続ける。全身を駆け回る電気が途切れさせないために、常にクルスのペニスで膣内を抉る。考えることもできず体がそのために動いていた。

 彼女はだらしなく舌を伸ばし、クルスの首筋に噛みつく力も失って尻を弾ませている。

 

 ある時、唐突にクルスが射精した。

 限界などとっくに越えていたはずなのだがなぜ今になったのか。本人にさえわからない。

 あまりにも突然にペニスから精液が吐き出され、それはキャロットの膣内に吐き出された。

 彼女の体が大きく震え、一時的に動きが止まった。しかしそれもほんの一瞬だけだ。

 

 今となっては自然な行動として激しく腰を振りながら、キャロットは彼の顔を舐め回す。

 呆然とするクルスは大きな反応を見せることすらできない。

 

 「あはぁぁっ、これしゅきぃ♡ クルスきもちいいっ……!」

 「ま、待っ、て……あ、チンポ、おかしくなる……」

 

 制止しようとした口を煩わしく思ったのか、ぶつかるように唇を塞がれる。

 腕を押さえつけられ、体全体でのしかかられ、喋ることさえ許されない。

 これでは当初と逆だ。彼女を気遣って許可まで取ろうとしたのに全くの無駄だった。

 

 押し潰すかのようにきつく締めてくる膣内へ、激しく乱暴にペニスを抜き差しする。一度射精したが与えられる刺激で強制的に硬くさせた。それも乱暴だったためだろう、今にもはち切れてしまいそうなほど膨らんで余裕の無さそうな様子だ。

 多少の無理をしていようが、今のキャロットには関係ない。

 本能に従うままに腰を動かし、疲労を感じる暇すらなくピストンを続けなければならなかった。

 

 「あーっ♡ あーっ♡ あーっ♡」

 「ぐああっ、だめだっ! イクっ、イクぅ!?」

 「んんんっ……えへへ、また熱いのくる? くる?」

 

 高速で腰が動き、膣にペニスが呑み込まれ、またある時射精した。

 今度は本人の言葉があった直後でキャロットもそれを認識しやすい状況にあり、びゅっと飛び出した瞬間にわかりやすく尻が跳ねる。

 キャロットは至福の表情で背をのけ反らせて、逆にクルスは苦しそうな顔で背を丸めた。

 

 「きたぁぁぁっ♡ 熱くてきもちいいのっ、お腹の中にびゅって……!」

 「うぐぅっ。うぅぅ……!」

 

 一番奥で取りこんでやろうと思い切り腰が沈められた。

 大きく揺れるペニスが精液を吐き出しながら根元まで埋め込まれる。

 逃げることもできず、大きな快感に囚われてクルスは低く呻いた。

 

 二度の射精を経て彼はすっかり疲弊していた。そもそも性行為自体久々であり、ピストンの勢いも凄まじく、おまけに休む暇も与えず連続しての二回。ぐったりした様子を隠せないほど力の抜けた顔と体勢だった。

 それなのにキャロットは再び腰を振り始める。

 彼の疲弊など何のその。自らが動く刺激でペニスを勃起させようとしていた。

 

 この時になってクルスは混乱と恐怖に包まれる。

 だらしない顔でキャロットは笑い、疲れを一切感じさせず非常に嬉しそうだったのだ。

 

 「えへへ~、きもちいいね~。んぅ、はぁ、これもっとほしいよぉ~」

 「はぁっ、ちょっと、待て……! そんなすぐには――!」

 「クルスっ、クルスぅ♡」

 

 キャロットの動きが弱められることはなく、心底嬉しそうに彼を責め続けた。

 無理やり押さえつけられたクルスに為す術はない。

 彼女の欲求に逆らえず、長時間に渡って犯され続けた。

 



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変化 ~Partner~

 目が覚めたのは本人も驚くほど突然だった。

 いつ自分が眠ってしまったのかを覚えていない。覚えている限りではいきなり意識が途切れて、いきなり目を覚ましたのだ。何が起こったのかわからずに目を開いた途端に混乱してしまった。部屋はいつの間にか暗くなっている。

 今は夜なのだろうか。

 体が重い。指先を動かすことすら億劫で、体の芯から何かが抜き取られてしまったかのよう。

 

 なぜこんな状態に。

 そう思ったちょうどその時に誰かに抱きつかれていることに気付いた。

 

 ふわふわした感触が肌にぴったり触れている。動きたくないという想いに反してゆっくり横へ顔を向けてみれば、そこに居たのは裸のキャロットだった。疲弊した様子のクルスに腕を回し、強い力で抱きしめながら静かな寝息を立てている。

 かつてないほどの疲労感。可憐で幸せそうな寝顔。

 あぁ、そうか、と思い出した。

 

 何の因果か、今の今まで眠っていたであろう欲を目覚めさせてしまい、一方的に襲われたのだ。

 こんなはずではなかったのに。覚悟を決めた瞬間はもう少し甘い展開を予想した。

 ため息をついたクルスは疲れた顔で目を閉じる。

 

 原因はおそらく自分だろう。理由はどうあれ、とにかく事は起こってしまった。

 まず、これからどうしようと彼は考え始めるのである。

 キャロットをゾウへ送り届けるだとか、そういう話ではない。彼女が目を覚ました時、どんな顔をして話せばいいのだろうと気になってしまう。引き金を引いたのは自分とはいえ、実情としてはほとんど無理やり襲われた形だ。気まずくなってしまうのでは、と他人事のように冷静に考えている自分が居た。

 

 (あぁ、体が重い……もう一歩も動きたくないな。一体何回やられたんだ……)

 

 ぼんやり思考がまとまらない頭で考えながら、クルスはキャロットの寝顔を見る。

 やはり可愛い。ミンク族だからというだけでなく、彼女自身の特徴だろう。まるで子供のような純粋さが表情にまで表れていた。

 さらに、モフモフだ。肌に触れる彼女の毛並みがひどく心地よかった。

 たとえ二人の体が色々な体液で濡れていても、少しも嫌に思わなかったのは確かだ。

 

 深く息を吐いてもう一度目を閉じる。

 体は疲れ切っている。まだ休息が必要だ。不思議と眠くはないが寝なければならない。

 クルスは何も考えないことを決めてもう少し眠ろうとした。

 

 (もう少し寝よう。起きたらちょっとはマシになってるはずだし、その時に考えれば――)

 「クルス……?」

 

 目を閉じて数秒と経たない内に寝ぼけた声が聞こえた。反射的にクルスの体がわずかに震える。

 眠そうに目を擦りながらキャロットが少しだけ体を起こす。

 

 肌が触れているため彼女の動きがわかった。

 この時クルスは熟考する。

 果たして、起きていると正直に言うべきか。それとも寝たふりをしてこの場を凌ぐか。命に関わる問題だと思って必死に策を練った。

 

 なぜ意識が途切れたのかはわかっている。覚えている訳ではないが状況から考えて原因など一つしか考えられない。つまりキャロットに性的に襲われ、犯されて、体が悲鳴を上げたから強制的に意識が刈り取られたのだ。

 このまま、ほとんど体を動かせない状態でもう一回なんて言われたら。

 それだけはだめだと考えてクルスは寝ているふりをすることを決意する。

 

 肌の上をキャロットの手が動いているのが伝わる。触り心地のいい毛が裸体を撫で、慈しむようにクルスの胸の上を移動して、乳首に触れると静かに動きを止めた。

 まずい、と反射的に考えてしまう。

 本来なら嬉しいはずの行動。女に求められるのは男にとってどれほど嬉しいか。しかし、それは今ではない。今の体を虐められては死を近く感じてしまう。

 頼むから大人しく眠ってくれ。クルスは願うしかなかった。

 

 「クルス……寝てる? 寝てるの? 起きてないかな」

 (俺は寝てる。寝てるから、頼むからそのまま眠っててくれ……!)

 

 するり、するりと、掌が乳首の上で動いている。

 つい反応しそうになってしまうがクルスは必死に耐え、疲弊しきっているらしく、彼のペニスも力のない状態を維持していてぴくりとも反応しない。言い換えればそんな状態になるまで絞り取られた後のようだ。

 キャロットは寂しそうな顔で彼の顔を見つめ、反応を見ながら体を撫で続ける。

 

 「そっか……寝てるんだ」

 (そうだぞ。だからお前も大人しく――)

 「それじゃあ、いいよね……?」

 (何がッ!?)

 

 彼の体を跨ぎ、腹の上にちょこんと座って。

 目を潤ませて熱い息を吐きだしたキャロットは、獲物を狩る際の目でクルスを見下ろしていた。

 そうとは知らない彼は冷や汗を掻きながら不安に駆られる。

 

 上体を倒して覆いかぶさり、唇を合わせる。ちゅっと鳴らしたキスは想像したよりずっと可愛らしいもので、思わずクルスも気分を良くした。

 啄ばむように触れては離れて、また触れて、それを何度も繰り返す。

 クルスはついほっとして、その拍子に表情が緩んだ。

 

 「んんっ……ふむっ、んちゅ……んぷっ」

 (あぁ、よかった。キャロットもそんな体力はなかったみたい――)

 

 安堵して、身を任せてしまおうとしたまさにその瞬間。

 ずるりと口内に舌が入り込んだ。

 驚いたクルスは咄嗟に全身を硬くして、目を開いてしまいそうになるのを必死に堪える。しかし一方でキャロットも目を閉じているため気付く様子はない。

 

 クルスの口内に侵入した舌はねっとりとした様子で舐め始める。舌と舌を絡めれば嬉しそうに頬が緩んで、歯の形を一つずつ確認するように撫でれば吐息が洩れる。

 両手で頬を掴んで絶対に逃がさないという意思を感じた。

 最初こそ穏やかだった動きは徐々に激しくなっていく。

 明らかに様子がおかしいことに気付いたクルスの呼吸も乱れ始めていた。

 

 長い。その上で深い。

 熱烈なキスは簡単には離れず、長く続けば続くほどキャロットの熱を強くしていたようだ。

 

 「んぅ、ふむぅ……んっ、ずずっ……!」

 (こ、れは、まずいやつ……!)

 「はぁっ、はむっ、んんっ」

 

 もっと深く繋がりたいと言うかのように唇だけでなく顔を押しつけてくる。

 キャロットはもはや自分でも止めることができないようで、本能に従い、沸き上がってくる衝動に逆らうことなく彼の口へ唾液を流し込む。そして彼の舌を啜って嬉しそうに唾液を飲み込んだ。

 

 (あぁ、やばいっ。本当にやばい。このままだと喰われる……!)

 

 どうすれば、何をすればこの状況から逃げられるのか。考えようとしたクルスだが口内を蹂躙されながら冷静でいられるはずもなく、また起きていると気付かれるのが良いか悪いか、結果が予想できないため判断できず、ひたすら必死に耐えた。

 ただ、どちらにしても結果は変わらないだろう。

 キャロットにしてみればどちらにしても今更止める訳にはいかなかったのだ。

 

 「んんっ、ぷはぁっ。クルスぅ……♡」

 (俺、死ぬのかな……?)

 

 うっとりした顔で、声で、熱い吐息をかけながら呟かれた。

 目を閉じたままだったクルスは流石にまずいと感じ、恐る恐る目を開く。

 間近にあったキャロットの顔は満面の笑みを浮かべていた。

 

 「えへー。やっぱり起きてた」

 「お、おはようキャロット。でももうちょっと寝よう。な?」

 「えー……どうして?」

 「どうしてってそりゃ、体を休めるのは大事だから……」

 「私は平気だもん」

 (聞く耳持たないっ!)

 

 少し拗ねたような顔でキャロットは彼の顔にキスの雨を降らせる。音を立てて吸いつき、触れてはすぐ離れて、頬や額、唇はもちろん鼻の頭や瞼にも優しくキスをした。

 何かを求めるような気配を察してクルスは困り果てる。

 今度は気絶せずに済むだろうか。ふとそんなことを考えた。

 

 「んっ、んんっ。ねーねークルスー、クルス~」

 (盛ってるなぁ……可哀そうだけど、このままだと俺の体力が持ちそうにないし、ここは我慢してもらった方が有難いんだが)

 

 申し訳ないとは思いつつ、ぐりぐりと頬ずりしてくるキャロットを放置する。

 すでに火が点いているらしい彼女は我慢できずに何度も顔を押しつけた。しかし反応できるほどの体力が残っていないクルスはひたすら彼女の頭を撫でる。

 

 少しして、もうその気ではないと察したのだろう。

 むっとした顔のキャロットは体を起こし、彼の下半身に目を向ける。

 

 「むぅ……いいもん。クルスがその気じゃなくても勝手にするもん」

 「ま、待てっ。もう勃たないんだって……!」

 

 いそいそと彼の脚の間に座って、萎えたままのペニスへ顔を近付けた。

 さっきは硬くそそり立っていたはず。しかし今は柔らかくてふにゃふにゃだ。一体何が違うのだろうと仕組みがわからないキャロットはとりあえず手を伸ばす。

 細い指でとりあえず摘んでみた。力が入らずくたっとしたそれは彼女の手の中で揺れる。

 散々射精した後であるせいか、それでも彼のペニスは大きくならなかった。

 

 「ん~……クルス、どうやったらこれ硬くなるの?」

 「今は疲れてるから無理なんだって。もうちょっと休もう。そうしたら少しくらい――」

 「柔らかいままでもいいのかなぁ……」

 「ちょっと待てって!? それじゃ入らないから!」

 

 体を跨ごうとしたキャロットを止め、クルスは大きくため息をつく。

 どうやら満足するまで止める気がない。

 好き勝手にされて問題が起きるくらいなら、自分から動いて相手をした方が良い。ペニスは使い物にならなくてもやれることはあるはず。彼はキャロットに手を伸ばした。

 

 「キャロット、こっちおいで」

 「何?」

 「気持ちよくなりたいんだろ?」

 「うん!」

 

 元気に返事をして勢いよくキャロットが飛び込んできた。のしかかられて思わず妙な声が出るものの彼女をしっかりと抱きとめる。

 流石に不憫で、せめて指くらいでなら付き合おうと決めた。

 

 伸ばした右手がするりと肌を撫でながら尻へ降りていき、左手は首筋の辺りを撫でる。

 くすぐったそうにするキャロットは上機嫌だ。どうやら好んでいるらしい。

 

 頬ずりしてくる彼女を受け止め、尻や背中、頭を撫でてやる。それ自体はきっと大した快感でもないのだろうが少なくとも彼女を喜ばせることはできていた。その分期待値が上がっているという点を除けば有効的な触れ方だろう。

 いよいよという様子でクルスの手が股に滑り込む。

 途端にキャロットがピクッと震えて、そこに触れられた反応を見せた。

 

 濡れそぼった割れ目にクルスの指が触れる。

 するりとなぞる指先でキャロットの腰が揺れ、もっと欲しがるかのような身じろぎがあった。

 二人は目を合わせる。するとキャロットが首を伸ばして彼の唇を舐めた。甘えるようにちろちろ舐めているとクルスも舌を出す。

 

 お互い舌で繋がりながら体を撫でる。

 クルスは彼女の陰部に触れ、丁寧に指先でなぞると覚悟を促し、ゆっくり指を入れようとする。流石に濡れているだけあって抵抗はさほどなく、するりと侵入する。また左手は彼女の胸を掴んで円を描くように揉んでいた。

 キャロットはどうしていいかわからないながらも、見よう見まねで彼の乳首を触る。

 黙り込んでしまったせいで相手の呼吸を強く感じて、見つめ合っていると顔が熱くなった。

 

 「んっ、ふっ……!」

 「結構濡れてるな……好きになったのか? セックス」

 「やぁぁっ……!」

 

 膣の中をぐちぐちと指で引っ掻き回しながら囁くように言う。

 クルスが首を起こして彼女の耳にキスをした。反応は予想以上に大きく、全身が震える。

 

 「んんんっ!? やだっ、そこだめっ……!」

 「やだじゃないだろ」

 「ふぁぁっ……! あんっ、やぁっ……」

 

 膣をほじられながらの耳への接吻は彼女に初めての感覚をもたらした。

 そもそもは自分勝手な快楽しか味わっていなかった彼女である。意図してクルスから与えられる快感を今になって知ったため、眠る前に味わったものとは違っていることに大層驚き、すぐには受け入れられずにいる。

 

 いつしかキャロットはクルスへの愛撫ができなくなっていた。

 四肢からは力が抜け、与えられる快感に反応して首を伸ばしており、呼吸は乱れる。

 クルスはそんな彼女の顔を見つめて、耳や鼻や口に何度もキスを与えていく。

 

 「ふぅぅ……ひゃんっ」

 「可愛いなぁ、キャロット……」

 

 膣の中にある指がさらに速く動く。

 腰が小刻みに動いている。協力するというより彼女もさらに強い快感を欲しているようだ。

 閉じていた目を開いて視線を合わせる。

 情欲に濡れた瞳は彼女らしからぬ艶やかさを見せ、同時に彼女らしいと思える幼さをどこかに感じさせていた。

 

 「んんんぅ、ひうっ、はぁぁぁ……クル、スぅ……」

 

 切なそうな声で名前を呼ばれて、疲れ果てていたはずのペニスが反応しようとしていた。

 彼自身、体は鉛のように重く、もう無理だと考えていたはずなのに。どうしたことなのかそんな様子の彼女を見ているだけで頭をもたげようとしている。

 驚く半面、それを少し喜ぶ自分が居たのも事実だ。

 

 「辛いか?」

 「ん……」

 「よし……一回くらいはできそうだな」

 

 自分のペニスを手で扱いて、見る見るうちに硬くなっていくのを確認して呟く。自分でも呆れてしまうほど単純だがそれが彼女のためでもあるのだ。

 完全に勃起したペニスを手で支えて、彼女の股に擦りつけた。

 パッと笑顔になったキャロットは顔の向きを変え、クルスから離れようとはしないがそちらを見ようと振り返りながら腰の位置を合わせる。

 

 二人の秘部が触れ合った。

 見つめ合って、クルスがキャロットの尻を掴んで腰を上げたことで挿入していく。

 

 「行くぞ」

 「ふっ、あぁっ……!」

 「うっ、すごい締まりが……」

 

 ずずず、とゆっくり押し込んでいって、徐々に彼女の中に包まれていく。

 キャロットは押し出されるように息を吐き出して、クルスは低い呻き声を出した。

 我武者羅に動いていた時とは違う。挿入した直後に動きを止めたため、彼の体温が、彼の形がはっきりと伝わってくるかのようだった。

 身を捩ったキャロットは動きたいと思い、それと同時にこのままで居たいとも考えている。

 混乱する彼女の頭をクルスが撫で、穏やかに笑いかけた。

 

 「うんんっ、ひゅんっ……!?」

 「大丈夫だ。そのままじっとしてていい」

 

 優しく言ってゆっくり体勢を変える。

 お互いの位置を入れ替えて、キャロットをベッドに寝かせ、その上にクルスが覆いかぶさった。

 安心させるために彼女の頬を撫でてやる。するとキャロットはくすぐったそうに目を閉じた。

 

 ゆっくり腰を前後させ始める。

 激しさのない動きは彼女をドギマギさせるが、だからこそ新しい快感を感じさせた。

 

 閉じた肉を亀頭でこじ開け、奥まで力を入れて押し進み、コツンと最奥に当たれば、今度は引き抜く動きの最中にカリが肉の壁を引っ掻いて移動する。

 徐々に、丁寧に動くため肉棒の感触が如実に伝わってくる。

 ほぅと熱い吐息を出したキャロットは、安堵した様子で目を閉じていた。体から余計な力を抜いているらしく、何もせずに全てをクルスに委ねている。

 

 クルスは、今は愛おしい物を見る目でキャロットを見ていた。

 全てを預けてくれる態度から感じるのは信頼感。彼女はきっと自分を信じている。その思考が彼にとっては嬉しく感じ、またこの雰囲気もいいものだ。

 胸の膨らみや腰の括れをそっと撫でて、彼女を大切に扱う。

 

 さっきとは違う。お互いを大切に想い、愛し合うための行為。

 肉欲のための行為ではない。まるで心と心を繋げるかのような繊細さにキャロットは酔いしれ、この時がずっと続けばいいとさえ考えていた。

 

 腰の動きは一定のペースで継続された。

 腹の中で動く異物は着実にキャロットの気分を高め、彼女の表情を変えさせた。

 

 「はぅ……クルスぅ」

 「ん?」

 「きもちいい……」

 「うん」

 

 ぼーっとした眼差しを向けてくる彼女に笑いかけ、唇を塞ぐ。

 二人共目を閉じてキスに没頭した。

 クルスが主導権を握り、キャロットの舌の動きも穏やかで、ねっとりと楽しむような口付けでお互いの口内を行き来すると唾液を交換して飲み込んだ。

 ちゅうっと唇を吸ってやると、口を離したキャロットは小さく身じろぎする。

 

 わずかに腰を揺らしており、どうやらもっと強い刺激が欲しくなったようだ。あれだけ暴れていたのによく我慢した方だろう。微笑んだクルスも付き合う覚悟を決める。

 両手で腰を掴み、勢いをつけてペニスを突き出す。

 ずんっと奥に感じた衝撃にキャロットは目を見開いて大口を開けた。

 

 「あっ、うっ、はぁっ――!」

 

 多少の驚きはあったが、体を大きく揺らし、すぐに順応する。

 クルスの首に腕を回してしがみついたキャロットは、ぴたりと肌を合わせて彼の動きに耐える。

 明らかに速度を変えて突き入れられるペニスは彼女のいいところを的確に突いて、どうやら先程の緩慢な動作の中で探ったのだろう、あっという間にキャロットを追い詰める。喉を震わせて口を開けた彼女は涎さえ垂らしそうな様子で目を虚ろにした。

 

 「あっ、ひゅっ、はっ、んあぁっ……!」

 「ふっ、ふっ……!」

 

 徐々にスピードを上げていくクルスは彼女の首筋に顔を埋めて目を閉じた。

 フサフサの毛が肌に触れて心地いい。それだけで彼は満足なほどだ。

 ただし今はキャロットの要望に応えるべく、ペニスの動きは明らかに荒々しくなり、ほとんどのしかかってぶつけるような動きで腰を振っていた。

 

 掻き出された愛液が飛び散る。

 甲高い声が彼女の興奮具合を表していて、キャロット自身も腰を動かしていた。

 

 熱くなって汗を掻く。

 なぜか急激な疲労感を感じたクルスは己の限界を認識した。

 やはり先程までの時間は無関係ではない。激しく動けばそれだけ限界が近くなる。

 

 「はぁっ、キャロット、どうだ……?」

 「ううっ、きもちいいっ、きもちいいよぉ!」

 「はっ、そうか。俺はあんまり、もちそうにない……」

 「んいいっ! もうちょっと、もうちょっとだけ……!」

 

 ぎゅっとしがみついてキャロットが懇願する。

 仕方なくクルスは最後の力を振り絞って思い切り腰を叩きつけた。

 

 クルスのペニスで膣内が掻き乱され、さっきよりも大きな声でキャロットが鳴き始める。もはや狂乱の域にまで達しそうな声は彼女の本能を刺激したからだろう。

 一突きする度にキャロットは階段を一歩ずつ昇っていく。

 そしてそこから一気に落ちるかのように、彼女は全身へ強い電気を感じた。

 バッと目の前が真っ白になり、全身へ力が入り、その瞬間に膣がぎゅううと締めつけられた。

 

 クルスは苦しげな顔で歯を食いしばった。

 今までの比ではなく全力で抱きついてくるキャロットはどうやら達したようだ。それ自体は成功と言っていいだろう。だが同じく絶頂へ達したはずの彼だが、激しく震えたペニスからは一滴の精液も出ず、強い力が入って痛みさえ感じてしまう。

 やはり連戦が堪えて快感を得る余裕などなかった。

 乱れた呼吸を整えようとする彼はキャロットを優先し、彼女の頭を撫でてやる。

 

 どうやら波が引いたらしい。キャロットがクルスの体から手を離す。

 くたっと倒れてしまった。脱力した彼女は目を閉じ、今にも眠りそうな様子で目元がとろんとしており、焦点の合わない目でクルスを見る。

 

 「はぁ、はぁ……クルスぅ。すごかった……」

 「気持ちよかったか?」

 「うん……もう一回」

 「え?」

 

 惚けた顔で、蕩けた声で言うキャロットに驚愕し、クルスの顔が呆けた。

 

 「もっとしたいよぉ。クルス、クルスぅ……」

 「ちょ、ちょっと待て。さっきのでも俺はかなり無理して――うわっ!?」

 

 両脚を彼の腰に巻きつけたキャロットは自ら腰を動かし始めた。彼女の膣内にあった萎えたペニスを硬くしようと刺激を始めるのである。

 それで困るのはクルスだ。彼はもう無理だと再三言っている。

 なんとか止めさせようと手を伸ばすのだが、素早い動きでキャロットが彼の両腕を掴んだ。

 

 「待て、だめだって! 俺はもう何も出ないし、そもそも勃たなっ……ううっ」

 「んんぅ、んふぅ、んはぁ……クルスのこれ、もっかい硬くして?」

 「だから、それができないから無理だって……うっ、おっ」

 「もっとほしいよ……しよ? ねぇしよ?」

 「こ、のっ、バカウサギ……!」

 

 両手を押さえられた彼だが、力を振り絞って可能な限り伸ばす。

 そしてキャロットの両耳を思い切り掴んだ。

 

 「いい加減にしろ! 俺はもうできないの!」

 「ひゃうんっ!? だめぇ、そこだめぇ……!」

 

 興奮した面持ちのキャロットが一際強く腰を跳ねさせる。

 ずぐっと腹の内側へ突き刺さるような衝撃を感じて、クルスの体から力が抜けた。

 倒れ込んだ彼を強く抱きしめて、キャロットはもう我慢せずに激しく腰を振り始める。

 

 「好きっ♡ クルスぅ、好きぃ♡」

 「うおおっ、だめだって……!? こ、これ以上は、死ぬぅ……!」

 「もっと♡ もっとしよ♡ んんっ、ふっ、あはぁぁ……!」

 

 再び快楽に負け、暴走を始めてしまったキャロットを止める力は今のクルスにない。

 下からであろうが上からであろうが関係ない。

 助けを呼ぼうにも二人きりの小さな船では誰にも声が届かない。

 結局彼はキャロットに押さえつけられ、彼女が満足するまで付き合わされる羽目になりそうだ。

 




 本当はもう何話か描く予定だったんですが。
 気力がなければこのまま終わりということにするかもしれません。


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原神
君の唾液が飲みたい:ジン


 旅を始めてしばらく経つ。

 テイワットは広く様々な土地があり、危険もそれなりにあるとはいえ、色んな人の助けもあって存分に謳歌できていると思う。ここに居ると退屈しない。特に旅を続けたことによって人との出会いが多く、あちこち移動していると毎日が驚くほど早く過ぎ去っていた。

 

 ここでの生活は気に入っている。相棒のパイモンが居るおかげでこんなにも楽しめているのかもしれない。たまに落ち着きがなくて口は悪いし、食欲が人一倍旺盛だけど、可愛げがあってなぜか憎めない。もしも一人ぼっちで放り出されていたとしたら、状況は大きく違ったと思う。

 

 今の俺は西風騎士団の栄誉騎士として、正式な所属ではないが人々の役に立とうと各地を回り、ちょっとした悩みから大きな事件まで、様々な出来事に関わっている。

 あらゆる土地で色々な人と出会っているわけで、噂や情報を耳にするのは珍しくない。

 近頃、気になっているのは俺に栄誉騎士の称号を授けたジンさんのことだ。元々責任感が強くて色々と溜め込んでしまう人だったのだが、そのせいで疲れきっているらしい。

 

 「ジンにはお世話になってるからな。様子を見に行こうぜ!」

 

 ちょうどそうしようと思っているとパイモンが言ってくれた。意見が同じなら迷う必要はない。

 俺たちは、ジンさんに会いに行くことを決めたんだ。

 

 ジンさんは真面目な性格で、ちょっと度を超えているんじゃないかと思うことさえある。

 西風騎士団の代理団長として、モンドを守るためならどんな些細な問題にも対応する。もっと他の人を頼ってもいいのに、とは思うんだけど、責任感が強過ぎるせいか、限界を超えてでも自分の仕事をやり遂げようとする。しかもほとんどの仕事を自分のものだと決めてしまうから、休む暇なんてないんじゃないかって多くの人が心配していた。

 

 少し前から俺がジンさんを気にしているのもそれが理由だ。

 あまりにも休まないジンさんの健康を心配する人は多く、友達のアンバーとは、できるだけ仕事を手伝おうという約束事まで決めた。それが彼女のためになるのではないかと。

 どの道俺には探し物があって、モンドだけでなくあちこちを旅しているんだから、その途上でできることがあるなら何でもする。

 以前もモンドに立ち寄った際、話を聞いて、いくつかの問題を解決してきた。会うのはそれ以来になる。それでも以前と同じような噂を聞いたのは、失礼ながら残念なことだ。

 

 俺とパイモンは執務室でジンさんに会った。

 俺たちを出迎えたジンさんは笑顔を見せてくれる。だけど予想通りというか、以前に会った時よりも少しやつれて見えて、顔色もあまり良くなさそうだ。

 やっぱり噂は本当だった。そうかもしれないと思っていたけど、来て良かった。

 

 「やあ、君たちか。よく来てくれた」

 「ジン! 顔色がよくないぞ。ちゃんと休んでるのか?」

 「他の者にも言われたよ。だが休むわけにはいかない。モンドのために、これだけは終わらせておかないと」

 

 ジンさんはそう言ってすぐに手元の資料へ目を通そうとする。あれでは少し忠告したくらいじゃ仕事をやめないだろうし、いつまでも働こうとするだろう。

 みんなそのことは理解しているんだけど、理解していても止め切れないくらい、仕事に関してはジンさんは頑固だ。全てモンドのためということはわかっている。だけど今のモンドが彼女を失えば大きな損失になり、それを防ぐために休めと言われても、本人はついつい働いてしまうのだ。

 

 長年支えている友人や仲間の助言を聞き入れないのに、手伝いを含めてそれなりの時間を共有しているとはいえ、まだまだ出会ったばかりの俺たちが止められるはずもないと知っている。

 俺にできることは限られている。だからできることで彼女を助けようと決めた。

 

 仕事を手伝うとジンさんに伝えた。まだ大変そうだから何かしらあるだろう。

 顔を上げたジンさんはにこりと笑って、俺を見つめ返した。

 

 「ありがとう。だけど君にばかり任せるのも悪いな。やはりこれは私が――」

 「何言ってるんだよ! それでジンが倒れちゃ意味ないじゃないか! オイラと旅人がなんとかするから、少しは休まなきゃ」

 

 実際のところ、パイモンが何かをするわけじゃなくて働くのは俺なんだけど、まあ細かいことはどうでもいい。

 同意して頷く俺を見て、ジンさんは諦めたように苦笑した。

 

 「すまない。私も成長しないな……これまでにも散々言われていたことなのに、また君たちを心配させてしまった」

 「気にするなって! それを言ったら旅人だって全然成長してないんだから! 強くなったけど相変わらず鳩を捕まえて焼いちゃうし、やたらと水に飛び込みたがるし、ヒルチャールを崖とか海に突き落とそうとするし、ちっとも変わってないんだ」

 

 成長していないなんてパイモンに言われたくはないけど、本題ではないので言わない。食い意地が張ってることの文句については後で本人にだけ伝えておこう。

 

 くすっと笑ったジンさんは、ようやく資料を机に置いた。

 俺たちが来たことで気分転換になったのなら、それだけで来た甲斐はあると思う。でもやっぱり彼女はこのモンドに必要な人だ。万が一倒れるような状況はやめてほしい。

 俺にできることならなんでもします。そう言った。

 それが良かったのか、ジンさんはほっとした顔をしていた。

 

 「それなら、君にしか頼めないことがあるんだ。頼ってもいいだろうか?」

 「もっちろん! オイラと旅人になんでも言ってくれ!」

 

 どうしてパイモンが先に言うんだろうという疑問はあるけれど、まあいいだろう。

 ジンさんの役に立てるなら多少の無茶だってする。彼女には恩があるのだ。

 

 「君の唾液が飲みたい」

 

 何?

 

 「君の唾液が飲みたいんだ」

 

 聞き間違いだろうか。なんだか怖いことを言われている気がする。

 何度頭の中で反芻してみても理解ができない。

 助けを求めるようにパイモンへ目を向けてみると、同じく理解に苦しんでいるようで、難しい顔をして首を捻っていた。

 

 「だえき……? そういう名前の飲み物があるのか?」

 

 違う、違うんだパイモン。そうであったなら俺だって驚かない。旅をしている中できっと知る機会があるだろうし、嘘だと思って詳しく調べようとするだろう。俺たちの旅にそんな経験がないということは、だえきなんていう飲み物は存在しないんだ。

 

 ということはつまり、唾液というのは人間の口の中に存在する体液のことで。それを飲みたいということはつまり……。

 いや、飲みたいとは言うけれど、俺が想像するそれとは違うかもしれない。何かの隠語か、この地方独特の表現とか方言かもしれない。残念ながらモンドを旅していてだえきなんていう特別な単語は聞いていないけど、まだ望みがないわけじゃないんじゃないか。

 

 きちんと確認しなければならない。そうでないと大変なことになる。

 だえきという特別な何かがあるのか否か、ジンさんに確認した。

 

 「いや、私が言っているのは君の唾液だ」

 

 残念ながら俺が想像した通りの答えだったらしい。

 ようやくパイモンも気付いたようだ。元々空中に浮いているのだが、大声を出して飛び上がって驚いていた。それはそうだろうと同意する。

 

 「ええっ!? 唾液ってもしかして、あれのことか!?」

 「そうだ。あれが飲みたいんだ」

 「唾液って、飲めるものなのか?」

 「わからない。だが彼の唾液なら飲んでみたいんだ」

 「それってつまり……ディープキスをするってこと?」

 「キ、キスだなんて、そんなつもりは!? 彼には想い人が居るかもしれないし、立場を利用して強制するつもりはない。私はただ彼の唾液が飲みたいだけだ」

 

 はて。俺の耳がおかしいのか、それとも頭がおかしいのか。もしくはジンさんがおかしくなってしまったという可能性も考えられる。

 ジンさんとパイモンのやり取りを聞いていて、残念ながら俺には理解できなかった。

 

 「大変だぞ旅人! ジンがおかしくなってる!」

 

 ああ、やっぱりそう思うのか。俺もちょうど同じことを考えてたけど自信が持てなかった。パイモンが同意してくれたことで安心する。やっぱり非常食じゃなくて最高の友達だ。

 

 「働き過ぎておかしくなっちゃったんだ! ジン! 今すぐ仕事をやめろ! 休まないともっとおかしくなる!」

 「なぜだ? そんなにおかしなことを言っているだろうか?」

 「自覚がない! きっと重症だぞ!」

 

 俺もそう思うけどあまり滅多なことは言えない。

 思うに、今のジンさんはストレスが限界に達しているのではないだろうか。態度や表情は普段と変わらないのに発言だけが異常に危ない。ストレスを発散する方法だって知らないだろうし、普段の生真面目さが限度を超えるとこうなってしまうのは、ある意味納得できる気がする。

 

 今のジンさんを下手に刺激するのは得策じゃない。変に否定したり追い詰めてしまうと、さらに悪化する恐れがある。だからといって素直に呑み込むわけにはいかないし、どうすれば……。

 そうだ。リサさんだ。リサさんに助けを求めに行こう。エロい雰囲気がある人だけど流石にジンさんがこんな状態だと悪ふざけもできないはず。止めてくれるに違いない。

 

 俺はパイモンに提案する。

 この状況は俺たちだけじゃどうすることもできない。ジンさんをよく知っていて、止められる人が必要だ。今すぐ呼びに行った方がいいように思う。

 

 「そうだな。オイラもそれがいいと思う。まさかジンがこんなことになるなんて……」

 

 パイモンもかなり驚いているみたいだ。

 普段のイメージが同じなら仕方ない。真面目を絵に描いて生真面目を乗っけたような人だ。冗談を言うタイプでもないし、リサさんが聞けば縛りつけてでも休ませようとするだろう。面白がらなければいいんだけど……。

 

 「やはり、だめだろうか……」

 

 俺たちがこそこそ話しているのは見られていて、気付けばジンさんは悲しげな顔をしていた。

 そんな表情は初めて見る。いつも気丈で、強くて優しくて、だけど他人にも自分にも厳しいモンドで最高の騎士は、滅多に弱みを見せない。それが今は、少し俯いて悲しげに目を伏せ、やつれている姿も重なって見ているだけでも胸が痛くなってくる。

 俺はむしろ彼女のために動こうとしているのだけど、なんだか悪いことをしているような気分になってしまって、助けを求めてパイモンを見ると、視線が合って同じ心情なのだと伝わった。

 

 「確かに、私が休みを取らないことで皆を心配させてしまうかもしれない。しかしモンドを守るためには必要なことだ。今はまだ休むわけにはいかない……それに、私としてはほんの数日休みを取るより、君の唾液を飲む方がよっぽど力になる。これからも頑張れそうな気がするんだ」

 「うっ……なぁ旅人? こんなジンは見たことないし、ここまで言ってるんだから、唾液を飲ませて元気になるんなら、なぁ?」

 

 確かにこんな弱々しいジンさんは見たことがない。しかしパイモン、裏切ったな? 今日のことは絶対に忘れないぞ。

 ほら見ろ。パイモンが肩を持ったことでジンさんが期待する目で俺を見ている。断ったりしたらそれこそ悪者だ。きっとさっき以上に落ち込んだ顔をするだろうし、それを見たパイモンが俺を責めてくることは間違いない。俺の気は知らないで。

 

 もちろん、俺だって男だ。ジンさんは魅力的な女性で、そんな顔で見つめられて、仮にこれがもしキスを求められている状況だったなら、言い訳の必要もなく嬉しい。だけど現実はなぜか歪で、キスではなく俺の唾液だけを求められている。それが複雑なところだった。

 

 できることなら他ならぬジンさんのためにお断りしたいところだけど、パイモンは背中をぐいぐい押してくるし、ジンさんはすでに椅子から立ち上がっていた。もはや選択する権利さえない。

 仕方なく、腹を括る。

 今後が怖いとは思いながらも、それがジンさんのためになるのなら。

 

 「で、では、私が舌で受け止めるから、君は唾液を垂らしてくれ」

 

 目の前に来たジンさんは床に膝をついて、俺の両腕を強く握りしめたまま、上を向いて大きな口を開けると舌を伸ばした。そこに唾液を垂らせ、ということらしい。

 一応、パイモンに視線を向けて助けを求めてみるけど、「がんばれよ!」と言って強く肩を叩かれてしまった。そういうことじゃない。

 もはや味方は居なかった。言う通りにするしかない。

 

 口の中で舌を動かして、自分の唾液を溜める。

 躊躇いがないわけじゃない。臭いって思われたらどうしようとか、この状況は果たして正解なんだろうかとか、色々考えることはある。でも今のジンさんを前にして、誰が嫌だと言えるだろう。

 

 シミ一つない白く美しい肌を赤く染めて、瞳は期待を表すかのようにキラキラ輝いていて、大きく開けられた口は恥ずかしげも無く舌を伸ばしている。まるで餌を欲しがる小鳥のようだ。行動とは裏腹な純真さを感じて複雑な気持ちになる。

 凛とした普段と違って可愛らしささえ感じる。だけどどこか残念な感じだ。

 

 ちらっとパイモンを確認する。

 さあ、やれ、と言わんばかりに拳を振っていた。あとで非常食にしてやる。

 

 俺は彼女を見下ろして、顔の位置を決めた後、舌を伸ばして溜めた唾液を垂らした。ジンさんは見るからにうっとりした顔でそれを見ていて、自分の舌で迎えに行く。

 伸ばされた舌に、俺の唾液が触れた。ジンさんは嬉しそうに目を細めて、少しもこぼさずに受け止めると自分の口の中に舌を仕舞う。量はそんなに多くなかったけど、ごくりと喉を鳴らして飲み込んだようだった。

 

 その時のジンさんの表情は、まさに至福。

 やつれていたことを忘れてしまうほど満足げで、心なしか生き生きしていて、動揺する俺とは裏腹に心から喜んでいるみたいだった。

 

 「も、もう少し……」

 「え? まだやるのか?」

 

 パイモンと同じ意見だった。一度でもすごいのに二度目までも。

 ジンさんは興奮した面持ちで俺に縋りついてくる。すごい力で腕を掴まれていて逃げられない。

 

 「もう少しだけだから、だから……!」

 

 そんなに悲しそうな顔をされては、断れない。

 仕方なくもう一度唾液を溜める。ジンさんはその様子を見ただけで喜んでいた。

 溜める間にパイモンに目を向けると、ジンさんのためだからっていう使命感があるんだろう、うんうんと強く頷いている。あとであいつにも飲ませてやろう。

 

 もう一度、さっきのように舌から舌へ、唾液を垂らして、一瞬とはいえ繋がった気になる。

 ひょっとしたらこれは、キスよりもいやらしいことをしているんではないだろうか。

 深く考えてはいけない。俺は今、唾液を垂らすだけの装置だ。

 

 「んっ、ふぁ、はっ――」

 

 少しもこぼさず口に入れたジンさんは、舌を動かして口の中で味わっているみたいで、ぐちゅぐちゅと音が聞こえてくる。

 まさか、こんな姿を見ることになるとは思わなかった。

 あのクールで厳しくて真面目なジンさんが、俺の唾液で遊んでいるのだ。しかもやっぱり最後には全部飲み込んで満足そうに頬を緩めている。

 

 俺だって、人の顔色を見たり場の空気を読むことはできるつもりだ。たまにパイモンと一緒にふざけることはあるけれど、基本的にはわかってるつもりでいる。

 今のジンさんを見る限り、幸せそうだけど満足はしていなかった。

 まさかと思っているとやっぱり言われる。

 

 「もっと……もっと欲しいんだ」

 

 案の定、さらに催促されてしまった。

 もう少しからもっとに格上げされたのは驚いたけど、表情を見ていればそれくらいわかる。

 

 予想通りではあったが、俺はパイモンを見た。深く考えもせず「行け! やってやれ!」とわずかに頬を赤らめて拳を振る姿に少しだけ殺意が沸いた。そうだ。あとであいつに窒息するくらいのふっかいキスをしてやろう。俺のファーストキスをくれてやるのだ、きっと大喜びするだろう。

 

 結局俺は、合計にして十回以上、ある時点から数えなくなったし何も考えなくなったが繰り返しジンさんに唾液を与えた。

 ジンさんは一回も逃さずそれを舌で受け止め、たまに受け止めた俺の唾液を指で掬ったり、その指先をじっと見つめてみたり、自分の唇に塗ってみたり、伸ばした舌を俺に見せつけて物欲しそうな顔をしたりと、すごく楽しそうな様子を見せていた。

 これでジンさんのストレスを解消されるなら、こんなに嬉しいことはない。

 気付けば俺は素直にそう思うようになっていた。

 

 「た、旅人? 目が虚ろだぞ……意識はあるのか?」

 

 パイモン、お前にはあとで罰を与える。

 

 「だ、大丈夫! おかげでジンは元気になったぞ! ほら見ろ、顔色が良くなったし、雰囲気が丸くなった! 旅人のおかげだ!」

 

 確かに、諸々の事情が終わった後のジンさんは別人のように健康的だった。

 見る人が顔を歪めて心配してしまうほどの不健康さは無くなり、血行の良さそうな顔に柔和な笑みを浮かべて、まとまった休暇を取った後のようにすっきりした顔をしている。

 嬉しいんだけど、少し複雑だ。

 

 「ふぅ……ありがとう。まるで生き返ったようだ。君のおかげだ」

 

 俺の唾液のおかげでね。

 

 「これでまた頑張れそうだ。君との時間が十分な休息になった」

 「よかったな、ジン! また辛くなったら呼んでくれよな!」

 

 パイモン、余計なことを……。

 いや、別に嫌なわけではないんだけど……でもやっぱりさっきのは倫理的にちょっと。

 

 「本当か? またここへ来てくれるか?」

 「もちろんだ! オイラたちはジンの味方だからな! ジンのためならなんでもするぞ!」

 「ありがとう。心より感謝する。共にモンドを守るため、力を貸してくれると嬉しい」

 

 ……。

 まあ、初めからジンさんのために協力するのは決めてたからいいんだけど。

 

 それからいくつか話をして、手伝いのために町の人たちの悩みごとをいくつか聞き、ジンさんに頭を撫でられた後、俺たちはジンさんの部屋を出た。

 多分、またすぐここに来ることになりそうだ。そうしてくれと頼まれたから。

 それじゃあ、うん、そうしよう。それがジンさんのためになるなら。

 

 「よかったな旅人! ジンが元気になって! お手柄だぞ!」

 

 ああ、そうだね。何か大切な物を失った気もするけど。

 

 「そんな顔するなよ! ジンの役に立てたんだからな! ちょっとおかしくなってたけど……またジンが元気になれるように頑張ろうな!」

 

 ああ、そうだな。覚悟を決めたよ。ジンさんのためになるなら俺はどんなことでもする。

 その前に一つ決着をつけておかなければならない。

 

 「へ? 何かあったっけ? あれ、旅人、なんでオイラの頭を掴んで――んむぅ!?」

 

 そうだ、俺は覚悟を決めた。ジンさんのためになんでもする。

 そのために、相棒であるパイモンにも協力してもらおう。

 

 「んんんむっ!? んむっ、ふぅ、ふわあぁ……!」

 

 とりあえず俺の精神を守るため、ストレス的なものを発散するため、あと復讐のため、普段うるさい口を無理やり塞いでやった。

 ジンさんが喜んでいたことをそのまましてやると、パイモンはあまり喜ばなかったけどくったりして動かなくなった。持ち運べばいいだけなのでまあいいだろう。

 



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君の唾液が飲みたい:2

 俺たちはしばらく、モンドに留まることになった。

 元々あちこち移動していたとはいえ、友達も居ることだし、それほど大きな変化はない。それでも町を出て仕事をすることはあって、主にヒルチャールという魔物を退治したり、離れた場所に届け物をしたりしながら過ごしている。

 

 そう決めたのはジンさんの要求があったからだ。

 あれの後、ジンさんはそれまでと比べるまでも無いほど元気になり、活力に溢れ、日頃から接している人々から驚愕されるほどの変化があった。

 その原因が俺たち(というより俺なんだけど)と知られると、「一体どんな手を使ったんだ」と色々な人から聞かれる始末。だけどあの時の状況を言えるはずもなく、「久々に会えて嬉しかったんじゃないですか?」なんて適当な言い訳を繰り返す日々だった。

 

 仕事でよっぽど遠くまで行かない限り、俺たちは毎日ジンさんのところへ行く。ジンさんから直接仕事を任されているから、周りの人たちに違和感を持たれてはいないらしい。栄誉騎士という特別な立場も良い方向に働いていたみたいで、誰にも気付かれることはなかった。

 

 仕事でよっぽど遠くへ行かない限り、俺は毎日のように、ジンさんへ唾液を飲ませた。

 ジンさんはそれだけで元気と活力を取り戻し、仕事の効率が良くなっているようだから自分でも驚いてしまう。

 もしや俺の体で作られている何か不思議な成分が、ジンさんを元気にしているのでは?

 そう考えることもあったけど、半ばやけくそで、捌け口みたいにパイモンにキスをしてみても別に元気にはならないし、むしろぐったりしてしまうので違ったらしい。少し残念。

 

 自分が何をしているのか、一応、わかっているつもりだ。

 でも考えていたってどうしようもないことはあるんだし、これがジンさんのためになるならむしろ良いことをしているはずだ。そう思って深く考えないようにしていた。

 俺は今、ジンさんのためになることを、ひいてはモンドのためになることをしているんだ。なんてえらい人なんだろう。

 

 「旅人、それは現実逃避って言うんじゃ……」

 

 パイモンの黙らせ方は心得ていた。

 いつものようにしてやると体をよじらせて、くねらせて、最初は抵抗していたけど徐々に動かなくなっていって、最後にはびくびくするだけになる。

 そうなると自分で飛ぶことすらできなくなるけど、軽いから胸に抱いて運んでやればいい。今日もそうして黙らせてやった。

 

 気付けばここ数日、俺たちの生活は安定していて、同じようなことを繰り返している。夜には宿に泊まり、朝になるとジンさんのところへ向かう。およそ旅人らしくない生活をしていた。

 任務を受け取って外へ出て、その日の内に終わるならまたジンさんのところへ行く。

 朝と夕方、場合によっては昼間も挟んで、二回か三回は唾液を飲ませる。少なくとも一回は必ずだろうか。あまり遠くへ行く仕事は任されなくなったし、早く帰ってくるようにと言いつけられるから素直に従っていた。

 

 こんな生活がいつまで続くんだろう。

 そう思っていたからか、変化は突然やってきた。

 それは朝、いつものようにジンさんの執務室に行った時だ。

 

 「指を舐めさせてほしい」

 

 何ですか?

 

 「君の指を舐めさせてほしいんだ」

 

 驚くべきことに俺はあまり驚いてはいなかった。唐突なジンさんの発言に、なるほど、と素直に納得しようとしていたのだ。

 しかし考えてもみてほしい。跪いて待ち構えるジンさんの舌へ、俺の舌から唾液を垂らして飲ませるという行為に慣れた今、俺の指を舐めさせてほしいという発言は、果たして驚くほどの衝撃を持っているだろうか?

 いや、冷静になった。やっぱりすごいことを言ってる。どうしたんだジンさん。

 

 「その、前々から気になってはいたんだが、唾液を飲ませてもらっている関係上、あまり求め過ぎるのもどうかと思い、言えなかったんだ……」

 

 そうですか。衝撃度では負けますけどね。

 そこが真面目なジンさんらしいと言うべきか、唾液を飲ませてもらっているのにこの上指まで舐めさせてもらうのは傲慢だ、とでも考えていたのかもしれない。安心してほしい。もうそんな段階は越えてしまっている。すでに俺は大したことじゃないと驚かなくなっていた。

 

 「なんだ、指くらい。旅人、舐めさせてあげろよ。唾液を飲ませるのに比べたらちっともいやらしいことじゃないぞ」

 

 この能天気な妖精はなぜ深く考えずにそんなことが言えるのだろう。新しい復讐の方法を考えなければいけないかもしれない。口に指を突っ込んでやる。

 

 「やっぱり、だめか? 最近、君に頼り過ぎていることは自覚している。今までにこれほど良くしてもらっていながらそれ以上を望むのはいけないことだとわかっている。しかし私にはモンドを守る責任がある。そのためには、君の協力が必要なんだ」

 「わかってるぞ、ジン! 旅人の指を舐めれば元気になって、モンドを守れるんだよな?」

 「ああ、その通りだ」

 「旅人、舐めさせてやれよ。それだけでジンが元気になるんだ。ジンが元気になれば、モンドのみんなは安心するんだ。良いことばっかりだぞ」

 

 ああ、俺の指がめちゃくちゃにされる以外はね。

 何の話をしているんだろう。長く旅をしているけどこんな会話は聞いたことがない。

 ほんの少し、ヒルチャールより怖いと思ってしまった。

 

 あと、ジンさんは真面目だけど、最近ちょっと、モンドのためと言えば俺が従うとわかっているんじゃないかと疑ってしまう。もちろん生真面目な彼女がそんな打算的な考えで話すはずがなく、俺の邪推か、彼女の天然さがそう思わせてしまったのかもしれない。もしくは俺の思考が破壊されつつあるのか。なんだかもうよくわからない。

 

 「その……」

 「旅人……」

 

 ジンさんはともかく、パイモンまで不安そうに見つめてくる。

 そんな目で見つめられて断れるほど俺は強くない。

 仕方なく承諾する。ジンさんとパイモンがわっと声を上げて喜んだ。なんだか俺だけ仲間外れな気がして複雑だ。

 

 じゃあ、早速。

 そう言っていそいそとジンさんが近付いてくる。パイモンもなぜか興奮した面持ちでその光景を見ようと俺の肩口から前のめりに顔を出してきた。

 

 「モンドとジンのためだぞ。頑張れ旅人」

 

 何を頑張ればいいんだろう。深く考えないことにする。

 ジンさんはすでに俺が差し出した右手に触れていて、大事そうに握ると、興奮した顔を恐る恐る近付けてくる。そして少しだけ口を開けた。

 人差し指の先っぽに唇を当てて、まるでキスをするみたいにぐっと押しつけてくる。柔らかい感触で思わずドキドキした。考えてみればこれほどの美人が顔を赤くして俺を見つめているのだ。他人が知れば羨むことは間違いない。ましてや、指先にキスをされては尚更。

 

 ちゅっ、ちゅっと何度か繰り返し音を立てる。熱中している様子のジンさんは基本的に俺の手を凝視しているんだけど、時々俺の顔を見つめてくる。手を大切そうに両手で握られていて、まるで大切な物を奪われまいとする子供みたいだった。

 

 正直に言うと、これは素直に嬉しい。唾液を飲ませるのは変態的というか、常軌を逸してる感があって戸惑いを隠せなかった。でもこれは、なんというか、変態的ではあるんだけどいつも凛としているジンさんが少女のように見えて、俺を見つめてくる顔が可愛らしいと思った。

 自他共に厳しいことは有名で、怖いと言う人だって居る。なのに今は全く違う。この姿を俺しか知らないのだとしたら、こんなにも嬉しいことはない。

 

 ジンさんが俺の指先を口に入れて、舌の上に乗せた。ちろちろと動かして、唇をすぼめて弱く吸いついてくる。遊ぶようで、確かめるようで、俺の反応を窺っていた。

 どんな顔をしていればいいかはわからないけど、案外気分は悪くない。唾液を飲ませてる時に比べてずっと安心しているのは自分でもわかった。

 

 「んっ、ふむぅ、んちゅ……あむっ、ふはぁ」

 「お、おぉぉ……これは、思ってたよりもエロいぞ」

 

 パイモンに同意する。しかし、エロい。

 ただ指を舐められているだけなのだけれど、なんというか、見ているこっちがむずむずするほどのいやらしさを感じていた。子供がするような仕草とはまるで違う。

 

 ねっとりと執拗に、丹念に舌が絡められていて、唾液が塗りたくられる。不思議とそれを嫌なものだとは思えない。温かくて柔らかくて、まるで生き物みたいだ。時折口の中に吸い込まれるみたいに奥まで入れられて、じゅるじゅると強く吸われる。

 人差し指だけでなく、中指、薬指、小指まで順に行くと親指に移動する。優しくべろべろと舐められて濡らされた後、掌にまで舌が這っていった。

 

 これが本当にあのジンさんなのか。顔を見ていても疑問に思う。

 ジンさんは幸せそうな表情で、俺が見ていることに気付かないほど熱中している。

 掌だけじゃなく手の全体を舐めようとしていて、抵抗せずにいると、手の甲まで右手全体に満遍なく舌で唾液を塗られた。

 

 「はぁ、ふぅ……こっちも」

 

 流石に手首までは来なかったけど、右手が終わるとすぐに左手が取られた。俺が許可を出すよりも早く手の甲にキスをして、また指先を口に含んでちゅーちゅー吸い始める。

 指の一本ずつ、掌も甲も満遍なく、触れていない場所がないほど細やかな仕事だった。こんな状況だけど、ミスがないことにジンさんらしさを感じる。

 ねっとりと温かく、優しくて、当然のように魅入られる時間だ。

 

 ちゅっと指先から唇を離した時、ジンさんは潤んだ目で俺を見ていた。

 今やすっかり見慣れた、頬を赤らめて物欲しそうな、まだ足りないと言うかのような表情。俺は俺で褒められた状態ではないわけで、こういう時、どうしていればいいかわからない。

 

 「う、うー……なんか、すごいぞ?」

 

 パイモンも俺たちみたいにもじもじしていた。

 この空間は何だろう。

 する人、される人、見てるだけの妖精と、違いはあるけどみんな揃って興奮していて、その興奮をどうしたらいいんだろうと困ってる。

 こういう時、やっぱりというか、動き出すのはジンさんで。きっかけになってるのがいつも彼女なんだから当たり前なんだけど、今日もそれは変わらなかった。

 

 「だ、唾液を、飲ませてくれないか?」

 

 やっぱりそうきた。流石に何度も経験していると俺は驚いていなかった。

 少し考える。そりゃ、俺にだって性欲はあるわけで、このもどかしさとか、溜まりに溜まって発散したくて堪らない何かをどうにかしたい気持ちはある。でも、今までジンさんと一緒に居て、他の人が知らないだろう姿を見てきて、色々と考えることもあるわけで。

 

 根拠とか推測とか何もない、ほんの思いつきでしかないが、試しに俺は断ってみた。ジンさんがしたいと、してほしいと言っているそれを敢えて取り上げてみた。

 ジンさんのついでにパイモンまで驚いて、しばらく沈黙することになった。

 

 誰も何も言わない中、異様な空気が流れていて、パイモンはどうすればいいかわからずにただおろおろしているだけだったのだが、ジンさんは少し様子が違った。

 多分、俺が怒っているとか、嫌がっているとか、そんなことは思っていないんじゃないか。そんな予想をしている。ジンさんは俺の顔をじっと見つめていて、寂しげで、落ち着きがなくそわそわしていて、ちっとも我慢できていないんだけど黙っている。唇をきゅっと結んで、しばらく黙っているとどんどん目が潤んできたけど、それでも待っている。

 

 おそらく、俺がいいと言うのを待ってるんじゃないだろうか。

 それが良いことなのか悪いことなのかわからないけど、多分俺が良いと言うまで待っていそうな意思の強さを感じるし、だからといって強行するわけでもないのがジンさんらしさなのだと、彼女の知らなかった一面を見てきたことで今はそう思う。

 彼女のことをわかってきた気がする。だけどやっぱり折れるのは俺だ。

 

 いつまで見つめ合っていても耐えそうな根気を感じるので、いいですよ、と一言告げる。

 途端にジンさんはパッと笑顔になって、まるで好物を前にして我慢していた犬が、食べていいと言われた途端に尻尾を振るみたいに、いそいそと俺の前で跪いた。

 いけないことをしている自覚しかないが、乗りかかった船だ。俺も一応付き合う。

 

 大きく口を開けて、舌を伸ばして待つジンさんを見下ろして、伸ばした舌の先から溜めた唾液を垂らす。ゆっくりとそれが受け止められて、彼女の口の中に消えていった。

 一般的に見て変態的な行動をしているのだろうと思いながらも、それでジンさんが喜んでいるのは間違いない。俺が与えた唾液を飲んだ彼女はすぐに次を欲しがって、恥ずかしがる素振りも見せずにべっと出した舌を見せてきて、俺が自分の口の中に唾液を溜めている間、少しだけ息を乱しながら懇願するように俺を見つめていた。

 本当に、何をやってるんだろうと思いながら、俺はまた次を与える。

 

 「んんっ、ふむっ……ぷはっ」

 「ふわぁー……」

 

 パイモンもすっかり見慣れたはずだが、いまだに感心した様子で見つめている。

 俺たちのことをどう思っているんだろう。いつも一緒に居るけど触れない話題もあるもので、最近は当たり前になりつつあるから敢えてこれについて話すことはない。

 まあ、パイモンを捕まえて無理に口を塞いだりとか、今までに散々そういうこともしてるから今更ではあるんだけど。あれはあれで結構やばいことだ。

 

 「ふぅ、んん、あぁむっ……」

 

 何度か繰り返して、ようやくジンさんが満足した後、目の前で立ち上がった。

 なぜか俺の手を握っていて、にこりと笑いかけられる。

 こんな笑顔も、こうなる以前は見なかった。前よりも柔らかくて、情を感じて、嬉しいんだけど直前の行動を思い出すと多少罪悪感なんかもある。

 

 「ありがとう。君のおかげでまた頑張れる」

 「やったな旅人! またジンの役に立ったぞ!」

 

 褒められているのか、喜んでいいのか。

 嘆息した俺は思考を放棄することにした。

 あまり考え過ぎない方がいい。特にこういう非日常的な出来事は。近頃日常と化しつつあることには不安を覚えるとはいえ、考え過ぎると碌な思考にはならない。

 

 とにかく俺は、ジンさんを助けていることには間違いないのだ。

 仕事の効率が上がっていることは本人にも周りの人からも言われることだし、すごい変態的な行動を除けば、今まで通りジンさんの仕事を手伝っているだけ。

 

 なんだ、悩む必要なんてないじゃないか。

 俺の右手の人差指を口に含むジンさんを見ながら、はははと笑った。

 

 「ジン、なんだか赤ちゃんみたいだな」

 「そ、そうか? こうしていると、なぜか落ち着くんだ……」

 「ふーん。オイラもやってみると落ち着くのかなぁ?」

 

 安心しろ、あとでやってやる。オエッてなるかもしれないけどそれも経験だ。

 

 「なぁジン、他にやってほしいことはあるか?」

 

 やめなさいパイモン。また何かよからぬ要求をされるんだから。

 それを証明するわけじゃないけど、ジンさんが俺の手を飲み込もうとするかのように口に入れて甘噛みしている。ちょっと怖い。

 

 「むぐっ……そうだな。他にしてほしいことは……」

 

 俺の手を口から出したのはいいけど、掌に舌を這わせながら顔をじっくり見つめられる。

 ジンさんは恥じらうように笑って、何かを思いついた様子だった。

 

 「できれば、その……わ、私を、ビンタしてほしいんだ。思いっきり……」

 「ほ、本気なのか? 旅人! やっぱりジンはおかしくなってるぞ!」

 

 うん、わかってる。というより今までもずっと思ってた。

 どうやらジンさんは本気のようで、両手で捕まえた俺の手を愛おしそうに撫でていて、そのまま自分の頬に運ぶ。そこを叩けと言いたいらしい。

 流石にそれは気が引けるんだけど、期待する目で見つめられるのが心苦しい。

 俺はパイモンと目を合わせる。流石にこればっかりは応援されなかった。

 



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君の唾液が飲みたい:3

 毒されているな、とは思ったけど、結局その選択をしたのは俺だった。

 もちろん責任は俺にある。決めたのは俺で、実行してるのは俺だけど、一方では俺たち二人の決断だという認識がある。別に俺が強制したわけじゃない。たまに俺の意にそぐわない行動や発言はあるけど、やっぱりパイモンは優しいから、相棒としてそう決断してくれたのだ。

 

 ジンさんの要求はエスカレートしている。少なくとも俺たちはそう思っていた。その全ての過程と行動と表情を見ている俺たちとしては、開いた口が塞がらない想いで、順調におかしくなっているなとも思っていて、以前の姿を忘れるほどジンさんの奇行を目の当たりにしていた。

 

 だけど、それがジンさんのためになるのなら。そう思って一度も断ったことはない。

 たまに黙ってみたり、考えるふりをしてみたり、軽めに断ってみたりして、結果的に焦らすことはあるけれど、最終的には言うことを聞いている。というか、そうせざるを得ないようなセリフを吐いたり、捨てられた子犬のような顔をするからずるい。

 ほとんど脅迫だと思いながら、今のところ従っている。

 あれは仕方ない。俺とパイモンの意見は一致していた。別にへたれてるわけじゃない。

 

 ジンさんの要求に従って俺がしたことは、大体が普通の人にすると怒られるようなことばかりだと思われる。無許可でやれば嫌われるのは間違いなく、許可を得るのは至難の業。そもそも今までやろうと思ったことがないことをやってくれと要求される。

 思い切りビンタをしてくれは序の口。

 顔を踏んでくれと言って地面に仰向けで寝たこともあるし、お尻を叩いてくれと言って四つん這いになったこともある。

 頭を撫でてほしいっていうのは素直に受け入れられて即実行できたんだけど、その直後に排尿しているところを見てほしいと言われた時は、流石に目の前が真っ暗になった。

 まあ、そのどれもを受け入れて実行したんだけど。

 

 「ジンはよっぽど疲れてたんだな……」

 

 唾液を飲む、の頃には興奮した様子で俺の背を押していたパイモンだったけど、深淵に向かうにつれて表情が硬くなっていき、今では憐れむようにジンさんを見ている。

 俺にはもうわからない。あれが仕事を詰め込み過ぎて疲労が溜まり、おかしくなってしまった結果なのか。それとも元々ああいった欲求を抱えていたのか。

 どちらにせよ、念願を叶えたジンさんが生き生きしているのは間違いなかった。

 

 この狂ったおねだりはいつまで続いて、どういう終わりを迎えるのか。気になる一方でおそらくいつまでも続くのではないかと予想してもいる。

 せめてどこかで一段落しないものか。しばらくモンドで旅をしているから、そろそろ別の土地を見に行きたいという欲求もありながら、今はまだジンさんのためにここに居る。

 

 俺が協力したことで、ジンさんの仕事は捗っている様子だった。

 周りの人も感心するほど仕事が速いし、顔色は良くなったし、何より機嫌が良さそうで騎士団の人たちも驚いている。その理由に気付かれてないといいけど。

 

 この状況はしばらく続くのか。

 そう思っていた時、いつものようにジンさんの執務室に行って、新しいことを言われた。

 

 「入浴をしてほしいんだ」

 

 ん? え? 誰と?

 

 「私と、君が、一緒に。お風呂に入ってほしい」

 

 ついに直接的な感じになってきた。

 正直に言うと今までで一番嬉しいかもしれない。なんというか、期待してしまうのも無理はないと思う。ある程度常識的な上に、その、お互い裸になるわけだから。

 

 俺は乗り気だった。あまり深く考えずにわかりましたと言った。

 むしろパイモンの方が驚いていたみたいだ。顔を覗き込まれて心配される。

 

 「ど、どうしたんだ旅人!? 今まであんなに嫌がったり引いてたのに……さては、ジンの裸に釣られたな! エロいことに興味があるんだろう!」

 

 人聞きの悪いことを言わないでほしい。これはジンさんのためだ。引いてはモンドのためだ。

 俺がパイモンに言っていると、ジンさんは嬉しそうに微笑んでいて、ふふふと口から声が漏れるほど幸せそうにしている。俺の照れ隠しにも気付かず満足そうだ。

 

 「ありがとう。君がそう言ってくれるおかげで、私はモンドのために働けるんだ。君が居なければどうなっていたことか……」

 

 俺が居なければ、ジンさんは今も正常な人間性を保っていたかもしれない。少なくともトイレという閉鎖的な空間で、男の前でズボンとパンツを下ろし、おしっこをするところをまじまじと見つめられながら嬉しそうに悶えることもなかったはずだ。

 ただ、それがあったからこうして仕事が捗り、やつれている姿からここまで復活したとも言えるわけで、複雑なところである。他人には絶対に説明も自慢もできないけど、俺が居たおかげでジンさんが健康を取り戻したことは間違いないと思う。

 嬉しいのか悲しいのか微妙ではあるのだが。

 

 しかし今回ばかりは違う。断るつもりはないし、パイモンにも文句を言わせない。

 俺はジンさんと裸の付き合いをする。

 今まで色々なことがあったのだ。これくらいの役得があっていいはずだ。不思議といつものような躊躇いは全くなくて、絶対にやるのだと強い決意に漲っていた。

 

 「な、なんて晴れ晴れとした表情……! エロの力はこんなにも強いのかっ……!」

 

 なんとでも言えばいい。俺はきっと今日この日のために様々な要求に応えてきた。この日のためにモンド中を旅しながら変態的要求をこなしてきたのだ。

 俺が快く受け入れたことで、ジンさんはわくわくしている様子だった。

 もはや誰にも止めることはできない。一緒に入浴はただ楽しみでしかなかった。

 

 実行に移したのはその日の夜のことだった。

 その日一日、ジンさんは夜を楽しみにして他のことは何もせず、いつものように俺の手や耳や足を舐めたりすることもなく、顔の上に座って窒息させてほしいと頼み込むこともなく、多少そわそわしながらも仕事に集中することに決めたらしい。

 俺もそうだ。早く夜になってほしいと思いながら町でいくつかの仕事を手伝い、夜になるとジンさんの私室へ向かった。

 

 すでにお風呂の準備は済んでいて、ジンさんも待ち切れない様子で顔を赤くしていた。

 俺だって同じで待ち切れず、焦らす余裕も無くて、二人ですぐに風呂場へ向かった。

 

 「ふ、ふふふ。なんだか恥ずかしいものだな……異性に裸を見せるのは初めてだ」

 「恥ずかしいって、今更な気がするけどなぁ。下は見ちゃったし、もっとすごいのも」

 

 パイモンはそう言って、確かにそうなんだけど、今までとは明らかに違うところがある。俺が裸になるのは初めてだ。異性に見られるのも、この目で全身を見るのも多分初めてだと思う。

 とにかく、今日の経験は明らかに新しくて、緊張するのも当然だった。

 同じ気持ちを味わってもらうためにパイモンの服を剥ぎ取って裸にした。真っ先に裸になったけど俺と二人きりで水浴びしたこともあるし、本人はけろりとしている。

 

 本題はその後だった。

 ジンさんが自分の服に手をかけようとするのを見た途端、俺の鼻息があからさまに荒くなっているのは自覚していた。だけど抑えることはできない。目を逸らす気もない。一日中この瞬間を楽しみにしていたんだから。

 

 「あの……君の手で脱がしてくれないか? 君の服は、私が脱がすから……」

 

 ぜひとも。喜んで。

 俺は素直に動いてジンさんの服に手をかけた。焦ってはいけない。優しく、丁寧に。がっついている男なんて嫌われてしまうだろう。

 

 「旅人、いつもと様子が違うぞ」

 

 黙りなさい。男は狼なのよ。そして俺は素直で正直だ。

 

 「もっと乱暴にしてくれないか。なんなら、引きちぎってくれても構わないのだが……」

 

 うっとりした顔でジンさんが予想外のことを言ってきた。そうか、こういう人だった。

 流石に服を破くのも悪い気がするし、言う通りにはできない。だけど期待に応えるべく、なるべく荒々しい手つきで急いで脱がした。その方がジンさんも喜ぶし、実際嬉しそうにしていて、俺も待ち切れなかったのでちょうどいい。

 

 ジンさんの裸体が晒された。

 白くて、美しくて、鍛えられてもいて、力強さとしなやかさが共存した戦士の肉体。俺は片時も目が離せなくなった。

 ジンさんは恥じらう素振りを見せるけれど、少しも自分の体を隠そうとはしない。顔を赤くして俯きがちだけど、いそいそと俺の服を脱がし始める。

 

 俺は俺で恥ずかしさを覚えている。だけどそれ以上に今のジンさんに見惚れていて、見習うように自分の体を隠そうとはしなかった。それが礼儀のようなものだと思っていた。

 当然のように、俺のちんぽは大きくなっているわけで。ジンさんはお腹の方に反り返るそれをまじまじと見つめていて、その視線がむず痒いけど、俺も負けじと彼女の全身を凝視する。

 

 妙な二人だっただろう。どちらにも大した興味を示さないパイモンは、お互いの体をじろじろ見つめ合う俺たちを見て呆れていた。ひょっとしたら飽きていたのかもしれない。突然俺たちの間に入ってきてじとりとした目を向けてくる。

 

 「おまえたち、いつまでそうしてるつもりなんだ? もう服は脱いだんだから、風呂に入りたいなら早く入ればいいじゃないか」

 

 まったく、わかってない。この時間にも大変な意味があるのに。

 だけどパイモンの言うことにも一理あって、いつまでもこうしてるわけにもいかないし、俺がジンさんの手を取って引いた。

 ジンさんは従順についてきて、二人で浴室に入る。

 

 「か、体をっ。先に体を洗おうか」

 

 声を上ずらせてジンさんが準備を始める。

 スポンジを取って石鹸で泡立て、俺の体を洗おうとする。一瞬頭をよぎったけど、断るのは彼女のためにならないと思って口を噤んだ。今までの経験からどうすれば喜ぶのかは大体わかっているつもりだ。でもジンさんの次の行動までは読めなかったのが現実だ。

 

 ジンさんはまず自分の体を洗って泡を擦りつけ、その後で俺に抱き付いてくる。言わば自分の体をスポンジ代わりにして俺の体を洗おうとしていたのだ。

 正面から抱きつかれて、大きな胸がふにゅっと潰れる感触。柔らかくてすべすべした肌。息遣いが近くて、石鹸とは違う甘い匂いがする。

 抱き付いたままでジンさんが体を上下に動かす。彼女の肌が俺の体に擦りつけられて、そこには硬くなっている俺のちんぽもあって、あまりの気持ちよさにおふぅっと情けない声が出た。

 

 なんていやらしい行為。

 今までと違うのは、俺も気持ちがいいということ。

 今までは基本的にジンさんのために俺が動いていた。ジンさんが自分のために動いたことは少なからずあったけど、俺が気持ち良くなったことはあまりない。

 今日は違う。声が出るほど気持ちいい。

 

 ずりっ、ずりっとジンさんが大きく動いて俺の体を擦る。俺は彼女の肌の感触や胸の柔らかさに驚いていて、喜んでいて、もっとしてほしいと強く願う。

 ひょっとしたらジンさんもそう思っていたのかもしれない。何度も何度も、俺の全身を泡だらけにするまで擦りつけられた。

 

 「こ、こういうのがいいんだろう? これが気持ちいいんだろう?」

 

 気持ちいいです、もう最高ですっ。

 俺は思わず声を大きくしていた。誰かに聞かれるとか、そんな心配はしない。思ったことを素直に伝えなければ失礼だと思ったのだ。

 

 もっとしてほしい、いつまでもこうしていたいとは思ったけど、気付けば俺もジンさんも泡だらけになっていて、やり過ぎというほど洗っていた。

 パイモンはすっかり自分の体を洗い終えてすでに風呂に入っているし、俺たちの行動に飽きて見ることすらしていない。

 一瞬冷静になった俺たちは、泡を洗い流して、浴槽に入ることにした。

 

 たっぷりのお湯の中に体を沈めて、向かい合って座る。

 俺はジンさんから目を離せなくなっていて、ジンさんも僕から目を離さない。

 

 さて、次はどうするのか。

 俺のちんぽが大きくなったままなので、そりゃもちろん、何かを期待はするんだけど。無理やりにというのも違うし、合意は必要だ。今更だという気もするけど手順は大切だろう。

 果たして俺から言っていいものか。ここまでしてもし違ったらどうしよう。ジンさんの求めるものが少しだけぶっ飛んでるだけに二の足を踏んでしまう。それとも、ただ単に俺が臆病なだけなのだろうか?

 

 しばらく無言で見つめ合って、たまにパイモンを構って頭を撫でていると、ついにジンさんが行動を起こした。

 湯の中で足を動かし、俺のちんぽに触れてきたのだ。

 痛くない程度にぐいっと足蹴にされて、思わず体が震える。

 

 「考えてみれば、君には助けてもらってばかりだな……」

 

 視線を落としてぽつりと呟かれた。

 パイモンが俺たちの間でジンさんに顔を向ける。

 その下ではジンさんが足の裏で俺のちんぽをぐりぐりしていて、気を抜くとすぐに出てしまいそうだった。早いわけじゃない。それくらい興奮していただけで。

 

 「だからというわけじゃないんだが、その、君にしか頼めないことがあって……」

 「何言ってるんだよ。今までだって旅人が役に立ってきたじゃないか。オイラたちの関係なんだから今更だろ? 隠さずになんでも言ってくれ」

 

 それは君が言うことじゃなくて俺が言うことだと思うんだが。おふぅ……。

 

 「そ、それなら、もう一つだけ、頼まれてくれるか?」

 「もっちろん! なぁ旅人?」

 

 もちろん断りはしないけど、んん、あぁっ……。

 

 「どうしたんだ? 変な声が出てるぞ?」

 

 気にしなくていい。んはぁ。

 

 「前からずっと考えていたんだ。わ、私を、君の……」

 「うんうん!」

 

 ここは、ここだけは集中して聞かなければ。聞き逃してはいけない。だというのに、動きが激しくなってるから、もう少し弱くしてほしい……!

 

 「性奴隷にしてほしいんだ!」

 「うんう……ん? えーっ!? なんだそりゃ!?」

 

 んんんっ、あぁぁっ……!

 

 「おい旅人! 変な顔してぐったりしてる場合じゃないぞ! ジンがもっとおかしくなった!」

 

 それは、知ってる……前からのことだから。

 それに、正直に言えば、俺だって前からそれを望んでた。

 ただちょっと理想の形が違っただけだ。恋人と性奴隷じゃ、似ても似つかないから。

 

 ともかく、一旦落ち着いて話をしないといけない。

 心なしかすっきりした気もする。

 

 「ん? お湯に何か浮いてないか?」

 

 気のせいだ。深く考えなくていい。

 俺はパイモンを後ろから抱きしめてやって、ジンさんと向き合う。

 こんな状況だし、気持ちがいいし、決着はお風呂の中でつけた方がいい。多少長引いたとしても苦にはならない。

 とりあえずさっきのとんでもない発言について熟慮する必要があるだろう。

 ジンさんに尋ねてみると、ひどく真剣な表情で語られる。

 

 「私はモンドと結婚したようなものだ。代理団長とはいえ、西風騎士団としてモンドを守らなければならない。恋愛や自分の幸せに現をぬかしている場合ではないんだ」

 「そんな……ジンにだって幸せになる権利はあるはずだろ!」

 「いいんだ。これは私が自分で決めたことだから」

 

 すごく真面目な話をしながら足先で金玉をたぷたぷされている。真面目な顔をしていた方がいいんだろうか。

 

 「だから、たまにでいいんだ。私のところへ来て思う存分欲望をぶつけ、めちゃくちゃに汚してくれればそれでいい。私の息の根が止まりそうになるほど苦しめてくれるだけでいい。それ以上は何も望まない……君がどこへ行こうとも、私は君を想っているよ。君にボロ雑巾のように扱われた思い出に浸って自分を慰めよう。私はそれで十分に幸せだ。飽きたら捨ててくれて構わない。もちろん私は君との末長い付き合いを望んでいるが、もしそうならなかったとしても、自分を責めなくていい。至らなかったのはきっと私の方だから」

 「なんか、気遣いがあるようで欲望がダダ洩れのセリフだぞ。ジンにこんな一面があったなんて少し前まで思わなかったな」

 

 ああ、そうだね。現に今も俺の金玉が足でたぷたぷされてるから。

 

 「ふふ、まさか自分でもこんなことを言うなんて。君と出会ったからかな。ありがとう」

 「良い笑顔だな」

 

 ああ、本当に。ただ内容がひどいだけで。

 

 「受け入れてくれるのなら、証というわけじゃないんだが、その……今夜は、私の部屋で」

 

 もちろん、断るはずはなかった。

 ちょっと内容に不安を覚えはするけれど、それは俺も望んでいたもので。

 俺が力強く頷くと、ジンさんはほっとした顔で幸せそうに微笑んだ。

 



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君の唾液が飲みたい:4

 いつの頃からか、いずれこうなるのだろうと予感していた。

 言ってしまえばジンさんの決断が鈍るかもしれないし、パイモンは口を滑らせるかもしれない。誰にも言わずに一人でそう思っていただけだ。

 

 以前のジンさんは、責任感が強くて、どんな些細な事情でさえ自分一人で抱えてしまい、まず間違いなく許容量を超えていたのだと思う。少し前にやつれている顔を見た時もそうだったけど、思い返せば、初めて俺たちと出会った時もどこか余裕がないように見えた。

 凛とした雰囲気を纏って、完璧に見える彼女になぜか違和感を覚えたのは、きっと疲れを見せまいとしていたからなんだろう。

 

 常に気を張っている彼女は、仲間に恵まれていて信頼もしているんだけど、あまり他人を頼ろうとはせずに自分で解決しようとする悪癖がある。

 きっと自分ではどうしようもないことなのだろう。頭ではわかっているのについつい自らが動こうとしてしまう。そう言っているのを聞いたことがあった。

 

 だったらせめて、俺のことは頼ってください。

 好きな時に呼んで、好きに使ってください。

 俺は栄誉騎士だから、良くも悪くも他の騎士とは違います。ずっとあなたの味方ですから。

 

 きっかけはあの言葉だったのかもしれない。

 もちろん冗談なんかじゃない。何の根拠もないけど俺は本気でそう思って、辛そうに感じる瞬間があるのに、俺たちには決してそれを見せようとしない彼女を心配して、何か力になれたなら。そう思ったから気付けば口に出していたのだ。

 

 傲慢に思われるかもしれない。でも、俺はジンさんを助けたかった。

 こんなことになるなんて想像もしなかったけど、結果的に力になれたみたいで良しとする。

 

 俺は、ジンさんの体を両手で支えて、ベッドの上にゆっくりと横たえた。

 風呂場を出た後、俺たちは服を着ずに裸のまま移動して、いよいよ事を始めようとしている。

 ジンさんは借りてきた猫のように大人しい。抵抗はまるでなく、俺のすることに従順に従おうとしている。その姿は、国を守る騎士というより、一人の女の子のようだった。

 

 「その、私は……初めてなんだ」

 

 わかってます。そう伝える。

 あまりにも真面目過ぎる彼女はきっと、誰かに惚れたり、心を奪われたりする暇も惜しんで、己の役目に没頭し続けたのだろう。

 そのストレスが爆発したことで近頃の奇行になっているに違いない。あれをやりたい、これをやりたいと次から次に提案してくる姿から、よっぽど抑圧されていたのだろうと感じている。

 

 それも今日で変わる。

 扉を開けた時、ジンさんがどうなるのか、全く予想できない。

 楽しみでもあるし、怖くもある。いざ、その扉を開きに行く。

 

 「あっ……できれば、乱暴にしてくれ……抵抗するから、私を押さえつけて」

 

 恥じらった顔でそんなことを言われる。

 まあ、うん。今まで通りと言えばそれまでかもしれない。

 頷いた後、俺は彼女の唇を無理やり塞いだ。ジンさんは目を見開いていた。よくよく考えてみれば唾液を飲ませたことは多くてもキスをしたのは初めてかもしれない。両手首を掴んで力で押さえ込み、本気で抵抗されると俺でも逃げられてしまうかもしれないけど、気分が大事なのか、本気を出していない様子のジンさんは俺の下から抜けだせなかった。

 

 実を言えば、俺はキスの経験がほとんどない。戯れとストレス発散のためにパイモンの唇を無理やり奪ったことがあるが、言ってみればそれだけだ。

 どうすればいいかはわからないけど、興奮している今なら考えずとも動ける。

 ジンさんは全て俺に委ねていた。自然と俺が動くのは当たり前だった。

 

 唇を強く押しつけてから、舌を使って口の中に割り込み、唾液を流し込みながら舌を絡める。目尻に涙を溜めるジンさんは苦しそうだったけど、絶対に口を離さなかった。苦しんでいる方が喜んでいるのは経験で知っていたからだ。

 唇を撫でて、舌を絡めて、歯列を確認して、とにかく唾液を注ぎ込んだ。

 抵抗が無くなるまでキスを続ける。しばらくじたばた動いていたけど、やがて諦めたようにジンさんは動かなくなる。ぽーっとした顔で呆けていて、俺が唇でちゅううっと彼女の舌を吸っても反応は無い。押さえる必要がないくらい力が抜けていた。

 

 もう押さえる必要がない。両手が自由になった。

 欲望のままに胸を掴む。遠慮はいらないと言われているのだ。それにこうなってしまった以上、何もしない方がジンさんのためにならない。

 

 以前から気になっていたけど、ジンさんの胸は大きい。本当はずっと触れてみたかった。

 柔らかくてもちもちして、手に吸いつくような感触。力を入れれば入れた分だけ動く。ぷるぷると揺らしてみてもなんだか愛らしい。

 俺は狂ったように胸を揉む。ジンさんは恥ずかしそうにしている。多少乱暴な手つきで衝動のままに力が入っているからか、確実に嬉しそうではあった。

 

 「あぁっ、そんな……んんっ、あっ。は、激しい……!」

 

 そうしろと言われているからなんだけど、細かいことは言いっこなしだ。俺は今、猛烈にジンさんの役に立っている。

 

 それはそれとして、俺の限界はすでに決壊していた。

 どうやら多少の無茶は許してもらえる、いや、求められているので、その通りにしなければならないという使命感に燃えている。ただそれだけだ。

 

 一度やってみたかった。ジンさんの顔を跨いで腰を下ろす。ギンギンに反り返ったちんぽで唇を割り、奥まで押し込む。温かくて柔らかくて、驚くほど気持ちがいい。くぐもった声が聞こえてくるけどそれでいいようだ。本気の抵抗はなくて、ごえっと吐きそうになりながらも俺のちんぽに舌を押しつけてくる。それが嬉しかった。

 俺はジンさんの顔の上で腰を振り始める。本当はおまんこにするみたいに、奥までぐっと押し込んでから引き抜き、また押し込む。思わず頬が緩むくらい、これが俺の至福だった。

 

 「うわぁ……だ、大丈夫なのか? ジンが苦しそうだぞ」

 

 大丈夫だ。ジンさんはこれを望んでいるんだ。苦しいから喜んでる、はず。

 もう自分の意思では腰を止めることができなかった。ジンさんの声を聞きながら必死にちんぽを出し入れする。気持ちよくて今にも出てしまいそうだった。

 

 パイモンが空いてるから捕まえる。俺の口も空いていた。なのでキスをする。さっきジンさんにしたみたいに舌を差し込んで、絡めて、唾液を啜りあげる。

 驚いているみたいだけど前にもやったことがある。じたばた抵抗しているけれど、押さえ込むのは難しくない。こっちは本気の抵抗だけど抱き込んだ。

 きつく抱きしめて深くキスする。パイモンの表情も変わって、だんだん力が抜けてきた。

 

 上はパイモン、下はジンさん。今、とてつもない快楽の坩堝に居る。

 口を塞いだから二人とも文句を言えなくて、今や俺の独壇場だ。

 

 「んんっ、んんむぅ、んろっ、んひゃあぁ……!」

 「おごっ、ぐっ、ぐむっ、んっ……! ごっ、うぅ、ごえっ」

 

 流石に苦しそうかなとは思う。けど、残念ながら勝手に動く体は止められない。

 一度も引き抜かずに腰を動かし続けた俺は、すぐにイッた。

 精子が出る瞬間、口の中から引き抜いて、ジンさんの顔にぶちまけた。そうしたことがあるわけじゃないし指示されたわけじゃないけど、よかれと思っての行動だ。もちろん俺がそうしたいという気持ちがあったからなのだが。

 

 俺の精子でべっとり顔を汚したまま、ジンさんはうっとりした顔で呆けている。細められた目は力のない様子で俺を見ていて、恨むどころか褒められている気がした。

 出したばかりのちんぽを、もう一度ジンさんの口の中に突っ込む。無理に押し込むと彼女はすぐに舌を絡めてきた。予想通り、お掃除フェラをしてくれるらしい。

 心地よい瞬間だ。噂には聞いていたけどここまでとは。

 俺も多分ダメな顔をしていたんだろう。腕の中に居たパイモンが少し呆れていた。

 

 「おまえもジンに影響されてるなぁ……気付いてるのか? 今結構ひどいことしてるぞ」

 

 そんなことはない。ジンさんは喜んでるんだから。

 俺のちんぽをおいしそうに舐めてしゃぶってすすってるんだからひどいはずがない。いっそのことずっとこうしていたいくらい気持ちよかった。それもこれも、俺の行動にジンさんが満足してくれているからだ。

 

 「おまえも変わっちゃったよ……そんな奴じゃなかったのに」

 

 うるさい。エロい美人を前にすると男は誰でもこうなるんだ。

 もうしばらくはしてほしかったけど、いつまでもフェラされていては次に行けないので、俺はまた無理やり引き抜いた。ジンさんはあっと声を洩らして寂しげな顔をした。

 

 その表情がすぐに変わることはわかっている。

 俺が彼女の足の間に入って無理やり広げさせると、ジンさんは驚きながらも頬を緩ませた。

 一度出したくらいで満足するはずがない。ギンギンに硬くなった俺のちんぽは、お掃除フェラのおかげですでに臨戦態勢で、ジンさんのおまんこは触ってもいないのにびちゃびちゃだった。

 当然、これからすることは一つしかない。

 

 パイモンを片腕で抱いたまま、自分の手でちんぽを支えて、おまんこに擦りつける。きっと挿れても大丈夫だろうけどつるっと滑って中々入らない。愛撫をしていないからか? いや、でもこんなに濡れてるならきっと大丈夫なはず……。

 焦らすつもりはないが、何度も擦りつけているとジンさんが大きな声を出した。

 

 「あぁっ……は、はやく、ぶち込んでくれ。慣らさなくていいから、今すぐねじ込んで壊れるくらい激しく突いてくれ! お願いだ……」

 

 俺は、何も考えずに腰を前へ突き出し、ジンさんのおまんこにちんぽをぶっ刺していた。

 強い抵抗を感じるけど一気に奥まで入り込む。息を詰まらせたジンさんだが、全身をビクビク震わせていて、目を見開いて大口を開けた状態ながら、悪い反応ではない。ひょっとしたら痛みを感じていたかもしれないけど、その痛みさえも含めて喜んでいる姿だった。

 

 そんなことを言われて我慢できるはずもない。

 乱暴に腰を振り始める。ちんぽを出し入れして、おまんこからぐちゅぐちゅと音がしていた。ジンさんの腰は痙攣するみたいに勝手に動いているし、声を出す余裕もない反面、おまんこがどんどん濡れてきてぴゅっと少しずつ体液を噴き出し、シーツを濡らしている。

 まさかこんなに反応が良いとは思わなかった。おそらく、残念なことに俺のちんぽがとても良いというわけではないんだろう。気遣いもなく思いっきり欲望をぶつけているから喜んでいるのだ。

 

 「んんっ、んんふぅ……! おおっ、おほっ、おっ……!」

 「うわー……ジン、大丈夫なのか? き、きもちいいのかな……」

 

 気持ちいいんだと思う。きっと。

 本人に確かめようにも会話する余裕もないみたいだし、またあとでになりそうだ。でも答えは聞くまでもないような気がしてならない。だからこそ俺も止まらなかった。

 

 「ああっ、かはっ……そ、こぉ……! 奥っ、いぃ……!」

 

 奥まで突っ込んでガンガン突き上げるのが気に入ったらしい。俺はといえばあれこれ考えてるけど実は余裕なんてなくて、自分が何をしているのかもよくわかっていない。でもジンさんの声を聞いてできるだけ奥を突こうと気をつけた。奥の方まで入れたまま、小刻みに連続してノックする。ビクビクするジンさんはよだれを垂らすくらい感じていた。

 

 なんだかもう、ずっとイッてる感じがして、ひょっとして俺はずっと垂れ流しなんじゃないかと不安になったりする。ジンさんの股から出てくるこれは、彼女が感じているからじゃなくて実は全部俺の体液なんじゃないかとか。多分違うだろうけど、感覚がバカになってる。

 

 とにかくずっと腰を振っていた。それしか知らない動物みたいに、ちんぽを出し入れして、ジンさんが声を弾ませるのをずっと眺めている。

 だんだんパイモンの声も聞こえなくなって余裕が失われるのがわかった。

 お風呂に入っている時、そうなると決まった瞬間からいざ始まるまでの間、あれをしようこれをしようと考えていたのに、そんな希望は全部忘れてしまっている。覚えていてもきっと実行なんてできなかっただろう。

 今はもう、自分の体に全てを委ねるだけだ。

 

 「んんああっ! はぅ、くぅ……! んっ、んんっ、あっ――!」

 「うおおおっ……なんだかすごいぞ。苦しそうなのに、気持ちよさそうだってわかってきた」

 

 気付けば俺は、勢いよくちんぽを抜いていて、その瞬間に精子が飛び出していた。ジンさんの胸とお腹に降りかかって、二人とも息を切らしてぐったりする。

 すごくよかった。気持ちよかった。満足だけど、物足りないくらいに。

 

 ジンさんは自分の肌を撫でて、俺の精子を指で掬いあげる。それを口元に運んで、おいしそうに舌で舐め取った。

 普段とはまるで違う、妖艶な表情と潤んだ瞳で俺を見つめて、明らかに誘うつもりで静かに足を開いていく。ぴったり閉じた若々しいおまんこは、ちんぽを求めてぱくぱくしていた。

 

 「もっとぉ……もっとぶっかけてほしい」

 

 もちろん応じないはずがなかった。

 両足を掴んで、まんぐり返しの状態でちんぽをぶち込む。奥までずっぽり押し込んで、ジンさんの嬉しそうな悲鳴を聞いた。

 

 ぷしゅっと噴き出す愛液を浴びながら、我武者羅になってちんぽで掻き回す。おまんこの中は俺を離すまいときつく締めつけてきて、奥へ奥へ呑み込もうとするかのようだった。

 普段のジンさんとはかけ離れたその姿は、見慣れることがなく、意外に可愛らしい、たまに獣のようになる喘ぎ声に興奮する。

 出したばかりとか、関係ない。硬いままのちんぽがさらに硬くなるような気すらする。

 

 もう言葉は必要なかった。

 ジンさんが必死に喘いでいて、俺は喋る余裕なんてなくて、パイモンは絶句している。ちらっと顔を確認したら真っ赤になって俺たちが繋がっている部分を凝視していた。

 そうだ、俺たちは一つになっている。意識するともっと頭が茹るようだった。

 

 「あんっ、あんっ、あんっ! おぉ、おほぉ、いいぃ……!」

 

 苦しそうな体勢なのにジンさんはちっとも辛そうじゃなかった。逆にそれがいいのか、弾むような声は普段にも増して生き生きしている。

 見つめ合ったまま、腰を上下に振って、覆いかぶさるように何度もちんぽをねじ込む。

 ジンさんの表情に余裕はなく、それでも薄い笑みが浮かんでいた。

 

 「かけ、てぇ……! 全部、私に……もっと汚してぇ……!」

 

 甘える声で呟かれて、我慢できる男など居ようか。

 ちんぽを引き抜いて彼女を見下ろしたまま、卑猥な格好でいるジンさんにぶっかける。降り注ぐ精子はさらに彼女を汚して、んんんっと声を洩らして震えた後、ぐったりした時にはひどく満足そうな顔をしていた。

 

 清々しいほどの征服感。かつてこんなに幸せだった瞬間があっただろうか。いや、ない。

 俺はジンさんを解放して、脱力して動かない彼女を見下ろした。

 俺の精子に濡れて、疲れきって動けない美女。しかも嬉しそうに精子に触れて、少しだけ自分の舌に運んで舐めてしまい、後は塗り込むように肌の上で広げている。

 普段の凛々しさに憧れている人々はこれを見てどう思うのだろう。俺は興奮している。

 

 「まさかジンのこんな姿を見ることになるなんて……騎士団はよっぽど無理させてたんだな」

 

 ちょうど感想を言ってくれる人が傍に居た。有難いのかそうでないのか。

 当然のように俺のちんぽは大きくなっていて、ジンさんもこれ以上無理というほど満足したわけじゃないようだし、まだやめるわけにはいかない。

 

 俺は呆けた顔で精子をちろちろするジンさんの体をひっくり返し、お尻を高く上げさせ、今度は後ろからちんぽを挿入した。ジンさんは声を出すけど拒まない。むしろひっくり返すために肌に触れた時点から喜んでいたくらいだ。

 ここまで汚したのなら、お尻とか背中にもぶっかけないと気が済まない。

 早速実行に移すため腰を動かし始めて、ジンさんは一切抵抗せずにそれを受け入れていて、結局俺は本人の要望もあってジンさんの全身を精子で汚すべく、もう何発か精子を出したのだ。

 



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短編
変えたい関係(リリなの・フェイト)


短編です。あらゆるシリーズに乱暴に手を出そうかという予定です。
タイトル通りにヤンデレがテーマになることもあれば、できればほのぼのしたのも増やせればなぁ……。


 

 大人しい性格の彼女にしては、かなり勇気を振り絞ったが故の行動だったのだろう。正確には、行動というより発言という表現なのだけれど。

 それは何の因果か彼女を引き取ることになって、俺と彼女が二人だけの家族になってから何年か経ったある日。

 やけに頬を赤くしながらもじもじと恥ずかしがる愛する妹さんは、思わず驚いてしまうようなことを俺に言ってきたのである。

 

 「え? えーっと、今、なんて?」

 「だ、だからね。その、兄妹じゃなくて、違う意味で家族になりたいなって……だから、その、つまり――わ、私と、結婚して欲しいの」

 

 さらりと揺れる金色のツインテール。まだ幼さを残している愛らしい顔。結構身長が伸びて、成長が凄まじいあまり中学生らしくないやけに扇情的な外見。

 何度耳を疑って聞き直しても、何度目を疑って彼女の姿を確かめても、やはり目の前にいるのは俺の愛する妹だった。

 彼女、フェイトは何を思ったのか突然そんなことを言い出して、身を縮めるように肩をすくめながらきゅうっと目を閉じている。仕草やそうする姿はいつも通りだけど、さっきの発言が原因でいつものようにそれを愛でることができない。あまりにも驚きが大きすぎるせいだろう。

 言われたことは至極単純だ。俺と、フェイトが、結婚する。別に血が繋がってるわけでもないんだし、法律に引っ掛かるような問題ではないだろう。法律なんてあまり知らないけれど、元は彼女の親になろうとしていた緑髪の美人さんにそう言われた。大人の言うことだから多分ホントだと思う。

 しかし実際にそれを実行することを考えると、法律とかじゃないようなところで問題が山積みなんじゃないだろうか。そう思うからこそ、俺は顔を赤くしながらも不安げにしている妹に何も言えずにいるのである。

 だからと言って無下に断れば、きっとこの妹のことだ、いつ復活できるかわからないほど深いどん底に落ちていくに違いない。不用意な発言は避けなければ。

 そんなことをつらつらと想いつつ、やっぱりかなり混乱してるらしい俺は、まず落ち着いて話そうと口を開く。

 

 「あー、フェイト? こういうこと聞くのはどうかと思うんだけどさ……どうしてそういうこと言いだしたんだ?」

 「う、ど、どうしてって……兄さんのことが好きだから、じゃダメなの?」

 「うっ……そりゃ、普通ならそれでいいけど、でも俺たちは兄妹だし。好きだからって、結婚は――」

 「じゃあ兄妹じゃなくなればいいよ。他人になってから改めて家族になろ? 今度は、ふ、夫婦として」

 「あ、あのなぁ……」

 

 自分の発言に顔を赤くして、さらに身を縮めるフェイト。俺の部屋の床にぺたんと腰を降ろして、クッションをぎゅっと抱きしめてるもんだから、女の子らしさが半端じゃなくて物凄く可愛い。

 などと言ってる場合じゃない。兄妹をやめる、なんて発言が飛び出すあたり、フェイトは本気だ。あれほど俺にべったりしてくる彼女が俺との関係を解消するなどと、普通ならばまず言いだすはずがない発言である。本気で俺との兄妹関係を解消して、改めて俺と結婚する気らしい。

 あの大人しくてやさしいフェイトが、まさかこんな過激なことを言い出すなんて。正直俺は成長を喜べばいいのか悲しめばいいのかわからない。だからと言って黙り続けているわけにもいかないから、できるだけやさしい口調で聞いてみる。とにかく話し続けなければ。

 

 「あのさ、フェイト。俺だって好きだって言ってもらえれば嬉しいし、フェイトのことは大事で、俺だって大好きだよ。でもそれってホントに恋愛としての好きなのか? その、他の男の子とあんまり関わったことないから、そういう風に勘違いしてしまってるとか――」

 「兄さん。いくら兄さんでも、私の気持ちを勘違いだって言うなら、許さない――私は本当に兄さんが好きなんだから。男の人として、恋愛したり、結婚したいって思うほど好き、ううん、兄さんを愛してるから」

 「う、うぅ……そ、そうか」

 

 俺がなんとか説得しようとして発言すると、フェイトはキッと表情を険しくして睨むような目つきになる。さすがは魔法少女、一般人の俺には出せない雰囲気を持ってる。

 すっかりビビった俺は何も言い返せず、彼女が言ったことを恥ずかしいやら怖いやらのまま受け取って黙り込んでしまう。

 するとフェイトは俯きがちに、拗ねたような口調で言い始めた。

 

 「……それに、兄さんが悪いんだよ。私が頑張ってアプローチしてるのに、全然振り向いてくれないから……」

 「あ、当たり前だろっ。さっきも言ったけど、俺たちは兄妹で――」

 「でも血の繋がりはないもん。私、兄さんのことが大好きだけど、好きだから妹が嫌になったの。一人の女の子として見てほしい、私と結婚して欲しいの」

 「うっ、だ、だからな? 結婚って簡単に言うけど、結婚ってのはそんなに簡単なものじゃ――」

 「そんなことわかってるよ。だから何年も悩んで、やっと覚悟を決めて正面から伝えたんじゃない。それに兄さんだって結婚してないんだから、結婚がどういうものかなんてわからないでしょ」

 「あー、いや、だから……ハァ」

 

 なんとか言い繕って意見を変えさせようと試みても、状況は悪化するばかり。フェイトに折れる気持ちは微塵もないようだ。

 これまで一度として俺を困らせることのなかった最愛の妹、初めて困らせられる状況が、まさかこんなのだったとは。一体どこでどうなって、こんな未来に進んだのだろう。

 ハァ、とため息をついたことが気に障ったのか、フェイトがまたむっと表情を拗ねるようなものにして俺を睨んでくる。顔や外見だけなら非常に愛らしい姿だけど、体の節々から魔力とかいう物が溢れてるせいで非常に怖い。下手なことを言ったら雷が飛んできそうである。

 

 「フェイト、おまえは大事な妹だ。管理局で働くのはおまえの意思だから賛成したけど、できれば普通に生きてほしい。おまえには幸せになってほしいんだよ。だから兄と結婚したいなんていうのは――」

 「私が幸せに生きる方法は、兄さんとずっといっしょにいることだよ。でも兄妹じゃダメ、もうただの家族じゃ物足りないの。私は兄さんのお嫁さんになりたい――特別な関係になって兄さんとずっといっしょにいたいの」

 「……」

 

 話す内に、胸に隠していた想いが溢れて来たのか。フェイトは俺に向かって言いながらも徐々に目に涙を溜めていき、もう少しでこぼれるというところまで水滴が来ていた。

 思わずため息をついてしまう。今この状況でいけないとはわかっているが、気付けば自然に出てしまっていた。

 昔からそうだ。フェイトが涙を見せる時は、いつも俺の前で、俺に関わることが多かった。もう何度こういう機会があったかはわからないから忘れたけど、些細な問題も、大きな問題でも、何があったって彼女は俺といっしょにいたいと願っていた。

 こんな顔をしている彼女を突き放すなど、やっぱり俺にはできない。だからシスコンなんだ、とはもう耳にタコができるほど言われてきたけど、やっぱりこれだけは直りそうもないな。

 もう一度ため息をついてから、俺は彼女の目をじっと見つめて口を開く。フェイトはまだ、目に涙を溜めている。

 

 「わかった……じゃあこうしよう。おまえが結婚できる年齢になって、それから、夢だって言ってた執務官になれた時、その時は――俺はフェイトのプロポーズを受け入れるよ」

 「ほ、本当ッ!? わ、私が執務官になったら、兄さんは私と結婚してくれるの!?」

 「お、おう……お、男に、二言はないから、な」

 「兄さん、どうしてそんなに汗掻いてるの? それに急に目を逸らしたけど、嘘ついてるんじゃないよね? 私、兄さんを信じるから」

 「だ、大丈夫だとも」

 「そ、それじゃあ、すぐにでも執務官になって、すぐに兄さんを迎えに来るから。そうしたら、兄さんは私をお嫁さんにしてくれるんだよね?」

 「も、もちろんじゃないか、はっはっは」

 「うふふ、そっか、そうなんだ。えへへ……」

 

 俺は一体なんてことを言ってるんだろう、なんて思いながらのやり取りだったが、ようやくフェイトの機嫌は直ったようだ。さっきまでは沈みがちだった表情も、今ではパッと花が咲くかのように満面の笑みが浮かんでいる。

 代わりに俺の精神がひどく摩耗しているようだけど。ヤバい、どうしよう、この妹だったらホントにすぐ執務官になるかもしれない。そうなったら俺はフェイトの旦那? 俺の嫁はフェイト?

 そんなことを頭の中だけで何度も繰り返し、混乱しかかっている俺のすぐ隣から、愛する妹の可愛らしい声が聞こえた。

 

 「兄さん」

 「ん? なん――」

 

 いつの間にかするりと移動して、ベッドに腰掛ける俺の隣に座って、少し上目遣いで俺を見上げる妹。振り返ってその顔を見た瞬間には、俺の唇に柔らかい物が触れていた。

 そして、俺の視界にドアップで映る、妹として愛している少女の顔。これはひょっとしなくてもひょっとするということなのだろうか。

 全く状況が理解できない俺は何もできず、全く動けず、ただ「これは一体どういう状況なのだろう」とひたすら考え込んでいた。

 すると、ちゅっという音と共にフェイトの顔が離れていく。ようやく焦点の合う距離にまで離れた彼女の顔は、さっきよりもよっぽど赤く染められていた。

 

 「――あ、ん? え? な、なに?」

 「えへへ、や、約束の証だよ。すぐ迎えに来るからって、約束」

 「あ――い、いまのって、まさか――」

 「わ、私だって恥ずかしいんだよ! でも、ニブチンの兄さんはこうでもしないとわからないだろうから――えへへ、兄さんとキス、しちゃった」

 「な、な、なっ」

 

 顔が急速に熱くなる。なぜかはわからないが全身が急激に熱くなっていき、自分でも何を言いたいのかわからないのに口から勝手に声が出ていく。

 さっきの柔らかい感触は、間違いなくウチの妹の、唇。小学生の頃からいっしょに生きてきた彼女が、不意打ちとはいえ俺にキスをしてきたのだ。しかも俺を混乱させた張本人は、今となっては非常に嬉しそうな笑顔で照れて、まだ何も言えずにいる俺に抱きついていやんいやんとツインテールを揺らしている。

 いや、それはまだいい。不意打ちだった、しかも魔法少女とかいう存在で戦いとかがめちゃくちゃうまい女の子の不意打ちだ、俺が避けられないのは当たり前。問題なのはそこじゃない。

 この状況で最も問題なのは、妹にキスをされたというのに――それがちょっと、いやかなり、気持ちよかったと思ってしまっていることだ。

 かつてこれほどまでに自己嫌悪したことがあっただろうか。確かに今までフェイトに抱きつかれていい匂いだなってひそかに思ったり、俺が風呂に入ってるところにフェイトが乱入してきて反応してしまったり、首をくくりたくなるような自己嫌悪なんてたくさんしてきたけども、こればっかりは受け止めきれない。

 ファーストキスの相手が妹でよかった、などと自己嫌悪せずにはいられない想いだろう。

 

 「ふふふ、兄さん、もうちょっと待っててね? 私、すぐにでも絶対執務官になるからね」

 「あ、あぁ……まぁ、気長にでいいよ、気長に……」

 「うふふ、やーだぁー」

 

 俺がげんなりと肩を落としているその背に抱きつく妹さんは、どこまでも楽しそうな態度でそう言っていた。

 そしてこの日を境にして、フェイトの激しすぎるアピールが始まったのである。

 フェイトと結婚、いいかも。日に日にそう思うようになってしまっている俺は、やっぱりもう首をくくった方がいいのかもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 高校を卒業した俺は、実力を買われたと言えばいいのか、それともこれ以上ないほどのコネを利用したと言えばいいのか、管理局で働く道へ進んでいた。

 といってもどこぞの魔法少女とは違って、俺が担当するのは局員が持つ“デバイス”という道具をあれこれ管理すること。例えば壊れたデバイスを修理したり、今より効率よく魔法を使うために改造を施したり、とにかくデバイスに関わる全般が俺の仕事だ。

 あと、俺の場合は趣味が高じたと言うべきか、魔法を使った戦闘技術の考察をすることが好きなことが認められて、教導官との意見交換なんかもある。要するにアドバイザーというか、横から客観的な意見を渡すような役目を任された。教導官が局員に戦闘技術の指導をする際、横から俺があれこれ好き勝手に言って、意見を取り入れてもらいながら局員の指導にあたるのである。といっても所詮は趣味の延長でやってる仕事だから、ホントに役に立ってるのかどうか疑問が残るけど。

 働き始めてすでに数年。今日も俺は白衣を着て、専用に与えられた研究室に入り、調整中だったデバイスと向き合って仕事を始める。これがここ最近の俺の日常だ。

 ただ今日がいつもと違ったのは、俺が仕事を始めようとしたその時、俺の研究室に飛び込んでくる局員がいたということだけ。

 

 「兄さんッ!!」

 

 自動ドアが開ききってないのに室内に入り込もうとして、ガタガタと肩を扉に当てながらやってきたのは最愛の妹。すっかり成長して、今では十六歳となったフェイトだった。

 と言っても俺自身、この時間帯に俺の研究室に入ってくるのは彼女だけだと知っている。基本的に仕事を邪魔をされたくない俺は、ほんの一部の人以外には専用の研究室の扉を開けるパスワードを教えていない。それが理由でこの部屋はいつも静かなのだ。

 だというのに、その静けさを破壊するようにしてやってきたフェイトは慌てふためきながら俺に駆け寄り、そのままの勢いで俺に向かって飛びついてきた。こちとら戦闘技術を習得しようと日夜努力している局員と違って、ただの研究員、いわゆる体も鍛えないもやしっ子である。いくら自分より体格の小さい女の子であっても、本気の助走を加えられたそれを受け止められるはずがない。

 結果、俺は宙を舞うフェイトに押し倒されるようにして地面に背をぶつけ、ドスンッと音を立てて寝転がった。上にはそれでも喜色満面な様子の妹がいる。

 

 「兄さん、兄さんっ! 私、受かったよ! 執務官になるための試験、合格したの! これでもう一人前の執務官なんだから!」

 「痛ッ……あーそうか、そうだったな。おめでとうフェイト、頑張ったな」

 「うん!」

 

 顔をこれでもかと近付けて、嬉しそうな声で俺に語るフェイト。成長しても相変わらず可愛いなぁ、こいつ。

 執務官になることを夢見ていたフェイトは、十六歳になってすぐにその夢を叶えるべくいくつもの難しい試験を受け、合格を目指して頑張っていた。実際に俺はすぐ傍でその努力を見守っていたんだ、彼女がどれほど嬉しいのか痛いほどわかる。実際痛いのは背中なんだけど。

 ともかく、よかった。これでフェイトは長年の目標を達成することができたし、これまでの血がにじむような努力が無駄になることはなかった。晴れて万々歳、見事大団円というわけである。

 少しばかり近すぎる笑顔を見ながら、ふわりと柔らかい金色の髪を撫でてやると、俺の自慢の妹はくすぐったそうに笑って身を捩る。嬉しそうな声で俺に質問してきたのはその後だった。

 

 「ねぇ兄さん、これでやっと約束果たせるね。何年も待たせてごめんね、でももう大丈夫だから」

 「うん? 約束……」

 「それじゃあ、改めて言うよ――兄さん。私と、結婚してください」

 「――あ」

 

 キラキラと目を輝かせて、俺を押し倒したままそう言う妹の言葉で、かつての光景が蘇る。

 今となっては懐かしい俺のファーストキスが、セカンドもサードも次々奪っていったこの少女に奪われたその時、「いつか」と言って交わした約束。

 そうだ、俺は確かに言った。俺の口から、間違いなく。

 「おまえが結婚できる年齢になって、それから、夢だって言ってた執務官になれた時、その時は――俺はフェイトのプロポーズを受け入れるよ」

 忘れていた。いや、というより、ホントにフェイトが執務官になるのはもっと先だと思ってて、その頃までにはきっと他の男の子を好きになっているとばかり思っていた。なのに彼女はしっかりとそれを覚えたまま、執務官になったということか。

 つまり、あの血のにじむような特訓も、俺が手を貸した猛勉強も、俺が頻繁に彼女から唇を奪われていたのも、すべてはそこが原因になっていたんだ。

 執務官になるという夢を叶えたいと思う背景には、俺との結婚を実現させたいという想いがあった。

 それを理解した途端、さっと顔から血の気が失せたことが理解できた。初めはまるでわからなかったが、ようやく現状を呑みこめるようになってきたのだろう。

 今、フェイトは十六歳になり、実績や実力の関係もあって執務官になるための試験を受けさせてもらって、俺を含む色んな人の協力もあって見事一発で合格、夢だった執務官になることができた。

 それはつまり――俺は彼女が今言った言葉を、再び自分へ向けられた本気のプロポーズを、すんなりと受け入れなければならないということになる。

 

 「えへへ、やっと言えた。でも、もちろんもう答えは決まってるんだよね、兄さん? だって兄さんから約束してくれたんだもん、まさか嘘だったとか、忘れちゃったとか、そんなこと言わないよね」

 「う、あ――」

 

 妹と結婚する。他でもない、妹からプロポーズされて。

 もしこんなことが実際に起きれば、ひょっとしたら俺は後ろ指を指されながら生きていくことになるかもしれない。色々と面倒見てくれたとかリンディさんとか、クロノとか、フェイトの親友のなのはやはやて、色んな人が怒るかもしれない。正直その辺は勘弁してほしい。と言ってもリンディさんだけは祝福してくれそうだけど。あの人だけは「フェイトちゃんほどの優良物件、他にはないわよ」なんて豪語してたし。

 しかし、ここで今俺がどれほどそ困惑しても、そもそも約束したのは俺なのだ。一時の状況を乗り越えてすっかり安心しきっていたのも、何の対策も取らなかったのも俺、今さら「あれはなかったことに」なんて言えるわけがない。初めから受け入れる道しか残っていなかった。

 なにより、こんなにも愛しい妹の笑顔を崩そうなどと、重度のシスコンと揶揄される俺ができるわけがない。

 俺はフェイトと結婚する。その覚悟を決める時が、今ようやくやってきたのだ。

 

 「ねぇ兄さん、どうして黙ってるの? まさか、ホントに忘れたって言うんじゃないよね? フフ、フフフ、ウフフフフ、私の兄さんに限って、私との約束を忘れるなんてこと、絶対にありえるわけがないよね? だって兄さんが言ったんだもん。私が十六歳になって、執務官になれたら、結婚してあげるって。兄さんの口から、私に向かって、はっきりそう言ってくれたんだもん。だからそんなに大事な約束、忘れるわけがないよね? 兄さんは絶対に忘れてないよね?」

 

 決して、何も答えない俺に業を煮やした妹が目の色を変えていて、俺が調整したバルディッシュを首筋に突き付けられるのが怖くてそう言うのではない。俺はこの子が好きだ、そう思うからこそ受け入れようと思うのである。だから早くバルディッシュをスタンバイフォームに戻して欲しい。

 ともかく覚悟は決まった。あくまでもバルディッシュを突き付けられたからじゃなく、俺とフェイトとの約束を果たすためだ。

 俺は意を決して、いつの間にやら光沢がなくなっているフェイトの目を見てはっきり告げる。っていうか妹よ、その怖い目を俺に向けないで。

 

 「ふぇ、フェイト――よ、よろしくお願いします」

 「――あっ」

 

 俺がそう言った途端、ぶるり、とフェイトの体が揺れる。そのまま掻き消えるようにしてバルディッシュが元のアクセサリの形に戻り、フェイトは全身から力を抜いたかのようにがくりとこちらへ倒れ込んできた。

 慌てて俺が抱き止めようと手を伸ばすと、それよりも速くフェイトの手が俺の両手を掴んで、床に押しつけ、そのまま俺の唇に柔らかい物が触れる。

 言わずもがな、これまで何度も感じたことのあるそれは、やっぱりフェイトの唇だった。

 

 「んっ――!」

 「ん、ふぅ、兄さぁん――」

 

 押し倒されたまま、腹の上に乗られて唇を奪われる。これはひょっとしなくてもまずい光景なんじゃないだろうか。

 上に乗ってるのは本来と性別が逆だが、無理やりな感じに見える時点で問題だし、しかも俺たちは兄妹。誰かに見られでもしたら、管理局どころかあらゆる世界にいられなくなる。

 と焦ってる最中で、そう言えば俺の研究室に入れる人はほとんどいないな、ってことに気付いた。つまり現在の俺は誰にも助けられることのない環境下での、まさに肉食動物に捕獲された草食動物。

 どうやらあとは食われるばかりらしい。

 

 「んっ、ちゅ、ぷはっ――ねぇ兄さん、もういいよね? 私、いっぱい我慢したから、もう、今日はいいよね?」

 「ちょ、ちょっと待ったフェイトさん。あの、その、ほ、ほら、俺たちまだ恋人としての付き合いはないじゃないか。なのにいきなりこういうことするのはどうかなぁと思うんだけど――」

 「心配いらないよ。もう私たち、夫婦になることを誓い合ったんだから。何も問題ない――」

 

 戸惑う俺の、というより怯える俺の言葉なんてすぐさま蹴り飛ばし、フェイトがまた俺の顔にキスを降らせ始める。唇、瞼、鼻、頬、額、とにかく至る所に何度も何度も柔らかい唇が押しあてられる。

 正直言ってキスは、女の子と付き合ったことがない俺でも経験したことがある。そのすべてが妹相手なのが恥ずかしいところだが、それだけならばまだ冷静に思考することもできただろう。

 ただ残念ながら、今されているような明らかに愛撫だろうと思われるキスは経験がない。顔中に次々唇を押しあてられることも、ゆるやかに動く両手にさわさわと体を弄られることもなかった。

 そのせいで俺はただ顔を熱くしたまま、興奮した面持ちのフェイトを見つめるばかり。彼女はその間にも目を閉じながら俺に熱烈なキスを送り、研究員の証である白衣を脱がせながら俺の体を触っていた。

 

 「んんっ、兄さん、兄さんっ……!」

 「フェイト、ちょっと、落ちついて……」

 「あぁ、もう、ダメっ。無理だよ兄さん、だって私、ずっとこうしたかった――兄さんと一つになりたかったんだから……!」

 「ひ、一つにって、おまえは兄に向かってそんなこと考えてたのかっ」

 「んん、そうだよ、私、ずっと兄さんのこと抱きたくて抱きたくてたまらなかったっ。もうシャツやパンツじゃダメなの、兄さん本人じゃなきゃ、兄さんの体じゃなきゃ満足できないのっ」

 「ふぇ、フェイトさん? ちょっと待って、お願いだから――ああっ」

 

 フェイトの興奮具合は、目で見ても凄まじいと感じられるほどすごかった。

 顔を真っ赤に染めて、長い金髪を振り乱しながら、まだ少女でしかない愛らしい顔から卑猥な言葉を発して、次々に俺の服を脱がしていくのだ。それこそまるで抵抗できないほど素早く、初心なはずの彼女がするすると俺を裸に剥いてしまう。

 一分もしない内に、俺は他ならぬ最愛の妹の手で全裸にされていた。おまけに腹の上に彼女が腰を降ろしているものだから、逃げたくても逃げられない。いや、逃げたところですぐに捕まるのは目に見えてるけど。なにせ本気の逃走劇で俺が彼女に勝ったことは一度もない。

 つまり俺は逃げることも許されず、抵抗することも許されず、裸になった後でじっくりと妹から全身を眺められても、顔を真っ赤にしつつも嬉しそうに笑うフェイトと向き合わなければならないのである。

 向き合う、それは結局のところ、彼女の要望通りに体を重ねることになる。血の繋がらない義理の兄と妹で。

 もっとも彼女の言い分からすれば、すでに俺たちは夫婦なので、体を重ねることがあっても何も問題ないらしいんだけど。

 

 「あぁ、兄さんのおちんちん、ひさしぶりぃ……もう寝てる時に弄る必要ないんだね、これからは夫婦として毎日相手してあげなきゃいけないんだもん――」

 「ちょ、ちょっとフェイトさん、色々言いたいことがあるんだけど。今まで寝てる時に弄ってたのかとか、別に毎日する必要はないんじゃないかとか」

 「ふふ、兄さんはそのままでいいよ。私が全部やってあげるから。じゃあまずは――やっぱり口でやった方がいいよね」

 「いやその前に、色々と話しあいを――うっ」

 

 思わず抗議しようと口を開いたその時、計らずも声が漏れてしまう。だらりと垂れ下がっていたはずの俺の陰茎が、ゆったりと脚の上にまで移動した彼女の手で支えられた後にぱくりと銜えられたからだ。

 なんとなく見るのが怖いと思ってしまうが恐る恐る視線を下げていくと、すでに見慣れているとは言ってもやはり可愛らしい俺の妹が、彼女の愛らしいぷるりとした唇が、俺の陰茎を固くしようと見た目が悪いそれを頬張っている。それもひどく嬉しそうに、まるで美味しい物を食べる時のような姿で。

 その上長い包皮を舌でめくり上げる動作とか、亀頭の割れ目に舌を這わせるだとか、口をすぼめて頭を振るだとか、彼女の動きはやけに慣れているように見えた。こんなことをされた経験がない俺はあまりの気持ちよさに、意思とは無関係に見る見るうちにそこを固くさせてしまった。

 どうしてこんなにうまいんだ。快感で蕩けそうになっている思考でそう考えると、一つの言葉が思い出される。

 試しに俺は、立ち上がった陰茎の根元をぺろぺろと舐める妹に向かって尋ねてみる。「どこでこんなこと覚えたんだ?」と。

 するとフェイトは困ったように笑いながら、右手で竿の部分を激しく扱き、左手で玉をやさしく揉みながら答えてくれた。

 

 「あの、ごめんね兄さん、実はずっと兄さんので練習してたの。ちゃんと兄さんとの初体験の時、うまく気持ちよくしてあげられるようにって。兄さんが部屋で寝てる時、こっそり忍びこんで、口と手で精子びゅっびゅってさせてたんだよ」

 「や、やっぱりそういうことか、全く気付かなかったのに――い、一体何回そんなことを」

 「うんとね、正直何回かはわからない。でもいっぱいしたよ。兄さんが脱いだシャツとパンツでオナニーしてるとね、どうしても兄さんの顔が見たくなって、それで魔法を使ってバレないように練習してたの。だって約束があったから、結婚してないのにそんなことすると兄さんに怒られると思って」

 「くぅ、不覚だ……まさか知らない内にここまで我が妹が変態になってるとは……うっ」

 「へ、変態じゃないよ――あっ。えへへ、またビクッてした。兄さんのおちんちん、いつも元気だね。んしょ、こうやって先っぽをぺろぺろしながら擦ってあげるとね、おちんちん嬉しそうにビクビクってするんだ。あ、ほらまた。えへへ、やっぱり兄さんはすごく可愛い」

 「あっ、くぅ――うぅ、妹にやられて感じる俺って……お願いだから首をつらせてください……」

 

 両手と口とで陰茎を刺激し、フェイトが嬉しそうに笑う。確かにその顔は可愛いが、状況が状況だけにうまく喜べない。

 妹にいいようにされて、抵抗もできずにただ抱かれる兄がこの世界のどこにいるだろう。否、きっといないに違いない。唯一俺だけを除いて。

 なんとなく悲しくなった俺が自分の両手で顔を覆っていると、勃起した陰茎に与えられる刺激に変化があった。おかげでびくりと反応してしまう。何やらあったかくて柔らかい物に包まれて、尚も舌らしい物で亀頭をちろちろとやられている。

 とりあえず目で見なければわからない。そう思った俺が顔の上から手をのけて下半身に目を向けると、愛しの妹は赤い舌を伸ばしながらこちらを上目遣いに見ていたのだが、先程と違って大きな乳房を露わにして、ふるりと揺れるそれでいきり立つ肉棒を挟んでいたのだ。

 これが本物のパイズリ。かつて妹にバレぬようにと拝見したエロ本で見た、男の憧れの光景が広がっていた。

 

 「お、おい、フェイト――」

 「んしょ、んん、兄さん、これが好きでしょ? ベッドの下にあったエッチな本、おっぱいが大きい人たちばっかりだったもんね。それで見たから覚えてたんだよ、これ」

 「あぁそうなのか――ええっ!? な、なぜその本の存在を!?」

 「私は兄さんのことならなんでも知ってるよ。おっぱいが大きい女の子が好きなことも、金髪の若い女の子が好きなことも、妹物が好きなことも――ツインテールもあったよね?」

 「うぅ、もぅ、それ以上言わないで……お願いだから、首をつらせてください……」

 

 彼女の口から卑猥な情報が出される度に、さっきとは違う理由で俺の顔が熱くなっていく。正直もう涙目です。

 まさか思春期の妹に最も見せたくない物が見られていたとは。しかもそれを教科書に色々と学んでいるなんて誰が想像できるというのか。いや、もっと言うとあれはリンディさんから無理やり渡されて、「捨てるな」と脅されたから隠してたんだけなんだけども。まぁ、確かに何回か使ったけどさ……。

 フェイトはこれまた慣れた様子で、手を使って自分の乳房を動かし、俺の陰茎に刺激を与える。両方を上下に動かして扱いたり、両側から押しつぶすように力を込めたり、時にはびんびんに立った乳首で亀頭をゆっくりと撫でたり。ふにょんと柔らかい感触はそれほど大きな快感は与えてくれないが、代わりに妙な安心感と弱い刺激が伝わって、乳首で撫でられるのはむしろ刺激が強い。敏感な亀頭を責められることもあって、思わず腰を上げてしまったほどだ。

 俺が苦しそうに顔を歪めて歯を食いしばり、腰を少し浮かせる度、フェイトは嬉しそうにくすくすと笑う。小悪魔的にも思える笑顔は、やはりこういう状況でも清純そうでひどく愛らしい。やってることは全然清純じゃないのにも関わらず。

 

 「兄さん、気持ちいい? 一回出す? あ、でも初めてはやっぱり中出しで子宮にぶっかける方がいいよね? じゃあもうちょっと我慢して」

 「そ、そんないやらしい言葉を平気で言うな。俺の教育が疑われるだろ」

 「大丈夫、兄さんの前でしか言わないから――んっ。じゃあそろそろ本番、しよっか。私と兄さんの、初体験……」

 「は、はっ、はつ、たいけ――」

 

 すっとフェイトが立ちあがり、残っていた制服のスカートと黒いタイツ、それから同色の下着を降ろした。俺がじっと見つめているのに、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも堂々とした姿で。

 そして彼女が姿勢を正して横たわる俺の前に立った結果、俺は生まれて初めて生の女性の裸というものを目にすることができた。

 そこでようやく気付いたのだが、フェイトは俺が思っていた以上にとてもきれいだった。顔はまだ幼さを残して可愛いし、胸はずっしりと重さを感じさせるような大きさなのに美しい形で、ピンク色の乳首がツンと立ち、視線を落としていくと訓練でついたのだろう薄い腹筋とくびれた腰、その下には薄い金色の毛がわずかに生えた、彼女の一番大事な部分。初々しさすら感じられるそこはぴたりと閉じられていて、魅惑的な上半身に比べて幼いような印象を受けた。

 思わずごくりと喉を鳴らす。何を妹の体をじろじろと見ているんだ、と理性が叫ぶ一方、本能はしっかりと反応してさらに陰茎が固くなるのが感じられた。

 俺の視線を受けたフェイトは嬉しそうに身をよじり、両手を後ろにまわして体を見せてくる。俺はそれを、じっと見つめていた。

 

 「どうかな兄さん、私の体――気にいってくれた?」

 「そ、そりゃあもう――はっ!? いやいや、違うぞ、そういう意味じゃなくて、いや違わないんだけど、そうじゃないというか……!」

 「ふふふ、もう素直になっちゃってもいいんだよ、兄さん」

 

 するするとゆっくり俺にしなだれかかってきて、ちゅっとキスを一つ。その後はすぐに体を反転させて、フェイトの方からぴたりと閉じた秘所を俺の目の前に持ってきた。代わりにフェイトは俺の陰茎を目の前にしている。シックスナイン、というお互いがお互いの下半身を、大事な部分を舐める体勢だ。

 

 「兄さん、私のおまんこ、もうびしょびしょに濡れてるの――でも初めてだから痛くないように、やさしく、舐めてくれる?」

 「も、もちろん」

 「ふふ、私ももっと兄さんを気持ちよくしてあげるから」

 

 そう言った直後に、またぬるりと熱いものが俺の陰茎を包んでしまう。それだけで俺は「うっ」と小さく声を洩らし、フェイトは「ふふっ」と小さく笑う。

 俺も負けじと舌を伸ばして、初めて見る女性のあそこにそっと触れてみた。相変わらず妹が相手だということに抵抗を覚えずにはいられないが、今ではそんなことよりも、このまま行為のすべてを終わらせたいという気持ちもある。

 そう想いながら、閉じた割れ目にそっと舌を這わし、少し力を込めてぎゅっと押す。とても柔らかいそこはぐにぐにと形を変えて、確かに彼女の言う通り濡れている。指を使ってゆっくり広げてみると、ようやく顔を出した、きゅっと締まった穴から透明な液がとろりと出ていた。

 さっきよりも顔が熱くなることを自覚しつつ、俺はそこに口を近付けた。指で小さなそこを開きながら、大事な場所だろう小さな穴に、舌を触れさせる。

 

 「んんっ」

 

 その途端、俺の陰茎をしゃぶっているフェイトが嬉しそうな悲鳴を上げた。しかも自分から股を俺の顔に押し付けてくるように腰を落として、自分もより一層深く、喉に届きそうなほど陰茎を呑みこんでいるらしい。

 どうやらそれが嬉しくて、気持ちいいようだ。フェイトの挙動からそれがわかった俺はぺろぺろと何度もそこを舐め、ついでに両手を白くて真ん丸い尻へと伸ばした。むぎゅっと形が変わるほど柔らかいそれを掴んで、さらに興奮を高めながら一心不乱に舌を動かす。すると嬉しがるように白い尻がぴくぴくと反応していた。

 お互いの股に顔をうずめて、気持ちよさそうな声を出しながら必死に快楽を貪る兄妹。ホントに、一体どうしてこうなってしまったのか。

 だけど今はそんなことはいい。考えられるような状況じゃない。そんなことよりももっと、もっとこの行為に耽っていたい。

 気付けば俺は、フェイトが陰茎から口を離して上体を起こしていることも知らず、彼女が必死な声で止めるまで舐め続けていた。

 

 「んっ、あぁっ、にい、さっ――兄さんっ。もうっ、もういいよ、それ以上やっちゃうと私、ダメだから――あっ」

 「ふぅ、ふぅ――あ、あぁ、ごめん」

 「はっ、んん……ううん、いいの。兄さんが嬉しそうに舐めてくれたのが、すごく気持ちよかったから」

 

 きれいな肢体に、身を隠すような物を何も持たない妹。彼女は俺の顔を跨ぐのをやめて、また体を反転させる。俺の目の前にあった可愛い秘所は、今は俺の陰茎のすぐ傍にある。

 またフェイトの顔が徐々に俺の顔に近付いてきた。何をされるのか、さすがにもうわかってる。

 俺はゆっくりと目を閉じた。すると即座に柔らかい唇が、俺の唇に触れる。向こうが強く押しつけてきて、たまにちゅっと吸いつくような動きを見せるので、お返しとばかりに俺も舌を伸ばして彼女の唇に触れてみた。そうするとフェイトは少し驚いたようにびくっと体を震わせて、しかしすぐに自分からも舌を伸ばして俺のそれを絡め取る。

 ぴちゃぴちゃという水音と共に二つの舌が絡まって、唾液が次々に俺の口元に落ちてくる。かと思えばフェイトはぐっと唇を合わせた状態で俺の口内に舌を入れてきて、興奮したようなそぶりを隠さずに乱暴に俺の中を荒らし始める。歯をべろべろと舐めまわしたり、歯ぐきをつんつんと突いてきたり、遊ぶように舌を絡めたり、唾液を飲んだり飲まされたりととにかく忙しない。

 少しの苦しさを感じながら目を閉じてそれを享受している時に、今以上にどんどん固くなろうとしている陰茎に何かが触れたのだ。

 

 「んむっ!? んっ、んあっ――ふぇ、フェイトっ、ちょっと待っ――!」

 「兄さん、私、もう我慢できないよ……」

 

 ずぷり、という感覚と共に、途方もない快感が俺を襲った。きっかけになったのはやはり、俺の陰茎がフェイトの膣に呑みこまれたからに他ならない。

 今、勃起した俺の陰茎はフェイトの膣の中に差しこまれており、根元の部分が入りきっていなかったけれど、フェイトの一番奥の部分に先端が届いていた。

 快感にむせび泣いて俺の首筋を甘噛みするフェイト。ぎゅっと抱きつかれたせいで目で確認することはできないが、確かに俺の体は腰が抜けそうなほど気持ちいい感覚に包まれている。

 あぁ、ホントに、妹といっしょに越えてはいけない一線を越えてしまった。これまでのことを思い出すとどこか悲しいようにも思えるし、しかし妹であるフェイトの願いこそがこれなわけだし、なにより彼女はとても嬉しそうな声を出してるし。胸の内は複雑だ。

 というよりフェイト、大丈夫かな。挿入した瞬間に全身を震わせて、そこから人間らしい言葉を一つも発してないけど。小さい声で何かは言ってるけど、意味が伝わるようなものじゃない。

 心配になった俺は彼女の白い背を撫でつつ聞いてみる。

 

 「フェイト、大丈夫か? 辛かったら抜いても、というよりやめてもいいんだぞ」

 「うっ、ふっ、あぁっ、大丈夫……はっ、私っ、兄さんと繋がれたのが嬉しくて――い、イッちゃった、だけだからぁ……!」

 「え、ええっ? いったって、おまえ……」

 「ふぅんっ、んふぅ……はぁぁ、あぁっ、すごいよぉ……兄さんがいっぱいで、私の膣内が、兄さんで満たされてるっ」

 

 人の首筋を唾液でべたべたにしながら、耳元で蕩けきった声を出す妹。一体どこで何があってこんな子になってしまったのか。

 ほんの少しだけ俺が泣きそうになっていると、突然フェイトが腰を動かし始める。上体やら大きな胸やらを俺にぴったりと預けたまま、膣で陰茎を扱くように腰を上下に振っていたのだ。

 思わず歯を食いしばって体に力を入れ、腰の奥の方から飛びだしそうになるものを我慢で押さえこむ。あまりにも強すぎる快感はあっという間に俺を限界まで押しやり、危うく妹の膣の中で射精するところだった。

 それをわかっているのか、いないのか、初めはゆっくりだったフェイトの腰の動きがだんだん早くなっていった。

 

 「ま、待てフェイト、ちょっと速すぎる……このままだと、おまえ――」

 「はぁっ、いいよ、いいよ兄さんっ。このまま出してもいいんだよ、私の中に精液注いでっ」

 「ば、バカ言うなって。おまえは俺の妹なのに、そんなこと」

 「もう妹じゃないよっ、私は、兄さんの――お、お嫁さん、なんだからっ」

 

 ぐちゅぐちゅと音を立てながらの動きはますます速まり、今となってはぶつけるような動きになっていた。

 激しい動きと、狭い膣によって、これまで体感したことがないほどの快感が与えられる。それも俺の意思に関わらず、強制的に。

 我慢すら越えて限界がやってきたのは、さほどの時間も経っていない頃のことだ。再び自分の限界を感じた俺はぐっと歯を食いしばり、気付けば悲鳴のような声を上げながらフェイトの体を抱きしめていた。

 

 「あっ、くぅっ、フェイト、もう、ダメだ――あぁっ、出るっ」

 「いいっ、いいよ兄さん、私もっ、もうダメ――あっ、あっ、ああぁっ」

 

 フェイトの腰が押しつけるようにして深く沈んだせいで、俺は彼女の一番深いところで射精していた。ほとんど正常な思考は奪われていたのに、凄まじく気持ちよかった、そういうことだけはしっかりとわかる。

 竿の辺りがどくどくと脈打つ度、先端からは勢いよく精液が飛び出しているのがわかる。妹と行為をしたばかりか、中出しまでしてしまったということだ。

 体を支配していた快感が波のようにゆっくりと引いていくと同時に、俺の胸に頭を預けていたフェイトが小さく呟く。まだ下半身は繋がったままで。

 

 「はぁ、ん――嬉しい。兄さん、私の中で気持ちよくなってくれたんだね。膣内に出してくれたし……えへへ、嬉しいなぁ」

 「うっ、で、でもそれは、フェイトが抜いてくれなかったら出しちゃっただけで、俺の本意では、その……」

 「あ、そんなこと言う? もうっ、せっかく結婚するのに、兄さんはいつまで経ってもツンデレなんだから。じゃあしょうがないよね――素直になってくれるまで、兄さんの体を満足させた方がいいと思うんだ」

 「ま、待てって。その前に色々と話しあおう、な? 俺も聞きたいこととかあるし、あと状況によっては説教しなきゃならないことも――」

 「だーめ」

 

 輝くような笑顔でそう言うフェイトは、またしても腰を振り始めた。今度は俺の腰にのしかかるように上体を立てて、俺の腹に両手をつきながら。

 一度目の射精で萎え、しかし気持ちのいい膣内にいたせいで半立ちになっていたそれは、すぐに腰の動きにつられてまたすぐに立ちあがり、それによってフェイトが嬉しそうな声を上げながら腰の動きを速めていく。気持ちいいことは嬉しいのだが、節操のない体に我ながら涙が出そうだ。

 

 「はぁ、んんっ、気持ちいいよ兄さん……すごく固くて、おっきい……あんっ」

 「ううっ、ふぇ、フェイト……」

 

 楽しそうに、弾むように体が上下するせいで、大きな胸がぶるんと揺れて俺の目を惹きつける。大事に育ててきた彼女とこういうことをするのは抵抗があるのに、なぜかその場所から目を離すことができない。

 思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。確かにそうだ、俺は彼女の言う通り、巨乳ものの本とかDVDなんかに目がない。なぜかはわからないがあの手の物にすごく興味があるのだ。

 しかし、ここを素直に受け入れてしまったら、俺はもう戻れなくなる。などと思う俺をあざ笑うかのように、フェイトがにこりと笑いかけてきた。

 

 「いいんだよ、兄さん。兄さんのために大きくしようと思って、いっぱい頑張ったんだから。私の胸を触ってもいいのは、兄さんだけなんだよ」

 「お、俺だけの……?」

 「うん、そう。私のおっぱいも、おまんこも、心も体も全部兄さんのもの。兄さんだけは、私のおっぱい揉んでもいいよ」

 「……うっ、くっ……」

 

 我慢はした、たくさんした。でも無理だったってだけの話だ。断じてフェイトの言うがままに手を伸ばしたわけではない。

 すっと伸ばした指先に、ふよっと揺れる柔らかい乳房が触れる。その後はもう我慢なんてできるはずもない。俺はわしっと両手で両方の乳房を掴んでいた。

 俺は今、フェイトの胸を揉みしだいているのである。上に乗った彼女にずんずんと犯されながら、自分の欲求に素直になって、飽きることなく揉み続けた。

 それだけでフェイトの顔はさらに輝きだす。

 

 「はぅ、うぅんっ、嬉しいっ――はぁっ、兄さんが、私のおっぱいで欲情してくれてる……!」

 「よ、欲情とか言うんじゃない。いつからおまえはそんなこと言うようになったんだ」

 「はぁっ、ふぅ、でも否定できないでしょ?」

 「……」

 「んっ、あっ、あっ」

 

 一定のリズムで腰を振り続ける内に、フェイトの限界はどんどん高まっていっているようだった。同時に俺も、そろそろ限界が近いことを悟る。陰茎がぎゅっぎゅっと強く締め付けられ、膣の中はますます激しく動きまわっている。

 またしても快感のせいで正常な思考が流され、はっきりとした意識も持てないままに彼女の姿を眺めていると、フェイトの声が一段と高くなった。

 それからしばらくもしない内にお互いが限界に達し、気付けば二人同時に全身を震わせていた。

 

 「んんっ、んあぁっ、んんんっ!」

 「くっ、はっ――はぁ……」

 

 また、膣内に出してしまった。どこか他人事のようにぼんやりとそう想っていると、倒れ込むように顔を近づけてきたフェイトがまた俺の唇を奪う。

 さっきのとは違って、触れるだけのやさしいキス。しばらくそれを続けた彼女はやがてぱたりと体の力を抜いて、俺に覆いかぶさったまま寝転ぶ。至近距離にある顔はやはりどこか嬉しそうで、キラキラと輝く瞳がぼーっとした俺の顔を映していた。

 

 「うふふ――兄さん、気持ちよかった? 満足できてないなら、もう一回する?」

 「い、いや、大丈夫。もう満足したから、ホントに」

 「そう。じゃあいいけど、これからはもう自分で処理しちゃダメだよ。出したいなって思った時は、いつでもいいから私に言ってね? もう今から夫婦なんだから」

 「あ、あのなぁ、夫婦って――いやまぁ、約束したんだから、もう、しょうがないんだけど……」

 「あ、しょうがないって何? まだ素直になれてないのかな――それならもう一回した方が」

 「いや、う、嬉しい、嬉しいですよフェイトさん。ようやくだもんな、約束が果たされるのは。嬉しいに決まってるじゃないか、はっはっは」

 「ふふ、そうだよね。私も嬉しいよ、兄さんが喜んでくれると」

 「あ、あはははは」

 

 嬉しそうに声を洩らすフェイト。裸で抱き合っている上に、さっきまでの行為なんかを考えれば、確かにもう兄妹の関係じゃなく夫婦として付き合った方がいいのかもしれない。

 ハァ、と小さくため息をこぼす一方、俺はすでに覚悟を固めようとしていた。しかし、あくまでもフェイトのためを思ってのことだ、さっきの行為で籠絡されたとかいうことではない。

 断じて、小悪魔的な笑顔を見せながら、ぺろぺろと俺の乳首を舐める彼女に、いいように扱われてしまったわけではないのである。

 

 「ねぇ兄さん、今度の休みにね、二人で日本に帰ろうよ。その時、改めて結婚届けを提出してさ、結婚式のこととか考えるの。えへへ、ちょっと忙しくなるかもね」

 「そ、そこまでするのか? まぁでも、そうか、夫婦になるって言うならそういうことになるのか……」

 「そうなんです。そういうこともちゃんとしないといけないんだよ、兄さん――それからね、ちゃんと約束して欲しいことがあるんだけど」

 「ん?」

 「なのはたちのこと」

 

 そう言った直後、フェイトの顔色がすっと変わる。輝くような笑顔はどこか薄くなり、今はどこか背筋が凍りつきそうな微笑みになって、目の色も明らかに違っていた。

 なんとなく寒気を感じてしまうような声は俺の耳に届き、彼女はわかりやすいようにとゆっくり話しだす。

 

 「兄さん、みんなと仲良くするのはいいけど、結婚するなら浮気しちゃダメだよ。今までだって何回か怪しいこともあったんだし、これからはもう疑われるようなことしないでね」

 「疑われるようなことって……別に今までだってそんなこと――」

 「たくさんあった。なのはと二人っきりでデートしてたこともあったし、シグナムやヴィータと研究室で二人っきりになって話してたことはしょっちゅうだし、シャマルだって用もないのにここへ来て兄さんにべたべたしてるし、はやては兄さんのことお家に来ないかって誘ってたよね? 兄さんが仕事だったからよかったものの、もしついていってたら兄さんが食べられてたかもしれなんだよ、わかってるの、兄さん」

 「い、いや、別にそんな考え方はしてないけど……それに、みんな仕事の話でそういう状況になっただけだろ? 別に他意なんて――」

 「いいえ、あります、完全にありまくります。兄さんは鈍いから気付いてないだけなの、みんな兄さんのこと狙ってそうしてるんだから。私がしっかり見てないと、今頃兄さんはもっと色んな女に取り囲まれて、動けなくなってたくらいなんだから」

 「あーそうなのか? っていうかそもそも、なんでフェイトはそんなに俺のこと色々知ってるんだ? なんか、フェイトがいなかった時のことまで深く知ってるけど……」

 「私は兄さんのことならなんでもわかるの。だから、兄さんはあんまり心配しなくていいよ? たとえ兄さんの身に危ないことが起こっても、いつでも私が守ってあげるから。だから代わりに浮気しないでね、絶対」

 

 ぎゅうっと俺の体を抱きしめながらそう言うフェイトに、いつも通りの愛しさと、そしてなぜかわからないが背筋が凍るような恐ろしさを感じた。なぜかは全くわからないのだが。

 しかし、考えてみれば彼女はいつもこうだった。小さい頃から俺の後ろをついて回って、親しい友人以外とは仲良くなるのに時間がかかって、時には俺の友人の女の子によくない感情を向けていた。思えば、あの時からこの子は俺のことを好いていてくれたのかもしれない。

 少し末恐ろしい感じにも思えるが、考え方を変えれば結婚相手にはふさわしいのかもしれない。努力家で一途、俺のことを深く思ってくれていて、いつだって俺を助けてくれた。

 うん、そうだ。俺だってフェイトのことが好きだ。今までは妹として、そう思っていたけど、ホントは多分違っていた。

 俺も彼女と過ごす内に、血の繋がらない妹のことを好きになっていたんだと思う。このままずっと、彼女といっしょに生きていければ、それほど幸せなことはないんだから。

 断じて、フェイトの大きな胸の上で、バルディッシュがキラリと光って何かを訴えようとしているからそう思うんじゃない。純粋に、昔から、俺はそう思っていたのだ、うん。

 

 「ハァ――まぁいいか。うん、俺はフェイトが好きだし、さっきのも気持ちよかったし――これでよかったんだよなぁ」

 「うふふ、いいんだよ兄さん。これからも私とずっといっしょに、二人で幸せに生きていこうねぇ」

 「あぁ、うん、よろしく」

 「うふふふ」

 

 また胸元でキラリとバルディッシュが光る。ひょっとしたらお礼を言っているのだろうか。

 それがわかるのはおそらくフェイトだけなのだが、彼女は小さく笑いながら俺の胸に頭をこすりつけるばかりだ。正しい答えはわからない。

 しかし、それでもいいかと思ってしまう。我ながらシスコンだなぁと思うけれど、目の前の笑顔を見てしまうとどうしたってそう思わざるを得ない。

 だって俺に抱きつくフェイトの顔は、ホントに幸せそうな笑顔なんだから。

 

 「えへへ、兄さぁん、愛してるよー」

 「はいはい、俺もだよ」

 

 そんな碌でもないやり取りを、兄妹揃って研究室の床に寝そべって、二人とも裸で、下半身は繋がったまま。いくら入れる人が限られてる場所でも、ちょっと軽率すぎる姿だったかもしれない。

 この後、研究室であられもない姿を見せていた俺たちは、突然部屋に入ってきたフェイトの親友によってしっかりと目撃されてしまい、予想外の騒動を起こすことになってしまう。

 だが、それでもフェイトは笑顔だったため、色々な人に恐ろしいほど質問をぶつけられながらも「まぁいいか」と思ってしまった。

 かつての寂しげな顔じゃない限り、ちょっとくらいのわがままも許そう。シスコンだと罵られても、フェイトが幸せならそれでいい。今はもう素直にそう想うから。

 ただ少しだけ、さっきのはやけに勝ち誇ったような笑みだったな、ということだけが気がかりになったが、きっと俺の見間違いだったのだろう。

 俺の妹、いや、俺の妻は昔と違って、こんなにも幸せそうに生きることができているのだから。

 



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推奨する関係(リリなの・シグナム)

原点回帰で、ヤンデレらしさを追及しました。一応、続編です。
あんまり明るい話じゃないかも……。


 

 本来であれば、私は自分が気にいらないことを押しつけられて黙っていられるほど、素直な性格ではないつもりだ。確かに状況によっては対応の仕方も変わってくるだろうが、主はやてのことと、仕事に関することでは妥協を許すつもりもない。

 しかしこの件に関しては、いつからだったか私はすでに諦めていた。これは手を出してはいけないことだと、自分の心に蓋をするようになっていた。

 自分が望むべきものはある。夢を持ったし、希望も持った。だけど私は自らそれを捨て、新たな決意を持ったのだ。

 それなのに、私が望む望まぬに関わらず、再び手を差しのべられてしまった。今度は、私たちを救ってくれた彼ではなく、その男の妻となった少女から。

 

 「私は、兄さんに他の女が近付くのは許せない――だって兄さんはやさしいから、きっと勘違いしただけの女も見捨てないもん」

 

 諦めたつもりだった。彼が選んだのは最も大切にしていた存在。後から出会った私が敵うような相手ではなかったはずだから。

 それに普通に話すことはできたし、お互いに管理局で話すようになってからはぐっと距離も縮まった。仕事の話が多いとはいえ、二人きりで話せる時間も多くなった。なにより、あの笑顔が私だけに向けられるような時間を得ることができたのだ。

 私はそれだけでも満足することができた。これまでとは違う距離感、信頼が伺える視線、求めてやまなかった笑み。たった一時だけでもそれを独占することができるなら、それがどれほど幸せなことか。

 ただ敵を切るだけの剣はなくなり、今では誰かを守るための剣を手に入れた。ならば私は新たな人生を、新たな剣を持って生きていこう。それを与えてくれた主と、彼を守りながら。

 そう、思っていたはずだったのに。

 

 「でもシグナムにだけは許してあげる。兄さんが私のことを深く愛してくれるように、兄さんが私への愛情をもっと素直に出せるように協力してくれるなら――シグナムにだけ、兄さんに触れることを許してあげる」

 

 その言葉と共に差し出された手を、馬鹿馬鹿しいと笑うことなど、今の私にはできそうもない。騎士として生きていた頃ならまだしも、彼や主はやてから「人間として生きていい」と言われてしまった今、同じことなどできない。

 振り払うべきはずの、不貞を促すその手を、私はじっと見つめることしかできなかった。

 

 「だけど、兄さんは私のだから、愛しあうのはダメ。ただ、シグナムが一方的に兄さんを愛しすぎちゃって、自分の欲求を無理やりぶつけるだけなら、それは咎めない――だって兄さんはあんなにかっこいいんだもん。その気持ちはわかるつもり」

 

 暗闇の中で、囁くように届けられる美しい声。それはきっと、聞く者が聞けば天使のような美声に思えるだろう。

 だが今の私には、逡巡したまま「否」と応えられない私にとっては、その声は悪魔のものにしか思えない。

 

 「堕ちてもいいんだよ、シグナム。兄さんを愛してるなら――私の夫を、思う存分好きにしてもいいんだよ?」

 

 その悪魔の声に従い、手を取ってしまった私も、ひょっとしたらもう悪魔の類なのかもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時間にして、夜の九時。いつもならすでに彼は自身の研究室を後にして、家に帰っているはずの時間だった。

 しかしこの日は仕事の仕上げがあり、愛する妻がめずらしく残業を許してくれたこともあって、彼は研究室に残って仕事を続けていた。

 それが悲劇に繋がったのである。

 

 「恭介――すまない。本当に、すまない……」

 

 今、明かりを消された暗い研究室の中には二人の人間がいる。一人は桃色の長い髪をポニーテールにして、局員の茶色い制服に身を包んだ、切れ長の目が特徴的な女性。もう一方は、彼女に両手首を背にまわされた上で縛られ、身動きが取れずに床に転がされる、半裸の青年。

 管理局でも有数の戦闘力を持つ局員、シグナムというのが女性、その彼女に腕を縛られ、猿ぐつわまでされて床に転がされたのが、最近結婚したばかりだという恭介であった。

 彼は白衣だけを残され、上着は胸の上にまであげられ、下着とズボンは完全に脱がされ、尻を高々と上げる体勢を取らされている。

 腕を縛られ、口を塞がれ、恭介は目を潤ませながら背後にいるシグナムに目を向け、呼吸も荒く睨みつけていた。

 まるで今にも命を刈り取られる獲物が、最後の抵抗を見せているようにも見えるのだ。

 

 「できることなら、私は――おまえのことを見守っていこうと思っていた。元から私は騎士プログラム、普通の人生を送ろうとも想っていない――だからせめて、大事な存在になったおまえを、見守っていこうと……」

 

 そんなことを言いながら、冷徹な表情を浮かべるシグナムは淡々と服を脱いでいき、茶色い制服を床に放り、上下の下着すらもすぐに放り捨てた。

 今、暗い研究室の内部で彼女の裸体が露わになり、家族以外は誰も見たことがないその肉体が恭介の眼前に晒される。

 ずっしりと重量感すらある張りのある大きな乳房、その先でツンと立つ乳首。柔らかな印象を与えながらも、所々に見える筋肉が力強さを主張し、女らしいしなやかさを持ちながら頼りになる強さを見せる体がゆっくりと動く。

 やがて彼女は、尻を掲げさせた恭介の後ろで膝を折り、跪いて彼の尻へと顔を寄せる。

 そして至近距離で彼の尻の穴を見つめながら、ほぅとうっとりしたため息をつき、見る見るうちに頬を赤くしていった。

 

 「んぅー、ふむぅ、んんー……」

 「心配するな。大丈夫、おまえがテスタロッサと結婚したことは知っている――前は使わないさ」

 

 シグナムの潤んだ瞳は一心に恭介のそこへ注がれており、もはや迷いなどないことを簡単に推測させる。いつものまじめで、凛とした彼女の姿ではないのだから。

 潤んだ瞳も、赤らんだ頬も、蕩けたように歪められる口元も、もはや本来のシグナムではない。それはもう本能に支配された、ただの一匹の雌なのだ。

 なぜそうなったのか、恭介がその理由を知る由もないが、どちらにしてもその行動を止めることなどできない。

 伸ばされた赤い舌がぺろりと尻穴を一舐めしても、腰を掴まれ、足が動かせず、腕や口すら封じられてる恭介は抵抗すらできなかった。

 

 「その代わり、こっちは使ったことがないだろう? 悪いとは思ってる、でも、やっぱり私は――おまえが欲しい」

 

 ちろちろと舌先で入口に力を込めながら、両手で尻の肉を撫で、そのままシグナムは静かに語る。興奮したような、それでも冷静さを失わないようにと頑張っているかのような、そんならしくない声で。

 恭介が口を塞がれた状態で、くぐもった声しか出せないのをいいことに、彼女の愛撫は続けられた。

 

 「だからこっちを使わせてくれ――テスタロッサではできないことを、私がしてやるから」

 「んんっ、んふぅ――」

 

 そう言った直後、穴の中に浅く埋められていた舌が、ぐっと奥まで押し進められる。途端に恭介は目を見開き、初めての感覚に戸惑いながら腰を揺らした。

 それは決して受け入れるための動きではない。むしろ、腹の中に異物感が侵入してきたことによる、心配と嫌悪に満ちた咄嗟の判断だったと言えるだろう。

 その証拠に、恭介は先程よりもさらに呼吸を激しくして、悲鳴とも思える声を必死に発していたのだ。

 

 「んんーッ、んん、ふむぅっ――!」

 「んっ、ちゅ、はっ――はぁ、これは、すごいな……」

 

 シグナムの舌は妖艶に、自分勝手に動いていく。

 入口や尻を舐めまわすようにゆったりと這ったり、中を突き進むように舌を押しこんだり、まるで蹂躙するかのような動きで恭介の尻を責め続ける。

 両手ではしっかりときれいな形のそこを掴んで離さず、逃がさぬようにとしながらも、指や手のひらを使って肉を揉んで感触を楽しんでいるようだ。

 とにかくその時のシグナムは、神経のすべてで彼の肉体を感じようと集中力を高め、特に尻へと注目を集めていたらしい。日頃妻との情事を楽しんでいる男のシンボルではなく、まだその妻ですら触れたことがないはずのそこへと。

 まだ誰も触れていない場所に触れ、妻ですら独占できていない場所を自分が開拓し、独占する。その行為にひどく興奮した様子のシグナムは動きを止めず、どれほど恭介が嫌がろうとも尻を舐め続けた。

 その行為は数十分にも及び、彼女はただひたすらに没頭して、恭介の尻を責めた。

 

 「んっ、ふっ、ふっ、んんっ――」

 

 その光景は明らかに異常なものだった。

 一人の女が一人の男を拘束し、何かを言うこともなく淡々と、しかし熱心に尻を舐め続ける。異様な熱気に包まれたその場所を見れば、おそらく誰もが顔色を変えて硬直するだろう。

 それほどまでに彼女は、恭介を襲うシグナムには危機迫るものがあり、されるがままになっている恭介も涙を流しながらうめき声をあげていた。

 早く誰かに助けてほしい。その願いを胸に抱きながら、ほんの少しでも抵抗しようと。

 しかし彼の声が誰かに届くこともなく、無理やりな行為はひたすら続けられる。

 専用の研究室を与えられていたことが仇となったか、それを裏手に取ったシグナムが優れていたのか、時間が遅いこともあって邪魔者が入ることはないのだろう。

 彼女の愛撫は黙々と続けられ、局部に触れないままのやさしいそれは一時間近くに渡って行われた。ひどく丁寧で、愛おしさを込められた、だけど無理やりな愛情表現を。

 おかげで嫌がっているはずの恭介の陰部は固くそそり立ち、先端の割れ目からだらだらと透明な液体を吐きだして、小刻みに腰を振っていることもあって床を汚している。

 その様子をずっと目で確認していたシグナムは紅潮した頬を緩ませ、笑みを浮かべながら、それでもそこには手を出さないと言ったことを後悔するかのように、うずうずといった様子で裸体を揺らしていた。

 彼女はついに口を開き、自分の口から言葉を伝えた。

 

 「はぁっ、はぁっ――そろそろいいだろう。では、始めようか」

 

 立ちあがったシグナムは名残惜しそうに恭介の尻を一撫ですると、歩き出して彼の傍から少し離れ、脱いだ制服の近くにあった紙袋へ手を伸ばした。

 床に転がり、ぽろぽろと涙を流しながらぐったりして動かない恭介が不安に想う中、何かを取りだしたシグナムは再び恭介の元へ戻ってくる。

 彼女は手にしていたそれ、双頭ディルドの一方を自分の膣内に銜えこませると、もう一方の先端を恭介の尻穴へと触れさせた。

 途端に、恭介は目を見開いて驚愕し、身を捩って逃げようと動き出した。まるで芋虫のような動きではあるが、しかしすぐにシグナムの手で腰を掴まれて逃げられなくなる。

 すぐに彼の尻の穴には人工の亀頭が押しつけられ、シグナムの表情が喜色に染まる。

 

 「ふぅ、ふぅ――そんなに、怯えなくてもいい。大丈夫、痛いことはしないから――ちょっとだけ我慢してくれれば、すぐに気持ちよくなる」

 「んふぅ、ふむっ」

 「あぁっ、だから、そんな、そんな目で見るな――もう自分を抑えられなくなるっ……!」

 

 穴に先端が触れた直後、高揚しきったシグナムは勢いよく腰を前に突き出し、勢いよくディルドを恭介の中へと埋めていった。

 ずぶずぶと肉を押し上げて、中も外もたっぷりと唾液を塗りたくられたそこへ、彼のものと同サイズの陰茎が押し進む。それは迷いもなく奥まで入れられ、猿ぐつわの向こうから嗚咽を漏らす恭介の意思を無視したまま、シグナムによって出し入れを開始される。

 そこからはやはり、一方的な凌辱だった。二人の腰が勢いよくぶつけられ、男女が逆になって後背位で繋がる。

 シグナムは光悦とした表情で恭介の尻を犯し、泣きじゃくる彼を使って快楽を貪る。

 本来ならば愛する彼と、深く愛しあうように恋人のような行為をしたかった。だが今になって、恭介の泣き顔を見た時、胸の中に込み上げてくるものがあったのだ。

 もっとその顔を見せてほしい。誰も見たことがないその顔で、自分だけを見てほしい。まさに、今のように。

 そう思うシグナムは必死に腰を振り、男のように陰茎を使って、自分の膣で快感を得ながらも心で快楽を得ていく。恭介を犯すその過程で、泣き顔を見て、くぐもった声を聞いて、無理やりに尻から快感を与えるその腰の動きで、彼女は確かに感じていた。

 シグナムはこれまで男性経験がないので、彼女の性器とて行為に慣れているわけではない。日頃から仕事での激しい戦闘や、自らが課す厳しい訓練に臨んでいる彼女であり、そもそもが“闇の書”から生まれた純粋な人間ではない存在。処女膜などというものがないのは確かだが、それにしても余裕が見える動きである。

 明らかにラストスパートと思える動きで激しく責め立て、恭介を抱くシグナムの顔は、まさに至福の一時を感じていた。

 

 「あぁっ、はぁっ――すまない、恭介、すまない……」

 「んむぅ、んふぅ、んごぉっ」

 

 激しい肉音が連続して続き、途切れることなく室内に響く。その間中、恭介は苦しそうな声を出しながらも涙を流し続け、ひたすら終わることだけを願って耐え続けた。

 対するシグナムは彼の体を好き勝手に触り、何度も体位を変えながら、涙に濡れる顔を見詰めつつ犯し続ける。後背位から始まり、正常位、騎乗位、さらには立った状態で後ろから、体の自由が利かない彼はシグナムが動かすままに遊ばれる。

 それでも恭介の勃起した陰茎には一度として触れられず、先走り液を出し続けるそこは突かれる衝撃でぶるんと揺れ、それ以上の刺激が与えられることはない。

 それもまた、恭介が涙を流し、苦しむ要因の一つになっているのだ。いくら丁寧な愛撫をされた後とは言え、乱暴に尻の中を突かれるばかりではさほどの快楽も得られない。腹の中の異物感と、男としてのプライドが壊されるばかりである。

 だからこそ、なぜ触ってくれないのか、なぜ苦しめられるばかりなんだと、混乱した恭介は自分の友人をどんどん恐れていった。自分が知るシグナムはこんなことをするはずがないし、どうして彼女が自分を苦しめるのだろうと。

 怖くなった彼はもはや抵抗することもやめ、この苦しい時間が終わる時をひたすらに待った。

 頬を紅潮させ、自分を犯す動きを止めないのに謝り続ける、シグナムの声を聞くこともなく。恭介はただ涙を流し続けた。

 

 「あぁっ、んんっ、はぁっ――恭介、恭介ぇっ」

 

 そうして、どれほどの時間を一方的な行為に費やしただろうか。

 シグナムはその動きの中で何度も絶頂を感じ、全身を震わせながらも腰の動きを止めず、飽きることなく彼の体を抱き続けた。そして恭介は、されるばかりで一度も絶頂を迎えることなく、ぼんやりと開いた目をどこかへと向けている。

 しかし、ぴたりと動きを止めたシグナムが尻からディルドを抜き、自身の膣からも抜いて床に放ると、ついに床に転がる恭介は傍に立つシグナムへと目を向けた。

 彼女は全身に汗を掻き、肩で激しい呼吸をしながらも、じっと恭介を見つめて離さない。

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 そしてゆっくりと動き出したシグナムは、同じく汗にまみれた恭介の体をひっくり返し、床に背を預けさせた後に両足をがばっと開けさせ、その股間にそびえている物をじっと見始めた。

 これまでチャンスはいくらでもあったのに、ただの一度も触れなかったそこ。ついにシグナムはそこへ目をつけ、もう辛抱できないとばかりに鼻息を荒くしていたのだ。

 

 「ふぅー……ふぅー……!」

 

 その後はついに、それだけはしまいと考えていたシグナムも考えを変え、自らの秘部をそこへ近付けていった。

 二人の秘所がぴとりと触れあい、男女逆の正常位のような体勢で、今度こそ二人の視線はばっちり合わさる。

 涙に濡れる瞳はいまだにシグナムを嫌っていない。できれば元に戻ってほしいと、以前の彼女に戻ってほしいと想っているかのような揺らぎがあった。

 だが彼は知らなかった。それがむしろ、より一層シグナムを燃え上がらせるということに。

 

 「あぁ――恭介っ」

 

 ずぶりと膣の中に亀頭が入りこみ、シグナムが腰を降ろすだけで奥の方まで繋がっていく。ここは越えないでおこう、と思っていた一線を越えてしまったのである。

 それだけで彼女は至福の声をあげ、自分の体内にある恭介の一部の熱さを感じ、またしても勢いよく腰を振り始めた。

 今度は本来の男と女の繋がり、互いの性器が一つになり、肉体を一つにして快楽を共有する形だった。おかげでさすがに恭介も、熱く締めてくる膣に陰茎を包まれたことにより、快感を得るようになる。

 しかしそれでも彼の表情は変わらず、悲しみや恐怖を感じたまま、変わらずされるがままで抱かれていた。

 その表情を見下ろしながら、シグナムは尚も腰の動きを速める。

 

 「うっ、はぁっ、あぁっ、んっ――あぁっ、すごいっ、これが、これがっ……!」

 

 興奮は増すばかりで、彼女の動きは執拗なまでに恭介を責め立てる。もう感じたくはない、そう思う彼を無理やりに高みへと連れていくのだ。

 一体何回出し入れを繰り返した後だったか。ようやく、絶頂を繰り返していたシグナムも、嫌がっていた恭介も初めて、限界を迎えた。

 彼らは繋がったまま絶頂し、熱い膣内へと射精が始まる。

 シグナムがそれを嬉しそうに受け入れると、恭介はまたもぽろりと涙を流してくぐもった声を洩らす。

 やはりどちらも対称的な姿のまま、二人の行為はひとまずの終わりを迎えたようだ。

 

 「うぅ、うぁっ、はぁぁ――これ、がっ、性行為か……す、凄い……!」

 「うっ、うぅ、うぅぅ――」

 

 ずるりと萎えた陰茎が抜かれ、露わになったシグナムの秘所から、内側から溢れ出た精液がぽたりと垂れ落ちる。

 寝転んだままそれをぼんやりと見ていた恭介にはもはや生気のようなものが感じられず、まるで人形のような姿にも思える。

 彼のその姿を改めて見たシグナムは少しだけ悲しそうな顔を見せたが、もはやどうにもできないと思っているのか、ゆっくりと彼の拘束を解きながらも何も言わなかった。

 縛っていた腕を解放し、猿ぐつわを取って、自由にされたというのに動かない恭介。空中へ視線を放って、何の行動も見せず、何の感情も見せずに横たわるままだ。

 シグナムはそんな彼の体を抱え、床に正座をして、ぽつりと小さな声をかける。今も聞いているのかどうかわからない、ぼんやりしたままの恭介へ向けて。

 

 「恭介……私は、おまえのことが好きだ――でもおまえからしてみれば、それはもう、きっと受け入れられないだろう」

 

 先程の興奮具合はどこへやら、悲しげな顔でそう告げるシグナムは彼の頭を自分の膝に乗せ、やさしい手つきで頭を撫でる。真心が込められた、恋人にそうするかのような動きである。

 誰もいない、二人だけしかいない暗い研究室の中で、静かな声色で語られた。それは彼女の懺悔であり、そして決意でもあったのだ。

 

 「こんなことをして、許してもらえるとは思っていない。私を恨んでもいい、命が欲しいと言うなら、くれてやる――だが私はそれでも、おまえのことを守っていきたい」

 

 慈しむような目を向けて、彼女は自分の意思をきっぱりと告げた。

 いまだに迷いは持っている。後悔もしている。それでもやはり、おまえの傍を離れたくはないと。

 そう語る自分自身を未練がましい、女々しい女だと罵りながら、シグナムはそれでも言葉を止めることができなかった。

 これほどまでに自分勝手に相手を傷つけておきながらも、それでも、彼を捨てて生きることなどできない。

 そんな自分の弱さを憎く想ったことは、この時が初めてのことだった。

 

 「恭介、おまえの命は、何があっても私が守る――たとえおまえに嫌われても、見捨てられても、それだけは変わらない。だからおまえは安心して――テスタロッサと生きてくれ」

 

 そう言いながら、彼女はまた恭介へと覆いかぶさり、今度は熱い口づけを送る。愛情がこもった、しかし無理やりなそれを。

 恭介は何一つ反応を見せることはなく、またしてもぽろりと、涙を流した。

 それから二人はまたも体を交わらせ、快楽を貪りあう。それもシグナムの主導で、人形のように動かない恭介は何も反応を見せないままで。

 それが彼女の決意だった。愛する男を守ると決め、何があっても傍にいる。たとえ嫌われようと、必要とされていなくても。

 ただそこで、嫌われてもいいのなら、彼を無理やりに抱くこともいとわない。そう考えるシグナムは手を止めず、彼の全身に触れていった。

 

 「恭介……本当に、すまない……だけど私は、おまえを、本当に――」

 

 どうしてこうなってしまったんだ。

 そう思っていたのはどちらだったか、それとも両者だったのか。

 それを知る者はおらず、二人の行為はそれからまた一時間かかってすべてを終える。

 夜の管理局の研究室内部で、防音がしっかりとしたその中で、一人の女の嬌声が響いた後で。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 愛する旦那が帰ってきた時、あまりにも遅いのでうとうとしていた彼女はすぐに飛び起き、急いで玄関へと向かっていった。

 パジャマ姿で玄関へ赴き、そこに立つ人影を見ると、待ちぼうけていたフェイトはパッと笑顔を輝かせる。しかしその直後には、そこに立つ人間、自分が愛する旦那である恭介の様子がおかしいことに気付き、表情を変える。

 心配したような顔で彼を見るフェイトはゆっくりと歩き出し、ただ呆然と立ち尽くして動かない恭介へと近付いて行く。

 それでも恭介はフェイトに目を向けず、黙って動かないままだ。

 

 「兄さん……おかえり。どうかしたの? 結構遅かったけど、何か――」

 「フェイト……」

 「うん、何? 兄さ――あっ」

 

 フェイトが恐る恐る近付いたその時、靴を脱いだ恭介は突然彼女の体に抱きつき、さらりと揺れる金髪に手を触れ、彼女の頭を自分の胸に抱え込んだ。

 ぎゅうっ、と抱きつく力は強く、いつもならそうした行動を恥ずかしがる彼らしくない出来事。フェイトは頬を赤くしつつも恭介の顔を覗き見、照れた様子で何かを言おうとする。

 その拍子に、ぽつりと、フェイトの頬に一つの水滴が落ちた。

 

 「うっ、ふっ……うぅ……」

 「……兄さ――恭介? どうしたの? 何か、怖いことでもあった?」

 

 彼女に抱きつき、情けなくも泣きじゃくる恭介はまるで子供のような姿で、縋る者がなければすぐに壊れてしまいそうなほどの危うさがあった。

 何があったかは想像できるはずもない。しかしそれでもフェイトは彼を安心させようと、自分も腕を伸ばしてぎゅっと抱き返す。

 彼には自分が必要だと、そう思っているのだろう。すぐに表情は恭介を安心させようとするかのように、やさしげな笑みを浮かべていた。

 

 「安心して、大丈夫だよ、恭介――私がいる。私が恭介の傍にいるから……ずっとずっと、傍に居続けるから」

 「……うん……うん」

 

 子供のようにぽろぽろと涙を流しながら、フェイトの声を聞く恭介は何度も頷く。彼女を心配させないように、自分を納得させるかのように。

 何度も何度も頷いて、痛いほどに腕に力を込めて自分の妻を抱きしめる。そうされるフェイトも、多少の痛みを感じながら何も言わず、黙ってそれを受け止める。

 時間にして五分ほど。二人はずっと抱き合ったまま動かず、玄関で立ちつくし続けた。

 しかしいつまでもそうし続けているわけにはいかないと、恭介が泣きやみ始めた頃を見計らってフェイトが促し、二人はゆっくりとリビングへ移動する。

 そこにあるソファに並んで座り、いまだ抱き合うことは止めず、お互いの体温を感じ続けた。

 それから、ようやく恭介が腕を解いたことをきっかけに二人は体を離す。その直後、らしくもなく恭介の方からフェイトへキスをした。

 

 「――んっ」

 

 ちゅっと音が立つ、触れるだけの口づけ。いつもはフェイトから送るはずの、小さな愛情表現。

 今日ばかりはそれは恭介の方から送られ、続けて彼の口から舌が伸びる。それもいつもならやさしいはずの動きは、かなり乱暴な様子で。

 まるで攻撃するかのような動きを見せる舌はフェイトの口内に入り込み、好き勝手に暴れまわった。フェイトはそれをすべて受け入れる。

 悦ぶようなその姿は、可愛らしい少女のようでもあり、妖艶な女の雰囲気すらも見させた。

 

 「んっ、ふっ、あっ――きょうす、けっ」

 

 口の端から漏れ、顎を伝い落ちる唾液も気にせず、二人の口はぴったりと合わさって一つになる。

 ただただ荒々しく、相手を気遣わない強い動き。恭介らしくない動きに、フェイトは驚きながらもそれを享受した。

 ぴちゃぴちゃと淫靡な音が立ち、同時に両手が動いて、彼女の豊満な体がまさぐられていく。大ぶりの乳房がたぷんと揺れ、くびれのある腰や、下着に守られた秘部すらもゆっくりと触れられる。

 その力のこもった手つきすらもずいぶんと乱暴なのだが、フェイトが抗議しないどころか、嬉しそうに受け入れているせいで改善はなく、そのままで続けられる。

 唇に触れていた恭介の口は、いつの間にやら彼女の首筋や顔に触れている。

 激しい行為はすぐに次から次へと行動を進めていき、やがてフェイトの体はソファの上に押し倒された。

 

 「あっ、きゃん――」

 「はぁっ、ふぅっ、フェイト――フェイトっ」

 

 必死な様子で、恭介はフェイトのパジャマを次々に脱がし、彼女を裸にしていった。

 遮る物がなくなったことで見えた彼女の秘所は、すでに十分すぎるほど濡れており、それを目で確認した恭介はすぐに自らもすべて服を脱ぎ、屹立した肉棒を取り出して、準備が整っているそこへと触れさせる。

 ぴとりと触れあった瞬間、肉棒は一気に奥まで突きあげられ、フェイトの膣内へと侵入していく。彼女は驚いたように目を見開きながらも、それを嬉しそうに受け止めていた。

 すぐに素早い出し入れは開始され、じゅぷじゅぷという水音が立ち、それに伴って甘い嬌声が室内に広がった。

 フェイトは嬉しそうな笑みを浮かべつつ、彼の首に両腕を回し、激しく突かれることを悦んでいる。泣きそうな顔でそうする恭介を、赤らんだ顔でじっと見つめながら。

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 「あんっ、んぅっ、はぁぁっ、あぁぁっ」

 

 最初から最後まで、叩きつけるような動きで腰がぶつかり、肉を抉るように貫かれる。

 そうし続けて、およそ数分のことだ。あまりにも動きが激しすぎたこともあり、二人の限界はすぐにやってきた。

 「うっ」と小さく呻いた恭介は膣内に肉棒を差し込んだまま射精を開始し、フェイトの体内へと精液を注ぎこんだ。彼女もそれを、快く受け入れる。

 蕩け切った表情を浮かべて、一滴もこぼすまいとするかのように竿をぎゅっと締めつけて。

 

 「あぁっ、あはぁっ、あぁぁぁぁっ!!」

 

 びゅくびゅくと吐きだされる熱い液体をすべて注ぎこまれ、やがて恭介は体の力を抜いてフェイトの上に覆いかぶさった。

 泣き顔はようやく消え、ひどく疲れた様子で目を閉じ、フェイトに体を預ける。そうする彼の姿は、まるで子供のように見えた。

 そのせいか、慈愛が溢れ出る姿でフェイトの両腕は彼の頭を撫で、胸にすがりつくようにして目を閉じる恭介に声をかける。

 ひどくやさしい、いつもの彼女よりも落ちついた声だった。

 

 「恭介――大丈夫? 気持ちよく、なれた?」

 「あ……ああ……ごめん、フェイト」

 「ううん、いいの。辛い時はいつでも言って。今日みたいにしてくれてもいい――私にだけは隠さなくていいから。全部、私にだけは明かして。恭介がどこで何をしてても、私は全部許してあげるから」

 「……うん」

 「だから、一人で塞ぎこまないで。一人になろうとしないで。私はいつでも兄さんの――恭介の味方だから」

 「……うんっ」

 

 そう言われた途端、再び恭介は涙を流してフェイトにすがりつき、豊満な胸に顔を押しつけて小さな声を洩らす。そんな情けない姿を見せる夫を、フェイトはぎゅうっと抱きしめた。

 

 「大丈夫だよ。私が一人だった時、兄さんはずっと私の傍にいてくれた――だから今度は私が、兄さんのこと一人にはしない。ずっとずっと、二人いっしょだよ」

 

 幸せそうに微笑む妻に抱きしめられながら、恭介は静かに涙を流す。なぜそれが溢れてくるのかはわからないが、心の中はひどく荒らされ、そうしなければ元の形を整えることができないのだろう。

 悲しみか、恐怖か、不安か、それとも別の何かなのか。自分が今、どういう状態になっているのかは恭介自身にもわからない。

 ただ一つわかっていることは、自分の姿を見失っている彼を受け入れるフェイトはとてもやさしく、涙で濡れる彼の目にはまるで女神のようにすら見えていたということだ。

 

 「何があったか、言いたくないなら言わなくていいから、泣きたくなったら泣いていいから、ずっと私の傍にいて。私は誰よりも、兄さんのことを愛してるから――」

 

 二人はその後も抱き合い、今度はいつものように甘い行為を終えてから、二人並んでベッドで眠りについた。

 その時には恭介も落ちついていたようだが、それ以上に、フェイトの顔は幸せそうに緩んでいたという。

 



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IFストーリー(ネギま!・近衛木乃香)

未来設定です。キャラクターの年齢が法律的に問題ないようにと。オリ主の設定が自分でもなんだかよくわからなくなってるので、ヘタレ系なんだな、と想っていただければと思います。
目指したのは、ラブラブ系です。


 近頃、彼女は浮かれている。確かに季節的にも春が近くなっていたが、それ以上に彼女の頭の中はお花畑になっていたと言ってもおかしくはないだろう。

 普段からおしとやかで、ぽわわんとした雰囲気を纏っていて、誰に対しても笑みを浮かべるような少女。しかし今の彼女の姿はそれとも違って、いつも以上に頬を緩めて、ともすれば「うへへへ」と怪しげな笑い声を洩らし、抑えきれないからしょうがないとばかりに常ににこにこと笑っている。

 そうなってしまったのは他でもない。

 近衛木乃香に、幼い頃から兄のような存在だった秋人が愛の告白を行った。すでに学園中に広まった噂が真実だったからに間違いはないのだ。

 そんなわけで彼女、近衛木乃香16歳には、長年待ち望んでいた春がようやく訪れていたのである。

 その幸せぶりたるや、まわりにいる人々が思わずげんなりしてしまうほどに甘く、常にべたべたとしたものだった。

 二人がいっしょに歩いている姿を見た者は必ず言う。

 

 「えへへー、秋人さーん」

 「木乃香、ちょっとくっつきすぎだって。これはさすがに、歩きにくい――」

 「ええー、ちょっとくらいええやんか。うちはずっと待ってたんやから、これくらいのわがままは」

 「いや、だからそれは悪かったって――ハァ、わかったよ。そのままでいい」

 「うん。んふふ、秋人さん、愛してるえー」

 「はいはい……まぁなんだ、オレも、その――あ、愛してる、よ」

 「う、うん……えへへ、なんや、恥ずかしいなぁ――でも嬉しいえ、秋人さん」

 「お、おう……」

 

 女子校の真ん中で、リア充爆発しろ、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 二人の愛の巣になっているのは、もっぱら秋人の家である。とある事故で両親を亡くし、学園長の計らいで用意された学園都市内の一軒家に、たった一人で暮らしている。といってもいつからだったか友人が多くなった彼であるから、そこを訪れる者は多いのだが。

 それでも二人が恋人になってからその家に近付くのは、何年も通い妻のように訪れ続けていた、元は妹のような存在、現恋人。近衛木乃香ばかりである。

 では若い二人が家に帰って何をしているかと言うと、とても他人には言えないような、できれば隠していたいようなことをしているわけだ。

 詰まる所、秋人と木乃香はまるで新婚夫婦のような生活を送り、暇があればべたべたとひっついて、周囲の目がなくなった瞬間にはキスを交わしたりしているのだ。

 

 「んっ、ちゅ――はぁ……」

 

 リビングにあるソファに秋人が座って、その膝の上に木乃香が座り、二人は頬を赤く染めながら顔を寄せている。

 触れるだけの、やさしいキス。柔らかい感触を味わい、上唇を唇で噛んで遊び、飽きることなく口づけを交わす。欲求に従いながらも愛情を示すその行為にはまっていたのは二人共だが、特にわかりやすいのが木乃香だ。

 長年溜めこみ続けた恋心が成就し、その反動なのか、彼女は時間の許す限り秋人を離そうとはしない。とにかくぴたりとひっつき、ところ構わずキスをねだる。二人揃って外出しにくいのもそれが原因だった。もっとも木乃香は「見られても構わない」と割り切っているので、外出もいとわないらしいのだが。

 そのため、二人が口づけを交わすのはこれが初めてではない。今となっては毎日、何時間も繰り返している。おかげで二人して唇が荒れたことも一度や二度ではない。

 それでも二人はその行為に飽きもせず、何度も何度も唇を重ね合う。それはこの日も例外ではなかった。

 

 「んっ、んんっ――んむぅ」

 「んっ、はっ――こ、木乃香……」

 「むふぅ、んちゅ――はぁぁ、秋人さぁん……」

 

 ちゅ、と軽い音を立てて離れる唇。それと共に木乃香の目は開かれ、潤んだ瞳が秋人の眼前に現れる。

 これまで何度もその目を見てきたおかげでわかるが、完全に興奮が抑えられない時の目だった。心の中が激しく動き、体をぎゅっと抱きしめても足らず、抱きしめられても足らず、何度もキスをしたところで満たされない。伝えたいだけの愛情が伝えきれない。

 彼女はその溢れそうになった心を、愛情を全身から醸し出し、まだ心臓の鼓動を大きくしたままの秋人に抱きつき、首筋に顔を埋めてぐりぐりと擦りつけるような動きを見せていた。まるで自分の匂いをすりつけようとする猫のようである。

 秋人はそんな木乃香の頭に手を置き、さらさらと柔らかい感触を持つ黒髪を、ゆっくりと撫でた。

 

 「ふぅぅ、うんんっ――秋人さん、秋人さん……」

 「あ、ああ。聞いてるよ」

 「好き、好きやえ、秋人さんのこと大好き――愛してる」

 「……ああ。オレも、同じ気持ちだよ。木乃香のこと、大好きだ」

 「うん――」

 

 我慢できないというように、再び木乃香が動き出し、二人の唇が重なる。

 またしても舌を使わない、体を重ねる時とは違う触れるだけのキスだ。二人は何度も首を傾け、むっちりと唇を押しつけ合い、目を閉じてその感触だけに集中し続けた。

 何度触れあっても足りない。何度体を重ねても足りない。ならばもう何度でもそうするしか、満足する方法などないのだ。

 じゃれあうように口を動かし、愛情を確認し合うために唇を押しつけて、お互いの存在を感じ合う。

 ひどくゆったりとした時間が流れる中で、二人はしばらくそうし続けていた。

 

 「はぁ、ふぅ――秋人さん、もっと――」

 「ちょ、木乃香、ちょっと待て――ん」

 

 息が荒くなっても、酸欠でヤバいと思っても、それでも二人はキスを続ける。唇を一つにして、ただ相手の存在を確かめるために。

 木乃香は秋人の頬をしっかりと掴んで、逃がさないようにと力を込めながらキスをねだった。

 

 「んんっ、ふぅ、ふぅ、んむっ――んちゅ」

 「んっ、むぅ――」

 

 しかしその行為はすでに何十分と繰り返している。そして、それだけで満足できるほど、二人は子供なわけでもない。

 いつしか自然と、木乃香の舌は動き出していた。それもひどく淫らな様子で、快感を求める動きを持って。

 唇を割って出た赤い舌がちろりと伸び、秋人の唇をぺろりと舐める。その瞬間、驚いた秋人が体を震わせるが、逡巡は一瞬のことだった。彼がすぐに自分から口を開けると、焦るような調子で舌が割り込む。

 木乃香の舌は、ひどくゆっくりとした動きで口内を這いまわった。歯を丁寧になぞって、歯ぐきを舐めまわし、舌を絡ませる。淫らなようで、愛情が込められたやさしい動き。木乃香はやさしく、秋人の口内を味わっていった。

 秋人もまた彼女の頭を撫でつつ、それを受け止める。勢いがすごい木乃香を受け入れつつ、お返しをするようにやさしく舌を絡ませるのだ。

 

 「んんっ、ちゅ、はむ――ふぅ、はっ、秋人さん……」

 「ああ――いいよ、木乃香」

 

 一度唇を離した後、木乃香が潤んだ瞳で秋人を見つめると、彼は彼女をぎゅっと抱きしめた。

 あまり多くの言葉はいらない、何を言いたいのかは目を見ればわかるのだから。

 秋人は木乃香の思惑通り、するすると手を伸ばして制服の胸元へ触れる。ふにゅり、と小さな乳房が形を変えることを認識しながら、指は服を脱がすために動いていく。

 ボタンが外され、次々と丁寧に服が取り除かれていき、木乃香の体は裸に近付いていった。その間、彼女は秋人の顔にキスの雨を降らし、額に、頬に、鼻の頭に、瞼に、そして唇や口内に至るまで、あらゆる場所に口をつけて愛情を示す。

 そうして、時間をかけて木乃香の上半身が下着だけになった頃、秋人は自分から木乃香の唇にキスを送り、ねっとりと舌を絡める。彼女はそれを、嬉しそうに頬を緩めながら受け入れていた。

 

 「んっ、ちゅ、んっ――えーっと、木乃香。ここまでやっといてなんだけど、部屋に行こうか。リビングでっていうのも、な」

 「んふふ、たまにはええやんか。大丈夫、ここは秋人さんの家やねんから、どこでえっちしてもかまへんえ」

 「いや、でも――ゴムもないしさ。部屋に行けばあるから、それで――」

 「なぁ秋人さん。それ、前からずっと言おうと思っててんけどな」

 

 やさしく背や腹を撫でる秋人の頭を胸に抱えながら、木乃香が不満そうな声で呟く。頬には控え目ながらも柔らかい感触が触れていた。

 どうやら彼女は秋人の振る舞いを面白く思っていないらしく、どこか拗ねたような姿にも見える。

 

 「コンドーム、いる?」

 「へ? そりゃ、いるだろ。だってあれがなかったら――」

 「うちは秋人さんとの子供、欲しいのに」

 

 言われた瞬間、秋人の顔が真っ赤に染まる。予想もしていなかった言葉を向けられ、羞恥が表に出てしまったようだ。

 子供が欲しい。確かに恋人として愛情表現が豊かで、凄まじく、常日頃から「結婚しよう」と囁かれてはいるが、まさかそんなことまで言われるとは。

 戸惑った秋人はまっすぐ覗きこんでくる目を見ることができず、恥ずかしそうにしながら視線を漂わすのだが、木乃香はそんな彼の頬を掴んで自分の顔を見させ、むっとした表情で告げた。

 

 「うちはずっと待たされっぱなしやえ。秋人さんからの告白待って、結婚してって言ってから答えを待って、いつまで待っとけばいいん? お爺ちゃんもお父様もお母様も、みんなうちらの結婚許してくれてるのに」

 「う……そ、それは、そうだけど――その、大事にしたいと思ってるんだ。木乃香もまだ学生だし、せめて卒業してから――」

 「大事にしてくれてるのは伝わっとるよ。でも、うちは早く答えが欲しい――秋人さん、愛してるって言ってくれたやんか」

 「え、えっと……」

 「それやのに、えっちはしても結婚はしてくれへんし――もう子供作って既成事実作るしかないやんか」

 「いや、そもそもえっちにしたって、木乃香の方から――ああいや、そういうことじゃないよな、うん……」

 

 はぁ、と小さくため息をついた後、秋人は表情を変えて木乃香の目をまっすぐに見つめた。そこには期待が込められた瞳がある。

 彼はようやく覚悟を固めて、小さな声で囁くように言った。

 

 「わかった――木乃香、結婚しよう」

 「え……?」

 「まぁ、その……まわりから急かされてたのもほんとだし、誕生日に言おう、と思ってたんだけど――木乃香がそう望むなら、いつだっていいよ。何度も待たせて、ごめん」

 「……」

 

 木乃香の顔が、ぽすんと秋人の肩に押しつけられる。彼もそれを受け止めて、頭を撫でた。

 シャツが濡れるような感触はしていたが、さすがにそれを指摘するほど、秋人も空気が読めないわけでもない。

 

 「うち、急かしてもうたな――もうちょっとだけ、待っといた方がよかった?」

 「いいさ。それで木乃香が安心するなら」

 「……うん。なぁ秋人さん」

 「ん?」

 「もうちょっとだけ、わがまま言うてもいい?」

 

 頬ずりするように頭が動くと、美しい黒髪がさらりと揺れる。手触りのいいそれは秋人の手の中で愛でられ、秋人は薄く微笑む。

 

 「うちの誕生日に、もう一回、今の言うてくれる? せっかく秋人さんが真剣に考えてくれてたんやし、それに――それが一番嬉しいプレゼントになるから」

 「ああ、わかった。それじゃあ、もうちょっとだけ待ってくれるか? 今度はちゃんと――オレの口から、オレの意思で伝えるから」

 「――うん」

 

 どちらからともなく、再び口づけが交わされる。触れるだけのやさしいキスは、何度も交わしたはずなのに、この時がこれまでで一番幸せな気持ちになった。

 二人はしばらく身動き一つ取らないまま、唇を合わせ続け、ただそれだけで時間を過ごしていた。

 離れた時も、どちらからともなく。ゆっくりと互いの顔が離れていき、再び真っ正面から視線がぶつかる。

 その時に二人は、自然と微笑みを浮かべていた。

 

 「ふふ、楽しみやなぁ。誕生日ももうすぐやし、秋人さんがそんなこと言ってくれるの滅多にないし。うちはもっと言って欲しいのに」

 「う……これでも結構言ってる方だろ」

 「ぜーんぜん足りへんえ。こういうのは何回言っても言い過ぎにはならへんのやから」

 「そう言われても、やっぱり、その……」

 「もう、こんな時だけ恥ずかしがるんやから。えっちする時は平気なくせに――ん」

 

 ちゅっ、と小さな音を立てて軽いキスを送ると、微笑む木乃香はまたぎゅっと秋人に抱きついた。

 彼女はそのまま、やさしく抱き返す秋人に向かって言うのである。

 

 「秋人さん、えっちしよ」

 「あ、ああ――えーっと、ちなみに聞くけど、ゴムは?」

 「そんなんいらんよ、子供作るためのことなんやから。んふふ、結婚するんやったらもうどっちが先でもええやろ?」

 「……順序は大事にって言ってたのは、木乃香じゃ――」

 「ほな秋人さんも脱ごかー。うちが脱がしてあげるえ」

 

 にこにこと上機嫌そうな木乃香の手が動き、秋人の服を脱がせにかかった。フード付きの白いパーカーを脱がし、その下にある黒いシャツも脱がして、無抵抗な彼に向かって赤ん坊をあやすかのような言葉をかけつつ、すぐに下半身を覆うジーンズにも手を伸ばす。

 秋人もまた手を動かして、木乃香の胸を覆っていた下着を取り除き、露わになった小ぶりの胸に触れた。ふにゅりとした柔らかい感触が手の中に納まり、指を動かすと乳房が形を変える。

 木乃香は少しだけ息を荒くし、甘い声を出しながら、ソファに膝をついて秋人の上から退き、彼のジーンズを脱がした。黒い下着の股間部分は、すでに大きく隆起している。

 

 「えへ、おっきなってる」

 「そりゃ、まぁな……木乃香だって、乳首大きくなっ――もがっ」

 「もーややわー秋人さん。そんな恥ずかしいこと言わんといて」

 

 バシッ、と手で秋人の口を塞いだ後、いやんいやんと首を振る木乃香。自分が言うのは平気でも、面と向かって言われるのは恥ずかしいらしい。その照れ隠しの行動で、秋人は窒息しそうになっていたが。

 手を離してから、二人はまたも顔を寄せ、先程のように唇を合わせる。しかし今度は初めから舌を使った愛撫を始めていたのだ。

 小さな水音を発しながら唾液を交換し合い、指でお互いの胸に触れる。特に巧みな動きを見せたのは秋人だった。ツンと立った乳首に指の腹を当て、潰すように強く押したり、二本の指で挟んだりと、休む暇もなく遊んでいる。

 それを受ける木乃香はぴくぴくと体を反応させつつ、尚もキスに没頭しようと舌を深く押し進めた。秋人の口内に、ぬらりとした赤い舌が差しこまれる。

 

 「んんっ、ふむっ、むふぅ」

 「んっ、ふっ」

 

 やさしい力でありながらも荒く動きまわる舌を受ける秋人と、胸を這いまわる手を享受する木乃香。二人はそれぞれの役割をわかっているかのように、息を合わせて動いていた。

 そんな中、秋人の手はゆっくりと木乃香の体を伝って移動していき、スカートとショーツに包まれた尻に到達する。

 木乃香は嬉しそうに身を捩って、それでも口を離さずにそれを受け入れていた。同時に、勃起している秋人の陰茎へと手を触れる。

 その頃になってようやく、二人はキスを中断し、至近距離からお互いの顔を見つめながら口を開く。

 

 「ふわぁ――すごいカチカチやね。もう我慢できへん?」

 「ああ、まぁ――って、あー木乃香さん? いきなり何を――」

 「えへへ、ご奉仕や」

 

 そう語る木乃香はするすると体を下に降ろしていき、ソファから降りて床に座り込むと、秋人の股間に顔を寄せてにこりと笑った。片方の手はやさしい手つきで盛り上がった下着を撫でており、愛らしい顔とは裏腹な淫らな手つきを見せている。

 彼女が言うご奉仕とは、これまでも何度かしたことがある、フェラチオのことだ。

 楽しげに下着をずらしていく木乃香とは対照的に、眉を寄せる秋人はどこか戸惑いがちである。以前は妹のように思っていた少女の痴態を見て、というよりも、大体の場合において彼女がノッている時は全体を通して行為が長くなることを知っているからだろう。今日も一回では満足しそうにない。

 そうこうしている内に、天井を向いてそそり立つ肉棒が解放され、膨れ上がった亀頭にちゅっと口づけが送られる。木乃香はすでにそれを握り、竿を強く扱いている。

 

 「秋人さん、気持ちええ?」

 「あ、ああ。それはいいけどさ、木乃香――あんまり何時間もするのはやめような。その、明日もあるわけだし」

 「大丈夫やって。うちらまだ若いんやから――んっ、むっ」

 「それはまぁそうだけど――うっ」

 

 伸ばされた舌が亀頭に触れ、思わず声が洩れる。さらにちろちろと舌先が動き始めると、与えられる快感はさらに高まっていく。

 木乃香の動きは巧みとは言い難い、まだ発展途上の段階だった。快感を得るには十分だが、そのまま射精をするにはまだ惜しい。

 しかし頭がよく、要領を掴むのが上手い彼女はその技術をどんどん向上させており、初めてやってみた時よりも格段に上達していたのだ。

 舌が陰茎を這いまわる度、秋人は小さな声を洩らして、快感に表情を歪める。木乃香はそれを、幸せそうに見つめていた。

 

 「んっ、ふっ、ちゅ――秋人さん、かわええなぁ。こういう時だけは子供みたいな顔してる」

 「うっ、はぁ――そりゃどうも……」

 「えへへ――ん」

 

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、先端から根元まで丹念に舐められていく。やさしい動きは丁寧で、確かな快感を与えてくるが、同時にじれったいような感覚だけが溜まっていった。

 思わず秋人は歯を食いしばり、呼吸を乱しながら木乃香の頭に手を置いていた。

 すると陰茎のすべてに舌が這わされ、唾液にまみれるようになった頃、木乃香は口を開けて亀頭を銜えこんだ。舌が淫らに絡みつき、頬の裏側が突かれて大きく膨らむ。

 堪らず、秋人は声を震わせた。

 

 「あっ――この、か……それは、やばっ」

 「んんー、んふぅー、んろぉ――」

 

 頬をすぼめて頭を小刻みに振り、淡い快感を与える木乃香は目を閉じていた。行為に集中するためである。

 されている秋人もまた目を閉じ、されるがままを受け止めて荒く呼吸を繰り返すばかり。二人の位置関係もあって、反撃することすらできずにいる。

 口淫は続き、静かな室内に小さな水音だけが響く。

 しかしそれが終わった時、まだ秋人は達しておらず、生殺しのような状態で陰茎を解放された。眉をひそめて辛そうな表情になる秋人とは対照的に、木乃香は片手に陰茎を握りながら笑顔だ。

 

 「はっ、くぅ、はぁ――こ、木乃香……終わりか?」

 「うん。うちもいっしょに気持ちよくなりたいから――秋人さん、お願いできる?」

 「あ、ああ、いいよ――おいで」

 「ん」

 

 ぽすんと広げられた腕の中に飛び込み、服を着ていない二人の胸が合わさった。

 そこから二人の役割は変わり、木乃香はただ秋人の首筋に舌を這わせるばかりで、今度は秋人の手が木乃香の体を這いまわった。

 小ぶりの乳房を撫で、細い腰や腹を伝っていき、まだ制服のスカートに包まれている足元に触れる。成熟しきっていない太ももを撫でながら上に進むと、ショーツを履いたままの小さな尻に到達した。

 動きはひどくゆったりで、焦らすかのような速度だった。やさしい、と表現することもできるが、どうしても物足りなさが消えない動きだ。

 おかげで木乃香はやさしく触れられる度、体を小さく震わせながら感じ、もっと触れられたいと心を揺らす。

 ついにショーツ越しに大事な部分が触られたのは、そんな時だった。

 

 「はぁん! んっ……」

 「濡れてる――もう、辛そうだな」

 「んんっ、そんなん、言わんとってぇ……」

 

 割れ目に沿うように指を動かし、指の腹で撫で、ぎゅっと抱きついてくる木乃香を抱きとめる。そうしている秋人自身も辛い状態だが、焦ることなく愛撫を続ける。本当は今すぐ押し倒したいような衝動を抑えて。

 垂れ落ちるほど液体を吸ったショーツはもはや本来の用途を果たしておらず、これ以上ないほどに濡れている。そこで秋人は両手を使って、木乃香の下半身からショーツだけを抜き取った。秘部はスカートに隠されたままだが、これで直接触れることができる。

 そこに指が触れた途端、くちゅりと音が鳴ったせいで、木乃香は思わず顔を真っ赤にした。秋人の首筋に顔を埋めていたせいでバレていないかもしれないが、少し震えてしまったせいで、彼女をよく知る秋人にはバレているかもしれない。

 秋人の呟きが耳に届く。

 

 「うわ、すごいな――こんなに濡れてる」

 「んんんっ」

 「痛ッ、か、噛むなって。わかった、もう言わないから」

 「んっ、ふっ――」

 

 木乃香が首筋を舐める一方で、彼女の秘所はゆっくりと表面を撫でられていく。触れてほしい場所はすぐに通り過ぎてあまり触れられず、もどかしさがどんどん溜まる。

 早く奥に触れてほしい。指を入れて、感じさせてほしい。言葉にはできないだけで、叫びたいほどの想いが心の中を揺さぶった。

 木乃香の呼吸はどんどん荒くなり、首筋に甘噛みして口を塞いでいなければ、蕩けた声を出しそうなほどだ。

 その時、秋人の指が、木乃香の膣へと挿しこまれる。

 

 「んっ――!」

 

 びくりと背が震え、思わず声が洩れた。しかし先程の強い噛みつきから学習した秋人は何も言わず、焦ることなく奥へ進んでいく。

 自身の体液で濡れているそこはひどく熱くて、押し進む指を絡め取るかのような動きが絶えず行われて、秋人が動かずとも独りでに動いているかのようだった。

 それでも秋人は指を前後させ、すでに準備が整っているそこをほぐし始める。その度に小さな水音が鳴って、沈黙に包まれる部屋の中ではよく聞こえた。

 同時に、木乃香の恥ずかしそうな声も響いている。

 

 「んっ、ふっ、ふぅ――んんんっ」

 「はぁ、木乃香――可愛いよ」

 「んんっ、やぁっ」

 

 さらに強く抱きついてくる木乃香をそのままに、片手は尻を揉みしだき、片手は膣内を弄る動きが続けられる。

 二人共余裕がない中で、しつこいくらいの愛撫だった。そのせいでお互いの気分は際限すらなく高まっていき、やがて二人は視線を合わせて、キスを始める。

 その一方で、木乃香の膣から指が引き抜かれ、代わりに入り口にはグロテスクなほどに肥大した亀頭が当てられた。

 

 「んっ、むぅっ、ふむっ」

 「んっ、ふっ、ふぅっ」

 

 挿入が始められたのは、両者が意思を合わせて動いた結果によるものだ。

 秋人が片手を使って狙いを定めながら腰を上げると同時、木乃香もまた腰を降ろしてそれを受け入れようと動く。言葉もなく、ただ目を合わせただけの行動により、二人の肉体は一つになった。

 ずぶりと入りこむ陰茎が、ゆっくりと肉の壁を押し上げながら奥へと進み、やがて一番奥まで届く。根元まで入れられないのは、体のサイズに違いがあるせいかもしれない。

 しかしそんなこと、二人にとっては些細なものだった。包みこむような熱い膣内はぐねぐねと動き続け、力強く入った亀頭は木乃香の体を内部から支配するかのように、熱を持ったまま凄まじい刺激を与えていく。

 すぐに彼らは快楽の中に埋没していき、ソファに座ったまま正面から抱き合い、そのままの体勢で腰を動かす。

 

 「はぁっ、はぁっ、木乃香、気持ちいい――」

 「うんんっ、あぁっ、んっ、んっ――」

 

 膣の中で陰茎を動かして快楽を貪りながら、秋人の口が木乃香の乳房に触れる。ツンと立ったままの乳首を口内に含み、強く吸いつきながら舌で刺激を与えたのだ。

 

 「んんっ」

 

 木乃香の体はまた大きく跳ね、それに合わせて腰の動きも大きくなる。

 一定のリズムを保って行われる行為は時間をかけて行われ、二人は挿入してからも焦りを見せずに動き、できるだけ長く繋がっていられるようにリズムを崩そうとはしなかった。その一方で秋人は木乃香の胸を弄ったり、尻を掴んだりと動きに変動を見せている。

 二人が繋がってから、どれほど経った後だろうか。

 玉のような汗を掻きながら、絶頂を目前にして尚動き続ける二人はついにリズムを速め、ラストスパートに差しかかる。

 その瞬間に、秋人は木乃香の軽い体をソファへと押し倒し、上からのしかかって突き始めた。されるがままだった木乃香も、大きな声を出しながらそれを受け入れている。

 

 「んあぁっ、んっ、んんっ、ひゃんんっ――」

 「あっ、くぅ、木乃香――」

 「あっ、あっ、あきと、さ――」

 

 舌足らずな声と共によだれが垂れ落ち、木乃香の限界は目の前に差しかかっていた。それに合わせようと考える秋人も必死に動き、彼女の体をすべて感じて、限界へ辿りつこうとしていた。

 二人の息遣いがぴったり重なり、唇が重ねられる。舌を重ねながら、乳房が揉まれ、腰の動きもまたぴったりと合わさっていた。

 そして再びキスが終わった時、限界を告げる秋人の声が囁かれた。

 

 「くぅ、もう、やばい……で、出そう――うわっ」

 

 秋人が限界を告げたその瞬間、木乃香の両足がにゅっと動いて、がっしりと彼の腰を固定した。

 まるで、逃しはしない、と言わんばかりの動きである。

 そのせいで秋人はかなり驚き、思わず木乃香の顔を見て抗議しようとするのだが、その頃には彼女はすでに蕩けた顔を微笑ませながら、彼の唇を奪おうと首に腕を回していた。

 

 「ちょ、木乃香、待っ――んむっ」

 「んっ、ちゅ、ふぅんっ――」

 

 舌が絡まり合い、声すら出せぬ状態でも腰は動き続けており、最後の階段を昇っていく。

 そして二人が息を合わせて限界へ達した時、タイミングを見計らっていた木乃香の両足は秋人の尻をぐっと引きよせ、射精するその瞬間に自分の最奥へと亀頭を押しつけた。

 

 「んんっ、ふっ、んんぅ――!」

 「んんんっ、んんんぅ――はぁぁっ」

 

 結局、吐き出される精液はすべて膣内に納められ、たとえ秋人が抵抗しようと体に力を込めようとも、どくどくと脈動する陰茎が止まるまで結合が解かれることはなかった。

 絶頂後の余韻を楽しみ、同時に体内にある愛しい男の子種を感じる木乃香は幸せそうに微笑み、ぎゅっと抱きしめる秋人を離さず、しつこいくらいに彼の口内に舌を這わせた。

 だが逆に、口を離してもらえない秋人は顔を青ざめさせ、膣内に出してしまっただとか、混乱して呼吸が出来ずに苦しいとか、違う意味での限界を迎えそうになっている。

 二人が唇を離した時、秋人はようやく息が出来たとばかりに荒く呼吸を繰り返し、木乃香は緩んだ頬もそのままに小さな笑い声をこぼしていた。

 

 「ハァ、ハァ……こ、木乃香、おまえ――な、なかに……」

 「はぁぁ、気持ちよかった――これ、すごい気持ちええなぁ。えへへ、秋人さん、これからはずっとこうしよなぁ。気持ちよかったし、なんや幸せな気持ちになれるんやえー」

 「こ、これからって――ず、ずっと?」

 「うん、ずっと――はぁー、もっとはよからやっとけばよかったなぁ。赤ちゃんもできるし、気持ちええし、一石二鳥や」

 

 すっと木乃香の両腕が伸ばされ、また秋人の顔が強く引き寄せられる。直後にはまた二人の唇が触れあい、少しすると軽い音を立てて離れていった。

 間近で見る彼女の笑顔はとても輝いていて、もはや文句を言うことすらはばかれるような姿である。

 これまで長年、それこそ幼少期の頃から待たせ続けてきたという負い目もあって、秋人はそれ以上何も言えず、最終的には自身も微笑みを浮かべて納得することにした。

 確かにまわりから色々と言われ、せっつかれたという事実はあった。しかし彼女を選んで、恋人になり、期待に応えて結婚しようと思ったのは自分の意思なのだ。

 その笑顔を壊してまで伝えるようなことではない。そう思う秋人は自分から体を倒し、木乃香へキスを送った。

 すると彼女はやはり、嬉しそうに笑うのだ。

 

 「えへへ、秋人さん、愛してるえー」

 「あーはいはい、よくわかってるよ」

 「むぅ、秋人さんは? うちのこと、どう思ってるん?」

 「そりゃ――オレも、あ、愛してる、よ」

 「もーなんでここで照れるかなぁ。うちのあそこ触って『濡れてるよ』とかすぐ言えるくせに」

 「うっ、いや、それとこれとはまた別物で――」

 

 汗にまみれた体を重ね合って、べたべたと体をひっつけながら語り合う二人。

 その姿はまさに幸せいっぱいに見えた。

 

 「好きだよ、木乃香。愛してる」

 「えへへ、うちもやえー」

 

 だからこそ二人は仲の良い人、さほど近しくない人、家族以外の人々から言われてしまうのである。

 わりと切実に、リア充爆発しろ、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ある休日のこと。二人は海へやってきていた。

 普段デートなんてあまりしないから、と秋人の方から誘って、ただのんびりとするためだけの小旅行だ。

 とはいえ、季節的にも泳ぐような感じでもない。観光地を巡って、美味しい物を食べて、散歩しながらなんでもない話をする、それだけの時間。しかしその時間を、木乃香はずいぶんと楽しんでいた。

 そして夕暮れが近付き、誰もいない海の傍、岩礁がある場所にやってきた秋人と木乃香は、人目から忍ぶかのように岩陰に隠れ、口づけを交わしていたのである。

 これもまたいつものように、戸惑う秋人を木乃香が誘ったからだった。

 

 「んっ、ちゅ――はっ。今さらだけど木乃香って、よくキスしてくるよな――キス魔?」

 「んー、そうかな? でもええやんか。秋人さんも嫌じゃないやろ?」

 「まぁな。ただ、あれだぞ? 唇が荒れるまでっていうのはさすがに――」

 「気をつけてるから大丈夫――んっ」

 

 この日だけでも何度目かはわからないが、再び木乃香から秋人へキスが送られる。彼もそれを受け止めた。

 いつ誰にバレるのやも知れない場所での口付けである。当然のように秋人は抗議を送り、せめて宿に帰ってから、と諭してみたりもしたのだが、結局は彼女に勝てずにそうしている。

 おまけに木乃香の両腕は怪しげな動作を見せており、これから何が始められるか予想するのも困難ではない。だからこそ秋人は小さなため息をついて、自分の体を這いまわる手を無視して、彼女を抱きしめて頭を撫でながら呟く。

 

 「なんていうか、いつの間にか木乃香もずいぶんエロくなってきた――痛ッ」

 「ややわー秋人さん、女の子にそんなこと言うたらあかんえ」

 「……否定はしないんだな――痛ッ」

 「もーそんなん言わんとって。それを言うたら、秋人さんだってえっちなこと好きやんか」

 「いや……そりゃまぁ、なぁ」

 

 服越しにとはいえ、お互いの体をまさぐりながら、熱烈なキスを野外で繰り返す秋人と木乃香。彼らは服を脱ぐことなく、少しだけずらしながら、お互いに刺激を与えていき、外で行為を始めようとしていた。

 

 「こんなとこでなんて――バレても知らないぞ?」

 「大丈夫やって。ここやったらまわりから見えへんし――ちょっと刺激的で、マンネリ化を防ぐにはちょうどええやんか」

 「……それにしたって、いきなり難易度が高すぎるような――うっ」

 「んふふ、おっきぃ……」

 

 チャックを開けて、間から取り出した肉棒に頬ずりしつつ、そう呟く木乃香の先導によって行為は始められ、二人は一通りをそこで行った。

 外で始めてしまった彼らは、最後まで誰かにバレることなく事を終えることができた。といってもそれはそもそもの旅行先があまり人気のない場所だったことに加えて、木乃香の護衛役として隠れてついてきていた少女が、周囲に“人払いの結界”なるものを作っていたせいでもある。

 もっとも、彼女も他者が近寄らないそこで静かに自分の体に指を這わせ、愛しあう二人の姿を覗き見しながら自慰などしていたのだが。

 

 「あぁっ、お嬢様、秋人さんのものを、あんなに……!」

 

 結局この後、一人で絶頂して呆けているところを発見された少女、刹那もまた二人に連れられて同じ宿に帰り、一夜を三人で過ごしたことによって、愛妻公認の愛人が生まれたとかなんとかという話があるらしいのだが。

 それはまた別の話。

 



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表と裏の主従関係(マジ恋・マルギッテ)

マジ恋です。ただしそれほど詳しく知ってるわけではないため、ほとんどが想像とねつ造です。出来には期待せずお読みください。


 

 川神学園で有名な人物は山のようにいて、数える方がめんどくさかったりする。その中でも特に最近、学園内で注目を浴びているのが、なぜか急激に仲が悪くなった二人についてだ。

 2-Sのマルギッテ、2-Fの秀秋、と言えば今では学園の誰もが理解するだろう。それほどに、現在の二人の関係はひどいものだった。

 廊下でたまたますれ違えば、マルギッテは眼帯をしていない右目をギラリと光らせて秀秋を睨みつけ。秀秋が校庭で友達と武術の稽古をしていれば、どこからともなく現れて乱入したかと思えばイジメなのかと囁かれるほど強く彼を鍛え。2-Sと2-Fがクラス対抗で戦うとなればまず真っ先に争い始める。月日が経つごとに、だんだんと周囲から心配されてしまうほどひどい関係であった。

 よって二人をよく知る者、名前しか知らない者に問わず、学園内では彼らの話で持ちきりだ。なにせ彼らの仲がこれほどまでに悪くなったのは最近のことで、以前はそれほど特別なものではなかった。一体何が原因なのか、マルギッテが人当たりのいい秀秋を嫌う理由はなんだ、と不思議に思うのは当然のことである。

 しかし、その理由を知る者は誰一人としていない。マルギッテが全幅の信頼を置くクリスという少女も、秀秋が仲良くしている風間ファミリーの面々も、誰も。

 当人である二人を除いて、二人の奇妙な関係の全貌を知る者は一人として存在しなかった。

 

 「踏み込みが甘い! 体の軸をぶらすな! 狙いが逸れてるぞッ!」

 「は、はいっ」

 

 学校ではそんな会話ばかりを行い、鬼教師とひ弱な弟子のような関係にある二人にも、実は誰も知らない裏の顔がある。

 それが表に出てくるのは今日も同じ、二人がこっそり同居している小さな一軒家で、二人きりになった時だけだ。

 

 「秀秋――き、今日のことはすまなかった。その、ちょっと強めに手を叩いてしまったし……お、怒っていないか?」

 

 学校では堅物で知られるマルギッテは、秘かに付き合っている恋人、秀秋と二人きりになると、急に借りてきた猫のように大人しくなってしまうという一面を持っていた。強烈すぎる照れ隠しが剥がれたその瞬間の、ずっといっしょにいるクリスですら知らない顔は秀秋しか見たことがない。

 今日もまた、照れ隠しとはいえ秀秋に対してひどい態度を取ってしまったこと、武術の訓練とはいえ彼に強く攻撃を加えてしまったこと、あとは他の女生徒と話している姿に嫉妬して、いきなり怒鳴りかかってしまったことを悔いている。そうした光景が日常的になっているため、二人は仲が悪いなどと噂が立ったりもするのだ。

 しかし当人たちからすれば、それは単なる激しいだけの照れ隠しだとわかっている状態。秀秋にしても、そこまで大問題として取り扱うような事柄ではない。

 ただ、実際に秀秋へ掴みかかっているマルギッテからすれば、それらの自分の行動は「ひょっとしたら捨てられるのではないか?」と不安に思わざるを得ない行動であると理解している。せっかく出会えた、かけがえの無い存在となった異性。大事に思うからこそ想いが暴走し、器用に振る舞えない彼女は苦心している。

 いつものように、眼帯で隠していない方の目に涙を溜めるマルギッテは、学校で見せていた威光も捨て去ってしゅんと肩を落としている。軍人であるはずの彼女とは思えない、少女のような落胆の表情。

 それを見せられて平静でいられるほど、秀秋という男は冷酷ではない。マルギッテのことをよく理解している彼はすぐさま口を開き、落ち込んでいる彼女の肩に手を乗せた。

 

 「だ、大丈夫だよマルさん。僕は怒ってないし、嫌いになってもいない。いつも通り、マルさんのことが好きだよ」

 「う、しかしまだマルさんと――いつものように呼んでくれないではないか。やっぱり、私のように可愛げのない女に愛想を尽かして――」

 「ああもうっ、そうじゃなくて……僕は本当に、心から、マルギッテのこと大好きだよ。愛してる」

 

 なんとか視線から逃れようと顔を背けるマルギッテの頬に両手を添えて、自分の方に顔を向けさせ、熱っぽく語る秀秋。告白されて付き合うことになったが彼だが、彼女を選んで恋人になったのは事実なのだ。どうすれば元気づけられるのか、こういう状況でどんな言葉をかければ喜ぶのか、ちゃんと理解している。

 そこで秀秋は嘘偽りなく、彼女が好きだと全力で伝える。言葉で、目で、頬に触れる手のぬくもりなんかでも。

 じっと視線を外すことなくそうし続けて、約二分ほど沈黙した後。顔を真っ赤にしたマルギッテがようやく落ち着いたところで、二人の距離は少しだけ離れる。二人の家の中、肩を並べてソファに座った状態だ。

 しかし、離れたのも束の間、すぐに興奮した様子のマルギッテが秀秋に抱きつき、二人の頬がぴたりと合わさって頬ずりが始められる。見た目は猫がそうするかのような仕草だが、軍服を着て片目を眼帯で隠しているマルギッテがそうしていれば、まるで気高い女豹が捕獲した獲物にじゃれついているかのように見える。

 二人は抱き合い、互いの体温や肉体の感触を確かめながら、しばらくソファの上でじっとしていた。嬉しそうに赤い髪を振るマルギッテは幸せそうに目を細めて、彼女を抱きとめる秀秋も苦笑しながらも嬉しそうだ。

 学校では厳しい軍人。二人きりなら甘ったるいほどにデレデレな恋人。最初は戸惑うことが多かった秀秋も、今では心から彼女を好んでいる。

 さらりと揺れる長い髪を撫でて甘やかしながら、秀秋は愛情表現に不器用なマルギッテを拒否することなく愛していたのだ。

 

 「うぅ、秀秋、愛してる――お願いだから、私を離さないでくれ」

 「ああ、わかってるよ。絶対、手放さないから。安心してよ、マルギッテ」

 「はぁっ――秀秋、もっと、もっと名前を呼んでくれ……」

 

 ちゅっと彼の首筋に唇を押しあてながら、うっとりとした声色でマルギッテはうわごとのように呟く。熱に侵されて正気を失ったかのように、何度も何度も彼の首筋に吸いつきながら。

 それに付き合って、秀秋は何度も彼女の名を小さく呟く。彼女にだけ届けばいいと、声量は小さく、思いやりだけを込めて。すると彼女は嬉しそうに身を捩り、抱きつく腕に力を込めながら繰り返しキスを送る。

 しばらくは首筋に顔を埋めていたマルギッテだったが、感情が抑えられなくなった頃に狙いを変え、秀秋の唇へと己の唇を押しつける。柔らかく健康的な色を持つそれはむっちりとやさしく押しあてられ、相手の感触を楽しむように身勝手に動いた。

 舌も使わず、唇だけを触れさせる軽いキス。繰り返し何度もちゅっと当てられ、あまりの熱心さに秀秋は思わず小さく微笑み、マルギッテはむっと唇を尖らせてさらに強く唇を押しつけた。

 今度は秀秋からも動きを見せ、ちろりと舌を伸ばして彼女の唇へ触れる。すると途端にマルギッテはびくりと大きく震え、しかし逃げようとはせずにそこで動きを止める。

 秀秋の舌がねっとりとマルギッテの唇の上を這って進む度、彼女の体は小さく震え、縋りつくように彼の服をぎゅっと掴む。眼帯をしていない方の目をぎゅっと閉じて、喜びに震えながらも彼にすべてを任せるような態度だ。

 ぺろぺろと唇だけに触れる動きはマルギッテの抗議が入るまで続けられ、自分から顔を離したマルギッテは顔を真っ赤にしながら瞳を潤ませ、睨むような目つきで秀秋の顔を見上げた。といっても午前中に学校で見せた睨みより、よっぽど可愛らしい目つきである。

 

 「うぅ、ひどいぞ秀秋。わ、私がして欲しいことをわかってるくせに、いつまでも焦らそうとして……」

 「だってほら、マルギッテはこういう方が好きじゃないか。もう興奮してるんでしょ? 顔赤いし、涙目だよ」

 「う、うるさいっ。そ、そんなわけがないだろう、私は全然――」

 

 マルギッテがそう言っている途中で、秀秋は突然両手で彼女の胸を鷲掴みにした。生地の厚い軍服の上からではあったが、大ぶりの乳房はとても柔らかく、彼の手の中でふにゅりと潰れる。

 するとあまりにも突然の事態に、マルギッテはまたびくんと大きく体を跳ねさせ、しかしいつもなら出るはずの反撃も出ず、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。まるで借りてきた猫のような大人しさだった。

 この態度を見越していて、さらに調子に乗った秀秋の手は自由気ままに彼女の胸を揉みしだいていく。手を動かす度に乳房はぐにゃりと形を変えて、秀秋は楽しげに微笑む。

 それでもマルギッテの抵抗はなく、彼女は秀秋の胸に手を置いたまま、されるがままとなっていた。

 すでに交際して少し経つ。秀秋はよくマルギッテのことを理解している。なぜマルギッテが抵抗しないのか、その理由はすでに判明しているのだ。

 秘密、というほどでもないが、理由は性的嗜好にある。人前で見せる彼女の姿は非常に力強いものだが、秀秋と二人きりになった時、マルギッテはマゾヒストの姿を露わにし始めるのであった。

 

 「うんんっ、ひ、秀秋……そんなに、揉むなぁ……!」

 

 その証明となるように、彼女はそう言いながらもまるで秀秋を押しのけなかった。正面から向かい合えば十中八九勝てる相手に、自分の体を好きにさせているのである。

 しかし、その嫌がっているような態度こそ、マルギッテの根底を表している。本当の気持ちとしては恋人に触れられるのは嬉しいのだが、嫌がっている風にすればするほど、その気持ちがさらに高ぶっていくらしい。

 だからこそマルギッテはいつも秀秋に触れられると、態度では無理なことがわかっているだけに言葉だけでも嫌がろうとする。その方が気持ちよくなれると知っているからだ。

 今も嫌がるような言葉ばかり吐いているのは、恋人の手によってさらに気持ちよくなろうとしているからだった。

 

 「はぁぁっ、こらぁ、も、揉み過ぎだ……い、いい加減に……!」

 「あ、うん。ごめん、ちょっと夢中になってた。マルギッテの胸気持ちよかったから」

 「なっ――ば、バカなことを言うな。そ、そんなはず、あるわけないだろう……」

 「いやいや、ほんとだよ。僕はマルギッテじゃなきゃだめだから」

 「……そ、そうか」

 

 服を脱がせる一方で、秀秋はすでに慣れてしまった歯の浮く様なセリフを吐く。自分は女らしくない、とどこかのタイミングで急に落ち込んでしまうマルギッテを気遣うためだ。

 普段は強気な態度でいるのに、秀秋の前では急激に自信を失くして落ち込んでしまうのが彼女の特徴だと挙げられる。二人きりのタイミングにしか見れないという点では信頼されているようにも感じるが、落ち込ませないためにははっきりと恥ずかしいと思う言葉も伝えなければならなかったのだ。

 おかげでマルギッテの扱いには人一倍の技術があると自負する彼は、慣れた様子でマルギッテの服を脱がせていき、抵抗しない彼女をあっという間に下着姿にしてしまう。しかしそれも、すぐに取り去られた。

 丸裸になったマルギッテを膝の上に乗せた秀秋は、するすると手を伸ばして胸や尻へ触れていく。柔らかくも張りがあるそこへ力を込めて指を埋め、形を変えるほどにぐにぐにと揉む。その仕草も非常に手慣れたものだった。

 マルギッテはじれったいような、気持ちいい様な微妙な感覚の中で身を捩る。だが触れられることに嫌悪感は皆無のようで、むしろもっと強く触れと言わんばかりに体を押しつける様子すらある。

 それに応じて秀秋は、マルギッテの望むままに手を動かしていった。肌の上を這うように移動して、左手は乳房から乳首の上へ移動し、右手は尻の間を通って秘所の表面を撫でつけた。

 途端に彼女の体は跳ねるように悦び、思わずといった様子で声が洩れる。その瞬間にマルギッテは自らの手で口を塞ぎ、声を出すことを恥ずかしがるようにぐっと押さえた。

 くすくすと、秀秋が小さく笑う。

 

 「我慢しなくてもいいのに」

 「が、我慢などしていない。普通だ、私は――あっ、んんっ」

 「ほら、気持ちよさそうだったよ」

 「う、うるさ――あっ、あっ、あぁっ」

 

 反論しようとする一瞬の隙を突いて、秀秋の指が一本、マルギッテの膣内へずるりと滑りこむ。すでにしっとりと濡れていただけに、痛みもつっかえることもなく挿入が終わった。

 暖かく柔らかい、しかしぎゅっと締めつけてくるようでもある膣を指で感じると、楽しげな秀秋はゆっくりとそれを出しいれさせ始めた。とても小さなくちゅくちゅという水音が、静寂に包まれた室内ではよく聞こえる。

 さらにこの時、秀秋はマルギッテの胸に顔を寄せて、手で触れていない方の乳首に吸いついていた。大口を開けて乳房に吸いつき、口内に入った乳首を舌で転がして遊んでいる。

 これにはさすがのマルギッテも我慢ができないらしく、身を捩ったり、秀秋の頭を胸に抱きしめたり、なんとか声を洩らさないようにと他のことに注意を向けるがうまくいかない。甘い喘ぎ声は混じりけもなく秀秋の耳に届いていた。

 

 「あっ、んっ、んっ、やぁっ――」

 「んっ、ぢゅるっ、はっ――おいしいよ、マルギッテ」

 「んんっ、やぁっ、変なことを言うな……! あ、頭が、おかしく――はぁぁっ」

 

 秀秋の声を聞く度に、言葉を一つ聞かされる度、マルギッテの膣内は嬉しそうにうねりを見せていた。彼の指がしっかりとそれを感じている。

 口ではなんだかんだと言いつつも、体の方は正直すぎるほどに正直なのだ。だから秀秋の責めも楽しそうなものになり、できるだけ彼女を焦らしてやりたいという気持ちにもなる。

 それを喜ぶことも知っているだけに、今日も秀秋の愛撫は非常にゆったりとした動きで、あまりにも長い時間をかけられて行われた。体勢を変えることもなく、五分が経ち、十分が経っても秀秋は彼女を解放しない。しかも膣に入りこむ指の数は変わらず、激しさもないまま、胸への刺激も淡いままだった。

 そのせいでマルギッテの精神は見る見るうちに揺さぶられ、素直にならなければもっと強くしてもらえないと考えるまで同じ責めが続けられる。それでも、勝負に負けることが嫌いな彼女は必死に恋人からの責めに耐え、顔を真っ赤にしながら犬のように舌を伸ばして息を荒くしていても、自分の負けを認めようとはしていなかった。

 もっともその態度や表情は負けを認めているのと同義であるのだが。

 

 「はぁっ、あぁっ――ひ、秀秋、いい加減もう……」

 「我慢できない?」

 「ば、バカめっ。我慢できないのは、おまえの方だろう……」

 

 鼻息を荒くしたマルギッテは秀秋の唇を塞ぎ、それ以上を言わせないようにしながら身を捩る。

 一方の秀秋はますます手の力を加え、強く彼女の体へ触れていく。しかし嫌がるどころか、マルギッテはそれで嬉しそうな態度を見せた。

 しかしやはり我慢できなかったらしく、自分から秀秋の姿を解放した彼女は一度彼から離れ、脱ぎ捨てた自分の服からある物を手にしてすぐに元の体勢に戻る。その際、秀秋の手に渡されたのは使い古された様子の首輪であった。

 

 「秀秋……その、いつものように……」

 「うん、わかった――貸して。つけてあげるよ」

 

 そう言って秀秋は当たり前のようにその首輪を手に取り、マルギッテの首に装着しようと手を伸ばす。するとそれが当然とばかりにマルギッテはそっと目を閉じた。

 カチャカチャと音が鳴り、手慣れた様子で首輪が巻かれる。着用する動作が終わると、マルギッテは嬉しそうな、安心したような表情でほっと息を吐いた。

 二人が体を重ねる時、必ずと言っていいほどこうしてマルギッテの首には専用の首輪が巻かれる。これは彼女が望んだ行為、秀秋の所有物でありたいという気持ちを体現するための行動だった。

 今日もそうして、肉体的にも精神的にも秀秋の所有物となったマルギッテは淫らに舌を伸ばし、改めて彼の唇に触れる。恥じらっていた先程とは違って、スイッチが入ったかのような淫靡さで口内を舐めまわしていった。

 

 「んんぅ、ふぅっ――秀秋、秀秋っ」

 

 やさしいようで乱暴に、自分勝手でありながらさほど力は込められず。マルギッテは彼を傷つけないようにという配慮を残しながら、彼の意思を無視して一方的に舌で責める。

 一方の秀秋は口内をされるがままに舐められつつ、両手でマルギッテの体に愛撫を施す。尻を撫でる一方で、さらにその奥へ入り込んだ指が膣の入り口を撫でている。非常に弱く、いまだに焦らされるような感覚。

 ほとんど半狂乱となっているマルギッテはもはやプライドも何もかも捨て去り、髪を振り乱しながら懇願を始めた。赤い長髪がふわりと宙を舞うと同時、ジャラリと首輪から伸びる短い鎖が音を立て、甘くも鼻をつくような香りが辺りへ広がる。

 

 「ひで、あきっ……お願いだっ。もう、もう入れてくれ……こ、これ以上、焦らさないでっ……!」

 「そう? じゃあ――今日も僕の勝ちってことでいい?」

 「い、いいっ。私の負けだから……は、はやく、はやくいつもみたいに抱きしめてくれ……!」

 「うん、わかった」

 

 そう言ってようやく、秀秋は膝の上に座らせていたマルギッテをソファの上に寝かせ、開かれた股の間に場所を陣取った。それだけで勃起した陰茎がぴとりとマルギッテの膣に触れる。

 途端に彼女の呼吸はさらに乱され、激しく息を吐きながら口元は歪んでいる。嬉しそうで、快楽に染められた表情。それは理性を忘れているかのようにも見えた。

 しかしマルギッテにとってはいつものことだ。今日も淫らに我を忘れたマルギッテに気を良くした秀秋は、にこりと微笑むとゆっくりと腰を前に進める。

 瞳を見つめられながらのやさしい挿入は、息を乱すマルギッテを絶頂へ導くには十分すぎる要素を持っていた。亀頭がゆっくりと奥へ進み、やさしげな顔には似つかわしくない巨大なそれが子宮の入り口をコツンと叩くと、マルギッテは背筋を逸らして舌を伸ばした。

 膣の内部が強く締め上がり、痛いほどに秀秋の肉棒を掴む。しばらくの間はびくびくと振動が止まらず、彼女がどこかへ気をやっていたのは非常にわかりやすかった。

 だがこの時、自らも我慢が利かなくなっていた秀秋は首輪から伸びる鎖を掴んで、腰を前後に動かし始める。空いた片手はぶるんと揺れる大きな乳房を掴んでおり、まるで力ずくで犯すような姿でマルギッテの膣を突く。

 するとイキ続けていたマルギッテは甘い声を洩らして背を丸め、どこへともなく腕を伸ばしながら与えられる快感を受け取っていた。

 

 「あぁっ、はぁっ、あぁぁっ! んんっ、んぐっ、ひで、あきぃ……!」

 

 ぎゅっと目を閉じて、されるがままに喘ぐマルギッテ。鎖をぐいっと引っ張られる度、膣内がきゅっと締まりを良くして、声に混じる甘さが明確に大きくなる。

 秀秋の動きは見る見るうちに速くなっていった。彼もまた目を閉じて陰茎を包む快感に集中し、両手に力を込めながら一心不乱となっている。

 ソファにはどんどんマルギッテの体液がシミを作っていき、その動きに連動して小さな水音と肉がぶつかる音とが鳴る。

 音は徐々に激しさを増していき、もはや二人の限界は近いかと思われた。しかし、もう少しで秀秋がイケそうだという瞬間、またしてもマルギッテの膣がぎゅうっと締めつけを増す。

 彼女一人だけが、先に絶頂を感じていたのだ。

 

 「んんんっ、あはぁぁっ、イクぅっ……!」

 

 秀秋の両腕を掴みながら、びくんと何度も体を跳ねさせたマルギッテは激しい絶頂を感じ、再度背を逸らした。まだ秀秋がイッていないというのにである。

 何度も強く肉棒を締めつける膣がようやく落ち着いた頃、弱弱しく呼吸を繰り返すマルギッテの顔を見つめる秀秋は、右手で握った鎖を強く引っ張った。それにつられて首輪が引っ張られ、緩んでいた彼女の表情が苦しげに歪む。

 行為が終わったわけではない。まだ秀秋は絶頂を感じていないのだ。そのため、彼は普段の大人しさも押し殺してマルギッテの首輪を引っ張り、乱暴に腰を振る。

 まるで本当に女を犯しているような様子であった。ただし、すでに愛する秀秋には自身がマゾヒストであることを告白しているマルギッテにとって、この瞬間はむしろご褒美に近いものだったが。

 

 「あぁぁっ、いいぃっ! だ、めっ――むり、もうむりぃっ!」

 「はっ、はっ、何言ってるんだマルギッテ、僕はまだイッてないんだぞ――いつも言ってるだろ。僕がイク前に勝手にイクな、このバカ犬っ」

 「ひぃぃっ! しぬぅ、頭が、おかしくなるぅっ……!」

 「おかしくなれっ! 僕に犯されて、イキまくれ、マルギッテっ!」

 

 非常に乱暴な様子で行われる激しい性交は、休まることもなく数分間続けられ、やがて二人は限界へ到達する。今度こそ二人同時に、どちらかだけが残されるようなこともなく。

 秀秋は我慢し続けていた射精をついに行い、入りこんだマルギッテの膣内を白く汚す。マルギッテはその熱や感触を感じて、ぶるりと大きく体を震わせた。

 悲鳴のような嬌声は確かに甘さが混じっていて、呼吸を合わせた絶頂は見事なまでにぴったりと重なって始まり、ぴったり同時に終わった。

 呼吸を乱した二人はしばらく相手を気遣うことすらできず、ただ荒く息を吐くばかり。目はどこか虚ろで、疲労感が周囲にまで伝わる様子だ。

 しかしある時、突然動き出した秀秋はマルギッテの膣から萎えた陰茎を抜きだすと、様々な体液で濡れた巨大なそれを彼女の口元へ突き付ける。栓を失くした膣からごぽりと精液が溢れだす一方、かすかに開いた厚い唇にはグロテスクにも見える亀頭が触れる。そこからもまだ、少量の精液が垂れていた。

 鎖を引っ張って彼女に頭を上げさせた秀秋は、興奮した面持ちで冷たい声を放ち、じっとマルギッテを見つめたまま呟く。

 

 「マルギッテ、舐めろ。きれいにするんだ――おまえの役目だろ?」

 「ハァ、んっ……はい。わかり、ました」

 

 吐息混じりにそう返すマルギッテが即座に口を大きく開き、自らの口内へと迎え入れる。途端にきれいにしようと舌が動き始めていた。

 鎖を引かれ、首輪のせいで無理やりやらされているような姿で。幸せそうなマルギッテはぴちゃぴちゃと丁寧に彼の陰茎を清めていく。自らの膣から分泌された体液を舐めとり、尿道に残っていた精液を飲み干す。まさに、至福の表情とはこのことだろう。

 満足そうに目を細める秀秋は十分に陰茎をしゃぶらせ、再びガチガチにそそり立ったことを確認すると、わざと冷たい声を出してマルギッテに命令する。これも彼女本人から言われた、彼女を喜ばせるための態度なのである。

 ぐいっと鎖を引くのも、肉棒を口から抜く前に一度、腰を降ろして彼女の喉の奥を突いたのも、すべては愛する恋人のためを思ってのことである。

 

 「よし、じゃあ次は後ろから突くぞ。尻をこっちに向けろ」

 「は、はい、ご主人様……どうぞ、私の体で、いっぱい気持ちよくなってください……」

 

 うっとりと目を細め、完全にスイッチが入ったマルギッテは普段以上の美しさで微笑む。裸であるせいでその姿はとても淫靡なのだが、どこかで気だかさや気品さが感じられる姿でもある。

 自分の恋人の姿にますます見惚れる秀秋はさらに陰茎を固くして、ソファに手をついて尻を突き出す彼女へ覆いかぶさった。鎖を引っ張って息苦しさを感じさせることも、忘れない。

 彼らだけの楽しみ方で、二人は二人っきりの時間を心行くまで楽しんだ。次の朝、学校に到着してしまえばまた、赤の他人を演じなければならないからである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「こらっ、また女にでれでれしてばかりで修練もせず……貴様は何をやっているんだッ!」

 「ええっ!? いや、ただ話してただけで、別にでれでれなんて――」

 「問答無用だッ! 来い、おまえの軟弱な精神を一から鍛え直してやるッ!」

 

 次の日、やはり二人の関係はいつもと変わらず、激しい照れ隠しによって秀秋が一方的にキレられる光景に変化が起こることもなかった。周囲にいた人間も「また始まったか」程度の認識で、さほど気にした様子もない。これが二人の日常だからだ。

 しかしこの日はいつもと少し違って、本来なら校庭に出て目を疑うほど激しい訓練を開始する二人はなぜかどこかへ姿を消し、日常の喧嘩風景を見られることはできなかった。

 これにより、一般生徒の多くは顔を真っ青にして想いを一つにしていた。ついにマルギッテは、本気で秀秋を殺る気だ、と。

 だが、確かにこの日のマルギッテは決意していたが、その内容は生徒の誰しもが思うそれではなかった。素直に怯える秀秋を連れていった彼女が向かったのは、入念なリサーチを終えて滅多に人が近付かないと判明した体育倉庫の中。

 そこで自ら首輪をつけたマルギッテは軍服をはだけさせ、驚いた様子の秀秋をマットに押し倒し、片手で陰茎を揉むと共にねっとりと舌を絡めさせていた。

 以前から考えていたことだ。学校でどうしても秀秋に抱かれたくなった時、どうすればいいのか。これまでは彼に訓練をつけるという名目で無理やり同行させていたが、これ以上生傷をつけるのは嫌だった。

 そんなマルギッテが考え出したのは、誰にも見つからない場所で、学校の中で秀秋に抱かれることである。そして慎重に慎重を重ね、情報収集を終えた今、彼女はようやく二人の愛の巣を見つけることができた。

 ねっとりと舌全体を絡め、見る見るうちに勃起していく陰茎を握りながら、嫉妬に燃える彼女の瞳は非難するような色を灯して秀秋を見ている。どうしてそんな視線を送られるのか、理由がわかっているだけに秀秋も抵抗しようとはしない。

 見た目とは打って変わって、ただ女友達と話しているというだけで激しく嫉妬する少女のような性格のことは、すでによく理解できている。だからこそ、彼もそんなマルギッテに応えようと手を動かし始めていたのだ。

 

 「――ぷはっ。マルさん、その……いいの? 学校だから、バレる可能性もあるけど……」

 「はぁ、ふぅ、し、心配はいらない。ここには滅多に人が来ないから――それより、またマルさんと……」

 「あ、ご、ごめん。でも、あんまり激しいのはだめだよ? マルさ――マルギッテは声が大きいから、バレるかもしれないし」

 「で、では口でさせてくれ。それなら声も出ないだろうし、その……お、おまえのことを、気持ちよくしたいんだ」

 「う、うん」

 

 秀秋を壁に押し付けたまま、膝立ちになったマルギッテは彼のズボンを降ろし、すでに勃起している陰茎を目の前にする。うっとりと目を細め、舌を伸ばしてちろりと触れる。

 それだけで秀秋は表情を変えて感じ始める。先端をやさしく舐められているだけで気持ちよく、なお且つ学校にいる間にそうした行為をしていると考えると、マルギッテでなくとも興奮は高まっていった。

 亀頭の形を確かめるように舌を這わせて、竿の部分へ舌を絡め、玉に至るまで離すことはない。心からの愛情を伝えるような丹念な奉仕に、秀秋の膝は徐々に笑い始めている。

 一方的な、しかし愛情を込められた愛撫が続くと、秀秋の顔は赤らみ、どんどん快感を高めていった。

 

 「うぅ、マルさ――マルギッテ、やばいって。今、服着たままだし、このまま出しちゃったら……」

 「んっ、ふっ――構わない。私がすべて飲む。だから秀秋は気にせず、楽にして気持ちよくなってくれ――ただし」

 

 片手で陰茎を扱きながら、亀頭へ舌を這わすマルギッテの目がぎろりと光る。見上げる視線はどこか睨むようで、やはり先程の嫉妬が消えていないようだ。

 他の女にうつつを抜かさないようにと釘を刺しつつ、陰茎の傍で噛み合わせた歯で音を鳴らして、マルギッテは小さく言った。

 

 「秀秋を気持ちよくできるのは私だけだ。さっきの女や、他の女にこんなことさせるなよ――いいな?」

 「は、はい……気をつけます、マルさん……」

 「む、またマルさんと……いつものように呼んでくれ。ちゃんと、やさしくするから――」

 

 そう言って再び舌を這わせ始めたマルギッテにほっとしつつ、また秀秋は感じ始める。歯を鳴らされた時は噛みちぎられるかとひやひやしたのだ。それだけに、彼の心には先程の言葉が深く刻まれたであろう。

 ちゅぷちゅぷと唾液が水音を発して、容易に亀頭を銜えこんだマルギッテが頭を振る。歯を当てないように気を付けて、やさしくじんわりと快感を与えるように。

 力の強弱を次々に変えながら、彼の陰茎を舐めていく。先端から根元、玉に至るまで、丹念に舌を這わせる。

 そうしていると秀秋はあっさりと限界に達し、彼女に一声かけてから射精を開始した。するとマルギッテは即座に口をすぼめて吐き出された精液を受け取り、すべてを飲み干そうと喉を鳴らす。嬉しそうで幸せそうな、満足した様子の表情だ。

 射精によって出てきた精液をすべて腹の中へ納めた後、マルギッテは少量のそれを口内に残しておいて口を開け、秀秋に見せつけるように舌を動かす。そうした後で、またわざとらしく喉を動かした。

 呆けた様子で荒く呼吸を繰り返す秀秋はその様子をじっと見つめ、萎えた陰茎も晒したまま立ちつくしている。マルギッテはすぐにその陰茎を清めようとまた口内へ迎え入れた。

 そのまままどろむような時間が流れ、体育倉庫の中には静寂が広がる。小さな水音だけが、耳の中に入りこむような状況だった。

 

 「ま、マルギッテ……その、ひょっとして、こういうの毎日しようと思ってる?」

 「ん? いけないのか?」

 「いや、でも、バレる可能性が、さ……ほら、マルギッテの恥ずかしい姿は僕以外に見せてほしくないし、その、見つかったら恥ずかしいどころじゃなくて退学とか――」

 「心配はいらない。バレなければいいのだ。秀秋のことは、私がずっと守り抜くぞ――んっ」

 

 恐る恐るといった様子で秀秋が尋ねると、マルギッテはそれが当然だと言わんばかりの態度で呟いた。せっかく見つけた隠れ場所だ、これからも継続して使用する気満々なのだろう。

 家でしかできなかったあんなプレイやこんなプレイを、学校というシチュエーションの中でバレることもなく存分に楽しむことができる。これまで学校にいる間は溢れ出る性欲を我慢し続けていた彼女にとって、これほど幸せなことはないのである。

 不安そうな秀秋とは裏腹に、楽しげなマルギッテは肉棒を口内で転がしながら微笑む。眼帯をしていない方の目元はやさしげに緩み、慈愛が溢れるお姉さんといった風情に見える。

 だが、秀秋の目から見れば、今の彼女は淫魔のそれにも近い。普段は頼まれたせいで奴隷のような扱いをしていても、中々に自己主張をしてくるのだから本物の奴隷に扱えるはずもない。尻に敷かれているのは間違いなく、マルギッテではなく秀秋の方だ。

 ハァ、とため息をこぼし、秀秋が俯いたその時。またも完全に勃起した肉棒をマルギッテが口の中へ入れている時でもあった。

 突如として、遠くの方からドタドタと大きな足音が聞こえてきていた。それも、まっすぐに体育倉庫へ向かってくるのである。

 一度目の射精の後で、気だるげな雰囲気の二人が反応する間もなく、あっさりと体育倉庫へ到達した足音は止まることなくその扉を蹴り破っていた。

 

 「秀秋ッ! 大丈夫か、マルさんに殺されてない――は?」

 「……え?」

 

 叫びながら入って来たのは秀秋の友人たち。男女入り混じった集団で、いわゆる「風間ファミリー」と呼ばれる生徒たちであった。

 友人の危機に際し、勇んだ様子で助けようと現れた少年少女たちの目の前に広がっていたのは、予想できるはずもなかった光景。壁に背を預けて立つ秀秋がズボンと下着を足首まで降ろし、勃起した陰茎を晒して、それをマルギッテが口の中に頬張っている。なんとも淫靡で、仲が悪いはずの二人とは思えない姿だ。

 その姿を見て、倉庫内に駆けこんできた少年少女たちは顔を赤らめて混乱し始め、誰もが言葉を失って直立不動となってしまう。しかしそれは件の二人も同じことで、状況を理解できていない二人は微動だにすることもできない。マルギッテはいまだに口内に亀頭を含んだまま、その場に現れた集団を見つめている。

 中でも、特に狼狽していたのは顔を真っ赤に染めながらも気丈に一歩前に出てきた、金髪の少女だ。名をクリスという彼女はマルギッテを護衛としているお嬢様で、彼女との仲も深い。それだけにこの状況は衝撃的すぎたらしく、赤すぎる顔は今にも煙を吹きそうなほどに沸騰しているらしい。

 わなわなといきり立ったままの肉棒を指さし、非常に恥ずかしげなクリスはとても小さな声を洩らした。

 

 「ま、まま、ままま、マルさん……こ、ここ、これは一体……?」

 「い、いえ、あの、これは……!? こ、この軟弱者を鍛えるために仕方なく――あ、その、というわけでもないのですが、え、えっと……!」

 

 クリスの一言によってようやく時間が流れだし、場は変化を見せ始めた。

 凄まじい緊張状態を打ち破った張本人、クリスはそう言った後ふらりと体を揺らし、ゆで上がったタコのように顔を真っ赤にして卒倒してしまったのである。これに驚いたマルギッテはすぐさま彼女の元へ駆け寄り、下半身を晒したままの秀秋をそのままにクリスの介抱を始めてしまう。

 これにより仲間を失った秀秋は、仲のいい男連中に取り囲まれて洗いざらい吐かされることとなり、ようやく秀秋とマルギッテとの交際は学校全体に知れ渡ることとなったのである。

 結論から言えば、二人の仲は祝福された。仲が悪いと思われていただけに、真実が知れ渡ると誤解が解けたらしく、二人が自然体で学校生活を送れるようになったのもさほど時間がかかってのことではない。

 ただし、真実が知れ渡った以降。今までは押し殺していた嫉妬心を少しも隠そうとはしなくなったマルギッテは終始秀秋を離さず、彼に話しかける女生徒がいれば即座に牙を剥いたりするようになってしまうのだが、少なくとも当人同士はこれまで以上に幸せそうだったらしい。

 



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英霊に好かれる男(Fate/stay night・セイバー)

Fateのstay nightです。ただしシリアスなんてものは存在せず、ふざけた上にふざけたような作品です。サーヴァントの女体化あり。
ただ一つ重要なのは、作者はジョージの声がするネコ的な生物に惚れてしまったためにこれを書いたということ。
そのネコとオリ主が存在してしまったために、原作のシリアスがぶち殺されてしまったのです。


 その男は人間として、魔術師として、誰にも真似できないような才能を持っていた。

 アベレージ・ワンに届くはずもなく、贋作の剣を投影する固有結界を持つわけでもなく、どころか基礎性能ですら並にもなれない、魔術師としては完全なポンコツ。もう目も当てられないほどに何もできない人間である。

 しかし人間には誰しも一つは才能というものがあるようで、彼の場合それはかなり特殊すぎたが、確かに自分だけの力があった。それは、常識を軽んじる膨大な魔力と、なぜかは知らないがサーヴァントという特殊な存在に愛されて仕方ないということにある。

 そのせいで現在、本来ならば五度目となる聖杯戦争が始まり、奇跡の遺物をめぐる戦いが繰り広げられようとしたその期間を、ひどく混沌とした状況に変える程度の力は持っていたのだ。

 剣の英霊に会えば、まず一言目に「私の妻になってください」と求愛され、それからは男なのに「妻」として扱われ。

 槍の英霊に会えば、やけに親しげな態度で「俺の苦労をわかってくれんのはおまえだけだよ、相棒」と告げられ、出会った瞬間から「親友」として見られ。

 弓の英霊に会えば、まるで弟を見るかのような目で見つめられて「まったく、君は本当に目が離せない男だな」と、妙に生き生きと「弟」として世話を焼かれ。

 騎乗の英霊に会えば、メガネの奥にある目をぎゅぴーんと光らせながら「……かわいい」と言われ、姿を見せた瞬間には「獲物」として追われ。

 魔術師の英霊に会えば、やさしい微笑みと共に「あなた、うちの養子にならない?」と誘われ、全く望んでいないのに「義理の息子」のように手を引かれ。

 狂戦士の英霊に会えば、ひどく怖い顔を向けられながらよくわからない言葉を向けられ、まるで「友達」にそうするように頭を撫でられ。

 暗殺者の英霊に会えば、甘いマスクに笑みを称えながら「あの女に代わって、我が主にならんか?」と頼まれ、理由も告げられずに「主」に認定され。

 そして英雄王を自称する存在に会えば、嬉々とした調子で「(おれ)の配下にしてやろう」と捕まえられ、言葉通り「配下」として思うがままに連れ回され。

 それはもう、古くに作られた聖杯戦争、そのルールがすべて崩壊する事態に陥り、さらにはサーヴァントを召喚したマスターたちが軒並み蚊帳の外に置かれ、聖杯なんてそっちのけで一人の男の取り合いが始まっていたりするのである。

 聖杯戦争を監督する役目に立つ男はこう言う。「我が息子、なんという愉悦」と、ひどく楽しそうに。

 そしてその監督の義理の息子、とある災害で拾われた男は言うのだ。「最近、幸せなのか不幸なのかわからない」と。

 これは聖杯戦争を根底から破壊した、とある男子高校生の異常な日常。全く理由がわからないのに、すべてのサーヴァントから例外なく異常なほど愛される物語である。

 それと同時に、件の男に「同じ匂いを感じる」と言って呼んでもいないのに姿を現した彼のサーヴァント、なんか灰色のネコ的なナマモノは、彼の義理の父である神父とやけに似ている渋い声で語り、たびたび彼と絡んでいく。

 

 「んー、相変わらずの不幸の香り……苦労してるようだにゃあ。さすがは混沌属性、バッドキャット科のボーイ、そして我が同志。いまだかつてこれほど異常な奴らに囲まれた人間が――いや、いたなぁ、そういえば。死神系の黒ぶちメガネとか。ふむ、君もぜひとも彼のように強く生きてもらいたいにゃあ。ぶっちゃけ両方ともどうあがいてもバッドエンドだけど――まぁとりあえず少年、これから吾輩のように強く勇ましい姿でカッコよく生きていくためにも、共に煮干しでもいかがかな?」

 

 ともかく、煙草を銜えながら二本足で歩き、やけに渋く話すネコ的なナマモノが平気で町を闊歩する程度には、冬木市という場所は混沌に包まれていたようだ。

 

 「あと、そろそろ吾輩専用の新しいエンディング絵が欲しいのにゃが、君、絵とか描ける人? できれば吾輩が選別する嫁たち(マイディアー)に囲まれウハウハな感じのものが望ましいのにゃが――え? 無理? ですよねー」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 冬休みに入ってからというもの、言峰誠義は毎日が危険と隣り合わせの生活を送っていた。

 それはなぜか、と問われてしまうと説明が難しいのだが、ともかくなんだか貞操の危機がすぐ傍にあるような気がしてならないのである。逆にいえば、目下のところ感じている危機は貞操に関することのみである。

 例えば、肌寒い空気が漂いながらも、晴れ渡る空が鮮やかな青を見せるある日の朝。

 義父が住む教会から追い出され、「なんだか面白いことがありそうだから一人暮らしをしなさい」と言われるがままにあらかじめ用意されていた一軒家に移り住んだ誠義は、いつものようにエプロンをつけてキッチンに立っていた。自分の手で朝食を作るためである。

 コンロに火をつけ、フライパンで卵やソーセージを焼きながら、サラダを用意しようと手を動かす。その動きはわりと手慣れた様子で、男にしては上出来な様子だ。

 それはいつもの光景である。ただしこの日、いつも通りではなかったのは、すべては彼女が存在したからに他ならない。

 ちゃっかりとキッチン近くにあるテーブルに座り、じっとその背中に熱い視線を送る少女がいたのだ。

 

 「――鼻血が出そうです」

 「なんですか突然ッ!? 一体何を、どこを見ればそんな発言がッ!?」

 

 その少女、結った金髪が映え、小柄でありながらも整った容姿のおかげで聖女のようにも思える存在、セイバーは頬を赤らめながらそう呟いた。とても美しい外見をすべて台無しにしてしまうかのような発言である。

 あまりにも突然過ぎる発言に驚いた誠義は思わず体を震わせ、慌てた調子で背後を振り返り、感情のままに絶叫する。やはり尻のあたりに感じていた視線は勘違いじゃなかった、と想いながら。

 普通というものを考えれば、その光景はおかしなものだっただろう。男がキッチンに立って料理をし、女はその後ろ姿をただ見守り、セクハラまがいの発言すら送る。普通ならば考えられない異常によって誠義が怯えるのも無理はない。

 

 「いえ、お気になさらず。ただ少しだけ――感情がとめどなく溢れ出て、思わず手を出してしまいそうになっただけです」

 「いやいや、それを気にしないなんて無理に決まってるでしょ!? 僕、抱かれる寸前だったんですか今!? どこでそんな風に思える部分があったんですか!? やめてくださいよ、食事前に!」

 「わかりました。では、食事の後に」

 「はぁ、よかった、わかってくれたんならそれで――って食事の後でもダメですよ!?」

 

 これが、近頃の彼を悩ませる要因の一つである。

 ほんの数日前、たまたま出会ってしまったサーヴァントと呼ばれる外国人らしき人々に好かれてしまった誠義は、初対面のはずのその人たちから熱烈な好意を向けられ、粘着質なほどにつき纏われているのである。

 この日は、早朝から家にやってきて、にこにこと愛らしい笑顔で彼に会いに来たセイバーに悩まされている。彼女は嬉しくて仕方ないとばかりに頬を緩め、騎士としての外見すら投げ捨てて、ただ愛する妻への愛情を示すことに精一杯になっているらしい。

 例えばその愛情を伝える方法も一つではなく、視線で愛でる、言葉で好意を伝える、直接体にわからせる、と様々な手段が用いられる。こうして朝早くから顔を合わし、何かをするわけでもなく一日中べたべたとするのも初めてではない。

 それだけに、初めはただ怯えて言われるがままだった誠義もようやく自分の意見を表すことができるようになっていた。声を張ってツッコミを入れるのもその証だ。

 もっとも、結局は出会うサーヴァントすべてに押し切られ、されるがままになっているのだから別段意味があることとも思えないのだが。

 

 「むぅ、セイギはわがままですね。あれもだめ、これもだめと、少しも私のしたいことをさせてくれない――それではいい妻になれませんよ?」

 「いやだから、妻って、普通は逆でしょう。僕は男だし、セイバーさんは女の子なんだから、どちらかと言えば絶対セイバーさんが妻にならなきゃおかしい――っていうかそもそも付き合ってすらないんだから結婚してるような感じがおかしいんじゃ――」

 「というわけで、今日は素直じゃないセイギを良き妻とするために教育しに来ました。さぁ、さっそく始めましょうか――もう我慢できませんので」

 「あぁ、やっぱり聞いてない!? 僕の言うことがほとんど聞かれてない!? まぁこれまでもずっとそうだったけど!」

 「ではさっそく」

 

 今日も今日とて、力ずくでキッチンの中であっさりと押し倒された誠義は腹の上に乗るセイバーを振り切ることもできず、抵抗する間もなく首筋に舌を這わせられる。たったそれだけで、彼のスイッチも入ってしまったようだ。

 魔術師、と呼ばれる存在であっても、彼が童貞を卒業したばかりの高校生であることに変わりはない。今にも性交を始めようとしている女体を前に、じたばたと暴れて中断されるのは嫌だった。露わになった首筋にちろりと舌を這わされ、Tシャツの裾から冷たい手が差しこまれると、誠義はぎゅっと目を閉じながらも抵抗しようとはしていない。

 しかも相手は可憐な美少女で、自分を妻として見ているせいで非常にやさしい愛撫をしてくれる相手だ。断じてどこかのサーヴァントのように、興奮に押し切られて無理やり、などということもない。その点でも安心できる相手だった。

 するすると裾をまくり上げて、されるがままに誠義の服は脱がされていく。上半身が裸になると今度は下半身に手が伸び、下着と同時にズボンが降ろされ、すでに勃起しかけている陰茎が露わになる。微笑むセイバーに見られながら、誠義は完全に裸になったのである。

 しかし対するセイバーは服を脱ごうとはせず、その前にまず裸に剥いた彼の体を楽しみたいようだった。首筋に触れていたはずの唇は誠義の唇の上に移動していて、力を込めて閉じるそこを舌でこじ開け、その奥を舌先で刺激し始める。すぐに二人の唾液が混じり合い、セイバーはそれをすすり取ろうと音を鳴らした。

 小さな水音が合わさった唇の隙間から聞こえる一方、セイバーの女の子らしい小さな手は這いまわるようにして誠義の体へ触れていた。薄く筋肉がつきながらも、男らしいと称するほどではない胸や腹に指先だけが軽く触れ、今にも離れそうな感触でゆっくりと移動する。完全に焦らそうとするような動きだ。

 もう片方の手はすでに下半身へ伸びていて、キスを続けるだけで見る見るうちに大きくなる陰茎へ触れ、触れるか触れないかという弱弱しい感触を彼へ与えている。それが誠義にとっては非常にもどかしく、触れるのならもっと強く触れてほしい、と思うような感覚だった。

 セイバーの振る舞いはまさしく男のそれで、逆に現在の誠義の姿は女のそれに近かった。すっかり男女が逆転してしまった二人はいつも通りの体勢で事に臨むのである。

 

 「んんっ、ふっ――せ、セイバー、さんっ……」

 「ふふ、セイギは可愛いですね。もっと鳴いてください、私の手で――」

 

 非常にゆったりとした動きで陰茎の竿が掴まれ、上下に扱き始められる。速度は遅すぎるほどで、あまり力が込められていない手つきだった。

 舌での愛撫も続けられており、言葉を言い終えてすぐに再開されたキスは尚も深いものだ。丹念すぎるほどに舌先が歯ぐきや歯列をなぞって動き、執拗なまでに彼の舌を絡め取る。しつこいほどの愛撫であった。

 すでに誠義の方は準備が万端なのだ。もういつでも本番を迎えられるほど、彼の陰茎は固くそそり立っている。亀頭はパンパンに膨れ上がり、びくびくと震えるのは暴発する恐れがあるようにすら見えた。

 にも関わらず、セイバーは愛情をこめて入念に愛撫を施す。どうやら彼女の目的は焦らすことよりも誠義を傷つけないことらしく、必要以上に時間をかけているのもそのためのようだ。

 しかしあまりにも大切に扱われ過ぎては、辛いのは誠義の方であった。もう早く挿入したい、気付けば誠義は表情や肉棒の動作だけでなく、甘えるような声色で言葉にして伝えようとしているほどである。

 

 「あっ、んっ、セイバーさん――もう、い、いれさせてくださいっ。もう我慢できないぃ……」

 「おや、もうですか? ふふっ、相変わらずこらえ性がないですねセイギ――いいでしょう。妻の望みを叶えるのも夫の勤め。あなたの肉欲、私の体で解消させてあげます」

 

 そう言ってスカートの下から純白の下着を抜きとったセイバーは、誠義の体を跨いで立つ。そして自らの両手でスカートをまくりあげると、挑発するように真下にいる誠義へ見せつけた。

 ごくり、と興奮から息を呑む音がする。誠義の目はあっさりと彼女の下半身へ注がれ、顔を赤らめながら呼吸を荒くしている。すっかり場の雰囲気に呑まれている様子であった。

 結局はいつも通り、セイバーの意思のままに行為を進めた二人はすぐにも腰の位置を合わせ、どちらからともなく結合を開始する。セイバーがゆっくりと腰を降ろすことで、その真下にあるガチガチになった肉棒がずるずると膣の中へ入り込んだ。

 一番奥へ辿りつくまで、非常にゆっくりと腰が降ろされ、その感触を楽しむセイバーは安堵したように小さく息を吐いた。瞳は潤みながらも嬉しそうで、表情も普段の凛とした雰囲気を失っている。

 その状態で、セイバーは自ら腰を振って誠義を責め始めた。嬉しそうに動く膣内がまるで別の意思を持っているかのようであり、そこへ上下左右に動きが加えられる。

 

 「うぅ、はぁ……せ、セイバーさん……」

 「うっ、ふぅ。ふふふ、気持ちいいですかセイギ? とてもいい顔をしていますよ。すごく――そそられます」

 

 最初はゆっくりと、しかし誠義の表情が切なげなものになるとどんどん速度を増していく。興奮しているのは押し倒された誠義ばかりではなく、彼を心から愛しているセイバーも同じだ。

 裸の胸に手を置き、じっとりを汗を掻いて白いシャツを濡らしながら、笑顔を浮かべるセイバーは丹念に腰を振った。単調に上下させるだけでなく、腰をくねらせて角度を変えたり、お互いが感じられる場所を探るように動きを変え続けている。

 そうして数分もすれば、こらえ性がないらしい誠義はどんどん喘ぎ声を大きくしていき、足や腕をピンと伸ばしながら限界を訴えた。その際にセイバーの体を押しのけるような動作は見せず、あくまでも大人しく抱かれるままの姿である。

 

 「あっ、せ、セイバーさん、もう無理です……い、イキそうっ」

 「はぁっ、ふぅっ――もうですか? まったく、相変わらず早いんですから……ふふ、でもいいでしょう。いつでも好きにイッてください。私はそういうあなたも愛していますから――」

 

 セイバーの動きの速度がさらに加速し、叩きつけるようなものに変わる。肉がぶつかり合う音が大きく鳴り響き、キッチンの床だというのに体液を撒き散らし、喘ぎ声が室内に広がる。

 興奮した面持ちのセイバーに犯され、誠義はあっという間に射精へと至った。膣内に肉棒を銜えこんだままであったため、子宮口へ叩きつけられるように精液が撒き散らされる。勢いが強いために逆流した精液が膣口から溢れだし、誠義の股の間を通って床へ落ちる。

 すべてを受け取ったセイバーは背を逸らしながらもぶるりと体を震わせ、より一層笑みを深めた。体内にバシャバシャとぶちまけられる体液の熱を感じるだけで、彼女の中に溜まる快感もさらに高まっていくようだ。

 射精している間も腰を動かしていたせいで、二人の周囲は見事に溢れ出た体液で濡れてしまい、普段の姿が失せるほどに汚されている。その中で横たわる誠義は安堵したように表情を緩め、全身を脱力させていた。

 しかしまだ軽くしか達しておらず、このままでは終われないセイバーはほんの少しの休憩の後、尚も腰を動かし始めた。混ざり合った体液がじゅぷじゅぷと音を立て、膣内が掻きまわされたことにより、またも精液が溢れだしてくる。

 朝っぱらから行うにしては中々ハードな光景であった。

 

 「うぅ、うっ、セイバーさん、も、もういいでしょう? さ、さっき僕といっしょにイッてたんじゃ――」

 「まだですよセイギ。今のはほんの序の口です。これからもっと、たっぷりと可愛がってあげますよ」

 

 上体を倒し、胸を合わせた状態で腰を振りながら、セイバーは誠義の首筋に舌を這わせ始めた。赤い色のそれがちろりと動き、艶めかしい様子で彼の肌の上を走る。

 今度は非常にゆったりとした動きで、徐々に感度を高めていくような動きだった。二人の体液が混じり合う膣内に何度も肉棒が押し込められ、内部を掻きまわして出入りを繰り返す。愛がこめられたやさしい動きである。

 絶頂を感じたばかりでまだ息を整えることすらできていない誠義は、この一方的な責めに耐えるように歯を食いしばり、ひたすら声を押し殺すだけだった。彼から動いてセイバーを責めるような、そんな意思を見せることすらできていない。

 しかしセイバーからしてみれば、そんな彼の態度こそ最高と称することのできるものなのだ。一国の王であり、騎士であり、夫である自分が妻である彼を悦ばせる。これこそ性交の醍醐味なのだから。

 ずいぶんと前から気分を良くしている彼女は己が持つ技術のすべてを用い、誠義をイカせることに全身全霊で取り組んだ。両手を怪しく動かして乳首を抓ったり口に指を突っ込んだり、舌を使ってあらゆる場所を舐めながら、艶めかしく腰をくねらせて肉棒を刺激することで。

 何度も絶頂へ辿り着きそうになり、しかし何度も耐えた末、二人の行為は非常にねっとりと事が進んだ。そして、三十分が過ぎた頃。ようやく我慢が利かなくなった誠義が根を上げる。

 汗だくになって喘ぐ彼は懇願するようにセイバーへ抱きつき、それを嬉しそうに受け止めたセイバーは汗で濡れたシャツを脱ぎ棄てながら、応えるように両者の舌を絡ませた。

 

 「んっ、ふっ、むっ――セイギ、もうイキそうですか? それなら、また出して下さい。また私の膣内に、あなたの子種をたっぷりと」

 「あぁっ、セイバーさんっ」

 「ふふ、ええ、いいですよ。さぁ来て下さい、私の膣内へ――」

 

 彼女の呟きの直後、我慢をやめた誠義はまたも射精を始める。先程よりも量は少ないが、勢いは治まる様子の無いものである。

 肉棒が何度か律動を繰り返し、セイバーの膣内を汚すと、うっとりと頬を染めた彼女が甘い吐息を洩らす。そのまま力を抜いて体を重ね合い、疲れた様子で抱き合って目を閉じる。

 しばらくは静かにしていた二人だが、ある時誠義がふと気付いた。彼の尻は二人分の大量の体液で濡れており、つまりは床がそれほどの範囲で汚れているということである。そしてその場は彼が一人で住む家だ。

 掃除は自分でしなければならない。おまけに朝食の準備を邪魔されたものだから、せっかく作った料理もすっかり冷えてしまったことだろう。ようやくそのことに気付いて小さくため息をこぼすと、目ざとく気付いたセイバーがむっと眉根を寄せた。

 自分に抱かれながらなぜ不満そうなんだ、と伝えるかのような表情。セイバーはその顔のままで、詰問するように誠義へ声をかける。その声色にも納得いかない様子がありありと込められていた。

 

 「セイギ、なぜそんなに嫌そうな顔をしているのですか? あれほど気持ちよさそうだったというのに、まだ物足りないことがあるとでも?」

 「ち、違いますよ。ただ、ほら……こんなに汚して、また僕が掃除しなきゃいけないじゃないですか」

 「む、それはまぁ……申し訳ないことをしたとは思います。しかし、セイギが私を誘うように尻を振るからいけないのであって――」

 「振ってなんかいません、一度だって!」

 

 不満げな顔の誠義と、謝る気がなさそうなセイバーであったが、そこに漂っている雰囲気は決して悪いものではない。むしろそれが当たり前というような、ひどく和やかな雰囲気であった。

 出会ってからまだ一か月も経っていないが、実際には長年連れ添っているかのような姿である。口ではあーだこーだと言いながらも、お互いを抱きしめる力はやさしく、愛情があるものだ。

 抱き合う二人は汚れた床から立ちあがる間際も会話を続けていて、仲がいい様子に見えた。

 

 「ハァ……とりあえず、先にこっちを掃除しますから、セイバーさんは座っててください。ご飯も温め直しますから」

 「それならセイギ、せっかく裸なのですから裸エプロンというものを――」

 「やりません!」

 

 結局は中々にお似合いの二人は喧嘩をするようなこともなく、休日のある日を和やかに過ごすのであった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その日の夜のことである。

 一日中家の中でごろごろと、セイバーの口から言わせれば夫婦らしくイチャイチャと過ごしていた二人は夜も更ける頃、同じ寝室に入り、同じベッドの上で体を重ねている。

 現在は股を広げて座るセイバーの股間に誠義の顔が埋められ、しっとりと濡れた膣の入り口がぺろぺろと舐められている最中。普段はセイバーが愛撫を行うことが多いため、この日の出来事はひどくめずらしいものだった。

 そんな状況だったから調子に乗ったのか、誠義は舌先に力を込めて秘所の全体の形を何度もなぞりながらも、上目遣いで話し始める。こんなチャンスは他にはない、そう思ったのだろう。

 力の差か、性格の所以か、いつもはセイバーに抱かれてばかりいる誠義も男だ。できることなら、女性の体を好きに味わってみたいという願望もある。そのチャンスはセイバーの機嫌が非常にいいこの日を逃せば他にはないだろう。

 そう考えてのことだったのだ。日頃は聞けない誠義の言葉を聞いたセイバーも、驚いたように目を見開いている。

 

 「私を、抱きたい? あなたがですか、セイギ?」

 「う、うん。その、あの……つ、妻だって夫を気持ちよくしてあげたい、みたいな気持ちの時ってあるじゃないですか。だから、僕も自分からセイバーさんを気持ちよくしてあげたいなって、思って……」

 「ほぅ……なるほど」

 

 股に顔を埋める誠義の頭を撫でながら、セイバーはぼんやりとした声で返答する。肯定か拒否か、いまだどちらを言いだすかわからない態度である。

 しかし数秒も考えることなく、にこりと笑ったセイバーは小さく頷いた。初めてといっていいほどだが、誠義に自分を抱かせることを許したのだ。

 その答えに頬を緩め、顔を赤らめて喜ぶ誠義は思わず口を離して顔を上げ、信じられないとばかりに目を見開いていた。彼自身も拒否されるかもしれないという想いが強かったのだろう。

 初めて念願が叶う。美しい女を、セイバーを抱ける。何度も肉体を重ねながらも喜びを隠せない誠義は、先程以上に肉棒を固くしていた。

 

 「ほ、本当ですか? その、本当に、僕の好きなように動いても――」

 「ええ、いいでしょう。まさかあなたがそこまで私のことを思ってくれていたとは……ふふ、ようやく妻としての自覚が生まれてきたということでしょうか」

 「い、いや、妻っていうのはいまだにあれなんですけど……」

 「ふふ、照れなくてもよいのです。私たちの仲なんですから」

 

 そう言ってさらに機嫌を良くしたらしいセイバーは自らベッドの上に寝そべり、股を開いた。とろりと透明な液を垂らす秘所がはっきりと誠義の眼前に晒され、今日はそこへ自身の肉棒を突きこんでも許される。

 ガチガチに固まったそれを右手で掴んだ誠義は、何度も侵入しているはずのそこへ恐る恐る亀頭を近付け、割れ目の部分をぴとりと触れさせると、ゆっくりと息を吐きながら覚悟を決めた。

 

 「さぁ、どうぞ。好きに動いてください。妻であるあなたが、夫である私を気持ちよくしてくれるんでしょう?」

 「も、もちろんです。そ、それじゃあ、行きますっ」

 

 ぐっと腰に力を入れて、ゆっくりと前に進みだす。すると濡れそぼっていた膣には徐々に肉棒が挿入されていって、見る見るうちにグロテスクなそれが呑みこまれた。

 途端に肉の壁が嬉しそうに動き始め、セイバーの声も喘ぐようなものに変わる。余裕を残しているように見せて、確かにいつもとは違うような感覚であることが理解できていた。

 自分が動くのとは違う、相手にすべてをゆだねるという行為。これは確かに、癖になるような感触だ。喘ぎながらも彼女はどこかで冷静にそう考えている。

 しかし一方では、誠義が肉棒を前後に動かす度にガリガリと理性を削られるような感覚もある。カリ首が膣内のひだに引っ掛かりながら外へ出ようとする度、自分のものとは思えない甘い声が出てしまう。

 自分のペースとは違った少し速い腰の動きに喘ぎつつ、セイバーはいつもとは違う気持ちよさを感じていた。

 

 「あぁっ、んんっ、こ、これは中々……くぅっ、すごい、ですねっ……」

 「はぁっ、あぁっ、これ、すごっ……」

 

 自らが動く快感は、誠義にとって初めてに近い感覚である。彼は途端にこの感覚にはまってしまっていた。

 抱かれているだけでは感じられなかった、相手を征服するような感覚や自由に動いていいという余裕。確かにされるがままに受けているだけなのも気持ちいいが、これは別種の快感がある。

 そのまま数分間、二人はベッドの上で正常位で繋がり合って快楽を貪る。しかし数分もすれば、もっと色々なことをしてみたいという考えに囚われた誠義が、無抵抗で悦ぶセイバーへと語りかけた。

 薄い胸を包みこむように手を這わせ、頂上でツンと立つ乳首を舌で転がしながらのことである。女性の胸に興味を持ちながら、あまり触れたことのなかった彼にとっては至福の一時であった。

 

 「あの、セイバーさん。お願いがあるんですけど」

 「はぁっ、ふぅっ、な、なんですか?」

 「や、やってみたい体位があって、それをお願いしたいんですけど……いいですか?」

 「んん――ええ、構いません。今宵だけは、私の体はあなたが好きに使ってください。あなたが望んでいるのであれば、拒みはしません」

 

 思わず顔が熱くなってしまうような言葉だ。うっとりと蕩けた瞳や表情も、首に腕を回してくる女性らしい仕草も、きゅうきゅうと締めつけてくる膣の感触も、すべてが愛おしいと思えてしまう。

 こくりと頷いた誠義は決意を固めて動き出す。寝転んでいた彼女の尻を掴んで持ち上げると、セイバーを抱えるようにして立ちあがったのである。

 自重によって二人の結合部はさらに深く繋がり、肉棒の先端が子宮口をコツンと受け止めるようだ。これまでとは違う感覚で深く繋がった二人はそれぞれ小さく声を洩らし、絶頂へ至りそうなところを必死に堪える。

 誠義はぐっと歯を食いしばり、目を閉じて我慢することに集中している。対するセイバーは目を見開きながら大口を開き、この瞬間には軽くイッていたようだった。

 だが誠義はすでに動き出していて、彼女の細く小さな体を持ち上げては落とし、同時に腰を上下に振って、これまでにない動きでセイバーを責める。体重を使って責められているだけに、亀頭と子宮口がぶつかる勢いも普段より強く、全身に電流が走るかのような快感が駆け巡っていた。

 自然と二人の呼吸は荒くなり、体内に溜まる快感も凄まじい。堪え切れなくなった誠義はわざと彼女を揺らしながら、大股で部屋の中を歩き回り始めた。

 どすんどすんと、一階に足音が聞こえそうなほど、彼は力強く大股で歩く。すると尻を掴まれて持ち上げられ、乱暴な様子で運ばれるセイバーは声を大きくして鳴いていた。

 

 「あぁぁっ、はぁぁぁ……せ、セイギ、だ、だめですっ。これではすぐにイッてしま――!」

 「いいですよ、イッても。セイバーさんが満足するまで、僕だって何度も相手しますから」

 「んっ、んんっ、んんんっ……!」

 

 ぴたりと立ち止まり、誠義の動きがさらに激しくなる。それに連動してセイバーの肉体も跳ねるように動いていた。

 彼女の白い肌が紅潮し、すべすべのそこを汗が伝い落ちるほどの状態で、初めての興奮に包まれた二人は一心不乱に快楽を貪る。そうして激しく動いていると、全身をぶるりと震わせたセイバーが一際高い声で鳴いた。

 誠義の腰の後ろに回した足も震え、首を振って金色の髪を振り乱すと、大量の汗が周囲に飛び散った。

 まるで激しいスポーツを終えた後のような疲労感だった。日頃の性交よりも疲労が強く、自分を保てないほどである。ぐったりとしたセイバーは誠義に抱きつくと静かになってしまう。

 その間に再びベッドの上に彼女を降ろした誠義は、もう一度正常位の体勢で肉棒を前後させ始める。途端にセイバーも甘い声で鳴き始め、びくびくと痙攣していた膣内が絡みつくように肉棒を締めつける。

 それだけに誠義の気分も高まり、彼の動きも即座に激しさを増していった。

 

 「くぅっ、はぁぁっ、あぁぁぁっ!」

 「はっ、あぁっ、セイバーさん……!」

 

 ベッドの上で重なりあい、叩きつけるように腰をぶつけていると、すぐに限界へ辿り着いた。

 最後は膣の一番奥を亀頭で何度も叩き、子宮口に押しつけるようにしながら射精を始める。その瞬間に二人は全く同時に叫ぶような声を発していた。

 窓ガラスが震えるほどの大声が終わる頃には誠義は彼女の体をぎゅっと抱きしめ、セイバーもまた彼の背後に回していた両手両足に力を込めてぎゅっと抱き寄せる。

 荒く呼吸を繰り返す一方でねっとりと深いキスを交わし、落ち着くまで舌と唇を合わせていた二人は、絶頂の波が引いて気分が落ち着いてから言葉を交わす。

 疲れた様子で抱き合う二人は下半身も繋げたまま、小さな吐息混じりの会話が始まっていたのだ。

 

 「ハァ、これは、すごいですね……気持ちよかったですよセイギ。あなたの愛が、全身から伝わってくるようでした」

 「う、そ、それはどうも。……っていうか、なんか知らない間に一日中流されてたような……どうしてこんなことになったのか――」

 「では今度は私から愛を伝えましょう。セイギ、股を開いてください」

 「へ――?」

 

 セイバーがそう言った瞬間、二人の位置関係はくるりと回転するかのように入れ替わっていた。気付いた瞬間にはベッドに背をついて寝転んでいたのが誠義で、その上に乗っているのがセイバーである。

 やはりこちらの方が似合っているのか、一瞬の内に攻防が代わり、セイバーは楽しげな笑みを浮かべてにこやかだ。対する誠義は、彼女が機嫌のいい日の性交の出来事を思い出し、少し顔を青ざめさせている。

 彼女はサーヴァントと呼ばれる英霊、人間を越えた存在だ。だが誠義は魔術師でありながらほぼ一般人と変わらぬ身、そんな彼女と一晩中性交を続けていれば死にそうな想いもするだろう。

 今日の夜はまだまだ終わりそうにないということを知って、余計なことをした、誠義はそんなことを思ってしまったのである。

 

 「ふふふ、ここまで情熱的に愛されては私も負けていられません。あなたの愛に応え、それすらも越えるほど、私があなたを愛してみせましょう――覚悟してください、セイギ」

 「い、いや、ちょっと待って、正直今日はもう限界――んむぅっ」

 

 そんなこんなで、二人の夜は始まったばかりであり、ますます激しさを増した性交が終わるのはまだまだ先のことであった。

 一方、誠義との時間を邪魔されたくなかったセイバーにより、煮干し一袋で買収された誠義のサーヴァントは彼の家の周囲で、毎日のように現れる敵と戦っていたのである。

 昨日の恩人は今日の敵。毎日のように誠義の家を訪れ、甲斐甲斐しく家事をこなす長身の女、アーチャーを相手にするのは、その彼女からよく餌付けされている奇妙な生物。

 小さな体躯で寸胴体型。灰色の髪の奥には同色の猫耳があり、やけに達観したような目と、下半身をジェットに変化させて空を飛んだり、目からビームを飛びださせたりと、とにかくハチャメチャな戦法を取るネコ的な何か。

 それはネコカオスと呼ばれる、“混沌”を起源とする誠義の唯一無二の相棒であった。

 

 「くっ、どういうつもりだ!? なぜ私の邪魔をする! あれほど食事の世話をしてやっただろうッ!」

 「むむ、それを言われては律儀なオス猫としては心が苦しいところ――しかし、吾輩には約束があるのだ。今宵だけはこの家に誰も近付けず、我が心のフレンドを必ず守り通すと――そして高級煮干しを買ってもらうのだと……!」

 「ふむ、なるほど、そういうことか。ではネコ、私の話を聞け」

 「にゃに? フン、言っておくが吾輩はもはや野良ではないがオス猫のプライドを捨てたつもりは毛頭ない。たとえ金を積まれようとも、吾輩の大事なHDを人質に取ろうとも、セイギのためにもこの戦いで負けるわけには――」

 「私は高給猫缶を十個、君に贈呈しよう」

 「――どうぞお通り下さいませ、レディ。転ばないように足元にお気をつけを。あと、エスコートは吾輩にお任せあれ。こう見えても混沌系の少年を導いたりしてるからね、意外と」

 

 とはいえ、一見すると幸せそうな二人きりの空間がブチ壊されるのも時間の問題。なんだかんだと騒動を起こす中で、原因となるのは必ず誠義とネコカオスのコンビだったのだから。

 この日もちゃっかりいつものような騒動が起こった。追記できるのは、そればかりである。

 



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英霊だけじゃなかった話(Fate/stay night・ランサー)

ギャグです。というか、笑わせるつもりもなくふざけてます。
なんていうかもう、すみませんでした。


 「あーやば……もう朝か……」

 

 部屋の中に置いた鳩時計が鳴き声を発したことで、遠坂凛はようやくもう朝になったのだと気付いた。

 衛宮邸に用意された彼女の自室は、普段よりも乱雑に散らかっていて、完璧を目指す人間とは思えない様相を称えている。しかし言い換えれば、「常に優雅たれ」を家訓とする遠坂家に生まれたプライドを捨ててでも解明したい謎があったのだ。

 アベレージ・ワン、などと称され天才と呼ばれる凛は腕利きの魔術師だ。どこかのポンコツでは十秒もかからずに灰塵にできる程度には、魔術師としての彼女は優れている。

 にも関わらず、冬木の地を統括する彼女でも解明できない謎が、今現在の冬木市に蔓延していた。それは彼女も参戦したはずの、聖杯戦争という概念に起因している。

 七体のサーヴァントだけを呼ぶはずが、わけのわからん一匹を追加した大聖杯。マスターの命令には従うはずのサーヴァントが、そのマスターを放り出して実力もない一人の魔術師に執心している状況。そしてその一人と一匹によって気付いた時にはすでに完全崩壊していた、今回で五回目となる聖杯戦争。

 謎が謎を呼び、もはや収集がつかないほど理解不能な状況を招いている。この現状を受け入れられない凛は自身の知識を総動員させ、過去の文献を紐解き、今回の第五次聖杯戦争に起こった異常を解明しようとしているのである。

 しかし、すでに数週間が過ぎても収穫はなく、わかったことはイレギュラーなサーヴァントの異常性と、一人の魔術師が全サーヴァントを使役できるだけの環境にあるということだけ。本人にその気がないだけで、その魔術師が本気になればひょっとしたら世界を滅ぼすことすら可能なのかもしれない。それほどの戦力が彼に懐いて、比較的簡単に命令すら聞いてしまうのだから。

 

 「……やめやめ。そんなはずないっての。いくらあいつらがわけわかんなすぎるって言ったって、そこまでは――あーもうっ、一旦休憩。アーチャー、はいないか。もう、誰がマスターだと思ってんのよ」

 

 そんなばかげたことを思いつつ、時計を見て現実味を思い出し、自分が空腹を感じていたことを初めて理解した凛は思考するのをやめた。さすがに肉体の限界なため、飲み物と少量の食べ物を口にして寝ようと考えたのだ。

 彼女は一度自室を出て、自身のサーヴァントが他のマスターにべったり張り付いていることを憎らしく思いつつ、キッチンへと向かう。この時間であれば、ひょんなことから同じ家で暮らしている二人も起きているはずだった。

 襖を開け、キッチンと隣接するリビングとなる和室へ入ると、そこで彼女は一度足を止めた。そこで自分が頭に想い浮かべていた二人の姿を見つけたからである。

 

 「うぅ、桜、もう……!」

 「んふっ、ぢゅる、んちゅぅ――先輩、イキそうですか? ふふふ、いっぱい出してもいいんですよ。私が全部飲んじゃいます」

 

 朝っぱらから、日課である食事の準備もせず、淫靡な姿で快楽を貪る妹と家主。そんな二人を見た凛は肩を落とし、はぁぁと息を吐いた。

 壁に背を預けて立つのはジーンズのチャックの間からいきり立つ陰茎を出した赤毛の少年、衛宮士郎。凛が現在住んでいる屋敷の持ち主で、魔術師としてはまだまだ未熟なため、凛に弟子入りした彼女と同年齢の男だ。人一倍の正義感を持ち、並々ならぬ努力でめきめきと腕を上げているのは冬木にいる魔術師たちにも知れ渡っている。

 畳の上で膝立ちになってその彼の陰茎を嬉しそうな表情で口に含み、丁寧に頭を振って、どくどくと発射された精を喉を鳴らして飲んでいるのが、凛の血が繋がった妹で他家の養子となった少女、間桐桜である。彼女は自身の青みがかった長髪を片手で耳にかけながら、愛する男に熱心な奉仕を続けている。

 聖杯戦争が破綻して少し。ここのところ、桜はひどく幸せそうな顔で日々を過ごしている。過去には何やら辛い出来事もあったようだが、今回の一件で急きょ反乱を起こした桜の手により、間桐家の爺は痴呆へ逃げてただの老人に成り下がり、今までは威張り散らしていた兄は彼女の顔を見た瞬間に震えてしまうほどのトラウマを植え付けられ、もはや実質的に間桐家を支配しているのは他家から来た桜となったためであろう。

 そのため、他所の家に何日滞在しても誰にも怒られることもない。むしろ現在の家族は彼女がいない方が羽を伸ばせるので、ちょっとしたイタズラのつもりで敢えて家に帰ったりすることもあるが、それ以外では桜はほとんど衛宮邸に出入りしていた。

 それもこれも、その家の家主、同じ高校の先輩である衛宮士郎を愛しているためだ。出された精をすべて呑みきった桜は士郎の肉棒へ舌を這わせながら彼の顔を上目遣いで見上げ、ふふふと楽しげな声を洩らしている。

 

 「先輩、気持ちよくイケました? ちゃんと残さず出せましたか?」

 「あ、ああ。気持ちよかったよ。ありがとう、桜」

 「うふふ、それはよかったです。それじゃあ今度はどうしますか? お口か胸か、それともそろそろ――」

 「お熱いところ悪いんだけど、その前に私に気付いてもらっていい?」

 

 新たに部屋の中に入ってきた人間にも気付かず、そのまま行為を続けようとする二人へ向けて、凛は若干苛立った言葉を向けた。ただでさえ疲労困憊で眠気が襲ってきているのだ、カップルがイチャイチャしている姿を見せられるほど苛立つことはない。たとえ相手が自分の理解を得ていて、なお且つ自分すら巻き込んだカップルでも、世の男女が人前でイチャイチャしているというのは癇に障るものらしい。

 一声かかってようやく凛の存在に気付いたらしい二人は瞬間的に頬を赤くし、慌てて自身の服装を直し始めた。といっても、普段の格好で陰部を晒していただけの士郎と違って、裸にエプロンをつけただけの桜はそれ以上体を隠しようがなかったのだが。

 腕を組んで壁に寄りかかり、少し怒っている風な態度で眉をひそめる凛は、口の端を上げて怖く見えてしまう笑みを浮かべている。そんな状態で、彼女はまたも二人へ向けて声をかけた。

 

 「なるほど、私が冬木のオーナーとしてまじめに聖杯戦争のことを考えている間、あなたたちはずいぶんとお楽しみだったってことね。へーそう、そうなんだ」

 「う……と、遠坂、その、これは……」

 「あ、あの、姉さん! い、今お茶入れますから、ちょっと待ってて下さい!」

 「あっ、ちょ、さ、桜っ!?」

 

 自分の裸体を隠している部分より晒している部分の方が多い桜は、自らを抱きしめるようにしながらキッチンの奥へと走り去った。困惑した士郎をその場へ置いて。

 確かに士郎と桜は恋人関係となっているが、それは士郎と凛においても同じことだ。二股、などというものではなく、姉妹公認で士郎に二人共面倒を見てもらっているのである。とはいえ今回の一件のように、どうしてもどちらかが抜け駆けしているように思えてしまうような場面も存在する。

 おかげで板挟みとなることが多い士郎の苦労も多く、それはこの日も同じようであった。急に不機嫌になってしまった凛の指示で、士郎は大人しく言われるがままに畳の上へ正座し、彼女がその膝に頭を乗せると、そのさらりと手触りのいい黒髪を撫で始めるのである。

 

 「まったく、人がこんなに頑張ってるっていうのに、あんたたちも能天気なんだから……」

 「う、申し訳ない。でもさ、そんなに大きな問題が起こってるわけでもないし――」

 「そういうんじゃないの。いい? 聖杯戦争っていうのは歴史あるもので、そうでなくても聖遺物が関わってるわけだし、あんなわけのわかんない争いをさせてる場合じゃ――っていうか、あんたよく問題がないなんて言えるわね。あいつらがところ構わず戦ってるせいで、冬木市全体ですっかり有名人なのよ、あんたのサーヴァントも私のサーヴァントも」

 「た、確かにな……ほんと、誠義には悪いと思ってるよ。毎度のことだけど」

 「あーもうっ、考えてたらまた頭痛くなってきた――ね、士郎。ちゅーしてよ、ちゅー」

 「へ?」

 

 膝枕をされたままで腕を伸ばした凛は、士郎の両頬に手を触れて甘え始める。どうやら身体的にも精神的にも疲れがピークのようで、いい加減ストレスを発散したい様子であった。

 桜がすぐ近くにいるというのに、らしくもなく甘え始めた凛は普段は絶対に見せないような隙だらけの姿を晒し、とにかく士郎へすり寄った。それを受け止める士郎も彼女のことをよく理解しているのか、邪険にするようなことは微塵もなく、むしろやさしく微笑んで存分に彼女を甘やかす。

 

 「大体、なんであいつらのせいで私がこんなに苦労しなきゃなんないのよ。サーヴァントは言峰君にばっかり懐くし、マスターもまじめに動く奴はいないし、貧乏くじは全部私……もうー、私の想定してた聖杯戦争を返してー」

 「まぁまぁ遠坂、それはそれでいいじゃないか。なんだかんだでみんな楽しそうだからさ」

 

 ぽつりと呟かれた心からの願望を叶えてくれる存在はなく、もはや願いをかなえるための聖杯とは存在しているのかどうか、それすらも不思議に思える状況だった。

 そんなやり取りが衛宮邸で行われている一方で、凛の頭を悩ませる要因たちは商店街付近で騒いでいたようである。雑踏に囲まれる中心には凛のサーヴァントも、士郎のサーヴァントもいる。

 行われようとしていたのは凄まじいレベルの喧嘩だ。セイバーはどこからか持ち出した鉄パイプを正眼に構えており、その隣にいる長身で黒い服を着た、ショートカットの白髪の女性、アーチャーは木刀を両手に持っている。そんな恰好で往来のど真ん中に仁王立ちし、目の前に居る相手を睨んでいた。

 対峙するのは颯爽と現れ、争っていた二人の間に割り込み、新たな主張を始めたのが奇抜なアロハシャツを身に纏った長身の女性だ。長く青い髪をうなじの辺りで括った彼女は、その辺に置かれていた店頭の旗を持ち、槍を構えるかのように腰を落としている。まるで今にも戦いが始まらんとするかのような雰囲気なのだ。

 その原因となってしまったのはやはりいつも通り、もはや商店街の皆さまにはおなじみの一人の少年のせいである。電信柱の陰に隠れてぶるぶると震える言峰誠義を奪い合うための戦いが、今まさに、今日もまた始まろうとしていた。

 ちなみにこの時、誠義は逃げ出そうと何度も試みているのだがやはり英霊の目から逃れられるはずもなく、逃げるチャンスを拾えずにいる。肩の上に乗る自身のサーヴァント、ネコカオスもあくびしてばかりで全く頼れなかった。

 

 「アーチャーばかりでなくランサーまで――罪作りな妻ですね。しかし、我が伴侶を狙う輩はたとえ東西南北どこの英霊であっても許しません。あなた方は、我が剣の前に沈みなさい」

 「やれやれ、やはり気が抜けない男だ。昔から今でも、やはり誠義の傍には私がいなければな――そういうわけで、彼の傍におまえたちは必要ない。一刻も早く退いてもらおうか」

 「まったくどいつもこいつも邪魔しやがって……ヘッ、まぁいいか。障害が多い方が恋は燃え上がるってな。どかねぇって言うんなら、無理やり押し通る」

 

 鉄パイプ、木刀、旗。普段の武器を使わないところは周囲への配慮ができているのだろうが、戦わずして雌雄を決する、などという気遣いはできないらしく、がやがやと賑わう商店街の中で英霊同士の戦いが始まろうとしている。しかしその場にいる人々にとってもそれは当たり前の光景なようで、誰一人として警察を呼んだり、やめさせようと動く者はいない。

 だからこそ電信柱の陰で震えている誠義の苦難は終わらないのだ。戦いは終わらせたいが、自分の力ではどうしようもない。そこで誠義は自らの肩の上でぐでりと力を抜いて、ベランダに干された布団のような状態で眠そうにしているネコカオスへと声をかけた。

 

 「か、カオス、あれなんとか止められないの? このままじゃまた派手な喧嘩が起こるって、絶対……!」

 「それは激しく同意だな。しかし吾輩、あいにくと今日は燃料切れで動けそうにない――ううむ、やはり賞味期限切れの猫缶はだめだったか。なぜか吾輩の目の中で星がまわっている……おや? もしやあれが死兆星?」

 「そんなぁ……あっ! そうだカオス、あれがあるじゃんか、ダミアンアーミー! あれでなんとかみんなを止めてよ!」

 「おお、そうであったな。では彼らに頼むとしよう。吾輩のコマンド、↓↓BorCでおなじみ――これぞ、我が盟友にしてふやけたクッキーのような顔の面々、エリートネコ部隊ダミアンアーミーだッ!」

 

 ネコカオスがそう叫びながら天に向かって拳を突き上げると、ポンっという小さな音が鳴ると同時、誠義の影から一枚の小さなメモ用紙が現れた。

 全く同時に、不思議そうに小首をかしげた誠義とネコカオス。すると誠義がそのメモを手に取り、文字が書かれている方を眺めると、身を乗り出したネコカオスがそこに書かれている文字を声に出して読んだ。

 

 「ふむ、にゃににゃに、突然ですが休みをもらいます。探さないでください――なるほど。つまり今は来られない、と」

 「ああもうっ、なんでこんな時に限って――前に出てきた時は全く関係ないのに来て一晩中暴れていっただけなのに……! 来てほしい時に来ないなんて、なんて役立たずな……!」

 「ふぅむ、こうなっては仕方ない。最近になって吾輩のマブダチになった奴を呼ぶしかないか」

 「へ? マブダチ?」

 

 三人が即席の武器を手にして睨みあう中、誠義の肩から飛び降りたネコカオスが丸々とした手で空を指し、気合のこもった声を発し始めた。外見が陳腐なせいでふざけているようにしか見えないが、彼は本気だ。

 イレギュラークラスとはいえ彼もサーヴァントの一人。対サーヴァント用の強力な宝具の一つや二つ、あったりなかったりするのである。現在のようにマスターが困った状況となったのならば、その悩みを吹き飛ばすほどの武器を用意すればいい。

 小さな体がぷるぷると震えている間、徐々にネコカオスの影が大きくなっていく。そして限界を迎えたその時、彼は高らかに叫ぶのだ。

 

 「カモンッ、我がマブダチ――ネコカオス・ブラックG666よ!」

 「ねーーこーー」

 「な、なんかネコカオス型の巨大ロボが来たァッ!?」

 

 対峙する三人を遮るように、その真ん中に突如として空から現れた巨大ネコ型ロボット。それはネコカオスにそっくりの外見で、ネコカオスの影が大きくなっているからそこから出ると見せかけて空から来るというフェイントと共にやってきた。

 見上げるほどの体躯は二メートルを越えていて、さすがの三人も首を逸らさなければその顔を見れない。その時の彼女たちはすっかり集中力を散漫にしていて、先程まで存在したはずの戦闘の気配もすっかり霧散してしまっている。

 どころか、商店街に訪れていた人々もすっかり驚愕に襲われ、ぴたりと足を止めてその異常な風貌に見入っていた。それも当たり前だ、そんな異常なテクノロジーがあり得るはずもないのだから。

 驚いていないのはこの場でただ一人、否、一匹。呆然としたまま動けない誠義の傍にいる、それを呼びだした張本人のネコカオスだけである。

 

 「な、なに、なんなのあれ!? 武器!? 兵器!? 生物!? っていうか僕も初めて見たんだけど!」

 「落ち着け、マイフレンド。あれはネコカオス・ブラックG666。どこぞのアンバーが作りだした吾輩のライバルだったが、なんか殴り合ったり競争したり河原で夕日を眺めている内に仲良くなったので、助けに来てもらった次第。正直言うと吾輩も呼ぶのは今日が初めてだぜ」

 

 腰に手を当てて落ち着いて話すネコカオスの背後には、地面にへたり込んで電信柱に抱きついている誠義がいる。その位置関係をしっかりと見据え、先に動きだそうとしていた女性が一人だけいた。

 他の二人が突如現れたネコカオス・ブラックG666に気を取られている中、元の場所に旗を直した女性は腰を落として、獣のような体勢で誠義を狙っていたのである。

 

 「にゃっにゃっにゃっ。吾輩が賞味期限切れの猫缶という名の毒でやられている今、我が相棒セイギを守るのはかつての敵で今日の友――頼むぞ、ネコカオス・ブラックG666」

 「任せておけ、オリジナル。さぁ、どこからでもかかって――」

 「隙ありィッ!」

 

 位置的にネコカオス・ブラックG666の背面にいたサーヴァント、青髪の女性のランサーは最速のサーヴァントの名に恥じぬ速度で誠義へ接近し、瞬く間に彼の体を抱き上げて走り出す。他の二人が気付いた頃には、すでに二人は商店街を抜け出そうとしていた。

 当然、セイバーとアーチャーは苛烈に怒ってランサーへ言葉を放つのだが、その眼前にはちょうどネコカオス・ブラックG666が仁王立ちしている。早々に追える状況ではなかった。

 

 「ハッハッハ、セイギは頂いたァ! おまえらはそこで仲良く遊んでな、セイバーと赤いの!」

 「た、助けてーッ!?」

 「なっ、待ちなさいランサー! 騎士の勝負に背を向けるとはなんという――せめてセイギだけは置いて行きなさい!」

 「おのれ野犬がァ、今すぐ打ち抜いて――!」

 「おまえたちの相手はオレだーッ!」

 

 ズズン、と地面が揺れたことにより、セイバーとアーチャーの足は完全に止められた。その間にも誠義をかっさらったランサーの背はどんどん遠くなっていく。

 途端に目の色を本気のそれに変えた二人は武器を構えなおし、本気の殺意を全身から溢れさせながら、ネコカオス・ブラックG666を正面から見据える。しかしそれでも、ネコカオスを作るための最強兵器として生み出されたネコカオス・ブラックG666は微塵も怯まない。

 

 「くっ、仕方ありません――通さないというのならば、あなたを斬り捨てて進むまで!」

 「後悔するなよ、バケネコ――セイギの身の安全が懸った今、無限の剣製、その真髄を見せてやる」

 「フッフッフ、そこまで通りたいのならかかってくるがいい――オレは本来666回倒さなければいけないという設定だが、今回は特別に一ラウンドで通してやろう」

 

 何やら奇妙な存在が、天下の往来の中で大騒ぎを始めてしまうのだがそれは現在の冬木市の中ではわりと当たり前なことで、素早く順応した近隣住民たちも応援こそすれ批判することなどないようだった。

 商店街の中央は、尚もより一層の盛り上がりを見せているようだった。

 

 「うーむ、吾輩もここまでか。そろそろ毒がまわってきたようだ――いや、まわっているのは猫缶か? どちらにせよ、後のことは任せる。吾輩の亡骸は、できれば秘蔵のHDたちと共に海に流してくれ……おや? セイギがいないな。ふむ、そういえば今日はスーパーで特売だと言っていたな。ではもうすでにそちらの買い物に……しまった、煮干しを買うように言うのを忘れた」

 

 そんな騒動の中で一足早く、賞味期限切れの猫缶を食ったためという全く勝負とは関係の無い理由で倒れていた一匹のサーヴァントは、事前にあったマスターの心配とは裏腹に全然大丈夫そうであったという。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 バゼット・フラガ・マクレミッツは回想していた。それはとある男と知り合った際、彼が拾ったという孤児に出会った時のことである。

 すでに言峰の名をもらっていた少年と会った日、バゼットは、言峰綺礼に対して真っ先に告げた。

 

 「息子さんをください、お父さん」

 「なんか目が危ないからだめ」

 

 彼女の戦いはいきなり出鼻をくじかれる形で始まった。しかし、まだ終わりではない。むしろそこからが始まりなのだ。

 そこから、彼女の本当の戦いが始まったのだ。本業を行う一方で何度も冬木を訪れ、綺礼の息子に会い、自分の印象を良くしようと奔走し、年月を重ねてきた。

 そして現在、彼女は聖杯戦争の勝者となり、聖杯を持ちかえるという任務を請け負い、彼女は公的な理由で堂々と冬木市へ訪れた。さらには、なぜか聖杯戦争自体が破綻してしまっている現在の状況も、バゼットは自身をこの場へ送り込んだ魔術協会へも報告していない。一瞬でも長くこの場へ残っているためだ。

 今、バゼットが目的としているのは聖杯を手に入れることではなく、長年狙い続けていた男を自身の伴侶とすること。よって彼女の口からランサーへと下された指令も、聖杯を狙うことではなく一人の男を自身の元へ連れてくること。

 つまりは、言峰誠義を夫とするためだけに聖杯戦争へ参加したのが、このバゼットという女性なのである。今日も彼女は自分が宿泊するホテルの一室で、きっちりとスーツを着ながらも悶々としたままその場を動かず、いつこの場へ誠義が来るのだろうとうずうずしている。

 するとこの時、ついに彼女の部屋の扉がガチャリと外から開けられた。それはランサーが帰ってきたことを意味しており、同時に待ち望んでいた瞬間が来たということでもある。

 即座に目の色を変えたバゼットは素早く出入り口の方へと目を向け、とことこと歩いてくる二人の姿を視認していた。

 

 「よぉバゼット、なんか待たせてたみたいだな。悪ィ悪ィ、すっかり忘れてた。また俺だけで楽しんじまうところだった」

 「ちょっとっ、ランサーさん、どこ触って――んんぅ」

 

 バゼットの目に映ったのは、相棒である長身の女性ランサーと、彼女に抱きすくめられながら体をまさぐられる愛しい男、誠義だった。

 Tシャツの胸元から右手が差しこまれ、薄い胸板や刺激を受けてピンと立つ乳首、頼りなさげな腹までをしっかり触れられ、一方ではズボン越しに尻を撫でられる。男と女の立場は完全に逆転しており、主導権は完全にランサーが握っていた。

 男女の構図は逆だが、ひどく絵になっている姿でもある。身長差のせいでそう見えていることを理解したバゼットは、ただでさえ愛しい存在を好き勝手に弄られていることに加えてさらに腹を立て、人知れず拳を握っていた。

 誠義の体を思う存分楽しめて上機嫌なランサーはまだ気付いていない。

 

 「やっぱり誠義の抱き心地はいいよなぁ――特に初めての時なんか最高だった。学校とやらの中に逃げていって、行き場を失くして俺に犯されたんだったよな。あの時はよかった。体ではしっかり感じながら、途中から泣きじゃくっちまってよぉ。ホントに可愛いよな、誠義は」

 「し、しょうがないじゃないですか。初めてなのに、あんな乱暴に……あんなの普通にレイプでしたよ。制服だってビリビリに破かれたし、やめてって言ったのにやめてくれなかったし――そ、それに、可愛くないですってば」

 「いやいや、誠義は可愛い。俺が言うんだからそうなんだって」

 「うひぃ……く、首はやめてくださいって……!」

 

 ランサーの赤く長い舌が誠義の首筋を這って、ねっとりと上へ向かって進んでいく。それだけで彼は小さく体を震わせ、胸元に差しこまれた手をぎゅっと握って目を閉じた。

 あまりにも残酷な光景である。確かに連れてこいとは言ったが、何も目の前でイチャイチャしろなんて言っていない。そう思うバゼットはいつものようにグローブをつけていないというのに拳を握り、構えを取る。

 直後には彼女の拳は閃光の如く宙を駆け、ぶれることなく調子に乗ったランサーの頬を打ち抜いた。途端にランサーの体は誠義から離れ、蛙が潰れたかのような奇妙な鳴き声が上がる。

 その瞬間に、バゼットは解放された誠義の体を抱きしめ、瞳を潤ませる彼の顔を自分の胸に押し付けた。すると誠義は恥ずかしそうに両手をわたわたと動かし、戸惑っている様子を見せる。しかし逃げようとはしない。

 バゼットはそのままの状態でうっとりと目元を緩め、さらに抱きしめる力を強めた。

 

 「あぁ、誠義くん……ずっとこうしたかった」

 「ば、バゼットさん? あの、どうかしまし――」

 「誠義くん、もう我慢できません――」

 

 説明も何も始まらない内に、バゼットの唇がそっと、誠義の唇へと押しつけられた。その瞬間、バゼットは自ら目を閉じてその感触に集中していたが、この状況に驚きを隠せない誠義は目を見開いて全身を強張らせる。対極的な姿である。

 そのままの状態で、誠義の体は近くにあったベッドの上へとやさしく横たえられ、触れるだけのキスは尚も続く。柔らかい感触に夢中になってしまったかのように、バゼットは何度も首の角度を変えて誠義の唇を貪った。

 そうしていると、あっさりと復活したランサーがしかめっ面でそんな二人へと近付く。誠義を愛しているのは何もバゼットだけではなく、サーヴァントである彼女も同じなのだ。いかに己のマスターといえども、見過ごせるはずがなかった。

 

 「こら、言っとくけど俺が連れてきたんだぞ、バゼット。さすがに一人占めは許せねぇなぁ」

 「む――その件については礼を言います。しかし、彼を泣かせたなんて話、聞いてませんでしたよ。それに、誠義くんをレイプしたなどと……こんな状況でなければ、一発では済まないところです」

 「悪いとは思ってるよ。でもあんたならわかるだろ? 我慢できなかったんだ――なんかわかんねぇけど、誠義を見てると勝手に体が動くんだよなぁ」

 「まぁ、その気持ちは確かに理解できますが……二度目はありません。もう彼を泣かせてはいけませんよ、ランサー」

 「へいへい、わかってるよ。だから俺も、な?」

 「仕方ありませんね……」

 

 ベッドの上で重なり合ったバゼットと誠義の元へ、ランサーもまた身を横たえる。これで誠義の体は左右から挟まれ、簡単には抜け出せないような状況となった。

 そうなると彼は当然とばかりに慌て始め、交互に左右の顔を見比べながら狼狽する。この状況には普段にはない、少しの緊張感が生まれるのだ。

 ランサーは自分の初めてを無理やり奪い、泣かされた相手。バゼットは昔から知っているやさしいお姉さんで、惚れなかったと言えばうそになる、憧れの人。そんな二人に押し倒されて興奮せずにいられるほど、彼はまだ大人ではないのである。

 するりと伸びたランサーの手が下腹部へ到達した時、ズボンはすでに大きく押し上げられていた。

 

 「あ、あの、バゼットさん、ランサーさん……こ、これって……」

 「あなたは何も心配しなくていいんです、誠義くん。すべて私に任せて――お姉さんに任せなさい」

 「そうそう。前みたいにじっとしてろよ誠義。すぐに泣きたくなるほど気持ちよくしてやるから」

 

 ランサーの手が陰茎をぎゅっと掴み、舌が再び敏感な首筋へ這わされる頃、バゼットは彼の服を脱がしながら何度もキスを送っていた。愛情が深く、相手を気遣うやさしい動き。それはランサーとは対極なものである。

 それぞれ違った特徴を持つ愛撫が、挟み込むように誠義へと与えられていた。力強く、少し乱暴にも思える野性的な愛撫はランサーのもので、それとは対照的にやさしく、誠義を大事に扱おうとする淡い感覚がバゼットから与えられる。そのどちらもが気持ちよく、彼の体の中で反発し合うため、誠義の心はすぐにその行為に取り込まれていった。

 だらしなく口元を緩ませ、無防備に体の力を抜いた誠義の口内へ、バゼットの舌が侵入する。その頃になるとすでに誠義の体は裸で、バゼット自身も服を脱ごうと手と体を動かしていた。

 すでに自身の服を脱ぎ去ったランサーは迷いもなく誠義の下半身に顔を近付け、いきり立つ肉棒を眼前に置く。すると野性味あふれる笑みを見せたかと思えば、一気にぱくりと口内へと銜えた。

 

 「うっ、ふぅ……!」

 「んんっ、ふむっ――あぁ、誠義くん、誠義くんっ……!」

 

 高ぶりを隠せないバゼットの動きは徐々に乱暴さを見せ始めていた。ランサーにはやめるよう言った彼女だが、本来の資質の故か、どうやら我を忘れる誠義をもっと責め立てたいと感じているようである。

 バゼットの手が誠義の肌の上を這いまわり、首筋や胸、乳首や脇の下にまで余すところなく力強く触れていく。最初こそやさしく見えた動きはだんだん荒さを見せ始め、甘い声で喘いでいた誠義の声は徐々に大きくなっていった。

 その一端を握っているのは、彼の肉棒を口に銜え、手で玉を揉みほぐすランサーの動きである。どこか力強く、しかしどこか気遣いも感じられる絶妙な力加減。彼自身の精神を揺さぶるための動きが大胆さを増していく。

 正反対に見え、どこかでは似ている、ひと組の主従関係。彼女たちの呼吸はぴったり合わさっており、巧みに協力して誠義を高みへと押し上げていくようだ。バゼットからそうされていることに混乱している誠義は、とめどなく押し寄せる快楽に呑みこまれていき、すでにとろんと目を蕩けさせている。

 しかしある時、先に我慢できずに動きを変えたのはバゼットだった。押し寄せる興奮に逆らえなくなった彼女はスーツをすべて脱ぎ終え、下着もすべて放り捨てると、ランサーを押しのけて誠義の腰へ跨った。膨れ上がって赤々と光る亀頭と、濡れそぼった膣とが、ぴとりと触れあう。

 楽しくなってきたところを邪魔されたランサーは不満足そうだったが、興奮で顔を真っ赤にしたバゼットは平静を失くした瞳を誠義へと向けており、ぼんやりと開く彼の目と視線がぶつけた。

 

 「ハァ、ハァ、誠義くん……どれほどこの時を待っていたか……! もう、もう入れちゃいますからね……!」

 「んん、はぁっ、ちょ、バゼットさん……そんな、どうして……」

 「決まっているでしょう――あなたのことが、ずっと前から好きだったからですよ」

 

 そう告げ終わった後、バゼットは腰を降ろして彼の肉棒を体内へと迎え入れた。勢いがあったせいで両者の体に凄まじい衝撃が走り抜ける。どちらも咄嗟に舌を伸ばして足をピンと伸ばし、数秒は息もできずに快感に打ちひしがれていたようだ。

 誠義はすでに限界に近い様子で、対するバゼットはすでに激しい絶頂を感じている。背筋を逸らしてぶるぶると体を震わせ、天井を仰ぎ見ながら動きを止める程度には余裕がないらしい。

 その間に誠義の上半身の傍へ移動したランサーは、自身の大ぶりの乳房を彼の顔の上に置いた。とても楽しそうな笑みを浮かべつつ、もっと気持ちよくしてやろうと掬いあげるように自身の乳房を掴み、何度も彼の顔へ押し付ける。強弱をつけた動きは、確実に誠義へ興奮を与えていた。

 彼が更なる興奮を感じている間に、少しばかり正気を取り戻したバゼットはゆっくりと腰を動かし始め、誠義の腹に両手をついて上下に動く。ずるずると肉棒が出入りを繰り返し、彼女の膣を押し上げるように狭い内部を広げさせた。

 

 「うんんっ、はぁぁっ、あぁぁっ……!」

 「うっ、ふぅぅ、バゼット、さんん……!」

 「クックック、いい声出すなぁセイギ。おら、もっと鳴けよ」

 

 ぐちゅぐちゅと淫靡な音が室内に広がり、激しい腰遣いで誠義の体が責め立てられる。しかしバゼットも同じくらいには感じているため、荒い息遣いはさらに乱れていく。

 一心不乱で、ほとんど狂乱の中にあるような動きだった。一方的に腰を動かして肉棒を刺激するバゼットも、胸と手の動きで遊ぶように誠義の心を揺さぶるランサーも、我を忘れたかのように誠義にばかり集中力を向けている。今の彼女たちは戦士と思える雰囲気を持つ普段とはかけ離れた、快楽で堕落したただの雌だ。

 しばらくもすれば、あまりにも激しい動きによって二人も限界へと達してしまう。ランサーに唇を吸われ、話すこともできない誠義は何かを告げることもできないままに射精を開始し、バゼットの膣内へと精液を放つ。それを感じた彼女は一際高く鳴き、自らも絶頂を感じて背を逸らす。

 大きな快感の波に襲われた後、ぐったりと脱力したバゼットは誠義の上に覆いかぶさるように倒れ、そのまま目を閉じてしまう。同じように誠義も脱力した状態で目を閉じ、荒く息を繰り返している。

 ようやく室内が静かになってから、ランサーは誠義の上に寝るバゼットの体を別のベッドへ寝かせると、今度は自分が彼の体に抱きついた。ただし、いつかとは違って、今度は自分がベッドに寝そべるように位置を入れ替え、わざと誠義に押し倒されるような格好になった。

 その状態で、ぐったりと胸の間に顔を埋めてくる誠義の頭を撫で、微笑んだランサーは小さく囁く。男っぽいために普段は感じられない、妙な色っぽさが込められた声で。

 

 「ほら、誠義。前は俺から無理やりだったからな――今度は誠義からしてもいいぞ。好きなように動いてみろ」

 「え……ほ、ほんとですか?」

 「ああ。やり返したかったんだろ? ほら、今がそのチャンスだ。やってみろよ」

 「は、はい……」

 

 今度は誠義の方から腰の位置を正し、ゆっくりと前へ突き出していく。非常にゆっくり、ずぶずぶと膣の内壁を押し分けて肉棒が奥へ進んでいった。

 自分より長身のランサーに抱きすくめられ、下から乱暴に口内を荒らされながら、誠義は徐々に腰の動きを速める。目は閉じられ、襲い掛かる快感に屈しないようにと尻の穴へきゅっと力を入れながらのことである。

 しばらくは突かれるがままに体を揺すられていたランサーだが、少しもすれば自分も動きたくなって落ち着きがなくなる。確かに誠義の方からそうされているのも気持ちいいのだが、それ以上に彼を感じさせたいと思ってしまう。

 感じさせられるままではなく、ついに自分からも動き始めたランサーは長い腕をすっと伸ばし、誠義の尻の間に指を這わせた。そして、彼が一足先にイカないようにと力を込めているそこへ、つぷりと指先を挿入させる。

 途端に誠義の目は見開かれ、調子よく動いていた腰はぴたりと動きを止めてしまった。めずらしく自分から胸の間に顔を押しつける彼はどうやらそれだけで達しそうなようで、あっさりと余裕の無い、情けない姿へと変わる。

 にやりと口の端を上げるランサーはそれが楽しいようで、機嫌良さそうに指を動かして誠義を責める。それに合わせて腰の動きはどんどん小さくなり、もはや耐えることに精一杯な様子だ。

 

 「はぁ、セイギ、イキそうなんだろ? 我慢しないでもうイッちまえよ」

 「うくっ、うぅ……!」

 「ほらほら、腰が止まってるぞ。もっと速く動か――あっ」

 

 楽しげに話している最中で、亀頭の先からどぷりと精液を放っていた。ランサーの膣内、奥深くに彼の子種が勢いよく吐き出されている。彼女本人も驚いてしまうようなタイミングだった。

 唐突に始まった責めに耐えられなかったのだ。思いのほかあっさりと射精した誠義はその最中からぐったりと脱力して、胸の中に顔を埋めて静かになる。荒い息を整えようと必死に呼吸を繰り返しながらではあるが、少し恥ずかしそうにしているようにも見えた。

 すると楽しげに微笑むランサーは彼の頭を撫でながら、やさしい声色で囁いた。柔らか声色とは裏腹に、発する言葉は少しイタズラなものである。

 

 「なんだ、やっぱりもうイッたのか? 意外と早いんだな、誠義」

 「うっ、はぁ……こ、こんなの、我慢できないですって……」

 「クククッ、まぁいいさ。それより、俺はまだ満足してないんだから、もう一回――おっ?」

 

 顔を上げて潤んだ瞳を向けてくる誠義にランサーが答えていると、その背後で動く影があった。先程まで失神して動かなかった彼女の相棒、ゆらりと立ち上がるバゼットである。

 なぜか危うげな雰囲気を持ちながらベッドの傍へ立ったバゼットは奇妙な色を灯す目をぼんやりと開き、誠義の裸体、背中や尻を眺めている。その状態のまま、ぽつりと呟くのだ。

 

 「ランサー……私と交代してください。もう一度、誠義くんとの繋がりを――」

 「残念ながら、誠義はイッたが俺はまだイッてない。もうちょっと待ってくれよ、バゼット」

 「ふ、そうですか……ならば私は、私のしたいことをするまで……」

 

 ゆらり、ゆらりと体を揺らし、まるで幽鬼のような雰囲気を持って動く彼女はどこぞへと赴き、妙な薬を手に取った。

 そしてその丸薬を呑むと、見る見るうちに彼女の肉体に変化が起こる。美しい筋肉美を誇る裸体がぶるぶると震えて数秒、己と誠義の体液で濡れていた膣の奥から、ずるりと男根が出てきたのだ。

 女らしくなく、むしろ男らしい肉棒が現れ、その光景をまじまじと見つめていた二人は言葉も失くして呆然としていた。いくら魔術が存在する世の中とはいえ、そんなことはありえないと思っていたのだろう。

 だが実際、今のバゼットの股間には男の象徴が生まれている。女の体でありながら男の陰茎も持つ、なんとも不思議な姿である。

 

 「うぅ、ふぅ――ふふふ、どうですかこれ? 魔術協会の知り合いに頼んで内密に作ってもらっていたんです。いつかこの時が来ると信じて――」

 「お、おいバゼット。それって何なん――いやいや、それで一体何をするつもりだ? ま、まさかとは思うが……」

 「ふ、ふふふふふ、ええ、決まっているでしょう――私がこれで、誠義くんを抱くんです」

 「……え? ええ? えええぇぇ?」

 

 思いがけない発言に反応して、不安からか誠義は繋がり合ったままのランサーへと強く抱きつく。現在彼女の膣内にある陰茎は少しばかり小さくなって勢いを失くしており、精神的な反応は思いのほか大きいようである。

 だが、当の誠義が怖がっていることにも気付かないバゼットは妙に据わった目で誠義の尻を見つめ、舐めまわすようにねっとりと視線を動かしている。艶めかしく、そして同時に恐ろしい、これまで彼女のことをやさしいお姉さんとして見ていた誠義にとってはトラウマにもなりかねない姿だ。

 股間の肉棒をぶるりと揺らしながら、非常にゆっくりとベッドの上に乗ったバゼットは自身の男根に手を添え、もう片方の手でゆったりと誠義の尻を撫でた。

 その後はランサーに抱きつく誠義の不安も他所に、バゼットはしっかりと狙いを定めてしまったのである。

 

 「あぁ、ついにこの時が……! 初めて見た時から、この子犬のように可愛い男の子をめちゃくちゃにしたいと思っていたんです……! それが今、ここで――!」

 「ちょ、ちょっとっ、待って下さいバゼットさんっ! お願いですからそれだけは――あっ、あぁっ、アァーーーっ!!?」

 「セイギ……俺のせいとはいえ、なんて不憫な子……」

 

 この一日の後、ランサーを怖がっていた誠義は以前のことなど忘れたかのように彼女へ懐き、代わりにバゼットに対しては顔を合わせただけでびくびくと震えてしまう体質となったらしい。

 




というわけで、ダメットさん――もとい、バゼットメインのお話でした。ネットを駆け廻っている時に色々な刺激を受けたため、こんな形となっております。最後まで事細かに描写しなかったのは、読む人への配慮のつもりです。
ふざけるつもり以外何もないシリーズですから、これに関してはまじめな期待を向けないでください。ただネコカオス・ブラックG666を出したかっただけなのです。


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はくのんとあまいさくらちゃん(Fate/EXTRA)

 目を覚ますと白い天井が見えた。薬品の匂いが鼻腔をくすぐったことから保健室なのだろうとわかる。寝転ぶ自分を支えてくれているのは以前にも頼ったベッドで、その景色も見覚えがあった。

 なぜ自分は倒れているのだろうか。記憶が混濁している。保健室に運ばれたからにはきっと倒れてしまったのだろうがその理由がわからない。

 体に痛みはない。だるさはあるものの動けないほどではないだろう。

 起き上がろうとして、ベッドに手をついたその時だ。

 閉められていたカーテンが開き、向こうから可憐な少女が顔を出した。

 その顔に気付いて岸波白野はあっと声を漏らす。

 

 「先輩……気が付いたんですね」

 「桜? どうして。俺は、確か」

 

 消えるはずだった。その言葉を呑みこむ。

 戦いは終わったはずだった。彼の脳裏に残っている記憶は嘘ではない。聖杯を巡る戦争の終盤、相棒であるサーヴァントと共に戦いを勝ち抜き、聖杯まで辿り着いたその光景。しかし何かが奇妙だと気付く。記憶は確かに残っているが、そこに奇妙な相違があるように思える。

 相棒、サーヴァントは一人のはず。なのになぜ記憶の中に四人も居るのか。

 赤きドレスを纏った暴君。

 赤い外套の皮肉屋な弓兵。

 半人半獣の妖艶な呪術師。

 黄金の輝きを放つ英雄王。

 頼れる相棒として心を預けたサーヴァントが四人、霞むことなく明確な記憶として白野の中にある。だが一体なぜだろう。一人のはずなのに彼らのことをよく覚えている。或いは何らかの要因によって植え付けられた偽の記憶の可能性もあるが、偽物か、そうでないのか、それすらも自分ではわからない。体験は彼の中にしっかり根付いており、とても虚構だとは思えなかった。

 困惑し、思考に埋没していく。

 かつてと同じような感覚を味わっていた。記憶を失い、進むべき道がわからずに迷っていた頃。

 救ってくれたのは仲間だった。支えてくれたのは相棒だった。今や不思議にも脳裏に四人存在しているサーヴァントだった。

 動揺し、考える内に自分が揺らぐ感覚を覚える。

 記憶と現実の相違。体験と事実の乖離。自分は誰で、何が真実なのか。

 そして何より不思議だったのは、彼の記憶の中には岸波白野の最期が刻まれている。霊子虚構世界、SE.RA.PH(セラフ)から消去された瞬間を覚えている。つまり今、自分はこの場に居ていい人間ではないはずだ。

 岸波白野は消えた。その記憶に間違いはない、と思う。

 だからこそ不思議に思う。

 消えた自分が前と変わらぬ月海原学園の保健室に寝ていて、間桐桜という少女に迎えられることが。普通に見えるからこそあり得るはずがないと自覚していた。

 白野は現実を受け入れられず、額に手を置いて苦悩する。

 そこへそっと桜が歩み寄り、ベッドの端に座って、彼の顔を覗き込んだ。

 

 「先輩? まだ、お体の具合が悪いんですか」

 「いや……俺は夢でも見てるのかな。ちょっと、訳が分からない」

 「無理はしないでください。体調が悪いなら、そのままで」

 「俺は、消えたはずじゃなかったのか」

 

 ぽつりと呟かれる。核心を突く言葉だった。

 再びベッドに寝そべって考える。

 頭の中が整理できず、今度は考えようとしても無駄な徒労に終わったようだ。

 溜息をつきつつ、白野が言葉を吐く。

 

 「頭の中がぐるぐるしてるんだ。まるで夢でも見てるみたいで――」

 

 彼が苦悩が伝わったのか。咄嗟に桜が動き出していた。

 目を瞑る白野の顔に音もなく近寄り、言葉を遮るかのように唇を塞いだのだ。

 ちゅっと音が鳴る。その時には驚きから白野が目を見開いていて、目を閉じていながら幸せそうな表情の桜を間近に見つけ、今、自分たちは間違いなくキスをしているのだと理解する。

 大した動きはなくぐっと押し付けられる。

 柔らかさが如実に伝わって、気付けば自分の中から悩みが吹き飛んでいた。しかし代わりに抑えきれない驚きが生まれて両手が意味もなく動き出す。

 抵抗するのか、しないのか。戸惑っている内に彼女の顔が離れた。

 至近距離から見つめ合った顔はとても美しく、可憐で、思わず息を呑む。

 彼女は、こんな顔をしていただろうか。改めて見る桜の姿には驚きを隠せず、同時に、今まで見た事が無い表情だと思えて胸の鼓動が速まった。

 白野を心配しながらも、薄く笑みを称えて。彼の左の頬にそっと手を添えた桜が口を開く。

 

 「まだ目が覚めたばかりです。今は何も考えずに、一度落ち着きましょう」

 「さ、さくら……?」

 「私、先輩がここに居てくれて嬉しいです。それじゃだめですか?」

 

 いつしか桜は態勢を変え、上履きを脱いでベッドへ上がっていた。

 白野の上から覆いかぶさるように寝る。首筋へ顔を埋め、ぎゅっと抱きしめる形であった。近しい少女の唐突な行動に頬は赤面し、身動きできなくなるほど体が硬直する。

 

 「先輩が居てくれるだけで嬉しいんです。もう、どこにも行かないでください……」

 「あ……」

 

 今にも泣きそうな声だ。耳元で囁かれて言葉を失う。

 やさしい彼女はきっと心配してくれていた。どう足掻いても消える運命にあった自分を、一人の人間として、ずっとこの場所で想ってくれていたに違いない。

 そのやさしさに胸が温かくなり、言い知れないほど感謝する。

 まだ事態を呑み込めていない。自分は生きているのか、死んでいるのかすら希薄。しかし確かなことは、彼女は自分のことを想ってくれていた。居場所を失くさないように、岸波白野のことを覚えてくれていた。今はそれだけでいい。それがわかっただけでどうしようもなく嬉しかった。

 白野は自らの意思で桜の背に腕を回す。抱きしめると少しだけ苦しそうな声を発したが、それすらも愛おしい。

 頬ずりを始める彼女を受け止めながら、白野の声は穏やかだった。

 

 「ありがとう、桜。俺の居場所を残しておいてくれて」

 「はい。私、先輩が居ないと生きていけないんです」

 「そうか。そこまで思われてるとは、思わなかったけど」

 「どんな理由があって、何が起こっていたとしても関係ありません。私は――」

 

 腕を突っ張って顔を上げ、桜が白野の顔を見下ろした。

 今度はさっきよりも笑みが増して、心底嬉しそうに告げられる。

 

 「私は、先輩が好きです」

 

 はっきりと伝えられる。

 驚きはしたがすぐに嬉しさがこ込み上げて笑みが抑えられなくなった。

 白野は頷き、パッと更なる笑顔を咲かせた桜の様子を見た。

 

 「ありがとう。桜のおかげで落ち着けたよ」

 「先輩……はいっ」

 

 再び桜が強く抱き着き、抱きしめ合う。

 そのまま時が流れた。どちらも何も言わず、保健室全体が静かになる。

 ただ触れ合っているだけなのに驚くほど落ち着く。どれほどそうしていただろうか。桜の体は柔らかく、不思議と甘い匂いがするようで、特別な何かもなくそうしているだけで気分が良くなる。沈黙も苦にはならずに黙っていても心地良さは変わらなかった。改めて理解するが、やはりそれだけ彼女に心を許しているということに違いない。

 しばらく無言の時間が続いて、やがて桜が動き出す。

 先程と同じように顔を覗き込んで恥じらった笑顔。

 何か様子がおかしいと感じて見つめていると、鼻先を触れさせて、囁き声で言う。

 

 「先輩。あの、起きたばかりで申し訳ないんですけど……」

 「ああ。なんだ?」

 「私、もう我慢できないんです」

 

 じっと目を見つめられてドギマギする。

 以前はこんなに積極的な女の子ではなかった。さっきの告白といい、キスといい、今といい、何かが違う気がする。或いは何かが変わったのだろうか。

 こういった彼女を見るのも気分は悪くない。胸が高鳴るということは喜んでいることだろう。

 自分でも不思議に思うが抵抗する気はなく、次の言葉を待っている気がする。

 桜の顔から目が離せず、体が熱くなっている自覚があった。

 

 「えっちな子だって思いますか? でも勘違いしないでくださいね。誰にでもこうなる訳じゃありません。先輩といっしょにいると、胸が苦しくなるんです。もっと触れたいって、もっと知りたいって思うんです。先輩のすべてが、欲しくなっちゃうんです」

 「う、うん」

 「はぁ、今も熱くて……体が、言うこと聞きません。先輩とキスしちゃって、抑えられなくて……私、一つになりたいです。先輩と、一つに」

 

 ずいぶんな告白だと思う。しかし嫌がる自分はどこにも見当たらない。それどころか彼女の言葉一つ一つに喜びを覚えて、体が徐々に熱くなり、我慢できなくなってきたのは彼も同じだった。

 甘い香りが強くなったように思う。

 こんな感覚は知らない。体と自我が暴走して抑えが利かなくなっていた。

 いつの間にかズボンの下でペニスが膨らんでおり、桜が緩やかに体を揺らしてくるせいで股間と触れ合い、それが微弱な刺激となって頭がかっと熱くなった。

 視線は彼女に釘付け。桜も白野から目が離せない。

 怪しく動く指が白野の頬をするりと撫で、さらに気分を高ぶらせる。

 

 「だめ、ですか? なんか、んん、体が熱くて……」

 「お、俺もだ。このままだと我慢できそうにない」

 「じゃあ、我慢、やめましょう。はぁ、だめなんです。先輩の顔見ると、いつもこうなっちゃって。んん、先輩に触って欲しいんです。私のこと、好きにしてください」

 「桜……」

 

 体が熱くなって思考が蕩けていく。まるで頭が沸騰しているかのようだ。

 訳も分からず、白野は桜の頬を掴んで引き寄せた。

 荒々しく唇を塞ぎ、驚愕して目を見開く彼女の唇に強く吸い付く。すぐに桜も順応し、自ら目を閉じるとうっとりした表情。嫌がる素振りなど皆無でされるがままとなった。

 静かに離れる。

 呆けた顔で見つめ合い、どちらも感情は同じだった。

 もっと触れたい。もっと気持ち良くなりたいと感覚が暴走している。

 今や自分では止められず、本能に従い、両者は深くキスを始めた。

 

 「んっ……ふっ」

 

 もう我慢はしない。言葉にしないがすでに決めている。

 二人は唇を同化させて、舌を絡め合い、顔の角度を変えてさらに深く繋がろうとする。

 我ながら異様だと思った。まるで獣のような我武者羅さ、らしくないと知りながらも体を制御することができない。

 唇を感じて、舌を感じて、熱くなった呼吸が肌に当たる。

 彼女の柔らかさが心地よかった。体の熱がよく伝わり、やけに興奮した。

 どうすればいいかなどわからないがとにかく手を動かす。経験がないせいでどうやって相手を気持ちよくすればいいかは知らない。だけどただ触れたいという欲求は有り余るほど持っている。戸惑いながら動いた手は恐る恐る、服の上から彼女の体へ触れた。

 あっと小さな声。

 胸を触られた桜は恥ずかしそうに顔を背ける。

 嫌だったかもしれない。そう思って気遣おうとするのに、右手は柔らかい感触を揉み続けた。手の中に余る大きく柔らかな感触は他の何にも代え難い。離すのは惜しまれた。

 それを知って、流し目で興奮した白野の顔を見た彼女が呟く。

 

 「あの……服、脱ぎましょうか。その方が、その、しやすいですよね」

 「あ、ああ。そうだな……」

 

 耳まで真っ赤にしながらずいぶんなセリフを吐く。

 恥じらう彼女なのに意外にも大胆で、まるでリードされている状況だ。けれどそんなことを気にしていられる状態ではなく、思考が蕩けた今は男のプライドがなんだと言っていられない。今にもペニスが暴発しそうで、我慢するのにやっとだった。

 上体を起こし、腹の上に座った桜が服を脱ぎ始める。

 一枚一枚、妙に艶めかしい様子。白衣が床へ落とされ、制服が肌を離れていき、最後には下着のみとなった肢体。恥ずかしがりながらで時間はかかったが自らの手でその姿となった。

 興奮は抑え切れず、桜の肩を掴んだ白野は無理やりベッドへ押し倒し、上から覆いかぶさる。

 きゃっと小さな悲鳴が聞こえるも、嫌がる素振りはない。所在なさげに胸の辺りに両手を置いたまま、顔はそっぽを向いて、そのまま続けて欲しいのだとわかった。

 

 「桜、きれいだよ。俺、どうにかなっちゃいそうだ」

 「……なっても、いいですよ。私も、あの、えっと……めちゃくちゃにして欲しい、です」

 「さ、さくらっ」

 

 襲い掛かるようにのしかかって首筋へ唇を触れる。

 白い肌を舐めてじゅるりと音が鳴り、耳元から聞こえるそれが妙に興奮を煽る。桜は身を捩って喜んだ。唇をきゅっと結んで目を閉じ、行き場を失くした手はシーツを掴む。

 些細な動作すべてが可愛らしく、両手が上機嫌に胸へ触れる。

 大きくて重そうな乳房は触れるとマシュマロのように柔らかく形を変え、押せば指がわずかに埋まり、弾くように叩けばゆさりと揺れる。

 桜は恥じらいでいるが白野は気にせず上機嫌な様子だ。

 おもむろにブラジャーが上へずらされる。

 ピンク色の乳首が露わになり、すでに勃起しているのが見て取れた。

 

 「あぅ、せんぱい……!」

 

 桜の声に反応せず乳首へむしゃぶりつく。もう片方は指先で摘まんで刺激した。

 味がする訳ではないものの不思議と甘いような気がして、無性にやめられなくなる。

 しばし離れられなくなった。

 もう片方にもしゃぶりついて思い切り舐め回す。今の白野には何を言っても止められず、羞恥と快感で息を乱した桜が肩に手を置いても、気付きもしない。

 一度火がついた興奮には抗えずに、たっぷり数分間は乳首をしゃぶった後。

 ようやく冷静さを取り戻し、白野が顔を上げる。その時には桜は少しぐったりした様子で、その姿を見れば少しやり過ぎたかと反省してしまう。わずかに体を震わせている彼女は潤んだ瞳で白野を見上げ、唇を動かすと、どこか呆けた声を出した。

 

 「せ、せんぱい……ずるいです。私だけ気持ちよくなっちゃったじゃないですか」

 「あ、ご、ごめん。桜が可愛くて、つい」

 「もう、そんなこと言って……他の女の子にも言ってるんですか?」

 「そんなことない、と思うけど」

 「それにしては色んな人から人気があるみたいですけどね」

 

 いじわるするかのようにそう言って、慌て始めた白野を見ると桜が笑う。

 くすくす肩を揺らして楽しそうな表情。やっと平静を取り戻してきたらしい。

 表情は明るくなり、緊張は消えないものの、肩の力が抜ける。

 白野の胸に手を置いて、やさしく囁かれた。

 

 「私も、先輩にしてあげたいです。恥ずかしいですけど、いいですか?」

 「いいのか? こういうこと聞くとあれだけど、経験とか」

 「ありません。でも知識としては知ってます。先輩に気持ちよくなって欲しいから」

 

 桜の手が胸を伝って降りて行き、そっと下腹部へと触れる。布越しだが感触は伝わった。痛いほど勃起したペニスが解放される時を今や遅しと待っている。

 その微笑みは聖女のように見えて。

 また頬を赤くしながら手でペニスを揉む桜は、淫靡な雰囲気を纏いながらも不思議と下品には見えず、白野へ顔を寄せて怪しく囁いた。

 

 「ここ、もう我慢できませんよね。お口でしてあげましょうか?」

 「うっ、桜……」

 「やってみたいんです。ズボン、脱いでもらえますか。それから、私の顔、跨いでください」

 

 やさしく擦られては拒否のしようもなく、白野は頷く。

 両手は自らの下半身へ向かう。ベルトを外してズボンを下ろし、脚を抜いてそこらへ放り投げると、戸惑いはしたが意を決して下着も脱ぎ捨てる。

 ビンとそそり立つペニス。先端が先走り汁で濡れていて、ひどく浅ましい姿だ。

 それを目で確認した桜は少し驚き、だが目を逸らさない。

 今度は両手でそれに触れた。

 桜に弄られながらも白野は言われた通り、少し移動して彼女の顔を跨ぐようにベッドへ膝をつく。顔の前にペニスを置いて、桜の顔を見下ろすのはひどくいやらしい光景だった。

 

 「じゃ、じゃあ、いいかな?」

 「はい。下手かもしれませんけど、頑張りますね」

 

 両手の指先で竿を握り、いけないことをしている雰囲気で桜が舌を伸ばした。

 ぺろりと触れられる。途端に亀頭が震えて、喜んでいるのは明らかだった。

 白野の表情が変わったことを知って桜は微笑み、さっきよりもう少し強く舌を這わせる。舌先でつつき、ぐっと押し付けるような仕草。与えられる感覚はわずかだが思わず表情をしかめてしまう。初心そうに見える可憐な少女が、自身のグロテスクなそれを見つめて、手で触れて、あまつさえ口に含もうとしているのである。見ているだけでも毒になって白野は顔を上げると目を閉じた。

 視界がゼロになると余計に触れられ方が鮮明にわかる。

 ちろちろと舌先で舐められ、亀頭の形をなぞるようにゆっくり、丁寧に唾液を塗られていた。

 確かに気持ちいいが、物足りない感じもあって。もっと激しくして欲しいと望んでいる。

 叶うのならば彼女の後頭部を掴んで喉の奥まで思い切り突っ込み、何も気にせず全力で腰を振りたい。彼女の喉の奥へ出してしまいたい。

 目を閉じたせいかそんな妄想が脳内を支配し、興奮が高まる。

 一方で亀頭へ与えられる快感はほんのわずかで。

 耐え切れなくなった白野は桜の顔を見下ろすと焦った様子で言ってしまう。

 

 「さ、桜。もっと……その、これじゃもどかしくてさ」

 「あ、辛かったですか? ごめんなさい、痛くないのか気になっちゃって」

 「痛くない。痛くないから、もうちょっと強く」

 「わかりました。それじゃあ――」

 

 白野が見ている前でぱくりと亀頭が銜えられる。今度こそ我慢できなくて彼の背筋が伸びた。口からはだらしない声が漏れ、してやったりと桜の頬が緩む。

 舐められるのと銜えられるのでは感触が違う。

 唾液を塗りたくられてじゅるじゅると、頭が振られて刺激が強くなった。

 待ち望んでいたのはこういう物だ。それでもやさしく感じるものの、彼女の口の中に入っているのだと思えばそれだけでイってしまいそうになる。必死に耐えながらも本音はすでに出してしまいたいと思っていて、気を緩めれば今すぐにでも出てしまうだろう。

 白野の吐息は熱くなり、荒くなって口から漏れ出る。

 桜はそんな彼の様子を伺いながら丹念にペニスをしゃぶった。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 

 リズムよく亀頭が扱かれて唇に吸い付かれる。

 同時に竿を持つ指先がにぎにぎと揉むように刺激を与えていて。

 記憶喪失も手伝ったのかもしれないが、そんな感覚は初めて覚えた訳で、徐々に平静を失くしていく白野の口はだらしなく開かれ、端から唾液を垂らしてすらいた。

 口から出る小さな嬌声も間抜けな物である。

 感じていることを知ってさらに桜の機嫌は良くなった。

 

 「あぁっ、うぅ、あっ――!」

 「んふぅ。ちゅ、れろっ、ぷあっ」

 

 前向きな姿勢のせいか、時間が経つごとに桜は上達していくかのよう。白野の反応が良い部分を探りつつ、快感の与え方に工夫をし始めていた。

 亀頭を口に含んで強弱をつけて吸い付いたり。少しインターバルを置くように竿を舐め、玉を揉みほぐしたり。口を離せば少し余裕を取り戻せるようだった。だから敢えて根元の方を舐めてやって、落ち着いた頃に急に亀頭を口に含み、割れ目を舌先で強く撫でてやると面白いほどに腰が震える。今や完璧に彼女の手玉に取られていた。

 ふふふと楽しげな声。桜はこの瞬間を楽しんでいた。

 ガチガチのペニスをしゃぶりながら、楽しむ様は妖艶な雰囲気を称える。

 

 「あっ、あっ、桜……!」

 「ん、イキそうですか? それとももっと強くします?」

 「はっ、ふっ、も、もうちょっとだけ、強くして。て、手で扱いて。そうしたらイケそうだから……」

 「こうですか?」

 「あっ、そ、それっ。それで、くぅっ」

 

 右手で強く竿を握って上下に扱く。指先でやさしく握っていた時とは比べ物にならない。いやらしさが増したような気がしてそれだけでも興奮した。

 一方で亀頭も口内へ迎えられて吸い付かれる。

 いよいよ気分が高まって来た。

 いつの間にか余裕を失くしていた白野は手で桜の頭へ触れ、手触りのいい髪に触れていた。

 固定する様子ではないがそれにも等しい。

 ぐっと顎を引き、感極まった声が出された。

 

 「あっ、も、もう……イクッ!」

 「んっ!?」

 

 堪えきれずに白野が射精した。事前に伝えていなかったせいか桜が亀頭を銜えたままで、勢いよく精液が口内へと飛び込んでいった。

 腰が震えてすぐには動き出せず。凄まじい快感が全身を支配する。

 竿の律動が止まる頃には独特の倦怠感に包まれていて、ぼんやりした顔の白野はそこから動けなかった。しかし、真下に居る彼女の顔を見た時にさっと顔が青ざめる。慌てて飛び退き、口からペニスを抜いてやった後で心配した。

 初めてだと言っていたのに口内射精などどうかしている。

 桜の頬に手を添えて吐き出すよう言うが、妙に熱っぽい眼差しに魅入られた。

 

 「ごめん、桜っ。吐き出していいから、えっと、ティッシュは――」

 「んっ、へんはい……」

 「え?」

 

 なぜか桜は慌てておらず、横向きに寝ると口を開け、口内にある大量の精液を見せつけた。

 白くどろどろした濃厚な体液。

 舌を動かすとそれが絡みつき、淫らな色に思える。

 再び口を閉じて表情が緩む。突然桜は喉を鳴らし始め、飲み始めたようだ。

 白野が慌てるものの何かを言う前にもう一度口が開けられる。

 口内にあったはずの精液はきれいさっぱり無くなっていて、今は彼女の体内にあった。

 

 「えへ。飲んじゃいました、先輩の」

 「だ、大丈夫なのか? ごめん、こんなことしちゃって」

 「いいんです。私がしたくてしたんですから。それに、嬉しかったです」

 「嬉しい?」

 「先輩をもっと感じられた気がして……」

 

 今になって恥じらいを思い出したか視線を外し、俯いてしまう。

 多少過激な部分もあるがどこまで可愛らしいのか。白野の胸の内は温かくなった。つくづく彼女が初めての相手で良かったと思う。そしてこの先に進みたいとも思った。

 

 「あの、私にもしてもらっていいですか? 気持ちよさそうにしてる先輩を見たら羨ましくなっちゃって。あ、でも嫌ならいいんですよ」

 「嫌なはずないよ。でも、本当にいいのか?」

 「は、はい。先輩になら、見られても……」

 

 シーツの上に仰向けで寝転んで、脚を投げ出した。

 白野は頷いて動き出す。

 

 「脱がせてください……」

 「ああ。わかった」

 

 脚の方へ移動してからショーツへ手をかける。緊張で手が震えそうだった。みっともないところは見せられないため意を決し、するりと足から抜き取っていく。

 そうして守られていた部分が見えた。

 薄く陰毛が生えた股間。ぴたりと閉じた陰唇がいやらしく、期待するようにわずかに濡れている。それが目で確認できるということはよっぽど興奮していたのだろう。想像とは違っていて、白野は息を呑んだ。嫌なはずがない、むしろしゃぶりつきたくて堪らない。

 やさしく太ももを掴んで脚を開かせ、間に入る。

 顔を秘所の間近にまで持って行けば流石に桜が身じろぎしたが、拒否する言葉はない。

 

 「ど、どうぞ。先輩の口で、気持ちよくしてください」

 

 頷いてから口を寄せる。

 初めて見る女性器。頭が熱くなって何も考えられない。

 どこともわからず舌を伸ばして舐め始めた。とにかく触れてみたかったのだ。

 

 「あっ……んっ」

 

 艶っぽい小さな嬌声。耳に心地いい。

 恐る恐るながらも試すように触れていく。外側の大陰唇から舐めて形を確かめ、思いのほか柔らかいのだと舌先に感じる弾力に気を良くし、徐々に内側へと進んでいく。流石にその辺りのことは知っていた。記憶喪失とはいえ年頃の青少年。映像や写真は見た事がある。

 いやらしく濡れる膣の入り口と、すぐ近くには尻の穴。

 隠されることなく見せられた彼女の恥ずかしい部分にペニスが一瞬で硬くなる。

 今すぐ挿入して腰を振りたい衝動を持ちながら、彼女を大事にしたいという気持ちが冷静さを失わせない。尚も彼は丁寧に桜の股間を舐め回した。

 

 「ふっ……んっ、んんっ。あ、せんぱ――」

 「はぁ、ふぅ。すごいな。ずっと舐めていたくなる」

 「んん、そんな、恥ずかしい……あぁっ」

 

 着実に桜は興奮していた。紅潮した頬はそのまま、両手で顔を隠してしまう。

 是非とも顔を見たいというのが本音だったが、あいにく口が離せない。

 ぢゅるるっと卑猥な音を鳴らして唾液をたっぷり塗り込んだ。

 舌で全体を舐めてほぐし、慣れさせようとしながら時には膣の入り口をつついて、垂れてくる愛液を舐め取り、勃起したクリトリスをこねくり回してやる。彼も桜同様、初めてだったはずなのに集中して触れていれば上達していく。躊躇いは一切なく、ついには尻の穴まで舐めだしていた。

 ぐったりし始めた桜は喉を震わせながら呟く。

 あまり刺激され続けるとおかしくなりそうだ。

 それに白野の気持ちも理解しているつもりだったので、彼を見ながら濡れた目で伝える。

 

 「せ、せんぱい……もう入れたいですよね。い、いいですよ。私、大丈夫ですから。ここに、来てください……」

 「はぁ、ほ、本当に?」

 「はい。私の初めて、せんぱいにもらって欲しいんです」

 

 蕩けた声で告げられて、もう我慢できるはずがない。

 返答は頷きのみ。

 慌てた様子で白野が自身のペニスを掴み、亀頭を秘所へ触れさせた。ずるりと全体を撫でるような動きが一度。ぴくりと腰が反応した折、今度は膣へ挿入される。

 奥まで入り込むとすぐに二人は抱きしめ合い、ベッドへ押し付けるように白野が上から覆いかぶさった。

 

 「あぁっ! あっ、くふぅ……!」

 「うはぁっ。桜、大丈夫か……?」

 「だい、じょうぶです……はぁ。ちょっと、きもち、よすぎて……!」

 「お、俺もだ。う、動くぞ。もう我慢しないからな」

 「はいっ。きてください、おもいっきり……私をせんぱいの物に――!」

 

 ぐんっと大きく腰がグラインドする。一気に子宮まで届いてしまい、桜はハッと息を呑んだ。

 全身にびりびり走る電気のような感覚。それを快感だと認識するまで数秒かかる。

 まだ理解しきれない内に白野が腰を引いて、また突き出した。

 理解する暇も与えないほど素早いピストン。気持ちいいと思った瞬間には次の波に襲われていて、とめどなく襲ってくる快感に溺れそうになる。

 だらしなく舌を伸ばし、桜の嬌声が保健室中に響いていた。

 白野もすでに余裕はない。一心不乱に腰を振ってペニスを刺激することのみに集中し、他のことは考えられなかった。今となっては桜を気遣うこともできない。

 水音が小さく、しかし徐々に大きくなる。

 桜は軽くイっていたようだ。潮を吹くように愛液が小刻みに噴出されてシーツを汚していく。

 そんなことにも気付かず、白野は全力でピストンを続けた。

 

 「はぁっ、くっ、きもちいい……!」

 「あぁ、せんぱい、せんぱいっ!」

 

 ほとんど狂乱の域である。

 名を呼びながら交わった二人は正常な思考さえ捨てている。

 むっと暑くなった室内で汗を掻き、互いの体液ならば何をと気にせず舌に乗せ、舐め取っては飲んでまた次を求めた。

 もはや思考に形はなく、ただ本能に従うだけ。

 獣のような成功の末、常に淡い絶頂を味わっていた二人は、ある時真に達することができた。

 深く舌を絡ませて呼吸を合わせ、その瞬間は全くの同時だ。

 

 「イク、もうイクっ!」

 「せんぱい、私も、イキますぅ!」

 「うああっ桜ぁ!」

 「せんぱぁいっ!」

 

 びゅるるるっ、と威勢も良く精液が飛びだした。

 膣内へ放たれるそれは狭い道を一気に満たしていき、奥へ奥へと進んで子宮にまで当たる。きっと中にまで注がれたことだろう。あまりの熱にだらしない表情を晒した桜は声すら出せず、ただ痙攣した。同じく白野もがくがく腰を揺らしていて一瞬呼吸が止まる。

 激しい最後を迎えて数秒。一気に力が抜けて動けなくなる。

 お互いを心配する声すらなくて、静寂が広がった。

 しばらく相手を認識する術は抱き合う肌の感触だけだったものの、やがて回復して視界に相手の顔を見つける。どちらもひどく緩んだ顔だった。

 さっきまでの乱れようがおかしくなってくすりと笑う。

 余裕は取り戻せた。けれどだからこそ頭をもたげる興奮もある。

 出したばかりで白野のペニスはまた大きくなり、膣内でそれを感じた桜はんっと声を漏らす。

 

 「先輩……さっき出したのに、もう我慢できませんか?」

 「う、いやぁ。桜が可愛いからつい」

 「またそんなこと言って。ふふ、いいですよ。もういっかいしましょ」

 

 首に腕を回されて捕らえられる。逃げるつもりもなかったが中断はなしのようだ。彼女にそうして誘われて逃げ出すだけの胆力などない。

 腰を掴んでゆっくり動き出す。

 射精したおかげで今度は自分を見失わずに済みそうだ。彼女の柔らかさを楽しむ余裕がある。

 一突きごとに力を入れて、膣の中をほぐそうとする。だがその必要はないようだった。先程の激しい性交ですっかり蕩けて、淫らに絡みついて来る。感度は上がっているらしい。それだけでなく白野を責め立てる様相もさっきより凄まじい。

 落ち着いたはずの呼吸はあっという間に弾んで、声が高くなった。

 興奮しきる前、冷静な状態でなんとか速度を緩めることに成功した白野は桜を見つめる。真剣な表情で顔を近付けて、唐突にキスを始めた。当然彼女も受け入れる。

 しばし繋がったまま動かずに舌を絡める。

 次に離れた時には、好奇心から白野が提案した。

 

 「あのさ。ちょっと、他の格好も試してみたいんだけど……後ろからとか」

 「ふふふ、そんなことだろうって思ってました。いいですよ。だけど、こんなことするのも先輩にだけですからね」

 

 一度抜いて桜が自ら体勢を変える。

 四つん這いによって尻を向け、振り返りながら笑みを向けられる。

 あどけなさを残す容姿とは裏腹な仕草に胸がときめいた。

 丸々とした白い尻を掴み、再び挿入して、ゆっくり前へ進んでいく。体位が変わるだけで感触が変わったような気がした。心地よくて溜息が漏れる。

 ずるずると肉の壁に擦り付けながら幸福感を感じた。

 顔が見えないのも一味違って、興奮した面持ちでどちらも楽しんでいた。

 

 「あっ、あっ、んっ、あっ――」

 「はぁ、すごっ……」

 

 ベッドが軋んでいる。そんな些細な物音さえいやらしい物に思えた。

 言葉を交わさずに無言で、ただ相手の体だけを味わっている状況を異質と思う一方、何も言わずに嬌声だけが耳に残るのが良いのだろう。初めての状況にそう思い、目につくすべて、耳に残る情報すべてが興奮を高めて性交に良い物として受け止めていた。

 しばらく無言で続けられる。

 水音はさらに大きくなっていき、初めは落ち着いていた声色も時間が経てばだらしなくなる。

 二人は再び、その時を近くしていた。

 

 「さくらぁ……また、イキそうだ」

 「あぁんっ、せんぱいっ、いつでも出していいですからね。私のなかに全部くださいっ」

 

 甘く濡れた声で桜が告げる。普段の姿とは違ってひどくいやらしかった。

 彼女の背に覆いかぶさった白野はゆさりと揺れる乳房を掴み、激しく揉みしだきながら腰の動きを速める。いよいよという瞬間を間近に全力で叩きつけられた。

 さっきより強く膣内を抉られ、子宮にごつごつと強くぶつかられる。

 首を逸らした桜は逃げようとするようにも見えて、あまりにも大きな快感に溺れかけていた。

 気にせず、白野がラストスパートをかける。

 

 「うぅっ、またイク……!」

 「はぁぁっ、あぁぁぁんっ!」

 

 膣内へ勢いよく精液をぶっかけられた。その拍子に桜の腰も激しく震え、気をやってしまった様子で高く鳴く。跳ねるように動いた尻はむしろ白野からさらに搾り取ろうとしているかのようにも見える。動きには効果もあったらしく、意識していなかったかもしれないが、緩やかに腰を振り続けた白野からさらに多くの精液を出させる。

 頭が真っ白になるほどの衝撃を受けて数秒。

 体から力が抜けた桜はうつ伏せで倒れてしまい、枕に顔を埋めて荒く呼吸を繰り返す。

 もう動けなくなってしまっていた。疲労に包まれているが不思議と幸せである。枕の中に隠されてしまった表情は淫らに緩んでいたことだろう。

 それを知らない白野はペニスを抜くと、彼女の姿を見下ろして黙り込む。

 肉付きのいい裸体。女性らしい丸みを帯びていて、細過ぎもせず太過ぎもせず、シミ一つない白い肌は見るも美しいが触れれば手に吸い付くような安心する感触。そして今は、股間から彼の精液をこぼれさせていて、それが妙に脳内に刻み込まれた。

 一瞬落ち着いたはずが、即座にペニスが勃起していく。

 亀頭が膣に触れてぐっと押し込められた。

 唐突な挿入に桜が震える。驚愕している間にピストンは速くなり、膣内を満たしていた精液が勢いよく外へ掻き出されていく。

 平静を取り戻す暇もなくまた彼女は喘ぎだした。

 

 「んやぁっ、あっ、せんぱいぃ……!」

 「はっ、はっ、ごめん桜、我慢できなくて」

 「んんっ、んいっ、いいんですよ、わたし、はっ……せんぱいの、ものですからぁ!」

 

 ベッドはさらに軋んでいた。

 一度火がついてしまった以上、もう自分で止めることはできない。自然に鎮火されるまでは。

 それから二人は幾度も淫らな遊びを繰り返した。まるで盛りのついた獣のように、そもそも止めようという考えを持てず、何度でも楽しそうに続けられる。

 保健室がねっとりした独特の空気に満たされるまで、否、満たされて尚。

 二人の遊びが止められることはなかった。

 

 

 *

 

 

 「さぁ始まりました。のんきでおバカな校内のみなさーん、お元気ですかぁ? 突然強襲型バラエティ、BBチャンネルの時間ですよ~」

 

 珍妙な映像が見えていた。

 目を開けようが瞼を閉じようが見えてしまう奇妙な風景。保健室だろうか。映像の中心には見覚えのある人物が映っていて、やけに楽しそうな笑顔で話している。

 白い肌をこれでもかと晒し、右腕で豊満なバストのトップだけを隠す色っぽい姿。

 なぜか裸の上半身が映る美少女は、驚くほど桜に似ていて。しかし彼女とは違う声色と態度で映像を見る者たちへ語り掛けていた。

 

 「え? ちょっぴりお色気要素が強過ぎないかって? うふふ、そうですね。女性を誘う勇気もない童貞くんたちには刺激が強過ぎましたかね。でもごめんなさい、たった今私の所用が終わったところなので、服を着る気力もないっていうか、体力の限界っていうか。とりあえず要点だけさっさと言いましょうか。私も色々忙しいんですよ」

 

 もぞもぞと動く彼女はベッドの上に居るらしく、寝そべった後でカメラの位置が変わる。

 白いシーツの上が映し出されて、笑顔の彼女がカメラを見ていた。

 

 「じゃーんっ」

 

 その隣、安堵した表情で眠りこける少年が居る。他の誰でもない、岸波白野だ。

 なぜか彼は裸でシーツにくるまっていて、露わになった上半身は肌の色を見せるばかりか、至る所にキスマークを残している。状況から見て実行者は彼女だろう。

 怪しく笑う少女はすでに胸を隠しておらず、白野に抱き着いて胸がふにゅりと潰れている。

 体を隠しながらも彼へ強く抱き着くという所業。見る者が見れば激怒しそうな光景だ。

 というよりそもそも、その景色自体がまずい。

 裸の男女がシーツにくるまり、男は眠りこけて女は頬ずりする。明らかに情事の名残が確認できた。ベッドの隅に置かれた丸まったティッシュも然り、これ見よがしに映っている使用済みのコンドーム然り。何か、自身の所有物を自慢するための位置関係にしか見えない。

 ちろりと伸ばした舌で白野の頬を舐めつつ、妙に色っぽい流し目がカメラを見た。

 

 「うふふ、みなさんの大事な物ってなんでしたっけ? そうです、みんなのヒーロー岸波白野さんですよね。でも残念、あなたの心の彼氏はもうBBちゃんの隣で寝てますから!」

 

 にやにやと見る者をからかうかのような笑顔で楽しそうに告げられる。してやったりという勝ち誇った表情。それだけでなく白野の体へ無遠慮に触れているのが怒りを煽る。

 少女の弾む声は、白野の乳首を指で弄りながらという、なんとも間抜けな姿で繰り出されていた。

 

 「こんな格好での放送になっちゃったのも、私の彼氏がぁ、だめだって言ってるのに何回も求めてきちゃったせいなんです。彼ったらすごく逞しくて、私の体が壊れちゃいそうになるまで離してくれないんですよ。もう、本当に困った人……でも、そんな男らしいところが好きなんですけどね。きゃっ♡ 言っちゃった♡」

 

 非常に上機嫌な彼女は白野の首筋に首を埋めて、いやんいやんと首を振る。

 そうされていてもなぜか彼は目覚めず、よっぽど疲れているのか身じろぎ一つしない。表情を変えることだって微塵もなかった。

 

 「そんなわけで、もうあなたたちの存在は必要ありません。先輩には私がいますし、この体以外に興味ないらしいですから、赤いのも狐耳もホモ男も金ぴかもいらないんです。ぷふっ、だって、赤い奴とか正直パクリだしwww 狐耳は元カレ判明www 乙www 後の二人とか前シリーズの使い回しでしかないwww」

 

 くすくす笑う彼女は口元に手を当ててわざとらしく見えるほど笑う。しかしそうしたのも数秒で、今度はまた勝ち誇った目でカメラ目線になった。

 

 「なので先輩のことは私に任せて、みなさんは新しい人生、頑張ってくださいね。遠い場所から二人でイチャイチャしながら見守ってます。ふふん、悔しかったら取り戻しに来ればいいじゃないですか。まぁ、来られればの話ですけど……ぷふーっ!」

 

 最後にはケラケラ笑って言いたいことはすべて言えたようだ。

 カメラへ向かって手を振る少女はとてもいい顔をしていた。

 

 「それじゃあみなさん、会えるようならまた会いましょー。あ、それと言い忘れてたけど白いのもそっちに居ましたっけ。ごめんなさーい、あんまり影が薄いんですっかり忘れちゃってました。まぁでも元々影が薄い子だったからしょうがないですよね。桜ちゃん残念、先輩の隣に居るのはBBちゃんでした! あなたがぐずぐずしてるから奪っちゃった、てへっ♡」

 

 そう言った直後に少女は白野の唇を奪う。

 ちゅっと鳴った瞬間、初めて動きを見せた白野の腕が伸びた。

 触れ合うほど傍に居た少女の体を抱きしめ、甘えるように大ぶりの乳房へ顔を埋める。

 

 「んっ……桜」

 「きゃん♡ もう先輩ってばだいたーん。しょうがないですねぇ、えっと、次で十一回戦目でしたっけ。うふふ、また始めちゃいますぅ?」

 

 嬉しそうに言う少女が白野の頭を抱えて、それからカメラが上の方へ向けられた。

 天井を映す頃には少女の甘い声が聞こえる。何をしているのか想像させるかのようだ。

 突然ブツンと映像が切れ、放送が終わる。

 途端にふぅと息が吐かれた。

 ずっとカメラを持っていた少女、桜によく似たメルトリリスは呆れた顔で白野へ抱き着く少女、BBを見ており、そこには少なからず嫉妬も含まれている様子だ。

 

 「これでいい? まったく、どうして私がこんなこと――」

 「いいじゃない。これで先輩は私たちの物だって主張できたんだから」

 「あなたは今、自分の彼氏だって言ってたけどね」

 「うふふ、細かい話じゃない。心配しなくてもみんなの先輩よ。私たち全員で愛する、たった一人の先輩……」

 

 ベッドの上でBBが白野と深くキスをすれば、意識せずとも顔が赤くなってしまう。

 キスに恥じらいを持っているという意味ではない。

 これからは好きなだけ自分もそうしていいのだ。そう考えずにはいられずただ興奮してしまうのである。ずっと待ち望んでいた彼との時間、彼と一つになる瞬間。

 目の前に餌を垂らされた状態で、今にも襲い掛かりたかった。

 耐え切れなくなった様子でメルトリリスが太ももをすり合わせ、その隣に立つ少女、パッションリップは我を忘れた状態で呼吸を乱していた。

 

 「はぁ、はぁ、せんぱい、わたしも……わたしもチュー、したいです。せんぱいと一つになりたいです……」

 「やっと、この時が来たのね。やっと手に入れた」

 

 夢遊病者のような危なげな足取りで歩き出した二人はベッドへ近寄り、今も眠りこける白野へと身を寄せる。その際、邪魔だったのかBBの体は投げ捨てられ、抜け駆けした怒りをぶつけるように彼女を床へ叩きつける。強かに尻を打った彼女は思わずそこを押さえた。

 

 「痛~いっ。もう、相変わらず私を尊敬する気配がないんだから。まぁいいでしょう。今は先輩を手に入れたから気分が良いし、うふふ、これからはめくるめく愛の日常が――」

 

 メルトリリスとパッションリップはすでに白野へ跨っている。くぐもった声から察するに目が覚めたのだろう。しかしメルトリリスの股間を口へ押し付けられた今、彼と会話することはできない。一方でパッションリップは萎えたペニスを美味しそうにしゃぶっていた。

 幸せな風景。これからは毎日これが続く。

 愛しい人と何者の邪魔もなく愛し合える日常。なんて嬉しい時間なのだろうか。

 BBはとても美しい笑顔だった。

 保健室の床に座り、期待する顔でベッドを眺めながら言った瞬間、不意に、奇妙にも扉がドンッと大きな音を立てた。BBがそちらを見ると、一度だけでなく何度でも鳴る。心霊体験の類でなければおそらく向こう側から思い切り叩かれているのだろう。

 おかしいと感じたBBは首をかしげる。

 

 「あれぇ? ひょっとしてもう来ちゃったんですか? おかしいなぁー、ちゃんとこの部屋だけ切り取って月の裏側に持ってきたのに。どうやって辿り着いたのかしら」

 

 ドンッ、ドンッと扉が破られそうな勢いで殴られている。どれだけ攻撃しても破れないように細工していたはずなのに今にも吹き飛ばされそうなのはなぜなのか。

 奇妙に思えるのにBBは一切慌てず、ようやく立ち上がると握り拳を作った。

 

 「仕方ありませんね。来ちゃったんなら立ち向かうまで。私たちの先輩ラブラブハーレム生活は何人にも壊させませんよぉ!」

 

 部屋の中を見回し、何やら慌ただしく動き始める。

 そうしている間にも他の二人は白野の上で嬌声を発しており、上機嫌な笑みを浮かべていた。同じく押さえつけられた白野も楽しんでいる様子である。

 BBはこの空間を守るため、色々と準備を始めていたようだ。

 

 「さぁ、こっちはいつでもいけますよ。白野先輩争奪戦争の開幕ですね!」

 

 そんな言葉が笑顔で吐かれた途端、完璧に閉じられていた扉が勢いよく破られた。

 




 実は最初から桜じゃなくてBBでしたというオチ。
 上手くできたかわかりませんが。


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世界が終わる日、希望が帰った日(DOD3・ゼロ)

ドラッグオンドラグーン3です。例によって表面的なことしか知らずに書いております。根本から設定を覆してる展開です。
途中、若干とは思いますが、男同士の描写があります。苦手な方はご注意を。


 

 歌が聞こえた。山々に囲まれ、遠くには海が見渡せる、とある小さな町の中だった。

 清廉にして、暖かく、そこにあるすべてを癒そうとするかのようなとても美しい歌声。それは子どもと言って差し支えない年齢のとある少年の口から紡がれている。

 やさしく、儚くも思える小さな声。しかしどこかでは力強さを感じさせて、決して大きくはない声なのに町の全土に伝わるという、不思議な歌。

 その歌を奏でる彼は不思議な人間だった。髪の色は見る者によって色が変わり、彼を見て「金色の髪だ」と語る者もいれば、「違う、真っ赤な色だった」と語る者もいる。そう語られる話に限りはなく、己の頭に七色を持つ彼の本当の髪の色を知る者は存在しなかったのかもしれない。

 だが人々にとってはそれでもいいのだ。少年の髪の色がなんであろうと、その美しい顔は変わらない。その美しい体に変化はない。そして彼から与えられる大きな愛は、決して変わることはないだろう。そうした想いがあったからだ。

 少年は多くの人から愛されていた。世界の片隅にある小さな町だけではなく、その町を知るすべての人間から愛されていたのだ。

 それはすべて、少年の心がとてもやさしいから、とされている。それが真実かどうかは別として。

 少年は常に町を見下ろす高い塔の中で生活している。そこから出ることを許されていないからだった。

 彼はその中で、塔の管理人の世話を受けながら日々を過ごし、仕事をすることもなく、ただ毎日欠かすことなく自分の役目を果たしているのだ。

 彼がそこにやってきて、その役割を受けたのはもう何年も前のことだった。歌に関する才能がなく、人々に愛されなかった彼に対して、管理人たちは言葉を重ね、彼に一つの役割を与える。世間を知らぬ小さな子供に、酷とも思える役目を果たさせていたのである。

 

 「君は親から愛されなかった。家族から愛されていなかった。だからここに来たのだ」

 「君は愛されるべき権利がある。だが人々から愛されるためには、それ相応の働きがなければならない」

 「君はここで、人々の愛を受けるために、人々を愛するんだ」

 

 そうして、少年は塔で暮らし始めた。食事や服は塔にいる人間が与えてくれる。仕事をする必要などなかった。

 だから彼は己の役割を果たすことだけを考えていたのだ。自分の役割さえ果たしていれば、家族から愛されなかった自分も人々に愛されることができるのだろうと。

 よって、少年は塔の中で監禁されたまま、毎日毎日様々な人間と体を重ねていったのである。

 

 「んんっ、はぁっ、あぁ……」

 

 時には町の男がやってきた。妻も家族も金も持たない、小汚いその日暮らしの男だ。

 溜まった性欲だけはあるが、金も女もなければそれを発散する手立てがない。だから彼はその美しい少年を抱こうと塔へ赴き、自分に与えられた順番の時、与えられた時間内で何度も何度も少年を抱いた。それが少年の役目だと知っているからだ。

 その町に住む者ならば誰もが知っていることである。塔にいる少年はとても美しく、誰をも等しく愛してくれると。

 少年を愛することさえすれば、金を払う必要もなく、彼は誰にでも愛を返してくれると。

 

 「んはぁっ、ああっ……くぅん……」

 

 時には旅人の女がやってきた。疲れた体を癒したいと、噂に聞いた天使のような少年に癒してもらおうと。

 少年のそうした生活はすぐに噂となって広がっていった。神に愛された肉体を持つ少年が、天使の如き心を持って人々を癒している。そういった噂を聞いて、女は期待して塔へと赴いた。

 そして自分の順番が来た時、少年と顔を合わせた女はその美しい姿に大層驚き、迷うことなく彼と体を重ねた。抱いてほしい、とそう言って、少年の体を抱きしめた後に。

 少年は拒まない。相手が男であれ、女であれ、自分が愛し、愛されることはできるはずだと思うから。

 

 「うぅ、ッ、あぁっ……!」

 

 その塔へはあらゆる人間が足を運んだ。貴族も平民も、騎士も兵士も商人も、男も女も、或いは老人からまだ十を越えない小さな子供まで。

 誰もが少年を愛していた。その美しい肉体に目を奪われ、やさしい心に涙を流し、健気な行為によって心も体も癒される。そうした平和な日々が続いていたのである。

 しかし、彼はあまりにも有名になりすぎた。噂はどんどん広まっていき、やがて世界の端まで彼を知らない人間はいなくなった。塔のてっぺんから聞こえる美しい歌声と、誰にでも抱くことのできる美しい肉体。噂を止める手段などなかった。

 故に、ついに彼女たちも知ることができたのだ。ずっと探し続けていた、最愛の弟の居場所を。

 彼女たちはすでに誓っていた。愛する弟を奪うばかりか、可愛い彼を利用してその存在すべてを汚した人間どもを許すわけにはいかないと。

 これは復讐だ。彼女たちの最愛を取り戻した後は、彼女たちは人々の前から姿を消す。最愛の弟を引き連れて。

 たったそれだけのことで、世界にどれほどの絶望が生まれるのかを、彼女たちは正しく理解していた。たった六人の人間が消えただけで、世界がどれほど悲しむのか、この世の人間がどれほど苦しむか。

 だがそんなことは関係ない。今日にいたるまで、絶望に苦しんでいたのは彼女たちの方なのだ。

 自分たちから弟を奪ったこの世界に、それ相応の報復を。

 なだらかな日々を過ごしていたはずの、平和な世界の形が今、変わろうとしていた。

 それはとある夜、少年が住む塔から始まったのである。

 

 「んあぁっ! くぅ、ふぅん、んんっ!」

 「いいぞ、いい具合だ……もっと締めろっ……!」

 

 塔の中では、この日も少年は自分の役割を果たしていた。世界を平和にするためだ、という管理人の話をききいれ、できるだけ多くの人に愛されようと、己の体を開け渡している。

 今夜少年を愛していたのはとある有名な貴族の男だった。でっぷりと腹が出て、頭はつるりと月明かりを反射する姿で、四つん這いにした少年の尻を己の分身で穿っている。巧みな腰遣いで動きは速く、迷うことなく少年を責め立てている。

 明かりを灯さず、月明かりだけが差しこむ室内には大きな音が響いている。男が勢いよく腰を振り、肉と肉とがぶつかり合い、快感によがる少年の声が発せられていた。

 少年が同性である男に抱かれるのはこれが初めてではない。何年も前から続けていることなのだから。

 毎日毎日名も知らぬ相手に抱かれ、時には自分が抱き、数人を同時に相手したことも数え切れない。だから少年にとってこの行為は嫌がるようなものでもない。

 少年は後ろから尻の穴を責められながらも、悦んでいた。口の端からだらしなくもよだれを垂らし、頬を上気させて男を受け入れている。

 これが当然だと言わんばかりに。これが嬉しいのだと、そう言わんばかりに。後ろから突かれながら少年は自らも激しく腰を振っていた。

 

 「んあっ! あっ! あっ、あっ!」

 「くうぅ、いいぞっ、もうイクっ! イクイクっ!」

 

 顔をしかめた男がさらに腰の速度を上げる。振るというより叩きつけるようなそれのせいで少年の体は前後に大きく揺れ、同時に自身の勃起した陰茎がブラブラと激しく揺れていた。

 最後の時は近い。またいつものように、腹の中へと子種を注ぎこまれるのだろう。

 それを嬉しく思いながらも最後の時を待っていた少年は、抗うことなく腰を掴まれて尻を振る。自身の限界も近かった。

 そうして、その時はやってきた。

 

 「さっさと逝けよ、ハゲデブ野郎」

 

 バシャッ、と液体がかけられる。ただいつもと違ったのは、尻の中の最奥だけでなく、その丸くて白い尻にも同時にかけられていたことだ。町の子供たちを一斉に相手にした時などはそうしたこともよくあったが、今夜の相手は一人だけ。全く同時にかけることはできないはず。

 不審に思った少年は呼吸を乱したままで、ゆっくりと後ろに振り返った。まだ尻の中には男根が感じられているため、そこに男がいることはわかっている。絶頂を感じ、びゅくびゅくと陰茎から大量の精液を吐いている最中から、少年は快感のせいでぼんやりとした瞳を背後へ向けたのである。

 振り返るとやはり相変わらずの体勢で男がいる。ただ先程までと違ったのは、男の胸から肉厚の剣が現れていたことだ。

 

 「――ぁ」

 「おまえが触れていい相手じゃないんだよ、下種野郎。とっとと地獄で泣きわめいてろ」

 

 ズボッ、と男の胸から剣が抜かれると、男の体はゆっくりと右に倒れていった。しかし倒れ終わるのを待たず、再度振られた剣が男の首を切り飛ばす。同時に少年の尻から男根が抜かれ、物言わぬ体と宙を舞った首はベッドから落ちてしまう。

 そうして少年がそこに見ることができたのは、見たこともないとても美しい女性だった。

 まっ白い髪と、まっ白い服。キリリと光る瞳はとても強い意思を覗かせていて、それでいながらやさしい色を称えていた。まるで、目の前の少年が輝いているかのように、かすかに目を細めている。

 訳がわからぬ状況に少年は混乱し始め、すぐに彼女の方へ体を向けながら尻もちをついて、ベッドの上で小さく震え始めていた。それでも彼の陰茎はガチガチに固まったままで、まだ足りないと訴えるかのようにビクビクと小さく震えている。

 表情と外見がそぐわない姿。少年はそのままで女性へと声をかけた。

 

 「あ、あの……強盗さん、ですか? すみません、ここには金目の物なんて何もなくて……あの、渡せる物はないんです」

 「違う」

 「え? それじゃあ……あ、次の方ですか? えっと、すみません、気付かなくて。あの、でもまずこの人をどうにかしないと……それとも、すぐに始めた方が――」

 「もういい」

 

 おろおろと視線をあちこちに飛ばす少年の声を遮って、白い女性が動いた。

 ふわりと白い服をなびかせながら、一瞬にして少年の体を抱きしめ、やさしくその頭を撫でていたのだ。まるで愛しくて仕方ないと、そう言うかのように。

 

 「もう、こんなことはしなくていいんだ。待たせて悪かった。……もう二度と、絶対、おまえのことを手放したりしないから」

 「え? あの……」

 「大丈夫。私は、私たちはおまえの味方だ。おまえのことを助けに来た」

 

 ベッドの上で、座ったまま抱き合う二人。傍らには先程まで生きていたはずの死体。あまりにも奇妙な状況だった。

 だがこの時、すでに事態は動き出していた。時が止まることもなければ、時が巻き戻されることもない。

 すでに少年の、そして彼がいたはずの町の運命は決められていた。

 

 「さぁ、行こう――おまえはもう自由だ」

 

 抱き合う二人が居た場所に、つまりは塔の最上階へ一匹のドラゴンが現れた。けたたましい音を立てて石の壁をいとも簡単に破壊し、その場にいた二人を背に乗せて空へと飛び立ったのだ。

 この時、少年は少女の腕の中で横抱きにされながら、上空高くから自身がいた町を見下ろす。

 そこにはすでに、絶望しか存在していなかった。

 彼がいたはずの町は、そのすべてを業火の中に横たえていた。町民も旅人もそれ以外もすべて巨大な炎が呑みこんで、ことごとくを死に至らしめようとしていたのである。

 町の中にはその光景の原因である異形の存在があった。二人が乗るドラゴンとは違った形の、町を踏みつぶす三匹のドラゴン。禍々しい様相を見せる巨大な蜘蛛。あらゆる物を破壊する巨大な蟹まで存在している。

 そのどれにも、頭上と思える場所には人の姿があり、その顔もよく見えない誰かは上空にいる白いドラゴンを見つめ、おそらくは少年を見るためだろう視線を送っていた。

 少年にとっては、すべてが理解できなかった。

 現状、何が起こっているのか。なぜこうした出来事が起こってしまったのか。そしてなぜ、自分が愛していたはずの人々がすべて殺されなければならないのか。

 彼にはわからない。わかるはずもない。彼が生きてきた世界は、狭い塔の一室だけ。風呂もトイレも隔てられていない、丸い大きな一室だけ。彼はそこでひたすらに快楽に染められていただけだった。

 彼は知らない。外の世界で何が起こっていたのか、外の世界にはどんな人がいたのかを。彼を知っている人間がいたかどうかすら、知る方法がなかった。

 町を滅ぼす業火も、人を死に至らしめる魔獣も、そしてそれらを操る少女たちも、彼は知らない。知らないはずだった。

 だが彼女たちは知っている。白い少女、ゼロの腕の中にいる少年こそ、六人の姉妹にとっては他を見捨てても守りたい最愛の弟だと。

 

 「気持ちの悪い連中だ。妙な宗教を始めるために、おまえの存在を欲したんだ。常人とは違う外見を持つおまえを、神様とやらに重ねるつもりだったんだろう――奴らはおまえを利用していた」

 「かみ、さま?」

 「だがそんなことはもうどうでもいい。おまえを縛るものはもう何もない。これからは自由に生きていいんだ。……私たちといっしょに暮らそう」

 「いっしょに……?」

 

 突然過ぎる出会いは、少年にとってどういった想いを抱かせたかはわからない。しかしそんな程度のことで少年の根底を変えられるはずもない。

 彼が思うことは、昔も今もただ一つ。

 

 「おかえり、テン。もう離さないぞ。おまえは私たちの――大事な家族だから」

 「……家族……」

 

 もう誰にも捨てられないように、誰かから愛されていたい。それが、物心ついたその瞬間から彼が持ち続けている、たった一つのものだった。

 その日、世界の片隅にあった一つの小さな町が滅びた。それと同時に、世界にとって大きな損害となるある出来事が起こっていた。

 これまで世界の各地を統治していた存在、六人のウタヒメが瞬く間に姿を消してしまったのだ。これにより世界は自分たちの主導者を失くし、守護者を失くし、破滅の一途をたどるだろうと絶望に包まれながら生きていかなければならなくなる。

 しかし、それでいい。それこそが彼女たちの望んだもの。

 二度と人間とは関わらないという、全世界に対しての復讐。自分たちの弟を奪った、すべての人間と運命や神ともいうべき存在に対する報復だ。

 ただ単純に、姿を消してどこかでひっそりと暮らす。そんなささやかでちっぽけな、だからこそ世界にとっては絶望すべき事柄である。

 彼女たちは以前から決めていた。溺愛していた弟が、物心もつかない内から大人たちによってどこかへ売られ、この世のすべてを恨むようになったその時から。

 私たちは世界を見捨てて、弟だけを守り切る。そうした悲願がついに今日、実現されたのであった。

 ウタの力を持たない、“出来損ないのテン”が利用される日々は終わりを告げた。これからはきっと、平穏な日々が続くのだろう。

 少なくとも、彼女たちにとっての日々だけは。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ウタヒメ、というのはこの世における奇跡の一つだった。

 不思議な力を持つ歌声で人々を導き、圧政を敷く領主たちを倒して世界を救った美しい少女たち。世界を変えられる力を持った六人のウタヒメはそれぞれが担当する国を持ち、その地の新たな領主となって、新たな国を作りだす、はずだった。

 しかしそれは表向きの意思。今の彼女たちはそんなことなど眼中になく、頭と心の中にあるのはたった一人の少年のことだけ。

 彼女たちが望んでいたのは自分たちとは少し歳が離れた子供、これまで片時も忘れたことはない弟を取り戻すことだった。そして長年かかって取り戻せた今、ウタヒメたちの興味はこの世界にはない。

 よって彼女たちはすべてを見捨てて人里を離れ、誰も近寄れない孤島に乗り込むと、そこを新たな拠点として住むことにしたのである。

 普段は仲が悪い六姉妹が協力して用意しておいた木造の小屋に入った六姉妹と一人の弟は、時間も忘れて体を重ね続けていた。裸の女たちが何度も居場所を変え、最愛の弟を熱っぽく抱く。長い夜が終わり、朝が来てようやくといった様子で、行為が終わったのである。

 だがいくら常人以上の性欲を持ち、常人以上の身体能力を持ち、長年この日のために己の貞操を守り続けた彼女たちであっても、十時間も越えるほど快楽に浸り続けていれば限界もやってくる。一人が巨大なベッドの上で眠り始め、二人目も意識を失うと、姉妹は次々に幸せそうな表情で寝息を立てていった。

 最後まで残ったのは、一番上の姉であるゼロと、一番下の弟のテンだけだった。疲れきっている表情を見せながら、二人はベッドの上でぴったりくっついて座っている。だらりと四肢を投げ出すテンの後ろから、色んな汁に全身を濡らしたゼロが抱きしめていた。

 辺りはひどい状態となっていた。テンが放った精液が姉たちを含む色んな場所を汚し、その姉たちの蜜壺から溢れた液が全員の体を濡らし、誰もが汗だくになるまで体を酷使している。その証明が至るところにしみ込んで、ほのかに甘い匂いを漂わせていた。

 ゼロはそんな中であることを気にせず、後ろから抱きしめたテンの股へ手を伸ばし、だらりと萎えてしまった陰茎をぐにぐにと揉んでいる。子供らしいサイズのそれはいまだ徐々に反応を見せており、また勃起するのは時間の問題のようだった。

 

 「はぁ……テン、どうだ? 気持ちよかったか?」

 「う、うん。すごくよかった……」

 「そうか」

 

 見るからにぐったりした様子の二人は小さな声でそれだけ言い、しばらくは黙ったまま手を動かし続けた。ゼロはテンの陰茎を扱き、テンはゼロの膣に指を差しいれて溢れ出てくる精液を掻き混ぜている。

 気だるい雰囲気の中、小さな水音だけが続いている。お互いの性器を弄る手が止まらないせいだった。二人はあれほど強く求めあっていたというのに、いまだに手を止めようとしていない。

 いまだに他の姉妹たちのように眠りにつかないのは、ゼロがテンへ伝えたいことがあったからだ。これまでの彼がしてきた経験を、彼女はなんとなくだが知っている。だからどうしても教えてあげたかったのだろう。

 やさしい吐息がテンの耳へ吹きつけられると同時に、彼女はひどくやさしい声色で告げていた。長年いがみ合いながらも協力してきた妹たちですら知らない、とてもやさしい表情のままで。

 

 「いいかテン、これが本物のセックスだ。おまえがあいつらとしていたことは違う、あれは――ただおまえを傷つけるだけの行為だ。すべて忘れろ。もうあんな想いはしなくていい」

 「そう、なんだ。なんだかよくわからないけど、今日からは姉さんたちが愛してくれるんだよね?」

 「そうだ。私たちがおまえを愛する。心から、未来永劫に」

 「そう――それならいいや。もう、一人じゃないんだから」

 「ああ、そうだな――」

 

 顎に手を添え、顔を上向きにさせ、ゼロがテンの唇を塞ぐ。夜の間の激しさはすっかり消え去り、触れるだけのやさしいキス。せいぜいがちろりと舌先で唇へ触れるだけの、なんとも穏やかな口づけである。

 頭や顔にも精液が付着しているまま、強く唇を押しつけられる。二人の間にある穏やかな空気は独特の気品さすら感じさせるというのに、その体液のせいで非常に淫靡な姿にも見えていた。

 ゼロの主導で、二人は何度もついばむように唇を合わせ、ちゅっと音を立てる。顔色も良い状態で、表情も落ちついていた。

 窓から差し込む陽光は暖かく、ふわりと揺れる白いカーテンは美しさを感じさせる。飛び散った体液で悲惨な状態だというのに、どこか神秘的にすら見える光景、まるでこの世の楽園にいるかのようであった。

 ゼロの手の中にあるテンの陰茎はどんどん大きくなっていく。さほど強い刺激を与えたわけでもないというのに、何より特筆すべきは一昼夜の間ずっと勃起と射精を繰り返していた後でだ。信じられないほどの回復力も、ウタの力を持たずともやはりウタヒメたちの弟として生まれたおかげかもしれない。

 ぐにぐにと肉棒をやさしく揉むゼロは頬を緩め、テンの口内へ舌を差しこみながら手の動きを変えた。非常にゆったりとした速度で舌を絡める一方、陰茎へ触れる手は竿を掴むようにして上下に扱いて、もう片方の手で睾丸をやさしく揉んでいる。

 この時間になるまで、狂気の沙汰と思われてもおかしくない姿で激しく求めあったのだ。せめて妹たちが眠っている今くらいは。そう思うゼロはひどくやさしい様子でテンへの愛撫を続ける。

 それでもそのままテンを寝かせようとしないあたり、やはり彼女も性欲が旺盛なウタヒメの一人なのであった。

 

 「んっ――ぷはっ。なぁテン、眠る前にもう一度だけ、してもいいか?」

 「ん? ゼロ姉さんがしたいなら、いいよ」

 「あぁ、いや、そうじゃない。テン、今のおまえには拒否する権利がある。私たちに従う必要なんかないんだ――嫌なら嫌だと言ってくれていいし、したいのならしたいと、言ってほしい。おまえの言葉で、おまえの意思を聞かせてくれ」

 「そっか。それなら、やっぱりボクは姉さんとしたい。だって、姉さんとのセックスは気持ちいいから」

 「そうか……そう言ってくれるか」

 

 光の当たり方によって色が変わるという、他の者にはない独特の性質を持つ髪を撫で、姉らしい様子でゼロは微笑んだ。彼女もいくらか心配していたのである。

 奇妙な集団の監視下で、治外法権となっていた奇妙な塔の中で、テンは様々な人間に犯されていた。洗脳に近いその行為によって長年支配されていれば、もしもの場合には人間と思われる者に肌を見せ、体を重ねることを拒絶する可能性すらあったのだ。もしそうなっていれば、おそらくウタヒメたちは狂乱に陥って全世界を呪っていたであろう。

 六人の願いは、テンと共に平穏に暮らすこと。そこには当然のように弟に抱かれるという展開も加わっていたのである。

 最悪の想定が起こらなくてよかった。今はすやすやと眠りについている少女たち同様にそう思っていたゼロも、この時ばかりは普段の剣呑さを引っ込めて安堵している。そして同時に、彼を気持ち良くしてあげようと強く陰茎を扱いていた。

 すぐにテンは表情を変え、首を逸らしながら目を閉じる。眉根にはしわが寄り、感じていることは明白であった。

 その瞬間にゼロは再びテンの口を塞ぎ、舌を侵入させる。やさしい仕草であることには変わりないが、彼を捕えて逃さない捕食者のようにも見える姿だ。

 陰茎を扱きながらの口付けは一分もしない内に終わり、唇を離したゼロは自ら背を倒してベッドに寝そべった。それだけで体液が溜まっていたシーツの上でべちゃりと音が鳴るが、全身にそれが付着している今、彼女もテンも気にしてはいない。

 自ら股を開いてどろどろと精液を垂れ流す膣を見せたゼロは、テンに向かって微笑みながら呟いた。

 

 「テン、おいで。いっしょに気持ちよくなろう」

 「うん」

 

 テンの肉体は子供と称することのできるものだ。よってゼロに覆いかぶさろうとする彼の姿はどこか滑稽にも見える。

 しかし、膣へ陰茎を挿入させる仕草や、実際に夜の間に見せた女を悦ばせる技術は大人も顔負けのものであった。それだけに、彼がこれまで過ごしてきた日々を想像せざるを得ないのであるが。

 そんなことを気にしないようにと考えつつ、体内に入り込んだテンの小さな熱を感じる。年齢的に見ればかなり大きなサイズだが、成長しきっていない今では大人のそれには劣る。もっとも彼女たちは他の男など眼中になかったため、そもそも他の男のものを知らないのだが。

 恐れる様子もなく入りこみ、ゆっくりと前後に動かされる肉棒を感じつつ、テンの顔を見つめるゼロは小さく吐息を発した。熱く、固いそれは巧みにゼロの急所を突いてくるのである。子供とは思えぬ技術に、まだ処女を失ったばかりのゼロが喘ぐ。

 今はそれすらも心地よかった。彼を救いだした時は、自分が彼をリードしてあげようと画策していたが、彼に抱かれている今は想像していた以上に気分がいい。だからこれでいいのだ。

 愛しい男に体を弄ばれる。ウタヒメという存在に生まれたことを後悔していた彼女、ゼロが初めて女であることを喜んだ瞬間である。

 ずぶずぶと肉棒が膣内を掻きまわし、カリが内部を引っ掻く度にひだが蠢き、全身がぶるりと震える感覚が最高だった。今、ゼロは確かに最愛の弟の存在を、己の体で感じている。

 

 「あぁっ、はぁっ、テン――」

 「ん、ゼロ姉さん――」

 

 小さな水音を立てながら、テンはゆっくりと彼女の中で動く。ただやみくもに相手を求めるのではなく、相手と過ごす今この時を楽しむかのように。

 非常にやさしく、大きな思いやりが込められていることがわかる丁寧さだ。どんな人をも愛する彼らしい、慈愛に満ちた動きはゼロの心を暖かくさせる。在りし日から忘れていた、彼によってのみ与えられる幸福な感覚だ。

 かつて会っていた時は赤ん坊だったのに、今では女を抱けるほどに大きくなった。姉のような、母のような想いを持ちながら、しかし女としての欲望を露わにして声を大きくする。

 愛しい弟に抱かれている今、彼女はひどく幸せだった。

 

 「はぁっ、んっ、んあっ――あぁっ、テンっ。よかった、おまえに会えて、本当によかったっ……!」

 「ゼロ姉さん……僕も、僕も姉さんたちに会えてよかった」

 

 非常にゆったりと膣内を味わい続けて、およそ三十分は経っただろうか。次第に二人の呼吸は荒くなっていき、シーツに出来ていたシミもさらに増えることとなった。

 だんだん腰の動きを速め、ラストスパートへ入るテン。その時の彼は目を閉じてゼロの大きな乳房に顔を挟みこんでおり、安堵した表情を見せている。ゼロもまたそんな彼の頭を強く、しかし痛くないようにと配慮をした上で掻き抱き、突かれる度に甘い声を発して感じる。

 二人の息はぴったりと合っており、絶頂へ達する瞬間までも全くの同時であった。

 

 「はぁぁっ、んんっ、んんんんっ――」

 「うっ、イクっ、イクっ」

 

 またしてもどぴゅどぴゅと、もう何度目かもわからない射精を膣内で始める。彼女は今も尚熱いそれを受け止め、嬉しそうに頬を緩めた。

 胸に埋まる顔をぎゅうと抱きしめ、気丈な彼女らしくないが、ゼロは縋りつく少女のような声を発する。そうしてびくびくと震えた後、快感の波が引いてから、ゼロの方からそっとテンの唇を奪う。

 お互いの暖かさと唇の柔らかさを確かめるようなキス。触れるだけのそれはじっと止まったまま続けられ、名残惜しそうな態度を見せながらゆっくりと離れる。

 繋がり合った股間からはどろどろと様々な物が入り混じった体液が垂れ落ちてくるが、一向に気にすることもなく、二人は正面から見つめ合った。

 

 「なぁテン。私は、ずっとおまえに会いたかった。そして今、ようやくおまえとの日々を勝ち取った――私たちはこれからずっといっしょだ。おまえも私も、妹たちも、自由を得た。誰に縛られる必要もない。これからは自分の意思で生きていい。この島の中で、静かに暮らそう」

 「うん」

 「もう二度と離さないぞ、テン――おまえは私たちの家族なんだから」

 

 体を一つにしたまま、その言葉を受け取ったテンは静かに目を閉じた。その時の表情はひどく安堵した様子で、うっすらと微笑んでいるようにすら見える。

 彼が見せた初めての笑みだ。ゼロはこの瞬間にようやく心配事がなくなったらしく、誰にも見せたことがないような緩んだ表情を見せていた。

 テンの頭を抱きしめたまま、彼女も目を閉じる。耳に届く小さな寝息がひどく心地よく、かつてない安堵をくれる。今日はよく眠れそうだった。

 思えば、彼と再会するまでは過酷な道のりだった。偽りを演じ、嘘をつき続け、弟を取り戻すことだけを望んでいた日々。辛かったそれはもう終わったのだ。

 これからは家族七人で、誰もいない孤島で、自分たちだけの世界で生きていく。今、ようやく念願だった瞬間がやってきた。

 自分の手で夢を掴みとったゼロは、最愛の男の陰茎を膣の中に銜えこんだまま、自らもやすらかな様子で眠りについたのである。

 



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魔の神への羨望(影牢ダークサイドプリンセス)

単発です。ある程度設定を変えつつ書いてます。
※以下注意
・凌辱表現あり
・スカトロ表現あり
かなり軽めに書いたつもりなので、そんなに大したことはないはずですが、一応ご注意を。


 目が覚めた時、彼女は自身の身に異変が起こっていることにすぐさま気付いた。

 視界は立っている時と同じよう。しかし足は床についておらず、さらに言えば腕も足も大の字に広げられて動かすことができない。

 視線を動かしてみれば、自身の両腕両足は壁に張り付くよう鉄製の錠で繋がれ、ぴくりとも動くことができなくなっていたのだ。

 眠る時には確か、いつも通りにベッドの上で眠ったはず。そう思うのに彼女はなぜか自身が保有する城、謁見の間で目を覚ました。

 不審げな色を灯した目で周囲の暗闇を伺うのだが何も見えず、左腕を動かしてガチャンと枷から音を発する。

 その時、気付いた。階段の上に立つ彼女の居場所、玉座とも言うべき荘厳なイスが置かれているのだが、そこに誰かが座っていた。

 

 「……誰?」

 「あぁ、起きたか魔神の娘。確か名前は――そう、レグリナだった」

 

 聞こえてきたのは男の声。レグリナ、彼女が持つ名を呼んでいた。

 レグリナは魔神の娘としてこの世に現れた、いわゆる“魔女”と噂されている人物だ。魔神の力の一端、様々なトラップを操る力を持ち、この城においてあらゆる侵入者を死へ追いやる非情の存在。

 見た目はまだ少女で、人形のように精巧で美しい容姿、左右の瞳の色は違い、右は鮮やかな青、左は美しい金色を持っている。銀色のショートカットの頭には片方だけの歪な角を持っているため、ただの人間のようで、そうではないことがうかがい知れる。

 細い体には露出の高い服を纏っており、薄い胸の輪郭や、長く肉付きのいい脚が惜しげもなく晒されている。

 そんな美しい少女が壁へ張り付けにされ、動けなくなっているのだ。

 犯人として見るのはやはり、そこにいるだろう男以外に考えられない。

 角度の関係上、幅の広い背もたれのせいで肘置きにある腕しか見えないが、レグリナはひどく冷静にそこへ目を向けていた。

 彼がこうする理由は色々と考えられる。まず、自分はあらゆる敵から狙われる存在、魔女であるがため。それだけではなく、魔女を狙ってこの城を訪れた人間は多く、その悉くを彼女が殺した。復讐を目的とする人間が来てもおかしくはない。

 ただ疑問が残るのは、どうしてここまで簡単に拘束されてしまっているのかという部分。

 レグリナは魔女と呼ばれるだけの特殊な力は持っているし、その上城の中には三人の僕がいたはず。たとえ直接戦っている姿を見たことがないにしても、早々簡単に侵入者に捕えられるような彼女たちではない、そうした一種の信頼感があった。

 よって今のこの状況、これまで体験したことがないだけに、なぜこれほどあっさり捕まったのかと疑念を抱かずにはいられなかった。

 男はイスから立ち上がることもせず、レグリナからは姿が確認できない位置のまま、余裕のある声で語り始める。

 

 「そう警戒しなくてもいい。俺は別に、君たちに害を及ぼそうと言うんじゃないんだ。できれば仲良くやっていきたい、しかし真っ正面から交渉しに来たのでは、きっと君たちは話を聞いてくれないだろうと。そういう理由で拘束させてもらってる。このまま傷つけたりはしないよ」

 「……みんなは、どこ?」

 「下にいる。今明かりをつけよう」

 

 唯一見える男の右腕が掲げられ、指を弾いてパチンと音を鳴らす。

 すると薄暗かった城内に明かりが灯り、方々で松明の火が燃え上がることで暗闇が切り裂かれた。

 レグリナはすぐ、自身の僕たちを見つける。

 彼女たちよりも少し視線は下、そこには階段へ真っ正面に向くよう配置された人間大の石板が三枚あり、そこにレグリナと同じように拘束された三人の美女がいた。

 レグリナから見て中央、青い髪を背で一つに結った美女、“華麗”の念から生みだされたカエリア。

 

 「姫様、ご無事ですか!? 申し訳ありません、我々がついていながら……!」

 

 その左側、燃えるような赤い髪に、肉付きのいい肉体の局所しか隠さぬ扇情的な姿、“残虐”の念から生みだされたヴェルザ。

 

 「チィッ、一体なんなんだコイツ! 明らかに何かおかしい、あたしらに気付かれないよう侵入してくるなんて普通じゃない!」

 

 右側、明るい黄色の髪をツインテールに、子供っぽいとも取れる服に身を包む、他の二人より小さな少女、“屈辱”の念から生み出されたリリア。

 

 「あーもうっ、ムカつくーッ! いつもみたいにやっちゃってよひーさま! コイツもう生かして帰せない!」

 

 城の主、レグリナが信頼する三人もまた捕えられ、忌々しいという感情を隠しもせずに男を睨んでいた。

 それぞれがそれぞれの核に見合った個性を持つ彼女たちも、今ばかりは想いが一つになっているようで、その瞳に込められた殺意はどれも強力である。

 だが男はそれをものともせず、あくまで平静に語りを続ける。

 レグリナはその声を聞いて幾分恐ろしくなっていた。人間味に欠け、ほとんど感情を揺り動かすことがない彼女も、この時ばかりは鉄仮面とも称される表情を歪め、眉を寄せているのだ。

 声は相変わらず余裕に満ちたもの、恐れを抱いていないものだ。しかし今、彼の身には魔神によって生み出された三人の僕――メディウムから強烈な殺意を向けられている。

 ただの人間であれば、広大なエントランスを満たそうかという強力なオーラに身をすくませ、恐怖し、自我を失って失禁していてもおかしくはない。

 なのにこの男、怯えるどころか喜色すら浮かんでいそうな声でレグリナへと話しかけている。

 明らかにただの人間ではない。どころか、彼女たち全員を気付かれぬ内に拘束するあたり、四人にとって明らかな危険因子。

 体が動かせぬことを強く呪いながら、レグリナを含む三人のメディウムたちはイスに座ったままの彼の言葉を聞くしかなかった。

 

 「レグリナ、俺と取引をしないか? 突然こんなことをされて怒っているのは理解できるが、せめて話だけでも聞いてほしい。悪い話じゃ、ないはずだ」

 「……一体、何が望みだと言うの?」

 「君たちの狙いは封印されている魔神をこの世へ復活させること、間違いないな? 俺はそれをやめてほしい」

 

 男はそう言って立ち上がり、レグリナの前へ改めて姿を見せた。

 身長は高く、体つきも男らしい。だが外見は非常に怪しく、黒いマントについているフードをかぶって顔を隠し、その下にある服装はひどく汚れた物。浮浪者、そう呼ばれてもおかしくない外見だ。

 顔つきは割かし精悍なようだ。しかし、間近にいながらフードのせいでいまだ全貌が見えないため、レグリナはわずかに見える口元を見てそう判断するよりない。

 ただ常人でないことは一目でわかる。全身から漂うオーラは一般人のそれではなく、以前に城の中へ侵入してきた誰よりも強い。否、ただ強いだけのそれではなく、何か怪しい力を感じさせる。

 まるで、メディウムたちや自分のような、説明しようのない奇妙な雰囲気。それが漂っている気がしてならない。

 ゆっくりと歩いてレグリナの前へ立ち、男は右腕を掲げながら話し始めた。

 その右腕の奇妙なこと。なぜか青い輝きを持つ右腕は人の物に酷似しているが、人の物とは明確な違いがあると確認できた。

 

 「代わりに俺は、君たちに力を貸して、君たちが望むままの願いを叶えよう。武器が欲しいなら作ってでも奪ってでも用意するし、他の住処が欲しいなら探して四人で住めるよう用意しよう。或いは、国が欲しいと言うなら、俺の力で何としてでも手に入れよう。だから、魔神の復活は諦めてくれ」

 「どうして、そんなことを言うの? 魔神を復活させたくないなら、私たちを殺せばいいだけなのに」

 「殺してしまうより、手と手を取り合った方が得策だと判断したからさ。君たちほど強い力を持った人間はこの世にいない。殺して失われてしまうよりも、味方となれた方が色々と都合がいいと思う。君はそう思わないか?」

 「なに勝手なこと言ってんのよ! 全然思わないよーだっ、バーカっ!」

 「さっさとこれを解きなっ! 今すぐあたしらの力で殺してやる!」

 

 階段下の二人が野次を飛ばすものの、男は口元に浮かべた微笑みを消さない。フードの下からじっとレグリナの顔を見つめている。

 魔神の復活を阻止する、という点ではさほど驚くべきことではない。確かに人間にとってその存在は恐怖の対象、世に放てばとんでもないことになるのは目に見えて想像できる。今こうして話を持ちかけられてもおかしくはない。

 だが気になるのは、なぜ彼が魔神という存在を知っているか。その娘を前にしてどうしてこれほど余裕でいられるのか。

 そして何より、青白い光を放つ彼の右腕。

 黙り込んで話さないレグリナを見て、男はようやくその視線に気付いた。

 自分の右手をそっと握りこんだ彼はかすかに笑う。

 

 「魔神が復活すると困る、と言ったけど、俺の場合は普通の人たちとは少し違う。確かに彼が復活すればこの世界は滅ぶだろうが、そんなことはどうでもいい。要するに俺は見つかりたくないのさ――彼に残されていた力を奪ってしまったのは、俺だから」

 「どういう、こと……?」

 

 会話が聞こえていたのだろう、三人のメディウムたちも思わず口を噤んで話を聞こうとしていた。レグリナは言わずもがな、である。

 男はなんでもないことのように平然と語りだす。自身と魔神の、接点を。

 

 「子供の頃からずっと、魔神という存在に羨望を抱いてた。この世の誰もが持たない力を持ち、この世の誰からも恐れられ、姿を消した今でも名が語られている。最初はそんな、大きな存在に心を躍らせるだけだった」

 「……」

 「でも、いつからだったかな。魔神に会いたくなって色々なことを調べた。独学で色んな検証もしたし、時には国から追われるようなことだってした。どうしても魔神を、伝説の姿を見てみたかった――君たちの存在は、そんな俺を助けてくれたと言っても良い。封印されている魔神によってこの世界へ送られた君たちは、俺が魔神へ至る道を示してくれた」

 「あなたがそう言っても、私にそんなつもりはない。一体、何をしたの?」

 「魂だよ。魔神へ至る道は魂だった」

 

 男は両手を広げ、ボロボロになっている黒い外套を広げながら言った。

 まるで、神に心血を注ぐ求道者。しかしその姿はあまりに異質で、狂気に染められていると言って過言でない。

 魔神に魅入られた者。彼は魔神の手先である四人の女たちから見ても、この世に存在すべきではない人間だった。

 

 「確かに封印は強固で、魔神の力をこの世へ出させない最後の扉。おかげで魔神は数千年もの間現世へ現れることなく、平和な時が続いている。だが、魂だけは封印を通り抜けてこの世へ渡すことができるのだと、君たちの存在が証明していた。君たちは魔神が持っていた魂から生まれ、こちらの世界で肉を得た存在なのだから」

 「それが、どういう……」

 「わからないか? つまり俺は、君たちの存在を知ったことで魔神の元へ行くための方法を知った――魂だけの存在になることだ。封印を越えるには肉の体が邪魔で不必要、人間として生きたまま魔神に会うことは不可能だったんだ。だから俺は自ら魂だけの存在となり、こちら側から封印を乗り越えて魔神の元へと辿り着いた……そうして、長年の悲願を達成したのだよ」

 

 両手に拳を作り、俯きがちに語る姿は凄まじい狂気、そして熱気に包まれている。

 もはや目の前のレグリナが、背後にいる女たちが認識できているかどうかもわからない状態で、男は熱っぽく語っている。

 

 「最初は驚いたよ。まさか本当に成功するなんて、そして何より、本当に魔神が実在していたなんて……あの暗闇の深淵で、微塵も動けずにいる生物を見た時、俺は感動と恐怖と、それから、自分でも予想していなかった感情に呑みこまれていた。あれは、そう、感情というより――支配欲」

 「支配、欲……?」

 「そう。俺は幼い頃からずっと魔神を追い求めてきた。だから実際にその存在を見た時、感動したのは事実だよ……だが同時に、どこかでは失望してもいた。ずっと憧れていた存在は、これほど弱弱しい者だったのかと。封印の中で見た魔神はどこかこじんまりとして、形容しがたき形で、俺を認識しても殺そうともしなかった。まるで牙を抜かれた獣、いいや、ペット同然の存在だった」

 「ペット……」

 「もちろん、封印の力が作用してそうなっていることはわかっている。封印が解かれれば、きっと俺が想像したような威容を放つだろうとも。……だが、その時にはすでに俺の気持ちは変わっていた。復活した魔神の姿が見たいんじゃない、それよりもむしろ、俺自身が魔神になりたくなっていた」

 

 再び、男が右腕を掲げ、レグリナを見る。

 彼女はフードの下に在る瞳をしっかりと確認することができた。

 自身の片目と同じ、美しくも怪しげな金色。それが両の眼を染め上げている。

 

 「気付けば俺は魔神を騙しこみ、奴が持っていたすべての力を俺に譲渡させていた。必ず、君たちを助けてあなたを復活させよう、と」

 「でも、本当はそんなつもりはなかった。そういうことね」 

 「本音を言おう、レグリナ。俺は君たちを手に入れて、自らが魔神となりたい。なってどうするかはどうでもいいんだ、ただ自身が魔神となったという認識が欲しい。だから、君たちが自分の仲間だと認識できたその時には、俺を雑用のように扱ってくれていい。言われたことはなんでもしよう。死ねと言われて死んだっていいかもしれない。それでも俺は、この世における新たな魔神になりたいんだ。子供の頃に憧れたような、誰もが恐れる最強の存在に」

 

 なんとも歪な、夢とも野望とも呼べぬ軽い願いだ。

 だが簡単に呆れることができるほど、彼の想いは軽くもなければ熱量が足りぬわけでもない。言葉の一つ一つに込められたそれらは聞く者を恐れさせるほど強固。

 レグリナは思わず言葉を失くして、目の前に立つ人間を見た。

 確かに見た目はただの人間だ。しかし今の話が本当なら、差し出された右手は魔神の力を宿したもので、おそらく自身と変わらぬ能力を秘めている。

 トラップを自在に召喚し、室内に仕込み、任意のタイミングで発動させる。たったそれだけの力だが、上手く使えば一個師団でも簡単に殺せる。

 同じ力を持った者が、二人。言われた通り、魔神として世界に喧嘩を売ることだって簡単かもしれない。

 だがレグリナ、及び三人のメディウムからすれば、それはなんとも浅はかな願いだ。

 誰が迷うこともなく、全員の意図を持ったレグリナは無表情にて呟いた。

 

 「残念ながらそれはできないわ。あなたでは魔神にふさわしくない。私たちの力を、貸すことはできない」

 

 力のある声でそう伝えると、男は自嘲気味に笑い、腕を降ろした。

 残念そうにも見え、しかしどこか余裕のある態度。ひどく奇妙な立ち姿である。

 

 「そうか。ま、そう言われるとは思っていた。おそらく逆の立場であっても、俺だってそうする。目的はなく、実力も不明瞭、ただ怪しいだけの人材など、君たちの性格からしても仲間にすることはないだろう」

 「ならばなぜ、こんなことを?」

 「それでも叶えてみたい願いというやつだからだ。それに、俺はまだ諦めたわけではない――そう言われると想定していたからこそ、その先のことを考えていた」

 

 そう言うと男は踵を返し、背筋の伸びた格好のまま歩き出し、階段を降りる。

 距離的にはさほど離れているわけではない。レグリナにもその姿はしっかり見えていたし、そこにいるメディウムたちの表情もつぶさに確認できる位置に居た。

 男は三人の前に辿り着くと足を止め、わずかに振り返る。捕まったままの三人へ意識を向けながらの言葉は、そこへ届くはずもないレグリナへ向けられたものだった。

 

 「レグリナ。俺はこれから、この三人を犯す。協力が得られないと言うのなら、それはいつまでも続くだろう」

 「なっ――」

 

 驚きの声を発したのは誰だったか。ただ少なくともレグリナではない。彼女だけは息を呑み、声すら出せない驚愕に包まれていた。

 男の右腕がそっと伸び、レグリナの顔を見たままカエリアの胸を掴む。

 三人の中でちょうど中間ほどの大きさ。大きくもなく、小さくもない、形がよく女らしさがある乳房。白い布を一枚隔てただけの状態で、男はそれをぐにぐにと力強く揉んだ。

 当然、カエリアは人すら殺せそうな強い視線で男を射抜くが、男に気にする様子もなく、色気すらある動きで揉み続ける。

 すると自分でも気付かぬ内、カエリアの乳首はどんどん大きくなっていき、布を隔ててもわかるほどツンと立った。彼女も自身の身に起きた異変が理解できない様子で、困惑しながら甘い声を発し、身を捩って逃げようとする。

 枷が邪魔して逃げられるはずもないが、そんな態度を取るということはつまり、彼女も快感を感じていたということである。

 

 「はっ、んぅ、こ、これは……!?」

 「眠っている間、全員に媚薬を投与した。遅効性だが、効き目がなくなるまで数時間かかる。もしも薬が切れるまで我慢し続ければ、発狂することすらあり得るかもしれないな」

 「な、なんという下劣な……はぁっ、薬を使わねば、女一人墜とすこともできないのですかっ。そんな臆病者に、誰が手を貸すと――はぁぁっ!」

 「ふむ、確かにその通りだ。俺には男としての魅力も無し、こうして薬に頼らねば墜とすことはできないかもしれん。だが言いかえれば――」

 

 男の指がぎゅっと、自己主張を続けるカエリアの乳首を強く摘んだ。

 それだけで彼女は惨めったらしく大股を開き、いつの間にか衣服がびしょ濡れになっているそこから、浅ましくも小便を垂らし始めた。

 とめどない快感が全身を駆け抜け、頭の中へ置いていた罵詈雑言が一気に消え去り、嫌みの一つも吐けずに喉を震わせる。

 メディウムの一人として生まれ、初めて感じた快感の絶頂は愚かな男の手によってだった。

 頭を壁へ打ちつけたくなる事実は確かなもので、言い逃れもできない状況であった。

 

 「あっ、あぁっ、あぁぁぁぁっ!!」

 「そんな薬すら自分で生成できる今の俺に、できないことはないということだ。考えを変えるなら今のうちだぞ、メディウムたち。今なら女として君たちを愛し、幸せにしてやれる。それともやはり、奴隷として乱暴に抱かれる方が好みか?」

 「クソっ、この、下種野郎が……!」

 

 左隣から聞こえる怨嗟の声も気にせず、男は天を見上げながら小刻みに震えるカエリアの肉体へ手を伸ばし、纏われている衣を乱暴に剥ぎとっていった。

 破く様な乱暴さですべてを取り除き、透けるような白い肌が露わになると、ようやくカエリアもある程度落ち着いたらしい。

 形のいい乳房は荒く呼吸する度ふるりと揺れて、口の端から垂れた唾液が谷間を走り、さらに妖艶な姿となる。

 股の間からはもはや目も当てられないほど体液が流れ出て、ぽたぽたと絶え間なく地面を汚し、もはや自分の力では立てないほど足の力が抜けていた。床の上に広がった水たまりの中には当然、先程の小便も含まれている。

 男はにやりと笑って、自らもズボンと下着を脱いでその辺りへ捨てた。

 ビンとそそり立ったペニスは両隣りにいるヴェルザやリリアの目にも映って、その頬を赤く、同時に怒りに彩らせる。それがぐったりとして動かないカエリアの中に挿入されると考えただけで、下卑た笑みを浮かべる男を殺したくてたまらなかったのだろう。

 だが彼女たち二人、並びにレグリナもまるで動くことができず、彼の行動を見ることしかできない。

 男は指先を鳴らすだけでカエリアの拘束を解き、彼女を繋ぎとめていた壁を光と共に消し去り、倒れ行くその裸体を咄嗟に受け止めた。

 自由にされ、しかし体が言うことを聞かないカエリアはまたも胸を揉まれながら、男の胸に背を預けてレグリナの方へと向かされていた。

 

 「どうだろうレグリナ? いくら我の強いメディウムであっても、君の決定には逆らわないはず。君がイエスと言ってくれるのなら、俺は君たちを妻として愛し、一生を幸せに過ごせるよう尽力しよう。だがもし、この宴が終わってもノーを貫き通すのなら、俺にも考えがある――君たちをこのまま快楽漬けにして狂わせ、奴隷として一生俺の傍に居させる。要するに答えは二つに一つだ。妻として幸せに生きるか、奴隷として苦しめられながら生き続けるか、どちらにしても俺の傍から離れられないのは決まっている。よく考えて決めてほしい」

 「ふざけんな、このクズがっ! そんなのどっちも嫌に決まってるだろ!」

 「ヴェルザ、今はレグリナと話している。それに、体を味わうのもカエリアが先だ。ちゃんと君のことも抱くから、もう少し待っていてくれないか」

 「クズ野郎……!」

 

 男は右腕を掲げ、一層強く青色に輝かせた。

 すると、能力の行使としてその場に新たなトラップが現れ、いまだ動けないカエリアの体をそちらへ押す。

 用意されたのは拷問器具の一種、サラシダイ。両手と頭だけを一枚の木材を挟んで拘束され、尻を突き出すような格好で動けなくなる屈辱的な器具だ。

 カエリアは布を纏わぬ尻、股をレグリナの方へ向けて拘束され、恥辱に乱れた下半身を惜しげもなく晒される。

 レグリナが見ている。それだけでカエリアは死にたくなるほど恥ずかしくなって、傍に立った男を激しく呪った。

 しかし、先程以上に屈辱的な拘束をされて少しも抵抗できない今、どうすることもできない。

 男はそんな彼女の前に回り込んで、すらりと形のいい顎へ手を置くと、ゆっくりと唇を近付けた。

 

 「フフッ、きっとここで君の口に舌やペニスを入れれば、噛みちぎられてしまうのだろうね」

 「はぁ、ふぅ、はっ……ええ、ちょうど、そうしようと思っていたところです……」

 「残念だ。では夫婦のようなキスは、君たちをしっかり墜としてからにしなければ。それまでは我慢するしかないね」

 

 嫌がる彼女の唇を塞ぎ、男は形をなぞるように舌で舐めまわした。

 殺意を込めて睨んでも、あいにくと彼は楽しげに目を細めるのみで、死ぬことはない。ますますカエリアの怒りは膨らんでいく。

 だが彼が堪能しきるまで噛みつくことはできず、存分に舐められた後、男は傷一つもなくカエリアの尻の後ろへ回る。

 レグリナが見つめるそこ、ぎゅっと手で掴み、男は玉座の向こう側を眺めて言った。

 

 「レグリナ、よく見ておいてくれ。今から俺は君の仲間を犯す。この膣に俺のペニスを突っ込んで、彼女が狂おうとも自分が気持ちよくなるために腰を振ろう。それが嫌だと言うのなら、ぜひとも良い答えを頂きたい」

 「そんな――私は……」

 「ひ、姫様。ご心配には及びません、このような賊に丸めこまれる我々ではありませんとも。姫様は姫様らしく、ご自分の意思を全うして――」

 

 カエリアの言葉の途中、すでに男は挿入を開始していた。しかも気遣いの見えない乱暴さで、ぐっと勢いよく奥まですべてを突きいれる動きだ。

 思わずカエリアは言葉を止めて、鋭く息を吸い、目を見開いて思考を止める。

 痛み、屈辱、そして何よりも快感。全身に襲い掛かる力はなんとも抗いがたく、強い。

 男は挿入と同時に激しく腰を振り立て、膨れ上がった肉棒で彼女の膣内を荒らしまわった。すると動きに応じてカエリアは高い声を出し、解けぬというのに拘束された頭と手を振り乱し、それでいて男に掴まれる尻は従順にそこから動かさなかった。

 隣にいるヴェルザとリリアもまた言葉を失くし、口悪く罵ることすら忘れて、二人が繋がるその場所に見とれていた。薬のせいだ、頭のどこかではそう言い訳をしながら。

 

 「あぁっ、んんっ、い、やぁぁっ、いやぁぁぁっ――きもちいっ、きもちいいのっ、やぁぁっ……!」

 「この角度ではレグリナから見えないな。でも安心してくれ、今に面白い物を見せるから」

 

 締まりが良く、きゅんきゅんと絡みついて、一突きする度にしぶきが飛び、耳を打つ嬌声も心地よい。

 機嫌も良さそうに男は何事かを決めると、右腕を光らせ、中空から何かを出現させた。

 大きな筒状のそれは先端が細くなっており、中身には大量の液体、いわゆる浣腸用の巨大な注射器のような物である。

 激しく腰を振りつつ、男はそれの先端をカエリアの尻の穴へ埋める。思いのほか簡単にずぶりと入りこんだ先端は、すぐに食いつかれるように締めつけられ、放っておいても抜けなくなった。

 その瞬間、カエリアはまたも目を見開き、同時に嫌な予感を感じて後ろを振り返ろうとした。だが板に阻まれているため、視線で確認することもできない。

 男はそのまま、筒の中身をカエリアの尻穴の中へ押し込み始める。冷たい液体が見る見るうちに中へ押し入って、息苦しさを感じた彼女は舌を伸ばして息を吐いた。

 

 「かっ、はっ――ひぃぃっ、んんんぅ、やぁぁ……やめてぇ、抜い、てっ、もう入れないでぇ……!」

 「さらに締まりが良くなったな。逆流しないようにしっかりと締めておけよ。もし出してしまったら、レグリナにすべて見られてしまうぞ」

 「いやぁ、姫様、見ないでください……うっ、うぅ、うぅぅ……」

 

 液体がすべて注ぎこまれ、男が空の容器を捨てる頃、ついにカエリアは涙を流し始めていた。

 一方で男に突かれる度、こぼれ出る甘い声は継続されており、薬が効いているとは言えなんともあっさりとした様子である。

 もはや心の中までぐちゃぐちゃに乱されたカエリアに、薬が効く前の毅然とした態度などない。

 今や小娘のように泣きじゃくり、嫌だ嫌だと首を振りながら、逃げる気すらなく男の肉棒を受け入れている。

 彼に尻を掴まれて激しく膣内を犯される一方、ともすれば尻から出そうになる異物を必死に堪え、今となっては身に襲い掛かる快感にばかり意識が集中していた。

 

 「あっ、あっ、んっ、んぅ、はぁんっ――」

 

 乱暴な動きとは裏腹に、徐々にではあるがカエリアは落ち着いて嬌声を発し始めた。それは言いかえれば、男の存在を受け入れているとも言える。

 しかし行為はそれほど長くは続かず、次を狙う男はひどくあっさりと射精へと至った。

 膣内、その一番奥まで潜り込み、亀頭の先から勢いよく子種が飛び出す。カエリアはこれまで以上の快感に襲われ、白目を剥きながら大口を開いた。

 今になって浅ましく尻を振り、男を悦ばせる動きをする彼女は尻から溢れ出そうになるそれを我慢することも限界になり、絶頂を迎えながら下半身の力を抜いた。

 

 「あぁぁっ、いやぁっ、あぁぁあああああっ!?」

 

 全身に電流を流されたかのような、凄まじい感覚と共にごぽりと膣から子種が溢れ出て、男も満足したようにペニスを抜いて彼女の体の側面へ移動する。

 すると想像していた通り、脱力したカエリアの尻の穴から、先程注入した液体と共に排泄物が大量に飛び出した。

 噴き出すように外へ出たそれらは謁見の間の床を広範囲に渡って汚し、本人には止めようもなく次から次へと外へ出る。

 三人の女たちに見守られながら、男に腰を支えられ、尻を高々と掲げさせられたまま、カエリアの精神は恥辱にまで犯されている。

 

 「あぁっ、いやっ、見ないで、見ないでぇぇ……うぅ、止まらない、止まらないんですぅぅ……!」

 「フフッ、思っていた以上に出すんだな、カエリア。なんてはしたない姿だろうか……こんなに臭い糞を出す女が、清楚ぶってレグリナに仕えていたと。これでは彼女も幻滅してしまったのではないか?」

 「うぅ、ぐすっ、そんな……あぁぁっ、いや、もういやなのに、イクのが止まりませんんっ……」

 

 軽い音を出しながら数度の屁まで出して、散々にその場を汚したカエリアはぐったりと膝の力を抜く。

 しかしそれだけで済まさず、新たに空中から何かを取りだした男は彼女の股に腕を伸ばし、もう一度尻を上げさせて秘所へと手を忍びこませた。

 持っていたのは彼のペニスと似た形、大きさの玩具。自動で動くよう改造されたそれを再び膣へ挿入すると、小刻みに振動させて再びカエリアの膣内を刺激する。

 即座に淫らな表情を浮かべるカエリアは大きく喘ぎ、頬を伝った涙もそのまま、腰を前後へ揺らしながら感じ始めた。

 

 「あはぁっ! いやぁ、きもちい、きもちいいのがっ……姫様っ、見ないで、見ないでくださっ……!」

 

 あられもない姿を晒して、周囲からの視線も忘れたかのように、カエリアは我を忘れた。

 そんな彼女の尻を右手で撫でつつ、その場にあるツンとした匂いも気にせず、男はレグリナへと目を向ける。

 薬を投与されたのは彼女も同じ。すでにミニスカートの服も台無しになるほど股を濡らして、床に小さな水たまりを作っていた。

 その目は狂気じみた感情を映しだし、今も尚快楽を貪るカエリアの尻へ注がれている。正確にはその真下、子種を吐き出しながら振動する玩具を受け入れる股へ。

 もはや先程の取引の話を覚えているかどうかすらわからない表情だ。無表情でありながら白い顔は頬を赤く染め、視線は一点からまるで動かない。

 だが、彼女が「イエス」をくれない限り、男はこの行為をやめられないのだ。

 フードの下で微笑みを浮かべた男は足を動かし、次は呆然としていたヴェルザの元へと行く。

 目の前に男が立ってようやく我に返った彼女は、無遠慮に大ぶりの乳房を両方掴まれると、歯をむき出しにしながら怒りを露わにした。

 

 「ヴェルザ、おまえの体を好き勝手にしてみたかったんだ。それが実現できそうで嬉しいよ」

 「おまえ、あたしらを舐めるなよ……何がなんでも、おまえだけは絶対あたしらが――」

 

 ヴェルザの言葉も聞かず、男は乳頭を隠すビキニを一息に引きちぎり、流れるような動きで下半身のそれもボロ布に変える。

 申し訳程度に毛が薄く生えていたカエリアとは違い、ヴェルザの下腹部には濃い陰毛が生えそろっており、しかし手入れはされているらしく不潔な様子には見えない。

 嬉しそうに頬を緩める男は彼女の乳房の間に顔を挟みこみ、顔を見上げるようにしながら、小さく呟く。

 

 「張りのいい、良いおっぱいだ。これほど完璧な体を持ちながら男を知らないなんて、君たちは変わった存在だな」

 「うるさいっ。死ね、死ねっ。今すぐ死んでしまえっ」

 「残念ながらそれは無理だ。突然死ねるほど、俺は体が弱くない」

 

 べろりと舌を伸ばし、すっかり立ちあがった乳首へ触れる。

 彼が脱がせる前からそうだったのだ。どうやらカエリアの痴態を見ているだけで興奮したらしく、股間の方も明らかな変化が見える。

 堪え切れないらしくだらだらと体液をこぼす膣は、男を知らぬはずなのに己を濡らすことに余念がない。肉付きのいい太ももが何度もすり合わされ、その様子は誘っているようにしか見えなかった。

 それでもヴェルザは牙を剥くことをやめないため、困った男は、両手で下から掬いあげるように胸を揉みながら考えた。

 といってもその表情は笑顔そのもので、決してヴェルザの目には困ったように映っていなかったのである。

 

 「ふむ、さっきカエリアには乱暴にしてしまったからな。それじゃあ君には、もう少しやさしくするとしよう。胸も股も、たっぷり舐めてあげる」

 「ふざっ、けるな……おまえに触られるくらいなら、死んだ方がマシ――ひっ」

 

 急に男がヴェルザの胸から手と口を離し、すぐに膝を折ってしゃがみ込み、立ったままの格好の彼女の股へ顔を寄せる。

 舌を伸ばして、包皮に包まれた陰核を取り出し、力を込めて舐める。

 反応は素早く、鋭く息を吸ったヴェルザは軽い絶頂を感じて黙り込んだ。

 初めての感覚。気持ちよくもあり、少し不安になるような、自分を塗りつぶされるような強い感覚だ。

 よくわからないそれに悩まされた彼女だが、両足をピンと伸ばし、体を揺する姿は確実に快感だと認識していた。

 精神が反応できずとも、肉体はそれが良い物だと判断し、男の愛撫を簡単に受け入れる。

 大きくなった陰核をぺろぺろと舐められるだけで、ヴェルザは軽い絶頂を何度も繰り返した。

 

 「ひぃっ、あぁぁっ、はぁぁっ――や、めろっ、変態っ」

 「やめてしまっていいのか? そうすると困るのは君自身だと思うが」

 「ふざけろっ、そんなわけ――あっ」

 

 男が陰核から舌を離し、さらに下を目指して頭を下げる。

 舌先が次に触れたのは膣の入り口で、とめどなく体液を吐き出すそこへ舌をねじ込ませる。

 瞬時に女の香りがする体液が溢れだし、男の口内へどばっと入りこんだ。男はそれを恥ずかしげもなく喉を鳴らして飲み干す。

 むしろ困ったのはヴェルザの方だ。確かに、男の口淫はひどく気持ちがいい。薬が効いているせいではあるが、それはごまかしようもない事実である。

 ただ問題は、その快感が先程よりも弱いことにあった。膣内へ舌を差し込まれることと、陰核を舌で転がされるのでは襲い来る快感の度合いが違う。

 途絶えることなく与えられるのは変わらずとも、明らかな違いがヴェルザにも理解できる。

 気付けば彼女は自分の意思とは裏腹に、動けぬ体を必死に動かして腰を上下へ振っていた。少しでも彼の舌を奥まで呑みこみたいとするようである。

 男は目ざとくそれを見て、にやりと頬を緩ませながら彼女の顔を見上げた。

 

 「腰が動いてるぞ、ヴェルザ。やっぱりやめない方がよかったんじゃないのか?」

 「ち、ちがっ――そんなわけないだろっ!」

 「そうかな、そうは見えないけど」

 

 舌先の狙いはそのまま変えず、しばらく男は一心不乱に彼女の股を舐めまわした。

 カエリアの嬌声にヴェルザのそれも加わり、城内の広大な一室には甲高い声が重なって響く。

 そうして十分以上の時間を取り、散々焦らした後、大人しくなって悪口の一つも出ないヴェルザは舌を伸ばして放心していた。

 腰が小刻みに揺り動かされ、何かを誘うようにしぶきを飛ばす。

 それでも男はいやらしく、いまだ焦らすように彼女の乳房へ顔を埋め、にたりと笑って見上げた。

 

 「どうした、もう限界かな? 何かして欲しいことがあれば、言う通りにするけれど――俺は君たちと仲良くやりたいから」

 「うっ、あぁっ――」

 「なにもないと言うなら、それでもいいが」

 

 男が囁くようにそう言うと、ヴェルザは強く歯噛みした後に大声で叫ぶ。

 

 「いっ――いれてぇっ! もういいからっ、早くっ、はやくそれをちょうだいっ!」

 「それ、とは……一体どれのことだろうか」

 「ち、チンチン――おまえのチンチンを、あ、あたしの、あそこにっ」

 「今度はあそこ、というのがわからないな。はっきり言ってもらわなければ俺は――」

 「だからぁ! そのチンチンをあたしのマンコに入れてって言ってるのよっ! は、はやくっ、はやくしてぇっ!!」

 

 ヴェルザが恥をかなぐり捨ててそう言うと、男は間髪いれずに肉棒を膣内へと挿入させた。

 ひどく飢えていた彼女の膣は自らの内に彼を銜えこんだ瞬間、喜ぶようにうねり始める。絡みつくようにして肉棒へ触れ、剛直なそれを溶かそうとするかのように熱く深くまで呑みこみ、男を存分に楽しませた。

 外見に似合わずと言うべきか、それとも見たままと言えばいいのか。ヴェルザのそこは男好きする感触で、今はそこへ加えて熱烈なまでに吸いついてくる。

 嬉しげに鳴くヴェルザは突かれる度に一度ずつ絶頂し、全身から汗を掻いて、髪を振り乱すせいでそれを周囲へ飛ばしていた。

 男はそれを気にせず、受け止め、立ったまま正面から向き合い、繰り返し奥へ向けて腰を跳ねあげる。

 

 「んんあっ、あぁぁっ! くぅぅっ、だめっ、イキ、すぎっ、イキすぎてるぅっ! おかしくなるっ! あたま、バカになっちゃうぅぅっ!」

 「フフフッ、それが幸せの証拠だよ。おかしくなるまで、何度もイケばいい。最後まで俺が面倒を見よう」

 「あぁんんっ、あっ、あっ、はぁぁんっ!」

 

 最後に、男が彼女の陰核を指できゅっと摘み、ヴェルザはこれまでで一番大きな絶頂へと至った。

 その瞬間には声を発することもできず、呼吸が止まり、全身を大きく痙攣させて白目を剥く。

 気をやってぐったりしたヴェルザを見やり、男は彼女の拘束も解いた。しかし自由の身になったのはほんの一瞬、ヴェルザは次に現れた分娩台のようなそれに乗せられ、大股を開けた状態で更なる拘束を成され、股間を狙うのは仰々しい機械に取りつけられた男根の模型。

 どうやら全自動で動くらしいそれはヴェルザを捕えて離さず、彼女の膣へ徐々に男根を埋めていき、位置を決めた直後に激しいピストン運動を開始する。

 

 「ひっ――あっ、がぁっ!? あぁぁぁっ!?」

 

 男の責めが児戯に見えるほどの激しい動き。まるで彼女を壊そうとするかのように、機械は高速で男根を前後させ、荒々しくヴェルザの膣内を犯す。

 だがその頃には男の興味はすでに最後のメディウムへと移っており、ヴェルザで射精しなかった分、己のペニスをさらに固くさせながら移動していた。

 黄色い髪のツインテール、子供のような体型に色気のない服。最後まで残ったリリアは中でもサディスティックな性質を持っていたはずだが、仲間の二人が散々な目に遭わされていたため、すっかり表情には快楽と恐怖が入り混じって存在している。

 スカートの股間部分は濡れており、足元の床には黄色い水たまり。恐怖のあまりか、感じすぎたためという可能性もあるが、人知れず小便を垂らしていたようである。

 男は楽しげに笑い、ひとまずぴくりとも抵抗しない彼女の服をすべて破いて裸体を晒す。

 ぴたりと閉じられた秘所は子供のそれにしか見えず、小便とそうでない液体とでじっとり濡れているようだ。

 男は何も言わず、突然リリアの両足の拘束を解くと、彼女の両足を持ちあげて瞬く間に挿入を開始した。

 ずぶりと力強く肉を押し分け、狭く奥が浅いそこへ勢いよく亀頭を叩きつけた。

 当然、リリアは悲鳴とも嬌声とも取れない声で大きく鳴き、両足を激しくばたつかせて抵抗しながらも、激しい快感に頬を緩ませてしまう。

 

 「あぁっ! きゅ、ふ――ふぅぅぅっ!」

 「これは狭い……他の二人よりも締め付けが強いな。ひょっとしたら、無理をすれば壊れてしまうかもしれない」

 「やぁっ、あんっ、んっ、んっ――」

 

 最初から遠慮などなく、いきり立つペニスが激しく出入りを繰り返す。

 それだけでリリアは頭が真っ白になる感覚を覚え、目をぎゅっと閉じ、股間に埋め込まれた温かさに身を委ねた。

 激しい一方で幾分、気遣いも感じられる動きだ。ヴェルザにしていたような、肉体も精神も壊そうとするかのような荒々しさではない。ただ快感だけを与える、巧みな腰遣い。

 ただでさえ壊されかけていたリリアの平常心はあっという間に消えてなくなり、あとはただ突かれて喘ぐばかり。

 男の好きなように抱かれるばかりだった。

 

 「きゅふぅっ、きゅぅぅ……! んやっ、気持ちいいっ……」

 「ふぅ、そろそろ出そうだな。さっきは出さなかったから、膣内で出させてもらおうか」

 

 肉がぶつかり合う音が数度繰り返され、男はリリアの膣内へ子種を注ぎこむ。迷いも戸惑いもない、それが当たり前だとでも言うような態度だ。

 リリアは両腕に力を込めてガチャリと枷を揺らし、足の指をぐっと丸めて声を押し殺す。

 同時にボタボタと膣から大量の子種、及び彼女自身の体液が溢れ出て、その様は潮を吹く鯨のようでもあった。

 強い絶頂を感じ、しばらくして波が引いていく感覚を認めたリリアはそっと目を開き、自分の両足が解放されたことを視覚と体感で知る。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 「そういえば、リリアは“屈辱”のメディウムだったな。それならちょうどいいのがあるじゃないか――君にはこれをあげるとしよう」

 「はぁ……んっ――えっ。こ、これ、は……」

 

 右腕の青い光が広がり、同時にリリアの拘束が解かれる。その時にはすでに彼女の眼前、新たな器具が用意されていた。

 見た目は、足の無い木馬。だがそこで重要なのは足によって動くか動かないかということでなく、人が乗るべき木馬の背が、鋭利な三角の形になっていることにある。

 デルタホース、と呼ばれるそれは、確かに“屈辱”のメディウムであるリリアが管轄する力の内の一つである。

 対象に痛みだけでなく、苦しみや恥ずかしみ、屈辱を与えるための器具。

 男は地面にへたり込むリリアの体を、膝の裏へ手を伸ばして抱え上げると、迷う様子もなく彼女を木馬の上に座らせようとする。

 体の力が抜けて抵抗できず、先程の行為の名残でべっとり濡れた股間が鋭利な三角形の上に移動させられ、リリアはさっと顔を青ざめさせた。

 

 「ちょ、ま、待ちなさっ、こんなのだめっ――」

 「それじゃあ、ゆっくり楽しむといい。君が大好きな“屈辱”だ」

 「んはぁぁぁっ!!」

 

 パッと気軽に手を離され、リリアの股間は痛みを伴う快楽の上へと置き去りにされた。

 しかも勝手に逃げ出さぬよう、両手両足に重りがついた枷を追加される始末である。逃げることもできず、手をついて位置を変えることもできないリリアは、パクパクと口を開閉させながら涙を流した。

 

 「きゅふぅぅぅ……い、たっ、いたいぃぃ……!」

 「なに、遠慮はしなくていい。しばらくそこで味わっていたまえ……それが屈辱というものだと、よくわかるだろう」

 

 男はそう言ってリリアの傍を離れ、他の二人へも目をくれず、壁に拘束されたまま立ちつくすレグリナの元へと向かう。

 歩みに淀みはなく、前へ進む姿に迷いはない。

 何者の邪魔もないまま、悠然とその場に辿り着いた男は無遠慮にレグリナの服を破き、裸にした彼女の胸を揉みながら顔を近付けた。

 至近距離で見たレグリナの顔は無表情で、それでいて快楽に染まりきっていることは目に見えて理解できた。

 

 「さて、ずいぶん待たせてしまったが、さすがにもう答えは決まったかな? では聞かせてもらおう――君の返事は、どっちだ?」

 

 彼女は、見た目こそ十代後半ほどに見える少女だが、事実生まれてからはまだ一年も経っていない赤ん坊も同然である。それは三人のメディウムにしても変わりはない。

 知識としては知っていても、初めて自分の身に与えられた快感、快楽と言う物に耐性はなく、どう反応すればいいかもわからない。

 触れられる前からすっかり恥辱に苛まれることにかつてない感覚を覚えていたレグリナは、まっすぐに男を見返し、小さな声を発した。

 

 「私は――」

 

 その答えを聞いて男はにやりと笑い、再び立ちあがっていた己の股のそれを、彼女の膣へと宛がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 誰かに捨てられた城の中。

 謁見の間、玉座のイスに、一人の男。

 ボロボロのマントに身を包み、フードで顔を隠すその男、しかしマントの下には一切の衣服を纏っていなかった。

 なぜならそれは、自分の僕たちを満たすためである。

 今、彼の体を跨いで男根を体内へ呑みこみ、たくましい胸へ背を預けて腰を振るのは、銀色の髪が暗闇の中で光る美しい少女だった。

 

 「はぁっ、んんっ、あぁっ――」

 

 淡々とした様子で一心不乱、感情を見せずに快楽だけを貪るは、魔神の娘。

 人々より恐れられる魔女、今はすでに快楽の渦の中、抜け出せないほど深みにはまっている。

 今求めるのは至高の快楽。男に抱かれ、男に愛され、男に蹂躙されること、それが彼女の内に在るすべてである。

 

 「んんっ、はぁん、はふっ――姫様っ、ご主人様ぁ……」

 

 男の右側には青い女。

 “華麗”なる彼女は二人の僕。常に共にあり、共に食し、共に清め、共に眠る。

 唯一無二の侍女にして性の奴隷。男の寵愛と魔女の支配に溺れる、哀れな女。

 もはや頭の中には男の指で体内をくすぐられることしかなく、次は自分も、そう願いながら男の頬へ吸いつき続ける。

 

 「あっ、はぁっ、それぇ……いいっ……あぁっ、気持ちいいよっ、ご主人様……」

 

 男の左側には赤い女。

 “残虐”なる彼女は二人の剣。城へ訪れる者を散らし、主が気にいった者を散らし、豊かなる奴隷を揃える断罪の鑑。

 非道な武器を二人へ与え、非情な思考を二人へ与え、群がる敵を悉く赤に染める。

 彼女は、ただひたすら主に貫かれることだけを望み、役目を果たす傍らで、主の指で尻の中を掻きまわされていた。

 

 「きゅふふふ、ご主人様、気持ちいい? はむっ、ふむっ、むぅ……」

 

 男の下には黄色い女。

 “屈辱”なる彼女は二人の檻。男と魔女が気にいる敵を囲い込み、ただひたすらに凌辱する。目指す先は、完全なる支配。

 たび重なる屈辱は心を壊し、たび重なる調教は肉体を変え、やがては皆が素直に頷く。「リリア様の意のままに」と。

 その褒美として、彼女は男の寵愛を望み、男の足を舐め清める。わが身の内に子種を取りこみ、果ての無い快楽の底へと墜ちるために。

 

 「あぁ、いい。最高の気分だ。これでようやく語ることができる――俺こそがこの世の魔神だと」

 

 玉座に座る、不遜な王。男はそう言い、女たちへと褒美を与えた。

 かつての願いを越え、かつての自分を捨て、男はようやく願いへと至った。

 絶対的な力。絶対的な僕。絶対的な、存在。

 わが身こそついにその頂きへ至ったのだと、男は笑い、群がる女たちを愛しく撫でる。

 この世界が滅びるその時まで、男は女たちと共に、己が覇道を進むのだろう。

 我こそが魔神。そう語る瞳に、少しの不安も在りえないのだから。

 



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Wonderland(対魔忍アサギ)

※凌辱描写があります。程度はわかりませんが、ご注意を。


 暗く、広い一室で、淡々とした音が響いていた。

 パンパンと連続して広がる肉同士がぶつかる音。それは明らかに部屋の中央、裸の女とそれを取り囲む異形の男たちによって生み出されている。

 悲鳴すら出せずに犯されているのは、長い髪を揺らす美しい女だ。全身を白濁した体液に汚され、長時間に渡る凌辱のおかげで心身ともに疲労はピークに達し、もはや抵抗の欠片も見られぬ状態で膣を、尻を、口や喉を数多の男根によって犯されている。

 女は対魔忍と呼ばれる存在の一人、中でも筆頭とも言うべき実力者であった。本来ならば鍛え抜かれた肉体で、卓越した技術で、刀の一本でもあれば自身を取り囲む豚のような男どもにいいようにされるはずもない。

 しかし不幸なことに、彼女は罠にはめられた。思うように力が出せず、ひたすら乱暴の限りを尽くされる。人権を無視され、自尊心を砕かれ、体も心も無残なまでに犯しつくされた。

 今となっては、ただくぐもった声をかすかに洩らすばかりの肉人形でしかない。性欲に限りのない獣たちに扱われるだけの、生きた性処理道具。朝起きてから数時間、休む間もなく犯され続けている彼女にはそんな言葉がお似合いなのだ。

 彼女はただ一人、与えられる快感に狂わされながらもひたすら耐え続け、抵抗もできないため逃げられず、体内を突かれるままに嬌声を上げていた。

 そんな時間が永遠に続くかと思われた、そんな時である。

 部屋の入り口に誰かが立ち、妙に冷たい空気を醸し出すその人物は、片手に刀を提げながら歩きだしていた。

 

 「ご苦労さま。みんなよくやってくれたよ」

 

 ひどく若々しい声である。オークと呼称される豚と人とが入り混じったような異形、女を淡々と犯していた集団が振り返ると、彼らの下に一人の男が近付いていた。

 平凡な容姿をした、別段特別性も感じない青年である。髪は黒色で人相も良く、外見だけで判断するならば他人を疑うことを知らなそうな、そんな風貌に見て取れた。

 ただし服装は変わっていると言わざるを得ない。なにせ彼が身に纏っているのは、肌にぴったりと吸いつく素材のボディスーツ。細く頼りなさげな肉体は線がはっきりと見える服一枚に覆われ、手には不似合いな刀。馬子にも衣装、そんな言葉が当てはまる。

 柔和な笑みを浮かべ、すたすたと警戒心もなく歩いてくる彼はオークたちの目には異常に映り、しかし警戒して体勢を変えるようなことはなかった。

 彼らは顔見知りである。否、正確に言うのならば上司と部下の関係。

 女を休ませずに犯すよう命じたのはその男だったのだから。

 

 「とりあえず、仕事は終わりだ。君たちの任は解かれた。と言うと聞こえはいいけど、つまり……君たちはもう用済みなんだよね」

 

 ブオンッ、と風が通り過ぎる音が聞こえた。直後には青年の傍にいたオークの一体が首を飛ばし、気味の悪い色の血を撒き散らしながら、どすんと床に首が転がる。

 この瞬間、誰もが驚愕に包まれて行動できなかった。味方であるはずの青年が、なぜ自分の仲間を殺すのか。まるでわけがわからないオークたちは頭の中をまっ白にして、女を犯す動きすら止め、言葉もなく青年を見つめる。

 おそらく驚いていなかったのは気をやっていた女だけだっただろう。

 一瞬にして室内は恐ろしい殺気で満たされ、柔和な笑みを浮かべる青年が原因だと理解した彼らは、悲鳴を上げるよりもまず逃げ出そうと足を伸ばしていた。

 

 「言われた通りにやってくれて、ありがとう。でもやっぱり許せるわけがないんだよね――自分の大好きな人を犯されるのは、さ」

 

 それから、虐殺はいとも簡単に終わった。

 所要時間は約二分ほど。逃げまどうオークを一方的に斬り、分断し、両断し、簡単に死なぬよう考えながら殺しつくした青年は部下だった彼らの死体をゴミだと断ずるように冷たく見据え、すぐに興味を失くしたように視線を外した。

 興味があるのはただ一つ。部屋の中央、オークたちの汚らわしい精液で骨の髄まで汚された、恥辱に染められた美しい女だけ。

 今日までの数日間、彼は徹底的に女を凌辱し、その尊厳を一つ残らず汚してきた。

 自らの体で休ませることなく抱き続けた。薬を使って肉体の感度を極限まで改造した。彼が運営する地下のアリーナに対魔忍として出場させ、対戦相手に負けたことを理由に観客の前で凌辱した。アリーナを運営する資金源、つまりはスポンサーの富豪たちに商品として提供し、好き勝手に犯させることもあった。

 彼女の存在すべてを否定し、これまで築き上げたものをすべて破壊する一連の行動。これらはすべて、彼が彼女を愛しているかと言って過言ではない。

 新しい物を生み出すためには、一度既存の物をすべて壊す必要がある。青年の持論だ。

 そのため彼は心から愛した女を自分のものにするため、数多の男に抱かせ、オークをはじめとした魑魅魍魎に犯させ、衆人環視の下で嬲り者にし、女を崖っぷちまで追い詰めた。

 しかしそれも、今日で終わり。ついに準備は整ったと言っていい。

 

 「さぁ、行きましょうかアサギさん。これからが本番ですよ。僕が心行くまで、抱いてあげます。あなたの心も体も、すべて――」

 

 精液溜まりの下で倒れる、アサギは、今は男の手の中。

 ぼんやりと開かれる光沢の無い瞳の中にいるのはかつて愛した恋人ではなく、自身のすべてを汚しきった青年の姿があった。

 

 

 ◆

 

 

 目を覚ましたその時、ベッドの上からでも見える壁一面のスクリーンはいくつかの画面に分けられ、こことは違う場所を映しだしていた。

 まず最初に気付いたのは、一番右側のスクリーンに自身の妹が映っていること。

 井河さくら。金色の短い髪が特徴で、成熟した体とは裏腹に子供っぽい明るさが抜けきらない少女然とした妹。いつも元気で、人懐っこく、危なっかしいところもありながら対魔忍として頼りになるほど成長した逸材。

 そんな彼女は今、スクリーンの向こう側、こことは違う一室で、大勢の男たちに犯されていた。

 

 「ンンッ、んふぅ、うぅぅっ」

 「いやはや、相変わらずさくらちゃんのおまんこはキツキツですなぁ。たくさんチンポを突っ込まれたヤリマンビッチなのにガバマンにならないとは、素晴らしい女性だ。これも、例の肉体改造とやらのおかげかな?」

 「はっはっは、確かに。普通の女ならすぐ緩くなってつまらなくなってしまうのに、さくらちゃんはどれほど突っ込んでも飽きさせない。まぁもう少しお口の方も上手になってほしいというのが正直なところですが」

 「ははは、それもそうですな。今までイラマチオばかりさせてしまいましたからな、そろそろ本格的に仕込んだ方がいいのかもしれません。ま、どうせ最後は喉の奥まで無理やり突っ込むんでしょうがね」

 

 でっぷりと太った裸の男たちが卑猥な言葉を投げかけながら、同じく裸で腰と首と両腕、うつ伏せの状態で小さな台へと拘束されたさくらに近寄り、体を触れ合わせている。しかもその様子が異常なのだ。

 頭の方から一人が、屹立した肉棒をさくらの口へ突っ込んで腰を振り、尻の後ろにいる男が、さくらの膣へ肉棒を突っ込んで腰を振っている。彼女を犯しているのはその二人の中年男性だけなのだが、その二人の後ろ、異常な数の男たちが全裸で列を成しているのだ。

 誰もが陰茎を勃起させ、自分の順番が回るのを今か今かと待ちわびるかのよう。中にはさくらを犯すことを想像して、自分の手で竿を扱いている者もいる。

 異常性に満ちた、もはやこの世の物とも思えぬ地獄絵図。我が妹が、列に並ぶ男たちに犯され続けるのだろうと、その光景や時間を想像すると怒りと憎悪で全身がカッと熱くなる。

 

 「おおっ、出る出る、さくらちゃん出すよ、中出しするよっ。わしの精子、子宮で受け止めてくれっ」

 「よし、じゃあそろそろ私も出すぞ。さくらちゃんが飲みやすいように喉の奥で出すからねぇ」

 「うううっ、おおおぉ」

 

 スピーカーから聞こえる声が、気持ちの悪いその言葉が、より一層怒りを駆り立てる。

 しかし現実は残酷で、顔を真っ赤にして声を洩らすさくらの体内へ、誰とも知らぬ男二人の精液が注ぎこまれたのは確実だった。

 

 「ふぅ。いやぁ気持ちよかった。それじゃあ次は、さくらちゃんの口側に並ぼうかな。喉の奥をガッツンガッツン犯したいしねぇ」

 「ううむ、さくらちゃんとの遊びは非常に満足できるが、困るのはやめどきがわからないことだな。マンコを犯せば喉を使いたくなるし、その後はどうしてもまたマンコを味わってしまいたくなる。こればっかりは抗いがたいものですし」

 「それにそこへ加えてさくらちゃんのアナルまで使えると言うのだから、選択肢が多いというのも、困りものですなぁ」

 「はっはっは、尻の穴まで徹底的にとは、相変わらずいい趣味をしてらっしゃる。そうだなぁ、そろそろ私もアナルを体験してみるべきか。いや、いつもそう思うのだが、やはり目の前にマンコがあるとどうしてもそちらに目が行ってしまって」

 「ぜひ試してみるべきですよ。さくらちゃんのアナルは締まりがいいし、緩むこともないですからねぇ。あのおまんことは違う味わい、知らないのは損というものです」

 「そうですか。そこまでおっしゃるのでしたら、今度こそアナルへ突っ込んでみましょう。ま、あの子が相手なら損をすることはまずないわけですしね」

 

 射精した男たち二人が離れた後で、先頭に立っていた男が一歩を進みだし、またそれぞれがさくらの中へと肉棒を沈める。

 口の中と、膣の中。そうするのが当たり前のように突っ込んで、彼女を気遣うこともなく自分勝手に腰を振る。今度は先程の男たちよりずいぶんと若く、頭を掴んで腰を振るのは三十代半ばの男、膣に肉棒を突っ込むのは二十代前半、或いは十代の後半といったところだろう。

 それぞれが違う動きで、どちらも同じように自分の性欲をぶつけるよう、さくらを使って快感を得ている。これがあと何回続くというのか、列はまだまだ長かった。

 腹立たしい光景をまざまざと見せつけられるアサギは、大きなベッドの上で寝転んだまま、思わず強く歯を噛みしめた。こんな状況を生み出した人物を、絶対に許せるわけがない。

 そんな時に、彼女はびくんと体を震わせた。先程から全身に沁み渡っていた淡い快感が一気に強くなったのだ。

 膣の中、何かが挿入されている。

 気付いたアサギは顔を起こし、自分の下半身へと目を向けた。

 相変わらず自分は裸のままだったが、先程絡みついていた精液はきれいに落とされ、全身が清潔な状態になっている。しかし一方、股間に顔を埋める男の姿があるせいで、決して正常とは言えなかった。

 その男、オークに凌辱されていたアサギを救出した、ボディスーツ姿の青年である。

 

 「あ、あなたは……」

 「やっぱり人気ですね、さくらちゃんは。こっちがずいぶん値段を跳ねあげて交渉しているのに、言い値で参加してくれるんだから、腰を振ることしか能がないバカどもは扱いやすくて仕方ない……それとも、それだけあなたの妹が魅力的だってことですかね、アサギさん」

 「どうしてあなたが、こんなことを……だってあなたはっ」

 「朧に操られているだけ、ですか? アサギさん、言っておきますが、あなたは俺を下に見過ぎてる。自分が優秀だからって他人を認めないのは愚か者のすることですよ? 何事も正当な評価をしないと」

 「え……?」

 「確かに、初めは僕も朧に利用されていましたよ。でもねアサギさん、僕は変わったんです。あなたのおまんこで、自分の童貞を捨てたその時に」

 

 青年は笑みを浮かべていた。体に力が入らず、ベッドの上に寝そべったまま動けないアサギを見下ろし、自らの手でボディスーツを脱ぎ捨てる。

 若々しい、ひどく猛々しい様子で勃起するペニスが晒され、ぶるりと揺れる。青年はそれを誇るかのように根元の部分を手で軽く扱いた後、身をかがめて、アサギの胸を強く鷲掴みにした。

 張りのある乳房に指が沈みこみ、ぎゅっと力が込められる。痛みを感じてアサギは表情をしかめるが、同時に自分の秘所から熱い体液が垂れ流れることも、嫌々ながら自覚していた。

 青年の笑みが、さらに深まる。

 

 「あなたを抱いたのは、朧の命令があったからでした。それまでずっと彼女のフェラチオや手コキ、素股なんかで解消させられてましたからね。女体の味を知りたいがために、その命令に逆らおうとは思わなかった。でも、あなたのおまんこを味わった瞬間、僕は自分を可愛がってくれた朧のことをあっさり忘れた――あなたのおまんこはとてもいやらしくて、強く吸いついてきて、僕を離そうとしなかった。なんて気持ちいいんだと思いましたよ。これまで感じた快感が児戯だったのかと錯覚するほど、僕はあなたのおまんこの虜になった」

 「な、何を……」

 「だからね、アサギさん。僕はあなたを独占したくなった。あなたの体を、心を、すべてを僕のものにしたくなった。それがこの状況の原因ですよ」

 「まさか、朧を、裏切ったと言うの? そんな、そんなことで――」

 「僕にとっては重要なことです。確かに朧のおっぱいやフェラも好きだった。何度せがんでも本番はさせてくれなかったけど、クンニは許してくれたし、頼めばいつでもどこでもチンポ擦ってフェラもしてくれた。そんな彼女を、今でも愛してる。……でもね、やっぱり疼くんです。僕のチンポが、アサギさんのおまんこを犯したいって」

 

 青年が乳房の頂点、勃起した乳首へむしゃぶりつきながら腰を落として、ペニスの先端をアサギの秘所へと当てる。

 瞬間的に言いようのない痺れが全身を走って、アサギは思わず強く目を閉じた。

 

 「ふふ、ここ最近はレイプされるばっかりでやさしく抱かれることもなかったでしょう? アサギさん、僕のものになってください。そうしたら色んな連中に汚されまくったあなたのすべてを、僕が心から愛します。おまんこの形も僕のチンポ専用になるくらい、愛情込めて犯してあげますよ」

 「ふっ、ぐっ……誰が、あなたなんかに――」

 「それは本心ですか? それとも、照れ隠し? ねぇアサギさん、僕は脅迫なんてしたくないんだ。正直な気持ちを教えてください」

 

 腰がひどく緩慢な様子で前へと進み、アサギの膣内へ、青年のペニスがずぶずぶと侵入してくる。

 彼女はおそらく、まだ気付いていない。怒りに囚われ、胸中で憎悪を燃やす自分の顔が、喜色から来る間抜けな笑みを浮かべていることなど。

 

 「ほら、見てください。もし僕の提案を断れば、あなたはまたあっち側へ逆戻りだ。ただ乱暴に嬲られ、犯され、自分を失くすことすらできずに快楽の渦で生き続ける。そんな生活、これ以上耐えることができますか?」

 

 乳を揉んでいた右手が移動し、アサギの顎に手を添えると無理やり壁の方を向かせ、そこにあるスクリーンを見せつける。その間、すでに青年はゆるりと腰を動かしており、アサギは大きな快感を感じると共に決して小さくはない喘ぎ声を発していた。

 一番右側、妹のさくらはまだ長い列を消化しきれておらず、二人の男に前後から犯されている。

 映っているのはそれだけではない。

 その隣にあるスクリーンには、こちらもまた可憐な少女、薄い茶の長い髪を持つ甲河アスカの姿がある。

 両腕と両足を義手、義足にしている彼女。今はなぜかそれらが肉体に繋がっておらず、腕と足の無い体と頭だけの格好となって、薄っぺらいマットの上に寝転がされていた。

 下半身裸で胡坐を掻く男の片膝に頭を乗せ、その男のペニスが頬をつつく一方、客らしき男がアスカの膣へ肉棒を突きいれ、必死になって腰を振っている。

 こちらもまたすごい行列だ。一人ずつ一般の男を相手にする彼女はそこらの娼婦よりもよっぽどひどい扱いをされて、それでも多大な快感を感じて何度も絶頂を感じていた。

 

 「うぅぅ、いくぞ淫乱女っ。中に出すぞ、俺の子供孕めよっ、だるま便器っ!」

 「いはぁぁぁっ! イクぅぅぅぅっ!!」

 「はぁいお疲れぇ。アスカぁ、イッたばっかで悪いけどまだ落ちんなよ。はい、あと五百六十三人、頑張って」

 「ふぁぁい……あンッ、んんっ、んっ、んぅ――!」

 

 管理者らしい男が胸を揉みながらそう言うと、アスカの股へペニスを寄せる男が交代し、金の譲渡を終えてから挿入が始まる。

 途端にアスカは目をとろんと緩ませ、腰を動かし、甲高い嬌声と共に男を迎え入れて感じ始めた。

 この行為もどれほど続いているのか。アスカを膝枕し、胸を揉む男の傍らには大量の金が入ったスーツケースがいくつも並び、長い時間の経過が感じ取れる。

 幸いなのは、今のアスカが時間の経過や欲望に満ちた男たちを相手にすることを恐れていないことだろうか。

 

 さらに隣のスクリーンへ目を向ければ、そちらでもまた目を見張る光景が繰り広げられていた。

 スクリーンにでかでかと映っているのは、褐色の肌の裸の女性、そしてそれを襲う幾本もの触手である。

 両腕、両足をぬめりと光る脚で拘束し、動けない女、イングリッドを執拗なまでに責めている。

 大きな乳房を下からぎゅうと締めつけ、触手の先が両方の乳首をやさしく擦り、それでいて下半身の膣と尻穴には極太の触手が入り込んで、やさしさの欠片もなく縦横無尽に暴れているのだ。

 気が狂いそうなほど長く、強烈な快楽漬けは以前のイングリッドの姿を欠片も残さず消していて、今の彼女は、快楽に囚われたただの雌豚。無慈悲に犯されることを良しとする、誇りや人間性も何もかもを投げ打った姿だ。

 

 「ンひぃぃぃっ!? もっとぉ、もっとちょうだぁいっ! 強く、もっと強く、おまんこずぼずぼきもちよくしてぇぇっ!」

 

 様々な体液が混じり合って、全身が濡れた状態。絶頂を感じて潮を吹きながらイングリッドは、笑っていた。

 触手に犯され、ひどく乱れた姿を晒す彼女は自ら小刻みに腰を揺らし、更なる快感を求めている。

 

 そして一番端、そこにあるスクリーンが一番静かだった。スピーカーから聞こえてくる音もなく、唯一沈黙を保っている。

 そこにあるのは他とは違い、たった一人の女の姿。裸であることは他と変わりないが、大きく股を開いた状態で両手両足を拘束され、身動きができず、目隠しをされて視界すら封じられた一人の女。

 赤い髪に美しい肢体、かつての威光とは程遠い姿でぽつんとある、朧。彼女は以前までアサギたちを苦しめていた張本人だった。

 それが今、彼女たちと同じように拘束され、肉体を改造され、凄まじい快感に耐えようとしているのだが、彼女のまわりには、誰もいない。

 この場は朧の腹心だった青年が用意したものだが、ある種の恋慕があったための処置とも言える。これまで与えられた快感に恩を、感動を覚えている青年はひどく朧へ執着していて、アサギが気になっている今でも他人に渡したくはないと思っている。本当のところは他の女たちも独占したいと考えているのだが、特に比率が高いのがこの二人なのだ。

 そこで青年は薄汚いオークや頭の悪い人間に彼女を汚させないよう、感度を高めた状態で狭い部屋の中に孤立させることにした。

 おかげで拷問にも等しい放置プレイの完成である。朧は現在、声も出さずに強く歯を食いしばり、悔しさを火種にして必ず這い上がることを決意し、来るべき時を待っている。

 だが彼女自身、無意識に腰が小刻みに揺れていることに、もっと強い快感を欲しがっていることを自覚できているかどうか、定かではない。

 

 アサギは青年に促されるがまま、膣内をペニスが動く感触で舌を伸ばしながらも、すべて確認し終えた。

 それからようやく青年は彼女の顎から手を離し、代わりに淫らに開かれる口へキスを送り、だらりと伸びた舌へ自分のそれを絡め始める。

 ぴちゃぴちゃと卑猥な音が鳴り、股から広がる快感がじんわりと全身へ広がる。犯される期間はずいぶん長かったのに、キスはずいぶんとひさしぶりで、思わずアサギの表情はさらに緩む。

 長きに渡る調教が彼女を変えていたが、犯されるのとは違う快感が伝わってきた。まるで恋人同士のようなやさしいそれは、今までの調教に含まれていない。

 少しもしない内に、アサギの気分がどんどん高ぶってしまう。もうすっかり忘れていた恋人との一時が、今のこの快感を何倍も強くしていた。

 

 「エドウィン・ブラックは逃げました。今のここは、僕の城、僕の国です」

 「……え?」

 「後ろからざっくりとね、心臓を一突きにしてやったんですよ。その後全身を滅多切りにしてやったんですけど、不死とか言ってるだけあってしぶとくてね。あと一歩のところで逃げられちゃいました。それでも、僕が勝ったことに変わりはない」

 「あ、あなた、そんなことまで」

 「ええ。ですからアサギさん、心配することなんてありません。僕にすべてを任せていいんですよ」

 

 言葉と共に青年のペニスがアサギの子宮口をこつんと叩き、青年の右手が頬を撫で、髪へ触れ、頭を撫でる。

 何度かキスが顔へ落ち、柔らかな唇の感触がやさしく、ずるずると引き抜かれていくペニスが心地よい。

 ぶわりと、アサギを襲う快感があった。肉体だけでなく心の内側から、遠い記憶から湧き出てくる何かがあるのだ。

 

 「こうして髪へ触れられるのはいつぶりですか? 頬を撫でられるのは、キスを交わすのは、やさしく抱かれるのはいつ以来でしょう? 今こうしてあなたの傍にいられるのは僕だけです。もういい加減昔のことは忘れて、僕だけのものになってください」

 「う、うぅ、そんな、そんなの――」

 「体みたいに、心も正直になってくださいよ。ほら、もうアサギさんのおまんこは僕のこと受け入れてくれてる。あとはあなたが、イエスと言うだけ」

 「はぁんっ、あぁぁっ――」

 「うんって言ってよ。これからはずっと、死ぬまで僕が守るから」

 

 耳元でささやかれ、一際強く子宮の入り口が叩かれる。

 瞬間、アサギの中で何かがぷつりと切れてしまった。

 ぐいと背を逸らし、だらしなく舌を伸ばしたアサギは自らの意思で青年の背に手を回し、強く力を込めて抱き締めた。

 それをきっかけに両者は腰を跳ねさせるように前後させ、さっきよりもより一層深く、激しく、快感を貪り始める。

 

 「あぁっ、あっ、あっ、あっ、すごい、これすごいぃっ――!」

 「アサギさん、好きです、いいや、愛してますっ。もう二度と辛い目には遭わせません、僕が最強の対魔忍軍を作って、一生アサギさんを守りますっ」

 「あぁぁっ、だめぇ、ばかになるぅ……おまんこぐずぐずでそんなこと言われたら、おかしくなるぅっ!」

 「うっ、くぅ、急に締め付けが……! やっと僕のことを受け入れてくれたんですね、アサギさん!」

 

 パンパンと肉を打つ音が激しくなり、二人はどちらからともなく一心不乱に腰を振って快感を貪った。

 スピーカーからは別室の嬌声や卑猥な会話が聞こえる中、単調ながらも速い速度で腰がぶつかり、気分はますます最高潮へと到達する。

 そうしていくばくもせず、青年が絶頂を感じて射精すると、その前に何度もイキまくっていたアサギもさらに声を高くして膣内を震わせた。

 両足が指の先までピンと伸ばされ、背に回された指に力が入ると爪が皮膚に食い込んで跡を残し、二人は重なったままベッドの上で脱力する。

 荒い呼吸が続き、最中に再び唇が合わさる。

 今度はアサギも落ちついた様子でそれを受け入れ、まずは唇同士が触れあい、顔の角度を変えながら強く押しつけ合って、やがて青年が舌を伸ばした。閉じられた赤いそこをちろちろと舐め、少し隙間が開くとすぐさまその中へ飛び込み、待ちかまえていた舌と絡まり合う。

 数時間前の出来事が嘘のような、甘く、落ち着いた振る舞いである。この時間、この瞬間に心地よさを感じているアサギはすでに自らの変化を自覚し、受け入れていた。

 耐えるしかなかった絶望、この世の地獄。そこから救い出してくれたのは紛れもなくその青年。彼女本人はそう思い、まだスクリーンの向こう側で女たちが乱れていることすら頭に入らず、忘れていた微笑みすら取り戻している。

 青年が唇を離し、二人は視線を合わせて微笑みあう。

 

 「アサギさん、僕の子供、産んでくださいね。アサギさんも僕らの子供も、ちゃんと僕が生涯をかけて守りますから」

 「はぁ、ん……そんな、私は……」

 

 それから彼はアサギの傍を離れ、ちらりと部屋の入り口へと目を向けた。すかさず、出入り口の扉が開いて誰かが入ってくる。

 一人の裸の女である。完璧なプロポーション、頭の後ろで一つに纏めた青い長髪。その人物が八津紫であることは、アサギの目にもすぐわかった。

 ただし、アサギが知る人物とは明らかな違いが一つある。

 それは彼女の股間部分、本来なら女性器しかないはずの下腹部には見るも雄大な男根が存在しており、すでにカウパー液を垂れ流して勃起していることだった。

 

 「なっ――」

 「アサギさん、知ってるでしょうけど一応紹介しておきます。僕の相棒の、紫です」

 「あ、相棒……それって一体、どういう……?」

 「実は、彼女がアサギさんを愛していることは前々から知っていました。つまり僕にしてみれば、同じ目的を持つ同志。あなたを守って、あなたを独占したいという共通の目的があったんです。なので僕は、彼女が捕えられたその瞬間に専属の調教係となって、いつの日か僕といっしょにアサギさんを愛せるよう、徹底的な調教を繰り返しました」

 

 ベッドから降り、青年は裸の体を隠そうともせず歩いて、もじもじと恥ずかしそうに体を揺らす紫へと近付く。

 そして彼女の背後に立つと、後ろからその大きな乳房を持ち上げるように揉み、同時に右手では股間でいきり立つペニスを掴んだ。

 慣れ親しんだ様子で青年の勃起したペニスは紫の膣の中へ迎え入れられ、彼女は嬉しそうに熱い息を吐く。腰を動かすのと合わせて右手も上下に動き、異常な興奮からガチガチに固くなった肉棒が扱かれる。

 二人は立ったまま、見せつけるようにアサギの前で行為を始め、異常なほど股を濡らしていた紫のそこからはしぶきのように愛液が飛び散った。

 

 「見てくださいアサギさん、紫のチンポは、僕のと全く同じ形とサイズなんです。いつか二人同時にアサギさんを満足させるためにって、僕のをそのままコピーして取りつけさせたんです。ふふ、しかも、改造のおかげでこのチンポは女性のおまんこの中じゃなきゃ射精できないようになってて、実は紫、まだ射精したことがなくて、童貞なんです」

 「は、はいぃ……あ、アサギ様のおまんこに童貞奪って欲しくて、今日までずっと、が、我慢してましたぁぁ……」

 「ふふ、おまんこの方はわりと簡単にイクんですけどね。出会ってから今日まで僕専用で使ってきましたから、すっかり僕のチンポの形になってますよ――それでね」

 

 青年が歩を進めると、自然に紫も前へ進み出る形になってベッドへ近付く。

 いまだ状況が読み込めず、黙ったままぽかんとしているアサギの眼前へ、二人が立った。

 

 「アサギさんのおまんこも、僕のチンポの形にしたいんですよ。僕以外の人が入れられないように。僕と紫、全く同じチンポでたくさん犯して、僕らじゃなきゃ満足できないようにしてあげますね」

 「え、あ、なっ――」

 「あ、アサギ様、アサギ様のおまんこ、ようやく、ここに……!」

 「ふふふ、ずっと我慢してたんだもんね。いいよ、紫。今日は思う存分、ゆっくり、アサギさんを味わってみて」

 

 そう言って青年が後ろへ下がると同時、彼のペニスが紫の膣から抜け、まるで同じタイミングで紫はベッドへ向けて飛び込むように床を蹴っていた。

 当然、そこにいるアサギは押し倒される形で紫の下敷きになり、抵抗する間もなく組み敷かれる。

 

 「ちょ、ちょっと待って! こんなの、聞いてな――!」

 「ハァ、ハァ、ハァッ――!」

 

 まるで理性をなくした獣、オークのような様相でアサギに襲い掛かり、紫のペニスが膣へと触れる。

 青年と愛のある性交をして、普段以上に濡れていたことも幸いし、彼女のそれは瞬く間に奥までずるりと入り込んだ。その瞬間に、紫は目を剥いて舌を伸ばし、子宮口に亀頭が当たると同時に初めての射精を始めていた。

 ドクドクと大量の精液が注ぎこまれ、熱いそれは先程の青年の物とも酷似していて、体が熱くなるのを抑えきれない。

 アサギもまた目を剥いて舌を伸ばし、だらしないアヘ顔を晒して絶頂へ辿り着くと、ビクビクと腰を跳ねさせて浅ましく悦びを表した。

 

 「あぁぁっ、しゅごいぃぃっ! アサギ様のなかっ、アサギ様のおまんこっ!」

 「ひぐぅ、は、はげしっ――だめ、だめっ、だめぇっ! イッてる、まだイッてるからぁ!? 動いちゃだめぇっ!」

 

 狂乱の仕草を隠そうともせず、二人は乱れに乱れて激しく絡まり合った。

 上からのしかかる紫の責めは執拗で激しく、アサギは我も忘れさせられ、高く鳴いて腰を跳ねさせる。二人の膣からはぶしゅっと潮が何度も噴き出し、シーツを大きく濡らして、様々な音を響かせた。

 微笑む青年もそこへ近付き、我が物顔でベッドへ上がると、舌を伸ばして悦ぶ紫の肩を叩く。すると彼女はすぐに少しばかりの正気を取り戻し、一心不乱に振っていた腰を止めて、アサギの尻に手を添えてその裸体を抱え上げる。

 青年はアサギの尻の後ろに回り込み、勃起したペニスを尻の穴へ添え、驚く本人の感情を知りながらも無視してぐっと腰を押し進めた。

 

 「はうっ!? あっ、あっ――」

 「はぁぁっ、アサギ様のおまんこ、またぎゅうって……!」

 「ふふ、アナルもいい味してますね、アサギさん。ほんと、痛いくらいに締めつけてきて……そんなに僕のチンポ気に入ってくれるなんて、嬉しいです」

 

 前と後ろを同時に塞ぎ、今度はゆっくりずぷずぷと腰を前後させる。アサギは、両方から与えられる大きな、それでいて先程までの力がない快感に悩まされ、知らぬ内に自分で腰を前後させていた。

 それでも、動きが小さすぎてまだまだ足りない。しかし紫に抱えられている状態ではこれ以上動きを大きくすることができない。

 口の端から唾液を垂らしたまま、みっともなく笑う紫とは裏腹、どうしようもない物足りなさが原因でアサギの目にはいつの間にか涙すら浮かぼうとしている。

 

 「紫のチンポならね、僕と同じ形だから、紫に犯され続けるだけでアサギさんのおまんこは僕専用になるんですよ。他のチンポを入れさせるつもりなんてありませんけど、もし万が一のことがあったとして、僕のチンポじゃなきゃイケないように教え込むんです。ふふ、紫はそのために僕の相棒になったんです」

 「あっ、あんっ、んっ、んっ――」

 「それにこうすればアサギさんのことが大好きな、生来から女だった紫でもあなたと一つになれる――って、聞こえてないですよね、やっぱり」

 

 亀頭が肉を割って進み、壁一枚を隔てるかのよう、アサギの体内では紫の肉棒と青年のそれが、お互いの存在を確かに感じていた。

 それぞれが自分のペースで動き、たまにシンクロするようなこともあって、アサギの声はどんどん高くなるばかり。しかし、やはりまだ少しだけ足りなかった。

 あともう一歩、もっと強い快感が欲しい。そう願いながら腰を小刻みに振るのだが、軽くイキ続けるだけで欲しい絶頂がやってこない。

 いよいよアサギは涙で頬を濡らし、歯をぐっと食いしばりながらも声を洩らして、ちらりと背後の青年を見た。

 瞬間、青年がにやりと微笑む。今のアサギの目にはすでに抵抗する意思などなく、懇願するような光だけが強く見えていたのだ。

 

 「紫、もういいよ。そろそろ、みんなでいっしょにイクよ」

 「はいぃぃ!」

 

 青年がそう言い、紫の腰がぐんと引いた後、驚くほど力強く前へ動いて肉棒を沈める。ずるりと膣の奥へ入り込む亀頭がごつんと子宮口へ当たって、アサギは思わず白目を剥いた。

 

 「あっ……かっ、はっ……」

 「ふふ、それじゃあ、ラストスパートだ」

 

 同時に青年も動きを大きく、激しいものに変化させ、ぴたりと紫との呼吸を合わせてアサギを責め立てた。

 とめどない快感が大津波のように押し寄せ、もはやアサギに、耐えられるだけの精神力も体力もない。心はぽっきりと折られ、徐々にではあるがその快感を享受し、求めようとする傾向さえあった。

 室内に響く肉の音がさらに大きくなり、男根を持つ二人はアサギが一際高く鳴いたのと全く同じ瞬間、彼女と一つになったまま射精した。

 膣の奥と尻の穴の中、どくどくと吐き出される精液は逆流するのを止められず、接合部から大量にぼたぼたと垂れる。

 三人は独特の倦怠感を感じながら、アサギを中心に顔を寄せ、舌を伸ばして三人でキスを交わした。ねっとりと交わるような、濃厚なものだ。

 

 「ふぅ……最高のアヘ顔でしたよ、アサギさん。やっぱり、セックス大好きな雌豚なんですね。あなたの声もおまんこもアナルも、全部最高でした」

 「あぁっ、うぅ、はぁぁ……」

 「さて、と。とりあえず楽しむのはこれくらいにして、そろそろ仕事へ行かないと。紫、後は任せるよ」

 「は、はい、もちろんっ」

 

 青年は尻の穴からペニスを引きぬき、アサギの体から離れる。その直後、紫はまだ挿入したまま彼女をベッドへ押し倒し、陰茎を大きくして、また腰を振り始めた。

 今のはまだ準備運動程度でしかない。肉体を改造されてから今日まで、ずっと射精を我慢し続けてきた彼女にとって、頭が真っ白になると同時に相手を征服した気になる射精という行為は、一度でハマるほど素晴らしいものだった。

 まだまだアサギに注ぎ足りない。そう思い、紫は嬉々とした笑みと共に彼女を犯し始めるのである。

 

 「あっ!? ま、待って、まだイッたばかりで――んんんぅ!?」

 「あぁぁっ、アサギ様のおまんこ、ぐちゅぐちゅ淫乱おまんこ気持ちいいっ!」

 「紫、僕がいない間、ちゃんとアサギさんを愛してあげるんだよ。もちろん、君ならアサギさんを孕ませてもいい。他の人間が孕ませたのなら処刑ものだけど、僕の相棒になった君だけは許してあげる。たくさん注いで、アサギさんを孕ませて」

 「はいぃっ、必ず、必ずアサギ様を孕ませますっ! 改造チンポたくさんずぼずぼして、絶対に孕ませてみせますから!」

 「うん、それでいい」

 

 そう言うと青年は自身の精液で濡れたペニスを紫の顔へ突きつけ、口へ含ませると、数度腰を振ってきれいになるまで舐めさせた。

 それから彼は体を離し、アサギを犯す紫から離れて、自身のボディスーツを身につける。パンパンという音と、アサギの嬌声を聞きつつ、支度はすぐに終わる。

 青年は淫らに絡まり合う二人へ目を向け、にこりと頬をあげた後、もう一度ベッドへ上がって彼女たちに近寄った。

 一心不乱に腰を振る紫を背後から抱き締め、凄まじい快感によがるアサギにも目をつけつつ、紫へキスを与える。

 

 「僕が帰ってきたら、二人で愛してあげますよ、アサギさん。でもしばらくは紫と楽しんでてください。すぐに抜け出せなくなるはずですから、安心して」

 「んんんっ、いぃぃっ……あぁぁっ!」

 「また後でね」

 

 青年はベッドを降りて部屋の出入り口へ向かい、自動で開く扉をくぐりぬけて廊下へ出た。扉が閉まると同時、アサギと紫の狂ったような嬌声や、スピーカーから流れる別室の声は途絶える。

 最低限の照明しかない暗い廊下を、一人歩く。その際、呟かれる言葉が暗闇に広がり、彼の顔には相変わらず笑みがあった。

 

 「いつまでそこでそうしてるつもり? もういい加減、わかってるんでしょ。勝負はついた、君の負けだよ」

 

 コツコツと渇いた音が響く。薄暗いそこには彼の姿だけ。

 それでも青年は口を閉じようとはしなかった。

 

 「僕と君の違い、理解できたよね? 僕は彼女を手に入れたいから、一から計画を練って行動を起こした。その結果として今がある。じゃあ君は? 何も知らずに、何もせずに、ただ待っていただけ。彼女を信じてるなんて軽い言葉を吐いて、現実を見ようともしなかった臆病者だ。力がないならないなりに、頭を使って行動できるはずなのに」

 

 ぴたりと、青年の足が止まる。そしてゆっくりと後ろを振り返り、暗闇の中へ向けて決別の言葉を告げた。

 

 「君が特別視されたのは、沢木恭介の弟だったからだ。それ以上でも、それ以下でもない。でもそれも終わりだ――つかの間の恋人ごっこは楽しめたかな? こっちの世界は、君が想ってる百倍は辛いものだよ。言いたいことがあるなら、まずは一人でも自分以外の人間を守れるようになってからにしてよね」

 

 それだけを言い終え、青年はもう後ろを気にしようとはせずに歩き去った。

 暗闇の中にあった気配は、扉一枚を隔てて目標を眼前にしているというのに、青年の言葉を聞いた後ではぴくりとも動こうとはしない。結局はそこが限界、そもそも対魔忍になるほどの器ではなかったのだと、青年が見限ったのも無理はないだろう。

 彼は自分のすぐ傍に侵入者があったことを知っていながら、何の対処もしようとはしなかった。それは対処する必要も、資格すらないという判断である。軽く蹴ってしまえば遠くへ飛んでいってしまう道端の小石のよう、目にしたところで蹴ろうとも思えなかった。

 すでに勝負は決している、と伝えるかのようでもある。そこにある影は呆然と立ち尽くし、向けられた言葉が、気付きながらも素通りする態度が、刃のように突き刺さって心を深く抉られる。もはや影は抜け殻にも似て、すぐそこにある扉を抜けられそうにもない状態となってしまったようだ。

 

 「さて、僕の国を繁栄させるためには、まず最初に邪魔になるのはおまえだよね、エドウィン・ブラック。とりあえずおまえを殺して、あの薄汚い老害どもはその後だ。僕が欲しいのは僕が作る最強の対魔忍軍であって、おまえのお古なんていらないんだよ」

 

 憎々しく告げながらも笑い、青年は頬を釣り上げ、まだ見ぬ敵を嘲笑うかのように手元の刀をくるりと回した。

 



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風俗湯宿“華”(NARUTO・小南)

一応、続けられる設定の上、単発です。
要望があればまた書きますが、出てくるキャラは基本的にそこそこ歳がいってる人になります。


 ちょうど五大国の中心に位置する小さな温泉街に、その特別な湯宿があった。

 歓楽街の少し奥、治安は良くてもあまり人が近寄らないそこには温泉を保有する宿があり、同時に他には見ないサービスがあることで有名である。

 金で女を買う、そんな男たちが世に溢れているように、中には金で男を買いたい女もいるのだ。

 温泉宿“華”は名湯を持った風俗店、しかも、女を相手に商売をする男娼が揃えられた宿なのである。

 

 「もうあなただけになってしまったわ……大事だった人はみんな、先に逝ってしまった」

 

 その一室にて、二人の男女が大きなベッドの上、裸で抱き合って寝転んでいた。

 全身に玉のような汗を掻き、同時にどちらの物ともわからない体液がこびりついて、シーツの上にはひどい惨状が広がっている。

 そんな中で横たわるのは、妙齢の美しい女性と、まだ年若い青年。

 青い髪を青年の腕枕に乗せ、豊満な胸や細い腰にも男の精液がかけられ、ぼうっとした表情で天井を見上げるのは自ら忍だと言っていた女性、小南だ。

 あまり良くないことをしているとも囁かれているが、数年前からこの店に通い、当時まだ新人だった青年を一番最初に買った人物である。

 身の上話をすることもあったし、愚痴っぽい話をすることもあった。そして肩を並べて食事や酒を取ることだってあったし、今日のように体を重ねた日も多い。

 青年、店での名前は双葉という彼は、少数精鋭である“華”の中でも特に女性の忍者、いわゆるくノ一から人気が高い人間である。

 ぽつぽつと語る小南の顔をじっと見つめ、髪を撫でながら話を聞く態度はまさしくプロ。客である女の心も体も癒そうという精神が目に見え、子供の頃から教育を受けていたという話も納得の姿だった。

 

 「弥彦が死んで、先生も亡くなって、ついには長門も……覚悟していたはずだけれど、多くのものを失くしてしまったわ。私の傍に残ったのは、今ではあなただけ」

 「小南さん……それはきっと、辛かったでしょうね……」

 「仕方の無いことだもの。ずいぶん昔に慣れたわ――いいえ、慣れたはずだった。でも今になって気付いたの。私はやっぱり、仲間がいなくなって寂しい……」

 

 双葉の肩口に顔を摺り寄せ、小南は伏し目がちに声を潜める。

 忍として生きてきた彼女にどれほどの覚悟が、辛い経験があったのだろうか。仕事が特殊とはいえただの一般市民でしかない双葉にわかるはずもない。

 ただその時の彼女は言葉通り、やはり寂しそうな表情で、四年ほどの付き合いになる双葉に救いを求めているのは明白だった。

 らしくない小南に向け、双葉はそっと額に口づけを送り、気を紛らわせようとする。すると小南はわずかに微笑んでくすぐったそうに身を捩り、双葉の頬へ手を添えるのだ。

 

 「ねぇ双葉、私のものになって。二人でどこか、遠くへ行って静かに暮らしましょう? もう私の役目は終わったわ……弥彦や長門、先生の意思はちゃんと残されている。あとはただ、見守るばかりよ」

 「小南さん……やけにならないでください。そんなこと言うの、らしくないですよ」

 「わかってる。今はちょっと疲れてるだけだって……でもね。本当にいつかそうなれたらって、何度も思った。長門が長くないのは知っていたから、彼の死を見届けた後は少し、休もうかって。その時、傍にはあなたにいてほしいってね」

 

 今度は小南からそっと、口づける。ただし双葉のように頬や額ではなく、彼の唇へ。

 音もなく合わさり、柔らかな感触が心を落ち着かせる。

 二人は動くこともなくじっと相手の唇を感じ、しばらくしてからまたゆっくりと離れた。

 小南の顔には、薄くとはいえ笑みがある。そこで双葉もようやく笑みを浮かべ、二人はじゃれあうように額同士を触れさせた。

 目を閉じて、相手の息遣いをすぐ傍に感じる。行為が終わった後の疲労感が心地よく、ぐったりと力の抜けた肉体も、大好きな相手と抱きあっていれば嫌にもならない。

 一夜明けて、時刻は朝。双葉用の部屋に備え付けられた個室用の露天風呂には朝日が差し込み、水面が反射する光が室内まで届く、穏やかな空間。

 小南が目を閉じたまま口を開いた。

 

 「双葉、私のこと、好き?」

 「ええ、とっても。小南さんが来てくれた時、僕もすごく嬉しいです」

 「本当かしら。他の女の子にも言ってるんでしょう? 私より若い子も多いだろうし、他に好きな子がいるんじゃない?」

 「そんな意地悪、言わないでください。小南さんが好きだって気持ちは、嘘でも冗談でもないんですから」

 「ふふ……ありがとう」

 

 再びゆっくりと唇が合わさり、互いに腕を伸ばして相手をきつく抱きしめた。

 小南は首の後ろへ手を回し、双葉は白い背中に腕を回して。

 汗の匂いや精液の匂いが、ぷんと香る。あまりにも今さらなのでさほど気にする必要もないのだが、時間も時間。別れの時が近付いている。

 双葉の方から唇をそっと離し、間近に見る彼女へ向かって、やさしく語りかけた。まっすぐに目を見返す小南もちゃんとわかっているようである。

 

 「小南さん、お風呂入りましょうか。汗とか色々、落とさないと」

 「ええ。でもね双葉、私このまま、あなたと離れたくないの。重いかもしれないけれど、運んでくれる?」

 「喜んで。それに小南さんは軽いですから、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ」

 「好きな男に嫌われたくないもの。それは難しいわ」

 「もし本当に重かったとしたって、僕は小南さんを嫌ったりしませんよ。そんな浅い関係じゃないでしょう?」

 

 双葉は彼の首に腕を回す小南を軽々と持ち上げ、寝室からガラス張りの扉で区切られている露天風呂へと赴く。

 天然の温泉は循環を繰り返し、常に温かく清潔に、かすかな良い匂いと共にそこへ在る。他の部屋も同様に温泉を使った風呂場が設けられているが、簡易的とはいえ露天になり、美しい山々と川を眺められるのはこの部屋だけだ。

 風呂の淵に小南を降ろすと、双葉は近くにあった桶を使って湯を掬い、簡単にではあるが小南の体を流していく。

 手を使って柔らかな肌へやさしく触れ、汗や自身の精液を洗い落として、時折いたずらをするように彼女の体へ強く手のひらを押しつける。それは胸であったり尻であったり、腹や太もも、首筋、様々な場所へ。

 おかげで小南は微笑み、自分から双葉へ口づけをねだった。やさしく数度触れてすぐに離れ、すぐに肌へ纏わりついた物は流れ落ちた。

 

 「ありがとう、双葉。次は私がやるわ」

 「そうですか? それじゃあ、お願いします」

 

 桶を持つ手が変わり、小南が湯と手を使って双葉の体を流し始める。

 彼女もまた楽しむように手を肌の上へ這いまわらせ、飽きることなく何度も口づけを求め、ちゅっちゅっと軽い音が外まで広がる。といってもそこは大自然を背後に置く宿、他の部屋が窓を開けていない限りは誰かに聞かれることはないだろう。

 自然の風を感じつつも、良い香りの湯で体を簡単に温めた後は、二人で湯の中へ入る。淵に背を預ける双葉の前に小南が座り、彼女が双葉へ背を預ける。

 まるで恋人同士のような姿である。

 この時双葉はちゃっかり水差しとコップを用意しており、傍に置いておいたそれを手にしながら、小南へと声をかける。座り位置の関係上、自然と耳元へ口を寄せて囁く様な形になってしまい、すぐ傍で彼の声を聞いた小南はくすぐったそうに肩を揺らした。

 

 「小南さん、お水どうぞ。なんでしたらお酒もありますけど」

 「ありがとう、これで十分よ。でも、できればあなたに飲ませてほしいわ」

 「わかりました。それじゃあ――」

 

 そう言われて双葉はコップに水を移し、小南の口元へ運ぼうとするのだが、他ならぬ彼女の手でそれを止められる。

 わずかに首を振り、何かを期待するようにじっと目を覗き込む小南は何も言おうとしない。

 しかしそれだけで意図が伝わり、双葉は小さく頷いて、手に持ったコップの水を自らの口の中へと入れた。

 そして改めて、小南へ渡すために口を近付ける。自然と彼女も目を閉じ、唇を突き出して、それを待つ。

 唇が触れあい、わずかに開き、双葉の口内にあった飲み水が小南の口へと入っていく。

 それだけに留まらず、どちらからともなく舌が伸びて、じゃれつくように先が触れあう。ちろちろと絡み合い、つんつんとつつき合った。

 一方で小南の両手と双葉の片手は、互いの体へ好き勝手に触れている。大きく突き出た乳房、丸々とした尻、シミ一つない白い背に双葉の手のひらが触れていき、固くそそり立った陰茎、薄く割れた腹筋や、女の物とは違って固い尻など、小南も愛おしげに触れていく。

 少しすれば唇を離し、再び視線がぶつかった。小南は彼の胸にしなだれかかって熱い吐息を発し、小さく囁いた。

 

 「双葉、もう少しちょうだい。しっかり水分を取っておかないと、のぼせてしまうかもしれない」

 「わかりました」

 

 またコップの水を口内に含み、双葉が小南へ顔を近付ける。彼女もそれをあっさりと受け入れた。

 水を飲むのはほんの一瞬で終わり、後はまた先程のように互いの肉体を求めあう。遊びにも近い行為はやけに二人を魅了して離さず、唇を遠ざけるのがひどく名残惜しい。

 手に持ったコップを置き、しばらくの間は無言で楽しんで、飽きもせずに存分に体へ触れあった後。

 小南はぐっとさらに深く口づけを送り、彼の口内へ舌を侵入させながら少し腰を上げて、湯の中で胡坐をかく双葉のそこを跨いだ。

 先程からすでに勃起している陰茎は天を向いて立っている。そこに小南の女性器が近づき、湯とは違う何かで濡れた柔らかなそこが、くちゅりと触れる。

 その後は迷う必要も確認を取る必要もない。小南が彼の頭を掻き抱きながらゆっくりと腰を落としていくと、見る見るうちに肉棒が膣の中へと呑みこまれていく。

 もう奥へ進めぬところまで入りこむと、二人の股はぴたりと合わさっていた。

 唇を離し、小南が息を吐きながら双葉の頭を自身の胸へ埋める。

 

 「はっ、あっ……」

 「小南、さん……」

 

 小南は彼の頭を、双葉は彼女の背を、ぎゅっと強く抱きしめる。

 小鳥のさえずりすら聞こえる穏やかな朝の中、風呂の中で繋がり合う男女が、悩ましげな吐息を吐きながら抱きあう。日常の中にある非日常で、なんとも言えない気持ちがさらに気分を高ぶらせていた。

 とはいえ、二人にとってはさほど珍しいことではなく、一晩を買った小南は昨夜も散々双葉と体を重ねていたのだ。

 抱き合ったまま動かず、ふと、彼女は話し始めた。

 腹の中でびくびくと震える愛おしいそれは動きたがっているが、今でも十分な刺激があり、昨夜のたび重なる行為のせいで今は落ち着いている。

 双葉の首筋へ顔を埋める彼女は、普段とは違ってどこか弱弱しくすら見えた。

 

 「あなたは、たくましくなったわね……昔はもっと中性的で、頼りなくって、可愛かった。でも今は、私を受け止められるぐらい大きくなってる。なんだか、私もすごく歳を取った気持ちになる……」

 「そんなことありません。小南さんは今も昔も、ずっときれいで、若々しいです。体だって全然、衰えてませんよ。何回戦も繰り返せる体力もね」

 「ふふ、それは褒めてるのかしら? だとしたら嬉しいわ。でもいずれ、あなたとこうして抱きあうこともできなくなるかもしれない」

 

 髪を撫でていた手を首へ移動させ、少し顔を離して見つめ合う。

 微笑んでいるのに、どこか悲しい。今日の小南は何かが違っていた。

 ひょっとしたら、大事な仲間を失ってしまったからかもしれないと、双葉は思う。だが彼女が自発的に話すこと以外、無遠慮に踏み込むのは仕事の内ではない。

 双葉はただじっと彼女の目を見つめ返した。

 

 「いつかあなたとも、離れなければいけない時が来るのかしら……今はそれだけが心残り」

 「……やめてくださいよ、死を選ぼうとすることだけは。飽きて捨てられるなら理解もできますけど、小南さんが死んじゃうなんて、僕は嫌です」

 「大丈夫よ。私があなたを捨てるなんて、ありえない話。それだけはしないって神に誓うわ」

 

 双葉の額に小南の唇が触れる。なんとなく、はぐらかされてしまったような気持ちになった。

 けれどそれ以上深く追求する気にもなれず、何かから逃げるようにして、彼女の細い腰を掴んだ双葉は勢いよく腰を突きあげる。

 一度は抜けかけた肉棒が、ズンッと一気に奥へ叩きつけられ、小南の表情が変わる。

 与えられる快感で一瞬の内に雌の顔になった小南を見て、双葉は何度も下から突き上げていった。

 

 「あっ、あっ、あぁっ……ふた、ばっ……」

 

 腰が上下する度、小南の体が大きく揺れる度、湯船は大きく揺れ動く。

 昔は締まりが強いだけだったそこは、今では男好きのする絡みつき方を覚えていて、強かに双葉を責め立てる。突いているのは彼であっても、感じさせているのは両者、気分はますます高まった。

 ちゃぷちゃぷと水音が立ち、小南は小さな声で鳴いて、双葉もまた小さく荒く息を吐く。

 手慣れた行為であるとは言っても襲いかかる興奮に抗うことは難しく、腰を上下させる動きは徐々に速度を速めていった。

 双葉は目の前で縦横無尽に揺れる乳房へ目をやり、左の乳頭へ吸いついた。付着した水滴に混じる汗がしょっぱい。

 そのまま固くなった乳首を吸い、舌で触れ、歯で軽く挟み、巧みに刺激しながらも腰を動かし続ける。

 左の次は右へ。満足したらまた反対側へ。

 何度も往復したところで終わりは見えず、ひとしきり遊んだ後だと言うのに更なる快感を求めるのは二人にある共通の姿勢で、ついに双葉は動き出した。

 股間で繋がり合ったまま、双葉は上手く小南の体の向きを変えさせ、汗とも湯ともわからぬ水滴が伝う背を拝み見る。

 それから立ちあがり、小南の両手を風呂の淵につかせると、彼は覆いかぶさるようにして彼女の乳房を両手で掴んだ。

 腰の速度は一気に変わって、まるで叩きつけるかのような刺激の仕方。パンパンッと小南の尻の肉が震え、高い声も一層色気を交えさせる。

 

 「あぁっ、あっ! んんっ、くぅっ……!」

 「はっ、小南さん、小南さん……!」

 

 初めての時のように我武者羅になって腰を振り、体勢を変えてからは普段よりも早かった。

 双葉は小南の中に居たまま、射精を始め、せっかく洗い流したそこへ新たな子種を注ぎこむ。彼女もそれが最後のひと押しとなり、さらに一段高い絶頂へ至り、声を高くして鳴いた。

 どくどくと断続的に注ぎこみ、さらに奥へ流し込もうと腰を押しつけていると、小南が倒れ込むように腕の力を抜いて寝そべった。

 それでも双葉は若干柔らかくなった肉棒を抜かず、尻を掴んでゆるゆると腰を振ってから、ようやく彼女を解放する。すでに精液を垂れ流す膣から現れたそれはいやらしく糸を引き、途中で切れて湯の中に消えた。

 両者の体液で濡れた陰茎はまだわずかに固さを残したまま、小南の尻に数度擦りつけられる。

 それが済んでから双葉は小南の顔を覗き込み、赤くなった頬へ手を触れながら、彼女を案じる。

 身動きもできぬほど激しくイッた小南は息も絶え絶えで、しかし双葉の顔が近くに来ると目を開いて笑みを見せた。

 

 「ん――ありがとう、双葉。とてもよかったわ」

 「ええ、僕もです。また、膣内に出しちゃいましたけど」

 「構わないわ。できれば、あなたとの子供が欲しいの――ひょっとしたらもう遅いのかもしれないけれど」

 「……そんな寂しいこと、言わないでください。やっぱり今日の小南さん、変です」

 

 双葉もまた小南のように木目の床の上に横たわる。横向きに双葉を見る小南へ腕を出してやり、彼女の頭がそこへ乗ってから、余った手で乳房を揉む。

 小南は笑っていた。しかし、発言や態度はやはりどこか後ろ向きにも思える。それが双葉の心を大きく掻きまわし、不安にさせる。

 

 「また何度でも来てくださいよ。それが嫌なら、呼んでくれれば僕から行きます。仕事が関係なくたって、どこへでも」

 「あなたはやさしいのね。でも決して自分を安売りしちゃいけないわ。私もお金を払った客の一人、あまり情を向けすぎても後悔するだけよ?」

 「小南さんは違います。違うってわかるくらい、いっしょにいたじゃないですか。たとえこの部屋でしか会えない相手でも、それは変わりません」

 「ええ、私もそう思ってる。心配しないで、ちょっと疲れてるだけ。きっとすぐにいつも通りになれるから」

 「危ないこと、しませんよね?」

 「もちろん。あなたと離れる未来なんて、考えられないもの」

 

 どちらからともなく顔を寄せ、唇を触れ合わせる。

 その時、部屋の中に在る時計がジリリと音を発した。小南が双葉を買った時間が終わったのである。

 二人は名残惜しげに顔を離し、再び汗や体液を湯で流した後、部屋へ戻って体を拭く。

 もはや言葉で説明する必要などなく、どちらも手慣れた様子での行動であった。

 そそくさと体についた水滴を取った二人は、繰り返し軽い口づけを続ける。そのままで双葉は次々に小南の服を着せていき、その時々に彼女の肌へ唇を触れさせた。

 そして最後、彼女に赤い雲の模様が入った黒いコートを渡す時、双葉はなんとも言えない表情を浮かべる。

 

 「何から何まで悪いわね。あなたがなんでもできちゃうから、自分が怠け者になった気になっちゃう」

 

 暁、そう呼ばれる犯罪者の集団。そのコート自体が、彼女もまたその集団の構成員であることを証明している。

 彼の店は客であれば人種も所属も関係なく、また彼自身もどんな人間であっても差別するつもりもないが、世間はそうはいかない。彼女がその衣を身に纏っている限り、小南は誰かに狙われ続けるのだろう。不安の種火はおそらくそこにあった。

 彼女が不安を残すようなことを言ったのは、もしかしたら何かしらの事情があるのではないか。そんな風に思えてならない。不安が生まれて仕方ない。

 そんな双葉の表情を見た小南はいまだ裸でいる彼の体を見下ろし、時間も終わったというのにその場へ膝をついた。

 

 「あの、小南さん? いきなり何を――」

 「これくらいのサービスは許してくれるでしょう?」

 

 萎えた陰茎を手で掴み、少し上を向かせて唇を当てる。むにと押しつけるようなそれは、皮から露出した亀頭をぴくりと反応させた。

 小南はそのまま、巧みに口と手で双葉の陰茎を刺激し始め、見る見るうちに大きくなっていくそれをあっさりと口内へ含む。

 時間外のサービス、これまでに要求したことがないそれだ。

 不安を抱いていたことも合わさって双葉は喜び、抵抗することもなく両の拳を握って、見上げてくる小南の顔を見つめていた。

 じゅるじゅると唾液が音を発し、頭が振られる度に肉棒が口へ出入りする小さな音が鳴る。

 時間がないことも理解しているため、小南の頭を撫でる双葉は我慢することなくやがて限界へ達し、彼女へその事実を伝えた。

 

 「くぅっ、小南さん、もう出るっ……!」

 「んっ、んっ、んっ――んんっ、んぅっ」

 

 喉の奥で射精が始まり、小南は苦しがる様子もなく続々と出てくる精液をすべて飲み干す。ごくりと喉が鳴って、残らぬようにと強く吸い上げながら竿を扱く手も止めない。

 そうしてすべて出し終わった後、口の端からこぼれた分もきちんと舌で舐めとり、立ちあがった小南は双葉の胸に顔を寄せた。

 強く抱きつき、なぜか安心する心音を耳にしながら呟く。

 忍と男娼、仕事も違えば考え方や、不安に思うことも違ってくる。

 でも心配しなくていいと、彼女はそう伝えたいのだ。

 

 「今日は裏から帰るわ。本当にありがとう。とても楽しかったし、とても気持ちよかった――でもね双葉。私まだ、完全に疲れが取れたわけじゃないみたいなの。また明日、ここへ来ても良い?」

 「いつでもどうぞ。僕はずっと、小南さんのこと待ってますから。それにさっきも言いましたけど、小南さんなら別にお金をもらわなくても、プライベートで――」

 「またそんなこと。だめよ、規約違反になるじゃない。それにどうせならお店で会った方が、あなたの評価も上がるでしょう?」

 「僕は別に評価なんて、気にしません」

 「ふふ、そうかもしれないけれど、他の女の子を悲しませることにもなるわ。だから、私の方から会いに来る。とりあえずは明日、必ず」

 「わかりました。それじゃあ明日、お待ちしてます」

 

 そっと体から離れ、ちゅっと軽く唇同士で触れあって、二人は手を繋いで露天風呂のスペースへと出ていく。

 そこで小南は手を離し、最後にもう一度口づけを交わして、別れを惜しみながらも外へ向かう。

 

 「次はこの前したみたいに、あなたの忍者服姿が見たいわ――また明日ね」

 「わかりました。準備しておきます――それじゃあ、明日」

 

 素早く床を蹴り、小南は瞬く間に山の中へと消えていった。それとほぼ同時の瞬間、部屋の扉がノックされ、双葉はそちらを振り返った。

 店の管理を務める従業員が、客を帰す催促に来たのだろう。忍を相手にすることが多い双葉は、裏から帰すことも多いため表に出てこず、わざわざ従業員が確認に来なければならない。これもわりと日常的なことだ。

 扉まで近寄り、返事をしながら開ける。その時の彼の格好はいまだ全裸であるが、羞恥心はさほどない。

 なにせ相手は子供の頃から、双葉を男娼とするべく様々な教育を施した年上の女。体の見られていない部分はないほどの関係であるし、体を重ねたことだって数え切れない。

 従って今さら裸を隠す気もなく、相手も恥ずかしがる様子はなく、二人は慣れ親しんだ雰囲気で顔を合わせた。

 

 「双葉、お客様がお帰りの時間だけど……」

 「裏からお帰りになられました。今はもう僕だけです」

 「あ、そう。じゃあこのまま掃除してもいい? あんたをご指名の人が来てんのよ、昨日はお預けされてたからね」

 「わかりました。どうぞ」

 

 専用の道具が入ったカートを押す女が中へ入り、部屋の清掃を始める。

 様々な体液がしみ込んだシーツを取りかえ、使用されたコップを取りかえ、部屋の隅々までを見て前の客の名残を消していく。

 その間、双葉はひとまず肌を隠すため浴衣を着て、兵糧丸と呼ばれる丸薬を口にし、水を呑んで、体力の回復を図るためにイスに座って女を見守る。

 普通であれば、女と違って性行為に回数制限がある男娼は一日に一人を相手にすれば良い方だ。だが、双葉の元を訪れる女は強靭な肉体と常人以上の体力を持つ忍、一日に一人でも他の男娼より体力の消耗が激しい。なにせ彼女たちの体力に付き合っていれば、どれほど技術に長けていても回数に限りがないのだから。

 時間の制限で事なきは得るものの、それでも双葉の負担は大きい。

 しかし、そこは才能と技術を認められて客前に出た彼。すっかり今の生活に慣れた今となっては、いくつかの兵糧丸と、客と肌を合わせながらのしっかりとした睡眠、それから温泉のおかげもあって時間にもよるが日に数人を相手にしても大丈夫なようだ。

 今は落ち着いて体力を温存し、掃除が終わって次の仕事が始まるのを待つ。

 そして掃除が終わる頃。一仕事を終えた女が近寄ってきた時、双葉はおもむろに立ちあがり、彼女へ抱きついて大きな胸の谷間へと顔を埋めていた。

 

 「どうした? 双葉が甘えてくるなんて珍しいな。お客様と何かあったのか?」

 「んーん、別にそういうことじゃない。ただ、なんとなく」

 「ふぅん……なぁ、今日は次のお客様が終わったら休みでいいよ。ひさしぶりにあたしん家に来な。仕事でどれだけ鍛えられたか、確かめてやるよ」

 「そんなこと言って、したいだけなんでしょ?」

 「うるせぇ。とにかく来いよ。生意気な口利けないようにみっちり搾り取ってやるからな」

 「えー、それじゃ休みにならないじゃないですか」

 

 くすくすと笑いながら女から離れれば、彼女はにやりと口角を上げて部屋から出ていく。

 再び双葉が、今度はベッドに腰掛けて待っていると、しばらくすればまたしても部屋の扉がノックされた。

 次は待たせていた客だ。しかもタイミングが悪く、昨夜小南が一晩を買った後に来た女性だろう。

 待たせぬように双葉はすぐに対応し、扉を開ける。するとそこへ立っていたのはこちらもまた常連、黒い衣に短めの黒髪。

 木の葉隠れの里の頂点、現在の火影を補佐する忍、シズネという女性であった。

 どこか照れた様子で頭を掻きつつ、おずおずと部屋の中へ入ってきた彼女を、双葉は飛びつくように抱き締めることで歓迎する。

 

 「わっ」

 「いらっしゃい、シズネさん。少し間が空きましたかね」

 「は、はひぃ、そうですね……ま、また来ちゃいました」

 「嬉しいです。だってシズネさん、いまだに恥ずかしがってすぐには来てくれないから……僕はいつ来てもらっても歓迎するのに」

 

 するすると両手を怪しく動かし、双葉の両手が彼女の衣服の中へと侵入していく。同時に口元が首筋に寄せられ、動物がじゃれつくようにゆっくりと擦りつく。

 裾の間から胸へ到達、股間にも手は伸ばされ、素早く下着の中に指が入り込んで直に体が触れられていた。

 シズネはあっという間に顔を赤くし、硬直してしまって動けない。

 双葉はそんな彼女を引っ張るようにしながら指を動かして、刺激を与えつつ、部屋の奥へと案内した。

 

 「今日も飲みますか? お酒、色々用意してありますよ」

 「そ、そそ、そうですね。それじゃあ、ちょっと、頂きましょうかっ」

 「それじゃあ、お風呂の中とベッドの中、どっちにします? ちなみにこの間は、ベッドの中でイチャイチャしながらでしたけど」

 「そ、それじゃあ、お、お風呂にしましょう。前はちょっとしか、入れません、でしたし」

 「そうですね。じゃあ――」

 「あっ! あっ、んっ、はっ――!」

 

 ぐにぐにと乳房を強く揉み、ショーツの下にもぐりこんだ指が秘所をやさしく撫でる。

 それだけでシズネは腰を抜かしそうになるほど快感に囚われ、顔を真っ赤にして抵抗を失くす。

 彼女の扱い方は心得ているようで、双葉は巧みに、手早くシズネの服を脱がせようと両手を動かした。

 耳元でいやらしく囁きながら、彼女を性的に刺激し続けることも忘れず。

 

 「まずは服を脱ぎましょう。シズネさんの裸、早く見たくてしょうがないんです」

 「は、はひぃぃ……や、やさしく、お願いしますぅ……」

 

 うっとりと呟くシズネは頬がにやけていくのを止められず、ふわりと微笑む双葉に唇を塞がれると、ひどくだらしない表情で嬉しそうに目を閉じた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 たっぷりの湯の中に身を沈めつつ、酒を飲むのは非常に気分が良かった。

 シズネにとってこの時間はとても心休まるものである。普段は火影の右腕として、中々に緊張感のある業務を繰り返しているだけに、今日のような非番はなんとも嬉しいものだ。

 さらにそこへ加えて、この温泉宿へ来れば酒も飲める、温泉にも入れる、さらには裸の男を侍らせ、好き勝手に出来ると言うのだから、日頃の鬱憤を晴らすにはこれ以上ない場所である。

 近頃、シズネはすっかりこの“華”という宿に心を奪われていた。否、正確には宿自体にではなく、この宿で働く男娼、双葉という青年に。

 なにせ彼、服を着せたり脱がせたりはもちろん、風呂で背中を流してくれる、お酌をしてくれる、自身を抱いてくれるに加え、大抵の要望は叶えてくれるのだ。

 例えば、普段慌てやすい性質を持つシズネが酒に酔って豹変し、多少乱暴に男をいじめるという悪い癖にも文句一つ言わずに付き合ってくれる。おかげで彼女の夜はひどく充実し、できれば彼の身を買い取って自身の夫にしたいくらいだと思っている。

 今日もまた、ストレスのせいかお楽しみがあるせいか、早々に酒に酔ったシズネは目が据わり、顔つきも明らかに変わった状態で、温泉に浸かっていた。

 ただし、いっしょに入っていたはずの双葉はなぜか湯船から上がっており、両腕を頭の後ろで拘束された状態で転がされていた。

 目元にはシズネの帯びが巻かれ、口には部屋に置いてあった器具を使って猿ぐつわをはめ、著しく自由を奪われた状態だ。

 シズネの姿が見えず、また上手く身動きも取れない彼は湯船の中の彼女がじっと自分を見ながら酒を呑んでいるともわからず、くぐもった声を出しながら体を捩っていた。

 そこへ、豹変したシズネの声がかかる。

 

 「んふふふふ、いい格好ですねぇ、双葉さん。とってもいやらしくて、マゾで、変態で……恥ずかしくないんですかぁ? 股をそんなに大っぴらに広げて、萎えたちんちん丸見えですよ。なんてだらしの無い……綱手様が見たら幻滅するでしょうねぇ」

 

 彼が抵抗も反論もできないのをいいことに、銚子を傾けながらシズネは良い酒を呑んでいた。

 男を自分の奴隷のように扱いながら、自分の意思ばかりを優先して行動する。普段の補佐役での鬱憤を晴らすかのような趣味は、すでに定着して長い。

 特に双葉に対するそれは、愛情を持ちながらも苛烈で自分勝手。決して他人には見せないような顔だ。

 自由を奪われた彼をいたぶるように、いやらしく声をかけつつ、シズネは酒が入った銚子を片手に彼の股の間へ顔を寄せていった。

 

 「うふふ、前々から考えてたんです。双葉さん、他の女の人のお相手もしてるのに、いつもその雰囲気を感じさせないじゃないですか。ってことは、私以外の人とえっちしてる時も、私とえっちしたことを感じさせないわけでしょう? だから、それがなんだか悔しくって……私がこんなに双葉さんのこと大好きでも、他のお客さんには伝わらないんです」

 「んぅ、んふっ……」

 「だから、私も双葉さんとえっちしてるんだぞぉって伝えるには、どうすればいいかずっと考えてたんです。それでね、ようやく思いついたんです――だから今日は、それを実践しようと思ってたんですよ」

 

 楽しげに呟いて、シズネはあらかじめ室内の棚から拝借しておいた剃刀を手に取り、双葉の股間を眼下に置く。

 萎えた陰茎、そのまわりにたくさん生える縮れた毛。それらを目にして、頬をにやけさせる。

 双葉には彼女が何をしようとしているのかわからない。視界が封じられ、彼女もまた自分の目的をはっきりとは言わないからだ。

 そのまま説明することなく、まず彼女は湯で濡れた股間をさらに濡らすため、傍に置いてあった徳利から酒を垂らした。湯とは違って冷たいそれは双葉をひどく驚かせ、玉が縮みあがるのが見て取れた。

 目を輝かせてそれを笑い、シズネはぺろりと酒に濡れた陰茎に舌を這わせると、いよいよ彼の陰毛へと目を向ける。

 それを一本残らずきれいに剃ってしまえば、他の客もシズネの存在を感じずにはいられない。そうした想いが、彼女の独占欲をさらに大きくさせ、いよいよ冷たい刃が彼の股間へと触れる。

 途端に恐怖を感じて双葉が体を震わせるものの、シズネの対応は早く、彼を傷つけまいと刃の位置を正しながらも片手で陰茎を掴んでいた。

 

 「動かないでください。もし失敗しちゃったら、双葉さんのここが、ざっくり切れちゃうかもしれませんよ?」

 

 声も出せずに双葉が恐怖し、動きを止めて大人しくなる。毛を剃られることより、命を優先して抵抗をやめたのだ。

 気を良くしたシズネは再び手を動かし、少しずつ丁寧に陰毛を剃っていく。

 ひどく異様な空間である。真昼間から男女で体を隠すことなく風呂へ入り、女は嬉々として男の陰毛を剃り、男は拘束されてそれを受け入れる。とても他人には見せられない、変わった趣味である。

 しかしシズネの興奮は最高潮にまで達しており、いまだ湯船に下半身を浸けたままだが、触られてもいない秘所は独特のぬめりを持っていた。

 ただ、一方で双葉もまた反応することを我慢できず、無言で自分の陰毛が剃られていく空間の中、徐々にむくむくと陰茎を大きくしようとしていた。

 

 「あれぇ? 双葉さん、おっきくなってきましたよ? ひょっとしてこんなので興奮してるんですかぁ? ほんと……とんでもない変態ですね」

 

 敢えて冷たくした声色が彼へ届くと、益々固さが増していく。

 ついには彼の陰茎は完全な姿に変貌し、何かを期待するようにだらだらと体液を垂らしていた。

 ひどく浅ましい姿に、シズネの悦びはさらに膨らみ、加虐心が止まらなくなる。

 ようやくすべての毛を剃り終え、湯を溜めた桶の中に双葉の陰毛が集められた後、愛おしげにその毛があった場所を撫でるシズネは確かな笑みを浮かべていた。

 これなら、他の客が双葉に会った時、どうあってもシズネの存在を感じられずにはいられない。あったはずのそれがすべて彼女の手によって取り除かれたのだ、誰もがそれを気にして、他の客の顔を想像することだろう。

 彼を独占したがるシズネはにんまりと微笑み、剃刀を置いて代わりに酒を口にした。

 気分は非常に高揚しており、興奮の度合いも最高潮。

 シズネは彼の拘束を解かぬまま、すっきりとした子供のような下腹部を舌で撫で、丹念に吸いついた後に湯からあがる。

 股間をそそり立つ肉棒へ寄せ、入口をくちゅりと触れさせると、許可を求める前に一息に腰を降ろした。

 蕩け切った膣内が嬉しそうに肉棒へと吸いつき、ひだを蠢かせて刺激を与える。

 猿ぐつわを噛まされた双葉が小さなうめき声を発する中、シズネは乱暴に腰を上下させて、自らの欲求を満たすために動きだした。

 

 「はぁっ、あぁっ! あははっ、双葉さん、ガチガチですねぇっ――ほんと、どうしようもない変態なんだから……!」

 「むぐぅっ、うぐっ……!」

 「あはは、何言ってるのか、んんっ、わかりませんよぉ……あはぁっ! いいっ、それっ! もっと、強く……!」

 

 ぐちゃぐちゃと卑猥な音を発しながら、シズネは一心不乱に腰を振る。それはいっそ狂乱の域に達する姿で、視界を失くした双葉にとっては強すぎる刺激が恐怖の対象にすらなる。

 しかし、逃れることはできず、彼はただされるがままに耐えるしかない。

 高い声で鳴き、シズネはしばらく快楽の中で遊び続ける。

 だが満足するには至らなかったようで、しばらく肉棒の出し入れを繰り返したものの、シズネはやがて自分から彼の体を解放した。

 

 「ハァ、ハァ、あー気持ちいい……でも、まだ足りませんねぇ……」

 

 ぐったりして動かない双葉を他所に、シズネはもう一度酒を飲むと、ようやく彼へ向き直った。

 そしてあろうことか彼の髪を掴み、無理やり体を起き上がらせ、自由が利かない双葉に尻を高く掲げるよう指示したのだ。

 床に膝をつき、手は頭の後ろで拘束されているため使えず、頬もまた床について、ぐっと尻が持ち上がる。するとシズネは満足そうに笑い、元気なままの彼の肉棒を太ももの間へ挟むようにして、双葉の体を受け止めた。

 太ももの間に陰茎、そして上には尻。まるで親が子供の尻を叩く時のような格好だった。

 酔いのせいで頭をふらふらと揺らす彼女は、まさしくそれが目的だったようで、とにかく双葉をきつく可愛がりたくて仕方がないようである。

 大きな衝撃を持って行為に臨めば、きっと彼は自分のことを忘れない。心のどこかではそんな想いがあったのだろう。

 しかし酔いがひどくなってきた今、ただ加虐的に彼を責めまくりたいと考えているだけのようだった。

 シズネは右手で双葉の尻を撫でた後、その手を振り上げて高く笑った。

 

 「あははぁ、双葉さんなんだか手ぇ抜いてませんか? だって全然私のおまんこ突いてくれないんですもぉん。ふっふっふ、そんな悪い子にはぁ――」

 

 右手が振り下ろされ、手のひらがぴしゃんと音を立てて尻へ当たる。双葉は悲鳴のような声を出すも、上手く発することができずに言葉を潰す。

 獣の声にも近いそれが何度も続いて、ぴしゃんぴしゃんと尻が打たれ、露天風呂から外へ向かってシズネの笑い声が広がっていった。

 

 「むぐぅっ!? うごぉっ、あがぁっ!」

 「あははははっ、何言ってるか聞こえませぇん。悪い子にはお仕置きですよー」

 「おぉっ、あぁっ……!」

 

 執拗なまでに何度も尻が強く叩かれ、見る見るうちに双葉のそこは赤く染められていく。しかし一方では衝撃と自らが腰を動かすため、太ももに挟まれた肉棒が扱かれるような感覚があり、痛みと快感とが同時に襲い掛かる。

 最後にパシンっと一際強く叩いてシズネの手が止まったものの、その時にはすでに彼の尻は真っ赤にはれあがっていた。

 痛みと快感、どちらも受け取り、もはやどちらがどこから来たのかもわからず、呼吸を乱した双葉はぐったりと体を弛緩させた。

 それからようやく気付いたのだが、シズネは自身の太ももがべっとりと粘つく温かい液体で汚されていることに気付く。

 見てみればそれは、双葉の精液。すでに彼はどこかのタイミングで射精していたということになる。

 

 「もー、双葉さんってば、勝手にイッちゃったんですか? こういうのは一言くらいあってもいいんじゃないですかぁ、もう」

 

 自分はまだ達していないのに、と頬を膨らませるシズネは彼の体をその場に寝かせ、また彼の股間へと目をやった。

 射精の影響か、幾分固さを失っている陰茎であったが、彼女が両手で強く扱き、亀頭をぱくりと銜えたことで、どんどん固さを取り戻していく。

 楽しむようにしつこく舌を絡ませるシズネは、自分が満足するまでそれをしゃぶり、満足してからは無言で笑みを浮かべて彼の体を跨いだ。

 再び秘所の入り口へと先端を当て、今度はゆっくりと腰を降ろす。徐々に肉を掻きわけて奥へ侵入してくるその固い感触はとても熱く、彼女は胸に閊えた息と共に声を出さずにはいられなかった。

 

 「はぁぁぁ……!」

 「うぐっ、むぐっ……」

 

 いともあっさりと奥まで達し、大きく息を繰り返す。

 シズネがそうして落ち着こうとしている時、すでに双葉は自らの腰を上下に動かし始めていた。

 勝手にイッてしまって申し訳ない。ひょっとしたらそんな想いがあったのかもしれない。

 酒に呑まれて乱暴に扱われているとはいえ、あくまでも関係は客とプロ。一人で客の意思とは無関係に絶頂を感じてしまうのはやはり気が引ける。

 双葉はシズネを気遣うからこそ必死に腰を振り、彼女もまた絶頂へ導こうとした。

 おかげで彼女は先程繋がった時以上の快感を得、自身も淫らに腰を振り始める。上下左右、跳ねるように動く尻から風呂の湯とも体液ともつかない水滴が飛び、近くの湯船の水面に波紋を生みだす。

 両手では双葉の乳首をぎゅうと抓り、首筋に歯を立てながらの興奮であった。

 

 「あはぁっ、いいっ、すごいぃ……! あっ、あっ、くるっ、くるぅぅ……!」

 

 呼吸を重ねて独特の音を発し、二人は共に凄まじい快楽の中へと没入していった。

 そうしてしばらくして、先にシズネが限界へ達して背を逸らせ、思わず双葉の乳首をさらに強く握ったため、彼も再び射精する。

 シズネが高い声で嬉しそうに鳴き、双葉はくぐもった声を発した。

 

 「あぁぁぁっ……気持ち、いぃぃ……」

 

 光悦とした表情でそう呟き、ばたりと倒れ込んだシズネは双葉の首筋に顔を埋めていた。

 一方でのろのろと動く手で彼の口を塞いでいる猿ぐつわを取り、だらだらとよだれを垂らすその口元へ顔を伸ばす。

 唇が重なり、淡い吐息がこぼれ出す。

 口の周りを汚した唾液を舌で舐めとりつつ、彼女は力の入らない声で呟いた。

 

 「双葉さん……」

 「は、はい……なんですか?」

 「次は、どうやって気持ちよくなりましょうか?」

 

 視界が封じられていても、今の彼女がどんな表情を浮かべているか、今日のような出来事が初めてではない双葉にはすぐにわかった。

 時間もまだずいぶん残っている。どうやらまだまだシズネのサディスティックな責めは終わらないようである。

 



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Caught a stray cat(ARIA・アリシア)

※注意
・これじゃない感が強い可能性が高いです。
・あんまりエロくはないかも……?

会話文を増やせるかと実験的に書きました。ただ途中で迷走してわからなくなったり……。
気をつけつつご覧ください。


 「あの、そんなところで何をしてらっしゃるんでしょうか?」

 

 突然かけられた声、ここなら大丈夫だろうと思っていた場所で降りかかったそれに気付き、視線を右へ流してみれば、水上に浮かぶ一隻の舟があった。

 テラフォーミングを完了した火星がアクアと呼ばれるようになった今、水の都と名高いネオ・ヴェネチアでは珍しくもない、ゴンドラ漕ぎの女性の姿。ウンディーネと呼ばれる水先案内人、客を自分のゴンドラに乗せ、この水の惑星を案内する、その役目を持つ人物。

 中でもそこにいたのは、ネオ・ヴェネチアで最も有名だと囁かれる人物だったようだ。長くさらりと揺れる金色の髪、ふわりと微笑む美しい顔、そして他では見られぬ独特の高貴な雰囲気。

 確か名前は、青年がそう思い出そうとしていた時に、その女性は青年を見て話しかけているようだった。

 

 「服がびしょ濡れですよ。そのままじゃ風邪をひいてしまいます」

 「ひかねぇよ。今の季節じゃ特にな」

 「あ、ひょっとして、そこから動けなくなってしまったんですか? あら大変、じゃあ、私の舟へどうぞ。仕事の帰りですけど、近くでよければお送りしますわ。風邪をひいてしまう前に」

 「聞けよ」

 

 青年は狭い水路の間、民家の裏口であるだろう水路へ通じる小さな階段の上におり、近くには誰もいない。舟もなしに、頭の先からつま先まで濡れた状態、階段へと座っていた。

 困り果てている、というよりかはただ単に休憩しているだけ、とも取れる姿ではある。しかし水路に落ちたかのようなずぶ濡れの男が日陰の下で所在なさげにしている様子にも見えてしまう。

 ウンディーネとして自分の舟を持つ女性、アリシアは思わず救いの手を差し伸べようと、そちらへ向かって進みだした。別段何かを思っていたわけでもない。ただの突発的な、困っている人を助けようという世話焼きな一面が表れただけのこと。

 しかし青年は腕を伸ばして手のひらを見せつけると、その必要はないとばかりに口を開いたのである。

 鋭い目つきの、なんとも凶暴そうな表情だ。思わずアリシアの手も止まった。

 

 「いらねぇよ。ここには自分の意思でいるんだ。動けなくなったわけでもない」

 「あらあら。ではどうしてそんなところに? せめて日向に出た方がいいと思いますが」

 「ここが静かだったんだ。あんたみたいに話しかけてくる相手もいないしな」

 「あら、ひょっとして私、お邪魔でした?」

 「現状、少しくらいはな。だが今このまま何も言わずに去ってくれれば、別にそれで構わな――」

 「何をされていたんですか?」

 

 青年が目を離して座り直し、少し体勢を崩して寝そべるような格好になった時である。

 小首を傾げたアリシアはにこにこと微笑み、そこから去る様子も見せずに青年へ語りかけていた。

 思わず、青年は驚くほど緩慢な動きで彼女の顔に目をやり、あからさまに嫌そうな表情を見せた。顔には「さっさと帰れ」と書かれている。

 

 「聞いてなかったのか? 俺は一人にしてくれと言ったはずだが」

 「いえ、こんなところで一人で何をされていたのかと気になりまして。他人には言えないことですか?」

 「仕事の合間に休憩してただけだ。わかったらさっさと――」

 「それは奇遇ですね。私も仕事の合間に休憩しようかと思っていたところだったんです」

 

 にこにこと、邪気の無い笑みがそう告げる。だが青年の顔は対称的にますます不機嫌そうに歪められていった。

 彼とて噂では彼女のことを聞いたことがある。なんでも、ウンディーネとして完璧に完成された超一流。彼女が操るゴンドラに乗りたくて、連日予約が殺到するほどの人気を誇っているのだとか。

 残念ながら名前は思い出せていないものの、おそらくはその噂の女性だろうという当たりはつけている。そしてその予想は見事に当たっていたわけだ。

 それならそれでと、人気があるなら早く次の仕事に行けばいいのに、と思わずにはいられないのである。もしくは、休憩するならそれはそれでもっと心休まる場所へ行けば、と自分のことは棚に上げて。

 とにかくその青年、アリシア、というよりも自分ではない誰かの傍にいるのは嫌なようだった。

 しかしアリシアは何を見てそう思ったか、初めて会ったその青年に対していささかの興味を抱いたようなのだ。

 他人に見つからない場所にひっそり佇んで、近づこうとすれば逃げるような素振りを見せる。どこか野良猫を相手にするかのようなやり取り、それが気になったのかもしれない。

 

 「休憩なら他の場所で――」

 「お仕事は何をされてるんですか?」

 「聞けよ。わざわざここじゃなくても、休憩する場所なんて他にいくらでもあるだろう。どうしてここを選ぶ」

 「どうしてここじゃいけないんですか」

 「俺が先客だったからだ」

 「でも人数を制限されているわけでもありませんし」

 「大体が休む場所どころか、食い物も飲み物もないただの裏路地だ。休憩するには向いてないだろ」

 「それを言うならあなたもでしょう」

 「俺は男だから体が頑丈だ。ここで座ってるだけで十分休息は取れる」

 「でしたら私も、女の中では体が頑丈です。それに舟に乗っている間は、不思議と元気が沸いてくるものなんですよ」

 

 ああ言えばこう言う、まるですべてが受け流されているかのよう。

 なぜこんな事態になっているのかもわからないこともあり、青年の顔には苛立ちよりも苦悩や困惑が表れていた。

 もはや言い返す気力すら生まれて来ない。

 頭を抱えてしまった青年へ向け、楽しげなアリシアの言葉は止まらなかった。

 

 「ご趣味はなんですか?」

 「聞いてどうする気だ」

 「聞いてから考えます」

 「答えたくないと言ったら?」

 「困ってしまいますね」

 「それ以上に、今、俺はひどく困ってる」

 「あら、どうしてでしょう。服が濡れてしまってるせいですか?」

 「今まさにあんたとしゃべってるせいだ」

 

 ずいぶんと面倒なやり取りを続けているが、彼女がそうしていると嫌みが感じられず、美人は得だ、と青年は眉をひそめる。

 できれば今すぐにでも逃げ出したい状況だ。だがなんとなくそうするのも気が引け、彼はまだ動き出せずにいる。

 

 「ウンディーネのゴンドラに乗ったことはありますか?」

 

 アリシアがそう尋ねたのは、彼がそうしていつ逃げ出そうかとタイミングを見計らっていた時だった。

 

 「ないな。一度も」

 「あらあら。理由をお尋ねしても?」

 「さぁね。考えたこともない」

 「ではせっかくのチャンス、どうですか? 今ならお代もいりません。休憩時間に、お話のお相手をしていただいたお礼と思って――」

 「結構だ。自分の足でここまで来た、自分の足で帰れる」

 「でも、それではまた濡れてしまうでしょう。私の舟に乗れば、濡れることはありません」

 「濡れることを苦にしてなければ、そこまで気にすることじゃない。それにここまで濡れた後じゃ、あんたのそれに乗ったって意味ない」

 「私のゴンドラに乗りませんか?」

 「舟とかゴンドラとか、言い方の問題じゃなくて」

 

 小さなため息と共に青年は立ちあがり、アリシアの方へ体を向けた。

 彼が今いる地点からは舟を使わなければ濡れずに帰るなど不可能だ。少し奥には路地と路地を繋ぐアーチ状の小さなかけ橋があるものの、そこまで行くにしても、個人では泳いで移動するしかない。

 しかし青年はアリシアの舟へ向かうことはなく、むしろ、水面へ向かって背中から落ちようとした。

 ゆっくりと倒れていく彼を見て、あっと小さな声が出る。

 バシャン、と水が跳ね上がり、しぶきが上がった。呆然とするアリシアの目の前、青年は思い切りもよく自ら水の中へと入った。

 しばらく彼の姿が見えず、その場から動かなかったアリシアが本格的に心配し始める頃。水中を泳いで移動していた彼はかけ橋の下で浮上し、大きな水音を立てて現れた後にするすると腕を使って壁を昇り、かけ橋の上へと立った。

 髪や服、全身がびしょ濡れでぽたぽたと水滴を落とし、辺りに人がいれば思わず心配してしまうような姿。まるで水上で舟に乗って仕事をする、水先案内人であるウンディーネを嘲笑うかのよう。

 鬱陶しかったのか、自身の髪を掻き上げ、青年は初めて見せる笑みと共にアリシアを見た。

 

 「ほら、陸地まで来れた。俺は自分の足で歩ける、あんたに運んでもらう必要はない」

 

 それだけ言い残し、青年は髪を掻きながら歩き去る。

 残されたアリシアはなぜかにこにこと微笑んだまま、やけに楽しそうに彼が去った後の橋を見つめていた。

 

 「あらあら」

 

 それからというもの、二人の奇妙な関係はなんとなく続いていった。

 青年はいつも人がいない場所で一人佇んでおり、アリシアはそんな彼を必ず見つけた。時には仕事の合間にゴンドラに乗って、時には買い物の最中自分の足で、時には一ヶ月に一度あるかないかの休日の日に。どこにいるかもわからない彼を見つけては、逃げるように去るまでのほんの少しの会話を楽しむ。

 まるで本当に野良猫を相手にしているようだ、と思わず笑みが浮かんでしまうほど、彼女はこの瞬間を楽しんでいたようだ。

 

 「こんにちは。今日もお一人ですか?」

 「お一人になるために時間を取ってるんだよ。わざわざ探し当てるんじゃねぇ」

 「ゴンドラに乗って遊覧はいかがですか? 私、これでも一流のウンディーネなんですよ」

 「人の話を聞けよ」

 

 春が過ぎ、夏が来て、秋を越えて冬になっても、二人は付かず離れず、奇妙な関係で在り続けた。

 逃げる青年を探し、少しだけ会って、また別れて。気付けば毎日のように繰り返していたそれは少しの変化を伴ったものの、絶えることなく継続した。

 そうして生まれた一番の変化は、青年がアリシアの名を覚えたことだった。

 

 「こんにちは。しばらくお会いできなかったけれど、お元気そうで安心しました」

 「そのしばらくってのは昨日一日空いただけのことを言ってんのか? いい加減諦めたらどうだ。仕事もせずにこんなところで油売ってたら、アリシア・フローレンスの名が落ちるぞ」

 「あ、名前。やっと呼んでくれましたね」

 「今はその話じゃねぇだろう」

 「うふふ、今日は記念日になりそうですね。飛躍的な進歩ですもの」

 「なってたまるか。俺だって他人の名前を覚えるくらい当たり前にできる」

 

 これまで何度も自己紹介をし、噂を耳にしておきながら彼女の名すら知らなかった彼も、ついには彼女に向かって「アリシア」と呼ぶようになった。

 やはり近付くことはできず、ましてや舟へ乗るなど何年かかるかわからないあり様だったが、それは確かな変化だっただろう。

 そんな二人がちゃんと正面から話す最初の場面となったのは、最初に会った日からちょうど一年が経った日のこと。

 

 「あ」

 「あらあら、まぁ」

 

 二人がお互いの立場も知らぬまま、お見合いをする日がきっかけであったという。

 

 普段の軽装とは違い、今日は黒のスーツでパリッと決めている。流石に若くして大会社の社長の座を受け継いだだけはあるらしく、街中で見かける風貌とは一味も二味も違う。

 整えられた髪や身の丈にあった服装、いつも全身びしょ濡れの姿と同じはずがなかった。

 ひょっとしたら。彼の隣を歩くアリシアは心の中でそう思う。

 町の中で見かける彼の姿は、いつものこの格好から逃れるために水の中へ飛び込んでいたのではないのか。本当は、仕事が嫌で、自由の身になりたいから、その反動なのではないか。

 自殺を考えていた、などとは思いたくもないが、頭に浮かんでしまった以上は気にせずにはいられない。

 はっきりとは聞かなかったが、試しに彼女は青年へと尋ねる。なぜ、いつもびしょ濡れでいたのかと。

 

 「そうした方が簡単に気分を変えられる。それだけだ……休みの時まで仕事のこと考えてるようじゃ、疲れてしょうがないからな。深い理由なんてない」

 

 そう言われて、どうとも言えなくなったのが正直なところだ。

 散歩をしながら語る姿は普段ほどの険の強さはなく、むしろずいぶんと親しみやすい柔和な表情である。仕事の一環でこの場へ来たはずがその表情、なんとなく、アリシアは自身の予想が外れているのではないかと思った。

 まだ少ししか見ていないものの、仕事をしている彼の姿は楽しげ、そこまでは言わずとも本気で取り組んでいる姿にも見えたのだ。

 思えば彼女が青年の仕事する姿を見たのはこれが初めてである。仕事、二人きりで外を歩くこの環境下でそう言えるのは詰まる所、これが財政的な話を含むお見合いだったからにすぎない。

 不運が重なり、財政難に陥ってしまったアリシアが所属する会社、ARIAカンパニーは規模が小さく、いくらウンディーネ一の人気を持つ彼女が日夜頑張って働いたところで立て直せないような状況になってしまっていた。話のきっかけはそこにある。

 では近頃話題の貿易会社、人嫌いで恋人を持たない社長とお見合いをしてはどうか、という話が浮上したのである。

 表向きは独身同士、若者同士のお見合いだろう。だが真実、意味するところは互いの会社の契約話にある。財政的に厳しい環境下にいるARIAカンパニーの後援者になってくれないだろうかと、打算的な意思が見え隠れするものだった。

 無論アリシアはそのつもりで来たし、青年にしても同じく。

 相手がたまたま妙な知り合いだったと、実際に会った後で気付いただけで。

 

 「社長さんだったんですね。お仕事をしているとは聞いてましたけど、そこまでは聞いていませんでしたから」

 「話そうとしたことはないからな。親から譲り受けただけの七光りだよ。そんな珍しい話じゃない」

 「いいえ、さっきのお付きの方、本当にあなたのことを尊敬している目でしたよ。そんなに謙遜しなくても」

 「あの人はガキの頃から世話になってる人だから。過保護なだけだ」

 

 夕日が徐々に落ちていく中、ひどくゆったりとした歩調で歩いていた。

 最初こそ、会社のために仕方がないと思っての考えだった。だが実際会ってみたのが彼だったら、思いのほか心中は落ち着いている。

 今まで何度も顔を会わせていながら、こうして隣り合うこともなければ、落ち着いて会話することもなかったのだ。逃げて、追って、仲がいいとも称せぬ関係のまま今日を迎えた。これまで様々な人間と出会っていても、彼との間にあるほどの変わった関係というものはなかった。

 ようやくと言っていいだろう。触れられるほどの距離に一度も近付いたことがなかった、なのに今はすぐ隣に彼がいる。

 どことなく奇妙な雰囲気だった。だが不思議と嫌な感じはない。

 彼もそう思っていればいいなと、自分でも気付かぬ内にそう思っていたアリシアは思わず笑ってしまう。

 これではまるで、恋する少女のようではないか。

 

 「何笑ってんだよ」

 「うふふ、なんだか不思議です。あなたとこうして歩く時間なんて、一生来ないんじゃないかと思ってました」

 「まさかそれは嫌みか?」

 「いいえ。純粋にそう思っただけです。だって、一度も私と向き合ってくれたことなんてなかった」

 「やっぱり嫌みなんじゃねぇか。最近はわりと話してただろ。昔よりかはマシになってる」

 「それでも、私の舟には乗ってくれませんでした。どうしてか聞いてもいいですか?」

 「なんとなくだ。深い理由はない」

 「もう、いつもそればっかり。それなら一度くらいいいじゃないですか」

 「俺より乗せなきゃいけない奴なんていくらでもいるだろ。いい加減こだわるのやめろっての」

 「そこまで逃げられちゃうと、どうしても乗せてみたくなっちゃうんです。私、これでも結構ショック受けてるんですから。乗りたい、ってたくさん言われることはあっても、乗りたくないなんて言われたの、初めてです」

 「乗りたくないとは言ってないだろ」

 「でも乗ってくれたことはないじゃないですか」

 「そういう気分だったんだ」

 

 青年がぴたりと足を止め、近くにあった欄干へ寄り掛かりながら、町を見下ろす。

 高台から見下ろす水の都は、夕日に染められて赤い色を称えている。ゆらりと光を反射する水面、立ち並ぶ建造物の屋根、遠くに見えるウンディーネのゴンドラ。彼らが出会った町のすべてが赤く染められていた。

 アリシアも青年の隣に並んで欄干に手を置く。

 

 「別に、ウンディーネに対して偏見を持ってるわけじゃない。嫌いになったわけでもないし、あんた自身を悪く思ってもいない。本当にただのなんとなくなんだ」

 「理由は、何もないんですか」

 「さぁな……もしかしたら、職業病ってやつかもな」

 「職業病? 貿易関係の、ですか?」

 「いいや、社長っていう妙な立場さ。ガキの頃から仕事を手伝ってて、会社のためを考えて生きてきた。立場的にも、親が社長だったからな、跡目を引き継がせるつもりで色々教育されたし、俺だってそれを受け入れた。いずれは自分の足で歩かなきゃならないって、そればかり考えて。助けてくれる奴は今も昔も多いし、感謝もしてる。でも実際社長の座に座ったら、やっぱり俺がしっかりしてなきゃ、世話になったそいつらに飯を食わせることができないんだって思ってさ。必要以上に他人を頼るのはやめた」

 「いつも言ってましたね。自分で歩けるんだから運んでもらう必要はないって」

 「ウンディーネがネオ・ヴェネチアになければならない存在だとは思ってる。でも、ここで育った俺には必要ない、とも思う。あんたには悪いけどな。……てめぇの足で町中歩き回ったんだ。知らないことの方が少ない」

 「あらあら」

 

 うふふ、と小さくアリシアは笑い声を発する。視線は町を見下ろす青年の横顔、見たこともないほどやさしげな笑みを見ていた。

 おそらく彼はこの町のことが大好きなのだろう。はっきりと言葉で言ったことはないし、そんな素振りを見せたことだってこれまで一度もない。

 だがその顔を見れば、この一年の逃亡劇が、胸にすとんと落ちるようだった。

 子供の頃からネオ・ヴェネチアで育ち、町の利権にも関わる仕事に携わり続けた彼。他のことも知らず、一般市民とは違う生活、環境で育ってきた彼。

 言葉の通り、今さら誰かから何かを教えてもらうことなどなく、自分の足で、目で、存在すべてでネオ・ヴェネチアを見てきたはず。高台からそこを見下ろすその姿が、その笑みが、何よりも強い証明となっていた。

 しかしそう聞くと、当然のようにアリシアも黙っていられないのだ。

 

 「だけどまだ、あなたが知らないものだってありますよ」

 「ん?」

 「ウンディーネのゴンドラの乗り心地です。乗ったことないって、言ってましたよね?」

 

 彼女を見る青年の目は真ん丸に広げられ、子供っぽい様子で驚いていた。堪え切れずにくすりと笑みがこぼれてしまう。

 背筋を伸ばし、誇りを持って。真っ正面から彼を見返すアリシアは笑顔で、しかしどこかいたずらっぽく、伝える。

 

 「ずっと自分の足で歩いてきたのなら、たまには休むことだって必要だと思います。その時、私たちのゴンドラに乗ってくれたら、私はとても嬉しいと思うんです。だって、この町のことを愛しているあなたが、やっと私たちのことを本当に知ってくれたってことでしょう?」

 「……本当にって、俺は別に――」

 「この町を案内することだけが仕事じゃありません。自分で歩くことに疲れてしまった人を乗せて、新しい景色をいっしょに見に行くんです。一人で見るのと二人で見るのとじゃ、きっと見える景色が違うから、地面から足を離して、水の上から、今まで見れなかった場所からこの町を見るんです。そうすると普段は見えないところまで見えるでしょう? 一人じゃ見れない景色を見る、そのお手伝いをするのが、私たちのお仕事なんだと思います」

 

 青年の視線が町の方を向く。

 遠くに見えるゴンドラには、今も誰かが乗っているのだろうか。ただ乗りたいだけなのか、誰かと会いたいからなのか、それとも彼女が言うように、自分で歩けなくなったからなのか。

 ただ少なくとも、そんな風に考えたことは一度もなかったのは確かだ。自分の足があるのだから、他人を頼らず、この両足で歩けばいいと。疲れたのなら座って休めばいいと思っていた。

 誰かといっしょに。上に立つ者として他人の前を歩いて生きてきた彼にとって、盲点だった考えだ。

 

 「ただウンディーネに運んでもらうってだけじゃないんですよ? 確かに、私とあなたが会う時は、そういうことしか言ってなかったような気がしますけど」

 「俺があんたと会う時は、いつもずぶ濡れだったからな」

 「うふふ、泳ぐのが好きなのはいいことです。でも、少しくらい私たちにも目を向けてくださってもいいんじゃないですか? せっかくお知り合いになれたのに」

 「そもそも、俺は一人にしてくれと何度も言ってたんだ。知り合いになろうと思ってなったわけじゃないし……泳ごうとしてたわけでもない。ただあんたが来れなさそうな場所を探してただけでな」

 「あらあら」

 

 言葉とは裏腹に、その笑顔はとてもやさしい。大人びているようで、でも子供が喜んでいるようにも見えて、だらしないとは対称に位置しながらひどく緩んでいる。

 彼女もまた視線を戻し、町を眺める。水上のゴンドラから見る景色とはまた違い、高台から見るそこは美しく、夕日に照らされた今ではどこか儚げにも見える雰囲気があった。

 しばらく会話が止まり、何をするでもなくぼうっと見続ける。

 そうしていると青年が口を開き、静かな声色で話し始めた。

 

 「援助の件、俺は受けるつもりだ。元々断るような理由もない。ただ、親父が仕掛けた見合いって形が気にいらなかっただけでな。あの人はどうしても俺に身を固めてほしいらしい」

 「あらあら、それはどうしてでしょう」

 「相談役に納まって暇なんだろ。俺がどうこうっていうより孫の顔が見たいだけなんだ、きっと」

 「どうして、勧められているのに結婚しなかったんですか?」

 「ん、まぁ……向いてなかったんだろ」

 

 懐から煙草を取り出し、一本だけ銜えて、火を点けようとする。しかしその前にアリシアが手を伸ばし、やんわりとライターを奪い取ってしまった。

 無言で微笑まれては毒気すら抜かれ、口の中でそれをころりと転がすと、青年はそれ以上の行動は見せなかった。

 

 「見合いは今日が初めてじゃない。上手く進んだ話も、何度かあったし、多分無下に断られたことはない。だが、そこまでだ。付き合うことになっても結婚までは漕ぎつけなかった」

 「理由を聞いてもいいですか?」

 「一度だけはっきり言われたよ。俺には他人の心がわからないんだ、って」

 

 目を閉じて、なんでもないことのように言う青年の顔には笑みがあるが、決して自嘲するわけではない。後悔をしている風でもない。

 ただ事実だけを淡々と伝えるような、そんな気配すらあった。

 

 「ガキの頃から仕事一筋だったおかげでな、女の扱い方ってのがなってないらしい。大体は、いや、全部かな。向こうから寄ってきて、向こうから去っていく。その繰り返しで今日まで来た」

 「真面目な方なんですね」

 「ただバカなだけだ。逃げられても追おうとはしなかったしな。多分、俺にはそういうの向いてないんだろう。女の尻を追っかけるより、やりたいことがいくらでもある」

 「それもお仕事のこと、ですか」

 「まぁな。どうせまだ生まれたばっかのガキなんだ、結婚なんて俺には早すぎ――」

 「それじゃあ今日のお見合い、破談になってしまうんですかね」

 

 アリシアの声に少しだけ、どこか悲しげな色が混じった。青年は何気なく彼女の顔を見やり、微笑む表情を見る。

 目元は細められ、口元は柔らかな弧が描かれている。しかしさっきまでとは何かが違うようにも見えてしまって仕方ない。

 彼女もまた、青年の顔を見た。

 

 「援助は受けるんだ、その方があんたのためにもなるだろ。貰い手はいくらでもある」

 「うふふ、嘘が下手だって、言われたことはありませんか?」

 「は? まぁ、なくはない」

 「私もそう思いました」

 

 白く美しい指がすっと伸び、青年の口にあった煙草を取り上げる。

 今、彼の顔のすぐ目の前には、なぜかアリシアの顔があった。

 

 「あの時間を手放したくないと思ってたのは、私だけですか?」

 

 沈みかけた夕日によって伸びた影が重なったのはこの日が初めてのことであった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 女の髪を指で梳くのも、白いシーツの上で顔を合わせるのも初めてのことではない。それもまた男のたしなみだと、ある程度の年齢になった頃から専用の教育を受けた。

 以前はそこまで特別視していたわけではない。仕事にも関わることだからと、どこか打算的な考えも頭に残っていた。

 しかし今日だけはなぜか特別な時間に思えた。日頃の思考がすべてどこかへと消え去り、暗い部屋の中、目に映るのは彼女の金色だけ。

 できるだけやさしく、髪を撫で、額に口づけを与える。彼女はくすぐったそうに笑って、緊張していた面持ちを少しだけ崩した。

 聞けば、男と寝所へ行くのは初めてだという。美しい容姿から考えれば少し意外でもあったが、彼女の性格や職業、これまで共有した日々を考えれば妙に納得もできる。

 今までは見たこともない、少し緊張して心細そうに自らを抱き締める彼女。それは清廉で一筋、ゴンドラの上に立つ姿とは違っていた。

 おそらく彼女も自身と同じく、ただ一つのことだけを見続けて生きてきたのだろう。青年はそう思い、人気がありながら誰かの物になろうとしなかった彼女を理解する。

 ゆっくりと髪を掻き上げ、頬へ唇を押しつける。また彼女は少し笑って、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに青年の胸へ頭を寄せた。

 

 「なんだか、慣れてるみたいに見えます」

 「慣れてるってほどじゃないと思うが、少なくとも初めてじゃない」

 「むぅ、そういうこと、そんなに正直に言うものですか?」

 「あんたが聞いてきたんだろう」

 「あ、また……こんな時くらい、名前で呼んでくれてもいいんじゃないですか」

 「残念ながら、俺は他人の心がわからない人だから」

 

 シミの一つもない白い肌、首筋へと顔を寄せて、ゆっくりと触れる。

 彼女は思わず身を強張らせ、小さく息を吐く。やはり不安は残っているのだろう。

 たとえ自分で決めたことであっても、未知なる恐怖はそう簡単に消しされるものではなく、思考と体が一致していない今なら特にだ。

 青年はできるだけ彼女の不安を解きほぐそうと、ひどくやさしい手つきで体に触れる。

 肩や背中、腰や太もも、腹。ただ触れるだけの手は気遣いの見えるゆっくりとした動きで彼女の体を這っていく。

 そうしていると彼女が笑った。何がおかしいんだと顔を覗き込んでみると、胸の中にあるその顔、青年を見つめながら口を開いた。

 

 「なんだかとてもやさしいです。いつも口は悪いのに」

 「うるせぇ。余計なお世話だ」

 「うふふ……私に気を遣う必要はありませんよ。好きにしていただいて結構です」

 「今も十分好きにしてる。だから途中で止めるな」

 「あらあら。やっぱり口が悪い」

 「今のは別に普通のことだろ」

 

 無理やり黙らせるように唇を塞ぎ、嬉しげに目を閉じる仕草を見終わってから、彼も目を閉じる。

 肌の上を動く手は勝手知ったるように、しかしどこかやさしさも残しながら、徐々に触れる場所を変えていく。

 先程の場所もそう、さらには胸や尻にも指が触れ、閉じられた唇からわずかな声も洩れる。感じている、というよりも恥ずかしがっているようなそれだ。

 青年は唇を離し、また首筋や頬、額、彼女のあらゆる場所へ唇を触れさせながら、体へ触れる。

 くすくすと笑っていたはずの彼女も、時間をかければそれだけ、先程よりも艶っぽい表情を見せるようになった。頬は赤く染められ、瞳は潤んで、すぐ傍にある青年の顔を愛おしげに見つめている。

 誰かのそうした表情はこれまでにも見たことがある。だがやはり、今までとは違う何かが、青年の心を揺り動かしていた。

 

 「まだ緊張してるか?」

 「いいえ。やさしくしていただきましたから」

 「そういえば、敬語。なんとかならないのか」

 「いけませんか? 私はこの方がいいんですけれど」

 「どうして」

 「まだお客様にもなっていただいてないのに、馴れ馴れしくするのはなんだか気が引けて」

 「まだ言ってんのか、それ」

 「乗って頂けるまでは、言い続けようかと」

 

 眉をひそめた青年はため息をつき、また唇を塞ぐ。ついでに両手でわき腹をくすぐってやれば、声を出せない彼女はくぐもった悲鳴を発しながら、楽しそうに体を捩った。

 遊ぶように絡み合い、ベッドを軋ませながら逃げたり追い掛けたり。

 年甲斐もなくそうしてはしゃいだ後、ベッドに背を預けた彼女の上へ青年がのしかかり、鼻先を触れあわせながら二人してくすくすと笑顔を向け合う。

 どちらからともなく唇を触れ合わせて、互いの存在を確かめあうように手で触れあって、同時に開いた目がぴたりと合わさった。

 青年の手が、するりと肌を撫でながら彼女の胸へ触れる。指が沈みこむような柔らかなそれに手のひらを合わせ、下から持ち上げるようにして、少し力を入れて揉む。

 両手でそうしつつ、顔を下へと移動させた彼はツンと立ったそこを口の中へ含んだ。しっかりと存在感を示すそれに舌を這わせ、歯を当て、赤ん坊にも見える格好、しかしそれとは違う動きをする。

 彼女の両手は自然、彼の頭を押さえるように髪へ触れ、きゅっと唇を閉じて視界を閉ざした。

 

 「んっ、んっ、んぅ――」

 「声、我慢しなくていいぞ」

 「我慢なんて、してません……ふっ、うっ、ただ、ちょっと、呼吸がしにくいだけで」

 「明らかに我慢してるからだろ、それ」

 

 青年の頭がまた上へ移動し、固く閉ざされた唇を舌で割って内部を舐める。

 両手は今も胸の形をぐにぐにと動かし続け、ますます頬を赤くする彼女を責め続けた。

 唇を離し、至近距離で視線を合わせる。やはり彼女は、恥ずかしそうに目を伏せようとした。

 

 「いいよ。どうせ俺しか聞く奴はいないし」

 「私としては、それが一番恥ずかしいんですけど……」

 「じゃあやめるか?」

 「う、それは嫌です……」

 「なら我慢なんかするな。恥ずかしくてもいいから、呼吸止めようとなんかするなよ」

 「はい――あっ」

 

 試しに首筋へ舌を這わせれば、彼女はぴくんと反応して小さく声を洩らした。

 そのままゆっくりと舌を移動させ、首筋から胸元へ、揉み続けていた乳房へ。彼女を安心させるためかのように、弱く吸いつきながら徐々に指先へ力を込めていく。

 すると彼女はわずかに体を震わせながらもしっかりと悦びを感じている様子を見せた。

 青年の頭は時間をかけながらも徐々に下へ向かっていき、肌の上にぬらりとした光沢を残しつつ、そこへ到達した。

 途端に彼女は脚を閉じて両手をやり、己の股を隠そうとする。だが彼は何も言わず、目だけで顔を見やり、手を使ってやんわりとその制止をどかせた。

 ぴたりと閉じた、男を知らぬ彼女の秘所が、青年の前に晒される。

 

 「あの、あんまり、見ないでくださいね……は、恥ずかしい、から」

 「見なくてもいいけど、ちゃんと濡らしとかないと辛くなるぞ」

 「う、うぅ、そう言いながら、そんなにしっかり見ないでくださいよ……」

 「あんただって俺のを散々まじまじ見てたろ。これでおあいこだと思うが」

 

 そっと唇を寄せ、軽く触れる。それだけでぴくりと全身が反応し、握り合った手に力が入った。

 青年は気にせず、一方で気遣いながらも、舌を伸ばして弱く触れ始める。包皮に包まれた陰核、閉じられた女陰、わずかながらに濡れたそこへ。

 羞恥から来る興奮か、与えられる快感か、彼女の息が徐々に乱れて艶っぽいため息が増えていく。

 強弱をつけながらも、青年は舐め、吸い、彼女へと確かな快感を与えていった。

 しかしその途中、自ら手を離した彼女が青年の頭へ触れ、視線を自分の顔へ送るよう促す。

 すぐに彼は真っ赤に染まった顔を見るわけだが、恥ずかしげな表情とは裏腹、きゅっと唇を噛む彼女はか細い声で先を促した。

 

 「あの、もう……もう、大丈夫だと、思うので……その先を、してください」

 「え? あー……もういいのか?」

 「た、多分、大丈夫だと思います。あの、確かに、気持ちいいんですけど。それよりも、今は……あなた自身を感じたいって、思うんです」

 「……わかった」

 

 いじらしげにそう言う彼女を見て、心が動かぬわけもない。

 青年は愚直なままにそそり立っていたペニスに手を添え、彼女の秘所へと触れさせた。

 途端に彼女はびくりと震えるのだが、悲鳴を上げたり、逃げるような素振りを見せることはなかった。

 

 「辛かったら言ってくれ。あんたが嫌がってるのに続けるほど、バカじゃない」

 「うふふ、ええ、わかってます。おやさしい方ですもの」

 「別にそういうわけじゃ……まぁいいか」

 

 ぐっと力を入れて前へ突き出し、独特の固さを残すそこへ押しいれる。

 彼女は唇を噛みながらぎゅっと目を閉じ、縋りつくように青年の首へ腕を回して抱きよせる。そのまま、青年は自ら彼女の唇を塞ぎ、歯で唇を傷つけぬようにと、固く閉ざされていたそこへぬらりと入りこんだ。

 挿入した直後は、青年は動こうとはしなかった。不安に震える彼女を落ちつかせるよう、髪を撫で、唇へ触れて、恋人にするようにやさしく手を動かした。

 これまで体を重ねた女に、自分はこんなにもやさしく触れただろうか。ふとそんな疑念が頭をよぎるが、まるで青年がそんなことを考えているとわかっているかのように、彼女が彼の唇に弱く噛みついた。

 目を開いた彼女の顔に笑みが戻る。彼もまた、微笑むように口元を歪めた。

 ゆっくりと腰を引いて、ゆっくりと前へ進める。固さの残るそこを解きほぐすかのように、青年は己のペニスを操った。

 初めこそ恐々と眉をひそめていた彼女だが、青年の気遣いの甲斐もあってか、だんだんと舌を絡ませる仕草が情熱的になり、首に回された腕にも痛くない程度の力がぎゅっとこもる。

 徐々にスピードも速くなって、二人の気分はますます高まっていった。

 

 「んっ、んっ、んっ、んっ――」

 

 清らかな声が淫らに濡れ、わずかながら室内に響く。小さな明かりしか灯っていない今、汗に濡れた彼女の肢体も見にくく、それがより一層気分を向上させる。

 唇が離れ、しがみつくように彼女が青年の首筋へと顔を埋め、今や抑えることなく声を発していた。

 嬉しそうな、衝撃のままにこぼれ出す甲高い声。もはや彼女の意識はすべてが青年へと注がれていて、ぎゅっとしがみつく様は必死、しかしやはりわずかながらも笑みが浮かんだままだった。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――」

 「あぁ、はぁ……」

 

 ずるずるとひだを押し上げて奥まで届き、一定のリズムで、熱を分け合いながら動く。

 細かな技術も多くの言葉も必要ない。そうして体を一つにして動き続けているだけで、思考や心まで一つになっていくような、そんな独特の感覚すらあった。

 お互いの息遣い、わずかな声、肌に浮かんだ汗や体から発せられる香りまで。何もかもが相手の存在感をより一層強く感じさせ、時間も忘れ、思考すら投げ捨てて、二人はひたすら深くまで快楽を貪り合った。

 そうして時間が過ぎ、気分も最高潮へ達した時。

 荒々しく彼女の唇を奪った青年は、最後の瞬間を迎えるまで彼女の中から離れず、くぐもった声を出す彼女を感じながら達したようだ。

 

 「ふぅ、はぁ、あ、アリシア――!」

 「んっ、んんっ、んんんっ――!」

 

 勢いよくずるりと抜き、自分の手でペニスを扱いて、放たれた精液は彼女の腹を白く汚した。同時に彼女も気をやっていたようで、小さく全身を震わせた後、ぼんやりとした目を彼へ向ける。

 口を離して、どちらも荒く呼吸を繰り返し、肌を合わせたまま動きを止める。

 しかし青年は彼女の隣に並ぶように身を横たえ、寂しそうに唇を尖らせるその顔を見て見ぬふり、ゆっくりと目を閉じた。

 腹の上を指で撫でながら、出された精液へ触れる彼女はにこやかに、彼へ顔を寄せながら小さく呟く。

 

 「なかに出してくださっても、よかったんですよ?」

 「結婚もまだでそれはまずいだろ」

 「うふふ、私は構いません。遅かれ早かれ、じゃないですか」

 「あのなぁ……ウンディーネが妊婦姿でゴンドラに乗るわけにもいかないだろ」

 「え? お仕事、続けてもいいんですか?」

 「別にやめろと言った覚えはないぞ。……自分が誇りを持ってる仕事だ、他人の言葉でやめられるほど軽いもんじゃないだろ」

 

 手触りのいい髪へ触れ、見つめ合う。

 不思議と嬉しくなって、彼女は子供のようにくしゃりと笑った。

 

 「今はもう他人じゃないでしょう?」

 「今のところはな」

 「もう、またそんなこと。心にもないこと言っちゃだめです」

 「なんで心にもないってわかるんだよ」

 「わかります。だって、昨日今日のお付き合いじゃないんですもの」

 

 再び触れた唇は、どちらからともなく。

 気だるげな言葉が詰まることはなく、ベッドの上の二人はゆったりと流れる時間の中、朝までお互いの存在を感じ合っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アリシアが作った朝食を食べながら、水無灯里は今しがた聞いた言葉をきっかけに、ぴたりと動きを止めてしまった。

 フォークで掬った目玉焼きがとろりと黄身を垂らし、皿の上にぽたぽたと落ちることにさえ気付かず、真ん丸に開かれた目は目の前の彼女に釘付けになっている。

 嬉しそうに頬杖をついて微笑むアリシア。いつも通り美しく、しかしいつも以上にきれいで幸せそうに見えるのは、明らかに何か良い事があったのだと理解できる。

 しかしそれがまさか、急な「結婚」という発言とは思わなかった。

 

 「はひ?」

 「うふふ、だからね。私、結婚することにしたの。ほら、話したじゃない、あのお見合い。あれが上手くいったの」

 「……はひ?」

 「あらあら。うふふ――」

 

 思考が正常に作動しなかった。それほど衝撃は大きく、何を言われているのかわからない。

 自身の師匠で先輩で、同じ会社の上司であるところの彼女。ネオ・ヴェネチアで知らない者がいないほどの有名人。

 彼女が結婚する。確かに性格も容姿も、仕事の技術も、家事をはじめとした生活の能力だって何一つ問題ない。誰かといっしょになるのは何もおかしくはないかもしれない。

 ただ、あまりにも突然過ぎる話であるのは否めなかった。それに、会社のために引きうけたはずのお見合い、それが上手く形になるなどと全く予想していなかったこともある。

 ぱちくりと瞬きを繰り返す灯里はなぜか大好きなアリシアの言葉を信じられず、手に持ったフォークをからんと落として、それに気付くことなく視線は目の前の彼女ばかりを見ていた。

 

 「え、け、け、結婚? お見合いで、ですか?」

 「ええ、そうなの」

 「で、でも、あのお見合い、一応受けるだけでどうなるかわからないって――」

 「んー、確かにそうだったんだけどね。実際に会ってみたら気持ちが変わっちゃったの。大丈夫、脅されたわけでもないし、無理やりでもないわ。私自身の意思で選んだの」

 「そ、そうなんですか……あの、本当に?」

 「ええ、本当の本当。私、結婚するの。例のお見合いの相手と」

 

 うふふふ、と笑う表情はまさに幸せいっぱいで、灯里はなんと言えばいいのかわからなくなる。

 どれほど魅力的な相手と出会ったとして、アリシアはたった一日で男に心を奪われる女ではないと、灯里はそう思っている。これまで声をかけられたことも多いだろうし、知り合いも多そうだが、流石にこれは何か理由があるのではないかと。否、何かなければおかしい、とさえ。

 しかし当人の顔を見ていれば、確かに無理やり話を決められたわけではなさそうに見える。むしろ自分から望んだかのように幸せそうだ。それだけに不自然な様子に思えて仕方なかった。

 毎日のように話していた、野良猫のような彼の話。そのことを覚えていないはずがないのに。

 

 「でもアリシアさん、あの人のことは……アリシアさんがいつも言ってた男の人は、いいんですか?」

 「あぁ、そのことね。うん、大丈夫。ちゃんとわかったから」

 「え? わかったって……」

 「私の気持ち。これまでどうしてかなぁって不思議だったんだけど、ようやくわかったの。どうして私が彼を追い掛け続けていたのか」

 

 思わず首をかしげずにはいられなかった。

 ゴンドラの操舵技術を教わる時はもっとわかりやすく説明してくれるし、何か相談をした時も真剣に向き合って、ちゃんと言葉で伝えてくれていた。

 なのにこの姿は、あまりにも浮かれすぎている笑顔はなんだろうか。

 なんとも言えずにいる灯里の前、アリシアはやはり嬉しそうに、幸せそうに微笑んでいる。

 

 「それとね、この前ちょっと話したこと。私の、引退の話」

 「あ……は、はい」

 「あれ、やめることにしたの。引退はもうちょっと先、もうしばらくこのまま、ウンディーネの仕事を続けるわ」

 「は、はい――えっ?」

 

 驚きはそれだけにとどまらず、灯里はまた違う話で目を真ん丸と開くこととなった。

 ガタンとイスを揺らし、思わず伸びた手がコップを倒してしまい、中に入っていた水が傍にいた火星猫、アリア社長を濡らしてしまい、混乱はさらに大きくなる。

 慌ててイスから立ち上がるのだが、自分が何かをするよりも先、アリシアがタオルでアリア社長の体を拭いていた。

 

 「ぷいにゅ~」

 「わっ、わっ――ご、ごめんなさい、アリア社長!」

 「あらあら。そんなに慌てなくてもいいのよ灯里ちゃん、もう少し落ち着いて」

 「あぅ、す、すみません……」

 

 アリア社長の体を拭き終え、丸々とした体を膝の上に乗せたアリシアに促され、再びイスへと座る。

 灯里は今、ぐるぐると回り続ける思考をどう言葉にするかで精一杯である。

 アリシアの引退の噂。それは前々から大小様々囁かれ始めたものであったが、彼女自身、灯里が一人前になったことを機に真剣に考え始めていたようだった。

 近々、ひょっとしたら引退するかもしれない。アリシア自身がそう言っていたし、寂しい気持ちもありながら、灯里は止めるようなことはしなかった。彼女の邪魔になりたくなかったためである。

 しかし、その話をやめたと、嬉しいはずのその話を聞かされてもまず頭に浮かんだのは「なぜ」という言葉であった。

 理由が思い当たらず、ましてや結婚するならなおさら、とも思うのに、どうして引退を先延ばしにするのか。

 まるで理解できていない灯里は尚も目を白黒とさせて混乱し続けるのだが、アリシアはそんな彼女に向かって、やさしく声をかけるのである。

 

 「だってまだ、一番乗ってほしい人といっしょに乗ったことがないんだもの。このまま引退しちゃったら私、きっと一生後悔しちゃうわ。だからその前に、絶対彼といっしょにゴンドラへ乗って、この町を見るの。彼が見たことの無い場所から、私が進めるゴンドラの上から」

 

 また灯里が首をかしげることになってしまうのだが、アリシアの緩みきった表情は元に戻らず、それ以上詳しく言おうともせず。

 膝の上に乗るアリア社長が、小さく鳴いた。

 灯里にはそれがなんだか「わかってないな」と言われているような気がして、さらに困ってしまうやら、ちょっと悔しく思ってしまうやら、相変わらず忙しそうに表情をころころと変えていた。

 



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Dog and Cat,snuggled in(ARIA・アリシア2)

タイトルはGoogle翻訳に頼っただけの手抜きです。
あと、今回もあまり自信はなく、キャラがぶれてる可能性があります。ご注意を。


 ふんふん、と鼻歌など歌いながら。彼女は一人、楽しげに料理を続けていた。

 誰に指示されたわけでもない。これは彼女が自ら望んでやっていることだった。使いなれていないキッチンも、胸の中にある想いによって苦など感じはしないのである。

 テキパキと手際よく、妙に楽しげな様子で次々料理が生み出されていく。時には味を確認して、自ら選んだ食器を用意し、自分の手で近くのテーブルへと運ぶ。彼女は室内に一人だというのににこにこと微笑み、上機嫌に鼻歌を口ずさむ。

 彼女がそうしていると、出入り口となる扉の向こうから足音が聞こえた。彼が以前から住んでいるアパートは思いのほか古く、廊下を歩くとギシギシと音が鳴る。そのため誰かが帰ってくると一発でわかるのだ。

 それどころか彼女は、どうやら足音だけで彼が帰ったのだとわかったようである。料理を並べ終えた後、水で手を洗ってから扉へと赴く。

 ちょうど彼女がそこへ立ったところで、扉が開いた。外からは青年が入ってきて、目の前に彼女が立っていたことに少し驚いたようだ。

 彼女、アリシアはにこりと笑って青年を出迎えた。仕事が終わると自宅ではなくここへ来るのは、こうして彼を出迎えるためなのである。

 

 「おかえりなさい。少し遅かったですね。また残業ですか?」

 「また来てたのか……別に無理して来る必要はないんだぞ」

 「ええ、わかってます。無理なんてしてませんから、ご心配なく」

 

 青年が脱いだジャケットを受け取りつつ、アリシアの笑みは深まる。この瞬間は少し特別なものだ。いつも変動する彼の帰宅時間を予想し、料理が完成する時とぴったり合うようにすべての作業を進めているのだ。だからこそ彼が予想通りの時間に帰ってくると、特別なことがあるわけでもないのに嬉しくなる。

 部屋を移動し、ひどく手慣れた仕草で彼女はそれをハンガーにかけ、それから振り返って、ネクタイを外しながら一足先にテーブルの傍へ歩み寄る青年を見る。口では色々と言いながらも、彼は決して嫌がっていない。無理やりにでも追い出さないのがいい証拠だ。

 信頼されているんだ、と嬉しく想い、背中に飛びつきたい衝動に駆られながらも隣へ立つ。彼の顔を少しばかり覗き込みながら、アリシアは疲れた表情を労わるように声をかけた。

 

 「お風呂も沸いてますけど、どちらを先にしますか?」

 「冷めたらもったいないだろ。飯を先にする」

 「わかりました。じゃあすぐに準備するので、先に座っててください」

 

 そう言うとアリシアはキッチンへ戻り、少し早足に準備を行う。しかし嫌そうな態度ではない、むしろ嬉しそうな表情は変わらなかった。

 青年はその背を見、少しばかり眉根にしわを寄せながら呟く。どう見ても嬉しそうな表情には見えなかった。

 

 「前々から思ってたんだが、いつもどうやって入ってるんだ。鍵を渡したつもりはないぞ」

 「あらあら、そんなこと言うんですか? 朝起きた時、私の前にこれ見よがしに鍵を置いていたでしょう」

 「ただ置いてただけだ。渡したわけじゃない」

 「でもあなたの性格なら、渡したくない物を目につくところへ置いておかないでしょう? 私には使ってと伝えられているように感じられたんですけど」

 「使えと言ったわけじゃないのは確かだ」

 「使うな、と一度も言われてないのも確かです」

 

 軽口を叩いて言いあっている内、アリシアはすべての準備を終えたようだ。テーブルの上には皿へ盛られた色とりどりの料理が並び、湯気を立てて美味そうな匂いを醸し出している。

 青年とアリシアはイスへ座り、テーブルを前に、食事を始めた。なんだかんだと言いあいながらも、少し前からこの光景は慣れたもので、実際には抵抗感などまるでない。二人共自然体で手を動かし、口に含んだ物を咀嚼して、合い間には会話を続けていた。

 

 「お味はいかがですか?」

 「……うまい」

 「もう、どうして悔しそうなんですか。こんな時くらい、素直になってもいいのに」

 「素直に言っただろ、うまいって」

 「いいえ、ちょっと意地悪でした。そう思ってくれてるならもう少し早く言ってくれればいいじゃないですか」

 「噛みしめてたから遅くなっただけだ」

 「いいえ、意地悪しようとしてたんです」

 「どうして決めつける。本人が言ってるんだぞ」

 「素直じゃない性格をよく知ってるからですよ。だって、短い付き合いじゃないでしょう?」

 

 アリシアがふふっと小さく笑うと、青年はそっぽを向いてしまう。

 傍から見れば喧嘩をしているようにも見えてしまう二人だが、その実険しい雰囲気など欠片もなく、どちらも穏やかな顔である。彼らにとってはこれこそが日常で、言うなればじゃれているだけなのだ。

 食卓は和やかな雰囲気に包まれていた。楽しげに、飽きることなくアリシアは自ら青年へ話題を振ってしきりに話しかけ、青年も頷いたり返答したり、声色とは裏腹に細やかに彼女の話へ乗っている。先程とは一転、非常に仲が良さそうな姿だった。

 どちらも満足そうに舌鼓を打ち、次々に料理を平らげ、会話が途絶える様子もなく。食事は終始和やかな空気のまま終わった。

 

 「ごちそうさま」

 「うふふ、お粗末さまです」

 

 箸を置いた青年が言うと、アリシアの表情はさらに緩む。目の前に置かれた皿には料理の欠片もなく、作ったすべてが食べつくされている。美味い、と言われたのはたった一度だが、彼の態度がそれを物語っている。彼女にとってはテーブルの上の光景だけで満足だったようだ。

 アリシアは立ち上がり、洗うために食器を集める。青年は茶が入ったコップを片手に、その姿を見つめていた。

 

 「これだけ洗っちゃいますから、先にお風呂に入ってください。私は後で入りますから」

 

 リビングと隣接するキッチンへ立ち、テキパキと手早く洗い物を始める。アリシアの仕草は非常に手慣れたもので、イスに座ったままの青年へ背を向け、やはり楽しげな表情で手を動かす。

 青年はコップを傾けつつもぼんやりと中空を見、ちらりとアリシアの背を見るのだが、イスから立ち上がろうとはしない。風呂へ向かう様子はないのである。

 彼はそのままの体勢で、動かない彼に気付いている様子の彼女へと声をかける。

 

 「なぁ」

 「はい」

 「清廉潔癖でなきゃウンディーネはできないって話、ほんとなのか?」

 

 彼に問われて、くすりと笑う。おそらくは婚約を気にしてのことだろうとはすぐにわかった。

 アリシアは至って冷静に言葉を返す。少し目は伏せがちに、なんでもないことを伝えるのと同じ態度で。

 

 「そうですね。少なくとも一人の男性とお付き合いすることは、あまり許されることではないと思います」

 「独り身の女性だけに許される仕事、って聞いた。俺は初めて知ったが」

 「ええ。私もずっとそのつもりで働いてきましたよ」

 「いいのか?」

 

 たった一言。だが確信を突く質問である。

 二人は少し前に婚約したばかり。今はまだ時期を見ている状況ではあるが、問題が起こらないようであればゆくゆくは結婚することになるだろう。しかしその時、“水の三大妖精”として名を馳せるほどだったアリシアは、ウンディーネの仕事をやめなければならない。それがウンディーネの仕事に深く関わるルールだ。

 青年の言葉は、本当にそれでいいのかと問うもの。今日までウンディーネを遠目にしか見なかった彼が初めてその内情を知り、彼女の本心を知りたがったのである。

 自分のせいで大好きな仕事から離れてもいいのかと。はっきり問うことはなかったが、それを伝えたいのは明らかだった。

 

 「私、やめるつもりなんてありませんよ。あなたとの結婚」

 

 ぼんやりと何もないテーブルを見つめながら、コップに入った茶を傾けていた青年の耳へ、少しも変化のない声が届く。あくまでも彼女は冷静だった。

 ちらりとキッチンの中にある背へ確認すれば、皿を洗う手を止めることもなく、彼女は話している。婚約者の家に居ることを良しとして、無防備にも見える姿、あまりにも自然体だ。見方を変えれば、仕事より結婚を優先しているとも取れる。

 だがそんなはずはない、ということは青年が最も理解している。彼女はウンディーネという自分の仕事に誇りを持っているし、心から大事に思っている。自分の弟子である少女を本当に可愛がっているし、本来であれば結婚を捨てて仕事を優先するくらいのことはするだろう性格、気質、そして豪胆さは持つ女性だった。

 なぜ結婚を選ぶのだろうか。そんな風に思わないでもない。しかし青年はその気持ちを言葉にすることなく、残り少なくなった茶をずずっと口の中へ含んだ。

 

 「どっちも大事なんです。でも、両方選ぶなんて贅沢なことはできない。だったら私は、信頼する一番弟子にウンディーネのこれからを任せて、放っておけない人の傍にいたいんです。灯里ちゃんになら後を任せられるし、それに」

 

 一度ぴたりと手を止め、蛇口出る水に指を濡らしたまま、アリシアは肩越しに振り返った。その動きに合わせて青年は顔の向きを変え、テーブルに肘をついてその手の上に顎を置くと、もう片方の手で持ったグラスを眺める。当然、二人の視線は合わなかった。

 

 「あなたの隣は、他の人には任せられませんから」

 「ふぅん……変わった奴だ」

 「うふふ、ええ、そうかもしれませんね」

 

 再びアリシアは洗い物に向き直った。泡立ったスポンジを皿へ這わせ、汚れを落とす。淡々としながらもテキパキとした調子で、積み重なっていた皿は次々に片付けられていく。

 彼女の姿を目の端で確認し、青年は尚も続ける。

 

 「そのわりには、今すぐにやめるってわけでもないだろ。やっぱり未練でもあるんじゃないか?」

 「確かに、未練はありますよ。それもとっても大きなもの――私、まだ成し遂げていないことがあるんです。ウンディーネとして、とっても大事なこと。だからそれを成し遂げるまで、もう少しだけ待ってほしいんです」

 「三大妖精なんて呼ばれてるのにか。ずいぶんな大事なんだろうな」

 「ええ。私も初めてなくらいすごく手ごわい相手で。私の夢は、その人といっしょにゴンドラへ乗って、水上からネオ・ヴェネチアを見ることなんです。でもそれが中々難しくって、いつものらりくらりと逃げられちゃって。気難しい人だから、まだ時間がかかりそうなんですよね」

 「へぇ。三大妖精を相手に、それはまたずいぶん変わった奴が――」

 

 テーブルに肘を突きながらではあったが、青年はわずかな笑みを浮かべてグラスに残った氷を揺らしていた。しかし相槌を打っている途中、ふと何かに気付いたようで、唐突に眉間にしわを寄せ始める。

 少し睨むような目でアリシアの背を見つめれば、殺気を感じたかアリシアは小さく笑い声を発して、ゆっくりと振り返った。今度こそ二人の視線がぶつかり、一方は不機嫌そうで、一方は楽しげな顔を見せた。

 

 「……まさかそれ、俺のこと言ってんのか?」

 「あらあら、気付きませんでした? だってまだ、一度も私のゴンドラに乗ったことがないじゃないですか。それからでないと、未練が残ったままになっちゃいます。だから、結婚はその後。引退する前に一度だけ、あなたとゴンドラに乗ってからにしたいんです」

 「前々から思ってたが、案外しつこい奴だよな、あんた。別にいいだろ、俺が乗っても乗らなくても、別に何が変わるわけでもない――」

 「それとも、あなたが頑なに私の夢を叶えてくれないのは、私の引退を先延ばしにするためですか?」

 

 にこにこと邪気の欠片もなく、アリシアは笑顔でそう言う。言葉こそ尋ねる形だが、それは確信を持っていると言って過言ではない。彼女は確固たる意志を持って話していた。

 言われた途端、青年はぴたりと言葉を止めて口を噤んでしまう。すると不機嫌そうな表情のまま、何を返すでもなくそっぽを向いてしまった。

 この行動を彼女はイエスと取った。実際にそう言えば彼は反論するだろうからそうは言わなかったが、彼の気質をわかっているアリシアには理解できたのである。

 まだ皿洗いが終わったわけでもなかったが、一度蛇口から流れる水を止め、体ごと彼の方へ向き直る。どこかへ寄り掛かることもなく、背筋を伸ばしてぴしりと立ち、濡れた手をタオルで拭いて、青年の姿だけをじっと見て。アリシアは微笑んで口を開いた。

 

 「覚悟はできてます。そんなに気を遣ってくださらなくてもいいんですよ?」

 「俺がいつ気を遣ったんだよ」

 「だってそうでもなければ、結婚を待ってくれる理由なんてないでしょう? あなたがゴンドラに乗らなければ、私が満足することがないから、その間はウンディーネの仕事を続けられる……私が仕事をやめたくないんじゃないかって、そう思ってくれてるんですよね」

 

 青年はまた声を出さない。これもまたイエスだろう。

 彼は一見するとぶっきらぼうに見えて、かなり気難しいわけだが、よく観察してみれば意外とやさしいところがあるのだとわかる。なんだかんだと言いながらもアリシアの意見を無視することはなかったし、会社への資金援助を決めながら結婚の有無を彼女へ委ねるなど、むしろアリシアの意見を優先するようなそぶりさえあった。

 彼自身、アリシアと結婚することに抵抗はないのだろう。でなければ自宅でいっしょに食事を取ることもなし、そもそも鍵を使って自分より先に帰っているという状況を許すはずがない。先に家の中に居た彼女を追い出さないということは、すでにアリシアの存在を受け入れているということだ。

 小さなため息をつき、青年は物憂げに声を出す。一見しただけでは不機嫌そうに見える表情と声である。しかし、アリシアにはそう見えていないようだった。

 

 「……あんただけの問題じゃないだろ。あんたの会社は大丈夫かもしれないけど、ネオ・ヴェネチアにはあんたを必要としてる人が大勢いる。早々簡単に、捨てられるものじゃないはずだ」

 「そうですね……でも、捨てるわけじゃありません。結婚すればそれはそれで、ネオ・ヴェネチアに貢献することはできますよ。みんなには迷惑をかけちゃうかもしれないけど、理解してくれる人だってたくさんいる。私はそう思ってます」

 「どうして?」

 「ここの人たちはみんな、やさしい人ばかりですもの。私とあなたが心から愛してしまうくらい、この街は素敵な場所だから。私たちのことだって、きっと祝福してくれますよ」

 「能天気なもんだな。そうはならないかもしれないだろ」

 「うふふ、その時はその時です。もしもの時は、二人でごめんなさいって謝りましょう。大丈夫、二人なら一人で居るより心強いです」

 「そういう問題なのかね。ま、別にいいが」

 

 カラン、とグラスの中で氷が音を立てた。青年がゆらりとそれを揺らしているからである。

 彼は残っていた茶をぐいと飲み干すと、残っていた氷まで口に含み、歯で噛み潰してガリガリと音を鳴らす。子供っぽくも見える仕草で、ともすれば自分を隠そうとする彼らしい行動。普段通りといった様子で明確な答えが得られぬまま会話を終わらされたため、アリシアはまた笑みを深めた。

 残りの皿を洗うため、体の向きを変え、蛇口を捻り、再び手を水で濡らす。

 明確な答えは必要ない。それでもわかりあえることはできるのだから。青年がその考えを良しとするかはわからないが、少なくともアリシアはそう思っていた。

 彼と自分は、必要以上にべたべたするわけでもないし、恋人っぽい振る舞いをしているわけでもない。傍目から見れば、もしかしたら仲が悪いと思われてしまうかもしれない。だけど、自分たちにしかわからない感覚や感情、言葉で伝えられるわけではない何かがあるのは確かだった。

 こうして明確な何かを得るわけでもない会話も、自分たちにはなくてはならない大事なもので、お互いを必要としているからこその時間。言いたいことは言ってくる癖に、良いことをした時なんかは決まって隠したがる彼とのやり取りも慣れたものだ。

 最近来るようになったばかりだが、この家の中、アリシアの笑みが消える瞬間など非常に珍しいことだった。それほど彼女は彼といっしょにいる時間、幸せそうににこにこと微笑んでいるのである。

 

 「お風呂、お先にどうぞ。私はまだ時間がかかりそうですから」

 「なぁ」

 「はい?」

 「いっしょに入るか?」

 

 何気ない口調で言われ、アリシアは笑みを消してぴたりと手を止めた。驚いた表情で目の前の一点を見つめ、流れる水の音も聞こえない様子でぼんやりと、頭の中では先程の言葉を反芻していたようだ。

 落ち着く暇もなく、信じられない物を見るかのような顔でゆっくりと振り返り、イスに座ったままの青年を見た。彼は相変わらずそっぽを向いていて、テーブルに肘をつき、片手でコップを弄んでいる。ほんのわずかだけ見える彼の横顔、口元は少し弧を描いているように見えた。

 

 「嫌なら断っていいぞ」

 

 アリシアはしばらくぼんやりと、何を言われているかわからない様子だったが、ようやく理解できた後で表情を変える。

 ふわりと微笑み、くすぐったそうに笑うのは、きっと嬉しかったからなのだろう。いつもそっけない彼が自分から愛情表現を行うなど滅多にない。今まで数えるほどしかないのだから、今日で一体何回目だと言うのか。

 堪えようとしてもにやけてしまう頬もそのままに、アリシアの返答は素直ではないものだ。普段の彼を思わせる、真意を隠そうとしながらも、深い仲であれば一発で見抜けるだろうそれを、今度は彼女がするのである。

 

 「でも、まだ洗い物が終わってませんし。今日は少しだけ張りきっちゃったせいか、量が多くて」

 「後ですればいいだろ。なんなら俺も手伝ってやる」

 「それは悪いです。使うお皿が多くなっちゃったのは私のせいですから」

 「ここは俺の家で、俺が使ってた皿だろ。むしろ、あんたにばかりやらせてる方が問題だと思うが」

 

 青年はイスから立ち上がり、空になったコップを手にアリシアの下へ歩いていく。青年の歩みに淀みはなく、二人は鼻先が触れあいそうになるほどの距離まで近づき、視線は正面から合わせたまま、青年の手がアリシアの背後へ伸びて流し台へとコップを置いた。

 肌が触れていなくても相手の呼吸がわかる距離。それほど距離が近ければ、言葉などなくとも相手のすべてがわかるような気すらした。

 

 「言い訳にできるのは洗い物だけか?」

 「そんなことありませんけど……もう言い訳する必要はありませんから、いいんです」

 「どうして」

 「うふふふ。私これでも、嫌なことは嫌だって言える性格なんですよ」

 「ああ、よく知ってる」

 

 どちらからともなく顔を傾け、唇と唇が、音もなく触れあう。抱き合うでもなく、首を伸ばしただけで行うキスは初めてで、不思議と二人はしばらく離れようとしなかった。

 蛇口から流れる水の音だけが、室内に唯一の音を作る。そんな静かな空間であった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 シャワーから流れる熱い湯を頭からかぶり、体は徐々に熱くなっていった。

 しかし体が火照る理由はそれだけでなく、何かを語るでもなく強く抱き合い、時間も忘れて激しくキスを交わしていたことが原因だろう。二人は強く唇を押しつけ、ねっとりと舌を絡めあい、互いの存在を確かめあっていた。

 狭いシャワースペースの中である。青年が彼女の体を壁へ押しつけ、アリシアは彼の背へ腕を回して抱きつき、体の前面は肌の大半がぴたりと触れていた。柔らかな女の肌と、それよりは幾分固さを持つ男の肌、今は吸いつくかのよう。

 くぐもった声が重なりあった唇から洩れでて、アリシアの表情はどこか切なそうなもの。頬を赤く染め、青年の背へ回した手に更なる力が込められる。

 唇が離れたのは青年が顔を引いたためだった。しっとりと濡れた金色の髪へ指を絡ませ、やさしく頬を撫で、珍しく微笑む彼はアリシアへ熱っぽい視線を向けている。

 それがアリシアにとっては嬉しくて仕方がなかった。普段は中々見れない彼の表情が目に映るだけで、胸の内が熱くなって締めつけられるような感覚を覚える。

 同時に恥ずかしくもある。まっすぐに目を見つめられて、今度は彼女が視線を逸らした。しかしそれを許さないかのよう、青年は彼女の頬へ両手を添えると、再びキスを始める。今度は先程よりずいぶんやさしく、ちゅうっと弱弱しく吸いつくように。

 自然と、アリシアの頬は緩んでしまう。胸の内に広がるのは幸福。わかりにくいはずの彼のやさしさが、これでもかとわかりやすく伝えられたせいで。

 

 「んっ、ふっ――」

 

 息苦しさを感じつつも離れたいとは思わず、アリシアの方から強く彼へ抱きつく。伸ばした腕に力を込めて、もっと近くなりたいと伝えるかのように。

 青年もまた彼女の背へ腕を回し、自分よりも幾分小さい体を受け止めつつ、応えるべくさらに強く唇へ吸いつく。ちゅうという音がいやらしさを感じさせ、シャワーに混じりながらも耳に心地よい。少し恥ずかしさも感じるものの、やはり嫌いになれない感触であった。

 その一方で、彼の左手が白い肌を伝いながら動き出し、背中から側面を回って、大きな胸へと運ばれる。触られた途端にふにゅりと形を変える乳房に指が埋まり、アリシアは恥ずかしさを、けれど少し嬉しいという感情を抱いていた。

 こうした行為に羞恥心を持たないわけではない。しかしやはり愛しい人から求められるのは嬉しいことだ。言葉では素直になれない彼でも、行動ではわりと素直になる。

 現に今も、触れあった場所には大きくそそり立ったペニスが確認でき、それは間違いなく自分を女性として見ているから起こる変化。アリシアはその事実を感じ、キスを続けながらも笑みを浮かべた。

 再び青年から唇を離し、正面から見つめ合う。頬が撫でられるのがくすぐったかったが、アリシアは青年の視線から逃げようとはしなかった。

 

 「お湯、出しっぱなしじゃもったいないですよ……」

 「いいさ、気にしない」

 「でも、お風呂、入りに来たんでしょう? 体だって洗い終わったのに――あっ、んんっ、あっ……」

 「じゃあ、風呂入ろう。ほら、おいで」

 

 ぐにぐにと両手で胸を揉んだ後、青年はシャワーを止めるとアリシアの手を引き、隣にあった浴槽へと足を入れる。

 二人で風呂の中へ入り、ゆっくりと腰を下ろしていく。二人分の体積のせいで湯が外へ溢れだしていくものの、さほど気にせず、二人は正面から向かい合って浴槽の中に座った。

 舌を絡めるキスをして、お互いの興奮が体に現れて、その後での少し落ち着いた時間である。アリシアはもじもじと恥じらいだ様子を見せ、視線を下へ向けがちになり、青年と目を合わせようとしない。

 だが青年はむしろ強気な態度。普段滅多に見れない隙だらけのアリシアを見て、思わずにやりと頬を上げる程度には余裕があるようだ。

 青年は浴槽の底へ膝をつき、アリシアへ覆いかぶさるよう体を動かした。説明もないままの行動に驚き、アリシアは少しのけ反るものの、背中に腕を回されては逃げられずすっぽりと彼の腕の中へ抱きしめられる。

 再び、二人の肌がぴたりと触れあうのだ。頬と頬を触れ合わせ、狭い浴槽の中で抱き合うのは、珍しく二人が恋人らしい体勢になった姿だった。

 

 「も、もう……こんな時ばかり、強気になるんですから。まるでいじめっ子みたいですよ」

 「こんな時ばかり弱気になるあんたも悪いだろ。いい加減慣れればいいのに」

 「それは無理です。恥ずかしいし、なんだか頭がふわふわしちゃって……私だって、やればもう少しできるんですよ? ただ、まだ少し慣れてないだけで」

 「ふぅん。ま、その割には積極的な夜とかもあるけどな。あれは……欲求不満か?」

 「違い、ませんけど。それはたまたま、お仕事で疲れていた日だったので、少し、甘えたくなったと言いますか」

 「あぁ、なるほど」

 

 浴槽へたっぷり入った湯の中に浸かり、抱き合ったことで声は囁く程度で十分聞こえ、耳元で行うせいかくすぐったさが付き纏う。しかし言ってみればそれも微弱な快感のようなものだ、悪い気はしない。

 青年の舌がするりと伸ばされ、赤くなったアリシアの耳を舐める。唐突だったこともあり、彼女はびくりと震えて驚く。卑猥な音を立てて舌が動き、それは肌を伝って徐々に下へ降りて首筋に到達した。

 彼の息遣いがすぐ近くで聞こえ、やさしくも怪しく動く舌を感じ、熱くなった息を吐く。

 

 「そういえば一つだけ、聞いてみたかったことがあるんです」

 「なんだ?」

 「私のこと、好きですか?」

 「は?」

 

 思わず動きを止めて顔を離し、青年はアリシアの顔を見つめて固まった。予想外の言葉で思考が停止したらしく、目は真ん丸に開かれている。

 アリシアはそんな彼を見て笑い、少し余裕を取り戻した声で言った。

 

 「ほら、よくあるじゃないですか、こういうやり取り。私と仕事、どっちが大事なのぉ、っていう」

 「それを今言うのか」 

 「一度言ってみたくて。それに普段は言ってくれないでしょう? 好きや愛してるなんて言葉」

 「……俺が言って信じるのか?」

 「そう言われると、確かにちょっと信じられないかもしれないですね」

 「だろうと思った」

 

 目を閉じて少しだけ触れるキスをして、ゆっくりと目を開ければお互いの顔が間近に見える。

 青年が真剣な顔で口を開いた。するとアリシアは少し驚いた様子で笑みを消し、目を大きく見開いたのである。

 

 「好きだよ、アリシア」

 

 何を言われたのか、すぐには理解できなかった。だが内容を理解し、何とか飲みこめた後、彼女はくすぐったそうにくすくすと肩を揺らす。

 真剣な顔を見せていた青年は一転、眉間にしわを寄せて唇を尖らせた。どうやら笑われたことが気に食わなかったようだ。

 

 「なんで笑うんだよ」

 「うふふ、だって、本当に言ってもらえるなんて思わなかったんですもの」

 「だから嫌だったんだ。こういうのは、柄じゃない」

 「あらあら。普段からたくさん言っていれば、もしかしたら甘い言葉が似合う男性になれるかもしれませんよ。そうすれば私は嬉しいし、あなたも恥ずかしがる必要もなくなる。これっていい案だと思いませんか?」

 「慣れるまでが恥ずかしいってことだろ、それ。やだよ」

 「うーん、やっぱり騙されてくれませんね。残念。言われて本当に嬉しかったのに」

 

 今度はアリシアの方から唇を奪い、強く押し付け合うだけのキスを始める。だがその一方で青年は彼女の胸を揉み、柔らかな感触を楽しみながら淡い快感を与え始めた。

 手慣れていると見える動作である。今日までの経験か思いやりか、さほど大きな動きでもないのにアリシアはわずかに声を洩らし、体を小刻みに震わせる。

 唇が離れてキスが終わり、二人の視線が交わった。その時にはどちらも興奮を高めていて、やはり態度だけでなく言葉で想いを伝えたのは大きいようだ。アリシアは目を潤ませて頬を上気させ、彼の首へ腕を回す。

 青年がさらに彼女との距離を詰めながら、左手はやわやわと形を変える乳房を揉み続け、右手は腹を伝って下腹部へ降りた。怪しげに動く指先が、視認する必要もなく彼女の女陰を淡く撫でるのである。

 

 「んっ、ふっ……私も、大好きです。あなたのこと――あっ、はっ」

 「ああ、伝わってる。言われるまでもなくわかってるよ」

 「んっ、んっ、でも、言いたいんです。あなたにもっと、伝えたいから……あぁっ」

 

 女陰の形を確かめるかのように撫で、包皮に包まれた陰核を指の腹で転がし、膣の入り口を撫でてみれば、彼女の興奮はますます高まっていくようだった。アリシアは青年へ抱きつきながら喉を震わせ、目を閉じて首を反らす。

 そうすると青年の目が白い首筋に見とれ、そっと唇を這わせた。ちゅっと音を立てて吸いつけば、それだけアリシアの体が震える。もっとしたい、と思わせる反応だった。

 湯の中で胸を揉み、女陰を手で弄り、アリシアの全身がぴくぴくと反応を見せる。青年のペニスはさらに固さを増して、彼女の太ももに触れたまま今や遅しとその時を待っている。

 だが青年は決して事を焦らず、アリシアの耳元へ舌を這わせると、虐めるように耳の中を舐めた後で囁いた。少しかすれた小さな声。妙に色気を含むそれはアリシアの脳髄まで届くかのよう、内も外も愛されているような感覚だ。

 

 「立って。ここでするから」

 「ん……舐めるんですか?」

 「嫌か?」

 「いや、じゃないですけど……恥ずかしいから、あまり見てほしくないです」

 「善処する」

 「む、また嘘ついたでしょう。絶対見る気です」

 「この照明じゃ見ないようにしたって見えるっての。それにどうせ、もう見慣れてる。そんなに気にするな」

 「気にしないなんて、無理ですよ……」

 

 渋々と言った調子でアリシアが立ちあがり、ざばりと湯を落としながら、浴槽の中へ立った。座ったままの青年を見下ろす体勢、彼の顔がちょうど股間の前にある。

 いまだ羞恥心を捨て切れない彼女はますます顔を赤くし、視線を逃がして唇を噛む。右手が股間を隠すよう下ろされて、左手は胸を隠すために大きなそれをふにゅりと潰した。

 青年はじっと彼女の裸体を上から下まで眺めてから、行動する。両手は上へ伸ばして胸を掴み、中でもピンと立つ乳首へ触れて指の腹で転がし、顔は股間に埋められてきれいな形の太ももに挟まれ、女陰へ唇が触れる。

 途端にぴくりと全身が反応した。アリシアは恥ずかしさから目を閉じ、所在なさげに揺れた両手を彼の頭へ落ち着かせ、小さく口を開いた。荒くなった呼吸と共に小さな声が出て、少し我慢する様子を見せたものの、口を閉ざそうとはせずに甘く濡れた声を出す。それを青年へ聞かせるためかのように。

 

 「あっ、んっ、んっ――あぁっ、そんなに、強くしちゃ……」

 

 青年の舌がゆったりした動きで女陰を舐めあげ、余すところなく触れる。形を確認されているとも感じられ、アリシアの羞恥心はさらに掻きたてられた。

 それだけでなく両手は胸を弄び、乳首を弄って更なる快感を与えてくる。恥ずかしい場所を上も下も両方、同時に触られては、感じずにいるのは不可能だ。

 アリシアの声はどんどん快楽に濡れて色っぽく変わり、わずかに目を開けて青年の顔を見た。大人びた表情で股へ顔を埋める彼は、非常にいやらしい存在として彼女の目に映り、自らの中にある何かがさらに大きくなってぶるりと体が震える。

 上と下、視線がまたぶつかった。

 

 「気持ちいいか?」

 「は、はい。でも、恥ずかし、あっ――」

 「声、我慢するなよ」

 

 ずずずっ、と音を立てて膣の入り口が吸われ、次いでその中へ舌が差しこまれた。音もなく入りこんだそれは非常にゆったりとうねり、動きを加えて、彼女へ更なる快感を与える。

 どうにも恥ずかしく、慣れない体勢だ。自分が立ったままであることに加え、股に顔を押しつけられているのだ。どうしようもないと思いながら、逃げるどころか自分から押し付けようとしてしまうこともまた恥ずかしい。

 強く目を閉じ、アリシアは唇を噛む。それでもやはりすぐに口を開いてしまって、声が自然と洩れでてしまう。もはや我慢などできはしなかった。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――」

 

 舌がうねり、強く吸われる度、彼女の声はリズムよく吐かれる。聞いているだけで男心をくすぐる、色気を含みながらも清らかで可愛げのある美しい声だ。

 青年はたっぷりと舌で愛撫した後、ふと顔を離し、彼女を解放する。その時にはすでにアリシアは息も絶え絶えでぼんやりと天井を見つめ、呆けた顔を見せていた。

 青年が立ちあがると、今度は彼女が座るために肩を押される。それでようやく我に返り、何をしてほしいのかを理解して、アリシアは青年の足元へ座った。

 今度は逆の立場、立った青年の股間の前へアリシアの顔がある状態である。ビンとそそり立つペニスが彼女の眼前で元気に揺れ、湯を滴らせながら期待している。アリシアは顔全体を赤らめ、それでも目を逸らそうとはせず、じっとそれを見つめた。

 

 「今日も、おおきい……昨日もあんなにしたのに」

 「若いからな。これくらい当然だ」

 「今までの彼女さんとも、毎日のようにしてたんですか?」

 「まぁ、ある程度はな」

 「……むぅ」

 「自分から聞いといて拗ねるか、普通」

 

 少し不満げに眉根を寄せ、唇を尖らせた後で、アリシアの両手がそれへ伸ばされる。白い指先が赤々と膨らんだ亀頭を包み、弱い力加減でわずかに揉み、至近距離からまじまじと見つめる。

 青年はくぐもった声を洩らして目を閉じた。その表情は辛そうにも見えるが、よく知った者には快感を得た時の顔だとわかるだろう。

 ぐにぐにと手で好き勝手に弄びつつ、ちろりと伸ばした舌先で先端へ触れて、アリシアは悪戯っぽく微笑むと青年の顔を見上げた。

 

 「ここを舐められるの、好きですよね。胸でされるのとどちらが好きですか?」

 「まぁ、同じくらいには」

 「こういう時は素直なのに、どうして普段は意地っ張りなんでしょう……急所を握られてるから?」

 「おい、妙なこと考えるなよ。普段急に握ろうもんなら、俺じゃなくても怒るぞ」

 「残念です。いい方法かと思ったのに」

 

 そう言いつつもふわりと笑い、アリシアの舌が、べろりと亀頭を舐めた。その直後には大口を開けて彼のペニスが呑みこまれ、亀頭の部分が口内へ含まれた。

 舌を動かしながらも頭を振り、胸や手でするのとは違う快感に襲われる。余裕を保てそうにない青年の息は荒くなった。

 しっとりと濡れた金色の髪が揺れ、青年は彼女の頭に手を置くと手触りのいいそれを触り、目を閉じて股から広がる快感を享受する。アリシアのフェラチオは、まだ慣れ始めたばかりで決して上手と言えるものでもないが、妙に熱意が感じられるため油断することもできない。

 愛情というものが込められているのかもしれない。青年は体の芯まで伝わるじんわりとした快感に息を乱しつつ、そう思った。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 

 淡々としたペースで頭が振るわれる。アリシアもまた目を閉じ、彼のためを想って賢明な奉仕を見せていた。

 しかしさほどもせずに青年の手によって顔の動きを止められ、彼女は思わず目を開ける。頭に触れていた手が頬に移され、両手で顔を掴まれていたのだ。

 見上げてみれば、青年の目はすでに興奮しきっていて、どうやらもう我慢できないようだ。アリシアは口の中からペニスを出し、さらに固くなったそれを見つつ、自らも立ちあがる。

 微笑んで正面から抱きしめ合えば、彼はすぐさま唇を重ねてきた。そのまま彼女の口内でねっとりと舌を絡めた後、青年は顔を離し、アリシアの尻を両手で揉み、かすれた声で呟く。

 

 「もう、いいだろ」

 「うふふ、はい。いいですよ」

 

 青年はアリシアへ壁に手をつくよう言うと、彼女の背後へ陣取った。くびれた腰や反らされた背中のラインが美しく、丸みを帯びた白い尻が可愛らしい。

 その尻を両手で揉みしだき、双方の尻たぶをぐっと押し開いたり、谷間の間へ指を忍ばせたり、中々に好き勝手な様子すら見せた。

 だが最終的にはやはりその奥、すでにじっとりと濡れた女陰へと指が辿り着き、触られた途端にアリシアは甘い吐息をこぼし、後ろを振り返りながらも壁に寄り掛かって上手く立てずにいた。

 青年は腰の位置を正すといきり立つペニスを彼女の股へ突きつけ、準備が整った膣へと宛がう。最終的な確認は目を合わせるだけ。言葉もなく腰が進められ、強い熱と固さを持ったそれは彼女の中へと呑みこまれていった。

 

 「ふぅぅ、あぁぁっ……!」

 「力抜け。辛かったら我慢しようとするなよ」

 「は、いぃ――うぅんっ、あぁっ」

 

 ずぶずぶとゆっくり肉を掻きわけ、奥まで進む。そこで一度ぴたりと止まり、二人は大きく息を吐いた。

 固い肉棒が柔らかな膣に包まれ、自分にはない独特の感触がなんとも気持ちいい。まだ挿入を終えたばかりだというのに、二人の表情はずいぶんと幸せそうなものだ。

 

 「動くぞ」

 「は、はい――あんっ、んっ」

 

 尻を掴んで腰を振り、ペニスを前後へ動かし始める。途端にアリシアは甘い声を出し始めた。

 ぬるぬると柔らかな肉のひだが絡みついてくるようで、まだ少しぎこちなさは残るものの、近頃は彼女もこうした行為に慣れてきたようである。青年の動きも初めの頃に比べて大胆になり、気遣う素振りは残しながらも激しさは増していた。

 非常にゆったりとしたペースから始め、アリシアの声が高くなってくると徐々に速さを変えていき、彼女が後ろを振り返る余裕を失くして俯いて喘ぐと、さらに前後の動きを速める。

 下腹部と尻とがぶつかり、肉付きのいいそこがぶるりと揺れ、勢いよく揺れる睾丸がぶつかってパンっという音が何度も浴室へ響いた。

 そうなる頃にはアリシアは我慢する余裕もなく喘いでいる。普段はおっとりとして落ち着きのある声が淫らに濡れ、大きくなって耳の中へ木霊するのは何とも言えぬ快感がある。

 青年の表情からも次第に余裕が消えていき、二人は必死になって快楽を貪った。互いに言葉を交わすことなく、動きもただ腰を前後させるだけの単調なものだが、それだけでも十分すぎた。

 

 「あっ、あっ、あっ、んんっ、んっ――!」

 

 リズミカルにアリシアの声が木霊し、足元の湯がぱしゃぱしゃと揺れ、熱くなった体に汗を掻きながら腰を動かす。

 今やどちらも快感を得るため体を動かしていて、呼吸を合わせようと躍起になっていた。ただ信頼関係の故か、彼らの動きが互いのために合わさったのはすぐのこと。更なる快感のために速度は速まる一方。

 次第に肉体に溜まる快感は高まり、やがて我慢ができなくなった。大声で喘ぐアリシアの後ろ、青年も低いうめき声を発しながら限界を伝える。

 

 「あっ、あっ、あっ、あぁっ――!」

 「くぅ、もう、だめだ……!」

 「んんんっ、やぁっ、あぁぁぁっ……!」

 

 まず先にアリシアの体がびくんと大きく跳ね、その後に青年は慌てて膣からペニスを抜き取り、丸々とした彼女の尻へと亀頭を押しつけた。その瞬間に射精が始まり、飛び出した精液が亀頭に触れた尻を汚す。

 どちらも荒い呼吸だけを続け、浴室内は一気に静まり返った。波立っていた湯船も徐々に落ち着きを取り戻し、後に残るのは汗を掻いて呼吸を乱す二人の息遣いのみである。

 青年は桶で湯を救うとアリシアの尻へ手を伸ばし、浴槽へ落ちないよう気をつけながら彼女の尻を洗ってやった。流された精液が大量の湯と共に排水溝へと流れていく。

 それを見送ってからようやく、二人は再び浴槽へ腰を下ろし、正面から抱き合った。名残を楽しむためか、ついばむように何度もキスを交わし、呼吸が整ったところでようやく口を開く。

 視線は正面からぶつかり、どちらも笑みを見せた表情、とても落ち着いた姿だ。

 

 「気持ちよくイケましたか?」

 「ああ、まぁな」

 「うふふ、それなら嬉しいです。私も、気持ちよかったですよ」

 「そう言われて俺はどうすればいいんだ。やったーとでも喜べばいいか?」

 「せっかくなら聞いてみたいですね、あなたがそう言うところ。今なら他に誰も聞いてませんし、どうですか?」

 「絶対に嫌だ」

 「あらあら。うふふ」

 

 またついばむようにキスをして、遊ぶように舌先だけを触れ合わせる。

 二人はしばらく風呂から上がろうとはせず、のぼせる寸前になるまで、裸のまま抱き合って遊んでいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 水無灯里は今、最近では珍しいほど、非常に困惑していた。

 理由は目の前。突然やってきた見知らぬ青年が膝を折ってしゃがみ込み、初対面だというのになにやらアリア社長と親しげに触れあっているためである。

 

 「ぷいにゅ~」

 「火星猫か。話には聞いてたけど、実際に見るのは初めてかもしれないな。しかもこんな間近で」

 「ぷいにゅ」

 「不思議な生物だ……本当に猫か?」

 

 白くふわふわな体毛に気を良くし、やさしくアリア社長の頭を撫でる青年は妙に穏やかな姿であり、悪い人ではなさそうだと推測できる。アリア社長が妙に親しげに接しているのもその理由だ。

 しかし灯里にとっては知らない相手、なお且つウンディーネのゴンドラを目指して足を運んだわけでもなさそうなのである。何を目的としているのかがわからず、その背をじっと見つめながら、どう声をかけていいかわからなくなる。

 確固たる目的を持って来店したはずが、なぜか青年はアリア社長に気を取られて動かない。しかもどことなく楽しそうな姿にも見えるのだから、初対面の灯里には声をかけてスキンシップを中断させていいのか困るところ。

 よし、と決意を固めて、彼女は動き出す。彼の隣に並ぶようにしゃがみ、目線が合うように体勢を整え、青年へ声をかけるのだ。客であることに変わりはないだろうからにこりと笑みを見せながら。

 

 「あの、ARIAカンパニーにどのようなご用件でしょうか? アリア社長のお友達、ですか?」

 「え? あぁいや、別にそういうわけじゃ」

 

 隣に並んだ灯里の顔を見て、青年は困ったように頭を掻きながら視線を漂わせた。その後も何かを気にしてか、中々用件を言おうとはしない。

 強気そうに見える顔なのに、態度ははっきりしないもので、見ようによっては似合わないとも言えることができた。灯里はますます困惑して、困った表情で首をかしげてしまう。楽しげなのはアリア社長だけだ。

 ふと、気付くことがあった。アリア社長の友達ではなく、灯里とも初対面。ならば彼がARIAカンパニーを訪ねてきたのは、もう一人のウンディーネに用があるのではないかと。

 合点がいったとばかりに灯里は笑みを浮かべ、彼の顔を覗き込んで声をかける。すると青年は少し身をのけ反らせ、目を真ん丸にして彼女の顔を見た。

 

 「ひょっとして、アリシアさんに会いに来られたんですか?」

 「へ? あー……」

 「やっぱり。ごめんなさい、アリシアさんは今お仕事に出ていて、もう少しで帰ってくると思うんですけど――」

 「あぁいや、別にいいんだ。急に邪魔して、悪かったな」

 

 青年は困ったように笑うとそう言い、アリア社長の頭を一撫でしてから立ちあがった。前へ伸ばされる足は出入り口を目指していて、どうやらもう帰るらしいとすぐにわかる。

 その時になってようやく、灯里ははたと気が付いた。自分が知らない人で、アリア社長とも関係がなくて、アリシアに用件がある年若い青年。

 もしかしたら、この人がアリシアの婚約者なのだろうか。一度気が付いた後ではもはやそうだとしか考えられず、灯里は咄嗟に口を開き、何かを考えるでもなく気付けば彼の背へ声をかけていた。

 

 「あ、あのっ」

 「ん? 何か?」

 「え、えっと、その……急な質問で申し訳ないんですけど、ひょっとして……アリシアさんの、婚約者さん、ですか?」

 

 青年の目がまたも丸々と見開かれる。どうやら正解だ、と体感で理解した。

 いつかは出会うことになるだろうとは思っていたが、まさかこんな形になるとは。そう思わないでもないが、それよりもまず、彼には言いたいことがあった。

 アリシアとの付き合いは、自分の方が長くて深いという自負がある。男と女という違いもあることだし、彼が聞いていない話を耳にしているかもしれないという考えもあった。

 灯里はひどく混乱した様子で、これを機にと思いのたけを口にした。前々から考えていたこと、思い悩んでいたこと、すべてアリシアのためにぶつける。

 

 「あ、あの、そのことなんですけど……婚約の、件は、どうにもならないんですか?」

 「え?」

 「い、いえ、とっても失礼なこと言ってるって自覚はあるんですけど、その、ええっと、ちょっと思うところがありまして……! こんなこと、ほんとは言っちゃいけないと思うんですけど――アリシアさんには、好きな人がいると思うんですっ」

 

 わたわたと両手を動かしながら、灯里は明らかに冷静さを欠いた様子で言葉を続ける。もはや半ば自分でも何を言っているかわかっていない様子だ。

 ついには視線を合わせていられなくなったようで、少し俯きがちに、両手の指先をつんつんと触れさせながらの発言である。灯里の顔は真っ赤に染まっていて、恥ずかしいやら、情けないやら、様々な情念が内でぐるぐると渦巻いていた。

 

 「アリシアさん、一年前から一人の男性のことをよく話すようになって、その人のことを話す時、いつも幸せそうな顔するんです。最近でもそれが続いてて、だけど、もし結婚しちゃったら……あの、言いたくはないんですけど、会社を立て直すための結婚をしちゃうと、本当にアリシアさんは幸せになれるのかなって。アリシアさん、自分では一度も言ったことないけど、やさしい人だから、会社のために我慢してるんじゃないかって思って、それで――」

 「本当はその男と結婚したいんじゃないか、ってことか」

 「は、はひ……すみません。部外者が横から出てきて、急にこんなこと……」

 

 気付けば青年は頭を抱えていた。眉間にはくっきりとしわが作られ、指先でそこを揉みほぐすように動かしている。

 その様子を見て、灯里は自らの暴走を恥じた。やはり面と向かって言うべきではなかったのだ。政略結婚をやめてくれ、アリシアを自由にしてくれと言ったのと同じ。普通ならそんなことを言われて好意的に受け止める人間などいない。

 だがアリシアのためを思えば、言わずにはいられなかった。灯里は尊敬する彼女に幸せになってほしかったし、できれば話に聞かされていた男性といっしょになって、いつまでも笑顔で居て貰いたい。そう思うからこそ、彼女が会社を立て直すためだけの結婚をして欲しくないと。

 今では正面から彼の顔を見ることはできない。灯里はただ、彼の返答を待つしかなかった。

 

 「あいつ、アリシアはその男のこと、なんて言ってた?」

 「え? えっと……ちょっとわかりにくいけど、すごくやさしい人で、心配になるから一人にはできないって。だから自分が傍で支えてあげたいって、そう言ってました」

 「……そうか」

 「あぅ、ごめんなさい……」

 

 青年は何かを嫌がる表情を見せた。それに応じて灯里は肩をすくませ、ますます自分を責めて落ち込む。

 やはり気分のいい話ではないだろう。そんなこと、気をつけるまでもなくわかることだった。だからこそ何も注意せずに発言してしまった自分がひどく情けなく思えてしまう。

 しかし青年は灯里の顔を見て表情を変え、今度はやさしく微笑んだ。気落ちして俯いてしまう彼女の頭に手を置き、桃色の髪をやさしく撫でる。

 灯里が視線を上げて目が合えば、彼はさらに頬を緩ませて、まるで兄にも近い親しげな笑みを見せた。

 

 「だったらあんたからも言ってくれ。俺は結婚するかしないか、あいつに委ねたんだ。けど考え直す気はないようでな。多分、あんたが言えばもう少し本気になって考えるだろうから、言ってやってくれ。本当にそれでいいのかって」

 「え、あ……怒って、ないんですか?」

 「怒る理由が見つからなかったからな。一番弟子なんだろ? だから、細かい話はあんたに任せるよ」

 「は、はひ……」

 

 予想外の展開に驚き、ぽかんと口を開けた灯里は呆然と青年の顔を見つめた。青年はそのマヌケ面に笑い、最後に頭を一撫ですると、出入り口の扉を通りぬけて外へ行ってしまう。

 見送るために灯里も急いで外へ出るのだが、彼は振り返ろうともせず、歩き去っていく姿だけが確認できた。

 その時だった。ちょうど仕事から戻ってきたらしいアリシアが慌てた調子で灯里へ駆け寄り、去りゆく背中を目で確認する。

 表情は驚いていて、なぜ彼がここにいるのか、まるで理解できていないようだった。

 

 「灯里ちゃん、あの人――」

 「あ、アリシアさん。はい、今来られたところだったんですけど、その、私が色々言っちゃって……」

 「あらあら。せっかく初めて来てくれたのに、私を待たずに帰るなんて。もう、意地悪な人」

 

 咄嗟にアリシアは駆けだそうとして、足を動かす。しかし彼女がスピードに乗る前、こちらも咄嗟の判断で、灯里が彼女の手を握っていた。

 振り返ったアリシアと目が合い、灯里の鼓動が高鳴る。それでも、手を離そうとは思わない。

 

 「アリシアさん、行っちゃだめです。だって、その……」

 「灯里ちゃん……?」

 「あの人のことはどうなるんですか? アリシアさん、本当はあの人が好きなんじゃないですか? 私が言えた立場じゃないってことはわかってます。でも……私は、アリシアさんに、幸せになってほしいんです。だから、自分を犠牲にするようなこと、しないでください……」

 

 最後の言葉を告げる頃には悲痛そうな面持ちで。灯里は自らの胸の内を明かした。

 見合いから始まったアリシアの婚約の話。それは決して良い形としてではなく灯里の中に残っていたようだ。表情は暗く、今日まで思いつめていたことがわかる。

 アリシアはそんな彼女の姿を見て、ぽつりと呟いた。

 

 「あらあら……そういえば言ってなかったかしら。あの人なの、私が言ってた彼って」

 「――え?」

 

 灯里の顔が驚愕で染められる。一方でアリシアは変わらず、いつもの笑みを浮かべたまま。

 

 「え、あ、え? でも、あの人、アリシアさんの婚約者じゃ――」

 「うふふ、そうなの。私も驚いたわ。町中でびしょ濡れになってた人が、まさかお見合いの相手になるなんて。驚いたけどね、嫌じゃなかったの。ううん、むしろ嬉しかった。想像もしてなかったから、なんだか運命的なものに思えたのよね。うふふ、彼に言ったらただの偶然だ、って言われちゃうだろうけど」

 「え、え……」

 

 灯里はあたふたと慌てるばかり。もし彼女が言うことが本当だったならば、今しがた暴走した勢いで色々と行ってた灯里はとんでもない想い違いをしていたことになる。

 しかしアリシアはそんな彼女を見ても怒らず、何が起こったかを大体把握しながら、彼女に笑みだけを見せていた。

 

 「あ、いけない。ごめんね灯里ちゃん、私、彼を連れ戻してくる。ああいう性格の人だから、私が止めないときっとあのまま帰っちゃうわ。せっかく自分から来てくれたのに」

 「は、はひ……」

 「うふふ、もう少しゆっくり話しましょう。今度は三人で。そうすれば灯里ちゃんもきっとわかるわ、あの人のこと」

 「はひ……」

 

 アリシアは急いで青年の下まで走っていき、彼の腕を捕まえると、とても幸せそうな笑みで彼の顔を覗き込む。青年は対称的な、不機嫌そうにも見える困った顔をしていた。

 傍から見ていれば、仲がいいのか悪いのか、よくわからない二人組だ。しかしアリシアは確かに幸せそうだし、出会った瞬間はわからなかったが、今見てみれば青年はさほど嫌がっているようには見えない。そんな気がする。

 灯里は呆然と、手を繋いで歩いてくる二人を見つめていた。手を繋ぐというよりは、アリシアが一方的に青年を引っ張っているだけ。だけどどこか絵になる光景だった。

 ひたすら呆然として立ちつくし、隣にアリア社長が立ったことにも気付かず、灯里の目はいつか見た、件の彼のことを話す時と同じ笑顔に思わず見惚れる。

 

 「ひょっとして私、なにか、大変なことを言っちゃったんじゃ……」

 「ぷいにゅ~」

 

 胸の内に広がるのは後悔というより、それよりも大きな驚き。灯里は何も考えられない様子でぼんやりとした表情、アリア社長の鳴き声だけが耳に届く。

 どこかふわふわとした感覚の中、彼女の目には、初めて見る二人の姿が映っていた。

 



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死の世界で、君と出会う(お姉チャンバラ・咲)

 戦いというのはやはり慣れなかった。たとえ生きるためとは言っても、他人を殺すのはひどく気分が悪い。

 思い切り振り上げた鉄パイプを、強く握った状態で再び振り下ろす。床に当たる前にぐしゃりと音が鳴り、肉が潰れる感触と、骨が砕ける感触が手にまで伝わった。

 これで五度目だ。さすがにもう動けないだろうと、青年は荒く呼吸を続けながら後ろへ下がる。

 目の前で倒れるのは人間の形をした、しかし生物ではなくなってしまったもの。死者でありながら歩みを止めない、いわゆるゾンビという存在だ。

 日本のとある町に正体不明のゾンビが大量発生して一週間。町民の多くはすでに町の外へと逃げたものの、いまだ町から出られぬ者もいる。その青年がいい例だ。

 汚れた服を身に纏い、こじんまりとしたリュックを背負って、手には簡易な武器として鉄パイプが一本。二日前から使いこんだため多数の血液がこびりつき、赤黒く染まってしまっている。

 この一週間で彼は可能な限りゾンビを殺した。逃げることを前提としていたが、そうしなければ生き残れなかったからだ。おかげで本物の死体を見るのもこれで何度目かはわからず、血の匂いや体から飛び出たピンク色の内臓なども見慣れた。決して見慣れたかったわけではないのだが。

 少しの気持ち悪さを腹に抱え、それでも初日のように嘔吐することはなく、青年は歩き始める。目的地などない。だがどこかへ行かなければならないのだ。

 現在、彼はたまたま目についたスーパーの一階に居た。表から見る分には出入り口の自動ドアが閉まっており、ゾンビを含む人影はない。それでも電気系統は死んでいないようで、大量に並ぶ食料品が荒らされることもなく並んでいた。火事場泥棒など気分が良いものではないが、生きるためにはそうしなければならない。

 念のためにと裏口から侵入しようと内部へ入り、そうして出会ったゾンビ一体を撲殺したばかり。気分は悪いものの、もうすぐ色々と手に入るのだから休んでもいられない。

 従業員のみが使う通路を通り、いくつかの部屋にゾンビがいないかを確認して、ある程度安全を確認してからフロアへ出る。するとやはり、慌てた客によって散乱させられた商品は多かったものの、食料品全般が手をつけられることなく棚の上に陳列されている。

 青年は慎重に敵が居ないことを確認し、ほっと胸をなでおろした後、ひとまずは水が入ったペットボトルを手に取った。

 人間が生きるためには水と食料は不可欠だ。青年はどかっと勢いよくその場へ座ると、まわりも忘れて無我夢中に水を飲み始める。気持ちが悪いほどに渇いた喉が潤され、死んでもいないのに生き返るようだった。

 一気に半分ほど飲み終え、ペットボトルから口を離すと、呼吸を整える間に一気に疲労感に襲われる。この一週間、ゾンビに怯え、食糧難に苦しみ、睡眠を取ることを怖がって過ごした。眠気が思考を鈍らせ、空腹が体の動きを重くしている。もうすでに限界は越えていたのだ。

 孤独でいること、状況がわからないこと、この絶望的な状況が夢ではないこと。あらゆる要因が言葉もなく彼を責め立て、かろうじて繋ぎとめた平静を崩そうと揺るがし、狂気の沙汰へと追い詰める。いっそ狂ってしまった方が楽だった、青年は今日まで何度もそう思っている。

 

 「ハァ、くそっ、なんなんだよ一体……これって、一体なんなんだ。俺に、どうしろって言うんだ……」

 「なんだ、まだ死んでなかったんだ。そっちの方が私としては嬉しいんだけど」

 

 一人きりのはずの広い店内、誰かの声が聞こえた。しかも距離はさほど離れていない。

 思わず青年は勢いよく顔を上げ、その声の主を確認する。異変が起こってからの一週間、彼は一度たりとも生きた人間に会うことはなかった。言わばその声は、彼が心から求めていたものだったと言えるだろう。

 およそ十メートルほど離れた位置、暗がりの中に一人の人間が立っている。照明がついておらず、窓から差し込む日光だけで照らされる店内では、少し確認しづらい。

 人影はコツコツという足音と共に近付いてくる。そうして見えたのはやはり確かな人間、セーラー服にも近い半そでの制服と、紺色のミニスカートに身を包んだ細身の少女だった。

 うなじのあたりで括られた黒髪のツインテール、可愛らしい容姿。そしてなぜか、右手にはむき出しの日本刀。どう見ても普通ではなさそうな少女である。

 なんと声をかけていいのかわからない。それどころか、安全なのかどうかさえ。武器を持った少女など見たことがないため、呆気にとられた青年は混乱していた。

 しかし少女は何を恐れる風でもなく、まっすぐ青年に向かっていくのだ。それがまた、青年の恐怖心を大きくする。

 

 「意外としぶといのね。戦闘の心得はなさそうだけど……少なくとも腑抜けじゃないってことかしら」

 「き、君は、一体……」

 「安心して。あんたを助けに来たの。といっても、ここから出るにはしばらくかかりそうだけど」

 

 少女は警戒心も見せずに青年の元まで歩み寄ると、座りこむ彼の隣に腰を降ろした。その際、近くにあるジュースが入ったペットボトルを手に取り、気にした様子もなく蓋を開けながらのことである。

 妙にリラックスした状態に見える。青年は少女の行動を一つも見逃すまいとじっと彼女を見つめ、観察を始めた。

 少女はさほど気にした様子でもないのである。至って冷静に刀を置き、ジュースを飲んで、息をつく。どこにでもいそうなただの少女、ゾンビなど見たことがないと言わんばかりの表情だ。

 

 「ふぅ。案外ちゃんと冷えてるじゃない。電気はまだ通ってるのね」

 「あの……君は」

 「咲。あんたと同じ、忌血族」

 「いみち、ぞく……? なんだ、それ。俺と同じって、どういう――」

 「なんだ、知らないんだね。まぁいいわ、どっちでもいいことだから。そんなことより問題は、ここからどうやって逃げるかってことだけど」

 

 少女は怖いくらいに落ち着いていた。しかし、逃げる、という一言を聞いて、青年は急速に現実へ引き戻される。

 逃げなければならない。それは青年もずっと前から考えていた。思い出すのは町中に居るゾンビたち、至るところに散乱した死体、生きた人間が居ない場所。

 とにかく、ここではないどこかへ。少女が現れた衝撃ですっかり頭から消えていたが、初めて本物のゾンビを目にした時から考えていた。

 青年は頷き、話を聞くことにした。そんな彼の行動を目の端でちらりと確認し、少女、咲は続ける。

 

 「すぐには無理ね。ここは半ば異界化しちゃって、外とは別物になっちゃってる。多分、あんたのせい。あんたの忌血が強力すぎて、屍霊どもだけじゃなくて妙なものまで呼んじゃったんじゃないの?」

 「え、は? あのさ、いみち、とか、しりょう、とかってなんなの? 俺のせいで逃げられないって、よくわからないんだけど……」

 「どうせ説明したってわからないわ。とにかく今は、助かる手立てはある、だけど時間がかかるってことだけ覚えといて。通信機は繋がるし、お姉ちゃんもいる。めんどくさいけどあの姉妹もね。身の安全のことは私たちに任せて、あんたは方法を見つけて外に出るまで死なないことだけ考えてなさい」

 「あ、あぁ……」

 

 そう言って咲は立ちあがり、一度通路を歩いて棚に置かれている物を確認し始めると、何かを探すように向こう側へ消えた。しかし、すぐに何かを手にして戻ってくる。

 再び青年の隣へ座った彼女は、おもむろに菓子が入った袋を開け、食べ始める。パリッ、とどこか懐かしい音を立て、可愛らしい口がスナック菓子を咀嚼する。

 

 「食べる?」

 「いや、今はそんなことしてる場合じゃ――」

 「今は休憩。あんたがあちこち移動するから、探すのめんどくさかったんだもん。どうせ外に出る方法が見つかるまで時間かかるんだし、少しくらいいいでしょ」

 

 対称的な姿である。不安に怯え、おどおどと落ち着きのない青年に対し、咲は家の中に居るかのような落ち着きようだった。

 青年の注意が、彼女の隣へ置かれた武器へ移る。実物を見たのは初めてだが、それは確かに日本刀だ。

 彼女はここまで、一人で来た。よく見なくとも服には多数の血が付着していて、しかし痛そうな振る舞いがないことですべて返り血であることがうかがい知れる。つまり、やはり考えられるのはここまでの道中、襲い掛かってきたゾンビはすべてその刀で斬り殺してきたということだろう。

 服には返り血が付いているのに、顔を含め腕や脚、肌にはまるで汚れがない。これほど荒れ果てた町の中、血でなくとも汚れる要因はいくらでもあるというのに。

 少しだけ、青年は彼女に恐れを抱いた。わざわざそれを言おうとは思わなかったが、明らかに一般人ではなさそうな雰囲気に呑まれてしまう。

 もう一度、咲がスナック菓子の袋を向けてくる。視線だけで、食べるかと聞いていた。

 今度は青年も手を伸ばし、ぎこちない笑みを見せながら一口食べる。すると、あまりにもぎこちなかったのか、咲がフンと鼻を鳴らした。

 青年は久しぶりに生きた人間と言葉を交わすことに緊張しつつ、少し気分を落ち着けようと努めながら咲へ声をかける。

 

 「あのさ、一つ質問、っていうか提案なんだけど」

 「なに?」

 「その、ここは食料もたくさんあるしさ。よくわからないけど、まだこの町から逃げられないって言うならここにバリケードでも作って、籠城した方がいいんじゃないかな? ほら、外にはその、あいつらが……」

 「ああ、屍霊ね」

 「そう、それ。ゾンビみたいな奴ら。外から入れないようにだけしといて、後は方法がわかるまで待てば、生き残れるんじゃないかって」

 「ふぅん。ま、そうかもね。私逃げるとか隠れるって苦手だから思いつかなかったけど、確かに普通ならそうするのかも」

 「に、苦手って」

 

 事もなげにそう言い、咲は一枚スナック菓子を摘んで口に運んでは、青年へ袋の口を向ける。断るのも悪いと思い、さほど食欲はないものの青年もそれに応じて菓子を口にした。

 緊張からか、あまり味がわからない。ここ数日、立ちよった家屋で少しばかり食料を拝借したものの、連続する緊張と戦いと逃避のせいであまり食べようとも思えなかった。味がわからないということは、まだ安心できていないようである。

 青年は小さく、溜め息をついた。まだ疲労が大きい。ともすれば脂っぽいスナック菓子を摘む指が震えてしまう。ゾンビに襲われる恐怖が、骨の髄まで沁みついて離れないようだ。

 咲はふと、青年の指先の震えに気付く。日本刀を持ち、それを操る技術を持つ彼女とは違うのだと、ようやく青年が普通の人間であることを理解した。

 ふぅんと呟いて、袋を置く。それから咲は日本刀を手に持ち、立ちあがった。

 刀身が長い長刀である。身長が低い咲が持てばその長さが異様に目立ち、青年は言葉もなく見とれてしまった。

 咲の視線が見下ろすよう、座ったままの青年を見る。

 

 「わかった。それじゃあそうしましょう。とりあえずあんたが普通の状態に戻れるまで、ここを安全にしてから身を隠す。それでいい?」

 「あ、あぁ」

 「この建て物、何階建てまであるの?」

 「多分、三階まで。俺も初めて来たけど、そういう表示を見たと思う」

 「そう。じゃあ私が上まで全部見てくるわ。ゾンビがいたら、あんたに近付く前に斬ってあげる」

 「あ――」

 

 咲は迷いもなく歩き出す。青年はおもむろにその背へ手を伸ばし、届きもしないのに指を伸ばす。

 やはり手が、腕が、体が震えていた。どこかに隠れているかもしれない、忘れていたわけでもないのに思い出して恐怖が襲ってくる。

 出会ったばかりの少女が心配なのに止めることができない。青年はそれでも必死に全身へ力を入れ、絞り出すようにして声を発した。

 水を飲んだばかりだというのに、喉も口の中も、カラカラに渇いていた。

 

 「あの、ひ、一人で大丈夫なのか? なんだったら俺も――」

 「心配いらない。むしろ、いっしょに来られると邪魔になる」

 

 コツリと足音を鳴らし、咲の足が止まった。彼女はゆっくりと振り返る。

 少しツリ目がちの、可愛らしい顔に笑みが浮かぶ。ひさしぶりに見る人間、可愛い女の子、勝ち気な笑みに、青年はやはり隣に座って会話していた時のように呆然とその姿を見つめた。

 直後、咲の手が素早く動き、鞘に納まっている刀を一度抜いて高速で戻す。いわゆる、居合いの動作。

 見ると彼女の傍にあった背よりも高い棚が縦に真っ二つとなってしまった。人間離れした業、思わず青年も口をあんぐりと開けて言葉を失くす。

 並みの人間では、たとえ剣術の師範であったとしても不可能だろう。咲は青年の驚いた顔へ向けて得意気に微笑み、右手を腰に当てる。

 

 「これでも、一人で大丈夫そうには見えない?」

 

 問いかけに対し、青年は全力で首を左右に振って答えた。そんな人間、動きの鈍いゾンビに食われるわけがない。

 勝ち誇った笑みを見せながら、今度こそ咲は振りむいて歩き出した。向かう先には稼働を止めたエスカレーターがある。

 

 「じゃああんたはここにバリケード作っといて。外から中に入れないように。その間に私が上まで調べるから、一階から出ないでよ」

 「わ、わかった……よろしくお願いします」

 

 動かないエスカレーターを歩いて昇り、咲はまず二階へと消えていった。それからしばらくして、青年も行動しなければと立ちあがる。

 幸い、一階は食料品フロアだったため、商品陳列用の棚がいくつもある。一人で運ぶのは辛いものだが、それでも建物内のゾンビを探して殺す役割のことを考えれば百倍マシだ。

 青年は時間をかけてバリケードを作る。大通りに面する壁はガラス張りなため、念のために棚を置いて内部を隠すと同時に壁を作ることにした。少しでも軽くしようと棚から商品を落とし、床にばら撒いたままだがなんとか棚を押して、床を傷つけながら一面に並べる。

 時間はずいぶんかかった上、服が汗まみれになったが、仕事は終わった。その後、彼は咲がまだ戻らないことを知ると、一階のスタッフルームを改めて調べることにする。

 スタッフしか利用しない部屋、廊下、トイレ。裏も見て回り、表は相変わらず商品が無造作にばら撒かれた状態での静寂。ゾンビらしき物は何も居ない。

 ひとまず小さく息をついて、青年は最初に座りこんだ場所へ戻った後、腰を降ろした。そのまま、不安そうにぎゅっと膝を抱える。

 体は疲れ切っている。できれば睡眠を取って体力の回復を図りたいが、怖くてそれもできない。彼はそのまま、咲が戻ってくるまで待つことにした。

 無人のフロアはとても寂しく、同時にどこか恐ろしい。敵がいないことは確認済みだというのに、どれほどじっと見つめていても恐怖心が離れない。

 青年はどうにも落ち着くことができず、一度トイレに立つことにした。用を足して、手を洗い、ついでに水だけで簡単に顔を洗ってから鏡を見る。

 ひどい顔色だった。これではどちらが死人かわからないと、自嘲するように心の中で呟く。

 理由のわからない異変に巻き込まれて一週間、常に孤独で、まわりにいるのはゾンビばかりだった。それだけに咲との出会いは嬉しく、突然の出来事に思考が白く染まりながらも、涙が溢れそうだった。

 今、明日が見えなかった地獄の中で、ようやく助かるかもしれない希望を見出した。この一週間は無駄ではなかった、ただその事実だけが勇気を与えてくれる。

 最後にもう一度顔を洗い、再びフロアへと戻る。なぜか足がふらつき、自分がとうに限界を越えていたことがわかった。

 フロアへ戻って元の場所に向かってみれば、そこにはなぜか、制服を脱いで下着姿になっている咲が立っていた。

 

 「あら、遅かったわね。どこに行ったのかと思ってた」

 「な、何してんだよ、こんなとこで」

 「服が汚れたの。上にも数匹、屍霊が居たから皆殺しにしてやったわ。そしたら、思った以上に返り血浴びちゃったし、代わりの服も見つけたから着替えようと思っただけ」

 「だ、だからって、俺がいるのもわかってるのに、どうして上で着替えて来ないんだ」

 「しょうがないでしょ。あんまり私が帰ってくるのが遅いと、あんたが危ないと思ったんだから」

 「俺が、危ない?」

 「今にも死にそうよ、あんた。私が居なかったら自殺もありえたんじゃない?」

 

 言われて、ぐうの音も出なかった。青年は言葉を失い、口を閉ざして視線を床へ向ける。

 咲の下着姿には、見てはいけないような神々しさと色気が混じり合っていた。全体的に触れれば折れてしまいそうなほど細く、胸はほとんどふくらみがないが、子供っぽさを残す肢体には喉が鳴る。

 ただでさえ女とは縁遠い生活をしていたのだ。その上でこの狂気の世界、ゾンビを相手に常に緊張していなければならない極限状態の日々。青年がおかしくなるのも当たり前である。

 青年は自分の股間が熱く、大きくなることを自覚していた。だが同時に、汚らわしい奴だ、とも思う。相手は自分を助けてくれた命の恩人、しかも状況が状況であり、相手の年齢のこともある。

 咲は、良く見ても高校生、悪く見ればまだ中学生にも見えてしまう外見だ。もしもここで手を出してしまえば、いくら危険な状況の中で頭がおかしくなりそうだったと言っても、許されることではないだろう。ましてや、元の平和な生活に戻れるのならなおさらだ。

 ぐっと唇を噛みしめ、両手を強く握りしめた青年は咲にと背中を向け、拒むように目を閉じる。それでも股間の憤りは止まらず、脳裏にはすでに焼き付いてしまった咲の半裸が浮かんでいた。

 

 「どうしたの?」

 「いや、別に。なんでもない」

 「そ。別に気にしなくてもいいのに。どうせ後で見るんだし」

 「え――?」

 

 咲の言葉が気になって、青年は思わず顔だけ振りむいてしまった。その頃には咲はまっ白いワンピースを身につけていて、下着も肌の大半も隠れている。

 安堵と共に改めて青年は咲を見やり、どういうことだと質問する。彼女の一言は、何か気になるものを含んでいたように思えてならない。

 

 「あの、今のはどういう――」

 「ねぇあんた、お風呂には入った? ここに来てから、一度でも」

 「え? いや、そんな暇はなかったから、一度も……水でタオルを濡らして、体を拭くとか、そういうのは頻繁にやってたけど」

 「ちなみに今日は?」

 「えっと、今朝に一度。でもその後、ここまで来るのとか、さっきの棚を動かしたりだとかで、結構汗かいたりはしたんだけどさ」

 「そう。なら、今すれば? どうせこれじゃああいつらも入ってこれないだろうし」

 

 咲がバリケードを見渡し、そう言った。確かに壁一面に棚を並べ、ガラスを押さえた今、そもそも自分たちの存在が気付かれる確率が低くなった上に突破するのも困難だろう。たとえ入ってこれたとして、今は咲が居る。その目で見たわけではないものの、彼女の太刀筋を見れば、安全を得たと言っても過言ではなかった。

 青年の安堵が大きくなる。緊張が抜けきってはいないが、膝が震えて今にも座りこんでしまいそうだった。

 ふぅ、と一息吐いてから、青年がわずかに頷く。ちょうど汗が気持ち悪くなっていたところだし、気分を変えてリラックスするにはちょうどいい。

 青年は背負ったままのリュックを確かめ、咲に笑みを向ける。

 

 「わかった。それじゃあ、俺はトイレに――」

 「ここですればいいじゃない。体を拭くだけでしょ」

 「え、いや、でも……せっかくなら裸になって、全部拭きたいし」

 「別に問題ないでしょ。私は気にしないわ」

 「いや、君はそうでも、俺は結構気にするタイプで――」

 「ほんとにそれでいいの? せっかく人間に会えたのに、これ以上の孤独に耐えられる?」

 

 まるで心の中を見透かされたような言葉だった。青年はひゅっと音を立てて勢いよく息を吸い込む。

 孤独に耐えられるか。そう聞かれて、イエスと言える考えは微塵もない。青年は今、否、世界が変わった一週間前の時点から孤独と戦い続け、そして今では限界に至っていた。これ以上一人になってしまっては、きっと壊れる。自分自身でそう思う。

 孤独、その言葉を聞いた途端、全身がわかりやすいほどぶるりと震えた。無理だ、耐えられるわけがない。もう一人になるのは嫌だった。

 青年の膝から力が抜け、その場で崩れ落ちる。咲に出会って夢心地だったが、改めて現実を突きつけられたようだ。

 わずかに頷き、考えを肯定する。もはや、自分一人になってしまっては絶望に魅入られ、自ら死を選ぶ未来しか想像できない。そう考える自分自身が怖かった。

 

 「……上に行きましょ。雑貨も置いてあったから、お風呂やシャワーは無理でも使える物はあるでしょ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 肩から水をゆっくりとかけられ、予想外の冷たさに体が震えた。それでも文句が出ないのは、やはり気持ちが良かったからだろう。

 青年は今、雑貨部分から持ってきた大きなタライの中で、下着すら脱ぎ去って裸の状態で水浴びをしている。背後にはワンピース姿の咲がいて、甲斐甲斐しく世話を焼くようにペットボトルの水を背中からかけ、タオルで擦るように洗っていた。

 まるで赤ん坊のようである。しかし実際、青年はそれにも近い精神状態だった。口調や思考こそ大人のままなのだが、一人になって孤独を感じることをひどく恐れ、裸を見られることを恥ずかしがるより傍に居て貰うことを望んだのだ。

 主人と従者、というよりは乳母と赤ん坊の関係である。青年はぐったりと疲れた様子でタライの中に座っており、目は閉じて、口元には笑みらしきものすらあった。

 

 「どう? 生き返った気分になるんじゃない?」

 「ああ……なんだか、やっと安心できる気がする」

 「ま、普通の環境で育ったわりにはよくやった方よ。よく今日まで生き残れたわね」

 「死に物狂いで頑張ったんだ。正直今まで、生きた心地がしなかった……でも」

 

 青年が自らの肩を抱くように手を伸ばし、より小さく縮こまる。体は目に見えて震えていて、いつからか麻痺していた恐怖感が、今になって襲い掛かっているようだった。

 語る声もか細く、明らかに力がない。濡れて垂れ下がった髪に隠される顔は、血の気が引いてゾンビにすら近い顔色だ。

 

 「今になって、思い出す。俺、色んな人を殺して、あの町の中を、走ってきたんだ……今でも忘れられないんだ。あの感触……人を殴って、肉と骨が潰れるのが手に伝わって――」

 「あれは人じゃない。ただの屍霊よ。殺したって気にする存在じゃないわ、だって生物ですらないんだもん」

 「でも、俺は、何人もあれを……」

 「あの世から無理やり呼び戻されただけよ。むしろ殺して送り返してやった方がいい。あんたがしたことは、決して悪い事じゃない」

 

 青年の背を撫でながら、咲は感情を感じさせない声でそう呟く。

 戦う力を極限まで磨いた彼女は、これまで多くの戦いを経験してきた。屍霊と戦うことも今日が初めてではなく、これまで何度となく繰り返した経験の一つでしかない。

 彼が殺したのは生物ではなく死者ですらない、異形の存在、死すべき者。だから気に病む必要はないと、タオルを置いて素肌で彼へ触れる。

 だが青年の震えは止まらず、俯いた顔は振り向こうともしない。咲は小さくため息をついた。

 そこで考えついたのである。いずれは、と思っていたことだが、今なら別段問題はないだろうと。

 咲は立ち上がり、音を立てるでもなく少し動いた後、改めて青年へ呼び掛けるのだ。

 

 「あんたさ。セックス、したことある?」

 「――は?」

 

 思わず驚き、震えすら止まって、青年は気付けば背後を振り向いていた。

 立ったままの咲は笑みを浮かべるでもなく、無表情でじっと青年を見ている。とてもふざけている雰囲気には見えなかった。

 

 「な、なにそれ。いきなり何言いだすんだよ」

 「いいから、教えてよ」

 「……一応、あるけど」

 「なんであるのよ」

 「え、そ、そんなに怒らなくたって」

 

 あると答えた青年が気に入らなかったのか、咲はあからさまにむっと表情を歪めた。眉根にしわをよせ、不服そうな態度はありありと見えている。

 今度は青年が困ってしまった。突然の質問に、理由がわからない機嫌の変化。あまり女性経験があるわけでもない彼にとって、難しい局面である。

 

 「俺だって一応だけど、彼女が出来たこととかあるし、別におかしなことでもないだろ」

 「知らないわよ、そんなの。なんかムカつく」

 「なんで……むしろ俺は、そこらの奴より経験少ない方で――」

 「うるさい。バカ」

 

 咲の機嫌は明らかに悪くなっていた。原因はなんとなくわかるものの、なぜそれで怒られているかはわからないようだ。

 青年は怒ったわけでもないが眉間にしわを寄せ、困り果てて言葉を呑んでしまう。せっかく出会えた唯一の人間、できれば関係は悪くしたくない。話す声も心配そうに、おどおどした調子が強くなった。

 

 「あの、俺何かしたかな? なんでそんなに怒ってんの?」

 「童貞っぽい顔してるからてっきりそうだと思ったのに。何勝手にヤッてんのよ、尻軽」

 「か、軽くないっての。身持ちが固いから経験少ないんだろ」

 「じゃあ聞くけど、彼女いるの?」

 「……今は、いないけど。でも前は居たから童貞じゃないわけで――」

 「聞いてないわよ、そんなこと。どうせつまんない女だったんでしょ。別れてるくらいなんだし」

 「いやそんなことは……ない、とは思う、多分」

 「フン」

 

 昔を思い出した様子で、青年はまた少し俯いて考え込んでしまう。それすらも気に入らないようで咲は小さく鼻を鳴らした。

 しかしそうしていたのも数秒、彼女はワンピースの裾を両手でぎゅっと掴むと、少しばかり緩めた表情で話しだす。

 

 「私、セックスしたことない」

 「え? あ、あぁ、そう。そうなんだ……まぁでも年齢的におかしくないだろうし、別にそれは」

 「してよ、セックス。私と」

 「へ? な、何言って――」

 

 ゆっくりと、咲がスカートをまくり上げていく。細い脚が、下から上へ向かって徐々に明らかとなり、青年の目に映る。

 驚いたのは腰のあたりまでまくり上げた時だ。なぜか咲は下着を身に着けておらず、毛が生えていない恥丘が、遮る物なく確認できてしまった。

 青年は驚き、慌てたものの、状況が飲みこめずに目を逸らすことすらも忘れてしまう。ただただそこにある少女らしい秘部に目を奪われ、視線を合わせることなくぼんやりと口が開いていた。

 

 「な、な、な、何して……」

 「見たらわかるでしょ、セックスしてって言ってんの。どうせ裸なんだし、ちょうどいいでしょ」

 「ば、バカ言うなって。会ったばかりだし、それに、こういう状況だ。そんなことしてる場合じゃ……」

 「じゃあ何してる場合だって言うのよ。今のとこ、あんたも私もやることない。逃げるための方法は私の仲間が探ってるわ。だからちょうどいいじゃない」

 「だ、だから、そういう問題でもないって話で」

 「それに、あんたは忘れてるみたいだけど、初めて会ったわけじゃない。勝手に忘れたあんたが悪いんでしょ」

 「え?」

 

 咲がそのままの状態で一歩を踏み出し、青年の鼻先に触れるか触れないかというほど、彼女の股間が近付いた。

 息をすることすら悪く思え、青年は心臓の鼓動が激しくなっていることに気付きつつ、やはりそこから目が離せない。先程より近付いた分、近くで見るそこはずいぶんときれいで、彼女の言う通り男を知らなさそうな形をしている。

 先程まで全身を支配していた恐怖が消え、興奮に包まれていくのがよくわかった。青年はすでに咲の雰囲気に呑まれ、正常な思考力など持っていなかった。

 

 「舐めてよ。ヤッたことあるならわかるでしょ」

 「ちょ、ちょっと、待てって。なんで突然そんなこと……わかった、一旦落ち着こう、な?」

 「うっさいわね。さっさと舐めて。それとも、刀で脅されながらレイプされたい? 私はどっちでもいいけど」

 「い、いや、それは」

 「じゃあ舐めて。刃で肌を撫でられたくないなら、できるだけいやらしくね。気持ちよくしてよ、私のこと」

 

 そう言って咲は片手を離し、青年の後頭部へ手を当ててぐいと自らの股間へ埋める。有無を言わさぬ手つき、迷いのない動作だ。

 しかし青年の方は迷っている様子を隠せず、鼻の頭へそこが触れているというのにどうすることもできない。興奮しながらも困っており、視線をうろちょろと彷徨わせている。

 焦れた咲が、少し苛立ちを声に混ぜ、彼へ言った。もはやこうなってしまっては立場は彼女が上であり、青年は彼女に見捨てられないよう気をつけて行動しなければならない。即席ながら主従関係は完全に確立していた。

 

 「できない? じゃあやっぱりレイプされたいんだ」

 「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ。そういうわけじゃなくて、その――」

 

 突然咲が動き出し、青年の頭を離させたかと思えば、次の瞬間には彼を突き飛ばして床へ倒していた。動きの途中でタライはひっくり返り、中に溜まっていた水が辺りへぶちまけられる。中へ入っていた青年はもちろん、咲まで全身を濡らしてしまう有様だ。

 青年は背中から床へ倒れ込み、痛みに表情を歪めてすぐには動けない。咲はその間に、非常に素早い動作で彼の体を押さえつけ、顔を跨ぐような体勢となっていた。

 ぴたりと閉じられた自らの秘所を見せつけ、彼の羞恥心を刺激しつつ、本人は恥ずかしがるでもなく冷静な表情。見下ろすように告げた。

 

 「私さ、刀だけじゃなくて殴り合うのも得意なの。希望があるなら聞くけど? ボコボコに殴られながらがいいか、それとも刀の方がいい? 脅されてレイプされたい?」

 「ま、待て、わかった。言う通りにする、するから……れ、レイプってのは、やめてほしい……」

 「そ。じゃあ早くして。舐めて気持ちよくしてよ」

 

 咲が青年の顔を跨いで腰を下ろす。閉じた割れ目は青年の唇に押しつけられ、彼は思わずくぐもった声を出す。スカートの部分に顔が隠され、彼の視界は衣類の中にあった。

 

 「ほら、やり方は知ってるんでしょ、私以外の女で。さっさと舐めて」

 

 言われるがまま、もはや抵抗する意味もないと感じ、青年は舌を伸ばし始める。ひさしぶりに味わう女の体だ、舌の動きにも熱意がこもった。

 最初は戸惑いを見せるように、力の入らない遠慮がちな様子だったものの、二度三度と割れ目をなぞる内に興奮が高まる。青年は鼻息を荒くしながら舌先に力を込め、彼女のそこを熱心に舐める。

 咲は小さく声を洩らし、感じている様子を見せながら、自分からも強く股を押しつけた。もっと強い快感を、そう言っているかのようであった。

 

 「んっ、ふっ……はぁ、まぁまぁじゃない。それはそれで、んっ、ムカつくけど」

 

 ぐいぐいと腰を前後へ振って、さらに強く押しつけながら咲が呟く。高圧的で有無を言わさぬ態度、少しツリ目がちの目にはよく似合った声色である。

 青年も何も言えず、ただ黙って舐め続ける。彼女の膣を舌で探り、徐々に潤い始めるそこへ舌を差し込もうと何度も触れる。

 咲自身の力が加わって、感度はどんどん高まっていった。今、彼女の口からは、確かな喘ぎ声が洩れ出していたのである。

 

 「はぁ、あぁっ――」

 

 喉を震わせ、ぶるりと体を揺らし、咲は目を閉じながらも天を仰ぐ。股からじんわりと広がる快感は心地よいらしく、体の震えも徐々に大きくなっていた。

 同時に、青年は今や彼女の体に夢中だった。喜んでいるのは咲だけではないようで、ゾンビに囲まれながら今日まで生きた彼は女に触れるのもずいぶんと久しぶり。そのため自然と鼻息が荒くなり、興奮はますます強まっていくようだ。

 舌先へ強く力を込め、最初は無理やり始められたそれも自ら望んで。青年は咲の秘所を飽きもせず舐めまわす。

 そうしていると咲が自ら腰を上げ、青年の顔を跨いだまま、じっと佇んで動きを止める。唾液で濡れ、内側から溢れ出る愛液を垂らし、見せつけるかのように。

 青年はごくりと息を呑んだ。相手はまだ女として完成していない年頃の少女。それなのにその細い体から溢れ出る色気は凄まじいものがあった。

 彼の股間は熱く滾り、男としての本能を止めることはできない状態だ。彼の視線は咲だけに集中し、我慢ができない手は静かに、ゆっくりと彼女の胸へと向かっていた。だが指先が届く前に咲の手によって止められ、彼女は立ちあがって彼を見下ろす。

 

 「なによ、今さらその気になったの?」

 「し、しょうがないだろ。ここまでされて、興奮しないわけない……」

 「ふぅん。でも言っとくけど、私があんたをレイプするのはもう決めてるから。めんどくさいからあんまり抵抗しないでよ」

 「ちょ、ちょっと待て、それはしないって約束――」

 「してないわよ、そんなの」

 

 文句を言いたかった青年であったが、咲がおもむろにワンピースを脱いだことで動かそうとした口が止まった。ブラジャーだけを身につけ、後は白い肌を晒した彼女はなんとも美しく、神々しい雰囲気を持つ。言葉を呑み、じっと見ることに集中してしまうのは仕方のないことだった。

 ブラジャーすら脱ぎ捨てられた姿を見て、ますます彼のペニスは固くなり、己の内にある欲望が一層強くなってマグマのように煮えたぎる。だがそれを察した咲が彼の肩へ手を伸ばし、押さえつけるため、単純な力の差で彼は簡単に動けなくなってしまう。

 彼女は少女らしい細さの腕であるのに、男ですら顔負けの筋力を持っていたようだ。男のプライドをへし折る、あまりにもひどい現実に青年は驚愕するが、これから何をするかわかっている以上は文句を言い出す気にもなれなかった。

 今はただ、荒んだ心に潤いを。彼は心から女を欲し、咲を欲し、快楽を欲していたのだから。

 

 「さっきも言ったけど、私初めてなの。私のペースで動くから、あんたはじっとしてて。もし勝手に動いたりして痛かったら裸でゾンビの前に突き出してやるから」

 「わ、わかった、絶対動かない。それだけは嫌だ」

 「そう。なら、するわよ、セックス――」

 

 わざとらしくそう言って、咲のしなやかな指が彼のペニスへきゅっと絡みつき、弱弱しく握って位置を整える。数度、ぺちぺちと音を立ててペニスで膣の入り口へ触れ、それからようやく挿入する覚悟が整ったようだ。

 ふぅと短く息をついてから、咲はゆっくりと腰を沈め始める。すると手で押さえているためか、彼のペニスは徐々に彼女の膣へ飲みこまれていくよう、ずるずると音もなく肉の壁に包まれていく。

 苦しげに眉をひそめる咲とは違い、青年は嬉しげに声を洩らしていた。彼も眉間にしわを寄せているのだが、口元には明らかな笑みがあり、興奮に見合った快感を得ていることがよくわかる。腰を動かしたい衝動に駆られて、しかしそれを許されず、物足りなさを感じている様子はあるが、少なくともある程度の余裕を持ったままなのは明白である。

 対して咲は、あまり余裕があるとは言えない。多少の痛みと、未知の感覚、その中でも感じる快感があって、途端に呼吸を乱し始めた彼女は混乱しかかっているようであった。

 純粋に気持ちよさそうな表情を見せる青年を見つめ、むっとした表情を見せた咲は両手を動かし、すっかり勃起している彼の乳首を強く捻った。

 

 「痛っ」

 「はぁっ、バカ面。なに気持ちよくなってんのよ。私が、んぅっ、まだ慣れていないっていうのに、一人だけ勝手に……そういうの、んっ、ひとりよがりって、言うのよ、バカ……」

 「しょうがないって、これ……うぅ、締まりが、すごい」

 「んはぁっ、動いちゃ、だめよ……私が、するんだから――んっ」

 

 腹へ両手をつき、非常にゆったりとしたペースで腰を上下に動かして、貪るように快感を得る。咲は目を閉じ、うっとりとした表情で淡々と腰を動かし続けた。

 いつしかどちらも余裕がなくなり、言葉もなく行為へ集中していた。時間が経てばそれだけ余裕もにじみ出て、動きの激しさも増し、二人は玉のような汗を掻き始める。

 時間を忘れて、ただ相手の肉体と快感にだけ集中するのは興奮したようだ。他には誰もいないスーパーの店内で、隠れることもなくフロアのど真ん中、裸になって性行為をしているのである。かつてない経験に青年は息を乱し、かつて経験したそれよりもよっぽど集中している。

 上下の動きによってひたすら快感を貪った後、咲はある時ぴたりと動きを止めて、汗が浮かんだ額を拭うと、興奮しきった目で青年を見た。

 

 「はぁっ、ねぇ……動いてよ。もう怒ったりしないから」

 「え、い、いいのか?」

 「うん……もうちょっとでイケそうだから、イカせてくれるなら、ね」

 「よ、よし、頑張る。それじゃあ、えっと……た、体勢とかは、このまま?」

 「知らない。変えたいなら好きにすれば」

 

 そっけなく告げてぷいっとそっぽを向き、それきり咲は何かを言おうとはしなかった。ただわずかに腰を前後へ動かし、いまだやめる気はないとだけ伝えてくる。

 青年は突然与えられた自由に困惑したものの、これはチャンスだと判断し、自ら体勢を変えるべく動き出した。上半身を起こすと、下腹部の上に乗った咲を押し倒すようにして地面へ寝かせ、器用にも繋がったまま正常位の体勢へ持ち込んだのである。

 咲は文句を言わない。そのことにほっとしながらも、彼は改めて彼女の肢体を眺め、息を呑む。やはり美しい、と思わざるを得なかった。

 

 「い、いくぞ」

 「ん……」

 

 床へ手をついて、ゆっくりと腰を動かし始める。よく潤ったそこはいまだ固さが残るものの、最初に比べて随分と絡みつくようになった。数度の動きでそれを確認した後は、もはや我慢できなかった。

 青年は突然、腰を大きく引いた状態から勢いよく前へ突き出し、ペニスを思い切り咲の膣内へ押し進める。あまりの勢いのためか、咲は目を見開き、唇を強く噛んで息すらできなかったようだ。

 やはり動きが変わると快感の度合いも変わるようで、青年はにやける頬を止められず、咲は混乱したようにあたふたし始めた。震える手を伸ばして彼へ触れようとするのだが、それよりも先に青年が動きを再開させるのである。

 

 「ま、待って、今のなんか――うぁっ!? あっ、あっ、んんんっ――!」

 「くぅ、うぅ、う……!」

 

 青年の動きは大胆に、大きくなり、先程までとは違う快感にむせび泣く咲をこれでもかと責めていく。どちらも必死の形相を浮かべ、他の物事を少しも考えられない状態だ。

 静かな空間でぐちゃぐちゃという卑猥な水音が響き、悲鳴のような甲高い声だけが聞こえていた。

 目だけではなく耳から入る情報すら興奮を高める材料となり、青年は咲の胸へ手を伸ばし、片手では彼女の腰を掴むと、さらに強く腰を打ちつける。すると咲は彼の頭を胸の中へ抱え込み、余裕のない声で高く鳴いた。

 

 「ああっ、もうだめっ、イキそう、イキそうっ……!」

 「くっ、イケ、そのままイケっ、俺ももう……!」

 「うんんっ、やぁ、はぁぁっ……!」

 

 ぎゅうと抱きつき、強く目を閉じて、二人は強く抱き合う。肌がぴたりと重なったことにより繋がりもさらに深くなって、感覚が暴走するせいかもはや正常な思考など欠片もない。

 ついに咲が絶頂を感じ、己の膣内をぎゅううと締めあげると、青年も追いかけるように射精した。その時、二人は強く抱き合っていたため体を離す余裕もなく、自然と膣内へ子種を注ぐ結果となる。

 

 「あぁっ、はぁぁぁっ……んぅ!」

 

 ドクドクと脈動する竿が精子を吐き出し、咲の膣を白く汚す。しかしその感触や熱すらも快感に変わっていたせいで、二人は気にすることもなくさらに強く抱き合った。

 絶頂の波が引く間中、ずっと抱き合っていた二人の耳に届くのは互いの荒くなった呼吸と、すぐ傍で広がる膨大な無音。そうして強く抱き合って静かにしていれば、まるでこの世に残ったのが自分たちだけという気分にすらなる。

 青年は咲の胸に頬を当て、小さいながらも柔らかい感触を改めて感じつつ、今になって彼女の心音を聞く。激しく動いたためだろう、鼓動は速くなっていて、けれども落ち着く音であった。

 青年は目を閉じ、甘えるように彼女を抱きしめる。ようやく触れた人肌が心地よく、離れたくないという気持ちがとても大きかったのだ。

 

 「ん……案外、悪いもんでもないわね。セックスって」

 

 咲もまた、青年を受け入れて彼の頭を掻き抱き、汗に濡れた黒髪を撫でる。体に纏わりつく疲労はゾンビと戦った時に得るものとはまた違うが、その時よりもずいぶん気分がいい。今は本心にない悪口を言う気にはなれなかった。

 

 「咲……」

 「ふふ、初めて名前呼んだわね。何?」

 「ええっと、恥を忍んで言うけども……もう一回、だめかな?」

 「ふふん、なに、私の体にハマっちゃった? 仕方ないわね」

 「あ、ありがとう。それじゃあ――」

 「ただし」

 

 少しばかり表情を変え、にやりと口の端を釣り上げた咲が青年を押しのけ、繋がったままだというのに座って抱き合う形となった。青年の上に咲が乗り、互いの背に腕を回して至近距離から見つめ合う。

 

 「今度こそ私がイカせてあげる。あんたは今度こそ動かないでね。でないと今度は力ずくでレイプするから」

 「……はい」

 

 互いに強く抱き合い、幸福な瞬間を共有したものの、いじめっ子にも近い咲の気質に変化はないようだ。

 彼女はあくまでも青年よりも優位に立っていたいようで、自ら腰を振り始め、指示どおりに動かない青年へ、自らの動きだけで快感を与え始めた。彼女の膣からはどろりと大量の精液が溢れだし、接合部どころか太ももを濡らしながら更なる快感を求める。

 二人はしばらく時間を忘れて、抱き合った。理由はいくつかある。

 一つは、単純にそれ以外に時間の潰す方法がなかったこと。なにより、咲が彼を求めてやまなかったせいである。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 独特の疲労感が全身を包んでいた。背を預けるのはクッションもシーツも敷かれていない床の上、無人の雑貨売り場の中、汗と淫らな体液に全身が濡れた状態で横たわっている。

 青年が伸ばした腕に咲が頭を置き、二人は向かいあうようにして寝転んでいた。疲れた様子で視線を合わせ、ようやく息を整えたところで言葉を交わしている。

 二人は穏やかな顔つきで、休息の間にずいぶんと冷静になったようだ。疲労も抜け切らず、ぼんやりと頭が重い感じもあるが、気分だけは悪くない。精神的には非常に良い状態で向き合っていると言えるだろう。

 この数日間で荒んでいた青年も落ち着いた様子を見せ、今になってようやく安全を感じてほっとしたようだった。

 

 「こうしてると、なんかさっきまでのことが嘘みたいだ……俺、ゾンビに追われて、たくさん殺して、必死に生きようとしてたのに。今は裸の美少女と見つめ合ってる」

 「感謝しなさいよ。どう見ても平凡なあんたじゃ、若いおマンコ味わうなんて途方もない苦労するんだから」

 「いや、おまんこって。女の子なんだからもうちょっとそういう言葉に慎みと言うか、羞恥心を持った方が――」

 「どうせ理解できるのはあんただけよ。他の連中は正常な思考なんて微塵も持っちゃいないわ。今はただ、食欲を満たすために人間を襲うだけ」

 「なるほど……よく知ってるんだな」

 「そういう血筋なの。私も、あんたもね」

 

 咲の指が青年の胸を這い、どこを目指すわけでもなく、するすると音もなく移動する。

 他人に触れるということは、また触れられるということは、こんなにも幸せなことだったのか。生きる者がない世界で生き、死者に追われながら暮らした数日間を終えた今、青年は改めて実感した。自分ではない誰かのぬくもり、一人ではないのだという感覚、目と目を合わせて言葉を交わすということ。

 青年はもう、咲の顔から目を離すことができなかった。それが恋か愛かと自問自答をしてみるも、言葉で表せるものではないという結論に達したのである。

 

 「あんたも私も、忌血族。普通じゃない血を持ってるの。私も昔、お姉ちゃんに助けてもらうまで、この血でひどいことをした」

 「お姉ちゃん?」

 「うん。今じゃたった一人の家族。強くてきれいで、頼りになる人。ここにも来てるよ、あんたを助けに」

 

 これは女性に対する感情でありつつも、一人の人間として持つ感情。信頼、というものが一番近いかもしれない。無条件に相手を頼り、頼られたいと思い、裏切られることなどないと考えている。彼は今、これまでの十数年を忘れるかのよう、ゼロに戻っていた。子供に戻るのとは少し違うものの、精神に変化があったと見て間違いない。

 青年の指が、咲の頬へ触れる。痩せているがふわりと柔らかい肌である。ずっと触れていたくなるような、そんな想いに囚われた。

 咲はそれを拒みはしない。彼のやりたいようにやらせつつ、自身も彼の肌へと触れる。指先が触れる場所は上半身から下半身へ降り、しかし不思議といやらしい様相には見えなかった。

 

 「君は、俺をよく知ってるみたいだ」

 「よくじゃないわ。でもずっと頭に残ってた。会ったのはたった一度だけ、まだ子供の頃よ」

 「俺は覚えてない……なんでだろ。単に薄情な奴だから、かな」

 「というよりも、術かなんかで色々と細工されたんでしょうね。あんたは特に忌血の力が強いみたいだし、この異空間を生み出せるくらいなんだから、権力者とかは利用したがるんでしょ」

 「守られてた、ってことかな」

 「もしくは、来たるべき時まで誰にも気付かれないように保管しておくためか。あんた自身が忌血のことを知らなきゃ、家族もいない以上、忌血族だってことに気付ける奴なんて誰もいないでしょ」

 

 咲が少し体を動かし、もう少し青年へと近寄る。二人の胸が触れあって、肌が吸いつくようにぴたりと合わさった。

 青年は彼女の髪へ手を伸ばし、感触を確かめるかのように触れて、頭を撫でる。咲は目を閉じてそれを享受しながら、尚も言葉を続けた。

 

 「一人か二人、心当たりはあるけど、確認のしようもないわね。どっちも殺しちゃったから」

 「その人は、忌血族?」

 「一人はね。もう一人は吸血族。どっちも性根の悪いババアよ、気にしなくていいわ」

 「そうか……色んな人と戦ってたんだな」

 「まぁね。生まれが特別だと、普通の人生なんて歩めないから。そういう意味じゃ、あんたは昔を覚えてなくてよかったのかもしれないわね。短い期間とはいえ普通の人生を体験できた。忌血族だってことを自覚した以上、ここから出てもこれまでのままってわけにはいかないもの」

 「やっぱり、そうだよな。……うん、でも大丈夫だ。俺もここでの景色を見た後、これまで通りに過ごせるとは思ってない。いい意味でも、悪い意味でも」

 「忘れろ、って言っても無駄でしょ? だったらよく覚えておいた方がいいわ。あんたが見たのは、これからあんたが生きてる限り触れ続けなきゃいけない問題だから」

 「……わかった」

 

 互いに肌へ触れあい、やがて咲の手が、青年の萎えたペニスへと触れる。やさしい力でやんわりと握り、遊ぶように揉み始める。

 青年もまた彼女の胸へ触れ、小さな乳房を手で包むよう、やんわり揉む。どちらも再開しようというつもりでもないのだが、そうするのもなぜか安心するらしい。

 

 「なぁ、そういえばさ」

 「何?」

 「いや、ゴムとかつけてなかったなぁと思って。全部生で出しちゃったけど」

 「気にしなくていいわよ。私もそのつもりだったし」

 「そっか。それじゃあ、もうひとつ。……ここまでやっといてなんだけど、俺たち、キスもまだなんじゃないかな」

 「ああ、そういえばそうね。ま、別にいいんじゃない。順番が逆になっただけよ」

 「そういうもんかな」

 

 ようやく気付いた後で、どちらからともなく顔を近付け、ちゅっと音を立てて唇へ触れる。ほんの一瞬だけ触れあった後、再び離れて視線を合わす。

 恥ずかしがることはない。もっと恥ずかしいことすらやり遂げた後なのだから。

 

 「言おうか言うまいか迷ってたけど、あんた、子供の頃に言ったの。大きくなったら結婚してあげるって」

 「え? それって、俺が咲に、ってことだよな」

 「当たり前でしょ。じゃなきゃ私が言うわけないじゃない」

 「うん、確かに。でもまぁ、大きくなったというには年齢も若いし、ほら、なぁ。色々とまだ大きくなってない部分も――」

 「ムカつく」

 「痛っ、た、玉をそんな強く握んなっ」

 

 互いに抱きしめ合いながら、距離はずいぶんと近くなり、短い時間だが信頼関係もそこそこ築けたようだ。

 青年はほっと一息つき、肩の力を抜いた。その表情を見て、咲がか細い声でその名を呼ぶ。

 

 「流」

 「ん?」

 

 呼ばれて初めて気付いたのだが、幼少の頃に会っているのなら彼女が自分の名前を覚えていてもおかしくはない。青年は咲の額へ己の額をコツンと当て、至近距離から勝ち気な目を覗きこんだ。

 彼女はやさしい笑みを浮かべ、彼を見つめ、ペニスへ触れる手に力を込める。

 

 「ま、しばらくは私が守ってあげるわ。その代わり、セックスは私が主導権を持つから、逆らわないように」

 「いや、それはそれで嬉しいけど、やっぱケースバイケースと言うか、たまには俺も――」

 「やさしくしてあげようかと思ったけど、やっぱりレイプの方がいい?」

 「……わかりました。それでいいです」

 

 青年はため息をつきながらも彼女の言い分を呑み、咲との生活をスタートさせようとしたわけである。

 年下の咲の方が立場が上になったかのような感覚すらあったが、それでも孤独を感じていた彼にとって幸せな出来事だっただろう。まだ死に満ちた世界から逃げ出せていない、だが今日からはもう一人ではない。安堵した青年は咲を抱きしめ、主導権を取られたと感じる彼女に少しばかり睨まれつつ、ようやく自分も人間らしさを取り戻したと喜んでいたようだ。

 



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Hacking Communication(攻殻機動隊SAC)

 なんか勢いだけで書いた。
 正直なところエロって感じでもないです。
 雰囲気重視。


 カタカタと無機質な音が響き、暗い室内では、パソコンによって灯されたわずかな明かりしか存在しなかった。

 ひどくこじんまりとした、六畳ほどの部屋である。

 コンクリートが打ちっぱなしの壁で、パソコンをはじめとした機械が山のように積み重なり、移動できるスペースがごくわずかに制限された狭い空間。

 その中に一人、無心でキーボードを叩いている男がいた。

 音を立てる指の動きは素早く、画面は次々に映す物を変え、次から次に様々な光景を映し出す。

 時にはどこかのカメラが映した映像、音声、顔。或いはプログラムが羅列されたページ、0と1とで作られた世界。広大なネットの世界からわずかに切り取られたほんの一部分が、彼の前に現れては消え、また現れて消えていく。

 開かれたままで瞬きすらしない目はじっと画面を見つめたまま。表情は変わらず、無機質に指だけを動かし続ける。

 取り残された世界。外界とは隔絶された、それでいて外界を監視し続ける奇妙な空間だ。

 彼は自身を、観察者だと呼ぶ。当人にはならずにいかなる問題も外から眺め見て、決して手を下すことはなく、ただ外側に座り続ける。

 目的は観察。人間たちの生涯を、生命とは何かを見続ける。

 驚くほど広いネットの世界を駆け巡り、答えを欲するでもなく、情報を集めては自分で呑みこみ、また次を求める。

 ただの変人にしては卓越した技術と実行力だろう。彼は時が経つことも気にせず、関心を持たず、孤独な空間の主であり続けた。

 すべては、観察のため。

 その孤独な空間に来客が来たのは初めてのことで、彼の協力もなくその場所を引き当てた彼女に、思わず笑みが抑えられなかったようだ。

 

 「いい趣味をしてるわね。覗き見は楽しい?」

 「さて、楽しいかと問われれば、果たして本当に楽しいのかどうか。いやそもそも、楽しみを求めて始めたことだったのかそれすらも疑問だ。今はただ結果だけが残っている。私は実行者ではなく、観察者なのだと」

 「なるほど、観察者……確かにあなたにふさわしい呼び名かもしれないわね。悪趣味なのは変わらないけど」

 

 唯一の出入り口に立った、妙齢の女性。

 薄紫の髪の色に特徴的な髪型を持ち、瞳が赤く、上着としてレザーのジャケットを羽織っているが胸から下半身にかけて纏った服は露出度も高い物。

 どこか不思議な雰囲気を持った人物である。物々しいとも言え、達観しているようでもあり、若く見える外見とは裏腹に妙な落ち着きを感じる。

 くすりと、声が洩れた。

 どちらが笑ったのやら、暗い部屋の中では判別もつかない。なにより、男は女性に背を向けるようにイスへ座っていた。

 互いに顔を見せ合うこともなく、女性はイスの背もたれに向かって話すこととなる。

 

 「ここ一ヶ月ほどかしら。公安九課が関わる事件には必ず不正なハッキングがついて回っていた。監視カメラやパソコン、義体を操ったことすらあったわね。まるで私たちを手助けするかのように、どの現場においても不可思議な出来事が起こった」

 「本来ならルール違反な行為だ。私はあくまで観察者、誰かに味方することも敵対することも許されない。自分自身で許していない。ただし君たちが関わった案件だけは別だった。君たちが追い、逮捕した男はかつての私の仲間。友人、と言ってもいい。とにかく近しい間柄だった」

 「だから友人が犯罪に手を染めるのは許せなかったと?」

 「どちらかと言えば許せなかったのは私の技術が使われていたことだ。彼とはもう何年も連絡を取っていないし、別にどうなろうと彼の人生だ。文句を点ける気はない。だが私の技術を使って犯罪を犯すのならば、また少し話は変わってくる」

 「あなたが許せなかったのは何? 自分のハッキング技術が悪用されたこと? それとも自分の技術が使われたのに犯人が捕まってしまったことかしら」

 「答えを出すならばおそらく後者だ。私は今日まで自分の技術に自信を持っていたし、おそらく犯罪を犯したのが彼でなく私だったのなら、もっと巧妙に事態を推し進めただろう。もっとも、君たちが相手では遠からず同じ境遇となっていたのだろうが」

 「あら、あっさり諦めるのね。それだけ自信があるなら私たちを出しぬくくらいの気概があるかと思ったけど」

 

 しゃがれた声が耳に残る。

 腰に手を当てて立っていた女性はぐるりと部屋を見回し、大量に積まれたパソコン、何かの機械、まるで情報の要塞のようなそれを確認した。

 その後腕を組んで近くの山に背を預け、再びイスへ目を向ける。

 

 「技術は完成されている。だがそれだけに進歩はない。言いかえればすでに限界を知っているということだ。私なら君たちの目から逃れ、発見を遅らせることはできても逃げ切ることなどできはしない。見つかる前に脳を焼き切るというなら話は別だがね」

 「あなたが彼と同じ道を辿らなかったのは、すでに限界を知っていたから? 捕まるのが怖い、なんてタマじゃなさそうよね。観察者になった理由も同じかしら」

 「先の問いに対してはイエスと言えるだろう。私は自分の技術の、いや、自分自身の限界を知っている。無謀な挑戦に挑みたくなるほど血気盛んではない。捕まるのが怖いかという問いに対しては、わからないとだけ言えるだろう。考えてみたことすらない問題だ。そして最後の問いに対してだが、こちらもイエスだ。完成された技術と自らの限界に到達した私は、あらゆる物に興味を失った。進歩のための次の一歩が見えなくなったからだ。だが前に進むことをやめれば人間の脳は腐り、思考そのものがなくなってしまう。何かにすがる必要があった」

 「それで外部の情報で脳に刺激を与え、観察者となった。人間のままで生きるために」

 「正解だ。今や技術の進歩は望めずとも、物を見、食べ、嗅ぎ、触って、聞くことによって自らの感性を働かせることはできる。言わば私が観察者となった理由は、私自身を生かすためだ。手に入れた情報そのものに興味はなく、これを使って悪事を働くことにも興味はない」

 「残念な人ね。ただ見ているだけでは生きることはできても変化を得ることはできない。それでは死んでいるのも同じだと思うけど。あなたの技術が泣いてるわ」

 「技術は無生物だ、泣きはしないさ。そのための器官も感情も持ち合わせてはいない。これがロボットならば別だろうが」

 「先の問いに対しては?」

 「君の言う通りだ。私は生き続けているが心は死んだも同然。故に、観察者なのだ。観察するだけでは心を動かさない。ただあるがままを見、事実を受け止める。ただそれだけの生物となった」

 

 ふぅ、と一息つき、イスの背もたれがぎしりと揺れる。

 

 「私に何の用だね。友人について聞きに来たか」

 「いいえ、少し話がしたくて。私たちを覗き見している人間がどんな人物かが気になったの」

 「私は何も知らないよ、草薙素子くん。私は君たちを何も知らない」

 

 その言葉を聞いて女性、草薙素子は微笑みを浮かべた。

 

 「君たちの行動は見ていた。いかにして友人を調べ、足取りを探し、追い詰め、逮捕したのかを。さらに言えばそれ以前から、公安九課の存在は知っていた。だがそれだけだ。私は君たちの行動を見、眺め、知っていたに過ぎない。それを真に理解と言えるならば私は君たちを知っていることにもなろうが、そうとは思わんだろう」

 「謙虚ね。それが観察者としての美徳?」

 「私のこだわりだ。情報は正しく整理し、理解しなければならない。傲慢、不遜、結構だが、私とは相いれないものだからな」

 「それで私たちの動向を見守って、どんなことを感じたの? あれだけ綿密に見ていたのだから、何も思わないわけではないでしょう」

 「何も思わないわけではない。が、実はあの頃にも他の場所を同時に見ていた。君たちだけ見続けていたわけではないのだ」

 「なるほど。予想以上に器用なようね。それもこの死骸の山のおかげ?」

 「彼らは私の血となり、肉となってくれた。だからこそ今日の技術が完成している。そう言う意味では、彼らのおかげとも言えるが、実際に使ったのはこの一台のパソコンと私の義体、それだけだ」

 

 ギィ、と小さな音を立て、イスがくるりと回転した。

 ようやくその姿を目にすることができたのだが、想像よりもずいぶんと小さく、耳にしていたしゃがれた声を嘘のように思えるほど。

 男はまだ子供だった。十歳程度の小さな体躯に、白いシャツ、半ズボン、裸足が床にも届かないほど。

 イスの上に座る小さな人影を目にし、素子はほんのわずかだけ表情を変えた。

 

 「子供……それがあなたの技術の結晶というわけ」

 「なに、外見はなんでもいい。ただ私が義体化したのがこの年齢だったというだけ。それから幾度も体を変えたが、成長しようとは思わなかった。体を機械にしたあの日から、私の心は少しも成長していないのでな」

 「なぜハッキング技術を? それもその体になった頃から考えついたの?」

 「最初はただ、単純な理由だった。事故で皮膚のすべてが火傷でただれた後、私は生命維持のために機械の体を手に入れた。だが生き残ったところで両親もまた重体、しかも体の状態が悪く義体化も難しかったらしい。手を施せば、それだけで死に至らしめられる状態だ」

 「手術に耐えられなかったのね」

 「私は両親をガラス越しに見ることしかできなかった。父親の固い手を握ることもできず、母親の柔らかな胸に抱かれることもない。一人ぼっちになってしまった。一度もそんなことを望んだことはないのに」

 

 少年はわずかに俯き、同時に首の辺りへ触れるとカチリと音が鳴った。何かスイッチが変わるかのように。

 俯いたままでまた言葉が聞こえてくるのだが、今度は老人じみたしゃがれた声ではなく、まさしく十代の少年のような高くて張りのある声が聞こえた。

 素子の表情は変わらず、じっと動きを止めたままで少年の言葉を耳にする。

 不思議と声が変わっただけで話し方まで変わってしまったようだ。

 

 「最初にハッキングのことが頭に浮かんだのは、両親に触れたいその一心だった。幸運にもぼくはパソコンばかり弄っていた子供だったし、父親がプログラマーで色々な技術を教えてくれていた。問題なのはハッキングをどうやってやればいいのかを知るだけ。厳重に鍵をかけられた扉を開けるための技術が必要だった」

 「面会謝絶の両親に会うためハッキングを、ね。あまり普通の子供とは言えないわ」

 「子供は自分に正直だよ。正直で素直で、時に残酷で、すでに理解していることをわからないふりで気付くまいとする。ぼくもそうだった」

 「両親はすでに手遅れだった。直す手立てなどなかった」

 「その通り。ぼくが焼かれたのは表面だけだったけど、両親は内臓まで焼かれていた。肺や胃や心臓、至るところがだめになっていて、義体化が勧められないのもそのせい。手術の間呼吸が続かないし、何より脳にまで影響が出ていた。電脳化をしたところで記憶障害は免れなかったらしい」

 「それを知ってて、いえ、知っていたからこそ、あなたは両親の肌に触れたかった。焼けただれていても、自分を産んだ唯一の肉親だから……そういうことね」

 「そう、正解。だけど結局、両親が息絶えるまでに技術は完成しなかった。それでも数日持った方だけど、それも奇跡だったらしい。ぼくは最後まで両親に触れることができなかった。と言っても、ぼく自身がすでに義体化した後だったから、触れたとしても意味があったのかはわからないけど」

 

 義体。少年の体は機械でできていた。

 目を開けたまま瞬きせずとも痛みを感じることはなく、なんなら目を開けたまま眠ることだってできる。機械でできた眼球に潤いなど必要がないためだ。

 指を動かすのも、足をぶらぶらさせるのも問題はない。すでに義体化を終え、生まれ持った脳を機械で守っているおかげで。電脳から発せられる信号が義体を操り、肉の体同様に操れる。否、義体性能から考えるに、便利さだけで言えば肉体のそれより遥かに凄まじい運動能力すら誇る。

 右手を見つめてグーパーと何度か掌を開いたり閉じたり、少年が顔を上げた。

 無機質な顔、表情はない。けれど子供らしいと言える外見をしていることだけは確かだ。

 

 「両親の死までには間に合わなかったけど、ぼくはハッキング技術の完成を目指した。これがおそらく、ぼくにとっての外部記憶になっていたのだろう」

 「皮肉なものね。広大なネットの中で個を失わないための方法が、広大なネットに干渉するための技術だったなんて」

 「それでも構わない。自分の肉体を失って、ぼくを唯一知る両親が死んでしまった後では、ぼくを証明するものは何もなくなってしまった。ぼくがぼくのまま存在するために必要だったのは親でも肉体でもない、生きる目的とぼくを証明するものだ。ぼくはぼくを守るため、自分のすべてを注ぎこんだハッキング技術を完成させた」

 「そして自分の生にすら興味を失くし、観察者となった」

 「目的は完成した技術を使うことではなく、完成させることそれ自体だった。もう両親が居る部屋の扉を開ける必要はない。彼らが亡くなってもうずいぶん経っていたのでな」

 

 少年の口元が緩やかに上がる。

 作ったような、それでいて自然な笑顔。

 さほど変わったパーツを使った義体ではない。しかし様々な義体を見てきた素子にとっても、その小さな体はなぜか特別な何かを感じさせた。

 

 「観察は存外、楽しいものだよ。人間の良いところも悪いところも見つけられる。これでもぼくは男の子だし、性的なものに興味もあった。ずいぶん楽しませてもらったしね」

 「女の裸を見て興奮できた? 義体じゃ処理もできないでしょうに」

 「しかし個を支えることはできる。人間は好みがあるものだ。これが好き、これが嫌い。そういうものが寄り集まって人格の形成や他の個体との違いが生まれる。ぼくはぼくを学び続けた。様々な物を見、学んで、ぼく自身の趣味趣向を知ることによって」

 「性のお勉強もその一つというわけ」

 「膨大な情報量の中ではごく一部さ。他にもたくさん見た。子供を作るところも、人間が産まれるところも。犯罪を犯す人間や、陰口を言い合う人間。正義感に溢れる人間だっていた。楽しんでいる人間、悲しんでいる人間。自殺や他殺、事故や事件も。時には動物だって見た。彼らも交配して子を残し、次の世代を作ってから死んでいく。世界はそうして出来あがっていた」

 「あなたが情報を集めたのは自分という個を保存するため? それとも大衆を知って大衆になろうとしたのかしら」

 「一人の人間が大衆になることはできない。出来たとしても、それは大衆の中に埋もれた個のなれの果てだ。ぼくは自分の個を守るため、ぼく以外の情報を集めた。ぼくとそれ以外とを分けるために」

 「情報自体が自分を証明するための外部記憶。あなたも歪ね。苦労してそうだわ」

 

 ふふふと小さく笑って、素子が肩をすくめる。冗談を言うような態度だった。

 

 「その情報の中に私たちがいたのね」

 「攻性の捜査を行う機関、攻殻機動隊とは面白い名前だと思ってね。聞きしに勝る大活躍だった。ぼくは一気に君たちのファンになっていったよ」

 「でも顔を見せようとは思わなかった」

 「それが観察者だ。決して対象に触れてはいけない」

 「私たちが気付かない間も観察は続けていたのね。本当に、油断も隙もあったものじゃない」

 「心配しなくていい。君たちに関しては捜査風景しか見ていない。君たちのファンだからね、プライベートにはノータッチだ」

 「あらそう。お気遣いどうも。どうせ見られて困るものはないわ」

 「それは許可を得たと受け取ってもいいのかな?」

 「好きにするといいわ。ただし、代わりに条件がある」

 「ようやく本題か。内容は?」

 「私たちのところへ来ない? 公安九課……あなたが言った、攻殻機動隊よ」

 

 少年がにんまりとした笑みを見せる。どうやら予想できていたらしい。

 なにせ彼は、自分の技術に絶対の自信を持っている。犯罪を起こして捕まった友人がそうしたように、いつか誰かが欲しがることなど簡単に推測できるだろう。

 少年の笑みに対し、素子は余裕のある態度で微笑みかける。

 

 「あなたのハッキングはまさしく完成された代物よ。ウィザード級の力を持ってる。通った道には痕跡を残さず、どんな扉でも一秒程度で開けて、攻性防壁ですらダメージを受けることなく解体。ゴーストハックをいとも簡単に行っていた。使い方を間違えれば国家を転覆させることだってできる」

 「君が使えば、可能だろうね。ぼくじゃあそこまでの覚悟と勇猛さはない」

 「でも情報を集めることはできるわ。広大なネットにいくつもの目を瞬時に作り、後手から先手に回ることもできる」

 「不可能ではないと言っておこう。結局はシステムが完成されていても使い手によって技量は変わる。ぼくがやる場合と君がやる場合では結果が同じでも行程が違うのと同じ。上手くやれるかどうかは使用者によって変わる」

 「使うのはあなた以外にはいない。それほど複雑なシステム、理解するだけで何年もかかりそうだもの」

 

 もたれるのをやめて自分の脚で立ち、再び片手を腰に当てて正面から向かいあう。

 素子はそうして少年の目を正面から見つめ、迷いのない声で言い放った。

 

 「もう観察にも飽きてきた頃でしょ。九課でその技術を生かしてみるつもりはない? たまに休み返上で働くことになると思うけど」

 「労働か。それも警察にスカウトされるとは」

 「あら、警察は嫌い? でも安心して、私たちは内務省所属の防諜機関。堅苦しい制服を着る必要はないわ」

 「ふふふ、この体に制服ならそれはそれで面白そうだけどね。さて、どうしたものか……」

 

 顎に手を当て、少年はううむと唸りだした。

 すぐには答えを出そうとしない。かといって本当に悩んでいるのかと言えばそうも見えず。何を考えているかはわからない。

 それでも素子は答えを待った。

 彼がなんと答えるかを待ち、一方でどんな答えが聞けるのかはわかっている気がする。外見に見える余裕もそのためかもしれない。

 

 「イエス、と答えてもいい。でもそう答えるためにはまだ決意が足りない」

 「どうすれば決意できるのかしら」

 「叶うのならば一つだけ、聞いてもらいたい頼みがある」

 「言ってみて。考えるのはその後で」

 「ぼくと繋がってほしい」

 

 少年ははっきりとそう言った。あどけない外見が、言葉の意味を思わせるとひどく淫靡な様子を思わせる。

 本人にその気があるのかないのか、わからない。おそらくはどちらでもいいのだろう。

 素子が受け取る意味はすでに正当な形をしていた。冗談ではなく、わかりにくい言葉を選んだわけではない。彼の望みはわかりやすいものだったのだから。

 

 「私の電脳と、あなたの電脳を?」

 「そうだ。君はどうやって自分の個を守っている? それが知りたくて堪らない。観察している時はそうは思わなかったが、実際会ってみれば話は別だ。君の中にあるのは、君だけか、それとも他の個が入り混じった複合体なのか。どちらでも問題はないわけだが、どちらなのかを知ってみたい」

 

 自分のうなじへ手を伸ばし、少年はコードを伸ばした。義体同士を繋げるためのコード。

 電脳空間で出会い、対話する。それが彼の望み。彼が言う“繋がる”ということ。言わば知識の共有と言ってもいいだろう。

 

 「君は自分が何歳かを覚えているか? ぼくはもうわからない。この声の時は自分を十歳だと思っていて、さっきの声なら六十歳、もう少し変えれば二十歳にも三十歳にもなれる。それがぼくの個の形だ」

 「繋がれば、私のことがわかると?」

 「可能性がないわけじゃない。だがわからないにしても、もっと君のことが知りたくなった。ただそれだけのこと」

 

 小さくため息をついて、素子は前へと歩き出す。

 狭いスペースを背筋を伸ばした状態で歩き、すぐに彼のところまで到達し、イスに座ったままの彼の小さな膝を跨ぐ。

 抱き合うように腰を下ろして、豊満な乳房が少年の顔を埋めた。彼はすぐに顔の角度を変えて上を向き、呼吸を確保するのだが、見下ろす目が合うとそれすら忘れるほど美しい。

 にこりと微笑む彼女はこれまで見た女の中で最も美しく、華があり、同時に力強さを感じさせた。だからこそもっと彼女が知りたくなり、手に持ったコードを彼女のうなじまで伸ばす。

 

 「いいわ。調べたければどうぞお好きに。隅々まで見ていいわよ」

 「ありがとう。代わりに君には、ぼくを見せよう。ぼくが持つ世界と、ぼく自身を」

 「そうさせてもらうわ。簡単に理解できる世界じゃないでしょうけど」

 

 かちりと音を立ててコードが接続され、準備は整う。

 大きなイスの上で少年と素子が抱き合って座り、ぴたりと肌を密着させて、互いに目を閉じる。

 今触れあうのは機械の体だが、コードを通せば意識同士で繋がり合う。情報、知識、人格すら共有する電脳空間での一時。

 

 「じゃあ行くわ。ただし忘れないで。これが済めば、あなたも九課の一員になる」

 「約束するよ。その時はぼくの技術を君たちのために使おう」

 

 額がこつんとぶつかった。

 それを認識した直後、意識が遠ざかっていく。自分たちの内面、自分たちだけの世界へ行くのだ。

 さほど時間もかからず、二人の意識が繋がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そこは海の中だった。

 青い空間に揺らぎが存在し、上から差し込む光を感じて、自分たちまでゆらゆら揺れる。

 魚はいない。それどころか自分たち以外に生物はいない。それでもそこは海の中なのだろう。

 その中で少年と素子は裸で抱き合い、光とは遠ざかるように下へ向かってゆっくり落ちていた。

 

 「自分が人間だという自覚はある?」

 「突然ね。あなたは自分を人間ではないと思っているの?」

 「それはわからない。ぼくが人間か、君が人間か、証明する物はどこにあるんだろう。いくつも流れる情報を見ていると、時折そんなことを考えるようになる」

 

 触れあう肌が心地よく、すべすべで、抱き合う手にも力が入った。

 少年はあどけない様子で素子の胸に顔を埋め、柔らかな感触に頬を緩ませる。在りし日の光景、母に抱かれた時のことを思い出した。

 

 「例えば君のこの肌は人間のものなのか、そうでないのかを証明することはできるだろうか。人は君を人間だと言うだろう、だからこの肌も人間の物だと言う。けれど、そう言っているのも人間だ。結局ぼくらは人間が作ったルールや規範の中で生息していて、真に自分を証明するものなど持っていないのかもしれない」

 「人間であることに拘らなければいいわ。あなたは自分の個を持ってる。だから人間か否かを証明できなくても、自分は自分であることの証明はできるはず」

 「君は人間であることに拘ってはいないか?」

 「さぁね。そこまで深く考えたことはないのかもしれない。でもいまだに名前を持って生きている以上、案外拘りがあるのかもしれないわね」

 「名前か……そうだ、ぼくは大事なことを忘れていた。名前、ぼくの名前はなんだったか。はて、個を保有しようとしていたというのに、自分の情報を持つことを忘れていた。この世に生まれてきた時、ぼくはなんと呼ばれていたんだったか」

 

 背に回した腕にぎゅうと力を込め、胸に挟まれた少年の顔がわずかに苦心する。

 何かを思い出そうとして、でも上手くいかない。困った表情でうんうん唸って首をわずかに動かす。そのため乳房がむにゅりと動かされていた。

 素子もまた目を閉じ、彼の頭をやさしく抱える。まるで慈愛に満ちた母のように、裸の少年を我が子のように強く抱いた。

 

 「名前も自分を持つための重要な情報よ。それを失って尚、あなたはあなたで居続けたのね」

 「そうか、そうだった。名前、ぼくを表す記号。ぼくにはそれがない。個を守るつもりで思考を続けていたのに、一番簡潔な情報を忘れていた」

 「証明なんて必要ないのかもしれないわ。あなたも私も自分の個を失くしてはいない。体は失くしても、あなたはあなたのままよ」

 「そうだな。うん、そうかもしれない。結局のところ、ぼくは自分のまま生きている。それでいいんだろう」

 

 海の中を落ちていく。だがある地点へ差し掛かった時、辺りの景色は一瞬にして入れ替わった。

 水の底を突きぬけ、今度は空へ。気付けば空から地表へ向かって落ちていた。

 一糸纏わず裸のまま。互いに強く抱き合って落ちていく。しかしそれほど速い速度ではなく、常識では考えられないほどゆったりとした速度で。

 遮る物なく肌に直接風を感じ、不思議と爽やかな気分すらあった。

 恐怖心はない。為す術なく落ちていくのも心地よさがある。

 

 「もう何年生きたかもわからない。自分が何歳なのかさえ忘れてしまった。君に話して聞かせた、両親の話。あれはいつのことだったんだろう。体がずっとこんな姿だとね、それすらも摩耗していく」

 「外部の情報ばかりに満たされた空虚な自分。方法に惑わされすぎたわね」

 「ああ。だが教えられて気付かされた。これも案外気分がいいものだ。ひょっとしたらぼくは今日、生まれ変われるのかもしれない。君のおかげで」

 「ふふふ、それじゃあ私が母親? やめてよ、そんな柄じゃないわ」

 「だとしたらぼくは、君を妻と呼びたい。君の中にぼくという記憶を埋め込んで、ぼくを証明する一つになってほしい」

 「あら、おませさんね。出会ったその日にプロポーズ?」

 「あいにくぼくは女性の扱いに慣れてない。まだ十歳なんだから」

 

 空から落ちていく最中、青色の空がバラバラと崩れ、まるでジグソーパズルのピースが外れていくように、空が崩れていった。

 景色はまた変化し、二人を包みこむように色が変わる。

 

 「外見は変わらなくても中身は変わるでしょう。年月と共に成長するわ」

 「でも自分の中でスイッチがある。声が変われば、どれだけの年月があってもぼくは十歳になる。これが、この姿が本当のぼくなんだ」

 「便利なものね。それとも数多の情報を呑みこんだ結果がそれなのかしら」

 

 ふわふわと落ちていく。辺りは徐々に姿を変え、気付けば彼らは高い天井、円形の部屋、ホールのような広さのそこにぽつんとあるベッドの上へ横たわった。

 ふわりと受け止められるよう、衝撃はなく、痛みもない。

 二人はまっ白なシーツの上に身を横たえ、正面から抱き合ったまま、見つめ合って笑みを浮かべていた。

 

 「生まれ変わるのだとしたら、また十歳からのスタートか。さて、今度は成長することはできるのか」

 「私としてはぜひともそうして欲しいところね。夫が十歳の子供じゃ後ろ指差されて表も歩けない」

 

 目を閉じた素子が顔を動かし、そっと少年にキスを与えた。唇同士が触れあい、柔らかな感触の後、ちゅっと音が鳴る。

 少年にとっては初めてだったかもしれない。初めてではなかったかもしれないが、少なくとも一度自分をリセットしようとしている彼には大事な一瞬だっただろう。

 少年も目を閉じ、自分から首を動かす。強く押しつけるように前へ動いて、さらに素子を感じようとする。

 しばし無言で強く抱き合い、唇を押しつけ合って時間が流れる。ちゅっ、ちゅっと何度も音が鳴って、頬の赤らみが増してくる。

 キスが一度終わると、今度は少年が素子の唇を奪い、わずかに伸ばした舌で形のいいそれをそっと撫でた。

 柔らかい感触。いつまでも触れていたいと思えるそれだ。

 堪らず素子も舌を伸ばし、彼の舌を絡め取ってしまう。れろれろと交わり、唾液を交換し合って口の中にまで侵入してくる。

 互いの口を行ったり来たり。粘膜を刺激し合ったことで気分が高まり、再び顔を離してみれば、互いに先程までと顔色が変わっていたようだ。

 

 「少しぎこちないわね。初めてだったのかしら」

 「さて、どうだったか。そうだと思っていたが違うような気もするし、不思議な感覚だ」

 「でも興奮してるようね。ほら、こっちはわかりやすい」

 「あぁ、これは初めてだ。断言できる。なにせ肉体は十歳の頃に失くしてしまった」

 

 素子の手が少年の腹から肌を伝って下へ降りていく。そうして触れたのが少年の勃起したペニスだった。

 ビンとそそり立つ固い肉棒。十代の体に生えたそれは大人にも負けないサイズである。子供の平均を大きく上回ったそれは素子の手の中で弄ばれ、感触を確かめられる。

 一方で少年は素子の胸にしゃぶりつき、ピンク色の乳首に吸いついて淫らな音を発していた。

 

 「大きいわね。どう見ても十歳のサイズじゃない。何したらこうなるのやら」

 「ふぅっ、ふぅっ、うっ――」

 「んっ、ふっ……こうしてると、子供っぽいのにね。あんっ――」

 

 じゅるると音を立てて吸いあげられ、素子の口から小さく色っぽい声が出た。

 快感は確かにあって、興奮は確かに肉体へ変化を促す。

 左手で彼のペニスを扱いてやり、右手では頭を撫でてやる。あやすような体勢で触れ、触れられるのが心地いい。

 

 「んっ、んっ、ふっ、んっ――」

 

 相手が子供の姿をしているというのは、存外興奮を煽られるものがあった。

 乳房を掴みながら乳頭へむしゃぶりつく様は不思議とそそられるものがある。必死な様子に見えて仕方ないのだ。

 赤らんだ頬、純真無垢な目。多少口調は爺臭さを感じる部分もあるが、声は可愛らしいもので、態度としても彼女を慕うもの。

 相手としては不満はない。にやりと微笑む素子は体を起こすと彼の股間の前へ顔を移動させ、勃起するペニスを眼前に置いた。

 

 「知らないのなら教えてあげる。手取り足取り、ね」

 

 右手で根元を支えて口を大きく開ける。そしてぱくりと、銜えこんだ。

 口内へ迎えた亀頭はきれいなピンク色で女を知っている様子はなく、子供っぽさと大人の威容を兼ね備えた風貌。どちらとも言い難いものがある。

 舌を絡めながらずるずると上下へ。少年の反応を確かめながら動きを加えた。

 少年はシーツに体を預け、わずかに息を乱している。

 

 「んんぅ、んっ、ほぅ……ん。これが、フェラチオ。どうかしら」

 「あぁ、想像以上に気持ちいい。安堵するのと同時に征服感すらあるな。これはいいものだ」

 「そう。ここでもう少し子供っぽく振る舞えたら、私ももっと気持ちよくなるんだけど」

 

 舌を絡ませ、割れ目を責め、頭を振って奥まで迎え入れる。素子の動きは献身的とすら思えた。

 少年はこれまでの観察でいくつもそういった光景を見たことがある。上手な女、下手な女、第三者として色々見てきたつもりだ。

 中でも素子は上手に見える。それが経験の豊富さなのか天性の才能なのかは知らないが、少なくとも自分が感じている快感は確かなもの。

 気持ちよさから息が乱れ、徐々に体が熱くなっているようにも感じられた。

 彼女は熱心にペニスをしゃぶり、自分は何もしていないのに快感を感じるという環境が、今までにない征服感を味わわせた。

 

 「んんっ、んむっ、ふっ、んっ――」

 

 数度頭を振ってペニスを刺激すれば、先程よりも硬度を増して雄大な姿を拝むことができた。

 素子は一度口を離し、唾液がかける橋の先にペニスを見る。

 手を離せば腹の方へ反りかえって、小刻みにびくびくと震えている様子。

 素子の頬がにんまりと緩む。

 

 「いい調子ね。悪くないわ」

 「フェラチオされるのも悪くないんだけど、ぼくは早々に本番を試してみたいんだが」

 「そう急かさないで。達観しててもやっぱり子供なのかしら。普通こういうのはゆっくり楽しむものよ」

 

 そう言った素子が這うようにして体を移動させ、少年の唇を塞ぐ。

 散々ペニスを舐めた舌で彼を舐め、絡み、吐き出す息まで自分の物とするかの如くねっとりと吸いついた。

 そうして数秒、舌を絡めた後は首筋を舐め始め、胸まで到達すると彼の乳首に触れる。

 小さいながら立派に勃起したそれ。形を確かめるよう、円を描くように舌を這わせ、舌先でくるりと刺激を与える。

 少年の顔は気持ちよさげだった。だが素子の胸を揉みながら、あくまで求めるのは体を一つにすることらしい。

 

 「まったく、仕様のない男。じゃあ――」

 

 腰の位置を変えて彼の下腹部を跨ぎ、今にもはちきれんばかりのペニスに手を添える。

 亀頭の狙いを定めて腰をくいっと動かせば、彼女の膣と、少年のペニスが触れあった。あとは腰をおろせばいいのみである。

 素子は躊躇いもせず腰を下ろす。するとそれだけでずぶずぶと呑みこまれていった。

 男と女として一つになって、素子はため息を洩らし、少年は首を反らせて目を閉じた。想像以上の感覚に参っているようだ。

 その表情が幼さを感じさせる、言いかえれば初心な様子に見えて、素子の熱も一層強まる。

 ぐっと脚を開いて動きやすい格好になり、乳首に指を添えて腰を動かし始める。跳ねるように上下へ動いて一気に強い刺激を与え始めた。

 

 「んっ、ふっ、ふっ……ど、どう? 気持ちいでしょう」

 「うぅ、あぁ、気持ちいい……」

 「ふっ、んんっ、んんっ。あぁっ、すごい、形がはっきり――くぅっ」

 

 ギシギシとベッドが軋み、空虚な空間にやけに大きく響いている。

 二人は一心不乱になって腰を動かした。時を忘れ、理性を忘れ、ただ一匹の雄と雌として。

 もはや言葉もない。荒い息遣いだけを吐き出して。

 淫らな音が空間を満たしていた。

 

 「はっ、はっ、んっ、はぁ――」

 「んっ、んんっ、はっ、あぁっ――」

 

 終わりを迎えたのは、少年が素子の中に精を放った時のことだ。

 突然腰がびくりと震え、彼女の丸い尻が止まった。玉のような汗が丸まった背を流れ、尻を伝って彼の脚に落ちる。

 ふぅ、と一息ついて。

 体の力を抜いた素子は少年の隣に寝転び、彼に腕枕をして顔を寄せた。

 

 「ありがとう。なんだか夢が叶ったような気分だ。今日まで生きていてよかった」

 「ふふ、そう。そう言ってもらえて嬉しいわ」

 「あぁ、でも。この体になって後悔したことはないが」

 「ん?」

 

 少年は素子の胸元に顔を埋め、小さな声で呟いた。

 

 「君にぼくらの子供を産んでもらえないというのは、思っていた以上に辛いことだな」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 公安九課、通称“攻殻機動隊”所属、バトーという男は厳めしい顔を困っているかのように歪めて仁王立ちしていた。

 腰に手を当て、眠らない目とも言われる目で見つめるのは自らの上司。彼女に手を引かれる子供には敵意を向けていない。

 彼女、草薙素子とはそれなりに長い付き合いになる関係だった。共に戦場を駆けたこともあるし、九課に所属してからはチームとして様々な捜査に就き、解決している。

 そんな関係にあるからこそ、今目の前の光景には一言言ってやらねば気が済まなかった。他ならぬ彼女のため、並びに彼女に手を引かれる子供のために。

 

 「少佐。俺ァ、おまえの色恋に口出す気はねぇし、どんな男と付き合おうが文句は言わねぇけどな……ガキはやめとけ。そりゃあ、犯罪だぜ?」

 「大丈夫よ。義体はこうでも中身はジジイなんだか子供なんだかわからないわ」

 

 バトーの声を聞き、素子がやってきたことを知った九課の面々が集まってくる。

 そして気付くのだが、彼女が連れる子供はなんなのだと皆一様に首を傾げ始める。全身義体の素子が子を産めるはずもなく、考えられるのは誘拐でもしてきたか、副業で家政婦でも始めたか。

 陽気にそんなことを考えていた面々だが、にこりと笑う素子が彼の背を押し、少年を前に出すと、当然のように言い放った。それにもまた驚いてしまうのである。

 

 「今日から九課のメンバーが増える。例のハッカーだ。実力は折り紙つきだぞ」

 

 その言葉に全員が驚いた。

 彼らもすでに知っていた事件解決を後押ししてくれた謎のハッカー。それが、目の前に居る小さな子供だという。

 まさかと思うものの、わざわざ一目で証明してくれる何かがあるわけでもなく。一同は全身義体の子供をじっと見つめるだけだった。

 

 「とは言うが、あいにく名前を忘れてしまったらしくてな。まずそこから決めなくてはならない。さて、どんな名前にするか――」

 

 隣に立つ素子にちらりと見下ろされ、それにも気付くことなく少年は九課のメンバーを見回した。

 その後でわずかに口を開き、およそ子供らしくない笑みを見せながら、妙に楽しげな声で告げるのである。

 

 「よろしく」

 




 本当ならセックスシーンも丸々なしでいいかくらいの気持ちだったのですが、おまけ的にちょっとだけ。それも気付けばこうなってた。
 細かい話は省いてますが、全身義体になった者たちが性的快楽を得るための方法がわからないので(原作漫画未読もあり)こんな形になったわけです。一応漫画にはそれっぽい話もあるとかないとか聞いたことはありますが。
 攻殻機動隊でなんか書きたかった。ただそれだけ。


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腐敗(いちご100%)

 凌辱描写あり。
 いちご100%自体見たことないのにやりました。同人誌系統だけ見たことあるせいです。


 東城綾には好きな男がいた。

 名は真中淳平。別段秀でた部分があるわけでもない至って普通な少年。けれどやさしい性格があり、自分の夢にまっすぐ向き合っている姿勢は好感が持て、数人の女の子から非常にモテる人物だった。

 彼女も彼に恋する少女の一人である。自分が書いた小説を笑わない、夢を後押ししてくれる淳平には大きな感謝と、確かな好意を向けている。最初は恐る恐る友人関係を始めたのに、いつしかそれだけの距離となり、互いに信頼を勝ち取っていたらしい。

 ただあまり上手くいっていない、と感じてしまうのは、やはり彼のことを好きな女の子が他にもいると知っているからだった。

 恋人になりたい。彼女になりたい。そう思うことも多々ある。けれど現実には内気な性格のせいで素直に告白することも難しく、またこれまで恋愛経験もない。言ってみればどうやって気持ちを伝えればいいかわからず、その勇気もないのだ。そのためただの友人として、意識してくれているような気はするものの、もどかしい毎日を過ごすばかりだった。

 しかし、いつかは必ず。自分の夢に向かう道すがら、今もそう考えている。せっかく見つけた初恋だ、大事にしたい。

 いつか彼と恋人同士になれたなら、どれだけ幸せだろうか。

 ほんの少し前までは、そう思っていた。

 

 転機が来たのは突然のことだった。

 彼女の人生はそれまでと百八十度変わることとなる。

 ある日、学校の下駄箱に手紙が入っていて、放課後に屋上へ呼びだされた。奇しくもそこは綾が初めて淳平と出会った場所である。

 差し出し人不明の手紙を見た時、綾は思わず頬を赤くした。まさか彼が自分を選んでくれたのでは。一番最初に思いついたのはそういった未来。

 ついに自分の念願が叶う日が来たのだろうか。綾の足取りは軽かったものだ。

 しかしいざ屋上へ行って手紙の差し出し人と出会ってみれば、そこに立っていたのは自分が想像した人物ではなく、これまで自分と話したこともないような人物。

 出会った瞬間は意味がわからなかった。だがその男に見せられた映像がきっかけで、彼女の日々は変わることとなる。

 手渡されたそれに映っていたのは、何の因果か淳平と初めて出会った時と変わらない、彼女が履いているいちごパンツだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 きっかけはひどく単純なことだった。

 別段真中淳平のことを特別視していたわけではない。彼に好意を寄せる少女たちが好きだったわけでも、彼ばかりモテていることが羨ましかったわけでもない。

 ただ敢えて言うならば、そう、何かを壊したかった。

 これまでの自分。幸せな誰か。人一倍敵愾心が強かった彼はとにかく何かを変えたかったのだ。

 

 髪は長く、顔立ちは醜いと称され、身長は高くでっぷりと腹が出て太った体型。誰かに好かれるはずもなかった外見で、彼には明日も希望も夢もない。ただ毎日をだらだらと過ごすだけの無意味な日々。

 何より誰かに知られることはなかったが、彼の趣味はおよそ褒められたものではない。

 いつからか趣味となっていた悪事は、小型カメラを使い盗撮をすること。同じ学校の女生徒のあられもない姿を取ることにすっかり熱中し、微塵の抵抗もなくなるほど慣れていた。

 教室はもちろんのこと、女子トイレや運動部の部室、或いは廊下の節々。女生徒が通るだろう場所にすらカメラは仕掛けられ、スカートの中を覗こうとする。それが彼の毎日で“当たり前”だった。

 初めての盗撮からすでに数ヶ月。毎日のように学校の中でカメラを回した彼は、自宅のパソコンに無数の映像、女生徒の下着やトイレでの排泄シーンを保存している。

 その中で、その映像を取ったのはたまたまで、更なる悪事に手を染めようと決めたのもたまたまだった。

 

 とある日、いつものように秘密裏に女子トイレの個室を盗撮していたら、確認した映像には自身が知る少女の顔があった。

 名前は東城綾。少し地味めな少女だが美少女であることには変わりなく、内気な性格であることは有名。誰かと話している姿も多くは見たことがない。

 獲物とするには絶好の標的だった。内気で弱弱しいと感じる印象は彼の背を押すのに十分過ぎた。おそらく抵抗はできないだろうと感じたのである。

 男が決断するまでそう長くはかからなかっただろう。

 映像を手に入れた次の日、パソコン内でいくつも映像をコピーした後になるが、男は手紙を使って放課後に東城綾を屋上へ呼びだした。彼女が真中淳平を好きなことは知っていたが、関係ない。優先すべきはそんな事実より自分の欲望だ。

 夢も希望もない、生きることに興味がなかった男だが、あいにくと女体には興味があった。恋愛は面倒だからしたくない、ただ女を抱きたいだけなのだ。

 その標的とするには東城綾はこれ以上ないほど良い獲物だったに違いない。

 屋上で向かい合い、カメラに納められた自身が排泄する姿を見せられた東城綾は絶句し、目に涙を浮かべて絶望した。

 その瞬間の男の下卑た笑みと言ったら。

 男は自分の作戦が成功したことを知る。東城綾を初めて自分の家に連れ帰ったのはその直後、その日の内のことだった。

 三条辰夫はついに自分の夢を叶えるチャンスを手に入れたのである。

 

 「ふひひ、じゃあ入ってよ。心配しなくても僕は一人暮らしだから」

 「は、はい……」

 

 肩を震わせ、肩ほどまではある髪で顔を隠すかのように俯きながら、綾は人気のないマンションの一室へとやってきた。心境を正しく表すならば、やってきてしまった、だ。

 本当ならついて来たくなどなかった。だが映像をネタに来いと言われてしまっては断るわけにもいかない。

 もし断ればどんなことになるか。それがわからぬ彼女ではなかった。自分の下着だけでなく恥部まで映っているのだから強く出ることなどできるはずもない。

 掃除もされていない、物が散乱した汚い部屋の中へ足を踏み入れる。気持ちとしては靴を脱ぐことさえ嫌だったが仕方ない。白いソックスで床の汚れを避けながら部屋へ上がった。

 幸いゴミはあまりない。ただ機材が多かっただけだ。

 パソコンやカメラの類、或いは何のための物かわからない機械も多数。床には裸の女が映った雑誌やDVDの箱が落ちている。それらをちらりと見、綾は一層体を震わせる。

 他人事とは思えなかった。自分の排泄する姿が撮られたのだ。一歩間違えば顔も知らない誰かに見られてしまう可能性だってある。

 現に今、会ったこともないはずの男に見られて、映像として残されてしまった。過去最大の不幸と言っていい。

 どかりとベッドに腰を降ろす辰夫に目をやり、顔を直視できないまま、両手で握った鞄の取っ手に力を込めて俯く。これから何を言われるのか、想像に難しくはない。

 

 「とりあえず座りなよ。ほら、ここに」

 「あ、あの……でも」

 「心配しなくてもただ話すだけ。何もしないから。さぁ早く」

 「……失礼します」

 

 妙に鼻息が荒く、声は低いが興奮していることを感じさせる。ありていに言えば気味の悪い姿だ。

 先程から汗を掻いていることも目で確認できる。隣に置いて気持ちのいい相手ではない。

 それでも綾は強く言い返すこともできず、何をされるかわからない危機感を持ちながら、弱みを握られているため逆らってはいけないとベッドへ腰を降ろす。

 ギシ、と少しだけ軋む。その音が妙に耳の中へ残った。

 距離は少し離している。だが手を伸ばせば届いてしまう距離。

 辰夫は彼女の顔を見つめ、黒ぶちの眼鏡越し、鼻息も荒く、何を考えているかわからない。

 彼が何も言わないため、沈黙を嫌がった綾が先に口を開いた。一刻も早くこの部屋を出たかったに違いない。

 

 「あ、あの、それで……動画の件、なんですけど」

 「ああ、そうだったね。うん、動画がどうしたのかな」

 

 ねっとりした視線を感じる。この場に居てはいけない、頭の中で明確な警報が鳴っていた。

 綾は、今日まで男と交際したことがない。真中淳平に対する恋心が人生で初の恋と言っていいだろう。引っ込み思案で人見知りだったため、高校生になるまで誰かを好きになったことがない。

 だからこそこの環境がとても怖かった。男と二人きりで、しかもその相手がお世辞にも格好いいとは言えず、好意的にも見れない。これが真中淳平だったならと思えばなおさら怖くなってくる。

 もしも、もしもこの男に何かされてしまったら。

 両腕で自分を抱きしめ、頼りないのか決して鞄を手放さず、出来る限り体を小さくする。

 

 「け、消して欲しいんです。あんな動画、その、誰かの目に触れたらって思うと……怖くて」

 「うんうん、そうだよねぇ。自分がおしっこしてる姿なんて、家族に見られるのだって恥ずかしいのに、見ず知らずの他人に見られるなんて怖いよねぇ」

 「は、はい。あの、なので、お願いですから消してください。もし消してもらえるなら、このことは、私も誰かに言ったりしませんから」

 「綾ちゃんはやさしいねぇ。僕が犯罪を犯してたこと黙っててくれるんだ。いちごパンツもおまんこもおしっこしてるとこも見ちゃったのに」

 「……はい。言いません、から」

 

 手に力が入る。気持ち悪いと、素直に感じていた。

 彼女は普段他人に対して傷つけるような言葉を向けない。それはそもそも他人に対して悪感情を持つことがなかったからだ。

 自分に自信がないせいで、何か悪いことがあれば誰かに責任を問うより自分が悪いのだと判断する。そういった癖が幼少期の頃から今もあり、他人を悪く言ったり悪感情を向けたりしない。

 しかしその男に対しては。辰夫に対してだけはどうにも無理だった。

 背筋をぞわぞわさせる、撫でるようなねっとりしたしゃべり方。欲望剥きだしの目と視線。不衛生な室内、丸々太った体、風呂に入ったのかどうかすら怪しい肌や髪の毛。外見も中身も、見える範囲ではどこを見ても、今まで見たことがないほど不潔な人間だ。

 唇をきゅっと噛み、今にも叫びだしたくなる衝動を必死に抑える。

 必死に体を小さくして恐怖に耐える綾とは対称的に、辰夫はただただ楽しそうだ。

 

 「うーん、でも困ったなぁ。僕としても綾ちゃんを悲しませるのは嫌だけど、あの動画を消すのは正直言って嫌だし。せっかく撮れたお宝だしね。もう二度と見れないと思うとやっぱり惜しい」

 「そ、そんな……でも、さっきは、考えるって」

 「考えてみた結果だよ。僕みたいなやつに彼女なんてできるわけないし、そうなるとやっぱり一人でオナニーするしかないんだよね。その点綾ちゃんの動画は何回使っても飽きないくらい最高なものなんだ。だから消したくない。この気持ち、わかるかなぁ」

 

 にたにたした笑みで顔を覗きこまれて言う。こうした挙動も、人間としてどうかしているとしか思えない。

 恐怖心がますます大きくなる。自分が想像していたのとは違う方向へ話が進もうとしていた。それだけに危機感が精神を苛ませる。

 なんとかしなければ。考えれば考えるほど胸の内が苦しくなって、何も考えられなくなってくる。

 今すぐ逃げ出したい。だがもしそうすれば距離が近過ぎるし、ただでさえ室内で物が散乱し、さらに狭く感じる。逃げようとすればすぐに捕まってしまうだろう。

 綾の心は着実に乱されていった。

 

 「じゃあ、どうすれば、いいんですか……?」

 「そうだなぁ。うーん、どうしようかなぁ。僕も困っちゃうわけだしなぁ」

 「あ、あの……私にできることなら、す、少しくらいなら、協力しますから」

 「あれ? そうなの? 動画を消したら、協力してくれるの?」

 「ほ、ほんの少しだけなら……」

 「じゃあ話は変わってくるかなぁ。とりあえず思いついた提案が二つあるんだけど、聞いてくれる?」

 

 指を二本伸ばし、にやにや笑う辰夫に言葉を呑んでしまう。一体何をさせようとすればそんな顔ができるのか。

 唾液を呑んで喉を鳴らしてから、恐る恐る頷く。本当は頷きたくなどない。口の中がカラカラだった。

 綾の頷きを目にして、辰夫は妙に嬉々とした声で立てた指を一本だけ残して言う。

 

 「一つ目はねぇ……綾ちゃんが僕の彼女になるってのはどう?」

 「えっ? か、かのじょ……?」

 「僕の恋人になるってことだよ。大事なオナネタを消すんだし、絶対彼女もできないクズな僕なんだからそれくらい望んだっていいんじゃないかな。きっと人生で今以外にチャンスなんてないと思うんだ」

 「そ、そんなこと、言われても……」

 

 絶句してしまう。そんな提案をするなんて、あり得ないとすら思う。

 承諾できるはずがなかった。この段階で綾はもう一方の提案を呑むしかなくなったのだろう。

 顔から血の気が引いていく。妙な寒気すら感じていた。

 

 「ふひひ、やっぱりだめか。じゃあもう一つの提案を言うよ」

 「お、お願いします……」

 「それじゃあねぇ、裸になってよ」

 「えっ?」

 「ここで今から裸になって、僕のオナニー見ててよ。綾ちゃん自身がオナネタになって。気持ちよく射精できて、目を逸らさずちゃんと見ててくれたら動画消してあげる」

 

 またも驚きを隠せない。

 綾は思わずのけ反り、彼から距離を離そうと気付かぬ内に動いてしまっていた。

 だが全く同じ瞬間、辰夫は彼女へ迫るようぐっと上体を倒して距離を縮めようとする。二人共妙な体勢になっていた。

 

 「な、なに、何を言って――」

 「せっかく見つけた僕のオナネタを消すんだから、それくらいしてくれたっていいんじゃない? 大丈夫、裸は動画撮らないし、僕が見るだけだから。一回イッたらそれで終わりにするから」

 「で、でも、そんなの……無理、です。は、裸で、なんて」

 「えぇ~? 協力してくれるって言ったじゃん。この世はすべて等価交換だよ。何かしてもらおうと思うなら自分も何かしなきゃねぇ。それじゃあ動画は消せない」

 

 もっともらしいことを言いつつ、辰夫が制服の内ポケットからカメラを取り出す。

 コピーした映像を納めたそれだ。再び電源を点けるまでもなく、カメラを見た時点で綾の顔色が変わる。

 しっかり納められた自分の排尿の瞬間。少し前に学校で見た映像がまざまざと脳裏に蘇ってきた。

 世に出してはならない。自然と強くそう思う。

 だがその選択はつまり、彼の言うことを聞かなければならないということになる。どちらにしても彼女が嫌な想いをするのは変わらなかった。

 

 「それともこの動画、消さなくてもいいの? 僕はいいんだよ。いつでも綾ちゃんのおしっこ見れるから。ただね綾ちゃん、気をつけないと大変だよぉ。もしこれがネットにでも流れようもんならどうなっちゃうことか」

 「あ……う……」

 

 まるで脅迫。いやそのものだっただろう。

 辰夫は綾に脅迫していた。自分の言うことを聞かなければ動画はネットに流れるぞと。

 もしそんなことになれば彼女の生活がどうなるかわからない。まだ学生、毎日学校へ通っているわけで、眼鏡を外して髪型を変えてからは男子生徒から注目されることも多くなった。

 もし彼らが自分の盗撮された姿を見てしまえば、何かされるのではないか。男性に対して苦手意識を持つ綾は、今の状況と同じ恐怖感に襲われる。

 少し考えてしまう。考えたくもないのに、言うことを聞いた方がいいのだろうかと。

 辰夫の顔がだらしなくにやける。

 俯いて考え込んでしまう彼女は気付いていないのだろう。動画に釣られて彼の家に来てしまった時点で、もはや逃げ場などないということに。

 どちらの道を選んだところで幸せになどなれないと、おそらくまだ気付いていないのだ。

 

 「大丈夫。すぐイッて終わらせるよ。綾ちゃんを困らせたくないからね」

 「で、でも、裸って……」

 「動画にも撮らないし写真も撮らない。僕が見るだけだよ。目の前でオナニーして射精したらもうそれで終わり。ただそれだけ。どう?」

 「そ、そんな……」

 「それとも僕の彼女になってくれる? 僕としてはむしろそっちの方が嬉しいんだけど、全然そんな気なさそうだし、一応気遣ってるつもりなんだけどなぁ」

 「うっ、それは――」

 

 恋人か、裸か。どちらも選びたくない二択。しかしどちらかしか選べないと言われてしまっては、綾に選べるのは一つしかなかった。

 脳裏にあるのは自身が想う男の顔。初めて恋心を持った異性。

 見知らぬ男の恋人になどなれるはずがない。

 恐る恐るだが覚悟を決め、綾はわずかに頷いた。これから裸になると宣言したのである。

 途端に辰夫の笑みが深くなった。

 

 「そっか。じゃあ早速さ、終わらせちゃおうよ。一人では恥ずかしくても二人なら恥ずかしくないよ」

 「え? あ、あなたも?」

 「うん、もちろん。綾ちゃんの裸でオナニーするからね。おっぱいもまんこも陰毛も、全部見せて」

 「はぁ……ううっ」

 

 先に辰夫がベッドから立ち上がった。すると彼女の前で服を脱ぎ始める。

 躊躇う様子はなく次から次へと脱いでいく。

 綾は咄嗟に顔を背けた。恥ずかしかったわけではない、見たくなかったというのが本音だ。

 でっぷり太った体で嬉々として脱ぐ姿など、初心でない女性であっても嬉しいとは思えない。性格もわからぬほど浅い関係性ならばなおさら。

 けれど辰夫は動かない綾を見逃さず、パンツ一丁になった頃に声をかけた。

 

 「ほら、綾ちゃんも脱いで。早く早く。さっとやればさっと終わるから」

 「はぁ、うう、でもやっぱり」

 「やっぱり、なに? 協力してくれないの? じゃあ僕もやっぱりあの動画を――」

 「わ、わかりましたっ。ぬ、脱ぎます……本当に脱ぐだけで、いいんですよね」

 「うんうん、そう来ないと。さくっとオナニーして終わりだから気にしないで」

 

 おずおずと綾もベッドから立ち上がり、恥じらう様子で服を脱ぎ始める。

 上着を脱ぎ、スカートを落として、下着姿になるまでずいぶん時間がかかった。嫌がる様子でもたもたしていたためだろう。

 純白のブラジャーとショーツ。そうなってから改めて自分の体を抱きしめる。やはり脱ぎたくはなかった。

 ちらりと後ろを振り向けば、今も笑う辰夫の顔。ここでやめても許してはくれないはずだ。

 

 「あ、あの、本当に……」

 「脱げないんなら手伝おうか?」

 「い、いいですっ。自分で脱げます」

 「ふひひ、そうだよねぇ。それくらい自分でできるよねぇ。綾ちゃんだってもう高校生なんだから。一人でおしっこだってできるもんね」

 

 自然と涙が溢れてきた。

 目にいっぱいの涙を溜め、ゆっくりとした動きでブラジャーとショーツを脱ぎ捨てる。時を同じくして、辰夫も自分のパンツを脱ぎ捨てた。

 大ぶりの胸が右手でぎゅっと抱きしめられ、乳首を隠し、左手が股間へ伸ばされて秘所を隠そうとする。しかし陰毛までは隠し切れていないようだ。

 対して、辰夫は自分の体を一切隠そうとしない。だらしない腹だというのに堂々と胸を張ってすらいた。

 長い陰毛の下にあるペニスはすでに勃起しており、だが包皮が先端まで覆い隠しており、サイズもさほどではない。言わば平均程度といったところ、大きいとは言えない程度だろう。

 しかし綾にとっては初めて見る異性の裸、及び勃起したペニス。目を白黒させてそれを見つめ、しばらく目を離せなかった。

 

 「僕のチンポどう? サイズはそんなだけど、固さは凄いよ。しかも一週間くらいオナ禁したから、今日はいっぱい出ちゃうだろうなぁ」

 

 胸を張って腰を揺らし、ぶるんと揺らす。反射的に綾の肩が震えた。

 

 「あぁ楽しみ。綾ちゃんの裸きれいだねぇ。見てるだけでカウパー出てきちゃったよ。できれば触ってみたいなぁ」

 「だ、だめです。見るだけの約束、でしょう?」

 「そうだったね。じゃあ早速綾ちゃんをオカズにオナニーするね。いやぁもうチンポ我慢できそうにないよ。すぐ出ちゃうかもしれない」

 

 立ったまま腰を突き出し、綾の目の前でペニスを掴む。右手が根元を握ればずるりと包皮が剥かれて亀頭が見える。

 綾は不思議とその光景を見ていた。別に見なくてもいいものを、ひょっとしたら好奇心があったのかもしれない。

 見られている中でペニスを扱き、包皮を動かしながら刺激を与え始める。

 自分の体を汚らわしい視線が這いまわりながら行われる自慰行為。ひどい恥辱である。

 いよいよ綾が耐えきれずに後ずさりをしてしまった時、辰夫の口が言い放った。

 

 「綾ちゃん、手を離してよ。体全部見せてくれないと約束と違うことになっちゃうよ」

 「え、で、でも」

 「動画、消せなくなっちゃうかなぁ。ネットに流れちゃうと大変だろうけどなぁ」

 「う……わ、わかりました」

 

 明らかな脅迫。しかし言いなりになるしか方法はない。

 渋々といった様子で体から手を離し、その場に気をつけする。

 大ぶりの乳房やその先端にある乳首も、整えられた股間の陰毛も、辰夫の視界にしっかりと入りこんでいる。そう思うだけで羞恥心が全身を震わせ、恐怖心が大きくなる。

 辰夫の笑みはさらに緩み、ペニスを扱く手の速度も速くなった。

 

 「はぁっ、はぁっ、すごくきれいだよ、綾ちゃん。やっぱりおっぱい大きいね。ち、乳首も立ってるのかな」

 「う、うぅ」

 「あぁぁ、興奮してきちゃったな。マン毛も結構濃いんだね。清楚な感じなのに毛深いなんて、ふ、ふふふ、きっと知ってるのは綾ちゃん以外に僕しかいないんだろうなぁ。そういうのってすごく興奮するよね」

 

 息遣いが荒くなり、多量に汗を掻いていた。

 むんとした空気が室内を満たし、その中で綾はほろりと涙を流す。

 少し前までならこんなはずじゃなかった。普通に学生生活を過ごし、初めての恋をして、自分は変われるのだと思えるようになったばかり。充実して、満足したとは言えないが、未来に希望は持てていたのに。

 この部屋の中は、絶望だ。

 綾は視線を床へ落として動かなかった。早く終わってほしい、ただそればかりを考えて。

 

 「うぅぅ気持ちいいっ。もうイッちゃう、イッちゃうよぉ。綾ちゃん、見てぇ。僕のイクとこ見ててぇ」

 「い、いやっ……私、私は――」

 「あぁぁっ、イクっ。僕イッちゃうよっ、綾ちゃん見ながらオナニーでイクよぉっ!」

 

 激しくペニスを扱いて辰夫が射精した。

 腰をぐいと前へ突き出し、綾を目掛けて精液が宙を飛び、勢いもよく太ももへと付着する。

 悲鳴すら出せず、身動き一つできない。立ちつくしたままの綾は涙を流すことすら忘れ、自分の脚を見下ろした。自らの太ももをべっとりと流れていく感触が嫌でも認識できてしまう。

 嫌悪感から大きく身震いしてしまった。だがこれでようやく終わったのだと理解して安堵している自分がいる。

 気持ち悪い感触で脚が震えるが、ぎゅっと腕で胸を隠して辰夫へ目をやり、視線を合わせないようにしながら小さく問いかける。

 

 「あ、あの、これで、終わり……ですよね。もう、大丈夫ですよね」

 「ふぃ~、気持ちよかった。そうだねぇ、約束だからね。んっふっふ、僕の赤ちゃんの元、綾ちゃんに飛んじゃったしねぇ。もうこれで終わりにしよっか」

 「そ、そうですか……よかった」

 「かなり惜しい気はするんだけどねぇ。一回で終わるなんて残念だなぁ。でも約束だから。じゃあ、服着る前に僕のチンポ汁拭いた方がいいよ。枕元にティッシュがあるから」

 「は、はい。そうですね」

 

 ほっと胸を撫でおろした綾は、早々に部屋から出ていきたいとベッドへ近寄り、脚をシーツへ触れさせないよう上体を倒す。

 それが、まるで辰夫へ尻を突き出すような格好なのだ。大事な部分ははっきりと彼の目で確認でき、ぴたりと閉じられた秘所が見える。

 瞬間、にやりと意地悪く笑った。

 最初から計算されていたように近くの机からローションが持ち上げられ、蓋をされていなかった容器から中身が出て、右手の指先が受け止める。

 その直後に彼は一歩を前に出て、おもむろに左手で綾の背を押していた。すると彼女は加えられた力によって前へ体が流れ、精液もそのままだというのにシーツの上へ膝をついてしまう。

 いよいよ辰夫へ尻を差し出してしまっているかのように見える。驚いた綾はまだ状況を理解できておらず、体勢を変える前にそのまま首だけで振り返る。

 体の左側、すでに辰夫のでっぷり太った裸体があった。そして左腕で腰を捕えられ、体重をかけられて動けない。

 おかしい、と思った直後にヴァギナを指先が撫でていた。

 

 「あっ!?」

 「いけないなぁ、綾ちゃん。僕は許してあげようと思ってるのに、自分から僕を誘ってくるなんて」

 「ち、ちがっ、今のはあなたが――」

 「まさか僕のオナニー見て興奮しちゃったのかな? だったらしょうがないよね、人間だれしも性欲ってあるから。我慢できない時だって当然あるよねぇ。僕のオナニー見て、ほんとはセックスしたかったんでしょ?」

 「い、いや……離してっ」

 

 ぴったり閉じた割れ目を指先がなぞる。とろりとした冷たい感触を伴い、揉みほぐすようにも感じられた。

 辰夫の息遣いがさらに荒くなっており、体勢の関係か腹の辺りに勃起したペニスが押しつけられている。ぐいぐいと存在を確かめさせるように。

 この時になってやっと騙されたのだと気付き、綾は体を捩って逃げようとした。だが上からのしかかられ、しっかり捕えられてしまっているため逃げ出せない。力では敵いそうになかった。

 中指と薬指でぐにぐにと秘所を押されて、膣の入り口にも触れてくる。遠慮のない乱暴な手つきだ。

 恋人にするような手つきではない。ますます綾の抵抗が強くなり、狂乱するかのように長い黒髪を振って嫌悪の感情を露わにする。しかしそれでも逃げ出せず、解放してくれない。

 辰夫は指で触れるだけでも飽き足らず、器用にも彼女へ体重をかけたまま左手を使ってローションをさらに垂らし、跳ねるように動く尻を濡らし、右手にも新たにねっとりした液体を絡ませる。

 今度は迷う素振りもなく、たっぷりローションで濡らした指で膣を強く撫でていく。入口をほぐすため、膣の中へも浅く指を入れてぐちゃぐちゃと掻き混ぜた。

 気付けば綾は涙を流していた。どうしてこんなことになった、嫌だ、して欲しくない。心の中では負の感情が渦巻いている。

 だが彼女の都合など微塵も考えず、事態は尚も進められ、にやけた辰夫が彼女の尻を掴んで体を起こした。

 尻を突き出す綾の後ろに仁王立ちし、勃起したペニスで狙いを定め、膣への挿入を狙っている。咄嗟に振り返った綾にもすぐ理解できたようだ。

 

 「い、いやぁ……やめて、許してっ――」

 「ふひひ、わかってるよ綾ちゃん。早く突いて欲しいんだよね。ズボズボして欲しいんだよね。大丈夫。僕はやさしいから、焦らしたりなんてしないよぉ」

 「ち、違うっ。いや、こんなのいやぁ……!」

 「そぉれっ!」

 

 ズン、と一突き。あっという間にペニスが膣へ挿入され、すべて納まるまで勢いよく腰を突き出された。

 男性経験のない彼女にとっての初めての性交。処女膜が破られ、血が流れ出していた。ペニスに絡まりながらシーツの上へ垂れ落ちる。

 綾は、目を見開いて喉を震わせていた。悲鳴が出そうなほどの激痛で腹の内側が気持ち悪く、涙を流したまま前が見えなくなっていたが、同時に心の中までひどく荒らされている。

 こんな初めては望んでなかったと。どこか冷静になりつつある思考で考えた時、すでに辰夫のペニスが勢いよく体内を出入りしていたのだった。

 

 「おっほぉ、気持ちいいっ! 綾ちゃんの処女マンコ最高っ! キツキツでオナホなんかとは全然違うよっ! これなら何百回だって射精できるねっ!」

 「あぁっ、がっ、おぇぇっ……ぐる、じいっ……!」

 「いいよぉ綾ちゃん、思ってた通りの気持ちよさだよっ! いやそれ以上だっ! よぉしこのおマンコは今日から僕専用だ! 毎日犯して中出ししてあげる! いいよね綾ちゃん、自分からケツ向けてきたんだもんね! 綾ちゃんが僕のチンポ欲しいって言ったんだもんね!」

 「おおっ、ごぉっ……かはっ」

 

 腹の中で動く固い感触がひどく気持ち悪い。ゴリゴリと肉を抉られるようで、痛みはあっても快感など得られそうになかった。

 ただただ苦しい時間が続けられ、正気を失いかける綾は突かれるがままに体を揺すられ、嘔吐しそうになりながら耐えるしかない。

 両手でぎゅっとシーツを掴み、この時間が終わるのを待つだけ。今までの人生で最も辛い瞬間だ。

 だがそんな時間を楽しむ辰夫に容赦などなかった。全力で腰を打ちつけ、ペニスで膣を抉ることしか頭になく、ぶるりと揺れる尻を掴んで征服感に満ち溢れていた。

 この女はたった今から自分の物。自分だけの物。確かな実感を得るため子宮へ届くまで精液を注ぎこんでやろうと腰を動かし続け、止めどなく溢れてくる射精感に従う。

 そうしてその時は唐突にやってきた。

 辰夫は我慢せずに思い切り射精し、自身のペニスが届く範囲で奥まで押し込み、体重をかけて尻へのしかかる。

 びゅくびゅくと精液を吐き出して注ぎこみ、動きを止める。

 決定的な一撃となっただろう。再び目を見開いた綾は声なき声で叫び、自らの絶望を嘆いていた。

 

 「おほぉぉぉ、きもちいいっ……! 中出し、最高! 綾ちゃん孕ませるの最高ォ!」

 「あっ……がっ……がはっ」

 

 最後の一滴まで完全に膣の中で出されてしまった。改めて冷静に認識できた途端に綾の全身から力が抜け、ベッドの上でうつ伏せ、動かなくなってしまう。

 ぼんやりと開かれた目からは涙の跡が伺え、しかしもう何も映してはいない。何も見たくないと言うかのよう。

 四肢はだらりと伸ばされ、完全に抵抗するための力が失われていた。

 射精の直後、緩んだ頬を持ちあげられない辰夫はそんな彼女を見下ろし、さらに笑みを深くし、再度腰を前後させ始める。

 疲労感など微塵もない。ただ抑えきれない膨大な性欲と精液だけがある。まずはこれを解消しなければと本能が伝えていた。

 出した直後でも勃起したままだったペニスを出し入れさせ、彼は再び綾を犯し始める。左手は尻を掴み、右手はシーツの上で潰れた乳房を揉んで、非常に楽しげな姿だった。

 

 「ふひひひっ、どうしたの綾ちゃん? 気持ちよすぎてイッちゃった? もっとして欲しいから寝たままなの? じゃあもういっか、僕らこのまま付き合っちゃおうよ。綾ちゃんが満足するまで何度でも中出ししてあげるね」

 「ち……ちがっ……うぐっ、おぇっ。わたし、は――」

 「あぁぁ、気持ちいい。綾ちゃんのマンコ最高だぁ。ケツも柔らかいし、おっぱいは大きいし、最高の女の子だね。大事にするよ、綾ちゃん。なんたって僕の彼女なんだもんねぇ」

 

 そう言って全身でのしかかり、横を向いたまま動かない綾の唇を簡単に奪った。

 押しあてた後はすぐに舌でべろりと舐め、抵抗しない彼女を何度も舐めまわす。

 

 「んーふふふっ、これから毎日セックスしようね、綾ちゃん。子供は何人にしようか? お金のことなら心配しなくていいからね、僕の家はお金だけならたくさんあるから」

 「あっ……はぁ、へぁ……」

 

 その後も辰夫は綾の膣からペニスを抜こうとはせず、繋がったまま数時間、飽きることなく彼女の子宮へ子種を流し込み、勃起したペニスで膣を抉り続けた。

 まさに至福の一時。辰夫にとっては生まれて初めて、生きてて良かったと思った瞬間だ。しかし綾にとっては正反対に、生きてて最悪の出来事だったに違いない。

 この時すでに彼女はもう辰夫から逃げ出せなくなっている。無理やり犯されて精神まで狂わされているだけではない。

 部屋の全体を見下ろす場所、ベッドの上を眺める場所、至るところから小型のカメラで今の痴態を撮影されており、辰夫に犯された事実を余すところなく記録されているのだ。

 きっと一生忘れられない記録となるだろう。

 彼女がこの事実を知ることになるのは、もう少し後のことである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 もう何時間経ったか、わからない。

 相変わらず辰夫は仰向けになった綾の上にのしかかり、熱い息を吐きながらねっとりとキスをして舌を絡めており、飽きることなく腰を動かしている。

 射精の回数も定かではない。ただ何度も膣の中に出したものだから逆流した物がシーツの上へ大量に広がり、ひどい光景となっている。

 それだけでなく、激しい運動を続けたために二人共全身を汗でびっしょり濡らしていた。おかげで狭い室内はむっとした熱気に包まれ、異様な匂いが嫌でも鼻につく。

 開かれた脚の中に太った体を置き、腰を一つにしてかくかく動き、固さを失わないペニスで膣内を刺激する。

 長い間そうしていたせいで、最初こそ鋭い痛みに苛まれていた綾だったが、感覚が麻痺したのか、今では確かな快感を得ていたようだ。

 嬌声はない。小さな声とわずかな息遣いで薄い反応を見せており、それすらも深いキスで吸いこまれているように思える。

 傍目から見ればまるで人形を抱いているようにも見えただろう。抵抗をやめた綾はまさしく生きる人形のようだった。

 それでも辰夫は満足げな様子で腰を動かし、またも射精しようとしている。うっ、と小さな声を出した直後、当たり前のように亀頭を奥へ押し込んでから精液を吐き出した。

 

 「あーっ、また出るよ綾ちゃん。子種、僕の子種っ。綾ちゃんの子宮に送り込むよっ」

 「んっ、ふっ……はぁ。あっ」

 

 ぼんやりした目が辰夫の顔を見つめ、幸せそうだなと冷静に受け取る。

 また体内に新たな熱が送り込まれた。しかしもう何度も出され、ぐちゃぐちゃになったそこは自分ですら何がなんだかよくわからない。

 自分が感じているのか、いないのか。ただ諦めただけなのか、それとも受け入れたのか。そんなことも自分で判断できなくなっていた。

 なんとなく気持ちいいことだけはわかっている。だから綾は何気なくそっと辰夫の背へ腕を回し、弱弱しい力で抱きついた。

 精液を吐き出している途中だった辰夫の顔が楽しげに歪む。

 

 「うんうん、わかってるよ綾ちゃん。まだ足りないんだよね。赤ちゃん孕むまで何回もしたいんだよね。それくらいわかるよ、だって綾ちゃんは僕の彼女なんだから」

 「あっ、はっ……ふぅ」

 「んん? あっ、だめじゃないか綾ちゃん、おしっこ漏らしちゃったの? ここはベッドなんだから、おしっこはトイレでしなきゃでしょ」

 「あはっ……えへ」

 

 叱るような口調、しかし声は甘く、辰夫はやさしく彼女にキスをした。

 綾が垂らした小便はシーツだけでなく辰夫の腹まで濡らすが、そこに嫌悪感を抱くことはなく、むしろ愛しさを感じたのか。彼の振る舞いは至って紳士的なものだった。

 ちょろちょろと流れ出る小便がわずかな匂いを運び、精液が溜まったシーツの上に広がり、自然と混ざり合うかのよう。

 射精も止まり、小便も止まって、おもむろに辰夫は彼女の尻を掴んで繋がったまま体を持ちあげた。

 ペニスは尚も衰えを見せず、固くなったまま。腰をわずかに上下へ動かせば、小さいながらも声が洩れ出た。

 辰夫は綾を抱えたまま風呂場へ向かうため立ち上がり、狭い部屋の中を歩き出す。

 彼女の体を上下へ動かして快感を得るのも楽しいものだ。上機嫌さは相変わらず、自分だけの女を手に入れた彼はまさに幸せの絶頂だった。

 

 「綾ちゃん、一回お風呂場行こうか。おしっこ漏らしちゃったからちゃんと洗わないとねぇ」

 「は、い……わかり、ました」

 「ふひひっ、その後はシーツを取り替えてぇ、もっと楽しいことたくさんしようか。フェラも教えなきゃいけないし、手コキとか足コキとか、金玉舐めも尻穴舐めも覚えて、いっぱい僕を射精させてね」

 「は、い……」

 「それから他の体位も試さないとねぇ。とりあえずバックと立ちバックと正常位と、あと今は駅弁ファックもしてるか。僕らが気持ちよくなれる体位をどんどん探していこう。むふふ、それってきっと楽しいよねぇ。あ、そうだ。もちろんアナルファックもするよ。綾ちゃんの体はぜーんぶ僕のためにあるんだからね」

 「は、い……」

 「あとコスプレもして欲しいなぁ。綾ちゃんは可愛いからどんなエロい格好も似合うよ、きっと。ローターとかバイブとかも使いたいし、手錠とか目隠しも欲しいねぇ。綾ちゃんがセックスに慣れた後は、露出デートとかもしてみようか。深夜の公園のど真ん中で立ちバックなんてきっと気持ちいいと思うなぁ」

 「は、い……」

 

 壊れた機械のように感情のこもらない声で同じ答えばかり。持ち上げられて突き上げられる綾はぼんやりとした様子で承諾ばかりしていた。

 これでさらに辰夫の機嫌は良くなり、風呂場に着いた後でも二人はシャワーを浴びながら、片時もやめることなく性交を続けた。

 

 「ふひひ、楽しみだなぁ。綾ちゃんが彼女になってくれたから僕の人生が一気に明るくなったよ。ありがとうねぇ、綾ちゃん。これからも君をたっぷり愛して、幸せにしてあげるからねぇ……ふひひひっ」

 「んっ、んっ、んっ、んっ……あっ、はっ――」

 

 もはや彼女にいつもの自分はなく、脳裏にあったはずの顔もいつしか消え去っていた。

 




 脳内設定ではこの数時間後、東城綾は一回冷静になって再び嫌悪感に苛まれるも、結局逃げ出せずに嫌々飼いならされることに。
 主人公は容姿最悪なのにいいとこの坊ちゃんで、金だけは異様に持っており、わざわざこのためだけに一人暮らしの部屋を借りた設定。ってのを書き上げてから思いついた。


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君の支えになろうとしたのは(エヴァンゲリオン)

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 第3新東京市にある、とある中学校の屋上。

 そこには授業中だというのに二人の男子生徒が寝そべっており、学生の本分も忘れて、流れていく雲を眺めていた。いわゆるサボりというやつである。

 これまでも何度か二人で授業を抜け出したことがあった。最初は、転校生だった彼が思い詰めた表情をしていたため。元気づけてみようかと思い立ち、少しは肩の力を抜けと言わんばかりに連れだしたのがもう何か月か前のことになる。初めて学校の授業をサボったという真面目な彼に笑みを向け、大人になるにはズルを覚えることも大事だ、などとわかったような口を利き、その日から彼らは友達になったのだ。

 今日で何度目かもわからない。時間が経ったためか、それとも様々な話を通して仲良くなったためか、どちらもすっかりそこに居ることに慣れ、当然のように肩の力が抜けて安心していた。

 固いコンクリートに背を置き、脱力して。無防備に寝そべったまま時折口を開いてはぽつぽつと会話を繰り返しているのだが、その内容は中学生としてはおよそ公にできないようなもの。いくら友達同士とはいえ、彼らがそんな話をしたのは今日が初めてのことだった。

 仕掛けたのは、転校生を元気づけた男子生徒である。

 

 「なぁ、シンジってさ、ミサトさんとセックスしてるんだろ?」

 「……え?」

 

 片方はシンジと呼ばれる少年だった。

 体つきは細く、顔は幼い様子がありありと見られて、気弱そうという言葉が似合う平凡な外見である。言われた言葉にすぐさま反応し、目を真ん丸と開いている様子から、どうやら嘘がつけない素直な性格のようだ。

 彼は雲へ向けていた視線を左へ移動させ、そこに寝転んでいる男子生徒を見る。服装は同じで学校の制服、背格好も同じ。では何が違うかと問われれば、明確な部分で言えば顔つきよりもその目。

 そこに寝転んでいる少年は、シンジと同じように童顔、しかし彼よりも凛とした顔つきをしている。格好いい、とも称せるだろう。顔立ちこそまだ少年のものだがその目だけはやけに大人びていて、子供を装っている普段とは違い、親友とも呼べるシンジに向けては十四歳とは思えない目を見せていた。

 シンジに授業をサボることを教えた男子生徒。やけに楽しげな笑みを持つ彼は話の内容を理解しているだろうに、訳もないとばかりに発言している。

 

 「な、なに、それ。なんのこと? 噂か、何かかな……そりゃ、いっしょに住んでるけど、そんなことないよ。ミサトさんとは、何もない」

 「本当に? じゃあ聞くけど、ハメ撮りとかしたことない? 例えばそれがネルフの同僚を伝わって、ネルフ子飼いの俺に伝わったとしたら……」

 「あ、ま、まさか――」

 「知らなかったっけ? 俺、リツコさんとデキてんの。もっと子供の時から。で、どうやらミサトさんがリツコさんにその映像見せたらしくてさ。どうやったか知らないけど、その映像こっそり隠し持ってたリツコさんが、俺に見せてくれたわけ。いやぁすごく激しいプレイだったなぁ」

 

 シンジの隣にいるのは彼が転校してきて一番最初に仲良くなった人物、名前は赤城アキラ。赤城、とは彼を育てた女性の名字で、アキラは産んだ親がつけた名前。

 ネルフという組織の中で育った少年であり、同じくネルフに所属することとなったシンジの良き理解者。同性であることも作用し、現状最も親しくしている人間でもあった。

 時折、唐突な発言や危険な考えを持つものの、基本的には善良でやさしい性格。容姿も相まって校内での人気も高く、彼の協力もあって人間不信気味だったシンジにも友人ができたのである。

 そんな彼の、またしても突然な発言だった。

 いくら初めて出来た親友であっても、知られたくない秘密がバレていた。こうした状況に、頭は悪くないもののすぐに混乱する癖があるシンジは気が動転してしまい、気の利いた嘘の一つもつけない様子。

 しどろもどろになりながら、なんとか弁解をしなければと、言葉にもならない声ばかりが連なる状況である。

 

 「あ、あれは、その、あの……」

 「いいよ、別に。このネタでおまえを脅そうとかじゃないし、悪いこともしない。むしろ、予想もできてたんだ。リツコさんもミサトさんに対して勧めるような発言したらしいし、俺とリツコさんがそうだったから。一つ屋根の下、年齢差があるとはいえ男と女が暮らしてるんだろ? そうなっちゃってもおかしくないって」

 「う、うぅ、絶対言わないでよ。トウジやケンスケなんか、冗談でそういうこと言ってくるんだし」

 「わかってるよ。ただ、さ。そうは言っても色々聞きたいこととかあるわけだよ」

 「き、聞きたいこと?」

 「答えてくれるか?」

 「内容によるよ。その、あんまりべらべらしゃべるわけにもいかないし」

 「大丈夫だって。俺に話したところで逮捕されるわけでもなし、気にせず全部打ち明けてみな。どうせ俺だって変わんないんだから」

 「そ、そうなんだ……」

 

 にこりと微笑むアキラが、シンジへ向けて言う。

 声色こそ平常で、普段と全く変わり映えの無いものではあるが、話している内容を考えれば中学生にしてはあまりにもおかしい。

 自然、シンジはアキラのことを経験豊富な男なのだと見るようになった。こんな話を、下劣な雰囲気もなくただの世間話のように話せる相手など、きっと彼以外にはいないだろう。少し彼の過去が気になったが、互いに他人には言えない秘密を持つ者同士。なんとなくまた少し距離が近くなったような気すらする。

 若干頬を赤く染めた状態だったが、シンジもその話題を避ける仕草はすぐに失くした。話してみてもいいかもしれない。相手がアキラだけということもあって、いつの間にか自然とそう思っていたようだ。

 

 「最初のセックスって、どっちから誘ったんだ?」

 「え? えっと……ミサトさんの、方から……夜、僕の部屋にやってきて、その時にはもう裸で、それで――」

 「そのままイタしてしまった、と。ふふん、やっぱりな。俺の予想は当たってた」

 「予想って、なんのこと?」

 「シンジの方から手ぇ出すわけないって思ってたけど、やっぱりそうだったんだな。ミサトさんの方から襲うとは、明らかにリツコさんの話が利いてるなぁ。しかも裸で部屋に来たとは。かなり鬱憤溜まってたのかも」

 「う……それって、僕と、その、せ、セックスした方がいいって?」

 「まさしくそう。なんせリツコさんも俺とヤリまくりだから。相手の男がこの歳でも十分満足できるとか、そういうこと言ってんじゃない?」

 「どうなんだろうなぁ、それ……嬉しいんだか、悲しいんだか」

 

 普段通りの穏やかな雰囲気の中、年齢にふさわしくない会話が続く。

 アキラは、女性に関する話をしても羞恥心を感じていないようだった。ただ隠すのが上手いだけ、という可能性も捨てきれない。ただどちらにしても頬を真っ赤に染めて、視線がうろうろと落ち着かない初心なシンジよりも落ち着きがあることは確かだろう。

 昼前の屋上。まだ十年と少ししか生きていない少年たちが堂々と猥談をしている姿というのは、目撃者がいれば些かどころではなく大問題となる光景であった。

 

 「で、どうなんだ。ミサトさん以外、他の女抱いたりしてんの?」

 「で、できるわけないじゃないか。僕にはミサトさんがいるし、それに……普通に考えたら、僕みたいなやつが女の人になんて、モテるわけない」

 「エヴァのパイロットやってるって正直に言っちゃえば? それだけで寄ってくる女っていると思うけど」

 「だめだよ、守秘義務があるだろ。トウジやケンスケにだって言ってないのに」

 「はっきりとはな。でもバレてると思うぞ、多分。おまえの反応とか見ると特に」

 「そ、そうなの? でも一応気をつけてるけど――」

 「まぁそれは別にいいとして。じゃあ、経験したのはミサトさんだけか」

 「う、うん……」

 

 シンジの頬の赤みがさらに増す。だがアキラはすでに雲を眺めるため空を見ているので、言葉の節々から感じていたかもしれないが、己の目で確かめようとはしなかった。

 

 「そういうアキラは? その、リツコさんと、してるんでしょ……他には?」

 「んー、外には何人か。病院のナースとか、戦自の人とか、あとOLなんかも少々。でも頻繁に会うのはネルフの人ばっかり。ほら、マヤさんっているだろ? あの人とか。そもそもリツコさんと出来てた人だから、3Pで相手してもらったり、フェラ抜きなんかは日常的にやってくれる。まぁ頼まないと自分からは誘ってくれないけどな。結構シャイなんだよ」

 「そ、そうなんだ……すごいね、なんか。知ってる人だけど想像できないや」

 「あとレイとかな。綾波レイ、おまえと同じ、エヴァのパイロット。かなり前からセフレなんだ」

 「あ、綾波と?」

 「おっ、羨ましいと思ってるな」

 「ち、違うよ! 全然思ってない!」

 「ふっふっふ、相変わらずわかりやすい奴。おまえレイのこと結構気にいってるんだな。好きなのか?」

 「別に、そういうわけじゃないけど……」

 

 アキラが笑い、恥ずかしくなったシンジもまた空へ目を向ける。

 今日はとても穏やかな日和だった。ひょんなことから死と隣り合わせの生活に放りこまれたシンジにとって、これ以上なく心が落ち着く空模様である。

 こんな日にこんな話をしてるなんて、と思わずにはいられない気もする。しかし、自分がいつ死ぬかもわからない立場にいると説明された以上、いつまで続くかもわからない人生を思う存分楽しむ必要があった。アキラに言われ、今では彼自身もある程度はそう思っているらしい。

 もっと小さかった頃は一人だった。だが今ではアキラも隣にいる。同居しているミサトという女性を筆頭に、自身の味方となるネルフの職員たちもいる。改めて思い返せば、それだけのことがただただ嬉しい。心配事は何もなかった。

 だからミサトとの時間を受け入れている。これも自分の幸せの一つだと噛みしめて。何一つ不満や不安など持っていなかった。

 

 「なぁシンジ、俺もミサトさんとヤラせてくれないか? 3Pしよう。したことないだろ。その代わり、俺はレイにおまえを紹介する。それでどう?」

 「え? い、いいの? あ、いや、ミサトさんに聞かなきゃいけないけど……」

 「俺はいいよ。多分、レイもオーケーするだろ。ああ見えて結構セックス好きでな、言えばなんでもしてくれるし、俺が色々教え込んだんだ。まぁ代わりに言わないとマグロっぽいけど」

 「そ、そうなんだ……」

 「初めての相手は自分が良かったか?」

 「そんなことは、考えてないけど」

 「ふぅん、そうか。まぁおまえの初めてがミサトさんだったわけだしな。今色々教えてもらってる最中、ってところじゃないのか」

 「いや、教えてもらうっていうか……そうかもしれないけど」

 「その気があるなら、レイと二人っきりになってもらってもいいんだぞ。俺は正直ネトラレとかネトリとかそっち系嫌いだから嫌なんだけど、おまえだけは特別。なんか許せそうな気がする」

 「うっ……そう?」

 「期待してるな」

 「し、してないよ」

 「口ではそう言えても股間は正直だぞ」

 「へ? あ、わっ、わっ」

 

 ズボンの股間部分が膨らみ始めたのを気にして、シンジは両手をそこへやって上体を起こした。アキラは寝転んだままくすくすと笑っている。

 

 「なんなら、今からレイ呼んで口でさせようか。それで明日の約束ってことで。今日はとりあえずミサトさんの交渉に充ててもらいたいけど。前からミサトさんとヤッてみたかったんだよなぁ。あの胸とか尻とか、ネルフで毎日会ってりゃ誰でも思うって」

 「そ、そんなこと、できるの?」

 「昼休みまであと数分だろ。ならタイミング的にもちょうど……おっ、鳴ったな。じゃあ呼ばなくても来るよ。実は昼休みって俺とレイ、いっつもここで飯食ったり、軽くセックスしたりしててな。教室にいなかっただろ」

 「あ、そういえば」

 「すぐに来るよ。レイも期待してるから来るわけだし」

 

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。同時に昼休みが始まったことが告げられていた。

 そう言って二人が待つこと数分。屋上へ続く扉が開き、誰かがやってきた。

 二人同時に視線を向けてみれば、やはり立っていたのはアキラが言った通り、綾波レイという少女だ。

 水色のショートカットの髪と赤い目が特徴的で、普段通りの無表情。制服をぴしりと着こなして、まっすぐに二人、とりわけアキラの方を見ている。顔立ちが整っていることもあって、静かな雰囲気はまるで人形のようにも見えた。

 シンジの鼓動がどくんと高鳴る。背筋を伸ばして立つ姿は、彼が想像していた通りのものだ。

 まさか彼女が、親友と裸で淫らなことを。

 悔しがるどころかますます興奮が膨らんでいき、股間を手で押さえる彼は羞恥心から立ち上がることもできない。それどころか顔を真っ赤にして慌てて俯いてしまう始末。

 彼の方を見ることはなく、それを理解しているアキラが先に立ちあがり、手招きでレイを傍へと呼んだ。彼女は従順にアキラの元へ近寄り、小走りのまま彼の胸元へと体を寄せる。

 ぽすんと腕の中に納まり、キスを求めるように首を伸ばしたのは彼女の方からだった。

 

 「あ――」

 

 ちゅっ、と軽いリップ音。待ち受けるアキラの唇に、レイのそれが重ねられる。

 時間にして数秒。しかし見つめるシンジにとってはそれ以上に長い時間だと感じられた。

 自分の親友と、気になる異性。当然のようにキスを交わす姿は嫉妬や羨望が入り混じって、気付けば自分でも知らない内にズボンの内にある物をぎゅっと握っていた。

 二人の顔がわずかに離れる。ただしまだ抱き合ったまま。

 そんな状態で言葉を交わし始め、ハッと我に返ったシンジは少し半身に、体の全面をレイに向けないようにする。やはりズボンの張りが気になるらしい。

 

 「レイ。今日は、俺とシンジのを口でしてくれ。それと明日、おまえの家に行って三人で楽しみたいんだけど、いいか?」

 「三人……碇君も、いっしょに?」

 「ああ。おまえのことが好きみたいなんだ。きっとやさしくしてくれるよ」

 「なっ、ちょ、アキラ……!?」

 「そう。わかったわ」

 

 予想に反し、レイはあっさりと首を縦に振った。これにはシンジも驚かざるを得ない。

 これほど簡単に受け入れてくれるとは、と思っていたのだろう。しかし彼自身は知らないだろうが、アキラの命令には絶対に逆らわない彼女のこと、別段不思議な話でもなかった。

 裸になれと言われれば学校の屋上でも服を脱ぐし、抱かせろと言われればどこででも股を開く。アキラに対してのみその従順さを見せる、それが現在の綾波レイである。

 今もアキラから胸を揉まれ、スカートの下に手を差し込まれて尻を揉まれても、文句一つ言わない。それどころか無表情は変わることなく、若干頬を赤らめてうっとりしているようにも見える様子で目を閉じていた。

 シンジの喉が唾液を呑みこみ、ごくりと鳴る。

 

 「とりあえず、今は口で、な。レイのは俺がしてやるから」

 「うん……」

 「あ、そ、その、えっと……」

 「あぁいいよ、そのままで。レイが脱がしてくれるから。とりあえず立ってくれてればそれでいい」

 「わ、わかった」

 

 そう言われてシンジも立ち上がり、二人が揃って彼の前へと立った。

 屋上のタイルに両膝をつけ、上体を傾けて四つん這いにも近い体勢のレイが手をすっと伸ばし、シンジの股間に恥ずかしげもなく触れるのと、同じくしゃがみ込んだアキラの両手がスカートをまくりあげるのは全くの同時。

 まっ白い、装飾もされていないショーツが、シンジの前で惜しげもなく露わになってしまう。唯一立ったままのシンジの視線は下へ向かい、今やそこに釘付けであった。

 アキラは笑い、片手でスカートを押さえながらそのショーツを指でするりと撫で、クロッチを弱弱しく指で押し、レイはぴくりと反応しながらもズボンの上からシンジの股間を撫でる。

 中学校の屋上、昼間にあまりにも問題のある光景である。

 しかしその中の誰もが行為をやめようとはせず、むしろ期待して、その先へ進もうとしていた。

 

 「この角度じゃ見えないか。なぁシンジ。ここ、触るだけで濡れてくるんだ。レイはクリトリスと耳が弱くてな。責めてやればすぐ濡れる」

 「んっ、んっ、んっ――」

 「こんな感じで、喘ぎ声も目立たないからさ。大体どこでもヤレるよ。トイレとか、バスの中とか、あとランジェリーショップの更衣室でもしたか。店員さんに声かけようとしたら、締まりがぎゅっとよくなってな、そういうの結構好きなんだ」

 「へ、へぇ……あ、あの、綾波……」

 「レイ。出してやれよ。シンジのチンポ、おまえに触ってほしくて苦しそうだ」

 「ん――」

 

 アキラに命じられるまま、レイは迷いも見せずに素直な態度でベルトを外し、下着ごとズボンをずりおろしてシンジのペニスを露出させる。少し細いが長い、同時に亀頭をパンパンに張らした威容だった。腹に向かって固く反りかえっている。

 亀頭の半ばまで包皮がかぶっているがすでに勃起しており、何かを期待するかのようにカウパー液を溢れさせている。下着にも小さな沁みができていた。

 こうした行為は初めてではない。だがレイに見せるのは初めてのことで、無理やり脱がされたその瞬間から、シンジはうるさくなった自分の鼓動を聞きつつ激しい興奮に包まれていた。

 クラスでも一、二を争う美少女。綾波レイが自分の下半身を、裸体を見ている。それがどうしようもなく興奮する。自分では気づかないが鼻息も荒くなっていたようだ。

 それを眼前に置くと、レイは何も言わずに唇を寄せ、抵抗すらなくちゅっと軽く吸いつく。亀頭の先端、まるで挨拶のよう。これから何かを始めるかのように。

 途端にシンジは耐えるかのように目を閉じ、びくりと背を反らして全身を固くした。

 

 「う、うわっ……あ、あの、ちょっと、アキラ、別に僕はこんなこと……!」

 「まぁまぁ。嫌じゃないならそのままでいいって。レイ、ちゃんと顔見ながら舐めてやんな。その方が気持ちよくなるから」

 「ん――」

 

 言われた通り、ペニスに唇を当てたまま顔を動かし、レイの視線が上目遣いにシンジの顔を見る。視線が合うと、シンジにとっては堪ったものではなかった。

 ペニスにキスをされている。そう思っただけで射精感がぐんぐん強くなるのが理解できた。

 前々から可愛いと気になっていた相手が自分のペニスへ吸いつき、ちろちろと舌を這わせて、いつも通りで少しぼんやりした様子だが自分のことを見つめている。それがどれほど心に来るか。

 彼は顔を真っ赤にして硬直し、こちらも言われるがまま黙ってその場で立ちつくしていた。

 アキラはその間、レイの体に触れている。シャツの下へ手を忍ばせ、小さな乳房を揉んで、乳首を摘み、もう片方の手は下着越しに股の割れ目をそっと撫でる。ショーツの感触からすでに濡れ始めているのが伝わった。

 力が入っていない弱弱しい愛撫でも、すでに彼女は少しだけ息を乱して感じていた。頬はいつもより少し赤みを増し、外見的な変化では気付きにくいが、日常的に彼女と会っているアキラには彼女の興奮の大きさが手に取るようにわかる。元々感じやすい体で、いやらしいことを覚えた後では反応も良好。今日の態度も心地よく、思わず頬がにやけてしまう。

 するりと下着の中へ手が忍びこんで、今度は直接割れ目へと触れた。毛の生えていない恥丘は手触りがよく、アキラはうなじにキスを与えて上機嫌だ。

 

 「うっ、はぁ……き、きもちいい」

 「だってさ、レイ。よかったな。もうちょっと強めに吸ってやってもいいぞ。あと銜えるとかさ」

 「んっ、ふっ――」

 

 今度はぱくりと口内へ迎え入れられる。シンジのペニスはレイによって銜えられ、唇がぐっと包皮を押し、赤々と膨らむそこへ直接舌が這わされた。

 腰が抜けそうなほどの快感に、引けるどころか、思わず腰を突き出してしまう。シンジの反射的な行動によって、ペニスはレイの喉を目指してぐっと押しこまれたようだ。

 しかし彼女は嫌がりもせず、苦しいという表情すら見せずに無表情でそれを受け入れ、ゆっくりと頭を振り始める。堪らずシンジは口を力なく開いたまま、口の端から唾液が垂れることにも気付かない。目は虚ろで、与えられる快感に酔っていた。

 前後にゆっくり、じゅぽじゅぽと音を立てて。白昼堂々、学校の屋上に卑猥な音が鳴っていた。

 彼女がシンジに奉仕している間、アキラの手がするりとレイの下着をずり下ろして、脚の半ばで止めたところで、自らのズボンのベルトを外す。

 純白のショーツにははっきり沁みができていた。口元はにやりと笑みを表し、固く屹立したペニスは迷う素振りもなく彼女の太ももへと触れた。

 

 「あぁ、やっぱ俺も我慢できそうにない。レイ、このまま入れていい?」

 「んん、んふっ――うん。平気」

 「じゃあ失敬して。それとさ、やっぱり今日レイもいっしょに来いよ。3Pじゃなくて4Pですればいいじゃんか。ここでこんなにされたら、我慢なんてできないだろ?」

 「え? あ、あの、アキラ?」

 「そういうことでどうだ、シンジ。レイとの本番はその時に、な」

 「う……うん」

 

 ごくり、と喉が音を鳴らしたのは明白だった。恥ずかしがっていても素直なシンジを見てアキラは上機嫌に笑い、早速自身のペニスをレイの膣へと突き立てる。

 しっかりと指で愛撫した結果、彼女のそこはすでにびしょ濡れの状態。いつでも男を銜え込める体勢だった。それでもなくても日常的に挿入している。ずいぶんと慣れたものだろう。

 両膝をつけさせ尻を持ち上げて、シャツの下では両手で乳房を弄びながら、腰の動きだけでペニスを前へ送りだす。するとレイの腰の動きもあってずるりと先端が入り込み、強い抵抗と共に肉のうねりが感じられた。

 尻と腰がぶつかり、パンっ、と大きな音が発せられる。当然二人の肉体が一つに繋がったせいだった。

 入り込んだペニスは強く締め付けられ、だが膣に絡みつかれるようでもあって、独特の感触に声が洩れる。何度味わっても飽きない体だ。止まっていても幸福感を感じる。

 シンジはペニスを銜えられながらも、蕩けそうな感覚の中で二人が繋がる姿を見ていた。レイの目が恥辱に揺らいだ後、静かに閉じられ、アキラが腰を振る姿を見る。ペニスからじんわり広がる快感に酔い、よだれを垂らしながらも興奮した面持ちで目が離せなかった。

 

 「んっ、ふっ、ふっ――」

 「あぁっ、やっぱ締まりが最高……はぁっ、いいマンコだなぁ、レイ」

 

 がしがしと素早く振られる腰使いのせいで、まるでそれは彼女を犯しているかのよう。尻がぶつかる下腹部にぶつかり、ぶらぶらと揺れる睾丸が激突する音と同時に激しく掻き乱す水音が聞こえ、シンジの想像はますます大きくなる。

 だがレイの表情を見下ろせば。普段はわかりにくいはずなのに、今ははっきりと喜んでいることがわかるその表情に乏しい顔を見れば、勝手な想像とは違い、彼女が喜んでいることが伺えて。

 シンジは息を乱して口を半開きに、わずかに唾液を垂らして食い入るようにレイの顔を見つめた。

 膣を犯され、淫らに喜ぶいやらしい顔。

 犯しているのが自分の親友で、犯されているのが自分が気になっていた人。そして自分は、わずかながらそこに加わっていて、ペニスが彼女に銜えられている。

 自分でも理由がわからぬまま、興奮はますます高まり、ペニスの固さは増していく。そしてその固くなったペニスは、激しくレイの口を出入りしていた。

 アキラがペニスを突きいれたものの、頭を振ることをやめないレイは半ばまでを銜えてじゅるじゅると唇で吸いついており、シンジは決して腰を動かそうとはしないというのに、波の動きのように快感が引いては与えられ、また遠ざかって与えられる。

 極度の興奮と度重なる快楽。棒立ちになっているシンジは二人を見つめたまま、ある時、唐突に射精を始めた。

 

 「あっ、あぁっ、あぁぁぁっ!」

 

 ぶしゅ、びゅくっ、とレイの口内で勢いよく精液が吐き出され、それらは直接喉の奥まで飛び散っていく。腰が抜けるような感覚。強く目を閉じたシンジは舌を伸ばしながら勝手に声を出していた。

 突然のことであってもレイは口を離さず、むしろもう少し深く銜えて、それらをすべて受け止める。

 大量に出された粘度の高い精液をごくごくと飲み干し、勢いが弱まるとさらに強く吸いついて尿道の中に残った分を吸い出す。シンジは歯を食いしばってその快感を味わった。

 ありがたいと思うほど丹念な舌使い。そして吸引だ。これには思考を蕩かせたシンジであっても、我が親友に感謝せずにはいられない。心から暖かくなる気持ちよさだった。

 ようやく射精が終わった時、襲い掛かる快感に満たされたシンジはがくがくと膝を震わせて、耐えきれずにその場で尻もちをついてしまう。当然レイの口からペニスは離れ、少しばかり固さを残しながら萎えたペニスがぶらりと垂れる。足首までズボンと下着を下ろしていたせいでひどく惨めな格好だ。

 荒く息をつきながら一度目を閉じ、呼吸を整えて落ち着きたい。だが聞こえてくる音が気になって再び目を開けると、どうしたって目の前の二人の姿が目に入った。

 楽しげなアキラはシンジと目が合うとレイのスカートをめくり、二人が繋がった部分を見せつけるかのよう、レイの背を反らさせて腰を突き出すような格好にさせる。

 ぐちゃぐちゃと卑猥な液を飛び散らせる接合部。太く、固そうなペニスが出し入れされるその部分が不思議とはっきり見え、シンジの目にしっかりと焼きついた。

 

 「ほら、見えるか? 結構慣れてるだろ。体質だろうけど毛もないし、きれいなもんだよ」

 「あっ、んっ、はっ、はっ――」

 「喘ぎ声とかも小さくて色っぽいしさ。どこ連れまわしたって抱けるぞ、レイは」

 

 首筋に舌を這わせながら後ろから突くアキラを見ていると、こうした行為に相当慣れているだろうことが伺える。堂々としていて同性ながら格好いいと思えるほどだ。

 対するレイは目を閉じて快感に集中し、わずかながらも艶っぽい声を出している。小さな声だからか妙に色っぽく、制服の下で手がもぞもぞと動いていることも卑猥さを感じさせた。

 射精した直後だというのに、食い入るように二人を見つめるシンジはまたもペニスを固く勃起させ、興奮からびくびくと震え始める。疲労感など、今は微塵も感じない。

 普段ならばいざ知らず、今ばかりはそれを隠そうともせず、熱を秘めた彼の目は激しく求め合う二人を見つめていた。

 

 「はぁっ、レイ、どうだ……?」

 「んっ、んっ、んっ、き、もち、いい……」

 

 どれもこれもがシンジを興奮させ、熱くなるペニスを震わせる。触れてもいないのに射精しそうだ。

 耳を舐めて囁くアキラの表情も、恥じらいだ姿で呟くレイも。固くて強そうなペニスや、毛が生えていない恥丘のさらに下にあるだろう膣。激しくぶつかる腰の音や、膣を掻きまわす水音、地面へぽたぽたと愛液が落ちるわずかな音まで。

 彼らの存在すべてが、彼を興奮させた。

 顔を真っ赤にしたシンジは微塵も動くことなく、じっとそこにある性交を見守る。張り切って勃起した自らを扱きたい衝動すら必死に我慢して。

 淡々とした動きだが熱く、艶っぽく続けられ、異様な雰囲気の中で時間だけが流れていく。

 そうしてしばらくして、アキラがレイの耳たぶを甘噛みしながら、先程より余裕のない声を出した。

 

 「くっ、レイ、イクぞ。中に出すからな」

 「あんっ、あっ、あっ……わ、わかった」

 「くぅっ、イクぞ。イクイク、イクっ……!」

 「あっ、はっ――」

 

 最後の数度、一際強くパンパンっと強く腰が打ちつけられ、動きが止まった途端に二人の体がびくびくと震えた。

 レイは口を半開きにしてよだれを垂らし、アキラは彼女の首筋に強く吸いついて思い切り抱きつく。絶頂を感じているのはどちらも非常にわかりやすかった。

 二人の顔を見ているだけでも鼓動が高鳴り、抑えきれない興奮が渦となって胸の内で巻き起こる。

 しかし不思議と、今はどうすることもできず。自分でもわからぬ内に混乱しているらしいシンジは脚を広げたままの体勢。股間にそびえるペニスはびくびくと震え、触っていないというのにわずかばかりの精液を吐き出していた。

 数秒後、小刻みに震えていた二人の動きが落ち着く。レイは余韻を楽しんでいるのか表情が呆けているが、先にアキラが我に返った。

 目の前で脚を広げて尻もちをつき、股間の逸物を大きくしている初心な親友。また一人で射精したらしい。ペニスにべっとりと精液が張り付き、垂れ流れて、睾丸すらも濡らしている。

 苦笑してため息を吐いたアキラはやれやれと首を振り、膣の中からペニスを抜きだすと、いそいそと体勢を変え始めた。

 二人が繋がっていた場所から漏れ出した精液が地面へと落ちる。シンジはその光景すらしっかり見つめていた。

 

 「まぁ、まだ昼休みも終わりじゃないし、わざわざ後のお楽しみにする必要もないか」

 

 そう言ってレイの膝の裏を持ち、彼女を抱えるようにごろりと体勢を変える。二人もまた地面に尻をついて座りこんだ。

 脚を抱えられたことで無毛の秘所が、どろりと精液が垂れ流れる膣が、シンジの眼前へ晒される。

 またしてもペニスが大きく震えた。

 

 「時間はあるし、シンジも一回ヤッとくか?」

 

 再び音を立てて息を呑んで、期待に目を輝かせたシンジはこくりと頷いた。

 恐る恐る膝立ちになって前へ進み、足首に絡みつく下着とズボンを煩わしく思いながらも、その場所へと辿り着く。

 アキラに見守られ、レイの視線を感じる中。

 ぶるりと揺れるペニスが、濡れそぼった膣の入り口へと触れた。

 

 

 1

 

 友達が来た、と言われ、その顔を見た時、葛城ミサトは思わず眉間にしわを寄せた。

 赤城アキラ。彼女の親友、赤城リツコが世話をしている中学生の少年。女受けのいい、幼さを残す甘いマスクに、薄く筋肉がついた細い肉体。女性に対するやさしい態度も知っている。

 ミサトにしてみれば、親友の子供と言って過言でない関係の人物だ。よく知ってはいるが、今まで一度たりとも男として見たことがない。せいぜいが大人びた子ども、という印象。

 しかし彼が女好きの性格で、事実色んな女性と体を重ねていることは知っている。狭い社会だ、噂ならいくらでも聞こえてきた。

 そもそもは赤城リツコが彼に性教育を施し、自らの体を使って女を悦ばせる術を教えたことも聞いている。事実なのだろう、と思えるほど、彼らの距離に違和感を覚えたこともある。

 そういった出来事もあって、ミサトは自身が世話をする少年、シンジがアキラと仲良くしていることを快く思っていないようだった。それは、自身がシンジとの秘め事を始める前からのことである。

 性に奔放、或いは、尻が軽い。ミサトから見たアキラの印象とはそういった悪いものだ。決して好きになるタイプではない。

 もしかしたらシンジへ悪影響を及ぼすかもしれない。後々になって自らがしたことを省みつつも、シンジが転校してきた当初からそんな考えを持っていた。

 だが、想像しなかったと言えば嘘になる。噂を聞いていた以上、ずいぶんと近しい位置にいたわけだし、いつかはやってくるかもしれないと思っていた。

 今、ミサトはシンジに求められるがまま、いつも通りに裸になり、寝室のベッドの上で座っている。

 そしてその目の前には、全裸になって屹立したペニスを突き出す二人の少年と、その一方の尻に舌を這わせる裸の少女がいた。

 少し前ならあまり良く思っていなかったというのに、今のミサトはアキラのペニスを手で支えながら口の中へ含み、もう片方の手でシンジのそれを扱いているのだ。

 

 「んっ、ふぅ、ふっ――」

 「あー気持ちいい。やっぱ思ってた通り、ミサトさんはフェラ上手いね。吸いつき方とか、舌の動きとか慣れてるもん。これはすぐイッちゃいそうだわ」

 

 頭を振る度にぐぷぐぷという唾液による音が聞こえ、小さなそれが妙ないやらしさを感じさせる。

 普段は自分が見下ろすことの多いその顔。目を閉じて、うっとりとした表情でペニスを口に含む姿。横目に見ているのは少しの嫉妬心と、大きな興奮をもたらすことは今になって知った。

 すぐ傍で二人の姿を見つめるシンジは顔を真っ赤にして興奮し、普段よりペニスをガチガチに固くして、ミサトの手によって扱かれ、裸になったレイに尻の穴を舐められながら、息を荒くしていた。

 素っ裸で隣に立つアキラは腰に手を当て、仁王立ち。余裕を持った非常に楽しげな姿だった。

 

 「いいなぁシンジ、ミサトさんと毎日セックスできて。おっぱい大きいし美人だし。この口で毎日抜いてもらってるかと思うと羨ましいばかりだよ」

 「そ、そうかな。でも、アキラだって色んな人としてるんでしょ?」

 「まぁな。ただ俺が思うに、別に経験人数なんてのは大したもんじゃない。やっぱ女に関しては、量より質だ。良い女と出会えたら、その一人を離さないようにした方がいい。より良いセックスのためにもな」

 「それは経験から来る持論?」

 「まぁそんな感じだ。あんまり修羅場は経験したことないけど」

 

 ふぅん、と呟きながらも、シンジの注意は会話とは別の物へ向けられている。

 自身のペニスを扱くミサトの左手。アキラのペニスを銜えるミサトの顔。そして尻の穴へ舌を這わせ、ともすれば内部へ舌を突き入れようとしてくるレイの動き。

 どれもが彼へ強い快感を施し、これまでに経験したことのない熱が思考を溶かしていく。

 自分ではない誰かに体を触られるということがこれほど気持ちいいなんて。

 まるで初めてミサトと性交をした時のように。否、ひょっとしたらそれ以上なのかもしれない。凄まじい興奮に包まれる彼は平然と話すアキラを尊敬するかのような眼差しすら持っていて、初めての時と同じく些か我を忘れているようだった。

 お互い裸になって銭湯へ入った時とは違う。どちらも完全に勃起していて、女性二人の裸だけでなく、不思議と彼の裸体にすら興奮を覚えているような気がした。

 

 「あぁー気持ちい。そっちはどうだ? レイのアナル舐めはさ」

 「あ、うん、気持ちいいよ……でも綾波、こんなことまでしてくれるなんて」

 「俺が教え込んだからな。今なら大抵のことはしてくれる。フェラも、イラマチオも、なんならアナルセックスだって」

 「そ、そんなことまで?」

 「経験ないのか? ミサトさんと」

 「あるわけないよ。だって、色々大変そうだしさ」

 「慣れれば大丈夫だ。仕込む方法を教えてやってもいい。結構気持ちいんだぞ」

 「お尻で、か……でもちょっと怖くない? 裂けちゃうとか、色々想像するし」

 「裂けないために準備すれば問題ないさ。なんなら、あとでレイのケツでやってみるか? 洗浄だってしてるし、マンコとは違う感触で意外とハマるぞ。まずはお試しってことで」

 「う……ま、まぁ、それもいいかな」

 

 一見すれば気軽な会話。裸を晒してなんとも無防備な様子である。

 二人の少年のペニスを弄っていたミサトはこの時、ようやくアキラのペニスから口を離し、少し睨むような目つきでアキラを見上げる。

 手は尚も二人の少年のペニスをやさしく愛撫し、亀頭を握られるシンジは小さく声を洩らした。

 両方を握ればよくわかる。どちらも形が違って、固さや他の部分も特有のもの。大人とも違う若さも感じる。手で触れ、口に含み、両方を味わった結果知ることができたのだろう。

 口では色々と言いつつ、睨むような目つきをしながらも、ミサトもまたかつてない興奮に包まれていた。彼らより年上の自分が、少年二人に好き勝手に体を弄ばれる。そんな想像がいとも簡単に快楽へと変わる。

 

 「ちょっと二人とも、何勝手なことばかり言ってるの。中学生らしくないわよ、あなたたち」

 「うっ、うっ、み、ミサトさっ――」

 「あはは、まぁまぁ。今のご時世、中学生だってただの学生じゃいられないでしょ? いつ死ぬかもわからないんだし、それに俺ら二人ともネルフの関係者だ。中学生らしくないのも、俺たちらしさですよ」

 「まったく、物は言いようね。ま、中学生に手ぇ出しちゃってる私が言うのもなんだけどさ」

 「そうそう、細かいことは言いっこなし。明日には俺たちみんな死んじゃってるかもしれないんだから、今は気持ちいいことしましょうよ」

 

 そう言うとアキラは急所を握られたまま膝を折ってその場へ座り、ミサトと視線を合わせて大きな乳房へと触れる。

 竿の部分を強く擦られながら胸を揉むというのはなんとも興奮するものだ。アキラの表情はますます笑みを深くし、ミサトの首筋へ唇を触れさせる。

 対するミサトもまた笑みを深め、抵抗することなく彼の行動を受け入れ、自身はシンジのペニスへと唇を寄せる。

 期待する顔を見せる彼を見ていると、普段からの行いのせいか、どうにも見過ごせなかったらしい。

 

 「ごめんねシンジくん、お待たせ。今気持ちよくしてあげるから――んっ」

 「うわっ、ミサトさん……!」

 

 躊躇いもなく一口に亀頭が銜えられる。どこか嬉しそうな表情だ。

 前からはミサトにペニスを舐められ、後ろからはレイに尻の穴を舐められる。どちらもミサトを相手に体験したことのある行為だったが、同時に体感するのは初めてだった。

 自然と腰が震え、膝も笑いだす。今やシンジは我慢できないといった風貌で舌を伸ばし、中空にぼんやりとした視線を向けていた。

 その間もアキラはいつも通り。性への関心が強く、ミサトの裸体へ遠慮なく触れている。

 左手で片方の乳房を持ちあげ、ピンと勃起した乳首を口内に含んで舌で転がし、右手は股間の茂みを掻きわけて秘所の全体を撫でている。やさしく、慣れが見える手つきである。

 適度な力でヴァギナを揉みほぐす。その慣れが、妙に女が悦ぶポイントを知っているのだ。触れる場所、力の入れ具合、触る手順。

 ペニスを銜えている途中、次第に気分を良くするミサトも徐々に息を乱し始めていた。

 

 「うわ、すげぇとろとろ。ここ、気持ちよさそうですよねミサトさん。触ってるだけで入れたくなる」

 「んっ、んふっ、ふぅんっ――」

 「でももうちょいかな。まだ焦らした方が、あとあと良い反応になりますよね」

 

 正座するような体勢で座るミサトの股へ顔を寄せ、鼻先に黒々とした茂みをぶつけながら、秘所へ舌が這わされ始めた。

 包皮が剥けた淫核をぺろぺろと舐め、彼女の腰が悦ぶかのように揺れるのを確認しつつ、太ももを撫でながらさらに舐める。

 すべすべした手触りが心地よく、思わずずっと触っていたくなるほど。

 股から顔を離したアキラは、彼女の脚をも舐めていった。肉付きのいい太ももへむしゃぶりつき、舌と唇を使って強く吸いつく。白い肌に痕が残ればいい、と思う。

 ペニスをしゃぶりながらも喘いでいるらしい声は聞こえるわけで、視線だけで確認すれば、やはりミサトの腰はわずかに揺れて喜んでいるようだった。

 

 「う、うぅ、ミサトさん……そんなにされたら、もう出ちゃいます」

 

 同時に、限界を告げるシンジの声が聞こえた。気になってアキラはミサトの太ももを舐めることをやめ、顔を上げる。

 確かに彼の顔はすでに限界だと告げている。昼間、レイとの本番で見た射精寸前の顔と同じだった。

 それを確認し、アキラはミサトの胸をぽんぽんと叩いた。力を入れていないため痛みはないが、それで気付いたのだろう。ミサトはシンジのペニスから口を離して解放する。

 ゆさゆさと揺れる乳房を見ていると、むしゃぶりつきたい、という欲求に駆られたが、今はそんな場面ではない。

 射精直前で口を離され、もどかしい感覚がどうしようもなく心を乱す。愕然として立つシンジに目を向け、アキラは楽しげに言い放った。

 

 「まぁ待てよ、シンジ。ミサトさんにイカされるのなんていつものことだろ? せっかく四人集まったんだから、ここは、なぁ」

 「う、うん……そっか」

 「ハァ、勝手なことばっかり言って」

 

 シンジの尻を舐め続けていたレイにも、アキラが肩を叩いて教えてやり。彼女たちは動き出した。

 レイとミサト、二人は並んでシーツに背を預け、ぴたりと肩を触れさせて寝転ぶ。自然、彼女たちの裸体が、対称的な様子を示すかのように並べられたのである。

 大きな胸と小さな胸。脚に見える肉付きの違いや、表情、汗の掻き方、さらに細かく言えば秘所の形。

 すべてが衣服に隠されることなくさらけ出されている。

 思わずシンジは喉を鳴らした。いつも見ているミサトの体、裸では初めて見るレイの体。どちらも確かに女で、甲乙つけがたいほどに魅力的だ。

 そんな彼の背をぽんと叩き、アキラが自分の位置についた。それを見てシンジもベッドの上へ膝をつき、今になってさらに硬度を増したように見えるペニスの先を決める。

 アキラは開かれたミサトの脚の間に、シンジはレイの間に。それぞれ、普段相手にしている女性とは違う相手の前に居た。

 

 「どうだシンジ、こういうのは」

 「う、うん。なんか、良いことなのか悪いことなのかわからないけど……すごく、興奮する」

 「そうだろ。ま、時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり楽しもうぜ。それじゃ、お先に」

 

 自分のペニスへ手を添えたアキラが、そっと腰を前へ突き出し、亀頭の先からゆっくりとミサトの膣へと呑みこまれていく。

 ふぅぅと息を吐き、シーツを掴むミサトが目を閉じて息を吐いていた。思えば、シンジとの生活が始まって以来、否、その前から。シンジ以外のペニスを受け入れるのは何年ぶりだろう。

 固く、熱を持った陰茎。シンジのそれより大きい。非常にゆったりとした動きが苛立った。もっと激しくしてほしいと思ったからだ。

 その瞬間、すでにミサトはアキラのことを受け入れていたということだろう。今まで良く思っていなかった相手だが、彼の指や舌を感じ、シンジに見られているとわかった今、どうしても彼が欲しくて堪らない。

 ズン、と強く子宮口を突かれた時、彼女は「ひっ」と声を発して驚き、それ以降は我慢しようとも声を抑えられなくなってしまう。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――す、すごいっ。んんっ、そこ、そこがいいのっ」

 「はぁ、いいマンコしてる。なぁ、シンジもやれよ。レイの奴、反応薄いけど実は待ってるんだ」

 「あ、う、うん。わかった」

 

 すぐ隣でミサトがアキラとセックスしている。そう思うと、頭がぼうっとして股間が熱くなった。

 嫉妬、羨望、そういった感情なのか。それともまた違った感情、別の何かがあるせいなのか。原因はシンジにもわからなかった。

 ただ、自分がひどく興奮している、ということだけはわかる。今すぐこの劣情を女性にぶつけたい、とも思っている。

 シンジはレイを組み敷くようにベッドへ手をつき、恋人じみた動きで顔を寄せ、小さく囁いた。

 

 「あ、綾波……いくよ」

 「ええ。来て」

 

 最初はぴとりと触れ合い、続いて徐々にペニスが入り込んでいく。

 昼間に初めて味わった、締まりの強い膣内。ミサトのそことは違って、絡みつくような快感はないが、締めつけが強い分射精感の高まりは凄まじい。

 元々の性質も合わさってのことだろうが、挿入し始めたばかりでシンジはくぐもった声を洩らし、すべてを埋め込む前に腰を止め、体をぶるぶると震わせていた。

 さっきの我慢があったせいで、すでに射精は近いらしい。歯を食いしばって必死に我慢する様は滑稽にすら見えたが、レイは無表情でその顔を見つめていた。

 

 「うっ、うぅ、うっ……!」

 「碇くん、大丈夫?」

 「だ、大丈夫……うぅ、でも、正直もうっ――」

 

 まだ全体が入ったわけでもないのに、腰を前へ動かすことも、後ろへ引くこともできない。動かせばその瞬間に果てそうな気配がしたからだ。

 困ったシンジは締めつけに悩まされながら動きを止める。息を荒く吐き、必死に尻の穴へ力を入れて我慢を続けながら。そうまでして射精を遠のけようとするのは、ひとえにレイにも気持ちよくなってほしいという想いがあってのことだった。

 無表情に見つめてくる彼女。普段教室で見る顔とは違い、どことなくやさしい表情に見える。自分を気遣っているのだろうか、なおさら気持ちよくしてあげたいと思った。自分だけ先に達してしまうのは悪いとも。

 隣からそれを見ていたアキラは苦笑し、やさしい彼を気遣うかのように声をかける。

 ミサトと繋がっている部分からはパンパンっと大きな衝突音が聞こえ、膣から噴き出した水がシーツをべっとりと濡らしている。そこまで激しく彼女を抱きながらも、彼はずいぶんと冷静な面持ちである。

 

 「あんっ、やぁっ、はぁっ、あぁぁっ――!」

 「シンジ、無理に我慢するくらいなら一回イケって。どうせまだ何回もできるんだから、その方が気持ちよくできるだろ。お互いにさ」

 「うぅ、うん、わかった……ご、ごめん綾波、僕、もう――」

 「ええ、いいわ。好きなところに出して」

 

 隣で激しく求め合う二人の姿も刺激となって、シンジは思い切り腰を前へ突き出した。ずるり、とペニスの全容がレイの膣へ埋まる。

 その瞬間、最後の行動が引き金となってシンジの射精が始まった。

 びゅーびゅーと飛び出す精液がレイの膣へと注がれていき、流石に彼女の表情も変わる。明らかに自分の物ではない熱。その熱さは快感へと変わって彼女に唇を噛ませた。

 一方でシンジはそんなレイに気を回す余裕もなく、へこへこと腰を振りながら射精を続け、最後の一滴まで子宮へ注ごうと本能的に腰を掴む。もはや冷静な思考などなかった。

 ようやく射精が止まり、少しばかり彼のペニスも落ち着いた時。息も絶え絶えに脱力するシンジを受け止めるレイは、彼の背を抱きしめ、やさしく撫でながら耳元へ囁いた。

 

 「ありがとう碇くん。碇くんの精液、気持ちよかった」

 「あ、綾波……う、うぅぅ」

 

 たった一言。それだけでまたもペニスが見る見るうちに元気を取り戻していく。

 射精したばかりだというのに固さを取り戻したそれは、当然とばかりにレイの中にあって。考える前に腰を振り始めたシンジにより、今度こそ本格的にレイの膣を荒らし始める。

 精液と期待から出た愛液が混ざり合って、ぐちゃぐちゃと。シーツの上へ、白濁した体液が流れ落ちた。

 すぐ隣に居る二人も、互いに腰を振って刺激し合っていたため、シーツがびっしょりと濡れる有様。

 二人の姿を見るアキラは、些かの羨望を抱き。自分もまた射精したいとばかりにさらに腰の速度を上げるのだ。

 

 「じゃ、俺もそろそろ一発目出そうかな。行くよミサトさん、中出しするからね」

 「はぁっ、んんっ、はぁっ」

 「それっ」

 「んああっ!?」

 

 体を前へ倒して肌を合わせ、乳房を掴み、唇を塞いで、上からのしかかるようにペニスを突きいれる。

 疲労と快感が襲い掛かり、半ば朦朧とするミサトは今よりさらに自分を乱され、アキラの意のままに体を貪られていた。

 ベッドがギシギシと激しく揺れ、他の何を考えられる余裕も薄れていき、彼女は自らを見失っていただろう。ただ必死な声だけが部屋に木霊する。

 気付いたのは寸前になってから。あ、と気付いた時、すでに彼女が絶頂を感じていたのだ。

 

 「んんっ、んっ、んんんんっ!?」

 

 唇を塞がれ、舌を絡めたまま、くぐもった声を発して目を見開く。

 腰がびくんと大きく跳ね、背筋を逸らし、何かから逃れるように激しく身を捩った。

 しかしアキラが強く抱きしめるため、体を離すことができない。

 彼はまだイッていない。今もまだ強く膣内を突かれていた。

 

 「んはぁぁっ、イッた、もうイッたからっ! やめて、もうイカさないでぇ!」

 「はぁ、んっ、俺はまだイッてない」

 「んいぃっ、いっ、いあぁっ!」

 

 絶頂を感じた直後、体が敏感になっているその時も休ませてもらえず、ミサトは悲鳴のような嬌声を上げた。

 気持ちいい。だがこれが続けば狂ってしまう。そう思わされるだけの強い快感が襲い掛かっていた。

 髪を振り乱し、首を左右へ振って嫌がるも、顎を押さえて唇を奪うアキラに解放してもらえず。ミサトは尚も強く貫かれ続けた。

 膣内がペニスで荒らされる。まるで自分の形になれと脅迫されている気持にもなった。途方もない快感で視界の中で何度も星が弾け、狂ったように声を出す。

 しかしさほどの時間も経たず、彼も限界に至ったようだ。

 腰の動きは異様なまでに速いまま、アキラが乱れた呼吸の合い間に呟く。

 

 「うぅ、もう出る。行くよミサトさん、子宮で受け止めろっ」

 「あぁぁっ、はぁぁぁっ!」

 

 一番奥に亀頭を叩きつけ、精液が勢いよく吐き出された。

 濃厚で熱く、それでいて勢いが凄まじい。ミサトは自らの中に注ぎこまれた異物に気付き、快楽の波が引かぬというのに、また呑みこまれる。

 全身を震わせ、しがみついたアキラの背に爪を立て。彼女は声なき声を発して首を逸らせた。

 アキラの射精が止まった時。髪がじっとりと濡れるほど汗を掻いたミサトは、朦朧とした意識の中でふと目を閉じる。体の力は抜けたままだ。

 快感の波がまだ引かない。むしろ大きな熱となって体内に残留するかのよう。再び元に戻れるのかすら怪しくなる。もう彼から離れられないのではないかと。

 一方のアキラは平気な様子で数度腰を振り、最後の瞬間までミサトの膣内を楽しんだ後、ようやくペニスを抜いた。

 隣には彼らを見ながらぬぷぬぷとペニスを出し入れするシンジと、少し頬を赤くしたとはいえ無表情のレイ。にやりと笑ったアキラはミサトを置き、そちらへと向かう。

 正常位で繋がる二人はアキラに興味津津で、彼の行動を見つめる。

 すると彼は、シンジの背を押してベッドへ倒させると、繋がったままのレイを起こす。正常位から、騎乗位の体位へと変わった。

 

 「あ、わっ」

 「なぁシンジ、せっかくだから二人でなきゃできないことやろうぜ。きっとレイも気に入るだろうし」

 「ふ、ふたりで? それって――」

 「おまえが想像してる通りだよ」

 

 そう言うとアキラはレイの背を押し、上体を倒させた後、彼女の尻へ向けてペニスの先端を持ちあげた。

 向かう先がどこなのか、経験があるレイも、見たことがないシンジもわかる。胸の内がドキドキと高鳴って、期待から頬が赤く染まった。

 彼らの期待通り、アキラのペニスはレイの尻の穴へと触れ、そこで一度止まる。

 にやりとした笑みが二人の顔を向き、期待を煽るかのように言葉で説明されたのだ。

 

 「二本挿しなんてやったことないだろ。俺も経験ないし」

 「は、入るの?」

 「ちゃんと開発したからな。任せろ」

 

 指の腹をぺろりと舐め、まずは尻の穴に唾液を塗りたくる。

 勝手知ったる指の動きは確かに慣れており、それは彼女の尻の穴もまた同じだ。少し触れられただけで固い感触が徐々に和らいでいき、しばらくすると簡単に指を呑みこむようになった。

 あらかじめ洗浄されていたらしく、排泄物が付着することもない。ぬぽっ、と抜けた指はきれいなままだ。

 人さし指は今度は二人の接合部へ行き、膣から垂れ出る愛液とシンジの精液を指に塗りたくると、またも尻の穴へと運ぶ。

 そうして数度、体液を交えて穴をほぐせば、レイは背を震わせて悦んだ。

 すでに準備は整ったということだろう。呆然と見守っていたシンジが動けずにいると、アキラは今度こそレイの尻の穴へペニスを押しこむ。

 強い抵抗を感じながらだったが、ずるずると亀頭が押し込まれていき、時間をかけてすべてが埋まる。

 レイは初めて目を細め、大口を開いてか細い声を発し、シンジもまたアキラを感じてうめき声を出す。

 肉の壁を隔てて膣と尻。互いの固いペニスの感触がわかるようで、初めての快感は三人ともに絞り出すような声を出させた。

 

 「う、うぅ、うあっ……す、すごいっ」

 「はぁ、これも気持ちいいな。レイ、どうだ? 俺とシンジのチンポ、同時に銜えてるぞ」

 「はぁぁ、うぅぅ……き、気持ちいい」

 

 白い背中が震えている。普段は反応を表しにくいレイがそうなっているということは、相当な快感が襲っているのだろう。

 余裕のないシンジとは違い、アキラは彼女の腰を掴んで、ぐいと腰を前へ振りだす。

 当然、レイだけでなくシンジにもその影響が及んで快感がやってくるのだが、今にも射精してしまいそうな彼は悲鳴のような声を出すばかりだった。

 

 「うあっ、アキラ、ちょっと待って! 急に動かれると、まずい……!」

 「はぁ、なぁに、気にすんなって。出したい時に出せばいいさ。だからほら、シンジも腰振れよ。レイをイカせたいんだろ?」

 「う、そうだけど……う、うぅ、うぅっ」

 「んっ、んっ、はぁっ、あっ――」

 

 動けないシンジに代わり、アキラが元気よく前後に動き、レイの体も倣って揺れる。

 またしてもベッドがギシギシと軋みを上げ、しばらくぼんやりしていたミサトもようやく元に戻って体を起こした。

 まだ年端もいかぬ彼らの、激しく淫らな性交。大人として、ある程度の経験を積んでいる彼女ですら体験したことがない体勢、状況。

 ミサトは呆然と彼らを見やり、誰に言うでもなくぽつりと呟いた。

 

 「すごい……あんなことまで」

 「んんっ、はぁ、んあっ――」

 「うぅ、だめだアキラ、もうイキそう……! イク、出る出る、出ちゃうっ」

 

 必死に目を閉じ、歯を食いしばるシンジは限界だとばかりに悲鳴を上げた。しかしアキラは腰を振るのをやめず、彼も限界が近そうな顔でラストスパートをかけていたようだ。

 上と下から、されるがままのレイは小さな喘ぎ声を出し、ただ受け止めるばかりである。

 

 「くぅ、流石にアナルはきついな……俺もそろそろイクぞ、レイ」

 「んっ、んふぅ、はぁ――わ、わかったわ」

 「ううあっ、も、もうだめだっ。い、イクぅ……!」

 

 先に根を上げたのはシンジだ。

 最後の一瞬、思い切りもよく腰を上下へ振ってスパートをかけ、膣に入ったまま再び射精する。

 先程よりも量は少ないが、それでも勢いは良く、彼女の膣内をさらに汚す。先程出した分が奥から流れ出るほどの勢いであった。

 それからいくばくもせず。まだシンジの射精が終わっていない頃にアキラも限界を迎え、叩きつけるような動きでレイの尻を震わせながら、唇で首筋に強く吸いつく。

 胸を鷲掴みに、しがみつくような体勢だった。

 

 「ぐっ、イクぞレイ! しっかりアナルで受け止めろよ!」

 「んっ、んっ、んっ、んっ――はっ、あぁっ、あぁぁっ」

 

 びゅっ、びゅっと尻の中で精液が吐かれた瞬間、レイもびくんと体を震わせて絶頂へ達した。

 前も後ろも精液に満たされ、レイの体からは力が抜けてシンジの上で脱力する。すでにシンジの射精は終わっており、彼もまた余裕がない状態で抱きとめる仕草すらできなかった。

 ゆるく腰を振りながらアキラの射精もようやく落ち着き、それからやっとペニスが抜き取られる。

 ぐったりと倒れたままの二人をそのままに、ベッドの上で立ちあがったアキラは自分の竿を扱き、ちらりと隣を見る。

 濡れたシーツの上にぺたんと座りこむミサトは、自らの秘所へ指を這わせている。どうやら先程の光景で気分ばかりが高まっていたらしい。

 またいやらしい笑みを浮かべ、彼女の背後へ回って抱き締めたアキラは大きな乳房を揉み、素早く唇を奪って舌を絡め取る。

 口元からくちゅくちゅと淫らな音を響かせながら、楽しげな声が告げていた。

 

 「羨ましかった? マンコとアナルの二本挿し。だったらさ、ミサトさんも今度、シンジにアナル開発してもらいなよ。その時は邪魔しないから」

 「べ、別に私は、そんなこと――んっ」

 「俺とシンジのチンポ二本銜えこんで、両方から思い切りガツガツ犯されるんだ。きっと気持ちいいよ。あのレイでも飛ぶくらいだったんだから。ほら、見て」

 

 アキラに舌を吸われながら、ちらりと確認する。確かにレイもシンジも息を乱した状態で倒れ込み、ぴくりとも動かず抱き合っている。

 自分もあんな風になるのだろうか。そう思えば期待している自分が居ることに気付いた。

 ぐにぐにと乳房を弄んでいた手の内、右側が、股へ向かって降りていく。それを今さら止めようとは思えなかった。

 先程彼に出された精液と、新たに出てきただろう愛液。シーツを濡らすそれらがまた、外へ向かって出てきている。

 もはや疑うまでもない。自分は期待しているのだ。

 アキラとシンジのペニスで、膣も尻も同時に犯されることを。

 ぶるりと震えたミサトはわずかな刺激だけで達したらしく、シーツ目掛けてびゅっと潮を吹いていた。

 

 「まぁでも、別に二人同時にやるならアナル使わなくてもできるし、今日はそっちでね」

 「ふぅ、ふぅ……え? ちょ、ちょっと待って。まさか、まだやる――ふっ、ぐっ」

 「もちろん。俺まだ満足してないし、ミサトさんだって満足できてないでしょ?」

 

 半ば無理やり口の中へペニスを突っ込んで、半分ほど勃起していたそれを大きくするため、腰を振る。

 ぐぽっ、ぐぽっと卑猥な音がするのはミサトが口をすぼめ、決して歯を立てないようにと気遣っているため。態度では驚きながらも、彼女もそれを望んでいたようだ。

 アキラはゆっくりと腰を振りつつ、背後を振り返ってシンジへと声をかける。

 ようやく正気を取り戻した二人はねっとりと舌を絡めている真っ最中。アキラの声によって我に返り、再びミサトへ注意が向けられた。

 

 「シンジ、ミサトさんに突っ込んでくれ。二人で満足させてやろう」

 「あ、う、うん。わかった」

 

 いそいそとレイから離れ、シンジがやってくる。それだけでミサトの股が熱くなり、気付けば自ら股を開いていた。

 彼を抱きとめるように正常位で。アキラのペニスをしゃぶりながらではあったが、いつも通りに犯して欲しいという表れだ。

 軽く頷き、シンジは自分のペニスへ手を添えて位置を正す。彼女の秘所を見た途端、そこから流れ出る精液と愛液が彼の頭をかっと熱くさせ、瞬間的に勃起していたのである。

 亀頭を入口に合わせ、ゆっくり腰を進め始める。慣れた調子で見る見るうちに挿入されていった。

 ミサトはくぐもった声で悦び、銜えたペニスを熱心にしゃぶって、シンジもすぐにかくかく腰を振り始めて行為に没頭する。

 アキラはそんな二人を見た後、レイへ声をかけて手招きした。

 

 「レイ、こっちおいで。気持ちよくしてやるから」

 「ん」

 

 そっと寄り添ってくる彼女を抱きとめ、ペニスではミサトの口を犯しながら、キスを交わして胸を揉み、膣へ指を突っ込んで愛撫する。

 二人の女を同時に愛す。こうした瞬間、ひどく幸福な気持ちに包まれた。

 ミサトの口内を味わい、レイと舌を絡めて、シンジはミサトを抱いている。驚くほど淫靡で、タガが外れた空間。

 辺りを見回したアキラは、楽しげに笑っていた。

 

 

 *

 

 

 薄暗い一室でパソコンに向かってキーボードを叩いていると、唐突に後ろから抱きしめられた。

 その途端に彼女、赤城リツコは相手が誰であるかを理解し、ふふっと小さく笑う。

 

 「ただいま、リツコさん」

 「おかえりアキラ。今日もどこかでお楽しみだったのかしら」

 

 彼女が世話をしている少年、赤城アキラ。こうした行動に出るのは彼しかいない。

 イスの後ろから抱きすくめられ、断りもなく胸を揉み、頬へ軽くキスをする。いつも通りの、何一つ変わらぬ軟派な彼。そうなるようにしたのは彼女だけれど、あまりにも普段通り過ぎた。

 楽しげなアキラの空気を感じ、何か良いことがあったのだろう、とリツコも機嫌を良くする。

 アキラにすべてを与えたのは彼女だ。金を出して彼を育て、女とは何かを自らの体を使って教え、我が息子のように愛情を注いで今日まで付き合ってきた。その一挙一動を気にして一喜一憂するのもそのためだろう。彼が何を為し、何を欲するのか、リツコは強い興味を持っていた。

 そんな性質があるせいか、アキラもその日どんな風に過ごしたのかをリツコによく報告する。求められたわけでもないのに、自発的に。

 服の上から胸を揉み、首筋へ舌を這わせ、愛撫のように耳元へ囁きかけているのだ。

 

 「まぁね。今日さ、シンジに頼んでミサトさんとセックスさせてもらったんだ。予想通りいい体だったよ」

 「あら、そうなの。よくオーケーしたわね、シンジくんもミサトも」

 「シンジはほら、レイとセックスしていいって言ったらわりと簡単に。前々からレイに気があったみたいだしね」

 「なるほど。あの子も男だったってことかしら」

 「そりゃそうだよ。でなきゃミサトさんと毎日やりまくってないって。今日もずいぶん頑張ってたし。リツコさんもやりたい?」

 「遠慮しておくわ。私はあなたがいれば十分だもの。あなたから頼まれれば拒む理由もないけど」

 「じゃあ考えとくよ。俺もリツコさんを独占しておきたい気持ちもあるから」

 「ふふ、正直ね」

 

 首筋を伝って徐々に移動し、舌がリツコの頬を撫でた。

 すると彼女はくすぐったそうに肩を揺らして、すぐにそちらへ顔を向け、アキラの唇を受け入れる。ちゅっ、と軽いリップ音が鳴り、静かな室内に何度も響いた。

 それが彼らの日常。親子とは名ばかり、何度も体を重ね合った仲。

 恋人より深く、夫婦とはまた違い、家族よりもさらに近い。

 何度か舌を絡め合った後、また少し顔が離れて、笑顔のまま会話が続けられる。

 

 「いつかはそうなるかもしれないと思ってたけど、まさか本当にミサトと寝るなんてね。育て方を間違えたかしら」

 「今さらそんなこと言う? 俺は全部リツコさんに教えられた通り生きてるつもりだけど」

 「ふふ、冗談よ。それにしてもずいぶんシンジくんを気遣ってるように思えるんだけど、私の気のせいかしら?」

 「気のせい、じゃないかもね。まぁ、気遣ってるって感じでもないけど、シンジとは仲良くしたいと思ってるのは事実だよ」

 

 イスから離れて今度は前へと回る。アキラはリツコと机の間に割って入り、彼女の胸へと顔を埋めた。

 柔らかな感触が布越しに頬へ触れる。子供じゃないが、思わず安心する感触だ。

 そう考えた後、まだ子供だったか、と自嘲して笑う。まだ子供な自分が彼女へ甘えるのも当然、そんな態度で服の中へ手を忍ばせ、今度はブラジャー越しに乳房を揉んだ。

 

 「考えてみれば、シンジの境遇ってもろに主人公っぽい感じだよね。孤児院で育って、母親はすでに亡くなってて、今まで一度も顔を見たことがなかった父親に呼び戻された途端にエヴァンゲリオンのパイロットで戦闘。窮地に陥っても暴走で相手を返り討ち。一躍町の救世主に。ほんと、なんていうか、出来すぎってくらいよく出来てる。そういう星の下に生まれてんのかな」

 「そうね。確かに、彼は特別な人間だと思うわ。本人が望む望まないに限らずね」

 「だから興味があるんだ。俺は主人公になるタイプじゃないし、そんな立場好みじゃない。むしろ、主人公を傍で支えていくような、サブキャラの中で目立つ感じが好きなんだよ」

 「なるほど。だからシンジくんにあれこれ世話を焼くの? 友達になったり、レイの体を与えたり、いっしょに同じ女を抱いたりして」

 「そんな感じかな。あいつのことが好きなのは本心だよ。でも、世界がどうこうとか興味ないし、シンジ本人を気に入ってってのと同時に、俺のためって感じもある」

 

 手は乳房を揉み、乳首を転がしつつ、顔はさらに下へと向かう。

 片手でスカートをめくり上げた後は顔面の前に下着が現れ、再び乳房を揉みながら顔をそこへ近付ける。

 下着を脱がすことなく、舌が伸ばされる。秘所を舐めるためだった。

 

 「シンジもそうだし、多分、レイやアスカもそうだけどさ。上手く導ける奴が居れば意外とあっさり使徒を倒せたりするんじゃないかな。俺としてはそれが面白いわけだよ」

 「いい趣味ね。それとも悪趣味と言えばいいかしら」

 「どっちでも。でもそのおかげでシンジの精神状態は安定してるし、友達だって増えてる。シンクロテストでも良い結果出たって聞いたけど」

 「そうね。数字として結果が出てるわ。シンジくんも、レイもね」

 

 カタカタとキーボードを叩く音を響かせながら、リツコが答える。机の下ではアキラが自分の股間を舐めているというのに、平然とした様子である。

 その答えを聞いて、アキラは少し不思議そうに舌を止めた。同時に次の段階へ進むためでもある。

 胸から手を離し、今度こそリツコの下着を脱がす。わずかに濡れた秘所が見え、ピンと大きく立った淫核も顔を出していた。アキラはそこへ強く吸いつき、一方で会話を続ける。

 初めてリツコがぴくりと反応し、ぢゅっ、という吸いつき音で少し呼吸が乱れた。

 

 「アスカ、あんまりいい感じじゃないの?」

 「最近、少しね。元々ポテンシャルは高かったけれど、シンジくんやレイのテストを知っているだけにショックもあるんでしょう。あの子、プライドが高いから」

 「ふぅん。じゃあまずい状況かもね」

 「人を育てるのが好きなら、アキラ、あの子も面倒見てくれない? 十分過ぎるほど美少女だし、胸は小さいけど、外国の血が入ってるから楽しめると思うわよ」

 「うーん、そうだなぁ」

 

 徐々に息が乱れていく。脚は自ら開かれ、さらに舐めやすい環境になった。

 アキラはさらに強く吸いつき、膣の中へ舌を差し込んだ。柔らかな感触と独特の熱が心地よく、愛液をすすりあげる音も殊更大きくなる。

 

 「もっと面白い方法があるんじゃないか」

 「例えば?」

 「シンジの方が適任だ。アスカはああいう感じだから自覚ないだろうけど、多分その気があるだろうし」

 「ふふ、難しい方法だと思うわ。色んな意味で、ね」

 「でもできるさ。俺が上手く背を押してやれば」

 

 ずずっ、という音を最後に、アキラはリツコのそこから口を離した。

 次いで自らのズボンと下着を一気に脱ぎ捨て、シャツもそこらへ放り捨てて裸になる。

 机とリツコを遮るように立ち、自らの裸体をさらけ出す。背後からモニターの光で照らされ、雰囲気はあるものの異様な光景に思えた。

 リツコは笑っていた。しかし少し困った様子でもある。

 まだ仕事を片付けていないのに、彼がその気になってしまっては夜が明けてしまう可能性すらあったからだ。

 

 「あん、待って。まだ仕事が終わってないの。続きはその後で」

 「無理だよ、もう我慢できない。俺専用マンコだって言ったよね? なら今使わせてよ」

 「もう、仕方のない子ね……でも一回だけよ。一回したら夜まではお預け。いい?」

 「リツコさんのマンコが、それで納得するならね」

 

 イスの上で脚を開いたリツコを組み敷き、アキラのペニスが膣へと突きいれられる。それだけでリツコは官能的な声を発し、さらに彼の気分を良くする。

 静かな一室にぐちゅぐちゅと卑猥な音が流れ始めた。

 ゆっくりと腰を動かして感触を楽しむ。ひどく慣れた挙動であり、改めて体感したリツコはため息を洩らさざるを得ない。まさかここまで成長するとは。

 初めての時が懐かしい。まだその頃の彼は純粋で、何も知らない小さな子供だった。

 今も大人になったとは言い難いが、技術や態度は大人も顔負けのそれ。数多の女と寝所を共にしたのはひとえにリツコのおかげである。

 ずいぶん大きくなった。彼に抱かれる最中もリツコは笑み、我慢せずに声を出して悦びを露わにする。

 

 「くぅ、やっぱ気持ちいいなぁ。リツコさんのマンコ最高だよ。さすがにこれだけはシンジに渡したくないな」

 「んっ、んんぅ。はっ、勝手ね。シンジくんからはミサトを奪ったのに」

 「奪ったわけじゃない。ただ共有しただけさ。それに俺だって独占してたレイを抱かせたんだから、条件はイーブンでしょ」

 「ふぅっ、はぁっ。んっ……そうかもしれないわね」

 

 ぬぷぬぷと、わざとゆったりした動きで時間をかける。楽しむような動きだ。

 意地が悪い、とリツコは笑う。彼の味を知った女がこんな速度で満足するわけがないと知っているだろうに、敢えて腰の動きを遅くしている。それが好ましいと同時に自分だけは特別扱いでもいいのではないかと思う。

 抗議する意味で下腹部に力を入れ、ぎゅっと締めあげてやる。するとアキラの表情が変わり、驚いたように強く目を閉じた後、目を開けば嬉しそうな笑顔だ。

 両手が腰を掴んで速度が変えられる。前後に一定のペースでペニスが出し入れされ、膣の中を好き勝手に暴れまわり、背もたれに体重を預けるリツコは首を反らせて目を閉じた。

 

 「ねぇリツコさん、一回だけで我慢するから裸になってよ。裸で仕事するとこ見せて」

 「うっ、んっ、んんっ。はぁ、恥ずかしい、格好ね。それはちょっと、はぁっ」

 「いいじゃん。どうせここに来るのって俺とマヤさんくらいでしょ。見られて困ることはないって」

 「んんっ、もう、仕方ない子ね……あぁんっ」

 

 繋がったまま、突かれながらもそもそと上半身を動かす。自ら服を脱ぎ始めていた。

 白衣を脱ぎ棄て、シャツを落とし、ブラジャーもその辺りへ。どっしりと重そうな大きな乳房が露わになり、その魅力に思わず胸が高鳴る。

 子供のように嬉々として、突かれる衝撃でぷるんと揺れる乳房へ両手を置く。上から鷲掴みにするような力だ。

 尚も腰の動きは巧みな様子で止まらず。射精感は徐々に高まっていく。

 

 「んんっ、んっ……し、下は?」

 「あとで俺が脱がすよ。今日は胸にかけたいな」

 「はぁ、んっ、あぁっ。す、好きにしていいわ」

 「こういう時ってやっぱさ、おっぱいって言った方が興奮する? マヤさんとかは言葉責め弱いんだけど、リツコさんの好みは?」

 「ふぅ、はぁ。んっ、私も……おっぱいの、方が。あっ、んんっ。子供っぽさが、いいっ」

 「へぇ、そうなんだ。初めて聞いたな、そういうの」

 

 言葉を止めて淡々と腰だけを動かし、射精することを第一と考える。自然に二人の会話はそれで終わった。

 ペニスから感じるリツコへ意識を向ける。リツコもまた、自身の内にあるアキラへ集中していた。

 ずりずりと内側が抉られ、速度が変わればそれだけで身を襲う快感が違う。

 時間にして数分間。言葉もなく息を切らして快楽を貪り合った。

 アキラが射精を始めたのは、何の説明もなく唐突だった。

 ラストスパートに入った、とは腰の動きが叩きつけるような速度に変わったためわかったが、リツコが気をやった瞬間、ペニスがずるりと勢いよく引き抜かれる。右手で竿全体を扱き、亀頭の狙いは胸の谷間へ。無理やりイスの上に乗った途端に割れ目からびゅっと精液が飛び出し、狙い通りにリツコの胸が汚される。

 行動が止まる。室内には静寂が満たされていた。

 荒い呼吸だけが静寂を切り裂き、アキラがイスを降りてから疲れた様子のリツコは背もたれに体を預けたまま力を抜く。髪が乱れてじっとりと汗を掻いている。体に残った疲労感も大きい。

 かといって気分が悪いかと言えばそうでもない。有言実行でスカートとショーツを脱がしにかかるアキラのされるがままになりながら、リツコは安堵のため息をついた。

 すっかり裸にされてしまい、それからようやくだらしない体勢をやめて体を起こした。裸でイスに座り、仕事を続けなければ。たとえ異様な状況に羞恥心を感じていようとも。

 とはいえ、リツコの表情はこの状況を楽しんでいるようにも見えた。口角がきゅっと上がり、何やら楽しげな表情。胸元にべっとりと精液で汚したまま背筋を伸ばし、キーボードへ手を伸ばし始めた。

 

 「さぁ、これでいいでしょう? 私は仕事するから、今からは大人しく――あっ」

 

 イスの左側へ立ったアキラへそう言うと、そちらから頬にぐいとペニスが押しつけられる。自分で出した精液と、彼女の愛液にまみれたそれだ。いまだ半ばほどの力で勃起しており、完全に静まったとは言いにくい。

 これには流石にリツコも苦笑を禁じえず、くすりと笑いながら眉をへの字にする。どうやら彼女の息子はまだ悪戯をやめるつもりがないらしい。

 

 「一回だけって言ったでしょう?」

 「そうだよ。一回セックスしてもらったから、今はもう頼まない。でもリツコさんの体でオナニーしちゃだめとは言われてないよね?」

 「もう、屁理屈ね。どうしてそんな子になっちゃったのかしら」

 「リツコさんに育てられたからだよ。その体見ちゃったら、いつでもどんな時でも勃起しちゃうから、俺は」

 「嬉しいのか悲しいのかわからないわ。とにかくもうちょっとで終わるから、しばらくは大人しくして――あっ、うんっ」

 

 開かれた唇の内側へぐいと亀頭を押しこみ、わずかに腰を振り始める。

 アキラの顔に目をやったリツコはしかし怒るでもなく、歯を当てないように口をすぼめながら、再びパソコンへ向き直った。これも受け入れるのに難しくない状況らしい。

 きっとこれだけでは終わらないだろう。自然とそんな考えが頭に浮かんだ。

 親と子、血の繋がりはないとはいえ、同じ名字を持つ彼女たちのいつもの遊びはまた、今日も当然のように始められたのである。

 



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求めるモノ(エヴァンゲリオン)

 2

 

 朝日が窓から差し込んでくる。白いレースのカーテンを通り、室内が明るく照らされている。

 真っ白な壁の一室はまるで輝くような色。広い寝室の中央に置かれたベッドの上、アキラはむくりと起き上がった。

 相変わらずその部屋の朝は目に厳しい。強い明かりを突きつけられるようで眩しさから中々目が開けられず、シーツの上で座ってしばし寝ぼけ眼で窓を見る。

 彼は裸だった。手触りが良いシーツに素肌を晒し、下着の一枚も身に着けることなく。さらに隣には同じく裸の女性が寝ている。

 白い肌で細身。少し茶が混じった黒髪のショートカットで、体の肉付きは少なく、やけにほっそりとした背中と太ももだ。リツコやミサトと比べても胸は小さい。

 しかし、きれいな肌である。うつ伏せでこちらへ顔を向けて眠る彼女を見下ろし、アキラは微笑む。

 元々彼女はリツコを尊敬していただけの普通の女性であった。むしろ普通よりも潔癖で、男性と必要以上に親しくなることもない、まさにリツコ一筋の些か盲目的な性質を持っている。

 そこへ目をつけたリツコとの肉体関係に始まり、彼女の家族だったアキラとも関係を持ったのである。

 最初こそ戸惑いも強かったようだが、今ではすっかり恋人気分。自分より年下の彼の落ち着きがない女性関係を知りながら、嫉妬心を持ちながら仕方ないと考えて自由にさせている現状だった。

 今まで男を知らず、アキラとの行為が初めてだったからか。彼女はずいぶんアキラに執着している。自分に対して本気なのかどうかさえ不透明なままで、それでも良いと決して手放そうとしないのがそれをよく物語っているだろう。

 あらゆる女を知った彼もそんな可愛らしい女性、伊吹マヤのことを気に入っていた。

 目下のところ、アキラが最も大事にしている女性の内に彼女が入る。リツコ、レイ、そしてマヤ。様々な女性と寝所を共にしながら絶対に離れようとしない三人だ。

 穏やかな寝顔を見せるマヤの顔を見つめ、その後白い背中から下へ向かって視線が降りていく。

 ぴたりと止まったのが小さな尻だった。全体的に細い体なため、女としての魅力に溢れているとは言えない。腰は括れて良いものだが、胸や太もも、尻なんかは肉付きが少なくて幼い印象すら受ける。中学生のレイともさほど変わらない気がした。大人の魅力に溢れるリツコやミサトとはやはり違う。

 だが代わりに、彼女には他では中々味わえない性質があったりもする。

 強い羞恥心を感じてすぐ顔を赤くし、感じている癖に素直になれないところ。それでいてスイッチが入ると普段見せない顔で乱れたりする。真面目で強情、だからこそベッドの中でしか感じられない非常に愛らしい部分である。

 眠りこけるマヤへ声をかけることもなく、怪しく動いた右手がシミ一つない背を撫でた。

 触れるか触れないか、なんとも微妙な力加減。マヤが起きていればまず嫌がっただろう感触だ。触れられているのにもどかしい感覚は焦らすためのようでもあり、寝ている最中もマヤの背はぴくりと反応する。

 敏感な反応にくすりと笑い声が洩れた。

 マヤは非常に感じやすい体をしている。レイもそうなのだが、そのせいで焦らしに焦らして虐めるのが楽しいと感じてしまうのだ。

 するすると肌の上を通り、丘のように膨らんだ尻の形を撫でて、掌を肉へ押し付ける。ぎゅっと握る仕草であった。

 柔らかな肉は小さいとはいえ女性特有の感触。男のそれを撫でたことなどないがやはりこちらの方が良く、これでなくてはと思う。

 そのまま下へ進んで、尻の割れ目へ指が入り込み、侵入するように股の付け根にまで行く。

 まだあまり使われていない、ぴたりと閉じた女陰。ぐにぐにと揉んで昨夜の名残を探せば、今でもわずかに湿り気が残っているように感じられた。

 昨夜も避妊具を使わず、子供を作るために何度も子宮目掛けて精液を注ぎこんだのだ。

 元来アキラは避妊具を着用することを好んでいなかったが、かねてより件の三人を孕ませたいという考えを持っている。レイはまだ歳が若いから若干の気遣いを見せているものの、リツコとマヤ相手にはまるで遠慮がない。膣で射精するならば必ず一番奥、限界まで進んだ上で子種を思い切り吐き出す。孕ませてやろうというその一心で。

 柔らかな感触でぐにぐにと遊びながら、今日は受精してるだろうかと考える。自分とマヤの子、どんな外見になるだろうと、まだ叶ってもないことを想像してみたりもする。

 別段子供が好きというわけではない。けれど自分の子供というのはひどく気になっていた。一体どんな子供が生まれてくるのだろう。考えるだけでも楽しくなってくる。

 彼自身、リツコが親代わりだったとはいえ生みの親の顔を知らない。本当の意味での親というものを知らないのだ。

 もし自分が親になれたのなら。その時はどうするのだろうか。純粋な好奇心に満たされる。

 慣れた手つきで遠慮もなく膣の入り口を撫でていると、反応したのか徐々に奥から湿り気が分泌されてきて、マヤの身じろぎも大きくなる。そろそろ起きようとしているようだった。

 

 「ん……んっ、んんっ」

 「おはよ、マヤさん。起きた?」

 「アキラ、くん……おはよう。あっ」

 

 起きた瞬間は眠たげな目をしていたものの、アキラの手が何をしているか知った途端、パッと目が開いて上体を起こそうとする。

 しかしアキラが左手で尻を押さえるため完全には逃げられない。尚も秘所の全体をやさしく揉まれ、自然にぴくりと反応してしまう。

 

 「なにしてるの。昨日たくさんしたでしょ」

 「そうなんだけどさ、しょうがないって。朝起きて隣にこんな可愛いお尻があったらそりゃ手ぇ出すよ」

 「もう、どうしてそんな……んっ、あっ」

 

 左手で尻の肉を揉みつつ、右手は掌全体を使うように股間を撫でる。

 整えられた薄い陰毛が指に絡み、経験の薄さから変色していない肉のひだが分泌された自らの体液で濡れていく。

 すぐにマヤは両手でシーツをぎゅっと握り、強く目を閉じて快感に打ち震える。今はまだじんわりとしたものだが味わうことを楽しめるようになってしまった後では、股に触れられると抗えない。

 いとも簡単に呼吸が乱れて腰がわずかに浮かぶ。敏感な彼女はスイッチが入るのも早かった。

 楽しげなアキラに股間を弄ばれ、必死に声を抑えようとするマヤはシーツに顔を押しつける。

 

 「やっぱり感じやすい。濡れてきてるよ、マヤさん」

 「んんっ、んくっ、ち、がう……」

 「別に嫌じゃないんでしょ? だったらしようよ。今日という一日を気分良く始めるモーニングセックス。そう聞いたら最高に良いことしてるって思わない?」

 「はっ、んっ……あぁんっ」

 

 膣の入り口へ人さし指を挿入する。第一関節までだけを入れ、すべては入れない。まるで焦らすようにそこでわずかに動かした。

 少しとはいえ体内を掻きまわされる感触。マヤが好きな味だった。彼女は膣内に触れられることをよく好む。

 けれど指先しか入ってこないのでは自分が好きな場所に触れられる訳もなく、もどかしい感覚が常に付き纏う。これにはマヤも尻をわずかに上下させて反応し、早くも目がとろんと蕩けていた。

 

 「あっ、あっ……もう少し、おくっ。焦らさないで、もっと深くまで……」

 「じゃあ言ってよ、セックスしたいって。中々マヤさんの方から誘ってくれないからさ。上手に俺を誘えたらすぐにでもチンポ突っ込んであげる」

 「んんっ、はぁぁ。し、したいです、セックス。アキラくんとセックスしたいから、だから……!」

 「うーん、どうしようかなぁ」

 

 戸惑いもなく指が抜かれる。そのせいでマヤが寂しげな声を発した。

 間を置かず、今度は彼の口が股へと向かう。

 何かを求めるように少しだけ腰が浮かされているため、脚の間に体を運べばずいぶん景色は良く、体勢にも苦労はなかった。

 彼を待っている秘所へ、舌を伸ばして応える。大陰唇から徐々に内側へ向かうよう、時間をかけてたっぷりと唾液を塗りたくる。まるで自分の物だとマーキングをしている風にも見えた。

 

 「はぁ、んっ、あっ」

 「もうちょっとボキャブラリーあるでしょ。本気にならないとやめちゃうよ」

 

 じゅるり。卑猥な水音で大事な場所を舐められる。

 ツンと立ったクリトリスが舌で転がされ、ますますマヤから余裕が薄れていく。

 声を出したいのに言葉にならない。口から出て行くのは艶っぽい嬌声だけで、肝心の言葉はどれほど努力しようとしても形になる前に消えてしまった。

 そのせいでマヤにとって辛い時間が続く。

 焦らされたままの状態で数分間、たっぷりと舌で股間を舐めつくされた。

 大陰唇から小陰唇、ひだを唇で挟んだり、舌の腹をぐっと押しつけ、膣へ浅く舌先を挿入したり、クリトリスに強く吸いついたり。自由気ままで好き勝手な動きだった。

 女の味を根こそぎ頂こうという丹念な舌使い。やさしくも力の込められたそれはまさしく彼女好みのもの。嫌という感情はなくますます気分が高まっていく。

 気付けばしっとりと汗を掻いていた。シーツを握って小刻みに震える彼女はまるで小動物のようでもあった。

 アキラの笑みはどんどん深まり、上機嫌な態度でじゅるじゅるとさらに水音を大きくする。

 

 「んんんっ、んああっ。も、もうだめっ。アキラ、くん、そんなにっ……」

 「んちゅ、はぁ。おいしいよ、マヤさんのエロマンコ」

 「はぁん、はやく、早くちょうだいっ。アキラくんのチンポ、私のエロマンコに思い切り突っ込んでっ」

 「おっ、きたきた。やっぱりマヤさんはこうじゃないと。俺のチンポですぐ気分良くなっちゃうエロ女だもんね」

 「うん、うんっ。アキラくんのチンポがないとだめなの。もう、おかしくなっちゃいそうなのっ」

 「じゃあ入れる前に教えてよ。俺のチンポのどういうとこが好き? ちゃんとわかりやすく教えてくれたら入れてあげるからさ」

 「あっ、あぁっ――」

 

 口を離したアキラは代わりに今度はそこへ勃起したペニスを擦りつける。

 尻の谷間に挟んでゆっくりと腰を前後させ、谷間に埋まってずりずりと動きが伝わった。

 マヤの肩の震えは大きくなり、もはや我慢できない状態である。

 

 「か、固くて、太くて、良いところ突いてくるんです。だから、そのぶっといので、子宮の入り口何度もごつごつってして欲しいんです」

 

 耳まで顔を真っ赤にして確かにそう言った。平常心を失くしているのに恥ずかしがるのは彼女の良いところだとアキラは考える。

 もう十分に焦らし終えた。やっと準備が整ったと、大きくなった亀頭を膣へ宛がう。

 

 「あっ――」

 「そこまで言ってくれるのは嬉しいな。じゃあ遠慮なく」

 

 寝そべったままの彼女の体内へ、尻を掴んでぐっとペニスを沈めこむ。

 ずるずると肉を掻きわけながらやってくる固い感触に息が止まり、口を開いたマヤはしばし呼吸を忘れていた。

 熱い。全貌が埋まってまずそう思った。

 腹の中で動きを止めたペニスはなんとも熱く、内側から燃やされるよう。それは快感が手伝っての感覚でもあったはずだ。

 体勢からしてのしかかられる格好。ベッドに押し付けられる体勢はことのほか気に入ってしまい、喜びが表れてぶるりと背が震えた。

 アキラの手はしっかりと尻の肉を掴んで、ぐっと左右へ押し開くと尻の穴に風を感じる。それもまた羞恥心を煽ってマヤを悦ばせた。

 

 「やっぱ気持ちいいな。マヤさんのマンコ。思えばこういう体勢って初めてかも」

 「う、うぅぅ」

 「ねぇマヤさん、気持ちいいなら気持ちいいって言ってよ。ほら、今どういう感じ? 俺のチンポちゃんと感じてる?」

 

 ぐっ、ぐっと力を入れて腰を前後させる。

 ペニスが少し抜かれ、また奥へ進み。そうした動きを何度か小刻みに繰り返した。

 それだけでマヤは跳ねるように反応し、伏せていた顔を上げて首を反らせる。髪が乱れて汗によって肌に張り付いた。

 朝の陽ざしに照らされた非常に愛らしい姿。自然とアキラの頬はにやけた。

 

 「あぁぁっ、あはぁっ……!」

 「いやぁ可愛いなぁ。マヤさんってやっぱりスケベだよね、実際。普段は下ネタ嫌いで、セックスする前も嫌がる素振りしてるけど、いざ始まったらすごい乱れるじゃん。ほんとはセックス好きで好きで堪らないでしょ?」

 「あぁ、はぁ、くぅっ」

 「感想言ってよ。どんな風に感じてるかさ」

 「んんっ、んんんんっ……! か、固いのでなか、ごりごりって。んん、カリが、すごくて……」

 「うんうん。カリが好きと。それで?」

 「はぁぁ、おく、おくがすごくて、はぁっ、あっ――」

 「ん? あーあー、また」

 

 マヤの背がぴくぴくと震え、膣内の動きが変わる。ひだがぎゅうと強く締め付けてきて明らかな変化が感じ取れた。

 元々締まりはいいそこだが今のは違う。締めようとしたと言うより、絶頂を感じたが故の反応だ。

 腰の動きを止めたアキラはペニスを奥まで挿入したまま、軽く彼女の背を撫でてやる。絶頂の波に襲われている今、おそらく何を言っても聞こえないのだろう。

 まだ初体験を終えて半年も経っていない。にもかかわらず感じやすい彼女の体は幾度も絶頂を経験し、開発するのに難しくない性質であることがバレている。

 アキラに全身を弄られて、今では絶頂へ到達するのも難しくない状態だった。

 それだけでなく、おそらくは今回も。自分の発言やアキラのかすれた声にやられたマヤは強い羞恥心を覚えると達しやすくなるようで、また自分の痴態でイッたらしい。

 労うように背を撫でてやりながら、そうなるのも初めてではないためアキラは苦笑する。

 

 「また一人でイッちゃって。しかも何? まだ全然激しくしてなかったよ。このスピードでそんなにすぐイケる?」

 「あっ、あっ、あぁぁ……だ、だって。おマンコ、すごくて……頭、バカに、なっちゃって」

 「まぁいいけどね。一回もイケないよりイキまくれる方が楽しいもんな。でもそれならそれで、俺もイカせてもらわないと」

 

 繋がったままでアキラが上体を倒し、マヤの上へ覆いかぶさる。

 汗が見えるうなじへちゅっと唇を落とした後、ベッドで潰れる乳房へそっと手を這わした。すでに勃起した乳首が確認でき、やさしく捻ってやりながら耳元で囁く。

 

 「乳首も良いんだよね、マヤさんは。誰に開発されたの? リツコさんか、それとも自分?」

 「んっ、せ、先輩に。全部、先輩に教えてもらって……あっ、あっ。じ、自慰もしたことなくて」

 「へぇ、オナニーもしたことなかったんだ。それなのに今はこんなにエロくなっちゃって。リツコさんもここまでになるとは思ってなかったんじゃないかな」

 「う、うぅんっ、はぁ――」

 

 艶っぽいため息が洩れる。

 熱くなった息を吐いた口元へ、アキラの右手が運ばれる。赤々とした舌に指が絡みついて捕えてしまった。

 舌を引っ張られ、間抜けな顔になったマヤはとろんと目を呆けさせたまま。

 アキラに突かれて膣から全身へ広がる快感に腰が砕けている。抵抗するどころか嫌がる素振りを見せることすらできず、与えられるものすべてに酔いしれ蕩けていた。

 

 「さっきまでマンコ弄ってた指だよ。マヤさんの味、わかる?」

 「んんっ、ふぁっ……おいしい」

 「それはよかった。虐められるの好きでしょ? こうやって乳首弄られながら突かれるの、どう?」

 「う、んん、最高っ。はっ、んんっ、きもちい――」

 

 首筋に舌を這わせればびくりと跳ね。面白いように反応が返ってくる。

 そのままの体勢でまたも数分間。淡々とした動きで快感を与え続けた。

 激しく動くでもなく、じっと止まっているわけでもない。緩やかな動きは気持ちよくももどかしさがあり、人さし指と中指の二本をしゃぶるマヤはぽたぽたと唾液を垂らしていることにも気付けないほど我を忘れていた。

 

 「あー気持ちいい。でもちょっと体勢変えよっか。マヤさん、リクエストある?」

 「んん、んふっ、ふぁっ――」

 「聞いてないか。そうだな、正常位もバックも昨日したし、騎乗位もした。立ってするのもいいけど、多分マヤさん立てないだろうしな。さてどうしたものか」

 

 体を起こし、まだペニスで膣の内部をかき混ぜながら考える。

 マンネリとは一番恐れるべきものであり、忌むべきものだ。退屈を感じてしまっては楽しいセックスなどできない。それがアキラの持論である。

 様々な体位を試すのも退屈を感じないため。常に快楽だけで脳を蕩けさせておくためだ。

 しかし昨晩もじっくり数時間かけて繋がった後。残された選択肢は何があるだろうと多少は考えなくてはならない。なにせあらゆる体位で抱いたのだからまず落ちつかなくては。

 そうして少しだけ時間を取り、何かを閃いたアキラはにやりと笑い、一度ペニスを抜いた。栓を失った膣はぽっかりと開き、再び挿入を期待するようにぱくぱくと口を開閉している。

 当然、突然の行動に驚いたマヤも同じ気持ちだった。

 

 「あっ、ど、どうして」

 「まぁまぁ。体位を変えたいだけだから。すぐまた入れてあげるよ」

 

 泣きだす前の子供をあやすように。やさしくそう言ったアキラはうつ伏せのマヤをひっくり返し、仰向けにした。

 裸体が隠されることなく日の光に晒される。薄い胸、括れた腰と小さなへそ。そしてわずかに陰毛が生えた股間。

 すべてを視界に納められ、またも恥ずかしがったマヤは胸の辺りに両手を置いてそっぽを向いた。それでも逃げ出そうとしなくなったあたり、彼女の成長が感じられる。

 ほくそ笑んだアキラはまず彼女の両足首を手に持ち、ぐいと思い切り脚を広げさせた。その際、頭の方へ足先をやり、いわゆるまんぐり返しの体勢を取らせたのだ。

 

 「い、いやっ、恥ずかしい……」

 「大丈夫だって。いつも見てるし見られてるから今さらでしょ」

 「で、でも、それとこれとは……こんな明るいところで。あっ、あぁっ」

 

 再びアキラが股間を舐め始める。ぐっしょりと濡れてピストン運動を繰り返したせいか、二人の体液が泡のようになっている。

 それも気にせず、膣の入り口を念入りに舐めまわす。別段そうせずともいつだって挿入はできたが、恥ずかしがるマヤを見ると舐めたくなったようだ。

 

 「あぁっ、いやっ。だめ、恥ずかしい……!」

 「うんん、んはっ。やっぱ美味いな。ずっと舐めてたくなる。このまま一日中舐めまわしてるってのも面白そうかな」

 「そ、そんなのだめ。仕事があるし、それに」

 「それに、何? もうはめて欲しい? 思いっきりガツガツ犯されたいんでしょ。違う?」

 「うぅぅ……ち、違わない。はめてほしい、今すぐチンポ突っ込んでエロマンコぐちゃぐちゃに掻きまわしてほしいの」

 「いい顔だなぁ。最高のトロ顔だ」

 

 ベッドの上で立ったアキラが、ペニスの位置を整えて再び挿入する。

 少しの抵抗もなく入りこんだ。すでに迎え入れる準備は万端だったため、子宮口へゴツンと当たるのも早かった。

 途端にマヤの口元はだらしなく歪み、同じく目元も悦びに緩む。

 

 「ははっ、これもすごいな。じゃあちょっとだけこのまま――」

 「あんっ、あはぁ、きもちいっ」

 

 がに股になってマヤを見下ろし、腰を上下させて出し入れを繰り返す。それはまだ寄り道程度でしかなかったはずだが、思いのほか気に入った様子で何度もそのまま続けられた。

 ぷしゅっと噴き出すわずかな体液が自らの顔に降りかかり、それがまた卑猥な行為だと認識していて、マヤの気分は高まるばかり。

 一突きごとに艶やかな悲鳴が部屋へ反響し、今では我慢するつもりもなくなっている。

 上から強くのしかかられ、子宮にまで強い圧迫感を与えられる。しかし辛いと思うことは微塵もなく、どちらもただ快感だけを感じていた。

 

 「あっ、あっ、あっ、あっ――!」

 「はっ、はぁ、これも結構くるな。でもそろそろ」

 

 アキラはマヤの体を持ち上げる。正面から抱き合って繋がり、抱え上げたままで腰を振る。

 そうすれば体重によってさらに深く繋がるようで、激しい勢いで体が上下し、膣内が力強く荒らされた。

 

 「うああっ、あぁぁぁっ!?」

 

 ラストスパートをかけるように激しく腰が打ちつけられる。

 ぐちゃぐちゃと体内が掻きまわされ、大量のしぶきがシーツを濡らす。

 ベッドがぎしぎしと音を立てていた。しかしそれ以上に乱れたマヤの声が室内を満たし、今や悲鳴とも嬌声ともわからない様子だ。

 隣人に聞こえることすら厭わず、本能のままに叫ぶ。その様は人間というより動物に近い。

 ただ本人にとっては至福の一時だった。自分のすべてを掻きまわされ、快楽によって全身が埋め尽くされる。彼との行為でしか得られない不思議な感覚。

 アキラに抱かれることはどうしようもない幸福感に包まれる。彼に執着するのもそのためだっただろう。

 

 「んああっ、あぁぁっ! わ、たし、またっ……イク!」

 「ぐっ、俺ももうだめだ」

 

 ぶつかる肉が鈍い音を立てる。最後の一瞬を迎えるまでアキラの腰使いは手抜きを見せなかった。

 激しくマヤの体が上下され、その時が迎えた時は、アキラのペニスは子宮目掛けて一番奥まで突き刺さった。

 ぐいと揺らされ、絶頂を覚えたマヤは目を見開く。

 子宮口へどばどばとかけられる大量の精液。昨晩も数回射精したというのに、大した量である。内部に納まりきらず、溢れた分がペニスを伝って睾丸まで降り、そこからシーツへ少量ずつ垂れていく。

 

 「ふぅー……あぁ最高。やっぱ中出しって気持ちいいね、マヤさん」

 「うあっ……あっ……あっ」

 「って、聞こえてないか。もう飛んじゃってるもんな。子宮にぶっかけられるといつもこれだ」

 

 びゅーびゅーと精液を流し込み終え、マヤの表情に苦笑したアキラはそっと彼女の体をベッドに横たえる。

 仰向けに寝かされ、しばらく彼女は焦点の合わない目でどこかを見たまま動かなくなった。腕で体を隠すことさえできず、膣からは溢れた精液をこぼし、疲れ切った様子は危険な雰囲気すら称える。

 ぐったりして動かないマヤからペニスを抜き、徐々に力を失っていくそれは口元へ運ばれる。

 休む前にもう一仕事。いつも絶やさないそれはアキラがマヤへ教え込んだことだ。どれほど疲れていようと、常に例外はない。

 反応が緩慢で体を起こすことすらできない彼女の唇へ、ぐいと押しつける。するとようやく理解したか、わずかに口が開けられ、そこからずるりと亀頭が押し込まれる。

 

 「んっ、ふっ……」

 「そうそう。寝るのはちゃんとお掃除フェラが終わってからね。真面目なマヤさんも可愛いよ」

 

 可愛い。そう言われてマヤは呆けた目のまま笑みを浮かべた。

 ペニスに舌を這わせながら、子供っぽい、非常に嬉しそうな顔である。

 竿の全体へ触れ、自分の体液をすべて舐め取ってから口を離す。それからアキラはマヤの隣へ寝転び、彼女へ腕枕を貸しながら、右手では胸を揉みつつとろんとした表情へ話しかけた。

 

 「あーあ、今日も学校か。朝セックスすると必ずめんどくさくなっちゃうんだよな。別に嫌いってわけでもないんだけど」

 「んっ……だめですよ。学生はちゃんと学校へ行かないと。ネルフに居ることも関係なく、いえ、だからこそ、普通の日常をきちんと体感しておきましょう」

 「まぁそれもそうなんだろうけどさ。使徒とか言う連中が来るわけでしょ? いつ死ぬかもわからないんだったら、それまで一つでも多く楽しいことしておかなきゃって思わない?」

 「もう、どうしていつもそんな悲観的なこと言うんですか。大丈夫です。私たちは勝つために戦ってるんでしょう? 戦いの後のことまで考えなきゃいけませんよ」

 「戦いに勝つ、ねぇ。そう言われても何をどうしたら勝ったことになるんだか」

 

 彼女の肌へ触れながら、わずかに微笑む。

 アキラのその顔はまるで何かを見透かしているようで、マヤは少しだけ不安を持った。しかし彼の手が胸を、腹を、尻を撫でていればいつもの彼なのだと理解できて、またほっと一息をつける。

 

 「あの話、本当なの?」

 「ええ……先輩は、本気だって」

 「ふぅん。まぁそっちの方がいいけどね。これから面白くなりそうだ」

 「面白く、って。遊びじゃないのよアキラくん。気を付けておかないと、本当に死ぬことだって――」

 「大丈夫だよ。なんとかなるさ」

 

 顔がそっと近付いて、触れるだけのキスが行われる。どちらも自然と目を閉じ、一度だけちゅっと小さなリップ音が鳴った。

 

 「それよりもう一回しよ。マヤさんのおっぱい触ってたらしたくなった」

 「だ、だめよ。私だって仕事があるし、それにアキラくんの学校だって」

 「マヤさんの方はもうちょっと時間あるじゃん。俺はほら、メシ食わずに着替えて走れば間に合うもんだからさ」

 「それもだめ。ちゃんと朝ご飯は――あっ」

 

 またも小さな乳房を揉みつつ、掌で乳首を潰すように押しつけ。勃起しかかっているペニスを太ももへ押し付けて腰が揺らされた。

 それだけで火が点いてしまう程度にはマヤも性行為に慣れた様子であり、気付けば目の色が変わっている。

 頬も赤くなり、もはや逃げられないのは自らも自覚していた。

 

 「今日はまだ顔にぶっかけしてないから。昨日はやったけどね」

 「い、今からかけるの? でももう朝だし、仕事にも行かなきゃいけないのに……」

 「シャワー浴びれば大丈夫だよ。なんなら今から浴びる? いっしょに」

 「えっ、ええ? そんな、だって」

 

 唐突に唇が塞がれ、何も言えなくなる。マヤは目を白黒させた。

 

 「じゃ、行こう。心配しなくてもシャワー浴びながらだったらちゃんと洗い流せるから」

 「ちょ、ちょっと。もう、強引なんだから……」

 

 強気なアキラに手を引かれ、二人はシャワールームへと向かう。

 時間の心配がないわけではないが、それ以上に一度火が点いてしまった性欲を満たす方がよっぽど優先されるらしい。

 口では色々言いながらも、手を引かれるマヤも決して嫌そうな顔ではなかった。

 

 

 *

 

 

 アキラが学校へ到着した時、ちょうど校門を抜けるところでシンジと出会うことができた。

 碇シンジは赤城アキラの親友である。

 内気で他人と慣れ合うことが苦手だった彼を導いてやり、多くの友人を作って引っ越したばかりの新たな町に慣れるのに貢献した。そのため最近のシンジは笑顔も増えている。

 他にも彼が与えたものはある。それが他人に言えないようなことなのだが、自分たちだけの秘密ができたとあって親密さはさらに深まったと言える。

 いわゆるそれは女性問題。二人共中学生ながら女性との性行為を覚え、その経験を赤裸々に語り合うようになっていたのだ。

 つい先日、シンジの背を押すためにアドバイスを渡したばかり。色々と聞きたいこともあって、アキラは一人で歩くシンジへ近寄り、何気なく肩を組む。

 

 「ようシンジ。おはよ」

 「おはよう。アキラ、今日はちょっと早いんだね」

 「まぁな。マヤさんに怒られちゃって。結構乗り気だったんだけど、時間になったら急に我に返っちゃってさ。学校だけはちゃんと行きなさいだと」

 「マヤさんか……最近はあんまり驚かなくなっちゃったな。アキラのそういう話聞いても」

 「おまえもあんまり変わらないからだろ。で、どうだったんだよ、あの件は」

 「う、やっぱり聞く?」

 

 肩を引きよせ耳元で。何やら上機嫌そうなアキラがシンジへ囁きかける。

 その途端にシンジの顔は火が点くように真っ赤になった。聞かれたくないことを聞かれたとばかりに表情も気まずげで、何かを恥ずかしがる様子。

 普段から内気な少年だが、今日は特に語る声に力がない。それだけにアキラが持つ期待は大きくなっていった。

 

 「まぁ、その……一応、上手くいったよ」

 「ほんとか? はははっ、マジでできたのか。いや俺はてっきり試すこともできないんじゃねぇかと」

 「ほんとに、死ぬかと思ったよ。失敗したら絶交されてただろうし、もうとにかく緊張した」

 「でも成功したんだろ? やったじゃねぇか。俺の予想じゃ初めてだったんだが、どうだった?」

 「う、うん。初めてだって。その、膜もあったし」

 「そうかそうか。じゃあ処女相手のセックスも経験済みってわけだな、シンジくんは。これは朗報だ。世界でただ一人、おまえしか知らない女だぞ、式波・アスカ・ラングレーは」

 「うぅ、人の気も知らないで……ほんとに緊張したんだから」

 

 歩きながら小さな声で会話する。その姿は周りから見て少し怪しげだったが、彼ら二人の仲が良いのは周知の事実だった。他の生徒たちもさほど気にしたりはしない。

 肩を組んだまま校舎へ向かい、靴箱へ到達する頃にはシンジの顔の赤みもなんとか引いていた。しかし楽しげなアキラの追及は終わらず、他の生徒も居るというのに廊下を歩きながらも卑猥な話題が続く。

 

 「それはいいとして、なんで一人で登校してんだよ。同じ家に住んでるってのにアスカはどこ行ったんだ?」

 「アスカは……外では今まで通りにしようって。その、家の中でも、今朝とかは普通だったよ。今まで通りに話して、登校とかは別々にしようって」

 「バカ。その時点でいつも通りじゃないだろ。おまえらいつもは二人で来てるじゃねぇか」

 「う、そうだけど」

 「別々に来たら明らかに何かあったと思われるぞ。今から教室行ったら多分、質問攻めに会うかもな」

 「うわぁ、いやだなぁ……トウジとかケンスケとか、しつこそうだなぁ」

 「当たり前だろ。あの二人なんか特に離してくれないって。ま、俺には関係ないからいいけど」

 「えっ。助けてくれないの?」

 「俺は俺で忙しいの。身から出た錆、自分で勝手にやってくれ」

 

 靴を履き替え、教室に辿り着くまで時間はさほどかからなかった。

 アキラはシンジの肩をぽんと叩いてやり、それをきっかけとするようにシンジは重くため息をつく。

 自分が所属する教室へ辿り着くと、開かれたままの扉からちらりと中を確認する。ホームルームが始まるまで少し時間があるが、半分以上の生徒が集まっていた。

 世界がどんな状況であっても、学生の本分である学業を全うしようとする人間が多いらしい。そういった人間とは少しばかり考え方が違うアキラは苦笑し、何を気にするでもなく平然と教室の扉をくぐった。

 しかしシンジは扉の陰で脚を止めたままだった。教室の中にはすでに彼の友人たちが居る。しかも彼の席を囲んで到着を待っているようだ。

 ジャージ姿の少年と、眼鏡をかけた平凡な少年。どちらもシンジの友人で、日頃から仲良く話している相手だ。

 それだけでなく、教室内にはすでに、自身の女友達と楽しげに話しているクォーターの少女もいた。式波・アスカ・ラングレー。前々からシンジとの仲を邪知されていた美少女である。

 きっと彼女と別々に登校してきた理由を、やけに機嫌が良さそうな理由を問いただされるのだろう。考えるだけでも頭が痛くなりそうだった。

 いつもならそんなことは思わないのに、教室に入りたくない、と考える。だが先にアキラが教室へ入ってしまったことを皮切りに、二人の少年は目ざとく扉の陰に隠れるシンジの姿を見つけていた。

 視線がバッチリ合う。途端に二人の少年はにたりとしたいやらしい笑みを浮かべ、気まずそうに笑うシンジは背中に嫌な汗を掻いていた。

 

 「おはようレイ。調子はどうだ?」

 「おはよう。いつもと変わらないわ」

 

 窓際の一番後ろの席、そこに綾波レイが座っている。そこが彼女に与えられた席だからだ。

 その一つ前にアキラが座り、窓に背を向け、廊下を見ながら右手側に居るレイへと声をかける。

 何やら本を読んでいる彼女は廊下へ走って行った二人の少年にも、大きな声で騒ぎ始める彼らにも注意を向けず、至って冷静な表情。普段の物静かさを微塵も崩してはいない。

 すでにシンジは捕まって、二人からしつこい尋問を受けているのだろう。そのことに苦笑しながらもレイへ目を向ける。

 窓から差し込む日の光に照らされ、今日も彼女は美しかった。人形のように精巧に整った顔立ち、シミ一つない白い肌。水色のショートカットの髪に赤い瞳。周囲の視線や注目を浴びながらも自分を崩さない強かさも好ましい。

 だらしない姿勢で座ったまま、ふと彼女に見惚れたアキラはすぐに上機嫌になる。何度見ても美しい。眺めているだけでも気分がいい人間だ。

 

 「シンジの奴が、アスカと上手くいったらしい。俺が背を押してやったんだけどな。思ったよりあいつは勇気のある奴だったよ。こんなに上手くいくとは思ってなかった」

 「そう」

 「そういえば聞いたことなかったけど、レイはあの二人と仲良いのか? あんまり話してる姿は見たことないな」

 「どうして?」

 「ん? 同じエヴァのパイロットだろ。日常会話くらいはあるかと思っただけだが」

 

 本から顔を上げなかったレイが、視線を上げてアキラと見つめ合う。

 教室の片隅。こちらも普段から仲を邪知されている二人組である。そうして見つめ合っていれば自然と注意も集まり、やり取りに興味を持つ者も多かった。

 しかし近くに行って会話を盗み聞きしようとする勇気のある者は思わず、気をつけているわけでもないが声を小さくしていた二人の会話を聞き取れる者もいなかった。

 

 「気になるの? あの子が」

 「アスカのことか? まぁそうだな。ちょっと想うところはあるんだろう」

 「抱きたいの?」

 「は?」

 「あの子を、抱きたいの?」

 

 じっと見つめられ、平坦な声で尋ねられる。そこからは彼女の感情は伺い知れなかった。

 問われた言葉を受け止め、ふむと頷いて考えてみる。自然と視線は離れた位置に居るアスカへと向く。

 彼女は今、廊下から教室へ入ってきたシンジたち三人を眺め、馬鹿にするように笑っている。一方でどこかやさしさを感じる表情でもあり、心から毛嫌いしているわけではないのだろうと推測できる。

 抱きたいか、と問われれば当然答えは一つだった。

 

 「抱きたくない、って言えばそりゃ嘘になるな。もちろん前々から興味津津だよ、アスカに対しては」

 「そう」

 「ただ今聞きたいのはそういうことじゃない。単純に、一生徒として、ネルフの関係者として、おまえらの関係性がどうなのかと思ってさ」

 

 視線を戻してレイを見れば、納得したのか彼女は視線を下げて再び本を読み始める。興味を失った、とも取れる行動だ。

 気にせずアキラは少し彼女の方へ体を寄せ、机へ肘を突きながら尋ねる。レイはそれでも何の反応も見せない。

 

 「おまえら仲いいのか? それとも悪いのか、どっちでもないのか」

 「多分、どっちでもないと思う。話すことはあるけど、あまり話さない。喧嘩はしないけどあまり距離は近くない」

 「ふむ。で、レイ個人はどっちかを嫌ってたりする?」

 「いいえ。嫌いじゃない。でもすごく好きというわけでもない。多分……友達」

 「ははっ、友達か。おまえがそんなこと言うなんてずいぶん変わったもんだ。昔は友達なんて必要としてなかったもんな」

 「……そうね」

 

 再びレイの視線が上がる。今度は少し感情が読みとれた。

 

 「変かしら。こんな私は」

 「いいや、良い変化だと思うぞ。俺はあいつらのことを友達だと思ってる、今のおまえの方が好きだな」

 「……そう」

 

 ほんのわずかに不安を見せた目は、安堵を見せて少しだけ揺らぐ。

 笑みとまではいかないものの、レイの表情が柔らかくなったように感じた。おそらく他の生徒では気付けないだろう。長い付き合いになるアキラにだけわかる小さな変化である。

 今度は目を合わせたまま会話する。彼の言葉で機嫌が良くなったのだろうか、人前ではあまり見られないレイの姿だった。そのため普段から二人が会話している姿を見ている生徒たちも驚いてそちらを凝視してしまう。だがやはり本人たちは彼らをまるで気にしていなかった。

 

 「エヴァに乗る感覚って、どんな感じなんだ?」

 「どうしてそんなことを聞くの。乗ってみたい?」

 「いやいや興味本位で。あれを見続けて長いけど、そういう話は聞いたことなかったなと思って」

 「そう……私は、少しだけ落ち着く。嫌な感じがする時もあるけど、乗りたくないと思ったことはない。碇くんと式波さんも、落ち着くって言ってた」

 「へぇ。あのLCL液とか俺は怖いと思ってたけど、そういうのも気にならないんだ」

 「平気よ。慣れれば何も問題ない。初めは少し戸惑うかもしれないけれど」

 「うへぇ。やっぱり俺はあんまり飲みたくないな。見ててイメージも良くないし」

 

 ひょうきんな態度でアキラが表情を歪める。それがレイには不思議だった。

 なぜわざわざ学校でそんな話をするのか。しかも朝の時間、他の生徒がたくさんいる教室の中。他にも二人きりになれる時間や場所だってたくさんあるだろうに、なぜ今なのか。

 いつもとは何かが違う気がする。言い知れない何かが感じ取れていた。

 レイはじっと彼の顔を見つめ、まるで詰問するように、けれど見た目には普段と何ら変わることなく尋ねてみる。

 

 「ねぇ。どうして? どうして今ここで聞くの? ネルフの話は、教室の中でしたことなかった」

 「そうだったか? まぁどうしてって言われても別に理由はないんだが……それとも二人っきりで話がしたかったか?」

 「そういう意味じゃない。ただいつもとは違う気がして――」

 「なぁレイ。ちょっと教室抜け出そうか」

 

 さらに声を小さくして、彼女だけに囁く。

 レイの表情が割かしわかりやすく驚きを見せた。

 

 「今から二人で屋上行こう。そっちでゆっくり話そうぜ」

 「でも今からホームルームが」

 「なぁに、一度や二度くらいなら大丈夫さ。最近は先生も使徒のせいでやる気ないみたいだし、注意もしてこなくなった」

 「アキラがサボったのは、一度や二度じゃないわ。それにみんなも見てる」

 「気にすんなって。別に隠してるわけでもないし、どうせみんなわかってる。今さらだよ」

 

 そう言ってアキラは立ち上がり、誘うようにレイの顔を見下ろした。

 見上げる彼女は戸惑っている様子もあったが、拒むようでもない。そのまま動かず見つめていればレイもゆっくり席から立った。

 周りからの視線が多くなったようにも感じるが気にせず。先にアキラが歩き出して後ろへレイが続く。

 騒いでいた三人も出て行く二人に気付き、一瞬言い合いを止めてそちらを見るも、二人の脚が止められることはない。

 そそくさと教室を出て屋上目指して歩いて行った。

 時間も時間、すでに廊下には生徒の姿はなく、皆ホームルームのために教室へ入っているのだろう。誰にも止められずに辿り着くことができた。

 扉を開けて開けた場所へ。空は快晴で日差しも強く、夏らしい気候が肌に感じられる。

 二人は並んでフェンスの傍に立ち、静かな町を見ながら再び話し始めた。

 

 「んん、今日も変わらず夏か。暑くなりそうだなぁ」

 「そうね」

 

 柔らかい風が吹き抜けていく。

 何気なくアキラがレイの肩を抱き、景色を眺める。ホームルームをサボってそこで時間を過ごすのは非日常的な快感があった。

 細い体を抱き寄せ、アキラがレイの耳元へ唇を寄せる。

 

 「さっき、俺がアスカを抱きたいって言った時、嫉妬してただろ」

 

 何も言わずにレイが胸元へ寄りそう。肯定と言うことなのだろう。甘える素振りは子供のようだった。

 

 「あんな顔見せられたからしたくなったんだ。なぁ、セックスしよう。裸になって野外セックス、楽しそうだろ」

 「ん……」

 

 ぐいと肩を引き、屋上の中央に立つ。それから二人はいそいそと服を脱ぎ始めた。

 抱き合いながらもキスを交わし、晴天の下で肌を晒す。どちらも一糸纏わぬ裸となり、靴や靴下すら脱ぎ去って向き合う。

 そうすることに微塵の抵抗もなかった。これまで何度も繰り返してきたことだ。

 外で繋がるのも初めてではなく、裸になったことだってある。どちらもすでに慣れていた。

 

 「俺さ、今朝もマヤさんとやってたんだ。昨日の夜だって何回もやって、フェラしてもらったり中出ししたり。マヤさんのマンコって締めつけいいんだよ。しかもスイッチ入ったらアヘ顔で嬉ション垂らすし、普段の真面目さなんか全然無くなってさ」

 「んぅ……」

 「とにかく最高だった。早くまたヤリたいな」

 

 レイの白い体を抱きよせ、左手では乳房を掴み、背中へ回した右手では背筋を撫でた後に尻まで降り、小振りながら柔らかい肉をぎゅっと揉む。

 そうされながらレイはアキラのペニスを右手で掴んでいた。左手で玉をやわやわと揉み、すでに半分ほど勃起しかかっているペニスをやさしく撫でていく。

 素肌に風を感じながら相手の体温を感じる。この状況がなんとも心地よく、興奮を煽り、レイの目の色が変わりつつあった。

 理由はそれだけではないだろう。野外に裸で居ることに加え、先程からアキラが楽しそうに説明する情景。マヤとの情事が彼女を燃えさせる。

 嫉妬が体の内側から熱くさせ、彼への想いを増加させる。

 一度その気になればレイは普段見せない積極性でアキラの唇を奪い、ペニスを撫でる手に力を込める。まるでマヤとの時間を忘れさせるように。

 その態度にアキラの頬が緩み、健気にも口内で動く舌へ自身のそれを絡めながら、尻の谷間から秘所へ指を伸ばす。

 

 「んっ……」

 「ん、もうその気か。すぐ濡れてくるな」

 

 指を這わせれば、何もせずともしっとり濡れてくる膣の入り口。すっかり恥辱に慣れた体。彼の思うがままに準備ができてしまう。

 入口に指先だけを入れてくちゅくちゅと掻きまわすと、簡単にレイの目は快楽に染まり、体の力が抜けてくる。

 アキラの胸板に頭を預け、甘えるように擦りつける。するとアキラの手が頭を撫で始めた。

 

 「授業まで時間ないしな。とりあえずさっさと一発出そうか」

 「あっ――」

 

 ぐちぐちと入口を弄った後、アキラはその場で膝をついて股の間に顔を入れる。

 もう何度も目にした女のそこ。相変わらず形がきれいでぴたりと閉じ、男を知らないかのような風貌をしている。

 一方で幾度となくアキラの男根を迎え入れた経験を持つ。

 舌で割れ目をなぞり、こじ開けるように舐めると腰がかくかく揺れ、嬉しがる素振りがわかりやすい。

 準備を整えるなど訳もないことだった。まだ挿入には早いだろうが、らしくもなく急ぐアキラは早々に怒張したペニスを右手で掴む。

 そのまま地面へ腰を降ろして座り込み、レイの手を引いて自身の上に跨がせる。両手で腰を掴んで挿入を促した。

 

 「ほら、おいでレイ。欲しかったら自分で入れて、自分で動いてみな」

 「ん……」

 

 顔を真っ赤に目を伏せ、肩に手を置いて、おずおずとレイがペニスの上で腰を下ろす。

 すでに固く勃起しているそれは見るも凶悪で、これから自分の中に入るのだと思うと些か平静ではいられなくなる。しかし嫌ではないため行動に戸惑いはなかった。

 そっと腰を下ろし、挿入の直前に手で支えると亀頭から膣の中へ呑みこんでいく。

 潤いが足りずに多少固さは残っていたが、痛みを伴おうともレイは止まらない。アキラのすべてを埋め込むまで体がぴたりと密着し、強く抱き合って一つになった。

 

 「んっ、はっ……」

 

 わずかな息遣い。感じている様子が伝わる。

 離れないように力を込めて抱きつき、ゆっくりと体が上下に動き始める。レイが主導権を握り、膣を使ってペニスを扱くことでアキラの表情も変わろうとしていた。

 相手のペースに任せて刺激を与えられるというのはやはり心地よいと同時、自分が突くのとはまた快感が違う。思わず安堵の息を吐いてしまう程度にはこの状況で落ちついていたようだ。

 彼女の動きを受け止めている最中、髪を撫でてやり、尻を掴みながら目を閉じる。そうしていれば快感は強まるようで頬がにやけた。

 レイもうっすらと笑みが浮かんでいるらしい。普段は表情がわかりにくい彼女も今だけは一目でそれがわかる。それだけ幸福感を味わっているようだ。

 

 「んっ、んっ、んぅ――」

 「レイ、もうちょっと速く。今日は俺あんまり我慢できそうにない」

 「んんっ、わかっ、た……」

 

 動いている内に膣内で体液が分泌され、滑りが良くなった。

 上下する度にレイの動きは滑らかに、スピーディに変化し、アキラの首筋へ顔を埋めながら声が高くなる。

 内壁が固い感触に擦られる感覚。時を忘れて、状況を忘れて没頭してしまえるほどの快感が常に全身を駆けまわる。

 しばし淫らな遊びに耽った。

 レイは集中して腰を上下させ、とにかくペニスから精液を絞りだそうと膣で締めあげ、それを楽しげに見るアキラは彼女の胸や尻を揉んだり、頬や額や唇にキスを送ったり、首筋に吸いついたりと好き勝手に振る舞っている。

 上に乗って主導権を握っているのがレイであっても傍目からはそう見えなかっただろう。

 自分のペースを崩していないのはアキラだけ。顔を赤くして小刻みに腰を浮かすレイは徐々に余裕を失っていくようであった。

 肌を撫でる風が、すぐ真上に見える空の青が、室内で抱き合うのとは違う感覚を与えてくる。興奮が高まると同時にもっと強い快感を、と心が尚も渇くようである。

 ぬちゃりと卑猥な水音が辺りへ響き、誰に聞かれるとも知れない状況を微塵も気にせず、快楽にのみ没頭する。

 そうしてレイが動き続け、首を逸らして目をきつく閉じた時だ。

 突然、尻の形を確かめるように撫でていたアキラの指が、ずぶりとレイの尻の穴へ入り込んだ。あらかじめ膣から洩れでた体液を塗りたくっていたためか、さほどの抵抗もなく受け入れられる。

 途端にレイの目がカッと見開き、歯が食いしばられて悲鳴のような声が洩れた。

 あまりに突然の行動で予想もできず、それなりの衝撃や驚きもあったらしい。スムーズに動いていた腰はぴたりと止まってしまった。

 

 「あっ、かっ、はぁ……!?」

 「どうした、レイ。腰止まったぞ。せっかくイケそうだったのに」

 「う、ぐぅ、うぅぅ……お、しり、お尻に……」

 「ああ、指入ってるな。でもまぁ初めてじゃないし、これも気持ちいいんじゃないか?」

 

 右手の人さし指がぐっと奥まで沈められる。それに反応してレイの体が強張り、背に回した手にも力が入る。

 指先に力が入って爪が肌を傷つけそうになるが、それでもやめず。指をぐるぐると縦横無尽に動かすアキラは更なる責めで楽しもうとしていた。

 

 「レイのマンコ、入れてるだけで気持ちいいよ。でもな、やっぱりさっきみたいに動いてくれてる方が気持ちいいな。動いてくれる?」

 「うぅぅ、うぅ、わ、わかっ――」

 「代わりに俺もレイをイカせてやるから。こことこっちで」

 「んはぁっ!」

 

 人さし指でほぐした尻の穴へもう一本、中指を差し込み。さらに左手の指は大きくなったクリトリスをきゅっと摘む。

 膣内だけでなく弱点となるほど敏感な場所を同時に刺激される。これには流石に平静ではいられず、目を潤ませて一気に辛そうな顔になった。

 だからこそアキラはくすくすと笑っており、非常に楽しげに悪戯っぽく両手の指を動かした。

 それだけでなく今まで何もしなかったのに突然自ら腰を動かし、ズンッと下からレイを突きあげた。膣の奥を突く強い衝撃にほんの一瞬呼吸が止まり、声なき声が吐き出される。

 

 「かはっ、あぁっ――!」

 「もう動けないか? だったら俺が動くぞ。イクのはいいけどマンコ緩めないでくれな」

 

 簡単にそれだけを言ってぐっと力を入れて腰を動かし始める。固いコンクリートの地面に座ったまま、両手も動かしつつ器用な様子である。

 ぐちゃぐちゃと荒々しく、責め立てるように矢継ぎ早にピストンを繰り返し、乱れた彼女を少しも落ちつかせない。

 たった数回。髪を振り乱して必死な呼吸を繰り返す彼女はペニスが数度入口から奥までの移動を繰り返しただけで、背をびくりと震わせた。

 

 「あっ、あっ、あっ……」

 「ん? ははっ、もうイッたのか。アナル弄ると弱いな、レイ。いや、クリもいっしょだからかな」

 

 びくびくと震える彼女の顔を見つめてにこりと笑い。尚もズンとペニスで突きあげる。

 今日はいつも以上に一切の甘えを許さなかった。努めて彼女を責めることをやめず、迫りくる快楽の波から半狂乱になるとも手抜きはない。

 ずぶずぶと何度もペニスの出入りを繰り返し、膣から多量の潮が吹かれ、小便が混じろうとも突き続ける。

 いっそ拷問のようであった。強すぎる快感はレイのすべてを掻き乱し、面白いように平静を削り取って存在自体を乱していく。

 もう何度目かもわからない絶頂を感じ、意識を失うギリギリの状態となった頃、ようやくアキラの腰が止まる。時間にして数分間、それでも普段から考えれば長い時間ではなかった。

 ただ自分がこの場所とシチュエーションに興奮しているだけなのか、それともやはり彼に何かしらの変化があったのか。体内にあるペニスが止まったことでぼんやりした目で考える時間ができる。

 しかしそうしていたのも数秒で、なぜ止まったのかと気になって視線の先を変えてみれば、屋上の扉を越えた向こうに人の姿が見えた。

 開け放たれた扉。その先にある見知った顔。ふっとレイも冷静さを取り戻す。

 驚愕した顔で体を硬直させ、軽蔑するような視線を二人へ向けていたのは彼らのクラスメイトの一人であった。

 

 「やぁいいんちょ。こんなとこまで何か用?」

 「あ、赤城くん、綾波さん……一体、何をしてるの……?」

 「んん? セックスだけど。見てわからない、ってわけでもなさそうか。わからないんだったらそんな反応にもならないもんな」

 

 彼らのクラスの委員長を務める、洞木ヒカリ。頬にはわずかなそばかすがあり、うなじの辺りで髪を二房に括った、制服もきちんと着こなす真面目そうな女生徒だ。

 普段はアスカの良き友人として、アキラやシンジとも多少は関わりがある人物である。言わば日頃から顔を突き合わせる程度には知り合いだった。

 ホームルームの前に出て行ったしまった二人を探したのだろうか。そこまでは真面目な彼女らしいとも言える行動である。

 しかしタイミングは、最悪だった。

 そこまで深い付き合いとは言わないものの知り合いの、他人に言えるはずもない痴態。今、ばっちりと自らの目で見てしまった。

 驚きは相当なもので、震える口元へ手をやるも抑えられず、なんとか二人へ声をかけようとするも声が震えて仕方ない。気付けば脚や肩まで震えている。

 

 「な、なんで。どうしてこんなところで……ここがどこだかわかってるの? ううん、そんなことより、あなたたちまだ中学生でしょう。自分が何をしてるか、わかってるの?」

 「そりゃ、わかってるからしてるんだよ。男のチンポを女のマンコに突っ込んで子種を射精、子供ができる。だろ?」

 「ほ、本気なの。女性の結婚が認められているのは十六歳から。その意味、わかってる? もし本当に赤ちゃんなんてできちゃったとしたら、そしたら――」

 「一応気をつけはいるけどな。まぁそうなったらそうなったでいいと思ってる。今のご時世、いつ死ぬかもわからないんだし。いいんちょも今の内に楽しんどいた方がいいんじゃない」

 

 ぐいとレイの背を引きつつ、アキラはその場で寝そべる。当然繋がったままのレイはその上で寝そべり、彼の目配せを受けて上体を起こす。

 アキラの下腹部の上で脚を開いて座る体勢。まるで見せつけるようであった。

 ヒカリの見ている前で、当然のように騎乗位を始める。この二人はおかしいと判断するまでそう時間はかからなかった。

 

 「んっ、ふっ、はっ、あっ――」

 「や、やめなさいよ綾波さんっ。こんなことするべきじゃないわ。ねぇ、もうやめましょう。今なら先生にも言わないから。教室に帰って、授業を受けましょうよ」

 「いいんちょ、トウジのこと好きなんだっけ。二人はもうキスくらいした? セックスは?」

 「なっ……す、するわけないじゃない! バカなこと言わないで!」

 「ひどいな、バカなこと言ったつもりはないよ。よく考えてみなって。この町には度々、使徒が来てる。建物だっていくつも壊されたし、死傷者だってゼロじゃない。トウジの妹だって怪我をした。そんな世界でさ、明日も自分が生きてられる保証があると思ってるの?」

 「なによ、いきなり……どうしてそんなこと」

 「例えば明日には君が死んでるかもしれない。トウジが死んでるかもしれない。事実、トウジとケンスケはエヴァを一目見るためにシェルターを抜け出して死にかけたことがある。あれがもう二度とないとは限らないわけでしょ」

 

 レイの体が上下に跳ねる中、それを見させられながらもヒカリはアキラの顔を見つめざるを得なかった。

 達観した様子。あまり中学生らしいとは思えない。普段見ている姿とは何かが違っていた。

 

 「どうせいつ死ぬかもわからない人生なら、やれることは今の内からやっといた方がいいと思うよ。いいんちょも死んだ時に後悔するくらいならトウジのこと襲っておけば」

 「あなたといっしょにしないで……!」

 「そう? 口ではどうとでも言えるけど、いいんちょさ、まだ危機感足りないんじゃない?」

 

 またも気をやって辛そうなレイに代わり、今度は腰を掴んでアキラが激しく腰を動かし始める。上に乗せられたレイは艶やかな声でさらに高く鳴いた。

 

 「法律とかルールを守るのってステキなことだと思うけど、死んだら全部終わりだ。どれだけルール守ってようが死ぬ時は死ぬし、神様だって助けてくれない。後悔したらしっぱなし。後から取り戻すことなんてできない。もう今は戦時中の頃より死ぬ確率高いんだよ。あの使徒ってやつらのせいで」

 「だから、何してもいいと思ってるの? そんなの人間じゃない。動物と同じじゃない」

 「動物結構。俺はそう思ってるけどね。自分の命が失われようとしてる時に子孫を残そうとするのは動物の本能だ。子供を作りたいからセックスするって当然のことでしょ」

 「あなたはおかしいわ……狂ってる」

 「狂ってる? 俺が? はははっ」

 

 アキラが楽しげに笑う。

 一旦動きを止めて、今度はレイが仰向けに倒された。かき集めた服を背の下に敷き、一応の気遣いを見せつつ、尚も突く速度は全力で叩きつける様。

 そんな体勢でレイを犯しながら顔はヒカリへ向けられ、笑顔で語られる。その笑みがまた狂気を感じさせた。

 すべてを諦めているのか、それとも納得した上での行動なのかわからない。自暴自棄とも見えるし、そうでないとも感じる。彼の底がまるで見えない。

 気付かぬ内にヒカリは自らの体を抱きしめ、目の前の光景と嬌声に顔を真っ赤にしながら、早くこの場を去りたいという想いに反して逃げられずにいた。

 アキラの目に見つめられ、ヒカリはまるで動けなくなる。まるで危険な雰囲気を持つ彼に魅入られたかのように。

 

 「狂ってるのはこの世界の方だ。セカンドインパクト、ネルフ、使徒、エヴァンゲリオン。どれもこれも信じられないような出来事ばかりなんだから。こんな世界で人間らしく生きようとする方が難しいだろ」

 「赤城くん、あなた――」

 「ぐっ、あーイクぞレイっ」

 

 ヒカリが戦慄している最中、表情を歪めたアキラが最後の力を振り絞って腰を叩きつけ、思い切りペニスを引きぬく。

 右手で竿を扱きながら亀頭の先をレイの顔へ向ける。

 びゅっ、びゅっと勢いよく精液がかけられ、息を乱して目を閉じる彼女の顔を盛大に汚した。

 それはまるでヒカリに見せつけるための行為だったとも言える。まざまざと見せつけられたヒカリは言葉を失くし、嫌だというのになぜか二人の姿から目が離せない。

 

 「はー……気持ちよかった。悪いなレイ、中に出してやれなくて。一応いいんちょに見せといた方がいいかと思って」

 「ん……大丈夫」

 「で、どうだったいいんちょ。射精なんか見るのなんか初めてだったんじゃない? 俺はいっつもこういうことして楽しんでるんだけど」

 「うっ――」

 

 口元を手で押さえ、混乱した目でアキラと視線を交わす。それでもヒカリが逃げないのにはアキラもほくそ笑むばかりだった。

 まだ覚醒し切ったわけではないが、生々しい性に向けられる大きな興味と好奇心、そして興奮。数多の女の顔を見た彼にならわかる。

 おそらくヒカリは今、理性の面で目の前の行為を激しく嫌悪し、本能でそれを体感してみたいと思っているのだろう。見るからに射精を見る前と後では目の色が違う。

 どれほど偽ろうとしても、興味津津という表情は隠し切れていなかった。

 アキラはレイの体を跨ぎ、萎えかかっているペニスを唇へ押し付けると無言で銜えさせ、再び勃起させようとしながら彼女へ言う。

 

 「別に人の恋路を邪魔する趣味なんてないけどさ。そんな顔見せられたらこっちも黙ってられなくなるよ。どうだろいいんちょ、トウジとするための予行練習として、俺とセックスしてみる? 俺なら処女の相手もできるから、痛くないようにセックスの楽しさ教えられると思うよ」

 

 先程とは違い、にこりと微笑みかけて。どこにでもいる生徒の顔で問いかけてみた。

 すると強く歯を食いしばったヒカリは、叫ぶように答える。

 

 「馬鹿にしないでっ」

 

 叫ぶように言い捨てて屋上へ背を向け、去ってしまう。そこにはぽつんと裸のままの二人が残された。

 彼女は真面目な生徒だ。委員長を務めるくらいなのだから、それ相応の振る舞いも普段から見て取れた。

 ひょっとしたら本当に先生に言いつけてしまう可能性すらある。理解していながら二人はしかし、微塵も慌てようとはしていない。

 そうなったところできっと困らないのだろう。もしもの恐怖などまるで意に介さず、アキラはレイにペニスをしゃぶらせ、気軽にわずかだが腰を前後させた。

 唇の中へくぷくぷとペニスが出入りし、吸いつかれたままなので淡い快感が付き纏う。

 すでにレイはいつもの無表情で、幾分休憩できたことにより落ち着きを取り戻せたようだ。彼女の顔を愛おしげに見下ろし、アキラは再び彼女の脚の間へ腰を持っていく。

 

 「いいの? 放っておいて」

 「誰にも言わないさ。口ではああ言えても本能は隠せない。きっとまた俺に声をかけてくる」

 「そう……あなたが言うなら、そうなんでしょうね」

 「嬉しくはなさそうだな。また嫉妬しそうか?」

 

 見る見るうちに立ち上がるペニスで狙いを定め、前へ進める。すると肉の割れ目を掻き分け、膣の中へと挿入されていった。

 ぴくりとレイの表情が反応するも、いまだ大きな変化はなく。そのままアキラの腰が大きく前後へ揺すられ始めた。

 

 「んっ、あなたが望むなら、構わない……」

 「でも本音はそうじゃない。自分だけ見て欲しいって思ってるんじゃないか?」

 「……ええ。きっとそうね」

 「可愛い奴だ。心配するなって、俺は離れたりしない。たとえおまえがどこの誰で、なんであっても」

 「んんっ――」

 

 上体を倒し、肌と肌を重ね合わせて深くキスを交わした。

 自分で精液をかけたばかりだったということは、いざ唇を触れ合わせてから気付いた様子。しかし気にはしない。今まで散々ドロドロになるまで抱き合ったこともあるのだから。

 唯一の邪魔者がいなくなったことで二人の行為はさらに激しさを増し、誰に気遣うこともなく時間を忘れて繋がり合った。

 漠然とした不安が無いわけではない。ただそうしていれば不思議と心強くて、誰にも負けない気持ちになれたのだ。

 

 

 *

 

 

 ネルフの施設、廊下にて。休憩所となる自販機の前のソファへ座り、マヤは重苦しいため息をついていた。

 まだ仕事は始まったばかり。にもかかわらず、体は普段より不思議と重く、疲労感が付き纏う。原因は確実に今朝のアキラとの激しい性交だった。

 些か疲れた顔で、買ったばかりの缶コーヒーを握りしめる。彼との行為は好きだが、仕事に支障をきたすまでするのは問題だ。そうして顔を俯かせているのはどこか悲壮感すら漂っていた。

 

 「浮かない顔ね」

 「あっ、先輩。おはようございます」

 

 何度かため息をついていると人気のない廊下の向こうからリツコが近寄ってくる。

 マヤにとっては憧れの先輩。並びに公私共に親しい間柄だ。

 見つめ合えばパッと笑顔が咲いて、すぐに立ちあがって彼女の到着を待った。

 まるで飼い犬に懐かれているようである。リツコはわずかに苦笑し、彼女の隣へ並んで座る。

 

 「おはよう。ため息の理由はまたあの子?」

 「ええ、そうなんです。アキラくんったら時間がないって言ってるのにまた何度も何度も」

 「仕方ないわね。あの子はあっちの方は異常な強さだから。普通の人ならあそこまでの体力はないわ」

 「そもそも先輩が色々教えたんでしょう。もう……そりゃ、体を許したのは私ですけど。ちょっとはフォローして欲しいです」

 「あら、これでも彼の劣情はたくさん受けているつもりよ。それでも治まらないからあなたにも頼んだのに」

 「う、そうですけど」

 

 バツが悪そうに肩をすくめるマヤは俯いて口を閉ざしてしまう。確かに言われた通りだった。初めから彼が普通ではないと知った上で関係を持ったのではなかったか。

 それにしても人間離れしすぎている気もするが、本人ならともかく育ての親にそう言ってしまうのは気が引ける。かといって彼の愚痴を言えるのもこの人だけで、口数が多くなってしまうのも仕方なかった。

 

 「まったく。あれは仕方ないとしても、彼には足りない部分が多すぎます。時間を守らないだとか、すぐに授業や学校をサボってしまうとか。いくらネルフで仕事をしているとは言っても、将来を考えて態度を改めるべきではないでしょうか」

 「そうね。特にあの子は人生が長いとは考えていない。ひどく刹那的な生き方をしているわ」

 「本当に……もう少し余裕を持ってくれればいいんですけど。たまに心配になります。あの子、死に急いでるんじゃないかって」

 「その可能性がないわけではないわね。でも、あれで意外と人のために動こうとしてるのよ。事実、ほら」

 

 リツコが持っていた資料をマヤへ渡す。それを受け取った彼女はすぐに紙面へ目を通し、わずかに表情を変えた。

 

 「これ……」

 「昨日のアスカのシンクロ率テストの結果。少し前は落ち込んでいたけど、ここのところ回復してる。昨日の時点で以前の記録をほんの少しだけ上回った」

 「これを、彼が?」

 「おそらくね。シンジくんを焚きつけた、って話は聞いたわ」

 「焚きつけたって、まさかあの二人も……ふ、不潔ですっ」

 「ふふふ。そんなこと言うの? 自分が今朝アキラと何してたのか、忘れたわけじゃないでしょうに」

 

 資料を渡して手ぶらになったリツコが、そっとマヤへ体を寄せる。

 腕を伸ばし、何も言わずに彼女をやさしく抱きしめた。するとマヤは如実に反応を示し、体を縮めながらくすぐったそうに微笑む。

 場所が場所なので恥ずかしさはあるが、嬉しい感情が自然と沸き上がってくる。すぐにも二人は恋人のように寄り添った。

 

 「あなたもすっかり女になったわね。もうアキラに何度抱かれたの?」

 「それは……お、覚えてないです」

 「ふふ、そう。そうね、私も覚えてないわ。あの子に何度抱かれたかなんて」

 

 後ろから抱きすくめ、甘えるようにリツコが首筋へキスを落とす。そこには先につけられた赤い痕、キスマークがあった。

 

 「キスマーク、ついてるわよ」

 「えっ? も、もう、あの子はまた……」

 

 パッとマヤの手が首筋へ伸びる。それをやんわりと制止し、再び唇で触れた。

 そうされてわずかにマヤの表情に喜色が浮かぶが、ふとした瞬間に寂しげな感情が露わとなる。

 リツコをそのままに置き、恐る恐るといった様子でマヤが声をかけた。

 

 「あの、先輩。あの話は本当なんですか?」

 「ん? ああ、あれ……本当よ。本人も承諾してくれたわ。あとは到着を待つだけ。これからテストも初めてみるつもり」

 「私、不安です。どうしてかわかりませんけど、何か良くないことが起こるんじゃないかって……彼、大丈夫なんでしょうか」

 「なるようにしかならないわ。絶対なんて、この世にはあり得ない」

 

 不安そうなマヤとは裏腹、リツコは笑みを浮かべる。

 

 「三号機はアキラに任せるわ。あの子ならきっと上手く操れるでしょう。私たちは出来る限りのサポートと、何も起こらないことを祈りましょう」

 「それしかないんでしょうか……」

 

 またも小さくため息が出た。

 やはり言葉にできないほどの大きな信頼を持っているのか、リツコの態度にはそれほど恐れは見えない。しかしマヤはそうすることもできず、信じたいと思いながらも胸の内には不安が残り、苦しむように小さな声が出た。

 



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淫魔の魔力(フェアリーテイル)

 家のポストに郵便物が届いていることに気付いたのは夜だった。

 仕事を終え、くたくたになって帰ってきたミトスという青年は封筒に入れられたそれを手に、自宅の中へと入る。

 光を反射する白銀の髪を揺らす、中性的な容姿の細身の優男だ。疲れた様子を隠しもせず、誰も見ていないということもあって普段のやさしい姿とも少し違う。

 もはや笑顔を浮かべる力もないまま、部屋の扉を開ける仕草も幾分乱暴になっていた。

 

 「なんだろ、これ。何か頼んだかな?」

 

 こじんまりとしたアパートの一室である。

 木目の床には埃の欠片もなく、物があまり置かれていない殺風景な室内。あまり生活感も感じられず、ほとんど寝るための部屋だという扱いが身に沁みた様子だ。

 忙しい日々のためか、部屋でゆっくりする暇もない。そのためその部屋に荷物が届けられることもひどく珍しいことだった。

 少し不審に思いつつ、ひとまずはリビングまで移動し、テーブルの上へ荷物を置く。

 近頃は物騒な事件も多い。組織の名が上がれば、それだけ尊敬を集め、恨みを買うことも多くなる。彼自身、フェアリーテイルというギルドに所属する魔導士である以上、様々な仕事について敵を多く作ってきた。ひょっとしたら、身に覚えのないその荷物は誰かからの報復行為ではないのか、と勘繰ってしまうのも無理はない。

 腹が減ったので食事を取りたいし、風呂に入って汗を流したい気持ちもある。だが今目の前にしたその荷物も気になってしまい、平穏な日常を取り戻すには何よりもまず中身を確認しなければならないらしい。表情には不安が表れていた。

 ミトスはイスに座ってテーブルに肘を突き、荷物を開けることに決めた。さほど大きくもない茶封筒だ、中身の確認もすぐに終わると考えられる。

 封を解き、中を覗く。外を触った感触で想像した通り、やはり中身は一冊の本だった。しかもそれなりのサイズにある古書、表紙を見てみれば古い魔導書のようだ。

 それを見てふと思い出す。先日、ギルドの仕事で赴いた巨大な屋敷、書斎の整理を手伝った。そこにある古書を一つ譲ってくれないかと頼んでいたのだ。

 

 「あぁ、そっか。例の本送ってくれたのか。まさかほんとにくれるなんて」

 

 驚きつつも自然と笑みが溢れ出て、不安など一瞬にして消え去り、気付けば仕事の疲れも忘れていた。それほど嬉しい贈り物だったらしい。

 ミトスの趣味は古い物を集めることである。調度品や役に立たないガラクタ、魔導書もそうだ。他人から見れば古くて使えないような物を好んで集めるのが日常となっている。

 どうやらその魔導書も、ただ年季が入っているというだけで求めていたようだ。

 中身を知るのはこれが初めてで、あまりに古いため内容がわからず、持ち主でさえ簡単に手放してしまうそれを嬉しそうに持ち、上着を脱ぐことすら忘れたミトスはひとまずベッドへ飛び込む。

 ごろりと転がって背をシーツへ預け、天井を向いて本を持つ。いよいよ待ち望んだ瞬間だった。

 乾いてパサパサになったページの感触。歴史を感じさせる匂い。

 空腹だったことも忘れてにんまりと頬を崩す。ミトスはひどく幸せそうだ。

 

 「んふふ、良い匂いだ。多分この感じだと相当古いかな。案外もう滅んじゃって使われてない魔法かも。さて、どんな――うわっ」

 

 本はベルトで閉じられていた。従ってベルトを外し、最初のページを開こうとする。

 その途端、解放された魔導書は独りでにパラパラとページを開き、半分ほど到達すると動きが止まった。勝手にとあるページを見せつけられる。

 驚くミトスの反応も遅く、気付いた時には遅かった。開かれたページにでかでかとあった一つの魔法陣が視界に映り、ボンッと音を立てて煙を吐き出す。

 桃色の煙であった。あまりに突然の出来事でミトスの体は煙に包まれ、しかしすぐにその場から消えていく。まるで彼の体に吸いこまれるかのように。

 

 「えほっ、げほっ。な、なんだ? 罠? 攻撃?」

 

 目を開けてもそこには何もない。ミトスにとっては訳がわからない状況だった。

 ただ少なくとも自身が怪我をした形跡はないのである。それならばいいか、と今の出来事を流してしまいそうになるほどには、彼の注意力は散漫になっていたようだ。

 再び本のページへ目を向けて、じっくりと魔法陣に目を向ける。

 珍しい形だ、と思う。見覚えはない。その瞬間。ドクン、と鼓動が高鳴り、内側から全身が熱くなってくる。今までにはなかった感覚だ。

 凄まじい衝動が駆け廻り、肉体に変化が起こる。変化自体は人体の当然のものだ。だが慣れたはずのその変化、今までと違って抑えようがない。

 鼓動は強く、何度も高鳴り、明らかに普通ではなかった。

 不思議と力が入らず、否、力が入るのかどうかがわからなくなっている。ともかく手の力が抜けて本を取り落としたのは確かだ。

 気付けばめまいすら感じる。

 ミトスはベッドの上に寝転んだまま、魔力の変調を感じてまずいと思った次の瞬間には、異変を知って衝動が抑えきれないことに気付く。

 いつしか自分でも気付かぬ内にベルトを外してズボンを脱ごうとしていた。

 

 「な、んだ、これ……頭が、沸騰しそうだ――」

 

 震える手で下着ごとズボンを下ろし、足首まで肌を露出する。

 いつの間にか、彼の男根は固く屹立していて、先走り汁でべっとりと濡れ、何かを求めるようにわずかに震えている。今まで感じたことがないほどの高ぶりだ。

 何を考えるでもなく、右手が掴んでいた。

 自分でもそうしようと思ったわけではない。しかし気付けば動いている。それは内から湧き上がる本能によって命令されているとしか思えない状態だった。

 

 

 *

 

 

 今日、フェアリーテイルの中で妙に話題となっていたのは、ミトスという男の話だった。

 彼は毎日ギルドに顔を出す。もちろん仕事をするためだが、その際よくギルドの仲間たちと言葉を交わすため、誰もが顔を覚えているし、話しかけやすい相手としてよく知られている。

 休むことも珍しいためか、彼が来ないことを知った仲間たちはずいぶんしょんぼりしていた。

 確かにおかしい。毎日来るはずの人間が来ないというのはそれだけで妙な感覚を与えてきた。

 ミトスは一人暮らしだ。

 もし家の中で倒れてるとしたら。そんなことも考えてしまう。

 そうなっていた場合、一人暮らしである彼が自分で自分を助けられるはずもなく。最悪の場合を考えて誰か様子を見に行った方がいいかもしれない。

 ギルド内の数人で話し合って、実際ミトスの家を訪問し、彼の状態を確認することとなった。

 そして選ばれたのが、ギルドの看板娘と言って過言でない、ミラジェーンだったのである。

 彼女はミトスと似た白銀の髪を持っており、前髪だけを紐で縛って上へ上げ、ドレスにも近いふわりとしたラフな格好をした美少女。看板娘にふさわしい、やさしげで柔らかい雰囲気が伺える。

 以前からミトスと言葉を交わすことも多かったため、周囲から適任だと言われていた。

 ギルドを出た後、彼がもしも風邪か病気になっていたことを考えて、先に食材の買い出しを終え、袋を腕に提げて歩く。ふんふんと楽しげな鼻歌など歌いつつ、久しぶりにミトスの家へ訪れることに心が躍っていたらしい。

 魔導師としての実力の関係上、簡単な仕事ばかりこなすミトスは小さな仕事とはいえ毎日を忙しく過ごしており、朝はギルドへ顔を出して、仕事へ出ていったきり家へ直帰する。

 出会う時間といえば、やはり朝の時間しかないのだ。みんなが寂しがる理由もそこにある。

 特に今日は顔を出さないという連絡すらないのだから妙に心配してしまうのも無理はない。だがミラジェーンは不思議と笑顔で、心配しているのかそうでないのか、よくわからない様子。

 おそらく彼女は単純に、同じギルドの人間ですら知らないミトスの私生活を知れると好奇心から微笑んでいるのだろう。純粋に楽しそうな笑顔があった。

 目的地につき、レンガ造りのアパートへと入る。

 階段を上って三階。以前に場所だけ聞きだしていた部屋へと向かい、扉の前に立ったミラジェーンはくすりと小さく笑い声を出す。

 

 「コホン……ミトスー。いるのー? いたら返事してー」

 

 こんこん、と扉をノックし、声をかける。他の住人に気を遣って大声は出せなかったが、扉を隔てても部屋の中には十分聞こえるだろう声だった。

 しかし室内からの返答はなく、廊下は静かなものだ。物音一つしていない。

 むぅ、と小さく唸り。初めて眉をひそめて困り顔を見せたミラジェーンはそれでも諦めず、扉に耳を当てて室内の様子を伺い始める。

 静かで音は聞こえない。だがじっと動きを止めてそうしていると、奥の方からわずかに何かが聞こえてきた気がする。

 荒い息遣い。ミトスに持つイメージとは違う激しさが感じられた。

 何かしているのだろうか。そう思いながらふとドアノブへ触れていたらしい。

 小さな音を立て、扉が開く。鍵がかかっていなかったようだ。

 悪いとは思いつつ、本当に病気なのかもしれないと思うミラジェーンはそっと扉をくぐり抜け、中へと足を踏み入れる。

 木目の床がぎしりと鳴るが、やはりミトスが出てくる様子はない。だが扉をくぐった途端に先程聞こえた息遣いが聞こえた。やはりいる。いるのだが、様子はおかしい。

 なぜかできるだけ足音が出ないよう気をつけ、奥へと歩を進める。すると寝室へ続くらしい扉があり、そちらもゆっくり開けて中を伺う。

 

 「失礼しまーす……ミトス? いるの?」

 

 窓から差し込む光に照らされ、ベッドの上に寝ている人物がいた。

 それはいいのだが、一つ重大な問題がある。その人物は確かに彼女が探したミトスなのだが、なぜかシーツの上で横たわる彼は服を来ていない。要するに全裸だ。

 しかもそれだけではなく、股間にある異物は雄大な姿で立っており、彼は熱心にそれを手で扱いていた。垂れ出る体液でぐちゃぐちゃ音が鳴り、竿の部分を握った手が何度も上下する。その動きが驚くほど鮮明に視界へ入った。

 パッと扉を離れ、陰に隠れたミラジェーンは言葉を失くす。

 ミトスがしているのは自慰だ。しかも、あまり男らしさを感じない小奇麗な外見をした彼の、初めて見る男としての生々しい姿。普段女っ気を感じさせないのも大きかった。

 衝撃は凄まじく、どうすればいいかわからなくなる。ミラジェーンとて子供ではないため、知識としては知っているが、真面目な性格が故か男と付き合ったことはない。性に関わる生々しい現場を見てどう反応すべきか、わからなくなったのだ。

 声をかけていいものではないだろう。だが仕事もせず、連絡もせずでそんなことをしているのだから、褒められたことでもないはず。

 確かにギルドの仕事は強制されるものではない。仕事をしようが休もうが個人の自由だ。

 放っておいてもいい問題かもしれない。しかし普段の姿を知る以上、ミラジェーンはミトスの姿に違和感を感じずにはいられず、再び隠れた状態で室内を覗く。

 ミトスは、自らのペニスを扱いているわけだが、妙に苦しそうだった。厳しい表情が、じっとりと汗を掻いた全身が、それをよく物語っている。

 

 「ミトス……何か変、だよね。あれって、一体……」

 

 ぽつりと呟くも、やはり気付かれることはなく。少し不用心すぎはしないだろうか。

 どちらかと言えば慎重で頭の回る彼。家の鍵を閉め忘れているのがおかしいと感じる上、なぜ自分に気付かず苦しげに自慰を続けるのか。

 普段とは違う。何かがおかしいと思わずにはいられない。

 本来なら放っておくべきだろうに、何やら覚悟を決めたらしいミラジェーンはぐっとドアノブを握って、ゆっくりと扉を開けていった。

 完全に扉が開かれ、ミラジェーンの姿がはっきりと見える状態。それでもミトスは眉をひそめて仁王立ちするミラジェーンに気付かなかった。

 

 「み、み、ミトス……なに、してるの。ぐ、具合、悪いの、かな」

 

 震える声で恐る恐る、彼へ話しかける。そこでようやく、ミトスの目が彼女に気付いた。

 大量の汗で髪が濡れて、目は潤み、見つけた上でもペニスを扱く手が止まらない。明らかに平静を欠いた姿である。

 顔中を真っ赤にしていたミラジェーンだが、彼と向かいあってようやく気付く。彼の痴態すら忘れ、少し顔を青ざめさせてすらいた。

 目で見えるほどの魔力の変調。ミトスの体から大量の魔力が垂れ流しにされており、妙な力を感じる。引退した身とはいえ魔導師であるミラジェーンもすぐに気付いた。

 ミトスは、戦闘にも日常生活にも利用できる魔法を体得している。その反面、呪い等の体に付与される魔法にめっぽう弱く、魔法に対する抵抗力が人一倍弱い。

 おそらく今のミトスは何かしらの呪いにかかってしまっている。以前にも彼の異常を見たことがあるミラジェーンは恐る恐る彼に近付き、ベッドの傍へ立って、できるだけ下半身を見ないように顔を覗き込んだ。

 

 「どうしたのミトス、これ。魔力が変質してる。すごく辛そうだよ」

 「み、ミラ、さん……た、助けて、ください」

 「うん、大丈夫だよ。どこか苦しいの? 痛いところはある?」

 「ミラさん、ミラさんっ」

 

 ベッドの脇に膝をつき、さらに顔が近付く。

 ミトスはすでに泣いていた。辛くて堪らないと、ぽろぽろ涙を流している。

 汗に濡れることも厭わず手で額へ触れる。熱があるわけではないらしい。だがびっしょりと汗を掻いている姿は異常で、らしくもなく涙まで流している以上、どこかがおかしくなっている。

 やはり、あちらか。そう思うミラジェーンは再び頬を赤くするも、中々そちらを見られず、ミトスを安心させるように頬を撫でながらやさしく声をかける。

 

 「大丈夫だよミトス。私はここにいるから。ねぇ、してほしいことはある? 辛いことがあったら言って」

 「うぅ、これ、これがっ」

 

 苛立たしげに、涙に濡れながらミトスが体を起こそうとする。だがそれも上手くいかず、寝返りを打って体を横向きに、ミラジェーンへと近付いた。

 尚も強くペニスを扱いている。もはや原因となるのはそれしか考えられなかった。

 意を決してミラジェーンはそちらを見つめ、ぐっと唇を噛んだ後、羞恥心を押し殺して声を出す。どうすればいいか想像はできているようで、ミトスの頬を撫でる方とは逆、左手の指を開いたり閉じたりしていた。

 

 「う、こ、これだね。ここが、辛いんだね」

 「ぐっ、うっ、い、イケないんですっ。昨日からずっと、何回もしてるのに、全然イケなくてっ。でも、でも、吐き出したくてたまらなくてっ。うぅ、ミラさん、ミラさんっ。頭が、おかしくなりそうです……!」

 「そ、そうなんだ。ええと、でもどうしよう。こういうの、私も初めてで……だ、出した方が、楽になれる? 私が、触ってあげた方がいいのかな」

 「お願いします、ミラさんっ。イカせてください、お願いしますっ。もう、もういやだ、こんなの。今すぐイキたいんです――」

 

 泣きじゃくるように懇願し、すでにミトスには余裕など残されていない。ひどく混乱しているようだった。

 いつもの笑顔を知っているだけに放ってはおけない。心が締め付けられるほど痛ましい姿だ。

 恥ずかしいなどと言っていられない。覚悟を決めたミラジェーンはよしと呟いた後、そっと左手をミトスのペニスに伸ばし、震える指でゆっくり握った。

 自分で扱くミトスの右手の上から、きゅっと。途端にミトスの体がびくりと大きく震えて、確かな反応が伺える。

 

 「わ、わかったわ。は、初めてだけど、私がやってあげる。ええと、それじゃあ、仰向けになって。その方が多分、しやすいかなって思うから……」

 「うぅ、うぅっ、ハァ、ハァ……!」

 

 もはや返事をする余裕もなく、言われた通りにミトスが再び仰向けに寝転ぶ。

 彼の右手が離れていく。自然とペニスの竿には彼女の左手だけが残った。

 今になって息を呑む。初めて見る男の性器、初めて触れるペニス。それが自分の仲間の可愛らしい男の子の物で、知っている相手だけに妙な気分になる。

 しかし悠長にしていると彼が辛そうなので、考えている暇もない。

 見よう見まねで、徐々に指へ力を込めてゆっくり動かす。握ったまま手は下へ行き、陰毛に触れるほど降りれば今度は上へ。ねちゃりとした体液が絡みついていることに気付くも、気持ち悪いと思う余裕もなく、ミラジェーンは集中して彼のペニスを扱いた。

 男の性器を見たのは初めてである。ましてや興奮して勃起している姿。人生で初めての経験であったが、今の彼の様子はあまりにおかしいとわかったようだった。

 恐る恐る上下に動かして、包皮が動く様を見つめる。その時の彼女は真剣な眼差しであり、同時に徐々に興奮していくような変化があった。

 経験はなくとも知識はある。熱心な眼差しもそのためだっただろう。

 

 「んしょ。これが手コキって言うんだよね。どうかなミトス、気持ちいい?」

 「うぅ、き、気持ちいいです……でもまだ、まだ足りない。もっと、もっと――」

 「も、もっと? えっと、どうすればいいのかな。どうすれば気持ちよくなる?」

 「力を入れて、強くっ。もっと強く触ってくださいっ」

 「う、うん。痛くない、よね。じゃあもっと強く触るよ」

 

 言われた通り、握る手に力が込められる。

 ミトスはやけに苦しそうだった。だが力を入れて乱暴に、意図して荒々しく触ってやれば徐々に表情に浮かぶ物が快楽だけに変わっていく。苦しそうにしか見えなかった顔に赤みが差し、口元がにやけて気持ちよさそうになっていった。

 その頃になればミラジェーンもほっと安堵できた様子で、今度は淫らな行為に耽り始める。

 元々興味がなかったためではない。今まではただ仲間のことや仕事を優先していただけのこと。良い相手さえ見つかればいつでも恋人は作るつもりだ。

 それを思い返してふとミラジェーンの顔の赤みが増す。

 恋人でもない男のペニスを握って、頼まれたこととはいえ射精へ導こうとしている。一体なぜこんな状況になってしまったのか。

 ペニスを一心に見つめていた視線も恥ずかしげに下げ、より一層一心不乱に扱き始めた。

 確実にミトスは快楽に満たされ、射精へと近付いている。初めてであることを差し引いても、限界が近いことは確かだった。

 

 「うぅぅ、うぅっ、ミラさん、もうだめです。イク、イキます、うぅ」

 「あ、そ、そうなの? あぁえと、うん、大丈夫だから。好きな時に――」

 「うああっ、イクぅ!」

 「えっ、えっ、えっ?」

 

 叫ぶと同時、ペニスから大量の精液が飛び出した。

 目をぎゅっと閉じて体が強張り、自分でもわからない内に全身がとてつもない快感に支配されて、もはや訳が分からなくなっている。ミトスはこれまでの人生で感じたことのない快楽を得て、我を忘れて声を発していた。

 飛び出したそれはあまりに勢いが凄く、量も多い。初めて男性の射精を見たミラジェーンはびくりと肩を震わせるも、握ったペニスを離す暇もなく、宙へ飛んだ精液を顔面に受けてしまう。

 反射的に背を逸らしていたが白い肌がべっとり濡れ、頬や額に粘度の高いそれが確かな感触を主張する。思わぬ感触に驚愕し、目を見開いて完全に動きが止まった。

 降り注いだ精液が彼女の手やペニスも濡らして、ミトスの腹にも落ちている。

 荒い呼吸が耳に残り、妙な静寂が続く。

 いまだペニスは固いまま、勃起したままで萎える様子がない。ミラジェーンにとっては馴染みがなかったが、それだけの量を出して少しも変化がないのは異常だった。

 ミトスの頬は紅潮してペニスも固い。開いた目には色気のある光が灯されていた。

 呆然と立ち尽くし、ペニスを握ったまま右手を顔まで持ち上げたミラジェーンは、指先で頬を伝う精液に触れる。どろりとした感触。独特の熱を持っている。知識としては知っていたが体感するのは初めてで、顔の前に持ってきてその白い液体を目にすると、なぜか背筋がぞくりと震えた。

 女を孕ませる子種だ。大人しい外見だがやはり彼も男だったということか。今目にしているそれは確かに女とは違う男の物で、今になってそれを如実に感じる。

 人知れずごくりと息を飲んだ。理由はわからない。

 ただミラジェーンがその理由に気付く前に、我慢ができなくなったミトスが手を伸ばしてペニスを握る彼女の手を取り、きゃっという声を気にすることもできず懇願した。

 体が熱い。異常な熱を含んでいて、頭がおかしくなりそうだ。

 それもこれも射精したいという強い欲求に苛まれるせいで、この欲求を満たさねば解放されることがないのだと判断する。冷静な思考を持てないミトスでもそれだけはできた。

 驚くミラジェーンは彼の目を見て驚き、言葉を飲む。

 助けを求めるミトスのなんと必死なことか。そんな彼の顔は今まで一度も見たことがない。従って気付けば、何としても自分が助けてあげなければと思っていたようだ。

 

 「み、ミラさん、まだ……まだ足りないんです。まだ出したい、もっとイキたいんです……!」

 「う、うん。そうだよね。じゃあ、もう一回――」

 「あぁっ、ミラさん、ミラさんっ」

 「えっ、きゃあっ!?」

 

 感極まった様子でミトスがミラジェーンに抱きついた。

 服越しだが大きな胸の谷間に顔を埋め、背に腕を回して強く肌をすり合わせ、戸惑う彼女に気遣うことなくぎゅっと自分の方へ引き寄せる。彼女の体はベッドの上へ連れ込まれた。

 強く抱きしめ、腰を小刻みに動かして擦りつける。

 濡れた亀頭が彼女の服を濡らすが気にしていられず、ミラジェーンの体をベッドに押し倒した。服を着たまま、慌てる彼女は動揺した目でミトスを見上げる。

 すでに興奮は頂点にまで達して、彼を止める術は残されていなかった。

 

 「ミトス、落ち着いて、ね? あの、私、手伝うから。ミトスが苦しいなら助けてあげたいの。だからもうちょっと落ち着いて――」

 「ハァ、ミラさん、ミラさん!」

 「きゃあっ! ま、待って、私初めてで……!」

 

 異常な筋力で彼女の服を破り、たわわな胸を露出させた。細腕且つ、習得している魔法の種類も違うというのに奇妙な腕力であった。

 しかし気にしている暇もなくて、すでにミトスは胸に顔を埋めていた。

 強く抱きつき、呼吸も荒いまま柔らかな素肌に頬を擦りつける。乳房をぐにと押し、辛そうな表情で快感を求めている。両手で側面から強く揉み、少しでも欲求を満たそうと頑張っていた。

 ミラジェーンはますます慌てて平静を保てなくなり、彼の頭に手を添えるも強く引き剥がすにはあまりに必死な様子でそれができない。単純な力の差もあったが、彼を可哀そうだと思うからだ。

 

 「あの、ミトスぅ……」

 「ごめんなさい、ミラさん。でも僕もう我慢できないんです」

 

 乳房を掴む力にぎりぎりと力が入り、ミラジェーンの顔が歪んだ。

 あまりに強い握力。普段の彼とは思えない。

 それだけでなくミトスは彼女の胸に舌を這わせ、唇で強く吸いついていくつも赤い痕を残した。まるで自分の所有物だと主張するよう。痛みも伴う行動にミラジェーンの瞳がわずかに潤む。

 

 「い、痛いよミトス」

 「ハァ、ハァ、ごめんなさい。でももうだめなんです。もうイキたくてイキたくて堪らないっ。我慢できないんです! このままだとおかしくなる!」

 「あぁ、だめよ、そんな……うぅ、舐めるなんて」

 「んんんっ、んふぅ、はぁぁ……ミラさんのおっぱい、柔らかい。これが女性だ、女性の体なんだ。うぅぅ、チンポが、チンポが痛いぃ……!」

 「だ、大丈夫? また手でやった方が――」

 「もうだめだっ」

 

 両方の乳首と胸の谷間をたっぷり唾液で濡らした後。

 ミトスはミラジェーンの上半身を跨いで座り、勃起したペニスを乳房で挟んだ。両手で押さえてぐっと挟み込み、柔らかい感触に包まれてから腰を前後に振り始める。

 ずるずると乳房の間をペニスが出入りし、淡いながら刺激が与えられた。

 辛そうな表情は相変わらず、しかしミトスの目は快感に惚けて様子が変わり、口はだらしなく開かれて唾液を垂らす。こみ上げてくる射精感は一突きごとに大きくなった。

 今までにない感覚。初めて触れる女体だけでなく、体がずいぶん感じやすくなっているらしい。何かがおかしいと思いながら、一刻も早く射精したいと本能が頭の中で叫んでいる。

 ミラジェーンが顔を真っ赤にして寄せられた乳房の間から顔を出す亀頭を見つめ、羞恥心から硬直しているため、抗議の声を出すことすらできない。

 自分勝手な行動は続けられ、時間もかけずに射精感が高まっていった。

 

 「あぁ、すごい、きもちいい……でももっと、もっとっ」

 「うわっ、み、ミトス、何これ。気持ちいいの? む、胸でなんて」

 「うぅぅ、気持ちいいです。ミラさんのおっぱい犯してるみたいですごくいいっ」

 「う、んんっ、気持ちいいんだね。それなら、好きにさせてあげた方がいいのかな」

 

 事前に唾液で濡らしたためか、滑りも良くなって痛みも感じず、ミラジェーンに余裕が戻る。

 行為自体は恥ずかしいが、ミトスを想えばこのままの方がいいのだろうかと考え、シーツの上に両手を投げ出し、全身の力をついて寝そべる。亀頭を見つめるのは恥ずかしいため、必死な様子の顔を眺めた。

 整った顔立ちである。中性的な可愛らしい顔をしており、そのため今まで男であることを意識したこともなかったが、今回の一件では彼が男なのだと強く認識せざるを得ない。ふと蕩け切ったミトスの顔に目を奪われる。

 非常に気持ちよさそうだ。そんな顔の彼を見たことがない。

 そもそも、恋人がいるのかだとか、性欲があるのかどうかすらわからない人物だった。簡単な仕事を担当することが多いが毎日仕事に出かけて、収集癖があり、女遊びもしない真面目な青年。それが今はなぜか、ミラジェーンを襲って胸にペニスを突っ込んで快楽に耽っている。

 不思議な状況だとどこか他人事のように考え、ぼんやり彼の顔を見つめる。

 何度胸の谷間で擦りつけたか、再びミトスが限界を迎える。

 両手でミラジェーンの乳首をぎゅっと摘み、思わぬ感覚に表情が変わるも、射精が始まった。

 

 「あぁっ、出るっ。出る出る、出ますよミラさんっ!」

 「あんんっ……あ、え? 出るって、ひょっとして――」

 「ああああっ!」

 

 乳房の谷間から亀頭が顔を出し、どびゅっ、と割れ目から精液が飛び出す。

 先程と変わらず大量に出た白濁液が彼女の顔面を白く汚し、ただでさえ濡れていたというのに、さらに広い範囲を染め上げる。反射的に目をつぶれば瞼を塞ぎ、驚いて口を開けていると口内に飛び込んで舌の上に乗った。

 ミラジェーンの驚きは止まらず、どうすればいいかわからず両手だけが慌ただしく動く。

 そうなった後でもミトスの興奮は止まらなかった。

 全く萎えないペニスを見ると両手で乳房を寄せ、今度は合わさった乳房の間にぐっと亀頭を割りこませ、胸板に当たるよう縦に差し込む。射精したばかりで敏感な状態を活かそうと最初から全力で腰が振るわれた。

 もっと射精したい。考えるのはそればかりだ。

 叩きつけるように腰を振り、両手で顔を拭うミラジェーンはまだ状況が飲み込めていないようだった。掌や指先で精液を拭い、目を開けられるようになって初めてミトスの行動の意味を知る。しかし舌の上に乗った精液をどうすればいいかわからず、発言することはできなかったようだ。

 

 「んんっ、はぁ、おっぱい犯してる……これ、すごい」

 「みとす……まら、なの」

 「はぁぁ、出るっ。また出ちゃいますミラさん。見ててください、イクから見ててっ」

 「あっ、はぁ――」

 

 乳房の間に亀頭を埋めて、射精した。

 全く量が変わらず飛び出す精液は乳房の間から飛び出して肌を濡らし、ミラジェーンの目にも妙な光景だと見えた。

 ミトスは背筋を伸ばして体を震わせ、最後の一滴が出切るまで乳房の間から出ず、腰を小刻みに振るう。

 

 「あぁぁ、おっぱい孕ましてる……おっぱい、最高ぉ」

 「んっ、べぇ。ミトス、気持ちよかった? これでもう大丈――ふぐっ」

 

 手の甲で舌の上にあった精液を拭い、声をかけるとその瞬間、一切間を置かなかったミトスが素早く動いていた。何度射精しても萎えないペニスを、勃起した状態でミラジェーンの口に荒々しく突っ込んでいたのだ。

 両手で頭を押さえられ、あまりに唐突な行動。亀頭が喉にまで達するほど勢いよく突っ込まれてミラジェーンは目を見開いた。口内に感じる異物感と苦しさが怒涛のように押し寄せて、しかし逃げることもできない。

 苦しいと感じる状態で腰が動き始め、奇妙な声を出しながら手を動かそうとする。

 力が入らない。すでに目には涙を溜めていて、なんとか彼の脚に触れるも退いてくれそうにはなかった。彼女が苦しげなのにも気付かずにミトスが腰を振り始める。口の中から喉の奥まで、まるで道具のように深く使われていた。

 

 「ふぐっ、おごぉ、おぇ――!」

 「ハァ、きもちいい。ミラさんもっと吸いついて。喉まで使って気持ちよくしてください」

 「ううぐっ、ごぇ、おおっ」

 「うぅぅ、出ちゃいそうだ。もうちょっとで出ちゃいそう。ミラさん、もっと。もっと舐めてくれなきゃイケないじゃないですか。強く吸ってください。舐めてください。僕を気持ちよくイカせてくださいっ」

 

 ミトスは高速で腰を振っていた。持てる力の限りを使い、射精することにのみ集中する。

 そこにミラジェーンへの気遣いはなく、おそらく彼女が苦しんでいることにも気付いていない。自分のことしか考えていなかった。だから彼女の顔を跨いで叩きつけるようにペニスを出し入れさせていたのだ。

 ぐぽぐぽといやらしい音が鳴って、ミラジェーンの口から垂れた唾液が淫らに光る。

 彼女は必死に耐えていた。苦しいし、戸惑いは大きいし、なぜこんなことになっているのかもわからないがミトスのためだと思って。何も言わずに抵抗をやめ、必死に目を閉じてその苦しさに耐えている。

 嘔吐してしまいそうな苦しみが続いていたが、やっとミトスが達するようだ。

 腰を震わせた彼の声が高ぶった瞬間、終わると感じたミラジェーンは薄く笑みを浮かべていた。

 

 「イキますっ。ミラさん、全部飲んでください。喉で出しますからね、このまま全部飲んでください。いいや、飲ませますっ。僕のザーメン全部ミラさんのお腹の中まで届けますから」

 「うぐぉぉ、ごぇぇっ」

 「うぅぅ、飲めぇぇ!」

 「ふぐっ、んごぉっ!?」

 

 宣言通り、ペニスが一際喉の奥まで深く差し込まれ、それから射精が始まった。

 大量に出てくる精液すべてが体内で出され、喉を鳴らすしかない。望んだわけでもなくただ無意識に、気付けばミラジェーンはそれらすべてを飲もうと努力していた。

 今まで経験したことがないほど苦しかったがすべて飲み終え、無言でペニスが抜かれる。

 途端に彼女はせき込んだが心配する声はなく。

 ミラジェーンが動けない間にミトスはすでに移動していて、数秒遅れて気付いた彼女がハッと顔を上げ、声を荒げた。怒りよりも戸惑いを感じる。潤んだ目は不安に揺れていた。

 

 「だ、だめっ。そこはだって、私たちまだ恋人にもなってないのに……!」

 

 ミトスは彼女の脚の間に腰を降ろしており、勃起し続けるペニスを扱きながらじっとそこを注視していた。鼻息も荒くスカートをめくり上げて、その下を覆うショーツを力ずくで引き千切る。

 露わになる秘所。毛の生えていないつるりとした恥丘が見えた。

 すぐさまミラジェーンは強い羞恥を感じて両手で顔を覆う。顔は先程以上に真っ赤になっていたが、脚の間に入られたのでは閉じることもできず、手で隠そうという考えすら持てずに顔を見られたくないと思った様子。

 閉じられた女陰は妙に幼く見える様相であったものの、わずかに光る物が見える。どうやら一連の行為で膣がわずかばかりに濡れているらしい。それでも挿入には至らないが、もはや我慢できる状態ではなかった。

 より一層、鼻息が荒くなる。

 自らの手でペニスを握ったミトスは亀頭を膣に擦りつけ、腰を前に出すとミラジェーンの反応を待たずにずぶりと埋め込んだ。無理やり押し広げて入り込んだためか締めつけが強く、どちらも如実に表情が変わる。

 ミトスは蕩けた笑みを見せ、ミラジェーンは痛みすら感じて目と口を限界まで開いていた。悲鳴すら出せない。口の中に突っ込まれた時とは違う異物感と苦しさが、今度は股の中にあった。

 

 「ひぃっ。あっ、がっ……!?」

 「はぁぁ……きもちいい」

 

 まさに至福の表情。亀頭をゆっくりと奥まで進めたミトスは、唐突にびゅっと精液を吐きだした。あまりに締めつけが強いため我慢しきれずに射精したのである。

 今度は辛そうではなく、純粋に幸せそうな顔。途方もない幸福感に包まれる。

 膣内が精液で満たされて外にまで洩れでてくる。その感触すら心地よい。

 痛みと衝撃で我を忘れるミラジェーンとは違い、彼は嬉しい快感から我を忘れていた。

 

 「あぁ、出しちゃった。きもちよすぎて出しちゃった」

 「はぁぁ、うぅぅ……ミトス、もう、十分でしょう? ねぇ、これで終わりに――」

 「まだですよ。まだこれからです。ミラさんを、孕ませないと。いっぱい子宮に注ぎ込んで、僕の子供孕んでもらわないと。もっともっといっぱい射精しますから」

 「だ、だってもう、あんっ――」

 「はぁ、きもちいい。くぅ、こんなのすぐイッちゃうに決まってるじゃないかっ」

 

 精液を塗りたくった乳房を掴み、腰を前後に動かし始める。

 動きに合わせてミラジェーンの体は揺すられ、膣内がペニスで抉られていた。まだ固さの残るそこは彼のペニスで徐々にほぐされるかのようで、ゆっくりと形を変えるかのようでもある。

 そこへ加えてすでに射精されていた。彼の体液が塗りたくられていると想像すれば顔が熱くなり、滑りが良くなったせいか、あまり痛みを感じなくなって、ミラジェーンの表情が幾分和らぐ。

 それでも目をきつく閉じて眉間に皺を寄せ、耐えるような姿。

 時間をかけて快感らしき物を感じつつあったがミトスの動きが速く、余裕を取り戻すには少々激し過ぎる。しかし時間が経てば変化はあった。小さな声が嬌声にも似て表へ出て、体の内側から響く衝撃が全身へと伝わる。

 

 「あっ、んっ、はっ、はっ――」

 「うぅぅ、すごいぃ。おまんこ、これがおまんこっ。ミラさんのぉ」

 「うんんっ、あっ、ちょっと、きもちいいかも……んんんっ」

 

 ギシギシとベッドが軋む音を発し、その上で激しく腰が突き出される。

 ミラジェーンも次第に表情を緩ませて快感を感じ取れるようになり、声も大きくはっきりと変化していった。胸を揉まれることが、膣内をカリで引っ掻かれることが、子宮をぐっと押し上げられることが快感となる。

 二人の体の一部がぶつかっているのだろう、室内には渇いた音と荒い息遣いだけとなる。

 必死に性交のみに集中して、その他のすべてを忘れる。今だけは二人の意思がぴたりと合った。

 激しい動きのせいで汗を掻き、大粒の水滴がミトスの髪からミラジェーンの肌へ落ちる。

 より一層ベッドの軋みが大きくなった。

 上からのしかかるようにしながら、ミトスが一際高く鳴く。

 

 「うああっ、出るっ。イクイク、イクぅ!」

 「あっ、あっ、あぁんっ――!」

 

 ガツンと亀頭が一番奥を強く叩き、直後に射精が開始される。

 内部まで注ぎ込み、子を孕ませようとするかのよう。受精することを目的とするかのようにぐりぐりと強く腰を押しつけ、尚も精液を吐き出す最中から腰が数度振られていた。

 ようやく射精が終わって腰が止まる。

 二度の射精をすべて受け止められるはずもなく、シーツの上には大量の精液が溢れだしていた。匂いがきつく脚が濡れていることもわかる。頭が真っ白になったミラジェーンは、そこにある感触を確かに感じていた。

 やっと終わった。呼吸を乱して胸を上下させながらそう思った時だ。

 両手で腰を掴まれ、再び突かれ始める。反射的に唇をきゅっと結んで、目を見開いた。

 まだ終わってなかったようだ。激しいピストンで強い快感が与えられ、ミラジェーンが涙をこぼしながら身を捩る。もう耐えられない。意識するでもない動きがそんな素振りに見えた。

 しかしミトスが満足していないため逃げることは不可能。疲れた、嫌だと思いながらも彼に抱かれるしかなかった。先程のラストスパートと同じくらいの速度で膣内を乱される。

 

 「あぁっ、はぁっ、また……んんっ、あっ、あぁんっ」

 「はぁ、もっとイキたい、まだ出したい。ミラさん、ごめんなさい。もう少しですから。もうちょっと出せば落ち着けそうな気がしますから、これでしっかり孕んでくださいねっ」

 「んんんっ、んんっ、あっ、あっ――」

 

 ぐちゃぐちゃと精液が掻き出される。シーツへ広がるそれがさらに増えた。

 もはや体中、精液で汚れながらの性交であった。顔は白く染められ、胸には大量に塗りたくられ、股から噴き出すそれが身を捩る度、肌に触れていく。

 動けば動くほど彼の色に染められるようだ。

 そう長くは続かないだろうと、ミトスは考えていた。もはやミラジェーンは何も考えられなくなってされるがままを受け止めるのみだが、彼は自分の身にある確かな変化を感じている。せめてもう一度。これで終わるはずだと判断する自分が居る。

 叩きつけるような速度で腰を振っていると射精感の高まりを感じた。

 ミトスはおもむろに上体を倒してミラジェーンの唇を塞いだ。精液に濡れた彼女の唇もべっとりとそれに濡れていたがまるで気にせず。自分の体液を舐めようが構わずに彼女の唇を舐め、舌を絡ませる。するとミラジェーンは薄く目を開いて彼の顔を見つめ、ぼうっとした顔つきで首に腕を回し、恋人のように自らも舌を動かした。

 ここへ来て受け入れるかのような仕草に胸が熱くなり、ペニスがぐっと膨らむ。

 来た、と二人が同時に思った瞬間。

 勢いよく放たれた精液が彼女の子宮へぶつけられ、またも膣内を白く汚した。

 

 「んんんんっ! んんん、んふぅ……」

 

 ねっとりと舌を絡めて射精が止まるのを待つ。気だるさを感じながらのキスは思いのほか心地よく、乱れていたはずの心が落ち着いていく。ミラジェーンは自ら求めるように舌を伸ばしていた。

 精液がすべて吐き出され、ごぽりと膣から洩れ出る分がシーツに落ちた後。

 やっとペニスが抜かれて幾分固さを失った様子が見られた。

 ミトスはほっと息を吐き、ミラジェーンの隣へ寝転ぶと彼女の胸に顔を埋め、強く抱きつきながら目を閉じる。自身が放った精液が触れてもまるで気にしない。そうする姿は恋人にも見えるが、それよりも彼女が産んだ子供のように見えていた。

 嫌がることなくミラジェーンも彼を抱きしめ、白銀の髪を撫でる。

 室内にはむっとした熱気が漂っており、汗を掻いたのもそのせいだと今になって気付く。非常に激しい性交だった。しかもこれがお互いにとっての初体験だというのだから奇妙なもので、そういった感動も相まって二人は笑みを浮かべている。

 色々とわからないことがあるものの、気持ちよかった。それだけは確かだ。

 裸で抱き合ったまましばらく経ち、乱れた呼吸が落ち着いた頃。ミラジェーンがやさしい声で問いかける。無理やり抱かれた怒りや悲しみなど微塵も感じられない、姉のような母のようなやさしさがあった。

 

 「ミトス、もう平気? 一体何があったの?」

 「うん……ごめんねミラさん。こんな、力ずくで無理やりなんて最低なこと」

 「ううん、いいの。さっきのミトス、普通じゃなかったもの。何か理由があったんでしょう? ちゃんとわかってるから怒ったりしないわ。だから話して」

 「えっと、多分なんだけど。昨日本が届いたんだ」

 「本?」

 「仕事で行った先からもらった、古い魔導書。あれを開いた時からおかしくなった」

 

 ミトスの頭を撫でながら、ふとミラジェーンが室内を見渡す。

 ベッドの近くの床、確かに一冊の本が落ちていた。分厚い外見で古ぼけている。

 あれに間違いないとミトスに一声断り、傍を離れて縁に座ると右手で拾い上げる。

 先程までのミトスからは明らかな魔力の変調と異常性が感じられた。理由はここにあるのだろうとページを開き、中身を見る。しばらくは何の変哲もない魔法の習得方法が書かれていたが、あるページに至った時、ミラジェーンがううむと唸る。

 理由が見つかった。それがずいぶん変わった魔法だったため、思わず唸ってしまったらしい。どうやら彼女にも見覚えのない魔法だったようだ。

 

 「あった、これね。多分凄く強い呪いよ。ええと、内容が書いてあればいいんだけど」

 

 ぐったり疲れた様子のミトスを背後に、ミラジェーンは真剣に本を読み始める。

 ただ、いまだ体の火照りは消えていないようで。ゆっくり動いたミトスはシーツの上を這うように動き、後ろからミラジェーンの腰に抱きつく。明らかに甘える素振りは可愛らしく感じられたのか、ミラジェーンは嫌がるどころか微笑んで彼の頭を撫でる。

 その一方で本に書かれた文字を読み進め、表情が変わる。

 彼の体にかけられたのはあまり良くないものだったようだ。

 

 「うーん、ミトス。ちょっと言いにくいんだけど、この呪い……」

 「なんですか?」

 「あの、ふざけるわけじゃないからね。どうしてかはよくわからないけど、その、性欲を強める効果があるらしくて。解く方法は書いてないと思う。だから元に戻るためには他で探すしかないかもしれない」

 「ええっ。そ、それは困ります。だって昨日から今まで、ずっとイケなくて。冗談じゃなくてほんとに気が狂うかと思ったんですよ。死んだ方が楽なのかなって思うくらい辛くて。あんな状態がこれからずっと続くと思ったら流石に――」

 「落ち着いて。元に戻る方法はわからないけど、効果を弱める方法は書いてある」

 「ほんとですか?」

 「ただ、その、さっきみたいに。お、女の人の、あそこに、出さなきゃいけないみたい」

 「それってつまり……」

 「う、うん。だから手や胸で出してもだめだったんだね。ええと、その、私のなかに、出したから……だから今は落ち着いてるのかな。い、いっぱい出したもんね」

 

 頬を赤らめてミラジェーンが言う。本を持つ手に力を込めて、視線はうろうろと忙しなく、恥じらいを見せる姿はまるで少女のようだった。

 腰に抱きついたままでも、途端にミトスが気まずげに表情を変える。しかし彼女の体から手を離そうというつもりは微塵もないようで、起き上がって座り直すと後ろからミラジェーンの体を抱きしめ、左手は腰に添え、右手は乳房を下から持ち上げるように触れた。

 くすぐったそうに笑い、抵抗せずにミラジェーンが本に目を通す。

 

 「何のためにこの本に仕掛けられていたのかわからないけど、結構強力そうだし、呪いを解く方法を見つけるには時間がかかるかも。でもそれまでの間、ミトスは、やっぱり困っちゃうよね」

 「多分、そうなると思います。正直めちゃくちゃした後で言いにくいですけどまだ治まり切ったわけじゃなくて……またチンポ痛くなってきてるし、ミラさんの裸見てると、めちゃくちゃにしたくなって、孕ませたいって、さっきから頭の中でうるさいんです」

 「そ、そっか。じゃあ、うん、しょうがないよね。他の人に相談できることじゃないし、女の人が居ないと症状は治まらないわけだから……よし」

 

 首筋に何度もキスして吸いつくミトスを振り返り、ミラジェーンが口を開く。

 頬は赤く染まって、何かを決意した目。視線を合わせて、ぽつりと言った。

 

 「だから、呪いが解けるまで、私が相手してあげるね。ミトス、このままだと辛いだろうし」

 「え? ほ、ほんとに?」

 「うん……えっち、すればいいんだよね」

 「た、多分ですけど。あ、でもそれだけじゃなくて――」

 「いいよ。なかに出すんでしょ。ミトスのためなら、私はいいと思ってる」

 「ミラさん……」

 

 ふわりと微笑まれて、ミトスがきゅっと唇を結んだ。

 おもむろに両手が動いて二つの大きな乳房を掴み、掌で乳首を強く押す。

 反応したミラジェーンが首を逸らして快感を得たと表した。また視線を合わせて熱っぽく見つめ合う。まさに気分は恋人同士、魔法のせいでミトスの体が火照っているとはいえ、触れ合うことから躊躇いがなくなっていた。

 

 「じゃあ今からもう一回いいですか? 今度はやさしくしますから」

 「う、うん。それじゃあ、もう一回……」

 

 顔を寄せてキスを交わし、体中に触れた精液も気にせず、ミトスが手を動かし始める。

 胸を揉み、右手が肌を伝って下腹部へ向かっていった。若干ミラジェーンが抵抗しようと手を動かし、彼の手を止めるも、やさしく振り払ってさらに下へ向かう。指先が膣の入り口を撫で、ぐっと力を入れて精液を押し出させた。

 ミラジェーンの頬が緩んで笑みがあった。先程と違って躊躇いは消えている。この時間や淡い快感を楽しんでいる節すらあった。

 時間をかけて触れられるのは荒々しい手つきと違って安心感がある。

 そう思っていたというのに、すぐにミトスは我慢が利かなくなったようで、キスをやめて顔を見るとすでに余裕が消え去っていた。背後で腰が動かされ、固く勃起したペニスが背中にぐりぐりと押し付けられている。

 あっ、と声を出して気付いた。

 おそらくこういった類の呪いなのだろう。かけられた人間の意思に関わらず性欲を増幅させ、精神に異常をきたすほど影響力を持ち、女を抱かなければ治まらないらしい。今の彼は一度治まりかけてから早くも火が点いてしまっていた。

 まずいと思う暇もなくミトスの手が彼女の腰を持ち上げ、ペニスの位置を定める。こうなるともはや抵抗する暇など与えられなくて、瞬く間に体がペニスが膣へ侵入していた。

 

 「あぁっ、あぁぁぁ……!」

 「うぅ、ごめんなさいミラさん。やさしくするって言ったのに、もう我慢できなくて。ハァ、チンポが熱くて、爆発しそうで、辛くて仕方ないんです。もう今すぐにでも射精したい……!」

 「あんっ、待って。あんっ、あっ、あっ――」

 

 ずぼずぼと勢いをつけて膣内が荒らされ、先に出した精液を掻き出し、子宮を突く。今度こそミラジェーンは痛みを感じず快感を得て、呼吸を乱して嬌声を発した。

 最初から叩きつけるようで、渇いた肉の音が鳴る。

 縁に座った状態で腰を動かし、突き上げていたが、次第に気分が高まってくると体勢を変える。彼女を立たせるとベッドに両手を突かせ、尻を掲げさせて、丸々とした尻の肉を掴んで後ろから全力で突く。パンパンと音が鳴って尚更気分が高まった。

 

 「あっ、あんっ、あっ、あっ――!」

 「くぅぅ、出る出る出るっ! もうイクぅ!」

 「やぁぁ、だめぇ……!」

 

 さらにもう一発、膣内で射精が行われた。

 手加減も慈悲もなく体内に出されて子宮にぶっかけられ、ミラジェーンの絶叫が響く。

 シーツや床へ大量に汗が落ちる。それ以上に二人の体液がぶちまけられた。

 動きが止まって、立ったまま半ば呆然とする。

 ミラジェーンは口を大開に唾液を垂らしており、がくりと頭を垂れると同時に膝から力が抜けて座り込んだ。しかしミトスは決してペニスを抜こうとはせず、彼女の腰を抱えると二人でベッドの上へ戻る。

 繋がったままミラジェーンが寝そべり、その上からミトスがのしかかった。

 

 「はぁ、ん、ちょっと待って。まだ、力が入らなくて……」

 「ごめんなさい。くぅ、でもまだだめなんです。もっと出したくて」

 「んんっ、まだするの? だけど、もう腰が抜けて――」

 「このまましますから。ハァ、ミラさんのおまんこ、気持ちいいっ」

 「あんっ、やぁ、だめぇ……!」

 

 寝そべったミラジェーンを相手に腰を振ってペニスを出入りさせる。

 与えられる快感があまりにも凄まじいため、このままではまずいと思う瞬間があった。頭が真っ白になっている状態でミラジェーンは彼にかかった呪いの厄介さを理解し、嬉しさと不安が混じる表情で笑みを浮かべている。

 どうやら大変な役目を引き受けてしまったらしいと、悲鳴のような嬌声を発した。

 



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能力の保管庫(ワンピース)

 前置きがクソ長いです。
 でもエロは少ないです。
 あと、ウィキペディアを見ながら書きました。
 能力者が出てきますがウィキで出てくる人ではなくオリ主です。オリジナルになっています。


 それはとある夜の出来事だった。

 島の陰も見えない海原。波は穏やかで風は無く、凪の状態。とても穏やかな夜の時間である。

 海の上には一隻の船が足を止め、夜を過ごすための休息に入っていた。

 掲げる旗の色は黒。敵の死を意味する黒に骸骨のマーク。海賊であることを証明するジョリーロジャーだ。

 今日は驚くほどに静かな夜だった。異常気象が多く、何が起こるかわからないグランドラインにおいて奇妙なほどに危険が感じられない静けさ。おかげで深夜に差しかかる頃には船員たちは酒を飲んですっかり楽しくなり、部屋へ戻ることなく甲板で雑魚寝を始めていた。

 一方で船長室には一人の男が居る。その船の船長である。大柄な体は背丈が二メートルを越え、長い髭を蓄えて厳めしい顔つき。外見から野蛮な様子がありありと伝わる人物だった。

 時間を忘れて酒瓶を傾け、海図を眺めている最中のこと。

 ある時、唐突に扉が開かれた。外には誰かが立ち、てっきり皆寝静まったのだろうと思っていた船長は訝しげにそちらを見る。問いかける声には警戒心が滲み出ていた。

 

 「誰だ?」

 

 返答はない。辺りが暗いせいで顔を確認することもできなかった。

 船長室にある明かりはいくつかの燭台と数本のろうそくのみ。小さな炎ではさほど明るくすることもできていない。入口付近ならば尚更だった。

 ただ奇妙な雰囲気だけが伝わってくる。家族のように付き合っている船員たちもある程度の礼節くらいは弁えている。ノックもせずに扉を開けることはないし、問われて返事をしないことも違和感を感じる。船長の表情はますます険しくなっていった。

 人影が一歩、部屋へと足を踏み入れる。コツ、と小さな足音が鳴った。

 それから数度、足音が響いて部屋の中央にまでやってくる。その頃になれば炎の明かりが顔を照らしだし、ようやくその顔が見えるようになった。

 全身真っ黒の服装。まるで闇に溶け込もうとするよう。それはまだいい。見覚えがあるのはファー状の白い帽子をかぶり、目の周りにあるはっきりとした隈。鋭い眼光と共に不敵な微笑みが確認でき、なんとも言えない不思議な恐怖心を煽ってくる。そして何より、その刀。右腕で持ち、肩に預けるそれは長大で、通常の刀よりずいぶんと長い。

 あまりに特徴がある人物だった。

 船長は、手配書で見た顔だとようやく気付く。これまでいくつもの事件を起こした極悪人。二億ベリーの懸賞金をかけられた海賊、“死の外科医”と呼ばれるトラファルガー・ローだ。先日の頂上戦争の折、麦わらのルフィを戦場から逃がした人物。話題性に事欠かないため噂はいくつも耳に入っており、その異質な姿と圧倒的な力から世界中に名を轟かせている海賊の一人である。

 予想外の大物の登場であり、あまりにも突然だった。気付けば体が震え、慌てて立ち上がる船長はイスを蹴り倒し、恐れおののいて部屋の隅にまで下がる。

 その男、麦わらの一味が雲隠れした今、最も危険な海賊として名が挙がっている。次から次に海賊を襲い、相手を殺すことなく船長の体から心臓だけを抜き取り、すでに三十を越える数をコレクションしているらしいともっぱらの噂。何を考えているかわからない行動に加え、常識を無視したその異常な能力も今や広く伝えられ、誰からも恐怖されるほどの海賊となっていた。

 悪魔の実を食べた能力者。彼はその一人で、常人が持ち合わせない特殊な能力を持っていることは知っている。ただでさえいくつもの海賊団から船長の心臓のみを奪って回っている人物だ。つまり戦えば勝機は皆無。

 戦ったところで無駄だろう。そう思うからこそ船長は逃げ腰で、戦う意思など微塵も見せない。

 幅広の机を挟んで視線を交わし、悲痛な声を聞いてローは動こうとしなかった。

 

 「て、てめぇは……死の外科医!? なぜここに!」

 「おまえの心臓をもらいに来た」

 「な、なんだとっ。ウチのクルーはどうした! まさかてめえ……!」

 「安心しろ。誰も死んじゃいねぇよ。眠ってたんでただ縛りつけただけだ」

 

 余裕のある声で端的に告げられる。それだけで船長は自らの恐怖心を抑えきれず、目を血走らせながら叫び始めた。

 元々力のある人間ではなかった。ずる賢さと策略のみでこれまで生き残ってきた海賊である。懸賞金は億を目前とする九千万ベリーだが、戦闘の腕を認められてのことではない。市民に被害をもたらす危険性を考慮された上でもあった。

 いざ自身の身に危険が迫ると自らの力で解決する気概はなく、策を考える前にも自らの部下に頼る始末。一味の長としてはひどく情けない姿だ。

 ローは興味なさげに笑みを消し、戦うまでもないとばかりにため息を吐く。

 早く終わらせようと考えたのか、能力を行使するため左手を少し掲げる。掌は床へ向け、指はわずかに開いている。不思議とそこからは何かが生み出されようとしていた。

 

 「おいっ、誰かいねぇのか! 敵襲だぞ! さっさと来い!」

 「無駄だ。甲板はおれの仲間が見張ってる。誰か居たところでここまでは来られねぇ……ROOM」

 

 ローの左手から広がる青い半透明の半円。船長室を纏めて包み込むほどの大きさだ。

 彼はオペオペの実を食べた改造自在人間。自らが張ったROOMの中にある物を自在に操り、改造してしまう能力である。そこに入ってしまった以上、船長の身が無事に済むとは思えず、彼の叫びはより一層大きくなる。

 対してローは静かなまま、落ち着いて机を回りこもうと一歩を踏み出す。

 

 「レイドォ! てめぇどこでほっつき歩いてやがるっ! とっとと船長室に来い! 敵襲だって言ってんだろうがァ!」

 

 そう叫んで数秒とせず、船長室の扉が勢いよく開かれた。

 ローが入ってきた扉ではない。壁にぴたりと背を触れさせる船長から見て右側、どうやら船内から直接通じているらしいそこだ。

 飛び込んできた人物は慌てて右腕を掲げ、そこに持った物を見せつける。ローは警戒するでもなくその姿を見ていた。

 

 「はいはい、船長見つけましたよ。遅れてすいません。ほら、センチュール産のワイン。ちょっと奥に置かれてて、見つけるのに時間かかっちゃって――」

 「バカ野郎ッ! 敵襲だ、こいつを殺せ! 今すぐに!」

 「て、敵襲? うわっ、びっくりした!?」

 

 入ってきたのはずいぶんと気弱そうな青年だった。体つきは細く筋肉がついているようには見えず、髪は黒色、顔つきは平凡そのものである。どう見ても海賊ではなく、どこぞの町民だと言われても違和感がない。なぜそんな男が船に居るのか。

 しかも先程の言葉。船長は彼に戦えと言った。すぐ近くに立っていたローを見た途端に驚いてワインを落としてしまった彼にだ。

 パリンと音が鳴るとワインの瓶が床に当たって割れてしまい、中の赤い液体が広がる。

 広がったワインを踏みつけつつ、レイドと呼ばれた青年は慌てふためいて両手を動かし、咄嗟にくぐったばかりの扉の向こうへ下がろうとした。しかしそれよりも先に船長が彼の背後へと回りこみ、逃げようとする背を強く押す。どちらも戦う気があるとは見えない。言わば情けない姿だ。

 

 「こんな夜中に敵襲ですか!?」

 「おら、とっととやれ! 何のためにおまえをこの船に乗せてると思ってる!」

 「いやいやでも、この人死の外科医でしょ? おれなんかじゃ到底……」

 「大丈夫だ! おまえなら上手くやれば誰にも負けねぇ! わかったら今すぐ戦うんだよォ!」

 

 前へ押し出され、二人の距離がより一層近くなる。船長室がいかに広く作られていようとも所詮は室内。逃げることは難しく、また二人の間にある距離が一メートルほどしかないのも不思議ではなかった。

 ローとレイドの視線がぶつかる。一切感情を感じさせずに冷静なままのローとは違い、レイドは驚くほど動揺している。目線が合ったのは一瞬だけ。すぐにうろうろと中空を漂い、肩がわずかに震えている。やはり戦闘ができる人間とは思えない。

 彼に対する多少の憐みを持ちながら、ローは静かに刀を抜いた。妖刀とも称される“鬼哭”。驚くほどの長刀で怪しく光る不気味な刃だった。

 せめて一瞬で終わらせてやろう。彼の目にはそんなやさしさがあった。

 それを見たレイドはますます顔を青ざめさせ、緊張した面持ちで指先が震える。右手が不安そうに自身の左胸、心臓があるだろう場所をぐっと強く掴んでいた。

 

 「いやぁ、船長。やっぱりおれじゃ敵わないと思いますけど……」

 「ぐだぐだ言ってる暇があるならさっさとやれ! おまえが死んだらおれも死ぬんだぞ!」

 「うぅ、わかりますけど、でもおれ覇気も使えないし――」

 

 おもむろに刀が振り上げられる。一メートルほど離れていようがその長刀ならば届くだろう。迫る死の恐怖に耐えきれずにレイドは短い悲鳴を発した。

 殺される。大きな恐怖が全身に伝わり、支配する。

 気付けばレイドは咄嗟に右腕を伸ばしていた。届かないとわかっていながらローへ手を向けている。奇妙だったのはその手が影絵で狐を作る時のような形をしていたことだ。

 不審に思いながらも実害がある様子には見えない。さほど気にすることもなかった。ローは回避する素振りも見せず、刀を振り下ろすため腕に力を込める。

 その一瞬の挙動、咄嗟に反応したレイドが叫んでいた。

 

 「ええいっ、ノロノロビーム!」

 

 レイドの声と共に指先からビームが放たれた。円形のそれが宙を飛び、音もなくローの体を通り抜ける。痛みはない。ダメージらしいものは微塵も存在しないようだ。

 しかし直後、変化は確かに起こった。

 刀を振り下ろそうとしたローの動きがなぜか遅くなり、まるでスローモーションのよう。ふざけているわけでもなくローの速度が遅くなってしまった。

 どうやらそれが悪魔の実の能力なのだろうと気付いた時、本人でさえどれほど力を込めようが速度は変わらない。ローは自分の意思で動いていながら普段通り動けず、室内が静かになる。刀は非常にゆっくりと振り下ろされていった。

 その間にレイドは慌てて後ろへ下がり、船長の傍まで避難した。相手の動きが遅いのなら回避も難しくはない。だが距離を置いたところでどちらも怯えて震えており、とても海賊らしいとは思えない姿。如何なる状況であっても勝ち目は見えない様相だった。

 

 「う、動きをノロくしましたよ。これで多分、三十秒くらいはノロいままのはず」

 「よぉし、大手柄だ。今の内に仕留めろ。奴は億越えの賞金首。おれたちゃ大金持ちだ」

 「でも能力を切り替えると効果が消えちゃって、また普段通り動けますけど」

 「だったら他の方法があるだろ! なんのためにナイフ持たせてると思ってる!」

 「わ、わかりました……あの、おれ人を殺したことなんてなくて」

 「だからどうした? あァ?」

 「い、いえ……」

 

 びくつくレイドが腰の後ろからナイフを抜き、両手で強く柄を握った。

 武器を使ったことなどない。戦闘など本当はしたくない。しかし船長には逆らえないため仕方のないことだった。ゆっくりと前へ一歩を踏み出し、ノロくなったローをじっと見つめる。眉間に皺が寄って辛そうな表情だ。

 人を殺した経験はなく、殺したいと思ったことさえないのだ。それはあまりに酷な命令だろう。ナイフを持つ手が震えている。

 ごくりと息を呑む音がやけに鮮明に伝わった。いつまで経っても次の一歩を踏み出さないレイドに苛立ちを感じ、船長が再び怒声を上げる。

 

 「おい、いつまで突っ立ってやがる! この間抜け! 時間をかけりゃあまた動き出すんだろうが! 今の内にさっさと――」

 「なるほど。これがおまえの能力か」

 

 もたもたしている間にローが動けるようになったようだ。振り下ろしつつあった刀を自ら下ろし、睨みつけるようにレイドを見る。

 反射的に小さな声を漏らし、今になって気付いたようで彼は間抜けな表情となっていた。

 

 「あっ、そっか。三十秒経っちゃったから……」

 「バカ野郎! だから言っただろうが!」

 「要はそのビームに気をつけりゃあいいわけだ。妙な能力だが、タネがわかれば大したことはねぇ」

 

 再び刀を振ろうと腕に力が入る。咄嗟にレイドはまたも右手で自身の左胸に触れていた。

 刀が振るわれる。レイドだけではなくまるで少し離れて背後に居る船長まで切ろうとするかのように。相変わらず室内はローが作りだす半円に包みこまれていた。

 

 「わっ、やばっ」

 

 しかし刀に斬られるより早く、なぜかレイドの肉体がとろりと液体になって斬撃の軌跡から逃れる。その結果、太刀筋の先に居た船長だけが体を斬られて上半身と下半身が分かたれた。かといって血は流れない。ローの能力圏内では太刀筋のみで肉体が分離され、まさしく改造されてしまう。船長は体を両断されながらも痛みは感じず、悲鳴を上げながら床へ倒れた。

 一方でトロトロした粘度の高い液体に変化したはずのレイドは再び実体を得てその場へしゃがみ、なぜか服は脱ぎ去った状態で全裸となっている。斬られて倒れた船長を見てまた全身が震え、体を隠す余裕もなく尻もちをつく。

 

 「うわっ、せ、船長!? こ、殺されたっ!」

 「まだ死んでねぇよ! クソっ、なんだこの能力は!」

 「聞きてぇのはこっちの方だ……今のはなんだ? 同じ能力とは思えねぇが」

 

 わめく船長を無視し、さらに眼光が鋭くなったローが前へ踏み出し、尻もちをつくレイドへ刀の切っ先を突きつける。

 ひっと小さな悲鳴が発せられ、首筋に先端が触れていた。

 絶体絶命の状況は変わっていない。状況から考えて言わなければ殺すと脅されている。

 命を惜しむレイドが口を割るのは当然だった。鋭くなるローの声に従い、肌を隠すことをすっかり忘れ、気付かれないように後ろへ下がろうと努力し始めながら質問に答えようとする。

 

 「何の実を食った? まさか複数の能力を持ってるって言うんじゃねぇよな。悪魔の実は二つ食えば体が消し飛ぶ。だがおまえが今見せた能力、同じ実とは思えねぇ……二つ食ったと言わない限りは何かタネがあるはず。詳しく話せ」

 「え、えっと……」

 「おいてめぇ、トラファルガー! よくもやってくれやがったな――」

 「うるせぇぞ」

 

 船長が懐に隠し持っていたピストルを取り出し、銃口をローへ向ける。だが引き金を引くより先に腕が肩から切り取られ、両手両足、さらに首が胴体から切り離されてバラバラになる。刀を振るだけで刃が届いていないのに人体が斬られるのだ。見ていてぞっとする光景であった。

 裸のままで肝を冷やしたレイドはまたも右手を左胸へと運ぼうとする。

 その挙動を、ローは見逃さなかった。

 即座に刀の切っ先は手と胸の間に挟みこまれ、触れさせまいと道を塞ぐ。自然と彼の悲鳴が上がった。

 

 「ひっ――!?」

 「それか? それが能力の条件か」

 

 刀の腹で手を押し、そっと胸から離させる。

 そうさせた後でローはその場へしゃがみ込み、レイドの顔を覗き込んで小声で語りかける。明確な怒気を感じるわけでもないが、落ち着いているからこそ恐ろしさが強く感じられただろう。

 問われるがまま、今度は逃げる素振りも見せない。

 

 「答えろ。おまえが食った実は? 能力は何だ? 隠さず答えたら命までは奪わねぇ」

 「わ、わかりました。なんでも答えます」

 「なら実について教えろ。何を食った」

 「おれが食べたのは……コピコピの実。悪魔の実の能力者の能力をコピーする能力……です」

 「レイドォ、やめろォ! べらべらしゃべってんじゃねぇよ!」

 

 首だけになって転がる船長が叫ぶ中、降参するように両手を上げたレイドは語る。ローはその声を一つも聞き洩らさないよう集中した。

 

 「コピーするには、自分の右手で能力者の体に触れるだけ。あとは心臓に触れて頭の中でイメージすればコピーした能力を切り替えられます。ただ制限もあって、本来の能力者ほどは自在に使えない、です」

 「例えば」

 「ええっと、さっきのノロノロの能力は、ビームに触れた相手を三十秒間ノロくすることができて。でもおれはコピーしただけなんで、一度ビームが当たって効果が発動したら、多分一分くらいは次が撃てなくなります」

 「本来の能力者なら制限なく次々撃てたのに、ってところか。だが他人の能力を一部とはいえコピーできるってのはかなり厄介だな。おまけに切り替えってことは、一度使って消えるわけでもなく永続的に保有できるのか」

 「た、多分ですけど。船長は上手く使えれば最強の能力だって、おれをこの船に……」

 「なるほど。能力は便利でも能力者がこの性格じゃ、利用するのは簡単だったか」

 

 刃を下げ、体から離した後。ローはおもむろに手を伸ばす。まるで握手をするよう右手が差し出され、戸惑いがちに視線を手と顔の間で彷徨わせたレイドは不安げに彼を見る。

 どうすればいいか、大体はわかった。レイドがこの能力を手に入れたのは今から十年以上も前。他人に知られればその都度利用されてきた能力だ。

 それでも握り返す勇気が沸かずに黙っていると、冷静な面持ちでローが言う。

 

 「おれの能力は見たはずだ。それが本当なら、コピーしてみろ」

 「いや、でも……」

 「それともコピーすればおれが能力を使えなくなるのか?」

 「い、いいえ、そんなことは。おれはただ他人の能力の一部を真似るだけですから」

 「なら問題ない。やれ。それともあいつみたいにバラバラになってみたいか?」

 

 顎で指し示されて視線を動かせば、体をバラバラに分解され、尚も生きている船長の姿。表情は悔しげで、憎らしげにローとレイドの両名を睨んでいる。

 それを見てしまった後では、脅迫に屈する他なかった。見ただけでわかるほど自由を奪われた姿。あれではかゆい所を掻くことすらできない。レイドは恐る恐る右手を伸ばし、ローの手を握る。ぎゅっと力を込めて握られただけだった。本当にそれで能力がコピーされたのか、当人であるローにすらわからない。

 手を離し、重々しくレイドがため息をつく。ひどく緊張しているようだった。自分が裸になっていることすら忘れている。

 今度は視線だけで促す。能力を使ってみろと。証明するためには自分の目で確かめるしかない。今この場で彼が能力を使っている光景を見るしか。

 それはレイドにもわかっているらしく、深呼吸を何度か繰り返して、意を決したように右の掌を木製の床へ向ける。

 船長が尚も荒々しく言葉を吐いていた。

 

 「やめろ……! なぁレイド、怒鳴ったりして悪かった。おまえはおれの仲間だ。そんな奴の言うことなんて聞くんじゃない。いいか? 今日までおまえにメシを食わしてやったのはおれだ。小遣いだってやっただろう。女遊びだって教えてやった。そのおれを裏切るのかっ」

 

 オペオペの能力は確かに使用された。たった一度見ただけ、手に触れただけで、自分の頭と同じくらいの小さなサイズだが、確かにオペオペの“手術室”が出来ている。

 認めないわけにはいかない。コピコピの実、これは本物だ。それ一つで数多の能力を使い、いかなる状況にも対応できるだろう面白い能力である。

 立ち上がったローは決心を固め、能力の使用をやめたレイドを見下ろした。

 

 「服を着ろ。もうこの船に用はない」

 「え? あっ、そういえばおれ、今まで裸で……!?」

 「あとは当初の予定通り、欲しい物を頂けば終わりだ」

 

 刀を握り直して今度は船長へと近寄る。すでに体はバラバラ、首は胴体から離れてどうしようもなく床に転がっている。見ようによっては惨めな姿だ。体の感覚はあるのに動かせない。これでは食事も排泄もできないだろう。それどころか体がないため落ち着いて睡眠を取ることすらできない。

 哀れな首を見下ろし、鋭い目のローは冷たく言う。刀は遠慮もなく振り上げられていた。

 

 「おい、冗談やめろよ、なぁ。取引をしよう。実はおれは、宝の在りかを知ってる。今ちょうどその島へ向かおうと航海してたところだったんだ。そこへ行けば金銀財宝がおれの、いやおれたちの物になる。なぁ、頼むよ。おれを見逃してくれ。そうすりゃ宝の在りかを教えて、見つけりゃ山分けだ。悪い話じゃねぇだろ? その島はおれしか知らねぇ、おれにしか辿りつけねェんだ。なぁ」

 「残念だが、そんな宝には興味がない」

 「なんだよ、ちくしょう! いいかてめぇ、覚えとけよ! こうなりゃおれは必ず生き延びておまえらを探しだし! 必ず復讐してやる! てめぇらだけじゃねぇ、親も家族も近しい奴らも全員血祭りに上げて、おれにこんな仕打ちをしやがったことを後悔させて――!」

 「あいにくだったな。もう間に合ってるよ。家族全員、故郷と共に殺された。もうこの世にいねぇ」

 

 軽い調子でスパンと頭が縦に割られ、口が二つに分かれてしまったことによってしゃべることすらできなくなる。その後、ローはゆっくりと胴体へ近寄り、倒れて動かないそこに右手を突っ込むと心臓だけを抜き取った。

 オペオペの能力にかかれば痛みを与えることもない。四角いキューブ状の膜に覆われた心臓は肉体を離れて尚も鼓動を奏でており、止まるどころか異常はまるで見られない。その光景こそが異常であった。

 目の前で信じられない物を見たレイドだが、もたもたしながらもなんとか服を着ることができ、万全の状態となった後で所在なさげに立ちつくす。船長が始末され、どうやら船全体が制圧されてしまった今、彼はどうすればいいかわからなかった。

 眼前をローが横切り、奪ったばかりの心臓を手に扉へと向かう。

 

 「行くぞ。ついて来い」

 「え……?」

 「おまえはおれが引き取る。おれの仲間になれ」

 

 扉をくぐる前に足を止め、わずかながらに振り返る。

 今度は恐れる余裕すらなく呆然としてローと視線を合わせ、彼の言葉を正面から受け止めた。

 

 「それとも脅迫される方がお好みか?」

 「な、仲間って……あの、でもおれ」

 「答えは二つに一つだ。イエスかノーか、おまえの意思で決めろ。できなきゃそこのを組み立て直すしかねぇ」

 

 そう言われてハッと何かに気付いた表情。瞬間的に目の色が変わった。

 

 「あっ……わ、わかりました。ついていきます、あなたに」

 「それでいい。来い。仲間に紹介してやる」

 

 再びローが前を向いて歩きだしたことで、レイドもすぐさま後ろへ続く。

 船長室にはバラバラに分解された、意思が残ったままの船長の肉体が残り、誰かに助けられることもなく彼はずっとそのままだった。

 甲板へ出た二人はそこに立つ人々を視認する。船の船員たちが縄に縛られて床へ放置され、立っている者たちは外から来た者たち。ローの仲間なのだろう。皆が黒いツナギを着ていた。中には白いクマがいたり、二メートルを越える大男が居たりと中々に奇妙な面々だ。

 欄干から外を見れば、海には別の船が浮いている。彼らの物だろうか。真横に止められたそれは帆船ではなく鉄の船、いわゆる潜水艦であるらしかった。

 目の前の光景に驚きつつ、突然の事態に目を白黒とさせるレイドの目の前、ローが仲間たちに声をかける。

 

 「こいつも連れて行く。今日からおれたちの仲間だ」

 

 

 *

 

 

 突然の出会いから数日。特殊な能力を持つレイドはローが率いるハートの海賊団の仲間として迎え入れられていた。

 潜水艦に乗って航海は続き、すでに古巣となる海賊船を後にして長い。航路は決められているらしく、目標がどこかを明らかにしないまま進んでいる。

 海中には潜らず、海面を進むこと数時間。今日の航海は続いており、甲板では顔を突き合わせて座るローとレイドが何やら話していた。

 表情は厳しく、声色も真剣。悪だくみしている様子はありありと見えている。

 

 「トロトロの実ってのは?」

 「えっと、体を液体にする能力で、あっ、でも服は効果が伴わないから必然的に脱げちゃうんですけど、初めて会った時に使った――」

 「例のアレか。ノロノロの実は対象をノロくする能力だな。ホレホレの実は」

 「相手を惚れさせる能力、です。ノロノロと同じでビームを出して、当たった相手がおれに惚れるっていう……効果は多分一日も持たないと思いますけど」

 「馬鹿馬鹿しい能力だ。仲間割れを誘うには持ってこいかもしれねぇが、コピーしたもんじゃ余計に使い道が少ねぇ。まぁ、だが戦う力を持たないおまえなら使い道もあるか」

 

 欄干に背を預けたローは紙切れを見やり、一つ一つ確認するようにレイドへ質問をぶつけていく。楽しんでいる様子と苛立ちを感じる表情で、普段では見られない少し独特な姿だった。

 答えるレイドも真摯に考え、嘘偽りない返答を返している様子。出会いから今日までの時間で少しは打ち解けることができたようだ。ローと話す姿から緊張は薄れ、以前よりは肩の力が抜けた姿で彼と向き合っている。すでに心はローこそ自分の船長だと納得出来ていた。

 

 「うぅ、申し訳ない。でもおれだって好きでこの実を食べたわけじゃないですよ。たまたま、ほんとにたまたまで」

 「なぜ悪魔の実を食べることになった。望んだわけじゃないんだろう」

 「餓死しかけてた時に、それしかなくて」

 「それだけか?」

 「はい。それだけです」

 「間抜けな理由だ。それで望まぬ能力を手に入れて色んな連中に利用され続けたわけか。不自由な人生だな」

 「仰る通りで……でも、結構楽しんでるんですよ。船旅は好きだし、海も好きだし。それに潜水艦って初めて乗りました。すごいですね、帆船とは何もかも勝手が違って」

 「そんなことより」

 

 笑顔になったレイドの言葉をぴしゃりと遮り、再び紙に書かれた内容へ話が戻る。

 そこにあったのはこれまでレイドがコピーした能力の一覧だ。思い出しながら書いてまだ一部。片っ端から他人の能力をコピーするだけしておいて、まだ上手く使えていない証拠だろう。本人の言によれば十数個並べられたそれですべてかどうかわからないということだった。

 それでも目を見張る物がある。一人の能力者が複数の能力を持つこの状況。制限や熟練度を考えると戦闘員としてはいまいち使えないが、スパイとして利用するならこれ以上ないほどの逸材だと考えられる。様々な能力をその都度切り替えて利用すれば、如何なる場所へも忍び込み、そして出て来れるはず。そう考えれば何とも面白い能力だ。

 ローとレイドの契約は単純明快。ローが考える作戦を遂行するまでは仲間として行動し、時が来れば自由にする。それまでは何があっても自分たちを裏切るなとの言葉だった。

 レイドはそれを了承し、何一つ不満を持つことなく受け入れている。

 元々子供の頃から海賊に攫われ、能力を利用するためこき使われてきた男だ。奴隷というわけでもないが他人に従うのは慣れている。むしろ自分の意見を問われると困ってしまう素振りすらあった。ハートの海賊団は思いのほか彼に自由を与えるため、度々困った顔が目撃されている。

 従って潜水艦での生活は存外に楽しそうで、ハートの海賊団クルーとも仲良くやれていた。助けだされてから今日まで数日間、笑顔が絶えることがなかったほどである。

 ローに対して従順な態度を見せるのも長年の慣れのため。彼の話に付き合う様は初めて出会った時とは比べようがなかった。

 

 「能力の確認の続きだ。おまえ自身、いつでも思い出せるように頭に叩き込んどけ。いいな? ヒソヒソの実」

 「ええと、動物と話すことができる能力です……けど」

 「ミニミニの実」

 「あのぅ、一体どうしてコピーした能力の確認なんて。い、言っときますけど、おれは戦闘なんてできませんよ? いくら能力をコピーしたからって、やっぱりオリジナルには勝てませんし」

 「おまえに戦闘なんざ求めてねぇよ。能力の切り替えができるってのは上手く使えば単独行動に向いてる。だからおまえにはおれの作戦を遂行するために協力してもらう」

 「た、単独行動? なんですかそれ、おれ聞いてなかった――」

 「まずはテストだ。おまえに度胸をつける。あれを見ろ」

 

 紙を左手に持ち替え、右手で船の前方が指し示される。レイドはそちらへ目を向けた。

 船が目指す先、水平線に島が見える。

 目的地だろうかと覗き込むように上体を伸ばすと同時、ローが語る声が聞こえた。

 

 「あの島は七武海の一人が占拠している。千両道化のバギー。海賊派遣組織とやらを指揮している男だ」

 「は、はぁ。名前くらいは聞いたことあります」

 「おまえはその組織に潜入しろ。スパイとしてな」

 「スパイ!?」

 「そうだ。海賊派遣の依頼が集まるってことは、それだけ色々と情報が集まっているはず。その情報をこっちに流せ。ついでに能力者を数名確認してる。そいつらもコピーしろ」

 「えぇぇぇ……なんて無茶なことを。いやキャプテン、わかりますよ? わかりますけど……おれですからね? そんな難しそうなこと」

 「だから言っただろう。度胸をつけるためだ。別に首を取ってこいと言ったわけじゃない。能力を上手く使って奴らを欺き、もしものことがあればすぐに逃げろ。やることはそれだけだ。それができねぇほどバカじゃねぇだろう」

 

 事もなげに言うローへ不審げな視線を向けるものの何も言えないレイドは愕然とし、身を乗り出してくる彼から目が離せない。彼の目は至って真剣だ。

 

 「戦闘はできないから雑用をやるとでも言っとけ。噂に聞く限りそれほど頭が切れる連中じゃない。海賊に憧れてると言えばおそらく中に入れるだろう。雑用でもなんでもしながら情報を流せ。余裕があるなら何とか自由に行動できるよう交渉しろ。おれたちと合流できるようにな」

 「要するに嘘をつけってことですよね。ほんとに大丈夫なんですか? もしバレたりしたらどうなるか」

 「危なくなったら逃げろ。無理に戦う必要はない。それにおまえなら大丈夫だ。見てくれが優男だからな、大抵の奴はさほど警戒もしねぇはず」

 「そうかなぁ……もしとんでもなく察しが良い人が居たりしたら――」

 「つべこべ言わずにやれ。それとも心臓をおれが持った方が早いか?」

 「わ、わかりました。やりますよ。でも、失敗したって知りませんからね。おれには責任の取りようがありませんからね」

 

 船は尚もエンジンによって前に進んでいる。帆に風を受けるのとは違う、一定の速度が保たれている。到着までそう時間はかからないだろう。

 島の影が近付くにつれ、次第にレイドの表情に陰りが増える。不安が胸中を埋め尽くし、緊張が唇をきゅっと結ばせた。

 これまで海賊に利用されてばかりの人生だったが、一方である程度の安全は確保されていた。単独行動、特に誰かに嘘をついてスパイするなどという経験は一度もない。そんな状況は最も命の危険が付き纏う場ではないか。それだけに未知なる恐怖が沸き上がって仕方ない。

 軽々しく頷いたのは失敗だったかと後悔し始めた頃。俯いてため息をこぼすレイドの心境とは裏腹に、潜水艦は着実にその島へ接近する。

 島の端に位置する場所に大きなテントが見えた。派手な模様に騒がしい声。まるでサーカスの様相である。それが千両道化のアジトらしい。

 世界でたった七人しかいない、政府によって認められた海賊がそこに居るのだ。噂を耳にしたことはあるが、一体どんな人物なのだろうと緊張して喉が鳴る。

 

 「そろそろ着くぞ。準備はいいか」

 「いえ、全然」

 「よし」

 「いやよしじゃなくて! やっぱりやめませんかキャプテン。こんなのおれには無理ですって」

 

 後ろ向きな態度を見せるレイドを気にせず、視線は横へ逸らされる。明確な言葉は無くとも態度で異を唱えることは許さないと言われている様子。

 ローが呼び寄せたのは自身の部下である白クマであった。不思議なことに人間と同じく二足歩行、出会った時とは違いオレンジ色のツナギを着ており、それどころかローの声に人語で返答している。レイドが想う限り多少気が弱い部分はあるが気のいい奴ではあった。

 

 「ベポ。あれを渡してやれ」

 「あいあいキャプテン」

 

 真っ白な毛皮に覆われた両手で渡される。レイドの手にあったのは単独行動中彼らに連絡を取る手段、子電伝虫である。

 彼らは本気で考えているのだろうということが簡単に読みとれ、また顔が青ざめる。

 今度はため息が抑えられなかった。がっくりと肩を落として俯いてしまい、慰めようとベポが頭を撫でてくるが気分は晴れない。気分はこの世の終わりを味わっているようだった。

 

 「情報はそれで伝えろ。作戦の変更があるようならこっちからも連絡する。ただし、基本的に助けは来ないと思え。おれたちはおれたちでやることがある」

 「めちゃくちゃだなぁ……おれ、生きてまたみんなに会えるのかな」

 「おまえがへまをしなければな。さぁ、時間だ」

 「ぜ、全然準備できてませんけどっ」

 

 さほど時間も置かずに潜水艦は島へ到着。港もない陸地に横付けし、船は停められた。

 ドギマギした様子のレイドであったがローに背を押され、軽くジャンプして陸地に移る。

 辺りに人の姿はない。海辺に沿って東側、サーカス団が使うような派手なテントがある。大人数の大声も聞こえていた。そこが拠点と見て間違いない。

 一気に緊張感が増してくる。嘘や冗談でもなく、本当にたった一人でスパイとして行くのだ。

 護身用にと持たされたのはナイフが一本とピストルが一丁。使い方もいまいち覚えていないそれ。持たされたところで使えるはずもないが、海賊志望だとうそぶくならば必要だと持たされた。もうすでに逃げられないところまで来ているらしい。

 深呼吸を繰り返す。こうなればやるしかない。どうせ海賊に利用され続けた人生、これ以外の生き方など知らず、また求めているわけでもなかった。

 今の船長はトラファルガー・ローだ。部下として彼の命令には従わなければならない。

 恐怖心は持ったまま。レイドの顔つきがほんの少し変わる。

 

 「良い報せを期待してる。おまえが死んでなければな」

 「い、嫌なこと言わないでくださいよ。まぁでも、今までずっとこうだったし……ううん、なんとかしてみます」

 「おれたちは別行動を取る。上手くやれよ」

 

 そう言ってローとベポは船内へ入るため振り返って歩き出す。振り返ろうとしないローとは違ってベポはレイドへ手を振り、扉が閉められるとすぐに船は海中へ潜航を始める。

 退路は断たれた。昨日だってハートの海賊団一同で壮行会まで開いてくれた。やるしかない。

 自らに言い聞かせ、気合いを入れ直す。それからゆっくりと歩き出した。

 向かう先は大海賊が居るテント。七武海、千両道化のバギーに会う。まずはそこからだ。

 考えただけでも体が震えるが、感情とは裏腹に体は前へ進んでいく。前へ出る脚に淀みはなく、自分でそんなに勇ましい姿は想像出来ていなかったが、到着するまでさほど時間はかからなかった。

 入口の前には屈強な男が二名。門番をしているのだろう。テントの中から聞こえる楽しげな声を聞くに宴をしているらしいが参加することなく、彼らだけはこじんまりと酒瓶を傾けている。

 笑顔になっても怖い顔だ。遠目で彼らの姿を見たレイドは臆病風に吹かれ、ぴたりと足を止めてしまう。潜入するということは彼らに話しかけるということである。しかしあまりにも怖い顔と屈強な肉体に怯えてしまったらしい。

 思考は一瞬逃げることを考えるが、逃げたところで行く場所などないと考え直す。

 その代わり計画の微調整は決定したようで、門番に気付かれない内に道から外れ、近くの森へ入る。そこからは姿を見られないよう草むらに身を隠しながら進んだ。

 算段はできている。少なくともテントの中に入るまでは。不安は大きいがとにかく行動しなければ決意があっさり崩れてしまいそうで、足を止めるわけにはいかない。何を考えるにもまず歩くことが先決だった。

 森の終わりまで来る。テントは開けた場所にあった。そこに辿り着くには見晴らしのいい場所を歩かねばならない。

 まだ見つかるには早いだろう。レイドはぐっと唇を噛みしめ、右手で心臓がある位置に触れた。

 

 「フゥ……イメージしろ。能力はいつでも切り替えられるように。練習はキャプテンと何度もした。大丈夫、大丈夫……」

 

 目を閉じて自分に言い聞かせ、頭の中でイメージが変わる。反応するように体の感覚も変わった。能力の切り替えは確実に行われている。

 その能力の強みは戦闘ではなく、いくつもの能力を使えること。そう教えられた。

 再び目を開いた時、決意はさらに揺るがないものとなっていたようだ。

 

 「ミニミニ」

 

 短く告げる。

 別段言葉にせずとも能力は使えるがそうした方が意識の切り替えは早い。能力は確かに発動し、見る見るうちにレイドの体が縮んでいく。

 変化が止まった時、レイドの体は草むらよりもさらに背が低い、せいぜいがネズミと同程度だろう小ささになっていた。

 ミニミニの実はその名の如く、自らの体を小さくする能力。コピーしただけの劣化版ではサイズは一定、今しがた変化したばかりの小ささにしかなれないものの、この場ではそれで十分。通常のサイズで足首ほどまでの草が生えている草原ならば、十センチほどしかない体のサイズで十分に隠れられる。

 小さくなった分距離は遠くなったが、歩き出す。見つからないのならば長い距離などさほど苦とも思わなかった。

 本来ならば数分とかからない距離を数十分と時間をかけて歩き、汗を滲ませながらテントへと辿り着く。小さな体で重い布を持ち上げてなんとか中へ入ることができた。

 がやがやと宴の声がさらに近くなる。だがその現場へ立ったわけではないらしい。内部も単純な構造ではない様子でいくつか部屋があり、声があるのは布を隔てて向こう側だ。

 ここならば安全だろうと思い、能力を解除する。一秒とかからず元のサイズに戻れた。

 潜入は成功。問題は次である。まずはテント内に居る能力者の確認と、可能ならば能力をコピーすることを考えていた。

 現在地もわからないため適当に歩き出す。宴の席から離れれば良いだろうと安易な考えであった。しかしそれが功を奏し、右も左もわからぬ彼だが不思議とキッチンらしい場所へ出る。

 忙しそうに調理を行うコックが十数名。まるで戦場だ。何かが焼ける音と忙しない物音がレイドの心をぎゅっと締めつけ、そのコックたちがずいぶんと厳めしい顔をしているためまた恐怖心が顔を覗かせる。

 ぎこちない歩き方でなんとかキッチンへ入り、一番近くに立っていたコックに話しかけた。顔が怖いせいで恐怖心は付き纏うものの、これだけ忙しそうならおそらくは潜入がバレない。雑用係として顔を売るにはこれ以上ない状況だ。

 そう思う一方で本音はちっとも話しかけたくなどない。本音と行動は伴わないものだと、彼は意外にも冷静に考えていた。

 

 「あのぅ……」

 「おい! アルビダの姐さんにワインは持ってったのか! さっさとしろよ!」

 「は、はいぃ!」

 

 声をかけた途端、ぐるりと振り返った強面は強く叫び、堪らずレイドの肩が震えた。

 怒られる理由もわからず、指示されたところでどうすればいいかもわかっていないが頷く以外に許される行動はない。これまでの人生経験がそうさせるのか、意識せずとも返事ができていた。

 詰め寄ってきたコックに乱暴な手つきでワインとグラスが乗ったお盆を渡され、抵抗もなく受け取る。腕は震えたが長年の経験から取り落とすようなミスは起こさない。

 そのままコックは調理に戻ろうとするわけだが、持たされたそれをどうすればいいかもわからず、咄嗟にレイドは慣れた調子で尋ねていた。

 

 「あ、あの、これどこに持って行けば」

 「あァ!? おまえ新入りか」

 「は、はい。ええと、さっき着いたばかりで、失礼ながら右も左もわからなくて――」

 「幹部のアルビダ姐さんがそいつを御所望だ。そこから出て左手に裏口がある。外へ出て、少し離れたとこにある赤くてでけぇテントに持ってけ。ただ渡せばいいだけだ」

 「わかりました……じゃあ、行ってきます」

 

 相当に忙しいのか、コックはレイドに見向きもせずにまた調理へ戻る。

 怪しまれなかった。それどころかさほど興味も持たれていない。拍子抜けしてしまったレイドは少しだけ肩の力を抜くことができた様子で、そそくさとキッチンを後にする。

 教えられた通りに廊下を歩き、すぐに見つけた出口から外へ出た。本拠地となるその大きなテントを大小様々なテントが囲っており、遠くを見れば確かに一番外れに大きな赤いテントがある。

 目的地はそこかと、歩き出した。

 今は新入りの雑用として扱われた自覚があるため、こそこそ隠れるようなことはしない。堂々とテントの間を通り抜けていく。道中すれ違う者は皆が海賊だが、元々彼も海賊として生きた経験が長い。疑いの目を向けられない以上はさほど緊張することもなかった。

 赤いテントにはすぐに到着し、ノックする扉もなくただの布で入口が塞がれているため、声をかける。そこにワインを渡す人物が居るならば答えてくれるはずだ。

 

 「あの、すいません。ワインをお持ちしました」

 

 返答はない。静かなままだ。

 ひょっとしたら寝ているのだろうかと思い、いつまでも立ちつくしているわけにもいかずそっと内部を伺い見る。誰もいない様子だ。だが奥から物音が聞こえる。

 レイドは一大決心し、そっと部屋の中へ入った。

 仕事は仕事。任された以上はやり終えなければならない。能力者探しはその次である。下っ端として長い経験を持つ彼はそうすることに何の抵抗もないらしかった。

 今度はテントの中から声をかける。それで聞こえなければ奥まで行かなければならないかとも思い、多少緊張もしたが、今度はすぐに返答が来た。

 

 「あの、ワイン持ってきました」

 「はい。こちらへどうぞ」

 

 聞こえてきたのは女性の声。返事を出して奥へ行く。

 またも布をくぐって越え、すぐに出会ったのは美しい女性だった。ただ幹部と呼ぶには些か迫力がなく、およそ海賊らしくはない。

 彼女はレイドの手からお盆を受け取り、テーブルまで運んでいく。その姿は給仕係のそれに近い。どうやら幹部のお付きか、世話をする部下らしいとわかった。

 所在なさげに立つレイドへ振り返った女性はにこりと微笑み、彼へ頭を下げる。つられてレイドも頭を下げた。

 

 「見慣れない方ですね。もしかして新人さんですか?」

 「は、はい。まだ今日来たばっかりで」

 「まぁ、そうなんですか。それならアルビダ様へのご挨拶もしたいですよね。でもごめんなさい。アルビダ様は今シャワーを浴びてらっしゃって」

 「あ、そうですか。ええとじゃあ、おれはどうすれば……」

 「また後ほど、ということでよろしいですか? アルビダ様には私から伝えておきます。ですからとりあえず今は……あら?」

 

 女性がしゃべっている途中、部屋の中にあった電伝虫が鳴った。誰かからの連絡が来たようだ。

 すぐさま受話器が持ち上げられ、通信が始まる。当然その内容はレイドの耳にも伝わっていたが、大した内容ではない。言うなれば手が足りないから手伝ってくれとのお願いだ。ただし話の内容からしてレイドが手伝うわけにもいかない様子。女性でなければいけないらしい。

 受話器を置いた彼女はレイドへ微笑み、困ったように言う。

 

 「すみません。呼び出されてしまったので少し行かなければいけないようです」

 「そうですね。じゃあおれも――」

 「ただ、そうなるとアルビダ様にワインをお注ぎする者が居なくなってしまうので。もしよろしければ、あなたが代わりを務めてはくれませんか?」

 「へ? は? お、おれが?」

 「ええ。ご心配なさらずとも、アルビダ様はやさしいお方です。あなたのように穏やかな方ならきっと快く受け入れてくれると思いますよ」

 「は、はぁ。なんだか突然過ぎてよくわかりませんが……わかりました。おれで良いなら、ですけど」

 「ではお願いします。何も心配せずとも、ただアルビダ様が仰った通りにしてくれれば構いません。責任は私が持ちますので。それでは」

 

 そう言うと女性はあっさり外へ出て行った。

 流石に戸惑いを隠せない。舐められているのか、新人とはいえ信用されているのか。しばらくレイドは突っ立ったままぐるぐると考えることとなる。

 落ち着いて考えてみればチャンスだった。幹部に気に入られれば行動の自由は大きくなるはず。つまりたった今から、最優先の任務はこれから会う幹部のご機嫌を取り、気に入られて、敵地において後ろ盾を手に入れること。

 自然とそう考えられるあたり、伊達に彼も長年海賊をやっていない。非常にスムーズな思考で乱れはなかった。

 自らが生き残る術は心得ている。その上で新たな船長となったローの命令に従順に従おうとしているようだ。臆病ながらも海賊の生き方を知る男であった。

 そうして突っ立って考えていると、奥からもう一人が出てくる。ついに幹部とご対面だった。

 しかし今度こそ、彼は目を白黒させて驚くこととなる。

 やってきたのは裸体にタオルを巻いただけの美女。しっとりと濡れた長い黒髪を背に垂らし、厚ぼったい唇は紅を塗らずとも魅惑的。たわわな胸と長い脚が嫌でも男の視線を吸い寄せ、括れた腰がタオル越しでもなんとも色っぽい。

 何より驚いたのは、その肌。離れてパッと見ただけでも驚くほどスベスベしている。これまでレイドが見たことがないほどの美しい肌だった。

 幹部は間違いなくこの人だと強く納得する。

 目の前に立った美女は、レイドの人生において間違いなく一番の美貌を持っていた。

 

 「おや? 知らない顔だね。あんたは?」

 「は、はい。今日から入った新人です。ただの雑用なんですけど、アルビダ様にご挨拶がしたくて、ここへ」

 「あぁそうかい。近頃は新しく入ってくる奴がどうにも多くてね。わざわざ挨拶に来る必要もないと言っておいたんだ。こいつはあんたが?」

 

 アルビダ様と呼ばれていたその女性は部屋の隅にあるテーブルにまで足を運び、上に置かれたワインに触れる。しなやかな指でそっと、それだけでも絵になる美しさだ。

 レイドは思わず息を呑む。彼とて女性と話すことは初めてではないが、彼女だけは他とは比べ物にならない。自然と体は緊張し、同時に股間に血が集まるのがわかる。いけないとわかっていながらも自制することはどうにもできず、邪な考えが頭の中を支配していく。

 そのタオルをはぎ取り、押し倒して、美しい肌と豊満な肉体を思う存分味わいたい。顔に似合わず、彼は狂いそうになるほどの熱気で顔を真っ赤にしていた。しかし実際の行動とできるはずもなく、目をきょろきょろと落ち着かないが必死に返事をする。

 

 「は、はい。おれが運びました。あの、遅くなってすみません」

 「ふぅん。ここに私の世話係が居たはずだけど、あの子はどこへ行ったんだい?」

 「なにか、用事があると電伝虫で呼び出されまして。お、おれにお酌をしろと、言伝を」

 「そういうことかい。ならいいよ。こっちに座りな。せっかくなら注いでもらおうじゃないか」

 「わかりました……失礼します」

 

 アルビダが先にイスへと座り、脚を組む。その些細な挙動でどきりと胸が高鳴って、どうしても視線がそこへ釘付けになった。

 くすりとアルビダが微笑んだことで、気付かれたかと肩がびくつく。すぐに視線を逸らし、言われるがままイスに腰掛けた。だが落ち着くことなど到底できず、肩に力が入ったまま、ひどく緊張した面持ちのままである。当然アルビダも彼を見て笑わずにはいられなかった。

 

 「なに緊張してんのさ。もっと肩の力をお抜きよ」

 「は、はい。すみません……」

 「ふふ。ここには山のように男が居るけど、あんたは連中とは違うようだね。どう見ても海賊とは思えない。線は細いし、歳もまだ若い。どうしてここに?」

 「え、えっと、海賊に憧れてたんです。おれは、喧嘩とかそういうの、全くできませんから」

 「じゃあ強くなりたいのかい?」

 「いいえ、強くなるだなんて。おれなんかじゃどう転んだって本物の海賊みたいにはなれません。だから雑用として傍に居れるだけで十分満足なんです」

 「ずいぶん簡単に諦めるんだねぇ。せっかくここまで来たんなら鍛えてみればいいじゃないか。海賊になりたいんだろう?」

 「は、はぁ。まぁそうですけど」

 「あたしは強い男の方が好きだよ。あたしに勝てるくらいのね」

 

 アルビダが手に持ったグラスを掲げる。にこりと微笑んでレイドを促す素振りだ。

 

 「注いでもらえるかい?」

 「あっ、はい。只今」

 

 慌ててワイン瓶を持ち上げ、グラスへ中身を注ぐ。赤い色の液体が静かにグラスの色を変えた。

 それを口元へ運んでゆっくりと傾け、くっと飲み干していく。

 一挙一動が美しい。シャワーを浴びたばかりのため頬が上気し、しっとり汗ばむ肌が光に照らされてなんとも色っぽかった。レイドは瓶を強く握ったまま、何も言えずに彼女に見とれていた。

 ふぅと小さく息をつき、艶っぽく見つめられる。その気はなくとも彼女がそうすればそれだけで絵になるようだ。

 アルビダはやけに落ち着かない様子のレイドへ微笑みかける。

 

 「どうしたんだい? そんなに固くなって」

 「い、いえ。なんでも」

 「ずいぶん初心なんだねぇ。もっと肩の力を抜いてもいいんだよ。心配しなくても取って食ったりはしないさ」

 

 再びグラスを傾けて残りのワインを喉へと流す。その様子を見ながらレイドは自身の中で大きくなる欲望を無視できなくなっていた。

 気弱だろうが海賊らしくなかろうが彼とて男。港町へ着けば商売女を買うことはあったし、惹かれ合った女性がいないわけでもない。女の味というものはよく知っていた。

 絶世の美女と言えるアルビダを前に、虜とならないわけもなかった。

 自分の役目を抜きにして、思考はやましいことに支配されていく。

 

 (少しくらいなら、いいかな。もしかしたら逃げなきゃいけなくなるかもしれないし、どうせなら、その前に少しだけ。せめて一回だけでも)

 

 ワインをテーブルの上に置き、レイドはそっと右手で自身の胸に触れた。

 見た目に変化はなくとも確かに能力は切り替えられる。選んだそれは自身の秘密兵器と言ってもいい、ホレホレの実の能力。指先から発したビームに触れた相手を自分に惚れさせる、悪魔の実の能力の中でも異質なそれ。オリジナルと違って効力は一日と続かないが、数時間あれば事が終わると考える。

 欲望に支配された自分を否定せず、今度の行動は早かった。潜入する時よりもよっぽど決断力があり、机の下でアルビダへ向けそっと指が伸ばされる。

 桃色の光線がひどく緩慢な速度でアルビダの体へ近付く。そのまま遮られることなくアルビダに当たり、わずかな光が彼女の全身を包みこんだ。

 途端にアルビダの表情が変わる。目の色が変わってレイドを見る目が変わり、どこか熱っぽさを感じさせる。色気を発する女らしい顔だ。

 効果は明白。確実に彼女は惚れていた。それも以前に試した結果から考えるに大抵レイドの言うことは聞いてもらえる。卑猥な行為も然り、だ。

 顔に似合わず欲望のみを優先するレイドは、頬を赤らめて笑顔になる。

 脳内にあるのは彼女を抱くことのみ。途端にレイドは大胆になってイスに座ったまま前のめりになってアルビダの手を握った。するとアルビダも気分を良くして微笑み、迷わず彼の手を握り返す。

 

 「突然大胆だねぇ。そんなにあたしのことが気になるかい?」

 「はい、それはもう。できれば親密になりたいなと」

 「あたしを、抱きたいのかい?」

 「はい」

 

 能力の効果が目に見えると幾分自信を得たようだ。

 レイドははっきりと告げ、握る手に力を加える。

 こうなれば交渉はひどく簡単だった。彼女は何も疑わずにレイドに好意を抱き、気分は恋人のようなそれである。

 

 「ふぅん。ま、近頃面白いこともなかったしねぇ。いいよ。いっしょにベッドへ行こうか」

 「は、はい。よろしくお願いします」

 

 手を握ったレイドは驚いていた。コピコピの実の能力により、彼の中へ流れ込んでくる力がある。新たな悪魔の実の能力だ。

 それだけでなく握った彼女の手が驚くほどスベスベしている。何人かの女を抱いた経験があるが触れたことがないほど美しい肌。絶世の美女と呼んで差し支えないだけの美貌に加え、肌の手触りの良さは他の者より群を抜いて優れている。おそらくこれが能力なのだろうと理解した。

 考えられるのはスベスベの実。悪魔の実の図鑑で見たことがある名前である。女が持てばこれほど価値がある能力なのかと感嘆せずにはいられなかった。

 レイドはますます興奮し、もはや彼女から目が離せなくなる。

 アルビダに手を引かれてイスを立ち上がり、部屋の奥へ移動する。ベッドが置かれたそこは寝室のようだ。

 腕をぐいと引っ張られ、まずレイドがベッドへ腰かける。抵抗する様子もなくされるがままだった。

 彼の目の前にアルビダが立ち、焦らすようなゆっくりとした手つきでタオルを取った。

 視線が釘付けになるほど魅惑的な裸体。一片も隠すことなく肌を晒した彼女は抜群のプロポーションを持っている。上から下まで、興奮を抑えられないレイドはいやらしい視線で舐めまわすように眺め、服の下でペニスが勃起していくのを認識していた。

 その変化は目に見えて明らか。彼の股間を見たアルビダは微笑み、括れのある腰をくねらせながらレイドへ歩み寄った。

 

 「興奮してるようだね。あたしを抱きたくて堪らないってとこかな」

 「そりゃ、もう。だってアルビダ様ほどきれいな人、見たことありませんから」

 「おや、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今日のあたしは機嫌が良いんだ、サービスしてやらないとね」

 

 ベッドの縁に座るレイドの肩に手を置き、そっと押し倒す。

 背中から倒れ込んだ彼の上にアルビダがのしかかる様相で、存外レイドは嬉しそうであった。その気になったアルビダを見て、触れられ、嬉しくて堪らないという表情である。そんな顔をされればアルビダも悪い気はせず、小さく笑い声を発しながら彼の体の上へ寝そべった。

 

 「ふふ、こういうのは久々だね。あんた経験は?」

 「一応あります。でも、できればアルビダ様に色々して欲しくて」

 「そうかい。ならあたしの好きにさせてもらおうかね。あんたはしばらく寝たままでいいよ」

 

 顔を寄せたアルビダが唇を塞ぐ。ぐっと押しつけるようで呼吸ができなくなる。

 触れたいという衝動から気付けば両手が動いていた。半ば無意識の行動である。彼女のスベスベの肌に、身じろぎ一つで揺れるほど大きな乳房に、大きな尻に、わずかに黒々とした毛がある股に触れたいと手が怪しく動く。しかしその手はアルビダによって止められてしまった。

 唇が離れると同時、焦らすつもりなのか笑みを見せられる。これにはレイドも辛いと感じざるを得なかった。

 他の何を差し置いても触れたい肌。能力が作用しているとはいえ人間の物とは思えないほどスベスベなそれ。すぐ目の前にあって、体の前面には押しつけられているというのに手で触れることは許されない。まるで拷問にすら思えた。

 悪戯っぽく笑うアルビダはレイドの手を降ろさせた後、片手でシャツをまくりあげ、肌を露出させると胸の辺りを這うように指を走らせ、ふと乳首の辺りを舐める。レイドの反応は大きく、童貞にも思える初々しさがあって、ますます楽しみは大きくなっていった。

 

 「良い反応するじゃないか。本当に経験あるのかい? だとしたら残念だねぇ。あんたの筆おろしはあたしがやりたかった気がするよ」 

 「いやでも、そんなに多い方じゃないし、久々なので……」

 「そうらしいね。ちょっと触っただけでぴくぴく反応して、ほんと、可愛い子だ」

 「うっ、あっ……」

 

 指と舌で乳首を責められる。重点的な動きは淡い快感を与え、レイドの呼吸を乱した。

 楽しげなアルビダは遊ぶようにそうしながら顔を見つめる。彼の感じる顔をもっと見たいと思った。もっと乱してやりたい、とも。

 

 「さて、どうしてやろうか。焦らすのもいいけどあたしもそう長くは我慢できそうにないからねぇ。とりあえずあんたの物を見せてもらうよ」

 「は、恥ずかしいです」

 「だからいいんじゃないか。その恥ずかしがる顔をもっと見せておくれ」

 

 怪しく動いた手がレイドの服を脱がしていく。

 手間取ることもなく次々脱がされ、白い肌が徐々に露わになっていった。

 海の上で暮らすことが多い彼だがあまり日焼けはしていない。女のように肌は白く、きめ細やかで柔らかさがある。

 最後の一枚も抵抗なく脱がされ、彼は素っ裸になった。

 勃起したペニスが下着から出た途端にぶるりと揺れて外気に触れる。亀頭の半ばまで包皮をかぶったそれだ。サイズはそれなりだが、些か子供っぽい印象すら受ける。

 アルビダは微笑み、今度は彼女が舐め回すように彼の全身を眺めた。

 手はするりと肌を撫で、頬から首筋、胸へ降り、腹を撫でて下腹部へ。戸惑いもなくペニスに触れる。

 力を入れて掴むと上下に動かしてみた。包皮がずるずるとつられるように動き、亀頭の先を隠したり露わにしたりと外見の変化がわかりやすい。不思議な楽しさがある。

 感じたレイドが甘い声を発する。それに応じてアルビダは満足そうに微笑んだ。

 

 「う、ふぅ……」

 「中々立派じゃないか。硬さもいいし、楽しめそうだよ」

 「そ、それはなにより……はうっ」

 

 顔を近づけて舌を伸ばし、亀頭をぺろりと舐めた。反応は上々でレイドの腰が跳ねる。

 気弱な様子が彼女の心を刺激していた。触れるだけであからさまな反応が表れるのは何とも楽しく、触れる楽しみが倍増するよう。おもちゃを与えられた子供にも似た姿で、アルビダはペニスを刺激した。

 右手で亀頭の辺りを包み込み、左手は根元辺りを握って。上下に扱いて洩れてくる声に気を良くする。時折舌を伸ばして亀頭を舐めてやれば、その度に腰がかくかく動いて何かを求める仕草を見せる。わかりやすい男であった。

 さらに楽しもうと考えたアルビダはそっとペニスに唇を寄せ、大きく開いて口内に含んだ。じゅるりと唾液が絡みつき、手と同時にペニスを濡らしながら頭を振って亀頭を刺激する。レイドの声は見る見るうちに高ぶっていき、腰の動きは抑えられなくなり、わずかばかりに全身を動かして悶えていた。

 

 「んっ、ふっ、ぢゅるっ……良い反応だねぇ。あたしも本気になっちまいそうだよ」

 「あぁぁ、アルビダ様ぁ。もう、出ちゃいそうです……」

 「ん、なんだい、もう限界なのかい? 堪え性がないねぇ。まぁいいさ。思う存分出しちまいな。あたしが見ててあげるよ」

 「はぁっ、あぁっ、うぅ」

 

 舌が竿を伝ってさらに下へ向かい、睾丸の辺りに着くとしゃぶりつく。手は相変わらず竿を扱きつつ、玉を片方ずつ口に含んで舌で突き、非常に淫らな顔であった。

 刺激は彼を高みへ昇らせ、耐えきれなくなって歯を食いしばる。

 腰がびくりと跳ねると同時、レイドは限界だと伝えるため必死で口を開いて声を出した。

 

 「あぁっ、もうっ、イクぅ――!」

 「あんっ」

 

 ペニスが震えて亀頭の割れ目から大量の精液が噴き出した。

 射精と同時に顔面へかけられ、最初こそ驚いたものの、すぐにアルビダはペニスにしゃぶりつき、勢いよく飛び出してくる精液を物ともせず亀頭を口に含む。勢いの良いそれらが喉まで到達し、わずかに眉を寄せるも口は離さない。発射されるそれらをすべて飲み込んだ。

 ごくりと喉を鳴らす。

 竿の律動が止まった後、口を離したアルビダは淫らに笑い、口の端に付着した精液も舐め取る。まさに大人の女といった表情と余裕。その顔を見たレイドは言葉を呑み、他の何も考えられず彼女に見惚れていた。

 

 「んふ、ずいぶん出したねぇ。ひょっとして溜まってたのかい? 活きのいいぷりぷりのザーメン、こんなに……」

 「うあっ、はぁ。の、飲んじゃったんですか?」

 「まぁね。美味くはないけど、興奮したよ」

 

 指先で顔に付いた精液を取り、口に運ぶ。舌を伸ばしてぺろりと舐め取って、また飲み込んだ。そうする姿に迷いはない。

 ホレホレの能力は偉大だと実感し、レイドは今度こそ嬉々として手を伸ばして胸に触れる。

 大ぶりの乳房はふにゅりと柔らかく指先を埋め、触れれば触れただけ揺れ、それがなんとも言えず心地いい。触れた感触、見た目、簡単に形が変わる柔らかさ。加えて驚くほどスベスベな肌。非の打ちどころがなく幸福感に包まれる。

 

 「すごい、ですね。スベスベで、こんなの今まで会ったことないです……」

 「そうだろうね。あたしはスベスベの実の能力者。そこらの女とは違うんだ」

 「ほんと、すごいです。できればずっと触ってたい」

 「じゃあそうしておくといいさ。あたしはあたしで、あんたのこれを楽しませてもらうよ」

 

 顔の横に手を付いて、腰を落とすと股間がペニスに触れる。

 尚も勃起したそれはずるりと秘所を撫でるよう。アルビダが腰を動かせば自然とそこに擦りつけられた。

 レイドは途端に余裕を失くし、縋るように両手で胸を揉む。そうしているのが唯一射精を堪える方法であったらしい。

 強い刺激がペニスを起点に全身へ広がる。体の内側が途方もない熱を持つようだった。

 アルビダの手が股の間から伸び、ペニスを掴んで位置を合わせる。自ら膣に挿入するつもりだ。亀頭を入り口に宛がってわずかに腰を揺らし、ぐりぐりと妙な刺激が与えられた。

 両者の興奮がさらに高まっていく。挿入に踏み切る際、どちらも迷いなど微塵もなかった。

 

 「じゃあ行くよ……あっ、んっ」

 

 アルビダがゆっくり腰を下ろしたことでペニスがずるずると膣に侵入していった。

 柔らかく包み込む独特の感触。奥まで進むとため息が漏れた。

 すべてペニスが埋まるとアルビダは動きを止めて深く息を吐き、しばし無言でレイドの顔を見つめる。彼も余裕が消え失せた顔で眉間に皺を寄せており、硬く目を閉じてアルビダの方を見る余裕すら無くなっていた。

 うめき声のように小さく声を発する彼は存外可愛らしく、アルビダは上機嫌で自ら腰を振り始める。膣内はペニスに引きずられるように蠢いていた。

 

 「うぅ、あぁ……」

 「あっ、んんっ。ふっふっふ、良い感じだね。気持ちいいかい?」

 「はいっ、はいっ。き、気持ちいいです」

 「はぁん、あたしも、気持ちいいよ……あんっ」

 

 リズミカルに腰が振られて水音が付随する。膣内が掻き混ぜられて愛液が垂れ、出入りを繰り返すペニスにべっとり付いていた。

 会話もなく淡々と腰が振られる。呼吸は徐々に乱れていき、熱っぽい空気が部屋を満たす。

 吐く息すべてが熱くなった。行為に没頭するせいか次第に汗を掻いていく。時間をかければそれだけ全身が濡れていくようで、二人の髪も汗で濡れるようになり、スベスベの肌は照明に触れて不思議と輝くよう。どこか幻想的な雰囲気すら感じられる室内だった。

 

 「はんっ、はぁ、あっ、あっ――」

 

 アルビダの声が鼓膜を揺らす。熱心な様子で腰が止められることはなかった。

 たっぷり一時間近く。行為は途絶えることなく続けられて挿入が続けられた。

 その間、レイドは自分では動けず、アルビダの動きに耐えるがまま。

 ゆっくり、着実に限界が近付いていた。もはや耐えられる時間など過ぎ去っている。ここまで耐えただけでも自分を褒めてやりたいのが本音だった。

 先にレイドが悲鳴のように限界を告げ、アルビダもまた自らの限界を知って正直に告げる。

 

 「うぅ、うあっ、アルビダ様、もう無理ですっ……!」

 「あんっ、あんっ、うんっ、そ、そうかい。だったら出しな。このまま、受け止めて、んっ」

 「い、いいんですか、中で。おれは嬉しい、ですけど」

 「んっ、好きにしなっ。はぁ、もうこれ以上、耐えられない……」

 「じゃ、じゃあイキます。もう我慢できませんっ」

 

 レイドが胸から手を離して腰を掴み、初めて自分から腰を振り始めた。

 上から下へ突き上げ、全力で彼女を責め立てる。互いに限界は近く、いつ達してもおかしくはない。肉がぶつかる音が一際大きくなった。

 嬌声は大きくなって張りがあり、テントの外まで聞こえているのではないかとすら思えるほど。しかし当の本人たちにはそれを気にするだけの余裕はなかった。

 最後の瞬間を求めて必死に動きを合わせる。叩きつけるような速度で快楽を貪った。

 

 「あんんっ、はっ、あっ、あっ――!」

 「うぅぅ、出るぅっ!」

 

 ついに二人は限界へ達する。

 レイドは膣内にペニスを入れたまま射精を始め、再び勢いよく飛び出してきた精液を受け止めてアルビダが髪を振り乱す。

 全身ががくがくと揺れ、射精が終わる前に体が倒れそうになって接合が解けた。アルビダが腰を上げたタイミングでレイドの上へ倒れ込み、膣から抜け出て大きく揺れたペニスが辺りへ精液を落とす。自然と二人の胸が合わさって動きが止まり、荒くなった呼吸だけが耳に残る。

 至る所へ飛んだ精液は白いシーツを汚し、床へ落ち、アルビダの尻も汚していたようだ。

 しばらくの間動くこともできずに抱き合う。スベスベの肌が体にぴたりと吸いつく感じがして、女体の素晴らしさがこれでもかと理解できた。

 息が整い始めた頃、アルビダがレイドの顔を覗き込み、両手で頬に触れてキスを与える。

 目と目が合って笑い合った。

 スポーツにも等しく激しいセックスを終え、能力を使ったとは言うが絆が芽生えたようにも感じる。だがそれも一時の物なのだろう。その場だけの関係となるためホレホレの能力まで使ったものの、どの道船長と仰ぐ人物は違うのだからと、さほど心を痛める様子はなかった。

 彼はあくまでハートの海賊団の一員。敵対する彼女を利用することに抵抗というものはないらしい。ただ二人で大きな快感を共有し、楽しい一時を過ごした。それだけでいい。それが海に生きる男の生き方だと昔の仲間から教わったこともある。

 何度かキスを繰り返しつつ、能力の効果が続く今は純粋に彼女との情事を楽しんでいた。

 

 「ん、ちゅ……久しぶりに良いセックスができた。どうしてこんなに興奮したのかねぇ」

 「さぁ、どうしてでしょうね。でもいいじゃないですか、気持ちよかったんだから」

 「それもそうか。でもこれで終わりっていうのも寂しいんじゃないかい? どうせ仕事もないんだし、せっかくならこのままもう一回――」

 

 アルビダが魅惑的に腰を擦りつけた時、部屋の入り口でパリンと何かが割れる音がした。

 二人でそちらに目をやれば、アルビダの世話役の女性が驚愕した顔で立ちつくしており、手に持っていただろうお盆を床に落としてワインとグラスが割れてしまっている。見開かれた目は二人の裸体と情事の跡を見つめて、羞恥から頬が赤く染まっていた。

 まんじりともせず眺められて、しかし動揺しなかったアルビダはふっと微笑む。

 ゆっくりとした動きで彼女に手招きし、ベッドへ呼び寄せる。参加しろ、という意図なのだろう。そうなった方が嬉しいレイドは彼女の挙動に喜び、ぜひともそうして欲しいと世話役の女性を熱っぽく見つめる。確信犯的な思考もあったはずだ。

 そうすると彼女は恐る恐る頷いた。

 緊張した面持ちで近寄ってくる彼女は床に広がったワインやグラスの破片もそのままに、ベッドの傍へ立って二人を見下ろす。

 すぐにアルビダが起き上がって彼女の肩に腕をかけ、やさしく引き寄せると耳に舌を這わせ始める。楽しい展開になってきたと思うレイドが嬉しそうに笑っていた。

 



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ブラクロ(BLACK★ROCK SHOOTER)

 ずっと前からずーっと迷走中です。
 それなりに沈黙していましたがとりあえずで投稿。


 窓はカーテンで隠され、薄暗い一室。

 現在の時刻は朝だろうか。それともまだ深夜なのだろうか。時計を見ていない今は時刻がわからない。ここ数週間、カーテンはしばらく開けていないため、空の明るさも確認できず、前に朝日を浴びたのがいつなのかさえ思い出せなかった。

 朝も昼も夜も部屋が薄暗いのにはすっかり慣れた。時計を見るのも億劫で、すでに日にちの感覚を失って久しく、今が何月の何日かもわからない。

 それでも生きているのだ。何を気にする必要があるのだろう。

 人間は飯を食って排泄して水を飲んで眠れば、それだけで生きていける。仕事もせず、学校へ行かず、家の中に引きこもって自堕落にしていても案外死なないものだ。

 黒衣(くろい)タクトは暗闇の中、唯一の光源となる大画面のテレビを見つめて無感動に、しかし規則的に勃起したペニスを手で扱いていた。

 画面の中では裸の男と女が絡み合っている。黒々としていて太い男優のペニスが、むっちりとした裸体の女優の膣に突き刺さり、激しく腰を動かしている。あれは気持ちいいんだろうなと、期待を込めた目を向けながらの自慰だった。

 暗い部屋に一人きり。闇を切り裂く画面の光を見つめ、高い喘ぎ声を大音量に聞き、自らのペニスを扱く。気分は、あまりよくない。けれど気持ちがいいので問題はなかった。

 気持ち良さげに鳴く女性を見つめる目は無感情。快感を求めているのにそこまで執心している訳ではない。わざわざ相手を探さないのもそのせいだ。誰かと分かち合いたいと思ったことはない、これはあくまでも自分だけの遊戯。

 閉鎖された世界の中では、彼だけが自由の象徴。

 何をするにも自分で決めて、自分が動かなければ誰も助けてくれない。高層マンションの最上階。彼はずっと一人だった。

 

 「はぁ。うっ、もうちょっと……」

 

 そろそろ限界が近付いていた。青年の肌に汗が浮かぶ。

 ペニスを握る手に更なる力を加え、ぐっと背を逸らす。すでに射精のための準備は終えていて、自由なままの左手はいそいそとティッシュへ伸ばしていた。

 映像もいよいよ佳境。時間をかけたせいで大きな衝撃が予想される。

 男優の射精に合わせようと少し我慢する中、体内から押しあがってくる熱い衝動を感じる。息が乱れて、小さな喘ぎが吐き出された。

 

 「うっ、あっ、もう――」

 

 感極まった声を震わせ、映像に合わせて射精した。

 タクトのペニスからぶしゅりと大量の精液が飛び出した、その瞬間。

 何の変哲もないはずのテレビから眩い光が放たれる。

 

 「うわっ。な、なんだ!?」

 

 びゅくびゅくと勢いよく吐き出された精液が落ちる最中、強い快感で腰が抜けそうな錯覚に陥るが、当人は目すら開けられずにただただ悲鳴を上げた。

 困惑したのも一瞬。光はすぐに消えたようでゆっくり目を開ける。

 何が起こったのだとテレビを見てみれば、映像は消えており、電源が落ちて画面は真っ黒。代わりに、その目の前に見慣れぬ光景が存在していた。

 宙をふわりと浮かぶ、一人の少女。

 目を閉じて青色の淡い光に身を包まれ、ゆっくりと地面に降り立つ。

 どこから来たのか、一体誰なのか、なぜそこに居るのかすらわからない少女は確かに人間で。驚くタクトは身を包んでいたはずの快感をすっかり忘れてその人物に見入っていた。青い光に、その美貌。年頃はまだ若いだろうがあまりにも神秘的で言葉を失う。疑念は心の内を占めていたが、それ以上に、ただ美しいとその姿に見惚れてしまった。

 射精の衝撃から萎えていたはずのペニスはすっかり力を取り戻し、腹に当たりかねないほど反り返っていて、今やそれを隠す余裕もない。

 タクトはじっと少女を見つめる。

 やがて少女の目は開き、静かにタクトの姿を認めたらしい。

 

 「お、おまえ、何なんだ……?」

 

 そうして、ベッドに大の字に寝転んだ全裸の青年を見つけたのである。

 

 

 *

 

 

 テレビから人が出てきた。

 タクトの目にはそう見えていたため、しばらくの間沈黙が続いても目の前の状況が理解できず、そこに立つ少女を見て何も言うことができなかった。

 現実味に欠けて、まるでアニメか何かのよう。本当にそこから出てきたのだろうか。

 確かに目の前には本物の人間が居て、偽物でもなければ幻でもないことはわかる。睡眠は十分に取っていたし妙な薬を飲んだこともない。自分が正常なのだと理解しているつもりだ。その上で彼女の存在感を感じ取り、言い表せない雰囲気を感じている。

 名も知らぬ少女は裸のタクトをじっと見つめる。

 嫌悪感を示す訳でもなく、恥ずかしがる様子もない。無感情に彼の顔を見ている。

 裸であることに気付いているかどうかさえわからなかった。どこか人形を連想させる端正な容姿と無表情さ。何も言わないところが独特の雰囲気を演出しているようだ。

 全身が黒っぽい様相の人物。黒髪のツインテール、黒のロングコートを着ているが、ずいぶん素肌を露出させている。コートの前は開かれ、胸を隠す黒のビキニとホットパンツのみが服で、あとは素肌。小さなへそやくびれた腰も隠されず、足はロングブーツを履いて多少隠れるが、外を出歩くには適さないような外見だった。

 どう見ても一般人ではない。

 テレビから出てきたことやコスプレに等しい服装といい、普通の人間とは受け取れなかった。

 しかも自慰の直後に現れられては非常に気まずいものがある。アニメやその他でこういった展開を見ようものなら、運命的な出会いとしてきれいに描かれるだろうに、なぜ自分はこんななのか。

 理不尽を受け止めきれず、呆然自失のタクトはしばし動き出せなかった。

 裸でペニスは勃起したまま。じっと彼を見つめた少女は唐突に動き出す。

 ベッドの上へズカズカと上がり、その間抜けな姿を間近で見下ろしたのである。この動きに怯えたタクトは逃げる素振りを見せるがさほど動けず、震えて少女を見上げることしかできない。

 

 「な、な、なにっ――」

 「見つけた」

 

 ぽつりと呟かれた小さな声。

 呆けていたが受け取ることはできて、タクトの顔は驚きを露わにする。

 

 「見つけた。クロイタクト」

 「は? え、おまっ、しゃべれるのか?」

 「私はあなたに会いに来た」

 

 ベッドに膝をつき、タクトの顔の両側へそっと手が置かれる。

 彼の上で四つん這いになって、少女は顔を近付けてくる。

 恐怖よりも先に興奮が勝ち、ドギマギしながら拒みもせず、タクトはその光景を見ていた。

 何も言わずに、彼女はそっと、タクトの唇へキスをした。

 

 「んっ――!?」

 

 自己紹介もない内にキス。

 全くもって訳が分からずタクトが動揺する。

 押し付けられて数秒。強く触れ合って時間が止まる。

 彼にとって初のキスである。生まれて初めてのキスが、見ず知らずの少女だった。そればかりか自慰の直後で素っ裸。ペニスの勃起も治まった訳ではない。

 異様な状況だと自覚する程度の冷静さは残っていて、動揺はさらに深まるばかり。しかし初めて感じる女性の柔らかい唇には抗えず、動揺しながらも彼は喜んでいた。

 名前を知らない少女が相手でも、キスとはひどく気持ちいい。

 気付けば別にいいかと自ら目を閉じ、唇の柔らかさをもっと感じようと集中していた。

 数秒が十を超え、二十を超え、さらに続いて一分を過ぎる。

 この頃になると流石におかしいと気付き始めてタクトが暴れ出す。じっと動かずに触れるだけ、だがあまりに長過ぎないだろうか。初めてとはいえこの長さは引っかかる。

 息苦しさを感じて彼女の肩を押すが少女は動かず、尚もキスを続けようとする。

 一分が過ぎても二分を過ぎても終わりが来ない。タクトは必死に鼻で呼吸をしながらわずかに目を開き、彼女を見た。すると少女も彼に続いてゆっくり目を開いたようで、瞳が目に映る。とても美しい、今まで見た事がない青色。まるで宝石のようだと見惚れた。

 息苦しさを感じたままで、やがてようやくといった様子で少女が顔を離す。

 至近距離で見つめ合う。不思議な沈黙があった。

 突然キスをされて一体何を話せばいいのだろうと、戸惑いが生まれる。引きこもりで人と話すことを苦とし、誰とも会いたくないと部屋の中に居た彼だ。言葉が詰まって何も出てこない。

 それでも見つめ合っていれば、再び少女が動き出した。

 言葉は不要とばかりに唇にちゅっとキスをして、それから何度もキスを繰り返す。口に触れるばかりでなく頬や鼻先、瞼など、タクトの顔全体に触れていく。

 それもまた驚きと戸惑いが禁じえなくて、顔を背けて逃げようとしながらタクトは声を出した。しかし逃げようとする彼の顔を両手で掴み、尚もキスの雨が続けられる。

 

 「うわっ、ちょ、ちょっと待った……!」

 「んっ、んんっ」

 「おい、待てって。な、なんなんだ、いきなり」

 

 その後もキスは止まらず、何か奇妙だとタクトは必死にキスの雨を掻い潜りながら彼女の顔を見る。いきなりのキスも十分に異常だがいつまでも終わらないのが不思議に思えた。

 目で彼女の様子を伺うと、相変わらずの無表情。赤面さえしていない。

 人形のように変化がないのか、と考えた時。違和感に気付く。無感情な様子を残しながらもどこか焦っているように見えて、キスばかり続けてその先に行かず、もどかしそうな動き。

 発情。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 興奮しているのに気持ち良くなる方法がわからない。必死な様子が子供のようだと思えた。

 何度となくキスを受け、タクトは自らも興奮していくのを理解する。

 これだけの美少女にキスされて、押し倒され、ぐいぐいときつく抱きしめられてはどんな清廉な心を持つ青少年であっても我慢できるはずがない。硬く勃起したペニスははち切れんばかりの硬度を持っていた。

 

 「お、おまえ、興奮してるのか?」

 「んっ、はっ、はぁっ――」

 「まさか、お、俺と……セックス、したいのか?」

 「んんっ、はぁ……」

 

 目を開け、わずかに顔を上げて視線がぶつかる。

 青い瞳。情欲に濡れて、獣のような荒々しさを孕ませている。

 ごくりと息を呑んだ。いよいよ勘違いではないらしい。

 迷いながらも伸びた手は彼女を抱きしめ、強く力を込めて、その柔らかな細身を受け入れる。

 抵抗はない。それどころか喜びの念が一気に放出されるようだった。

 

 「はぁ、はふ、はぁんっ……」

 「よ、よ、よ、よし。そ、そそそ、そういうことなら」

 

 混乱しながら覚悟を決め、彼女の後頭部に手をやったタクトは少女を押さえ、力強く唇を塞ぐ。ちゅうと音が鳴るほど吸い付いて、舌を伸ばして唇から割って入り、口内へ触れる。少女は驚いた様子で目を見開いたが、舌を絡め取られては抵抗できなくなった。

 体の力が一気に抜けてしなだれかかった。

 もはや彼女のすべてはタクトの手の中にあると言って過言ではない。

 両手を動かし、背を撫でて、初めてではあるが舌で口内を蹂躙し続ける。それらすべてに反応して少女は体を震わせた。あまりにも良い反応でタクトは喜びを感じずにはいられない。

 口を離して顔を見る。

 蕩け切った表情だった。しかしやはり顔色は変わらず、目だけがとろんと様子が変わっている。

 想像していた姿とは違ったがその気になっているのは間違いないだろう。

 再び喉を鳴らして、意気揚々と彼女の服を脱がせ始めた。

 

 「ほ、ほら、脱げよ。俺と、したいんだろ?」

 「んぅ……」

 

 女の扱いを知らないため、手慣れぬぎこちない手振りだった。

 もたつきはしたがなんとか脱がすことに成功する。ロングコートをベッドの下へ投げ捨て、ビキニを外し、ホットパンツを脱がす。下着も同時に脱げたようで少女は生まれたままの姿となった。

 裸で抱き合っていよいよどちらも興奮が極まる。

 見つめ合って動きが止まり、どちらからともなく深いキスをする。

 舌を絡め合うこと数分。互いの体をまさぐりながら時間さえ忘れてキスで感じ合った。

 

 「んちゅ、むぅ、むふっ、はむっ――」

 

 貪るようにキスをする。

 その間にも互いの体を触っていて遠慮のない様子だ。

 タクトは少女の胸や腰や尻を撫で、指に力を入れて強く鷲掴み、少女の左手は彼の胸板を撫でるも、右手は下腹部まで降りていきり立ったペニスを撫でていた。

 どちらも力加減を知らず、ただ必死になって触っているだけ。

 お世辞にも上手いとは言えなかったが当人たちは満足しているようで、呼吸は荒くなり、尚もキスが繰り返される。ただ触れるだけの物や舌を絡める物まで節操がなく繰り返す。

 口の端からくぐもった声を出し、その息遣いすら興奮を高めさせた。

 唇を離した時、同じタイミングで薄い乳房をぐっと強く掴み、甘い声を吐き出された。

 

 「あんっ。うっ、はぁ」

 「うわ、すげっ。やわらけぇ……」

 

 少女の肌の柔らかさに口元が緩む。

 ぐにぐにと力を入れて揉みしだき、ついに我慢ができなくなって態勢をひっくり返して少女を押し倒す。短い悲鳴が聞こえたが全く気にならなかった。

 白いシーツに寝転がった少女の裸体を見下ろす。

 妙に白いその肌は美しく、人形っぽさを増長していて、改めて見れば奇妙にも思えた。しかしそれ以上に、彼女が裸であるという事実が視界に残り、鼻息の荒さは増すばかり。

 体毛はなく、下腹部を見れば女性器が隠されることなく晒されている。

 電光の下で見た裸体に見惚れ、一層ペニスが硬くなったかのよう。

 今すぐにも暴発の可能性があったが、せっかくの機会を逃したくはないという気持ちが勝り、両手で脚を開かせてその中に体を入れて顔を寄せ、至近距離から女性器を見つめた。

 

 「ほ、本物……これが、本物か」

 「うぅ、あぁ……」

 

 陰毛は生えずぴたりと閉じた女陰。

 映像で見た形とも違う。幼い、外見に違わず子供のようなそれだ。

 初めて間近に見る性器に全身が熱くなり、他のすべてがどうでもよくなって目が離せなくなる。

 堪らず彼はそこへむしゃぶりついた。

 柔らかい肉はすでにわずかだが濡れていて、自らの舌でこじ開け、膣の中へ入ろうとする。しかし肉の柔らかさとは裏腹に小さな穴は男を受け入れる準備ができておらず、きっと経験がないのだろう、舌先でつつかれてもそう簡単には開きそうになかった。

 それがなんだとひたすら舐め続ける。

 徐々に肉がほぐれていって感触は変わっていった。

 少女は甘い声を発し、身を捩って喜んだ。

 

 「あっ……はっ、あっ――」

 

 くちゃくちゃと奇妙な音が鳴っていた。

 いつしか愛撫には愛情が混じる。暴走して訳が分からない状態であっても、小さく喘ぐ彼女を愛おしいと思う気持ちはあった。自分を優先する気持ちにわずかながら気遣いが混じったようだ。

 舌先の動きは確実に彼女を高めていく。

 伸ばされた両手は彼を求めているようで、抱きしめたいと、指を動かして宙を掻き抱いた。

 あいにくその仕草に気付くことはできずにタクトの動きは止まらない。

 少女が達するまで口が離されることはなく、しつこいくらいに舐められた。

 ついに少女が音を上げて腰を震わせる。一際大きくびくびく震えて、絶頂へ辿り着いたのだとはすぐにわかった。全く同じ瞬間、刺激を受けていなかったはずのタクトまで声を発し、シーツに触れていただけのペニスから精液が吐き出される。彼女につられて達してしまったらしい。

 荒い呼吸だけが響く。虚無感と脱力感にべったり張り付かれて動けなくなった。

 言葉はなかったが、どちらも幸福感を感じていたことは確かだろう。今更お互いの気持ちの確認を、などというつもりもないがなんとなくわかる気はする。でなければ同時に達したりはしない。

 ぐったりしたまま、股に顔を突っ込んでしばらくそうしていた。

 疲労を感じる。一方で穏やかな心模様の底から前以上の興奮が沸き出してきたのを感じた。

 タクトはまたも完全に勃起しており、態勢のせいか、荒くなった鼻息が少女の陰部を撫でる。くすぐったく感じて少女が反応し、蕩け切った声が漏れた。

 勢いよく顔を上げ、タクトが少女の顔を見た。

 

 「よ、よ、よし。もういいよな、大丈夫だよな。それじゃあ――」

 

 自らのペニスを握って位置を合わせる。少女の膣に狙いを定め、数度腰を揺らして亀頭を擦り付け、わからないながらも挿入しようとする。

 映像で見ただけの知識では即座に挿入とはいかなかった。

 何度も失敗し、擦り付ける動きで気持ち良くなるも、彼女の膣に入ることができない。

 無抵抗な少女の腰を掴んで擦り付けて数回。

 なんとか挿入は成功し、固さが残る膣にぐっと亀頭が入り込み、勢い余ってペニスの大半が侵入した。衝撃でタクトは首を逸らして目を見開き、少女はシーツを掴んできつく目を閉じた。

 

 「かっ……はっ……!」

 「んんっ! はぅ、はぁ――」

 

 あまりにも狭く、痛みすら感じる。だがこれが本物の女性なのだ。

 極度の興奮に囚われたタクトは腰を震わせ、もはや気遣いすら忘れて、我武者羅にペニスの出し入れを開始した。感触や音、小さな喘ぎ声、少女の存在ばかりに意識が集中する。

 一突きする度に快感が津波のように襲い掛かった。

 自慰で一度、触らずにもう一度出したためか、すぐに暴発する事態とはならなかった。しかしあまりにもきつく締め付けてくる感触は今まで味わったことがなく、動きが止められなくなる。

 卑猥な音を聞きながら腰は叩きつけるように。

 少女の小柄な体を大きく揺らしつつ、ベッドがうるさいほど軋んでいた。

 

 「あっ、はっ、んんっ――」

 「うおおっ……! す、すげっ、なんだこれ……!」

 

 凄まじい速度で腰を動かし続けた。

 少女の子宮が突かれ、壊されんばかりに刺激が与えられる。表情の変化が乏しく、肌は人間味を感じないほど白くて、どこか人形じみていた少女も明らかに感じている様子だ。

 タクトの目は少女に釘付けとなって片時も離れず。

 勢いが弱まらぬまま数分が経った。無言でペニスで膣を穿ち続け、呼吸が荒く汗が噴き出た。

 

 「うぅ、はぁ、やばっ……なぁ、中で出していいよな。生でやってるんだからさ」

 「はぁ、んっ、はっ、あっ」

 「うぐぅ、だ、出すぞっ。中出しするからなっ。う、うぅぅ……!」

 

 肩を押さえつけ、力強くペニスを突っ込んでラストスパートへ入る。

 悲鳴のような声を上げながらタクトが頭を振って天を仰いだ。その瞬間に限界を迎えて射精を始め、少女がそれを受け取り、二人の肌が大きく震えた。

 

 「うあああっ、ああっ!」

 「あっ……んんっ」

 

 尚も大量に出た精液が膣内を満たした。

 凄まじい勢いで体の内側へぶつかって少女の吐息を甘くさせる。

 痙攣するかのような震えが数秒。動きが止まった後でぐったりする。

 重なり合って静かになった。脱力感がひどく思考することさえ面倒で、ただ相手の体温を心地よく感じ、膣に締め付けられるペニスが気持ちよさを得て、自然と表情が緩んでいる。

 休んだのもほんの一瞬。脱力するタクトの頬に手を添え、少女がキスをした。

 啄むような短いキス。それを何度も何度も繰り返す。

 また子供じみた仕草である。タクトはまた頬を緩めて、今度は得意げに笑った。

 

 「な、なんだ。まだ足りないのか。しょ、しょうがない奴だなぁ」

 「ステラ」

 「は? 何?」

 「私の名前……ステラ」

 

 静かな声で言い、表情はないが、じっとタクトを見つめる少女はやさしい目をしている。

 ステラ。その名前は彼の頭の中に刻み込まれた。

 

 「ステラ、って言うのか」

 「んんっ」

 「あれ? ど、どうした?」

 

 身を捩った少女、ステラの反応が変わる。

 名前を呼ばれたことが原因か、硬さを失っていなかったペニスがぎゅうっと締め付けられ、膣の内部の動きが明らかに変わる。さっきとはまるで違う、女として彼を責めようという動きであった。唐突な変化に順応できず、強い刺激にタクトの背が逸らされる。

 

 「ううっ!? きゅ、急に締め付けが……!」

 「はっ、はっ、んっ――」

 「な、名前か? 名前呼ばれたからこうなったのか。よしっ」

 

 ステラの両手首を掴み、シーツへ押し付け、姿勢を整えたタクトが腰を振り始めた。

 さっきまでとはまた違う。どちらも気持ちいいが快感の種類が変わったようで、断然こちらの方が好きだと気分が高まり、最初から素早い動きだ。

 無理やりのしかかるような動作が余計に興奮する。

 タクトの顔には笑みが浮かび、喜々とした声が発される。

 同じくステラも激しい声を発して喜びを露わにした。

 

 「はっ、ははっ。すっげぇ、さっきより、うぐっ、きもちいいっ……!」

 「あっ、あっ、あっ――!」

 「くぅっ、おぉ、やべっ。またイク、イクぞぉ!」

 

 上体を倒して彼女の唇を塞ぎ、瞬く間に最後の瞬間を迎えたようだ。

 間を置かずに膣内へ射精される。

 収まりきらずに溢れ出た精液が肌を伝わり、シーツへ落ちた。びくびくと痙攣する二人はそんな些細なことになど一切気を向けることはできず、声も出せずに絶頂を味わった。

 脱力して再び倒れ込む。

 流石に疲労を隠せないのか、キスすることすら億劫で四肢を投げ出したままだった。

 動き出せたのは五分以上経ってからである。

 腕を震わせながら頬に手を当て、タクトの唇を塞いだ。

 

 「んっ」

 

 無表情なのに幸福感を感じさせる様子。

 細かいことなど考えずタクトの目は不思議とやさしくなる。

 小さな音を鳴らしながらキスを繰り返し、まったりとした時間を過ごした。

 ようやく気分が落ち着いた頃。

 繋がったままの状態でまどろみを感じながら、いまだにペニスの硬度が保たれている。しかし幾分落ち着けたため、タクトはステラの髪を撫でながら改めて彼女について考えることにした。

 間違いでなければテレビから出てきた人間。名前はわかったが今もわからない事の方が多く、あらゆる物がわからない存在だ。

 ひとしきり抱いた後で考えるのもどうだろうと自覚しつつ、彼女は何者だろうと思う。

 思考はつらつらと彼女のことを考え始めるも、しかしふとすれば、気持ち良かったと先程の感想を反芻する。きっとステラも同じことを考えているだろう。表情は和らいでいる気がする。その顔を見て思った。わからないことは多いが案外打ち解けているのではないかと。

 見れば見るほど、考えれば考えるほど、むくむくと頭をもたげていって。

 またペニスを硬くさせ、緩やかに動き出したタクトにステラが強く抱き着く。

 その時だった。

 彼ら二人が気付かぬ内に大画面のテレビから怪しげな光が漏れだし、青い光のそれは見る見る大きくなっていって、やがて部屋全体を照らし出す。

 ようやく気付いた二人がそちらを見れば、テレビの向こうから何かが出てこようとしている。

 妙に角ばった外見の、犬、だろうか。

 荒いポリゴンのような姿の生物とも機械とも言い難い何かが、犬とも狼とも見て取れるそれが身を揺すり、荒々しく動いて一刻も早く出てこようとしていたようだ。

 驚愕したタクトは自身の姿も忘れ、それを凝視する。

 

 「な、なんだ、あれ」

 「あれは、敵」

 「敵?」

 「そう。きっとタクトを狙ってる」

 「は? は?」

 

 がちゃがちゃとテレビを壊しかねない音を発しながら、徐々に出てくる。

 深い青の体を持ったその姿は存外大きく、上半身が出た段階で約二メートル。部屋は広いがすべて現れれば埋め尽くしかねないほどの巨体であると予測させる。

 その外見のみならず荒々しさを恐ろしいと感じた。タクトは思わずステラを抱きしめて怯える様子を露わにする。対して、ステラは冷静なままだった。何も言わずにそっと右腕を掲げ、指を伸ばし、その犬を指差すかのような仕草を見せる。

 気になって見ていると、指先から腕の付け根にまで青い光が迸った。

 光が晴れた瞬間、彼女の腕には巨大な銃のような、砲口のような不思議な物体が装着されていた。重そうな外見とは裏腹に彼女の腕は揺れることなくぴたりと照準を定めている。

 訳が分からない。そう思った時には砲撃が始まる。

 上半身を出していた犬の顔面に岩石にも見える砲弾が叩き込まれ、その巨体をひっくり返した。そればかりかテレビを破壊し、向こう側にある壁さえも貫き、犬を吹き飛ばした。

 耳に響くは聞いたこともない轟音。呆気に取られて反応さえできなくなる。

 言葉を呑んだタクトはそっとステラの顔を見た。

 気付けば、彼女の左目に青い炎が灯っている。熱量は感じないが明らかに異質で、それを見ても言葉を失う。彼女は、人間ではなかったのか。

 

 「お、おまえ、なに……」

 「ステラ、だよ」

 

 窘めるように呟かれ、一切驚いていない顔に驚きを隠せない。

 一体何が起こっているのだろう。

 突然テレビから出てきた少女と奇妙な外見の犬。片方は明らかに凶暴性を見せていて、一見普通かと思われたステラはその犬を吹き飛ばした。

 目の前の光景が信じられない。動揺は隠しきれず、鼓動が速くなっていた。

 抱きしめたまま固まっていると壁に開けられた風穴から音が聞こえる。二人してそちらを見た途端、落とされたはずのポリゴン犬が鋭い爪を使ってよじ登って来たのである。

 怯えたタクトが声を震わせ、彼の背に腕を回すステラはわずかだが眉間に皺を寄せた。

 

 「ひっ!?」

 「むっ、しつこい」

 

 自らの硬質な体で壁の穴をさらに広げ、無理やり部屋へ入ってくる。

 流石に危険だと判断し、思わぬ力を発揮したステラがタクトを抱え上げ、体は一つに繋がった状態で、素早くも巧みな動きで即座にベッドを蹴って跳ぶ。

 飛び掛かってくるポリゴン犬がベッドを破壊した時、二人はすでに窓を破って外へ出ていた。

 高級マンションの最上階からロープなしのジャンプ。眼下を見た時、背筋がぞっとした。強烈な風が裸体を吹き抜け、恐怖のせいで膣に埋まったままのペニスが萎えてしまい、自らの死を幻視する。早くも忘れられない体験として彼の中に刻み込まれただろう。

 裸の二人は落下していき、呆然とした状態でタクトは自分は死ぬものだと思っていた。それを知ってか知らずか、彼の顔をじっと見つめるステラは唇を寄せつつ、静かに呟く。

 

 「大丈夫。私が、守るから」

 

 ちゅっとキスをして、彼の両足を自分の腰に巻き付かせ、自身は足を伸ばす。

 数十階分の落下を経験した二人だったが、ステラは微塵も表情を変えずに地面へ着地した。重力がかかって衝撃は凄まじく、轟音を立てて降り立ったコンクリートの道路は大きく陥没してしまう。しかしステラの体に傷など欠片もなかった。何が理由か、素足で立って無傷である。

 その事実や、今しがた経験したばかりの落下にかつてない恐怖を感じ、タクトは為す術もなくステラにしがみつくしかなかった。

 

 「あっ、あっ、あぁっ――!?」

 「あ。縮んだ」

 

 膣内で萎えたペニスを感じてステラが呟く。

 タクトはすっかり怯えていて、愛しくなったか左手で強く抱く。だがそうしてまどろむ時間などない。上を見れば先程のポリゴン犬が降ってきていた。

 追って来たのだろう。真上からやってきて踏み潰そうとしているらしい。

 地面を蹴って軽やかに跳ぶ。

 ポリゴン犬は頭からクレーターの中に突っ込んだ。耳をつんざくほどの轟音が鳴り、咄嗟にタクトが目を閉じるが、同じタイミングでステラが彼との接合を解いて地面へ置く。多少乱暴で尻を打つも、この場の状況を理解できていないせいで文句を言う余裕すらない。

 

 「いっ、痛ぅ……」

 「ここに居て」

 

 短く告げて踵を返し、すぐさまステラが駆け出す。

 頭を引き抜こうともがくポリゴン犬へ飛び掛かる瞬間にまたも左目から青い炎が灯され、同じく青の美しい光が左手に現れた。

 光は一つの形を模り、消えた時には黒い刀身の刀を持っていた。

 ポリゴン犬が頭を引き抜く。しかしその時にはすでにステラが間近に迫っていて。

 砲撃が数度。立ち上がったばかりのポリゴン犬の頭が、腹が凄まじい衝撃を受けて巨体が飛び、その場に転ぶ。隙を逃さず飛び掛かって刀が振り上げられた。

 ほんの一瞬の出来事である。

 頭が貫かれて、直後には青い炎がその体を包み込んで徐々に崩壊させていく。

 尻もちをついたままのタクトは目の前の光景が信じられなかった。

 素っ裸で、ステラは大砲のような銃と剣を持ち、一匹の不思議な物体を消滅させた。それだけではない、改めてよく見れば辺りの風景が自分の知る物と違っている。太陽は黒く染まり、空は赤茶けた色。街並みはゴーストタウンかと見紛わんばかりにボロボロな様相。以前に外へ出たのはいつだったか。なぜ、世界は姿を変えてしまったのだろう。

 呆然として今度こそ立ち直れず、頭の中が真っ白になって、ただ一心にステラの姿を見つめる。

 両手に武器を持った彼女がゆっくり近付いてきた。

 目の前に立ったところで足が止まり、静かな様子で見つめられる。

 

 「何が、起こってるんだ……?」

 「心配しないで。私があなたを守る」

 

 両手が青い光に包まれると瞬時に武器が消え、そこに在るのは素っ裸の少女一人。

 尻もちをついて呆然とする彼の前に膝をついて両手を伸ばし、そっと彼の頬に触れる。

 

 「だって、そのためにここへ来たから」

 

 音もなく唇が合わせられた。

 訳が分からないままだったがタクトも受け入れ、混乱したままで彼女を抱きしめる。

 奇妙な風景の世界の中、しばしキスを続けていた。

 崩壊した世界。突然現れた敵とステラ。

 すべてを理解しないまま、速くなった鼓動を落ち着けるため、彼女を頼っていたのである。今は何も考えることができず、ただ静かにステラの温かさに惹かれていた。

 



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戦慄のNear Girl(源君物語)

 オレの中の忌まわしい記憶。人生を変えることになったきっかけ。

 それは中学生の頃に始まった。

 どういうわけか、僻みのような理由でオレに突っかかって来た女子生徒たちがいて、オレの学校生活は常に彼女たちと共にあった。

 いわゆるいじめだ。オレは中学の頃いじめられていた。

 首謀者は中将つかさ。すごくきれいで、誰もが見惚れるほどの美人だけど性格は悪い。なぜって、オレをいじめてたくらいだから理由はそれだけで十分だと思う。

 いつでも鮮明に思い出せる。

 放課後になると必ずオレを呼び出して空き教室に入り、取り巻き二人とオレをいじめる。それ以外の時間、特に干渉することはない。でもその時間になれば、オレがどれだけ嫌がったって彼女は女王様だった。命令を拒めば腹を殴られたり尻を蹴られるし、下される命令はいつもオレの心を揺さぶって、辱めようとするものばかり。

 思い出すのは、夕焼けに染まった赤い教室。

 オレはいつものように中将の制服を着ている。昔から女みたいな顔だって言われてたから、それが気に入らなかったのかもしれない。彼女はよくオレに女装させた。

 その中将は、オレの前でオレの制服を着ていて。髪は長いけれど、顔がいいせいか男装がよく似合う。ブレザー、ズボンとスカートだけでなく、下着まで全部取り換える。

 オレは女性役で、中将は男役。

 そこに取り巻き二人もいて、その日は二人が先にオレの体を弄っていた。いつの頃からか、いじめは性的な行為に変わっていて、その日もオレは二人の手でチンチンを扱かれていた。

 

 「あははー、すっごいガチガチ。昨日も搾り取ったのにまだキンタマにせーし残してたんだね」

 「はぁ、くっさ。包茎ちんぽすごい匂い……んぅ、また濡れてきちゃう」

 

 一人はスカートを捲り上げて、さっきまで中将が履いていた女物のパンツに手を突っ込み、オレのチンチンを握ってる。散々揉まれて撫でられたせいで大きくなって、先っぽはパンツから飛び出ていた。

 指先で先端をぐりぐりされて腰が震える。そうする女生徒は楽しそうだった。

 もう一人の方は脚の間に顔を突っ込む勢いでキンタマの匂いを嗅いでいる。頬は真っ赤で興奮しきった顔。しつこく嗅いだ後で、大口を開けて片方のキンタマを口の中に入れて舌で転がしたり、強く吸ってくる。かなりの変態だと何度も思った。

 前まではいわゆる普通のいじめだったはずなのに、いつからかこうなってる。普通のいじめなら耐えることだってできた。現に当初は何も感じないようにして乗り切っていたわけだし。でもこうなってからは。みんなとセックスするようになってからは劇的に毎日が変わった。

 童貞を捨てたのは中将が相手だった。彼女も処女。お互い初めてだったのに、腹を殴られて地面に倒れたら、もう彼女に捕まっていて。無理やり服を脱がされて無理やり奪われた。その直後には他の二人もオレで処女を捨てていて、その日からは毎日欠かさずヤっている。学校がある日は昼休みや放課後に女子トイレや空き教室で。休みの日はわざわざ呼び出されて誰かの家か、何度か外でしたこともある。

 その時のオレはこの三人のおもちゃでしかない。呼び出されて股を開くだけのセフレよりももっとひどい。出された命令には逆らえないのだ。

 写真だって撮られたし、ビデオも撮られた。脅迫するための材料はいくつも彼女たちが握ってる。この間はそれを見せられながらセックスもした。

 オレは三人のおもちゃ。逃れることはできない。

 机に座って足を組み、妖艶に笑ってオレを見つめる中将。今更勃起したチンチンを見ても動じないし、むしろドSな笑顔で楽しそうに見える。

 あの笑顔を見せられると心臓がぎゅっと掴まれるような錯覚に襲われる。

 オレは、中将つかさが怖い。

 いつまで経っても忘れない恐怖は、童貞を奪われた時に埋め込まれた物に違いなかった。

 

 「みなもとー、人の話聞いてんの? まったく、つかさとばっかり見つめ合っちゃってさ。チンポ扱いてる私より手の届かない美少女の方がいいってわけ?」

 「んんっ、んちゅ……はっ。きんたま、おいし……」

 

 床に跪いて脚に絡みついてくる二人の動きはますます大胆になっていた。

 カウパーが絡みついた指先でぐちゃぐちゃチンチンを扱かれて、さっきとは逆側のキンタマが口の中で転がされている。一瞬、襲い掛かる快感で中将のことを忘れてぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばった。

 昨日だって潮吹きするまでいじめられたのに今日も休みなく。続けられるはずがない。無事であるはずがなかった。でも助けてくれと叫んだって喜ぶ彼女たちはオレの体から離れようとしない。

 

 「うっ、うぅ。もう無理だよ。今日は、できないって」

 「なぁに情けないこと言ってんの。まだ一回も射精してないじゃん。ほらほら、せーし隠し持ってんでしょ? さっさとぶしゅーって出しちゃいなって」

 「んふぅ、んんむっ。濃厚ザーメン、いっぱいかけてぇ」

 「うぅぅ、うああっ――」

 

 女みたいな顔で、オレが女みたいな声を出すと中将はにんまり笑って喜んだ。猫をかぶって生活してる普段でも見ない良い笑顔で、オレはあれが一番嫌いだった。

 オレをいじめてる時だけ見せる顔。そんな顔、どれだけ美人でも好きになれるはずがない。

 チンチンを弄られて喘いでるオレは中将にとって絶好の餌。悔しいから声を抑えようとしても我慢できた試しはない。だから中将は情けないオレの姿で機嫌を良くするのだ。

 

 「うぅ、もう、もうやめようよ。オレ、なんでもするから。パシリでも、土下座でも、靴を舐めるでもなんでもやるから。だから、こんなこと――」

 「かわいいー。そんなこと言って逃げようとしてるんだぁ。あったまわるー。そんなんで私らが満足できると思ってんのー?」

 「で、でも……」

 「じゃあ一応聞いてあげるよ。ねぇつかさー、こんなこと言ってるけど?」

 

 美味そうにキンタマをしゃぶってる子とは逆の、チンチンを扱いてる女子が中将を振り返って言うと、男装姿の中将が脚を組み替えて言った。

 上機嫌で有無を言わさない強い声。オレはその声を忘れない。

 

 「じゃあ全裸になってグラウンドに行きなさい。そこで自分のチンポ扱いてオナニーしながら大声で叫ぶの。ぼくは中将つかさが大好きです、死ぬまで一生命令を聞き続けます、って。その後自分で射精できたら許してあげる。少なくとも、殴ったり蹴ったりは一生しないって約束するわ」

 「そ、そんなこと……」

 「できないんだ? じゃあだめ、やめない。その代わり命令を変えるわ。今すぐ射精して、そこの二人に顔射しなさいよ」

 「う、うぅ」

 「それもできないなら、もっと恥ずかしい事無理やりさせてあげる。初めての時みたいに」

 

 中将の言葉に嘘はない。やると言ったらきっとやる。

 どっちかを選ぶなら、マシなのはどっちかなんて決まってる。

 逆らうことはできなかった。ただ自分でどうにかすることもなく、二人が与えてくる刺激を受けて、射精を我慢しないことが今オレにできること。

 刺激がより一層強くなる。

 キンタマの片方を口の中に含んだ子はじゅるじゅる音を立てて、わざとかと思うほど大きな音と、それに伴う気持ち良さが脚を震わせる。もう一人も亀頭を口に含んで吸い付いてきて、同じような音を発し、上と下から同時に襲い掛かってくる感覚が自然と目を見開かせた。

 

 「んっ、んふっ。がひがひちんぽ、くひゃぁい」

 「んむぅ、はふっ、おいひっ――」

 

 一人はいじめるように。一人は楽しそうに。

 オレの体に群がって射精させようと必死に動いている。とても気持ち良くて、まるで天国のような夢心地。なのに素直に喜べないのは自分の状況がわかっているからだった。

 中将つかさに見つめられている限り、彼女の管理下に置かれている。

 どれだけ気持ち良くてもいじめられているのだという認識が離れなくて、素直に喜べないのが地獄のようだった。しかも、オレがそうして戸惑っている方が、中将が喜ぶ。悔しくて、わかっているのにどうしようもできないのがすごくもどかしかった。

 

 「いい顔ね。私のこと、憎い?」

 

 中将に見つめられてそう言われた。何も言い返せずに目を逸らしてしまう。

 机を降りた中将が近寄ってくる。

 ひどく楽しそうな顔で笑っていた。やっぱりその顔が怖くて、顔立ち自体はとても整っているのだけれど、条件反射のように怯えてしまう。

 オレが震えていることがわかったのだろう。いじわるな方の女生徒がチンチンを舐めながらくすくす笑っていた。

 

 「ふふふ。みなもとってほんとかわいー。つかさが来ると顔色一気に変わるよね」

 「そうね。だから気に入ってるんだけど」

 

 二人を避けてオレの隣に立った中将は、顎に手を添えて顔を上げさせる。

 嫌がっているのをわかった上で目を覗き込まれた。

 

 「ねぇ、私のこと嫌いなんでしょ? 言わなくてもわかってるわ。その顔見てれば何が言いたいのかよくわかるもの」

 「だ、だったら、もうやめてくれても……」

 「バカね。あんたの嫌がる顔が好きだからこうしてるんじゃない」

 

 唇の端に、キスをされる。

 柔らかい感触が触れてちゅっと聞こえた。普段の険の強さとは違って、それだけは少し嬉しくなる。しかしオレの気が緩んだのも見抜かれていたらしい。

 数秒もかからずにすぐさま耳元で囁かれた。

 

 「今、喜んだよね? 私にキスされて嬉しかったんだ」

 「う、うぅ……」

 「光海は変態だね。本当に、どうしようもない変態」

 

 どういう意味なのか、彼女だけはオレを下の名前で呼ぶ。特にこうしてオレをいじめたい時は決まって呼び名は光海だった。

 そのまま耳の中に舌を入れられて舐められる。

 どんなことをしても、どんなことを言ってもやめてくれない。

 オレが唇を噛んで目を閉じて耐えている姿さえ、彼女たちには喜ばしい反応なのだろう。

 下の二人は執拗なまでに舐めてくるし、中将もオレの顔を舐め回す。最後に強く唇を塞がれた。

 

 「んっ!?」

 「ん、逃げないの」

 

 無理やり押し付けられて言葉を呑まされる。

 ひとしきりキスをされた後、顔を離した中将は、二人を払いのけるようにチンチンを握った。

 

 「先っぽ舐めて。今から出させるから」

 「はーい」

 「うぅ、もうちょっと舐めたかった……」

 

 二人の舌が先端を舐めて、竿を中将に扱かれる。

 ごしごし強く擦られると射精感が一気に高まっていく。オレの好みを知っているかのような手の動きは抗い難い力を持っていた。

 無遠慮に力強く触られたことで、もう我慢ができなくなる。

 耐え切れずついに射精してしまう。

 まだ二人が舌を這わせた状態で思い切り吐き出したことにより、二人の顔にぶっかけてしまった。だけどこれが初めてのことじゃない。二人は嬉しそうな顔だった。

 

 「あんっ。いっぱい出たね」

 「んっ、はっ」

 

 嬉しそうな顔でオレの精液を舐め取っていく二人。性格は悪いが顔は良いのだ。その様子を見ていると興奮してしまうのは抑えられなかった。

 出した直後も、そのまま強く扱かれ続ける。

 無理やり与えられる快感は時に痛みを伴ってオレを苛んできた。こうして何度彼女の掌の上で転がされたことか。いつものことと言えば、いつものことだ。

 垂れ落ちる精液を指に絡ませながら、ぐちゃぐちゃという音を伴う刺激。

 中将はオレが嫌がるのを敢えて無視してそのまま続けた。

 

 「ううあっ、ぐっ、だ、だめだって……! そんな、したら……!」

 「別にいいじゃない。すぐ大きくなったわね」

 

 力ずくで勃起させられてまた耳元で囁かれる。

 

 「そろそろしよっか。ねぇ、したいんでしょ?」

 「し、したくない。したくないよ、こんなこと……」

 「嘘ばっかり。こっちはそう言ってないよ」

 

 肩を押されて、地面に倒される。

 背中を強く打ってしまった。痛みで思わず目を閉じてしまう。

 その間に精液を舐めていた二人が、顔を汚したままで、オレが起き上がれないように両サイドから体を押さえに来た。

 男と女でも人数の違いはあって、流石に体重をかけて抑え込まれればひっくり返せない。

 抵抗をやめて目の前の中将を見た。

 彼女はベルトを外して、ゆっくりズボンを下ろし、オレが家から履いて来たボクサーパンツをゆっくり下ろしていく。当然、彼女の下半身が裸になった。

 

 「脚、開かせてくれる?」

 「いいよ。んふふ、みなもとはこの態勢が一番感じるもんね。やっぱり犯されてるって思うから?」

 「はぁ、この格好って、すっごく変態。んん、あとで私にもさせてね」

 

 二人の手で脚を開かせられる。

 抵抗はしない。どうせ、いつものことだ。

 中将が床に膝をついてオレの股に近付いて来る。正常位を、男女逆にしたような態勢。彼女がオレを犯す時、一番好む体位だった。

 上から見下ろされた状態で見つめられる。オレは目を逸らすので必死だった。

 冷たい目なのかそうでないのか、それさえわからない。

 ただ怖かった。それがオレと彼女の関係のすべてだ。

 

 「あんたは私のこと、嫌いなんでしょ?」

 「それは……」

 

 初めて聞かれて、言葉に詰まる。

 そんなの答えは決まってる。だからといって言うのは躊躇われたけど、どうせ抵抗もできないのだし、これが精いっぱいの反抗。オレの本心を伝えることだけが許された反撃だ。

 

 「そうだよ。おまえなんか、嫌いだ」

 「ふぅん。そうだと思ってた」

 

 オレが決死の覚悟で絞り出した答えは、なんとも思っていない様子の声で受け流された。

 中将の股が近付いてきて、オレのチンチンをずるりと呑み込む。

 悔しいことに、気持ちが良い。それを悟られまいとするのに表情の緩みは抑え切れなくて、彼女がにやりと笑ったことはわかって、当然のようにバレたのだとわかる。

 ゆっくり腰を動かし始めながら、目を閉じていると中将の声が鮮明に聞こえた。

 

 「私はね。そんなこともないの」

 

 肉のひだに絡みつかれてチンチンがやさしさに包まれる。言葉はきついし性格は最悪なのに、顔と巨乳とここだけは妙に良いのがこの中将つかさという人間だ。

 腰を揺すられるとそれだけオレの方が追い詰められていって余裕がなくなる。

 何度体感しても、彼女のこれには勝てる要素が見つからなかった。

 

 「あんたのことは憎いと思うほど大っ嫌い。だけどね、それと同じくらい、大好きなの。この気持ちわかるかなぁ」

 「う、うぅ、うあっ――!」

 

 徐々に扱かれるスピードが速くなってくる。

 気付けば興奮した面持ちの女生徒がオレの唇を塞いでいて、激しく舌を絡められて。荒くなった鼻息が顔に当たって興奮が伝わってくる。

 もう一人はシャツをはだけさせて乳首を舐めたり、抓ったりしていた。

 嬉しい快感。だけど悔しい。

 喜びと怒りと悲しみがごちゃ混ぜになっているのは自覚している。なんとも言えない気持ちで、だけど気持ち良くて。自然にもう射精したいと思っている自分が情けなかった。

 

 「んっ、いいっ……やっぱり、硬いね」

 「いいなーつかさ。よく考えればいっつも一番だよね」

 「一発目は舐めさせてあげたでしょ。んっ、順番よ」

 「でも飲んだわけじゃないしー。ねぇみなもと、今日は普通の正常位でやってみる? 昨日はぁ、バックだっけ? あれもよかったけどたまには主導権あげよっか」

 「んんんっ、んふぅぅ」

 「あれ? もうイキそうっぽいね。一発出したのに早いんだからさぁ」

 「はっ、んっ、あんたたちが、んっ……弄ってるからでしょ」

 「まぁそうなんだけどさぁ。キスすると早いよね、みなもとは。今日も潮吹かせてみる? あの時のみなもとの顔好きなんだよねぇ。すっごいエロくてかわいいしさ」

 「あっ、んっ、いいわね……でも、その前に、あっ……先に、もらうから」

 

 色んな刺激を一気に受けていると訳がわからなくなって、もはや我慢なんて遠いものだった。

 キスをされて、乳首を抓られ、チンチンを呑み込まれてイってしまう。

 中出しだと知っていても抗う術はなく、オレは中将の中に出してしまった。

 

 「んんーっ!? んんんーっ!」

 「あっ、うんっ」

 「出た?」

 「うん……結構たっぷり。勢いもあったかな。軽くイっちゃった」

 「軽くぅ? ほんとかなぁ」

 

 イった直後の倦怠感を感じながら、キスを続けてくる女生徒を越えて、向こう側では中将と女生徒がキスしてるのが見えた。多分、中将は胸と股を触られてる。

 それが見えても大した反応もできず、でも声だけは聞こえていた。

 

 「腰ぴくぴくしてるよ。本気でイったんでしょ?」

 「もう、バカ。源にイカされると思ってるの」

 「いっつもイキまくりじゃーん。さっき自分で言ったんでしょ、みなもとが好きだーって。ね、みなもとのチンポでくちゅくちゅすんのきもちいいんでしょ?」

 「はいはい。そういうことでいいわよ」

 

 ぼうっと見ていると中将が立ち上がったのが見えた。動きにつられてオレのチンチンは抜けて、抱えられた脚も下ろされる。床に大の字になったようだ。

 正直、体に力が入らない。今は動くのも面倒だった。

 まだキスは続いているし、いつもを考えるとこんなのはまだまだ序の口。回数なんて限界が来るまで続けられるしもっとひどいことだってされがことがある。下剤を使って出す物を出す瞬間を見られたり、指や舌や道具で尻を開発されたり、興味本位で処女を捨てたいと言っていた人とやらされたこともある。当然それもビデオで記録された。とにかくなんでもありだ。

 オレが倒れたまま動かずにいると中将はオレの顔を見て微笑んでいた。

 

 「しばらく好きにして。私は見てるから」

 「ほんと? やりぃ」

 「あ、つ、次は私。おんなじ格好で、めちゃくちゃにしたい」

 「別にいいけど、ほんっとあんたも変態よね。みなもとのことなんて言えないよ。その辺自覚してるのかねー、この変態娘は」

 「い、いいの。ねぇ、いいよね源くん。犯すから、源くんのこと無理やり犯すからね」

 

 さっきまでキスしていた女生徒が場所を移動して、オレのチンチンを体内に入れ始めた。代わりにもう一人が顔の方へやってきてオレを跨ぐ。

 スカートの内側、ぐっしょり濡れたパンツが見えた。

 命令は言われる前からわかっている。もう躊躇いだって無くなっていた。

 

 「じゃ、私はこっちで楽しませてもらおっかな。みなもと、わかってるよね」

 「う、うん……」

 「ふふん、よろしい。反抗しなくてよかったね。あ、それと一応言っとくけどさ、つかさは許しても私に向かって嫌いって言ったら許さないから。もっとひどいことさせちゃおっかなー」

 

 顔の上に座られて、オレは舌で彼女の股を舐め始める。

 パンツの上から中身を押すように。どこで感じるかも覚えさせられてしまったから、狙いはしっかりわかっている。そこを責めれば少なくとも殴られることはない。

 その証拠に、舐め始めて数秒。早くも股が揺れ始めていた。

 

 「んっ、よしよし。きもちいいよー。でももうちょっと力入れてさ、クリとか、もっと舐めていいんだよ」

 「あっ、あっ、あっ……す、すごっ。これ、やっぱ、きもちいっ」

 「うわーすんごい楽しそう。やっぱ私もあれにしよっかな。みなもとはどんな体位がいい? 今日は機嫌もいいし、リクエストに応えてあげてもいいかなぁ」

 「ふっ、んんっ、んぐっ」

 「あはは、なに言ってんのかわかんなーい。じゃあ今日は新しい体位とかやってみよっか。できるだけ恥ずかしいやつがいいなぁ。うーん、どんなのがいいかなー」

 

 視界も塞がれて、好き勝手に犯される哀れな男。それがオレだ。

 気持ちいいとは思うけど心から喜ぶことはできなくて。

 スカートの中で何も見えない状態でも、中将つかさの笑い声だけは妙に耳に残っていた。

 




 中編で独立させようかと思ったけど筆が進まず断念。
 一応ラストまではざっくり決めましたが、キャラもいまいちわからなくなり、短くなった次第です。
 続くかどうかは未定。


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清める水(幽☆遊☆白書)

 実験的に書いてみました。
 厳密に言えばエロではありません。わかりにくいけど比喩的な意味かと。


 暗い、闇の中に居た。

 蹲った姿の周囲には数多の死体。

 死臭が蔓延し、気色の悪い血が地面を濡らしている。所々は乾いてもいた。

 

 目を閉じて、頭を俯かせて。視界が映すのは暗闇だけ。いつしか音まで聞こえなくなって、果てがないほど深い闇の中に落ちていくのがわかる。

 疲れていたはずの体が楽になった。

 誰の気配も感じない、自分だけの世界。そこに居るせいなのかはわからない。ただ、摩耗していたはずの心が今になって研ぎ澄まされていくのが実感できた。

 

 ある時、彼は目を開ける。

 誰かの気配を感じていた。

 

 顔を上げると血と死体にまみれた部屋に入ってくる人物が居て、しかし心は動かない。

 一方で絶望的な差を思い知る。

 強くなったと思っていた。だが強くなった分だけ相手との距離が近くなり、近付いた距離がほんの一歩か、一歩にさえ届かないほどわずかなものに思える。つまりは遠過ぎた。

 

 理解していたはずだがやはり強い。

 飛影は自分の弱さを思い知り、だが一方で、心は凪いでいる。

 悠々と歩いて近付いてくる躯を眺めて、不思議な心境にあると自覚していた。

 

 「ずいぶん殺したなぁ。もうA級妖怪じゃ束になっても敵わないか」

 

 気安い態度で躯が話しかけてくる。まるで友達のように、親友であるかのように。

 その声を聞きながら飛影は動こうとはしなかった。

 

 「まさかたった半年でここまで強くなるとは思わなかった。大した奴だよ。そろそろオレの直属戦士とサシでやってみるか?」

 「……強くなる度に貴様が遠くなっていく気がするぜ。化け物め」

 「結構。これは期待ができそうだ」

 

 躯の数歩後ろに別の妖怪が立っている。

 一対一で戦えと言った。まさかその人物なのだろうか。

 殺し合う相手なのだろうかという人物を見ても、やはり飛影の心は動かない。恐怖心は皆無、何が起きても動じないほど静かな精神状態にある。

 

 抱えていた刀を握る。

 その瞬間に躯が軽い声を発した。

 

 「ああ、戦うのはこいつじゃない。別のことで使おうと思ってな」

 「ならどいつだ」

 「そう急くなよ。もうすぐここに来る。多分今のお前と大体同じくらいの力を持ってる奴だ。そいつに勝ったら、そうだな……オレの顔を見せてやるってのはどうだ?」

 

 そう言って躯はくつくつと笑う。

 顔中に包帯を巻かれて、特殊な札までつけられ、両腕は拘束されている。右目だけが露わになった姿はひどく怪しい。一体どんな妖怪なのだろうと前々から気になってはいたのだ。

 

 勝てば、少なくとも素顔くらいは知ることができるだろう。

 どのみち負ける気はない。飛影は何も答えなかった。

 

 無言を承知と受け取ったのか、それとも興味がなかったのかはわからない。

 躯は何も言わずに入り口を振り返る。

 また新たな人影が現れて、飛影の下へ歩いてくる。

 懐かしいと感じる顔だ。

 何年振りだろうかと思うほど久方ぶりの再会で、飛影は何も想わずじっと見つめる。

 

 飛影に視線を戻した躯が再び口を開いた。

 

 「オレは下級兵士とは別に、側近として常に77人の厳選された戦士を連れてる。数に深い意味はない。その数字が好きなんだ」

 

 室内に躯の声だけが響く。

 

 「こいつはその中の一人だ。まぁ、こいつに並ぶくらい強くなったことを喜ぶべきかな。こいつに勝つことができたら戦士の称号はお前にやるよ」

 「いちいち気に障る野郎だ。別に称号なんぞいらん」

 「そう言うなよ。オレの直属戦士ってだけで大抵の妖怪は協力的になる。探し物は見つかってないんだろう? 役に立てるとは思うんだが」

 「フン……」

 

 飛影が興味なさげに鼻を鳴らした。

 対して躯は淡々と説明を続ける。

 

 「死ぬまでやってくれ。なに、死んでも大したことはない。そのためにこいつが居る」

 

 躯の背後に居たもう一人、水色の髪を二つに結った美しい女が、小さく頷いた。

 傷を治療する役割、或いは蘇生のための人員といったところだろう。

 そちらには興味を示さずに、飛影は立ち上がった。

 

 左手に刀を持つ。鞘を握ってまだ抜かず、構えるようなこともない。体のどこにも余分な力が入っていない状態でそこに存在し、自身の戦う相手を見る。

 久々の再会でも心は少しも動かない。だが記憶は残っていた。

 目の前に立つ相手を静かな心で眺めて、勝利も、敗北も望んではいなかった。

 

 魔界整体師、時雨。

 巨大な円形の刀を持つ男は、かつて飛影に手術を施した相手だ。

 

 「いつから躯の部下になった」

 「おぬしに邪眼の移植を施した後にな」

 「知り合いか?」

 

 どうやら知り合いらしいと気付いた躯が口を挟む。

 反応したのは時雨だった。

 

 「患者と医者、それだけでございます。剣術の真似事を指南したこともありました。奴はそれを我流で磨いた様子」

 「なるほど」

 「しかし驚いたぞ。わしは本当におぬしに手術を施したのか」

 

 飛影が数歩、動き出す。

 時雨の言葉に動揺する様は見られない。

 躯の背後に居た女がそっと後ろへ下がった。戦闘に巻き込まれぬようにだろう。だが躯は隣に時雨が立っていることを知りながら動かない。

 

 「邪眼の移植は能力変化、生まれ変わりを意味する。前の妖力は赤子同然にまで落ち込む。確かにおぬしの妖力はA級妖怪から最下級まで落ちたはずだが、久方ぶりに会って驚いた。たった数年で前以上の妖力を持って我が前に現れるとはな」

 「貴様に会いに来たわけじゃないがな」

 「然り。ならば言葉も無粋よな」

 

 時雨が己の得物を構えようとする。

 輪っか状の奇妙な武器。名は燐火円礫刀。その刃は斧にも勝る切れ味を誇る。

 足を開いて、姿勢を低くした時、気付いた。

 

 飛影の首にかけられた紐、その先端には小さな宝石のような物がある。

 薄く笑い、斬り合う前に彼へ問いかけた。

 

 「目的の物はすでに見つけたか」

 「これはオレのじゃない」

 「ほう、ならば妹の石か。どちらにせよ探し物の一つは見つけたわけだ」

 

 力を込めて、いつ動き出そうという瞬間だったが、再び躯が口を挟む。

 

 「面白そうだな。聞かせろよ」

 

 主にそう言われたことで、時雨が直立して背を伸ばした。武器を構えるのをやめ、戦いの始まりを先延ばしにしたのである。

 その事実に飛影は反応せず、何も言わずに彼らのやり取りを耳にしていた。

 

 「飛影は二つの探し物を見つけるため、拙者に邪眼の移植を依頼しました。一つ、妹の居る氷河の国。一つ、母の形見の氷泪石。拙者は依頼を受けるか否かを、患者の人生に惹かれるか否かで判断いたします。そして、手術の報酬は患者から今後の人生の一部を頂くこと」

 「ほう」

 「奴から受け取った手術代は、妹を見つけても兄とは名乗らぬこと」

 

 躯が楽しんでいる様子を察して、時雨は再び刀を構えた。

 その顔には笑みが浮かぶ。

 

 「わしを倒せば手術代は返してやるぞ」

 「手術の前に言ったはずだぜ。初めから名乗るつもりはない、と」

 「心は変わるものだ」

 

 飛影も姿勢を変え、腰の辺りに刀を持つ。

 両者が戦いのための準備を終えた。緊迫した空気が漂い、互いの視線が交わり、今はその時を待つのみ。戦意は恐ろしいほど静かに部屋の中を満たしていった。

 

 変化を感じて躯は満足そうだ。

 話が終わったことを機に審判として口火を切る。

 

 「面白くなってきたな。各々事情はあるだろうがそろそろ始めてもらおうか」

 

 静かで、感情が感じられないものの、どこか弾む様子で呟かれる。

 

 「好きに始めろ。殺した方が勝ち、死んだ方が負けだ」

 

 言った瞬間、二人の全身に力が漲った。

 勝負は長引かない。

 二人の実力を加味した結果、躯はそう判断する。

 

 妖力はほぼ互角。だがそれだけで勝負が決する訳ではない。

 剣術の技量で言えば時雨の方が上。確かに我流で剣を磨いた飛影もかつてとは比べ物にならないほど強くなっているが、それでも届いてはいないだろう。時雨は師であり、剣においては高い壁。乗り越えるのは簡単なことではない。

 

 ただ剣の腕だけで決まるかと言えばそれも違う。

 飛影の強みは剣術ではなく、魔界の炎を操ることにある。

 邪王炎殺拳こそ飛影が最も得意とする技。剣を振るうよりよほど強くなる。

 これを使って時雨とぶつかった時、どうなるのか。予想はできたかもしれないが躯は敢えてそうしない。結果を楽しみにしていたからだろう。

 

 時雨は飛影に邪眼を与え、剣術を教え込んだ人物。彼の戦い方や性格はある程度理解しており、果たしてその相手に邪王炎殺拳はどこまで通用するのか。

 躯はそう考えていたが、この時、飛影は炎殺拳を使うことを自ら禁じるつもりでいた。

 

 殺すことだけを考えるならば、邪王炎殺拳を使えば簡単なのかもしれない。

 しかし飛影は敢えてその考えは捨て、剣のみで戦うことを決める。

 

 刀を抜いて鞘を捨てる。

 姿勢を低くして飛影が刀を構えた。

 そして額の包帯は外さず、邪眼の力を使おうともしなかった。

 

 以前ならば生きるためにはなんでもした。勝つために手段は選ばず、何をしようと対峙した相手を殺す、そんな生き方に拘っていた。

 だが今は、同じ考えではない。

 どう生きるか。そんな思考は暗闇の中で戦う内にすでに捨ててしまった。

 今はどう死ぬか。

 鋭い眼差しで時雨を捉える飛影は、自ら駆け出す。

 

 (実力に関わらず、真剣勝負はいいものだ)

 

 二人の距離が埋められていく光景を見る間、躯は思う。

 

 (決する瞬間、互いの道程が花火のように咲いて散る――)

 

 距離は十メートル以上はあったはずだ。しかし瞬き一つの間に目の前に居て、これがA級妖怪ならば見切ることもできていない。その速度に、時雨は素早く反応する。

 自ら前へ一歩出て攻撃を繰り出したのだ。

 

 鋼鉄の板さえ両断する燐火円礫刀は受ければ細い刀など両断する。

 真っ直ぐ向かってくる飛影がそのことを知らぬはずもなし、考えがないとは思えない。

 先手を取るため時雨が強く前へ踏み出す。それを見ながら飛影は退かず、逃げる素振りもない。接近する刃に対して刀を構え、防御の姿勢を取っていた。

 これが刀の腹で受けていたら、いくら頑丈な刀でも呆気なく折れている。

 そこで飛影は刀の峰で受け、押された影響で刃が自分の左腕を裂き、一瞬で切り落とした。

 

 飛影の左腕が宙を舞う。

 宙に浮かぶ血液の滴、一つ一つまで見えて、時雨は驚愕した。

 

 (左腕を捨てたか――!)

 

 腕を犠牲にした甲斐はあり、肉を裂いて狙いが逸れた時雨の刀身を、飛影が踏みつける。

 振り上げた刀を止める物はない。

 必殺のつもりで一撃が繰り出されるものの、覚悟を決め、時雨もまた腕を捨てる。振り下ろされる刀に対して左腕を差し出し、呆気なく切り落とされるが、おかげで刀の狙いは逸れた。

 首を刈るつもりだった刀身はわずかに逸れて、それでも時雨の首から大量の血が噴き出す。

 

 瞬きさえ許さない一瞬の攻防。

 全て見えている躯は歓喜した。

 

 残った右腕で燐火円礫刀を振り上げ、踏んでいた足ごと飛影を持ち上げる。バランスを崩した彼は当然体勢を崩して転びかけるが、その最中にも刀を振り、時雨を狙う。反応した時雨は上手く得物を操って辛くも防御し、不意の一瞬、勝機を得る。

 素早く体勢を立て直した飛影がその場を動かなかったのだ。

 

 近接戦闘、そして剣術において、燐火円礫刀に勝る武器はない。

 退かなかったのは彼のミス。本当に勝利を狙うならば敢えて勇気を持って退くべきだった。

 両者が互いに刀を振り、時雨の確信は強まる。

 

 燐火円礫刀と打ち合ったことにより、飛影の刀は剣先が折れた。

 宙を飛ぶ刀身を視界に納め、時雨が前へと踏み出す。

 

 (勝ったッ!!)

 

 素早い一撃。

 燐火円礫刀が飛影の腹に食い込んだ瞬間、肉を裂いて血しぶきが飛び、勝負は決したと、そう思ったが、その時時雨は確かに見る。

 飛影が、薄く笑っていたのだ。

 

 退くこともなければ恐れることもない。

 飛影は前へ踏み込んだ。

 

 通り過ぎ様に折れた刀が頭部を切り裂いて、時雨の顔の上半分が宙を舞う。

 その時飛影の腹は大きく裂かれ、大量の血が飛び散った。

 どうやら勝負は相打ちに終わったようだ。

 

 「見事」

 

 顔の半分を失いながら時雨の口が言葉を紡ぐ。それは心からの賛辞だった。

 時雨の体が倒れていく最中、飛影もまた地面へ倒れようとする。

 体に力が入らない。しかし悪い気分ではなかった。

 それは勝利ではなかったが敗北でもなく、少なくとも、納得のいく結果ではある。

 

 (相打ちか……悪くない)

 

 自然に考えていた言葉だったがおかしくなって笑ってしまう。

 

 (悪くない、か。まさか、そんなことを考えるようになるとは)

 

 飛影も倒れて、広がった自分の血の上に身を横たえ、目を閉じようとしていた。

 その時、いつの間にか躯が傍に居ることに気付く。

 頭上から降ってくる声は上機嫌で、何気なく飛影も視線を上げた。

 

 「驚いたよ飛影。素晴らしい戦いだった。褒美をやろう」

 

 気付けば包帯が緩み、口元が露わになっている。

 口を動かすところを初めて見たのだが、そう思う暇もなく、彼女は言った。

 

 「お前の氷泪石だ」

 

 口を開き、舌を伸ばして、その上に美しい小さな石が乗っていた。飛影が首飾りにしていたのと同じ物だ。珍しい物で簡単に手に入る物ではない。

 飛影は霞む視界の中でもわずかに光を反射したそれを見逃さなかった。

 

 「お前が自分の人生の大半をかけて探した石だ。オレにとっては支配国の貢ぎ物の一つに過ぎなかったんだがな。オレからの褒美として受け取れ」

 

 フッとわずかに笑みが漏れた。

 目を閉じていく間際、飛影は確かに呟く。

 

 「貴様の胃液臭い石など、いらん……」

 

 それきり、飛影は意識を失った。

 

 躯は視線を上げる。

 時雨にしろ、飛影にしろ、このままでは死ぬか、すでに死んでいる状態だ。このまま見捨てるつもりはない。蘇生してやらねばならないだろう。

 

 躯の背後に居た女がそっと動き出す。

 倒れた飛影の傍で膝を折り、彼の状態を見ながら口を開いた。

 

 「どういたしますか?」

 「時雨は放り込んどけ。飛影はお前の能力だ」

 「では、やはり」 

 

 女の問いには答えず、躯の包帯が少しずつ解けていく。 

 

 「クックック、ここを死に場所にする気か? それじゃつまらない。お前はまだ生きろ、飛影」

 

 上機嫌な声が言う。

 その声は飛影には届かなかった。それで構わないというように、躯は微笑む。

 

 「これからはオレの傍でな」

 

 

 *

 

 

 それは、川ではなく、泉ではなく、ただの水溜まりでもない。

 暗い一室にわずかな光が灯され、床に水が広がっているその場所に三人の妖怪が居た。

 

 火我苦(ひがく)、という女が居る。

 長い髪は比較的色素の薄い水色で、大きく丸い乳房を持ち、無駄な肉はつかずに細く、腰は括れていて、けれど尻は大きい。美しい裸体を晒していた。

 整った顔立ちをしているものの、目は閉じられて、耳は人より尖っている。

 何より特徴的なのは、両目が開かぬ代わりに額と両手の甲に大きな目があったことだ。

 

 水位は硬い地面に正座する彼女の膝ほどもない。

 体を横たえて耳に触れる程度だろうか。少なくとも溺れる程度ではない。

 部屋の床を埋め尽くすも、澄んだ水は透明で、美しくもあり、害にはならなかった。

 

 火我苦の前、部屋の中央には、裸の飛影が寝かされていた。まだ意識は戻っていない。腹の傷はすでに癒えているらしく、左腕も繋がっていて、傷跡さえも残らず、元通りになっている。

 水を掬い上げて、水をかける火我苦の手は彼の肌を撫でていた。

 特に傷があったはずの腹を入念に、全身を撫でて彼の体を清める。

 

 水が動く音だけが聞こえる部屋の隅に、同じく裸になった躯が立っている。

 その姿は、赤みがかった茶髪のショートカットで、小さな乳房の、若く美しい少女だった。見た目だけならば少女と呼んでも差し支えない、十代か二十代と思える外見だ。

 ただし、顔を含めて右半身が焼け爛れており、腕と太股は機械化されている。

 彼女は妖怪だが、人間とそう変わらぬ外見であり、それだけが唯一普通の人間とは違っていた。

 

 どうやらその水に触れたことで傷が癒えたようだ。

 火我苦が振り返って躯を見る。微笑みを湛えて見つめれば、彼女も笑みを見せた。

 

 「躯様。傷は癒えました。準備は整っています」

 「ああ」

 

 ゆっくり足を動かすだけで水を蹴り上げ、パシャン、と音を鳴らす。

 端に居た彼女が二人の下へ移動し、膝を曲げてしゃがむ。

 眠ったままの飛影の顔を見つめ、何やら穏やかな笑顔だった。

 

 額の包帯が解かれ、邪眼もまた閉じられたまま。

 首には、紐に括られた二つの氷泪石がかけられていた。

 

 顔を覗き込んで、躯の左手がそっと彼の頬に触れる。

 心は穏やかだった。

 荒れることはなく、自分でも驚くほど静かで、こんな状態は珍しいと自覚している。それは彼の氷泪石を何気なく見つめていた瞬間にも似た心境だ。

 

 「氷泪石か。お前は不思議な石を持っているな。それを見ているだけで憎しみを全て吸い取ってくれるような気がする。オレはその石に救われていた」

 

 躯の声は静かに、意識を失った状態の飛影へ向けられる。

 

 「オレは生まれた時から囚われの身だった。自由の代償として失った物もある。呪うことだけで強くなり、目に留まるもの一人残らず殺す日々が続いた。その石がなければ、オレの心は憎しみで満ち、戦闘はその発散の手段のままだっただろう」

 

 フッと自嘲気味に笑い、だがどこか晴れ晴れとした顔でもあって。

 頬に触れていた手が音もなく離れる。

 

 「約束だ。これがオレ、躯の正体だ」

 

 躯は立ち上がり、裸体を隠さず、飛影の体を跨いで見下ろした。

 美しくもあり、どこか歪でもある。

 だが、微笑む彼女はひどく少女然として美しかった。

 

 「今ではこの右半身はオレの誇りだ。治す気もない。お前になら全てを見せられる。今度はオレの意識に触れてくれ」

 

 そう言って躯は両膝をつき、顔の横に手をついて、彼の体に跨った。

 体を倒して肌を合わせる。

 全身が触れ合い、不思議といやらしさは感じず、安堵を覚える躯は至近距離で顔を見つめる。飛影に気付く気配はない。何気なく躯が彼の手を握った。

 両方の手を握って、頬と頬を触れ合わせ、体の力を抜いて目を閉じる。

 

 火我苦が両手で水を掬って、躯の背にかける。

 ぴちゃぴちゃと小さな音が鼓膜を揺らして、それ以外の情報はない。

 

 飛影の肌に触れ、手を握り、目を閉じて意識を集中させ、共に同じ水をかぶる。そうしていると二人の意識が溶けていき、混じり合うような感覚があった。

 意識がある、ないに関わらず、意識が共有されていく。

 おそらく彼も夢の中で躯を感じ取っていただろう。

 

 何が、という訳でもなく、ずるりと入り込んでいく感覚がある。それが意識の共有。

 水を掬った火我苦は、濡れた手で躯の体を撫で、肌に塗り込むかのように水で濡らしていく。爛れた右半身も、美しい肢体の左半身も、彼女の手によって触れられた。

 

 水による冷たさを感じる度に飛影の温度を強く感じる。

 心、精神、意識。呼び方はなんでもいい。体とは別の部分が混じり合って一つになる。

 体は肌が触れているだけ。特別な動作はなく、最初の状態と変わっていない。

 それでも一つになっているのが現状だった。

 ただ触れているだけでないとするならば、その場における変わった行為は、火我苦が二人の体を水で濡らす動き。手で優しく触れ、ただ肌を撫でる動作。

 その水を生み出したのは火我苦であり、不思議な水に触れていること自体が原因であろう。

 

 躯の脳裏に、飛影の過去が映し出されている。

 

 忌み子、飛影。

 氷女によって生み出され、生まれた時から強力な炎の妖気を纏っていた。

 忌み嫌われて氷河の国から投げ捨てられ、魔界の森で壮絶な幼少期を過ごす。

 妖怪を殺すために生きる。噂が広がるまでそんな生活が続いた。

 

 五歳になる頃にはA級妖怪の仲間入りを果たしており、そうなれば襲ってくる妖怪も減った。その頃からだろう、母の形見の氷泪石を眺めることが多くなった。

 だが一瞬の油断により、その氷泪石を失くすことになる。

 氷河の国を見つけることと、母の形見の氷泪石を見つけること。生きる目的が二つに増えた。そのためにはずっと遠くまで見える目、邪眼を求めて魔界整体師時雨を訪問する。

 

 邪眼を手に入れてすぐに氷河の国は見つかった。

 行ってみたのだが、氷女は皆どこか暗くいじけて見えたため、復讐はやめる。

 すでに死んでいた母の墓に行きもしたが、心が動くことはなかった。

 

 その後は妹を探して人間界へ赴くことになる。

 いくつかの戦いを経て、何人かの人間たちに出会い、深く関わることになった。

 

 変わり始めたのはその頃だろう。

 出会った人間の一人に浦飯幽助という人物が居る。

 最初の出会いは敵として戦う。だがひょんなことから再会した際には共闘し、それから目的を同じくする機会が多くなった。

 

 殺戮しか知らなかった妖怪、飛影が、徐々に人間らしくなっていく。

 その過程を見て躯は至福の一時を感じる。

 面白い、とも、愛おしいとも思うのだ。

 

 生きる目的を持っていた。しかしその目的は悉く虚無感を得る結果に終わり、生にしがみついていたはずの人生も、死を望むようになった理由も、彼女の中に染み込んでくる。

 彼の絶望、希望、それ以外の感情さえも。

 同じく彼も見ているはずだ。躯が三大妖怪の一角となるに至ったその道程。怒り、憎しみ、氷泪石を手に入れたことで時折感じられるようになった安らぎや平穏。

 

 静かに躯が目を開いた。

 その時、火我苦が音もなく立ち上がり、恭しく彼女へ頭を下げる。

 

 「あとはごゆっくり……」

 「すまんな。手間をかけさせた」

 

 火我苦は部屋を出て行った。

 残されたのはぴたりと重なって寝そべる躯と飛影。

 躯は彼の首筋に顔を埋め、自分でも驚くほど安堵した声で呟く。

 

 「飛影、死ぬな。お前はまだ自分の死を求めるほど強くなっちゃいない。でもオレを倒すのが生きがいだなんて言わないでくれ。そんなのは寂し過ぎる」

 「フン」

 

 飛影が鼻を鳴らす。

 彼女に抱きしめられて抵抗せず、薄く目を開くとすぐ傍にある髪を視界に納めた。

 

 「とりあえず、しばらくは勘弁してやる……」

 

 傷はしっかり癒えていた。すぐに引き剥がすこともできる。だがそうしない。

 彼にしては珍しく穏やかな姿だった。

 躯は何も言わず、彼を抱きしめた両腕にぎゅっと力を込める。

 

 躯の過去を見た。だから甘くなった、などと言うつもりはない。

 いずれは戦うこともあるだろう。そんな予感がする。その時、自分は躊躇わずに彼女を仕留められるはずだと自覚している。それだけの実力があればの話だが。

 ただ少しだけ、彼女に興味を持った。

 ただそれだけの話。

 

 決して多くはない水の中で、一糸纏わず、生まれたままの姿で肌を合わせる。

 人間のように愛し合っていた訳ではない。そこにあるのは、愛ではないかもしれない。しかしそれでも二人が相手への理解を深めたことだけは確かであった。

 

 これはある王とその側近が出会った話。

 ある日をきっかけに、二人は王と片腕として日々を歩み始めることとなったのだ。

 

 



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ニャンデレ(IS)

 リクエスト作品。
 インフィニット・ストラトス:織斑千冬

 少し前からいい加減リクエストを消化しようとしていたのですが、原作を知らなかったりするので中々作業が進みません。
 ISもほぼ知らないので、間違ってたらごめんなさい。


 少し肌寒い夜だった。

 仕事を終えて家に帰る途上、妙に体が重く感じる。身体的には疲れているとも思えないのだが、おそらくは心労だろうか。手のかかる弟を心配しているとこうなることも珍しくない。

 

 織斑千冬は夜の町を一人で歩いていた。

 寮の監督を務める彼女であったが、学園の寮には向かわず。

 自宅がある彼女だったが、家には戻らず。

 向かう先は予定がない限りは必ず向かう場所であった。

 

 辿り着いたのは小さな一軒家。豪勢な訳ではないが極端にぼろい訳でもない。

 千冬は迷わずにその家の玄関を開けて入っていく。

 

 「ただいま」

 「おかえりー」

 

 冷静な声でそういえば家の奥から声が返ってきた。

 千冬が足繁く通う家の主、相良涼の声だ。

 彼の声を聞いた途端に、表情こそ普段と同じでクールなままだが、千冬の動きが少し速くなる。焦っているとも思える様子で靴を脱ぎ、玄関から伸びる廊下を歩き出した。

 

 閉じられていた扉を開けてリビングへ。

 そこから覗けるキッチンに件の男の背中を見つけて、千冬は迷わず近寄る。

 

 「涼」

 「おかえり。もうすぐ晩飯できるからちょっと待ってて――」

 

 放り投げるように鞄を置いて、さらに急いで千冬が涼の背中に飛びついた。腰に手を回して背中に顔を擦り付け、安堵した様子で目を閉じる。

 料理の最中ではあったがさほど驚きはしなかった。

 涼は苦笑してまたか、と考えて、彼女のしたいようにさせておく。

 

 身長が166㎝の千冬に対し、涼は170㎝程度。ほんの少しだけ高かった。

 体格は優れている訳でもないが、千冬に見合う男になりたい、と日頃筋トレをしている効果もあってある程度締まった体をしている。とはいえ、他でもない千冬が「そんなことしなくていい」と言うものだから邪魔されることも多く、過ぎた年月の割には痩せているとも言えるだろう。

 彼女に抱きつかれたままで料理を続けられるのには、慣れがあった。

 飛びつかれて姿勢が崩れなかったのは肉体的に優れているというより経験の積み重ねらしい。

 

 すでに完成間近だったらしく、涼はテキパキと作業を続ける。

 良い匂いが漂い、千冬の頬が緩む。

 今日のメインは鶏もも肉だったようで、グリルで食欲をそそる焼き目がつけられていた。

 

 涼が慣れた様子であちらこちらへ移動する。サラダや鶏肉を皿に盛りつけていた。

 その背中には相変わらず千冬が引っ付いて離れず、邪魔になっていることすら承知で離れない。

 

 「千冬さん。もうできるからパパッと着替えてきちゃってよ」

 「嫌だ。ここに居る」

 「またそんなこと言って。ちゃんとハンガーにかけとかないと皺もできるしさ」

 

 今度は何も言わず、腰に回された腕にただ力を入れられただけだった。

 やれやれと首を振る。

 こうして二人きりになった時、彼女は、普段人には見せない顔を見せる。世界広しと言えども彼女のこんな姿を知っているのは彼だけだろう。

 困ってしまう反面、嬉しくもあって、涼は皿に盛りつけた料理を見て微笑んだ。

 

 「よし、できた。それじゃ着替えは後でいいから食べようか。千冬さん、一緒に運んで」

 「ん……」

 「って聞いてる?」

 「わかってる。ちゃんと運ぶさ」

 

 二人分の料理はいくつも皿を必要としていて、とても一人では運びきれない。数回リビングとキッチンを行き来すれば簡単に運べるのだが、千冬が離れないためそれも難しいだろう。

 そう言ってしばらく、千冬はまだ動かない。

 

 こうなると簡単には離れない。仕方なく涼が動き出す。

 彼女の腕からは逃げないようにしながら振り向き、正面から千冬を抱きしめたのである。

 

 「よしよし。また何かあった?」

 「いいや。何もない」

 「そっか」

 

 彼女の体に腕を回し、強く抱きしめて頭を撫でてやる。

 それだけで嬉しそうに両腕を首へ絡めてきて、涼の首筋に顔を埋めた。

 早く移動しようとしたのだが余計に時間がかかりそうだ。

 

 千冬の舌がちろりと涼の首筋を撫でる。

 甘えるようで、それでいて少し弱々しい力具合。まだ躊躇っているのか、今一つその気になっていないのか。おそらくは焦らそうとでもしているのだろうと予想するが驚きはしない。

 彼の前に居る時の千冬は感情的に行動する。

 食事にしようと言っているのに離れる気は一切なく、舌先だけで涼の首筋を舐め続けた。

 

 身長や体格こそ男性である涼の方が優れているとはいえ、単純な筋力は千冬の方が上。

 全力で抱きつかれて逃れられないのは何度も実感している。

 

 この状況、さてどうしようかと考えた。

 無理に引き剥がすのは不可能。力で敵わないし、仮にできたとして後が怖い。

 説得ならどうだろう。あいにく一筋縄では話を聞いてくれなさそうだ。

 そう思う間も料理が冷めつつあったため、涼は溜息交じりに千冬の頬を手で撫でる。

 

 抱きついてくるからにはそれなりのことがあったのだろう。否、何もなくても抱き着いてくるのだが、ここまで動かないのは大体疲れている時だ。

 機嫌が良い時はあっさり食事を始められることを知っていて、今日は様子がおかしい日である。

 

 「料理、冷めちゃうよ。時間ならあとでいっぱいあるから、ね?」

 「ハァ、フゥ……わかっている」

 

 ようやく顔を離してくれたものの、潤んだ瞳で見上げられる。

 その直後、首に回した腕でグッと引き寄せられ、唇を合わせられた。それだけならばまだしも、数秒押し付けてから、舌先で唇を割って入る。

 熱烈なキスを始められて、千冬は必死な様子で顔を動かし、涼は観念した顔になった。

 

 「ン、フッ……」

 (あー……これは多分、今夜は寝かせてもらえないな)

 

 舌先を絡めとられながら、これまでの経験を思い出す。

 今夜は長くなりそうだ。

 二人の体力は比べ物になるレベルではなく、圧倒的に千冬の方が勝っている。そんな彼女が自分を抑えられなくなるとどうなるか。これまでもその経験はあった。

 

 一度火が点いてしまうと簡単には止められない。

 涼は嬉しく想いながらも困り、諦め、今夜も彼女に付き合うことを決めた。

 

 とはいえ、まずは食事からだ。体力をつけるためにも外せない。

 息継ぎのため千冬が口を離した瞬間、咄嗟に人差し指を彼女の唇に押し当てた。慣れていたおかげでキスは中断する。その代わり千冬は恨めしそうに指先を銜えていた。

 

 「ごはん食べよ? ね?」

 「……ん」

 

 少し不服そうにも感じるが止めることに成功した。その分後が怖くなるが仕方ない。

 結局は作った料理を一人で運び、千冬と抱き合ったまま涼は食事の準備を終える。

 

 リビングにあるテーブルへついて、隣同士で席に座った。

 相変わらず千冬は涼の腰に腕を回しており、全く離れる気が無い。食事はしにくいとはいえそのままで居るつもりなのだろう。もう抵抗はしなかった。

 

 涼はフォークを使って、少量ずつ料理を食べさせ始める。口元へ差し出せば千冬は抵抗せずに口を開けた。まるで餌付けだ。咀嚼する彼女を愛おしく思う。

 甘えると決めた彼女は普段の姿が嘘のように何もしなくなる。

 元々家事が苦手だったとはいえ、今の状態では人間として生きる気力すら希薄だ。

 

 とにかく何をするにも涼を頼って、彼が居なければ生活できないほど。

 料理を食べさせてもらい、しかし自身もフォークを使って彼に料理を食べさせる。

 手間のかかる食事は時間をかけて静かに行われていた。

 

 「おいしい?」

 「ああ。涼の手料理をまずいと思ったことはない」

 「ありがとう」

 「いや。私の方こそ、いつもお前に助けられている……」

 

 ギシッと音を立て、前傾姿勢で再び顔を寄せた。

 油断していた涼の唇にキスをして、千冬は彼の太ももに手を置いてさらに首を伸ばす。

 食事の途中だというのにキスが深くなった。舌先が唇の形をなぞり、中へ入ってこようとして、思わず抵抗してしまった涼の唇を力ずくで割る。

 彼の口内へ入った時、千冬は吐息と共に嬉しそうに頬を緩めた。

 

 「んっ、ンンっ――」

 「はあっ……千冬、さん。まだ食事が……」

 

 すっかりお互いの手が止まってしまい、途中で食事が放棄されてしまったようだ。

 向かい合わせで涼の膝の上に座った千冬は、本格的に彼の唇を貪り始め、何度も顔の角度を変えながら深く舌を差し込む。歯列をなぞり、舌の上を撫で、唾液を啜った。

 もはや涼に抵抗の意思はなく、両手首が千冬の手によって掴まれていた。

 

 (あー、このまま朝までコースかなぁ……)

 「んんっ、ふむっ。んっ、ぢゅ……!」

 (長い、なぁ。口の感覚が、なくなってくる……)

 

 捕まった舌が一向に離されず、唇で強く吸われている。

 思考だけでなく視界までぼんやりしてきて、涼はされるがままに呆然としていた。

 

 千冬は全くやめる気が無い。

 時間にして五分以上。一度も口を離すことなくキスを続け、無我夢中で彼を味わった。

 もはや彼女自身、興奮と酸欠で何も考えられなくなっていて、それでもやめたくないという感情だけが強くあり、長々と彼の口内をしゃぶり続ける。

 

 そうして二人とも疲れ切った後。ようやく口が離される。

 吸い込んだ空気のなんと美味いことか。

 ぐったりした涼を熱っぽい目で見つめて、いまだに千冬は不満そうだった。

 

 「ハァ、んっ……もうすこし、していいか?」

 「んあっ。らめ、れす」

 

 力が入らずに舌足らずな話し方になってしまった。二人とも舌先がピリピリしている。

 ただでさえ苦しいし、これ以上はもうだめだ。

 なんとか意見を口にした涼だったが、不満そうに瞳を揺らした千冬は、有無を言わさずもう一度顔を寄せてくる。体に力が入らないため逃げられずに、再び唇が合わさった。

 

 (やっぱりこうなりますよねー……)

 「んんん、んふっ、ふぁっ……」

 

 呼吸が乱れるのも構わず舌と舌が絡み合う。

 自分自身を制御できない様子の千冬に、涼は諦めた表情だった。

 しかし、いい加減息苦しくて休みたいと思い、いつの間にか拘束が解かれた右手を動かす。

 

 千冬は両手で彼の頬を掴んでいる。そこで自身の右手をお互いの間に滑り込ませた。

 合わさった唇の間に指を差し込んで、無理やり離れさせると彼女の口に指を二本与える。

 

 効果はすぐに見て取れた。千冬は涼の右手を両手で掴み、人差し指と中指に舌を絡ませ、熱烈な様子で舐め始める。その姿はまるで動物のようでもあった。

 今やすっかり手にばかり集中している。

 丹念に指を舐め、唾液を塗りたくり、次第に移動して他の指や掌まで舐め始める。楽しそうにも見える表情に涼は溜息交じりに言った。

 

 「ハァ、ハァ……千冬さん、お風呂入る? 入らない?」

 「ん、はぁ……風呂はいい。いらない。それより、ベッドに行こう」

 「だと思った」

 

 堪えられない様子で千冬がすり寄ってくるため、もう食事どころではない。まだ全て食べ終えた訳ではないが移動することを決めた。

 涼が千冬を横抱きにして立ち上がる。

 残された料理をそのままに寝室へ向かって、二人でベッドに寝転ぶ。

 移動する間も千冬は涼の顔にキスするのをやめず、ある程度唇を避けていなければ視界が遮られて壁にぶつかるところであった。

 

 「よいしょっと」

 

 ベッドの上に彼女を横たえ、涼が上に跨った。

 間近で見下ろされて千冬が熱い溜息をつく。

 顔がゆっくり近付いていって、近くなるにつれて彼女の頬が赤らんだ。

 

 慣れた仕草でそっと頬を撫でられた。くすぐったそうに体を捩る。

 あやすように、甘やかすように、少し触れただけで千冬はわずかに呼吸を乱す。その姿にはこれまでの数々の経歴による威光など残っていない。

 一人の女として、一匹の雌として、恥じらいも無くただただ発情していた。

 

 「こら。ちゃんとご飯食べなきゃダメでしょ?」

 「む……きょ、今日だけだ」

 「この間もそう言ってた」

 「次からは気をつける……」

 「ふぅ。嫌なことでもあったんでしょ? できれば言葉で言ってほしいけどなぁ」

 

 小さな衣擦れの音を立てながら右手が体を撫でる。

 服の上からとはいえ、その気になったことを告げられて体が熱くなった。

 千冬は彼の首に腕を回し、再びキスをしようとする。しかしそれを察知した涼が一足早く右手の指を彼女の唇に押し当て、熱烈なキスを阻止した。

 

 「まだ話終わってないよ」

 「い、いいから。早く」

 「我慢できない?」

 「さっきからずっと我慢してる」

 「できてないんだけどなぁ……」

 

 つい呆れてしまうものの、ともあれ、好意自体は嬉しいものだ。

 涼が顔を近付けて唇を合わせた。二人で同時に目を閉じ、啄ばむように短く触れてはすぐ離れ、また触れてちゅっと音を立てる。もどかしいが深いキスにはない幸福感もある。興奮しているために感情が暴走しかけていた千冬は、回数を重ねると徐々に落ち着いていった。

 何度か繰り返しながら、涼の手は再び彼女の体に触れ始める。

 

 「んっ、ちゅっ……脱がすよ」

 「うん……」

 

 普段とはかけ離れた姿で、しおらしくなった千冬は小さく頷いた。

 両手を使って涼が服を脱がせ始める。

 帰ってきた時のままの姿であった。脱がして放っておくのは皺が気になったものの、スーツを脱がしてベッドの下に放置しておく。

 

 上着やシャツ、ネクタイを放ってスカートを脱がすと黒い下着が露わになる。下半身はストッキングに覆われていた。

 その体を見下ろして涼はふと考え込む。

 

 大事なところを隠した女体。妙にムラムラする。

 今日はこのままで、と決めて、覆いかぶさって千冬の顔を見つめながら手を動かした。

 

 ストッキングとショーツの下に右手を差し込み、守られていた秘部に触れる。

 すでにぐっしょりと濡れていた。軽く触れただけでも千冬の体はビクッと震える。首筋に舌を這わせてやると面白いほど呼吸が乱れて、どんどん気を良くしているらしい。

 ゆるりと弱々しい力でヴァギナを撫で、クリトリスに軽く触れる。

 明らかに体がぶるりと震えて、嬉しそうな、耐え難いのだろう熱い吐息が出された。

 

 「ん、うっ……はぁ。あっ」

 

 小さな声が恥ずかしげに弾んでいる。ようやく得られた快感で感覚が昂っており、目を閉じてうっとりしながらもう躊躇わなかった。

 徐々に大胆になっていく。

 それは涼が彼女の体へ触れて、心を守っていたはずの鎧を外していくからだ。

 

 首筋を舐め上げ、顔中にキスの雨を降らしてやると小さく声が漏れた。

 こうしてやると彼女は面白いように喜ぶ。

 千冬の顔を見る涼は得意げな顔でにやけていた。

 

 指の腹で膣の入口を軽く撫で始める。

 目を潤ませる千冬と何気なく視線を合わせると、寂しげな表情が印象的だった。感情が制御できなくなっていて子供に戻ったかのよう。普段にはない弱弱しさを感じる。

 涼は彼女の唇を塞いだ。

 同時に指を膣の中へ挿入し、丹念にもみほぐすようにゆっくり動かす。

 

 そのまましばらく時が流れる。

 舌を絡ませながら膣を愛撫して、時折親指でクリトリスを触れば、彼女の息遣いは荒くなった。

 

 時間をかけて徐々に徐々に。そしていよいよという時になって唇を離すと、千冬の顔は上気して桜色に変わり、幼さを感じさせる様子で涼を見つめていた。

 口元に弧を描いた彼は至近距離で目を覗き込む。

 

 「イキそう? このままイっちゃおっか」

 「ふっ、んんっ……! やっ……いっしょ、がっ」

 

 突然指の動きが激しくなった。

 瞬間的に千冬の表情が変わって溜まっていた涙が零れた。

 直後に腰を激しく揺らし、どうやら達したらしい。ビクビクと痙攣するように跳ねた腰は何度か動いてから止まり、その後はぐったりして動かなくなる。

 千冬の目は虚ろになりながらも涼の顔から視線を外さない。

 

 膣から指を引き抜いた涼はその手を顔の前へ持ってきた。彼女の体液で濡れている。

 何気なくその指に舌を這わせ、体液を舐め取り、体を起こした。

 意気揚々と自分のベルトに手をかけるとズボンと下着を一気に脱ぎ捨てる。

 

 開放された瞬間に勢いよく揺れたのは勃起したペニス。千冬の目にそれが映る。

 何か言いたげな口元へ突き出してやり、涼は笑顔で言った。

 

 「千冬さん、舐めて。舐めてる顔見たくなっちゃった」

 

 優しい口調で言うと千冬は嫌がらず、のそりと動いてペニスに触れる。

 唇でちゅっと音を立て、徐々に口を開いて中へ導いた。

 慣れた様子で、しかし不思議と初心さを残して、彼女はペニスを舐め始める。半ばほどまで銜えてゆっくり頭を振り始めると、唇をすぼめて竿を扱く。

 

 達したばかりで脱力しているのがそんな表情にさせるのだろう。

 幼子のような雰囲気を醸し出す彼女はとても愛らしく、守りたくなる存在に見えた。

 

 普段は自分が守られる側。それだけに時折見せるそんな姿が忘れられない。

 涼が優しく微笑んで彼女の頭を撫でた。どこか力が抜けていて、しかし真剣にフェラチオをしていた千冬は目線を上げ、彼を見るとにこりと微笑む。口に銜えたペニスをそのままに、笑顔で見つめてくる恋人の姿にはさらに股間が熱くなるというものだった。

 気を良くした涼は自身もそのままで動き出す。

 

 千冬にペニスを銜えさせたまま、彼女の体を跨いで、自身の顔は彼女の股間の前にあった。いわゆるシックスナインの体勢で、早速右手で撫でてみた。

 千冬がくぐもった声を出したことに気付き、嬉しそうににやけて、クリトリスを指で撮む。

 

 「んんっ、ふぅ、うんんっ……!」

 (かわいいなぁー……)

 

 手を離すと顔を寄せる。尖らせた唇でまずは下着の上からクリトリスに吸い付いた。

 千冬の体が大きく跳ねるが、押さえつけるようにして逃がさない。

 秘部の全体へ舌を這わせ、舌先で肉を押しやり、唾液を塗りたくって我が物とする。征服感が満たされる瞬間だった。特に彼女の場合、普段の姿が誰からも信頼され、強く憧れられるものであるため、彼女を独り占めにしたという実感がペニスを硬くする。

 今や思うがままに速く頭を動かす千冬は、目を閉じて彼のペニスをしゃぶっていた。

 

 お互いの股に顔を埋めて、熱心な様子で愛撫を続ける。

 どちらもいつしかうっとりした顔で熱中していた。

 やがて涼がこみ上げる射精感に顔を歪めた頃、どうしようかと一瞬迷った。

 

 「あーっ、やばい……千冬さん、もう出ちゃいそう……」

 

 苦しげな声を聞いたところで千冬の動きは変わらず、むしろやめようとはせずに射精を促すべく頭を振る速度を速めた。思わず涼が天を仰ぐ。

 仕方ないと感じた彼は腰を上げた。

 取り上げるように千冬の口からペニスを抜いて、残念そうな彼女の顔を見る。

 

 どうしようかと悩んでしまう。

 考えるのはどこへ出そうかという一点のみだ。

 顔に出したい。胸にかけたい。膣に挿入して腰を振りながら中出ししたい。そう長い時間でもなかったが強い欲求が彼を悩ませて、選択に迷いを持たせた。

 結局は彼女の顔を見つめながら決断する。

 

 それだけ切なげな顔をされては無視できないだろう。彼女の顔にかけることにした。

 体を反転させて体を跨ぎ、いきり立つペニスでツンと胸を突く。

 唾液に濡れたペニスを見つめる千冬の前で、手で寄せた乳房の間にペニスを挿入したのだ。

 

 「よいしょっと。今から出すよ。顔にかけてあげるからね」

 「ん……そうか。わかった」

 

 切なそうでもあり、期待しているようでもある千冬の顔を見て安堵する。

 どうやら選択は間違っていなかったようだ。

 両手でぎゅっと大きな胸を寄せ、腰を振り始めた涼は千冬が見ている前で、自慰をするように快感を得て、自らを射精に導こうとしていた。

 すでに感覚は近まっていたため、その時はすぐにやってくる。

 千冬は気持ちよさそうに歪む涼の顔を見て微笑んでいた。

 

 「イクっ、出るよ千冬さん……! く、口開けてっ」

 

 余裕のない声で告げられるとすぐ、千冬は無言で大口を開けて待つ。

 そして涼は弾かれたようにペニスを上げ、大ぶりの乳房がぶるりと揺れて、千冬の顔の横へ挟み込むように膝を置くと顔を跨ぐ。

 最後は自らの手でペニスを扱きながら射精した。

 

 「イクっ……!」

 「んあっ……んっ」

 

 勢いよく降り注いだそれは千冬の顔を、髪を汚して、少量は口の中に飛び込んだ。敢えて伸ばして待っていた舌の上にも乗り、射精が終わると同時にそれを口の中で転がす。

 息を乱す涼はその様子を見ていた。

 命令された訳でもなく、千冬は自らの意思で彼の精液を口に含んでおり、簡単に飲み込もうとはせず楽しむように口の中へ広げていた。

 

 息も整わない内から涼は手を伸ばす。

 彼女の顔を汚していた自分の精液を指で掬い、彼女の口元へ運んだのだ。

 千冬は抵抗することなく彼の指ごと口内へ迎え入れる。

 

 口に入れた精液を全て飲み込んだ後で、涼が彼女の唇へペニスを押し付けた。

 すぐさま千冬は銜え、ずずっと大きな音を立てて吸い付いた。

 

 こうして、彼女は大抵の行為を許してくれる。むしろ自ら進んでやるほどだ。

 愛おしさはさらに増して、涼が千冬の頭を撫でた。すると彼女は子供のように喜び、目を細めて彼の顔を見つめ、口は尚も精液を吸い出そうと刺激を与える。

 再びペニスを抜いてから、涼はベッドに横たわると彼女を抱きしめ、胸に顔を埋めた。

 

 乳房に顔を挟まれ、千冬に抱きしめられて彼は安堵する。

 愛する女でもあるが、そうしている間は母性も感じた。快楽を求めてか、それとも子供の精神に戻ってなのか、涼の両手は持ち上げるように乳房を優しく掴む。

 

 胸の谷間に舌を這わせ、乳房を揉んで指を埋め、目を閉じる涼は穏やかな顔をしていた。

 千冬は小刻みに震えて声を漏らしていたが構わない。

 一方、涼のペニスも見る見るうちに大きくなっていって、すぐに屹立した。

 そうなると涼は顔を上げる。

 

 体を起こした彼は今度こそ服を脱がそうとした。外れかけていたブラジャーをベッドの脇へ放り投げてしまい、ストッキングを破いて、ショーツを多少乱暴に脱がせる。

 千冬が裸になった時、彼女はその乱暴さで股を濡らしていたらしい。

 指で触れれば糸を引く状態。涼は微笑み、千冬は恥ずかしそうに目を逸らす。

 その一方で両手を伸ばして涼を求めており、いよいよ来るその時を待ちわびていた。

 

 「きれいだよ」

 「涼……早く」

 「うん」

 

 擦り合わせて、ペニスが膣へ挿入される。

 ずぶずぶと押し込められていく様は実感を得た千冬に悲鳴を上げさせ、嬉しそうに涼の背中へ腕を回す。その力は強く、決して離さないという意思表示でもあった。

 

 互いに強く抱き合って腰を振り始める。

 どちらがリードするという姿ではないらしく、どちらもが必死に動いていた。

 相手を気持ちよくさせたいという想いと、自分が気持ちよくなりたいという想い、両方が混ぜ合わさって彼らの必死な姿を生んでいる。

 言葉もなく、頬を触れさせて目を閉じ、ひたすら繋がった部分の感覚を味わっていた。

 二人の声は重なり合い、激しくも安堵するセックスを楽しんだ。

 

 「あっ、あんっ、あぁっ! 涼っ、りょう……!」

 「くっ、千冬、さん……!」

 

 名を呼びながらキスをした。途端に舌を絡ませ、更なる快楽を追い求め、一ミリの隙間も許さないほどお互いの肌を擦り合わせる。

 これほどの至福があっただろうか。

 余裕がない顔とはいえ千冬は嬉しそうに唾液を飲み込み、涼はそんな彼女を愛おしいと思う。

 打ち付ける腰の速さは一向に衰えず、体力をつけようと鍛えていてよかったと改めて思う。

 

 「ううっ、あっ、くぅっ……! だめだっ、くるっ、またイってしまう――!」

 

 髪を振り乱しながら千冬が言うが涼は許さない。

 抱きしめた状態で責め立てるようにペニスで膣を突き続ける。

 千冬は必死に堪えている様子だったが彼には勝てない。勢いを殺さない腰の動きで全身に電気が走ったかのような衝撃が生まれ、一瞬思考がプツリと切れた。

 今度はさっきよりも激しい姿で達し、大口を開けながら腰ががくがく揺れる。

 

 声にならない声を上げる激しさを感じさせたことで、涼は一旦腰の動きを止めて休憩する。

 千冬は今にも気絶してしまいそうで、全身に力が入らない状態のまま虚空を眺めている。もはやその目に涼を映す余裕もないらしかった。

 

 そんな彼女の唇に一度だけキスをして、涼は休憩もそこそこに再開しようとする。

 左手で胸を揉み、唇で乳首を挟んで、右手はクリトリスを撫でる。さらにペニスで膣を突いた。

 

 放心していた千冬がびくっと震えると反応が戻ってくる。目に光が戻り、涼を見つけるとまだ混乱していて、ついさっき達した時の快感で動揺していたようだ。

 このまま続けられるのは怖い。

 そんな心情をおそらく知っていて、涼は敢えてそのまま続ける。

 

 「だっ、だめ、だ……! まだ、イったばかりで……!」

 「だからいいんじゃないか」

 「うっ、んんっ、あっ――!」

 「何回でもイっていいよ。もっとイカせてあげるから」

 

 複数の箇所を同時に刺激しながら、涼のピストンがまたも千冬を追い詰めていく。

 達する度に敏感になるかのような体はもはや完全に彼に支配されていた。

 

 流石に休みなく動かしていたのは無理があったのか、しばらくの間は涼の行動に無茶はなく、非常にゆったりとしたペースで千冬の体を愛でていた。胸を揉み、乳首を舐め、クリトリスを撫で、膣の入口から奥までをペニスで撫でる。

 比較的早い段階で涼は余裕を取り戻していたが、千冬は苦しげな嬌声を発していた。

 落ち着く暇を与えない快楽の波に自分を忘れかけていたようだ。

 

 指で摘んだクリトリスをきゅっと捻った時、また千冬の体が大きく震えた。

 すぐにぐったりする彼女を見て涼は大きく息を吐く。

 そろそろ自分も限界。彼女が達したのは一度や二度ではなく、その度に射精しそうになった。

 

 「やっぱり今日は……口に出したいかなぁ」

 

 狙いを決めて、息も絶え絶えな千冬の唇を奪う。

 驚く彼女の顔を至近距離で見つめ、甘えた声で問いかけた。

 

 「ねぇ千冬さん、俺のザーメン、飲んでくれる?」

 「ふっ、んっ……! のむ、のむからぁ……!」

 

 承諾を得られて涼は嬉しそうな顔で行動に移した。

 ピストンを一気に速めて、ペニスが膣内で乱暴に動き回る。時折腰を回しながらも全体へ擦りつけて、残っていただろう微量の余裕さえ刈り取っていく。

 彼の首に腕を回した千冬は濡れた瞳で顔を見つめて、へらりと力の入らない笑みを浮かべた。

 

 いよいよという時、涼は両方の乳首を捻って膣の一番奥を突き、先に彼女をイカせる。

 千冬がぎゅっと目を閉じて震えたのを確認すると、慌ててペニスを引き抜いた。

 

 「んんんっ!? んっ、あぁっ……!」

 「はぁっ、出すよ。口開けてっ」

 

 慌てて顔を跨ぐと腰を下ろし、乱暴に口の中へペニスを突っ込んだ。

 自分の手で竿を扱いて刺激を与え、勢いよく射精する。

 目を白黒させながらも千冬は口どころか喉まで飛び込んでくる精液を受け止め、飲み込もうと喉を動かした。絶頂の直後の出来事であり平常心などあったものではない。

 ペニスを吸われる快感を覚えながら、気持ちよく出し終えた涼は彼女の頭を撫でる。

 

 「あぁ……はぁ……ありがとう千冬さん。すごくよかった」

 

 ちゅぽんと唇から離れて、露わになったペニスは彼女の唾液で濡れていた。

 惚けた様子で微笑んだ千冬は脱力していて、彼の発言に気を良くすると、気絶するように眠り始めてしまう。連続して感じた絶頂が原因だったらしい。体を鍛える際に感じるものとはまるで違う疲労感を心地よく思いながら、涼の手を握って目を閉じた。

 

 すぐに寝息が聞こえ始めたことに苦笑して涼は隣へ寝転ぶ。

 これで明日も元の調子に戻っているはずだ。

 彼女を理解しているからこそ、多少の無理をさせ、何度もイカせた。これで元通りになる。

 

 普段、千冬は弱音を吐かない。あまり他人を頼ったりもしない。そうして溜まった疲労やストレスを解消してやることも涼の役目の一つだった。

 彼女が唯一甘えられる相手。むしろ本望というもの。

 これほど愛され、愛情を明確にぶつけられるのは男冥利に尽きるので、彼は喜んでいた。ただ、今日のところは眠ってくれたが、体調まで万全であると朝日が出ても終わらなかったりする場合があるため、喜んでばかりもいられないのだが。

 

 こうして制御できるようになるまで何度涙を飲んだか。

 力ずくで無理やり押し倒されたり、精根尽き果てるまで搾り取られたり、それでも飽き足らずに様々な変態行為を強要されたこともあった。

 悪い思い出ではないのだが、思わず溜息をついてしまいそうになる。

 

 今日などはまるで天使の寝顔。見ているだけで驚くほど癒された。

 微笑む涼が彼女の耳元へ唇を寄せ、囁く。

 

 「まぁ、変態な千冬さんも大好きだけどね。おやすみ、千冬さん……また明日ね」

 

 額に軽くキスをした後、彼女の体を抱きしめて自らも目を閉じる。

 自分も少なからず疲れていたのか、すぐに眠りに就いた。

 抱き合って眠るのはどんな環境よりも居心地がよく、安堵を覚える。眠っているはずの千冬はいつの間にか表情が変わって、笑みを浮かべる安らかなものとなっていた。

 



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コミュ形成(ペルソナ3)

 「おはようございます。起きてください」

 

 まだ眠い。起きたくない。せめてもう少しだけ……。

 そう思ってるのに体を揺する誰かは手加減してくれない。何が何でも僕を起こすつもりだ。そうしようと思った訳じゃなく、寝ぼけたままで寝返りを打ったみたいだけど、それすらも許されずに両手でひっくり返された。

 

 瞼が重くて開けられない。でもこれ以上無理に動かされるのも嫌なので必死にこじ開ける。

 場所は寮の僕の部屋。僕のベッド。その隣に少し前に知り合った女性が立っていた。

 

 どうしてここに居るんだろう。

 銀髪のショートカットで日本人離れした風貌。瞳の色なんて金色だ。

 身に着けているワンピースも帽子も青色。妙に目立つが彼女にはよく似合ってる。

 

 彼女は、ほんの一ヶ月ほど前に不思議な空間で出会った女性だった。日頃よく会ってはいるけど会う場所は決まっていたし、今まで僕が住む寮に来たことはなかったはず。それがなぜ今日は朝から僕の部屋に忍び込んでいるのだろう。

 薄く微笑む顔はきれいだけど今この状況では素直に喜べない。

 何よりもまず眠い。僕は体を起こすこともせず、横になったまま彼女を見上げた。

 

 「よく眠れましたか? 今日はあなたにお話があって参りました」

 

 窓の外を見ればまだ空が白み始めた頃。

 なぜこんな朝早くから?

 尋ねてみると彼女は笑顔で話す。

 

 「この時間でなければ私の姿が誰かに見られてしまう可能性がございます。それは好ましくないのでしょう?」

 

 確かにそれはそうだ。

 僕はこの春から月光館学園に転入し、寮生活を始めた。ここには僕以外にも男子生徒、女子生徒が住んでいて、彼らは仲間でもある訳だが、彼女と知り合った経緯は話していない。僕らは一般生徒が知らない秘密を共有しているけど、仲間でさえ知らない秘密が僕にはある。

 それが今目の前に居る彼女と、彼女がいつも待っている不思議な部屋の存在。

 知られない方がいい、と判断したのは僕の勝手だ。これからも明かすつもりはない。

 

 それは置いておくとしても、つい先日彼女に依頼されて、町を案内したばかり。色々と突飛な行動を取るものだから周囲の目を集めて困ってしまった。

 その経験のことも言っているのだろう。それならそうだ。確かに見られるのはまずい。

 あくまでも起きようとはせず、横になったまま頷く。

 

 「どうやら寝起きということでいつも以上にゆるいご様子ですので、このままご説明させていただきます」

 

 特に呆れた様子もなく彼女は説明を始めてしまった。

 眠いんだけど、寝ちゃいけないんだろうか。

 

 「有里湊さん。コミュニティの形成が遅れています。あなたがペルソナ能力に目覚めてからおよそ一ヶ月が経っているというのに新しいコミュができておりません。あなたが他人に興味がない性格とは理解しておりますが、これはあまりにも危機感がないのではございませんか?」

 

 なんだか小難しいことを言われている気がする。寝起きには辛い話だ。

 

 「コミュニティの形成により、新たに生み出されるペルソナはさらに強化されます。是非ともコミュニティの形成にご尽力ください。それがあなた方のためになります」

 

 うん、わかった。

 そう答えると彼女は微笑んだまま、僕の返事を聞いてないかのように話し続ける。もしかしたら無視されてしまったのかもしれない。

 

 「先日、合体事故で生まれたペルソナがあなたの手助けをしてくださるでしょう」

 

 合体事故? そう言えばそんなことがあったかもしれない。

 あの時の彼女は珍しく驚いていたみたいで、ちょうど今みたいに頬を赤く染めていた。

 

 「すごく……ご立派です」

 

 ちなみに今装備してるんだけど。

 

 「その力があれば、必ずや女性とのコミュニティ形成に役立つでしょう。下手をすれば男性とのコミュニティ形成にも役立つかもしれません。すけこましでございます」

 

 なんだかあまり嬉しくないなぁ。

 確かにこのペルソナを装備して以来、寮に住む仲間や、クラスメイト、生徒会で出会った後輩や担任の先生、果ては神社で出会った幼女までもがちょっと態度が違ってる気がする。勘違いや思い込みでなければ熱っぽい視線を感じるのだ。

 

 まさかそんな。そんなに特別なペルソナなんだろうか。

 合体事故で生まれたとはいえ、僕は普通のペルソナだと思ってた。

 確かにレベルは高い。見た目は、ちょっと変わってるかもしれないけど、それはペルソナ全体に言えることだからおかしいとは思っていない。というか完全にアレだ。似ているとかではなく完全にアレな形だ。アレなというかアレの形だ。思わず自分のを確認してしまったくらいだ。

 面白半分で装備してたら、なるほど、そういう理由でみんなに見られてたのか。

 流石に順平が鼻の下を伸ばした時は思わず殴ってしまった。つい、反射で。

 

 しかしそんなことを言われても、なぜか乗り気になれない。

 女性にモテるとか、男性にモテるとか、多少興味はあってもいざその場面になったら多分僕は誘わないだろう。人間関係そのものがめんどくさいと感じてしまうためである。

 考えてみればこうして友達や仲間ができた現状の方が異常なのだ。

 ここに来るまで、必要以上に他人と接しようとしなかった。ようやく集団生活に慣れつつあったところなのに、そこからまたコミュだのなんだの言われても無理がある。

 

 「ご心配には及びません。ペルソナの声に耳を傾ければ良いのです」

 

 はぁ。

 

 「お試しになりますか?」

 

 何を?

 

 「未経験のままではすけこますことは不可能でございます」

 

 ああ……そうですか。まぁ確かに、朝なのでそれなりの状態には――

 

 「おぉ、中々ご立派な」

 

 早いですね。まだオーケーとは言ってないのに。

 

 「ふむっ、うむっ、んっ……ぢゅるっ」

 

 お、おおっ、そんな、すぐに……。

 というか、説明もそこそこに無理やりな気がするんですけど。

 いくらペルソナの力があるからって、そんな簡単にすけこませるはずがない。コミュニティというのが必要にせよ、彼女の作戦は無理やりな気が。

 

 「流石はご立派様を宿した御方……熱くて硬くて凶悪でございます」

 

 はうぅっ。そんなところまで舐めなくても……!

 

 「この程度の刺激に耐えられなくては、コミュニティの形成に難儀致します」

 

 うっ……ふぅっ……。

 

 「おや。早い」

 

 

 

 

 今朝は大変な目に遭った。

 嬉しかったと言えば嬉しいけど、はっきり言って無理やりだ。そもそも同意を得ようという気持ちを感じなかったし、気付いた時には終わっていた。

 初めて会った時はあんな人だと思わなかったのに、最近になってはっちゃけてると感じる。

 また様子を見に来ると言っていた。不安だ。

 

 変なことを言われたとはいえ、僕は大して動揺していない。

 おかしなことが起こるのは慣れてる。ペルソナ、タルタロス、両親が死んだ事故。そういった経験は人より多くしてるつもりだ。だから、驚いてはいない。もうすでに受け止めている。

 

 今まで直面した非日常より、なんだかエロの気配を感じて、ちょっとばかり興味を持ったりもしてるけどもそれで自分を見失うほどバカじゃない。エロ漫画やエロアニメじゃあるまいし、そんなイベントがあったからって即他の女の子に手を出すとかあり得ない。実際に起きれば上手くいくはずがないし、現実はそんなに甘くないはずだ。

 そういう考えもあって僕の日常は至っていつも通りだった。

 

 今朝の襲撃を乗り越えた後、寮の仲間に挨拶をして、朝食を取って、モノレールに乗って移動して学校へ来た。

 いつも通りの風景。転校して少し経ち、この生活にも慣れた。

 今までとは違う。

 同じクラスに友人が居て、部活に所属していて、放課後にどこかへ寄り道することもあって、寮に帰っても一人じゃない。仲間が居て、なんでもない話をして、共通の目的を持って協力する。それがここに来てからの生活。

 一人で過ごして、一人の家に帰って、一人で暮らす。そんな生活じゃない。

 

 なんだか、自分が普通の人間になったような。そんな気がする。

 めんどくさい時もあるけど基本的には悪い気はしていない。もう慣れた。

 

 「有里君、さっき腰押さえてたけど大丈夫? どっか痛めた?」

 

 がやがや賑わう教室の中で自分の席に座ってると、岳羽が声をかけてきた。同じ学生寮に住んでるクラスメイトの女子生徒だ。

 うん、大丈夫。と答えておく。

 流石にありのままを伝える訳にはいかない。それにペルソナ使いになってから体力の回復や傷の治りは早い。今は直後よりもマシだ。

 

 「そう? それならいいんだけど。君は無茶しがちだからさ」

 《押し倒せ……》

 

 恐ろしい言葉が頭に響いた。

 別に驚かない。誰の声かはわかってる。というより発言内容からして他はあり得ない。

 

 《漢ならば力強く肩を抱き寄せ、唇を奪い、体をまさぐって押し倒せ! 男は度胸! 漢は更なる度胸と強引さ! さあ今すぐこの場で押し倒せェ!》

 

 アドバイスのつもりだろうか。全く参考にならない言葉が聞こえてくる。

 むしろそれは絶叫だった。

 僕が意図して無視するせいなのか、徐々にテンションが上がっていき、まだ岳羽と話しているのに邪魔になって仕方ない。ここまで来れば公害だ。

 

 「そういえば昨日部活でさー……」

 《そこだッ! 行け! 引き倒せ! 勢いに任せてスピード勝負だッ!》

 

 無視しているとどんどんうるさくなってくる。

 そんなことをすれば間違いなく大問題だ。大体ここは教室。生徒もたくさん居るし、もう少しすれば先生だって……って、そういう問題じゃない。岳羽の気持ちだってある。どんな理由にせよ無理やりはよくない。今朝僕の場合は無理やりだったけど。

 

 《テクニックが心配か? 任せておけ。わしが居れば問題なし》

 

 ちょっと、邪魔だなぁ……。

 頭の中で声が響くから、無視はできても完全に遮断することはできない。それならペルソナを付け換えればいいだけかもしれないけどそれは彼女に止められていた。タルタロスでの戦闘時ならまだしも、日常生活ではあくまでもコミュを作ることに専念してくれって。

 コミュを作るのって大変なんだな。

 

 「どうしたの? 今度は頭が痛い?」

 

 岳羽が心配そうに質問してくる。

 幻聴みたいなものが聞こえる、と答えておいた。

 

 「大丈夫? 保健室行く?」

 

 言い方が悪かったのか、心配させてしまったようだ。間違ってはいないと思うんだけど。

 一応、ペルソナが関わってると思う、と小声で伝えておいた。他人に知られてはいけない問題だけど彼女は事情を知る仲間。すると少し顔色が変わったみたいだった。

 

 「そっか。そうだよね……まだこの力のこと、よくわかってないし。しょうがないよね」

 

 岳羽は理解してくれたようだ。それと同時にやっぱり心配してくれてるみたいで、朝の時よりも心配そうな目で僕を見ていた。

 

 「先輩に言う? 何かわかるかもしれないし、そのままにしておけないでしょ?」

 

 大丈夫、と答えておく。

 どうせ例のアレが張り切ってるだけだ。そんなに大問題じゃない。

 もうすぐホームルームも始まるし、気を使ってそう言ったつもりだったけど、むしろ良くない返答だったらしい。岳羽は立ち上がって僕の手を掴んだ。

 

 大丈夫だから、と伝えても手を離してくれなかった。こういうところ、岳羽は優しいと思う。多分さっきよりも力が強くなってたかもしれない。

 授業を欠席することになるけど、別にいいか、と考えて、僕は岳羽と共に保健室へ向かった。

 

 

 *

 

 

 四方をカーテンに仕切られた狭い空間で、岳羽ゆかりは熱くなった吐息を洩らした。

 ベッドが軋む。

 上にのしかかられて、顔が近くなり、離れたばかりの唇が濡れている。こんな経験は初めてだ。彼女は目を潤ませて体をわずかに震えさせている。

 

 戸惑いはある。初めての経験に不安を抱いて、同時にこの状況を不思議に思っている。なぜこんな状況になっているのだろうと。

 普段の彼女は、いわゆるそういった行為は嫌っていたはずだ。

 それどころか男性との付き合いにも興味がなく、男性不信とまではいかないまでも、基本的に用がなければあまり近付かない節すらある。それなのに、なぜ彼に限って。つい最近知り合ったばかりの少年となぜこんなことをしているのか。

 

 いつもの自分ならこの行為を拒絶している。嫌っている。

 今まで望んだことはないし、彼氏が欲しいと思ったことも、自慰をしたこともない。

 それがなぜ、彼を相手にした時だけこうなってしまうのだろうか。

 

 転入してきた男子生徒、有里湊。

 青みがかった黒髪が片目を隠して、細身なのに意外にも運動能力は高く、勉強も得意で、いつも無表情で無気力。ミステリアスで謎が多いと評判の人物だ。

 校内には彼を気にする人物が多く、得体が知れないとして男女共に注目している。

 本人はきっと気付いていないだろうが、彼に関する噂話というのは実は多く存在していた。

 

 転校してきた当初、確かに目をかけた自覚はある。

 同じ寮に住んでいる上に、秘密を共有する仲間だからだ。

 同学年で同じクラスだったことも関係している。湊の席はゆかりの一つ後ろで、教室でも寮でも課外活動中でも話すことが多く、無気力な彼を叱咤することが日常だった。

 ただ、男として見たことがあるかと問われれば一度もない。

 ゆかりにその欲求がなかったためだ。湊の魅力に関係なくその選択肢を持っていなかった。

 

 そのはずなのに、なぜ、こんなことに。

 彼女は今、保健室のベッドの上で彼のキスを受け入れている。自ら彼の首に腕を回し、強く抱きついて、湊の手が自分の体に触れているのを止めようとしない。

 

 何かがおかしい気がする。だが何かを欲する体は、欲求は止められない。

 全身が熱くなって、意識がぼんやりしていて、ゆかりは救いを求めるように湊を見つめた。

 

 (何やってんだろ、私……こんなの、あの人みたいで、一番嫌だったのに……)

 

 服の上からぐっと胸を持ち上げられる。

 他の男ならあり得ない。彼だけだ。

 湊に触れられる度に熱い息が吐き出されて、動きに合わせて小さく声が洩れる。それが恥ずかしくて仕方ないが、嫌がる心も徐々に変化していき、少しずつ受け入れようとしていた。

 

 (結局、私もあの人の娘だから、同じだったってことかな……)

 

 あの人のようにはならない。あの人とは違う。

 そういった想いを強く持っていたのに。なんなら今も忘れず持っているのに、頭で考えていることとは裏腹に体は言うことを聞かない。

 

 (悔しいけど、でも……)

 

 湊の手がスカートの中にぐいっと入ってきて、瞬く間にショーツの中へ侵入した。

 そこへ触れられた途端、ゆかりは目を閉じて背を逸らし、体がビクッと震える。

 

 指先がぴったり閉じた割れ目を撫でていた。

 優しい、ほとんど力を感じない手つき。ゆっくり、少しずつ時間をかけて、徐々に力が込められていく。誰にも触られたことがない場所に触れられている。

 ゆかりは彼のシャツを強く握りしめ、抵抗せずにそれを受け入れていた。

 

 「濡れてる……」

 「やっ……言わないで……!」

 

 言葉を紡いだ少し掠れた声。

 いつもの彼とは違う。色っぽい、セクシーとも称すことができる様子。

 顔がすぐ傍にあって小声でもはっきり聞こえたため、ゆかりの体は反応せずにはいられない。

 

 とろりとした体液が湊の指に付着する。

 彼が手を上げたことで糸を引いて、湊はその様子に感動してすらいた。

 

 初めてという言葉を聞いたせいか、彼の愛撫はひどく優しい。割れ目をなぞるように指で撫で、少しずつ力を入れてその奥までこじ開けようとする。

 時間をかけて、彼女の反応を見ていた。

 肌が触れるほど近いゆかりの顔。呼吸は荒くなり、快感よりも羞恥の方が大きいらしい。顔は赤くなって恥じらいを隠しきれなかった。

 

 ぐにぐにと動かされていて、その様子が如実に感じ取れるのが複雑だった。

 ゆかりは彼の胸に顔を押しつけ、必死に羞恥に耐える。

 今はまだ快感を得られるほどの余裕がない。他人に秘部を初めて触られていて堂々としていられる人物などいようか。少なくとも彼女は辛そうにもしていた。

 

 先に緊張をほぐすため、湊は彼女の体に優しく触れる。

 股を触るのはゆっくりとでも慣れてもらうためだったが、意外にも大きい胸を揉むのは彼の好みの問題であった。

 

 「んっ……ん……ふっ……」

 

 ゆかりの反応は初々しく、声を押し殺して体を小さくしようとしている。

 湊とてほとんど童貞に近い状態であり、彼女の反応は愛らしく好意的に受け取れるものだった。それだけに行う愛撫も優しさに満ちている。

 

 彼女の反応こそ嫌がっているかのような素振りだが、体を見れば違った。乳首はピンと立って存在感があり、秘所を触っていると勃起したクリトリスが指に当たる。

 触っている内に湊の興奮も高まっていった。

 外見こそ普段と変わらないものの、服の下ではペニスが痛いほどに勃起している。

 

 「んんっ、はぁっ、んっ……!」

 (指……入れたいなぁ)

 

 ぼんやりと思いながら彼女の股を撫でる。

 触れるのに慣れてくれば薄い陰毛すらも愛しく感じて、戯れに軽く毛を引っ張ってみたりした。すると目を潤ませたゆかりが睨んでくる。どうやら怒っているようだがそんな表情すらも愛しくて湊は薄く笑みを浮かべた。

 

 湊の指が膣の入り口に触れた。

 ビクッと震えたゆかりの表情が変わる。

 その顔をじっと見つめながらゆっくり指を沈めようとする。ゆかりはぎゅっと目を閉じた。恐怖心は少なからずあるが抵抗する様子は見られない。

 きっと膜があるだろうと想像しながら、あまり入れ過ぎないよう気をつけて指を挿入する。

 濡れてほぐして、その甲斐があった様子でつぷりと入り込んだ。

 

 溜息が洩れる。おそらく二人同時にだ。

 ある意味で一線を越えてしまったかのような、そんな実感があった。

 ゆかりは恐る恐る目を開けて湊を見上げ、湊は彼女の不安そうな顔を見つめる。

 

 「はぁ……なんだろう、これ……」

 「ん?」

 「もう、わかんないよぉ……」

 

 再び首に腕を回して、首筋に顔を埋めるようにして抱きついた。

 湊はそうしたゆかりを受け止めながらゆっくり指を動かし始める。

 

 激しくすればいいというものではないだろう。時間をかけて緩やかな刺激を与える。あまり激しくし過ぎないように自分自身を抑えた状態だ。

 幸い、性格的に彼はあまりテンションが上がる性質ではなく、常に冷静さを失わない。

 初めてといってもゆかりを不安にさせない程度には頼りになりそうな風格があった。

 

 「んっ、んっ、んっ――」

 

 穏やかに小さく、消え入りそうな声で鳴く。

 決してまだ受け入れきれてはいない。不安や戸惑いは残っていた。

 それでも、献身的な湊の態度に感化され、少しずつ彼女の気持ちも彼に向いてくる。

 バラバラになっていた心と体が少しずつ合わさっていくかのようだ。

 

 湊がゆかりにキスをした。彼女もすぐに目を閉じる。

 唇を押しつけ、ほんの少しだけ動かす。最初はぎこちなかったゆかりも慣れようとする努力が感じられた。そう知ってから舌を出してみた。

 

 指先に少し力が入った。制服をきゅっと握られる。

 抵抗らしい抵抗はないと感じて、湊は彼女の唇に触れ、その奥へ侵入しようと割って入る。

 

 初めて舌が触れ合った。

 同時に、膣内にほんの少しだけ入っていた指がピクッと関節を曲げ、彼女の腰が揺れる。

 深いキスをしたまま、示し合わせた訳でもなくお互いの目が開き、至近距離で見つめ合う。今の気持ちを的確に表現することはできない。だが幸せだった。

 ゆかりは確かに幸福感を実感していて、ようやく彼を真っすぐ見ることができた。

 

 「ふぅっ、んっ……はっ、あっ」

 

 強く抱きついて貪るようにキスをする。

 舌を擦って、絡めて、吸って。何度も何度もそうする。

 ようやく何かが弾けたのか。ゆかりは自ら彼を求めていた。強く、強く。片時も離れたくないとでも言うかのように腕に力を込める。深く深くキスをする。

 

 (もう、わからないけど……)

 

 自分の中から消えていく。

 正気も、冷静さも、異性への拒否感、嫌悪感、今だけは母への想いも。あらゆるものが霞の如く薄れていき、どこかへ消えていく気がする。

 これが良い変化なのか、それとも悪いことなのかは彼女にもわからない。正常な判断力は今はなくなっている。今後もずっと変わった状態のままなのか、それも想像できなかった。

 ただ、彼には、有里湊には任せてもいいと思った。

 体を委ねて、心を預ける。それでもいいと思える人だと感じていた。

 

 気付けばゆかりの膣からは、小便を垂らしたかのように愛液が出ていて、シーツをびっしょりと濡らしていた。

 些細だとしても大きな変化は湊も感じ取っていた。

 膣から指を抜いて、自らの意思でゆっくりと体を離す。

 

 ベッドに横たわった彼女はひどく色っぽかった。

 力が入らず四肢を投げ出して、潤んだ瞳は逃がさずに彼を見ている。

 湊もその目を見つめ返し、そうしながらズボンを脱いだ。

 

 服を脱ぐ暇も惜しいと言わんばかりに、制服のズボンと下着を同時に下ろして、膝辺りまで下ろすとそれ以上は脱ぐのをやめて動き出した。

 天を向いていきり立つペニスが解放される。

 おそらく以前とは違い、ゆかりはそれを見ても怯えず、むしろ期待するように確認した。視線はすぐに湊の顔へと戻り、彼が来るのを待つ。

 

 再び彼が覆いかぶさって体が近くに来た。

 ゆかりはすぐさま湊に抱きつき、背中に両腕を回して胸に顔を擦りつける。

 

 体がぴったり触れ合うため多少の動きにくさはあったが、湊は自分のペニスを握り、腰の動きだけでゆかりの膣を探し当てて先端を触れさせた。多少の不安や驚きはあっただろうが逃げる素振りはない。拒否する意思は消えていた。

 気遣いはあったが彼自身も我慢していたのだ。

 意を決して腰を前へ突き出し、徐々にという動きを意識しながらペニスを挿入する。彼女の膣はすでに濡れそぼっていて、しかしぴたりと閉じたままで強引にこじ開けるかのようだった。

 

 ゆっくり、壁を一枚ずつ壊すかのようにペニスが奥へ進んでくる。

 決して楽ではなかった。ゆかりは強く抱きついて必死に耐える。痛みらしいものはあまりない。とはいえ慣れていないせいか、表情は優れず、快感だと感じる余裕もない。

 

 一方の湊は見るからに表情が変わっていた。

 辛そうにも思える顔である。目を細め、歯を食いしばり、体に力が入っていた。

 

 男を知らない体は彼を強く締めつけ、少しとはいえあったはずの余裕や冷静さをあっという間に失わせる。全く予想していない感触であった。

 身じろぎするだけで暴発しそうになる。これほどの刺激があるとは驚きだ。

 苦しさを感じているゆかりとは対照的に、湊は凄まじい快感だけを感じていた。

 瞬く間に呼吸が乱れる。吐き出した息が彼女の顔に当たり、ゆかりはぞわぞわとそれだけは快感のように感じていた。

 

 「うぅっ……ふぅんっ、んんっ……!」

 「入っ、た……」

 

 全身に力が入っていたがなんとか奥へ進むことができた。

 湊の呟きを聞いたゆかりは目を開け、彼の顔を見上げて質問する。

 

 「入ったの……? 全部……?」

 「うん……多分」

 「そっか――」

 

 目を閉じて唇を突き出したゆかりは、何も言わずにキスをねだった。

 すぐに理解した湊は彼女と唇を合わせる。

 触れたまま胸を触り、制服の上からではどこかもどかしく、深いキスに移行しながら生で触りたいと考え始める。しかしそれほど時間を使っていいものか。

 ゆかりにはあまり余裕がなかった。湊もそうだ。いつ暴発してもおかしくない。

 必死に尻の穴へ力を入れて堪えながらのキスは彼にとっても辛かったらしい。

 

 やがて唇を離して見つめ合う。

 ゆかりは恥じらった様子で目を閉じると、震える声で呟いた。

 

 「いいよ……好きにしても」

 

 どういう気持ちだったかは知る余地がない。だが湊にはその言葉が突き刺さった。

 彼はまず最初に制服を脱がし、ブラジャーを外して上半身を裸にすることから始めた。瞬く間に露わになった胸は形が良く、乳首がピンク色で、見ただけでペニスがさらに大きくなる。

 膣内でその動きを感じ取ったゆかりは声を洩らし、恨めしそうに湊を見る。

 

 「男ってやつは……そんなに胸が好きかな」

 

 呆れたような口調に感じた。しかし湊は反応せずに胸へ集中している。

 身じろぎ一つでふるりと揺れる乳房を見下ろして、嬉々として手が伸ばされた。

 指を開いてぎゅっと掴み、その柔らかさを確かめる。指を埋めたり、揺らしたり、まるで玩具のように扱って遊ぶ。そうする様は無表情でも楽しそうだった。

 

 ゆかりは彼の顔を見上げて恥じらう。

 まさかそんなに楽しそうな顔を見ることになるとは思わなかった。

 自分の胸を触って幸せそうな彼になんとも言い難い感情を抱く。

 

 「んっ、ふっ……ねぇ、いつまで触ってるの?」

 「え?」

 「別にいいんだけどさ……あんっ」

 

 初めてゆかりから甘い声が出た。湊が彼女の乳首を口に含んだのだ。

 舌で転がしたと思えばちゅーちゅー音を立てて吸い始める。どうも調子が狂ってゆかりは困惑していたようだった。

 

 しばらく彼は熱中していた。

 膣に挿入して、射精感すら忘れて、胸にばかり気を取られて他の一切を横へ置いておく。

 

 散々彼女の胸を揉み、乳首を吸った結果、それが良い方向へ転がったらしい。されるがままで困惑していたゆかりだが緊張がほぐれて快感を得るようになっていたのだ。彼が胸を弄る度に甘い声が洩れ、赤面して目は潤み、腰がぎこちなく揺らされている。

 彼女が自分から腰を動かそうとしていたことでようやく湊も思い出した。

 そういえば射精するギリギリだったと気付き、また息を詰まらせる。

 

 「あっ、ふぅ、んもうっ……!」

 「ごめん、そんなにもたないかも……」

 

 両手で胸を掴んだまま湊が言った。ゆかりはぐったりした様子で辛うじて答える。

 

 「いいよ……ここまで来たんだし、全部好きにしていいから。好きに動いて……」

 

 頷いた湊が動き出す。

 ゆっくり腰を前後させて、ピストン運動が始まった。

 ペニスが奥まで進んだかと思えば入口へ向かっていく。途中でカリが引っ掛かり、抜かれる動きで力が抜けて息を吐き出すが、奥まで入ってくると逆に息を呑む。

 

 訳も分からず、ゆかりは湊にしがみついてそれらを享受していた。

 気持ちいいのか否か、それすらもわからなくなる。だが少なくとも嫌ではない。彼がそうして自分の中で動いていることが幸福に感じられた。

 

 (あぁ、すごい……)

 

 ずっ、ずっ、と一定のペースで動いている。

 感触が伝わり、形がわかる。

 必死になっていてもゆかりは彼のペニスを意識せずにはいられない。

 

 (わかんないけど、これ……なんか、いいかも)

 

 甘い声が洩れる。

 突かれる衝撃で途切れ途切れになり、その声が湊の体を熱くさせる。

 

 初めから痛みはなかった。今や戸惑いも消えてしまい、ゆかりは性交の快楽に酔いしれる。湊の息遣いや体温を感じて、それが安心できるものに変わっていた。

 今まで知らなかったものに身を包まれる。

 何も考えられなくなった時、真っ白な世界には湊の存在だけが残る。

 

 腰の動きが速くなる。限界を超えていよいよ最後の瞬間だ。

 湊は必死に堪えて、最後の最後まで腰を叩きつける。

 ゆかりも声を抑えられず大声で喘いでいた。

 

 「あっ! あっ! んんっ……あぁっ!」

 「うっ、くぅっ……!」

 「んああっ! あああぁっ!」

 

 一瞬、ペニスが大きく膨らんだ気がした。

 直後には破裂するかのように体液が飛び出して膣内に注ぎ込まれる。もしかしたら子宮に届いたかもしれない。奥へ奥へと来る液体を感じずにはいられなかった。

 意外と悪くない。息を切らして呆けるゆかりはそう思う。

 竿の律動が止まるまで動かず、二人は強く抱き合ったままだった。

 

 「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……!」

 

 やがて出し切った後、ぐったりした彼らは重なった状態で動かなくなる。

 荒い呼吸音だけが室内に響く。

 保険医が居なくて良かった。居れば全て知られていたであろう。ひょっとしたら声が大き過ぎて廊下まで聞こえていたかもしれないが、誰も居なかったことを願うばかりだ。

 

 先に余裕を取り戻した湊がゆかりの顔にキスをした。頬や額、或いは唇にキスを与えて触れては離れを繰り返す。息を乱していた彼女もそれに気を良くしていたらしい。

 ようやく落ち着こうとしていた。ゆかりは彼の胸に顔を埋めて穏やかに目を伏せる。

 

 「ん、はぁ……しちゃったね」

 「うん。ありがとう」

 「別にいいけど……なんか……はぁ」

 

 頭の中に声が響く。

 湊はハッとした様子で目を見開いた。

 

 【有里湊は“恋愛”のコミュを手に入れた】

 

 あらゆる意味で満足感を覚えながら湊は視線を動かす。

 ゆかりは落ち着いて、今まで見せたことがないほど安堵した顔で湊に抱きついている。

 そんな彼女の頭を撫でながら、湊はなぜかベッドを囲うカーテンの下に目を向けた。

 

 彼特有の冷静さで一切反応は見せなかったものの驚愕する。

 カーテンの下から青い帽子を被った女性、エリザベスが覗き込んでいたのだ。

 彼女は湊と目が合うとにこりと笑いかける。

 そしてぐっと親指を立てて見せた。

 

 (グッドジョブでございます。ナイスピストン)

 (見られてた……)

 

 流石に声はかけられなかったとはいえ、一部始終を観察されていたかもしれないと思い、今までの最高な気分が微妙なものに変わってしまう。

 それでも、彼も図抜けたマイペースさを持つ人間だ。

 まぁいいかと考えて、エリザベスから目を離し、そのままゆかりにキスをした。

 




 《傷ついた娘は大いなる胸で受け止めるべし!》
 (チェンジしようかな……)


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Escaper(バイオハザード)

 きっかけを掴むことさえできず、町は突如として崩壊した。

 至る所から上がる火の手。人々の悲鳴が木霊し、道を塞ぐ車が放置されて、逃げ惑う人々はどこへ向かえばいいかもわからずに、ただ餌となるばかりだった。

 被害は拡大。異変は拡散されていく。

 もはや止めることなどできない。その日、ラクーンシティは完全に崩壊したのだ。

 

 どこからともなく現れたゾンビたちが人々を襲い、町は混乱状態にあった。

 初めての被害から数時間。

 ゾンビに噛まれた者は同じくゾンビになってしまう。今や町はゾンビだらけになり、正常な人間など探す方が手間になるくらい見当たらなかった。

 

 その中で唯一、この状況を冷静に見据えて、町から脱出しようと考える女性が居る。 

 ジル・バレンタインである。

 彼女は以前経験した“洋館事件”においてゾンビ、或いはその原因となった組織に直面した。これほどの事態になるとは予想していなかったが驚きよりも正義感が勝る。原因を知っている。必ず生き延びて彼らを止めなければ。そういった強い意思があった。

 

 故にジルは一人で路地を走る。

 手には拳銃。頼りないがないよりはマシだ。

 ゾンビとて不死ではない。動かなくすることはできる。

 ここまでの道中、できる限り回避して、不可能な場合はゾンビを無力化してきた。暗闇に包まれた町の中でもジルの目は輝きを失っておらず、希望を持って町からの脱出を目指している。

 右も左もゾンビだらけ。過酷な状況だ。しかし方法はあるはずだった。

 

 アパートを出てからどれだけ経っただろうか。

 覚悟はしていた。しかし町にあるのはゾンビだけではない。できるだけ人目につかない細い路地を通ってはいるが、至る所に人間の死体が目についた。

 

 大抵はゾンビに襲われて死亡していた。肉が噛み千切られて一部だけがごっそり抉られ、中には食べられ過ぎて体がバラバラになり、肉片と化している死体もある。年齢を問わず、大人は当然として子供も死んでいる。それらを見つけ、通り過ぎる度に気が滅入った。

 この町はすでに狂気に囚われていた。

 ただ立っているだけでも感じる死臭や死の気配。ずっと居るだけで精神が崩壊してしまう。気を強く保たねばどうなってしまうかわからないだろう。

 

 ジルは自分を奮い立たせて、必死に足を動かして前へ進む。

 そうしているとやがて遠くの方から銃声が聞こえた。

 

 ひょっとして生存者が居るのか。

 ジルは銃声が聞こえた方角へ急ぐ。

 幸いにも付近の路地裏にはゾンビが居なかった。おそらく大通りの方には大勢居るが彼らは思考を持たない“歩く死体”。何かを考えて動いている訳ではない。従って狙ってジルだけを追ってくるようなこともなかったのだ。

 

 入り組んだ道を一方向へ進んでいると、やがて人の姿が見えた。

 生きている人間、なのだろう。おそらく。確証はないもののそう思った。

 ショットガンを肩に担いで、死体を引き摺っている。片手で襟首の辺りを持って歩いていた。どうやらすでにゾンビ化した人間らしい。

 暗がりでよく見えなかったが人間だろうと思う。

 ジルは警戒しつつ、恐る恐るその人物の方へと歩みを進めていった。

 

 「あなた……人間なの?」

 

 死体を引き摺っていたせいで歩みは遅かった。重そうにしながら無表情で運んでいる。

 一瞬足を止めてジルの顔を確認した。

 男はすぐに興味を失った様子で再び歩き出す。

 

 「もう違う。この町に人間なんか居ねぇさ」

 「どういう意味?」

 「見ろ」

 

 そう言って男は立ち止まった。

 中年の男である。禿げあがっていて頭髪は薄く、でっぷりと太って腹が出ていた。肌が薄汚れているのは町がこんな状況だからか。服には返り血が見られ、戦いの名残が感じられた。

 

 男は自分が引き摺っていた死体を見ろと言っていたようだ。

 ゾンビになった変化が見られる。もう動いていない。彼がとどめを刺したのだろう。

 

 「こいつが何に見える?」

 「……人間ではないわね」

 

 苦悩するジルは顔を歪めてそう言った。

 戸惑いがない訳ではない。だがそう判断するしかなかった。

 するとその男は平坦な声で淡々と告げた。

 

 「ああ、俺もこいつと同じだ。こいつらを殺して回ってる。人間だったこいつらをだ。もう人間なんて呼べねぇ」

 「あなたは正常よ。自分の身を守るのは必要だもの」

 「それも違う。俺は自分を守りたいんじゃない」

 

 男は視線を切って歩き出した。話を聞こうとはしていない。

 

 「俺はもう死にたいんだ。その前に俺の仲間だった連中を楽にしてやりたい。それだけさ」

 「待って……あなたは生きてるのよ。諦めちゃだめ。この町を脱出すれば――」

 「俺には無理だ」

 

 急に立ち止まって肩を落とす。ひどく寂しげな後ろ姿に見えた。

 やはりこの町は狂気に囚われている。

 死んだ人間を無理やり動かし、生き残った人間でさえおかしくしてしまう。

 

 「もう、俺は生きられねぇ……今はただ早く楽になりたい」

 

 掠れた小声で呟いた時、淡々としていた彼の弱みが見えた気がした。

 再び歩き出した男の背を、ジルは止めることができなかった。

 彼には生きる気力が残っていない。止めたところできっと彼は動かない。止めたい気持ちがあるだけでは、人を救うことなどできない。

 

 辺りにゾンビの姿がなく、立ち止まる余裕があることも不幸だった。

 ジルは去っていく背中を見送ることしかできずに、悔しさで険しい表情をする。

 

 ぽつぽつと雨が降り始めていた。

 

 

 

 

 生存者は居る。

 さっきの男を見て確信した。数は多くないだろうが生き残っている人は居るのだ。

 一人でできることには限界がある。ここに仲間が居れば別だったろうが今は自分しか居ない。このまま一人で行動するより、誰かと協力した方が生存率はずっと上がる。そう思ったジルは希望を見出して細い道を歩いていた。

 

 雨脚が強まっていた。服が濡れて重くなり、雨粒が絶え間なく肌を打ってくる。

 体が凍えてしまいそうだ。だが悪いことばかりでもなかった。雨で視界は悪くなっていた。

 ただでさえ人間よりも感覚が鈍いゾンビはこの雨のせいで音を聞き取ることができず、視界が悪くて人の姿が見つけられない。ジルは何度かゾンビを回避したことでそう判断していた。

 

 濡れた髪を掻きあげる。

 着ているのは私服だ。肩を露出して、スカートも短く長い脚を出している。雨に濡れて体は着実に冷えていて、どこかへ入った方がいいかとすら思い始めていた。

 

 先を急ぐ気持ちと理由はある。しかし焦ってはいけない。

 確実な脱出こそが大事で、小さなミスの一つでさえ命取りだ。

 

 歩みを止めなかったジルが表情を変えて足を止める。

 大通りに差しかかっていた。路地の中とは違って無数のゾンビが歩いている。雨で視界が悪いとはいえ見つからずにやり過ごすというのは難しい。なにせ、ラクーンシティに居た人間のほとんどがゾンビになったのだ。漠然と影を見ただけでも道を塞がれそうなほど多い。

 

 やり過ごすための方法を考えなければならない。

 足を止め、建物の陰へ隠れたジルは考える。

 持ち主を失った車が至る所に放置されている。隠れながらならば進めるだろうか。

 

 大通りの様子を窺いながらルートを考えていた時、背後でパシャっと音がした。誰かが水溜りを踏んだだろう物音だ。

 ジルは咄嗟に振り返って考える間もなく拳銃を構える。

 素早い動きで迷いがない。相手が誰だろうとすぐに引き金を引ける体勢だ。

 

 振り向いて視界に納めたのは、両手を上げた人間だった。

 降参の意思を示しているらしい。ゾンビではないようでジルは眉を動かす。

 立っていたのは若い青年。服装は汚れているがゾンビ化していない人間のようだ。

 

 「待ってくれ。落ち着いてくれ……僕はゾンビじゃない」

 

 銃口を突きつけられた状態で冷静に話していた。この状況を理解して受け止めているのだろう。自分の身の心配よりまずジルの誤解を解こうと必死だった。

 人間ではある。だが危険でないと決まった訳ではない。

 ジルは銃を突きつけたまま応対した。

 

 「そのようね……だけど、安心していいのかしら?」

 「落ち着いて聞いてくれ。僕は町を回って生存者を捜してる。安全な場所があるんだ。そこに無事だった者たちが集まってる」

 

 話す口調や態度、目付きを見て危険は無さそうだと判断したのか。拳銃を持ってはいるが腰にあるホルスターへ仕舞ったまま。おそらく敵対する気はないらしい。

 ようやくジルが銃を下ろす。

 落ち着いて話せると思って青年も両手を下ろした。

 

 「何が起きたかは知らないがこの状況だ。協力しないと生き残れない。違うか?」

 「生存者の数は?」

 「僕を含めて十二人。君が居れば十三人になる」

 

 数を聞いてジルは驚く。

 この状況下でずいぶんな人数。拳銃を持ってはいても警官や軍人には見えない。それなら彼は素人なのだろうか。それにしては行動力がある。

 

 「あなたは?」

 「僕はウォード。学生……だったよ。少し前まで」

 「そう。疑ってごめんなさい」

 

 端整な容姿を持ち、柔らかい物腰で丁寧な口調。町へ出て人を探すなど勇敢である一方、気弱とは言わないが強さを感じさせない態度であった。

 この状況下だ。人と会えたことは素直に嬉しい。

 ジルは先程の態度を謝罪し、彼を信じることにする。

 

 「安全な場所って?」

 「近くのビルだ。バリケードを作って物資を集めた。そこなら心配ない」

 

 その程度では安全とは言えない。問題を解決したことにはならないのだ。

 そう思ったジルだが助けであることは間違いない。

 現状、味方もおらず辛い状況にある。協力できるならばそれに越したことはない。

 

 「そう……わかった。案内してくれる?」

 「こっちだ。ついてきてくれ」

 

 彼女はそこへ向かうことに決めた。

 体が冷えている。少し休むことも必要かもしれない。

 ウォードと名乗った青年に連れられ、彼女は再び路地の中を歩きだした。

 

 歩いている最中、二人の間に会話はなかった。

 疲労感が無視できず、事件発生後に休む暇がなかったジルは溜息をつく。そこへきてこの雨だ。余計に体力が奪われて顔色が変化しつつあった。

 少しでも休むことができれば、もう少し頭も働くかもしれない。

 今は何も考えたくない。歩いている時も周囲への警戒を怠ることなく、彼女の目は鋭さを増す。

 

 無言のまま歩き続けて目的地が見えた。

 乱立するビルの一つ。そこへウォードが向かっていく。確かにバリケードらしき物は作られていたが、あくまで気休め程度の物で安全とは言い難い。路地を通って到着したのは裏口だ。見え辛い位置にあるから気付かれにくいというのはわかる。しかし心配不要という訳ではないだろう。

 思わず不安を抱いたジルを気にすることもなくウォードがバリケードをくぐって扉を開ける。

 そこでジルを待ち、自信に満ちた顔で彼女に振り返った。

 

 「さあ入って。ここなら大丈夫」

 「ねぇ、ちょっといい? これじゃ安全とは言えないわ。一人や二人ならまだしも、人数が増えれば間違いなく破られる」

 「心配いらないよ。ついてきて。ここには僕の仲間も居る」

 

 なぜそれほど自信があるのだろうか。よっぽど頼りになる仲間でも居るのか。

 疑問を解消できないまま、仕方なくジルもバリケードをくぐって扉まで移動する。

 

 ビルの内部へ入った。

 照明はついておらず薄暗い。だが少なくとも雨に濡れる心配は無くなってほっとした。

 見た限り内部は荒れているが、物が散乱している程度で、死体があったりゾンビが居る様子は無さそうだ。そうでなければ彼らも拠点に決めないだろう。

 

 ウォードの案内に従って階段を上り、二階へ上がる。

 目指していたのは廊下の突き当たりだ。

 どうやらそこが一番大きい部屋のようで、扉の前に立つとウォードは彼女に先を促す。

 

 「どうぞ」

 

 促され、怪訝な顔にはなってしまったがジルが扉の前に立つ。

 中から声が聞こえた。それも大きな声で何か違和感がある。

 本当に安全なのだろうか。

 不安が頭をよぎったがここまで来たら仕方ない。意を決して扉を開ける。

 

 まず最初にねっとりした空気を浴びた。

 甘い香りが広がり、久しく死臭しか嗅いでいなかったジルは思わず頬を緩める。しかしその直後に再び表情は強張った。

 

 女の大声が聞こえてくる。それは楽しそうに、幸せそうに弾んでいた。

 男の声が聞こえる。楽しそうなもの、くぐもったもの、叫ぶようなものもある。

 

 部屋の中には裸の男女が居た。

 ウォードが言った、ウォードを除いた十一人。全員が裸になって絡み合っている。

 歓喜に震える女の嬌声が鼓膜を震わす。小さく声を震わせた男が腰を振る。地面に敷かれた赤い絨毯は彼らの体液で汚れていて、所々に大きなシミがあった。

 男が七人。女が四人。

 数は合わない。そのため一人の女に三人の男が群がっていて、逆に一人の男に二人の女が絡みついている姿もはっきり見えて、奥には休んでいる男も見える。

 

 彼女はようやく我に返った。

 この町はもう狂っている。生き残った人間が正常であるはずがない。

 やっと理解した時、ジルは一心不乱に快楽に耽る人間の姿をまざまざと見て、吐き気を覚えた。

 

 「これは……」

 

 立ち尽くしたまま動けない。目の前の状況を受け入れられない。

 ジルは顔色を青くして、肌に纏わりつく粘ついた空気に嫌悪感を覚えていた。

 

 彼女の背後でがちゃんと音がした。扉を閉めて鍵までかけられたようだ。

 振り返るとウォードしか居ない。彼が扉を閉めた。

 つまり、初めからこれが目的だったのだ。彼女をこの場所へ連れ込み、仲間にする。ただそれだけのために学生であるウォードが外へ出て仲間を探していた。この狂った世界へ誘うために。

 

 警戒したジルが身構える前で、ウォードは背を向けたまま上半身の服を脱ぐ。

 シャツを脱ぎ捨て、細く白い裸体を露わにして、薄く微笑む彼がジルに振り返った。その時の彼は出会った時とは別人。明らかに顔つきが違っていた。

 

 「さあ、ジルさんもどうぞ」

 「何を言ってるの……? これは何? 今の状況がわかってるの?」

 「幸せになる方法です。僕らは守られている。僕らは救われる。身も心も解放するんです」

 「近寄らないで!」

 

 ジルの声がキンっと響いた。室内は一気に静かになる。

 振り向かずとも全員の目が自分を見ていることは理解できた。気配を感じる。異様な空気に包まれていて、聞こえていた甘い声が消えたことで恐ろしいほどの沈黙が広がる。

 

 そんな中で一人の男が立ち上がった。二人の女を相手にしていた中年の男だ。腹が出っ張って体格も良く、スキンヘッドにしていることもあって厳めしい外見に見える。

 新たにやってきたジルを見て彼は優しく微笑んでいた。

 きっと不安に思っているのだろう。ジルの状態を見てそう判断し、優しく声をかける。

 

 「どうされましたか? そんなに大声を出して」

 「あなたたち、今町がどうなっているかわかっているの?」

 「わかっていますとも」

 「それならなぜ、こんなことをしているの。この町から出ないと。ここに居たって何の解決にもならない。そんなことをしていても解決には――」

 「なりますよ」

 

 振り向いたジルは顔だけを彼に向けていた。

 その男は、目を爛々と輝かせていて、もはや正気とは思えなかった。

 

 「我々は救われる。我々には愛がある。愛を信じ、愛を感じ、愛に包まれて生きるのです。そうすれば救済は必ず来たる。我々を認めて。我々を信じて。我々に報いる」

 「何を、言って……それが、あなたたちのしていることと何の関係があるの?」

 「我々は家族です。共に喜び、共に悲しみ、共に怒り、健やかなる時も病める時も共に過ごし、乗り越える。すなわち、そう――」

 

 男は両手を広げて、不気味にも見える恍惚とした顔で言った。

 

 「我々は一つになるのです」

 「おかしい……狂ってるっ。あなたたちは、今を見ようとなんてしていない。ただ現実逃避をしているだけよ」

 

 男が手を下ろした。

 それとほぼ同時にジルの視界がわずかに揺れる。体から力が抜け、危うく転びかけて慌てて足に力を入れた。突然妙な脱力感に襲われたのだ。

 原因は何だ。焦った彼女は室内に目を走らせる。

 さっきから今でもずっと感じている甘い匂い。理由はこれしか考えられなかった。

 

 (薬……? 一体、何の……)

 

 部屋の中央にガスコンロを置いていた。そこに鍋をかけ、中にある液体が水蒸気になって室内を満たしているらしい。

 ただの水であるはずがない。薬か何かが混入されていたはずだ。

 だんだん力が抜けてくる。ついにジルは地面に膝をついてしまい、動けなくなった。

 

 ウォードがズボンと下着を脱ぎ捨ててジルの前に立った。

 徐々に体の自由が奪われていくのを感じながら、ジルは彼を見上げる。

 

 勃起してカウパーを垂らすペニスが目の前にあった。

 彼女とて経験はある。見たことだってある。だがこの状況で見るそれは、以前とは違い恐怖心しか与えられない。危険だと感じているが逃げることすらできなかった。

 

 「彼女をこちらへ。家族になるための洗礼を済ませなければ」

 

 スキンヘッドの男が呟いた。

 反応したのはウォードで、ジルの体を抱え上げると部屋の中央まで運ぶ。

 

 どこかから持ってきたであろうマットの上に寝かせられて、ジルは重くなる瞼を必死にこじ開けながら周囲を眺めようとしていた。

 これから何をされるか、予想できないほど馬鹿ではない。

 目を閉じて逃げるつもりはなかった。この状況すらも乗り切り、この町を脱出してみせる。彼女の決心はむしろ強くなっていたようだ。

 

 「あなたたち……ただじゃ済まないわ。覚えてなさい……」

 

 力が入らない。瞼が重い。それなのに意識は鮮明で誰がどこに居るかよくわかる。

 全身が熱くなっていた。おそらく薬を盛られた影響だろう。腕も足も動かせないのに、股を開くだけの余力はあって、下着が意味を為さないほど股が濡れていた。

 

 ウォードと男の一人が服に手をかける。

 動けないジルから服をはぎ取り、あっという間に裸にしてしまった。

 

 大きな乳房がぶるりと揺れ、引き締まった腹筋、大きく丸い尻が露わになる。

 男たちによって足を押さえられて、薄く陰毛が生えた股間にその場に居た者の視線が集まった。

 男を知らない訳ではない。かといってそれほど使いこまれた訳でもない。わずかに開いた二枚貝は触れる前から濡れていて、今も愛液を外に垂らしている。

 

 笑みを浮かべたスキンヘッドの男は満足そうだった。

 床に膝をついてジルの脚の間に入る。

 勃起しているペニスを自分の手で擦る。ついさっきまで別の女に入っていた。しかしいまだ衰えを知らずにビクンビクンと震えていた。

 ジルの目はその姿を確認する。

 怒りを抱く心とは裏腹に、体の奥がきゅんとした。

 

 「さあ、あなたも一つになりましょう。何も心配はいりません。我々は救われる」

 

 亀頭が膣口に触れた。

 ジルは一瞬抵抗しようとするも、両手両足を掴まれていて動けない。

 

 「やめっ……!」

 

 ずるり。一瞬で入ってくる。

 あまりにもサイズが大きいそれは彼女の子宮口を強く叩き、その瞬間、全身に電流が走った。

 びゅっと愛液を噴き出して背中を逸らす。全身ががくがく揺れる。しかし男たちに押さえられていてその場を動くことはない。激しく暴れても位置は変わらなかった。

 

 「かっ……はぁ……!? んっ、なんっ……!」

 「ほほう。これは具合が良い」

 

 一瞬にして呼吸が荒れる。視界では星が散っていて、思考は形を為さなくなった。

 全てわかっている。これは薬のせいだ。自らの意思でこうなっている訳ではなく無理やり体を弄られているに過ぎないと。しかしわかっていても抵抗できないこともある。

 腰を掴んで、スキンヘッドの男が腰を振った。

 一度ピストンしただけで顔は惚け、目は細められて舌が伸びる。

 

 想像以上の衝撃に言葉が出なくなる。

 抵抗する力は今や皆無だった。

 

 「ひっ、ぎぃ……!」

 「はは。どうやら相当の好き者だったようだ。話が早くて助かりますね」

 

 スキンヘッドの男が彼女の腰を掴んでピストン運動を開始した。膣にペニスを挿して抜いて、激しい動きで彼女を責め立てていく。

 何よりも薬の効果である。

 一突きされるだけで視界にバチッと星が散り、潮を噴き、今まで感じたことのないオーガズムを味わう。無理やりにでも味わわされる。いつの間にか自ら股を開いてさえいた。

 

 仕事が多忙だった彼女はあまりセックスに対する関心がなかった。

 経験も多い方ではないし、彼氏が居ればすることもあるが、自分から求めたこともない。そういう意味ではある程度のプラトニックな関係を望んでいた節もある。

 しかし、これはまずい。

 挿入された瞬間から感覚が違った。

 気付けば彼女は、もっと突いてくれと言わんばかりに自ら腰を振っている。

 

 どうやらこれまでの経験が浅かったことが裏目に出たのだろう。今まで到達したことがない快楽を教えられた時、その心は激しく揺れる。

 薬による影響が大きかったにせよ、彼女の感じ方はあまりにも凄かった。見ていた男女が股間を熱くして、黙って見ていることができずに初めてしまうくらいだ。

 

 「あっ! あんっ! あっ、あっ、あぅ、うああぁっ……!」

 「さあさあ、あとが詰まってますからね。あなたにはここに居る人全員の相手をしてもらわなくてはいけないんです。少し急がせて頂きますよ」

 「んああっ!? はぁあああああっ!!」

 「いや実を言うと私もあまり余裕がありませんでな。あなたの体が良過ぎてすぐに出てしまいそうなんですよ」

 

 スキンヘッドの男が楽しげに腰を振っている。抵抗する気力も失くして、何度も絶頂を感じながらジルはひたすら喘いでいた。

 その様子を見ていた、ジルを押さえた者以外の男女がセックスを始める。

 再び乱交が始まっていた。嫌悪感を抱いたジルも今やその一部となっている。

 

 全身が掻き乱される。体も、心も、見知らぬ男に犯されていた。

 救済などない。彼らは狂ってしまっただけだ。楽な道に逃げて心を捨て、ただ快楽を貪るだけの生物に成り果てている。そんなものゾンビと変わらない。

 激しくペニスを突き続ける最中、男はジルの目に気付いた。

 自分を犯す男を睨みつける目。快楽に負けながらも抵抗しようとする、強い目だった。

 

 「はっはっは、そうですか。私が気に入りませんか」

 「ふーっ、ふーっ……!」

 「しかし今のあなたはほれこの通り」

 「んあああっ!?」

 「私のチンポを嬉しそうに銜え込んでいる。認めなさい。あなたも私の家族なのです」

 

 ぐっ、ぐっと力を入れて奥までほぐされる。

 膣の中にあるペニスは至る所を引っ掻いてジルの心を乱していた。彼が動く度に腰が跳ねて自ら快感を欲している。そんな浅ましい自分が許せない。

 

 「一つになれば怖い物など何もない。大丈夫です。私を信じなさい」

 「うぅっ、はぁんっ……あぁっ! あっ! ああんっ!」

 「ほら、もう出ますよ。洗礼の証です。きちんと子宮で受け止めてください」

 

 一際腰の動きが速く、強くなった。

 ぎゅっと目を瞑ったジルは必死に耐えようとする。しかしペニスの動きに合わせてどうしても声が出てしまい、抑えようとしても息が大きく吐き出される。

 やがてスキンヘッドの男が射精した。

 膣内に感じた精液にビクッと反応して、彼女は全身を震わせた後に四肢を投げ出す。

 

 「ふぅ……流石に量は出ないか。まぁ仕方ない。それじゃ、交代だ」

 

 スキンヘッドの男はあっという間に膣からペニスを抜いた。

 その直後、スキンヘッドの男が退いた場所にすかさず別の男がやってきて、愛撫を施すこともなくペニスを膣に挿入する。新たな感触にジルの声は跳ねた。

 

 腰を掴んで最初から激しく突かれる。

 さっきとは違う。だが快感の大きさはそう変わらない。

 彼女が知るセックスとは何もかもが違っていた。

 またしてもびゅっと潮を噴いて、それを気にすることもなく男はジルの膣を突く。

 

 「うぅんっ、ふんっ、んんんっ……!」

 「声を我慢する必要はありませんよ。あなたを否定したりはしない。あなたの全てを認めることができます。我々は家族になるのですから」

 「んんんっ、くっ……ふはぁ、あぁっ」

 

 ジルの辛そうな声と、別の女の楽しげな嬌声が入り混じっていた。

 雨とは違う。いつの間にか汗を掻いて、自分の愛液が飛び散っていて、彼女の体は濡れていた。

 一人の男が機械的に淡々とジルの膣にペニスを突き込んで腰を振っている。また別の男が腕を押さえながら彼女の胸を揉んでおり、感触を確かめるかの如く円を描くように触っていた。それとはまた別の男が足を掴みながらもう片方の手で彼女のクリトリスを指で転がしていた。

 

 四方八方から全身を刺激される。

 こんな経験は、もちろんない。初めての状況に彼女の理解も追いつかなかった。

 

 二人目の男が射精して、またもジルの子宮に子種が注ぎ込まれた。

 体内にある熱を意識せずにはいられず、彼女はぐっと唇を噛む。

 そんな態度とは裏腹に体はオーガズムを感じていて、全身の震えが止まると脱力して、今度こそ抵抗の力は完全に無くなった。

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 「二人目も済みましたね。それでは次です。あと六人ですよ」

 

 次の男が脚の間にやってくる。

 霞む視界で顔を確認すれば、そこに居たのはウォードだ。整った顔に純粋そうな笑みを浮かべて嬉しそうにジルを見つめている。

 

 手でペニスを支えて、亀頭が膣口にぴとりと合わさった。

 ジルは感じていたはずの憤りを思い出し、彼を睨みつける。

 

 「ジルさん、あなたを見つけた時思ったんです。あなたは僕の妻になるべき人だ」

 「ふざ、け……ないで」

 「僕らの家族になってください。そしてその後は、僕らは夫婦になりましょう」

 

 ずるっとペニスが挿入される。

 ジルは甘い声を洩らし、背をのけ反らせた。

 

 「あぁっ、はぁっ……!」

 「あなたは美しい。あなたが僕にとっての救済なのかもしれない」

 「うんんっ、ああぁっ!?」

 

 ウォードはこの中で最も若い。それもあって腰の動きが凄まじく速かった。

 パンパンと一定のリズムで肉がぶつかり、ペニスはこれまでで最も凶暴な動きを見せる。

 三人目であってもオーガズムは途絶えない。これで何度目かわからないほど彼女はイキ続けて、暇さえあれば潮を噴いて辺りを濡らした。

 

 楽しそうなウォードは片時も休まず彼女を責め立てた。

 笑顔で腰を振ってジルの表情をじっと観察する。

 

 「くぅっ、ふぅっ、うあああっ!?」

 「好きですよ、ジルさん。結婚してください。あ、愛してますぅ!」

 

 子宮口に亀頭を叩きつけて、両足を掴んでぐっと持ち上げ、ウォードが絶叫しながら射精した。勢いよく飛び出す精液は彼女の中へ全て注ぎ込まれていく。

 彼女を妊娠させようという意図のある行動だろう。

 優しげな顔で眺めていたスキンヘッドの男は満足そうに頷いている。

 

 ぬぽっとペニスが抜かれてウォードが移動した。

 すぐさま次の男がジルの膣にペニスを入れる。

 

 足を抱えて腰を振りながら彼はウォードの方を見ていた。

 笑顔で、かけた声は親しげだ。

 そこに敵対意思など微塵もなく、彼らの様子は仲が良いと評するに値するものだった。

 

 「よかったなウォード。おめでとう。君たちの結婚を祝福するよ」

 「はは、ありがとうございます。初めて見た時に運命だと感じたんです。きっと僕にはこの人しか居ないって」

 「それじゃ洗礼はさっさと済ませないとな。お前ももっと彼女としたいだろう」

 「はい! お願いしますよ。僕まだ今日はこれが一発目なんですから」

 

 男はそう言ってジルに挿入して腰を振り続ける。抜こうという気配は一切ない。

 ウォード自身もそれを当然と考えていて、大した反応はなかった。

 彼は嬌声を上げるジルの顔の横へ移動すると、射精直後ながら即座に勃起したペニスで彼女の顔を撫でて、無理やり口を開けさせるとその中へ突っ込んだ。

 

 「頑張ってくださいねジルさん。あと五人です。それが済んだらもう一度僕の番ですからね」

 「むぐっ、おがっ……ゲホッ!? エホッ!?」

 

 顔を跨いでのしかかるように、ペニスを深くまで差し込んでくる。喉まで届いて苦しい。金玉が顔の上に置かれていた。これ以上ない屈辱だ。

 ジルはあらゆる快感、恥辱に耐えながら決心する。

 絶対に彼らになど屈しない。

 必ずこの狂った世界から抜け出て、原因たるアンブレラを見つけてみせる。そう思いながら再びオーガズムを感じて腰をビクンッと跳ねさせた。

 

 (こいつらは許さない……絶対にっ! チャンスを見つけてここから出る、必ず!)

 

 決心しながらも潮を噴いた。

 またも膣内に射精されて、その熱が彼女をまたイカせて、ジルは白目を剥いて嬌声を上げた。

 



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古見さんは、興味津々です。(古見さんは、コミュ症です。)

 初体験というものは、どんなものであれ緊張するものだ。

 色々と想像を膨らませて期待を持ち、上手くできるかという不安もあって、やりたい気持ちとやめた方がいいかという気持ちが混ざり合って混乱することが多々ある。従ってどんな種類のものであれ、初体験というものはひどく緊張するものだ。

 

 おまけに彼は比較的小心者であった。

 何をするにも至って普通。至って平均的。

 自分にあまり自信がないせいか、そんなに目立たなくてもいいとすら思っている。

 

 そんな彼がしかし、今日迎える初体験はあまりにもハードルが高過ぎないだろうか。

 何の変哲もない少年はがくがく震えながら夜の公園に立っていた。

 

 季節は夏の頃。

 夜になっても少し蒸し暑く、とはいえ昼間に比べればずっと過ごしやすい時間帯。

 学校はすでに夏休みに入った。

 今の時間は深夜。本来ならば高校生である彼らが外を出歩いていい時間ではないのだが、今日はこの時間でなければならなかった。

 

 できるだけ人が通りませんように。

 そう思いながら彼は大きな公園、公衆トイレの前に立っていた。次から次に流れてくる汗が暑さのせいか緊張のせいかわかったものではない。

 

 彼は誰かを待っている様子だった。

 しばらくすると公衆トイレの中から女性が出てきて、少年が振り返った。

 

 息を呑むような美少女である。

 長い黒髪に白い肌。熱帯夜には心地いい涼しさを感じる目元は猫に似ている気がする。手足がすらりと長くて、無表情ながら今は頬を赤らめていた。

 少年は息を呑む。その人こそ彼が待っていた相手。

 いつになっても見惚れてしまい、少年の顔も真っ赤に染まっていた。

 

 少女が音もなくそっと歩み寄って、少年の手を掴む。

 掌を上に向けて自分の指を使い、そこに文字を書き始めたのだ。

 

 『待ちました?』

 「う、ううん! 全然! もっと待っても大丈夫でしたよ!」

 

 少年は気が動転した様子で返答する。すると少女は恥ずかしそうにしながら微笑んだ。

 続けて少女が彼の掌に文字を書く。

 

 『行きましょうか』

 「は、はい……で、でも、本当にやるんですか?」

 

 少女の顔の赤みはさらに増していた。

 そんなに恥ずかしいなら別にしなくてもいいのに。とは思うものの、同じく興味があるらしい少年は強くは主張しない。

 考え、悩み込んでいた様子だったが少女は顔を上げて頷く。

 

 「そ、そうですか。そうですよね。ここまで来たんだし、僕は嫌じゃありませんけど……」

 

 言いかけてぴたりと止まった。

 確かに興味はあるが不安がない訳ではない。彼とて先程からずっと悩んでいるのだ。

 彼女が可愛過ぎてつい乗り気になってしまったが、その直後にこれからしようとしていることを冷静に思い返し、どんどん顔が青ざめてくる。

 その様子を間近で見ていた少女はきゅっと手を握り締めた。

 

 『大丈夫ですか?』

 「いやいや、ははは、大丈夫だけど……もし見られたりしたら大変ですよ? その、バレたら一生ものというか、噂が立っちゃうかもしれないし」

 

 恐る恐る少年が尋ねる。

 彼の様子を見て少女は真剣に考える一方、やはり意見を変えるつもりはないらしく、決行だと伝えんばかりにフンスと鼻息荒く拳を握った。

 

 「そ、そうですよね。じゃあ、えっと、その……」

 

 彼女の気持ちを察した少年が頭を掻いて辺りを見回した。

 当然夜なのだから辺りは暗い。しかし公衆トイレ付近は街灯があって幾分明るさがある。

 改めてそれを確認した少年は不安そうに街灯がない方向を指差した。

 

 「もうちょっと暗いところへ……」

 

 恥ずかしそうに少女が俯く。それを見て少年の心臓の鼓動がさらに速くなった。

 こうなればもう待ち切れない。彼女の手を握って歩き出す。

 

 暗がりへ。光の届かない場所へ。

 手を繋ぐだけで恥ずかしそうにしている二人は、ぎこちない足取りで歩く。不安に苛まれて振り切れないのに少し急いで。敢えて人目につかない場所に入った。

 

 植木を越えて、木々が生い茂る一角へと入り、木の陰に隠れるようにして足を止めた。ここなら周囲には背の高い草もあって、尚且つ木が多いため人目につかない。わざわざ探しにでも来なければ見つかることはまずあり得ないだろう。

 入念に確認してようやくほんの少しだけ安堵する。

 周りを確認し終えた少年は少女に振り返った。

 

 その時、すでに彼女は自分が着ているコートに手をかけていた。

 思わず息を呑む。

 何度見たって落ち着かない。落ち着けるはずがない。しかも今日はいつもと状況が違っていた。

 袖を通したままコートの前を開けた時、その下には少女の裸体があったのだ。

 

 均整の取れた肉体。胸は大きく膨らんで、腰は括れ、脚は長く、黒々とした陰毛、或いはそこに隠された秘部も、隠す物は何もない。コートを除けば布の一片すら身に纏わず、靴下まで脱いでサンダルを履いていて、ほとんど裸と言っていい姿だ。

 少年は股間を熱くし、緊張から背筋をピンと伸ばして立っていた。

 当然見ないはずはない。穴が開くほど彼女の裸を凝視している。所在なさげに動く両手は彼女の体か、そうでなければ自分の股間を触りたくて仕方がなさそうだ。

 

 「ここ、古見さんっ、もう脱いじゃうんですか……!?」

 

 期待と不安、その両方が入り混じって。

 少年の呟きに答えるべく少女は頷く。

 のそのそと動きは遅く、決して躊躇いがない訳ではなかったものの、彼女は自らの意思でコートを脱いで地面に落とす。そうすればサンダルを履いている以外は完全に裸だ。

 

 深夜の野外で、絶世の美少女が素っ裸で立っている。

 漫画のように鼻血を噴き出してもおかしくない状況下で、少年は高ぶっていた。

 こうなればもはや不安など関係ない。今は彼女と共にこの一時を楽しむことに全力である。

 

 少女が一歩前へ進み出て、少年に近付いて手を取った。

 先程のように掌に文字を書いて意思を伝える。

 

 『只野くんも脱いでください』

 「は、はい! って、あんまり大きい声出すと……!?」

 

 慌てて口を閉じて、恐る恐るではあるが少年もその場で服を脱ぎ始めた。

 シャツを脱いで、ズボンを脱ぎ、下着を脱いで裸になった。彼も同じくサンダルを履いていて、それ以外は完全に裸になった。

 勃起したペニスがぶるんと揺れる。

 少女はそれを興味津々に見つめていて、思わず少年は恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

 「えっ……と」

 

 言葉に詰まってしまう。

 これから何を始めるのか、答えは一つしかない。

 先に動いてきっかけを作ったのは少女の方だった。

 

 おずおずと体を寄せて、顔を寄せ、唇をほんの少しだけ尖らせて目を閉じる。

 少年はごくりと喉を鳴らし、それから意を決して唇を突き出す。

 

 何度やっても緊張するものだ。いつになっても慣れることはない。

 今でも、なぜこれほどの美人と僕が、と思ってしまう。しかしこれを望んでいるのは他ならぬ彼女の方なのだ。応えないという選択肢はない。

 少年は少女にキスをして、そっと彼女の体を抱きしめた。

 

 

 

 

 古見さんは、コミュ症です。

 人と話すのが苦手で、接し方がわからなくて、だけど人と関わりたくない訳じゃない。古見さんはコミュ症なんです。

 僕は至って普通の人間だけど、ひょんなことから彼女の友達第一号になった。

 少しでも古見さんに友達が増えてほしい。その一心で古見さんの近くをうろちょろしてた。

 

 いつからだろうか。僕らの関係が変わったのは。

 きっかけは……そう、やっぱり古見さんだったと思う。

 

 あくまでも普通の友達として日々を過ごしていた僕と古見さん。だんだんと友達も増えてきて、少し変わった生徒も多いクラスだけど、賑やかで楽しい生活を送ってた。

 僕はそのクラスの学級委員で(なりたかった訳じゃない)色々と仕事を任されることも多い。

 古見さんは僕の手伝いをしてくれることが多くて、今ではそれが当然になっていたくらいだ。

 

 きっかけは、あの日。突然の出来事だった。

 何をしていたかはすっかり忘れてしまったけど、その日も僕は学級委員として仕事を任されて、放課後に教室に残って作業をしていた。手伝ってくれる古見さんも一緒だ。教室には僕ら以外誰も残っていなくて、近くの教室にも人の気配がなかったのを覚えてる。

 そこまでは至って普通のこと。今では当たり前になった出来事。

 

 その日だけ違ったのは、何かの拍子に古見さんがバランスを崩して転びそうになったこと。

 咄嗟に僕は古見さんを助けようと手を伸ばしていて、そして気付けば一緒に転んでた。

 それだけでも情けないのに、問題はそれだけじゃなかった。

 

 今でもはっきり覚えてる。その日の作業のことは忘れてもあの光景は忘れない。

 何がどうなったのか、僕の上に古見さんが居たんだ。

 最初は夢か何かかと思ったけど違った。ちゃんと現実だった。流石にあのコンマ数秒で寝る訳がないし、何より古見さんの息遣いを近くに感じた。あの瞬間を忘れたりしない。

 

 その時、古見さんが、顔を真っ赤にして僕から目を離さなかった。

 多分、僕も顔が赤かったと思う。とにかく熱かったから。

 何か変だな、と思いながら緊張してたら、突然古見さんの顔が近付いてきて、驚いてると避ける暇もなく唇を塞がれた。

 僕らはその時、初めてキスをしたんだ。

 

 あの時は訳が分からなくて何も考えられなかったけど、とにかく熱烈なキスだった。

 両手で顔を押さえられて、全身で押さえられるみたいな。初めてとは思えないくらい力強いキスだったのを覚えてる。というより、忘れられない。あれがお互いのファーストキスで、普通ならあり得ないようなファーストキスだ。

 

 多分古見さんも色々テンパってたんだろう。

 あのキスだって突発的に思わずしちゃったってものだった。本人も後で釈明してたし。

 

 それで、そのキスが済んだ後。

 古見さんは溜息をついて、僕の上に乗ったまま体を倒して僕に抱きついてきた。

 耳元で呟かれた言葉が、関係が変わるきっかけ。

 

 「好き……です」

 

 なんていうか、その、思わず言っちゃったって感じの。突然の一言だった。

 あの後古見さんはハッとした顔で激しく取り乱して、肯定も否定もできなくて、とにかく慌てていたことだけは事実で。でも、結局はその後告白されたんだ。

 

 僕と古見さんは、一応、恋人って関係になったんだと思う。

 今でも僕でいいのかな? なんて思ったりするけど、古見さんがそれを認めてくれたから。

 

 その日を境に僕らの関係、はもちろん、特に古見さんが変わったんだと思う。

 人目がある時はいつも通り。今までと何も変わらない。だから僕らの関係に気付いた人は多分誰も居ないと思う。問題なのは二人きりになった時。

 

 まず何が違うって、古見さんがキス魔になっちゃったことだ。もうとにかく暇があればキスをされるわけだ。もちろん嫌じゃないんだけど、いつも古見さんが僕の隙をついて唇を奪って、一度したら中々離れない。

 最初はその程度だったけど、まぁいわゆるその……一線を越えてからはもっと凄い。

 まぁ、だから、エッチをしたわけだけど。それ以来二人きりになったら古見さんが僕にキスをしてきて、そのままの流れで始まってしまうのである。

 

 どうやら古見さんは、そういうことに興味津々だったらしい。

 エッチを覚えてからというもの、あらゆることを試したがった。

 キスの仕方を変えたり、口でしたり、お互いに舐め合ったり、色んな体位を試したり、一緒にアダルトビデオを鑑賞したり、その流れで見ながら映像の真似をしたり、道具を使ったり、水着とか体操服とか衣装を変えてみたり……。

 時間と場所は限られてたけど、それだけに、試せることは全部試した。

 ほとんど、っていうか多分全部が古見さんの提案で、僕はされるがまま。でもまぁ、したいのは本心だし十分楽しんでたんだけど。

 

 そんなこんなで、近頃僕と古見さんの日常は非常に爛れている。

 色々やり過ぎて歯止めが利かなくなってるくらいだ。

 古見さんはどんどんエッチになっていくし、僕もそれに応えたくてどんどん前向きになってる。

 

 それが最初のきっかけとして。

 つい最近、古見さんが新しいものに興味を持って試したいと言ってきた。

 

 なんでも、野外露出に興味があるらしいんだけど……マジで?

 

 

 

 

 ぴちゃぴちゃ水音が鳴って、会話が無くなると辺りは急に静まり返る。

 会話と言っても古見さんはほとんど喋らない。話すのはもっぱら只野くんな訳だが、その只野くんの唇が塞がれた今、全ての主導権は古見さんが握っていると言っていい。

 

 二人の間に上下関係はない。主従関係でもない。しかしいつからか、不思議とリードをするのは古見さんと決まっていたようだ。

 大抵セックスのきっかけは古見さんであり、急に只野くんを襲うのが影響しているのだろう。

 大体は只野くんが彼女の性欲に付き合うような関係で、リードを奪われるのも無理はなかった。

 

 キスをしながら、古見さんの手が只野くんのペニスを撫でる。

 指先だけで下から掬うようにそっと。

 少し触れただけで彼の体はビクッと震えて、それが愛おしくて頬を緩めた。

 

 舌を絡め合う。強く吸いつく。少しだけ目を開けて彼の顔を見る。

 右手ではさわさわと亀頭を撫でていて、左手は自然な動作で乳首を転がしていた。明らかに慣れを感じさせる動作に只野くんは目を閉じて、されるがままで小さく声を洩らしている。

 一方的に触っているだけなのに、古見さんの体は熱くなる一方だった。

 はぁと溜息が洩れ、彼の唇をぺろりと舐めてから一旦口を離す。

 

 くちゅ、と湿っぽい感触。

 自分の股に触れてみた。どうやらもう濡れているらしい。

 

 いや、そんなことは初めからわかっている。トイレで服を脱いで裸にコートという姿になり、外へ出た時から。ひょっとしたらその前、深夜に只野くんと会った時から濡れていたかもしれない。

 彼を見ているだけで体が疼いてくる。

 何度してもキスがやめられない。もっとしたくなる。

 何度エッチしても止められない。もう一度したくなってしまう。

 何度だって彼に触れたい。触れられたい。一緒に居たい。キスがしたい。エッチしたい。片時も傍を離れないでほしい。

 

 彼と居るとどんどん強欲になってくる。そんな自分が少し嫌になった。

 それでもやっぱり彼と離れるのは嫌なので、古見さんは彼に抱きつくと首筋に顔を埋めて、強く吸いついて痕をつけようとする。只野くんは小さく喘いで脚を震わせていた。

 

 彼の肌に吸いついたまま、首筋から下へ向かって移動を始める。

 鎖骨を通って、乳首を舌で転がして、おへその辺りを舐め回して、さらにその下へ向かう。

 辿り着いたのはビクビク震えているペニスだ。

 下品にも脚を開いてしゃがみ、それを前にして、古見さんは只野くんの顔を見上げた。

 

 フェラチオの経験はある。それをする時、只野くんが期待した顔になって、している間もずっと嬉しそうにしているのだ。

 古見さんはフェラチオが好きだった。

 只野くんが喜ぶことなら何でも好きになれる。そんな理由でフェラチオが好きなのだ。

 今日も見るからに期待していて呼吸が荒い。只野くんのアホ面を見て古見さんは微笑んだ。

 

 「こ、古見さん……だめですよ、そんな……」

 

 どうやら只野くんはマゾの気があるようだ。

 SMもののアダルトビデオを見た際、試しに古見さんがマゾの役で、只野くんがサドになって色々試してみた結果、それはそれで楽しかった。じゃあ逆になってみようと試した時、心なしか只野くんがさっきよりも嬉しそうなことに古見さんは気付いていたのである。

 只野くんにそんなつもりはない。むしろ彼はリードしたがっている。

 ただ、古見さんの目に狂いはなくて、事実嬉しそうなのだから仕方ない。

 

 彼の言葉を敢えて無視して、口から舌先を覗かせる。

 ほんの些細な行動なのだが只野くんはわかりやすく喉を鳴らしていた。

 勃起した状態のペニスなど何を待っているのか揺れてすらいて、彼の期待値を表している。

 

 古見さんが口を近付けた。

 舌先からペニスの亀頭に触れて、その瞬間に只野くんが変な声を出す。

 

 「ふおぉっ……!」

 

 辛そうなのではない。嬉しそうな声だ。

 以前本人に確認したことがあるため、安心して古見さんは亀頭を舐める。

 

 唾液をたっぷり擦りつけて、舌の全体でペニスを撫でていった。彼のそれは硬く、特別大きい訳でもないが小さ過ぎる訳でもない。至って普通。硬さも太さも長さも普通。ビバ平均なのである。

 古見さんは只野くんのそれが大好きだった。

 他の人のは受け付けない。興味がないし見たくもない。只野くんだから好きなのである。

 

 ちゅぷちゅぷと唾液を塗りつけて、丁寧に、徐々にペースを変えてみる。

 只野くんは焦らされるのが好みらしい。何度となくエッチをしているわけであって、その度に新しいことを試すのも珍しくなくて、色々と研究した成果がそれだ。

 一方的に責められるのが好きな彼は焦らされるのが堪らないらしかった。それを知っている古見さんは、力を入れて舐めた先程とは一転して、触れるか触れないかで舐める。

 

 只野くんが変な声で鳴いている。

 他人が聞けば変というその声も古見さんの耳には可愛く聞こえる。

 反応が嬉しく、古見さんは目を細めて只野くんの顔を見上げた。

 

 「へぁっ、うぅ、古見さん……」

 

 ちょうど彼女を見下ろした彼と目が合った。

 それよりも凄いことをしているはずだが、それだけで恥ずかしくなって俯いてしまう。それでもペニスから口は離さない。ずずっと音を立てて吸い、深く口に入れようとしていた。

 

 苦しげな顔で、しかし押し寄せる快感に耐える只野くんが、古見さんの頭に手を置いた。

 たったそれだけのことでもびっくりする。口に入れたペニスを吸いながらその手を確認した。

 

 彼に触れることが、彼に触れられることが、こんなにも嬉しいだなんて。

 きっと少し前なら気付けなかった。彼に出会うことがなければずっと知らないままだった。

 彼女は確かに、幸せを噛みしめていた。

 ペニスから口を離し、代わりに右手で竿を握って、微笑んだ顔で只野くんを見つめる。

 

 右手を上下に動かしてペニスを擦り始める。

 さっきとは異なる刺激に只野くんは腰が引けており、全然余裕が無さそうだ。彼も童貞だった頃よりは成長しているとはいえ、如何せんいつも古見さんの掌の上で踊らされるばかりなので、一方的に責められれば途端に弱くなってしまう。そうでなくても弱いのだが。

 古見さんは甘える素振りで亀頭に頬ずりし始め、只野くんは頭を撫でるので精一杯だった。

 

 頭を撫でられたことで古見さんの機嫌はさらに良くなる一方。下がることはない。只野くんがすることなら大半が彼女を喜ばせるのだ。

 しなやかな指が竿の部分から移動し、亀頭をそっと摘む。

 円を描くようにこねくり回して、彼が途切れ途切れに出す声を嬉しそうに聞いていた。

 

 そうして奉仕をするのが彼女は好きだった。

 どちらが上で、どちらが下か。そんなことはどうでもいい。

 只野くんが喜んでいる。それだけで古見さんは満足だったのだ。

 

 従って彼のペニスを弄りながら、自分の秘部は自分で慰めることになっても不満はない。

 できれば彼の指で触って、彼の舌で舐めて、彼のペニスを突っ込んでほしいが今でも満足だ。

 

 ちょうどそんなことを想い始めた時、只野くんの手がぐっと古見さんの頭を押さえる。

 視線を上げてみれば余裕が無さそうな彼の顔。

 黙ったままでその表情にきゅんきゅんしていると、ちょうど古見さんが求めていた通り、只野くんが自分のペニスを握って彼女に要求した。

 

 「こ、古見さん……そこの木に、手ついてくれるかな」

 

 古見さんは迷う素振りを見せずに頷く。

 彼が求めるならば何でも。

 すぐに立ち上がって木の前へ移動し、幹に手をついて尻を突き出す。只野くんには自分の恥ずかしいところを全て見られている格好だが、これが恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもある。どうやら古見さんも真正のサドという訳ではなくマゾの気が強いらしい。

 

 只野くんが古見さんの背後に立った。

 突き出された尻を見つめて、興奮した面持ちは我慢を忘れている。

 あまり余裕が無さそうな顔だが、彼は尻たぶをぎゅっと掴み、外側へ開いて観察を始めた。

 

 自分の愛液でとろとろになっているアソコが見える。

 鼻息は荒く、ペニスは待ち切れないと主張するかのようにビクビクしていた。

 

 もう一度ペニスを手で握った時、只野くんはハッとする。

 コンドームをつけていない。古見さんが脱いだ服を詰めたバッグ、あの中に入っているはずだ。探してみると近くの木の下に置いてあった。

 取りに行こうか。でも我慢できない。只野くんは逡巡する。

 

 「あっ……古見さん。ゴム、つけてなかった。ちゃんと、着けないとね……」

 

 胸がドキドキする。カウパーがだらだら溢れていた。

 只野くんの呟きを聞いて、離れてしまう、と感じた古見さんは咄嗟に彼の腕を掴んでいた。両手で尻を掴んだ状態で、彼はこっちを見ない古見さんの声を聞くことになる。

 

 「そ、の……まま」

 「え?」

 

 今は筆談ができない。掌に文字を書くこともできない。

 古見さんは顔を真っ赤にして、恐る恐る振り向いて只野くんの目を見た。

 

 「今日、は……顔に、かけてほしい、から」

 

 すでに我慢の限界など越えていた。しかし只野くんは必死に待つ。

 鼻血が出そうだ。チンチンが爆発するかもしれない。

 そんなことを考えながらも古見さんの言葉を聞き逃さないように集中する。普段はあまり聞けない古見さんの羞恥心いっぱいの声を全身全霊で耳にした。

 

 「外に、出すなら……そのままでも、いいよ」

 「古見さんっ!」

 

 只野くんは勢いをつけてペニスを膣へ挿入する。

 ズパンっと腰がぶつかってきて、驚いた古見さんは木に抱きつくようにして必死に耐えた。

 

 「んっ……んぅ……!」

 「おぉっ、すげっ……!」

 

 古見さんの腰を掴んで、ペニスが包まれる感触に恍惚としながら只野くんが呟く。

 つい声が大きくなってしまった。誰かに聞かれなかっただろうか。忘れかけていたスリルを如実に感じるものの、もはや止められない。

 

 只野くんは激しく腰を振り始めた。

 古見さんは唇をきゅっと結び、必死に声を押さえながらそれを受け止める。

 

 「んん……んぅ……!」

 「はぁ、古見さん、声出しちゃだめですよ……バレちゃうかもしれませんから」

 

 荒い息遣いになって必死に腰を振る。

 野外セックス。まさかこんなに気持ちいいなんて。

 快楽を求めているのに、声を出すことは許されない。気持ちよさともどかしさが入り混じり、二人は今までにない新感覚を味わっていた。

 

 心なしか古見さんもいつもより締めつけてくる気がする。

 夏の暑さと夜の静けさ。外でしか味わえない空気は格別だった。セックス中なら尚更である。

 古見さんの背中にのしかかった只野くんは、ぶるぶる揺れる乳房をぎゅっと掴んだ。

 

 言葉も交わさず、夜とはいえ外で、失礼なほどの激しさでお互いを貪る。獣のセックス。二人の興奮は留まるところを知らなかった。

 今までだって悪くなかった。今までだって最高だ。ただ趣が違う。種類が違う。

 お互いの家で、学校で、図書館で、プールで、公衆トイレで。そして野外で。全部違ってみんな良い。それが彼らの体感してみた感想だ。

 

 一心不乱に腰を前後に振り続けて、只野くんは息を切らすと一旦腰を止める。

 彼女の乳房を、乳首を弄って、休憩しながら胸を触ることに集中し始める。只野くんにとっては休憩になったろうが刺激を受け続ける古見さんにとっては休みではなかった。

 

 古見さんはスタイルが良い。誰が見ても絶世の美女。容姿から体型まで全てパーフェクト。

 ただ一つ、他人とコミュニケーションを取ることだけが苦手。

 それすらも克服した時、今このように、かつてない征服感と高揚感が得られる。

 胸を触っているだけでも只野くんのペニスはビクビク震え、今にも射精しそうだった。

 

 「古見さん……好き。好きだよ。古見さんのことが大好きだ」

 

 思わず呟いた言葉に反応して、膣がきゅううっと締まった。

 只野くんは我慢できずに再び腰を打ちつけ始める。

 

 「ううぅっ、古見さんっ。気持ちいいよ、古見さんっ」

 「んっ、ふっ、うっ、うっ――!」

 

 洩れそうになる声を必死に堪えているのがわかった。

 奥にズンと突き刺さる度、古見さんの尻が跳ねている。気持ちいいのだ。至って普通の自分でも満足させられるのだ。

 さらに熱くなってきた只野くんはぐいっと彼女を抱きしめ、背筋を伸ばして膣を穿った。

 

 「うぅ、古見さん、古見さん……!」

 「はぁっ、あっ、あぁっ……!」

 

 汗だくになり、長い髪を振り乱して古見さんが悶えている。

 ふつふつと沸き上がる何かが堪えられなくなってきた。

 考える余裕も無くなって、只野くんは突然声を小さくしたまま叫んだ。

 

 「あうぅ、うあぁ……し、硝子(しょうこ)ッ!」

 「ッ!?」

 

 突然下の名前で呼ばれて古見さんが目を見開いた。

 ほぼ同時にズンッとペニスが子宮口まで突き刺さり、彼女の目は再び蕩ける。

 

 「はぁっ、好きだっ。愛してるよ、硝子っ!」

 「ふっ、んっ、んんっ……! 好き、好きです……仁人(ひとひと)さんっ……!」

 

 自らも彼の下の名前を呼んだ時、意図せずオーガズムを感じていた。

 膣がぎゅううっと締まって、急に脚から力が抜けた。

 その瞬間に只野くんは必死に彼女を支えるのだが、膣の締まりが強まったことで一気に我慢できなくなってしまい、あっと驚いた顔になる。

 びゅっと少し出てしまったのである。

 なんとか古見さんをしゃがませることに成功して、慌ててペニスを引き抜いた。

 

 「うぅ~、古見さんっ、顔にぃ」

 

 抜いた瞬間に右手で激しく扱いて、改めて射精した。

 飛び出した精子が古見さんのきれいな顔を白く汚していき、べっとり張り付く。

 思ったより大量に出た。古見さんの額に、眉間に、鼻筋に、唇に、顎にまで彼の濃厚な精子が付着している。それを見ると征服感に包まれて幸福感に包まれた。

 イッた直後で呆然としている古見さんは、只野くんの顔から目を離さない。

 

 木に手をつき、支えにしたことで辛うじて地面の上に座りこむことはなかったようだ。白くて丸いきれいな尻はきれいなままである。

 そんなことを漠然と考えていると、古見さんが自ら只野くんのペニスに頬ずりした。

 垂れていた精子の残りを顔に擦りつけ、口を開けて亀頭を銜える。そのままじゅぽじゅぽと吸いつきながら頭を振って尿道に残っていた精子を呑み込んだ。

 一連の行動でされるがままだった只野くんは尻を震わせる。

 こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか。そう思ってしまうくらい幸せだ。

 

 再び口を離して、ぐったりした様子の古見さんは呼吸を整えようとしていた。

 体に力が入らない。しかし木に縋りついて無理やり立ち上がる。

 心配した只野くんが手を貸そうとすると、彼の方を向き、下半身に手をやった。

 

 両手の指で秘所を開く。とろとろのアソコを彼に見せつけた。

 イッたばかりでも喉を鳴らすのは仕方のないこと。

 古見さんは薄く微笑んで、赤らんだ顔で、興奮しきった表情で、がくがく震える余裕がない脚を隠すこともできないまま、もう一度と只野くんを誘った。

 

 「次は、中に……欲しいです。只野くんの、ザーメン……」

 

 どうやら、アダルトビデオでしっかり勉強したことを忘れていないらしい。そんなことを言われて耐えられるはずがあろうか。

 らしくもなく凶暴な顔つきになった只野くんは古見さんへ跳びかかる。

 即座に膣へペニスを挿入して、それでも彼女の負担を考え、両手で彼女を抱え上げる。いわゆる駅弁スタイルで下から彼女のことを突き上げ始めたのだ。

 

 「うおおっ! 古見さーん!」

 「あんっ♡ うんっ、はぁっ……!」

 

 抱えられた古見さんは抵抗しようとはせず只野くんに抱きつき、全てを彼に委ねた。

 たまにはこうして羽目を外すことも必要かもしれない。

 二人はその後も満足いくまで野外セックスを楽しみ、何度かして少し落ち着くと、深夜の公園で手を繋ぎながら、全裸デートを楽しんだ。

 

 

 

 

 古見さんは、興味津々です。

 エッチなことが気になって仕方ないらしく、ありとあらゆるものを試してみたがります。

 フェラもしたし、クンニもした。シックスナインもやってみた。

 正常位をした。バックをした。騎乗位もしたし、逆正常位なんてのもやってみたことがある。

 コスプレエッチもしたことあるし、大人の玩具を通販で買って使ってみたし、お互いのオナニーを見せ合ったことだってある。

 そして、野外エッチもしたことある。

 深夜の野外全裸デートは、スリルがあったけど意外と楽しかった。

 

 古見さんは、エッチなことに興味津々です。

 でも誰でもいいわけじゃないそうです。只野くんだけ、とあの美しい声で聞きました。

 古見さんはコミュ症だけど、徐々に変わろうとしているんです。

 

 古見さんは、コミュ症です。

 そして、僕の大事な恋人なんです。

 



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※きみの世界にわたしだけ(ベルセルク)

 ガールズラブ風味です。
 エロくないし暗い話なので、苦手な方はご注意を。


 旅をしていたという意味では、私も同じだった。

 鷹の団は強く、大きくなり、貴族に認められるほどになった。それがグリフィスの悲願だったとするならば目的を達成することができたのだろう。しかし私は、どこか物足りなさを覚えていた。

 

 鷹の団はグリフィスが中心になっていて、グリフィスが作戦を決めるし、貴族や世間に広く認められるようになったのは、グリフィスというカリスマが居たおかげだ。彼が居なければ一傭兵団がここまで大きく、強くなることはなかっただろう。だがその一方、鷹の団が大きくなる度、私にはなぜか、グリフィスが遠ざかっていくような感覚を覚えていた。

 

 グリフィスは特別だった。

 皆がそう言っていたが私も認めている。

 彼には私たちに見えない何かが見えていて、私たちにはわからない、何か大きな目的のために動いているに違いない。それだけは伝わるのだが、結局私にはその“何か”がわからなかった。

 一緒に居れば居るほど、彼がわからないと思う瞬間が多くなった。

 

 決定的だったきっかけが二つある。

 一つは、ガッツが旅に出ると聞いたこと。私より先に入団していた屈強な男で、体が大きく、無愛想だがあれほど頼りになる男は居ない。切り込み隊長として数々の戦地で武功を立てた。鷹の団の出世は彼の存在なくしてはあり得ないことだった。

 そのガッツが鷹の団を離れると聞いた時、私だけでなく鷹の団全体に凄まじい衝撃が走った。抜けた後で悲嘆に暮れる者も居たし、反対したり、怒ったりする者も居た。その中で私は、おそらくそれほど驚いていなかったのだと思う。

 なんとなく、それがガッツらしいという気がしたのだ。

 

 もう一つの理由は、そのガッツを見つめる、キャスカの気持ちに気付いたこと。

 いつからだったか、そうではないかと思っていた。けれど当時の私はそれをはっきり認識することができなくて、多分、認めたくなかったんだろう。胸の中にあるもやもやしたものを振り払うことに必死で、なぜそうなるのかを考えようとはしなかった。

 ガッツが旅に出る時だっただろうか。私はきっと、諦めたのだと思う。

 

 ガッツの退団から数日も日を置かずに、私もまた鷹の団を抜けた。日を置かなかったことが原因なのだろうが、ガッツに触発されたのは事実で、それを色々言われたりもした。ただし私はガッツほど鷹の団に必要な人材ではなかったし、グリフィスは多分、ガッツが抜けたショックが大きくて口を利くこともできなくなっていた。

 キャスカが悲しんでくれたのがほんの小さな救いだった。けれど彼女は、きっとガッツを選ぶことは間違いなくて、悲しげに潤んだ瞳を見ても、そこに残ろうとは思わなかった。

 

 旅に出たいだなんて思っていなかった。

 私はただ、キャスカの傍に居られないと信じ込んで、彼女から逃げようとしただけなのだ。

 実際に旅に出てからすぐに困る。私はこれから何のために生きて、どこへ行けばいいのだろう。いきなり何もかもを見失って、どうすればいいかもわからずひたすら足を動かす。

 

 鷹の団に所属する多くの兵士がグリフィスに心惹かれて、彼に従おうと入団していた。彼の命令ならどんな無茶でも信じて疑わなかったし、盲目的になってしまうくらい彼は才覚に溢れていて、その決定はいつも鷹の団を正しい道へ進めてくれる。彼の指示でどれほどの窮地を乗り越え、どれほどの勝利を手に入れてきたのか。それは所属している兵士たち、或いは所属していた私でさえわからない。

 とにかくみんな、グリフィスが大好きで、尊敬して、憧れて、自分だけでは絶対に見られない景色を見せてくれる。指導者としてあまりに眩しい、類稀なるリーダーだった。

 

 きっとそれはきちんと理解していて、認めてもいるのだが、しかし私は、グリフィスのために鷹の団に居たわけではない。離れたからこそより鮮明にわかる。

 

 私はキャスカが好きだった。

 彼女を抱きたかった。ただ抱きしめるだけでなく、体の隅々まで触れ、キスをして、黒い髪に指を絡ませて、褐色の肌に舌を這わせて、彼女の肢体を思う存分、満足するまで、夜を通して朝が来るまで、何度でも愛したかった。それくらい強い感情を持ちながら、彼女と同じ部屋で寝て、彼女と一緒に湯浴みをして、戦場では常に背中を守り続けた。

 キャスカは私のものだ。そう信じてやまない時期もあったくらい、私は心底彼女に惚れていて、長らく抜け出せなくなっていたのである。

 私にとって彼女は、確実に、グリフィス以上の存在だった。

 

 グリフィスのことは認めているつもりだ。他者とは違う才覚があって実力がある。目で見てわかる結果を出し続けた結果、誰からも認められる指揮官になった。けれど同時に、私は彼をどこか恐ろしく思っていて、積極的に話しかけようとしたことはない。私は常にキャスカと居たから、キャスカの視線で彼を見ることが多くて、キャスカが心底惚れているグリフィスのことは、まるで仇のように思っていたことだろう。

 

 ガッツのことは好きだった。私と彼は気が合って、雄弁に語る人間ではなかったが、他の男に比べてずいぶん色んな話をしたように思う。だからといって、キャスカへ向けて抱いている気持ちについて話そうとはしなかったけど、それとなくキャスカが好きだということは伝えたことがある。

 何も言わなかった。そうかと言って、静かに酒を飲んだ。そんな時間が好きだった。

 別に私がガッツをどうしようとか、彼に抱かれたいなんて気持ちはない。ただ、他人を遠ざけるように見えて、意外と人間らしい彼の優しさや温かさに気付くと、仲間としてこれほど安心する奴は居ない、そう思っただけで。

 それも、あの日までのことだったんだけど。

 

 キャスカがガッツを好きなのだと気付いて、グリフィスに向けていた感情とは違う、きっと自分自身でも理解できていない感情を隠しているのだと知った時、私は驚かなかった。

 ガッツなら。そう思った時、私はきっと負けを認めていたのだろう。お前には無理だとか殺してやるとか、そんなことはちっとも考えずに、ああ、そうだろうな、なんて思っていた。

 

 当たり前のことだ。女が男を好きになるなんて。

 そして女が女を好きになって、抱きたいだなんて考えるのは、きっと異常なことなんだ。認めてくれる奴なんて、ガッツみたいな奴でもなければ居るはずがない。

 

 旅をしている間、色々なことを考えた。

 自分の未来について。過去について。もっと俗っぽいこともあって、男に抱かれるのではなく女を抱いてみたいとか、女が相手なら抱かれるのもいいなとか、そんなどうしようもないことを一日中ただ延々と考えていることもあった。とにかく私は暇だった。

 剣の腕を磨きながらあちこちを見て回った。言いよってくる男は大抵脅すか剣で少しだけ斬ってやるかして遠ざけ、逆に女には自分から近付いた。その甲斐もあって、私は何人かの女を抱くことができたし、似たような趣味の女に抱いてもらうこともあった。最高だった。

 

 それでも満たされない、どこか空虚な毎日を過ごしていたのはやはり、ふとした瞬間に脳裏によぎる彼女の存在があったからだろう。

 結局私は断ち切れていない。ガッツなら、なんて考えながらやっぱり寂しかったし、本当は自分を選んでほしかった。自分の思い通りにならなくて、居辛くなって、適当な嘘をついて逃げ出しただけに過ぎないのだ。

 帰ることはできない。私は旅を続けた。

 

 鷹の団を離れてそれなりの期間が経つと妙な噂を聞く。

 鷹の団壊滅の噂だ。

 そんなわけがないと思ったし、私はちっとも信じようとはしなかった。思い返せば、その時に真実を確かめようと動いていれば何かが違ったのかもしれない。けれどそれも結局は、後になってから言える意見でしかないのだろう。

 

 キャスカとの再会は、私が望んでいたものではなく、痛みを伴うものだった。

 何があったのかを知ることはできない。彼女は、かつての自分を見失い、以前の記憶も人格も、心さえも失って、全てが壊れた状態だった。

 まるで赤ん坊のように小さな声を出して、何をするでもなく、私を見て少し怯えた様子で洞窟の壁に背をつける姿は、私に恐怖と不安、胸が張り裂けそうな苦痛を与えた。

 姿形はあの日とそう変わらないのに、佇まいも、仕草も、表情も、何もかもが違って。これは本当にキャスカなのか? そんなことを考えた時、私は衝動的に自分の頬を殴った。それを見てキャスカが怯えていたのだが仕方ない。私は、なんてことを考えたのだろう。

 

 出会ったのは本当に偶然だった。

 黒いマントに身を包み、鉄塊のような分厚い剣を背負って、獣のような鋭い目をした、かつてとは別人のようなガッツに、私は人知れず恐怖を抱いた。片腕と片目を失い、私が知らぬところで、呑気に生きていた間によっぽどのことがあったのだろう。彼は以前にも増して語ろうとはしない。

 

 傭兵なんてやっていると、色々な事情を持つ人間を見る。

 経験からして、あれは復讐を誓った男の目だった。

 もはや人間であることさえ捨てた、ただ復讐のためだけに呼吸を続ける生物。剣と呼ぶにはあまりにも大きく分厚い鉄の塊を選んでいることからも、間違いないと思っている。

 偶然の出会い。果たしてそれは、あってよかったものなのか。

 私は、何も聞けなかった。様子が違っていたとしても、相手の顔も名前も知っているのに、鷹の団のこと、グリフィスのこと、何より、あれだけ恋い焦がれたキャスカのことを質問することができなかった。

 

 ただ、ガッツは、キャスカのことだけ教えてくれた。

 何があったかはわからない。彼女が生きていることと、その居場所。外に出すのは危険だから、夜には絶対に外に出るな。そう言って振り返りもせずに去ってしまう。

 止めることはできなかった。何も知らず呑気に生きていた私に、そんなことはできない。

 願わくば、生きてまた会いたい。声の一つもかけられずに、遠ざかる背中を見送った。

 

 そうして私は、唯一安全だという洞窟の中でキャスカと再会した。

 心が壊れて、どれだけ呼びかけても会話はできない。名前を教えても呼んでもらえない。試しに剣を握らせてみても、当時の女兵士なら誰もが憧れたあの身軽な動きと剣さばきは見る影も残っていない。本当に、別人のようになっていた。

 

 なんとなく察している。ほとんど確信だと言っていい。

 鷹の団はすでにないのだ。

 彼らの身に何が起こって、どうしてガッツがキャスカを置いて出て行ってしまったのか。団を離れて姿を現すことさえなかった私になぜ任せたのか。わからないことはたくさんあるが、少なくとももう鷹の団が再結成されることなんてないし、大勢が死んだのだろう。

 ガッツは最も辛い道を選んだ。キャスカを置いて、孤独になる道を選んだ。そうしなければ生きていることさえできなかったのだろう。壮絶な出来事だったに違いない。

 

 グリフィスは、死んだのだろうか。私は彼に対して特別な感情はなかったし、なんなら少し苦手なくらいだ。けれどキャスカの現状を知る限り、グリフィスもおそらく生きてはいまい。キャスカが壊れた理由にグリフィスの死も関わっているのではないかと思っている。

 

 今更ガッツを追うことはできない。

 私はキャスカを守ると決めた。そうしたかったし、ガッツとももう一度会いたい。その時、キャスカまでこの世から居なくなっていたのでは、きっと彼も壊れてしまう。

 いや、もしくは、もうすでに壊れてしまったのかもしれない。偶然出会ったあの時、ほんの一瞬かち合った視線は、すでに私の知るガッツではなかったから。

 

 私とキャスカ、二人の生活が始まる。

 時折エリカやリッケルトが様子を見に来てくれるが、基本的には二人だけ。

 

 赤ん坊のようなキャスカは自分の面倒を看ることさえできない。催すと我慢することができずに用を足してしまうし、汚した服の洗濯や食事の用意、体を洗うこともできない。一緒に居た頃はできないことの方が少ないと思っていたのに、今では何もかもができなくなっていた。

 別人と過ごしているような気分。でも顔や体はキャスカそのもので、表情こそ気が抜けて幼く見えるけれど、やはり彼女はキャスカなのだ。

 私はだんだん、何も考えなくなっていく。

 

 キャスカの世話はちっとも苦ではない。注意して見ていなければ、服を来たまま小便を洩らしてしまったり、器に入れた料理をこぼしてしまったりすることもあるが、彼女は私に好意的で、以前よりも真っすぐに私を見てくれる。

 不謹慎だが、私は嬉しかった。

 

 昼間は彼女が辛くならないように外へ出て遊び、日が落ちる前に安全な洞窟に戻る。そんな生活を続ける内、私は良からぬ思いを抱くようになっていた。

 キャスカは今、私が居なければ生きていけない状態にあるのだ。

 かつてのキャスカに恋い焦がれ、心が壊れたキャスカと一緒に居て、まさか、今の状態を良しとしているのではないか。キャスカの心が壊れたことを良かったと思っているのではないか。そんな恐ろしい考えに至って自責の念に駆られる。激しい嫌悪感を覚える。

 その一方で、キャスカと二人きりで居られること、私を頼ってくれていること、言い方は問題があるに違いないが、キャスカが私のものになったこの状況に安堵している自分も居る。

 

 キャスカの生活を支えて、生殺与奪を私が握って、最初こそ警戒していたものの、時間が経つにつれて私を信頼し、全てを委ねるようになったキャスカを見て、どうしようもない喜びを感じているのも確かなのだ。

 なんておぞましい。彼女の身に起きた不幸を喜び、あまつさえチャンスと思い、まるで洗脳するように自分の価値を認めさせる。

 私は、こんなに汚い人間だっただろうか。

 

 それでも、一線を越えることはない。

 そうしようと思ったわけではない。だが世話をしている内に気付いたのだ。

 キャスカは何かを恐れている。時折蘇る、おそらくトラウマが彼女を苦しめていて、あまりにも体に触れ過ぎると強い抵抗を行うのだ。

 

 魔が差したのは事実だった。ほんの少しだけ。これだけ世話をしているのだから、という薄汚い強烈な想いに衝き動かされて、水浴びをしている最中、彼女の肌をそっと撫でて、その感触と匂いを楽しもうとしてしまったことがあった。

 信頼があってのことだと思うが、体に触れることは多い。当然だ、そうしなければ世話をすることができないのだから。だから、という甘えはあったのだろう。

 

 水に濡れた彼女の肢体に手を這わせ、そっと股に指を埋め、少しだけ、ほんの少しだけと思いながら我慢できずに秘裂の中に少しだけ指先を埋めた時。キャスカは吠えた。

 獣のような声を上げて暴れ出し、激しく怯えて、私の腕の中から逃げて外へ飛び出した。二人して裸だったのだが気にしてはいられない。私も服を着る暇を惜しんで追いかけ、身体能力自体は以前とそう変わらないことを再確認しながら、暗い森の中で抱きしめた。

 その時に彼女の身に起きた異変、夜の間は洞窟を出てはならないという言葉の意味を知ることになったのだが、それよりも私にとっては彼女の激情の方が驚きだった。

 

 キャスカの心が壊れた理由がわかった気がする。

 それ以来、私は彼女に無理に触れようとするのをやめた。もちろんそれまでも無理をさせようだなんて思っていなかったが、あの時、あの瞬間、魔が差して少しだけと思ったのは事実だ。

 

 キャスカが嫌がることを無理強いしたくない。それでも、世話をするために体を触れることは多いわけで、どうしたって触れることはあったし、だめだと思えば思うほど、彼女の全身を舐め回すように見つめて欲情してしまう自分が居る。

 こんな汚らしい自分が嫌だった。けれど衝動を抑えるのは容易ではない。

 キャスカが眠った後、彼女に悪い、ごめんなさいと思いながら、眠るキャスカを見つめながら何度となく自慰をした。浅ましい自分を嫌悪し、最低だと思いながらも、なぜか興奮してしまってどうしようもなく気持ちよかった。

 

 ガッツは、帰ってくるのだろうか? また会うことはできるのだろうか。

 少なくとも私はキャスカから離れることはないだろう。

 以前の記憶や経験は全てゼロになって、一からやり直すような形になってしまったが、また新たに信頼関係を築いている。流石にもう無理やり体をまさぐろうなんてしないけど、私の傍なら安心してもらえるような状態にはなった。

 

 ガッツがどこで何をしているのか、これからどうするのかはわからないが、キャスカが私の傍で生き続けていれば、きっと帰ってくるのだろう。キャスカが彼を想っていたように、ガッツも彼女を想っていたのだから。

 私はそれまで、キャスカを守り続ける。それでいいのだと思っている。

 

 あの日、私は諦めてしまった。きっとその選択もこの結果に辿り着く影響を与えている。

 だからもう諦めない。キャスカのことも、ガッツのことも。

 生きてさえいれば、きっとまた会える。今度こそもう迷うことはない。

 

 

 *

 

 

 どうしてこんなことに。

 見上げた大きな影に目を見開いて、そんな言葉ばかりが繰り返された。

 頭の中で何度繰り返そうとも、目の前の現実は変わらない。いっそのこと目を閉じてしまいたいと思っても、そうすることもできない。体は鉄のように硬くなってしまい、もはや自らの意思で動かすことができなくなってしまった。

 

 大きな翼を広げていた。

 胴体は長く、細く、腰が括れていて、大きくはないが確かに膨らみのある乳房があって、陶器のように真っ白な肌は暗闇の中で輝くようで、伸ばされた腕は長く、爪が長く伸びていて、笑う口元には牙が並んでいて、長い髪が無造作に垂らされていた。

 足はない。腰より下は蛇のような尾が伸びている。

 確かに笑っていた。嬉しそうな顔で、目を輝かせるように。

 

 「うげぇ~!? なんだこいつ!? またこんなのが相手なのかよ!」

 「ガッツ……」

 「ん? え? 喋った! いやそうか、喋る奴は前も居たけど……名前を呼んだぞ!」

 

 周囲を飛び回る妖精が騒いでいるが、ガッツは動けなかった。

 硬直した体は異様な熱を持ち、呼吸が乱れ、全身に汗を掻く。反面、妙に体が冷たい気がした。

 

 それは、腹を動かした。ぐちゃぐちゃと肉が掻き分けられる音がして、彼が何をしたわけでもないのに、自分の意志で腹の肉が掻き分けられていく。

 その様子はまるで女性器のようであった。淫靡な様子を孕みながらも、なぜか不気味で、見てはいけない物を強制的に見せられている気分になる。

 二枚貝が開かれるように、彼に対して見せつけられた。

 

 そこに居たのは、裸で肉の間に挟まれ、穏やかに目を閉じる褐色の肌の女性。以前より髪は伸びたが怪我ひとつなく、安心した顔で小さな寝息を立てている。

 体が震えた。ガッツは、体内から上がってくる物を抑えるため、口を手で押さえる。

 それは、やはり笑っていたのだ。

 

 「ちゃんと……守ったよ」

 

 ぐちゃり。粘度の高い、女の股から洩れたような液体に塗れた女性が、それの手でそっと、優しく地面へ横たえられる。

 それは、笑っていた。自らの体内に居た女性を見つめて。自身を見つけたガッツを見つめて。

 ガッツは叫んだ。気付かぬはずもなかったのだ。以前の姿で、何度となく酒を酌み交わしながら見た笑顔を思い出して、叫び声を上げながら巨大な剣を振り上げた。

 

 どうしてこんなことに。

 彼女はきっと、守りたかっただけなのに。

 すでに気付いているはずなのに、幸せそうに笑うその顔が、どうしようもなく悲しかった。

 



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※背徳の味(鋼の錬金術師)

 ボーイズラブです。
 苦手な方はご注意を。


 窓の外を眺めてみれば、静かに雨が降り出していた。

 ベッドに寝そべった状態でも窓ガラスに水滴が当たっているのがわかる。ぽつぽつと触れる様を眺めて久しぶりの雨だと感じていた。

 

 「雨、降ってきたな」

 

 裸で寝ていた青年が呟く。

 股に顔を埋め、勃起したペニスを口に含み、頭を動かしていた少年が反応する。

 

 「腕と足、痛むのか?」

 「んっ……ちょっとな。別に大したことじゃない」

 「そっか」

 

 金色の髪を撫でてやり、彼は再びペニスに唇を押しつけ、ぱくりと亀頭を銜え込んだ。

 エドワード・エルリックは“鋼”の二つ名を持つ凄腕の錬金術師である。様々な噂が飛び交って、実物を知らないまま誤った情報だけが独り歩きしていることも多いが、少なくとも市民に優しい笑顔が素敵な長身の男性ではない。

 年齢の割には小柄であり、“チビ”と言われたらすぐにキレるほど気性は荒い方で、頭脳明晰でありつつ運動能力も高く、容姿は整っているが性格は素直ではない。血を分けた弟をして“大変な兄だ”と言われる男性であった。

 

 自身も裸になり、四つん這いの体勢で男性の股間に顔を寄せて、平然とした顔でフェラチオをしている。その姿は慣れていて、恥じらいも嫌悪感も感じられない。

 もう何度もしてきた行為だ。唾液を絡ませ、じゅぽじゅぽと音を立てる。

 

 青年とはそれなりの関係にあった。元は幼馴染で、ある時に引っ越しをして田舎を出て都会で暮らし始めたのだが、手紙を通じて関係は続き、エルリック兄弟が旅に出るようになってからは何度となく家を訪れて会うようになっていた。

 そもそもはこんな関係ではなかった。しかし今では当然の行為になっている。

 

 「エド」

 「んー?」

 「おいしい?」

 「は? バカじゃねぇの」

 

 顔をしかめて答え、エドワードはすぐにフェラチオを再開した。

 適当な問いかけだったため青年も気にしない。洗ったばかりの髪を撫でてやり、さらりとした手触りを指に絡めながら、ペニスに絡みつく彼の舌でわずかに息を吐き出す。激しさがない分、穏やかで丁寧な舌使いに気を良くして、再び問いかける。

 

 「あのさ、アルに聞いたんだけど」

 「うん」

 「ウィンリィのこと好きなんだろ?」

 

 聞いた瞬間、エドワードの全身に力が入った。

 青年が表情を歪めて体を跳ねさせ、睨むようにして彼を見る。

 

 「いっ……てぇ~。歯ぁ立てるなよ」

 「う、うっせーな。お前が変なこと言うからだろ」

 「ただの質問じゃないか。図星だったのか?」

 「ちげぇよ……そんなんじゃねぇって」

 

 言ってエドワードは青年のペニスに口をつける。その姿を見た後、温かい感触に包まれたことに安堵を覚えながら、青年は雲に覆われた暗い空を見上げた。

 

 「素直じゃないからなぁ」

 「んなことねぇよ。言いたいこと言ってんだろうが」

 「機械鎧(オートメイル)、ウィンリィが整備してるんだろ?」

 

 ペニスから口を離したエドワードは右手の指を開く。

 機械の義肢。彼の右腕と左足は失われており、補うための機械が着けられている。機械鎧(オートメイル)は神経に繋ぐことで生身の体とそん色なく動かすことができるが、雨が降ると付け根が痛む、とはエドワードが話していた情報だ。

 

 幼き日に一緒に遊んでいた活発な女の子。確かお婆ちゃんが機械鎧(オートメイル)技師で、幼い頃から機械いじりをしていたはずだと思い返す。エルリック兄弟と親しかった彼女に惚れていたとしても不思議ではない。青年はそう考える。

 

 「たまにだよ。あそこに帰るのはよっぽどの時だ」

 「ウィンリィか……引っ越してから一度も会ってないな」

 「会いに行ってやれよ。お前が来たらあいつもばっちゃんもデンも喜ぶぞ」

 「お前だって故郷だろ。もっと帰ればいいのに」

 

 神妙な面持ちをして、大きく溜息をついたエドワードが彼のペニスに頬を触れさせ、脱力して彼の上に寝そべる。

 気落ちしている姿は飽きるほどに見慣れていた。青年は彼の頭を優しく撫で、しばらく自分から話し出すのを待った。

 

 「家、もうないんだよ」

 「うん。知ってる。でも待っててくれる人は居る」

 「あそこには帰らないって決めたんだ。そのために家を焼いた。そう何度も帰ってたら何の覚悟だったのかわからなくなる」

 

 ぐったりした様子でエドワードは動かない。尚も頭を撫で続けた。

 

 「多分リゼンブールよりよっぽどうちの方が多いだろうな」

 「ここは研究室も兼ねてるんだよ。資料も置いてあるし」

 「俺の家だよ」

 「どうせ一人だろ」

 

 機械の右手でペニスの裏筋をそっと撫で、冷たい鋼が、肉棒の熱を奪おうとする。

 なぜ腕と足を失ったのか、事情は聞いている。その頃、親に連れられてすでに田舎を離れていた青年は現場を見ておらず、しかし数年の空白を経たエルリック兄弟と再会して、どれほど過酷な状況だったかは疑いもせず受け入れることができた。

 子供の頃とは違うのだと、再会したその日、顔つきを見たことですぐに理解したのだ。

 だからだろうか。若い男が二人、こうして薄暗いとはいえ夕方から裸で抱き合っているのは。

 

 最初はおそらく、自暴自棄だったのだろう。苦手なはずの酒を飲み、暴れ出したエドワードを押さえつけてベッドに寝かしつけ、介抱するため様子を見ていると、ぬくもりを求めるように抱きついてきたのである。

 彼らの心には深い傷が残っているに違いない。それを察した後、幼馴染でなくとも無下に振り払うこともできず、暴れ出す感情の逃げ場がなくて困っていたエドワードを見やり、言ってみれば酒の勢いなのだろう。彼がしたいようにさせてやった。それがきっかけ。

 逃げ場のない彼に捌け口を与えた。青年はこの関係をそう思っている。

 

 幼馴染と言えば同じだが、故郷に残した女性には弱みを見せられない不器用な彼は、こうしている今も罪悪感を抱いている。おそらくはウィンリィと、弟のアルフォンスに対して。特に弟の話題になると彼は極端に弱くなる。それほど後悔の念が強いのだろう。

 

 複雑な関係ではあるのだが、なるようにしかならないと諦めている。

 もしも今エドワードを突き放せば、彼が壊れてしまうような気がして、誰にも言えないこの関係を続けているのは、少なくとも青年にとっては彼を守るためであった。

 それにしてはおかしな方法だと自覚しているとはいえ、慣れた今では不思議にも思わない。

 

 「アルは、俺たちのこと知ってんのかな……」

 

 脱力したままのエドワードがぽつりと呟く。寂しげで、どこか不安が窺える声色だった。

 少し間を置いてから、青年は苦笑して答える。

 

 「賢いからな。気付いてても言わないと思う」

 「そうだな……」

 「心配するなよ。別にこんなとこしてるからって幻滅しないし、仮に現場を見られたとしてもエドのこと見捨てたりしないよ、アルは」

 「どうだろうな。案外あっさり兄弟の縁切られるかも」

 「平気だって。説教はされるだろうけど。ウィンリィのことほったらかしだしさ」

 「だから……ハァ。もういいよ、それは」

 

 体を起こしたエドワードは腹に向かって反り返るペニスにキスを落とす。

 唇を押しつけたかと思うと、じろりと青年の顔を見つめ、触れさせたままで話し出した。

 

 「言っとくけど、お前とこうしてんのだって、別にやけになったとかじゃねぇから」

 「あら、私のこと想ってくれてるの?」

 「バーカ。まぁ……多少はな」

 「ハハッ。ありがとエド。そうじゃなきゃ、そこまで熱心に舐められないもんな」

 「うっせぇ」

 

 両手を使ってペニスを起こし、根本から舌を這わせて先端へ向かっていく。エドワードの仕草には数多の経験が感じられて、これまで何度もそうしてきたのだろうと思わせる。

 ずいぶんいやらしい顔をするようになった。青年はじっと見つめて考える。

 当初こそわけもわからず動いていたのに、今では自分の物だと主張するようでもあって、同性でありながらどこか可愛げがあると思える。小柄であることも関係しているのだろうか。鍛えられた筋肉質な体だが細くて小さく、背丈は青年の方が高い。仮に身長が同じか、彼の方が高かったのならこんな感想は持たなかったのかもしれない。

 

 「今チビって言ったか?」

 「何も言ってない。気にし過ぎだよ」

 

 フンと拗ねるように鼻息を荒くしたエドワードは急に体を起こした。

 青年の顔を跨いで腰を下ろし、勃起していた自身のペニスを顔の前へ突きつける。股の間から覗き込むようにして鋭い眼光を飛ばすと命令するように彼へ言うのだ。

 

 「お前もやれ。じゃないと俺だけ不公平だ」

 「好きでやってたんじゃないのか?」

 「やれ」

 

 ぐいっと唇に亀頭を押しつけられたため、仕方なく青年は口を開いて迎え入れる。今更嫌だとは思わない。今までにも経験があった。その全てがエドワードで、どこをどう責めれば感じるのか、正確に理解してしまうほど繰り返した行為だ。

 じゅぽっと音を立てて強く亀頭に吸いつく。エドワードは反応してすぐに吐息を洩らした。敏感な彼は姿勢を崩し、へたり込んでしまう。

 

 口をすぼめて顔を動かす。青年のよりはいくらか小さい、しかし硬くて立派なペニスを刺激して全体に唾液を塗りたくった。

 青年の体感では、エドワードは早漏だと思っている。自身が遅いという自覚があるせいか、対比してみると明らかに時間が違って、性格と同じで我慢できないのだ。意図して力を入れたらどれほど耐えられるものか。少し楽しみにしながらペニスに吸いつく。

 負けじと彼も青年のペニスに舌を絡めるのだが、すでに腰は小刻みに動いていて、目で確認できる反応に青年が微笑んだ。

 

 「うっ、ふぅ……!」

 「あのさぁ、俺もしてほしいんだけど」

 「う、るせぇ……わかってる」

 

 怒りをぶつけるようにぢゅうっと一際強く吸った。声を出して反応するのだが、平静を失うほどではないようでエドワードのペニスに再び口をつけて、舌先でカリを引っ掻いてやると、ビクッと震えてまたしても刺激が弱くなる。

 もはや体の隅々まで知っているのだ。仮に勝負になったとしても負ける気はなかった。

 

 お互いにペニスを銜えて刺激し合って、エドワードが射精したのは突然だった。

 上に乗っかるエドワードが精液を放ったことにより、喉の奥まで飛び込んで青年は、眉間に皺を寄せて苦しげな顔をする。しかし放たれたそれは一部とはいえ飲んでしまい、残りは口に溜めて、尿道に残っている分を吸い出そうとしていて、自ら口を離そうとはしない。

 精子を口に含んだままお掃除フェラをされて、エドワードは安堵した様子で呼吸を整える。青年の行動を咎めるでもなく落ち着いていたようだ。

 

 ぺちっと叩かれたことでエドワードが腰を上げる。

 体勢を変えて、青年がエドワードを正面から抱きしめる。即座にキスをして舌を差し込むと、奇妙な味と感触を覚えてエドワードが表情を歪めた。

 

 「うえっ、まじぃ……!?」

 「自分が出したんだよ。よく飲ませたがるけど美味いもんじゃないんだから」

 「俺に飲ませんなよ」

 「だから口の中に出すなって」

 

 げんなりした顔で言うエドワードは指で舌を撫でるほど気にしているらしく、ベッドの傍らに置いていた水を飲んで口の中を洗い、自身がそうするだけでなく、自分の口に水を溜めると口移しで青年にも飲ませた。

 

 「エドってやっぱり早いよな」

 「……え」

 

 平然と呟かれた言葉を聞いたエドワードが硬直した。

 衝撃は凄まじかったようで、憎まれ口を叩くことさえ忘れていた。

 

 「俺まだイッてないよ」

 「い、いや……うん……そうだけど。大体、始めたタイミング違うし……」

 「同時に始めても大体エドが先にイッてるし」

 「お、おぉ……」

 「勝負だって始めてすぐイッたこともあったよな」

 「あ、あれは、体調が悪かっただけで――」

 「意外と結構早漏だよな」

 

 改めて突きつけたのは意図的だった。エドワードは見るからに顔つきを変えて、反論する気力を折られて俯いてしまう。

 その表情を見た青年は嬉しそうに笑い、静かに彼へ体を寄せる。すっかり下を向いてしまったペニスを掴んで、乳首に口をつけて吸いつき、舌で転がす。

 

 「ほら、そんなに落ち込むなって。別に悪いって言ってるわけじゃないんだから。俺はむしろエドの早漏が好きなんだから」

 「フン……どうせ早いですよ」

 「拗ねるな拗ねるな」

 

 掌で包むようにペニスを掴んで、上下に動かし始めた。

 エドワードは顔を背けて拒むような素振りだが、少しすれば吐息は乱れ、体の力が抜けていく。自覚はあるのだろう。しばらくは大人しくしていたがやがてやけになった様子で自らベッドに体を埋め、無抵抗を主張した。

 青年はその上に乗り、楽しげに笑う。

 

 彼のものよりいくらか小ぶりなペニスを扱いてやると、感じた顔で静かに目を閉じる。その表情を見るのが好きだった。憮然として眉間に皺が寄るが、ペニスに感じる気持ちよさで深く息を吐き出している。そんな態度が見たくてついつい意地悪してしまうのだ。

 

 「なんだかんだで喜んでるんだから、口は悪いけど可愛いとこあるよな」

 「誰がっ、喜んで……」

 「ここは喜んでんじゃん」

 

 ぢゅうっ、と吸いつくと、エドワードの体がびくっと跳ねた。

 反論は無理やり封じ込まれた形になり、不満そうな様子を見せながらも体の反応は抑えられず、感じている苦悶の表情を確認しながらペニスを銜えて頭を振る。

 

 しばらくは黙ってフェラチオを続けていたのだが、エドワードが勃起して、自身もまだ射精しておらずに勃起した状態を保っていて、青年は笑みを浮かべる。

 体を起こし、彼の足を掴むとがばっと大きく広げさせて、尻の穴に目を向けた。さっき舌で舐め回した上にこれまでの経験で慣れている。準備は良いはずだ。

 

 いよいよという意志を感じた途端、エドワードが体を勢いよく起こした。

 怒りの念を感じる表情で歯を剥き出しにして抗おうとする。

 

 「今日は俺が動く」

 「いいけど、大丈夫か?」

 「どういう意味だよ」

 「また先にイクんじゃないの?」

 

 額に青筋を確認し、激怒しているのは明らかだった。

 衝動的に押し倒されて上に乗られ、エドワードは自ら腰の位置を合わせ、片手で青年のペニスを支えると自らの尻の穴に触れさせる。

 怒りながらもにやりと笑い、やってやるという強い意志を感じた。

 青年は微笑み、余裕を見せる態度で受け入れる。

 

 「吠え面かかせてやるからな。さっきの言葉、忘れんなよ」

 「そのセリフ何回聞いたことか……」

 「うっせぇ」

 

 ぐっと腰を下ろして、彼のペニスを体内にずぶずぶと呑み込んでいく。

 苦しげに深く息を吐いて表情が歪んだ。奥まで入り込んだ後、背を丸めて俯き、表情を隠そうとするかのようだ。

 見ずともわかる青年はエドワードの頭を撫でてやり、落ち着かせて先を促す。

 

 ゆっくり腰を動かし始める。ぐぽっと妙な音を立てながら、尻の中で上下に扱かれ出した。

 苦しそうな様子のエドワードだが動きは止めず、自身のペニスを揺らしながら、青年をイカせようと躍起になっているようだ。しかし青年よりも自分の方が辛そうで、早くも余裕がない様子なのは表情や息遣いで鮮明に伝わる。

 自らが動くことによって前立腺が刺激され、思わず声が漏れた。エドワードが歯を食いしばったのを見て、青年はいつものことだと思って動揺しなかった。

 

 「ふっ、くっ……んっ、あっ」

 「女の子みたい」

 「う、るせ……」

 

 自らが辛くなる一方だが、ずんっずんっと一気に腰を下ろして、一定のペースで奥までペニスを押し込む。呼吸が乱れて目を閉じている時間が多くなった。エドワードは絶えず腰を振り、青年をイカせようと躍起になっているようだった。

 揺れるペニスを眺めて、カウパーが垂れているのを確認する。余裕がないだろうに、見返してやろうと力を入れる彼はやはり負けず嫌いだ。

 ウィンリィと付き合うまで先は長そうだと溜息をつき、青年は彼のペニスを握る。

 

 「あっ、おい……」

 「別にいいだろ。これくらい」

 「んっ、くっ、あっ――」

 

 彼のアナルは呑み込んだペニスを万力のように強く締めつけていて、青年とて余裕があるわけではない。決して激しい動きではなかったが、一定のペースでペニス全体が扱かれるため、慣れた腰使いがいやらしく、まるで女のようだとその姿を見つめる。

 鍛えられて引き締まった肉体や、掌に包んだペニスを見れば男であることは間違いない。それだけに不思議な気分だ。

 

 青年がペニスを扱くとエドワードの動きが鈍くなる。抑えようとする声が漏れ出て、顔を見ればすでに余裕など残されていない。

 微笑む青年は上機嫌で、予想通りではあったがそれを良しとしていた。

 

 「んっ、はぁ……」

 「腰、動いてないけど」

 「だっ、から……さわんなって、言ってんだろうが」

 「しょうがないなぁ」

 

 唐突に青年がペニスから手を離した。その直後、彼の膝の裏を両手で持ち、ぐいっと押し上げると体勢を入れ替え、繋がったまま正常位の姿勢になる。

 突然視界が変わって、押さえ込まれたエドワードは焦りを見せた。しかしぐっと押し込まれて表情が歪み、抗議することさえできない。

 青年は自らが腰を振り始める。明らかにさっきよりも速くなり、声が大きくなった。

 

 「ああっ!? お、まえ、ふざけんなっ……!」

 「こっちの方が好きだろ?」

 

 激しいピストンで腰をぶつける。

 小柄なエドワードは大きく体を揺さぶられ、ベッドがギシギシ音を立てる。

 抵抗する力はなく、もはやされるがままに突かれるばかりで、シーツを強く握りしめて思わず出てしまう声を響かせていた。一突きされる度にペニスがぶるりと揺れて、弾むように全身が動く様に青年は気を良くする。

 

 いくらか辛そうな様子に見えるのだが、体が丈夫だと知っていて、そうして激しくされるのが好きだとも知っていて、手加減はしない。

 ベッドが壊れるのではないかと思うほど、やかましい音を立てながらピストンを続ける。

 

 前後不覚になるほどの衝撃に襲われてエドワードは必死に耐えていた。

 すでにイッているのか、イッていないのか、自分ではわからない。少なくとも本人は常にイキ続けているような感覚に陥り、自分の状態さえ理解できなかった。

 青年にペニスを掴まれており、激しく扱かれていることだけはわかった。

 

 「あぁっ、んんっ、はぁぁ……!」

 「うし、イクぞ。まあ、聞こえてないか」

 

 覆いかぶさった状態で奥深くまで突き込まれて、びゅっと吐き出された精子を感じ、一際大きくエドワードの体が跳ねる。

 終わった直後はひどい熱気だった。汗に濡れたまま抱き合い、荒い呼吸を続けて、快感の波が引いて落ち着くのを待つ。

 

 ペニスを抜くと、ぽっかりと大きく開いたエドワードのアナルから精子が流れ出る。

 抱きしめ合って動かず、青年はエドワードの首筋に唇を触れさせ、わずかに吸いつく。跡が残らないよう気をつけながらそっと舌を這わせた。

 

 「なあ」

 「ハァ、ハァ……あん? 何だよ……」

 「元の体、戻るんだろ?」

 「ハァ、当たり前だ。そのために色々調べてんだから」

 

 機械の腕に触れ、手を握る。彼も指に力を入れて握り合う。

 

 「元に戻ったらさ、アルとヤッてもいい?」

 「は? ふざけんな」

 「男に慣れたよ。お前のせいで」

 「お前バカだろ。変なこと言ってんな。俺で我慢しとけ」

 「んー、まあ、そもそも手ぇ出してきたのはお前だしな。惜しいけど、しょうがないか」

 

 わざとらしく溜息をつくとエドワードがむっとした顔になったのがわかる。

 無理やり唇を塞がれ、ちゅうっと吸われた。

 至近距離で睨まれたが青年は笑っている。こんなことが日常なのだ。

 

 「手ぇ出すなよ」

 「妬いてんの?」

 「んなわけねぇだろ」

 

 不機嫌そうにしながら再び唇を合わせられた。

 青年はそれを受け入れ、自らの下に居る彼のしたいようにさせる。

 

 

 *

 

 

 見上げるほど大きな鎧が頭を下げるのを見て、青年は手を上げて挨拶した。

 アルフォンス・エルリックはエドワードの弟だが、彼の倍以上の身長と体格を持つ。兄弟だと説明して信じてもらえないのは当然だろう。

 事情を聞いて知っている青年は平然と彼の存在を受け入れており、怯えることもない。

 姿形は大きく変わっても幼馴染の声は昔と変わらず若々しい。

 

 「ごめんね。また兄さんが迷惑かけたみたいで」

 「迷惑かけた前提で言うなよ」

 「いいよ。いつものことだから」

 「かけてねぇだろ」

 

 不機嫌そうに言うエドワードはすでに青年に背を向けていて振り返る様子はない。素っ気ない態度はいつものことで、二人はふてくされた子供のような彼を見て何を思うでもなく、したいようにさせて放置している。

 

 エルリック兄弟が幼馴染である青年の家へ来るのは珍しいことではない。

 子供の頃から知っているという間柄がそうさせるのか、エドワードは彼の家に自身の研究資料を置いているだけでなく、いくつかの荷物も置いている。訪れる際には笑顔を見せることが少なく、無愛想にしているのだが足を運ぶ機会が多くて、弟として常々共に居るアルフォンスは、素直ではない兄がよほど彼のことを気に入っているのだろうと見ている。

 

 気に入っているのに素っ気ないのは、正直に言えばめんどくさいなとは思いながら、我が兄はいつもめんどくさいから仕方ないとアルフォンスは諦めている。

 それを幼馴染とはいえ青年にも味わわせるのは申し訳なく思う瞬間もあるが、付き合いが長いから別にいいかとも思っている。

 

 開けっ放しの扉の前に立ち、二人を見送ろうとする青年は腕を組んでいた。

 いつものように笑顔を見せてくれる。昔と変わらず付き合い、支えてくれる彼が居るおかげで安心して旅が続けられる。アルフォンスも彼に対する信頼は強かった。

 

 「次はどこへ行くんだ?」

 「まだ予定は決まってないんだ。手掛かりがなくなったばっかりだからね」

 「そうか。まだ時間はかかりそうだな」

 「そうだね。でも、気長にやるよ。それしか方法がないから」

 「師匠に会ってみたらどうだ? 手掛かりがあるかもしれないんだろ?」

 「そんなことしたら殺される」

 

 ぶるっと体を震わせたエドワードを見て、よほど怖いのだろうと感じ取る。アルフォンスも何も言わないがうんうんと大きく頷いている。

 やれやれと頭を掻き、青年はアルフォンスに目を向けて言った。

 

 「ま、疲れたらうちに来い。宿賃は取らないし、メシくらい作ってやる」

 「ありがとう」

 「フン、その度に嫌み言われるのはごめんだぜ」

 「またまた。そんなこと言って結局来るくせに」

 

 呆れた口調でアルフォンスが言ってもエドワードは振り向かなかった。どうやらそのまま去ろうと決めているらしい。仕方なさそうにアルフォンスが青年に向き直る。

 

 「ごめんね。兄さんがちっとも成長してなくて」

 「おい、それは身長のことか? 暗にチビだって言ってんのか?」

 「気にすんなよ。アルが悪いわけじゃないから」

 「俺だって悪くねぇだろうが」

 「兄さん、今日は元気だね」

 

 どうにも今日は分が悪い。

 がしがしと頭を掻いたエドワードは意を決して大股に歩き出した。

 

 「行くぞアル。いつまでもくっちゃべってんな」

 「お世話になったのに何を言ってんだよ」

 「気にすんな。慣れてるから」

 「ごめんね。また来るよ」

 「ああ。いつでもいいぞ」

 

 アルフォンスはがちゃがちゃと足音を鳴らし、急ぐエドワードを追う。

 その背を目掛けて、苦笑した青年が声をかける。

 

 「エド。また来いよ」

 

 一瞬足を止めて、がしがし頭を掻いた後、振り向かずにエドワードが答える。

 

 「……おう」

 「またね」

 

 今度こそ急がずに、肩を並べて旅立っていくエルリック兄弟を見送った。

 青年は二人の姿が小さくなり、見えなくなるまで家の前に立っていて、ようやく見えなくなった頃に大きなあくびをしてから家に入って扉を閉める。

 きっとまた来るのだろう。そう思いながらゆっくり眠るためにベッドへ向かった。

 

 「兄さん」

 「何だよ」

 「二股っていけないことなんだよ」

 「あ? 何の話だ」

 「僕は大人だから、兄さんのプライベートには何も言わないけどさ」

 「意味わかんねー。俺がいつ二股なんか――あっ!?」

 「兄さんは元々声が大きいんだから気をつけないとね」

 



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もしもルイズがむっつりスケベだったら(ゼロの使い魔)

 ルイズは歓喜した。

 自らの生涯を支える使い魔を召喚する儀式において、“ゼロ”という二つ名が付いてしまうほど魔法が使えない彼女が召喚したのは、こともあろうに人間だったのだ。周囲を見回せば竜やトカゲ、大きなモグラなども居るが、どれも何らかの特性を持った動物である。確かに見たことのない服装ではあるのだが、人間を呼び出したのは彼女だけだった。

 

 「おいルイズ! 魔法が使えないからって平民を呼んだのか!」

 「流石は“ゼロ”の魔法使い!」

 「お前にはよくお似合いだと思うぞ! 平民に何ができるか知らないけどな!」

 

 使い魔が、人間。普通なら落ち込んでも仕方ないという状況。しかしルイズは歓喜していた。

 日頃からルイズを馬鹿にしている生徒たちが、ここぞとばかりに彼女を揶揄する声をあちこちから飛ばしてくる。それらが一切聞こえないほど、今のルイズは頭をフルに回転させていた。

 

 「つ、使い魔が人間だなんて……! こんなことはあり得ません! やり直しを要求します!」

 「しかしミス・ヴァリエール――」

 「ああでもサモン・サーヴァントにやり直しはききませんものね! このまま人間と契約するしかありませんわね! ああしょうがないしょうがない!」

 「え? あ、ああ……え?」

 

 彼女がやり直しを要求するだろうと予想し、待ち構えていた教師だが、ルイズが勝手に納得したことでつんのめってしまい、戸惑った様子で口を噤んでしまう。

 

 顔を赤くして興奮するルイズはずかずかと早足で転んでいる少年に近付き、体を支えて起こしてやった。芝生の上に座らせてやり、地面に膝を置いて正面に陣取ると、両の頬に手を添えてじっと顔を見つめてみる。

 少なくとも彼女たちが暮らすトリステイン王国で見られるような顔立ちではない。服装も貴族ではないが平民にも見えない妙な格好をしていた。しかしまあ、それほど悪い男ではないだろうと判断したのである。

 

 何が起こったかさえ理解できずに呆然とする少年、平賀才人は、突然目の前に現れた美少女の容姿に見惚れて、頬を赤くする。

 可愛い、と思った直後には、なぜかキスをされていた。柔らかい感触が唇に押し当てられ、唇が触れ合っているのだと気付くよりも先に、落ち着かせる暇もなくぬるりと舌が入り込んでくる。

 

 サイトは混乱した。

 それはもう、人生で最も混乱していると断言できるくらいに混乱していた。

 

 事情を説明するどころか声をかけようとさえしなかったルイズは、興奮した面持ちで一切躊躇うことなくサイトの唇を奪い、口内に舌を差し込んで彼の舌を絡め取り、奥歯を探って、歯の一つ一つを確認しながら右へ左へ動き回り、再び舌を捕まえると自ら大胆に絡んでいく。

 なんて濃厚なキス。いつの間にか体がびくびくし出したサイトの体感では何十分にも感じるほど長く、人生で最も濃厚だろうと思うほどのキスだった。

 

 その行動はサイトだけでなく、離れて見ていた同じクラスの生徒たちまで驚愕させ、普段彼女を馬鹿にしている生徒まで含めて男たちは前かがみになり、女たちは頬を赤くし、目を離そうとはせずに凝視していた。

 ハッと我に返った教師が最も早く反応して、恐る恐るではあるがルイズに声をかける。

 

 「ミ、ミス・ヴァリエール?」

 「はっ!?」

 

 びくんっと跳ねて我に返ったルイズはキスをやめ、そういえば人前だったと冷静になる。

 体はぽかぽかして、思考はキスの続きを、或いはそれ以上のことばかりを考えているが、今は授業中でまだ人前。ルイズは赤面した状態で咄嗟に立ち上がった。

 

 「こ、この平民! ご主人様に向かってなんて失礼なことを! ご主人様に欲情するなんてあんたは犬ね! 人間というより見境のない犬よ! このバカ犬!」

 「そ、そうでしたか? ミス・ヴァリエール、今のは君が――」

 「すみませんミスタ・コルベール! このバカ犬はきちんと私が躾けておきます! ああ忙しい忙しい!」

 「まだ授業中なのですが……」

 

 平静を装うとしたのだろう。焦った様子を隠し切れていないルイズがびくびくして動かないサイトの首根っこを掴み、引き摺りながら逃げようとする。

 ルイズが壊れたという噂が流れ、魔法が使えないことを一切馬鹿にされなくなり、みんなが優しくなったのはその日の後のことである。

 

 ルイズはやはり歓喜していた。

 周囲の目も噂も評価も興味がない。彼女は自分の欲望に素直だった。

 年頃のせいか、性に対して興味津々だったため、男の裸、男女の営み、その他性に関する全てを知りたくて仕方なかった。とはいえ、ルイズ自身はヴァリエール家の淑女であって、貴族である。セックスだ恋愛だと大っぴらに話すわけにはいかず、由緒ある家系のために自身がそれらに現をぬかしていると思われてもいけない。

 

 そこへきて、魔法使いの使い魔とは、言わば自身の相棒であり、家族のようでもあり、言葉は悪いが奴隷のように扱う者も居る。

 例えば、使い魔と同じ部屋で寝る、一緒に風呂に入る、常に一緒に居るのは魔法使いにとって当たり前であった。

 その使い魔が平民で男だった。つまり彼をどうしようとルイズの勝手。そこらの男子生徒を捕まえて要求することができないことも、己の使い魔が相手であれば問題ない。要するに部屋の中で済ませてしまってバレなければいいのだ。

 興奮しきったルイズは常にそのことばかりを考えており、平静を取り戻したサイトが怯えてしまうほどに、ギラついた目で彼の全身を舐め回すように見ていた。

 

 早速動き出したのは夜になってからのことだった。

 授業を済ませ、食事や入浴も終えた後、ようやく待ちわびた瞬間を迎えてルイズは待ち切れない様子でうずうずしており、諸々の事情を聞き、意外にもルイズが優しかったことに安堵していたサイトは、獣のような少女を前にして怯えていた。

 いよいよその時が来た。ルイズは目を輝かせて言う。

 

 「服を脱ぎなさい」

 「は?」

 「今すぐ、全部、服を脱ぎなさい。裸になるのよ。今、ここで」

 

 部屋に戻ってすぐのことだった。制服を着替えることもなく、ふーふーと呼吸が荒い状態で見つめられていて、サイトは蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいる。

 流石に察することはできた。彼女はケダモノだ。

 

 「あ、あぁああの俺、童貞なんですけど……!」

 「は? なにそれ。意味わかんない。あんたが言っていいのは“はい”か“イエス”か“わかりましたご主人様”だけよ」

 「なにそのラインナップ!? 俺に拒否権は!?」

 「ああもうっ! 男のくせにぐじぐじとうるさいわね! さっさと脱げばいいのよ!」

 

 ルイズは思わず飛びかかった。業を煮やした彼女の力は凄まじく、小柄で細い体のどこにそんな力があったのかというほどの剛腕を見せ、サイトを押し倒すと服を強引に奪い始める。

 

 「いやああああっ!? お助けぇええっ!? こんな初体験はいやあああっ!?」

 「あんたの体は私のもの! 私の体は私のものよ!」

 「知らないくせにジャイアニズムゥ!?」

 

 剥ぎ取られた服は乱雑に床へ放り捨てられ、ベッドの上で倒れたサイトは、腰を両手でがっちり掴まれた状態で裸体を見られているのを自覚する。

 両手で顔を覆い、羞恥に耐えかねて震える彼はまるで生娘のようで、そんな様子に一切気付かないルイズは彼の股間に顔を寄せ、微笑みを浮かべて女性にはない異物を凝視していた。

 

 「はぁ、はぁ……! こ、こ、こ、これがっ、おちんちん……!」

 「も、もうお婿に行けない……」

 「心配しなくても私が面倒看てあげるわ。そんなことより――」

 

 手加減する余裕も持たず、ルイズが強くサイトのペニスを掴んだ。下腹部に横たわっていたそれを無理やり上向きにして、ふぅと息を吹きかけた時、サイトが小さく声を洩らした。

 なんて敏感なのだろう。欲しかった玩具を手に入れた子供のように、うずうずして我慢できないルイズは、許可を得ることもなくぱくりとそれを口に含んだ。まだ勃起していない柔らかなそれを舌の上でころりと転がし、サイトの体がびくっと跳ねたのを感じるも、構わず舌を動かす。

 

 「んんんんっ、んんんぅ……! これが、フェラチオ……」

 「えっ!? ま、マジで!? ほ、本気でするの!?」

 

 ルイズは答えず、代わりにちゅうううと吸いついた。

 ペニスに受ける刺激は、自分の手で擦るのとはまるで違う。サイトは首を反らしておぉぉと力の抜けた声をこぼした。

 

 待ち望んだ行為と感触。ついに本物を手に入れた。天にも昇る気持ちで喜ぶルイズは落ち着きなく舌を動かし、我武者羅に頭を振って、思いつくままにペニスに刺激を与える。幸い、サイトに経験がなかったせいか、乱暴でぎこちないフェラチオでもすぐに勃起してしまって、彼女が予想していた通り、大きく硬く反り返って望んだ通りの形になった。

 腹に向かって反り返ったペニスは雄々しく、彼女の唾液が付着して濡れていて、なんていやらしい形をしているんだろうと口元が緩む。

 

 我慢できなかったルイズは思うがままに行動する。

 召喚のこと、使い魔のこと、ハルケギニアのことを説明した時はあんなに優しかったのに、少し前の姿が嘘だったのではと思うほど気遣いのない我武者羅な行動だった。

 じゅぽじゅぽとペニスをしゃぶり、右手の指先で竿を扱いて、左手は愛おしそうに金玉を揉む。待ち切れないとばかりに一気にまとめて始めたのだ。

 

 「ふむっ、んぢゅっ、ぶじゅっ、んぶっ、ずちゅっ……!」

 「おああぁ、そんなっ、はげしぃ……!?」

 

 サイトは恥ずかしいやら気持ちいいやら怖いやら、忙しない感情の変化に混乱し、与えられる快感には素直に気持ちいいとペニスを硬くして、勝手ながらわずかに動く腰を情けないと思いながらも自分ではどうしようもできず、両手で顔を覆って必死に耐えた。

 一体何が起こっているのか。異世界に来た事実よりも今の方が驚いている。

 

 ルイズのフェラチオはあまりに乱暴で、テクニックなど微塵もない、相手への気遣いに欠けた自分勝手な行動だったが、悲しくも刺激には弱く、サイトは気持ちいいと思ってしまう。

 ぐいっと腰が動いて、ルイズが気を良くし、さらにじゅぞぞっとペニスを強く吸い上げる。

 

 「んんぶっ、ぐぶぶっ、ふむっ、んぢゅううううっ……! はあああ、おちんちんっ、すごい、かたい、きもちいい……!」

 「俺もきもちいい……けど、状況を受け入れられないんですけど……!」

 

 口の中に唾液を溜めて、じゅぶじゅぶ、じゅぽじゅぽとわざとらしく音を立てて絡められ、どうしようもなく気持ちよくて腰が勝手に喜んでしまう。

 もはや抗えないことは明らかだった。その気になれば小柄な彼女を押しのけることはできるかもしれない。しかし無理やりとはいえ、これほど気持ちよくては、そもそも力が入らないし振り解けるはずがない。サイトが観念するのは早く、諦めて快楽を享受する。

 

 ルイズは思うがままに頭を激しく振った。口だけでなく喉まで使って、苦しさなどむしろ好ましく思いながら、念願であったイラマチオをあっという間に我が物とする。時折おえっと吐き出しそうになりながらも決してペニスから口を離さず、一刻も早く射精させようとサイトを責め立てる。

 

 何が彼女を掻き立てるのかは知らないが、その熱意は異様なほど強く、休む暇なく刺激されるためサイトの精神を無自覚に苛めている。我慢しようと思う気持ちを嘲笑うようにごりごりと削っていて落ち着く暇がない。

 ついにサイトが耐えきれなくなるまでそう時間はかからなかった。

 

 「ふおおっ、はあっ、ああああぁ……!」

 「んぶっ!? んぐっ、んっ、ふうっ……!」

 

 勢いよく飛び出た精液がルイズの喉を打ち、反射的に亀頭を奥まで呑み込んで、一滴も逃すまいと体内に取り込んでいく。

 全て飲み干して、ちゅぽんっとペニスから口を離したルイズは満足そうに息を吐き出し、紅潮した顔で瞳を潤ませるとサイトの顔を見つめる。彼は恐る恐るその表情を確認して、かわいい、と素直に思うのだが、同時に末恐ろしさを感じて複雑な胸中だった。

 

 どんな物なのだろうと想像したそれをようやく知ることができた。

 ぷりぷりして、どろっとして、意外にも匂いはそれほどきついものではなく、飲み込み辛いがそれほど悪いものではない。少なくとも今はすぐにでももう一度飲んでみたいと思う。

 惜しいのは精液その物を視認することができなかった。イラマチオの最中に射精して、口を離さずに飲んでしまったからだ。満足しているとはいえ失敗もある。せめて掌に出して見てから飲めばよかったと今なら思う。

 

 「はぁ、ハァ、やばかった……思ったより、全然、すごかった……」

 

 ぐったりしているサイトをじっと見て考える。

 見たいなら、もう一度出させればいいだけのこと。

 サイトはすでにルイズの使い魔だ。命令して思い通りに動かしてしまえばいい。そう考えてから実行するまで数秒も必要なかった。

 

 くたっと寝そべるペニスを強く掴んで、無理やり上を向かせた。サイトがびくっと反応しているが意識の内に入らない。ルイズはペニスだけを凝視していた。

 先端をぱくっと銜えて、右手で竿をごしごし上下に擦り、勃起させるにはとにかく刺激があればいいと、痛みを感じるほどの激しさを躊躇わなかった。

 呆けている間に起こった突然の事態にサイトは当然の如く悲鳴をあげるが、ルイズはその声すらも聞き流して、早く早くと勃起を急かす。

 

 以前から練習でもしていたのか、それとも知的探究心がそうさせるのか、ルイズの行動はやけに大胆で慣れを感じさせ、サイトは自らの本能に抗えなかった。

 瞬く間に再び勃起してしまい、ああ、俺は今日童貞を捨てるのだと達観して思う。

 

 さあ、今度こそ、射精する瞬間をこの目で見よう。

 そう思っていたルイズだが、勃起したペニスを見つめて動きが止まる。この期に及んで今更羞恥心が沸き上がってきたわけでもあるまいし、固まった状態で考え込んだのである。

 確かに射精は見たい。しかし本当は他にもしたいことがあったはずなのではないか?

 我に返って冷静になったルイズは、大きく息を吐き出して落ち着き、ペニスから手を離した。

 

 手が離れたことを感じ取り、思わずルイズを確認したサイトは、立ち上がり、いそいそと服を脱ぎ始める彼女の仕草を目の当たりにして心臓が跳ねるのを感じた。

 まさか、と期待する。ここまでされておいて今更だが、いざその時を迎えるとなると、やはり混乱よりも喜びの方が勝るようだ。

 

 ルイズは裸になった。

 言ってみれば幼児体型で、身長は低く、胸は平らで、見てはいけない物を見ているような気分にすらなってくる。しかし彼女は美しかった。桃色の髪は彼女の白い肌を隠すようでもあり、電灯などなく、蝋燭で照らす室内において、やけに魅惑的な印象を覚えた。

 これから彼女とするのだと思うと、ペニスは萎えるどころかさらに硬くなる。びくっと震えたのを見てルイズは初めて恥じらいを見せた。

 

 「やっと、この時がきたのね……」

 

 彼女の中ではすでに決定事項であった。サイトの意見を聞こうとはしない。ベッドに上がると彼の体を跨いで、腹に向かって反り返るペニスを上に向かせ、位置を合わせた。

 濡れそぼった膣は、以前から習慣になっている自慰でよくほぐしていて、きっと大丈夫だろうと予想している。それでも痛みはあるかもしれないが構わない。今はそれよりも、念願だった性交を経験したくて仕方ない。

 

 サイトに確認することなく、ペニスを支えながら腰を下ろした。

 閉じられた肉をかき分けて入ってきた途端、ルイズは鋭い痛みと、同時にいまだかつてない感覚を味わったことにより、これが求めていたものなのかと衝撃を受ける。

 はあぁと深く息を吐いた。ルイズは動きを止め、現状を確認する。

 

 「いっ……たぁ……!? あぁ、でも、これぇ……きもちいいっ……!」

 「お、おおぉ、マジで……」

 

 わなわなと震える手が無造作に持ち上げられて、サイトはわずかに震えていた。本当にセックスしているのだ、という感動が押し寄せてきて、自分の気持ちを整理できずにいる。

 ルイズが腰を動かし始めた瞬間、サイトの方があっと女の子のような声を漏らした。

 

 ぐちゃりと卑猥な水音を立て、ルイズが腰を上下させ始める。

 痛みはある。だが快感を伴うのも事実であって、痛みとは無関係なのか、それとも痛いから気持ちいいのか、自分でもよくわからない。

 とにかく動きたい、もっと気持ち良くなりたい。そう思う気持ちは確かで強いものだった。

 ルイズは自身のペースで動き、様子を気遣うようにゆっくりだったのはほんの数回で、自分の膣にペニスを何度か突き入れると、素早く出し入れしようと早々に試みた。

 

 自分の体内に異物がある感覚は説明し難いと彼女は自覚する。苦しさもあって、痛みは小さくないのだが、それが膣内で動くとぞくぞくして、体が妙に熱くなってくる。

 もっと動かしてもっと熱くなるとどうなるのか。彼女は気になって仕方がなかった。

 悶えるサイトの上で腰を上下に動かして、徐々に慣れていくルイズは口元を緩ませた。

 

 「はっ、はぁ、はぁぁっ……! こ、れぇ、んっ、こんなの、知らない……!」

 「俺も、知らないぃ……!」

 

 されるがままのサイトが呻くように反応していた。

 ずちゃり。ぐちゃり。彼女の体液がよく絡んで、接合部には血が混じるものの、二人は気付かずに目を閉じている。何かに耐えるようにぎゅっと目をつぶっていて、一見すると苦しそうな表情にも見えるのだが、サイトとは違ってルイズは口元に笑みがあり、喜んでいるのは間違いない。

 

 沸き上がる衝動は凄まじくて、落ち着いて確認するように動けるはずがない。

 上半身を倒してサイトの胸に縋りつくような姿勢になったルイズは、さっきよりも早く動いてペニスを出し入れする。

 わずかに潮を噴くような様子で、自らの体液を撒き散らすかのようでもあって、自室のベッドやシーツはおろか床まで濡らしているのだが、本人は微塵も気にしていなかった。

 叩きつけることでばちゅばちゅと愛液を散らしながら奥を突いて叩き、腰を回すことで自ら膣内をかき回して、体の芯に叩きつけられるような衝撃を覚える。

 

 「ああぁぁ……! んにゃあぁ、くぅん、うふぅぅ……!」

 「ふおおぉ、あぁっ、だめぇぇ……!」

 「だ、だめよっ。もっと、もっとぉ……!」

 

 手加減は一切ない。なおも激しく動いて刺激を重ねる。

 余裕がないのはどちらも同じだったが、弱々しい小さな声を出すサイトとは違い、ルイズは嬉しそうに動いていたのだ。

 

 「んんんんっ、あはぁっ!」

 「うあっ、あっ、あぁ……!」

 

 唐突にびゅくっと飛び出した時、ルイズは動き続けていた。自らの膣内に吐き出された精が熱くてどろりとしていることは感じているが止められない。目的を達しても腰だけが独立してしまったかのように言うことを聞かず、勝手に動いてしまう。

 射精が止まった後もしばらくゆっくり腰が動いて、疲弊した様子でぐったりする。

 

 折り重なった状態で寝そべり、呼吸が乱れたまま整えることさえできずに動かなくなる。

 ただハァハァと荒れた呼吸が響いていた。

 思考は形を成さず、ただ気持ちよかったという事実だけを再確認する。

 

 やがてルイズは、満足した様子で充実感を得ていたのだが、ふと気付いた。

 わずかに顔を上げ、目を閉じて荒く呼吸するサイトを見つめる。

 

 「そういえば、また見られなかった……」

 

 ルイズはすぐに動き出し、指示を出した。

 サイトは疑問を持った上で戸惑いを覚えるのだが、拒否することは許されずに強行される。魔法があるらしい世界で、魔法的な制約は何一つとしてなく、単純に恐ろしい目で睨みつけられて逆らえなかっただけだ。サイトはルイズの指示通りに動いた。

 

 跪いたルイズはベッドではなく床に膝を着いていて、目の前に立ったサイトを見上げている。やはり興奮するのだがいけないことをしている感は否めない。

 彼女の指示通り、自らのペニスを扱く。

 顔にかけろとの命令だった。射精を見たいだけでなく、顔に受け止める特殊なプレイに興味があるらしい彼女は、心待ちにした様子で目を輝かせている。

 

 一体何がどうなってこうなったというのか。

 異世界に来てまで何をしているのだと、呆れるサイトは勃起したペニスを擦りながら、思わずため息をついてしまう。

 

 「ぶっかけとか……異世界でもエロに関しては考えることが一緒なんだな」

 「は、早くしなさい。隠さないでよ」

 「わかってる……う、うっ」

 

 悲しいかな、可愛らしい裸の少女が目の前に居て、肌を少しも隠そうとせず、薄い胸を張って見るからに期待した目で見上げられると、どうしたって勃起もするし擦れば気持ちいい。しかも今しがた無理やりとはいえ彼女とセックスしたばかりなのだ。

 興奮は冷めやらず、命令とはいえ、目の前でオナニーを見られているこの状況が異質で、一人でするのとは違う。彼はあっという間にイッた。

 

 「あっ、すごっ、んっ、んぅ……」

 

 顔を上に向けて自ら受け止めたルイズは恍惚とした表情を見せた。

 うっとりした様子で自身の顔を濡らす精液に触れ、指先に乗せてまじまじと見つめ、改めて匂いを嗅いだりする。

 しっかりと確認されると流石に恥ずかしい。というか、射精した直後であるせいなのか、冷静に現状を確認すると何をやっているのだろうと思ってしまう。異世界に来たことより衝撃が大きい。その日の内に小柄な少女にレイプされてぶっかけをしたのである。

 

 「ふふふ、これがザーメン。やっと見られた」

 「俺、何やってんだろう……」

 「えっと、次は」

 「ま、まだやんの?」

 

 ルイズはまだまだやめるつもりがなく、胸を貫いて外へ出ようとするかのような衝動に突き動かされるまま、更なる探究を行おうとしている。

 呆れるサイトだが強く腕を引っ張ってくるルイズが命令するため、仕方なく付き合ってやることにして、覚悟を決めるよりも早く下を向いたペニスを口の中に銜えられた。

 



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閃乱カグラ 陰乱修行はちんぽが生える。
☆ ※忍びのお勤め


 ※注意
 ふたなりもので、男オリ主が受けてます。
 苦手な方はご注意を。


 “先生”は若く優秀な忍びであった。

 忍びという立場である以上、年齢こそ定かでないが、将来を有望視されるほどには若く、且ついくつかの広く知られる功績を残しており、何より他の忍びにはない特徴がある。

 

 「先生……」

 

 呼び止められて振り返った先生は、自らが指導する少女を見た。

 髪を一つにくくり、赤いスカーフを首に巻いて、半蔵学院の制服を身につける、飛鳥だ。

 彼が担当する大半の少女がそうだが、彼女も爆乳と称せるほど胸が大きい。

 ひどく赤面していて呼吸も荒く、何やら様子がおかしい。しかしそんな姿を見たところで微塵も動じない。これが日常茶飯事であり、原因はすでに見えているからだ。

 

 薄いピンクのショーツからはみ出し、スカートを下から押し上げる、巨大な男根。本来女性にはないはずの男の象徴があまりに雄々しく、目に見えている。

 先生は驚きこそしないものの、呆れた目でじっと恥じる飛鳥を見つめた。

 

 「またか、飛鳥? さっき抜いてやったとこだろう」

 「ごめんなさい……でも、私、どうしても……」

 「わかった。わかったから泣くな。こっちに来い」

 

 目を潤ませて、羞恥心で胸が張り裂けそうになりながらも、やっぱりいいですと言って退くことはできない。それができるならそもそも声をかけていないのだ。

 飛鳥は泣きそうになりながらも足早に先生へ近付き、胸の中に飛び込んだ。

 先生がしっかり抱きとめて頭を撫でてやると、飛鳥は余裕のない様子で泣きじゃくり、ぽろぽろとわずかに涙をこぼしながら、彼の顔を見上げて必死に訴えた。

 

 「私、やっぱりだめなんです……我慢できないんです。うぅ、ごめんなさいっ。先生のケツまんこでおちんぽ気持ちよくしてください……」

 「まったく……仕方のない奴だな、お前は」

 

 言いながらも飛鳥は自制ができず、答えを聞く前に腰を動かして、先生の太ももに擦りつけて気持ちよくなろうとしている。

 嘆息して、しかしそれも忍務の一つと自覚している彼は飛鳥の肩を抱き、自室へ招いた。

 

 先生は若くして実力を認められた忍びである。

 若者を教え、導く力もまた認められていて、将来を有望視されている若き少女たちをまとめて鍛えることになったのも彼が優れた人材だったからだ。しかしそれ以上の理由があるのではないかと言われているのが、そうした行為であった。

 彼には少女たちを癒す力がある。

 

 陰属性の忍術は強力である反面リスクがあり、心を強く持たねば我を失うことも少なくない。女性が使えば殊更それは顕著で、陰属性の忍術の弊害は、男よりも立派な男根が生えて、抑制するのが難しいほど肥大化した性欲によって暴走してしまうことにある。

 過去、陰属性の忍術を暴走させて立派なちんぽが生え、そこかしこに居る人間を性別を問わずに襲い、本人にそのつもりがなく他者の心を壊してしまったケースも少なくない。

 特に男が襲われた場合、自分より大きなちんぽで尻を犯されて自信を喪失し、二度と現場に戻れなくなったという忍びも多く報告されている。しかしこれを逆手に取ろうと陰属性を極める忍びが居るのも事実であった。

 

 先生が指導役として認められた大きな理由は実力のみではない。

 彼の特徴とは、何の因果か忍びの修行の一環としてアナルを開発されており、陰属性の忍術で生えてしまった女性のちんぽを受け入れられることにある。

 その効果はてきめんであり、飛鳥が日常的に頼っていることからも見て取れた。

 

 自室に入った先生は何も言わずに服を脱ぎ始める。

 生徒が性欲を爆発させて、誰かが被害者となる前に、自らの体で発散させてやる必要がある。

 嬉しくはないがすっかり慣れた行為で、先生はあっさりと裸になった。

 

 「ほら、服着てたら汚れるだろ。早く脱いでするぞ」

 

 そう言った先生の体はれっきとした男性であって、女性でもなければ中性的ですらない。

 全体像は確かに細いがしなやかな筋肉が全身を覆っていて、垂れさがるペニスは男性としては十分に大きい方なのだろう。ただ飛鳥に生えたちんぽが大き過ぎるというだけで、比べられるとどうしても小さく見えてしまうとはいえ、決して恥じるようなものではなかったはずだ。

 顔立ちは地味だが端正であり、無造作に伸ばされた黒髪はわずかに目元へかかってクールな様相を引きたてる。身長は170センチ程度で小柄というほどでもない。

 それでも少女たちの巨大ちんぽをケツの穴に受け入れるのだから、並み居る忍びたちの中から若くして特別に指導役へ抜擢されたことに、嫉妬を覚える男など一人として居なかった。

 

 すっかり涙を引っ込めて興奮しきった面持ちの飛鳥は、彼が服を脱ぐ間も待ち切れずに自らのちんぽを両手でごしごし擦っていた。

 先生に指摘されてハッと我に返り、慌てて服を脱ぎ始める。その挙動には色気など微塵も感じられない。全ての布が邪魔だと言わんばかりに乱暴に投げ捨て、大きな肉棒を大きく揺らした。

 

 「はぁ、はぁ、先生……」

 「ちょっと待てよ。まずほぐさないと危ないから」

 

 飛鳥はちんぽを握って待ち侘びていた。

 一歩間違えれば乱暴に襲いかかりかねない彼女に待てと言い、先生は準備をする。

 こういう時のために常備しているローションを取り、自らの指で尻の穴に塗りたくって、中に指を突っ込んでほぐし始めた。

 

 待っている間も飛鳥は呼吸が荒く、うずうずしているのは目に見えてわかりやすい。それでも先生は慌てずに自分の指で尻の穴にローションを慣らしていく。

 準備が整った時、彼の指がぬぽっと抜けた。

 独りでにくぱぁと開かれて閉じる尻の穴。飛鳥の視線は釘付けだった。鉄の如く硬くなっているちんぽからとろりとしたちんぽ汁を垂れ流し、危うくイキかけている。

 

 尻を弄っている間に先生も勃起していた。やはり飛鳥のそれより見るからに小さいが、どちらもそんなことを気にしようとはしない。

 準備は整ったのに、先生は指示をしなかった。焦らして引きつけるかのように、四つん這いで尻をゆるりと左右へ振る。

 その次には尻を両手で広げた。これからちんぽが入る穴をまざまざと見せつける。

 あからさまに誘う行動に飛鳥ははぁっと大きく息を吐いた。

 そろそろ限界だろう。ようやく先生が飛鳥に許可した。

 

 「いいぞ。挿れてくれ」

 

 こちらも色気のない誘い文句だったが、関係ない。

 駆け出すように動いた飛鳥は転びそうになりながら、むしろ転びかけたその挙動さえ利用して、寸分違わず狙いを定めて倒れるようにちんぽをアナルへ挿入する。

 ずるんっと奥まで入り込み、飛鳥は嬉しそうに絶叫した。

 

 「あぁっ、あぁぁっ、あぁぁぁぁ……! お、おちんぽ、きもちいいぃ……!」

 「う、くっ……それは、何より」

 

 流石にポーカーフェイスとはいかずに先生は小さく呻く。一方で痛みは感じていなくて、いつも通り快感さえ覚えていた。

 まるで盛りのついた犬のように、飛鳥は先生の腰を掴んで押さえつけ、配慮など微塵も考えられずに全力でちんぽを叩き込む。

 彼のアナルはきゅうきゅう締めつけて、まるで女性のおまんこかと錯覚するほどだ。

 

 「はぁっ、あはっ、すごいです先生! 先生のケツまんこ、おちんぽにちゅうううって吸いついてきてすぐ出ちゃいそうです……!」

 「はぁ、んっ……別に実況しなくてもいいんだけど」

 「あぁぁ、だめですっ、イっちゃう、イっ、ちゃ――!」

 

 ごりっと強く擦られた直後、熱い感触が体内を満たしていく。

 飛鳥は数度のピストンであっという間に射精してしまい、がくがくと痙攣するように全身を大きく震わせ、内から溢れ出てくるほど注ぎ込んでいた。

 不平も不満もない。ただ先生はおえっと反射的な反応を見せながら、自らも尻を震わせ、どこで作られたのかわからない彼女のザーメンを受け止めている。

 

 一説によれば、陰属性の忍術に触れて生まれた精神の負の部分を、精液に近い形状で吐き出しているのではないかと言われている。真偽こそいまいち定かではないが、匂いも味も感触も男性の精液と同じだ。ということを先生は知っている。

 面倒なので詳細を考えるつもりもないが、可愛い教え子に中出しされたことだけが事実だ。

 

 飛鳥は身動きできずに震えている。体内にあるちんぽを通して見ずともわかる。

 これだけで終わるはずがない。ついさっきもそうだが、経験で知っていた。

 ぐりっと捻るような刺激を与えて、あっと飛鳥が喘ぎ、先生は挿入されたまま自ら動いた。

 

 仰向けになって正常位の姿勢を取る。

 きっと飛鳥はこっちの方が好きなはず。日常的に少女たちの相手をしていて、ちんぽを受け入れていると個々の好みまで一つずつ把握してくる。

 自分も勃起していて、硬くなったペニスが腹の方へ反り返って寝ている。

 それでいてアナルにちんぽが刺さったまま、自由にしろと言いたげに待っているのだ。

 瞬く間に興奮し、思わず喉を鳴らした飛鳥は体を前へ倒して、先生を抱きしめながら再び乱暴に腰を振り始めた。

 

 「先生っ、先生っ、先生っ……!」

 「うぅ、ふぅ……よしよし。大丈夫だぞ」

 

 常人ならそもそも入らないだろうし、十分に慣らしても裂けそうな大きさ。しかも柔らかさなどなくやけに硬い。その上で、壊れそうなほどに激しいピストンを行われていた。

 先生は多少呼吸を乱してこそいるが、平然とした様子で受け入れ、自らも少なからず気持ちいいと感じてさえいた。

 

 飛鳥は持ち前の爆乳を押しつけ、彼の体をぎゅううっと抱きしめて、我を失うほど半狂乱の状態でちんぽのためだけに動いている。

 突かれる衝撃で体が揺り動かされていて、先生のペニスもぷるぷる震えていた。

 

 「あぁっ、だめぇ!? またすぐ……イっちゃうぅ!」

 「う、ふぅ、はあっ――」

 

 冷静さなどかなぐり捨てている飛鳥に、我慢できるはずがなかった。

 またしても体内へ、収まり切らずに外へぶびっと吐き出されるほどのザーメンが発射される。顔をしかめはするが先生は怒らず、またアナルに受けた刺激だけで、自らも射精していた。

 

 ぐったりした飛鳥の体と自身の間でペニスは挟まれていて、冷静に考えると、この違いはなんだろうと思ってしまう。

 この特別な忍務を遂行するには冷静にならないことだ。彼女たちに比べると自分のちんぽが情けないとか、出したザーメンの量があからさまに少ないとか、アナルだけでイってしまうとか考えていては務められない。

 先生は疲弊する飛鳥の頭を撫でてやり、何も考えずに呼吸を整えようとしていた。

 

 さて、これで射精した回数は二回。

 ついさっき相手にしてやった時は四回出させている。内訳は手で一回、口で一回、アナルで二回の中出しだ。これで落ち着くのだろうか。

 念のためという考えはおかしいが、あと一、二回は出させてやった方がいいように思う。

 

 「はぁ、はぁ……ごめんなさい先生。私、どうしても陰属性の術が上手く扱えなくて……一人で修行しようと思ったんですけど、その」

 「いいよ。確実に前進してるから、気に病むことはない」

 「うぅ、はい……」

 「もう一回しておくか?」

 「します」

 

 迷いもせずに答えたのだが、先生が動いて体を起してしまい、ちんぽが抜かれる。あっと寂しげな声を出して、飛鳥は悲しそうな顔をした。

 ちんぽが抜けた途端、内に納められていたザーメンが一気に逆流し、大量に溢れ出る。

 畳の上に広げられたのはまずかった。だがもう遅い。自らの体内から出てくるそれをうんざりした顔で眺めて、先生は後処理が面倒だと考えていた。

 

 「うへぇ。出し過ぎだ」

 「ご、ごめんなさい……すごく気持ちよくって」

 「もう慣れたけど」

 

 抜いた後でもまだ出てくる。すっかり慣れてしまった感覚だ。

 膣内に中出しされる女性の気持ちがわかる気がして、これはこれでそれほど悪くないと思うのだが女性もそうなのだろうか?

 そんなことを考えた後、先生は勃起したままびくびく震える彼女のちんぽを見やり、両手で亀頭を鷲掴みにする。遠慮のない手つきに悲鳴のような嬌声が漏れるが、彼女もまた抵抗せずに、それを快感として即座に受け入れた。

 

 両手で亀頭をこねくり回し、太い竿を握って上下に扱くと、飛鳥が情けない声を発する。

 そうしながらも先生は顔の向きを変えて視線を動かした。

 襖の向こうへ声をかける。

 

 「焔、見てないで入ってきたらどうだ?」

 

 あからさまに驚いた気配がする。

 ちんぽの快感に酔いしれて、全く気付いていなかった飛鳥はこの時になって驚く。

 

 「え? 焔ちゃん?」

 「参加するなら今の内だぞ。俺だってそう何度もできないんだから」

 「あ、先生待って、あんっ!?」

 

 言い終えると先生は飛鳥のちんぽに顔を寄せ、亀頭にちゅっとキスをして、驚いた様子でぴゅっと少量のザーメンをこぼす割れ目を舌で舐めてやり、大きなそれを口の中に含もうとする。

 大口を開けて迎え入れ、舌を動かして絡ませ、ぢゅううっと吸いつくと、腰が抜けそうな衝撃に飛鳥は開けた口を閉じられずに後ろへ体を倒していく。

 先生は献身的なフェラチオを開始して、ちんぽを銜えたまま頭を振り始めた。

 

 ドキドキしている。胸の鼓動は自分でわかるほどうるさい。

 音を立てず静かに襖を開けて、焔は室内の状況を見た。

 余裕のない飛鳥は可愛らしい声で喘ぎつつ、本当に現れた焔の姿を確認する。

 

 「あっ、あっ……あ、ほ、焔ちゃん、んんっ」

 

 赤面する彼女は飛鳥もそうだが、静かに動いた先生を見つめていた。

 飛鳥のちんぽをしゃぶりながら焔には尻を向けていて、両手で外へ押し広げ、今もとろとろと少しずつザーメンが溢れ出すアナルを見せつける。

 焔自身は今の今まで冷静だったのだが、頭が茹るように熱くなり、襖の向こうでオナニーの最中だったため抑えが利かなかった。

 Tシャツに覆われた上半身とは違い、下半身だけは現れた時から裸で、ちんぽが勃起している。

 

 「はぁ、くっ、はぁ……!」

 「やぁっ、先生っ、あぁんっ……!」

 

 もはや冷静に自分を落ち着ける余裕などない。

 力を入れて押しつければずるんっと一気に奥まで入り込んだ。経験があるため、予想していたとはいえ、焔はあまりの気持ちよさに背を反らして腰をさらに押しつける。

 先生は飛鳥のちんぽをしゃぶる傍ら、今度は焔の激しい腰使いを受け止めた。

 

 相手が変われば趣味も趣向も変わる。

 どんな行為であっても受け入れる。それが彼の忍務であり、嫉妬を浴びない理由だ。

 彼の生活に朝も昼も夜もなく、求められれば応じる。それだけの簡単な内容であった。

 

 飛鳥と焔は仲が良い。だからというわけでもないだろうが、似ている部分がある。それはどちらも正常位が好きで、裏筋が弱くて、おまんこにちんぽを入れられるよりも先生にちんぽを突っ込む方が好きな点などだ。

 同時に相手をすると不思議と限界を迎える瞬間も同じだった。

 先生は口とケツまんこ、両方へ同時に大量のザーメンを押し込まれ、それらも意識的に呑み込んで体内へと迎え入れた。

 



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☆ ※風呂場は楽しい

 ふたなり、男受け描写あり。


 先生の職務は実のところさほど多くはない。

 将来を有望視され、集められた少女たちを鍛えることが忍務であり、彼女たちの修行を見守る以外には特に責任が発生していないのである。

 

 ただ一方で、先生はとても忙しい。

 それは彼が自発的に引き受ける、少女たちの相手をする時間が多かったからだ。

 

 修行の時間よりも多いのが実情であり、忍びの力量を高める修行はきちんと行っているものの、それ以外の時間はあれこれ理由をつけては彼が呼び出される。

 趣味趣向も様々。中には少女たちに会って初めて体験したという行為もある。

 先生はそのどれもを許容していたのだが、楽しんでいるわけではない。

 

 「先生、風呂に行きませんか? ……一緒に」

 

 夕刻、修行も済んで一日を終わらせる準備に入ろうかという頃、先生の自室に訪ねられた。

 頬を赤らめて誘うのはすらりと脚が伸びた長身で、白の短髪、ゆさっと揺れる爆乳、スカートを履いていても美しい男性と見間違えられてしまう雅緋である。

 

 風呂に入るのは好きだ。誘われることも珍しくない。

 先生はあっさりと受け入れて頷く。

 一日の終わりとして、疲れを癒すにはやはり風呂がいい。特に彼は肉体労働であり、どれだけ鍛えられていても、並の忍びよりも疲労が溜まる。だからこそより風呂への信頼と感謝が大きく、一日として欠かすことなく入浴する。

 たとえその風呂場でさらに疲れることになろうと、やはりあの温かい湯に全身を包まれる感触がなければならないのだ。

 

 「わかった。もう行けるのか?」

 「は、はい」

 「じゃあ行こう」

 

 そう言って先生は着替えを手に取り、雅緋と共に廊下を歩きだす。

 その時の雅緋はやけに嬉しそうで、まるで想い人とデートに行くみたいに、頬を赤らめて緩んだ微笑みを浮かべており、少しでもこの時間が続けば良いと言わんばかりに、まるで生娘のように先生の隣をしずしずとゆっくり歩く。

 

 先生も少女も住んでいる大きな屋敷とはいえ、当然、十分も歩いていられる距離ではない。大浴場の脱衣所にはすぐに着いた。

 代え難い時間はなんとも短い。雅緋は寂しげな様子で暖簾をくぐる。

 

 彼女たちが住む屋敷に明確なルールなど存在しない。

 おそらくは先生がそうしたのだろう。入浴の時間は限られてなどおらず、食事も睡眠も、屋敷での過ごし方は各々が決める。修行さえきちんとしていれば誰に文句を言われることもなかった。

 二人が訪れたタイミングでは、数人の少女が入浴中で、数は多くなかったようだ。

 脱衣所には一人の少女が服を脱いで待っていた。

 

 「やあ雅緋、ちゃんと先生を誘えたようだね」

 「ああ。待っていてくれたのか」

 「もちろんだよ! やっぱり修行の後には雅緋と一緒に入浴しないとね!」

 

 待ち構えていたのは眼鏡をかけた少女、本人の意思により雅緋の右腕とも称される忌夢だった。すでに入浴の準備は済ませて裸になっており、身じろぎの度に爆乳を揺らして、同時にこれ見よがしに勃起させている大きなちんぽを揺らしていた。

 興奮しているのか、だらだらと体液を垂らすそれは彼女の心境をよく表している。

 刺して貫くような熱視線は雅緋に向けられていて、本人にも伝わっていた。

 

 忌夢が待ち切れないのは別として、先生は空いている籠へ近付くとおもむろに服を脱ぎ始める。

 少女たちの面倒をまとめて看ていると、中にはそうした趣味を持つ者も居る。理解があるとも言える反面、興味がないとも言いたげな態度で、先生が何かを言ったことはない。

 彼の冷静な行動を見た雅緋も慌てて移動し、刺すような忌夢の視線より、先生をちらちら気にしながらも一枚ずつ服を脱いでいく。忌夢がふおおっとうるさいが気にしない。

 先に先生が裸になり、脱いでいる途中だった雅緋を待つ。

 その際の視線が気になって、彼女は見るからに緊張していた。

 

 どうしてこんなにも胸がときめくのか。

 その感覚を理解できず、雅緋はいまだに戸惑いを覚える。

 裸だって見られているはずだし、彼と体を重ねたこともある。彼の中に入ったこともあれば、彼を迎え入れたこともある。今更恥ずかしがってどうする。

 そう思っていても、彼を前にすると心臓は勝手に跳ね上がる。

 今日も同じで、彼女は胸の内が押し潰されそうになりながら服を脱ぎ切った。

 

 身じろぎ一つでぷるぷる揺れる爆乳。ピンク色のつんと立った乳首。シミ一つない白い肌。股間には光を浴びて輝くような、毛髪と同じ白い陰毛。そして自ら課した厳しい修行の影響を明確な形で感じさせる、鍛え抜かれた筋肉が確認できる。

 雅緋はわずかに息を乱して、自らを守るように、割れた腹筋の辺りをきゅっと抱いた。

 

 鼻血を垂らしかねない勢いで奇声を上げる忌夢とは裏腹に、先生は静かにその体を見ていた。

 女性らしい美しさと、男性的な強さを併せ持った肉体。彼女自身は盛り上がる筋肉を嫌がる素振りを見せていたのだが、彼はその姿を素晴らしいと感じていた。

 

 「いつも思うが、きれいな体だ」

 「うっ……そ、そうでしょうか。私は、あまり……」

 「何を言ってるんだ雅緋! 先生の言う通りだよ! こんなにきれいで、強くて、興奮する体は世界広しと言えども雅緋しか持っていないよ!」

 

 言いながら忌夢は自分でちんぽを扱いていて、おかしくなりそうなほどハァハァ言っていた。

 このままでは脱衣所を汚すことになる。

 咄嗟の判断で先生は雅緋の手を取って共に大浴場の中へ入った。当然のように、忌夢は雅緋の尻を凝視しながらついてくる。浴室に入れば、まだマシだろう。

 

 濡れたタイルの上に立ち、二人は真っ先にその少女の姿を目にした。

 床に寝そべって仰向けになり、両脚をがばっと広げて、自らの濡れたおまんこを指で開き、あからさまに待ち構えている。

 

 「待ってました~! 両奈ちゃん、先生のおちんぽ様でぐちょぐちょに犯してほしくて、ずっとオナニーしながら待ってたんだよ? もう焦らしプレイはお腹いっぱいだよぉ~」

 「両奈……またお前は」

 

 先程のドキドキもどこへやら、呆れた表情で雅緋が呟く。

 両奈は元々、雅緋と同じ学校に所属する忍びだ。紆余曲折があったとはいえ、今では仲間として大事に想っている。しかし、こうした姿を見せられると、彼女の趣味が理解できず、仲間を想う自分の気持ちが時々わからなくなるというのが本音であった。

 

 「あぁ~んだってぇ、両奈ちゃんは先生のおちんぽ様に堕とされた雌豚だからぁ、ご主人様の先生の前では濡れ濡れおまんこ広げて犯されなきゃいけないんだも~ん」

 「ハァ、まったく……」

 

 両奈は本人が言う通り、恐ろしいほどのマゾヒストであった。

 自ら雌豚と呼ばれることを望み、勝手にご主人様認定した先生にされることは、焦らしプレイ以外は喜んで受け入れる。それどころか自ら催促することも多い。

 

 実のところ先生は、彼女に熱望されて叶えてやった行為が多い。

 頬へのビンタ。尻を叩く。乳首を引っ張る。野外露出。拘束して玩具を入れて何時間もイキ続けさせる。彼女の姉妹と共に二穴同時に犯したこともあって、もう一人加えて口も塞ぎ、同意する少女を多く集めて全身がどろどろになるまで犯したこともある。おまんことアナル、どちらであっても中出しは基本。鼻フックを着けたまま全裸で戦闘修行をさせたこともある。

 初めは驚き、理解できないと騒ぎ立てた少女も、慣れた今では呆れるばかり。

 

 両奈が股を広げて風呂で待ち構えているなど、今更驚く姿でもない。だから先生は冷静な目で彼女を見つめていて、勃起もせずに動揺もしなかった。

 繋いだままだった雅緋の手を引っ張り、敢えて両奈を素通りする。

 当然抗議する声が発されるのだが、先生は冷徹に無視をした。

 

 「あぁ~ん、待ってよせんせぇ~! 両奈ちゃんおまんこ濡らして待ってたんだよぉ? 入れてずぽずぽすると気持ちいいのにぃ」

 「また後でな。今はまず雅緋だ」

 「そんなっ!? 先生、僕も待ってたのに! 雅緋とえっちしたくて堪らないのに!」

 

 雅緋は抵抗しなかった。

 彼の言動、手を引く優しい力、強引に連れられる状況。きゅんっという感覚が胸の奥でして、またこれだ、と思いながら従順についていく。

 

 二人はシャワースペースに入った。

 頭から温かいお湯をかぶって正面から向き合う。

 先生はちょうどいい温度のお湯が全身を伝って落ちていく感覚に酔いしれていたが、雅緋はそうではなく、冷静になれないままおずおずと先生の顔を見つめている。

 

 「雅緋」

 「は……はい」

 

 背丈はほぼ同じだった。

 躊躇いなく広げられた両腕で、雅緋は抱きすくめられる。

 彼の顔が近付いてくるのを目を閉じて受け入れ、直後に唇へ触れる柔らかい感触。思わず小さな声と吐息が漏れてしまう。

 キスをされていた。触れるだけの優しいキス。雅緋はくっと尻を上げる。

 

 「んっ……んむっ」

 

 目を閉じて、抵抗する力は微塵もなく、体を相手へ預ける雅緋は安堵していた。緊張しているが嫌がってはいない。むしろ、やっときたと言いたげに自らも先生を抱きしめている。

 ちゅっと静かな音が鳴る。

 乱暴にはせず、やり過ぎなほどに優しい触れ方。

 雅緋はそうしたキスが好きだった。ただ触れているだけの時間が多くて、何度もついては離れてを繰り返し、たまに弱々しく吸われる。その音さえも気に入って、何度も顔の角度を変えながら、可能ならばずっとこうしていたいと思うほど好んでいた。

 

 先生は、雅緋が誘ってくれたからというのもあったが、彼女を選んだのは理由がある。

 両奈の相手をするとどうしたって長い。底無しの性欲を持つ彼女は、いじめられると心から喜ぶ変態で、いつまでもセックスしようとする。

 安心と休息を欲した先生は、同じセックスでも雅緋を求めたのであった。

 

 雅緋は今、確かに幸福感を覚えていた。

 何度となく繰り返されるキス、言わばそれだけなのだが、先生はゆっくりとちんぽを勃起させつつあって、抱き合っているから目を閉じていても鮮明に伝わる。

 完全に勃起する前、まだ柔らかさを残しながら上を向きつつあるそれを、腰を揺らして体へ擦りつけてくる。それが雅緋をやけに興奮させた。

 

 ずっとキスだけでも文句はない。だが少し動きを変えるだけで欲求が変化する。

 顔を離した先生は、真っ直ぐに雅緋を見つめた。

 恥じらいを覚えつつ、目を逸らさずに見つめ返して、言いようのない感情を覚える。

 

 「してもいいか?」

 「はい……どうぞ。私の体、気が済むまで、使ってください」

 

 にこりと笑いかけて雅緋が言った。

 頷いた先生は、次の瞬間には大きな乳房を下からぐっと持ち上げて、ぐにぐにと指を埋めながら揉み始め、左の乳首に口をつけて強く吸う。

 雅緋の声は途端に弾んで、耐えるように目を閉じて、白い尻をぷるぷる震わせていた。

 

 面白くないのが期待しながら放置された少女たちだ。二人がこれ見よがしに始めたのをただ眺めているだけであり、意中の相手を取られてしまっている。

 忌夢は涙目になって自分のちんぽを扱き、両奈は膣に指を突っ込んで激しく出し入れしていた。

 

 「そんなっ、僕だって待ってたのに……! あぁ雅緋、どうして僕じゃないんだ……! いつも僕のちんぽでイカせてるのに、僕じゃだめだっていうのか!? 僕はネトラレは好きじゃない!」

 「あぁんっ、雅緋ちゃんずるい~。両奈ちゃんだって先生に犯されるの楽しみにしてたのにぃ。オナニー準備してたぐちょぐちょ淫乱おまんこに、かったいおちんぽ様でいっぱいずぼずぼして、くっさい濃厚ザーメン子宮にぶっかけてほしかったのにぃ。両奈ちゃんも放置プレイは気持ちよくないから好きじゃないの!」

 

 不満を訴えた二人は、互いにちらりと確認して、何かを察する。

 むふふと笑った両奈が先に動き出し、起き上がるとゆっくり忌夢へ近寄った。

 背後から抱きつき、腰に腕を回して捕まえると、彼女の耳元で怪しく囁き始める。

 

 「ねぇ忌夢ちゃん、両奈ちゃんのおまんこでずぼずぼしたことなかったよね? 余りもの同士、一緒に気持ちよくなっちゃわない? 両奈ちゃんのおまんこ、気持ちいいってみんな褒めてくれるんだよ。両備ちゃんなんてねぇ、恋人にするには最低だけど、便所に置いておく肉便器としては最高級品だって言ってくれたんだ。両奈ちゃんそれ聞いてきゅんきゅんしちゃって」

 「だっ……だめだだめだそんなの! 僕は一途なんだ! このちんぽは、雅緋専用って決めてるんだから。そんな、浮気みたいなこと……」

 「ん~でも忌夢ちゃん、先生ともずぼずぼしてるよねぇ? この間もみんなに隠れて倉庫で先生のお尻ずぼずぼしてたし、気持ちよさそうな声出してたよね」

 

 忌夢の全身が大きく跳ねた。

 愕然とした表情で、恐る恐る両奈に振り返り、にやにや笑う顔を見て恐怖しながら尋ねる。

 

 「ど、どうして、それを……」

 「実はあの時、両奈ちゃんは両手両足拘束されて、バイブ調教されてる途中なのでした! ずぼずぼする先生と忌夢ちゃんの真上に居たんだよ?」

 「ひぃぃっ!? し、知らない! 知らないなぁ! 僕には全く身に覚えが……!」

 「いいのかなぁ? このこと、雅緋ちゃんに相談しようかなぁ?」

 

 忌夢の全身が再び大きく跳ねた。

 あからさまに震え始め、怯える彼女は声まで震わせて呟く。

 

 「それだけはっ、どうかそれだけはぁ!? 違うんだ雅緋、僕は浮気なんて……!」

 「浮気する人はみんなそう言うんだよねぇ~」

 「あぁぁぁっ、頼む、雅緋には言わないでくれぇ!?」

 「ふふん。だったら解決するのは簡単だよ」

 

 両奈はいそいそと動き出し、動揺して脱力する忌夢の体をそっと床へ寝かせた。錯乱しかけている彼女は抵抗せず、何が起きているのかもわからないまま仰向けになる。

 ちんぽは尚も硬くそそり立ち、不思議と忌夢の精神とは裏腹にさらに硬くなってさえいた。

 意気揚々と跨いで、両奈はゆっくりと腰を落としていく。

 

 「そんな時はねぇ、両奈ちゃんとずぼずぼしちゃえばいいんだよ。何も考えられなくなるくらい出しちゃえばなんでも解決だよね」

 「あっ!? いつの間に! 待ってくれ両奈、それじゃ何も解決にならない! むしろ、み、雅緋の見てる前で浮気なんて――!」

 「あんっ! かたぁい♡」

 「あああああああっ!?」

 

 気付いた時には遅く、抵抗も間に合わずに、一気にずるんっと入ってしまった。両奈のおまんこに包まれた忌夢のちんぽは、本人の心境とは正反対にびゅるっとわずかに精を放つ。

 一度捕まえてしまえば簡単には離さない。両奈は優しく包んだ忌夢のちんぽのため、腰を上下に動かしてさらに気持ちよくしてあげようとする。

 気持ちよくなるのを待ち侘び、オナニーさえしたが射精はしていなかった忌夢のちんぽは、たとえ相手が雅緋でなくても素直に従順に気持ちよくなってしまう。そんな自分のちんぽを忌々しく思いながらも、忌夢は抑えられない声を思わず発してしまっていた。

 

 その頃、入念に胸を揉んで乳首を責めた先生は、立たせた雅緋の股間に鼻先を埋め、執拗なまでにおまんこを舐め回していた。

 先生との行為に集中する雅緋は周囲の状況に気付いていない。

 大胆に動き回り、クリトリスを、膣の中までを撫でる舌に、甘い声を我慢せず響かせていた。

 

 少女たちの淫らな声が浴場に木霊する。

 その場に居合わせれば逃れられないものであり、耳を塞いだところで聞こえてしまう。

 浴槽の中で座っていた少女は、熱い湯とは違った熱に赤面していた。

 

 言うなればこれがいつもの状況である。

 先生が風呂に入る時、誰も一緒に入らないなどということはまずあり得ない。必ず誰かが一緒に居ていやらしいことをしている。その相手と人数が違うだけで必ずだ。

 しばらくは黙っていたのだが、ついには我慢できずに立ち上がる。

 青色の短髪を持つ、例に漏れず爆乳の少女は、体を隠すことも忘れて怒りを放った。

 

 「いい加減にしてください! ここはお風呂です! 一日の疲れを取ったり、体を清める場所であって、そうした行為をする場所ではありませんよ!」

 

 夜桜の叫びは大きく響いた。

 先生はちらりと視線こそ寄こしたものの、舌は止めずに雅緋のおまんこを責めたまま。

 苦悶の表情で気持ち良くなる忌夢の上、両奈が腰を上下させながら答える。

 

 「え~そんなことないよー。お風呂は裸になるし、洗い流せるし、色んないやらしいこといっぱいできるんだよぉ? ローションプレイにぃ、アナル浣腸にぃ、おしっこ飲んだり体にかけられたりとかぁ、ぶっかけは外でやった方がいいと思うな。きれいにしないでくっさいザーメンで汚れたまま歩くの、すっごく気持ちいいの!」

 「も、もういいです!? 一体普段何をしてるんですか、あなたは!」

 「肉便器調教だよぉ~。両奈ちゃん、いじめられるのが好きだから、もっともっと上手にいじめられて気持ちよくなるために両備ちゃんや先生に調教してもらってるの。おかげで両奈ちゃんのおまんこ、女の子たちみんなに気持ちいいって褒められるんだぁ~」

 「うっ、うっ、うぅ……!」

 

 信じられないと言わんばかりに、怒りを溜めている様子で、感情が爆発して上手く言葉にできない夜桜は小さく呻いていた。

 彼女は生真面目なところがある。弟や妹も多く、姉として面倒を看る立場であり、こうした問題に直面すると向き合わずにはいられない。

 全く響いていない様子なので、改めてやめさせようと声を張り上げた。

 

 「ふ、ふ、不純です! わしらはそんなことをするために集まったわけではないでしょう! 忍びとして成長させて頂くべく、先生の下で修業を――!」

 「夜桜はサドだから責められるのは好きじゃないぞ」

 

 一瞬、雅緋のおまんこから口を離した先生が呟いて、すぐにまた舐める作業に戻る。

 時間が止まったような気がした。少なくとも夜桜にとっては間違いない。

 

 静かな浴場内で、先生がクンニをする音だけがわずかに聞こえていて、雅緋は空気の変化だけは察しており、恥ずかしく感じて声を抑えようとしている。

 夜桜はそんな状況の中、顔を真っ赤にして立ち尽くしていて、しばし思考が動かなくて何も言えずにいた。

 

 止めていた腰を動かして、にんまり笑う両奈が立ち上がった。

 ぬぽっとちんぽが抜けた忌夢は寂しそうな顔をして、ハッと我に返ると慌てて離れる。

 忘れたわけではないが敢えて彼女は追わずに、両奈は自らの指でおまんこを開いた。

 

 「なぁ~んだ、そうだったんだー。夜桜ちゃんって、いやらしいことが嫌いで、一度もしたことないのかと思ってた。でも、そうなんだぁ~」

 「ちっ……違います!? わしは別に、何も、そんなことは……!」

 「じゃあ~、両奈ちゃんと相性バッチリだよねぇ~? 両奈ちゃんとおまんこずぼずぼする? 乱暴にしたっていいんだよぉ~。ビンタもパンチもスパンキングも、フィストファックもやってほしいなぁ~。おまんこでもアナルでもいいんだよ?」

 「うっ、うっ、うぅ……!」

 

 焦った夜桜は一瞬、立ったまま股を広げる両奈のそこへ視線を向けてしまった。まるで吸い寄せられるような、半ば無意識的な行動である。そんな自分に気付いて助けを求めるように、咄嗟に先生へ振り返った。

 先生と雅緋は立ったまま向き合って、勃起した先生のちんぽを、雅緋のおまんこへ挿入したところだった。ぐいっと持ち上げるように奥まで挿入して、ああっと感情的な声が漏れる中、慣れた様子で先生が腰を振り始める。

 

 思わず食い入るように見てしまう光景だ。

 視線を戻せば、両奈は自分のおまんこに指を突っ込み、激しく中をかき乱している。

 少し離れたところでは、ちんぽを突っ込まれた雅緋が先生に抱きついて感じているのを見て、悔しそうな忌夢が自分のちんぽを激しく扱いている。

 

 どいつもこいつも、こんなことばかり。

 苛立ちと共に、体の内では異様な熱を持っていて、とても我慢できるものではない。

 

 夜桜は突発的に駆け出した。「うう~!」と癇癪を起こした子供のように唸って、普段は風呂場で駆け回る子供っぽい少女たちを諌める立場にある彼女が、その禁を自ら破って、苛立たしげに一直線に走っていく。

 素早く先生の背後に回ると何も言わずに、陰乱忍術で生やしたちんぽを先生のアナルへ勢いよく突き入れた。先生は思わず声を発して、無理やり入ってくるちんぽに目を白黒させる。

 

 「おっ、あがっ、がはぁ……!?」

 「ううっ、ううぅ、くぅっ……先生が悪いんですよ。わしに色んなことを教えて、こんなことまで覚えさせるからっ。わしは、サディストじゃないし、変態でもありません!」

 「ちぇ~。いいなぁー先生、気持ちよさそうで。また両奈ちゃんフラれちゃった」

 

 またしても放置された両奈はぐるりと勢いよく振り返り、舌舐めずりをした。その先に居た忌夢はねっとりした視線に気付き、わなわなと震える。

 一方で、無理やりに先生へ挿入した夜桜はイライラを全てぶつけるかの如く、乱暴に腰をぶつけてアナルを犯す。その動きに応じて勝手に先生の腰も動いてしまい、その影響がちんぽを入れたままの雅緋にまで及ぼし、一際高い声で鳴き始めた。

 

 「全部っ、このっ、おちんぽを気持ちよくするっ、ケツまんこが悪いんですっ。こんなにきゅうきゅう締め付けてきてっ、いやらしく絡んできてっ、ザーメン欲しがるからっ!」

 「おぉっ、あおぉっ、ぐぅっ、ぐひっ……!」

 「あぁぁっ、先生! だめだ! そんなにっ、激しくされたら……!」

 

 ばちばちと強く肉がぶつかり、苦しそうな声を出す先生だったが、逃れられないと知ると自らも腰を振って、前と後ろの両方を気持ちよくするために動く。

 少し離れた位置では再び捕まった忌夢が両奈にのしかかられていて、しかし雅緋の声を聞いてその姿を見てしまったことから、今度は心底幸せそうに感じていた。

 

 「あぁっ、雅緋! 強引に犯される君も、可憐で美しくて素晴らしくきれいだ……!」

 「あぁんっ、あぁんっ、あぁぁんっ! みんな、両奈ちゃんを無視して、勝手に気持ちよくならないでぇ! もっと両奈ちゃんのことめちゃくちゃにしてほしいよぉ! みんなのおちんぽで、思いっきり痛くしてどろどろに犯してよぉ!」

 

 これが日常である。

 大浴場は常に淫靡な場所であって、それは先生が居ても居なくてもあまり変わらない。

 好都合だと言わんばかりにちんぽとおまんこをくっつけて、当然のように少女同士で性欲を発散させているのだ。

 そこに先生が現れれば、祭りのように盛り上がるのは珍しくなかった。

 



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☆ ※夜もお仕事

 ふたなりものです。


 先生は多忙な一日を過ごす。

 少女たちの修行も、少女たちとの交流も、それなりに楽しんでいるとはいえ疲労感も拭えない。

 一日の終わりの風呂と睡眠は大事にしている。しかし夜という時間がそうさせるのか、それとも単に少女たちが元気過ぎるせいなのか、彼の思惑とは裏腹に満足な休息を取れる時間というのは驚くほど少ない。

 

 その夜、自室にはすでに布団が敷かれていて、畳の一室、小さな机を前にして資料を手にしていた先生は、ため息をつきながら仕事を放棄した。

 事務仕事などやっていられない。要は少女たちを鍛えればいいのだ。

 

 振り返って少女を見る。

 布団を敷いてくれた雪泉(ゆみ)は、先生と揃いの浴衣に身を包み、布団の上で正座している。にこやかに微笑んで彼を待っており、急がせも慌てさせもせず、静かに彼の背中を眺めていた。

 彼女が居たからでもないのだが、今日はもう寝てしまおうと思う。

 資料を放り出して這うように布団へ移動し、そのまま起き上がらず雪泉の膝へ頭を置いた。

 嬉しそうに笑みを深めて、彼女は先生の頭をそっと撫でる。

 

 「お疲れですか?」

 「うーん……わからん。しかしこんな生活が続くと体が壊れそうだ」

 「そう言いながら先生はお強いですから。辛そうなお顔を見たことがありませんよ」

 「まあ、鍛えてるからな」

 

 部屋には二人きり。和やかな時間だった。

 二人であれ三人であれ、集まると姦しい少女たちは、時には果たして本当に忍びなのだろうかと考えることもあるものだが、一対一となると大抵は静かになる。

 日頃の業務は達観した様子とはいえ、先生はこの時間が好きだった。

 

 しばらくは膝枕をされて横になり、まどろんでいた。体から力が抜けていき、眠くもなるのだが確実に落ちるわけでもなく、浮いたり沈んだりを繰り返す。

 そのまま眠ってしまってもよかった。だが先生はぽつりと呟いた。

 

 「なあ、雪泉」

 「はい」

 「舐めてくれるか?」

 「ふふふ、気を使わせてしまいました? わかりました」

 

 楽しげに言って、雪泉は先生の頭をそっと枕の上に置いてやり、移動する。

 先生は一日中浴衣か着流し一枚を着て行動している。脱がされることが多いし、プレイによっては服を斬り裂かれて無理やりされることもある。結局は一番楽なのだ。

 下着も履いていないことが多いため、浴衣の前を開くと、すぐに裸体が見えた。

 

 鍛えられているのに、細くて、美しいと思う男性の体。何かと少女たちに抱かれているのに見た目とは違って頑丈でもある。

 雪泉は乳首に指先を触れて、優しく転がした。

 

 そもそもを思えば三ヶ月前、初めて先生とセックスしたのは雪泉だった。

 それより先に陰乱忍術の扱いに困ってちんぽ暴走させ、先生が少女たちを守ろうと身代わりにアナルセックスをしたのは飛鳥だったが、我に返った彼女が恥ずかしくて逃げ出してしまい、アナルにたっぷりザーメンを注がれて放置された先生を見つけて、介抱したのが雪泉なのである。

 衝撃的な状況だったが、思い返す今となっては良い思い出として残している。

 

 良いお嫁さんに憧れながら、恋愛経験のない雪泉は、簡単に言ってしまえばちょろかった。

 何を考えるでもなく話す先生を相手に頬を赤く染めてしまい、意識してからは早く、あれやこれやと言いながら処女を捧げた。

 慎ましい性分ではあるが、法と責任がない山の奥、性に開放的になった少女たちに囲まれていて彼女も何も学ばないはずがない。彼女がまごまごしている間に他の少女たちもちんぽを生やして、次々に先生のアナルで射精していた。

 ええい、このままで済ますかと、一念発起して先生におまんこを差し出したのが、また少女たち全員に変化を与える大きなきっかけとなったのである。

 

 以来、彼女は甲斐甲斐しく先生の世話をするようになっていた。

 肌に触れる手つきは優しくて、恋だけでなく慈愛を感じる。

 逞しい胸板や乳首をするりと手で撫でながら、顔は下へ向かっていき、寝そべったままのちんぽにちゅっとキスをする。

 

 「先生、気を楽にしてください。わたくしがおちんぽ気持ちよく致します」

 「んん……頼む」

 

 雪泉は勉強熱心だ。忍びの修行も手を抜かず、学ぶ忍術は陽属性や閃属性に限らず、危険が伴う陰属性をも扱い、ちんぽを生やすこともあるのだが許容する。先生のためになるならと、彼のアナルをずこずこ突いてちんぽに触れずにイカせた経験もあって、両奈を始めとした仲間たちから淫語を教わり、実践することも躊躇わない。

 先生のために。今の彼女の行動基準は明確に定められていた。

 

 丁寧に優しく、愛を感じる触れ方で雪泉は繰り返しちんぽにキスをする。ちゅっと軽く触れてすぐに離れて、またすぐに触れる。

 それでいて時には大胆に、ぢゅうっと強く音を立ててみたり、裏筋に舌を這わせたりした。

 

 先生は安心して身を任せていた。それが嬉しかった。

 疲れているだろうに、誘われてばかりの彼が雪泉を誘ったのも素直に嬉しく、彼のために何かをしてあげたいという気持ちは抑えられない。

 雪泉は大きく硬くなっていくちんぽを右手で支え、根本から亀頭までべろりと舐め上げた。

 

 「舐めるだけでよろしいのですか?」

 「うん?」

 

 雪泉がおもむろに服を脱いだ。下着は着けておらず、初めからそのつもりで部屋に居る。

 白い肌にむちむちの肉。やはり爆乳。わずかだが浴衣に押さえられていて、解放されてぶるんと揺れる。陰毛は薄く、髪と同じ色の毛が整えられている。

 日頃は冷静な面持ちとはいえ、今回ばかりは先生も視線を釘付けにした。

 

 「わたくしなら、挟むこともできますよ?」

 「そうだな……それもいいかもしれない」

 「では――」

 

 自分の大ぶりな乳房を下から支えて、たゆんと揺らし、準備万端なちんぽを挟もうとした。

 そんなタイミングで荒々しい足音が聞こえてくる。

 部屋の前で止まり、間髪入れずにスパンと勢いよく襖を開けられた。

 

 「せんせー! 乱交しよーぜー!」

 

 金髪の長い髪と爆乳を持つ少女が、薄緑の短髪と爆乳、体には一部刺青も持つ少女を、抱え上げてちんぽで突きながら豪快に現れた。

 先生と雪泉は二人を視認して動きを止める。

 駅弁スタイルでゆさゆさと揺らし、太いちんぽが出入りする度にくちゅくちゅ鳴って、わずかに愛液を落としている。息遣いは荒いが、声は聞こえない。大胆な行動や激しい腰使いとは裏腹に突かれる少女だけ静けさを感じる。

 

 葛城はにこにこしていて、卓越した体力でちんぽを激しく出し入れしている。

 抱えられる日影は素直に享受しており、されるがままを受け入れて葛城に抱きついていた。

 こうした光景が日常茶飯事であるため今更驚かない。雪泉は接合部を凝視した後、葛城の顔を見て優しく笑いかけた。

 

 「あら葛城さん、何があったのですか?」

 「いやさぁ、みんなの部屋に遊びに行ったらそれぞれがセックスしてたから、この際みんなでやろーぜって宴会場に集まったんだ。で、どーせそんなことだろうと思ってここに来てみたら、こうなってたってわけ」

 「なるほど。まあ、いつものことですね。お互いに」

 「どうせみんなエロいことしたいんだし、だったらお互いに見ながらした方がもっと興奮できるんじゃねぇーかなって思うんだ。もちろん二人っきりの方がいいなら無理強いはしないけど……先生だって尻が寂しいんじゃねぇか?」

 

 日影のおまんこをちんぽで掻き回しながら、葛城は平然とした顔で先生を見る。

 浴衣に袖を通したままとはいえ、前は開かれていて、ちんぽは勃起した状態。これから始めようとしているのは明らかであり、雪泉の彼に対する態度も知っている。おそらく雪泉にハメて楽しもうとしていたのだろう。

 ふふんと笑った葛城は、一旦日影からちんぽを抜いて、主張するように巨大なそれをぶるんと揺らして見せつけた。

 

 「アタイのちんぽがいいってんならいつでも貸すぜ。ほじられるの好きだろ? 先生」

 「もう、葛城さん……いかが致しましょう?」

 

 雪泉が先生を見ると、力を抜いて寝そべったまま答える。

 

 「俺は別に、どっちでも……雪泉はどうしたい?」

 「わたくしも構いませんよ。みなさんで楽しむのもいいものですから」

 「ふぅ。行くか」

 「そうこなくっちゃ!」

 

 もう一度日影のおまんこにちんぽをねじ込んで、ぐいっと奥まで押し込んでから、葛城は嬉々とした様子で振り返ると歩き出す。

 立ち上がった先生は袖を抜いて裸になり、雪泉の腰に腕を回して部屋を出る。

 

 彼女たちが住む屋敷は広く、宴会場と呼ばれる大部屋は渡り廊下の先にある。

 道場、大浴場、住居となる個別の部屋が並ぶ現在地、そして宴会場と、いくつかの建物が廊下で繋がれていて、使用の制限はなく各自の判断で暮らしている。一人で部屋を使う者も居れば、二人で一緒に一室を使っている者も居た。

 先生の部屋も個室のはずなのだが、毎夜ごとに様々な少女が訪れるため、実情としては一人で使えたのは最初の頃のみだった。

 辺りは明かりの一つもない暗闇と木々に囲まれていて、人が住む土地は遠い。

 大声を出しても問題はなく、裸で歩き回っても見られる心配はなかった。

 

 裸のまま移動して、宴会場に足を踏み入れると、そこはすでに別世界。

 人里離れた山奥だからこそあり得たのか。或いは人間の精神の極致かもしれない。

 もはや正常とは呼べぬであろう狂乱の状態。魔境のような空気に包まれていた。

 二十人近くの少女たちがこぞって裸になり、いくつもの布団を寄せ集めて、その上で淫らに絡み合っている。ひどく楽しげで、何も気にせずに快楽を貪っていた。

 

 日影を抱えて突きながら、のしのし歩いて葛城も輪の中へ入っていく。

 陰乱忍術とはかくも恐ろしく、身持ちが固かったはずの雪泉にしてもそうだが、ここまで年頃の少女たちを淫らに変えてしまうものか。

 しこしこと雪泉の手でちんぽを扱かれながら、先生は呆れるように見ていた。

 

 「みなさんすでに始めていらっしゃいますね。わたくしたちも混ざりますか?」

 「うん……そうだな」

 

 言いながら先生は動かず、ただ腰に回していた手で雪泉の胸をむにっと揉んで、彼女が甘い声を出すのを聞いた。

 しばらく眺めることにして、先生は視線だけを動かす。

 

 思い思いに楽しむ少女たちはすっかり快楽に慣れている。

 その全てが、おそらくは彼のせいであって、初めて会った頃とは一変していた。

 

 「あぁっ、焔ちゃん! きもちいいっ……焔ちゃんのおまんこきもちいいよぉ!」

 「こ、こら飛鳥っ、お前いつまで……!」

 

 四つん這いになった焔の後ろに陣取って腰を掴み、爆乳を揺らしながら飛鳥が叩きつけるように腰をぶつけている。巨大なちんぽでおまんこを掻き混ぜ、愛液がシーツに飛び散っていた。

 それでいて焔もちんぽを生やしているものだから、射精しているのかいないのか、よくわからない状態でちんぽが揺れて体液を撒き散らしている。

 

 「いい加減、代われ! 私だって、ちんぽで、イキたいのに、お前ばっかり……!」

 「だ、だって、さっきから私のおちんぽ、止まらなくて……! 焔ちゃんだってさっき、私のおまんこに二回も出して……はぁっ、んっ、あぁんっ!」

 「お、お前はもう三回……うぅぅっ、これで、四回目だろうが……!」

 

 抜かぬままに射精して、大量のザーメンを膣内に放出する。

 彼女たちのちんぽから出されるザーメンが収まりきるはずもなく、大量に溢れ出て、出しながらも飛鳥が腰を止めないために自ら掻き出していた。

 シーツを汚すのも気にならず、まるで喧嘩か勝負のように互いを犯している。

 

 隣へ目を向ければ、別の少女たちが絡まっている。

 仰向けになった斑鳩のおまんこに鬼の面を着けたままの(むらくも)がちんぽを突っ込んで、一定の速度でピストンを繰り返し、詠が顔に跨ってクンニをさせていた。

 いくらか余裕がある詠は唯一の男性である先生が現れたことにも気付いており、軽く手を振って挨拶した後、自身のおまんこを舐めさせる斑鳩へ声をかける。

 

 「斑鳩さん、先生がいらっしゃいましたよ。雪泉さんにおちんぽを触られていて、胸を揉んでおいでですわ」

 「んむっ!? んん~、んふぅ~……!」

 「うふふ、いけませんわ。今日はわたくしと叢さんでお相手すると決めたのですから、先生専用にしておきたかったこのおまんこ、朝まで可愛がって差し上げますよ」

 「うむ……そうだな。ふっ……斑鳩のおまんこは、んんっ、よく絡みついてエロい」

 「たっぷり楽しんでくださいね、斑鳩さん」

 「んんっ、んっ、んっ、んっ――!」

 

 押さえつけた状態で詠と叢に主導権を握られ、斑鳩に反抗できる状況ではない。

 同様のケースがすぐ傍にあった。多人数が同時に絡んであまりに激しい。

 春花という女性が、寝転んだ未来のちんぽをおまんこに入れ、後ろに居る美野里のちんぽをアナルに受け入れて、さらに立っている四季のクリトリスを舌で転がし、膣内に指を入れて激しくかき回しているのだ。

 三人の少女を同時に相手して余裕綽々。楽しげに見える様子で全身を動かしていた。

 

 「んっ、んふっ。ほらほらみんなぁ、まだ限界じゃないでしょう? もっともっと私を気持ちよくしてちょうだぁい」

 「ふわぁっ!? あふっ、ひゃあぁっ!? は、春花様ぁ、もう限界っ……くひぃ!?」

 「あぁぁぁっ! きもちいい! 春花ちゃんのおまんこ、美野里のせーし全部吸い出そうとしてるよぉ! 出しても出しても止まらなぁい!?」

 「くぅ、このあたしが、まさか、一方的にイカされるなんて……んぅあぁっ!?」

 「うふふふ。みんなまだまだねぇ」

 

 その姿はまさにサキュバスのよう。

 春花は楽しみながら彼女たちを逃さず、悲鳴を上げようともイカせ続けていた。

 

 風呂を出た後、両奈の誘いに乗って彼女を部屋に連れ込んでいた夜桜は、ここへ移動してもまだ雌豚を自称する少女を相手にしていて、その扱いは些か乱暴であった。

 本人が望んでいたこととはいえ、ぶっといちんぽを喉の奥まで無理やり押し込み、おまんこにするようにして全力のピストンを続けている。

 口の端から唾液が漏れて、奇妙な音か声を発しているが一向に気にしない。

 

 その姿を見る両備は驚いていた。しかし興奮してもいた。

 意外な夜桜の姿は、普段の両備に近いものがあって、おそらく好むプレイが同じなのだろう。引いてしまうどころかむしろ協力しようという態度がある。

 股を開いた両奈のアナルに拳を突っ込み、乱暴に奥までパンチを繰り返していたのだ。

 

 「こっ、のぉ……! 雌豚だなんて、なんて下品なっ。そんな言葉遣いが、いいはずっ、ないでしょうっ。わしが教育し直してあげますっ! このっ、このっ」

 「ごぶっ、おごっ、がふっ……!? おげぇっ!」

 「ほら、どうなの両奈。気持ちいいの? ちゃんと言いなさいよ。あんたみたいな変態淫乱肉便器のために両備の拳を使ってやってるのよ。有り難いでしょ? 夜桜の包茎早漏ちんぽなんかよりケツの奥殴られて気持ちいいって言ってみなさい。言わないなら次は子宮にパンチするわよ」

 「ぐほっ、ごえぇっ……ぎもぢびびぃっ!」

 「聞こえなーい。なんて言ったぁ?」

 

 激しい行為だが、見慣れているのか気にはされていない。両奈が喜んでいるのは理解されていて誰も止めようとはしなかった。

 

 同じく風呂を出た雅緋と忌夢も、風呂を上がってから今までずっとセックスしている。

 忌夢は感極まった様子で目に涙さえ浮かべており、雅緋への想いを滾らせ、萎えることのない極太ちんぽで雅緋のおまんこを激しく抉り、何度となく射精していた。しかしそれでも一度たりとも抜こうとしない。まるでこれは自分の物だと言うかのように、誰にもそのおまんこを渡さず、自分の味を覚え込ませるかのように繰り返し激しいピストンをする。

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、どうだい雅緋? 気持ちいいだろう? 先生のちんぽより僕のちんぽの方が大きいし、僕の方が気持ちいいんだろう? なあ、そう言ってくれよぉ!」

 「んぐっ、ごぉっ、がほっ……!」

 

 雅緋の口は太いちんぽを押し込まれて塞がれていた。苦しそうに必死に呼吸をするのだが、慣れていないのかじたばたと必死にもがいている。それを二人に押さえ込まれ、その様相はほとんどレイプ同然であった。

 喉までちんぽを押し込んだ紫は、ゆるりと腰を前後させながら雅緋を見下ろしている。

 

 「雅緋さん、先生とえっち、したんですね……羨ましい。私も、もっと先生とえっちしたいんですけど、中々勇気が出なくて……だから、雅緋さんの喉おまんこで、抜いてもらえますか?」

 「あぁっ、紫っ、雅緋の喉まんこは最高だろう!? ねぇ雅緋、紫も協力してくれたんだよ! 今日は朝まで離さないから、もっと僕のことを見てくれぇ!」

 

 愛しているのかいじめているのかよくわからず、雅緋が被害者にも見えてくる。

 それが忌夢の愛だ。

 ややこしいのだが嘘偽りのない想いなのだろう。

 巻き込まれた紫は淡々としているものの、羨ましいという感情がそうさせるのか、珍しくちんぽを生やして雅緋を責めている。集合するとこういう珍しい姿も垣間見れた。

 

 珍しいと言えばこちらもそうだ。

 普段は挿入することが多い少女が股を開かされて、普段は挿入されることが多い少女がちんぽを勃起させてのしかかっている。

 仲が良いことは周知の事実だが、雲雀が柳生を押し倒しているのは珍しかった。

 

 「ひ、雲雀、待ってくれ!? 雲雀に入れられるのは嬉しいんだが、オレのちんぽで雲雀をイカせてやりたい――がはっ!?」

 「そんなのだめだよぉ。柳生ちゃんってば、いっつも雲雀のおまんこに入って気持ちよくなってばっかり。雲雀だっておちんぽ気持ちよくなりたいもん」

 「そ、そうだが、雲雀のちんちん、でかすぎっ……んんあぁぁっ!?」

 

 ずぶずぶと強引に挿入されていく。

 個体差があるのは男性と変わらなかった。

 雲雀のそれは、男性を超えるちんぽを持つ少女たちの中でも1、2を争うほど大きい。いくら日頃の修行で身体を鍛え、忍術で強化される少女たちであっても、迎え入れるのは中々に難しい。

 それを無遠慮に押し進めていき、ごつっと奥に当てられ、柳生は目を見開いていた。

 

 「ほぐっ、ふぉぉぉ……!? おお、大きいっ。あぁぁっ、雲雀で、満たされて……!」

 「気持ちよさそうだねぇ柳生ちゃん。じゃあ動くよー」

 「ま、待ってっ、くひぃっ!? うああっ、あぁぁぁっ……!?」

 

 巨大なちんぽで全身を揺すられて、瞬く間に余裕など失って柳生は悶えた。

 雲雀は対照的に楽しそうに動いていて、行為とは裏腹に無邪気な子供のような様子だ。

 ピストンが十回にも達しない内に柳生は潮を吹いていて、それでも雲雀は一切手加減せず、執拗なまでに奥を突き続ける。

 

 そして最後に目を向けたのが一緒に宴会場へやってきた二人だ。

 日影を布団の上に下ろして、まんぐり返しをさせて上にのしかかり、葛城は楽しげな笑顔で見つめながらちんぽを叩き込んでいる。

 日影の反応は乏しく、嬌声は時折漏らすのみ。しかし呼吸は乱れていて、彼女を知る者ならばどれほど感じているのか、手に取るようにわかるだろう。

 

 「おっ、またイッたな? 反応薄い割に感じやすいんだから」

 「はぁ……別に、イッてへんよ。わし、感情ないから、イッたとかようわからんし」

 「イッたかどうかと感情は関係ないだろ。あ、ひょっとして悔しいのか? もうこんなことまでしてるんだし、そろそろ素直になれよ、ほら」

 「ん……わしはいつも、素直やけどな」

 

 覗き込んでくる葛城から逃れるように、顔を逸らして日影の体は揺すられる。

 激しい動きで射精へ向かおうとしているようで、動かない日影に対して、能動的に腰を大きく前後させる葛城の姿がなんだか面白い。

 

 こうなるはずではなかった。

 そもそもは忍びとしての力量を高める修行を任されたはずだったのである。

 

 一通り少女たちの痴態を眺めた先生は、大きな胸でちんぽを挟む雪泉のパイズリにより、いよいよイキそうになっていた。

 おそらくイキそうなのはすでにバレている。

 ちろちろと舌先で割れ目を舐めながら、視線を上げた雪泉は微笑んでいた。

 

 「先生、出てしまいそうですか?」

 「ああ。もうヤバい……」

 「いつでもいいですよ。お口ですか? それとも顔、胸、どこでもお好きに」

 「じゃあ、胸の中に……うっ」

 

 雪泉が手で寄せた重厚な柔らかい肉厚の中へ、ずぷりとちんぽを埋め込んで、まるでおまんこの中のように腰を振って前後させ、最後の瞬間は胸の谷間に埋まっていた。

 先生は射精し、勢いよく飛び出した精子は谷間からも飛び出てきて、嬉しそうな雪泉の頬へ少量だが付着する。

 大ぶりの乳房でどくどくという律動を感じて、雪泉は先生の顔を見上げて息を吐いた。

 

 「はぁ、先生、熱くてどろどろのお精子を感じました。ありがとうございます」

 「ああ、こちらこそありがとう」

 

 気持ちのいい射精だった。

 腰を引いてちんぽを抜き取ると、胸の谷間にはねちゃりと精子がへばりついていて、少女たちのそれとは違う、量では負けるが子供の種を持つ体液だ。

 

 先生は改めて少女たちの乱交現場を眺めた。

 今日も一日、もっと言えば昨日もその前の日も、あちこちでセックスをしていたはずなのにまだまだ体力は十分。休息を必要とせずに快楽のみを欲している。修行の成果は着実に出ているように見えて、体力の向上に忍術の正確性、ちんぽの扱い方まで上達していた。

 このままでいいのか、とは考えるのだが、残念ながらもはや彼にもどうすることもできない。

 

 「仕方ないな……雪泉、来てくれ」

 「はい。あなた様なら、後ろから前からいつでもどうぞ」

 

 うきうきした様子で立ち上がる雪泉を正面から抱きしめ、すぐさまおまんこにちんぽを入れた。

 こうなればもはや考える余力などない。朝から晩まで抱かれ続け、時には少女を抱いて、彼の頭の中まで変えられてしまっている。

 後は野となれ山となれ。

 考えることをやめた先生は、雪泉のおまんこを使って気持ちよくなるちんぽ扱きを始めた。

 



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