超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 (柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定)
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GRADE1 Boy meets Girl
超田舎と超天才の転生者が出会ってしまった……


対戦よろしくお願いします


1:名無し転生者:xxx

助けてパーリーピーポー

 

2:名無し転生者:xxx

パーリーピーポーなんてこのスレにはいないぞ

 

3:名無し転生者:xxx

転生者なんてみんな陰キャでチーズ牛丼

 

4:名無し転生者:xxx

風評被害~~

 

5:名無し転生者:xxx

転生してハーレム作ってうっはっは。

 

そう思っていた時期もありました

 

6:名無し転生者:xxx

ムズイ……むずくない……?

 

7:名無し転生者:xxx

ムズイ。いわゆるなろう系的転生の成功者は1%を切る

 

8:名無し転生者:xxx

転生ガチャじゃん

 

9:名無し転生者:xxx

文字通りですね、ガハハ

 

10:名無し転生者:xxx

で、どーしたんや>1

 

11:名無し転生者:xxx

パーリーピーポーが……いない……?

 

12:名無し転生者:xxx

どこにショック受けてんねん

 

13:名無し転生者:xxx

さてはてめー陰キャだな?

 

14:名無し転生者:xxx

或いはめっちゃ田舎者か

 

15:名無し転生者:xxx

はい……

 

16:名無し転生者:xxx

い、いいいいいい田舎者ちゃうわ!

 

17:名無し転生者:xxx

どれに対するはいだよw

 

18:名無し転生者:xxx

>1、とりあえずコテハン付けておくれ

 

19:名無し転生者:xxx

それな

 

20:超田舎者転生者:xxx

えっと……こうであってますかね?

 

21:名無し転生者:xxx

合ってるけど超田舎で草

 

22:名無し転生者:xxx

田舎住みだと都会の人ってみんなパリピに見えるよね……

 

23:名無し転生者:xxx

全然そんなことないけどな。

SF世界の超未来首都在住だけどパーティーとかないんだわ

 

24:名無し転生者:xxx

悲しいね……

 

25:名無し転生者:xxx

友達いないんか?

 

26:名無し転生者:xxx

転生して3年ぐらい無双してたらチートバレして脳髄だけになって掲示板だけアクセスしてる

 

27:名無し転生者:xxx

 

28:名無し転生者:xxx

 

29:名無し転生者:xxx

いや笑えないんよ

 

30:名無し転生者:xxx

たまにあるブラック異世界転生……

 

31:超田舎者転生者:xxx

こわ……転生掲示板アクセスするの初めてなんですけど

みんなそんな感じなんですか……?

 

32:名無し転生者:xxx

滅茶苦茶レアだよ!!

 

33:名無し転生者:xxx

そもそも脳髄だけで生きられるような科学発展した世界はレアなんよ。

 

34:名無し転生者:xxx

やっぱ中世ファンタジー系が一番多いんよね、異世界

 

35:名無し転生者:xxx

中世ヨーロッパ風+魔法のファンタジー世界

SF・近未来世界

和風世界

スチームパンク系

原始時代

まぁ色々あるけど魔法系が多いね

 

36:名無し転生者:xxx

原始時代に転生して何すんだ。技術チートで技術革命?

 

37:名無し転生者:xxx

超パワー系転生者だったので物理的に原始世界統一して原始王国作ってたな

ゴリウーでハーレム作ってた

 

38:名無し転生者:xxx

猿の惑星じゃん

 

39:名無し転生者:xxx

で、>1はどーしたんだ

 

40:名無し転生者:xxx

転生者はすぐに脱線する

 

41:名無し転生者:xxx

異世界バリエ多すぎるから仕方ないね

 

42:名無し転生者:xxx

初心者ぽいからとりあえず自分のスペックと現況ヨロ

 

43:超田舎者転生者:xxx

はい

 

44:名無し転生者:xxx

素直

 

35:名無し転生者:xxx

えらーい

 

36:超田舎者転生者:xxx

スペック

年齢15

顔普通だと思う

チートある。でも使い方が良く分からん

世界観は魔法ありの中世ファンタジー。なんかすっごい果てには和風ぽい国ある

超田舎住まい。限界集落。一応一番大きい国の端っこらしい

 

で、その国の魔法学園に主席で推薦されて困ってる

 

37:名無し転生者:xxx

ほーん

 

38:名無し転生者:xxx

わりとオーソドックスなタイプだな。

 

39:名無し転生者:xxx

>国の魔法学園に主席で推薦されて困ってる

 

滅茶苦茶王道じゃん!!!!

いいなぁー!!!!!

 

似たような感じで自分の世界の魔法学園入学したけど

超自力で勉強してるし、なんとか授業かじりついてるわ。レポートもまだ終わってない。

 

40:名無し転生者:xxx

レポートしてもろて

 

41:名無し転生者:xxx

聞く限りじゃかなりあたりの類だが。

チートが良く分からん

 

42:超田舎転生者:xxx

自分にも良く分からん

 

43:名無し転生者:xxx

誰も分らんのである

 

44:名無し転生者:xxx

解散じゃ!!

 

45:名無し転生者:xxx

まぁ分らないから掲示板使ってるし多少はね……?

 

出来る限りでいいから説明してみておくれ

 

46:超田舎転生者:xxx

えっとですね。まぁ自分もそこそこ前世で転生ものとかファンタジー読んでたんで、ある程度はこういう感じの世界知ってると思ってたんですけど。

でまぁ例によって転生してチート貰った時は、なんでもできるスキルって言われてチートだー!って喜んでた。

 

47:名無し転生者:xxx

順応性が高い

 

48:名無し転生者:xxx

転生に抵抗が無かったタイプか

 

49:名無し転生者:xxx

わりと反応分かれるよな

元の世界帰りたがるタイプもいるし。

 

帰れたって話聞いたことないけど

 

50:超田舎転生者:xxx

両親が事故で死んで、妹が自殺した直後だったんで……

 

51:名無し転生者:xxx

おっふ。そらしんどいわ

 

52:名無し転生者:xxx

転生出来てよかったなぁ

 

53:超田舎転生者:xxx

あざます。

 

ただそれで転生したらすげぇ田舎で、チートの使い道もあんまりなくてですね。

家族とも上手くやってたんでまぁいいかなーって思ってた。

 

54:名無し転生者:xxx

マイペースかよ

 

55:名無し転生者:xxx

上手くやれてよかったなぁ

おじさん泣いちゃう

 

56:名無し転生者:xxx

名無しの涙腺はボロボロ

 

57:超田舎転生者:xxx

ただちょっと前になんかおっさんが村に来てですね。

糞田舎に隠居してきたらしくて面倒見てたら、

 

是非王都に行くんじゃあああああ!!

 

って叫び出した。

 

 

58:名無し転生者:xxx

どうして……?

 

59:名無し転生者:xxx

それはもう恐怖なんよ。

 

60:名無し転生者:xxx

おっさんかよ。

 

61:名無し転生者:xxx

んでんで? 何がひっかかった?

 

62:超田舎者転生者:xxx

自分、全属性・全系統持ちなんですよ

 

63:名無し転生者:xxx

あぁ、全属性系。いいよね、欲しい。

全網羅か一属性特化は浪漫。

 

64:名無し転生者:xxx

また王道チートだな

 

65:名無し転生者:xxx

ん? 全系統って? 

 

66:超田舎者転生:xxx

なんかこの世界の魔法めっちゃややこしくてですね。

 

基本は地水火風雷光闇属性らしいんですよ。

 

67:名無し転生者:xxx

悉く王道踏んでるな。

さては主人公か?

 

68:超田舎者転生:xxx

で、そっからそれぞれ5系統に分割する。

 

69:名無しの転生者:xxx

んー????

 

70:名無し転生者:xxx

実質35属性なんか? 流石に多いな

 

71:超田舎者転生者:xxx

それが……

35のうち、一つ一つかけ合わせて魔法使うぽくて、

少なくても1,2、多くて15系統って滅茶苦茶差が激しいらしいんですよ。

 

火は燃焼、加熱、爆発。水は液化、潤滑、流体みたいな感じであって

燃焼×流体って言う風になるらしい。

凄い人は自分の持ってる系統全部かけ合わせられるとかなんとか。

 

72:名無し転生者:xxx

ハチャメチャにややこしくて草

 

73:名無し転生者:xxx

実質なん通りあんねん。

 

74:名無し転生者:xxx

馬鹿じゃん

 

75:名無し転生者:xxx

絶対使わない系統ある

 

76:名無し転生者:xxx

それで全部使えるってすごくね????

 

77:名無し転生者:xxx

逆でしょ。

できること多すぎてどうしていいか分らないパターンだ

 

78:超田舎者転生者:xxx

おっしゃる通りで……

 

79:名無し転生者:xxx

なるほどね。

それで主席で入学とかどうしようってなってるのか。

 

80:名無し転生者:xxx

使える属性絞ればいいだけじゃん。

 

81:名無し転生者:xxx

それはそう

 

82:超田舎者転生者:xxx

6属性ならともかく30系統の無限掛け算とか

マジで頭パンクしそうなんです……

 

主席ってことはそれなりに結果も求められそうだし……

 

83:名無し転生者:xxx

真面目か

 

84:名無し転生者:xxx

今何個くらい使ってるの?

 

85:超田舎者転生者:xxx

多くて5かけ?

 

ただ、系統多い分適性値みたいなのは割と低くて

5掛以上じゃないと魔法の効果としてはいまいちらしいです。

 

ただ可能性は凄いって。

 

86:超田舎者転生者:xxx

繰り返しですけど、主席って結果求められそうじゃないですか。

 

主席で入学して、ちゃんと卒業すれば王都とかでの就職も

明るくて、実家に色々仕送りできそうなんですけど、

ちゃんとできるかめっちゃ不安で掲示板使いだしたってわけです。

 

87:名無し転生者:xxx

>実家に色々仕送りできそうなんですけど、

家族を大事にする転生者の鑑。

 

88:名無し転生者:xxx

息子にしたい

 

89:名無し転生者:xxx

ほんそれ。

 

最近、バッドエンド未来から来た子供が超やさぐれてて

困っている俺にはしみるよ

 

90:名無し転生者:xxx

子供作れる肉体が欲しいなぁ

 

91:名無し転生者:xxx

重いの連打は止めるんだ

>90

あと脳髄ニキはどんまい

 

92:名無し転生者:xxx

つまり系統やらの案を出せばいいわけか。

ファンタジー系異世界は一番住人多いだろうし。

 

しかし、こう、あれだよね。

異世界はめっちゃあるけど魔法に関してはわりと似てるよね。

なんでなんだろ。

 

93:名無し転生者:xxx

あ、馬鹿。

 

94:名無し転生者:xxx

あちゃー

 

95:名無し転生者:xxx

えっ?

 

96:超天才魔法転生者様:xxx

中々面白そうなスキルがあるじゃないか。

そして中々に愚かな疑問が生まれている。

 

――――いいだろう。この私が愚かな転生者に学びを与えよう。

 

97:名無し転生者:xxx

えっ? 誰

 

98:名無し転生者:xxx

無限に広がる異世界全把握してるスーパー魔術師だゾ。

 

掲示板で魔法や世界に関する疑問を言うとマウント取るために現れる。

 

まぁ>1のスキルにでないわけがなかったんだが……

 

99:超天才魔法転生者様:xxx

フフフ……感謝にむせび泣いて聞き伏すがいい。

私の世界で私の講義なんてどれだけ金を積んでも受けられないよ?

 

100:超田舎者転生者:xxx

よろしくお願いしまーす!!!!

 

101:名無し転生者:xxx

素直か?

 

102:名無し転生者:xxx

超田舎と超天才の転生者が出会ってしまった……

 




>1/超田舎者転生者

やれること多すぎて積んでる。
馬鹿ではないが、難易度が高い。

転生後は両親ともに健康。



超天才魔法転生者様
合法ロリ
くっそ面倒そうな魔法スキルを発見してうっきうき


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脳汁ドバドバでるわ

112:名無し転生者:xxx

初見なんやが天才さんはどんくらい凄いんや?

 

113:名無し転生者:xxx

ちょうすごいぞ

 

114:名無し転生者:xxx

無限の転生世界で最高の魔法使い

 

115:名無し転生者:xxx

転生掲示板でも数少ない平行次元干渉できるやべー人

 

116:名無し転生者:xxx

ま? 

そんなのいるんか

 

117:名無し転生者:xxx

ちょびっとだけ。

 

118:名無し転生者:xxx

天才さんは顔出し率でいえば一番高いわな。

なんかレアスキル持ちか知識マウントの為ならヒョイヒョイ出てくるし。

ランク付けたらSがいくつあっても足りない。

 

119:名無し転生者:xxx

はえーすっごい。

 

120:名無し転生者:xxx

ちなみにちょっとでも馬鹿にすると何もない空間からヨーヨーぶつけられるから気を付けるんだゾ

 

121:名無し転生者:xxx

なんで……?

 

122:天才様:xxx

次元干渉は自由ではないんだよ。

本来あるはずのないものが別に次元に置かれれば何か影響があるかもしれない。

だから失言をしたものには、時空にちょっとした窓を空けてヨーヨー飛ばしてお仕置きをするわけだ。

 

――――体験したいかね?

 

123:名無し転生者:xxx

結構です!

 

124:名無し転生者:xxx

間に合ってます!

 

125:名無し転生者:xxx

止めてください!

 

126:名無し転生者:xxx

お願いします

 

127:名無し転生者:xxx

>124 間に合ってる……?

 

128:名無し転生者:xxx

>126

変態だぁー!

 

129:名無し転生者:xxx

今来たんだけどどういう状況?

>1は

 

130:名無し転生者:xxx

今なんか情報同期がどうこうとかで、>1の世界の魔法を天才ちゃん様が読み込み?してるらしい。

原理は良く分からん。

 

131:名無し転生者:xxx

掲示板機能とかじゃないよな。

掲示板主の視界同期とか背後視点からとか色々あるけど。

 

132:名無し転生者:xxx

俺脳髄だからそういうの詳しいけどよ。

 

133:名無し転生者:xxx

聞いたことない出だしやめーや。

 

134:脳髄:xxx

掲示板って俺みたいなSF世界からすると脳に直結してるんだよね。

だから掲示板のアクセス権限ルートを辿れば、特定の情報の読み込みができないこともない。

 

問題は、無理やり脳みそこじ開けるみたいなもんだから

どっちかは廃人になるけど

 

135:名無し転生者:xxx

ダメじゃねーか!!!!!!

 

136:名無し転生者:xxx

>1逃げて! 超逃げて!

次元世界のどこにも逃げ場所ないと思うけど!

 

137:名無し転生者:xxx

落ち着け。

そのあたりどーにかできるのが天才ちゃん様だ

 

理屈は全然分からんけど。

 

138:名無し転生者:xxx

すげー。

 

139:名無し転生者:xxx

ていうか、掲示板って脳みそアクセスなの?

俺ファンタジー世界出身だけど、魂とかの分野だと思ってた。

 

140:名無し転生者:xxx

そこら辺なんかは世界によって言い方違うけど、大体一緒らしい。

>92の疑問にもあるし、天才ちゃんが教えてくれるんじゃないかな。

 

読み込み終わったら。

 

141:名無し転生者:xxx

どんくらいかかるんだろ。

 

142:超田舎転生者:xxx

終わりました!!!

 

143:名無し転生者:xxx

終わってた

 

144:名無し転生者:xxx

で、どうだったんや>1

まるっと解決した?

 

145:超田舎転生者:xxx

まだ!!!

 

146:天才様:xxx

したよ

 

147:名無し転生者:xxx

どっちやねーん。

 

148:名無し転生者:xxx

真っ二つで草

 

149:名無し転生者:xxx

意識統率してもろて

 

150:天才様:xxx

私の情報収集は完了した。

だけど、>1の問題の方はまだ、というか一朝一夕で解決するものではないね。

 

>1の脳が追い付かないから。

 

 

151:名無し転生者:xxx

それはそう。

 

152:名無し転生者:xxx

というかもう把握したんか……?

 

153:名無し転生者:xxx

はやすぎわろた

 

154:名無し転生者:xxx

全く理解できないわ俺

 

155:名無し転生者:xxx

まぁ35中、系統5個くらいしかでてないから多少はね……

 

156:天才様:xxx

全て把握したし、使い方応用性が高く面白かったよ。

それで、各世界の魔法の共通性だったかな?

 

>1も掲示板や他の世界初心者ということでこの私が解説していこう。

ひれ伏すがよい。

 

157:超田舎者転生:xxx

ははっー!

 

158:天才様:xxx

フフフ! 良い姿勢だねぇ!!

 

159:名無し転生者:xxx

順応性高すぎぃ!!

 

160:名無し転生者:xxx

素直か

 

161:名無し転生者:xxx

新手のプレイかな

 

162:天才様:xxx

さて、そもそもこの掲示板にアクセスしているということは

それぞれみな元々の世界から転生してきているのは言うまでもない。

 

そして我々転生者は概ね2000年代始めの地球、日本から転生してきてる。

 

163:名無し転生者:xxx

あぁ、そうだよね。

俺2010年くらいだから、なろう転生とかあんまりぴんとこなくてビビったわ。

 

164:名無し転生者:xxx

大体その後くらいだっけ、転生やらなんやら滅茶苦茶流行り出したの。

 

165:名無し転生者:xxx

2021年転生だけどもうアニメもラノベも漫画も半分くらいそれだぞ。

 

ちなみに2021年には星姫の続編が発売した。

 

166:名無し転生者:xxx

嘘乙

 

167:名無し転生者:xxx

平行世界じゃん。

 

178:名無し転生者:xxx

10年で出るわけがないんだよなぁ

 

179:脳髄:xxx

データだけ読み込んだけどほんとだゾ

 

180:名無し転生者:xxx

ま????????

 

181:名無し転生者:xxx

てかコテハン草

直球すぎるわ

 

182:天才様:xxx

私の講義中に関係ない話をしだしたやつは後でヨーヨー

 

183:名無し転生者:xxx

ヒエッ

 

184:名無し転生者:xxx

そんなぁー

 

185:名無し転生者:xxx

仕方ないね

 

186:超田舎者転生者:xxx

続きお願いします!

 

187:名無し転生者:xxx

いい子だなー

 

188:天才様:xxx

うむ。

 

何故かは文字通り神のみぞ知る……というかその時代の流行を

神々が上手いこと活用しているというわけだが、

我々の元いた世界を私は≪アース・ゼロ≫と呼称している。

 

そして我々のそれぞれ転生している世界は文字通り無限大だが、

全ての世界はアース・ゼロを起点に構築されていると言っていい。

 

189:名無し転生者:xxx

???

 

190:名無し転生者:xxx

どゆこと?

 

191:名無し転生者:xxx

地球ありきで他の世界あるの?

 

192:名無し転生者:xxx

あの地球……そんなに凄かったの……?

 

193:脳髄:xxx

特徴薄いから逆に色々派生できた説

 

194:天才様:xxx

そのあたりはなんとも。

ただ事実として、世界法則の根幹はアース・ゼロにあり、

46億年の歴史の中で無数の分岐点を経ることで我々の転生世界が存在している。

 

文明レベルや文化、人種の細かい所の差異はあっても

大体似たり寄ったりしているのはそういうことだね。

 

195:超田舎者転生者:xxx

はえーすっごい。

 

196:名無し転生者:xxx

ほんとに理解できてる……?

 

197:名無し転生者:xxx

まぁ理解できなくてもって感じでは?

 

基本転生掲示板以外だとどうやっても干渉できねぇし。

俺自分の世界でわりと最上位の戦闘力持ちだけど、全然分からん。

 

というか俺の世界じゃ最上位でも他の世界じゃよくいるレベル

とかだったりするからなぁ

 

198:脳髄:xxx

つまり……俺みたいなのが他にも?

 

199:名無し転生者:xxx

いるわけがないんだよなぁ……

 

200:名無し転生者:xxx

いてたまるか

 

201:名無し転生者:xxx

でもアース・ゼロからゲームデータ取り寄せられるってことは

脳髄ニキわりと存在強度高いよね……

 

202:天才様:xxx

私ほどじゃないがね!!!

 

203:脳髄:xxx

それはそう

 

204:名無し転生者:xxx

張り合うなぁ

 

205:名無し転生者:xxx

わ、解らせ……わから……無理!!

 

206:名無し転生者:xxx

とりあえず一つ賢くなったけど、>1の方はどうなったん?

魔法学校主席云々あるんでしょ?

 

207:名無し転生者:xxx

ていうか元々5かけだかはできるんだよな

それじゃダメだったのか?

 

208:名無し転生者:xxx

確かに

 

209:超田舎者転生者:xxx

1属性5系統ざっくり同時発動できるだけだったんで……

 

210:名無し転生者:xxx

脳筋>1可愛い。

どこ住み? 超田舎? そっかぁー。

 

211:名無し転生者:xxx

もうすぐ花の都会住まいや!

 

212:天才様:xxx

一先ず全属性、全系統は把握したから

先に目的を絞って必要な系統ピックアップして一つの術式にまとめるだけだね。

 

ちなみに全部上げるとこう

 

火:加熱、燃焼、爆発、焼却、耐熱

水:液化、潤滑、活性、氷結、鎮静

風:流体、気化、加速、伝達、風化

土:振動、硬化、鉱物、生命、崩壊

雷:誘導、帯電、落下、発電、電熱

光:拡散、反射、封印、収束、浄化

闇:圧縮、荷重、時間、吸収、斥力

 

 

213:名無し転生者:xxx

ややこっしっっっっっっ!!!!!!!!!!!!

 

214:脳髄:xxx

えぇ……?

 

215::名無し転生者:xxx

こんな面倒なの使ってる世界なんか>1は

 

216:名無し転生者:xxx

ちょいちょいなんか被ってるやつないかこれ。

水の活性と土の生命とか。

 

217:天才様:xxx

>1の世界はこれら35系統から複数個数を先天的に保有し

そこから術式を組んで使用しているから、

ある程度は被るのが当然だと思うけどね。

 

おそらく、同じ結果の魔法でも使ってる系統がばらけるのさ。

 

218:天才様:xxx

かなり細分化されてはいるが、大体の魔法世界はこれらの系統を秘めていると言っていい。

分けられた属性に最初から内包されているものが、

先天的才能として発現しているのだろう。

 

大体の世界ではパンケーキはパンケーキだが、

>1の世界では小麦粉、卵、砂糖、油、牛乳と表示されて

そこから自分で組み合わせるわけだね。

 

219:名無し転生者:xxx

あー……なんとなく分かるな。

 

220:名無し転生者:xxx

流石天才ちゃん様……分かりやすい……

 

221:名無し転生者:xxx

人によってはパンケーキ作るのに米粉とか生クリーム使ったりするってことね。

 

222:超田舎転生者:xxx

なるほどなー

 

223:名無し転生者:xxx

>1、貴方の世界の仕組みなんよ

 

224:名無し転生者:xxx

それでなんだっけ。

 

225:名無し転生者:xxx

使える術式? の構築かな

 

226:名無し転生者:xxx

そうそう。

 

227:名無し転生者:xxx

魔法学校とかいうやつの入学はいつなん?

 

228:超田舎転生者:xxx

三か月後らしいです。

ただ、地元から王都に行くのに一月は掛かるらしいんで、

準備とかも含めると一月半後には出発かな

 

229:名無し転生者:xxx

遠すぎワロタ

 

230:名無し転生者:xxx

ファンタジー世界特有の移動距離長すぎ問題

 

231:名無し転生者:xxx

転移スキル持ちわい、送ってあげてぇ。

 

232:名無し転生者:xxx

じゃあ色々準備できるっぽい?

 

233:名無し転生者:xxx

入学してなんか試験とかあったりするん?

 

234:名無し転生者:xxx

予言する!

>1は入学直後に高飛車お嬢様に絡まれると!!!!

 

235:名無し転生者:xxx

学園ものあるある

 

236:名無し転生者:xxx

チートで倒してポッ。

チ倒ポですね分かります。

 

ちなみに僕は普通に学園入学してボロカス負けました

 

237:名無し転生者:xxx

涙拭けよ

 

238:超田舎者転生者:xxx

どんまいです!!!!!

良いことありますよ!!!

 

なんか主席とか主席候補とかあと入学試験(自分は推薦なので免除)の上位成績者で

エキシビションマッチだとか特別試練があるとかなんとか

 

239:名無し転生者:xxx

あ~~~^^

心が洗われるんじゃ~~~

 

240:名無し転生者:xxx

あんまりいないタイプだな>1

めっちゃ素直

 

>234 

ほんとに起きそうだなこの流れ

 

241:天才様:xxx

とりあえず残りの時間で有用な術式を組んで、それは使える様にすればいいだろう。

系統の組み合わせ次第でできることは大きく変わる。

 

ふふふ……当分は退屈しなさそうだね?

 

242:名無し転生者:xxx

おっふ……>1よ、目を付けられてしまったなぁ

 

243:名無し転生者:xxx

うら……うらやまし……うらやましいのか?

 

244:名無し転生者:xxx

アドバイザーの質としては最高だし

 

245:超田舎転生者:xxx

よろしくお願いします!!!!!

 

246:名無し転生者:xxx

うーんこの素直ぶり。

応援したくなっちゃう。

 

247:脳髄:xxx

脳汁ドバドバでるわ

 

248:名無し転生者:xxx

こえーよ。




超田舎者転生者
素直ボーイ

天才様
いい感じの暇つぶしを発見した
態度はデカいが教えるのも上手い

脳髄
そのSF世界最高の頭脳として大都市管理を行っているが、
それ以外の行動規制が厳しくてわりと暇

系統はとりあえずざっと出しましたが
スルーしてもいいやつです。

天才ちゃん様がいい感じにピックアップして
>1が魔法作る予定。


次回、魔法学校学校

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長身でかぱいでかちちでかしり銀髪褐色鬼娘ヒロイン

1421:名無し転生者:xxx

って感じで魔法メインの世界だったんだけどどうにも科学技術が導入されてきてる。

正直転生して30年、魔法が支配してる世界でどれだけ広まるか、ないしはどれだけ時間がかかるのかという問題があってだな

 

1422:名無し転生者:xxx

文言だけ見てると科学最強じゃん!ってなるけど

別にそういうわけでもないからなぁ異世界

 

どこからが科学技術と見なすかって話だし。

 

1423:名無し転生者:xxx

インフレ具合というか魔法の便利度によっては

あくまで魔法の補助器具、みたいな感じになるからな。

 

詠唱補助とか儀式省いたりするだけみたいな。

 

1424:名無し転生者:xxx

慎重になったほうがいいぞ。

俺も魔法世界で科学、というか機械工業技術の理論が生まれて

商会やってたから飛びついたんだけどさ。

 

1425:名無し転生者:xxx

ほう

 

1426:名無し転生者:xxx

いいですね

 

1427:名無し転生者:xxx

俺の世界の魔法って、精霊と取引して魔法になるんだよね。

詠唱とか儀式が精霊への捧げものなの。

 

だから、手間省いたオートメーションは完全に魔法反応しなくて秒で廃れたわ。

 

精霊魔法に関しては普通に生活する分にはわりと簡単だったし。

 

1428:名無し転生者:xxx

はえー。そういう場合もあるんだな。

 

1429:名無し転生者:xxx

産業革命もただ技術だけじゃダメってわけね。

 

1430:名無し転生者:xxx

てか>1427大損だったの?

 

1431:名無し転生者:xxx

一度はそう。金も無くなっちまって、機械工学の知識と設備だけ残ったから

それで3年くらいかけて人形作って、魔法で命吹き込んだ。

 

時間も手間も掛けてるから精霊がめっちゃ喜んで、精霊の受肉用人形として超高級品よ。

それで儲けて、最初に作った人形を嫁にしてうっはうっはよ。

 

1432:名無し転生者:xxx

今なら嫉妬で人を殺せそう

 

1433:名無し転生者:xxx

嫉妬じゃ!

 

1434:名無し転生者:xxx

許せねぇよなぁ!!

 

1435:御登り転生者:xxx

助けて

 

1436:名無し転生者:xxx

一体分けて(血涙

 

1437:名無し転生者:xxx

次元間配達は対応外です

 

1438:名無し転生者:xxx

ん?

 

1439:名無し転生者:xxx

>1!?

 

1440:名無し転生者:xxx

久々見たな。三か月ぶりくらいか?

 

1441:名無し転生者:xxx

そいやこのスレ、転生世界の魔法技術の情報スレ提供所

みたいな認識だったけど元々相談場所だったんだけ?

 

最初の方流し見してたわ

 

1442:名無し転生者:xxx

>1の世界の魔法についてあれこれ話し合ってたら

その流れでそれぞれの世界の魔法体系に流れたな

 

かなり勉強になった

 

1443:名無し転生者:xxx

御登りってことはもう王都行って学園に入学したの?

 

1444:名無し転生者:xxx

詳細plz

 

1445:名無し転生者:xxx

万能すぎチート持ち>1

くっそややこしい魔法法則に頭抱える

天才ちゃん様がアドバイス

>1田舎から王都の魔法学園に主席推薦

 

こんな感じか?

 

1446:名無し転生者:xxx

>1446 まとめおつ

 

1447:名無し転生者:xxx

4行かーい

 

1448:名無し転生者:xxx

? なんかあかんの

 

1449:名無し転生者:xxx

なん、だと……?

 

1450:名無し転生者:xxx

やめろ! ネタが通じない世代もいるんだ!

 

1451:天才様:xxx

で、どうしたんだい?

 

魔法に関しては実に発展し尽くされた君の生家で

一通り有用な魔法構成は教えただろう。

 

学園に行ったんじゃなかったか。

 

1452:御登り転生者:xxx

それがですね……

 

1453:名無し転生者:xxx

さらっと皮肉とスルーで草

 

1454:名無し転生者:xxx

天才ちゃん様ちーす

 

1455:名無し転生者:xxx

よう見とる

 

1456:名無し転生者:xxx

というか精神体分身して同時観測してるんじゃなかったけ

 

1457:名無し転生者:xxx

何それ草。

そんなことできるの?

 

1458:天才様:xxx

できてる。

 

だから>1457が別スレで初めて奴隷買うのに滅茶苦茶

ビビってて、経験者に相談してるうちに

あれもこれも気になり過ぎて逆にもうやめようかなってなってるのも知っている

 

1459:名無し転生者:xxx

すみませんでした!!!!!

 

1460:名無し転生者:xxx

やめたげてぇ!

 

1461:名無し転生者:xxx

初めては仕方ないね。

良いご主人様になってもろて。

 

1462:名無し転生者:xxx

脱線脱線。

 

で、>1は何が起きた?

コテハン的に王都には行けたっぽいけど

 

1463:御登り転生者:xxx

ありがとうございます。

流れが速くてタイミングが難しいですね。

 

えっと、入学は上手くいきました。

買い物とか引越しとかも準備はスムーズで、

先輩が凄く優しく教えてくださったんですが。

 

1464:御登り転生者:xxx

入学式で、次席の方に真剣勝負持ち込まれちゃって……

 

1465:名無し転生者:xxx

これは

 

1466:名無し転生者:xxx

来たわね

 

1467:名無し転生者:xxx

落ち着こう、

 

>1、その次席は――――女子かな?

もっといえば、可愛い?

 

1468:名無し転生者:xxx

最も大事な所だ

 

1469:御登り転生者:xxx

あ、かなりの美人です

 

1470:名無し転生者:xxx

!!!!!!

 

1471:名無し転生者:xxx

さてはてめー主人公か?

 

1472:名無し転生者:xxx

テンプレ来たああああああああああああああああああああ!!!

いいなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

1474:名無し転生者:xxx

切実で草

 

いや、性格によるでしょ。

 

1475:名無し転生者:xxx

それはそう

 

1476:名無し転生者:xxx

間違いない……うぅっ、頭が……

 

1477:名無し転生者:xxx

経験者か?

アドバイス頼むわ

 

1478:名無し転生者:xxx

明らかにトラウマの反応なんですが……

 

1479:名無し転生者:xxx

俺王族で似たような感じで勝負挑まれたけど、ガチで暗殺しかけられた。

なんか勝ったけど救護班のえっちなおねーさんにハニトラされて殺されかけた。

その後も暗殺も襲撃もされまくってたけど、最終的にずっと一緒だった相棒にも卒業式で殺されかけた。

 

なんとか生きてる。

 

1480:名無し転生者:xxx

えぇ……?

 

1481:名無し転生者:xxx

地獄で草も生えない

 

1482:名無し転生者:xxx

どうして……?

 

1483:御登り転生者:xxx

学園ってそんなやばいんですか……?

 

1484:名無し転生者:xxx

なんとか(完全にトラウマ)

 

1485:天才様:xxx

 

1486:名無し転生者:xxx

まぁ俺のは最悪のパターンだと思う。

>1の話に戻ってもろて。

 

1487:名無し転生者:xxx

さらっと天才ちゃんが草はやしてて草

 

1488:御登り転生者:xxx

ありがとうございます。

 

一応、元々主席と次席のエキシビションマッチは予定通りだったんですが

ある程度、なんていうかある程度様子見でやるって話だったんですけど、

 

次席の方から本気でやらないかと言われまして。

 

1489:天才様:xxx

やればいいじゃないか。

わりとそこそこ戦えるだろう、君。

 

戦闘用魔法も大概の相手には困らないように組んだぞ?

 

1490:名無し転生者:xxx

わりと天才さん優しい

 

1491:名無し転生者:xxx

というか>1のスキルが刺さったんでしょう

 

1492:名無し転生者:xxx

興味ないとガンスルーだしな

 

1493:御登り転生者:xxx

天才ちゃん様の魔法はマジでありがたいんですけど、

次席さんが凄い強そうで……なんていうかな。

 

1494:名無し転生者:xxx

>1、脳内スクショ分かる?

単語思い浮かべれば、使い方勝手に頭に流れ込むけど。

 

1495:名無し転生者:xxx

便利だよな、色々の機能

視界同期とか背後視点とか単語思い浮かべれば使い方流れ込んでくるし。

 

1496:名無し転生者:xxx

コメントも網膜投影や脳内再生に、意味伝達って選べて至れり尽くせりだよね

 

1497:御登り転生者:xxx

こうかな

 

ttps:onobori:scrsho……

 

1498:名無し転生者:xxx

でっっっっっっ!!!!!!!!

 

1499:名無し転生者:xxx

えっっっっっっっっ!!!!!!!!!

 

1500:名無し転生者:xxx

鬼っ子たぁたまげたなぁ

 

1501:名無し転生者:xxx

長身でかぱいでかちちでかしり銀髪褐色鬼娘ヒロインとか属性モリモリやんけ!

ブレザーの制服ぱっつぱつやん

 

1502:名無し転生者:xxx

制服、わりとシンプルね。

臙脂ブレザーに黒スカートか。

 

1503:名無し転生者:xxx

異世界特有のエロ制服じゃないのか……

 

1504:名無し転生者:xxx

パツパツでこれはこれでえっち

 

1505:名無し転生者:xxx

綺麗な琥珀色のお目目してますね。

 

角の先が真っ黒で気品があるな。

額から綺麗に伸びてる。片角なのはなんかあるん?

 

1506:御登り転生者:xxx

鬼族のお姫様だそうです。

ハーフオーガだとか

 

1507:名無し転生者:xxx

お姫様かぁ

 

1508:名無し転生者:xxx

オーガのお姫様とかいるタイプの世界か。

 

うちだと亜人はみんな奴隷種族だわ

 

1509:名無し転生者:xxx

マジでそこらへん世界によるよな

大体人間が一番メインだけど、亜人は奴隷だったり同等だったり

 

1510:名無し転生者:xxx

どことは言わないけど後ろが弱そうですね

 

1511:天才様:xxx

それで?

 

1512:御登り転生者:xxx

滅茶苦茶強そうじゃないですか……?

 

1513:名無し転生者:xxx

はい……

 

1514:名無し転生者:xxx

絶対強いよ

 

1515:名無し転生者:xxx

姿勢めっちゃ綺麗だしな

 

1516:名無し転生者:xxx

オーガとか鬼種って大体すげぇ馬鹿力だよなぁ

 

1517:天才様:xxx

いわゆる鬼種は、先天的に遺伝子に魔力や生命エネルギーを身体能力に自動変換する術式が刻まれていることが多いね。

加えてその生命力や魔力適性が高い。

相乗効果で身体能力や肉体機能が極めて頑強だ。

 

魔法が得意かはその身体強化術式の刻まれ具合によるが。

概ね知能が低くてモンスター扱いは魔力が100%膂力変換されて通常の魔法が使えないことが多い。

逆に言えばそのあたりのバランスがとれていると鬼種でも大魔法や特殊な魔法が使えることもあるが。

 

属性で言えば、火、土、雷系統への適性が高い。

文明発展すると冶金技術や中世日本文化に傾倒しがちだね。

 

1518:名無し転生者:xxx

解説あざす

 

1519:名無し転生者:xxx

なるほどなー。

 

1520:名無し転生者:xxx

鬼の知り合いいたけど、女性は大体嫉妬深いぞ(真顔

 

1521:名無し転生者:xxx

鬼女なんて言うぐらいだもんな

 

1522:名無し転生者:xxx

ちなみにお名前は?

 

1523:御登り転生者:xxx

天津院御影さん、というらしいです。

アマツノイン、ミカゲ

 

1524:名無し転生者:xxx

つよそう(こなみ

 

1525:名無し転生者:xxx

宮とか院とか付くとめっちゃ高貴な感じでるよね。

 

つーか漢字あるのか

 

1526:御登り転生者:xxx

基本は英語ぽいアルファベットな感じですけど、

東方の人は漢字使うみたいですね。

 

1527:名無し転生者:xxx

ほんほん。まぁよくある万能極東だわね

 

1528:名無し転生者:xxx

悉く王道歩んでるな……

 

1529:名無し転生者:xxx

魔王とかおらんのか

 

1530:名無し転生者:xxx

>1は勇者だった?

 

1531:御登り転生者:xxx

今の所聞いたことないですね

 

1532:名無し転生者:xxx

とりあえず安心か

 

1533:名無し転生者:xxx

>1を最強の勇者に育て上げたかったのに……

 

1534:天才様:xxx

それで、この娘がなんだというんだ。

 

1535:御登り転生者:xxx

天才様のお力を貸していただきたく……

正直山の動物ならともかく対人経験が全くなくて……

 

1536:天才様:xxx

嫌だが

 

1537:天才様:xxx

勘違いしているが、私は君の能力に興味があるだけだからね

 

1538:天才様:xxx

一通りの使い方は教えたんだ。

碌に実践していないのに助けを求めるんじゃないよ。

 

1539:名無し転生者:xxx

うーんこの……

 

1540:名無し転生者:xxx

まぁ正論やな。

戦ってみんと。

 

>1がどんくらい戦えるのかも分らんし

 

1541:御登り転生者:xxx

……確かに、すみません。甘えてました

 

1542:名無し転生者:xxx

ええんやで。

とりあえずやってみりゃええんちゃうか。

 

1543:天才様:xxx

ま、君の世界の人間がどう術式使うは興味はある。

見ていてあげるから、やってみたまえ

 

1544:御登り転生者:xxx

はい!!!!!!

頑張ります!!!!!

天津院さんの申し出、受けてきますね!!!

 

1545:天才様:xxx

いってらっしゃい

 

1546:名無し転生者:xxx

この天才ちゃん様、わりと理想的な先生では……?

 

1547:名無し転生者:xxx

不覚にもバブみを感じてしまった

 

1548:名無し転生者:xxx

俺もこういう先生が欲しかった

 

1549:名無し転生者:xxx

…………なぁ。

かなりいい感じの流れだったけどさ

 

1550:名無し転生者:xxx

うん?

 

1551:名無し転生者:xxx

申し出断るって選択肢はなかったの?

 

1552:天才様:xxx

そんなことしたら彼の世界のわりと強めの人間の魔法が見れないじゃないか。

 

1553:名無し転生者:xxx

こ、こいつ!!!!!!!!!!!




御登り転生者
がんばるぞー!!!

天才様
有能先生
それはそれとして知識欲優先

天津宮御影
長身でかぱいでかちちでかしり銀髪褐色鬼娘ヒロイン
長乳でもある。


名無しのこいつ気になるぜ!とか言及もらえたら
今後コテハン着くかもです。


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みんな服とお姫様の体にしか言及しなくて草

1604:名無し転生者

さーて始まりました!

何でもチート持ち、ただし使いこなすのしんどい>1VS!

片角銀髪褐色えっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!

 

1605:名無し転生者

初手実況放棄で草

 

1606:名無し転生者

これはしゃーない。

 

1607:名無し転生者

えっちすぎるでしょ。

 

1608:名無し転生者

戦闘服? 肩だしの襦袢にスリット入り過ぎの裾避け。

普通は前後合わせる和装のインナーですけど、

もうスリットえぐすぎて前後掛けみたいですね。

上半身は和装だけど下半身がチャイナドレスぽい。

 

髪色と合わせた白のアームカバーが肌に映えるし、

着物全体は朱色で美しい。わりと軽装ですけど

黒とかの羽織とかロングコートとか羽織ればかなり締まりそう。

 

今度似たようなの作りたいな。

 

1609:名無し転生者

服装ガチニキおるやん。

 

1610:名無し転生者

ちょっと前にいた自動人形ニキ?

 

1611:自動人形職人

そう。

 

転生掲示板覗いてると案がウハウハ沸いてくる。

 

1612:名無し転生者

こ、こいつ……

 

1613:名無し転生者

趣味と実益兼ねとる

 

1614:名無し転生者

わりと装飾としては控えめだから長身目立つな。

170超えてる。

 

1615:名無し転生者

おっぱい完全に帯に乗ってますやん

角の根本に指輪ていうか角輪?嵌ってるのおしゃれ。

 

1616:名無し転生者

でかい、ながい、えっち。

 

1617:名無し転生者

表情も凛っ!って感じの笑みを浮かべてて不敵。

 

1618:名無し転生者

高飛車って感じじゃないな。

王族のオーラあるわぁ。

 

1619:自動人形職人

防具らしきものはないですけど、

鬼族だからとかなんかあるのかな

 

1620:名無し転生者

みんな服とお姫様の体にしか言及しなくて草

 

もう一個滅茶苦茶デカいのありません……?

 

1621:名無し転生者

あぁ……でかい

 

1622:名無し転生者

超大きいな……

 

1623:名無し転生者

うむ……

 

1624:名無し転生者

おっきい。

 

1625:名無し転生者

 

 

――――あの尻!

 

1626:名無し転生者

尻もだけど!

 

すげぇでけぇ斧も持ってるよ!

身の丈よりでけぇもん!

 

1627:名無し転生者

刃だけで1メートルあんな。

こっちも装飾は控えめだけど。

 

1628:名無し転生者

狩りゲーで使ってそう。

 

1629:名無し転生者

柄が全体的に黒包帯で巻かれてるのかっけー。

 

1630:名無し転生者

普通に片手で担いでるな。

やっぱ鬼族らしく力すげーっぽい。

 

1631:自動人形職人

ううむ。あの武器は自分じゃ作るの難しそう。

 

1632:名無し転生者

で、>1と視界共有してるけどどうなってん?

書き込みはないけど。

 

1633:天才様

現在規制中だ。どうせあの鬼族を見ればここの住人は

戦闘には関係のないことで沸くに決まっているからな。

 

事前にこっちは見るなとDM通達した。

 

1634:名無し転生者

仕事が早い

 

1635:名無し転生者

流石すぎる

 

1636:名無し転生者

実際服とか乳しか見てなかったもんね……

 

1637:名無し転生者

DM機能なんてあるの?

 

1638:脳髄

多分天才様ちゃんの独自技術

 

なんか凄いことになってんな

 

1639:名無し転生者

>>1638 脳髄ニキ! 脳髄ニキじゃないか!

ブラック転生者と名高い脳髄ニキ!

 

1640:名無し転生者

とんでもない名前で草

 

1641:名無し転生者

マジで久々ですね。

 

1642:名無し転生者

よく分らんが不穏な気配しかねーぞ。

 

1643:脳髄

まぁ色々あって惑星丸ごと機械化されて管理下になったから

それの調整で時間掛かったわ

 

1644:名無し転生者

は?

 

1645:自動人形職人

え?

 

1646:名無し転生者

何言ってんだこいつ

 

1647:天才様

>>1643

君はもう別でスレ立てて経緯語りたまえ

 

始まるよ

 

1648:名無し転生者

お、そろそろか。

ていうか学園だけどわりとがっつりしたコロシアムだな。

 

1649:名無し転生者

まぁ魔法あるってことは戦うし演習場みたいなのはいるな。

広さとか規模はその世界観の戦闘規模によるけど。

 

天才様ちゃん、>1の世界の戦闘レベルってどんなもん?

 

1650:天才様

私だって知らん。

だが見れば解るよ。

 

1651:名無し転生者

ってうお、なんだ!?

ぐわんなったぞ!

 

1652:名無し転生者

10メートルくらい離れてるのに一瞬で詰めて来たな。

はえー。素の身体能力でこれか?

 

1653:自動人形職人

戦闘系の方と視界同期するといつものことですけど、

まーじで何が起きてるか分かりませんね。

 

1654:天才様

適当に随時スローモーション掛けておくか。

 

身体強化もあるけど、開始時点の彼女の足元も砕けてるね。

足裏で爆発起こして加速したわけか。ふぅん。

 

1655:名無し転生者

>1もギリギリで避けたな。やるやん。

 

1656:脳髄

やるじゃん。

うちの第三位階強化人間くらいは余裕でありそう。

 

1657:名無し転生者

よく分らんラベリングやめろって。

 

1658:名無し転生者

なんでもかんでも不穏に聞こえるわ

 

1659:名無し転生者

おおっ

 

1660:名無し転生者

すげ

 

1661:名無し転生者

今度は斧振ったら炎の斬撃か。

属性は火がメインぽい

 

1662:名無し転生者

今度もちゃんと避けた。

 

1663:自動人形職人

反応凄いですね。

ギリギリでもちゃんと避けてる。

 

1664:名無し転生者

今更だけど>1の武器普通に剣か。

 

1665:名無し転生者

天才様ちゃんが教えた魔法、結局聞いてないけど

どんなんだったんだろ。ちゃんと勝てる?

 

1666:天才様

丁度使うよ。

 

 

1667:名無し転生者

御影ちゃん来てます!

でかいものを振りかぶって!!

 

1668:名無し転生者

でかいものが揺れて!!

 

1669:名無し転生者

うわぁああ>1ぺしゃんこだ!!!

 

1670:名無し転生者

大丈夫か?

 

1671:名無し転生者

おっ、なんだ腕。

 

1672:名無し転生者

揺れた!!

 

1673:名無し転生者

>>1672 

そこやないやろ!

 

1674:名無し転生者

すっげ

 

1675:名無し転生者

>1実は凄い?

 

1676:名無し転生者

なんか直前にしたな。

 

1677:名無し転生者

クソデカ斧、完全に剣一本で受け止めてますやん。

 

1678:名無し転生者

御影お姫様もびっくりしてて綺麗な琥珀のお目々かっぴらいてる。

 

1679:脳髄

おーしかも連続で打ち合えてる。

一歩も下がってない。

 

1680:自動人形職人

わりと筋肉ついてましたけど、ガチムチって感じじゃなかったし

これも魔法の効果?

 

1681:名無し転生者

なんか腕に魔法陣7つあんな。

それぞれ色違いだけど。

ぶつかり合う直前にダイヤル式ロックみたいにグルグル回転してた。

 

1682:自動人形職人

青2、緑2、茶色2、黄色1、黒2で光りましたね。

 

 

1683:名無し転生者

よう見とる。

 

1684:天才様

活性、鎮静、加速、伝達、潤滑、生命、誘導、圧縮、時間だ。

肉体「生命」の「活性」。

思考「時間」の「圧縮」。

それらトータルの「伝達」と「潤滑」、「加速」、「誘導」でスムーズにし

掛かる負荷を「鎮静」で抑え込んでいる。

 

9系統統合の基礎身体強化≪センパー・パラタス≫。

 

腕の7種魔法陣はあらかじめ各系統の発動キーをアレに委任させて、

特定数種の魔法が自動発動するように組んだダイヤル式魔法発動補助魔法陣≪オムニス・クラヴィス≫。

 

発動条件は腕で何かしらのアクションを取ること。

拳を握るとか指を振るとか鳴らすとかだね。口頭でもいいけど。

 

1685:名無し転生者

かっけ!!!!!!!!!!!

 

1686:名無し転生者

ええやん。

 

1687:自動人形職人

魔法陣ごとに個別で回転してましたね。

歯車のようで美しい。ただのラインじゃなくて腕輪が5等分されてましたが

発動する系統のものが光るのでしょうか。

美しいですね。

 

1688:名無し転生者

職人ニキ口調がどんどん丁寧になっておもろい

 

1689:名無し転生者

掲示板で書き込んでるとみんなと口調揃えるけど

熱中すると素が出ちゃうよね。

 

1690:脳髄

≪センパー・パラタス≫

常に備えあり。

≪オムニス・クラヴィス≫

全ての鍵

 

いいじゃん。

おっしゃれー。

 

1691:天才様

ラテン語は私の趣味だ。いいだろう?

 

1692:名無し転生者

いいと思います。

 

1693:名無し転生者

素敵!

 

1694:名無し転生者

っぱラテン語かドイツ語よな。

 

1695:名無し転生者

確か5掛しかできなかったのに一気に9とかできるもんなんだ。

 

1696:天才様

どうも彼の場合、35系統同時発動だけなら可能だが

術式として明確な形にならなくて不発するようだったね。

 

だからちゃんと名前を与えて、システム化すればさほど負荷はないようだ。

 

1697:名無し転生者

はえー。

 

1698:名無し転生者

名前つけるのにもちゃんと意味あるんだな。

 

1699:名無し転生者

言霊って言うくらいだもんな。

 

1700:脳髄

識別コードは滅茶苦茶大事

 

1701:名無し転生者

違う、そうじゃない

 

1702:名無し転生者

さてはて、とりあえず互角に戦えてるぽいけど

こっからはどうなるかな。

  

1703:名無し転生者

ていうかなんかお姫様めっちゃ笑ってない?

 

1704:名無し転生者

笑うつーか嗤うっていうか。

 

1705:名無し転生者

笑顔とは本来攻撃うんぬんかんぬん。

 

1706:名無し転生者

御影さんはこれ属性なんだろ。火?

 

1707:天才様

加えて土もあるだろうね。

 

1708:名無し転生者

音声同期してないから分らんけど

めっちゃ声上げてわらってねーか。

 

1709:名無し転生者

鬼種、それも女性ってかなり戦闘狂の素質あるしな。

 

1710:名無し転生者

これは……フラグの気配!!

 

1711:名無し転生者

わりとそれっぽい。

 

1712:名無し転生者

斧振り回すとお乳揺れてマジでエッチ。

俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

1713:名無し転生者

>>1712 みんながっつり見てるんだよなぁ

 

1714:名無し転生者

>1よく集中しとる

 

1715:脳髄

がんばえー>1

 

1716:自動人形職人

がんばえー

 

1717:名無し転生者

知能指数下がって草

 

1718:天才様

はてさて。

 

 

 

 

 

1751:名無し転生者

ふぁっ!?

1752:名無し転生者

そんなんあり!?

 

1753:名無し転生者

火と土だけじゃないんかい!!!

 

1754:天才様

――――

 

1755:名無し転生者

やばくね?

 

 

 

 

 

 

 

1812:御登り転生者

勝ちました!!!!!!!!

 

1813:自動人形職人

おめでとうございます

 

1814:名無し転生者

おつおめ!!

一時はどうなることかと。

 

1815:名無し転生者

おつ!!

かっこよかったぞ!

 

1816:脳髄

脳汁ドバドバだったわ

 

1817:名無し転生者

最後凄かったなぁ。死ぬかと思った。

>1めっちゃ強いやん

 

1818:天才様

お疲れ。

まぁ頑張ったんじゃないかな

 

1819:御登り転生者

天才様ちゃんさんのおかげです!!!

 

1820:天才様

ん。

 

1821:名無し転生者

……なんだろう、こう。

 

1822:名無し転生者

いいですね……。

 

1823:名無し転生者

うむ……

 

1824:脳髄

カプ厨わらわらで草。

 

1825:名無し転生者

正直、掲示板越しCPはアツい

 

1826:名無し転生者

それな。

 

1827:名無し転生者

本人同士見てる所でそういうのやめないか!!!!!!

 

1828:名無し転生者

それはそう。

 

1829:名無し転生者

マナーですわネ。

 

1830:名無し転生者

何はともあれ>1おめでとう!!!!

 

1831:名無し転生者

おめでとう!!

 

1832:天才様

おめ。

 

 

1833:御登り転生者

ありがとうございます!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

1971:御登り転生者

なんか婿になれって言われたんですけど

 

1972:名無し転生者

 

1973:名無し転生者

 

1974:名無し転生者

 

1975:脳髄

 

1976:名無し転生者

 

1977:自動人形職人

 

1978:天才様

 




御登り転生者
勝った。
プロポーズされた。

天才様
ん。

自動人形職人
戦闘特化鬼娘の設計図書き始めた

脳髄
都市管制から惑星管制にアップデートされた。

お姫様
婿になれ!



感想評価いただけると幸いです。
次回はお姫様視点


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天津院御影ー隻角の証明ー

 天津院御影は己を証明しなければならない。

 

 ≪大陸≫の極東、鬼族が治める≪皇国≫の第六王女、そして皇位継承権第一位。

 第六王女だが、第一位だ。

 それが己の肩書である。

 父は現王、母はその妾の人間。片角、即ち混血として生まれた御影は本来であれば皇位継承権を与えられることすらなかった。

 だが、鬼族の身分制度は人間のそれとはいささか異なる。

 人間であれば、例えば≪王国≫や≪帝国≫は血統によるものだし、≪共和国≫なら合議制、≪聖国≫であれば王である教皇からの指名、西方の≪連合≫であればそれぞれの氏族全員が王であり、こちらも共和国とは聊か形は違うが合議制だ。

 そして≪皇国≫は血統主義と実力主義。

 鬼の王族において、最も物理的に強いものが王になる。

 正妻、妾の子問わず上に兄が4人、姉が1人、下の弟妹も3人いるが、皇位継承権が第一位なのはそういうこと。

 純粋に、今の世代で御影が一番強いのだ。

 他国から野蛮と言われることはあるが、しかし種族として最も血の気が多い類なのだから仕方がない。むしろ、まともに国になっているだけ大したものだと、亜人氏族が集まった≪連合≫を見ていて思う。

 

 だから、姫であり続けるためには強くあらねばならない。

 

 混血故か、通常の鬼族では発現しない属性・系統に恵まれ、本来劣化するはずの純粋膂力も純血には劣らない。むしろ、鬼族には稀な系統はこれまでになかった術を身に着けることができた。

 

 王位を求める理由はいくつかある。

 

 一つはまず母の為。

 鬼族の国にあって、人間の妾というのはどうしたって浮いてしまう。

 王の妻の一人ではあるため、というかそもそも種族が理由で迫害ということはないが、それでも御影が頭角を現すまで立場としてはかなり弱かったという。

 

 一つは父の為である。

 王という立場はあれど、父と娘として愛情を注いでくれた。

 幼いころは御影の立ち入りが良いものではなかったから時間は取りにくかったが、強くなり発言権と存在感を高めていけば時間の共有も取れるようになり、稽古も付けてくれた。

 

 一つは民の為でもある。

 混血なれど王族。角の美しさこそが最も美意識として問われる鬼族の姫において生まれつき片角なれど王族である。

 加え、鬼族の女性は背が小さく肉付きが薄い方が好まれる。

 貧しい方がいい、ではなく持ちうる力を小さな体に押し込めることこそが雅という文化があるからだ。その点、背も高く、胸も尻も大きい御影は醜くはないが愛される容姿ではない。

 全く胸も尻も身長ももっと薄かったらよかったのに。

 民からは出自と容姿相まって良いように思われなかったのも知っている。

 だが、それも御影が今の皇子皇女で最も強くなったら何も言わなくなった。

 現金な連中だとは思わない。鬼族とはそういうものだから。

 王族として彼らを率いる責務は自分にあるのだから。

 

 結局、鬼族において戦闘力こそが最も重要視されるのだ。

 だから、力を示さなければならない。

 

 20年前の≪大戦≫以降、最も発言権が大きく、最も優れた≪王国≫の出身国を問わない≪魔法学園≫に主席で入学することは名誉であり、未来への展望の明るさを意味する。

 身分を問わず学びたい意欲があれば入学可能であり、そこから上位成績で卒業すればどの国でも将来に困らない。 

 各国王族も多く通っており、帝王学や政治も学べるのだから大したものだと思う。

 そして御影は入学試験で最高成績を修め、主席で入学する―――はずだった。

 

「―――感謝する、全霊の果し合いを受け入れてくれて」

 

 目前の少年が現れる前までは。

 学園に8種ある演習場のうち、もっともオーソドックスな第一演習場。

 円形のフィールドに石造りの観客席があるコロシアムだ。

 学園制服ではなく、戦闘装束を纏い、自身の得物を担いで「彼」と向かい合う。

 装束は母自ら織ってくれたもの。

 戦斧は入学祝いに、父自ら鎚を振るい打ったもの。

 隻角に収まる角輪は姉の贈り物だ。

 

 特徴の薄い少年だと思う。

 ≪王国≫では珍しい、≪皇国≫ではポピュラーな黒髪黒目。身長は170を超える御影とさほど変わらない。

 主席や次席、成績上位者等々全てが決まってから現れた少年だった。 

 ねじ込まれた形になるが、彼の推薦者は前年に引退したばかりの学園長。≪大戦≫で猛威を振るった翁の推薦ともなれば学園は拒否できず、彼自身の特異性から主席が確定していた。

 

「君が主席となったことに、実はさほど異論はないんだ。挑んでおいてなんだけどね」

 

 薄く笑いながら告げれば「彼」は困ったように首を傾げた。

 

「いや本当だとも。前学園長は英雄であり、大いなる力を持つ。そんな彼が認めたのなら主席入学という点では拒否はしまい。現学園長始め、教師陣が納得するのならば学ばせてもらう立場の私にはそれを受け入れるのみだ」

 

 観客席、見ている者はさほど多くない。

 本来予定だったエキシビションマッチは、言い方は悪いが台本ありきの様子見。対してこれは全力で行う私闘だ。故に教師陣と、一部許可された入学者と在校生のみ。

 己の言葉に頷くものもいれば、納得してないものもいるだろう。

 だが、今はそれを確認する時ではない。

 

「だから」

 

 大戦斧―――≪伊吹≫を構える。

 

「証明してくれ。今後、君が私たち学ぶ者の筆頭であり続けるにふさわしい者であるということを」

 

 彼は、一度目を伏せた。

 そして、一度長く息を吐き、右拳を握りしめ。

 期待に応えます、と。決して大きくはない声量で、しかしよく通る声で言った。

 特徴のない長剣を左手で握り緩く構える。

 悪くない。

 なんとなく自分に対して、だけのようには見えなかった。

 御影が父母や民の為に斧を握る様に、彼も誰かの為に剣を握るのだろう。

 そういう相手と戦うのは好きだ。

 唇が歪むのを自覚する。

 発達した犬歯がむき出しになり、角が疼く。

 

「――――やろうか、少年」

 

 言葉と共に鬼道を発動し、身体強化の強化。それに伴い≪伊吹≫にも加熱、爆発、耐火、硬化、振動、崩壊を重ね掛け。

 開始の合図と共に、

 

「覇ァッ!」

 

 足元の地面を爆散させながら高速で飛び出し、大戦斧を叩きつける。

 衝撃爆散斬撃、≪鬼道・鳳仙花≫。

 火と地の属性に長けた鬼族において最も愛用される爆発する衝撃。爆発の系統があれば形になるそれの6系統鬼道はシンプルなれど高い威力を誇る父親仕込みの基礎にして奥義だ。

 身体強化の≪鬼道・金剛≫と併用すれば入学試験の戦闘試験では半分の新入生をこれで沈ませた。

 

「―――やるなっ!」

 

 だが、「彼」は危うげなく回避する。

 しっかりとこちらの動きを目で追い、宙返りで飛び退いて剣を構え直した。

 それだけで、反応速度と身体強化が凡百ではないことが分かる。

 

 噂では≪王国≫の北端の辺境出身らしい。

 大自然の地といえば聞こえはいいが、山と魔物だらけの過酷な土地だ。そんなところで育てばこうもなるというわけか。

 

「≪牡丹≫!」

 

 振り抜き、飛ぶ炎の斬撃。

 加熱、燃焼の2系統鬼道。本来斬撃を飛ばすには風属性を用いるのが一般的だが膂力任せてぶっ飛ばすのが御影、というか鬼族流。

 これも避けた。

 思わず笑みが濃くなる。

 ≪鳳仙花≫からの≪牡丹≫。爆散斬撃を逃れた者を飛ぶ炎撃でもう3割は戦闘不能にさせた。

 

 そして残りの2割は、様々な形で御影が強者と認める者だ。

 

「―――いいな」

 

 笑みが濃くなる。

 角の疼きが強まる。

 自分の連撃をここまで簡単に回避されるとは思っていなかった。

 思っていたよりもずっといい。

 歓喜を抑えながらも片手で≪伊吹≫を構え、叩き込む。

 

「―――?」

 

 そして、見た。

 「彼」の右腕に7色7本の魔法陣が浮かぶところを。

 カタカタ(・・・・)と音を立てて、5分割された円周のいくつかが光り、

 

「――――≪センパー・パラタス≫」

 

 右拳を握りこむ。

 そのトリガーヴォイスを、誰かからの大切な贈り物のようにしっかりと。

 

「!!」

 

 ガァン、と鋼と鋼がぶつかる音が演習場に轟いた。

 

「――――」

 

 思わず目をむく。

 観客にもわずかなどよめきが。

 御影も驚いた。

 鬼族の膂力はこの大陸に数多いる種族でも最高位。それを「彼」は確かに受け止めている。

 身体能力強化? だとすれば恐るべき練度。人間が強化された鬼族と正面から撃ち合えるなんてことはそうそう聞くものではない。

 むしろ、彼の特性は他で決して聞くことのないものであり、

 

「全系統適正、凄いな! これは凄い! ―――いや、それを使いこなせる君の方が凄いのか! うん!」

 

 ありがとうございます、と「彼」は誇らしげに言う。

 

「どういたしまして、だッ」

 

 言葉を返しながら≪伊吹≫を連続で打ち込んだ。

 轟音と炎熱を纏った連撃を、しかし「彼」は丁寧に捌く。

 自分と正面から打ち合いを続けられる者は、入学試験でも僅か数人だ。

 力任せではなく、こちらの動きを完全に把握し、一つ一つを一本の剣で拮抗させている。

 

「―――は」

 

 強い。

 度胸もある。

 真っすぐに黒い瞳がこちらを見据えてくる。

 

「―――はは」

 

 あぁ、楽しい。

 楽しいなぁ。

 

「はははっ」

 

 強さの証明は父の為、母の為、民の為。

 ―――――そして、()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はははははははは――――っっ!!」

 

 笑い声が上がるのを抑えられない。 

 琥珀の瞳は欄々と輝き、角の疼きが止まらない。

 身体から炎が溢れ、≪伊吹≫に纏わりつき物理衝撃以外のものが「彼」へ迫る。

 片手で大戦斧を握り、

 

「≪鬼道・冠蛇≫!」

 

 もう片手の指運で大蛇のようにとぐろを巻く炎を操った。

 斧の斬撃とそれを追う炎蛇が一つ、逆方向上下から二つ。

 

「≪フォルトゥーナ・フェレンド―――アクア≫」

 

 「彼」の拳が握られ、魔法陣が回転した。

 

「おぉ!」

 

 4つの攻撃が、突如出現した4枚の障壁に受け止められた。

 全て青く、おそらく水属性を中心に作られたもの。

 恐るべきは発動速度。

 全系統適性ということは選択肢が35通りで、組み合わせは考えるのも馬鹿らしい。

 それをワンアクションで魔法発動しているのだから尋常ではない。

 

「ははっ!」

 

 鬼力を注ぎ込んで、力ずくで破壊しようとするがそれよりも早く「彼」が飛び退いた。 

 四枚の障壁は単発ではなく、彼の周囲に、動きに追随して展開されているものらしい。使いやすそうな良い術だと思う。

 良いものは褒めるべきだ。

 

「良い鬼道……≪王国≫で言うと魔法か。良い魔法だね」

 

 ありがとうございますと、彼は繰り返した。

 やはり誇らしげに。

 

「うぅむ」

 

 ちょっと可愛いなと、御影は思う。

 鬼族にはいないタイプだ。

 思ったよりもずっと強く、素直で、愛嬌がある。

 戦って負けた後、どうするかとかあんまり考えてなかったなと今更ながらに思った。

 本能優先で戦いを挑んだので、それは反省。

 主席を追いやられたことにちょっとばかり嫉妬があったかもしれない。

 負ければ本国の、自分を疎ましく思っている連中に文句を言われる口実を作ることになる。

 申し訳ない、父上、母上。

 しかし鬼族なんてこんなものなのでまぁいいだろう。

 人から見れば考え無しとよく言われるので、学園でそのあたりの機微を学びたい所。

 

 ―――だが、今はそれよりも大事なことがある。

 

「君は強い―――だから、こちらも全力で行くぞ」

 

 斧を掲げた。

 そして、全身から、角から、大地から炎が溢れ出し、わずかにスパークが舞う。

 雷を纏う炎が竜巻のように御影の周囲を吹き荒れ、彼女の体と武器が金剛の如き硬度を得ることで自身が傷つくことはない。

 御影の属性資質は火の加熱、燃焼、爆発、焼却、耐熱、土の振動、硬化、鉱物、生命、崩壊。

 雷の電熱と発電。

 火と土の系統を網羅し、得意ではないが雷も。この3属性は鬼族の基本資質と言える。

 二種系統を網羅しているのは稀有だが、それだけではなかった。

 

 

「――――収束圧縮

 

 

 光属性の収束と闇属性の圧縮により膨大な熱量が大戦斧の周囲に集う。

 鬼族の純血種には発現しない光と闇属性。混血の御影だからこそ持つ2系統。

 たかだか一つと侮ることなかれ。

 収束と圧縮は全系統の中でも最も応用が利く類のもの。

 全14種、持ちうる全ての系統の同時発動。

 

 それを―――≪皇国≫では≪神髄≫と呼ぶ。

 

 ≪王国≫では≪究極魔法≫と呼ばれるものであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のみに冠せられる名。

 個人で発動する術としての最高位。

 それを可能とすれば一流と呼ばれる物を、御影は既に体得している。

 全ての熱量が≪伊吹≫に収束していながらも、演習場にいる多くの者が流れ落ちる汗を拭った。

 数人、気絶しているものもいたが御影は気づかない。知る限り≪神髄≫の使い手は新入生では彼女だけ。

 

「死んでくれるなよ!」

 

 我ながら酷いことを、しかし鬼族としては最上級の賛辞をぶつける。

 死にませんと、滝の様な汗を流しながら「彼」は返した。

 黒い瞳で真っすぐに輝く琥珀を見据えて。

 ちょっとキュンとしちゃうなと、御影は思った。

 「彼」は長剣を逆手で握った左手を支えにしながら真っすぐに右手を突き出した。

 正面から受け止めるつもりだ。

 回避ではなく、迎撃するのか耐えきるのか。

 どっちかは分らないが、

 

「うぅむ」

 

 かなりキュンと来た。

 鬼族的に必殺技を受け止める姿勢を見せるのも愛情表現だ。

 多分彼は知らないだろうが。

 後で聞くとしよう。

 一度頷き、

 

「≪神髄≫――――」

 

 笑みを深め、斧を振りかぶり、

 

 

「――――≪天津叢雲≫ッッ!!」

 

 

 振り下ろす。 

 地面と大気、空間を焼き焦がす灼熱の大斬撃。

 鉄すらも軽く掠めただけで溶かすほどの超高熱。

 御影が皇位継承権第一位なのはこの≪神髄≫が使えるからに他ならない。

 さぁどうすると彼女は嗤う。

 

「―――シィ・ウィス」

 

 「彼」は目をそらさなかった。

 右腕の魔法陣が音を立てて回り、光り、広がる。

 七環は広がり、広げた掌の前で大きな魔法陣に。

 卓越した熟練の職人が丹念に組み上げた歯車機構のように。

 満天の星を繋ぎ描いた絵画のように。

 回り。

 巡り。

 繋がる。

 そして、神髄がその魔法陣に接触する瞬間、

 

「パケム・パラベラム――――――!!」

 

 一切の熱量と衝撃が消滅した。

 後には七色の光の粒だけが。

 

「――――――は?」

 

 眼を奪われる。

 動きが止まる。

 心臓が大きく高鳴り、

 

「…………っ」

 

 首筋に長剣が突きつけられた。

 「彼」は変わらず滝の様な汗を流し、肩で息をするほどに疲弊している。

 だが、切っ先は決して揺らいでいなかった。

 僕の勝ちです、と彼は言った。

 

「…………あぁ、私の負けだ。我らが主席殿」

 

 軽くウィンクをして、御影は己の敗北を受け入れると「彼」は照れたように小さく頷いた。

 うーん、可愛い。

 

 

 

 

 

 

「私の婿にならないか!! なろう!! 婿殿!!」

 

 戦いを終えて、教師陣から回復を受けた後演習場の休憩室で御影は叫んだ。

 「彼」は数秒硬直した後、頬を赤くした後どういうことかを聞いてきた。

 

「うむ、よくぞ聞いてくれた」

 

 我ながら天才的発想をしたと、邪魔な胸を張る。

 ぶるんと揺れ、「彼」がまた頬を赤く染めた。

 そういえば人間種は胸や尻が大きい方が良いという。

 それならばこの無駄にたわわな体もわりといいんじゃないかと思った。

 なので、もう一度胸を張りつつ、

 

「私は≪皇国≫の姫として強さが最大の身分担保なんだがな。主席じゃないと身分がちょっと危ぶまれるところが無きにしも非ずなんだな」

 

 まぁ、実際のところは文句言う輩は本国に帰った時に実力で叩きのめせばいいのだが。

 だが、次期女王としてあまり些細な傷は残したくない。

 

「なので! 私よりも強い婿殿を≪皇国≫に連れて帰れば一切問題ないのでは?」

 

 どやっ、と三度胸を揺らした。

 「彼」の頬がまた赤くなった。 

 眼が泳ぎ、わたわたと慌てているのがまた可愛い。

 戦闘時とのギャップがたまらん。

 

「おっと、勿論すぐに頷かなくてもいいんだぞ婿殿。流石に性急すぎるからな」

 

 ほっ、と「彼」は一度息を吐いた後、婿殿なのは変わらないの……?と首を傾げた。

 それはそう。

 

「なので私は決めたぞ。この学園での目標を」

 

 さらに強くなること。

 世界を知ること。

 王として相応しい教養を身に着けること。

 そして、

 

「―――婿殿を惚れさせる! 安心してくれ、自身の証明は得意分野だ!」

 

 

 

 

 




地の文回です。

≪フォルトゥーナ・フェレンド≫
superanda omnis fortuna ferendo est.
全ての運命は耐えることによって克服しなければならない。
各属性で構成する自立浮遊盾。
相手の攻撃属性に対応して使用する。

≪シィ・ウィス・パケム・パラベラム≫
Si vis pacem, para bellum。
汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。
相手の魔法に用いられる系統と全く同じ系統を用いることで相殺・無効化する対大規模攻撃用防御。
理論上あらゆる攻撃を無効化可能だが、疲弊が大きい。

>1の魔法をラテン語縛りにした天才様ちゃんだったが
口頭で言うには舌を噛みそうだし、ちょっとやりすぎか?と思ったので口頭発動は必要なくしたのだが、
>1は天才様ちゃんに教えてもらったものだからと大事に言の葉に紡ぐ。


天津院御影
文武両道、王族としての責務をしっかりと背負った完璧系皇女様。
鬼族なのでちょっと血の気が多め。
強さに加え、真っすぐに見つめてくるのがツボったらしい。


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私という唯一無二天才師匠

沢山の評価ありがとうございます。
モチベ爆上がりしてます。


2214:主席転生者

学校楽しい

 

2215:名無し転生者

よかったなぁ

 

2216:名無し転生者

>1が純粋に学園楽しんでて嬉しいわ

 

2217:名無し転生者

なんか泣けてくる

 

2218:名無し転生者

羨ましい。レポート地獄や

 

2219:主席転生者

授業は確かに難しい。

でも、転生前は中卒でまともに勉強続けられなかったんで

新鮮で楽しい。楽しみ。

 

2220:名無し転生者

>1、転生前重くない……?

 

2221:名無し転生者

妹さんの件とかさぁ……

 

2222:自動人形職人

今を楽しみましょう!!!!

 

2223:脳髄惑星

それな

 

2224:名無し転生者

コテハン!!!!

 

2225:名無し転生者

どうあがいても楽しめないやつ来たな

 

2226:名無し転生者

このスレ>1見てるとめっちゃ和むんやけど

唐突な脳髄ニキで震えるんや。

 

2227:脳髄惑星

掲示板見るくらいしか楽しみないんや。許して。

 

2228:名無し転生者

許す

 

2229:名無し転生者

しゃーない

 

2230:主席転生者

頑張っても変ですけど、頑張ってください!!

 

2231:脳髄惑星

 

 

2232:名無し転生者

ん?

 

2233:自動人形職人

大丈夫です?

 

2234:名無し転生者

バグった?

 

2235:脳髄惑星

すまん、あまりの優しい言葉に感動してたわ。

天候操作システムバグっちまった。

速攻修復させたけど。

 

2236:名無し転生者

えぇ……?

 

2237:名無し転生者

スケールがでかいんよ。

 

2238:自動人形職人

もうそれ神の領域なのでは?

 

2239:名無し転生者

まぁある意味似たようなもんだし……

 

2240:脳髄惑星

ある意味そうかもだけど、天才ちゃんみたいに次元干渉できんしなぁ。

 

2241:名無し転生者

そうそうできるもんやないんよ。

 

2242:主席転生者

やっぱ天才さん凄いですねぇ

 

2243:名無し転生者

>1天才ちゃん大好きで笑うんよ。

 

2244:名無し転生者

よう懐いてる。

 

2245:名無し転生者

実際貢献度がデカい

 

2246:名無し転生者

教師として理想ムーブしてたからな。

 

2247:自動人形職人

ほんわかしますよね、>1の天才さんへの言動

 

2248:脳髄惑星

いいよね

 

2249:名無し転生者

いい……

 

2250:名無し転生者

>1の話に戻るけどよ。

 

2251:名無し転生者

修正助かる

 

2252:主席転生者

はい

 

2253:名無し転生者

授業楽しいのはグッドだが、他はどうなん?

めっちゃ田舎から来たんやろ。

 

2254:主席転生者

楽しい!!!!!

 

2255:名無し転生者

いいですね

 

2256:名無し転生者

こっちまで楽しくなるわ

 

2257:主席転生者

勉強もあるんであんま観光する時間はないですけど、

やっぱり王都だけあって建物も人も段違いですね。

 

自分は寮住まいなんですけど、寮もすごい。

ちょっとしたホテルみたいな感じです。

 

2258:名無し転生者

主席ってことは部屋豪華だったりするん?

 

2259:主席転生者

個室ですね。

成績優秀者は個室貰ってるようです。

 

成績落ちたら相部屋になっちゃうみたいですね。

それもそれで楽しそうですけど、主席推薦してもらってますし。

 

2260:自動人形職人

自覚があってえらい。

 

2261:名無し転生者

流石だぁ……

 

2262:名無し転生者

主席から落ちたらめっちゃ姫様にキレられそう

 

2263:脳髄惑星

むしろ姫様に押し上げられそう

 

2264:名無し転生者

滅茶苦茶強いもんな……

 

2265:名無し転生者

ぐいぐい押し強くて好きになるわ。

 

2266:名無し転生者

もうすき

 

2267:自動人形職人

もうちょっとで完成する

 

2268:名無し転生者

>>2267 職人ニキwwwwwww

 

2269:名無し転生者

冷静になるとちょっと怖い。

著作権息してる?

 

2270:自動人形職人

流石にそのまんま再現はしないのでご安心を。

あくまでインスピレーションですから。

 

2271:名無し転生者

強い。

 

最近お姫様の話でスレ加速したもんなぁ。

理性大丈夫、>1?

 

2272:主席転生者

どうしていいか分らんです……

 

2273:名無し転生者

抱け! 抱けぇー!

 

2274:名無し転生者

押し倒せ!!

 

2275:名無し転生者

押し倒す(尚将来確定

 

2276:名無し転生者

抱く(鬼の王族

 

2277:名無し転生者

性癖が壊れるんじゃ~~~~

 

2278:名無し転生者

実際恋愛経験とかそういうのどうなんね>1

 

2279:脳髄惑星

この>1ならモテモテやろ?

 

2280:主席転生者

前世も含めて彼女とかいたことないんですよね。

上でも言いましたけど中卒だったりすぐ就職したりでまぁ色々あって

 

2281:名無し転生者

あっ

 

2282:名無し転生者

ぬぅ

 

2283:自動人形職人

今はどうなんです?

 

2284:主席転生者

難しい。

いえ、嫌というわけじゃないんですが、

こっち転生して地元じゃ家族かおじいちゃんおばあちゃんしか

いなくて女性とのかかわりほとんどなかったですし。

 

学校の勉強もあって色恋にかまけるのも不安というか

それこそ主席から落とされても困りますし。

 

あと鬼族の王族婿入りがピンと来なさすぎる。

 

2285:名無し転生者

あー文化差はねぇ。

わりと日本ぽいちゃぽいんだろうけど。

 

2286:名無し転生者

王族はやめておけという思いと

お姫様ちゃんならワンチャンという思いで戦っている。

 

王族……王族はなぁ……うーん……鬼の価値観……

 

2287:名無し転生者

おっ、前いた暗殺ニキか?

気になってたんや。

 

2288:名無し転生者

やべーコテハンしかいねーのかこのスレは。>1以外

 

2289:名無し転生者

そうだよ。>1以外

 

2290:名無し転生者

>1の国の政治がどうなってるか分らんからなんとも言えん。

あの御姫様は表裏なさそうだけど。

 

疑心暗鬼は置いといて、鬼の価値観に合わせられるかだわ。

 

2291:名無し転生者

戦闘大好きって感じだもんな。

 

2292:名無し転生者

酒! 血! 戦争! みたいなイメージある。

 

2293:名無し転生者

>1のスレ見ててつい奴隷童貞を鬼族で捨てたけどよ。

確かに血の気多すぎてたまにヒエッってなるわ。

 

2294:名無し転生者

天才ちゃんに相談ばらされてたニキだ!

 

2295:名無し転生者

影響されてて草

 

2296:主席転生者

そういえばこの世界奴隷制度ないぽいんですよね。

あっても、犯罪者の囚役みたいなやつ

 

2297:名無し転生者

ほー、ファンタジーでは珍しいな

 

2298:主席転生者

御影さんの鬼族は東の方で和風ファンタジーしてますけど、

西の方は色んな亜人氏族があって連合作ってるらしいです。

 

だから生徒でも結構見ますね。

エルフとか獣人とか。

 

2299:名無し転生者

学校風景のスクショ見たけど確かにおったね。

制服着てる人も自前ぽい服着た生徒も色々おってわりと自由度高い。

 

2300:自動人形職人

今度もっと沢山お願いします

 

2301:名無し転生者

姫様は戦闘の時はエロ和服だったけど

基本は制服着てるよね。なんか理由あるんか

 

2302:主席転生者

郷に入っては郷に従えってことで

基本は王国スタイルに生活様式合わせるみたいですね。

 

王国だと一定以上の酒精は年齢制限があって、

未成年(18)以下で飲めるのはほぼ水みたいで満足できないって嘆いてました。

部屋に一升瓶並べて飾って半泣きでほぼ水の晩酌してます。

 

2303:名無し転生者

かわいい

 

2304:名無し転生者

かわいい

 

2305:名無し転生者

法律守っててえらい。

お姫様ならそのあたりどうとでもできそうなのに。

 

2306:名無し転生者

>1のバトルともそうだけど、ちゃんと申し込んで礼も言って

自分ルールだけじゃなくて周囲のルールにも則るの滅茶苦茶えらい。

 

良い王族ですわ。

 

2307:名無し転生者

鬼に酒とか必須やろうに。

 

マジでそういうの出来ない王族とか貴族が多い

 

2308:名無し転生者

というか大半がそんなもんやで。

 

2309:脳髄惑星

やっぱディストピアなんよな

 

2310:名無し転生者

ディストピア運営してる側のレス

 

2311:自動人形職人

私の客でも無理言うお偉いさんは多いですねぇ。

 

2312:名無し転生者

>>2302

>部屋に一升瓶並べて飾って半泣きでほぼ水の晩酌してます。

 

ん? てことは>1あのお姫様の部屋に夜に行って

お酒の相手をしている……?

 

2313:名無し転生者

えっっっ!!

 

2314:名無し転生者

パンツ脱いだ

 

2315:脳髄惑星

ふーんえっちじゃん

 

2316:自動人形職人

ちなみにお姫様の部屋着はどのような?

 

2317:主席転生者

わりと薄着の着流しみたいなやつです……

目のやり場が……まぁ……困る……

ボディタッチも……わりと身体寄せてきて耳元で囁いてくるので……

 

2318:名無し転生者

えっっっっっっ!!!!!!

 

2319:名無し転生者

パンツ爆発した

 

2320:名無し転生者

あの銀髪褐色長乳でか尻美女が真横で囁きながらお酒飲むとか

 

2321:自動人形職人

素晴らしい

 

2322:名無し転生者

>1、理性大丈夫?(2回目

 

2323:主席転生者

どうしていいか分らない。

 

いやそれがですね

 

2324:名無し転生者

はい

 

2325:名無し転生者

はい

 

2326:脳髄惑星

はい

 

2327:名無し転生者

はい

 

2328:自動人形職人

はい

 

2329:主席転生者

>>2284 みたいことをわりとそのまんま伝えたんですよ。

 

2330:名無し転生者

 

2331:名無し転生者

御断りレスじゃん

 

2332:名無し転生者

うーんこの素直>1

 

2333:脳髄惑星

そいでそいで?

 

2334:主席転生者

すっごい良い笑顔で

 

「分かってる分かってる。言っただろう? 婿殿を私に惚れさせるのはこの学園での私の目標なんだ。だから、今は断ってくれていい。むしろそうでないと。だから――――()()ただ、私を見ていてくれ」

 

とか言われて何も言えなくなった……

 

2335:名無し転生者

あ”っっっっ!!!!!!

 

2336:名無し転生者

すき(すき

 

2337:名無し転生者

つよすぎる

 

2338:脳髄惑星

メインヒロインじゃん

 

2339:名無し転生者

脳が回復するわ

 

2340:自動人形職人

フルボイスで聞かせて欲しい

 

2341:天才様

>1、もう一度彼女の声を思い出しながら

脳内出力したまえ。

 

それでボイス再現できる。

 

2342:主席転生者

≪SE:音声再生≫

 

 

2343:名無し転生者

だっ!!!!!!

 

2344:名無し転生者

ばっ!!!!!!!

 

2345:脳髄惑星

えんっっっっ!!!!

 

2346:名無し転生者

あっっっっっ!!!!

 

2347:自動人形職人

ぬぅ!!!!!!!!!!!!!!

 

2348:天才様

良い声だ。まぁ私ほどではないが。

 

2349:主席転生者

天才さん! お久しぶりです!!

お元気でしたか?

 

2350:天才様

まぁね。それなりに忙しかったし、君も楽しんでいるようでなにより

 

2351:主席転生者

ありがとうございます!

 

2352:主席転生者

そうだ、改めてお礼を言いたかったんですけど、

天才さんに頂いた≪オムニス・クラヴィス≫、

魔法科の先生にも天才的だって滅茶苦茶褒められてます! 

過去例を見ないレベルだって!

 

2353:天才様

フフフ、当然だね! 何せこの私が考案したオーダーメイド術式なんだから!

 

2354:主席転生者

流石です!!

 

2355:名無し転生者

お姫様の声のエロさに昇天してたら天才様来てる

 

2356:脳髄惑星

惑星管制用に処理能力強化しなかったら街が停電してた。

 

2357:名無し転生者

おひさー

 

2358:自動人形職人

お久しぶりですね。前のお姫様との戦いぶり?

 

2359:主席転生者

ですね!

 

2360:天才様

ま、>1も問題だった魔法は教えたし、

一つ一つの系統はどうせ授業なりなんなりでやるだろう?

 

だったら後は彼次第だね。

自分でも学びは必要だ

 

2361:名無し転生者

うーんこの理想的な先生ムーブ

 

2362:名無し転生者

思ってたのと違う

 

2363:自動人形職人

まぁ>1は見てると応援したくなりますしね

 

2364:脳髄惑星

うむ……(後方腕組

 

腕とかないんだけど

 

2365:名無し転生者

 

2366:名無し転生者

脳髄ジョークやめーや

 

2367:主席転生者

頑張ります!!

 

2368:名無し転生者

これこれ。

 

2369:自動人形職人

いいですね……

 

2370:名無し転生者

いい……

 

2371:天才様

ま、>1に与えた術式は彼の世界のもので、

学園の授業見る限り彼の世界の魔術師が100年掛けても構成が理解できないものだ。

 

 

授業で基礎を学びつつ、私という唯一無二天才師匠がいたという事実に

喜びひれ伏し噛みしめるがいい。

 

そして、後は君次第さ。頑張り給え。

 

 

 

 

 

 

2504:主席転生者

なんか先輩に弟子になれって言われちゃったんですけど……

 

2505:天才様

あ”ぁ??????

 




>1
お姫様に迫られまくってたらなんか謎の先輩に遭遇した

天才様ちゃん
ここら辺で>1のスレにレスするのやめる気だった。
尚(あ”ぁ?????

お姫様
わりと無敵
彼女のCVはお好きな割と凛としつつ低めの声優さんを脳内再生ください。
ちなみに髪型は腰あたりまであるロングです
つやっつや。

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キャラが!!! 僕と!!! 被っとるやろがい!!!!!!

総合日刊1位ありがとうございます!


2510:唯一無二天才師匠様

で?????

 

 

2511:主席転生者

はい。

 

2512:名無し転生者

怖くて草。

 

2513:名無し転生者

おかしい、錯覚か?

文字が揺れている気がする。

 

2514:名無し転生者

俺にもそう見える。

 

2515:名無し転生者

こわ

 

2516:脳髄惑星

そんな機能あったんか

 

2517:名無し転生者

天才ちゃんの怒りが掲示板を揺るがす

 

2518:主席転生者

とりあえず写真を

 

ttps:syusekitenseisya,SH9

ttps:syusekitenseisya,SH10

ttps:syusekitenseisya,SH11

 

2519:名無し転生者

は? 好き。

 

2520:名無し転生者

おいおいおいおいおい

 

2521:名無し転生者

好きだわ、この人

 

2522:脳髄惑星

お姫様とは違った感じの美人さんだ

 

2523:名無し転生者

青髪ストレートボブオッドアイ眼鏡白衣クール系美女じゃん。

先輩なんだっけ。

 

2524:自動人形職人

ぬぅ……!

黒のレザーパンツと白ブラウスに、研究者の象徴たる白衣。

黒のハーフアンダーフレームとモノトーンでシンプルながらパリッと決まってますね。

装飾は少ないですが先輩さんに良く似合っている……!

 

片耳とネックレスに同じ意匠の十字アクセがあるのもポイントが高い。

両の太ももにあるベルトはアクセントで、あれ動けば白衣からチラ見できますよ。

両手もレザーの手袋で覆われているかっこいいですね。

 

2525:名無し転生者

服装ガチ勢解説流石です

 

2526:名無し転生者

青と黒のオッドアイか。カラーリング統一されてるな。

 

2527:唯一無二天才師匠様

は? オッドアイがなんだ。

私だって目くらい光るぞ。

 

眼鏡だってかける時はかける。

 

2528:名無し転生者

張り合ってて草

 

2529:名無し転生者

目が光るとは??

 

2530:名無し転生者

ホラーじゃん

 

眼鏡かける時があるのと眼鏡をかけているは全く別なんですよねぇ

 

2531:主席転生者

トリウィア・フロネシスさんっていう先輩なんですけど。

 

2532:名無し転生者

ほうほう。

 

2533:名無し転生者

あ、二枚目見たけど喫煙者なのか。

 

2534:名無し転生者

ほんとだ。

 

2535:名無し転生者

つーか体ほっそ。指も長い。

 

2536:名無し転生者

白衣のクール美女がけだるげにタバコ吸うのかっこいいな……

 

2537:名無し転生者

惚れちゃうわ。

 

2538:自動人形職人

お姫様ほどじゃないですけど、女性にしては長身ですね。

165くらいかな。胸は控えめで上半身は無駄な肉がほぼないモデルみたいなスレンダーなのに

下半身は肉付きが良く、お尻も安産型ですね。レザーパンツなので足やお尻に自信がないと履けませんよ。

というか顔小さい。

 

2539:名無し転生者

職人ニキ流石お目が高い。

 

2540:名無し転生者

うーんそんなスレンダーエッチボディにタバコ。

ハードボイルド系映画のヒロインかな。

 

2541:唯一無二天才師匠様

タバコがなんだ。僕だって火だろうがなんだろうが吹けるぞ。

息で物も凍らせるし、突風も起こせる。

 

2542:名無し転生者

 

2543:名無し転生者

張り合い方ァ!

 

2544:名無し転生者

そんなASMR嫌だな……

 

2545:主席転生者

聞くところによると3年生の主席だそうです。

 

2546:名無し転生者

はえー。

 

2547:脳髄惑星

やるじゃん。

>1の学園の主席って、戦闘力測定なんだっけ?

入学試験の最優秀か推薦?

 

2548:主席転生者

推薦らしいですね。

ただ、3年間主席で居続けるってことは学年で一番強くて、一番賢いのを

3年間証明し続けたってことで。

 

2549:名無し転生者

はー、絶対有能じゃん。

 

2550:唯一無二天才師匠様

主席がなんだ。こちとら次元世界最高の魔法使いだぞ。

 

2551:名無し転生者

それはそうだけどさぁ

 

2552:名無し転生者

うーん、大人げない

 

2553:名無し転生者

ていうか、>1の学校って何年制なん?

 

2554:主席転生者

基本は3年ですけど、成績優秀かつ希望があって認められれば

学園に残って研究者になるパターンもあるらしいです。

 

で、先輩は学園で一番賢いって言われてるレベルで、色んな魔法の定型を

組んでいて、下級生も先輩考案の魔法がカリキュラムに含まれてるレベルとか。

 

2555:名無し転生者

ガチじゃん。

 

2556:名無し転生者

超賢い。

 

2557:唯一無二天才師匠様

あーーーーーん???

僕が一体いくつの世界の魔法体系解析したと思ってるんだよ????

 

2558:名無し転生者

圧が強いんよ

 

2559:名無し転生者

それはまぁ……そうなんですけど

 

2560:脳髄惑星

ん?

 

2561:名無し転生者

めっちゃクールっていうかその手の人って超冷たいとか

興味ないことにはマジでごみ見るような目で見てくるけどさ。

そのあたりどうなの?

 

2562:主席転生者

そうでもないらしく、定期的に魔法講習会やってるみたいです。

参加制限かかるくらいに人気だとか。

 

2563:名無し転生者

無敵か????

 

2564:名無し転生者

姫様といい>1の周り人格者集まり過ぎや。

 

2565:脳髄惑星

>1が人格者だからね。当然だよね。

 

2566:唯一無二天才師匠様

はぁぁぁぁぁぁぁんんんん???

その>1は僕が魔法を教えたんだが????

性能ビジュアル共に完璧な魔法なんだが???

 

2567:名無し転生者

性能ビジュアル完璧は間違いない。

 

2568:名無し転生者

パラベラムめっちゃ魔法陣綺麗だった。

 

2569:名無し転生者

でも分け隔てなくってわけじゃないですよね??

 

2570:自動人形職人

ちなみに私が自動人形に搭載する魔法について

レクチャーを受けたいって言ったらどうします?

 

2571:唯一無二天才師匠様

は? そんなの態々僕やるまでもなくないか?

専門家だろ君。そもそも精霊が入るのに術式刻んでも意味あるか?

それよりも素材の魔力精霊力受容量上げるのに苦心したら

 

2572:自動人形職人

ぐう。

 

2573:名無し転生者

熱いマジレスで草

 

2574:名無し転生者

あのさぁ

 

2575:名無し転生者

僅か1レスで格差が見えてて笑うんよ。

 

2576:脳髄惑星

それで弟子がどうこうってのはどういうやつだったんだ?

 

2577:名無し転生者

そいやそうだ。

 

2578:名無し転生者

理由によっては次元戦争

 

2579:主席転生者

それがどうもちゃんと調べたらですね。

どうもこの学校師弟制度があるらしいんですよ

 

2580:名無し転生者

お?

 

2581:名無し転生者

ん? 制度?

 

2582:名無し転生者

流れ変わってきたな。

 

2583:主席転生者

僕の世界って、魔法めっちゃややこしいじゃないですか

 

2584:名無し転生者

はい。

 

2585:名無し転生者

それはそう

 

2586:名無し転生者

未だに意味わからん

 

2587:脳髄惑星

掲示板見る以外の演算能力があればこの演算能力で助けられるんだけどな。

 

2588:主席転生者

で、ややこしい上に、各系統の保有数が違いすぎるんですよね。

一応学校でもある程度のフォーマットとか、それこそ先輩が考案した色んな魔法とか。

 

でもやっぱり個人じゃ大変だし、個人差も激しいので教師も

メジャーな魔法は教えるけどやっぱ限界があるらしくて。

 

その為に学園だと、保有系統が同じ、ないし近い先輩後輩で師弟制度取ってるとか。

 

2589:名無し転生者

あー。

 

2590:名無し転生者

なるほど。

 

2591:自動人形職人

順当といえば順当ですねぇ。

 

2592:脳髄惑星

ん? てことは先輩は>1と系統近いのか?

 

2593:名無し転生者

そいやそうだな。

 

2594:名無し転生者

>1の全系統適正って初とかなんじゃろ?

 

2595:主席転生者

7属性各4系統持ちらしいです。

僕が入学するまで歴代最多、というか御影さん曰く今世界で確認されている

系統保有数で、僕を除けば最多だったとか。

 

2596:名無し転生者

はえーすっごい。

 

2597:脳髄惑星

やるじゃん。

 

2598:名無し転生者

それは師匠来るの納得だわ。

 

2599:名無し転生者

なるほどなぁ

 

2600:名無し転生者

そりゃー>1の師匠役できるの先輩さんしかおらん。

 

2601:唯一無二天才師匠様

>1にできること全部できるが????

 

2602:名無し転生者

それはまぁそうなんですが……。

 

2603:名無し転生者

張り合いが凄いんよ。

 

2604:脳髄惑星

笑うしかない

 

2605:名無し転生者

これはもう先輩さん悪くないというか正規カリキュラムじゃん。

 

2606:名無し転生者

えーと纏めると。めっちゃ天才で、教えるのも上手くて、美人でスレンダーで、

性格もいいっぽい>1の先生枠かぁ

 

2607:唯一無二天才師匠様

キャラg

 

2608:唯一無二天才師匠様

キャラが!!! 僕と!!! 被っとるやろがい!!!!!!

 

2609:脳髄惑星

キャラがブレとるやろがい!!!!

 

2610:名無し転生者

 

2611:名無し転生者

 

2612:自動人形職人

 

2613:名無し転生者

めっちゃおもろい

 

2614:名無し転生者

 

2615:名無し転生者

おハーブ生えますわ

 

2616:主席転生者

被って……うーん……被って……?

 

2617:脳髄惑星

というかさ

 

2618:名無し転生者

ん?

 

2619:名無し転生者

どうした脳髄ニキ

 

2620:脳髄惑星

天才ちゃんって僕っこだったん?

 

2621:唯一無二天才師匠様

あっ

 

2622:名無し転生者

ま??

 

2623:名無し転生者

キレ散らかし振りで爆笑しててちゃんと見とらんかった

 

2624:自動人形職人

>>2541

>>2557

>>2566

>>2571

>>2608

 

2625:名無し転生者

全レスアンカー助かる

 

2626:名無し転生者

マジレスへの復讐で草

 

2627:名無し転生者

気づいてたけど笑っててそれどころじゃなかったわ

 

2628:唯一無二天才師匠様

なんか文句あんのか? あ?

ヨーヨーぶつけるぞ

 

2629:名無し転生者

ガラ悪くて草

 

2630:主席転生者

可愛いと思います!

 

2631:唯一無二天才師匠様

 

 

2632:唯一無二天才師匠様

……まぁ、>1の賞賛に免じて許してやろう。

 

2633:名無し転生者

ありがとうございます! >1

 

2634:名無し転生者

ありがとうございます! >1

 

2635:脳髄惑星

脳髄化してから人間と直で絡んでなかったから

ヨーヨー来てもおもろかったんだがな。

 

2636:自動人形職人

ありがとうございます! >1

 

2637:名無し転生者

>>2635

脳髄ニキ……!

 

2638:名無し転生者

笑えないんよ

 

2639:脳髄惑星

まぁそもそも物理的に絡む体がないんですがねガハハ

 

2640:名無し転生者

つーかそもそもそいつ元男でTSしてるから全く被ってないんだよな

 

2641:唯一無二天才師匠様

おい

 

2642:主席転生者

えっ?

 

2643:名無し転生者

ふぁっ!?

 

2644:脳髄惑星

マジで!?

 

2645:唯一無二天才師匠様

誰だ

 

2646:名無し転生者

まじまじ

 

2647:自動人形職人

天才さんのお知り合い?

 

2648:名無し転生者

いえす。本人から聞いた

 

2649:名無し転生者

ほんまか?

 

2650:名無し転生者

初耳や

 

2651:名無し転生者

合法ロリで天才尊大でTSとか属性モリモリでは?

 

2652:名無し転生者

ちなみに大体、目も死んでてハイライト消えてる。

 

2653:唯一無二天才師匠様

特定した

 

2654:名無し転生者

怖くて草

 

2655:名無し転生者

おっと逃げる準備しよ。

最近この性格ねじ曲がったのがお熱って言うから覗きに来たけど

思ったより面白かったわ。ほな、また来る。

>1頑張って

 

2656:唯一無二天才師匠様

逃がさん

 

2657:名無し転生者

天才ちゃんブチギレてて草

 

2658:名無し転生者

隠してたの?

 

2659:唯一無二天才師匠様

隠してたわけじゃないが他人に暴露されるのはむかつく

 

2660:名無し転生者

 

2661:脳髄惑星

横暴なんよ

 

2662:名無し転生者

まぁ気持ちは分からなくもないが

 

2663:自動人形職人

>>2655

すみません、去る前に天才さんの服装について……!

 

2664:名無し転生者

職人ニキブレなくて好き

 

2665:名無し転生者

基本常識人ぽいのになぁ

 

2666:名無し転生者

ていうかあれかな。ちょびっとだけいる次元干渉の人たちなのかな

直接知り合いぽかったし

 

2667:名無し転生者

はえー、雲の上の世界っすわ

 

2668:名無し転生者

つーか天才ちゃんから逃げられるのか……?

 

2669:名無し転生者

>1、天才ちゃんがTS転生者だったことに一言

 

2670:主席転生者

天才さんは天才さんですよ

 

2671:名無し転生者

良い子~~~~

 

2672:名無し転生者

それはそう

 

2673:脳髄惑星

流石だァ……

#後方腕組 #保護者面 #腕無いけど #脳髄ジョーク

 

2674:名無し転生者

天丼かと思いつつちょっと捻り入れるのやめろwwww

 

2675:名無し転生者

師匠師弟制度ってもう確定なん?

 

2676:主席転生者

いえ、仮期間もあるらしくて

とりあえず一度フィールドワーク行こうってなりました。

 

主席の組み合わせなんでそこそこ難易度高い採取か魔物の討伐になるだろうとか

 

2677:名無し転生者

ほー

 

2678:名無し転生者

ええやん

 

2679:脳髄惑星

どうなるか楽しみやな

 

2680:唯一無二天才師匠様

ほーーーーん

 

その何某がどんな醜態を晒すのか楽しみにさせてもらおうじゃないか。

 

2681:名無し転生者

性格の悪さがにじみ出てる

 

2682:名無し転生者

性根が腐っている

 

2683:名無し転生者

>1、先輩さんにした方が良くない?

 

 

 

 

 

 

 

 

2700:唯一無二天才師匠様

くそ、逃がした

 

2701:名無し転生者

 

2702:名無し転生者

 

2703:名無し転生者

凄くて草

 

2704:名無し転生者

どうやったら逃げられるんですかねぇ

 

 




>1 
僕っこもいいと思います

唯一無二天才師匠様
嬉しかった。
キャラが被っている!!!


トリウィア・フロネシス
青髪オッドアイ白衣スレンダー喫煙天才美女
合計28系統を持ちつつ、多くの魔法を生み出し、生徒の立場ながら学園カリキュラムにも関わっている。
保有系統が多く、自分と近い数の生徒がいなかったのでこれまで師弟制度を組まなかったが>1に申請


脳髄ニキの番外編はヒロイン揃ったらやります

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こんなん好きになるに決まっとるやん!!!

総合週間1位ありがとうございます!


 

【新機能】天才師匠育成主席転生者を見守り、キャラ被り不敬者にブーイング飛ばすスレ【実装】

 

1:唯一無二天才師匠様

よろしく。

 

>1と相手の会話をリアルタイムで文字起こしできるようにした。

さぁ、キャラ被りの不敬者の無様さをとくと御覧じろ!!!!!!!!

 

2:主席転生者

スレ立てありがとうございます!

 

3:名無し転生者

立て乙

スレタイと新機能で草

 

4:名無し転生者

次元世界最高の魔法使いの姿か、これが?

 

5:名無し転生者

おハーブ生い茂るわ

 

6:自動人形職人

うーん、この。

乙です

 

7:名無し転生者

先輩が何もしないのに株が上がっていく

 

8:名無し転生者

 

9:脳髄惑星

おつ。まぁでも実際助かるな。

>1への負担も少ないし。

 

10:名無し転生者

スレタイ目的が1人しかいないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

54:主席転生者

「それではよろしくお願いします。後輩君、皇女殿下」

 

「よろしくお願いします!」

 

よろしくお願いします

 

55:名無し転生者

先輩、丁寧語使いなのか……

 

56:名無し転生者

思ったより柔らかい。

 

57:名無し転生者

お姫様、お姫様なのにちゃんと敬語で

しっかりお礼しててえらい

 

58:名無し転生者

姫様はそういうことする。

 

59:主席転生者

「はい、よろしくお願いします。……ですが、皇女殿下。そこまで畏まらなくてもいいのですよ?貴女は王族であり、私は帝国の貴族出とはいえ、私が礼を尽くす立場ですから」

 

「否! 王族なれど貴族なれど学園では等しく生徒。私も年長であれば無条件に畏まるわけではないですが先輩殿は3年間主席、即ち今の学園の代表にも等しい結果を出しておられます。であれば、礼を尽くすのも当然。鬼族は力にこそ敬意を示す故に」

 

「……なるほど。鬼族らしいというわけですね。解りました。では私も先輩後輩として接します。ですが……流石に皇女殿下にそこまで丁寧にされると困るので、口調くらいはいつもと同じでお願いできませんか?」

 

「むっ…………では、そうさせてもらう! ありがとう、先輩殿! いやぁ、婿殿! 話に聞く以上に良い先輩じゃないか!」

 

先輩やさしい

 

60:名無し転生者

姫様のこういう律儀なとこすき

 

61:名無し転生者

先輩もええ人やん

 

62:名無し転生者

お堅いのかと思ったけどフレキシブル~~~

 

63:唯一無二天才師匠様

僕だって誰に対しても同じ態度だが????

 

64:名無し転生者

同じ態度(上から目線)

 

65:名無し転生者

同じ態度(見下し)

 

66:名無し転生者

言葉のチクチク度合いが違うんよ

 

67:自動人形職人

ほんそれですわ

 

68:名無し転生者

しかしフィールドワークって何するんだろ

今いるのはなんか森? ぽいが。

 

69:主席転生者

「それでは今回のフィールドワーク、というよりちょうどいいものがあったので民間の依頼を受諾してきました。

基本、学園外へは学校からの課題で採取や研修で赴くことが多いですが、

私たちのように主席や次席、一部成績優秀者は民間や各国の依頼を行う場合があります。

 

今回は王国の依頼で―――竜退治、ですね」

 

「ほう、竜か! 王国の竜は初めてだ」

 

70:名無し転生者

竜かぁ

 

71:名無し転生者

ファンタジー王道だけど、また世界によるやつ

 

72:名無し転生者

俺の世界じゃ完全にモンスターだわ。ドラゴンもワイバーンも一緒くたで魔物。

ドラ娘もおりゃせん。

 

73:脳髄惑星

うちもおらんなぁ。

機械竜なら再現できるけど。

 

74:自動人形職人

私の世界だと精霊の一種ですね。

 

75:名無し転生者

モンスターの一種

高位存在

ワイバーンとドラゴンで分かれる

ドラゴニュート、龍人みたいな種族の一つって感じか

 

76:主席転生者

「おさらいですが、(ワイバーン)(ドラゴン)では全く別の種族です。

竜は強靭な生命と魔法力、魔法抵抗力を持つ魔物ですが

龍は希少な亜人種。龍人ともいいますね。学園でも数人しかいません。

 

外見が酷似していることが多いので間違えやすいですが、ドラゴンの方にワイバーンというのは最悪の侮辱なので気を付けてくださいね」

 

77:名無し転生者

ほー、そういう感じか。

 

78:名無し転生者

ちゃんと分かれつつ、龍は完全に亜人種なのね。

 

79:名無し転生者

ワイバーンが二脚でドラゴンが四脚みたいな感じか?

 

80:主席転生者

聞いてみますね。僕もドラゴンは見たことないんですよ。

 

「そうですね。そういう傾向にありますがワイバーンも高位になるとドラゴンのような四脚のものもいます。

ややこしいんですが、龍人族の方との交流がわりと最近なのでその名残とも言えるでしょう。

もう何年か、何十年か経てば明確に分けられるかもしれません。

 

とりあえず今回はワイバーンなのが確定してるので、余談ですけどね」

 

81:名無し転生者

なるほど、まだ調査中なわけか。

 

82:名無し転生者

そりゃあそういうこともあるやろな

 

83:名無し転生者

教科書の年号が、後々変わったりするノリだこれ

 

84:唯一無二天才師匠様

魂魄見れば分かるだろ??

そのオッドアイは飾りか????

 

85:名無し転生者

天才ちゃんさぁ

 

86:名無し転生者

難癖なんよ

 

87:名無し転生者

天才ちゃん様の株が乱降下

 

88:名無し転生者

スレタイの時点でね……

 

89:脳髄惑星

焼きもちと思えば可愛い

 

90:唯一無二天才師匠様

あ”ぁ”??????

誰が焼きもちだって!?!?!?!?!

 

91:名無し転生者

 

92:名無し転生者

キャラブレが続いとる

 

93:主席転生者

 

「ワイバーンによる被害は珍しいですが、被害は非常に大きいので危険度が高いと言えます。

主要都市には対魔物討伐団がいますし、民間委託で討伐依頼を行う自由職――いわゆる冒険者の方もあちこちにいますが

ワイバーン討伐を行えるのはそれなりに限られますね。学園でも成績優秀者且、学園長の許可された者のみが受けられますね」

 

「うちの国にもいるな、魔物討伐団。≪心戦組≫と言う。

1人1人はさほどだが、組全体と相手にするととても手強い」

 

「はい、魔物討伐団は各国にそれぞれありますね。

王国ならば≪不死鳥騎士団≫、我が帝国ならば≪鉄爪牙連隊≫等々。

個人の戦力は左程ですが、集団戦のスペシャリストですね。

 

定期的に学園に訪れて講習会もするのでその時に学ぶといいでしょう」

 

 

はえー色々あるんですね。新選組かぁ。

 

94:名無し転生者

異世界フリー素材来たな。

 

95:名無し転生者

新線組とか和風世界だとマイナーチェンジが大体おる。

 

96:名無し転生者

円卓とか暗殺集団とか鉄板。

 

97:唯一無二天才師匠様

そのあたり文化の収束というか収斂作用というか

アースゼロ起点にしてるからどうしても似るんだよ。

 

98:名無し転生者

あーね。

 

99:名無し転生者

転生掲示板で良く見るけどそういうことか

 

100:自動人形職人

なんでだろうと思ってたけどそういうことだったんですね。

 

101:脳髄惑星

やっとまともになって草。

 

うちの世界にもそういうの欲しかったなぁ

 

102:名無し転生者

自分、水滸伝? だかなんかぽい集団所属してるんだけど知識なかった。

 

103:主席転生者

「それではそろそろ行きましょう。

私たちであれば、道中出てくる魔物も心配ないでしょうし

聞く限りのワイバーンもさほどではないと思いますが、それでも注意は怠らないようにお願いします」

 

「あぁ!」

 

そろそろ出発するみたいですね。

コメントできないかもしれないですが、よろしくお願いします

 

104:名無し転生者

がんばー

 

105:名無し転生者

無理せんといてなー

 

106:脳髄惑星

気を付けてくれ、>1

 

107:唯一無二天才師匠様

無理はしないように。

 

 

108:主席転生者

はい! 頑張ります!!

 

109:唯一無二天才師匠様

いざとなったらそのキャラ被りを囮にするんだ。

 

110:名無し転生者

畜生で草

 

111:名無し転生者

もう株が上げられんのよ

 

112:自動人形職人

わりと楽しくなってきた。

 

にしても先輩さんはどういうバトルスタイルなんですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

153:名無し転生者

  ガ  ン  =  カ  タ 

 

154:名無し転生者

タバコ吸いながら白衣翻して二丁拳銃とかマジか!?!?

 

155:名無し転生者

無表情で乱射しつつ的確に打ち抜くのかっこよ!

 

156:自動人形職人

近接で蹴り技出すのもレザーパンツが映えていいですねぇ!!!

 

157:名無し転生者

こんなん好きになるに決まっとるやん!!!

 

158:脳髄惑星

地味に命中精度やべぇな

 

 

 

 

 

 

 

181:名無し転生者

 

182:名無し転生者

 

183:名無し転生者

 

184:名無し転生者

姫様「私は援護するから」

 

からのそれはもうギャグなんよ

 

185:脳髄惑星

援護(超物理

 

186:自動人形職人

あの包帯にそんな使い方が

 

187:唯一無二天才師匠様

よし! そのキャラ被りを殺せワイバーン!

>1にケガさせたら僕が殺す!!!!

 

188:名無し転生者

うーんこの

 

189:名無し転生者

おもろくなってきた

 

190:名無し転生者

草なんよ

 

191:脳髄惑星

>1にケガさせたら僕が殺す!!!!

 

それはそう

 

192:名無し転生者

コテハンやべー二人が>1保護者過激派で草なんよ

 

193:名無し転生者

天才ちゃんこれからどうやって株上げるん?

 

 

 

 

 

 

 

301:唯一無二天才師匠様

 

 

302:名無し転生者

天才ちゃん……

 

303:名無し転生者

まさかあのやっかい師匠ムーブから……

 

304:自動人形職人

とてつもない一体感を感じる

 

305:名無し転生者

あそこから株上げるとかマジ???????

 

306:名無し転生者

天才さんめっちゃ好感度上がったわ

 

307:脳髄惑星

信じてたよ天才ちゃん

 

308:名無し転生者

>1×天才ちゃんてぇてぇ

 

309:名無し転生者

いい……

 

310:名無し転生者

いいよね……

 

311:名無し転生者

>1天推しになります

 

312:名無し転生者

>1はさぁ

 

313:名無し転生者

お前が主人公だ!!!!!

 

314:唯一無二天才師匠様

 

 

315:名無し転生者

天才ちゃん固まってて草

 

316:名無し転生者

キラーワードですわ

 

317:名無し転生者

落ちたな(確信

 

318:脳髄惑星

俺も>1に似たようなこと言われてぇなぁ!!!!

 

319:名無し転生者

というか>1、掲示板に流れるの忘れてるやろ

 

320:名無し転生者

かわいい

 

321:名無し転生者

ヒロインは>1だったかもしれん

 

322:名無し転生者

それはそう

 

323:名無し転生者

 

324:主席転生者

 

「―――君のことを、もっと知りたいな」

 

325:名無し転生者

は?

 

326:名無し転生者

おいおいおい、死んだわ

 

327:名無し転生者

普段無表情な人が、柔らかく微笑んで、人差し指を>1の唇に当ててそれ言うのは反則ちゃうか?

 

328:自動人形職人

つよい

 

329:名無し転生者

天才ちゃん、判定は!?

 

330:唯一無二天才師匠様

まぁ>1に免じて許してやろう

 

331:名無し転生者

 

332:名無し転生者

うーんこの

 

333:名無し転生者

もしかしてちょろかった……?

 

334:名無し転生者

いやまぁさっきの>1の話を聞けば天才ちゃん側の入れ込みも納得というか

 

335:脳髄惑星

よく先輩出る前にスレから去ろうとしたなぁと思ったけど

先輩現れて即レスしたってことはそういうことだったわけよ

 

336:名無し転生者

名探偵脳髄ニキ!!

 

337:名無し転生者

流石だ

 

338:脳髄惑星

脳髄はいつも一つ!!!!

 

339:名無し転生者

いやそれは分らん

 

340:名無し転生者

なんか意味わからんけどおもろい

 

341:名無し転生者

あまりの尊さに脳が全ての理解を拒否してるけどさ

 

>1は>1過ぎるし天才ちゃんはウッキウキで浮かれポンチだし

先輩はキラーパス叩き込んできたけど、

それ見ながら後ろでうんうん頷いてる姫様が一番の大物かもしれん

 




>1
なんか凄いキラーワードを言ったらしい

天才ちゃん
キレ散らかしてたけど、>1が凄いこと言ったらしい
ウッキウキ

先輩
白衣翻してガンカタしつつレザーパンツのおみ足で蹴りを繰り出す
笑う時は笑ってくれる人

姫様
まぁ最終的に婿入りしてくれれば別に妾何人おってもええなと思っている
自分も妾腹なので

>1が何言ったのかは、次回に


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トリウィア・フロネシス―叡智の深淵―

 

 トリウィア・フロネシスは知識欲に囚われている。

 生きる目的は知ることであり、知識欲を満たす為に生きているといっても過言ではない。

 あらゆる行動目的が「知りたい」という言葉の下にあるのだ。

 

 各国において最も規律や法律が厳しく、厳粛とされる≪帝国≫の貴族の娘。皇帝の血族に連なってはいなくても、高い地位にあるフロネシス家の名はトリウィアの「知りたい」を大いに助けてくれた。

 徹底した実力主義を謳う≪帝国≫ではあるが、身分の高い貴族であるということ、即ち高等教育をあらかじめ確実に受けられるというのは非常に大きい。幼年学校も軍学校も飛び級に飛び級を重ね、10になる頃には最終教育課程も修め、帝国内で数年魔術を研究し、15になって王国の≪魔法学園≫に入学するというのがトリウィアの輝かしい経緯である。

 およそ、学歴という点では今の学園にトリウィアに並ぶものはおらず、それゆえの3年生学園主席という肩書なのだから。

 この世界の魔法は35系統派生により、発現結果は多岐に渡る。

 同じ系統でも個人差があれば当然変わり、さらには地域差・文化差を加味すれば派生は広がり続け凡そ無限とさえ言ってもいい。

 

 その全てを「知りたい」と思ったから学園に来た。

 

 学園に入学するのはそれぞれ相応の目的意識が必要であり、難易度の高い入学試験故に、入学するだけでステータス、成績優秀者として卒業すれば自国で就職先に困らないほど。

 集められる知識も年月を経てば経つほどに質が高まり、帝国にいるだけでは決して手に入らなかった他国の独自魔法について知ることもできた。

 

 けれど、まだまだ「知りたい」が止まらない。

 

 これまで師弟制度を使わずに、教師もどきのように魔術講義なんてしているのもそのためだ。知りたいから、教えた。28種、これまで世界最多の才能の持主であったから当然できることは極めて多い。教えを求めて来たものに教え、そしてどんな魔法になるかを見届ける。

 彼女にとって教えるということは他者貢献ではなく、自身の欲望を満たす為の過程に過ぎない。

 

 我ながら勝手だな、と思う。

 自分を慕ってくれる同級生も後輩も先生も、自分の目的の為に利用しているようなものだから。ただ、どうしたって知識欲が止まらない。その代わり、得た知識で彼らの「知りたい」はサポートしているのでどうにか、とも思う。

 

 知りたい、知りたい、知りたい―――――「知りたい」。

 

 一種の呪いだ。

 知識(フロネシス)の呪縛。

 古い言葉でそういう意味があるのだが、それにしたってあからさまが過ぎるだろうなと自分でも呆れてしまう。

 多分、根本的には要領が悪いのだ。

 学園史上始まって以来の天才だとか言われているが、そんなことはない。地頭が良くないとは思わないがこれもまた知識欲が邪魔をしてくる。

 1を聞いて10を知るどころか1を知るために100を調べてしまう。

 それがトリウィアの学び方。

 人の何倍も何十倍も掛けて学習し、知識量を増やして学習効率を上げているだけにすぎない。

 そうでもしないと主席の座は保てないし、トリウィア自身の知識欲も満たせない。

 

 そして今―――彼女の「知りたい」は己を上回る才能を持つ少年に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 ぱっと見、「彼」は普通だった。

 身長はそれなりにあり、体格はしっかりしているが特別に体格が良いというほどではない。

 ただ、人が良いという噂は伝わってきている。

 素直、純朴を絵にかいたような少年であり、1年生においても既に人気が高い。

 一通りの入学試験の後にねじ込まれたにもかかわらず、それというのは「彼」の人の良さを表しているだろう。

 口数は多くはないが、言うべきことは言う、そういうタイプだ。

 入学直後に皇国の姫である天津院御影の神髄を正面から無効化したのはトリウィアも見ていたし、あの術式には感嘆、惚れ惚れしたとさえ言っていい。

 あれを自分で生み出したというのならば文字通り歴史に名を遺す天才だ。

 いや、全属性・全系統適正というだけで十分だけれども。

 とかく、目立ちはしないけれども存在感が薄いことはない。

 入学してから常に御影がいるのというのも大きい。

 彼女はとにかく鮮烈だと、トリウィアは思う。

 威風堂々・天衣無縫。燃える炎のように激しさと大地の如き包容力を兼ね備えた才女。皇国王位継承権第一位という身分でありながら傲ることはなく、礼を尽くす。

 学園には各国の王族や皇族がいるが、しかしここまで人間ができている者もそうはいないだろう。

 とにかく目立つ。

 それにしても、

 

「…………援護という単語を調べ直したくなりましたね」

 

 煙草を咥えながら、眼の前の光景を眼鏡のレンズ越しに半目でトリウィアは呟く。

 隣で「彼」も苦笑している。

 

 王国西部の森、十数キロ離れた所には大きな街があり、その奥で竜が発見されて討伐に来た。十数キロ、というのは竜種がその気になれば至近距離と言っていい。

 援護する、と御影は言った。

 森の奥、崖の麓で発見したのは緑の甲殻を持つ風竜だった。

 竜種の中でも飛行能力が高く、攻撃・移動範囲も広い。一々空を飛ぶため、遠距離攻撃手段が無ければ非常に厄介。そのあたり、トリウィアも「彼」も問題はないのだが。

 

「婿殿と先輩殿の師弟結成のお試しなんだろう? であれば私は援護に留めるとしよう!」

 

 と、言いながらその大戦斧を彼女はぶん投げた。

 驚く間もない。

 大胆不敵にも程があると思い、そして気づいた。投擲された斧と御影を黒い線が繋いでることを。

 大戦斧の柄の全体に巻かれていた黒の包帯だ。

 明らかに延長距離を表面積が凌駕しており、驚くべき伸縮性から何かしらの魔物、おそらく蛇やそれこそ竜種の素材を用いた特殊な布と言うことが分かる。生物由来の素材を≪生命≫系統で強化し、伸縮性を伸ばしているのだろう。

 

「さーてさてさて必・勝・祈・願……!」

 

 ろくに狙いを付けていなかったように見えるのに、大戦斧は的確に竜の首元に飛び包帯が引っかかる。

 

「■■――!」

 

 そのまま1メートルはある刃が竜の首元に食い込んだ。

 流石に両断までとはいかなかったが、御影は包帯を掌に巻き付けたまま大きく振りかぶり、

 

「ワイバーン一本釣り―――――!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、今しがた行われた()()である。

 どや顔で親指を立てつつ胸を張っていた。

 ぶるんと、冗談みたいに胸部が揺れている。

 ちょっとうらやましい。

 

「―――ふぅ、後輩君。翼、潰せますか? 皇女殿下が繋いでいるとはいえ、飛ばれると面倒なので。トドメは私が」

 

 師弟制度のお試し任務なのだ。先輩として少しは良い所を見せたい。

 「彼」はすぐに頷き、大地に激突してもがく風竜へと走り出す。

 真横に突き出された右手に、ダイヤル錠七色の魔法陣が巡り、

 

「――≪センパー・パラタス≫」

 

 「彼」が飛んだ。

 常人ならばまともに目で追えない速度。

 純粋な人間種でありながら、鬼族の姫君と正面から打ち合えるほどの身体強化をもたらし、思考速度や反射神経まで底上げしている。

 本人が気づいてるのかどうか知らないが、身体強化魔法として最高峰と言っていい。

 28系統保有するトリウィアでもあそこまで完成度の高い強化魔法は編み出せていなかった。

 そして「彼」は暴れまわる竜の背に降り立ち、

 

「≪クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ≫」

 

 振りぬいた右手に、光の文様で編まれた剣を手にしていた。

 耐熱、加速、振動、硬化、鉱物、収束、圧縮で編まれた仮想剣だと、トリウィアの瞳はその性質を看破する。

 凄い、と思わず舌を巻く。

 あのダイヤル式魔法陣、アレは本当に凄い。

 身体強化、自立防御、攻撃無効、仮想武装。今知る限りはこれだけだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 純粋にあれだけでも十分使えるし、例えば加熱や燃焼、氷結や帯電系統を一つ足すだけで属性魔法剣に早変わり。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉で言うのは簡単だが、奇跡的なバランスで織りなされた芸術品に等しい。

 そしてそれらをワンアクションで発動できるのだから恐れ入る。

 若干トリガーワードが長いし、舌を噛みそうだがそれでも破格。

 なにより「彼」はそれらの文言を大事そうに、噛みしめる様に紡ぐのだから何か意味があるのだろう。

 

「――――!」

 

 ワイバーンが悲鳴を上げたと思った時、既に「彼」は両翼を断ち切り、離脱していた。

 首には斧が食い込み、両翼が根元から切断されたワイバーン。

 最早ただのトカゲとそう変わらない―――ということもないのだが。

 それにしても危険度という意味では大きく下がり、新入生の頼もしさに一度煙草の煙を肺に送り込み、息を吐く。

 皮手袋の二指で挟んでいた煙草は再び咥え、

 

「―――少しは先輩らしいところを見せましょうか」

 

 太もものホルスターから二丁のリボルバー式拳銃を引き抜いた。

 銃火器は≪帝国≫で普及している魔法発動補助道具の一つ。

 火と土属性保有に恵まれた≪皇国≫では火薬を用いる物理銃が「火筒」と呼ばれ一般的らしいが、≪帝国≫では専ら弾倉を魔法発動媒体として用いる。

 「彼」が銃を見て妙に驚いてるのが印象的だった。

 銃を初めて見たというわけではなく、銃があることに驚いたという感じだったから。

 

 一般的に、保有系統が多い者向けと扱われているのがリボルバー拳銃型だ。

 

 保有系統の数が才能と言われるが、しかし同時に系統属性の多さは扱いの難易度に比例する。概ね15系統を超えると直感や単なる経験だけでは扱いきれず、一定の理論や発動補助が必要になると言われており、トリウィアにとってこの銃がそれである。

 7弾倉一つ一つに系統を随時装填し、それが二つ分。それによって短期間における使い分けを実現している。

 無論、それでも難易度は高いがトリウィアは膨大な知識量と理論によってそれを補っていた。 

 

「―――ふぅ」

 

 一度息を吐き、二丁の拳銃をリボルバー機構同士が触れ合う様に眼前で十字に構えた。

 それはまるで何かに誓う様に。

 それはまるで何かに捧げる様に。

 

 何か?

 決まっている。

 

「―――あらゆる未知を蹂躙せしめんが為に」

 

 この世のあらゆるものを知るがために。 

 何もかもを叡智に捧げ、貪りつくすように。

 罪深き欲望という叡智の十字架(トリウィア・フロネシス)こそが彼女の本質に他ならないのだから。

 

 天津院御影は彼女らしい豪快さを見せてくれた。

 「彼」はその美麗極まる魔導の極地といっても過言ではない術式を見せてくれた。

 あぁ、浮かれているなと思う。

 目前、竜はもがきながらもトリウィアに血走った眼光を向けていた。

 死にかけの獣ほど恐ろしいものはない。翼が無かろうと竜は竜。その顎は十分に人間を絶命させ得る。

 ならば、徹底的に潰す。

 やるならとことんやるのが≪帝国≫流。

 それに、なによりも。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 呟き――――十字に交差した拳銃を弾かせ合う。

 ガキンと鋼同士がぶつかる音が鳴り、ジャララとリボルバーが回転。

 七色に輝き――――もう一度腕を振り、激突させることで弾倉を回す。

 それがトリウィアの術式発動動作。

 弾倉の回転がそのまま術式の構築となり、二つのリボルバーを回転させれば最大14系統。続けて行えば全28系統。

 この時、腕を大きく振ることで白衣をはためかせるのが格好良く見えるコツ。

 そして、全系統を用いるということは、

 

「―――≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫」

 

 ≪王国≫では≪究極魔法≫、≪皇国≫では≪神髄≫と呼ばれる奥義に他ならない。

 視界の隅、御影がぎょっとしながら慌てて包帯を引き寄せて斧を回収し、「彼」と共に後ろに下がっていた。

 流石の判断力。

 フフフ、気兼ねなくぶっ放せるなぁとトリウィアは表情を変えずに思った。

 前方に構えた二丁の銃口に魔法陣が展開される。

 加熱、燃焼、焼却を爆発させ。

 液化、潤滑、氷結を活性させ。

 流体、気化、伝達を加速させ。

 硬化、生命、崩壊を振動させ。

 帯電、発電 電熱を落下させ。

 拡散、反射、浄化を収束させ。

 吸収、荷重、斥力を圧縮させ。

 それぞれ各4系統ずつ用い強化した7属性を織り交ぜながら同時に放つ全属性内包殲滅砲撃魔法。

 遍く知識と叡智、知恵へと捧げる深淵。

 その名も、

 

「――――≪十字架の深淵(ヘカテイア・アブグルント)≫」

 

 

 

 

 

 

「貴方は、何か目的とかあるんですか?」

 

 ついつい良い所を見せたくて調子に乗って≪魔導絢爛≫でワイバーンを蒸発させ、御影に軽く引かれた後のことである。

 ただ、それを言うなら入学早々「彼」に≪神髄≫をぶち込んだ彼女に言われたくないのだが。

 聞いてみたかったことを「彼」に聞いてみる。

 唐突な質問に「彼」が首を傾げたので、新しい煙草に火を付けながら言葉を続けた。

 

「貴方は強い。そして才能を見ても歴史上初の全系統適正。主席という立場を考えても卒業後どこからでも引っ張りだこでしょう。それこそ何にだってなれる」

 

「うむ! ≪皇国≫の王の婿とかな!」

 

 アグレッシブだなぁと思いつつつ、「彼」の言葉を待つ。

 「彼」はトリウィアが開けた崖の巨大な風穴を一度見てから、空を見上げて言う。

 

 幸せになりたいだけですよ、と。

 

「………………は?」

 

 思ってもいなかった回答に思わず目が点になる。

 咥えた煙草を落としかけた。

 

「どういう意味ですか?」

 

 目的というにはあまりにも曖昧で、しかし「彼」の言葉には確かな意思があった。

 彼は笑みと共に語る。

 

 自分の力をどう使うべきか、解らなかった、と。術式としてではなく、人生の指針として。

 

「それは……まぁ、そうでしょう。全系統適正はそれだけ貴重です。私のように28種でも大きく持ち上げられました。天賦の才というには陳腐ですが、それは考える必要があるものです。これだけの大いなる才を与えられた私たちには、それを扱う責任があるのですから」

 

 それです、と「彼」は語る。

 ある人に言われたと。

 力に責任というものは付随なんてしないのだ、と。

 

「――――それは」

 

 確かに、そういう考え方もあるだろう。

 けれどそれは無責任ではないだろうか。

 少なくともトリウィアの生まれた≪帝国≫ではそうはならない。

 彼は苦笑と共に同意しつつ、その言われた言葉を口にする。

 

『馬鹿かね君は。力を持っているから、使わなければいけないなんてことはない。強い者が大事を為し、弱き者は何事も為せないのか? 否、否だよそれは。それは強いが故の傲慢さ。行動も結果も、どんな力を持っているかなんて関係ない。どうしたいか、どうするか、選択と決断のみがそこにはある』

 

 だからいいかい、と()()()は「彼」に説いたという。

 

『君はその力で何かを為してもいいし、何も為さなくてもいいんだ。誰に何を言われても気にするな。これは君の人生なんだから。小言を言う外野は無視してしまえ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 肩の荷が下りたんですよねと、彼は微笑む。

 主席に選ばれてプレッシャーを感じていたが、その言葉で余計なものを背負わずに済んだらしい。

 

「……あぁ」

 

 確かに。そんなことを言われたら、自分もそうかもしれない。

 きっと彼は真面目なんだろう。だから学園主席という立場に真摯に向き合い、それに見合う様に背負おうとした。

 だけど、()()()はそんなものは要らないと言ったのだ。

 もっと人生を楽しめ、と。

 言い方は少し厳しい気もするが、根底の優しさが伝わってくる。

 きっと素敵な人なんだろうなと、トリウィアは思う。

 自分みたいな知識欲に囚われた女なんかよりもずっと。

 その言葉が、「彼」を救っていたのだ。

 

「君は、その人のことが大好きなんですね?」

 

 答えはとびっきりの破顔だった。

 尊敬している先生で、師匠。

 こんな教え子がいたら、その人も()()()()()だろう。

 人たらしの後輩だ。

 だからと、「彼」は申し訳なさそうに口を開き、

 

「――――いえ、大丈夫です」

 

 トリウィアは自身の人差し指で「彼」の唇を塞いだ。

 少し顔を赤くしているのが可愛い。

 

「そんな話を聞かされては、制度といえど師匠なんて名乗れないじゃないですか。うん、それに術式に関しては私の方が学ばせてもらいたいくらいですし。師弟制度の申請は取り止めましょう。―――その代わり」

 

 そう、その代わりだ。

 胸の奥で、欲望が渦巻いている。

 何でもできる力を持った「彼」は幸せになりたいという。

 あぁ、それは。

 なんて素晴らしい夢なのだろう。

 珍しく、笑みが零れるのを自覚する。表情は硬い方だが、しかしこんな話を聞かされては頬が緩むのは仕方ないだろう。

 だから、その夢を見届けるためにも、

 

「―――君のことを、もっと「知りたい」な」

 

 

 




「彼」
高校に進学できず、勉強だってまともにできず中卒で働きに出て、
両親は死んで、妹は自殺して、自分は死んだ。

そして、転生したら今度は何でもできる力を得た。

どうしていいか分らない時に、彼は自分勝手な天才と出会い、教えてもらった。
幸せに、なってもいいと。

「その人」
力に責任なんて伴わない。
好きにすればいいと、彼に道と塞がる壁に対する鍵の開け方を教えてくれた人。


トリウィア・フロネシス
知識欲の権化、格好つけ、トリガー・ハッピー気味。
大事な所で敬語を崩すタイプの女。

トリウィアはトリヴィア、地球では三差路という意味である冥府の女神ヘカテーの代名詞。
転じて、「彼」の転生世界ではトリウィアは十字架、架せられたものという意味を持つそうです。

≪クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ≫
よく種を撒く者はよく刈り取る。
武装生成魔法。
剣だけではなく、光の文様があらゆる武器の形を取り系統追加で全属性の属性武装になる。
「彼」の今後の成長を見据えた魔法。


唯一無二天才師匠
自分が>1の夢を示したこと、自分の言葉が>1を救っていたこと、唯一の師匠で他の師匠は無理であることを脳内に直撃された。


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こういうのも世界によるわけやなぁ

総合評価、UA共に10万超えありがとうございます!


1289:主席転生者

テスト!!! 終わりました!!!!!!

 

1290:名無し転生者

乙!!!

 

1291:名無し転生者

おつかーれ!

 

1292:自動人形職人

お疲れ様でしたー!!

 

1293:名無し転生者

学生って感じだ、乙

 

1294:脳髄惑星

滅茶苦茶真面目に勉強してたなぁ、乙

 

1295:名無し転生者

これに関しては天才ちゃんもノータッチだったな

 

1296:名無し転生者

>1も特に助け求めてへんしな

 

1297:名無し転生者

まぁ学校の勉強は自分で頑張らないとね

カンニングに使おうと思えば掲示板いくらでも悪用できるし

 

1298:名無し転生者

実際そういう使い方しとる転生者もいる

 

1299:名無し転生者

テスト一週間前は姫様と先輩とも放課後も休日も勉強ばっかしとったしな。

>1も天才ちゃんも顔出ししなかったから外野でばっかワイワイやっとった。

 

1300:名無し転生者

他のスレだとこの前天才ちゃんが作った音声配信から動画配信機能が生まれて

動画投稿サイトよろしく冒険配信とか盛り上がって荒れたりするところもあったけどここは平和だった

 

1301:名無し転生者

なんかあるとヨーヨー飛んできかねんしな

 

1302:脳髄惑星

まぁ顔出さなくても天才ちゃんも見てるだろうしな

 

1303:主席転生者

見てくれてますかね

 

1304:天才様

見てるよ

 

1305:名無し転生者

 

1306:名無し転生者

うーんこの爆速レス

 

1307:名無し転生者

絶対>1のレスに通知しとる

 

1308:自動人形職人

速すぎるんですよねこの師匠

 

1309:天才様

うるさいなモーニングスターぶつけるぞ

 

1310:名無し転生者

殺意上がってるやんけ!

 

1311:名無し転生者

流石にそれは死ぬやつや!

 

1312:脳髄惑星

培養液ないと死ぬからやめちくり~~~

 

1313:名無し転生者

 

1314:名無し転生者

唐突な脳髄ネタ

 

1315:名無し転生者

培養液の中にいるタイプの脳髄かぁ……

 

1316:名無し転生者

脳髄のタイプとかなんか嫌だなぁ

 

1317:主席転生者

天才さん、お久しぶりです。

お元気でしたか?

 

1318:天才様

ん。まぁぼちぼちだ。

君の方はテストが無事で終わって何より。

 

結果は出そうかな?

 

1319:主席転生者

一先ず、今できる限りのことはしたので、恥ずかしい結果にはならないかと!

 

1320:天才様

そうかい。お疲れ

 

1321:名無し転生者

久々の>1天は脳に効く

 

1322:名無し転生者

うむ……

 

1323:名無し転生者

このちょっとそっけない天才ちゃんと直球な>1がいいんだ

 

1324:自動人形職人

本人の前でコメントしてるのも地味に面白いですね

 

1325:天才様

うるさいな。

職人の君は真面目に仕事でもしていたまえ

 

1326:名無し転生者

辛辣ぅ

 

1327:自動人形職人

ぐぅ(仕事依頼3件積み

 

1328:名無し転生者

職人ニキの3件はやばそう

 

1329:名無し転生者

フルメイドの自動人形じゃろ? やば~~

 

1330:名無し転生者

仕事してもろて

 

1331:名無し転生者

詰みタスクと言えば>1の学園はテストの後のイベントとかどうなってるん?

 

1332:主席転生者

えぇっと、大小合わせると色々あるんですけど、大きいのはまず遠征、ですかね。

 

1333:名無し転生者

遠征?

 

1334:名無し転生者

遠足、ではなく?

 

1335:脳髄惑星

戦争でも吹っ掛けんの?

 

1336:主席転生者

いえ、僕の世界大きな戦争は20年くらい前に終わって

今んところ、概ね平和なんですよね

 

1337:名無し転生者

ほんほん

 

1338:名無し転生者

でもなきゃ各国から生徒集めて学園とかできんわな

 

1339:名無し転生者

大戦ってどことどこが戦ってたんや

 

1340:主席転生者

何分生まれた前のことでよく知らないんですけど、

なんか魔族とか魔物だとかなんとか

 

1341:名無し転生者

それ世界救われてね?

 

1342:名無し転生者

勇者とかがもう世界救った後だったか……

 

1343:自動人形職人

戦争真っただ中に生まれなくてよかったですねぇ

 

1344:名無し転生者

転生世界……ていうか大体の世界で必ずやってるよなぁどうしても

 

1345:名無し転生者

人の歴史は戦争の歴史、みたいなことも言うしねぇ

表面上平和だけど、貴族とか王族だと実は大戦発展みたいなこともようある

 

1346:脳髄惑星

戦争のない平和な世界を作ろう!!

 

1347:名無し転生者

ディストピア並感想

 

1348:天才様

文明発展途上の世界だと大なり小なり起こりうるのは必然だね。

人口が増えると国家も増え、軋轢が多くなる。

 

人間同士だと世界大戦級が起きれば、死人が多くなりすぎて

戦後は繰り返さないようになるものだし、

>1みたいに魔族のような敵性種との種族間戦争はどこかのタイミングで和平を結ぶか滅ぼし尽くすまでなんだが。

 

1349:名無し転生者

種族絶滅は怖いな

 

1350:主席転生者

魔族って言われる人は見たことないんで絶滅なんですかね。

そのうち授業やるぽいですけど。

 

えぇと、それで。遠征はテスト終わりのタイミングで

どこかの国に行ってそれぞれ課題や依頼を熟す現地実習みたいな感じです。

 

今回は西の方にある≪連合≫ですね。

 

1351:名無し転生者

亜人の国? だかの集合体だっけ

 

1352:主席転生者

エルフ、獣人、ドワーフ、ハーフリング、リザーディアン、人魚、鳥人の7氏族からなる連合ですね。

 

1353:名無し転生者

一通り揃ってるな。ハーフリングはちょっと珍しい?

 

1354:名無し転生者

蟲人いないとかマジ????

 

1355:脳髄惑星

龍人族は前聞いたけど、数少ないんだっけ

 

1356:主席転生者

この7氏族が一番多くて、一応蟲系の人とか少数氏族とかもいるみたいですね。

 

西はかなり自然豊かな山間部で海とかもあって亜人種が多いとか。

で、数年に一度、全氏族が集まってお祭りするみたいでそれに行くのが今回の遠征なんだとか。

 

1357:名無し転生者

なるほどなー。

 

1358:名無し転生者

たまーに>1のスクショでそのあたりぽいのもいたけど、

まんま人型トカゲもいれば、人間に羽生えてるタイプもいたけど、

ハーフとかも入り混じってんのかな

 

1359:主席転生者

人と獣の割合はまた氏族内の一族によるらしくて正直ややこしい

 

御影さんの鬼族は東で鬼種だけ集まってるので半人は珍しいらしいですが。

 

1360:名無し転生者

>1の世界なんもかんもがややこしすぎる

 

1361:名無し転生者

亜人は奴隷! 人間が主! みたいな世界のが多いしな

 

1362:名無し転生者

天才ちゃん! そのあたりどーなってんの!?

 

1363:天才様

世界によるとしか言えないが、地形や気候、敵性種の多さがそのあたりの種族地位に干渉してくるね。

 

いわゆる魔族みたいな敵性種や迷宮だとかダンジョンがあると、特定の能力に特化した亜人種は種族地位を築きやすい。

また特定環境への適正も大きいから自然が厳しい地方があればあるほど亜人も増えて、地位も上がる傾向にあるね。

 

人間が最上位種なのは、人間が絶滅するほどの敵対種がおらず人間の国が気候的地形的に文明発展がし易いところにある場合だね。

衣服でカバーできる気候と大きな河があれば大体の文明は繁栄するし。

 

逆に>1の世界の西のように険しい山間部だと人口の増加率が比較的悪く、そういった場所では亜人種が発展しやすい土壌があるのは確かだろう。

ぶっちゃけ特定条件下で数が少ない所だと生存競争に大体負ける。

 

魔法等の有無を加味すると前提が覆るのであくまでそういう見方もある、という話だが。

 

1364:天才様

そもそも今言った地形・気候的に厳しくても天敵さえいなければ人間種はある程度は増えて文明・文化を生み出すから、人類の生き汚さは恐ろしいよ全く。

 

1365:名無し転生者

はー

 

1366:名無し転生者

なるほど、そーいうことね(分かった

 

1367:名無し転生者

完全に理解した

 

1368:脳髄惑星

種族一杯おるとおもろいなぁ

 

1369:名無し転生者

ちなみに脳髄ニキの世界って種族複数おんの?

 

1370:脳髄惑星

もう単一や

 

1371:名無し転生者

もう……?

 

1372:名無し転生者

生存競争終わっとる……

 

1373:主席転生者

天才さんの考察はいつも面白いですね。

 

1374:天才様

そうだろうそうだろう。

何せ僕は君のお師匠様だからね!!!

 

1375:名無し転生者

この師匠アピールよ

 

1376:名無し転生者

ちょっと前まで別スレで見たらあのさあ……ってなったけど

今じゃてぇてぇを感じるわ

 

1377:名無し転生者

実際、解説として面白いんよな

 

1378:名無し転生者

>>1363

疑問だけど人間にとって住みやすい気候って獣人とかには住みやすかったりしないんです?

 

1379:天才様

人間が一定数増えると人口の増加度合いが基本亜人種族が追い付けない。

亜人種は発情期とか生殖に条件あるパターンも多いし。

 

肉があれば亜人種は凍ったままでも食べられるからそれは凄いんだけど

同じ量の肉なら人間が一番増えるというわけさ。

 

1380:名無し転生者

なるほど、ありがとうございます

 

1381:名無し転生者

人間ほんまぽこじゃか増えるんだから~~~

 

1382:名無し転生者

このスレわりとこういうマジで勉強になること急に出てくるのすこ

 

1383:名無し転生者

この手の学ぶスレとかそれこそ配信とかすればめっちゃ盛り上がると思うんだけどな。

天才ちゃんも知識マウント取り放題でしょ

 

1384:天才様

面倒くさいなぁ。

 

疑問が急に現れて解消するのと

最初から答えてもらうのありきで質問されるのはなんか違うだろう?

 

僕の知識はそこまで安くはない。

 

1385:主席転生者

あ、天才さんに質問あったんですけど

 

1386:天才様

ん?

何かな。何でも言いたまえ

 

1387:名無し転生者

 

1388:名無し転生者

うーんこの

 

1389:名無し転生者

おハーブ

 

1390:脳髄惑星

弟子が好きすぎるんよ

 

1391:名無し転生者

てぇてぇ

 

1392:主席転生者

オムニス・クラヴィスの術式の中で、使用系統数少ないのって

他人に教えちゃってもいいですかね。

 

あんまどうかなと思ってたんですけど、勝手にコピーされて

劣化版を使われたとかしたりして……

 

1393:天才様

あぁ、なんだそういうことか

 

1394:名無し転生者

この天才様、もっとムズめの質問に長文でウキウキで返す気だったな……?

 

1395:天才様

系統の掛け合わせで術式作る以上、コピーされるのは仕方ないよ。

クラヴィスの真価は発動速度と>1の全系統からなる汎用性の高さだ。

そのあたりは真似したくても真似できないだろうし、

再現できるものはどんどん伝えてしまえ。

 

君用にチューンしたから、そのままコピーしても使いやすいとは限らないから

そこ等辺の調整を君が付き合ってあげるといい。

 

そういうのも主席ぽいだろう。

 

1396:主席転生者

確かに……!!

ありがとうございます!!

 

1397:名無し転生者

うーんこの有能師匠

 

1398:名無し転生者

確かに系統の掛け算の魔法だと真似しやすいな

 

1399:脳髄惑星

技術とか場合によっては盗まれただけで死人でそうだしなぁ

 

1400:名無し転生者

こういうのも世界によるわけやなぁ

 

1401:天才様

このくらいいつでも聞きたまえ。

 

1402:主席転生者

はい!!

いつもお世話になります!!!

 

1403:天才様

ん。

 

 

 

 

 

 

 

 

1782:遠征先転生者

すみません。

遠征先で女の子拾ったんですけどどうすればいいですかね……?

 

1783:天才様

そういうことじゃないんだが????????????

 




>1
なんか拾った

天才様
もっとこう、あるだろ!!!

職人ニキ
おや……気配が消えた……?


転生掲示板みたいな色んな世界の転生者が書き込んでるわけで
そういう世界観の差異とか共通性考えるの結構面白いと思うんですよね。

今後もちょいちょいこういうの挟みたいです

感想評価いただけるとモチベになります


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ここで活かすぜ!!!!!!!

1834:遠征先転生者

宿の部屋に戻りました。

うーんどうしよう。

 

1835:天才様

どうしようじゃなくてどうしてそうなったんだ????

ん??????

少女を、拾う??????

 

1836:名無し転生者

天才ちゃんバチバチで草

 

1837:名無し転生者

圧を感じますよ圧を

 

1838:脳髄惑星

めっちゃおもろい

 

1839:遠征先転生者

いや、遠征は普通に出て行って。

ちゃんと連合の首都に来たんですよね。

 

それで御影さんと先輩と普通に観光してたんですよ。

色んな種族が集まって、お祭りをしているんで。

色んな出店とか見世物とかもあったんですよ。結構テンション上がった。

 

1840:名無し転生者

ええやん

 

1841:名無し転生者

亜人の出し物とか凄いしな

 

1842:名無し転生者

種族特性を興行に回せるのは強いわ

 

1843:遠征先転生者

で、普通に楽しんでたんですけど。

 

路地裏で怪我してた鳥を拾ったんですよ。

 

1844:名無し転生者

 

1845:名無し転生者

はぁーん?

 

1846:脳髄惑星

あっ(察し

 

1847:遠征先転生者

それで観光切り上げて部屋に連れて帰ったんですよね。

治癒魔法もかけて。どうしよっかなーと思ったら、

 

なんか女の子になった。

 

1848:天才様

なんで????

 

1849:名無し転生者

ちょっと待って!?

鳥が女の子になったってことは>1の前に全裸の女の子が!?

 

1850:名無し転生者

そこ?

 

1851:遠征先転生者

いえ、ちゃんと服着てます。

今ベッドに御影さんが寝かせてるんですけど……魔法かな。

先輩に聞いてきますね。

 

1852:名無し転生者

なんだ……

 

1853:名無し転生者

鳥への変化魔法かな

 

1854:名無し転生者

鳥になったり人になったりするのはわりと珍しいな。

足や頭が鳥とか、翼生えてたり、腕が翼のハーピーとかがあるけど

 

1855:名無し転生者

基本鳥頭っていうかあーぱーが多いな俺の世界

 

1856:名無し転生者

俺んとこは結構誇り高い性質や

 

1857:遠征先転生者

 

「獣と人の姿になる魔法というのは確認されていませんね。

 

そして、種族特性としては非常に珍しい。

特定の亜人種には人間的特徴を持ったタイプもいますが、

その中でも好きに人と動物の割合を変えられるのは非常に珍しいです。

 

高次獣化能力者(メタビースト)と呼ばれる希少能力ですね」

 

らしいです。

 

1858:名無し転生者

はえー。

 

1859:名無し転生者

魔法じゃなくて種族特性なのか

 

1860:天才様

あの魔法系統じゃ、他の生物に変身する要素がないからね。

別口で動物情報が必要になる。

 

……で?

 

1861:遠征先転生者

とりあえず寝かしてるんですけど、どうしようかなと……

 

1862:名無し転生者

起きて話聞かないとどうにもならんじゃろ

 

1863:名無し転生者

ですわね

 

1864:脳髄惑星

厄介ごとの気配がしますね……

 

1865:名無し転生者

>1、とりあえずスクショ頼む!!!

>1の周りの女の子は属性過多で楽しみにしてるんだ。

 

1866:名無し転生者

それはそう

 

1867:名無し転生者

属性モリモリだもんな天才ちゃんもお姫様も先輩も

 

1868:遠征先転生者

 

ttps:enseisakitenseisya/SS……

 

 

1869:名無し転生者

これは!!!

 

1870:名無し転生者

此処に来て!?

 

1871:名無し転生者

エロチャイナやんけ!!!

 

1872:名無し転生者

めっちゃ軽装

 

1873:脳髄惑星

獣人ぽさないな。これがメタビーストってやつか。

 

1874:名無し転生者

へそ出しがすげぇ

 

1875:名無し転生者

あれ、こういう時いつもなら職人ニキが

長文で服装解説してくれるけどどうした?

 

1876:名無し転生者

そいや見ないな

仕事忙しいんか?

 

1877:名無し転生者

俺らの語彙力では表現が難しいな

 

1878:自動人形嫁

失礼いたします

 

1879:名無し転生者

ふぁっ!?

 

1880:名無し転生者

どなた!?

 

1881:脳髄惑星

嫁!?

 

1882:自動人形嫁

はい。

主人は現在依頼された人形作成が多忙につき、

私が代わりに本掲示板へ書き込みを行っています。

 

曰く、このスレはインスピレーションが湧いてくるので

経過をリアルタイムで見届けて欲しいとのこと

 

1883:名無し転生者

え? マジで職人ニキが作ったていう人形の嫁さん?

 

1884:名無し転生者

主人とは……マスター的な意味で?

 

1885:自動人形嫁

はい、そしていいえ。

メイド型の自動人形として作成されたのでその点においてはご主人様でありますし、

同時に夫ですのでそういう意味においては主人となります。

 

1886:名無し転生者

あのニキメイド嫁だったんか!?

 

1887:名無し転生者

い、良い趣味してる。

 

1888:名無し転生者

うらやまし~~~~~~!!

 

1889:名無し転生者

め、メイドさんの情報は?

 

1890:自動人形嫁

金髪巨乳クラシカルメイド服、日常生活から夜のお供、戦闘まで

全てを完璧にこなす良妻兼メイドでございます

 

元々は元素の大精霊でありました

 

1891:名無し転生者

あれ、わりと高次元存在……?

 

1892:名無し転生者

金髪巨乳メイド……?

 

1893:名無し転生者

ていうか現地の存在が掲示板アクセスできるん?

 

1894:天才様

魂魄レベルの繋がりや契約があれば可能だけど。

ふぅん、あの彼思ったより腕がいいな……

 

1895:名無し転生者

う、羨ましい……

俺もメイドさんになる奴隷買おうかな……

 

1896:自動人形嫁

主人から本スレにおける容姿や衣服の詳細を描写するように言われております。

 

外見年齢十代半ば。黒、というよりも青や紫を僅かに含んだ濡れ羽色ですね。前髪が1房だけ黄色。

衣服は主人がチャイナドレス、と呼んでいるものに似ていますね。

白の金糸、翼を模した刺繍が美しい。

布が足首までスリットがあるのをよく見ますが、胸元までしかなく、

下半身はスパッツに、サンダル、太ももまでのバンテージ。

 

倒れているので全ては見えませんが、背中が完全に露出していますね。

鳥人ということですし、翼が生えるのでしょうか。

 

全体的に極めて軽装で露出も多く、空気抵抗も少なそうですし飛行に適した服装かと。

 

短めのポニーテールに引き締まった筋肉を見る限り、

良く鍛えられて実に健康的な美少女かと思います。

 

1897:名無し転生者

すげぇ理論的な解説だ……

 

1898:名無し転生者

自動人形って感じだ……

 

1899:脳髄惑星

なんか親近感湧く

 

1900:自動人形嫁

お望みとあればギャルモード、メスガキモード、妹モード、甘やかしモード、姉モードに

口調の変更可能です―――おっと、これは主人専用でした

 

1901:名無し転生者

こ、こいつ!!

 

1902:名無し転生者

羨ましい……!

 

1903:名無し転生者

職人ニキへの殺意が……!

 

1904:脳髄惑星

やっぱ親近感湧かねぇな

 

1905:天才様

ていうか>1、どうした?

 

1906:名無し転生者

そいや反応ないな

 

1907:名無し転生者

見てない?

 

1908:脳髄惑星

おーい、>1?

 

1909:自動人形嫁

初見ですが、このようなことはよくあるのでしょうか

 

1910:名無し転生者

顔出さない時は顔出さないけど、

顔出してて反応しないのは珍しいな

 

1911:名無し転生者

鳥の子がまさかなんかしたか?

 

1912:名無し転生者

先輩に姫様もおったし、滅多なことないと思うが

 

1913:天才様

返事をしたまえ

 

1914:名無し転生者

イッチー?

 

1915:天才様

>1

 

1916:天才様

なんでもいいからアクションしたまえ

 

1917:天才様

おい

 

1918:天才様

ヨーヨーぶつけるぞ

 

1919:天才様

――――

 

1920:遠征先転生者

すみません、ちょっとトラブってました

 

 

1921:天才様

心配させるな!!!!!!!

 

1922:天才様

いや心配とかしてないが

 

1923:脳髄惑星

よかった。

 

天才ちゃんさぁ

 

1924:名無し転生者

それはちょっと無理がある

 

1925:名無し転生者

怒涛のレスで挟められなかったわ

 

1926:自動人形嫁

なるほど、全て理解しました

 

1927:天才様

えーい、うるさいな。

 

それで>1、何が起きたんだい

 

1928:遠征先転生者

えっと、彼女……フォンさんって言うんですけど、

さっき目が覚めた途端にちょっと暴れまして。

 

ベッドから飛び出したと思ったら、スーパーボールみたいに

部屋のあっちこっちに跳ねまわったんですよ、大分混乱してたみたいで。

 

滅茶苦茶速くて、目で追えないレベルでした

 

1929:名無し転生者

ひえー、そらこっちレスできなくなるわ

 

1930:名無し転生者

>1の目で追えないって相当速くない?

 

1931:名無し転生者

はえーすっごい

 

1932:脳髄惑星

どうしたんそれ

 

1933:遠征先転生者

先輩が早撃ちで撃ち落としました

衝撃弾が額にヒットしてカックーンなってました

 

1934:名無し転生者

 

1935:名無し転生者

つよい(確信

 

1936:名無し転生者

流石すぎるわ

 

1937:天才様

怪我してないのか

 

1938:遠征先転生者

はい! ご心配をかけました!!

 

1939:天才様

心配なんてしてないが???

 

1940:自動人形嫁

なるほど―――これがツンデレ

 

1941:名無し転生者

 

1942:名無し転生者

言わないであげて!!

 

1943:名無し転生者

草生い茂る

 

1944:脳髄惑星

俺ぁここで怪我無いかって聞ける天才ちゃん流石だと思うよ

 

1945:遠征先転生者

いや、ほんと心配かけました

 

で、止まったところを御影さんが首根っこ掴んで床に叩きつけて動き止めて。

床板罅入って、フォンさんが凄い潰れた蛙みたいな声出したので慌てて止めて

 

そっから話を聞いてました

 

1946:名無し転生者

姫様流石です!

 

1947:名無し転生者

さすひめ!

 

1948:名無し転生者

物理系姫君よ

 

1949:脳髄惑星

>1の周りには有能でいっぱいや

 

1950:遠征先転生者

それで、どうして倒れてたとか聞いてたんですが

色々ややこしいぽくて。

 

えーと、纏めますね

 

1951:名無し転生者

助かる

 

1952:名無し転生者

>1も慣れて来たなぁ

 

1953:遠征先転生者

・今回のお祭りは氏族同士の試合みたいなのがあるらしい

・七氏族はその試合を10年に一度やって、その順位でその先10年の氏族間の発言権や他国からの輸入優先権が貰える

・フォンさんは鳥人族の代表

・前回は鳥人族は最下位で苦汁をなめることになったのでなんとしても勝ちたかった

・だけど、試合前(明日行われる)に何者かに襲撃された

・暴れたのは拉致されたと思った

・滅茶苦茶平謝りされたので、いい人

 

って感じ

 

1954:名無し転生者

ほー

 

1955:名無し転生者

そういう感じなのね

 

1956:名無し転生者

うわこれ面倒な気配を感じるぞ

 

1957:名無し転生者

政治的なあれですわね……?

 

1958:脳髄惑星

っぱディストピアよ

 

1959:自動人形嫁

フォン様の容態はいかがなんでしょうか

 

1960:遠征先転生者

あんまり良くないぽいです。

 

鳥人族ってわりと身体が脆いらしくてダメージが大きいと

魔法だけじゃ体力まで回復しないぽいんですよね。

 

自分と先輩が治療しましたけど、それでもわりと死にかけだったぽくて……

明日の代表戦には厳しそう。

 

滅茶苦茶落ち込んでます。

涙こらえてるくらいには

 

1961:名無し転生者

あちゃー

 

1962:名無し転生者

あかーん

 

1963:自動人形嫁

なるほど。空を飛ぶには重量を減らす必要がありますし、

骨の密度や重量が軽くなるようになっているのでしょうね

 

1964:名無し転生者

どーすんだ?

 

1965:名無し転生者

どーすんだっつっても……?

 

1966:脳髄惑星

>1たちは命助けたわけだけど、そっから先は氏族同士の話でどうもできなくね?

 

1967:名無し転生者

それはそう

 

1968:名無し転生者

せやなぁ

 

1969:名無し転生者

氏族ってようは国の代表同士の話じゃろ?

規模がデカいというか学生の関わる余地なくね?

 

鳥っこちゃんからすれば文字通り氏族の命運を背負ってるだろうけど……

 

1970:天才様

どうするというかさ

 

1971:天才様

>1はどうしたいんだい

 

1972:天才様

言っとくけど、おすすめはここでその子を解放するなり、

鳥人族のところなりに連れてオサラバだよ。

 

遠征中の学生が、そういう勢力争いに関わると碌なことがない

今後、色々面倒なことへの火種になるかもしれない

 

1973:天才様

この僕のありがたいアドバイスを聞いた上でもう一度聞くが、

 

>1、君はどうしたい?

 

1974:遠征先転生者

彼女を助けます

 

1975:天才様

ん。

 

1976:遠征先転生者

すみません

 

1977:天才様

いいさ。そう言うと思った

 

1978:名無し転生者

まぁここで見捨てるのもね

 

1979:名無し転生者

ここで助けてこそ転生主人公よ

 

1980:脳髄惑星

ここで放っておいたら遠征も楽しめないだろうしね

 

1981:遠征先転生者

ありがとうございます、皆さん

 

できれば力を貸してもらえると嬉しいです!

 

1982:名無し転生者

もちのろんや!

 

1983:名無し転生者

あぁ!! 

 

1984:名無し転生者

あんな即答されちゃ止めとけとは言えないべ

 

1985:名無し転生者

ふっ……ついに俺の出番か……

 

1986:名無し転生者

>>1985 どうした

 

1987:名無し転生者

>>1985 大丈夫か? テンション上がり過ぎてない?

 

1988:天才様

僕は力技がおすすめなんだが……どうしようかね。

まずは氏族間の話や襲撃犯を見つけないと

 

1989:名無し転生者

天才ちゃんスルーで草

 

1990:名無し転生者

>>1985 何者やねん

ちゃんとこういう経験あるんか?

 

1991:名無し転生者

俺も>1と似たような学園に3年間通って、

この手の政治戦争に巻き込まれ暗殺されかけること100回以上や

 

1992:名無し転生者

王族暗殺ニキじゃねーか!!!!!

 

1993:天才様

 

1994:暗殺されまくり王族

あぁ!!!!!!!!!!

 

あの糞みたいな日々の経験を!!!!

今!!!!!!!!

ここで活かすぜ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

2082:暗殺されまくり王族

と、言う感じで行けば、後は>1の頑張り次第でいけると思う

 

 

2083:天才様

僕がお前をまず暗殺してやろうか??????????

 

 

 

 




>1 
何やら思う所があったらしい

天才ちゃん
心配なんてしてないが?????

フォンちゃん
黒髪ポニテ背中臍丸出しチャイナ服スパッツ高速機動鳥人

自動人形嫁
元素の大精霊金髪巨乳の完璧メイド

自動人形ニキ
彼は知らない……次に顔出した時にメイドを出せとブーイングされまくるのを……


王族暗殺ニキ
政治や暗殺に詳しい人なんて……

―――いるさ、ここに一人な!!!!


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??? ー希望ー

感想が王族暗殺ニキ大喜利みたいになって笑ってしまいました。


今回は特殊地の文回です


 そこは神秘に満ちた空間だった。

 

 本、本、本、本――――――本。

 膨大すぎる本が空間の至る所に保管されている。上下左右の概念すらも曖昧で、いかなる重力が働いているのか天井に本棚が立っているところもあれば、埋め込まれているものもある。塔のように円柱状の本棚がいくつも空間に突き刺さり、始まりと終わりは解らない。

 納められたものや製本されたものもあれば、木の板が纏まった古風な木簡や巻物も多種多様。

 少なくとも視界の果てまでは書物の混沌が広がった閉じた空間なのに何故か暗さはない。

 むしろ、春の木漏れ日の様な優しい光があちこちからスポットライトのように差し込み空間全体を優しく照らしていた。

 

 そして光の交差点の一つ、無限の書架らには似合わない泉があった。

 光に照らされているだけでなく、水自体も光を放っているかのような。光を受けながら薄水色に水は輝き、書架との不釣り合いなれど奇妙な不思議さと美しさを生み出していた。

 

 ばしゃりと、水音が鳴る。

 泉から1人の少女が浮き上がり、歩みを進めていた。

 水深は左程深くはないのだろう。少女の太ももあたりまで。

 

 人形の様な、一見幼い少女だった。

 光の雫が滴る髪は純白で、肩のあたりで無造作に切りそろえられている。凹凸は控えめでシルエットや身長は子供のそれではあったが、子供特有の丸みは少なく、指や足はほっそりと伸びていた。

 人としての造形の整い方は並々ならず、賞賛する言葉をいくら連ねても足りず、どう見ても子供でありながら、どこかに老成した雰囲気があり、妙な色気を生んでいる。

 足や胴、頭が黄金比であるためか、小さくはあるが幼くは見えないのだ。

 最高の職人がそれまでの全ての経験と技術を注ぎ込み生んだ人形、と言っても誰も驚かないだろう。

 無論、その平坦な胸は呼吸により上下しており、確かに彼女が生きていることを示していた。

 首から下には産毛一つなく、玉の様な肌のきめ細かさが身体から流れる水滴を弾かせていた。

 精巧に整えられた人形の様な、あるいは濡れた裸体を見れば妖精のようにも見え、世界と光に愛されたような彼女の目は、しかしそこだけ対照的だった。

 ハイライトの消えた暗い紅玉のような瞳。

 形の良いはずの目はちゃんと開かれることなく常時半目のまま。

 あらゆる光に愛され、彼女自身から光を放つような美しさの容姿にもかかわらず、その全ての輝きを飲み込むような深く赤黒い双眸。

 あらゆる何もかも、世界にすら絶望したような目だった。

 

「…………」

 

 乱雑に水音を立てながら泉を進む姿は、他人の視線を構うような様子はない。

 当然だろう、この書架は文字通り彼女の城であり、他人の侵入を決して許さない難攻不落の砦なのだから。

 そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 泉から上がった彼女は全身が濡れたまま、それに構う様子がない。 

 ただ右手を掲げ、軽く振り――――次の瞬間には濡れていたはずの体や髪は渇いて、衣類を纏っていた。

 深い藍色に随所に複雑な刺繍が織り込まれた胸で布を重ねる胴着のような服だ。袖はバッサリと落とされほっそりとした肩から腕、脇は露出し、布の丈は太もも半ばまでのミニスカート丈。腰あたりで太い幾何学的刺繍の入った帯でまとめられている。

 見る者が見れば、地球におけるチベット地方の民族衣装、チュバによく似たものだと思っただろう。

 裸足のままの彼女は本棚の塔の隙間に歩みを進めていると、どこからともなくフード付きの真紅のマントが飛んできて一人でに肩にかかる。

 袖が勝手に動き、彼女の細腕を通そうとするが、

 

「要らない」

 

 鈴のような、しかし妙に低く深い声だった。

 声質は少女のそれにもかかわらず、やはり子供らしくない重みがある。

 少女の一言で力なくマントの動きが止まった。

 袖が萎れたように垂れたと思えば腕を、裾が太ももを撫でる。

 

「そっちも要らないって」

 

 彼女は肩をすくめつつ、袖を撫で、

 

「もうベッドだしね」

 

 言った瞬間、本棚の海から寝室へと風景が変わっていた。

 打って変わって、小さな部屋だった。

 ベッドと机、椅子だけの石造りの部屋。天井からはランタンが吊るされて部屋を暖かく照らしている。窓の外は夜であり、僅かに月明かりが差し込んでいた。

 ベッドに腰かけ、数冊の本が置かれた何もないはずの机に手を伸ばし、

 

「ん」

 

 手にはマグカップ。その中にはどす黒い漆黒の液体が。

 数倍濃縮されたエスプレッソ。本来専用のカップで少しずつ飲むそれを、水か何かのようにマグカップで傾けていく。

 ベッドには来たが、眠るつもりはない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 マグカップを机に置き、

 

「あーーーー」

 

 息を吐きながら、ベッドに寝転がる。

 マントは勝手に外れて、掛け布団に早変わり。

 厚手の胴着であり、刺繍に見えるそれは37層の魔術防護が仕込まれているが着心地は寝間着としても十分に耐えうるもの。

 軽く伸び、そして思うのは、

 

「なんなんだろなぁ、()

 

 数か月前に掲示板と呼ばれる次元間交信魔術――と、彼女は定義している――で知り合った少年のこと。

 万能の力を持ち、しかし万能が故に手詰まりだった少年。

 その転生特権(チート)の興味深さ故に、術式を教え、アドバイスをしていたが、

 

「う゛ぅぁぁぁぁ」

 

 思わず額を手の甲で抑えてしまう。

 入れ込んでいるな、という自覚があった。

 自由にしている意識リソースを「彼」に割いてしまっている。

 しばらく唸り、

 

「はぁ」

 

 嘆息し、改めて「彼」について考える。

 「彼」は純粋な少年だ。素直、純朴、実直、そういう言葉が服を着て歩いていると言ってもいい。

 それは掲示板の名無しや名前付きの応援振りからしてもそうだし、自分がまさにその証明。

 転生特権(チート)の中でも最上位であろう万能性・応用性を持つがそれに驕らず、他者を尊重し、感謝と礼を尽くせるような少年だ。

 自分が戯れに名付けた術式の数々。ラテン語の格言を元につけたせいで、普通に発音すると慣れない者には必ず舌を噛みそうなそれを、彼はしっかりと口にする。

 

「ぐぅ」

 

 それは、正直ちょっと嬉しい。

 ちょっとだけ。

 ほんとにちょっとだけだ。

 いや、そうではなくて。

 「彼」は他人に助けを求めることができて、尚且つ自分でできる範囲のことは自分でなんとかしようとするタイプの人間だ。

 知ったきっかけは彼の救援だったし、少なくとも鬼の姫との戦いからは自己の範囲は自分で努力している。

 最近のテストもそう。

 掲示板にあまり顔を出さずに真面目に勉強していた。

 あのあたりは暇だったなぁと思う。

 何にしても、だ。

 それなりに「彼」のことは知っているつもりだ。

 「彼」が生家から魔法学園に行くまでの三か月のうちの一月半。毎日直通交信で術式を教えていたし、その後の動向も見守っていた。

 「先輩」に伝えた言葉も聞いていた。

 聞いてしまっていた。

 

「っ~~~」

 

 思わず両手で顔を覆い、足をばたつかせた。

 マントが主の突然の悶絶にワタワタと揺れ動くが、それがしばらく続き、

 

「ふぅぅぅぅ――――落ち着けよ、僕。みっともない」

 

 誰も見ていないはずなのに、無駄に凛々しい顔つきで呟いた。

 造形が整い過ぎているので様になっているのが逆に冗談のよう。

 問題は、つい先ほどのことだ。

 遠征先で遭遇した氏族間の問題に彼は自ら首を突っ込んだ。

 

 助けたいとか助けたいから力を貸してほしいとかではなく―――「助ける」と「彼」は言った。 

  

 それが妙に引っかかる。

 掲示板では流されていたし、自分も気にはなかったがその瞬間は突っ込まなかった。けれど、時間が経ってどうしても違和感を覚えたのだ。

 氏族間の駆け引き、氏族の10年の行く末を決める戦いは「彼」の対処できる範囲を確実に超えている。

 なのに、助けを求めることはなく助けることを選んだ。

 これまでだったら、きっと掲示板を使って解決策を求めただろう。それまでの流れでどうしようもない空気があったから、そう言ったといえばそこまでなのが、どうしても引っかかるのだ。

 助けたという鳥人族の少女の、一体何が引っかかってあそこまで強い意志を見せたのか。

 

 解決策自体は既に示された。

 気にくわないが、「暗殺されまくり王族」とかいうふざけた名前の転生者は有能だった。

 思いついた策を言うのではなく、「彼」や鳥の少女、「先輩」や鬼の娘から情報を引き出し、「彼」を誘導して鳥人族にまで話を聞いてから策を編み出した。

 それも「彼」の背負うリスクとリターンや確実性を段階分けで伝えることで、最後は「彼」の意思を尊重していた。

 政治や国家の駆け引きを忌み嫌い、()()()間この世界の文明に関わっていない彼女にははじき出せないものだっただろう。

 正直、全く以て気にくわない。

 気にくわないが、仕方ない。

 「彼」は既に選択したのだから。

 

 だから、思うのは「どうして」だ。

 あの「先輩」ではないが「知りたい」ということを随分と久しぶりに覚えた。

 それも、対個人に対してなど。

 

「…………」

 

 上体を起こし、右手の人差し指と中指の二指を軽く振る。

 指の動きに沿って、中空に白い火花が散り、それは光の線になる。

 少女の眼の前で伸び、細かい文様を描きながら長方形に結ばれた。

 

 掲示板――――――ではなく、それを利用した個人通信術式だ。

 

 自分や掲示板ではDM、ダイレクトメールと呼ばれるもの。多重次元に干渉できる彼女だからこそできる神業なのだが、それを指二本で当たり前のように発動し、少女も頓着せずに通信枠を眺めている。

 接続は、既に「彼」の下に。

 言葉を伝えようと念じれば、掲示板と同じ要領で直通される。

 だが、何というべきだろうか。

 聞けば教えてくれるだろうが、多分それは「彼」の生前、深い所に踏み込むものだ。

 そうやすやすとラインを超えていいのか、と思ってしまう。 

 だから迷う。

 そして気になってしまう。

 

「……どうして」

 

 思わず呟いた瞬間だった。

 通信枠が反映されて、光の糸が言葉通りに文字を記した。

 

「あ」

 

 そして思い出す。

 最後にDMを使ったのはそれこそ「彼」との修業時期。

 色々自分でも系統の掛け合わせを実際に試しながらだったから音声入力をしていたのだ。

 つまり、先ほど漏れた言葉は既に彼に送信されてしまった。

 慌てて手を掲げ、送信を取り消そうとして、

 

『どうしました?』

 

「…………んっん!」

 

 恐るべき即レスである。

 そのことにちょっとだけ嬉しさが胸の奥から滲み、頬が緩みそうになるのを抑えつつ咳払いで意識を切り替える。

 次元世界最高の魔法使いはこの程度では揺らがない。

 

『……今回の件について、ですか。すみません、無理を言って』

 

「んんんっ、ん……うむ」

 

 反応が速い。

 流石すぎる。

 咳払いを繰り返し、腹を決める。

 

「……そうだね。君の様子が少しおかしかったから。気になったんだよ。……あまり、掲示板で聞くのもどうかと思ってね」

 

『ありがとうございます。すみません……自分でも、ちょっと無理をしてるかなとは思いました』

 

「ふふふ、やっぱり」

 

 笑い、改めてマグカップを手に取る。

 なぜか妙に気恥ずかしくて、飲み物がないとやってられない。

 足をずらし、胡坐をかいて彼の言葉を待つ。

 

『フォンさん。彼女は自分の境遇を変えようと必死で10年間鍛えて来たそうです。氏族の未来を背負って、そのためだけに。高位獣化能力者(メタビースト)ということもあって、鳥人族の希望だった。だけど、それが断たれた』

 

 そして少し間が開いて、

 

『―――――その気持ちが、僕にも分かったんです。()()()()()()()()()

 

「君は」

 

 思わず口を開いた。

 少し迷い、

 

「……聞いてもいいのかい?」

 

 踏み込むことを、少女は選んだ。

 

『はい』

 

 そして「彼」も応えて、

 

『掲示板でも話しましたけど、僕は転生の前に両親が死んで、妹は自殺しました。でもそれは少しだけざっくりで、本当はその間結構空いてるんですよね』

 

 両親は死に、妹は自殺。そして中卒で働きに出た。

 それが掲示板から知っている「彼」の生前だ。

 掲示板に顔を出す者たちもあまり触れようとしてこと無かったものを、彼女は今触れようとしている。

 

『両親は良い人でした。お人好し、って言ってもいいかもしれません。父は小さいですけど会社の経営をしていて、母も優しかったし、妹は少しお転婆だったけど素直ないい子でした』

 

「君に似たのかな」

 

 どうですかね、と文字だけど苦笑した気配を感じた。

 けれど、言葉は続き笑みの気配は消えていた。

 

『僕が中学に上がった頃、父の会社が倒産しました。経営を失敗したとか、不景気だったとかじゃなくて、詐欺にあったということだけ聞いています。今となっては詳しいことは分からないんですけど、それでもとにかく父は仕事を無くし、もっと給料の低い会社になんとか再就職したんですけど、その間に家計をカバーしようとした母は体を壊した』

 

 結果的に、その治療費で収入はほとんど消えて毎月ほとんど赤字だったらしい。

 だから彼も中学生でできるバイトを探して、進学せずにそのまま就職したという。勿論中卒の給料は限られるが、それで数年は何とかしたという。

 

『あの日は、妹の高校の入学式でした。妹は勉強を頑張って特待生の推薦で入学したんですよね。その日僕は夜勤明けで入学式に直接向かってたんです。両親と妹は歩きで直接学校へ行って』

 

 そして、

 

『――――両親と妹に、トラックが突っ込みました。両親は即死で、妹は後遺症が残るほどの大怪我で、リハビリも含めれば退院に半年くらいかかったんですよ。それでも足は動かず、片腕にも麻痺が残るものでした』

 

「……それ、は」

 

 そんなことって。

 そんなことってないだろう。

 少女の高校入学という晴れの日にそんな悲劇だなんて。

 家のことを考えれば、奇跡的に得たと言っても良い青春が一瞬で消えてしまうなんて。

 けれど、それで終わらないのだ。

 

『半年後、なんとか妹は家に帰って。お風呂やトイレにもなんとかいれてご飯も食べさせて。練習はしてたけど僕も慣れてなかったからすぐに泥のように眠ってしまって』

 

 目が覚めたら、

 

『妹が、台所で自殺していました。リビングで寝かしていたんですけど、片腕で這いつくばって台所まで行って』

 

「――――」

 

 反射的に、手が動いた。

 指が跳ね、五指に指輪が現れ光を帯びる。

 マントが手に絡みつかなければ、衝動的に魔法を発動していたかもしれない。

 ただの私情による()()は己自身が禁忌と定めていたことなのだから。

 

「…………君は」

 

 胸の奥に、久しく感じていなかった痛みがある。

 掲げた腕から力が抜け、マントもしゅるりと滑り落ちた。

 

『遺書はなかったので、どうしてか分かりません。今後の生活に絶望したからか、両親を失った悲しみか、高校生活が台無しになったから、女の子が兄とはいえ異性に下の世話をされるのが嫌だったのか。理由なんていくらでも思いつきますけど、結果として妹は自ら命を断ちました』

 

 それが全てだと、言外に告げていた。

 

『それからしばらく、僕は機械的に過ごして、そして死にました。死んだ理由はあんまり覚えてないんですよね。というより、妹が死んで―――()()を失ってしまったから』

 

「――――()()()

 

 ふらりと、少女の体から力が抜け、マントが慌てたように支える。

 何度か口を開きかけて、結局閉じて。

 

『だから、彼女を放っておくわけにはいかなかったんです。彼女は僕と同じで、一瞬で希望を失ってしまった。かつての僕と同じように。だから――僕は彼女を助けたい、助けます』

 

 それは文字の羅列でしかなかったけれど。

 それでも確かに確かな誓いが込められていた。

 彼女の為ではなく、「彼」が「彼」であるが故に、助けなければいけないのだ。

 転生したとしても、逃れられない魂の楔。

 ふと、顔を上げて窓を見る。 

 夜の黒とランタンの橙が生み出す天然の鏡には白髪の眼付きの悪い美少女がいて、

 

「―――っ」

 

 そこに、もはや摩耗した少年の顔が被った。

 最後に思い出したことさえ思い出せない、自分の前世のことなんてはるか遠く。

 かつてに縛られて生きるのには、少女は少女として生きる時間が長すぎた。

 

 頭を強く振り、幻影を振り払う。

 もう、思い出そうとしてもはっきりとは思い出せないものだし、今生が長すぎてかつての自分だと思えない。

 

「君は」

 

 絞り出した声は、自分のものとは信じられないほどに弱弱しかった。

 同じような話は、色々な世界でいくらでも聞いたのに。

 それこそ聞き飽きたと言ってもいいのに。

 森羅万象を見通す至高の魔術師と言われたはずの彼女は、どうしたって胸の奥が張り裂けそうだった。

 

「君は……今、希望を見つけられたのかい?」

 

 返事には少し間を空いた。

 続きを聞きたいような、聞きたくないような。

 そして、帰ってきた返事に彼女は思わず通信枠を消してしまった。

 何でも分かると思っていたのに、どうしていいのかわからなくて。

 どうせ、きっと寂しげに苦笑している「彼」を抱きしめられないから。

 

 

『――――いつか、見つけたいですね』 

 

 




「彼」
幸せになれば、見つけられると思う。
希望を見つければ、幸せになれると思う。

「彼女」
多重次元間の移動は些細なことがそれぞれの次元同士にどんな影響があるかは未知数。故に、確かな理由がなければ移動は禁忌し、掲示板のみを使うこと。
そう決めたのは彼女だった。
だから、彼女は「彼」を抱きしめられない。

服装情報に関してはまだ未完の模様

次回はいつも通りの掲示板スタイルで


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我、王ぞ???

2245:遠征先転生者

 

「今後、よろしくお願いします主殿! このフォン、粉骨砕身で主殿の翼となり邁進していくでござんます!!」

 

 

どうして

 

2246:名無し転生者

 

2247:脳髄惑星

口調ガバガバすぎるわ

 

2248:名無し転生者

頭が軽いタイプの鳥なんよ

 

2249:暗殺されまくり王族

というより、極めて実直なのであろうな。

>1の会話を聞いていても、愚かというほどではないが駆け引きや心理戦を行う様子がない。

聞いた言葉をそのまま受け取るタイプなのであろう。

 

2250:名無し転生者

う、うっす

 

2251:名無し転生者

なるほど……

 

2252:名無し転生者

暗殺ニキ、慣れたら急に威厳が……

 

2253:暗殺されまくり王族

我、王ぞ???

 

2254:名無し転生者

はい……

 

2255:名無し転生者

口調の説得力よ

 

2256:脳髄惑星

わりと年齢行ってられる?

 

2257:暗殺されまくり王族

今年で55である

 

2258:名無し転生者

わりと行っておられる……

 

2259:名無し転生者

王族っていうか王様じゃん……

 

2260:名無し転生者

みんな口調を掲示板仕様にしてるけど素が濃すぎるんですけど……

 

2261:名無し転生者

ちょっと普通にしゃべってみない?

 

2262:名無し転生者

いいにゃ

 

2263:名無し転生者

よくってよ

 

2264:名無し転生者

それより>1が気になるンだけどよォ

鳥ん子マジで順応はぇーなァ

 

2265:脳髄惑星

肯定する。上記の王ニキの言う通りそういう種族特有の精神構造故だろう。

加え、>1の行動はまさしく彼女の未来を救うものであったと判断できる。

 

故、懐かれたとしても何の不思議もない。

 

2266:名無し転生者

つまりこれは>1もテンプレ奴隷ルートというわけでありますな!

 

2267:名無し転生者

>1に影響されて奴隷買って大事にしてるっすけど、

こうなるとは僕もびっくりっすね

 

2268:名無し転生者

それで、>1は準備できてるにゃ?

 

2269:名無し転生者

大一番ですわ!! 盛り上げていきましょう!!

 

2270:自動人形職人

えっ、なんですかこれは……

 

2271:名無し転生者

職人ニキじゃねェの

 

2272:名無し転生者

お嫁さんと替わってほしいニャ

 

2273:脳髄惑星

数日振りの出現だな、自動人形職人ニキ。

では早急に、メイドさんとの入れ替わりを。

 

2274:自動人形職人

なんで……?

 

2275:名無し転生者

しかしこれ、解りやすいけど分かりにくくないかにゃ?

 

2276:名無し転生者

そうっすね

 

2277:名無し転生者

画面がうるセーんだワ

 

2278:名無し転生者

止めましょうか

 

2279:暗殺されまくり王族

賢明な判断である。

>1のサポートの為にコテハン勢はいいとしてもそれ以外は聊か余興であるな。

我も今回のことが終われば、名無しに戻るとしよう

 

2280:脳髄惑星

否定する、貴殿は愉快なのでそのままでいてほしい。

名無しに貴殿が潜んでいると思うと気が気ではない。

 

2281:名無し転生者

それじゃー、次からいつも通りということでよろしくて?

 

2282:名無し転生者

ヨシ!

 

2283:名無し転生者

ヨシ!

 

2284:名無し転生者

ヨシ!

 

2285:名無し転生者

ヨシ!

 

2286:脳髄惑星

ヨシ!

 

2287:自動人形職人

ヨシ!!

 

2288:自動人形職人

いや、何があったんです?

嫁から王族、というか王様?が案を考えるところまでは聞いたんですけど

面白いから自分で聞いてこいって言われて……

 

2289:名無し転生者

人形嫁さん性格愉快で草

 

2290:暗殺王

うむ。では改めて解説しようと思うが、>1の方は大丈夫か?

 

2291:遠征先転生者

「敬語はいい? ――――なるほど、解ったよ主様!」

 

判断が速すぎる……あ、はい。お願いします。

今移動中ですし、僕も確認したいですから

 

2292:名無し転生者

鳥ちゃんおもろいな

 

2293:名無し転生者

姫様や先輩とは違うタイプや

 

2294:名無し転生者

>>2290

暗殺(されまくり)王でなんか草

 

2295:暗殺王

今回の問題は>1が氏族間の勢力優先権にどうやって関わるか、というのが問題ではあった。

氏族の未来を決めるのは氏族の者であるべき、というは単純故に強固な前提である。

 

人間種であり、部外者でもある>1がどう介入できるようにするか、

その解決は、しかし転生者としてはテンプレ―――即ち、奴隷である

 

2296:名無し転生者

なにっ

 

2297:名無し転生者

なんだってー!?

 

2298:名無し転生者

奴隷、いいですよね

いや、アース・ゼロの歴史で言うと良くないイメージですけど

世界によってはちゃんとした職業だし

 

2299:暗殺王

もっとも、奴隷というのは一候補で、何かしらの関係性を構築できればなんでもよかったのだが。

婚約を結ぶなり、彼女の親の義理の息子になるなり、逆に彼女の所有物になるなり、な。

 

最も>1に有利な条件は彼女が>1の所有物になることだったが。

 

2300:自動人形職人

なるほど?

 

それスムーズに通ったんですか?

 

2301:脳髄惑星

即答イエスやったで。

 

2302:自動人形職人

えぇ……?

 

2303:名無し転生者

「自分の身柄で氏族の未来に可能性が出るのなら!」

「そもそも貴方たちに命救われてますので!」

 

でもう二つ返事よ

 

2304:名無し転生者

鳥人族の人たちも「学園の主席なら!」で歓迎しとったしな。

助けてくれてありがとう!ってめっちゃ喜んでた。

 

2305:名無し転生者

ちょっと怖かったけど、マジこう……純粋だったんよね

 

2306:名無し転生者

奴隷制度が囚役とかだけだったみたいだけらしいし、抵抗あるかと思ったんだけど

逆にそういうのなかったなぁ

 

2307:名無し転生者

まぁ学園の主席ってのが大きいんちゃう? わりと将来も働き口困らんみたいな話あったし

最大の要素は鳥人族の性質っぽいけども

 

2308:脳髄惑星

他人の悪意疑わなさそうだよな。

前の勢力争いでもそれで負けたんちゃうやろか

 

2309:暗殺王

それもあったであろうな。だからこそ、高い才能を秘めたフォン少女が期待されていたということであろう。

実際、今の鳥人族で一番強いらしいからな。

鳥人族では最も速いものが最も強いとされるわけだが

 

2310:名無し転生者

多分勢力争いで勝てないのそのせいでは……?

 

2311:名無し転生者

亜人の感性や文化はどうしてもええんか? ってなっちまうな。

 

2312:名無し転生者

そのあたりは仕方ないわ。世界ごとでも全然違うし。受け入れるしかない

 

2313:自動人形職人

というかそれ、他の氏族は通ったんですか?

鳥人族はともかく、他の種族が納得いかないんじゃ……

 

2314:名無し転生者

せやねんな

 

2315:名無し転生者

俺らもそう思ったわ

 

2316:暗殺王

うむ……それも懸念事項でな。そのあたり、どう>1がリスクを吊り上げるという話だったんだが

 

手っ取り早いのは、敗北したら種馬だったんであるが。

全属性全系統の血筋で亜人ひっぱりだこだったであろう

 

2317:名無し転生者

天才ちゃんがブチギレたやつ

 

2318:名無し転生者

マジでモーニングスターとんで笑ったわ

 

2319:暗殺王

我でなければ無傷では済まなかったであろう……

 

まぁ我も、リスク候補の一環として上げただけで

おすすめではなかったのだが。

 

2320:名無し転生者

モーニングスター無傷は草

 

2321:脳髄惑星

さすが暗殺(されまくり)王は違うな……

 

2322:名無し転生者

結婚がどうこうの時もあからさまに切れてたし、

所有になるとめっちゃウキウキになっておもろかった

 

2323:自動人形職人

そいや、まだ天才さんいないぽいですね

>1もレス少ないし

 

2324:名無し転生者

>1はまぁ、今移動中だしな

 

2325:名無し転生者

まぁそのうち来るでしょ。

 

王様、続きお願いします

 

2326:暗殺王

うむ、他氏族に掛けるものに関してはまぁ実際悩みどころでな。

色々調べたりする必要があると思ったんだが。

 

お姫様と先輩殿が大きく手助けしてくれたのだ。

 

2327:名無し転生者

かっこよすぎたわあの二人

 

2328:名無し転生者

姫様:>1が負けた時に、優勝氏族に鬼の国との優先貿易権提示

先輩:過去数百年分の勢力争い全部調べて氏族以外の代表者が出た前例を見つけて弁護

 

権力と頭脳のスーパーアシストでしたね……

 

2329:名無し転生者

お姫様の宣言かっこよすぎたんだよな

 

2330:名無し転生者

「この男は私の将来の婿第一候補! その身分と力は鬼族が担保しよう!

この男に勝てるなら私に勝ったも同じ! で、あれば、通じてやろう! 我が国の酒と武具!」

 

2331:名無し転生者

酒と武具とかいう全世界共通アイテムよ

他の氏族の代表も目の色変えてたしな

 

2332:名無し転生者

亜人にはむしろよく効きそうだしな

 

2333:名無し転生者

姫様一々かっこいいんじゃ~

 

2334:脳髄惑星

男前が過ぎる。

 

2335:暗殺王

東西でかなりの距離があって、国交がほとんどなかったらしいからな。

文明発展した鬼種の酒なんぞ大体どの世界でも一級品であるし、

鬼姫様にしても国交先が増えるのは美味い話であろう。

 

2336:名無し転生者

「くれてやる」とかじゃなくて「通じてやろう」だからなぁ。

あれ、負けたら負けたらで上手いこと交渉する気満々でしょ。

 

2337:名無し転生者

文献にしても数百年分あるのよう見つけたわ。

どんな処理能力やねん

 

2338:名無し転生者

そのおかげで>1が鳥人族代表になれたし流石すぎるわ

 

2339:自動人形職人

はー、なるほど。流石すぎますねあの二人

 

2340:名無し転生者

>1の周囲有能が多すぎぃ

 

2341:暗殺王

全く、羨ましい限りだ

 

2342:脳髄惑星

ほんそれ

 

2343:名無し転生者

んでも後はまぁ>1次第か

 

2344:自動人形職人

代表戦? 何やるんです?

 

2345:名無し転生者

ゆーて運動会みたいなもんらしいで。

各氏族発案競技7つ。

最後に氏族代表のバトロワ

 

2346:名無し転生者

賭けにもなっててそれがまんま祭りになるらしいな

 

2347:遠征先転生者

到着しました。

凄い盛り上がってますね。

 

視界共有はしますけど、レスはできないかもと思うのでお願いします

 

2348:名無し転生者

ういー、がんばれー

 

2349:自動人形職人

行ってらっしゃいです、頑張ってください

 

2350:暗殺王

貴殿ならば勝てる

 

2351:脳髄惑星

がんば!!!!

 

2352:名無し転生者

いてらー

 

2353:名無し転生者

さーてどうなるかな。

 

2354:名無し転生者

て言うか今日、天才ちゃんマジでいなかったな。

>1もレス少なかったし

 

2355:名無し転生者

忙しいんかなぁ

 

2356:天才様

頑張れ

 




>1
奴隷というか下僕ができた

素直鳥ん娘ちゃん
前話の流れで言及がほぼない……!

暗殺(されまくった)王
生き延び続けてる。
結構オッサン
急に威厳が出てくる

天才ちゃん
ずっと見ながら何を言うか迷ってた。
結局、一言だけ


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フォンー翼の意味ー

前回の天才ちゃんのがんばれの一言で読者の皆さんがてぇてぇを感じ取っていて強火の波動を感じて笑ってました


 フォンにとって生きるということは空を飛ぶということだった。

 

 それはフォンにとってではなく、鳥人族にとって共通認識と言える。

 一般的に鳥人族は考え無し、脳足らず、鳥頭、などと揶揄されることが多い。実際のところそれはそうだとフォン自身も思う。物忘れは激しいし、計算は苦手、一通りの簡単な読み書きができれば御の字、三歩進めばそれまで考えていたことを忘れるというのも誇張ではなく経験済み。

 ただ、あえて訂正するのならば、だ。

 

 鳥人族にとって、最優先は羽根を広げ、翼をはためかせ、空を飛ぶということに他ならないのだ。

 

 何かを覚える暇があれば、空模様を覚える。

 計算はできなくても空気の湿り気、温度から天気が分かる。

 読み書きはできなくても、風を読むことは容易く。

 何かやろうと思っていても、良い風が吹けばそれに乗ってしまう。

 鳥人族とはそういう種族なのである。

 

 空に生まれ、空に生き、空に死ぬ。

 

 亜人族において、唯一生態的特徴から自由自在な飛行を行えるからこそ、それが最も強みであるからこそ、鳥人族はそういう進化と文化を重ねて来た。

 別に地頭そのものは決して悪くはない、という話を聞いたこともある。年を取り、翼が衰えた老人は決して物忘れはないし、計算や言語も巧みに操る。年老いたものが氏族の未来を考え、若者は飛べる限りに飛んでいく。そういうものなのだ。

 

 だから、鳥人族は決して翼の恩は忘れない。

 自分たちにとって翼というのは命よりも大事といっても過言ではない。単なる生命以上の存在理由なのだから。

 だからこそ、フォンは「彼」のものになることに決して抵抗などない。

 己の未来を救ってくれたのだから。

 そして、氏族の未来も救ってくれようとしているのだから。

 

 氏族の10年間を決める戦い―――≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫。

 

 たかだか10年、されど10年である。

 七氏族祭では他国との貿易や氏族内の物流を取り仕切る為に、その10年を有効に活用したとしたら大きな利益も出せる。その上ここ20年では≪王国≫の≪魔法学園≫への留学優先権さえも勝者に得られるために、その勝利の価値は極めて大きくなっている。鳥人族は20年前は中堅の結果で可もなく不可もなく。10年前は大敗して最下位。当時、政治を担う長老たちがタイミング悪く逝去したために、祭りの後の交渉もうまくいかず、これまででも最悪の10年と言っても過言ではなかった。

 当時まだ三つだったフォンは10年前の記憶は薄い。

 けれど、それから10年間高位獣化能力者(メタビースト)として、この日の為に研鑽を重ねて来た。

 かつては各氏族で異端と扱われてきたメタビーストは、しかしここ20年の間に地位を変え、重宝されるものとされている。亜人種族だけではなく人間種との交流も増えたことによるのが大きいらしい。

 細かいことは分からないが、状況に応じて鳥、鳥人、人間の姿に好きに変われるのはアドバンテージである。

 今現在の各氏族にも合わせて数人しかいないらしい。

 だからこそ、期待された。

 速度を第一に置く鳥人族で、13歳にして一番速く飛ぶことができた。

 戦い方が一番強い―――というわけではないのだが。それでも、鳥人族においては速さこそがステータスだ。

 

 そう呼ばれることになるのに10年の全てを掛け、鍛錬を重ねて来た。

 

 言葉にすればそれだけのことだけれど。

 それなりに大変なこともあった。高位獣化の能力は鳥人族において現在フォンだけのもの。

 鳥と半鳥人と人間、それらの体を効率的に動かす技術を自分で編み出さなければならない。

 来る日も来る日も研鑽と修練、失敗とわずかな進歩。

 まぁ、悪くはなかった。

 色々な形で飛ぶ練習と思えば楽しく感じることができた。 

 とにかく、飛ぶことと紐づければ大体どうとでもなるのが鳥人族の良い所だ。

 

 けれど、流石に≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫前日に翼をもがれたのには堪えた。

 

 10年の積み重ねが無駄になったことも。

 これから10年間の可能性が潰えたことも。

 なにより、飛行不能になるほどの翼へのダメージは絶望だった。

 「彼」らが助けてくれなかったら、きっと死んでいた。

 命を落とすという意味でも、飛べなくなるという意味でも。

 生まれて初めて、恐怖と悔しさで泣きそうになってしまった。

 

 そして、今、

 

「うおおおおおおお!!! 主様! いいぞ! 凄いぞー! かっこいいぞ!」

 

 フォンは拳を振り上げ、弾けるような笑顔で「彼」を応援していた。

 

 

 

 

 

 

 ≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫、最終幕である。

 石と木で僅か数日で、しかししっかりと装飾もされた観覧席。数百人が正方形の縁に座る形になる。席に着くのは種族様々。七氏族は言うまでもなく観光に来ている人間種も多い。

 その一角、フォンは御影とトリウィアと並び「彼」の応援をしていた。

 正方形の中央、「彼」を始めとした各氏族の代表が素手と最低限の衣服だけで円形に集まっている。

 角度的に、ここから見えるのは「彼」の背中。

 上半身は裸で、ズボンだけの軽装だった。

 

「くぅぅぅ……!」

 

 隣を見れば片角の鬼族が「彼」の背中を見ながら盃を呷り息を吐く。

 脇に酒瓶を抱え、隣の空いた座席には同じものがいくつも転がっている。

 鬼族の姫、天津院御影。

 おっぱいの大きい美人だ。

 

「……」

 

 逆側、真ん中に座るフォンを通して御影を一瞥しながら煙草を吸っているのは帝国の才女、トリウィア・フロネシス。

 強めの日差しがある晴天にわりと暑いにも関わらず、レザーパンツに長袖シャツ、白衣だが汗1つかく様子もない。

 足と眼鏡がセクシーな、オッドアイの美人だ。

 出会ってからほとんどの間無表情の彼女だが、御影の酒瓶の山にほんのわずかに眉を顰め、

 

「それ、ドワーフ製の火酒でしょう。火が着くもので、人間からすれば消毒薬の」

 

「鬼からすれば実に良い酒だ。体が燃える。学園ではこれだけ強いものは飲めなかったし、これはドワーフの酒の中の一級品だ」

 

「どこで手入れたんですか」

 

「昨日、ドワーフたちと飲んでた―――潰して、賭けに勝って、沢山貰ったのさ」

 

「……笊通り越して枠ですね」

 

 呆れたようにトリウィアが息を吐く。

 それには構わず御影は酒を盃に注ぎ、

 

「フォン、お前も飲むか?」

 

「あ、ううん。鳥人族はお酒飲まないんだ。だから大丈夫。空飛べなくなっちゃうしね」

 

 酒も煙草も若い鳥人族はやらない。

 やるとすれば飛べなくなってからの楽しみだ。

 

「ふむ、残念」

 

「怪我の調子はいかがです? 先ほどからかなり叫んでいますけど」

 

「うん! かなり良くなったよ。戦ったり、長距離で長時間飛ぶのは難しいけど羽根を出さなければとりあえずは問題ないかな」

 

「それはよかった」

 

「うむ、後は婿殿の勝利を待つだけだな!」

 

 御影は盃は掲げ、そして「彼」の背中を見て、酒を流し込み、

 

「くぅぅぅ」

 

 息を吐く。

 ほのかに赤く染まった頬と漏れる吐息が艶めかしい。

 

「……何を肴にしているんですか」

 

「婿殿の上裸。良いものだろ、あれ」

 

「…………まあ、否定はしませんが」

 

「結構鍛えてるんだね、主殿! あ、こっち振り向いたよ。おーい、主殿!」

 

 フォンは大きく手を振り、御影は何度目かの盃を掲げ、トリウィアは小さく手を振った。

 「彼」も軽く手を振り返し、真っすぐに前を向いた。

 そして、司会の話を聞いている。

 これで七度目。

 代理を立てたせいで、鳥人族が最も得意とする短距離走種目は省かれていた。

 このあたり、各種目がそれぞれの氏族の最も得意な競技なのである意味よかったのかもしれない。

 エルフならば的当て、魚人族なら水泳、ドワーフなら丸太割りといった具合。

 「彼」はこれまでの全ての種目で2位を収めている。

 そして、これが最後であり、本番ともいえるバトルロイヤルだ。

 

「主殿、勝てるかな」

 

「勝つさ」

 

「勝ちますよ」

 

 フォンの問いに御影とトリウィアは同時に答える。

 それは確信した物言いだった。

 御影は笑みと共に息を吐き、トリウィアは煙を吐く。

 

「婿殿は私よりも強い、私が見込んだ男だ、そうそう負けないよ」

 

「事実だけを述べるのならば」

 

 煙草を挟んだ指で眼鏡を押し上げたトリウィアは、しかし「彼」から目を離さずに、

 

「過去の≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫、300年分の結果に目を通しましたが、30回7人の代表で210人。そのうち、重複もありますが、氏族以外の種族が代表になったのは10人。そのうち人間は3人」

 

「へぇ」

 

「よく調べたな、先輩殿。確かか?」

 

「エルフ族の記録を見て、代表戦初回から見て来たエルフ族の方に聞いたので確かでしょう。最初はあまり歓迎されませんでしたが、文献を調べているうちに打ち解けましたし確かでしょう」

 

「ははは、流石だな。……しかし、3人か。多いのか少ないのか良く分からん」

 

「300年に3人、というから多くはないでしょう。大体の場合が、族長の子との婚姻を懸けたとか優勝したら当時出場していた他6人の代表を嫁にするとかその手の話でしたね」

 

「えぇ……? 凄い、剛毅だねその人」

 

「ま、≪連合≫では混血は珍しくないしな。それで、その3人に何か共通点でも?」

 

「あります―――その3人は、三人とも20以上の系統保有者であったということ」

 

「ほう」

 

「へぇ、すっごい」

 

 7系統しか持っていないフォンからすれば雲の上の話だ。

 鳥人族は基本的に風属性に特化し、おまけに雷か水というのが種族特性だ。

 フォンの場合は風の5系統に雷の≪落下≫と水の≪潤滑≫。≪落下≫と≪潤滑≫は飛行中の加速と空気抵抗の軽減にもなるのでそれで十分だと思っている。

 これは鳥人族としては大体平均値である。

 

「亜人種族は概ね、1、2属性の系統を網羅し、いくつかの副系統を持つ傾向にあります。20超えるのはそうそう聞かないですね。10超えれば多い方です。それ故にいわゆる≪究極魔法≫が希少なわけですが」

 

「私の14系統も多い方だしな」

 

 えぇと、彼女は頷き、

 

「その分、魔法以外の種族特性が強みになるわけですが。対して人間種の系統はばらばらで一桁もあれば十後半もあり、種族特性なんて繁殖力くらい」

 

 ですが、と紫煙を長く吐いた。

 

「――――洗練された20を超える系統保有者は、人間種でありながら上位種である、という見方をする者もいます。……というか、帝国ではそういう感じですね」

 

「自慢ですか、先輩殿」

 

「事実です」

 

 御影は笑いながら盃を傾け、トリウィアは肩をすくめた。

 

「うぅむ」

 

 難しい話を両脇でしてるなと、フォンは思った。

 20、というか全属性全系統持ちの人間なんて当然初めて見た。

 28種持ちのトリウィアでさえ驚いたのだから。

 飛べれば良くないか? と思うのが正直な所。

 思えば怪我をしたせいで24時間は空を飛んでない。

 これはフォンの人生的にあり得ないことだ。

 

「加えて、あの術式。あれは素晴らしい。本当に素晴らしい。未だに術式構築を解明できていません。本当に天才のものです」

 

 拙い。

 

「あぁ、うん。あれは凄いな。かっこいいし」

 

 飛びたくなってきた。

 

「術式の精度は言うまでもなく、応用性と発展性が素晴らしいんですよね。後輩君は誰かに教えてもらったそうですが、その人は本当に素晴らしい。天才で、その上教え子思いです。私もそのような師が欲しいですし、私もそのような師になりたい。あぁ、一度はお会いして話を聞いてみたいものですね」

 

 最高速でぶっ飛ばしたい。

 

「あぁ、うん。その()()なぁ」

 

 一瞬くらいだったら翼も大丈夫じゃないだろうか。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ。

 これから戦う主殿への景気づけの意味を込めて。

 

「なぁ、フォン」

 

「え!? 何!? 8回転空中螺旋捻り!?」

 

「………………匂いで酔ったのか?」

 

「何の曲芸ですか」

 

 そうではなくて、と御影がフォンの肩に手を回し、()()()と引き寄せた。 

 琥珀の瞳と艶めかしく赤く火照った顔が至近距離に。

 うわっ、顔が良いとフォンは思った。

 

「覚えておけよ、フォン。今後我が婿殿と関わるのならば「先生」とやらが最大のライバルだ」

 

「先生? えーと、主殿の師匠か何かってこと?」

 

「らしい……が、私も先輩殿も会ったことはない。というか婿殿も会ってはないらしいんだ」

 

「……私は馬鹿だからよく理解できてないんだろうけど、どういうこと?」

 

「さぁ、私たちにも良く分かっていません。ただ彼には会ったことがない師匠がいて、術式を教えてくれて、生き方の道しるべになってくれたということだけ」

 

 くすりと、漏れた声が聞こえた。

 出会ってから1日だが、一度だって表情を変えなかった彼女から。

 驚いて視線をずらせば、確かに小さく、けれど柔らかく笑っていた。

 

「きっと、本当に素敵な人なんでしょう。あの彼が、あんな笑顔を浮かべるんですから」

 

「ふふん、それが婿殿の魅力でもあるのだが」

 

 まじか、とフォンは思った。

 聞く限りだと主殿には滅茶苦茶大切な師匠さんがいるらしい。

 それを御影は魅力といい、トリウィアは笑っている。

 ねとられだかねとりだとかそういう性癖を聞いたことあるが、そういう手合いなのだろうか。

 世界は広い。

 どんな人なのだろう、とは思うが、しかしピンと来ない。

 

「ま、主殿に後で話を聞けばいいか」

 

「うむ。胸焼けしないように気を付けろ」

 

「ブラックコーヒーを準備しておきますね」

 

 そして――――「彼」の闘いが始まる。




「彼」
上裸スタイルで戦闘待機。

フォン
アホの子……というより飛行欲求が強すぎる。
NTR趣味があるのかと両脇に戦々恐々としている。
13歳と年下系。人間ならば背骨に罅レベルだかいけるんじゃね……?と思っている。
鳥にもなれるし、ハーピーにもなれるし、人間体にもなれる。

御影
ドワーフ族と飲み比べして潰しまくって大量の酒をゲットした。
亜人族は飲酒の法律が緩いので飲みたい放題。
この後酒瓶のうちどれを持って帰るか滅茶苦茶悩むことになる。
「彼」の勝利を確信している。


トリウィア
一晩でエルフの文献を漁ってついでに仲良くなって、ついでに魔法も教えてもらったらしい。
さらにいえば煙草の葉も貰った。
「彼」の勝利を確信している。

鳥人族
アホというか思考の脳みそが飛ぶことに特化しすぎてそれ以外を疎かにしがち。
風を主軸にした属性系統、空気抵抗の低い装飾が控えめか長めの裾、つまりはチャイナドレス系統の服を着ていることが多い。
フォンの場合は肉体変化が著しいため、胸と腰以外はほぼ露出している。

嗜好品の類をほとんど必要とせず、飛んでいるだけで満足している者が多いため、概ね氏族間の序列は低めだが飛行というアドバンテージは強力。

アホ、鳥頭、脳足らずと言われがちだが、翼に関する恩も恨みも決して忘れない。

年齢を重ねると普通に思考に長けた者もあらわれる。

七氏族祭(ドロ・ナーダム)
七氏族でないのもいれれば数百年以上続くお祭り。
それぞれの氏族が提案した7つの競技とバトロワで順位をづける。
大体の競技は提案した氏族が優勝をもぎ取るので実質バトロワが優勝決定戦。
競技そのものは種族の特徴や長所を他種族にアピールするという意味合いの方が強い。
バトロワが素手なのは種族特性を最大限に生かす為に。
武器防具禁止。


ちょっと長くなったので分割に。
次回は>1のバトル素手編

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フォンー誰が為の翼ー

まずはこちらをご覧ください



【挿絵表示】



【挿絵表示】


ひふみつかさ先生@Aitrust2517より天才ちゃんの支援絵を頂きました!表紙とバナー共々!
指が凄いセクシーだし、表情の自信満々感にハイライトのない目が最高なんですよね。
顔がいい……滅茶苦茶顔がいい……

この超絶美少女が>1とのあれこれで真っ赤に歪むと思うと最高ですね!!

オリジナルの支援絵は1つの夢だったので、これでも読んでいただいている皆様のおかげです。
今後ともお楽しみください。


2467:鳥族代表転生者

「≪メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ≫」

 

 

2468:自動人形職人

お、初見の魔法ですね。

 

2469:名無し転生者

おお、いつもの腕に一瞬出るんじゃなくて、周りに浮かんでる?

 

2470:脳髄惑星

健全なる精神は健全なる身体に宿る、か。

>1今素手だけど、素手用の魔法?

 

2471:名無し転生者

相手の代表戦士、みんな素手で男はズボン、女性は加えてタンクトップだけど

みんななんか入れ墨凄いな。

 

2472:自動人形職人

この手の入れ墨はいわゆる民族の特徴としてたまにありますけど、どうなんですかね。

 

2473:暗殺されまくり王族

むっ、来るぞ。獣人とトカゲ人であるな。

 

2474:名無し転生者

トカゲの方顔まんまトカゲでちょっとこわ。

獣人というか人型のトカゲだな。緑の鱗だけど入れ墨つーか、うろこに直接墨染してんのかな。

タンクトップ着てるけど、完全にトカゲで性別分らんな……

 

2475:名無し転生者

うお

 

2476:名無し転生者

いやすご

 

2477:名無し転生者

リングすげーやん。

 

2478:脳髄惑星

腕振ったらリングも飛んで二人ともぶっ飛ばしたやんけ

 

2479:天才様

自立型身体駆動補佐魔法≪メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ≫。

 

≪オムニス・クラヴィス≫の魔法陣に各属性を圧縮させて物理顕現させた上で

>1の意思と四肢の動きに追従して攻撃防御を行う魔法だ。

 

系統の特性を無視して、火ならば着弾時に爆発、風ならば風による押し出し加速、

雷なら電磁加速による瞬間加速という具合に結果を絞っているものだね。

 

2480:名無し転生者

はー、なるほど

 

2481:名無し転生者

勝手に動いてくれるのいいな

 

2482:名無し転生者

相変わらずビジュアル面でもめっちゃかっこいいんだわ

 

2483:脳髄惑星

あー、これあれか。>1が系統使いこなせればそんだけリングに付与できる性質変えられるのか

 

2484:名無し転生者

なるほどね

 

2485:名無し転生者

かしこい

 

2486:天才様

そういうこと、褒めたたえるがいい

 

2487:名無し転生者

流石!

 

2488:名無し転生者

敏腕教師天才ちゃん様!

 

2489:名無し転生者

>1の唯一無二天才師匠!

 

2490:暗殺されまくり王族

流石だ、天才殿!!

 

2491:脳髄惑星

天才ちゃんも調子戻ってきて何より。

 

2492:名無し転生者

どんどん来るな。次はドワーフとエルフか。

ドワーフは殴りに来るけどエルフは魔法。

 

2493:名無し転生者

素手だけど魔法はありねんな

 

2494:名無し転生者

この世界は先天的なもんみたいだしな

 

2495:名無し転生者

>1、ドワーフとも正面から殴りあって、

リングがエルフの魔法落としてるとか

 

2496:名無し転生者

割と派手に殴り合うな。剣の時はオーソドックスな動きだったけど、結構ストロングスタイルじゃん。

 

2497:名無し転生者

基礎の身体能力でもくっそ強いんだよな>1

 

2498:自動人形職人

リザーディアンはうろこを染めて、獣人は爪や牙を模した湾曲模様、ドワーフは四角の組み合わせに、エルフは蔓。魚人の男性は鱗と涙型、ハーフリングは半円形。

 

それぞれの種族の特徴を模したかのような入れ墨ですねぇ。

何かしら意味がありそう。

 

2499:暗殺されまくり王族

よくあるのは成人や何かの功績の勲章であるが、どうだろうな。

 

2500:名無し転生者

ってあー! >1、後ろ後ろ! 気づいてる!?

 

2501:名無し転生者

このちっこいのはハーフリングか

 

2502:天才様

彼基本は戦闘中映像はこっちに見せてるけど、

こっちからのレスは反映できないようにしてるから無駄だよ

 

2503:名無し転生者

天才ちゃん!? そんなに落ち着いてていいんですか!?

 

2504:名無し転生者

貴方の>1がピンチ! 

 

2505:脳髄惑星

あー!いけませんいけません! 

今じゃ! 次元移動を!

 

2506:天才様

僕のじゃない

 

2507:天才様

……ほら、見てなよ

 

2508:名無し転生者

おっ

 

2509:名無し転生者

今のはかっけぇ

 

2510:名無し転生者

観客席で鳥ちゃんが飛び跳ねてて可愛い

 

2511:名無し転生者

すげーな今の、真後ろからの奇襲に回し蹴りで撃ち落としたよ、しかも3回くらい回ってたな。

格闘はパワータイプかと思ったら意外とテクニシャン?

 

2512:名無し転生者

あー、これあれだ。

 

2513:名無し転生者

 

2514:脳髄惑星

あ、姫様と先輩か

 

2515:名無し転生者

そう。多分殴りスタイルは姫様の超馬力スタイルで

蹴り技は先輩の速度と鋭さ、技巧スタイル真似してるんだと思う。

 

2516:名無し転生者

>1ラーニングスキルも高いよね

 

2517:名無し転生者

ていうかあのリングも凄い。

完全に死角だったのに。

 

2518:名無し転生者

あれさ、攻撃する前にリングが>1の顔横切ってたよね

 

2519:名無し転生者

そうだっけ

 

2520:名無し転生者

そんな気がしないでも……?

 

2521:名無し転生者

自立して相手の攻撃に反応するってことは>1の知覚してない範囲もカバーしてリング自体の動きで誘導できるってわけでしょ。

 

2522:名無し転生者

はー、そのあたりも想定して自立駆動ってわけか。

 

2523:天才様

当然だが?

 

2524:名無し転生者

さす天

 

2525:名無し転生者

さす天

 

2526:名無し転生者

>1天てぇてぇ

 

2527:脳髄惑星

っぱ>1天なんよな

 

2528:名無し転生者

いやこれかっけーな。リングが手足の延長になるから、素手のリーチ不利がないんだわ

魚人族のいかついおっさんも防御ごとぶっ飛ばしてるやん

 

2529:名無し転生者

つま先に火のリングで、踵に風、足裏に雷。

後ろ二つで加速して、火で着弾時に爆発させてんのね。

それで他四つで周囲警戒。うーん、隙がねぇ

 

2530:暗殺されまくり王族

これがあれば我ももっと暗殺を楽に防げたろうに……

 

2531:脳髄惑星

俺も脳髄にならずに済んだ……?

 

2532:自動人形職人

似たようなやつ再現できないかなぁ

 

2533:名無し転生者

コテハン勢の温度差よ

 

2534:名無し転生者

脳髄ニキだけじゃなくて、暗殺王様もブラック臭が凄い

 

2535:名無し転生者

しかしやっぱ>1強いなぁ

 

2536:名無し転生者

ん-でもこれさぁ

 

2537:名無し転生者

うん?

 

2538:名無し転生者

なんか、>1ばっか狙われてね?

 

2539:名無し転生者

あっ

 

2540:脳髄惑星

あー

 

2541:自動人形職人

そういえば……

 

2542:名無し転生者

確かに……

 

2543:暗殺されまくり王族

無理もないだろう。

>1はこれまでの種目で全部2位。実質このバトロワの勝利で決まるとはいえ明確な脅威である。

加えて、氏族間の闘いに他種族である>1が加わっているのも彼らからすれば気分のいいものではないはずだ。

 

2544:名無し転生者

おいおい、大丈夫か?

 

2545:名無し転生者

これは……バトロワでは一番きつい展開なんじゃ……

 

2546:名無し転生者

見た感じライオン獣人と魚人おっさんが強いわねぇ

 

2547:名無し転生者

すげぇ髭濃いライオンヘアに猫耳のオッサンとわりとイケメンだけどやっぱり顔が濃いほぼ人間のおっさん……

 

2548:脳髄惑星

圧が、圧が濃いんじゃ

 

2549:名無し転生者

魚人オッサンの方はちょっと顔や体に鱗あるくらいだけど海入ったら人魚になったりするんかな……

 

2550:名無し転生者

あんま想像したくないけどそういうもんだしな……

 

2551:名無し転生者

って、おお!?

 

2552:名無し転生者

なにっ

 

2553:脳髄惑星

ふぁっ!

 

2554:名無し転生者

そう来たか~~~~~!

 

2555:天才様

人数多いから切ってたけど音声も入れようか。何か言ってるね。

 

2556:鳥族代表転生者

 

「―――ぇら!! どういうつもりだ短足に耳長!」

 

「ガハハ! 鬼の姫さんと賭けをしてもうてのぉ! 飲み比べとは別に!

今日の闘いでそこの人間が健闘してその気になったら助けてほしいってな!

耳長どもと共闘みたいで癪だが、賭けの負けは負けだし仕方ないわな!」

 

「トリウィア殿と約束をしてね。彼を助けて、彼が優勝して鳥人族が最優位に立った場合、

我らエルフ族の扱いにも良いように進言してくれると。

おまけに彼女の卒業後、帝国との貿易や技術交流も約束してくれたのだ。

我らに届かぬ短命のものでありながら彼女の叡智は素晴らしい。

―――そこの少年も、我ら長命の者から見ても珍しい性質だしね」

 

 

2557:名無し転生者

うおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

2558:名無し転生者

ああああああああああああああ!!!!

 

2559:名無し転生者

流石です、先輩! 流石です姫様!

 

2560:脳髄惑星

内助の功が過ぎる

 

2561:名無し転生者

観客席で姫様が盃掲げて、先輩がちょっと手振ってるの可愛い。

そして鳥ちゃんがぴょんぴょん跳ねてるのおもろい。

 

2562:自動人形職人

バトロワって感じがしてきましたねぇ

 

2563:暗殺されまくり王族

事前の手回し、当然ではあるが一晩でやるとはな。素晴らしい。

 

2564:名無し転生者

あれ、ライオンさんなんか言ってるけど反映されてない?

 

2565:天才様

誇りがどうこう文句言ってるだけだからカット。

どうでもいいセリフは削っていくからよろしく

 

2566:名無し転生者

うっす

 

2567:名無し転生者

はーい

 

2568:脳髄惑星

芸細

 

2569:名無し転生者

6人相手中二人がこっちの味方でドワーフのおじさん……おじさん? とエルフのイケメンが魚人族のおっさんとリザーディアンとハーフリングの女の子の相手してるんなら

 

2570:名無し転生者

>1とライオンさんの一騎打ちだあああああ!

 

2571:名無し転生者

ライオンさんはなんか草

 

2572:名無し転生者

でもぱっと見てた感じライオンさんタイマンで倒せれば>1の勝ち確っしょ

 

2573:名無し転生者

お、ライオンさん>1に向いたな

 

2574:鳥族代表転生者

 

「――――問おうぞ人間! 最早その強さに疑いはない!

されど何故我ら氏族の決闘に肩入れするのか!

我ら獣人族は誇りと名誉こそに命を懸けるのが性!

 

貴様に、我らの誇りと相対するだけの理由はあるのか!?」

 

 

2575:名無し転生者

獣人は誇りと名誉か。ぽいなぁ

 

2576:名無し転生者

ちゃんと聞いてくるあたり真っすぐだなぁ

 

2577:暗殺されまくり王族

強さよりも誇りと名誉、というあたり鬼族との違いを感じるな

 

2578:鳥族代表転生者

 

―――――1つ。

理不尽に未来を奪われるのは納得がいかないから。

 

 

2579:名無し転生者

>1……

 

2580:名無し転生者

うぅむ……

 

2581:脳髄惑星

……せやろなぁ。

 

2582:天才様

……

 

2583鳥族代表転生者

 

――――1つ。

御影さんも先輩も、僕の我儘に付き合ってくれました。

今分かったことですけど、付き合う以上のことをしてくれました。

 

 

2584:名無し転生者

それな

 

2585:名無し転生者

いやまじでファインプレーでしょ。

 

2586:鳥族代表転生者

 

そしてもう一つ。

 

2587:鳥族代表転生者

 

―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

2588:名無し転生者

ぬっ

 

2589:名無し転生者

あっ

 

2590脳髄惑星

そういうとこだぞ>1!

 

2591:名無し転生者

あら~~^^

 

2592:暗殺されまくり王族

これが見たくてここにいるまである

 

2593:自動人形職人

流石ですねぇ!

 

2594:名無し転生者

これこれ!!

 

2595:名無し転生者

天才ちゃん!? 今のお気持ちは!?

 

2596:天才様

ぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――もう!! 君ってやつは!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからいくらでも頑張れると、「彼」は言った。

 そして、その言葉通りに真っすぐに獅子獣人に疾走するのをフォンは見た。

 獅子の獣人の男は、今回の代表選で優勝候補と言われた男。戦闘力的には今回の6人の亜人の中でもとびぬけているだろうし、フォン自身、最も大きな壁として見ていた相手だ。

 その獣人に向かって、「彼」は駆ける。

 そして、拳をカチ上げ、

 

「!!」

 

 獅子が浮いた―――というか、上に跳ねた。

 アッパーの拳の先にリング七種が先んじていたのだ。獅子の腹に接着し、拳が叩き込まれた瞬間にそれらが爆発するかのように跳ね上げさせた。

 その上で、彼もまた跳ぶ。

 宙に浮いた獅子の周囲にリングが広がった。

 獣人にも劣らず、鬼種の姫とも拮抗する身体能力によりそれらを足場に高速で、()()()()()()()のように連続で体をはじき出しながらの超加速。

 その動きは、

 

「―――昨日見せた、フォンさんの」

 

 隣で、トリウィアが小さく零すが聞こえた。

 そう、それは一度だけフォンが見せた高速機動。羽根と体の軽さを活かした鳥人族秘伝の戦闘技術。

 たった一瞬、一度見せただけの動きを、彼は7つのリングと身体能力で再現する。

 

 それは、翼を持たず、飛べぬはずの人間が見せる空中舞踏。

 

 昨日は最後まで見せることはできなかったが、本来は蓄積させた加速を最後にぶち込むのがフォンの奥義の一つでもある。

 それを「彼」は知らない。そもそも蓄積加速は体重の軽い鳥人族が威力を出す為のものだから。

 肉体構造、骨格や衣服までも飛行に特化させた鳥人族の技は人間には合うはずもない。

 

 だからこそそれは、「彼」に頑張れと言った誰かが「彼」にもたらしたものに他ならない。

 

 実際にリング同士を経由した加速は一瞬だった。

 浮かばされた獅子は空中で身動きは取れない。

 彼には翼はないから。

 けれど「彼」には翼があった。

 戦うための、目的に向かって飛ぶだけの翼が―――全ての扉を開く(ツバサ)が。

 

「――――綺麗」

 

 心からの声が、フォンの口から零れる。

 そしてリングが「彼」と獅子を繋ぐように一直線に繋ぎ、

 

「≪キティウス・アルティウス――――」

 

 落下と共に、腕に嵌りながら加速。

 とっさの反応を見せた獅子の防御の上から打ち抜き、

 

「フォルティウス≫――――!」

 

 天から百獣の王を大地に墜落させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫が終わり数日後。

 氏族交渉も御影やトリウィアが手伝ってくれて、上手に着地した。皇国との繋がりもできたので鳥人族の未来も明るくなるだろうという話だ。

 小難しいことはフォンには分らないけれど。

  

 気になると言えば―――結局のところ、フォンを襲撃した相手は分らなかった。

 

 まぁいいや。

 

 結局翼は治ったし、鳥人族の将来も守られた。

 自分の研鑽はそれに繋がらなかったが、結果的に全て丸く収まったのでヨシとする。

 各氏族でも調べてくれるので余計にヨシだ。

 それよりも大事なのは、フォン自身の未来で、

 

「主殿! これからよろしくね!」

 

 帰り支度をしてた「彼」の部屋に突撃したフォンは弾けるような笑顔でそう言った。

 対して「彼」は苦笑で返す。

 今回、「彼」が氏族代表になるためにフォンは彼の所有物になった。

 それは今回きりだけのつもりだったようだが、

 

「氏族を救ってもらって、私の翼まで救ってもらったんだもん! 恩返しにはまだまだ足りないよ!」

 

 鳥人族は、翼の恩を決して忘れない。

 

 魂にも、命にも等しいものだから。

 それだけでも一生をかけて恩返ししたいというのに―――「彼」の(ツバサ)はあまりにも鮮烈で、目に焼き付いている。

 もっと見たいと思う。だから、「彼」についていきたい。

 ふと、それどうしたんですかと、「彼」が何かに気づいた。

 

「あっ、流石だね主殿! 流石に未成人を他人の所有物で里から追い出すのはやべーんじゃねってなって、私も成人にしてもらったよ! 元々、今回の≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫の後には成人になる予定だったし、あんま変わらないんだけどね!!」

 

 そうか……? と「彼」が首をかしげたが、今それではなく。

 

「これが、私たち鳥人族の入れ墨。代表戦でも見たと思うけど、私たち亜人氏族は成人した時や、結婚した時、子供を産んだ時とか、そういう大事な時に入れ墨を入れるんだ」

 

 獣人ならば爪や牙を模したものを。

 ドワーフならば金槌や鋼を模したものを。

 エルフならば木々や蔓。

 ハーフリングはその名の通り半円の組み合わせ。

 リザーディアンは鱗、魚人族であれば水と鱗を示す涙型。

 そして鳥人族であれば風を模した流線形の入れ墨だ。

 フォンの場合、肩から二の腕にかけて、臍のラインと鼠径部をなぞり、太ももから足首までの数本のラインになっている。

 それまで揃えていた太もものバンテージを左右で高さをずらしたのはフォンなりの御洒落である。

 そして、背には大きな翼を模したものも。

 

「普通、鳥人族は背中に入れないんだけどね。翼はあるし」

 

 けれど、

 

「私の翼は、これから主殿に捧げるから。だからこれは、そういうこと」

 

 腕を広げて、背中を見せる。

 なぜかちょっとだけ顔が赤くなった。

 そういう顔は初めて見た。

 もっと、色々な顔を知っていこう。

 きっと、これから色々な表情を知って、色々なことを知ることができるから。

 それも「彼」が、路地裏で傷ついた鳥を助けようとしてくれた優しさがあるから。

 フォンにとってはそれだけで十分なのだ。

 だから、

 

「これから私は――――貴方の為に羽搏くね!」

 

 




>1 超素直奴隷ゲット
今後の部屋とかどーするんだろうとちょっと頭抱えている。
素直さも相まってラーニングスキルがやたら高い

フォンちゃん
露出過多チャイナに入れ墨属性までゲットした
お腹のソレほぼ淫紋では???

≪メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ≫
健全なる精神は健全なる身体に宿る
mens sana in corpore sano.
大体シャン・チー。セブン・リングス。

≪キティウス・アルティウス・フォルティウス≫
より早く、より高く、より強く。
citius, altius, fortius.
セブンリングスの同時併用の超必。
リング特性全発動が基本だが、今回はリングを足場にした加速を乗せている。

姫様
酒を貰ったついでにドワーフと交渉していた。
先輩
過去の記録調べる次いでにエルフと交渉していた。
勝利の確信は「彼」への妄信ではなく、自分たちもできることをやったから。

ちなみ代表は男がライオンさん、魚人族、ドワーフ、エルフ。
女性がハーフリング、リザーディアンという内訳でした。

下手人は結局不明。果たして……?

「彼」
頑張れって言ってくれたから。
いくらでも頑張れる。

天才ちゃん様
このあと勝利を見届けてでベッドでうなりを上げて足をジタバタさせた後に泉にダイブした。


@ryunosuke1213
当方のTwitterです。
更新告知もしているのでよかったら。

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【勇者配信】聖剣に選ばれたので世界を救います9【多分最終回】

番外編です


 

 それは闇を切り裂く光だった。

 

 漆黒の城、魔族領域の最奥に構える魔王城。その王座の間。

 そこに至るまでの魔族の手下も悪魔の兵士も四天王も全て蒸発し、1人の少女が今まさに魔王へと光の剣を振り上げていた。

 それは薄い水色の水晶でできた剣だった。

 ただの水晶ではない。その世界における最も魔力・魔法伝導率に長け、それ自体が膨大な量の魔力を蓄える特別な鉱物でできており、それを精霊の民と呼ばれる長命種のみが魔法で加工できる剣の形をした魔法具。

 おおよそ、数百年前からその世界に伝わる≪聖剣≫だ。

 それを握るのは金髪碧眼の少女だった。

 腰まで伸びる金紗のようなロングヘア。

澄み渡る青空のような紺碧の瞳。

 鎧は胸当てや腰、腕や脛といった最低限。しかし決して粗末ではなく、細やかな装飾はきらびやかに。道で通り過ぎる誰もが思わず振り返ってしまうような美貌の少女の魅力を引き出している。

 一国の姫君、高貴な貴族のお嬢様、そう言われても誰も疑わない。

 そして彼女は、輝く聖剣を握りしめ、

 

「超・絶!!」

 

 振り下ろす。

 

「スーパーハイパーミラクルアルティメットロイヤルスーパーファイナルメガトンホーリーシットダークネスオリジンスラァァァァァァッシュッッッ!!!!」

 

  草

  小学生ネームなんよ

  スーパー二回なかった?

  ファイナルなのかオリジンなのか。

  ホーリーとダークネスも被っとる

  そしてホーリーシットも言うてたで

  うーんこの恵まれた顔と声と武器と防具から生み出されるくそださネーム

 

「うっるっさいわねぇぇぇぇるぅぅおおおらあああああああああああああ!!」

 

 視界の端の表示されるコメント欄に反応を返しつつ、裂帛の気合いで振りぬき切って。

 

「■■■■■■■■――――――!?」

 

 3メートルはある魔王が、文字通りちりも残さず蒸発し、部屋の天井ごとぶち抜いた。

 その日、天へと上る光の柱を見たとその世界の多くのものが口にしたという。

 

「はぁ……はぁっ……」

 

 そして彼女は、荒い息を何度も繰り返し、息を整えて、誰もいない空間へピースを突き出した。

 

「みんなあああああああ!! 世界、救ったよ! 応援ありがとう!!」

 

  おめ!! 

  ついにやった!!

  おめー!

  おめ!!

  くそださネーミングさえなければ完璧な配信だった!

  3か月で世界救っちゃったよこの勇者。

  強すぎる

  転生世界見ても上位ちゃうか

 

「ありがとうみんな! この聖剣に選ばれた時はどうしようかなと思ったけど、リスナーのみんなのおかげでこうして世界を救えた! 勇者として、ちゃんとできたんじゃないでしょーかっ!」

 

  あぁ! RTA並みのスムーズさだった

  ソロプレイでここまでできるとは正直思ってなかったよ

  ちょうど旅始めた時に新しくなった配信機能がよかったなぁ

  普通に才能が凄いし、学習能力も高いわ、チートもめちゃ強い

  正直羨ましい

 

「あはは……いや、まぁ前世のあれこれからこうなったと思うと複雑だけどね」

 

 嘆息しつつ、聖剣を鞘に納める。 

 周囲は巨大な穴が開いた魔王の間。

 いかにもというか悪趣味な広い部屋だったが、玉座と天井は勇者が吹っ飛ばしたので見る影もない。

 聖剣の残滓の光と月明かりが淡く照らすだけ。

 

「ふぅ―――」

 

 改めて、長く息を吐く。

 これからどうしようかなと思案しながら、一度目をつむり、

 

 

 

「――――お見事。世界を救ったようだね」

 

 

 

「!!」

 

 いつの間にか、月を背にして城の穴に誰かが立っていた。

 赤いローブの小柄な人物だった。

 月明かりの逆光でフードの中は見えない。だが、微かに肩あたりまでの銀髪と形のいい小さな唇や顎から少女なのがうかがえた。

 人差し指にだけかけられたアームカバーに包まれた指は細く、左手の人差し指と中指には二つ、逆の右手には五指に指輪が。

 ローブの下、深い紺色の胴着のような服はこの三か月、この世界を駆け抜けた勇者にも見たことのない意匠の服だ。

 ゆったりとした動きで少女は手を叩き、

 

「何者?」

 

「……おや」

 

 次の瞬間、勇者は少女の背後に出現し、聖剣を首筋に突きつけていた。

 

「これはあれかな。我を倒しても第二、第三の魔王が……とかそういうあれ?」

 

「私が魔王に見える? ……瞬間移動、素晴らしい。良い特権だ。ノーモーション、無音、転移先指定は視線かな?」

 

「なっ……どうして私のグレートスペシャルテレポーテーションゴッドジャンプの詳細を……?」

 

「……………………」

 

 数秒、無言。

 嘆息し、少女は緩い動きで右手を掲げた。

 

「動かないでください」

 

「言っておくが」

 

 言葉のまま、右手首をくるりと返し、

 

「!?」

 

 次の瞬間、懐から少女が消え、さっきまで勇者のいた場所に立っていた。

 

「なっ……まさか私と同じグレートスペシャルテレポーテーションゴッドジャンプの使い手……?」

 

「違う…………よく噛まずに言えるな」

 

 再び息を吐き、

 

「私は敵じゃあない。まぁ確かに聊か風情がある登場をし過ぎたのは否めないが、私は敵ではないんだ。君の使っている転生掲示板……というか配信、あるだろう」

 

「え? どうしてそれを」

 

「あれを作ったのは私だ」

 

「えっ!?」

 

 肩をすくめた動きと逆光加減の変化から、目元までが見えた。

 人形のように整った顔つきに、暗い、深淵の様な黒紅の瞳。

 

「尤も、いきなり言っても信じられはしないだろうが……」

 

「ごめんなさい! 勘違いでした!」

 

「……」

 

 勢いよく勇者が頭を下げ、少女の言葉が止まった。

 背筋を伸ばした彼女は直角に腰を曲げた後、聖剣を鞘に納める。

 そして、まるっきり警戒を解いた様子で、

 

「いやー、ちょっと流石に魔王倒した後におかわりはよくあるやつと思っていたので! ちょっと警戒しすぎてました! まさかこの世界で掲示板使ってる人と出会えるなんて! リスナーのみんな、見てる? ……って、あれ。コメントが流れてない? オフにした覚えはないんだけど」

 

「私がオフにしたよ」

 

「あ、なるほど! 作った人ですもんね、それくらい簡単ってわけですか! 凄い!」

 

「………………やりにくいな」

 

「?」

 

 手を叩き素直に賞賛する勇者に、呆れたように少女は首を振る。

 ()()()()()()()()()()、何かを思い出したかのように片手で少女は手を覆っていた。

 

「はぁ、まぁいい。それよりも君に用事があって態々次元を超えて来たんだ」

 

「あ! そうなんですか!? この世界の人ではなく」

 

「そうだ。私はこの世界の人間ではない。掲示板で発言している連中の数だけ世界はある。私はその一つから来たんだ」

 

「へぇ……凄い! そんなことできるんですか!?」

 

「できるからここにいるわけさ。―――無論、誰にでもできるわけじゃないがね?」

 

「おぉー」

 

 ぱちぱちと勇者が手を叩き、少女を褒めたたえる。

 それに気を良くしたのかふふんと、彼女は鼻を鳴らし、

 

「さて、本題に入ろう。―――私は、メンバーを集めている」

 

「メンバー? バンドでもやるんですか?」

 

「違う。……いやまぁ、ある意味サーカスみたいなものだが」

 

 苦笑しつつ、彼女は手を掲げた。

 

「―――世界は広い」

 

 少女は言う。

 幼いであろう外見からは想像もできない深みを伴って。

 

「私たちの生きる世界は無限に広がる平行宇宙。多くのものが生き、多くのものが死んでいく。掲示板が通っている世界ならば私はそれぞれの世界法則を理解し、読み解いているが、それでもその全て、というほどには程遠い」

 

 ま、掲示板を通じた世界は把握してるのだけどねと、彼女は笑う。

 そして、

 

「世界には―――()がいる」

 

「敵?」

 

「然り。それと戦うために、私はある領域を超えたものを各世界から集め、平行宇宙を守っている」

 

 ぱちんと、少女が指を鳴らした。

 二人の間に白の火花が散り、それが広がって光の奔流が生まれた。

 少女は勿論、勇者が通っても十分な大きさの門のような空間の渦。

 

「話の続きはこの先で。興味があるなら通るがいい。勿論、強制はしない。興味がなければ、王都なりなんなりに帰って凱旋パレードでもすることだ。まぁ、私はそういうのは――」

 

「貴方の言うそれは」

 

「うん?」

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

「―――あぁ。勿論。君の領域まで至る転生者は少なく、それだけ強力な転生特権(チート)を持つものは少ない」

 

「ならば」

 

 澄んだ青い瞳が、暗く赤い瞳を真っすぐに見据え、胸を張り彼女は答える。

 

「行きましょう」

 

「いい返事だ」

 

 さぁと、少女は手を広げ、門へと促した。

 小さく頷き、勇者は足を進め、

 

「あ、その前に一つだけ聞きたいんですけど」

 

「何かな? 言っておくが、これから行く先におすすめのカフェはないよ」

 

「いえ、そうではなく……貴女のお名前は?」

 

「あぁ、そうだね」

 

 くすりと、少女は笑いながらフードを外した。

 現れるのは美しい銀髪と自信に満ちた笑み。

 

 

天才(ゲニウス)。今はそう呼ぶといい。本名を聞くには、()()()()()()が必要なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

「うわすごい」

 

 ゲートの先、まさしくそこは世界が違った。

 勇者がいたのは絵にかいたような中世ファンタジー。

 だが、ここは、

 

「すごい、不思議……」

 

 それは勇者から見れば凡そ十数年ぶりに見る―――どころか、生前を含めてもアニメや映画の中でしかない未来的な廊下だった。

 正方形のブロックが縦に繋がっているのか、つなぎ目が光っている。突き当りには取っ手がなく、脇にコンソールのある扉らしきものが見えた。

 

「あぁ、だろうね。SFという概念でいえば把握している限り最先端……でもないか? 脳髄なんて訳の分からないものもいるし」

 

「?」

 

「こっちの話だ。進もう」

 

 歩みを進めれば、カツカツという高音が響く。

 石畳や大理石ではならない音だ。

 

「ここ、なんなんですか?」

 

「船だ。ま、詳しい説明はこの船の主から聞けばいい。言っておくがそいつは性格が悪いから気を付けるといい。君の様な素直な子ならね」

 

 扉の前で足を止めた彼女はローブの懐に手を突っ込み、

 

『認証、ゲニウス様。ロックをオープンします』

 

 取り出したスマートフォンをコンソールに当て、扉を開けた。

 

「……」

 

「なんだい? こんな格好をしてるから電子機器は使えないとでも?」

 

「正直違和感が……」

 

「言うなよ。私も此処にいる時しか使わない」

 

 肩をすくめながら、スマートフォンを懐に仕舞い、

 

「さぁ、()()()だ」

 

「わぁ……!」

 

 ゲートの先、それは絵にかいたようなSFの宇宙船の操縦室だった。

 正面、大きな液晶のようなパネルに漆黒の宇宙と星々が広がっている。その下や外周には同じく電子パネルと空中投影されたディスプレイ。席は幾つかあるがどれも無人。

 そして、中央には円卓型の大型コンソールがあり、

 

「やぁ、来たかい。ゲニウス、新人さん」

 

 そこに白い詰襟とアシンメトリーの銀髪、男にしては華奢な青年がいた。

 中性的で、右目元の泣き黒子が艶めかしい、美青年だ。

 軍帽を弄りながら二人を出迎えた彼は、

 

「誰の性格が悪いって?」

 

「……君しかいないだろう」

 

「おやおや」

 

 くすくすと口元に手を当てて笑う姿すら絵になる。

 それこそ前世でアイドルなり俳優なりになれば、世の女性を虜にしていただろう。

 

「こちらがこの船の『艦長』だ。繰り返すが性格が悪いから気を付けて」

 

「どうも初めまして新入りさん。ちなみにこちらの天才さんも性格が悪いから気を付けて」

 

「おい。私の個人情報掲示板でばらしたこと忘れてないからな。今から報復してやろうか」

 

「先にばらしてくれたのは君だろう。深宇宙に置いてけぼりにしてもすぐに帰ってくるから困るんだ」

 

「……仲がよろしいので?」

 

「まさか」

 

「どうだろうねぇ」

 

 ゲニウスは本当にごめんだというように吐き捨て、艦長は感情の読めない笑みで答えた。

 どうやらそれなりに長い付き合いらしい。

 

「―――ん」

 

 唐突に、ゲニウスが宙を見つめた。

 数秒それで止まり、

 

「急用だ。私の役目は集めること。後は君に任せる」

 

 踵を返し、手を掲げ、

 

「おっ、例の「()」かな」

 

「地獄に落ちろ」

 

 言い捨てて、一瞬勇者に視線を向けて、

 

「それじゃあね、勇者。また近いうちに会うだろう」

 

 手を振り下ろし―――光と共に消えた。

 一瞬の出来事に、思わず目を白黒させた勇者が艦長に目を向ければ、

 

「演出過剰だよね、彼女」

 

「はぁ……お忙しいんでしょうか」

 

「いやぁあれは推し活だよ」

 

「推し活」

 

「そっ、最近あの子お熱を上げてる転生者がいてね。いやぁTSロリババアだってのに、少女漫画見せられてる気分だ。ちなみにそのあたりからかうと滅茶苦茶キレるから気を付けてね」

 

「はぁ」

 

 良く分からないが、忠告には従っておくことにする。

 次に会った時は触れないようにしよう。

 

「さて、それじゃあ」

 

 艦長が入ってきた扉に向けて手を広げる。

 

「ここは僕の部屋でね。他のメンバーは別で集まっているからそちらに行こう。―――ノーチラス、操舵は任せたよ」

 

『畏まりました、艦長』

 

「わっ、凄い」

 

 電子音声に驚きながら部屋を出て、さっきまでの道を戻り、さらに別の通路へ。

 そして、いくつかの通路とゲートを潜り抜けた先は、ラウンジバーのようなところだった。

 内装はかつて前世の時代にもありそうな高級そうなカウンターバーといくつかのテーブル。

 そこに、数人の男女がいた。

 勇者と同じように鎧の者もいれば、和装の人も。特撮か何かのような機械のアーマーもいれば、パーカーにデニムというラフな現代スタイルの者もいる。

 彼らを背にし、艦長が手を広げ、

 

「さぁ、敵の話も大事だがまずは味方の話といこう。ようこそ、多元宇宙の守護者にして、世界を繋ぐもの――――≪ネクサス≫へ」

 

 絆、連結、繋がりを意味する言葉―――ネクサス。

 そして、

 

「まずは新入りの君から挨拶を」

 

「はい!!」

 

「わぁ素直」

 

 背筋を伸ばし、左手は聖剣の柄に添え、右手は程よく膨らんだ右胸に。

 

「何が何だか良く分かりませんが、()()()()()()()()()()()()()()()ついさっき自分の世界は救ってきたので、他の世界を救える力があるのならば、全力で振るいましょう!」

 

 それが、彼女の道の歩き方だから。

 

「座右の銘、モットーは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 かつて――――理不尽に全てを奪われたから。

 そして一度、()()()()()()()()()()()()()

 後悔だらけの前世だけど、奇跡のように掴んだもう一度の生。

 勇者に選ばれた。だから世界を救った。

 今度は≪ネクサス≫とやらに選ばれた。だったら宇宙を守ろう。

 それが今、彼女にできることだから。

 

「ロータス」

 

 それが今の己を示す名前。

 蓮華。

 救済の意味を持つ花。

 

「勇者、ロータス・ストラスフィア! 頑張れる限り頑張ります!」

 

 

 




ロータス・ストラスフィア
救済の意味の花の名と青空の瞳と性を持つ少女勇者。
17年間普通に村娘をしていたがある日聖剣に選ばれたので世界を救った。
純真、素直、純朴純粋。
小学生以下のネーミングセンスだがやたら活舌が良い
旅で出会った様々な職業、役割技術を一目見ただけで模倣する天才。
ソロプレイながら、旅立った時期に実装された配信機能とチート、地力の高さを駆使して爆速で魔王を倒した。

保有する特権は3つ。
与えられたものであり、あらゆるものを、特性や性質を無視して壊す≪破壊特権≫。
それに加え、自ら望んだ二つ。
唐突に降りかかる危険を回避し、誰かの危機にたどり着ける≪瞬間移動≫。
何があっても自分の足で立ち上がる為の≪回復能力≫。

フレンドリーさと素直さ、明るさで配信では人気であるが、どのように死んだのか、どんな前世だったのかは決して口にしない。


天才/ゲニウス
至高の魔術師、根源を識る者、真理の完遂者、摂理の織り手等々、様々な呼び方で知られる次元世界最高の魔術師。
最近推しにお熱らしいが、それに触れると滅茶苦茶キレる。
ネクサス創設者。
遥か昔から次元を渡り歩いて、メンバーを集めているらしい。
が、集めるだけ集めて、後はたまに指示を出すくらいだとか。

ちなみに「彼」の術式の名前は≪全ての鍵≫。
つまりそういうことだ

艦長
深宇宙潜航可能戦艦≪ノーチラス≫の館長。
銀髪泣き黒子の美青年。
掲示板で個人情報を天才にばらされたらしい。

ネクサスメンバー
ゲニウスに見いだされた超人たち。
モブ。


≪敵≫
ネクサス、ひいてはゲニウスの天敵。
それを打倒するためのみ、次元移動の禁が解かれるらしい。


一体なにものなんでしょうか勇者ちゃん。


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というかないと困る――――天才ちゃんが!!

前話のあとがきで追記したんですが、

本名を聞くにはマスターキーという天才ちゃんの言葉。
>1の術式の名前は≪全ての鍵≫

つまりそういうことです


1:夏休み転生者

海に来ました

 

2:名無し転生者

さん

 

3:名無し転生者

はい

 

4:名無し転生者

せーの

 

5:名無し転生者

海だあああああああああああああああああ!!

 

6:自動人形職人

海だあああああああああああああああああ!!

 

7:暗殺王

海だあああああああああああああああああ!!

 

8:名無し転生者

海だあああああああああああああああああ!!

 

9:脳髄惑星

海だあああああああああああああああああ!!

 

10:名無し転生者

海だあああああああああああああああああ!!

 

11:名無し転生者

海だあああああああああああああああああ!!

 

12:天才様

海だあああああああああああああああああ!!

 

13:名無し転生者

天才ちゃんまでやってて草

 

14:名無し転生者

そういうことするんだ

 

15:天才様

うるさいな、様式美だろう

 

16:名無し転生者

それはそう

 

17:名無し転生者

さすが

 

18:脳髄惑星

わりと草とか使うし使いこなしてる

 

19:名無し転生者

いやまぁ使いこなしてるというか作ってる側ぽいしな……

 

20:名無し転生者

ちなみに>1ん世界って海水浴とか普通にあるん?

 

21:暗殺王

私の世界だと海はないのよな。あるにはあるが遠すぎるし別の国である

 

22:名無し転生者

うちもないけど、ダンジョンの中に一応あるんだな。

モンスターめっちゃおって気軽に海水浴ってわけにはいかないけど

 

23:脳髄惑星

惑星上の海洋全管理してるけど海水浴文化ねぇんだよな

そもそも培養液以外の液体に浸かれないんだわ

 

むしろ培養液浴はいつもしとる

 

24:名無し転生者

海洋全管理??

 

25:名無し転生者

培養液草生える

 

26:名無し転生者

脳髄ジョークやめーや

 

27:自動人形職人

うーんこの

 

28:天才様

君わりと特異点というか類似例がないんだよなぁ……

 

29:名無し転生者

天才ちゃんまで引いてて草

 

30:夏休み転生者

脳髄ジョーク好き

 

海水浴自体はわりとって感じですね。王国と連合の一部に海が面していて

なんか協力して大きな観光都市になってるみたいです。

 

それこそこの前戦った魚人族の領域ですね。

昨日着いた時、あのおじさんとも会いましたよ。

 

31:脳髄惑星

>脳髄ジョーク好き

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

32:天才様

うるさい

 

33:名無し転生者

 

34:名無し転生者

うーんこの

 

35:名無し転生者

天才ちゃんと脳髄ニキのやり取りもおもろい

 

36:暗殺王

>1過激派たちよ

 

37:名無し転生者

それはそうと、>1

今日はどうしても頼みがあるんだけどよ……

 

38:夏休み転生者

はい?

 

39:名無し転生者

今はこう……海に行くんだよな?

そして姫様とか先輩とか鳥ちゃんも一緒なんだよな?

 

40:夏休み転生者

ですね。今着替えてて、先に砂浜着きました。

いい天気ですけど、わりと混んでますね

 

41:名無し転生者

あぁ……だからこそ、頼みがある……

 

42:名無し転生者

即ち

 

43:名無し転生者

頼むから視覚共有してください!!!!!!!!!!!!!!

 

44:名無し転生者

ください!!!!!

 

45:名無し転生者

お願いします!!!!!!

 

46:名無し転生者

頼む!!!!!!!

 

47:暗殺王

我からも!!!!!!!

 

48:自動人形職人

お願いしまあああああああああああああああす!!!!!!!!!!!!!!!!

 

49:名無し転生者

職人ニキ迫真で草

 

50:名無し転生者

わりと冷静だけどこういう時はガチ

 

51:名無し転生者

王様も叫んでておもろい

 

52:暗殺王

見る分なら暗殺もハニトラも心配ないからな

 

53:名無し転生者

 

54:脳髄惑星

まぁ俺も見るしか楽しみがないんですけどね。

触れられないし、というか触れられてもボディタッチならぬブレインタッチよ

 

55:天才様

調子に乗って脳髄ジョークのキレがないぞ

 

56:名無し転生者

 

57:名無し転生者

うーんこのボケとツッコミ

 

58:夏休み転生者

あぁ、まぁ公共のビーチですし、背後視点オンにしておきますね

 

59:名無し転生者

ありがとうございます!

 

60:名無し転生者

ありがとうございます!

 

61:暗殺王

ありがとうございます!

 

62:脳髄惑星

スレ民の期待に応える>1、流石!

 

63:名無し転生者

うおおおおおおおいきり立ってきた!!

 

64:名無し転生者

しまってもろて

 

65:天才様

一応言っておくけどあんまりセンシティブなのとかは自動で規制掛かるのでそのつもりで

配信や視界共有だけじゃなくて、掲示板のレス自体も

 

66:名無し転生者

ウッス

 

67:名無し転生者

マナーを守りましょう

 

68:自動人形職人

服装描写だけなのでセーフセーフ

 

69:名無し転生者

頼むぜ、職人ニキ

 

70:名無し転生者

職人ニキが細部語ってくれるから俺は脳から喋れる

 

71:名無し転生者

あぁ!

 

72:名無し転生者

脳から喋るは草

 

73:夏休み転生者

あ、3人来ました

 

74:名無し転生者

おぉ、ついに――――――えっっっっっっっっっ!!!!!

 

75:名無し転生者

姫様!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

76:名無し転生者

先輩は相変わらず属性盛りに余念がないですねぇ!!

 

77:名無し転生者

鳥ちゃんの健康的感じの可愛さ良き

 

78:名無し転生者

ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

79:脳髄惑星

こいつはすげぇ。

他の観光客の群れが割れてるぜ

 

80:名無し転生者

なんかスローモーションに見える……

 

81:夏休み転生者

3人とも、お綺麗ですね

 

82:名無し転生者

ちゃんと褒められる>1えらい

 

83:名無し転生者

すごい。俺自分の奴隷を褒めるだけでもめっちゃはずいわ

 

84:暗殺王

こういうとこ流石であるな

 

85:夏休み転生者

 

「主、主! 見て見て! 私こういうの初めて着たよ! 水着って言うんだよね! 海も凄いなぁ!」

 

 

86:名無し転生者

かわいい

 

87:名無し転生者

いつもぴょんぴょん跳ねてる

 

88:名無し転生者

ちゃんと揺れてる!!!!!

 

89:自動人形職人

紺色ビキニの上に、下はホットパンツタイプ。

ちょっとデニムぽい色合いがおしゃれですね。

 

ぱっとみシンプルだけど、背中側が脇と肩から紐二本でクロスしてるのがセクシーさを出して

鳥さん本人の健康的な雰囲気のアンバランスさが良い味を出していますね。

 

しかし何と言っても……

 

90:名無し転生者

健康的女の子の入れ墨がちょっとえっちすぎない?

 

91:名無し転生者

ほんそれ

 

92:名無し転生者

お腹のやつほぼ淫紋なんよ

 

93:名無し転生者

えっちちちちち

 

94:名無し転生者

ていうか鳥ちゃんわりと胸ある?

 

95:自動人形職人

多分身長が他の二人ほど高くないので、結果少し大きめに見えますね。

 

96:名無し転生者

うーん健康的女の子のセクシー背中とえっちな入れ墨

キャラと見た目のギャップが最高ですよ

 

97:脳髄惑星

先輩は先輩すぎて安心したわ

 

98:名無し転生者

それ

 

99:名無し転生者

ちょっとおもろい

 

100:名無し転生者

僕は好き!

 

101:自動人形職人

鮮やかな青の競泳水着は先輩さんのスタイルと相まってベストマッチですし、

いつもの眼鏡と違ってサングラスなのもおしゃれ……なんですが……その……

 

102:脳髄惑星

なんで水着の上に白衣着て、しっかりガンベルト太ももに嵌めてるの……?

 

103:夏休み転生者

 

「はい? 白衣にガンベルト。あぁ……決まっているでしょう」

 

104:夏休み転生者

 

「―――その方が、かっこよくないですか?」

 

あ、はい……。

 

105:名無し転生者

 

106:名無し転生者

 

107:天才様

さてはこいつアホでは?

 

108:名無し転生者

先輩わりとたまに天然出すの好き

 

109:名無し転生者

フェチズムがすごいんよ

 

110:暗殺王

まぁかっこいいのはそうなんだがな……

 

111:夏休み転生者

というか手に持ってる筒? 棒は一体……?

煙草……?

 

112:名無し転生者

電子タバコ?

 

113:名無し転生者

電子あったけこの世界

 

114:夏休み転生者

 

「空気中の水分を集めて、加熱して、この筒の中の煙草の葉を加熱して水蒸気を出す海や水辺用の煙草ですね。

普通の奴だと風とか湿気とかで吸いにくいので」

 

あ、はい……。

 

115:名無し転生者

うーんこの

 

116:名無し転生者

や、ヤニカ……

 

117:名無し転生者

大丈夫なのか健康

 

118:夏休み転生者

あ、浄化系統持ちってお酒とかたばことかの体に悪いの全部浄化できるらしいんですよね。

 

119:名無し転生者

なん、だと……

 

120:名無し転生者

う ら や ま

 

121:暗殺王

それがあれば毒殺の心配いらず……?

 

122:名無し転生者

いや酒も飲み放題はええな……

 

123:脳髄惑星

電子ドラッグなら送り付けてもいいぞ

 

使う前に脳みそ焼き付くかもだけど

 

124:名無し転生者

 

125:名無し転生者

やめーや

 

126:名無し転生者

殺人予告かよ

 

127:名無し転生者

まぁ太もものガンベルトがえっちだからいいや

 

128:名無し転生者

では

 

129:名無し転生者

あぁ……

 

130:名無し転生者

うむ……

 

131:名無し転生者

触れちまうか……

 

132:暗殺王

頼むぞ職人殿

 

133:自動人形職人

姫様!!! 褐色!! 銀髪ポニテ!!!!

 

白 ビ キ ニ ! ! ! ! ! ! !

でっっっっっっかいっっっっっっ!!!!!!!

 

134:名無し転生者

えっっっっ!!!!!

 

135:名無し転生者

いきり立つ!!!!!!!!!

 

136:名無し転生者

いや乳でかすぎるわ!!!!!!!!!!!

 

137:名無し転生者

ぼんきゅっぼんじゃなくてどたぷーん! ムチムキィ! ばいーん!!って感じ

 

138:脳髄惑星

職人ニキまで語彙力消失してて草

 

139:名無し転生者

いやおっぱいどうなってん……?

I字谷間が深すぎる……

 

140:自動人形職人

いや、細かい説明いります……?

超シンプルな白ビキニで語りようがない……素材が良すぎる……これはちょっと言語の敗北……

 

141:名無し転生者

あの戦闘服の時から凄かったけど、いやおっぱい大きすぎる。

 

142:名無し転生者

長乳ぃ……

 

143:名無し転生者

むらむらしてきたわ

 

144:名無し転生者

普段のロングじゃなくてポニテなのもいいわね……

 

145:名無し転生者

あのビキニ紐頑丈すぎる……

 

146:夏休み転生者

 

「―――ふふん、どうだ婿殿。皇国では水着といえばさらしだったが、こういうのもいいだろう?」

 

147:名無し転生者

あ、ちょ、なんか距離近くない?

 

148:名無し転生者

近すぎない?

 

149:脳髄惑星

というか正面から

 

150:夏休み転生者

あっ、ちょ

 

151:名無し転生者

正面からおっぱい押し当ててるんですけどおおおおおおおお!!!!

 

152:名無し転生者

むにゅうって!!!

おっぱいが!! おっぱいが>1の胸板でつぶれています!!!

 

153:名無し転生者

>1、>1、理性生きてる?

 

154:夏休み転生者

 

「どうだ婿殿。ん? 我ながら、人の男が好きそうな躰をしていると思うのだが。

綺麗とか似合ってるとか――――それ以外に言いたいことはないかな? 貪りたい、とかいいと思うんだ、うん」

 

あっ、あっ、あっ……

 

155:天才様

おいこら負けるな

 

156:夏休み転生者

み、みなさん……

 

157:名無し転生者

どうした>1、大丈夫か?

 

158:名無し転生者

おっぱい正面から押し付けられてこのセリフ耳元でウィスパーボイスとかダメでしょ

 

159:名無し転生者

好きになる。もうすき

 

160:名無し転生者

というか>1の>1がえらいことになるのでは?

 

161:夏休み転生者

た、助けて……こう、煩悩を消し去る言葉を……

 

162:名無し転生者

こんな切実な助けて初めて聞いた

 

163:名無し転生者

貪っていいのでは?

 

164:名無し転生者

いや、流石に公衆の面前だよな

 

165:脳髄惑星

後ろで鳥ちゃんが顔真っ赤にして覗きこんでて、先輩が無表情でタバコ吸いながら見てるのおもろい

 

166:自動人形職人

なんかあるかな……

 

167:暗殺王

こういう時の我よ

 

168:名無し転生者

おぉ!!

 

169:夏休み転生者

ど、どうか……

 

170:暗殺王

我も似たようなハニトラされたことがあるが

 

171:名無し転生者

>似たようなハニトラされたことがあるが

とんでもねぇ話の入りだ

 

172:暗殺王

こう、我も乳を押し付けられてな?

思わず前かがみになるだろ? 視線が下を向くだろう?

 

173:名無し転生者

それはそう

 

174:名無し転生者

しゃーないね

 

175:脳髄惑星

いきり立つものがないんですよね

 

176:名無し転生者

どうなったんだ。谷間に刃物でもあったの?

 

177:暗殺王

いや、乳が爆発した

 

178:名無し転生者

ん?

 

179:脳髄惑星

あん?

 

180:名無し転生者

乳が……?

 

181:自動人形職人

なんで……?

 

182:暗殺王

偽乳でその中に剣山仕込んでるタイプの暗殺者でな……

 

183:名無し転生者

おるかそんなタイプ

 

184:名無し転生者

びっくり人間かよ

 

185:名無し転生者

草生えるわ

 

186:名無し転生者

こわ~~~~

 

187:夏休み転生者

スゥゥッゥーーーー

 

「…………んー、流石我が婿殿は理性が堅いなぁ。ま、そこも愛いんだが」

 

た、助かった……ありがとうございます……!

 

188:名無し転生者

姫様無敵すぎる

 

189:名無し転生者

離れた瞬間の揺れでももう一度いきり立ちそう

 

190:名無し転生者

ていうか>1にもちゃんと性欲あったんやなぁ

 

191:名無し転生者

そりゃあある

 

192:名無し転生者

というかないと困る――――天才ちゃんが!!

 

193:天才様

>>192

モーニングスター

 




>1
性欲はちゃんとある。
ただ一線を超える気が今はないというだけ。

鬼姫様
長乳デカ尻シックスパック褐色ポニテ銀髪ビキニ
どたぷーん・ムキムチィ・ばいーんって感じ。

先輩
わりと雰囲気で生きてる

鳥ちゃん
入れ墨がえっちなんよ

天才ちゃん
この後一人でスク水とマイクロビキニとか着てたけど虚しくなった

>192
なんとか防いだ

次回くらいも水着回
感想評価いただけるとモチベになります


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天津院御影ー鬼の間にー

姫様回です

前回アンケ、姫様のドスケベ白ビキニと天才ちゃんのマイクロビキニが超デッドヒートで笑いました。
ただ天才ちゃんのスク水が最強だったのでさらに笑いました


「婿殿、こっちだ」

 

 4人で集合した後のことである。

 一度、解散しようという話になった。

 トリウィアはそもそもあまり水に入るつもりはなかったし、海初体験のフォンは今にも飛び出しそうだけど、「彼」の手前好きに動くのは……とウズウズしている様子。

 幸い、このビーチにはコテージや売店、魚人族たちが運営するアトラクションもあって遊ぼうと思えば丸一日掛かる。

 だから、解散してそれぞれ好きに時間を過ごそうとなった。

 案の定フォンは一瞬で海へと飛び出して行ったし、トリウィアは煙草を吹かしながらパラソルが並んだフリースペースへと吸い込まれていった。

 そして、御影は「彼」の手を引いて、

 

「いいだろう、ここ。VIP用、らしいぞ?」

 

 先ほどの砂浜から少し離れた水上コテージ。

 魚人族は水中と水上、地上と多様な居住様式を持つ種族だ。基本水陸両用であるために、海沿い、川沿いかどうかで建物は環境に合わせていく。今御影たちが来た街は主に環境都市ということもあり、大体の様式がそろっていた。

 その中でもビーチ沿いの水上コテージはそのまま宿泊施設としても、VIP・個人用の休憩所としても利用可能である。

 今御影たちが来たのは休憩所向けとして、テーブルやビーチチェアや日光浴用のマットとパラソルあたりがある程度のもの。

 

 わぁ、と「彼」が目を輝かせる。

 山育ちだったせいか、「彼」もフォンと同じく海を見るのは初めてだったらしい。流石にフォンほどはしゃいでいる様子はなかったがそれでも広い海や魚人族の街に心を躍らせているように見えた。

 静かな水上コテージも賑やかなビーチとは違った風情がある。

 視覚的な空間だけではなく、足元から波の音が聞こえるのが心地いい。

 「彼」が喜んでいるだけで、コテージを確保していた甲斐があったなと、御影は頬を緩めた。

 先日の≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫で仲良くなった魚人族代表だった男が良い笑顔で親指立てて用意してくれたが彼に感謝である。

 

 ここで何します? と「彼」が首をかしげて聞いてくる。

 御影は「彼」のその仕草が好きだ。

 純粋さや純真さがそのまま表れているようで。

 キュンとするし、その首筋にむしゃぶりつきたくなる。 

 

 ―――が、今回はそうではない。

 

「いやいや。せっかく海に来たはいいが、ほら。海と言えばという話だろう? うら若き乙女に、この紫外線は全く厳しいんだから」

 

 言いつつ、日光浴のマットとそのわきに置かれた()()()()()へ視線を送る。

 ぎょっ、と「彼」が目を見開いて、何か言う前に体を密着させ、腕と腕、手と手を絡めた。

 むにゅりと、自分の胸が「彼」の腕を挟みながら潰れ、

 

「――――塗ってくれ、婿殿」

 

 耳元に囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……ふっ」

 

 少しひんやりとした粘度の高い液体とそれに包まれた指が背中をなぞる。 

 思わず声が漏れてびくんと、「彼」の手が止まり、少ししてまたオイルを素手で伸ばして行く。

 恐る恐る、という動きだ。

 「彼」の視界は今、大変なことになっている。

 両手を顎の下にしてマットにうつぶせで寝ているが、ビキニのひもは解かれて、乳房が体とマットに挟まれて潰れているが、大きすぎて両脇に大きくはみ出ている。

 明るめの褐色の肌が透明のオイルで塗れて、あまりにも艶めかしい。

 一見筋肉質な彼女の体だが、指でなぞるその肌は柔らかくしなやかだ。

 少し指で押し込めば心地よい弾力で押し返し、気を抜けばオイルで滑って触ってはいけない所に触れてしまいそうになる。

 普段と違い高い位置でポニーテールにしているからうなじが、白銀の髪と明るい褐色のコントラストがはっきりと見えた。

 肩甲骨あたりから視線をおろせば大きな胸とは対照的にキレイに縊れた腰―――そして、大きなお尻。

 はみ出ている胸は一部だけだが、うつぶせになった彼女の脇に膝立ちな以上、明らかに全てを包むのには足りず、ほぼTバックのようになっている白ビキニの桃尻の全てが視界に飛び込んでくる。そこから伸びる足も、むっちりとしているのに全体的に長身な上に足も長いからか太いとか大きいという印象は薄れてしまう。

 いや、胸も尻も太ももも全部大きいのだけれど。

 彼女が少し身じろぎするたびに揺れ動くが、妙な重量感さえ醸し出し、果たしてどれだけの密度があるのだろう。

 

 ごくりと「彼」は思わずつばを飲み込んだ。

 

 何かとスキンシップが多く、胸を「彼」の腕や背中、胸板に押し当てることは多い御影だが、流石に直接手で触らせるようなことはない。

 手を繋いだり、互いの体を服越しにマッサージということはある。

 それでも、上半身は裸の背中と下半身は水着だけというは初めてで聊か以上に刺激が強すぎる。

 出会った時から耳元で囁いてくる癖は変わりないが、それでも体や手が触れ合う程度だったのが懐かしい。 

 彼女から熱烈求婚を受けてもうすぐ半年、とんでもないところまで来てしまったと「彼」は思った。

 

「んー、婿殿。手が止まっているぞ?」

 

 くすくすと、こちらを向かずに御影は「彼」を促す。

 返答はなく、無言で手を動かした「彼」に再び彼女は笑い、

 

 ―――――――うーん、これもう襲っても良くないか? と思った。

 

 数秒真面目に考え、やっぱり良くないなと思った。

 前提として、自分から行くのはレギュレーション違反だと、自分は判断する。マイルール違反だ。

 学園にいる間の3年間で、「彼」を自分に惚れさせて、手を出させたり、告白してもらったり、獣になってもらったり、襲い掛かってもらうのが目的だ。

 3年スパンの長大計画である。

 そしてわりとうまくいっている気がする。

 実際、ちょっとしたスキンシップやボディタッチは当たり前になってきたし、晩酌時、御影の部屋での露出多めな襦袢姿でも動揺することは減ってきている。 

 例えばこれが初めて会った時だったら、水着にサンオイルを塗ってもらうなんて絶対拒否されていただろう。

 

 基本的に大人しい「彼」だが性欲が無いわけではない――――むしろ、ちゃんとあることを御影は知っている。

 

 自分が薄着の時、胸の谷間に視線が行っているのも知っている。

 先輩の使いこまれたレザーパンツの太ももやヒップラインをたまに見ているのも知っている。

 フォンの何かと動きが多く無防備なせいで色々見えそうになる時に顔を赤くして目を閉じて顔を背けるのも知っている。

 ただ、最終的に踏み込むことがないだけなのだ。

 それは草食系とかヘタレとか意気地なしとかそういうことではないタイプだと御影は思っている。

 

 多分それは、()()()()()()()類の問題だと。

 「彼」の精神性を形作る根幹的な何かではないかと御影は推測している。

 

「んっ――」

 

 背筋の吐息が漏れた。

 そして、「彼」の手が数秒止まってまた動き出し、少しずつ背を降りていく。

 まだ慣れていないたとたどしい手つきが可愛い。

 もっと、がっつり来てくれるのが理想なのだけど。

 鬼族の女的に、惚れた男ないし自分の全霊を倒した男に閨で屈服させられるのは理想の一つだ。

 強さを最も尊ぶ種族だからこそ、性欲も戦闘欲もわりと直結している。

 このまま後ろからがばっと来てもウェルカム。

 褥を共にするには聊か少し離れた距離に人も多くて声とか漏れそうだが、御影的には一種のスパイスだ。

 鬼という種族は、性に開放的なのである。

 

 尤も、あまり性に開放的だったり、奔放なのは人間からすると引かれる原因になるという。

 ≪魔法学園≫ではそのあたりの文化差における授業もあり、マジかと思ったものだ。

 だが文化差なので仕方ない。

 

「んふ……ぅ」

 

 「彼」の指が、掌が腰あたりを撫でまわす。

 下腹あたりがむず痒い。

 好きな男に体を撫でまわされて、興奮しないわけがないのだ。

 先輩ならきっといつもの無表情で同意してくれるだろう。

 フォンは顔を真っ赤にして何も言えなくなるが、そういう所が可愛いと思う。

 

「は……ぁ……んっっ♡」

 

 「彼」の手が一瞬だけお尻にまで伸びる。だが、我ながら肉の詰まった尻が「彼」の指を弾いてしまった。

 学園に来るまで、「彼」に出会うまでは無駄に肉が詰まった乳も尻も好きじゃなかった。

 だけど、「彼」が思わず見てくれるのならば好きになれる。

 

「ふぁ……んくっ」

 

 あの、と「彼」が絞り出すような声を上げた。

 

「ふぅ……ふぅ……ん、どうした婿殿?」

 

 首だけで振り返って彼を見る。

 御影の腰に手を当てたまま、必然的に前かがみの姿勢で―――そこには突っ込まないでおく―――顔を真っ赤にして目を閉じていた。

 変な声を出さないでくださいと、「彼」は言う。

 

「変? いやいや、婿殿の手管故だとも。つい身体が火照ってしまった―――もっと熱くしてくれてもいいんだぞ?」

 

 顔の位置を戻しながら、膝を折り曲げて彼の腕に()()()()と触れる。

 足蹴にしているようでちょっと興奮した。

 逆もまた良いな、とも思う。

 もういいですよね、と「彼」は立ち上がろうとした。少なくとも、御影の脇からズレようとしたのだろう。

 素早い動きだった、御影が振り向くよりも早くこの場から離脱、ないしはそのまま海に飛び込もうとする勢いだった。

 というか、実際に飛び出していた。

 

「こらっ婿殿。()()だぞ?」

 

 そう動くと分かっていたので、体をひっくり返して彼の足首を掴んで無理やり逃亡を阻止した。

 ぐえっ、と「彼」がうめき声を上げるが、身体強化魔法を使っていないのならば種族差の基礎スペックで御影が負けるはずもない。

 結果的に、「彼」が御影のお腹に墜落して、

 

「…………うむ、これはこれで乙だなぁ」

 

 起き上がれば太ももとお腹と胸で、「彼」を挟み込む形になった。

 ひぃあ、と少し高めな声を「彼」があげるのがちょっと興奮する。

 まな板の鯉ならぬ、鬼の体の上の人間である。

 

「ふむ」

 

 胸をそのまま、「彼」の背中に乗せる。

 「彼」が脱出しようともがくが、

 

「婿殿。水着取れたままなんだよな、私」

 

 その一言で時間でも止まったかのように停止してしまった。

 水着の上は外したままなので、当然明るめの褐色の乳房とその頂点の桜色の突起は晒されている。

 コテージには柵があり、パラソルの下にいるから外からは見えないだろうが、しかし今重要なのはそこではない。

 

「―――ふふっ」

 

 ぞわりと、「彼」の背を撫でる。

 両手が空いた以上、色々触り放題である。

 色々触りたいが―――我慢だ。

 色々我慢した方が、最後の最後の瞬間が最高だと御影は知っている。

 元々、妾腹・混血の身から王位継承権第一位までもぎ取った。それは10年近くの歳月をかけたものだったのだ。 

 だから、あと2年半くらいの我慢なんて興奮へのスパイスと言っていい。

 もし来年くらいに「彼」の本能が爆発したとしてそこで待ったを掛けるというのももしかしていいんじゃないだろうか。

 

「なぁ、婿殿」

 

 身をかがめて、つまり胸を強く「彼」の背中に押し当てながら耳元でささやく。

 とっくにその両耳も首筋も真っ赤だった。

 可愛い。

 かなりむらっとする。

 絞る様に、言葉を発する際に生じる吐息をそのまま真っ赤な耳に当てるのが御影のお気に入りだ。

 妙な体勢で挟んでいるからか、変に硬直した腕に、自分の指を這わせながら五指を絡ませる。

 

「まぁーだ」

 

 ぶるりと、「彼」の体が震えた。

 ぞくりと、御影の体も震えた。

 片手で五指を絡めとり、片手は「彼」の体を撫でまわし、乳と太ももで挟み込む。

 自分も「彼」も息が荒くなっているのを、自覚する。

 けれど、これで終わりではもったいない。

 折角の夏休み。折角の海。

 少しばかり、いつもはできないことを。

 

()が終わっていないだろう?」

 

 

 

 




「彼」
性欲はある。
二人きりになった時点で視界共有は切ってた
煩悩のうめき声だけが掲示板に流れていた。

ケツは勿論、うなじとか横乳もちゃんと見てた。

一線は超えなかったらしい

姫様
ハイパー肉食系だけど待てはできる
3年間かけてじっくりボルテージを上げる気満々。
彼に対して常時ASMRを心掛けている。

「彼」が一線を超えられないのは色々事情があるだろうなとは思いつつ、それならそれでと楽しんでいるので無敵
ドスケベボディの活用に余念がない


先輩
さらっと風評被害だった

天才ちゃん
<●><●>


えっちに書けたでしょうか。
水着だと姫様があまりにも無双するので、それぞれシチュ変えて先輩と鳥ちゃん回も書きたい所
感想評価いただけると幸いです


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トリウィア・フロネシスー1つの灯ー

それではこちらをご覧ください

【挿絵表示】


天才ちゃんに引き続き、ひふみつかさ先生@Aitrust2517より頂きました!!
でっっっっっっっ!!!!
えっっっっっっっっ!!!!
この乳を押し付けてきてウィスパーボイスとかえっちすぎるでしょ。

オリジナルキャラのイラスト化・支援絵は本当に幸いなことです、本当にありがとうございます。
これはメイン4人が揃ったりとかも次の夢ですね。

というわけで先輩回です


 ふと目を開けた時、トリウィアは喉の渇きと軽い頭痛を感じた。

 

「……?」

 

 状況がつかめず、頭がぼーっとしていた上に片目の視界がぼやけている。

 

「――――ふむ?」

 

 眼鏡がずれているなと、判断し手を動かそうとしたら両腕に重みを感じて動きが止まる。体に意識を向ければ何故か倒れているようで、おまけに上下に妙な異物感や重みや鈍痛やらがある。

 半分ぼやけた視界で視線をずらせば、

 

「…………なるほど」

 

 自分の研究室に倒れた上に、本や書類が雪崩を起こしてそれに飲み込まれていた。

 状況を把握し、長く息を吐く。

 少し無理をしていたなと、思った。

 壁の3辺は本棚が天井まで並んでおり、ソファやいくつかの机には書類や魔導書、文献が散乱している。窓際には簡易キッチンがあり、ちょっとしたお茶を淹れるくらいの設備がそろっている。

 床は石畳に絨毯を敷いているが、そこから伝わる気温は少々肌寒い。

 大きな窓から差してくる夕日は黄金色で、もう夕方なのだろう。

 夏が終わり、秋になった。

 少しずつ、気温が下がってきている。

 

 つまり、卒業が近づいてきているということだ。

 学園は3年制であり、卒業試験もある。

 加え、トリウィアの場合はさらにやることがあるので最近はそれの準備で徹夜をすることが多かった。

 徹夜自体は慣れている。

 元々ショートスリーパー気味な上に、寝ずに勉強というのは幼いころから自分にとっては当然だった。

 だがここ数日、研究だけではなく教師陣との打ち合わせ、通常授業やフィールドワーク課題、学校行事、主席業務も相まって純粋な作業数が多かった。

 夜明けあたりに軽食を取ったのは覚えているが、それ以降の記憶がないのでそこから眠っていたのだろう。

 眠ったというか、気絶していたというか。

 

「ふわぁ……」

 

 欠伸をしながら、息を吐く。

 脳みそがふやけている。

 気絶前に作業は一段落していたのでまぁいいなとも思う。

 椅子で座ってそのまま眠ることも多いし、本や書類の山の中でも眠れなくはない。むしろ、本の匂いが心地良いくらいだ。

 

 もう夕方だし、このまま眠ろうかなと思った所で――――ドアがノックされた。

 

「あ」

 

 先輩? とたずねてくる声は「彼」のもの。

 大丈夫ですか? 入りますよ、といつもならノックを待っているはずだが、

 

「あ」

 

 そういえば夕方前くらいに主席関連の相談を受ける予定だった。

 そして時刻は夕方。自分で言うのもなんだが時間は守るタイプだ。だから、心配してきてくれたのだろうと思う。

 そして、自分の状況を再度確認して起き上がろうとして――――ふと、ちょっとした欲望が湧いてきた。

 なのでそのまま視線だけ扉に向けて、

 

「―――どうぞ」

 

 そして、入ってきた「彼」の驚いた顔と声が部屋に響き渡った。

 こういう時、どんな顔をするのか「知りたい」と思ったので、満足である。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ごめんなさい。反省しています、いやほんとほんと」

 

 「彼」の半目を受けながら、窓際で煙草に火をつけ煙を吸い込む。

 

「―――ふぅぅぅ」

 

 煙を肺へ送り込んでから、軽く唇を突き出しながら煙をゆっくりと吐き出した。

 開け放った窓から秋の風が入り込み、代わりに紫煙が外へと吸い込まれていく。

 少しまえまでぼやけていた頭に、少し冷たい風は心地いい。

 窓の外からはいくつかの校舎と運動場が見えて、この時間でも熱心な生徒が訓練を行っていた。

 というか、大きな翼を生やした一人が大地の十数人に向かって絨毯爆撃を行っている。

 それなりに離れているが、それでも高笑いが聞こえ、ちょっと焦げ臭い匂いも感じた。

 二年主席の龍人族だ。

 何をしているのか……とまでは思わない。

 3年の自分もこの時間まで寝ぼけていたし、2年主席が魔力と種族特性任せに同級生や下級生を戦闘訓練と言いつつも蹂躙していても何も言えないだろう。

 そう思うと、まともなのは1年主席の「彼」だけかもしれない。

 

「ふっ……流石は私の後輩君」

 

 なぜか背後からの視線が強まった。

 それにしても高笑いと爆撃音は聊かうるさい。

 なので、太もものホルスターから銃を抜き放ち、トリプルアクセル決めて翼から火炎弾を飛ばしていた二年主席を撃墜させた。

 一瞬、運動場が静寂になり、地に足を着けていた生徒たちがこちらを向く。

 彼らに向けて人差し指を口元に当てて「静かにするように」と口だけで伝える。彼らの中に獣人族が何人かいたので、視力が良い彼らにはこれで伝わるだろう。

 実際、何人かは頷き、何人かはおじぎをし、何人かは親指を立てて笑っていた。

 そのまま無言で、上半身から地面に突き刺さった二年主席を囲み始めている。

 

 ちょっとしたサバトみたいだな、と思う。

 獣人やらエルフや、南方の≪聖国≫の儀礼服を着ているものが何人かいるので余計にそれっぽい。

 あぁいう光景も学園の良さの一つだなと、トリウィアは思った。

 

「さてと……後輩君」

 

 振り返った先、「彼」は少し怒ったような顔で書類を突き付けてくる。

 そういえばこういう顔は初めて見たかもしれない。

 心配したんですからね、なんてことを言ってくるのが可愛い。

 

「分かっていますよ。……そうだ、珈琲淹れましょうか。心配させたお詫びです」

 

 ポットに湯を張って火にかける。

 青と白のマグカップを二つ用意し、珈琲豆をミルで細かく挽いていく。

 お茶や珈琲は集中力を高めるのに助けになるので、色々な地方のものを取り揃えている。嗜好品が概ね高価な≪帝国≫では贅沢の代名詞だったが、≪王国≫ではそこまで高いわけではない。

 夏の遠征の際にエルフ族からハーブティーをいくつか貰ったし、珈琲は≪聖国≫から生豆ごと取り寄せたもの。

 ドワーフ製のガラスポットにフィルターを張り、豆を入れて、

 

「この瞬間が好きなんですよ、私」

 

 お湯をほんの少し入れて、豆を蒸らすことで香りや旨味を抽出する。

 部屋の中に香ばしい珈琲の香りが一気に漂いだした。

 ぼやけていた意識が完全に覚醒する。

 何度か分けてお湯を注げば完成だ。ガラスポットからマグカップに移し、青のマグカップには何も入れず、白のマグカップには角砂糖を二つ。

 

 自分はブラックが好きだが、「彼」は甘い方が好きだと知っている。

 

「はい、どうぞ」

 

 これで誤魔化せませんよ、という顔をしながらも「彼」は両手で受け取ってくれる。それに微かに笑みを浮かべながら、自分も向かいのソファに座り足を組む。

 

「さてと……前回のフィールドワークのフィードバックですね?」

 

 四日ほど前、「彼」と自分、そして今頃サバトの生け贄になっているであろう龍人族主席、それに各学年の成績上位者数人が行ったものだ。無論御影もフォンも一緒だった。

 王国の北の方で繁殖期に入った魔獣の群れが人里を襲うという事件があった。

 数年に一度起きることがある魔獣災害の一つ。しかしかなり大規模なものだった。

 王国の対魔獣組織である≪不死鳥騎士団≫も出動し、トリウィアたちも魔獣を撃退した。

 それに関するレポートである。

 たかがレポート一つではあるが、それでも主席である以上は一定のクオリティが求められるし「彼」自身そうであるように心がけている。

 なので、「彼」が書いたものをトリウィアが添削することはさほど珍しくはなかった。

 

「……ふむ」

 

 片手で煙草を、片手でマグカップを持っているので書類を魔法で浮かす。単純な浮遊魔法だが、書類や本に目を通す際は便利で有用性が高い。

 紫煙を燻らせながら一通り最後まで目を通し、

 

「えぇ、これなら問題ないでしょう。後輩君も随分この手の課題が上手になりましたね」

 

 書類を纏めて「彼」に返すとわかりやすくほっとしていた。

 が、すぐに顔を引き締めて、まだ怒っていますよ、と言わんばかり。

 思わず苦笑してしまう。

 

「……えぇ、ちゃんと反省します。流石に根を詰め込みました。ほら、卒業試験だけではなく私は研究員試験もありますからね」

 

 基本的に学園は3年制だが、成績優秀者且希望者は卒業後も学園に残り研究生として在籍が可能となる。かなり難易度が高く、数年に1人2人程度いるかどうかの珍しいものだ。

 そもそも学園に来るのは卒業後の進路の為という理由が多いので、卒業できるなら卒業していく。

 トリウィアのようにずっと研究室に籠りたがる方が稀なのだ。

 基本的に研究員試験は年末前にあり、年明けには合否が決まる。

 故に秋は大詰めの季節だ。

 大丈夫ですかと、「彼」が首をかしげながら問いかける。

 「彼」の癖だ。

 御影はその首筋にむしゃぶりつきたいとか、その仕草だけで酒が飲めるとかよく言っているが、ちょっと分からない。

 鬼は性欲の発現の仕方がワイルドすぎる。

 同意を求められても困るのだ、あの肉食系お姫様は。

 まぁ、可愛いことは間違いないと思う。

 

「えぇ。大枠はそれこそ気絶するまで時間を掛けたので終わりました。後は細部の調整くらいですね。この手の作業は得意だったし、時間の余裕はそれなりに」

 

 あまりこういう課題で追い込まれるのは好きじゃない。

 というか、時間に余裕があると「知りたい」欲が暴走して、結局時間が足りなくなるのだ。

 

「なので、私の方は心配いりませんよ。……えぇ、はい。体調も気を付けます」

 

 中々信じてくれない。

 わりとかっこいい先輩をしているはずなのだけど。

 なぜか分からないが、何かイベントを熟すたびに「彼」からの尊敬度が減っていき、むしろ仕方ないなぁというかお世話されることが多くなっている気がする。

 そういえばこの前は碌に使っていない自室の掃除をしてくれた。

 概ね携帯食料や高カロリーのエネルギーバーで食事を済ますことが多いが、何かと食堂に連れて行ってくれたり、夜食を作ってくれたりもする。

 研究者の誇りたる白衣に珈琲をうっかり零した時も、妙に慣れた様子で染み抜きをしてくれた。

 

「おや……?」

 

 わりと先輩らしいことをできていない……?

 否、とトリウィアは短くなった煙草を灰皿に押し付け、新しいものを咥えて火をつける。

 火をつけようとしたら、パチンと「彼」が指を鳴らして火をつけてくれた。

 初歩的な「加熱」単一系統使用で、トリウィアが着火の際に口に咥えたまま行うもの。

 

「…………すぅ――」

 

 煙を吸い込み、

 

「―――ふぅ」

 

 吐き出し、思った。

 おやおや……? この後輩君、完璧か……? 

 いや、良くない。かっこいい先輩として、してもらっているばかりでは決して良くない。

 今しがたレポートを見たばかり。そのレポートは特に修正することはなかったけれど。

 であれば、先輩としてそれっぽいことを言うのならば、

 

「後輩君は、卒業後の進路とか考えていますか? 君の場合、引く手数多でしょう?」

 

 おそらく史上初の全属性全系統持ちだ。

 その上でこのまま学園主席で卒業すれば王国だろうとどこだろうと食事には困らないだろう。

 

「それに、君の場合≪皇国≫の王族や鳥人族という手もありますしね」

 

 途端に「彼」が何とも言えない表情をした。

 原因は当然御影のことだろう。

 あのスーパーアグレッシブ皇女は着々と「彼」を攻略している。

 最近、一緒に風呂に入るまでいったとか聞かされた。

 一線を越えにいくつもりはないらしいが、越えなければ何しても良いと思っている節がある。

 彼女が「彼」をあの手この手で攻めるかはもはや学園の名物になりつつあり、一部ではいつ一線を越えるか賭けにもなっている。

 「彼」もまんざらではないが、その好意を直接受け入れる様子がない。

 同性が好きなのかとか、恋愛に興味がないのかとか、そもそも性欲が無いのかと思ったことはあるがそんな様子はない。

 御影は勿論、自分やフォンにもたまに視線が行ったり、赤くなったりしているのは知っている。

 

 ただ―――それは彼の根幹に関わる問題だと、トリウィアは思う。

 それはきっと、簡単には解決しないものだ。だからこそ御影は3年かけてどうにかしようと思っている。

 或いは、これはトリウィア自身のただの所見だが―――踏み出すことそのものを恐れているようにも見えた。

 

「ま、あと2年少しありますし、君の可能性は沢山ありますからね」

 

 例えば、

 

「私も研究員は2年ほどの予定ですし―――一緒に、帝国に来るとか」

 

 ぽつりと、よく考えずに漏れた言葉を呟いた。

 えっ? と彼が目を丸くして、

 

「……」

 

 自分も漏らした言葉を振り返り。

 あれ、わりと凄いことを言ってしまったのではと今更ながらに思った。

 

「……」

 

 しばらく秋の夜の風と妙に気まずい、けれど頭の先がムズムズするような空気が流れて、

 

「……あー、一本吸います?」

 

 誤魔化すように煙草を一本差し出して、慌てた動きで「彼」も受け取った。

 意外だったが、「彼」も煙草は吸える。といっても好きというわけではなく、たまに自分の付き合いで一服する程度だ。

 「彼」も浄化系統持ちなので体に悪影響が出ないので安心だし。

 煙草を咥えた「彼」は立ち上がり窓際に移動して、さっきの要領で火をつける。風属性の魔法を使えば匂いや煙は他人に及ぼさなかったり、匂いを付けずに吸えるのだが彼はそのあたり気にして、外か窓際かでしか吸わない。

 悪いことではない。

 折角なので同じように窓際へ。

 日が沈み、もう夜だ。

 一服したら明かりをつけないといけない時間帯だ。

 運動場に目を向ければ、2年主席の龍人が十字架に掛けられて周囲を松明で囲っていた。 

 やはりサバトだ。

 

「…………後輩君、火、いいですか」

 

 「彼」は指を鳴らそうとして、しかし身体を寄せて来たトリウィアの意図に気づいたのか手を止め、「彼」も少し体を屈める。

 じりりと、「彼」とトリウィアの煙草が触れ合い、火が移る。

 

 2人は真っ暗な部屋に包まれて―――明かりが一つ灯っていた。

 

 

 

 

 

  




「彼」
煙草は生前、付き合いでたまに吸う程度。
先輩がわりとずぼらなので面倒を見がち

先輩
ぱっと見完璧美人だけど私生活がずぼらなお姉さんって最高じゃないですか?
そんなお姉さんとシガーキスって最高じゃないですか?
雰囲気とかっこよさで生きているので、勉強や研究以外はだらしない。
気づいたら「彼」から衣食住サポートを受けていた。

2年主席龍人さん
レアな龍人種。主席なので滅茶苦茶優秀……が、なんかアレな気配



天才ちゃん
まぁそういう未来の方が、彼は幸せになるのかなと思ってしまう


感想評価いただけると幸いです。


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フォンー風の歌ー

こちらをご覧ください。


【挿絵表示】

すずてんさん(@suzuten1)から天才ちゃんの支援絵頂きました!
こう……この子はこういう感じで出待ちしている!!
生足が最高なんですよね。
AA職人として存じ上げていましたが絵も描けるとは……強い……!



【挿絵表示】

そして前回シガーキスでみんなの情緒を殺した先輩もつかささん(@Aitrust2517)に頂きました!
いや顔がいい……下半身の肉付きの良さが最高なんですよね。安産型。
(ふふふ……かっこいいポーズ!)とか思ってそう。

二枚とも前話更新直後くらいに頂いてたんですが、少々忙しく更新が滞っていたら


【挿絵表示】


まさかの鳥ちゃんも追加で頂きました。つかささん……! 
健康的なボディに淫も……刺青のギャップが最高ですね。背景が翼になってるのもセンスが凄い……まさかメインヒロイン4人揃えていただけるとは……!

すずてんさん、つかささん、ありがとうございます!


「ひあー! 疲れた!」

 

 板張りの訓練室にフォンは大の字で倒れ込んだ。

 既に冬の盛りに近づいた外とは違い、学園の運動室は快適な気温に保たれているが、しかし運動後の火照った体には汗が滲む程度には暑かった。

 基本的に鳥人族には冬服という概念は無く、似たような衣装の長袖が≪王国≫の服屋で売っていたので、結局それの袖を切り落として運動服代わりにしている。

 下は肌に張り付く伸縮素材で太もも半ばまでなのは相変わらず。

 結局防寒具としての意味を失ってしまったので、概ね外ではロングコートを羽織り、下はゆったりとしたズボンを履くことでどうにかしていた。それらも屋内で暖かい部屋に入ればすぐに脱いでしまって「彼」に注意されるのだが。

 生まれ持った習慣というのはなかなか直せない。

 

「あ、主ぃー、ありがとー」

 

 「彼」がフォンに水筒を差し出してくれたので感謝をしつつ、冷たい水を喉に流し込む。

 

「わっぷ……にへへ、こっちもありがとっ」

 

 大き目のタオルも体に掛けてくれたので嬉しくて笑って礼を。

 はしたないよ、と「彼」は手を差し伸ばしてくれたのでその手を取り、胡坐に直って汗を拭く。

 そして、同じように半袖長ズボンという動きやすい恰好の「彼」が隣で座り、水を飲み始めた。

 

「へへっ」

 

 なんとなく、楽しいなと思う。

 「彼」と一緒に何かをするということが。

 

「んもぉー! 仲良しねぇ~!」

 

 そんな二人に声をかけたのは、2メートルもあろう巨躯のエルフだった。

 エルフといえば森に生き、草花や自然を愛し、長命で誇り高く、そして男であれば年をとっても美青年であり、女であれば美女だ。

 が、眼の前のエルフは訳が違った。

 筋骨隆々、本来華奢なエルフだとは到底思えない。裾が広いズボンには太ももの筋肉が張り付いてパツパツだし、胸の半ばくらいでボタンが開けられたフリルシャツから覗く胸筋は彫像のように隆起していた。

 最初見た時はエルフ……? となったが、尖った耳がエルフ族であることを証明している。

 おまけに男だが、人間種の女性がするような濃いメイクをしているので性別が良く分からない。

 都会は凄い人がいるんだなと、最初は驚いたものだ。

 彼、あるいは彼女は、しかしこれでも学園の教師であり、文化全般の授業の統括を行っている者だ。

 被服、ダンス、歌、楽器、さらには料理や掃除のような家事全般まで全てが一級品のオカマなのである。

 そのあたりの花嫁修業全般を修めていて、料理もいっそ本職でやれるのではないかと思わされる御影でさえ舌を巻くほどなのだから恐れ入る。

 ≪皇国≫王族認定エルフだ。

 ちなみにトリウィアは料理は出来るらしいのだが、やたらゲテモノ料理になるので厨房出禁である。

 

「ま、形に、なったんじゃ、なぁーいのぉ? 二人とも、センスはあるわぁ~~」

 

 やたらしなを作って話すのは癖があるが、まぁ慣れである。

 

「これなら、生誕祭と新年祭も十分すぎるほどでしょ」

 

「よかったぁー。地に足着けてダンスなんて初めてだったから、変な感じぃ」

 

 時はもうすぐ年越しである。

 そして≪王国≫では年末の少し前に生誕祭―――かつて初代国王の誕生日を祝う≪王国≫の記念日と、年の終わりと次の明けを祝う新年祭という行事が二つ控えている。

 ≪氏族連合≫では年末年始は冬の終わりなので、少し変な気分ではある。

 学園も冬休みに入り、王都も学園も祭りに向けて準備をしていく。

 

 ダンスの練習もその一環だった。

 新年祭はどんちゃん騒ぎらしいのだが、建国祭はわりとシックな感じらしく優雅な音楽に合わせてダンスイベントがあったりするらしい。

 これが若者にとっては誰と誰がペアになるかで戦争ものらしい。

 

「主殿は早かったね」

 

「モテモテねぇ。主席ちゃんは~。中々ないわよ、3人同時って」

 

 いやいやと、「彼」は苦笑しながら首を振る。

 3人、とは言うが実際の所はもうちょっと複雑だ。

 基本のペアを御影が秒で申し込み、その後学生代表ペアとして「彼」とトリウィアが選ばれたので建国祭でパーティーの来賓や生徒の前で踊ることになり、

 

「御影さんも流石の度量だよねー。私が1人だけ仲間外れじゃん! って言ったらお前も踊ればいい! とかダブルペア認めてくれたし」

 

 あの鬼姫様は一々カリスマがある。

 「彼」に対してはあまりにアグレッシブすぎるが、それ以外ではカリスマ皇女以外の何でもない。一人っ子の自分にとっては姉のような存在だ。

 トリウィアはちょっと何考えているかよく分らない。

 見ている分には面白いのだけど。

 

「ま、私はこれで。もう夜も遅いし、オイタはダ・メ・ヨ―――CHU・CHU♡」

 

 巨漢のオカマエルフが投げキッスをフォンと「彼」に連続で飛ばし、片足のつま先立ちで回転しながら運動室の外へ消えていった。

 地味に尋常じゃないバランス感覚だった。

 

「……ふぅ」

 

 自分と「彼」だけになってしまって息を吐く。

 窓の外を見れば真っ暗で、星が輝いている。

 かつての鳥人族の里とはまた少し違う。

 基本的に鳥人族は冬は比較的暖かい地域に移動し、暖かくなれば高地地帯に居を構えるといった『渡り』を行う種族だ。

 そのため、フォンにとって冬というのは新鮮だった。

 息を吐けば白くなり、頬を刺すような冷たい空気、乾きつつも澄んだ空。

 夜空のことはよく知っているけど、窓の外には知らない空が広がっていた。

 

「主ぃ?」

 

 ん? と、帰り支度をしていた「彼」が首をかしげながらこちらを向く。

 主の癖で、それを見るとフォンは何故か嬉しくなってしまう。

 勝手に頬が緩んでしまうのだ。

 なぜか荷物とは別に小包を持っているが、しかしそれよりも、

 

 

「今から、空行かない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははははは!! さーっむーい! つめたぁーい!」

 

 眼下、巨大な王都の光がある。

 夜空を落下していけば冬の冷たい空気が手を繋いでいるフォンと「彼」の体を駆け抜けていく。魔法による保護も使わず、フォンも獣化を用いない純粋な高所落下だ。

 訓練所を出た後、「彼」の手を取ってそのまま限界高度まで飛翔して落下している。

 鼓膜に響く轟音は慣れたもの。

 隣、手を繋いだ「彼」が何かを叫んでいるが、

 

「え? 聞こえなーい! あははははは!」

 

 寒くなってきて、高所飛行はしばらく控えていたなぁと今さらながらに思い出す。

 鳥人族である自分からすれば信じられないことだ。

 それくらいに王都の、「彼」との日々は鮮烈だったから。

 鳥人族にとっての娯楽は飛ぶことであり、それ以外は亜人種族の文化的に発展していないというのは否めない。

 それを恥ずかしいとも残念とも思わない。

 飛翔こそが、鳥人族の全てだから。

 けれど、王都には、学園には多くのものがあった。

 石造りの街、沢山の人種、音楽や絵画、演劇、それらの他の国のもの。

 ≪連合≫の中でだけ生きているだけでは決して知ることができなかった。

 

 今は、「彼」個人の付き人としてフォンは学園に在籍している。

 そういう立場は左程珍しくはない。他国の王族や各国貴族も珍しくないのだ。そういう立場から入学条件を満たしていない者でも学園で暮すことが可能だ。

 当然、御影にもいるらしいのだが見たことがない。

 ≪皇国≫特有のニンジャ、というやつらしい。

 御影と一緒に入学しているらしいのだが、影すら見たことないので謎だ。

 世界は広い。

 

「――――ははっ」

 

 それでも、こうして風の中を舞うことこそが最高の瞬間だ。

 落ちる。

 落ちる。

 落ちていく。

 「彼」はもう何も言わなかった。

 頭から落下していく中で、落ち着いた様子で右腕に魔法陣を展開し握りしめる。そして、彼の体が淡く光った。

 それが嬉しかった。

 自分の我儘に付き合ってくれることが。

 種族が違っても「彼」はフォンのやりたいを尊重してくれる人だから。

 

「―――よぉし!」

 

 繋いだ手を引き寄せて、落下速度が上がる。

 大地への墜落は、まるで天からの飛翔のように。

 たった2人だけ、逆さまに反転した世界を昇っていく。

 そして天上が僅か十数メートルにまで達した瞬間、

 

「――――いぃぃぃぃよっ!!」

 

 服の下、背の入れ墨が淡く輝き――――濡れ羽色の双翼が広がった。

 

 後は一瞬だ。一度の羽搏きで二人は停止し、二度目では既に数十メートルは上昇している。

 そのまま漆黒の影は夜闇に溶けながら星空へと駆け上がる。

 さっきまでの逆再生のようであり、しかし速度が段違いだ。 

 仮に落下地点周辺に人がいても、常人であれば突風が吹いたとしか思えないだろう。

 

 鳥人族は数ある種族において最速だ。

 それは純粋な移動速度においてだけではなく、瞬間的・持続的な加速や速度の維持も含めて。遺伝子レベルにおいて骨格の作りや肉体の重量が加速と飛翔に特化している。

 

 そしてフォンは鳥人族において最速の鳥人である。

 

「―――掴まっててね、主」

 

 200メートルほど上昇したタイミングで、フォンはくるりと体を回した。「彼」の手を引き寄せ抱き合うように――というより、彼の腕を自分の首に回して抱き合うような体勢に。

 そして翼と腕、足の入れ墨が再度輝き――腕が翼に、ふくらはぎから下が鳥の趾状に変化した。

 闇夜の中に溶ける様に広がり、しかしその闇を切り裂く為の翼だ。

 背の翼は同時に消えたハーピー型。フォンにとっては第二加速形態ともいえる姿だ。

 

「―――はっ」

 

 犬歯をむき出しながら彼女は笑う。

 この瞬間が、一番快感だから。

 自由に、翼となった両腕を羽搏き―――音を置き去りにして加速する。

 

「―――!」

 

 超加速による急上昇は「彼」であっても肉体強化をしていなかったらとっくに意識を失っていただろう。

 飛翔は僅か十数秒だった。

 

「…………わぁ」

 

 夜闇を真っすぐに切り裂き、雲すら超えて天上に満月。青白い光で世界を優しく照らしていた。

 吐く息が真っ白になり、月光に輝いている。

 鳥人族は大半の魔法が得意ではないが、飛行に関する魔法は本能レベルで使用できる。そのために高高度における体温調整や酸素確保も無意識で発現していた。そうでなければゆっくり景色を楽しむことはできなかっただろう。

 

「むっ」

 

 急加速したせいか「彼」が自分にしがみ付き、その頭が丁度小ぶりながらもしっかりとある胸に押し付けられていた。

 そのことに気づいて急に恥ずかしくなり、腕を人のソレに戻して、背から翼を生やす。

 なるべく不自然でないように手をつなぎ直して、ゆっくりと翼を大きく広げて中空にホバリングする。

 鳥人族でも限られた者しかできない空を掴む、と表現される高等技法だ。

 「彼」も浮いていることに気づいたのか、腕からリングを生み出して足場代わりに展開していた。

 

 便利な魔法だなと思う。

 秋ごろに街のチンピラの喧嘩から王都裏社会のヤクザの抗争に巻き込まれた時はあのリングでチンピラもヤクザも冗談みたいに吹っ飛ばしていた。単純な格闘だけでなく移動にも使っていたし、実際今こうして空に浮かんでいるのだから。

 ちなみに流石に高速飛行はできないらしい。

 

 つまり――もしも「彼」が空を飛びたいと思うのなら、フォンの翼が必要だということだ。

 

「……ふふっ」

 

 それが嬉しくて思わず笑みが零れてしまう。

 「彼」が首をかしげるが構わずに、

 

「―――よぅし、踊ろう、主」

 

 滑る様に、二度目の落下を開始した。

 今度は先ほどのような高速の墜落ではなく、翼を広げながら螺旋を描くようにゆっくりと高度を下げていく。

 片手を放して、体を大きく広げて踊る様に。

 手を放して、一度離れてから握れば慣性によって互いの位置がくるくる変わっていく。

 

「ん? ――ってうわ!?」

 

 「彼」が何か思いついたように笑ったと思ったら、視界から当然消えた。

 中空に固定したリングに一瞬足を引っかけて落下が止まったのだ。

 

「……へへっ」

 

 翼を大きく広げて、ぶつかる様に彼の手を取る。

 うわっと「彼」が声を上げるが構わずに一度回転し、

 

「そりゃ!」

 

 手を放して、高速で斜め下に彼が滑り落ちていった。

 あ、という言葉がだんだん遠くなっていくのが面白かった。笑みを浮かべつつ、翼を広げて追い付き再び手を取る。

 

 そういうことを、何度も繰り返した。

 夜空に黒い翼と七色のリングが幾通りもの軌跡を描いていく。

 楽しいな、とフォンは心から思った。

 誰よりも速く飛べる彼女は、誰かと空を楽しむことなんてできなかった。

 「彼」についてきて色々なものを知ることができたけど、きっとこの喜びが一番大切なものかもしれない。

 

「―――a」

 

 ふと、喉から声が零れた。

 

「a――――」

 

 それは言葉になりきらない何か。

 ただ、胸から溢れたものをそのまま吐き出しているだけ。

 けれど、何故かは解らないけれど急に歌いたくなったのだ。

 

「aaa―――」

 

 そう、それは歌だ。

 どうしてかそう思えた。

 胸の中にあったもの―――これまでフォンが感じて来た全ての風が歌と声になってあふれ出してくる。

 歌を歌いたいなんてこれまで一度も思ったことはなかったのに。

 「彼」と空を舞っていたら急に歌い出したくなってしまったのだ。

 そういえば、故郷では自分よりいくらか年上の男女が歌いながら一緒に飛んでいることをたまに見たなと思いだした。

 良く分からないけれど。

 良く分からないことだらけだなと思わず笑ってしまう。

 だけど、これでいい。

 「彼」と一緒ならきっとこれから沢山のことを知ることができる。

 この風の歌も、もっともっと色々な音色を重ねることになるはずだ。

 

「aaa―――――」

 

 だから今は―――ただ、「彼」を想って歌うのだ。

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

 

 地上に降り立った途端、くしゃみが出た。

 

「うぅぅぅ……さ、流石にちょっと寒いなぁ」

 

 当然と言えば当然であるのだが。

 空を飛ぶために、飛んでいる間は無意識に様々な魔法を使っているフォンでも地上に降り立ってしまえばそれらは切れてしまう。残るのはもうそろそろ雪が降りそうな寒空でノースリーブにスパッツの少女だ。

 直前の空中舞踏で体が火照っていたのだから、動きを止めれば急に寒さを感じてしまう。

 夜も更けて誰もいない学園校舎の中庭を歩きながら震えていたら、

 

「わっ?」

 

 何か大きな布で頭が覆われた。

 驚きながら頭から取って、この場に一人しかいない他人を見た。

 彼はいつものように首をかしげながら笑い、言う。

 少し早い建国祭記念のプレゼントです、と。

 

「―――わぁ、凄い!」

 

 それは黒に近い紺――濡れ羽色のマフラーだった。

 初めて触れるような感触はさらさらとしていて何の素材でできているのか良く分からない。絹に近い気もするが軽く伸ばしてみれば伸縮性も高い。

 何より驚いたのはその模様だった。

 フォンの入れ墨と同じような風と翼を模した刺繍が全体に施されている。

 それは≪王国≫ではほとんど見ないものだ。特徴的な鳥人族の衣服だからか、似たようなものはあるがやはりどうしてもそれっぽい何かになってしまう。加えて亜人氏族の入れ墨模様は複雑であるせいか、それも似たような模様はあっても亜人から見れば違和感が生まれるようなものだ。

 けれど、このマフラーは違った。

 フォンから見ても再現度は極めて高く、鳥人族のそれに遜色ない。

 ぱっと見、鳥人族の里で作られたものと聞いても驚かないが、この手のマフラーを着ける文化はほとんどなかった。

 

「これ、どうしたの主! ――――自作ぅ!?」

 

 答えはまさかのハンドメイド。

 聞けば、「彼」が御影から刺繍を習い、模様はトリウィアがちゃんと調べて作ったものらしい。

 何でもできるお姫様だし、トリウィアの知識も流石だ。

 そして、「彼」も何かと一目見れば大体なんでもできるのは流石というべきか。

 

 ずっと寒そうだったから、と彼は笑う。

 それなら、ちゃんと鳥人族の入れ墨も見せられるかなと思って、と。

 

「――――主」

 

 言われた言葉に胸の奥が高鳴った。

 高位獣化能力者であるフォンにとって実際の所、獣化の為の服の露出というのは必要ない。背や腕の翼の為に露出度の高い鳥人族の服装は本来必要ないのだ。

 けれど、だからって、自分の氏族の衣服を着ないのはなんか違うかなとフォンは思う。

 亜人氏族にとって衣服も重要な文化の一つ。

 成人の証に入れ墨を施す以上、それを見せる為の露出も切っては切れないもの。

 だから、フォンはなるべく薄着で過ごしていたし、大体の亜人氏族は露出度の高い服を好む。大陸の西側が比較的温暖なことも要因の一つなのだろうが。

 後は単純に習慣もあってなんとなくというのもあったりなかったり。

 

 いずれにしても、ずっと薄着だった自分の為に「彼」が作ってくれたことが嬉しい。

 それも、鳥人族という種族の文化を尊重してくれる形で。

 

「っ―――」

 

 それが嬉しかった。

 思わず寒さ以外のことで体が震えてしまい、顔が真っ赤になるくらいには。

 なんだろう、病気かな?

 変に心臓も痛いし。

 息を整えつつ、マフラーを首に巻く。

 さらさらと肌触りは良く、保温性も高いのか首に巻くだけで急に暖かく感じた。

 

「…………へへっ、どうかな?」

 

 恐る恐る聞いてみれば―――似合っているよと、「彼」の即答だった。

 また顔が熱くなってしまう。

 嬉しさと恥ずかしさでマフラーに顔を埋めて、頬の緩みをなんとか隠そうと試みる。

 上手く行った気がしない。

 それくらいに笑顔が抑えきれなかった。

 また急に歌い出したくなってしまう。

 寒いからか、自分の輪郭がはっきりとして、体の中の、胸の奥の熱がはっきりと分かってしまう。

 あぁ、なんなんだろう。 

 自分は頭が良くないし、解らないことばかりだけど。

 

 ――――いつか、この気持ちに、この歌に名前を付けられたらいいな。

 

 




「彼」
掲示板でプレゼントを相談してマフラーにしてから御影とトリウィアに相談して完成させてた。
ダンスも裁縫も、一度見れば大体なんでもできる。
大ジャンプはできるけど流石に高速飛行はむずいらしい。

フォン
冬でも露出過多だが、主からのマフラーをゲットした!

鳥の歌
鳥人族の生態・求愛行動
原則的に飛行にしか興味ない鳥人族は子を為せる体に成長し、番にしたい相手、即ち恋の相手を見つけた時のみ飛行欲求ではなく歌唱欲求に支配される。
それは母音のみで構成される鳴き声に近いものであり鳥人族はそれまでの人生で感じた風を再現して歌うという。
離婚や再婚、浮気という概念がほぼ無いとされ一度結ばれると一生を添い遂げるのが鳥人族とされるが、それはこの求愛と婚姻の際にこの風の歌、即ちそれまでの人生(鳥人族にとっての飛行)の全てを伝えるが故とされている。
どれだけ言葉を重ねようともその歌を聴いて、自身の番に相応しいか本能で判断する。

鳥人族の本能ともいえる求愛行動であり、歌を歌い終わった者・既婚者があとから文化として知っているが、未婚の鳥人族には基本的に知られていない。(変にそれを意識した声を出さないようにするためとか繁殖期でないとそもそも思考から抜け落ちているからとも言われている)

オカマエルフ
武器はクソデカダブルアックスという噂がある。

天才ちゃん
マフラーの案とか掲示板のみんなで出してた
きっと彼の幸せにつながるんだろうなと思った

夏の肉欲の姫様、秋の情緒の先輩、冬の青春の鳥ちゃん、という構成でした。三者三様できてたらよかったかなと。

以下つかささんに頂いたおまけのロゴ無し刺青有り無し差分です。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

しかしどう見ても淫紋。
合わせて本小説の目次も少々リニューアルしております。


感想評価いただけたらモチベになります。


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新サーバー:>1天推し部屋

番外編です

前回のアンケートで後書きの天才ちゃんが過半数超えてて笑いました


 

                              

from earth1203

疑問。この部屋はいかなるものか


from earth412  

急に呼び込まれたんですが


from earth299 

むむむ……?


from earth984 

おいおい、なんか掲示板の新機能カ?


from earth785

初めて見るフォーマットですわね


from earth349  

あれこれってもしかして


from earth881 

掲示板ではないようでありますが


from earth572 

ニャニャニャ?


from earth1203

早計かもしれないが、見覚えのある口調が存在する


from earth984  

いやこっちもそうなンだが


from earth349 

脳髄ニキっすか


from earth1203 

肯定する。主席冒険者のスレで脳髄惑星と名乗っている私だ


from earth412

自分は自動人形職人です。……ということは?


from earth572  

私もあのスレずっと見てるニャ!


from earth785 

いやその口調、無双アイドルニキネキではなくて?


from earth299 

そういう貴殿は落第令嬢であるか?


from earth785

落第していませんわ! ギリギリ! 落第しそうなだけで!!


from earth572  

>1がチンピラの喧嘩に巻き込まれた時、的確にチンピラの喧嘩にアドバイスできるならまぁ落第当然でありますな


from earth984 

街で見かけたら俺なら即スカウトするレベルなンだよな


from earth1203 

ということはサイバーヤクザニキか?


from earth572

あの本職ヤクザで>1に裏社会の歩き方講座していたあの?


from earth984  

そう。後はあれカ? 奴隷童貞ニキと、公務員冒険者ニキか? 暗殺王様もいたナ


from earth349 

そうっす。一応元奴隷童貞なんすけど……


from earth881 

そうですけど、公務員冒険者ではなく冒険者公務員でありますからね私


from earth572

ややこしぃにゃー


from earth412  

というかこのフロムと数字は一体……?


艦長 

やぁやぁ、盛り上がってるみたいだね


from earth349 

誰っす?


from earth984

こんなやついたカ?


艦長  

はじめましてだとも。しかしこう、解りにくいね。頭でコテハンというかハンドルネーム浮かべたら設定できるよ


脳髄惑星 

ほう?


自動人形職人 

できてます?


暗殺王

やはり掲示板機能か?


サイバーヤクザい師  

こんな感じカ


ステゴロお嬢様 

見慣れた名前になりましたわね


元奴隷童貞冒険者 

いい感じぽいっす?


冒険者公務員

ヤクザい師ちょっとおもしろいでありますな


アイドル無双覇者  

それでこれなんなのにゃ? というか誰にゃ


艦長 

天才の友人、と言えばいいかな。ほら、前に彼女がTSしてたこと暴露しただろう? あれ、僕


脳髄惑星 

あの時天才ちゃんの怒りから逃れた者か


冒険者公務員

あの時の命知らずでありますか……


アイドル無双覇者  

でもちゃんと逃げてたもんにゃ


元奴隷童貞冒険者 

それでこれはどういう集まりっすか?


艦長 

君たちはあのスレの住民だろう? 僕もたまに覗いてるんだけど。もっというと僕は彼女の様子が面白くて見てるんだけど


艦長

君たちはほら、>1天推しってやつだろ?


脳髄惑星  

>1天はいいぞ


自動人形職人 

服そっちのけになってしまった


暗殺王 

わが心のオアシス


サイバーヤクザい師

前にVR侍に殺されかけた時は>1天を見届けたいという思いで立ち上がれタ


冒険者公務員  

日々の仕事の後に晩酌しながら見ると効くんでありますよね


アイドル無双覇者 

FAN一万体に囲まれたライブの時はもうダメだと思った時掲示板で>1天を見れて生き抜くパワーになったにゃ


元奴隷童貞冒険者 

この前魔王災害前夜にログ見て心を奮い立たせてたっす


ステゴロお嬢様

私もあぁいうラブコメがしたいと思いながらこの前人間飛ばし50メートル達成しましたわ


艦長  

うん、なんというか流石だね?


艦長 

君たちの反応だけで面白いんだが、ほら、あの掲示板で擦りまくると時空の彼方からモーニングスターが飛んでくるでしょ


ステゴロお嬢様 

わりと痛い


冒険者公務員

職場でやられたので誤魔化すのが大変でありました


元奴隷童貞冒険者  

反射で真っ二つにしたら滅茶苦茶怒られたっす……


艦長 

と、いうわけで天才の手が及ばない秘匿チャットルームを作ってみました! これからはここでなら存分に>1天てぇてぇを語れるよ、やったね!


脳髄惑星 

ダウト


自動人形職人

胡散臭い


暗殺王  

文字からにじみ出てる


アイドル無双覇者 

嘘つきの匂いにゃー


サイバーヤクザい師 

詐欺師の気配しかしねぇ


元奴隷童貞冒険者

言動だけでここまで胡散臭さを出せるのは逆に凄いっす


冒険者公務員  

絶対なんか裏ありますよね


艦長 

うーん、おかしいな。いつもそう言われるんだ。とくに天才には


アイドル無双覇者 

さす天にゃ


暗殺王

当然であるな


サイバーヤクザい師  

そもそも天才ちゃんにバレずに済むとかありえるのカ?


艦長 

うんまぁ一番はそのうちこれが見つかった時、天才がどんな顔するか見たいというのがある


ステゴロお嬢様 

か、カス……


暗殺王

性根が腐っている


冒険者公務員  

絶対酷い目にあうでありますな


脳髄惑星 

我々を選んだのはそういうことか? 仮に天才ちゃんがブチギレてもある程度は自衛できるから?


艦長 

そういうこと


元奴隷童貞冒険者

えぇ……?


アイドル無双覇者  

力技にもほどがあるにゃ


ステゴロお嬢様 

おハーブ生えますわ


脳髄惑星 

一体誰がこんな所使うというのか


 

 

 

 

 

                              

脳髄惑星

>1天、いいよね……


ステゴロお嬢様  

いいですわね……


冒険者公務員 

てぇてぇ


アイドル無双覇者 

生きる希望にゃ……


サイバーヤクザい師

いい……


自動人形職人  

気づいたら結局この鯖と>1スレを複窓している自分がいる


暗殺王 

思う存分語りたい、そんな時があるのだ……


元奴隷童貞冒険者 

しかたないっすね


アイドル無双覇者

>1天が尊すぎるからだめにゃ


脳髄惑星  

一週間前に誰がこんな鯖使うんだという発言していた己が恥ずかしい。穴があったら入りたい


ステゴロお嬢様 

その穴培養ポットではなくて?


脳髄惑星 

そうとも言う


自動人形職人

常時入っているのでは?


脳髄惑星  

そうとも言う


サイバーヤクザい師 

そうとしか言わねぇンだよな


脳髄惑星 

ふっ……我が脳髄ジョークへの脳髄ツッコミも流石と言える


ステゴロお嬢様

沢山見てきましたものねぇ


サイバーヤクザい師  

>1がスレ立てしてそれなりに経つしナ


アイドル無双覇者 

今更だけどヤクザい師ってなんにゃ? 薬剤師なのかヤクザなのかどっちなのにゃ


暗殺王 

確かに凄い今更ながら>1天の話ばっかで聞いてこなかったであるな


ステゴロお嬢様

それを言うならアイドル無双覇者ってなんなのという感じなのですが


冒険者公務員  

脳髄ニキや職人ニキや王様はある程度聞いてますし、私や元奴隷童貞ニキは大体イメージつくでありますが、お二人はちょっと謎すぎるであります


サイバーヤクザい師 

あー、まぁわりとそのまんまなんだけどヨ。ネキから行くか?


アイドル無双覇者 

真打は最後に行くものにゃ


脳髄惑星


ステゴロお嬢様  

おハーブ


サイバーヤクザい師 

まぁいいけどヨ。俺の世界も含めてざっくり説明するワ


サイバーヤクザい師 

俺の世界はわりとアースゼロの歴史が途中までは近かったんダ。ンでも、1800年代半ばに隕石が大量に降り注いでヨォ


暗殺王 

隕石が


自動人形職人 

大量に


脳髄惑星 

降り注いだ


元奴隷童貞冒険者 

開幕からパワーワード


ステゴロお嬢様 

それ世界滅んでませんこと?


サイバーヤクザい師 

人口半分くらい吹き飛んだらしいから言ってみりゃポストアポカリプス的な世界なんだよナ


サイバーヤクザい師 

で、まぁ人類半分滅びかけたけどその隕石が問題でな。「ネオニウム」っていう鉱物なんだが


サイバーヤクザい師 

世界中あちこちに落ちて来たそいつはそれ自体がエネルギーの動力源になるわ、人体が摂取すると肉体強化や感覚器官も強化されるわ、ハイになって麻薬みたいになるちゅーしろもんだったワけ


アイドル無双覇者 

にゃ、だから薬剤師にゃ?


サイバーヤクザい師 

大体そう。今じゃなんでもかんでもネオニウムが動力源になってて、基本俺はその精製の仕事してるんだヨ


冒険者公務員 

私の世界も現代日本にダンジョンが発生したパターンですけど、生活がらっと変わりますよねぇ


脳髄惑星 

ふむ……面白い鉱物だ


自動人形職人 

ヤクザというのは?


スーパーヤクザい師 

ネオニウムがヤクになるって気づいたのが生き残ってたヤクザとかマフィアとかで、裏で回し始めたらアホのように蔓延しちまってナ。ネオニウムを体内摂取する連中が一括してヤクザって言われテる


暗殺王 

なるほど……では貴殿もヤク中……?


ステゴロお嬢様 

大丈夫なんですのそれ


スーパーヤクザい師 

色々精神に影響大きいんだけど、俺のチートは状態異常無効みてーナやつ。だから俺だけ世界でどんだけネオニウム摂取しても問題ねぇんだワ


自動人形職人 

はー、そういうチートもあるんですね


スーパーヤクザい師 

ちな俺の街の名前はネオサイバー歌舞伎街


脳髄惑星 


暗殺王 


元奴隷童貞冒険者 


ステゴロお嬢様 

おハーブ


アイドル無双覇者 

草。それじゃあ次は私かにゃ


アイドル無双覇者 

私の世界はちょっと近未来で


アイドル無双覇者 

アイドルがFANをぶちのめす世界だにゃー


脳髄惑星 

アイドル、とは


元奴隷童貞冒険者 

アイドルってそんなんだったすけ……?


冒険者公務員 

違う、そうじゃないであります


ステゴロお嬢様 

FANってなんですのFANって。ファン?


アイドル無双覇者 

Fatal・Animus・Noxious。致命敵対有害生物。通称FANにゃ


暗殺王 

知らん……


サイバーヤクザい師 

分かるわけないんだワ


ステゴロお嬢様 

なんですのそのとんち


アイドル無双覇者 

2000年代半ばの近未来に突然現れてにゃあ。良く分かんない化物で、通常兵器が効かないのにゃ。でも、特定音域の音だけでダメージ与えられるから十代の少年少女の歌でのみFANを倒すことができるというわけにゃ。その歌で戦う私らをアイドルって呼んでるわけにゃね


脳髄惑星 

興味深い世界だ


自動人形職人 

世界色々ありすぎですね


公務員冒険者 

なんというかこう……ソシャゲみたいな世界観でありますね


サイバーヤクザい師 

あー


元奴隷童貞冒険者 

確かに……


暗殺王 

ソシャゲ……懐かしい響きである


アイドル無双覇者 

自分で言うのもなんだけどそんな感じだにゃ。各支部に100人くらいのアイドルがいて、数人のプロデューサーがいるし、恋仲だったりハーレムしてたり修羅場してたりもするし


アイドル無双覇者 

ちなみに私はソシャゲなら最高レア確定の人権キャラにゃ


自動人形職人 

まぁここにいる以上そういうことでしょうねぇ


脳髄惑星 

マルチバースというのは多種多様で興味深い


ステゴロお嬢様 

確実に脳髄さんの世界が一番とんでもなんですわ


公務員冒険者 

それはそう


アイドル無双覇者 

それはそう


暗殺王 

間違いないであるな


脳髄惑星 

むっ!!!!


サイバーヤクザい師 

おっ?


ステゴロお嬢様 

>1と天才ちゃんがスレに顔出ししてますわ!!


暗殺王 

なにっ


元奴隷童貞冒険者 

来たっすね!


冒険者公務員 

今日も生きるエネルギーが……!


サイバーヤクザい師 

行くゼぇぇぇぇぇぇ


自動人形職人 

さて今日はどんなてぇてぇが


暗殺王 

往くぞ


脳髄惑星 

さて今日はどんな脳髄ジョークキメていくか





サイバーヤクザい師
高層ビルと犯罪者、ネオンライトが輝くネオサイバー歌舞伎街で昼はネオニウムの精製師、夜は犯罪者と戦うクライムファイター
ただならぬ関係の女性が多数いる

アイドル無双覇者
FANを歌でぶっ飛ばす無双系アイドル
ソシャゲなら人権アタッカー
年齢不詳


特殊タグを駆使しましたがわりとめんどかったのでもうやらないかもしれない。
みんな大好き脳髄ニキとかはもうちょっとお待ちを

感想評価いただけるとモチベになります


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僕は見て見たいですけどね、天才さんのドレス

345:建国祭転生者

緊張して来ました

 

346:天才様

大丈夫だろ、練習したんだから

 

347:名無し転生者

そうそう、アイドルネキも褒めてたし

 

348:名無し転生者

私のタップダンス殺法も8割出来てたし大丈夫にゃー

 

349:名無し転生者

タップダンス殺法is何……?

 

350:名無し転生者

ちょっと足だけ見せてもらったけど

蹴りの着弾の瞬間に何回も蹴り入れてた

 

351:自動人形職人

タップダンス(相手の体で)

 

352:名無し転生者

こわ……

 

353:名無し転生者

アイドル……?

 

354:名無し転生者

このスレのコテハン経験勢戦闘力がおかしいんよ

 

355:名無し転生者

みんな異次元モーニングスター対処できるのでおかしい

 

356:天才様

このスレ用にモーニングスター以上の何かを最近考えている

 

357:名無し転生者

ひえっ……

 

358:名無し転生者

こわ~~

 

359:名無し転生者

まぁ関係ないやろ……

 

360:脳髄惑星

それで>1、今は?

 

361:建国祭転生者

建国祭は明日なんですけど、今日前学園長が学校来てるので挨拶ですね

それもあってちょっと緊張してます

 

362:暗殺王

確か>1を学園に招いたものであったか?

 

363:名無し転生者

>1見て叫んでたんだっけ?

 

364:脳髄惑星

まぁ>1見つけたらそりゃ叫ぶよ

 

365:名無し転生者

それはそう

 

366:天才様

慧眼だったのは認めよう

 

367:名無し転生者

むしろ>1と天才ちゃんを引き合わせたのは前学園長では?

 

368:名無し転生者

確かに

 

369:名無し転生者

それを踏まえて天才ちゃん!!

 

370:自動人形職人

一言お願いします!

 

371:名無し転生者

します!

 

372:脳髄惑星

します!

 

373:天才様

うるさいよ

 

374:建国祭転生者

そう思うと、改めて前学園長には感謝ですね!

 

375:天才様

…………ん。

 

376:天才様

おい

 

377:天才様

誰か何か言えよ

 

378:天才様

最近なんか僕の発言の後に黙ること多いぞ。特にコテハン勢

名無しでも分かってるからな、全員次元マーカーつけてるんだから

 

379:名無し転生者

なんでもないんだワ

 

380:名無し転生者

オホホ

 

381:名無し転生者

っすっす

 

382:名無し転生者

異常なしであります!

 

383:脳髄惑星

^^

 

384:名無し転生者

にゃにゃにゃ

 

385:暗殺王

我嘘つかない。我王ぞ?

 

386:名無し転生者

うーんこの

 

387:名無し転生者

怖いもの知らずたち

 

388:名無し転生者

というか恐怖よりもてぇてぇを優先するガチ勢

 

389:脳髄惑星

てか>1、1人なのか?

 

390:建国祭転生者

僕だけですね

 

391:建国祭転生者

今御影さんや先輩やフォンは明日の為のドレスの準備してるので。

これは僕個人の挨拶ですからね

 

392:名無し転生者

なるほど

 

393:名無し転生者

姫様たちのドレスかぁ

 

394:自動人形職人

テンション上がってきましたねぇ!!!!!!!

 

395:名無し転生者

頼むぜ職人ニキ

 

396:名無し転生者

絶対好きになっちゃう

 

397:名無し転生者

3人とも人間ができすぎてるんよ

 

398:名無し転生者

ちな天才ちゃんドレスとか着るんか?

 

399:天才様

僕は普段着から既に完成されているので今更着飾る必要がないんだよ

 

400:建国祭転生者

僕は見てみたいですけどね、天才さんのドレス

 

 

 

 

 

                              


自動人形職人 

急に次元の穴が開いたと思ったら天才さんのスリーサイズや身長やらのメモが送られてきたんですが


脳髄惑星 

あら~^^


暗殺王

あら~^^


サイバーヤクザい師  

あら~^^


ステゴロお嬢様 

あら~^^


元奴隷童貞冒険者 

あら~^^


冒険者公務員

あら~^^


アイドル無双覇者  

あら~^^


 

 

 

 

 

401:天才様

こほん。まぁいつか機会があったらね

 

402:建国祭転生者

やったぜ

 

403:建国祭転生者

応接室についたので、しばらく話してきますね~

視界共有はしておきます

 

404:名無し転生者

いてら~

 

405:自動人形職人

いてらです

 

406:暗殺王

いてら

 

407:脳髄惑星

tr

 

408:名無し転生者

前学園長どんな人なんだろ

 

409:名無し転生者

天才ちゃんは会ったことあるのかな

 

410:天才様

ないね、僕が>1に術式教えてた時はもういな

 

411:名無し転生者

お、この人か

 

412:名無し転生者

わりといかつい

 

413:脳髄惑星

天才ちゃん?

 

414:天才様

そいつから離れろ>1!!!

 

 

 

 

 

 

 

「――――おや」

 

 それは反射的な動きだった。

 約1年ぶりの再会に初老の男が抱擁をしようと「彼」と距離を詰めようとした瞬間だった。

 「彼」が弾かれたように後ろに、それなりに広い応接間、椅子を飛び越えながら壁際ギリギリまで飛び退いたのだ。

 

「……ふむ」

 

 白髪に顎髭。右目に大きな傷跡。長身黒衣の男はゆっくりと顎髭を撫でた。

 「彼」は腰を落とし、右手にダイヤル魔法陣を浮かべながらも、何が起きたのか自分でさえも理解できていないようだった。

 まるで、信頼する誰かにそうしろと言われたから反射でそうしたといわんばかりの動きだ。

 

「――――()()()()。あの魔術師か」

 

 「彼」にとってその男は好々爺とでも言うべき人だった。

 この学園に推薦してくれた人であり、会ったのは生家以来だが感謝があった。この世界においては20年前の大戦において世界有数の英雄である。各国の種族や文化、要人を集めた≪魔法学園≫のトップであったのだからその人望と実力は広く知られたものでもある。

 顔の傷に似合わず優しい笑みを浮かべる人だった。

 

 その彼の口端が―――裂けたように弧を描く。

 

 ぞくりと「彼」の背筋に、本能的に恐怖が走り、

 

「―――む?」

 

 「彼」と前学園長の間の空間に、白い火花が散った。

 円を描くように出現したかと思えば、それは一瞬で大きな空間の穴になり、

 

「―――――甘いのぅ」

 

 ()()()()! と大きな音を立てて穴が消えた。

 愕然とする「彼」は気づかなかった。

 彼を守る様に現れた穴から、小さな白い手が突き出されようとしたことを。

 そしてその手が、穴を超えようとした瞬間に弾かれたことも。

 

「失われたアース53の次元間移動技術をこの世界流にアレンジした次元ロックじゃ。まぁ、貴様なら時間を掛ければ類似次元の技術を参照し解析するじゃろうが――そんな時間はなかろうて」

 

 髭を撫でながら、男は笑う。

 この世界ではなく、別の世界の技術を用いて至高の魔術師の干渉を防いだと。

 

「どうせ()()()()んじゃろう? 久しいのぅ、300年振りくらいか? アース104で貴様のサーカス団と戦って以来か―――まったく、あの時はしてやられたものよ」

 

 カカカと、「彼」を見据えながら、しかし「彼」を見ずに彼女へと語り掛ける。

 あまりの事態に「彼」は状況を受け入れられずに身動きが取れなかった。

 普段彼女と連絡を取っている掲示板にすら反応が消えてしまったから。

 

「しかし――ふむ、あれじゃな。思いのほか、展開が速い。ワシが想定していたよりもずっと主はコレに入れ込んでいたようだ。想定ではもう1、2年は準備するつもりだったのじゃが」

 

 肩をすくめながら前学園長―――その姿を取った何かは言う。

 

「1年前、お主を見つけた時エサになると儂は思った」

 

 「彼」を見据えながら、聞き逃すことができないようなことを。

 

()()()()()()()()()()()()()()、≪ネクサス≫に嗅ぎ付かれないようにこの世界の範囲内で準備をしてきた。もうそろそろ大詰め、というあたりで見つけた時、これは面白くなると思ったものよ。その全適性資質に特権はあの魔術師ならば貴様ら転生者ネットワークで見逃さない。その上で行動を起こした時、世界を渡れないようにすればこの世界を食らう様を見せつけてやれるとのぅ」

 

 僕を学園に呼んだのは、と「彼」は息を零し、ソレは頷いた。

 

「いうなれば当てつけと嫌がらせじゃな」

 

 頷き、髭を撫で、

 

「思ったよりも入れ込み具合が激しかったが。まさかこんな時も主と視界共有しててワシに気づき、すぐに次元移動してくるのは意外じゃった。早めに次元ロックをかけておいてよかったのぅ、カッカッカ」

 

 笑い、そしてその男は窓の外を見た。

 日が沈みつつある空。

 学園校舎と王都の街並み、その先にある沈みゆく太陽。

 

「――――我々はのう、少年。この世界のモノではない」

 

 視線の先、夜が来る。

 少しずつ、少しずつ、光を闇が駆逐していく。

 

「アースゼロを発端とする貴様ら転生者たちとはそもそも発端が違う。別の宇宙から来訪した別の知的生命体。世界そのものを喰らう頂点捕食者」

 

 太陽が沈み―――空と大地の境界に黒い点が残った。

 遠近感も滅茶苦茶で、近いようで遠いようで。

 

「20年前の大戦の()は我らの種子だった。尖兵、幼体とも言っていい。各次元の敵性種は得てしてそういうものがおる。ま、実るかどうか我らに繋がるかはマチマチじゃ。世界によっては種が種のままに滅ぼされることもある。実際この世界はそうでのぅ。たまたま意識リンクだけワシがしていたからそれなりに頑張ったものの、ダメだったんじゃなこれが。―――仕方ないので、当時≪魔族≫と呼ばれた敵性種を最も滅ぼしたこの男の体を、終戦時に乗っ取ったというわけじゃ」

 

 とんでもないことをなんでもないように口にしながら、ソレは外を眺めていたし、「彼」も空の遺物を見ていた。

 遠近感のおかしくなった黒点はいつの間にか学園の空に。

 

「この一年は、適当にお主の成長を見ていた。半年前の亜人どもの祭りで鳥の娘を傷つけたのもワシじゃ。どう動くか見たかったのよな。一番転生者らしい展開になったのでわりと満足したのぅ。今回は純粋に好感度を上げようと思ってたんじゃが。お主ら転生者相手に仲を深めるのは割と気を使ってのぅ。男であるだけでそもそもダメという展開もあるのだ。性欲強すぎじゃろ」

 

 空に浮かんだ黒点に―――亀裂が入った。

 ピシリピシリと、音を立てて。

 

「あぁ、そうそう。少年。改めて名乗っておこうかのぅ。この体ではなく――ワシ本体の個体名、≪ゴーティア≫。ま、アースゼロでいう悪魔使いのようなものよな」

 

 ―――空の黒点が割れて、漆黒が溢れ出した。

 それは黒い靄と瘴気と泥に覆われたアースゼロの動物を模した何か。

 一体や二体ではない。空の亀裂から濁流のように何十何百とあふれ出した。

 

「そしてあの天才は我らをこう呼ぶ――――ディメンション・イーター、通称≪D・E≫とな」

 

 ゴーティアは笑う。

 これからこの世界を喰らうために。

 

「―――メリー・クリスマス」

 

 

 

 




≪D・E/ディメンション・イーター≫
次元喰らい、降臨者、這い寄る者、悪神、無限のマルチバースの外側から飛来せし何か。
1000年以上ゲニウスと次元宇宙を掛けてしのぎを削ってきた。
ゴーティアはそのうちの上位種の一体。
上位種はそれぞれアースゼロの神話・伝説に近い性質を持つ
アースゼロにおけるソロモン72柱の悪魔に該当する。

≪魔族≫
アース111における人類の敵性種
25年ほど前から出現し、人類と生存競争を行った正体不明生物。
それまでの歴史でばらばらだった国家が強調した原因。
20年前に完全消滅したとされ、現代の20歳以下の大半で知る者は少ない。
歴史に消えた、というよりも5年の闘いの間何もわからなかったが故に敵がいたという事実しか残らなかったともいえる。

≪D・E≫の幼体の一種。この段階ではそれぞれの世界法則に近いので≪ネクサス≫始めゲニウスにも感知困難。

前学園長
この世界――アース111における英雄
学園創設を担った人格者

ゴーティア
20年前から前学園長の体を乗っ取った≪D・E≫。
過度な次元影響力を持つとネクサスやゲニウスに感づかれるために、アース111内の技術で20年間かけて≪魔族≫の繁殖を行っていた。
正体を表すのは本来もう数年先の予定だった模様。

アース111
現在次元ロック中
次元移動不可

クライマックス。
地の文の比率が減りますが、ご了承ください


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??? -1000年の果てに-

感想のゴーティアさんへの扱いに笑ってしまいました


「くそっ、ソロモン気取りが!」

 

 書架の穴倉の中、彼女は吐き捨てた。

 右手の爪が割れ、寝間着である薄い白のキャミソールに血が飛んでいるが気にもならない。何度も振り、痛みを散らしながら、

 

「僕の知らない術式―――滅んだアースのものか?」

 

 割れた爪の手を虚空に突き出し、手首を捻る。五指の先に複雑な文様の魔法陣が浮かぶが―――何も起きない。

 

「…………次元ロック。それも次元間境界面の補強か? 厄介なことを。直接境界面に触れて術式解析しないとロックを解除できない――」

 

 ゴーティアの掛けたアース111への次元ロックは解除はできる。

 1000年以上を生きる次元世界最高の魔術師である彼女であればそれは可能だ。 

 だが、

 

「―――時間がかかり過ぎる。類似次元の技術体系から紐解くとなると数時間」

 

 それでは遅い。

 きっと「彼」は間に合わない。

 

「勇者に頼むか? ――――いや、あいつのことだ。≪ネクサス≫への手回しくらいやる。そもそも彼女の特権は対象を認識する必要があるし、下手をしたら境界面ごと破壊しかねない。そうなったら本末転倒――――」

 

 ぶつぶつと誰もいない書架の中で彼女は言葉を漏らし、思考を巡らす。

 飛来して来た真紅のマントが彼女の周りに心配するように揺れながら浮いているのに気づき、

 

「すぅ―――ハァ―――」

 

 一度深呼吸。

 目を伏せながら左手の人差し指と中指でこめかみを抑え、嵌められた指輪が輝く。

 

「思考分割・思考加速―――3000倍」

 

 こめかみと額に白い小さな魔法陣が浮かび―――停止したのは5秒間。

 

「―――」

 

 そして、開いた瞳は暗く、されど決意を秘めていた。

 

「マント!」

 

 叫べば浮いていたマントが弾かれるように彼女の下にはせ参じ、肩を吸い付くように覆う。それに伴う様に彼女のインナーも群青の装束に変化していた。

 両腕を交差させ、開けばその両手首には宝石が嵌められた腕輪が。

 マントの袖が驚いたように広がる。

 何せ、それを彼女が持ち出したのは凡そ()()()()()()なのだから。

 指を鳴らし、次元の扉を開けた。

 踏み出す一歩に迷いはない。

 もう決めてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

「艦長」

 

「―――ゲニウス、流石に早いね」

 

 次元の扉の先は≪ノーチラス≫のブリッジだった。

 以前勇者と現れた時は静謐な管制室だったが、今はアラートや計器が鳴り響き、至る所に空中投影型ディスプレイが展開されている。

 映っているのはいくつかの地球のような惑星のホログラムであり、それぞれの星でそれぞれの地域に赤い点が点滅していた。

 

「「彼」の方も大変になことになってるけど、同じタイミングでゴーティアが――」

 

「平行同位体が各アースで動き出した、だろう?」

 

「さすが」

 

 ≪D・E≫上位個体ゴーティアは彼女にとっては因縁の相手でもある。

 膨大な量の眷属を生み出し軍勢を率いるだけではなく、マルチバースにおいて無数の平行同位体と意識共有を行い次元世界における同時活動が可能という性質を持つのだ。

 上位種において単体の手強さ自体は下位ではあるものの、その不滅性から厄介極まりない。上位個体においてもトータルの次元被害においては上位級。

 彼女との初遭遇が400年前で100年かけても滅ぼせず、≪ネクサス≫を設立する原因の一つにもなった相手だ。

 

「既に他のメンバーには通達して、ポータルを各世界に繋げている。残念ながら「彼」のアース111は次元ロックが掛かっているし、そもそも≪ネクサス≫が出る案件ではないんだが――」

 

()()()()()()()()()()

 

 艦長の言葉を遮り――銀髪の少女はそんなことを言った。

 彼からすれば信じられないようなことを。

 数秒、艦長の表情がいつも浮かべている胡散臭い笑顔で固まり、

 

「…………なんて?」

 

「≪ネクサス≫を抜ける……いや、僕が集めて抜けるというのもあれだが、チームの指揮はずっと君が取っていたし、僕がいなくても問題ないだろう」

 

「…………そんなに好きだったの?」

 

「≪ネクサス≫を作ったのは、次元の崩壊を食い止める為だ」

 

 艦長の疑問には答えず、ブリッジを見回す。

 アース1231、マルチバースおいても最も科学技術が発展した世界の一つの技術、その粋を集めた深宇宙潜航可能戦艦≪ノーチラス≫。さらには多くの世界の技術を取り入れたことで次元航行さえも可能なマルチバースにおいて一隻しかないもの。300年かけて改修を繰り返す≪ネクサス≫の本拠地だ。

 少なからず、船の改修には彼女も手を尽くしてきた。

 

「僕だけではマルチバースを喰らう≪D・E≫を止めきれなかった。だから力あるものを集めて、奴らに対するカウンターを生んだ。―――だが、結局のところ、それはカウンターだ」

 

 どこかの次元世界で≪D・E≫が活性化すればそれを倒す。

 ≪D・E≫に喰われそうな世界を守る。

 ≪ネクサス≫の活動はそういうこと。

 だが、

 

「―――今回みたいなことは止められない。次元世界への影響を抑えるためにルールで縛ったが、いつだって僕らは後手後手だ」

 

「だから、≪ネクサス≫はもういいって?」

 

 艦長の整った瞳が僅かに細まるが、受け流すように彼女は肩をすくめた。

 

「やり方を変えるのさ。前言を撤回するようだが≪ネクサス≫は世界に必要だ。世界の防衛機構としての力は、それこそ300年かけたんだ。けどまぁ僕のやることはメンバー選出くらいであとは君たち任せだったし。それで満足していた僕が言うのもなんだけど、僕必要ないだろう」

 

「………………まぁそれは常々思っていたけど」

 

「……」

 

 カミングアウトに思わず彼女は半目になった。

 だが自分から言いだしたことなのでそれに関しては何も言えなかった。 

 代わりに、口を開いたのは艦長の方だった。

 もう、貼り付いたような笑みは消えていた。少しだけ言葉を選び、

 

「……君は、人間嫌いだったはずだ」

 

「そうだね」

 

 頷き、

 

「……転生して、性別も変わって、()()()()()()()()()()()()()()()―――そして、()()()()()()()()()()()。挙句、その世界の為に≪黙示龍≫を封印して1000年以上もあの穴倉に引きこもって、大半のことは≪ネクサス≫任せ。……全く、笑えるよ」

 

 なんてこともないように。自らの始まり(オリジン)を語る。

 異世界に転生して、世界の敵たる魔王を倒した。

 そうしたら倒せと頼まれた国々から新たな魔王判定を受けて、世界から追放された。

 それで人間不信になったし、人嫌いになったし、それで終われば楽だっただろう。

 結局≪D・E≫の最上位種が出現し、生き残るために封印するハメになって、1000年を超えてなお封印し続けているし、それを解放しようとする他の≪D・E≫とも戦っている。

 本当に冗談みたいだ。

 

「考えたんだ」

 

 思考加速による約四時間、思考分割により7人の自分で考えた。

 これまでのことも、これからのことも。

 そして、

 

「―――「彼」のことも」

 

 あの少年なら、

 

「僕と同じことをするだろう。ひねくれて斜に構えた僕とは違って全部背負おうとするだろう――――そしてきっと壊れる」

 

 あの純粋、純朴、素直な少年が。

 真っすぐ他人に感謝して、誰かを尊重できる「彼」が自分のように摩耗してしまうなんて―――そんなの見たくない。

 1000年の奮闘と倦怠は決して良いものではなかった。

 「彼」にはもっと素晴らしい未来があるのだから。

 御影でもいい。彼女なら「彼」を引っ張っていくだろう。

 トリウィアでもいい。彼女なら「彼」の良さが引き出されるだろう。

 フォンでもいい。彼女なら「彼」と二人で多くを楽しめるだろう。

 あの3人ならいいかなと、ここ半年ほど見ていて思った。

 

 あぁ、或いは。けれど、もしかしたら或いは―――なんて。

 結局のところ。

 どれだけ言葉や理屈を重ねたとしても。

 1000年の停滞とわずかな停滞の果てに出会った「彼」を。

 

「―――()()()()()()()()

 

 ただそれだけの願いだけ。

 暗い瞳に意思と決意を秘めて。300年かけて積み上げたものを手放しても構わないと彼女は口にした。

 

「驚くね、全く」

 

 艦長は顔に手を当てて思わず息を吐く。

 少し何を言うか考えて、結局無意味だと悟る。彼女を止める言葉なんて多重次元の誰も持ち合わせていないのだから。

 

「……君が始めたことだろ、とは言わないさ。それだけ君はこのマルチバースに貢献して来たんだ。……というか、君たまに新顔放り込んで後はこっち任せだったし困らないな、うん」

 

「ははは」

 

 艦長はしたり顔で頷き、彼女は渇いた笑い。

 そして艦長はそれに、とほほ笑み、

 

「態々言いに来てくれたんだ。だったら、うん。素直に見送り―――」

 

 見送りができる、と言おうとして。

 艦長は見た。

 

「――――」

 

 彼女の唇が嫌らしく弧を描いているのを。

 そして良く彼女を見た。

 

「……………………ねぇ、ゲニウス」

 

「うん?」

 

「君―――――分身で来てるな!?」

 

 懐から取り出したボールペンを投げつけるが、

 

「アハハハ、やっと気づいたか」

 

 彼女の体を素通りして床に落ちる。

 分身、というより実体がないそれは、

 

「思考分割した精神(アストラル)体だ。ご存じの通りこれで掲示板を同時複閲覧しているわけだが。というか「彼」を助けるって決めたんだよ? あの次元ロックをどうにかすることが最優先だろう、本体は書架で対策術式構築してるってわけさ。お分かりかな、ん?」

 

「こ、こいつ……!」

 

 わりと本気でイラっとした。

 ≪ネクサス≫との決別を直接伝えに来てくれたことにちょっとだけ感動していたのにコレである。

 「彼」との掲示板の絡みでちょっと忘れていたが、基本的に意地が悪いのだ。

 

「……あぁもういいさ。というか、ゴーティア対策はいいのかな。あれ、軍勢のせいで頭数が必要だけど。態々言うまでもないけど≪ネクサス≫は他の同位体の駆除に行くし手伝えないよ?」

 

「自分から抜けるって言って助けを求めるわけがないだろう。―――なぁ、艦長」

 

 にやりと、

 

「何やら、僕の知らない所で()()()()()()()作ってたみたいじゃないか」

 

「ぐぇ」

 

「まだログ全部読みこめてないけど。大方、あれを僕が見つけた時どんな顔をするのか見たかったとかそんなんだろう―――なぁ、艦長」

 

 にやりと、どころかにんまりと彼女は笑う。

 人間離れした美貌を持つが、しかし愉悦に満ちた表情のせいで台無しだ。

 

「ほら、()()()()()をしているぞ?」

 

「…………………………」

 

 にんまり笑顔が頭に来て、無言でポケットに入っていた残りのペンやお菓子を投げつけた。

 勿論、精神体なので床を散らかしているだけだが。

 

「あぁ、もういいさ。ほら、さっさと行きなよ。お幸せに」

 

「そうさせてもらう」

 

 彼女は笑う。

 艦長への意趣返しではなく、これから起こる、これから起こすことに対して。

 

「クリスマスだ――――派手にやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 アース1203の培養ポッドの中で。

 アース412の工房で。

 アース299の玉座で。

 アース984の実験室で。

 アース785の教室で。

 アース349の酒場で。

 アース881の受付で。

 アース572のレッスン室で。

 

 彼らはその声を聞いた。

 

『君らは選ばれた―――というより、散々茶化したんだ。手伝ってもらうよ?』

 

 

 




天才
約1000年以上前に転生、というよりもTSした上での転移召喚され、1人でアース666の魔王を打倒したが、当時の国々から追放・新たなる魔王として命を狙われる。

その後、最上位種≪D・E≫と遭遇し死闘の果てに封印。アース666、ひいては他の次元世界も救ったものの、アース666内においては世界を滅ぼした魔王として1000を経て、文明が復興した後も最悪の伝説として語り継がれている。

彼女の書架の地下には≪D・E:黙示龍≫が封印され、他の次元世界へ渡る際もアストラルと封印陣により封印し続けている。 ≪ネクサス≫のメンバー勧誘の際以外では他の次元に干渉しなかったのもそのため。

700年間は≪D・E≫に対して分身の派遣により≪D・E≫狩りを行っていたがマルチバースに偏在するゴーティアを滅ぼす為に≪ネクサス≫を創立した。
ある程度≪ネクサス≫が落ち着いたのちは≪D・E≫狩りは彼らに任せ、倦怠と孤独の闘いを送り――――1000年の果てに「彼」を知り、そしてこれから出会う。

次回、ボーイ・ミーツ・ガール

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??? ――???--

「……ふむ」

 

 ゴーティアは顎髭を撫でながらあたりを見回した。

 実の所、彼にはこのタイミングでこのアース111をどうこうするつもりはなかった。

 例えば≪魔法学園≫を始め≪王都≫ごと滅ぼすとか、20年前の人類対魔族の≪大戦≫を再び起こそうとするとか。そういう大それた目的意識はなかったのだ。

 ただゴーティアのモチベーションは≪天才≫への嫌がらせだ。

 あの少女とゴーティアは400年の付き合いだ。

 遭遇して100年間、平行同位体を何体も消され、気合いを入れようと思ったら今度は次元世界から兵士を集めてまた潰された。挙句その後300年間自分を含む≪D・E≫たちと戦い続けている。彼女本人がアース666から出ることはなかったとはいえそれでも疎ましいことこの上ない。

 不倶戴天の天敵といって他ならない。

 だから彼女の寵愛を受けているであろう「彼」を嫌がらせに殺すのが今の目的だった。

 自身の眷属をもったいぶって現出させたのもそのための演出の一環だ。

 ≪魔法学園≫内に放った眷属たちは適当に暴れさせているがそれもデモンストレーションに等しい。「彼」が大事にしていたものが壊れるところを見せたいだけ。

 いくらか学園内の有力者に倒されているが、それもどうでもいいのだ。

 文字通り眷属はいくらでもいるのだから。

 

「……見覚えがあるような、無いような結界だのぅ」

 

 見回した周囲、半径二十メートル近い半円状の結界がある。沢山の歯車と複雑な文様が織りなす結界術。かなり高度なものであり、この世界の系統魔法を普通に組み合わせただけではこうはならない。

 結界内外の隔絶と結界そのものの隠蔽をもたらすもの。

 外側では眷属と学園の者が戦っているが彼らはこの結界に気づいていない。

 「彼」との戦闘が開始し、校舎が壊れてからこの結界は展開されたが、

 

「お主はあれかの」

 

 その「彼」を見る。

 

「―――よっぽど自分の力に自信があったのか」

 

 瓦礫の山に囲まれた―――血まみれになって崩れ落ちている「彼」を。

 臙脂の制服はもっとどす黒い血の赤で染まり息は荒く、肩の上下も激しい。

 周囲には黒い瘴気を漂わせた眷属たちの死骸がある。「彼」が受けている爪跡や噛跡は眷属たちが付けたものだ。

 随分頑張ったとは思う。

 約数十分、己の魔法を駆使して眷属の死体の山を築き上げた。

 このアースにおいてはやはり最上位、マルチバース全体で見てもそれなりの力量の持主だ。この学園は大陸各地から才能を秘めた者を集めている上にアベレージが高いのでそういうこともあるだろう。

 

 それでも―――無尽蔵に沸くゴーティアの眷属の前には無意味だ。

 

 どれだけ個としての強度があったとしても、このアースにおいてはそれなりの強さを誇る眷属が無尽蔵に沸き続ける以上、その量に飲み込まれるしかない。

 それでも結界が壊れない限り大した術式だ。

 

 ふと、外を見る。

 

『―――』

 

 眷属を大戦斧で両断しながら瓦礫と魔族の中を駆け抜ける御影がいた。

 流石の強さというべきか大抵の魔族では相手にならず、戦場となった校舎跡を駆け回っている。戦えない生徒たちを救出することを優先しているのは流石と言えるが―――誰かを探しているようにも見える。

 当然、「彼」なのだろう。

 眷属たちの視界を同期すればトリウィアもフォン、それ以外の「彼」が学園で出会った友人や教師たちが何人も「彼」の姿を探している。

 それだけで人望の厚さをうかがえるし、素直に感心する。

 しかし、その「彼」が張った結界のせいで誰もがゴーティアと「彼」の存在に気づけない。加えて突然魔族が出たということに対する状況のせいもあるのだろう。

 

 己の力を過信しているからか。

 転生者としての問題故か。

 ≪天才≫から指示でも受けているのか。

 或いは、

 

「―――死にたいのか、お主」

 

 

 

 

 

 

 

 死にたいのかと問われ―――「彼」は思わず苦笑してしまった。

 口の中は血まみれで、体の動きは非常に悪い。右足はワニのような魔族に噛まれ、左腕は熊のような魔族の爪で裂かれたせいで碌に動けなくなってしまっていた。

 まぁ、魔法を使えばなんとかなるだろう。

 死にたいわけじゃないのだ。

 そんなことは思っていない。

 ただ。それよりも。

 

 自分が死ぬことよりも――――眼の前で何かを失うのが怖いのだ。

 

 前世は酷かったなと今更思う。 

 家庭の境遇はどんどん悪くなっていって、なんとかなったと思えば両親は死んだ。妹は半身不随になってなんとかリハビリを終えたと思ったら自殺してしまった。

 言葉にすればたったそれだけで。

 けれど、全てを失った時の感情は筆舌にしがたい。

 何もかもが麻痺してしまったように。

 何もかもが無色になってしまったように。

 あらゆる光を自分は失ってしまった。

 笑ってしまう。

 妹の入学式に交通事故。

 退院翌日に妹が自殺。

 あぁ、自分はどうやって死んだんだったろうか。

 妹が死んでからは記憶が曖昧過ぎて、転生したきっかけすら覚えていない。

 ただ喪失と絶望だけが、魂の奥底にこびり付いている。

 

 だから、怖いのだ。

 もう一度、大事なものを得て――それが壊れるのが。

 

 御影の求婚に応えられないのもそのせい。

 素晴らしい女性だと思う。人としても尊敬できるし、女性としてもこれ以上なく魅力的だ。

 トリウィアの帝国に行く誘いも誤魔化してしまった。

 仲良くなればなるほど色々心配になる人なのでついつい面倒を見てしまうけれど、自分がいないと、なんてくらいになってしまうのは恐ろしい。

 フォンにも申し訳ないと思っているのだ。

 こんな自分の奴隷になんかなってしまって。ここ最近友情以外の別の視線を感じることが多いけれどそれも無視してしまっている。

 最低な男だなと思う。

 好意を持たれている自覚はあるのに、自分の都合で何も応えないだなんて。

 けれど、それでも、本当に怖いのだ。

 人は、命は簡単に失ってしまう。

 もしももう一度。大切なものを失ってしまったらきっと耐えられない。今度こそ、心が壊れてしまう。

 幸福と希望を求めている。

 けれど、それを手にすることが何よりも恐ろしい。

 我ながらなんてばかげた二律背反。

 

 だから―――大切なものを失うくらいなら、自分から失っていけばいい。

 

 例え相打ちになったとしても、この男を倒さなければならないと思う。

 転生掲示板からは有効な情報はない。何人か名無しが心配してくれているがここ半年以上見慣れたコテハンたちは勿論≪天才さん≫もいなかった。

 なにやら因縁があるみたいだが、妨害されてるのだろうか。

 それはちょっと、寂しいなと思う。

 仕方のない話だけれど。

 この世界の問題は、この世界の人間がケリをつけなければと思う。

 例え刺し違えたとしても、ゴーティアは倒す。

 そう思い、立ち上がろうとして。

 

『――――>1』

 

 視界に白い文字が浮かんだ。

 思わず目を見開き、そしてゴーティアを見るが気づいた様子がない。

 自分と彼女がDMと呼んでいる直接会話機能だ。

 自身の視界だけの文字は複雑な術式構成を描き、

 

『これを使ってくれ』

 

 それだけを伝えて来た。

 良く分からない。術式の使用系統がほぼ全てで、尚且つ複雑怪奇。≪オムニス・クラヴィス≫に自動登録されたからそれ自体は良いのだが何が起こるか良く分からなかった。

 意図も目的も解らない。

 けれど。

 けれど――――彼女はいつだって自分の道しるべになってくれた。

 嬉しいなと思う。

 助けてくれようとしていることも、見捨てられてなかったことも。

 だから。

 だから――――拳を握ることに躊躇いはなかった。

 

「―――むっ」

 

 ゴーティアが目を細める。

 右腕を中心に七つの歯車の如き魔法陣が浮かび上がる。それは、「彼」の眼の前で高速回転し、

 

 

 

「―――――()()()()()

 

 

 

 その魔法陣は空間の穴となり―――その穴から黄金の光が飛び出した。

 

「がっ――!?」

 

 それはゴーティアを大きく吹き飛ばし、地面を削りながら結界の端まで飛んでいった。

 だが、「彼」はそれを見てはいなかった。

 見ていたのは―――――空間の穴からゆっくりと現れた1人の少女だった。

 青の装束に真紅のフード付きマント。随所に金の装飾があり、右の五指と左手の人差し指と中指に指輪。両手首には大きな宝石をはめ込まれた腕輪がある。

 フードからは銀色の髪が零れ、露わになっている口元だけでその容姿が非常に整っていることが伺えた。

 彼女は「彼」の前に、手を伸ばせば届く距離まで来て、

 

「……あー」

 

 わずかに首を傾げた。

 そして、小さくはにかみ、

 

「―――名前を教えてくれるかな」

 

 鈴の様に清らかな、しかし不思議な深みがある声だった。思わず聞きほれてしまい、反応が遅れた。

 それでも、息を呑み。

 

「――――ストレイト」

 

 言葉を紡ぐ。

 まるで、初めて言葉を発するように声が震えていた。

 

「ウィル・ストレイト――――それが、僕の名前です」

 

「ウィル・ストレイト……ウィルか」

 

 噛みしめる様に彼女は「彼」―――ウィルの名前を呟いた。

 

真っすぐに進む意思(ウィル・ストレイト)、なるほど。君にぴったりの名前だね」

 

 くすくすと彼女は笑う。

 そして、風が吹き、或いは自らそう動いたかのようにフードが外れる。

 靡く銀色の髪、口元だけではなく目も鼻も眉でさえも精巧な人形のように整った顔。

 ウィルがこれまで見た誰よりも可愛らしく、美しく、可憐で。まるで妖精のようだと思った。

 彼女はウィルに向かって手を差し伸べる。

 

「―――ん」

 

 握れば折れてしまいそうな細い、けれど白磁のように綺麗な指。

 

「僕はアルマだ」

 

 その名を言う。

 次元世界最高の魔術師の名を。

 これまでずっとウィルを導いてくれた少女の名を。

 

「アルマ・スペイシア」

 

 笑みと共に紅玉のような瞳が輝く。

 己の名を誇るように。

 もはやそこには倦怠も停滞もなく。

 あるのは出会えたことへの喜びだけ。

 出会ってくれてありがとうと、彼女は思い。

 こんなことってあるのかと、彼は思った。

 

「メリークリスマス、ウィル。―――()()()()()()()()()()だ」

 

 聖夜の夜、真紅の瞳が漆黒の瞳を見つめる。

 

 

 

「僕が君の――――希望(スぺイシア)だよ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

―――≪ウィル・ストレイト&アルマ・スぺイシア―――ボーイ・ミーツ・ガール―――≫―――

 




ウィル・ストレイト
真っすぐに進む意思
失うことを何よりも恐れた少年
喪失の傷は深く、御影たちの好意を受け入れることができなかった。

そして次元世界最強―――このマルチバースで最も失われることのないであろう少女と出会う。

アルマ・スぺイシア
魂の希望
ハイライト獲得。
僕が君が求めていた希望だよ♡
僕がこの状況での希望だよ♡
僕がクリスマスプレゼントだよ♡
とトリプルでかました女

転生者組
発狂外人ニキ画像立ちみたいな反応してる

やっとここまでできたという思い。

夏の御影
秋のトリウィア
冬のフォン

そして聖夜のアルマ

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アッセンブル・スターズ

「―――――ゲェェェェニウゥゥゥスッッッ!!」

 

「!」

 

「全く、しつこい上に空気を読まないな」

 

 ウィルがアルマの手を取ろうとした瞬間、結界の端で瓦礫を吹き飛ばしながらゴーティアが叫ぶ。胸に大きな穴が開いているが構っている様子はまるでない。むしろ、叫んでいる間にもすぐに修復が完了していった。

 

「よもや……貴様が出張ってくるとはのう! その小僧の為に自ら敷いたルールを破るか!?」

 

「あ、アルマさん? 僕の為にって」

 

「気にしなくていい」

 

 ふっ、とアルマは柔らかく微笑む。

 そして彼の手を取り、ボロボロの服や傷を見て眉を顰める。

 

「元々、僕がだらけていただけさ。だから、うん。これでよかったのさ」

 

「……アルマさん」

 

「ん」

 

 黒と紅の視線が繋がる。

 ウィルは首を傾けながら力なく微笑み、アルマは軽く顎を上げながら笑う。

 

「――――なにを貴様、ラブコメしとるかっ! 1000歳越えのババアが」

 

 二人を見て、ゴーティアが腕を振る。そしてその足に影が広がり―――眷属が溢れ飛び出した。

 先ほど虚空から生まれたのとは違い、ゴーティア単体の攻撃の延長として放たれる。

 猛禽や肉食獣が多頭蛇のように二人へ殺到した。

 

「貴様のサーカス団はワシが別のアースで封じておる――貴様ら二人で止められると思うてか!」

 

「アルマさん!」

 

「……こほん、大丈夫だよ」

 

 とっさにウィルがアルマを引き寄せ庇うようにし、彼女は咳払いをして動かない。

 口端が僅かに緩んでいて、

 

「思っていない。そこまで舐めてはいないよゴーティア。それからサーカスは抜けて来たんだ」

 

 だが、と手を上げて、

 

「―――新しくバンドを結成したのさ」

 

 ぱちん、と指を鳴らした。

 そして多頭獣たちの前に白い時空の穴が開き、

 

「――――!」

 

 一頭はエネルギー波で打ち抜かれ。

 一頭は元素の塵に帰り。

 一頭は固い拳を受けて弾け飛び。

 一頭は斬撃の雨が細切れにし。

 一頭は赤く光る刃に焼き斬られ。

 一頭は打撃の後、内側の衝撃から爆散し。

 一頭はひしゃげて潰れ。

 一頭は超音波が蹂躙した。

 

 アルマとウィルの前に―――9人が現れた。

 

 近未来的なショットガンのような銃を持つ、精悍な黒髪短髪、軍服の男。

 質の良さそうな半ズボンと青い髪、モノクルを付けた少年と彼の背後に控えるメイド服姿の金髪長身の女性。

 全身、良く日焼けした筋肉の鎧に身を包み上半身裸の禿頭の男。

 黒い長髪をポニーテールに和装と鎧を組み合わせ刀を持つ青年。

 厚手のフード付きパーカーにガスマスク。全身を各所が太いチューブで覆われた白髪赤目の青年。

 どこかの学園の女性徒の制服らしきものに黒いローブ、長い赤髪の少女。

 黒のジャケットとタイトスカ―トに白のブラウス、緑のネクタイは豊満な胸のふくらみに乗り、ピンヒール、黒の眼鏡と仕事ができると言わんばかりに隙のないOL姿。茶髪をシニョンにした女性。

 水色と白を基調にした制服とアイドル服を融合させ、近代的な金属パーツやヘッドホンを備え、桃色の髪には猫耳が生えた少女。

 

「ネクサス――ではないのか?」

 

「いや、ただの厄介オタクなんだなこれが」

 

 全員が全く同じ動きで右手を頭の後ろにおいて「いやぁ~」という仕草をした。

 軽く半目を向けてから、

 

「……全く本当に忌々しい」

 

 吐き捨てて―――その体ごと影に沈んでこの場から消え去った。

 

「なっ、どうして……っ」

 

「この結界、物理的な隔離と隠蔽だからね。主人格を他の眷属と交換できる相手にはあまり意味がないんだ。初見だとそれが厄介すぎるんだが。―――マキナ! 彼の治療を」

 

「承った」

 

 駆け寄ってきたのは軍服の男だった。

 低い声だ。長身で良く鍛えられているのが服の上から見ても良く分かる。軍服のようだが、妙に光沢がありウィルが見たことのない不思議な素材だった。大きな銃のようなのはいつの間にか消えている。

 

「イッチ……否、ウィル。傷口を見せてくれ。君からすると少し奇妙かもしれないが我慢してくれると助かる」

 

「え、あ、はい」

 

 マキナと呼ばれた男はグローブに包まれた右手をウィルの傷口に添える。

 突端、指先が噴出孔のように変化し、そこから霧状のものが噴出。全身の傷に浸透していき塞いでいった。痛みも消え、体が思う様に動くようになった。

 

「これは……」

 

「医療用ナノマシンだ。鎮痛と止血、テーピング効果もある。数日で体外に排出もされるので問題も特にない」

 

「な、ナノマシン」

 

 この世界に転生して聞くことはまずない概念だ。

 前世ではSFとか近未来系のマンガとかでしか碌に見たことがない。

 それを用いるということは、

 

「…………え、えっと。脳髄さんですか?」

 

「然り」

 

 マキナと呼ばれた男―――掲示板では≪脳髄ニキ≫と名乗っていた男は低く響く声で頷き、

 

「ウィル、君は今こう思っただろう―――――あれ? こいつ、脳髄じゃないの? 肉体あるの?」

 

「ま、まぁ」

 

「全く以て同意なのだが―――――流石に、脳髄が浮かぶのは絵面が最悪と判断した」

 

「……まぁ」

 

 何も言えない。

 確かに絵などでデフォルメされたイラストならともかくリアル脳髄が動いていたら見る人によっては気分を害するだろう。言葉にすれば面白いかもしれないが絵面としては最悪だ。

 

「でも、その体はどうして?」

 

「アルマが脳髄から精神だけを抜き出して、ナノマシンで形成した強化人間体にいれてくれてな。まさかこのような形で体を持てるとは思わなかった――――名乗りが遅れた、マキナ。今はそう呼んでくれればいい」

 

「はい! 僕はウィルです、いつも、それに手当もありがとうございます」

 

「―――」

 

 ウィルの言葉に数秒止まり、振り返ってご丁寧に待機していた仲間たちに親指を立てた。

 半分くらいに()()()()と手を振られ、半分くらいに中指を立てられた。

 その光景を横目で見つつ、アルマは右手首の宝石輪に触れ、

 

「第59番―――」

 

 人差し指と中指を引けばそれに従って虹色の糸のような光が伸びていく。

 右の掌の上でそれを何度かクルクルと回し、

 

「――――― ≪ 聖俗隔絶結界(シマアバンドハ)≫」

 

 広げた瞬間―――学園全体に巨大な結界が出現した。

 それまでウィルが張っていたものを塗り替え、周囲の音が若干消えている。

 

「よしっと」

 

「……い、今のは?」

 

「アース59の最高位結界術だ。指定範囲内の敵を逃さず、戦えない者を結界の外に転移させた上で、空間位相をズラす。……ま、わりと滅茶苦茶だがこれ以上は被害を気にしなくていいという話だね。同時にゴーティア自体も逃がさない」

 

「おぉ……流石ですね、アルマさん!」

 

「ふふん、そうだろう?」

 

 ウィルが目を輝かせ、アルマが薄い胸を張った。

 マキナを始め、取り巻きたちは静かに涙を流しながら合掌した。

 

「さて、準備は整えたが本題はこれからで――――むっ」

 

 

「主ぃいぃいいいいいいいいい!!」

 

「うわっ!?」

 

 黒い風がウィルを横からかっさらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主! 主っ、主! 大丈夫!? 生きてる!? うわあああぼろぼろだ!!」

 

「あ、ちょ、フォン。フォン、大丈夫だから」

 

 背から翼を生やした状態で文字通り飛んできたフォンを無理やり引きはがして立ち上がる。

 見れば冬用に長袖と前世でいうスポーツウェアのような足首まで張り付くタイプのズボン。首元には少し前にウィルが贈ったマフラーが。

 その服や顔はところどころ汚れ、血が滲んでいた。

 彼女もまたこの学園の中で次元喰らいの眷属と戦っていたのだろう。

 

「よかった……よかったよぅ……!」

 

 鳶色の瞳には――涙が滲み、ウィルに再び縋りつく。

 

「私、戦いながら、一杯探して……ひっく……うぅ……! 主が、見つからなくて、もしかしたら……もしかしたらって思って……!」

 

「……ごめんね、心配かけた」

 

 泣きながら震える彼女の頭を撫で、軽く抱き返す。

 彼女の翼と同じくらい柔らかな濡れ羽色の髪。

 フォンの頬に手を添え、顔を上げさせる。

 真っすぐに見つめ、

 

「もう大丈夫」

 

「っ…………うん」

 

 鼻を啜り、目をこすりながらフォンは離れた。

 

「―――後輩君!」

 

 次いで走ってきたのはトリウィアだった。彼女も所々血が滲み、白衣が汚れている。彼女も秋冬仕様で足元まであるレザーパンツだ。

 

「先輩」

 

「っ……先輩、ではなく―――!」

 

 いつも無表情な彼女だが、しかし端から見てわかりやすいほどに焦りを浮かべていた。

 カツカツとロングブーツを鳴らしながら駆け寄り、

 

「この……馬鹿ですか!」

 

 ()()()、と思い切り平手をウィルの頬に打ち込んだ。

 うわぁとフォンは口を開け、マキナ始め外野たちはアルマを見て、アルマはただ息を吐いて眺めていた。

 

「何か、隠蔽術式を使っていたでしょう!」

 

「っ……流石ですね」

 

「学園内のどこを探しても見つからないし、探知魔法の反応はないし! 記録に残っている魔族でそんな力を使うものはいなかったのは分かっていたから、ということはっ! 貴方が何かを引き付けているということで、そうじゃなかったら……!」

 

 ぽろぽろと。

 眼鏡の下の黒と青の瞳から透明の雫が零れ落ちる。

 息を呑み、頭を振り、肩から力が抜けて、

 

「貴方が……貴方が死んでしまったということになる……っ」

 

「……ごめんなさい」

 

 ウィルは静かにトリウィアを抱き寄せて、涙を拭う。体を屈めて、額を重ね合わす。

 至近距離で彼女の震える息を聞きながら、

 

「少し、自棄になっていました。でも、もうしません。約束します」

 

「っ……約束して。私は、貴方を失った気持ちを……「()()()()()()()()()()()()()

 

「はい。絶対に」

 

 何もかも「知りたい」と願い、知識に呪われたとさえ自嘲する彼女はそう言った。

 その意味をしっかりと認識してウィルは頷いた。

 身体を離して、顔を上げた彼女はいつも通りのトリウィアだ。

 首をかしげなら小さく微笑み、振り返れば。

 

「……」

 

「よう、婿殿」

 

 大戦斧を肩に担いだ天津院御影。

 朱の戦闘装束から真っ黒な羽織に袖を通しているが、その羽織の破れや汚れは3人では一番だった。

 彼女はまだ目元の赤いフォンとトリウィアを見て、少し考え。

 

「それで?」

 

「……えぇと」

 

「言いたいことがあるなら聞こう」

 

 彼女は片目を閉じて笑い、ウィルの言葉を待つだけだった。

 

「………………ご心配をお掛けしました」

 

「あぁ」

 

 ニヤリと彼女は笑い、

 

「ま、フォンと先輩殿がこうだし、私から言うまでもないだろうし、私がどう思っているかを分からないほど鈍感ではないだろうしな」

 

 くくくと彼女は笑う。

 そんな彼女の様子にウィルが困ったように首を傾げる様を眺めていた。まるで楽しんでいるかのように。実際御影は彼のそういう所も好きだった。

 

「詫びは後で体で返してもらうとして」

 

「えっ」

 

「あの連中はなんだ? 敵ではなさそうだが……けったいな恰好をしているな。知り合いか?」

 

 顎で指した先、アルマやマキナと掲示板勢がいる。

 特にマキナ以外はまだウィルに名乗りもしておらず、アルマとの絡みを楽しみ、三人とのやり取りも空気を読んでいた。今がチャンスか、とそれぞれがそれぞれに視線を配り、出し抜こうとして、

 

「――はい。僕をずっと助けてくれていた人たちです」

 

 全員が両手で顔を覆いながら天を仰いだ。

 アルマは半目でそれを眺めていたし、御影たちも良く分からなかった。

 

「それと、たまに話しますよね。こちらアルマさんが僕の「師匠」です」

 

「ん」

 

 1人名指しで紹介されたアルマは腕を組みながら顎を軽く上げ、

 

「――――ほう」

 

「なんと」

 

「えぇ?!」

 

 御影は笑みを濃くし、トリウィアは目を細め、フォンは軽く飛び上がりながら驚いた。

 三者三様の反応をした後、三人は顔を合わせて、

 

「…………ふむ」

 

「…………あれが」

 

「…………そっかぁ」

 

「…………んんっ」

 

 何とも言えない反応にアルマは咳払い。

 

「なんにしても、だ。そろそろ動くぞ―――あぁ、自己紹介は後だ」

 

 そんにゃーとかえぇーとかいう声が上がるがアルマは構わずに手を掲げる。

 

「やつを倒すには手順がある。ゴーティアは結界に閉じ込めた。次は手下狩りだ」

 

 その手を広げれば六角形が浮かぶ。それは学園全体に張った隔離結界の縮小版。端の方に赤い点がありそれがゴーティアの位置を示しているものだ。

 

「やつは自身を無限と嘯くが実際の所生産スピードには限界があり、一度に産める量もある程度は制限がある。眷属を潰せば潰すほどそれらの効率は下がり、眷属を媒介にした転移の選択肢も下がる」

 

 故に、

 

「全員で虱潰しに結界内の眷属を潰す―――そして、奴を仕留める」

 

「失礼、天才殿質問よろしいか」

 

「ん」

 

 手を上げたのは褐色上半身裸体の男。

 

「―――コテハンでは暗殺王と名乗っていたロック・アルカイオス3世である」

 

 質問の体を取りつつ、さらっと名乗りを上げた筋肉男に名乗りがまだのメンツが、その手があったかと目を見開いた。

 御影たちは暗殺王ってなんだ……? と首を傾げた。

 王族というにはズボンだけというあまりにも軽装な、王というにはあまりにも巨大すぎる大胸筋を()()()()させながらバリトンボイスで問いかけを続ける。

 

「眷属を潰し、アレの逃げ場を無くすということだが。その滅殺は我ら誰でも可能なのか?」

 

「良い質問だ筋肉達磨くん」

 

「照れるッ!」

 

 むきぃ! と胸を張り、緩く腕を広げ拳を握りながらも全身を力む―――現代のボディビル競技ではフロントリラックスポーズと呼ばれるもので答えた。

 ニカッ! と真っ白な歯が輝いた。

 取り戻したはずのアルマのハイライトが一瞬消えた。

 嘆息し、首を振りながら彼の質問に答える。

 

「――――ウィル」

 

「はい」

 

()()()()

 

 告げる。

 ≪全ての鍵≫を持つ少年に。

 

「僕単体だけでは殺せるが―――()()()()()()。眷属の総数と生産スピードを落としたら僕と君でヤツの本体を直接叩く。―――いいね?」

 

「―――はい!」

 

 どうやってとか。

 できるのかとか。

 そういうことをウィルは問わない。

 アルマができると、やろうと言ったのだ。

 だったらそれでいい。

 これまでずっと、彼女はウィルの未来の扉を開けてくれたのだから。

 アルマ・スぺイシアはウィル・ストレイトの希望だから。

 希望を、真っすぐに信じるのだ。

 

「―――」

 

 アルマは彼の瞳に思わず頬が緩みかけ、抑えようとするが全員にバレバレだった。

 

「こほん」

 

 仕切り直しに咳ばらいを一つ。

 

「さぁ諸君。改めて言おう、クリスマスだ。――――パーティーの時間だよ」

 

 

 




ウィル
やたら真っすぐに目を見つめるのが癖
さらっと頭撫でたり、頭コツンしたりと距離感がずるい

アルマ
ウッキウッキ

マキナ=脳髄
流石に脳髄まんまで浮かぶのはやべーとなったので体を作った。
精神体抜き出して入れ直してるのでわりと反則してる。

ロック=暗殺王
筋肉

フォン
めっちゃ寂しかった

トリウィア
彼を失う気持ちは「知りたくない」

御影
このあと滅茶苦茶えろいことしてやろうと思っている

掲示板勢
名乗らせてもらえなくてソワソワしてるが生>1天てぇてぇで天を仰いでいる。


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俺たちの>1天は……これからだ……!


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カム・フロム・マルチバース 1

2021年ありがとうございました。



 頬に風を感じ、鼻に匂いを感じる。

 肌を刺すような戦場の空気には火薬の匂いはないが、血のそれは懐かしいものだ。

 息を吸い込み、肺に空気を送る―――果たして何年振りかとマキナは苦笑してしまう。

 目前に広がるのはだだっ広いグラウンドだ。

 前世の中学や高校でみたものとはさほど変わらないが、広さだけはかなりのものだ。様々な種族がいる為に広くしているのだろうかと思う。

 確かウィルから掲示板で聞いた時はこのグラウンドは純粋な運動目的で、戦闘は別の演習場だと聞いた覚えがある。いつだったか二年主席の龍人がサバトされていたのもここだ。

 そして、今は。

 

「……熊とゴリラか?」

 

 10メートル近い大型の眷属魔物。聞くところによればゴーティアの眷属は現地生物の情報を読み取り再現するという。このアースの原生生物はファンタジーながらも現実に近い故に見覚えのあるものが多かった。

 アルマの結界の中に解き放たれた眷属は大小さまざま数百体。

 眼の前にいる大型二体の周囲には四足歩行の獣型から二足歩行の猿人型も交じっている。

 

「―――()()()()()

 

 思わず笑ってしまう。

 生前――というべきか。肉体を持っていた頃はこういう光景を何度も見た。

 そう言った時には背後には仲間たちが大勢いたし、自分は彼らの命を預かり、率いて戦う立場だった。

 己の肉体で、血と汗を流し、命を懸けて戦っていた。

 だが、今は―――一人だ。

 転生者たちは散らばり、それぞれ自由に戦う。

 自由に。

 自由。

 その言葉を失ってどれほど経つか。

 思考領域のほんの僅かだけをマルチバースに接続し、コメントすることしか許されない。

 何もかもを失って機械の奴隷になって、そして今――――友の為に新たな体を得て、自らの体にて立つ。

 

「…………友。友は言い過ぎか? やはり推しの為と言ったほうがいいか……?」

 

 腕を組み、眉を顰め考えるが答えは出ない。

 ウィルならば認めてくれそうだが。

 

『■■■■―――!』

 

 獣の咆哮が轟き、二体の大型眷属が迫る。

 マキナは動かなかった。

 わずかに目を細め、掌を何度も開き、握り、感触を確かめ、

 

「―――デウス・エクス・ヴィータ」

 

 トリガーヴォイスと共に体内に格納されたナノマシンが起動。周囲十メートルに放電現象を伴うエネルギーフィールドを形成。

 圧縮されたナノマシンが解放され体外に放出されると同時にマキナの肉体をコアパーツとして巨大な四肢を構成する。

 そして降り立ったのは10メートル大の人型ロボットだった。全身は黒く胸や体の各所に青いナノプラズマコアが鈍く輝く。

 太もも裏や腰、背中には加速スラスター。それは本来地球物理法則では満足に立てないであろう細身の流線形。だがそれらのボディを構成しているナノマシン自体が常時バランサーとなって人体と変わらぬ機動性を実現していた。

 変生は一瞬で完了した。

 生命仕掛けの神(デウス・エクス・ヴィータ)

 アース1203における超科学文明、ナノマシン工学における第一位強化人間・二種戦闘形態。

 己を機械(マキナ)と嘯き、生命(ヴィータ)を鎧として纏う。

 

『――――戦闘を開始する』

 

 ()()()と。重低音の響きと共に胸のナノプラズマコアと瞳のアイレンズが青く輝き――背中の加速スラスターを起動。グラウンドの地面を陥没させながら魔族へと真っすぐに飛び出した。

 

『■■■■!』

 

 向かう先はゴリラ型。大地を踏みしめる度に轟音が鳴り、小型眷属ごと潰していく。

 どちらも示し合わせたように拳を振りかぶり、ぶつかる直前、

 

『バーニア!』

 

 足裏足首のスラスターを起動。疾走が跳躍に変貌し、浮かんだ後に肘の加速器も起動。

 加速と落下を乗せて、叫んだ。

 

『――――ロケットパァーンチ!!』

 

 

 From earth 1203 脳髄惑星/惑星管制中枢生体コア―――デウス・エクス・マキナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きますよ、アルカ」

 

「はい、ご主人様」

 

 グレーの半ズボン、グレーベストに白シャツ。青い髪とモノクルが印象的な背の低い少年は金髪長身でポニーテールのメイド服の女性を引き連れながら、学園内植物園に足を進めた。

 植物園を見るのは初めてだった。 

 ウィルの学園生活を時には文章で、時には視界共有で楽しんできたがこの場所は見たことがなかった。 

 だが、少年にとって植物園自体はわりとなじみ深いものだ。

 自身の世界において自然の素材から人形を製作する少年は自身の屋敷や商会で植物園や農園、猟師団も経営することで素材を効率よく安定供給している。その中でも自宅にある小さな植物園でメイド――アルカの淹れる紅茶は最高の息抜きの時間だから。

 

「いやですね、全く」

 

 学園の植物園は専門の庭師がいるのだろう。魔法でも使っているのか少年が知っているものによく似たものや全然知らないものがあった。しかし、それらは今、蛇やトカゲ、或いは蟲のような眷属らが木々や植物に絡みつき、踏みつぶしている。

 

「ご主人様」

 

「はい」

 

「全滅させましょう」

 

「あはは―――はい、最初からそのつもりです」

 

 平坦なトーンの声にはしかし怒りがにじみ出ている。

 長身豊満なメイドはしかし、そのうちに収まるのは元素の大精霊。少年の世界では科学学問は未発達であり元素とはすなわち万物を構成するものと定義されている。

 少年は――真っ黒な手袋に包まれた両手を広げる。その指先から伸びるのは極細の糸だ。

 そしてそれの十本の糸、少年からアルカの全身へと伸びていた。

 少年の指が跳ね、

 

「――――参ります」

 

 アルカもまた跳びあがる。

 

『■■!』

 

 呼応するように眷属たちが木々から飛びあがり、中空のアルカへと殺到。

 逃げ場はないが、少年は冷静だった。

 

「―――」

 

 言葉はなく、しかし右腕を大きく引き――――くるりとアルカが宙を舞う。

 ロングスカートがたなびき、手にしていたのはスナイパーライフルだった。少年の世界には機械文明は発展しなかった。だからそれは魔力効率の良い鉱物をスナイパーライフル状にしたものであり、実際の銃機構が内蔵されているわけではない。

 故に、

 

「元素メイド殺法・ライフルバッティン!」

 

 鈍器として殴りつける。

 一体を殴り飛ばし、その勢いでアルカの体が僅かに勢いで流れる。

 故に再び少年が手を引けば、さらに回転を増しコマの様に高速回転しながら一息に中空の眷属たちを文字通り吹き飛ばした。

 地面に着地し、ライフルを脇に挟んで決めポーズ。無表情ながら僅かなドヤ顔をにじませ、ポニーテールとスカートの広がり具合まで計算されたポージングだった。

 少年は苦笑、アルカは優雅におじぎをし、

 

『■■!』

 

 ライフルの先端から放たれた魔力弾が、少年の背後に忍び寄っていた蛇型眷属を打ち抜き塵にした。

 

「……便利ですよね、これ。銃。わりといいんじゃないですか?」

 

「大精霊の言葉ではありませんねぇ」

 

 科学文明や自動作業工程を拒否する大精霊のセリフとしてはあんまりだが、彼女の持つ銃は少年が三か月かけて研磨し、組み合わせた特注品だ。

 銃としての機構はほぼなく、筒状の棒に銃床をつけただけで銃と呼ぶには悲惨だが精霊として魔力弾を射出する補助機構としては十分すぎる。

 

「次に行きますよ、アルカ」

 

「畏まりました、ご主人様」

 

 

 From earth412 自動人形職人/自動人形嫁  ラザフォード商会会長クロノ・ラザフォード&最高級自動人形・元素の大精霊アルカ。

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおおおおおおおお!!」

 

 唸り声と共に岩のような拳を、虎型の眷属の頭に叩き込む。一発で頭蓋が砕け、残った体は前蹴りでぶっ飛ばして他の眷属魔族たちをまとめて薙ぎ払う。

 

「ぬんっ!」

 

 肩に噛みついてきた狼型は筋肉を固めることで牙を通さない。そのまま首根っこを掴み、首を握りつぶしながら地面に叩きつける。獅子型が頭上から来るが逆の腕で中空で殴って飛ばし返し、後ろから来た蜥蜴型は勢いそのまま回し蹴りで吹っ飛ばした。

 

「ぬぅあーーー!!」

 

 続々と小型の眷属が迫るが唸り声と共にその肉体を以て殴り、蹴り、投げ、叩き潰す。 

 極めて原始的な、溢れる筋肉のパワーに任せた肉弾戦。防御行動などとらない。やられる前にやり、受ける攻撃は全て筋肉の鎧ではじき返す。

 ロック・アルカイオス三世。 

 その生涯において暗殺を受けた数は数限りなく、幼少のころは文字通り生きるのに必死だった。

 権謀術数、政治と金による暗殺は当たり前のことで護衛がいなければ10になる前に死んでいただろう。

 だがある日、彼を守って護衛が死んだ時、彼は1つの真理に到達する。

 信頼できるものはいない。

 誰に殺されるか分からない。

 信じられるのは自分だけ。

 ならば信じられるのは――――己の筋肉である。

 

「弾けろマッスル! 胎動せよ大腿四頭筋!!」

 

 銃弾、刃、毒、殴打、火、水、感電、酸。

 なるほど恐ろしい。

 だが、筋肉を鍛えていればなんの問題もないのではないかとロックは思った。

 思ったので体をひたすら鍛えた。

 鍛えた結果、全身を筋肉の鎧で包み、あらゆる暗殺を筋肉でぶちのめすことが可能になったのである。

 ビバ、筋肉。嗚呼筋肉。

 筋肉は全てを解決する。

 

「――――むっ?」

 

 ぴくりと大胸筋レーダーが反応する。

 一度飛び退けば、小型の眷属たちが大量に密集。

 瘴気が溶け合うように混ざりあい、一つの形を得る。

 それはロックを上回る体躯の人狼だった。眷属たちはそれぞれが全てゴーティアの分体であるがために融合して強化個体も製造可能なのだ。

 同時刻、マキナがパイルバンカーで頭部を打ち抜いた大型眷属もそれと同じ理屈で生まれている。

 2メートルと少し。体の大きさは人のものではない。

 人狼は身を屈め、

 

「ぬぅっ――――!」

 

 轟音と共にロックへと爆進した。

 彼は逃げなかった。

 両手を前に出し、腰を落とす。大地に根を張る様に体勢を整え――――正面から受け止めた。

 

「ぬっ、あああああああ……!」

 

『■■■■―――!』

 

 真正面から二つの巨体がぶつかった勢いで周囲の地面が砕け、ロックの体から汗が弾け飛び、あらゆる筋線維が張り詰め、全身の筋肉が、太い血管が脈動する。

 

「甘いわァ!」

 

 狼の牙がロックの頭に食らいついてくるがヘッドバットで押し返す。

 だが、しかしそれは決定打にならない。

 がっつり組合い、唸りを上げ、肉と肉が拮抗し、

 

「んまぁー!? なにあの良い男!?」

 

「むっ!」

 

 視線をずらせば、巨大な斧を二つ持った筋肉がいた。

 否、巨大な筋肉のメイクの濃い、おかまっぽいエルフである。

 

 学園教諭フランソワ・フラワークイーン(偽名)である。

 

 学園内で文科系全般の科目を統括し、日々の生徒の悩みの相談にも乗る、学園一信頼が厚い教師と言っていい。

 彼女もまたその戦闘能力の高さからアルマの結界からも弾かれることはなく、状況を把握しきれていなかったものの戦い続けていた。

 途中、守るべき生徒が消えたことにより思う存分に戦いに赴き、自慢の双斧を振り回してきたが―――その先、ロックを見た。

 かなりタイプのイケオジがピンチになっているところを。

 眼が合う。

 大胸筋と大胸筋が呼応する。

 例え世界は違っていても、己の肉体を極限まで鍛えた者同士。

 今この瞬間、筋肉に生きる男に何が必要なのかを理解していた。

 

 

「――――キレてるキレてるぅ!!」

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

 声援を受けた瞬間、筋肉が音を鳴らし鳴動する。

 鼓動を刻み、血流が血管を流れ溢れ、急速に圧力を増した。

 ただの声援と、侮ることなかれ。

 筋肉とは日々の研鑽の蓄積である。

 そして一流の筋肉戦士であれば肉体コンディションを100%にしているのは言うまでもない。

 ならば、120%に、さらにその先に持っていくには如何とするか?

 

 

「広背筋ドラゴンウィングか! 肩にマウンテンゴーレム宿ってるわぁ!!」

 

 意味は半分くらい解らないが。

 しかしてロックの筋肉を賞賛するのは通じる。

 そう、それで十分なのだ。

 誰かの声で強くなる―――――それこそが筋肉(マッスル)

 

 

 

「ヌゥ―――ふぅぅ……!」

 

『……!?』

 

 人狼には、眷属には理解できない。

 筋肉と筋肉を信じる声を。

 応援してくれるだけ力が沸き上がるという筋肉の力を!

 

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 溢れ弾ける筋闘気(マッスルオーラ)! 

 嗚呼、礼賛せよその至高芸術を!

 物理的に衝撃波となって放たれるマッスルオーラが人狼の体勢を崩し、ついに均衡が崩れる。

 

「!!」

 

 その瞬間を見逃すロックではない。

 緩んだ一瞬、さらに腰を落として両腕で人狼の左脇へタックル。そのまま抱きしめるように右腕で人狼の肩と腕を固定。

 全身を律動させ、人狼の巨体を浮かし、

 

「我が筋肉を味わうがいい……!」

 

 130キロにもなる全体重を乗せて地面へと叩きつけた。

 

 

 

 From earth299 暗殺王/≪不死王≫アルカイオス王国三代国王 ロック・アルカイオス三世。

 

 

 

 

 

 

 

 




デウス・エクス・マキナ
機械により降臨させられた神
人の形をしたナノマシンの集合体。精神自体は拳大のプラズマコアに収まっておりそれさえ無事であるのなら無限再生可能。
ナノマシンもある程度は自身精製できる。

デウス・エクス・ヴィータ
命仕掛けの神
マキナ体内に用意されたナノテクノロジー戦闘兵装
通常形態第一種、五メートル程度を第二種、さらに第五種までスケールチェンジ可能であり、ナノマシンによりリアルタイムで兵装精製可能。


クロノ・ラザフォード&アルカ
オネショタ。
人形師であり人形遣い。
アルカ単体でも元素精霊術により物質を元素崩壊させる力を持つが、それをクロノの傀儡操作でフォローしている。スナイパーライフルを模した武器は魔力弾の発射補佐。
本来近代兵器は精霊は受け付けないが、鉱物からクロノが発掘して形成しているのでオーケーらしい。


ロック・アルカイオス三世。
筋肉その1。
ロックの世界は魔法はないが、人体の可能性が極めて高く確固たるイメージを以て鍛えればその通りになるという世界法則を持つ。
故に最強の筋肉と鍛えた結果最強の筋肉になった。
あらゆる暗殺を筋肉で物理的に防ぐ。

フランソワ・フラワークイーン
オカマ筋肉エルフ
好みのイケオジと出会い、筋肉で通じ合った。

普段はやる夫スレでAAを弄っているので、ハーメルンにもAA機能が実装されたということで少し遊んでみました。

改めて、来年もよろしくお願いします。
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カム・フロム・マルチバース 2

ずっと人気だった脳髄ニキが筋肉AAに話題かっさらわれて草でした
AAは今後もたまに使えたら使ってみたいですね


「ほっ、とっ、やっ、っと」

 

 軽い掛け声で並木道を駆けながら、ポニーテールを靡かせ―――ソウジ・フツノは刀を振るう。

 斬る相手は人間大の猿型の眷属。 

 斬った数は、

 

「45―――2っと」

 

 木々の合間、道の先と後ろ。

 前後左右、加えて上。あらゆる方向から眷属たちが迫りくる。正面、猿が飛び上がってから降ってくる。

 首を落とした。

 続けて両サイドから6匹。

 

「―――スキル≪大剣豪≫」

 

 ソウジの握る刀、神話級武具≪フツノミタマ≫が微かに光った。

 右側の二体は斬撃を飛ばして首を両断。刀を返しながら左の頭を刺突でぶち抜き、隣の一体を蹴り飛ばして右その3にぶつける。迫ってきた左の最後は回転しながら首を飛ばし、残った2体も回転の勢いのままに斬撃を飛ばしてやはり首を落とす。

 魔物だろうと魔族だろうと、人の形をしているなら首を飛ばすのが一番早いとソウジは経験則から知っている。心臓もいいのだが種族によっては場所が違うこともあるので第二候補だ。

 

「んー、大体Bランクっすね」

 

 ソウジの世界、アース349は冒険者の世界だ。

 迷宮があり、迷宮都市があり、魔王がいて、冒険者ランクがあって、亜人もいて、魔物がいる。

 普通と違うのは、精々魔王と呼ばれる存在がぽこじゃか生まれてくるくらいだろうか。

 こっちもぽこじゃか倒すのだけど。

 その上でこの数だけはやたらいる猿型眷属はBランク。

 魔物も冒険者もEからSランク。

 Sランクともなれば、ソウジの国には7人しかいないほどの実力者だ。

 

「っ―――お?」

 前に走り出した途端、その前から壁のように眷属たちが集まっていた。それだけではなく全方位、それまでとは段違いの数が殺到する。

 10や20じゃなかった。

 一体一体は大したことはないにしても、30、40、或いはそれ以上ならば。

 その答えを、ソウジは今はじき出す。

 

「―――≪刹那滅空斬≫」

 

 一瞬。

 周囲一帯に空間に上書きされたように線が乱れる様に走り―――何もかもがバラバラに切り捨てられた。

 自身の半径数メートルの敵対象、その全てを切り捨てる≪大剣豪≫スキルの奥義だ。

 ソウジの世界はいわゆるステータス、スキル、レベル、クラスという概念が存在する。

 肉体情報や技術は数字化されており、鍛えれば鍛えるほどレベルが上がる。

 アースゼロでいうRPGゲームがそのまま実現したような世界であり、転生といえばまず思いつく様な仕組みである。

 そしてソウジ・フツノは最上級クラスであり、最上級スキルを多く持つ冒険者である。

 

「ふぅ」

 

 周囲を見回しながら刀にこびり付いた残滓を振り払い、

 

「むっ」

 

 一匹範囲外にいたのか、生き残っている。こういう時、いつもなら仲間兼奴隷に処理をしてもらうのだが。

 一人戦うのは久しぶりだなぁと思い、

 

 ―――――降ってきた大戦斧が眷属を両断した。

 

「―――っ?」

 

「おっと婿殿の友人。余計なことをしたかな?」

 

 大戦斧の柄から伸びる布が()()()と引かれ、高速で吊り上げられる。

 軽い動きで大重量の斧をキャッチしたのは黒羽織に赤装束、隻角の鬼族。天津院御影だ。

 彼女は大きな乳房を揺らしながらも肩を竦め、

 

「大した腕だな。刀一本でそこまでやるとは。婿殿の友人はみなけったいな恰好をしているが、お主はわりと見知った姿だな。≪皇国≫出身だったりするのか?」

 

「…………」

 

「…………?」

 

「…………いや」

 

 ソウジ・フツノは――――コミュ障である。 

 掲示板ではいいのだ。加えて転生者同士なら前世が同じ世界だからと敷居も低い。

 だが、それ以外はダメだ。何を話していいか分からない。ついついどもり掛けるので無口になりがちだ。

 喋りが苦手なことが寡黙と勘違いされてるので冒険者ギルドや国からの評価は高いのだが。最近は近しい人の間ではマシになったのだが初対面での会話は難しい。

 何より。

 

 ――――ソウジは「わー、鬼の巨乳っ娘エッチ~~」とか、ウィルと戦う御影を見て似たような奴隷を買ったのだから。

 

「…………」

 

 内心、ソウジは冷や汗を流しまくり、滅茶苦茶てんぱっていた。

 だが、なまじ女性と見間違わんばかりの中性的な顔立ちに艶やかなポニーテールと顔がいいので黙っているだけでそれなりに絵になるのだ。

 

「……ふむ」

 

「っ」

 

「……?」

 

 御影が首を傾げて何かを言おうとし、思わず緊張しすぎて体がこわばる。

 どうしようかと思い、びびり、目線をそらした先。

 人間大の猿たちとは違う、全長5メートルはありそうな蛇型眷属がいた。

 

「―――先に行く」

 

 これ幸い、離れる口実発見と言わんばかりに風のように駆け出し、

 

「…………婿殿より無口な男がいるとはなぁ」

 

 御影は嘆息し、任せていいかと別方向へ駆け出した。

 そして、

 

「――――斬る」

 

 ソウジ・フツノは敵へと抜刀する。

 

 

 From earth 349  元奴隷童貞冒険者/Sランク冒険者―――――≪刀神≫ソウジ・フツノ。

 

 

 

 

 

 

 

 その生物をフォンは初めて見た。

 魔法学園上空、様々な鳥型魔族が舞う中でなお異彩を放つものを。

 それはシルエットだけなら鳥人族のそれに似ている。

 だが実際の姿はまるで違った。

 羽毛と骨格で構成されているのではない。

 金属質のフレームと――光の膜でできた翼だった。

 

「はえー、綺麗」

 

 自身も空を舞い、翼で魔族を叩き落し、蹴り落としながら加速しつつ、その飛翔を見る。

 鳥人族の飛び方とは違う。

 風の流れを読み、その流れに乗って飛ぶのではない。

 どういうわけかそのフレームウィング自体に浮力が発生し、加速を行い、風を切り裂くように飛んでいる。

 例えばフォンが空中で戦うのならば敵との戦いも飛行を利用する。

 第一飛行形態(ヒトガタ)四肢に加えて双翼の六つの攻撃方法による打撃。

 或いは第二飛行形態(ハーピースタイル)であれば双翼による打撃と趾による爪と掴み。

 それぞれ攻撃手段は異なるが一つ一つの動きを加速させるのがフォンの闘い方であり、鳥人族の闘い方である。

 

「とりゃっ」

 

 軽い掛け声ながら、猛禽類型の魔族に翼を叩き込み両断する。

 体重は軽い鳥人族であるが加速を乗せた彼ら彼女らは、魔法により風の刃を纏う。加速を重ねることによってあらゆる行為を音速超過で行い、重さではなく鋭さで敵を倒す。

 そのまま魔族を裂いた抵抗を体を回転させることで加速。

 さらに真っすぐに伸び、別の魔族に体に趾を引っかける様において加速任せに引き裂く。引き裂いた瞬間、残った体をさらに蹴りつけてまた加速。

 真上にいた魔族に両趾で着地。その握力任せに体を握りつぶし、潰れた身体を足場にして真下へとさらに加速。

 加速に加速を重ね、その上でさらに加速を。

 鳥人族は魔法に適した体ではなく、二桁の系統適正を持つことは極めて稀。

 だが、だからこそ飛行に特化している。

 飛ぶために翼を羽搏き、飛ぶために敵を切り裂き、飛ぶために敵を穿つ。

 

 アース111最速の翼。

 地上から見れば白と黒の影が一瞬で視界一杯に軌跡を引いたと思えば消えたかのようにしか見えないだろう。

  

「……とんでもねぇな」

 

 超音速、どころか音速の数倍まで加速するフォンを見てガスマスクにフレームウィングの男―――(ケイ)・フォード・黒鉄(クロガネ)は飛行用ゴーグルの奥の赤目を細めた。

 空における生物としての格が違う。

 景の飛行はネオニウムという地球外物質によるドーピングによって体を強化し、フレームウィングの起動もネオニウムによって行われている。

 精製の方法によっては体内に取り込むことも、燃料としても、あらゆる科学文明の動力源として運用できるのだ。

 彼の戦闘能力の大半はこのネオニウムが根幹にあるために、世界が変わったから使えないなんてことがなくて幸いだった。

 ネオニウムを取り込むために景の体は諸々人体改造されまくっているのでネオニウムが効果を失うと全く使えなくなってしまう。

 脊髄にはフレームウィングや両手両足のネオンガントレットを意思で操作するために脳波制御チップが埋め込まれているし、アンダースーツにはシールタイプの身体強化ネオニウムが仕込まれてもいる。ガスマスクから伸びるチューブは腰のネオニウムストックと繋がっているために、ネオニウムがなければやはりただ息苦しいだけだ。

 思わず口の端が歪む。

 ガスマスクの奥で皮肉げな笑みを浮かべながら―――フレームウィングを加速させた。

 呼吸はガスマスクで、眼球はゴーグルで保護されているが空気抵抗や加重に対しては無抵抗だ。ネオニウム粒子で強化された肉体任せで強引に耐えながら、飛ぶ。

 フォンの流れるような加速とは違う。

 無限加速による飛翔ではなく、加速と減速、停止のサイクルだ。

 ネオンブレードの柄に付属するトリガーを引き、カートリッジが排出。高熱を発するレッドネオニウムが充填され、ブレードに装填。ネオンレッドに輝き、1500度の刃が発生する。

 

「――だっラ!」

 

 梟型の眷属を叩き切る。 

 抵抗はほぼ無いに等しい。

 故にそのまま真っすぐ飛ぶ。

 

「―――ギブソン、右腕・ブレード固定!」

 

『copy』

 

 ガスマスク内蔵イヤホンから機械音声から返答がある。

 クロノにとってのアルカのような魂すら溶け合ったパートナーではない、純粋なガジェットサポート人工知能だ。

 脊髄に脳幹チップを埋め込めばガジェット操作簡単と思ったけど、戦闘中の思考とごちゃって逆に面倒になるので友人に作ってもらったのは懐かしい話である。

 右腕をブレードごと固定したままに空を飛び、超高温ブレードの威力任せに眷属を焼き切りながら空を突っ切る。

 最高速度でやっと音速に到達するという具合。

 フォンの加速度や空中での自由度には大きく劣る。

 そもそも種族として飛行に特化した彼女に、その分野で叶うはずもない。

 

「自分で言って、悲しくなるなァ!」

 

 空を突っ切り十数体倒した所で反転。

 

「ンぎぎぎぎぎギッッッ……!」

 

 フレームウィングを大きく広げ、加重に耐えながらも急制動。直進突撃では倒しきれなかった取りこぼしたちが殺到してくるが、停止の勢いのままにネオンブレードを振り上げ、

 

「ガンモード……!」

 

 振り下ろした柄が直角に折れて銃形態へと移行。それと共にカートリッジを排出し、新たに装填。赤ではなく黄色。

 トリガー。

 銃口から放射線上にネオンイエローの雷撃が中空に迸る。

 射程範囲約30メートル、カートリッジ内ネオニウム全消費の大技だ。

 ネオニウムはその色と精製に応じて万能に近い反応をもたらす。

 自らネオニウムを精製し、ネオニウムによる汚染耐性が極めて高い景だからこそそれらを十全に使いこなせるのだ。

 

「ふぅぅゥ――」

 

「凄いね今の!」

 

「――――まぁナ」

 

 振り返ったらフォンが真後ろに滞空していた。

 強化した感覚器官ではそこにいることには直前には気づいていたが、しかし接近するまでが分からなかった。速すぎる。景のアースの速度上限を完全に超過しているだろう。

 

「んー、貴方私と同じ鳥人族? その割にはヘンな飛び方するけど」

 

「違う違う、アンタの主と同じ人間だヨ。ちょいと弄ってるが――まぁ、人間ダ」

 

「へぇ――主は交友範囲が広いんだね!」

 

「……お、おウ」

 

 影も曇りもない明るい笑顔に思わず圧倒される。

 今の自分はフードにガスマスク、ゴーグル。体のあちこちがネオンライトに光るわりと怪しい人物なのだが。

 景の知り合いは大体何かしら過去に影やら傷やらがあるので滅多に会うことのない人種だ。

 

 いや、それを言うならそもそもウィルこそ出会ったことのなかった人種なのだけど。

 

「にしても、魔族って思ったより大したことないかな。私と貴方だったら、大体空はカバーできそうじゃないかな」

 

「おイ鳥ちゃン。そういうこと言ってると―――」

 

『■■■■――――!!!』

 

 轟いた咆哮は眷属たちが集合して生まれた―――ワイバーン型だった。

 約15メートル近い大型眷属。学園内で生まれたものでは現在最大級だ。

 

「………………」

 

「…………ほら、大体こうなるんだよなァ」

 

 嘆息しつつ、

 

「ギブソン、()()やるゼ」

 

正確に指示をください(Say correct.)

 

「…………こほん」

 

「何か言った?」

 

「………………いや」

 

 ちょっと格好つけたら言葉足らずだった。

 帰ったらAIのアップデートをしたい。マキナあたりが上手いことしてくれないだろうか。

 気を取り直して、

 

「―――ギブソン、オーバドーズ」

 

『Copy. Overdose』

 

 指示と共に、ガスマスク内部から通常の摂取量をはるかに超える純粋ネオニウムが噴出され、呼吸器からそれら全てを吸い込む。

 通常の人間であれば一吸いで中毒死するレベルを、転生特権の状態異常無効任せに取り込むのだ。

 

「―――フッゥゥ……!」

 

 過剰摂取によりゴーグルとフードの奥で、真紅の瞳が輝いた。

 

「ハイでイクゼ……!」

 

 

 

 From earth 984  サイバーヤクザい師/黒鉄製薬事務所所長―――――≪オーバドーズ≫景・フォード・黒鉄。

 

 

 




ソウジ
勘違い系転生者
彼の世界で7人しかいないSランク冒険者。
魔王と呼ばれるSランク魔物がわりとぽこじゃが生えてくるけどばっさばっさ斬り殺してる。
スキル名はなんかテイルズとかあんなノリ。
わりとモテるがコミュ障。
御影さんの顔見るのが滅茶苦茶気まずい



多分一番番外編スピンオフ主役適性が高い
変形機構武器やら機械翼やらAIサポートやらガスマスクにお薬過剰摂取で強化とか男子が好きそうなやつを盛り込みまくってる。
滅茶苦茶モテるが複雑な関係も多い。
ちゃんとメカニックの相棒もいたりするのでアメコミのダークヒーローのノリ


フォン
ちゃんと戦ったことなかったけど、やっぱり強い。平気で音速の数倍に行くわ、翼でぶっ叩いても加速するとか物理法則を舐めている。
空中戦だとアース111最強候補。


キャラが……キャラが多い……!!!!!
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カム・フロム・マルチバース 3

「おーほっほっほほ!!」

 

 学園内のラウンジ。中庭に面したカフェは普段は生徒たちの憩いの場。

 今はそこに歓喜に満ちた高笑いと―――お手玉のように跳ねる眷属が満ちていた。

 黒いコートと燃えるような赤い長髪を靡かせながら、二脚四脚含めて様々な眷属たちに囲まれる少女。

 その中で、アメジストのような瞳を爛々と輝かせながら彼女、マリエル・デュ・アルトーネは拳を、掌を振るう。

 それはロックのように攻撃を受け止め殴り返すのでも、ソウジのように片っ端から切り捨てるのでもない。

 全方位から迫る人間大の眷属に対する対処はその二人とは違う。 

 即ち、受け流して、捌いて、投げ飛ばすか殴り弾かせるか、だ。

 

「フゥゥ---」

 

 呼吸は長く、腰は落し、右手は固く握り、左手は緩く開く。

 やることはシンプルだ。

 足と腕が二本あって頭があるような、つまり人の形に重心が似ている眷属が来たら攻撃を受け流して投げ飛ばす。

 足が四本だったり、そもそも足や腕がない、つまり人間ではない形の眷属は投げるのが面倒なので殴って爆散させる。

 スロー・オア・エクスプロージョン。

 恐るべきは彼女の体術練度。 

 たった二本の腕と足捌きのみで全方位から迫る眷属たちを同時に高笑いと共に撃破しているのだから。

 

「さいっこーですわね、マルチバース!」

 

 だって、

 

「こんなにも殴り放題……!」

 

 マリエルの世界にはこういう魔物のようなものはいない。

 魔法はあるけどファンタジー生物はいないというちょっと変わった世界なのだ。ある意味闘争相手は人間同士というちょっと闇が深い世界と言えるかもしれないが。

 そんな世界でこのアース111の≪魔法学園≫と似たような学園に通っている。

 違いは、主に貴族階級の女子だけが入学できる文字通りのお嬢様学校だ。

 礼儀作法は勿論、貴族の子女として恥ずかしくない教養、さらには踊りや歌のような芸術、歴史や錬金術(この場合、発展途中の科学的なやつ)、護身術までも学ぶ万能カリキュラムである。

 そして魔法があれば当然魔法の科目もある。

 そして、マリエルは魔法が一切使えない。

 魔力そのものがゼロという超特異体質だ。

 ウィルとは真逆の待遇で学園に入学した。

 そして始まる貴族階級の女子たちの陰湿ないじめ―――――なんてことはなかった。

 

「むしろ、滅茶苦茶いい人たちなんですよね……」

 

 飛び込んできた狼型を蹴り飛ばしながら、自身の青春を思い返し遠い目になる。

 正直、その手の学園に魔法が使えない自分が入学とか最悪じゃね? と思った。おまけに貴族ばっかりである。絶対に陰湿で悲惨で最悪ないじめがあるかと思った。

 お互い貴族ということで殴り飛ばすわけにもいかない。

 が、先輩も同級生もみんなやたらめったらに人間ができていた。

 そんなことある? と何回も裏を疑った。

 そんなことあったのだ。

 少女漫画の世界かと思ったら、どっちかっていうと女だけの舞台演劇の世界だった。

 できないことにはできるまで付き合ってくれるし、どうしてもできないことは代わってくれる。座学も周りのサポートで必死に追いすがって、最近ようやくまともになってきたところだ。

 人間関係は良い。成績もなんとかなっている。

 危険な魔物もいないし、貴族子女という性質上治安も非常に良い。

 なので幸せといえば幸せだ。

 だが、

 

「満たされないものもあります故……!」

 

 歯をむき出しに、同級生や先輩からも褒められる真っ白な珠のような肌に汗を浮かべながら彼女は笑う。

 前世では、彼女はある格闘家の一族だった。

 一生を武に捧げるという二十一世紀では時代錯誤もいい所の人生だった。

 結局、試合中の事故で死んだから文字通り命を懸けた。

 だからこそ、魂に武が、闘争が、原始的な本能が息づいている。

 

「ふぅ……!」

 

 息を吸い、吐く。

 眼の前の眷属の胸に拳を添え、両足で大地を押した。

 踏み込みは力強く、大地に根を差すように。

 震脚。

 地震でも起きたかのように、文字通り大地が震えた。

 発生した振動を一切余すことなく関節部を通じて右拳へ伝達。

 細胞の一片一片、筋線維一本一本を総動員したエネルギーが連結しうねる様に高まる。

 接触状態から震脚のみの無制動で衝撃を眷属内部で爆発させ、余波で取り巻きごと爆散させる。

 発剄、ワン・インチ・パンチと呼ばれるもの。

 

「ふっ――――自分のアースで殴っちゃだめなら、マルチバースで殴ればいいでしょう?」

 

 

From earth785―――――ステゴロお嬢様/≪ファルコルム王国アルトーネ公爵家長女≫マリエル・デュ・アルトーネ。

 

 

 

 

 

 

 

「興味深い力ですね」

 

「……そこまで見られると照れるでありますね」

 

 カッ、というヒールとブーツの音が響く。

 学園中央へと真っすぐ続く石畳。進むのは2人。

 白衣にパンツルックのトリウィアと黒スーツにタイトスカートの女性――――新島巴は、服装的にアースゼロのOLが昼休みにランチに出かけるような足取りで並んで歩いている。

 けれど、その周囲は平穏とは程遠い。

 マルチバースから集まった実力者(ウィルアル過激派)により全方位から学園の中央に押し込んでいるために、うろついている眷属魔族の量は加速度的に増えていく。

 人型や動物型が二人へと殺到しているが、

 

「―――雑兵であります」

 

『■■■!?』

 

 巴が指を鳴らしたと共に、彼女の半径10メートルの眷属たちがひしゃげて潰れた。

 視覚的になにかしらの攻撃を受けたわけではない。ただ、眷属たちが自重に耐えきれなくなったように地面に叩きつけられたのだ。

 

「……ふむ」

 

 加重で消滅しなかった眷属たちをノールックによる銃撃で打ち抜きながらトリウィアは目を細める。

 生き残っていたことはそれなりの強度を持つ上位眷属であるが片手間の銃弾で打ち抜くあたり三年主席の貫禄であるが、自分の戦果にはまるで興味を示さず巴の能力を分析しようとしていた。

 

「術式や魔力の気配がない、別の宇宙と言っていましたが根本的に別種の能力……」

 

「えぇ、まぁ」

 

 巴は肩を竦め、

 

「私の世界では、誰もがこういう≪スキル≫持ちでありますよ」

 

 巴の世界は2000年代のアース・ゼロと文化や発展度合いは大体同じだが、違いは各地にダンジョンが発生しているということと、全人類が固有のスキルを持って生まれてくる。

 そしてダンジョンにおけるギルドは国営であり、巴はあるギルドのクエスト受注等の業務を行う受付嬢である。

 スキルは文字通り千差万別で、それこそ魔法のようなものもあれば、純粋な肉体的特徴のものもある。

 そして巴のそれは超能力に分類されるものであり、そしてその中でも≪重力操作≫とされるもの。

 

「斥力や引力といった使い方もあるんですが、まぁざっくりまとめて≪重力操作≫でありますな。実際、対象に超重量を掛けて潰すのが一番楽だし効率的でありますし」

 

「ほう、そこまで違うのですか」

 

「というか『半径何メートルの敵に加重』みたいな設定で使えるので楽なんでありますよ」

 

 重力による加重、逆に重量の軽減、自身を中心にした斥力や引力の発生による疑似念動力等々、応用範囲は広いが楽で慣れたものを使ってしまうというのが人間の性だ。

 加えて、

 

「―――結婚してから実戦は久しぶりでありますし」

 

「……なるほど?」

 

 眷属たちの頭部を打ち抜いてたトリウィアの弾丸が胴体ごと吹き飛ばした。

 

「それは……つまり、夫がおられると」

 

「で、ありますな。娘もいるであります」

 

 指の動きで重力フィールドを展開しつつ、巴は笑みを浮かべる。

 巴が働きに出て夫は専業主夫をしてくれているので、今頃彼と一緒に家にいるか保育園だろう。マルチバースにおける時間の流れがどうなってるのかちょっと分からないので何とも言えないが。

 

「……む、娘」

 

「えぇ、良いものであります。私も昔は軍属で仕事一筋、プライベートも鍛錬に費やしていましたが、家に帰れば夫と娘が迎えてくれる。それだけで活力が湧き、日々の仕事の効率も上がるというものでありますな」

 

「………………な、なるほど」

 

 真後ろに向けた銃弾が、もはやビームになって眷属の全身を吹き飛ばした。

 

「かつて先輩の女性陣がやたら結婚していたがっていたのが今になって分かるでありますよ。実際仕事人間であればあるほど、結婚をするべきであります。仕事優先で家事とか食事とか疎かにしがちでありましたし。携帯食料とか楽ですけど心が満たされないんでありますな」

 

「…………………………た、確かに」

 

 青と黒の瞳が揺れていた。

 心当たりがあるらしく、端正な顔に微かに汗を流していた。

 

「―――――ふっ」

 

 そして巴は思う。

 

 これでトリウィアも結婚という明確なヴィジョンを意識してくれるでありますな……! と。

 

 新島巴。

 >1天ことウィルアル推しなのは言うまでもないが、ウィルトリ推しでもあった。

 ウィルアルは当然最高だ。

 冬の朝の暖かな布団、仕事終わりのビール、深夜に食べるカロリー悪魔料理を超える最高に脳に効く二人だ。

 しかし、ウィルトリも良い。

 勿論ウィルみかもいいしウィルフォンもいい。あの3人娘はシンプルに人間性が良いのでみんな好き。

 アルマのウィルへのずぶずぶ具合は言うまでもないし、ウィルのアルマへの好きオーラもとんでもないのでどうとでもなるだろうが、だからといって3人が振られるのも嫌だ。

 ハーレムでいいんじゃないだろうか、転生者なんだし。

 自分がやられたら地面の染みにするが。

 トリウィアは仕事人間というか研究に没頭するあたりが昔の自分とちょっと被ったので推し度合いが高い。

 

「結婚……結婚か……」

 

「フフフ……!」

 

 

From earth 881―――――冒険者公務員/元自衛隊特別迷宮攻略部隊『B.R.E.A.K.』所属特別中佐・椎堂市冒険者ギルド受付嬢 新島巴。

 

 

 

 

 

 

 

「盛り上がっていくニャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 ≪魔法学園≫中央の時計塔はもう近く、二つ通りを挟んだ商店街。左右を店に挟んだ道で近未来風の衣装に猫耳桃髪のアイドル少女は人差し指を天へと掲げた。

 ショートカットに後ろ髪だけ伸ばして二束結んでおり、首や体の動きで髪も跳ねまわる。

 周囲に展開するホロウィンドウや体の各所の金属パーツが音源機能も兼ね備え、着るカラオケ装置のようにメロディを発生させる。

 アース572に発生した≪FAN≫と呼ばれるモンスターは十代少年少女から発生する≪シンフォニウム粒子≫を乗せた攻撃のみで倒すことを可能とする。

 粒子や彼女のアイドルスーツ自体が身体能力の強化も兼ねているので、それは商店街通りを埋め尽くす大量の眷属に対しても有用だ。

 流れる曲は可愛らしい見た目には反したロックテイスト。

 かっこよくて可愛い自分になりたいという少女の声の歌。

 故に天音ナギサは歌う。

  

『―――♪』

 

 歌って、

 

「――――おにゃあ!」

 

 眷属を蹴り飛ばした。

 ナギサの身長よりも二回りは大きい虎型の眷属、その顔面にヒールを。

 しかも、インパクトの瞬間、同じ個所に連続で5回は蹴りつける通称タップダンスキックだ。

 

『――――♪』

 

 彼女たち≪アイドル≫は歌いながら戦う都合上、スタイルが三つに分かれる。

 歌いながら徒手空拳や武器で戦うストライカースタイルか。

 歌そのものが攻撃手段になるスプレッドタイプか。

 歌によっての様々な強化や回復を主とするサポートタイプか。

 ナギサが所属するアイドル支部には100人ほどいるが、それぞれその三つに分類されているのが原則なのだ。

 

 そして彼女は―――そのどれでもない。

 

「……スゥ」

 

 持ち曲の間奏パートで大きく息を吸いながら、一端後ろに。

 インパクトの瞬間に連続で蹴りつけるタップダンスキックや相手の攻撃にカウンターで掌底を叩き込むハイファイブビンタは威力は高いが、歌によって肉体を強化していても一度に倒せる数に限界がある。

 腰のホルダーから取り出したのはカラフルなマイクだった。

 振り上げ、振り下ろせば柄が伸びてスタンドに変形する。

 先端が鋭くとがったそれはマイクスタンド型の槍だった。

 

『――――♪』

 

 マイクへと歌を吹き込みながら、迫る眷属の攻撃を回避に専念する。

 どうでもいいけどやたら猫やらライオンやら虎やらのタイプの眷属が多い。

 当てつけか? とちょっと思うがまぁいい。

 Bメロまるっと吹き込みながら、大きく振りかぶり、

 

『――――♪』

 

 サビパートの突入と共にスタンドランスをぶん投げた。

 投擲された槍のマイクに歌声が吸い込まれ、さらにスタンド全体が巨大な機械槍へと変形。高速回転を生み、真空波を生みながら眷属たちの大群へと突き刺さる。

 

 歌によって投じられ、歌によって強まり、歌によってぶっ散らす。

 ≪ステージアーツ:トリニティトライブ≫。

 ≪アイドル≫たちが自身の能力を最大限に発揮する必殺技だ。

 

 そして、天音ナギサはストライカースタイルでもスプレッドスタイルでもサポートスタイルでもなく――――それら三つの性質全てを併せ持ったトリニティスタイルだ。

 

 三つのスタイルに分かれているとされていた≪アイドル≫において初の全スタイル複合型。

 

 当時のアイドル業界を塗り替えた新星。

 数十体を纏めて消滅させてから手元に戻ってきたマイクをキャッチ。

 

「―――にゃ♡」

 

 

From earth572―――――アイドル無双覇者/アイドル支部レインボーラインプロダクション所属≪新星トライアングル≫天音ナギサ。

 

 

 

「―――誰に向かってポーズしてるんだい君は」

 

「にゃ?」

 

 振り返れば空間に穴が開き、呆れ顔のアルマが現れた。

 そして、彼女に続きウィルも顔を出し、

 

「にゃにゃ……!」

 

 彼の服装は大きく変わっていた。

 ボロボロだった制服ではない。

 基本的にはアルマの紺色の胴着のような衣服と同じ意匠。色は黒で、随所に金の刺繍。アルマがミニスカートのようになっているが、ウィルの場合は足首までと長くなっている。

 左袖は九分丈だが、右腕は五分丈の半袖仕様だ。

 おそらく≪オムニス・クラヴィス≫による魔法陣展開を前提としたアシンメトリー。

 そして大きく目を引くのは右肩のみに掛かり、腰あたりまでの短い真紅のマント。

 アースゼロでは元々ハンガリーの一部の兵士が着ていたペリースと呼ばれる類のマントだ。

 

「んんっっ……!」

 

「……え、えっと。どうしたんですか、急に手を合わせて……」

 

「いにゃ、気にしないで欲しいにゃ。――――お揃い衣装……最高にゃ……!」

 

 赤青金のアルマに赤黒金のウィル。

 カラーバリエながら同じ意匠の装束の合わせの尊さに合掌。

 

「……んんっ」

 

 頬を赤くしたアルマが咳払いをするが、態々聞くまでもない。

 どう考えても彼女がプレゼントしたものだ。

 

「……」

 

「……おい、なんだその眼は」

 

 分かってるにゃ……! と親指を立てたら半目で見返された。

 

「……っと、ウィル。改めてアイドル無双覇者、天音ナギサにゃ。気軽にナギサ、と呼んで欲しいにゃ」

 

「はい。ありがとうございます、ナギサさん。一緒に戦ってくれて、ありがとうございます」

 

「もーにゃんたい! いつもは推し活される方だけど、たまには推し活するのも悪くないにゃ!」

 

「な、なるほど……?」

 

「!!」

 

 首を小さく傾げたウィルに、ナギサは目を猫の様に見開いていた。

 これこれ!と言わんばかりである。 

 カメラを持っていれば……! と後悔するナギサだった。

 

「あーもう、いいかい?」

 

 嘆息しながら手を掲げ、六角形の魔法陣を浮かべる。

 学園の地図を模したそれに浮かぶ光点は最初よりも数を減らし、大半が中央に集まっていた。

 

 

「―――仕上げだ。そろそろ大詰めとしよう」

 

 

 




マリエル・デュ・アルトーネ
お嬢様学園に通うステゴロお嬢様。国内の地位はかなりえらい。
生前はおしゃれも友達付き合いも碌にせずに武に捧げた人生だったので、学園自体はわりと楽しい。
が、それはそれとして闘争本能が高すぎる。

保有する全魔力が身体強化に回される体質の為に魔力がゼロなのだが本人も回りも気づいていない。異世界だしそんなもんかと思っている。

動きにくいのでさらし巻いてるが実は巨乳。



新島巴
仕事のデキるキャリアウーマン。既婚者。
娘は5歳、旦那は年下の家事男子。元軍人。

転生したのでダンジョンバリバリ攻略してワーカーホリックしていたが、結婚を機に現役引退して受付嬢に。
今回の異世界訪問は夫と娘には出張ということにしている。

ハーレムは見てる分にはいいけど、自分はやられたらブチギレるタイプ。


天音ナギサ
ソシャゲ一周年あたりで実装された新属性とシステム引っ提げて環境滅茶苦茶にして人権アタッカーになるタイプのキャラ。
味方にバフかけまくって素のステが高くて必殺技の威力もやたら高いやつ。
ゲーム全体のインフレを加速させ、半年後くらいにバリエが実装されてさらに環境を破壊するやべーやつ。

実装一年後くらいにやっとどちゃくそ湿度高いメインシナリオが来てユーザーの情緒を崩壊させるタイプの女。

ちなみに猫口調とハイテンションアイドルキャラはキャラ付け。
素の彼女を知ってるのは彼女の世界でも数人だけ。
ウィルとアルマには絶対に見せる気はない。


ウィル
新コスチュームゲット

アルマ
この期に及んでお揃い衣装を渡す女。
いやしい


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そろそろ決着


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オールスターズ・アタック

あほ程投票相手いるのにほぼ過半数人気を取る天才ちゃんには参りますね


 

 ≪魔法学園≫の中央、そこに敷地内で最も高い塔がある。

 特別校務的に施設があるわけではないシンプルな、されど象徴的な時計塔だ。

 元々、20年前の大戦において全ての国家の友好と発展を願って設立された≪魔法学園≫においては国家間の友好のシンボルでもある。

 地上部には記念碑と広場があり、その後ろに約100メートルの高さの時計塔がある。

 学園生徒からすれば憩いの場、教師陣からすればかつての大戦の終了の証。

 いくつかの学園行事はこの場で行われることもある、特別な場所だ。

 

 しかし――――その場所は今、瘴気が蠢く魔窟と化していた。

 

 時計塔に瘴気が纏わりつくように集まっており、これまで学園各地で出現したもののどれよりも濃く禍々しい。

 全方位から転生者たちが総力を挙げて押し込めたが故に。

 

「―――――ゲニウス……!」

 

 時計塔の頂点、全ての瘴気の中心地にゴーティアはいた。

 下半身は瘴気に沈み、上半身だけが前学園長の姿のまま。

 アルマの狙いは分かっている。

 これまで幾度となく繰り返した展開だ。

 ある時はアルマ一人で、あるいはネクサスたちによって同じ展開になってきた。

 それらと違うのはゴーティアはそもそも顕現自体が不完全であること。

 そして戦っているのはネクサスではなく、戦力的には劣っている謎の集団であるということだ。

 互いに十全ではなく、故に五分ないし僅かに不利だとゴーティアは判断する。

 

「――――まぁ、よい」

 

 嘆息し、腕を広げる。

 年を重ね、全盛期に比べれば聊か細く、されど一度はこの世界を守った腕。

 世界を守った腕に世界を食らう瘴気が纏わりつく。

 時計塔広場に蔓延っていたものも、学園各地に残滓としてこびり付いていたもの全てが。

 それは天に落ちる漆黒の流星雨のように。

 時計塔を中心として巻き起こる邪悪な竜巻。

 そしてそれは1つの巨大な塊となり、広場に降り立つ。

 

 生まれたのは人の形をした巨大な瘴気の塊だった。

 

 全高約50メートルの巨人。四肢があり、頭があり人を模しているがそれ以外は瘴気に包まれた超大型魔族。

 黒紫の瘴気、人型のシルエット。目と口に当たるところだけが尚黒く、がらんどうのように輝いている。

 それはかつての大戦末期に出現した最大規模の魔族だった。

 膨大な人的被害を生み、災害とすら称される超大型魔族。

 されど前学園長が撃ち滅ぼし―――実際には相打ちとなったアース111における最大規模の災厄である。 

 既存生物の形を模した魔族においてほんの数体確認された人の形をした瘴気が時計塔の前に降り立つ。

 そしてそれはゴーティアが≪D・E≫として顕現するための準備段階。

 ゴーティア・ラルヴァとでも言うべきものである。

 

『――――む』

 

 ゴーティア・ラルヴァがふと視線をずらす。

 その先は時計塔の4分の3あたりにある大時計板だ。

 ガコンと、長針が時を刻む。

 だがそれは止まらず、先端から白い光の軌跡を生みながら一周し、

 

「―――随分と品のない姿になったね」

 

 門からアルマとウィルが現れた。

 銀髪赤目の少女と黒髪黒目。同じ意匠、色違いの装束を纏い、丈や形は違えど同じ真紅のマントを靡かせる。

 中空に踏み出しそのまま少し浮遊と共にゴーティアの顔辺りまで降下し、アルマが軽く指を振る。二人の足元に魔法陣が浮かび、着地した。

 

「君の羽化体も真体顕現も色々見て来たが、今まででもっともダサいな。もうちょっとどうにかならなかったのか」

 

『そういう貴様こそ。めかしこんだな。主がではなく、少年が、だが。ん? 態々揃いとはなぁ』

 

「ははは、いいだろう。ウィル、着心地はどうかな」

 

「最高です!」

 

「だってさ」

 

『……』

 

 少女のドヤ顔に思わずゴーティアも黙る。

 400年の付き合いながら、かつてないレベルだった。

 地獄の氷河のような冷たい瞳で鼬ごっこのような闘争を繰り返してきた宿敵が色ぼけしていた時の気持ちはゴーティアにとっても筆舌にしがたいものがあった。

 なんだかなぁ、という気持ちである。

 地元の地味だったクラスメイトが、数年後再会したらものすごいギャルになっていた時のような筆舌にしがたい気持ちがある。

 自分で考えてちょっと違うな、ゴーティアは思った。

 

『……きっつ』

 

「お互い様だなぁ子供向けアニメ映画のラスボスみたいな見た目してさぁ」

 

『ははは』

 

「はっはっは」

 

 少女と巨人は笑い、

 

『死ね!!』

 

 剛腕が突き出される。

 それ自体がビルのような腕であり、巌のような右拳。ただ純粋に大きい。それだけの暴力がアルマとウィルへ牙を剥く。

 

「―――アルマさん!」

 

 中空の魔法陣を踏みしめながら、ウィルの右腕のダイヤル陣が起動する。

 五層からなる魔法陣がゴーティア・ラルヴァの拳を受け止めた。二枚砕かれ、三枚目以降も震え押されるが、

 

「ありがとう、ウィル!」

 

 ウィンクを彼へと飛ばしたアルマもまた動いている。

 指を虚空に突き出し、手首を返せば、

 

「さぁ――――やろうか、諸君!」

 

 ゴーティア・ラルヴァの上下、あらゆる方向に――――光の門が開いた。

 

 

 

 

 

 

「クライマックスにゃあああああああ!!!!」

 

 時計塔の最上部、ポールに片手で掴まりながらマイクをナギサは構えた。

 最終決戦、最後の闘い。ならばテンションから盛り上げていくのがアイドルの役目。

 

『――――♪』

 

 歌うのはアイドルらしいポップソングではなく、アップなテンポでロックなテイストに。

 ナギサはラストバトルでOPが流れる類のアニメが好きだ。

 

 みんなバラバラで別の道を歩ていても、今この瞬間に一緒に戦うならなんでもできる。

 

 そんな歌を歌い、そしてそれは単なる雰囲気だけではなく実際に味方全員への強化として行き渡る。

 それに押されるように空から加速と共に落下する二つの影。

 腰だめの構えを取るソウジとウィングスーツを広げる景だ。

 

「―――大剣豪、奥義」

 

「ギブソン、フルリロード!」

 

『LOAD FULL CARTRIDGE』

 

 ソウジは静かに、景はネオンブレードから残っていたネオニウムカートリッジを連続で吐き出しながら。

 

「斬魔、竜王斬――――!」

 

「シィィッ―――!」

 

 居合から放たれ、龍の形を取る大斬撃。

 刀身に亀裂を入れながらも真紅に大発光する炎熱斬撃。

 二つの刃は突き出していたラルヴァの右腕へ叩き込まれた。

 

『――――!』

 

 切断するには至らない。

 だが、ラルヴァは大きく体勢を崩し、そのタイミングで新たな門を開けてウィルとアルマは姿を消した。

 ふら付き、しかし巨体故にゆっくりとだが姿勢を戻そうとし――――超加重により両腕両膝が地面にめり込んだ。

 

『ぐ、ぬぅぅ……!』

 

 空間ではなく、ラルヴァ単体へとかけられた重力負荷。地上、広場の入り口に門から現れた巴による大地への磔。

 巻き起こる土煙に構うことなく、彼女は両手を突き出しラルヴァを大地に縫い付ける。

 

『――舐めるなよ、転生者……!』

 

 だが、その巨体から生じる膂力も尋常ではない。

 超加重に身を軋ませながら右腕の瘴気が蠢いた。元々千切れかけていた腕を振り上げきれずとも、瘴気で構成されたそれが伸縮し、暴走する特急のように巴へと伸び、

 

 

「ンンンンンンマッソォオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 筋肉が瘴気を受け止めた。

 筋肉とは、即ちロックに他ならない。

 膨大な物理エネルギーを生むはずの激突だが、しかしその弾けんばかりの筋肉は揺らがない。

 隆起した大胸筋と三角筋が、むしろ負けるかと受け止め、

 

「そのままですわ!」

 

 ロックの背後でマリエルが掌を振りかぶる。

 

「フッゥ……!」

 

 震脚。岩塊の如きロックの脊柱起立筋に掌を添え、接触状態から再度震脚。

 足元から生じるエネルギーを全身の関節部で連動伝達。掌底を捻りながら打ち込み、ロックの体を通してラルヴァの腕へとぶち込むそれは、

 

「マッスルコラボレェェェェエエ―――ションッッッッ!!!」

 

「いや、私はどっちかっていうとテクニカルタイプですわ!! 乙女ですので!!」

 

「っっっ―――だぁっ!! うるさいであります! 神経使うんでありますよ今のは! 割と限界であ、拘束解けた」

 

 喚き声と共に、伝達した螺旋衝撃波が瘴気の腕を爆散させる。

 だが、流石に巴も巨人への超加重による拘束は無理があったようで、ラルヴァは重力の軛から解き放たれた。

 姿勢を持ち上げようとし、

 

『ぐぅ!?』

 

 脳天の一部が吹っ飛んだ。

 物理衝撃だけではなく、瘴気自体が消滅するかのように。

 

「―――命中。されど急所ではないようです」

 

「いえいえ、お見事」

 

 広場の最寄りの建物の屋上。伏せた姿勢で狙撃を行うアルカとそれに寄り添うクロノ。

 ヘッドショットを決めたが人体の形を模しているだけで急所ではない。腕もそうだが、瘴気が蠢いて再生を開始している。

 それでも動きを止めた超加重と違い、視覚を一時的に潰した。

 故に、最も大きな機体を持つものが空から降下する。

 

「ダイレクトエントリー……!」

 

 5メートルの機人、マキナ。

 再生途中の頭部に直接取りつき、そして放つものは、

 

「――――――ZI☆BA☆KU!!」

 

「!?」

 

 巨体を織りなす数兆のナノマシン一つ一つが連鎖自爆し、大爆発を引き起こす。

 これまでで最大の衝撃波が生まれ―――明けた噴煙から首元から抉れたラルヴァの姿が残る。

 

『―――――』

 

 だが、それでも倒れない。

 

「…………不覚、足りぬか……!」

 

 故に、お代わりが来た。

 ラルヴァの胸部三包囲、囲むように新たな空間門が開き、

 

「≪神髄≫――――!」

 

「―――≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫」

 

「絶招!!」

 

 大戦斧を振り上げ、灼熱を構える御影が。

 リボルバー同士を打ち鳴らし、銃口の極光を宿したトリウィアが。

 両腕二翼、背からさらに四翼。合計六枚の翼を羽搏かせ、趾から全身を回転させて突き進むフォンが。

 

「――――≪天津叢雲≫ッッ!!」

 

「――――≪十字架の深淵(ヘカテイア・アブグルント)≫」

 

「行雲衝天螺旋脚ゥゥゥ―――!!」

 

 帯電する灼熱の大斬撃を。

 七属性を内包する深淵の砲撃を。

 音速の数倍、局所的暴風を纏った飛び蹴りを。

 三方向から放たれるアース111でも最高峰、二つの究極魔法と、それに匹敵する必殺技。

 直前の大自爆を上回る衝撃波。あまりの振動に時計塔に亀裂が入りながらたわみ、周囲の木々も大きく揺れる。

 

 ――――それでも、ラルヴァは倒れない。

 

 上半身が吹き飛びながらも、それでも立っていた。

 断面から瘴気が蠢き、再び元の形を取ろうとしている。

 その光景を観測しながら時計塔の裏に浮かぶのは、デフォルメされた目とやはりデフォルメされた脳みそとそこから伸びる数本のアームだった。

 それを見た巴、ロック、マリエルは半目になって、

 

「………………なにそれ?」

 

「構成ナノマシンの九割を消費した。故、緊急モードである」

 

「何故デフォルメ脳髄」

 

「こういうの、求めていたであろう?」

 

 デフォルメ脳髄、渾身のドヤ顔である。

 最も、目だけなのでいまいちわからなかったが。

 

『―――何を下らない話をしているんだ。それどころじゃないだろう。もっと表面削らないとコアが出てこない。というか、君たちちょっと火力低くないか?』

 

「むむっ!!」

 

 三人と一個がそろってアルマの念話に眉をひそめた。

 脳髄には眉はないのだが。

 

「これでも本気ですわ! というか、こんな巨大モンスターに臆することなく挑むのを褒めて欲しいですわ!」

 

「うむ。こんなの我が世界には出ようもなかったぞよ」

 

「確かに。引退した人妻引っ張りだして戦わせてその物言いは聊か人権侵害であります! 今日日それらしき団体が黙っていないであります!」

 

「然り。というか仮にも次元世界最高の魔法使いなのであろう。それだけ言うならば、それらしいところを見せることを所望する」

 

『――――だぁあああああ!! うるさいな君たちは! こっちもこっちで準備があるっていうのに! ほら!!!』

 

「……めっちゃキレられたでありますな」

 

「推測、他のメンバーからも同じこと言われた」

 

「ナギサ殿の歌もいつの間にか止まっておるしなぁ」

 

「しかし、ほらって何がほらなので――――――」

 

 

 言いながらマリエルは空を見上げて止まった。

 釣られてロックも、巴も、マキナ=脳髄も空を見上げ、

 

「――――――えぇ?」

 

 空から隕石が降ってくるのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、まぁそろそろかな」

 

 顎を軽く上げ、腕組しながら息を吐く。

 眼下、転生者組全員にせっつかれて鬱陶しかったので腹いせに隕石を落とした結果がある。

 流石にそのまま落とすと転生者組も巻き込んで後から酷いことを言われそうだったので、被害範囲をラルヴァに限定した上で、だ。

 

「さて、ウィル。もうそろそろ体力気力も回復しただろう」

 

「……あ、は、はい! ……凄いですね」

 

「ん」

 

 眼の前、指の動きと腕の振りだけで隕石を召喚したアルマに驚きつつも彼は頷く。

 ここで引かず、素直に感嘆の声を上げるのがウィル・ストレイトという少年であり、それに思わず顔を赤くしてしまうのがアルマ・スぺイシアという少女だ。

 

「……こほん、よし」

 

 空間転移による隕石召喚は片手間で数メートル程度だが、確かな威力を発揮した。

 直前の連撃も含めて、ラルヴァの構成存在を9割近く消し飛ばしただろう。

 ≪D・E≫ゴーティアを倒すにはここまでやって、後もう一息というレベルである。

 何せちょっとでも分身体を作っていれば、時間を掛けてその世界内で再生する。倒しきるにはその世界のゴーティアを眷属を含めて一か所にまとめ、再生を上回る速度で削り切り、最後の最後まで消滅させるしかない。

 それをしても尚、次元世界に散らばるゴーティアの断片を倒すだけに過ぎないのだ。

 

 けれど―――今日は違う。

 

 何も彼と一緒におしゃべりするために掃討を他の仲間たちに任せていたわけではないのだ。

 

「では大詰めと往こう。あ、そうだ、ウィル」

 

「はい?」

 

「君の転生特権(チート)―――全系統適正じゃないから」

 

「………………………………えっ????」

 

 

 

 

 




ウィル
全系統適正じゃない……って!?

アルマ
休憩中は結界内監視しつつ、生ウィルを堪能していた。
片手間で隕石とか降らす。


ゴーティア・ラルヴァ
ニチアサの女児アニメの最後の方に出てくるタイプのボス

次回、ラストバトル

感想評価いただけるとモチベになります。
最近更新頻度遅くて申し訳ない。


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アルテマ・マジック

ヒスイ地方にて
親分エルレイドにイッチと名付け
親分サーナイトにてんさいさまと名付ける。
これがポケモンの遊び方よ。

アンケが天才ちゃんが過半数ぶっちぎってて強すぎて笑っちゃいますね


 空間の輪をくぐる。

 光の輪が空間同士を繋ぎ、指を振るだけであれば知っている場所に行けるし、準備をすれば次元間移動も可能とするアルマが最も得意かつ使用頻度の高い魔術だ。

 使ってきた回数なんて言葉通りに数えきれない。

 単純な移動は勿論、手のひらサイズだけの空間窓を空けて遠くのものをちょっと取る、なんてこともできるし、先ほどの隕石にしても宇宙空間からの転移によるものだ。

 何度も何度も繰り返してきた。

 

 だけど、この一瞬はいつもと違う。

 

 横目で彼を―――ウィルに視線を送りかけて、止めてしまう。

 だって、頬が緩んでしまうから。

 その黒い瞳に真っすぐ見つめられると吸い込まれそうで。思わず目を離してしまいそうになるけれど、ずっと見ていたいとも思う。

 そんなこと、あっていいはずがないのだけれど。

 苦笑しながら、門を通って大地を踏みしめる。

 土煙が立ち上る隕石の墜落により生まれたクレーター、その中央部。

 

「煙い」

 

 腕を軽く振って土煙を吹き飛ばせば、正面に人型へと戻ったゴーティアがいる。

 これまでの攻撃でこの世界における構成存在の9割以上を消滅させた。ゴーティアへの準備は十分。

 術式そのものも完成している。

 ただし、

 

「例の術式発動の空間準備に約1分―――」

 

 両手の拳を握りしめ、腕を交差。拳と腕の周りに魔法陣。腕を広げて両手を広げながら突き出せば新たな魔法陣が多重構造式に構成される。

 通常指を鳴らしたり、腕を振るだけで魔法の発動を行うアルマにしては極めて珍しい工程と時間を踏んだ魔術行使。

 無論、その間は完全に無防備になる。

 

「――――だから、頼むよウィル」

 

「はい!」

 

 即答で帰ってきた返事は小気味よく、快活に。

 黒髪の背中と揃いの衣装がアルマの前に立つ。

 赤いマントを靡かせ、

 

「――――()()()!」

 

「頑張りますっ! ――アルマさんも頑張って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「≪センター・パラタス≫―――≪クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ≫」

 

 激励の言葉に背中を押され、周囲に黄金の軌跡が術式を中空に描くのを見ながらウィルは進む。

 拳を握り発動する身体強化と武器形成。

 掌から光の糸が伸び、武器の形を生んでいく。

 

「っっ――――小僧ォ!」

 

 全身から瘴気を滲ませ、前学園長も面影は微か。

 追い詰められていることを彼は分かっている。

 アルマが何をしているかも分かっている。

 故に彼女の言う1分以内にウィルを殺す必要がある。 

 例え、構成因子を9割以上断たれたとしても、それも最後の本体は前学園長、即ちアース111最強の男に他ならない。

 彼をベースにし≪D・E≫としての力を発揮すれば、ウィルを殺すのは不可能ではない。

 だから実行する。

 

「ヌゥンッ!」

 

 腕の振りと共に二メートル近い瘴気の刃が放たれた。

 音速超過で空間を切り裂き進むそれを―――――()()()がぶった切った。

 

「―――それは」

 

「御影さん―――力を借ります!」

 

 光の糸で編まれた大戦斧。鬼族の王が、鬼族の姫に贈った皇国の大業物。

 灼熱と紫電を纏う天津院御影の相棒。

 ウィルの武器形成は形を選ばない。

 家にあったのが剣だったから剣を使い、剣を使うから武器形成はもう一振りの剣程度の理由で剣が多いが、それ以外にも何だって使える。

 そして、学園には多くの武器の使い手がいて、彼らを学年主席としてその武技を目に焼き付けた。

 一度見れば、ウィル・ストレイトはその原理を理解し、模倣する。

 それが――――この学園で最もともに時間を過ごした御影ならば猶更だ。

 

「鬼炎万丈……!」

 

 次いで飛んできた瘴気刃の群れを、大戦斧で叩き落す。

 巨大な斧はしかし重量はなく、むしろ遠心力と膂力任せに軽快に、しかし強烈に振るう。

 

 彼女がいなかったら、きっと自分は一人の殻に閉じこもっていただろう。

 自分を御影は引っ張って、その世界に連れ出してくれた。

 一々至近距離で囁いて来たり、体を寄せてくるのには困ったけれど。

 強く、優しく、美しく。

 姫という概念を体現したような人。

 アルマとは違った意味で、ウィルに前を向かせてくれたのだ。

 

「味な真似をするのぅ……!」

 

 ゴーティアの動きが変わる。

 瘴気を飛ばすだけでは足りず、彼我の距離も近づいたから。

 全身に纏わせた瘴気を、両手両足に収束させることで格闘戦へ適応。

 攻撃がヒットすれば瘴気が相手を侵食し、命を削る。

 大戦斧は重量を感じさせないとはいえ、武器としての大きさ故に大振りになる。故に、瘴気刃の影に隠れ接近し、コンパクトにしかし高速で拳を打ち込み、

 

「!」

 

 大戦斧が産んだ遠心力を乗せた―――蹴りが、ゴーティアの()を撃ち落とした。

 

「トリウィア先輩―――技と知識を借ります」

 

 刃にしたり眷属を生んでた瘴気を体の部位に収束させるなんて、どう考えたって危ないって分かる。

 だから、それがどんなものか考えるのだ。

 威力の強化か何かしらの付与効果か。

 良く分からないので瘴気で覆われていない肘を撃ち落とす。

 「知りたい」というのはただの欲望ではない。

 現実で直面する問題への対処方法。

 武器形成を応用させ、即席の脚甲としながらゴーティアの拳や足先には触れず、肩や肘、膝のような関節部位に狙いを澄まして蹴り足を射出する。

 

 彼女がいなかったら、実際主席の責務をやり続けることなんてできなかっただろう。

 自分は学も碌にないのに彼女はいつだって嫌な顔をせずに教えてくれた。

 仲良くなればなるほど、私生活が自堕落で放っておけなくて。

 案外、可愛いとこがあるものだなと思った。

 いつだったか、シガーキスを最初にした時は心臓がうるさくて聞こえやしないか焦ったものだ。

 知識に呪われたと嘯くけれど。

 彼女の知識はウィルにとって祝福だ。

 アルマとは違った意味で、道の歩き方を教えてくれた。

 

「鬱陶――――」

 

「!」

 

「――――しぃ!!」

 

 爆発は、文字通り一瞬だった。

 両手両足が、文字通りに爆散したのだ。

 肉体は憑依であり、本体が瘴気である故の末端部位の自爆。手足を失ったとしても瘴気で賄うことが可能な選択だ。

 末端の部位故に範囲は決して広くはない。それでも至近距離の格闘戦を行っていたウィル相手ならば十分で、

 

「がっ!?」

 

 残った背中に――――衝撃が突き刺さった。

 

「なっ……?!」

 

 吹き飛びながら驚愕する。

 一瞬だった。ほんの一瞬だった。

 その一瞬で、ウィルは移動し背後に回り攻撃を行っていた。

 そして見る。拳を振りぬいた黒髪の少年を。拳にリングを、背に同じものを六つ―――翼のように引き連れたウィルを。

 見た瞬間に、彼の姿が消えた。

 

「っ―――ぐおっ!」

 

 消えたと思った瞬間には、腹に踵が落ちた。地面に叩きつけられたと思えば、全く違う方向からリングの衝撃。吹き飛んだ先でさらに拳。

 スーパーボールのように攻撃を受けながら、ウィル本人も攻撃の度に加速する。

 その動きは、言うまでもなく。

 

「フォン―――翼を借りるよ」

 

 アース111における最速の種族である鳥人族の最速であるフォン。

 その動きを完全に模倣した連続超加速機動連撃。

 ≪メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ≫の移動補助と体裁きが実現した翼を持たぬ身での飛翔。

 かつて亜人の祭典で行ったそれよりもさらに高い完成度で、神速を以てゴーティアを打撃し続ける。

 

 彼女がいなかったら自分は未来も過去も向き合うことができなかったかもしれない。

 自分のどうしようもない過去へのトラウマと折り合いをつけるきっかけをくれた。

 理不尽に未来を奪われた自分が、彼女の未来を守ることができた。

 それは、自分にとって確かな救いだったのだ。

 まさかそんな自己満足の結果に奴隷になるなんて思わなったけれど。

 いつも快活で明るく、元気のいい彼女はそこにいるだけで場が明るくなる。

 自分にはもったいない子だ。

 自分なんかの為に、彼女は羽搏いてくれる。

 彼女がウィルの翼だからと。

 アルマとは違った意味で、未来を示してくれたのだ。

 

「≪キティウス・アルティウス――――フォルティウス≫ッッ!!」

 

「■■■■――――!」

 

 最大加速を乗せた一撃がゴーティアの顔面に直撃した。

 七つのリングが輝き、七色のソニックブームが翼となってウィルの背後で弾けるほどに。

 ひと際勢いよくゴーティアの体が大地を削りながら吹き飛ぶ。

 アルマが来る前に圧倒された時とはまるで逆の光景だ。

 それはゴーティアに余裕がなくなり、眷属がいなくなり、出力も落ちた故の真っ向勝負であるからであり、そして、それ以上に何よりも―――

 

「―――よし、()()

 

「…………へ?」

 

「なっ!?」

 

 吹き飛んだ先に、光の魔法陣がゴーティアを拘束した。

 ゴーティアもウィルでさえも驚き、周囲、自分たちを取り囲むようにドーム状に展開されきった魔法陣を見る。

 半径十数メートルの大規模半円。極細の文様が大小数えきれない歯車を構成し噛み合いながら回転している。

 完了したと、彼女はいった。

 だが、

 

「……あの、一分どころか30秒くらいなんですけど」

 

「うん」

 

 アルマを見る。

 彼女は軽く顎を上げてから頷いた。

 癖だろうか。

 可愛い。

 

「ほら―――()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()

 

「―――――ははっ」

 

 思わず笑ってしまう。

 そう、頑張れって言ってくれたから。

 だから自分は頑張った。

 だから彼女も頑張った。

 ただ、それだけの話。

 

「ウィル、手を」

 

「はい」

 

 彼女の下に戻り、指し伸ばされた手を取る。

 小さい手と細い指。

 華奢で少女らしい手に思わずウィルの胸が高鳴った。

 そういえば、出会った時に手を差し伸べてくれたけど握り返すことができなかったなと、今更気づく。

 苦笑しつつ、しっかりと彼女の手を握った。

 

「ん」

 

 当然のように五指を絡めた。

 心臓が高鳴るどころかちょっと暴れかけた。

 アルマの顔が見れなくて、真っすぐに魔法陣に捕らえられたゴーティアを見た。

 アルマもアルマですまし顔だが内心にやけ面を抑えていたのでどっちもどっちだ。

 

「……何をしとるか貴様ら」

 

 円球状に展開された魔法陣に捕らえられたゴーティアは思わず吐き捨てる。

 展開されている術式が複雑すぎて読み取れないが、しかし焦りはない。

 なにしろアース111において本体ともいえるゴーティアは、しかしマルチバースにおいては端末に過ぎないのだ。

 故に、此処で倒されたとしても、倒された瞬間に全ての記憶と経験は別のアースの自分に転写される。

 この場における敗北は、決して敗北ではない。

 対応策を増やし、アルマもまたそれに対応して魔術の幅を広げて来た。

 だからこそ、アルマとのイタチごっこがずっと続いているのだから。

 

 

「―――彼の転生特権(チート)、この世界における全系統適正。それ故に君は彼を学園に引き寄せたんだったか」

 

「む……? それが、なんだ」

 

「彼の特権は、全系統適正じゃあない」

 

「――――なに?」

 

 ウィルの右腕とアルマの左腕。繋いだ手からリング状魔法陣が生まれ連なる。

 ゴーティアは目を見開き、アルマは笑みを深めた。

 

「正確に言えば全系統適正自体が間違っているわけじゃあない。転生特権によってそれがあるのは間違いじゃあない。僕も最初は気づかなかったくらいだしね。結論から言えば―――元々持っている特権の結果、全系統適正を得ているだけ」

 

 それは些細な違いではあるものの。

 しかし根底を覆す気づきだった。

 

「彼の転生特権――――それは、()()()()()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えば、別の魔法法則の世界に生まれればその世界における最大限の才能補正を得ただろう。例えば職人、クロノの世界、精霊が統べる世界では精霊との親和性を。暗殺王、ロック。精神と肉体が直結している世界ならば彼の肉体はあらゆる目的に反映し成長するようになるだろう」

 

 そう、それはまさしく特権だ。

 無限に等しいマルチバース。それぞれの世界にそれぞれの物差しがある。

 ウィルは、それらに対して常に最大に適応する特権を持っているのだ。

 オーソドックスな属性魔法世界なら分かりやすいだろう。彼はあらゆる属性魔法が使える。

 ソウジのようなステータス・クラス制の世界でも良い。彼はあらゆるクラスになれる。

 或いはナギサのように役割が明確に差別化されている世界でも全ての役割を熟せるのだ。

 

 分かりにくいのはマキナのような魔法が存在しない世界やアース・ゼロのような世界だがおそらくその場合にしても結局あらゆる行為への適正を持つだろう。

 適正とはすなわち才能だ。

 言ってしまえばあまりにも陳腐だけれど。

 彼は、彼がやりたいことをいくらでもできるような性質を持っている。

 

「肝要なのは――――魔法・魔術系統が世界の根幹法則を担っている場合。世界法則への最大適性―――即ちそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、つまり。

 

「名づけるのならば―――≪万象掌握≫。文字通り森羅万象の法則に掛かる鍵を開け、世界そのものを書き換えられる」

 

 まさしく転生特権。

 秘めた才能を完全に発揮できれば、彼は神にもなりうる可能性を秘めているのだから。

 

「っていやいやいやいや!! アルマさん! これ! この術式! ちょっと複雑すぎて僕には意味が分からないんですが!?」

 

「ん、まぁそれはそうだ」

 

 隣で、二人の腕、周囲に広がり続ける魔法陣を見てウィルは悲鳴を上げた。

 アルマが術式を用意してくれているのは知っていた。だが、ここまでの術式の複雑さとは聞いていない。

 これまで35系統からピックアップして使っていたのに対し、これは35系統を35系統でそれぞれ乗算して掛けているようなもの。

 ウィルも別に頭が悪いわけではないが、普通の頭でそれこそスパコン並みの処理を求められてはどうしようもない。

 

 そう、それがウィルの転生特権の弱点だ。

 彼はあらゆる可能性に対する才能を持っている。

 突き詰めれば神にも等しい。

 

 だが、それはあくまで可能性だ。

 当然ながら難易度は極めて高く、ウィルにとってはそれ自体は不可能と言ってもいい。

 なんでもできる可能性はあるけれど、だからといって実際なんでもできるわけではないのだ。

 転生特権の副次効果として、一目見れば大半の動きを模倣できるだけでも十分。

 

「確かに、君だけじゃあ無理だろう! はははは! ――――だけど!」

 

 だけどと、アルマは笑う。

 そんなことは分かっているのだ。

 

「君が全てを開ける()なら! その()()は僕が用意しよう! 僕の特権は―――≪森羅知覚≫! 僕は世界のあらゆる法則を読み取り、解析し、知ることができる! まぁ、それをどう扱うかは人力でそのせいで死ぬほど魔術を勉強しなければならなかったんだが! 些細な問題だね!」

 

 いうなれば世界における全網羅攻略本だ。

 彼女はあらゆる法則を知ることができる。知ることができるだけで、実際に身に着けたり、実行するのは彼女自身の努力だが研鑽は1000年にも及んだ。

 だから、次元世界最高の魔術師になった。

  

 ウィルは鍵で、アルマは錠前なのだ。

 ウィルはあらゆる扉の鍵を開けられる。ただし、錠前がどこにあるのか、それを見つけなければならないし、見つかる保証もない。

 アルマはあらゆる扉の錠前になれる。ただし、その鍵を開けられるかどうか努力次第で、それができるようになるまでに数百年かかった。

 片方だけでは完璧とは言えない。

 可能性を秘めているが万能ではない。

 或いは、なんでもできるのになにもできない、ということになりかねない。

 

 ――――――だけど、二人なら?

 全ての鍵と全ての錠前が揃っているのなら?

 

 意思と魂が希望を真っすぐに進めば―――不可能はない。

 

「うぁおおお……?」

 

 例えばそう、アルマが作り出した魔法はあまりの複雑さにウィルは理解しきれない。

 膨大すぎる情報を彼は処理しきる才能と可能性はある。だけどそれはあくまで可能性と才能に過ぎず、今の彼では現実問題不可能だ。

 魔法の発動を行う右腕が暴れ、震える。

 彼だけでは絶対に発動できない。

 だけど、

 

「ん」

 

 アルマが軽く顎を上げてほほ笑み、繋いだ手に力を込めた。

 赤い瞳が黒い瞳に語り掛ける。

 大丈夫。

 僕がいるよ、と。

 

「―――」

 

 眼を奪われる。

 その二つの紅玉、魂が吸い込まれた錯覚に陥る。

 音も震えも消え去って、世界が揺れる白銀と輝く真紅だけに。

 それだけで、いい。

 それだけで十分だった。

 少女は少年に、前を向かせてくれた。

 彼女は彼に、道の歩き方を教えてくれた。 

 紅い瞳は黒い瞳に未来を示してくれた。

 

 アルマ・スぺイシアはウィル・ストレイトに希望をくれたのだ。

 

 だから、大丈夫。

 震えが止まり、心も落ち着く。

 今発動した魔法は9割意味が分からないが、それでいい。

 彼女を信じているのだから。

 

「大丈夫、大丈夫だ、ウィル。これは確かに常人が術式を見ればまぁ脳みそ弾けるくらいの情報密度だが! 君の特権があれば問題はない! まぁ理解できないのは仕方ない! 僕に比べれば全人類馬鹿だしね! だとしても!!」

 

 さらっととんでもないことを言ったが、まぁそれでも信じよう。

 赤い目が輝く。

 

 

「この超天才様(ボク)監修――――馬鹿でもわかる究極魔法だ!」

 

 

 光が軌跡を描く。

 赤、青、緑、黄、茶、白、黒。この世界を構成する七属性。

 それ五つのグラデーション。一つの色が溶け合い、混じり輝く虹色に。

 二人の繋ぎ組んだ腕から周囲を覆っていたアルマの魔法陣へ。

 世界が、虹色に包まれる。

 歯車と時計盤を模した魔法陣らが回転し、加速し、さらなる光を生み溢れ出す。

 それはまるで一つの宇宙のように。

 否、事実、ウィルとアルマはそれぞれ持つ特権を以て、この単一宇宙における法則に干渉しているのだ。

 

「きさ、まら、これは―――!」

 

 ドーム状魔法陣から溢れる光は、ゴーティアを捕らえてた魔法陣に注がれていく。

 ゴーティアでさえ、数多のマルチバースに偏在するそれでさえも効果を読み取れない。

 だが、今この場で、この状況で、先ほどのアルマの言葉通りだとしたら。

 

「そう! これは世界法則への干渉――――貴様という偏在存在における他次元への接続を断つ! 根本的に! 貴様だけを世界から切り離して消滅させる!」

 

 つまり、

 

「お前は、記憶も経験も別のお前に転写できない! はっはははは! いやぁ気分がいい! 死に覚えするせいでアホみたいな攻撃手段覚えさせられたんだからなァ!」

 

「き、貴様アアアアアアアアアアア!」

 

 ゴーティアの恐ろしいのはほぼ無限に増えるということ。

 マルチバースに偏在し、一体倒しても解決ではない。

 そして倒せば、その世界で学んだ情報、憑依した依り代等々を蓄積することで本体に還元していく。

 無論アルマもまたそれを防ごうとしたもののうまくいかなかった。

 アルマ・スぺイシア1人では不可能だった。

 だけど――――今、彼女はウィル・ストレイトと共にいる。 

 

「―――ウィル!」

 

「はい、アルマさん!」

 

 繋いだ手を掲げた。

 光の奔流を纏い、風が2人の外套を巻き上げ、髪を揺らす。

 新生の輝きの中、2人は共に手を振り下ろし、

 

『――――≪究極魔法(アルテマ・マジック)≫』 

 

 共に、言葉を紡いだ。

 

 

『―――――≪ドゥム・スピーロー・スペーロー≫』

 

 

 一瞬、静寂が訪れた。

 時間が止まったかのように、何もかもが色を失ったかのように。

 だが、直後何もかもが動き出す。

 高く澄んだ音が鳴り渡り、全ての魔法陣が、歯車が、時計板が、光となって弾け飛ぶ。

 濁流の光がゴーティアを中心に収束し、圧縮し――――そして何もかもが消え去った。

 

 後にはただ、七色の光の粒が雪の様に漂い残るだけ。

 世界を食らうものの痕跡はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

「……終わった、んですか」

 

「あぁ、完全消滅だ。こうなるとあっけないものだね」

 

 掌に光の粒を落としながらウィルは息を吐く。

 隣のアルマは肩を竦め、苦笑しつつ頷いた。

 顎を上げて、光の残滓を見つめながら息を吐く。

 

「……長かったな。これができるまで」

 

 400年越しの成果、端末とはいえ完全消滅。

 文字通り、革新的だった。

 

「や……やった……!」

 

「お、おいおい」

 

 ウィルが、彼にしては珍しく声を大きく上げる。

 繋がったままの手をぶんぶんと振る。 

 勢いと体格差故に、小さな少女が軽く転びそうになるほどに。

 

「やりましたよ! いやほんとに……なんて言うべきか……ありがとうございます! アルマさんがいなければ、どうなっていたか……!」

 

「……いや、うん。いいさ、僕も助かった」

 

 喜ぶウィルにアルマは小さく微笑み、空を眺めて。

 

「ウィル」

 

「はい?」

 

「―――――ここまでに、しようか」

 

 するりと、手を離した。

 

 

 

 

 

 




ドゥム・スピーロー・スペーロー
生きているかぎり私は希望をいだく
プリキュアマーブルスクリュー……ではなくて。
ウィル・ストレイトとアルマ・スぺイシアの究極魔法。
二つのチートの合わせ技による世界改変。

ゴーティアの次元規模での接続を断ち消滅させる。
あくまで対ゴーティア用の発動ゆえに事前準備さえ行えば他のあらゆる行為・結果を導き出す文字通り神の一手。
それぞれの世界に応じた術式構築と魔法陣展開にアルマでさえ膨大な時間を有するものの、それに見合うだけのもの。

タイトル回収


ウィル
全ての鍵

アルマ
全ての錠前
これで終わり

感想評価いただけると幸いです。
次回多分一先ず最終話



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ハッピーエンディング

 ばしゃりと、水音が耳に届く。

 そして、水の中に沈む感覚とそれに伴い体が浮いていく。

 仰向けに水面に倒れ込んで、体が浮かんでからゆっくりと目を開いた。

 見上げた先には見慣れた、見飽きたという言葉も馬鹿らしい無限の書架。

 アース666、書架の穴倉。

 まつ毛についた水滴と光る水面のせいか、きらきらと輝いている。

 身体には装衣が、銀色の髪が頬に張り付いている。

 

 ――――ウィルから手を放し、そのままこちらの世界に帰ってきた。

 

「―――あぁ」

 

 だって、仕方ない。

 これでいいのだ。

 元々別の宇宙の人間で。

 彼は20にもならず、自分は1000歳を超えていて。

 これから自分はやることがある。

 

 ≪ネクサス≫から離れた。

 これはいい。どうせ元々、≪D・E≫を見つけたら知らせて、指示を出すだけだ。今回の転生者組は戦闘力的には≪ネクサス≫に大きく劣るが、それでもそれなりの手練れだ。ダメでも自分でやればいい。

 

 やり方を変えることにした。

 ≪ネクサス≫はカウンター組織だ。≪D・E≫が出現した世界に行って、倒す。そのためにマルチバースでも最上位の戦闘力を持ったものを集める。だが結局それでは対症療法故に後手に回り過ぎる。

 今回のゴーティアのような、各世界に潜在する≪D・E≫幼体は多くいる。

 どれが緊急度が高いのか、そうでないのか。

 マルチバースを精査する必要がある。それ自体は今までと同じで、検索対象が変わるだけ。大した手間ではない。

 

 アース666、≪D・E:黙示龍≫の封印続行。

 これもいい。やることは変わらない。畢竟、自分がいなくても封印は解けないようにしているし、この穴倉には物理的に侵入する方法はないし、今の文明ではこの場所を知る者はいない。なので此処に関しては心配しなくていい。

 

 ―――あぁ、いや違う。

 そうじゃない。

 

 ウィル・ストレイトとアルマ・スぺイシアは確かに手を取りあった。

 確かに彼の希望となって、危機を脱した。

 

「だけど―――あれは、今回だけでいい」

 

 体を水の中に漂わせながら、言葉を零す。

 書架の中、場違いな泉は魔力や体力の回復、化学的・魔術的含む様々な穢れの浄化。着替えも乾燥も魔術で行うので、それこそゲームに出てくるような万能回復ポイントだ。

 

 けれど、心は晴れない。

 

 胸の中に、どんよりと重いものがある。

 けれど、仕方ない。

 仕方がないと、その重みを泉の浮力で誤魔化せないかと思う。

 

 ウィルは、その名の通りに、真っすぐに未来へ進めるはずだ。

 自分はなんていうか…………そう、たまたま道が交差しただけなのだ。掲示板を通して知り合い、力になりたいと思った。だから行動をした。やり方を変えた。その結果、彼を救った。

 

 彼の現在を守った。

 

 だから、後は自分の力で生きていける。

 彼は一人じゃない。鬼の姫も、知識の申し子も、鳥の娘もいる。3人の誰かと、或いは3人ともと結ばれるだろう。きっと幸せな家庭を築ける。3人だけではない。彼を慕っているものなんて、あの世界にいくらでもいる。

 あらゆることに適応する特権の力ではない。

 彼自身がそうさせるのだ。

 鬱陶しいが賑やかなオタクたちもいる。

 この選択は色々言われるだろうが仕方ない。

 掲示板で色々書かれても、まぁそれは規制を掛ければいい。管理者権限――正確に言うと干渉権だが――持ちを舐めるなということだ。

 

 えぇと、それで。

 なんだったっけ。

 とにかく―――そう、とにかく。

 彼は助けた。彼に名前を呼んでもらった。彼と手を繋いだ。

 それで十分。

 1000年の停滞に光が差した。

 これ以上の幸福なんてそれこそ死んでしまう。

 今回の思い出だけでもう1000年は戦えるだろう。

 

「だから――――――これで、いい」

 

 呟いて、ばちりと音がした。

 なんだと思えば、眼の前。中空に火花が散っていた。

 

「―――――は?」

 

 思わず目を疑った。

 ありえないと、思った。

 そして次の瞬間――――火花は広がり、門が生まれ、

 

「うおおおおおおおお!?」

 

「うわあああああああ!?」

 

 ウィル・ストレイトが落ちて来た。

 

 

 

 

 

 

「――――ぷはっ!」

 

「ごほっごほっ……うわ、なんですかこの水。疲れや体の痛みとか一瞬で消えますね……!」

 

 仰向けで泉に浮かんでいたアルマの真上からウィルは現れた。

 当然中空から放り出される形になり、2人そろって泉に沈むことになった。

 水深は、実はアルマが調整できる。

 立って足が付かないようにもできるし、水面に立つことも。

 とっさの設定でほんの数センチ程度の深さになった。

 一度沈んだせいでずぶ濡れになり、共に髪や頬に水を滴らせる。

 ウィルは膝をつきながらも起き上がり、アルマは浅くなった水底に尻もちをついていた。

 

「……い、いや、なんで? なんで君がここにいる!? どうやって来た!?」

 

 ウィルは謎の光る水に驚きつつ、アルマの頬に張り付く髪にドキドキし、

 

「いやいや!」

 

「嫌!?」

 

「アルマさんが勝手に消えちゃうからじゃないですか! 滅茶苦茶びっくりしましたよ! あれでさよならって! あれでさよなら!? そんなことあります!?」

 

 自分でも驚くくらいに声が荒くなった。

 ゴーティアを倒した直後、アルマは消えた。

 追いかける間もなく次元門を開いて飛び込んだのだ。

 出会った時手を指し伸ばしてくれた時とはまるで逆再生の様に。

 正直、ぞっとした。

 わけが分からなかった。

 だから手を伸ばした。

 そしたら、

 

「オムニス・クラヴィスが反応して、こうなんか……頑張ったら、門が開きました」

 

「………………」

 

 アルマの頬がひきつる。

 つまりは術式のラーニングだ。

 確かにアルマはウィルの前で何度も転移門を使った。それに≪万象掌握≫の力も相まって、次元間転移術式を発動させたのだ。そもそもアルマの魔術で閉じた空間が、アルマの作った万能魔術発動陣でアルマの術式を模したもので開けられるというのはまるで不思議じゃなかった。

 それにしたって、

 

「ち、チート……!」

 

「アルマさんが言いますか!?」

 

 人生最高のツッコミである。

 というか、

 

「あれでさよならってあります!?」

 

 三回目の叫びだった。

 珍しい勢いに、アルマは眉をひそめながら目をそらした。

 

「……ゴーティアは倒しただろう。なら終わりじゃないか。他の転生者組も、時間差で勝手に帰還するようにしておいた」

 

「だからって! だからって―――――」

 

 ウィルが膝から崩れ落ちる。

 掌を膝の上で、縋る様に握りしめた。

 くしゃくしゃに顔を歪め、うつむいた彼は、泣きそうだった。

 これまで、過去を語る時も、ゴーティアに殺されかける時も微かな笑みさえ浮かべていたのに。

 掴んだと、思っていたのに。

 するりと、消えてしまった。

 

「こんなのって、ないじゃないですか」

 

「……うぃ、ウィル。僕は……」

 

「僕は」

 

 顔を上げた彼は、一度息を整え、

 

「僕は、アルマさんが好きなんだと思います」

 

「……………………はっ?」

 

「もっというと、アルマさんも……その、僕のことが好きでいてくれていると思っていました」

 

「……………………………………はったふぇあ!?」

 

 アルマの白い頬がリンゴのように真っ赤に染まった。

 近くを浮いてオロオロしていたマントが「あらー!!!」と言わんばかりに両袖を合わせた。

 奇声を上げたアルマは仰け反って、肘が付く。

 ちょっとしたM字開脚になってしまうが、それに気づかず、

 

「なっ……何を言っているのかな!? ぼ、僕が君を!? す……すっ……すす、すき? すき? この僕が!? この次元世界最高! 宇宙によっては神と呼ばれ、黙示龍を封印し、アカシックレコードを手にして、アース3のトライコードすら学んだこの僕が!?」

 

「だって、次元超えて僕のこと助けてくれましたし」

 

「んんっ」

 

「僕が君の希望だ、とか。名前に掛けて凄いこと言ってくれましたし」

 

「ん―――っ」

 

「お揃いの服くれたり、手とか普通に握るんじゃなくて恋人握りしてくれましたし」

 

「ごほんっごほんっ! そ、それは!」

 

「……それは、なんでしょうか。その、僕も前世では二十数年、いえ、死んだ時の正確な記憶はないので曖昧ですが、ろくに恋愛をしたこともなくそういう経験値は無いので、勘違いと言われればそうで、僕のことなんて全くどうも思っていないと断言されてしまえば、そうですかとしか言えないんですが……」

 

「…………………………そ、それは、その」

 

 捨てられた子犬の様に真面目に言うウィルに、アルマは思わず言葉を無くす。

 視線が泳ぐ。

 それはもう、あちらこちらに。

 転生して1000年、アルマ・スぺイシアは過去最高に動揺していた。

 そんなつもりはないよ全く、童貞かね君は! と、そう言ってやるつもりだったのに。

 何も言えなくなってしまった。

 言うまでもなくアルマの頭脳は多元宇宙において最高の知識を持つ。

 そしてその頭脳で言葉をはじき出した、

 

「て、ていうか―――――僕は元々男だぞ!?」

 

「―――――――――――――――――今更それ言いますか!?」

 

「ぐぬぅ」

 

 ウィル・ストレイト、人生最高のツッコミを更新した。

 そしてそれをアルマは否定できなかった。

 

 多元宇宙最高頭脳、敗北の瞬間である。 

 

 転生して1000年である。

 それだけあれば、前世の性別や趣味趣向なんて文字通り記憶の彼方。

 前世の構成要素なんてほとんど残ってはいない。

 

「…………ふぅ、ふぅ。……すみません、ちょっと冷静さを失いました」

 

 息を整えて、ウィルは考える。

 そして気づく。

 

 アルマ・スぺイシアは――――――――コミュ障であると。 

 

 冷静に考えれば当然なのだ。

 周囲を見回す。果てのない書架、無限に続く穴倉。こんな所に1000年いて直接のコミュニケーションは限られている。

 ウィルは知らないが、自身が発足したネクサスにしても一方的に指示を出すだけで会話らしい会話はほとんどなかった。

 そして極めつけに、直接でないコミュニケーションは掲示板でやりたい放題だ。

 そんなのが続けばどうなるか。

 ニートになって掲示板で無駄なレスを稼ぐだけのインターネットモンスターなんて目ではないコミュ障の完成である。

 

 そしてさらに考える。

 根っこは善性なのだ。

 それをウィルは知っている。彼女を知る誰もが「ほんとにそうか……? 邪悪ではないけど良い奴か……?」と首をかしげてしまうだろうが、ウィルだけはそう思っている。

 その目線で見るとしたら。

 

 アルマは、自覚無自覚はおいておいて自分の思っていることをぶつけるのは得意なのだろうが、感情をぶつけられるのはダメなのだ。

 特に好意の類をまともに受けれない。

 

 ウィルを助けるために行動はするし、勢いで凄いことを言うけれど、冷静になると引いてしまう。

 

 好きな女の子に優しくするけれど、告白は出来ない――――そういう高校生童貞男子メンタルがアルマ・スぺイシアなのだ。

 

 で、あれば。

 やることは簡単だ。

 

「―――アルマさん」

 

「な、なに……って、ちょ」

 

 名前を呼び、ウィルは前に出た。

 膝をついたまま、光る泉に波紋を揺らしながら、アルマの頬に手を伸ばす。

 これ以上ないくらいに頬を赤くしたアルマは体を震わせたが、止めなかった。

 

「――――ぁ」

 

 ウィルの手が、アルマの頬に触れた。

 赤く染まり、熱を持っている。ゆで卵のようにつるつるで、珠のような肌は水滴を弾きながらもウィルの指に吸い付く様な触り心地だ。

 当然、距離が縮まる。

 元々体格差は激しく、開いていた彼女の足にウィルが体を割り込むように。

 

 自然とアルマの体から力が抜けていた。

 それを追えば、はたから見ればウィルが少女を押し倒したように見えるだろう。

 実際そうであるし、或いはアルマが自ら受け入れたようにも見えた。

 

 そして、今度こそと。

 ウィルは自らの右手をアルマの手に絡め握りしめた。

 

「――――」

 

 言葉はなかった。

 ウィルはここで押さないと、また彼女が離れてしまう気がした。

 アルマはもう何が何だかわからずいっぱいいっぱいで、ただウィルの顔が近すぎるということだけしか分からなかった。

 真っすぐに真っ黒な目と、潤んだ輝く赤い瞳の視線が交わる。

 

「―――――ん」

 

 そして二人は唇を重ねた。

 赤が見開き、少しして力が抜けた。

 少年の手が少女の手を掴むのではなく、少しずつ、けれど最後は互いに握りあっていた。

 

 カチリと、何かが嵌ったように。

 鍵と錠前が揃ったように。

 或いは誰も開けられなかった堅い錠前を、初めてその鍵が開けたのだ。

 

 どちらもファーストキスで。

 アルマが思わず顎を上げて歯と歯がぶつかってしまった。

 二人の距離がゼロになっていたのはほんの数秒で、顔を上げた時アルマはまだぎゅっと目をつむっていた。

 

「……………………どうするんだ。どんな遠距離するつもり?」

 

「えぇと……それは……その、全然考えてなかったんですけど」

 

「真っすぐが過ぎるよ、君は」

 

 思わず、苦笑してしまう。

 だけど、ウィル・ストレイトはそういう少年だった。

 真っすぐに進む意思。

 出会った時から、彼はずっとアルマに対して真っすぐに接してくれた。

 感謝をしてくれて、学び、話し、笑い、過去を打ち明けてくれて、手を握り―――それで、最後にはキスをした。

 ずるいだろ、と彼女は思う。

 アルマ以外にもいたのだ。

 自分の世界の誰かと一緒になればいい。

 その方がいいと思っていたのに。

 こんな風に直球で来られてしまえば、どうしようもないじゃないか。

 

「―――――なんとかする」

 

 息を吐きながら彼女は言った。

 

「アルマさん?」

 

「なんとかする……違うな、なんとかしたい。僕も……うん、僕も君と一緒にいたい。少し、準備がいるかもしれないけど、それでもなんとかするよ。だから……それでいいかな」

 

「―――――はい」

 

 少し首を傾けて、ウィルは笑った。

 少し顎を上げて、アルマも笑った。

 

 なんでもできるかもしれないけれど、なんでもはできない少年と。

 なんでも知っているけれど、なんでもできるとは限らない少女は。

 

 それでも二人なら何でもできると笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【祝】>1天てぇてぇスレ【13】:プライベートサーバー

 

1:脳髄惑星

僕が君の希望だ(キリッ

 

2:自動人形職人

僕がクリスマスプレゼントだよ♡

 

3:暗殺王

僕がこの状況を打開する希望だよ♡

 

4:サイバーヤクザい師

あらー!!!!!!

 

5:元奴隷童貞

おほ~~~~~

 

6:冒険者公務員

こんな最強の告白決めて

 

7:ステゴロお嬢様

ラブラブ合体技決めて

 

8:アイドル無双覇者

そっからヘタレって何も言わずに帰るやつwwwwwww

 

9:脳髄惑星

そんなやつおりゅwwwwwwwwwww???

 

10:艦長

いないよねぇwwwwwwwwwwwwwww

 

11:希望

全員ぶっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

12:イッチ

あはは……

 

 

 

 

 

超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 END 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節は巡る。

 出会いと別れの季節へ。

 ≪アクシア魔法学院≫は冬を超えて、春を迎えようとしていた。

 数か月前の魔族の出現は、世界規模に激震を走らせたがしかし時は過ぎ落ち着いている。

 学園のある一室、ウィルは窓の外に桜が咲きそうだなと思った。

 桜。

 異世界にあるのが不思議な感覚だが、アース・ゼロから派生しているこの世界ではそういうこともあるのだろう。

 そこは主席と次席のみが集められてた部屋だった。

 新3年主席、龍人族、カルメン・アルカラ。

 新3年次席、トリシラ聖国の巫女、パール・トリシラ。

 新2年次席、天津皇国第六皇女、天津院御影。

 そして新2年主席ウィル・ストレイト。

 各学年の主席と次席によって学園の生徒会は構成されている。

 

 全ての授業過程が終わり、春休みになる直前のことである。

 先んじて、新一年生主席と次席が学園に訪れて入学前に挨拶をするのだ。

 

 ウィルはそれをしなかったが、滑り込み故で、事前挨拶を行っていたのは御影であり、その上で主席を譲ってくれたのだからありがたいことだなと思う。

 尤も、御影も横やり相手が弱かったらどこかで主席の地位を奪おうとしていたらしいのだが。

 

 そして、その部屋に新1年主席が足を踏み入れた。

 足を踏み入れ――――――ウィルは驚いた。

 それはもう驚いた。

 

 輝く銀色の髪。

 宝石のような真紅の瞳。

 ブラウスには同じ色の細めのネクタイ、学園指定のブレザーではなく、赤いコートの袖を通していた。

 それを、彼女が「マント」と呼んでいたもの。マントのように袖を通さず肩にかけていたが当然そういう風にも着る。

 年明けごろからウィルがいつも片肩に掛ける短いマントと同じような衣装。

 左手の人差し指と中指には指輪が。

 白く透き通るような首にはシンプルなチョーカーが。

 

 彼女を、ウィルは知っていた。

 実際に会うのは約二か月ぶりだ。

 

「―――()()()()()

 

 ニヤリと、彼女は笑う。

 

「新1年主席、アルマ・スぺイシア―――――これからよろしく。()()

 

 

 

 

 

超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 

GRADE1 END 

 

GO FOR GRADE2

 

 




ウィル
いつだって剛速球

アルマ
恋愛クソザコナメクジ処女
そこで逃げるとか恥ずかしくないんですか???

ウィル&アルマ
二人は幸せなキスをしてハッピーエンド


かーらーの、2年生編、始めます。
続きが見たいという声を頂いたので、もうちょっとウィルやアルマたちを見届けてもらえればと思います。


感想評価いただけると、さらに続けるモチベが沸きます。


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聖夜の天才ちゃんと春の後輩ちゃん(同一人物)とかいうウルトラC

GRADE2というか幕間

総合評価20000、感想1000件、PV50万超え等々、ありがとうございます。


219:デフォルメ脳髄

それでまさかの後輩属性まで獲得して

夏の姫様、秋の先輩、冬の鳥ちゃんの並びに

聖夜の天才ちゃんと春の後輩ちゃん(同一人物)とかいうウルトラCをぶち込んでくれた天才ちゃんだけどよぉ

 

220:1年主席天才

なんか文句あるか???

 

221:名無しの>1天推し

最高です!

 

222:名無しの>1天推し

いいですねぇ!

 

223:名無しの>1天推し

もっと>1天が見れるぞ~~~^^

 

224:自動人形職人

年末の闘いから二か月音沙汰無しでどうなることやらと思っていましたからね……

 

225:名無しの>1天推し

いきなり現地入りして主席にはびびるんよ

 

226:名無しの>1天推し

さらっと鳥ちゃんが次席入学してたのに霞むんよ

 

227:デフォルメ脳髄

それでよ

 

228:名無しの>1天推し

はい

 

229:名無しの>1天推し

うす

 

230:名無しの>1天推し

というか名前なんなの?

 

231:名無しの>1天推し

脳髄ニキ、あの戦いでデフォルメフォーム手に入れたから……

 

232:名無しの>1天推し

脳髄ニキ今なにしてるの……?

 

233:デフォルメ脳髄

俺のことはいいんだよ。大事なのは>1天。

 

234:2年主席転生者

あはは……照れますね

 

235:デフォルメ脳髄

脳の栄養なんダ。

まぁそもそも脳しかないから他に行くとこねぇんだけど

 

236:名無しの>1天推し

唐突な脳髄ジョーク

 

237:名無しの>1天推し

 

238:名無しの>1天推し

笑うわ

 

239:自動人形職人

今日は調子いいですねぇ

 

240:デフォルメ脳髄

で、エックスデイから二か月。

あのニチアサアニメに出てきそうな≪D・E≫倒して、

天才ちゃんが>1のとこいったけど、そのあたりどーなってんだと思って

 

241:名無しの>1天推し

そういえば

 

242:名無しの>1天推し

なんかあれと戦ってるとかなんとか

 

243:名無しの>1天推し

一般転生者には遠い世界だわ

 

244:1年主席天才

あぁ。それ触れておかないとね

君たちにも関係が無きにしも非ずだしね

 

今から解説するのでしっかりと聞くように

 

245:名無しの>1天推し

ウス

 

246:名無しの>1天推し

その心は

 

247:自動人形職人

はい

 

248:名無しの>1天推し

はい

 

249:デフォルメ脳髄

天才ちゃん講座、はっじまるよー

 

250:名無しの>1天推し

おなしゃす!

 

251:1年主席天才

まぁ簡単に言うとだ。

掲示板機能に報告フォーム作るから

これ≪D・E≫なんじゃね? というのを送ってもらって、

それを確認して必要なら僕とついでにこの前のアホどもが潰しにいくってわけ

 

252:名無しの>1天推し

うん????

 

253:名無しの>1天推し

アホ、とは?????

 

254:名無しの>1天推し

誰のことかな????

 

255:名無しの>1天推し

ついでに巻き込まれてませんか????

 

256:1年主席天才

名無しにしてようがあの時のメンツは全員マーキングしてるから

知らないふりしても無駄だからな???

 

257:名無しの>1天推し

こわ~~~~~

 

258:名無しの>1天推し

ヒエッ

 

259:名無しの>1天推し

まぁ呼ぶならいつでも呼ぶがいいがはは

 

260:名無しの>1天推し

子持ちもいるんですよ

 

261:自動人形職人

ぼくまぁ仕事が溜まってなければ……

 

というか、D・Eってどうやって見分けるんですか?

 

262:1年主席天才

いい質問だ。

 

とりあえず世界が滅びそうなのは問い合わせフォームにぶち込んでおけばいい

 

263:名無しの>1天推し

 

264:デフォルメ脳髄

ガバガバすぎんよ

 

265:名無しの>1天推し

スケールがでかいんじゃ~~~

 

266:名無しの>1天推し

もうちょっとこう……あるでしょ

 

267:1年主席天才

やかましい。

≪D・E≫も色々あるし、幼体となるとケースが多すぎるからこういうしかないんだよ。

 

ただ「世界を食べる」という性質上世界そのものを滅ぼすようなスケールになってくる。

例えば、>1の世界の魔族の様に「種族単位で人類と敵対している化物」のようなやつだね。

 

268:名無しの>1天推し

魔王とかそういうの?

 

269:名無しの>1天推し

てことは今そういうのがいない世界はわりと安全ってことか

 

270:1年主席天才

まぁ実際判断が難しいから、僕も思考分割して色々覗いてるけどね。

 

魔王もわりと世界によるんだよね。

世界を支配したり、ただの称号だとセーフだけど、世界完全消滅させる……みたいなこと言い出すと怪しい

 

271:名無しの>1天推し

むずいんじゃ~~~~~~~

 

272:デフォルメ脳髄

俺の世界人類滅んでるけどどうなんだろ

 

273:名無しの>1天推し

おぉう……

 

274:名無しの>1天推し

そうだったんだっけ……?

 

275:1年主席天才

君の場合、世界が滅んだというより、

シンプルに有機物生命体と無機物生命体の生存競争で人類が負けて滅んで、

機械生命体が生き残ったっていう生存競争の結果だからな……。

 

≪D・E≫案件じゃあない。それは断言しよう。

 

 

276:デフォルメ脳髄

そっか。

まぁしゃーない

 

277:名無しの>1天推し

うぅむ……

 

278:名無しの>1天推し

重ぉい

 

279:名無しの>1天推し

悲しい

 

280:2年主席転生者

脳髄さん……

 

281:デフォルメ脳髄

いやまぁええねんな。過ぎたことだし。

ほかに聞いときたいやつおらんの?

 

282:イベント中アイドル

にゃにゃ。酉失礼にゃ。

私もいーかにゃ?

 

283:名無しの>1天推し

お、アイドルネキ

 

284:名無しの>1天推し

あー、確かアイドルネキの世界は……

 

285:名無しの>1天推し

イベント中なんだ……

 

286:イベント中アイドル

旧正月イベ中にゃ。

 

それで、私の世界もFANとかいう謎の化け物がいて

人類も生存圏も4割くらい滅んでるんだがにゃ

 

287:自動人形職人

なんと……

 

288:名無しの>1天推し

マ????

 

289:名無しの>1天推し

結構いってるな……

 

290:名無しの>1天推し

そんなポストアポカリプス的な世界観だったんか……?

 

291:1年主席天才

そのFAN、というのは≪D・E≫の幼体だ。

 

292:イベント中アイドル

にゃー

 

293:イベント中アイドル

まぁ、この前の魔族ん相手した時からちょっとそうなのかにゃーとは思ってたにゃ。

 

294:2年主席転生者

えぇと、じゃあアイドルさんのとこに行くという感じになるんですか?

 

295:1年主席天才

いいや、行かない。

 

296:1年主席天才

これが問合せに関する二つ目の注意。

 

「D・E案件でも、その世界でどうにかなるであろう場合は介入しない」

 

297:名無しの>1天推し

それは……

 

298:名無しの>1天推し

あー……

 

299:名無しの>1天推し

まぁ……

 

300:自動人形職人

範囲考えると仕方ない……ですか

 

301:1年主席天才

アイドルの彼女の世界は観測した。

FAN出現最初期に人類は追い込まれたけど、

「アイドル」が確立して部隊として編制されて押し返している。

 

戦争状態だけど、小康状態というべきか。

 

302:イベント中アイドル

あー、まぁそういう面もあるにゃ。

実際ちょっと前までバレンタインでわちゃわちゃしてたしにゃ

 

303:名無しの>1天推し

余裕じゃーん

 

304:1年主席天才

>1の世界の魔族みたいに現地人で幼体なら倒しきるパターンもあるんだよね。

アイドルネキの世界もそのパターンで行けると見ている。

 

まぁそのあたりはケースバイケースというか、危なくなったら助けに入るつもりだけど。

正直僕もやり方変えたばかりで試してるわけだし

 

305:イベント中アイドル

にゃーにー、気にしなくていいニャ。

存分に>1と学園生活エンジョイしてくれにゃ

 

306:イベント中アイドル

逆に言えば、まだ自分たちでなんとかできる範囲ってことにゃし

 

307:名無しの>1天推し

えらい

 

308:名無しの>1天推し

さすネキ

 

309:名無しの>1天推し

これはトップアイドルですわ

 

310:2年主席転生者

何かあれば絶対助けに行きますので!!

 

311:イベント中アイドル

その時は握手いいかにゃ???

 

312:名無しの>1天推し

おいアイドル

 

313:名無しの>1天推し

逆逆~

 

314:名無しの>1天推し

 

315:名無しの>1天推し

アイドルの姿か?

 

316:デフォルメ脳髄

えーとじゃあ問合せはあんま期待せず

最後のワンチャンって感じか

 

317:名無しの>1天推し

ぽいね

 

318:自動人形職人

なんもかんも助けようと思うときりがないですしねぇ

 

319:1年主席天才

基本的に自分の世界のことは自分でやるのが原則だ。

 

≪D・E≫はその世界の戦闘力の限界の少し上を持ち込むから

よっぽどのバグが生まれないとどうしようもないんだよ。

 

そういう場合は助けに行く。

そうでないなら悪いが頑張って、という話だ。

 

320:名無しの>1天推し

まぁそんなとこか

 

321:名無しの>1天推し

当然ちゃ当然だわね

 

322:1年主席天才

ぶっちゃけこれはこれで文句が出そうな感はあるんだが……

≪D・E≫の羽化前となると完全に追いきれないからね。

 

もうちょっとうまいことしたいところだ

 

323:名無しの>1天推し

なるほどなぁ

 

324:名無しの>1天推し

えらい

 

325:名無しの>1天推し

さす天

 

326:デフォルメ脳髄

わりと天才ちゃんが気を使ってるの可愛いね

 

327:1年主席天才

あ”ぁ”????

 

328:デフォルメ脳髄

>1もそう思うじゃろ?

 

329:2年主席転生者

はい!!!

 

330:名無しの>1天推し

あら~

 

331:自動人形職人

あら~~

 

332:名無しの>1天推し

てぇてぇ

 

333:名無しの>1天推し

この即レスよ

 

334:1年主席天才

んっんっ!!

そういうことで!!!!

 

335:名無しの>1天推し

絶対顔真っ赤

 

336:名無しの>1天推し

なんてこった、千里眼に目覚めちまった

 

337:名無しの>1天推し

これこれ

 

338:名無しの>1天推し

>1の世界に行ったらこれが生で見れるのに……

 

339:名無しの>1天推し

もっとよこせ……てぇてぇを……!

 

340:名無しの>1天推し

>1たちこれから新学期なんだっけ

 

341:2年主席転生者

いえ、春休みですね。

一月くらい

 

342:名無しの>1天推し

おお

 

343:名無しの>1天推し

懐かしい響きだ……

 

344:名無しの>1天推し

花粉症の季節だな……

 

345:名無しの>1天推し

異世界転生してよかったことの一つが花粉症から解放されたこと

 

346:名無しの>1天推し

完全異世界が羨ましい

 

347:デフォルメ脳髄

鼻があるだけいいじゃん

 

348:名無しの>1天推し

 

349:名無しの>1天推し

 

350:名無しの>1天推し

初めて聞いたわ

 

351:名無しの>1天推し

受ける

 

352:名無しの>1天推し

脳髄ジョーク!!

 

353:2年主席転生者

くさですね

 

354:デフォルメ脳髄

>1の草頂きましたアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

355:1年主席天才

黙れ

 

356:名無しの>1天推し

草草

 

357:名無しの>1天推し

うーんこの切れ味

 

358:名無しの>1天推し

>1天てぇてぇもだけど脳髄ニキと天才ちゃんのボケツッコミも笑う

 

359:自動人形職人

それで、春休みの予定は?

 

360:2年主席転生者

せっかくなんで一度実家に帰ろうかと

 

361:名無しの>1天推し

ほう

 

362:名無しの>1天推し

おぉ

 

363:名無しの>1天推し

いいですね

 

364:名無しの>1天推し

でもすげー遠くなかったけ?

帰れるん?

 

365:1年主席天才

なので行きだけ馬で帰りは僕が転移使うよ

 

366:名無しの>1天推し

!?

 

367:名無しの>1天推し

つまり

 

368:名無しの>1天推し

……ってことは!?

 

369:名無しの>1天推し

オオオオオオ!!!

 

370:名無しの>1天推し

ご両親に挨拶……ってこと!?!?!!?!?!




天才ちゃん
色々どう動くか模索中だが
その世界のことはその世界で、というルールは替えない方がいいな……ってなっている
1年主席天才、2年主席転生者の並びでこっそりニヤニヤしてる

>1
草とか使っちゃう


次回、>1の親編
みんなでご挨拶
三人娘も一緒


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キャラプロフィール+支援絵置き場

同日に更新しているので、前話を確認していただければと思います。
またややこしかったので投稿し直したものです。

≪ネクサスランク≫
ネクサスが設定する対象の戦闘力と特異性を示したランク別け。
天才による独断と偏見。
転生者だしやっぱこういうのいるよね! とかいうノリで生まれた。
概ねこのネクサスランクがS以上のものがメンバーとして選ばれる。

ネクサスランクS=Aランクが10人分が最低レート

全マルチバースを含めてネクサスランクS・EXは現在それぞれ10人足らず

EX:例外評価
S:次元世界トップ
A:次元世界でも上位
B:わりとすごい
C:ふつう
D:よくない
E:ダメ

※あくまで暫定の分類




名前:ウィル・ストレイト

出身世界:アース111

ネクサスランク:EX(A)

転生詳細:転生、容姿変化

保有特権:万象掌握

 

ステータス

破壊力:A

耐久:A

速度:A

技術:A

魔力:A

射程:A

知力:A

特異性:EX

素直さ:A

人たらし:A

 

天才ちゃんコメント

『素直、真面目、実直。その才能は未知数。

まだまだ伸びしろもいくらでもあり、現在でも僕の術式を使ってアース111でもトップクラスの強度だし、その特権は全転生者でも有数のものだろう。極めれば神の如き力となる。まぁ、それも僕と一緒であってなんだが。

特権のおまけで高いラーニング、何よりその人間性。素晴らしいね?

見てる? この子が僕の彼氏』

 

 

【挿絵表示】

 

 

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【挿絵表示】

 

名前:アルマ・スぺイシア

出身世界:アース666

ネクサスランク:S

転生詳細:トリップ、容姿変化、TS

保有特権:森羅知覚

 

ステータス

破壊力:S

耐久:S

速度:S

技術:S

魔力:S

射程:S

知力:S

特異性:S

恋愛雑魚:S

 

天才ちゃんコメント

『僕だよ。

説明はいるかい?

 

……いや、待った最後のなんだこれ! 恋愛雑魚!? おい!! 書いたやつ許さないからな!』

 

※イラスト ひふみつかささん、すずてんさん HITSUJIさんより

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

名前:天津院御影

出身世界:アース111

ネクサスランク:B

 

ステータス

破壊力:A

耐久:A

速度:C

技術:B

魔力:B

射程:B

知力:B

特異性:D

身体:H

プリンセス:S

生活力:A

 

天才ちゃんコメント

『強く、優しく、美しく。

正直、戦闘力や生態自体はマルチバース的に見ると大して珍しくないんだが。

精神性が完成されすぎて困る。無敵か? 

脳みそピンクに染まってるかと思えば姫としてのメンタルが強すぎる。あんまいないぞ。

新学期始まって直後にはこの僕でさえあっけに取られてしまったねぇ

 

あとどうでもいいけど。全然関係ないけど。

ウィルと距離近くない? 僕がいるんだが??

あとその乳も一人だけなんか世界観違うぞ』

※イラスト ひふみつかささんより

 

 

【挿絵表示】

 

名前:トリウィア・フロネシス

出身世界:アース111

ネクサスランク:A

保有特権:無し

 

ステータス

破壊力:A

耐久:A

速度:A

技術:A

魔力:A

射程:A

知力:A

特異性:B

生活力:D

 

天才ちゃんコメント

『僕とキャラ被り。

 

……というのはおいといて。

正しい意味での万能タイプというのはわりと得難いものだ。

その上アース111においては知識も豊富であり、転生者が現地人と協力する相手と思うとこれ以上ない相手ともいえる。本当の意味での万能型というのは実際貴重だしね。

現状経験と知識も相まって、ウィルの上位互換とも言っていい。

 

しかしそれで私生活がダメダメとかちょっと反則じゃない?

シガーキスってずるくないか??』

 

※イラスト ひふみつかささんより

 

 

【挿絵表示】

 

名前:フォン

出身世界:アース111

ネクサスランク:A

保有特権:無し

 

ステータス

破壊力:B

耐久:D

速度:S

技術:A

魔力:D

射程:A

知力:D

特異性:A

背徳感:A

 

天才ちゃんコメント

『速い。とにかく速い。

生態的、魔術的、遺伝的その全てが速度特化していてマルチバース的に見てもかなり上位。ここまで加速と飛翔に特化した人類はあまりいない。

速度で言えばネクサスのメンツともためを張れる。飛翔特化であって戦闘特化ではないのが惜しいというか、本人が戦闘にさほど意識を割いて無くてこれというか……。

 

案外、ウィルを抜きにすればネクサスに勧誘したのは彼女だったかもね。

 

いい子は良い子だけど、やっぱりこう……淫紋大丈夫なのか?

あんな快活な子が奴隷奴隷言うのって絵面やばくない??』

 

※イラスト ひふみつかささんより

 




姫様の乳は有識者がHカップくらいって言ってました。
先輩がBで鳥ちゃんはC(成長中)とか。

姫様だけランク低いのは半亜人のパワータイプというわりとオーソドックスな種族故に。
というか先輩がレアな天然の完全万能型故、
鳥ちゃんが超特化型故に盛られているといったほうが正確かも
実際の戦闘力自体は
鳥ちゃん≧先輩≧イッチ、姫様、なイメージです


あくまでフラットな数値を見た場合ということで
支援絵置き場を兼ねたなんとなくの数値と思っていただければと思います


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ホームカミング

「なのでだな。やはり皇国産が良い。元々山や川、地形の隆起が激しいからな。婿殿の実家は山奥という。であれば、皇国産が良い、うむ」

 

「どうでしょう。その山に行くまでは平地が多いですよ? 厳しい大地に育った帝国の馬は強靭です。アルマさんが帰り道どうにかしてくれるとしても行きの日程は厳しい。総距離の長い平地を考える方が得というものです」

 

 かつてマリエルが戦っていた学園中庭のカフェテラス。

 そこで御影とトリウィアは向かい合い意見を交わしていた。

 机にはそれぞれドリンクが。御影は湯飲みに入った抹茶、トリウィアはエスプレッソ。

 二人の間のテーブルにはアイスコーヒーのウィル、ハーブティーのアルマ、ミックスフルーツジュースのフォンもいた。

 フォンは御影とトリウィアの話を聞き流しながらジュースだけではなくケーキを食べ、アルマはノートに何かを書き込み、ウィルはそれを眺めながらも二人の話を聞いてた。

 

「ふむふむ……国によって馬もかなり違うのか」

 

「えぇ。というか、正確によると地方や風土による区分けがそのまま国境別けになっているのでそれによるものですね。御影さんの言う通り天津皇国は山間部が多く、我がヴィンター帝国はあまり土壌が良くない上に気温も低く、野ざらしの荒れ地が多い。深い森もありますが、国の奥地ですし、計画的な植林もここ数年進めているそうですが、それもまだまだ過程ですね」

 

「ほうほう」

 

 トリウィアの解説をアルマはノートにまとめながら記していく。

 

「あとはトリシラ聖国は砂漠が多いので運搬手段としてはラクダが多いですね。いないわけではないですが。亜人連合は……」

 

「ん?」

 

 眼鏡の奥の視線が、チョコレートケーキをせっせと切り分けていたフォンに向く。

 

「んー……馬かぁ。亜人は移動用ってより荷物を運んだりするためだよね。種族によっては自分で走ったほうが楽だし」

 

「という感じですね」

 

「なるほど……王国は?」

 

「各国の平均値、と言われることが多いな。どの国にも隣接していて色々な血が混じっているという」

 

「まぁそうなるか」

 

 軽く上げた顎を手にした精緻な細工入りの万年筆のお尻で軽く叩く。

 横目で形のいい顎と細い手首を視界に入れつつ、ウィルが口を開く。

 

「それで、どうします?」

 

「無論、皇国で」

 

「帝国産で行きましょう」

 

「…………」

 

「どっちでもいいと思うけどなぁ。あ、美味しい」

 

 視線を飛ばし合う二人にどこ吹く風、ケーキを味わうフォンだった。

 

「困った話だね」

 

「あはは」

 

 アルマは肩を竦め、ウィルは首をかしげなら渇いた笑いを浮かべる。

 

 ウィルの里帰り。

 彼の実家は王国の北西の端にあり、馬車で一月という距離。

 学園の春休暇は一月程度なので本来であれば往復するのは不可能なのだが、そこはアルマの出番である。

 彼女はこの世界で生活するにおいて、いくらか自身に能力を封印しているがそれでも転移に関してはこれまでと同じように使える。

 なので、場所の座標、ないし知っている人物を指定すれば好きに転移できるのだ。

 ただし、それでは風情はないし、アルマも片道は旅をしたいということなので片道は馬で、帰りは転移による里帰りと相成った。

 

 御影もトリウィアも元々実家に帰る予定はなかったのでそれに同行。フォンはウィルの奴隷として言うまでもない。

 

 馬車で一月、ではあるものの、

 

「5人で馬ならば、もっと時間は短縮できますね。馬自体にも加速系統魔法を使えば、二週間もかからずいけることでしょう。私たちなら道中盗賊や山賊に心配することもないでしょうし」

 

 というのがトリウィアの言葉である。

 

 そうして5人でウィル・ストレイトの実家帰りとなったのである。

 

 無論、アルマは勿論、御影にトリウィアも思う所はあった。

 フォンは特に何も考えていない。

 

 馬で行くにあたって、どの国の馬を借りるかで御影とトリウィアがもめているが、やはりフォンはそんな話に興味はなく、

 

「主主。これ、食べて食べて。あーん」

 

「ん、あぁ。ありがとう」

 

 一口サイズのケーキが刺さったフォークが差し出される。

 それに対して特に大きな反応もなく、ウィルも受け入れた。

 口に広がるチョコレートの香りと甘み。フォンが喜ぶだけあって実際美味しい。

 ≪アクシア魔法学園≫は各国から生徒を招集しているだけあり、それ対応した文化様式も豊富だ。例えば寮の部屋にしても亜人種に適応したものもあれば、トリシラ聖国の礼拝堂といった宗教的にも充実している。

 当然、料理の類もそうだ。

 飲み物のコーヒーやハーブは亜人連合産が多いし、抹茶にしても皇国産。流石に海産物は輸送の都合があるので鮮度は落ちるがそれでも食堂のメニューには存在している。

 

 文化として豊かなのは概ね亜人連合と言われており、多くの種族を有するからかそれぞれの特色は彩り豊かだ。

 去年、ウィルがフォンに贈り、今も欠かさず身に着けているマフラーのように各氏族の入れ墨を模した装飾もまた人気だった。

 

「このチョコも連合産なんだっけ?」

 

「ううん、聖国の端っこの方で作られたってカフェのお姉さんが言ってたよ? やり方は連合を真似てるみたいけど、10年以上かかってようやく商品にできるようになったんだって!」

 

「へぇ……なるほどなぁ」

 

 カカオに必要なのは暖かい気候だったか湿度だったか……? と思い返しながら舌の中の残った甘さをコーヒーで口直し。

 アルマの話ではこのアース111は中世ヨーロッパ風の異世界としては比較的生活水準は食事の質が高いらしい。

 世界によっては同じような魔法文化で同じような文明で、しかし食事の味付けが塩くらいしかないみたいな世界もあるそうなのでよかったなと心から思う。

 

「ん」

 

 ふと視線を感じた。

 御影とトリウィアはまだ馬に関する話しているし、フォンは再びケーキを堪能している。

 であれば、当然、

 

「…………」

 

「……アルマさん?」

 

「んっ……んんっ。なにかな?」

 

 少しだけ咳払いの後にすまし顔でノートを閉じる。

 良く良く見なくても装丁が豪華で、アルマやウィルのマントと似たような意匠なので何かの魔道具だろうか。

 魔法のリングらしきものは減ったが、どれだけマジックアイテムを持っていてもおかしくはない。

 彼女は何もなかったようにハーブティーを口にし、

 

「……今、僕ケーキないのでまた今度」

 

「ぶほっ……ごほっごほっ……何も言っていないが!?」

 

「あはは」

 

 あからさまにウィルとフォンのやり取りを見ていたのだ。

 興味ない振りをしていてもバレバレであるし、顔を真っ赤にして咽るのはもうなんというかアルマらしい。

 そんな二人に御影は笑みを浮かべ、トリウィアは眼鏡を光らせ、フォンは珍しく真顔だった。

 

「……こほん。それで? 君の里帰りだろう。二人が色々案出してたんだ。どうするんだい?」

 

「んー……そうですねぇ」

 

「婿殿?」

 

「後輩君?」

 

 二人から発せられる圧である。

 首を傾げながら少し悩み、

 

「それなら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして二週間後、一行は≪アクシオス王国≫北西端。

 王都アクシオスより北西に延びる第八街道を進み、ムネミア平野を超え、小さな村や集落を経由して山道を進んでいた。

 途中、盗賊団の襲撃もあったが難なく撃退、捕縛し最寄りの村に突き出したり、ムネミア平野中央部で少しばかり予定よりも遅れたが、全体的な予定としては滞りなくウィルの実家近くまで到達していた。

 

 針葉樹で囲まれた深い森だ。

 3頭分の馬の蹄の音がよく響く。

 

 結局、馬は学園で飼育されていた皇国と帝国の馬の合いの仔が選ばれた。ウィルの前世のふわっとした知識でサラブレッドが良いのではという考え故だが、この世界ではまだそこまで品種改良は進んでいないらしい。

 長所のみを引き継ぐということが難しいらしく、今回学園から借りたのはまだ成長中で、二週間の旅で様子を見て欲しいとのことだった。

 

「んん……少し寒いな」

 

 戦闘装束に加え、旅装らしい黒袴と黒羽織の御影が息を漏らす。

 彼女の言う通り、最後に僅かに寄った街を出たあたりから気温が下がっている。

 

「昨日あたりから少しづつ標高が上がっていますね。高山酔いするほどではないでしょうが……ほら、あの山脈見えるでしょう」

 

 旅装に至っても普段と変わらない白衣姿のトリウィアが指さした先、森の奥に連なった山々が見える。

 

「帝国と王国の国境、黒影山脈ですね。王国側から見るのは初めてですけど。地質学者の話では山脈周囲一帯がなだらかな丘になっていて、ある地点から急に標高が上がるらしいですね。ほら、ここに来るまでも傾斜が多かったでしょう」

 

「なるほどなぁ」

 

「ふむふむ……しっかり地質調査もされているんだね」

 

「場所によりけりですが」

 

「学園に戻ったら確認するか……あぁ、ウィル。悪いけど背中を借りるよ」

 

「はいはい」

 

 シャツとズボンが制服ではなく、厚手の黒い自前のものに常通りの赤いコート。ウィルと同じ馬に乗ったアルマが、彼の背中を壁代わりにしてノートにメモしていく。

 

 アルマも馬に乗れないわけではないらしいのだが、本人たっての希望であった。

 

「いいなー。私も主の背中が良かったなー」

 

「ははは、私の乳で我慢しろ、フォン」

 

「うわ、ちょ、重いよ! マフラー皺になる!」

 

「はーはっはっは。これが乳の重みだ!」

 

 逆に馬に乗れない――そもそもそういう習慣もない――いつも通りの鳥人族の装束にウィルから貰ったマフラー。それに旅装用のローブ姿のフォンは御影の前に。身長差から彼女の頭が御影の爆乳に埋まっている。

 見る者が見れば、当然ウィルも内心羨ましいが、フォンからすれば重いだけだ。

 

 そんな二組の光景を、ちょっぴり羨ましそうにトリウィアは見ていた。

 嫌われているわけではないのだがどうもフォンからトリウィアに対する尊敬度が低いようで、一緒に乗ってくれなかったのである。

 

 そんなこんなで山道を進むこと小一時間。

 木々の合間に一本道はウィルの家族が近くの村に行く時の為だという。

 

「随分と辺鄙な所に住んでいたね、ほんと」

 

 ウィルの背中に顎を当てながら、体重を預けるアルマが呟く。

 二週間前、背中にしがみ付くだけでも顔を赤くして身体を固くしていた彼女も流石に慣れ、むしろリラックスしきっている。

 

「ははは……僕も王都に出て改めて思いましたね。両親の意向だったらしいんですけど、どうしてかとかあんまり疑問に思わなかったので、聞いてみましょう」

 

 思わなかったんだ……とアルマは思った。

 

「――――見えました。僕の実家です」

 

「おっ」

 

「これが」

 

「おー!」

 

 3人が声を揚げ、アルマもまた掲示板の視界共有や言葉を通してではなく自分の眼で改めて見る。

 

 森が開けた先、石垣に囲まれた木造二階建ての一軒家だった。

 石垣の囲いは広く、家以外にも畑や馬小屋、それに井戸まである。

 囲いの石のいくつかには魔法陣が刻まれており、獣除けの魔術だ。

 

「……」

 

 一年ぶりの我が家にウィルはわずかに目細め、馬を降りる。

 手綱を引きながら歩いて簡素な作りの門を開けて中へ。

 

 そしてその先に一人の女性がいた。

 農作業をしていたが、現れたウィルたちに手を止めて立ち上がる。

 

 背筋のいい、灰色の髪の女だった。

 

 チュニック、コルセットにロングスカート。農婦としては左程珍しくない服装だが背筋の良さと雰囲気の鋭利さが質素ながら気品がある。

 肩まで伸びる髪は左一房だけが短くアシンメトリー。

 ただ立っているだけで隙がないと思わせる、鋼のような、鋭い顔つきの美女だ。

 

「ウィル」

 

「うん、()()()

 

 声から感情はなく、見た目通りの冷たく澄んだ声。

 微かに目を細めた彼女は控えめな膨らみの前で腕を組み、真っすぐにウィルを見据えた。

 

「何故、貴方が此処に。3年は戻らぬものと思っていました」

 

「そのつもりだったけど……えぇと、後で説明するけど往復の目途が立ったから帰ってきたんだ」

 

「なるほど」

 

 小さく彼女は頷き、ウィルの背後。

 4人の少女たちを見る。

 

「そちらは」

 

「僕の学友と……それに、()()だよ」

 

「―――ほう」

 

 青く鋭い瞳がさらに細まる。

 

「……誰が? 四人ともですか?」

 

「ぼ……僕です、はい」

 

 思っていた親子の再会ではない、スムーズすぎる二人の会話に首を傾げつつ、さらには早速直球で恋人として紹介されたことに顔を赤くしつつ、声を絞り出す。

 

「アルマ・スぺイシア……です。お付き合いを、させてもらって……いま、す」

 

「なるほど」

 

「…………は、はい」

 

 1000年コミュ障の恋愛雑魚初心者アルマ・スぺイシア。

 彼氏の母親に挨拶というある意味人生最大級の関門が「なるほど」の一言で終わる。

 

「他の3人は」

 

「あ、うん。えぇと」

 

「失礼」

 

 すっと前に出たのは御影だった。

 彼女は流れるような動きで片膝を立て、顎を引く。

 片角を差し出すように。

 

「天津皇国第六王女、アクシア学園二年次席。天津院御影にございます。どうかお見知りおきを」

 

「――晒し角」

 

 灰髪の女が小さく呟く。

 片膝を立てて角を差し出す礼は鬼族にとっての最敬礼。

 誇りの象徴である角を無防備に晒す故に「晒し角」と呼ばれるものだ。

 鬼族でもよほどのことが無い限り目にすることが無いものだ。

 

「ウィルの母、ベアトリス・ストレイトです。誇り高き力の王女殿下に出会えたことに感謝を」

 

 スカートの裾をつまみ、片足を引きながらの礼で返すウィルの母――ベアトリス。

 王族がいることに驚いた様子はなく農婦姿でありながらさながらドレスのような優雅さだった。

 

「失礼ですが、息子とはどのような関係で」

 

「はい――――あと二年以内に愛人にしてもらうつもりです」

 

「!?」

 

「なるほど」

 

 最敬礼から飛び出した飛んでも発言にウィルは驚愕した。

 なるほど!? とアルマは目をかっぴらいた。

 だがベアトリスは小さな頷きで済まし、 

 

「そちらは」

 

「……トリウィア・フロネシス。学園の研究員です」

 

 トリウィアはベアトリスと同じように白衣の裾をつまみ広げ、片足を引きながら一礼。

 

「失礼ですが……お母君は帝国出身ですか」

 

「出身はそうですね。結婚を機に家名は捨てましたが。そちらはフロネシス家の」

 

「不肖の身なれど」

 

「謙遜を。研究員ということは優秀な証でしょう。息子とは?」

 

「……」

 

 何度目かの頷きと質問に、トリウィアは少し考え、立ち上がって一歩下がろうとしていた御影を一瞥し、

 

「……日々、生活の世話をされています」

 

「なるほど」

 

 いいのかそれで、とアルマは思った。

 やはりトリウィアはどこかアホだし、それを普通に頷き一つで受け入れているベアトリスもベアトリスだ。

 

「あ、あのっ!」

 

「はい」

 

「こ、これを……どうぞ!」

 

 緊張した様子でフォンが差し出したのは一本の羽根だ。

 

「鳥人族、でしょうか」

 

「は、はい! お世話になっている人の家族にはこうするのが鳥人族の教えですから!」

 

 鳥人族にとって翼は魂だ。

 そしてその一部である羽根を差し出すのは感謝と信頼の証でもある。

 ちなみにウィルはフォンの羽根を持っていない。

 

 だって私の全部が主のでしょ? というのが彼女の考えである。

 

「フォンです! 鳥人族は、家名はないのでただのフォンです! ……はい!」

 

「はい。ベアトリスです、よろしくお願いします」

 

 緊張故か声を張り上げ、体を堅くするフォンに、しかしベアトリスはまるで変わらない。

 受け取った濡れ場色の羽根を大事そうに握り、

 

「あ、主の奴隷を! させてもらっています」

 

「なるほど」

 

 三度頷くだけだった。

 当然、アルマも、御影も、トリウィアすらもそれだけ?と内心思っていた。

 

「ウィル」

 

「は、はい」

 

 冷や汗を流す息子に一度も顔色が変わらない母親が歩み寄る。

 声にも表情にも感情を乗せない彼女だが、

 

「おかえりなさい。よく帰ってきました」

 

「……うん、ただいま。母さん」

 

 ウィルを抱きしめた時の声には確かな労りがあった。

 ベアトリスを抱きしめ返し、数秒互いに抱き合い、離れ、

 

「ウィル」

 

「うん」

 

「恋人と将来の愛人と日々の世話をしている方と奴隷―――説明してもらえますね?」

 

「……………………うん」

 

 

 




ベアトリス・ストレイト
超クール系美人ママ

ウィル
なんて説明したものか……マン

地の文回はこれまであんまり出してこなかった地名・固有名詞や地理情報、文化や風土について載せていきたいところですね。

次回、恋人と将来の愛人と日々の世話をしている方と奴隷の話


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そこのお前! 家族は大切にしような!!

エルデンリングで更新が死ぬほど遅れたことをお詫びします。

それはそれとして天才ちゃんはラニ様に滅茶苦茶感情移入しそう。


1852:名無しの>1天推し

かつてここまで恐ろしい母との対面があっただろうか

 

1853:デフォルメ脳髄

恐怖の「なるほど」

 

1854:名無しの>1天推し

恋人と将来の愛人と日々の世話をしている方と奴隷に無表情で「なるほど」で終わる人初めて見た。

 

1855:名無しの>1天推し

恋人と将来の愛人と日々の世話をしている方と奴隷という言葉も聞いたことないけどな……

 

1856:名無しの>1天推し

その4つは同居しないんよ

 

1857:自動人形職人

お母さんが>1を抱きしめた時はかなりグッと来たんですけどね。

 

1858:名無しの>1天推し

前世のあれこれがあったから、今の家族とも仲悪かったらとちょっと思ってたから安心したんよ。

 

1859:名無しの>1天推し

まぁそこからの「なるほど」なんですが……

 

1860:デフォルメ脳髄

はい……

 

1861:名無しの>1天推し

ちょっと予想してなかったママさんだった

 

1862:名無しの>1天推し

逆にパパさんはイメージ通りだったわね

 

1863:名無しの>1天推し

すげー優しそう

 

1864:名無しの>1天推し

めっちゃ朗らか

 

1865:名無しの>1天推し

>1が大人になって眼鏡付けたらって感じの雰囲気だわ

 

1866:名無しの>1天推し

天才ちゃんも含めて4人とも完全に>1に眼鏡付ける妄想してたのわろた

 

1867:デフォルメ脳髄

先輩とか天才ちゃんはわりとおそろ眼鏡付けるタイプだよ

 

1868:名無しの>1天推し

風評被害

 

でもないか

 

1869:名無しの>1天推し

天才ちゃんは最終決戦でお揃衣装を渡すとかいう前例がね

 

1870:名無しの>1天推し

そういうとこやぞ

 

1871:名無しの>1天推し

>1はパパ似てわけね

 

1872:自動人形職人

というか顔立ち自体はお母さん似ですけど、

髪と目はお父さん譲りですね。

 

>1も顔立ち自体は整っているし

 

1873:名無しの>1天推し

あー

 

1874:名無しの>1天推し

なるほど

 

1875:名無しの>1天推し

確かに

 

1876:デフォルメ脳髄

朗らかほんわか優しいパパにストレート冷静クールママに子供ができると>1が生まれるのか……

 

1877:名無しの>1天推し

まぁ>1も大概ストレートだしな……

 

1878:名無しの>1天推し

ストレイトだけにな、ガハハ

 

1879:名無しの>1天推し

>>1878

 

1880:名無しの>1天推し

>>1878

 

1881:名無しの>1天推し

>>1878

 

1882:デフォルメ脳髄

>>1878

 

1883:名無しの>1天推し

>>1878

 

1884:自動人形職人

>>1878

 

1885:名無しの>1天推し

解せぬ

 

1886:名無しの>1天推し

名前弄りはよくないぞ!

 

てぇてぇの時だけだ。

 

1887:名無しの>1天推し

確かに。

すみません、>1

 

1888:二年主席

あぁいえ、お気になさらず。

前の配信で思いっきり流れましたしね。

 

そもそも視界共有してる時点で今更ですし。

 

1889:デフォルメ脳髄

ま、お互い気を付けようネ

 

>1はそっちどうなん? 

 

1890:二年主席

えぇと視界は父さんと顔合わせしたところまででしたよね

 

一通り説明終わって、今はのんびりというか。

自分の部屋で片づけしてます。

 

1891:名無しの>1天推し

その説明でパッパは笑って受け入れて、マッマも「なるほど」で終わったのウケる……ウケる?

 

1892:名無しの>1天推し

おおらかすぎるんよ

 

1893:名無しの>1天推し

>1の両親って感じ

 

1894:名無しの>1天推し

あれ、天才ちゃんは?

 

1895:二年主席

客間にいると思いますよ。

三日くらいは滞在するつもりですし。

 

二つしか客間ないので御影さんとフォン、アルマさんと先輩でですけど

 

1896:自動人形職人

こっち顔出さないの珍しいですね

 

1897:名無しの>1天推し

先輩に色々聞いてるのかな

 

1898:名無しの>1天推し

なんかずっとメモってるよな

 

1899:名無しの>1天推し

>1の背中借りて書いてるの可愛かった

 

1900:名無しの>1天推し

てか、すげぇとこに住んでるけど客間二つもあるのか

 

1901:二年主席

えぇ、一応。

 

というかまぁ客間は1つで、物置だった空き部屋を今さっき掃除したばかりなんですけどね。

 

1902:自動人形職人

まぁ流石に客間がいくつもないですよね

 

1903:名無しの>1天推し

それはそう

 

1904:名無しの>1天推し

あるだけでもえらい

 

1905:名無しの>1天推し

というか、客といえば。

ちょっと>1に疑問があったんだけどよ。

 

1906:二年主席

はい、なんでしょう。

 

1907:名無しの>1天推し

あのオールスターアタックでみんなで倒したゴーティアおじさん……というか、ゴーティアに憑依されていた前学園長が、>1を学園に招待したわけじゃん

 

1908:二年主席

はい、そうですね。

 

1909:名無しの>1天推し

前学園長は確か、そっちの世界じゃ英雄で。

 

それでなんで>1の超限界住居に?

 

1910:名無しの>1天推し

あー

 

1911:名無しの>1天推し

そういえば……

 

1912:名無しの>1天推し

確かに……

 

1913:デフォルメ脳髄

流れがテンプレすぎてスルーしてたな……

 

1914:名無しの>1天推し

よっぽど目的がないと早々来ないとこだもんな

 

1915:二年主席

えぇとですね。ちょっと両親の話からになるですけど

 

1916:名無しの>1天推し

ほうほう

 

1917:名無しの>1天推し

聞いてみたい

 

1918:名無しの>1天推し

むしろめっちゃ興味ある

 

1919:二年主席

父さんは王国生まれで、母さんは帝国生まれだったんですが、

20年前の大戦で出会ったらしいんですよね。

 

父さんは魔族との戦争に参加した冒険者で、

母さんは帝国から出兵した軍人だったそうです。

 

1920:デフォルメ脳髄

なんかすげぇラブストーリーの気配がするな……?

 

1921:名無しの>1天推し

それ一本でもうお話できません?

 

1922:名無しの>1天推し

まぁ実際>1が生まれてるわけで……

 

1923:二年主席

それで当時、魔族との戦いで指揮を執っていたのが前学園長だったそうです。

つまり両親の上司ですね。

 

最初は小規模だったらしいんですが、二年ほど一緒に戦う中で軍を率いる立場になっていたとか。

父さんも母さんもかなりお世話になったそうです。

 

1924:名無しの>1天推し

はえ~

 

1925:名無しの>1天推し

あの学園長、そんな人たちだったのか……

 

1926:名無しの>1天推し

>1の両親の恩人ってことは……その……

 

1927:二年主席

僕は会ったのが学校に誘われた時初めてだったので、

まぁその、思う所はあまりないんですけどね。

 

父さんと母さんも報告した時はあまり動揺してなかったんですけど……

 

1928:自動人形職人

察してあまりありますね……

 

1929:二年主席

アルマさん曰く、乗っ取られてた時点でもう死んでるようなものらしいんですけどね。

 

そのあたりは一度父さんたちと話してみようかと思います。

 

1930:デフォルメ脳髄

なるほどね。そっちは>1の問題で言うことないぽい。

 

それよりもパッパとマッマの馴れ初めとか聞きたいぜ!!

 

1931:名無しの>1天推し

それはそう

 

1932:名無しの>1天推し

確かに

 

1933:名無しの>1天推し

突っ込まない方がいい話題になるとすぐに話題変えてくれる脳髄ニキ素敵や

 

1934:デフォルメ脳髄

ワハハ

 

1935:二年主席

いつもありがとうございます。

 

1936:デフォルメ脳髄

FOOOOOOOOOO!!!↑↑

脳が震える!!!!! 

 

つまり全身なんですが

 

1937:名無しの>1天推し

 

1938:名無しの>1天推し

 

1939:名無しの>1天推し

そのつまりはならんやろ

 

1940:二年主席

くさ

 

父さんと母さんの馴れ初め、あんまり詳しくは知らないんですけど

 

1941:二年主席

大戦時、母さんは全然相手にしなかったそうですね。

まぁあんな感じなのでさもありなんって感じですけど。

 

トリウィア先輩がさっき確認してたんですけど≪灰の魔女≫って名前でわりと有名だったとか。

全然知らないんですけど

 

1942:名無しの>1天推し

全然知らないし詳しくなくて草

 

1943:名無しの>1天推し

親の武勇伝ってそんなもん?

 

1944:二年主席

大戦の話、あんま聞いたことないんですよね。

 

それであまり人付き合いが良くなかった母ですが、父さんはわりと普通にガンガン話掛けていって、戦争で仲良くなって、終戦と同時に結婚って感じらしいです。

 

1945:名無しの>1天推し

なんというか……

 

1946:名無しの>1天推し

うむ……

 

1947:自動人形職人

どこかで聞いたことある話ですね……?

 

1948:デフォルメ脳髄

>1と天才ちゃんじゃん!

 

1949:名無しの>1天推し

絶対パッパのこと好きだったヒロインいそう

 

1950:名無しの>1天推し

前作主人公か?

 

1951:二年主席

それで母は帝国の貴族で結婚色々問題あったらしいんですけど、

そのあたり無視して家に離縁状叩きつけて母さんは王国に移住。

 

大戦で大変だったからとかでこの超田舎でスローライフ、僕が生まれたって感じですね。

 

1952:名無しの>1天推し

超田舎久々に聞いたわ

 

1953:名無しの>1天推し

懐かしい

 

1954:名無しの>1天推し

まぁ戦争終わった後にスローライフ送りたいというのはちょっと分かるな

 

1955:デフォルメ脳髄

お母さん家と絶縁してて草生えぬ

 

1956:名無しの>1天推し

立ち姿とか所作とかだけでも育ちの良さを感じたもんな

 

1957:自動人形職人

>1もわりと姿勢いいですけど、お母さんの影響ですかね

 

1958:名無しの>1天推し

性格は完全にパッパぽいけど

 

1959:名無しの>1天推し

やたら真っすぐ視線で貫くのはお母さんかもしれん

 

1960:二年主席

言ってもそんなに厳しくしつけられたってわけではないですね。

最低限は教えられましたけど、王国とか帝国とかについても自分で確かめてこいって感じで。

 

1961:名無しの>1天推し

なるほどなぁ

 

1962:名無しの>1天推し

聞けば聞くほどいい両親だ

 

1963:二年主席

 

――はい。

この命における、自慢の両親です。

 

1964:名無しの>1天推し

……

 

1965:名無しの>1天推し

すまん、泣く

 

1966:名無しの>1天推し

自分もそう言ってもらえる親でありたいでありますな

 

1967:名無しの>1天推し

我が子らはどう思っているのやら……

 

1968:自動人形職人

転生者に家族の話題は致命が取れますね

 

1969:デフォルメ脳髄

そこのお前! 家族は大切にしような!!

ちなみに俺は両親を機械に殺されて復讐のために機械と戦ったが結局機械の為に脳髄にされて機械たちを活かしていたぞ!!!!

 

1970:1年主席

笑えないんだよ馬鹿が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

1971:名無しの>1天推し

天才ちゃん!!

 

1972:名無しの>1天推し

天才様!!!

 

1973:名無しの>1天推し

僕が君の希望だ(キリさん!!!!

 

1974:名無しの>1天推し

助かった! マジ助かった!

 

1975:名無しの>1天推し

やっぱ天才ちゃんよ!!!

 

1976:自動人形職人

今一瞬スレの空気死ぬかと思いましたからね!!

 

1977:二年主席

大好きです!!!!

 

1978:1年主席

 

1979:1年主席

そういうのはスレで言うんじゃない!!!!!

 

1980:デフォルメ脳髄

あら~~~~~~

 

1981:名無しの>1天推し

いいですねぇ!

 

1982:名無しの>1天推し

てぇてぇ

 

1983:自動人形職人

直接言えってことですね分かります

 

1984:名無しの>1天推し

^^

 

1985:名無しの>1天推し

直球大好きです助かる

 

1986:1年主席

黙れ有象無象共

 

それよりも僕の話を聞け。

そして助けろ。

 

1987:名無しの>1天推し

ん??

 

1988:自動人形職人

天才さんが助けろ?

 

1989:名無しの>1天推し

助けを求めるのに命令形なのが草だが天才ちゃんが?

 

1990:デフォルメ脳髄

なんだどうした

 

1991:2年主席

え、何かありました?

そっち行きます

 

1992:1年主席

いや、来なくていい。

というのも、その

 

1993:1年主席

お母さんに2人で話そうって呼び出されたんだが…………どうしよう?????

 

1994:名無しの>1天推し

あっ

 

1995:名無しの>1天推し

あっ

 

1996:名無しの>1天推し

Oh……

 

1997:自動人形職人

これは……

 

1998:名無しの>1天推し

まずいですよ

 

1999:2年主席

うぅん……

 

2000:デフォルメ脳髄

超クールなるほどお母さんVS1000年コミュ障天才ちゃん! ファイッ!!!!!!!!

 




パパ&ママ
前作主人公カップル感
パッパの詳細は次回に

前学園長
凄い人だった

天才ちゃん
助けて


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セイム・スマイル

「アルマさんは、出身はどちらで?」

 

 夜遅く。

 夕食も湯あみも済ませた後、アルマはベアトリスと向き合っていた。

 小一時間前まではみんなで夕食を囲っていた食卓を挟んで。

 食事は美味しかった。

 ベアトリスが家の前の畑で育てた野菜やウィルの父が森で狩ってきた動物を使い、料理が得意な御影も手伝った。特別調理技術が発展したわけではなく概ね焼くか煮るの二択だが御影は勿論、ベアトリスも調理の腕は素晴らしいものがあった。

 火加減、というもので料理の味が此処まで変わるのかと、アルマは知識ではなく実体験で学ぶことができた。

 貴重な時間だった。

 が、同じ場所で、アルマはベアトリスと対面で向かい合い、開幕出身を聞かれるという面接状態に陥っていたのである。

 

 たらりと、頬に冷や汗が流れる。

 

「……王都です。ただ、孤児ですが」

 

「ほう。では、ご家族は」

 

「養父が1人。拾われて育てられました」

 

 王都の孤児。家族構成は養父のみ。

 前提として異世界人であるアルマがこのアース111の学生として生活するにあたっていくつかのハードルは存在した。

 そのうちの一つが、この世界でどういう立場か、というものだ。

 当然ながら学校機関に入る際に身分はある程度必要になる。世界によってはそのあたりかなり緩いのだがウィルたちが通う≪アクシア魔法学園≫はこの世界において最高学府に当たる学校だ。

 いくらアルマが高い能力を示しても、謎の根無し草がというのは難しい。

 最も能力任せに無理やり、というのも通せたかもしれない。

 

 だが、アルマはこの世界でウィルと生きたかった。

 

 だからバックストーリーと養父を用意し―――ここでかなり忸怩たる思いやすったもんだがあったがここでは割愛するとして―――王都生まれのアルマ・スぺイシアが成立したのである。

 身分さえ用意してしまえば能力を何より重視する学園に入学するのは難しくなかったし、実際主席として入学できたというわけだ。

 

「なるほど」

 

「……」

 

 相変わらず顔色は変わらないし、表情も変わらない。

 彼女は元々貴族だったという。

 そうなると息子の彼女が孤児というのは良くないのかとかそんな想像が過る。

 

 また一筋、額に汗が流れた。

 

 テンパっていることを自覚する。

 1000年生きた大魔術師であるアルマだが、しかし立場的に目上と言っていい相手との会話などしたことが無い。

 基本的には掲示板の相手をするか、ネクサスでのスカウトか、敵だ。

 気の合う友人なんていなかったし、そもそも直接会話自体が極めて珍しい。

 例外であるネクサスのメンバーとはプライベートな付き合いもない。

 例外が例外になっていなかった。

 だから、彼氏の母親との会話なんて全く分からないのだ。

 

「こほん」

 

「!」

 

 びくん、と肩をはねたアルマにやはりベアトリスは表情を変えず、

 

「前置きしておきますが生まれどうこうで難癖をつけるつもりはありません。私も夫と結ばれるにあたって家名を排しています。自ら姓を捨てたという点は、ある意味孤児よりも眉を顰められると言ってもよいでしょう。故、これはただの確認に過ぎません」

 

「は、はぁ」

 

「あの子が家に連れて来たということは……まぁ、そういうつもりなのでしょう。であれば、こちらもそのつもりで対応をせねばなりません。少し気が早い気もしますが――――解りますね?」

 

「…………………………………………な、なるほどっ」

 

 つまりは、そういうことだ。

 中世文化世界において親に恋人を紹介するということの意味は重い。

 ウィルはそのつもりなのだろうか。

 もし、そのつもりだとしたら。

 

「…………」

 

 頬の熱を感じる。

 期待と、そして微かな不安。

 そんな未来が訪れればいいと思うけれど。

 そんな未来が来るのだろうか。

 ウィルとアルマの関係は始まったばかりで、その先がまるでピンと来ない。

 どれだけ知識を持ち、常人がしていない経験をしていたとしても、自分の未来を想像するという点に関してはアルマはまるで素人なのだ。

 

「……」

 

「それで」

 

「あ、はい」

 

「ウィルのどこが好きなのですか」

 

「はいぃ!?」

 

 頬の温度が上がった。

 見開かれた真紅の瞳と同じくらい顔を赤くするアルマとは対照的に、唐突に始まったガールズトークにベアトリスの顔色は変わらない。

 

「今後はどうあれ、今貴方とウィルが付き合っているのは間違いないでしょう。その上、御影さんやトリウィアさん、フォンさんもいる。一夫多妻を取るのはある程度地位や資産が要りますが、貴方たちの場合は問題ないでしょう」

 

 将来予測の周りが固められていた。

 

「が、だからこそ正妻の立ち位置は重要です。これでも捨てたとはいえ貴族の娘。正妻側室等々のごたごたで関係が悪化した家などいくらでも見ました。そしてそういった問題は結局のところ人間関係です」

 

「に、人間関係」

 

「あまり深い話は……こほん、貴方はもう少し成長してからの方がいいでしょう、はい」

 

「………………………………」

 

 つまりは、そういうことである。

 アルマには何も言えなかった。

 完全に体を硬直させた少女にベアトリスは話がそれたと前置き、

 

「それで、ウィルのどこが好きなので?」

 

「……なっ、何故そういう話に?」

 

「母親としては把握しておくべきなのです」

 

「そ、そうだったんですか……!?」

 

 アルマ・スぺイシア、恋人の母親の言葉を丸のみである。

 冷静に考えると直前の会話と繋がっていないのだが、今の彼女には冷静な思考ができていなかった。

 恋愛偏差値でいえばミジンコレベルなので仕方ないのだが。

 そもそも彼女を知る者が見れば、他人に敬語を使っている時点で爆笑ものである。

 

「母として」

 

「な、なるほど」

 

 ベアトリスの無表情には圧がある。

 少なくともアルマにはそう感じた。

 そして、

 

「……ウィルと初めて会った時は、ただの自己満足でした」

 

 目を伏せながら思い返す。

 もう1年も前のこと。

 けれどそれはここ数百年で最も濃密だったかもしれない。

 

「僕も彼と同じ全系統保有者です」

 

「素晴らしい。よもやそんな2人がとは。……いえ、だからこそ、でしょうか」

 

「ですね。……同じ才がなければ興味も沸かなかったかもしれない」

 

 掲示板越しに珍しい――というよりも、変わった、ややこしい転生特権持ちがいた。

 知的好奇心がうずき、ついでに自己顕示欲が働いた。だから先生紛いのことをして、

 

「でも彼は、素直だったんですよね。真っすぐで……真っすぐすぎるほどに。僕は人間出来てる方ではないと思いますけど、そんな僕が思わずほだされるくらいに」

 

 だからいつ頃か気に掛ける様になってしまった。

 

「それで彼は……その、いつも真っすぐだけどそれでも抱えているものがあって……それで、また気になって。どうにかしたかったけれど、僕には実際に行動する勇気が出なくて」

 

 彼と直接――といっても文章越しだが――話して、彼の前世の話を聞いた。

 彼が希望を失ってしまったことを。

 だから、希望と幸福を手にするのを恐れていることを。

 

「何もできなかったんですし、僕なんかいない方が彼が幸せになれるかと思ったんですけど、あんなに真っすぐに笑顔向けられたらそりゃ好きになるというか、いつも彼のこと考えてばっかだったし、その上彼は僕に手を伸ばしてくれて、握ってくれて、なんというか真っすぐすぎて僕も困ったんですけど、そりゃ僕も一緒が良いというか、そんなつもりなかったとなると今さらじゃ嘘なわけで、彼と生きることができるならずっとそうしたかったし、そのために学園に入学してたし、自分でも色々大口叩いたりもして――――」

 

「もう結構です」

 

「あ、はい」

 

 いつの間にか思考そのまま垂れ流しになっていたが、しかし冷たい一言がせき止める。

 

 まずい、とアルマは思った。

 全く自分らしくない。自分の言動をこんなに制御できないことなんていつぶりだ?

 ウィルと知り合ってから大体そうだった。

 

「貴女は―――本当に、あの子が好きなんですね」

 

「んんんっ!!!」

 

 そして今もそうだった。

 今までで最も顔を赤くし、体を固くし、天を仰いで、

 

「………………はい」

 

 それでも、確かに頷いた。

 それに嘘はないし、嘘なんてつけやしない。

 おそらく、ウィルの両親という相手は世界で唯一、アルマが素直にならざるを得ない相手なのだろう。

 

「良く分かりました」

 

 ベアトリスが口を開く。

 灰の髪が、微かに揺れた。

 軽く首が傾き―――ふわりと、微笑んだ。

 

「息子は素敵な恋人と巡り会えたようですね」

 

「――――」

 

 その仕草をアルマは良く知っていた。

 ウィルの癖と全く同じ動き。

 そしてアルマは知らない。

 ずっと昔、多くの人から慕われていたウィルの父は、しかしある戦いの後ベアトリスのこの仕草とほほ笑みを見て恋に落ちたということを。

 

 燃え尽きた灰の中から新たに命が生まれる様な。

 そんな暖かな笑顔からウィルの両親は結ばれたのだ。

 

「……ウィルにそっくりですね、それ」

 

「むっ」

 

 ほほ笑みは消えて、元も無表情に戻る。

 だが微かに困ったように眉を顰め息を吐いた。

 

「昔から気が緩むと出てしまうのですが……あの子の前ではついやってしまっていましたね。気を付けているのですが」

 

「あぁ……なるほど」

 

 思わず笑みが零れた。

 つまりこの人は自分の息子の前ではつい気が緩んで笑ってしまうような、そんな人なのだ。

 身体から力が抜けていく。

 緊張が解けてしまえばアルマの頭脳は明晰だ。

 一目見れば、魂を見てどういう人間か理解できるし、ちょっとした仕草や行動から根底が透けて見える。

 

「貴女は、素敵な母親なんですね」

 

「…………どうも」

 

 少し照れたのか、少し咳払い。

 そして少し、目を伏せ何かを考えて。

 きっと、今度は意図的に首を傾けながら微笑んだ。

 

「貴女にもそう思ってもらえると嬉しいです」

 

 

 

 

 

 

「さぁ、ウィル。飲んで見るといい」

 

 アルマとベアトリスがリビングで向かい合う中。

 その外、小さな机と椅子だけのテラスでウィルは父親から酒を注がれていた。 

 室内の会話は聞こえない。聞きたいような聞きたくないような気もする。

 そんなことを想いながらランタンと月明かりに照らされた酒瓶を見た。

 

「……父さん、僕まだお酒が飲める年齢じゃないんだけど」

 

「ははは、いいのいいの。こんな僻地だし、誰も気にしない」

 

 朗らかに笑う黒髪に眼鏡の男性。

 顔立ちはウィルには似てないが、髪色や雰囲気はウィルにそっくりだ。

 ウィルがもう20年ほど年齢を重ねれば、よく似るだろう。

 ウィルの父、ダンテ・ストレイト。

 緩んだ頬は既に微かに赤く染まっている。ウィルがテラスに来る前から飲んでいたのだろう。

 

 酒を飲みたいと、ウィルはあまり思わない。

 前世では飲んで酔うなんて余裕はなかった。酒を飲む暇があれば働いてたと思う。大半の人は仕事の辛さを酒で紛らわすらしいが、そんなことできない。

 いくら酔ったとしても家族を失い、妹が自ら命を断った苦しみは紛れなかったのだから。

 

「一人息子が嫁を連れて来た、それも4人も。これは父として盃を交わさずにはいられない」

 

「いや、アルマさん以外は嫁ってわけじゃ……」

 

「ははは、鈍感だと大変だぞ。君はそうでもないだろう。気づいているだろう」

 

「……まぁ、うん」

 

「ちなみに父さんは母さんと結婚するって周りに言った時わりと散々な目にあった。懐かしい、ははは」

 

「…………」

 

 呆れながら、父に差し出されたカップを取る。

 たまにしか笑わない母とは反比例のように、父は普段からよく笑う人だ。

 それもわりと朗らかに。

 自分の笑い方は、どちらかというと母親似だ。

 全体的な雰囲気は父親似だし、アルマたちにもそう言われたけれど、多分自分は母の方が似ていると息子は思っている。

 カップの中にあるのははちみつ酒だろうか。

 王国や帝国ではポピュラーな酒類だ。

 

「乾杯しよう、ウィル」

 

「何に?」

 

「帰ってきた息子に。それを迎えた妻に。君の恋人たちに」

 

 そして、

 

「―――――今は亡き我が恩師、ゼウィス・オリンフォスに」

 

 ダンテは月へとカップを掲げる。

 ゼウィス・オリンフォス。

 『大戦』における英雄。魔族との戦いにおいて最前線に立ち、かつてバラバラだった国家間をまとめ上げた1人とされ、事実世界中の将来有望な若者を集めるアクシア魔法学園の創立者だ。

 けれど、ウィルにとっては敵という印象が強い。

 正確にはウィルはゼウィスを知らない。ウィルが出会い、戦ったのはゴーティアが再現しただけだったから。

 学園に導いてくれたことは感謝しているが、それもゴーティアの都合あってのもの。

 だから決していい感情は無い。

 だが、

 

「あの人には大戦時世話になってね。お母さんと出会った時もゼウィスさんの紹介だった。当時は同僚としてだけど。……うん。ベアトリスと結婚して、隠居生活送れてるのもあの人のおかげだったんだけどなぁ」

 

 その横顔からは表情は読めない。 

 微笑んでいるけれど泣いているような、月明かりが眼鏡を照らし、奥の瞳を移さなかった。

 

「……父さん」

 

「あぁ、いいんだ。君が倒したあの人はもう、あの人じゃなかった。君はこの世界に生きる者としてやるべきことをした。それは誇るべきことだし、僕は君が誇らしい。でも」

 

 ダンテはカップを煽った。

 

「恩師が恩師でなかったと気づけなかった自分が情けない」

 

「……」

 

「……なんて。悪いね、ウィル。こういう話をしたいんじゃなかったんだ」

 

 ウィルには分からない話だ。

 ウィルにはウィルの物語があり、前学園長は登場人物ですらなかった。

 けれどウィルの父であるダンテにとってはそうではなかったという話だ。

 

「さぁ、もう一度乾杯しよう。君の二年目を祝ってね」

 

「うん」

 

「それと、今母さんと話している可愛らしい恋人にも」

 

「…………大丈夫かなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 そして帰省は終わり、始まる新学期。

 ウィルにとっては二年目の。アルマにとっては1年目の。

 学園生活が始まる。

 

 そんな彼らの前に一人の少年は現れた。

 

「新1年、第三席」

 

 赤い瞳と赤い髪。

 ウィルの知らない後輩。

 

「アレス」

 

 ウィルの知らない名前。

 

「――――アレス・()()()()()()。以後、お見知りおきを」

 

 けれど、ウィルの知っている姓を持った少年だった。

 

 

 

 




ダンテ
鈍感のモテモテ野郎だったけどマッマの笑顔にイチコロされた。

その生涯に七度の分岐点となる戦いがあったという。
そして七度目の果てに彼は運命の女を手に入れた。

ベアトリス
滅茶苦茶初期から出てくるけど全くデレない、なのに主人公と共闘して息はあって非攻略系ヒロインかと思ったらラストバトルあたりで大デレかましてヒロインをもぎ取るタイプの女
ウィルは母親似。

アルマ
死ぬほど緊張していたせいでキャラ崩壊
敬語が似合わなさすぎる女

ゼウィス・オリンフォス
死した英雄

アレス・オリンフォス
英雄の子


次回から2年生編にごわす。

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GRADE2 Boy meets Girl Again
やっぱこのスレはこうじゃなくっちゃ


初心に返る回


3215:2年主席>1

新学期が……始まりました!!!

 

3216:名無しの>1天推し

ウオオオオ!!

 

3217:名無しの>1天推し

オオオオ!!

 

3218:名無しの>1天推し

来たわね

 

3219:名無しの>1天推し

おぉ……

 

3220:名無しの>1天推し

新年度……! 年度初め……仕事が……多い……!

 

3221:自動人形職人

懐かしい響き、新学期

 

3222:名無しの>1天推し

確かに。世界によってはそういう概念がないもんな

 

3223:デフォルメ脳髄

人によって反応が全く違っててウケる

 

3224:名無しの>1天推し

1年大体365日前後で1月も大体12か月くらいなのはどの世界でも似たような感じだけど

年の初めとかは微妙にずれるよな。

学校とかは春始め多いが。

 

3225:名無しの>1天推し

自分のとこ秋スタートだわ

 

3226:名無しの>1天推し

こっちは2月頭が新年だったりする

 

3227:デフォルメ脳髄

旧正月かな?

 

3228:名無しの>1天推し

できれば春休みは終わらないでほしかった

 

3229:1年主席天才ちゃん

そんなこと言ってるから進級試験落ちるんだよ君

 

3230:名無しの>1天推し

おおおおおお落ちてませんわ!?

いや一回落ちましたけど!!

結局セーフでしたわ!?

 

3231:名無しの>1天推し

ステゴロネキ……

 

3232:名無しの>1天推し

どうして……

 

3233:デフォルメ脳髄

草生えますわよ

 

3234:2年主席>1

大丈夫だったんですか?

 

3235:ステゴロお嬢様

えぇまぁ一応なんとか。

落第認定受けた後でちょっと平和な社会に戦争が起きかけてそれを阻止した功績が認められまして……

 

3236:ステゴロお嬢様

やっぱ最後に信じられるのは腕力なのですわ

 

3237:名無しの>1天推し

えぇ……?

 

3238:名無しの>1天推し

さらっと戦争止めてて草

 

3239:自動人形職人

映画化しそう(こなみ

 

3240:1年主席天才ちゃん

そして進級してさらに難易度の上がった魔法関係の単位に苦しむのであった

 

3241:ステゴロお嬢様

ギョエエエエエエエエエエ!!

 

3242:デフォルメ脳髄

お嬢様の姿か、これが……?

 

3243:名無しの>1天推し

おハーブ

 

3244:自動人形職人

ギョエって

 

3245:名無しの>1天推し

>1は新学期どうなんだろ

 

3246:名無しの>1天推し

二年生かー。

 

3247:名無しの>1天推し

しかも天才ちゃんが後輩。

 

3248:名無しの>1天推し

>1先輩!

 

3249:2年主席>1

基本的にはあんまり変わらないですかね。

生徒会の仕事は去年でそれなりに慣れましたし、やることは然程変わらないらしいですね。

 

学年が上がると、それこそ先輩に持ちかけられた師弟制度で後輩の面倒を見たり、

フィードワークとかに後輩を引率するとかですね

 

3250:名無しの>1天推し

ほうほう

 

3251:名無しの>1天推し

去年先輩がしてくれたことそのままするわけか

 

3252:デフォルメ脳髄

てかあの師弟制度、>1も使うん?

それこそ天才ちゃんとか鳥ちゃんとか弟子にしたり

 

3253:1年主席天才ちゃん

まぁ僕的にはそれでもよかったんだが

 

3254:2年主席>1

流石に天才さんを弟子というにはちょっと……

 

3255:名無しの>1天推し

まぁそれはそう

 

3256:名無しの>1天推し

天才ちゃんを弟子とか恐れ多すぎるんよ

 

3257:デフォルメ脳髄

そんな……師弟逆転プレイで二人きりの時間を過ごす>1と天才ちゃんは……?

 

3258:1年主席天才ちゃん

寝言は寝ていえ

 

3259:デフォルメ脳髄

脳髄に睡眠機能はないんよ

 

3260:1年主席天才ちゃん

こいつ

 

3261:名無しの>1天推し

 

3262:名無しの>1天推し

ないの……?

 

3263:2年主席>1

まぁ天才さんとの時間は作ればいいですしね

というか作りますし

 

3264:1年主席天才ちゃん

ンンンン

 

3265:名無しの>1天推し

あら~~~

 

3266:名無しの>1天推し

流石>1……!

 

3267:自動人形職人

惚れる

 

3268:名無しの>1天推し

あら~~~~^^

 

3269:名無しの>1天推し

これこれ

 

3270:名無しの>1天推し

何度見ても最高

 

3271:名無しの>1天推し

勉強頑張りますわ……!

 

3272:名無しの>1天推し

そこ?

 

3273:名無しの>1天推し

まぁそこは頑張れ

 

3274:名無しの>1天推し

そういえば今頃真っ赤になってもだえてる天才ちゃんと

この少女漫画もびっくりなセリフを素面で言ってる>1に聞いてみたいことあったんだが

 

3275:1年主席天才ちゃん

もだえてないが?????

 

3276:2年主席>1

なんでしょう?

 

3277:名無しの>1天推し

ほら、あの……D・Eの子供がなんか>1に挨拶しに来たみたいな話あったじゃん

 

3278:名無しの>1天推し

あー

 

3279:名無しの>1天推し

あったな……

 

3280:自動人形職人

詳しく聞けてなかったですね。

その後どうなったかも含めて

 

3281:2年主席>1

えぇと……なんというか、普通、ですかね?

 

3282:名無しの>1天推し

普通

 

3283:名無しの>1天推し

>1の普通か……

 

3284:1年主席天才ちゃん

結論から心配ごとになるであろうことを先に言うが、

彼がD・Eの因子を持っているとかそういうのはないね。

 

完全に普通の人間だ。

これは僕もちゃんと魂見て確認したので問題ない。

 

3285:1年主席天才ちゃん

仮に問題があった場合、僕の眼を誤魔化す隠蔽スキル持ちだ

そうなるとちょっとどうしようもない

 

3286:名無しの>1天推し

なるほど……

 

3287:デフォルメ脳髄

それは確かにどうしようもないな。

 

態度とか大丈夫なんか? >1……というかあの時いた俺たちみんなそうだけど、そいつの仇なわけじゃん

 

3288:2年主席>1

そういうのもないですね。

入学時に直接挨拶に来た時は僕もビビりましたけど、

それ以降も特に何も。

 

3289:1年主席天才ちゃん

僕から見ても素行に問題はないね。

クラス同じだけど、むしろ大人しいしまとも。

 

ちなみに彼は1年の3席、主席が僕で次席がフォン、そこに次ぐわけだ。

結構優秀だよ。

 

3290:名無しの>1天推し

はえ~

 

3291:名無しの>1天推し

天才ちゃんは言うまでもないし、鳥ちゃんも滅茶苦茶強かったわけだし、

そう考えるとめっちゃ優秀だな。

 

3292:自動人形職人

ちなみにその……

 

3293:1年主席天才ちゃん

 

ttp:tensaityannnomegumi……

 

ほら

 

3294:名無しの>1天推し

うおっ

 

3295:名無しの>1天推し

なんだこのイケメン

 

3296:名無しの>1天推し

顔が……顔がいい……!

 

3297:名無しの>1天推し

赤髪赤目黒スーツイケメン……!

 

3298:自動人形職人

ぬぅ……これまでいなかったタイプですね……!

スーツとは>1みたいなファンタジー世界にはミスマッチと思いますが

今思い返せば>1の学校の制服はジャケットにシャツでしたしね、指定の臙脂やチェック柄ではなく全て黒にすればシンプルなダークスーツになるわけですね……!

おまけに革の黒手袋に黒スリーピースとは。全身黒尽くめ白シャツだからこそ本人の赤髪赤目が映えますね!

 

武器これ刀? 鍔のない直刀ですかねこれ。鞘も柄も黒い。

太目のガンベルトのホルスターで固定しているのもニクい。

 

髪はこれ七三? にちょい長めの髪型ですね。

シンプルに凄いイケメンなので変な色気を出す。

 

3299:名無しの>1天推し

これでアイドルとかやられたら余裕で推せてしまう。

 

多分ネオ七三ってやつ。>1の世界で何て呼ぶか知らんけど現代世界のこっちじゃそう呼んでる

 

3300:デフォルメ脳髄

ちょっと影がある表情なのもずるいな。

 

3301:名無しの>1天推し

まっくろくろすけかよ

 

3302:名無しの>1天推し

あらぶる職人ニキ

 

3303:1年主席天才ちゃん

まぁこの感じで口数は少ないけど、話しかけられたら応えるから

女子受けは滅茶苦茶いいね。多分一週間もしたらファンクラブ出来上がるよ。

 

3304:デフォルメ脳髄

天才ちゃんとか>1にはないの?

 

3305:1年主席天才ちゃん

こっち来て知ったけど、>1にもあるよ。新2,3年メインで流石に1年はいないけど。

会長はあの鬼姫様、経理は先輩の彼女。鳥ちゃんもまぁ当然のように入学と同時に入った。

 

3306:名無しの>1天推し

 

3307:名無しの>1天推し

姫様はさぁ

 

3308:名無しの>1天推し

流石すぎるでしょ

 

3309:2年主席>1

そんなものがいつの間に……

 

3310:名無しの>1天推し

むしろ入りたいんだが?

 

3311:名無しの>1天推し

というか俺たちも似たようなものでは……

 

3312:名無しの>1天推し

天才ちゃんは入ってないの?

 

3313:1年主席天才ちゃん

僕が入る必要あるか?

 

ある意味僕が会員0号だろ。

 

3314:名無しの>1天推し

いやまぁ……

 

3315:デフォルメ脳髄

一番強火だしな

 

3316:2年主席>1

ファンより恋人でいて欲しいです

 

3317:1年主席天才ちゃん

んぐ

 

3318:名無しの>1天推し

あら~~~^^

 

3319:名無しの>1天推し

本日二度目のてぇてぇですよ

 

3320:名無しの>1天推し

最高

 

3321:名無しの>1天推し

新年度……勝ったな

 

3322:1年主席天才ちゃん

そういうことは!!!

ここで言うんじゃないよ!!!!

 

3323:デフォルメ脳髄

つまり二人きりで言えってことですか!?!?!?!

 

3324:名無しの>1天推し

あぁ!!!!

 

3325:名無しの>1天推し

なるほど!!!!!!

 

3326:2年主席>1

じゃあそうします。

 

3327:1年主席天才ちゃん

……………………それは、こう……まぁ……

 

3328:名無しの>1天推し

^^

 

3329:名無しの>1天推し

天才ちゃん……葛藤……! 圧倒的葛藤……!

 

3330:名無しの>1天推し

今日は供給が多いわね

 

3331:名無しの>1天推し

最近色々あったけど、やっぱこのスレはこうじゃなくっちゃ

 

3332:自動人形職人

ふぅ……これを見ながら嫁メイドに淹れてもらった紅茶を飲むのが最高

 

3333:名無しの>1天推し

天才ちゃんのはないんだっけ?

 

3334:2年主席>1

それはそれとして僕が作りますか

 

3335:1年主席天才ちゃん

なんで????????

 

3336:デフォルメ脳髄

似た者カップルか???

 

 




>1
ファンクラブ……そういうのもあるのか!

天才ちゃん
赤面してもだえてたけど一瞬で素に返った。
僕だってファンでいられるより恋人でいてほしいんだい。


ステゴロお嬢様
なんかすげぇ感じ悪い新任先生いるなと思ったら最後の最後に理不尽落第を食らったらテロリストのスパイで戦争起こそうとしてた件。
腹いせに怒りのままに遠当てに覚醒してなんとかなった。
ハリポタかよと思ったけど流石にあそこまで治安は悪くない


アレスくん
黒スーツ刀持ち赤髪長髪ネオ七三ちょい陰ありのイケメンボーイ
既に湿度と重力を醸し出す見た目してる


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あ、いや、その、そういうのでは……!

3907:名無しの>1天推し

時にそっちに移住した天才ちゃんに質問なんだけどよ

 

3908:1年主席天才ちゃん

正確に言うと移住はまたちょっと語弊があるんだが……何かな

 

3909:名無しの>1天推し

天才ちゃんってマルチバース最高の魔術師なわけじゃん

 

3910:1年主席天才ちゃん

いかにも

 

3911:名無しの>1天推し

さらっと隕石落としたのは一生忘れない

 

3912:名無しの>1天推し

次は言ってね♡

 

3913:1年主席天才ちゃん

時と場合に寄る

 

3914:名無しの>1天推し

そんな天才ちゃんって、>1の学校で勉強することってあるの?

 

3915:名無しの>1天推し

あぁ……

 

3916:自動人形職人

それは……うーん……

 

3917:名無しの>1天推し

実際天才ちゃん今どのくらいのチート発揮してるんだろ。

なんかしょっちゅうメモしてるぽいけど

 

3918:1年主席天才ちゃん

はぁ……

 

3919:名無しの>1天推し

おっと重い溜息

 

3920:名無しの>1天推し

これは罵倒の予感

 

3921:1年主席天才ちゃん

これだから馬鹿は……

 

3922:名無しの>1天推し

言われてるぞステゴロネキ

 

3923:名無しの>1天推し

風評被害ですわ! 私ではなくてよ!!!!!!

 

3924:名無しの>1天推し

 

3925:名無しの>1天推し

ステゴロネキが馬鹿担当

 

3926:名無しの>1天推し

いやまぁ天才ちゃんからしたらみんな馬鹿でしょ

 

3927:デフォルメ脳髄

思考速度だけならタメ張れるぜ!!!!!

 

3928:名無しの>1天推し

ほんとぉ?

 

3929:名無しの>1天推し

脳髄ニキも大概チート

 

3930:自動人形職人

まぁでも実際どうなんでしょ

 

3931:2年主席>1

わりとチートとか魔法は抑えめにしてる印象ですけど

 

3932:1年主席天才ちゃん

まぁそうだね。

僕の使う魔法はそもそも>1の世界のとは法則が異なるから、そっちは基本使ってないかな。

>1やトリウィアに色々教えることはあるけど、それくらい。

 

僕の転生特権≪森羅知覚≫もデフォは封印してるね。

詳細は省くが、君らが思うほど使い勝手が良くないし。

 

3933:名無しの>1天推し

チートあるある、実際使うと色々めんどい

 

3934:名無しの>1天推し

それな

 

3935:名無しの>1天推し

特にない身からすると羨ましいんけどな

 

3936:名無しの>1天推し

そのあたりは一長一短、特権次第という印象

たまにアホみたいにシンプルに糞強いのあるし

 

3937:名無しの>1天推し

あー、配信勇者ちゃんとかね。あれはちょっとずるい

 

3938:1年主席天才ちゃん

あれは僕が知る限りでもほんとに最強クラスだな……

 

3939:2年主席>1

はえー、そんな人もいるんですね。

自分じゃあんまりスレ見ないしな……。

 

3940:デフォルメ脳髄

まぁ特権とはうまく付き合おうな!

しくると俺みたいに脳髄ルートだぜ!!

 

3941:名無しの>1天推し

それはない

 

3942:名無しの>1天推し

それはない

 

3943:名無しの>1天推し

お前だけや!

 

3944:1年主席天才ちゃん

君もかなり例外パターンだよ。

 

それでチートの話だが僕の場合、それで得られる情報は言ってしまえば本やネットを通して知るだけだからね。

他の世界に赴いてD・Eを倒したり、スカウトするならまぁ困りはしないんだが。

 

普通にその世界で生きていくってなると話は別というわけで。

 

3945:名無しの>1天推し

あーなるほど。

 

3946:名無しの>1天推し

知識だけと実体験は違うもんなぁ。

 

3947:自動人形職人

知ったかぶりオタクだけにはなりたくないですね

 

3948:名無しの>1天推し

実際、掲示板越しだと転生者の話って笑い話になりがちだけど、

張本人からすると笑えないこと多いよね。

 

3949:名無しの>1天推し

それはそう。

 

3950:デフォルメ脳髄

ギャグにして笑ってられるのは逆に幸せかもしれん

 

3951:名無しの>1天推し

そうか……?

 

3952:名無しの>1天推し

そうかもしれないこともある。

 

3953:1年主席天才ちゃん

人それぞれだねそのあたり。

 

何にしても、基本は>1の世界基準の能力しか発揮してないからそこまで万能性はないよ。

他の世界監視とかは今まで通りだけど。

 

3954:1年主席天才ちゃん

まぁそれでも主席取っちゃうのが僕なんだけどね!!!!

 

3955:名無しの>1天推し

さす天

 

3956:名無しの>1天推し

うーんこの

 

3957:名無しの>1天推し

ドヤァという声

 

3958:自動人形職人

むしろ天才さんじゃなかったら怖い

 

3959:デフォルメ脳髄

あの世界わりと強さのアベレージっての? かなり高い印象だったのにな。

姫様とか先輩とか鳥ちゃんにしても、かなり強かったでしょ。

 

3960:名無しの>1天推し

あー確かに

 

3961:名無しの>1天推し

滅茶苦茶良い筋肉の女傑もいたしな

 

3962:2年主席>1

そのあたりなんというか、僕が言うのもなんですけどあの学園の成績上位者って、

僕の世界でもかなり上澄みなんですよね。

 

多分主席次席なら上位数パーにはいるレベルで。

 

3963:名無しの>1天推し

へぇ

 

3964:名無しの>1天推し

おー

 

3965:名無しの>1天推し

まぁそうじゃなかったら困るという感も

 

3966:自動人形職人

>1の世界の最高学府なんですっけ

 

3967:デフォルメ脳髄

世界各国の天才や王族とかを集めまくってる……んだっけ?

 

3968:名無しの>1天推し

姫様は姫様だし、先輩は帝国貴族様だし、鳥ちゃんは……一応鳥人族じゃ偉かったもんな。

 

3969:2年主席>1

ですね。

そういう意味では僕の母も帝国貴族ですし、異世界から来たアルマさんを除けば

今の生徒会、主席次席は全員各国のブルーブラッドっていうわけです。

 

3970:名無しの>1天推し

血統……血統……!

 

3971:名無しの>1天推し

まぁそりゃあ中世だと余計に優秀な遺伝子掛け合わせるわけでそりゃ良くなるわな。

 

3972:1年主席天才ちゃん

系統魔法はある程度血統継承されるのでそのあたりある程度あるね。

識字率や学習度合いは首都圏と地方でもわりと格差あるから、幼少時代から高度教育受けられるのも強い。

 

>1が生まれる前、というか魔族戦争時代はもっと格差酷かったらしくだいぶマシになったみたいだが。

 

3973:名無しの>1天推し

ほー

 

3974:名無しの>1天推し

さすが詳しい

 

3975:2年主席>1

なるほどなー

 

3976:名無しの>1天推し

>1も納得してて草

 

3977:デフォルメ脳髄

なるほど……これが実経験パワー!

 

それこそあの前学園長がまとめて作ったみたいな話あったもんなぁ

 

3978:名無しの>1天推し

あのニチアサ系ラスボス、滅茶苦茶偉大だったのでは……

 

3979:1年主席天才ちゃん

D・Eとして動かないなら憑依先人格通りに動くだろうし、

前学園長とやらはそれだけの傑物だったということだろう。

 

>1のパパママが尊敬しているだけあったわけだ。

 

3980:名無しの>1天推し

マジで惜しい人を無くしたわけねんな

 

3981:名無しの>1天推し

悲しい

 

3982:1年主席天才ちゃん

こほん、そんなわけで生徒でも中々侮れない者も多いね。

特に3年主席次席はなかなか。

 

3983:名無しの>1天推し

へぇ

 

3984:名無しの>1天推し

天才ちゃんがそこまで言うほど?

 

3985:デフォルメ脳髄

なんだっけ主席が龍人だったかなんかだっけ。

 

3986:2年主席>1

ですです。

天才さんと龍人先輩と初遭遇した時ちょっとおもしろかったですよ

 

3987:名無しの>1天推し

お?

 

3988:名無しの>1天推し

>1がそういうのは珍しい

 

3989:自動人形職人

あのなんか愉快そうな人でしたっけ。

 

あまり>1はいつもの3人以外の話はスレではしたことなかったですけど。

 

3990:名無しの>1天推し

何あったんだろ

 

3991:1年主席天才ちゃん

会ってそうそう、仰向けに倒れて喉……まぁつまり逆鱗と腹を晒されたよ。

 

3992:名無しの>1天推し

 

3993:名無しの>1天推し

えぇ……?

 

3994:名無しの>1天推し

げきりん!

 

3995:名無しの>1天推し

なんで?

 

3996:名無しの>1天推し

草より謎が勝る

 

3997:1年主席天才ちゃん

シンプルな話で、龍人族はあの世界でも高位種族だ。

彼女は若くて300歳ほどだがそれでもある程度直接魂、魂魄に近いレベルで他人を見ることができる。

 

そうなると、まぁ、ほら。僕1000歳だし。

それで多分生存本能が働いたんじゃないかな。

 

3998:名無しの>1天推し

あー

 

3999:名無しの>1天推し

魂判断で降参しちゃったかー。

 

4000:名無しの>1天推し

300歳でも天才ちゃんからしたら子供かー。

 

4001:名無しの>1天推し

判断が速い。

 

4002:名無しの>1天推し

逆鱗とか龍種からしたら最大の弱点なわけだし

 

4003:名無しの>1天推し

お腹はなんだ。犬か?

 

4004:1年主席天才ちゃん

それは本人がアホだからしゃーない。

 

4005:名無しの>1天推し

 

4006:名無しの>1天推し

そんなぁ

 

4007:自動人形職人

かなしい

 

4008:名無しの>1天推し

300歳のアホ……

 

4009:名無しの>1天推し

どうして……

 

4010:デフォルメ脳髄

1000年ものの恋愛クソザコナメクジもいたしまぁ。

 

4011:1年主席天才ちゃん

動くなよ。座標魔法ぶち込む。

 

4012:デフォルメ脳髄

アンチマジックガード!!

 

説明しよう! アンチマジックガードとは!

天才ちゃんが使っていた魔法術式やら前のオールスター回の時色々魔法見たり、色んな掲示板見て魔法をラーニングしたり、それこそ>1の対魔法無効障壁をパクって体表面に展開! 結果疑似的に魔術効果を含ませることで対魔法性を持たせた全身防護のことである! 魔法! おもしろいね! 名前は今適当に考えたので次使う時はちゃんとかっこい名前考えるZE!!!

 

4013:1年主席天才ちゃん

対魔法無効攻撃術式を知るがいい

 

4014:デフォルメ脳髄

あっ

 

4015:名無しの>1天推し

の、脳髄ニキィイイイイ!!!

 

4016:名無しの>1天推し

無駄に滅茶苦茶高度なことしてて草

 

4017:名無しの>1天推し

無効に無効を重ねるのはずるいて

 

4018:2年主席>1

むむ……やりますね、脳髄さん。流石。

 

4019:名無しの>1天推し

おっと?

 

4020:名無しの>1天推し

>1?

 

4021:名無しの>1天推し

これは……

 

4022:名無しの>1天推し

やだ>1……ジェラスィー?

 

4023:1年主席天才ちゃん

 

4024:2年主席>1

あ、いや、その、そういうのでは……!

 

4025:名無しの>1天推し

>1にとって天才ちゃんから教えてもらった魔法って

天才ちゃんとの絆、愛の結晶なわけですしおすし!

 

4026:名無しの>1天推し

そういうことを感じても!!!

 

4027:名無しの>1天推し

仕方ないネ!!!!

 

4028:名無しの>1天推し

ウオオオオオオオオオオオオオオオ

 

4029:1年主席天才ちゃん

 

 

4030:名無しの>1天推し

ウオオオオオオオオオオオオオオ!

 

4031:名無しの>1天推し

ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

4032:名無しの>1天推し

ジェラシー>1!

 

4033:名無しの>1天推し

普段温厚で優しい好青年が恋人にだけちょっと独占欲発揮しちゃうやつ!!!

 

4034:自動人形職人

くっ……これは永久保存!!

 

4035:名無しの>1天推し

固まった天才ちゃんもいいですね~^^

 

4036:2年主席>1

か、勘弁を……!

 

 

 

 

 

 

 

 

4118:名無しの1天推し

祭りになってしまった。

 

4119:名無しの1天推し

暴れ過ぎたな……

 

4120:名無しの1天推し

あまりにも破壊力が高すぎた

 

4121:名無しの1天推し

もだえてたせいで旦那と娘に心配されてしまった

 

4122:名無しの1天推し

テンション上がったオタクは良くないですね……

 

4123:自動人形職人

>1……ご迷惑をおかけしました……

 

4124:名無しの1天推し

すまぬ

 

4125:名無しの1天推し

ごめん

 

4126:名無しの1天推し

ごめんなさい

 

4127:2年主席>1

いえ、その……まぁ忘れていただけると……

 

4128:1年主席天才ちゃん

おい誰か話を変えろ

 

4129:名無しの1天推し

そういうの担当の脳髄ニキを天才ちゃんが吹っ飛ばしたのでは……

 

4130:自動人形職人

ええとそれでは僭越ながら僕が話題を変えますが。

 

4131:名無しの1天推し

職人ニキ!

 

4132:名無しの1天推し

来たか!

 

4133:名無しの1天推し

コテハン古参勢!

 

4134:名無しの1天推し

メイドさんに変わってもらえません?

 

4135:自動人形職人

嫌です

 

龍人先輩の写真が見たいです!!!

 

4136:1年主席天才ちゃん

 

ttp/tensai……

 

言うと思った

 

4137:名無しの1天推し

いつもの

 

4138:名無しの1天推し

ブレないな……っておぉ

 

4139:名無しの1天推し

ザ・龍人って感じのべっぴんさんだ……

 

4140:自動人形職人

ほほう……以前のアレスさんよりもさらに濃い、赤というより真紅の髪と金色の瞳。

頬や首筋に鱗が浮かび、側頭部には大きな二本角……! 巌を切り出したような武骨さと水晶なような鋭利さ。

どうなってるんですかねあれ、頭蓋骨からVに骨が伸びてる? 肌の角質の変容?

鬼姫様の一本角とはかなり違いますね……!

 

服は真紅のこれ……ラテンダンスのドレス風?

装飾はそういう感じですけど、形としては鳥ちゃんのそれに近いチャイナドレスですね。

背中は普通だけど袖なし深いスリット。亜人の方って大陸風の意匠が共通してありますけどその流れでしょうか。

 

しかもこれ手足タイツとかアームカバーじゃなくてこれ鱗ですか? 太ももあたりまでと二の腕までが赤黒い鱗に覆われててそういう服にも見えますね。フリルとかと相まってどこが鱗なのかどこか衣装なのか分からない感じがあってかなりのセンス……!

 

4141:名無しの1天推し

職人ニキ怒涛の長文……!

 

4142:名無しの1天推し

中華風のラテン風融合みたいなのはおしゃれだな

 

4143:名無しの1天推し

いやしかしデカくね?

 

4144:名無しの1天推し

デカい……

 

4145:名無しの1天推し

なんか姫様の時も似たようなレスあった気がする

 

4146:名無しの1天推し

いやこの場合はそういうやつじゃなくてさ

 

4147:名無しの1天推し

普通にデカくね!?

 

4148:自動人形職人

2メートル……ないにしても190はありそうですね。

サイズ比率で言うと姫様の胸の方が大きいんでしょうけど、

純粋なスケールというかサイズ自体では龍人先輩さんの方が凄いですね。

 

4149:名無しの1天推し

スリーサイズ的な意味でもかなり大きいけど、全体的にガタイがよすぎぃ!

 

4150:名無しの1天推し

でかいしかでてこん

 

4151:1年主席天才ちゃん

首が痛くなるんだよなぁ、彼女と話すとき

 

4152:2年主席>1

言うまでもなく馬力もすごいですからね。

 

クリスマスの時は、ゴーティアの眷属ゴリゴリ引きちぎったり燃やしてたらしいですし。

 

4153:名無しの1天推し

>1より強いん?

 

4154:2年主席>1

条件次第だとかなり厳しいですね。生徒会の人相手だと全員そんな感じです。

 

4155:1年主席天才ちゃん

ここのメンツに放り込んでもそこそこの勝率拾えるレベルだ。

このドラ娘は知能があれだが経験による知識は豊富だし、それなりに学べることもある。

 

というかこのスレに映ってないだけであの学園やっぱり人材豊富だしね。

 

4156:自動人形職人

ふふふ……次回は次席の方もよろしくお願いします!!!

 

4157:名無しの1天推し

なんのかんのオチが付いたな―――

 

4158:名無しの1天推し

あぁ……一時はどうなるかと

 

4159:名無しの1天推し

とりあえず今日はここまでやな!

 

4160:名無しの1天推し

おねむの時間よ!!

 

4161:名無しの1天推し

むしろ今から出勤や――――

 

4162:名無しの1天推し

がんば

 

4163:2年主席>1

お疲れ様です

 

4164:デフォルメ脳髄

>1がジェラって天才ちゃんが思考停止して祭りがあったとかマジ!?!?!?!?!?!

 

4165:1年主席天才ちゃん

もう終わったよ!!!!!!!!!!!!!!!

 




>1
ちょっとジェラってしまった

天才ちゃん
ジェラられてベッドで悶絶していた

脳髄ニキ
>1と天才ちゃんの絆をパクったのは悪かったかなと思いつつジェラ>1を引き出したということで>1天ディスコでは大絶賛されている


天音ナギサ
>3948-3953
あたりで完全に表情が無になっていたという


龍人先輩
なんもかんもでかい300歳のスパニッシュチャイナアホドラ娘
ちなみに上記のドレスはいわゆる正装、戦装束なので特注の制服を着てる時も多い。
フォンと仲良し。
天才ちゃんには完全降伏状態。


GRADE2ではこれまであまり出てこなかった三人娘以外の現地キャラも出して行きます。
3年次席の人とかも


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エクイヴァレント・イクスチェンジ

是非最後までご覧ください


「僕の使う魔法は、君たちの使う魔法とも他の世界の魔法とも根本的に術理が異なる」

 

 学園校舎のある図書館の一室。

 世界最高峰の学舎として、そこには多くの学術書・魔導書の原本、写し本等々が納められている。まだ新学期が始まって一週間、もう少し時が経てば日々の課題や自身の研究に励む生徒で溢れかえるだろう。少なくとも新生活が始まって一週間で図書館に足を運ぶ者は相当なもの好きだ。

 当然、書架の中机を挟んで向かい合うアルマとトリウィアも物好きに入るのだろう。

 

「この世界の系統魔法も含め、大概の世界の魔法は物理現象の再現だ」

 

 机の上、広げた小さな右手の平の上に小さな水球が生まれる。

 拳よりも少し小さいくらいのサイズのそれは落ちることなく浮き続ける。

 煙草を蒸かすトリウィアは眼鏡を抑えながら黙って聞いていた。

 ただ何も見逃さぬように、聞き逃さぬように、アルマの掌を凝視ししていた。

 

「体内、或いは周囲にある力、魔力とか呪力とか精神力とか、とにかく呼び方は千差万別だけど何かしらのエネルギーリソースを消費して、術式や個人が先天的に持つルールに乗せて魔法を発現するわけだ」

 

 水球を左指で軽く触れると、それが一瞬で氷の玉になった。

 それを掌で握るとすぐに蒸気が上がり、何も残らなくなる。

 

「…………お見事」

 

 ただ、トリウィアの眼鏡が曇って真っ白にはなったが。

 

「おっと失礼」

 

「いえ、よくあることですし」

 

 曇った眼鏡のフレームを何度か叩けば、視界のクリアさが戻ってくる。

 

「君にも見事と言っておこう。実にスムーズだ」

 

「これくらいは日常使用の範囲ですしね。この2か月で完全に系統魔法を把握しているアルマさんにはとても」

 

「うむ。その賞賛受け取っておこう。学習と修練は得意分野だ」

 

 アルマは口端を吊り上げながら顎を上げ、トリウィアは肩を竦めながら形の良い唇から煙を長く吐き出した。

 

「話を戻そう。世界によって差異はあるにしても現象の再現、あるいはそこからの改変ということは共通している。ある世界にはない現象だとしてもどこかの世界にはあるからね」

 

「ふむ……私たちの魔法系統も確かに物理現象に存在します。ただ『封印』や『時間』、『浄化』というものは?」

 

「『封印』は『鎮静』とかで代用できるだろう。要は活性状態から非活性状態への移行だ。『浄化』も毒素や害の排出だし。観念としてまとめられているだけだ。『時間』にしてもそうだね。普通に生きていたら物理的には触れられないとしても確かに存在しているのだから」

 

「……ふむ。確かに私たちは1つの結果をそれぞれが持つ系統で独自に再現するものですしね」

 

 小さく頷く。それはトリウィアにとっては前提であり、常識のようなもの。

 ウィルとアルマを除けばこの世界で最も多くの系統保有者であり、この世界で有数の魔法研究者にとっては今更過ぎる話だ。

 

 それでも彼女はその話を遮らない。

 これが前置きであることを分かっているから。

 

「では、僕が得意とするものは何かというと」

 

 アルマは机の上に重ねられていた本を取る。

 何てことのない本だ。重なったそれはこの世界の地図や風土、宗教、文化のもの。アルマがこの世界を学ぶためにトリウィアが選んだ参考書だ。

 「王国の歴史入門」という本だ。

 

 それを手にしながら、逆の手で指を鳴らし、

 

「こういうこと」

 

 本だったはずのものがマグカップになっていた。

 二人の間に漂う珈琲は紛れもなく本物だ。

 

「…………うぅむ」

 

 眼は離していなかった。

 なのに、いつの間にか本がマグカップに変わっていたのだ。

 

「ほら、どうぞ」

 

「どうも…………ぐあっ」

 

 貰った珈琲に口をつけたらあまりの濃さにトリウィアは仰け反った。

 またしてもいつの間にか同じものを取り出したアルマは当然のように喉に流し込んでいるが。

 

「……………………濃すぎます。よく飲めますね」

 

「僕にはこれくらいがちょうどいいんだ」

 

 肩を竦めながらマグカップを置き、

 

「僕が使う魔法は言ってしまえば()()()()()だ」

 

 両手の間に小さな白い光が生まれる。

 手を広げればそれは線になり、複雑な文字とも模様とも言える図形にゆっくりと変化していく。

 

「≪アカシック・ライト≫、と僕は呼んでいる。これを媒介として世界法則そのものに干渉・改変するというわけだ。今はだいぶゆっくり出したけど、さっきみたいに小物を出したりするくらいならもう必要なくなった。昔は予備動作色々必要だったけどね」

 

「……うーむ」

 

 青と黒のオッドアイが細まり、≪アカシック・ライト≫を凝視するが、

 

「私にはどうにも理解しきれませんね。何か特別な力がある……というのだけはなんとなく解りますが、それにしてもどういう原理なのか全く謎です」

 

 嘆息しながら煙を吐く。

 

「そりゃそうだ。僕だってこいつを出せるようになるのに10年くらいかかったんだぜ?」

 

「……そんなに?」

 

「僕にもそういう時期はあった。そっから術として確立させるのにも随分かかったしね。今みたいにあれこれ自由にできるのは……えぇと、700年くらい前かな」

 

「……つまり、完全に習得するのに300年は掛かると」

 

「まぁね。もっとも、僕の場合はかなり効率は悪かっただろうが」

 

 思わず苦笑してしまう。

 アルマの特権≪森羅知覚≫は得られる情報量そのものは文字通り世界全てだが、かつての彼女にはそれを正しく処理することができなかった。

 

 まさしく出会った頃のウィルと同じと言える。

 できることが多すぎて、逆にできない。

  

 眼の前にあらゆる知識があるけれど、それ通りに実践するのは簡単なことではなかったのだ。

 

「これは単一世界だけではなく、マルチバースの根底に通じる力だ。難易度は当然高い」

 

「……後輩君が、あの魔族を倒したのもその力ですか」

 

「そうだね。ただあれは僕がサポートした上だ。ウィルもウィルで特別だからできる可能性はわりと高いけどそれでも一朝一夕……いや、うーん。彼は次元門は開いてたしな、模倣くらいならいけるか。無理をすると脳が弾けそうだから基本やらないようにとは忠告したけど」

 

「なるほど」

 

 頷き、煙草の灰を灰皿に落とす。

 咥え直して煙を深く吸い込んでから吐き出して、

 

「――――私は、可能ですか?」

 

「可能だ」

 

 聞いたのは即答だった。

 

「マルチバースを理解すれば使えるんだから使えるのが当然だ。難易度が死ぬほど高いだけでね。その点君は僕から見ても実に優秀だ。総合力という点で見ればクリスマス……建国祭で集まった人間でも最高級だろう。故にできる」

 

 紅玉の瞳を輝かせ、掌に魔法陣を浮かべた彼女は笑う。

 

「時間は掛かるだろうけどね」

 

「けれど不可能ではない。知ることができる」

 

 ならばと、トリウィアの唇が薄く歪む。

 酷薄、とさえ言っていい。

 普段無表情な彼女だが知識に、知ることに呪われたと自らを嘯く彼女は、目前に広がる途方もない未知に歓喜しないはずがない。

 或いはそれが途方もないものだとしても。

 ただの未知ではない。

 本来この世界に生きていれば知ることができるはずのない叡智。

 人生を懸けても満足することはないのかもしれない。

 自分には身の丈にも合わないものかもしれない。

 

 けれど――――「知りたい」という気持ちを抑えることができないのがトリウィア・フロネシスという女だ。

 

「……けれど」

 

 短くなった煙草の灰皿で火を笑みと共に消しながら彼女はアルマに問う。

 

「よかったのでしょうか、私に教えても」

 

「流石に誰にでも教えるわけでもないし、相手を選ぶけどね。君なら問題ないだろ」

 

 それに、と。アルマは周りに積まれている本を手に取る。

 

「ここ2ヶ月、君には色々教えてもらってばかりだったしね。おかげでまぁ、この世界の一般常識は体験できた。情報としてではなく、経験として。それの感謝でもある」

 

「私としてはまるで価値が釣り合っていませんけれど」

 

 新しい煙草に火をつけた彼女は肩を竦めた。

 吸い込んだ煙を、唇を突き出しながら少し上に長く吐き、

 

「私からすればただの常識、それこそ誰でも教えられることです。アルマさんの知識とはまるで価値が釣り合いそうもない」

 

「価値なんてものは人それぞれさ。僕にとっては価値があるものだった、非常にね。それに僕の知識は逆に難易度が高すぎるから、むしろ逆に釣り合いが取れているかもしれない。教えても一朝一夕で身につけられるものじゃないからね」

 

「んん……ま、教えてもらえるのならばありがたく」

 

 そういうものか? とは思ったが一先ず受け入れておく。

 知りたいことに関しては微に入り細を穿つが、そのための手段に関してはわりと細かいことを気にしないのがトリウィアである。

 

「それで何から始めますか?」

 

「さて、そうだな」

 

 アルマは顎を上げ、少し思案気な表情を浮かべ、

 

「――――今日は難しそうだな」

 

 嘆息と共に、突然パチンと指を鳴らした。

 彼女の小さな頭の背後、大きな魔法陣が浮かび上がり、

 

「ぶべっ!?!?」

 

 赤い髪の大きな女が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何故そんなことをするのじゃ!? アルマ様!!!!!」

 

 爬虫類のように縦に割れた瞳孔の金色の瞳。白い肌の頬や首筋に浮かぶ赤い鱗。

 鱗と同じ色の真紅の髪は無造作にポニーテールにされて、その両側頭部は赤黒の角が突き出している。

 学園指定の制服は通常通りだが、しかし本人も含めてサイズ感が狂っている。

 身長約2メートルに近く、それに伴い何もかもが大きい。

 3年主席―――即ち、現在の学園における生徒のトップ。

 生徒会会長、龍族の女、カルメン・アルカラ。

 

 涙目で膝をつく―――それでも座ったアルマと視線の位置はあまり変わらない―――彼女にアルマは振り返りながら呆れつつ、

 

「君のその巨体で飛びかかられたらどう考えても潰れるだろう」

 

「そんな! アルマ様ならばなんとかするじゃろうと思うて……!」

 

「なんとかして防いだじゃないか」

 

「なるほど!」

 

「……」

 

 発達した犬歯――どころか鋭くギザギザした歯を見せながら笑うカルメンに思わず半目になるアルマだった。

 正面に向き直した視線の意味は「こんなのが主席でいいのか?」というものだった。

 しかしトリウィアは無言で肩を竦めるだけ。

 

「カルメンさん、アルマさんが困っていますよ」

 

「むっ、トリウィアかえ」

 

 自身の先輩の存在に今更気づいた彼女が立ち上がれば、猶更大きい。

 アルマもトリウィアも首が痛くなるなぁと内心思う。

 

「全くお主ともあろうものが分かってないのぅ! なにせ、アルマ様は!」

 

「アルマさんは?」

 

「アルマ様じゃからな! がっはっはっは!」

 

「………………がっはっはー」

 

「おいこら乗るな。顔が笑ってないぞ」

 

 巨大な背と胸をそらして拳を腰に当てて笑うカルメンに、無表情で煙草を咥えたまま声だけで笑い声を出すトリウィアに、顔を引きつらせて突っ込むアルマという空間の完成だった。

 

 カルメン・アルカラ。 

 300歳という龍としては成人一歩手前故に、人種との友好の為に大陸極西ある龍の里より訪れた火龍。

 入学当時、彼女に戦力的に勝てた生徒はトリウィアのみであり、教師でもごく一部という実力者でもある。

 

「がーはっは!」

 

 しかし、見ての通りアホだった。

 身体はデカいがノリと頭が軽かった。

 飛ぶことにしか頭がない鳥人族のフォンとは違い、長命で存在そのものが強大であるが故に大概のことに頓着する様子がない。

 ノリが軽い故にいつだったか、トリウィアによりサバトじみた祭りが発生したことがあったがそれに対して憤ることもない。

 

 どうせ100年もしたら死ぬ相手に怒っていられない、というのが彼女の言である。

 

「……君、デカい身体でさらに胸を張って高笑いするな。首が痛いよ」

 

「おぉ……! アルマ様に心配していただけるとは光栄なのじゃ!」

 

「それ止めろ。君の方が先輩なんだし、君がそういう態度を入学式で取ったせいでクラスメイトとかに微妙に引かれてるんだぞ僕」

 

「そんな……うちの里の大長老の爺と同じくらいの魂を持つアルマ様に失礼な態度は取れないですのじゃ!」

 

「止めろ止めろ。大体なんだその口調。似合ってないぞ」

 

「人間は100歳近くなるとこういう話し方になると聞いた故に。三倍年齢のワシもそうするべきと思ったのですじゃ」

 

「いや、まぁ、それはそうなんだが……いいのか?」

 

「本人が納得してるからいいんじゃないですか?」

 

「ですじゃ!」

 

 その理論で行くと10倍年齢のアルマはどんな口調で話すべきなのか。

 考えるだけで頭が痛くなる。

 

「後輩君は、今のアルマさんの喋り方は好きそうですが」

 

「おっっっほん!」

 

 唐突なキラーパスに咳ばらいを一つ。

 どういう感情で言ってるんだと思ったが、例によって完全に無表情だった。

 

 無駄に魔法で眼鏡を光らせて目も隠している当たり、トリウィアも大概アホかもしれない。

 

「全く……というかカルメン。ただちょっかい掛けに来ただけか? 何の用かな」

 

「おぉ、そうでありもうした」

 

「口調マジで変だぞ」

 

「へへっ」

 

「褒めてないんだが?」

 

「話が進みそうにないので進めてください、カルメンさん」

 

「うんむ。というかアルマ様とトリウィアのこと……ついでにウィル、御影、フォンもなのじゃが」

 

「ん……その5人? 僕たちだけじゃなくて」

 

「学園長が探しておったぞ。なんだったか……ユリウス、なんとかちゅー人間がアルマ様に会うとかなんとか……」

 

「曖昧すぎだろ。トリウィア、知っている人かな」

 

「…………えぇ、まぁ」

 

 わずかに眉をひそめ、青と黒の眼を細めた彼女は煙草の火を消し、

 

「ユリウス・()()()()()

 

「………………ん?」

 

「―――――このアクシオス王国の、現王です」

 

「……把握してなかった僕が言うのもなんだけど、よく忘れられるな自分がいる国の王の名前を」

 

「へへっ」

 




アルマ
王様の名前まであまり興味がなかった……というか身分自体への興味が薄い。何でも知りたいトリウィアと違って、必要なことだけ知りたいという塩梅。
何でも知ることができる故に、経験重視派。
折角ウィルと一緒に生きるんだから自分で直接学ばないとね♡

後で口調の話をウィルにしたら、やはり今が一番良いと言われて撃沈した。


トリウィア
別世界の法則を学ぶことができてテンション激やば。
ここしばらく、アルマにアース111の文化を直接教えたのが彼女である。
二年生時、カルメンに低温と消火と加重やらで火龍としての能力をメタりまくったことあり。

カルメン
のじゃデカドラゴン娘
ノリが軽いアホ……であるが、そもそも大半の人種と寿命も基礎スペックも違うので一々気にしない。見下してるわけではないので、結果弄られがちの愛されキャラ。
生徒会面子はまっとうに認めている。

次回、王様謁見準備&クリスマスで流れたアレについて


それでは最後にこちらをご覧ください

【挿絵表示】


HITSUJIさんにskeb依頼をして「僕が君の希望だよ」こと雌オチ三段活用シーンを挿絵にしていただきました。
僕が君がずっと求めてた希望だよ♡
僕がこの状況の希望だよ♡
僕がクリスマスプレゼントだよ♡
最高。
あまりにも最高。
ハイライト入った真紅の瞳が美しすぎますね。
ありがとうございます!!!
自キャラのイラスト最高過ぎて心の栄養になりますね。

該当シーンに挿絵追加するのでよければごらんください


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君らちょっと目を離した隙にはしゃぎすぎだろ

ストレンジ2、まぁ色々ありましたがストレンジの魔法滅茶苦茶かっこよかったですね。


4768:2年主席>1

職人ニキさんはどこですか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

4769:名無しの>1天推し

どうしたどうした

 

4770:名無しの>1天推し

職人ニキなんかやらかした?

 

4771:名無しの>1天推し

珍しいな>1のその感じ

 

4772:名無しの>1天推し

てか初めて見た

 

4773:名無しの>1天推し

えーと前回の>1天は……

 

4774:デフォルメ脳髄

なんか王様と謁見するみたいな話になってた。

晩餐会かなんかだったな

 

4775:名無しの>1天推し

そうそう。クリスマスの時に無くなったダンスとか見れるんじゃね?ってなってたけど

 

4776:名無しの>1天推し

後なんかあった?

 

4777:名無しの>1天推し

そんくらいじゃね?

 

4778:2年主席>1

職人ニキ!!!!!!!!

 

4779:名無しの>1天推し

>1荒ぶってて草

 

4780:デフォルメ脳髄

そういえば別場所でもここでもこの前からレス率低かったけど――――あっ。

 

4781:名無しの>1天推し

おん?

 

4782:メイド嫁

失礼します

 

4783:名無しの>1天推し

!?

 

4784:名無しの>1天推し

嫁さんの方?

 

4785:名無しの>1天推し

クリパでスナイパーライフル振り回してた人!

 

4786:名無しの>1天推し

自然の大精霊的にありなの?

 

4787:メイド嫁

あれはご主人様のハンドメイドなのでむしろ供物的に最上位です。

まぁご主人様のお手製のものなら全て最上位ですが

 

4788:名無しの>1天推し

うーんこの

 

4789:名無しの>1天推し

全肯定メイド私も欲しい

 

4790:名無しの>1天推し

俺も

 

4791:名無しの>1天推し

みんなそうよ

 

4792:名無しの>1天推し

うちのメイドはだいぶ冷たいので人による……

 

4793:名無しの>1天推し

暗殺王ニキかステゴロネキか奴隷童貞ニキなのか……

 

4794:2年主席>1

職人さん……

 

4795:名無しの>1天推し

なんか草

 

4796:名無しの>1天推し

結局なんだったんだ。

 

4797:メイド嫁

おそらく、ご主人様が>1様、天才様、鬼姫様、先輩様、鳥ちゃん様―――――以上五名のパーティードレスをここ数日、徹夜で仕上げた件かと思います。

 

4798:2年主席>1

それです!!!

 

4799:名無しの>1天推し

ドレス!?

 

4800:名無しの>1天推し

あー! 晩餐会?

 

4801:名無しの>1天推し

ドレス……あっ

 

4802:名無しの>1天推し

クリスマスの時のあれか……

 

4803:名無しの>1天推し

裏で天才ちゃんが職人ニキに寸法全部送ってたやつ

 

4804:名無しの>1天推し

そうなの!?

 

4805:名無しの>1天推し

 

4806:名無しの>1天推し

そんなことがあったんですね。

最近覗いてるんですけど、スリーサイズをお渡しするとは……

 

4807:名無しの>1天推し

てか職人ニキ人形職人じゃないんだっけ、服も作れんの?

 

4808:名無しの>1天推し

確かに

 

4809:メイド嫁

自動人形職人ですので躯体本体に衣装、装備、オプション小物までハンドメイドにございます

 

4810:名無しの>1天推し

つえ~~

 

4811:名無しの>1天推し

さす職人ニキ

 

4812:デフォルメ脳髄

俺のボディもいい感じに作ってくんないかな……

脳髄だけはあるからさぁ

 

4813:名無しの>1天推し

嫌すぎるわ

 

4814:名無しの>1天推し

 

4815:名無しの>1天推し

脳髄ジョークなのかそれは

 

4816:名無しの>1天推し

こんな○○だけはあるは嫌だ、ナンバー1

 

4817:2年主席>1

………………すみません、ちょっと錯乱してました。

 

4818:名無しの>1天推し

戻ってきた

 

4819:名無しの>1天推し

錯乱した>1は珍しい

 

4820:名無しの>1天推し

というか初めて見た

 

4821:デフォルメ脳髄

そいで、今の状況は?

 

4822:2年主席>1

はい。

まぁその晩餐会に今から行くとこですね。

 

王城の方に来て、待機中です。流石というか用意された待合室も滅茶苦茶豪華ですね。

 

4823:名無しの>1天推し

なるほど。

 

4824:名無しの>1天推し

王の城であるからな。賓客の為の部屋は豪華でなければならん。

 

4825:名無しの>1天推し

陛下!

 

4826:名無しの>1天推し

まぁ貴族もそういう感じですわよね

 

4827:名無しの>1天推し

ヤンキーネキ!!

 

4828:名無しの>1天推し

ちょっと?

 

4829:デフォルメ脳髄

それで、ドレスの話か?

 

4830:2年主席>1

していいんですか!?

 

4831:2年主席>1

すみません、だいぶ冷静さを欠いています。

 

4832:名無しの>1天推し

あぁ!! してくれ!

 

4833:名無しの>1天推し

是非聞きたいぜ!!!!

 

4834:名無しの>1天推し

天才ちゃんたちのドレスとかもう想像するだけで楽しい

 

4835:名無しの>1天推し

いいですねぇ!

 

4836:2年主席>1

今は飲み物頂きながら待機中なんですが

 

ttp/ninennsyuseki……

 

4837:名無しの>1天推し

!?

 

4838:名無しの>1天推し

うお!!!

 

4839:名無しの>1天推し

姫様えっっっっ!!!

 

4840:名無しの>1天推し

天才ちゃん、雰囲気いつもと違う……!

というか、この色は……!

 

4841:名無しの>1天推し

鳥ちゃん、髪が……!?

 

4842:デフォルメ脳髄

どいつもこいつもいつも同じような反応して脳髄で反応してんの――――んんんんんすばら!!!!

 

4843:2年主席>1

すごい

 

4844:名無しの>1天推し

これ5人分数日で作ったってマ!?

 

4845:名無しの>1天推し

ありがとう、職人ニキ!

 

4846:名無しの>1天推し

ありがとう、職人ニキ!

 

4847:名無しの>1天推し

さすニキ!

 

4848:デフォルメ脳髄

ありがとう、職人ニキ!

 

今後俺の体も頼む!!!

 

 

 

 

 

 

 

5009:1年主席天才ちゃん

君らちょっと目を離した隙にはしゃぎすぎだろ

 

5010:名無しの>1天推し

へへっ……

 

5011:名無しの>1天推し

まぁ……

 

5012:名無しの>1天推し

仕方ないって

 

5013:デフォルメ脳髄

5人とも新衣装お披露目だったしね、仕方ないね

 

5014:名無しの>1天推し

新衣装言うなwww

 

5015:メイド嫁

主に変わって少々語り過ぎてしまいました。

 

5016:名無しの>1天推し

最高でした

 

5017:名無しの>1天推し

解説あざす!!

 

5018:名無しの>1天推し

まさか天才ちゃんのドレスにそんな意味があるとはね……

 

5019:1年主席天才ちゃん

その話はもういい!!!

 

5020:名無しの>1天推し

^^

 

5021:名無しの>1天推し

ンハハ

 

5022:名無しの>1天推し

あら~^^

 

5023:名無しの>1天推し

照れてる天才ちゃんが見える……見えるぞ……!

 

5024:名無しの>1天推し

千里眼開眼してて草

 

5025:デフォルメ脳髄

>1!! コメントは!?

 

5026:2年主席>1

たくさん言いました

 

5027:名無しの>1天推し

さす>1

 

5028:名無しの>1天推し

さす>1

 

5029:名無しの>1天推し

まっすぐな男よ

 

5030:デフォルメ脳髄

ふっ……褒め言葉は直接……ってわけね。

 

5031:デフォルメ脳髄

天才ちゃんコメントは!?

 

5032:1年主席天才ちゃん

黙れ

 

5033:名無しの>1天推し

うーんこの

 

5034:名無しの>1天推し

最早見慣れた塩対応

 

5035:名無しの>1天推し

まぁ散々5人分衣装で盛り上がったわけだしな……

 

5036:名無しの>1天推し

晩餐会? はどういう感じなんだっけ。

 

5037:2年主席>1

一応叙勲式ですね。

クリスマスの時の魔族を倒した件について。

 

あの時は必死でしたけど、わりと大ごとになってたんですよね。

 

5038:名無しの>1天推し

へぇ

 

5039:名無しの>1天推し

そうなんだ

 

5040:デフォルメ脳髄

>1の世界的に20年ぶりに人類の敵出て来たわけだし、そりゃてんやわんやでしょ。

俺らからすればゴーティアとかD・Eとか事情把握できるけど

 

5041:名無しの>1天推し

あー

 

5042:名無しの>1天推し

確かに

 

5043:名無しの>1天推し

クリスマスから空きすぎてね? と思ったけどそういうことか。

 

5044:1年主席天才ちゃん

そういうことだね。

 

各国で調査団組まれて大々的に調査したらしいよ。

それで一通り再出現やその兆候も無くて、ゴーティア……前学園長の家とか調べて問題無しって確認しての叙勲式兼晩餐会ってわけだ

 

5045:名無しの>1天推し

なるほど

 

5046:名無しの>1天推し

ちゃんと安全確認してからパーティー、有能

 

5047:名無しの>1天推し

4か月くらいか。確り時間取ったな。

王様だか将軍、結構有能?

 

5048:2年主席>1

先輩曰く、かなり。

今二代目らしいですけど、戦後の王国をうまく発展してるみたいですね

 

5049:名無しの>1天推し

はえ~~

 

5050:名無しの>1天推し

時に質問なんだけど、晩餐会で叙勲式するのか。

普通、叙勲式をやってから晩餐会の流れではなかろうか。

 

5051:名無しの>1天推し

確かに

 

5052:名無しの>1天推し

世界ごとの文化によるんかな

 

5053:1年主席天才ちゃん

そんなところだね。

なんか聞く限りは王様の意向らしいけど。

 

最初はダンスと歓談、その流れで叙勲らしい

 

5054:名無しの>1天推し

うっ……貴族のダンスパーティー……頭が……

 

5055:名無しの>1天推し

胃がちくちくするやつ

 

5056:名無しの>1天推し

毒殺、ダンス殺、狙撃、強襲、ガス煙充満、より取り見取り!

 

5057:名無しの>1天推し

暗殺王!!!

 

5058:名無しの>1天推し

草ァ!!

 

5059:デフォルメ脳髄

ダンス殺ってなんだ。いつか言ってた乳房爆発のやつ?

 

5060:暗殺王

否、ダンスの流れて次々関節技と気道潰ししてくるタイプの暗殺である

 

5061:名無しの>1天推し

どんなタイプやねん

 

5062:名無しの>1天推し

相変わらず暗殺の仕方がエキセントリック

 

5063:名無しの>1天推し

なるほど……体の入れ替えや互いの接触部位で発剄とか……

 

5064:名無しの>1天推し

ガチ考察すんなww

 

5065:デフォルメ脳髄

 

5066:名無しの>1天推し

まぁ流石に>1の世界は大丈夫でしょ……

 

5067:1年主席天才ちゃん

来ても潰す

 

5068:名無しの>1天推し

ひえっ

 

5069:名無しの>1天推し

説得力よ

 

5070:2年主席>1

あっ、そろそろ始まるみたいですね。

行ってきます。

 

5071:1年主席天才ちゃん

ん。

 

リードを頼むよ。

 

 

 

 

 

 

 

5297:名無しの>1天推し

あっ

 

5298:名無しの>1天推し

あっ

 

5299:名無しの>1天推し

こりゃ

 

5300:デフォルメ脳髄

暗殺王????

 

5301:名無しの>1天推し

 

5302:名無しの>1天推し

余計なこと言うから……

 

5303:暗殺王

我は悪くなくないか?????

 




>1
滅茶苦茶あらぶった

天才ちゃん
新衣装

職人ニキ
滅茶苦茶頑張った

暗殺王
我は悪くない


次回、みんなの新衣装もとい、ドレスコードお披露目にごわす。
感想評価推薦ここすき頂けるとモチベになります。


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ユー・アー・エレガンツ

 

 王都アクシオスの中央にそびえるフルリヴィス城、そのある大広間。

 優に100人以上は収まり、長方形の一辺には王都の街を一望できるバルコニーがいくつもあり、その窓でさえも天井まで届く数メートルの光細工入りのステンドグラス。

 天井からは幾つも豪奢なシャンデリアが飾られ、壁には精緻な彫刻、床は美しい大理石が敷き詰められている。

 絢爛なダンスフロアにいるのはほとんどがこの国の、ある程度高位の貴族の当主、その妻や子供たち、或いは大商人、国に認められた一級の文化人。この国の貴族と呼ばれる者たちは大なり小なり、何かしらの国家運営に関わる者達である。音楽を奏でる数人の楽団もまた言うまでもなく王国における最高級の音楽家。

 

 即ち、この場にはアクシア王国における上流階級の収束点とも言えた。

 

 社交場というのは一種の戦場だ。

 政治や経済に携わるものにとっては情報の奪い合い、派閥同士のけん制のし合い、笑顔と歓談の裏に隠されているものはあまりにも多い。

 或いは、未だ純朴な少年少女にとっては将来の伴侶を見つける機会として意気込んている者もいる。この場にいるというだけで王国王都内では一種のステータスであり、参加しただけで異性へのアピールにもなる。

 

 けれど、今夜だけはこの場の主役は彼ら彼女ではなかった。

 

「あれが……例のお方、ですの?」

 

 数人の貴族婦女の集団が、ダンスフロアの中央、音楽が切り替わりに歩みを進める少年に気づき、視線を向けた。

 

「復活した魔族討伐の主役、史上初の全系統保有者……」

 

「その割には、あまり風格がありませんわね」

 

「おっほっほ、スーツもあまり地味ではないでしょうか。おーっほっほ」

 

 黒髪の少年に向けて、声を潜めながらも値踏みするのは二十代半ばの女たち。視線の先の少年は、確かに彼自体が特別目立つというわけでもなかった。

 故に彼女たちは、微か嘲りと期待外れを滲ませ、

 

「――――否!」

 

 その中でおそらく最も年長、静かに少年を見据えてた片眼鏡の女の一人が()()()目を見開いた。

 爛々と瞳は輝き、

 

「あのスーツ……只者の製作ではございません……! この王都にあれほどの仕立て屋がいるとは……! 彼こそ、この場で最もエレガントな1人……!」

 

「!?」

 

 3人が手の甲を口元に上げ、白目を剥きつつ顔を真っ青にしながら驚いた。その中、先ほど高笑いを上げていた女が、自身の雷系統で周りには聞こえない程度の「ガーン!」という効果音まで発生させている細やかさだった。

 しかしその驚きも無理もないのである。

 この片眼鏡の婦女は王都貴族子女のファッションにおけるカリスマ。

 流行は彼女が作り出すものであり、彼女が「エレガント」と評価したものは上流階級で必ず流行る。 

 その「エレガント」という評価一つの為に王都中、或いは王国内、さらには他国の職人までが自身の傑作を持ち込み評価を受け、その言葉を受けるのはほんの一握り。

 そんな彼女が、一目でその言葉を彼に与えたのだ。

 

「確かに一見肩の短いマント以外は飾り気のない黒のシンプルなスーツ。ですがよく見なさい、あの黒の生地。何を使っているのか……見る者の角度、光の影で光沢が違った色合いを見せる。ただの一つの黒なれど、一つの黒ならず。華やかなれど控えめ、控えめなれど華やか――――エレガンツ!」

 

「エレガント2!?」

 

 二度目のエレガントに婦女3人が再び目をひん剥いた。

 されど片眼鏡の女は止まらず、

 

「あのスーツの自己主張のなさ、おそらくあの肩の真紅のペリースを見せる為のものでしょう。あまり見ない、アンティークと呼んでもいいものでしょうが、品の良さを感じます。アレ単体でも極めて高い価値がある。実にエェェェェェレガント!」

 

「エレガント3!!」

 

 三度目のエレガントに、婦女にあるまじく大きく口を開けながら3人は驚いた。

 心なしか、目だけでなく片眼鏡のレンズさえも輝いていた。

 

「しかし、個人的に最もエレガントと称したいのはネクタイピン、あれはおそらく鍵! それを模したもの! スーツとペリースの完璧なバランスの中にあるそれは下手をすれば不純物であるが、私にはわかる! その遊び心こそ、おそらく見る者へのメッセージ! あの鍵こそが彼という人間を象徴するもの……! エェェルレェガントッッ!!!!」

 

「エレガント4!」

 

「彼のスーツに比べれば、貴方たちはノーエレガント。道端の石ころになるでしょう」

 

「そこまで言うことなくないですか?」

 

「あ、ごめんあそばせ……」

 

 1人が3人に謝っている間、音楽は変わり――――少年は、1人の少女に向けて手を差し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽やかな音楽が大広間に奏でられる。

 学園のダンス講師であったおかま筋肉エルフことフランソワ・フラワークイーンから、社交界でも問題はないとお墨付きのダンス。体を回すたびにペリースが翻る。 

 そんなウィルと手を取りあうのは、

 

「……へへっ、やっと主と踊れたね」

 

 普段とは違う装いの、そして少しだけ照れたように破顔するフォンだった。

 いつもの短いポニーテールは下ろされ、毛先が緩く巻かれていることで雰囲気ががらっと変わっていた。日頃はまるでしていないメイクも薄くだがしているせいか随分と大人びて見えた。

 彼女のドレスはアース0でいうチャイナドレスであり、鳥人族の装束に似ている。違いは通常露出が多いが、今回は随分と控えめだ。白で統一された長袖と裾が大きく広がったズボン。

 濃い黄色の糸で羽根を模した民族風刺繍は細かく随所に散りばめられている。

 かつてウィルが自作し、贈ったマフラーは首ではなく肘から背中に回すことでストールとして彼女を彩っていた。 

 

 白と濡れ羽、散りばめられた黄色。

 

 フォンらしいけれど普段とは違う、彼女の隠れていた魅力を引き出すようなドレスだった。

 

「このドレス、ちょっと私には華やかすぎるかなやっぱり」

 

「まさか。似合ってるよ。いつもの君は元気で可愛らしいけど、今日は綺麗だね」

 

「……もう。主はすぐそういうこと言う」

 

 

 ウィルの腕の中、彼女は顔を赤くしながら喉を鳴らす。

 そうしなければ今にも歌い出してしまいそうだったから。

 

 ウィルの手を支点にフォンが軽やかに体を回す。

 軽快な曲に合わせて、ステップもまた弾むように。

 くるりと回りながら跳ねて、もう一度跳ねながら彼の胸に飛び込んでいく。

 

 

「……にへっ」

 

 練習では何度もやった動きだが、こうして上流階級、それも国王主催のパーティーでそれを決めたことにフォンは思わず頬を緩め、ウィルもまた笑みを濃くした。

 

 本当だったら、建国祭(クリスマス)の時に披露できるはずだった。

 けれどゴーティアの襲撃による学園の破壊、その修復に建国祭もその後の新年祭も予定されていたパーティーはできなかったのである。いつもの4人も含めて学園の友人たちと街に繰り出して年越しパーティーは行ったがそれとはまた別の話だ。

 2人で練習したものを、思っていたよりもずっと凄い場所で披露する。

 ウィルもフォンもそんな喜びがあった。

 

「……私ね、主」

 

「うん?」

 

 流れる音楽がゆっくり目のテンポになったあたりで、フォンが目を伏せながら言葉をこぼす。

 

「建国祭の後……アルマが来てから、ずっと主が遠くに行っちゃうんじゃないかって思ってたんだ」

 

「――――それは」

 

「へへっ、そんなことはなかったけどね。私の、思い過ぎ」

 

 でも、彼女は小さくステップを踏み、ウィルから距離を取る。

 

「人って変わるよね。私は、主と出会ってそうだったから」

 

 腕を広げ彼女は笑う。

 肘と背にストールを通し、美しい刺繍で手首まで覆われた長い袖に包まれた腕を。

 ウィルと出会った頃の彼女ならきっと袖を通すことはなかっただろう。

 人種の一般的な服を着るようになったのは、ウィルからマフラーを貰った時から。

 衣類の変化というのはフォンにとってはそれなりに大きいものだった。

 ≪高位獣化能力者≫であり、変身の際衣類ごと変化する彼女にとっては一族への帰属意識の象徴としての思い入れが強かったから。

 

「服もそうだし、あと入学の為に勉強もしたし」

 

「うん、頑張ってたね」

 

 元々あまり頭を使わない彼女だが、しかし入学の為には頑張った。

 実技の方は言うまでもないが、筆記面では地味に夏から少しづつ勉強してきたし、年明けからはトリウィアを始め、ウィルや御影、或いは既に親交を持った学園教師から指導を受け、本人の努力で合格最低ライン―――どころか高い水準にまで至っている。

 そうでなければアルマに次いで、次席にはなれない。

 元々鳥人族代表に選ばれる彼女だから、入学の資格も問題ない。

 フォンは今年14、人種の入学年齢は15からだが、成長スピードの種族差が激しい≪亜人連合≫にはあまり重視されない問題である。

 

 つま先でステップを踏みながら、距離を詰める。

 フォンの手をウィルが受け止め、回転のアシスト。彼女の細い腰に手を添えながら、後ろから受け止める。

 フォンにとって命でもある翼、それが生じる背を預けられながら。

 

「いっぱい勉強して……それで、気づいたら一日も飛ばない日があった。びっくりしちゃったよ」

 

 フォンにとってそれはあり得ないことだった。

 空を想うことがないなんて。

 人生の大半、それこそ翼が劣化して飛べなくなるまでは鳥人族にはありえないこと。

 

「……ごめんね、気づかなかった」

 

「え? あぁ、違う違う。別にそれはいいんだよ! うん、良いことだと思う」

 

 ターンして向き合い、眉をひそめていたウィルに笑いかける。

 

「知らなかったことを知れたのは良いことだった。トリウィアがいつも言うみたいに」

 

 フォンはウィルと手を取り直す。

 

「誰かと出会うことで、こんなに変化があるなんてびっくりしたよ」

 

 だから。

 

「だから、建国祭の時、主の為に色んな人が集まって、魔族を倒して。それからしばらくしてアルマが来て……主も、変わっちゃうんじゃないかなって思ったんだ」

 

 自分が変わったように。

 ウィルもまた、フォンの知らない誰かになるんじゃないかって。

 

「まるちばーす? っていうのは私には良く分からないけれど、それでも主を助けてくれる人がいる。私って成り行きで主の奴隷になってついてきたけど、もしかしたら要らないんじゃないかなって―――」

 

「そんなことないよ」

 

 ぐっ、とウィルがフォンの手を強く握りこむ。

 手を取り、彼女の目を見つめた。

 

 名前の通り、真っすぐに。

 

「君が要らないなんてことはないよ。君がいてくれて、僕は救われたんだ。自分の嫌な過去を乗り越えられた。だからそんなこと言わないで欲しいし、そんなこと思わせたっていうなら……ごめんね、フォン」

 

「…………もう、だからいいんだって」

 

 貫く様な黒い瞳に鳶色の瞳が揺れる。

 フォンの胸が強く鼓動を打ち、喉から歌が溢れそうになるのを抑えるが、口元の緩みは止められない。

 

「私の想い過ごしだったからね。主は主だった。あの日私を助けてくれた、あの夜、マフラーをくれた、主のままだ」

 

 優しくて、強くて、かっこいい。

 真っすぐなウィル・ストレイト。

 

 音楽が終わる。

 ダンスも一先ず終わり。

 フォンがずっとウィルとやりたかったことが。

 けれど、あれからやりたいことは一杯増えたし、これからもっと増えていくだろう。

 だから、いいのだ。

 フォンは、ウィルの翼であり続けるのなら。

 それで十分だ。

 

「――うん」

 

 手を放し、互いに一歩離れて軽く頭を下げる。

 顔を上げれば、ウィルとフォンの目が再び合う。

 ウィルが首を傾けながら笑って、フォンも笑みを返す。

 

「これからも―――主の奴隷でいさせてね?」

 

「うん! やっぱりその言い方は変えないかな!?」

 

 




ウィル
奴隷って呼び方はやっぱり良くない。
アルマからもらった肩マントに合わせたシンプルなスーツ。
ネクタイピンはウィルをイメージした鍵デザイン。

職人ニキコンセプト:元々身長もあるし顔もいいのでシンプルオブベスト

フォン
奴隷の呼び方は……譲れない……!
飛ばないことが増えたので色々考えてたけど、ウィルはウィルだからいいよね。
アルマとは普通に仲良し。

職人ニキコンセプト:普段露出度高めな元気っこの露出を控えて髪下ろして大人ぽい雰囲気っていいよね……


ミセス・エレガント
なんかいきなり生まれて来た特濃モブ
職人ニキのTSドッペルゲンガー疑惑が作者の中に上がっている。
ウィルの後にフォンを見て、エレガント出しまくって既にモノクルが軋みを上げている。
上流階級のインフルエンサー。数年前求婚されまくった時、自分よりエレガントな男と結婚すると言い放って数十件の求婚が国内外問わず申し込まれたが結局誰もお眼鏡に合わず、幼馴染のわりと身分低めで年下男の子を自分の好みのエレガント男子に育て上げ、その家も服飾関係の商売で滅茶苦茶格を上げさせた豪の女。
モブ。


モブご婦人3人組
リアクション要員。
魔法とか使って顔芸とか効果音ができる芸達者たち。


せっかくのお披露目なのでもう2,3話かけてやります。
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シャル・ウィー・ロック

ミセス・エレガントの人気に嫉妬せざるを得ない。

さくっと天才ちゃんまで行こうと思ったら随分長くなって先輩回に。


 

「……あ、先輩」

 

 フォンとのダンスの後、お手洗いへと行った彼女と別れ、ウィルが見つけたのはトリウィアだった。

 というのも、このダンスパーティー、最初はともかくアルマはいつの間にか姿を消していたし、御影やトリウィアはそもそも忙しかった。

 なにせ、御影は≪天津皇国≫の第六皇女であり、王位継承権第一位というまさしくロイヤルファミリー。

 ダンスホールに足を踏み入れた瞬間、顔を覚えてもらおうという多くの貴族たち囲まれていた。嫌な顔1つせず、一人一人完璧に対応するあたりさすがと言えよう。

 トリウィアにしても御影ほどではないとはいえ帝国の大貴族の長女である。

 最初に挨拶する相手が数人いるとのことで別行動になった故、ウィルとフォンがまず踊っていたのだが、

 

「やっぱりここかぁ」

 

 ダンスホールの一角、大きな窓二つ分のバルコニー。

 

「喫煙所……というのは僕の感覚か」

 

 風系統の魔法を日常的に使えるのなら匂いや煙が他人に害を及ぼすことはないが、それができる人間はそれなりに限られている。尤も、アースゼロほど分煙がしっかりしているわけではないので気にしない者は気にしないし、むしろ出来の良い煙草は高級品である。

 普段トリウィアが狂ったように吸っている――それこそアースゼロで市販されていたものと変わらないもの――ものは庶民ではまともに手が出せないものだ。

 

 聞いた話ではこういった喫煙スペースは初代王が考案したもので、最初はただの分煙だったらしいが現在ではここでずっと好きに煙草を吸えるのは一種のステータスでもあるらしい。

 実際、それほど広くないバルコニーにいるにはそれなりに年を取っている上で来ているスーツや儀礼服、ドレスも見るからに豪奢なものが多い。

 

 その奥、欄干に背を預けながらトリウィアが煙草を蒸かしていた。

 

「先輩」

 

「むっ……あぁ、後輩君。楽しんでいますか?」

 

「えぇ。先輩は……いつも通りですね」

 

 バルコニーの下はそのまま夜に明かりを灯す王都が広がっている。

 ホールからの眺めを意識したのだろうが、すぐ下には城門が見える。

 ある意味もっとも良いスペースを独り占めして、その背景に背を向けてぼんやりと煙草を吸っているのだ。

 全く、彼女らしい。

 

「……いつも通り、ですか」

 

「? えぇ」

 

 ウィルが首をかしげてから頷き、トリウィアは煙を吐き出し、

 

「…………それなりに、めかしこんだと思うんですが。後輩君やアルマさんの友人に、スーツまで貰って」

 

 そんなことを言った。

 普段無表情な彼女だけれど、もう長い付き合いだ。何を考えているかは分かる。

 ほんの少し眦が下がっていて、それは明らかに落ち込んでいるようだった。

 

「――――」

 

 ウィルは自分の失言を悟る。

 極めて珍しく、トリウィアはいつもの白衣姿ではなかった。

 

 そもそも学園の制服といい、このアース111、特に≪アクシオス王国≫の服飾文化はかなりアースゼロの現代のそれに近い。中世ファンタジー映画、あるいは歴史の教科書で見たようないかにもな貴族のドレスもあるが、同時に現代アースゼロの海外セレブが公のパーティーで着るようなスタイルのスーツやドレスもある。

 それこそ由来を聞けばどう発展したのかトリウィアなら教えてくれるだろうが、それどころではなかった。

 

 藍を基調にしたスーツドレス、と呼ばれるタイプのもの。彼女の細く長い脚を強調するようなストレートに伸びるパンツとピンヒール。

 その上で藍の生地の藍の刺繍という一見では無地に見えるが、良く見れば、或いは角度や光の加減で気づけるような装飾のコルセット。ウェストと胸を抑えるだけでデコルデはさらけ出し、その上からジャケットのようであり、ロングコートにも見える丈の長いアウターを羽織っていた。白衣と似ているが、いつもと違って臍の位置あたりでボタンが止まっていることと、そもそもオーダーメイド故にボディラインも完全に計算されているのだろう、全く違ったシルエットと印象を見る者に与えている。

 いつもはストレートボブの髪型も、前髪を残しながらも短いポニーテール――普段のフォンよりも少しだけ位置が低い――にしている。

 

 不要な飾りの一切をそぎ落とし、洗練されきった美がそこにある。

 彼女のスレンダーさを活かしつつ、普段の白衣に近いスタイルでしかし全く別の「かっこいい」を体現していた。

 

 そう、いつもとは違うのだ。

 なのに、開口一番が「いつも通り」だなんて。

 

「……失礼しました、先輩。やり直しを要求しても?」

 

「えっ? はぁ。……どうぞ?」

 

 やり直し? とトリウィアは眉を顰めた。

 何をするのだろうと、考える間もなかった。

 

「-ーーー」

 

 青と黒の瞳が見開かれる。

 

「ご機嫌麗しく、お嬢様」

 

 ウィルが流れるような動きで跪き、彼女に自らの右手の甲を差し出したのだ。

 一瞬だった。

 衣ずれの音すらない洗練された挙動。

 左の片膝を立てながら、しかし背は丸めることなく美しいままに。左手は、右手首に添えている。

 

 喫煙バルコニーにいた他の紳士淑女がその姿に息を呑む。

 この世界ではまだ一般ではないーーそしてこの後トリウィアが大量に購入することになるーー煙草の葉に香料とフルーツの風味を付与した最先端最高級の細い紙巻きタバコを蒸していたモノクルの女は、その観察眼にてウィルとトリウィアの関係を把握し、これから起きることを予見して、そのフレームに亀裂を入れていた。

 その隣では大柄かつ軍式の儀礼服に身を包んだ壮年の男が、腕を組みながらニヤリと笑っていた。

 若いなと、言わんばかりである。

 

 どこの世界でも、特定のコミュニティは特定のマナーがあり、文化がある程度発展した上で社会的に地位と格調高さが求められることは珍しくもない。

 例えばアースゼロの騎士の場合。

 彼らは主人に対して左膝を立て、右膝を立てることは無礼とされる文化がある時代と地域があった。

 基本的に彼らは左腰に剣を差すため、左膝を立てることは剣を抜かず、主人に刃向かわないことを示す意味があったという。

 

 アース111においても帝国と王国は似たような文化があるが、差異は魔法の有無だ。

 剣を持っていなくても剣を生み出すことができるし、系統魔法では単体使用でも十分殺傷力を生むことができる。そもそも魔法発動に媒体は不要であり、詠唱や準備も練度によっては必須ではないため、完全な無力化を示すのは不可能と言って良い。

 

 故にこそ、意図的に不戦の意思との象徴として両手を差し出している。

 

「……」

 

 そしてトリウィアは目を細め、

 

「―――えぇ」

 

 自らの左手の平を、ウィルの手の甲ではなく、彼の掌に重ねながら答えた。

 

 

 

 

 

 

「エレガント……!」

 

 その光景を見ていたモノクル女は、2人の世界の邪魔をしないように小さな声で噛み締めた。

 

「そしてクラシックかつフォーマル! 王国では廃され、帝国ではごく一部の特定の場面でしかされないような礼儀作法、フロネシスの御令嬢は言うまでもなく、あの少年、やはりエレガントな教育を受けていますわね……!」

 

「跪いた相手に対して、女はまず左右どちらの手を出すかを選ぶ」

 

 女の隣、男は確認するように、しかし太い葉巻を加えた口端には笑みを含ませたまま呟く。

 

「右手ならばそのまま手を取り、男側は自らの額に軽く添えることで礼となる……だったな? ミセス」

 

「えぇ。現在帝国では跪かず、それをすることが基本の礼とされています。たいていの婦女は『社交界では右手で男性の手を取る』ものだと教えられて行っているだけでしょう。エレガントさも欠片もありません」

 

 ですが、と細い煙草の灰を軽やかな動きで落し、

 

「トリウィア・フロネシス。帝国一の才女がそれを知らぬはずもなく、そして彼女は左手で手を取りましたわ。故に―――ここからがエレガント。既にその波動を感じますわ」

 

「いっつも思うけどミセス、魔法以外の何かに目覚めておらんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ウィルはトリウィアの手を受け取り、自分の手と共にくるりと上下を入れ替える。 

 そして、頭を下げ、額を彼女の手の甲に近づけた。

 

「……」

 

 コツン、と。トリウィア自ら、ウィルの額に触れ、すぐに離れる。  

 ウィルは顔を上げなかったし、トリウィアはその流れを見つめていた。

 左右の手のどちらを受け取るか。それが最初の選別。

 そして近づけた額を触れてくれるかどうか。それが二度目の選別。

 そこまで続いたのなら、

 

「―――感謝を」

 

 恭しくウィルは彼女の手の甲に口づけた。

 

 貴族の礼、挨拶としてテンプレートなハンドキスは、しかし実際に口づけをすることは基本的にない。相手によっては当然不快感を覚えるし、衛生的にも問題が生じる。場合によってはパーティーを中座し、手を洗う必要も出てくるからだ。

 

 だからこそ、左右の手をどちらかを差し出すか、近づけられた額に触れるかどうか。それによってどれだけ女性側が男性側に気を許しているかを示す一連の行為でもある。

 

「いいえ、こちらこそ」

 

 ウィルの唇が離れた後、トリウィアは空いた逆の手でドレスの裾をつまみ、片足を下げながら小さく一礼。体を起こしながら、ウィルの手も軽く引き上げる。彼もまたそれに従って立ち上がり―――一連の動きは完了する。

 

 回りで見ていた者が思わず息をのみ、葉巻の男は笑みを濃くし、片眼鏡の女は惚れ惚れしながら深々と息を吐く。

 

 立ち上がり、手を離し合ったウィルはいつものように小さく首を傾げ、笑みと共に口を開く。

 

「先ほどは失礼を。先輩はいつもかっこいいですが、今日は一層かっこよく、綺麗で素敵で、自慢の先輩です」

 

「……全く」

 

 真っすぐな言葉に思わず目を背け、煙草に火をつける。

 普段、全くと言っていいほど表情の変わらない彼女の頬は微かに赤い。

 

「貴方らしいというか……いえ、私も変なことを言いました。それにしても、どこで今のような作法を? 帝国でも礼儀作法としてはもう使われていないものですよ?」

 

「え、そうなんですか?  ……父からは帝国の女性に対して失礼を働いた時、これが一番いいと教わったのですが……」

 

「………………なるほど。あのお父さんがどのような人か、少しわかりました――――私以外にしてはダメですよ?」

 

「あ、はい」

 

 ウィルは知らない。

 けれどトリウィアは知っている。

 

 複雑なこの一連の作法は現在の上流階級では使われていない。

 ならばどこで使われているかといえば――――基本的に身分問わず、()()()()()の時だ。

 最初に右手を差し出せばそもそも関係の拒否。

 手の甲に触れなければ「まだその時ではない」という意思表示。

 口づけを許すということは、即ち婚約である。

 

 ウィルの父、ダンテがそのことを教えずに、作法だけを伝えたというあたり色々察せてしまうが今は置いておくとする。あのベアトリスであれば下手なオイタを許すことはないだろう。

 

「…………まぁ、いいでしょう。後輩君は、先ほどフォンさんと踊っていましたね。上手でしたよ」

 

「ありがとうございます。先輩はずっとここに?」

 

「そうですね。数人挨拶をしてからはここで壁の花……ならぬ、バルコニーの煙になっていますね。どうも、あの手の上品な音楽は好みませんので」

 

「えっ」

 

 ウィルの目がぎょっと開かれる。

 なぜならそれこそ、元々の建国祭の予定ではウィルとトリウィアが学園代表としてこの手の音楽で踊る予定だったのだから。

 

「あぁ、いえ。すみません。今日は言葉の選択が悪いですね、私。大した意味はないです、ただあまり中にいると声を掛けられますからね。帝国貴族の娘ですし。繋がりを作りたい輩はいくらでもいます。そういうのは最低限義務と言えるんですが。時間がもったいないですし、興味のない相手に触れられるのは不愉快です」

 

「…………な、なるほど」

 

「……………………はい、えぇ」

 

 説明していたら、結局「キスを許すくらいには貴方に興味がある」なんてことを言外に伝えてしまったのでは? ということに気づいた。

 言葉の選択を間違え続けている気がする。

 自分でも新しくも素晴らしいドレスに舞い上がっているのだろうか。

 正直袖を通して鏡を見た時はあまりのかっこよさに感動したものだ。

 ポーズも色々決めた。

 

「こほん。それはそうと」

 

「は、はい」

 

 ウィルが若干頬を赤くして苦笑していた。

 すぐに忘れてもらうために、一刻も早く関係ない話をしなければならない。 

 いや、全部忘れてもらうのはちょっと悲しいが。

 新しい煙草に火をつけ、

 

「吸いますか?」

 

「……では」

 

 もう一つ取り出した煙草を彼に手渡し、少し身を乗り出す。

 ウィルも同じように顔を近づけ、互いの煙草を触れさせ火を移した。

 少しの間、二人とも煙草を味わう。

 

 その様を、周囲は羨ましそうに見ていた。

 貴重な紙巻き煙草によるシガーキスは喫煙する貴族――特に若い男性――にとっては一種の憧れだ。

 

「この後、陛下への謁見です。事前知識は大丈夫ですか?」

 

「えぇ、ユリウス・アクシオス。アクシオス王国2代目国王、ですね。賢王かつ文化的なお方とか」

 

「ふむ、続けて?」

 

「20年前の大戦終了時、それまでは小国の統合と分裂を繰り返していたこの地域を初代国王が革新的な取り組みでアクシオス王国を建国しました。そして10年ほど前初代陛下が没した後その後を引き継ぎ、まだ歴史の浅い国を自ら政治手腕を振るい支えている。また初代国王も文化的に新しいものや他国のそれを取り入れましたが、それを引き継いでいる。実際、今日のパーティーにも各方面の文化人が多いみたいですね」

 

「いいですね。他には?」

 

「えっと……王族にしては珍しく、奥さんが1人しかいないとか。確か一人娘が七主教に出家させているんですっけ」

  

「そうですね。初代陛下は好色でしたのでその子は10人はいます。しっかり後継ぎを決めていたので今の所問題はないですし、陛下とも関係は良好ですが。そのあたり、帝国と違って権力をある程度分散しているので上手くやっている印象ですね」

 

 トリウィアの故郷、ヴィンダー帝国は皇帝を頂点とした絶対王政である。

 他の国も同じだが、アクシオス王国はトップとしての国王がいるがしかし絶対的な権力を持つわけではない。文武合わせ、数人の高官との合議制――――即ち、ウィルの前世の社会、民主主義に近い。

 

 政治を担うのは全員が貴族階級―――というよりも、国政に関わる者の家が貴族と呼ばれている。だから能力次第では元々庶民であっても貴族になることができるし、国に関わる仕事を担う故に給金も多く裕福だ。

 血統ではなく能力が貴さの証とされる。

 

 このあたり、ウィルの感覚では貴族というより公務員だ。

 世界にも色々あるなと思う。

 前世に似ているが、しかしそのままではなくこの世界のものとして再構成されている感じ。

 

「陛下は温厚な……まぁ、温厚な? お方です。私も数度お顔を拝見したことはありますが、気さくすぎて逆に拍子抜けするくらいでしたし」

 

「その温厚な? がちょっと不安ですけど……はい、失礼のないようにします」

 

「ま、後輩君なら大丈夫でしょう。ちゃんと勉強していますしね」

 

「えぇ、先生が良かったもので」

 

「……ふふっ」

 

 首を傾けながらの言葉にトリウィアから思わず笑みが零れる。

 嬉しいことを、真っすぐに言ってくれる後輩だ。

 

「尤も、その生徒はなにやら一人であれこれ工夫しているそうですが」

 

「うえ!?」

 

 ぎょっ、と黒い目が見開かれる。

 あんまり見ない顔だ。

 それを見て、知る喜びを感じつつ煙を吸う。

 美味い。

 

「い、いつからそれを」

 

「建国祭の後ですかね」

 

「そ、そんな前から……」

 

 気恥ずかしそうに眉を顰める顔は、たまに見る。

 だが、大概は御影のボディタッチによるもので、これも嬉しい。

 

「色々ありましたし、今思えば後輩君も思う所があったとは思いますが。今だから言いますけど、フォンさんは少し心配していましたね」

 

「あー……」

 

 思い当たるところがあったのか眉を顰める。

 フォンとは対照的に御影は全く心配していなかったが。

 一度相談しに行ったらあの大きな胸の下で腕を組み、その大きな胸を張って言っていた。

 

『男子の苦悩を見守るのも、良い女の条件だ! ――――ダメだったら、最悪身体で慰めて立たせるのが女の役目だ。先輩殿も付き合うか? おっと、立たせるというのはそういう意図ではないよ。フフフ』

 

 あのアグレッシブ肉食お姫様は流石すぎる。

 自分で言ったセリフに下ネタ察知してツボ入るのはどうかと思うが。

 

「尤も研鑽することは良いことですし。アルマさんには?」

 

「特には何も。元々あの人は僕が個人で工夫するのは推奨してくれていますしね」

 

「あぁ……そうでしょうね。嬉しいものですよ、自分が教えたことを自分のものとした上で、改良していくというのは」

 

「だと、いいんですけどね」

 

「―――少なくとも私にとってはそうだよ」

 

 彼女が小さく笑う。

 回りの誰には無表情に見えるけれど、ウィルには笑っていると解る笑みで。

 未知に歓喜する酷薄なものではなく、ささやかな、けれど優しい笑みだった。

 細められた黒と青に見開かれた黒が取り込まれる。

 

 一瞬、月と街の光が2人だけを照らしているかのような錯覚に陥って、

 

「―――おや」

 

「……ッ」

 

 窓ガラスの向こう、ダンスホールの照明が落ちた。

 一瞬、ウィルの意識が切り替わり、腰を落として身構える。

 だが、

 

「…………え?」

 

 消えたと思った光がすぐに灯される。 

 だが、直前までの暖かな光ではない。

 

 それは――――点滅する虹色の照明だった。

 

 同時、それまで上品な弦楽器中心の音楽もまた変貌する。

 空気を劈き、聞く者の鼓膜を震わせるように低く刻むリズム。明らかに通常ではない――よく目を凝らせば指揮者が雷と風系統の魔法を併用して音を加工している―――それを、ウィルは知っていた。

 聞くのはそれこそ前世振りだろうか。

 生前は碌に音楽を聴く習慣も余裕もなかったけれど、それでも知っている。

 

「――――()()()?」

 

「おや、流石知っていますか。民間では魔法による音の加工が難しくて、一部の本職の音楽家だけが演奏できるだけのものですが、えぇ。ロックです」

 

 煙草の火を消しながら彼女は言う。

 

「初代陛下が考案し、愛したという音楽ですね。帝国では嫌われていますけれど―――さ、後輩君」

 

「はい?」

 

 一歩踏み出したトリウィアがウィルの手を取る。

 軽くリズムを刻みながら。

 

「踊りましょう?」

 

「えっ? えっと、このダンスは僕知らないんですが……?」

 

「お気になさらず。中を見てください。皆さん音楽に身を任せて好きに動いてるだけでしょう? そういうものなんですよ」

 

 マジで? とウィルは思った。

 さっきまではウィルの想像するお貴族様の社交界だったのに、一瞬でクラブみたいになってしまった。ウィルはクラブとか言ったことないので偏見だけれど。

 

「でも、ダンスは好きではないのでは……?」

 

「ロックは好きです――――かっこいいので」

 

「あ、はい」

 

 あまりにもトリウィアらしい理由だった。

 思わず苦笑して、

 

「―――分かりました」

 

 彼女の手を握り返す。

 そして、自分もまたリズムを刻みながら足を踏み出す。

 踊りましょうか、とは言わない。

 彼女を追い抜き、足踏みをしながら彼女に言う言葉は、

 

「それじゃあ―――僕たちがあっと言わせてやりましょうか」

 

 

 

 




ウィル
ロックはあんまり知らないし、そもそも音楽を聴く習慣もなかった。どこかの誰かの言葉が慰めになるほど彼の心は生きていなかった故に。

なにやら新技考案中

トリウィア
貰った超イカすドレスで大分舞い上がっていた。
ちょいちょい敬語崩れるのが卑しいし、さらっとプロポーズ独り占めしてたり、アピールしてたりさらに卑しい。
ロックはかっこいいので好き。

職人ニキコンセプト:普段かっこいい先輩をもっとかっこよく美しく仕上げて、かつ美脚を活かしたい

ミセス・エレガント
ウィルとトリウィアの関係まで見抜いた上で、クラシック&エレガントな作法でフレームに亀裂を入れていた。

謎のおっさん
髭親父。偉い人。
シガーキスいいな……って見てた1人。


初代国王
何かと謎の多い人物。
大戦期、魔族との戦いを率いた1人。
既存とは違う民主主義よりの貴族階級を確立させ、服飾や音楽文化に影響を与えた男。既に亡くなっている。


感想評価いただけるとモチベになります。
総評価数スリー7までもう少し。


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ラグジュアリー・ブラウン

新衣装お披露目をさくっと2話くらいで納めようと思ったけど無駄に伸びてしまいましたが、もう1,2話地の文回になりそうですがお許しを


 

 

「…………はぁ……」

 

 中世ファンタジーの象徴のような舞踏会で、中世ファンタジーらしくない音楽が流れ、中世ファンタジーらしくないダンスと照明を見ながらアルマは息を吐いた。

 身体を揺らすような簡単な踊りと大音量は現代でいうクラブのそれに近い。アルマの前世は勿論行ったことはないが、マルチバースでは似たような場所に来たことはあった。

 大体、裏社会の親玉はこの手の所にいがちではある。

 世界観というか時代の雰囲気が思っていたのと違うが、まぁそういうこともあるだろう。

 舞踏会の面々のドレスやスーツが中世風の大きく広がったドレスやコルセットでギチギチで固めたようなものではなく、現代に近いものなのも少し納得がいく。

 

「むむむむ……」

 

 アルマがいるのはダンスフロアの片隅に用意されていたバーカウンターのようなものだった。いくつかの机が並べられて、先ほどまで給仕係だったものがバーテンダーとなってドリンクを作ったり、今は踊っていない貴族の面々が腰かけながら談笑していた。

 そのあたりもやはり現代のクラブっぽい。

 こうなる理由はいくつか想像がつくが、まぁ今はどうでもいいことだ。

 問題は――――ウィルとのダンスのことである。

 

 なぜならばそう、アルマ・スぺイシア。

 次元世界最高の魔術師は今、

 

「……………………………………ダンスって、どうすればいいんだ」

 

 恋人であるウィル・ストレイトとのダンスをどうするか、それを真剣に悩んでいた。

 別にダンスが踊れないわけではない。伊達に1000年も生きていないのだ。こういったダンスパーティーに出席したことがないわけでもないし、そうでなくても今日の為にちゃんと練習も積んでいる。

 直前までだって張り切って、ウィルとダンスをするつもりだったのだ。

 だがしかし、実際にダンス会場に来てアルマは思った。

 

 あれ、思ったよりめっちゃ人いない?

 

 人がいることはわかっていたが、視線を感じるとその多さと注目度を実感してしまう。そして今回はアルマも含めウィルたちの授与式なのだから視線を集めることになる。

 そう思ったら身体の動きが悪くなった。

 かつてある世界で1000を超える群体魔獣を一人で相手取り、殲滅した時でさえここまでの精神負荷はなかった。

 結局のところ、アルマはシンプルにヒヨっていたのだ。

 掲示板上や転生者同士の会話ならばいい。

 或いは各アースの重要人物と交渉するならばいいのだ。 

 次元世界最高の魔術師として対応できるから。

 

 けれど、此処にいるのはウィル・ストレイトと生きることを望んだただのアルマ・スぺイシアだ。

 

 1000年間生きていても――――ちゃんと生きるということはそれこそ転生して初めてと言っていいくらいなのだから。

 そのウィルと踊ることに滅茶苦茶緊張して逃げている当たり、彼女のコミュニケーション能力の問題が物語っているのだが。

 

「……はぁ」

 

「ため息が重いな、アルマ殿。折角このような場で」

 

「…………ん」

 

 音楽の中、しかし確かに届く声に振り返る。 

 その先、天津院御影が虹色の光を背にし、しかし何よりも彼女自身が輝きながらそこにいた。

 ドレス自体はシンプルだった。

 アルマやフォン、トリウィアのように刺繍や装飾は一切ない真紅のホルターネックドレス。

 胸元と背中を大きくさらけ出した露出度の高いものだ。御影のそれは胸元や横乳も露出され、上下一体型ながら足首の付け根までの深いスリット。ドレスと同色の鮮やかなハイヒールもまた凝った装飾のないもの。

 身体のラインや肌を大きくさらけ出しているために、下手な者が着れば貧相さを表すか、或いはいっそ下品な娼婦にも見えてしまう、そんなデザインだ。

 

 けれど、天津院御影はそのどちらもない。

 豊満すぎる胸を支える布地はいっそ頼りなく見えるが長く深い谷間を支え、歩くたびにはみ出た横乳はずっしりと柔らかく震えている。浅い褐色の肌には染み一つなく、腰から上まで何も隠さない背は艶めかしい。その長身をウェストは胸と対照的に細く、されど歩く際に時たま鍛えられた腹筋が浮き、支える両太ももは人種のそれの平均よりも太いが、しかし確かな筋肉とそれに乗った脂肪が強さとしなやかさを伝えていた。

 白銀の髪や黒輪が嵌められた片角はいつも通りながら、だからこそ彼女の肉体美が強調される。

 

 そして何よりも彼女は己の体を一切恥じず、不敵な笑みを浮かべながら胸を張り、この空間の主役は己と言わんばかりに佇んでいる。

 その全てが、己という存在の証明であると言わんばかりに。

 

 露出度の高さに反してただの露出狂でも娼婦まがいでもないと思わせ、周囲の男女問わず思わず視線を奪い、けたたましい音楽や目が痛くなるような七色の照明の中でしかし埋もれない。

 雰囲気であり、所作であり、或いは表情であり。

 ()()()()人間を、アルマは知っている。

 どのアースにも得てして必ずいる。ただ立っているだけで、声を放つだけで、視線を集め奪うもの。

 

 即ち、カリスマだ。

 

「………………でもそれは完全にR18ゲームコーデだろ」

 

「ん? アルマ殿の言うことはたまに私には難しくて解らないな、はは」

 

 肩を竦めながら―――それだけでまた乳が大きく揺れた―――、アルマの隣に座り、バーテンダーにジュースを注文する。相変わらず彼女は律儀に王国の法律を守って禁酒しているらしい。

 

「それで? 婿殿と踊らないのか?」

 

「………………そういう君はどうなのさ」

 

「残念ながら」

 

 バーテンダーからグラスを受け取りながら彼女は苦笑する。

 

「この愉快な音楽の後はもう一曲だけで、その後は王との謁見だ。となると、婿殿と踊れるのはあのウキウキでキレッキレなダンスを踊っている先輩殿の後、もう1人だけということになるな」

 

 一度振り返る。

 背後、大半が体を揺らす中で、無駄にかっこいいポーズを無表情で決めまくるトリウィアとそれに付き合うウィルがいた。

 半目になりつつ、元に戻る。

 

「私が言うのもなんだが、この舞踏会は中々貴重だぞ? 音楽家も国一番だ。婿殿といい思い出が作れるぞ? ん?」

 

「………………押してくるなぁ、君。物理的にも寄るんじゃない」

 

「おっと、失礼」

 

 彼女を見た状態で、近づかれるとその気は無くても視界の半分くらいが乳で埋まるのだ。自分の胸元を見ると最早笑えてくる。

 

「繰り返すが君が行けばいいじゃないか。僕は……こういうの苦手だし。君は踊りとかそつなくこなすだろう?」

 

「まぁ確かに私はどんなダンスも一通り学んでいるが」

 

 このお姫様からできないという言葉をあまり聞いたことがないな……と、アルマは思った。

 

「時にアルマ殿」

 

「ん?」

 

「婿殿とはどこまで行った?」

 

「ごほっごほっ!?」

 

「接吻くらいか。それも一回とかか? 手を繋ぐのもまだ赤面しているだろう。アルマ殿が」

 

「おいちょっと待てなんで一回はしてるの知ってるんだおかしいだろ!」

 

「ははは、女の勘だ」

 

「マジで???」

 

 そんな勘が働いたことはアルマには一度もない。

 一応前世男だったせいだろうか。

 

「私はだな、アルマ殿。いい加減もうちょっと進んで欲しいんだ」

 

「は?」

 

「具体的にはこう……ベロちゅーとか……もっと言うと閨を共にするまで行ってほしいんだが」

 

「はぁ!?!?!」

 

 もしもクラブ会場もどきでなければ。ダンスホール中の視線を集めていただろう。それくらいの声量だった。

 顔に熱が集まっているのを自覚しつつ、

 

「……何をっ……そういう趣味か!?」

 

「いや、私は純愛路線だからな……そういうのでは別に興奮しない、多分」

 

「多分って言った今?」

 

「ははは」

 

 彼女は3度笑い、

 

「簡単な話だ。正妻がアルマ殿なら、後妻が先に一線超えるわけにはいかないだろう? 人種はそのあたり揉める原因になりがちらしいが、鬼種はそこら辺きっちりしていてな。序列の無視は全くもって良くない。なのでやはりアルマ殿に行ってもらえないと私も角がふやけそうで……ふふ、失礼。今のはいささか以上に下品だったな」

 

「いやそんな種族特性の下ネタを言われても困るが……君は……なんというか、その」

 

「ヤキモチ妬いたり、嫉妬に駆られたりしないか、と?」

 

「……まぁ、そうだね」

 

「全く思わないな」

 

 言いきる。

 アルマにとって嘘を見抜くことは簡単だ。

 それは長年培った観察眼故であるし、魔法で判定することもできる。

 ただ、御影のその断言はそういったものを必要としない、誰が聞いても嘘偽りないと感じるような爽やかさすら伴ったものだった。

 彼女は肩を竦め、笑みを浮かべながら、内心を隠さずに告げる。

 

「私は鬼だ……まぁ半分は人間だが、概ね価値観は鬼のそれだ。で、まぁ鬼が強さ至上主義なのは今更だが、正妻と側室もそれになる。一人の男が複数の女を娶ろうとしたら、結果物理的に一番強いものが正妻になるわけで。別にそれで側室になったら発言権が無くなるわけではないが、概ね、強い者に従うことになる」

 

 ならば、

 

「アルマ殿、先輩殿、フォン、私――――()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 即ち、ウィルを慕っている中で自分が弱いと彼女は言った。

 

「だから、自分は二の次でいいって?」

 

 そしてそれをアルマは否定しない。

 例えいかに好きな男の子との人前でのダンスが恥ずかしくてヘタレている恋愛クソザコナメクジコミュ障と言ってもその戦闘力と知識は本物だ。アルマが突出しているのは言うまでもないが、3人が万全の状態で正面から戦ったら勝率が最も低くなるのは御影になるだろう。

 

「うーむ、そういうわけではないんだがな。このあたりは価値観とか文化の差というか。別に自分で蔑ろにしているわけでもない。そもそも私は婿殿……ふふふ、この流れで婿殿というのは変な話だが」

 

「それはいいから」

 

「ありがとう。私は婿殿を3年かけて自分のものにするつもりだったからな。彼の壁をそれだけかけて取り払うつもりだった。その壁をアルマ殿が取っ払ってくれたのなら、それは友人として嬉しいことだし、私の手間が省けたという話でもあるわけで」

 

 腕を組み、少しだけ御影は視線を上げて

 

「……ふっ」

 

 ()()()と笑いながら、組んだ腕で胸を引き寄せた。

 柔肉同士が潰れ合い、そこに手を突っ込んだらどれだけの快楽が得られるのか、思わず想像してしまうような光景。

 

「或いは、半分の人種流に考えて」

 

 唇が蠱惑的に弧を描く。 

 嘶く音楽の中滑り込むようにその声は耳に届き、妖しく輝く琥珀の瞳が細められる。

 

「案外、その気になれば婿殿を奪える、なんて余裕かもしれないぞ?」

 

「なっ……!?」

 

「先輩殿もフォンも行動はあからさますぎるが、まだ自分が気づいていないみたいだし、アルマ殿が温いままだと正直掻っ攫うのは簡単かな……と、思ったりするんだよなぁ」

 

 まさか、とは思う。

 あのウィルが――なんて、少々うぬぼれではあるが。

 しかし、眼の前のこの男なら誰もが欲望のままにしたいと思うような肉を持つ彼女を前に、ありえないと言えるほど、恋愛事情に関してアルマは自分に自信はなかった。

 何より、この女なら。

 天津院御影ならばやりかねないと、アルマの直感が言っていた。

 

「はっはっは! なんてな! 半分冗談だ、半人半鬼だけに!」

 

「…………戦力的に君が一番弱くても、性格的には君が一番厄介だ」

 

 感情と計算が両立している。

 自分の感情を支配しながら、計算しているので実に性質が悪い。どうしたら自分のモチベーションが最も上がるかを考え、その上で道筋を立てているのだ。経験上、強い弱い云々以上にこの手の輩が敵に回すと一番面倒である。味方にすれば頼もしいが、敵に回すと何をしてくるか分かったものじゃない。

 

「褒め言葉として受け取っておこう。繰り返すが、私は概ねアルマ殿の恋路を応援している。どんどん関係を進めてくれ。私はその後でもいい。うむ、ちょっと興奮するかもしれんし」

 

「こ、こいつ……」

 

「ははは」

 

 御影が笑い、そして、

 

「騒がしい音楽の時間は終わりだな。―――さぁ、どうする?」

 

「……………………………………」

 

 言われ、アルマは一度黙った。

 ロック風音楽は鳴りやみ、人々の話し声に包まれながらも御影の声はよく耳に届いた。

 その言葉を飲み込みながら、勢いよく残っていたグラスのジュースを喉に流し込む。

 

「御影」

 

「うむ?」

 

「2年後、()()()()を言ってやる」

 

「―――――ハッ」

 

 アルマの啖呵に、しかし御影は笑う。

 先ほどまでの蠱惑的なものではなく、好戦的に歯をむき出しにするように。

 

「楽しみだ。そういうのは好きだよ――さぁほら、インターバルのうちに、婿殿を見つけることだ」

 

「むぅ……僕にそういう風に喋るのは君くらいだ」

 

「それは光栄だな」

 

 返答に口のへの字に曲げならアルマはカウンターを去っていった。

 それを見送りつつ、御影はグラスを傾ける。

 

「可愛いな、あの子」

 

 力も知識も御影とは比べ物にならないが、そう思ってしまう。

 微笑ましいというか、持っているものと本人の精神性がアンバランスと言うべきか。御影はウィルのことは好きだけれど、トリウィアとフォンは勿論、アルマだって好きだ。

 

 何より―――自分ではなりきれなかったウィルの希望になってくれたのだから。

 

 それだけで御影にとってアルマは尊敬するべき相手なのだ。

 

「……ん?」

 

 後は本人に任せようと視線を外したら、ダンスホールの出入り口。

 見慣れてはいない、けれど見覚えのある――――赤い髪の少年が、扉の向こうに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル」

 

「あ、アルマさん! よかった、やっと見つけ――」

 

「ん」

 

 ダンスホールの中央、それまでとは随分人が減り、踊る者が数組だけになった中アルマは何も言わず、ウィルへと手を突き出した。

 

「―――」

 

 顔を赤くし、緊張で口元を固く結びながら。

 それまで七色の照明だったせいで、改めてウィルはアルマの姿が目に焼き付いた。

 黒を基調とした太ももあたりと短めの丈でスカートが広がったプリンセスラインドレス。つつましやかな胸元にはチョーカー、リボン、ミュール、いつもの左手の二つの指輪は赤いカラーリングでアクセントとして彩っていた。人形染みた造形ながら、いつもはしていないメイクもされてさらに可愛らしさを引き立たせる。

 それまではシンプルなチョーカーには錠前の留め具が、ウィルのネクタイピンと対応するように飾られていた。

 

 普段のアルマとはイメージが違う黒のドレスだが、広がるスカートからインナーカラーに銀色が覗く。アルマといえばその髪の銀色であるし――――それを染める黒は、きっとウィルの色なのだろう。

 

 この舞踏会が始まる前にすでに見ていて、沢山褒め言葉は送っていた。

 けれど、改めて見ると胸が高まり、温かい気持ちが溢れてくる。

 いつか、文字の会話だけで助けてくれたように。

 いつか、初めてお互いの名を名乗り合った時の様に。

 かつてみっともないくらいに求めた彼女が応えてくれたように。

 今、自分に手を差し出してくれている。

 だからいつだって、アルマはウィルに幸福と希望をくれるのだ。

 

「アルマさん」

 

 おかしくなってしまって、首を傾けながら彼女の名前を呼ぶ。

 

「……ウィル」

 

 彼女はやはり、唇を結んだままに顎を軽く上げた。

 少しだけ差し出された手が震えている。

 

 ―――――その手を彼は宝物に触れる様に握り、同時に柔らかな音楽が流れだした。

 

「―――」

 

 アルマの表情が揺れる。

 手を取られた瞬間、一瞬口元が緩み、次に微かに驚いたように目を見開く。微かな手の震えが、一瞬で止まってしまったから。それがウィルに触れてもらったからだなんて、そんな理由で落ち着いてしまった自分が恥ずかしくて、口がへの字に曲がり、けれどもうそんなことなんて今更かと息を吐いて。

 身体から力を抜く。

 固い鍵が開けられるように。

 

「今度こそ……リードを頼むよ」

 

「はい」

 

 ウィルもアルマも笑い合い、そして音楽に身を任せた。

 

 




天津院御影
メンタル無敵の女。
1話からグランプリンセス。
メイン面子では戦闘力は一番低くても精神的には一番強い。
特別賢いわけではないが、自分にできることとできないことの理解が正確で判断が速い。
我慢もできる超絶肉食系。

ラグジュアリーなドスケベドレスコーデ
職人ニキコンセプト:エッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
デッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!

「角がふやける」
鬼種の生態特徴
鬼種の女性は闘争本能により角が硬化し疼きを上げるが、性的興奮の場合ある一定のまで高まると角が弾力を得て、感覚が鋭敏になる。ふやけた角は鬼種の女性にとって全身で最も敏感な部位であり、自らが見初めた相手にしか触れさせることはないという。


天才ちゃん
沢山人に囲まれたらひよっちゃう糞雑魚メンタル。
1000年引きこもりのネット弁慶は伊達じゃないぜ
トリウィアは良好な取引関係だけれど
御影からは背中を押されつつ、発破をかけられている感じ

ウィルに手を握ってもらっただけで緊張がゆるんで、我ながらちょろい……!けどまぁいいか……ってなっている女

職人ニキコンセプト:基本は黒のウェディングドレスですが、ある程度動きやすさを重視して装飾は控えめにしました。ドレスの丈も短めに。綺麗さよりも可愛らしさを重視しています。インナーカラー銀でメインを黒にしたのは>1の染められる天才さんというわけですねええ。チョーカーに錠前ってえっちですよねもとい大人っぽさも出しつつ、ちゃんと>1のネクタイピンの鍵で開けられるようにしています。赤いリボンの方は天才さんの私物でしたが、チョーカーやらリングやらミュールやらのカラーリングは天才さんの方で色を変えられるということでアクセントとして統一しました。いつかこれを発展させたウェディングドレスをですね……

画面に出ていないミセス・エレガント
御影の肉体美でついにモノクルが爆散した
最後のウィルとアルマの言葉少ないやり取りで、穏やかだけど激しい感動を秘めたエレガントパワーがさらに目覚めスーパーエレガント人3になろうとしている。

トリウィア
ジョジョ立ちとかしてた

ウィル
アルマが手を伸ばしてくれるだけで希望と幸福が溢れ出す


前回評価沢山いただいて嬉しい限りです。
今後ともよろしくお願いいたします~

感想評価いただけるとモチベになります


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イッツ・モーフィン・タイム

9評価数555と総合評価22222超えありがとうございます。

アンケをするたびに過半数を取る天才ちゃんよ


 

 

 ウィルから見てその男は一見して、思っていた王様というタイプではなかった。

 40代くらい、蜂蜜色の短髪、彫りの浅め顔つき、身長はそれなりだが特別鍛えているわけでもない。整った顔立ちながらも穏やかで分かりやすく雰囲気を纏っているわけでもなかった。着ている服がその立場に反して質素というのもあるだろう。隣で控える王妃もまた年を重ねてなお美貌が伺えるが、決して華美ではない。

 けれど、

 

「諸君――――ユリウス・アクシオスである」

 

 口を開いた瞬間、彼がこの国の王であるということを誰もが理解する。

 それは当然ウィルもだ。

 彼は王族というものをよく知らない。

 知っている限りは御影と暗殺王ことロック。

 御影は全身からカリスマが溢れているが、ロックが溢れているのは筋肉だ。その二人のどちらともユリウスは違った。

 ただ一言。

 そしてほほ笑みだけで周りを安心させる、そんな在り方だった。

 

「今日は我が国……世界にとって大いなる功績を果たした若者たちを称える為に集まってもらった。いやはや、全く未来は明るいようだ」

 

 ユリウス王が笑みをこぼし、それが全体に伝播する。

 必要な緊張感は保ちつつ、しかし適度なリラックス。過剰に畏まらず、「冗談を言われたら自然に笑える空気」。そういうものが既に生まれている。

 ダンスホールから謁見室に早変わりした大広間の奥に玉座が態々運ばれ、その目前にウィルたち、それを取り囲むように貴族や招待客が見守っている。

 御影だけは自然体で腕を組みながら立ち、それ以外は跪いていた。 

 これは別に御影が無礼を働いているというわけではなく、彼女は≪天津皇国≫の第六皇女であり、皇位継承権第一位でもあるため、他国の王であっても、王であるからこそ膝をつくことがない。

 顔を伏せながら視線だけで王や王妃、大臣たちをどうにか視界に収める。

 

「さて、今夜は彼らの為の時間であるが、その前にいくつか通達をしよう。まず気づいている者もいるだろうが、我が娘ヴィーテフロアも出席予定だったが、教会からの移動が少し遅れているようでね。この叙勲の後に到着しそうだ。いやはや、恥ずかしいことだが、焦っているのは本人だろう。この後、余裕がある者は彼女に励ましの言葉をかけてくれると嬉しいね」

 

 苦笑し、

 

「それから」

 

 彼はほんの少しだけ目を細めた。

 

「ゼウィス・オリンフォスについてである」

 

 ウィルは自身の体が硬くなるのを自覚する。

 自分にとっての敵―――ではない。

 それはゴーティアだ。アルマと数百年戦い続けた次元喰らい。二人の特権によってやっと端末を倒した、そしていつか再び倒すべき仇敵。

 だが、ゼウィス・オリンフォスは違う。

 

「大戦の大英雄。アクシア魔法学園創設者、我が父初代国王の盟友……≪至天なる雷霆≫ゼウィス・オリンフォス。彼の者が我ら世界に齎した者は多く、彼が先の魔族との戦いで死したのは実に悲しいことだ……後日、彼の葬儀を国葬を持って行う。祝いの場なれどこれだけは伝えておこう」

 

 粛々と伝えることは、しかし事実ではない。

 それはウィルたちもユリウス王も解ってはいる。

 だが、王の言う通りゼウィス・オリンフォスという存在はこの世界において多大な影響を与え、称えられていた英雄だった。故に、民衆向けのエピソードが必要だったのだ。

 表向きではゼウィスは建国祭において魔族と戦って、死亡したことされた。

 勿論、真実は知っているものは知っているが、しかし知らなくてもいいこともあるというわけだ。

 

「――――さて、ここまでにしておこう。あまり主賓を待たせてはいけない。メトセラ」

 

「はい、陛下」

 

 王に促され前に出たのは長身痩躯の老人だった。

 固い無表情の額から後頭部へと細い木のような角が伸びている。王国どころか、亜人連合でも珍しい≪樹人種≫だ。亜人種でも長命の部類であり、噂では200歳ほどでなお現役だとか。

 メトセラ・ヒュリオン。

 アクシオス王国の宰相であり、王を除けば政治のトップである人物だ。

 

「ウィル・ストレイト。アルマ・スぺイシア。フォン。トリウィア・フロネシス。顔を上げよ」

 

 感情を感じさせない深い声に促され、伏せていた顔を上げる。

 

「――」

 

「……?」

 

 上げた瞬間、ユリウス王との目があった。

 グリーンの瞳。

 何か、懐かしいものを見る様に細まっていた――――気がした。

 すぐに視線は外れ、

 

「さて、さっそく勲章式を始めよう。といっても、私が長いこと話すわけでも、このメトセラが小難しい話をするわけでもない。我が父はそういったものを実に嫌っていて、皆も知っての通り、上に立つ者は話を短く、がモットーとされているからね」

 

 苦笑気味に周りを見回す。

 ウィルからすればそんなものなのか? と思うが、この国はそういう感じらしい。帝国で同じようなことが起きると数時間の式になって時間の無駄だったとトリウィアがぼやいていたので助かるのだが。

 視線だけ横にずらせばトリウィアとアルマは落ち着いた様子の無表情で、フォンは少し視線が泳いでいる。こういう場での慣れによるものだろう。

 御影は相変わらずの自然体で笑みすら浮かべていた。

 

「それではこれより叙勲の儀を―――」

 

 メトセラが口を開き、その瞬間だった。

 

 

「緊急!!!」

 

 

 正面の大扉が勢いよく開け放たれた。

 

 

 

 

 

 飛び込んできたのは鎧姿の騎士らしき人物だった。

 ウィルも思わず振り返ったが、兜も被っていて、遠目に加え声だけでは性別を判断できない。おそらく若い。

 

「き、緊急です、国王陛下!」

 

 息を荒くし―――そして、僅かに血を浴びている。

 すぐに衛兵らしきものたちが追いかけてきて、無礼だぞ、と取り押さえられる。

 ざわりと、全体に緊張が走る。明らかにただ事ではない。何があったのかと誰かが疑問を口しようとする者もいれば、騎士の様子に眉を顰めて苦言を呈そうとする者もいた。

 無秩序が始まる直前。

 その瞬間、

 

「―――お静かに」

 

 澄んだ声が、始まるはずだった混沌を打ち消した。

 黄金の長髪、簡素なれど品の良さを感じさせるドレス。高い長身と黄金比に近いボディバランスを備え、トレードマークであるモノクルは何故かなかったが、その場にいるほぼ全ては彼女は知っている。

 クリスティーン・ウォルストーン。

 王国屈指の文化人であり、女性のカリスマだ。

 

「そちらの方にいかなる判断をするかは、この場においては国王陛下がなされるのが筋という者。それを妨げるのはエレガントではありませんわ」

 

 ぴしゃりと告げる言葉は簡潔に。 

 されど思わず誰もが口を閉ざした。

 

「……あー、ミセス・ウォルストーン。感謝する。君の高潔さはこういう時実に助かるよ」

 

「恐縮にございます、陛下」

 

「そういうのはワシの仕事だったんだがのぅ」

 

「失礼、元帥閣下。ですが臣下として、()()()()()は門外漢ですが、()()()()()という作法は私が最も重要視しているもの……お続けになさってください」

 

「むぅ……」

 

 王の背後、メトセラと対になるような位置で自らの髭を撫でるのは王国軍部のトップ、大元帥。少し前バルコニーでクリスティーンと共にウィルとトリウィアのやり取りを眺めていた壮年の男―――レグロス・スパルタス。

 彼は一度嘆息しつつ、軽く手を振る。

 

「あぁこれ、衛兵たち。その騎士を離せ。その様子ではおちおち話もできん」

 

 その間にウィルたちの脇をユリウス王が通り過ぎ、解放された騎士の下へ行く。

 

「へ、陛下……緊急、緊急なんです……そのっ!」

 

「落ち着いて」

 

 解放されたままながら膝をつき混乱している騎士だがユリウス王もまた、目線を合わせ、肩に手を置く。

 

「落ち着くんだ。君は……」

 

 至近距離で騎士の鎧を確認し、王は眉を顰める。

 血で汚れているが、細部に装飾がありながら実用性もある、赤を基調とした鎧。それは、

 

「……ヴィーテの近衛か?」

 

「っ! は、はい! 陛下――――ヴィーテフロア様が襲撃されました!」

 

「―――――何?」

 

 ユリウス王の一人娘。

 予定が遅れてこちらに向かっているはずの王女。

 

「こちらに向かっている最中に襲われ、近衛で反撃したのですがしかし相手側は中々の手練れだと近衛長が判断して私を陛下の下へ送りました、まだ戦闘中のはず……!」

 

「……下手人は解るか?」

 

「―――()()()()の邪教徒達です」

 

 ()()()と、止める間もなく今度こそ全体に混乱が走った。メトセラもクリスティーンもレグロスもまた顔をしかめ、ユリウス王も同じ。

 示す意味は言葉の通り。

 

「分かった。良く伝えてくれた。衛兵! この騎士に水と手当を!」

 

「いえ、陛下! 私も殿下の下へ……!」

 

「いいから。諸君! 悪いが叙勲式は中止に――――」

 

 ユリウス王が振り返り、そして彼は見た。

 既に動き出していた者たちを。

 

 

 

 

 

 

 早かったのはウィルとアルマだった。

 「魔族信仰」という名が出た瞬間、二人は行動を開始していた。

 ウィルが右腕を振る。

 ダイヤルロック式魔法陣が起動。拳を握ったことで術式が確定。

 一歩踏み出すと共に、手首に浮かんだリング状魔法陣を前方に軽い動きで放れば、目前でウィルの身長程の魔法陣に拡大された。

 その歩みに迷いはなく、真っすぐに。

 

 アルマは体をくるりと回転させながら胸のリボンを引き抜いた。

 少し前まで人前でどう踊ればいいか頭を抱えていた少女はもういない。熟練のバレリーナのように優雅に踏み出しながらのターン。それに合わせ、左手で真紅のリボンを頭上で回し―――ターンが終了した瞬間、リボンはいつの間にか広がり、コートとなり彼女の両肩を包み込んだ。

 

 そして。

 ウィルは二歩目を踏み出しながら魔法陣を潜り。

 アルマは左腕を真横に振り。

 2人は揃いの戦闘装束への変身を完了させていた。

 

 赤いコートと肩幕。漆黒と濃紺の胴着。

 ウィルは以前、ゴーティア戦で貰ったものそのままだが、アルマは少しだけ変化がある。あの時は両手首にはめていた緑色の宝石腕輪は無く、代わりに胸元に細やかな金細工のブローチとしてコートの首元を留めている。

 指輪は左手の二つだけ。ドレスからの変身と同時にカラーリングは元の金に戻っていた。

 首のチョーカーだけは変わらず赤く―――鍵を模したストラップはそのままに。

 

 ウィルはそのままバルコニーに向かって走り出し、アルマも軽く浮きながらそれに追従し、

 

「―――ま、そうなるか」

 

 苦笑と共に振り返りながら両手で白い光を生み、それが赤と青、黄の光球に。

 腕を広げならその三球をそれぞれに打ち放った。

 その先は、

 

「流石だアルマ殿! ありがとう!」

 

「是非この魔法教えてください」

 

「ひえー、すっご!」

 

 御影、トリウィア、フォン。

 彼女たちに光球がぶつかった瞬間、全身を覆いアルマと同じくドレスから戦闘装束へ変身、当然と言わんばかりに御影の大戦斧とトリウィアの二丁拳銃もセットだ。

 

 そしてそのまま、

 

「行きます!」

 

 5人はバルコニーからその身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 謁見の間だった場所に、沈黙が下りる。

 それは驚きによるものだった。

 一番驚いているのはユリウス王だ。

 振り返ったと思ったらウィルたちが走り出し、変身して、かと思えば一瞬でバルコニーから飛び降りたのだから。

 数瞬、呆気に取られながら目を見開き、そんな王に声をかけたのはメトセラだった。

 彼は大真面目な無表情で言う。

 

「勲章が増えそうですな」

 

「……………………確かに」

 

「準備をしておきましょう」

 

「……レグロス! 部隊を編制して彼らの援護とヴィーテの救助を!」

 

「はっ! ほれ、この場にも軍人はいるじゃろう! 何を呆けておる! 彼らのようにそっから飛び降りるくらいの忠誠を見せんか!」

 

「ははっ! 今飛び降ります! 殿下! 殿下ァー!」

 

「そこの近衛はさっさと医務室に連れていけ! それはもう忠誠じゃなくて狂信のそれじゃ! 着地できるんか!?」

 

「は? 誰が狂信ですか!? 私の殿下への忠誠を疑うのですか!? それこそ忠誠で何とかします!」

 

「なんじゃこいつ上司を……近衛だと殿下か!」

 

「近衛の忠誠としてはある意味見本ですな、元帥閣下」

 

「騎士としてはちょっと拙いがなぁ宰相閣下!」

 

 場が騒然となり状況が動き始める。

 唐突の出来事ゆえに戸惑いはあったが、この場にいるのは大半が貴族であり、それぞれ立場と能力があるもの。故に自らするべきことに向けて動き出す。

 

 そんな中。

 ウィルたちが消えたバルコニーを見て―――ユリウスは懐かしそうに目を細めながら苦笑した。

 

 

「なるほど、君の息子だね―――ダンテ」

 

 

 

 




ウィル&アルマ
同時変身タイム
これがやりたいがために地の分回が続いたという事実

ユリウス・アクシオス
王様
パッパの昔の仲間


以下モブ

メトセラ・ヒュリオン
宰相。政治の偉い人
レグロス・スパルタス
元帥。軍の偉い人
クリスティーン・ウォルストーン
スーパーエレガント人3

近衛騎士
狂気の忠誠モブ

初代国王
大人になって校長先生の話の長さにグダグダ言うタイプ


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一晩で色々あったわね……

忠義のモブとエレガントが作中1晩で生えて来た事実


5732:自動人形職人

同時変身見たかった!!!!!!!

 

5733:名無しの>1天推し

あぁいうのすこ

 

5734:名無しの>1天推し

いいなぁ変身能力、かっこいい

 

5735:名無しの>1天推し

便利だよな、あぁいうの。姫様とか先輩、武器もついてたし

 

5736:名無しの>1天推し

あれあれば色々楽になりそうだなとめちゃ思う。

武器の持ち込みとかきつい時はほんときついねんな

 

5737:名無しの>1天推し

アイテムボックスとかある世界だと、そういうところいいねんな

 

5738:名無しの>1天推し

>1、昔は剣持ってたけど、いつの間にか使わんくなったな

 

5739:2年主席>1

実際、≪オムニス・クラヴィス≫で武器形成したり、リングで戦う方が便利ですし。

剣は入学祝に父さんに貰ったもので業物ではあるらしいんですけどね。

 

5740:デフォルメ脳髄

てか天才ちゃん、あのとんでも魔法封印してなかったけ?

鬼姫様たち変身させたのそっちだよな

 

5741:1年主席天才

目ざといな……まぁあの時点では魔族……D・E残党の可能性もあったからね。

そうでなくても、あれくらいはサービスだ。

 

5742:名無しの>1天推し

なるほどね

 

5743:名無しの>1天推し

≪D・E≫だったらそれこそ一大事だもんな

 

5744:デフォルメ脳髄

天才ちゃん、何気にあの3人のことも大好きよね

 

5745:1年主席転生者

黙れ脳髄

 

5746:脳髄メェーン

今はナノマシンのボディがあるんだなぁこれが!!!

 

5747:1年主席天才

アイデンティティを失った分際で……!!!

 

5748:名無しの>1天推し

イライラで草

 

5749:名無しの>1天推し

ボディがある脳髄ニキは解釈違い

 

5750:名無しの>1天推し

メェーンが絶妙に腹立つな

 

5751:自動人形職人

それで飛び出した後は?

てか着地どーしたんです?

 

5752:名無しの>1天推し

そこよ

 

5753:2年主席>1

フォンに頼みました

 

5754:名無しの>1天推し

あれかっこよかったな

 

5755:脳髄メェーン

>1:リングを筒状にしたケーブル

天才ちゃん:魔法の鎖

鬼姫様:斧に巻いてた包帯

先輩:銃口から出したロープ

でそれぞれ鳥ちゃんがキャッチして輸送してた

 

5756:名無しの>1天推し

個性が出てていいね

 

5757:名無しの>1天推し

そっから鳥ちゃんが爆速輸送してた

 

5758:自動人形職人

へぇ、いいですね

 

5759:名無しの>1天推し

てか今更だけど、天才ちゃん飛べるんじゃなかった?

 

5760:1年主席天才

普通に飛ぶならあの子の方が断然速い

高速飛行はまた別物なんだよ

 

5761:名無しの>1天推し

なるほど?

 

5762:名無しの>1天推し

改めてやばい鳥ちゃんの飛行性能

 

5763:名無しの>1天推し

マジであたおか

 

5764:自動人形職人

でもとっさの動きだったんですよね。

それでそんな連携できるのはやりますね。

 

5765:2年主席>1

それ自体は練習してたりしてましたからね。

最初は大変でしたよ。フォンが張り切って速度出し過ぎて、つかまってられなかったり、急停止して僕らがぶっ飛んだり

 

5766:名無しの>1天推し

 

5767:名無しの>1天推し

おもろ

 

5768:脳髄メェェーン

その結果、姫様の地上ミサイル斧サーフィンがあるわけね……?

 

5769:自動人形職人

地上ミサイル斧サーフィン????????????????????

 

5770:名無しの>1天推し

あれな……

 

5771:名無しの>1天推し

ミサイルは乗り物

 

5772:名無しの>1天推し

斧も乗り物

 

5773:名無しの>1天推し

鳥ちゃんのブレーキで射出された鬼姫様が斧にサーフィンみたく乗って、

斧の刃のあたりから炎逆噴射しながら着地しつつ敵薙ぎ払ってた

 

5774:自動人形職人

ご、豪快~~~~!!

 

5775:名無しの>1天推し

さす姫様

 

5776:2年主席>1

やっぱ御影さんの破壊力というか勢い凄いんですよねぇ

 

5777:自動人形職人

なるほどなぁ。

それでその邪教徒はどんな感じでした?

強かったんです?

 

5778:名無しの>1天推し

楽勝……でしたね……

 

5779:名無しの>1天推し

いや、向こうも俺の世界から見ると手練れだったんだけど……

 

5780:脳髄メェェェーン

あの学園、>1の世界のトップ層って言うの改めて実感したわ

 

5781:2年主席>1

実際そこまで……って感じでしたね。

姫殿下の近衛人も奮闘してくれてましたし、邪教の人たちを倒すのはまぁわりと難しくなかったんですけど……

 

5782:名無しの>1天推し

その後よな

 

5783:名無しの>1天推し

びっくりした

 

5784:名無しの>1天推し

うむ

 

5785:名無しの>1天推し

マジ????ってなったもんな

 

5786:脳髄メェェェェーン

そう来たか……ってなったわ

 

5787:自動人形職人

え、何です? ログまだ見てないんですけど……

>1と天才ちゃんがラブラブアタックまた決めたんですか?

 

5788:1年主席天才

してないが?????

 

5789:名無しの>1天推し

 

5790:名無しの>1天推し

まぁそれはまたいつか見せてもらうとしてよ

 

5791:2年主席>1

わりと楽勝だった、とか言いつつ、一瞬危ない瞬間があったんですよね。

僕らの目を盗んでこっそり姫殿下の馬車に近づいてる人がいて

 

5792:1年主席天才

僕が気づいてそいつぶっ飛ばしてやろうと思った時だったね

 

5793:2年主席>1

 

アレス君が来たんですよ

 

5794:自動人形職人

………………んんんんん???

 

5795:2年主席>1

現れて、ものすごい速度でこっそり近づいてた邪教徒を切り捨てちゃったんですよね

 

5796:1年主席天才

お姫様の方攻撃するならそれこそアレス・オリンフォスもぶっ飛ばしてやろうと思ったんだが、まさかの助っ人というわけだ。

 

5797:自動人形職人

それは……また……急展開ですね?

 

5798:名無しの>1天推し

とりあえずかっこよかったけどな、動き

 

5799:脳髄メェェェェェーン

縮地? つーかかなり低い姿勢での高速移動つーか。

炎混じりの雷が帯電してて狼? みたいな

 

5800:名無しの>1天推し

鳥ちゃんほどじゃないにしても、かなり速度出てたしねぇ

 

5801:名無しの>1天推し

スーツ姿で刀振るうのめっちゃかっこいいな……

 

5802:名無しの>1天推し

完璧な登場タイミングだった

 

5803:自動人形職人

えぇと、なんでまた? いえ、ただ助けに来ただけ?

 

5804:名無しの>1天推し

まぁそうなるわよね

 

5805:名無しの>1天推し

俺たちもなった

 

5806:名無しの>1天推し

???ってなってそして……見た

 

5807:名無しの>1天推し

馬車から飛び出る……お姫様!

 

5808:名無しの>1天推し

目と目が合うアレスマンとお姫様!

 

5809:脳髄メェェェェェェーン

切実そうな声で名を呼び手を伸ばすお姫様としかし一礼だけして去るアレス君!!!

 

5810:名無しの>1天推し

その背中を、胸に手を抑えて見つめるお姫様!

 

5811:自動人形職人

おっとこれは………………

 

5812:1年主席天才

幼馴染なんだとさ

 

5813:自動人形職人

つまり……そういうことですか!?

 

5814:名無しの>1天推し

あぁ!!

 

5815:名無しの>1天推し

たぶん!!

 

5816:脳髄メェェェェェェーーン

まぁアレス君の現状思うと色々ありそうだけどな。

 

ちなみにお姫様、金髪ロリの純粋そうな超美少女シスターだった。

 

5817:名無しの>1天推し

陰アリスーツイケメン×純粋シスターお姫様……ってこと!?

 

5818:1年主席天才

カプ厨どもが

 

5819:名無しの>1天推し

へへっ

 

5820:名無しの>1天推し

へへっ

 

5821:名無しの>1天推し

へへっ

 

5822:脳髄メェェェェェェーン

へへっ

 

5823:自動人形職人

へへっ

 

5824:名無しの>1天推し

へへっ

 

5825:1年主席天才

褒めてないが?????????

 

5826:2年主席>1

ははは……

 

とまぁそんな感じで僕らもびっくりしつつ、一先ずその場は一件落着しまして

姫殿下を王城に送り届けて、王様と再謁見……というか、

今度はお茶でも飲みつつ軽くお話ししましょうってなりまして。

 

いや王様相手にそれは……ってなったんですけど。

 

5827:自動人形職人

はい

 

5828:2年主席>1

王様が父さんの昔の仲間ということが発覚しまして緊張が吹っ飛びました

 

5829:自動人形職人

ふぁーwwwww

 

5830:名無しの>1天推し

ほんま草

 

5831:名無しの>1天推し

出たわね前作主人公

 

5832:自動人形職人

お父さんなんで黙ってたんですかw

 

5833:名無しの>1天推し

と、思うじゃん?

 

5834:名無しの>1天推し

俺らも突っ込んだぜそれ

 

5835:2年主席>1

まさかの両親にも自分が王様であること隠しているという事実も発覚しまして……

20年以上経ってもバレていないそうです……はい

 

5836:自動人形職人

ふぁーーーーwwwwwww

 

5837:名無しの>1天推し

王様おちゃめすぎるでしょ

 

5838:名無しの>1天推し

>1の国、全体的にノリが軽いねんな

 

5839:2年主席>1

どうも大戦期、まだ王子だったころに外見は魔法で変えて、名前も勿論隠して、それで戦闘に参加してたらしいんですよね。

それでそのまま両親にも隠し通したままという……

 

5840:名無しの>1天推し

20年の秘密!

 

5841:名無しの>1天推し

しかも住んでる国の王様!

 

5842:脳髄メェェェェェェェェェーン

すっごいにっこにっこで「秘密にしてる」って言っててダメだった

 

5843:名無しの>1天推し

可愛いイケオジスマイルでずるいよ

 

5844:1年主席天才

経験上あの手の人たらしは笑顔で無理難題いって有無言わせないタイプ

会話直接聞いてたけど部下が苦労するだろうね

 

5845:名無しの>1天推し

戦争終わっても隠し続けてるのはもう趣味かなにか?

 

5846:暗殺王

失礼。

しかして気持ちは解るものでもある。

 

>1の国は通常の君主制よりもフランクではあるが、

しかし王というものは時として孤独であるからな、

身分を忘れられる友といたいという気持ちも仕方なかろう。

 

5847:名無しの>1天推し

あー、まぁ確かにな

 

5848:名無しの>1天推し

暗殺王ニキが言うと実感がこもっていますね

 

5849:名無しの>1天推し

権力者も大変そうだしなぁ

 

5850:2年主席>1

ですね。

そのあたりは父さんと王様の話なのでそういうものということで。

僕としては話しやすくなりましたしね。

 

5851:自動人形職人

なるほどなー。

色々あったみたいですね、ありがとうございます。

 

後でログもちゃんと見るとします。

 

5852:名無しの>1天推し

おつおつ

 

5853:名無しの>1天推し

職人ニキもおつでした

 

5854:名無しの>1天推し

ドレス最高だった!

 

5855:名無しの>1天推し

あぁ!

 

5856:脳髄メン

荒ぶる>1も見れたしな……

 

5857:2年主席>1

ははは……ほんとに、僕の分まで含めてありがとうございます。

御影さんたちも喜んでいました。

 

5858:1年主席天才

ありがとう。

礼は別のアースで問題なさそうな変わった素材とかデザイン本で

 

5859:自動人形職人

マジですか!?!?!?!?!!

 

5860:自動人形職人

滅茶苦茶助かります!!!!!!!

 

5861:名無しの>1天推し

おめおめ

 

5862:名無しの>1天推し

テンション高くて草

 

5863:名無しの>1天推し

職人ニキデザインの服欲しいわね……

 

5864:名無しの>1天推し

確かに……

 

5865:NOZUIメン

よかったじゃん

 

5866:2年主席>1

今回はプレゼントで頂いちゃいましたけど、

次は僕からもお代を必ず……!

 

5867:自動人形職人

いえいえ。こちらが勝手にしたことですしね。

 

5868:名無しの>1天推し

心の栄養だしな……

 

5869:名無しの>1天推し

>1天……

 

5870:名無しの>1天推し

ダンス、よかったね……

 

5871:名無しの>1天推し

最高

 

5872:名無しの>1天推し

うむ……

 

5873:NOZUIーMEN

寿命が延びた

 

5874:名無しの>1天推し

なんのかんの、そんな感じで一件落着か

 

5875:名無しの>1天推し

一晩で色々あったわね……

 

5876:2年主席>1

それが……

 

5877:名無しの>1天推し

ん?

 

5878:1年主席天才

1夜明けて、城出たら問題が発覚してね

 

5879:名無しの>1天推し

マジ?

 

5880:名無しの>1天推し

まだなんかあるのか

 

5881:NOZUI☆MEN

なんだなんだ?

 

5882:名無しの>1天推し

話題に事欠かないですねぇ!

 

5883:自動人形職人

それで何が?

 

5884:2年主席>1

どうも、襲撃直前にダンス会場から、出ていくアルス君を御影さんが見たわけでして

 

5885:名無しの>1天推し

あー……

 

5886:名無しの>1天推し

おっと

 

5887:名無しの>1天推し

それは……

 

5888:脳髄マン

あんま良くないんじゃないの、それ。

状況的に

 

5889:1年主席天才

そう。

公表されていないとはいえ、D・E、魔族が憑依していた人間の息子。

襲撃直前に会場を離れ、おまけに狙ったようなタイミングで姫殿下の救助。

 

流石にちょっと怪しい

 

5890:名無しの>1天推し

うぅん……でも、そんなに?

偶然……あれかもしれんし?

 

5891:名無しの>1天推し

偶然にしてはちょっと出来すぎつーか

 

5892:自動人形職人

一個一個ならともかく、3つ重なると良くないなですね

 

5893:名無しの>1天推し

もう調査とか入ってるん?

あの会場にいて抜け出してるなら衛兵も見てる……つかそもそも招待されてるだろうし、

そうでなくても姫様の助けに入ったところ当然見られてるわけで

 

5894:名無しの>1天推し

仕込むにしてはちょっとあからさま過ぎる気もするが……

 

5895:名無しの>1天推し

普通に事情聴取とかいきそうだな

 

5896:名無しの>1天推し

良くないですねぇこれは

 

5897:脳髄マン

どーすんだ? そのあたり危ういの理解して鬼姫様も言ったわけよな

 

5898:名無しの>1天推し

姫様も疑ってる感じ?

 

5899:1年主席天才

と、思うだろ? ここあのお姫様らしいところなんだが。

 

5900:2年主席>1

『状況的には怪しい。だが、彼は私たちの後輩で、私たちは生徒会、つまりは生徒の代表だ。

ならば私たちは彼の味方であるべきでじゃあないか? 疑うのは簡単だが、しかし短絡的でもある。

 

―――まずは彼から話を聞き、その上で判断するべきだ』

 

って感じで。

 

5901:名無しの>1天推し

さす姫

 

5902:名無しの>1天推し

かっけ~~~~

 

5903:自動人形職人

ほんと人間できてますねぇ

 

5904:脳髄マン

ただ疑うでもただ信じるでもなく、

まずは話を聞いて判断する

 

中々できることじゃないよ。

 

5905:名無しの>1天推し

ほんとは簡単なはずなんだけどな

 

5906:名無しの>1天推し

それができないのが人間ってもんよ

 

5907:1年主席天才

ま、中々ね。

というわけ

 

5908:2年主席>1

今からアレス君に会って話を聞いていきます!

 

5909:名無しの>1天推し

今から!?

 

5910:名無しの>1天推し

速い!!

 

5911:名無しの>1天推し

まぁ衛兵とかより先にいかんとな……

 

5912:自動人形職人

うーんこの真っすぐさ

 

5913:脳髄マン

いいね、それでこそだ。

 

5914:脳髄マン

じゃあ話変わるけど俺から良い?

 

5915:脳髄マン

良いね

 

5916:名無しの>1天推し

 

5917:名無しの>1天推し

 

5918:名無しの>1天推し

レスの暇なかったんよ

 

5919:脳髄マン

なんで誰も俺の名前遊びに突っ込まないの????????????????

 

5920:名無しの>1天推し

はい……

 

5921:名無しの>1天推し

まぁ……

 

5922:自動人形職人

気づいてはいたんですけどね……

 

5923:名無しの>1天推し

気づかないわけがないんよ

 

5924:名無しの>1天推し

遊びすぎ

 

5925:2年主席>1

コメントしようと思ったんですけど

 

5926:1年主席天才

僕がツッコミ関係のレス全部書き込みエラーにしてた^^

 

5927:脳髄マン

こ、こいつ!!!!

 

5928脳髄マン

お父さんそういう陰湿な扱いは許しませんよ!!!!!!!!

 

5929:1年主席天才

誰がお父さんだ!!!!!!!!!!

 




>1
早く話を聞きに行きましょう!!!

脳髄メェェェェェェーーーーン
名前変えてるのに誰も気づいてくれなくて寂しかった

天才ちゃん
^^

アレスくん&姫殿下
幼馴染
お姫様はシスターでもある。
詳しい話は後程


感想評価よければお願いします。


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ちょっと動向確認しておいた方がいいかもなー

随分更新空いてしまいましたが、特に意味はありません。飽きてたとかではないです。
モンハンサンブレイクは関係ないです。
アルティメット気刃斬り滅茶苦茶かっこいいですよね、関係ないですけど。


6138:2年主席>1

大変です、みなさん

 

6139:名無しの>1天推し

どうしたどうした

 

6140:名無しの>1天推し

アレスくんの家に5人で向かってたよな?

 

6141:名無しの>1天推し

まだ朝なのにえらい

 

6142:名無しの>1天推し

早く行かないと、王城の衛兵も来るかもだしな

そしたら話聞けなくなっちゃうかも

 

6143:1年主席天才

うむ……これは……驚いた……

 

6144:デフォルメ脳髄

天才ちゃん???????

 

6145:名無しの>1天推し

天才ちゃんが驚くレベル!?

 

6146:自動人形職人

視界共有ないと何が起きてるかわかりませんが、これは相当まずいでのは……!?

 

6147:名無しの>1天推し

そんな…何が…!

 

6148:2年主席>1

アレスくん、紅茶を淹れるのがすごい上手。

びっくりしました。

 

6149:名無しの>1天推し

おいおいおいおいおい

 

6150:名無しの>1天推し

こら!

 

6151:名無しの>1天推し

心配したでしょ!

 

6152:自動人形職人

いやでも天才さんがびっくりするほど……?

 

6153:名無しの>1天推し

どんなんやねん

 

6154:デフォルメ脳髄

でも別に天才ちゃん、グルメなイメージないよ。

 

6155:名無しの>1天推し

…………そういえば……

 

6156:1年主席天才

失礼な奴らだな、飲み物はそれなりに嗜むぞ。

味の成分とかグラフにして細分化してやろうか

 

6157:名無しの>1天推し

違う、そうじゃない

 

6158:名無しの>1天推し

それは嗜むというのか?

 

6159:デフォルメ脳髄

そんなもん俺だってできるわ

 

6160:2年主席>1

基本小食で菜食主義、ぽいですよね、天才さん。

あと珈琲とかハーブティーとかお好き。

料理は味薄いけど触感がはっきりしているのが好きで、飲み物は滅茶苦茶濃いの好きだったり

 

6161:名無しの>1天推し

さす>1、よう見とる

 

6162:名無しの>1天推し

へ……偏食なのか?

 

6163:自動人形職人

天才ちゃんの嗜好とそれをちゃんと見てる>1も気になりますけど

アレス君の方は……?

 

のんびりお茶飲んでて大丈夫なんです?

 

6164:名無しの>1天推し

確かに

 

6165:名無しの>1天推し

それはそう

 

6166:名無しの>1天推し

せやった

 

6167:2年主席>1

まぁそうなんですが。

朝一でいきなり押しかけて、「昨日何してた?」はあまりにもどうかという話ですし

 

6168:名無しの>1天推し

それはそう

 

6169:名無しの>1天推し

確かに

 

6170:名無しの>1天推し

前置きは大事

 

6171:1年主席天才

それでまぁまずはお茶でも、となったわけだね

そしたら彼がいきなり慣れた動きで紅茶淹れだして、それがまぁ美味しい。

御影も目を見張ってた。

 

6172:名無しの>1天推し

姫様が!?

 

6173:名無しの>1天推し

それはやばいよ

 

6174:名無しの>1天推し

達人級じゃん

 

6175:自動人形職人

うちのメイド嫁と匹敵する……!?

 

6176:名無しの>1天推し

どこでそんな超スキルを

 

6177:1年主席天才

おい、気持ちは解るがちょっと僕と反応違わないか?

 

6178:デフォルメ脳髄

気持ち解ってて草

 

6179:名無しの>1天推し

しゃーないね

 

6180:名無しの>1天推し

あの姫様、できないことがないんよ

 

6181:2年主席>1

いやほんと、美味しいですね。ちょっと感動しました。

焦りがありましたけど、気分も落ち着きましたよ。

 

6182:1年主席天才

……視界共有しとくか。

 

「それで―――――昨夜、アレスくんどういう経緯であの場所に?」

 

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

6183:名無しの>1天推し

一息ってそうじゃないよ!!!!!

 

6184:名無しの>1天推し

前置き抜きじゃん!!!!!!

 

6185:デフォルメ脳髄

wwwwwwwwwww

 

6186:名無しの>1天推し

>1! 真っすぐが過ぎるよ!!!

 

6187:自動人形職人

姫様も先輩も咽てて草

姫様は笑いこらえてて、先輩は絶句してる感じですけど

 

6188:名無しの>1天推し

急に視界共有始まったと思ったら天才ちゃんそういうことねw

 

6189:名無しの>1天推し

でも、話聞くならこういう感じじゃないですか?

 

6190:名無しの>1天推し

前置きー~~~~

 

6191:名無しの>1天推し

>6189

>1級の素直か?

 

6192:1年主席天才

 

「…………唐突ですね、先輩」

 

「えっ、そうですか?」

 

「……………………」

 

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

6193:名無しの>1天推し

天才ちゃん笑い過ぎなんよ

 

6194:名無しの>1天推し

参った、>1が天然すぎてアレス君がまともに見える

凄い何とも言えない顔してる

 

6195:自動人形職人

今んとこ、なんかしてる確証もないし……

 

6196:1年主席天才

「まぁ婿殿。順を追って、そして腹を割って話した方が彼にも話しやすいだろう。私たちは彼の敵ではないのだからな」

 

「5人……それでも研究生に加え、1,2年の主席の方々に押し入られると身構えてしまうものでしょう」

 

「確かに。だがまぁ、それだけ我々も君を心配しているということだ。な、婿殿」

 

「はい」

 

こういう時の頷きと視線ほんと真っすぐだなぁ。

それはそうとフォン、多分あんま話聞いてないな……?

 

6197:名無しの>1天推し

鳥ちゃんだししゃーない

 

6198:名無しの>1天推し

>1に姫様もいて、先輩にさらには天才ちゃんも控えてる

話すことないのはそう

 

6199:名無しの>1天推し

適材適所ってわけ

 

6200:1年主席天才

 

「……昨日、と言われましても。みなさんと同じように……いえ、注目を浴びていたみなさんとは違い、パーティーは途中で抜け出しました。理由は……正直、いづらかったですから。あの場に居るような人々は父の真実を知っているわけですし。国王陛下から表向きどう公表するかは知っていましたが、それを素直に聴き続けるというのは複雑なものがあります」

 

嘘はついてない。

 

6201:名無しの>1天推し

いや当然のように嘘発見器ずるいて

 

6202:名無しの>1天推し

か、駆け引きの意味

 

6203:名無しの>1天推し

セーブしてるらしいけど、セーブしてるのか?

 

6204:1年主席天才

ここら辺は洞察力と経験則。

心は……まぁ読もうと思えば読めるけど、今はやめておこう。

 

「……なるほど。では、アレス君が殿下襲撃の場に居合わせたのは?」

 

「帰り道だったからです」

 

 

うわ、嘘ついてないぞ

 

6205:名無しの>1天推し

 

6206:名無しの>1天推し

そんなことある?

 

6207:名無しの>1天推し

嘘じゃないんだ……

 

6208:デフォルメ脳髄

まぁ姫殿下が大通りとか通って来てれば、

そりゃアレス君も大通りを通ってもおかしくないか……?

 

6209:名無しの>1天推し

詳しい地形分らんけど、わりと自然か……?

 

6210:1年主席天才

「正確に言えば、戦闘音が聞こえて駆けつけた時にはすでに先輩方がいたので、来てすぐ介入したわけではありません。ただ、一瞬皆さんの隙を突いた者がいたので斬っただけです。……今思えばスぺイシアさんは気づいていたようなので不要だったかもしれませんが」

 

んー……まぁいいだろう。これもほんと

 

6211:名無しの>1天推し

あれ、白……?

 

6212:名無しの>1天推し

むしろ受け答え凄い確りしてるよ

 

6213:自動人形職人

まぁ白であることを確認しにきてるわけですしね

いい方向に話が向いているのでは。

 

6214:名無しの>1天推し

一先ず安心していいのでは?

変に悪そうな態度取られたりしたらとか勝手に心配してたけど礼儀正しいネ

 

6215:2年主席>1

安心しました。

最後に確認しておきましょう

 

6216:1年主席天才

 

「アレス君。昨日の襲撃、その直前に城を出た君。そして……お父さんのこと。―――それを踏まえた上で確認します。君は、殿下への襲撃に関係していませんね?」

 

直球しか投げないなほんと

 

6217:名無しの>1天推し

そこまで直球で聴くか?

>1だし?

そうね……

 

6218:名無しの>1天推し

まぁ……

 

6219:名無しの>1天推し

言うと思ったよ

 

6220:デフォルメ脳髄

さてはて

 

6221:1年主席天才

 

「――――えぇ。しかし僕は無関係です。殿下を害する気は一切ありません。信じてもらえるかは分かりませんが」

 

「信じます」

 

 

6222:2年主席>1

よかったー!

 

6223:名無しの>1天推し

うん、そうだね!

 

6224:名無しの>1天推し

あぁ!!

 

6225:自動人形職人

問題解決!

 

6226:名無しの>1天推し

ヨシ!!!!

 

6227:デフォルメ脳髄

アレス君最早頭痛そうな顔を隠さなくておもろすぎ

 

6228:名無しの>1天推し

ミステリアス系イケメンだったのに、常識人オーラが既に出ているな……

 

6229:名無しの>1天推し

まぁ主席天才ちゃんで次席が鳥ちゃん出しな……

 

6230:1年主席天才

ん? 何が言いたいのかな?????

 

6231:名無しの>1天推し

おハーブ

 

6232:名無しの>1天推し

まぁ天才ちゃんはわりとうまくやりそうだし……

 

6233:1年主席天才

 

「……自分で言うのもなんですが、それでいいんですか? 天津院先輩やフロネシス先輩は」

 

「いいんじゃないか? 婿殿とお前がそう言うなら」

 

「そもそも、尋問ではなく単なる確認です。本当に何かしているのなら王城から尋問なり拷問なり受けるのも時間の問題でしょう。私たちが何もしなくても。つまりこれ先輩と同級生のお節介というわけですね、貴方が別に無関係というなら私たちからそれで終わりです」

 

「……スぺイシアさんとフォンさんは?」

 

「主がそれでいいならそれで。私的にはアレスが怪しいとか良く分かんないし。個人的なこと言うとアレス、別に悪い奴じゃないなーって思う」

 

「僕からは何も。ウィルが納得するならそれでいい」

 

 

6234:名無しの>1天推し

や、やる気がないの……?

 

6235:デフォルメ脳髄

話を聞いて判断する、が爆速すぎて拍子抜け感強すぎておもろい。

 

6236:名無しの>1天推し

頑張れアレス君! 君の先輩は超素直ボーイだ!

 

6237:名無しの>1天推し

実際、先輩の言う通り>1たちがなにかしなくても

問題あれば調べ入るだろうしなぁ。

 

6238:1年主席天才

 

「何かあれば、僕たちはアレス君の味方になります。最も、ただ不安にさせるだけかもしれないですけど。それでももしもの時は……とだけ覚えておいてください。すみません、余計なお世話だとは解っていたんですが、どうしても気になって」

 

「先輩は」

 

「はい?」

 

「……先輩たちはそこまで僕を信じられますか? ちゃんと喋ったのはほとんどこれが初めてでしょう」

 

()()()()だからです」

 

うーん言いきる。

 

6239:名無しの>1天推し

隣で>1の先輩がちょっとドヤってるのおもろい

 

6240:名無しの>1天推し

どういう感情なんだ

 

6241:名無しの>1天推し

私の後輩ですよ?

 

6242:名無しの>1天推し

彼の先輩のイメージは私なんですよ?

 

6243:名無しの>1天推し

どっちもありそう

 

6244:自動人形職人

鳥ちゃんが先輩のドヤを見て絶妙に引いてるところまで含めて完成度が高い

 

6245:1年主席天才

 

「君が偶然と前学園長……お父さんのことで不要な疑いを懸けられるのは()()()です」

 

「――――――ですか。一応、ご心配に感謝を」

 

 

ふむ……

 

6246:名無しの>1天推し

まぁ>1らしいよ

 

6247:名無しの>1天推し

俺ら的には>1が納得してくれるならええねんけどな

 

6248:名無しの>1天推し

大丈夫かな、アレス君からしたらうざってならんか?

 

6249:名無しの>1天推し

うざがるってよりは、>1のストレートさにあきれてるって感じだけど

 

6250:2年主席>1

さっきまでは拙いんじゃないか? って思って急いできましたけど、

なんもなさそうであれ?先走った……?感を今更感じてます。どうしよう。

 

6251:名無しの>1天推し

 

6252:名無しの>1天推し

まぁそういうもんだしな調査とか

二の足踏むのはよくあること

 

6253:1年主席天才

ま、なるようになるだろ。

 

6254:名無しの>1天推し

まぁ

 

6255:名無しの>1天推し

ざつぅー

 

6256:名無しの>1天推し

実際、これからどうなるかだしなー

 

6257:デフォルメ脳髄

天才ちゃんの嘘発見器あるしまぁ大丈夫だろうけど。

 

ちょっと動向確認しておいた方がいいかもなー

天才ちゃん!!!!

 

6258:1年主席天才

何でもかんでも僕に振るな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ」

 

 押しかけて来た先輩たちが帰った後、近所の店に足を運んだアレスはため息を吐いた。

 思う所はある。

 色々と。

 けれど一先ずは休日の日課だ。

 入学前に≪共和国≫から王都に越してきたアレスは、休日は学園の寮ではなく王都内にある住まいに戻っている。

 オリンフォス家の本家、ではないが幼い頃父と一時期過ごした場所だ。

 アレスは紅茶を淹れるのは得意だが、料理はしない。なので、必然的に休日の食事は外食か店で買ったものを家に持ち帰る。

 そして、朝食に関しては昔なじみの店で採るのが習慣だった。

 だからいつもの様に店の扉を潜り。

 いつもの様に禿頭、大柄、色眼鏡(サングラス)、エプロン姿の店員に挨拶をしようとし。

 

「…………?」

 

 彼と話している見慣れない男を見た。

 彼もまた、アレスに気づき視線が合う。

 短髪長身、精悍な顔つきの男性。おそらく二十代後半あたり。

 肉体労働の作業員には珍しくないデニムズボンと質素な白いシャツ―――ここまではよかった。

 

 良くないのは――――――シャツに、デフォルメされた()()が描かれていたことだ。

 

「……………………」

 

 可愛らしくデフォルメされているとはいえ脳髄である。

 謎に目だけついてキャラクターぽくなっているのが逆に不気味だ。

 というか、イラストが刺繍かと思ったらアレスには良く見たことのない加工で、絵がそのまま貼り付けられているように見える。

 謎だ。

 

「ふむ」

 

 口端をひきつらせたアレスに、彼は小さく頷いた。

 低い声だった。

 

「少年」

 

「………………な、なんでしょうか」

 

 

 

「―――――良い儲け話があるぞ?」

 

「すみません失礼します」

 

 




>1
どうしようもなく駆け引きとか交渉に向いていない
モンスターによって武器種まんべんなく使うタイプ
ちょっと先走ったかなーと反省。

天才ちゃん
ふむ……?
読心術とかできるけど、そういうのは無し。
仕様武器は狩猟笛。ただし一人だけフロンティア仕様。

姫様
アレスの紅茶の美味しさにビビってる
勿論交渉も尋問駆け引きもできるが、今回はアレスから一先ず関係あるのかどうかを確認したかっただけなのでノータッチ
大剣使い。流斬りも環境生物も完璧に使ってそう

先輩
私の後輩の先輩は私ですが?????(ドヤァ
変形機構がかっこいいという理由でチャアクとスラアクの大技をキメるのに命かけてそう

鳥ちゃん
紅茶美味しい。そもそも駆け引きをするという発想もない
双剣で一生空舞とリヴァイ斬りしてる

アレスくん
困った、変な奴としか会わない
太刀使い、居合上手そう


謎の脳髄Tシャツマン
一体なに脳髄のナニマシンボディなんだ……
徹甲斬裂散弾ヘヴィでハメしてそう

次回謎のTシャツマン&アレス君

感想評価いただけると幸いです。


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【脳髄転生推し活記録】 その3 -遭遇ー

 

 

「我が名は()()()()()……ふふふ……くくっ……よろしくな、少年!」

 

 趣味の悪いシャツの男は、何が面白いのか笑いながら名乗った。

 

「そして、この男は――――()()()()()()!」

 

「知っていますが。マックさん、大丈夫なんですか? この人」

 

「どうだろうなぁ」

 

 店の店主を紹介するように、アレスにとってはとっくに知っている男の名を教えてくれた。

 マクガフィン・バウチャー。通称マック。

 肩を竦める男は雑貨屋喫茶≪GBA(グッドアンドバッド・エンジェルズ)≫の店長であり、アレスの古馴染み。

 店の右半分に数席のカウンターとテーブル、もう左半分には生活雑貨や自家製パン。

 裏社会の親玉という風貌だが、手先は器用で口も堅い。

 

「くくく……ジョン・ドゥにマクガフィン……笑えるな全く……」

 

「ミスター・ドゥ。マックさんの名は彼の父母から授かったものです。それを笑うのはどうかと」

 

「あっ、はい」

 

 アレスの正論に、ジョンは何も言えなかった。

 名無しの権兵衛(ジョン・ドゥ)

 代替可能貴重品(マクガフィン)。 

 アース・ゼロやその他多くの世界ではそれなりに知られた意味の単語であるが、残念ながらアース111には存在しないため、誰にも通じない。

 

「すまぬな、マック」

 

「いいっすよもう」

 

「流石は我が親友」

 

「会って、というか王都に来てまだ2,3か月でしょ」

 

「十分では?」

 

「…………2,3か月? 僕と同じくらいにこっちに?」

 

 アレスはこの5年間≪共和国≫にいて、この春に≪アクシア魔法学園≫に入学するために王都に戻ってきた。週末にしか戻ってきていないにしても、同じタイミングで王都に引っ越したというのならどこかで会ってもおかしくないはずだが。

 それもこんな変なシャツを着た男なのに。

 

「ふむ、まぁそういうこともあるだろう。俺は休日は家に引きこもっているタイプだしな」

 

「………………はぁ」

 

 休日の過ごし方なんて人それぞれなのだが。なんか釈然としない。

 

「とにかくだ!」

 

 ジョンが手を叩く。 

 精悍な顔つきだが、致命的にシャツが合っていない。

 

「儲け話だ。何も、無為に日々家に引きこもっているわけではない」

 

 平日も引きこもっているのか……? とアレスは思ったが口にしなかった。

 正直、さっきのウィル・ストレイト一行で大分気疲れしたので早く帰りたい。

 朝食もまだなのだ。

 初対面の怪しい男の儲け話なんて詐欺の常套句。

 胡乱な目でマックを見るが、肩を竦めて終わり。

 話を遮ったりしないということは、そこまで悪い話ではないのかもしれない。

 それくらいの信用を、アレスは彼に置いている。

 

「ふっふっふ……俺の溢れる脳髄は日々、革新技術を生み出しているのだが」

 

「脳髄って溢れるんすか?」

 

「漲る、の間違いでは?」

 

「溢れる! 脳髄が! 思いついた! それは! 奇跡の調味料! メィヨー・ソース!!!」

 

 やたらめったら大きな声だった。

 無駄に両腕を広げて天を仰いでいるのが絶妙に鬱陶しい。

 それはそれとして、

 

「…………メイヨーソース?」

 

「ノン! メィヨー・ソース! 下唇を使え少年! メイヨーではない、ンメィヨォ、だ!」

 

 キレそう。

 マックの店に来るだけだったので愛刀はない。

 

「そのンメイヨォってのはなんなんすか? 奇跡の調味料、とは」

 

「うむ。何、量産は別に難しくない。だが同時に何と合わせても上手い優れモノだ。世にはあらゆる食事にメィヨーを懸けるマスター・メィヨラーなる者もいるという」

 

「失礼。ドゥさんが思いついたのでは?」

 

「そして作り方は!」

 

 刀が合ったら鯉口くらい切ってたかもしれない。

 

「鳥の卵黄をな? 食用油、酢と攪拌しまくるのだ。そうするとだんだん白っぽくなっていって、ねっとりとしたソースになる。もちろん、品種によって手順や量は要調整だが、十分可能な範囲だ。とりあえず一度作ってみたいので、材料を分けて欲しいのだが……」

 

 卵黄、油、酢を混ぜたソース。

 

「それは……」

 

「……………………マヨネーズでは?」

 

「マヨネーズあるのか!?」

 

 仰天したジョンにマックが店の左側、調味料の棚を指す。

 どたどたと足音を立てて、彼が掴んだのは黄色味を含む白の瓶詰ソース。貼り付けられたプリントにはデフォルメされた老人が満面の笑みでお茶碗に盛られた米にとぐろを巻いてかけていた。

 

「何者だこのジジイは! マヨラーではないか!」

 

「初代国王陛下です。不敬罪で通報しますか?」

 

「この人世間知らずだから大目に見てやろう」

 

「くっ……この……初代陛下様……! 貴殿は……!」

 

 敬意を見せたので通報はしないでおく。

 呻くジョンはマヨネーズを棚に戻し、マックとアレスの所まで戻って、

 

「ならば次だ!」

 

「切り替え速いっすねー」

 

「まだあるんですか……」

 

「飯の次は文化! 物語!」

 

「物語……本か何かですか?」

 

「うむ!」

 

 頷きは力強かった。

 アレスも勉強のために参考書は読むが、純粋な読書の習慣はあまりない。

 

「マックさんの店って本売ってましたっけ。見たことないで気がしますけど」

 

「あるよ。言ってくれれば出す」

 

「フハハ! ならばこれも加えてもらおう! タイトルは――――『モモ・タローと3人のお供』!」

 

「『モモタロウ』のパクりっすか?」

 

「『桃太郎』あるのか!?」

 

 デジャブを覚えた。

 そして『モモタロウ』はアレスも知っている。

 

「皇国と王国のハーフである桃太郎が魔族がはびこる島に向かって、龍と聖狼、神鳥共に旅し、魔族を島ごと消滅させる冒険譚でしょう。吹き飛ばした島の地下に金鉱があって大金持ちになる成功譚ですね。王国ではわりと人気の話です」

 

「えぇ……? なんかローカライズされてるし凄い派手ではないか……」

 

「これも初代国王陛下が自ら子供向けに書かれたお話っすね」

 

「Oh……国王陛下……」

 

 ジョンが天を仰ぐ。

 アクシオス王国初代国王。魔族大戦の際に小国をまとめ上げ統合し、王国を作り上げたカリスマは文化的な面でも現在の王国に多大な影響を与えている。ちなみに先ほどのマヨネーズに米、というのも初代国王の好物だったとされるもの。彼はこの地域の旧王国領出身にもかかわらず天津皇国の食べ物や調味料を好んだという。

 

「…………ならば! 次が本命だ!」

 

 脳髄の男―――なんだそれ―――は諦めなかった。

 その不屈の精神だけは見習ってもいいかもと思い。

 いや、やっぱいいやと思った。

 話半分に聞き流しつつ、パンコーナーに視線を向ける。いつも食べるものは大体決まっているが、無駄な時間を潰すにはちょうどいい。

 

「聞くがいい、マック。その名も≪ハーバー・ボッシュ法≫だ」

 

「はぁ。人の名前みたいっすね」

 

「フハハ! これはまさしく魔法の技術! ほんとに技術革新をしてしまうだろうなぁ!」

 

 パンコーナーに並んでいるのは主食にもなるバケットや食パン、おかずにもなる総菜パン、それに菓子パンの三種類。どれもマックの手作りなのだから恐れ入る。数としては多くはないのだが来るたびにバリエーションが変わる当たり、本人の細やかさと凝り具合が伺える。

 アレスのお気に入りはスコーンだった。

 

「これはだな、聊か専門的話になるので一先ずざっくり話し、詳細は後で実践する時に説明するが。あー……水と空気を特定の気体……石炭とかでもいい。これを上手いこと反応させてたな。アンモニア……さらに別の物質を生み出せる。これを基にすれば食物の肥料に加工できてだな」

 

 自慢ではないが、アレスは紅茶を淹れるのが得意だ。

 先ほどもウィルたちに褒められたのは、実は嬉しかった。

 何より≪アクシア魔法学園≫において完璧超人と謳われる天津院御影に褒められるというのは、ちょっとした勲章ものだ。

 少し迷って、やはりスコーンとバケットをトングでトレイに取る。

 ≪共和国≫の食事は全体的に味付けが淡いものが多かったので、完全にそれに慣れてしまっている。

 そのままマックたちの下へ持っていき、

 

「そうすればだな、空気から肥料を生み出し農業に転用する―――つまり『空気からパンを生む』ことができるわけだ!」

 

「次は錬金術の話ですか?」

 

「…………………………なんと?」

 

「マックさん、会計を。……いえ、だから今度は錬金術でしょう、それ」

 

「ほいほい。確かに、そういうの研究してる連中はもういますよ」

 

「……………………そうなのか?」

 

「魔法で物事を為すのではなく、魔法の結果からより大きな事を為す。或いは魔法を用いなくてもいい技術を生み出す、というものですね。歴史は古いですが、ここ20年の各国の技術交流の活性化により聊か先細りしていると聞きます。もちろん、無くなることはないでしょうが」

 

 魔法で炎を生み出すのは魔法学の分野だが、その炎で発生した灰から石鹸を作る。

 魔法で水を生み出すのは魔法学の分野だが、その水に酵母を混ぜて発酵し、酒を造る。

 魔法で植物を成長させるのは魔法学の分野だが、その植物から薬を作る。

 勿論、魔法を一切介さずともいい。

 個人の系統は完全に先天性故、どうしても手の届かない範囲がある。それを補うのが古来、錬金術の役目だった。

 

 言葉通り、王国を中心に技術交流が進み、各系統同士の代替・互換法が広く伝わっている故にかつてほどの需要は減っている―――というのが学園の錬金術の講義のガイダンスで聞いた話だ。

 

「空気から肥料を生む……というのは、悪くはないと思いますけどそもそも農業従事者の方は『活性』や『生命』は持っているのが基本ですし、やはりニッチでしょう。特に王国は土地が肥沃ですし、さらにいえばそうでない帝国にしても限られた系統でも大地を豊かにする魔法は流通しています」

 

「…………それも、初代国王陛下が?」

 

「いえ、トリウィア・フロネシスさんが」

 

「………………………………………………そっかぁ」

 

 ジョンがなんともいえない妙な顔になりながら頷いた。

 先ほどアレスの家で無表情でお茶を啜っていた―――少なくともアレスにはそう見えたし、そのドヤ顔は近しい者か、彼女をよく観察していないと分らない―――オッドアイの女性は紛れもなく歴史に名を残す才女なのだ。

 王国に来て4年目、在学中に発表された系統構築は数知れず。

 「各系統の応用・代替構築」というあまりにもおおざっぱなテーマで学園研究生として認められたのは彼女の有能性あってのことだ。

 

 ジョンの脳裏に無表情でどや顔ピースするトリウィアが思い浮かんだ。

 

「つーか、ジョンさん、それこそ錬金術師だと思ってましたわ」

 

「なんということだ。俺は脳髄の錬金術師だったのか……!?」

 

「その脳髄への執着は一体……」

 

 恐ろしさしかない。

 マックに勘定をしてもらい、スコーンとバケットの入った紙袋を受け取る。

 それならば、もはやこの場に用はない。そんな言い方はどうかと思うし、いつもならマックと軽く雑談するが今日は例外だ。

 

「難しいな、知識無双……アルマめ、これらを広めてもいいか確認したら何も言わなかったのはそういうことか……絶対ニヤケていただろうに

 

「それよりもジョンさん、いつものないんすか?」

 

「むっ、あぁ。それなら用意している」

 

「うっひょー! これですこれです!」

 

「……?」

 

 気配を消して去ろうと思った時だった。

 ジョンがポケットから折りたたんだ紙を渡し、マックが狂喜乱舞している。

 

「……」

 

 正直、気になってしまった。

 マックは冷静だし、大人だ。アレスが信頼する貴重な人物。

 父のことで色々ありながら、それでも昔と付き合い方を変えてくれない人でもある。

 そんな男が、声を上げて喜ぶものとは、

 

「………………銃の設計図、ですかこれは?」

 

「むっ。あぁ、そうだ」

 

「これは……ドゥさん、そういう設計士で? 専用の製図盤とか使ってとか、それこそ何か魔法で?」

 

「? 否、フリーハンドの手書きだ。頭の中の図を起こしただけだな」

 

「……」

 

 思わず息をのむ。

 ノートの切れ端に書かれたそれは極めて正確な銃の設計図だ。フリーハンド、ということは定規やコンパスといった製図機器を使っていない。にもかかわらず直線や円が一切のブレなく正確に描かれている。

 銃の三面図、内部構造、細かいパーツや火薬の調合方法。

 そういったものが印刷でもされたかのような緻密さを持つ。

 専門書のページを切り取ったと言われても納得するレベルだ。

 

 もしかして、高名な銃職人、或いはそれこそ錬金術師ではないかと思う。

 

「しかしその、これは一体」

 

「あぁ――――非魔法・火薬式六連装散弾銃だ」

 

「六連装散弾銃」

 

 思わず眉間を揉む。

 散弾銃、というのは知っている。

 銃と言うのは基本的に魔法の発動媒体だ。弾倉に魔力を込めて、発動を円滑に行うものであり概ね帝国では弾丸自体に固定化された魔法を用いることで戦力の均一化を行っているという。

 非魔法・火薬式は皇国で用いられることがあると聞くし、散弾銃というものは知っているが、

 

「六連って……」

 

 銃身六つが六角形で纏めて無理やり撃つ構造のようだが、それにしたって無駄ではないだろうか。殺傷力と言う点では確かに高まるが、普通に撃つには反動が尋常ではないだろうから何かしらの肉体強化が必要だが、敵を殺すならその強化した肉体で斧でも振り回した方がいいだろう。

 

「そもそも構造的に撃てるんですか?」

 

「設計図通りに作れば、だな。実際にできるかは知らん。ものがものだけに、ミリ単位でも設計とズレれば撃った瞬間に銃ごと撃った者がぶっ飛ぶ」

 

「欠陥品では……」

 

「暇つぶしで書いたものだしな」

 

「暇つぶしって」

 

「正直、俺は絶対に使わん。産廃だ産廃」

 

 そんなレベルではないのだが。

 何故そんなものをこんな精度の設計図で、と思うが、それこそ暇つぶしだからなのだろう。

 

「何言ってんすか! それが良いんじゃないっすか! ロマンっすよ、ロマン。いやー、ジョンさんが持ってきてくれる銃最高っすわ。最初これがなかったら秒で店追い出してましたもん。

そうじゃなくても出禁にしてた」

 

「ん? 友よ、今なにか厳しいこと言ってないか?」

 

「へっへっへ。こいつはちゃんと保管しておかねーとな……ちょいと裏に行ってきます。それとアレス、新しい紅茶の葉を仕入れて渡そうと思ってたんだ。それも取ってくるから待っといてくれ」

 

「えっ……」

 

 ウキウキと巨大な身体を揺らして店の奥にマックが消えてしまった。

 そうなると、この謎の、そして変な男と二人残されることになる。

 紅茶の葉をくれるというのなら欲しいし、そうでなくても店主が店頭にいないのもどうかと思う。

 溜息を吐きつつ、脳髄の男を見る。

 そして、思っていたものと違うのを見た。

 

「――――」

 

 ジョンは、マックの背中を目を細めて見つめていた。

 それまでのむやみにテンションの高い様子とはまるで違う、感情を込めた瞳だった。

 

 その時、アレスに電流が走る。

 アレスは雷属性5系統を網羅しているが、そういう意味ではなく。

 

「……ドゥさんは、帝国から来られたのですか」

 

「むっ? 何故」

 

 理由を聞かれ、垂れた前髪を弄りながら少し言いよどみ、

 

「帝国では、その手の……その、男性同士は基本禁じられていると聞きます。王国ではまだ少数派ですが法律としては認められていると言いますし……」

 

「……………………否、勘違いだ。そういうことではない。というか認められているのか王国。ジェンダーレスが進んでいるな……そういえばオカマもいたし……」

 

「初代国王陛下が解禁したそうです」

 

「先進的すぎる」

 

 こほんと、ジョンは咳払い。

 

「勘違いだ、少年。そういう話ではない。ただ……そうだな。マックは俺の昔の戦友によく似ている。あの手のロマン武器に目を輝かせるあたりな、だから懐かしくなっただけだ」

 

「…………貴方は、大戦の経験者で?」

 

「んん……ま、そんなところだ」

 

 苦笑しながら、彼は短い髪の頭を掻く。

 

()()あった……全くいろいろだ。何の因果か巡り巡ってこの街に来て、昔の連れのそっくりさんに出会うから人生とは何があるか分らんものだ」

 

 マックが入っていた店の奥を見る目を、アレスは知っていた。

 似たような目をしてる人を見たことがある。

 過去に失ったものを思い出し、偲ぶ者の目だ。

 父の友人のそういう目を何度か見たことがある。

 父は、一度もそんな目を見せなかったけれど。

 

 前向きな人だと尊敬していたが今思えば、そういうことなのだろう。

 

 失ったもの。

 その言葉を思い、記憶が昨夜に引き戻される。

 戦っていたウィルたちでもない。魔族信仰者たちでもない。懸命に使命を果たしていた近衛騎士でもない。

 

 5年ぶりにその姿を見た――――ヴィーテフロア・アクシオスを。

 

 自分が襲撃者を切り捨てた時にはもう、彼女は馬車から飛び出してきた。

 身長は記憶よりも高くなっていたが、年を考えればまだ低い方。厚手の修道服故に体のシルエットは解りにくいがそれでも随分と丸みを帯びて成長を感じられた。

 勢いがよかったせいか、外れたフードから零れる髪は夜明けの光に蜂蜜を溶かしたような黄金。

 瞳は海のような深い青。

 記憶よりもずっと、彼女は成長していた。

 無垢な少女でありながら、微かな色気を秘め、しかしそこにいるだけで空気が晴れやかになるような佇まい。

 

 アルマ・スぺイシアを見た時は正直驚いた。

 あんなにも造形が整った少女がこの世に―――――ヴィーテフロア以外に存在するなんて思わなかったから。

 超一流の職人が丹精込めて作った精巧な人形のような、或いは生物や性を超越した美がアルマならば。

 ヴィーテフロアは人としての、女としての、少女として、そういったものの究極、美の女神ともいえるのがヴィーテフロアだ。

 

 きっと、彼女がアレスの名を読んだ時他の者はその声から悲痛さを感じ取っていただろう。

 けれど、アレスにはわかる。

 そこに悲痛なものはなかった。

 そしてアレスは知っている。

 ヴィーテフロア・アクシオスがどういう少女なのか。

 

 彼女は笑っていたのだ。

 

 刺客に襲われる中、命の危機で。

 揺れる髪と夜の闇で正面から見ていた自分にしか気づかなかっただろうが。

 それでも彼女は薄く笑っていた。

 ゾクリと、背筋が震えたのをはっきりと覚えている。

 

 だから、自分は――――

 

「…………少年? 大丈夫か」

 

「………………はい。すみません、立ち入ったことを」

 

 店の奥から足音が聞こえる。マックが戻ってくるのだろう。

 戻ってきて変な空気にしたくないので、気持ちを切り替える。

 いずれにしても変な人であるが、悪い人でないかもしれない。

 週末だけとはいえ近所なのだから、付き合いは必要だ。

 

「失礼しました、ドゥさん」

 

「ジョンで良いぞ、少年」

 

「それでは、アレスと」

 

「うむ、アレス少年。―――――ちなみに紅茶と一緒に脳髄シャツはいるか?」

 

 やはり付き合いは考えるべきかもしれない。

 

 

 

 

 

 

                              

マキナ

質問する。何故マヨネーズやラーメンやHB法が既にある、ないし技術革新になると言わなかった????


アルマ  

これからこっちで生きようっていうのにあれこれ変な技術革新させるわけないだろ


マキナ 

ぐうの音も出ん


マキナ 

だがお父さんの収入のことも考えて欲しい


アルマ 

誰がお父さんだ! 身元のためと自分の世界帰れなかった君のためにとりあえず戸籍作っただけだろ!


マキナ 

指摘しよう。―――つまり俺がパパということだ。パパって呼んでも良いぞ


アルマ 

ぜってー嫌


アルマ 

…………それで?


マキナ 

俺から見ても、やはり問題ないと判断できる。体温、心音、声紋等観測していたが嘘をついたり隠し事をしようという意思は感じられなかった。若干の動揺はあったが……


アルマ 

あのくそダサキモイシャツ着てるやつに話しかけられたらそりゃそうなるだろ……


アルマ 

ふぅむ……そのあたりも含めてやっぱちゃんとしてるな……


マキナ 

それから……これは個人的な感想なのだが


アルマ 

うん?


マキナ 

どこか……ウィルに似ているな、彼は


 

 

 

 




マキナ/ジョン・ドゥ
クリスマス時点で脳髄本体から魂ごと分割されているので現在フリー。
ボディは変わらずナノマシン構築の強化人間。実質ターミネーター。
自分の世界には帰りたくないし、行くところもないので天才ちゃんと一緒にアース111に移住。
戸籍を得る為に天才ちゃんと義理の親子に。パパダヨ-
偽名に意味はあんまりない。ジョン・ドゥって言いたかっただけ。

GRADE2入ってからの彼の言動を見返すと、王国にいたから出たのでは?という発言が散見されますね

マクガフィン・バウチャー
強面のロマン兵器好き
料理も上手だが、店に大体なんでもある
確実にトリウィアと意気投合できる


「ジョン・ドゥ」
デウス・エクス・「マキナ」
「マクガフィン・バウチャー」
「グッド&バッドエンジェルズ」
物語の技巧関連の名前たち。
脳髄ニキの境遇思うと大した皮肉ですよね、ンハハ

アレス
影のあるイケメンが実際に変な相手との付き合いによる疲れの出るイケメンになってしまった
頑張れアレス君、君の先輩と隣人は変人だ!

アルマ
ぜってーパパとは呼ばない
連絡自体はそこそこ取りあっている

ヴィーテフロア・アクシオス
作中顔面偏差値は彼女とアルマがトップ。


■■■
アース1203において現在マキナ/ジョン・ドゥと名乗る男のかつての戦友であり、幼馴染であり、親友。
共に無機物生命体との戦争において類のリーダーである男を支え、戦い続けた。
最後まで。

ちなみにその1は天才ちゃんと脳髄ニキのドタバタ戸籍づくり
その2はマックとの出会い

次話から新展開

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属性盛り過ぎだろあのお姫様

新章にございます


1:2年主席>1

定期テストも終わったので新スレを立てました

 

2:名無しの>1天推し

おつ!

 

3:名無しの>1天推し

立ておつ!

 

4:名無しの>1天推し

新鮮な>1天スレだ!!

 

5:名無しの>1天推し

スレ立てもテストもおつ~

 

6:自動人形職人

お疲れ様です。

天才さんも

 

7:名無しの>1天推し

おっつおっつ

 

8:脳髄

おつ!

もうそんな時期かー

 

9:名無しの>1天推し

懐かしいな、去年はこの直後に鳥ちゃん出て来たんだっけ

 

10:名無しの>1天推し

結果は……?

 

11:2年主席>1

なんとか、1位でした

 

12:名無しの>1天推し

おー! おめ!

 

13:名無しの>1天推し

流石だァ……!

 

14:名無しの>1天推し

主席の名は伊達じゃないですねぇ!

 

15:脳髄

俺も脳髄も高いよ

#脳髄ジョーク

 

16:名無しの>1天推し

久々に見たよそのハッシュタグ

 

17:名無しの>1天推し

 

18:名無しの>1天推し

うける

 

19:名無しの>1天推し

ぶっちゃけその脳髄がどうこうって何回も聞いてるんだけど

脳髄の絵面を想像するとなんか笑っちまうので悔しい

 

20:1年主席天才

いや、今回はちょっと雑でしょ

良いこと思いつかなかったから、ハッシュタグで誤魔化そうとしているのを感じる

あと名前も脳髄に戻してるのでネタが尽きたんだな……となる

 

21:脳髄

つつつつ尽きてないし!

脳髄が溢れてるし!

 

22:名無しの>1天推し

くさ

 

23:名無しの>1天推し

しんらつぅ!

 

24:自動人形職人

この切れ味よ

 

25:名無しの>1天推し

おもろ

 

26:名無しの>1天推し

>1が一位ってことは

 

27:名無しの>1天推し

天才ちゃんは……

 

28:名無しの>1天推し

まあそりゃあ……

 

29:1年主席天才

僕、3年間試験免除

 

30:名無しの>1天推し

は????????

 

31:名無しの>1天推し

ずるっwwwww

 

32:名無しの>1天推し

えぇ……?

 

33:名無しの>1天推し

1位とかの話じゃなかった

 

34:2年主席>1

そうなんですか!?

 

35:1年主席天才

ん、言ってなかったけ?

 

36:名無しの>1天推し

>1も知らないのかよwww

 

37:名無しの>1天推し

 

38:自動人形職人

うーんこの

 

39:脳髄

俺も鼻が高いよ……ないけど

 

40:名無しの>1天推し

て、天丼……!

 

41:名無しの>1天推し

脳髄ニキ、ネタが……!

 

42:名無しの>1天推し

それでどういう経緯でそんな試験免除に……?

 

43:1年主席天才

ほら、僕って戸籍捏造して入学ねじ込んだわけだろ?

だからわりと真面目にあの世界の魔法について論文書いたら

それが認められたというわけだね。

 

正確に言うと授業態度の査察や成績の確認はあるけれど。

 

44:名無しの>1天推し

はえ~

 

45:名無しの>1天推し

さす天

 

46:名無しの>1天推し

今更だけどマジ天才なんだな……

 

47:2年主席>1

ろ、論文……?

そんなのあったんですか……?

 

48:1年主席天才

いや、>1にはちょっと教えただろう?

 

複数系統の重ね合わせじゃなくて、

単一属性・系統の特化理論

 

49:2年主席>1

 

 

……………………………………あー……

 

50:2年主席>1

そういう……そっか……うわぁ……

 

51:1年主席天才

ふふん、ま、他意はないよ?

 

52:名無しの>1天推し

なんだ?

 

53:名無しの>1天推し

すげぇ反応しとる

 

54:自動人形職人

つまり……どういうことです?

 

55:1年主席天才

あの世界、基本的な魔法理論は系統を重ね合わせたほうが強いわけだよ。

>1や僕、先輩殿が天才扱いされたり、≪究極魔法≫とかがまぁまさにそれだね。

 

逆に言えば、保有系統が少ないのは落ちこぼれ扱い……まではいかなくても

あまりにも少ないとそういう風になるらしい。

 

どうしたって、できることの範囲が狭まるからね。

 

56:1年主席天才

基本思想が系統同士の足し算か掛け算だったので、

僕の場合は系統単体の自乗式理論を作ったわけだ。

 

あの世界にも魔力はあるんだけど、基本的に一度に使える量は各個人の才能、

魔力=水 系統=をフィルター付きの蛇口としたら

蛇口が多いだけ色んな水が作れるわけだけど。

 

僕は一個の蛇口の排水量を増やすやり方を提示したわけだね。

 

57:1年主席天才

鳥ちゃんみたいな亜人族ではそれに近いものあるんだが、

人種の魔法では試みられなかった……というかうまくいかなかったという。

 

大昔は亜人と人種の関係悪かったせいで、人種から見下されたりして

あんまり発展しなかったとかそういう背景もあるんだとか。

 

なので意外なニッチ層だったのでそこを突いたら

あまりの完成度に学園に認められて試験免除というわけだ。

 

58:脳髄

なぁみんな

 

59:脳髄

俺に言いたいことあるからまず言わせてくれ

 

60:脳髄

ふぅぅぅぅ…………

 

61:脳髄

 

―――――いや知識チート無双しとるやんけ!!!!!!!!

 

 

62:1年主席天才

こういう風にするんだよwwwwwwwwwwwwww

 

63:名無しの>1天推し

いや草

 

64:名無しの>1天推し

なんかおもろ

 

65:名無しの>1天推し

脳髄ニキの文字、なんか揺れてるのずるい

 

66:自動人形職人

知識無双……!

結局僕が失敗したやつ……!

 

67:名無しの>1天推し

そいや職人ニキもそうだわ

 

68:名無しの>1天推し

まぁ一回は憧れるよね……

 

69:名無しの>1天推し

はい…………

 

70:名無しの>1天推し

まぁうまくいく方が珍しいんだけど……

 

71:名無しの>1天推し

転生前によっぽど専門家じゃないと

素人知識の浅知恵で上手くいくわけないんだワ

 

72:名無しの>1天推し

それはそう

 

73:脳髄

そんな軽率な知識無双して!

現地への影響を考えないんですかぁー!?

 

74:1年主席天才

基本的に認められたのは術式完成度だ。

 

さっきの言い方だけだとパワーバランスを書き換えるようにも聞こえるが、

実際は単独系統の自乗術式は難易度が高い。

向き不向きもあるし、誰にでもできるわけではないんだなこれが。

 

そもそも系統を1つ2つだけしかないのはごくごく少数だし、

大半の人にとってはこれまで通り系統同士の掛け算したほうが有用だ。

 

75:1年主席天才

1系統自乗だと応用性のかけらもなくて運用法が極めて限られる。

なので、前提の難易度と結果のパフォーマンスがぶっちゃけ若干釣り合ってない。

 

76:2年主席>1

えっ……?

 

77:1年主席天才

せめて5系統1属性網羅して特化すれば別だが、

そうするとやっぱり応用性と難易度の話になるわけだ。

 

目的を振り切った限定的な使用という点では極めて有用ではあるけどね。

 

78:2年主席>1

な、なるほど……

 

79:名無しの>1天推し

つまり……どういうことだってばよ?

 

80:名無しの>1天推し

よくわからんが天才ちゃんがすごい

 

81:自動人形職人

極一部の少数系統持ちへの救済であり

さらには特化勢のブレイクスルーにはなりうるけど

>1の世界の大半の人にはあんまり関係ないし、そもそも難易度が高い……というわけですかね

 

82:1年主席天才

そういうことだ

 

83:名無しの>1天推し

はえー

 

84:名無しの>1天推し

なるほどな

 

85:名無しの>1天推し

いい塩梅だァ

 

86:名無しの>1天推し

さす天

 

87:脳髄

クッッッッッ……!!!!!!!!!

 

88:名無しの>1天推し

めっちゃ悔しがってて草

 

89:名無しの>1天推し

おもろ

 

90:名無しの>1天推し

どこで何してるんだよw

 

91:1年主席天才

実際トリウィアに見せたら、内容は嬉々として検証してたけど、

結局普通に系統掛け算するのが楽じゃね? ってなってたからそんなもん。

 

92:名無しの>1天推し

 

93:名無しの>1天推し

そんなもんか~

 

94:名無しの>1天推し

先輩、そういうところある

 

95:1年主席天才

まぁあれはアレでもあの世界の超がつく上澄み頭脳だからね。

 

ちなみに彼女の研究は系統掛け算の応用性と普及確立なので、多分アースゼロで言うノーベル賞もの。

各国で発展したものとか極一部の口伝やら特定手段の為の魔法とか再構成して

この結果を出したいなら、この系統掛け算すればできるようになりますよを体系化してるので実際凄い。

 

96:2年主席>1

はえ~~

 

授業でもちょいちょい先輩考案の術式とか学びますしねぇ

 

97:名無しの>1天推し

>多分アースゼロで言うノーベル賞もの。

ガチで凄くて草

 

98:名無しの>1天推し

あの先輩、やっぱ凄いんだなぁ……

 

99:名無しの>1天推し

おもしろ先輩……

 

100:名無しの>1天推し

無表情ドヤ顔先輩……

 

101:自動人形職人

謎のかっこいいポーズ先輩……

 

102:名無しの>1天推し

てか一点特化魔法チートで無双むずいの切ない

 

103:名無しの>1天推し

ロマンだよね、そういう世界に一人だけ使える尖った魔法とか武術とか

 

104:名無しの>1天推し

嫌いじゃないわ

 

105:1年主席天才

僕から言わせればそういう「その世界に一人しか使えない魔法・技術」って

それが強いというより、それが使える本人が強いだけなんだよな。

 

マルチバース全体見ると、別の世界だと意味ないのもあるし。

 

一番良いのは普遍かつ不変な基礎極めてるタイプだと思う

それかめっちゃシンプルなやつ

 

106:名無しの>1天推し

それは……

 

107:自動人形職人

まぁ……そうなんですが

 

108:名無しの>1天推し

それができたら苦労しないんだワ

 

109:名無しの>1天推し

圧倒的万能強者の意見はやめるんダ

 

110:2年主席>1

転生特権使いこなしきれてないので耳が痛い

 

111:名無しの>1天推し

シンプルイズベストってあれかな、

配信勇者ちゃんみたいなやつ?

 

112:1年主席天才

そうだね。

アレは理想形の一つ。

 

概念干渉込みまでしてるので、どのアースでも問答無用だし

 

113:名無しの>1天推し

そうだったんですかー

 

114:名無しの>1天推し

チート勢こわ~~

 

115:脳髄

フゥー……やっと天才ちゃんからの煽りが落ち着いた

 

116:1年主席天才

 

117:名無しの>1天推し

キレ散らかしとるやん

 

118:名無しの>1天推し

おもろ

 

119:名無しの>1天推し

喋ってないなと思ったら

 

120:脳髄

俺がムカつくからこの話は終わりだ

 

それより去年はテスト終わったら遠征だったけど、今年も?

 

121:2年主席>1

そうそう、その話をするための新スレでもあるんでした

 

122:1年主席天才

あぁ……うむ……

 

123:名無しの>1天推し

おっ?

 

124:名無しの>1天推し

なんだなんだ?

 

125:自動人形職人

遠征でなにか?

 

126:2年主席>1

結論から行くと、今年は≪聖国≫に行くことになったんですけど

 

127:名無しの>1天推し

聖国

 

128:名無しの>1天推し

あー……?

 

129:名無しの>1天推し

ちょいちょい名前出てたわね

 

130:名無しの>1天推し

宗教国家なんだっけ

 

131:脳髄

帝国と皇国、それに亜人連合は話題に出るけど、

聖国や共和国はスレで話題に出ないわね

 

132:名無しの>1天推し

共和国はアレス君の話でちょっと出たな

 

133:2年主席>1

大陸の南にあるのが聖国……≪トリシラ聖国≫ですね。

>>130さんの言う通り宗教国家で、王国とかも宗教自体はありますけどかなり文化に根付いてるとか

 

134:名無しの>1天推し

へぇ

 

135:名無しの>1天推し

宗教国家つーと、中世ヨーロッパみたいな感じなん?

王国とか帝国もそんな感じらしいけど

 

136:1年主席天才

いや、聖国は思いっきりアラビアンナイトの世界だな。

中世中東あたりの文化に近い。

 

137:名無しの>1天推し

あー、そっちか

 

138:名無しの>1天推し

わりと珍しい……くもないかい?

 

139:名無しの>1天推し

アースゼロで日本に生きてりゃ印象薄いけどあのあたりも宗教文化強いよねぇ

 

140:自動人形職人

アラビアンナイトってことは砂漠とかの国なんでしょうか?

 

141:2年主席>1

ですね、砂漠とオアシス。暑い昼と寒い夜。風と大地の国。

国土の7割以上が砂漠か荒れ地で、人種の多部族国家だとか。

 

元々は色々な部族がそれぞれの領地を持っていたそうですが

20年前の大戦をきっかけに聖国として統一されたようで。

 

142:名無しの>1天推し

はいはい

 

143:名無しの>1天推し

アラビアンナイト……のリアルな感じだ

 

144:脳髄

わりと複雑な歴史よな

 

145:1年主席天才

宗教的な話をざっくりすると、

最大宗教の≪七主教≫は神様が7つの色の主を生み出してそこから世界が生まれたっていうもので、

トリシラ聖国の≪双聖教≫は神様がまず昼と夜を生み、そこから七つの属性が分かれていった……というものだね。

 

唯一である神とそこから生じた二つより世界は生まれた、という根底から1~3……というか1+2という数字が聖なる数字として扱われてるようだ。

 

146:名無しの>1天推し

なるほど?

 

147:脳髄

トリシラって、アースゼロでいうトリシューラだよな。

トライデントの。なのに「双」聖教なんだ。

 

148:名無しの>1天推し

たしかに

 

149:1年主席天才

中心に自分を置いて1として、それを挟んで2つの対極で結ぶという考えだとか。

 

昼と夜、男と女、砂と水、みたいな相反するものを重要視する考えがある。

昼夜の寒暖差とか過酷な砂漠と生活可能な水場みたいな、そういう生活圏から広がった信仰なのかな……とメタ読みしてる。

 

150:名無しの>1天推し

はえ~

 

151:自動人形職人

そういう見方するんですねぇ

 

152:脳髄

ほ~

アラビアンナイトでトリシューラなのもちょっと違和感だけど

まぁそんなもんか

 

153:名無しの>1天推し

アレス君とかアレスとかだしな

そのあたり気にしだすと切がないわ

 

154:1年主席天才

そういうことだね。

アースゼロを起点にして細かいとこ分岐やら統合やら繰り返してるからこうなる

 

155:名無しの>1天推し

なるほどなー

 

156:名無しの>1天推し

また一つ学びを得た

 

157:名無しの>1天推し

たまに出てくるガチ教養要素

 

158:名無しの>1天推し

それで、その聖国に行くのか

 

159:名無しの>1天推し

普通にちょっとアラビアンナイト風世界は風情あるし楽しみね

 

160:自動人形職人

インスピレーションが沸きそう

 

161:脳髄

それで、なんか最初お茶濁してたけど、なんかあるん?

 

162:名無しの>1天推し

そいやそうだ

 

163:名無しの>1天推し

なんか治安すげー悪かったりするんか?

 

164:2年主席>1

いえ、そういうわけじゃないんですけど

 

165:2年主席>1

御影さんってお姫様じゃないですか

 

166:名無しの>1天推し

 

167:名無しの>1天推し

そうね

 

168:名無しの>1天推し

いいよね、姫様

 

169:名無しの>1天推し

メンタル無敵プリンセス

 

170:自動人形職人

あまりにもかっこいい

 

171:名無しの>1天推し

えっちすぎるんだけど、それに以上にかっけーんだよな

 

172:2年主席>1

御影さん、王族なんですよ

 

173:名無しの>1天推し

はい

 

174:名無しの>1天推し

知ってる

 

175:名無しの>1天推し

どうした?

 

176:脳髄

……ん?

 

177:名無しの>1天推し

ん?

 

178:1年主席天才

あの御姫様、聖国の王族の血も引いてた

 

179:名無しの>1天推し

!?

 

180:自動人形職人

えっ

 

181:名無しの>1天推し

オイオイオイオイ

 

182:名無しの>1天推し

マジ????????

 

183:脳髄

属性盛り過ぎだろあのお姫様

 

184:2年主席>1

それでもってなんか聖国でクーデター起きそうなので

それを皆で止めに行くことになりました

 

185:名無しの>1天推し

????

 

186:名無しの>1天推し

じょ、情報量!!!!!!

 

187:自動人形職人

どういうこと???

 

188:名無しの>1天推し

なんで???

 

189:1年主席天才

まぁ基本的に生徒会面子+トリウィアで何とかする予定

 

190:1年主席天才

あとついでにアレスも巻き込んだ

 

191:脳髄

しょ、少年ーーーーーーーーー!!!!!

 




>1
クーデター、止めに行きます
姫様
属性モリモリの上にさらに増えた

天才ちゃん
試験免除、新理論で知識チート

先輩
マジで凄い人
魔法の話すると大体この人凄いな……ってなる
多分、情報量は置いといて、地頭だけなら天才ちゃんより上

天才ちゃんの単独系統自乗式は、大学の参考書になるけど
トリウィアの汎用系統掛け算式は義務教育の教科書になる感じ

脳髄ニキ
知識チートされたのがあまりにも悔しい

アレス
強く生きろ

てわけで新章は聖国+御影編

感想評価推薦よろしくお願いします!!
最近もろもろ停滞を感じるので加速していきたいところ

追加、アンケ更新しました。
脳髄ニキ世界は隠しルートということで


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ニュージェネレーション

諸々解説の為に、過去一の長さです


 

「聞いたか、婿殿? 私、聖国の王族の血も引いてたんだな、はっはっは! いや知らなかった!」

 

 生徒会に御影の笑い声が響き渡る。

 けれど、ウィルは全く笑えなかったし絶句していた。

 アルマは口端を引きつらせ、トリウィアは煙草の灰を床に落とし、フォンでさえ小さな口をあんぐりと開けている。

 3年主席、龍人のカルメンは王族ということに興味がないのか無反応だったが。

 広い生徒会室、中央に大きな長方形の机、奥には生徒会長の机があり、右壁には大きな黒板が。

 今は大半が、黒板に向かってコの字型に着席していた。カルメンなどは席に着かず、アルマの横で膝立ち――それでも座っているアルマより背が高い――だ。

 

「はっはっは」

 

 とんでもない発言を聞いた天津皇国第六王女、皇位継承権第一位の天津院御影は一頻り笑って、

 

「面倒なことになりそうだな、()()()()()

 

 黒板の前に立つ、その事実を教えてくれた先輩の名を呼ぶ。

 三年次席パール・トリシラ。

 聖国出身らしい濃い褐色の肌。所々赤と青のメッシュカラーを入れた金髪のサイドテールに羽根飾り付きのシュシュ。

 生徒会室備え付けの黒板の前に立つ彼女はジャケットではなく複雑な刺繍に染色がされた薄い布聖国風の伝統衣装―――それをパーカー風にアレンジしたものを羽織っている。

 御影が聖国王族の血を引いているというのなら。

 彼女もまたそれに近い。

 

 『聖女』。

 

 それは宗教国家トリシラ聖国にとっては極めて重要な立場の名であり、国の名前を背負っていることからそれは伺える。

 そして彼女は、

 

「いやー、ほんとだよねミカちゃん。私も聞いた時マジびっくりしてさぁー。え、これどーすんのって感じ。あはは」

 

 けらけらと破顔して笑っていた。

 ウィルは思った。

 現在、掲示板は開いてないけれど、もしもリアルタイムで実況していたのなら掲示板の人たちはこう言うだろう。

 

『――――――く、黒ギャル……!』

 

 胸元は第二ボタンまであけられて、膝上までしかないミニスカートとか、カラフルな付け爪とか。ついでにかばんにやたらキーホルダーが多い所とか。

 ウィルからすれば、生前はほとんど関わりがないタイプの人種だったので初対面ではわりと面を食らった。

 誰に対しても分け隔てなく優しく、面倒見も良いタイプのギャルなので問題はなかったが。

 最初アルマがちょっと嫌そうだったのが懐かしい。今ではお互いに上手くやっている。 

 パールはオタクにも優しいタイプのギャルなのだ。

 

 主席が人間と価値観が違い過ぎてアホであるカルメンと分け隔てなく優しくキャラ的にも成績的にもスクールカーストップであるパールが次席、というのが今代の三年生である。

 

「え、えっと……すみません。パール先輩。ちょっとびっくりしすぎてついていけてないんですけど」

 

「おっ、まー、そーだよねー。ウィルっち。改めてちゃんと説明すっかー!」

 

 垂れ気味なアメジストの瞳にウィンクを決めて彼女はチョークを手に取った。

 

「……むぅ」

 

 根本的に陽気なギャルというのが苦手なアルマだが、憮然とした顔をしつつもノートとペンを取り出してメモの準備をする。

 別にウィンクがおもしろくなかったとか、そんなせこい嫉妬深さを出しているわけではないのだ。

 

「さってと。1,2年生組は聖国は行ったことないらしいし、この時期だとまだ授業でも政治形式まではやってないだろうから最初から説明するねー」

 

 細い指を使い、黒板にチョークで『聖国』とパールはまず書き込む。

 左足に重心を傾けながら立つ彼女は、何かを思い出し、

 

「それじゃあパール副会長の聖国講座、はっじまるよ~! おーっ!」

 

「お、おっー!」

 

「おー!」

 

「おー!」

 

「おー」

 

「……おー」

 

「お?」

 

 上からウィル、御影、フォン、トリウィア、アルマ、カルメンである。

 カルメンは話に興味がないようで、アルマのノートをのぞき込んでいた。

 

「さーてと。まずはそれこそ王様の話っしょ」

 

 「聖国」と書かれた文字の下に「教皇=王」と書き込まれる。

 

「うちの国は、いわゆる王様がそのまんま教皇っていう立場なんだよね。これだけだと呼び方が違うだけなんだけど、宗教国家なあたりちょいと特殊な作りになってて」

 

 『教皇=王』の真横に『導師』が並ぶ。

 

「この『導師』ってのがいわゆる政治指導者だねー。内政とか国交とか、そういう国として必要な仕事はこの『導師』がやってるってわけ」

 

「ふぅん――それが()()だね?」

 

「あっはっは、アルちゃんさすが~」

 

 顎にペンを当てて指摘するアルマに、パールは破顔する。

 『教皇=王』と『導師』の間に『<』の不等号を書き、

 

「んー、いいや」

 

 『教皇=王』に大きく×を追加した。

 

「ぶっちゃけ、教皇はお飾り的な? 宗教的なトップだけどあくまで名目っていうかー、あはは」

 

「ここ、笑いどころなんですか?」

 

「笑わないとやってられない、的な? ウィルちはそういう時ある?」

 

「………………」

 

「もー、真面目に考え込まないでよー、ウィルちの真面目さーん―――アルちゃんはこういうとこ好きなの?」

 

「ごほぐぁ!?」

 

「あぁ! アルマ様! お顎におペンがお刺さっておるのじゃ!」

 

「いって……いや、おい、顎を触るな。よだれを付けようとするな」

 

「しかしワシのおよだれにはお傷をお癒すお効果ありますじゃ!」

 

「いらんいらん」

 

「てかカルちん、何でもかんでも頭におつければいいってわけじゃないっしょ」

 

「おマジ?」

 

「話を進めろ……あ、こら。ウィルに御影に……トリウィアもか? 何笑ってるんだ!?」

 

「ふふっ……いえ。すみません。パール先輩、続きをお願いします」

 

「ほいほーい」

 

 3年生2人にもみくちゃにされているアルマは、はたから見ると可愛いものだった。

 

「で、教皇がお飾りっていうのはまー、しゃーないっちゃしゃーないんだよね。ここからは歴史のお勉強だけど、昔はそんなことなかったんだよ。そもそも、いろんな民族がそれぞれ定住したり遊牧したりしてたし、なんなら今の聖都を奪い合ったり……ま、そんな昔の話は置いといて」

 

 やれやれと溜息を吐き、黒板に新たな文字を書き込んだ。

 『大戦』、と。

 それに対して口を開いたのはトリウィアだ。

 彼女は新しい煙草――先ほど落とした灰はちゃんと自分で回収した――に火をつけつつ、

 

「第一次魔族侵攻ですね。ただの魔族との戦闘ではなく、大戦と呼ばれるきっかけにもなった――聖国氏族への虐殺」

 

「そそ、流石トリっち先輩。昔の聖国は『双聖教』の繋がりはあったけど、言ったように各民族同士はわりとバチバチしてたんだよね。そんな中で魔族の侵攻が始まって当時14あった大部族の内、3つが壊滅したってわけ。そりゃあもう大変」

 

「確か……それをきっかけで、既に雛型ができていた王国や他の国との協定が結ばれたんですっけ」

 

「いーねーウィルっち、ちゃんと勉強してる」

 

「ここまではなんとか。テストにも出たばかりですしね」

 

 大戦関係の歴史は2年生に入って歴史の授業に組み込まれているようになった。

 今現在、この世界の世界情勢を決定づけたものであるため、時間をかけてしっかりと細部まで学ぶらしい。

 なので、逆に言うと授業で学んでいるのは初期までだ。

 

「ふーん。2年はこういうのやるんだ。亜人連合だとずっと≪七氏族祭≫やってるし、変な感じ」

 

「おー、わかるわかる。わかるぞフォンよ。ワシも未だにピンとこん」

 

「………………」

 

 笑うカルメンに、しかしフォンは珍しい半目を向けていた。

 こうはなりたくないと、顔が物語っている。

 

「それで、パール先輩?」

 

「ういうい。みんなで集まるとついつい脱線しちゃうねー」

 

 にへらとほほ笑み、パールは『大戦』と『導師』を丸で囲み線で繋ぐ。

 

「元々教皇は宗教的なトップで第一次侵攻の時は、宗教上の理由がどうこうで他の国とちゃんと足並み揃えてなかったんだよね。けど、大部族が3つも滅んだから慌てて残りの部族を集めて王国とかと協力するようになった。その時に実際にやり取りするようになったのが『導師』の始まりってわけ」

 

「ん……ということは、今の世界になって結果的に『導師』の地位が上がったのか?」

 

「だーいせーかぁーい。大戦で色々あったせいで各国は色んな協定を結んで協調路線に。その為にはそれぞれの部族の寄せ集めじゃなくてちゃんとした国になる必要があったわけねー。結果的、聖国にとって『導師』、つまり政治家が必要になったわけだ」

 

 ただ、とパールは『導師』をもう一つ丸で囲む。

 

「それから二十年、トリシラ聖国は国としてちゃんと成長していった。そーなると政治や国交ってのは重要度が上がるってわけで。どんどん権力ってのが『導師』に移っていったってワケ。はい、ここまでが『導師』とはなんぞやでしたー」

 

 ウィルは頭の中でパールの話を整理する。

 彼女の説明は解りやすかった。

 

 極端な言い方をすれば、元々それぞれの部族には同じ宗教という繋がりしかなかった。

 だが大戦により、それでは足りなくなったために国家として指導者を置いたのだ。

 それが『導師』であり、実際上手くいったのだろう。

 だから国家として『導師』の権力が強まるのは当然とも言える。

 

「ふむふむ……本で読んでいたが、『聖女』本人から聞けるのは説得力があるな」

 

 アルマのメモの筆も進んでいる。

 一度聞けば忘れないだろうに―――これはウィルもそうだが―――細かいことも記録を取り残しているのはもはや見慣れた光景だ。

 

「……ん、どうしたウィル?」

 

「……いえ、なにも」

 

 顎を軽く上げたアルマに、首を軽く傾げて微笑み返す。

 ウィルはアルマがメモを取る姿が好きだった。

 

「それじゃさっきの話に戻るけど、お飾りっていうのはそういうことね。笑えないっていうのはまー、仕方ないというか、時代の流れっていうか? 私としてもただの宗教家が国を動かすって言われたら困っちゃうしねぇー」

 

「ふむふむ、政教分離というわけか。ちゃんとしてるな」

 

「政教分離、流石よく知っていますのぅアルマ様」

 

「僕は君がその概念を知ってることに今驚愕してるんだが……!?」

 

 ルビーのようなお目目がかっ開かれながら驚いた。

 カルメンはその視線を受け、大きな体で大きく胸を張り、

 

「ふふん。これでも3年主席故、当然のことですじゃ」

 

「補足しておきますが、政教分離は主に王国発足時、初代陛下が提案した概念ですね。厳密には帝国は元々そういう体制でしたが、王国では厳密化されました。≪七主教≫は王国地域に強く根付いていますが、国家運営に関しては原則乖離するべき、と宣言したわけですね」

 

 淀みなくトリウィアの解説が挟まる。

 

「概ね理由はパールさんの話と同じです。ただ、初代陛下は≪七主教≫の顔を立てる為に王家の子女を≪七主教≫のシスターとすることを代々契約しています。今のヴィーテフロア殿下がそれですね」

 

「…………主、主。理解しきれてる?」

 

「まぁ、一応」

 

 聖国に引き続き王国の歴史まで及んで、フォンは眉をしかめているが、ウィルにとって「政教分離」という概念はそれなりに馴染みがある。

 

 そして相変わらず初代陛下は初代陛下が過ぎる。

 

「失礼、脱線でしたね。パールさん続きをお願いします」

 

「はいはい。えーと、そうだね、次の話は……そろそろミカちゃんの話にしよっか」

 

 ニコニコと笑みを浮かべたパールは『教皇』の下に『聖女』と記し、それを線で繋ぐ。

 

「私みたいな聖女っていうのは教皇の候補なわけねー。各部族から保有系統とかで選ばれて、姓も≪トリシラ≫になっちゃうわけ。聖国の方はもう何人かいるんだよ。ちなみに、私が入学した時はその聖女の内、私が一番優秀だったからね! ドヤ!」

 

 パール・トリシラ。

 火・水系統網羅にさらにいくつかの各系統を加え21系統を保有し、≪究極魔法≫すら持つ彼女の才覚は言うまでもない。3年主席が龍人という生命として隔絶したカルメンであることを考えれば在学生の人種で最も強い者と言っても過言ではない。

 ウィルとしても、やはり正面から戦うと勝率は五分五分、ないし若干劣るかもしれない。

 加えて今代生徒会では唯一、回復・治癒も得意としている。

 

「ふむ。パール先輩が優秀であることに疑いは欠片もないが」

 

「おっ、ミカちゃんありがとー」

 

「いえいえ。それで――――私の母が、その聖女だったというわけか?」

 

「うん、そういうこと」

 

「……なるほど」

 

 肯定に対して御影は胸の下で腕を組んだ。

 少し考え、

 

「私の母が聖国出身であることは知っていた。肌の色がそもそも皇国あたりに住む人とは違うし、私もそれを受け継いでいるからな」

 

 彼女の浅い褐色は鬼族と聖国の人種のハーフの証である。

 別に聖国の人間が全員褐色なわけでもないが、褐色の肌を持つ人種は概ね聖国のみと言っても良い。皇国は鬼種の国であり、彼らは皆白い肌を持つ。

 力を以て自ら証明する前、その他者との差異故に民から排斥されたこともあった。

 けれど彼女にとって敬愛する母から受け継いだものであり、誇るべきものだ。

 

「今更、母が聖国の聖女だったと聞いても……その、なんだ。正直反応に困るな。王族は元々だし、このままいけば皇国の次の王は私だ。聖国の教皇の座に手を伸ばせると言われても伸ばす気はない。それを母上と父上が何も言わなかったということは頓着してないのだろう。私の両親はそういう類だしな」

 

 力強く言い切り、そして数秒の後に体が傾いて、隣のウィルの肩に乗り、

 

「………………多分? 存外忘れてるだけか、父上がそもそも知らなかったりするのか? ははは」

 

「いや、僕に言われても……」

 

「そういう所ですよ、鬼種」

 

 おおらかと言うか、大雑把というか。

 学園にいる皇国出身の鬼種はみな気の良い性格だが、大体そんな感じである。

 

「まぁいいだろう」

 

 御影はウィルの肩に頭を預けたまま――片角で耳にちょっかい掛けつつ――、笑みを濃くした。

 ウィルとしては距離が近いはくすぐったいわ良い匂いがして困るのだけれど。

 

「それで、()()は?」

 

 鬼種の姫が砂漠の聖女に問う。

 

「私の生まれに関して教えてくれるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ご丁寧に聖国の予備知識まで仕込んでくれて。なぁ、パール先輩。そこの所まで教えてくれると、嬉しいな?」

 

 琥珀の瞳が真っすぐにアメジストの瞳を見据え、

 

「――――」

 

 パールはすぐに答えず、ただシュシュを外した。

 そしてラメ入りのリップが塗られた唇を開く。

 

 

「―――()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の言う通り、御影の出自はきっかけに過ぎない。けれど、決して前置きではなく、貴方にも関係があるというわけよ」

 

 それまでの間延びした柔らかな声とはまるで違う、鋭く明瞭な言葉。

 朗らかな優しい太陽のような雰囲気から一転、細められた瞳や真っすぐに伸びた姿勢はまるで冷たい夜のようだった。

 それに対し、御影は自ら姿勢を正す。

 ウィルの肩に頭を置いて擦りつけたり、角で耳を弄るのは楽しいがパールがこの状態になったのなら、真面目にやらないといけない。

 

 パール・トリシラは二重人格―――というわけではない。

 

 意識的にキャラクターを切り替えている、らしい。

 少なくとも本人はそう言っている。 

 ゆるふわお姉さんからクール系の美女になるので温度差にびっくりする。

 基本的に学園生活においては先ほどまでのギャルモードだが、聖国に関わる話はこちらのクールモードであり、戦闘の時は使用する系統によって切り替えているらしい。

 

 ≪双聖教≫は対極を重要視するというが、此処までするとは流石と言える。

 

「ふむ?」

 

「簡潔に言えば――――聖国でクーデターが起きようとしている」

 

「……!」

 

 ピシリと空気に緊張が走る。

 御影たちは言うまでもなく、この手の話題には興味が薄そうなカルメンでさえ眉をひそめていた。

 

「先ほど『導師』の話をしたけれど、こっちも候補生が数人いる。今代の『導師』は大戦から現役でありそろそろ老齢により世代交代なのだけれど……候補生の内、武力によってその座を奪おうという者がいるの」

 

 そして、

 

「そのために聖女の血を引き、皇国の王位継承権第一位の御影さんを利用するつもりとの情報が本国より届いた」

 

「政略結婚?」

 

 御影が何かアクションを淹れる前に間髪入れずの指摘はトリウィアだ。

 紫煙を吐き出しつつ、煙草を挟んだ指でこめかみに抑えながら微かに顔を歪めていた。

 

「……聖女の血族、次代の皇国女王。普通に考えれば一国の政治指導者の妻にするには位が高すぎますが、皇国となると話が違う。聖国の導師の妻と皇国の王が兼任できてしまう。そうですね、御影さん」

 

「んむ。まぁ、そうだな。少なくとも、うちの国はそういうの気にしないな。人種の政治とは根本的に責任の所在が異なるものだ。その私を使おうとしている何某かが私よりも強いと証明できるのなら、皇国からは何も言わんだろう」

 

「ですが、()()()()()()()

 

 なぜならばと、トリウィアは言葉を続ける。

 

「そもそも、≪アクシア魔法学園≫では在籍時の婚姻は不許可です。それに聖都と王都の物理的な距離を考えれば対面することすら難しい。確かに御影さんを手中に収めれば政治的には有利に立てるかもしれませんが、彼女を利用するのはそもそも実現が難しい」

 

 そして言葉は止まらず、

 

「物理的距離以外にしても、鬼の国を屈服させるだけの強度が下手人にあるとでも? 彼女の戦闘力は世界有数であり、強さを基準とする鬼種に対してその前提を覆せますか? 彼女を手に入れた後は? 聖国が実質属国になるということを帝国が認めるとは思えませんね。何かしらの干渉があってしかるべき―――」

 

「トリウィアさぁ」

 

「……なんですか、フォンさん」

 

「怒ってる?」

 

「…………………………えぇ、まぁ」

 

「先輩殿ー! ほんと可愛い所あるなぁー!」

 

「あっ、ちょ、まっ眼鏡折れ、煙草が……!」

 

 思わず抱きしめてしまう。

 珍しく――と言うほどでもないけれど――感情的に早口になったトリウィアの頭は御影に埋没していた。

 ちょっと、否、だいぶ嬉しかった。

 この先輩は常に冷静だけれど、こういう所があるのだ。

 しかしこの先輩、常時煙草を吸っているのに、抱きしめても全く煙草臭くない。細かい消臭魔法が完璧すぎる。むしろ爽やかないい匂いだ。あとでウィルと共有したい。

 たっぷり10秒ほど彼女を抱きしめ、その間苦笑やら半目やらを受けて、

 

「うむ、満足した。ありがとう先輩殿。私は嬉しいぞ」

 

「………………です、か」

 

 解放した彼女はほんの少し頬を赤らめつつ、乱れた髪を手櫛で治していた。

 

「それで」

 

 嘆息しつつ、アルマが空気を切り替える。

 顎を上げた彼女はどこか気だるげというか―――飽きた、という表情にも見える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。にも拘わらずこんな話をするということは、その非現実的なことを現実にする傑物がいるのか、或いは現実を理解していない馬鹿がいるかのどちらかだ」

 

「後者よ」

 

 ですがと、パールは前置きし、

 

「その馬鹿は実力と野心だけは人一倍で、放っておくと禍根になりかねない類って感じね」

 

「………………あー、はいはい。そういうことね。ふぅん、なるほど」

 

「アルマ、どゆこと? 主、理解できた?」

 

「うーん……? クーデターの相手が性質が悪いことくらいしか」

 

「性質が悪いのは、この場合()()()だな」

 

 万年筆を指で回しながら彼女は唇を曲げる。

 ウィルは勿論、御影と話している時も浮かばない勘定だ。

 そして紅玉の瞳が、真っすぐに細い夜色の瞳を突き刺すように見据え、

 

「――――君、御影を餌にしてその馬鹿を潰す気だね?」

 

「えぇ。流石ね」

 

 そんなことを言う。

 

「!!」

 

「婿殿、落ち着け」

 

「ですが!」

 

 誰よりも早く立ち上がったウィルを御影が静止する。

 いつも微かなほほ笑みを浮かべている彼の顔には、はっきりとした憤りがあった。

 それが嬉しい。思わず頬が緩みそうになったが、ウィルの向こう側に座っていたアルマが半目を向けて来たので我慢する。

 

「まずは最後まで聞こうじゃあないか。らしくないぞ」

 

「……誰のせいだと思ってるんですか」

 

「…………」

 

 憮然と座る彼に、()()()と角が震えた。

 

「おい、興奮するな。そういう場合か」

 

「……アルマ殿はあれだな。私の興奮メーターをよく理解している。流石だ」

 

「過去一嬉しくない褒め言葉来たな……」

 

「それじゃあワシが褒めましょうかアルマ様!」

 

「パール! 続けてくれ!」

 

「えぇ」

 

 パールは眼の前の茶番に顔色一つ変えなかった。

 かなり真面目なクールモードだなと思う。

 いつもならこの状態でも冗談は言ってくれるのだが。

 

「アルマの言う通り、御影さんを利用する形になるわ。正直、今回彼女を巻き込まない方法は簡単。遠征先を聖国にしなければいい。それで解決だし、向こうも別に当てにしてないでしょう。遠征で来たらついでに使えるか……くらいのはず」

 

 ですが、と言う彼女の表情は変わらない。

 

「その導師候補――ザハル・アル・バルマクは自尊心に塗れた男だけど、有能ではある。クーデターを成功させてもおかしくないし、実際表沙汰にならないように上手く仕込みをしている。まぁ、()()()()の入れ知恵をされてる可能性もなくはないけれど。いずれにしても、私の行動理由は1つ」

 

 細められていた右目が、大きく開く。

 冷たい夜のような色には確固たる意志が。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ふむ」

 

 その言葉でパールの意図を理解する。

 なるほど、確かに御影も同じ立場だったらそうするかもしれない。

 

「…………それが、御影さんを危険な目に合わせるのに関係ありますか?」

 

 ウィルの言葉は棘々しい。

 可愛い。

 

「ある。むしろ、彼女だからこそ」

 

「何故……僕たちはまだ学生で、そんな大きな話なんて―――」

 

「あぁ、婿殿。そこは違うな」

 

 可愛いが、訂正は必要だ。

 眉を顰めるウィルにはあまりピンと来ないのだろう。

 忘れている、というよりもそもそも権力や地位とかけ離れた土地で過ごした故か。

 

「今パール先輩が言ったとおりだ。彼女はこれから聖国の教皇になるし、私も皇国の女王になる。何年か後だとしても。そうすれば、私にも彼女にもそのなんとかという指導者候補との関わりは避けられない」

 

「…………それは」

 

 

「ウィル。忘れないで、この学園は()()()()場所よ」

 

 

 パールは次代聖国教皇候補。

 御影は次代皇国女王。

 この2人にとって国の指導者の是非は、文字通り目前の問題なのだ。

 もっと言うなら、カルメンは存在自体が希少且強大な龍人族。トリウィアは帝国の大貴族の長女。

 加えて、

 

「貴方も去年既に連合で関わっているでしょう。忘れたの? 鳥人族は貴方の行動故に、今後10年、様々な優位性を得た。そうよね、フォンさん」

 

「………………難しいこと私に言わないで欲しいな」

 

 話に加わらずに聞いていただけのフォンも顔をしかめる。

 別に彼女も理解していないわけじゃないだろう。

 むしろ、ここで頷くということはウィルの憤りを否定するものだと理解しているのだ。

 彼女は小難しい話には意図的に黙って聞いているが、しかし意外とそれなりに理解しているのだ。

 いや、可愛い。

 

「仮に拒否するのなら、今から遠征先を聖国以外にするだけね。その場合は単身聖国に戻るわ。上手くいく確率は下がるけれど、全力を尽くしましょう。協力してくれるのなら、確かに危険はあるけどその見返りは」

 

「皇国と聖国の未来の関係値、というわけか」

 

「えぇ」

 

「ふむ―――――いいだろう、乗った」

 

「御影さん!? いいんですか!?」

 

「仕方あるまい。パール先輩がここまで嫌がるということはよっぽど嫌な男なんだろう」

 

「下品な権力主義の象徴のような男ね」

 

「最悪だな。嫌だぞ、そんな男と貿易だとか条約だとか結ぶことになるの。想像すると急に自分事になってきたな。母上の国でもあるし……うん、考えると私的に拒否する理由がない」

 

「………………はぁ、分りました」

 

「諦めろウィル。このお姫様はこういうタイプのキャラだよ」

 

 軽く頭を抱えるウィルの肩を叩くアルマであった。

 彼は少し眉をひそめたまま目を閉じ、数秒後に開き、言う。

 

「手伝います」

 

 力強く、その名の通り真っすぐと。

 

「パール先輩と御影さんの価値観というには僕はまだ理解しきれていませんが、それでも御影さんが聖国の勢力争いで巻き込まれるのは()()()だと僕は思ってしまいます。だから、御影さんが行くなら僕も行きますし、パール先輩のことも手伝いましょう」

 

「婿殿ぉー!」

 

「うわっ!?」

 

 辛抱たまらず抱きしめた。

 制服のブラウスに包まれた大きな膨らみに、押し付ける。布越しとはいえ柔らかさには自信がある。髪をわしゃわしゃと撫で、ついでに背中をさすり、どさくさに紛れて尻を撫で、

 

「――――ありがとう」

 

 耳元に囁く。

 真っ赤になった耳がびくんと跳ねる。

 去年末、アルマを知ってからスキンシップは控えていたが、しかし我慢ができなかった。

 滅茶苦茶嬉しい。

 角がふやける。

 もう食べちゃってもいいんじゃないか?

 ダメか。

 あと1年半我慢すれば、もっと美味しく頂ける。

 

「…………おい」

 

「おっ。すまんすまん。つい」

 

 声をかけて来たアルマの目から光が失っていた。

 仕方ないだろう。

 彼女と自分の胸部は絶壁と山脈だ。

 こればっかりはどうしようもない。

 彼女の成長を祈ろう。

 

「ふふふ、婿殿もたまにはこってり脂を感じてもいいだろう、許してくれ」

 

「………………君、自分への比喩がそれでいいのか……? ……ウィル?」

 

「は、はい! すみません!」

 

「謝るなよ、そういうお姫様だしな…………まぁいい。ウィルがやるなら僕も手伝おう。トリウィア、フォン。君たちは?」

 

「……政略結婚は嫌いです。そうでなくても手伝わない理由はないです」

 

「主がやるなら当然私も!」

 

「アルマ様アルマ様! ワシには聞いてくださらないんですか!? あと乳ならワシが分けましょうか?」

 

「グロいこと言うな。……あー、君は?」

 

「パールとアルマ様、2人がやるなら手伝いましょうぞ! いや、2人が喧嘩しなくてよかったよかった!」

 

「……僕が言うのもなんだけど、主体性の欠片もないなこのメンツ」

 

 国の未来がどうこうという話なのに、半分が「○○が行くなら」だ。

 まぁそういうのも良いと、御影は思う。

 学生っぽい。

 

「……ありがとう、皆」

 

 和らいだ空気にパールは息を吐く。

 彼女も緊張していたのだろう。

 そのまま、彼女は片手で器用にシュシュでサイドテールを結び、

 

「いやー! ほんとみんなありがとーっ! 正直迷惑かなって思ってはいたんだけど、みんなが力貸してくれるとマジ助かるっていうかー! ほんとマジ、皆優しくてマジ上がる! ウィルちも、ごめんね、ちょっと嫌なこと言っちゃって……ほんとごめん!」

 

「あっ、いえ……はい。パールさんにも立場ありますしね……」

 

 ウィルがちょっとたじろぐ豹変ぶりだった。

 何はともあれ、方針は決まった。

 あとは詳細の確認と遠征における細部の仕事の割り振り。

 やることは山ほどある。

 時間は限られている故にすぐに始めないと――――

 

 

「………………あの、すみません。結局何故僕が?」

 

 

 上がった声に、皆の視線が行く。

 声の主は赤髪の少年―――アレス・オリンフォス。

 話の最初から生徒会室にて、しかし部屋の隅で会話に加わらず無言で立っていたのだ。

 そして彼を呼んだのは、

 

「アレっち、王女様と幼馴染で、お父様が前学園長っしょ? こういう大人の事情詳しいかなーって。色々助言欲しいかなーって呼んだんだよね!」

 

「………………」

 

 露骨に嫌そうな顔をしていた。

 そして何故かアルマが深々と頷いていた。

 謎の共感を行っているらしい。

 

「アレス君」

 

「……なんでしょう」

 

「えっと、込み入った話なので無理に関わらなくても大丈夫です。こういう話ですし。話を聞いてからだとなんですけど……」

 

「………………」

 

 十数秒、彼は答えなかった。

 腰の刀の柄に手を当てながら呼吸を繰り返し、

 

「……ここまで聞いて忘れる方が難しいでしょう。聖国の指導者がそんな下劣な人間になられても困ります。聖国産の紅茶と香辛料は質がいい」

 

「わぁー! ありがとアレっち! 今度一杯用意して送るね!」

 

「……どうも」

 

「ありがとうございます、アレス君」

 

「………………いえ」

 

 言葉は少なく、ウィルに対しては目礼のみ。

 いまいち、ウィルとアレス、正確に言えばアレスからウィルへは妙な壁のようなものを感じるが、それも仕方ないだろう。

 何はともあれ、

 

「さて諸君――――私たちで、次の世代を作るとしようか?」

 

 

 

 




ウィル
相変わらずの真っすぐさ

アルマ
乳が小さいことは別にいいけど、
それはそれとしてその乳は反則だろ

トリウィア
政略結婚は嫌いな後輩想い

フォン
何も考えてないわけではない

カルメン
成績はむしろ非常に良い。
アホなだけで

アレス
茶葉と香辛料の為に参戦決定

御影
わりと驚愕な出生やら自分がリスクを負おうとしているのだが気にしてなさすぎる
モノローグの欲望の漏れ具合が凄い
ASMRに余念がない女
無敵か?

パール・トリシラ
オタクにも優しいギャルとクールお姉さんのダブルパンチ
どっちが本性とかではなく、切り替えているだけらしい。
今日はちょっと嫌な言い方しちゃったかなと思うが、それなりに切羽詰まっていた故に。
巨乳

聖国編は生徒会面子メイン。
最近ご無沙汰なバトルも色々やりたいところ
アンケートの別のアースはそのあとくらいに。

諸々真面目な話とかで長くなったのはともかく、
文化掘り下げはやりすぎかな……?と思うんですが、ついつい楽しくなって色々書いてしまう。

まぁ次回は気分転換な話にしたですね。
>1天のアラビアンデートとか。

後書きも長いな今回。

感想評価くれるとものすごい喜びます。パワーッ!になります


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アラビアン・デート

世はまさに大水着時代。

水着は無いが、アラビアンコーデで勝負。

そしてついに50話ということ、というわけではないですが今回はこういうお話


 

 トリシラ聖国の聖都≪アグラニア≫。

 アクシオス王国から南下し、広大な砂漠地帯を超え、荒野地帯との境界線にその都市は存在する。

 聖都よりさらに遥か南方の山脈地帯を源泉とした河川は荒野地帯を細く流れ、途中合流しにこの聖湖≪エル・ウマナ≫へ辿り着く。

 

 小さな湖と河を中心に砂漠と荒野の境界にある円環状都市だ。

 

 その中心部に近く、最も発展した街並みの中、商業区間のある店の一角。

 長い机がいくつも並び、簡素な大きな布の屋根の飲食スペースにて、

 

「おお、見ろよウィル! ナツメヤシだよナツメヤシ、デーツだ!」

 

 運ばれてきた料理のプレートを目にし、アルマが目を輝かせていた。

 ダイスカットされたトマトやキュウリ、パプリカ類の野菜サラダ、香ばしく焼かれた肉。半月上の平たいパンは袋の用に中が開くようになっている。 

 そして付け合わせに光沢のある黒い、乾燥されたフルーツ――アルマが言うデーツだ。

 この地方では一般的な昼食だという。

 

「うーん、アラビアンナイトといえばデーツだよな。こっちはピタパンに、砂トカゲの肉……まぁ大切なたんぱく質か。見た目も鳥ぽいけど。これはあれかな、ケバブサンドで食べるわけか。飲み物のチャイはアラビアナイトって感じじゃないけど、まぁ砂漠の国って感じだ。ふんふん、なるほど、それっぽい」

 

 一つ一つ目で楽しむ彼女の恰好もいつもとは違う。

 アグラニアの宿でレンタルしたのは数ある聖国の民族衣装の一つ。アースゼロではサリーと呼ばれる類のものだ。

 丈の短い半袖のブラウスにペチコートと呼ばれるスカート。

 そして真紅の長い一枚布を頭まで全身に巻き付ける。といっても露出を減らしているというよりは頭に引っ掛けてフードのようにしている程度だが。

 ブラウスとペチコートは濃い黄色に金色の刺繍があり、真紅と合わせて色鮮やかに。

 ウィルは逆にゆったりとした白の詰襟のシャツにズボン。その上に真紅のベストというシンプルないで立ちだ。

 アルマと違い、ウィルのそれは王国と聖国の国境の街から着ているものなので若干くたびれている。

 

「ん。どうしたんだ、ウィル?」

 

「……いえ、アルマさん楽しそうだなって」

 

「むっ」

 

 首をかしげなら微笑むウィルに、アルマは少し照れながら顎を上げる。

 

「……こほん。仕方ないだろう。二週間も砂漠ツアーだったんだよ? 王国から一週間の馬はまだよかったけど、そこからは中々疲れた。ラクダの乗り心地もそうだったけど、食事も水も節約が大変だったし」

 

 一月と少し前。

 パールにより聖国への干渉を決めた後。急ピッチで今回の遠征の手はずを整えたウィルたち生徒会一同は共に王国から聖国へ移動をした。

 そして彼女の言う通り、大変だったのは砂漠の旅だ。

 昼は暑く、夜は寒い。

 言葉にすれば単純だが、そんな砂漠の地を進むのはそれなりに大変なことではある。 

 身体能力の強化や気温調整の魔法は使えても、24時間発動し続けるのは逆に体力や魔力、精神力を消耗してしまう。

 

「ラクダは……うーん、僕はいまいちだな。なんというか縦揺れが凄い。実際に乗ってみて分かったけど。馬の方がいいな」

 

「初日のアルマさん、地面に降りたら足腰立たなかったですもんねぇ」

 

「うむ……君の場合、パールの乗っているのを見たら秒で慣れていたあたり流石だが」

 

 転生特権≪万物掌握≫の一端でもある。

 正直これで十分という思いがあるが―――この特権がなければアルマと出会うこともなかっただろう。

 

「何にしても2週間ぶりのまともな食事だよ? いや、勿論道中のパールと御影が作ってくれたのも美味しかったし、カルメンがいきなり道すがらの砂丘から引きずりだした巨大なサンドワームも、食べてみればわりとイケたが。昨日この街についた食事は味わうというより栄養素の補給で楽しむ感じでもなかったし、純粋に聖国本場の味を楽しむのはこれが初めてだ。うん、いいだろう?」

 

 それとも、と。

 彼女はわずかに眉をひそめた。

 

「……君は、楽しめないかい?」

 

「まさか」

 

 そんなわけないとウィルは笑う。

 

「楽しいですよ」

 

「ん。……そっか。ならよかった」

 

「アルマさんとデートですし」

 

「んんっ…………うん」

 

 頬を真っ赤にした彼女は一度せき込み―――それでも小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 心配事がないわけではない。 

 御影とパールのことだ。

 今朝から二人は聖国の王宮へと向かった。

 今後の動き、そしてクーデターへの対処の前準備を行うため。

 無論それは今回の敵であるザハル・アル・バルマクの膝元へ向かうということであり、危険性が高いことを意味する。

 不安ではある。

 正直ウィルは止めたかった。

 だが、結局のところいつかは行かなければならないし、聖女であるパールにとってもホームであるし、聖女の娘であり、皇国第六皇女である御影は立場的に賓客となる。

 行ってすぐ手荒な真似をされることはないという判断。

 

 加えて、生徒会一行が到着した翌日であるのはむしろ有利となるもの。

 

 というのも学園における遠征、その往復は全て個人手配だ。

 行き方、旅行日程、単独か複数か、個人で行くか、民間のキャラバンに同行するか。道中の身の危険が不安ならば護衛を雇うのも良い。そういった手配も含めて学校行事としての≪遠征≫である。

 当然、この中世相当の世界に置いて正確な日程を予定することは難しい。

 ザハル側も正確な準備と対処は難しいという予想である。加えて時間を調整して、街の活動が減る夜に街に入り、パールや御影は顔と身分を隠していた。

 故に、いきなり王宮に向かったとしても何かすぐに起きるわけではないと判断した。

 

 だからウィルも、御影とパールを信じることにした。

 

 だから――――ウィルとアルマはアグラニアの街を二人で楽しんでいるのである。

 

「デーツっていうのはアースゼロでいう中東やエジプトじゃあ遥か古代から重宝されていてね。味も良いし栄養価も高いし。乾燥させたものが地方や時代によってはお金の代わりに使われてたりする」

 

「へぇ……この黒い粒が……」

 

「というか、アース65じゃあ実際に貨幣として現役だね。陸地の大半が砂漠で、それこそまるごとアラビアンナイトみたいな世界だけど、大きさや重さ、色艶で価値が変わったりしてたな。品種も大量にあったし。普通に食べてたりもしたが」

 

「それは……お金としてどうなんです?」

 

「思うよね。貨幣とはどこにその価値を担保するかって話なんだけど。アース65じゃあデーツという果実自体に担保があるってわけさ。ふふふ……やはりアラビアンナイトといえばデーツだね……!」

 

 数あるアラビアン風文化の中でも、アルマのお気に入りはこのデーツという果実らしい。

 ケバブサンドもそこそこに、彼女はデーツを色々な角度で眺めたり、少しづつ齧っていたりする。

 ドライフルーツでねっとりした触感、甘みはかなり強い。 

 わりと甘いものは好きなウィルとしても好印象ではある。

 ただ、なんというか。

 

「干し芋みたいな味ですね」

 

「干し芋かー」

 

 ウィルのコメントに首をかしげながらアルマが最後に残った欠片を口に放り込む。

 味わいつつ、赤い瞳が上を向く。

 

「んー……んん、まぁ確かに? 言われてみれば……僕は黒糖思い出すけどね」

 

「あぁ……確かに? 黒糖、連合で採れるみたいですしね」

 

「植生や家畜がアース・ゼロとほとんど一緒なのがこの世界の住みやすい所だね。魔法のおかげか品質も良い―――ごちそうさま」

 

「ごちそうさまです」

 

 シナモンの香りのミルクティーで一服しつつ、周りを見回す。

 少し遅めの昼、マーケットは賑やかだ。

 四方は多くの店があり、さらに店同士が並んで通路を作り出すのはまるで迷路のよう。どこか煩雑としていながら、法則性のようなものがある。この飲食広場を中心に食材や料理、小物や衣類等、商品で区間わけされているようだ。

 

「上手くできている」

 

 アルマもまた周囲を眺めながら言う。

 

「このマーケットが……というか、都市自体が。同心円状に区間がかなり厳密だ。中央に聖湖を置いて、その外縁に王宮、中心域に国の政府機関や大型の治療院、銀行等。そこから高級な商店や宿泊施設、さらに外には大衆向けの店……と言う風に広がっている。各所に礼拝所、霊廟やこういうマーケットも置いてあったり」

 

 クルクルと細い指で渦を描き、

 

「厳密な区画分けを行っている……というよりも、結果的にこうなったものを整理した感じかな? 確かこの聖都は聖湖によって大昔から部族同士の奪い合いがあったという。奪った部族が生活区間を付けたしを繰り返した結果―――」

 

「素晴らしい、見事な推測です」

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 突然の声にアルマもウィルも驚かなかった。

 ただアルマの背後から声をかけて来た男に視線を向ける。

 振り返った彼女は肩を竦め、

 

「それで、どちら様だろうか」

 

「いえいえ、大したものではありません。ただの商人でございます」

 

 ただの、というには身なりの良い老いた男性だった。

 清潔な白のゆったりとした長袖に、顔以外を覆ったスカーフ額あたりに黒のリングで止められている。見るからに高価な装飾品を身に着けているわけではないが、服の質から高価なのが伺えて来た。

 良く日に焼けた柔和な顔には深い皺が刻まれていた。

 

「ん……?」

 

「何か、僕たちに御用でしょうか? お爺さん」

 

「はい、どうやら異邦より訪れた若者の様子。されど機知に富んだ会話には感心せざるを得ませんが、老骨として1つお小言を。あまり、この聖都の歴史についてこのような屋外で話すのは控えたほうがいいかもしれませんな」

 

「……あぁ、なるほど」

 

「はい。察しが良いですねお嬢さん」

 

「……えっと?」

 

「つまり、歴史の確認といえばそれまでですが。歴史故に沁みついたしがらみと思い込みがある。この市は()()()()()()()ので問題ないでしょうが、あまり外側に行くと要らぬもめごとがあるでしょう」

 

 言われ、ウィルは周りを見回す。

 周囲、並んだ机には多くの人が思い思いに食事を楽しんでいる。それはまるで前世で言うフードコート――ウィルがまだ幼い頃は家族で行っていた――のそれに似ている。

 そして良く見れば7割ほどが男性だ。残りの三割の半分は見るからに聖国の外から来たであろう服装や容姿であり、残りの現地の女性は服装の様式がそれぞれ違う。

 目元しか露出していなかったり、アルマのようなサリーだが彼女とは違い顔だけしか露出していなかったり。 

 男性にしても、よくよく見れば私服の違いのように見える差異がありながら様式にパターンがある。

 即ち、それら衣類のパターン一つ一つが自分が生まれた部族の証なのだ。

 民族衣装、とはそういうことだろう。

 このマーケットだけでも十に近い種類がある。

 

 そして、先ほどのウィルとアルマの話はその違う部族が争い続けたという話だ。

 

「……すみません。無神経でした」

 

「確かに。謝罪をしましょう、ご老体」

 

「いえいえ、お気になさらず。言ったようにこの市の治安は悪くありません。それに、異国の地に好奇心が跳ね、誰かと話したくなるという気持ちは、えぇ。よく分りますとも」

 

「……失礼、ご老体。貴方は……」

 

「はい。私も元々は王国出身なのです」

 

 ほほ笑みと共に深い皺の奥、緑青色のおちゃめなウィンクが飛ぶ。

 アルマは気づいていた。彼の茶褐色の肌は生来のものではなく長年の日焼けの結果のそれであると。

 

「ふふふ……数年ごとに王国から若者が訪れるのは、老いぼれの楽しみですが今年は随分と優秀な子が来てくれたものです」

 

 老人は肩を震わして笑い、

 

「おっと、失礼しました。若人の邪魔をしてしまいましたね。すぐにお暇しましょう」

 

 彼の言葉にウィルとアルマは目を合わせる。

 ウィルは首を傾げてほほ笑み、アルマは顎を小さく上げた。

 

「いえ、お爺さん。もしよろしければこの国と、この街の話を聞かせてもらえませんか? 来たばかりで、知らないことばかりなので」

 

「ほう? お邪魔ではないので?」

 

「喜ばしいことに、今日中なら時間があります。僕も歴史に興味は大いにあるのでできれば同じ立場の先達から話を聞ければと」

 

「……ほっほっほ。いやはや、若者にそう言われてしまえば、老骨はついつい口が滑ってしまうもの」

 

 笑った彼は、一度額に手を当てた後、左手で胸の中央に手を当て頭を軽く下げる。

 

「昼と夜の下、感謝を」

 

 それは聖国式の挨拶や礼におけるジェスチャーだ。

 対し、

 

「昼と夜の下に」

 

 ウィルとアルマもまた同じ動作で返礼する。

 

「―――ほほほ」

 

 きらりと、彼の瞳が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 その老人は20年前の大戦の際、王国と聖国の中継役、その末端だったらしい。

 そして末端故に大戦の後、聖国に残りそのまま商売を続けたという。

 

「聖国の民は砂漠の民ですが、しかし正確ではありません」

 

 ウィルとアルマが「聖国で印象的だったことは」と聞いたところ、彼はそんな風に話を始めた。

 椅子に座った彼は、高齢のわりには背が高い。

 肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せ、ニコニコと笑いながらその経験を語る。 

 

「私は元々この国に、この砂漠に夢を感じていましたが、かつて友人に言われました。『我々は砂漠ではなく、砂漠にある水を愛する』と」

 

「それは……そうでしょう。砂では生きることはできない」

 

「えぇ。考えてみれば当然です。痛烈な皮肉でしたな。『砂漠に焦がれるお前とは違う』、というのも頂きました。つまり、お前は何もわかっていないし、分ったつもりだ……みたいなことです、ほほほ」

 

 彼はよく手入れされているであろう、髭の剃り残しの無い顎を撫で、

 

「この記憶の共感は、同じものを見ても、外側と内側では同じものを見ているようで、そうでないということですな」

 

「ふむ……なるほど、至言ですなご老体」

 

「な、なるほど」

 

「ウィル?」

 

「あはは」

 

「ほほほ、なに大した話ではありません。それっぽい言い回しをしているだけですし」

 

 王国とはやはり文化が違うという話だと、彼は言う。

 そこには分かりやすい≪七主教≫と≪双聖教≫というものがあるが、

 

「そこから長い歴史ともに生まれた慣習や風俗というものは、知ることはできても理解が難しい。特に今の王国からすれば意味が解らない……自ら不利益を被っていると感じることもあるでしょう」

 

「例えば?」

 

「ふむ……そうですね。ある部族において、砂漠の旅で脱落した者は助けなくて良い。むしろその死は神の導きである、というものがあります」

 

「それは……あまりにも理不尽では? お互い助け合えばいいだけだと思うんですけど」

 

「全く以てその通り。私もそう思いました。ですが……それは今、私たちの話」

 

 緑青色の瞳が細められる。

 遠い記憶を振り返る様に。

 

「過酷な砂漠では誰かを助ける余裕もままならない。この国は水属性の系統を持つものがとても少ないですからな。そうせざるを得なかった、と言うのが実情でしょう」

 

「…………なるほど。すみません」

 

「いえいえ、素直な反応ありがとうございます。つまりはそういうことですね」

 

「違いにとやかく言うのではなく、違うことには意味があり、それを考え、知ること……ということですね、ご老体」

 

「はい。お嬢さんは実に聡明だ」

 

「知識だけです。実際に経験した人には及びません」

 

「ほほほ、その経験だけが老いぼれの長所故に。……しかし、あまり付き合わせても悪い」

 

 老人が立ち上がる。

 彼は最後に観光用の街のマップパンフレット――宿屋で貰ったもの――におすすめの観光場所と行かない方がいい所に印をつける。建築物として見どころのある礼拝堂や霊廟、それに川沿いの公園がおすすめのようだ。

 そして、

 

「それではお二方」

 

「はい。あっ、あの。最後にお名前をお聞きしても……?」

 

「あぁ……ふふっ。なに、私のような者の名を記憶にするまでもない。もしも、次に会えた時があればその時に。それでは、お二人に昼と夜の下の加護があらんことを」

 

 

 

 

 

 

 

 湖の向こうに太陽が沈んでいく。

 Vの字状に二つの河が聖湖に流れ込み、その根元に王宮がある。

 同心円状の都市の中央円が聖湖であり、王宮の反対側は広い公園になっていた。 ドーム状―――ウィルは素直に玉ねぎみたいだと思ったが――の独特な形の屋根がいくつかあり、そこから夕焼けが差し込んでいる。老人のおすすめの観光場所を巡った後、最後に二人は湖の目前に座り、日没を眺めていた。

 頭に掛かっていた布を肩に回し、ウィルの肩に頭を預けた彼女が呟いた。

 

「……だいぶ寒くなってきたね」

 

「ですね」

 

 砂漠の中の街では以外だが、湖周辺は芝生や木々がいくつか生えている。

 少し意外だったが、この都市には緑が多い。街の中心部になるほどヤシ科らしき木が多く見えた。

 そんなウィルの疑問には、当然アルマが応えてくれる。

 

「いつだったか、掲示板で文明は河川流域で発展しやすいなんて話をしたのを覚えているかい?」

 

「はい、勿論」

 

「ん。……正確に言うなら大きな河の下流域、と言える。上流から下流へ流れる過程で多くの栄養を含んだ水は下流周辺の大地に溶け込むのさ。そうすると肥沃な大地が生まれ、作物が育ちやすくなるというわけだね」

 

「……となると、この街の場合は」

 

「うん。遥か南方から幾つもの川が合流し、この湖に集結する。普通は海に流れるものだろうけど、地形の問題か、こうして湖になったわけだね。聖都や聖湖と呼ばれるのも納得だ。それだけこの湖とこの街は命が溢れているんだから」

 

「はー……なるほど。流石アルマさん」

 

「ん」

 

 緩く微笑む彼女が随分とリラックスしていることは、肩の重みから感じられた。

 日没が近づき、公園からはもう随分と人が消えていた。王都は夜になっても大通りは賑わうが、この国では特別な理由がない限り夜には出歩かないらしい。

 ウィルにしても、少し前に戻ろうと思ったがアルマが動かなかった。

 彼女にしては珍しく、ぼーっとしたまま太陽が沈む様を眺め続けていたのだ。

 だからウィルも同じように夕焼けを眺めていた。

 

「…………美しい夕陽だ」

 

 ぽつりと、アルマが言葉を漏らす。

 

「なぁ、ウィル。お昼のご老体の話と僕の蘊蓄、違いが分かるかい?」

 

「……経験と知識、でしょうか」

 

「ん。流石だね」

 

 くすりと、彼女が笑う。

 

()()()()()()()()()()()。僕のは基本ただの事実と知識だけで、実際に見て触れたわけじゃあない。学ぶべきは実際に経験した話だと僕は思うよ」

 

「でも、アルマさんはそれこそ多くの経験をしているでしょう」

 

「……そうでもない。確かに、多くの世界を見て、多くのことを知り、多くと戦った。でも……そうだな。この千年、何かに感動したことなんてほとんどなかったな」

 

 彼女は笑う。

 少しだけ、寂しげに。

 

「アース65のデーツの話もしたけど。あの世界じゃ結局食べなかった。知識として知るだけで満足しただけだから、実はこの旅で初めて食べたんだよね」

 

「それは……少し意外ですね」

 

「ふふっ、そんなんだったよ、僕は。……あー、ほら、魔法とか使えば食事もまぁ要らなかったし。別のアースで何かを食べたりって、ほとんどしてこなかったんだ」

 

 それに。

 

「夕陽をこうして眺めることもしなかった。うん……綺麗だな。これは見ていて飽きない。この旅もそうだ、楽しかったなぁ」

 

 ウィルが横目で見れば、彼女は微笑みながら目を伏せていた。

 彼女は思い返す。

 ほんの2週間程度の砂漠の旅を。 

 

「砂漠を進むラクダの揺れも、遭遇した砂嵐も、服の内側や口の中に入る砂、照り付ける日光の眩しさも。寒い夜に手を掲げた焚火の火も。見上げた星々の輝きも。吹き付ける強い風も。喉の渇きさえ。何もかも―――知ってはいるけれど、新鮮だった」

 

 噛みしめるように、彼女は言う。

 宝物のように。

 これまでの果てしなく長い旅路で、ずっと無視して来たものを。

 

「……君のおかげだね。ウィル。君と出会わなければ、こんな風に落陽を楽しむことなんてなかった」

 

「だったら」

 

 彼女の頭にウィルも頭を預ける。 

 頬に柔らかい髪の感触と少し甘い彼女の香り。

 

「もっといっぱい、色々なものを見ましょう。一緒に、知っているけれど知らないものを。きっと、この世界に沢山あります。これから先ずっと」

 

 ウィルと出会わなければとアルマは言うけれど。

 アルマと出会わなければ、というのはウィルだって同じだ。

 

 

「アルマさんと一緒なら―――僕はいつだって()()です」

 

 

 その意思が幸福へと真っすぐに進むには。

 その魂の希望が必要だから。

 ウィルは1人じゃできないことばかりだけれど、誰かがいれば多くのことができる。

 そしてアルマがいれば、なんだってできると思うのだ。

 

「…………そっか。うん、君がそう言ってくれるなら、この世界に来た甲斐がある」

 

 彼女はゆっくりと頭を持ち上げ、ウィルの手を取った。

 優しく、慈しむように指を絡めながら手を握る。

 そして、目が合った。

 紅玉のように輝く赤い瞳。

 夕陽に照らされた彼女はあまりにも可憐で、あまりにも美しかった。

 きっと、ウィルがこの旅で見たもので最も美しいのは黄金の輝きを浴びる彼女だった。

 

「僕の幸せは」

 

 優しく、目を細め彼女が微笑む。

 まるで夜に優しく輝く月の様に。

 太陽の光を受け、より美しく。

 

「君が幸せであることだ。僕の名前が、名前通りになっていると嬉しいな」

 

 その言葉があまりにも嬉しかったから。

 胸の奥に甘く暖かな―――まさしく希望と幸福と呼ぶべきものが広がったから。

 その赤い瞳を真っすぐに見つめて、

 

「アルマさん」

 

「ん……っ」

 

 彼の方から、唇を重ねていた。

 赤の色が驚き、一瞬見開かれるがすぐに受け入れて瞼が下りる。

 

「―――ん……ちぅ……」

 

 軽く押し付け合い、そして啄むように。

 寒くなった分、互いの体温を感じ合うように。

 ウィルの唇は少し乾燥していた。

 アルマの唇は不思議なくらい柔らかかった。

 日が沈むまでのほんの少しの間、お互いの幸福を分かち合い続けていた。

 

 

 




ウィル
キスはウィルからする
アルマがいればいつだって幸福

アルマ
手はアルマから繋ぐ
舌を入れるのはまだらしい
何もかも知っていたけれど、何もかも新鮮。


おじいちゃん
砂漠から帰らなかった男



感想評価くれるとものすごい喜びます。パワーッ!になります


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比喩表現としての脳破壊です

先に行っておきますがこのssには脳破壊展開はないのでご安心を


693:名無しの1天推し

>1と天才ちゃんの~~~~

 

694:名無しの1天推し

アラビアン~~~~~

 

695:名無しの1天推し

デート~~~~~

 

696:名無しの1天推し

レポはよ~~~~~

 

697:名無しの1天推し

聖国の首都ついて、色々置いといて

2人がデートすると聞いてフィーバー状態になったものの

 

698:名無しの1天推し

掲示板配信……完全に……オフ……!

 

699:名無しの1天推し

なんという生殺し……!

 

700:自動人形職人

いやまぁそれはそうって感じですけども

 

701:名無しの1天推し

まぁ……はい

 

702:脳髄

逆にこっちに気を取られてイチャイチャできないのは困るぜ

俺たちは>1天を推す脳髄であって、

俺たちの欲望のままに2人をどうこうするのは違うからな

 

703:名無しの1天推し

良いこと言うやん

 

704:名無しの1天推し

それはそう

 

705:名無しの1天推し

そうだけど脳髄でくくるの草なんよな

 

706:脳髄

誰にでも……脳髄は、あるっ!

 

707:名無しの1天推し

それはそうだけども!

 

708:名無しの1天推し

むしろ脳髄ニキ今もう脳髄すらないんじゃないの……?

 

709:名無しの1天推し

言葉にするとあまりにも重い

 

710:転生したら脳髄になって、カプ推しになったら魂だけになっちゃったもの

仕方ねぇな、笑えよ

 

711:名無しの1天推し

そうなんだけども!!

 

712:名無しの1天推し

長いよ

 

713:名無しの1天推し

笑えないよ!

 

714:名無しの1天推し

コテハン勢筆頭の名前が文章とかもうアホだろ

 

715:自動人形職人

うーんこの

 

716:名無しの1天推し

脳髄がムードメーカーという事実

 

717:転生したら脳髄になって、カプ推しになったら魂だけになっちゃったもの

魂だけでも推すのが推し活ってもんよ

 

718:1年主席天才

拙いことになった

 

719:転生したら脳髄になって、カプ推しになったら魂だけになっちゃったもの

デートが?

 

720:名無しの1天推し

お?

 

721:名無しの1天推し

天才ちゃんだ

 

722:名無しの1天推し

ちーす

 

723:1年主席天才

いや、例のクーデターの件

 

724:脳髄

天才ちゃんが言う拙いことかー

 

725:名無しの1天推し

マジ?

 

726:名無しの1天推し

それは……拙いのでは?

 

727:自動人形職人

>1は一緒です?

 

728:1年主席天才

いや。

 

頭を冷やす為にこっちは覗かせてない。

アレスがお茶淹れてるみたいだな。

 

729:名無しの1天推し

そん なに

 

730:名無しの1天推し

>1がげきおこて

 

731:名無しの1天推し

あんま見たことないけど

 

732:脳髄

>1がキレそうなことって二つだろうけど

 

733:1年主席天才

結論から、簡潔に言うが

 

734:名無しの1天推し

天才ちゃんはいつも結論から簡潔で助かる。

 

735:1年主席天才

 

クーデター、もうほぼ終わってるぽい。

 

736:名無しの1天推し

ふぁっ!?

 

737:名無しの1天推し

おいおいおい

 

738:名無しの1天推し

ふむ

 

739:自動人形職人

話と違いません?

 

740:1年主席天才

そして、昨日王宮に行った御影が向こうに囚われた。

パールだけが昨夜帰って来てね。

 

741:名無しの1天推し

おいおい

 

742:名無しの1天推し

それは……

 

743:脳髄

あー……

そういう……

 

744:名無しの1天推し

どーなってんの?

 

745:名無しの1天推し

聞いた話じゃあ、やべー指導者候補がクーデター起こそうとしてるから

それをどうにかしようって話じゃなかった?

 

746:名無しの1天推し

今の指導者の人がもう死んじゃってたとか?

 

747:1年主席天才

いや、そうでもないというか。

 

パールから聞いた話をかみ砕くと、荒事があったというわけではないらしい。

 

748:1年主席天才

王宮に行って、教皇と導師への面会自体はスムーズに行ったらしい。

会うまでに時間がかかったみたいだが、これはまぁ、そういうものだ。

 

749:名無しの1天推し

そんなイメージは確かにある

 

750:名無しの1天推し

実際普通、王と会うなら諸々の手続きとか準備が必要だしな

 

751:脳髄

てことはその面談の後か?

 

752:1年主席天才

あぁ。

スムーズとまとめたが、例の実行犯、バルマクの企てているであろうことも、それをどう対処するかも、教皇と導師と詳しく話したという。

一通り話し終わって―――そこでバルマクが乗り込んできて、そこから状況が変わったらしい。

 

753:1年主席天才

ちょっとここの詳細が分からないんだが……

 

どうもバルマクが場を支配した。

むしろパールや御影たちがクーデターを起こそうとしている論を展開して、

 

……それを、教皇と導師が受け入れたらしい

 

754:名無しの1天推し

????

 

755:名無しの1天推し

いやそれは無理があるでしょ

 

756:自動人形職人

しっかり話し合った後ですよね?

 

757:名無しの1天推し

洗脳でもされたのか?

 

758:1年主席天才

流石に、そこまでは分からん。

トリウィア曰く、そういう洗脳や暗示の類は魔法では難しいらしい。

ないわけではないらしいので、可能性が0とは言いきれないんだけど。

 

759:1年主席天才

そっからあれよあれよと御影とパールは拘束された……んだが、

拘束されようとして御影がパールを王宮の天窓から外にぶん投げたらしい

 

760:名無しの1天推し

えぇ……

 

761:名無しの1天推し

いや草生やしてる場合じゃないんだが

 

762:名無しの1天推し

流石すぎる

 

763:脳髄

ぱ、パワープレイ……

 

そいや先輩と最初にフィールドワーク言った時、ワイバーンの一本釣りしてたな……

 

764:1年主席天才

おそらく、この状況に対処することを考えれば

この国に詳しい彼女を脱出させるべきだと判断したんだろう。

パールはなんとか戻ってこれたので状況把握できたので

まさしくファインプレーだ。流石の判断力と腕力だね。

 

ただ、さらに問題があってだな

 

765:名無しの1天推し

まだあるの……?

 

766:自動人形職人

うぅむ……

 

767:1年主席天才

導師の引継ぎと御影とバルマクの結婚式。

 

明後日やるって、バルマクが言い放ったらしい。

 

768:名無しの1天推し

はぁ!?

 

769:名無しの1天推し

いやいやいやいやいや

 

770:名無しの1天推し

おかしいって

 

771:名無しの1天推し

滅茶苦茶やん

 

772:脳髄

>1がブチギレてるのこれか

 

773:名無しの1天推し

どういう速度感やねん!

 

774:自動人形職人

準備良すぎませんか?

 

775:名無しの1天推し

明確におかしいでしょ

完全に準備して待ち構えてるって

 

776:名無しの1天推し

てかおかしくね?

ギャル先輩とお姫様、街はいる時顔隠してるとか

そもそも日程が曖昧だとか、色々到着バレないように対策してたよね

 

777:名無しの1天推し

確かに

 

778:名無しの1天推し

うん?

 

779:脳髄

つまり、対策はしてたけど向こうは完全にこっちの動向を把握してた……ってことか?

 

780:名無しの1天推し

そんなことある?

 

781:名無しの1天推し

うーん……

 

782:1年主席天才

そこなんだよな。

 

何もかも手際が良すぎる。

パールたちを待ち構えてたような準備は、脳髄の言う通りこっちの動きを把握している。

そりゃ確かに道中密偵でも……と思わなくもないが、それにしたって完璧すぎるというか。

 

783:名無しの1天推し

こんなこというのもアレだけどヨ

>1たちのデートで到着知られたりはしてないのカ?

 

784:名無しの1天推し

それは……

 

785:名無しの1天推し

サイバーニキ?

 

786:1年主席天才

ないとは言いきれない。

 

……ちょっと軽率だったかもね。

 

787:脳髄

いやいや、それはおかしいっしょ。

 

街で>1と天才ちゃん見かけたら王宮にギャル先輩とお姫様がいるぞ! は飛躍しすぎ。

そこ紐づけできるなら道中で皆一緒って把握されてないといけないし、

だったらデートしてなくてもしてても行動がバレてる。

 

788:脳髄

それにそうだとしても、クーデターほぼ終わりとか結婚式準備終わってるも変だぜ。

国のトップの引継ぎと結婚式とか、相当準備しておかないと無理でしょ。

 

789:名無しの1天推し

確かニ。すまん、余計なこと言ったワ。

申し訳ない、天才ちゃん

>1も、後で謝るワ。

 

790:1年主席天才

いや、いい。

 

……気を遣わせた。

2人ともありがとう。

 

791:脳髄

あいあい。

 

んで、>1がげきおこというわけね。

 

792:名無しの1天推し

「今すぐ王宮に乗り込んで御影さんを助けましょう」

 

793:名無しの1天推し

い、言いそう……

 

794:名無しの1天推し

の、脳内再生余裕だな……?

 

795:自動人形職人

>1なら言う

 

796:1年主席天才

一字一句違わずに言った。

 

797:名無しの1天推し

うーんこの

 

798:名無しの1天推し

真っすぐが過ぎるんよ

 

799:脳髄

知ってた

 

800:名無しの1天推し

デスヨネー

 

801:名無しの1天推し

えぇと……ダメなんです?

 

802:名無しの1天推し

ダメというか……

 

803:名無しの1天推し

できなくはないだろうけど……

 

804:脳髄

仮にも国のトップの引継ぎに横やりを入れたらどうなりますか?

という話だな……

 

805:1年主席天才

御影との結婚は、彼女が半分聖国の血を引いているということ。

皇国、鬼種が王の婚姻の形を問わないという特異性から押し通せるにしても。

 

仮にも王国の学園の主席で、王国生まれで、王国から勲章とかもらってる>1がそんなことしたら、まぁ。うん。

 

806:名無しの1天推し

戦争……ですかね……

 

807:名無しの1天推し

こ、国際問題

 

808:名無しの1天推し

というか次代の王のお姫様の婚姻がまかり通る可能性がある皇国がそもそもおかしいって

 

809:名無しの1天推し

どんな国なんやろなぁ……

 

810:自動人形職人

わりとイメージしやすい東方の国って感じらしいですけどね。

 

……ってそうではなく。

 

811:名無しの1天推し

これからどうするんだ

 

812:名無しの1天推し

明後日って言ってたよね

 

813:名無しの1天推し

展開速いって

 

814:脳髄

方針は?

 

815:1年主席天才

御影は助ける。

クーデター、というよりバルマクの乗っ取りも止める。

 

どっちもやる。

 

816:1年主席天才

後者の優先度は低い……というわけでもない。

 

正直パールには悪いが、聖国のクーデターがどうなっても王国で生きてるなら、とか甘い考えだったが、

洗脳だか催眠まがいをするとなるとちょっと話が変わる。

 

どこまでするつもりかは分からないが、放っておくと世界征服とか言い出しかねないし

 

817:名無しの1天推し

うわぁ

 

818:名無しの1天推し

如何にもって感じになってきたな

 

819:自動人形職人

どうやって導師さんとか教皇様を操ってるかが問題ですね

 

820:1年主席天才

うむ。

 

どう動くかはトリウィアとパールと作戦会議中だが、

そこはちょっと僕も調べるつもりな。

明後日に式をやるのなら、前向きに考えれば一日は時間あるわけだしね。

 

821:名無しの1天推し

なるほど……

 

822:名無しの1天推し

うーん、どうにかなれ!

 

823:自動人形職人

きな臭さしかないですねぇ

 

824:名無しの1天推し

>1と天才ちゃんたちならなんとかしてくれると信じよう

 

825:名無しの1天推し

応援してます!

 

826:脳髄

お姫様をそんな質の悪い政治家にNTRとか脳が破壊されるから絶対になんとかしてくれ

 

827:脳髄

これは別に脳髄ジョークとかではなく

比喩表現としての脳破壊です

 

828:1年主席天才

そういうのいいから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ふむ」

 

 地下牢を見回し、御影は息を吐いた。

 王宮の地下、石造りの武骨な地下牢。

 両手首は鎖で壁に繋がれ、それだけ見れば明らかに虜囚といった状態だ。

 だが、同時に奇妙な点もある。

 御影が着せられている黒のネグリジェは肌触りが良く、非常に質がいい。ごつごつとした石畳みの床も態々分厚く、見事な刺繍の絨毯が敷かれているので彼女の大きなお尻を痛めるということもない。

 座りやすいように肘置きすらあるし、鎖の手かせにしてもある程度なら動かせる上に、おまけに少し前に新鮮なフルーツとパンに水すらも運び込まれて自由に飲むことができた。

 窓は無いにしてもいくつか燭台が置かれて明かりも確保されている。

 手枷のせいで好きに動けないということを除けば、

 

「……悪くない待遇だな?」

 

 ネグリジェにしても、着心地がいい。

 普段、自分が寝巻にしている着流しよりも露出度は低いが、衣擦れの度に体のラインをあらわにするし、これでウィルに迫るにも一興かもしれない。

 囚われてしばらく、場所が地下牢であることと手枷がある以外はむしろ賓客のような扱いだ。

 数時間前、女性の召使のような女が身体を拭きにも来てくれたし。

 

 そんなことを考えていたらしばらくして。

 

 

「――――やっと話ができるな、鬼の姫よ」

 

 その男は現れた。

 豪奢な刺繍と装飾があしらわれた黒の儀礼服。同色には羽根飾り付きの大きく膨らんだターバン。濃い組褐色の肌に顎から頬に掛けて整えられた髭。

 険しい顔つきと分厚い儀礼服の上からも分かる体格の良い男。

 その手には蛇を模した錫杖が。

 ザハル・アル・バルマク。

 導師候補であり、現在聖国にてクーデターをほとんど完成させたその人である。

 

 鋼鉄のように熱を感じさせない、しかし固い黒の瞳に見下ろされ、御影はやっとかと、ため息を吐き。

 

「……一つ言っておこう」

 

「ほう。面白い。囚われの姫が何を言うか、興味があるな」

 

「そうだろうそうだろう、よく聞け。今の私のような状況の末路は大体想像できる」

 

 だが、

 

「―――くくっ」

 

 彼女は喉を鳴らしながら笑い、囚われてなお爛々に輝く琥珀の瞳で、黒鉄のそれを見据えて言い放った。

 

 

「生憎この体は()()()()だ。―――触れたら殺してやるぞ?」

 

 

 

 

 




>1
げきおこ

天才ちゃん
色々考え中。

サイバーニキ
そんなことはないと本人は思うけど掲示板の仕様上誰かに思い込まれたら嫌だなと思った故の嫌な発言
思わなくても>1や天才ちゃんは思いそう

脳髄ニキ
サイバーニキのそんな思考を加味した上での指摘と訂正

御影
くっ殺できない系女子。
或いは新感覚くっ殺女子。
「くくっ……殺す!」
予約済みというか予約押し付けというか。


ザハル・アル・バルマク
鋼鉄の革命家。
手際のよすぎる男。
何をしたのか、何がしたいのか真意はいかに。


繰り返しますがNTRとか脳破壊とかは無いので安心してくださいネ
ゴーティアさんもそうだそうだと言っています。


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天津院御影――誇りの象徴――

快楽堕ちなんて絶対しない!!!!!!


 

 

「下品な女だ。姫とはいえ、やはり蛮族か」

 

 御影の挑発に、しかしバルマクは胡乱な溜息を吐くだけだった。

 

「……うん?」

 

 その様子を見て、御影は少し疑問に思う。 

 パールから聞くバルマクという男は、簡単にいえば「歴史と文化に敬意を払わない下劣な男」と言ったものだった。 

 囚われた時はあまりの出来事だったので深く観察することができなかったが、改めて見ると印象が少し違う。

 

「これから婚姻を結ぼうという娘の貞操を、式の前に奪うということはしない。鬼種の乱れた価値観とは違い、この国において処女の貞操は神聖視されているのだ」

 

 訥々と紡ぐ言葉に感情が見えない。

 仮にも「性」とか「処女」「貞操」なんて話をしているのにそれに対する喜びも照れもなにもない。

 鋼鉄のような、或いは蛇のような。

 ただ事実だけを述べている、そんな塩梅だ。

 

「ふむ……てっきり私は王都の本屋の隅でこっそり売られているような春本のような目に合うと思っていたのだが。こんなあからさまな拘束をされていてはな」

 

「それについては謝罪をしよう。残念ながら、鬼種を拘束するには鎖で繋ぐなり必要だ。魔封じの拘束紐はあるが、お前たち鬼ならば素の膂力で引きちぎるだろう。寝台に括り付けても、寝台の方を壊すと判断した故に地下牢を使っている」

 

「………………なるほど? まぁ、確かに」

 

 言われたことを咀嚼し、奇妙な気分だが納得する。

 確かに鬼種の膂力は亜人においても最高位。

 魔法がなくても、たいていの人種が魔法で強化した状態よりも上回る。バルマクの言う通り、魔法を封じるだけの紐なりでは容易く引きちぎれる。

 

「扱いが良くないことは理解しているが、不可抗力だ。逃げられると困るが故の拘束をしているが、それ以外は配慮をしている。お前が尻に敷いている絨毯は平民が10年働いても買うことのできない高級品だ」

 

 そう言われると尻がむず痒い。

 居心地の悪さを感じる御影を見下ろすバルマクの視線は変わらない。

 それどころか口元と目元以外はまるで動かず、地下牢に入ってから直立不動のまま。

 

「話をしよう、天津院御影。ヤースミンの女」

 

 黒鉄の如き男は言う。

 

「何故、私が革命を為そうとするのか。何故、お前を拘束したのか。それを話そう」

 

「まぁ聞かせてくれるなら聞くが。……ヤースミンとはなんだ?」

 

「貴様の母親の部族だ。皇国の言葉では茉莉花という花を示す。貴様の母は聖女から除名されている故にトリシラの姓ははく奪されている」

 

「……初耳だな。茉莉花は母が好きな花だったが」

 

「そうか。では本題に入ろう」

 

「…………まぁいいが」

 

 打てば響く、というか。

 質疑応答のような会話だ。

 御影の現在の印象は「つまらない男」である。

 

「……この国は、砂漠に埋もれた礎のような国だ」

 

「ほう、詩的だな」

 

「即ち、時代遅れという意味だ」

 

「いや、分かるが」

 

「そうか。ならば続けよう」

 

 この状況で思うのもなんだが、もうちょっと抑揚が欲しい。

 いつでもどこでも会話を楽しみたいと御影は思う。

 

「王国に住まうお前でも分かるだろうか。この国は、非合理的な慣習、しがらみがあまりにも多い。そうだな、例えば女だ。この国の女というものは権利というものがほぼない。男の所有物と言っていいだろう」

 

「なるほど。まさしく私をもののように扱っているお前が言うと説得力がある」

 

「そうだろう」

 

「…………」

 

「婚姻は、まさに顕著だな。誰と結婚するかなんぞ決定権はない。父親や部族の長が決める。部族同士の友好のために、或いは保有する系統を広める、ないし囲うために」

 

「保有系統の為の婚姻など、珍しくもないがな」

 

 系統の為の婚姻は、実の所それほど珍しくない。

 貴族だろうと平民だろうと、そこは左程大差がなかったりもする。

 貴族であればより広く系統を得る為に、平民、特に農家においては農業に有用な水・地属性系統は重要な婚姻の要因だ。

 

「そうだな。必要な面もある」

 

 御影の反論に、しかしバルマクは反論はしなかった。

 だが、

 

「多くの部族において、必要だからではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただの手段が、目的となっているのだ」

 

 男は身じろぎ1つしない。

 口元だけ絶えず動き続ける。

 例えば、

 

「婚姻の続きで言えば、系統の都合一人の女を複数人が娶りたいとなった場合どうなるか。答えは妻の共有か奪い合いだ。前者であれば順番に子を産まされる。後者であれば立候補者同士の決闘。冗談のようではあるが、この決闘は聖なるものとされている」

 

 例えば、

 

「大戦以降各国の技術交流が盛んとなっている。お前の学園のトリウィア・フロネシス。あれは傑物だ。ここ4年で彼女が公開した魔法理論は聖国まで届いている。それを受け入れれば生活水準は向上するというのに。掟、しきたり、伝統、そんなただの言葉を盾にして、拒絶をするのだ」

 

 例えば、

 

「この聖都は同心円状の都市だ。中心がこの宮殿であり、中心にあればあるほど栄えている。外側に行けば行くほどに治安が悪い。外周部がどうなっているかお前は確認したか? ただのテントが大量に並んでいる。聖都が豊かな土地だからと聞いて訪れ、集落を作っている。部族を出て帰るところもなくそこにしかもう行き場所がないからだ」

 

 例えば、

 

「この国は教皇が王だ。大戦以降、導師が主導権を握っているとはいえ宗教故のしがらみによりできないことも多い。例えば農作物の輸出。この国の過酷な地であっても、場所を選べば特産と呼べるような物を作れるだろう。だが、そういう地に限ってどこかの部族の聖地などと言って使うことができない。私の裁量で亜人連合から学び、一部に珈琲農園を作ったがそれでも供給量が足りず、王国と帝国に僅かに流すだけ」

 

 例えば、

 

「ナツメヤシという果物がある。確かに栄養価は高く保存も効く。この国では聖なる果実として重宝されている。だが他にも食べるものはある。魔法を使えばいくらでも応用が利く。だがやはり昔から重宝していたという理由で食べている」

 

 例えば、

 

「職業の自由がない。鍛冶を得意とする部族生まれなら鍛冶しかできない。狩猟が得意な部族は狩猟することしか考えてない。聖都を含め、いくつかの大都市以外では識字率すらままならない。女であれば教育すら受けられない。下らない、あまりにも多くの才能の無駄遣いを――――」

 

「もういい、十分だ」

 

「そうか? まだ伝えることはできるが」

 

「要らん。つまり、お前はこの国の在り方に不満があるというわけだ」

 

「そうだ。理解に感謝する」

 

 呪詛のような事実の羅列。

 その時だけは瞳の奥に意志をうかがい知れた。

 憎悪、というと違う。怒りでもない。

 疎んでいる、価値を感じない。

 理解ができない。

 感情とも違う、そういう拒絶の瞳だった。

 

「下らないだろう。奔放と力を旨とする鬼種ならば、私に共感できないか?」

 

 言われて考える。

 バルマクの言葉を。

 確かに非合理的な内容だった。

 止めなければいくらでも続いたのだろう。

 その上で、

 

「……いや。私はこの国に来て二週間程度だぞ? 悪い所だけ言われても困るし、私が協力する理由もなくないか?」

 

「確かに。そうだな」

 

「……」

 

 なんだこいつと、御影は思った。

 人形に話しかけている方がまだ楽しい。

 

「故に、利点は提供しよう。私と婚姻をすれば皇国との関係は密接となり、互いの発展が可能だ。望みがあれば言うが良い。可能な限り譲歩する。また、私はこの国の権力構造も塗り替える。導師が名実問わず頂点に君臨するように。そうすればお前は皇国と聖国、二つの国の女王となる」

 

「貴様、他人からつまらないとか言われないか」

 

「よく言われる」

 

「だろうな」

 

 パールがこの男を嫌っていたのも納得できる。

 彼女は聖国の聖女として、自らの国を愛している。そんな彼女からすればこの男の極まった実利追及主義というのは全く相いれないものだ。

 

「…………ふぅ」

 

 思っていたものと少し違い、息を吐く。

 かちゃりと両腕の鎖が揺れた。

 それにしてもこの男、御影はかなり扇情的な姿だというのにそちらに視線が行く様子もない。そういう風に見られても不快なだけではあるが、少し疑問ではある。

 

「何故私を使おうと思った?」

 

「偶然だ」

 

「……もっとこう、ないのか?」

 

「ない。お前とお前の母の出自を偶然知った。そしてお前たち学園が遠征候補に聖国を入れていることも。お前がこの地を訪れないのなら利用はしなかった。だが、来たから利用した。それだけだ」

 

「それだけか? それにしては私たちの動向の把握が完璧すぎたぞ?」

 

「そういうこともある」

 

「……ふむ?」

  

 あるわけがない。

 クーデターを進行していたにしても、御影やパールに対する対応が迅速すぎる。

 何かしらあるのには、間違いない。

 問題はそれが何なのかという話なのだが―――

 

 

「もー、面倒じゃないですかー。さっさと操っちゃいましょうよー」

 

 

 

 

 

 

 ()()()と、初めて御影の背筋に悪寒が走った。

 当たり前だが、バルマクの声ではない。自分の声ではない。

 

 ()()はバルマクの右斜め後ろ、温かく照らされた牢の中のほんのわずかな影が差したところに、いつの間にか立っていた。

 

 小柄糸目の人影だ。

 学園の制服に似たような、真っ黒なスーツスタイル。ブラウスとネクタイ、革靴に腰当たりまでの長いポニーテールまでもが黒い。

 影の中で立つ、影のような存在だった。

 何よりも、細い目から微かに覗くその瞳があらゆる光を吸い込むような漆黒で。

 青白い肌はその黒を引き出すように不気味。

 不気味さと不吉さを象徴するような影絵がそのまま人の形をしているかのようだった。

 中性的な顔つきで身体を見ても、声だけでも男か女か判断できない。

 

()()()()

 

「はいー。ヘルメスさんですよー。相変わらずザハクさんはお堅いですねー。クーデターはもう成功しててー。おまけの賞品で、この鬼のお姫様を好きなようにできるんですよー?」

 

「それ自体に興味はない」

 

「はははー。お堅いですねー。欠片も面白味もないのにクーデターとかしちゃうからおもしろいですよねー」

 

「面白さでクーデターをするような輩は正気以前の問題だ」

 

「確かにー」

 

「…………何者だ、貴様?」

 

「どもどもー、ヘルメスさんですよー。以後、お見知りおかなくて結構ですのでー」

 

 輪郭を掴むことすら難しい、影はヘラヘラと笑うだけ。

 瞳がほんの少しだけ開き、漆黒が覗ているのが不気味極まりない。

 バルマクとは違う意味で、感情が読めない女だった。

 

「ささ、ザハクさーん、やっちゃいましょー?」

 

「…………」

 

 影から()()()()と笑う影に、しかしバルマクは胡乱な溜息を吐く。最初に御影が挑発した時と同じような反応だった。

 けれど、影はバルマクの様子には構わない。

 

「だって、これが一番手っ取り早いじゃないですかー? 好きでしょー、バルマクさん手っ取り早いの。()()()()もお姫様と一緒に来てるとなると、ヘルメスさんの()()()()()も難しいんですよねー。ランプの魔人が叶える願い事は限界がつきものです」

 

「……待て、貴様。お前の言う2人というのは――」

 

「致し方あるまい」

 

 何か、見過ごせないことをヘルメスが言った。

 だが、バルマクの決断は一瞬だった。

 

「天津院御影―――()()を見ろ」

 

 ()()()と、手にしていた錫杖を石畳みに叩きつけた。

 甲高い音。

 反響する金属音。

 鼓膜に突き刺さる音に、思わず錫杖に視線が向く。

 蛇の頭を模した錫杖。

 眼に当たる場所に、赤い宝石がはめ込まれていて。

 閉じた口には二本の長い牙が生えていた。

 

 ()()()ともう一度音が鳴り、その眼が妖しく光り、その口を開いた――――気がした。

 

 

「―――――っ!?」

 

 

 どくんと、心臓が脈打った。

 高温が反響し、視界が揺れ、体に、特に臍下に強烈な熱を持つ。

 気温によるものではない、汗が流れるのを嫌にはっきりと感じ取る。

 

「っ……はっ……何を……した……!?」

 

「なーんとなーんと! 発情モードになっちゃうおまじないなんですねー!」

 

「っ……はっ……なる、ほど?」

 

 思考を鈍らせるような臍下から全身を犯す熱は確かに性感のそれ。

 意志と反して身体が強制的に発汗し、ネグリジェが艶めかしく張り付いてく。

 

「うわー、えっちですねー。おっぱい大きすぎるでしょ。お尻もすっごー。どうですか、ザハクさん、興奮します? ムラムラします? その気になってきました?」

 

「ならない」

 

「えぇ……? この息を荒くして体をよじるドスケベ長乳褐色娘を見てその反応ですかー? インポなんですか?」

 

「生殖機能に問題はない」

 

「あっ……そうですかー」

 

「ふぅーっ……ふぅっー……はっ……この手のことは好かん類だと思ったが……?」

 

「遺憾ではある」

 

 脂汗を流し、頬を赤らめる御影に、しかしバルマクの表情は変わらない。

 黒鉄のように変わらず、蛇のように無機質な瞳で観察するだけ。

 

「だが、古今を問わず、女を従わせる手段として有効だろう。導師や教皇に行った暗示をするには時間が足りない。ならばこれが最も効率的だ。貞操を奪わずとも、これに関しては方法はいくらでもある」

 

 髪が乱れ、滝のような汗が首筋から深い谷間に流れ落ちた。

 こらえる様に太ももは震え、よく手入れされた足先の指に力が入る。

 ネグリジェしか纏ってないせいで、彼女の豊満な乳房は体の揺れをダイレクトに受け、男を誘う様に。

 

 世の男が見れば、一瞬で理性を失う光景。

 

「ヘルメス。鬼種の精神を屈服させる方法はあるか? 鬼種の生殖事情までは知らん」

 

 しかしバルマクには何の高ぶりもない。

 この男は御影の艶やかな姿にも、道端の物乞いにも同じような視線を送るだろう。

 

「あー? うーん、自分もあんまり知らないですけどー。やっぱ角じゃないですかー? 『龍の逆鱗、鬼の角』なんて言葉もありますしー」

 

「なるほど」

 

「っ――――触れ、るな……!」

 

 御影の眼に狼狽の色が濃く浮かぶ。

 他人に角を触れられるということは御影にとってそれだけ受け入れてはならないことだから。

 

「そうか。触れる」

 

 けれどバルマクは構わない。

 効果的だから、行う。

 ただそれだけ。

 国を変えるという意思の下に突き進む鋼鉄の革命家。

 

「っ……くっ……やめ、ろ……!」

 

 引き絞る様な声は激情を乗せて。

 

「――」

 

 無言で伸びる手には何も乗らず。

 その五指が御影の角に触れて、

 

 

「―――――!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()が振り上げられ、バルマクの掌を深く切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ハッ! このアホどもが! 全く何も知らんな!」

 

 鮮血を顔面に直接浴びながら、しかし御影はひるまなかった。

 手の傷を抑えたバルマクはわずかに眉をひそめながら後ずさり、ヘルメスは信じられないものを見たようにその漆黒の瞳を見開いた。

 

「……え? ちょ、まじ? 本人の経験上、興奮の最大値を強制的に引き起こすはずなんですけどー……?」

 

「天津院御影、性的興奮は覚えているか?」

 

「正面から聞くなそんなこと! だが応えてやろう、血の匂いで覚めた!」

 

 角から伝わる肉を裂く感触と顔面に降りかかった血。

 御影という半鬼にとって、性的興奮を闘争本能に置き換えるのには十分だった。

 

「ふぅー……」

 

 息を吐き、

 

「3つ、お前たちに教えてやろう」

 

 彼女は嗤う。

 

「……聞こう」

 

「1つ、確かに鬼は強さを何よりとする。強きを焦がれ、強きを欲する。最も重要視するのは強さだ」

 

 だが、

 

「我々鬼種が最も嫌悪するのは()()()()()()()()()()だ! 今のお前のようにな!」

  

 歯をむき出しに。

 息は荒いままに、それでも琥珀の瞳を爛々と輝かせて彼女は告げる。

 

「そうでなければ! 我々のような蛮族はとっくに滅びている! 強さを希うが故に、強くあるのと同時に正しくなければならん! 強さとは他者を押しつぶすものではなく、他者に魅せつけるものだ!」

 

 その在り方こそが、鬼種の根幹だ。

 ただ、腕っぷしの強さだけを求めていたのなら彼女の言う通りとっくに絶滅しているし、国として成立するはずがない。

 力の強さというものは、精神の高潔さを前提とするのが鬼という種族である。

 故に彼ら彼女らは強いから好きになったり、尊敬されることはあるが、弱いから嫌われたり、迫害されることはない。

 

「やり方を間違えたな! こんな企みをせずに、最初から()()()()()()()()と私に頼めばよかったんだ! だったら、一考してやったというのに! どんな理屈か全く知らんが、何もかんも思い通りにできると思うからこうなる!」

 

「そうか、残念だ」

 

「納得が早い! 最後まで聞け!」

 

「いいだろう」

 

「えー……?」

 

 ちょっと面白くなってきた。

 バルマクは表情は変わらず、ヘルメスは微妙に引いていた。

 

「2つ! そもそも鬼種というのは、生涯を添い遂げると決めた相手以外に股を開くどころか! ましてや角を許すことなどありえん! 我々の体は、そういう風にできている! 端的に言って、惚れた相手以外には勃たんし濡れん! そもそも死ぬほど酒を飲むせいか、毒物の類も全く効かん!」

 

 それは鬼種の生殖事情だ。

 鬼は一度決めた相手以外に発情することもない。亜人種によっては時期により発情することがあるが、鬼種は極めて珍しい個人が発情条件という種族である。そうなってくると肉体的、精神的、思考も含めてその手の考えがなくなってしまう。

 例え相手と死別したとしてもそれは変わらない。

 鬼種は男であろうと女であろうと、浮気や不倫も絶対にない。

 一方が一方を囲むことは別の話だとしても。

 文字通り、一生涯をかけてたった一人を愛するのだ。

 

「特に角は! 勝手に触れたら殺されても文句は言えんぞ!」

 

 人種と鬼種のハーフである御影にしても、それは変わらない。

 角とは、魂なのだ。

 家族であっても軽率に触れさせることはない。

 ただ一人愛する者以外は。

 

「なるほど。知らなかった。一途な種族のようだ」

 

「ハッ! そうだそうだ! 私は純愛路線でな!」

 

 そして、

 

「3つ目! 一番大事なことだよく聞け!」

 

 先ほど、今の自分は自らの肉体を強制的に発情させられた。

 個体としての上限値として、頭がおかしくなりかねないほどにと。

 なるほど、それは確かに苦しい。

 だけど。

 だとしても。

 

()()婿()殿()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()! 故に私を発情させてどうこうなんぞは無駄というわけだ!」

 

 

 はっはっは、と。

 仮にウィルが聞いていたら筆舌にできないようなことを大声で言い放った。 

 あまりに声量故に、地下牢が揺れるほどだった。

 

「…………えぇー……?」

 

「なるほど。言葉通り純愛路線のようだ」

 

「ザハクさん、反応絶対変ですよ」

 

「些事だ。……だが、どうやらこの段階で、この女を支配下に置くのは不可能なようだ」

 

「えー? いやもうちょっと粘れば」

 

「これを見ろ」

 

 バルマクは手の血は構わず、数歩歩みを進めた。

 向かった先は御影ではなく、彼女を捕らえる鎖。その鎖と壁を繋いでいる接合部に触れ、

 

「入ってきた時は問題なかった」

 

 軽く指で押せば、接合部の下にある大きな煉瓦がぐらりと揺れた。

 

「…………えぇ?」

 

「外れかけている。角の振り上げの勢いでな。素手で壁の一部を引っこ抜く様な女を襲えば命がいくつあっても足りん」

 

「はっ、目敏いな。このまま引っこ抜いて頭をカチ割ってやろうと思ったが」

 

「そうか。危なかった」

 

 バルマクが指で押し込めば、接合部が壁に沈み元通りになる。

 土属性の魔法か何かだろう。

 

「ここまでだ、ヘルメス。ここでできることはもうない。この女を支配するのは婚姻を結んだ後とする」

 

「……ちぇー、残念」

 

「私が大人しくしているとでも?」

 

「物理的に大人しくさせることは不可能ではない。時間の問題だ」

 

「皇国と戦争をするつもりか?」

 

「否だ。そうしないためにお前を手中に収めた。時間は掛かるだろうが、お前を利用することはできる。教皇や導師のようにな」

 

「大丈夫ですかねー。明日が何の問題もないか、自分にも読めないんですよねー。お姫様はともかく余分なのも来てるせいでー」

 

「もはや賽は投げられた。多少の問題には目を瞑り、都度対処していく他ない」

 

「その手の傷みたいにー?」

 

「そうだ。鬼種に関して、もう一度学び直すとしよう」

 

 そこで話は終わりと言わんばかりに、バルマクは御影に背を向けた。

 彼はもう御影を意識の外に追いやって、ヘルメスと共に牢を出ようとして、

 

「おい、バルマク」

 

「なんだ」

 

 御影の声に振り返らず応えた。

 その背に向けて、彼女は薄く笑う。

 

「この国を、嫌っているんだろう? 女には結婚の自由がないみたいな話があったな」

 

「然り」

 

「なら――――まさにお前が象徴じゃあないか」

 

「そうだ」

 

 御影の挑発に、しかし彼は揺らがなかった。

 ただ彼は、誓う様に言葉を吐く。

 

「だから、造り替えるのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル、改めて君に言っておこう」

 

 導師継承式及び結婚式前夜。

 生徒会とアレスの面々で止まっている宿屋の屋上にウィルとアルマはいた。

 冷える気温に肩を寄せ合う二人は、共に星が輝く夜空を眺め、

 

「僕にとっての幸福は、君の幸福だ」

 

 アルマの言葉をウィルは聞く。

 彼女の静謐な言葉と夜風だけが耳に届ていた。

 

「ただ……彼女は、()()()()()()()()()()

 

「……はい」

 

 その言葉の意味を噛みしめて、彼は頷く。

 パール、トリウィア、アルマが考えた御影を救う方法。

 それを為すには最終的にウィルの意思が必要だったから。

 彼は拳を握る。

 もう何も、幸福を失わないように。

 アルマはもう何も言わない。

 だからウィルは、自らと彼女に誓う。

 

「――――御影さんを助けましょう」

 

 

 




御影
快楽堕ちなんて絶対しない(真顔
溢れんばかりの性欲を理性で抑え、そのギリギリを楽しんでいる女。
無敵か?
ウィルにはよくふやふやになった角を押し付けて遊んでいる。
まだ触れてもらったことはないけれど


鬼種の発情
時期ではなく特定個人に対してのみ発情をする。
人種が時期にとらわれず発情することで数を増やしたのとは違い、
鬼種は個としての強度を上げる為に自らと相性の良いものと子孫を育むように発展した。

正確に言えば想い人相手にしか発情しないというわけではなく、
相手の血や汗、匂い(フェロモン)、体液等を自らの肉体に覚えさせることで発情条件を確定するようになる。

これに関して相手の数は問わないために、一夫多妻、多夫一妻自体は問題ないが、浮気不倫、或いは愛を失ったと判断されるとほぼ確実に流血沙汰になりどちらかが死亡することになる。不貞行為を働いた側が生き残っても社会的に追放、迫害される立場となる。

鬼種が浮気や不倫をしないのではなく、したら肉体的にも社会的にも死ぬという話。

女性の発情に関しては姫様ドレス回の「角がふやける」を参考に
余談だが
角を触れさせる>性行為という価値基準

鬼種
ちょっと豪快成分増した光の国の戦士みたいな連中
アルコールを含めて毒物薬物耐性もバグっている
上記の性質上、幼馴染はほぼ勝ちみたいなところがある国

バルマク
打てば返るが響かない男。
超効率主義者。性欲が無いわけでもないが、無視できちゃう。
絶対近代化するマン

ヘルメス
自称、ランプの魔人
黒スーツに黒髪ポニテ黒目の性別不詳。

ウィル
もう何も失いたくない

アルマ
それでいいんだよ
思う所はいくつかある。

地の文回で毎回上がってる気がするトリウィア(n回目

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ワッツ・ハプン

バルマクさん、思ったより愛されてて草ですね


 

 導師の引継ぎと結婚式は宮殿内の大きな中庭で行われていた。

 数百人単位が収まる様な円、その円周に沿って中央奥にやはり円形の噴水がある。

 その周囲に教皇と導師、数人の側近。

 広場の両脇に主に政府関連の大臣や近隣の部族の長が合わせて100人近く、いくつも重ね合わされた絨毯に腰を下ろしている。

 噴水と教皇、導師たちからは中庭入り口まで長方形の空白があり、彼らの前にバルマク1人が佇んでいた。

 

 晴天の下に行われる式典は、その重要性を思えばあまりにも質素だ。

 通常どんな国であろうと、新たな王が生まれる、或いは結婚するとしたら莫大な費用と時間をかけて祝福を行う。当日、ないし前後に祝日を設けることさえあるし、貴賤貧富を問わず祝うものだ。

 

 参列している者の多くが戸惑っているが、聖国における祭りは非常に賑やかだ。普段比較的禁欲的な慣習をある反面、正反対を信仰するが故に祭りの時は他国に負けないほどに騒がしい。踊りや料理、音楽は勿論、大道芸も行われるし、大勢が集まる式や祭りは未婚の者の相手を見つける社交の場にもなる。

 単なる祝い事ではなく、新たな繋がりを見つける場でもあるのだ。

 

 だがこの日、バルマク主催の二つの式は最低限の費用、最低限の参加者、最低限の時間で行われている。

 

 踊りも無し、音楽も無し、食事は水分補給と軽食の最低限。どちらの式典に関してもいくつもある伝統的な口上や儀式も無し。

 主役である教皇や導師、バルマクと結婚相手の御影は早々に引っ込み、中庭は一日自由にさせるので交流は好きにどうぞという塩梅。

 

 参列者の誰もが戸惑いはある。

 ただ最高権力者である教皇と導師がそれを指示したのだから逆らえないし、実際の所懐が助かるという面は少なからずあった。

 あまりにも告知と準備が速すぎて、聖都にいるものと一日の距離で来れるものしか参列できなかったという実情も。

 

「――――」

 

 そんな中、バルマクは教皇と導師の前に立ち、空を眺めていた。

 雲一つない空に、これから聖国を手に入れるのになんの感情も乗せない目。

 何か考えているのか、何も考えてないのか。

 双聖教の僧侶が行う神への祝詞を聞き流しているのだけは確実だった。

 

 御影は参列者の最前列に。

 白と黄の豪奢な聖国風祭礼服は全身を何枚もの布で覆うタイプであり、全身に金細工があしらわれている。

 見る限りでは美しく着飾られた新婦だ。

 ただし、折り重なった布の奥、彼女の肢体には幾条もの鎖で拘束されていて1人では身動きがまともに取れないようになっている。

 

 その傍には侍女の服装をしたヘルメスが控えていた。

 御影に対する監視の意味だろう。

 

 噴水前、並んだ玉座に座る教皇と導師。

 教皇は初老の女性、導師はもう70を超える老人。

 二人ともどこか目は虚ろ。 

 

 淡々と、あっけなく、一切の面白みもなく式は進んでいく。

 

「―――以て、これより導師の引継ぎを行う」

 

 僧侶が長い祝詞を終え、参列者から安堵のため息すら上がった。

 参加した者の大半が、どうしてバルマクがこんなに早く導師に決まったのかも、異国の、それも皇国の王女と結婚しているのかもわかっていない。

 

 よく分らないが、決まってしまったから従っている。

 よく分らないし、何でもいいからさっさと終わってほしい。

 

 現状についていけないが故に、大半の者がそう思い始めたところで、

 

 

「――――その式、ちょっと待ったああああああああああああああああああああああ!!!!」

  

 何かが起き始めた。

 

 

 

 

 

 

 どよめきと共に、中庭正面の大門に視線が殺到する。

 聖国特有の上辺が玉ねぎのような通路(イーワーン)に乱入者は並んでいた。

 数は5人。

 黒、青、紫、白、もう1人黒。

 聖国風の儀礼服をそれぞれの色に統一したウィル、トリウィア、パール、フォン、アレスだった。

 トリウィアはいつもの様に無表情で煙草をふかしながら。

 パールは髪を下ろし、毅然とした表情の中に怒りを乗せて。

 フォンは少し疲れ気味、アレスは何故自分がここにいるのだろうと遠い目を。

 そしてウィルは、中庭に視線を巡らして御影を探す。

 

「―――」

 

 見つけた彼女は、少しだけ恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑っていた。

 そのことに安堵し、すでに振り返っていたバルマクを見据える。

 

「その式、止めさせていただきます!」

 

 互いの距離が二十メートル以上離れている故に、腹から出した大きな声だった。

 中庭に響いた声にバルマクは目を細め、同じく声を張って答えた。

 

「その式とは継承式と結婚式、どちらのことだ!」

 

 パールはその返答に、これだから嫌いなんだと顔をしかめ、

 

「どっちもです! 継承式も、結婚式も!」

 

 その間の抜けた返答にアレスは喉奥にナツメヤシが詰まったような顔で声にならないうめき声を上げていた。

 

「理解した!」

 

「それはどうも!」

 

 トリウィアとフォンは天を仰ぎ、ウィルの母親、ベアトリスのことを思い出した。

 真っすぐに同じ色の眼をぶつけあった二人はしばしにらみ合い、

 

「少年よ!」

 

「はい!」

 

「この距離で声を張り上げ続けるのは非効率的だ! もう少し近づくといい!」

 

「確かに! お気遣い感謝します!」

 

 無言で立ち去ろうとしたアレスはフォンに止められたせいで、前に進むことを強制される。

 先ほどまでの閉塞的な雰囲気は消え、どこか微妙な空気――御影だけが噴き出すのを必死にこらえている――が流れる中、5人はバルマクから10メートルほどの距離にまで近づき向き合う。

 

「ウィル・ストレイトか」

 

「はい」

 

「君にこの式典を邪魔する正当な権利と理由があるというのか?」

 

「はい」

 

「そうか。ならば言うといい」

 

「分かりました」

 

 ついにアレスは軽く気絶しかけたが、やはりフォンに蹴りを入れられて正気を保った。

 

「―――」

 

 ウィルは1つ息を吸った。

 自分が言うことの意味を考える。

 そして、誰よりも愛する、ここにはいない少女を思った。

 彼女は、御影がウィルの幸福に必要だと言った。

 その通りだと思う。

 どうするか道を示し、背中を押してくれた。

 その上でウィル自身も決めたことだ。

 

 錠前を用意してもらったのなら、後は鍵を開けるだけ。

 

「貴方が結婚しようとしている天津院御影さん」

 

 この場の全員の視線が、ウィルに集まっていた。

 その全てにひるまず、胸を張り、彼は叫ぶ。

 

 

「彼女は――――()()()()()()()! 人の婚約者を奪って結婚などさせません!」

 

 

 

 

 

 

 

 ウィルの宣言に、一つの大きな音と一つの小さな音が発生した。

 一つは参列者たちの動揺の声。

 もう一つは、

 

「うそでしょーこの人ー、鬼というかゴリラじゃないですかー……?」

 

 重なった布の下の鎖に亀裂が入った音だった。

 ドン引きしているヘルメスの視線の先、

 

「―――――」

 

 爛々と琥珀の瞳を輝かせた御影は、真っすぐにウィルを見つめている。

 浮かぶのは喜びか、それこそ情欲か、感謝か、或いはその全てか。

 

「ふむ」

 

 事実上の宣戦布告を受け、バルマクは一度目を閉じた。

 数秒後、開いたのは変わらず黒鉄の色。

 

「それは継承式とは関係ないな?」

 

「ないわけないでしょう! この不敬者が!」

 

 我慢ならんとばかりにパールが叫ぶ。

 彼女は端正な顔立ちを怒りで歪め、普段の学園での彼女を知る者が見たら目を疑う勢いで吠えた。

 

「お前には導師閣下と教皇猊下の洗脳容疑が掛かっている! そもそもの前提としてこの継承式自体認められない! 早急に審問を行う必要がある! その時点で、この式典は中止よ!」

 

「私が不敬者であれば貴様は愚劣だな、パール・トリシラ。証拠はあるのか?」

 

「その確定をするために、まず式を取りやめろと言っているのよ!」

 

「理解した。筋は通っているな。愚劣と言う言葉は取り消そう、精々愚鈍あたりにしておくか」

 

「……!」

 

 赤くなって、青くなって、紫になって、そしてまた赤くなって。

 時に糾弾を受け入れられるというのは、逆に癇に障るというものだ。

 

「……ふむ。ウィル・ストレイト。婚約に関しては真実か?」

 

「えぇ」

 

「いつから?」

 

「入学直後には!」

 

「ほう……なるほど。純愛路線(コトバドオリ)だな」

 

「……?」

 

「ふむ」

 

 カツンと、男の錫杖が石畳みを叩く。 

 

「――――認められんな」

 

「バルマク!」

 

「叫ぶな、愚鈍な女。愚劣に格下げしたいというのなら望むところだ」

 

 彼は息を吐き、

 

「婚約も容疑も所詮、口だけのものだ。聖女といえど式に遅参し、乱入した者の言葉を信用できるはずもない。時に、この中庭までは私の部下の精鋭を配置していたが」

 

「少々眠ってもらいました」

 

「そうか、大したものだ」

 

 王宮から中庭までの短くはない道のりにはバルマクの言う通り、実力行使にて排除された。立役者は主にトリウィアとアレスだった。彼女は言うまでもなく、アレスの超高速の移動と居合は奇襲に適しているための橋渡し役である。

 本人はそれで帰ろうとしたが残念ながらこの場でウィルとバルマクの会話に唸り声を上げているが。

 

「いずれにしても、お前たちの言葉には説得力がない。発言の信ぴょう性を保証する者がいなければただの戯言であり、私も教皇猊下も導師閣下もそれを受け入れないなら戯言以下だな、そうでしょう?」

 

 問われた相手は静かに頷くだけ。

 全てバルマクに任せたと言わんばかりだ。

 その様子に疑問を思う者もいるが、元々導師は高齢により引継ぎは間近であったし、教皇に関しても自ら発言する役職ではなくなっている。

 結局のところ、今この国を支配しているのはバルマクなのだ。

 彼自身、無理を通しているのは解っている。

 だが、この国における二大トップを意のままに操る彼は大体の無理筋を通すことができてしまう。

 

「残念だな、ウィル・ストレイトと隣の愚鈍な女よ。この国に、この砂漠に、この地にお前たちの言葉を保証する者は誰もいない」

 

 

『然り! だが、この空にはいる!』

 

 

 

 

 

 

 

 その出現にいち早く反応したのは、やはりと言うべきかバルマク、御影、ヘルメスだった。状況を理解しきれず戸惑っていた参列者たちも一瞬遅れて気づいた。

 否、気づかずにはいられなかった。

 晴天だったはずなのに、太陽が消えてしまったのだから。

 正確に言えば、大きな何かが中庭上空に出現して影を生み出していた。

 にも関わらず、気温が数度一瞬で上昇した。

 

 それは、龍だった。

 

 頭から尾までたっぷり全長30メートル。広げた翼はそれよりも長い。

 真紅の鱗は陽の光を己のものと言わんばかりに輝き、その上その巨体自体がもう一つの太陽の如く熱を生み出している。

 

 人知を超えた生物はこの世界にも数多く存在する。

 魔族ではない魔力を持った獣――魔獣は言うまでもなく、各国、各地域に神話や伝説の生き物がいる。

 

 帝国最北の山脈に眠るという冬の巨人。

 

 聖国砂漠の地下奥底にいるという超大型のサンドワーム。

 

 皇国の三大聖域に封印されたという三大神獣。

 

 王国地域の天空、青い空のさらに上にいるという嵐の蛇。

 

 そのどれもが伝聞系であり、伝説であり、神話であり、現在において存在は確認されていない。

 『昔、そういう超越存在がいて、今は眠るなり大人しくしている』という曖昧な、けれど誰だって知っているような御伽話の生き物。

 

 しかし、そこに例外がある。

 それが龍という生き物だ。

 遥か古代の歴史から境界に立ちつつ、時に人の敵に、時に人の味方となり、全ての種族の頂点に君臨し続けて来た。

 尤も、現在学園では彼女が3年前に入学したことにより、彼女を知る者は、その人となりから「神話の超越種」よりも「希少な亜人」という認識にすり替わっている。

 寝物語に聞かされた御伽話よりも、目の前で高笑いする本人の印象が強まるのは当然だ。

 

 だがそれは、現在この世界において最先端、或いは次代を担うアクシア魔法学園故の認識だ。

 聖国においては未だ神話であり、伝説であり――――それが、今、天に翼を広げてて空から降ってくる。

 反応は劇的だった。

 ある者は悲鳴を上げ、ある者は腰を抜かし、ある者は神に祈り始め、ある者は睨み付けた。

 

 灼熱の巨体が落下し、中庭に激突しようかという瞬間。

 中庭の石畳を砕き、焦がしながら背の高い女は降り立っていた。

 陽熱を全身から漂わせた燃えるような赤髪を無造作なポニーテールにした女。頬や首筋の鱗から変わらず熱が生み出され、側頭部から伸びる赤黒の角は赤熱してさらなる熱量を。

 彼女だけがこの場において、聖国風の儀礼服ではなく龍族の民族衣装(ラテンドレス)

 

『大いなる龍エウリディーチェが孫、カルメン・イザベラ』

 

 名乗りは簡潔に。

 しかし喋るだけで空気が震え、声が反響するかのようにこの場全員の耳に叩きつけられる。

 龍というのは数多のアースにおいて変わらず神話であり、伝説であり、尋常ならざる高位存在。それはこのアースでも変わらない。

 存在の情報密度が大きすぎて、立って喋るだけで空間が歪むのだ。

 

『砂漠の男よ、この我がパール・トリシラとウィル・ストレイトの言葉を保証しよう』

 

 告げるのは最早ただの言の葉ではなく、宣託に等しい。

 溢れる存在感によりこの場の中心は一瞬でカルメンに掌握され、その燃える金眼はバルマクへと向けられる。

 流石の彼も、その熱量に汗を流し眉を顰め、口端を歪めていた。

 龍の女に、逆らえるはずもない。

 細かい理屈を丸ごと無視して、上位存在だと叩きつけてくるのだから。

 本能へとかかる龍の威圧。

 現状をまるで理解していない参列者たちは、それでもバルマクが終わったと思った。

 

「偉大なる龍よ」

 

 彼はゆっくりと口を開いた。

 

「―――――御身は偉大ではあるが、偉大であるだけだ。政治的な発言権はない」

 

 参列者のうち、少なくない人数が泡を吹いて倒れて、

 

「人の世の政に口を挟むな」

 

 数人は失禁することになった。

 

 

 

 

 

 

『我を軽んじるか、人の子よ』

  

「いいや。不敬者と呼ばれる身なれど、龍には敬意を表さないわけにはいかない。だが、これはこの国の問題だ。亜人連合が極西、神話の霊峰、天高き宮殿、偉大なる≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫にまつわる話であればともかく、この国は人と砂と水の国だ」

 

 龍の威圧を一身に受けながら、バルマクは最早動じなかった。

 

「太陽の如き生き物よ。貴殿の陽は熱せられた砂よりも熱く、その翼は聖湖のように恵みを与えるだろう。だが愚かなる人の謀り事に関わる余地はない。人種の国は人種が回すべきだ」

 

『――――なるほど。口が回るな』

 

「それが仕事だ」

 

 ゴロゴロと、落雷のような音がする。

 カルメンが喉を鳴らして笑っているのだ。

 パールとバルマクが互いを毛嫌いしている理由が良く分かるから。

 

『それでは我が、我が名の下に真実と認めた2人の言の葉を無碍にするか?』

 

「―――――否」

 

 叩きつけられる熱波と存在感と反響する声に、ゆっくりと首は振られる。

 

「偉大なる龍よ。我々人は、お前たちに比べれば愚かで弱き者であり、我々には我々の仕組みがある。そのうちに龍がいる余地はない。人種にはお前たちのような爪も牙も翼も鱗もないからな。されど、最も偉大なる隣人の言葉に傾ける耳はある」

 

 だから、

 

「私の導師継承式への中止命令と私に対する審問を受け入れよう。それが気高き翼を持つ者へ、私ができうる譲歩だ」

 

『――――』

 

 数秒、彼女は何も言わず――――威圧が消滅した。

 

「うんむ。まぁこんなところじゃろう。それで手を打つぞよ」

 

「感謝する。……その口調はなんだ?」

 

「威厳があるじゃろう?」

 

「いいや」

 

「!?」

 

 首を傾げながら、カルメンは軽い動きでバルマクの前から去り、ウィルたちに並び立つ。

 

「パール」

 

「えぇ―――虫唾が走るでしょう」

 

「いや、わしはそこまでじゃ……」

 

 彼女は大きな胸の下で腕を組み自分の親友はこんな性格だったか? と再び首を傾げた。

 場の空気が緩む。

 事前に打ち合わせをしていたウィルたちはともかく、参列者からすれば空から龍が現れるなど青天の霹靂だったし、その威圧は強烈が過ぎる。

 龍の威圧を前にして平生でいられる者は少ない。

 

「―――ウィル・ストレイト」

 

 カツンと錫杖を鳴らしながら、バルマクは嘆息と共に呼びかける。

 流石の彼もほんの少しだけではあるが、疲れが見て取れた。

 

「はい」

 

「この場合、お前たちの陳情のうち一つは受け入れられた。一先ず継承式は中止にしよう。だが、婚姻は別だな。ウィル・ストレイト、お前の話を保証する者は変わらず存在しない」

 

「そちらは私が保証するとしましょうか」

 

 その声は、また一人。

 新たなる者だった。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()と、下駄が石畳を叩く音がする。

 ウィルたちの背後からその人物はゆったりと歩みを進めてくる。

 質のいい若草色の着物に身を包んだ、カルメンと同じくらい場違いな、背の低い少女だった。

 カルメンとは違った意味で目を引く少女だ。

 ただ歩くという行為ですら洗練され、柔らかく咲く花のように。

 見るからに高価な扇子を添えた口元に称えた笑みには確かな品が。

 肩あたりに切りそろえられた黒髪は漆のような艶があり、覗く首筋は白磁のように白く美しい。

 

 そして額には――――ほっそりとしながらも美しい両角が。

 金細工の角輪がそれぞれ嵌められた白い角は、それだけで最早芸術品に等しい。

 

「――――!?」

 

「……なに?」

 

 彼女を見て、御影がぎょっとした表情で仰け反り、バルマクでさえ初めて端から見てわかる狼狽を見せた。

 

甘楽(かんら)()()()!?」

 

「えぇ。御影、久しぶりですね」

 

 ころりと笑う鬼の少女。

 彼女は一歩だけウィルたちの前に出て、

 

「天津皇国第一皇女、皇位継承権第二位。天津院甘楽。我が父、天津院玄武の名代として参りました―――()()()がお世話になっているようですね」

 

 御影の姉、その人に他ならない。

 現在皇国で最も強い鬼の女が御影ならば。

 最も鬼の女らしいのが甘楽と呼ばれる少女。

 叩きつけるような威圧を放ったカルメンとは違い、その場を寿ぐような気配を持つ花のような鬼の姫。

 

「……ありえない」

 

 呻く様な声はバルマクから。

 彼はカルメンを相手にした時よりも狼狽えていた。

 

「この都から皇国の首都まで一月は掛かる。砂漠を超え、王国を通り、≪切っ先山脈≫を超えるのは簡単ではない。一体、どうやって彼女がここに――――」

 

 自ら問うような呟きは、ある一点を見た時に止まった。

 それは、

 

「あっ、気づいた?」

 

「―――鳥人族のフォン」

 

「うん、そう。凄いな、頭の回転が速い」

 

 揺れる黒に見据えられたフォンは疲労を滲ませながら肩を竦め、

 

()()()()()()()()()()

 

 そんなことを言う。

 大半の者は理解できなかったし、御影は引きつった笑みを浮かべたし、バルマクは目を見開いた。

 飛んで連れて来た。

 つまり、フォンが陸路ではなく空路で。

 聖国の砂漠を、王国の草原を、皇国の山脈を超えて。

 あらゆる地形条件を無視してアース111最速、超音速の翼が甘楽を連れて来たのだ。

 だから彼女は疲れていたのだ。

 いかにフォンといえど、一晩で数百キロを往復して飛んで疲れないわけがない。

 最悪本当に時間がなければ、帰路はアルマの転移門を使うことも想定されていたが、結局フォンは実現してしまったのだ。

 

 御影を助けたいがために。

 フォンもまた自らの最大の長所で最大の貢献を。

 後でウィルと御影に羽繕いをたっぷりしてもらおう。

 

「さて……バルマク様。御影とウィル様の婚姻、こちらは私が保証いたしましょう。これは去年の段階から御影から聞いていますし、我ら天津院家も概ねそれを了承しています」

 

 えっ、そうなの? とウィルが甘楽の背中を見たが気づかれなかった。

 無言でトリウィアが彼の肩に手を置く。

 

「…………だが、彼女には聖国の血も流れている。この国の掟では彼女の夫の選択権はない」

 

「えぇ、らしいですね。我ら鬼種からすれば考えられませんが……えぇ、無碍にするのも、という所」

 

 ころころを笑う甘楽の黒曜石にような瞳はしかし笑ってはいなかった。

 

「ですので、折衷案といたしましょうか。聞けば聖国には婚約者を奪い合い、おのこが決闘する風習があるとか。良いものですね、これは鬼のそれにとても良い」

 

 笑みが変わる。

 アースゼロであればまさに大和撫子なほほ笑みから。

 口端が吊り上がり歪む――――血と闘争を希う鬼のそれに。

 勢いよく扇子が開かれる。

 振り返り示すのは、

 

「ウィル・ストレイト様」

 

 そしてもう1人、その反対を示すのは、

 

「ザハク・アル・バルマク様」

 

 二人の男を指し、

 

「――――我が妹を懸けて、決闘をされると良い」

 

 腕を広げ、寿ぐように。

 くすくすと甘楽は嗤う。

 ウィルは真っすぐにバルマクを見据えていた。

 バルマクは苦々しげに甘楽を見ていた。

 

 そして御影は。

 ペロリと唇を舐めて、

 

 

「―――――拙いな、ちょっと興奮するぞこれ」

 

 




相変わらず権力には権力を、問題にはフルスペックで正面から殴りに行くスタイル

ウィル
ついに受け入れた

バルマク
詩的な表現もできるし、龍に屈しない男
案外ウィルと相性が良いかもしれない
パールが大事に思うものを無価値と断じ、
自分が重要だと思うものをパールには「それよりも」と言われる男


パール
二回目くらいの登場なのに人生で最大キレてる
バルマクが大事に思うものよりも大事なものがあると断じ、
自分が重要だと思うものはバルマクに「無駄」と言われる女

フォン
めっちゃ飛んだ

トリウィア
頭脳労働担当だったので、傍観しつつ計画が全部破綻したら暴れる担当

アレス
呻くし気絶しかけるし蹴られるし

カルメン・カルメン(本気モード)
生物として上位種。
龍の威圧は生態特徴のようなもの。存在するだけで周囲を圧倒する。
完全制御可能なものなので、学園では常にオフにしている。

天津院甘楽
御影の姉。ロリ鬼。大和撫子。
一番御影と仲のいい姉妹。
御影の角輪は彼女から贈り物。
おそらくアース111初の超音速ツアー体験者


御影
めちゃくちゃ興奮して来た


それぞれ裏話とかは次回に。
結婚式に殴り込み! ヒロインを懸けて間男と決闘! 
好きなんですよね


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チート転生者の王道を歩み続ける>1よ

 

 決闘の準備は滞りなく行われた。

 この場合の滞りなく、という意味はバルマクが参列者に向けて、

 

「決闘となるので帰っていい。巻き込まれないように気をつけろ」

 

 それだけ告げたということだ。

 式に乱入者が現れ、龍が降り立ち、鬼の姫が現れ、また別の姫をかけて決闘なんて。

 間違いなく聖国の歴史と御伽噺、どちらにも刻まれることになるだろう。

 結局、大半の参列者はバルマクの言葉通りに立ち去ることとなった。十数人が見届けるために残ったくらいに。

 中庭をそのまま試合場になり、噴水を中心とし、それぞれ両端でウィルとバルマクが準備をしている。

 噴水の前では、御影と甘楽。

 

「―――」

 

 その光景を睨みつけ、親指の爪を噛むパールにフォンは隣から語りかけた。

 

 

「ねー」

 

「何かしら」

 

 視線は動かない。

 フォンもまた準備ーーといっても儀礼服や上着を脱いだりしているだけだがーーするウィルを視界の中心に置きながら答える。

 

「どっちのパールも好きだけど、今のパールはちょっと怖いかなぁ」

 

「―――」

 

 彼女は目を見開いた後、恥じるように伏せ、そして器用に片手で髪を結ぶ。

 

「……ごめんねー、フォンち」

 

 険しかったまなじりが垂れ下がり、表情も柔らかいものに。

 やっとこっちを向いたので彼女も苦笑しながら視線を合わせる。

 

「ちょっと……うーん、めっちゃピリピリしてたぁー」

 

「いいさ、今のパールの気持ちはよくわかるよ。去年の私がそうだったからね」

 

「あー……」

 

 一年前、負傷したフォンの代わりにウィルが鳥人族の未来を決める戦いをした。

 今回と違う点もあるが、似ている点もある。

 この国の当事者であるパールの代わりに、ウィルが体を張るということだ。

 

「ほんとはさ、私が戦わないとだめなんだよね」

 

 できることならそうしたかった。

 けれどカルメンの威圧、甘楽という存在を加味すれば最も可能性が高かったのは御影を巡っての決闘だ。

 そしてそれができるのはウィルだけしかいない。

 後輩にそんな迷惑をかけるがどうしたって心苦しい。

 手入れを欠かさない爪を噛んでしまう。

 

「あのおじさん……おじさん?」

 

「今年30とかそんなだからおじさんでいいよー」

 

「なるほど。思ってたのとだいぶ違ったりしたあのおじさんと随分仲悪いけど、どんなことがあったの?」

 

「あははー。数えていけばキリがないね」

 

 少し考え、

 

「初めてあれと会ったのは私がまだ子供で、聖女じゃなくて。自分の部族にいた時。その時私の住むところは井戸が枯れちゃっててね」

 

「へぇ、そりゃ大変だ」

 

「ちょー大変。砂漠の井戸やオアシスは文字通り命綱だからねー。昔から井戸をめぐっての争いがいくらでもあったわけ。まー、何にしてもその時から珍しく水属性の魔法をそこそこ使えた私はどうにかその井戸から水がもう一度湧き出ないか試してたんだよね。砂漠の井戸は一度枯れてももう一度復活することはあんまり珍しくないんだ。何年、何十年経って、急に湧き出たりするとか」

 

 この国では、砂漠は生き物だ。

 天気や風の強さで砂漠は蠢き、表情を変える。

 時に出ないはずの水が出ることも。 

 伝説では地下に眠る大きなサンドワームが動いたからという。

 

「その井戸はあーしたちの部族にとっては……うん、精神的な支えっていうか? 何世代もその井戸を守り、生かされてきた。だから私は必死だったし、水の魔法が使えない私の家族も部族のみんなも必死に神に祈りを捧げてたんだ」

 

 思い返す。

 喉の渇き、照りつける日差し。祈りを捧げる家族たち。

 部族という小さな世界の中心で、幼いパールは必死に神に祈り、地下深くに眠る水を探し求め続けていた。

 

 土魔法により井戸を掘ることもできるが、最大の違いは水を呼ぶことができるということ。

 水源を掘り起こすのではなく、ある程度離れた水源から文字通り水を引っ張ってこれるのだ。

 だから、この国では水属性の使い手は貴重だった。

 

「それで……」

 

「結果的に、一週間祈り続けて水が出てきたよ。それのおかげで私は聖女になったわけだしね。……ただ、この話を聞いたバルマクはこう言ったんだよね。『一週間かけてでるかわからない水を求めるより、他の井戸を探すなり、移住すればよかったのでは』って」

 

「…………それは」

 

 フォンは何とも言えない表情になる。

 苦笑いのような、苦虫を噛み潰したような。

 そんな彼女に微笑みを返す。

 

()()()()()()()()()()

 

「……へぇ?」

 

「あの男は、要約の天才ってわけでー。確かにさ、生きるためだけだったら、その通り。別の部族に助けを求めて水を分けてもらって、新しい水を探せばいいって話」

 

 だけど、

 

「私はさ、ただ生命活動をするってことと生きるってことは違うと思うんだよねー」

 

 にへらと彼女は笑う。

 

「フォンちは、別に飛ばなくても生きていけるでしょ? って言われたらー、どう思う?」

 

「ふざけんなって感じ」

 

「たはは、だよねー。あの男は人の人生を生まれて、生きて、死ぬってことだと思ってるんだよ。そんでもって、生きるってことを食べて、寝て、子供を作るとか、そんな風に要約しまくって考えてる。だから、その過程にあるものを見てないぽいんだよね」

 

 生まれて、生きて、死ぬ。

 或いは、三大欲求を満たすことが生きることの大前提であり、最優先。

 それが根底にあるから、あの男はどこまでも効率を優先し、無駄を省こうとする。

 ある一面見ればそれは正しいけれど、

 

「人ってそういうのだけじゃ、生きていけないから。前歩くための杖として祈りがあるんだと思うよ」

 

 この砂漠ではただ生きることすら難しく、より豊かに発展するために精神的な支えはどうしても必要なのだ。

 幼いパールは一週間かけて水脈を呼び寄せたけど。

 ただの子供がそんなことをするのには、信仰が、祈りが不可欠だった。 

 日々を安らかに、或いは懸命に生きる為に。

 

「あいつは人は人の力だけで生きていけると思っている。私は、誰もがそうじゃないと思ってるわけー。この砂漠の国では、特にね」

 

 肥沃な土地の王国域や痩せているとはいえ水はある帝国では≪七主教≫にここまで影響力はなかっただろう。

 過酷な土地故に、厳しい戒律や風習が生まれたのだ。

 

「生活に適した場所も少ないから、どうしたって土地への愛着心が沸くしぃ。限られた土地を大事にしようってね。もちろん! さっさと捨てるなんて以ての外でー」

 

「……よく分らないな」

 

 フォンが頭の後ろに両手を置きながら、唇をすぼめる。

 

「土地への愛着心? ってのは鳥人種にはない考えだよ。私たちは遊牧民ってやつだし。それに、住んでる土地で宗教の根付き度合いが違うのも、ピンと来ない。どうして君たち人種は住む場所で、ここまで考え方が変わるんだろ。どこにいようと同じ形をしているっていうのに」

 

「人種は、神が作った天秤の中央に立つ存在だから」

 

 よく分らないなと、フォンは唇を尖らせる。

 聖国に来る前、教皇や導師の分かりやすい説明をしてくれたパールはどこへ行ったのだろう。自分の国に帰ってきたからなのか、この状況のせいなのか、言っていることが難解だ。

 ウィルなら一緒に悩んでくれる。

 御影なら笑い飛ばす。

 トリウィアなら生物学的な違いを教えてくれる。

 アルマなら分かりやすくかみ砕いてくれる。

 けれど、フォン1人では彼女の言葉を正しく理解するのは難しい。

 

「うーん、ようし! 考えるのは苦手だ。何がどうだって、私とパールにできることは今たった1つだよ」

 

「ほへー? っていうと?」

 

「主を信じる! 全力で応援する! ……おっと、2つになっちゃったな」

 

 肩を竦めるフォンに、パールはお腹を抱えて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

1004:暗殺王

我が思うにバルマクの計画の担保は洗脳と物理的距離の2つだった。

 

1005:名無しの>1天推し

うん?

 

1006:名無しの>1天推し

その2つ

 

1007:名無しの>1天推し

洗脳は分かるけど……距離ってのは?

 

1008:暗殺王

洗脳に関しては分かりやすいな。詳細は分からんが彼は国を自らの手中に収めた。

宗教的・政治的なトップを操り、自身が導師になる。洗脳もできるのだから教皇もどうとでもなろう。

 

なので上げた2つは完全な別軸。

鬼姫殿との強引な婚姻は皇国との物理的距離により計画の遂行が担保されていると言えよう。

 

1009:暗殺王

つまりだな。聖国の理屈で鬼姫殿と婚姻を結んだら、当然皇国から抗議が出るのは予想できる。

仕組上、皇国の皇女と聖国導師の妻が兼任できるとしてもあまりにも急だからな。

それによる衝突は当然予想されてしかるべきだろう

 

ここで問題なのが物理的距離だ。

 

1010:自動人形職人

鳥ちゃんが一日で往復した数百キロ

 

1011:名無しの>1天推し

中世ファンタジーの速度感じゃないよ~~

 

1012:名無しの>1天推し

……あっ! そういう?

 

1013:暗殺王

うむ。今回は鳥ちゃん殿によるファインプレー……ファインフライト? が炸裂したが、この婚姻が皇国に届くのはいつになる?

仮に律儀に通達をしたとしても、片道一月は掛かるなら、皇国が聖国にこの件に関してコンタクトを取るのに最短で二か月か。

 

>1の世界の通信や郵便事情は分からんが、それにしても数日というのは難しいだろう。

皇国から抗議があり、それに対応するまでの時間があればどうとでもできる。

 

1014:名無しの>1天推し

姫様を洗脳して言いなりにしたり?

 

1015:暗殺王

それもあるが……我なら、洗脳を完了させて返還させてもいいな。

聖国に利益を齎すように意識誘導だけ掛けて後はそのままに。

 

一時的な謝罪のために不利益を被るかもしれんが、長期的に見れば利が多い。

なにせ、女王を洗脳しているのだから。

 

1016:名無しの>1天推し

なるほど……

 

1017:名無しの>1天推し

はえー

 

1018:名無しの>1天推し

暗殺ニキ、この手のことには流石詳しいな……

 

1019:暗殺王

ふっ……我は洗脳からの自爆命令暗殺も誘拐からの拷問暗殺も隣国からの謀暗殺も経験済み故な!

 

1020:名無しの>1天推し

それはもう暗殺じゃないんよ

 

1021:自動人形職人

草ですよ

 

1022:名無しの>1天推し

うーんこの積みたくない経験値

 

1023:名無しの>1天推し

なんで生きてるんですかね……?

 

1024:暗殺王

無論……筋肉!!!

 

1025:名無しの>1天推し

おかしいだろ

 

1026:名無しの>1天推し

筋肉とは一体……

 

1027:暗殺王

とまぁ、我の予測はこんな所だな。

龍人先輩殿も、早々に威圧を抑えたのはこういう理由であろうな。

鬼姫殿の姉上が現れたせいで、今言った担保が崩壊した。

 

そりゃあもう焦ったであろうよ。

どうあがいてもあの男は皇国との衝突を避けられないし、思っていた時間の猶予が吹っ飛んだのだからな。

 

1028:名無しの>1天推し

はー

 

1029:名無しの>1天推し

龍人パイセンよりもあからさま焦ってたのなんで?って思ったけどそういう……

 

1030:名無しの>1天推し

なるほどなぁ

 

1031:名無しの>1天推し

未来予知とかはどーなんだろ?

 

1032:名無しの>1天推し

んでも、ばーっと天才ちゃんが洗脳解いて解決! じゃだめったんか?

 

1033:暗殺王

未来予知もどきに関しては我は専門外だな……たまにそうなのかという軍師や策略家がいるが……

天才ちゃんのやつはまぁ……

 

1034:天才1年主席

暗殺の彼の推測は概ね正しい。

僕たちとしても同じような考えだ。

 

洗脳に関しては解除自体は簡単だが

現状、どういう手段なのか分かってないからな

 

1035:天才1年主席

解除してから、再洗脳とかされても困る。

看破するには洗脳自体を目で見る必要があるが、現状一度も使ってないし僕はそれ待ちで観察中。最悪使わなくても洗脳は僕が解除できるけどね

 

1036:名無しの>1天推し

おぉ、天才ちゃん

 

1037:名無しの>1天推し

忙しそうね

 

1038:暗殺王

なるほど、理解した

 

1039:名無しの>1天推し

>1が視点だけ繋げてくれてるけど、見ないからどうしたと思ったわ

 

1040:名無しの>1天推し

これからあのなんか面白おじさんとバトルだけど大丈夫そう?

龍人先輩の威圧見るに結構、強そうだけど

 

1041:天才1年主席

そこはまぁこれから見れば分かる

 

1042:名無しの>1天推し

まぁそれもそうだ

 

1043:自動人形職人

>1なら大丈夫でしょう

 

1044:名無しの>1天推し

ちょいと嫌な話なんだけど、これ、>1が負けたらどうすんの?

 

1045:天才1年主席

いくつか向こうの出方によって考えはあるが……最悪は大暴れするしかないね。

戦力的にはまぁ問題ないだろ。色々と後始末が面倒そうだから避けたいけど。

洗脳を全く使わなかったら意味がないし。ウィルに問題なさそうだったら、戦ってる途中に導師と教皇の洗脳を解除しようかなと思う。

 

洗脳方法を目視で検証というのは安全策なので、即興でどうにかしてもいい。

まぁちょっと色々気になることもあるから、なるべく僕は様子見したいところ

 

1046:名無しの>1天推し

やはり最後は……暴力!

 

1047:名無しの>1天推し

国と喧嘩か~

 

1048:名無しの>1天推し

チート転生者の王道を歩み続ける>1よ

 

1049:名無しの>1天推し

ほんそれ

 

1050:自動人形職人

1年目は鳥人族の代表になって連合と

2年目はお姫様を懸けて聖国のクーデター首謀者と

 

1051:名無しの>1天推し

波乱万丈の夏だな

 

1052:脳髄

それはいいけどよ

 

1053:名無しの>1天推し

おっ

 

1054:名無しの>1天推し

脳髄ニキだ

 

1055:名無しの>1天推し

今日は重役出勤ね

 

1056:名無しの>1天推し

脳髄が出勤するって? ワハハ

 

1057:名無しの>1天推し

まぁ出勤しないこともないだろ。問題はむき出しなところ

 

1058:脳髄

もっとこう……触れなくていいのか?

ログ攫ったけど、さらっと流されたというかバルマクへの言及が多いというか。

いや、あのやり取りは笑っちゃったけど

 

1059:天才1年主席

>1が鬼姫様の婚姻受け入れた話かい?

 

1060:脳髄

そうだよ

 

1061:名無しの>1天推し

それは……まぁ

 

1062:名無しの>1天推し

あんま驚きが無いというか

 

1063:自動人形職人

時間の問題だったかなって

 

1064:名無しの>1天推し

せやねんな

 

1065:名無しの>1天推し

あの場で受け入れたことは驚いたけど

受け入れを宣言したことには驚かないかなって

 

1066:暗殺王

我らが>1もハーレム転生者としての道を……踏み出した?

元々先輩殿や鳥ちゃんもいるしな。かなり進んだという話だ

 

1067:天才1年主席

まぁそんなもんだろ

 

それより、そろそろ始まるよ

 

1068:名無しの>1天推し

おー、上裸>1じゃん、セクシー

 

1069:名無しの>1天推し

真っ赤な腰巻いいね、>1赤もわりと好きじゃん

 

1070:名無しの>1天推し

バルマクおじさんは……短剣二刀?

 

1071:名無しの>1天推し

短剣つーか、ククリナイフかな

 

1072:暗殺王

むぅ……大きくはないが、無駄なく引き絞られた見事な筋肉……!

我が大腿四頭筋と僧帽筋が、奴を強者と告げている……!

 

1073:名無しの>1天推し

大きくない……?

 

1074:名無しの>1天推し

いや、結構なマッチョだよ!

 

1075:脳髄

まぁいいけどよ

 

 

 

 

 

 

 

 

1112:奴隷童貞(大剣豪)

あー、これ。

>1と相性悪いけど良いタイプの相手っすね

 

1113:名無しの>1天推し

この手の世界じゃ見ないタイプだな、このおじさん

 

1114:名無しの>1天推し

大丈夫かこれ?

 

1115:奴隷童貞(大剣豪)

序盤はちょっときついかもっすね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1191:脳髄

>1いいいいいいいいい!?

 

1192:自動人形職人

ど、どうして……!!

 

1193:暗殺王

こ、こんなことがあっていいのか……!?

 

1194:奴隷童貞(大剣豪)

うわあああああああああああああああ

 

1195:サイバーヤクザい師

>1……そういう感じだったのカ……?

 

1196:ステゴロお嬢様

どなたか! 天才ちゃん! 今すぐにでもどうにかしてあげてくださいまし!!!

 

1197:冒険者公務員

こんなの不許可であります!!!!

 

1198:アイドル無双覇者

あんまりにゃあああああああああああああああ!!

 

1199:名無しの>1天推し

かっこいいーーー!!!!!!

 

1120:名無しの脳髄自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し

正気か?????

 

1121:天才1年主席

うお、バグった

 




パール
バルマクおじさんの言うことも一理あるけど言い方ってもんがあるだろ。性格的にも主張的にも相いれない
おじさんにレスバで負けまくり表現力を鍛えた女だが
ここもバルマクおじさんと同じ、普段はあんまり発揮されない模様

フォン
気持ちはわかる
それはそれとしてやることは1つ! いや2つ


脳髄
まぁいいけどよ

>1
なんかやらかした模様

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ウィル・ストレイト――我がままの証明――

UA750000ありがとうございます。
目指せミリオン


 

「ハッ!」

 

 短く鋭い呼気と共に鋼の刃が繰り出される。

 婉曲した大振りの刃、ククリナイフと呼ばれる短剣。上半身の衣服は脱ぎ捨てられ、露わになった黒褐色の肉体はいっそ双剣を小さく見せるほどに屈強だ。良く日焼けした肌と太い丸太のような腕を始め、隆起した肉体は男が政治家であるとは思わせない。

 

 そこから繰り出される斬撃は武骨の一言。

 

 自らの肉体からウィルの急所まで最短距離を突っ走る。

 身体の動きを最小限にしたコンパクトな斬撃と刺突を織り交ぜた、ほぼ体術に近い双剣術だ。

 

「……!」

 

 頬横を掠めたナイフを、握ったリングで逸らす。

 既に≪七属性戦輪(メンス・サーナ・イン・コルポレ・サーノ)≫は展開され、いくつかは両の拳に、いくつかは周囲を浮遊している。

 最初は≪武器生成魔法(クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ)≫で長剣を使っていたが、すぐにそれは二刀になり、そしてすぐに戦輪を展開することになった。

 

「っと!」

 

 攻撃を回避しつつ、ウィルの足元に赤と緑のリングが飛ぶ。

 軽く足裏の下に滑り込んだと同時に赤は爆炎を、緑は旋風をそれぞれ小さく起こし後ろに大きく飛び退く。

 同時に両腕をバルマクへと突き出す。

 動きに従い、黄と青のリングが飛んだ。

 直径10センチ程度だった円が、1メートルほどに拡大。それぞれ雷撃と水流の刃輪となって疾走する。

 

「―――ヌゥン!」

 

 それをバルマクは振り下ろしの交差で叩き落した。

 

「…………厄介ですね」

 

 弾かれたリングは自動で帰ってくるので、その分黒鉄の男を見据える。

 水流の斬撃はともかく、雷撃は接触の時点で刃から体へ通電するはずだがそれに構う様子もない。

 双剣と肉体、どちらにも高度な強化が掛かっている。

 

「お前ほどではない。その戦輪、大したものだ」

 

「ありがとうございます。貴方の剣術も素晴らしい」

 

「うむ。我が部族に伝わるものを改良している」

 

「なるほど」

 

 

 

 

 遠く観戦しているアレスが長い溜息を吐く。

 

「僕の頭がおかしくなっているのでなければ、天津院先輩を取り合い、聖国の今後を懸けた決闘の最中にあの二人は訓練でもしているかのようにお互いを褒め合っているように見えますが」

 

 その後輩の悩みに対して、隣にいたカルメンが極めて厳粛な表情で頷き答えた。

 

「うむ……そう見えていなければお主の頭がおかしくなっているのだろう」

 

 複数の意味で上がった少年のうめき声はウィルには届かなかった。

 

 

 

 

 

 考えることはバルマクの技術だ。

 ほぼ体術と直結した双剣術と肉体と武器のみの強化魔法。

 純粋な対人特化したそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 このアース111において、人類は先天的に属性系統を保有する。

 人種だろうと亜人種だろうとそれは変わらない。

 保有数の差異はあろうと結果だけ見れば再現が可能だし、地域や文化による独自発展することも多い。

 故に、アース111の武術というのは魔法の使用を前提としている。

 武術流派の違いというのは武器や血脈以上に使用が前提とされる系統の違いというのが大きい。

 この世界において斬撃を飛ばしたりや遠当ては簡単だが、どうやるかというのが細分化されているのである。

 

 アルマ曰く「魔法の技術の中に武術も内包されている」という。

 勿論純粋な体捌きを学ぶことはあるが、やはりそれも魔法を使う延長線にある。

 

 対して、バルマクの動きはそうではない。

 おそらく動きのキレから見ても魔法を使わなくても同じ動きができるのだろう。

 

「人間相手ならば」

 

 ぽつりと、男は言う。

 

「急所を断つだけでいい。それで死ぬ。一々派手な技を使うのはあまりにも意味がない」

 

 ぞくりと背筋が震える。

 残酷なことを、当然のように、砂漠は暑いというただの事実を指摘するような物言いだ。

 息を一つ吸い、口を開き、

 

「かっこいいじゃないですか!」

 

「………………」

 

 反論はウィルではなく、背後で観戦しているトリウィアだった。

 

「……トリウィア・フロネシス。次世代を代表する傑物ではあるが姦しさは普通らしいな」

 

「自慢の先輩です」

 

 見えないけれどきっといつもの無表情のドヤ顔をしていることだろう。

 内心苦笑しつつ、息を吐いた。

 

「一つ、聞いてみたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「どうして、こんな反乱を?」

 

「答えなければならないか?」

 

 問いかけに、ウィルは小さく首を傾げた。

 

「いえ、まぁ、答えたくないのなら別にいいですけど」

 

「ほう、その心は」

 

「例えば、貴方に今回の一件を起こす理由があったとして――」

 

 ウィルの体の周りに七色のリングが旋回する。

 それはゆっくりと、けれど淀みなく。

 握った拳は意志の強さの表れか、

 

「―――僕が貴方を許せないということには変わりません」

 

 或いは、拒絶と怒りだったのか。

 

「なるほど」

 

 黒鉄の男はただ、小さく頷いた。

 そして小さく、口端を歪めた。

 

「面白いな、少年。興味が出て来た」

 

 そして、瞬発した。

 即座に飛来する戦輪を駆け抜け様に弾き飛ばし、ウィルの目前へ迫る。

 最高速度は身体強化されたウィルほどではないにしても、迅速だった。

 

 腕が振られて、自律行動する戦輪が盾となって展開し――――()()()と、バルマクは体を回した。

 

「―――シィィィッ!」

 

 鋭く長い呼気。

 それまでの最短距離を最速で迫る直線斬撃とは違う。

 身体を回して生まれた遠心力を十分に乗せた円運動。 

 ()()、とウィルの瞳が見開かれた。

 

「!」

 

 とっさに戦輪の防御が間に合ったが、それでもインパクトの瞬間、物理的以外の衝撃が弾けて吹っ飛ばされる。

 ウィルが数メートル飛ばされながら体勢を立て直す間、バルマクは止まらなかった。その回転も止まらず刃を振るう。

 放たれたのは三日月状の飛ぶ斬撃だ。

 ただの斬撃波ではなく、超振動する微細な粒子を含むことで切断力を高められたものが四閃。

 ウィルが着地した瞬間には、彼へと到達する。

 

「――≪フォルトゥーナ・フェレンド≫!」

 

 戦輪とは別に展開された四枚の青い自律浮遊盾。鎮静系統により振動を抑えたがそれでも四枚とも破砕。

 拳を構え直した時にはもうバルマクは目前だった。

 

「シィィィィ……!」

 

「!」

 

 長い呼気と共に繰り出される連続斬撃。

 足捌き、体捌き共に円運動により繰り出される攻撃は踊る様に、というよりも執拗に得物に食らいつく蛇のように。

 先ほどまでの動きとはまるで違う。

 最短距離で急所を確実に狙ってくるのではなく、円・螺旋運動による遠心力で一撃の威力を高めた上で、随所に魔法を織り交ぜているのだ。

 

 やりにくいと、ウィルは思う。

 理由は二つ。

 

 一つは先ほど賞賛した通り魔法に依存しない武術の使い手であるということ。

 これまでウィルもそれなりの実戦を経験しているし、学園の訓練や模擬戦の密度は普通の数年分に匹敵するほどに濃い。

 それでもバルマクほどに純粋な武術使いも珍しい。

 

 もう一つは直線的な剣術と円運動的な剣術が織り交ぜられているということ。

 ウィルはその転生特権により一目見た動きは大体模倣できる。もちろん、何もかも一瞬と言うわけにはいかないし、完璧再現は難しいがそれでも動きを理解することには長けている。

 それでも頻繁に切り替わる動き故に、数度のやり取りではまるで把握しきれなかった。

 むしろギリギリのところで回避し、大きな手傷を負っていないことが彼の観察眼の良さを物語っている。

 仮にどちらか片方だけの動きならば早々に有利に持ち込んでいただろう。

 

 その二点が、掲示板においてスキル制の世界で剣術系最上級の≪大剣豪≫のクラスであり、システム範囲外に独学で純粋な剣術を極めたソウジ・フツノが相性が悪くて良いと評価した理由だった。

 

 

 

 

 

 

「あのクルクル回る方、パールと同じ動き?」

 

「……………………私()、同じなのよ」

 

 フォンの指摘に髪を下ろしていたパールは顔をしかめながら答える。

 

「回転のそれは聖国では一般的な剣術だから私が使っているのもそう。使い方は違うけど」

 

「なるほど」

 

 鳥の少女は頷いた後、髪をくしゃくしゃと掻いて、

 

「あのおじさん、強くない? 楽勝で終わるとは思わなかったけど、それにしたって予想以上というか」

 

「……バルマクという姓は、≪海の民≫の部族のことよ」

 

「海? 聖国なのに?」

 

「砂漠の最も深く過酷な地域に住まう部族。危険な砂漠の魔獣狩りを生業としていたの。聖国において戦闘能力においては最強と言われていた」

 

 そして、

 

「……かつての第一次魔族侵攻で、あの男を除いて全滅した」

 

「――――それは」

 

 宗教上の理由ゆえに、魔族との戦いで3つの氏族が滅んだ第一次魔族侵攻。

 それの生き残りだというのなら。

 或いは、彼のモチベーションは。

 

「あの男は何も言わないし、だからってやり過ぎもやり方も気にくわないわ。……ただ、導師候補になる前は聖国の魔獣狩り組織≪神の手≫の長でもあった」

 

 一言でそうだと断じることはできないが、

 

「それでも―――聖国の最強の戦士の1人に選ばれる男よ」

 

 

 

 

 

 

 

「少年、君はどちらだ?」

 

「―――?」

 

 二刀一対の刃。七種七色の戦輪。

 バルマクの動きは対極である二つの動きを随時切り替え、ウィルはそれに対応し反撃していく。

 厄介なのはやはり、その二種類の動き。

 それぞれを切り替えるだけならまだいい。

 場合によっては片腕は直線、片腕は円斬撃。次の連撃では左右反対に。

 変幻自在、何が出てくるか分からないというよりも、二者択一なので攻撃の度に対処の選択を迫られるのが厄介極まりない。

 その中で、バルマクは問う。

 

「私はこの国の在り方を疎んでいる。あの愚鈍な女は信仰を前に進むための杖だと言ったが、私からすれば足枷だ。国の発展を、民の命を損なうものでしかない」

 

 刃が振るわれる。

 真っすぐな黒鉄と曲がりくねった蛇。

 正反対という聖国を象徴するような連撃がウィルに叩き込まれる。

 

「信仰はこの国をここまで連れて来た。だが、大戦を経て変わる時が来たのだ。各国の繋がりが強まる中、この国にも変化が必要だ。20年前、初代王国の王が国の在り方を大きく変えてしまったように」

 

 刃に微か、しかし確かに確固たる意志が乗る。

 刃に静かに秘めた激情。

 

「ウィル・ストレイト」

 

 黒鉄の瞳が問いかける。

 ウィルの意志を。

 それに伴い刃の速度は上がり続け、ついに七戦輪を抜け、

 

「今この世で最も大いなる才能を持つ少年よ。君はどちらを支持する? どちらが正しいと――――」

 

()()()()()()

 

 迫る刃を、ウィルは両手で掴み取った。

 

 

 

 

 

 

「――――何?」

 

 バルマクの驚きは二つだ。 

 まずは純粋に身体に叩き込んだと確信した刃を素手で掴まれたということ。 

 円運動斬撃の途中に直線に切り替わったそれは、シンプル故に必殺に等しかった。どうにか避けるとは思っていたし、もちろんこれで倒しても問題なかった。

 なのに。

 どちらでもなく、ウィルは素手で双剣を止めた。

 刃が掌に食い込み血が溢れるが、それでも明確に斬撃を見切って、ギリギリのタイミングで攻撃を止めていた。

 

 けれど何より驚いたのは。

 バルマクの問いかけに対して、ウィルが言い放った言葉だった。

 

「―――どうでもいい、だと?」

 

 黒の瞳が見開かれて揺れる。

 黒の瞳は真っすぐに揺らがなかった。

 

「どうでもいいです、そんなこと」

 

 ウィルは手の痛みに構わず、普段の彼らしくもなく吐き捨てた。

 むしろ、刃を強く握り、

 

「貴方にもパール先輩にも悪いですが……それでも、僕が思うことは1つです。―――あぁ、ほんと、心底どうでもいい。申し訳ないですが、聖国の信仰の是非なんて僕は正直どっちも良いです。先輩だから、パールさんを応援したいくらい程度のもの」

 

「……信じられんな。思う所はないか?」

 

「なくもないですけど、態々主張するほどのものはありません。この国来てまだたった数日なんですから」

 

 印象だけで言うのなら。

 概ねポジティブなものが多い。

 生徒会のみんなで旅をしたこと。

 アルマとデートをしたこと。

 ウィルにとっては幸いの思い出だ。

 その最中で王国から移住するほどにこの国を愛した人と出会ったことは―――皮肉だなと、少し思う。

 聖国に生まれた男がこの国を疎み変えようとして、王国から来た男はこの国を愛し帰らなかった。

 外から見るのと内から見るのとでは違うということを、今更、少しだけ理解する。

 そのすれ違いは少し悲しい。

 

「ならば―――何故、私と相対する? 天津院御影の為か? 彼女のためだけに、この国の未来を懸けた戦いを担っているのか?」

 

()()()()

 

 答えは短く、はっきりと。

 視界は刃が食い込んだ自分の両手とバルマクで埋まっているので御影の様子を見ることはできない。

 今はちょっと見るのが恥ずかしいなと内心苦笑する。

 どうだろう。

 あの人なら、きっと。

 ただ笑って、ウィルを待ってくれるはずだ。

 出会ってからずっとウィルを待っていてくれたのだから。

 

 掌に食い込んだ刃を押し返す。

 痛みなど構わない。

 それだってどうでもいい。

 大事なことは、たった一つだ。

 

「僕は―――僕の大切な人を! 理不尽に、その立場だけを見て利用したことが許せないッ! 天津院御影は皇国の王女だから価値があるんじゃない! 彼女が彼女であるが故に、あの人は、強く、優しく、美しい!」

 

 思考操作によって戦輪をバルマクに向けてぶっ飛ばす。

 手の傷は深い。

 けれど、もしもなにかもがこの男の思い通りになった時、彼女の在り方が歪ませられると想像する痛みに比べたらあまりにもどうでもいいことだ。

 

「ザハク・アル・バルマク! 貴方が聖国の為ならどんな手段でも択ばないとするのなら! 僕はッ、僕の幸福のためなら何もかもを厭わない人間だ! そのためなら、国だろうとなんだろうと敵に回してやるッ!」

 

 喚き散らすような咆哮。

 それだけは許せないというウィル・ストレイトの根幹。

 前世において、何もかもを奪われた少年は、第二の生において、それだけは認められない。

 勿論、それには力が必要だ。

 ただの才能ではなく、それを為す為の力が。

 

『アッセンブル!』

 

 天津院御影が混血の身なれどその存在を皇国に認められたように。

 彼もまた、自らの意志を証明する。

 右の五指を天高くへと掲げ、トリガーヴォイスと共に魔法陣が展開。

 七色の光で編まれたダイヤル式魔法陣。

 

『―――ギャザリング・エッセンス!』

 

 拳を握りしめる。

 同時に右腕全体に真っ赤に燃える五つの環状魔法陣が展開され、ウィルを中心として炎が吹き荒れた。

 それは灼熱の竜巻となってウィルを覆い、蒼天へと昇っていく。

 そして、炎の中で彼は叫んだ。

 アルマに教えられたものではなく、自ら考え、自ら作り出し、名付けた、ウィル・ストレイトオリジナル魔法を。

 

 

『クリムゾンスカーレットバーニングスペシャルグレイトスーパーフレイミングオーガ――――ルビーッ!!』

 

 

 刹那、視界同期をしていた掲示板で悲鳴が上がったことには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『アッセンブル―――ギャザリング・エッセンス!』

 

 バルマクは昇る炎を見た。

 そして聞いた。

 大気を焦がす音が耳を支配し、

 

『――――()()()ッ!!』

 

 灼熱が収まると同時、聞こえた名前は簡潔に。

 

 そして、彼は炎を見た。

 炎を纏う彼は、姿を変えていた。

 皇国風の黒の和装、真紅の羽織。

 黒かったはずの両目は右だけ赤く、その額の左側には身体から溢れる炎が一つの形を持っている。

 角だ。

 鬼のような。

 天に自らが此処にあると告げるような片角。

 天津院御影とは左右対称に。

 

 それは鬼であり―――人の形をした炎だった。

 威圧を開放したカルメンのような圧力があるわけではない。だが、彼女よりも純粋に炎という概念に純化しているというのを、本能に近い領域で理解させられる。

 『加熱』、『燃焼』、『爆発』、『焼却』、『耐熱』。

 この世界に基づく火の属性法則を全て凝縮した灼熱。

 

 己の幸福を守るために、ウィル・ストレイトは意志の証明を開始した。

 

 

 

 

 

 

「―――()()()()()()()()()()()!」

 

 ウィルの行ったものを一目で理解したのはこの場にたった二人。

 その一人、トリウィアは思わず叫んだ。

 各系統を足し合わせるか、掛け合わせて魔法を使うのがアース111の原則ではあるが、限られた系統を自乗し特定系統の効果を極限化するというもの。

 理論としては単純だ。

 難易度が極めて難しいということを置いておけば。

 自乗というのはあくまで比喩であり、特定の系統に特化し魔力を消費し、結果を求めるのは煩雑な術式構築が必要になる上、コストパフォーマンス的に普通に使ったほうがよっぽどいい。

 トリウィア自身、数度試してそう結論付けた。

 けれど。

 7属性35系統を保有しながらその同時使用が難しい彼ならば。

 頭の出来はむしろ良いのに、選択肢が多すぎるせいでまとめ切れていない彼であれば。

 無限に等しい全属性適正ではなく、1属性5系統の深化にのみ集中したのであれば。

 

 その結果が―――『火』という概念を体現したウィルの姿だ。

 

 もしかしてと、トリウィアは思う。

 なぜなら、今しがたトリウィアが叫んだ理論は―――

 

 

 

 

 

 

「いやはや、全く偶然なんだよなこれが」

 

 どこかでウィルの変貌を見ていたアルマは苦笑をこぼした。

 ウィルが体現した単一属性の特化による肉体・装備変化。

 それは概ね、アルマが入学の際に学園に提出した理論の具体例だ。

 ただし、ウィルがそれを考えていたのは『建国祭』の後からのようだし、アルマだって別に彼に合わせて理論を生み出したわけではない。

 

 だからこれは本当に偶然。

 

 勿論、後から完成させるためにアルマの論文をウィルは読み込んだし、ウィルの考えを察していたアルマも進めてはいたけれど、彼が目指したものと彼女が完成させたものは同じものだった。

 

 それは―――純粋に嬉しいなと思う。

 

 そんなつもりはなかったけど、彼を導くことができたから。

 ただ、少し気になるのは、

 

「………………流石にあの小学生ネームは変えさせるか」

 

 

 




ウィル・ストレイト
大事なのは、彼女のことだけ
信仰の是非はぶっちゃけどうでもいいよ。
悪い人じゃないかもしれないし、パールと話し合ったほうがよかったのではとも思うけど
それはそれとして御影を利用したのは絶対に許さないマン

もうなにも、取りこぼしたくないから。

『アッセンブル』
1属性5系統の指定
『ギャザリング・エッセンス』
それの統合と深化
『クリムゾンスカーレットバーニングスペシャルグレイトスーパーフレイミングオーガルビー』
さらに統合深化による変身
火属性5系統の特化強化・装備肉体変化魔法、と言う名のフォームチェンジ。
ウィル・ストレイト、渾身のネーミングセンス。
噛まずに行ったが、発動余波の炎のせいで最後の「ルビー」しか聞こえなかった。
それだけでいいよ。

掲示板では名無しの誰かが1人だけ肯定してくれた。


アルマ
ちゃんと見てる
そういえば同レベルのネーミングセンスがいたけど、一回しか会わなかったな……とか思ってる。


御影
色んな意味でもう凄いことになっている


感想評価推薦ここすきいただけると幸いです


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ガール・ウェイツ・ボーイ

 

 

 燃えている。

 燃えている。

 燃えている。

 

 人の形をした炎が。

 鬼の形をした炎が。

 

 理不尽に対する怒りを燃料とし、大切なものを守るために心を燃やす紅蓮の戦鬼。

 

「―――」

 

 黒鉄が驚きに揺れる。

 魔法の使用により外見が変わることはアース111でも珍しいが存在する。だがここまで明確に外見と衣服まで変貌するものをバルマクでさえ初めて見た。

 警戒するように二刀を十字に構える。

 全身の『硬化』及び強靭な『鉱物』強度へ、『生命』の強化、自らの肉体の密度を『圧縮』し、『耐熱』を上掛け。双刃にも同じく『硬化』、『鉱物』、『耐熱』、『圧縮』した上で『振動』と『崩壊』の付与。極めて固く、熱に強く、超振動し、斬ったものを崩壊させる刃となる。

 土属性を基軸とした肉体・武器強化は速度面での恩恵は薄いが耐久性に極めて優れるが上、その速度面をバルマクは自らの技量で補い、完成度を高めている。

 それ故に、男は聖国において最強の一人と称される。

 加えてその肉体強度を維持したままで全く逆の円運動を軸として武術も使いこなす。

 黒鉄や蛇と称されることは単なる人格的な比喩ではなく、文字通りそれだけの強度の柔軟性を有しているのだ。

 

「グッ―――!?」

 

 その男が、爆炎を纏った拳にぶっ飛ばされた。

 強く握っていた柄に伝わる衝撃と熱。手放しはしなかったが、体ごと後方へ弾かれる。

 一瞬で距離を詰められた。

 それは加速というにはあまりにも荒々しい。

 炎鬼は足裏で炎を爆発させて、そのまま噴出。その推進力を乗せたまま正面から拳を叩きつけ、着弾と同時に爆炎が上がったのだ。

 火属性の使い方としてはあまりにもシンプル。

 炎にて加速し、一撃を高める、ただそれだけ。

 

 だがそれまでカウンター主体だったウィルが一転して攻勢に出たことに反応が遅れた。

 そして、彼は止まらない。

 

「鬼炎万丈……!」

 

 爆炎と共に飛び出す。

 踏み出し共に足裏で爆ぜる炎は真紅の花が咲き―――その加速を乗せた拳がバルマクの剣とぶつかり合うたびに、もう一度花が咲く。

 

「……!」

 

 双剣が咲き誇りと激突し、しかし確実に押し込まれる。

 膂力ではバルマクが勝るが、連続する爆発は彼我の身体能力差を補って余りある。

 爆進による加速、着弾時の爆発、生じる爆炎。

 三つの炎撃が一つとなって黒鉄を焼き焦がす。

 

「この、荒ぶり方は……!」

 

 それは凡そ、人種の戦い方ではない。

 

 純粋膂力に炎を纏わせるか炎によって結果的に膂力を生み出すかという違いはあれど、荒ぶる火炎を纏い剛力を怒涛に繰り出すそれは――

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや。()()()のようですね」

 

 ころころと、扇子を口元に当てつつ甘楽は笑う。

 横目で妹を見ながら。

 

 

 

 

 

 

「オオオオオ――――!」

 

 裂帛の咆哮。

 赤と黒の双瞳を爛々と輝かせ、燃え盛る隻角はまさしく鬼種のそれだ。

 天津院御影をこの一年見続け、彼女の動きを焼き付けたウィルは属性特化によりついに種族特性すらも模倣し再現するに至った。

 

 灼熱と剛力。

 戦場にて吠える益荒男。

 鬼種において、それは最も尊ばれる姿に他ならない。

 

「……!」

 

 何度目かの爆炎の花。

 ついに完全にバルマクが押し負け、体勢を崩す。

 『耐熱』付与しているはずの刀身が焼けこげ、肉体にも火傷を負うほど。直線斬撃による迎撃を繰り返したが、それでも限界があった。

 爆発に両腕が弾かれ、体が流れることによって明確な隙が生まれる。

 当然、ウィルはその隙を逃さず、追撃の炎拳を叩き込み、

 

「――――シィィィッ!」

 

 流れた体が、そのままぐるりと回る。

 回転中に双剣が揃えられ、遠心力を乗せた斬撃がウィルの拳に叩きつけられた。

 

「大したものだが―――単調だ」

 

「っ」

 

 爆発加速が乗り切る直前に横合いから止められた拳が中空に紅蓮を咲かせる。

 

「人間離れしている。鬼種どころか、高位の魔獣のそれだが―――私の専門はその魔獣狩り故に」

 

 追撃はなかった。

 代わりにその体からは想像でできない身軽さでウィルを飛び越え大きく距離を取る。

 跳躍中にも体を回し、着地時にも踊る様に回転。

 そして、その螺旋の終着点として、

 

「――――ハァ!!」

 

 石畳を踏みしめ、大地から衝撃がウィルへと迫った。

 それは指向性を持った局地的な地震だ。

 轟音と共に中庭全体が揺れ、石畳をひっくり返しながら衝撃波の津波となって襲い掛かる。

 届くまでほんの数秒。

 ウィルが体勢を立て直すのには間に合わず、しかし爆発跳躍を行う頃には到達しているという絶妙な時間管理。

 

 10になるかならないかで第一次魔族侵攻を経験し、己の部族を失いながらも、聖国の魔獣狩りの頂点に立った男の歴戦経験がそこにはある。

 

 それは、ウィルにはないものだ。

 この一年で重ねた実戦経験は濃密ではあったが、細やかな所ではバルマクには決して届かない。

 

 故に少年は、

 

『アッセンブル―――()()()()()・エッセンス!』

 

 開いた掌を、茶色五輪のダイヤル式魔法陣を握りしめた。

 瞬間、彼の周囲、石畳を突き破りながら何本もの石柱が覆い、衝撃波と相殺する。

 

『――――ガーネット!』

 

 砕けた石柱が現れたウィルは、姿を変えていた。

 服は変貌前の黒のズボンに真紅の腰巻。

 赤い片目は、明るい茶色。

 

「っ……土属性特化―――?」

 

 色合いと生じた石柱から見て、明らかにそうだ。

 鬼種の角や皇国装束のような分かりやすい変化はないが、変化時の余波が顕著だ。

 だがそれは、ある意味バルマクにとっては良く知った属性だ。

 聖国は土属性系統を持つものが多い。バルマクも五系統網羅しているし、むしろ戦いやすいと言える。

 そう、判断した時、

 

『アッセンブル。コンバート・エッセンス―――』

 

 ウィルが右手を真っすぐにバルマクに向け、拳を握りしめた。

 瞬間、彼を覆うブラックホールの如き闇の波動。

 一瞬見えなくなったと思った時、茶の瞳は黒紫へ。

 

『――――オブシディアン』

 

 宣言は静謐さすら伴って。

 バルマクに焦点を合わせた拳を腕ごと引き寄せた。

 

「!?」

 

 ぐん、とウィルの腕と対応するようにバルマクの体がウィルへと飛ぶ―――否、引き寄せられた。

 唐突のことで踏ん張りも効かず、彼我の距離が一瞬で埋まる。

 何がと思い。闇属性による『斥力』を用いた引力操作? と判断した時、ウィルは既に戦鬼形態へと移行していた。

 

 今度は、鬼の拳は避けられない。

 

「――――」

 

 引力による接近と爆裂加速。

 二つの速度を合わせた拳がバルマクの腹部で爆裂した。

 

 

 

 

 

 

「――――なるほど、考えたな!」

 

 パチンと、アルマは指を鳴らす。

 頬には明らかに上機嫌だと解る笑みが浮かんでいる。

 

「形態変化による状況に応じた戦闘スタイルの切り替えかと思ったが、()()()()()()!」

 

 虚空へと呟く言葉は音声入力により自動的に掲示板に書き込まれている。

 それは転生者の間では別に珍しくもない。

 ある程度高い応用性を持った特権があれば、特定の目的に特化した形態を用意し切り替えることはむしろ自然と言っていい。

 アルマにしても御影を模した火属性特化状態を見た時はそれだと思った。

 だが、彼のそれは似ているが違う。

 

「ワンアクションごとの属性の切り替え! ≪全ての鍵≫をうまく使ったじゃあないか!」

 

 アルマがウィルに与えたダイヤル式魔法陣術式≪全ての鍵≫。

 ウィルが使う魔法は基本的にアルマが考案し、登録した術式を即座に使用できるというもの。

 即ち、事前に登録さえしていれば拳を握るというワンアクションで使用可能ということ。

 勿論その登録はウィル自身でもできる。

 というか、彼の成長を考えてオリジナルの登録前提で作られているのだ。

 7属性35系統をそれぞれ使うのは難しい。

 それでも1属性5系統はウィルならば可能だし、登録さえしてしまえば即座に属性変換可能。

 

「御影を模した火は火力、土は防御で、闇は引力使ってたし中距離か? 色々想像できるし……ふむ、その先の応用力も高そうだ。なにより、相手はこんなのやられると最悪だな」

 

 つまり、ウィルは行動の度に最も適した属性を選択できるし、相手からすれば行動の度に別人と戦うのと同じ状況を強いられるということ。

 

「属性の切り替えは予想してたけど、ここまで詰めるとは思わなかった……うむうむ、やるじゃあないか」

 

 数度頷き、ふと虚空に視線を向けて、

 

「あぁ……うん」

 

 バルマクをぶっ飛ばし、追撃の為に白い閃光に包まれたウィルを確認して言葉を漏らす。

 

「…………変換時のエフェクトが派手なせいで、あのくそださネームは周りには聞こえてないみたいだな……?」

 

 

 

 

 

 

『――――ムーンストーン!』

 

 四度、色が変わる。

 乳白の片目。

 背後に同色の魔法陣が四つ。

 腕を振ればそれぞれの魔法陣から光線が放たれた。

 吹き飛び中庭の壁に激突したバルマクへの追撃。

 閃光は王宮の壁をぶち抜き、

 

「っ―――オオオオオオ!!」

 

 衝撃波が光をぶっ散らした。

 バルマクは全身から超振動を発し、指向性を持った光線をかき消したのだ。

 腹部に重度の火傷を負い、口から血を零した男の表情は険しい。

 何か言おうと、口を開き、

 

「――――」

 

 しかし、何も言わなかった。

 彼の意志はもう聞いたから。

 一度聞けばもう十分だし、重ねるのはあまりにも無粋だと男は思う。

 女の為に自らと戦う少年。

 全く絵物語のようだ。

 自分とは正反対の生き方に、ほんの微かに苦笑する。

 

「それでも」

 

 声は小さく。

 ウィルに対してではなく、自らに誓う様に。

 

「私はもう決めている」

 

 蛇のようにしつこく、黒鉄のように曲がらない。

 外法を用いたとしても、国を変えると決めたから。

 それがこの国の在り方を根底から変えてしまうとしても。

 ただ愚直に二刀を構えるだけ。

 

「―――」

 

 ウィルも何も言わない。

 右手をバルマクに合わせる動きは先ほどの引き寄せと同じように。

 故に今度は動かぬと男は力強く腰を落とし、

 

『トパーズッッ!』

 

 轟音、雷鳴。

 気づいた時には既に、ウィルはバルマクの背後。

 一閃、足刀。

 

「ッッ……!」

 

 直前、引き寄せを警戒して踏ん張っていなかったら意識が飛んでいた。

 認識を超えた超高速の蹴撃は最早斬撃に等しい。背中が焼き裂け、

 

「止ま、らん……!」

 

 男は止まらない。

 ウィルの高速属性変化にはついていけない。

 歴戦の強者であったとしても、ここまで細かく連続して別人のように変わる相手に対して初見で反応するのは不可能だ。

 故に、止まらないのだ。

 愚直に男はダメージを無視して刃を振るう。

 直線斬撃、滅びた部族の一閃。

 背後へと放つのならば円運動の方が適していたかもしれないが、それを選択したのは―――或いは、極めて聖国らしい部族への誇り故か。

 

 音すら置き去りにした一閃。

 

「―――――」

 

 その動きを、ウィル・ストレイトは目視の紙一重にて回避する。 

 刃が頬を通り過ぎ、文字通り紙一重のみ首を傾けたギリギリの回避。

 雷属性により肉体駆動を思考を加速していたというのもある。

 

 だが―――何より、ウィルは目が良いのだ。

 

 ここにきて、ついにその瞳が黒鉄の剣撃を掌握し、最小動作の回避を可能としていた。

 そして、

 

『アッセンブル―――コンバート・エッセンス』

 

 炎が巻き起こる。

 意志が燃えて、怒りが滾って。 

 国の為に手段を選ばずに力を借りた男へ。

 女の為に希望をくれた相手から託され、高めた力を握りしめて。

 鬼の角を宿し、灼熱を解き放つ。

 

 

『――――――ルビーッッッ!!』

 

 

 紅玉の如き拳が、黒鉄をぶち抜いた。

 

 

 

 

 

 

「……はぁっ……はぁっ……っ……」

 

 誰も、何も言わなかった。

 倒れて動かなくなったバルマク。

 ふら付きながら荒い息を吐くウィル。

 ただ、二人を見ている。

 信じらないと目を見開く者も、安堵の息を吐く者も、信じていたと笑う者もいた。

 けれど、まず言葉を交わすのが誰であるべきなのかは、誰もが理解していた。

 

「ふぅっ……ふぅっ……………ふぅ」

 

 注目を浴びながら、構わずにウィルはしばらく息を整える。

 そして、真っすぐに向かう。

 彼女の下へ。

 中庭の最奥、噴水の前に彼女はいる。

 隣にいた甘楽が――既に罅が入っていたとはいえ――素手で鎖を握りつぶして彼女を開放し、去っていく。

 

 彼女は動かなかった。

 薄い笑みを浮かべて、ウィルを待っている。

 

「……はは」

 

 そんな姿を見て、思わず笑ってしまった。

 出会ってからずっと、ウィルは彼女を待たせ続けて来た。

 しばらくは自分自身の過去のせいで目をそらし続けて。

 最近は――やっぱり、アルマに悪いかなと思って先送りにしていた。

 

 でもやっぱり。

 ずるいとは思うけれど。

 ウィルの求める幸福に、どうしたって彼女は必要なのだ。

 

 見惚れるような綺麗な琥珀の瞳。

 艶やかな浅い褐色の肌。

 ついつい視線を向けてしまう豊満な肢体。

 強く、優しく、美しく。

 囚われていたしても、やっぱり彼女は天津院御影だ。

 

「…………」

 

 彼女は笑みと共に待っている。

 多分、ウィルが最初になんて言うか楽しみにしているのだろう。

 息を吐きながら、どうしようかなと少し思った。

 首を傾げて考えて、すぐに答えは出る。

 

「――――御影さん」

 

「婿ど――――!?」

 

 名前を呼んで。

 彼女が何か言う前に抱きしめて。

 

 ――――半ば無理やりに唇を奪った。

 

 腕の中で彼女の体が跳ねる。

 一瞬硬直した後、すぐに力は抜かれてウィルを抱きしめ返した。

 この1年と少し、耳元で囁かれたり、体を押し付けられたり、舐められたり、胸とか太ももとか触られたり、触らされたりしたけれど。

 自分からこうして彼女に触れて、抱きしめるなんて初めてだ。

 

 柔らかい唇に触れていたのはほんの数秒。

 

 もう一度彼女を抱きしめれば、当然ウィルの顔の横に彼女の耳が。

 小さな声で、はっきりと、世界中の誰にも聞こえないように、けれど彼女にだけは届くように。

 ありったけの想いを込めて、囁いた。

 

 

「――――お待たせ、しました」

 

 

 

 

 

―――≪ウィル・ストレイト&天津院御影―――ボーイ・アンサーズ・ガール―――≫―――

 

 

 

 

 





地『グランドブラウングレイトアースマザーダイナミックダイレクトマキシマムガーネット』
闇『ブラックホールダークネスダークカオスティックリバースグラビティオブシディアン』
光『ミステリアスホーリィーシャイングレイスミラクルスーパーライトムーンストーン』
雷『ライトニングソニックサンダーボルトハイパークイックムービングトパーズ』

正気か?????
正気なんだワ
一人でウッキウキで考えてた
ガーネットは赤い奴じゃなくて、スペサタナイトっていうオレンジがかったやつ

水と風はいつか。


ウィル
お待たせしました
お返しの囁きASMR

天津院御影
【放送禁止用語が乱立している】


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ホール・ニュー・プルーフ

※ミスがあったので再投稿版です

ひふみつかささんより御影さんのイラストを頂きました!
ありがとうございます! 支援絵最高! 御影さん最高!!


【挿絵表示】


理性大爆発5秒前って感じ。



ちなみに『アッセンブル、ギャザリング・エッセンス』+『宝石名』はかっこいいと思っているのでよろしくお願いします!!!!!!!


 

 目が覚めた時、バルマクは王宮の医療室にいた。

 病人の様に寝台に腕と脚がそれぞれ枷をはめられて身動きができない。

 わずかに体を揺らせば、

 

「ぬっ……」

 

 全身、特に腹部に激痛が走る。

 それはウィル・ストレイトの拳を受けた場所であり、すでに包帯が巻かれて処置が終わっていた。

 小窓から指す月明かりが部屋に光を齎し、

 

「あら、起きたのね不敬者」

 

 寝台の傍に、本を読んでいるパールがいる。

 読書灯代わりにはランプが流れ落ちる赤と青交じりの金髪を照らしていた。

 彼女は本に目を落としたまま、

 

「……どれだけ時間が経った?」

 

「数時間程度よ。私に感謝することね、私が治療しなければ数日は目覚めなかったし、半年は寝たきりよ」

 

「聖国で最も優れた治療師が治療の感謝を要求するとはな」

 

「………………その様子なら大丈夫そうね」

 

 嘆息しながら、()()()と本を閉じる。

 

「面倒なこと、そう……面倒なことになったわ。砂漠で一夜を明かしたら、砂漠が蠢いていて道が見えなくなってしまったように」

 

「だろうな」

 

「いいえ、いいえ。面倒になったのは()()のことよ」

 

「……?」

 

「貴方が負けてから私の後輩(アルマ)が来て教皇猊下と導師閣下の洗脳を解いてくれた。全く頼りになる大した子だけれど、その子が貴方を指して言ったのよ――――『()()()()()()()()()()()』って」

 

「…………………………何?」

 

 言われた意味を理解できなかった。

 こいつが洗脳をした、ではない。 

 こいつも洗脳を受けている。

 つまり、バルマクが――――誰に?

 

「アルマがそう気づいたせいでこっちも困りものよ。一先ずウィルと貴方を治療して、参列者を帰して、教皇猊下から話を聞いたけれど。結局貴方から話を聞かなければならない。そのせいで私が貴方を態々治療したというわけ」

 

「……」

 

「明日、尋問会を開くけれど一先ず私が聞く。拒否権はない……いいわね?」

 

「いいだろう」

 

「御影から聞いた。ヘルメスという人物は何者?」

 

「……三か月前だ。あれは突然現れた」

 

 聖国では見慣れないスーツ。

 男か女か分らない声と身体。

 細い目とそこから覗く深淵のような眼。

 未来予知を行う者。

 

「アレが、今後どう動けばいいか、お前たち、天津院御影を含めて聖国に訪れることを予知し、洗脳の為の杖を俺に渡した」

 

「……あぁ、持っていたわね。あれか、なるほど。それで?」

 

「それで……それで、終わりだ。その杖を受け取り、私は行動を開始した。お前の手の内の者に反乱の情報を流し、その実教皇と導師を掌握、他の候補を蹴落とした」

 

 ぽかんと、パールは口を開けた。

 

「…………そのヘルメスは何か要求しなかったの?」

 

「した。聖湖の湖底の採掘だ」

 

「はぁ? どんな目的で?」

 

「あの湖からは――――()()()()が出るのを知っているな?」

 

「あぁ……水というか、()()()()()()()()()()()()? 数度しか見たことはないけれど」

 

 有名な話ではあるが、話題に上がることではない。

 聖湖≪エル・ウマナ≫の湖底からは、たまにそういう『燃える水』が浮かびあがることがある。

 水が燃えるというという点で見れば≪双聖教≫としては神聖視されてもいいのだろうが、如何せん異臭を放つということ、手に入れるには湖の底まで行かなければならないこともあり、ただ、そういうものがあるという知識があるだけ。

 火を出すだけならば魔法を使えばいいのだから実利的な価値もない。 

 

 今この世界、この国、この科学技術において――――アース0では()()と呼ばれるものはただの燃える泥でしかなかった。

 

「あれはそれを欲しがった。どうするかは知らんが。そして……そう、私は了承して、洗脳の杖を手に入れた」

 

「……つまり」

 

 頭痛を抑える様に、彼女は頭を押さえて確認をする。

 

「貴方は正体不明の未来予知ができて洗脳の杖を持った謎の人物と、燃える水で取引をしたと?」

 

「…………………………そうなる」

 

「その時点で洗脳受けていたというわけね」

 

「…………」

 

 二人しかいない治療室に沈黙が下りた。 

 パールもバルマクも、何も言わない。

 

「……ぷっ」

 

「……」

 

「ふふふ……」

 

「…………」

 

「あはははははははははは!」

 

「…………………………」

 

 二人しかいない治療室に一人分の爆笑が響き渡った。

 顔を歪めてお腹を抱えるまでの大爆笑である。

 

「ふぅー……ふぅー……」

 

「…………………………満足したか?」

 

「くくっ……えぇ、えぇ。いや傑作ね。洗脳で反乱をした男が洗脳されていたなんて。どうなの? 洗脳された自覚ある?」

 

「…………確かに、言われてみれば奇妙だ。冷静に考えればあんな謎の者の力を借りて傍に置くはずがない」

 

 振り返れば、違和感が強烈にある。

 ヘルメス由来の洗脳は、洗脳中の記憶は消えないし、自分がおかしい言動をしていたという認識も残る。

 今の記憶はまさにそれだ。

 それまで当然のことだと思っていたのに、今になっておかしかったと判断できる。

 あの洗脳の錫杖を受け取ったのは、ヘルメスによる洗脳と見ていい。

 

「だが」

 

 男は天井を見上げた。

 その眼は、結局変わらない。

 揺らぐことのない黒鉄。

 

「例え手段を手に入れたのに他人の介入があったとしても―――それ以降、反乱をしたのは全て私の意思だ。その記憶に、違和感は1つもない」

 

「でしょうね。クーデターとか聞いて全く驚かなかったもの。あ、ついにやったわねこいつって感じ」

 

「……」

 

 肯定は時に癪に障るものである。

 意趣返しのつもりなのか真面目な顔をしている彼女の口端がぴくぴく震えていた。

 

「嘆かわしいな、パール・トリシラ。学園に行き性格まで歪んだか。いや、意地の悪さは子供の頃から変わらなかったな」

 

「10以上も年下の娘に正論をぶつけて泣かせる下劣な男と長いこと口論を経験したせいでしょう」

 

「悲しいことだ。正論を嫌味と捉えるねじ曲がったその精神が」

 

「あら、心について語る余地があったとは驚きね。あぁ、そうそう、口論するだけじゃなく、十も年下の少女を本気でぶちのめす加虐の心はあったかしら。獲物を執拗に追う黒蠍みたいな」

 

「また悲しい事実を見つけたな。あれを本気だと思っていたとは。愚鈍な上に記憶力すら曖昧とは。これが未来の教皇だと思うとやはりこの国の未来は夜明け前の夜よりも暗いだろう」

 

「うふふ」

 

「…………」

 

 しばらくの間、ぐちぐちと10年分の恨みとそれに対する皮肉が応酬しあった。

 

「……はぁ、もういいわ。やることが増えたわね。そのヘルメスとかいう輩の調査もしないといけない」

 

「そうか、精々励むと言い」

 

「他人事かしら?」

 

「これが見えないか?」

 

 がしゃりと、手枷を揺らす。

 足にも枷が嵌っているし、治療室を出れば牢屋。

 そこにバルマクの意思は最早関係ない。洗脳を受けていたとしても反乱自体は自身の意志だと主張するなら情状酌量の余地もないだろう。

 普通に考えれば極刑だ。

 

「――――治療している時、ウィルにいくつか言われたわ」

 

「……?」

 

「好き勝手言ってすみませんでしたって」

 

「彼からすれば当然の意見でもある。興味本位の質問にあぁまで吠えるとは思っていなかったが、むしろあぁ言えるだけ天津院御影を大事に思っていたのだろう。純愛路線だ」

 

「今頃その純愛路線が大変なことになっているでしょうけど……それからこうも言われたわ。『内からと外からでは、同じものを見ても見え方が違う』ってのも」

 

「……オレンス師か?」

 

 その言葉を知っていた。

 誰の口癖であるかということも。

 

()()()()()()()()()と面識があったのか、彼は」

 

 エル・オレンス。

 エルは尊称であり、二十年前に聖国に移り住んだ男はそう呼ばれている。

 聖国、聖都の商業組合の会長であり、商売に関してはこの国においては頂点。現導師とも親友である人物だった。

 

「デートの時話を聞いたみたいね。見舞いにも来ていたし、それにオレンス師は彼のお父上と大戦時代に色々あったとかなんとからしいわね。オレンス師もウィルも驚いていたけれど。……ここは脱線ね」

 

 肩を竦めたパールは息を吐く。

 上げた顔を微かに刺す月明かりとランプの二色が照らし出す。

 

「貴方と戦うのは、私の役目だと思っていた。でも、結果的にウィルが戦うことになった。考えたわ、やるべきことをできなかった私に、何ができるのかを。この国の為に何をするべきかを」

 

 その横顔は、バルマクの記憶よりも随分と大人びて見えた。

 10年ほど前に出会い、二年半ほど前から顔を合わせなくなった彼女はいつの間にか成長している。

 

「―――私は決めたわ」

 

 そして彼女は。

 ニンマリとした笑みを浮かべた。

 ゾクリと、バルマクの背筋に悪寒が走る。

 よく分らないが、この女は何か嫌なことを言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………待て、何を言っている。愚鈍を通り越して狂ったか?」

 

「いいえ。全く以て正気よ。そもそも私は貴方が導師になるのは絶対に嫌だったけど、導師の一つ二つ下くらいの地位にはしようと思っていた。今回のクーデターに関しても、それ自体は怪我人も死人も出していない。負傷したのは貴方とウィル……それに御影に投げ飛ばされた私くらい。その能力は買っている」

 

 バルマク以外の導師候補者はいたが、洗脳で自ら手を引かせた。

 バルマクを政治的に嫌う大臣もいたが、やはり自ら手を引かせた程度。

 こと反乱に関しては無血革命と言っても良い。

 

「信仰を全否定する姿勢は認めないけど、あまりにも非生産的……特に人命をむやみやたらに軽んじる類のものは私もどうにかしたいと思っていたし、私としても学園や王国で気づきは多かったからね、丁寧に聖国に導入したいとこもある。……貴方が国の在り方を疎むことは今更だけど、この国に対する愛国心も別に疑っていない」

 

 ぺらぺらと、彼女の舌が良く回る。

 理路整然と相手を丸め込むように。

 昔、聖女になったばかりの子供を泣かせた男のように。

 

「国にいる間、貴方を……そうね、謹慎という形にできれば最良ね。私が学園を卒業するまで。そうしたら()()()で、一政治家として働かせてあげましょう。教皇が政治の素人だから導師に権力が移っているのなら、政治に詳しい()()の助言を受けた教皇が自分でやればいいだけのこと」

 

 信仰より実利を求めるバルマク。

 実利よりも信仰を尊ぶパール。

 お互いが大事にしている視点が真逆で、考え方が正反対。

 

 だが――――その真逆や正反対こそが≪トリシラ聖国≫、≪双聖教≫を象徴するものだ。

 

「天秤の両端を私と貴方で担いましょう―――というわけで、何か言いたいことはあるかしら?」

 

「……」

 

 バルマクは露骨に顔をしかめてしばらく何も言わなかった。

 そして、

 

「くっ……屈辱だ。いっそ殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼び出された部屋に入った瞬間、ウィルは御影によってベッドに投げ飛ばされ、そのまま押し倒されていた。

 要人貴人用の客間なのだろう。豪華な部屋だが、しかし、今ウィルの視界は御影の顔で埋め尽くされていた。背中に伝わる柔らかいマットレスの感触など最早なにも伝わらない。

 

「ふぅ……! ふぅ……!」

 

 息が、荒い。

 ウィルの体に覆いかぶさった彼女は琥珀を爛々と輝かせ、今にも餌を食らう肉食獣の如く。

 眼が既にハートになっている気がした。

 

「…………み、御影さん」

 

「少し、待ってくれ婿殿。一先ず……そう、一先ず、落ち着くから」

 

 呼吸が落ち着くまでの間、しかしそれなりの精神力が必要だった。

 馬乗りになられて、両手を押さえつけられているので目の前に彼女の顔があり、少し視線を下に向ければ長く伸びる胸がある。

 おまけに見慣れた襦袢ではなく聖国風のネグリジェ。

 露出度は低いが、体のラインは浮き出ているし、かなり透けているし、そもそも体勢のせいで谷間が半分くらい見えている。

 

「…………うむ。婿殿。そうだな……まずは諸々の礼を言うべきか」

 

「いえ、そんな……僕はすべきことをしただけで――」

 

「そぉーい!」

 

「きゃー!?」

 

 落ち着いたと思ったが、色々思い出したらやっぱり落ち着くのは無理だったので理性が暴走し、ウィルのシャツが引き裂かれた。

 絹のような悲鳴。

 

「―――んれぇろ」

 

「ひぅ」

 

 胸板を御影の舌が這う。

 彼女の舌は長く、熱く、分厚い。

 肉厚な舌がみぞおち当たりから胸、首元に。

 じっとりとなぞられる。

 水気の多い舌と熱い吐息がウィルの肌をくすぐり、体が跳ねそうになるが両手を抑えられた状態では逃れようがない。

 

「ん……」

 

 ウィルの肌を、浮かんだ汗を味わいながら息を漏らす。

 身体に巻かれていた包帯は避けつつ――つま先で軽く触れながらウィルの反応を見て痛みがないか確かめつつ――首元を超え、

 

「んー……これ、剥がしてもいいか?」

 

「えっ……あ、はい」

 

「やった」

 

 バルマクとの最後の交差、刃は完全に見切ったが僅かな風圧で頬が少しだけ裂けていた。といっても、大した傷ではなく少し血が滲んでいた程度だったので、パールに治療をしてもらうまでもないと絆創膏を貼っただけにしたもの。

 頬の絆創膏を剥がせば、ほんの少しだけ血が滲んでいる。

 

「んっ……ちゅぅぅ……んくっ」

 

 その血を舐め、吸い、汗と共に嚥下する。

 

「―――はぁっ♡」

 

 ウィルの血と汗。彼の体の一部を自らに染み渡らせるように。

 舌から喉に、喉から胃に、胃から全身に。

 量としてはほんの僅かなそれが体を通る感覚に、背を逸らして息を吐く。

 

「……っ」

 

 恍惚とした表情と逸らされて強調した胸に、ウィルは思わず息を呑む。

 これまで幾度となくスキンシップをされてきたが、今日のそれはいつもとは違うものだった。

 

「…………婿殿」

 

「は、はい」

 

「一つ頼みがあるんだが」

 

「なんでしょう……?」

 

 彼女は再び、頭をウィルの胸に乗せた。

 彼の両手を開放し、頬を軽く胸板に擦りつけつつ、

 

 

「――――()()()()()()()()

 

 

 彼の目前に、自らの角を差し出した。

 

「―――」

 

 その言葉にウィルは思わず目を見張る。

 スキンシップは幾度となく受けた。

 一々耳元でセクシーに囁くので若干性癖が歪んだ気もする。

 その角で、ちょっかいをかけられたこともある。

 けれど、彼女が自ら角に触れることを許すのはこれが初めてだった。

 

「……」

 

 いいのかとは、聞かなかった。

 だから、言われた通りに触れる。

 人差し指の背で、撫でる様に。

 

「……っ!?」

 

 ビクンと、御影の体が跳ねた。

 比較的落ち着いてた息が先ほどよりも荒くなり、全身から汗が一気に噴き出る。 

 

「…………」

 

 人差し指だけではなく、親指と挟むように。

 不思議な感覚だった。

 上質な動物の革の様で、()()()()()()()()()()()、けれど中心に確かな芯がある。

 中指も追加しながらゆっくりと指を上下すれば手触りはさらに良くなった。ウィルの指に吸い付く様な弾力。

 

「っ……ぁ……んんっ……んくっ……」

 

 指の動きに従い、御影の口から嬌声が漏れる。

 両手はシーツを強く掴み、顔と胸はウィルのお腹あたりに押し付け、足はホールドするかのように絡める。

 

 そして、ついに角を五指で握り、

 

「っ~~~~~~~!?」

 

 ()()()とひときわ強く御影の体が跳ね、しがみ付くように力が入る。

 体が硬直しながらの痙攣はしばらく続き、

 

「――――あはぁ♡」

 

 ゆっくりと上がった顔は緩み、悦楽に染まっている。

 眼は潤み、目元には涙がたまり、口元には涎を零していた。

 あまりにも扇情的な表情に、ウィルは息を呑む。

 

「―――」

 

 熱にうなされた瞳が交わり、

 

「―――ん……ぇれろ……ちゅず……!」

 

 それは最早、貪るような口付けだった。

 ゆっくりと唇を重ねたかと思えば、御影の舌がウィルの唇をこじ開け、その中を蹂躙する。歯を、舌を、歯茎を、口蓋を舐る様に。

 完全に理性が蒸発した御影も、それに当てられたウィルも、呼吸を忘れていた。

 

「んふ……っ……ぐちゅ……ちぅぅぅ……」

 

 鉄すら溶かすような暴力的な熱。

 ただしこの場合、御影が捕食者で、ウィルは獲物だった。

 たっぷり数十秒、女は男を味わい、

 

「ぷはっ……はぁ……はぁっ……」

 

「ふぅっ……ふぅっ……」

 

 二人の間に銀色の糸が残る。

 御影がそのままウィルの体に崩れ落ち、乱れた吐息だけが部屋に響く。

 

「……はぁっ…………重いか?」

 

「……()()。でも問題ありませんよ」

 

「んふふ」

 

 人の女にそんなことを言えば失礼にもほどがあるが、相手が鬼種となると話は別だ。

 種族として筋線維密度や骨密度が極めて高いので人種の平均体重と比べて鬼種のそれはずっと重い。混血ながらも純血以上の強度の御影は言うまでもない。

 そしてそれを意に介さないのも、男の甲斐性と強度を示すことでもある。

 体をずらそうかと思ったけど、嬉しかったし、見た目以上にしっかりした筋肉に興奮するのでそのままに。

 

「……ここまで、するつもりはなかったんだがな」

 

 少し体勢を調整し、ウィルの肩に頭を置きつつ彼女は苦笑する。

 

「私は()()()()のつもりだったし……それも公言していたんだが……うん。だけど婿殿が悪いしずるいだろ。なにもかも、私の理性を砕くんだからな」

 

 助けに来てくれたことは大丈夫だった。

 大勢の前で婚約者宣言した時点で大分ダメだった。

 大好きな甘楽を連れてきてくれたのは純粋に嬉しかったし、雄々しく戦う姿は言うまでもない。

 

 極めつけは――――御影自身を模したような鬼の姿だ。

 

 アレはダメだ。

 反則。

 ずるい。

 理性という理性、本能を縛る鎖が残らずぶっ飛んだ。

 

「時に婿殿、知っていると思うが学園では()()()()()()()()は禁止されている。王族やら貴族やらいるから当然だな。火遊びしようものなら大問題だ」

 

 だが、と彼女は笑う。

 

「ここは学園じゃない。それにさっきアルマ殿から―――」

 

「言わなくていいです」

 

「んっ……」

 

 言葉を遮る様にウィルは彼女を強く抱きしめる。

 

「それは、御影さんにも……アルマさんにも失礼です。誰も関係なく僕は、僕の意思で御影さんと今と一緒にいます」

 

 それに、

 

「今更言うのもなんですが、御影さんが、その距離感で好きにならないのはちょっと無理がありますよ。重婚とかピンと来なかったので逃げてましたけど……もう、逃げません」

 

「ん……そうか」

 

 彼女が笑う。

 尤も、学園生活において御影がそこまで距離感を詰めていたのはウィルくらいだ。

 トリウィアやフォン、アルマにハグくらいはするけれど、舐めたりはまずしないし、それ以外だと指一本触れさせないどころか至近距離に近づかせることさえなかったりする。

 二人で共有する体温は暖かい。

 彼女が顔を寄せ、額を重ね、角を擦りつけた。

 

「……うぅん。婿殿」

 

「はい?」

 

「婿殿もいいが……どうしような、旦那様、貴方様、あなた……どれがいい?」

 

「…………えぇと。普通に、名前はダメです?」

 

「むっ……その発想はなかった。ちょっと恥ずかしい」

 

 そこで照れるんだ……とウィルはちょっと思った。

 

「こほん――――ウィル」

 

「……なるほど、なんか、確かにちょっと恥ずかしいですね」

 

「ふふふ、じゃあ次はウィルの番だな? ついでに丁寧語も取っ払って欲しいな。ちょっと乱暴なくらいが私は興奮するぞ?」

 

「いやいや……えぇと―――――御影」

 

「――――んふっ、やばいな、だいぶ興奮する」

 

「あはは……だと思った」

 

「もう一度、ウィル」

 

「御影」

 

「もう一度」

 

「御影?」

 

「んふふ……ウィル」

 

「うん」

 

 琥珀が黒を見つめる。

 真っすぐに。

 自らの証明を誓った娘は、その誓いを受け取ってくれた愛する人へ。

 

 

「――――お慕い申し上げます、私の角を捧げた人よ」

 

「……はい、確かに、貴女の証明を見届けさせていただきました」

 

 

 啄むような軽い口づけを一つ。

 

 

「―――――よし!」

 

 勢いよく彼女が身を起こし、そのまま既にはだけていたネグリジェを引き下ろした。

 零れ落ちる豊かな双丘を、世界でただ一人だけウィルだけが眼に収める。

 

「さて、ウィル。一つ証明を終わらせたが、また一つ新しい証明をするとしよう」

 

「……と、いうと?」

 

「私がどれだけウィルに惚れているか―――とか?」

 

「それは……自分で言うのもなんだけど、よく知ってるよ」

 

「いいや」

 

 耳元に口を寄せる。

 熱い息で、彼女は嗤いながら囁いた。

 

 

「覚悟してくれ――――今夜の私は激しいぞ♡」

 

 

 




なんとなく聖国編はアラジンモチーフに……とか思ってたけどわりと最悪の使い方してしまったことを謝罪します

ウィル
次の日、干からびてた

御影
次の日、ツヤッツヤだった
理性は死んだ、もういない。
避妊の魔法はパールにかけてもらっている


パール
おほほ

バルマク
催眠されてたおじさん
それはそうとやったことは全部自分の判断おじさん
くっころおじさん


次回は天才ちゃん視点であれやこれ
色々思う所があるはず。


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アルマ・スぺイシアー大いなる責任ー

全話のここすき、大半がおじさんの「くっころ」でこいつ……ってなる。
ただのぶっ飛ばされる間男おじさんだったはずなのに……


 

 月の光が寒々と砂漠を照らす。

 アルマは夜の砂漠を見ながら、聖都の外縁城壁に腰かけていた。

 城壁の下には粗末なテントが大量に並び、そこには聖都で住む場所を見つけられなかった人々がスラムを形成している。その先に、どこまでも続いていくかのような砂漠。

 濃紺の胴着、真紅のマント、右の五指と左手の人差し指と中指に指輪。胸元には金色のブローチ。フードから零れる銀髪が風邪に揺らされていた。

 

「―――ふぅ」

 

 吐く息は白く、月明かりに煌めく。 

 長いこと城壁から出した足をふらふらとさせていた彼女は、

 

「ん」

 

 視線を上げる。

 夜風以外に聞こえるものがあったから。

 それは本来このアース111ではまず聞こえないもの―――()()()()()

 夜空の星ではない、青白い光が軌跡を描いている。

 遥か空の向こうに微かな点が見えたと思ったら十数秒でそれはアルマの下へ飛来する。

 

 それは流線形の全身アーマーに身を包んだ人型だった。

 足裏と太もものスラスターから青白いエネルギーを噴出することで空を飛び、空中に浮遊している。

 明らかにアース111に存在していいものではないが、それをアルマはよく知っている。

 

「マキナか」

 

「あぁ」

 

 推進エネルギーを消し、城壁に着地しつつ、ナノメタルアーマーが胸部コアに集合し、人の体が現れる。体にぴったりと張り付く近未来的なアンダーシャツに軍用らしきポケットやベルトが物々しいズボンのマキナだ。

 

「飛んできたのかい? 態々王都から」

 

「肯定する。フォンほどではなくても音速飛行は可能だ。大した労力でもないしな。…………それで?」

 

「うん?」

 

()()が今回の黒幕か?」

 

 マキナが指した先。

 アルマの背後。

 

 

 ―――――ヘルメスと呼ばれていた者が空中で張りつけにされていた。

 

 

 翡翠の光で構成された魔法陣、同色の光の糸で編まれた短剣に両掌が突き刺さり、十字架に掛けられているかのようだ。

 黒いスーツはボロボロというより、心臓と両目から大量に血が流れており、ピクリともしない。

 

「……殺したのか?」

 

()()()()()()()

 

「……?」

 

「ウィルの戦いの直後にとっとと消えたからどうするか監視してたんだが。街を出ようとしたところを捕まえたらこいつ、僕を見てなんて言ったと思う?」

 

「……なんだ?」

 

天才(ゲニウス)

 

「――それは」

 

「そう、このアースじゃ使ってない。このアースの外で使っていた通り名だ」

 

「つまり、こいつは」

 

「≪D・E≫絡み―――というかゴーティアの残党だね」

 

 アルマはため息と共に肩を竦める。

 

「元々、いるとは思っていたんだ。クリスマスの時の次元封鎖は準備が良すぎた。あれは結構大変だし、この前の魔族信仰派とかもいたしね。≪D・E≫の反応はなかったからただの思想的なものの可能性もあったが……」

 

「戦ったのか?」

 

「イエスだがノーと言ったところかな」

 

 彼女は砂漠に視線を向けたまま、他人ごとのように言う。

 

「僕見た途端逃げようとしたから異次元に引きずり込んだんだけど。そしたら体が変貌して魔族になった」

 

「ほう……クリスマスの時のあれか」

 

「そうそう。まぁ瞬殺したんだけど」

 

「うーんこの」

 

「会話もできなくなってたから記憶を引きずりだそうとしたら心臓が爆発して死んだ」

 

「…………それは」

 

「十中八九、僕から情報取られないようにするセーフティだろうね。やってくれる、魔族化による魂と人格の汚染、一定以上のダメージを受けたら自爆なんてされれば情報のサルベージは流石に無理。死体も完全に空っぽでほんとに死に落ちされた。ゴーティアの端末がよく使う手だけど、まさか≪D・E≫の幼体じゃなく現地の人間に仕込んでやられるのは初めてだな」

 

「なるほど。……あの目は?」

 

「あれは普通に抉り取った」

 

 アルマが指を振るう。

 いつからか彼女の下にあったのは瓶詰の眼玉と蛇を模した錫杖。放物線を描きながら背後のマキナの下へ浮遊する。

 眼玉にちょっと嫌な顔をしつつ、受け取って良く見てみればあることに気づいた。

 

「これは……義眼か?」

 

「アース44の『深淵の目』っていう義眼のアーティファクトの模造品だ。もうとにかく人の命が安いというかダークファンタジー極めてる世界なんだが、ざっくり言うと自分の目を潰してそれ嵌めたら他人の因果律を下に未来を観測することができる。構成理論は他のアースだけど、このアースの要素で再現したようだね」

 

「深淵か……深淵を覗くならば」

 

「また深淵も覗いてるって? あんまり好きじゃないな。それこそそのアース44にそれを言った本人の平行同位体(ドッペルゲンガー)がいてわりと酷い目にあったんだ」

 

「ふぅむ……この杖は?」

 

「君。仮にもSF畑だろ、スキャニングしてみればいい」

 

 言われて、マキナの目が光る。

 比喩ではなく物理的に赤い光線が射出され、手にした杖を赤外線で全体を解析しているのだ。

 

「これは……超音波とサブリミナル光線、それに幻覚作用の芳香か」

 

「だね。聴覚と視覚、嗅覚により催眠装置……これもこのアースの技術、錬金術の範囲だな。科学力の仕組みとしてはわりとよくあるタイプだ」

 

 別のアースの技術による未来予知と洗脳装置。

 蛇の目から光を、口から洗脳用の超音波とディフューザーとなっている。

 異世界の技術であり、技術系統が異なるためにこのアースの人間では対処が極めて難しい。

 問題は、

 

「あくまでこのアースで再現されたものなので僕でもサーチができない。単純に別のアースのものがアース111にあるのなら固有次元振でサーチできるが、これだと無理だね。ヘルメスの魔族変貌も、それまで全く反応がなかったら休眠状態になって僕の目を逃れている」

 

 アルマに対する、というよりもこれはどちらかというと≪ネクサス≫に対するものでもあるのだろう。

 

「いつもの鼬ごっこだ。一度倒したらその経験からこういう僕に対する対抗策を用意している。その中でも今回は特にだね。20年間かけただけのことはある」

 

「できることはあるか?」

 

 ちらりとアルマが背後のマキナへ振り返る。

 彼は彼女を見下ろしたまま、立ったまま動く気配はない。

 

「ふむ……王都の魔族信仰どもの情報収集かな。ゴーティアの息が掛かったものが任意で魔族になれるなら、なれば僕が探知できる。魔族信仰の連中の本拠地とか目的が解れば根本的解決ができるだろう」

 

「了解した」

 

「ん、助かる」

 

 風が吹く。

 砂漠の渇いた冷たい風。

 マキナは手にしていた瓶詰と錫杖を彼女の隣に置き、

 

「……聞きたいことがある」

 

 アルマは思わず苦笑した。

 

「態々そのために聖国まで来たのかい?」

 

「そうだ」

 

「ふむ……いいだろう、どうぞ」

 

「どうして―――――」

 

 マキナは一つ息を吸い、アルマの背を見据えて問う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 風が強く吹き付ける。

 遮るものない砂漠の風は強烈だ。

 だが二人ともそれには構わなかった。

 

「おいおい、そんなことか? 別にいいじゃないか。御影は良い奴だよ。ウィルだって彼女のことが好きだなんて今更さ。トリウィアやフォンだろうと僕は何も言うつもりはない」

 

「その3人がウィルの幸福に必要だからか?」

 

「その通りだ。流石解ってるじゃないか」

 

「アルマの幸福はどうなる」

 

「僕の幸福はウィルが幸福であるということだ」

 

「―――それは違うだろう」

 

 マキナが顔をゆがめたのをアルマは見ていなかった。

 ただ肩を竦めただけ。

 

「それはウィルとの関係を前提としたものだ。アルマ……君は? ウィルが、自分以外の相手と関係を持つことに、なにも思わないのか?」

 

「特にないよ。そもそも僕は元々あの3人の誰かと結ばれてくれるのならいいと思っていたんだ。結局こうしてこの世界にいるけれど、それを撤回したわけでもないし。掲示板お約束のチート転生者、簡単な話じゃないかハーレム」

 

「簡単に言っていいものじゃあないだろう……!」

 

 それは悲鳴に近い叫びだった。

 本当にいいのかと糾弾するような。そうではないだろうと縋り付く様な。

 最早魂以外の全てを失った男には悲痛さすら伴っていた。

 

「簡単に言うな! あの掲示板は……他人の人生をあまりにも簡単にして複雑な人間関係も過程を省いてハーレムだなんだとレッテルを貼りつけて、冗談や軽口になってしまう」

 

「君が言うかよ」

 

「俺は良いのだ。俺の物語は、()()()()()()()()()()()()。かつて機械どもと戦った男はもういない。魂だけになってナノマシンの集合体による入れ物の中で生きるだけのナニカだ。そんなものいくらでも笑えばいい。ロックにしても過ぎた過去であり、暗殺されずに生き延びているのだから」

 

 もしも。

 もしもかつて人だった頃の戦いを掲示板で冗談にできるのかと問われれば、答えはノーだろう。そんな余裕はなかった。

 

「だが、アルマ。君はこの世界で生きることを望んだ当事者だ。君の物語はウィルとともに始まったばかりだ。1000年もマルチバースを守り続けて、やっと愛する人と生きることを始められたんじゃないか」

 

 なのに。

 なのにと、マキナは思う。

 家族も、自らの世界も、友人も、愛する人も、自らの命と身体も。 

 何もかもを失った男は思わずにはいられないのだ。

 

「君には愛する人の愛を一身に受ける資格があるはずだ。誰にも邪魔されず彼と二人で生きていい……そうでなければ、あんまりではないか」

 

 しぼりだすように男は言う。

 アルマに幸せになってほしいと。

 一切の不足もない、完全無欠の幸福を手に入れて欲しいと。

 1000年の果てやっと始まった二人の物語。御影たちのことは嫌いではないけれど。

 それでもマキナにとってはウィルとアルマが最優先だから。

 ただの機械の部品でしかない自分に頑張れと言ってくれた少年と終わることのない束縛から解放してくれた少女。

 

「………………そっか。ありがとう、マキナ。君の気持ちは嬉しいよ」

 

 ゆっくりとアルマは立ち上がる。

 彼女は月を見上げながら微笑み、

 

「……君の言う通り、僕は1000年マルチバースを守るために戦った。色々あった。一人で色々なアースを渡り歩いたり、ネクサスを作って指示をしたり……まぁほんと色々」

 

「そうだ。ならせめて今は自分の為に……」

 

「マキナ、君って何年生きたんだっけ?」

 

「………………人としては30に届かないほどだった。機械どもの部品としては……正直分らない。ねずみ産式クローニングされた脳を並列接続と統括制御して管理していたからな」

 

「改めて聞くとぞっとするね」

 

「それでも……100年は行ってないだろう」

 

「なるほどね。地獄の100年だな。僕とどっこいどっこいだ」

 

 彼女は笑っている。

 ねぇと、呼びかけ、

 

「僕はあと何年生きなきゃいけないと思う?」

 

 彼女は振り返った。

 フードの奥、寂しげな笑みと―――暗い真紅の瞳。

 

 

「―――――()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「―――――」

 

 ガツンと、頭を殴られた錯覚にマキナは陥った。

 

「いつか艦長にロリババアと言われたけどさ。実際、僕はほぼ不老不死でね。ほぼ、というのはつまり死ぬ手段があるんだけど、それはたった二つだけ」

 

 突然、アルマが年老いて見えた。

 人形染みた十代半ばの美少女なはずなのに、ずっと長い間放浪してきた老婆のように。世界の全てを見てしまい、心が摩耗しきってしまったかのように。

 そして力なく微笑む彼女は実際に1000の果てに生きている。

 

「一つはアース666に封印した≪D・E≫最上位種、≪黙示龍≫を殺すこと。基本的に僕はアレが死なない限り死なないし、老いることもない。肉体の時間も止まり続けている。1000年前、僕はあいつを倒しきれず封印したが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでやっと封印できたわけだね」

 

 彼女は微笑んでいる。

 もうそれは当たり前のことだという様に。

 

「もう一つは≪D・E≫の上位種が殺すこと。ゴーティアとかが僕を狙うのはそういうことだ。400年前に≪ネクサス≫を結成した理由でもあるけど、連中は僕と≪黙示龍≫の繋がりを断つ手段を見つけてね。それでまぁしんどくなって≪ネクサス≫を作ったわけ」

 

 つまり。

 彼女は≪D・E≫から殺されない限り死なないし老いない。

 永遠にその時間は止まり続けている。

 十代半ばの少女のまま。

 

「背は伸びないし、太りも痩せもしない、髪は伸びない。ま、ここら辺は魔法でどうとでもできるけど。あとは味覚はだいぶ薄いし……ないってほどでもないけどね。嗅覚はわりと平気だから香りが強いものや味が濃いものを好んでいる」

 

 それに、

 

「子供だって、勿論作れない。この体になる直前は色々精神的とか栄養的にも不安定でね、初潮も来なかったんだなこれが。そうでなくても体の時間ごと止まってるから新しい命は生み出せない」

 

「…………だが、ウィルだって寿命を延ばすなり、彼の特権ならばそれこそ不老不死だって……」

 

「永遠に価値を感じるのは定命の者の特権さ。不死なんてろくでもない。命には約束された安寧が必要だ。彼は大した特権を持っているけれど、だからってその生命の特権を奪う必要はないよ」

 

 彼女の切り捨てるようなそっけない言葉に、マキナは今にも倒れそうだった。

 1000年生きる少女と20にもならない少年。

 その年の差の意味を、ちゃんと見ていなかった。

 アルマなら、どうにかするだろうと勝手に思っていたのだ。

 

「13いる≪D・E≫上位個体のうち、1000年かけて4体倒した。単純計算であと3000年か。≪黙示龍≫を倒すのにもう1000年追加しても良い。僕はそれだけ戦い、生きる必要がある。……まぁ、1000年で大分心折れかけてたけど、ウィルとの出会いだけで1000年は戦えると思っていた」

 

 だけど。

 それだけではきっと足りないと、アルマは笑う。

 

「無責任だけどさ。ウィルと生きれば生きるほど。彼と日々を送るほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。希望をくれたのはウィルだって同じだ。閉ざし、殺した心を蘇らせてくれた。なのにウィルがいなかったら……困っちゃうな」

 

 言葉を続けるのはマキナの知らないアルマだった。

 掲示板で尊大に振る舞う彼女でもない。

 ただの少女のようにウィルと生きる彼女でもない。

 この世界にきて一緒に戸籍を作ったり、住む場所を決める時に口喧嘩をした彼女でもない。

 或いは、≪ネクサス≫にいる時の冷徹な指揮官でもない。

 

 きっとそれは、いつか、穴倉で。

 全てを失った少年の話を聞いて、彼を抱きしめたいのに抱きしめられなかった彼女だ。

 

 大きすぎる力を持つが故に、その責務をたった一人で果たそうとする、あまりにも痛々しく、しかしそれを当然だと思っている少女だった。

 

「だから僕的に、ウィルには御影ともトリウィアともフォンとも結婚して子供作ってほしいんだよね。100年も経てば4人とも死ぬだろうけど、彼らの子孫が平穏にこの世界に生き続けてくれるなら――――それだけで、僕はいいんだ」

 

 いつか、誰も彼が死んで、アルマだけが残る。

 それでも彼らが残したものが幸福であるのなら、それでいい。

 それだけでこのマルチバース全てを守る理由としては十分だと彼女は笑う。

 

「ま、カルメンなんかはもう500年は平気で生きそうだけど。あの態度もマシになってくれることを祈るしかない」

 

「……っ……そんな、ことが……」

 

 マキナには、何も言えなかった。

 あまりにも価値観が遠すぎた。

 手を伸ばせば触れられる距離なのに、どれだけ伸ばしても届かない気がした。

 ウィルとアルマの力になりたいと思った。

 三度目の命を二人の幸せのためにと思ったのに。

 彼女はたった一人で全宇宙を担おうとしている。

 

「…………ウィルには?」

 

 彼女の笑みは消えない。

 

「子供は難しいかもってのは言ってある。結婚とかは……ほら、お義母さんに言われてちょっと考えてみたけど、それはやっぱりピンと来ないままだし。幸せな生活への期待はあるけれど、ウィルの両親が望むようなものにできるかは不安はあるし……こほん。どうにも、個人的な未来を想像するのは苦手でね」

 

「…………」

 

「おいおい、いつもならてぇてぇとか、そういうことを言う所だろ?」

 

 言えるわけがなかった。

 

「…………その≪黙示龍≫は、今倒せないのか」

 

「難しいね。不可能と言っていい。あれはなんというか宇宙そのものというか。1000年前の封印だって奇跡に等しかった。力は付けたけど、真っ向勝負となるとね。最低でも≪D・E≫の上位種は全部倒す必要がある。ほら、あれだ、自分の眷属が生きてるとパワーアップしたり、不死身なタイプのギミック系ラスボス」

 

「ウィルの特権を使えば――――」

 

「マキナ」

 

 初めて、アルマの顔から笑みが消えた。

 フードの奥の瞳が僅かに細められる。

 

「君には正直感謝している。僕とウィルのことを応援してくれたり、こうして心配してくれることもそうだ。……僕にとって家族と呼べる者はウィルたちを除けば、君くらいだろう。この話もだからしている。≪黙示龍≫に関して知っているのは≪D・E≫を除けばこのマルチバースにほんの数人しかいない」

 

 だけど。

 

 

「ウィルに≪黙示龍≫のことは話すな。僕は君と戦うことは勿論、その魂まで消滅させたくはない」

 

 

「――――――」

 

 マキナは今にも崩れ落ちそうだった。

 一つのアース、機械惑星全てを管理していたからなんだという。

 たった一人の少女の力にもなれやしない。

 何を言おうか迷って。

 それでもやっと零した言葉はあまりにもばかげていた。

 

「君は……それでいいのか?」

 

「いいさ」

 

 彼女は笑う。

 何もかも受け入れて。

 何もかも諦めて。

 何千も先を見つめて。

 たまたま全てを知る特権を手に入れたが故に、全てを背負う。

 

 

「僕は、これでいいんだ」

 

 

 




アルマ
1000年を生きた至高の魔法使い
そしてこれからも戦い続ける魔法使い
ウィルが生きた証があればずっと戦い続けられる

大いなる力には大いなる責任を伴う。
その言葉の重みと辛さを知っているから、彼には背負って欲しくなかった


マキナ
>1天単推し過激派
だったけれど、何も言えなくなってしまった

身体も脳髄も、もう何も残っていない魂だけの男
だからせめて二人には心から幸せになってほしかった



掲示板だとギャグになっても、実際は笑えないよねとかハーレムって便利な言葉だよね、みたいな話

前話との高低差で死にそう
聖国編はこれで終わり


感想評価推薦ここすき等頂けるとモチベになります!


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ちぇ、チェキはありかにゃ!?!?

地味に各グレードにサブタイを付けました

GRADE1 Boy meets Girl
GRADE2 Boy meets Girl Again


1665:夏休み終わりの二年主席

気づいたら夏休み終わってたんですが????????????

 

1666:名もなき>1姫祝福の>1天推し

お?

 

1667:名もなき>1姫祝福の>1天推し

>1じゃん

 

1668:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ちょっと久々に見たな

 

1669:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なんか学生ぽいこと言ってて草

 

1670:自動人形職人

学生だしまぁ

 

1671:名もなき>1姫祝福の>1天推し

宿題やった?

 

1672:夏休み終わりの二年主席

宿題は計画的にやってましたけど、

ほんとに聖国から帰ってきて振り返ると夏休みを楽しめてない……!?って愕然としてます

去年はもうちょっと余裕あったんですけど

 

1673:名もなき>1姫祝福の>1天推し

いかにも夏休みって感じだけど

>1らしくない感もある

 

1674:脳髄

聖国編は帰ってきてからが大変に決まってるんだよなぁ

 

1675:名もなき>1姫祝福の>1天推し

それはまぁそう

 

1676:一年主席天才

言うまでもなくクーデターを止めた上に

皇国の皇女様と正式な婚姻だったからね。

 

クーデターに関する褒美と婚姻やらの手続きやら顔合わせで随分と手間取ってたな。

 

1677:名もなき>1姫祝福の>1天推し

天才ちゃん!!

 

1678:名もなき>1姫祝福の>1天推し

僕が希望だよさん!

 

1679:名もなき>1姫祝福の>1天推し

お久しぶり……でもないな

 

1680:自動人形職人

>1がいない間も顔出して魔法理論とかマルチバース雑学教えてくれたりしましたもんね

 

1681:名もなき>1姫祝福の>1天推し

こっちの会話に唐突に現れて解説してくれるけど、

質問には答えてくれないやつ

 

1682:名もなき>1姫祝福の>1天推し

絶妙なありがたさ

 

1683:名もなき>1姫祝福の>1天推し

披露する知識はめっちゃおもろいねんけどなぁ

 

1684:一年主席天才

求められたらすぐに答えが降りてくるわけがないんだよなぁ

 

1685:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うーんこの

 

1686:脳髄

すげー昔に全く同じ流れをやった気がする

 

1687:名もなき>1姫祝福の>1天推し

歴史は繰り返す

 

1688:名もなき>1姫祝福の>1天推し

>1的に何が面白かったとか大変だったとかあるん?

 

1689:夏休み終わりの二年主席

おもしろかったとかいうとアレですけど

爵位と二つ名貰いました

 

 

1690:名もなき>1姫祝福の>1天推し

爵位!?

 

1691:名もなき>1姫祝福の>1天推し

二つ名!?

 

1692:名もなき>1姫祝福の>1天推し

みんな大好きな

 

1693:名もなき>1姫祝福の>1天推し

二つ名!?

 

1694:名もなき>1姫祝福の>1天推し

かっこいいやつじゃん!!

 

1695:名もなき>1姫祝福の>1天推し

>1のかっこいい!!!

 

1696:名もなき>1姫祝福の>1天推し

かっこいい……

 

1697:自動人形職人

かっこいい>1の名前……

 

1698:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うっ……?

 

1699:名もなき>1姫祝福の>1天推し

頭に靄がかかったような……?

 

1700:脳髄

かっこいいよな、『ルビー』!!!

 

1701:名もなき>1姫祝福の>1天推し

あぁ!!

 

1702:名もなき>1姫祝福の>1天推し

アッセブルもいいぞ!

 

1703:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ギャザリング・エッセンス!!

 

1704:名もなき>1姫祝福の>1天推し

かっこいい!!!

 

1705:名もなき>1姫祝福の>1天推し

フォームチェンジって感じだ!!!

 

1706:夏休み終わりの二年主席

かっこいいと思うんですけど

 

1707:名もなき>1姫祝福の>1天推し

私はかっこいいと思います!!

 

1708:夏休み終わりの二年主席

そうですよね!

かっこいい言葉は沢山並べたいですよね!

 

1709:名もなき>1姫祝福の>1天推し

はい!!!

 

1710:名もなき>1姫祝福の>1天推し

>1707

ぜってー配信勇者ちゃんでしょこれ

 

1711:名もなき>1姫祝福の>1天推し

はい!!!

 

1712:一年主席天才

艦長か?

 

1713:名もなき>1姫祝福の>1天推し

はい!!!

 

1714:一年主席天才

ちょっと離席する

 

1715:名もなき>1姫祝福の>1天推し

 

1716:名もなき>1姫祝福の>1天推し

絶対襲撃に行ったよ

 

1717:脳髄

天才ちゃん、基本超上から目線だけど他人に弄られるとマジでキレるし

艦長相手だとさらに上のブチギレするよな

 

1718:名もなき>1姫祝福の>1天推し

こ、心の器……

 

1719:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うける

 

1720:名もなき>1姫祝福の>1天推し

 

1721:名もなき>1姫祝福の>1天推し

は、話が進まねぇ

 

1722:脳髄

>1! それで貴族がどうこうって?

 

1723:夏休み終わりの二年主席

王国の貴族ってまぁ公務員みたいな感じなんですよね。

それぞれがやってる仕事が国営みたいな。

商業に関しても交通とか郵便とか銀行とか民営もありますけど大手は貴族によるものって感じです。

 

1724:名もなき>1姫祝福の>1天推し

あんま貴族が悪さできない感じ

 

1725:名もなき>1姫祝福の>1天推し

悪さしようと思えばまぁいくらでもできそうだけどな

 

1726:自動人形職人

貴族ぽくない感はありますけどね

 

1727:名もなき>1姫祝福の>1天推し

てことは>1もなんか事業やるのか?

 

1728:夏休み終わりの二年主席

いえ、僕の場合は名誉爵位というやつで、一代だけの名誉貴族ですね。

仕事を任されたりはしないんですが、

 

今後僕と僕の家族に限っては税金免除だったり、社交界への参加権だったり、

何か事業始めたら融資してもらえる権利だったり、まぁ色々です。

 

1729:名もなき>1姫祝福の>1天推し

税金免除!?!?!?!?!?!?!

 

1730:名もなき>1姫祝福の>1天推し

はえー、色々ある

 

1731:名もなき>1姫祝福の>1天推し

税金……そんなもんあったな……

 

1732:自動人形職人

事業融資とか羨ましすぎる……それがあれば駆け出しのころかなり楽だったのに……

 

1733:名もなき>1姫祝福の>1天推し

コメントで世界情勢やら個人的都合が伺えておもろい

 

1734:名もなき>1姫祝福の>1天推し

色々特典あるけど、マジで名誉職つーか、報奨って感じだな。

 

1735:夏休み終わりの二年主席

手柄に対して国王陛下が下賜するもので、クリスマスや王女殿下救出やらを聖国と合わせて一番良い物を貰ったわけですね。

二つ名もそれと一緒に。

 

1736:夏休み終わりの二年主席

七耀の彼方(アレキサンドライト)≫ってやつです

 

1737:名もなき>1姫祝福の>1天推し

かっこいいじゃん~~~~!!

 

1738:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ちゃんとかっこいいやつ!

 

1739:脳髄

>1にぴったりじゃねーの

 

1740:名もなき>1姫祝福の>1天推し

虹の向こうにってことか

 

1741:名もなき>1姫祝福の>1天推し

良いネーミングセンスだ

 

1742:自動人形職人

アレキサンドライトもいいねですね

見る角度で色が変わる宝石。

 

1743:名もなき>1姫祝福の>1天推し

あー、ルビーとかトパーズとかにも掛けてるわけね

 

1744:名もなき>1姫祝福の>1天推し

あんま>1の世界で二つ名とか聞かないけど、

ちゃんとあるんだなそういうの

 

1745:夏休み終わりの二年主席

二つ名に関しては学園卒業時に成績優秀者の一部とか生徒会面子はもらえたりするんですよね。

先輩も持ってます。

十字架の叡智(ヘカテイア)≫っていう。

 

1746:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ぽいわ~

 

1747:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ヘカテー?

 

1748:脳髄

究極魔法がそんな感じだったな

 

1749:名もなき>1姫祝福の>1天推し

そういう好きそうだけどあんま名乗ってるの見たことないな

 

1750:名もなき>1姫祝福の>1天推し

つーか先輩が戦ってるとこ自体わりとレアじゃね?

出会った頃にワイバーンにオーバーキルしてたけど

 

1751:自動人形職人

クリスマスの時どうしてましたっけ

 

1752:冒険者公務員

わりと一緒にいたでありますが私が重量制御で足止めてたのを

雑に残党狩りしていたでありますね。ほぼ片手間で

 

1753:名もなき>1姫祝福の>1天推し

前の襲撃の時も余裕あるつーか4人とも全力でもなかったしな

 

1754:夏休み終わりの二年主席

僕も究極魔法は見てるんですけど、全力で戦ってるとこは見たことないんですよね、そういえば。

 

先輩もあんまり使わない……というよりも学園の研究生って言う肩書の方が聞こえが良いって言ってました

 

1755:夏休み終わりの二年主席

称号持ちはそこそこいるんですけど、学園の研究生は今先輩しかいないですし

 

1756:名もなき>1姫祝福の>1天推し

ほう

 

1757:名もなき>1姫祝福の>1天推し

そんなもん?

 

1758:脳髄

あー、レアだけどそこそこ数いる異名持ちよりも

>1の世界の超エリートしかいない学園のさらにエリートの称号名乗ってたほうがいいってことか。

 

1759:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なるほどなぁ

 

1760:名もなき>1姫祝福の>1天推し

お姫様とか鳥ちゃんとか天才ちゃんもそのうち貰えるんかね

 

1761:一年主席天才

二つ名とかありすぎてややこしいから≪天才≫で統一してほしい

 

艦長め、いつの間にか船全体に虚数断層障壁なんて実装しやがって……

突破するのまぁまぁ大変だったぞ。

 

1762:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うお、帰ってきた

 

1763:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なんか凄いこと言ってる?

 

1764:名もなき>1姫祝福の>1天推し

多分

 

1765:名もなき>1姫祝福の>1天推し

どうなったんだ、例の愉快犯

 

1766:名もなき>1姫祝福の>1天推し

謎の宇宙空間? に漂ってたら急に天才さんが現れて砲撃? ビーム?

撃ちまくってきて機関部? が爆発したんですが!!!!!!!!!

 

今から不時着することになったんですが!!!!!!

 

1767:名もなき>1姫祝福の>1天推し

草、いや草じゃないが

 

1768:名もなき>1姫祝福の>1天推し

は、配信勇者ちゃーん!?

 

1769:夏休み終わりの二年主席

だ、大丈夫なんですか?

 

1770:一年主席天才

定期的に襲撃かけて訓練代わりにしてるから問題ないよ

 

1771:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えぇ……?

 

1772:名もなき>1姫祝福の>1天推し

いやこれは草

 

1773:自動人形職人

突発訓練すぎる

 

1774:夏休み終わりの二年主席

勇者さん、強く生きてください!!!

 

1775:名もなき>1姫祝福の>1天推し

はい、ありがとうございます!!!

>1さんも頑張ってください!!!

 

1776:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うおっ、光属性……

 

1777:脳髄

目が焼ける

 

1778:名もなき>1姫祝福の>1天推し

目なんてなくない?

 

1779:脳髄

そうとも言う

 

1780:名もなき>1姫祝福の>1天推し

どう言うんだよ

 

1781:名もなき>1姫祝福の>1天推し

 

1782:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うーんこの

 

1783:名もなき>1姫祝福の>1天推し

いつもの

 

1784:名もなき>1姫祝福の>1天推し

他になんかあったりしたん?

 

1785:夏休み終わりの二年主席

姫殿下とお茶したりとか社交界に引っ張りだこになったとかですかね

そのあたりは御影が上手いことリードしたり牽制したりしてくれたんですが……

 

1786:名もなき>1姫祝福の>1天推し

さす姫

 

1787:名もなき>1姫祝福の>1天推し

良妻の鑑~~~

 

1788:名もなき>1姫祝福の>1天推し

社交界とかも滅茶苦茶上手くやってるのが余裕で想像できる

 

1789:自動人形職人

結婚自体は卒業後なんですっけ

 

1790:夏休み終わりの二年主席

ですね。

 

学園は基本在学中の婚姻とか禁止なんですよ。

 

1791:名もなき>1姫祝福の>1天推し

そりゃいろんな国の王族とか貴族とかおるわけだしな

 

1792:名もなき>1姫祝福の>1天推し

当然っちゃ当然か

 

1793:自動人形職人

タキシードとウェディングドレスのデザインだけでもしておきますか……

 

1794:名もなき>1姫祝福の>1天推し

さす職人

 

1795:名もなき>1姫祝福の>1天推し

頼りになる

 

1796:名もなき>1姫祝福の>1天推し

色々楽しみだなぁ

 

1797:脳髄

まぁ>1の夏休みの楽しみはもう無くなったんですが……

 

1798:夏休み終わりの二年主席

はい……

 

1799:名もなき>1姫祝福の>1天推し

今北産業

 

1800:名もなき>1姫祝福の>1天推し

うわなっつ

 

1801:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なんだそれ

 

1802:名もなき>1姫祝福の>1天推し

>1夏休みおわる

かっこいい二つ名もらう

天才ちゃんがスペース海賊する

 

1803:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なるほど、わからん

 

1804:名もなき>1姫祝福の>1天推し

転生時期によって今北産業通じないんだよなぁ

 

1805:一年主席天才

あ、アイドルくん

やっと来たか。DMしようと思ってた

 

1806:アイドル無双覇者

あ、はいにゃ

 

1807:名もなき>1姫祝福の>1天推し

アイドルネキだったんか

 

1808:名もなき>1姫祝福の>1天推し

天才ちゃんだけ名無し意味してないの冷静になるとおもろ

 

1809:名もなき>1姫祝福の>1天推し

DM?

 

1810:名もなき>1姫祝福の>1天推し

なんかあった?

 

1811:一年主席天才

今君の世界だいぶピンチだよね

 

1812:アイドル無双覇者

にゃー

世界崩壊三歩手前って感じにゃ

 

1813:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えぇ……?

 

1814:名もなき>1姫祝福の>1天推し

マジ?

 

1815:夏休み終わりの二年主席

大丈夫なんですか!?

 

1816:アイドル無双覇者

作戦会議とかは私の仕事じゃないのでむしろ今は暇にゃ

私は基本戦場に突っ込むタイプにゃー

 

1817:一年主席天才

君の世界の≪FAN≫、≪D・E≫に羽化しそうだからちょっと救援行くね

 

1818:アイドル無双覇者

えっ

 

1819:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えっ

 

1820:自動人形職人

えっ

 

1821:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えっ

 

1822:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えっ

 

1823:脳髄

えっ

 

1824:名もなき>1姫祝福の>1天推し

えっ

 

1825:一年主席天才

>1と行くからよろしく

 

1826:夏休み終わりの二年主席

あっ、はい

 

1827:アイドル無双覇者

にゃっ!?!?!?!?!

 

1828:アイドル無双覇者

こ、心の準備が!!!

握手会してくれるのかにゃ!?

 

1829:名もなき>1姫祝福の>1天推し

おいアイドル

 

1830:名もなき>1姫祝福の>1天推し

そんな状況か?

 

1831:名もなき>1姫祝福の>1天推し

混乱してますねぇ!

 

1832:名もなき>1姫祝福の>1天推し

まぁそりゃそうなるよ

 

1833:一年主席天才

ま、実は終わってなかった夏休みの宿題を片付けるようなものさ

 

1834:脳髄

いやでけぇよその宿題

 

1835:アイドル無双覇者

ちぇ、チェキはありかにゃ!?!?

 

 

 




>1
七耀の彼方(アレキサンドライト)
技名は修正された
かっこいいとは思っている

天才ちゃん
掲示板だとほんと上から目線
定期的に艦長に襲撃掛けてたら結果的に伝統的訓練になった

アイドルネキ
お、推しが凸!?!??!!?
ソシャゲの1部最終章みたいな状況
>1天ユニットが見れる……?

配信勇者ちゃん
結構見てる
良い人だなーって>1を見ながら思ってる

次回アイドルネキ編
初めての別アース回なんですが、アイドルネキはちょっと特殊回だったりします


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≪新生トライアングル≫天音ナギサ:FILE0

絆0
嫌いなもの

「人から凄い良いっておすすめされてやってみたら、自分だけ勝手に難易度が最悪になってて馬鹿みたいにロストするゲームとか最悪じゃないかにゃ? え? にゃははは! そりゃゲームの話しにゃー」


 

 アース572、2045年、9月3日。

 新名古屋、新国際連合直属対FAN特殊部隊≪U.N.I.O.N.≫本部、地下53階。

 

 だだ広い無機質な部屋に男はいた。

 短髪を整髪料で丁寧に整え、スリーピース付きのビジネススーツ姿。外見だけ見れば仕事の出来そうな、清潔感のあるビジネスマン。

 どこにでもいそうな男に対して、問題なのは彼の目の前の光景だった。

 

 移動式の台座に縦に固定された担架、それに縛られ、拘束服まで着させられた上で顔全体を覆うマスクも付けられている。両腕もクロスした上でベルトで固定、その上で担架に繋がっている。

 桃色の髪以外の露出が一切なく、指一つさえまともに動かせないだろう徹底した拘束。音階量子変換技術が発展しているアース572現在では珍しい物理的なベルトで拘束されているが、顔のマスクは耳当てを中心に機械的でもある。

 その上完全装備の兵士4人が囲んでいる。

 聞いてはいたが目の当たりして思わず男は眉を顰め、

 

『―――必要な処置だ、レインボーライン支部の指揮官(プロデューサー)

 

 天井に備え付けられたスピーカーから無機質な老人の声が届く。

 

『彼女は強力であるが、しかし我々も手綱を握り切れない。故、全≪U.N.I.O.N.≫支部で最も成果を出すレインボーラインのプロデューサーである君に一任する』

 

「えぇ、解っていますよ。彼女の拘束を解いてください」

 

『……解放したまえ』

 

 彼女の周囲を囲んでいた兵士があわただしい動きで拘束を解いていく。

 全身を縛っていた全てのベルトをほどき、担架から外された。四肢が自由になり、しっかりとした足取りで床に降り立つ。

 彼女を開放してすぐに兵士たちは速足で走り去り、退出した。

 直後、ヘッドホンから電子音が鳴り、ヘッドホン部位を残してマスクが消えて顔が露わになった。

 

 そのヘッドホンがそのまま≪I.D.O.L.≫の歌を≪シンフォニウム粒子≫に変えるコンバーターなのだろう。

 ≪FAN≫。

 Fatal・Animus・Noxious。致命敵対有害生物。

 それに対しては十代少年少女の歌から生み出される≪シンフォニウム粒子≫を媒介にした攻撃でなければ倒せない。

 

「……」

 

 整ってはいるが随分と痩せていた。

 顔中に細かいひっかき傷があり、目元には酷い隈、薄い紫の瞳はひどく濁っている。

 

「…………裏切り、か、新型の、擬態」

 

 ぼそぼそと掠れた声の言葉が質問だと気づくのに、男は一瞬の間を有した。

 

「どちらでもない。俺はプロデューサーだ」

 

「……?」

 

 少女は眉を顰め、噛んだのだろうか、不揃いに伸びた爪でがしがしと頭を掻く。

 

「……誰の」

 

「君の、予定だ」

 

「――――――ひはっ」

 

 ひきつった笑みがこぼれた。

 

「ひ……ひひひっ、ひはははは、ひはは……っ……今更、私にP? 冗談」

 

 ぶつりぶつりと、途切れるような口調。

 声質は光るものを感じるが栄養状態か精神状態か、掠れて聞き取りにくい。

 

「こほっこほっ……ひひーーーおい、どういう、意図」

 

 少女の視線が上に向く。

 澱んだ目は鋭い。

 

『ーーーー必要な処置だ』

 

「ひひっ、そればかり」

 

 スピーカーの声に感情は無く、少女の目も笑っていなかった。

 拘束服の襟が口元まであるために口の動きが解りづらく、壊れたラジオのような喋り方のせいで声が聞き取りにくい。

 それでもプロデューサーは彼女に問いかける。

 

「……君は俺の預かりになる。構わないか?」

 

「構、う」

 

 答え、少女は息を吸い。

 そして、

 

「ふ」

 

 一言目はただの単語。

 たったの一文字。

 

「ふぅぅぅぅぅーーーーー」

 

 それは長い吐息、肺の息を残らず吐き出すような長いブレス。

 

「ーーーーすぅぅぅぅぅぅ」

 

 そして息を吸い、

 

 

《「っあ」

 

                        『あ』

 

「うぅぅうううう」

   

              〈あ〉

 

      <あ>

 

                   《あ》

 

            「うぅぅうううう」

 

   ≪あ≫

 

     「うぅぅうううう」

 

 空気が、音が、空間が、軋んで、撓んで、割れていく。

 ただの「あ」という言葉が吐き出されるだけなのに。 

 発声の際の喉の震えが合間に唸り声となり声と唸りが重なり、一つ一つの音量と音階の違いがあるものを生んでいく。

 

 それは音楽だ。

 それも世に楽器も、言葉さえない原初の時代。

 人がまだ霊長の長ではなかったころ。

 風が産み、星が叫ぶ産声のように。

 ただの音が連なることで音楽が生まれていく。

 

「これは……!」

 

 男は思わず瞠目する。

 ≪IDOL≫の力は歌を≪シンフォニウム粒子≫に変換して様々な力を引き出していく。そのために必要なのが彼女の耳にあるヘッドホンであり、さらに本来は全身に装着した音階増幅装置やインナースーツが≪シンフォニウム粒子≫によって身体強化を行う。

 だが彼女は最低限のコンバーターのみで空気が軋むほどの≪シンフォニウム粒子≫を発生させている。

 

 それは≪スプレッドタイプ≫の力の発現だ。

 

 彼女たち≪アイドル≫は歌いながら戦う都合上、スタイルが三つに分かれる。

 歌いながら徒手空拳や武器で戦うストライカースタイルか。

 歌そのものが攻撃手段になるスプレッドタイプか。

 歌によっての様々な強化や回復を主とするサポートタイプか。

 この3つのタイプは先天的な適正によって分かれ、原則的に3タイプを揃えた3人1ユニットとして構成されている。

 

 そのうち、この原初の歌だけでこうなるのならば間違いなく≪スプレッドタイプ≫。

 100人に届こうという≪IDOL≫のプロデューサーである彼だからこそ直観的に判断。

 

「ぬぅ……!」

 

 思わず拳を握る。

 男のプロデュースに対して、少女は拒絶で答えた。

 つまり男の指揮下に加わるつもりはないということであり、それゆえの戦闘態勢。明らかに精神的にまともではなさそうだったし、戦闘の可能性も事前に織り込み済み。

 

 何より、()()()()()からすればこうなっても仕方がない。

 

 故に握った拳を構え、

 

「!」

 

 次の瞬間、超高速で跳んできた少女に蹴り飛ばされた。

 空気の破裂音と重く鈍い打撃音が男に炸裂し、十数メートルはぶっ飛ばして壁にめり込ませた。

 

「………………馬鹿」

 

 音もなく着地した少女は、ただ一言だけを呟いた。

 広い部屋は戦闘訓練も可能な強化プラスチック素材だ。それに亀裂を入れるほどの勢いで激突したのなら全身の骨の半分くらいは折れているだろう。

 

 少女はプロデューサーが嫌いだ。

 仲間も嫌い。

 ≪IDOL≫も嫌い。

 ≪FAN≫も嫌い。

 ≪UNION≫も嫌い。

 歌だって、嫌いだ。

 この世界さえも。

 

「……最、悪」

 

 そう呟いた瞬間だった。

 

「―――そうでもない! 良い蹴りだった!」

 

「!?」

 

 張り上がる声に仰天する。

 声の発生源は吹き飛ばした壁。土煙が舞う中、男がゆっくりと歩いていく。

 彼はジャケットを脱ぎ捨て、腕をまくる。

 

「ふぅゥゥゥ――――やるじゃあないか」

 

「………………どうして?」

 

 人間相手ならば確実に入院ものの一撃だった。

 弱い≪FAN≫なら消滅していたし、実際≪UNION≫の兵士を何人も病院送りにしていた。

 なのに、その男はまるで意に介していない。

 

「知らいでか!」

 

 彼は笑い、拳を再度構える。

 

「俺の名は大和猛(ヤマト・タケシ)! レインボーライン支部の指揮官(プロデューサー)!」

 

 そして指揮官の役目とは、

 

武闘(ダンス)歌唱(ヴォーカル)装備(ビジュアル)作戦(トーク)連携(コミュニケーション)! その全てを教導指揮(プロデュース)すること! ならば――――プロデューサーである俺が! 一番できないわけがないッッッッ!!」

 

「その理屈は、おかしい」

 

「さぁ―――()()()()()!」

 

「っ」

 

 真正面から名前を呼ばれ、少女の、ナギサの肩が跳ねる。

 

「君に光るものを感じた! さぁ―――一緒に! トップアイドルを目指そうじゃあないかッ!」

 

 

 

 

 

 

 初対面で3時間。

 殴り合った猛とナギサだったが、結局ナギサが根負けして頷くこととなった。

 そして一週間後、レインボーラインプロダクションに所属した時は、

 

「にゃにゃ~! 天音ナギサ、サイキョー無敵アイドルを目指すのでよろしくにゃ!! ちなみにいわゆる必須キャラだと思うから、ちゃんと使って欲しいにゃ!」

 

 猫耳を付け、にこやかな笑みを張りつけた天音ナギサとなっていた。

 史上初の3タイプ網羅したアイドルとしてプロダクション内に激震を走らせ、瞬く間に戦闘参加数がトップとなり、本来3人一組のユニットを二つ編制して6人で任務を行うにもかかわらず、ほぼ全てを単騎出撃でトップ層の戦果を叩き出す、「サイキョー」の名に恥じないアイドルとなった。

 

 他の≪IDOL≫との関係も悪くなかったし、誰とでも仲良くできたので妙な嫉妬を買うこともない。

 ただ、誰にもレインボーラインプロダクションに来る前はどのような経歴だったのか。

 どうして3タイプを網羅しているのか。

 内心何を考えているのか。

 そういったことを決して口にせず、他人に深入りをすることはない――――というよりも、強いは強いが、どういう人物なのか誰にも分からなかった。

 それはプロデューサーである猛も同じだった。

 初めて出会った時の彼女は一度も顔を見せることなく、彼女は彼女のアイドルの仮面を被り続けていた。

 

 彼女の仮面が剥がれたのは、プロダクションに訪れて1年後。

 休暇の海水浴に特殊個体の≪FAN≫が現れてからだった。

 そこで初めて猛は本人の口から聞いた。

 彼女の、この世界への怨嗟を。

 彼女が、この人生で失ったものを。

 ずっとボディシールで隠していた()()()()()()()()も。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、3人分のタイプを持っている理由も。 

 彼女が≪IDOL≫として戦っていることは奇跡に等しいことを。

 

 天音ナギサという少女のことを大和猛と数人の仲間たちはこの時やっと知ることができた。

 

 そして。

 猛は願わずにはいられなかった。

 彼女が幸福を手に入れることを。

 そして。

 

 

 

 

 

 そして、今。

 

「うわ……ちょ……マジ……? うぅぅ……ずずっ……私の世界、ウィル、アルマ……二人、デュエットソング……? そんなこと……ある? ……ずずっ。現実……? 死……てぇてぇ……幸せ過ぎ……死ぬ……うぅぅぅ……ありがとう……ありがとう……!」

 

 世界の存亡をかけた≪IDOL≫たちの最終決戦。

 突如現れた少年と少女から隠れて涙と鼻水を流しながら、どこからか持ち込んでいたサイリウムと『≫1天てぇてぇ』、『ウィルアル最高。僕が君の希望だよ♡』と書かれたうちわをこっそり振っていた。

 

 

 

 




大和猛
戦闘も歌も作戦指揮もメンタルケアも何でもできる万能プロデューサー。
プロデューサーだからなんでもできると思い込んでる。
プロデューサーってそういう仕事じゃないだろ。
基本モブ
筋肉は無駄を絞って極限まで細いタイプ


天音ナギサ(過去)
世界に、歌に絶望した少女。

天音ナギサ(現在)
最強アイドル。人権。
>1天オタク

天音ナギサ(水着)
人権再び。
ストライカーとスプレッドを150の複合新属性を実装してバランスを崩壊させた。


ウィル&アルマ
デュエット歌うってマジ?

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≪新生トライアングル≫天音ナギサ:FILE1

お気に入り登録10000万ありがとうございます!!!!



 

 天音ナギサが転生した時、正直テンションは上がった。

 そしてわりとすぐにテンションは下がっていた。

 

 この世界の現状を理解したからだ。

 

 知っている街どころか世界中が半壊しており、≪FAN≫とかいう化物に侵略されていたのだ。

 物心ついた時、ニュースを見て「あ、これポストアポカリプスじゃん」って思った記憶は鮮明だ。

 近未来なので生活の利便性は上がっていたが、しかし同時に資源不足のせいで不便なところもあってどっこいどっこい。

 あいにく転生特権さえ持っていなかったから転生チートの物語を始める気にもなれなかった。

 前世において嗜んだアニメや小説と話が全く違う。

 

 第二の人生のモチベーションは双子の弟と妹だった。

 天音ユウと天音ウシオ。

 白に近いピンクの髪でいつも元気いっぱいのユウ。

 濃いピンクの髪でいつも元気いっぱいのウシオ。

 つまりはいつも元気いっぱいの弟と妹。

 対して二人の中間くらいの薄目のピンクの髪の長女は前世の性格を引きずって会話が苦手、人見知り、内向的、内弁慶、ネガティブ思考、オタク気質。

 陽の弟妹と陰の姉。

 言葉にすると悲しいが、しかし弟妹はナギサになついてくれたし、ナギサも二人が大好きだった。

 思い返すとついつい単語ばかりでゆっくりと話すナギサの代わりに二人が通訳してくれていたりもしたがまぁいいだろう。

 とにかく弟と妹が可愛い。

 ジャスティス。

 転生人生サイコー! と思った。

 

 転機は10歳の時。

 この世界の子供は10になる前までに≪シンフォニウム粒子≫との適合性の検査が必須である。≪FAN≫との生存競争の真っただ中である以上当然であるし、一定以上の適正が発覚すると≪IDOL≫になる義務も発生する。人付き合いが下手な上に口下手な彼女を慮って、両親が義務ギリギリまで検査を遅らされていたのだが。

 

 天音ナギサは過去最高の適合率を叩き出した。

 

 あれ? 転生特権ってこれじゃね? ―――なんて。ナギサのテンションは上がった。

 ついでに言うと同じタイミングで検査を受けたユウとウシオも、ナギサほどではないが平均を大きく上回る適合率を見せ、3姉弟揃って≪IDOL≫になることになって―――またさらにテンションは上がった。

 大好きな弟妹と3人でユニットを組んで、≪IDOL≫になって世界を救う!

 この世界のアイドルは前世でのアイドルとかなり乖離していたが、それでも華やかなことには変わりない。

 戦う必要もあるが、転生特権のおかげで実力は担保されている。

 前世、インターネットで飽きるほどに読んだ転生小説のように。

 あるいはこれからイケメンのアイドルに何人も出会って求愛されるかもしれない。

 アイドル逆ハーレム、悪くない言葉だ。

 とりあえず何があっても弟妹は絶対に守る。下手な相手は許さない。

 

 そして実際に2年間、≪IDOL≫として華々しく戦い。

 

 3年目の夏、ユウとウシオは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 ≪FAN≫というものにはその強さに応じてレベルが振り分けられている。

 レベル1はただの雑魚。

 レベル2も雑兵

 レベル3はそれらをまとめるリーダー的存在。

 レベル4になると大物となり固有の能力やボス的存在。知性も急に高くなる。歴戦の1ユニットで倒せる限界点が基本的にこことされている。

 そして、レベル5は複数ユニットと熟練の指揮官を前提として倒せるかどうか。自分よりレベルの低いものを軍隊のように従えることもある厄介な存在だ。

 

 ナギサたち3人はそのレベル5とある日遭遇し、そして負けた。

 

 ユウは腰から下が消えていた。

 

 ウシオの頭は肉塊になって、体が残った。

 

 ナギサは喉元から胸に風穴が空いた。

 

 言葉にすれば、結局のところそれだけだ。

 珍しいことではある。

 レベル5の≪FAN≫という強大な存在が唐突に現れるなんて滅多にない。レベル3以下と戦う程度なら≪IDOL≫の死亡率はそこまで高くはない。

 ただそれら可能性はゼロではないし、たまたまナギサたちがババを引いただけの話。

 肉袋になった最愛の弟と妹を見て、彼女は泣け叫ぼうとして。

 喉なんか消えてることに気づいた時には彼女は死んでいた。

 

 そして、ここからが最悪だった。

 

  

 

 

 

 

 死んでいたと思ったら、死んでいなかった。

 ナギサは忘れがちだがこの世界はわりと近未来であり、軽く滅びかけているから部分的な衰退はあるが、部分的な技術は大きく発展している。

 医療関係もそう。

 即死してないければ。あるいはどこぞの脳髄ではないが、脳細胞が完全に死んでいなければ蘇生は不可能ではない。

 だから、結果的に生き残った。

 

 ユウの心臓とウシオの声帯を移植して。

 

 三種に分けられる≪IDOL≫の性質。

 それを≪UNION≫は兼ねてより複合型を生み出せないか画策していたという。

 先天的な才能からソレが生まれるのか、或いは人為的に生み出せるのか。

 ナギサも詳しくは知らないが、多くの研究――――時には非人道的な人体実験も行われたという。

 ナギサの場合が、非人道的だったかと言われると難しい。

 移植すれば複合型が生まれるのならばとっくにしているし、簡単だったはずだ。

 助かる可能性があった姉に、失っていた心臓と≪IDOL≫として必須な声帯を移植したというだけの話。

 ただ、結果的に天音ナギサは3タイプ全てを体現した。 

 

 結果的に――――そう、ただの結果だ。

 

 便利な言葉だ。

 結果的に。

 過程の全てを横において事実だけを記すことができる。

 少なくともナギサはそう思わないとやっていけなかったし、少なくとも2年間は飲み込むことはできなかった。

 

 移植直後、結果だけを述べるなら。

 ナギサは精神を壊した。

 何もかもが憎かったし、嫌になった。

 あんな≪FAN≫が出てくる壊れかけの世界に対しても。

 当時早々にナギサたちの生存を諦めて指揮を放棄したプロデューサーという存在にも。

 こんな手術をした≪UNION≫にも。 

 

 何より、浮かれていた自分に。

 

 転生した第二の生ということをちゃんと見ていなかった。

 高い能力を持ち、弟妹と戦えたことに浮かれて、自分が、ユウとウシオが死ぬことを想定していなかった。

 

 それからは―――壊れたまま≪UNION≫に、単騎による≪FAN≫殲滅の道具にされていた。

 1年ほどは目の前に≪FAN≫がいれば我を忘れて蹂躙した。

 2年目になれば理性的な時間は自傷行為をするようになり、すぐに常時拘束されるようになって。

 3年目、ついに精神が擦り切れそうなった頃に、

 

『さぁ―――一緒に! トップアイドルを目指そうじゃあないかッ!』

 

 あの男が現れた。

 ふざけるんじゃねぇボケとか。

 誰が今更アイドルだアホとか。

 お前それプロデューサーのスペックじゃないだろ転生者かタコとか。

 まぁ色々思ったが。

 結局3時間殴り合いになって、殴り負けて、

 

『…………分かった。やる』

 

 何故か分らないかそんなことを言ってしまった。

 もしかしたら、救いを求めていたかもしれない。

 或いは、脅迫とか恫喝とかそういう類の犯罪かも。

 いまいちそういう犯罪は緩くなっているのでよく覚えてない。

 何にしても物理的に強めの説得をされて、≪IDOL≫を再開することになった。

 

 ただ、天音ナギサとしてはできなかった。

 それをするには彼女はあまりにも自分が嫌いだったから。

 

 だから、そう。

 弟妹のように天真爛漫で、明るくて、ムードメーカーの≪天音ナギサというアイドル≫を作り上げた。

 それ自体に意味はない。

 猫耳やら猫口調も「オタクそういうの好きだろ」という考えから。

 今思うとあまりにも浅い。

 

 そんなこんなで1年は上手くやった。

 アイドルとしての自分の仮面をうまくかぶって、距離感も取れていた。

 2年目の夏、バカンスに行ったらかつてユウとウシオを殺したレベル5の≪FAN≫と遭遇してため込んでいたものをプロデューサーと数人の同僚にぶちまけた。

 そのあたりはちょっと黒歴史。

 それからちょっぴり暖かい記憶。

 そして3年目の夏の終わり。

 ≪IDOL≫としての決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 オペレーション≪ユナイト・ファイナルライブ≫。

 

 2047年9月初頭。

 地中海のある地点で小さな黒い渦が発見され、そこから≪FAN≫の出現が確認された。

 これまでどこから現れるのか不明だった人類の天敵の出現方法の発見に世界中が沸いたが―――その渦がその後世界各地で同時出現した。

 小さいものは直径数メートル。その程度ならば数ユニットの≪IDOL≫が≪シンフォニウム粒子≫をぶつければ消滅できたが。

 

 問題は旧東京上空に出現した100メートル級の渦。

 

 観測されるエネルギーは過去最大級。

 ≪UNION≫本部はそれを観測史上初のレベル6の≪FAN≫と断定。

 これを消去するための膨大な≪シンフォニウム粒子≫を生み出す為に、旧スカイツリーの残骸に粒子増幅装置を設営、即席のライブスタジアムを建設。

 そこに日本≪UNION≫最大戦力であるレインボーラインプロダクション総勢112名のアイドルによってライブを行い≪シンフォニウム粒子≫を増幅蓄積。

 レベル6の≪FAN≫を消滅させるだけの粒子まで達した場合、スタジアムがそのまま粒子砲台となって天上の黒渦を消滅させる。

 それが≪ユナイト・ファイナルライブ≫だ。

 

 アース572、2045年、9月27日、真夜中少し前。

 

 結果的に。

 それは失敗しかけている。

 100人近い≪IDOL≫が数時間かけてぶっ通して体力と気力の限り歌い、踊り、≪シンフォニウム粒子≫を蓄積してきた。

 そして規定量には確かに達した。

 間違いなく観測史上最大の≪シンフォニウム粒子≫。

 にも関わらず、達したと同時に渦が広がり、必要粒子量が足りなくなる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 歌い踊るということは、この世界において戦闘と同義だ。

 ≪シンフォニウム粒子≫の変換の際に精神と体力をただ歌い踊るのとは比べ物にならないほどに消耗が激しい。

 しかしどれだけ死力を潰しても、渦を消滅させるエネルギーは溜まり切らない。

 多くの≪IDOL≫が意識を失うほどに力を使い果たし、絶望し、心が折れそうになった時。

 

 

 ―――――白い火花が門となって広がり、少年と少女が現れた。

 

 




天音ナギサ
結果的に。
全てをそう飲み込んだ。

天音ユウ
ナギサの弟
天真爛漫。
格闘スタイルに長けた少年

天音ウシオ
ナギサの妹
天真爛漫。
武装ユニットの変形とそれによる広範囲攻撃に長けた少女。



ちょっと短めですが、私は前話で「デュエットですわ~」とか言った自分をぶん殴りたいと思っています。アホ。

感想評価いただけるとモチベになります!


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グレイテスト・ショー・オン・マルチバース

生暖かい目で読んでくださいお願いします。
いい感じに音楽を脳内再生もお願いします。



 

 誰もいない巨大なライブステージ。

 天上には漆黒のブラックホール。

 世界の終わりかのような光景の中、ウィル・ストレイトとアルマ・スぺイシアは降り立った。

 色違いの胴着、フード付きのロングコートと肩幕。

 ステージの中央、動きを見せたのはアルマだ。

 

「第193番」

 

 アルマが胸の前で、金細工のブローチの前で、指を組み印を結ぶ。

 ブローチの周囲に白い魔法陣が展開し、金細工が歯車のような音を立てながら動き、内部の宝石が露出する。

 現れたのは輝くエメラルド。

 

「――――≪音の翼が世界に広がり満ちる(フリューゲル・フォン・ムジーク)≫」

 

 カチャリと鍵を開ける音。

 腕を広げると同時に白が緑に、魔法陣が五本の線の円環と共にスタジアム全体に広がった。

 

 そして、全ての光が消滅する。

 

 

 

 

 

「なんだ!? どういうことだナギサ!」

 

 ステージ外周部分にそれぞれユニットごとに用意されていた控室の内、本人の希望で唯一個人用となっていたナギサの部屋。

 ≪IDOL≫たちの様子を確認している最中、たまたま訪れていた猛は声を張り上げた。

 状況が意味不明すぎる。

 当然現れた二人もそうだが、ステージに繋がる扉の外が真っ暗だ。

 夜とか暗闇とかそういう話ではなく、天の渦すら見えない完全な漆黒。

 常人離れした視力を持つ猛でも何も見えない。

 ナギサなら。

 彼女なら何か知っているはず。

 

 そうでなければ自作らしいサイリウムやらうちわを持っているはずがない。

 

「ナギサ!」

 

「静……かに……!」

 

 語気は強く、しかし言葉を短く区切る様な、たどたどしい話し方は天音ナギサ本来の話し方。

 プロデューサーと二人だけの時しか見れないが、しかしそれでもいつも以上に鼻息が荒い。

 いつもなら気だるげに、世界を疎むような気配を纏い、薄い笑みと共に皮肉を言うのに。

 今は目を爛々と輝かせて何かを待ち望んでいる。

 

「これから……私たちは、凄いものを……見るっ! ……多分! あとついでに……この状況も、なんとか、なる!」

 

「凄いものとは!?」

 

「凄い、もの!」

 

 言っていたら、暗闇に変化が起きた。

 ()()()と。

 まるで、そう。スポットライトが舞台を照らすときのようなそんな音と共に。

 ステージの中央、にアルマが現れた。

 真紅のコートも指輪やブローチのような全ての装飾がない、胴着だけ。

 暗闇の中、天から彼女だけを指す光は本当に舞台上のスポットライトのように。

 そして、どこからかゆっくりとした音楽が流れ始め、

 

『―――――あぁ』

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『唱えれば、それだけ幸福なんて』

 

 彼女は弦楽器によって奏でられるであろう音楽に合わせて鈴の鳴る様な声で伸びやかに語り歌う。

 胸の前で組んだ手を空に掲げる。

 

『そんな魔法の言葉があったら、いいのに―――』

 

 そして、最初と同じ消灯音と共に光が消える。

 一瞬、全てが漆黒に包まれて、

 

『あぁ、どうしようどうしよう!』

 

 ステージに光が戻った時、軽快なアップテンポの音楽とそれに合わせた歌声が始まった。

 質素なシャツとズボン、農家の息子と言わんばかりの姿の彼は大げさに頭を抱え、ステップ。ナギサたちから見て舞台中央から外れて少し右。彼の背景にはデフォルメされた森と家。その周囲だけを照らすライト。

 

『できることが多すぎて! どうしたらいいか分からない! こんなことじゃあ! こんな風じゃ! 主席なんてできやしない!』

 

 ほぼセリフに近い歌、大げさな歌詞と身振りと踊り。

 そしてあからさまな背景。

 それは、まるで、

 

「………………()()()()()()……!?」

 

 あんぐりとナギサの口が開く。

 思っていたのとまったく違ったから。

 なんで? どういう舞台装置? そう来る!? と思い瞬きを三回。

 

「っ……プロデュー、サー! オペラ、グラス……せめて、双眼鏡……!」

 

 サイリウムとうちわを投げ捨て、猛へ掌を突き出した。

 

「は? いや、何が……」

 

「ミュージカルで、サイリウムやうちわ、振る……馬鹿はいない……!」

 

 それはそうだけども。

 

『おやおや! 面白い特権を持っているね、君!』

 

 言っている間、ナギサたちから見て左側――舞台で言う下手に光。

 真紅のコートを纏い直し、周囲を本棚に囲まれたアルマが現れる。

 

『困っているようだ! 仕方ないね! ここは僕が面倒を見てやろう! 感謝を、したまえよ!』

 

『あぁ! ほんとに!? ありがとうございます!』

 

『おっと、思っていた反応と違うぞ?』

 

 大きく彼女が肩を竦めたら、音楽が変わる。

 より早く、弾むように。

 ステージの半分が暖かな明かりに包まれ、光が弾ける。

 宙に舞う光は一つ一つが音楽だ。

 様々な色を持ち、物理的に存在する音楽の結晶。

 

 アース193。

 このアース572は限られた年代の歌を力と変えるが、その世界では音楽そのものが力を持ち、魔法の様に扱う。

 アルマはその世界法則をそっくりそのまま、このステージに展開しているのだ。

 故に感情が、記憶が、全てが音楽として紡がれ、彼女の魔法も合わさってリアルタイムに舞台装置を再現するミュージカルとして成立している。

 

『ほんとになんて天才さん! 貴方は優しい人なんだろう!』

 

 腕を広げれば光と曲が弾けて衣装が変わる。

 慣れ親しんだ彼の学園の制服に。

 

『貴方が前を向かせてくれた!』

 

 指を鳴らし、前を指す。 

 赤い光と燃えるような音と共に真紅、黒い片角の獅子が現れ雄たけびを上げる。

 

『貴方が道の歩き方を教えてくれた!』

 

 指を鳴らし、右を差す。

 青い光と本をめくる様な音と共に、群青、眼鏡をかけたブリキの人形がかっこいいポーズを取る。

 

『貴方が未来を示してくれた!』

 

 指を鳴らし、背後を指す。

 黄色混じりの白と黒の光と風が吹く音と共に、黒白、翼を備えた案山子が背後で翼をはばたかせた。

 色とりどりの光と音がウィルの中心に渦巻き、集まり、

 

『貴方に感謝を天才さん! 新しい人生に喜びを! きっと! これから! もっともっと、楽しくなるから!』

 

 虹色が弾け、音は何十にも重なり、ステージに木霊する。

 光の飛沫はまるで紙吹雪の様に。どこからともなく響く喝采音。

 何かもが彼の人生を祝福するかのように。

 

「―――」

 

 それが何を意味するかをナギサは知っている。

 あれはナギサが≪IDOL≫を再開して、しばらくした頃。再開したアイドル生活はそれなりに楽しかったけれど、それなりに退屈だった。

 だからそれまでろくに使っていなかった掲示板を見て、たまたまウィルを見つけて。

 

 転生によって幸せを得た人もいることを実感したのだ。

 彼はいつだって、率直に、素直に感情を表現していたから。

 彼女もいつだって、それに対して様々な反応を見せていたから。

 これはそれのリフレイン。

 

『唱えればそれだけで―――』

 

 音楽の中でウィルの言葉が長く紡ぎ。

 そして舞台が再び闇に包まれる。

 次に暗闇の中、スポットライトが孤独に照らし出したのはアルマだけだった。

 

『―――幸福だなんて。そんな魔法の言葉があればいいのに』

 

 さっきまでとは打って変わって、青白く冷たい光。

 右手を冷光に翳し、その光が静かで、寂しげな音楽を奏でていく。

 ゆっくりと、悲しさすら滲ませて、

 

『君は幸福になる権利がある』

 

 声は高らかに。

 けれど静寂に溶けていくように。

 

『君はそれだけの喪失を経験した』

 

 そこには多くの感情が含まれていた。

 悲しみと苦しみ、慰め、慈しみ、切なさ―――そして言葉にできない何か。

 掲げた指の先。

 七色の光の周りに、赤と青、黒白の三色が浮かび舞う。

 

『君はきっと、幸せになれるだろう。無敵のライオン。物知りなブリキ学者。翼を持つ案山子と共に。虹の向こうで、本当の魔法を見つけられるさ』

 

 それはナギサも、誰も知らない彼女の感傷。

 自分がいなくても、ウィルなら大丈夫。そう彼女は思っていたし願っていた。

 マルチバースというあまりにも広い隔たりがあるから。

 全てが悲しみの青白い光の中、世界の誰よりも偉大な魔術師は世界の誰よりも独りぼっちだった。

 

『きっと―――きっと。魔法の言葉がなくても幸せになれる…………』

 

 光と共に声が消える。

 再び闇が降り、次は低く重い音がゆっくりと連続で轟いた。

 続く音楽は息苦しく、おどろおどろしい。黒く、鈍く輝く光の波が暗闇の中からステージを覆う様に溢れ出す。

 舞台転換。

 黒い靄のような化物がステージ上にあふれかえる。

 100人以上が一斉にダンスと歌ができるほどの広さに、

 

『――――死にたいわけじゃなかった!』

 

 たった一人、ウィルだけが闇に囲まれて歌い上げる。

 重低の旋律に飲み込まれそうになりながら、彼は切に思いを言の葉に乗せてていく。

 

『ただ、怖かった。恐ろしかった。大事なものを失うことが! もう一度失ってしまうことが!』

 

 大いなる特権を手に入れて。

 幸福へと導かれて、けれどそれを享受することが、もう一度失ってしまうことが恐ろしい。

 

 その気持ちは、ナギサにだって理解できた。

 

 彼女もまた失って、けれどもう一度与えられた。

 頼りになる、なりすぎるプロデューサー。

 個性豊かな≪IDOL≫の仲間たち。

 季節ごと、毎月ごとに発生するてんやわんやのお祭り騒ぎ。

 それはきっと幸福で、けれど失ったものが大きすぎて受け入れるのが難しかった。

 失った妹と弟に申し訳なくて。

 もう一度幸せになるのが恐ろしくて。

 

『大切なものを失うくらいなら――――』

 

 ―――もう何も大切なんて抱きしめたくない。

 

『――――自分から失っていけばいい』

 

 だけど、ナギサの周りはナギサを放っておかなかった。

 去年の夏。

 妹や弟を殺したレベル5≪FAN≫を今度こそ一人で倒そうとして、負けて、死にかけて。

 

 結果的に――――数人の≪IDOL≫と指揮官と一緒に戦って倒したのだ。

 

 いや結果的に見ても≪IDOL≫と一緒に戦ってる指揮官がいるのはおかしかったが。

 ありがたいことにナギサは助けてくれる人がいた。

 そして、ウィルの場合は、

 

 

『――――そんなこと言わないで』

 

 

 その言葉共に光の門が開き、そこからアルマが登場し―――溢れる光と音が闇の靄を吹き飛ばす。

 光の粒がステージに舞い、虹色が世界を染める。

 その中。

 七色に包まれ、音が一度消え去った中。

 

 

『唱えれば、それだけで幸福なんて』

 

 少女は少年に手を伸ばす。

 

『そんな言葉が――――』

 

 少年が少女の手を取る。

 そして二人はほほ笑み、言葉を重ね、

 

『―――――希望なんだ!』

『―――――希望なのさ!』

 

 音が爆発し、五線譜が舞い踊り、ステージ全体を虹が染め上げる。

 流れ出す明るく、煌びやかな、聞くだけで楽しくなるようなオーケストラ。ステージ上のあちこちで光の色で編まれる様々な楽器がそれぞれを演奏する。

 世界が二人を祝福するように。

 その出会いを寿ぐように。

 

『人生に光が満ち溢れて           』

『          明日へ進む心が弾むんだ!』

 

 二人が揃えてステップを踏み、腕を振るうたびに、音楽の光が弾け舞う。

 ステージ上の黒い靄は溢れる光に触れた瞬間に消えていた。

 

『      掴み受けて踏み出すだけで!』     

『伸ばした手を     踏み出すだけで!』

 

 

『『―――こんなにも幸福に満ちている!』』

 

 

 光の奔流は止まらない。

 発生する≪シンフォニウム粒子≫は天井知らず。

 一人の少年と一人の少女の出会い。そこに込められた想いがこのショーを生み出していた。

 

「これは……凄いな、ナギ……、サ!?」

 

「おぉん……まさか、また……こんな風に、見れる、なんて……何度見ても……てぇてぇ……!」

 

 プロデューサーが彼女を見たら、双眼鏡を目に押し当てたまま号泣していた。

 泣いている間にも何度か目の音楽の転調。

 それまでオーケストラのような音楽だったものから、急にテンポの速いジャズ風の音楽に切り替わる。

 ()()()()()()―――アルマとウィルはステップを踏んだ。

 その中で、ナギサとアルマと目が合った、そんな気がして、

 

「―――?」

 

『どうやら、物好きが、いっぱいいるらしい、ね!』

 

 パチンと指を鳴らし、

 

 ――――――生み出された光の門からマキナが、クロノが、アルカが、ロックが、ソウジが、景が、マエリルが、巴が、御影が、トリウィアが、フォンが飛び出してきた。

 

 

「……………………はぁああああああああああああああああああ!?」

 

 隣のプロデューサーがびっくりして仰け反ったが気づかなかった。

 舞台装置代わりの光の線で再現された、とかではない。

 完全に本人たちだ。

 いつの間にかアルマとウィルも含めて、それぞれがアース572の学生服と科学的パーツが組み合わさったアイドルスーツに変わっている。

 アルマは赤と黒、それに緑を基調としたダブルタイプのジャケットにチェックのミニスカート。マントはインバネスとなり動きと共に舞っている。他の全員も同じように、あのクリスマスの時来ていた服からアレンジされた衣装。

 

『おっと、もう1人足りないかい?』

 

 もう一度指を鳴らし、今度は控室のナギサの前にポータルが開いた。

 

「―――!」

 

「あ、おい、ナギサ、身体の方は――っ」

 

 猛は一度静止しかけた。

 ナギサにしてもこれまでの歌で体力を限界まで消耗していたはずだったから。

 けれど彼は飲み込んだ。

 そのたぐいまれなる観察眼からどういうわけか、ナギサの体力が回復していたことに気づいたから。

 なにより―――ナギサ自身が行くことを望んでいたから。

 だから、状況は全く分らないけれど。

 

「―――行ってこい、ナギサ!」

 

 彼女に吠えた。

 アイドルの背中を押すのが、プロデューサーの役目だから。

 

「にゃ!!」

 

 ポータルを飛び越え、ステージに飛び込む。

 あの日の様に。

 

『さぁ! 楽しもう!』

 

 ウィルとアルマが繋いだ手を掲げ、

 

『―――マルチバース史上最高のステージを!』

 

 そこから先はもう滅茶苦茶だ。

 それぞれが生み出す音楽に統一性なんてない。

 管楽器、打楽器、弦楽器のようなものは勿論、明らかに電子音が鳴ったかと思えば、どうやって作り出したのかもわからないような謎の効果音すら発生する。

 何人もステージ上にいるが統一感なんて全くない。

 だけど、声が重なる。

 

『愉快なバンドを組もう!』

 

 マリエルが見事なワルツを披露する後ろでソウジが剣舞を行い、ロックがサイドチェストポーズで、トリウィアが謎のかっこいいポーズでにらみ合う。

 

『世界の壁なんて大したことないさ!』

 

 巴の妙にキレのある行進の上でフォンがステージ上を飛び回っているし、マキナは何故かパントマイムをし、クロノはアルカに肩車されてぐるぐる回り、御影は見事な日本舞踊みたいなもの優雅に舞う隣では景が高速のブレイクダンス。

 

『だって僕らは繋がっている!』

 

 そしてステージの中央。

 ナギサはアルマとウィルとトライアングルを描いて踊り狂う。

 打ち合わせはしていなかったけれど、動くたびに音楽が弾け、それが互いの届くことでどう動くかを伝えあい、すぐに3人の動きはシンクロし始めた。

 

『あぁ! 転生も悪くない!』

 

 ウィルが腕を振り、

 

『こんな出会いがあるんだから!』

 

 アルマがステップを踏み、

 

『明日も楽しく、生きていこう!』

 

 ナギサが歌声を響かせる。

 結果的に。

 失ったことは変わらないし、失ったものは戻ってこない。

 だけど、それでも。

 過去を振り返った後に、今の自分を見てみれば。

 色んなものを抱えているのだ。

 案外、それだけで人は生きていけたりすると、ナギサは思う。

 あと、推しがあれば最高。

 

『唱えれば、それだけで幸せなんて!』

 

 声が、歌が、心が重なる。

 一緒に足を踏み鳴らし、笑い、声を上げて。

 

『そんな魔法の言葉が希望!』

 

 みんなに囲まれながら、中央でウィルとアルマが手を繋ぐ。

 

『真っすぐな意思の魂で!』

 

 繋いだ手から虹色の五線譜が魔法陣となって広がり、それはステージ全体へと広がっていく。何重にも七色は輝きそれらは天へ昇り―――ウィルとアルマが最後の言葉を叫んだ。

 

 

『――――生きている限り、希望を抱く!』

 

 

 虹色が爆発した。

 高く澄んだ音。

 五線譜が、音符がステージを飛び越え世界に広がり――――()()()()()()()()()()()()()()

 七色の光の粒が雪の様に漂い残る中、全員が並び、揃って一礼。

 再び、ステージから光が消えて。

 舞台の幕は下りた。

 

 

 

 

 

 

「いやいやいやいやどういうことにゃ!?」

 

 幕が下りたと思ったら、控室に転移していた。

 目の前にはアイドル衣装のままのウィルとアルマ。

 二人は汗を流し、頬を上気させたまま、息は切れているが笑っている。

 ウィルは少し首を傾け、

 

「ははは……ちょっと驚かせようと思って」

 

 アルマは得意げに顎を上げた。

 

「サプラーイズ」

 

「サプライズが過ぎるにゃ! なんでみんないるんにゃ!?」

 

「全員僕がDMして直通で呼んだんだよ。ついでに御影たちも。ちょっと踊らないって?」

 

「かっるいにゃ!!」

 

「……失礼。そこの2人。俺はこの場の指揮官なんだが……」

 

「あぁ、悪いね。いきなり介入して」

 

 訝しげに眉を顰める猛に、アルマは軽く肩を竦めた。

 

「少々遠方からナギサの応援に来た者だ。深くは後でナギサにでも聞くと良い」

 

「話していいのかにゃ?」

 

「一人くらいならまぁいいだろう。手短に状況を話す」

 

 アルマが上を指す。

 それは天井ではなく、その先の黒い渦を示しているのだろう。

 

「僕とウィルで、()()()()()()()()()()()()()()()()。これ以上は広がらない」

 

「…………は?」

 

「ってことは……ウィルの特権かにゃ? クリスマスの時みたいな?」

 

「はい、そういうことです。さっきの歌がそのまま術式になってる……らしいですよ?」

 

「じゃなきゃあんなことするか」

 

「アルマはわりとすると思うにゃ……」

 

 『僕の希望だよ♡』は伊達ではない。 

 弄られるのはキレるけど、この最強の魔術師、彼氏自慢には躊躇わないタイプだ。

 

「ついでに言えば、ゲストもいたから≪シンフォニウム粒子≫もおまけで限界値まで蓄積されてるし、さらにおまけでそれぞれの控室で疲れ果ててた≪IDOL≫も回復させておいた」

 

「……君、凄いな。アイドルやらないか?」

 

「むしろ君が凄いな」

 

「これが私のプロデューサーにゃー……って蓄積? まだ解決してないにゃ?」

 

「あぁ」

 

 一つ頷き、アルマは苦笑する。

 

「お膳立てはしたからね。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その世界でできることはその世界の者で。

 変わらないアルマのポリシー。

 ただ、どうしようもないのは手伝う。

 それがウィルと出会って変わったもの。

 

()()()()()()()()()()()()()()()、現実や人生なら余計だ。後は、頑張れ。君らの仲間全員で歌うといいさ」

 

「応援してます。頑張ってください、ナギサさん」

 

「っ……にゃ!」

 

「うおっ!」

 

「わっ」

 

 思わずナギサは二人を抱きしめていた。

 

「ありがとうにゃ、ウィル、アルマ」

 

 ナギサにとって二人はユウとウシオのように―――ではない。

 全く似てないし、出会い方も、関係も違う。

 あの二人は返ってこないし、代わりだっていない。

 けれど多分、妹と弟を失ったせいでぽっかりと空いた大きな穴を埋めてくれたのは、この二人なのだ。

 だから愛おしい。

 結果的に。

 失ったものがあって、得たものがある。

 人生って、そんなものだ。

 

「――よぉし! 二人とも、よぉぉぉぉぉく! 見て聞いていて欲しいニャ!」

 

 二人から離れて笑う。

 素の自分をさらけ出すつもりはない。

 二人には見せたくない。

 別に、このアイドルの自分だって嘘じゃない。 

 少なくともウィルとアルマに対しては。

 二人の前では笑顔で、お気楽で、謎に猫語尾のアイドルなお姉さんでいたいだけ。

 

 

「――――この天音ナギサと、この世界の≪IDOL≫たちの歌を!」

 

 

 

 




天音ナギサ
結果的に。
きっと彼女は失った以上のものを手に入れて行くのでしょう。


「ザ・グレイテスト・ショー・オン・マルチバース」
歌:ウィル&アルマ Feat.愉快な仲間たち
発売未定
アース193の世界法則を展開した上で、歌や踊りそのものが術式となりウィルとアルマの究極魔法≪ドゥム・スピーロー・スペーロー≫を発動させる。
今回は≪IDOL≫の歌に対して絶対倒せない規模に拡大し続ける≪D・E≫卵体の成長阻害が主な効果。
グレイテストショーマンはいいぞ。

この後≪IDOL≫みんなで歌ってめでたしめでたし、だそうです。


デュエットとか無理だ! ミュージカルで行こう!とか考え付いた書き始める自分をぶん殴りたい。
番外編ということでお目こぼしをば。
楽しんでいただけたなら幸いです。

感想評価推薦ここすき頂けるとモチベになります!!

次回から秋のトリウィア編。



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トリウィア・デ・ヴィル

 

「ぬぅぅぅぅ……」

 

 珈琲の香りが漂うトリウィアの研究室に、その部屋の主の唸り声が響く。

 定期的にウィルが片づけをしている部屋は現在小綺麗に片付いている。

 彼女の執務机と椅子はどちらも帝国産の最高級木材を使ったドワーフ製で使い心地や機能性に長け、一見して重厚な雰囲気を醸し出す逸品だ。

 しかし今、彼女は整った顔立ちをしかめ、中空に指を突き出して震わせていた。

 

「流石に、困ってるみたいだね」

 

 そんな彼女に苦笑するのはソファで本を読みながら、ノートにメモをしていたアルマだ。

 手にしていた『王国貴族史~如何にして王国貴族は王国貴族であるか。初代国王による金儲け封鎖方法あの手この手~』を脇に置く。

 

「手ごたえがないわけじゃないんだろう?」

 

「ないわけではないですが。―――アカシック・ライト。力の存在は感じますけれど、どうにも引き出すことができないですね。参りました」

 

「感じるだけで大したものさ。最初の一歩が一番難しいものだしね」

 

 トリウィアがアルマからアカシック・ライト、マルチバースにおける世界法則の干渉と限定的な現実改変による魔法を学び始めて数か月。

 アカシック・ライトという存在を感じることはできたが、しかしアルマのように引き出すことはできないという状態だった。

 当然、それは簡単ではないし、アルマはアカシック・ライトの火花を出すだけで10年かかった。

 そう思えば、トリウィアができないのも無理はないが、

 

「それにしても、詰まっている理由は難しい以外にもありそうだけど」

 

「……分かりますか?」

 

「そりゃあ。今朝からちょっと変だったよ。……ま、最初にウィルが気づいて、言われてみればって感じだったけどね」

 

「……むぅ」

 

 それは。

 なんというか、ちょっと嬉しい。

 

「そうですね……少々どう話したものか迷う所なのですが」

 

「へぇ。それじゃあ、その話をしてくれたら、僕からヒントを出すとかどうかな?」

 

「いいでしょう」

 

 別にそこまで隠す話でもないので頷いたら、アルマに半目で見られた。

 大した話でもない。

 一つ息を吐き、煙草を咥えて火をつける。

 煙を吸い込み、掃き出し、

 

「………………あ、珈琲淹れるの忘れてました」

 

 パチンとアルマが指を鳴らした。

 いつの間にか、目の前に珈琲が置かれていた。

 

「おぉ、ありがとうございます。ほんとに便利」

 

「いいから。変に気になってきただろ」

 

「大した話じゃなんですけど」

 

 トリウィア好みのブラックに口を付けつつ、引き出しから一通の手紙を取り出し、彼女に投げる。

 当然、人差し指と中指で挟み、手首のスナップを効かせてかっこよく、だ。

 対してアルマは呆れた顔で肩を竦めながら同じく二指でキャッチするという器用な反応を見せた。

 

「ふむ……紙質はかなりいいね。王都でもわりと高級店でしか見ないな。それにこの十字架の封蝋は……」

 

「実家からの手紙です」

 

「へぇ」

 

 トリウィアの実家。

 つまりはヴィンダー帝国の大貴族であるフロネシス家、そして両親からだ。

 

「そういえば君は大貴族のお嬢様だったね。長女だったんだっけ」

 

「えぇ。年の離れた弟と妹が二人がいます。随分と会っていませんし、妹二人は母親は違いますけどね」

 

「それは……()()()()()()か」

 

「えぇ。父は妻が三人います」

 

 一夫多妻制は別に珍しくもないが、扱いは国によって様々だ。

 王国では基本的に自由意志であり、当人同士が納得していれば好きにしてよいという風潮がある。聖国では未亡人や親を亡くした若い娘を保護するためや部族間の関係を作るために第二、第三夫人を迎え入れることもある。共和国では一夫一妻制なのでそこは珍しい。

 対して帝国では基本的に貴族だけのものだ。

 そこでは恋愛感情というよりも

 

「まぁ、政治と箔付けみたいなものですよ。家の繋がりの為というのもありますけど。基本的に帝国の貴族は暇で、金を使うか恋愛するしかないですから」

 

「辛辣だね。ま、貴族なんてどこの世界もそんなものさ」

 

「王国は随分違いますけど。何にしても一度も帰ってないですので5年ぶりですね」

 

「ふぅん……君はあれかい? 家とは関係良くないのか?」

 

「ふむ……両親と関係は別に悪くはないんですが」

 

 ただ、

 

「入学前に帝国で色々やらかして……」

 

「えぇ……?」

 

 白けた半目が突き刺さる。

 どうにもウィルとアルマ、それにフォンからはこういう視線を貰うことが多い。

 アルマはいいとして、ウィルとフォンの前ではかっこいい先輩のはずなのだが。

 

「あれは、私が5歳のころ……」

 

「ほう」

 

「初めて連れて行ってもらった帝国の魔法学会で、当時の学長を3時間質問攻めにして泣かせたのが始まりで……」

 

「ちょっと待て」

 

「はい」

 

「……なんで?」

 

「悪気はなかったんですが……。初めての帝国の叡智にテンションが上がり切ってしまって。おまけにその学長の発表、その時は『時代を変える!』みたいなことを言ってたのでいろいろ勉強したかっただけなんですが」

 

「子供の質問だろうと面白がって聞いていたら永遠に終わらず、しかし答えないのは学者としてのプライドが廃るからと答えていたら、気づいたら突かれたくないところを徹底的に深堀された?」

 

「おぉ……流石アルマさん、見て来たかのように!」

 

「いや、うん。大体想像できる」

 

 彼女は嘆息しつついつの間にか手にしていた珈琲を飲む。

 おそらくあれは尋常ではなく濃いやつだ。アルマの珈琲の趣味だけは理解に苦しむ。

 自分の分の珈琲に口を付けつつ思い出す。

 髭を蓄え、豪奢なローブに身を包んだ老人がべそをかいて舞台から引っ込む光景は今思い出すとちょっと面白い。その後すぐに引退してしまったらしいが、どうなったのだろうか。

 

「はぁ……それで終わりなのか?」

 

「いえ。それから学会に足を運ぶたびに質問攻めをして発表者を泣かせていたら、いつの間にか『トリウィア・トイフェル』……つまりは悪魔のトリウィアと呼ばれるようになりまして」

 

「ちょっと語呂がいいの腹立つな……」

 

「その後帝国の軍学校に飛び級で入って同じように先輩を泣かしていたら『悪魔のトリウィア』という歌がプチ流行して」

 

「ほんとに嫌すぎる……」

 

「速攻で卒業したら今度は『さらば悪魔よ』という曲が大流行して、今では帝国の学会では研究発表が終わったらそれを歌うのが習わしだとか……」

 

「い、陰湿……」

 

 わりとレアなアルマのドン引き表情だった。

 別にそれ自体はちょっと面白いので、トリウィア的には構わないのだが。

 

「つまりあれかい? 学会で暴れ過ぎて居場所がないと?」

 

「それもあります」

 

「まだあるのか」

 

「まぁ、はい。とにかくそんな感じで10歳で学校卒業して、こっちに来るまでは個人で色々してたんですが。フロネシス家は帝国の七大貴族……特殊な立ち位置ですが、大貴族は大貴族ですし。それなりに縁談が舞い込んで来たんですよね」

 

「…………まさか、縁談相手の貴族のボンボンも泣かしたのか?」

 

「結論から言うと」

 

「君さぁ」

 

 半目とか呆れとかと通り越したような目だった。

 そういうので興奮する趣味はない。

 御影ではないのだ。

 

「ふぅ」

 

 煙を吸い、吐き出し、

 

「いずれにしても、当時では最多系統の持ちということもありましたし、自分で言うのもなんですが、そこそこの人気でした。ただ、じゃあ誰にするかという話になった時、貴族の政治戦面倒だな……と思って」

 

「思って?」

 

「申し込んできた縁談相手全員並べて面接をしたんですよね」

 

「アホなのか?」

 

「それこそ学会の発表状に並べたら面白かったですね。私より幼い子もいればもう30超えてる大人もいましたし。優越感」

 

「今初めて君が大貴族の長女だと実感したな……」

 

 遺憾ではある。

 最も、貴族はそういう恋愛ゲームが好きなのだが。

 それにしたって、面談相手を面接というのは当然異端だった。

 

「私と討論を行い、当時研究していた魔法理論についての意見を求め、将来設計を聞いて……結局全員泣かしてしまって帰宅しました。やっぱりみんなで『さらば悪魔』を歌っていたそうですね」

 

「滅茶苦茶広まってるじゃないか……ちょっとしたいじめか?」

 

「笑えますよね」

 

 ものすごい口をへの字に曲げると言う珍しいアルマの顔を見れた。

 新しい表情を知れた頃に喜びつつ、

 

「幸いにも両親は私のことを思いやって、結婚相手を選ぶチャンスをくれました。ですがそんな感じで候補が徒党を組んで私とのさよならを歌い出して、慌てて別に見繕いだしたのですがその時はもう遅く、私の相手に名乗り出るような相手は現れませんでしたと。正直、そういう貴族同士の陰湿なり遠回しなやり取りはうんざりでしたし」

 

「………………なんというか。君らしいというか。あれか。御影の政略結婚の話で怒ってたのそういうことかい?」

 

「あれは……少々感情的になりすぎましたね」

 

 少し恥ずかしくなって肩を竦める。

 政略結婚というのは自分自身にとって時間の無駄という印象しかないし、そうでなくてもあの奔放なお姫様が訳の分からない男と結婚なんて面白くなかったという話だ。

 聖国の一件は振り返ると、丸く収まったのでいいのだが。

 ウィルと御影の婚約のことは、トリウィアにとって素直に、そして心から嬉しいことだ。

 

「こほん。君の帝国でのおもしろ過去は解った。それでこの手紙は……開けていいのかい?」

 

「どうぞ」

 

「それでは失礼して……ふむ」

 

 開いた手紙は数枚だけだった。

 しばらくアルマが手紙を読み、トリウィアが煙草を吹かす時間が流れる。

 数分ほど経って、

 

「君の母親が、王都に来るって?」

 

「らしいです」

 

 煙草を持った掌を額に押し当て、珍しく苦虫を噛み潰したような顔をする。

 母親が嫌いなわけではない。

 尊敬もしている。

 ただ、

 

「この5年、手紙のやり取りはしてましたが、直接来るというのは初めてですし、あと1年で研究員も卒業となると、何のために来たか分かりやすいというか、予想すると面倒だなというか……」

 

「今度こそ結婚させられるか?」

 

「わりとありえますね。というか、後輩君や御影さんの例は特殊でしたが、帝国出身の女生徒が卒業して帰ったら即結婚なんてよくありますしね。名誉や箔というなら最大級ですし、引く手数多です」

 

「君の場合は?」

 

「………………」

 

 6年経って、過去が忘れられているとも思えない。

 研究者としてなら、学園に入学してからの方が成果を上げているのでむしろ色々尾ひれをついてくる可能性もある。

 そんな自分の婚約相手に選ばれるような輩は、多分ちょっと頭がおかしい。

 

「面倒だね」

 

「はい」

 

「ウィルと結婚すればいいんじゃないか?」

 

「……………………アルマさん」

 

「うん」

 

「そういう、面倒だからで選ぶのはどうかと」

 

「くくっ」

 

 彼女が顎を小さく上げて笑う。

 大人びた笑みだった。

 彼女はトリウィアに対してそういう表情をすることが多い。

 概ね、魔法を学ぶトリウィアの隣で外見に見合わない笑みで見守ってくれている。

 妹に対する姉のような。娘に対する母のような。孫に対する祖母のような。

 そんな視線を見るたびに、彼女が外見通りの年齢ではなく、1000年を生きた偉大なる魔法使いということを思い出す。

 その表情で見守られるのはいつもどこか体がくすぐったい。

 

「こほんっ……とにかく。母が来るということは今の私にとっては面倒事が大きい故に、それに気を取られていたわけです。或いは別に卒業前に顔見に来ただけかもしれませんけど。ほら、事情は説明しましたし、ヒントをいただけますか?」

 

「くくっ……あぁ、勿論。わかったわかった、そう睨むなよ」

 

 一しきり笑った後、彼女は万年筆を握った手を掲げ、

 

「僕はいつも魔法を使う時……系統魔法だろうがアカシック・ライトだろうが、どっちにしても確かに指や手、腕が発動媒体だ」

 

 指が動き、ペンが跳ねる。

 五指それぞれの周りを、親指から順番にくるくると回り、手首まで行ったかと思えばスナップで小指にひっかかり、今後は先ほどとは逆再生の様に指を軸に回転していく。

 

「フィンガーダンス……タッキングって言うんだけど。こっちの世界にはないかな、とにかく指の動きを使っているのは()()()だね」

 

 言ってる間にも万年筆は動きを止まらなかった。

 手からペンが跳ね、ペンの尻が人差し指に静止した。

 そのまま珈琲を飲むが、指先も万年筆はピクリとも動かない。

 

「……大した器用さですね。癖……癖?」

 

 癖。

 その言葉に眉を顰め、煙草を灰皿に押し付ける。

 つまり、

 

「アカシック・ライトを使うのに、アルマさんと同じ動きをする必要はない、と?」

 

「だね。むしろ慣れない動きで集中力削れて逆効果じゃないかな」

 

「……………………なるほど」

 

 盲点だった。

 新しい煙草に火を点け、

 

「アルマさんは言うまでもなく、後輩君も手で行っているのでそういうものかと思ってましたね」

 

「もっと早く教えたほうが良かったかい?」

 

「いえ。トライアンドエラーは基本ですからね。むしろ感謝します」

 

 返しつつ、煙を吸う。

 

「ふぅ――――」

 

 吐き出しながら考える。

 癖と彼女は言った。 

 つまり自分が一番リラックスして、自然にできるような動きが良い。

 要はルーチンワーク。

 動きそのものに意味はなく、しかし特別な力を感じている。

 だったら、

 

「―――ふむ」

 

 愛銃を取り出す。

 銀色のリボルバー式拳銃。

 少し見つめ、リボルバーを左肩に押し当て、

 

「――――」

 

 一気に左腕を使い、リボルバーを回転させた。

 

 ―――――そして、その回転に伴う様に銃口の先に()()()()が散った。

 

「………………おぉ」

 

「おめでとう、第一歩だ」

 

 アルマは満面の笑みで手を鳴らす。

 そしてマグカップを掲げる。

 

「僕の十年を数か月に短縮したね。やはり君は天才だ」

 

「いえ、先生がよかったのでしょう」

 

 アルマに返すようにトリウィアもマグカップを掲げた。

 胸にあるのは一歩踏み出した僅かな喜び。

 だが、それ以上に、

 

「次はなにを? 私としては着替えの魔法が使える様になりたいですね。あと、飲み物出すのも。それから……」

 

 これから何ができるのかという、大いなる未知への探求心だ。

 

「いやはや、君らしい。もうちょっと喜んでいいものを」

 

 彼女は苦笑し、小さく顎を上げ、

 

「そうだな……まずはアカシック・ライトを十分に引き出せること。それができたら、次は幻術だね」

 

「幻術……幻ですか」

 

「うむ。現実改変はまだ先の話だね。幻術自体は系統魔法でも似たようなことはできるが、アカシック・ライトによるものは自由度が非常に高い。慣れればこの世界の人間は、初見ではまず気づけないレベルで、それこそ舞台一つだってできるようになるさ」

 

「……この前の、別のアースのやつとか?」

 

「あれは……そうだね。そういうことも勿論できる。まずは幻術、それに実体を持たせて、現実の改変はその後だ」

 

「先は長そうです」

 

「燃えるだろう?」

 

「えぇ、実に」

 

 アルマは口端を歪め、そしてトリウィアも珍しくはっきりとわかるくらいに小さく頬を吊り上げた。

 さぁ次は思い、

 

「―――ん」

 

 窓から吹く風の冷たさを感じた。

 見れば、日が落ちようとしていて、ほんの少し身を震わせるような寒さが告げるのは、

 

「…………もう、秋ですね」

 

 




アルマ
トリウィアに対しては純粋な師匠というか年長者オーラたっぷり

トリウィア
アカシック・ライト第一歩。わりと偉業。
帝国学会でトラウマの代名詞になり
帝国社交界でトラウマの代名詞になった女
クルエラかよ

聖国の御影編は聖国の文化のあれこれがメインでしたが
トリウィアは帝国の貴族のあれこれがメインな感じ

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あの先輩、絶対気にしないよ

3698:二年主席

生まれに秘密があって、そこそこ大人になってから知った……みたいなことある人います?

 

3699:名無しの>1天推し

どうしたどうした

 

3700:名無しの>1天推し

急だな

 

3701:名無しの>1天推し

王道といえば王道……だけどなぁ

 

3702:自動人形職人

転生者だとあまり無い気もしますね

 

3703:名無しの>1天推し

生まれた時から意識はっきりしてること多いもんなぁ。

赤ちゃんの時は記憶なくても、すぐに前世の記憶取り戻すのが大半だし

 

3704:名無しの>1天推し

憑依とかだとワンチャンあるくらい?

 

3705:脳髄

漫画とかなら見るけど、やっぱ転生者だと起こりにくい案件なイメージ。

転生特権に隠された使い方が……! とかならともかく

 

3706:名無しの>1天推し

>1もそのパターンだしな

 

3707:名無しの>1天推し

ここのメンツでそういうのなさそう?

 

3708:名無しの>1天推し

しかしそれ聞くってこたぁ

 

3709:名無しの>1天推し

>1、まだなんかあったのか

 

3710:自動人形職人

出生っていうと……>1は帝国の貴族がお母さんでしたよね

もう縁切ってるみたいですけど

 

3711:名無しの>1天推し

お坊ちゃま

 

3712:名無しの>1天推し

こんなお坊ちゃまいたらいくらでも可愛がってるよ

 

3713:名無しの>1天推し

お母さんがそれってことはパッパになんかあったか?

 

3714:二年主席

母関連なんですけど。

母さんの実家の話、これまで全然聞いたこともなかったし

正直興味もなかったんですけど

 

3715:二年主席

母の実家、どうも帝国でも七大貴族とか言われるレベルの大貴族だったぽくて

帝国で最大規模の7つの家の一つとか……

 

3716:名無しの>1天推し

えぇ……

 

3717:脳髄

 

3718:名無しの>1天推し

お坊ちゃまどころじゃないじゃん

 

3719:名無しの>1天推し

七大貴族、かっけぇ~~~~

 

3720:自動人形職人

田舎生まれの実は高い地位の主人公とかどこまでテンプレを……

 

3721:名無しの>1天推し

うける

 

3722:名無しの>1天推し

やば~~

 

3723:名無しの>1天推し

それは……また色々面倒そうな

 

3724:名無しの>1天推し

なんで今更それ分かったん?

 

3725:二年主席

聖国の一件で、御影と婚約したり、二つ名貰ったりしたわけですけど、貴族にもなったじゃないですか。

元々去年のクリスマスの一件で帝国の実家にも伝わってたみたいなんですけど、

僕が貴族になったのもあって会いに来たというわけで……。

 

3726:名無しの>1天推し

あー

 

3727:名無しの>1天推し

なるほど

 

3728:自動人形職人

それは……またなんというか

 

3729:名無しの>1天推し

面倒な気配がする

 

3730:名無しの>1天推し

そう?

 

3731:名無しの>1天推し

マ?

 

3732:名無しの>1天推し

家族の再会ちゃうんか

 

3733:名無しの>1天推し

もし家族の再会望むならクリスマスの一件直後に会いに来ていたのでは

 

3734:名無しの>1天推し

あー……

 

3735:脳髄

貴族のドロドロした先入観が俺を駆り立てるぜ

 

3736:名無しの>1天推し

帝国の貴族って話だけどどんな感じなんだろ

 

3737:一年主席天才

わりとパブリックイメージの中世……実際には転生者の言う華やかな貴族社会って近世なんだけど、それの貴族まんま感ある

 

3738:名無しの>1天推し

おっ、天才ちゃん。

 

3739:名無しの>1天推し

今日は重役出勤ね

 

3740:一年主席天才

>1がおばあさんと会ってる間、先輩殿から>1の家の話色々聞いてた。

 

3741:名無しの>1天推し

おー

 

3742:名無しの>1天推し

お祖母ちゃんが来たのか

 

3743:二年主席

です。まだ50代とかだったので思ったより若かったですね。

祖母自体は優しそうというか、会って母の話とか学園の話とかしてわりと和やかに済みました

 

3744:名無しの>1天推し

ほうほう

 

3745:名無しの>1天推し

確かに祖母ちゃんでそれは若いな

 

3746:名無しの>1天推し

貴族の令嬢なら十代半ばとか後半くらいで結婚も珍しくないでしょうしね

 

3747:名無しの>1天推し

確かに

 

3748:脳髄

先輩から聞いた話はどんな感じだったん?

 

3749:一年主席天才

>1の……というか>1のお義母さんの実家は、アンドレイア家という。

古代ギリシア語の勇気であり、帝国では武家の名門らしい。

 

ちなみに先輩殿のフロネシスは同じく古代ギリシア語で叡智。

やはり古代ギリシアにおける「七つの枢要徳」から来てるようだね。

他の七大貴族も、それと対応してる家名だった。

 

3750:名無しの>1天推し

ほー、勇気

 

3751:名無しの>1天推し

すうよーとく。あんま聞いたことないなぁ

 

3752:一年主席天才

みんな大好き七つの大罪の反対

 

3753:名無しの>1天推し

あーね

 

3754:名無しの>1天推し

七つの大罪なら解る

 

3755:名無しの>1天推し

みんな好き

 

3756:名無しの>1天推し

でもリアルに敵に出てくるとげんなりする

 

3757:自動人形職人

>1の世界、7って数字大好きですね

 

3758:二年主席

7属性が世界の根幹ですし、色々7って数字が基準ですね。

時間は24時間60分60秒なのでよく考えると違和感ありますけど、まぁそこは便利なのでいいですし。

 

あとはまぁ7+1で8とか系統の5とかも。

 

3759:名無しの>1天推し

そのあたりは世界によるやつね

 

3760:一年主席天才

うむ。

 

それでここで問題の一端>1の本家のアンドレイア家と先輩殿のフロネシス家。

この家は大体ひっっじょ~~~~~~に仲が、悪いということ。

 

3761:一年主席天才

というかフロネシス家は他の七大貴族の六家から蛇蝎の如く嫌われているらしい。

 

3762:名無しの>1天推し

えぇ……?

 

3763:名無しの>1天推し

なんで……?

 

3764:名無しの>1天推し

よく七大貴族にひとくくりにされてんな

 

3765:脳髄

うける。

学会で嫌われ社交界で嫌われて家としても嫌われてるとか

あの先輩針の筵すぎるでしょ

 

3766:名無しの>1天推し

そのわりには人生エンジョイしまくってるけどなあの先輩

 

3767:名無しの>1天推し

おもしれー女

 

3768:自動人形職人

なにか理由があって嫌われてるんですか?

 

3769:一年主席天才

それはちょっと説明が長くなるのでまぁいいよ。

近世貴族社会について蘊蓄垂れないといけないことになるからね。

 

一言でいうとフロネシス家はフランス革命みたいなことが起きないようにするためのストッパーみたいなもの。

 

3770:名無しの>1天推し

あーん?

 

3771:ステゴロお嬢様

はいはいはいはい。理解しましたわ。

そりゃ他の貴族から嫌われますわ。

 

3772:暗殺王

同じく。

貴族から嫌われつつ、皇帝から重宝されているだろうし、そういうとこもあるだろうな

 

3773:名無しの>1天推し

おっ、コテハン勢身分高い組

 

3774:名無しの>1天推し

平民には分らん話だ

 

3775:名無しの>1天推し

どういうこっちゃ

 

3776:ステゴロお嬢様

天才さんの言う通り話が長いので、>1の話が終わったら私か王様ニキでやっておきましょう

 

3777:名無しの>1天推し

うっす

 

3778:名無しの>1天推し

助かる

 

3779:脳髄

人材豊富なスレだぜ

 

3780:一年主席天才

まぁこれだけなら別に>1にはあんまり関係ない話だったんが。

別に家門の一人というわけではないし

 

3781:名無しの>1天推し

確かに、今更そんなって感じよな

 

3782:名無しの>1天推し

あの先輩、絶対気にしないよ

 

3783:名無しの>1天推し

むしろ楽しんでそう

 

3784:自動人形職人

それで、家同士の関係以外に何か問題が?

 

3785:二年主席

祖母から、その。

 

お見合いを勧められまして。

 

3786:脳髄

アァァ~~~~~~??????

 

3787:自動人形職人

貴族すぐそういうことする

 

3788:暗殺王

これはありえぬなぁ!

 

3789:ステゴロお嬢様

殴り込み案件ですわ~~~~~~!!

 

3790:サイバーヤクザい師

暴動ものだよなァ!!

 

3791:奴隷童貞冒険者

今更出てこられても認められないっす~~~~~!!!!

 

3792:冒険者公務員

お姫様! 先輩! 鳥ちゃん! 天才ちゃん!

これが私たちの>1ヒロインカルテットであります!!!!!

 

3793:アイドル無双覇者

大炎上にゃ~~~~~~~!!!

 

3794:名無しの>1天推し

コテハン勢拗らせすぎだろ

 

3795:名無しの>1天推し

うける

 

3796:名無しの>1天推し

いっつも全員おる

 

3797:二年主席

僕も断ったんですけど「いいからいいから」「そういうものだから」と聞いてくれなくて。

とりあえず会うだけって感じなんですけど、悪気ゼロだったせいで断りきれず……

 

3798:名無しの>1天推し

めんど~~~~

 

3799:名無しの>1天推し

悪気ゼロなのも逆に困るな

 

3800:一年主席天才

帝国は第二夫人とか愛人とか、箔付けの意味合いもあるらしいしね。

 

3801:脳髄

天才ちゃんはそれでいいんか~~~~~????

 

3802:一年主席天才

相手を知らないしなんとも

 

3803:名無しの>1天推し

ん?

 

3804:名無しの>1天推し

相手の情報ないの?

 

3805:二年主席

絶対気に入るとか会ってからのお楽しみとかで教えてくれなかったですね

いやほんと勢いに押されました

 

3806:ステゴロお嬢様

きな臭いですわ

 

3807:名無しの>1天推し

>1的に今のお気持ちは

 

3808:二年主席

正直、気が進まないですね

御影との婚約最近のことですし、天才さんもいますし

 

3809:名無しの脳髄自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し

さす>1

 

3810:一年主席天才

全員でバグを使いこなすな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今、何と言いましたか。お母様」

 

 トリウィアの研究所。

 彼女は一人の女性と向かい合っていた。

 初老手前の痩せた女。

 トリウィアと同じ髪とオッドアイに、シルバーフレームの丸眼鏡。

 表情は無く、外見も相まって年を重ねたトリウィアという印象。

 それも当然であり、彼女の母、アイネス・フロネシス。

 彼女は煙管を吹かしながら娘の言葉に応える。

 

「見合いの相手を見繕いました。予想はしていたでしょう」

 

「……」

 

 していた。

 確率が高い、しかしてあってほしくなかった予想だ。

 煙草を手にした掌を額に当てたトリウィアは微かに頬を引きつらせる。

 

「……お母様。だとしても、私の相手に名乗り出るような相手は帝国にいないでしょう」

 

「はい。ですが、しないわけにはいかない。それは解っているでしょう。お前はフロネシス家の長女なのですから」

 

「……」

 

 それも、その通り。

 結婚をしたいとは思わない。

 トリウィアの研究である系統魔法の汎用性普及の為には系統の組み合わせを網羅した上で、さらにはそれを世界中に普及させなければならない。それにはきっと膨大な時間がかかる。

 だが帝国の七大貴族の長女として、しないわけにはいかないのが実情だ。

 残念ながらそれはそういうものなのだ。

 

「…………では、誰が? 私と見合いをしようなどという数寄者は」

 

「アンドレイア家の者です」

 

「はぁ?」

 

 彼女らしからぬ間抜けな声が上がった。

 アンドレイア。

 帝国七大貴族の一つ、武門の最名家であり、フロネシス家の貴族界における役割の都合上、政略的に敵対し続けている家でもある。

 かつてトリウィアが婚約候補者たちを並べた時、アンドレイア家からは出てこなかった。

 そして、或いはもう一つ思うこともある。

 

「言いたいことは分かります。なので、断ってもいいでしょう。その場合、アスレカが相手になりますね」

 

「……アスレカお母様じゃないですか」

 

「知っての通り、アスレカは夫の第三夫人ですが、あれは両親が急逝し、保護するための措置。年は二十五といささかとうが立ってはいますが、教養も器量も問題ありません。あの人も彼女に手を付けていませんし。なので、お前が断れば、彼女になるだけです」

 

「…………」

 

 なら、態々私に声を掛けなくても、という言葉は喉までで飲み込んだ。

 貴族の娘で結婚できないままというのは社交界では恥だ。

 むしろ、こうして王国まで来て話をしてくれるだけ母は自分を慮ってくれている。

 それよりも気になるのはアンドレイアという家名だ。

 

 なぜならば。

 それはウィルの母親、ベアトリスの家名でもある。

 既に家名を捨てた彼女はフロネシスである自分に対して確執を見せなかったので自分も同じように接した。

 ならばと。

 うなじが、()()()()する。

 それは不安か期待か。

 

「それで…………相手は?」

 

「はい」

 

 母はすぐには答えなかった。

 

「アンドレイア家との確執は長く、深い。……ですが、お前の学会や社交界での立場についてアンドレイアの奥方と話す機会がありました。彼女は一人娘がかつて出奔したことに心を痛めておいでで、故に……そう、意気投合したのです。だから」

 

 まだわからない。

 トリウィアの知る限りアンドレイア家には傍流も含めれば年頃の男はそれなりにいる。

 しかし、もしも。

 もしかしたら。

 

「お前と親交があるウィル・ストレイト。アンドレイア家の直系。家名は排していても、血の繋がりは排せない。名誉貴族となった以上、繋がりがあって損はない。――――えぇ、私はお前に彼の少年との婚約を勧めに来たのです。向こうも王国に訪れて同じように話を進めていることでしょう」

 

 

「分かりました受けます実はもう後輩君にはプロポーズされていたりもしたのでちょうどいいですねいつしますか?」

 

 




勘の良い読者なら「あーなんか貴族のお家騒動でなんやかんやあってウィルとトリウィアが婚約するんかな」と思ったでしょう。
ですが、トリウィアはこういうことする。
おもしれー女。

トリウィア
やはりウィルくんですか。結婚しましょう。いつします?

ウィル
トリ院……!?


さて、それではこちらをごらんください

【挿絵表示】


天才ちゃんたちをこれまで書いてくださったひふみつかささん(@Aitrust2517)が表紙風挿絵を描いていただきました!
支援絵……とかいうレベルじゃない。
御影さん唇セクシーだし、
先輩は顔がいいし、
フォンはこういう表情するので解釈一致。
GRADE1ということでハイライトない天才ちゃんの眼も、後ろ姿ながらウィルを見ていていいですね。
ウィルにしても真っすぐな目がイケメン。
虹色の腕輪魔法陣があまりにもかっこいい。セブン・リングス!
描いていただきありがとうございます!
よろしければ拡散よろしくお願いしますわ~!



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教えて、天才ちゃん! 第1回:転生者掲示板

今回はほんとに番外編というか小ネタQ&A的なものです。

読む前に閲覧設定→挿絵表示 有りにすることをおすすめします。


 

【挿絵表示】

 

「んー、こんな感じかな」

 

【挿絵表示】

 

「………………え?」

 

【挿絵表示】

 

「おっと。ちょっとズレた」

 

【挿絵表示】

 

「??????」

「これは、一体……?」

 

【挿絵表示】

 

「ちょっと掲示板の新機能のテスト……と思って」

「顔付けてみた」

 

【挿絵表示】

 

「顔付けてみた!?」

 

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「うむ。まぁ実験なんだけど」

 

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「なるほどね……」

 

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「…………うわ、脳髄!?」

 

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「あぁ! 脳髄だ!!」

 

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「こら、無駄に動くな。地味にリソース使うんだぞ」

 

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「そんな……脳髄しかないのに……」

 

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「視覚化されるとわりとリアルですね……」

 

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「それで、俺たち3人だけなん? 何するん?」

 

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「実はもう1人ゲストがいる」

 

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「どうもこんにちわ、先輩です」

 

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「先輩!?」

 

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「え? これ転生掲示板の機能だよな? 先輩、転生者だったん?」

 

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「ふっ……実は……」

 

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「いやいやいや、違うから」

 

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「ふっ……はい」

 

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「先輩……」

 

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「うける」

 

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「まぁちょっと思いついてアイコン付きの会話ルーム作ってみたわけだが」

「掲示板は別に転生者の特権でもないしね。職人の彼のメイド嫁とかも顔出したし、艦長も別に転生者ではないし」

 

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「へぇ~」

 

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「脳髄だっているしな!」

 

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「だから浮くな」

 

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「なるほど……後輩君はいつもこのような感じで話してたんですね」

 

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「いや……まぁ……そうですね……いつもこういう感じで……」

 

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「とかく、試運転の雑談に前々からトリウィアが興味あったし顔出しみたいな感じ」

「ちなみにいつもの連中は見れてるけど、アイコン間に合わなかったのでこの4人だ」

 

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「なるほどね。それでテストつーけどこんな感じでいいん?」

 

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「差し支えなければこの掲示板とやらがどのようなものなのかを知りたいところです」

 

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「あぁ……そうだね。それで行こうか」

 

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「そういえば普通に使ってますけど、色々できますよねこれ」

 

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「転生、憑依、転移者が自らがそう自覚した時点で脳内アクセス可能な次元世界間高次元意識共有領域……小難しく言うとこうなるね」

「まとめて転生者って呼ぶが、僕が転生者になった時にはもうあったね」

 

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「いつからあるとか解ってないんよな」

 

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「というか、各アースごとの時系列の差異のせいで何年前、って明言しにくいというべきか。まぁずっとあるって認識でいいよ」

 

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「転生者同士との会話以外、何ができるんですか?」

 

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「通常の掲示板、掲示板主との視界共有、その1人称視点と3人称視点、その派生で配信、それにクローズドのチャットが追加されたり、ごく一部では個人間の直通ダイレクトメールやお便り募集とか」

 

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「色々あっておもろい」

 

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「僕は基本自分の掲示板使うだけで、それ以外はよく分ってないですねぇ。たまに視点共有してますけど」

 

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「なるほど……転生者というのはスタート時点でそのようなアドバンテージがあるのですね」

 

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「いやー」

 

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「?」

 

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「それがみんなあんま使わないんだよね」

 

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「ホワーイ?」

 

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「まぁ……気持ちはちょっと解る」

 

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「僕はヘヴィユーザーですが……」

 

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「ウィルみたいに長期間ずっと使ってるのは結構レアだね。配信だとまぁ続き物になるけど」

「掲示板だとまぁ匿名面子の会話になるわけだが……」

 

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「転生者、基本キャラ濃くて我が強いから基本話がまとまらないんだよね……」

 

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「そんな……もったいない……私が転生者ならその掲示板を大量に消費して他のアースの知識を無限に集めたいのに……」

 

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「怖いよ」

 

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「相談系もあるにはあるが、アースごとの常識が違い過ぎて参考にできなかったり」

「悪い場合じゃ、俺の世界はこう、いやいやこっちの世界はこう……で煽り合いのレスバが始まって乗っ取りからの自然消滅になったり。むしろこれが多い」

 

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「はえー……僕の掲示板は平和なんですね」

 

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「ふっ……流石私の後輩君!」

 

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「なんで?」

 

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「実際ウィルの掲示板は異常に民度が良いんだよな。コテハン勢の結束が固すぎるというか……」

 

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「ふっ……これが>1天てぇてぇパワーよ……先輩さん、学会で発表しない?」

 

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「アリ、ですね」

 

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「アリなんかい」

 

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「凄い……ボケ役が……増えた……!」

 

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「マキナはキャラだけど、トリウィアは天然なんだよなぁ」

「まぁとにかく、掲示板は基本ほんとにただの知り合いとの暇つぶしトークで使われてる場合が多いね」

「前のクリスマス……建国祭みたいに同じアース内で活動するなら無線通信としては優秀だがそんな機会ほぼないし、色々魔法で代用できるしね」

 

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「ぜひ私もアクセスして色々調べたい所ですが……自分の研究もあるし、アカシックライトもあるのが悩ましい」

「ちなみに言語とかどうなっているんでしょう」

 

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「自動翻訳機能が掲示板通してだとある程度見てる人に伝わりやすいようにニュアンスが調整されるね」

 

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「便利すぎる……!」

 

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「聞けば聞くほど便利なんですけどねぇ」

 

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「ウィルのスレも、しょっぱなに天才ちゃん来なかったらどうなってたことやら」

「俺も脳髄なんだけどどうしたらいい?ってスレ立てればよかったかー」

 

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「みんなちゃんと使わないのはこういうことだよ!」

 

 

 






というわけで藻塩もなかさん(@momaca_ususio)よりアイコン風ドット絵支援を頂きました!
なのでこういうちょっとハーメルンの機能活用したアイコン風チャット回
ホライゾンとかのアレのイメージ。
こういうの掲示板の機能で色々実装できるので便利ですね。

現在ウィル、アルマ、脳髄、トリウィアがいるので
今後作中話しきれなかった世界観・日常文化的なことをできたらいいかなと。
今回は転生者掲示板回。
ウィルは上手く使ってるけど、世界の違い考えるといまいち役に立たんかもな……ってちょっと思うんですよね。

何かやってほしいQ&Aあると感想とかで描いてもらえると次のネタになるかもです

色々差分貰ったんですが、今回は一部使わせていただいております。

以下おまけ

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ザ・フール

 

「後輩君、ご家族とのお話なんですが……」

 

「あぁ……はい。ちょっと困ったことになりまして……お見合いなんて……」

 

「! なるほどなるほど……しかし貴族の血ともなれば、そういうこともあるのは致し方ないとも言えるでしょうね」

 

「そうなんですかねぇ」

 

「えぇ。帝国では貴族は9割お見合いや家の手配によるものですからね……ちなみに」

 

「はい」

 

「お相手の話は……」

 

「それが、教えてくれないんですよね。絶対気に入るからのごり押しで」

 

「ほう! それはそれは……で、あれば良縁かもしれません」

 

「ですかねぇ……でも、正直、こういう用意されたのは気乗りがしないというか」

 

「えっ」

 

「先輩もこういうのお嫌いでしたよね。気持ちが良く分かりました。僕を思ってくれるのは嬉しいですけど……どうなってもお断りさせていただくと思います」

 

「………………な、なるほど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後生徒会室。

 3人掛けのソファにて。

 ヴィンダー帝国が誇りし、アース111最高峰の傑物。5歳にて帝国学会を揺るがし、多くの老練の学者たちを号泣させ、この世界の最も優れた若者のみが入学できる≪アクシア魔法学園≫を3年間歴代ダントツトップの成績で卒業し、研究員として未だ尚席を置くことを許され、この世界の魔法体系を大きく変えると称えられ。

 次元世界最高の魔法使いであるアルマ・スぺイシアでさえも手放しのその才能を褒めるトリウィア・フロネシス。

 

「あぁ……そんな……後輩君全然断る気満々じゃないですかぁ……どうして……」

 

 彼女は今、ソファに横になりながら死人のようにお腹の上で手を重ね――――戯言をほざいていた。

 行儀が良いのか悪いか分からない状態ではあるが、

 

「トリ先輩さぁ」

 

 片髪を結ったパールはネイルを塗りつつ、

 

「なんでそんなクソボケになっちゃったんすかー?」

 

「ぐふっ……」

 

 クソボケ呼ばわりされたトリウィアは後輩の一言に呻き声を上げるだけだった。

 

「なんだかなー」

 

 その無様な姿に彼女は呆れつつ、

 

「トリっち先輩。この5年ずっと生徒の憧れじゃないですか? 私が入学してからも強さも成績ずっと一番だしー、私は勿論上級生にも下級生にも魔法教えてくれたしぃ? 鳴り物入りで入学して調子に乗ってたカルメンも入学試験の時点でぶちのめしたしぃ。私にとって完璧超人……はまぁ言い過ぎにしても、デキる女って感じだったのに」

 

「そんなことも……ありました……」

 

「色恋沙汰になるとこんなクソボケだったんですねー」

 

「ぐはっ……」

 

 3年間慕ってくれていた後輩の容赦のない一言にデキる女は何も言い返せなかった。

 遠慮も手心もなにもないパールの言葉だが、攻撃する意思というよりも純粋な呆れという風であり、表情も顔全体で呆れを表現していた。

 褐色の少女は何度目かの溜息を吐き、

 

「ねー、アレっちもそう思うでしょー?」

 

 生徒会の隅、備え付けられた小さなキッチンに立つアレス・オリンフォスに声をかけた。

 

「…………」

 

 紅茶を淹れていた彼は何故僕がと眉を潜め、

 

「……………………」

 

 手にしていたティーポットや並んでいるカップや茶葉を見る。

 それは細やかな細工がされた聖国風の最高級茶器一式だった。

 続けて視線をずらせば、皇国風の茶器一式と王国ではなかなか手に入らない最高級茶葉。

 どちらも聖国の一件におけるお詫びと感謝の意味でパール本人と御影の姉、甘楽から個人的にあの時参加していた面子に送られたものだ。

 聖国風のそれは本来教皇が使っていてもおかしくないものだし、皇国式のそれはちょっとした屋敷が立つレベルに高価なもの。

 

 本来、生徒会役員ではないアレスがこの部屋に放課後入りびたる理由はないし、アレス自身も望むことではない。

 できることならばなるべく他人と関わらず、距離を取りたいというのが彼の心情だ。

 

 だが、彼にとって唯一の趣味と言えるのが紅茶である。

 そしてそんな彼にとって聖国産最高級茶器は金塊の山に等しかった。

 他人と距離を取りたいという心情を脅かすほどに。

 

 さらにいえば現生徒会面子は茶器に対する興味は薄かった。

 ウィルはなんか凄いんだなぁ程度にしか思わなかったし、トリウィアは製作者と材質を確認すれば満足、アルマは少し褒め、カルメンとフォンは器よりも中身の味と量。

 さらに贈り手の妹である御影から言われた。

 

『あぁ、アレスよ。お前も巻き込んでしまったし。詫びというわけではないんだが……これ、この部屋でなら好きに使っていいぞ?』

 

 アレス・オリンフォスは迷った。

 それは迷った。

 このちょっと頭の螺子が緩みまくった生徒会の中に混じるのは頭痛と胃痛の問題で避けたい。

 だが、この素晴らしい器具に日常的に触れられるのはあまりにも人生の質の向上に繋がる。

 迷いに迷って休日、ジョン・ドゥにも相談しかけたがそれよりも前にウザ絡みされたので何も言わなかった。

 

 結局の所。

 散々悩んだアレスは高級茶器に釣られて放課後、日々生徒会室に顔を出すようになった。

 なんのかんの、仕事中のみんなにそれぞれの好みに合わせたお茶を出すあたり彼の性格が現れていた。

 

「…………同意を求められましても」

 

 彼は嘆息しつつトレイに自分の分のストレートの紅茶、パールのスパイスミルクティー、さらにはトリウィアのブラックコーヒーを乗せて運ぶ。

 

「どうぞ」

 

「ありがとー! アレちのお茶はほんと美味しいよねぇ。私がいれてもこうはならないぜー」

 

「どうも……そこにおいといてください……今の私にアレス君の珈琲は相応しくない……」

 

「いやせっかく淹れたんだから飲んで欲しいですが……」

 

 なにやら顔は青く、口から魂的なものがはみ出ている。

 普段から常に無表情で、何を考えているか分らないが今ははっきりと落ち込んでいるのが目に見えた。

 

「色恋沙汰に関して、僕に言えることはあまりないですが……」

 

「アレちモテモテじゃん。陰から見守るファンクラブあるよ」

 

「……ないですが」

 

 知りたくなかった。

 

「相手がストレイト先輩であるのなら、別に問題はないのではないでしょうか」

 

 仰向けで倒れるトリウィアの向かい、パールの隣に一人分空けて彼も座る。

 紅茶の香りとティーカップの美しさに息を吐きつつ、

 

「あの人なら、お見合いにフロネシス先輩が現れても驚きはすれど、拒否することはないと思いますが」

 

「おぉ、アレち。ウィルちへの解像度高いじゃーん」

 

「……別に、これくらい普通でしょう」

 

「へへへー、まぁでも、アレちの言う通りじゃーん? そのあたりどーなんすか、トリ先輩」

 

「…………それは」

 

 重い動きでトリウィアが起き上がる。

 いつもよりも倍時間をかけて、取り出した煙草に火を点けた。

 煙を吸い込み、目を見開いた。

 

「――――――確かに?」

 

 上がるアレスの唸り声。

 

「なんなんですかこの人」

 

「こういう人だからねー」

 

 パールは朗らかに笑い、

 

「でも、実際ウィルちとトリ先輩なら問題ないんじゃないですか?」

 

「ふむ……続けて?」

 

「はぁ。ウィルちもモテモテだけど、アルちゃんが入学時から初々しいいちゃいちゃ見せて横やり入れる余地はなかったし、そもそもずっとミカちゃんが迫ってたからやっぱり付け入る隙もなかったって感じだけど」

 

 ただ、その上で言うのなら、とパールはネイルが塗りたての指を立てる。

 

「トリ先輩にフォンちだってウィルちといつも一緒だったし? 多分、去年の段階で4人がくっつく、みたいな予想していた子は珍しくないと思うよー?」

 

「なんと」

 

「ま、ちゃんと付き合ってみると去年のウィルちはミカちゃんたちにも一線引いてる感じだったので私はどうなんだろ? って思ってたけど。それもこの前の一件でなくなったぽいし」

 

「なんと……」

 

「つまり、トリ先輩も推せばイケる!!」

 

「なんと……!」

 

 そんな光景を、怪しい魔道具を詐欺で売りつけるみたいだなぁとアレスは見ていた。

 いや、流石に失礼だろうか。

 パールというウィルを先輩として、トリウィアを後輩として見て来た彼女が言うのだから。

 

「アレちはどー?」

 

「……僕はトリシラ先輩ほど、ストレイト先輩方を知っているわけではないので何とも言えませんが」

 

 ただ、

 

「聖国の一件、ストレイト先輩は言いました。自らの幸福のためなら何も厭わない、と。実際、あの人は聖国よりも天津院先輩を重視し、行動しました。一国よりも、一国の姫よりも、ただ1人の女性の為に」

 

 紅茶に視線を落とす。

 赤黒い水面に―――誰かの顔が浮かぶ。

 

「……っ」

 

 それを振り払い、

 

「そしてそれはトリウィア先輩だとしても、あの人は同じことをするのではないでしょうか」

 

「…………」

 

 アレスの言葉にトリウィアは黒と青の瞳を何度か瞬かせた。

 彼の赤い目と視線が数秒交わり、

 

「君は、私が思ったよりも後輩君を見ているのですね」

 

「…………いえ、別にそういうわけでは」

 

 居心地が悪くなり、ティーカップに口を付け、

 

「そうですか……そうだったんですか――――――後輩君がそんなに私のことを好きだったなんて……!」

 

「ぶはっ」

 

 戯けた言葉に思わず吹き出してしまった。

 何言ってるんだこの女は。

 

「感謝しますよアレス君……自信が持てました……!」

 

「いや、あの、個人的な見解なんで真に受けられても困るんですが……フロネシス先輩、なんか人格変じゃないですか? ねぇ? 知能指数下がってませんか? というか……今すぐ告白すればいいのでは」

 

「それは……ほら、風情がないでしょう。折角なら劇的に告白は受けたいです。面白くないじゃないですか。お見合いの相手は私です。そうですか。じゃあ……とか。まぁもうプロポーズはされましたけど」

 

「じゃあいいじゃないですか」

 

「後輩君は自覚してないんですが」

 

「ダメじゃないですか」

 

「とにかく私は後輩君はから凄く浪漫に溢れるプロポーズをされたいんです」

 

「なんなんですかこの人」

 

「ふっ……良く見ておくといいよアレち」

 

「なんですか」

 

「初恋は……人格を歪める……!」

 

「………………」

 

 最早唸り声すら出なかった。

 嫌すぎる格言だった。

 

「……トリシラ先輩はそういう経験は……この前聖国に残って色々あったとか……そういうところから助言とか……」

 

「あはは――――残ってる間ずっとムカつくおじさんとあれやれこれやしてたからそういうのマジでない。ない。絶対ない」

 

 鋼鉄の如き笑顔の断言だった。

 ちょっと怖い。

 どうして自分は今こんな所にいるんだろう。

 手にしているティーカップ含め一式のせいか。

 これ持ち帰れないだろうか。

 ダメか。

 

「ここはアルマさんを見習って……いえ、反面教師にして受け入れ態勢を整えなければいけませんね……! 聞くところによれば散々大好き言動しつつ、土壇場で自分から身を引いて、追いかけられた後輩君に押し倒されて問答してやっと想いを吐露したとか。私はそんなことにはならない……!」

 

 あの二人、そんな付き合い方だったのかと、少年は遠い目になった。

 できれば聞きたくなかったし、ここにアルマがいたらブチギレていたのではないだろうか。

 いつまでこの会話に付き合えばいいのだろうかと思い、

 

「……はっ!」

 

 お茶も淹れたのだから今日はもう帰ればいいとアレス・オリンフォスは気づく。

 勢いよく紅茶を飲み切って―――本来こんな飲み方はしたくない―――立ち上がる。

 

「それでは一区切りもついたようなので僕はこれで……」

 

「みんなー! よかったやっぱここにいたー!!!」

 

 腰を上げた瞬間、フォンが部屋に飛び込んできて、中腰の体勢で停止した。

 

「……ん? アレス何してるの? 筋トレ?」

 

「………………………………うぅぅ」

 

 タイミングを失った彼は答えず座り直してしまった。

 隣のパールがここで強引に帰れないあたり損だなと思ったが口には出さなかった。

 

「ふっ……どうしたんですかフォンさん?」

 

「うわトリウィアノリがいつもよりうざいね」

 

「ふふっ、今の私はフォンさんの辛辣な言葉にもへこたれない私ですよ……!」

 

「最悪じゃん……」

 

 フォンは露骨に顔をしかめたが、すぐに気を取り直し、

 

「主がさー」

 

「ほう」

 

「お見合いどうにか回避する方法をあの手この手で考えてるか皆の意見も聞きたいってー」

 

「もうダメです……」

 

「なんなんですかこの人ほんと」

 

「ウケるー」

 

 

 




トリウィア
くそぼけがァーーー!!!
錯乱&キャラブレ中。
先輩はなんかボロボロになってる。
恋愛偏差値がかなり低い言動なあたり、やはりアルマに似てる

アレス
高級茶器に釣られたイケメン
呻き芸

パール
尊敬はしてる。
それはそうとさっさと告ればいいんじゃないってなってる

フォン
うわうざ

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ウルトラ・ロマンティック

 

「夫は……貴女のお爺さんは、ベアトリスが出奔したことに心を痛めてねぇ」

 

 王都のある高級レストラン。

 豪かな屋敷が丸ごと店であり、中庭やテラスまで飲食や歓談の場として使えるその店でウィルは自らの祖母、ウェルギリア・アンドレイアと共に訪れていた。

 着込むのは王国式のスーツではなく、帝国式の礼服だ。

 室内用コートやベストの刺繍多く、装飾も聊か過多に感じる。掲示板では如何にも中世、ないしヨーロッパの男性貴族の華美な恰好と言われたものだった。

 正直、布の量が多くて動きにくく、服に着せられている雰囲気が否めない。

 

 ウェルギリアは50を少し超え、けれど外見はそれ以上の老婆だった。

 結われた髪は元々の灰に白が混じり、若い頃は美しかったであろう顔には深い皺が刻まれている。

 背は低く、腰も少し曲がっており、やはり高価そうなステッキを付きながら歩いている。

 そのドレスは帝国式のフリルや刺繍が多く、スカートが膨らんでいた。掲示板のクロノ(自動人形職人)曰く、クリノリンというフレームで膨らみの形を作っているらしい。

 如何にも、と思ったが、これでも帝国においてはかなり地味だという。

 

 レストランの廊下は清潔で、床は大理石に近いものでありウェルギリアのステッキの音と二人分の足音が響く。 

 

「大戦で戦果を挙げた娘に、お爺さんは結婚相手と新たな地位を用意した。けれど、あの子はそれを受け入れようとせず、貴方のお父さんを紹介して……」

 

「……家出して、帰らなかったと」

 

「えぇ。二十年近く音沙汰無しのまま。貴方の名前を聞いた時は驚きましたし、顔を見てさらに驚きました。……ベアトリスによく似ていますからね」

 

 声色や優しく、祖母の顔にはほほ笑みが浮かんでいる。

 使用人と共に王国に訪れたウェルギリアはウィルに対して優しく朗らかだ。

 ベアトリスは自分の母について何も語らなかった。

 貴族の生まれであるということは知っていたが、しかし七大貴族であるということは聞いてないし、出奔した経緯も同じ。

 だから会うと聞いて、不安の方が大きかった。

 けれどウェルギリアの対応はウィルを慮ったものだ。

 まだぎこちないものの、祖母と孫として少しづつでも距離を縮めようとし、しかし焦らずにいてくれる。

 

 前世において両親が二人とも施設育ちで、ウィルは祖父や祖母というものを知らなかった。

 だからウェルギリアの存在はこそばゆく、嫌ではないけれど、どう接するべきなのか分からない。

 

「これであの子と和解できる……とは思っていないけれど。それでも見ることのできないと思っていた孫を見れて嬉しいわ」

 

 だから。

 だからこそ分からない。

 与えたものによってベアトリスはウェルギリアから離れた。

 なのにどうして、彼女はウィルに対して同じことをするのだろうか。

 

「――――どうしてこんな見合いを、という顔をしているわねぇ。ウィル」

 

「っ……えぇ、はい。失礼ながら、言わせていただくのなら。これでは母さんの時と同じことになるとは思いませんか?」

 

「真っすぐねぇ」

 

 彼女は苦笑し、

 

「えぇ、解った上での行動なの」

 

 足を止めた。

 それからウィルに対して微笑んだ。

 

()()()()()()()()()()

 

「……………………はい?」

 

 言われたことを一瞬理解できず、動きが止まった。

 配信で繋げていた掲示板の面々からも疑問符が上がり―――けれど、アルマとステゴロお嬢様(マリエル)暗殺王(ロック)は何かを察していた。

 

「ふふっ。……いえ、失礼。()()()の仕込みに少々乗せられたかしら。聊か不快にさせたようで……」

 

 彼女はステッキの柄を撫でながら、ウィルへ語り掛ける。

 

「見合いの成立を強要するつもりはないの。けれど、帝国の、それも我がアンドレイア家の血が貴方に流れる以上、今後必ず持ち掛けられるはず。或いは、卒業と同時に見合いの申し込みが殺到するかもしれないわ。それは、嫌よね?」

 

「……えぇ、はい」

 

「だから、今回断るのなら盛大に、はっきりと、怒りを以て拒絶するとよろしい。ウィル・ストレイトは権力戦争を疎み、帝国との婚姻を拒絶した。そういう事実があるのとないのとでは、周りの対応は変わるから」

 

「えぇと……つまり、僕が断るのが前提だと」

 

「相手を気に入ったのなら受け入れてくれればいい。ただ、どちらでも良い、そういうお話よ、ウィル」

 

「はぁ……」

 

「貴方には実感がわかない話かしらねぇ」

 

「はい。……ただ、関わりたいとは思いませんが、慣れないと、とは思っています」

 

 一代とはウィル自身貴族となり、さらには御影と婚約している。

 つまり将来皇国の女王の夫となるのだ。

 いくら皇国がそういった政治のややこしい面が薄いとしても、関わらずにはいられないだろう。

 正直、煩わしいとは思う。

 けれど、それを含めての人生だ。

 

 今のウィルには頼れる人がいっぱいいて、前世よりずっと恵まれているのだから。

 

 そんなことを掲示板で書いたら凄い空気になった。

 

「面倒よねぇ。けれど、帝国はそういう国だから。ただ、今は難しいことは考えなくていいわ。お相手と話して、見合いをどうするかだけを教えて欲しい。そうすれば、後のことは貴方の意に沿うようにすると約束するわ」

 

「……ど、どうも」

 

 ありがたい。

 ありがたいけれど―――やはり、反応に困ってしまう。

 意識を掲示板に向ければ「一度受けて、ウィルが激怒と共に断った」という事実はウィル自身が思うよりも重要らしい。それによって帝国からの干渉を防げることもあるという。

 彼女もまた、ウィルの今後を案じてくれてもいる。

 なのになぜか、彼は祖母の好意を全面的に受け入れることはできなかった。

 

「…………」

 

「……それでは行きましょう。向こうも待っているわ」

 

「……はい」

 

 促され、廊下を歩きだす。

 しばらく足音とステッキが床を叩く音だけ廊下に響き、中庭に出る。

 広く、綺麗な場所だった。

 いくつかの椅子や机があり、植えられた木々や花。噴水は美しく、中庭を横切る様にかなり深さのある小さな人口の川―――というより、流れるプールみたいだなとウィルは思った。

 小さい頃、何度か連れて行ってもらったことがある。

 あの頃、腕白な妹は流れに逆らって泳ごうとして、溺れかけて、自分が助けて母親と妹と3人で笑っていた。

 

「……」

 

 フラッシュバックするぼやけた記憶に首を振る。

 祖母と出会ったからだろうか。今となっては曖昧な、思い出しても仕方のないことを思い出してしまう。悪い記憶ではないが、悪い結末しかない。

 目を伏せ、そして向けた視線の先。

 川のように伸びるプールの上に小さくかかった橋。

 そこに、1人の女性がいた。

 アップに結った青い髪。帝国風の膨らんだスカート、フリルの多い薄い青と白のドレス。細いウェストはコルセットでより強調されていた。

 彼女がこちらを向く。

 黒と深い青のオッドアイに、金縁の丸眼鏡。

 

「―――――ん?」

 

 知っている人だった。

 装いはいつもと違っているけれど、それでもウィルは良く知っていた。

 

「ウィル」

 

「あ、はい」

 

「あれが貴方の見合いの相手よ」

 

 祖母はその名前を告げた。

 

「トリウィア・フロネシス――――貴方も良く知っているだろうけど」

 

 

 

 

 

 

4187:デフォルメ脳髄

>1の見合い絶対阻止する会、解散!!!!!!!!!!

 

4188:1年主席天才

ウケる

 

4189:>1先推し公務員

ひゃっほー!! >1先は最高でありますな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後は若い二人で、というお見合いの常套句はどの世界でも変わらないらしい。

 ウィルの祖母ウェルギリアと、トリウィアの母だというアイネス・フロネシスは簡単な挨拶だけして中庭から去っていった。

 残されたのは互いにいつもとは服装の違う二人だ。

 

「どうも、後輩君」

 

「………………」

 

 何でもないように、トリウィアが声をかけてくる。

 手にするのはいつもの紙巻き煙草とは違い、煙管だった。

 どこからどう見ても良家のお嬢様という雰囲気である。

 かけられた声にウィルは少しなんというか迷った。

 それから、まず一言断って掲示板での配信を切り上げる。

 見合いを拒否するためにアドバイスをもらうつもりだったけれど、トリウィア相手ならば必要ないと判断したからだ。

 

「…………えっと。驚かせたかったとか、そういう話ですか」

 

「ふふ、流石ですね。驚きました?」

 

 言うまでもないが虚勢である。

 「相手が自分だということを黙っていたのは」という問いだが、それに対してトリウィアが何も言わなかったのは、ウィルがわりと本気で見合い対策をしていてメンタルがちょっとやられていたからだ。

 正直、ウィルが来るまでは緊張で自前の煙草を吸い尽くしてしまったので母から煙管を借りているし、開口一番怒られたらどうしようとか考えていた。

 

「驚きました……全く、先輩らしいというかなんというか……最近避けられていたのはそういうことですか」

 

「良かった。怒られるかと思いました」

 

 これに関しては本当である。

 一先ずウィルに怒った様子はないので安心できた。

 そして彼女は改めて気を引き締める。

 日頃から常に無表情なトリウィアだが、感情が表に出ないわけではない。1年半の付き合いで、ウィルは大体自分の感情を読めるようになっていた。

 ここしばらくはトリウィアがウィルを避けていたのと、ウィル自身見合い対策に意識を取られていたので気取られることはなかったけれど。

 この場において、感情を悟られるのはかっこいい先輩ではない―――――なんて、アルマやフォンが聞いたら呆れかえるようなことを思っていた。

 

「それで……えぇと……お見合い相手は先輩なんですよね? あんまり理解が追い付いてないんですけど……僕の家と先輩の家は仲が悪かったのでは?」

 

「えぇ」

 

 煙管を蒸かしながら彼女は答える。

 彼女はあえて視線を川のプールに落し、表情を見せにくいようにしつつ、

 

「フロネシスとアンドレイアの確執は大きかった。……ただ、私は昔帝国で色々やって結婚相手がまるで見つからず、ウェルギリア氏はベアトリスさんとの一件があり、母と後輩君のお祖母さんで意気投合したそうです」

 

「へぇ……仲が悪かったのに、ですか?」

 

「仲が悪いからといって、顔を合わせないわけではないのが社交界というものです」

 

 二人は話し合い、ウェルギリアは娘の相手に困っている気持ちを理解できたし、アイネスにとってウェルギリアの経験は他人事ではなかった。

 そこで話題に上がったのがウィルであり、トリウィアだった。

 

「以前、叙勲式に参加したでしょう? あの時にも帝国の人間は数人いて、踊っている私と後輩君を見て関係が良いということが伝えられていたとか。それで今回の見合いを取り決めたようですね」

 

「はぁ」

 

 生返事。

 流れが分かったが、やはり理解できない――というより、納得しきれなかった。

 

「うぅん……僕と先輩が結婚するだけで解決する話ですか?」

 

「少なくとも両家の関係が良くなるきっかけになるでしょうね。帝国では結婚で元々仲の悪かった家を繋ぐというのはよくある話です」

 

「なる、ほど」

 

 このあたり、御影たちや掲示板でも聞いていたのでいい加減そのあたりはそういうものだと受け入れる。

 その上で、ウェルギリアが見合いを勧めた理由も理解した。

 相手がトリウィアだから、ウィルが受け入れると思ったのだろう。

 

「まぁ、そういうわけです後輩君」

 

「はい」

 

「今更あれこれお互いのことを知ろうという間柄でもないですし、聞いちゃいますけど」

 

 少しだけ、彼女の煙管を握る手に力が入った。

 そして改めてトリウィアはウィルに向き直る。

 青と黒の双眸で、黒を見つめた。

 揶揄うように、けれど本気を込めて。

 

「私と結婚―――したいですか?」

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

「………………………………えっ」

 

 沈黙が流れた。

 トリウィアは断られるとは思っていなかった。

 それくらいにはウィルとの関係は深いものだし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 驚きすぎて、煙管をプールに落としてしまった。

 

「…………………………えっ?」

 

「―――」

 

 呆気にとられたトリウィアに対してウィルは口を開く。

 何故断ったのか。

 彼は何を望んでいるのか。

 彼女に伝えようとした。

 その時だった。

 

 

「―――――いやはや、手間が省けたね」

 

 

 ウィルでもトリウィアでもない声が、二人の耳に届いた。

 

「!!」

 

 声の相手は中庭の扉に背を預け、腕を組む青年だった。

 帝国式の軍服のような紺の儀礼服。ウィルのように着せられているのではなく、それが当然であるかのように着こなしている。

 オールバックにした長めの髪は―――灰色だった。

 

「――――――貴方、は」

 

 その男をトリウィアは知っていた。

 二色の瞳が揺れる。

 彼女の明晰すぎる頭脳が――――その意味を計算してしまったから。

 

「ふっ……察しがいい」

 

「……?」

 

「初めまして……というべきなんだろうな、ウィル・ストレイト」

 

 青年はウィルとあまり変わらない年頃に見えた。

 笑みを浮かべた男はゆっくりと歩み寄り、少し離れた所で止まる。

 次の動きは、芝居がかった一礼だった。

 

「俺はディートハリス・アンドレイア―――君の従兄であり、アンドレイア家次期当主」

 

「………………いと、こ?」

 

「あぁ。君の母親の弟の息子にあたる」

 

 言われ、青年、ディートハリスの顔を見る。

 そして気づく。

 性別の差はあるが、母に、そして、自分自身と似た顔立ちということを。

 ディートハリスは大げさに額に手を当てて息を吐く。

 

「お祖母様の勝手も困ったものだ。孫として、従兄として次期当主として謝罪をさせてほしい、ウィル」

 

「……はぁ」

 

「ふっ、急に言ってもさらに困らせてしまうだけか、いいだろう。それでは簡潔に」

 

 北から来た灰の髪の青年は笑う。

 そして告げた。

 

「この見合いは無し――――そして、トリウィア・フロネシスとの婚約は俺が行おう」

 

 




NTRとか脳破壊は無い(n回目

ウィル
色々納得がいかないし、見合いは断る

トリウィア
………………えっ?
恋愛頭脳戦向いてないよ

ウェルギリア
お祖母ちゃんなりに、ウィルのことを気遣ってはいる



ディートハリス
読者! 新しい間男よ!
愛されくっころおじさんバルマクに続けるか否か


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あの間男の顔面に重力弾ぶち込んでやりましょう!

4231:復帰軍人人妻

昔の装備を引っ張り出してきたであります。

さぁ、天才ちゃん! ポータルを!

あの間男の顔面に重力弾ぶち込んでやりましょう!

 

4232:名無しの>1天推し

怖い怖い怖い

 

4233:脳髄

 

4234:自動人形職人

か、過激派……

 

4235:名無しの>1天推し

もう誰だよ

 

4236:名無しの>1天推し

公務員ネキが元々軍人だったはず

 

4237:復帰軍人人妻

私のアースが現代ダンジョン世界になった最初期に

自衛隊で結成された特殊部隊だったので。結婚して今は引退したでありますが。

 

4238:名無しの>1天推し

それが復帰とかもうハリウッド映画なんよ

 

4239:名無しの>1天推し

ギルドの受付嬢が滅茶苦茶強いやつ……

 

4240:復帰軍人人妻

というわけで! さぁ! 天才ちゃん!!!

 

4241:1年主席天才

そんな理由で空けるわけないだろ馬鹿

 

4242:1年主席天才

あーん?

 

4243:1年主席天才

くそ、モーニングスター撃ち抜くな

なんでクリスマスの時銃持ってこなかったんだ君は

 

4244:復帰軍人人妻

職場から連行だったせいであります!

 

4245:名無しの>1天推し

また無駄に高度なやりとりを……

 

4246:自動人形職人

あのモーニングスター滅茶苦茶堅かったような……

うちのメイドじゃまず無理だったような……

 

4247:自動人形職人

それで昨日どーなったん?

>1、いる?

 

4248:1年主席天才

>1は今生徒会の仕事中だね

 

僕は今日は手が空いてたから色々帝国について調べてたんだが……

 

4249:名無しの>1天推し

新間男君……処す?

 

4250:復帰軍人人妻

処す

 

4251:1年主席天才

いや、まぁ、うーん。

あの従兄君からすると、>1と先輩の結婚に口出すのも無理ないという話なんだが……

 

4252:名無しの>1天推し

そうなの?

 

4253:名無しの>1天推し

写真だけ見たけど、如何にもな貴族のイケメンだったな

 

4254:自動人形職人

ちょっと気障なポーズの写真だったのも解りやすいですね

 

4255:名無しの>1天推し

言動はちょっと解らんが……

 

4256:1年主席天才

クラスの帝国出身の子に聞いてみたんだが

 

4257:脳髄

そんな……友達に聞くなんてことを天才ちゃんが……!?

 

4258:1年主席天才

はっ倒すぞ

 

4259:名無しの>1天推し

 

4260:名無しの>1天推し

うける

 

4261:名無しの>1天推し

まぁ確かに天才ちゃんの教室のイメージできないな……

 

4262:復帰軍人人妻

確かに

 

4263:1年主席天才

急に冷静になるな

 

ディートハリス・アンドレイア。

>1の実家であるアンドレイア家の次期当主で、昨日の見合いで先輩の誘いを>1が断ってから現れたわけだが

 

4264:復帰軍人人妻

そもそもなんで>1は断ったのでありますか。

先輩なら普通に受け入れるかと

 

4265:1年主席天才

えぇい、そのあたりもあとで解説する。

 

これは帝国ではわりと有名な話らしいんだが、アンドレイア家の現当主はウィルの祖父が担っていて、ここ数年かけてディートハリスに少しづつ実権を移しているらしい

 

4266:名無しの>1天推し

あれ、おじいちゃんから孫に?

 

4267:1年主席天才

ディートハリスの父は若い時に体を壊して、祖父の方が長いこと居座っていたそうだ。

ただ、流石に年になってディートハリスに移しているという感じだとか。

彼も3年前……先輩の一つ上の代に魔法学園に入学できる権利はあったそうだが、当主の勉強と引継ぎとで入学しなかったという。

 

4268:名無しの>1天推し

ほー

 

4269:名無しの>1天推し

しっかり時間かけてんな

 

4270:脳髄

>1の世界で学園入らず……っていうとわりと大きい決断だわね

 

4271:名無しの>1天推し

おや、わりと努力の人?

 

4272:1年主席天才

現当主殿の年齢とか根回しとか色々あったんだろう……という推測。

実際7,8割方はディートハリスが家や領地の責務を回している。

 

素行に関しては……わりと評判は良かったね。少なくとも帝国社交界では憧れの相手だったそうだ。

七大貴族の次期当主で、数年かけて下積みもして領民や周囲の人間に対しても上手くやっていたらしい。

 

ここまでが彼に対する聞き取り結果。

 

4273:名無しの>1天推し

おや……今んとこ悪い点がない……?

 

4274:名無しの>1天推し

貴族だからって皆性格悪いわけやないしな……

 

4275:自動人形職人

それはそう

 

4276:復帰軍人人妻

なーんでそんな未来有望なのが王国まで>1と先輩の見合いに口出してるんでありますか?

おかしいでありましょう

 

4277:名無しの>1天推し

うーん? 実はあのパイセンに惚れてたとか……?

 

4278:名無しの>1天推し

いや……

 

4279:名無しの>1天推し

うーん……これは……そりゃ止めに来るかというか……

 

4280:名無しの>1天推し

うん?

 

4281:名無しの>1天推し

貴族組?

 

4282:名無しの>1天推し

解説されます?

 

4283:名無しの>1天推し

いや、今回はそちらに譲ろう

 

4284:ステゴロお嬢様

では

 

4285:自動人形職人

ややこしくなりそうなので一端名無しになりますね

 

4286:ステゴロお嬢様

お気遣い感謝します。

 

えぇと、一先ずまとめると社交界に参加していた婦女方の情報では

ディートハリス氏は素行が問題ない、将来有望な大貴族の次期当主であると

 

4287:1年主席天才

うむ

 

4288:ステゴロお嬢様

確認ですけれど今回のお見合いのことを

現当主やディートハリス氏は、事前に聞いていたんです?

 

4289:1年主席天才

>1のお爺さんは聞いていたけれどほぼ黙認、ディートハリスは知らなかったそうだ。

噂を聞いて後から早馬で王国に来たらしいね

 

4290:ステゴロお嬢様

うぅん……これは……氏の立場なら、絶対に見合いを止めるしかないでしょうね

 

4291:名無しの>1天推し

へぇ?

 

4292:名無しの>1天推し

マジ?

 

4293:復帰軍人人妻

な、何故であります……?

貴族特有のドロドロお家騒動……?

 

4294:ステゴロお嬢様

いや、まぁ当たらずとも遠からずというか……

 

今の>1って、>1の世界の最高学府の生徒会メンバーで、一代とはいえ貴族で、次期皇国女王の婚約者で、世界初の全系統保有者で、聖国のクーデターを止めた二つ名持ちのいわば英雄ないしその卵、というわけじゃないですか

 

おまけに帝国の大貴族の直系

 

4295:名無しの>1天推し

うむ

 

4296:名無しの>1天推し

あぁ!

 

4297:脳髄

改めて羅列されると田舎者からよう来たもんだ

 

4298:名無しの>1天推し

あー……あぁ?

 

4299:ステゴロお嬢様

ここでディートハリス氏の目線に立ってみるんですが

 

これから当主になるっていうのに、そんなとんでもない従兄出てきたら滅茶苦茶嫌じゃありません???

おまけに祖母が、自分には内緒で元々仲の悪い大貴族と婚約させようとしてる従兄ですわよ?

 

 

4300:名無しの>1天推し

あ~~~?

 

4301:名無しの>1天推し

あっ……

 

4302:脳髄

それは……

 

4303:名無しの>1天推し

確かに

 

4304:1年主席天才

うむ……

 

4305:名無しの>1天推し

せやねんな

 

4306:復帰軍人人妻

し、しかし、>1は帝国には関わる気はないですし……

 

4307:ステゴロお嬢様

この場合、>1の意思をディートハリス氏は確認できませんし、

そもそもするしないの意思云々以前問題ですわね。

 

事実だけ見れば>1は完全にディートハリス氏の立場を脅かすに足る立場です。

本人がどうでなくても、例えばディートハリス氏の反派閥や他の七大貴族が裏工作なりすれば、当主交代さえも視野に入れることができる……かもしれない。

 

4308:ステゴロお嬢様

ポイントなのは「できるかもしれない」ということですわね。

 

>1の動向を風説程度でしか確認できない以上、彼からすればたまったものでないですわ。

そりゃあのおばあ様主導の七大貴族の長女である先輩殿の見合いを止めに王国まで来ますわよ

 

4309:名無しの>1天推し

はえ~~~

 

4310:名無しの>1天推し

や、ややこし

 

4311:1年主席天才

立場上の危険分子をどうにかしたいって気持ちは解るんだよなぁ。

まさに今の僕の≪D・E≫への対処と似たようなもんだし

 

4312:ステゴロお嬢様

案外滅茶苦茶大慌ててで王国まで来て超焦って見合いに乱入したかもしれませんわ……

 

4313:名無しの>1天推し

だったらちょっとおもろすぎるだろ

 

4314:名無しの>1天推し

まさか~~~

 

4315:名無しの>1天推し

 

4316:名無しの>1天推し

流石にそんな~

 

4317:脳髄

うーん……となると、祖母ちゃんがちょっと先走ったのがアレか……?

 

4318:ステゴロお嬢様

うーん……聞いた話、先輩の家は他の七大貴族からも嫌われているそうですし、

そう考えると「出奔したとはいえ直系の息子との婚姻により関係が深まる」ということを警戒した他の七大貴族の家から妨害されてもおかしくないですわね……

 

そう考えると大っぴらに進めるのは間違いではないんですが……

 

4319:名無しの>1天推し

ままならないな……

 

4320:名無しの>1天推し

つまり……えぇと、これはどうすれば解決するんだ?

 

4321:復帰軍人人妻

そうであります! >1先のハッピーエンドは!?

 

4322:ステゴロお嬢様

現状ですとなんとも……>1と先輩自身らの目指す着地点が婚約でいいのかという話ですし……

 

4323:名無しの>1天推し

>1が婚約断ったのは……

 

4324:1年主席天才

メリットデメリットの提示で結婚さそわれたからだろうね

 

多分、先輩殿が普通に愛の告白してたら>1は受け入れてただろうに

 

4325:名無しの>1天推し

うーん……まぁ……そうねぇ……

 

4326:脳髄

>1そういうとこあるかんな

 

4327:名無しの>1天推し

そんな理由で結婚したくないのはそう

 

4328:復帰軍人人妻

どうして先輩殿はそんな言葉のチョイスをしたんでありますか……

 

4329:1年主席天才

彼女がどうしようもない恋愛クソザコナメクジなのはまぁそうなんだけど

 

4330:名無しの>1天推し

ん?

 

4331:名無しの>1天推し

ん?

 

4332:復帰軍人人妻

ん?

 

4333:名無しの>1天推し

ん?

 

4334:脳髄

ん?

 

4335:名無しの>1天推し

ん?

 

4336:ステゴロお嬢様

ん?

 

4337:1年主席天才

言いたいことがあるなら言ってみろ……!

 

4338:脳髄

ブーメラン?

 

4339:1年主席天才

あとでアース111用に調整した新技くれてやる

 

これもクラスの帝国の子の話なんだが。

恋愛結婚についてどう思うか聞いたんだよ

 

4340:名無しの>1天推し

お?

 

4341:名無しの>1天推し

これは貴重なアンケート

 

4342:1年主席天才

「そういうの、王国では普通みたいだね」って感じだった

「帝国でも平民ではそうらしいですけど」とも

 

4343:名無しの>1天推し

んー?

 

4344:名無しの>1天推し

なんだ、それ?

 

4345:ステゴロお嬢様

あー……なるほど。先輩殿もそういう……?

 

4346:1年主席天才

そう。

 

多分、あの子にとって……帝国の貴族にとって結婚って恋愛でするものじゃないんだよね。

 

4347:名無しの>1天推し

そんな……

 

4348:名無しの>1天推し

うわ、文化差の話か

 

4349:名無しの>1天推し

そういう前提あるやつ?

 

4350:1年主席天才

貴族同士の政略結婚はよくあるが、

アース111の場合、系統は血統により遺伝する。

 

単なる政治的繋がりだけじゃなく、生まれてくる子供の物理的強度に繋がるわけだ。

おまけに帝国は男尊女卑激しいが、実力主義……というとちょっと矛盾してるけども、先輩殿くらいに突出してればある程度の立場はあるわけで。

 

その先輩殿も貴族間の……言い方は悪いが品種改良の結果……その究極系だ。

聞くところによると人種の平均保有系統数は10前後だが、帝国の七大貴族は20にもなるらしい

 

4351:名無しの>1天推し

うおすっげ

 

4352:名無しの>1天推し

実力主義ってことは平民ワンチャン?って思ったけど、それだと貴族は貴族でずっと強くなりそうだな

 

4353:ステゴロお嬢様

それによって、帝国大貴族は政略的ないし保有系統の増加目的での結婚が前提となる……というわけですわね?

 

4354:1年主席天才

あぁ。

 

質問した子も夫婦の愛は結婚してから深めるものという認識らしい。

愛や恋は結婚して子供を作って、その後……というわけだね。

 

4355:名無しの>1天推し

滅茶苦茶純粋な疑問なんだけど、性格合わなかったらどーすんの?

 

4356:1年主席天才

男なら第二夫人や愛人、女でも愛人は別に珍しくもないらしい。

血の広がりは防ぐために避妊魔法の精度は帝国式が一番高いとか。

 

4357:名無しの>1天推し

はえ~~~~

 

4358:復帰軍人人妻

異文化すぎるであります……

 

4359:名無しの>1天推し

というか異世界だしな……

 

4360:名無しの>1天推し

それはそう

 

4361:名無しの>1天推し

こういうそれぞれの世界特有の文化、似たような世界はあってもちょっとずつ違うかんなぁ

 

4362:1年主席天才

うむ。

 

多分、先輩殿も「とりあえず結婚さえしちゃえばそのあと仲良くなるとか全然余裕だし~」とか思ってたんじゃないかな……

 

4363:名無しの>1天推し

あのさぁ

 

4364:名無しの>1天推し

うーんこの

 

4365:脳髄

思ったけどこれすれ違いで断られたわけで

真の恋愛ザコ度は天才ちゃんには劣るのでは?

 

4366:1年主席天才

今からそっち行くからな

 

4367:名無しの>1天推し

 

4368:名無しの>1天推し

流れる様に煽るじゃん……

 

4369:名無しの>1天推し

おもろすぎ

 

4370:ステゴロお嬢様

おハーブ生えますわ

 

4371:名無しの>1天推し

うーんこの

 

4372:名無しの>1天推し

ここはいつものノリだが……>1と先輩はどーしたもんか

 

4373:名無しの>1天推し

こういう時、目の前の問題に対してのアドバイスは俺らでもできるけど

現地世界の事情絡んで、問題が>1の外にあると途端に俺ら無力だかんなぁ……

  

4374:名無しの>1天推し

うむ……

 

4375:名無しの>1天推し

掲示板のもどかしいところだ

 

4376:名無しの>1天推し

聖国の時もそーだったかんな……

 

4377:復帰軍人人妻

どうにか……>1先のハッピーエンドを……

そうでなければこの取り出した銃の向けどころが……!

 

 




冒険者公務員改め復帰軍人人妻
>1先過激派
この後銃取り出したことに旦那と娘に心配された

ディートハリス氏
彼の立場からすると>1の存在恐ろしすぎ
一先ず立場はこんな感じだけれど、実態は……?

天才ちゃん
誰が恋愛クソザコナメクジだって???????


帝国の文化のお話でした。
全開の先輩の言葉はチョイスミスってたけど
土台として何故あぁ言ったかというと……みたいな話
GRADE2は現地文化や国柄の話なのでどうしても掲示板だと話が解決しきれないという感じ。

Twitterとか見てて、分かりやすいハッシュタグ略称あったほうがエゴサしやすいな……とか思ったんですが、良いの思いつかなかったのでちょいとアンケを借りて募集をば
とりあえずこのあたりか、何かいいのがあれば提案していただけると助かります


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スマイルズ・ミーン

☆10評価100超えありがとうございます!!


 

「全く……好き勝手やってくれましたな、御祖母様」

 

 王都のある貴族向けの高級宿の一室にてディートハリスは額に手を当て、息を吐きながら自らの祖母に苦言を呈した。

 対面に座る、実年齢よりも老いた老婆の顔色は良くない。

 

「ディート……私も彼も、貴方の立場を脅かすつもりは……」

 

「あれば内乱ですよ。いえ、なくても関係ない」

 

 青年は呆れたように首を振る。

 

「俺も数年かけて立場の土台を固めましたが、それでも今回の婚約はそれを揺らがせる可能性があるものです。離縁しているとはいえウィルは直系であり、王国の新鋭、皇国女王の婿、聖国の救世主。そんな彼がフロネシス家の長女と婚姻を結ぶ意味、想像できなかった御祖母様ではありますまい」

 

「……」

 

「…………まぁ。伯母上の一件もあり、彼に良い相手をと思う気持ちも理解しましょう。祖母を責めるのも、俺としては良い気分ではない。苦言に関してはここまでとします」

 

 けれど。

 ディートハリスはウェルギリアに告げる。

 

「トリウィア・フロネシスとの婚約は俺が貰います。幸いというべきか、ウィルは断っている。後はアイネス様の返答次第ですが、()()()()()()()。これは次期当主としての決断です。……異論はありませんね?」

 

「…………えぇ」

 

 ウェルギリアは何も言わない。

 祖母と孫という関係ではあるが。

 次期アンドレイア家の当主、それも実権の大方を握る彼と現当主の妻では決定権がまるで違う。

 実際の所、ウェルギリアに一族の未来に対する決定権は持ち得ていないのだ。

 

「ウィルには……そうですね。近日中に俺から告げましょう。会うなとは言いません。ですが、婚約か家に関する話はないようにお願いします。ただ、祖母と孫として仲を深めてください」

 

「……解ったわ。……ごめんなさい、ディート」

 

「もういいです。結果的に見れば、トリウィア・フロネシスとの婚約に辿りつけました。それが我が家に与える恩恵は大きい。それでは俺は寝室に戻ります。帝国からの旅路はそれなりに堪えましたし。……おい、御祖母様も寝室にお連れしろ」

 

「はっ。若様は……」

 

「俺は良い。部屋に戻って休むだけだ。ここは帝国ではないからな。着替えも自分でやるさ」

 

 声をかけたのは壁で控えていた数人の使用人の1人だった。

 帝国貴族の使用人は王国の貴族が呆れるほどに多い。

 一つの屋敷に数十人の使用人がいるのが帝国式だが、王国では十人もいれば多い方となる。 

 日常生活における凡そ全ての雑務を使用人に任せるのが帝国貴族だし、雑務において自分の範囲を超える分だけを任せるのが王国貴族でもある。

 当然、ディートハリスも自分の家や領内では使用人にあれこれ任せているが、此処は王国。

 郷に入っては郷に従えという考えはアース111にも存在する。

 

「御祖母様、それでは」

 

 短く言い残し、使用人が開いた扉を通り自室に戻る。

 与えられた部屋は広く、ベッドやソファ、テーブルは最高級とされるドワーフ製ではないが高価なものだし、備え付けの小さいとはいえ風呂もある。

 尤もそれらは帝国のディートハリスの部屋に比べれば掛かった費用も広さも半分にも満たないのだが。

 

「……」

 

 1人部屋に戻った彼は、上着を脱ぎ、丁寧にクローゼットにかける。

 そしてドアにバスルームも含めて全ての窓が施錠をされているか一つ一つ確認した上で、防音の魔法を発動した。

 完全な密室になったことを確認し、

 

 

「よっしゃこれで一先ず安心だああああああああああああああああああああ!!」

 

 拳を天高くつき上げた。

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ……ウィル・ストレイトとトリウィア・フロネシスが婚姻とか聞いた時は最悪の可能性を想像して倒れかけたが! 帝国から馬で飛ばして未だにかなり尻が痛いが! それでもなんとか……なんとか峠を越えたと……言って、いい……!」

 

 不敵に笑いながらディートハリスは臀部を抑える。

 通常帝国貴族の、それも大貴族ともなれば移動は最高級の馬車だ。だが急いでいたディートハリスは数人の使用人と自ら馬を駆り王国に渡ってきた。本来まずない強行軍は彼の尻に甚大な被害を与えていた。

 正確に言うと臀部だけではなく、腰や太ももも厳しいのだが。

 

「ふっふっふ……」

 

 彼は顔に手を当て、

 

「はーっはっはっはっは――――はぁ」

 

 一通り笑った後、ソファに沈み込もうとし、

 

「おっと」

 

 いそいそと事前に使用人に用意させていたワインを自らグラスに注いで、ついでにつまみであるナッツ類の小皿も手に取ってから、今度こそと言わんばかりにソファに沈み込んだ。

 ワインを一口。

 

「ふぅん……王国産は少々深みが足りないが、気分が良いので良いとしよう、フフフフ……」

 

 そして、

 

「ご機嫌ねぇ、ディートハリス様」

 

 完全に脱力した彼に女が声をかけた。

 密室だったはずの部屋にいつの間にか現れていた。

 ダークスーツに、ワイシャツを第二ボタンまで空けた妖艶な雰囲気を滲ませる美女。炎のような赤い髪、艶めかしい右目元の泣き黒子。長身かつ豊満な体つきは、仕事のできる、けれど女としての魅力も最大限に保たせていた。

 街中で歩けば、男なら誰もが振り向く様な美貌をしているのに、ディートハリスはいつからいたのか、いつ現れたのかわからなかった。

 

「―――ヘファイストス」

 

「はぁい。お邪魔しているわ」

 

「ふっ……いきなり声をかけるな」

 

 彼は笑みをこぼし、

 

「――――びっくりしてちょっとワイン零した」

 

「え? あ、その……失礼? 弁償しましょうかしら」

 

「構わん。フッ……知っているか? 衣類のシミは柑橘の果汁と洗うと落ちるらしいぞ? 使用人が言うのを聞いてた。良い機会なので俺もやってみるとしよう」

 

「はぁ」

 

 とりあえず水につけておくか……と、フリル付きのワイシャツをバスルームに持っていき、しばしの間待ち、簡素なシャツになっただけのディートハリスが戻ってくるのを待ち、

 

「……いいかしら?」

 

「うむ。いいだろう」

 

「こほん―――おめでとうございます、ディートハリス様。一先ずの目的は達成できたようで、ビジネスパートナーとしては嬉しい限りよ」

 

「ふっ……こちらこそだ。ヘファイストス、君が御祖母様の独断を知らせてくれなければ、俺がこの件に手を出せなかっただろう。感謝している」

 

「いいえ、いいえ……私の相手をしてくれたのはディートハリス様だからこそ」

 

 何故なら、

 

()()()()()()()()()()()()が社長の我がヴァルカン商会―――もはやどこも相手をしてくれないもの」

 

「ふむ」

 

 自嘲気味のヘファイストスに、ディートハリスは小さく頷いた。

 

「確かに。各国では秘匿されているが彼の英雄の真実について、噂というのは出回るものだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――魔族信仰派やそれに類するものとの関係を疑われても仕方あるまい」

 

「正確に言うと養子ですらないけどね。あの人が後見人だったというだけ」

 

 ヘファイストス・ヴァルカン。

 大戦の英雄にして、その後、魔族に体を奪われ王国の魔法学園を襲ったゼウィス・オリンフォス。

 彼女は彼が保護した子供の一人である。

 魔族に乗っ取られてはいたが、表向き彼は英雄として相応しい行動をしていた。学園の学園長として見込みのある子供をスカウトすることもあれば、孤児を保護し、生活の支援や仕事の斡旋もすることもあった。

 そういう子は何人かおり、ヘファイストスはその一人。

 

 息子と呼ばれたのは――――ただ1人だけだ。

 

 勿論、英雄の真実は最重要機密であり、帝国でも七大貴族の当主級の地位しか知りえない。

 

「だけれど、人の噂は防げないもの。当事者である王国やこの手の噂話に疎い連合や聖国ならともかく、帝国でも真偽不明の噂は広がった。噂でしかないとしても、同時期に我が社が査問されたのは事実。状況的に判断しても不思議じゃない。実際うちの商社はあっちこっちと契約を切られたもの」

 

「だが、正義を司るデュカイオス家の憲兵が調査をし、法と審判のソフロシュネ家が問題ないと判断した。ならば、今更お前たちを怪しむのは両家に対する侮辱というもの」

 

「ふふふ、そう言ってくれる人は中々いなかった。ま、我が社なんていいつつ設立してまだ数年でやっと軌道に乗り始めたばかりのペーペー会社だったのだけれど」

 

「ふっ……万里の道も一歩からというものだ。そしてその一歩目を踏み出せるかどうかは貴賤を問わず、賞賛されるべきものよ。実際俺はヘファイストスが声をかけてくれたから助かったわけだしな……おっと、お前も飲むか?」

 

「いただくわ。七大貴族の次期当主からお酒を注がれるなんて、人生分らないものね」

 

 機嫌よくディートハリスは、新しいグラスにワインを注ぎ彼女に手渡す。

 

「ふふっ……ディートハリス様の成功に」

 

「ふっ……ヘファイストスの成功に」

 

 乾杯と、軽くグラスを鳴らし、共にグラスを傾ける。

 そしてヘファイストスはペロリと唇を舐め、囁くようにディートハリスに語りかけた。

 

「どうかしら、ディートハリス様? せっかくの祝いごと。少し……そう、少しばかり、楽しんでも」

 

 言いながら彼女は自らの太ももをゆっくりと撫で、タイトスカートを少しだけめくる。

 黒のスカートとは対照的な真っ白な肌と肉感的なむっちりとした太ももは男の情欲を誘うもの。もとより開けられたシャツから覗く深い谷間も言うまでもなく。

 そんなあからさまの誘いに対して、

 

「ふっ……ヘファイストス。あまり挑発してくれるな」

 

 笑みをこぼし、

 

「――――俺は童貞だ」

 

 

 

 

 

 

「……………………なんて?」

 

「ふっ……聞いていなかったか? 俺は童貞だ。なので閨を共にすると本気にするぞ。立場上第一夫人はトリウィア・フロネシスになるので第二夫人か愛人にさせることに……」

 

「いえ。いや、そうではなく」

 

 ヘファイストスは困惑した。

 目の前の男が何を言っているのか。

 笑う所か? と思い、

 

「…………貴方が? 七大貴族の次期当主でもあるディートハリス様が? てっきり使用人や社交界で遊んでいるものと……」

 

「何を言うか。避妊魔法は極めて精度が高いが絶対ではないのだぞ。避妊魔法があるからと気を抜いて、親族に手を付けて流血沙汰になったり、それこそ跡継ぎ争いになった話なんていくらでもあるからな。俺は結婚相手としか閨には招かんし、夜の手腕に関しては相手に手ほどきしてほしいと常々思っている」

 

「そんな妄想は聞いてないのだけれど……」

 

「というわけで俺にその手の誘惑はやめてくれ。理性が揺らいでしまう」

 

「揺らぐんだ……」

 

「君は美人だから。揺らぐとも」

 

「……そう」

 

 褒められて悪い気はしないが、想像していた空気は全く違うものになってしまった。

 気を取り直すように彼女は首を振り、

 

「こほん……何にしてもトリウィア嬢と婚姻し、その後はどうするの?」

 

「うん?」

 

「あれだけの美女。それこそ卒業相手にふさわしいのじゃないのかしら。すぐに帝国に連れ戻したりとか」

 

「ふむ。確かに彼女は実に良い尻しているが」

 

 ゆらりとグラスの中のワインが揺れる様を見たディートハリスは小さく頷く。

 

「――――そんなことはしない。俺は、彼女の行動を縛るつもりはないよ」

 

「…………どうして?」

 

「簡単だな。彼女は俺の器に収まる女ではないよ」

 

 応えは、大貴族の次期当主としては聊か情けないとすらいえるもの。

 彼の言葉にヘファイストスは眉を潜め、たいしてディートハリスは彼女に対して肩を竦めた。

 

「確かに俺は23系統を持ち、アンドレイア家の当主として鍛錬を積んだ。学園の生徒会に食い込める可能性も高かっただろう」

 

 だが、

 

「トリウィア・フロネシスには全く届かんな。ついでにいえばウィル・ストレイトにも。全く、彼らの見合いに口を出した時はビビったものだ。正面から戦えば、俺は数分とかからず彼らに屈し、その靴を舐めて許しを請うしかなかった……ふっ」

 

「…………全く笑えるような話ではないのではなくて?」

 

「知らんのか? とりあえずこうして意味深に笑っておけば精神的だけでも外面を保てる時もある。どうせ他人の靴を舐めるなら惨めに舐めるよりも優雅に…………フッ!!!!!」

 

「………………えぇと。とにかく、トリウィア・フロネシスに関して結婚しようと貴方は放置しておくと?」

 

「うむ。是非好きに研究をしていてくれればいい。系統魔法の互換性の普及、大いに結構。課題は多いが時間をかけて世界はより発展するだろう。跡取りさえ生んでくれれば、彼女がどうしようと構わん」

 

 トリウィアを物として扱うというよりは。

 ただの事実を並べる様に、彼は言う。

 支配欲や独占欲は欠片もない、ただの義務感だけの言葉。

 

「子を為すことは我ら帝国貴族に課せられた義務なのだからな。俺も、彼女もそれからは逃れられん」

 

「……純粋な疑問で、私が言うのもなんなのだけれど。彼女の研究、平民の魔法を強めてしまう。それは帝国貴族にとって都合が悪いのではなくて?」

 

「うん?」

 

「だって、帝国は仮にも実力主義を謳っている。平民が力を付ければ、或いは地位が逆転することも……」

 

「それで逆転する貴族など、貴族ではないよ」

 

 つまらなさそうに彼は答えた。

 どうしてそんなことを聞くのかと言わんばかりに苦笑し、

 

「我々帝国貴族は数百年の時かけて血統を収束し、読み書きや計算、平民では一歩踏み出すことさえ難しい高度な教育を受け、それぞれがそれぞれ貴い血として相応しい実力を身に着け、発揮した―――だから我々は、帝国において貴族足りうるのだ」

 

 貴いから貴族なのではなく。

 実力があるからこその帝国貴族であると彼は言う。

 感情を基にしない婚姻と品種改良。

 平民では受けられない高度な教育。

 貴族同士は政略を以て足を引きあうが、見方を変えればそれはある意味淘汰にも等しい。

 強い者だけが残り、そしてその結果が現在の七大貴族に他ならないのだ。

 故に、トリウィアの研究が平民に実力を付けようなどと関係ない。

 

「むしろ、我々がより力をつけるだけだ。富は富を、権力は権力を、力は力を生み、特権は継承される―――それが貴族というものだからな」

 

 そして彼は苦笑し、

 

「ともあれ、トリウィア・フロネシスは俺の手に余る。俺は俺の実力と権力を把握しているが、しかし彼女はそれを上回る傑物だ。だから、別になにをしようと構わん」

 

「……そう」

 

「うむ……あぁ、そうか。()()()()()()の心配か。うぅむ……それは……現状では口利きできるかどうかだな。紹介は勿論できるが……」

 

「あぁ、いいえ。いいのよ、それくらいは自分でやるわ。なにも問題はない」

 

 問題がないわけがない。

 ヘファイストスは内心歯噛みする。

 

 彼女には彼女の目的がある。

 ディートハリスをそそのかし、トリウィアとウィルの婚姻を潰したとこまではいい。

 けれど、これで終わるのはダメだ。

 ただ婚約を邪魔し、新たな婚姻を結ぶのだけでは足りない。

 

 ―――――ヘルメスの≪水銀蛇の杖≫があればよかったのにと、彼女は思う。

 

 少し前、聖国で石油を手に入れる為にクーデターを起こそうとしていた同胞とは、ウィルとバルマクの戦いの日から連絡が取れなくなった。

 それも問題だが、現実的に直面する難題として、相手を洗脳し思い通りに動かす洗脳の魔法具≪水銀蛇の杖≫を失ったのは大きな問題だった。

 

 ディートハリス・アンドレイアと改めて話して見て分かったが、それなりのアホだ。

 だが、しかし愚かかどうかと言われると困るし、色仕掛けもできる気配がない。

 帝国貴族らしい物言いはするし、貴族らしくない言動も平気でやる。

 彼なりの基準があるのだろうが、まだ付き合いが浅いので判断もしきれない。

 ここまで厄介だとは思わなかった。

 

 だが、しかしヘファイストスにはヘファイストスの目的があり、それにディートハリスが最も都合が良かったのである。

 

 故に、

 

「ふふっ」

 

「? ―――ふっ」

 

 ヘファイストスは今後の策略を巡らしつつ妖艶に笑い。

 ディートハリスは笑みの意味が解らなかったのでとりあえず不敵に笑っておいた。

 

 

 




ディートハリス
とりあえず王国に来たのでできることは自分でやっとくかというスタンス
童貞
トリウィアとウィルと敵対?
無理無理靴舐めるわ

靴舐めを辞さない童貞貴族イケメンの間男をよろしくお願いします

ヘファイストス
ヘルメスの仲間でゼウィス、つまりはゴーティアの部下的なエロ女
ゼウィスの子のダークスーツ。ふーん。
色々画策しているようです。


ウィルとトリウィアのクソボケ貴族恋愛頭脳戦と
ディートハリスとヘファイストスのクソアホ貴族の策略頭脳?


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イノセント・アンド・チャーム

ふっ……おもしれー男、人気すぎ
GRADE2以降、アルマのあれやこれについだ感想数の多さが間男二人目なの草なんですよね


4490:2年主席

 

「どうだ、ウィル。七主教総本山大聖堂の威光。外見だけでも実に芸術的ではないか」

 

「あ、はい」

 

何故僕は休日にこの人と教会に来ているんでしょうか……

 

 

4491:名無しの>1天推し

 

4492:名無しの>1天推し

うける

 

4493:復帰軍人人妻

宣戦布告……!?

 

4494:名無しの>1天推し

まだあらぶってるよ

 

4495:ステゴロお嬢様

しかし実際大したものですわね……

大きな聖堂に、その前に広がる広場。民の……というより信徒の憩いの場という感じでしょうか。

 

4496:1年主席天才

そんな感じ。

僕は最初の方に数度見に来ただけだけど、王都の観光名所の一つだね

 

4497:名無しの>1天推し

へぇ

 

4498:名無しの>1天推し

まぁこの手の凄い教会ってそういう面もあるよな

 

4499:2年主席

 

「ウィル、君は建築に興味はないのか?」

 

「えぇと……はぁ。いえ、そこまでは」

 

「いかんな。石と木、ガラスの芸術だ。七主教の大聖堂は帝国にもいくつかあるが、しかし流石は大本山と呼べるべきものだ。実に目の保養になる。

芸術といえば王国のそれは幅広い。歌劇にしても、音楽にしてもな。歌劇は見るのか?」

 

「いえ……あまり」

 

「ふむ……トリウィア嬢はどうだったか」

 

「先輩は、あまりこの手のは好んでませんでしたね」

 

「ふっ……つくづく帝国の女らしくないな」

 

なんだろう……めっちゃフレンドリーなんですが……?

 

 

4500:名無しの>1天推し

なんなの?

実は良い奴なの?

 

4501:名無しの>1天推し

分らん……

 

4502:復帰軍人人妻

芸術に詳しいマウントでは?

 

4503:名無しの>1天推し

そんなことある?

 

4504:ステゴロお嬢様

うぅん……審美眼でマウントを取り合うのはよくあるのは確かですが……

 

4505:NO髄

よく分らんけど、一先ず警戒しといたほうがいいんじゃねぇの?

 

4506:名無しの>1天推し

それはそう

 

4507:名無しの>1天推し

相手は敵……敵か?

 

4508:2年主席

とりあえず普通に話しかけてくれるなら普通に話しますが…………

 

「さて……すまなかったな、休日に呼び出して。君とは一度話してみたかったのだ。

トリウィア嬢のことは置いておいて、我々は仮にも従兄弟なのだから」

 

「……それは、そうですね。僕も仲良くできればいいと思います」

 

「ふっ……感謝しよう」

 

 

4509:名無しの>1天推し

うーんこの不敵な笑み

 

4510:復帰軍人人妻

こういう笑い方するやつ碌な奴がいないでありますよ

 

4511:名無しの>1天推し

それはそう

 

4512:名無しの>1天推し

仲間にしたら裏切りそうな笑い方

 

4513:1年主席天才

まぁたまにそういうのいるよな

やたらメンタル強いが土壇場で精神崩壊するかだけど

 

4514:復帰軍人人妻

崩壊してしまえ……!

 

4515:名無しの>1天推し

まぁプライドの高そうな男が泣きわめく姿からしか取れない栄養もあるよ

 

4516:名無しの>1天推し

こわっ

 

4517:2年主席

 

「出会いにおいて我々は、暖かな春のようにとは言えなかっただろう。ありきたりな冬の夜よりも酷い、真冬の大河のようであった」

 

 

4518:名無しの>1天推し

凄い比喩使うな

 

4519:復帰軍人人妻

やはり教養マウント

 

4520:名無しの>1天推し

どういう意味だ?

 

4521:1年主席天才

北にある帝国は1年を通して半分以上が冬で、春と秋が極端に短い。

ありきたりな冬の夜でも雪は降って空気はひどく乾燥している。真冬ともなれば大きな河も完全に凍り付くほどという。

その中でも暖かく過ごしやすい春はほんの数日で、帝国にとっては平和と祝福に満ちている。

 

つまりそのあたりの比喩だね

 

4522:名無しの>1天推し

はえー、凄い土地だな

 

4523:NO髄

先輩そんな比喩してる印象ないな

 

4524:1年主席天才

まだるっこしいし分かりにくくて嫌いって言ってた

 

4525:名無しの>1天推し

 

4526:ステゴロお嬢様

あの人、音楽にしてもロックが好きとかでしたし、

本当に貴族らしくないですわね……

 

4527:2年主席

 

「おっと……失礼。フフ……王国の君に対して聊か胡乱な物言いだった。誰にでも分かりやすく言わせてもらおうか」

 

助かり……ますね……!

 

 

4528:名無しの>1天推し

 

4529:名無しの>1天推し

これは……皮肉か? どっちだ?

 

4530:名無しの>1天推し

皮肉だとしても>1には通じないやつ

 

4531:2年主席

 

「俺は君と敵対する気はないのだ。願わくば親族として友好的でありたいと思っている。学園の生徒会、次期皇国女王の伴侶と敵対など面倒極まりないからな」

 

 

4532:名無しの>1天推し

そりゃそうだ

 

4533:名無しの>1天推し

大貴族とはいえ相手が国の王……王? になるのか?

女王の旦那だしな

 

4534:1年主席天才

聞く限りじゃあくまで女王は御影でウィル自体にはそれに等しい特権はないみたいだね。

それでも平民ってわけにはいかないだろうけど。

 

そのあたり鬼種雑というかなるようになれという感じで、僕もまぁいいかとなっている

 

4535:名無しの>1天推し

うーんこの

 

4536:名無しの>1天推し

 

4537:2年主席

 

「フロネシス家からの返答はないが、アイネス様は俺を受け入れるだろう。君からすれば複雑だろうが、受け入れて欲しいところだ」

 

「……先輩が、ではないのですか? そこは」

 

「ふむ」

 

 

4538:名無しの>1天推し

従兄弟君、教会を急に仰ぎ見る

 

4539:名無しの>1天推し

無駄に顔が良い……

 

4540:名無しの>1天推し

何考えてるんだろ

 

4541:復帰軍人人妻

>1をなんてやり込めてやろうとか!?

 

 

 

 

 

 ウィルの問いにディートハリスは天を仰いだ。

 惚れ惚れするような色ガラスを持つ大聖堂。

 それを見ながら思う。

 

 ―――――発言を間違えれば土下座靴舐めか。流石に教会の大広場で戦闘をすることはないだろうし、それで済む。フッ……済んで欲しい。 

 

 

 

 

 

 

4542:2年主席

 

「難しく、単純な問いだ。帝国貴族である私と王国で生まれ育った君とでは婚姻、結婚、恋愛、それにおいて大きな隔たりがある。それの理解はあるか?」

 

「……えぇ、知識としては」

 

「であれば、そういうものだと思ってもらうしかないな。俺も、彼女もそういう国で生きて来た。卑下するつもりもないが重ねた年月が王国とは違う。俺にも、自由恋愛というのは理解できないのだ」

 

 

4543:名無しの>1天推し

うぅむ……

 

4544:1年主席天才

このあたりは仕方ないね

そういうもんだ。

 

経験上、悩んでも無理に理解しようとしても良いことはない

 

4545:ステゴロお嬢様

天才さんが言うと重みがありますわね

 

4546:名無しの>1天推し

確かに……

 

4547:名無しの>1天推し

自分のアースの国とか地域とかでも分らん時あるしな

 

4548:名無しの>1天推し

せやなぁ

 

4549:2年主席

 

「我々にとって他人を愛するということは結婚し、夫婦になってからとなる。結婚するかどうかは家や親が決めることで意思はない」

 

「……結婚して、先輩を愛せると?」

 

「努力はしよう。人格に問題があるわけでもなし。それに、実に良い尻をしている」

 

「………………まぁ、はい」

 

 

4550:復帰軍人人妻

>1!!!!!!

そこはセクハラ発言に怒るところでありますよ!!!!

 

4551:ステゴロお嬢様

女性の権利団体が今日日黙っていませんわ!!!!

私のアースそんなのないですけど

 

4552:アイドル無双覇者

男子ってばサイテーにゃ!!!

 

4553:1年主席天才

まぁあの尻は仕方ないね

 

4554:名無しの>1天推し

女性陣……!

 

4555:名無しの>1天推し

って天才ちゃんだけ受け入れてて草

 

4556:名無しの>1天推し

急に男子目線で語らないでびっくりするだろ

 

4557:NO髄

唐突に蘇るTS設定

 

4558:1年主席天才

蘇るとか設定とか言うな

 

4559:名無しの>1天推し

実際良いお尻してるな

 

4560:名無しの>1天推し

脚もいい

 

4561:2年主席

 

「――――楽しそうな会話をしていますね」

 

えっ

 

 

4562:1年主席天才

おや

 

 

 

 

 

 

 

「くすくす。意外なお二人、というべきでしょうか」

 

 囁くような、鈴が鳴る様な声。

 声量は大きくないのに、なぜか耳によく届く。

 

「……!?」

 

 ウィルの戸惑いは二つ。

 一つはその服装。

 それはアースゼロでいうセーラー服のようでもあった。足首まで伸びるロングスカートと黒のセーラー服にシスターらしいフードを合わせたような独特の恰好。

 フードから零れる髪は夜明けの光に蜂蜜を溶かしたような黄金。

 瞳は海のような深い青。

 胸には七主教のシンボルである七芒星のペンダント。

 全身の露出は一切なく、身長もアルマよりも小さいだろう。それでも体のラインは丸みを帯び、まだ幼いながらもこれから絶世の美女として花開く蕾のような、無垢と色気が混在している。

 もう一つの驚きは、彼女自身。

 

「―――ヴィーテフロア殿下」

 

 驚く隣で流れるような所作でディートハリスが跪き、ウィルも慌てて彼に倣った。

 ヴィーテフロア・アクシオス。

 このアクシオス王国の王女でもあり、七主教の聖女として国民から愛される少女だった。

 

「殿下の来訪に気づかずにいたことをお許しください」

 

「お気になさらず。帝国のアンドレイア家の方ですね」

 

「はい。アンドレイア家、ディートハリス・アンドレイアにございます。可憐な殿下にお知り頂いているとは光栄にございます」

 

「知らぬはずがないでしょう? ただ、そうですね」

 

 花のように彼女は微笑む。

 

「今の私は王女である前に、七主教の修道女です。故、過分な敬意は不要ですよ。ほら、周りを見てください。他の信徒の方々も普通にされているでしょう?」

 

 楚々としてヴィーテフロアが大広場にいた他の信徒に手を振る。

 それを受けた誰もかしこまらずに笑顔で手を振り返していた。

 ウィルは、そしてディートハリスもそれを確認し、

 

「かしこまりました。ではそのように」

 

「はい。ウィル先輩も、さぁ立ってください」

 

「そうだぞ、ウィル。そのような姿勢では相手の靴を舐めることもできない」

 

 よく分らないことを言われた。

 新手の皮肉か何かだろうか。

 とりあえず立ち上がり、

 

「えぇと……お久しぶりです、殿下。…………って、先輩?」

 

「はい。叙勲式の後以来ですね。そして、元々決まっていましたが、来年私はアクシオス魔法学園に入学する予定ですから。ウィルさんは私の先輩になります」

 

「流石殿下です」

 

「そうだったんですね。殿下はここで何を……って、ここの聖女でしたもんね」

 

「はい。先輩たちは……私に会いに来てくれた、というわけではなさそうですね?」

 

 ペロリと舌を出しながら、彼女は笑う。

 

「えぇ、まぁ……」

 

 突然の邂逅に戸惑いつつ、そして何よりヴィーテフロアという少女を改めて観察し、どうにも緊張してしまう。

 

 ウィルの知る美少女という概念において頂点にいるのは愛するアルマ・スぺイシアだ。

 

 単純な顔の造形、バランスにおいてその美しさは他の追随を許さない。

 超一流の職人が丹精込めて作った精巧な人形のような、或いは生物や性を超越した美をアルマは持つ。

 

 そしてヴィーテフロア・アクシオスは別方向でありながら、アルマに匹敵する美少女だ。

 人としての、女としての、少女として、そういったものの究極、美の女神ともでも呼ぶような。

 アルマが暗くも優しい月明かりなら、ヴィーテフロアは明るく暖かい太陽の光だろう。

 

 ウィルは普段、アルマ、御影、トリウィア、フォンというタイプの違う美少女に囲まれていて、そのうち二人とは恋人だし、もう二人とも近い関係にある。

 ただ、そんな自分でも思わず見惚れてしまうような可憐さが彼女にはあった。

 

「……あら、何か顔についていますか、ウィル先輩?」

 

「い、いえ、失礼しました」

 

 これは浮気に入るのだろうか。

 ちょっと焦ったが、掲示板を確認する。

 

 

 

 

4591:1年主席天才

僕と同レベルの顔面とか目の保養になりまくるな。

マルチバースでもトップだよ

 

 

 

 

 思った以上に平気だったので一安心。

 ついでディートハリスを見る。

 彼は毅然とした顔で軽く顔を伏せていた。

 流石というべきか高貴な相手とのやり取りは慣れているらしい。

 そこは正直尊敬する。

 

 

 

 

 くっ……おのれ、ウィル・ストレイト……流石だな……王女殿下で聖女に当然のように先輩呼びされるとは……! そういうのから始まる恋、本で読んだ!!!!

 

 

 

 

「……どうかしたか、ウィル?」

 

「いえ、すみません」

 

「ふっ……そうか」

 

 悔しい、というほどでもないが彼の笑みは絵になる。

 

「くすくす……仲がよろしいようですね。流石は従兄弟というところでしょうか」

 

「えぇと……どうでしょう」

 

「ふっ……これから仲を深めようとしていたところです」

 

「なるほど。それは素晴らしきことですね」

 

 ころころと、彼女はよく笑う。

 囁くような声のトーンのせいなのか、ゆったりした丁寧な喋り方のせいなのか、さっきまでの緊張が嘘のように溶けていく。

 初めて王と一緒に会った時もそうだった。

 あの時はウィルのイメージする修道服だったけれど、

 

「あ、そういえば殿下。その恰好は……」

 

「あぁ、これは普段着のようなものです。珍しいですよね、お爺様、初代国王陛下が考えられた学園の制服の候補だったんですよ。私は気に入ったので、公式の場ではなければこちらを着ています」

 

「へぇ……」

 

 初代国王。

 なんというか。

 随分な趣味人である。

 どういう存在なのか推測はできるし、一度話してみたいが、故人であればどうしようもない。

 

「あっ……ごめんなさい、ウィル先輩、ディートハリス様、お二人の歓談を邪魔してしまいましたね。思わず声をかけてしまいましたけれど」

 

「とんでもございません、殿下。そうだろう、ウィル」

 

「はい。お会いできて光栄でした殿下」

 

「まぁ先輩。ディートハリス様には流石に言えませんが、どうぞ気軽にヴィーテとお呼びください。来年はウィル先輩を頼ることになるんですから」

 

「え、えっと……では……ヴィーテ……さん」

 

「はい、ウィル先輩。そう呼んでいただけるようになっただけで、御声掛けした甲斐がありました」

 

 彼女は笑う。

 控えめに、けれど華やかに。

 小さな、けれど良く届く声で。

 無垢な子供のような笑顔で、大人のようにしっかりとした礼節を。

 相反するものを、けれどそのまま持つような少女だった。

 

「お会いできて光栄でしたお二方、それではこの辺で」

 

「はい、殿下」

 

「来年はよろしくお願いします、ヴィーテさん」

 

「はい―――七つの加護があらんことを」

 

 七芒星のペンダントを軽く掲げ、彼女は背を向け去ろうとする。

 しかし、数歩後に止まり、

 

「ウィル先輩」

 

「はい?」

 

「―――アレスは元気ですか?」

 

「えっ……えぇ。いつも美味しい紅茶を淹れてもらっています」

 

「へぇ」

 

 彼女は振り返らない。

 どんな顔をしているか、ウィルにも、ディートハリスにも分らなかった。

 

「幼馴染ですよね。お会いにならないんですか?」

 

「くすっ」

 

 ウィルの言葉に彼女は笑う。

 少なくとも、そう見えた。

 結局彼女は振り返らなかった。

 

「――――いいえ、会いに行く必要なんてありません」

 

 

 




ウィル
従兄弟が良い人なのか悪い人なのかよく分らない
先輩が良い尻してるのはそう

ディートハリス
絶対に、仲良くなるぞ……! という決意で誘った
建築や演劇は普通に趣味
殿下と普通に話しててこの従兄弟、やっぱすげぇ……敵にできねぇ……っ……うおっお姫様可愛すぎ……ってめっちゃ思ってる
勘違い系主人公か、こいつ

ヴィーテフロア
アルマに匹敵する美少女
清楚系ロリシスター
多分「この子俺のこと好きなんだ……」を量産するタイプの清楚
アレスと合う必要はないらしい


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ワンクリで跳べるようにタグ置いてみたのでご活用いただければと思います。


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アマチュアズ・クエッション

恒例?の文化深堀回です


 

「失礼しますわ」

 

「あぁ……はい。ヘファイストス・ヴァルカンさん、でしたね」

 

「えぇ。今日はお会いしてくださり感謝を。トリウィア・フロネシス様」

 

 ウィルがディートハリスと教会にいる頃、トリウィアの研究室にヘファイストスは訪れていた。

 ダークスーツに黒のコートを羽織った女の片手には大きなカバンが。

 

「こちらにどうぞ」

 

「はい」

 

 普段ウィルたちが使うソファではなく、机の正面に既に用意されていた椅子に。

 正面から向かい合う二人の邂逅はこれが初めてであり、そして事前に公式にヘファイストス、ヴァルカン商会からトリウィアに商談を取り付けていた。

 その内容は、

 

「早速ですが本題を。私の研究に関する商談ですね」

 

「はい」

 

 トリウィアの研究、即ち系統魔法の発動パターンの体系化とその普及だ。

 この世界のあらゆる技術は細分化された系統魔法によって支えられ、そしてそれは国、種族、地域、文化、気候によって似ているものもあれば、全く違うものもある。

 砂漠の聖国では体温を下げたり気流の調整、直射日光の減衰のような暑さ対策が日常的にあるし、一年の半分が冬の帝国では逆に体温保持、熱の発生を目的とした寒さ対策が同じようにある。

 或いは連合の亜人種は保有系統は少ないが、それぞれの種族特性に合わせて魔法の用途が先鋭化されている。

 勿論、ごく一部の亜人――例えばフォン――が持つ高位獣化能力や、鬼種は生来極めて頑強な肉体や耐毒・薬物・酒精、或いは人種の一部が同じ系統保有者が続く場合発現する固有魔法等、模倣できないものもある。

 

 それでも細分化されすぎた魔法をより明確に体系化し、普及させればこの世界の技術の下地は明確に補強される。

 系統魔法による技術文明レベルの底上げ。

 それがトリウィアが行おうとしているものだった。

 

 アクシオス魔法学園に滞在する5年かけ、世界最高学府で各地に伝わるものをかき集め、分析しし続け、そしてそれは一通りの区切りを見せている。

 しかしそれで全て問題ないというわけではない。

 その大きな問題の一つが、

 

「貴方の商会なら今の私の予定よりも安価かつ迅速に紙の安定供給と製本ができると?」

 

「いくつかお互いに歩み寄ることができればですが」

 

 即ち、どうやって広めるか、という問題である。

 単純な話、本にしてまとめて各地に広めたのなら簡単だ。

 だが、地域によっては識字率の低さが問題となる。各国の中規模以上の都市でなければ文字の読めない大人だって珍しくない。

 そうなるとそもそもの話、簡単な読み書きの指南書も付属する必要が出てくる。

 結果、物量的に大量の資材と識字率の向上が研究の結実には必要なのだ。

 

 幸いにも今アース111の主要国家は共通語が用いられており、別の言語を学ぶ必要性はない。精々皇国の天津文字が現役なくらいだ。

 

「まずは……そうですね、こちらを見ていただければ」

 

 持参したかばんから丁寧にまとめられた書類の束を取り出し、トリウィアに差し出す。

 

「ふむ……」

 

 受け取りながら、煙草を咥え火をつける。

 そして、ページをめくり、

 

「……!」

 

 青と黒の目が見開かれた。

 トリウィアの表情にヘファイストスは笑みを深め言葉を続ける。

 

「貴方の研究の問題は3つ。そもそもの内容、識字率、本そのものの生産。内容は言うまでもないですし、識字率に関してはやはり指南書を貴方が作るなら問題ないでしょう?」

 

「……えぇ。各国に各地に国営の教育機関を作る様に打診しています」

 

「ならば、最大の問題は物量的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。特に素材である紙と印刷と製本の量的問題は、トリウィア様独力では解決しない。系統魔法の汎用性を高めるということはこの世界の誰もが望み、しかし現実的ではなかったので諦めながら、貴女が知識的には実現しようとしているのに」

 

 紙というものは高価である―――というだけでは不正確だ。

 より正確に言うならば、大都市ないし、紙の使用率が高い場所では安価だし、そうでない田舎やへき地の村や小さな町にもなればそもそも紙の使い道がなく、流通量も少ないので結果的に高価になる。

 

 例えば王都では紙は非常に安い。商売が盛んであるし、王城では様々な公務のために大量に使用され、学園では勉強用に必要になるので、紙の生産を専門とする貴族(コウムイン)もいる。

 需要に対応した供給があるため故の安価さだ。

 逆に、日常生活において紙を使用しない田舎の農村ではそもそも使われない為に高価になってしまう。需要がなくても流通の都合上、高くならざるを得ないのだ。

 凡そこれは、大体どのアースでも変わらない。

 

「私から歩み寄っていただきたいのは紙の素材ですわ。聞けばトリウィア様は一年前ほどにエルフ族の方々と交友を深めたとか」

 

 ぴくりと、書類をめくっていたトリウィアの手が止まる。

 

「……詳しいですね」

 

「商人ですから。情報は命に等しい。私がお願いしたいのは紙の素材をエルフ族も通して供給してほしいということです。何分、我がヴァルカン商会は設立してまだ数年、おまけにこれまでは大した実績もなく、やっと軌道に乗り出したかと思えばオリンフォスに保護されたということで業界から白い目で見られていますし」

 

「理解はしています」

 

「感謝を。……私は冶金関連は詳しいのですが、林業となると門外漢ですし、材質に関してはエルフ族に任せた方が確実でしょう?」

 

「そうですね。私も元々そのつもりでした……」

 

 言いつつも、視線は書類にくぎ付けになり、ページをめくる指が動き出す。

 その様子を見ながら、ヘファイストスの笑みは濃くなった。

 

「そして紙の生産が安定したら、次は配布する本の生産。各国各地に数冊程度ならば今でも可能でしょうが、トリウィア様が望む誰でも平等に、世界中がとなると今ではまるで追い付きません」

 

 だからと、赤毛の女は妖艶にほほ笑む。

 トリウィアに渡したもの――――それは設計図だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()、これが活用していただけるかと」

 

 それは、

 

「現在主流のグーテンベルク氏が開発した印刷機よりも200年、いや300年は先に行くものかと思いますわ」

 

 現在アース111において、活版印刷技術というのは50年前、ヨハネス・グーテンベルクという帝国の技術者が生み出した印刷機のことを指す。

 文字の形に鋳造した活字を組み合わせて文章を作り、それにインクを塗布した上で紙に押し付けることで印刷するというもの。

 これによりそれまで本といえば手書きによる写本だったが、印刷速度や精度が飛躍的に上昇し帝国や王国を主に瞬く間に広まった。過去の写本は再作成が行われたし、トリウィアの研究室に大量にある学術書もそれによって作成されたものだ。

 

 それについて知ったアルマが苦笑していたのがトリウィアには印象的だった。

 なんでも他のアースでも活版印刷について技術革新をするのは同名の人物であることが多いらしい。

 平行同位体(ドッペルゲンガー)とかなんとか。

 トリウィアは知らないことだがアースゼロにおいては実際に15世紀ごろに開発され、世界三大発明と呼ばれるものでもある。

 

 けれど。

 今ヘファイストスがトリウィアに提示した輪転印刷機と打鍵印字機(タイプライター)は―――言葉通り、アースゼロでは18世紀から19世紀にかけて生み出された技術のことである。

 

「印刷機は輪転の名の通り、活字を円筒に沿うように置き、同じく円筒状に巻いた紙片を高速回転しながら印刷するものです。動力は水が蒸発する際に生じる圧力、蒸気と呼んでいますが、それで行います」

 

「……高温の物質と水が接触した時、確かにかなりの衝撃波を生みますね。それを安定させて動力とさせると?」

 

「はい。流石トリウィア様、察しがよろしいですわ」

 

「…………ふぅー」

 

 詳細は聞き流しながら紫煙を吐き出し、

 

「打鍵印字機、というのは。共通文字の26字を盤上に並べ、押せば対応した文字が用紙に印刷される。それでいいですか?」

 

「はい。というより、実際にご覧になったほうがよろしいかと」

 

 大きなカバンから取り出したのは。

 数字と共通語26字が四列に並んだ打鍵盤とそれに繋がった活字機構、紙を受けるローラーが組み合わさった個人用タイプライターだった。

 かなりの重みがあるのか、ヘファイストスは両手で持ち上げ、置けば机に鈍い音が響く。

 

「―――――」

 

 トリウィアの顔が驚きに染まる。

 

「どうぞ、お触りください。我が社の技術のお披露目と思ってもらえれば。あぁ、紙はこちらに装填します」

 

「……では」

 

 しばらくの間、トリウィアはタイプライターを見つめていた。

 そして、キーボードの「T」を押せば()()()()という音と共に機構がスライドしながら動き、紙にそのまま「T」が刻印される。

 

「………………」

 

 煙草が灰皿に押しつぶされる。

 両手をキーボードに置き、たどたどしい動きで文字盤を押し込む。

 「Trivia」と刻み、

 

「…………改行は可能ですか?」

 

「レバーが横にずれたでしょう。それを戻せば可能です。紙の横幅限界まで行けば、ベルが鳴る仕組みです」

 

「なるほど」

 

 言われた通りにすれば、小気味のいい音と共に紙が上にずれた。

 しばらくの間、打鍵と印字機構の駆動音だけが部屋響いた。

 トリウィアの表情は変わらず、しかしタイプライターの動きから目を離さない。そんな彼女をヘファイストスは勝ち誇った笑みで見据えていた。

 そして数行記した後、彼女は新しい煙草に火を点ける。

 

「ふぅぅ………………素晴らしいですね」

 

「ありがとうございます。こちらの打鍵機はトリウィア様のような高貴な方向けのものとして少数生産をする予定でして……」

 

()()するべきはこちらでは」

 

「………………はい?」

 

 再現? 妙な表現に引っかかったが、青と黒の二色はタイプライターから外れず、独り言のように言葉が続き、

 

「印刷機の方は大都市に専門の印刷所があれば識字教育が世界中に完了するまでは十分。しかしこれがあれば完璧な清書ができる。写本の最大の問題である書き損じや癖字による内容伝達の誤差は消えるし、文字の学習も圧倒的に早くなる。中規模以上の街にいくつか置くだけで代筆屋のような仕事の効率も飛躍的に上昇しますし、そうでなくても在野の研究者の研究の発表や伝達も正確にできる。知識や情報が正しく伝わるだけのことがどれだけ貴重か。写本の誤字が誤字と認識されず伝わり、誤字を見つけたら執筆者と写本師の著作を全て参照して訂正するだけでも膨大な時間がかかるし、それを指摘して修正版を出したら印刷所でまた間違いが出るとかも無くなる―――」

 

「あ、あの」

 

「素人質問で恐縮ですが」

 

「はい!?」

 

「輪転印刷機、これは蒸気から発生する圧力……ふむ。蒸気圧? そう呼びましょう。それを動力にすると言いましたね。これどうやって?」

 

「え? それは……魔法で」

 

「何故?」

 

「えっ。…………魔法でできるからではないでしょうか?」

 

「いいえ、それでは理由足りえません。仮にこの設計図通りのサイズの機構を継続的に動かすだけの蒸気圧を魔法だけで生むには加熱、反応物精製、水の精製と最低3人が必要になります。それもある程度の精度を長時間続ける必要があり、それを為すにはそれこそ『二つ名』持ちでないと難しい。人種の飛行魔法が普及しないのと同じですね。可能な限り魔法を使わない方がいい。少なくとも地域に応じて物理的に代用できるものは代用するべきです。水などは分かりやすいですね。施設……というよりもう工場ですね。そこに水路なり専用の大型水道を敷設すればいい。反応物は……元々はどんなものを作るつもりで?」

 

「…………せ、石炭と同じ性質をと思っていますわ」

 

「ふむ? ……なるほど確かにあれは可燃性が高い。わりとどの地方でも採れますが、帝国では暖炉の燃料にするくらいしか使い道はないし、暖を取るだけなら薪や魔法で十分だから需要もほぼゼロに等しく極めて安価ですね。市場にもほとんど出回らないし、各地からかき集めてもさほど負担ではない。………………他の物質ではダメなんですか?」

 

「はい!?」

 

「瞬間的に水を蒸発させ圧力を生むならある程度の耐熱性のある物質ではダメなんですか? 例えば純粋な薪、鉄や木炭。或いはより可燃性の高い合金は作れませんか? 石炭は閉所で加熱すると重度の()()()()――空気が淀み、意識を失って最悪死に至る、ないし様々な病になることが多い。これがいまいち使い道がない理由の一つで、単に火を燃やすよりかなり酷いし、亜人連合のドワーフは『穢れ』と忌み嫌ってさえいますしね。動力の資材として使う場合は、各地の埋蔵量の正確な調査が必要ですし、そうなると国が絡んできますね。それの見通しないし、予定は?」

 

「い…………いえ。考えが及ばす……」

 

「ふむ。いいでしょう。どこでも取れる水と作れる火と違い『何を燃やすか』というのは難しいですね。石炭は悪くなさそうですが、或いはもっと他に良い物があるかもしれません。分かりやすいのは火を扱う魔物の生体器官、それこそ火竜の火炎袋は効率が良いですが……ふむ。危険は伴うし、需要も高く高価、場合によっては生態系も崩しますね。魔獣由来にするとそこの危険が高く……なんならそもそも製粉所とかの水車を大型化して動力にする? 水車を高速回転するだけなら魔法の強度の必要性も低い。どう思いますか?」

 

「…………………………」

 

「……………………あ」

 

 そこでようやくトリウィアは気づいた。

 目の前の赤毛で、妖艶な体つきの美人が顔を真っ青にして目に涙を浮かべていることを。

 

「す、すみません。つい知識欲が……悪い癖ですね。えぇと……珈琲、飲みます?」

 

「うぅ……い、いえ。勉強になります。…………ミルクと砂糖をたっぷりお願いします」

 

 注文ができるくらいなら余裕か、と思ったが言われた通りに用意した。

 これがかつて帝国学会や見合い相手を泣かして歌わせたトリウィア・フロネシスという女である。

 未知に対して知識欲が止まらなくなり、質問が溢れ出す。 

 別に責めるつもりはないのだが、普段無表情で透き通ったような、しかし冷たい声で訥々と問われると大抵の相手は精神が崩壊するらしい。

 学園に来てからは抑えていたが―――アルマは根気よく付き合ってくれる―――ヘファイストスが持ってきたものは衝撃的だった。

 

 トリウィアが全く「知らない」、未知のものだったから。

 

「ふむ……」

 

 ゆっくりとヘファイストスが珈琲を飲む姿を眺めつつ、自分もブラックのそれを飲む。

 

「こほん。失礼しました。それでは話の続きを」

 

「えぇ。いずれにしてもこの技術と発想力、素晴らしい。素直に賞賛させていただきます」

 

「おほほ、光栄ですわ」

 

 

 

 

 

 

 なんて会話をしているけれど。

 輪転印刷機の設計図も、タイプライターの作成も。

 そのどちらも――――ヘファイストス個人の知識や技術ではない。

 

「これだけの技術、帝国の商会ギルドの認可がいると思いますが……」

 

「ご心配なく。既に確保しておりますわ。後は実際に生産するだけです。書類もこちらに」

 

「なるほど、流石ですね。後は国との連携ですが……これはどうしても時間がかかりそうですね。私も指南書の仮まとめを作ったらこれは消せあれは消せと各国からの修正が多かったですしね」

 

「仕方ないことかと。それで反乱を起こされても困るでしょう」

 

「帝国としては、それで反乱を成功されるような貴族は貴族足りえませんけどね。私としては知識は広げるのでその後の政治に関しては本職に任せるだけです。後は個人的にこの打鍵器はいくつか同じものを著名人に貸し出しなり購入なりしてもらって使用感を広めて欲しい所ですね」

 

「おほほ。今まさに、1人から最高の感想を頂きましたわ」

 

 そもそもの話、ゼウィス・オリンフォス/ゴーティアは去年の段階でこの世界に牙を剥く予定ではなかった。

 さらに数年かけてこの世界に布石を打ち、その上で食らう予定だったのだ。

 それが魔族信仰教徒であり、聖国におけるヘルメスであり、そしてヘファイストスなのだ。

 彼が死したとはいえ、残したものはある。

 例えばそれは輪転印刷機のような異世界の技術であり。

 

 ――――≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫という異能である。

 

 それは設計図と材料さえあれば、即座に完成系を作り出せるというものである。

 輪転印刷機は素材が大量にいる上に持ち運びもできないが、タイプライター程度なら簡単だ。

 そしてこの場合、今トリウィアに渡した商会ギルドからの認可書類。或いはかばんの中にある各方面との契約書。

 その全てを、彼女の異能で捏造できる。

 本来偽装不可能なはずの魔法印でさえも偽造可能であり、それにより商人として圧倒的なアドバンテージを得る。

 加えて後から問題になろうものならば、それぞれの責任者の下に直接行き、彼女自身のその肢体を以て後から本物を用意すればいい。

 それを可能とするだけの訓練をヘファイストスは受けている。

 そもそもヴァルカン商会なんてものは存在はするが名前だけのものであり、設立してから3年実績はゼロである。後から商会ギルドの重役の何人かを篭絡し、一応のそれらしい経歴を後付けしただけ。

 

 偽造とハニートラップのスペシャリスト。それがヘファイストス・ヴァルカンという女だ。

 

 尤もハニートラップがまさかの方法で通用しないディートハリスには困ったし、真顔で詰問してくるトリウィアは怖かった。

 トリウィア・フロネシス。

 あまりにも恐ろしい。

 ゴーティア由来の知識と実物でアドバンテージを握るはずだったのに、設計図と実物を見せただけであそこまで考察と質問が広がるとは思わなかった。

 ちょっとしたトラウマができたので今後は避けたい所だ。

 

 ヘルメスが聖国で石油を確保していたら、もっと別の技術を用意していたはずなのだが、ある意味そうでなくてもよかったかもしれない。

 ヘファイストスはゴーティアが残したメモ程度の知識しかなく、『こうなる仕組み』は解っても『どうしてこうなったか』までは把握していないのだから。

 

 いずれにしても。

 ここまでは一先ず良い。

 問題は、

 

「トリウィア様」

 

「はい」

 

「もう一つ、あなたに協力していただきたいことがあるのですが―――――」

 

 この要請だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘファイストス・ヴァルカンが部屋から去り、彼女はソファに仰向けで倒れこんだ。

 白衣が広がり、十字架のペンダントが鎖骨を滑り、気にせずに煙草を吸う。

 研究によっては気絶することさえある彼女からすればベッドではなく、ソファだけで十分休息が取れる。

 使い込み、独特の光沢を持つブラックレザーに包まれた足を投げ出しつつ、大きい尻をずらして寝心地を調整する。

 胸はあまり大きくならないのに、尻だけ大きくなってしまった。

 

「ふぅーー……」

 

 煙をゆっくりと吐き出す。

 煙草を持った額に手を当て、目を閉じ思うことは多い。

 いくつもの事実と推測と情報と疑問が目まぐるしく回り続ける。

 ヘファイストスの技術は革新的であり、そしてその重要さ故に部外秘となったので、とりあえずアルマに相談することも避けたい。

 

 空気は冷たかった。

 青と黒の瞳は薄く開き、中空をぼんやりと見つめている。

 差し込む夕日に気怠げにに倒れている彼女をさらし、一種絵画のようでもあった。

  

 しばらくの間、煙を吸う以外の動きは無く時は流れ、

 

「…………どうぞ」

 

 ノックの音に反応する。

 開いた扉から顔を出したのは、

 

()()()、話が………………はしたないですよ」

 

「ここは私の研究室ですから」

 

 トリウィアの母、アイネスだ。

 家族だけが使う愛称で呼んだ娘の姿に眉を顰めつつ、それ以上は言わなかった。

 ただ、言わなければならないことを告げた。

 

「トリィ……アンドレイア家との婚約が決まりました」

 

「そうですか」

 

 別に驚かない。

 家としてディートハリスとの婚姻を選ぶのは当然だ。

 ディートハリスが話を持ちかけてから少し時間が空いたが、それはきっとトリウィアに心の整理をつけさせるために母が気遣ってくれた時間だったのだろう。

 結果は最初から分かっていた。

 

「そんなことよりも」

 

 体を起こす。

 そう、そんなとっくに知っていた結果よりも。

 

「お母様、聞きたいことがあります」

 

 

 

 




ヘファイストス「異世界知識チート!!」
トリウィア「素人質問で恐縮ですが……」

悪魔がよ……

トリウィア
こうして多くの学者を泣かせてきた
初見の技術とかに対して考察と質問がはかどり過ぎる。
今回ので彼女の中の1%くらい。

誰と結ばれるかなんて解っていた


ヘファイストス
泣いた
ゴーティア残党
人間サバイバルクラフトゲーム。
ハニトラと偽造担当とかいう女スパイ枠


産業、技術それに動力とかのお話でした。
魔法で車とか作れんの? という話に関しては
「アース111の上位クラス以上が瞬間的には同じようなことはできても、長時間継続できないので魔法では難しい」という塩梅です
魔法で受けるけど、自由に飛び続けるのは不可能って感じ

まぁ細かいとこには目を瞑ってもらえると助かります
アース111だとこんな感じ

こういう回、ちょいちょいやってるけど需要があんまりわからない。
が、書いてて楽しいのでちょいちょい現れます。楽しんでもらえると嬉しいです。

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ノウレッジ・ヘックス

 

 最初からどうなるかなんて、トリウィアには解っていた。

 

 ヴィンター帝国七大貴族のうちアンドレイア家とフロネシス家。

 帝国貴族における婚姻の形。

 過去からの伝統と未来への布石。

 それを加味すればトリウィア・フロネシスとディートハリス・アンドレイアの婚姻は当然というべき結果だった。

 

 だからそれはいい。

 

 解りきったことにトリウィアは時間を割かない。

 知りたいと思うことに、他人の十倍は時間をかけて学び、何度も失敗を繰り返して求めるものを手に入れる。

 それが彼女の在り方だ。

 他人よりも要領が悪いという自覚があるから、効率が悪いやり方しかできない。

 部分的な知識だけが必要なのに、それ関連の全てを知らないと気が済まない。

 

 フロネシスの呪縛。

 全く困ったものだ。

 それは彼女にとって逃れられない、自らの魂に架せられた十字架で。

 それによって自分は多くの意味のないものを得て、多くの意味あるものを失うと思ってきた。

 得られるものは大半が、自己満足の知識。

 失うものは本来帝国七大貴族の長女として果たさなければならない責務。

 

 帝国の文化やその建前や、政治戦を疎んでいるトリウィアだが、しかし貴族としての責務を放棄するつもりはない。

 彼女の知識は、七大貴族であるフロネシス家だからこそ得られたものだ。

 

 例えばトリウィアが、その生来持つ気質をそのままどこか別の国の平民の農家に生まれたとしよう。

 もしそうなら、どうなっていただろうか。

 簡単だ、本一冊手に入れることさえ難しく、無限に等しい知識欲求を抱えていくのだろう。

 それどこか、文字の読み書きさえろくに学べないかもしれない。

 戦闘、魔法技術も研鑽することはできず、文化の多様さは知ることさえできない。

 偉大な先人たちが残した知識に触れられず、ずっと一人で抱えて、誰かと結婚して、子供を産むことになる。

 それはきっと、不幸ではない。

 ごくごく普通の、ありきたりな、けれど尊い幸福だ。

 

 でもそんなありきたりでは、トリウィア・フロネシスは満足できない。

 

 彼女が望むのは叡智の深淵であり、ついでにいうと波乱万丈で、かっこいい―――そう、ロックな生き方なのだ。

 知識の呪いに縛れた彼女は、生まれたその瞬間から、そういう生き方でしか満たされなくなってしまったのだ。

 

 そんな、魂まで雁字搦めになってしまった呪いを。

 

「――――先輩」

 

「どうも、後輩君」

 

 彼は、祝福と呼んでくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 雨が降りそうな鈍い曇り空だった。

 数羽の鳥がステージの頭上を旋回して羽ばたいている。

 

「久しぶりですね」

 

「この二週間、まともに会ってくれなかったじゃないですか」

 

「色々と立て込んでいたので」

 

 二人が久しぶりに顔を合わせたのは学園に八種ある闘技場の内の一つ、第三闘技場という訓練場だった。

 円形コロシアムのようであり、戦いとなる舞台は足首ほどまでの水深の広いプールとなっている。

 昔、ウィルと御影が戦ったのは第一闘技場。

 魔法学園にはこういう各属性の魔法使用を補助する闘技場が用意されているのだ。

 広い水面には風に吹かれて届いたのか、赤くなった葉っぱがいくつも浮かんでいた。

 模擬戦で使用率の高いのは特に効果のない第一だが、最近ここは使われていないらしい。

 

「座りません?」

 

「……はい」

 

 観客席から水上フィールドを眺める様に二人は並んで座る。

 武骨な、階段状に並んだ背もたれもない椅子に、3人分ほどの距離を空けて。

 トリウィアはいつものように煙草を吹かし、足を組みながら。

 ウィルは足元と彼女の二つに視線を映らせながらだった。

 

「話、とはなんでしょうか」

 

 休日の昼下がり、彼を呼びだしたのは他ならぬトリウィアだった。

 黒の皮手袋に包まれた細い指で煙草を挟んだ彼女は、鈍い秋空を仰ぎながら答える。

 

「此処二週間、話せてなかったですからね。私はちょっと商談とか家のあれやこれで忙しかったですし。……後輩君はどうでした?」

 

「……僕は」

 

 息を吐きつつ、ウィルも曇り空を見上げた。

 風は冷たい。 

 制服に肩幕だが、そろそろコートを引っ張り出すべきだなと思う。

 

「ここ一週間は……ディートハリスさんにあちこち連れまわされましたね。観光名所とか劇場とか、何故かアレス君も一緒になって食べ歩きとか」

 

「へぇ」

 

 先週、大聖堂に行ってからも。

 彼は生徒会の仕事もそっちのけで放課後にウィルを誘い王都散策に誘ってきた。

 意外にもというべきなのかそうでないのか、あの従兄はウィルに対して非常に友好的で、博識でもあり、貴族だからと権力で無理を通そうとはしない男だった。

 人気の屋台の行列にも当然のように並び、立ったままだろうが、手づかみだろうが気にせず食事を楽しんでいた。

 それでも服は汚さず、手の汚れは最低限、どころか優雅さまで感じさせるのは大したものだろう。

 アレスは何故僕が、とかぼやきながらもついてきていた。

 

「まあ、悪い人ではないですよね。帝国でも彼は憧れの的だったそうですから」

 

「……ですか」

 

「はい」

 

 それから少しの間、特に意味もない雑談が続いた。

 フォンが毎日王都を飛んで、ちょっとした噂になっているとか。

 御影とディートハリスが顔を合わせたらお互い完璧な作法で挨拶をしたとか。

 カルメンがまたアルマに絡んで怒られて、パールは笑っていたとか。

 ぼんやりとした空気が流れる。

 トリウィアが煙草を吸いながら空を見上げ、ウィルは横目で彼女をたまにちらりと見る。

 別に意味のない会話を嫌う二人ではなかったけれど、しかし重い空のせいか、或いは二人の心持ちのせいか妙な気まずさを、少なくともウィルは感じていた。

 そして、

 

「後輩君」

 

「……はい」

 

「――――私はディートハリスさんと結婚します」

 

 

 

 

 

「――――」

 

「急な話……でもないですかね。まぁ、最初からそうだと解っていましたし。フロネシス家とアンドレイア家の今後を考えれば、むしろそれが最善なわけで。元々私は嫁入り相手もまるで見つかりませんでしたが、ふたを開けてみれば随分と大当たりに―――」

 

「先輩は」

 

 その声は、無理やり絞り出したかのような声だった。

 気持ちを押さえつけていて、それでも言わずにはいられない、そんな言葉。

 

「それで……満足なんですか?」

 

「………………ふぅぅー」

 

 応えはすぐにはなかった。

 吐いた白煙が鈍色の雲に吸い込まれていく。

 そして、

 

「満足なんて、してるわけないじゃないですか」

 

「……!」

 

 ウィルが立ち上がった。

 けれど彼女は動かない。

 眼鏡で反射して青と黒は見えなかった。

 それでも、言葉だけは明確だった。

 

「でも、仕方ないんです。これが私の血に架せられたものであり、否定はできません。帝国貴族はこれまでこうやって発展して来たのだから、私もそれから逃れられないし、逃れるつもりは――」

 

「それは!!」

 

 それは。

 そんなのは。

 あのトリウィア・フロネシスが。

 ウィルに現実で直面する問題への対処方法を教えてくれた彼女が。

 自分に未知の歩き方を教えてくれた彼女が。

 そんな風に。

 望まぬ道に進むなんて。

 それは、

 

()()()じゃあ、ないですか……!」

 

 ウィル・ストレイトが最も嫌い、許せないもの。

 握りしめた拳が軋み揺れる。

 

「…………君は、そう言いますよね」 

 

 ふらりと、彼女が立ち上がった。

 そう言うと解っていたから、こんな所で待ち合わせたのだ。

 

「それが帝国のやり方だとしても……僕には、認められません。他ならぬ貴方が、先輩が、思うように生きられないなんて……っ、今からでも! ディートハリスさんや先輩のお母さんのところに行って……!」

 

「ダメですよ、後輩君」

 

「―――――」

 

 ウィルの両目が見開かれ、言葉も体も止まる。

 

「せん、ぱい?」

 

 トリウィアが左の太ももから引き抜いた銃を―――ウィルに突き付けていたから。

 

「それは、帝国貴族(わたしたち)が積み重ねたものを否定する言葉です。わがままを言わないでください……なんて。君に言っても無駄ですよね。だから、賭けをしましょうか」

 

 彼女は左手で銃口を向けたまま、右手の指で煙草を足元に捨てる。

 煙草の煙の臭いが、ウィルにまで届いた。

 ブーツで踏みつぶし、

 

「せっかくこんな所にいるんですからね。模擬戦、しましょう。思えば、私、後輩君と本気で戦ったことなかったですしね」

 

「先輩! 何を言って……!」

 

「私が勝ったら、私を諦めてください」

 

 銃口は揺らがない。

 二色の瞳は眼鏡と前髪のせいでよく見えない。

 

「君が勝ったら……まぁ、好きにしてください――――では」

 

「先輩!」

 

 ウィルが詰め寄ろうとした時、既にトリウィアは左銃を抜いていた。

 そして。

 

「≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫――――≪十字架の深淵(ヘカテイア・アブグルント)≫」

 

 至近距離で究極魔法をぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 究極魔法で観覧席を吹っ飛ばしたトリウィアは、銃を握った手で器用に新しい煙草を咥え、魔法で火をつける。

 そして視線は、水上フィールドに。

 

「お見事」

 

 そこに虹色の残光を腕に宿したウィルがいた。

 何をしたかは分かる。

 ≪シィ・ウィス・パケム・パラベラム≫。

 かつて御影の究極魔法を無効化したもの。

 相手の魔法に用いられる系統と全く同じ系統を用いることで相殺・無効化する対大規模攻撃用防御。

 それをあの一瞬で展開し、大きく弾かれながらもトリウィアの究極魔法を防いだ。或いは、一瞬のことゆえに衝撃を殺しきれずフィールドまで吹っ飛んだのかもしれない。

 

「――――先輩! どういう、つもりですか!」

 

「言ったでしょう。模擬戦だって。……まぁ、それも本気ですし。言ったでしょう? 私は君に、本気と全力の私を見せたことがない」

 

 初めて出会った時はそれこそ竜に対して無意味に恰好付けて究極魔法を放っただけ。

 建国祭の時の魔族殺し自体は余裕があったし、ゴーティアに同じく究極魔法をぶっ放しただけ。

 

「だからちゃんと戦ったらどうなるか―――()()()()

 

 ()()()と、ブーツを鳴らしながら階段をゆっくり彼女は降りていく。

 だらりと両手の銃を垂らしながら。

 そしてぽつぽつと、堰を切ったように雨が降り出して行く。

 彼女が階段を下りて水上闘技場に足を踏み入れる頃には、雨足は強くなり、互いの髪に雨粒に滴っていた。

 

「…………先輩。落ち着いてください。僕だって……怒りますよ。滅茶苦茶じゃないですか」

 

「―――――くすっ」

 

 ウィルの押し殺した声に、しかし彼女は笑った。

 頬を引きつらせたような、普段は見せることのない酷薄とした笑み。

 

「えぇ……えぇ。そう、困ったことに、私はもう一つどうしても気になってしまったんです」

 

 ウィルは考える。

 彼女が今の状況で自分に戦いをしかける意味を。

 分からない。

 全く以て分からない。

 彼女は、こんなことをするほど好戦的な人間ではないはずなのに。

 

「聖国で、あなたは理不尽を認められないからという理由で戦いに挑み、自らの幸福である御影さんを救いに行きました。素晴らしい、羨ましいですね。かっこいいですし。――――でも、ちょっと思ったんですよね」

 

 しかしだ。

 トリウィア・フロネシス。

 「知りたい」という呪いに囚われた彼女は。

 

 

()()()()()――――()()()()()()()。どうなるのか、どうするのか、助けて欲しくないって言われたら。知りたいって、思っちゃったんですよね、私は」

 

 

 それだけの理由でウィルと本気で戦う人間かと問われたら。

 否、とは言い切れない。

 むしろ――――彼女なら、やりかねない。

 

「ウィル・ストレイト君」

 

 彼女は嗤う。

 雨に濡れながら。

 青と黒に暗い光を灯し。

 呪いのような欲望に突き動かされて。

 頬を紅潮すらさせてとろけるような笑みで、

 

「さぁ―――――私に、君を教えてください」

 

 悪魔は引き金を引いた。

 

 

 

 

 




トリウィア
君の好きな人が君を否定したらどうなるか知りたいな!
とかメンヘラみたいなこと言いだした。悪魔か?
どうかしちゃってるの最終形態

ウィル
意味が解らんが……この人なら、やりかねない……!

次回、ウィルVSトリウィア

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ザ・ストロンゲスト





 

 

 

 ウィルは訳が分からなかった。

 確かに我儘を言った自覚はある。

 でもウィル・ストレイトにはどうしたって、()()()()()()をされて黙っていられるわけがなかった。

 だが、

 

「ぐっ―――!?」

 

「あはっ!」

 

 青と黒。

 降りしきる雨が強くなる中、輝く二色の瞳。

 爛々と輝くそれが驟雨を突っ切って踵を叩き込んでくる。

 十字で受け止め、

 

「……っ!」

 

 その重さに顔をしかめ、足元の水が弾けた。

 濡れたレザーパンツに走る数本の青黒のライン。

 それは彼女の身体強化の証。

 既に≪身体強化(センパー・パラタス)≫は発動している。

 アルマから教わったそれはこの世界の身体強化魔法においては最高倍率を誇る。性能としては平均的な人種を、膂力において群を抜く鬼種と同等のものにする肉体強化。

 対し、トリウィアのそれはそこまでの強化倍率はない。

 故に、ウィルはトリウィアの蹴りを受け止め、

 

「―――――!?」

 

 次の瞬間には、彼女の両の太ももがウィルの顔面を挟み込んでいた。

 踵が受け止められた瞬間、彼女は既に動いていた。踵をウィルの腕に引っ掛け、逆の足で跳躍―――直後、中空に青の魔法陣を生み出し、蹴り飛ばすことで身体を前に押し出す。そして彼女の下半身がウィルの顔面に絡みついていた。

 濡れたレザーに包まれた太ももに、柔らかさとか、いい匂いとか。

 そんなことを思う余裕もなかった。

 

「がはっ――!!」

 

 挟まれたと思った瞬間、彼女はウィルを確保したままにバク転し、遠心力と膂力で彼を水面に叩きつけていた。

 プロレス技で言うフランケンシュタイナーに近い。

 水柱を上げながら、浅い水底に叩きつけられ肺から空気が押し出される。

 

「っせんぱ……ごぼっ!」

 

 叫ぼうとし、しかし戻ってきた水がウィルを飲み込む。

 浅いとはいえ、横になればギリギリ顔まで水が覆うほどの深さだ。

 想定外の攻撃と水量のせいで彼は動けず、

 

「状況把握が甘いですよ」

 

 ガキンと、二丁拳銃のリボルバーがぶつかり合い、回転し、

 

『―――氷魔の射手(Der Freischütz:Eis)

 

 氷結の魔弾が至近距離から放たれた。

 それは単なる氷結魔法ではない。

 液化、潤滑、氷結、活性。水属性五系統のうち四つ。

 ただ凍らせるだけなら氷結系統だけでいい。

 だが四系統を秘めたそれは―――触れたものを強制的に液化、ないし濡らし、既に濡れている状態に活性化させた氷結を叩き込む。

 単純に凍らせるだけではなく、その前に行程を踏むことで氷結効率を上昇させた必凍の魔弾であり、トリウィア・フロネシスにとってはそれが通常攻撃と言っていいものだった。

 

『≪ーーーーーーー・ーーーーー(フォルトゥーナ・フェレンド)≫!』

 

 氷の魔弾がウィルに届く直前。

 銃口が向けられた時、既にウィルは魔法陣を纏った拳を握りしめていた。

 鼻先、水面ギリギリに展開される火の属性を宿した浮遊盾。

 出現した瞬間に氷結を受け止め――――轟音と衝撃。

 大量の水と低音と高温が水蒸気爆発を引き起こした。

 

「ごほっごほっ!!」

 

 勢いあまって吹き飛ばされ、再度水上を転がり、なんとか体勢を立て直す。

 そして、水煙の中。

 水音を立てながら進み、リボルバー同士をぶつけ合う音。

 

「…………先輩」

 

 先ほどの氷の魔弾。

 ウィルがコンマ遅れていたら全身が凍り付いてた。

 そもそも、最初の究極魔法の時点で無効化をしなければ蒸発していてもおかしくない。

 模擬戦にしたとしても、そんなレベルではなかった。

 

 それでも、だ。

 

「―――」

 

 輝く青と黒。

 ずぶ濡れになりながらもその輝きだけは色褪せない。

 知識に呪われたという彼女なら。

 ウィル自身が幸福と定めた相手に拒絶されたらどうするか――――それを、知りたいという理由で。

 こんなことをするだろうか?

 

「……………………うぅん」

 

 しない、とは言い切れなかった。

 意味が解らないが、それでもそれは確かだ。

 トリウィア・フロネシスは、時々こちらの予想もしないことをし出す先輩だから。

 結婚がどうこうとか婚約がどうこうとか。

 そういうのを全部吹っ飛ばすくらいには、彼女の戦意は本物だった。

 ただそれでも、どう向き合うべきなのか。

 

 自分の言動が、彼女をおかしくさせたのかもしれない。

 その結果、こうして彼女に銃口を向けられるのなら。

 それは或いは、ある意味正しいかもしれなくて、

 

『ウィル』

 

 そんなことを思った瞬間、視界に文字が浮かび上がった。

 掲示板ではない。

 掲示板は繋げているが、しかし困惑が強いし、見ている余裕がない。

 でも、これができるのは一人だけだ。

 トリウィアとは違う意味で、ウィルに未知の歩き方を教えてくれた人。

 

『彼女の意図は分からないけれど』

 

 白い文字は続く。

 掲示板を介さない直結通信。

 

『――――君は、彼女に応えるべきだ。君が彼女を幸福だと思うならね』

 

 彼女はいつだって、ウィルの背中を押してくれる。

 迷いを捨てると決め、その黒く真っすぐな瞳で初めてトリウィアを見据えた。

 

「―――っ」

 

 ぞくりと、トリウィアが震える。

 普段無表情なはずの彼女に、明らかに喜色が浮かぶ。

 かつて、天津院御影を虜にしたその眼光。

 黒に宿る真っすぐな意思。

 

 そう、それをトリウィアは知りたかった。

 幸福が拒絶したらどんな反応をするかと彼女は言った。

 それはある意味、自意識過剰な前提がある。

 トリウィア・フロネシスは、自らがウィル・ストレイトの幸福であるという前提で戦いを持ちかけた。

 二週間前、結婚を誘った時の様に。

 それを言葉にしなかったからウィルは拒絶し、ディートハリスが現れてうやむやになった。

 そして今。

 彼の真っすぐな視線は、トリウィアの前提がただの自意識過剰ではないと証明するのだ。

 

『―――アッセンブル』

 

 動揺を、疑問を、不安を。

 不要なものの全てを捨て、右手を真横に突き出し、五つの環状魔法陣を浮かび上がらせる。

 色は青。

 

『ギャザリング・エッセンス』

 

 拳を握った瞬間、周囲の水がウィルを中心に渦となって立ち上がる。

 降りしきる雨を、闘技場に張った水を。

 何もかも―――飲み込む深淵のように。

 そして、宣言と共に彼はその姿を現した。

 

『――――サファイア』

 

 飛沫が弾けた。 

 そして現れたのは雨を纏う深い青のコート姿のウィルだった。

 右目は青く、その瞳には十字架が刻まれていた。

 黒のパンツに白のカッターシャツ。シンプルな装いに、アンダーフレームのコートと同じ色の眼鏡。

 対峙するトリウィアと外套の差はあれどほぼ全く同じ装い。

 当然だ。

 七属性の内、三つはウィルにとっての幸福である存在を模して構成されたのだから。

 

 そして水の属性はトリウィア・フロネシスを模したものに他ならない。

 

「――――先輩」

 

「はい」

 

「僕が勝ったら……貴方が貴方らしくあり続ける方法を一緒に探してください。アルマさんと御影とフォンと、生徒会のみんなと。必要ならお祖母さんにも、ディートハリスにも、先輩のお母さんとも話をして」

 

「……ふむ」

 

「僕は、先輩には先輩らしく生きて欲しい」

 

「ま、それならいいでしょう」

 

 ウィルは親指だけを曲げ、他の四指を開いた掌底を構える。

 トリウィアは二丁の拳銃をリボルバー機構同士が触れ合う様に眼前で十字に構えた。

 彼は彼女が自らの幸福であるという事実を証明し、彼女が彼女らしく生きる為に努力することを許してもらうために。

 彼女はただ、彼が自分にどんな顔で、どんな目で、どんな言葉を、どんな風に向けてくるか知りたいために。

 

 最早誰のためでもない、お互いの為だけに二人は雨の中を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 その光景をヘファイストスは見ていた。

 王都、帝国貴族向けの高級宿。ディートハリスやウェルギリアが泊っているところと同じある一室で。

 机に上に置かれたのはこの世界にあるはずのないブラウン管テレビに酷似したもの。

 ≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫により作り出したものであり、出力される映像は雨の中で戦うウィルとトリウィア。

 

 二人を見下ろしているのは――――小鳥型のドローンだ。

 

 眼球がそのままレンズになっており、雨天の遠距離だろうと全体を俯瞰して見ることができる。

 近代以降の電子技術を再現するのは素材の都合上難しいが、それでも遠隔で状況を確認できるというのは有用だ。

 遠見の魔法は可能ではあるが、この世界は構成が難しく魔力の消費も多いためあまり発展していないのが実情であり、それは大きなアドバンテージでもある。

 

「音声が入らないのが困ったところだけど……これはいい。これはいいわね」

 

 どうしてこうなったかは全く分らないけれど。

 それでもウィルとトリウィアが潰し合うというのは実に都合がいい。

 戦いの規模や動きを見ていても模擬戦とかいうレベルではなく一つミスればどちらかが死に至るもの。

 痴情のもつれか何かだろうか。

 結果的に―――心中まがいの相打ちなら最高だし、そうでなくても片方が死んだり後遺症が残る怪我を負えばいい。

 

「或いは……学園の誰かお偉いさんを篭絡して、どっちか、できればトリウィアなんかを追い出せれば……どうかしらね……彼女の研究を思うと難しいから……?」

 

 想定を重ねながらも口端には笑みが浮かぶ。

 彼女の質問責めで泣かされた時はほんと嫌になったが。

 まさかの運が向いてきたかもしれない。

 そう思った瞬間、

 

「―――ヘファイストス!!」

 

 ノックも無しにディートハリスが現れた。

 常と同じ軍服に近い儀礼服に加え、シンプルな造りのステッキを握っていた。

 オールバックの額に汗を流し、

 

「大変だぞ! 学園でウィルとトリウィア嬢が―――うぅん? なんだ、その箱は? ウィルと……トリウィア嬢?」

 

「……ディートハリス様。ノックも無しとは貴方らしくない」

 

「それは失礼! だが! 事態は急を要する! それが君のところの商品なのか何なのかは知らないし後で凄く詳しく聞きたいが、見ているのなら話は早い! ウィルとトリウィア嬢が何故か戦っているらしい! 止めなければ!」

 

「耳が早いわね」

 

「ふっ……ここしばらく、放課後ウィルを迎えに行ってる時、帝国出身と仲良くなったり、情報収集のために使用人を一人置いているからな。まさにその結果だ。……いや、そんなことはどうでもいい。行くぞ、ヘファイストス!」

 

「…………と、言われてもね。ディートハリス様」

 

 語気が強いディートハリスに肩を竦め、テレビの画面を見る。

 

「彼らの戦いに、今から介入できるのかしら? 間に合ったとして―――ディートハリスでは勝てないと自らおっしゃったでしょう?」

 

「それはそう。残念ながら俺ではウィルにもトリウィア嬢にも手も足も出んだろうな」

 

 そんな情けないことを当然のことのように言って、

 

()()()()()()()()()

 

 誇りを持つ帝国の青年は続けた。

 

「仮にもトリウィア嬢は俺の婚約者であり、ウィルは従弟だぞ? 横やりを入れて騒ぎを大きくすれば似たような者が来てもいいはずだ。むしろそっちに二人を止めることを期待しよう!」

 

「………………なんとまぁ、ディートハリス様らしいというか。というか、私も?」

 

「君もそれなりに戦えるだろう。動きを見れば分かる」

 

「…………ふむ」

 

 言われたことを考えて。

 そして。

 にっこりと笑いながら、彼に身を寄せ、

 

「流石ね、ディートハリス様。まさに貴族の、男性の鑑のような人だわ」

 

 ステッキを握る手を取って囁く。

 

「むっ……いつもの俺ならばこれだけで君に惚れてしまうが今はそれどころではないがしかし君柔らかいな女性はみんなこうなのか?」

 

「…………まぁもうなんでもいいけれど」

 

 一瞬呆れ、

 

「―――行ってはダメよ、ディートハリス様」

 

 握った彼の手に、自らの爪を食い込ませた。

 

「っ? ――――んん!?」

 

 反応は劇的だった。

 微かな痛みに少しだけ眉を潜め――――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な……ぁ……ぁぁ? ぁぃ―――ぉ?」

 

「ごめんなさいね、ディートハリス様。私、護身用として爪に毒を仕込んでいるの。毒と言っても麻酔……少し痺れるだけだから心配しなくていいわ」

 

 基本的にそれは護身用というよりもハニートラップの行為の中で使う場合の方が多いのだが。

 それでも今は、純粋にディートハリスの動きを止める為に用いられていた。

 

「今から、私たちがあの二人の間に横やりを入れても間に合わないだろうし、返り討ちに合うかもしれないわ」

 

 彼女は笑う。

 そレが一番都合がいいから。

 倒れたディートハリスを起こしつつ、彼女は囁いた。

 

「歌劇がお好きなのでしょう? ――――若い二人の破滅(ケツマツ)を、じっくりと鑑賞しようじゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨は勢いを増していく。

 視界を塞ぐほどの、王国では珍しい秋雨。

 その中でウィルは腕をクロスし、

 

「サファイア――――」

 

 周囲十数メートル。自分とトリウィアも含んだ空間の雨粒が中空で停止する。

 即座にウィルは両手を広げ叫んだ。

 

「―――シューティングドロップ!」

 

 小さな雨粒同士が集い、拳大の水球へ。

 そして叫んだ通り、水球がトリウィアへと殺到する。

 

 余談ではあるが、聖国の戦いの後掲示板でウィルの技名に対する真剣な相談会が勃発しかけ、僅か数レスの満場一致で『単語重ねるなら三つまで』という制約に至った。

 

「環境を利用した良い魔法ですね。単純だけど強力です」

 

 そんなことは知らず、彼女は目を細め双銃を構えた。

 右肘を持ち上げ、左腕を伸ばし、

 

「――――!」

 

 右目の蒼が輝き、両腕が跳ねた。

 激突するリボルバー。

 腕を広げクイックドロウ。右銃からは一度のトリガーで三発、魔力の弾丸が水球を撃ち抜き、左銃の弾丸は水球に激突した瞬間に爆発し他のそれもまとめて吹き飛ばした。だがその結果を彼女は見届けない。

 魔力調整により意図的に増加させた反動に逆らわず腕を跳ねリボルバーを激突。

 十字に交叉した上でトリガー。

 今度は銃弾ではなく光線。いくつもの水球を撃ち抜いても消えずに屈折を繰り返す追尾型。

 さらに彼女は止まらない。

 腕を交差し、広げ、舞う様に踊る様に。

 全方位から飛来する水球を二丁の拳銃と多種多様な弾丸と舞踏染みた動きで全て撃ち落とし、

 

「――――」

 

 右の銃口を上に、左の銃口を下に手元でそれぞれ向けた残身を取った瞬間、全ての雨が再び降り始め、

 

「甘いですよ」

 

「っ!」

 

 ウィルが打ち込んできた左の掌底を右の銃身に逸らし捌く。

 それによりウィルの体勢が崩れたところに左の銃口を殴りつけるように押し込みながら引き金を引き、

 

「!」

 

 弾丸が射出される刹那、ギリギリのタイミング、無理やり体を動かし、右手で銃身を掴んだウィルに逸らされる。

 

「―――良いですね」

 

「このっ」

 

 動きは止まらない。

 今度は右の銃口でウィルの腕に狙い撃ち、それよりも早く銃口を離し、逆の掌底が彼女の右肩へ飛ぶ。それを威力が乗る前に自ら肩を押し当てることでダメージを減らし、脇の間から銃を向け、今度は引き金を引く前にウィルの掌底が叩き落し、それには構わず一歩踏み込みながら彼女は肘を彼の顔面にぶち込み、当たる直前で頭を引くことで回避される。

 超至近距離の接触戦。

 範囲攻撃は距離感故にできず、銃の性質上、銃口の延長線上に相手の体がある状態で引き金を引けば基本的に命中する。

 

『≪クィ・ベネ・シェリフ・ベネ・メーテ≫!』

 

 それをウィルも理解していた。

 青い光の糸がウィルの右手に編まれ、拳銃の形を取る。

 トリウィアのようなリボルバー式ではない、自動式拳銃を模した造形だ。

 左手は掌底のまま、片手の拳銃。

 そのまま密着戦は続行した。

 

「……!」

 

 トリウィアが狙いを付ければ、ウィルの掌底が逸らし、ウィルが銃口を向ければ弾いて射撃線を逸らし、腕や身体、全身を用いながら如何に自分の都合が良い様に相手を制するかという陣取り合戦の様相となっていた。

 ウィルは歯を食いしばり、トリウィアは笑う。

 僅か十数秒の四本の腕と三丁の銃の攻防はまるで事前にそう取り決められた殺陣のようでもあり、

 

「これはどうですか?」

 

 トリウィアの指が撃鉄を強く押し込み――――()()()()()

 

「いぃ!?」

 

 正確に言えばそれは伸びたのではなく、弾倉と撃鉄部を起点に()()()()()()()()()()()()()()()

 一瞬前までは拳銃だったのに、それによって短剣のように。

 即ち、変形機構。

 

『―――≪From:Megaera(豊穣と嫉妬)≫』

 

「そんなものまであるんですか!?」

 

「フフフ……! 驚く顔、いいですね!」

 

 冷静に考えるのであれば、だ。

 トリウィアの二丁拳銃は正確には拳銃ではない。

 火薬によって銃弾を打ち出すのではなく、回転弾倉で使用する魔法系統や属性を切り替える為の補助器具。

 ならばそれは、回転する弾倉の機構さえあればよく、ついでに変形機構があるのも納得ができる、ような―――

 

「―――いやちょっとよく分んないです! 何故!? 普通に銃身に魔法で刃つければいいのでは!?」

 

「決まっているでしょう―――かっこいいからです!」

 

 斬撃が放たれる。

 なまじ超至近距離だったせいで反応が遅れ、ウィルの胸に十字の線が刻まれた。

 

「本当に、あなたって人は……!」

 

 傷は浅いが、大きく飛び退き距離を取った。

 驚いたが、双剣ならば以前ザハル・アル・バルマクとの一戦で焼き付けた。

 動きは違えどその経験がある故に、むしろやりやすい。

 そう思った瞬間、

 

「十字路とは」

 

「……?」

 

「それ即ち―――自らが立つ道から三つの道が伸びているということです」

 

 そんなことを彼女は言って、

 

『―――≪From:Tisiphone(慈雨と殺戮)≫』

 

 撃鉄を、強く押し上げ―――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――はぁ!?」

 

 それは最早短いリングが魔力で編まれた鎖で繋がっているだけの何かに見えた。

 そしてそれが何なのか、ウィルはすぐに思い知ることになる。

 鎖で繋がれたリング、それはウィルが良く使う戦輪のようではある。

 彼女は体を回しながら、鞭のように体の周囲で数度振ってから、大きく体を回転させ、

 

「!!」

 

 ウィルへと叩きつけた。

 当然、魔力の鎖で繋がれているために間合いは自在。

 雨粒を散らしながら音速を超える速度で迫る鞭に対し、とっさにウィルは手を掲げた。

 それに従うように周囲の水が巻き起こり、即席の盾となる。

 

 以前、バルマク戦ではワンアクションごとに属性を切り替えたが、周囲に膨大な水があり、それを利用できる。故に≪サファイア≫のみで戦っており、こうして咄嗟に水を操ることができる。

 

 故に振るわれた鞭に間に合い、

 

「!?」

 

 接触した瞬間、水の盾が()()()()()()()

 ただの水をまき上げた盾とはいえそれなりの質量があり、ウィルの魔力を通している。故にある程度の強度もあった。それが破られた。

 

「いや、おかしいのは―――」

 

 破られたことよりも、水の散り方に違和感を覚える。

 そして返す刀で繰り出されたものを見て、違和感の原因を理解した。

 鎖で繋がれ、小さなリングになった銃身。

 それ自体から細かい刃がびっしりと生え、超振動している。

 まるでそれは、

 

「チェーンソー……!?」

 

 或いは蛇腹剣と呼ばれる武器との合成。

 そう気づいた時、鞭刃はさらに伸び、縦横無尽に駆け、ウィルを取り囲んでいた。

 鎖で繋がれた合計二十の超振動する刃。

 

『―――Měsíčku na nebi hlubokém, světlo tvé daleko vidí(空澄む月、はるか遠くの光明)

 

 その刃は謳うようなトリウィアの言葉と共に輝きを増し、

 

po světě bloudíš širokém(広がり移ろい), díváš se v příbytky lidí(見下ろす瞳よ)―――――≪Flieg zum Mond mit mir (月寄せる水底の声)≫』

 

 空間が撓み、震え――――刃鞭圏内を超過重が押しつぶした。

 

 

 

 

 

 

「………………ふむ」

 

 水煙が巻き起こり、しかし雨は心なしか弱くなっていた。

 ウィルが立っていた場所を中心に、半径数メートルの地面が陥没し水が流れ込んでいた。

 自らが成した刃鞭圏内に対する超過重。

 爆発、潤滑、活性、加速、伝達、振動、崩壊、落下、拡散、反射、収束、圧縮、荷重、斥力―――刃鞭そのものの制御を含めて合わせて14系統の同時使用。

 即ち、人によっては十分に究極魔法となるはずのものを放ったという事実はまるで気することはなく。

 息一つ切らさずに、

 

「いい判断ですね」

 

 視線をずらした先、制服の姿に戻り、片目の色は黄色く、右腕に真紅の布を巻きつけたウィルの姿があった。

 雷属性特化≪トパーズ≫。

 その高速移動により、彼女の過重魔法が成立する直前に脱出していた。

 それでも息は荒く、片膝を付きながら眉を潜め、

 

「はぁっ……はぁっ……っ……なんですか、今の……!」

 

「詠唱による魔法の強化。もう失われた……というより属性や系統がそもそも35種と定まっていなかった頃の、帝国の一部で使われていた古代魔法ですね。今日日誰も使いませんが、私は好きです。かっこいいし、雰囲気が出るので」

 

「…………ほんとに、もう。貴方は……変形するそれはなんですか。そんなことできるんですか?」

 

「土属性の魔法を予めこれ自体に刻み込んで、後は最初から決まった魔法を使うだけです。知る限り、私しかできなかったので誰も使い手知りませんけど」

 

「………………先輩、強すぎますね」

 

「えぇ」

 

 後輩からの賞賛を彼女は当然のように頷く。

 

「アルマさんには全く及びませんし、前学園長……ゴーティアということは置いといて真面目に仕事していた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 帝国一の才女。

 マルチバース最高の魔法使いアルマ・スぺイシアをして天才と言わせしめ。

 僅か五歳にして帝国学会を恐怖に陥れ、本来上位種である火龍カルメン・イザベラさえも叩きのめし。

 アルマとウィルが転生特権による全系統保有を例外とするならば、この世界で最多系統保有者であり。

 この世界における最高学府≪アクシオス魔法学園≫で5年間頂点に立ち続ける女。

 

「自分で言うのもなんですが――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 




ウィル
やだ……僕の先輩強すぎ……?

トリウィア
ガンカタするし武器変形させるし詠唱するしやりたい放題の女
アース111最強の知識欲の化け物
初めてまともな戦闘したらコレである

変形二丁拳刃鞭銃≪エリーニュス≫
≪慈愛と不休/From:Allekto/フォルム・アレクト≫
通常二丁拳銃。
≪豊穣と嫉妬/From:Megaera/フォルム・メガイラ≫
双剣
≪慈雨と殺戮/From:Tisiphone/フォルム・ティシュフォネ≫
チェンソー蛇腹剣!!!!!!!

こんなの使ってるアース111にはこの人しかいてまへん


ヘファイストス
何かよく分らんけど滅茶苦茶都合がいい展開でウハウッハ
頼むからどっちか死んでくれ

ディートハリス
またしても何も知らないディートハリス(20)
解せぬ

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トリウィア・フロネシスーあなたはどうして―

 

 雨は少しづつ弱くなり、雲の切れ目から光が見え始めた。

 

 けれど水上闘技場では水飛沫が舞い、水煙が弾ける。

 

「―――――!」

 

 声にならない音を上げながらウィルはトリウィアの飛び込み回し蹴りを掌底で受け止め、

 

「うお、と――がっ!?」

 

 ジャンプして繰り出された回し蹴り。

 受け止めたと思ったのに彼女は変わらずさらに体を回転し、腕を落とし、さらにもう一回転して長い脚がウィルの側頭部に激突する。

 一瞬三撃。

 言葉にすれば簡単だが、滅茶苦茶だ。

 

「……っ!?」

 

 意味のある言葉すら生み出せない。

 視界が揺れ、体勢が崩れ、

 

「足元が御留守ですよ」

 

 彼女は止まらない。

 着地と同時にさらに体を回し、輝く蒼の瞳が尾を引く。

 押し出すようにウィルの両足ごと蹴り飛ばし体を浮かし、

 

「―――ぁ」

 

「お、いいですね。その『あ、ヤバ』って顔」

 

 飛び上がり気味に放たれたボレーキックがウィルの腹部に着弾し、

 

『――――英雄の歌(Heldenlied)

 

 めり込んだ足先と踵に浮かぶ黒の魔法陣。

 爆発、活性、加速、硬化、崩壊、落下、収束、荷重、斥力、圧縮。

 都合10系統による衝撃増幅打撃魔法をぶち込んだ。

 

「―――――!?」

 

 炸裂した衝撃で周囲の水が爆散し、当然のようにウィルの体がぶっ飛ぶ。

 あまりに勢いに水面を何度かバウンドしてから、水上闘技場の外縁に激突した。

 

「ごほっ! がふっ……! はぁっ……くっ……!」

 

 口から血の塊を吐き出し、ふら付きながらも外縁にめり込んだ背中を引きはがす。

 ドボン、という音が背中でした。

 縁が壊れて、闘技場の外に水が流れ出しているらしい。

 

「ふぅぅぅ……っ」

 

 濡れたコートの袖で口元の血をぬぐい、思う。

 

 ――――いや、この人強すぎる。

 

 状況に応じて変形する武器。使う魔法は当然のように10系統以上。さらに体術まで達人、こちらの僅かな隙に的確に打撃をぶち込む洞察力。

 強い人だとは知っていた。

 出会って1年以上。

 模擬戦だって何度もしたし、蹴り技や基礎の系統魔法は彼女から教わった。

 だが考えてみれば、模擬戦というよりも教導に近く戦いながら彼女の指摘を聞くばかりだった。一目見れば大体の動きを模倣できるウィルではあるが、それでも細かい彼自身の癖や人間工学的に非効率な動きを彼女は修正してくれる。

 

「……」

 

 そしてさらに思う。

 トリウィア・フロネシスこそがウィル・ストレイトの完成系なのだ。

 1年かけてアルマから教えてもらった魔法を学び、半年ほどかけて属性の乗算による特化状態――まだ完成ではないが――を編み出した。

 それでも、まだ足りない。

 35系統全てを使いこなすには至らないし、今もってなお究極魔法はアルマのアシストがないと使えないままだ。

 けれど、理想でいえばフォームチェンジなどせずに任意の属性を好きな状態で使えるほうがいい。

 それをトリウィアは実現している。

 

「―――あぁ、やっぱり凄いな」

 

 思わず笑いがこぼれた。

 雨の中、眼鏡越しに蒼瞳を輝かせる白衣姿の美女。

 ウィルが尊敬する先輩。

 知識の祝福に包まれた世界最高の才女。

 

「参りますね……」

 

 両手に光の糸で編まれた銃を握る。

 けれど、これではダメだ。

 ただ周囲の水を使うだけではまるで足りない。

 やることそのものは変わらない。

 ただそれよりも深く、より高次元で。

 銃を握った腕が円を描くようにゆっくりと振るう。

 その動きに周囲の水が塊となって続いた。

 続けて身体を舞う様に回せば、水は衣の様に伸びる。

 そして左肘を持ち上げ、右腕を伸ばし構えた。

 

「まだ、足りません」

 

 サファイアはトリウィアを模して作られた姿だけれど。

 彼女の叡智にも知性にもまるで届かない。

 だから学ばないといけない。

 誰よりも学ぼうとする彼女から。

 彼女という存在そのものを。

 どうして戦っているかなんて、今は忘れてしまおう。

 ただ、この目に焼き付ける為に。

 

「―――貴女の祝福を」

 

 

 

 

 

 ふと雲の切れ間から刺した光に目を細めながら思った。

 どうしてこうなってしまったんだろうな、なんて。

 いや、理由なんて解りきっているけれど。

 全部自分が発端なのだけれど。

 わりと理想通りというか欲望通りというかちょっと後輩君ほんとにちょっと一言でこっちの心を刺してくるのやめて欲しいずるくない? とか思うけれど。

 

 己が呪いと呼んだものを、彼は祝福と呼んでくれる。

 

 それが彼女にとってどれだけ嬉しいことか彼は解っていない。

 

「―――御影さんを笑えませんね」

 

 その黒い瞳が真っすぐにこちらを見据えてくる。

 一年少しの付き合いで何度も見たような、けれど見たことのないようなまなざし。

 周囲の水を随時使うのではなく、纏った水の衣を防御膜として彼は用いていた。

 常に彼の周囲を流れる水衣がトリウィアの攻撃を受け流し、逸らして行く。

 浮遊する自律盾を使う姿を見るが、アレの応用と言ってもいい。 

 それにより、彼は自らの手数の少なさを補っていた。

 

 それだけではない。

 防御を水衣に集中し、攻撃を二丁拳銃と足技に集中したことにより僅か数度の攻防でその練度は驚くほどに上昇していた。

 この間にも、彼は成長し続けている。

 凄いなと思う。

 彼は一度見たものを大体自分のものとしてしまう。

 難しいものでも、しばらく見続け、意図的に学べば理解する。

 流石に限界はあるようだが、それでも素晴らしい。

 

 1つのことに対して学ぼうとしたら全然関係ないものを知ろうとして、散々遠回りしてやっとたどり着く自分とはまるで違う。

 

 双銃と双銃。

 蹴撃と蹴撃。

 翻るコートさえも同じように。

 双剣と双刃鞭が時折織り交ぜられ、対抗するように水の衣が流れ舞う。

 彼は歯を食いしばり、息を荒くし、それでも食いすがり、少しづつ均衡が生まれていく。

 トリウィアを模した力と技術で、トリウィアから学び、彼は進んでいくのだ。

 

「――――あぁ」

 

 雨に濡れた頬が火照る。

 これまで彼女から知識を学ぼうとした人は多かったし、誰が相手だろうと分け隔てなく教えて来た。

 だってそれはただの知識だから。

 でも彼は。

 真っすぐな意思を黒い瞳に宿す少年は。

 トリウィア・フロネシスという存在そのものを知ろうとしてくれているのだ。

 彼女が呪いと自嘲するものを、彼は祝福とほほ笑んで。

 

「どうして―――」

 

 どうして、こうなったのだろう。

 彼には聞こえない小さな声で呟く。

 理性ではこの戦いが必要だと判断しながらも。

 心の奥底の無垢でわがままな自分が想ってしまう。

 自分と彼の間にはあまりにも面倒なことが多すぎた。

 非転生者と転生者。

 帝国と王国。

 フロネシス家とアンドレイア家。

 古くから続く大貴族と一代限りの成り上がり。

 考え方と文化の違い。

 そういったお互いではどうにもならないことが雁字搦めになってしまった。

 

 もしも。

 意味のない仮定だけれど。

 ウィル・ストレイトとトリウィア・フロネシスが。

 

「――――()()()()

 

 ただのウィルとトリウィアだったのなら。

 そういうしがらみが全てなく出会えたのなら。

 或いは、こんなことをしなくてもよかったかもしれないのに。

 

「貴方はどうして―――ウィル君なのかな」

 

 そんな馬鹿なことを考えてしまった。

 こんなことをして何を思っているのだか。

 あぁ本当に。

 自分は未知に弱い。

 知らないことに対して、全く自制心が効かない。

 けれど、仕方ないんじゃないだろうか。

 

 初恋なんて―――どうしていいか分らないじゃないか。

 

「…………ふっ」

 

 そんなことを考える自分に笑ってしまって。

 恥ずかしくて目を閉じた。

 

「―――!」

 

 そしてそれを今のウィルが見逃すはずもなかった。

 トリウィアが馬鹿なことを考えたなんて知るはずもなく。

 

「サファイア!」

 

 水が迸る音がする。 

 纏う衣の水が銃口に集い、圧縮されていくのを魔力の流れで感じる。

 

「―――メイルシュトローム!」

 

 それにしても彼はネーミングセンスが酷いな。

 そのあたり講義も考えよう。

 なんて思いながら、目を開き。

 

 

『――――汝、叡智を以て叡智を愛せ(φ ρ ό ν η σ ι ς ・φ ι λ ο σ ο φ ί α )

 

 輝く蒼の瞳に―――十字架が浮かび。

 刹那の早撃ちが、ウィルが生み出した圧縮水球を消滅させた。

 

 

 

 

 

 

「――――――え?」

 

()()も、まだ君には見せたことはなかったですね。……というかまぁ、ここ数年、まともに使うタイミングはなかったんですが」

 

 ウィルが作り出した超圧縮の水球、それをウォーターカッターのように放ついうなれば必殺技。

 それがただのたった一発の、ただの普通の弾丸で。

 

「系統は血統により遺伝する。帝国貴族の政略結婚はそのせいであり、例えば聖国では水属性保有者が重宝されるのも同じ要因です」

 

 普通ではなかったのは、彼女の右目だ。

 ウィルの≪サファイア≫の右目と似たような十字架が瞳に浮かんでいる。

 だが、彼のそれがただの形態変化の象徴であるのとは明確に違う。

 蒼の十字瞳から揺らめく陽炎のようなものが漂っていた。

 

「勿論、親の系統を子がそのまま引き継ぐことはありません。そうならとっくに誰もが全系統を持っていますしね。そんな簡単な話ではない」

 

 けれど。

 

「もしも意図的に、長い時間と世代を掛けて同じ系統保有者を連綿とその血統に内包するなら。その血にその系統は定着し、そしてその定着を世代を重ねより強めたとしたら」

 

 結果として生まれるものがある。

 それが、

 

「―――≪外典血統(アポクリファ)≫。既存35種の系統から外れた固有の概念を有した魔法が生み出される。帝国七大貴族が、そう呼ばれ、地位を確固たるものとしている由縁でもあります」

 

 それはカルメンの人化と龍化や生来持つ威圧やフォンの高位獣化能力(メタビースト)と同じ、アース111の魔法基盤における例外。

 魔法という技術ではなく、ある種族の内、限られた一部が持つ上位生態機能。

 膨大極まる年月と品種改良の果てにのみ現出する、この世界における人種の極致であり。

 その最先端にして最高傑作こそがトリウィア・フロネシスに他ならない。

 

「ま、≪外典血統≫があるからといって無敵ではないですけれどね。実際私のこれも、正直いまいち使い勝手が悪いというか……君の無効化の下位互換なんで笑っちゃうんですけど」

 

 即ちそれは、

 

「私の場合、既存系統に倣うなら『解析』。相手の魔法を観察し続けることで、その構成を分析し、理解することができる。そして解析が完了したのなら、相手の魔法の中心点――或いは急所となる綻びを視認できるわけですね」

 

 ウィルの魔法をただの魔力弾で霧散させたのはそういうことだ。

 ≪サファイア≫は水属性五系統を特化し、それをトリウィアを模して構築されている。

 戦えば戦うほど彼女自身に近づいてきた。

 だから、その十字瞳はウィルの魔法を視覚的に分解し、たった一発の銃弾で消滅させられた。

 

 尤も、彼女の≪外典血統≫による解析はそれなりに時間が掛かってしまうので、そもそも使うまでもないことが多い。

 そうでなくても、例えば建国祭の時のゴーティアのように全く未知の上位存在にも初見では通用しない。

 ただまぁ、

 

「気に入ってますけどね。――――魔眼って感じで」

 

 めったに発動しないが、瞳に移る十字架はかっこいい。

 

「………………えぇと」

 

 トリウィアの説明を聞いて、ウィルは頬を引きつらせた。

 

「つまり、今の僕の魔法はもう通用しないと?」

 

「とりあえずその水特化は、そうですね。純粋に特化している分分かりやすいので」

 

「………………ほんとに、貴女っていう人は。どうしてそうなんですか」

 

 彼は首を傾げて笑った。

 あぁ何故か、随分と久しぶりに見た気がする。

 

「―――はぁ。ほんとに、凄いな」

 

 戦え戦うほど知らないことが増えてくる。

 それだけ彼女を知れると、ウィルは笑う。

 でも。

 

「だからこそ……負けるわけにはいきません」

 

「へぇ?」

 

「こんなに凄い貴女が、思う様に生きられない理不尽を僕は認められないし、認めたくない」

 

「……………………君は、やっぱりずるいよ」

 

 トリウィアも笑う。

 知っていたはずのことだけれど。

 いつもなら一度知ったら満足するのだけど。

 なぜかもっと知りたくなってしまう。

 つまりは、そういうことだ。

 

 いつの間にか雨が止んでいた。

 そして。

 

「君は君だから、君なんだよね」

 

 もう一度笑って。

 無造作に足元に向けて引き金を引き、着弾と共に炸裂。

 水煙が周囲を覆い隠した。

 

 

 

 

 

 

 水煙は数秒で晴れた。

 膨大な水量がウィルの手の中に集まったから。

 単なる水属性の特化運用ではない。

 闇属性の圧縮、荷重を織り交ぜたから。

 単一属性ではトリウィアに解析されるが故の応用。

 自乗特化属性に、さらに別の属性を組み込むそれはウィルが目指すべき完成系であり、しかしこれまで成功しなかったものを彼は行う。

 

「―――サファイア!」

 

「≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫――――」

 

 そしてトリウィアもまた、銃口に全ての力を集結させた。

 彼女の全て。

 究極魔法。

 最早語るまでもない。

 

 黒と蒼の視線がぶつかり合い、

 

「グラビオル―――ストリィィムッ!」

 

「――――≪十字架の深淵(ヘカテイア・アブグルント)≫」

 

 重力によって圧縮された流水の奔流と。

 万物を飲み込み消滅させる深淵の波動が。

 

 ぶつかり合い、

 

「―――――ぁ」

 

「―――――ぇ?」

 

 その瞬間圧縮水流が()()()()

 

 何本もの高圧の水流が刃のように周囲一帯を縦横無尽に薙ぎ払い、切り刻み。

 水上闘技場を、観客席を蹂躙し。

 

「づっ……!?」

 

 トリウィアの胸を切り裂いて、

 

「――――」

 

 発生源である暴走する水塊を彼女の深淵が飲み込み、消滅させ、規模を削り―――――ウィル・ストレイトの胸に風穴を開けた。

 

 そして、残ったのは崩壊した闘技場と静寂。

 

 袈裟にざっくりと胸を切り裂かれたトリウィア・フロネシスと。

 

 胸部が伽藍洞になり、ぴくりとも動かないウィル・ストレイトだけ。

 

「……………………」

 

 彼女はしばらくの間、動けなかった。

 口から血を零し、致命傷を負ったまま。

 倒れた―――即死したであろう少年を見て。

 綺麗な両目を見開いて。

 

「…………」

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで、今にも崩れ落ちそうになりながら少年であった亡骸の下へ行く。

 

「……ウィル、くん」

 

 ただ、小さく名前を呼んで。

 彼の身体に覆いかぶさる様に倒れ込み、動かなくなった。

 

 ただ、寒々とした静けさだけが残り。

 やっと雨雲も消えて、強く差し込んだ陽光が二人の死体を照らした―――――。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ひっ」

 

 その光景を見てヘファイストスは笑い転げ落ちそうになった。

 冗談みたいな終わり方だった。

 必殺技をぶつけようとして、暴発して、どっちも死ぬなんて。

 そんなこと――――面白すぎる。

 馬鹿にもほどがある。

 

「っ……!」

 

 けれど、まだ笑ってはダメだ。

 ディートハリスが後ろで転がっているが、意識はある。

 だから流石に笑ってはいけない。

 口元に手を当て、緩みを隠しつつ、ショックを受けたかのように体を震わせる。

 しばらく嗚咽で笑い声を隠し、そしてようやくディートハリスに声をかけようとして振り返り、

 

 

「―――――別に笑ってもいいんですよ?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………………え?」

 

「流石に、ちょっと雑過ぎですよね。いや、こうしてみると気分も悪いですし」

 

 思考が止まる。

 動きも止まる。

 けれど視界の中。トリウィアが右手握った拳銃を突き付けているし、隣にいるウィルはディートハリスを起こして壁に背を預けさせていた。

 

 どちらも濡れているし、細かい傷はあるけれど。

 先ほどの致命傷は、ない。

 

「………………なん、で」

 

「後ろ、その画面見てもいいですよ。それ以外のことをしたら撃ちます」

 

 言われて振り返る。

 というよりも理解が追い付かずそれしかできなかったというべきか。

 振り返ったテレビの中。

 血が滲んだ水面の沈み、折り重なった二人は確かにいる。

 いると、思い、

 

「えっ?」

 

 ()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……ぁ……ぇえ……?」

 

 パクパクと、彼女の口が開いたり閉じたり。

 

「はい、こちらに向いて」

 

 振り向けば、トリウィアは左手で煙草を手にしていた。

 咥え、勝手に火が付く。

 

「ん。……流石後輩君、ありがとうございます。」

 

 視線はずらさず礼を口にし、魔法で煙草に火をつけた彼はどこか呆れ気味で苦笑していた。

 

「すぅぅぅぅ――――ふぅぅぅぅぅぅ――」

 

 トリウィアはゆっくりと煙を吸い、息を吐き、

 

「それでは―――答え合わせといきましょうか」

 

 




ロミジュリってる!!!!

ウィル
死んだ……死んでない!?

トリウィア
死んだ……死んでない?
私の後輩の技名がこんなにダサいはずがない
前話に加えて魔眼まで持ち出してきた

外典系統(アポクリファ)
人種のごく一部の血統にのみ出現する固有系統の総称。
アース111における人種の到達点。
帝国七大貴族は例外なくこれを保有している。

ヘファイストス
えっ?
何も知らなかったヘファイストスさん(26)

ディートハリス
またしても何も知らないディートハリスさん(20)

次回、色々種明かし

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アンサー・タイム

前話に対しての感想で
ロミオVSジュリエット バトルLevel90オーバー
に笑っちゃいましたね


 

 トリウィアが吐き出した白い煙が部屋の中に漂う。

  

「ふぅぅ……」

 

「……っ」

 

 ヘファイストスは身体に魔法の鎖で拘束されて床に跪き、トリウィアはその正面で足を組み椅子に座っていた。

 背後、ウィルがディートハリスを介抱しているが、ヘファイストスはその様子を確認する余裕はなかった。

 

「……っどこ、から」

 

「ふむ」

 

 問いに、彼女は小さく頷き、

 

「いつから幻術だったかといえば、あの心中まがいの直前。水煙を上げたところからですね。或いは、いつから貴方を疑っていたかと言えば最初から。根本的にどこから間違えていたかといえば」

 

 彼女は肩を竦めて言う。

 

「貴女は、この世界の人間を舐め過ぎましたね」

 

「――――はぁ!? な、なにを……! いえ、最初から!? あの時、なにも……!」

 

「えぇ。商談自体はまっとうでした。正確に言うと違和感を覚えた時ですね。貴方が見せてくれた打鍵印字機―――あれ、別の世界の技術をこの世界の魔法で再現したものでしょう?」

 

「……!」

 

 ヘファイストスの顔色が変わる。

 

「正確にどうやったのかは分かりませんが、別のアースそのままだとアルマさんが気づきますしね。やはり再現というべきでしょう。後輩君で、術式さえ組めれば別世界の技術を系統魔法で再現できるというのはとっくに証明されています」

 

 ウィルの≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫のように。

 ヘファイストスの≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫もまた同じだ。

 

「それにここ最近しばらくアルマさんからマルチバースの力を教えてもらっていたので、一目見て、アレが別の世界技術の魔法で作られたと気づいたわけです。だから言ったでしょう?」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「―――ぁ」

 

 言葉を思い出す。

 量産ではなく、再現と彼女は言った。

 違和感はあった。けれどその後の彼女の長文の独り言と怒涛の質問責めで忘れてしまった。

 いや、しかし、

 

「それだけで!?」

 

「まさか。これに気づいた時は別に敵だと思いませんでしたよ。転移なのか転生なのかは知りませんが、普通に貴方もそういう人なのかと思っただけです。そういう人が多くいることを私は知りましたし、後輩君やアルマさん以外にこの世界にいても全くおかしくない」

 

 ただ、

 

「小さな違和感はありました。例えば……そうですね。貴方の爪。整えて伸ばされていますね。それでディートハリスさんを麻痺させたんでしょうが」

 

 そもそも、

 

「あんな打鍵印字機を作る様な職人が、そんなに爪を伸ばすわけがないでしょう。手に油染みも傷もない、それはただの女の手です」

 

 肉感的な妖艶の女。

 髪からつま先まで、男を誘惑するような彼女がそんな傷を残すわけがない。

 商人としては良いだろう。

 だけど彼女は打鍵印字機を自分で作ったと言っていたが、手を見ると違和感がある。

 

「これも違和感程度ですが、私が明確に疑ったのは商談の最後ですね。貴方は最後に私にある要求をした」

 

 それは、

 

「年明け。私の通年発表が終えたら一時的にも帝国に戻ってきてほしい―――ってやつですね」

 

 魔法書普及の研究のために研究員として学園に滞在している彼女には当然定期的な報告会がある。

 研究員の試験は年末だったし、細かい報告会はあるが大きなものとしては年末、建国祭の前。

 ヘファイストスの要求は、それが終われば帝国に帰還というものであり、

 

「ここが、謎だったんですよね」

 

「それはちゃんと説明したでしょう……?」

 

「えぇ。諸々の施設の確認というものでしたね。しかしディートハリスさんからは婚約が成立しても卒業まで帰ってこなくていいと最初に聞いてました。なのに、彼の後援を受けている貴方がその意図に反する? 事業としての必要性? まさか、それよりも七大貴族である彼の機嫌を損ねることの方が大きい。むしろ、普及のための準備はどうせ簡単には終わらないですから。やはり商談の一つにいれるのは僅かな疑問が残る。態々私を帝国に呼び出して何がしたいのかわからない」

 

 だとしたら、

 

「私を帝国に戻したいのではなく―――――()()()()()()()()()()()()?」

 

「――――」

 

 目が、見開かれた。

 端正な顔が青く染まる。

 図星だと、言わんばかりに。

 

「となるとまぁ……あまりいい予想はしませんよね。別のアースの技術を持ち、明確な嘘をつき、なおかつ私を一定期間王国から引き離したいのなら。――――その間に、何かをやらかすつもりなのでは?」

 

 仮にそうだとしたら、トリウィアを王国から追い出したい理由なんて簡単だ。

 先ほどのウィルとの戦いがそれを証明している。

 アース111最強の女。

 それがいては邪魔になることをする。

 

「―――かもしれない。だから、調べました」

 

「…………なに、を?」

 

「貴女を。ヴァルカン商会を。どんな活動をして、どんな取引をして、どんなものを売ってたのか」

 

「そんなことできるわけがない! ここは帝国じゃない、王国よ!?」

 

「アホですか。帝国の商会ギルドに載っているなら、ギルドが発行する年鑑に記録はあります。それなら王国内の帝国領事館にだってあります。私が知りたがりなので、色々帝国の情報を送ってくれますしね」

 

 その話を聞いてウィルはあることを思い出した。

 王城のパーティーの時、トリウィアは挨拶をしなければならないと姿を消したタイミングがあった。

 社交界嫌いの彼女が態々相手をしなければならない相手。

 つまり、王国内の帝国関係者。

 大戦以降、各国の親交は深まり、特に王国は学園がある都合上各国関係者は領事館として存在していた。

 

「なので、まずは公式なヴァルカン商会の売り上げの確認をしました。勿論それだけでは分からなかったので――――お母様に聞きました」

 

「……?」

 

 母親に聞く、という言葉に彼女は困惑した。

 

「やれやれ」

 

 対し、むしろトリウィアは呆れたように肩を竦めた。

 

「帝国におけるフロネシス家の役割を、知らないわけではないでしょう」

 

 ヴィンター帝国七大貴族、フロネシス家。

 七大貴族には明確な役割がある。

 アンドレイア家は軍務。

 デュカイオス家は治安維持。

 ソフロシュネ家は司法。

 フィスティス家は宗教。

 アガーフェ家は医療。

 エルフィース家は教育。

 そして、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ウィルは付いていけているだろうか。

 いい感じにかっこよく、例の掲示板とかで解説をしてほしい。

 

「何分、貴族というものは冗談のように金を使います。日々の生活に掛かる費用だけで平民が何か月、或いは年単位で暮らせるでしょうね。概ね帝国の貴族はそれぞれの領地から税金を徴収していますが、貴族が遊べば遊ぶほど、財源は税金に負担されることになる」

 

 貴族の金の使い方と稼ぎ方なんて上げて行けば切りがない。

 皇帝という絶対者がいるが、彼が全ての法律を作るわけではなく、名家のしかるべき教育を受けたものが帝国の為に法律を作り、そして当然のように貴族の為の法律を作り始める。

 もしもそこに箍がなかったら。

 平民から財を搾り取れるだけ搾り取るというシステムが生まれてしまうのだ。

 

 実際にヴィンター帝国では300年ほど前にそれで国が崩壊しかけた。

 

 貴族の為の国となってしまった帝国は、際限なく税を搾り取り、それを貴族は消費し、物価は冗談のように上昇し、平民は飢え、生活がままならなくなった。

 食べるものがあるのに、物価が高すぎて買えないという状況があったという。

 場合によってはそのまま国が力尽きるか、革命だって起きただろう。

 

 実際、アース・ゼロでは18世紀のフランスで似たような状況に陥り、革命が勃発したのだが。

 アース111の場合、破綻直前に即位した皇帝が物理的にめっぽう強く、粛清を繰り返して事なきを得たのだが。

 その際、力を貸したのが当時は帝国内の歴史を記録していたフロネシス家であり、それによってフロネシス家は大貴族となった。

 

 トリウィアの先祖はまだ腐敗していなかった貴族らを選出し、それぞれの家に役目を割り振り、それが今日の七大貴族の原型である。

 

「なので、フロネシス家の役割は変わらず帝国内の全ての貴族の財源を管理・監視し、横領や改竄がないかを調べ、見つけたら皇帝陛下に奏上する。全ての貴族は財源をフロネシス家に報告する義務がある。だから私の家は他の貴族から疎まれているわけですが……私はそれを見て過ごし、母も当然のように全てを把握している」

 

「…………」

 

 ヘファイストスの額に汗が滲む。

 全てと言ったのなら、

 

「帝国で商売をするなら貴族と関わらないのは不可能です。なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり貴女は実際に取引をしたわけではなく、商会ギルドの誰かしらに情報を改竄してもらっただけ」

 

「そんな……のは! 貴女の母が忘れていただけではなくて!?」

 

「ありえませんね。()()()()()()()?」

 

 断言されて、ぐうの音も出なかった。

 世界最高の才女、その母親。

 彼女が品種改良の最高傑作だとしたら。その母親もまたそれに近い性能を持っていても不思議ではないのだ。

 

「ついでに学園内には帝国の商会ギルドの重役の子供もいますしね。そちらの方々にも聞いたが誰も知らない。1年生にはアルマさんが直前にディートハリスさんについて聞きまわってたので不思議そうな顔されましたけどね」

 

 この一週間はその裏付けに時間をかけてしまった。

 去年フォンの一件でエルフ族の歴史を調べた時よりは楽だったもののそのせいで、ウィルとゆっくり話せなかったのだが。

 なにはともあれ。

 

「さっき言った三つに加え、名前だけしかない商会。これで疑念は4つ。――――いいえ、まだありますね。ヘファイストス・ヴァルカン。ゼウィス・オリンフォス、ゴーティアの支援を受けたもの。おや、異世界の技術と繋がってしまいますね。何か言うことは?」

 

「…………っ」

 

 何も、言えない。

 そもそも≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫を看破されたのが想定外であるし、記憶力と調査だけで商会が架空のものだと判断するなんて。

 そんなことを、彼女は全く想像しなかった。

 

「……えぇと、先輩」

 

「はい、なんでしょうか後輩君」

 

「だとしたら……僕と戦ったのは。今の流れからは、あんまり関係ない気がするんですけど」

 

「あぁ」

 

 頷き、彼女はいつの間にか短くなっていた煙草を携帯灰皿に捨てる。

 新しい一本を咥え、今度は自分で魔法で火を点けた。

 再び、紫煙が漂う。

 

「疑念を上げましたが、この段階ではただの疑念だったんですよね。確実に黒だと断ずるにはより詳細な調査が必要になり、それには時間が足りない。私の考えすぎかもしれない。となると、明確な反応がいるわけですが」

 

 だから彼女は考えた。

 仮定に仮定を重ねて。

 いつも新しい知識を調べようとする時のように。

 彼女がゴーティア、魔族信仰派で、自分やウィル、アルマたちの敵だとしたら。

 

「なので、あえて貴女が喜ぶようなことをしてみました」

 

 即ちそれは、望み通り自分が消えるようなことで、

 

「その為の後輩君との決闘ですね。例によって最近学園に変な鳥がいて、調べたらやはり打鍵印字機と同じ術式を使っていたし、王都を日々飛ぶフォンさんも見たことない鳥だと言っていて、アルマさんもそれが別の場所に映像を送っていると確認してくれました」

 

「…………ん?」

 

 ふとウィルが声を上げた。

 その言い方に気になるものがあったから。

 

「後は見た通りですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて言い方をしたら、黙っていられないのは解っていました。そういう人ですからね。いきなり戦いをけしかけても戸惑うでしょうけど、アルマさんが背中を押してくれるのなら戦ってくれると思いましたし、その通りになりました」

 

「あ、あの先輩!?」

 

「はい」

 

「その言い方だとアルマさんとフォンには話を通していたって感じなんですけど!?」

 

「はい。なんなら生徒会の面子とアレス君には言っておきました。先生方にも模擬戦は申請していましたし。だってそうじゃないとあんな戦いしたら止められるじゃないですか」

 

「……………………」

 

 ウィルの頬が引きつる。

 つまりそれは、

 

「なにも知らなかったの、僕だけ……ってことですか?」

 

「はい」

 

「……ひ、一言言ってくれても」

 

「後輩君、嘘苦手でしょう。先に言われて真面目に戦えました?」

 

「……………………」

 

 何も言い返せなかった。

 ウィル・ストレイト。

 誰よりも真っすぐ故に、彼は嘘も我慢も苦手だ。

 

「じゃあ、さっきの戦いをしかけたのは、僕の我がままを止めようとしたんじゃなくて……」

 

「はい。私の婚約の問題は、全く別ですし」

 

 そっちは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして彼女はやれやれと肩を竦めて息を吐いた。

 

 

 

「全く―――――私が本当に、知識欲だけで君に究極魔法をぶっ放して、殺し合い紛いの戦いをするとでも?」

 

 

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「……ぇっ」

 

「……………………え?」

 

 上からウィル、ヘファイストス、まだマヒしたままのディートハリス、そしてトリウィアである。

 しばらく、微妙な空気が流れ、

 

「後で後輩君には個人的にお話があります」

 

「…………あ、はい。…………はぃ」

 

 全く、実に心外である。

 そりゃあ確かに、自分を知ろうとしてくれる彼に興奮しちゃって、必要以上の戦いをして、途中から本気だったけれど。

 

「そんな……頭、おかしいんじゃないの、貴女……」

 

「失礼ですね。誰のせいでこんなことになったと思っているんですか」

 

「あの戦いで、そのウィル・ストレイトを本当に殺したらどうするつもりだったの!?」

 

「は? 私の後輩君が簡単に死ぬわけがないんですが? 馬鹿にしてます?」

 

 過去最速の早口だった。

 ヘファイストスもウィルも頬を引きつらせる。

 ディートハリスも反応をしたかったが、麻痺から回復していなかったので体を痙攣させるだけだった。

 

「話を戻しますが。監視をアルマさんに逆探知してもらって、反応をこっちも見て、楽しそうに笑ってる上に、ディートハリスさんに毒を打ったとこまで見たので途中で戦いを切り上げて、幻術を張って、アルマさんに転移してもらったら案の定貴方が明らかに背中を震わして笑ってたので銃を突きつけた―――というわけです。いや、流石アルマさんですね。また力を借りてしまいました」

 

「……あの、幻術は。ドローンみたいな機械を、幻覚でだませるはずが……」

 

「ふむ? ドローン? 気になりますが……」

 

 言葉と共に彼女はヘファイストスに銃口を再び向ける。

 そして、煙草を挟んだ指でリボルバーを弾き、回転させて。

 

 ――――銃口に白い火花が散った。

 

()()()()()()()()()

 

 それは現実を改変するマルチバースに通じる力。

 アルマ・スぺイシアから直接学び、数週間前にその感覚を覚え、

 

「幻術だけ習得しました。まだアルマさんのように好き勝手できませんが、短時間のみ現実に映像を投影するだけなら私もできるようなので、さっそくそれを使ってみたわけですね」

 

 なんて事のないように言うが、それは極めて偉大な偉業である。

 アルマ・スぺイシアが十年かけたことを僅か数か月に縮め、幻術の習得にはさらに数十年かけたというのにたった数週間に縮めてしまった。

 幻術を使えるようになったと彼女に報告した時の顔は中々思い出深い。

 逆探知やら転移やらウィルに対する後押しやらを色々頼んだが、もはや呆れ気味に受け入れていた。

 

「………………えぇ?」

 

 いい加減、ヘファイストスは頭が壊れそうだった。

 仮定に仮定を重ねた上で、尋常ならざる能力でその仮定を推測として確立し、確定させる手はずを整える。

 確かに思い返せば、自分の行動に違和感はあった。

 だけど―――だからって。

 こんなことをできるのだろうか。

 

「私もここまで上手くいくと思っていなかったんですけどね」

 

「……嫌味かしら?」

 

「いいえ。単なる感想です。推測は全て推測で、違和感はただの違和感で、もしかしたら本当に勘違いかもしれなかった」

 

「なら……どうして実行できたの?」

 

「トライ&エラーは基本ですから」

 

 かつて、アカシック・ライトを学ぼうとした時、アルマに言ったことをそのまま言う。

 そう、トリウィア・フロネシスは決して要領がいいわけではない。

 一を知るために百を遠回りして、やっと一を知ったと言える。

 時には全く違うものを調べるということを繰り返してしまうなんて何度もあった。

 

「だから、本当にただの杞憂だったら……」

 

 彼女は一度大きく煙草を吸い、吐き出し。

 

「後輩君にほんとは凄い強くてかっこいい先輩の威厳を見せて終わり、というのもあったでしょう。えぇ。それでも全然よかったのですが」

 

「……」

 

 返事はなかった。

 仕方ないので話を進める。

 

「結局の所、貴女が雑だったんですよ」

 

「……そんな、はずは」

 

「いいえ、甘い。商会の改竄も、私に対する商談も、提示した印刷機や印字機も、監視の方法も、監視してる間の反応も。何もかも―――杜撰極まりない。異世界の技術があるから、現地の人間なんて簡単に思う様にできると思いましたか? だから、ダメなんですよ。もっと細かく、詳細を詰めれば違和感なんて全て消せたはず」

 

 極めつけに、

 

「この状況まで来ても、弁舌で言い逃れできたかもしれないのに。言い訳一つしない。潔いというか、頭が足りないというか」

 

 冷えた蒼と何もかも飲み込むような黒がヘファイストスを見下ろす。

 アース111最強にして最賢の女が、異世界の技巧を握る女へという。

 

「言ったでしょう? そして言いましょう。―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 




トリウィア・フロネシス
私が知識欲暴走して後輩君を殺すなんて思っていませんよね??????


何も知らなかったと知ったウィルくん(16)

何もかも馬鹿にされたヘファイストスさん(26)

何も知らないしリアクションもできないディートハリスさん(20)

何でも知ってたけどそれはそれとしてトリウィアの学習速度に引いていたアルマさん(1000歳OVER)



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マイ・ブラッド

気づけば天才ちゃんも一周年。
書籍化を目指して頑張っていきたいところ。
これからもよろしくお願いします。



 

 ヘファイストス・ヴァルカンの全ては与えられたものだった。

 

 帝国のどこかの貴族がどこかの愛人を、特に考えもせずに生んだ子供。

 おまけに父は大した系統数を持たなかったし、母はそもそも育児に興味がなかったらしい。

 それなりに珍しいというべきなのだろう。

 そういった身分が保証されない貴族の子供は帝国では昔からいたし、系統の保有数によっては大きな問題に発展することもある。

 ただ、無くはない。

 そして問題になるのは系統を多く持つ者であり、彼女はそうではなかった。

 だから捨てられて、帝国のスラムでごみに塗れて幼いながらも生きていた。

 

 そんなゴミまみれの少女の人生が変わったのは、ゼウィス・オリンフォスに拾われてからだった。

 彼女はヘファイストス・ヴァルカンという名を与えられ。

 

 そして、世界とは一つではないことを教えられた。

 

 世界の外側を。ただ生きるだけでは到底知りえない、無限に等しい広大さを。

 それは持たぬが故に捨てられ、持たぬままに生きた彼女の自尊心と優越感を満たすには十分だった。

 世界の敵になることに迷いはなかったし、そういう教育も受けた。

 主であるゴーティアは予定よりもずっと早く消滅した上に、聖国で消えたヘルメスにしても、彼女たちの目的には変わりはない。

 むしろ、それ故に進んだものもある。

 故に問題ないと思っていた。

 自分はこの世界の人間が知らないこと知っているのだからと。

 

 

 

 

 

 

「言ったでしょう? そして言いましょう。―――――この世界を舐めないでもらえますか?」

 

 そして知っているつもりだったはずの女は、何でも知りたいと願う女に追い詰められていた。

 広い客室、ヘファイストスは魔法による鎖で巻かれ、トリウィアに銃を突きつけられている。

 背後には未だにマヒしたままのディートハリスと彼の様子を見ているウィルが。

 ヘファイストスの額から汗が流れ、口端が歪む。

 

「……言うわね」

 

「そうも言いたくなる杜撰さだったが故に。貴女には色々聞きたいことがあります。魔族信仰派について。その異能について―――そして貴女達が、これから何をしようとしているのかを」

 

「はっ……ペラペラしゃべるとでも?」

 

「貴女、自分が優位に立つと余計なこと喋る類の人では」

 

「……」

 

 頬が引きつる。

 引きつったまま、

 

「…………さっき、言い逃れ一つしないと言ったわね」

 

「言いましたけど。さっきから言った言ってないって繰り返しますね。記憶力も危ういんですか?」

 

 後ろのウィルが若干引いていたし、ヘファイストスは頭に血が上るのを自覚した。

 そしてその激情に身を任せたままに、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス)―――』

 

 背に縛られた拳を強く握り、魔力が溢れ出す。

 物理的な大気の奔流となり、

 

「―――!」

 

 即座にトリウィアは引き金を引いた。

 それでも。

 

『―――Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)!!』

 

 絶叫。

 そしてトリウィアから打ち出された銃弾を――――()()()()が掴み取った。

 

「!?」

 

 トリウィアの、背後からそれを見ていたウィルが目を見開く。

 ヘファイストスが銃弾を手で受け止めたことに対して、ではない。

 

 ――――彼女の両腕は鎖で縛られていたのに、もう一本の新たな腕が肩から生えていたのだから。

 

 予想外の光景に、ほんの一瞬だが二人の動きが止まる。

 だがヘファイストスの変貌は止まらなかった。

 新たに生えた腕は一本だけではない。スーツの肩から先を引き裂きながら赤紫に染まった、関節の動きを無視したように蠢く新たな腕が何本も生えて来た。

 体は炎上し、衣類を焼きながら広がっていく。

 

『打ち鳴らせ――――≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫!』

 

 そして爆風と共に衝撃が巻き散らかされる。

 とっさにウィルは浮遊盾を展開し自分とディートハリスを守り、

 

重魔の射手(Der Freischütz:Gravitation)!』

 

 片銃を刃鞭形態に変形。自らに巻き付けることで防御膜を生み出し、逆の銃で超圧縮された重力弾を打ち込む。

 局所的一点へと着弾したものが圧縮される魔弾は、

 

「――!」

 

 いつの間にか腕の一本が手にしていた盾に命中する。

 

「―――」

 

 言葉を吐く間すら彼女は惜しんだ。

 炎に包まれたヘファイストスを中心に置き、全体を見回すように。

 そして気づく。

 先ほどまであったはずの机や椅子、テレビがないことを。

 加えて増えた手に小さな直方体が浮遊し、集まっていることを。

 そのことを認識した瞬間、

 

「!」

 

 ヘファイストスだったものが飛びあがる。

 それは衝撃をまき散らしながら天井をぶち抜いていった。

 

「っ―――後輩君! ディートハリスさんを外に!」

 

「は、はい! 先輩は!?」

 

「アレを追います」

 

「っ……すぐに行きますから!」

 

 背中に受ける声に彼女は笑いつつ、膝を沈め、

 

「―――ふっ。来る頃には終わっているかもしれませんけどね」

 

 トリウィアは知る由もないが、掲示板では悲鳴が上がっていた。

 フラグ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿屋の屋上。

 宿、と言っても貴族向けの高級宿は石造りの5階建て。その屋上は広く足場としても十分だった。

 煉瓦の瓦屋根には微かな傾斜はあり、そこにヘファイストスだったものはトリウィアを待ち構えていた。

 

 腕が、八本生えている。

 噴出した炎は収まり、白かった素肌は赤紫に。スーツは燃え尽きて裸体となっていたが所々に浮かぶ黒いまだら模様や、その体表から粘性のある黒い液体が衣類の様に纏われていた。

 さらにその八本の腕はやはり関節を無視したかのように柔らかく蠢き、それだけで足元に届くほど長い。いつのまにか身の丈もあるようなハンマーを腕を二本使って握っている。

 赤紫の八本の腕、それはまるで、

 

「………………タコ?」

 

 王国ではまずお目にかからない、亜人連合の一部沿岸地域や皇国でしかみないような珍しい海洋生物を連想させるものだった。

 もっとも、死んで捌いた状態でなら王国でもなくはない。

 素材が完全に輸入で頼っているので平民や庶民が食べる機会はないが、小麦粉の生地でタコの小さな切身を包み、香辛料を効かせたソースを掛けたものは高級レストランではコースに含まれていることもある。

 初代国王は愛した一品だとか。

 

「―――ふむ」

 

 先ほど見た光景を頭の隅に起きつつ、短くなりつつある煙草を噛む。

 

「ふふっ……光栄に思うことね、トリウィア・フロネシス」

 

 ヘファイストスは上機嫌に笑う。

 先ほどまでの追い詰められた様子は最早ない。

 

「この≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫を初めて見る! この世界の人間になるのだから!」

 

 吠え、長い腕の二本が蠢き屋根床に触れる。

 直後、手が触れた周囲が先ほども目にした多くの小さな立方体に変貌し、彼女の手の中で大きな鎚に変貌した。

 四腕で握る二つの鎚。

 それを見て、トリウィアは目を細める。

 

「触れたものの分解と再構成。なるほど? ……あぁ、あの打鍵印字機もそうやって?」

 

「いいえ! あの時は設計図が必要だったけれど、今の私はそんなものは要らない! 触れ、壊し、思いのままに形作る!」

 

「はぁ。ふむ……なんでタコ? と思いましたけど納得しました。手が増えればそれだけ文字通り手数が増えるわけですね、なるほど合理的です。……魔族、とは聊か様子が違うのが気になるところでしょうが」

 

「魔族など! もう古いわ! 未知が好きなのでしょう、この力に恐れおののくといい! 予定とは違うけれど、周囲一体を分解して、芸術品でも作ろうかしら! 哀れで無知なこの世界の人間の悲鳴を聞きながら―――」

 

 笑い、声を上げ、そして気づく。

 今ヘファイストスは、貴族向けの高級宿をぶち抜き屋上に出た。当然周りに何もないわけがなく、高級宿に泊まる様な金持ちに向けて服や宝石やレストランなどの店もあるし、同じような客層向けの宿もある。

 週末の休日だ。

 王都の高級街ともなれば活気に満ちているはずなのに。

 だがどう見ても、今のヘファイストスは人外のそれであるのに。

 

「――――なんで」

 

 誰も、声を上げない―――どころか、周囲を見回しても人っ子一人さえいない無人の街だった。

 

「……ふぅ」

 

 トリウィアは煙草を咥えたまま、器用に煙を吐いた。

 呆れたように首を回し、

 

「人にものを教えていると、出来の悪い子はいますが概ね3種類だと思っています。そもそもやる気がないか、純粋に物覚えが悪いか。やる気のないのは論外ですが、物覚えが悪いのは、まぁ仕方ないですね。時間を掛ければなんとかなりますし」

 

 もう一つは、

 

「頭の回転が遅い子です。記憶力は悪くないし知識は詰め込めるのに、持っている知識同士を繋げることができず、論理的な思考ができない。だから、結果がでないわけですが」

 

 貴方はそれですねと、トリウィアは嘆息する。

 冷たい無表情のそれは、文字通り生徒に落第を伝える教師のようだった。

 

「聖国のヘルメスとやらに、貴女。そちらにどれだけ人材がいるのか知りませんが―――貴女、相当出来が悪い方では」

 

「な……! ぐぅっ……! 勝手な、ことを……!」

 

「図星ですか?」

 

「黙りなさい! いや、それより、どうして誰もいない――」

 

「馬鹿ですか? さっき散々伝えたはずです。準備をした上で貴女の下に来たと。一切否定しないので呆れていましたが、弁舌で乗り切るか武力で抗ってくるくらい予想するでしょう」

 

 だったら。

 

「それを見越して、戦えるように人払いをするのは当然でしょうが。こんな街中で普通に戦ったらどれだけの人的被害がでることか」

 

 相手がゴーティアの残党、≪D・E≫ならば。

 アルマはこの世界の枠組みを超えた魔法を使うことができる。

 以前建国祭で使った結界ほどの大規模ではないが、それでも周囲一体では気兼ねなく戦闘を可能としていた。

 

「っこの……貴族のくせに、民を気遣うというの……!」

 

「…………いや、平民あっての貴族なんですが。まともな教育を受けてませんか? 誰かからの受け売りだけで喋ったりしていません? だとしたら逆にあんちょこ見ずに喋られることが感動ものですけど」

 

「―――――殺す! ぶっ殺すわトリウィア・フロネシス!」

 

「頭が足りない上に、品までないとは。商会の仕事を真面目にやらなくて正解でしたね。その知能と下品さでやれば一月と持たなかったでしょう」

 

「……!」

 

 激情に駆られヘファイストスが四本の腕でハンマーを振り上げ、踏み出そうとし、

 

「――――警告します」

 

 トリウィアの言葉がそれを制した。

 冷たく、無慈悲に、ただ事実だけを乗せた言の葉。

 

「聞きたいことがありますので、殺しはしませんが。これ以上抵抗するなら腕の一本や二本……」

 

 一度、言葉噤み、

 

「…………八本は無事でないと思ってください」

 

「はっ! 何を言うかと思えば!」

 

 ヘファイストスはトリウィアの言葉を聞かなかった。

 

「あまり私を舐めないで欲しいわね!」

 

 二つのハンマーを振り上げ、一歩踏み出し、

 

『――――Verweile doch(時よ止まれ)Du bist so schon(お前は美しい)

 

 トリウィアの握る銃が変形する。

 ≪From:Megaera(豊穣と嫉妬)≫。

 双剣形態。

 詠唱と共に魔法が発動。

 ヘファイストスが二歩目を踏み出し。

 

 トリウィアの姿が掻き消え。

 

「≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫――――≪十字架の誓約(ヘカテイア・シュヴェーレン)≫」

 

 ――――刹那直後、トリウィアはヘファイストスの全ての腕を切り落とした。

 

 斬り飛ばされた八本の腕と二つのハンマーが屋根床に落ちると同時に彼女は腕を失った女の背後に軽いステップと共に降り立ち、

 

「―――――ふぅ」

 

 新しい煙草を吸い、煙を吐き出した。

 

 ≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)十字架の誓約(ヘカテイア・シュヴェーレン)≫。

 トリウィア・フロネシスの()()()()()()()()

 持ちうる全ての系統による自己の身体能力と思考速度の超強化。

 時間系統を彼女は持ち得ないが、結果的に自己時間の超加速機動を実現する。

 

 究極魔法というのはこの世界の上澄みであることの証明だ。

 10以上の系統を同時発動し、個人における全ての力を集結させたもの。

 この場合、重要となるのは系統の数よりも全ての素質を使うという完成度にあり、それ故に究極魔法には繊細極まるバランスを必要する。

 ウィル・ストレイトもまた、35系統をただ同時に発動するだけなら簡単だが、究極魔法と呼べるような完成度は未だに実現できていない。

 究極魔法とはそれだけ難しいものであるし、天津院御影が皇位継承権第一位であるのは年若いながらも究極魔法を使えるが故に。

 それだけ、この世界では究極魔法は重要なものである。

 究極魔法とはその人物を象徴する、文字通り究極の一。

 

 そしてトリウィア・フロネシスは――――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 歴史上を見ても極めて稀な、そもそも二つ以上を持とうという考えがない中で、彼女は自らの武器の変形機構に合わせ三つの究極魔法を生み出したのだ。

 それこそがアース111最強の女に他ならない。

 

「警告はしました」

 

 

 

 

 

「ウィル! ディート! 無事かしら!」

 

「えっ……なんで、此処に!? 危ないですよ!」

 

 ディートハリスを肩に担いで宿を出たウィルを出迎えたのはウェルギリアだった。

 彼女だけではなく、ディートハリスの使用人であろう若い男女も背後に控えていた。

 

「孫二人が危険な場にいるのに、自分だけ逃げられるわけないでしょう! あぁ、ディート! 怪我はないかしら!?」

 

「……はい。毒を盛られて麻痺しているだけです。命に別状はないみたいなんですけど、かなり強かったようで……」

 

「ウィル様、若様をお預かりします」

 

「あ、どうも」

 

「うぅ……手間を掛けるな……ローマン……」

 

「あ、よかった。喋れるようになったんですね」

 

「フッ……迷惑を掛ける……あっ、ローマン。体が動かないせいで変な頭の揺れ方して吐きそう」

 

「辛抱を、若様」

 

 ディートハリスを渡したローマンと呼ばれた使用人は随分と背の高い犬科の獣人種だった。190近い身長に相応したがっしりとした体格を使用人服に押し込んでいる。

 

「あぁ若様! そんな、毒を盛られるなんて……!」

 

 もう一人の使用人は背が低く、しかし胸の大きい茶色の耳の犬人種。

 ローマンと合わせて兄妹か何かだろうか。

 

「くぅーん、毒に倒れなさるとは御いたわしい――――いつも私が盛っている睡眠薬やしびれ薬は最近効かなくなっていたのでそれなりの耐性ができたと思ったのですが」

 

「ふっ……アデーレ。いつも君の夜這いには恐怖しか感じなかったが、君の忠誠に感謝をしよう」

 

「そんな。私はただ若様のお子を抱いて愛人にしてもらって弟と子供とあと子孫も含めて安定した生活を送りたいだけにございます! ね、ローマン! やっぱり市井に流通してる薬ではだめね!」

 

「ウス」

 

「あ、今ならお子種を頂けるのでは……?」

 

「姉さん、流石に今は拙い。―――全て終わって疲れ果てた時にしよう」

 

「フフフ……! ウィルよ、見ているか、これが帝国貴族……! ハニートラップ、怖い! 身内ですらこうだからな……!」

 

「…………」

 

 何とも言えなかった。

 やっぱり悪い人じゃないなぁとは思ったけれど。

 絶妙に表現がねじ曲がっているが、部下には愛されているらしい。

 何にしても、だ。

 

「ウェルギリアさん。それからそちらの2人も、今すぐに離れてください。上で先輩が戦っていますし、僕も行きます」

 

 数歩離れ、壁を駆け上がろうとし

 

「待ちなさい、ウィル」

 

「……?」

 

 祖母に制止され、足を止める。 

 ステッキを突きながら彼女は歩み寄り、ウィルの肩に手を当て、そこから光が零れた。

 

「随分と消耗している。簡単だけれど治癒を、すぐに済ませるわ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 言われ、疲労に気づき息を吐く。

 トリウィアとの戦いで体力は削れていたし、腹への蹴りは小さくない負傷だった。致命傷というほどではないが、ありがたいものでもある。

 

「………………ごめんなさい、ウィル」

 

「はい?」

 

 肩に手を当てたまま老婆は小さく言う。

 

「私のせいで、貴方を余計なことに巻き込んでしまった」

 

「………………いえ。どうもそうでもないみたいなんですけど」

 

 誰がウィルを巻き込んだと言えば。

 前提としてヘファイストスという敵はいるけれど。

 首謀者はトリウィアだ。

 上手いこと行っているようだが、それはそれとして後で話す必要はあるが、

 

「……先輩が巻き込まれて、巻き込んで起きている問題です」

 

 だったら、

 

()()()()()()()()()()()()()。だから、ウェルギリアさんが気にしないでください」

 

「………………ベアトリスは、良い子を育てたようね。私を反面教師にしたのでしょう」

 

「そんなことないと思います」

 

「?」

 

 ウィルはウェルギリアの手を取った。

 今生における自らの、そして前世において知らなかった故に、彼にとって初めての祖母を。

 

「母さんは、僕を愛し、慈しみ、育ててくれました。それはきっと自分がそうされたからだと思います。それに、母はあの小さな家の外のことを自ら学べと言ってくれましたけど、決して帝国に行くなとか貴族に近づくなとは言いませんでした」

 

 もしもベアトリスがウェルギリアを、帝国を疎んでいたら、行くなと言っただろう。

 だったら、これはあくまで想像だけれど。

 

「母さんはきっと恨んでいません。僕はそう思います。決別はあったけど……それでも。僕が母さんから受け取った愛情が、その証拠です」

 

「――――ウィル」

 

「あ、でもやっぱり一度会いに行ってあげてください。なんだったら一緒に行くので」

 

「…………」

 

 ウェルギリアは放心することはなかった。

 ただ一瞬だけうつむき、そして一筋の涙を流し、

 

「ありがとう、ウィル」

 

 小さく首を傾げて、微笑んだ。

 

「――――はい」

 

 同時に、彼女の手から光が消え、

 

「どうかしら」 

 

 言われ、何度か手を握り感触を確かめた。

 

「…………凄く良くなりました。ありがとうございます!」

 

「よかった。それでは」

 

 ピシリと、老婆が背筋を伸ばす。

 そこにもう一度、ウィルは母の姿を幻視した。

 それがウィルは、たまらなくうれしかった。

 

 自分は、この世界で、確かに命の流れに乗っているのだから。

 

「――――いってらっしゃい」

 

「いってきます―――お祖母ちゃん!」

 

 応え、背を向け、飛びあがり、

 

「っ?」

 

 壁を駆け上がる途中、唐突に体から力が沸き上がった。

 そして、右手に熱を。

 横目で振り返れば、

 

「――――フッ」

 

 ローマンに抱えられたディートハリスの掲げた右手の甲に、灰色の紋章が浮かんでいた。

 槍と盾を組み合わせたようなそれは、トリウィアの≪外典系統≫の十字架によく似ていた。

 それが、ウィルに力をくれていると気づいた。

 

「――――」

 

 小さく彼へ頷き、速度を上げて駆け上がった。

 そして見たものは。

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 時は少し巻き戻り、ヘファイストスの腕を切り捨てた直後。

 トリウィアは微かな眩暈にふらついた。

 ウィルとの戦闘、二度の究極魔法、さらにはアカシック・ライトによる幻術。

 それは流石のトリウィアにも大きな負担を生んでいた。

 だからこそ、一瞬で彼女の腕を切り捨てたのだ。

 

「…………やれやれ」

 

 息を整え、振り向く。

 そして見たのは―――――とびかかる八本の触腕だった。

 

「な―――!?」

 

 予想外の光景に銃を構えようとし、

 

「馬鹿が―――甘いわねぇ!」

 

 ヘファイストスの声を聴き、その姿を見て、驚きに一瞬動きが止まった。

 切り捨てたはずの全ての腕。

 

 それが――――全て再生していた。

 

「っ……この!」

 

 背を向けていても、ヘファイストスから意識は外さなかった。

 外れたのは眩暈でふら付いた一瞬。

 その一瞬のうち、切り捨てたはずの触腕が動き出してトリウィアの全身をからめとっていた。

 四肢に、体に、首元に絡みつく粘液を滲ませる蛸の触手。

 蛸―――そう、蛸だ。

 蛸や烏賊のような頭足類は足が切れても再生することがあるという話を思い出す。流石に生きている状態で、その光景を見たことがない故に驚いてしまった。

 

 ()()()()と粘液塗れの触手と体が絡み合い、双剣を取りこぼす。

 

「あははは! 良い様ねぇ! 写真なり録画できなくて残念だったわ!」

 

 腕を完全に再生させたヘファイストスがトリウィアをあざ笑う。

 

「どうしようかしらねぇ! ギャラリーがいないのが残念極まるわ! このまま、貴方を辱めてあげてもいい!」

 

「―――――っ」

 

 言われた言葉と全身をなぶる様な感触にトリウィアは怒りと羞恥で頬を赤く染め、

 

「―――?」

 

 ふと、空を見上げた。

 

「―――」

 

 次に、全てを受け入れる様に力を抜いた。

 

「? 何を――――?」

 

 ヘファイストスが脳裏に疑問符を浮かべた瞬間。

 水の奔流がトリウィアを飲み込み、触手を洗い流した。

 

「な――がっ!?」

 

 そのまま水の柱はヘファイストスを打撃し、吹き飛ばすまでは至らなくも大きく後退する。

 そして見た。

 

「――――お待たせしました」

 

「いえ、()()でチャラにしましょう」

 

 深い青のコートを棚引かせながら、トリウィアをお姫様抱っこしながら現れたウィル・ストレイトを。

 

「すみません、ちょっと強引でしたけど」

 

「いえ、べとべとが気持ち悪かったので助かりました」

 

「ならよかった。あ、銃……というか剣を」

 

「ありがとうございます」

 

「…………何?」

 

 疑問は、ウィルが現れたことではなく、その会話に対してだった。

 妙な、違和感がある。

 水流が来て、ウィルが壁を駆け上がって現れ、トリウィアを救ったようだけれど。

 なんというか。

 

 ――――――駆け上がる前から、状況を把握していなかったか?

 

「さて」

 

 濡れた髪をかき上げつつ、トリウィアが双剣を双銃に戻す。

 ウィルもその両手に光の糸で銃を編んだ。

 

「君は」

 

 トリウィアがヘファイストスから見ても解るくらいに上機嫌そうに笑う。

 

「本当に、いつも私に未知をくれる」

 

 示したもの。

 白衣に並んだ蒼衣の彼の右手。

 

 そこに――――虹色の紋章が浮かび上がった。

 赤、青、緑、茶、黄、白、黒。

 七色の長方形が円を為す。

 

「!? それは――――!」

 

 それは、流石のヘファイストスは知っていて、驚いた。

 トリウィアは驚かず、むしろ納得していた。

 

「富は富を生み、権力は権力を生み、力は力を生み―――特権は継承される」

 

 そう、それが帝国貴族の在り方。

 だったら。 

 アンドレイア家の直系であるウィル・ストレイトが、ソレを持ち得ないはずがないのだ。

 トリウィア自身それを見せ、そして直前にディートハリス・アンドレイアから同じルーツによるものを受けている。

 そして彼は、一目見たものの大体を理解してしまうのだから。

 

 ウィルは自らの右手の輝きを思う。

 これは、彼自身がこの世界で生きていることの証明。

 だからその名を、自らに、世界に告げた。

 

『≪外典系統(アポクリファ)≫―――――我ら、七つの音階を調べ合おう ( ἀ ν δ ρ ε ί α ・ σ υ μ φ ω ν - ί α )

 

 

 

 




ウィル
ἀνδρεία・συμφων-ία
アンドレイア・シンフォニア
それは彼が確かにこの世界の血脈に生きる証

1周年記念というわけではないですが、ちゃんとした、ちゃんとした技名

トリウィア・フロネシス
レスバ無双
からの究極魔法その2
からの触手プレイ
からのお姫様だっこ
やりたい放題か

ちなみにトリウィアのアポクリファは
フロネシス・フィロソフィアと読みます

ウェルギリア
お祖母ちゃんって呼べる人
呼んだ時掲示板勢が号泣してた

ディートハリス
やっとなんかした
ハニトラ耐性はアデーレで付けている


アデーレ&ローマン
モブ
ディートハリスの愛人を狙ってるロリ巨乳犬耳姉とそれを応援してるガチムチ犬耳弟
若様なら使用人相手でも悪い様にしないでしょ、みたいなことを思っているし実際そう。

ヘファイストス
モン娘化
タコ女
頭が……弱い……!

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります。

追記、次話でまた告知しますが勇者ちゃんのスピンオフ中編始めました。

森羅万象破壊勇者ちゃん@魔王討伐RTAクリア後攻略
https://syosetu.org/novel/302398/

よろしければこちらもお楽しみください


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ウィー・ウィル・ロック・ユー

 

 王国高級街の一角に張られた結界の中。

 その境界ギリギリのある建物の屋根の上。

 

全ての神は(オムニス・デウス・)ローマに通ず(ロマ・ドゥクト)……全ての道はローマに通ずのもじりか。ヘファイストスがウルカヌス……ふぅん。ギリシャからのローマ神話かね。それは……ふむ」

 

「蛸か……懐かしいな。茶で茹でてやると柔らかくなって美味いんだよな。生で刺身にしても良いが」

 

「え? あんな生物食べるの? しかも生で? ほんとに正気?」

 

 アルマ、御影、フォンの3人は並んで遠く、ウィルとトリウィアの戦いを眺めながら喋っていた。

 3人とも制服ではなく、それぞれの戦闘装束であり、御影を背後に突き刺した大戦斧もあり、戦闘自体はいつでも可能な装備ではあるが、会話からはその様子はなかった。

 

「ん」

 

 ふと、アルマが振り向く。

 視線の先にいたのは、

 

「………………お前たちは、何をしている?」

 

「おや、マキナ」

 

「おっ。この前の舞台振りか。簡単な挨拶しかしてなかったが」

 

「どもー。……ってうわ、何そのシャツ」

 

「脳髄Tだ。着るか?」

 

「え、やだ」

 

「残念。それはそうと、改めて婚約おめでとうございます」

 

「おぉ、これはどうもどうも」

 

「あとアルマ! 屋根の下に足を投げ出すんじゃあない! はしたないわよ! パパさん許しませんわ!」

 

「誰がパパだ! あとなんかもうパパなのかママなのか分からんことになってるぞ!」

 

 お決まりのやりとりをこなし、御影とフォンからそうだったのか……という顔をされ、アルマはしっかりと訂正することを決めて。

 マキナ、遠くウィル達に視線を向ける。

 

「こうしている、ということはだ。加勢する気はないと?」

 

「そうだね」

 

 アルマは小さく顎を上げながら同じように視線を向けた。

 訝しむようなマキナに反応したのはフォンだ。

 

「ほら、やっぱ助けに行った方がいいんじゃないかなー。そりゃ主たちが負けるとは思わないけど、ここで見てるだけってのもなんだかなーって感じだよ?」

 

「そう言うな、フォン」

 

 その豊満な胸の下で腕を組み、支えつつ御影が笑う。

 

「無粋だろう、それは。今回の一件、先輩殿が裏から手を回していたんだ。なら、最後までやってやらせてやればいい」

 

「そんなもん?」

 

「うむ。それに、私なら」

 

 琥珀の目が細められる。

 その先は、揃いの恰好で並び立つウィルとトリウィア。

 

「あれに横やりを入れられるのはごめん被る」

 

「御影の私だったらはほんとに御影だけなんだよね……」

 

「わはは! こいつ、言うようになったな!」

 

「うわちょ、頭を胸で挟むなぁー!」

 

「………………アルマ?」

 

「御影の言う通りだ」

 

 彼女は肩を竦めてからマキナに言われた通りに立ち上がり、

 

「色々バックアップはしたが、トリウィアの想定の最悪がトントン拍子に進んでいる。ここまでこれば彼女にやらせればいいさ」

 

「だが、D・E関連だ。アルマが手を出さなくていいのか」

 

「ふむ」

 

 アルマは一度息を吐き苦笑した。

 

「必要ならいくらでもするし、いつでも手を出せる様に今だってしているが――――アレ、要らないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 秋雨が明けた空、晴天の下に二人と一人は対峙する。

 

「揃ったところでェッッ―――!」

 

 八腕が蠢く。

 伸縮さえ自在なその腕は振り下ろされ、瓦を砕きながら握りこんだ。 

 瓦礫は手の中で即座にキューブに変貌し、再構成されて新たな形を生む。

 二本づつ、四対の腕がそれぞれが握りこんだのは、

 

「ガトリングを教えてあげる……!」

 

 この世界では未だ設計すら生まれていない六本の銃身を携えた小型機関銃。

 秒関数千発の鉄火の暴力が四つ。

 人が受ければ痛みすら感じる間もなくバラバラになるだろう。

 即座に引き金が引かれる。 

 蠢く触腕は全て強靭な筋線維であり、反動は軟体的な体が吸収し、一秒後に訪れる暴虐の結果を待ち望む。

 そしてそれは実行された。

 銃撃の雨はわずか数秒、宿の屋根どころか最上階を爆砕させ、粉塵を舞わせる。

 転生者であるウィルはそれを知っているだろう。

 だが、アース111の人間であるトリウィアはそれを知らない。

 この世界の火器原則を大いに上回る故に、対処をしきれないということは明白だ。

 

「――――?」

 

 だがその破壊の中には。

 人から流れるはずの赤い血は全くなかった。

 破壊と暴虐はしかし建物を砕くに終わり、

 

「―――大したものですね。その技術は」

 

「!?」

 

 声は、背後から。

 振り返り、

 

「がっ―――――!?」

 

 顔面と胸部。

 トリウィアの蹴りとウィルの掌底が叩き込まれた。

 体が浮き、一瞬吹き飛び、

 

「逃がしませんよ」

 

 彼女の胴体にいつの間にか変形していた刃鞭が巻き付き、引き込まれた。

 本来、体に纏う粘液が刃や拘束を無視するはずだが、直前のウィルの掌底による衝撃がそれを吹き飛ばしていた。実際、顔面への蹴りも吹き飛びはしたがダメージはなかった。

 

「―――ハァ!」

 

 だからこそ、引き戻された顔面にぶち込まれた、待ち構えていたかのように繰り出されるウィルの足刀の威力は十全に通った。

 

「ぶべっ……!?」

 

 上がる汚い声。

 

「女性を足蹴にするのは気が引けるんですが―――」

 

「――――貴女のせいで実に面倒なことをさせられたので仕方ないでしょう」

 

 頭から屋根床にめり込み、その声がどちらのものなのか聞き取れなかった。

 ただその瞬間、彼女の頭を占めていたことは一つ。

 

「よくも、私の顔をおォォォ――――!」

 

 吠え、めり込んだままに触腕を屋根に叩きつける。

 そして、高級宿全てを丸ごとキューブに変換した。

 

 

 

 

 

 

「……何を言うかと思えばそれですか」

 

 呆れつつ、トリウィアとウィルはぬかるんだ地面に着地する。

 五階建ての建物丸ごと変換したが、先刻の雨による水は適応外らしかった。

 酒倉や調理室も巻き込んだのだろうか、いくつかの液体の、特にアルコールの匂いも漂っている。

 宿屋の礎ごと消え去り、晒された泥を踏みしめる。

 

「まぁ美人なのは確かですけど。……何同意してるんですか後輩君」

 

「……いえ、客観的にぼんやり思っただけです。先輩が言ったんじゃないですか」

 

「そこは」

 

「先輩の方が御綺麗ですよ」

 

「…………いいでしょう」

 

「何を妙な会話を!」

 

 彼女が四本づつの腕を使って握っていたのは二本のハンマーだった。

 先ほどよりも数は減ったが、それは宿丸ごと圧縮した超密度の鉄槌。

 振り下ろせば人間なんて簡単にひき肉になる。

 

「どうやって避けたかは知れないけど、銃がダメなら直接ぶちのめしてあげる……!」

 

「できもしないことしか言えないのですか?」

 

「ぶっ殺す!!」

 

 八腕双鎚が迫る。超高密度、数トンはあるであろうそれを腕四本で持ち上げるのは流石と言える。

 

「でも――」

 

「――それだけ」

 

 二つの口で、一つの言葉。

 揃った足並みで一歩踏み出した。

 

 そしてウィル・ストレイトとトリウィア・フロネシスのダンスが始まる。

 

 ウィルは再び無手掌底。トリウィアは双剣に。

 ヘファイストスを中心にして彼女の破壊を流れる水のように二人は受け流す。

 

「――――あはっ」

 

 僅かでも掠めれば、死ぬであろう状況においてしかしトリウィアから笑みがこぼれた。

 だって、今この状況があまりにも未知で、楽しくて、幸福だったから。

 その気持ちがウィルと同じだと解ったから。

 

 『≪外典系統(アポクリファ)≫・我ら、七つの音階を調べ合おう ( ἀ ν δ ρ ε ί α ・ σ υ μ φ ω ν - ί α )

 

 言うなればそれは『調和』であり『共鳴』だ。

 アンドレイア家の直系として素質を秘め、ディートハリス・アンドレイアの外典系統を受けたことによって覚醒したウィル・ストレイトの外典系統。

 

 即ち、彼にとって大切な、幸福と定めた相手との意識共有。

 

 対応する相手は天津院御影、フォン、アルマ・スぺイシア、そしてトリウィア・フロネシス。

 

「――――」

 

 頬の緩みが抑えられないし、思わず顔が火照る。

 今、何考えているか全てお互いに伝わってしまっているから。

 彼が自分を幸福と定めてくれたことが嬉しくて、その嬉しさが彼に伝わっていることが照れくさくて。

 今トリウィアはウィルの全てを知ることができた。

 でも、なぜだろう。

 不思議だな。

 あれだけ知りたいと思っていたのに。

 いつもなら、知ってしまえば満足してたのに。

 なぜか満足できなくて。

 これ以上ないはずなのに知りたくて。

 知れなくても、それはそれでいいのかな、なんて思ってしまって。

 知らなかった。

 「知りたい」の先に、こんなものがあるなんて。

 ただ、彼と溶け合ったこの瞬間があまりにも暖かい想いに溢れていた。

 この思考も全て筒抜けなのに、やっぱりそれでいいかなとか思っている。

 彼に婚約を持ちかけたのは失敗というのは後から気づいたが、成功の方法はあまりにも簡単だった。

 全く本当に自分は要領が悪い。

 何度も失敗しないと成功に辿りつけないのだ。

 

「――あはは」

 

「……ふふっ」

 

 二つの蒼と黒の視線が交わり、トリウィアは笑い、ウィルも苦笑する。

 

「何を気持ち悪い笑いを……!」

 

 それに挟まれてたまったものではないのはヘファイストスだ。

 当たれば肉塊に変えられるのに。

 八本の腕を使っているはずなのに。

 至近距離で立ち回りながら、何度振るっても当たらない。

 意味が解らない。

 そして、どうしていいのかヘファイストスには解らなかった。

 一心双体となった二人への対処方法なんて解らない。

 解らないということは。

 知らないということだ。

 

「今すぐにそのニヤケ面をぶち壊して……!」

 

「あぁ、まだそんなことを言ってるんですか―――貴女はもう、終わりですよ」

 

「っなにを―――――!」

 

 何度目かの叫び。

 そして答えはすぐに表れた。

 ウィルとトリウィアが同時に離れ、

 

「!?」

 

 幾筋もの水流がヘファイストスを包み込んだ。

 それら彼女に纏わりつき、粘液を剥がし、巨大な水球となって包み込み、浮かんでいく。

 

「がぼっ……!」

 

 ≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫は――――発動しない。

 それをウィルとトリウィアは知っていた。

 

「それは、固体にしか適応されない。宿を丸ごと変換したのに、液体は変わっていない。単純な、観察眼ですね」

 

 水球は二つ、リボンのように繋がる場所があった。

 トリウィアの銃と、いつの間にか手渡され握っていたウィルの銃、それぞれの銃口。

 ウィルの右手とトリウィアの左手。 

 そして空いた手は、

 

「――――」

 

 まず五本の指同士が触れ合った。

 

「さぁ、ウィル君。私たちで―――」

 

「――――あっと言わせて見せましょうか」

 

 それから指を絡め合い、握りしめ、

 

『――――共鳴魔法(シンクロマジック)!』

 

 銃を水球に囚われたヘファイストスへと突き付ける。

 ウィルの外典系統による恩恵は意識共有だけではなかった。

 互いの魔法の融合。

 溶け合う蒼と黒は究極魔法にも劣らない。

 蒼と黒の衣がはためき、言葉が重なる。

 

『蒼き深淵よ! 深き知性よ!』

 

 十字架の双眸が、輝いた。

 

『≪十字刻みし蒼玉の叡智(ヘカテイア・ザフィア・ヴァイゼ)≫―――――!』

 

 引き金を引く。

 繋がれた水が溢れ、螺旋となって水球に届く。

 最早身動き一つ取れない水圧にヘファイストスは飲まれ、

 

「―――!」

 

 二人はそれぞれの銃を真横に引いた。

 刹那、圧縮された膨大な水量が爆散する。

 超圧縮からの解放。爆散による衝撃。

 後に残ったのは二つ。

 空の色を反射する一面の水浸し。

 その中央、人の姿に戻り―――スーツは破けていたので全裸―――気絶し、倒れたヘファイストス。

 

「……見てはダメですよ、後輩君」

 

「あ、はい」

 

 完全に伸びた肢体を見て、トリウィアは少し考えて、

 

「まぁこれでいいでしょう」

 

「………………なんだかなぁ」

 

 適当に首から下を泥で埋めた。

 なんとも惨めな姿だ。

 

「ふぅ…………やれやれ。やっと終わりましたね」

 

「ほんとですよ。先輩には後で話がありますから」

 

「えぇ、解っています。……私も話したいことがありますから」

 

 そう言って、笑みをこぼしつつ、彼女は煙草を取り出した。

 箱が防水にでもなっていたのだろうが、かなり濡れたのにも関わらず渇いている。

 

「後輩君は」

 

「あぁ……貰います」

 

 首を傾げながら微笑む彼に、手渡し、そして一歩近づく。

 魔法で手早く自分の煙草に火をつけつつ、彼女は当然のように顎を上げた。

 彼もやはり当然のように身をかがめ、

 

「―――」

 

 二つの煙草が触れ合い、熱を灯す。

 反射する水面が空の蒼さと煌めく虹と共に、その灯りを映していた。

 

 

  

 

 




シガーキスってえっちですよね(3回目

 『≪外典系統(アポクリファ)≫・我ら、七つの音階を調べ合おう ( ἀ ν δ ρ ε ί α ・ σ υ μ φ ω ν - ί α )
ウィルが幸福と定めた相手との意識共有、および魔法の融合。
戦闘スタイルや魔法の模倣により完璧なコンビネーションを生む。

十字刻みし蒼玉の叡智(ヘカテイア・ザフィア・ヴァイゼ)
膨大な水流で相手を拘束後、宣言による圧縮、それからの爆散。
溺殺、圧殺、爆殺の三段重ねなのだが、今回は加減された模様。
名前はトリウィア考案。

ウィル
先輩の方がキレイですよ

トリウィア
知りたいの先を知ることができた

宣伝ですが、配信勇者ちゃんのスピンオフを始めました。中編予定。
https://syosetu.org/novel/302398/
無垢な水連と穢れた泥のお話。

これだけで独立していますが、こっち読んでから読むと色々楽しめることもあるかと思いますので、よろしければこちらもお楽しみください。
配信勇者ちゃんのオネショタ。
>1の相手がロリババアと思うとなんかおもろいですね。

先輩編は次でおしまいです

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ガール・ティーツ・ボーイ

少女は少年に道の歩き方を教えて


6982:2年主席転生者

 

「二人とも、集まってもらって感謝を。―――随分と複雑になってしまった私たちの話も、これで終わりにしましょうか」

 

先輩に呼び出されてディートさんと集まりましたけど……なんでしょう、これ。

なんか見たことある様な……

 

6983:名無しの>1天推し

なんか凄い推理小説のクライマックスみたい

 

6984:名無しの>1天推し

一応犯人?は捕まったが

 

6985:名無しの>1天推し

或いは刑事ドラマで最後に崖の上で追い詰められてるやつ

 

6986:名無しの>1天推し

逆では?

 

6987:NOZUI

でも態々この前のレストランのプールの縁に立って、

水面の反射光で逆光作ってるあたりわざとだよ

 

6988:名無しの>1天推し

うーんこの抜かりない

 

6989:名無しの>1天推し

解答編助かる

 

6990:名無しの>1天推し

はい……

 

6991:名無しの>1天推し

今回、俺ら完全に先輩の掌の上で踊っていた……

 

6992:名無しの>1天推し

うむ……

 

6993:ステゴロお嬢様

あの先輩なら絶対知識欲で>1に殴りかかるタイプの人間だと思っていましたし……

 

6994:名無しの>1天推し

先輩以外の全関係者が「えっ」で一致した瞬間だった

 

6995:名無しの>1天推し

しかし解答編は迫真のヘファイストスハンマー使いのヘファイストス・ヘファイストスさん(笑)を追い詰めた時だったのでは?

 

6996:名無しの>1天推し

ヴァルカン=ヘファイストス

ウルカヌス=ヘファイストス

とかいうヘファイストスの三重使いよ

 

6997:名無しの>1天推し

腕は八本でしたけどね……

 

6998:復帰軍人人妻

あの噛ませ犬はまぁ

 

6999:名無しの>1天推し

やめてあげてよ!

 

7000:名無しの>1天推し

 

7001:復帰軍人人妻

いえ、私は>1と先輩の合体技でテンション滅茶苦茶上がって最高だったんでありますが

 

7002:名無しの>1天推し

くさ

 

7003:名無しの>1天推し

発狂してたよ

 

7004:NOZUI

合体技はしゃーない

 

7005:2年主席転生者

 

「ふっ……トリウィア嬢。その話だが」

 

あ、ディートさん。

 

7006:名無しの>1天推し

何も知らなかったディートハリスさん!

 

7007:名無しの>1天推し

ほぼずっと痺れてただけのディートハリスくん!

 

7008:名無しの>1天推し

王都に来てマジで>1と観光楽しんでただけのディートハリスさん!!

 

7009:ステゴロお嬢様

ほんとにただの気の良い従兄っぽいディートハリスさんですわ~~~

 

7010:名無しの>1天推し

既にオールバックなのに無駄にキメて髪をかき上げるディートハリス様!!

 

7011:NOZUI

くそっ……

 

7012:NOZUI

>1の世界のおもしれー担当は俺だったはずなのに……!

 

7013:1年主席天才

何を張り合ってるんだよ

 

7014:名無しの>1天推し

 

7015:名無しの>1天推し

うける

 

7016:ステゴロお嬢様

おハーブですわ

 

7017:名無しの>1天推し

うーんこの

 

7018:名無しの>1天推し

ジャンルが違うんだよな

 

7019:NOZUI

それはそうと天才ちゃんは何の話か聞いてるん?

 

7020:1年主席天才

聞いてる。

なので今は色々裏でサポートしてた生徒会面子でお茶してる

アレスも一緒に

 

トリウィアが迷惑かけたお礼にって帝国産の最高級ジャムくれた

 

7021:名無しの>1天推し

草ァ!

 

7022:名無しの>1天推し

アレス君さぁ

 

7023:NOZUI

少年……欲望に弱いのでは……?

 

7024:名無しの>1天推し

おもしれー男しかいないのか?

 

7025:2年主席転生者

 

「それは―――ヘファイストス・ヴァルカンの扱い、そして魔族信仰派に関することだろう?」

 

「いえ、違いますけど」

 

「……」

 

おぉう……

 

7026:名無しの>1天推し

wwwwww

 

7027:名無しの>1天推し

ずるいって

 

7028:名無しの>1天推し

草覆い茂るわw

 

7029:NOZUI

おのれディートハリス……!

 

7030:名無しの>1天推し

何やってもおもしろいなこいつ

 

7031:2年主席転生者

 

「……………………ふっ」

 

!?

 

7032:2年主席転生者

凄い、この人笑い一つで誤魔化すつもりですよ!?

 

7033:名無しの>1天推し

ほんとさぁw

 

7034:ステゴロお嬢様

最早あっぱれですわね

 

7035:名無しの>1天推し

かっこよく笑っとけばなんとかなるって思ってる?

 

7036:名無しの>1天推し

おそらく……

 

7037:2年主席転生者

 

「ヘファイストス・ヴァルカンに関しては一先ず王国預かりで、今後の尋問や処遇は現在相談中でしょう。倒して引き渡したのが昨日ですし。その時点で私の手から離れています。事情聴取はありますけど」

 

「そっか……」

 

 

7038:名無しの>1天推し

そっかじゃないんだよ

 

7039:名無しの>1天推し

ちょっと可愛いのなんなの

 

7040:2年主席転生者

 

「私とディートハリスさん、貴方の結婚のことです」

 

 

7041:復帰軍人人妻

!!!!!!

 

7042:復帰軍人人妻

再起不能ですか!?

 

7043:名無しの>1天推し

こら

 

7044:名無しの>1天推し

公務員ネキさぁ

 

7045:ステゴロお嬢様

ちょっとマイルドになってて草ですわね

 

7046:復帰軍人人妻

静粛に! 静かに聞きましょう!!

 

7047:名無しの>1天推し

無敵か?

 

7048:1年主席天才

無法なんだよな

僕が言うのもなんだけど、やりたい放題だぞ

 

7049:2年主席転生者

 

「結論から言えば。ディートハリスさん、貴方と婚約は出来ません。どうぞ帝国にお帰りください」

 

 

7050:復帰軍人人妻

!!!!!!!!!!!!!!!

 

7051:名無しの>1天推し

落ち着け

 

7052:名無しの>1天推し

でも帝国とかお家的に拙いんじゃないっけ?

 

7053:ステゴロお嬢様

ですわね。

ですが、先輩殿がそう言ったということは……

 

7054:2年主席転生者

 

「……………………ふむ。驚いたな、トリウィア嬢。だが君のことだ、何もかも理解した上での選択であろう。訪れた春も必ず終わりが来る。ならば、次に来る冬に向けて蔵は満たしているかね?」

 

「勿論」

 

 

7055:名無しの>1天推し

うん?

 

7056:名無しの>1天推し

とりみ……ださない……!

 

7057:ステゴロお嬢様

えぇと……どうなるか結果が見えているものに対して、対策なり代替案はあるのか? ということでしょうか

 

7058:1年主席天才

正解だ。やるね

 

7059:名無しの>1天推し

お見事

 

7060:名無しの>1天推し

はえぇ~

 

7061:NOZUI

さらっとそういうの出てくる当たり、大した教養よな

 

7062:2年主席転生者

 

「フロネシス家との繋がりが必要なら私の妹と結婚すればいい。母様曰く、貴方のファンだそうで。流石社交界の花ですね。まだ幼い故に家同士の関係もピンと来ないそうで。私とあなたの婚約話に頬を膨らせたそうですよ」

 

「……失礼。君の妹は確か……」

 

「今年で5歳ですね」

 

「…………」

 

何ともいえない顔してますね……

 

7063:名無しの>1天推し

15歳差かぁ

 

7064:名無しの>1天推し

ろ、ロリコ……

 

7065:ステゴロお嬢様

まぁ貴族同士の婚姻ではある話ですわね

 

7066:2年主席転生者

 

「……こほん。いやしかし、君の妹御を貶すわけではないが。君との婚約に、俺は意義を見出している。トリウィア・フロネシス。掛け値なしに、君は歴史に名を残す偉人だ。その君を、新たな当主の妻として迎えることが肝要だ。―――違うかね?」

 

「確かに。私の価値というものは実に大きい。全く、自分で言って笑えますね。ですから」

 

「ほう?」

 

「――――ふぅぅ」

 

「……」

 

 

7067:名無しの>1天推し

煙草でもったいぶるやん

 

7068:名無しの>1天推し

なんか次に凄いこと言う溜めでは?

 

7069:2年主席転生者

 

「婚約をしなくても、アンドレイア家への個人的に援助はしましょう。ちょっと前に後輩がそういうやり方で上手いことやってたのでそれを学びとさせていただきました」

 

「……解らないな、どういうことだ」

 

「簡単な話です」

 

 

7070:2年主席転生者

 

「フロネシス家のトリウィアを嫁にするよりも―――私という個人からの援助の方が恩恵が大きいということです」

 

 

7071:名無しの>1天推し

ん?

 

7072:名無しの>1天推し

はい?

 

7073:復帰軍人人妻

なんて?

 

7074:名無しの>1天推し

て、天才ちゃん? ステゴロネキ?

どういうこと?

 

7075:NOZUI

おいおいおい、マジかよ先輩

ディートハリスくんも絶句してるじゃん

 

7076:ステゴロお嬢様

………………こ、この女!

とんでもないこと言いますわね!?

 

7077:1年主席天才

ね? 無法な上にやりたい放題だろ?

 

7078:NOZUI

おもしれ―女すぎるだろ

 

7079:2年主席転生者

 

「…………つまり、君はあれか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「えぇ。そう思いませんか?」

 

た、確かに……

 

7080:名無しの>1天推し

>1!!!納得していいんか!?

 

7081:復帰軍人人妻

いいですとも!!!

 

7082:2年主席転生者

 

「正体はどうあれ、ゼウィス・オリンフォスはその武勲を以てアクシオス王国学園を設立しました。それは認めざるを得ない。それまで分断されていた国々が、大戦を通し、個人が世界の形を変えた一例ですね」

 

「先人に倣うと?」

 

「学ぶとはそういうことです。そして、私ならそれと同等のことができますし、するつもりです」

 

 

7083:名無しの>1天推し

凄いこと言うな

 

7084:名無しの>1天推し

まぁ……でも先輩だしな……

 

7085:ステゴロお嬢様

有能っぷり、散々見せつけられましたし……

 

7086:名無しの>1天推し

>1と戦った時強過ぎたよ……

 

7087:NOZUI

天才ちゃんもアースゼロならノーベル賞もんとか言ってたなぁ

 

7088:1年主席天才

アカシックライトの幻術すぐに覚えるしもう滅茶苦茶。

ネクサスに残ってて今回の一件見たら絶対勧誘してたよ。

 

というか、アース111用に制限した状態なら、僕より強いんじゃない?

 

7089:名無しの>1天推し

やばすぎんだろ

 

7090:2年主席転生者

 

「…………ふむ」

 

おや?

 

7091:名無しの>1天推し

なんか>1と目あったな

 

7092:名無しの>1天推し

おっ?

 

7093:2年主席転生者

 

「なるほど。トリウィア嬢の価値に関しては異論はない。だが、足りんな」

 

「ほう?」

 

「例えば。そう、例えばの話だが。トリウィア嬢をフロネシス家と別けたとしても、今後君の夫となる者が別の家の血を引き! 帝国の権謀術数渦巻く黒き森の暗黒よりも暗い貴族世界に乗り込んできたと! それが俺の立場を追いやると考えると……やれやれこれでは夜も眠れないな」

 

「………………」

 

「どうだろう、トリウィア・フロネシス。それに対しての考えはあるか? 君の影響力は今君が言った通りだが」

 

「…………ふぅう。えぇ、ありますよ」

 

……

 

7094:名無しの>1天推し

ディートハリスくん……?

 

7095:名無しの>1天推し

これは……

 

7096:名無しの>1天推し

おいおいこの男……まさか……

 

7097:2年主席転生者

 

「これは勿論、相手の同意次第という前提ですが。……私の夫となる者は帝国においてあらゆる権力、継承・相続権を放棄する、という誓約を取るというのはどうでしょう」

 

「ふむ………………あらゆる相続権、は言いすぎではないか? その誰かに、もしかしたらお節介焼きの年老いた親戚が別荘や財産の一つを用意するかもしれんぞ? 或いは従兄弟あたりが歌劇の升席を権力によって招待するかもしれん」

 

「……………………」

 

ディートさん……?

 

7098:名無しの>1天推し

先輩呆れ顔で草だな

 

7099:NOZUI

良い奴か?

 

7100:2年主席転生者

 

「…………ではまぁ、権力とか。そこらへんで」

 

「なるほど、そこらへんな感じで」

 

 

7101:名無しの>1天推し

ふわっふわで草

 

7102:名無しの>1天推し

あのさぁ

 

7103:名無しの>1天推し

ディートハリス兄さん!!!!!!!

 

7104:ステゴロお嬢様

相手と場合によってはこれ面倒なことになる言い方とかもうそんなのどうでもよくなりますね~~~~!!

 

7105:復帰軍人人妻

自分はこんな良い人を殺そうとしていた……?

 

7106:1年主席天才

正気取り戻してて草

 

7107:2年主席転生者

 

「――――――フッ!!! では、仕方あるまいな、俺は俺の立場が安泰ならばトリウィア嬢と無理に結婚しなくてもいいだろう! 妹君の話は!」

 

「はい」

 

「………………10年は先の話なので、帰国してご両親と相談でも?」

 

「えぇ。お任せします」

 

「うむ。…………10年か…………ふっ! まぁいい!!」

 

いいんだ……

 

7108:名無しの>1天推し

おもしれー男(n回目

 

7109:NOZUI

くっ……!

 

7110:1年主席天才

うけるwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

7111:名無しの>1天推し

草生やし過ぎて草

 

7112:名無しの>1天推し

うーんこの

 

7113:2年主席転生者

 

「それでは、俺への話は終わっただろうし下がらせてもらおう。そちらで積もる話もあるだろうしな。目的も終えたし、帝国に帰るとしよう」

 

 えっ!?

 

「ははは! それでは、だ。トリウィア嬢、ウィル! あ、来年の春頃には王国しかやらない歌劇を見に来るからその時にな! さらば、我が従兄弟!!」

 

 

7114:名無しの>1天推し

ディートハリス様~~~~~!!!

 

7115:名無しの>1天推し

爆速で帰るじゃん

 

7116:名無しの>1天推し

最後にちょっと>1とハグして背中バンバン叩くのずるいよ

 

7117:ステゴロお嬢様

圧倒的な察しの良さ……

 

7118:名無しの>1天推し

戻って来て~~~

 

7119:名無しの>1天推し

来年春……半年くらいか……

 

7120:名無しの>1天推し

ディートハリス様……トゥンク

 

7121:NOZUI

おかしい、ただの間男だったはずなのに……!

どうしてこんな反応に……!

 

7122:1年主席天才

脳髄の時代も終わりってことだねwwwwwwwww

 

7123:NOZUI

こら!!!!

 

7124:1年主席天才

誰がパパだ!!!!

 

7125:NOZUI

ん?

 

7126:名無しの>1天推し

ん?

 

7127:名無しの>1天推し

ん?

 

7128:ステゴロお嬢様

ん?

 

7129:名無しの>1天推し

ん?

 

7130:復帰軍人人妻

ん?

 

7131:1年主席天才

ん?

 

7132:2年主席転生者

 

「――――後輩君」

 

「はい」

 

 すみません、視界同期切ります

 

7133:名無しの>1天推し

あーい

 

7134:名無しの>1天推し

ま、そうなるわね

 

7135:復帰軍人人妻

うおおおおお

 

7136:1年主席天才

行っておいで

 

 

 

 

 

 

 

 

 中庭に降り注ぐ秋晴れは少しづつ落ちていき、世界が黄金色に染まっていく。

 建物の影が大きくなっていく中、それでもプールを背にしながら煙草を蒸かす彼女を洛陽が包み込んでいる。

 そんな彼女をウィルは見つめている。

 眼鏡の奥の青と黒の双眸。

 目が合い、ウィルは苦笑しながら首を傾け、トリウィアは煙を吐き出した。

 

「……君の≪外典系統≫。凄いですけれど、ちょっと困りますね。困るというか」

 

「恥ずかしい、ですね」

 

 ≪我ら、七つの音階を調べ合おう≫。

 それにより、戦いの中で二人の意識と想いは繋がり溶け合った。

 だからお互いがお互いをどう思っているのか、どうしたいのか知っている。

 

 一度お見合いが破綻して彼女が今の形を考えていたけれど、ヘファイストスのせいでこうして伸びてしまった。

 

 遠回りをしてしまったけれど、それもいいかなと思う。

 共鳴し、調和し合ったあの時間はあまりにも尊いものだったから。

 

「後輩君」

 

「はい」

 

「………………ふむ」

 

 彼女は彼の名を呼び、少し考え、

 

「私の旦那は、つまり私と結婚しても帝国での権力に全く興味がない人じゃないとダメになったんですけど―――君が、適任だと思うんですが、どうですか?」

 

「……ごめんなさい」

 

 答えは苦笑気味の断りだった。

 トリウィアも思わず失笑する。

 同じようなことを言って、一度振られた。 

 そりゃそうだと、今更彼女は思う。

 こんな言い方で、彼が受け入れてくれるわけがない。

 トリウィア・フロネシスは別に最適解を選ぶことが得意ではない。

 間違えて。

 学んで。

 知って。

 そしてやっと正解に辿りつける。

 

「なら――」

 

 だから、口を開き、

 

「――――先輩」

 

 ウィルがそれよりも先に動いていた。

 流れるような足取りでトリウィアの目前に。

 彼女に自らの右手の甲を差し出した。

 

「次は僕から、いいですか?」

 

「―――」

 

 青と黒の瞳が見開かれる。

 驚きは一瞬だった。

 

「……意味は理解しています?」

 

「えぇ、()()()()()()()()()()()()()

 

 頷き、煙草を携帯灰皿に捨てる間に息を整える。

 目を細め、頬の笑みは抑えきれず自らの左手の平を彼の掌に重ねながら答えた。

 ウィルは自分の手と共にくるりと上下を入れ替える。 

 頭を下げ、額を彼女の手の甲に近づけた。

 コツン、と。トリウィア自ら、ウィルの額に触れ、すぐに離れる。  

 ウィルは顔を上げなかったし、トリウィアはその流れを見つめていた。

 左右の手のどちらを受け取るか。それが最初の選別。

 そして近づけた額を触れてくれるかどうか。それが二度目の選別。

 そこまで続いたのなら、

 

「―――んっ」

 

 ウィルは彼女の手に恭しく口づけし、トリウィアは彼の唇の感触に小さく声を漏らした。

 

「先輩」

 

「はい」

 

「僕は先輩が好きです。貴女が僕にとっての幸福です。ですから、利益があって誰かと結婚するのではなくて―――僕が貴方を誰にも渡したくないから、僕と結婚してくれませんか?」

 

 それは紛れもないプロポーズだった。

 かつて舞踏会で、ウィルはその意味を知らずに行った。

 けれど一週間ディートハリスに付き合わされる中でその意味を教えてもらった。

 だから彼は、その名の通りに。

 真っすぐな意思で想いを伝えたのだ。

 

「……っ」

 

 トリウィアの手を握る力が強まった。

 胸の中で暖かいものが爆発しそうだった。

 それは少し前までは知らなくて、けれどウィルとの共鳴が教えてくれたもの。

 だから、その底なしの温もりに彼女は逆らわず、

 

「はい……!」

 

 手を引き、ウィルを立ち上がらせて抱きしめようとして、

 

「あっ」

 

「えっ」

 

 勢いが付きすぎて、背後のプールへ二人で落ちた。

 

 

 

 

 

 

「――――ぷはっ!」

 

 派手な水音を立ててプールに飛び込んだが、幸い水深はさほどでもなかった。 

 水底に足がついて尚、ウィルの肩下あたり程度だ。

 頭を振り、水滴を飛ばしながら目を空ければ、

 

「あ、ちょ、後輩君! わっ、っと……!」

 

「おっと」

 

 妙に慌てた動きでウィルの首に腕を回し縋り付いてきた。

 

「ふぅ…………うぅ……びっくりした……」

 

「…………先輩?」

 

 いつも余裕がある彼女には珍しい姿。

 

「泳げないんですか?」

 

「それは」

 

 トリウィアは表情を崩しながら説明をしようとした。けれど相手がウィルであるのならもういいかななんて思い、彼の首に回した腕の力を籠める。

 

「泳げない、わけではないですけれど。王国で一通り覚えましたし。ただ……その、帝国では泳ぐ習慣もなければ、常冬の国で川に落ちれば命の危機も同然、なので……その……得意ではない……というか……」

 

「……意外です、先輩にもできないことあるんですね」

 

「泳げないわけではないですから。そこは勘違いしないように。ただ、可能な限り腰から上の水深の水場に入りたくないだけです。それだけですよ? いいですか?」

 

「ははっ。えぇ……はい。大丈夫です。先輩は、いつだってかっこいい先輩ですから」

 

「むぅ」

 

 初めて見るような様子にウィルは笑ってしまい、揶揄うような言い方に少しだけ頬を膨らませた。

 それからお互い、額がくっつきそうな距離で密着していることに今更気づいた。

 

「……あはは」

 

「ふふっ」

 

 ウィルは首を傾げながら笑い、トリウィアは小さく笑みをこぼした。

 

「先輩の知らない一面を見れて、嬉しいですよ」

 

「……うん」

 

 彼女ははにかみながら頷く。

 縋り付くのではなく、ちゃんと抱きしめて。

 

「…………私も。誰かに知ってもらって嬉しいと思うなんて、思わなかったな」

 

 濡れた頬と頬が重なる。

 晴れているとはいえ秋の終わりに水の中にいれば当然寒い。

 魔法を使えばいいけれど、今はただお互いの体温を感じたかった。

 

「…………もう、私がやり直そうと思ったのに」

 

「あぁいうのは、僕から言った方がいいかなって」

 

「うーん……私はどっちでもいいけど。でも、確かにすごく嬉しかった」

 

 くすくすと、彼女は笑う。

 いつもの冷静で無表情な彼女とは違う。

 ウィルにだけしか見せないような言葉遣いと雰囲気で。

 

「ねっ、ウィル君」

 

「はい」

 

「トリィ」

 

「はい?」

 

「私の旦那さんになるなら、トリィって呼んで欲しいな。家族はそう呼ぶんだよ」

 

「へぇ……」

 

「あと、君と御影さんが呼び方変わったの見て羨ましいなーなんて思ってた。ついでに敬語も止めてみよう?」

 

「…………そんなこと思ってたんで……思ってたんだ」

 

「実は凄く」

 

「なるほど――――トリィ」

 

「―――――――」

 

「トリィ?」

 

「………………いや、ごめんね。御影さんが凄く興奮するって言ってたの理解した」

 

「あはは……」

 

「私もウィル君でいい?」

 

「勿論だよ、トリィ。昨日、何度か呼ばれてたからそれで通すのかと思ってた」

 

「あれは……ほら。感情が高ぶっちゃった、みたいな感じ」

 

「そっかぁ」

 

「うん、そうだよ」

 

 くすくすと笑い、ずぶ濡れの体を重ね合わせて体温を分かち合う。

 胸に溢れるこの温もりまで相手に届いて欲しいと思いながら。

 

「……」

 

 額を重ね、見つめ合い、

 

「――――ん」

 

 唇を重ねた。

 触れ合うような口づけ。

 すぐに離れて、

 

「……これは、凄い」

 

「うん」

 

「次は御影さんとしているようなやつがいい」

 

「もしかして御影から根掘り葉掘り聞いたりしてる?」

 

「うん」

 

 トリウィア・フロネシスが聞かないわけがなかった。

 頷き、すぐに再び唇を押し付け、啄むようなキスを。

 

「ぁむ……ん……」

 

 唇同士を食み合い、

 

「んっ」

 

「ぇろ……ちゅ――ふぅ……っ」

 

 口が開いた瞬間に、トリウィアが舌をねじ込み、絡め合う。

 そのまま彼女の舌は貪るように、初めての感触と快感に震えていた。

 

「ふぐっ……ちょ、んん……トリィ……!? 待っ……」

 

「ふゅ……ちゅ、ちゅっ……んれぇぉ――」

 

 ウィルの静止も聞こえていなかった。

 彼女の貪る様なキスはたっぷり一分近く続いた。

 やっと唇が離れ、銀色の端が掛かる。

 

「………………ふわぁ」

 

「はぁ……はぁっ……」

 

「…………これは、凄い。今、御影さんへの解像度が滅茶苦茶上がった」

 

「………………」

 

 ウィルは思わず頬を引きつらせた。

 冷静に考えると。

 性欲のお化けの御影とあらゆる知識欲の権化であるトリウィアの組み合わせは色々拙いような気がしてきた。

 脳内で、やっと舌を少しふれ合うようなキスができるかなというアルマが手を振っているような気がした。

 どういう感情なんだ?

 

「……ねぇ、ウィル君」

 

 トリウィアが体を擦りつける様に寄せ、水面下で自らの足をウィルのそれに絡めた。

 そして、彼の耳に口元を寄せて囁いた。

 間違いなくこれも御影から学んだことだと、冷や汗を掻いた。

 

「ここのお店ね。帝国貴族御用達で色々融通も効くし、レストランだけど元々御屋敷を改造したものだから宿泊も頼めばできるんだ」

 

 くすりと、彼女は笑い、吐息が耳元を撫でる。

 その瞬間。

 ウィルには本当に―――――彼女が悪魔に見えた。

 

「だから今から、私の知らないことを―――いっぱい教えてね?」

 

 

―――≪ウィル・ストレイト&トリウィア・フロネシス―――ボーイ・リーズ・ガール―――≫―――

 

 




そして或いは少年は少女をリードする

リード(意味深
このあと滅茶苦茶リードさせられた(意味深

ウィル
自分からプロポーズしたい派
完全に耳を開発されている

トリウィア
諸々の問題を全部自分の力でねじ伏せる。無法か?

アグレッシブ知識欲暴走ガールが性欲魔鬼から知識を得たらもうえらいことになった
敬語の冷静な先輩が敬語崩れずるいと思うんですよね


ディートハリスお兄様
結局何も知らないまま、最後一瞬だけ察して、なんだかんだ目的を達して颯爽と帰っていた
さらに10年童貞の可能性が高まるイケメン

トリウィアの妹
この5年後くらいにハイパーアグレッシブ逆レロリになってディートハリスの貞操を狙い出し、攻防を繰り広げる


というわけで先輩編でした~~
次は勇者ちゃんの方や番外編挟んで鳥ちゃん編ですかね。
先輩が無法しまくった回でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります。


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ちょっと今から出張ね

ちょいと忙しかったりモチベが死んだりしましたが、更新再開ですわ~


 

「はあぁあぁあーーー…………」

 

 夜のマンション街に女のため息がこぼれた。

 ジャケットとタイトスカ―トに白のブラウス、緑のネクタイは豊満な胸のふくらみに乗り、ピンヒール、黒の眼鏡と仕事ができると言わんばかりに隙のないOL姿。茶髪をシニョンにした女性。

 椎堂市の冒険者ギルド受付嬢、新島巴。

 腕時計が示す時間はとっくに定時を過ぎていた。

 

「えーいあのハゲ所長め……急に仕事を増やして……まぁ迷宮の新しい階層発見したから仕方ないでありますが……」

 

 ぶつぶつと上司に文句を言いつつ、手にした仕事用カバンとビール缶の入ったビニール袋を揺らした。

 文句を言いつつ、自宅に辿りつく。

 住宅街の一角に佇む一軒家。

 慎ましくも愛おしい我が家だ。

 

「ただいまで……ん?」

 

 玄関に入り、靴を脱ごうとして見慣れないものがあった。

 ローファーと真っ黒のスニーカー。

 高校生が履いてそうなもの。

 夫の趣味ではないし、娘はまだ6歳だ。

 首を傾げつつ、リビングに行けば、

 

「わぁ! アルマちゃん凄い!」

 

「ふふん、そうだろう?」

 

 指先に光を灯し、指運でそれを躍らせるアルマ。

 彼女は近くの高校の制服である黒のセーラー服姿だった。

 銀髪によく映え、黒いストッキングが可愛らしい。

 光の人形劇を見て笑っているのは巴の愛娘である初音。

 

「へぇ、そういう風に焼くんですね」

 

「うん。こうするとジューシーになるんだ」

 

 キッチンではまた何故か学ラン姿のウィルと夫である丈が並んで料理をしていた。

 丈は身長が160少しなのでウィルと並ぶとともに黒髪も相まって兄弟のようにも見えた。

 なんか推しカプが娘と旦那と絡んでいた。

 

「……………………………………」

 

「あ、お母さんお帰り! であります!」

 

「やぁ、お疲れ」

 

「お邪魔しています、巴さん」

 

「お帰り、巴」

 

「………………ただいま」

 

 数秒固まって。

 

「…………………………………………ん??」

 

 

 

 

 

 

302:冒険者公務員

家に帰ったら旦那と娘が推しカプと戯れていた件

 

303:冒険者公務員

これは……夢……?

 

304:脳髄

お、来たか

 

305:名もなき>1先祝福の>1天推し

想像するとおもろ

 

306:名もなき>1先祝福の>1天推し

良い光景だ

 

307:1年主席天才

爆速で掲示板見て話すとは中々器用だね

 

308:冒険者公務員

普段受付しながらスレ見てるので……

 

309:冒険者公務員

え、えぇ。そうなんであります。

私が担当の冒険者で、いつも仲良くさせてもらっていて……

 

310:2年主席

逆です逆!

 

311:名もなき>1先祝福の>1天推し

 

312:名もなき>1先祝福の>1天推し

器用にできてへんやんけ

 

313:脳髄

おもろ

 

314:1年主席天才

まぁ彼女の旦那と娘とは和やかな会話をするとして

 

315:1年主席天才

ちょっと今から出張ね

 

316:冒険者公務員

ぐあああああああああああ!?

 

317:名もなき>1先祝福の>1天推し

うーんこの殺し文句

 

318:名もなき>1先祝福の>1天推し

うっ……転生前のトラウマが……

 

319:名もなき>1先祝福の>1天推し

気持ち悪くなってきた

 

320:名もなき>1先祝福の>1天推し

ぐえー

 

321:2年主席

にっこり笑って話しながら、旦那さんと娘さんには見えない位置で手が震えてる……

 

322:名もなき>1先祝福の>1天推し

うける

 

323:脳髄

おもろ

 

324:名もなき>1先祝福の>1天推し

旦那と娘には隠してるのえらいな……

 

325:1年主席天才

世間話しつつさっきもちょっと話したことをもう一度

 

クリスマスに集まった面子を中心に今後≪D・E≫の幼体、あるいはらしいものがいれば潰しに行くことにしたが。

当然それなりの危険はあり、その際連携が取れないというのは拙い

 

326:名もなき>1先祝福の>1天推し

それはそう

 

327:名もなき>1先祝福の>1天推し

アイドルネキの時はそういう感じじゃなかったしな

 

328:名もなき>1先祝福の>1天推し

連携つーかミュージカルというか

 

329:名もなき>1先祝福の>1天推し

あれミュージカルという名の各自好き勝手だったし……

 

330:1年主席天才

まぁそう。

というわけで時間がある時に空いてる面子見繕って

どっかの世界でお助けなりしようかなという次第

 

331:冒険者公務員

なるほどであります

 

332:冒険者公務員

いや別に私暇ではないでありますが????

 

333:1年主席天才

君、この前の先輩殿との一件で荒ぶりまくってたでしょ

 

334:冒険者公務員

あっ……すっ……はい……

 

335:名もなき>1先祝福の>1天推し

くさ

 

336:名もなき>1先祝福の>1天推し

即落ち二コマやんけ

 

337:脳髄

これはしゃーない

 

338:冒険者公務員

でもよく考えたら今職場わりと面倒なので

>1たちと異世界行けるならそれはそれでいいかもしれないでありますな。

どこに誰と行くんであります?

 

339:名もなき>1先祝福の>1天推し

こいつ……!

 

340:名もなき>1先祝福の>1天推し

この女、切り替えが早い……!

 

341:1年主席天才

職人の彼のアース412に。

君と>1と僕と、あとサイバーヤクザの彼で。

 

342:自動人形職人

えっ?

 

343:サイバーヤクザい師

えッ?

 

344:名もなき>1先祝福の>1天推し

本人驚いてて草

 

345:名もなき>1先祝福の>1天推し

職人ニキとヤクザニキかー。

 

346:2年主席

なるほどー

 

347:サイバーヤクザい師

いや、俺が行くのカ?

俺も別に暇ジゃあ――――

 

348:サイバーヤクザい師

…………いや、よく考えたらだいぶ暇だワ。

 

349:名もなき>1先祝福の>1天推し

暇なんかい!!

 

350:名もなき>1先祝福の>1天推し

 

351:1年主席天才

個々人の予定勝手に確認したけど君が一番暇だったよ

 

352:名もなき>1先祝福の>1天推し

ヤクザニキ……?

 

353:名もなき>1先祝福の>1天推し

ヤクザだし……

 

354:名もなき>1先祝福の>1天推し

薬剤師じゃないのか?

 

355:サイバーヤクザい師

昼は自営業の薬局で夜はまァ賞金稼ぎだナ。

冷静に考えたら別に何日か開けても困らねぇンだ。

 

それこそ捕まえる賞金首には困らねェし……

 

356:名もなき>1先祝福の>1天推し

治安悪そう

 

357:サイバーヤクザい師

めっちゃ悪いヨ

 

358:名もなき>1先祝福の>1天推し

シンプルにわろた

 

359:1年主席天才

うむ。

此処にいる面子の中でダントツ治安が悪いよその世界。

なのでまぁ適当にそっちで腕慣らししようかと思ったんだけど

 

職人君?

 

360:自動人形職人

あー…………なるほど……いいんですか?

 

361:名もなき>1先祝福の>1天推し

うん?

 

362:名もなき>1先祝福の>1天推し

なんかあるのか?

 

363:自動人形職人

いやちょっと今、命狙われてまして……

 

364:2年主席

大丈夫なんですか!?

 

365:暗殺王

我の出番か?

 

366:名もなき>1先祝福の>1天推し

暗殺王ニキ!

 

367:名もなき>1先祝福の>1天推し

これで安心!

 

368:自動人形職人

暗殺……まぁ暗殺というか……

 

ちょっと商売の利権絡みで色々あって、

過激派が傭兵雇って命狙われてる感じです。

 

これまでも何度か会ったんですが、今回はちょっと手強いぽくて

 

369:脳髄

水臭いな、言えよ~~~

 

370:2年主席

そうですよ!

助けに行きましょう!!!!

 

371:1年主席天才

行くんだよ

 

372:2年主席

そうでした

 

373:名もなき>1先祝福の>1天推し

>1ぃ!

 

374:名もなき>1先祝福の>1天推し

うーんこの

 

375:自動人形職人

>1……!

 

いや、まぁ自分の世界のことをここで皆さんに頼むのもどうかな……って思ってたんですよね

 

376:名もなき>1先祝福の>1天推し

それは……そうね……

 

377:名もなき>1先祝福の>1天推し

気持ちはちょっとわかる

 

378:1年主席天才

そのあたりの線引き難しいけど、

それでも職人君にはスーツやドレスやら、普段からお世話になってるしね。

 

公務員君と薬剤師君のチョイスもさっきの理由に加えて、裏社会の荒事の適正が高いからというのもある

 

379:サイバーヤクザい師

あー、なるほド

 

380:名もなき>1先祝福の>1天推し

ヤクザニキは分かるけど、公務員ネキもそんな感じなの?

 

381:冒険者公務員

元軍人でありますからな。

これでも特殊部隊でもあるので、その手の傭兵とやり合うこともありましたし。

 

382:名もなき>1先祝福の>1天推し

oh……ヴァイオレンス……

 

383:1年主席天才

ま、そういうわけだ。

 

ちょっと別のアースで>1に試してほしいこともあったし、今回はその面子で。

僕は基本、サポートに回るからよろしく

 

384:名もなき>1先祝福の>1天推し

あぁ……そりゃ天才ちゃんでばったら全部秒で終わるだろうしなぁ

 

385:名もなき>1先祝福の>1天推し

連携確認しようってんならそれはな。

 

386:サイバーヤクザい師

うーい。

明日でいいのカ?

今すぐ?

 

387:1年主席天才

明日の朝迎えに行くよ

一応フル装備で。

公務員君もね

 

388:サイバーヤクザい師

おケ。

準備しとくワ。

 

389:冒険者公務員

ラジャーであります。

ちょうど間男ぶっ殺そうとして昔の装備引っ張り出してたでありますな。

 

390:名もなき>1先祝福の>1天推し

 

391:名もなき>1先祝福の>1天推し

そんなこともありました

 

392:脳髄

元気かなおもしろハリスくん……

 

393:名もなき>1先祝福の>1天推し

絶対いい感じにおもしろおかしくしてるんじゃないかな……

 

394:自動人形職人

皆さんありがとうございます!

よろしくお願いします!

 

時に>1に試したいことって?

 

395:1年主席天才

>1の特権の確認的な感じ。

別の世界でどうなるか、君の世界はそのあたり特徴的だしね。

 

>1には剣持ってきてもらった。

 

396:自動人形職人

あぁ……なるほど。

解りました、準備しておきます。

 

397:1年主席天才

ありがとう、頼むよ

 

398:名もなき>1先祝福の>1天推し

おーん?

 

399:名もなき>1先祝福の>1天推し

職人ニキ世界特有のなんかか?

 

400:脳髄

>1の剣つーと……最近見てないけどパッパから貰ったものだっけ?

 

401:2年主席

はい。

この頃は魔法で武器作ったりリング使うことが多いのであんまなんですよね。

 

402:2年主席

父さんから貰った、剣としては業物ではあるのでもったいないなと思ってたんですが

 

403:自動人形職人

ふふふ……そういうことなら、僕の世界の魔法が役に立つと思いますよ!

 

 

 

 

 

 

 

589:2年主席

あああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?

父さんから貰った剣がああああああああああああああああ!!!!!

 

590:自動人形職人

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!

何でもします!!!!!!!!!!!!!!!

 

 




>1
剣が!?!?!

天才ちゃん
黒セーラーを一瞬だけ披露
かわいいね

公務員ネキ
切り替えが早い
上司がハゲ

新島初音
巴の愛娘

新島丈
巴の旦那
専業主夫
眼鏡のやさ男

ヤクザニキ
ほぼゴッサムの人

職人ニキ
ん? 今なんでも……?

というわけで番外編です


勇者ちゃんの方と合わせてゆっくり目ですが更新していきたいと思います

感想評価推薦、お気に入り追加モチベになるのでいただけると幸いです!!!


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オーバー・スピリット

 

 ウィルたちがポータルを潜った先は広い部屋だった。

 雑多な部屋だ。

 学校の教室ほどに広く、中央に大きな作業台があり、様々な布、鉱物や植物、生き物の素材らしきものが並んだ棚に所狭しと並んでいる。 

 作業台に手を付き、待ち構えていたのは青い髪とモノクルが印象的な美少年。薄く浮かべた笑みと瞳には幼いながらも確かな知性を宿していた。

 彼の後ろに控えるのポニーテールにした金髪と豊満な体つきの侍女。少年に付き従うのが当然であるかのように、そこが定位置であると言わんばかりに佇んでいる。

 クロノ・ラザフォードとアルカ。

 彼は自分の前に並んだ4人を見て、にっこりと笑う。

 

「ようこそ、僕の工房へ。そして――――アース412へ」

 

 

 

 

 

 

「…………いや、その前に。巴さん、そんな感じでした?」

 

「はい? なんでありますか、クロノさん」

 

 ウィル、アルマ、景、巴を出迎えたクロノとアルカ。

 三つのポータルから現れた来訪者は、しかしみな巴に視線が集まっていた。

 以前、ウィルのアース111で見た彼女は如何にもキャリアウーマンといったビジネススーツ姿だった。

 

「あぁ、これは昔の軍服引っ張り出してきたのでありますな」

 

 そして今は、まるで違う軍服だった。

 茶の髪は無造作に近い雰囲気で首後ろで纏められ腰まで伸び、スーツではなく暗いトーンの迷彩服。上着の前は止めず、その胸は丈の短いタンクトップに包まれて大きく突き出していた。腰回りや胸のホルスターには武骨な拳銃が何丁か収まっていた。

 デカい、と全員が思った。

 御影ほどではないが、それに近い頂きである。

 元々短めのタンクトップはその双丘のせいで胸元までしかなく、うっすらと割れた腹筋が晒されていた。

 

「アンタ、とんでもないものを隠し持ってたんだなァ」

 

「セクハラでありますか景さん」

 

「いやぁ、純粋な感想だよ。なぁウィル」

 

「え? まぁ……ちょっとびっくりはしましたね」

 

「完全装備と言われていたでありますからな。銃や弾丸も、そっちのかばんに」

 

 肩に担いでいるのは大きなスポーツバッグだ。

 それを見つつクロノが質問する。

 

「クリスマスの時は素手でしたよね?」

 

「えぇ。仕事中に呼び出されたので」

 

「素手でも十分だと思ったからだよ。急いでいたのはあるけれどね。上着、前閉じないのかい?」

 

「息苦しいんでありますよなぁ」

 

「ふぅん」

 

「天才ちゃん! ウィルはきっとちっぱいも好きだゼ!」

 

「セクハラでありますよ! アルマさんモーニングスターであります!」

 

「まぁ君のその乳は目線行くの仕方ないよ」

 

「……アルマさん、わりと男子の目線に寛容でありますなぁ」

 

「あはは……」

 

「ちなみにウィルも否定しないのナ」

 

「えぇ、まぁ」

 

「ヒュー!」

 

 景は白髪を揺らしながらウィルと肩を組み口笛を吹いた。

 そんな会話をしつつ、5人が作業台を囲む。

 アルカがそれぞれにお茶を用意しつつ、

 

「それでは……そうですね、僕の命を狙っている相手についてなんですが、危険な傭兵団で、かなりの手練れです。この世界でも上澄みの方ですね。ただ、どの程度、どう上澄みなのかという話になるとこの世界の魔法についてからという話になります。僕の世界は魔法というよりも精霊術というべきでしょう」

 

 クロノは指を立てた。

 

「万物には精霊が存在し、いわゆる魔法と呼ばれるものは全てが精霊によって行使されており、人間は精霊から力を貰う形で魔法を使います。以前掲示板でも話しましたが、僕たちは儀式や詠唱、或いは何かしらの物体を供物として精霊に捧げる形で、精霊の力を借りるわけですね」

 

「もの……武器とかですか?」

 

「そうですね。それもありますし、日用品でもいいですよ。ペンとか本とか、思い入れがあれば」

 

「ふゥん。じゃあクロノの場合は?」

 

「私でございます」

 

「あン? ……あー……そいやそうカ。言ってたなァ」

 

「えぇ。アルカの体は僕が作った自動人形を供物として、元素の大精霊がそのまま体にしたものですね。いつか掲示板で少し話しましたが、僕が一から設計してすべて作ったので精霊の触媒としては良いものです」

 

「謙遜を。この世界において最高と言わざるを得ません」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 クロノの背後、アルカは主を賞賛し、彼はそれを笑みと共に受け入れた。

 上品な、年齢を感じさせないほほ笑みだ。

 クロノを含め、此処にいる誰もが実年齢と肉体年齢がかみ合っていないのだが。

 

「大精霊と言っていますが、精霊にも階級があるのでありますか?」

 

「はい。細精霊(ティエラ)微精霊(ヘオグラフィカ)小精霊(デノミナシオン)中精霊(カリフィカーダ)大精霊(ビノ・デ・パゴ)

 

「アルマさん! どういう意味でありますか?」

 

「……」

 

 アルマは軽く肩を竦める。

 

「アース・ゼロで言うなら、スペイン語でワインの等級」

 

「へぇ、僕も知らなかったですね」

 

「はぁン」

 

「なるほどでありますなぁ」

 

「気を悪くしないで欲しいね」

 

「いいえ、むしろ光栄でしょう――――酒は人類になくてはならないのですから」

 

「…………物は言い様だね」

 

「確かにそうでありますな……!」

 

「あァ!!」

 

 巴と景が二人で親指を立て、アルマが半目を向ける。

 

「黙りなよ飲んだくれ二人。景は酔えないだろうに」

 

「気分だ気分」

 

「その比喩だと僕はお酒飲めないけどね、アルカ」

 

「人に好き嫌いがある様に、精霊にも好き嫌いはあります。ご主人様は第一級ですのでどれだけ嫌われても愛しているのでご安心ください」

 

「無敵かこのメイド……ギデオン、俺にも何か言ってくレ」

 

you need upload(そのような機能は実装されていません)

 

「…………」

 

「うける。掲示板でも草沢山生えてるよ」

 

「くそがよ……!」

 

「えぇと……元気出しましょう!」

 

「!! あァ!!!」

 

「こいつ……」

 

「えーい。クロノ、話の続きを」

 

「はい。細精霊(ティエラ)微精霊(ヘオグラフィカ)の二つは契約は必要とせず、日常生活向けの魔法ですね。概ね誰でも使えます。契約しなければならないのは小精霊(デノミナシオン)以降。戦闘を始め、特定の目的に特化するにはここからですね」

 

「各段階でどれくらいの差があるのでありますか?」

 

「5から10倍、と言われていますね。例えば小精霊(デノミナシオン)使い5人が中精霊(カリフィカーダ)1人分という場合もあれば、中精霊(カリフィカーダ)が10人いても大精霊(ビノ・デ・パゴ)に相打ちがやっと……という感じです」

 

「結構あるなァ。どのくらいの数ダ? 世界に数人とかカ?」

 

「いえ。このアースには大国と呼べる国が六つありますが、それぞれ10人前後はいます。小国にも数人。精霊術師教会に登録されている大精霊(ビノ・デ・パゴ)使いは100人は超えないほどですね。教会は国を問わずこの世界の精霊使いを管理するものです」

 

「当然、モグリもいル」

 

「察しが良いですね」

 

「俺の世界、モグリばっかだからなぁ」

 

「それが今回、クロノさんを狙っている相手でありますか?」

 

「えぇ。教会に属さない裏社会の大精霊(ビノ・デ・パゴ)使い――――『精霊殺し』と言われる者を筆頭とした傭兵団です」

 

 精霊殺し。

 しんっ、とその場が静まった。

 反応は様々だ。

 ウィルは顔に真剣味を増し、巴は肩を竦め、景は口端を微かに歪めた。

 アルマは何も変わらなかった。

 

「つまり、僕らには意味をなさないというわけだね。特に、巴と景には」

 

「そりゃそうダ。精霊なんて使わねーし。俺なんか全身ケミカルだゼ」

 

「嫌な宣言でありますな」

 

「僕はどうなんでしょう、アルマさん」

 

「うん、そこが問題だ。クロノ、頼んでいたものを。ウィル、剣を作業台に」

 

「え、はい」

 

「準備しています」

 

 言われた通りにウィルは持参した父の長剣を作業台に置く。

 黒い鞘、柄にこげ茶色の革が巻かれたごく普通の長剣だ。

 

「お父さんのものなんですよね」

 

「えぇ。家を出る時にもらいました。父が昔使っていたものらしく、特別なものではないらしいんですが……」

 

「それでもよく手入れされている。うん、()()()()()

 

 頷きながらクロノが取り出したのは掌サイズの水晶のような立方体だった。

 

「呼石、門霊石。精霊との契約に用いられるものです」

 

「そこに精霊が入ってるのカ?」

 

「いいえ、これは門です」

 

「我々精霊は、普段精霊界という別の次元にいます。別にこちらの世界に来る必要はないのですが、精霊はその石を文字通り門として通ってくるわけです。その石を使った人間が精霊を呼び、それに応えて契約するのです」

 

「こちらに来る必要がないのに、どうしてでありますか?」

 

「我々は」

 

 アルカはまっすぐに背筋を伸ばしたまま、目線だけをクロノに向けた。

 

「人が好きなのですよ」

 

「はぁ……笑いどころでありますか?」

 

「ふふっ、さぁどうでしょう? ウィルさん、これ石を剣において、指を触れて呪文を唱えれば精霊が応えてくれます」

 

「えぇと……」

 

 ウィルは少し首を傾け、アルマとクロノを交互に見た。

 

「いいんです? 精霊殺しとかいう人が相手なんですよね?」

 

「理由は二つある」

 

 アルマは細い指を立てた。

 それぞれの視線が彼女に集まる。

 

「まずはウィルの特権について。君の≪万象掌握≫の神髄は、世界との適応だ」

 

 35系統からなる魔法世界のアース111では35系統を保有しているように。

 その世界にとって最も適応した才能を得るのがウィルの転生特権。

 森羅万象の法則に掛かる鍵を開け、世界そのものを書き換えられる。

 

「君はアース111で生まれて全系統保有者になったわけだが、別のアースに来たらどうなるかの確認だね」

 

「僕の世界に来たら特権が変化するかもということですね」

 

「そう。ナギサの時は僕が手伝って世界改変をしたから確かめられなかった。もう一つは、それによって魔法がどうなるか。……ウィル、≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫で何か魔法を使ってみてくれないか?」

 

「解りました」

 

 ウィルが右拳を握った。

 光の線が彼の腕の周りに環状魔法陣を結ぼうとし―――結ぶことなく崩れた。

 

「!?」

 

「あぁ、やっぱりそうなるか」

 

 目を向くウィルに対し、アルマは小さく息を吐いた。

 

「あー? ウィルの魔法、こんなンじゃなかったよな?」

 

「でありますな。もっときれいでしたけど」

 

「≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫はアース111の魔法に最適化して組まれた術式だからね。となると、やはり君の能力自体も変わっているようだ」

 

「……すみません」

 

「ごめん、言っておくべきだったかな」

 

「いえ。これはアルマさんから最初に貰ったものだったので、少し驚いただけです」

 

「んんっ」

 

 苦笑しながら彼は首を傾げ、アルマは困ったように顎を上げた。

 周りを見る。

 4人ともそっぽを向いていた。

 けれど、目線だけはしっかり見ている。

 アルマはこんなはずじゃあなかったなと思いながら、落ち込んでいる彼に言葉を向けた。

 

「ウィル」

 

「はい」

 

「……その術式は君の成長と共に変化するように作られている。実際に君は君の考えで新しい力を生み出したし、いつか僕の術式としてではなく君自身が全ての鍵になれるだろう」

 

 言葉を選びながら彼女は紡いだ。

 優しい言葉で甘やかすわけではなく、ただ事実を示す。

 そこに込められたのは期待と未来だ。

 

「それに」

 

 彼女は微笑む。

 

「僕は君がそう気にしてくれるのは嬉しいけれど、君が落ち込むのはちょっと悲しいかな。そして君はいつも驚かせてくれるし、これからもそうだ。そうだろう?」

 

「……はい! 頑張ります!」

 

「うん。君は頑張れるやつだ」

 

 彼女は笑っている。

 ウィルという少年は背中を押せば前に進めると知っているからだ。

 少し感傷的すぎるかもしれないが、そのささやかな感傷はそれだけ自分が与えた術式を大事にしてくれるのことであり、それがアルマは嬉しかった。

 なんて、言うまでもないけれど。

 周りを見れば、ニヤニヤとした笑みが4つ。

 最早慣れたものなので話を進めた。

 

「アース111の系統魔法は使えないなら、逆に精霊魔法は使えるはずだ。その為の呼石だね。ほら、早く進めて」

 

「はい!」

 

「ふふふ……それでは。ウィルさん、手を」

 

 クロノが長剣の上に呼石を置き、その手の上に手を置くように促す。

 その通りにした。

 二人以外は少し離れる様に促され、やはりその通りにした。

 

「アルカ」

 

「はい」

 

 ウィルの手の上にアルカが手を翳した。

 

「呼石は、それ自体は精霊しか使えません。人にはただの石ですが」

 

我々(セイレイ)にとっては―――門になる」

 

 アルカの翳した手から金色の粒子のようなものが生まれた。

 そして彼女はそのまま言葉を紡ぐ。

 それは詩だった。

 

「全ては細やかな粒より始まり、火の蜥蜴、水の巫女、風の旅人、土の鉱夫を巡り―――人の手へ」

 

 ウィルの手の周囲で光の粒子は火、水、風、土となり、円を描きながら彼の手を通る。

 暖かさも冷たさも、或いはものに触れた感覚もなかった。

 ホログラムのような光景は呼石に集まり、さらには剣に到達してぼんやりとした光を生む。

 

「愚かな子、賢き子、憎き子、愛しい子」

 

 詩は続く。

 奇妙な韻を踏んだそれはアルカの静かな声と共に広がった。

 四つの元素が再び粒子となり、ウィルの、呼石の、長剣の周囲を囲むように渦巻いていく。

 

「出会いに軋み。軋みが軋轢を。軋轢が痛みを生むのを是とするなら―――門を開けよ」

 

 剣と石と手を中心に光が弾けた。

 目もくらむ虹色の閃光。

 音はない。

 誰もが一瞬目を伏せ、そして見たものは、

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………あの、クロノさん」

 

「…………………………はい」

 

「精霊の契約って、こうなるものなんですか?」

 

 視線が集まった先。

 それは()()()()になった何かだった。

 剣の表面、鞘ごと虹色に煌めく水晶が突き出し覆われている。

 

「………………いえ、初めて見ました」

 

「………………」

 

「………………」

 

「あああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!? 父さんから貰った剣がああああああああああああああああ!!!!!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!! 何でもします!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「私としても初めて見ましたが」

 

 完全に剣として使い物にならない、ただの水晶の塊になった物を見据えながらアルカは言う。

 クロノは頭を抱え、ウィルは困ったように首を傾げ、そしてアルマでさえ眉をひそめて腕を組んでいた。

 

「間違いなく、大精霊(ビノ・デ・パゴ)が来ました。来ましたが……これは」

 

()()()()

 

 短く銀髪の少女が呟く。

 

「はい。ウィル様の特権によるものでしょうか。通常、1人と契約する精霊は1体です。ですが……おそらく大精霊(ビノ・デ・パゴ)のほぼ全てが門を抜けようとし、それで無理が起きてこのような状態になったかと……」

 

「全てって、大丈夫なのかヨそれ」

 

「精霊には個というのが曖昧です」

 

「どういう意味であります?」

 

「個体概念が曖昧なんだ。大本の精霊がいて、人間と契約して個体認識を得る。そういうことだろう?」

 

「はい。私自身、精霊界に本体と呼ぶべきものがいますが、自己認識はもう別ですね。人と契約しなければ精霊は人間界に干渉できません」

 

「……えぇと」

 

 迷う様にウィルが口を開く。

 彼は悲しんでいるわけではなかった。

 それでも、戸惑っているのは言うまでもない。

 

「この剣は……もう使い物にならない感じですか?」

 

「いいえ」

 

「いいや」

 

 応えたのはクロノとアルマだ。

 クロノは真剣味を帯びた表情で、アルマは相変わら眉をひそめたまま。

 彼女が顎を軽く上げて、クロノの言葉を促す。

 

「現状、剣に宿った精霊……いわば情報量が多すぎて形が歪になっています。だからその形を整えれば剣としては言うまでもなく、精霊術の媒介とできるはずです」

 

「あぁ、よかった。なら、申し訳ないですけどそれをお願いできますか? 流石にこれで手放すのは……」

 

「ウィルさん」

 

 モノクルの少年は真っすぐにウィルを見た。

 

「……責めないんですか?」

 

「どうしてですか?」

 

 ウィルはその視線を受け止めながら苦笑する。

 

「別にクロノさんが悪意でこうしたわけでもない事故ですし。僕が責める理由はありませんよ。こんな言い方は良くないかもですけれど……この剣が大事なのは剣だからではなく、父さんから貰ったということですからね」

 

「謝るべきは僕だ」

 

 苦々しげに彼女は呟いた。

 

「ごめん。君の特権を甘く見ていたな。こうなるのを予測するべきだった」

 

「いいんですよ」

 

 もう一度、ウィルは苦笑を漏らした。

 そう、ウィルにとって形が変わったということは大した問題ではない。

 驚いたけれど、剣として復活するなら、まぁいいかという範疇だ。

 大事なのは形ではなく、想いだから。

 

「アルマさん」

 

「……うん?」

 

「アルマさんが気にしてくれるのは嬉しいですけれど、貴女が落ち込むのはちょっと……いえ、とても悲しいです」

 

「――――――」

 

 言われた言葉に、彼女は真紅の目を大きく見開いた。

 それからうつむき、顎を上げ、そして長く息を吐いた。

 

「……全く、君ってやつは」

 

 彼女は小さく笑う。

 先ほどウィルの背中を押したと思ったらこれだ。

 アルマがウィルを励ませば、すぐにウィルは前に進む。

 そういうところが好きなのだ。

 

「クロノさん」

 

「てぇてぇ……あ、はい? なんでしょうか」

 

「剣、お願いできますか?」

 

「勿論です!」

 

 返事は即答。

 少し前まで顔を青くして頭を抱えていた少年はもういない。

 生ウィルアルでエネルギーは限界突破だ。

 

「こうなったのは僕の世界によるものです」

 

 だったらと、彼は笑う。

 その笑みは少年の笑みではなかった。

 職人の、それだ。

 

「作りましょう―――ウィルさんの為だけの、ウィルさんの専用武器を」

 

 

 




ウィル
ちょいちょいアルマから貰ったものに湿度高い

アルマ
君ってやつは……
そういうところが好き♡

クロノ&アルカ
やっべぇ~~って感じだったけど生>1天で限界突破している


軍服タンクトップ巨乳。
かなりえっちですよ
御影よりはちょっと小さいくらいの乳
つまりめっちゃデカい


なんか茶々入れて生>1天楽しんでた男


専用武器……ロマンですよね。
精霊術とかクロノのアースに関しての説明はまた次回以降に

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クロノ・ラザフォード ―ボーイズ・トーク―

 

 クロノが前世を思い出すと、いつも鼻の奥で鉄と油の匂いがする。

 

 大きな戦争の復興が一段落付き、景気が華々しい世の中。

 彼は田舎の町工場で生まれた。

 世の中がどんどん自動化、ロボットを導入して効率化を図る中、とことん手作業にこだわる昔ながらの職人だった。

 いつかクロノになる少年は火傷が多い、油に汚れた父の手が好きだった。

 それなりに良い進学校から工業系に明るい大学に進学し、機械工業を学んだのは父の負担を減らしたかったから。

 

『俺はこの手は好かんな』

 

 頑固な父は頑固な顔で、彼の話を聞いてそう言った。

 

『だが、そうだな』

 

 固く結ばれた唇が僅かに歪んだ。

 

『変化は必要だ、どんな時にもな。お前がそうなら、いいだろう』

 

 控えめな父の珍しい笑いが印象的だった。

 

 結局、機材搬入中の事故で死んでしまったのだから何とも言えないが。

 

 二人目の父は、いつも紙とインクの匂いがした。

 クロノは転生の際に特別な特典は与えられなかったが、ラザフォード家は幸いにも裕福な商家だった。

 ついでにいえばアース412には世界を滅ぼす魔物はいなく、魔王も勇者もいない。

 いるのは精霊だけ。

 二人目の父は一人目の父とは違い柔和な人だった。

 精霊術と機械工業を併用し、大量生産の仕組みを試そうとした時も止められなかった。

 

 ただ、やってみるといいとほほ笑みながら背中を押してくれた。

 

 結局失敗したのだけれど。

 人に寄り添い、人の想いを糧にする精霊が、人の手間を介さないものを受け入れるわけがなかったのだ。

 便利だから普及するなんて考えは甘いにもほどがあった。

 母は心配していたが、父はやはり笑っていた。

 

『変化はするべきものはある』

 

 10歳になったばかりの自分の頭を、インクの匂いが滲む手で撫でながら父は言った。

 

『けれど、変わらない、変わってはいけないものもあるんだよ』

 

 いつもと変わらない笑みが、何故か前世の父に被った。

 結局のところ。

 二人目の父の言う通り、やり方を変えて。

 一人目の父のように、全て手作業で。

 精霊の肉体を作ってみたらうまくいってしまった。

 

 人生何が起きるのかわからないものだと、クロノは思った。

 転生者が言うことではないけれど。

 

 

 

 

 

 

 しゃー、という音が作業部屋に何度も響き渡る。

 それは作業台に置いたウィルの剣だった結晶棒に直接砥石を滑らせる音だ。

 勿論クロノが行っている。

 質素なズボン、腕まくりをしたシャツは少し汚れており如何にも作業着と言った感じ。

 まだ幼いと言っていい彼だが、腕は意外と逞しかった。

 

「剣を鍛えるっていうと」

 

 となりに同じような、しかし新品に近く汚れの無いシャツを着ているウィルは小さく首を傾げる。

 

「炉で熱して、ハンマーで打つイメージでしたけど、クロノくんは砥石なんですね」

 

「それでもいいですけどね」

 

 クロノは砥石を滑らせる手を止めずに答えた。

 

「この結晶、色ごとに微妙に硬度が違いますね。炉で高温で変形するまで熱するとへんな穴ぼこになりそうです。砥石……というより似た性質の結晶石なんですがこれで少しづつ研磨して成型する方が確実です」

 

 しゃー、という小気味のいい音と共に色とりどりの砂が作業台に零れていく。

 

「それに手間という意味では非常にかかりますしね。そういう意味でも精霊にとって都合がいいんですよ」

 

「なるほど……ありがとうございます」

 

「いえ。当然のことですから」

 

 もう二時間近くクロノは結晶棒を削っており、表面の凸凹は消えている。

 間に少し休憩を入れたとはいえ大した集中力だ。

 

「とりあえず第一段階ですね。ここからちゃんと剣として成型しますけど、希望の形はありますか? 前と同じなのか、少し変えるか。勿論ウィルさんに最適化しますけど」

 

「希望の形っていうと……」

 

「分かりやすいのは重さとか重心とか、長さですね。最近は使用頻度は減っているようですし使いやすい様に短剣にしてもいいですし。鍔の形とか、ワイヤー仕込んだりとかできますね。それこそ先輩さんみたいに」

 

「トリィみたいな武器の使い方は、できる気がしませんね」

 

 ウィルは苦笑し、

 

「うーん……そうですね。あんまり思いつかないですけど……」

 

「後は……例えば片刃にして、刀ににするとか」

 

「………………刀」

 

 刀かぁと、ウィルは思った。

 刀は、わりとくすぐられるかもしれない。

 自前の剣や武器生成ができたから態々貰わなかったけれど。

 それでも刀はかっこいいと思う。

 アレスの鍔無しの直刀とかかなりかっこいいと思う。

 あれで抜刀術使いなのだから。

 かなりロマンだ。

 

「アリ……ですねぇ」

 

「おや、ありですか。なしかと思いました」

 

「だってかっこいいですし……」

 

「確かに……」

 

「楽しそうな会話してンなぁ」

 

 ひょっこりと並んだ棚から現れたのは景だ。

 ウィルやクロノと同じようなシャツを、胸元までボタンを開けて着崩して鎖骨をさらしていた。

 腕にはいくつかの瓶とその中の植物。

 

「これ触っていいンだよな?」

 

「えぇ。お好きにどうぞ。いくつか毒性のあるものもありますが……」

 

「俺には関係ないナ」

 

「でしたね」

 

「あ……薬物耐性」

 

「そうそウ」

 

 作業台の椅子に腰を掛けつつ、景は笑う。

 口端を歪めた、ヘラヘラとした力のない笑い方だった。

 

「俺の転生特権は毒とか薬とかのデメリット……アルマが言うには体の負担になるような副作用の無視らシい。だから、どんな毒でも意味はないし、薬効だけ受け入れらレる」

 

「羨ましいですね、それ。随分と便利でしょう」

 

 クロノの手は止まらず、会話は続ける。

 

「まァな。実際俺の世界じゃ滅茶苦茶有用ダ」

 

 景・フォード・黒鉄。

 ネオニウムという宇宙由来の薬物をその身に受け入れる者。

 様々な効果を引き起こすネオニウムは肉体に、精神に異常を及ぼす。

 だが、彼はどれだけ摂取しても問題はないし、それを逆手にとって過剰なまでにネオニウムを体に受け入れ、改造している。

 故に――≪オーバードーズ≫。

 

「しかしヨ、ウィル、クロノ」

 

「はい」

 

「はい」

 

「……お前ラ、一緒に口開くとセリフと口調だけじゃどっちかわかンねぇな……まぁいいけど。今アルマとアルカも、ついでに巴の姉さんもいねーだロ?」

 

「言われてみるとアルマさんもアルカもよく似てますね……それが?」

 

「えぇと、アルマさんは書庫で、アルカさんは家のお仕事で、巴さんは屋敷や周囲の地形確認をされていますね」

 

「つまり――――ボーイズトークってわけダ」

 

「はぁ」

 

「……なるほど」

 

 クロノは手を動かしたまま適当に返し、ウィルは苦笑気味だった。

 

「ウィルの話はいつも聞いてる……と思いきや、色々大きめのイベントだロ? 実際、姫さんや先輩殿と婚約して普段はどうしてるのかとか、どんなムフフな生活を送ってるのカ。わりと気になるゼ?」

 

「うーん……そう言われるとちょっと照れますね」

 

「でもそれは僕も気になりますね」

 

 初めてクロノの手が止まった。

 軽く息を吐き、首や肩をほぐしてからにっこりと笑う。

 

「どうぞ教えてください。掲示板はオフにしてあるので」

 

「…………まぁいいですけど。クロノくんや景さんもお願いしますよ?」

 

「僕ので良ければ」

 

「あのメイドさんとのオネショタトークはもうなんかそういう薄い本だよなァ」

 

 しばらくの間、男同士だけのわりと下世話な話が繰り広げられた。

 婚約してから御影は意外にも普段は、むしろ控えめだが、凄い時は凄いとか。

 トリウィアはその持ち前の好奇心を新たな方向に発揮しているとか。

 そういう話。

 クロノの方も流石というべきか流石だった。

 豊満な胸部を持つ自らが生み出した完璧なメイドとのかなりレベルの高い日々をモノクルを輝かせて語ってくれた。

 長い話ではなかったけれど、様々な意味で濃厚だった。

 女性陣には聞かせられないけれど。

 二人の話の後、疑問を上げたのは景だった。

 

「ウィルは姫様と先輩と婚約したわけだけどよォ」

 

「はい、そうですね」

 

「鳥ちゃんはどうなン? 俺、概ね鳥ちゃん推しなんだよナ」

 

「あ、それは僕も気になっていました」

 

「あぁ……そうですね」

 

 同じようなことを、少し困ったように首を傾げながらウィルは答えた。

 

「そもそもの話なんですけど、あの学園って基本は在学中の結婚は禁止なんですよね」

 

「あぁ、そんな話ありましたね。生徒に貴族や王族が多いから当然といえば当然ですけれど」

 

「ンでも、婚約までならセーフなんだロ?」

 

「そうですね。ただ……」

 

 ウィルは首を傾げた。

 困ったように。

 

「御影とトリィと婚約したからついでにフォンとも……っていうのはちょっと」

 

「あぁ……そりゃそうですね」

 

「はっ、そりゃ確かにその誘い方は最低だナ」

 

 クロノは苦笑し、景は口端を曲げて笑う。

 

「そもそもフォンはこう……やっぱり奴隷っていう立場をどうも気に入っているというか……それに関しては自己主張激しめですし。どうにかしたいとは思ってるんですが」

 

「必要なのはタイミングってワケ」

 

「えぇ。遠いけど確かなのは卒業です」

 

「はァン。そりゃ楽しみだ」

 

「景さんはどうなんです? 聞いてばかりですけど」

 

「あァ……そうさなぁ」

 

 彼は鼻を掻いてから、ヘラリと笑う。

 

「終わった話と終わってない話と終わってほしいけど終わってない話、どれガいい?」

 

「…………じゃあ最後ので」

 

「俺のことをずっと殺したがってる女がいてなァ。それこそ≪ネオン・キラー≫ってそいつも呼ばれてたけど」

 

 わりと最悪な女の話の切り出し方だった。

 

「でもこいつは俺のことが好きで、昔俺が助けたンだ。あいつは俺を正義のヒーローに、自分をヒロインと思ったけど、残念俺はヒーローじゃなかっタ。だからあいつはヒーローだと思ってる俺がヒーローじゃないのにキレてて、滅茶苦茶冷たいンだよな。仕事でたまに一緒になるし、休日もたまたま遭遇するけレど、いっつも人を殺せそうな視線で俺を見てくるんだゼ?」

 

 へらへらと。

 わりととんでもないことを言った。

 ウィルは頬を引きつらせ、クロノは呆れたように半目を向けた。

 

「景さんって」

 

「おウ」

 

「わりと性格終わってたりします? 猫被ってるんですか?」

 

「酷いぜ。ウィルたちには誠実に向き合ってるつもりダ。だって、勝手に期待されて勝手に失望されても困るだロ?」

 

「それを全部解っててそんなこと言うから性格悪いって言ってるんですよ」

 

「はっ、ぐうの音も出ねぇナぁ」

 

「それは……なんとかならいんですか?」

 

「さァ」

 

 ウィルの口ぶりは恐る恐る、という感じだった。

 だが景は軽い動きで首を振った。

 

「俺としては終わってほしいからナァ。俺ァ、結構性格が悪いし、悪くないと生きていけない碌でもないのが俺のアースダ。あいつァ、ある意味まっとうな女の子って感じだから、俺と関わらない方があいつの為だヨ」

 

「…………うぅん。ですか」

 

「理不尽って思ったりするカ?」

 

「どっちも、少しだけ。お互い様って感じですね」

 

「ハッ」

 

 自嘲気味に白髪の青年は笑った。

 痛い所を付かれたという風に。

 

「全くダ。どうしようもねェんだこれが。ウィルはこういう変な女関係作らないことをおすすめするゼ」

 

 終わってほしいと思いながら。

 終わってくれないと彼は嘲笑う。

 その誰かなのか、或いは自分に対してなのか。

 

「……覚えておきます」

 

「ウィルさんには心配ないと思いますけどね」

 

 というか、とクロノは息を吐く。

 

「一人だけちょっと突っ込みづらい話で煙に巻こうとしてます?」

 

「おっと、バレたカ?」

 

「えぇ。良い性格してることも」

 

「俺は二人よりも()()()()()()だからな」

 

「転生者の年齢なんて当てにならないでしょうに」

 

 苦笑して、再び彼は砥石を滑らせ始めた。

 景は肩を竦め、作業台に置いたままだった植物を物色し始める。

 そんな二人をウィルは眺めて、少し考えて呟いた。

 

「ボーイズトークってこんな感じなんですね。ディートさんやアレス君とはちょっと違いました」

 

「そりゃあそウだ」

 

「その二人みたいな全自動おもしろトークは無理ですよ」

 




ウィル
刀……いいよね……
フォンに関してはタイミングがなぁ~という感じ

クロノ
オネショタの化身


女性関係がごたごたしまくってる男
今回のは氷山の一角だとかんとか
ウィルたちにはそうでもないけど、自分のアースだと全方位皮肉マンらしいですよ

≪ネオン・キラー≫
景が好きだけど嫌いらしい
ざっくり景に解説されたけど、しきれてないクソデカ感情がある

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります。

10と9がもうちょっとでキリよい感じ

勇者ちゃんの方もよろしくお願いします~


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新島巴 -祝砲ー

 

 傭兵団≪信念無き指≫には、文字通り信念というものがなかった。

 

 いるのは≪精霊殺し≫を筆頭とした居場所のないゴロツキたち。

 それも高度に訓練されたゴロツキだ。だからそれは傭兵であるし、同時に暗殺者でもある。

 全員が精霊術師協会に未登録の裏社会の精霊使いだ。

 世界にはもう長いこと戦争は起きていない。

 でも争いがないわけではない。

 人がいる限り必ず損得が生まれ、社会を形成すれば利権が生まれ、傭兵に仕事が生まれる。

 クロノ・ラザフォードへの依頼はそうして生まれた、らしい。

 仕事の内容をこの傭兵団は問わない。

 金を貰って、相手を教えてもらい、準備をして、殺す。

 それだけだ。

 殺しの相手は問わない。

 信念なんてないのだから。

 構成員の増減は激しいがクロノ・ラザフォードの暗殺依頼に動員されたのは12人。

 中精霊(カリフィカーダ)使い9人。

 大精霊(ビノ・デ・パゴ)使いが3人。

 暗殺対象であるクロノ・ラザフォードが元素の大精霊(ビノ・デ・パゴ)使いであることを鑑みても、過剰戦力と言える。

 依頼主、或いは依頼主たちは相当彼を恨んでいるらしい。

 だが、それもどうでもいいことだ。

 

 指に信念は要らない。

 暴力を、力を振り回す相手があればいい。

 だから深夜、ラザフォード邸に12人は侵入した。

 暗殺対象であるクロノとその大精霊は勿論、関係者も全員皆殺しにするために。

 

 そして――――中精霊(カリフィカーダ)使い9人は即座に戦闘不能になった。

 

 

 

 

 

1003:自動人形職人

チキチキ! 人の屋敷に侵入して来た暗殺者集団の撃退方法!

 

1004:サイバーヤクザい師

俺が職人ニキが持ってた植物類から麻痺ガスを精製シて~~~

 

1005:冒険者公務員

それを屋敷の侵入するであろう場所に私がブービートラップにしてドカーンであります!!!

 

1006:2年主席転生者

はえーすっごい

 

1007:名無しの>1天推し

一網打尽で草

 

1008:名無しの>1天推し

3人残ったか

 

1009:名無しの>1天推し

精霊術で守ったんかな?

 

1010:脳髄

派手になりそうだけど、職人ニキの屋敷大丈夫か?

 

1011:1年主席天才

向こうさんが屋敷に踏み入れた瞬間に空間ズラした結界入ったから平気

 

1012:名無しの>1天推し

さす天!

 

1013:名無しの>1天推し

さす天!

 

1014:自動人形職人

ありがとうございます! いやほんとマジでありがとうございます!!

 

 

 

 

 

 

 大精霊(ビノ・デ・パゴ)使いが昏睡ガスで気絶しなかったのは大精霊(ビノ・デ・パゴ)使いだから――――ではない。

 傭兵として、暗殺者としての訓練で培った対毒体質だからだ。

 効果の弱い毒を体に取り込み、少しづつ効果を強くして慣らしていく。そうして様々な毒に対する抗体を身に着けていくのだ。

 精霊術とは関係ない技術。

 精霊と寄り添い合うこの社会では軽視しがちだが、有用な、裏社会ではそこそこあるもの。

 暴力と殺意において、精霊だけに頼る必要はない。

 

 3人が3人とも同じような恰好をしていた。

 

 動きやすそうな、けれど艶消しが施された黒い革と布の鎧。

 顔も布とフードで目元以外ほとんど隠されている様は、やはり傭兵というよりも暗殺者に近い。

 というよりも、今回の任務が暗殺だから暗殺に適した格好をしているだけだ。

 必要があれば礼服だろうとドレスやスーツだろうと物乞いの恰好だってする。

 暴力を振るえるならなんでもいい―――そういうことだ。

 

 違いは武器。

 ≪精霊殺し≫は少し短い直剣を両手に一振りづつ。

 もう二人は槍と弓。

 ≪精霊殺し≫は女だからシルエットの違いはある。

 

 対して、待ち構えていた3人はまるで統一感がなかった。

 女と青年と少年だ。

 1人は上下一体になった緑の上着と黒い下着のようなインナー。胸がかなり大きい。大きな胸に巻き付いたベルトがあり、片手にはなにやら鉄の塊を握っていた。

 1人は見たこともない材質に細い管のようなものが全身に巻き付いた黒いフード付きのコート。顔を覆うマスクから零れる髪は脱色したように白い。手には何かの部品同士が組み合わさったような剣らしきもの。

 1人は東方の修行僧のような道着に片肩に短く赤いマントを羽織っている。 

 無手だった。

 

「――――」

 

 誰も何も言わなかった。

 ただ、≪精霊殺し≫を始め傭兵たちが武器を構え音もなく動き出した。

 待ち構えた中で、一番最初に動いたのは―――女だった。

 すっと軽く右足のつま先を上げる。

 

「――――≪万有の林檎(グラヴィティアップル)≫」

 

 軽い動きで落として。

 

「!?」

 

 3人の暗殺者が、地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 ≪万有の林檎(グラヴィティアップル)≫。

 それが新島巴の超能力の名前だ。

 重力操作。

 言ってしまえばシンプルだが、それはアース881における最高位という注釈が入る。

 全人類がそれぞれ固有のスキルを持つ世界において、それは揺らがない評価を受けている。

 重力による加重、逆に重量の軽減、自身を中心にした斥力や引力の発生による疑似念動力等々。

 重力とは万物に適用される力だ。

 そしてそれを、マルチバース最高の魔術師であるアルマ・スぺイシアが認めるほどには使いこなしている。

 

 新島巴が転生したのは軍部の名家だった。

 江戸時代より端を発し、その後アース・ゼロに等しい歴史の流れの中で現代に至るまで代々国を守ることを家業としてきた。

 父は自衛隊の高官であり、巴もまた当然のように父と同じ道に入った。

 

 アース・ゼロとの違いは、世界中各地に所謂ダンジョンがあったということ。

 それは山の中だったり、街の中だったり、海の中だったり。

 あらゆるところに現れる。

 その中では人類がただ時を重ねただけでは得られないような技術や素材、或いはダンジョンの外とは全く違う生態系――分かりやすくモンスターと呼ばれている――により、大きな恩寵を与えて来た。

 当然、同じくらい大きな危険も。

 超能力を持っていたとしても、簡単に死ぬ。

 アース・ゼロと等しい歴史、というけれど。

 似たような時代、似たような相手同士でも、その争いの発端はダンジョンだったことが多い。

 言うなればダンジョンとはアース・ゼロには存在しない、アース881固有の()()なのだ。

 

 その資源(ダンジョン)、それも発生したばかりの、危険度すら定まっていないものを調査するのが新島巴の仕事だった。

 

 自衛隊特別迷宮攻略部隊『B.R.E.A.K.』。

 Beater Resource Excavation Armied Keeper。

 こじ付けに近い、というかこじ付けの頭字語は巴の上司の趣味だとかなんとか。

 ふざけてるのかなと、入隊当時思ったのを覚えている。

 仕事の内容は全くふざけていなかったけれど。

 

 発生したばかりのということは完全に未知の迷宮だ。

 つまり、スキルの使い方も碌に覚えていない初心者でも進めるようなレベルなのか、熟練の冒険者が万全な装備を整えても簡単に死んでしまえるようなレベルなのか。

 それを確かめるということは、命の危機は計り知れない。

 

『新人か。新島殿の娘というが、七光りでないことを祈ろう』

 

 入った時の隊長は、入隊直後に死んだ。

 

『おいおい巴ぇ! 良い乳してんなぁ! 次で死ぬかもしれないから乳揉ませてくんね?』

 

 迷宮に入る度にセクハラをしてきた先輩は2年目に死んだ。

 

『巴のスキル凄いけど、使い方が雑だよ。もっと無駄なく、けれど幅広く使わないと』

 

 スキルの訓練に付き合ってくれていた先輩は巴が一人前と呼ばれる前に死んだ。

 

『新島先輩かっこいいですよほんと! 私のあこがれです!』

 

 初めてできた後輩は最初の任務で死んだ。

 

『巴さん、ずっと怖い人だと思ってんですけど。意外とそうでもなかったですね』

 

 入隊から4年経ってできた新人は自分に怯えていたけれど、やっと心を開いてくれたと思ったら次の任務では死んだ。

 

 死んで、死んで、死んだ。

 勿論、巴の入隊時から死ななかった人もいるが、それ以上に危険度の高い仕事だった。

 どうしたって必要な仕事だったのだ。

 誰かがやらなければならない。

 だったらやらねばならぬというのが父の、家の教えだった。

 

 けれどどうしたって心は摩耗していって、傷ついて、戦闘力と階級だけは上がっていって。

 

 もうそろそろ限界かな。

 次で死んじゃうかな、なんて。

 そんなことを思い出した頃。

 

 1人の男性と出会い、結ばれて、色々あって、恋人になって、色々あって、部隊を引退して、色々あって、結婚して、ごく普通に家族になり、娘を生んだ。

 

 辛いことはあったけど、今では理解ある旦那がいるのでハッピー! 

 それが新島巴の自分の人生に対しての感想である。

 

 そして今。

 

「―――!」

 

 ≪万有の林檎(グラヴィティアップル)≫の広範囲荷重により暗殺者を押しつぶしたと思った瞬間。

 

 白い光が、重力圏を切り裂いた。

 

 本来であればまともに立っていられないはずの荷重。

 ウィルや景でさえ、単なる身体の強化だけでは抜けられないレベルのそれは、しかしあっけなく消滅した。

 

 ≪精霊殺し≫。

 

 未だに一言も発しない、感情すら見せない、黒衣から唯一覗ける翡翠色の瞳にさえ感情はなかった。

 必要なものはないむき出しの殺意。

 触れれば肉を裂く、抜身の刃。

 変化は、彼女の背後。

 白いベールのようなものが背後にいる。

 純白の死神。

 その白光が重力を切り裂いた光景を見て、巴は修正テープで文字を消す――そんな日常を思い出した。

 

 修正の精霊、らしい。

 

 そういう観念的なものなのありなのか? と思ったけれどそういうのもありらしい。

 修正。

 即ち、あるべき姿に反す力。

 

『精霊とは本来、人間界にはいなくてもいい存在なのです。だから人間界と精霊界は別れている』

 

 元素の大精霊、アルカは言った。

 

『我々は我々の都合で人の世に訪れ、人と繋がっている。けれど、ある意味ではそれは本来の世界の在り方ではないのかもしれません。≪精霊殺し≫はそこを突く』

 

『世界に対する修正。それに関しては、君たちも気を付けたほうがいい』

 

 次元世界最高の魔術師、アルマ・スぺイシアも言った。

 

『≪精霊殺し≫による修正で、巴たちの能力が使えなくなるわけではないだろう。ただし、単発的な無効化はされることはあり得る。特に重力圏による荷重とかネオニウムを放出した斬撃とか銃弾とかね。あるはずのないものが、あるべき姿になる――というのなら、やはり結果は無効化となるだろう』

 

 え? じゃあなんで呼んだの?

 自分たちには意味を為さないんじゃないの? 

 とか、ツッコミかけて。

 にやりと笑う少女を見て、その言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。

 

『問題ないだろう? ――――だから、呼んだんだ』

 

 なんて。

 そんなことを言われたら、何も言えない。

 ウィルも、景も、巴も。

 ウィルに対しては言うまでもないけれど。

 性格ねじ曲がっているなと思う時もあるけれど。

 アルマという少女は、人のやる気にさせるのが上手い。

 

 いいやそもそも。

 

 推しに呼ばれて、推しと婚約したばかりの推しと一緒に戦えるなんて――――ハッピーが過ぎる!!

 

「ふっ! 今こそウィルトリ婚約の祝砲を……!」

 

「今ですか!?」

 

 隣のウィルに突っ込まれたが気にしない。

 両手で拳銃を握り、構える。

 銃口が狙う先は≪精霊殺し≫―――ではない。

 背後にいる≪弓使い≫。

 ≪精霊殺し≫も手練れではあるが、他の2人も劣らず強者であることは気配で分かる。

 後衛が面倒だと感じるのは巴自身の経験故に。

 ≪精霊殺し≫から狙ってもいいが、今回はチーム戦だ。

 だから、≪弓使い≫に向けて引き金を引いた。

 

「≪万有の林檎(グラヴィティアップル)≫――――圧縮(プレス)加速(アクセル)

 

 祝砲は、しかし大きな音は鳴らず―――刹那の後、≪弓使い≫の弓に着弾していた。

 その弾丸を誰も目で追えなかった。

 ≪精霊殺し≫も≪槍使い≫も景も、目が良いはずのウィルも。

 状況を観察していたアルマは認識していたが、それでも感心するように目を少し見開いた。

 

 別に特別なことはしていない。

 ただ、()()()()()()()()()()()()

 銃弾を斥力で弾き出し、銃口に展開した重力門で超圧縮。極小サイズになった銃弾は空気を()()()()()、超高速の弾丸となる。

 単なる荷重ではなく、能力の応用。

 クリスマスの時は銃を持っていなかった上にゴーティアの眷属に対しては使う必要がなかった巴の基本技能。

 

 それがこの場の誰も認識されずに≪弓使い≫に着弾した。

 超加速と弾丸自体が小さくなってしまったせいで握っていた指と弓の持ち手も貫通する。

 そしてそれでは終わらなかった。

 

「―――解放(リリース)

 

 呟きは短く。

 弾丸が弓を貫通した瞬間に。

 

 圧縮された重力が運動エネルギーと共に開放され、爆散した。

 今後はごうっという音がなる。

 それは空気が弾けた音であり、弓が爆散した音であり、≪弓使い≫がふっ飛ばされて背にしていた壁に叩きつけられた音であり、ついでに倒れていた他の傭兵たちもぶっ飛んだ音だった。

 

 一瞬、誰もが驚いて目を見張ったり、絶対セクハラしないようにしようと頬を引きつらせたり、素直に感心したりする中で。

 新島巴だけはにんまりと笑った。

 

「婚約おめでとうでありまーす!!!!」

 

 

 




新島巴
わりとしんどい時期があったけど理解ある彼君が私にも(ry
かなりのエンジョイ勢
おもしれー女
トリウィアと相性良さそうだな……って感じ

≪精霊殺し≫
異物の修正なので通常の精霊術に絶対的に有利であり、
異世界人もそれなりに有効

アルマ
それでも大丈夫だと判断したのさ


クロノ
あれ、納期……?


感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります!!
9評価600ありがとうございます!!
もうちょっとで感想が2000だそうですよ奥さん


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ウィル&アルマ――クリスマス・プレゼントーー

クリスマスということで番外編の途中ですが特別編です。
このssでは大事にしたい日ですね


 

「そういえばアルマ殿は誕生日いつなんだ?」

 

 12月25日。

 アクシオス王国建国祭当日。

 巨大な二つの褐色の長い乳がそんなことをアルマに聞いてきた。

 否、違う。

 違ってはいないけれど話掛けて来たのは褐色の巨大な長乳を持った御影だ。

 アルマの頭くらいなら嵌りそうな赤いブラジャーを外し乳が揺れている。

 目の前の服掛けにはいつか王城のパーティーに着ていったクロノから送られた露出過多なパーティードレスだ。

 これから建国祭のダンスパーティー。

 当然アルマたち生徒会は色々な仕事があるのだが、たまたま空き時間が空いていた二人は一緒に着替えていたのである。

 

「誕生日かぁ」

 

 アルマも服を脱ぎ、黒い下着姿になりながら掛けられた言葉を反芻する。

 でかいなぁ、と思う。

 身長的に目線の位置がほとんど御影の胸に当たるからだ。

 反対にアルマ自身の胸部はほとんど膨らみがないなだらかな平原だった。

 まぁ、彼女自身あまり気にしてはいないのだが。

 首に揺れる南京錠のチョーカーだけで、わりと満足してしまう。

 それでもでかいなぁはやっぱり思う。

 気になると言えば中近世時代相当の世界なのに下着のクオリティがやたらに高いことだがまぁそういうこともあるだろう。

 

「そうそう、誕生日。先月はウィルのお祝いで盛大にやっただろう?」

 

 彼女が婿殿ではなく、ウィルと名前を呼ぶようになりしばらく経ち違和感も消えていた。

 その彼女が言っているのは先月11月11日のウィルの誕生日のこと。

 いつもの面子―――つまりは生徒会6人に加えてアレスのことだが―――だけではなく、生徒教師、学年を問わず呼んでもいないのにいつの間にか沢山人が集まってちょっとした学園パーティーになったのだ。

 このあたりは約二年におけるウィルの人望の象徴だろう。

 

「気づいたら凄い人数になっていたしね」

 

「先輩殿の婚約祝いも兼ねてたしな。私も祝福を貰ったりしたし」

 

「嬉しいことじゃないか」

 

「ふふん、全くだ。毎年誕生日を派手に祝う、というのは王国で始まった文化らしいが良い物だ」

 

「あぁ。元々は数年おきとかだったっけ」

 

「各国の王族とかは毎年祝うが、平民なら5年とか成人の時とか、或いは一年の内の祭りで一斉に祝うとかが基本かな。と言っても、ちょっと豪華な食事を内々で食べる程度のものさ」

 

「君も?」

 

「そうだな。食って呑んで……いや、いつも呑んでいるのだからあんまり変わらないかもしれないなハハハ」

 

 胸を張って揺れると当然ぷるぷると胸が揺れる。

 暖房があるとはいえ、真冬にパンツ1枚で仁王立ちしているこの女はなんなのだろう。

 天津院御影か。

 だったら仕方ないか。

 一応今の話はメモしておくかなと心の隅に置いておく。

 

「まぁそれでだ。ウィルは11月、私は9月、先輩殿は3月、フォンは5月で去年から誕生会やったりプレゼントしたりしてきたが、恥ずかしながら年の瀬になってアルマ殿の誕生日を聞いてなかったと今更に気づいてな。いや、申し訳ない」

 

「いいよ別に」

 

「良くない。全く我ながら情けない話だ、とりあえず乳でも揉んどくか」

 

「……いいって」

 

 ちょっと興味はあったが断っておく。

 

「そうか……ならウィルの誕生日にウィルと私と先輩殿がどれだけ素晴らしく熱い夜を過ごしたとかは」

 

「それ、君が話したいだけだろ」

 

「まぁそうだ。フォンはわりと興味津々で聴いてくれた」

 

「あぁそう……僕はいいよ」

 

「なら、誕生日を教えてくれ」

 

 それまでの話は前置きに――というわけでもなかったのだろうが、自然に話が戻る。

 御影のこういうストレートなところは美点だ。

 他意がないと言う感じ。

 彼女はドレスと手に取りながら、いつもの様に余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「うーん」

 

 アルマも着替えを進めながら肩を竦めて答えた。

 

「覚えてない」

 

「それは、どういう意味で?」

 

「いや、普通に。忘れたかい? 千歳だよ僕。一々思い出せないというか、思い出すこともなかったし。誕生日って概念自体こっちに来てみんなのをお祝いして思い出したくらいだ」

 

「ふむ」

 

 アルマの言葉に御影は小さく頷いた。

 驚くわけでもなく、同情するわけでもなく、悲しむわけでもない。

 ドレスに着替えつつ―――といってもほとんど一枚の布と言っていいホルターネックドレスだが―――、その上に高そうな黒い毛皮のコートを羽織り、彼女は笑った。

 

「なるほど。そういうこともあるか」

 

「うん、そういうこともある」

 

 

 

 

 

 

 建国祭のパーティーは学園で行われるイベントしても大きなものだ。

 メインとなるのは当然ながらダンスだろう。

 各国の王族や貴族が集まるとしても、この場では思春期の少年少女。

 誰と行くかは一月前から水面下で熾烈な争いが始まっていた。

 もっとも、ウィルには関係のない話なのだが。

 基本的に男女一人づつだが、ウィル一人で生徒会の美少女を4人を独り占めだ。

 そのうち二人とは婚約しているし、一人は奴隷なのだからとんでもない話である。

 ダンスは学園から代表ペアが選ばれて生徒の前で披露するのが慣例であり、去年はウィルとトリウィアが選ばれて、ゴーティアの一件で流れてしまった。

 概ね毎年生徒会長が選ばれるのだが今回はカルメンだった。 

 どういう繋がりなのか1年の、この学園では珍しい平民出身の男子生徒を捕まえてきていたのだ。

 男子にしては少し背の低い彼と二メートル近い二人のダンスは微笑ましい―――というよりも呵呵大笑するカルメンに少年が精神的にも物理的にも振り回されているいう感じだった。

 

 ウィルも御影と、トリウィアと、フォンと、アルマとダンスを楽しみパーティーは進み、終わりかけ。

 

「アルマさん」

 

「ん」

 

 夜空の下、降り始める雪を一人見つめるアルマに声をかけた。

 所々に銀が入った黒プリンセスラインドレスの上にトレードマークになっている赤いコート。いつもより厚手に見えるのは多分、気のせいではない。

 今ウィルが来ているスーツとよく似た意匠。

 或いは彼のネクタイピンと彼女のチョーカーが対になっている。

 白い息を吐きつつ、彼女は控えめにほほ笑んだ。

 

「どうしたいんだい? こんなところで」

 

「アルマさんこそ。いつの間にかいなかったので探したんですよ」

 

「あぁ。悪いね。……どうにも、あの手のパーティーは得意じゃないからさ」

 

 嫌いではないけれど、得意ではないと彼女は苦笑する。

 ポケットに手を突っ込みながら肩を竦めるアルマにウィルも苦笑で返した。

 

「えぇ、知っています」

 

 別にアルマがいつもみんなの中心にいないというわけではない。

 むしろ生徒会としての仕事だったり、授業の教え合いだったりは中心にいる。

 去年までトリウィアが個人で行っていた勉強会をアルマがそのまま引き継いでいたりもする。

 最初は新入生で大丈夫かと思われていたようだが、トリウィアの紹介であることとウィルの恋人であること、そして何よりも彼女は教え方が上手だったからすぐに受け入れられている。

 トリウィアは難しいことを解るまで丁寧に教えてくれるが、アルマは難しいことを簡単な言葉にして教えるのが得意だ。

 どっちが良いかは相手に寄るが分かりやすいのには変わりない。

 

 けれどみんなで楽しむという時、彼女はいつも一歩引いている。

 みんなで作る輪の外側から。

 慈しむようにみんなを見ている。

 尊い宝石を愛でるような、元気な子供を見守る母親のような優しい目で。

 それこそ今日の様に気づいたら遠い所にいるのだ。

 内側に引っ張っていけば、年頃の少女みたいに照れながら来てくれるのだけれど。

 

 ウィルはアルマのそういう色々な表情を見せてくれるところも好きだった。

 

「さっき、御影から聞いたんですけど」

 

「ん。……あぁ、誕生日?」

 

「えぇ」

 

 彼は困ったように、いつも通りに小さく首を傾けた。

 

「……すみません」

 

「いいさ」

 

 たった五文字の言葉。

 けれど、そこに込められている想いがどれだけの重みを持つのかアルマには解っていた。

 長く息を吐く。

 白い靄が夜空に吸い込まれていった。

 

「なんか、トリウィアやフォンにも言われそうだけど。気にしないで欲しいな、僕自身、自分の誕生日なんて忘れてたし」

 

「――――はい、解りました」

 

 

 

 

 

「ん――」

 

 その時アルマは、なんてウィルを慰めようかと思っていた。

 気にしなくていいと言って、気にしない性格ではない。

 彼は、彼の中の判断の基準が明確に線引きされている。

 自分が良いと思うことは良いし、悪いと思うことは悪い。

 そして今回の件はどれだけアルマが気にしなくてもウィルは気にすると思った。

 よく考えればアルマ自身も無意識に自分の誕生日に関する話題を避けていた気がするし仕方ないとか、そういうことを言おうと思っていた。

 けれど彼は白い息を一つ吐いて、

 

「アルマさん、今からちょっと勝手なことを言うんですけれど」

 

「……今更君の我がままで驚く僕じゃないよ。それで?」

 

「ありがとうございます……それじゃあ、まずはこれをどうぞ」

 

 スーツの内側から取り出したのはラッピングされた細長い小さな箱。

 

「クリスマスプレゼントです」

 

「へぇ……驚いた。この世界、クリスマスにイベントはあってもプレゼントを贈る習慣はなかったよね」

 

「えぇ、まぁ」

 

 建国祭を決めたのは初代国王だったけれど、プレゼントの習慣はない。

 おそらく、習慣を作りたかったけれど作れなかったんだろうなとアルマは予想している。

 国同士の関係や経済、治安が落ち着いた今ならばともかく、建国直後は民全体にそこまでの余裕はなかったはずだ。

 数年かけて、それこそこれから出来上がるのではないかと思っている。

 

「ふむ、困ったな。僕は用意してなかったんだが……開けても?」

 

「勿論」

 

「ありがとう」

 

 箱を空ける。

 重くはなかった。

 中にあったのは、

 

「これは……万年筆かい?」

 

 艶の無い黒地に二つの銀の糸が螺旋を描く様な装飾がされた万年筆。

 手に取れば少し小さくアルマの手にも握りやすい。

 

「えぇ。アルマさん、いつも色々なことをメモしているので。……元々、アルマさんには貰ってばかりですから。何かちゃんとしたものを送りたかったんです」

 

「全く、そんな気遣いはいいのに。いや、ありがとう。これは嬉しいな、使わせてもらうよ」

 

 胸の前、小さな両手で万年筆を握り、アルマはにっこりとほほ笑んだ。

 花がほころぶような、年頃の少女みたいに。

 ウィルの頬がうっすらと赤くなったけれど、自分の頬も赤くなっているだろう。

 照れているのではなく、嬉しいからだ。

 ウィルはきっと照れているのだけれど。

 

「えぇと……こほん。それからもう一つ、さっきの話なんですけど」

 

「ん」

 

「アルマさんは誕生日がないということなら……今日が誕生日、なんてどうですか?

 

「…………ん?」

 

「去年、アルマさんが僕に会いに来てくれました」

 

 ウィルは真っすぐにアルマを見つめていた。

 意志を秘めた黒い瞳。

 

「僕に希望をくれました」

 

「んんっ」

 

「あぁ、ごめんなさい。揶揄ってるわけではなくて」

 

「解ってるよ。……それで、今日が僕の誕生日?」

 

「はい」

 

 首を傾けて彼は笑う。

 

「生まれた日を覚えていなくても、アルマさんがこの世界に来てくれた日で、僕とアルマさんが初めて出会った日です。だったら誕生日にするならぴったりじゃありませんか?」

 

「………………」

 

「こっちの世界……というか、実家にいた時はあんまり誕生日とか意識してなかったですけど、学園に来て実際に祝ってもらって嬉しかったですから。だからこれから、アルマさんと生きていく上で、何度でも、お祝いしたいなって、思うんです。今更って感じですけど―――わっ」

 

 ぽすんと、小さな音がした。

 それはウィルの胸にアルマが頭を乗せた音だった。

 

「……アルマさん?」

 

「君は……」

 

「は、はい」

 

「…………全く、ずるいね」

 

 顔を上げた時、アルマは―――泣いていた。

 

「え、えぇ!? す、すみません! ふ、不快にさせてしまいましたか!? そんなに嫌だったなんて……」

 

「馬鹿だなぁ、嫌なわけないだろ。これは……ふふっ、嬉し泣きってやつだよ」

 

 ぽろぽろと涙をこぼしながら彼女は笑っている。

 

「………………えぇと」

 

「ん?」

 

「いえ、その。アルマさんが泣いてるところ、初めて見ました」

 

 そのアルマはウィルの知らないアルマだった。

 掲示板で尊大に振る舞う彼女でもない。

 ただの少女のようにウィルと生きる彼女でもない。

 御影の勢いに押されている彼女でもない。

 トリウィアに魔法を教えている彼女でもない。

 フォンの級友として授業を楽しんでいる彼女でもない。

 

 きっとそれは、いつか、穴倉で。

 なんでもできるかもしれないけれど、なんでもはできない少年となんでも知っているけれど、なんでもできるとは限らない少女が。

 二人なら何でもできると笑っていた時のアルマだ。

 

 ウィルでさえめったに見れない―――アルマ・スぺイシアの一番深い所。

 

「…………確かにね。そういえば、びっくりだ」

 

 最後に泣いたのは――――いつだろう。

 それを彼女は覚えている。

 けれど、思い出したくない。

 ()()()()()()()()()()()()()を彼に知られたくなんてない。

 

「お誕生日、おめでとうございます。生まれてきてくれて……僕と出会ってくれて、ありがとうございました、アルマさん」

 

 でもきっと。

 その時に泣いた少女は今、救われたのだろう。

 

「あぁ……うん。ありがとう、ウィル」

 

 胸いっぱいに気持ちが溢れて月並みの言葉しか言えなかった。

 固く掛けられた心の鍵が開いているように。

 ねぇ、ウィル。

 君はどれだけ僕が喜んでいるのか解らないだろう。

 解らなくていい。

 解る必要はない。

 ずっと知らないでいて欲しい。

 

 けれど雪降る夜の下、少女がありったけの優しさと愛しさを込めた口づけをした意味を少年は知っていたのだ。

 

 

 




ウィル
生まれてきてくれて、ありがとうございます
万年筆は凄い悩んで周りにこっそり相談して一生懸命考えたもの。
一緒に生きていく、彼女がこの世界で生きる証を記すもの

アルマ
最後に泣いたのは1000年前。
その時とは違う、泣き笑い
どう違ったかは、GRADE2の後とかに

御影
おっぱああああああああい!!!!


というわけでクリスマス特別編でしたがここで私からのクリスマスプレゼントをば。


【挿絵表示】


はい!!
雪椿ヒナ先生にskeb書いてもらいました!!
最高……素敵……可愛いしかっこよすぎる……
魔法もかっこいし、逆の手の指も素敵。
ふとももベルトのちょっとしたぷにっと感も最高……
今話とはちょっと雰囲気違うのはご愛敬
ポイントはGRADE2仕様とでもいうべき南京錠のチョーカーとキラキラハイライトの入った赤い瞳。
最高ですねぇ!!!
メリークリスマス!!
このあたりTwitterで先行で紹介したり、更新報告してるので今更ですがよろしければ@ryunosuke121302でご確認ください。


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チェンジ・アンチェンジ

 

 よく分らない攻撃で仲間が1人戦闘不能になり、よく分らないことを叫んだ女に対して残った二人の判断は早かった。

 

「―――」

 

 ≪槍使い≫はその槍の柄を地面に叩きつけ、≪精霊殺し≫は前に出たのだ。

 言葉はやはり無かった。

 彼らは暴力の心酔者だ。

 好き勝手戦うことを願い、そのためにあらゆる訓練を受けている。

 例えば今回のような暗殺の場合は、何があっても言葉を漏らさないように暗示まで掛けている。

 そしてそれは味方が倒れても、敵が未知の相手、未知の攻撃手段、意味不明なことを言っていたとしても同じだ。

 

「―――ッ」

 

 ≪槍使い≫から零れる呼気。

 瞬間、ウィルたちと≪精霊殺し≫の間に何本も水晶の柱が視界を塞ぐように突き出した。

 攻撃の為ではない。

 

「―――」

 

 ≪精霊殺し≫が飛びあがるための足場にするものだった。

 つるつるとした垂直壁面を当然のように何度も跳躍し、一気に距離を詰め、

 

「スルーとは冷たいなァ!」

 

「!」

 

 目前、フレームウィングを広げた景が出現する。

 ガスマスクやガントレット、全身のチューブはこの世界の技術はまず存在しないもの。明らかに自然光ではない蛍光色の翼。

 怪人、とでも呼ぶべき異形。

 手に握っているのはネオンブルーの超低温のブレードだ。

 ≪精霊殺し≫はほんの一瞬、その異形に目を細めた。

 景はマスクの裏で歯をむき出しにして笑っていた。

 同時に刃が振るわれる。

 

「うおっ!」

 

「―――!」

 

 驚きは二つ分。

 景は自らの体に流れ、武器に用いるネオニウムが一部機能停止し体勢を大きく崩したから。

 ≪精霊殺し≫は自らの修正の精霊術を使ったにも関わらず目の前の怪人が落ちなかったから。

 片や一つの世界のエネルギーの根幹を担うもの。

 片や一つの世界の魔法を無効化するもの。

 異なる世界法則がぶつかり合い、結果ネオニウムの修正は本来の半分程度の効果だった。

 

「っ……おっ」

 

 ずるりと景の体が落ちる。

 フレームウィングの光が点滅し、飛行を維持できなくなったのだ。

 ≪精霊殺し≫は態々それに追撃しようと思わなかった。

 水晶の柱を足場にし、落ちかける景は無視。

 暴力を振るうことは望むけれど仕事はする。

 ≪信念無き指≫はそういう者達だ。

 だから真っすぐにウィルたちの背後の屋敷にいるであろうクロノへと向かおうとして、

 

「だから」

 

 既視感を≪精霊殺し≫は感じた。

 

「スルーすんなって!」

 

「!?」

 

 斬撃。

 思わず双剣で受け止める。蛍光色はなかったが、衝撃はあった。

 弾き飛ばされながらも彼女は見る。

 異形の怪人の足元に黄色と緑のリングが浮かんでいることを。

 そして地面、黒衣の少年が手を掲げていたことを。

 

「助かるぜェウィル!」

 

「いえ!」

 

 ウィルの右手の人差し指には光を放つ指輪が。

 複雑な文様のような細工がされたそれはアルマから貰ったものだ。

 アース111の魔法理論と≪全ての鍵≫を一時的に、劣化はあるものの再現できる。

 クロノによる剣の打ち直しが≪精霊殺し≫の襲撃に間に合わなかったので苦肉の策でもある。

 故に単純な戦闘力に関して今のウィルは期待できない。

 けれど、できることがないわけではないのだ。

 

「≪外典系統(アポクリファ)≫―――――」

 

 拳を握る。

 指輪が輝き、手の甲に紋章が。

 

「―――≪我ら、七つの音階を調べ合おう(アンドレイア・シンフォニア)≫!」

 

 彼の血統が、世界を超えても力になる。

 

「ハッ! こいつはアドだゼ!」

 

「うおー! 次やる時はウィルとトリウィアさんとしてるところに混ぜて欲しいであります!」

 

 景とさらっと推しの間に挟まろうとする巴とウィルの思考が直結する。

 意識共有。

 トリウィアと行った時のような能力の共有までは関係値と術式劣化の都合起こりえない。

 それでも思考をリアルタイムで繋げるだけでも十分だ。

 

「サポートするので、よろしくお願いします!」

 

「勿論!」

 

「了解であります!」

 

 戦闘が本格的に開始する。

 異形の翼を広げる景。

 重力とそれによる弾丸を放つ巴。

 二人を随所でサポートするウィル。

 水晶を時に武器に、時に防御とする≪槍使い≫

 そして、≪精霊殺し≫だ。

 

 戦いは、やはりというべきか≪精霊殺し≫を中心に展開する。

 この場で誰が一番強いのかと問われればそれは間違いなく巴なのだろう。

 彼女の重力操作は極めて強力かつ応用性が高い。

 そもそも本来であれば、広範囲に人間が圧壊するほどの超過重を掛ければいいだけの話。かつてのクリスマス、巨人化したゴーティアの動きを止めることさえした彼女はそれができた。

 それを選ばなかったのは彼女なりの理由がある。

 或いは景が致死性ではなく麻痺毒の罠を張った理由も同じだ。

 

 ウィル・ストレイトの前で、誰かを殺したり、死ぬところも見せたくなかったのだ。

 

 誰かの命を奪うということ。

 きっとそれはある意味この世で最も理不尽なことなのだ。

 どんな理由があったとしても、それは揺らがない。

 どれだけの虚飾で飾ろうともその中心はブレてはいけないのだ。

 景も巴も、そのあたりの感覚は麻痺してしまっている。

 二人とも誰かの命を奪って動く心はもう持っていなかった。

 誰かを殺してその人生を奪うということ。

 誰かを殺してその人の家族や友人からその人を奪うということ。

 新島巴も景・フォード・黒鉄もそれができる。

 できてしまう。

 そういう人生を送ってきた。

 だからそれはある意味では押し付けにも等しい願いだったのかもしれない。

 命の奪い合いなんて、彼には経験してほしくない―――そんな部外者故の身勝手な願い。

 アース111のことを考えれば難しいだろうし、十分に起こりうるだろうけど。

 きっとそれは、今ではない。

 そんな祈りが二人から殺意を損なわせていた。 

 

 そうでなくても≪精霊殺し≫の修正は強烈だった。

 

 景のネオニウムも巴の重力操作も完全無効化とは言わないまでも半減は確実に行う。

 ≪槍使い≫もそれを解っているので割り切って彼女のサポートに徹していた。

 ≪精霊殺し≫も、クロノを殺す為には景たちを斃さないとダメだと判断したのだろう。

 修正の精霊術をばら撒き、ネオニウムと重力操作の機能不全を引き起こしながら決定打にならなかったのはウィルによる意識共有により互いをフォローしていたから。

 

 そして拮抗が生まれた。

 時間にすれはほんの数分。

 その数分は何時間も続くのではと思うような、奇妙なくらいに釣り合った均衡だった。

 

 しかし、釣り合った均衡というものは僅かな干渉で崩れる。

 

「――――!」

 

 兆しは、突然館の方へ振り向いたウィルだった。

 無防備とも言える行動に≪精霊殺し≫たちがすぐ襲おうとしたが当然それは巴と景によって阻まれる。

 数秒、彼は中空を見つめ。

 その右手を掲げた。

 そして、()()()()()

 

 

 

 

 

 棒状の物体だった。

 屋敷の中から窓をぶち破って高速でウィルの下へ飛来する。

 まるで主の下へ飛びつく様な飼い犬のように。

 そうあることが自然と言わんばかりにウィルの掌に収まる直前で勝手に減速、吸い付くようにウィルの手に収まった。

 

「お待たせしましたぁあああああ―――!!」

 

 同時に館の中から聞こえて来た声。

 

「ありがとうございます!」

 

 礼を叫び返し、前を向く。

 どうするべきか、知らなかった。

 だが、それを握った瞬間どうするべきか分かった。

 握ったそれが、教えてくれたから。

 極彩色の棒に見えた。

 柄は何かの革が巻かれ、握り心地が非常に良いが鍔から先は剣には見えない。

 だがそれは剣だった。

 ウィルの父が握り、二年ほど前に託された剣だった。

 握った瞬間それを理解した。

 銘はなかった。

 だが今はあった。

 やはり握った瞬間、剣が教えてくれたから。

 だから、名前を呼んだ。

 契約のように。

 友の名を呼ぶように。

 枷に掛けられた鍵を開ける様に。

 意志を込めて、真っすぐに。

 

「―――――≪虹の橋(ビフレスト)≫」

 

 ()()()()()―――高く澄んだ音。

 虹色の光が溢れ出し、肩幕をはためかせ、夜を照らす。

 光が落ち着いた時、それはあるべき形を手に入れていた。

 主が、名前を呼んでくれたから。

 それは直刀だった。

 鍔は七芒星を模し、刀身は真っすぐに伸びる黒だが、銀混じりの刃紋が虹色に揺らめいてオーロラの様にも見える。

 何よりも特徴的なのは刃の腹の両面に刻まれた銀色の流線の紋様だった。

 その紋様もまた刃紋と同じように虹色に揺らめいている。

 黒の中の銀。そして虹色。

 それを見てアルマのドレスを思い出した。

 

「―――」

 

 軽く振れば、()()()と剣らしからぬ音なる。

 それは精霊の笑い声だと直感的に彼は理解した。

 アース412、精霊界に住む多種多様な全ての精霊がそこには集っている。

 握った柄から感じたことのない力が流れてくるのを感じた。

 彼は逆らわなかった。

 景と巴が自分の背後まで下がったのを確認し。

 両手でしっかりと握りしめ、振りかぶる。

 

「ッ―――!」

 

 ≪精霊使い≫も≪槍使い≫も、もはや本能的な行動だった。

 修正と水晶。二つの精霊術による防御を全力で行う。

 暴力に心酔する彼女たちだったからこそ。

 その刀に秘められているものを感じ取っていた。

 それでもウィルはただ、思い切り刀を振り下ろす。

 口から勝手に言葉がこぼれた。

 

「―――――≪アルコ・イリス≫」

 

 斬撃。

 極光。

 奔流。

 振り下ろした刃の切っ先の軌跡、それが線を描いたと思えば虹色が指向性を持った閃光となる。

 ウィルが刀を振り被った瞬間、アルマが強化していなければ結界ごと吹き飛ばしていただろう。

 虹色は斬撃となり、斬撃は閃光となり―――≪精霊殺し≫の修正もまた消し飛ばした。

 ≪槍使い≫の水晶も言うまでもない。

 単純な理屈である。

 修正という精霊術に対して絶大な優位性を誇る精霊だとしても。

 その世界全ての精霊が宿った虹に対して修正が追い付かなかったのだ。

 究極の質と究極の量。

 今回は究極の量に軍配が上がった。

 或いは理不尽な光景。

 転生者が持ちうる才能。

 それゆえに―――チートと呼ばれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

「…………虹の橋、ね。北欧神話か」

 

 館の窓際に腰かけてウィルが全てを薙ぎ払うのを見ていたアルマは軽く顎を上げながら呟いた。

 

「いや、()()()()()?」

 

「えぇと……おとぎ、話なんですが……ふぅ……よかった……」

 

「ご主人様、無理に立たないように」

 

「ありがとう……ございます」

 

「お疲れ様」

 

 クロノは疲労困憊でアルカに支えられてなんとか立っているという状態だった。

 三日前からほぼ不眠不休で刀の研磨を行い、今朝襲撃を巴と景が予感してからはさらにペースを上げてそれでも間に合わず、戦いの中でやっと完成させたのだ。

 彼は息を整えつつ、

 

「こっちではわりと有名な話ですね。あるきっかけで人間と契約が解除された精霊が精霊界から元契約者を見守ってるという。きっかけに関しては色々バリエーションがあるんですけど……あれ、もしかしてアースゼロにもありました?」

 

「あるよ。飼い主とペットの詩だけどね」

 

「……」

 

 なんとも微妙な顔をしていた。

 アルカはむしろ納得していた顔をしていたが。

 

「さてと、あっちに行こうか」

 

 窓から直接外に降りたアルマはついでのようにパチンと指を鳴らす。

 

「おっ? おぉ……なんか元気が湧いてきました」

 

「とりあえず三日前の肉体に時間を戻しただけさ」

 

「だけ……?」

 

「時間の大精霊でもそんな簡単にはできませんよ、アルマ様」

 

「僕だからね」

 

 肩を竦めながらウィルたちの下に向かう。 

 行けば巴と景が≪精霊殺し≫たちを縄で縛っている。

 あの極虹に飲み込まれてちゃんと生きているのは、≪ビフレスト≫に宿る精霊がウィルの意思を汲んで殺さなかったということだろう。

 

「や、お疲れ」

 

「あ、はい! クロノさん、これ凄いですね!」

 

「へへ……」

 

「ちょっと凄すぎますね!」

 

「はい……」

 

「ほんとだゼ、後ろから見てたけどめっちゃびびっタ」

 

「全くでありますな」

 

「初使用で完全に箍が外れてたね。非殺傷にはなってたみたいだけど」

 

「精霊さん? ちょっとどういう意思なのか分かんないですけど、なんか凄いテンション高いのは伝わってきます。具体的に言うと知らない知識を前にしたトリィみたいな」

 

「それは……やばいね。あんな威力になるわけだ」

 

「おほ~」

 

「落ち着けヨ姉さん。縛りが緩んで……ないけド。なんで気持ち悪い声出しながらそんな手際よく拘束できンの?」

 

「できないでありますか?」

 

「できネーよ」

 

 やれやれと首を振りながらも二人の手は淀みなかった。

 全員まとめて縛り上げ、一か所に集める。

 

「クロノ、こいつらどーするんであります?」

 

「憲兵ですかねぇ。あっちこっちで指名手配されてますし」

 

「ふぅん」

 

「にしても、随分テコらずらてくれたなァ。こいつ、ちょっと顔くらい拝んで――――うっげェ」

 

「どうしたでありますか、とんでもない不細工でありました?」

 

 これ以上ないくらい顔を歪めた景に視線が集まる。

 彼が見ていたのは顔が露わになった≪精霊殺し≫だった。

 フードの下から零れたのは簡単にまとめた濡れ羽色の長い黒髪。

 顔立ちは二十代半ば頃、鋭利な顔立ちの美女だ。

 巴のいうとんでもない不細工ではない。

 皆が首を傾げる中、アルマは少し笑っていた。

 

「アー……ほら、ウィル、クロノ。俺のアースの≪ネオン・キラー≫の話したよナ」

 

「はい」

 

「はい」

 

「………………同じ顔シてんだけど」

 

「えぇ!?」

 

「えぇ!?」

 

「わはは、同じような反応で声ないとどっちがどっちか分らんでありますな―――それで? どなた?」

 

「……………………複雑ナ関係」

 

「はーん、()()()()でありますな」

 

「ご主人様、こうなってはいけませんよ」

 

「ウィルは……まぁもう遅いか。顔を見て呻く様なことにならないだろしね。彼みたいに」

 

「うぉぉぉ絶妙に評価ガ……! …………どーゆアレだヨ」

 

「なにって、平行同位体(ドッペルゲンガー)だろ。転生者じゃなかったらわりといるよ別のアースの同じ魂、別の人生の人間。アースの成り立ちが遠いと生きる時代とかもズレるから遭遇するのはそこそこ珍しいけど」

 

「……」

 

「それでも会うってことは()()()()縁があるんだろうね?」

 

「………………」

 

 微妙な顔がさらに深まる。

 事情を知ってか知らずかアルマは苦笑していたし、巴はよく分らないけどとりあえず笑っておいた。

 ウィルはなんとも言えない感じ。

 他人事ではないかもしれない。

 誰も何も言わなさそうだったのでクロノは息を吐き、

 

「まぁ、終わらせるきっかけってことじゃないですか、景さん?」

 

「……」

 

「或いは、始め直しても」

 

「……はァ」

 

 彼の言葉に景は息を吐き、頭をくしゃくしゃと掻いた。

 

「そんなもンか?」

 

「えぇ。そう思いますよ」

 

 モノクル越しにウィルとアルマを見る。

 当然のように隣に、寄り添い合う様に立つ二人。

 或いは彼が握る虹の刀。

 

 隣に控えるアルカを見る。

 ずっと自分に寄り添ってくれる相手。

 魂まで溶け合った自らの半身。

 

 巴を見る。

 彼女は面白そうに見ているけれど、その左手の薬指には指輪が嵌っていた。

 質素だが、ぴかぴかに光る指輪。

 彼女の過去は知らないけれど、あれだけの技術を持つ軍人が家庭を持つというのはつまりそういうことだ。

 

「変わることも変わらないことも大事だと思います。それが自分で選んだことならば」

 

 

 




≪極虹鍵ビフレスト≫
刀の形をした鍵。
北欧神話の虹の橋、或いはアース412のおとぎ話から。アースゼロではペットロスの詩としてある。
黒い刀身に銀の紋様と虹のグラデーション。
黒と銀はアルマのドレスからという細かい拘り。
虹は精霊が溶け合った証。
どういう機能があって、どう使うかはそのうち

天鎖斬月のようなエクスカリバー。

ウィル
ニュー武器ゲット!

アルマ
まぁ大丈夫でしょ


エンジョイ勢

クロノ
推しが自作武器まで使ってくれてうっはうは


助っ人で参戦したと思ったらなんか敵が複雑な関係の相手のドッペルゲンガーだった。
何を言ってるかわからねーが(ry

掲示板勢どうしてもちょっとだけお互いの人生に影響与えられたらなーという感じ。
≪ネオン・キラー≫さんはそのうち景のパートであるかもです。


次回からはやっとフォン編です。
ちょっとゆっくりの更新になるかも。

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モーニングワーク

あけましておめでとうございます

フォン編の開始です


 

 ――――太陽の眩さに思わずフォンは目を細めた。

 

「――――っは」

 

 吐いた息は白く、青い空は澄んでいる。

 広げた翼が冷たく薄い空気を掴み、体を押し出していく。

 遥か眼下には王都アクシオスが広がっていた。

 

 王都は十二角形の城壁に囲まれた街だ。

 

 城壁都市というのは人種の街では珍しくもない、というよりもある程度の大きな街ではあって当然だという。

 王国、帝国、聖国ではこれが基本だと学園の授業で習った。

 獰猛な獣、危険な魔獣、天敵たる魔族、或いは人間同士から人という群れを守るための防壁。

 内と外の境界線。

 十二という数には少し違和感があったが、なんでも王国ができるごとに纏めた国やら大きな領土やらを合わせた数だとか、時間と揃えたとか色々理由があるとか。

 これも授業で教えてもらったこと。

 

「ほっ」

 

 翼を広げ、くるりと体を回して加速する。

 毎朝王都の空を飛ぶのはフォンの日課だった。

 朝起きて朝食の前に街をぐるりと。

 普通に歩いたり走ったりすれば一日どころではない時間がかかるがフォンならばその気になれば文字通り一瞬だ。

 尤も全力で飛ぶには()()()()()()()()のだが。

 だからこれはある意味人種のジョギングのようなものだ。

 

「おっ、やっほー!」

 

「おー、フォーン!」

 

 途中、彼女の下あたりで街の外へ向かっていく鳥人族とすれ違う。

 軽い挨拶だけを交わして去って行く背中の大きなカバンは郵便物か何かだろう。

 王都に来て知ったことだが、この街にも数は少ないが鳥人族は住んでいて、主に伝達や郵便物の仕事をしている。

 どんな種族よりも早く移動し、地形条件を無視する鳥人族の有用さは半年前の聖国の一件で証明した。

 もっともアレ自体は鳥人族でもよっぽどなのだが。

 

 そういう風に人種の文化に慣れた同族がいることは正直最初は意外だった。

 人のことを言えないけれど。

 冬になり当然のように長袖の上着やズボンを着るようになってもう1年。

 かつて鳥人族の里にいた頃からは考えられない。

 変わったなぁと思う。

 空を飛ぶことを愛しているのは変わらないけれど。

 

 いつの間にか年は明けていた。 

 人の都に来て一年を超えて、半年ほど。

 新年の祭りを終えたばかりだ。

 冬休みの始まりと同時の建国祭から一週間くらいずっとお祭り騒ぎ。

 ウィルを中心にみんなでダンスをしたり美味しいごはんを食べたり。

 雪遊びをしてみたらちょっとした雪合戦大会になり、三年対一二年連合で学園全部を使った言葉通りの雪合戦になった。

 結局それはどこで調達したのか魔法無しの雪玉ガトリングとかいうのを持ち込んだトリウィアとそれのサポートをする――無理やり付き合わされていたっぽい――アルマとでまとめで無双していた。

 あれはちょっとずるい。

 最初に突っ込んでいったカルメンが一瞬で雪に埋もれたのはちょっとした恐怖だった。

 年明けはみんなでお餅とかいう変わったものを食べた。

 皇国ではポピュラーらしく御影が主導になってみんな餅つきもした。

 ウィルやアルマが妙に喜んでいたのが印象的だった。

 あの二人は結構皇国の文化が好きなようである。

 

『――――フォン、まだ空飛んでるのか』

 

「おっ、アルマ?」

 

 突然、頭の中に声が響いた。

 アルマの魔法による念話だ。

 たまに彼女はこうして語り掛けてくる。

 空を掴み、中空にホバリング。

 

「どーしたの?」

 

『どうしたのじゃないよ。朝の予定忘れたかい?』

 

「え? えーと……朝って…………あっ」

 

『あっ、じゃないよまったく。君が昨日宿題手伝ってくれって言うから手伝ったのに調子悪そうだったからすぐに寝て、朝起きたらなんて言うから部屋に朝食持ち込んで準備してたのに全く来ないじゃないか。冬休みは来週まであるけど僕と君は宿題以外にも生徒会の仕事もあるんだから』

 

「うっわ! ごめん、すぐ戻る!」

 

『そうしたまえ。お茶が冷めるよ』

 

「ありがと!」

 

 背の二枚翼が広がり、閉じるとともに落下した。

 叩きつける風は無意識化で発動する魔法によって緩和され心地よさを齎すが、今はそんな暇はなかった。

 どんどんと眼下の景色は流れて行き、羽を広げる度に加速し真っすぐに学園に向かった。

 いつの間にか学園の反対側にいたので真っすぐに、しかし王城だけは避けて。

 早朝だが街には既に沢山の人が動き出し始めている。

 いくつかの通りで朝市が始まり、街に血が通い出しているのだ。

 移動式のテントを張って遊牧生活を送る鳥人族の里ではまず見られない光景。

 それを見るのもフォンは好きだった。

 だが今はそんな余裕はない。

 

 すぐにやたら広い上に闘技場や校舎が沢山ある学園の上空に辿りつき、寮の自室の窓に飛び込む。

 翼は光を放てばすぐに消えた。

 

「えぇと要るもの……教科書とノートに筆記用具っ。服は、このままでいいかっ」

 

 フォンの部屋は特待生用の一人部屋だった。

 仮にも今年の1年次席だ。

 1人部屋にしては少し広めの寝室、備え付けのシャワーとトイレ。これが成績優秀者用の部屋の特権。普通は二人一部屋でトイレは共用、風呂も同じく共用の大浴場がある。大浴場の方はフォンも良く使うけれど。

 大体御影の乳に挟まれるのが最近は面倒くさい。

 ベッドに勉強机、いくつかの収納棚やクローゼット。このあたりは備え付けであり、ありがたく使わせてもらっている。

 

 個人的に改造する人もいるらしく、御影なんかは大半のものを撤去して畳を敷いていたので驚いた。体のサイズが大きいカルメンは家具一式特注だったし、トリウィアは態々帝国産の高級家具に取り換えたとか何とか言いつつ、ほとんど使っていないようだ。

 

 フォンの場合、床にものが散らばっていることとベッドの隅に抜けた羽根を貯める籠がある以外あまり特別なことはない。

 最近抜け毛ならぬ抜け羽根が多いのはちょっとした悩み。

 

「よしっと……!」

 

 冬休みの寮の中なので制服の着用義務はない。

 運動用の黒いジャージのまま部屋を飛び出した。

 そしてすぐに隣の部屋に。

 アルマ・スぺイシアとはお隣さんなのだ。

 

「ごめーん、アルマ!」

 

「ノックくらいしなよ」

 

 出迎えは苦笑気味のお小言だった。

 フォンと同じ造りの部屋。

 違いはしっかりと整頓されているところと壁際には本棚が並び、びっしりと分厚そうな本で埋められていること、部屋の真ん中に大きめの丸机があること。

 机の上には教科書と紅茶のポットとカップ、加えて籠に入ったサンドイッチ。

 アルマは丸机の奥に座り、細い足を組んでいる。

 人形みたいな容姿の彼女がやると妙に絵になった。

 窓から差し込む朝日のせいだろうか。

 紅茶を手にした彼女は肩を竦め、

 

「おはよう、フォン」

 

「へへへへ……おはよう、アルマ」

 

 頭を掻きつつ、フォンは居心地が悪そうに笑った。

 実際、あんまり良いとは言えなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず宿題ちゃんとやりなよ。数学と歴史、苦手だからってまだ終わってないだろう? 基礎魔法もちゃんとやること。君は系統限られてるからって言って、学科知識は必要なんだから」

 

「はい……」

 

「亜人向け科目はあんまり僕が手伝えないわけだけど、そっちもちゃんとやってたよね。後は……家庭科の実習レポートもあったな。あっちは終わってる? まだ? ならまぁそれ御影に頼んだほうがいいかな。古代語は? 幸い今の範囲は亜人連合の古語だし君にはなじみ深いんじゃないのかい?」

 

「まぁ……って言っても古代ドワーフ語とか聞いたことないし……」

 

「そりゃ古代語なんだからそうだろ。魔導生物学は? あれなら君は嫌いじゃないだろ。それこそ君の故郷には色々いたんじゃないの」

 

「あ、うん! それならもう書いた!」

 

「じゃあとりあえず数学からやろうか」

 

「うん……」

 

 フォンに対するアルマは、わりと手厳しいことが多い――というと、少し語弊があるかもしれない。

 前提としてフォンは座学が苦手だ。

 鳥人族からすれば当たり前のことで机に向かってペンを動かすというのがそもそも奇跡に近い。

 それでも彼女は去年から努力をし、周りに教えてもらってなんとか座学の成績をキープしている。

 大体上の中くらい。

 これは奇跡の二乗分だとフォンは豪語している。

 苦手な数学の問題を解きつつ、そんなことを漏らしてみれば、

 

「まぁ確かに頑張ってはいるね」

 

 軽く顎を上げながら彼女は同意してくれた。

 恐ろしいことにアルマは宿題を終えたようで、フォンがつまった時にアドバイスをしてくれるだけ。

 

「実際数人だけいる鳥人族の1年生の座学は成績落第ギリギリで、実技でなんとかって感じらしいし、そう思えば君はよくやっているよ」

 

「へへへ……そう?」

 

「うん、それは認めよう」

 

「わぁい」

 

「でも、課題終わり切らなかったら元も子もないね」

 

「はい……」

 

 ぐさりと、彼女の正論が突き刺さる。

 がっくりと肩を落としたフォンを眺めながら、アルマは形の良い唇を少しだけ曲げた。

 

「しんどいならもう少し優しくしようか?」

 

「…………いや、しんどくないと嘘になるけど! 頑張らないわけにはいかないよっ! ()()()()()()()()!」

 

「そうかい」

 

 くすりと、彼女は笑った。

 フォンも問題に向き直る。

 

 勉強に関して、厳しくしてほしいとアルマに頼んだのは他ならぬフォンだった。

 自分が勉強が苦手なことを、フォンは入学前から分かっていた。

 だから入学して最初のテストの時に彼女に頼んだのだ。 

 勉強を手伝って欲しいということ。

 そしてなるべく厳しくしてほしいということ。

 

「びっくりしたけどね、最初は」

 

「でも、受け入れてくれたじゃん」

 

「そりゃあね、必死に頼まれたし」

 

「むぅ……今思い出すとちょっと恥ずかしい」

 

「それに」

 

「それに?」

 

「ウィルに心配かけたくないっていう理由は気に入ったからね」

 

「そりゃあ……私は主の奴隷だからね。主に勉強を教えてもらうのは楽しいけど、なるべく迷惑を掛けたくないよ」

 

「僕なら良いのかい?」

 

「うっ……」

 

「ははは、冗談だよ。ほら、頑張るのもいいけどサンドイッチも食べなよ。片手で食べられるようにしたんだから」

 

「ん……ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 言われた通りにサンドイッチを齧る。

 チーズと卵、野菜に香辛料を効かせたものを軽く焼いたもの。

 フォンの好きな味だ。

 

「……流石まるちばーす? 最高の魔術師」

 

「生憎これは観察眼。僕じゃなくても君の好みくらい知ってるさ。君だってそうだろう?」

 

「…………アルマの好みはよく分んないけどね。味が薄くて香りが強いものか、やたらめったらに味が濃いかじゃん」

 

「――――ふふん、いや全くだね」

 

 軽く顎を上げ、目を細めた彼女はしっとりとほほ笑んだ。

 あまり見ない笑顔の理由はよく分らない。

 フォンにとってアルマ・スぺイシアという少女は主の恋人だけれど、それだけではない。

 頼んだから厳しくて、けれどフォンが音を上げそうになった時少しだけ優しくしてくれて、だからこそフォンは頑張れる。

 何気に、学園生活で彼女と一緒にいる時間が長いのは自分なんじゃないだろうか。

 クラスも同じだから授業も受けているし、同じ宿題が出るから自然と二人でやることも多い。

 ウィルと一緒だとフォンの集中が若干乱れることもあるけれど。

 フォンが頑張って勉強をして、その合間に嘆息と苦笑交じりに小言を言ってくれたり、微笑んだり励ましてくれたり。

 いつも世話を焼いてくれる頼れるクラスメイト。

 それがフォンにとってのアルマ・スぺイシアという少女だ。

 マルチバースというのは未だによく分らないけれど、そういうもの。

 

 それから小一時間ほどフォンの宿題は続いた。

 なるべく自力で解いて、どうしてもわからなかったらアルマに教えてもらう。

 彼女は教え方が上手いから、彼女の説明を聞くのはフォンは結構好きだった。

 

「ふぅぅぅぅ……あー、とりあえず一区切りだぁ」

 

「お疲れ様。……ふむ、結構進んだね。これならまぁ、一応間に合いそうだ。次の春休みはもっと計画的に進めるといい」

 

「ぐぅ……ほら、お祭りとか忙しかったし」

 

「ならいいけどね。昨日は祭りで色々手伝ったりはしゃいだりして疲れてるからかと思ったけど、午後も頑張るように」

 

「はーいお母さん」

 

「誰がお母さんだ。これ以上家族関係をややこしくしないでくれ」

 

「?」

 

「……こほん。気にしないように」

 

 軽い咳払いで何かを誤魔化していたが、気にしないと言われたので気にしない。

 勿論まだ終わっていないので午後も午後で進めないとなぁと思いながら、外の空気を吸おうと閉じていた窓を開ける。

 

「ふぅ」

 

 頬を撫でる冬の冷たい空気。

 三階から道に視線を落とし、その先に、

 

「あれ、主?」

 

「ん。御影とトリウィアもいるな」

 

 寮から出て行ったのだろうか。

 3人の背中が見える。

 トリウィアが寮にいたというの珍しいが、そういえば昨日は寮の食堂で5人一緒にご飯を食べた。

 

「どこ行くんだろ?」

 

「あの3人というと、春休みの入学試験についてじゃないかい? ほら、毎年新3年生が入学試験の主催するって話だろ? つまりウィルと御影だ。試験内容も2人が決めるわけだしね。色々お祭り終わったらやらないととか言ってたし」

 

「あぁ……確かに」

 

 遠く、3人の背中を見る。

 何か話しながら歩いている様子。

 当然といえば当然だが、距離が近い。

 元々そうだったけれど、御影は半年前から、トリウィアは秋から日々の距離感は近づいて、そしてもうそれが自然に見えるようになった。

 ぼんやりとその背を眺めて、

 

「僕らも行くかい?」

 

「え? でも宿題あるよ?」

 

「うん?」

 

 僅かにアルマは赤い目をぱちくりと瞬きをして、肩を竦めた。

 

「まぁ僕らも関係ない話ではないしね。聞いててもいいんじゃない? 君だってちょっとは外の空気吸ったほうが効率が上がるだろ。勿論、時間の様子は見て切り上げたほうが良いと思うけど」

 

「……アルマは、僕の使い方が上手いね」

 

「君は分かりやすいからね」

 

「むぅ、何も言えないな」

 

 その言葉には嫌な感じはなくて、ちょっと嬉しいくらいだった。

 けれど、アルマに良いと言われれば全く問題ない気もする。

 そうなると疲れも吹っ飛ぶという話。

 

「ようし、それじゃあ主たちを追いかけよう! アルマ、一緒に飛ぶかい?」

 

「あぁ? いや、僕にはマントがあるし」

 

「よし、捕まっててね!」

 

「うわ、ちょ、腕を掴むな! マント! おいマント! 早く来い! これほんとに飛ぶ奴だ!」

 

 慌てるアルマの手を強引に取り、窓枠に足を掛ける。

 服の内側の刺青が光って翼を広げ、

 

「行くよぉ!」

 

「自分の意思じゃない飛行はちょっと嫌なんだけど!」

 

 飛び出して。

 

 ―――――――()()()

 

「あれ?」

 

「―――――フォン!?」

 

 そのままフォンは地面へと落下した。

 羽ばたいたはずの翼は、空を掴むことなく落ちる。

 多分、生まれて初めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――フハッ」

 

 王都アクシオスの城壁。

 それを見つめる一人の男がいた。

 端を紐で絞って開閉するタイプの筒形の革袋――ボクサーバックと呼ばれる―――を肩に引っ掛けている。

 背中が開いた変わった衣装の服。

 その背には――――()()()()()()()()()()()()()()()

 彼は城壁を、その先の街を見据えて笑った。

 

「来たぞ――――待たせたな、フォン!!」

 

 

 




フォン
初めて落ちた翼の少女

アルマ
普段は主導権握ってるけどたまに強引に巻き込まれるな……という感じ

謎の男
間男三銃士最後の一人


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なんか掲示板も新時代になったな……

感想がまだ何もしていない間男への期待で満ちてて笑っちゃいました


2023:名無しの>1天推し

それで鳥ちゃんどーなったん?

 

2024:2年主席転生者

今は保健室で天才さんが診てくれています。

僕は隣で見てるだけです

 

何ともないと良いんですけど……

 

2025:名無しの>1天推し

鳥ちゃんが急に落ちるって……えぇ? 

そんなことある?

 

2026:名無しの>1天推し

飛ぶ=生きるみたいな子なのになぁ

 

2027:自動人形職人

天才さんが見てくれてるなら大丈夫だと思いますが……

 

2028:脳髄

普通に風邪とかか?

いっつも薄着なんだろあの子

 

2029:2年主席転生者

最近は普通に暖かい恰好してましたけどね。

確かに年末年始でパーティーとか色々ありましたけど

それでフォンが風邪引くというのもちょっと驚きというか……

 

2030:名無しの>1天推し

まぁ病気ってそういうもんだよな

 

2031:名無しの>1天推し

確かに

 

2032:名無しの>1天推し

意外な人が意外な時になるもんだべ

 

2033:2年主席転生者

そう、ですね。

 

いや、でもかなりびっくりしました。

学校で歩いていたら後ろから天才さんの叫び声が聞こえて、振り返ったら何もなくて、前向いたらフォンを抱えた天才さんが現れて焦って……ていう

 

2034:名無しの>1天推し

まぁそれは焦る

 

2035:名無しの>1天推し

焦る天才ちゃんというのがやばい

 

2036:名無しの>1天推し

それはそう

 

2037:脳髄

>1とのラブコメ以外で天才ちゃんが焦ったらやばいZE!

 

2038:1年主席天才

戻った。

治療も終えた。

 

2039:名無しの>1天推し

おぉ、どうなったん?

 

 

2040:2年主席転生者

「アルマさん、大丈夫なんですか!?」

 

「一応は。あー、それと御影、トリウィア。今例の掲示板繋げてるからそっち向けにして話すけど構わないかい? 二度手間だ」

 

「ほう。構わんぞ」

 

「どうぞ。……私たちも見れます?」

 

「ん。網膜投影する」

 

「お?」

 

「何も見えませんが……」

 

「いつものように騒ぎたまえ」

 

 

2041:名無しの>1天推し

いや……

 

2042:名無しの>1天推し

そんな……

 

2043:名無しの>1天推し

マジで見られてる……?

 

2044:名無しの>1天推し

ついに姫様たちに掲示板が見られるなんて……

 

2045:脳髄

滅茶苦茶ぞわるな。

 

2046:名無しの>1天推し

急に恥ずかしくなってきた

 

2047:1年主席天才

 

「おぉ、なんか文字が透けて浮かんでいる。凄いなコレは。色々便利そうだ」

 

「なるほど、こうしてウィル君は1年次にアルマさんやマキナさんと会話してたわけですね」

 

「うんまぁ。……一応人目がある時にしか繋げてないけどね」

 

「私は別に見られまくっても構わんが」

 

 

2048:名無しの>1天推し

なんで脳髄ニキなんで名指しなんでありますか!!

 

2049:名無しの>1天推し

落ち着け

 

2050:脳髄

脳髄が違うんだよね

 

2051:名無しの>1天推し

おファックであります

 

2052:名無しの>1天推し

姫様は相変わらずなんというか……

 

2053:1年主席天才

 

「はい、収集つかないから話を進めるよ」

 

「お願いします、それでフォンは……」

 

「とりあえず……何と言うかな……」

 

「……アルマ殿が言葉を濁すということはあまり良くないのか? 寝顔は落ち着いて見えるが」

 

 

2054:名無しの>1天推し

なんか掲示板も新時代になったな……

 

ってまじ?

 

2055:自動人形職人

それかなり不味くないですか?

 

2056:1年主席天才

 

「いや、大病とかじゃあないね。病気自体は見つからなかったし、臓器の異常も無し。がん細胞みたいな異物もないし、呪いとか掛かってるわけでもない。人間として見たら体重が軽すぎたり骨密度がスカスカなのはまぁ鳥人族の種族特性だし」

 

「えぇと……では何か問題があるんですか?」

 

「ものすごくざっくり言うと自律神経失調症」

 

 

2057:名無しの>1天推し

えぇ……?

 

2058:名無しの>1天推し

うっ……そんなことが……?

 

2059:名無しの>1天推し

滅茶苦茶久々に聞いたなそれ

 

2060:脳髄

うぅぅぅぅん……それは……まぁ……えぇ……?

 

2061:名無しの>1天推し

鳥ちゃんがぁ?

 

2062:自動人形職人

なんでしたっけそれ

 

2063:1年主席天才

 

「知らない病名ですね。掲示板の皆さんはご存じのようですが」

 

「簡単に言うと心因性の体調不良、ストレス疲れかな。心配ごとのせいで体調が悪くなる経験とか二人はないかい?」

 

「………………?」

 

「そんなことあるのか? って顔するんじゃないよ」

 

「まぁ御影はなさそうですよね」

 

「心配事を心配しても仕方なくないか? 対処できるなら対処すればいいし、対処できないならもう気にしても無意味だろ」

 

「まぁ……」

 

 

2064:名無しの>1天推し

それは……そうなんですが……

 

2065:脳髄

強者の発言

 

2066:名無しの>1天推し

それができれば……

 

2067:1年主席天才

 

「私も経験はありませんが、気疲れの一種ですよね? 精神病の類は診断が難しいので医療よりは教会の領分ですが。…………それを、フォンさんが?」

 

「鳥人族も神経系は人間とは概ね変わらない。神経バランスが乱れていたからそれは整えたから休めばなんとかなる。ただ、この場合問題は1つ。これに関しては対症療法ってこと」

 

「…………体調不良を引き起こした原因を解消しない限りまたなる、ということですか?」

 

「そういうことだね、ウィル」

 

 

2068:名無しの>1天推し

あー……

 

2069:名無しの>1天推し

そりゃそうだ

 

2070:名無しの>1天推し

確かにこれは天才ちゃんにもどうしようもないな

 

2071:1年主席天才

 

「対症療法として、体調不良になればそれは治せる。ただ精神的なものだと鼬ごっこだね。鳥人族特有の病気って線もないこともないけど……」

 

「なんとも言えませんね。鳥人族に関しては極端に資料がありませんから」

 

「一先ず彼女が起きたら一度聞いてみるしかないね。こういうことは聞きにくいことだが……」

 

「――――僕が話します」

 

「うん、それがいい」

 

「だな」

 

「そうだね」

 

 

2072:名無しの>1天推し

だねぇ

 

2073:名無しの>1天推し

うむ……

 

2074:自動人形職人

一先ずは体調戻せたなら安心といえば安心ですか

 

2075:名無しの>1天推し

鳥ちゃんみたいな元気っ子が案外こういう病気とかうつ病になりやすいっちゃそうなんだよなぁ

 

2076:名無しの>1天推し

異世界まで付きまとう恐ろしい病め……

 

2077:名無しの>1天推し

人によって症状も違うから困るよな

 

2078:1年主席天才

 

「こっちの連中は随分と詳しいな。よくある病気なのか?」

 

「というか、僕らが今の人生になる前の時代では表面化して有名になったというべきかな。症状自体は昔からあったよ」

 

「ふぅむ。なるほど?」

 

「一応王国ではそこそこ認知されているみたいですね。主に貴族階級にですけれど。とかく仕事しすぎると精神を病むからほどほどに……具体的に言うと朝9時に働きだしたら17時には仕事を終えろ、みたいなものですね」

 

「あぁ、それなら聞いたことあるな」

 

「そんなのあったんだ……」

 

「まぁ誰もがその通りにできてるわけじゃないけど」

 

 

2079:名無しの>1天推し

マジで公務員みたいだな王国貴族

 

2080:名無しの>1天推し

聞く限り完全に公務員なんだよな

 

2081:名無しの>1天推し

これもやはり初代国王陛下が……?

 

2082:1年主席天才

 

「そうですね」

 

 

2083:名無しの>1天推し

うーんこの

 

2084:名無しの>1天推し

安定の国王陛下

 

2085:名無しの>1天推し

大体初代国王

 

2086:1年主席天才

 

「……もしかして、王国の初代陛下は皆さんと同じ転生者なのでは?」

 

「ついにそこに触れるか……」

 

 

2087:名無しの>1天推し

い、言った!

 

2088:名無しの>1天推し

みんななんとなく察していたことを!

 

2089:名無しの>1天推し

確かめようがないから誤魔化していたことを!

 

2090:脳髄

ふっ……流石先輩だぜ……!

 

2091:1年主席天才

 

「僕もそうだと思うけど、確かめようがないからな」

 

「うぅん、気になりますね……この世界にどれくらい転生者がいるのか……ゴーティアの残党もいますし」

 

「そのあたりは今は置いておくといい」

 

「……ですね。失礼しました。今はフォンさんですね」

 

「ははは。むしろいつも通りの先輩殿で安心する。しかしこの通信、便利だな。何かあったらすぐに相談できそうだ」

 

「うん。いつも助けられてるよ」

 

 

2092:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2093:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2094:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2095:脳髄

へへっ……

 

2096:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2097:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2098:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2099:自動人形職人

へへっ……

 

2100:名無しの>1天推し

へへっ……

 

2101:1年主席天才

 

「おいおいウィル、面白いなこいつら」

 

「あはは……」

 

「――――あの! すみません先輩方! スぺイシア!ここにいた!」

 

 

2102:名無しの>1天推し

お?

 

2103:名無しの>1天推し

なんだ?

 

2104:名無しの>1天推し

どなた?

 

2105:1年主席天才

 

「エスカか、どうしたんだ慌てて」

 

「どうしたもこうしたもないわ!」

 

 

2106:名無しの>1天推し

あ、ドラゴン生徒会長とダンスしてたショタ

 

2107:名無しの>1天推し

振り回されてたショタ!

 

2108:名無しの>1天推し

投げ飛ばされて何メートルかぶっ飛んでいたショタ!

 

2109:2年主席転生者

えーと、エスカ・リーリオ君ですね。

1年生で、天才さんやフォンのクラスメイト。

 

2110:1年主席天才

ツンデレ気味のショタだ。

 

「落ち着いてくださいリーリオ君。我々に何か?」

 

「っ……っす、すみませんフロネシス先輩。それが……」

 

「それが?」

 

「校門でオリンフォスが不審者と戦い始めやがってます!」

 

「…………おやまぁ」

 

 

 

 

 

 

「―――ちっ」

 

 口の中が切れて零れた血をスーツの袖で拭おうとしたアレスは、それが焦げ付いたことに思わず舌打ちした。

 手袋に包まれた指で軽く拭いながら、空を見上げる。

 学園の大きな正門。

 王都と学園を別つ境界線の上に、その男は翼を広げていた。

 

 黄色混じりの鮮烈な赤い翼を持つ青年だった。

 筋肉隆々の鳥人らしからぬ質量を感じさせる大きい体躯。所々に傷跡が刻まれている。上半身が露出しているのは背中の大きな翼のせいだろう。

 翼と同じ色の逆立った髪はまるで炎のように。

 瞳だけが薄い青に輝いている。

 目元と胸には羽根を模したような流線の刺青がある。

 

「ハハハハハハハハ!! 思ったよりも! 大したことないじゃないか! 人間の少年よ!」

 

 腹から響かせる声は大音量。

 勝気な笑みで大地のアレスを睥睨する。

 青年の足元には気絶した守衛たちが転がっている。

 ほんの数分前、この赤翼が学園に無理に乗り込もうとし、守衛に止められ―――そして男は無理やり突破しようとしたのだ。

 そこを偶然アレスが通りかかり、

 

「……全く、どうしてこんなことに」

 

 流石に見ていられなかったから制止したら戦闘になったのだ。

 戦闘、というほどでもないかもしれない。

 小競り合い、というべきか。

 

「ハーハッハッハ! その棒きれはただの飾りかな!」

 

「……二度、忠告しました」

 

「うぅん?」

 

「今すぐに戦意を解いてください。学園に用があるのなら正規の手順取る様に。でなければ―――俺も相応の対処をします」

 

「生気? あぁ! 俺の気はいつでも溢れている!」

 

「………………俺の周りには人の話を聞かない輩しかいないのかよ」

 

 吐き捨て、刀を握る。

 鍔の無い、黒塗りの直刀。

 バチリと、僅かに切った鯉口にスパークが走る。

 これまで刀は抜かなかった。

 警告で済ましていたから。

 

「――――三度目はないぞ、鳥男」

 

「わはははは! 今何回目だ人間!」

 

 アレスを中心にしてスパークが広がる。

 赤混じりの黄色らの雷光。

 そして青年の翼の周囲が揺らめいた。

 比喩ではなく―――翼が炎を宿しているのだ。

 黄色が混じった赤い炎。

 

 ぎちり―――空気が軋む。

 

 アレスの端正な顔から表情が抜け落ちる。

 青年は歯をむき出しにして笑みを濃くする。

 闘争の前触れ。

 火蓋が落とされる一瞬の静寂。

 刀を握る手に、空を掴む翼が僅かに動く。

 

 そして。

 

「―――――!」

 

 二人の中間距離に刀が突き刺さった。

 直刀だった。

 七芒星、漆黒の刀身、銀色の刃先、オーロラのような波紋。

 刃の腹の両面に刻まれた、虹に揺らめく銀色の流線紋様。

 それに二人は動きだしを挫かれた。

 

「そこまでです」

 

 響くのは真っすぐな声。

 アレスは炎翼の男も忘れて振り向いた。

 いつの間にか遠巻きに生徒がこちらを見ている。その中央から、群衆を割る様にゆっくりと歩いてくる人影。

 彼が右手を掲げれば、

 

「……っ」

 

 直刀が浮き、その手に飛び込んだ。

 背後には鬼の姫と帝国の才女、隣には銀髪と赤コートの少女。

 

「アレス君、ありがとうございます。ここからは僕が」

 

「――――」

 

 ウィル・ストレイト。

 恋人と婚約者を引きつれた青年。

 周りの生徒たちを彼らに対して期待の目で見つめている。

 当然だ、この学園の生徒会。それもおそらく今学園で最も人気があり、尊敬される二年生主席なのだから。

 期待と栄光と愛と信頼。

 あらゆる光を一身に浴びる男。

 

 ――――僅かに、刀を握った指が動いた。

 

「アレス君?」

 

「…………いえ、失礼しました。ストレイト先輩。では後は任せます。皆さんと同じくらいに話を聞かない相手なのでお気を付けを」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「……」

 

 息を吐きながら、彼らの横を通り過ぎ、

 

「お疲れ」

 

「ご苦労様です」

 

「怪我してたら保健室行きなよ」

 

 御影、トリウィア、アルマから優しい言葉を掛けられる。

 一人足りないことに疑問を思いながら、群衆を通り過ぎ、少し離れたとこから状況を見守ることにする。

 

「オリンフォス! 大丈夫か!? 先輩たち間に合ってよかったぜ!」

 

「アレス君、服が焼けてるよ!」

 

「今すぐジャケットを交換しましょう、安心してください。新品にして返します!」

 

「あの、いえ、問題ないです」

 

 エスカ・リーリオを始め、数人のクラスメイトに声をかけられたのは少し困った。

 自分は、何もしてないのだから。

 

 

 

 

 

 

「――――ウィル・ストレイトと名乗ったか!? 人間!?」

 

「えぇ! 僕がそうです、何か用ですか!?」

 

「そうだ! お前に用があって俺はこの街に来たのだ!」

 

 翼を畳み、大地に降り立った男の言葉にウィルは眉をひそめた。

 1年前鳥人族とはフォンとの一件もあって何人ともあったが知らない相手だ。

 御影やトリウィアに視線を送るが、二人とも首を振る。

 直刀を握り直しつつ、ウィルは声を張る。

 

「なんでしょう! これ以上の乱暴は認めませんが!」

 

「ランボだと!? なんだそれは、訳の分からないことを言うな!」

 

 いいか、と訳の分からないことを叫んだ男は吠える。

 

「お前が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を連れ去り!!」

 

「……ん?」

 

「あまつさえ、奴隷に……奴隷にするなど!! そして欲望の限りに好き勝手なんかあれやこれやするなど!! そんなことを! 許しておけるものかああああああああああッッッッ!!!」

 

「すみませんちょっと大きな声でそういうこと言うのやめてくださいあと欲望の限り好き勝手とかしていません!!!!!」

 

「そうだ! ウィルの欲望は概ね私と先輩殿に向けられている!」

 

「御影さん。ウィル君ではなくて貴方の欲望では?」

 

「トリウィア、君と御影の欲望がウィルに向けられているんだろ」

 

「なぁああああああに!?!? フォンだけではなくその3人の女まで!?」

 

「勝手に僕を混ぜるな! あと声が大きい!」

 

「大丈夫だよスぺイシアさん! 私たち分かってるから!」

 

「そうそう! クラスメイトなんだから!」

 

「そういうのありだと思います! むしろもっと教えて欲しい!」

 

「ティル、珊瑚、アンゼ! ちょっと黙っていてくれないか! 実技の授業始まったら覚えてろよ!」

 

「おのれ……おのれウィル・ストレート……! 許せん! この≪不死鳥≫のシュークェ! ≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫にて学んだ仙術にて貴様を燃やし尽くしてくれるわあああああああ!!」

 

「すみませんちょっとほんと話を聞いてください、あと僕はストレイトです! さっきは言えてましたよね!?」

 

「知るかああああああああああああああ!!」

 

 

 

 




ウィル
ちょっとほんとにそういうのやめてください!!

アレス
最後の会話はうめき声をあげながら見ていた

≪不死鳥≫のシュークェ
うるさい、話を聞かない。
フォンの兄で許嫁で親戚で家族らしい。

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デミヒューマンズ

 

「ぬおおおおお許さんぞ人類いいいいいい!」

 

「何故急に対象を拡大したんですか!? 亜人種とはいえ貴方も人類枠ですよ!」

 

 一般生徒たちは正門を中心とし十数メートル離れた囲いを作っていた。

 野次馬だ。

 1年から3年を問わず、それでいて亜人種の割合が多い。

 冬休み、王国出身者の大半はまだ帰省中であり、三週間程度の休暇では遠い亜人連合や皇国出身者は学校に多く残っていたからだ。勿論、同じく帰省には時間がかかる帝国や聖国出身の人種もちらほら。

 鼬の頭部を持った獣人もいれば、肌に鱗を乗せた魚人もおり、人種の半分程度の身長のハーフリンクもいれば、同じ背丈でどう見ても中年のドワーフ、さらに隣には見目麗しいエルフも、その背後に制服の袖や腹周り部分を切り落とし、腰から羽を生やす鳥人種、隣に二メートル近い長身と額の二本角を持つ鬼種の男子。 

 王国では珍しい、しかし学園では珍しくない光景だ。

 アクシオス王国は各国の中心地点に位置しており、そして現在の国際交流の中間地点、さらに学園は世界中の将来有望な者を集めているので世界中で最も複数種族が集まる場所である。

 そんな彼らはよく分らないコント染みた侵入者と二年主席のやり取りを見ていた。

 

「―――ふぅ」

 

 そして小さな、けれど周りに良く響く吐息を聞く。

 1年主席だ。

 銀髪の少女は小さく顎を上げ、呆れ。

 

「ウィル」

 

「――――はい!!」

 

 2年主席が虹の刀を構えた。

 

「おぉ……」

 

 野次馬が僅かにどよめき、

 

「学園名物1・2年主席カップル……!」

 

 3年の犬耳の獣人男子が噛みしめた。

 隣の喉に鰓を持ち、背に鮫の鰭を持つ半裸の魚人族も頷く。

 

「俺ぁフロネシス研究員に去年賭けてたけどまさかこうなるとは思っていなかったぜ」

 

「ふん……俺も……我らが姫君が単独優勝でストレイトどころかフロネシス先輩やフォンもまとめて食らうと思っていたしな」

 

 巨躯の鬼種が頷き、

 

「ふっ……甘いわね先輩方! 私たちの! 私たちのクラスメイトのスぺイシアさんが強いのは言うまでもない!」

 

「そうですわ! いつもちょっと小言を言いつつ最後まで面倒を見てくれて、分かりやすい解説をしてくれるんですのよ!」

 

「たまに廊下でストレイト先輩と通り過がった時、小さく手を振るのが可愛いのです!」

 

 アルマのクラスメイトの3人、王国生まれの人種と皇国出身の鬼種と帝国出身の貴族の娘が続き、

 

「ティル珊瑚アンゼ! 三学期は宿題手伝わないからな! あと野次馬うるさいぞ!」

 

 前方アルマが振り向いてキレていた。

 

「勝手に仲間割れとは! 醜いな……!」

 

「去年あたりからわりとこういうノリの学園です!」

 

「許せんぞウィル・ストレイト!」

 

 赤翼の男が大きく翼を広げ、その背から陽炎を生み出す。

 ウィルは少し眉を潜めて振り向かず声だけ背後に問う。

 

「アルマさん、この人なんか凄い自分ルールに生きててやりにくいんですが」

 

「ふむ……つまり御影みたいなものだろう」

 

「…………なるほど!」

 

「ははは―――――ウィル、後で耳裏一時間だ」

 

「……」

 

 御影の一言に彼は一瞬動きを止めた。

 

「うおおおおおおおお隙ありだぞ人類いいいいいい!!」

 

 次の瞬間、シュークェが翼をはためかせ突撃した。

 

 

 

 

 

 

 ウィルとシュークェの交差をアレスは見ていた。

 野次馬からさらに離れ、街路樹に背を預けながら息を吐く。

 一瞬だった。

 鈍い音がし、

 

「うおっ!? なんだ!?」

 

 隣、背の低い金髪碧眼と王国の南西出身故の薄褐色の肌を持つエスカが声を上げる。

 アレスを含め、彼が見たのはウィル・ストレイトとシュークェが地上付近で激突し、

 

「流石二年主席、あのうるせぇ鳥野郎を一撃で切り捨てたぜ!」

 

 彼の言う通りのことが起きた。

 炎を纏い突進したシュークェをウィルが虹刀による振り上げカウンターで撃ち、地面に墜落した。

 かなり上手く、それでいて狙って打ち返したのだろう。

 シュークェは正門の外まで地面を削っていた。

 それを見て、アレスは少し変な気分になった。

 鳥が地を滑るというのは慣れない。

 アレスの知る鳥はいつだって地を蹴り、空にはばたくのだから。

 

「んー? 斬ったって感じじゃなくない?」

 

「あん?」

 

「……おや」

 

 首を傾げたのは、野次馬から離れアレスやエスカと共にいたクラスメイトだ。

 茶の髪をカールさせた人種の彼女は顎に人差し指を添えながら言う。

 

「私戦闘系じゃないからよく分んないけど、斬撃の音じゃなかったよね。打撃の音だったよ」

 

「マジ?」

 

「そうだよね、オリンフォス君」

 

「えぇ。……良く気づきましたね」

 

「私、楽器の推薦で学園に来てるしね。耳は良いつもりだよー」

 

「はー……つまり……峰打ちか!?」

 

「いえ、ストレイト先輩、刃の方で翼の付け根殴ってませんでした? 峰打ちではないかと」

 

「なにぃ!?」

 

「……えぇ、そうですね。僕もそう見えました。良い眼です」

 

 付け足したのは赤茶色の髪から白い触覚を二本生やし、両手を白い甲殻で覆った甲殻系魚人族クラスメイト。

 確か彼女は、

 

「ほら、私は絵で推薦貰ったシャコ系なので動体視力は自慢ですし。絵とか漫画とか、細かい動き目で見て覚えて書いたりとか。まぁ戦闘力はいまいちですけど」

 

「それでも大したものです」

 

「へへへ……オリンフォス君に褒められちゃいました……ご褒美にやっぱジャケットくれませんか?」

 

「嫌です。オーダーですから」

 

「ちっ……」

 

「行儀悪いなおめー」

 

「何も気づけなかった分リーリオ君が減点かな……」

 

「この人口だけはいっちょ前ですからね。なんでそんな人と生徒会長がダンスしたのは意味わからないんですけど。ちょっと詳しく教えてくれませんか? 本にして売ります」

 

「言うわけねぇだろ!」

 

「それでオリンフォス君、ストレイト先輩はどういう動きだったの?」

 

「………………あの人は優しすぎますね」

 

 嘆息しつつ、アレスは答えた。

 

「カウンターの一撃はあの話を聞かない鳥人族の翼の根本に入りました。構造上、鳥人族の弱点ですね。凡そあらゆる能力が飛行に特化した彼らですが、それゆえに翼は最大の武器であり弱点。そこを殴ったというわけです」

 

 ただし、

 

「行動不能とするなら、斬れば容易かったでしょう。なのにあの人は刃を立てなかった」

 

「土属性とかの防刃魔法かな?」

 

「さぁ……あの人のあの刀も良く分からないですからなんとも。ただ、先輩は鳥人を行動不能にさせつつ、しかしその誇りである翼を断つことはなかった。……全く嫌になるほど優しいですね」

 

 彼ならば翼をどちらも両断することも容易かっただろう。

 ウィルたちが現れなければ自分がそうするつもりだった。

 それをしなかったということは話しを聞かない謎の不審者である男を気遣ったということだ。

 軽く呻きを上げなら、刀の柄を撫でる。

 

「……? なんですか」

 

 ふと気づいたら3人が3人とも黙ってこっちを見ていた。

 特にシャコ系魚人の彼女の鼻息が妙に荒い。

 

「オリンフォスさぁ」

 

「はい」

 

「普通そういうトーンのセリフって、甘いとか手ぬるいだよな」

 

「はぁ」

 

「おめー、ストレイト先輩のことめっちゃ好きよな」

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

 野次馬を守る様に立っていた御影はさらに後方に生えて来た街路樹が悲鳴と紫電と共に伐採されたのと遠くに見た。

 ついでに照れ隠しー! という叫びも。

 よく分らないが楽しそうなのでヨシとする。

 そして、

 

「とりあえず一件落着か?」

 

「えぇ」

 

 隣、煙草を蒸かすトリウィアが頷く。

 彼女も一応、野次馬に被害を出さないように片手で銃を緩く持っているが、

 

「ウィル君、刀の使い方も慣れてきましたね。翼の付け根への強打。音からして確実に骨格を砕きました。片翼ではバランスが取れず飛行ができない、つまりは戦闘不能ですね」

 

「鋭いが、脆い生き物だな。フォンなんか攻撃が碌に当たらないのだが」

 

「まぁ……私の第二究極魔法による時間加速でも捕らえられないんですから速度域おかしいですよね」

 

「究極魔法3つも持ってる先輩殿も大概だ」

 

 だが、ウィルが不審鳥人の翼を断たなかったのは、

 

「フォンを気遣ったんだろうな」

 

「えぇ」

 

 トリウィアは煙を長く吐きだす。

 

「飛べなかった彼女が目を覚ましたら、翼を断たれた同胞がいるのは忍びないですからね」

 

「ふふん、相変わらず甘い男だ」

 

「そこは優しいでもいいでしょうに」

 

「鬼種的に言うと全殺しが基本で8割殺しが優しい、だ。行動不能は大体3割殺しなのでちょっと甘い判定だな」

 

「蛮族……」

 

 種族的な価値観の差からちょっと引かれた御影は笑みを浮かべつつ、前方を見据え直す。

 御影とトリウィアの少し離れて野次馬の守りを準備し、ついでにクラスメイトに絡まれているアルマが待機しており、その先に極虹鍵を背に回したウィルがいる。

 あの虹の黒刀は鞘がないが、柄と刀身の半ばに魔法陣が展開している。それが彼の背に追従し浮遊しているのだ。

 便利な刀だ。

 自分の大戦斧は愛用だが、持ち運びの難がある。

 そのあたりどうにかしたいと思いつつ。

 彼女は見た。

 

「ウィル!」

 

「ウィル君!」

 

 気づきは隣のトリウィアも。

 アルマもまた、クラスメイトたちを下がらせた。

 ウィルもまた背の刀を握る。

 なぜなら、

 

「ぬおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 雄たけびと陽炎を立たせながらシュークェが飛び上がったからだ。

 火の勢いは強い。

 空気が揺らめくどころではなく実際に翼が燃えていた。

 一気に十メートルほど上昇し、ウィルを見下ろす。

 

「フハハハハ!! 我こそは≪不死鳥≫のシュークェ! 貴様の斬撃なんぞ一瞬で治るわぁ!」

 

 燃える翼で空を掴む不死鳥。

 片翼が砕かれたはずなのに。

 斬撃ではなく打撃であることは気づいていないようだが、

 

「……どういうからくりだ? 鳥人族の翼が砕かれて飛べないはずだろ」

 

「ですね……私たちも出ますか?」

 

「……」

 

「御影さん?」

 

「いや」

 

 鬼の姫は少し笑い、

 

「これまでの先輩殿なら興味深いとかもっと知りたいとか言って突っ込んでいただろうと思ってな」

 

「…………貴女は変わりませんね」

 

 帝国の才女は煙を吐いた。

 

「行きますか」

 

「いいだろう―――アルマ殿! 助太刀に入る、ちょっと妙だからなあの鳥人!」

 

 声を張れば、少し離れたアルマが手を振ってくれた。

 これでいいだろう。

 そう思い、トリウィアと共に一歩踏み出そうとし、

 

「――――ん?」

 

 二人を追い越して走り抜ける背中を見た。

 

 

 

 

 

 

「主っ!」

 

 背後から聞こえた声にウィルは反射的に腰を落とした。

 それはここ一年半以上の経験によるものだ。

 彼女はいつも上方向から現れるから。

 だからその準備を無意識にして、

 

「っ……!?」

 

 真横から来た衝撃に、驚きを得た。

 腕の中、いつもは短いポニーテールが解かれて乱れている。

 フォンは額をウィルの胸に押し付け、震えていた。

 

「あるじ……私……主っ……!」

 

「フォン……フォン? どうしたの? 大丈夫? 何が――」

 

()()()()()()()()()()()

 

「――――」

 

 ウィルを見上げたとび色の瞳は揺れ、濡れていた。

 息を呑む。

 それは彼だけではなく、周りの御影やトリウィアも。

 天地がひっくり返ってしまったような。

 太陽が西から昇ると言われたような。

 それくらいの衝撃。

 この学園にいれば誰だって見ている。

 空を自在に駆ける鳥人族の少女を。

 なのに。

 

「さっき、保健室で起きて、それで、騒ぎが聞こえて、主たちがいると、思って、飛ぼうとて、そしたら、飛べなくて―――」

 

 体が、声が震える。

 普段の活発さはどこにもなく、ウィルに飛びつくのではなく、縋り付き―――地に足を付けて。

 

「どうしよう、私、飛べなかったら、そんな、こんな、どうして……!」

 

「フォン……フォン、落ち着いて。一緒に理由を―――」

 

 ウィルが彼女の肩を抱き、囁こうとした瞬間。

 

 

「―――――()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 上空から声があった。

 

「っ?」

 

 呼ばれたフォンは僅か体を跳ね、振り向き空を見上げる。

 そこにいた炎翼の鳥人族を確認し、

 

「………………え? シュークェ?」

 

「如何にもォ! 久しぶりだなフォン! 随分と様変わりしたようだが、それでどうやって飛ぶつもりだ!」

 

「っ……」

 

「……フォン、この人を知ってるの? なんかフォンを知ってるみたいだけど」

 

「えっ……あっ、うん」

 

 彼女は涙をぬぐい、

 

「私の里にいた一人だよ」

 

「そう! そしてお前の兄であり許嫁であり親戚であり家族である≪不死鳥≫のシュークェである!!」

 

「えっ? なに急にキモ。兄でも許嫁でもないでしょ。キモ」

 

 不死鳥が五メートルほど落下した。

 

 

 

 

 

 

「……フォン? なんだろう、今こんなことを君に聞くのもどうかと思うんだけど、彼が学園に無理やり押し入ろうとしてたんだけど。家族か親戚ではあるの?」

 

「うん、まぁ……」

 

 フォンは鼻をすすり、肩に落ちる髪を指で弄りながら、

 

「ほら、鳥人族ってそれぞれに里があって遊牧生活送ってるけど、シュークェは私と同じ里の生まれだよ。私たちにとって里は家族で、みんなどっかで血は繋がってるから親戚で家族なのは合ってる」

 

 でも、と彼女は続けて、

 

「別に直の兄妹でもないし、それで兄弟姉妹って言ったら全員そうなるし。そもそも私たちに許嫁の文化ってほとんどないよ」

 

 そこで彼女は僅かに目を見開き、

 

「あ、主! そういうことだから勘違いしないでね!? シュークェとか会うの3年ぶりくらいだし! 昔は別にあんま気にしてなかったけど今思い出すとなんか暑苦しくて鬱陶しかったんだから! 私は主の奴隷だよ!」

 

「あ、うん。そこは大丈夫だけど……」

 

 途端に元気を取り戻した彼女にウィルは苦笑しながら頷きつつ、シュークェの方を見る。

 先ほどよりも高度を下げていた彼は顔中、滝のような汗を流し、

 

「ば、馬鹿な……! 幼き頃俺は確かに生まれたばかりのお前を抱いたお前の母から『この子のお世話は頼んだよシュークェ。なんなら嫁に貰ってもやってもいいからねはははは』―――と言われ、そうだと思っていたのに!」

 

「いやそれ社交辞令でしょ、本気にしないでよキモイなぁ。母さんだって覚えてないよそれ」

 

「ぐああああああああああああ!?」

 

 さらに1メートルほど落下した。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……鳥人族の精神状況と高度には相関性が……?」

 

 トリウィアは新しい煙草に火をつけながら思考した。

 気になるところだが、今は置いておく。

 眼前、随分と戸惑っているウィル、どうも落ち着いた様子のフォン、それに顔面で『超ショック!』という感情を全力で表現するシュークェ。 

 

「何やらすごく面白いが……先輩殿」

 

「えぇ、一先ずは」

 

 シュークェには悪いが――いや別に悪いとも思わないが、大事なのはフォンのことだ。

 数瞬前までかなり動揺していたようだが、同胞の発言を否定することに冷静さを取り戻したようだ。

 あんな風に、狼狽したフォンを見るのは嫌だ。

 そんなもの、知りたくない。

 

「……ふっ」

 

 いつの間にか、知りたくないものが増えているなと苦笑しつつ、会話を見守る。

 

「くっ……分かった! 許嫁で兄というのは忘れよう! 俺はフォンと同郷の≪不死鳥≫のシュークェである!!!!!」

 

 関係値が随分と下がった。

 ついでにメンタルも持ち直したのか5メートルほど上昇し、

 

「……ていうか、何しに来たの? 学園に押し入るとか。3年前に修業とか言って里を出て、≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫にも帰ってこなかったのに」

 

「ふっ……それには深いわけがある。俺がいれば≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫に出たのは俺だっただろうが」

 

「はぁ? ないないない。私がいるし、そもそも主がいたし」

 

「うむ……確かに≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫はウィル・ストレイトという人間が我ら鳥人族を救ってくれたとか―――むっ」

 

 そこでシュークェは何かに気づき、

 

「ウィル・ストレイト……? 確かさっき名前を聞いたような……」

 

「あのー、僕のことなんですが」

 

「何!? お前が!?」

 

 気づいてなかったんかい。

 シュークェは一転、翼の炎を消しながら下降し始め、

 

「なんだと! もっと早く言ってくれなければ!」

 

「さっき名乗ったんですが……?」

 

「はははは! これは失敬した! なれば我らの恩人、どうれ我が羽を受けっとってほしい所――――――それの引き換えにフォンを奴隷にしたのか貴様この下衆が!!!!!!」

 

 炎をまき散らしながら10メートルほど飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

「おのれ、人間! フォンを恩に着せて奴隷にするとは許すまじ!」

 

「えぇ……まぁ……はい……」

 

「主! 何言いかまされてるの! 鳥人族に口喧嘩で負けたらだめだよ! 末代までの恥になるよ!」

 

「いや、≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫の為にフォンを奴隷にしたのは事実だし……」

 

「そんなことないよ! 私は主の奴隷だよ! 超奴隷だよ! 喜んで主のいいなりになるよ! なんでもするよぅ!」

 

「貴様人類いいいいいい!!!」

 

「フォン、頼むから大声で奴隷なんて言わないで!」

 

「そんな! 私は主の奴隷なことに誇りを持ってるよ!」

 

「許さんぞウィル・ストレイトオオオオオオオオ!!」

 

 諸々の光景を見ていたアルマは掲示板の方を確認した。

 半分くらい爆笑し、半分くらい呆れている感じ。

 ついでに周囲を見回せば野次馬が野次馬根性丸出しで半笑い。

 御影とトリウィアも背を見る限りそんな感じで、少し離れた所で頭を抱えているアレスと目があった。

 

「…………」

 

 しかめっ面で頭を下げられたので頷き返す。

 

「…………はぁ」

 

 重い溜息を吐き、手の中で光弾を生み、

 

「ぐああああああああああ!?」

 

 射出、シュークェを撃ち落とした。

 

「――――」

 

 背の翼のせいか遠心力がついて5回転ほどしてから頭から落ちて地面に突き刺さる。

 それから光弾が光の帯になってシュークェを拘束、簀巻き状態に。

 その場にいた全員が沈黙し、アルマを見る。

 だから彼女は、声を張り上げた。

 

「―――――撤収!」

 

 

 




間男三銃士を紹介するぜ!

間男になりたくもないがなった男バルマク!
間男だったけど自ら引いた男ディートハリス!
そして自分を間男だと思っていた男シュークェ!


アレスのクラスメイトその1
学校でも珍しい魔法ではなく絵画の才能で入学した人種
耳が良い

アレスのクラスメイトその2
シャコ系魚人族、腐女子、同人作家系
ウィル×アレスの同人誌を作ろうとしている。

御影編は聖国と鬼種、
トリウィア編は帝国貴族、
フォン編は亜人族関係メインになります。


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ティータイム・ウィズ・ハングドバード

 

「んー、侵入者かぁ」

 

 日課の礼拝を終えた後、パールは耳に届いたばかりの話を考えながら生徒会室に向かっていた。

 シュシュで結んだ髪を弄りながらの足取りは重くない。

 学園の侵入者というのは実の所、たまにだが現れる。

 将来世界中の重要な立場を担う者が集まる場所であり、それゆえもっとも知識と技術が集まる場所だ。

 表立ってではなくともそれを手に入れたい者はいるし、単純に入学できなかった故に逆恨みから愚かな行動を取る輩もいる。

 学園の外には警備員がいて、けれどそこで止められなかった場合。

 その対処は生徒会役員に対処が一任されている。

 生徒会は特待生であり、そして今後の生活における多大な恩恵が約束されている。だからこそ自分の学園は自分で守れということだ。

 学園は広いので、基本的に一番近くにいる生徒会役員が対応し、一般生徒は相手をせず生徒会か教師に伝えるのが原則だ。

 勿論、生徒会役員で対応できない場合、最終手段として教員が対処に当たるルールもある。

 

 そして今日、ウィルたちが対処したのだろう。

 心配はしてない、あまり。

 なぜなら後輩たちは極めて優秀だからだ。

 1年後輩のウィルと御影。

 2年後輩のアルマとフォン。

 彼らの戦闘力は既に世界有数であり、例えばウィルは去年の夏、聖国の一件でバルマクを下している。彼自身は気にしていないようだがつまりそれは各国において頂点に位置しているということ。

 御影は元々現在の皇国の同世代で最強であり、それゆえの皇国の皇位継承権第一位。

 フォンは連合の鳥人族に代表にも選ばれ、速度においては間違いなく世界最速。

 3人とも去年までは模擬戦をすれば割と勝ち越していたが、最近は押され気味。

 何よりとんでもないのはアルマ・スぺイシアだろう。

 あの人形染みた美貌を持つ少女は別格だと、パールは思う。

 底が見えないのだ。

 何ができてもおかしくない。

 そういう底知れなさがある。

 ウィル、御影、フォン相手なら本気で戦ってもなんとかなると思う。

 親友であり生徒会会長であるカルメンには無理をすればいけるかも。

 先輩であるトリウィアは数年修業に専念すれば勝てるかも。

 

 けれど―――アルマには何年研鑽しても勝てる未来が見えない。

 

 後輩はそういう存在たちだ。

 

「うーん、頼もしすぎて申し訳ないなぁ」

 

 何せ去年の一件で彼らには多大な借りができた。

 返したいと思うが彼らは本当に優秀で、自分にできることは少ない。

 

 

 もう卒業が近い。

 来週になれば三学期が始まり、二か月後には卒業式。

 この時期になると3年の生徒会にやることはなく、2年に引継ぎだけ。

 休み明けの生徒会の仕事は新1年生への入学試験の監督であり、自分とカルメンは大体の仕事を任せることになる。

 ウィルと御影ならうまくやるだろう。 

  

 この借りは将来聖国の教皇になって返したいと思う。

 明るい未来、綺麗な砂漠、民衆に優しい政治。

 ウィルは王国の貴族になったわけだし。

 何か事業をやるなら聖国として全力でサポートしてあげたい。

 

「さてはてー」

 

 そんなことを思いながら生徒会の前に辿りついた。

 中から元気な声が聞こえてくる。

 もうすぐ卒業とはいえ先輩だ。

 なら先輩らしく不審者を拘束したという後輩たちを褒めてあげなければ。

 まだできることはある。

 そう思い、明るい笑顔を浮かべながら扉を開けて、

 

「うおおおおおおおおおおおフォン! フォン!? 血が! 頭に血が上る! 下がる!? 分かった! 理解したぞ!」

 

「本当に?」

 

「あぁ! ――――――お前は自分の意思でウィル・ストレイトの奴隷になったんだな? まさか親戚がそんな性癖に目覚めているとは……この変態め!」

 

「そい」

 

「ぐああああああああああああ目が回るううううううううう!!」

 

「いや、鳥人族が頭ひっくり返して目ぇ回すわけないでしょ」

 

「あはは……フォン、そこまでにしておいた方が……」

 

「わはは、こういう拷問私見たことあるぞ? ちょっとやらかした鬼種をこうやってつるして酒盛りしながらみんなで最大何回転するか競って遊ぶんだ」

 

「ふむ……しかし長時間遠心力を加えられた鳥人族がどうなるかは気になりますね。鳥人族の資料は本当に少ないですし」

 

「……………………」

 

 天井から魔法で吊り下げられた鳥人族らしき男を回転させるフォンとそれを見て困った様子のウィルとそれを見て笑っている御影とその隣で何やらメモの考え事をしているトリウィアとさらに背後で呆れたように額を抑えているアルマがいた。

 

「…………………………」

 

 数秒、固まった笑顔で部屋の中を見た。

 

「……ん? パール! よく来た待っていたぞ……!」

 

「あ、ごめん。私もうちょっとできることがなさそうだから……」

 

 

 

 

 

 

 帰ろうとしたパールをアルマが引き止め、そして彼女に対してウィルが出来る限りの説明をしているところを見ていた御影は一先ずお茶を淹れていた。

 

「えーと……つまり」

 

 一通り話を聞き終えてから頭を抑えていたパールは息を整え、

 

「フォンちの親戚がなんか学園に来てカチコミ来たけど最初はアレっちが相手して、ウィルちが引き継いで翼折ったけど復活して、なぜか飛べなくなったフォンちが精神攻撃したらシュークェがメンタルアップダウンしてからアルちゃんが縛り上げて撤収?」

 

「そうですそうです」

 

「それから拘束して事情を聞くために落ち着かせつつフォンちが折檻で釣るして説明という名の拷問に掛けていた……と」

 

「完璧ですねパールさん」

 

「…………」

 

 どこか遠くを見ていた。

 それから彼女はシュシュを外し、

 

「………………」

 

 つけ直して、

 

「………………そっかぁ」

 

 半笑いで息を吐いた。

 

「なんだ、今の外して付けて」

 

「いや、ちょっと真面目状態で対応したら受け入れられるかなと思ったけど別に人格変わったりするわけでもないからあんまり意味なかったなって」

 

「どうにか受け入れろ……!」

 

「いやぁ、流石に生徒会室で釣られた人がいるのはちょっとね……」

 

「ははは、そういうこともあるぞパール先輩」

 

「嫌だなぁ」

 

 げんなりしているパールの前にお茶を出す。

 皇国式の緑茶だ。

 実家から取り寄せた高級品であり、生徒会室には常備しているものではある。

 御影はお茶を淹れるのが好きだ。

 生徒会面子の嗜好はわりとバラバラではあるものの、個性が出ていて面白い。

 ウィルは何気に甘いのが好きで、

 

「ほらウィル。抹茶オレ」

 

「ん、ありがとう御影」

 

 緑茶と牛乳、砂糖を混ぜたものを好む。

 珈琲も砂糖を入れる派だ。

 

「うーん、美味しい。皇国のお茶は独特の苦みと風味が凄いね。嫌な苦みじゃないというか」

 

「ふふふ、淹れる腕がいいのさ」

 

「さっすがー。お茶といえば、アレっちは?」

 

「あいつなら逃げたよ」

 

 憮然とした言い方をするのはアルマだった。

 彼女はウィルの隣で彼女用に通常の30倍くらい濃縮した緑茶を啜りつつ、

 

「スーツが焦げたとか言ってクラスメイトと帰っていった。あれは今日来ないつもりだぞ」

 

「へぇ、残念だねぇ」

 

「流石に冬休みともなれば全員は集まりませんね」

 

「だなぁ」

 

「カルメン先輩はどうしてるんでしょうか」

 

「あー、寝てるんじゃない? あの子休みの日は昼まで寝てるし」

 

「1年から相変わらずですね。……あ、どうも御影さん」

 

「うむ。アレスがいないから私のだが」

 

「いえいえ、御影さんのも美味しいです」

 

「ぐああああああああああ―――ぁぁぁ――……」

 

「あ、落ちた?」

 

「そう言ってもらえると嬉しい。……おい、フォン。その遊びはもういいだろう、お茶置いておくぞ?」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 トリウィアに渡したのは少し濃い目、フォンにはパールと同じ香辛料と乾燥した果物を混ぜたフレーバー入りだ。

 後者は皇国には無い飲み方だが、

 

「アレスが即席用を作り置きしてたから助かるな」

 

「おー、流石。こういう色んな香りある方がなじみ深いんだよね。連合はやたらハーブ使うし」

 

「ねー。聖国的に香辛料の風味は助かる。いやぁアレっちが生徒会入ってくれたおかげで飲み物事情が随分豊かになったよ」

 

「確かに、私もあれやこれや置くだけ置くようになったなぁ」

 

 去年の夏、世話をかけた礼として茶器やら茶葉やらを生徒会室に置くようになってから、アレスは生徒会室に入り浸っている。

 自分たちの作業中にそれぞれ好みに合わせたものを入れてくれるし、自分から会話を積極的にというタイプではないにしても話しかければ応じる。

 バカをやっていればツッコミも。

 ウィルと似て口数は少ないが、御影の未来夫はどちらかというと天然ボケで後輩は苦労性のツッコミ役である。

 可愛い後輩なのだ。

 それに関してはこの場にいるみんなの共通認識だろう。

 さっきのトリウィアの発言はアレスを生徒会として含んでいるものだったが誰も否定していない。

 本人がいたら全力で否定しながら唸っていそうだが。

 

「それで」

 

 茶を飲み、一息ついたパールが周りを見回して言う。

 

「なんでその不審者を生徒会に?」

 

 

 

 

 

 

 

「一応、規則的には拘束した不審者は生徒用の反省室に一時隔離して憲兵に突き出すって手筈だけど。わざわざここに連れてきたってことは意味があるんだよね?」

 

 パールの指摘をトリウィアはソファの背もたれに裏側から腰を預けながら聞いた。

 体を半身で振り向き気味で会話を聞く形だ。

 歓談用の3人がけソファは中央に机を挟んでおり、向かい側にはフォン、ウィル、アルマが並んでいる。

 こちら側は真ん中にパールがいて、フォンの正面にお茶を配っていた御影が今腰掛けた。

 ちなみにソファやテーブルの奥に吊るされたシュークェがいる。

 そして自分だけはアルマの正面の位置でソファに座らず、背もたれの後ろ側。

 なぜなら。

 この方がかっこいいと思うからだ。

 そして向かい側のウィルからはベストアングルである。

 彼女は珍しく煙草を吸わず、お茶の香りを楽しみながら口を開いた。

 

「その通りなんですが、ちょっと気になることがあったので」

 

「へぇ、トリ先輩が?」

 

「はい」

 

「……」

 

 返事をしたら彼女はこちらに振り返ったが、すぐに眉を顰め、

 

「先輩? そこ話し難いですよ?」

 

「なんと―――?」

 

「いやそりゃそうだろ。僕からそうだ……パールに対する応えとしても位置的にも」

 

 同意してくれたのは正気でない濃度の緑茶を飲んでいるアルマだ。

 彼女の横目の視線はフォンと目を回して意識が朦朧としているシュークェに。

 

「そちらの彼は憲兵に突き出せば終わりだけど、聞きたいことがある。気になることを言っていたからね」

 

 それは、

 

「フォンの不調に関して『気が乱れている』とか『仙術』とか≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫、とか」

 

「それは―――」

 

 並べられた単語、特に最後の一言にパールもまた反応した。

 それは特に彼女にとっては無視できないだろう。

 なぜならば

 

「≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫、カルメンさんの実家……というより龍人族の里のことですね。亜人連合の最果て、現存する最後の御伽噺」 

 

 トリウィアにとって人生で一度は行ってみたい場所の一つだ。

 この世界における全ての生物の最上位種であり、もっとも希少な龍人族の里。

 学術的興味がそそられないわけがない。

 学園でカルメンという後輩もいるので行くことはトリウィアにとってそれは願望ではなく予定でもある。 

 

「カルメンのとこから来た……って鳥人族が? 龍人族と交友あったの?」

 

「まさか。私らからしてもほとんど御伽噺だよ。≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫にだって関わってこないし。初めて会った龍人族がカルメンだし」

 

 首をかしげた彼女はウィルに自然に体重を預けている。

 いつもはポニーテールの髪は下ろされて、なんだか弱々しい。

 ひとまず落ち着いたようではあるが、それでもまだいつも通りというわけではないう。

 

「シュークェは3年前に急に私たちの里を出て行ったんだ。この人はなんというか……鳥人族的に見てもちょっと変わってて、飛ぶ以外の武術もかなり好きだったり、魔法も風より炎が得意だったりしたんだよね。あと性格も鬱陶しいし」

 

「あ、やっぱ鳥人族的にもあれはあれなんだ……」

 

「うん、うざいよね。主も言葉を選ばなくて大丈夫だよ!」

 

 辛辣さが随分増しているような気がする。

 

「……ふむ?」

 

 気がしたのでちょっと振り返ってみるが、そういえばフォンはトリウィアに対してそこそこ辛辣だった。

 部屋が汚いとか、創作料理を作るなとか。

 わりと去年の初めから尊敬度が薄れていたような気もする。

 

「おや……?」

 

「多分どうでもいいこと考えてるから言うが―――トリウィア、話を進めろ」

 

「はぁ」

 

 アルマに言われたので話を進める。

 

「≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫について聞きたいということがまず理由の一つ。それから仙術と気、という単語ですね」

 

「トリィ、仙術っていうのは? 魔法とは違うの? 気はなんとなくイメージできるけど」

 

「良い質問だね、ウィル君」

 

 そう、問題はそこだ。

 

「仙術というは亜人種の生態的特徴を生かした魔法―――()()()()()()()です」

 

「そうなの?」

 

「あー……なんかいつだったかちらっとカルメンが言っていたような……?」

 

「えぇ、私も彼女が入学時に聞きました。フォンさんが聞き覚えない通り、現在亜人連合ではもう使われておらず、人種の本で一部残るくらいですね」

 

「ふむ。皇国が魔法を鬼道と呼ぶのと似たようなのか?」

 

「えぇ。究極魔法を始め、国によって呼び方が違うのはよくあることです。ですが、この場合確かな違いはあります。鬼種は強度や生態は人種と強度が桁違いですが角以外は構造的には基本的に同じでしょう?」

 

 ですが、

 

「連合の亜人種は肉体構造から違うのが基本です。細かいことを言うとエルフ種は鬼種に近いですが耳部の性能がまるで違いますね。そういったそれぞれの身体特徴を起点とした魔法が仙術とされています」

 

「ふむ、例えば?」

 

 取り出したノートを開きながらアルマが問う。

 握っている万年筆は真新しい。

 ウィルがクリスマスに誕生日プレゼントとして贈ったもの。

 数日後、トリウィアからはレアな学術書の初版本を何冊か贈ったりしたなと思い出しつつ答えた。

 

「そうですね。聖国で龍化したカルメンさんが周囲の威圧をしていたでしょう? あれもそうです。或いは……フォンさんがたまに翼を広げたまま空中に浮いているのもそうです」

 

「あぁ、空を掴むこと。ふぅん、あんまり自覚なかったな」

 

「…………ふむ」

 

「うん? どうしたのトリウィア。首が痛くなった?」

 

「いえ、違います。……こほん、そうですね。カルメンさんに話を聞いた時についでに連合出身の生徒に聞きましたが、やはり言葉に聞き覚えはないそうです」

 

「つまり、言葉として風化……というよりも共通単語に吸収されたというわけか」

 

「はい、そういうことだと思います」

 

「ふむ」

 

 アルマは軽く顎を上げ、そこにペンを当てた。

 

「珍しいね、トリウィア。君にしては少々曖昧な言い方だ」

 

「……えぇ、まぁ」

 

 苦笑する。

 流石に鋭い。

 というのも、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん……まぁそれもそうか」

 

「あー、いくらトリ先輩でも翼とか尻尾とか鱗とかないもんねー」

 

「魔法で似たようなことはできますが、結局ただの魔法でしたし」

 

 試したんだ……という視線に肩を竦め受け流す。

 この辺りは自分の性質によるものだ。

 知りたいと欲は誰よりも強い。

 だが、そこから先は得意不得意可能不可能有用不要がある。

 仙術はトリウィアには再現できず、必要でもなかったという話。

 

「トリ先輩の話はおもしろいけどその不審者とはどういう関係?」

 

「えぇ、大事なのはここからです」

 

 お茶を一口飲み喉を潤す。

 解説の時大事なのは溜めだ。

 このわずかな間で皆の視線を集めさせる。

 そして言う。

 

「仙術は私なりに解釈し、理解しました。気も同じように魔力の言いかえですね。ですが」

 

 それは解釈と理解だけ。

 もう廃れたものを人聞きで自分の中の枠に落とし込んだだけに過ぎない。

 ならば、そこにはまだ自分の知らないものがある可能性がある。

 

「彼はウィル君に翼を折られ、しかしすぐに復帰しました。―――つまりここにフォンさんが空を取り戻すヒントがあるのではないでしょうか」

 

 




パール
後輩有能だけどやっぱちょっと変なかも……

トリウィア
ふっ……かっこいい座り方!

アレス
めちゃくちゃ馴染んでいるけど
めちゃくちゃ馴染んでいると認めないけど
ほぼ毎日生徒会室に入り浸ってお茶入れマシーンになっている男

ちょっと切悪い感じだけど
続き長くなりそうなので分割しました。
本題は多分次回

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります。


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ゴー・フォー・キャピタル

 

 

2469:名無しの>1天推し

おん、どういうこと?

 

2470:名無しの>1天推し

あの鬱陶しい会話通じないのが鳥ちゃんの不調の原因分かる気がしないけどな

 

2471:1年主席天才

フォンと>1が最初に出会ったことを覚えてるかい?

 

2472:名無しの>1天推し

そりゃあ……

 

2473:名無しの>1天推し

そうそう忘れんでしょ

 

2474:自動人形職人

鳥ちゃんが亜人族の大会の代表だったけど、

怪我をしてしまって、彼女を保護した>1が

鳥ちゃんを奴隷にして代わりに出場……そんな感じでしたよね

 

2475:名無しの>1天推し

おー

 

2476:1年主席天才

そうそう

 

2477:名無しの>1天推し

懐かしいな

 

2478:1年主席天才

あの時の怪我は結構な深手だったが、治療自体は出来た。

だけどフォンは飛ぶことができなかったわけだ。

 

2479:名無しの>1天推し

はい

 

2480:名無しの>1天推し

そうね

 

2481:ノーズイマン

鳥ちゃん……というか鳥人族は耐久度とか低いんだっけな。

体重めっちゃ軽いとか骨がスカスカだとかよく聞くし。

 

2482:名無しの>1天推し

あー、なるほど。

なのにあの火の鳥男は羽砕かれたのにすぐ飛んだあたり

普通の鳥人種じゃないかもってことか

 

生物学的なのか仙術だか魔法的なのかは分かんないけど

 

2483:1年主席天才

うむ。そういうことだね

 

こいつの回復速度は鳥人族のそれではない。

そこに理由があるのなら、フォンの不調を治せるかもしれない。

トリウィアが言ったのはそういうことだ。

 

2484:2年主席転生者

よく、わかりました。

2485:名無しの>1天推し

>1

 

2486:名無しの>1天推し

ん?

 

2487:2年主席転生者

 

「シュークェさん」

 

「ぬっ…………なんだ……これは――――なんと!? いつの間にか天地が引くりかえっている!?」

 

「違います。貴方が逆なんです」

 

「なるほど」

 

 

2488:名無しの>1天推し

 

2489:名無しの>1天推し

急に冷静になるじゃん

 

2490:ノーズイマン

キィー! またおもしろ担当か?

許せなくて脳髄ひきつるわ

 

2491:名無しの>1天推し

グロいな……

 

2492:ノーズイマン・デフォルト

仕方ないな……これでいいだろ?

 

2493:名無しの>1天推し

そういうことじゃないよ!

 

2494:2年主席転生者

 

「話をしましょう、構いませんか?」

 

「ふむ…………いいだろう」

 

 

2495:名無しの>1天推し

おぉやっと会話になるのか

 

2496:自動人形職人

にしても向こうはつるされてるのでどうにも絵面が酷いですね……

 

 

 

 

 

 

 

「確かに絵面が酷いな……」

 

 フォンはぼそりと呟いたアルマが指を振るのを見た。

 同時、シュークェの体の拘束が消える。

 ついで彼女はもう一度指を振ろうとし、

 

「――――不要」

 

 その場でシュークェは体を回転させ自らの足で着地した。

 

「――――」

 

 僅かに空気が張り詰めた。

 御影もトリウィアもパールも僅かに目を細め、アルマでさえ感心したように息を漏らした。

 フォンもまた、驚く。

 シュークェの行動は翼を用いた()()だった。

 重力によって落ちるよりも早く、アルマが魔法で浮かせるよりも早く、翼で空を掴み、或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フォンは知っている。

 それは極めて難しく繊細な動作だ。

 空中で飛行中に回転するならともかく、位置自体は変えずに天地だけを入れ替える。それも周囲にそよ風すら起こさずに。

 

「……まじ?」

 

 フォンの知るシュークェはそんな繊細な飛び方ができる者ではなかった。

 不器用で、雑な翼の民だった。

 鳥人族では珍しい火に特化した属性と大柄な体。

 3年前、最高速度はそれなりだったが細かい空中機動は目も当てられず、それを練習するよりも武術を好む変わり者だった。

 だが今の動きはベストコンディションのフォンでもできるかどうか分からないもの。

 よくよく見れば、記憶にあるよりも体が大きい。

 ウィルよりもさらに頭一つ分背が高く、体格も一回りほど違う。

 目元と胸の刺青は見慣れたものだが、しかしかつてはなかった全身の傷跡に年月の流れを悟る。

 

「話か、ウィル・ストレイト」

 

「えぇ」

 

「いいだろう……このシュークェ、現状は理解した。貴様は鳥人族にとっては恩人。であれば聞こう、人間。このシュークェに何を問う」

 

「仙術、気。そして貴方はフォンを見て気が乱れていると言いました」

 

「…………おぉ、言ったな。見れば分かるからな」

 

「ならば、フォンが飛べなくなった理由もわかりますか?」

 

「……ふむ」

 

「お願いします、教えてください」

 

 そして、見た光景にフォンは思わず立ち上がった。

 

「あ、主!?」

 

 ウィルがシュークェに向かって頭を下げたのだ。

 それも腰を直角に曲げるほどの深いもの。

 

「な、なんでそんなことを! しなくていいんだよ!?」

 

「いいや、僕がしないと」

 

 なぜならと口にしながら、それでも彼は姿勢を崩さなかった。

 

()()()()()()()()()。だったらいくらでも頭を下げるよ」

 

「―――」

 

 体が止まった。

 ただ、喉が震えた。

 何かが漏れそうになり、けれどそれを何かが押しとどめた。

 何故か、嫌なものはなかった。

 

「……ふむ。顔を上げよ、ウィル・ストレイト」

 

「教えていただけますか?」

 

「答える為に、頭を上げるが良い。一族の恩人に対し頭を下げたまま話すわけにはいかん」

 

「……分かりました」

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 シュークェと向き合う主の背中だけが見える。

 

「まず言っておくがウィル・ストレイト。俺はフォンが不調であり、飛べぬということは分かる。仙術を修めた今、お前たち人種には見えぬ気の流れが見える故に。そして―――フォンもまた同じものを修めればまた飛べるであろう」

 

「なら……!」

 

「だが!」

 

 シュークェが腕を組む。

 

「俺がフォンの不調を治せるというわけではない。仙術は修めたが、しかし他人に教えられるものではない」

 

「……です、か」

 

「故に、俺に分かるのは誰が治せるかということだけだ」

 

「――――どなたですか?」

 

「応えよう」

 

 彼は頷き、

 

「俺が仙術を学びし≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫」

 

 そしてと、彼はもったいぶるように息を吐き、

 

「その主、大いなりし≪天宮龍≫エウ――――」

 

「おいっすー! 重役出勤のワシが来たぞ! アレス、お茶――おらんのか。おん? おぉん!? どうしたフォン!? めちゃくちゃ気ぃ乱れておるではないか! それではまともに空飛べんじゃろう! いかん! これはいかんぞ! こりゃあワシの地元の≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫に帰ってワシの爺様の≪天宮龍≫エウリディーチェに仙術教えてもらわんといかんのではないか!?」

 

 シュークェが無言で膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……!」

 

 不死鳥の内心は荒れていた。

 理由は簡単だ。

 

 ――――今、かなり自分はかっこいい感じで大事なことを言う雰囲気を創れていたからだ。

 

 赤髪の少年とは引き分けでいいだろう。

 ウィル・ストレイトとも引き分けとしておこう。

 だが銀髪の少女には敗北だ。

 あれは拙い。

 本能が叫んでいる。

 ()()()()()()()()()()()()()

 それこそ≪天宮龍≫エウリディーチェに匹敵、凌駕しかねないほどの危険を感じる。

 なのでこの敗北は認めておく。

 だが、今この瞬間、会話の流れは間違いなく自分にあった。

 フォンの主の誠意も伝わってきた。

 なるほど、悪い人間ではない。

 自分にあそこまで真摯に語り掛けてくるのは珍しい。

 わりと良い奴ではないか?

 もうちょっとちやほやしてくれるかどうか確かめてから判断してもいいかもしえない。

 シュークェは自分を褒めてくれる人は大体好きだ。 

 ウィルはかなり好きになれそうな気配がある。

 かなりかっこいい位置で座っている眼鏡の女もそうだ。

 だが。

 だがしかし。

 

「カルメン・イザベラ……!」

 

 こいつはダメだ。

 

「おん?」

 

 赤い髪をポニーテールとし、そこから龍の双角を生やす女だ。

 自分よりも背が高い女は、龍の里では珍しくなかった。

 例えエウリディーチェの孫娘だとしても敵は敵だ。

 故にこちらを見た彼女を睨み付け、

 

「ほう」

 

 彼女は一つ声を上げた。

 

「良い気を持っておるな。大したものだ、よく練れておるのぅ。≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫の外ではそうそう見ん領域だぞ」

 

「…………ふっ! そうであろう! 貴様からもいい気を感じる!」

 

 やっぱり良い奴かもしれない。

 

 

 

 

 

 

「…………なるほどのぅ」

 

 生徒会室の奥に置かれた生徒会長用の机に肘をつくカルメンはお茶を飲みながら頷いた。

 湯呑を置き、特注の大きなサイズの椅子に背中を預ける。

 

「そちらの≪不死鳥≫のと同じで、わしも不調の原因までは分からんのぅ。アルマ様から見ても悪い所はなかったんですじゃろ?」

 

「一応は。君たちの言う気と僕が見たものが同じかどうか分からないから仙術や気も聞いてみたいところだ」

 

「私としても気になりますね。やはり私が知っている仙術と今カルメンさんとシュークェさんが言っている仙術は別ものなんでしょうか」

 

「うーむ」

 

 言われた言葉にカルメンは腕を組んだ。

 胸の下で支える様にし、首を傾げる。

 

「仙術の話はいつだったかした通りじゃ。トリウィアは一先ず納得したし、ワシも学園じゃまず見ないから言葉にも出さんかったが……そうじゃのぅ。別と言えば別?」

 

「正確に言語化できますか?」

 

「難しいのぅ」

 

 理由はある。

 できれば言葉にして、なんなら自分がフォンを治してあげたいが難しい。

 

「このあたりどうしても亜人種にしか体験できないものじゃ。龍人族は当然の様に使えるし、亜人種はごく一部だけというのが学園に来る前のワシの認識じゃ。だが今ではトリウィアの認識が基本であるとワシも思っている。そもそもそういう共通語を学びに学園に来てるわけじゃし」

 

「ふむ……なるほど。正確に聞くならば≪天宮龍≫に問うのが良いと?」

 

「左様。お爺様ならば間違いない。ワシも教えてもらっていないことが多いからのぅ」

 

「となると≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫に行かないとだけど……難しくない?」

 

 パールがテーブルの上で一枚の髪を広げ、隣からのぞき込む御影が頷いた。

 

「三学期の予定表か」

 

「そーそー。三学期の行事は学年末テスト、それとほぼ平行しつつ直後に入学試験。あとは卒業式かな。三学期はこの三つの行事で生徒会は忙しくなる。その上で問題は、春休みが来週には終わるということ」

 

「≪龍の都≫とやらにはどれくらいかかるんだ、カルメン先輩?」

 

「遠いぞ」

 

 問われて思い出す。

 カルメン自身が王都に来た時は連合の首都まで龍化し、それからは人種と同じ道で来たが、全てを人の足で行ったとしたら、

 

「数か月は掛かるかものぅ。連合の西の果てのさらに果てじゃ。物理的距離以外にも地形的に山の上じゃからそこで時間も食う。≪不死鳥≫の、お主は王都までどれくらいかかった?」

 

()()()

 

 短く答えたシュークェはしかし眉を腕を組み唸る。

 

「だがこれはこのシュークェが飛んだ上でだな」

 

「人の移動方法ならカルメン先輩の言う通り数か月、というところか」

 

「とんでもない辺鄙な所にあるからのぅ」

 

 自分の実家だが、秘境も秘境だ。

 連合の亜人種どころか人種が龍人族を珍しがるのは単純に物理的に生活範囲が遠すぎるからだ。

 人種は交通環境をそれぞれの国家で発展させているが、≪龍の都≫はその範囲外だ。

 

「…………それでも」

 

 静かな、けれど確かな声が響いた。

 彼は状況的に難しいことを分かっている。

 だが、それでも、だとしてもと。

 その黒い目は真っすぐに意思を見せている。

 人種の目だ。

 龍人とは命の総量も寿命も力も体も違い、か弱き人なのに。

 意志を以て不可能に挑む人。

 それは若いとはいえ龍人種であるカルメンには好ましいものだ。

 

「必ず行きます。フォンの翼を取り戻せるのなら」

 

「……主」

 

 彼の隣、髪を下ろした彼女は不安げに主を見上げている。

 普段の活発な様子はなく、やはりカルメンも違うなと思う。

 

「ふむ」

 

 助けてあげたいとは思う。

 

「じゃが実際日程に関してはどーするんじゃ? ほっぽりだして向かうか? ワシはまぁ卒業するし別に構わんが」

 

「それは……」

 

 顔が曇る。

 それはできないだろうなと、カルメンも思った。

 一つ下の後輩は責任感が強い。

 2年間一緒に生徒会の仕事をこなしているのだ。

 入学当時は不慣れな仕事を御影やトリウィアに支えてもらいながらなんとか、それでも一つ仕事を熟すたびに学んでいった。

 真面目なのだ。

 そう振り返るとあんまり彼にしてやれたことが少ないので何かしてやりたいと思うが物理的な距離と時間はどうしようもない。

 

「うーむ」

 

 どうしたものかと思いながらお茶を啜り、

 

「………………カルメン」

 

「はい、アルマ様!」

 

「ちょっとおでこ貸してくれ」

 

「はい? はぁ。はい」

 

 自分の前まで来たアルマに対して頭を下げる。

 なんだろうと思っていたら、

 

「ふ―――ふぉっ!? あ、アルマ様! お顔が! ふぉぉお、顔が良い」

 

「うるさいなちょっと黙ってろ」

 

 彼女の額と自分の額がくっつけられる。

 至近距離。

 アルマ様、ちょっと顔が良すぎませんか?

 鼻息が荒くなる。

 良い匂いがする。

 何の匂いかと思い、さらに鼻から息を吸おうとした瞬間に彼女が離れた。

 

「ぁ――――」

 

「なんて声出してるんだ」

 

 彼女は嘆息し、それからウィルたちに向き合った。

 そして言う。

 

「距離も時間も問題ない。――――()()()()()()()()()()。それで解決だ」

 

「―――」

 

 驚きは全員分。

 ただし二種類。

 自分とパール、シュークェはそんなことができるのかと目を見開いた。

 だがウィル、御影、トリウィア、フォンはそうするのか、というような驚きだった。

 それくらいできることは知っているけれど、彼女がそれを選ぶとは思わなかったという驚き方だ。

 

「……え? アルちゃんそんなことできるの?」

 

「できる。悪いがカルメンの記憶を覗いて場所を見た」

 

「え? アルマ様そんなことできるんですじゃ?」

 

「できる。知らない場所に転移するのは難しいが、記憶を辿って位置を把握するなら可能だ」

 

 言って、彼女は軽く顎を上げ、

 

「去年の聖国の時は出来なかったけどね。あまり関係者を増やすわけにもいかなかったし」

 

「くくく、なぁに気にするな。フォンが頑張ってくれたし、フォンが間に合わなかったら、それはそれとしてフォンを対象に門を開けていただろう?」

 

「君も詳しくなったな」

 

 肩を竦め、そして彼女はウィルを見る。

 

「ウィル」

 

 一言名前を呼んだ。

 それだけで十分と言わんばかりに。

 

「はい―――ありがとうございます」

 

 彼は首を軽く傾けてほほ笑み、

 

「ん」

 

 彼女は小さく顎を上げてその言葉を受け取った。

 そして彼は順番に生徒会の面々を見回した。

 最後にフォンを見て、

 

「ぁ……」

 

 彼女はまた、何かをこらえるような顔をした。

 それをウィルはどう思ったのだろうか。

 ただ彼女の下ろされた髪を撫で、

 

「――――行きましょう、≪龍の都(カピタル・デ・ドラーゴ)≫に」

 

 

 

 




シュークェ
自分を褒めてくれる人が好き
真面目に話せないことはない

フォン
何かが、溢れそう

というわけでフォン編は龍人族の里でのお話になります。

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ナイス・トゥ・ミーツ・ドラゴン

 

「…………ほど。どうやら余のせいで迷惑をかけたようだ」

 

「いいや。押しかけたのはこちらだからね。むしろ申し訳ない」

 

「気にしないで欲しい、魔術師殿。客人は歓迎したいと余は常々思っている。このような僻地故、中々ないことではあるが。それもそなたのような偉大な方にまみえるとは。長く生きたが、己よりも巨大な存在を見るのは久しぶりだ」

 

 話し声が聞こえてきてウィルは目を覚ましたことを自覚した。

 

「――――ぅんん?」

 

 目を見開けば視界が揺れている。

 広大な空間にウィルは仰向けで倒れていた。

 天井は鍾乳洞かなにかなのか多くのつらら石が伸びており、表面に苔らしきものがびっしりと生え発光していた。少し薄暗い気もするが問題になるほどでもない。 

 

「―――はっ、く」

 

 息を吐き、頭と胸の奥に不快感と微かな痛み。

 乗り物酔いの感覚に近いものがこびりついている。

 呼吸を繰り返しながら、記憶を辿る。

 

 そう、確か。

 宣言通り、アルマの転移で≪龍の都≫に行こうとした。

 あの後、急いで荷物を纏めた。学校が再開するまで一週間あり、数日分の用意や冬服の準備をした。

 カルメン曰く≪龍の都≫は1年の半分は暑く、4分の1は暖かく、もう4分の1は厳しい冬。そして今はその厳しい冬の時期だという。

 そのあたりは手早く熟した。

 

 向かうのはパール以外の生徒会面子だ。

 彼女も同行したがったが、流石に始業直前に生徒会が1人もいないのはよろしくない。誰かは残らないといけなかったので、彼女から自ら名乗り出た。

 カルメンがウィルたちの旅の案内をするなら、自分はみんなを待つというのが自分のできることだと笑っていた。

 尚この場合、生徒会面子というのはアレスも含めて、だ。

 彼を軽い気持ちで誘ってみたら、存外乗り気だった。

 ≪龍の都≫というのはそれくらい、この世界では伝説的である場所なんだなと、ウィルは思った。

 

 それで―――そう、アルマの魔法陣で転移を行った。

 いつもの別空間に直結する空間の門ではない。

 長距離かつ他人の記憶を媒介にしている故に、集まったウィルたちの足元に広がった魔法陣が光り、転移が行われて、

 

「ウィル、目を覚ましたかい?」

 

「…………アルマさん。えぇと……ここは?」

 

 朦朧としている間に、いつの間にかこちらに来ていたアルマに助けられながら体を起こす。

 制服に赤いコートの彼女が背中をさすってくれる。

 その優しさを感じながら周りを見回した。

 

「………………神殿、ですか?」

 

 広大な空間にあるのは石造りの神殿だった。

 太い柱に囲まれた広場があり、その中央に同じく石の円卓がある。

 そこに見知らぬ女性が座っていた。

 視線をずらせば、

 

「みんな……!」

 

「大丈夫、ちょっと酔って気を失っただけだ。いくつか想定外があって……一先ずみんなを起こしてくれるかい?」

 

「……分かりました」

 

 頭を振りつつ立ち上がり、服の埃を払う。

 冬用の私服、ズボンやシャツの上に着ていた上着はほとんどダウンジャケットに近いもの。魔物からとれる表皮を素材としその中に羽毛を詰めた防寒具。

 その羽毛はフォンから抜けた羽根を加工したものであり、温かい。

 誕生日にフォンから貰った上着で、1年半分の抜け羽根を集めて贈ってくれた大事なものだ。

 そのフォンは近くに倒れていた。

 御影やトリウィアたちも広場に倒れている。

 みんな寝起きのような様子で起こされ、それからそれぞれ最後に目を覚ましたカルメンとシュークェは、揃って同じところに目を向けた。

 

「おーん?」

 

「むっ……」

 

 視線の先。

 石の円卓に座る女性。

 藍色の髪を高い位置で結び、伏せた目でウィルたちを見ていた。

 身に着けているのは古い形の皮鎧だった。

 魔法による防護に加えて服飾文化も発達し、部分的にアースゼロに近いこのアース111でも珍しい古典的な、動きを阻害せず体の各部位を守る武骨なレザーアーマー。

 円卓にやはり古い長剣を立てかけている。

 

 不思議な雰囲気の女性だと、ウィルは思った。

 同時に僅かな既視感。

 若い女性だ。二十代半ばかそれくらいだ。

 眼は閉じられているが造形は整っており、右の目元の泣き黒子が目に留まる。

 身長はトリウィアと同じくらいだろうか。

 ただ、そう。

 彼女は、

 

「……アルマさん?」

 

 ウィルにとって最愛の人に雰囲気が似ている。

 そんなことを思っていたら動きがあった。

 

「おー、お久じゃー」

 

「―――再びお目に掛かれて光栄です」

 

 カルメンが女性に向かって手を振り、シュークェは膝をついた。

 そして言った。

 

「―――()()()!」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「うむ。久しいな、二人とも」

 

 静かに女性――――エウリディーチェは目を伏せたままに頷いた。

 

 

 

 

 

 

「え、えぇと……貴女が、エウリディーチェ様……でいいんですよね」

 

 アルマは彼女に問いかけるウィルの様子に内心苦笑した。

 円卓の奥にエウリディーチェが座り、対面を他の8人で半円状に囲む形だ。

 それぞれの前には眠気覚ましにアルマが出したそれぞれの好みに合わせたお茶やコーヒーが。

 エウリディーチェも果物の果汁を混ぜたワインのグラスを片手にしつつ答えた。

 

「いかにも。余が龍人の祖にして長、エウリディーチェである」

 

 なにせ、静かに頷く彼女はどう見ても人間のそれだ。

 カルメンのように角や鱗があるわけでもない。

 一見、ただの女性にしか見えないだろう。

 

 だが、アルマには分かる。

 ≪天宮龍≫エウリディーチェ。

 なるほど―――()()()()()

 彼女をして思わず目を見張るほどの存在強度を持つ。

 だが、初見のウィルたちは困惑の色の方が強いだろう。

 

「……えぇと。お爺様と聞いていたのでてっきり男性かと……」

 

「うん? 何を言うてるかウィル。お爺様はどう見てもお爺様じゃろ」

 

「いや、どう見ても女性ですが?」

 

「はぁ? そりゃどう見ても女じゃろ、今のお爺様」

 

「……」

 

 ウィルは黙り、アレスから呻き声が上がった。

 

「こほん……カルメンさん。親類の方がいる前で言うのもなんですが、何も知らない我々と既に知っている貴女とでは認識の差異があります」

 

 トリウィアは眼鏡を抑えながらカルメンを制止、しかしその眼はエウリディーチェに向けられ、輝いている。

 未知の欲求が止まらないのだろう。

 無理もない。

 

「質問をよろしいでしょうか、エウリディーチェ様」

 

「許そう」

 

 尊大な物言いだが、しかし彼女はにっこりとほほ笑んだ。

 

「貴方はカルメンさんの祖父と伺いました。ですが、貴方は女性に見えますが……」

 

「時間の流れは余にとっても残酷であり無慈悲だ」

 

「……」

 

 問いに対する答えにトリウィアも、他のみんなも面を食らったが、エウリディーチェは流暢に言葉を紡いだ。

 

「余は悠久の時を生きている。故に多くを知りながら、多くを忘却した。それは万物に対する妙薬であり、同時に猛毒でもある。それは余にとって最愛を記憶から摩耗してしまうほどだ。幾星霜の月日が流れ、新たなる愛を得ることもあるが、原初の喪失は受け入れがたい。故に余は我が愛を忘却に流さぬよう、こうして名を借り、己が身で姿かたちを体現しているのだ」

 

「………………」

 

「…………ふむ? 少し分かりにくかったかな」

 

「そうだね。簡単に言うと」

 

 アルマは首を傾げエウリディーチェから言葉を引継ぎ、

 

「彼女はかつて愛した女性を忘れないように、その名前と姿を借りているということだ。そうだろう?」

 

「左様。流石であるな、魔術師殿」

 

「どうも」

 

 

 

 

 

 

2799:ノーズイマン

つまり過去嫁姿のTSってこと!?

やべーじゃん、ただでさえ天才ちゃんはTS(笑)なのにキャラ被ってるって!!

 

2800:名無しの>1天推し

マジで黙れ

 

 

【『ノーズイマン』さんがスレッドから強制退出されました】

 

2801:名無しの自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し

そんなことできるの!?!?!

 

 

 

【『ノーズイマン』さんがスレッドに入室しました】

 

2802:ノーズイマン

滅茶苦茶びっくりしたぞ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「こほん。それからまだみんな困惑が抜けていないだろうし説明するが、転移に関しては成功したが、ちょっとトラブルがあってね」

 

「うむ。余はこの都に外敵に対する結界を張っている。それと魔術師殿の転移が反応し、そなたらは意識を失ったのだろう。申し訳ないことをした」

 

「いや、手順を省いて乗り込んだのは僕たちだしね。快く受け入れてくれた君には感謝をしたい」

 

「先ほども言ったが客人は歓迎している。このような形で訪れたのは魔術師殿たちが初めてだったからむしろ喜ばしいことだとも」

 

 エウリディーチェはその客人たちを見回しにっこりと笑っていた。

 

「魔術師殿たちからそなたらの事情も聴いた。そこの鳥の娘よ」

 

「は、はい!」

 

 呼ばれたフォンの体が跳ねる。

 明らかに困惑し、緊張していた。

 髪を下ろし、コートを羽織った彼女に対してエウリディーチェは微笑みかける。

 

「飛べなくなったと聞く。そしてその解決のために、余の下に訪れたと」

 

「ぁ……は、はい」

 

「安心するといい。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!」

 

 今度はフォンだけではなく、シュークェとカルメン、アルマ以外が体を微かに震わせた。

 あからさまな反応をしなかった3人も安堵の息を吐く。

 

「――――ん?」

 

 その瞬間、空気が弛緩した中でアルマはふと奇妙なものを見た。

 フォンの表情だ。

 彼女のそれは驚きでも喜びでもない。

 困惑。

 何に対してかは分からなかったが、確かな戸惑いの色がある。

 気になり、中止するよりも先に思わずという様子でウィルが立ち上がった。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「うむ。……ふむ? ……ふむ」

 

 頷き、エウリディーチェは眉をひそめてからもう一度頷き、

 

「何故そうなったは、長い話になる。老人の昔話に付き合って欲しい。これはカルメンやシュークェにもまだ話していないことだったが良い機会であろう。お前たちも聞いておけ」

 

「はっ! ありがとうございます!」

 

「マジですじゃ?」

 

「マジだ。…………というかカルメン、なんだその話し方は」

 

「ははーん、これが人里の流行ですぞ?」

 

「……」

 

 エウリディーチェは黙ってアルマを見た。

 アルマは無言で首を振った。

 

「…………………………はぁ」

 

「な、なんですじゃその重苦しい溜息は!?」

 

「いや、態々口に出すまい。そんなことより」

 

「そんなこと!?」

 

「諸君」

 

 カルメンの叫びは完全に無視された。

 

「長い話になる。魔術師殿が茶を出してくれた。だが……その前に、そなたたちの名前を聞いておきたいな」

 

「―――――あっ!」

 

 反応はそれぞれだった。

 ウィルは赤面し、御影は何故気づかなかったのかと髪を掻き、トリウィアは己の失態から癖によるのか煙草を取り出そうとして流石に失礼かと手を止め、フォンは慌てて、アレスもまた僅かに赤面。

 エウリディーチェとアルマはそんな様子を見守っていた。

 転移による意識の混濁と状況に対する戸惑いのせいだ。

 無理もないとアルマは思ったし、エウリディーチェも同じように思っていた。

 それぞれ立ち上がりかけ、

 

「あぁいや。なるべく気楽に話したい。立ち上がらなくてもいい。それとそちらの人間の娘、煙草を吸っても良い。気にするな、余はその程度で怒ったり気分を害したりなどせん。ただ、名前を教えてくれると嬉しい」

 

「だ、そうだ」

 

 言葉に彼らは一度顔を見合い、最初に口を開いたのは御影だった。

 彼女はエウリディーチェの意を汲んで座ったまま、しかし頭は下げる。

 

「……天津皇国第一皇女、天津院御影です。偉大なる≪天宮龍≫エウリディーチェ様。お会いできたこと我が片角の下に感謝を。それから名乗らずの不敬にお詫びを申し上げます」

 

「良い良い、気にするな。鬼の姫か、良い角と覇者の気概を感じる。鬼の国の未来は明るいようだ」

 

「ヴィンダー帝国、フロネシス家長女トリウィア・フロネシスです。伝説に対しご尊顔を拝す光栄を」

 

「北の国の娘、言ったようにかしこまるな。余は所詮時代から取り残され、たまに顔を出す歴史の部外者よ。歴史を紡ぐであろうそなたに会えて私も嬉しい。どれ、煙草の火は余が付けてしんぜよう」

 

「えっ……あ……ど、どうも」

 

 そこまで言われて断ると失礼になるかと思い、トリウィアが煙草を咥えれば勝手に火が付き、何とも言えない表情で煙を吸って吐きだした。

 あれは多分味が分かっていないだろう。

 珍しい様子にアルマは噴出さないよう我慢するのにわりと苦労した。

 

「えと……フォンです。私の為に、ありがとうございます」

 

「その言葉はそなたの友人たちに言うと良い、鳥の娘。そなたからは懐かしい風を感じる。それゆえに、今のそなたがあるのだろうが」

 

「……?」

 

「そこも含めて、これから話すとしよう。よろしく、フォン」

 

「は、はい!」

 

「はいはーい! ワシ、カルメン・アルカラ! お爺様の孫娘じゃ」

 

「それはもう知っている。黙っておれ」

 

「ではこのシュークェが!」

 

「それも知っている。一人称で落ちているではないか。黙っておれ」

 

 龍の娘と鳥の男が揃って項垂れた。

 アルマはもう名乗ったので残ったのは二人だ。

 黒髪と赤髪の少年はそれぞれ互いに顔を見合わせ、

 

「…………アレス・オリンフォスです、エウリディーチェ様」

 

 先にアレスが名乗った。

 おそらく、話の張本人であるウィルを最後に回そうという配慮だ。

 

「ふむ」

 

 彼女は彼の名前に小さく首を傾げた。

 

「ゼウィスの息子か?」

 

「―――はい」

 

「そうか……歓迎しよう、偉大なる英雄の息子。結末がどうあれ、そなたの父には大戦時、世話になった」

 

「……そう、なのですか?」

 

「うむ。余も時として、この都を離れることがある。そして大戦時、我ら龍人族もまた人類として共に戦った故にな。今代のカルメンを始め、里の者を学園に送り出している以上、面識があっても不思議ではあるまい」

 

「………………なるほど。ありがとうございます」

 

「うむ」

 

 アレスは言葉を重ねなかった。

 ただ小さく頭を下げ、それをエウリディーチェも受け入れる。

 そして彼女は、真っすぐに正面に座っていたウィルを見る。

 それを彼も見返した。

 ウィルは名乗るために口を開き、

 

「――――()()()()()()()?」

 

「――――――――えっ?」

 

 問いに、息を漏らした。

 そして見る、彼女の右目が僅かに見開かれていることを。

 黒と白の目だった。

 それを斜めから見てアルマは皆既日食を思い出した。

 黒の中に白く輝く真円の輪郭が揺らめき、さらにその中漆黒の瞳孔が縦に割れている。

 人の目ではない。

 龍の目だ。

 

「父を知っているのですか?」

 

「如何にも。名は?」

 

「ウィルです。ウィル・ストレイト」

 

「ウィル。良い名だ。顔立ちはベアトリスに似ているが髪や目はダンテのものか。同時にアンドレイアの血が目覚めているのも感じる。さらには……ふむ。ここまで世界に愛された者を見るのは余も初めてだな」

 

「あ、ありがとうございます。え、えぇと……」

 

「ダンテについてか」

 

「は、はい。大戦に参加していたということでしたが……」

 

「うむ」

 

 彼女は目を閉じ、頷き、にっこりとほほ笑んだ。

 

 

 

「余は―――――ダンテに子を孕ませてくれと頼んだがフラれたのだ」

 

 

 

 ウィルは椅子に座りながら椅子の上で本当にひっくり返るという実に奇妙な芸当を見せた。

 

 

 




エウリディーチェ
最初の恋人の姿でTSしたドラゴンかつパパ世代ヒロインの一人。
つまり、元間女。
間男三銃士番外編。
いやこうするともう6人くらいいるんですが。
パパ世代敗北者七本槍の一人


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ミソロジー

 

2964:2年主席転生者

 

「余は何百年か置きに番いを得て、子を産む。カルメンの父は……600年ほど前だったかな」

 

「お爺様、男も女も関係ないですしのぅ」

 

「左様。余にとって肉体の性別は曖昧なものだ。気に入った人の子がおれば、それに合わせた性別に変え交わるだけである。20年前はそれがダンテだったという話だな。フラれたが」

 

……………………くぅ!!

 

2965:名無しの>1天推し

あぁ、>1が!

 

2966:名無しの>1天推し

なんか見たことがない反応を!

 

2967:ノーズイマン

このドラゴン……未来に生きてるな……

 

2968:2年主席転生者

 

「長く生きていればそういうこともある。少々余談ではあるが、こうしてダンテとベアトリスの子に出会えたことは私も嬉しい」

 

………………ぬぅ!

 

2969:名無しの>1天推し

うーんこの

 

2970:名無しの>1天推し

アレス君が凄い目で見てるよ

 

2971:自動人形職人

まぁ……そりゃ……

 

2972:名無しの>1天推し

俺らもびっくりだよ

 

2973:ノーズイマン

長く生きてると……そっか……そういうこともあるよね……そう……ふぅん……

 

2974:1年主席天才

なんだよ

 

2975:ノーズイマン

いや……やっぱ長命種ってそういう……

 

2976:1年主席天才

………………言っておくが

 

2977:1年主席天才

僕はウィルが初めてだよ

 

2978:名無しの脳髄自動暗殺童貞サイバーステゴロ公務覇者>1天推し

やったあああああああああああああああああああああああああ!!!

 

2979:2年主席転生者

………………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは話をしようか」

 

 何故かしかめっ面をしながら頬を染めたアルマと毅然さと正しい座る姿勢を取り戻したウィルを見ながら御影はエウリディーチェの言葉を聞いた。

 多分、掲示板で何かやり取りをしているのだろう。

 彼女は目を伏せたまま、柔らかく微笑み、

 

「余にとっては遠い過去であり」

 

 そして、

 

「――――其方らにとっては神話の物語を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 神話、と聞いて御影は自身の皇国に伝わるものを思い起こす。

 皇国におけるそれは≪神鬼道≫と呼ばれ、太古に大いなる鬼神が大海を自らの鉾でかき混ぜ大地を生み、その時に生まれた泡から多くの命が生まれたという。

 鬼神による創世神話だ。

 或いは、皇国の三大聖域に封印されたという三大神獣。

 蛇と狐と狗。

 現在においてそれぞれの聖域に眠っているとされているが、しかし本当にそうなのかは御影でも知らない。

 ただ聖なる場所であり、禁じられた場所であるが故に立ち入ってはならぬという御伽噺があるだけだ。

 

 御伽噺。

 

 けれど今、御伽噺であり、神話の張本人が目の前にいるのだ。

 

「遠い、遠い昔の話だ。何万年も前のこと。まだ人の子らが文明らしき文明を生まれる前」

 

 静かに、ゆっくりと龍は語り始める。

 

「あの世を、正確に言語化するのは難しい。今とは随分と違う。かつて、この世界において意味があり、概念があり、観念があり―――しかし、()()()()()()()

 

「……?」

 

 意味や概念、観念があり、しかし言葉がない。

 頭の中で繰り返したが意味が分からない。

 周りを見回すが、皆同じ様子だった。

 

「―――あぁ」

 

 ただ、アルマだけではその時点で全てを悟ったように息を吐いた。

 

「ふふ」

 

 エウリディーチェは笑い、

 

「神話の時代、余のような力ある生き物はひどく曖昧であった。自己認識が薄い、とでも言うのか。余らは生きているが生きてはいない。そこにいるがそこにはいない。ただ、それぞれが持つ意味を持って世界の影響を与える……そういうものだ」

 

 意味が分からん。

 だが、トリウィアが軽く右手を上げた。

 いつものブラウスに白衣とは違い、白いタートルネックのセーターに藍色の男性用のシンプルなジャケット姿の彼女は慎重に口を開く。

 寒くはないのかと思ったが、見た目重視らしい。

 

「…………物理的ではなく、霊的・概念的な存在だったということでしょうか? 確かに、言語化が難しいですが。連合の自然を神とし、信仰するもののような……?」

 

「ふむ。そう言って構わないだろうトリウィア。()()()()()、だな」

 

「……?」

 

 誉め言葉の意味をトリウィアは良く分からなかったらしい。

 御影からすれば話自体が良く分からなかった。

 霊・概念的。

 それを察したのだろう、口をはさんだのがアルマだった。

 

「難しく考えなくていい。それぞれ固有の系統を保有する強大な存在、くらいでいいかな。半分ほど現象……うーん、一日の半分くらいぼんやりしてる、みたいなところだ」

 

「そのような表現でいいんですか、スぺイシアさん」

 

「いいや、アレス。流石は魔術師殿だ、的確だな。確かに()()()()だ。ふふふ」

 

 アレスは納得してなかったが、エウリディーチェに言われては納得せざるを得なかったらしい。

 例によって何とも言えない顔をしている。

 いいのかぁと御影は思った。

 まぁいいだろうとも。

 

「ふむ」

 

 お茶を飲む。

 寒い所だと聞いていたので今彼女は冬装束だ。

 赤の冬用着物と黒の袴。それに外套として王国で購入した同じく黒い厚手のケープを羽織っている。

 それを見せたアルマが『大正浪漫……』と呟いていたがやはり良く分からなかった。

 そんなことを思い出しながらもエウリディーチェの話は続く。

 

「とかく、余らはぼんやりしていた。無論、現代にも在る生き物の祖先らは今と左程変わらない営みを送っているものもいた。そのような世が何万年も続いた。或いはそれは調和の保たれた世界であったであろう。生まれ、生き、死ぬ。ただそれだけだった。だが――――変化があった」

 

 それは。

 

「――――人が、生まれたのである」

 

 

 

 

 

 

 トリウィアは静かに興奮していた。

 神話。

 それはトリウィアにしても、確かめようがないほど過去の時代だ。

 彼女として神話と言えばなんだろうか。

 七主教の創世神話。

 創造神が七つの眷属神を生み世界が広がったというものだろうか。

 或いは帝国の最北の山脈。

 極寒にして最果ての氷の大地に眠るとされる巨人だろうか。

 今となっては確かめようがない。

 それを今、トリウィアは聞こうとしている。

 

「いつの間にか……そう、いつの間にか人というものは生まれていた。と言ってもやはり今とは違う。現代のような高度な魔法もないし石や木を振り回しておったな。だが―――かつてより変わらぬものがある」

 

 それは。

 

「――――()()。それがこの世の在り方を大きく変えた」

 

 言葉。

 強調された単語に、トリウィアは納得と戸惑いを得る。

 なぜならそれはあって当然のものだからだ。

 言葉があり、文字がなければ知識は蓄積も伝達もされない。

 日々読む本から得る知識もそうだし、口伝で伝わる魔法構築、個人が生み出した技法、直近だとウィルにこっそり御影と纏めている『夜の生活で何をしたら喜ぶのか』ノートだ。これは時が来ればフォンやアルマにも渡すつもりなので言葉がないと意味がない。

 だからそれは納得であり、そして今更言われるまでもないはずだという戸惑い。

 顔に出ていたのだろうか、そんな彼女にエウリディーチェは声をかける。

 

「不思議か、トリウィア?」

 

「……はい。エウリディーチェ様のような方が多くいるのなら、我々人の言葉がそこまで影響を受けるとは、私には到底思えません」

 

「――――くっ」

 

「……?」

 

 返事は奇妙なものだった。

 これまでのにっこり、という笑みではない。

 引きつる様な、何かを思い出すかのような苦笑だ。

 

「いや悪いな。……くくっ、人間とは全く相も変わらずだな。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ、そんなつもりは……!」

 

「いや、悪い。これは余の言い方が悪かったな。忘れてくれ。……話を続けよう。人が生まれた、言葉が生まれ、全てが変わった」

 

 果汁入りワインを少し飲み、話は続く。

 

「人が言葉を生み、余らのようなものらに接触するまでは何千年かあった。その間に人は文明を発展させ、社会を生んだ。やはり今よりも未熟ではあったが純粋ではあった。そんな彼らは、やがて余らの下を訪れ、語り掛け、そしてこう呼んだ」

 

 それは。

 

「――――神、とな。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてトリウィアは今度こそ困惑に染まった。

 

 

 

 

 

 

「――――おぅい」

 

 カルメンは自分の頬、冷や汗が流れたのを自覚した。

 とんでもないことを聞いている。

 どんなことを隠していたのだろうか、自らの祖父は。

 カルメンは自分が思慮深くはないということを自覚しているが、それでも知識がないわけではない。

 流石にトリウィアやウィル、アルマみたいに実技と学科、どちらも学年トップというわけではないが生徒会会長、現3年主席として実技はトップ、学科試験でも上位3位前後当たりの成績だ。

 だから宗教についても知っている。

 今この世界にある最大宗教は王国と帝国の≪七主教≫だ。

 次いで聖国の≪双聖教≫があり、皇国は≪神鬼道≫、それから連合では特定の名はなくとも神とした自然に対する信仰がある。

 それぞれに特色はあるが、共通していることはある。

 

 即ち、始まりに神がいて、神が人を作ったということだ。

 

 ≪七主教≫は神様が7つの色の主を生み出してそこから世界が生まれたとする。

 ≪双聖教≫は神様がまず昼と夜を生み、そこから七つの属性が分かれたとする。

 ≪神鬼道≫は鬼神が世界をかき混ぜ、そこから生命が生まれたとする。

 自然信仰は神である自然が動物と人を生み、そして最後に亜人を生んだという。

 

 それぞれに違いはあるが、神ありきで人類がある。

 なのに、エウリディーチェの話が真実なら、

 

「人があり……神が生まれたというのか、お爺様」

 

「左様」

 

「………………うぅむ」

 

 前提がひっくり返る様なものだ。

 龍人種にとってはエウリディーチェが神であり、それが人と交わり龍人が生まれたと言われているのにそれが逆だったなんて。

 視線をずらせば皆それぞれ驚いている。

 シュークェは分かっているのか分かっていないのか首を傾げいるのはどういう思考なのだろうか。

 アルマは何も言わず、何の感情も見せずにゆっくりとお茶を飲んでいた。

 パールが来なくてよかったなと思う。

 特に信心深い彼女が今の話を聞いたのなら、どれほどの衝撃を受けただろうか。

 

「―――言葉だ」

 

 エウリディーチェは同じ単語を繰り返す。

 

「我らにとって言葉はないものだった。だが、人は言葉を以て我らを定義づけた。神、或いは火や水、太陽や雨、大地、風、龍。あらゆる言葉で我らに名を与え―――それによって我らは定義されたのだ」

 

 

 

 

 

3004:2年主席転生者

 

「先に言ったように、我らは曖昧な存在であった。自意識すら危うく他者との区別でさえもな。だが我らは名を得て、言葉を知り、自らがいかなるものかという定義を得た。それが個というものを生んだのである」

 

 

3005:名無しの>1天推し

えぇと……

 

3006:名無しの>1天推し

つまり、どういうことだ?

 

3007:1年主席天才

認知による存在確定、の話だね。

 

3008:名無しの>1天推し

あーん?

 

3009:脳髄

シュレーディンガーの猫ってこと!?

 

3010:1年主席天才

それは……また似ているようで違うというか……。

ざっくりとだが説明しよう。

 

いいかい?

 

3011:1年主席天才

アース111の神……というより上位概念存在だね。

 

彼らは生命と自然現象が半々になった存在だったんだろう。

自意識が薄かったというのは自然として調和をしていたからだ。

コミュニケーションは他者と理解し合うための手段だが、彼らはその理解し合う必要がなかったわけだ。

半ば自然としての現象であるが故に、世界の一部として溶け合い、均衡を保っていたわけだ。

 

3012:自動人形職人

僕の世界の精霊のようなものですか?

 

3013:1年主席天才

似ているけど、違うかな。

 

彼の世界の精霊がそれぞれに明確な意味・概念を持っていた。

だがこの世界ではそのあたりがあやふやだったんだろうね。

 

だけど、人間が言葉を以て彼らに意味を与えた。

曖昧なものが明確にされたんだ。

それに関しては分かりやすい言葉がある。

 

―――信仰だ。

 

3014:名無しの>1天推し

あー

 

3015:名無しの>1天推し

なんとなくなら理解できるかもしれん

 

3016:1年主席天才

 

そもそもマルチバースにおける神ってのも色々あるが基本3種類だ。

単純に生命として強靭だから神と呼ばれるか、

固有の概念を持ち、権能としてふるまうことができる現象生命。

そして、そう扱われ、信じられるが故に成立する象徴存在。

 

この場合、アース111はこれら三つが混ざっていると言えるだろう。

 

 

3017:1年主席天才

強靭な生命であり、同時に不確定な現象だった。

それが神として定義されることにより神となった、ということだ。

 

3018:名無しの>1天推し

あー、なんとなく理解できる、かも。

 

3019:ノーズイマン

科学畑からするといまいちピンとこんな。

哲学的つーか思考実験みたいつーか。

 

3020:1年主席天才

まぁ神学ってそういうものだしね。

 

けどまぁ……この世界、35系統も含めてやたらややこしいと思ってたけど、

その理由も理解できたな。

なるほど、確かにこれはエウリディーチェにとっては過去の出来事であり、同時に神話でもある。

 

 

 

 

 

 

 

「斯くして余らは神となり、人の世との関わりを持った。その過程は今は省くとしよう。関係ないからな。フォンとの話に関しては神代の時代の終わり頃、3000年だかそこらの話だ」

 

 そろそろアレスは話についていけなくなったことを自覚した。

 軽い気持ちだった。

 伝説の≪龍の都≫。

 父から行ったことはあるということだけは聞いたがそれだけの場所。

 これ以上ない経験かと思って誘いを受ければ、意味の分からない高度な転移、ちょっと良く分からない性癖をしている龍の神。そして神話の話。

 人が、神を作ったという。

 アレスはそれほど信心深いほどではない。

 それでも驚かずにはいられない。

 特に王国に来る前にいた≪共和国≫は聖国とは違う意味で宗教色が強い。

 多分、≪共和国≫でこんな話をすれば懲罰房行きだろう。

 嘆息しつつ、周囲を見回す。

 誰も彼も困惑と驚きがあり、自分も似たようなものだろう。

 明確に違うのは3人だ。

 

 アルマ、シュークェ、フォン。

 

 アルマの表情は良く分からなかった。

 クラスメイトとして1年近くの付き合いがあり、生徒会に顔を出してそこそこ話しているが見たことない表情だ。

 無表情に近いが、どこか遠くを見ているような、既にもう全てを理解したような。

 

 シュークェは何故か不敵な笑みを浮かべていた。

 良く分からないが想像したら頭が痛くなりそうなので放っておく。

 

 そして。

 今回、張本人であるフォン。

 

「―――?」

 

 彼女もまた戸惑いの表情があった。

 けれど、他とは違った。

 1年生には鳥人族は数人いるが、彼ら彼女らと違い着込んだ大きめのパーカーの袖を通した手で、ジャージの胸元を掴んでいる。

 それはまるで。

 自分に、戸惑っているような。

 

「亜人の話をしよう。ここからが本題だ」

 

 エウリディーチェはフォンを見ていた。

 

「亜人とはかつての人と神が交わって生まれた生命だ」

 

 さらりと、またとんでもないことを口にし、さらに続けた。

 

 

「フォン―――お主は()()()()であるな」

 

 

 




なんとここまでが前振りという。

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最近総合評価とか評価が停滞気味なので評価入れてくれると嬉しいです~~!


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サクシード・ミソロジー

 

「先祖、還り……?」

 

「左様」

 

 戸惑うフォンにエウリディーチェは頷いた。

 

「亜人種は古代の人種が神と交わり生まれたものだ。数千年が経ち、血は薄れておるがそれでも稀に原初に近い性質を持つものがいる。フォン、お主はその中でも特にその傾向が強い、外見もよく似ている」

 

 それから彼女は御影を見た。

 

「御影、お主もそうだな。フォンほどではないし、姿形は違えども纏う気配は原初のそれだ。混血でありながら鬼種として強力なのはそういうことであろう」

 

「………………」

 

 御影が己の角を無意識に撫でる。

 確かに彼女は純血の鬼種と人間のハーフでありながら、その素質は純血の鬼種を上回っていた。だからこそ皇国皇位継承権第一位なのだ。

 それが祖先、それも神に近いが故に。

 急に言われて受け入れられることではなかった。

 御影にしてもフォンにしても。

 

「はい! エウリディーチェ様! このシュークェはどうなんでしょうか!」

 

「うむ」

 

 勢いよく手を上げたシュークェに対してエウリディーチェは笑みを消して頷き、

 

「ここまでで何か質問はあるか?」

 

 周囲を見回してもう一度頷いた。

 

「おや……エウリディーチェ様、もしやお耳が……?」

 

 全員がシュークェに対し、『こいつ……』という目で見た。

 エウリディーチェも面倒だが、耳が遠くなったと思われるのも嫌、という風に口を開く。

 

「……お主も、そうだ。フォンとは祖が異なるがな。火の属性や鳥人族らしからぬ体躯もそれの影響であろうな」

 

「なるほど――――ふっ、このシュークェ。鳥人族でなんか自分だけ違うなと思っていたがそういうことだったとは……!」

 

「ちょっとお主黙っておれ」

 

「えっ……?」

 

 今度こそエウリディーチェはシュークェを意識から外した。

 

「…………エウリディーチェ様」

 

「なんだ、トリウィア」

 

「神が人と交わり、亜人が生まれた……というのは……そんなことが、起こりうるのですか?」

 

「おかしなことを聞くな。少なくともカルメンは余の孫だぞ?」

 

「おお、確かに」

 

「―――ですが、解りません。これまでの話を聞く限り貴女方は高次的な存在であり、人に定義されたとしても人と交わることが可能なのですか? 例え存在が神として確立されたとしても、神であるが故に、かつての人類にそんなことができるというのは納得しがたく……」

 

「星で描いた絵のことを人は何と呼ぶ?」

 

「えっ? …………星座、でしょうか」

 

「森を人々が行き交い出来た森だった空白を何と呼ぶ?」

 

「……道、です」

 

「人が国と国の境として大地に踏んだ線は?」

 

「……国境、です」

 

「うむ」

 

 彼女は苦笑しながら頷いた。

 つい先ほどもトリウィアに対して見せたのと同じ笑みだ。

 元々分かっていたことを再確認したように頷き、

 

「人種は今も昔も変わらない」

 

 なぜなら。

 

「人はあらゆるものを人のものとする。良いか悪いかは別としてな。……ふむ、なんと説明したものか。魔術師殿?」

 

「……そうだね。僕にしてもトリウィアにしても、耳が痛い話だ」

 

 振られたアルマは長く息を吐き、それからエウリディーチェを見つめた。

 或いは彼女が歩んできた歴史を想起しているのか。

 息を零しながら、囁くように言葉を創る。

 

「君たちは、人によって神となり。そして――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「どういう、ことですか」

 

「言うまでもないが、言葉というものは便利だ。僕らは未知に対し、自分たちの知識から考察し、自分たちの言葉で定義をする。……例えば、そうだね。分かりやすいのは、それこそ仙術か。ウィル、仙術を覚えているかい?」

 

「えっ、あ、はい。……亜人種の生態特徴を使った魔法、その古い呼び方でしたよね」

 

「そう、同時にこの≪龍の都≫では違うものだ。逆に言えば≪龍の都≫以外ではそうなんだ。亜人連合、或いは王国でもウィルの言ったものとされている」

 

 ならばと、彼女は人差し指を立てた。

 

「君が言ったものと、≪龍の都≫のもの―――()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「それ、は」

 

「敢えて答えを出そう、前者が正しいと。なぜならばこの世界において大多数ものがそう認識しているからだ」

 

 ウィルは少し驚いた。

 答えそのものではなく、アルマが正誤を断言したことに。

 彼女がいつも何か教えてくれる時「この場合はこの答えで、場合による」という言い方をすることが多い。

 問題に対して絶対的なものはないという前提が見える。

 それは彼女がマルチバースを知り尽くしているからなのだろう。

 だけど今、彼女は断言した。

 

「我ながら乱暴な言い方だね」

 

 苦笑し、

 

「だけどそういうことだ。認知、認識、定義。現象に対して名前を付けるのではなく、付けた名前により定義される。あべこべだ。だがエウリディーチェのような神性はこのような乱暴な理論が適応される」

 

 エウリディーチェを見た。

 かつて愛した女の姿を取る古の龍を。

 

「不確定な存在故に、受けた定義により自己確立させた。言ったもんが勝ち……というのは流石に言い過ぎかな。多くの人がそう定め、そしてそれらもその定義を受け入れた。そして神となった。だったら、逆もまた然りだ」

 

 つまり、

 

「エウリディーチェ、彼女……彼らは人に近づき過ぎたんだろう。確定された定義が、さらに変化するほどに。数千年の時を経て、神々は人の位階へと身を落としたんだ」

 

「左様。始め人は余らを見上げていた。だが、長い時を経る中でより身近になった。人にとっても、余らにとっても。その中で愛し合う者が生まれた。それ故に神というものは()()()()()()のだ。――――そういうものが、多くなった。そして亜人が生まれたのである」

 

 ふぅ、と彼女は息を吐く。

 

「……多くの神が人と交わった。多種多様な亜人が生まれた。中には変化しなかった神もいる。今、現代に御伽噺として残っているものがそうだな。

 交わりを拒絶し、最果てに封印された火と氷の≪ル・ト≫。

 変化を受け入れながら、自らは人の大地となって微睡む≪シャイ・フルード≫。

 人を愛し、憎し、寿ぎ、憎み、その矛盾に耐えられなかった≪三鬼子≫。

 そもそも興味を持たず未だに天空に漂い続ける≪テュポーン≫。

 そして、神としての存在を保ったまま人と交わるこの余。

 代表的なのはこのあたりだろうか」

 

 それからアルマ以外困惑している皆にほほ笑んだ。

 

「ややこしいだろう? まぁ、今すぐに理解しなくてもいい。そろそろ本題に入ろうか、ここまで前置きだからな。フォン、お前の話だ」

 

「―――」

 

 ウィルは隣に座るフォンを見た。

 ずっと胸を抑える彼女。

 翼を失った少女。

 

「原初、鳥人族の祖はやはり空を愛した。地に足を付けるものではなかった。だがある時、やはり多くの神と同じように人と触れ合い、人を愛し、交わったのだ。――――そして、彼女は地に降りた」

 

 

 

 

 

 

 フォンはずっと胸を抑えていた。

 エウリディーチェとアルマの話は難しい。

 訳が分からない。

 自分の頭で理解できるはずがない。

 なのに。

 

「―――」

 

 自分は、()()()()()()

 そういうものだと、受け入れていた。

 そんな自分に、どうしようもなく戸惑っている。

 知らないはずなのに。

 知っている話を聞いてるみたいな。

 

「先祖還りと一言で言えば簡単だ。血の繋がりは、しかして全てではない。ふむ……まだ脱線してしまう気もするが興味故だ。許してほしい―――御影」

 

「はい?」

 

「お主は鬼種だ、言った通りお主の精神の在り方は始祖に近い。鬼の始祖は力こそを信奉し、しかし己を打倒したただの人間と交わったのだが。それ故に鬼種は力を優先する、そうだな?」

 

「―――は、はい」

 

 微妙に御影の顔が引きつっていた。

 多分始祖の話が気になっているのだろう。

 

「お主に問おう」

 

 だが、今は御影が問われていた。

 

「―――――力ではどうしようもない問題を、お主はどうする?」

 

「………………はぁ」

 

 彼女にしては珍しい間の抜けた声だった。

 うぅむと、彼女は髪を掻き、答える。

 

「……ただ結果を受け入れる、鬼種としてはそういうべきでしょう。力による勝利や獲得は我ら鬼種が信奉するものですが、同時に敗北や喪失も受け入れなければならないものですから」

 

「だが、お主は違うようだ」

 

「――――えぇ」

 

 半人半鬼に浮かんだのは苦笑だ。

 

「去年くらいまでだったら、まぁただ受け入れていたと思います」

 

 彼女は周囲の仲間たちを一人一人見つめ、最後にウィルに軽く唇を突き出す仕草を見せてからエウリディーチェに向き直った。

 

「ですが……力及ばなかった私を救ってくれた人がいます。自分の力でどうしようもなかったら、今の私はまず助けを請うかと」

 

 フォンは思い出す。

 彼女は確かに、受け入れていた。

 ウィルとの関係のことだ。

 彼女は何度か言っていた。

 ()()()()()()だと。

 それは戦闘力においてアルマ、フォン、トリウィア、御影において自分が一番弱いと思っていたから。

 だから彼女はウィルに最後の一線を自ら踏み出すことはなかった。 

 けれど聖国において、権謀術数に囚われた彼女をウィルは救い、御影は自ら定めていた一線を超えた。

 それを、フォンはどう思っていただろうか。

 

「―――良い答えだ。お主は祖に似ているが違う」

 

「えぇ、私は天津院御影ですので」

 

「うむ。ではトリウィア」

 

「……はい」

 

「お主にも聞きたいことがある」

 

 言ってエウリディーチェは僅かに片目を開いた。

 白と黒の日蝕眼。

 

「余は人の運命やそのものがどのような業を背負っているか見ることができる。お前は、少々厄介なものを持っているな」

 

「……えぇ、自覚はしています」

 

「うむ。――――では、その業に従いこの世の全てを知ることができるとしたら、どうする?」

 

「…………はい?」

 

「言葉通りだ。もしも、目の前にこの世の全てを知り、自らが定義できるとしたら、お主はそれを飲み込むか?」

 

「――――」

 

 トリウィアは蒼と黒の目を見開いた。

 

「…………うぅん」

 

 それから少し唸り、煙草を携帯灰皿に捨て、新しいものを咥え火をつける。

 煙を吸い、吐き出し、

 

「…………意地悪な質問ですね、エウリディーチェ様」

 

「すまんな。答えはどうだろうか」

 

「断りますよ」

 

「ほう」

 

 そっけない、ともすれば少し乱暴な言い方に、しかし龍は笑みを消さなかった。

 

「何故だ? お主の業は大概根が深い。なのに、何故拒絶する? 全てを知れば開放されるかもしれないのに」

 

「知りたくないものがあると、私は知りました」

 

 フォンは思い出す。

 あれはそう、≪建国祭≫の最中だ。

 無茶をしたウィルをひっぱたき、涙を流しながら言っていた。

 『貴方を失った気持ちを知りたいなんて思わない』と。

 或いは秋、ウィルを殺した幻覚を生み最悪だったと言っていた。

 

「或いは、時には自らが知ること以上に、知ってもらうことの方が満たされるということも」

 

 彼女がウィルを一瞬だけ見た。

 けれどその一瞬だけで満足したのか、笑みは深まっている。

 確か、ウィルとトリウィアが結ばれた時にした話だとか。

 その話を聞いた時、フォンはどう思っただろうか。

 

「だから、不要です。私の呪いは、祝福でもあります。開放されたいとは思いません。ずっと付き合っていく、私自身です」

 

「それがトリウィア・フロネシスだと」

 

「えぇ」

 

「うむ、理解した。お前は実に人間らしい。恐ろしく傲慢であり、そしてたまらないほど真摯だ」

 

「…………どうも?」

 

「ふふふ」

 

 褒められているのか貶されているのか微妙なところだったが、エウリディーチェ的には褒めているらしかった。

 慈しむように何度か声を漏らし、また視線が移動する。

 僅かに片目が開かれ、

 

「ふむ」

 

「…………なんでしょうか」

 

 その先はアレスだった。

 

「お主は、変わった縁を持っているな」

 

「―――」

 

「何も言わんでおこう。お前に対してはそれが良さそうだ」

 

「………………そうは言われましても」

 

「しいて言うなら、巻き込まれがちだな。人付き合いが良いのも考えものか、もう少し楽しむと楽になれるぞ?」

 

「………………」

 

「……くっ」

 

「誰ですか今笑ったのは――――全員じゃないですか!」

 

 いやこれは笑う。

 全員数秒俯いて震え、アレスはいつものように唸っていた。

 多分、そんないつものようにとか言ったら怒るんだろうが。

 

「ま、この様子なら心配ないであろうな。……後は、そうさなウィル」

 

「はい。……僕にも何か?」

 

「うむ」

 

 片目を開けたままの彼女は頷き、

 

「ふむ?」

 

 首を傾けた。

 

「お主、ダンテの息子であろう?」

 

「は、はい」

 

「―――――――その割には気が多いな。御影にトリウィアにフォン、魔術師殿。特に御影とトリウィアは肉体関係もある感じだ」

 

「―――――ぐぅ」

 

 

 

 

 

 

3107:1年主席天才

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

3108:ノーズイマン

何笑ってんだよ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「こほん。少々ぶしつけだったな。うん、カルメン、御影、魔術師殿。笑いを止めてやれ。トリウィアも、無表情で体を震わせるな、少し怖いぞ。フォンとアレスが引いておる。シュークェ、暴れたら追い出すぞ」

 

 その場が落ち着くまで10分ほどかかり、4人ほど笑い死に掛けたり、ウィルがいたたまれなさ過ぎて死にそうになった。

 

「何の話だったか。……そうだ、血筋の話だな。血統が全てを決まるわけではない。御影は先祖還りではあるが、しかし別価値観を持つ。逆にトリウィアは余が愛した人の在り方を持っている。単一の存在でありながらしかしそれだけではない。ウィルは……うん、ウィルにも自分の道があるだろう。だがフォン、お前の場合は祖に近すぎるな。それ故に、お前は飛べなくなったのだ」

 

「……どういう、ことですか?」

 

「フォン、お主に聞こうか――――お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「―――――」

 

 どくんと、心臓が鳴った。

 飛べなくてもいい?

 鳥人族の自分が?

 空に生まれ、空に生き、空に死ぬ種族が。

 そんなの、

 

「―――ありえませぬ、エウリディーチェ様!」

 

 シュークェが吠え、立ち上がる。

 今度ばかりは彼もふざけていなかった。

 いや、シュークェ自身は真面目だったけれど、これはある意味必死さを伴っていたのだ。

 

「我ら鳥人族にとって飛べぬということは死を意味します! それなのに、このフォンが! そんなことが―――!」

 

「落ち着け、シュークェ。言ったであろう。鳥人族の祖は人と交わり、地に降りたと」

 

「―――」

 

 彼女はただ、フォンを見ていた。

 或いはフォンの中にある古の同胞か。

 そしてフォンは何も言えなかった。

 だって、否定できなかったからだ。

 そうだ。

 最初、確かに戸惑った。

 だけど、その後は?

 自分は、翼を取り戻すことを願っていたのだろうか?

 

「お前はアレに近すぎるな。何よりも空を愛し、飛翔と定義され、太陽を背負う神鳥≪ジンウ≫。やつは自らの意味を、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()。飛べなくてもいい、と自らが断じれる永遠の止まり木を見つけた故にな」

 

「―――――ん?」

 

 思わず、声が漏れた。

 おや、と。

 何やら、妙な話に行っていないか?

 

「もう一つ聞くが、フォン。お前は()を歌いたくならないか? そうさな、ウィルといる時だ」

 

「えっ……えぇと、はい?」

 

「――――ごほっごほっごほっ!?」

 

「え、どうしたのトリウィア!?」

 

「いや、えと……その……えぇ……? そ、そうだったんですか? ……いつから?」

 

「えぇと……去年の冬? 丁度一年前?」

 

「…………………………なる、ほど」

 

 何故か急にせき込んだトリウィアの顔は引きつっている。

 あまり見たことない表情だった。

 歌。

 それはそうだ。

 いつだってウィルといると喉から零れそうになる。

 それが何かは分からない。

 

 ただ、トリウィアは知っていたのだ。

 文献が限られた鳥人族において数少ない事実。

 異性に対して求愛行動として歌を歌うということを。

 そしてそれは鳥人族でも歌い終わった者のみしか知らないということを。

 知識狂いの彼女だからこそ例外的に知っていた事実であり、種を尊重して情報として残していないことを。

 

「うむ。そろそろ結論を言おうか」

 

 エウリディーチェは頷き、

 

「鳥人族の祖≪ジンウ≫は人を愛し、地に降りた。そしてそれに極めて近い先祖還りであるフォンはその在り方を色濃く受け継いでいるのだ。神を降りたといえは神であったが故だろう。歴史は繰り返すというか、その身に眠る性質に体が引っ張られているのだ」

 

 つまり、とほほ笑む。

 これ以上ないくらい、優しい笑みだった。

 

「フォン――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、うん。純愛だな」

 

「――――」

 

「これが答えである。随分と遠回りになったがな」

 

「――――」

 

「………………うん?」

 

「エウリディーチェ」

 

「何かな、魔術師殿」

 

「フォン、気絶してるぞ。主に羞恥心で」

 

「なんと」

 

 




簡単なアース111の神の在り方

①なんか方向性はあったふわふわ概念生命体
②人間に「汝は○○の神!」と言われ
 「なるほど……」と受け入れる
③なんか人間いいじゃん……となって人間に存在が近づく
④それが大多数になって人外フェチの人間と交わって子供を生む
⑤極一部を除き、亜人族の祖になる
⑥数千年かけて血は薄まり、影響力も低いが稀に先祖還りが生まれる

という感じです。


以下おまけ

問 
フォンが飛べなくなった理由を答えよ

予想される読者解答
「これは……恋煩い!」

予想される有能読者解答
「これは恋煩いですったもんだの先、これを解決してガール○○ボーイやらボーイ○○ガールやるんでしょ??」

解答
自己嫁TSドラゴン爺婆「主しゅきしゅき飛べなくてもいいや!」


まさかの好きバレをしたフォンは一体!!!!!


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最近総合評価とか評価が停滞気味なので評価入れてくれると嬉しいです!


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残念ながらそう簡単な話でもないんだよねぇ

3314:元奴隷童貞冒険者

ちょっと思ったんっすけど

 

3315:名無しの>1天推し

童貞ニキ!

 

3316:名無しの>1天推し

童貞!

 

3317:名無しの>1天推し

どうしたんだ童貞!

 

3318:名無しの>1天推し

なんか下っ端ぽい空気出してるけど

実際は女顔の美少年の素童貞!

 

3319:NOUZUI-MEN

実際に顔合わせたら全く口を開かず見かけは凄いクールだった侍童貞!

 

3320:自動人形職人

どうしたんですか童貞さん!

 

3321:元奴隷童貞冒険者

元! 奴隷購入が! 童貞だっただけっすから!!

童貞だけを連呼しないでくださいっす!!!

 

3322:1年主席天才

でも君、それが分かりやすいキャラになってるからいっか……とか思ってない?

コテハン付けてもそれなんだし

 

3323:元奴隷童貞冒険者

…………………………

 

3324:名無しの>1天推し

わろた

 

3325:名無しの>1天推し

うける

 

3326:自動人形職人

そんな覚悟で……

 

3327:名無しの>1天推し

まぁコテハン勢濃すぎてなんか持ちネタないと霞むしな……

 

3328:名無しの>1天推し

持ちネタとかいうな

 

3329:NOUZUI-MEN

悪かったよ……童貞じゃないもんな?

むしろ>1見習って奴隷買ってエロスライフ送りまくってるもんな?

 

3330:名無しの>1天推し

普通に羨ましくなってきたな

 

3331:名無しの>1天推し

ごめんね……

 

3332:元奴隷童貞冒険者

いや謝られても……

 

3333:1年主席天才

それで、何が気になるんだい

アース111の世界についてだろ?

 

3334:名無しの>1天推し

スケールでかい話だったな

 

3335:名無しの>1天推し

ガチ神話

 

3336:NOUZUI-MEN

SF世界出身としては違和感凄かったぜぇ

 

3337:名無しの>1天推し

なんとなく理解はしたけど、凄かったな

 

3338:名無しの>1天推し

古代のガチ人外フェチ……

 

3339:名無しの>1天推し

人類は凄いぜ……

 

3340:元奴隷童貞冒険者

自分の世界、ゲーム風にスキルやらジョブやらある世界なんすけど

そういうステータス的なのが昔の人たちの認識でいいんすか?

 

3341:1年主席天才

うーーーーん…………

 

3342:1年主席天才

まぁ……ざっくりとは……それでいいかも?

 

ステータス先行世界とはまぁ世界の仕組みがまた違うけど

印象としては悪くないよ

 

3343:名無しの>1天推し

歯切れが悪い

 

3344:名無しの>1天推し

神様の存在がふわふわしてるから俺らの理解としてもまぁちょっと曖昧よな

 

3345:元奴隷童貞冒険者

えぇと、これでいいなら……というか>1の世界の認識で神様やらなんやらできてるなら

>1たちの認知で魔法とか好き勝手凄いの作れちゃうもんなんすか?

それこそ新しい神様作ったりとか

 

3346:名無しの>1天推し

むっ……

 

3347:名無しの>1天推し

それは……確かに

 

3348:自動人形職人

あぁ……認識が存在を確立させているのなら

現代でも同じことができるのかって話ですか

 

3349:1年主席天才

不可能だね

 

3350:名無しの>1天推し

おぉ、ばっさり

 

3351:NOUZUI-MEN

この手の話で天才ちゃんの断言は珍しいな

 

3352:1年主席天才

正確に言うと不可能になった、だね。

 

エウリディーチェの話の肝は存在定義が曖昧だった上位存在を人間の認識が明確にしたという点だ。

この世界の魔法にしても、多分同じようなものだ。

魔法はあったけど、属性の区分も最初はなかったけれど人がそれを定義した。

 

3353:1年主席天才

この時点であれば冒険者の彼の言う通り、ある程度定義を好きにできただろう。

ただしアース111の魔法は既にある程度習熟され、細分化されている。

 

魔法の属性が35もあるのがややこしいと思ったけど、現地人の認識が干渉するならそれも納得できる。

おそらく、アース111の魔法はある意味において過渡期の終わりかけなんだ。

 

3354:名無しの>1天推し

お?

 

3355:名無しの>1天推し

過渡期の……終わりかけ?

 

3356:1年主席天才

秋の一件でトリウィアが詠唱魔法使ったの覚えているかい?

 

3357:名無しの>1天推し

はいはい、あのかっこいいやつ

 

3358:名無しの>1天推し

っぱ詠唱いいよね……

 

3359:自動人形職人

時よ止まれ、でしたっけ。えーとアース111で言うと……

 

3360:名無しの>1天推し

ゲーテ?

 

3361:1年主席天才

そう。そいつも嫌いだ……アース44のドッペルゲンガーが性質が悪いんだよな……

 

3362:NOUZUI-MEN

なんなんだよアース44

怖すぎだろ

 

3363:1年主席天才

まぁいい。

 

何にしてもアース111じゃあ詠唱魔法は廃れて、脳内の術式構築、或いは既に系統の感覚的な選択によって発動する。

つまりそれだけ魔法が世界に浸透しているわけだ。

態々言語化というプロセス踏む必要がないわけだしね。

この辺りはそれぞれの世界の魔法法則によるが

 

3364:名無しの>1天推し

ほー

 

3365:名無しの>1天推し

なるほど?

 

3366:名無しの>1天推し

んでも、過渡期の終わりってのは?

過渡期が終わってるんじゃないのか

 

3367:1年主席天才

忘れたかい?

この35種の組み合わせのややこしさに終止符を打とうとしているのがいるだろ

 

3368:名無しの>1天推し

あっ

 

3369:名無しの>1先推し

先輩殿でありますね!!!!!!!!!!!!!

 

3370:名無しの>1天推し

うわ出た

 

3371:名無しの>1天推し

出たってなんでありますか????

 

3372:NOUZUI-MEN

あぁでも、だから過渡期の終わりね。

 

3373:1年主席天才

そうだね。彼女が系統をまとめあげればこのややこしさも落ち着くだろう。

それでやっと過渡期が終わって安定期に入るはずだ。

 

3374:名無しの>1天推し

なるほどな

 

3375:自動人形職人

>1の世界の魔法の話になると最終的に先輩さん凄いってなりますね……

 

3376:名無しの>1天推し

まぁ実際凄いしな…

 

3377:名無しの>1天推し

さす先

 

3378:名無しの>1天推し

偉人はやっぱ頭の螺子外れてるぜ

 

3379:元奴隷童貞冒険者

さす先

 

ていうか今の鳥ちゃんに関してもなんとかならないっすかね~

 

3380:名無しの>1天推し

ん?

 

3381:名無しの>1天推し

繋がるか、そこ?

 

3382:元奴隷童貞冒険者

いやほら、鳥ちゃんは>1が好きで飛べなくなって大変なわけじゃないすか

だったらまぁ、>1が普通に受け入れれば一先ず解決なんじゃないすか?

 

そのあたりも上手く意思疎通というか言葉足らずというかもめたのが先輩さんの時だったわけで。

>1ならそのあたりの反省を活かして上手いことするじゃないかなーって思ったわけっす

 

3383:名無しの>1天推し

こいつ……

 

3384:名無しの>1天推し

お前……

 

3385:名無しの>1天推し

…………

 

3386:NOUZUI-MEN

やはり……童貞は童貞か……

 

3387:元奴隷童貞冒険者

!?

 

3388:名無しの>1天推し

童貞はさぁ

 

3389:名無しの>1天推し

これだからダメだよ童貞は

 

3390:名無しの>1天推し

呆れて童貞しかいえない

 

3391:自動人形職人

普通の童貞より性質が悪いですよこれ

 

3392:名無しの>1天推し

ほんま

 

3393:元奴隷童貞冒険者

うおおおおおおおおお天丼っすよ!!!!!

 

3394:1年主席天才

残念ながらそう簡単な話でもないんだよねぇ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≪龍の都≫は標高五千mほどの山の頂点、そのカルデラ状の直径1kmほどの盆地を指す。

 周囲の山は最大数十m近く、東側が高く西が低い。

 遠くから見れば円柱を斜めに切り落としたようにも見えた。

 盆地の外は氷点下の吹雪が吹きすさび、おおよ生物の生存に適しているとは言えない。

 だが、その中に確かに営みがある。

 盆地の中には湖があり、家があり、広場も、畑もある。それらの空間には雪は降っているが、

 

「不思議ですね」

 

 畑の畦道に、薄く積もった雪を踏みしめながらトリウィアは白い息を吐いた。

 

「寒いですが、この高度を考えればむしろ暖かい。標高的にも空気が薄いはずですが、地上と変わらない」

 

「≪龍の都≫全体にそのあたりの環境保全の結界が張られているね。気圧室温湿度……その他もろもろ。雪自体があるのは季節感の為にある程度は通してるのかな」

 

 隣のアルマも周囲を見回しながら小さく顎を上げる。

 

「都市単位の大規模結界……王都のそれが有名ですが、それよりも高度ですね」

 

「そのあたりは流石神様という感じだ……ん」

 

 ふとアルマが足を止めた。

 視線の先、数人の龍人が畑を耕し、おそらく野菜の種を植えている

 

「…………腕をぐるぐる回して衝撃波で土を耕していますね。種まきは空を飛んで空から投球フォームで、地面にぶち込んでますが」

 

「うーむ、子供向けアニメみたいな光景だ。おまけにあれ、土地の活性魔法も同時に掛けているな」

 

 なるほどと、彼女は頷き、

 

「生活様式は原始的だが、龍人種故の魔法や身体能力なら十分なんだろう。外界から途絶されているから数百年単位で同じ技術のようだね。用意してもらった家も、綺麗で頑丈だがやはり数百年前に作られたものだったし」

 

「ふむふむ……興味深い……」

 

 遠く龍人族がこちらに手を振ったり曲芸飛びを見せててくれたのに手を振り返してから再び歩きだす。

 

「それで、どう思う?」

 

「ウィル君とフォンさんのことですね」

 

「あぁ」

 

「ふむ」

 

 彼女がジャケットの内ポケットから取り出し、煙草を吸い始める。

 

「アルマさん……というか掲示板の方はなんと?」

 

「君とのごたごた経験を活かしてウィルがフォンの気持ちを受け入れれば解決じゃね? とか言ってるのが一名」

 

「なるほど」

 

 トリウィアは長く息を吐きだし、

 

「その人、恋愛経験なさそうですね」

 

「くっ……!」

 

 数十秒、アルマが肩を震わせた。

 

「……いや、流石の切れ味。掲示板も大喜びだ。該当人物の恋愛遍歴は置いておいて。君がどう思うかは、僕も知りたいところだね」

 

「難しいですね」

 

 吐きだした煙は深々と降る雪に解けて消えていく。

 穏やかな空だ。

 冷たい空気が自らの輪郭を浮きだたせていくのを感じる。

 

「私の時はヘファイストスに対する駆け引きでウィル君に何も言わなず、彼を誘導しましたけど、今回はエウリディーチェ様がぬるっと全部バラしてくれたわけで」

 

「あぁ……アレは歴史的な好きバレだった……」

 

「フォンさんがウィル君を好きなことはみんな知ってることですけどね」

 

 それは見ていれば分かるというものだ。

 ウィルに対してはいつものテンションが高い元気な女の子という感じだが、彼がいない彼女は結構理性的だ。かなり厳しく鋭い言動もする。

 その落差は結構大きい。

 だから彼女の思いは、きっと彼女以外誰もが分かっていた。

 きっとウィルも。

 

「ウィル君はタイミングを見計らっていたでしょうけどね。フォンさんもまだ1年生だったわけですし」

 

「君や御影のついでで関係を変えるのはちょっと、みたいなことを言っていた」

 

「彼らしいですね」

 

 苦笑しながら紫煙をゆっくりと吐き出す。

 

「……確かに、単純といえば単純かもしれません。フォンさんの葛藤をウィル君が受け入れればそれで解決。話も早いですが……」

 

 雪空に消えていく煙を見上げながら彼女はその言葉を口にした。

 こんなこと、少し前までは想像もしていなった。

 知りたくもなかった。

 

「――――フォンさんは、翼を失うことになります」

 

 

 

 

 

 

 アルマはトリウィアにつられて空を見た。

 粉雪が降り積もる白味が強い灰の空だ。

 曇っているけれど、美しい。

 美しいけれど、晴れているわけではない。

 

「私はフォンさんが飛んでいる姿が好きなんですよね」

 

「僕もだよ」

 

「御影さんもカルメンさんもパールさんもアレス君も、学園のみんな―――いうまでも無くウィル君もそうでしょう」

 

 きっと彼女を知る誰もがそうだ。

 アルマにしても彼女ほど空を愛し、空に愛された存在は他に知らない。

 マルチバースを1000年見守って来て尚、そう思う。

 そんな彼女から翼が奪われるなんて。

 

「ウィル君は……なんというか、私たちの意思を尊重してくれます。けれど同時に彼の思う私たちみたいなのがあるんですよね。別にそこは私たちも乖離していないですし、そこをちょっとつついたのが秋の一件でしたけど……滅茶苦茶ウィル君に説教されましたけど……」

 

「アレはまぁ君が悪いよ」

 

 悪いというかやり過ぎたというか。

 結果的に見れば上手くいったのだけれど。

 それはいいとして、

 

「フォンの場合はまた特殊だ。彼女自身のルーツの話。彼女であって、彼女ではないものの意思。その混在と葛藤は……やはり難しいね。外野が口出す話でもない。……ただ、ウィルが言ったらそのまま受け入れそうだけど」

 

 例えばウィルがフォンの気持ちを受け入れたらのなら。

 それも勿論あり得る。

 彼女の気持ちを彼は気づいているし、彼にとって彼女は幸福の一部だ。

 だから掲示板でソウジが言ったように、終わらせようと思えば簡単だ。

 ウィルが今のフォンを肯定すれば、フォンはそのまま地に降りるだろう。

 でも。

 

「それが、良いことなのか、という話ですね」

 

「何とも言えないな。鳥人族にとって翼は命よりも重く……けれどそれ以上の想いがあるんだから」

 

 或いはフォンが翼を選んだとしたら。

 それはもしかしたらウィルに対する想いを、自分の心を否定するということかもしれない。

 愛を選んで魂を失うか。

 魂を失っても愛を選ぶか。

 

「それを本能の奴隷と見るのか遺伝子の継承とするのか……こればかりは、本人次第だ」

 

「ウィル君はこういう問題には迷いそうです」

 

「僕もそう思う」

 

 だから、彼はきっと動けないのだ。

 彼女に対する言葉は彼女の根幹を変えてしまう。

 人生の岐路における選択を、彼女自身ではなくウィルが決めてしまえる。

 ウィルはそれを望まないだろう。

 

「難しい問題ですね」

 

 空を見上げたままトリウィアは息を吐いた。

 

「フォンさんに飛んでいて欲しいというのは私たちの我がままでしょうか」

 

「……かもね。僕らにはフォンの答えを受け入れることしかできない」

 

「御影さんは」

 

「うん?」

 

「御影さんなら、良いアドバイスができると思います」

 

「あぁ、確かに。彼女は面倒見がいいしね。今はフォンと仙術の訓練だっけ」

 

「えぇ」

 

「ふむ……なら、御影がいい感じのアドバイスを送ることを期待しようか」

 

「ですかねぇ。どうにも、私は考えすぎて何と言えばいいか困ります」

 

「僕もだ。……ウィルの背中を押すのは、彼が望んでいることが分かりやすいんだけどね。今回はそうもいかないし」

 

 溜息を吐いた。

 アルマは思う。

 遥か遠い過去から訪れた運命に対面するクラスメイトを。

 それは追い風なのか向かい風なのか。

 

「アルマさんならどうしますか?」

 

「ん?」

 

「もしもフォンさんのように、自分の心に板挟みにされたらどうやって対処します?」

 

「君は?」

 

「―――自らの叡智を以て総取りします」

 

「ほんとにそれでウィルとの婚約もぎ取ったから何も言えないな……」

 

 アルマは視線を空から降ろした。

 白い雪の道。

 振り返れば自分とトリウィアの足跡。

 心の板挟み。

 ウィルとの関係は愛に従った。

 或いは、それより前は?

 そんなことを思って、思わず自嘲した。

 

「さぁ―――どうだったかな」

 




元奴隷童貞冒険者
えっちな奴隷兼恋人はいてもメンタルは童貞

トリウィア
フォンに飛んでていて欲しいと思うのは、我がままなのかな

アルマ
さぁ、どうだっただろうか

次回はフォンとウィルがどう思っているかという話

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アズ・ユー・ライク

 

 斜面に作られた集落がある。

 広がる家屋は石造りではあるが、不思議なことにブロック状の切り石を組み合わせたものではない。まるで巨大な粘土で作った家を固めたように家の繋ぎ目がないのだ。

 それらは地龍の魔法によって地面から作り出された建物だ。

 ≪龍の都≫の建造物はどれもが古の魔法によるものであり、人種やドワーフのような技術で物を作るのではなく自然の一つとして生み出すのだ。

 壁面は赤く塗られ、鉢植えが吊り下げられ色を加えている。

 それらの集落の奥、斜面の先はむき出しになった土の広場になっていた。

 この≪龍の都≫にいくつかあり、その中でも体術の為の稽古場だ。

 

「なるほど。カルメンさんもそうでしたけど、龍人種の体術は人種と根本的に違うんですね」

 

 ウィルはその場所にて数人の龍人に囲まれていた。

 彼を含めその場の全員が上半身は裸であり、息が白くなる気温ながらも汗をかいている。

 手には刀代わりの木の棒が。

 龍人たちはそれぞれ外見は人のものではあるが、やはり体のどこかに鱗があり、頭部には様々な形の角が生えていた。

 

「んだんだ。龍つーは人種とは膂力が違うでなぁ。ぶっちゃけ体術は要らねぇちゅうのもわりといるんだべ」

 

「肯定。我等龍人生命強靭故」

 

「でーですのでー、私たちのよーうにーそーれを鍛えるのは珍しいのーです」

 

「はぁ」

 

「んだべ体の使い方ちゅうもん学ぶのはおもろいかんな」

 

「龍人故龍人限定体術可能」

 

「カールメンもーそーのあたり学んでいーるはずー」

 

「種族適正は僕でも真似するのは大変なんですけど……あの、一つ聞いていいですか?」

 

「んだ」

 

 ウィルは苦笑気味に首を傾け、小一時間ほど稽古をつけてくれた相手に質問をした。

 

「その……何故そんな特徴的な言葉遣いなんですか?

 

「あぁ、それだべかぁ」

 

 身長二メートル近い、濃い茶色の鱗を持つ龍人は頷き、

 

「おらたちが共通語を学ぶんは、たんまーに外から来る本だったり人伝手だったりするかんな。どしてもそのあたり癖が出るんだべさ」

 

「左様。実際我等是為口調好感保有」

 

「龍神様に教えーてもらう者も多いけーどねー。そーいつらは普通に話すーさ」

 

「なるほど……」

 

 そういえばカルメンも人から聞いてあの口調だったことを思い出す。

 それから少し会話をし、広場の隅に足を向ける。

 肌寒いが、しかし運動の後ではその冷気が心地良い。

 足を進めた先、同じようにズボンだけで休憩している少年がいる。

 

「やぁ、アレス君。お疲れ様」

 

「……先輩も、お疲れ様です」

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「あぁ、ありがとうございますアレス君」

 

 革の水筒をウィルへとアレスは手渡した。

 隣に座り水分補給をする先輩の肉体の造りに少しだけ驚く。

 初めて会った時からまた数センチ伸びた背だが、普段は制服と肩幕のせいで見えなかったものが見えた。

 予想以上に練り上げられた肉体だ。

 黄金律ほど完璧ではないが、全身にバランスよく筋肉を纏っている。剛性と柔軟性、瞬発力と持久力を保持した体だ。

 薄く割れた腹筋や血管が浮いた腕は同性であっても惚れ惚れする。

 普通に闇雲に鍛えただけではこうはならない。

 

「……」

 

 対照的に元々痩せ型である自分は、彼と比べてしまうとどこか貧相に感じてくる。

 別にアレスも鍛えていないわけではない。

 針金を束ねたような痩身だ。

 ただ彼は抜刀術に極振りしているタイプだ。

 近づいて抜刀し、斬る。

 基本的にはこれが全て。

 そのために肉体の鍛錬もそれに合わせて必要最低限の筋力と体重、それから瞬発力に長けた筋肉を作り出している。

 一切の無駄をそぎ落としている故に密度はあっても外見的な筋肉量は左程でもない。

 ウィルに比べるとどうしてもみすぼらしさが否めない気がする。

 

「ん、どうかしましたか?」

 

「……いいえ、なんでも」

 

 勝手に比較して勝手に落ち込むのはあまりにも馬鹿らしい。

 下らない思考を振り払いながらも、彼と同じように水分を補給した。

 

「ストレッチしますか。押しますよアレス君」

 

「いえ、僕が先に押しましょう」

 

「いえいえ」

 

「先輩ですし……」

 

「いや先輩ですから……」

 

 何度か似たようなことを繰り返し、結局アレスが根負けした。

 シャツを着て、アレスが両足を広げればウィルが背中を押す。

 

「いっちにーさんしーごーろぉくしちはーち」

 

「……」

 

 間延びしたウィルのカウントに合わせて左足からゆっくりと熱を持つ体をほぐして行った。

 そんな先輩を見てアレスは口を開いた。

 

「先輩は」

 

「にぃーにぃー……はい?」

 

「思ったよりも平気そうですね」

 

「…………そう見えますか?」

 

「えぇ」

 

 問いに頷き、

 

「…………失礼でしたか?」

 

「いえ」

 

 ウィルは苦笑で返した。

 アレスは右足に柔軟を切り替え、ウィルも背中を押す。

 

「そうですね。確かに思い詰めているというほどではありません。思う所はありますけど。今僕があれこれ悩んでもとも思います」

 

「はぁ。……彼女に何か言わないんですか?」

 

「言ってしまえば、きっとフォンは僕の言った通りにするから」

 

「―――」

 

 アレスは言葉に詰まった。

 それは聞こえ方によって傲慢であり、自分勝手なものだ。

 けれどウィルの言葉にそんな色は無かったし、そんなことを思う人だともアレスは思っていなかった。

 だからだろう、ウィルも背を押しつつ続けた。

 

「僕はですね、もう一度フォンの人生を変えちゃったんですよ」

 

 知っている。

 まだアレスが入学する前、≪共和国≫にいた頃だ。

 当時≪亜人連合≫の勢力図を決める≪七大氏祭≫にて鳥人族代表だったフォンが負傷し、ウィルが代理で出場した。

 その代理を通す為にフォンはウィルの奴隷ということになったのだ。

 正直最初フォンからウィルの奴隷だと名乗られた時は、この男は一体どんな鬼畜野郎なのかとドン引きしたものだが。

 

 年下の活発な少女の体に入れ墨を入れて露出度の高い服を着せて奴隷にしているハーレム野郎とかちょっととんでもない。

 

 実情はフォンの押し付けのようなものだし、服装や刺青は種族由来のものだったが。

 合っていたのはハーレム野郎ということだけ。

 それにしたってウィルが御影やトリウィア、アルマと同じくらいフォンを大事にしていることをアレスは知っている。

 春からこの冬までずっと見て来た。

 

「フォンは随分と変わったんですよ。1年までは冬でも可能な限り薄着だったり、長袖とか着なかったり。勉強……は僕に隠れて入学の準備をしていたり。空に生きるはずの鳥人族が、飛ばない日を作ったり。彼女が本来辿るはずだった人生とは全く違うものになってしまった」

 

 訥々彼は語る。

 そこにあるのは苦悩でも歓喜でもない。

 ちょっとした気恥ずかしさのように感じた。

 それを聞きながらアレスは体を正面に伸ばす。

 すぐに背への後押し。

 

「こんなことを自分で言うのもなんですけど。フォンは僕がこうしてほしいって言えばその通りにしちゃうんですよ。それは……なんというか」

 

「彼女には自分の意思で選んで欲しい?」

 

「えぇ、まぁ。一言で言えばそうなります」

 

 なぜなら、

 

「僕はフォンと飛ぶのが好きなんですよ」

 

「……」

 

 フォンが、ではなく。

 フォンと。

 その違いはなんとなく大きい気がする。

 少なくともアレスはこの1年彼女と同級生をしていて、ウィル以外誰かの翼になっているところは知らない。

 例外はいつか、王城から『彼女』の助けに行った時か。フォンがウィルたち4人を引っ張っていたのを見た記憶がある。

 

「―――」

 

 少し、記憶が疼いた。

 感傷だ。

 今は関係ない。

 

「だからフォンの翼を失うのは悲しい。でも……フォンが翼を失ってまで僕と生きることを選んでくれるのも嬉しい。酷いですよね」

 

「そんなこと……ないと思います」

 

 自分の愛しい人が。

 生まれ持った全てを投げ出してでも自分と歩んでくれるのなら。

 それは。

 或いはかけがえのないものではないだろうか。

 また少し不要なものが疼いた。

 

「ありがとうございます。……まぁ、御影の時は憤って、トリィの時は翻弄されて。こういうのも三度目ですから。ただ彼女の選択を受け入れたいなと」

 

「受け入れる――」

 

「えぇ。彼女が何を選び、何を捨てても。それを受け入れるのが僕の責任だと思うんです」

 

「…………責任」

 

 重い言葉を使うなと、アレスは思った。

 少なくとも今の自分にはあまり縁がない概念だ。

 

「彼女が選択をしたら。僕がやることは、彼女の選択が間違っていなかったと、そう思わせることなのかなって思うんですよね」

 

「…………」

 

 何気ない彼の言葉は真っすぐな優しさに溢れていた。

 多分それは、愛と呼ぶものかもしれない。

 同時にアレスに胸に何かが生まれる。

 それを何と呼ぶかは、分からなかった。

 

「………………変わります、先輩」

 

「あぁ、はい。お願いします」

 

 柔軟の立場を入れ替えた。

 ウィルが足を広げ、アレスが背中を押す。

 

「いっちにーさんしー」

 

「……5、6、7、8」

 

 彼の掛け声に合わせ、少しだけリズムは合わない。

 左に揺れる背中に体重を掛けながらアレスは言葉を零した。

 

「先輩は優しいですね」

 

「………………」

 

「……先輩?」

 

「えと……いいえ。そんなこと言われるとは意外でした。僕はアレス君には嫌われてると思っていたので」

 

「なんでまた……」

 

「色々巻き込んでますから」

 

「自覚があったんですか……!」

 

「ははは」

 

 思わず呻いたが、先輩から帰ってきたのは苦笑だった。

 続けて文句を言ってやろうと思ったけれど、

 

「僕にとってアレス君は可愛い後輩ですからね」

 

「……」

 

 そんなことを言われたら何も言えなくなる。

 ウィルは右の足に体重を移す。

 

「僕のことは嫌いでも、生徒会のことは嫌いではないでしょう?」

 

「……別に先輩のことも嫌いではないですよ」

 

「おぉ!」

 

「……ちょっと苦手かもですけども」

 

「………………ですかぁ」

 

 押し込む力が少し弱まった。

 だからちょっとだけ何を言うか迷って、

 

「優しいなと思ったことも、嫌いではないのも、本当です」

 

 だって、

 

「僕は、責任とか選択とかそういうものとは無縁の人生で……流されてばかりでしたから」

 

「…………………………エウリディーチェ様の」

 

「あれは忘れてください」

 

 早口で返した後、ウィルを正面から押す。

 それから思うことはこれまでの人生だ。

 

「父に拾われ、≪王国≫で育ちました。いくつか普通なら体験できないこともしましたし、上流階級のマナーとかも学びましたけど5……いえ、もう6年前ですね。≪共和国≫に引っ越して、当然のように学園への入学を目指して」

 

 それから父のあんなことがあって。

 それでも他にやることがなくて学園に来た。

 白い目で見られるだろうと思っていたのに。

 思ったよりも悪くない学生生活だったけど。

 

「それでまぁ今こうして≪龍の都≫で先輩の背中を押しているわけです」

 

「……波乱万丈ですね」

 

「学園に来てから僕が頭を抱えたのは半分以上先輩のせいですよ……っと」

 

「うおっ」

 

 最後に強めに押して、自分はその反動で立ち上がる。

 

「……いや、何も言えませんね」

 

 彼は申し訳なさそうに苦笑していた。

 別にそんなことも無いのにと勝手に思う。

 生徒会に入り浸るようになったのは御影の手腕と自分の趣味によるものだ。

 そういう所が。

 

「……」

 

 なんだろうか。

 ウィルが立ち上がろうとし、アレスは手を伸ばさなかった。

 

「流されてばかり、か」

 

「?」

 

 体を伸ばしながらウィルは呟いた。

 

「そんなことないと思うんですけどね」

 

「……自分で言うのもなんですが、流されている自覚しかありません」

 

「あはは」

 

「……」

 

 ウィルは笑い、アレスは半目で睨み付けることで無言の抗議を刊行した。

 けれど彼は首を傾けて微笑んだので意味をなさなかったらしい。

 

「気づいていないだけで、アレス君は自分で選択していることがあると思いますよ。そうに決まってます」

 

「勝手なことを言いますね」

 

 押し付けというよりも信頼とか信用とかそういうものだった。

 自己評価よりもウィルのアレスに対する評価の方が高いのだ。

 それは気まずくて、どう反応していいか困ってしまう。

 自分で選択したこと。

 そんなことが、あっただろうか。

 

 ――――また、記憶が疼いた。

 

 綺麗な中庭。

 ささやかな花壇。

 目の前で座り込んで泣いている誰か。

 彼女に幼き日の自分は手を伸ばして。

 

「……」

 

 脳裏に過る遠い残滓を振り払う。

 それはきっと、もう意味のない思い出だ。

 手垢のついた子供しか喜ばないような小さなおもちゃ。

 だからそのおもちゃを心の奥にしまって鍵を掛ける。

 溜息を一つ。

 真っすぐにこちらを見ているウィルを、真っすぐに見返すことはできずアレスは空を見上げて息を吐いた。

 

「―――――先輩は勝手ですよ」

 

 




アクシア魔法学園1年シャコ系魚人種絵画専攻一般生徒
┌(┌^o^)┐……

ウィルの筋肉は暗殺王監修

お久しぶりです。
脇で書いていたこっちが完結したので、更新を再開したいと思います。
https://syosetu.org/novel/304768/
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ウィッチエヴァー・イズ・ファイン

 

 フォンは自らの奥底に心を沈める。

 

 それは普段空を飛んでいた感覚とは全く違うものだ。

 高く、速く、遠くへ行くのではない。

 低く、遅く、近くへ。

 自らのルーツに目を向けていく。

 

「――――」

 

 彼女は今、≪龍の都≫で最も高い場所にいた。

 里を囲む山の周囲は断崖絶壁になっている。

 壁面に棒を突き刺したような頂きがいくつも連なっており、フォンが胡坐で座るのがやっとのような幅しかないような先端。

 眼下には数百メートルは続く雪と氷と岩の壁と大地。

 空を飛べないので落ちれば当然命を落とすが、それでも不思議と恐怖は無かった。

 沁みついた種族レベルの習慣は、飛べなくても消えないらしい。

 

「――――すぅ」

 

 息を吸う。

 肺に送り込まれる空気は冷たいが苦になるほどでもない。

 環境保全の結界は今の場所まで届いている、というよりもここが限界だろう。

 

「ふぅ―――」

 

 息を吐く。

 そして真っすぐに前を見る。

 ほんの数メートル先、もう座れないほどの細い頂の先端。

 極寒の吹雪の中、一羽の鳥が止まっていた。

 濡れ羽色の翼に、一筋だけ濃い黄色がある。

 現実ではない。

 それは多分、フォンの中にいる原初の幻影だ。

 

 エウリディーチェ様の話を聞いて―――羞恥心で気絶するハプニングはあったが―――自らのルーツとそれが続いていることを理解した。

 そして今仙術、即ち原初の系譜を操る術を学ぶ術を教えられてから見えるようになった。

 仙術自体は、難しくなかった。

 気というものを理解し、それを扱うというのはやってみればむしろどうしてこれまでできなかったのだろうと思うくらいに簡単だった。

 翼を広げること。

 空を飛ぶこと。

 それくらいのことなのだ。

 元々自分の中にあるものだから。

 

「……問題は私がどうするかってことか」

 

 結局問題はそこなのだ。

 自分が飛べなくなったのは太古からの系譜の発現。

 愛が故に地に降りるか。

 愛を捨て空へ飛ぶか。

 

「……うぅん」

 

 頬の熱を自覚する。

 或いは、喉の疼きを。

 鳥人族にとって歌が求愛ということはあの後トリウィアから聞いてもう一度卒倒しかけた。

 ウィルと飛んでいる時、何度も歌を歌った。

 つまりはそういうことだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉ……!」

 

 思わずマフラーに口元をうずめる。

 ウィルがそれを知らなくて、鳥人族が碌に文献やら情報やらを残さなくてよかった。

 ありがとう鳥頭。

 万歳飛ぶしか能がない生命体。

 いやそのご先祖様のせいで稀に見るレベルの羞恥プレイを受けているのだが。

 

「……はぁ、参ったな」

 

 溜息を吐きつつ立ち上がる。

 鳥の幻影はすぐに消えてしまった。

 軽い足取りで頼りない足場を進んでいけば岩肌の崖。

 こちらは外側と違って断崖絶壁ではない。精々10メートルほど、はっきりとした凹凸に足場にして軽くジャンプしていき、すぐに広めの一枚岩に辿りつく。

 ≪龍の都≫を見回せる天然の展望台に、

 

「御影ぇー、そっちはどう?」

 

「ん」

 

 岩の壁に背を向け胡坐をかいていた御影がいた。

 

「うーん」

 

「?」

 

 隣に座り、彼女の顔を覗き込む。

 普段とは違う装いの彼女は少し空を見上げ、ニカッと満面の笑みで笑った。

 

「仙術、全く分らんな!」

 

「えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

「エウリディーチェ様に最初のやり方だけ聞いて後はなんとかしよう! って笑って私をここまで連れて来たのは御影だったよね」

 

「はっはっは、行けるかなと思ったが全然ダメだな。気とやら全く分らん」

 

「そう……」

 

 いつものように快活に笑う彼女は出来ないが故の悲壮感はなかった。

 何が面白いのかできないというのに自信満々は相変わらずだ。

 

「できぬものは仕方ない。腹減ってないか? 飯にしよう」

 

「……いいけどね」

 

 彼女の脇にはバスケットがあり、そこには彼女が作ったサンドイッチが二人分。

 堅めに焼いたパンに肉と野菜、香辛料の効いたソースを挟んだシンプルなものだ。

 水筒に入った暖かいお茶と一緒に貰う。

 

「とんだ僻地だが食文化は左程変わらんのが面白いところだ。酒もあったしマヨネーズなんかもある。エウリディーチェ様が気に入って作り方を覚えて普及したらしい」

 

「御影にとっては酒が飲めるのが大事でしょ? マヨネーズがあるのは良いけどさ」

 

 卵、油、酢、塩から作られる白いソースは王国に来て初めて知ったものだが実際に美味しい。

 鳥の卵というのは少し引っかからなくもないが、別に鶏肉だって食べるのだ。美味しいならそれでいい。

 

「うむ。中々きついが深みがある。くぅ……! ……うん。この味だけでも来た甲斐があった」

 

「相変わらずだねぇ」

 

 王国では法律の都合上、律儀に禁酒をしている彼女は≪龍の都≫の酒を見てそれはもう喜んだ。

 ≪龍の都≫に来たのが二日前。

 その二日間ずっと酒の樽か酒入りの革袋を抱えているのだから筋金入りだ。

 鬼種とはそういうものらしいけど。

 そんなことを思いながら首元のマフラーを緩め、サンドイッチを齧る。

 少し前までは食事の時は外していたが、付けたままに食べるのも慣れて来た。

 可能な限りウィルから貰ったマフラーは外したくない。

 

「美味しい」

 

「そうか、良かった。材料とか味付けとか、学園で普段作るのとは勝手が違ったがな」

 

「御影が作るのはいつも美味しいからそのあたり心配してないよ」

 

「ふふん。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

 

「……でも、御影が上手くいかないのは意外だったな。私はわりと簡単だったんだけど」

 

「うむ」

 

 サンドイッチにはまだ手を付けず、彼女は酒を舐める様に口に含む。

 

「エウリディーチェ様も言っていたが私はフォンほどご先祖様には近くないらしいしな。気とやらがいまいちピンと来ん。できなくはないというから試してみたが。というか」

 

 御影はらしくもなくため息を吐く。

 

「自分ではない自分を引き出すというのは、私にはどうにも難題だなぁ」

 

「……へぇ」

 

「どうした?」

 

「御影がそういう風にできないって言うの初めて聞いた気がする」

 

 フォンにとって御影はそういう人だ。

 できないことはないと思っていた。

 強く、優しく、美しく。

 美麗にして強靭なお姫様。

 カリスマという言葉がそのまま人の形をしたような存在だから。

 

「そうか? ……ふむ」

 

 彼女は少し頭をひねってから言葉を続けた。

 

「できないことを態々できないと愚痴るのは性に合わん。時間の無駄だろう?」

 

「……まぁ……それは……そうなんだけど……」

 

 散々勉強に関して愚痴を吐いた身としては耳に痛い。

 

「そもそも私は生まれが生まれだし、愚痴を言ってる暇があれば鍛錬をし、勉強し、作法を身に着けた。自分の証明をする為にできないことをできるようにする努力はしたが、どうしようもないことはどうしようもないと割り切っていた」

 

「仙術もそう?」

 

「どうだろうなぁ」

 

 出来ないわけではない。

 エウリディーチェのお墨付きなのだから。

 

「私の祖、つまりは鬼の神というが。仙術とはそれの力を引き出すものだろう? となると……ふむ、そうだな。感覚的な話だが、それを自分だとまだ実感ができないかもしれん」

 

「そうなの?」

 

「うむ。フォンは違うか?」

 

「…………うん、そうだね」

 

 フォンはお腹を撫でた。

 鳥人族、成人の証である刺青が刻まれた下腹部を。

 

「エウリディーチェ様の話を聞いた時、変な感じだけど驚きよりも納得があった。あぁ、これは自分の話なんだって思っちゃったんだよね」

 

「そこが私とお前の差異なんだろうな。或いは私が半分人だからかもしれん」

 

 御影は片角に触れた。

 鬼種の誇りであり半人半鬼が故に片方しかない角を。

 

「私は()()()()()だ。だがそれを疎んでいるわけでもないし、それが私だ。そんな私の証明をこれまでしてきた。だから……そうだな、仙術を身に着け、鬼としての力を増すことでこれまでのバランスが崩れるのを恐れているかもしれん」

 

「……やっぱり意外だよ。御影からそんな言葉が出るなんて」

 

「ははは、私を何だと思っている。怖いものくらいあるさ」

 

「うっそだぁ。例えば何があるのさ」

 

 思わず笑ってしまう。

 天津院御影に怖いものだなんて。

 これ以上似合わない言葉があるだろうか。

 

「そうだな」

 

 彼女は自分が作ったサンドイッチを小さく齧る。

 その所作は上品で、こういう所も彼女らしさだ。

 

「ふむ……ちょっと胡椒が多かったかな」

 

「私はこれくらいがちょうどいいと思うけど? もうちょっとあってもいいくらい」

 

「このあたりは個人差だな。次の食事は調整しよう」

 

 頷き、そして彼女はフォンを見る。

 琥珀の瞳を細め、柔らかく微笑んだ。

 

「私が今怖いのは、お前が答えを出せないということかな」

 

「――――」

 

 反射的にフォンは何かを言おうとした。

 けれど、言うべきことが見つからない。

 だからなんとか絞り出した声は自分でも驚くほどに頼りない。

 

「……ごめん。心配かけるよね」

 

「そりゃあ心配するとも。ウィルも先輩殿もアルマ殿も、アレスやカルメン先輩殿やシュークェにしても。学園のみんなももそうだ」

 

 いいかと、彼女はフォンの頭に手を置いた。

 

「みんな、お前が飛ぶ姿が好きだ。楽しそうに飛ぶしな。それでいてフォンがウィルのことを好きなのも知っている。エウリディーチェ様の好きバレなんてみーんな気づいていた」

 

「うぅ……それはそれで恥ずかしすぎる」

 

「ははは」

 

「ん」

 

 くしゃりと御影の手が頭を撫でる。

 優しい動きは心地よかった。

 彼女が気を使ってくれていることを感じる。

 そもそも、御影がフォンだけを連れて≪龍の都≫の端まで来たのもそうだ。

 人生最大レベルの羞恥プレイをしてしまい、ウィルは勿論、他のみんなにも顔を合わせづらい。

 

「誤解するなよ? 答えを出すことを急がしているわけじゃない。答えを出すことを恐れるなと私は言いたいんだ。むしろ、お前がウィルや私たちに気を使って焦ってしまうことが怖い」

 

「……でも、私の都合だよ?」

 

「なら、私たちの都合だな」

 

「―――」

 

 迷いのない言葉に目が見開かれる。

 彼女の笑顔はずっと優しいままで、

 

「いいか? 私やアルマ殿や先輩殿、そしてフォンが惚れた男はどーしようもない我がままで贅沢者だ。なにせ私たちが自分らしくないなら国だろうが本人だろうが喧嘩を売るんだから。だからこそ、ウィルは私たちの心が出した答えなら受け入れてくれる」

 

「心が―――」

 

「そうだ。どっちでもいいんだよ、お前が選ぶのは。大事なのはお前の心だ。仮にウィルに対する恋心を封じてもそれで別たれるわけではない。仮に翼を捨ててもウィルがお前を捨てるわけがない」

 

 どっちでもいいんだと、彼女は繰り返す。

 くしゃり。

 髪に指を入れて手櫛で梳かれていく。

 普段とは違い、下ろされた濡れ羽色の髪を。

 

「フォン、お前は選択をしなければならない。だけどその選択をどちらでも受け入れてくれる人がいるということを忘れるな。選ぶことを恐れるな。私たちはお前の選択を尊重する。だから好きにすればいい。いつも、空を飛んでいるようにな」

 

「………………」

 

「私が言いたいことはこんな所だ」

 

 頭を撫でる手が離れた。

 触れていた熱が消えたことに少しだけ寂しさを覚え、けれどそれまでくれた優しさに少し泣きそうだった。

 そう、彼女の言う通り。

 今の言葉はきっと彼女だけの想いではない。

 ウィルも、トリウィアも、アルマも。

 きっとそう思ってくれている。

 それが分かる。

 

「っ……あー……」

 

 鼻にツンとした感覚があるのを感じつつ、マフラーを口元まで引っ張り上げた。

 

「御影」

 

「うん?」

 

「……ありがと」

 

「いいさ……おっ? ……ふふっ」

 

 選ばなければならない。

 でも今は。

 隣に座る、姉のような人の肩に頭を預けたかった。

 きっとこの温もりは、フォンがどんな選択をしても変わらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 ≪龍の都≫は外部から見れば円柱上の山の中にある。

 通常の手段で≪龍の都≫に入る選択は二つ。

 数百メートルはある垂直の壁を猛吹雪の中昇ってくるか。

 或いは山の麓にある隠された山道から、山の内部にある螺旋回廊を上ってくるかだ。

 例えばシュークェの様に外部の人間が≪龍の都≫に立ち入ろうとした場合、偶然でもまずはその回廊に辿りつかねばならない。

 無論、その入り口は自然により隠された場所であり、魔法による隠ぺいもされているので簡単に辿りつける所でもない。

 

「ぶぇーくしょい! …………くそが! 寒すぎるぞコラ!」

 

 その入り口で盛大なくしゃみをし悪態を付く女がいた。

 吹雪の中、大した防寒具もない黒スーツ姿。

 控えめな胸とノーネクタイのブラウスの首元からは容赦なく冷たい風が差し込んでいることだろう。

 水色のツインテールも風に流され、元々目つきの悪い三白眼はさらに歪んでいる。

 右側の前髪だけが少し長く目元を隠し、鋭くかみ合ったギザギザの歯はカチカチと震えていた。

 

「妹よ、口が悪いな。もう少し品を持つがよいぞ」

 

 彼女をたしなめたのは、隣にいる長身の男だった。

 白シャツに黒いネクタイ、ベストという女以上に極寒の地にそぐわない装い。

 端正な顔立ち、風に吹かれる蜂蜜色の髪は妙に様になっている。

 妹とは逆に兄は左側の髪が長かった。

 猫背の女と違い、兄の背はマネキンのようにピンと伸びている。

 

「うるせーよ糞兄貴。アンタと違ってオレは寒さ耐性ねーんだよ」

 

「ならば兄が抱擁してやろう。この私を湯たんぽとして使うが良い。太陽ボディにてな」

 

「うっぜ。きっも」

 

「おぅ……兄、ショック」

 

 あからさまに落ち込む兄を妹は半目で睨み付けた。

 彼女は寒さに身を震わし、

 

「マジでどーすんだよ」

 

 山へと視線を上げる。

 

()()がいるなんて聞いてねーぞ。トカゲは準備してきたけど、アレがいたら御破算だぜ?」

 

「うむ……」

 

「上品なオニイサマに置かれましては名案をお持ちでございましょーか?」

 

「妹よ、上品さではどうにもならないことがある」

 

「使えねぇな……いや、ありゃあ使えない兄貴が使える兄貴でもどうしようもなーんだよなぁ」

 

 舌打ちをし、彼女は振り返った。

 兄もつられて背後を見る。

 

「どーすんだよ、ママ」

 

「どうしましょうか、母上」

 

「――――そうじゃのぅ」

 

 そこには1人の女がいた。

 年齢は分からない。

 黒いワンピース、腰まで伸びる長髪に乗った黒い帽子、口元までを隠す黒いフェイスベール、細い指を包む黒手袋、可愛らしい黒のミュール。

 露わになる首元や太ももの肌は白く、唇は赤く、けれどそれ以外の何もかもが純粋な漆黒。

 まるで空間にインキを零したかのような、あらゆる光を吸い込むような虚空の黒。

 吹雪の中、妹は寒さに震え、兄は自ら発熱することで対応しているが、彼女はそもそも気温とは無縁なのかあまりにも自然体だった。

 

「流石に妾にしても、≪天才(ゲニウス)≫の相手は手に余る」

 

 澄んだ声は、しかし奇妙に年齢を感じさせる深みがあり、同時にその言葉を発する口元は若者ののそれだ。

 身長的にも兄妹よりも低く、外見だけなら十代半ば。だが雰囲気は老婆のようでもある。

 

「じゃーどーすんだよママ。ここまで来て帰るのか?」

 

「ふむ。流石にそれは勿体ない。()()()もいることだしのぅ……で、あれば仕方ないか」

 

 ころころと女は笑った。

 無垢な童女のような笑顔。

 けれど狡猾な老婆のように言の葉を紡いだ。

 

「ちと予定より早いが、虎の子を出すとするかのぅ」

 

 

 




御影
無敵のプリンセス
なら私たちの都合だろ?って即レスできる姫様が好き

フォン編だけどGRADE2のトリウィアウィル御影の変わったことだったり変わらないものだったりの一種纏めみたいな感じでした。


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エンシェント・レイテスト

 

「ぬぉぉおおおおお……! はあぁぁあああああ……! おぉおぉおぉおんんん……!」

 

 ≪龍の都≫の集落、その中心地の広場。

 中央に噴水があり、周囲には龍人たちの家がありそれぞれの営みを送っている。

 大人がいて、子供がいるという点では人種のそれと左程違いはない。

 建築様式や道具が原始的ではあるものの、それぞれが自然の具現に等しい龍人種にとっては些細な問題だ。

 そんな龍人の広場の中央で、鳥人族の異端児シュークェは唸り声を上げていた。

 蜷局を巻く蛇型水龍を模した噴水の前。

 龍の魔法により飲み水としても使える上に、半永久的に尽きない水源だ。

 広場には水瓶を抱えた母と子がいたり、老人がリュートを気ままに引いていたり、若者が絵をかいたりしている。

 或いは龍人たちがその前で酒盛りをする憩いの場で、

 

「フォンよ……何故だ……何故……!」

 

「うっさいのー」

 

 シュークェは天を仰ぎ吠え、それをカルメンは眺めていた。

 噴水の外周に腰かけ、干し肉を齧る彼女の顔にはうんざりという感情で染まっている。

 

「我が妹……何故このシュークェに助けを求めんのだ……! 仙術ならばこのシュークェが教えてやるというのに……!」

 

「いやありゃもう大体コツ掴んでるじゃろうて。お前さんにしてもワシにしても助けなんて要らんて」

 

「だからこそ! このシュークェが! 妹を導かんと……!」

 

「だから要らんちゅーに」

 

 気だるげにカルメンは息を吐く。

 久しぶりの帰郷ではあったが、あまり楽しく喜べる場合ではない。

 フォンが心配であるし、同時に目の前にいる鳥男は暑苦しいからだ。

 翼から物理的に熱を発しているらしく、周囲の雪が不自然に溶けている。火龍であるカルメンからすればその程度問題にならないが、それでも鬱陶しいものは鬱陶しい。

 

「御影が連れってたからのぅ。なら、問題ない」

 

「鬼の姫に、あの子の何が分かる?」

 

「そして、アレは天津院御影じゃ」

 

 それは簡潔に。

 見れば分かるものを態々指摘する様に告げられる。

 いっそつまらなさげではあった。

 

「お主は知らんだろうが、御影とフォン、それにウィルやトリウィアに勿論アルマ様も含めてじゃが。あの5人の繋がりは大したもんでのぅ。加えて御影は大したもんだ。アレならばフォンを正しく導くじゃろ」

 

「根拠はあるのか」

 

「ワシ、これでも学園の生徒会長ぞ? 下の学年二つが頼りになり過ぎるせいでいまいち信頼と威厳が無い気もするが、それでも後輩のことは見ておる。なので、心配ない」

 

「…………ぬぅ」

 

 断言されてしまえばシュークェは何も言えない。

 それを見ながら思う。

 シュークェは頭が良くない――というよりも、鳥人族の常として思考が飛翔と、彼の場合武芸に占められているのだ。

 他人の心や考えというものを察する余裕もない。

 そして何より、フォンとは3年間の断絶がある。

 同郷ではあるが、しかしそれだけだ。

 大きく変わってしまった今のフォンのことは何も分からないのだろう。

 誰よりも鳥人族でありながら、鳥人族とはかけ離れてしまった少女ことを。

 

「このシュークェ……無力を禁じえん……!」

 

「落ち込む姿まで暑苦しいのー。心配するのはいいが」

 

 干し肉を齧りながらカルメンは周りを見回した。

 顔見知りが何人もいるが、落ち込む時まで熱を発しているシュークェへの反応はない。

 普通に過ごしている。

 彼もまた数年この地で修業したので慣れたものなのだろう。

 

「やれやれ……なんだかのぅ。ワシもエスカ連れてきてお爺様に会わせればよかったか―――」

 

 愚痴を吐きながら視線をずらした。

 何気ない動きだ。

 

 そこに、異物がいた。

 

「――――」

 

 スーツ姿の男女だった。

 片方はブラックスーツにノーネクタイ。

 片方はジャケットはなくベスト姿。

 ガラの悪そうな水色の髪と品の良さそうな金の髪。

 カルメンから見て正面、シュークェの向こう。

 その二人はいつの間にか広場に現れていた。

 

「―――さて」

 

 男が呟いた。

 同時、周囲に出現したのは燃える円盤が二つ。

 認識した瞬間、それが射出された。

 

「――――!」

 

 カルメンは思考よりも先に体が動いた。

 全身を瞬発させ、体を押し出す。

 まだ背後から来る火円に気づいていないシュークェを蹴り飛ばし、

 

「龍爪よ……!」

 

 両腕を変容させる。

 肘から先が真紅の鱗に包まれ、五指の先にある爪が鋭く伸びた。

 人ではない。

 龍の体。

 鱗は数百度の熱でも形を変えず、爪は鋼鉄であろうと容易く切り裂く。

 龍人種とはアース111において最も強靭な生命体である。

 神であるエウリディーチェに近しい生命体であり、そしてカルメンはその孫である直継。

 ただ腕を部分的に本来の姿にし、振るうだけでその他の種族の大半を凌駕する。

 膂力において亜人種では鬼種が最も優れていると言われているが、それは龍人種を例外としたもの。あらゆる能力において他種族から隔絶している。

 事実、彼女が両の爪を瞬発させた瞬間音速を超えた。

 変化の余波により腕は熱を灯し、爪の軌跡の空気が発火する。

 火龍である彼女が腕を振るうということは衝撃であり斬撃であり、そして炎熱にて敵を屠るのだ。

 二人組の出現も迫る火の輪も完全に唐突であり奇襲だった。

 カルメン自身、それがなんなのか理解していない。

 だが迫る脅威に対して迎撃は行われている。

 行った。

 そして。

 

「――――()()()()()

 

 燃える輪は龍の爪も鱗も、あっけなく粉砕した。

 

 

 

 

 

「なんだ!?」

 

 シュークェは驚きの声を上げざるを得なかった。

 突然カルメンに蹴り飛ばされたと思い、振り返ってみれば。

 火の輪が彼女の両腕を打ち砕いていたから。

 

「在りえぬだろう……!」

 

 シュークェにとって二つの不理解があった。

 そもそもこの≪龍の都≫で、その主にして神であるエウリディーチェの孫のカルメンが攻撃されているということ。

 そしてそのカルメンが迎撃を行い、あまりにも容易く腕を砕かれていたこと。

 在りえない。

 龍人の体がこんな簡単に傷つくはずもない。

 3年間、この地で修業をした彼は龍人種の強度をよく知っている。

 なのに目の前の現実においては、両腕の爪と鱗を砕かれ吹き飛び、そのまま噴水へと激突した。

 

「おい兄貴、加減すんなよ」

 

「そうは言うがな、妹よ。あれは要注意の1匹だ。手足くらいもいでおくべきであろう――――おや?」

 

 のんきに会話する二人に、しかし襲い掛かる影があった。

 龍だ。

 しなやかな胴体から飛沫を纏う蛇型水龍。

 巨大な四つ足と鈍色の甲殻を持つ獣型地龍。

 鋭く発達した翼で持ち舞い上がった鳥型風龍。

 3体の四つの足と翼を持つ龍たち。

 雪原を滑り、大地を揺るがし、空気を切り裂く彼らは二人の人間の数倍のサイズがある。 

 シュークェは彼らが誰かを知っている。

 さっきまで広場にいた母親や老人、若者たち。

 彼らも状況を理解しているわけではないだろう。

 ただ、カルメンを傷つけたが故に彼らはその身を龍のものとし襲い掛かった。

 どんな事情があろうとも、龍人たちにとって姫である彼女を傷つけたことを許さないからだ。

 一人一人が最低でも500年の蓄積。

 シュークェを含め、ウィル達でも手こずる者達。

 それが、

 

「兄貴、こいつらは違うだろ」

 

「そうだ妹よ――――≪桂冠至迅(アポロホイール)・バルムンク≫」

 

 蹂躙される。

 それは車輪だった。

 輪にびっしりと細かい棘を持ち、燃える輪。

 先ほどと同じように出現し、今度は四つ。

 瞬く間に三体の龍の全身に轍を刻む。

 鋼よりも固い甲殻も、それ自体に粘性を帯び衝撃を受け流す水鱗も、刃のように鋭い剣鱗も。

 何もかも、一切無視して龍たちは地に臥した。

 

「ぬっ……!」

 

 そして四つの内三つが龍たちならば、最後の一つはシュークェへと。

 拙いと、直感する。

 多分これ、触れない方がいいのではないか?

 カルメンたちもあっけなくやられているし。

 拙そうにはあまり見えないが拙い気がする。

 軽い気持ちで殴ったら、あの棘が体に食い込んで腕を走るのではないだろうか。

 それは嫌だ。

 回避しなければならない。

 ならば回避をしようとシュークェは決断した。

 回避行動を取る直前、火輪が迫り、

 

「ホアタァッ!」

 

 反射的に殴りつけてしまった。

 

 

 

 

 

 

「むっ……!?」

 

 やっちまったと思った直後だった。

 良い位置に来たので本能的に撃ち落とそうとして、打撃を開始した時には全力でぶっ壊してやろう! という意気ごみで満ちていた。

 そして結果的に、

 

「…………そんなに痛くないぞ?」

 

 左程難しくなくシュークェは火輪を殴り飛ばしていた。

 

「あんだよ糞兄貴、なんで効いてねーんだよ」

 

「良く見るがいい妹よ。あれは翼はあるが鱗や角がない。龍人ではなく鳥人族だ」

 

「へぇ。いいじゃんか。トカゲ狩りより鳥撃ちのがオレぁ好きなんだよな」

 

「ぬぅ……なんなんだ貴様たちは! このシュークェをただの鳥と罵るのか!?」

 

「あ? おめぇ鳥じゃねぇのか?」

 

「この翼を見て分からぬか! このシュークェ、誇り高き鳥人族よ!」

 

「…………おい糞兄貴、なんだあれ」

 

「妹よ、おそらくアホなのであろう」

 

「ちっ、これだから畜生は嫌いだぜ」

 

「応えるがいい、貴様ら何者だ―――!」

 

「その答えは僕が教えよう」

 

 

 

 

 

 

 二人の兄妹の出現は唐突だったが、彼女の参上もまた突然だった。

 シュークェの背後、転移門が開き銀髪の少女が現れる。

 装いを魔導服と肩から掛けたコートにした彼女は颯爽と門から現れ、

 

「ゲニウ―――」

 

「動くな」

 

 手を突き出し、兄妹へと拳を握った。

 

「!?」

 

 二人の体を光の鎖が巻き付き、直立不動となって拘束される。

 逃げる暇もなければ、二人が砕ける強度ではない。

 それを為すのは言うまでも無く次元世界最高の魔術師アルマ・スぺイシアだ。

 

「トリウィア、カルメンの治療を頼む」

 

「分かりました」

 

 彼女に伴う様に門からトリウィアも現れ、すぐに噴水にめり込んだカルメンの下へ治療をに向かう。

 シュークェはまだ理解が追い付いてきていなかった。

 

「さて」

 

 アルマは腕を組み、小さく顎を上げる。

 真紅の瞳は冷たく、拘束された二人に向けられた。

 

「アポロホイールにバルムンクね。ヘルメスやヘファイストスと仲間。龍人を倒したのは自分の術式に龍殺しの術式(バルムンク)を乗せたな? なるほど、それなら龍種に対して絶対的な優位性を得る。そうでなければカルメンや龍人種が容易くやられるはずもない。つまり、この≪龍の都≫を落としに来たというわけか」

 

 問いかけているわけではなく自身の言語化による確認だった。

 

「……アルマさん?」

 

 僅かにトリウィアが驚いた。

 無機質に呟く彼女は普段とはまるで別人のようだったから。 

 冷酷であり、残酷であり、まるで人形が言葉を発生させているようでさえある。

 トリウィアが見たことがないアルマ・スぺイシアで。

 或いはそれは、これまで≪D・E≫と戦ってきた天才(ゲニウス)としての姿だ。

 

「ゴーティアの残党ならば、相応の扱いをしよう。目的を言ってもらおうか」

 

「……貴女が父上の言っていた≪天才(ゲニウス)≫か。なるほど、対面すれば恐ろしいことこの上ない」

 

「それはどうも。だけど、ふむ。ヘルメスの時は顔を合わせた瞬間逃げられたものだが、君たちは聊か危機感が足りないのか、ゴーティアの話をちゃんと聞いていなかったのか」

 

「……ちっ、どっちでもねぇよ」

 

「へぇ? なら教えてもらおうか。どういうつもりなのか。≪龍の都≫を攻めようとしたらこの僕がいるという不運を噛みしめながら―――」

 

「あぁ、だから妾と付き合ってもらおうぞ」

 

「!」

 

 声は。

 アルマの後ろから。

 トリウィアもシュークェも。

 二人の兄妹も。

 アルマでさえ。

 次元世界最高の魔術師を背後から抱きしめる様に現れた女に気づけなかった。

 

 そして――――二人の姿が影に飲み込まれて消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………やられた」

 

 アルマは自分が転移されたということにはすぐに気づいた。

 なぜなら目の前に広がっていたのは≪龍の都≫ではなかったからだ。

 氷だ。

 それも視界一杯に広がる氷の大陸。

 正面や左右には遠目ながら連なった山々がある。

 雪があるのは≪龍の都≫と同じだが、完全に別の場所だ。

 空は晴れているが気温は異常に低い。

 常人では数分も生きられないマイナス100度ほどの極地。

 脳内の分割思考が環境対応の魔法を発動する。

 

「恐ろしいことをするね」

 

 彼女は忌々し気に真っ白な息を吐く。

 

「巻き込みの虚数転移だと? 僕が転移を邪魔したら弾かれて時間軸も空間も滅茶苦茶になってどこかに弾きだされるか、虚数空間に取り残されかねなかったぞ?」

 

「それをお主は分かっていると思ったからのぅ」

 

 返事をしたのは純黒の女。

 アルマと同じように環境に堪えている様子もない。

 真っ白な紙にインクを垂らしたかのように、氷の大地に佇む真っ黒な異物。

 フェイスベールから覗く口元は蠱惑的な弧を描いていた。

 

「それで? 君が僕の相手をするということでいいのかな?」

 

「いやいやとんでもない。≪天才(ゲニウス)≫、妾であろうともそんな傲慢な考えなどありはせん。正直こうしてお主と話しているだけで震えてくるというものよ」

 

「――――君、何者だい?」

 

 真紅の目は笑っていなかった。

 黒の口元は笑っていた。

 

「≪ディー・コンセンデス≫、ヘラ」

 

 名乗る。

 ローマ神話における十二柱の神々の組織を。

 ギリシャ神話における復讐の女神の名を。

 

「名乗っておいてなんだが、言ったように妾はお主の相手なんぞできん。――――だから、コレにしてもらおう。ちと乱暴に()()()()からな。放っておくとどうなるか分からんぞ?」

 

 それだけ言い残し、ヘラは姿を消した。

 アルマを連れ去った時と同じ虚数転移。

 その転移自体はアルマにも可能だし追跡もできる。

 だが、

 

「―――――おいおいおいおい、嘘だろ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 氷の大地が震え始める。

 最初は微かな胎動であり、すぐに地表に亀裂が入るほどの大きな地震となった。

 異常なのはここからだ。

 

 割れた大地から溶岩が飛び出してきた。

 

 ゴボリと湧く灼熱の濁流。

 だが、どういうわけか氷を溶かさない。

 超低温と超高温が両立する矛盾。

 なるべきものがそうならない埒外の具象。

 それでもまだ異変は終わらなかった。

 

 氷の大陸が割れ、巨人が姿を現したのだ。

 

 全長約50メートル。

 氷塊の体躯とその内外に流れる溶岩の血流。

 頭部、顔には目と口らしき陥没がある。

 両目の虚空からは涙のような溶岩が溢れていた。

 人の形をした矛盾の塊。

 このアース111においても、そんな生物は存在しない。

 物理法則に反している。

 故に巨人はそれ自体が法則を持った超常存在である。

 

「参ったな……これ、流石に放置できない。なんてものを目覚めさせてくれた」

 

 アルマをして頬の引きつりを止められない。

 距離を取って飛行することで全体像を把握するが、その存在スケールは尋常ではなかった。

 すでに眼下、大地は割れて溶岩の海と氷塊が広がっている。

 彼女はその存在を知っていた。

 ヴィンター帝国の遥か北、氷の大地に眠る伝説の巨人。

 かつて神と人が交わる中、それを拒絶し、最果ての地にて封印された神。

 両極端の熱を体現するもの。

 

「――――火と氷の≪ル・ト≫」

 

『■■■■■■■■――――――――!!』

 

 アルマがその名を呟き、巨人が吠えた。

 それだけで大気どころか世界が震え、軋みを上げる。

 聞く者の精神を砕く慟哭。

 数千年封印された怒り、怨嗟、悲嘆。

 放っておけばこの激情はどこへ向かうのか。

 仮に人の里に辿りついてしまえばどうなるのか。

 

「……ちっ」

 

 ヘラの手腕に思わず舌打つ。

 なるほどこれが用意できているのならアルマがいると知った上で≪龍の都≫を攻め入るのも納得だ。

 敵の目的はどうあれ、間違いなく鬼札の一つのはずだがここで切る判断も間違いではない。

 いくらアルマでも、片手間で相手できない。

 

「仕方ないな」

 

 真紅の瞳が細められ、両の五指が胸の前で組まれた。 

 胸に掛かる歯車を模したブローチは動かず、

 

「――――()()()()()()

 

 アルマの周囲に七色の光が咲き誇った。

 七色七枚の円形魔法陣。加えて複雑な文様が刻まれた帯状魔法陣が彼女の周囲を包み込む。

 その七色が意味することはただ一つ。

 

『■■■■!』

 

 ≪ル・ト≫もまたそれに気づいた。

 故に叫ぶ。

 しかし込められたのは怒りでも憎しみでもない。

 自らを脅かすものに対する敵意だ。

 この世界において神と信仰され、神とされた己と匹敵するものがいる。

 強制的に封印を解かれた彼は、本能のままにそれを敵と定めた

 

「ギャザリング―――()()()()()()()()()

 

 宣言と共に七色の光は弾けた。

 加熱、燃焼、爆発、焼却、耐熱。

 液化、潤滑、活性、氷結、鎮静。

 流体、気化、加速、伝達 風化。

 振動、硬化、鉱物、生命、崩壊。

 誘導、帯電、落下、発電 電熱。

 拡散、反射、封印、収束 浄化。

 圧縮、荷重、時間、吸収 斥力。

 7属性、35系統の同時使用。

 ウィル・ストレイトが編み出したものであり、彼とは隔絶した強度の完成系にて彼女は結実させる。

 

 即ち――――アルマ・スペイシアの究極魔法(アルテママジック)

 

 斯くして生まれるのは世界法則を体現した一つの色。

 世界法則の体現者。

 神に等しき魔術師。

 

「――――」

 

『■■■■――――!』

 

 

 ここにアース111最古の巨人とアース111最新の魔術師による戦いが始まった。

 

 




アルマ・スぺイシア
こっそり彼氏の魔法のアップグレードバージョンを究極魔法として用意してる

ヘラ
化物には化物をぶつけるんじゃよ



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オープン・コンバット

 アルマが消え、そして戻ってこなかった事実にトリウィアは思考を加速させた。

 仮に何か彼女に対する対策があったとしても、それでどうこうできるような存在ではない。

 なのに戻ってこないというということは。

 何か、アルマに対する対抗策か封印策を用意しているということ。

 泰然と佇む金髪と気だるそうにしている女、それに一瞬だけ現れた喪服の女。

 装いからしてヘファイストスを思い出す。

 

「……良くないですね」

 

 介抱しているカルメンもそうだ。

 

「っ…………」

 

 噴水に埋まる彼女の意識は朦朧とし、両腕の鱗と爪が砕かれている。

 重傷ではあるが、しかしこの程度で龍人種の彼女が意識が消えかけるというのは本来在りえない。

 龍人種とは心臓が潰されようが活動可能であり、その後に修復もできる。

 魔法で治癒すればもっと速いだろう。

 そもそも生命としての強靭度が違うのだ。

 両腕が砕けた程度で行動符になることはない。

 しかし今、カルメンは地に臥している。

 

「これは――?」

 

 ふと傷口を注視して気づく。

 何か黒い靄のようなものが傷をむしばむように覆っていた。

 

「おい、兄貴。そいつらはもういいだろ」

 

「うむ、送っておこう」

 

 男が軽い動きで手を振った。

 

「うおっ!? なんだ、どういうことだあれは!?」

 

「――」

 

 声を荒げるシュークェだったが、トリウィアもまた二色の目を見開く。

 

 二人組の周囲に倒れていた3匹の龍が黒い瘴気に包まれて消えたのだ。

 

 消滅。

 否、というよりもどこかに転送されたかのように。

 それはカルメンの腕から滲んでいたのと同じもの。

 瞬間、トリウィアの思考はさらに加速し、何をするべきかを判断する。

 

「カルメンさん!」

 

「――――っ」

 

 微か、彼女が動いた。

 叫びに応え、揺れる瞳がトリウィアを見る。

 

「や、れ」

  

 一瞬だった。

 既に握っていた二丁拳銃の撃鉄を押し上げる。

 変形二丁拳刃鞭銃≪エリーニュス≫、双剣形態≪From:Megaera(豊穣と嫉妬)≫。

 拳銃は双剣となり、

 

「――――ご勘弁を」

 

 カルメンの両腕を断ち切った。

 

「ぬぉ!?」

 

「―――ほう」

 

「へぇ! 勢いがいいじゃねぇか」

 

 反応は三者三様。

 けれど、トリウィア自身はこうするべきだと判断していた。

 刀身に氷結魔法を付与して切断面を一時的に凍結し、止血させる。

 これならばあとからどうにかなるだろう。

 

「―――おぉ、楽になった」

 

「……いや流石ですね、無理をしないでください」

 

 途端にけろりとした表情で起き上がる彼女に思わず呆れるてしまう。

 流石の生命力だ。

 けれど、あまり喋っている余裕はない。  

 思考が巡る。

 一先ずアルマに関しては置いておく。

 これはトリウィアの範疇を超えたものだ。

 それでも問題は多い。

 敵と見なせる二人組。

 

 片方、おそらくどちらとも龍人種に対して呪いのようなものを持っている。

 カルメンの受けた状態から鑑みるに傷口からその呪いは浸食し、龍人種の強度を無視する。そしておそらくそれが深まればどこかに転送されてしまう。

 腕を砕かれただけでカルメンが戦闘不能になったのだ。

 人型形態で即座に浸食部位を切り離したが故に彼女は復調したが、龍体だとそれも難しい場合が多いだろう。

 ≪龍の都≫は龍人族の里であり全員が強靭な生命体だが、彼らの持つ呪いはそれを無視してしまう。

 即ち、それを前提として≪龍の都≫に攻め込んできた侵略者だ。

 

 そうなってくると現在龍人族ではないのは自分、ウィル、御影、アレス、シュークェ、フォンの6人。不調であるフォンを抜いて5人。

 この5人で彼らと戦わなければならない。

 眼前の2人はともかく、喪服の女が未知数すぎる。

 

 どうするべきか。

 さらに言えば敵があの3人だけとは限らない。

 呪いに無防備な龍人族も守る必要がある。

 その上で、今取るべきは、

 

「シュークェさん、頼みがあるんですが―――」

 

「おい糞兄貴。なんかあっちに良い獲物の気配あるからオレぁそっち行くわ」

 

「ぬっ? 妹よ、何を」

 

 ふわりと女は浮かび上がった。

 自然な動き、しかし高速で兄が止める間もなく飛び去り、

 

「待てい貴様! このシュークェから逃れられると思うなよ!!」

 

 続いて火の粉をまき散らしシュークェがそれを追い掛けて行った。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………アホがおる……おった……」

 

 残された3人に、妙に気まずい沈黙が広がった。

 

「……やれやれ、我が妹ながら勝手な振る舞いには困ったものだ」

 

 仕方なそうに前髪をかき上げる男の動きには品がある。

 どこかの貴族の娘と言われても驚かないだろう。

 

「……何者ですか?」

 

「これは失敬、フロネシス嬢。私だけそちらを知っているのも不公平というものだろう」

 

 小慣れた様子の一礼。

 揶揄う気配はなく、おそらく普段から行っている動きだ。

 妹の方は不良染みていたが、やはりこちらは育ちの良さが滲み出ている。

 

「≪ディー・コンセンテス≫が一、アポロン・ヘリオス。貴女の噂は兼ねてより聞き及んでいる」

 

「ヘファイストスの仲間ですね? そしてこの≪龍の都≫を襲いに来たと」

 

「如何にも、先ほど≪天才≫も言っていたしな。貴女も分かっていたことだろう?」

 

「確認は大事ですよ」

 

「確かに」

 

『―――トリウィア、そのまま余の話を聞くが良い』

 

「―――」

 

「何か?」

 

「……いえ。先ほどの女性が妹というのなら、ヘファイストスとも?」

 

「是であり否であると言えような」

 

『良いぞ。流石だ、手短に話す。一方的な念話だが許せ』

 

 脳内に響いたのはエウリディーチェのものだった。

 どうやって、どんな魔法で、という知識欲は湧いてくるが今は封印する。

 神にも等しい彼女ならこれくらいできても何も不思議ではない。

 

『まず魔術師殿は心配なかろう。あれは余を超える存在だ。お前たちの方が知っているだろうが。そして、気づいていると思うが連中の持つ呪いは我々龍人族を容易く殺すものだ。故に、余たちは戦えん』

 

「お聞きしても?」

 

「大した話ではない。我等は孤児で、父母に拾われ、そして育った。そういう意味ではアルテミスもヘファイストスも兄妹ではあるが、ヘファイストスとは左程繋がりがなくてな。私にとって妹と言えるのはアルテミスだけとも言える」

 

『加え、あの龍殺しを鑑みるに亜人に対する呪いのようなものを持っていてもおかしくない。龍人もまた亜人種であるからな。そう考えた場合、人の子らよ、そなたたちを頼るほかない』

 

「なるほど、理解しました」

 

 確かにそうだ。

 龍殺しならぬ亜人殺し。

 想定にいれるべきだろう。

 そうなるとトリウィア、ウィル、アレスが戦うべきだ。

 

『臥して頼む―――どうか≪龍の都≫を守ってほしい』

 

 頼まれるまでもない。

 最初からそのつもりだ。

 彼らは元々、トリウィアたちにとっての敵なのだから。

 

『龍人たちは誘導し、何か所かに隠れさせる。今≪龍の都≫にいるのは今トリウィアが向き合っている男とシュークェが追っている女。女は方向的に御影とフォンの方に向かっている。魔術師殿をさらったもう1人は今は消えておるか余の感知を逃れているので気を付けよ。現れた時も一瞬すぎて掴めなんだ』

 

「……先ほど、アルマさんを連れて行った女性は?」

 

「さてな。そこまで語るほど口は軽くないよ」

 

「ですか……やれやれ」

 

 状況は良いとは言えないが、しかし囚われすぎるのも良くはない。

 やれること、やるべきことを確実に。

 

「厄介な状況ですが……ある意味では幸運とも言えたでしょう」

 

「ほう、その心は」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 トリウィアは腰を落としながら二丁拳銃を構えた。

 左銃を前に突き出し、右銃は顔の横に引き絞るように。

 簡単な話だ。

 龍人を狩る者が2人ないし3人いるのなら。

 今ここで1人倒せば状況は変わる。

 

「ふっ。ヘファイストスを倒したからと言って調子に乗られても困るな」

 

 対し、アポロンの周囲に燃える車輪が浮かぶ。

 数は四つ。 

 どれもが彼の意思に応じて自在に機動する。

 

「そもそも、だ。妹が勝手なのはいつものこと故、あの鳥男とお前の相手は私がしようと思っていたのだ」

 

「奇遇ですね」

 

 悪魔は笑う。

 蒼い目に光を灯して。

 

「私も同じことを考えていましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どう動きますか、先輩」

 

 アレスは稽古場にて先輩に問いかけた。

 状況はエウリディーチェから聞かされたが、問題なく戦える戦力としてどう動くかが重要だ。

 敵のうち、1人がトリウィアと戦い出し、もう1人がフォンと御影の下に向かうというのなら。

 

「アレス君、君は龍人の方々が集まる場所の守りをお願いします」

 

「……先輩は」

 

「フォンと御影の所に行きます」

 

 迷いなく彼は言う。

 その名の通り真っすぐに。

 力強い言葉を発し、一歩踏み出しながら右手を真横に掲げた。

 

「――――来てください、ビフレスト」

 

「……?」

 

 それは彼がいつからか持ち出した刀の名前だった。

 居合が本領故に専門が違うが、扱いを見せたことはあるし―――大体の基本は一見で真似されてなんとも言えない気分になったが―――学園の剣術担当の教師に二人で地面を舐めさせられたりと印象はわりと強い。

 その刀は、アレスの刀と合わせて用意された家屋に置いてきてある。

 御影の大戦斧もそうだ。

 まずはそれを取りに行かないといけないのに。

 確かに何度か魔法で引き寄せているのは見るが、それにしても仮宿までは歩いて15分ほどはある。

 そう思った瞬間。

 

 ――――それはウィルの下へ飛来した。

 

「!」

 

 高速で飛翔する虹の刀はそれ自体が意識を持ち、ウィルの呼びかけに答えたかのように。

 当然のようにウィルの手に収まった。

 勢いあまって右腕が左側に流れ、

 

「アッセンブル―――ギャザリング・エッセンス」

 

 その右腕に魔法陣が展開し、風が巻き起こる。

 

「うわ、ちょ、先輩! それ近くでやられると……!」

 

 当然ながらアレスはこれも知っている。

 特定属性特化の形態移行。

 ちょっとどういう魔法なのか意味が分からないが、明確なことがある。

 移行の際、それぞれの属性による余波が周囲に巻き起こる。

 それも結構な規模で。

 初めて聖国で見た時はかなりの勢いの火柱だったし、他の属性も似たようなものだ。

 

 けれど。

 アレスはこれまでとは違うものを見た。

 

「―――ペリドット

 

 再びウィルが右腕を真横に振るう。

 その動きに従う様に展開されたのは黄緑色の魔法陣だ。

 風は巻き起こり、けれど予想よりもずっと静かに。

 その魔法陣がウィルの全身を通り過ぎた時には変身は完了していた。

 

「これは――」

 

 服装は変わっていたが、けれど何より目を引いたのはウィルの背中だった。

 

「先輩、その姿は」

 

「……本当はフォンと一緒に飛ぶ為と思ってたんだけどね」

 

 苦笑しながら、彼はその背の()を広げた。

 黄緑の光の紋様で編まれた双翼。

 空を愛する少女と、空で共にあるための魔法。

 

「まだ上手く飛べるわけじゃないんだけど」

 

 だとしても。

 

「二人の下に行くには十分だ」

 

 そうして彼は飛び立った。

 迷いも躊躇ないもなく。

 自分がするべきこととしたいことを明確にしているから。

 

「―――本当に、あの人は」

 

 胸に広がった感情を押し殺しながら息を吐く。

 自分だってぼんやりとはしていられない。

 エウリディーチェからは龍人たちが集まる場所は教えられている。

 なにやらカルメンがかなりの負傷をしたようだし、それも気になるところ。

 アルマに関してはどうにもウィルやエウリディーチェもさほど心配していなかったから置いておく。

 

「……」

 

 空を舞いあがるウィルをもう一度だけ視界に収め、僅かに目を細めた。

 それから振り返り、

 

「なんぞ恋する乙女のようじゃのぅ、アレス」

 

「―――――」

 

 喪服の女が、目の前にいた。

 顔をフェイスベールで覆った年齢不詳の女。

 空間を塗りつぶすような漆黒を、彼は知っていた。

 

「―――――――――()()()?」

 

 

 

 




ペリドットの服装はのちほど
若干アップデートされて、変身方法が各属性が巻き起こるから
魔法陣を潜るになっています。ビュービュービュービュ!



次回からあれこれ戦闘していく感じです


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アジテイターズ

 

「――――≪桂冠至迅(アポロホイール)≫」

 

 トリウィアは日輪が宙を駆けるのを見た。

 太陽の神の名を持つ男が統べる眷属は四つ。

 直径30センチほどの車輪であり、鋭く細かいスパイクが生えた上で燃え盛るものだ。

 例え龍殺しの呪いを宿さなくても。

 アポロンの意思に応じ、高速回転と共に自在に舞う炎輪の殺傷力は高い。

 それらは中空に炎の軌跡を刻みながらトリウィアへと奔った。

 ゴオンというエンジン音にも似た轟き。

 自らに殺到する炎輪にトリウィアは僅かに目を細める。

 迫るそれは僅かな弧を描くことにより絶妙な時間差を生み出し、二つは頭と胴体に直撃するように、もう二つは手足をそれぞれ掠る様な機動。

 

「――――と」

 

 対し、トリウィアはそれら四輪への跳躍を選んだ。

 飛び込みながら体を横に捻り、中空で体を地面と平行にする。

 広げた四肢の合間に炎輪を通すことで回避。

 この時、手足をしっかりと伸ばし動きにキレを生むことは忘れない。

 格好良くないからだ。

 そういう意味では今の回避は悪くない。

 普段来ている白衣ならば裾を巻き込んでいたが、今のシンプルなジャケット故にできる動き。

 普段と装いが違うならば、それなりの動きができるのだから。

 

「ウィル君にも見せたかったけど」

 

 そんな場合ではないので、後にすることにする。

 決意と共にしっかりと両足で着地、腕はクロスさせた状態で。

 勿論それは格好いいからというのもあるが、

 

「魔弾装填」

 

 両肩に押し付けた弾倉を、腕を開くことで回転させる為だ。

 向ける銃口は前後に、体は横にし引き金を引く。

 

『―――水魔の射手(Der Freischütz:Wasser)

 

 水属性四種系統による魔弾。

 引き金は同時に引かれたが、放った弾種は異なる。

 前方、アポロンに対しては収束流水。

 後方、回避したばかりの四輪には水滴散弾。

 前者はシンプルに攻撃であり、後者は相手の攻撃に対する牽制だ。

 車輪が自在に動くというのならただ回避するだけでは足りない。 

 故に同時だ。

 水滴と言っても超音速で打ち出されれば容易く人体を撃ち抜くだけの威力はある。破砕するまではいかなくても吹き飛ばすことはできる。

 収束された流水も光線に等しい。

 後ろで手を組んだまま佇むアポロンに突き進む。

 彼は避けようとはしなかった。

 ただ、言葉を紡ぐ。

 

「――――四輪追加」

 

「!」

 

 収束流水が届くほんの一瞬よりも速く、新たな車輪が盾として出現した。

 既存のものと同じように回転する車輪が四つ。

 現れたそれらが水流を受け止め拡散させることでアポロンを守った。

 

「八輪駆動……!」

 

 パチンと指が鳴る。

 それに応える様に盾になった車輪が一度離散してからトリウィアへと殺到する。

 否、それだけではない。

 背後から水流散弾で牽制したはずの四輪が再び迫ってきた。

 前方から迫るもう四輪も含めて先ほどまでよりも勢いは強い。

 

「―――」

 

 全方位から炎輪が殺到し、炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 轟音と共に巻き起こった水蒸気にアポロンは目を細めた。

 土煙でも爆炎でもない。

 高温の物体と水分が接触した時に発生する蒸気だ。

 ≪桂冠至迅(アポロホイール)≫による攻撃ではそんなものは生じない。

 故に全方位にトリウィアが対処を行ったということ。

 それをアポロンは見た。

 八枚の炎輪が殺到し、彼女は避けなかった。

 ただ銃を振るい、

 

「…………聞いてはいたが、変形とはな」

 

 二丁拳銃が蛇腹剣になった。

 先ほどカルメンの腕を切り落とした時、一瞬双剣にしたがそれに続く三形態目。

 

「……大したものだ」

 

 目前、晴れる霧の中に彼女はいる。

 トリウィアは迫る炎輪に対して踊る様に蛇腹剣を振るった。

 対の刃鞭は炎輪を絡め取り、凍らせまとめて氷のオブジェを生み出した。大量の水蒸気はその氷と接触によって発生したもの。

 そして。

 八つの車輪を纏めて凍らせたオブジェの上にトリウィアは立っている。

 良く見れば彼女の足元、一つの車輪だけは炎を灯したまま半分だけが氷に埋まっている。

 それに、

 

「良いですね――――丁度、火を付けようと思っていたので」

 

 煙草を当て燃やす。

 口に咥え、息を吸い込めば水蒸気とは別の煙が空に伸びて行った。

 

「…………大したものだな」

 

「それほどでも。ですが」

 

 彼女は煙を吐き、周りを見回す。

 すでに人気はない。

 戦闘開始した時点でカルメンは腕がないとは思えない活力で離脱したし、他の龍人族もすでにいない。

 この場はアポロンとトリウィアだけ。

 それでも。

 

「ここは狭い――――場所を移しますよ」

 

 タンッ、と軽い動きで跳んだ。

 

 

 

 

 

 

「――――ふぅむ」

 

 トリウィアの意図は分かる。

 彼女が跳んだのは、アルテミスとシュークェが去ったのは逆方向。≪龍の都≫の入り口の方だ。

 アポロンとアルテミスの距離を離して合流をさせず、さらには龍人族を巻き込まないようにしたいのだろう。

 ここでアポロンの選択肢は二つ。

 彼女の意図を無視して龍人族を探す。

 或いは意図に乗るか。

 仮にトリウィアの誘いを無視して元々の目的である龍人族狩りをしてもいい。

 アポロンと妹―――アルテミスは龍人族を母であるヘラに与えられた術式で狩り、捕らえることが使命だ。

 来るべき日に向けた備えの一環、果たすべき使命。

 全ての準備が整うまでは水面下に潜んでいる。

 基本的にはトリウィアの誘いに乗る必要はない。

 この場合問題なのは彼女を無視すれば当然追って来て、トリウィアに邪魔をされながら龍人族を狩らなければならない。

 彼ら『ディー・コンセンテンス』において要注意の危険人物とされる筆頭。

 ≪十字架の叡智(ヘカテイア)≫トリウィア・フロネシス。

 直接戦闘は避けるべき、アポロンの頭の片隅に声がある。

 

「だが、どうせ戦う相手」

 

 何より、

 

「やっとだ」

 

 アポロン・ヘリオスもアルテミス・ルナも。

 ヘファイストス・ヴァルカンと同じように孤児であり、父であるゼウィス/ゴーティアと母であるヘラに拾われ育てられた。

 いつか世界を食らうものの先兵として。

 けれど想定外に父は倒れ、残されたものがその意思を継いでいる。

 そのためにずっと世の裏で潜んできた。

 十数年も待ち続けていた。

 やっと、表舞台に出つつある。

 そして今、斃すべき相手が目の前にいる。

 

「ならば父母よ、与えられた力を振るうことを許されよ……!」

 

 逝ってしまった父に報いる為に。

 変わらず庇護してくれる母の為に。

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)―――――』

 

 太陽の神を襲名した男はその身の神秘を解き放つ。

 吹き上がる炎熱。

 捕らえられていた日輪は熱を取り戻し、氷結の枷を蒸発させた。

 

「日輪を回せ―――≪桂冠至迅(アポロホイール)≫」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁぁてぇぇぇぇいいい!」

 

 シュークェは翼を全力で加速させアルテミスを追っていた。

 居住区から離れ、≪龍の都≫の中央からさらに西に進んだ辺りであり外周部の岩壁に沿うような小さな森に飛び込んだところだ。

 彼の飛翔は鳥人族でも特殊な部類である。

 通常鳥人族は翼を羽ばたかせ、魔法によって飛行を安定・加速させる。

 羽ばたきの頻度や速度には個人差があるが、基本的には飛ぶということは翼の運動になる。

 対してシュークェは違う。

 彼の飛翔は翼を動かさない。

 広げた翼から炎を噴射し、その推進力で加速するのだ。

 アルマやウィルが見ればジェット機を連想するような飛び方だ。

 消耗も激しく、長時間の飛行には適さないが仙術によってその問題を解消している。

 森の木々は左程密集していないので飛行には問題ない。

 問題なのは、

 

「なんなのだあの女は……!」

 

 アルテミスの移動方法だ。

 飛び方の話に戻るが、基本的に飛ぶときは地面と平行に、進行方向に頭を向けることになる。

 これは鳥人族の異端児であるシュークェだろうと変わらない。

 例えばフォンのような『落下』系統を持つ場合、前に向かって落ちることもできるし、飛翔感覚的に自然とそうなる。

 別に地面と垂直状態で進めなくもないが、空気抵抗を考えると無駄が多すぎる。

 だが、彼女はそう言ったセオリーから全く外れていた。

 

「貴様ァ! 何を優雅に空中滑空しておるかー!」

 

「うるせぇししつこいなァてめぇは!」

 

 彼女は地上五メートル。

 見えない椅子に腰かけ踏ん反り返っているような姿勢。

 足を組み、頭の上で手も組んだリラックススタイル。

 そんな冗談みたいな姿勢のまま、冗談みたいな速度で飛行していた。

 あんなもの飛行ではない。

 高速浮遊とでもいうのだろうか。

 

「お前こそ冗談みたいなポーズだろう!」

 

「何を言うか、この姿勢こそ最も速度の出る姿勢―――ぬぅん!」

 

 右腕は拳を握り突き出し、左手も握って脇を絞める。

 このフォームこそ最も速度が出るし、気分が良い。

 故に加速した。

 翼より噴出する炎が膨れ上がり、莫大な加速を生む。

 瞬間的に超音速に達し、アルテミスとの距離を詰めた。

 加速を乗せたまま突き出した右拳を叩き込むために。

 

「学習しねぇなぁ鳥頭がよぉ!」

 

 アルテミスが振り返った。

 その挙動も違和感がある。

 予備動作も無く、失速もしない反転。

 尖った歯をむき出しに吠えながら、彼女は腕を振った。

 

「ぬぅう!?」

 

 斬撃。

 それも見えない上にどこから来たのか分からない無数の攻撃だった。

 身体に、翼に細かく鋭い線で織りなす面の斬撃が打ち込まれた。

 体が裂けるだけではなく、加速度合い故か全身の骨に亀裂が入り、臓腑に衝撃が走った。

 それが何なのかシュークェは分からない。 

 ただ事実として攻撃され、失速し、墜落する。

 地面に激突する、その直前、

 

「ぬおおおおおおおおおおおこの≪不死鳥≫は不死鳥なりいいいいいい!」

 

「いや意味わかんねぇよ!」

 

 翼から炎を噴出し、アルテミスのツッコミを受けながら再飛行を開始した。

 肉体の損傷は、飛行に必要な機能から最優先で回復し始め、そのほかの飛行とは無関係な箇所も徐々にながら修復していく。

 

 ≪不死鳥≫のシュークェ。

 彼の持つ特異性はこれだ。

 飛行能力でも、飛行魔法でもない。

 再生力。

 ウィルによって翼の骨を折られた時、すぐに飛び上がったのもこれによるもの。

 特別な絡繰りはない。

 彼は実際に翼を折り、その上で即座に治しただけ。

 仙術により目覚めた能力がそれだった。

 シュークェは神代の時代にいたという炎と再生の神鳥の性質を強く引いている。

 元々鳥人族においては体も大柄で、飛び方も考え方も独特でありはぐれ者だった。

 だからだろうか、居場所を求めて鳥人族の里を飛び出した。

 どうだろう。

 そうだったっけ。

 なんとなくノリだった気もする。

 深く考えていなかった。

 あっちこっち渡り歩いて結果的に≪龍の都≫に辿りつけたので良しとする。

 今も攻撃方法は分からない。

 そもそも名前すらもシュークェは知らない。

 まぁいいだろう。

 

「問題は貴様が敵ということだ水色頭……!」

 

「誰が水色頭だ! アルテミスだよ! アルテミス・ルナだ!」

 

 名前が分かった。 

 やはり上手く行く。

 

「良いだろう、水色の女よ!」

 

「こいつ……いくら鳥畜生だからって頭が軽すぎんだろ……!」

 

「そう、このシュークェは特別故に!」

 

「――――もうてめぇからぶっ殺してやる!」

 

 アルテミスが空中でピタリと止まる。

 これまで最高速で勝るシュークェが彼女に追いつき掛け、謎の攻撃により落とされ掛け、復活して追いかけるの繰り返しだった。

 だがついに彼女はしびれを切らし、背後から迫るシュークェへの迎撃を選んだ。

 

「ほう! 逃げるのは止めたか、良い度胸だ!」

 

「あぁ!? 逃げる!? 誰がだよ!」

 

「お前しかいないであろう!」

 

「逃げてねぇんだよ! お前を無視してたんだよ!」

 

「馬鹿な、このシュークェ5回くらい攻撃されたぞ!」

 

「細かい揚げ足取るんじゃねぇ!」

 

「足を、取る……? このシュークェの足は付いているが」

 

「そういう意味でもねぇよ!」

 

「なんなんだ貴様は! わけわからん連中の上に分け分からん言葉でこのシュークェを弄するとは! 全く許せん! 正々堂々と戦うが良い!」

 

 ブチンと、何かが切れたような音がした。

 どこから聞こえたのか謎だが、なんとなくアルテミスの額辺りから聞こえた気がする。

 

「っ―――――あぁ、いいぜそのつも」

 

 言葉は途中で中断された。

 シュークェが何かしたわけでもない。

 

 アルテミスの背後から飛来した木が、彼女に激突したからだ。

 

「………………えっ」

 

 木である。

 丸太とか板材とかではない。

 森に生えている木をそのまま引っこ抜いてぶん投げたような木である。

 大きな音と共にアルテミスを背後から打撃し、そのまま地面に墜落する。

 

「…………」

 

 それを為した者がシュークェの前に現れた。

 銀の長髪と黒い片角。

 赤と黒の袴姿の女。

 天津院御影だ。

 

「よう、シュークェ。何やら楽しそうだったが、邪魔したか?」

 

「……」

 

 少し考え、

 

「―――否! 完璧な不意打ちだったぞ!」

 

 笑顔と共に親指を彼女に向けて立てた。

 

 

 




トリウィア
煙草には良い火ですね(笑)

アポロン
そんなことよりやっと戦えてテンション高いぜ

シュークェ


御影
斧ないのでその辺の木引っこ抜いた

アルテミス
は?


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アラウンド・フォール

 

 ≪龍の都≫西部の大道路をトリウィアは駆け抜けていた。

 元々はこの都の唯一の外部との出入り口に通じる道ではあるが、そもそも訪れる人間なんてめったにいないのでただの広い道であるだけと言って良い。

 龍種が龍形態で通れるために横幅が広く、魔法によって敷かれた石畳がしっかりしており、田畑の真ん中にそれだけの道があるのはどこか不自然ながらそれを気にする龍人もいない。

 

『――≪黄金童話・戦乙女騎行(Nibelungen・Der Ritt Walküren)≫』

 

 発動しているのは最も早く、最も長く移動するための魔法だ。

 身体能力強化魔法『黄金童話』。

 そこから持久力と移動力に特化した長距離移動身体強化『戦乙女』。

 もとより多種多様な魔法を用いるトリウィアは自身の使用魔法を細分化しており、その一つでもある。

 この場合、魔法による効果は単なる肉体強化だけではない。

 一歩ごとのストロークを伸ばし、『落下』系統を中心に術式を組むことにより前に落ちて加速する。

 足を速く動かして走るというより、歩速自体は緩めながら低く速く跳ぶのだ。

 コツはやはりジャケットの裾を美しくはためかせること。 

 横回転だろうと直進だろうとそれは変わらない。

 

「ちっ……!」

 

 だが、その裾を焼き焦がすものがある。

 

「中々の俊足、だが私の車輪も劣らぬとも」

 

 一歩につき概ね四度迫る車輪。

 そして≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫によりその身姿を変えたアポロンだ。

 真紅の全身重鎧。獅子を模した兜からは鬣の様に炎が噴出している。

 見るからに重厚な鎧ではあるが、獅子の速度は速くトリウィアにも劣らない。

 なぜならば、

 

「直立滑りとは……!」

 

 彼は腕を組んだ直立状態で足を動かさずに高速で移動している。

 アポロン自身は微動だにしていないのだ。

 移動リソースは足首に。

 脚甲の足首、その外側。最早車輪の形をした炎が高速で回転し移動力を生んでいる。

 重そうな鎧姿が腕を組んで足を揃えて直立し、両脇の輪炎に乗っているのはなんとも奇妙な光景であるが安定しているし速度も出ているのでちょっとおもしろい。

 普通の車輪と魔力式動力で移動方法にならないだろうか。

 腕組みはやはりシュールさが勝るのでちょっとした舵的な持ち手でも付けたり。

 

「名付けて旋駆影……! 128個目の技術特許、頂きます!」

 

「多い気がするがお前としては少ない気もするがどうであろうな!」

 

 魔法術式特許は1000超えたあたりで数えるのがめんどくさくなって実家管理にしているので仕方ない。技術特許の大半は技術的には革新的だが実用性はいまいちで一部の物好きにしか認知されないものでもある。

 ちなみに彼女の最高傑作は両手に握る変形銃であり特許を取得しているが、使いこなせるのがトリウィアしかいないので特に意味もなかった。

 

「あ、ちなみにヘファイストスさんがくれたタイプライターはしっかり私が特許取って予約も入ってるので将来派手な結婚式する時の派手な費用の足しにさせてもらいます。最低でも3国分の様式しないとですし、えぇ」

 

「貴様ァー!」

 

 怒りと共に燃える輪炎が迫った。

 動きとしてはそれまでとは変わらない。

 ただ速度と大きさが違う。

 車輪が燃えているのと炎が車輪の形をしているというのはトリウィアからすれば一長一短に感じるが、ヘファイストスと同じく特定の目的の為に特化しているのだろう。

 先ほどよりも速度も熱量も圧倒的に高い。

 疾走中、何度か撃墜したり弾き飛ばしたりしたがその度に勢いは増してきている。

 故に彼女は相手をしなかった。

 跳躍の途中体を回すことで回避を常とする。

 ジャケット故の行動の最適化は既に完了した。

 短く広がる裾で風を受け止め、空気抵抗による簡易ブレーキと姿勢制御を行う。白衣だと広がりすぎるので、ジャケットの長さがちょうどいい。

 そして、

 

「やっと着きましたか」

 

 ≪龍の都≫を取り囲む外壁へと辿りついた。

 一歩、強く大地を踏みしめて大跳躍。

 外壁に着地し、

 

『≪黄金童話・英雄凱歌(Nibelungen・Siegfried)≫!』

 

 そのまま駆け上がった。 

 

 

 

 

 

「むっ……!」

 

 アポロンはトリウィアの動きが変わったのを見た。

 それまでのゆっくりと足を動かし、長いストロークで跳ねることで前に進む動きではない。

 速く重く、連続で外壁を蹴りつけジグザクに駆け上がる動きだ。

 おそらく身体強化における魔法の配分を変えたのだろう。

 先ほどのものが速力や移動力を重視したものなら、これは膂力や肉体機動の精度を高めたものだ。

 垂直に壁を駆けあがっているのだ、その選択も理解できる。

 ノータイムの魔法移行。

 賞賛されてしかるべき技巧。

 単なる魔法の技術だけではなく体術も達人だ。

 このアースにおいて最強というのは伊達ではない。

 

「だが、私も捨てたものではないぞ」

 

 アポロンはそのまま岩壁に直進し、腕組直立状態でそのまま駆け上がり始めた。

 

「なんですかそのぬるっとしたちょっと面白い移動は」

 

「愚問、我が車輪はあらゆる場所を踏破する!」

 

 車輪による移動の際は自動的に体の向きに補正が掛かる。

 垂直の壁だろうが天井だろうが関係ない。

 故にそのまま行く。

 

「そろそろ追いかけっこも終わりでいいだろう……!」

 

 この最西端の外壁はもっとも背が低く、10メートル程度しかない。

 今のトリウィアとアポロンならば文字通り一瞬だ。

 彼女の狙いは自分とアルテミスを遠ざけて合流をさせないようにするためだろう。

 これまでは勝負に乗ったが、それも終わりだ。

 ここが勝負の決め時だと判断する。

 

「回れ、廻れ、舞われ……!」

 

 両腕を広げた。

 その手甲に炎が渦巻き、やはり車輪の形を得る。

 だが、ただの車輪ではなかった。

 車輪から回転を邪魔しない持ち手が伸びることで、車輪を振り回す得物となる。

 トリウィアは飛び上がりながらそれを確認し、目を見開いた。

 

「なんと――――ピザカッター!?」

 

「日輪式回転鋸と呼ぶが良い!」

 

 アルテミスや他の兄弟姉妹に散々言われたことなので強めに強調しておく。

 断じてピザを食べやすく切り分けるものではないのだ。

 それは、

 

「獲物を確実に狩る刃である……!」

 

 脚甲車輪のギアが上がる。

 それによって引き起こされるのは即ち加速だ。

 ジグザクに跳ねるトリウィアとは違う。

 岩壁に焦げ付く轍を刻みながら真っすぐに彼女を追うのだ。

 

「爆進……!」

 

 言った通りになった。

 狙いは彼女が岩壁の終わりに届く二歩手前。

 膂力任せで跳んでいる都合上トリウィアは急停止できない。仮にそうするなら跳躍の瞬間力む必要がある。

 故にまずは背に右の回転鋸を叩き込む。

 それを回避されたのならさらに左を。

 移動と加速は脚甲の車輪で行っている為、岩壁を介した平面機動は自由自在だ。どう回避されても追いかけられる。

 或いは空に逃げたとしても空中を駆ける輪炎で追撃をすればいい。

 単純な三段構えだが、それでいい。

 膨大な手数を持つトリウィア・フロネシスに対しては変に捻ったことをしても、その場その場で対応されかねない。

 反撃されるなら―――それはそれでも都合がいい。

 だから真っすぐに女を追う。

 トリウィアが跳ねる。

 岩壁の頂上まであと二歩半。

 長めの上昇の後にあと二歩になった。

 

「刈り毟れ……!」

 

 彼女の背へと燃え盛る回転鋸が振るわれ、

 

「―――おっと」

 

「!?」

 

 アポロンの視界が潰された。

 

 

 

 

 

 

 トリウィアは自らの行為が結果を為したのを見た。

 特別なことではない。

 腕を後ろに流し、双銃を蛇腹剣状態にすることでひっかかりを無くし。

 ジャケットを脱ぎ捨てたのだ。

 加速と重量に従って当然上着は落ちる。

 

「ぬおっ!? ……小癪な!」

 

 結果、アポロンの兜に絡まり視界を潰す。

 勿論それは一瞬のことだ。

 彼の兜は鬣が燃えているので当然ジャケットもすぐに燃えてしまう。

 だがその稼いだ一瞬でトリウィアは三つのことを行った。

 

「さぁて」

 

 まずは岩壁の頂上、数メートルしかない戦闘には物足りない足場に着地。

 

「ぬっ……なんだ貴様!?」

 

 すぐに追いついたアポロンが彼女を見て少し驚く。

 なぜならば、

 

「貴様―――――何故こんな糞寒い所でノースリーブを!?」

 

「勿論ギャップ狙いでウィル君にドキっとしてもらうためですが」

 

 アポロンの気づきに返答。

 これはこの男に対しての仕込みではないが、しかしそこに突っ込むとは中々の伊達男。

 男装のスーツ姿の下はノースリーブのタートルネックセーター。

 ウィルはわりとこういうシンプルな奴に弱いのだ。

 この場合問題はジャケットは一着しか持っていなかったので、ギャップ作戦が使えないが仕方ないとする。

 そして三つ目の動き。

 仕込みは既に終えてある。

 

「むっ……これは……!」

 

 アポロンも気づいた。

 ジャケットを脱ぎ捨てた時に変形した蛇腹剣、それが伸びて彼に巻き付いている。

 本来は分裂した刃片が超振動し、それを繋ぐ魔力の帯が刃となるが、全ての攻撃性能はオフになっていた。

 だから彼が気づくのが数瞬遅れた。

 その瞬間だけで十分だった。

 脳裏に過るのは、かつて天津院御影が風竜を一本釣りした光景。 

 全身に浮かぶ幾何学的な光のラインは肉体強化の魔力があふれ出たもの。

 ≪英雄凱歌≫による限界までの肉体強化により、蛇腹剣を思い切り引き込み、

 

「大鎧一本釣り……!」

 

 釣り上げた。

 

「ぬおぉぉ……!?」

 

 鎧の男が宙を舞う。

 細身の彼女からは想像するのが難しい鬼種顔負けの膂力。

 振り回した先は、

 

「貴様、よもや!」

 

 外壁のさらに外。

 即ち≪龍の都≫の外。

 舞い荒れる極寒の風雪。

 本来人の生存に適さない世界。

 トリウィアはアポロンをそこに投げ入れ、

 

「さぁ、最終ラウンドと行きましょう」

 

 自らも飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 数百メートル続く垂直の壁をトリウィアは駆け降りて行った。

 それは垂直落下と共に行うバレエだ。

 跳ねて。

 落ちて。

 回り。

 落ちて。

 駆けて。

 落ちて行く。

 強風が絶え間なく吹き付ける為に何もしなくても跳ねた体は断崖に戻されるため、再度『戦乙女騎行』を発動、壁面への蹴りつけと跳躍時の体捌きによって姿勢制御を行う。

 ブレーキ代わりに使っていたジャケットは脱ぎ捨てたために、減速は行わず四肢の振りによってひたすら加速を重ねて行くのだ。  

 気温は氷点下。高速で落下すれば体感温度は当然さらに低い。

 ≪龍の都≫を飛び出したと同時に炎属性によって発熱することで運動性能を維持し風属性によって呼吸を確保する。

 

「……!」

 

 背後、即ち上方より輪炎が駆け抜けた。

 ことこの期に及んで、その燃える円環の大きさは倍近い大きさになっていた。

 直径一メートルを超えている。

 落下中くるりと体を斜め横に回して回避、続けて横から来た車輪は体を横倒しにした回転で瞬間的な減速を掛けつつ避けていく。

 氷が張りついた壁を蹴り、

 

「命知らずだな……!」

 

「そちらこそ!」

 

 追いかけて来たアポロンの回転鋸を右剣で受け止めた。

 衝撃に逆らわなければ体が左斜めに落下し、跳躍によってさらに落ちて行く。

 炎獅子はやはり、跳躍すること無く氷壁を足首の輪炎によって駆けながら落ちて来た。

 速度自体はトリウィアよりも速い。

 落下している自分とは違い、アポロンは垂直の壁を自らの意思で走ってきているからだ。

 

「―――やる気ですね」

 

「無論だとも!」

 

 ゴーティアの眷属。

 自分たちが魔族信仰派と呼ぶもの。

 おそらくその幹部。

 果たしてどれだけの鬱憤が溜まっていたのだろうか。

 超高所からの落下にも構わず追いかけて来た。

 何度も迫る輪炎は、こんな極限状態にあって尚、さらに勢いを増してきている。

 何もかもが高速で流れる状況の中、トリウィアは燃えるように輝くアポロンの目を見た。

 

「我等≪ディー・コンセンテス≫、来る日に向け父の為に影で備えをするだけだった!」

 

 だが、と燃える回転鋸の回転数が増す。

 それによる攻撃は苛烈であり、何度も激突を繰り返し、トリウィアは吹き飛ばされながらその叫びを聞く。

 

「父は倒れた! 予想外にな! なればこそ我らは立ち上がり、それでもまだ雌伏の時よ!」

 

「……!」

 

 連続する交叉。

 回転する炎の刃がトリウィアの双剣を焦がし軋ませる。

 『耐熱』系統を保有していないため、刀身を『氷結』『硬化』、高熱を『拡散』させることで強度を維持させていた。

 

「そんな時に貴様を、この世界における最強の女を狩る! それに猛らぬほど私は燻っておらんよ!」

 

 

 

 

 

 

 己は本来とっくに死んでいるものだっとアポロンは自嘲する。

 虐げられたものだった。

 大戦により親を失い、王国のスラムで生まれ育った。

 治安が良く、戦災孤児の救済を国策として行っていた王国だったがそれでも全てが救えるわけでもない。

 勿論帝国や聖国、連合に比べれば救われた孤児は多いだろう。

 そもそも国家全員が戦闘者である皇国や碌に大戦に参加せず高みの見物を決め込んでいた共和国とも違う。

 それでも取りこぼされた子供はいた。

 アポロンはそういう子供だった。

 そしてゼウィス・オリンフォス/ゴーティアとヘラに救われたのだ。

 後の20年、自分もアルテミス、ヘファイストスやヘルメスも含め雌伏の時だ。

 いつかゴーティアが動き出すまで、という目標は父が死ぬことによってヘラの主導によって変わったかと思えばまたもや裏工作だ。

 来るべき『その時』に向けて。

 

 そして――――『その時』の主役は自分ではない。

 

 ≪ディー・コンセンテス≫の中心に立つべき者はまた別だ。

 自分たちはその者の為にお膳立てをしているのであり、母であるヘラもまたその者を導くために動いている。

 だから己は脇役だ。

 スポットライトを浴びる者の背後で控えるべき者。

 そこに文句はない。

 父が残した無念とそれを引き継いだ母の願いをかなえる為の人生だ。

 救われ、育てられ、高度な教育と鍛錬、異世界の知識を与えられただけで感謝するべきだ。 

 だが、

 

「ここで貴様を倒せば、痛快であろうよ……!」

 

 トリウィア・フロネシス。

 『その時』に立ちふさがるであろう相手の中で最も危険度の高い女。

 大戦により世界から零れた自分が。

 世界に背反して尚、輝かぬ太陽が。

 

「自ら光るならば今を置いてあるまい……!」

 

 両足の車輪が音を立てて加速を生む。

 ≪桂冠至迅(アポロホイール)≫による機動は高速落下だろうと関係ない。

 こんな状況であれ自在に駆ける。

 必ず跳躍を挟まなければならないトリウィアとは違い、攻撃の主導権はこちらにある。

 事実数十秒も続く交叉は全てアポロンからであり、彼女はそれをしのぐためのものだった。

 

「回れ、我が日輪……!」

 

 故に行く。

 回転鋸を交差し、挟みのように突進する。

 輪炎の回転を内側にすることで、彼女を逃がさないためだ。 

 その熱量と回転率は過去最高。

 ≪龍の都≫を飛び出す直前よりも限界値はさらに上がっている。

 トリウィアはアポロンを引き離す為にこの断崖落下の戦闘を選んだのだろうが、それこそが彼にとっての勝機に他ならない。

 そして。

 アポロンは落ちて行くトリウィア・フロネシスの。

 

「……!」

 

 その輝く青い片目を見た。

 

 

 

 

 

 

『≪外典系統(アポクリファ)≫――――≪汝、叡智を以て叡智を愛せ(φ ρ ό ν η σ ι ς ・φ ι λ ο σ ο φ ί α )≫』

 

 蒼く輝く右の瞳、それに浮かぶ十字架。

 溢れる蒼き陽炎。

 あらゆる魔術魔法術式を『解析』する叡智の魔眼。

 トリウィアは最早、壁面を蹴ること無く頭から落ちて行った。

 ≪桂冠至迅(アポロホイール)≫の特性は既に分かっている。

 

 即ち、エネルギーの吸収だ。

 

 炎輪、ないし輪炎が受けた衝撃を燃焼力や回転力に転換している。

 最初の噴水広場、その後の外壁までのレース、現在の落下劇。

 進むにつれて火力が増してきたのはその為だ。

 不審に思ったのは噴水広場で水滴散弾で弾いたものが、消火されずに勢いを増していたこと。

 だから外壁に至るまでにそう推測し反撃を控えて回避に専念していた。

 単純だが、良くできると思う。

 戦闘が長引き、苛烈さを増せば火力が上がるのは不思議ではない。

 ≪龍の都≫外、極寒の風の中でも勢いを増さなければ考えすぎで流していただろうし、自身の≪外典系統(アポクリファ)≫がなければ気づけなかったかもしれない。

 だが気づいた。

 故にやることは決まっている。

 

「―――」

 

 ≪汝、叡智を以て叡智を愛せ(φ ρ ό ν η σ ι ς ・φ ι λ ο σ ο φ ί α )≫。

 古代語にて発音するその≪外典系統(アポクリファ)≫が発動した視界は色だけの世界だ。

 通常の視界とは別に魔法の術式だけで構成された色彩がある。

 以前戦ったヘファイストスも、今のアポロンも驚くことに人型の魔法式に見える。

 魔法を纏っているとか強化しているとかではなく、存在そのものが魔法なのだ。

 それも今のアポロンは、ヘファイストスのそれよりもさらに緻密。完成度が上がっている。

 アポロンがそもそもヘファイストスより強いのか。

 或いは強くなったのか。

 本人である鎧姿、加えて二振りの回転鋸、さらには周囲から迫る大型輪炎。

 前者には術式核が見えず、後者二つには見える。

 おそらく彼の≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫がそれだけ高度なものということだ。

 魔法による肉体の変生。

 トリウィアの魔眼でもそれは簡単には砕けない。

 だから狙うのは簡単に砕ける方だ。

 

「―――叡智の祝福を」

 

 引き金を引いた。 

 風の轟音に紛れる小さな発砲音。

 

「なにっ……!?」

 

 それによりアポロンが握る炎の回転鋸が消滅した。

 彼女の魔眼による『解析』。それによって看破した術式核を破壊することで魔法そのものを消滅させるのだ。

 

「……まだ我が日輪は落ちておらんッ!」

 

 しかし彼は止まらなかった。

 指運にて操作するのは周囲に巡る輪炎八つ。

 上下左右からトリウィアへと迫る。

 

「えぇ、知っていますよ」

 

 だからトリウィアも止まらず、回転。

 自身の天地を入れ替え、

 

「っ―――だぁあああああああああッッ!」

 

 らしくもない声を上げて。

 中空に足場を生み出し、踏ん張った。

 

「!!」

 

 人種は空を飛べない。

 鳥人種のように自由に空を舞うのは不可能だ。

 浮遊するくらいならある程度できる。

 そして、空中に足場を作ることで跳ねることも。

 高速落下故、ただ足場を作っただけでは停止しきれないので、ブーツの裏から作った足場を岩壁に突き刺す。

 岩と石、土と氷をまき散らしながら彼女は急制動。

 

「―――熱が足りんな!」

 

 その動きにアポロンは対応した。

 同じく急制動。

 こと機動という点に関しては彼の方が大きく上回るのだ。

 一度ジャケットによる目くらましをしていたのもあり、反応は即座。

 

「集え我が日輪……!」

 

 輪炎の機動が修正され、トリウィアに殺到する。

 

『―――≪From:Tisiphone(慈雨と殺戮)≫』

 

 彼女はただ、撃鉄を押し上げた。

 即座に双剣の刃が分裂し蛇腹剣となり―――通常とは違う配列を生んだ。

 真っすぐに蛇のように伸びるのではない。

 

不滅の栄光よ(Gloire immortelle)我等と我ら祖先に忠実であれ!(De nos aïeux, Sois-nous fidèle) 彼らのように私も命を捧げよう!( Mourons comme eux)

 

 刀身の延長上、より大きな刃片を描く。

 それぞれの空白に魔力が張られ、形成されたのは巨大な二振りの魔力刃。

 逆手でそれを握り、彼女は腕を、体を回し、

 

『≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫―――≪十字架の栄光(ヘカテイア・グローリア)≫ッッ!』

 

 一閃。

 直径十数メートルの真円が発生した。

 トリウィア・フロネシス、三つ目の究極魔法。

 拡大展開した魔力刃に28系統を乗せた広範囲消滅斬撃。

 それを、輪炎が自身に接触する直前のタイミングまで引き寄せた上で残らず全てを一息に切り裂き、

 

「まだ、届かぬか……!」

 

 太陽の日輪を、深淵の円環が断ち切った。

 




トリウィア
何気に一番戦闘描写多いんじゃないでしょうかねこの人。
この後どうやって≪龍の都≫に戻るか頭を抱えることになる女
態々ノースリーブ仕込んでいる当たり卑しいですね。浮かれポンチですね。
彼女の技術特許は大半が浪漫武器です。
いつかマキナと仲良くしていたグラサンハゲことマックとかは喜んでるけど、マキナがそういう武器の特許取ろうとしてたら半分くらいトリウィアが取ってる。もう半分で特許取っても人気はまるでない。

アポロン
相手が……悪い……!


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デミ・ハンティング

 

 ≪龍の都≫における異常は御影にも届いていた。

 彼女とフォンがいた一枚岩は龍人族の里を一望できる場所にあり、エウリディーチェからの念話もあった。

 そしてそれ故に、アルテミスが自分たちのいるところに真っすぐ向かっていると知ることができた。

 その時点で御影の判断は一瞬で完了した。

 即ち、フォンをその場において自分が迎撃することだ。

 戦闘能力が飛翔に基づく彼女は、今まともに戦えない。

 だったら自分が戦い、アルテミスを食い止めなければならない。

 御影自身にしても愛斧である≪伊吹≫を置いて来たが、それでも戦いようはある。

 実際、アルテミスと彼女を追いかけたシュークェが何やら口論してたのでとりあえず周りに生えていた木を引っこ抜くことで武器とした。

 三メートルほどの高さと、五十センチほどの太さの針葉樹らしきものだ。

 投げつけるにはちょうど良く、いい感じにアルテミスに激突した。

 続けて良い感じにシュークェからの賞賛を受けて、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)!!』

 

「ッ――気を付けろシュークェ!」

 

 その叫びを聴いた。

 空気が張り詰め、魔力に似た何かが溢れ出す。

 

『かき鳴らせ―――――≪凶禍錘月(ディアナ・ストリングス)≫ッッ!!』

 

 甲高く、澄んだ音を御影は聞いた。

 そして二つのものを見る。

 まずは大地に突き刺さった投木が一瞬でコマ切れになったということ。

 もう一つは姿を変貌させたアルテミスだった。

 水色を基調とした軽鎧だ。

 正確には上半身はほとんど鎧の体を為していない。

 肩出しのボディスーツに控えめな膨らみを包む胸当て、肘までを包む長手袋のみ。対し、下半身は重厚な脚甲に包まれている。特に脚の脛から膝の先までは三日月を模したような装甲だった。

 特徴的なのはウサギの耳のような長い装飾が付いたティアラ。

 

「なんだ……ウサギ女……女ウサギ……獣人族!?」

 

「てめぇみてぇな畜生と一緒にすんじゃねねぇ! せめてバニーガールと言えやぁ! 可愛いだろ!」

 

 バニーガール。

 確かに、王国の賭場でそう言った恰好の女が給仕をしているのは見るし、それに近い装いではあった。

 気になるのは記憶にあるヘファイストスとは変化の仕方が随分と違う。

 あれはもっと生態的であった。

 

「―――てめぇ、随分とこすい真似してくれるじゃねぇか」

 

「ん? それは私のことか?」

 

「決まってるだろうが」

 

「何か文句でも?」

 

「いいや? 悪くなかったぜぇ? その後の会話はムカついたがよ。……てめぇ、混血か?」

 

 アルテミスの三白眼が細められた。

 

「だったらなんだ? 貴様、どうにも亜人嫌いのようだが」

 

「あぁ、嫌いだね。大っ嫌いだ」

 

「はっ、亜人差別なんぞ今時流行らん」

 

「てめぇの信条を流行と合わせるわけがないだろ」

 

「――――確かに。良いことを言うな」

 

「おい、鬼の姫よ。そこ納得するのか? いいのか?」

 

 敵だとしても良い言葉は良い言葉だ。

 アルテミスが言った考え方は大事だと思う。

 忘れずにおきたい。

 だが。

 

「お前、何故こちらに向かってきた? 狙いは私……というわけでもないか?」

 

「勘が鋭いねぇ。―――向こうにいるんだろ? 極上の獲物の匂いがする。鳥臭い、狩り甲斐がありそうな獲物だ。トカゲ狩りも良いけどよぉ、鴨撃ちのが好きなんだよオレぁ」

 

「なるほど」

 

 理屈は分からないが。

 しかしこの女はフォンの存在を感知しているらしい。

 そして彼女を狙っている。

 龍人族を襲いに来ただろうにフォンを標的とするのは明確な目的があるのか、言葉通り単なる趣味なのか。

 勘だが、おそらく後者。

 もっと言えば。

 フォンが先祖帰りということも関係あるかもしれない。

 何にしても。

 

「そういうことなら、私とシュークェで満足してもらうぞ」

 

 笑い、大地を蹴り、

 

「――――いいや、てめぇらは片手間だ」

 

 

 

 

 

 

「≪鬼切童子≫―――≪駒鳥殺し(ロビンキラー)≫」

 

 ()()()、という音をシュークェは聞いた。

 聞こえたと思ったら、

 

「ぐおっ――――!?」

 

「ッッ―――――!?」

 

 シュークェと御影の苦悶の声が上がる。

 傷が生まれ、それは二人の全身に及んでいた。

 油断なんて当然していない。

 それにも関わらず、攻撃を察知できることなく、シュークェの翼を含めて余すことなく細い斬撃が食い込んでいた。

 まるで、全身を絡め取るように。

 

「ぬっ……?」

 

 シュークェは不可解なことに気づいた。

 傷は全身に及んでいるが、それでも彼自身の再生力であればすぐに治癒されるはず。

 なのに治らない。

 加えて、

 

「体が……動かん……!?」

 

 指はかろうじて動かせるが、四肢は動かない。

 

「ふん!」

 

「無駄だぜ鳥畜生!」

 

「ぬあ! へあっ! とぅ! ハァアアアアアア!!」

 

「うるせぇ!! 動かねぇって言ってるだろ!」

 

「これは…………体が動かせん!!!」

 

「―――――糸、か?」

 

 ぽつりと、同じく体を拘束された御影が呟いた。

 厚手の袴姿だったが、何かが全身に食い込んで彼女のスタイルを浮き出している。

 

「へぇ。アンタの方がちょっと頭が良いようだな」

 

「だが、それだけじゃない……っ、痛いぞ。龍人族に対してた毒とやらと似たようなものか」

 

「ご名答! 龍だろうが鬼だろうが鳥だろうが関係ねーんだよ。まートカゲ相手のよりはちと効果は薄いがそれでも十分だろ?」

 

「確かに……痛いし、気分も悪い、力が抜ける」

 

 彼女の言う通りだなとシュークェは思った。

 加えて肉体の再生速度が明らかに遅い。

 それから傷口を改めて見た。

 凝視して、やっと光に反射し、体に食い込む線がある。

 

「鈍い痛みは苦しいだろ?」

 

 兎鎧の女は笑い、二尾の髪が揺れる。

 罠にかかった獲物を見る様に。

 事実今、シュークェと御影は彼女の手の中にいる。

 目を凝らせば、彼女の手袋には鋭利な爪があり、そこから極細の糸が伸びているようにも見えた。

 これ、ちょっと拙いのではないだろうか。

 なんかサディスティック的な趣向を見せているアルテミスだが、彼女がちょっとその気になったら首とか飛ばないのだろうか。

 驚異的な再生力を誇るシュークェでも流石に首を飛ばされれば死ぬ。

 多分。

 試したことないから何とも言えない。

 斬られてすぐ押さえつけたら大丈夫だったりしないだろうか。

 

「おい、シュークェ」

 

「うむ?」

 

「フォンの為に命かけられるか?」

 

「無論だ」

 

「よし」

 

 即答に、鬼の姫はニヤリと笑った。

 全身を糸で拘束されていることも、切り刻まれていることも、亜人に対する毒をアルテミスが持っているということにも構わず。

 

「あぁ? てめぇ、何をする―――」

 

「―――こうするとも!」

 

 

 

 

 

 

 御影は自らの魔力を解放した。

 ごうっ、と熱が生まれる。

 身体強化魔法に伴う発熱だ。

 鬼種の身体強化は熱を生む。

 体内にあるエネルギーを瞬間的に燃焼させることで肉体機能を活発化させるものだ。

 それは別の場所でトリウィアとデスレースを繰り広げているアポロンの炎とも、シュークェの翼の火とも違う。

 現象としての炎は生み出さず、しかし高熱があった。

 灼熱を宿した彼女は無理やりに周囲の糸を掴み、想いきり引き寄せた。

 

「奮ッ……!」

 

「うおっ!?」

 

「ぬっ……!」

 

 大元のアルテミスが姿勢を崩す。 

 だが無理に動いた故に、糸は御影とシュークェの体に食い込み切り裂いた。

 全身から血が飛沫を上げる。

 

「てめぇ……!」

 

 体勢を崩しながらもアルテミスは五指を動かした。

 それだけの動きで張り巡らされた糸は致命の動きをする。

 糸が絞まることで肉を裂き、宿された亜人殺しの術式が彼女を蝕む。

 並みの亜人であれば、既に死んでいるはずだった。

 だが、

 

「舐めるなよ……!」

 

 天津院御影は嗤った。

 全身から血を流し、衣類が引き裂かれ褐色の肌を濡らそうが構わない。

 流れ出す血が蒸発し、陽炎と共に立ち昇る。

 肉が裂け、骨が軋み、

 

「こういう拘束は一度やられててな……!」

 

 もう一度、極細の糸をまとめて引き寄せた。

 龍人族を除けば最も膂力に優れる鬼種。

 混血とはいえ原種を上回る強度を持ち、その魔力全てを身体強化に回した。

 

「うおっ……!?」

 

 その結果が、勢いよく引き寄せられるアルテミスだった。

 兎鎧の少女の体が浮く。

 後は、簡単だった。

 

「狩人が兎の恰好をするものじゃない」

 

 灼熱を纏う拳を、アルテミスへとぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

「――――!」

 

 御影は、自身の拳を見た。

 

「褒めてやるぜ。半分は人間にしても、大したもんだ」

 

 兎鎧の女、その顔面に打ち込んだはずだった。 

 その拳が受け止められている。

 彼女の手ではない。

 髪だ。

 ツインテールになった水色の髪が蠢き、網となって拳を受け止めていた。

 

「これは――」

 

「残念だったな、オレの武器は糸じゃなくて髪なんだぜ?」

 

「っ……!?」

 

 髪糸が軽い動きで御影の腹に触れ、何かを貼りつけた。

 

「アンタにゃ特別だ。半分人間で半分畜生なんだろ? ちょっと前に手に入れたばかりのとっておきだ―――有り難くとっておきな」

 

 それは符だった。

 皇国における魔法具であり、魔法の発動を補助するものだ。

 単発の攻撃魔法であったり、強化や回復であったり、専用の紙とインクに目的の為の術式を書き込むだけなので汎用性は高い。

 基本的に力任せな傾向にある鬼種の戦いを補助するもの。

 或いはと、御影の脳裏に過る。

 符術のメジャーな使用法。

 

 ―――()()()()()()()()()()

 

「解」

 

 その何かが、御影の腹で弾けた。

 

「―――――――!?」

 

 それは渦巻く衝撃であり、そして呪いだった。

 怨念。

 情念。

 想念。

 何であるか、その時の御影には理解できなかった。

 ただ事実して強烈な衝撃が御影の腹部で炸裂し、吹き飛ばす。

 轟音。

 十数メートル離れた大木に激突する。

 

「天津院御影ッ――ぐっ!」

 

「お前は後だ」

 

 シュークェの動きは既にアルテミスに止められた。

 折れた大木にめり込んだ彼女は動かなかった。

 

「思ったよか時間取っちまったからなぁ。さっさとメインディッシュに行きてーんだよ」

 

 ギザギザの歯をむき出しに笑いながらアルテミスは指を鳴らした。

 途端彼女の髪が捻じれ寄り合い、鋭い槍を生む。

 高速回転するそれはまるでドリルのようだった。

 動けなくなった彼女の腹を突き抜けるには十分。

 

「どうせ呪われの傷物だ。行き場所なんてねーだろ?」

 

 酷薄な笑みと共に軽く指が振るわれ、致命の髪槍は放たれた。

 

 

 

 

 

 

「…………あぁ?」

 

 髪槍は確かに放たれた。

 大気をぶち抜きながら鬼の姫へ。

 ≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫によって増えた髪糸は膨大かつ極めて細く自由自在だ。

 まとめて武器や盾を形成し攻防することも、体を持ちあげて高速移動することもできる。

 その槍はしかし、天津院御影を殺すことなく木の根と大地を穿つに留まった。

 

「――――嫌な人ですね」

 

 声は背後から。

 振り返れば、御影を横抱きに抱える背中があった。

 黄緑の紋様で編まれた翼を背負う少年だった。

 鳥人族のような黒い袖無しと臍出しの戦闘着。

 首元には風に吹かれて棚引く濃い黄色のマフラー、露出した腕や腹筋にはそれぞれに流線形の刺青がある。

 アルテミスは知っている。

 父であるゴーティアを倒した二人の内1人。

 ウィル・ストレイト。

 彼は御影を宝物のように大事に抱え、その黒と若草色の瞳でアルテミスを睨みつけた。

 普段らしからず、その真っすぐな視線に怒りを込めて。

 

「呪われようと、傷つこうと―――誰よりも美しいこの人は僕と共にある」

 

 

 




アルテミス
バトルバニーガール!
亜人特攻でやりたい放題

ウィル
げきおこ
にしても袖無臍出しは良くないんじゃないでしょうか


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なんと今話で100話だそうです。


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ウィングマン

100万PV到達しました!
気づけば100話と長くなってしまいましたが、ここまで読み続けていただきありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします!

また、前話も含めてウィルの今の容姿付け足しをしていますのでご了承ください。


 

 風が巻き起こる。

 それは怒りに燃える少年を中心に渦巻く風だ。

 背から生える文様の翼は大きく広がり、それに伴い濃い黄色のマフラーは第二の翼のようにたなびく。

 風属性特化形態≪ペリドット≫。

 鳥人族を模した露出度が高い服装もその翼も、体に走る流線形の紋様も言うまでもなくフォンを模したものだった。

 少女と共に羽ばたくための翼は、しかし怒りを孕んだ風を起こしていた。

 

「……っ、すまん……ウィル、しくじった」

 

「大丈夫。今は休んで」

 

 近くの木に御影の背を預けさせ、自らも跪いてから右手を握る。

 右腕を中心に展開された魔法陣が一瞬輝き、彼女の周囲を覆う防護結界となった。

 一瞬だけ、ウィルは結界に手を通し彼女の角に触れた。

 優しく、慈しむように。

 彼だけが許された天津院御影の魂を撫でる。

 

「……くつっ」

 

 喉が引きつる様な笑みが彼女から零れた。

 血に塗れ、傷を負い、それでもなお彼女は美しかった。

 

「任せるよ」

 

「うん」

 

 小さく首を傾けながら微笑む。

 最後に頬を撫で、頬に流れていた血を拭う。

 立ち上がりながらその血を雫を口に含む。

 飲み込んだ。

 彼女の流した血を、痛みをその身に刻み込むために。

 そして振り返り、

 

「―――」

 

 見据えた先は鋭い歯をむき出しに割るアルテミス。

 彼にしては珍しい険しい顔で睨み付けた。

 

「おいおい見せつけてくれるねぇ主人公。完璧な登場だったぜ?」

 

「―――」

 

 ニタニタと笑う兎鎧に何を言うべきか、ウィルは少し迷った。

 敵であることは明白。

 狙いも言うまでもない。

 糾弾するのもなんか違う気がする。

 ここにきて、話し合いを選ぶほどウィルはお人好しでもなかった。

 彼女はもう一線を超えている。

 ウィルにとっての幸福を傷つけ、狙いを澄ましているのだから。

 

「参ったねぇ。アンタと戦うのはオレじゃあねぇんだが。しかし、結局仕事するにはアンタが邪魔みたいだし――」

 

「――――ごほっ」

 

 アルテミスの言葉の途中に響いた音は、ウィルのではなかった。

 勿論未だに糸に絡め取られているシュークェではない。

 御影だ。

 結界で守ってはいる。

 出来る限り一番固い結界だった。

 だからそれは傷が増えたとかではなくて、喉に残っていた血が吐き出された音だった。

 濁った鮮血混じりの咳。

 

「――――ルビーッ!」

 

 その音が耳に届いた瞬間、ウィルの怒りは爆発する。

 叫びと共に握った拳から魔法陣が展開し彼を通過。

 変身はそれだけで完了する。

 赤と黒の和装。

 燃える右目と左の片角。 

 炎鬼となって彼は激情のままに飛び出した。

 

「はっ! デジャブんだよ!」

 

 対しアルテミスは腕を振るう。

 髪と五指から伸びる目視すら難しく、縦横無尽な弧を描く糸弦だ。

 彼女の言葉通り御影やシュークェを拘束したのと同じような光景が繰り返され、

 

「ッ、ア、ア、ア……!!」

 

 けれど今のウィルはその程度では止まらなかった。

 全員に巻き付く糸に一切構わず、足裏から爆炎の花を咲かせる。

 同時、全身から炎を噴出させることで糸弦を撓ませ、焼くことで前進を可能にした。

 

「それはさっき見たつってんだろ!」

 

 ひゅんっ、という小気味の良い音が連続する。

 拘束を無理やり破壊するのは御影が行った。だから彼女は準備をしている。

 極細の糸が超振動し、線が格子状に編まれて面となってウィルへと迫った。

 全身に絡ませて拘束し、肉を裂くのではない。

 それ自体が高い殺傷力を持つ網でバラバラに引き裂くのだ。

 

「ビフレストッ!」

 

 対し、ウィルは叫び右手を掲げた。

 

「おわっ!?」

 

 瞬間、アルテミスの背後。

 先ほどまで御影がいて、折れた木の影から虹の刀が飛来する。

 ウィルの意思に応じ、いつだろうと彼の下に飛ぶ黒銀の鍵。

 そして。

 虹の橋が見せたのはそれだけではなかった。

 格子状の糸弦をぶち抜きながらウィルの手に収まった刀の柄から真紅の魔法陣が展開。

 全体を通過し、

 

「≪光彩流転(カレイドスコープ)≫―――≪花紅(グラニット)≫!」

 

 真紅の大戦斧へと変貌した。

 

「なっ―――!?」

 

 突然の変化に、流石のアルテミスも驚愕した。

 ウィルは大戦斧を両手で振りかぶり、炎を纏わせる。

 振った。

 糸弦の格子は蒸発し、そして止まらない。

 

「鬼炎万丈……!」

 

 足裏に咲く爆裂の花。

 一瞬で詰まる距離。

 纏う炎の衣から零れる火の粉は風に舞う花びらのようだった。

 

「紅玉鬼道・鳳仙花ッ!」

 

 天津院御影が最も得意とする衝撃爆散斬撃。

 さらに≪ルビー≫炎にて強化されたそれをアルテミスへとぶち込んだ。 

 

 

 

 

 

 

4471:名無しの>1天推し

あぁ!? なにあれ!

 

4472:名無しの>1天推し

職人ニキ!? あれ刀じゃなかったの!?

 

4473:自動人形職人

フフフ……!

お答えしましょう!

 

4474:自動人形職人

数多の戦闘スタイル・魔法、さらには例の糞ヤバネーミング変身を使いこなす>1にとって、一つの武器にこだわる必要はありません!

あの刀は僕のアースの数多の精霊を取り込んだもの!

故に! >1の意思、ついでにいえば属性変身に応じた武器の形状変化を可能とするのです!

 

4475:名無しの>1天推し

ずるくね?

 

4476:名無しの>1天推し

カレイドスコープは分かるけどグラニットってなんだ?

 

4477:名無しの>1天推し

花崗岩、と思う

 

4478:名無しの>1天推し

はーん?

 

4479:名無しの>1天推し

良く分からんけどちゃんとした名前で良かった……

 

4480:名無しの>1天推し

ていうかあの属性変身、まだ名前ないのか?

 

4481:自動人形職人

えっ……さぁ……?

 

4482:名無しの>1天推し

聞いたこと無いな……

 

4483:名無しの>1天推し

天才ちゃんなら……と思うが大丈夫かな……

 

4484:名無しの>1天推し

天才ちゃんなら大丈夫だと思うが……

 

4485:名無しの>1天推し

こっちにも顔出してないのはちょっと不安だな

 

4486:デフォルメ脳髄

>1?

ブチギレてるぽいけど、こっち見てる?

気持ちは分かるけど落ち着かないと拙いぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィルには掲示板を見ている余裕はなかった。

 普段の彼が怒ることなんてまずない。

 絵に書いたような温厚な性格であるし、基本的にはお人好しだ。

 だからこそ灰汁と個性の強い住人しかいない掲示板やアクシア魔法学園の中心にいるとも言える。

 彼の怒りのトリガーは自分にはない。

 生前の経験のせいか、自身に対して何をされても感情が波立つことはほとんどない。

 苦難も苦痛も、最大限のものを一度経験してしまったから。

 それ故に一年次においては大事なものを得ることを恐れ、失うくらいなら自分が失えばいいという強迫観念にも囚われていた。

 そしてそれは解消されたものの。

 代わりに生まれたのは逆鱗だ。

 彼にとって幸福が傷つけられるのは許せない。

 天津院御影が彼女らしさを縛られたのなら誰にだって拳を向けるし。

 トリウィア・フロネシスがその彼女らしさを自ら封じるというなら、彼女自身だろうと止めずにはいられない。

 そして今。

 彼は怒っていた。

 怒り狂っていると言ってもいい。

 

「…………」

 

 黒の衣から、握った大戦斧から溢れる炎がその具現化だ。

 爆裂斬撃を叩き込み、アルテミスを吹き飛ばした先には燃え焦げた轍がある。

 十数メートルぶっ飛ばしたが、それで終わるとも思っていない。

 真紅になった紋様が刻まれた斧の柄を強く握りながら一歩踏み出し、

 

「落ち着けぇーいウィル・ストレイト!」

 

 目の前で腕と翼と足を広げたシュークェが飛び出した。

 

「………………えっと」

 

 大の字、というには二画ほど追加されたポーズに少し気が抜ける。

 

「すみませんシュークェさん、今は僕あまり余裕がないんですけど」

 

「理解しよう、ウィル・ストレイト。だが、周りを見ろ」

 

 彼は両手両足両翼を広げた姿を崩さす、視線で周囲を促した。

 

「怒りに燃えているが、ここは森だ。その怒りでこの自然ごと焼き払う気か?」

 

「――――――」

 

 言われ、はっとする。

 そうだ。

 どうしてそんなことに気が付かなかったんだろうかと思うくらいには単純な話だ。

 視野がどれだけ狭くなっていたかを自覚する。

 フォンの選択のこと、アルマと連絡がつかないことも含めて思った以上に余裕がなくなっていた。

 周りを見れば自分が走った跡も、アルテミスが吹き飛ばした跡も燃え焦げている。

 雪が降っていたから火事にはなっていないが、それでも燻った匂いがある。

 

「……すみません」

 

「このシュークェに対して言われてもな」

 

「ですね。…………ふぅ」

 

 大きく息を吐きだし、斧を握っていない左手を横に振るう。

 それによって周囲の火種はあっという間に消滅した。

 続けて、腕に魔法陣を展開し、

 

「―――≪ペリドット≫」

 

 鬼人から鳥人へと姿を変えた。

 それに伴い≪ビフレスト≫も実体を持った七つのリングになる。

 右腕に三つ、左腕に四つ。

 それぞれの環には若草色の紋様が刻まれていた。

 ≪ペリドット≫に合わせた形態変化、≪光彩流転(カレイドスコープ)羽黄(エアリアル)≫。

 ウィルが近接戦で用いる戦輪を再現し、飛行の邪魔にならないものだ。

 

「ありがとうございます、シュークェさん」

 

「いや、このシュークェこそ礼を言わねばならん。お前のおかげで拘束が解かれたからな、やっと自由に動けるというものだ。あぁ、それと」

 

 真紅の髪をかき上げながら彼は純粋に笑う。

 

「良い翼だな、ウィル・ストレイト。流石はフォンが認めただけはある」

 

 釣られてウィルも苦笑してしまった。

 何かと騒がしかったりリアクションが大きいが、いつだってそこには他意がない。

 

「……やっぱりありがとうございます、シュークェさん」

 

「うむ! このシュークェ、感謝の言葉は大好きだ! ……だが、何に対してだ?」

 

「さて」

 

 もう一度苦笑し、

 

「手を――翼を合わせましょう、シュークェさん」

 

「良いだろう」

 

 ウィルは若草色の翼を、シュークェさんもまた黄色混じりの赤翼を広げる。

 熱を含む風が二人を中心に巻き起こり、振る雪を舞わせ、溶かして行く。

 

「どうにもアレはフォンの方へ向かっているようだ」

 

「えぇ、彼女の下に向かう途中で御影たちに気づきましたから。……場所を移しましょう」

 

 横目で、まだ結界の中で休んでいる御影に視線を送る。

 意識を失ったのかぐったりとしているが、胸の動きから呼吸は規則的だ。

 今すぐにでも安全な場所に運んで、治療をしたいがその余裕はなさそうだ。

 

「どこで戦う?」

 

「決まっています」

 

 視線をずらす。

 正面には宙に浮くアルテミスが健在のまま宙で弾んでいた。

 周囲の木々に張り巡らした弦糸でバウンドしているのだろう。

 物々しい脚甲からも、彼女がどう戦うかが想像できる。

 それから空を見上げた。

 今だ雪が降る天上。

 木々と高い岸壁の先に広がる世界。

 アルテミスが空中を駆け、ウィルとシュークェに翼があるのなら。

 移る舞台は一つしかない。

 

「―――空です」

 

 

 

 

 

 

 

 フォンはそれらの光景を全て感じていた。

 森から飛び上がる二つの翼とそれに対して中空を跳ねる兎。

 ≪龍の都≫の反対側から飛び出した叡智と日輪。

 街のあちこちに隠れ、潜んでいる龍人たち。

 その全てをフォンは同時に知覚していた。

 見ているわけではない。

 風が、≪龍の都≫で起きてることを教えてくれた。

 

「――――」

 

 ≪龍の都≫を一望できる一枚岩で彼女は息を飲んだ。

 こんなこと、これまでできなかった。

 彼女にとって知らない感覚。

 多すぎる情報が押し寄せ、溢れ出す。

 

「……っ」

 

 頭痛に思わず膝をつく。

 体が、胸の奥が、背中が熱い。

 こんな所で何をしているのだろうと思う。

 行かないといけない。

 敵の1人はトリウィアが引き離してくれた。

 もう1人は何故か自分を狙っている。

 なら、戦わないと。

 なのに戦えない。

 なのに飛べない。

 

「……ある、じ」

 

 誰よりも大事な人が自分のために戦ってくれているのに。

 今の自分は飛ぶことができない。

 

「それは違うよ」

 

「!」

 

 聞こえた声に顔を上げる。

 視線の先。

 断崖の一歩外側。

 

「――――君は飛べるはずだ」

 

 そこに、自分がいた。

 違う。

 外見は自分だが、二つだけ違う。

 一房黄色いはずの髪が、全て黒い。

 鳶色の目が、金色だ。

 フォンは悟る。

 自分ではない。

 自分に限りなく近いが、それでも違う。

 彼女は、

 

「――――≪ジンウ≫?」

 

 己のルーツ。

 鳥人族の始まりの神。

 そのことを彼女は理屈抜きに直感した。

 ただの幻影ではない。

 自分の内側に眠っていたものを、フォンは見ているのだ。

 問いかけにジンウはニコリと笑った。

 

「さぁ、フォン」

 

 優しい声で彼女は両手を広げる。

 まるで、翼みたいに。

 

「愛か空か――――選ぶ時が来たよ」

 

 

 




グラニット:花崗岩
エアリアル:風

花崗岩とは御影石の別名で
フォンは中国読みの風。

ウィルもウィルで何気に愛が重い。

ビフレスト
姿に合わせて形も変わる万能仕様。




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グレートボールズ・オブ・ファイア

 

 ウィルは自分が完璧に飛べないということを自覚していた。

 自身の特権を応用した属性特化の形態変化。

 そのうち、ルビー、サファイア、ペリドットは、それぞれ御影、トリウィア、フォンの戦闘スタイルを模したもの。

 かつてゴーティアとの戦いの時に咄嗟に使った模倣を彼なりに発展させたものだ。

 未だ未完成であり、名前すら決まっていない形態変化ではあるものの、その三属性を主体することにより一先ず暫定の形となっている。

 勿論、聖国にてアルマが推測した通りワンアクションごとに属性を絶え間なく切り替えた方が戦闘力的には高まるのだろうが。

 それでも、ウィルは三つの模倣属性形態を気に入っていた。

 例え御影、トリウィア、フォンと一緒に戦っていなくても、一緒に戦っている気がするし、一緒に戦っているのならウィルの≪外典系統≫も相まってお互いの強さは飛躍的に高まる。

 

 それでも―――目指すべき高みはまだ遠いのだが。

 究極の名を関するにはまるで足りない。

 

 その上で≪ペリドット≫に関しても完成度が高くない。

 フォンのように自在に空を舞うには、何もかもが違い過ぎる。

 それは技術であり、経験であり、そもそも骨格や肉体構造の違いだ。

 人種、或いは他のどの種族であろうとも鳥人族のように空を己の場とすることはできない。

 だから、彼には彼なりの空の飛び方がある。

 

「ビフレスト、お願いします!」

 

 ウィルは≪龍の都≫の空に身を投げ出した。

 眼下に森は広がるが、しかしまだ佇む岩壁を超えることはない。

 背にある紋様の翼で加速を生み、同時に戦輪状のビフレストを先行させる。

 異なる世界の精霊が宿ったそれには、確かに意思を持つ。

 言葉は交わせずとも、ウィルに応えようと半ば自律駆動し、最適行動を取る。

 この場合、機動の変更と調整だ。

 翼による飛翔は、実の所細かい動きはできない。

 だからそれを風輪にて制御するのだ。

 

「―――!」

 

 真下から攻撃が来た。

 本体ウィルの飛行では避けれないタイミングと速度。

 だから残る風輪がそれよりも速く疾駆する。

 中空に固定され、それが機動変更のためと足場になった。

 蹴りつける。

 体を捻ることで回避。

 地上であれば不安定な体勢だが、ここは空中だ。

 風輪がウィルの足元に統べる様に収まり、

 

「もっと……!」

 

 跳躍のための足場とし、それらの行為を連続させる。

 攻撃も同じく連続してきたからだ。

 それは三日月状の斬撃だった。

 一つ一つがウィルの身長と同じほどの大きさのものが一斉に襲い掛かってくる。

 だからウィルは空を掛けた。

 背の翼で加速を生み、風輪で軌道を変えて行く。

 ≪エアリアル≫は常にウィルを中心に旋回し、動きに合わせて彼のための道を作っていった。

 空を飛ぶというよりも空を走る動きだ。

 

「……!」

 

 急制動による機動操作は魔法で軽減してもなお、強烈な荷重をウィルに齎す。

 それでも彼は駆けた。

 飛来する月閃は絶え間ないが、止まるわけにはいかない。

 ≪エアリアル≫がウィルの道標だ。

 それはアース・ゼロのある歌劇において、主の意のままに働き、仕える風の精霊の名だ。

 冠した名前の通り、致命の月光から彼を守る。

 いつも、ウィルのために羽ばたいてくれる少女のように。

 

「――ん」

 

 月閃八つを潜り抜けた瞬間、風輪がそれまでとは違う機動を示した。

 ウィルは躊躇わなかった。

 

「っづ……!」

 

 翼の加速を最大として風輪に跳ぶ。

 荷重に苦渋の息が漏れるが構わない。

 跳んだ先の風輪は加速に押され空を迸りながら軌道を描いた。

 

「空中ドリフト……!」

 

 自動車というものに良い思い出がないウィルだが、言っている場合ではない。

 ドリフトで描いた弧の中央に、閃撃がぶち抜いたからだ。

 

「っ!」

 

「はっ! 兄貴のパクりかよ!」

 

「いえ貴女のお兄さんなんて知りませんが!」

 

 抗議の声を上げ振り返った先。

 何もない中空に、天地逆に着地したアルテミスがいた。

 中空に固定された弦糸だ。

 ウィルが風輪を足場にするように彼女も自らの能力を用いている。

 だが、違いはある。

 

「はっ――なら、オレの弓から知っておきな!」

 

 アルテミスが身を屈めながら僅かに震えた。

 小さく、ギリギリと何かが引き絞られるような音がする。

 言うまでもなく彼女の弦糸。

 ウィルとの違いは中空固定の仕方だ。

 風輪はそれ自体が意思を持ち、自らが中空に留まっている。

 対して弦糸が固定されたのは両端のみ。

 それ故に糸自体が緊張し、アルテミスがその足場に突っ込めば当然張力が生まれる。

 まるで弓矢だと、ウィルは思った。

 引き絞られる弓のように。

 ならば矢は―――というのは言うまでもない。

 

「オラァッ!」

 

 アルテミス自身だ。

 軽装の上半身とは対照的な重装装備の脚甲。

 蹴撃に弦糸を乗せることで衝撃と斬撃、或いは刺突を両立させていた。加え、連続して弦糸を射出台にすることで連続し、累積する加速を生む。

 放たれる。

 大気をぶち抜き、ソニックウェーブが生まれるのをウィルは見た。

 

「―――!」

 

 反射的に体が動いた。

 それに応じるかのように風輪も。

 体を真横に飛ばし、

 

「遅いなぁ!」

 

「っ……!」

 

 掠っただけで左肩が浅く裂けた。

 地上の時のそれとは殺傷力、速度ともに比べ物にならない。

 

「それが……本来の戦い方ですか!?」

 

「バニーなんだからなぁ! そしておめぇはよぉ、こう思ってたんじゃねぇか!?」

 

 アルテミスは水色の髪を棚引かせながら中空に着地。

 さらに溜めを作った。

 繰り返せば繰り返すほどに速度と威力は加算されていく。

 

「ヘファイストスをぶちのめしたからオレにも勝てるってよ―――生憎、あいつは裏方! オレみてぇなバトル専門と同じと思ってもらったら困るぜ!」

 

 自らが矢となったアルテミスが縦横無尽に空を弾む。

 

「そんな油断はしていませんが……!」

 

 そう、油断はしてない。

 単純にアルテミスが強いのだ。

 加えて、決して本領とは言えない空中戦闘。

 加速を蓄積する彼女の動きはウィルの目を以てしても追いつけないほどだった。

 

「っ!!」

 

 事実、ウィルの視界からアルテミスが消えた。

 最早彼はどこにいるか、というものを確認しない。

 自律し、次に行くべき場所を示した風輪に従う。

 だが、

 

「遅い―――!」

 

 狩人は、その動きを見据えている。

 

「月神、即ち狩猟を司る……!」

 

 アルテミス。

 ディアナ。

 ルナ。

 それぞれが月の女神であり、処女の女神であり、魔術の女神であり、同時に狩猟の女神とされ、そして同一視される神性だ。

 故に彼女は異世界の概念を術として扱い、獲物を狩る狩人だ。

 その凶手ならぬ、凶足に弦糸が集う。

 螺旋を描くそれはドリルのようであり、獲物の心臓を撃ち抜く鏃でもある。

 突っ走った。

 

「≪月天神(アルテミス)弓射一刻(イーオケアイラ)≫―――!」

 

 

 

 

 

 

 肉が抉れ、血が飛沫を上げる音をウィルは聞いた。

 一際強力なアルテミスの一撃。

 命中すればウィルの胸に風穴が開いていただろう。

 概ねその通りになった。

 ただ、風穴が開いたのは、

 

「ぬぅぅ……!」

 

「シュークェさん!」

 

 翼から炎を噴出させ飛び込んできたシュークェだった。

 

「ちっ……いつまでもしつけぇなお前は……!」

 

 吐き捨てるアルテミスの言葉は、ずっと追われていることではない。

 ≪弓射一刻≫を放ち、十数メートル離れた辺りに張った糸に着地しながら傷を見る。

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……! ――――復活!」

 

 傷が炎に包まれて、修復された。

 シュークェの特性。

 尋常ならざる再生力によるものだ。

 

「フハハハ! 見たかウィル・ストレイト! これこそエウリディーチェ様より賜った≪不死鳥≫の由縁よ!」

 

「いえ、助かったのはそうなんですけど……っ」

 

 それでも。

 無視できないことがあった。

 

「流石にこれ以上はシュークェさんの体が!」

 

 そう、庇ってもらったのはこれが初めてではない。

 ウィルの機動性と速度はアルテミスに劣る。

 ある程度は避けられるが限界があり、月の狩人はそれを見逃さない。

 そして放たれる必殺の度に、シュークェがウィルを庇っていた。

 

「ふふふ……! 舐めるなよウィル・ストレイト! このシュークェこの程度で朽ちることなど……ない! 多分なぁ!」

 

「顔色めちゃくちゃ悪いですけど! 多分じゃなくて大丈夫じゃないですよ!」

 

「ふん……ん? ……ふっ」

 

 口から零れてきた血に気づき、それを拭いながら男は嗤った。

 

「構うな、ウィル・ストレイト」

 

「どうして―――」

 

「どうして? 愚問だな」

 

 シュークェは翼で空を掴み、アルテミスを睨み付け、

 

「お前は我等鳥人族の恩人だ」

 

 それに、

 

「フォンには、お前が必要なのだろう。ならば、このシュークェが命を懸け守るのには十分だ」

 

「――――それは」

 

「それに、肉盾は出来てもおそらく相性的に倒せんからな。まぁある程度の手傷くらいは負わせて見せよう」

 

 意気揚々と不死鳥は笑う。

 再生しようとも蓄積するダメージにも、身を蝕む呪いも構わずに。

 そして、

 

「さぁ行くぞ、我が不死の炎を焼きつけるがいい!」

 

 行った。

 

 

 

 

 

 シュークェは己の翼から炎を放出した。

 羽ばたいて飛ぶのではなく、翼を加速器として推進力を進むシュークェにとって、それは攻撃と同義だ。

 双翼の付け根から強く炎を吹き出し、外側にて軌道制御を行う。

 それによる飛翔の加速を、そのまま拳に乗せて打ち出すのだ。

 

「ホアチャーッ!」

 

「暑苦しいぜほんとによぉ!」

 

 苛立たしげにアルテミスは宙を跳ねて避け、それをシュークェも追う。

 

「フン……! 言われるまでもない――――よく故郷で言われたからな!」

 

「威張っていいのかよそりゃあってうお!」

 

 言われたのだから仕方ない。

 途中でアルテミスの言葉が途切れたのはウィルが彼女のツッコミの隙間を縫う様に風輪を放ったからだ。

 風輪が三つ寄り合って回転する手裏剣のような攻撃だ。

 上手いのは彼女に回避されたとしても、弦糸を断ち切って動きのテンポをずらしている。

 流石だなと思った。

 そして、それでいいとも。

 

「あぁ、そうだ―――。このシュークェは、これでいい……!」

 

 

 

 

 

 シュークェは思う。

 自分はいつだって鬱陶しがられていたなと。

 故郷ではそうだった。

 飛ぶという鳥人族の本能への向き合い方の折り合いが悪く、故郷を飛び出し放浪していた時もそうだ。

 暑苦しいとかよく言われた。

 翼から出るから仕方ないだろうと言っても、微妙な顔をされたのでそういうことではないらしい。

 良く分からない。

 久しぶりにあったフォンもそうだった。

 数年ぶりにあった親戚の少女は成長して、

 

「よもや奴隷とはな……!」

 

「アァ!?」

 

 大丈夫なのだろうかと思った。

 思ってウィルに喧嘩を売った。

 そして結論から言えば大丈夫だったのだ。

 カルメン・イザベラは彼を中心に強い絆があると言った。

 天津院御影はフォンのためなら命を懸けられると行動した。

 ウィルも今、そうしている。

 自分には無い繋がりだ。

 故郷で誰よりも自由に空を飛んでいた少女は、遠い所へ行ってしまった。

 いや、近いと思っていたのは自分だけだったが。

 それもまぁいいだろう。

 そういうこともある。

 別に傷ついてない。

 勘違いを訂正されることもよくあるのでそこに迷いや躊躇いもない。

 迷っているのはフォンの方だ。

 その上で彼女のこれからに必要なのはウィルたちだ。

 

「ならば……是非も無し!」

 

 兄でも許嫁でも親戚でも家族でもなかったけれど。

 それでも故郷を同じくした。

 同じ空の中にいた。

 自由に笑う彼女の笑顔を見た。

 きっとその表情をシュークェは気に入っていたのだ。

 いつか嫁に貰おうと思うくらいには。

 その笑顔にウィルが必要ならば、

 

「燃えろ、我が魂……!」

 

 仙術とは、己という存在を通して神に通じる技だ。

 即ち、自らの根底を見つめ、語り合うということ。

 そういうものだとシュークェは認識している。

 細かい理論はエウリディーチェから聞いたが良く分からなかったので忘れた。

 

「おおっ……!」

 

 大気を燃やしながら、轟音と共にシュークェは飛ぶ。

 

「死ぬ気かてめぇ!」

 

「愚問、我は不死鳥!」

 

 迫る月閃を避けはしない。

 再生力と推進力任せに突き進む。

 鳥殺しの呪いは込められており、受ける度に筆舌に尽くしがたい痛みと脱力感が襲うが、仙術による再生がそれを消し、さらに呪いが来て無視をするというサイクルを引き起こす。

 全て無視した。

 

「不死鳥とは、何度でも蘇るのだ……!」

 

 傷を受け、それを塞ぐために炎が全身を覆う。

 夜空を巡る彗星のようにであり。

 自ら燃える火の玉のようであり。

 彼の言葉通りに不死鳥のようでもあった。

 止まらない。

 止まる気もない。

 

「仙凰・絶招―――!」

 

 そして吠えた。

 仙術の奥義を。

 己の推進力をそのままぶつける、ただそれだけ。しかし最も強力なそれを。

 自己という世界を燃やし飛翔する炎の翼。

 

「―――――≪三界火翼≫ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「シュークェさん!」

 

 ジェットエンジンのような轟音と炎と共に突っ込んだシュークェに、ウィルは声を上げた。

 それはこれまでとは格が違った。

 おそらくウィルたちにとっては≪究極魔法≫に匹敵するものであり、亜人連合では種族特性を最大限生かした≪絶招≫と呼ばれるもの。

 雪空に炎の花が咲いていた。

 叫んだ思いは二つだ。

 捨て身染みた特攻に対して無事なのかという心配。

 もう一つは少しだけ非難があった。

 アルテミスの攻撃からシュークェが庇い、ウィルが隙をついて攻撃する。示し合わせたわけではないがそういう構図があった。

 だが、今の≪絶招≫はウィルの援護も追撃も想定していなかった。

 彼が言った通り。

 鳥殺しの呪いがある故、倒れる前に傷を残そうとしたのだ。

 それは―――ダメだ。

 彼の献身は、しかし犠牲だ。

 そんなことを、ウィルは認めない。

 認めたくない。

 ウィル・ストレイトとはそういう人間なのだ。

 シュークェと仲が良いわけではないけれど。

 それでも彼がフォンの心配をしていたのは知っているから。

 

「…………シュークェさん!」

 

「――――――――うるせぇな」

 

「!」

 

 声があった。

 爆炎の余韻が晴れていく中から。

 現れたのは―――健在のアルテミスだった。

 彼女、1人だけ。

 シュークェの姿は、ない。

 

「っ……!」

 

「流石に今のはやばかったが、残念だったなぁ」

 

 深い傷はなく、あるのは身体に纏わりついた煤くらい。

 それを払いながら彼女は嗤った。

 払う手に、漢字を崩したような文字が浮かんでいる。

 

「≪火鼠衣≫。龍を相手にするんだぜ? 兄貴は≪バルムンク≫だけで良いと思ったらしいけどな。オレはこう見えて準備は過剰にするタイプだ。そりゃ対策するだろ、炎くらい」

 

 ≪火鼠衣≫。

 それはアースゼロの日本において現存する最古とされる物語で描かれる物だ。

 曰く、その皮衣は炎の中にあっても燃えず輝くという。

 彼女が使ったのはそれを再現した概念術式。

 対火性能だけに割り切ったものは、しかしシュークェの≪絶招≫から身を守っていた。

 アルテミスとは狩猟の神であり、処女の神であり、月の神であり――――魔術の神だ。

 それを示すかの如く、彼女は多種多様な、それぞれに対する専用術式を携えていた。

 

「さぁ―――僚機は落ちたぜ。後は次はアンタだ」

 

 




シュークェ
自分が思ったよりフォンとの関係は薄かったけれど。
それでも彼女が笑えるならそれでよかったのだ。

間男三銃士、最後の1人に相応しい男になれたでしょうか。


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フォンー風の名ー

旧サブタイ
アイ・エイント・ウォーリード


 

 フォンは、いつの間にか知らない場所にいた。

 森の中の泉だ。

 澄んだ空気と暖かい日の光、その場にいるだけで心が安らぐ。

 これまで訪れたどの場所とも違い、そして同時に神聖な場所であると感じた。

 

「―――これって」

 

「そう、記憶さ」

 

「!」

 

 声は上から。

 泉のほとりに木があり、そのうちの枝にジンウが腰かけていた。

 

「私の記憶。つまりは貴方の記憶。外は騒がしかったから、話しやすい場所に連れて来たんだ」

 

「そんな、こともできる……んですね」

 

「まぁね。君は特に私に似てるから。てか、敬語とか要らないよ」

 

 朗らかに笑う彼女は、やはり自分と同じ顔。

 けれど、どこか雰囲気は違う。

 似ているけれど、違う。

 自分では、ない。

 

「…………ここは」

 

「そう、君は感じるよね。ここは私と『彼』が出会った場所」

 

 ジンウが目を細め、

 

「出会い、睦み合い、結ばれ―――私が羽根を休めた場所でもある。ま、そういう場所」

 

 無邪気に笑う。

 それから彼女は軽い動きで枝から飛び降りた。

 重力を感じさせない動きだった。

 今のフォンには、ただそれだけの動作が妙に目に焼き付く。

 

「さて、今は君の話だ」

 

 とんっ、と着地した彼女は両手を広げ問う。

 この場に来る前にしたのと同じ問いかけを。

 

「愛か空か――――選ぶ時が来た」

 

「……っ」

 

 愛か空か。

 自らの本能と存在理由か、ウィルへの想いを選ぶか。

 エウリディーチェから示されたフォンが跳べなくなった理由。

 そしてそれから導き出された翼を取り戻す術。

 ずっと考えて来た。

 どちらを選ぶのか。

 どちらを選ぶべきか。

 

「それ、は……」

 

 無意識のうちに、握る拳に力が入る。

 俯いた体が強張り、こんな快適な場所なのに嫌な汗が流れた。

 そして。

 

「―――――選べないよ」

 

 答えを零した。

 

「選べないよ、ジンウ」

 

「へぇ?」

 

 上げた顔がひどく情けない顔になっていることを自覚する。

 散々時間を貰って。

 みんなに気を使ってもらって。

 それでも出た答えがこれだ。

 選べない。

 

「選べないよ。だって……その二つは私にとって同じだもん」

 

 空を飛びたい。

 ウィルが好き。

 それはフォンにとって不可分だ。

 すがる様に、首に巻いたマフラーを掴む。

 主から持った宝物。

 あぁ、そうだ。

 だって。

 

「私が一番好きな空は、主と一緒に飛ぶ空なんだから……!」

 

 思い出すのは、いつかの冬空。

 ウィルと踊り、舞い、歌った夜空。

 思い出すだけで心が温まり、動悸を打つ。

 空と翼を思う時、想起されるのはあの時だ。

 彼の翼になりたいと思った。

 ウィルが自分を幸福だと思ってくれるなら。

 フォンは彼に幸福を運び、どこまでも連れていけるような翼でありたいのだ。

 だから。

 

「選べない……選べないんだよジンウ。それは――」

 

「そっか。いいんじゃない?」

 

「貴女にとっては情けな―――――ん?」

 

「ん?」

 

「……」

 

「……」

 

 言葉を理解できず、フォンは首を傾げた。

 するとジンウも同じような動きをする。

 わぁ、鏡みたい。

 そうではなくて。

 

「…………え? いいんじゃないって……何?」

 

「いや別に。それが君の選択ならそれでいいじゃん。空も愛も、どっちも選べばいい」

 

「そ、そんなのありなの!?」

 

「えぇ!? ダメなの!?」

 

「――――――」

 

 あ、この人私たちのご先祖様だ。

 唐突にそれを感じた。

 

「いや、でもエウリディーチェ様の話なら……」

 

「エウリディーチェ? ……あぁ、オルフェウスか。相変わらずずっと振り返ったままだねあいつは。えぇと……はいはい、そういうことね。記憶読み取れるのは便利だな」

 

「ぷ、プライバシー……」

 

「なにそれ? で、あいつが言ったって?」

 

「そ、そうだよ。どっちか選ばないといけないって―――――あれ?」

 

 言われてみれば。

 エウリディーチェはフォンの人生史上最も強烈な羞恥心を引き起こしたが。

 それはそれとして、

 

「………………言っては、ない?」

 

 好きバレはしたけれど。

 仙術を教えてくれたけれど。

 彼女の口から直接どちらかを選べと言われたわけでは、ない。

 

「いやでもトリウィアやアルマもそうだろうって……」

 

「別に間違ってはいない。仙術っていうのは自分の祖先である神格にどれだけ近づくかってことだしね。或いは、君が空を選んでもいつか愛を取り戻したり。或いは、愛を選んでも、何かの形で空を取り戻せたかもしれない。鳥人族としての純度が高まるからね。そのあたり見越してあいつも特に訂正しなかったんじゃないかな」

 

「そ、そうなんだ……好きバレした上で適当なことを言ったのかと……」

 

「私もあいつも、君たちとは価値観も時間の感覚も違うから何年先の話かは分からないけどね」

 

 肩を竦め、彼女は苦笑する。

 そんな彼女に、恐る恐る問いかける。

 

「でも…………なら、私はどっちも諦めなくていいの?」

 

「いいっていいって」

 

 彼女は笑う。

 太陽みたいに朗らかな笑顔だった。

 

「私が空から離れたのは私の都合。貴女は私に似てるけど、別の人だし。だったら違う道でもいーんじゃない?」

 

「……か、軽いなぁ」

 

「いやー、難しいこと良く分かんないし、あはは」

 

「ご先祖様……!」

 

 鳥人族らしいといえばらしいのだけど。

 自分が悩んでいたことを自分と同じ顔で笑い飛ばされると気分としては何とも言えない。

 

「………………ジンウは」

 

「うん?」

 

「どうして……空を飛ばなくなったの?」

 

「あー……」

 

 ジンウはすぐには答えず、空を仰いだ。

 青い空。

 彼女の記憶の中にあり、かつては彼女のものだったと言ってもいい天上だ。

 

「私の彼、高い所苦手だったからなぁ」

 

「………………そういう?」

 

「うん。あと体があんまり丈夫じゃなかったからね。私に付き合わせて飛んでたら体がもたなかったんだよ。だから仕方ない。君と同じように、私も大切な人と一緒にいられないんじゃ意味がなかったから」

 

 だから。

 

「大好きな人と一緒に飛ぶのは、私もできなかったことだ。その時間を、胸から溢れる歌を大事にしてね?」

 

「―――うん」

 

 微笑む彼女には後悔とか悔恨とか、そういうのは無かった。

 晴れやかに自分の選択と人生を誇った上で、フォンの選択を尊重しているのだ。

 

「ありがとう、ジンウ」

 

「いいのいいの」

 

 同じ顔の二人は笑う。

 遠い過去と遠い未来で、それぞれ大切な人と生きる為の選択をした二人。

 似ているけど、違う道を選んだ二人だ。

 

「さぁ、君は愛と空を選んだ。ならばやることは一つだ」

 

 金色の瞳が鳶色を見つめる。

 慈しむ母のように、支える姉のように、力づける妹のように。

 歩み寄り、並び、フォンの背中を押した。

 

「――――飛べ」

 

 言葉には重みがあった。

 神の信託であり。

 

「飛べ」

 

 先祖の命令であり。

 

「飛ぶんだ」

 

 もう一人の自分への激励だ。

 

「――――飛ぶんだ、フォン」

 

 愛しい人の下へ。

 

「―――――!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 戦いの最中、相対者であるウィルが消えたのをアルテミスは見た。

 

「――――あ?」

 

 本当に唐突に、電源が落ちるかのように姿を消した。

 なんらかの魔法とかの予備動作や予兆さえなかった。

 驚き、思考が止まり、

 

「うぉおおおおお!?」

 

 突風が、彼女の体を弾き飛ばした。

 

「ぬっ、くっ、おぉ!?」

 

 視界が滅茶苦茶になり、十数メートル移動して弦糸を張り直しなんとか停止する。

 回りを見回すが、何もない。

 

「一体、どういう―――」

 

 上を見た。

 そして気づく。

 未だ雪が降る曇り空。

 

「――――なんだぁ?」

 

 その雲に、穴が一つ。

 まるで、何かが雲を突き抜けたみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのか、ウィルは一瞬分からなかった。

 アルテミスと戦っていたと思ったら、全く別の世界にいた。

 

「―――」

 

 青だ。

 澄み切った青と眩しい光。

 空だ。

 それも≪龍の都≫に敷かれていた曇り空ではない。

 もっと高い、雲を突き抜けた先だけにある蒼穹。

 眼下に白い雲の大地があり、ずっと先には雷を纏う巨大な入道雲らしきものがあった。 

 ウィルは今、果てしなく広がる青い空で落ちていた。

 地平線が丸く見えるほどの高所であり、本来なら人が立ち入られるはずのない極所。

 そんな場所に。

 

「主!!」

 

 ウィルは一人ではなかった。

 

「…………フォン?」

 

 声を聴いて、誰かと手を握っていることに気づく。

 勿論それはフォンであり、二人は手を取り合いながら空を落ちていた。

 けれどそれは大事なことではない。

 こんな高いところにウィルは単独ではこれない。

 否、それこそこの世界ではアルマでなければ無理だろう。

 もしいるとすれば。

 彼女しかいない。

 それも、

 

「翼を、取り戻したの?」

 

「うん! 飛べた、飛べたよ主!」

 

 風を受け舞う黄が差し込まれた黒い髪とマフラー。

 破顔して細められる鳶色の瞳。

 翼は出していないジャージ姿だが、二人でいるということはそういうことだ。

 

「…………よかった」

 

 零れた言葉は心からものだ。

 そして、少しだけ悲しみが。

 彼女が翼を取り戻したということは、彼女の中にある想いが消えてしまったということ。

 別に、いいのだ。

 だとしてもウィルの想いは変わらない。

 これから先、彼女が選択を間違っていなかったと思わせる責任がウィルにはあるから。

 そう思っていた。

 だけどやっぱり、現実としてあるとほんの少しだけ寂しくて。

 けれどそんな気持ちを出すのは勝手なのだ。

 

「ねぇ、主!」

 

「あ、うん?」

 

「――――主のこと、大好き!」

 

「……………………えぇ!?」

 

 聞き間違いではない。

 吹き付ける風がどうとか、そもそもこんな高所で会話や呼吸もできているとか。よく考えればおかしかったが、それでも確かにウィルは彼女の言葉を聞いた。

 

「好き! 大好き! ずっとずっと、助けてくれた時から、私を受け入れてくれてからずっと私は主が大好きだよ!」

 

「――――なん、で?」

 

「なんで!?」

 

「あ、いや、そうじゃなくて!」

 

「あ! そうそう、主のために空を諦めなきゃいけないとか、そういうのは無しになった!」

 

「そうなの!?」

 

「そうなの!」

 

 そうだったんだ……とウィルは思った。

 それでいいのかとか、一瞬過ったけれど。

 それでいいのなら、それに越したことはない。

 

「――――うん」

 

 そう、彼女がそう言うのなら。

 ウィルはそれを信じて、言うべきことを言うだけ。

 

「僕も、フォンが大好きだよ。君は僕の幸福で、僕の翼だ」

 

「っ―――――」

 

 繋いだ手が強く握られ、彼女はマフラーに顔を埋めた。

 勿論、落下という状況では真っ赤になった顔面をまるで隠せていない。

 そして。

 

「うん! 私は、主の翼だ! それが私が飛ぶ意味!」

 

 どちらともなく互いを引き寄せる。

 瞬間、風が巻き起こった。

 突風ではない。優しく、二人を受け止めるような風だ。

 まるで空が、風が、世界が彼らを祝福するかのように。

 半ばぶつかる様に抱きしめ、

 

「―――んっ」

 

 この世界の最も高い場所で。

 暖かな風が二人を包み、落下すら止まった中。

 幸福を求める少年と彼の翼である少女は唇を重ねた。

 数秒の口づけの後、額を合わせながら離れ、

 

「………………へへっ。なんだろ、すっごい恥ずかしいけどすっごい嬉しい」

 

「うん、僕もだ」

 

「あ、キスって舌も使わないとダメなんだっけ! あーもう、初めてだったのに!」

 

「いやそんなことないけど!? 誰がそんなことを―――御影だよね! 御影しかいないよね!」

 

「トリウィアも言ってたよ。こう……べろんべろんしましょうって」

 

 ウィルの脳裏に満面の笑みの御影と無表情で眼鏡を光らせながらピースをするトリウィアが浮かんだ。

 いや、全くそんな場合ではないのだが。

 あの二人なら、まぁ言うだろう。

 

「ダメなの?」

 

「いや、ダメというわけでは……」

 

「主は私とべろちゅーしたくないの?」

 

「………………」

 

 したいかしたくないかと言われれば。

 したいにきまっている。

 普段元気で活発な彼女が、しおらしく頬を染めてそんなことを言うなんて。

 ウィル・ストレイトの中で、新しい扉が開きそうだった。

 考える。

 別にいいのか?

 

「――――なーんて。へへっ、流石に今はダメだよね」

 

「………………うん! そうだね! そういう場合じゃないよ!」

 

「全部終わったら、ね?」

 

「………………うん!」

  

 新しい扉が開いたのを自覚した。

 その扉の先を探究するのは後々のお楽しみとして。

 こほんと、ウィルは咳払いをした。

 気持ちを切り替えるためだ。

 

「フォン」

 

「うん」

 

「戦える?」

 

「勿論」

 

 彼女は笑った。

 そのために羽ばたいたのだから。

 

「私は主の翼だ」

 

 だから。

 

「主の幸福を邪魔するものがあるなら――――私が全部振り払うよ」

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 落ちる。

 落ちる。

 落ちて行く。

 いつかの冬の夜空で二人で踊ったように。

 或いはその時よりもずっと速く。

 フォンはウィルと手を取り合い、青空から落ちいていた。

 

「―――a」

 

 ふと、喉から声が零れた。

 

「a――――」

 

 それは言葉になりきらない何か。

 ただ、胸から溢れたものをそのまま吐き出しているだけ。

 その何かは、今はもう分かっている。

 

「aaa―――」

 

 そう、それは愛だ。

 疑いなくそう思えた。

 胸の中にあったもの―――これまでフォンが感じて来た全ての風が歌と声になってあふれ出してくる。

 きっと、かつてジンウは歌と共に大地に降り立ったのだろう。

 けれどフォンは違う。

 歌と共に、ウィルと空を往くために落ちているのだ。

 分厚い雲の中に二人は飛び込む。 

 だが雪雲の渦中であろうと歌にも飛行にも支障はない。

 フォンの体から溢れ出す白と黒の光が二人を包み守っているから。

 突っ切った。

 広がる≪龍の都≫。

 倒すべき月兎が見える。

 そうしてフォンは。

 最古の神鳥に最も近くありながら、異なる飛翔を選んだ彼女は言葉を紡ぐ。

 

『人は人たり、神は神たり、祖は祖たり、末は末たり――我は我たり』

 

 それは世界に対する宣言。

 それは血統に対する決別。

 それは自己に対する抱擁。

 自らという存在を確立させるために紡ぐ歌。

 そう、この世界はそういう風にできている。

 名付け、定義した通りに在るのだ。 

 かつて神々が生まれ、神でなくなったように。

 だからこれは自らの命に誓う行為であり。

 己の名を正しく定める行為。

 仙術の深奥。

 亜人種の内、根底たる神祖に最も近い主の頂点のみが至る御業。

 告げた。

 

 

正名――――≪山海図経・比翼連理≫

 

 

 旋風が巻き起こり、一息に≪龍の都≫を覆う吹雪が晴れ渡る。

 先ほどまでいた青空が表れ、天上の太陽が煌めいた。

 名を正し、存在の在り方を再定義したことによりフォンはその姿を変えていた。

 鳥人族らしい胸だけを覆い、背と腹を露出した黒の衣。

 下半身は下腹部回りとその前後を長い前掛けで覆うだけの扇情的とも言える姿。

 それだけなら鳥人族らしい、飛行に特化した露出度の高い装束だ。

 違いは三つ。

 頬に、腕に、腹に、足に、背に。

 風や翼を思わせる流線形の紋様だ。それが全身に広がり、山吹色に輝いている。

 それまで鳶色だった瞳の奥には輝く金色。

 広がった刺青と金を灯した瞳。

 そして。

 最も大きな変化は翼だ。

 鳥らしい羽毛に包まれたものではない。

 龍のような爬虫類らしい骨格の間に翼膜が張られたものでもない。

 或いは、ウィルのような魔法による紋様のでもない。

 それは光の奔流だった。

 白と黒、二色の粒子が入り混じって翼の形を成している。

 

「――――綺麗だね、フォン」

 

「へへっ、ありがと」

 

 くすぐったい褒め言葉に小さくはにかみ、フォンは視線をずらした。

 手を取り合い、共にそれぞれの翼を広げるフォンとウィルの下方正面。

 アルテミスがいる。

 

「…………いい加減、お腹いっぱいだと思ってたけどよぉ」

 

 フォンを狙っていた彼女は息を吐き、

 

「―――やっぱり極上だ」

 

 嗤っている。

 ことにここに至って尚、彼女はフォンの参上を喜んでいた。

 鋭利な歯をむき出しにして歪んだ笑みを浮かべながら。

 最早ウィルの姿すら目に入っていないのかもしれない。

 彼女の亜人に対する敵意、狩猟する意思はそれほどまでに並外れていた。

 対し、ウィルとフォンは互いに握る手に力を込めた。

 それが何よりの力になるから。

 

「行こう、フォン。君の翼を背負わせてくれ」

 

「とーぜんっ」

 

「いいねぇ! お前を狩って、剥製にして床に磔てやるよ!」

 

「生憎と」

 

 太陽を背負う神鳥は、月兎の狩人へと言い放つ。

 

「私を大地に繋ぎ止められるのはこの宇宙で一人だけだ」

 

 




ウィル
新しい扉が開かれた
男の子だもん

ジンウ
愛のために翼を手放した神

フォン
さぁ、飛ぼう

お待たせしました、復活の翼。

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デンジャーゾーン

 

「―――全乗せで行くぜぇ!」

 

 アルテミスは自らの持つ魔術式の大半を同時に発動させた。

 即ち、特定の事象に対する概念的な攻防の強化だ。

 物理魔力、衝撃斬撃刺突銃撃、炎熱流水氷結電撃呪詛浄化等々。 

 思いつく種類の干渉に対するものをありったけ。

 それは彼女が戦いに赴くたびに常に準備しているものだ。

 狩りとは、その場における行動の是非ではないと彼女は考えている。

 獲物に合わせた武器、獲物に合わせた狩り方、獲物に合わせた行動。

 事前準備が全てであり、狩りとして命を奪うのはそれらの結実に過ぎない。

 自分と兄の違いはそこだ。

 アポロンはその身一つでの闘争を望む。

 今回にしても龍殺しの概念術式しか持っていなかった。

 自分とアポロンの単体戦闘力は左程変わらないが、能力のバリエーションならばアルテミスの方が勝り、相手が特定の性質を保有している場合にしてもより大きな成果を上げられるのはアルテミスだ。

 正直、トリウィア・フロネシスの相手なんてしていられない。

 あぁいう純粋に全てのスペックが高すぎるタイプは自分の天敵だから。

 そして、フォンとウィルはそうではない。

 フォンは何やら覚醒を果たそうとも鳥人族という性質を持ち。

 ウィル・ストレイトは秘めた才能はあっても未熟だからだ。

 鳥の少女は鳥人族殺しの術式で。

 虹の少年は月女神の弦糸で。

 狩ればいい。

 そう決意した時、

 

「――――遅いよ」

 

 既に陽鳥の蹴り脚が、月兎の腹にぶち込まれていた。

 

「ガッーーー!?」

 

 白い粒子の風を纏った一撃だと気づいた時には衝撃が炸裂していた。

 重ねていた防護も意味を為さず、空を真横に数十メートルぶっ飛ぶ。

 

「なっ……に、を……!?」

 

 弦糸を広げ即席の足場としながら宙を滑り、前を向く。

 思考は追い付かなかったが、体は動いた。

 自身を中心に弦糸を円形に全方位展開。

 それは防御であり、攻撃だ。

 格子状の球体を描く糸は振動することで無理に突っ込んできたらバラバラになる。

 

「――――ぁ?」

 

 そして彼女は黒い風を見た。

 視界の中心、黒い粒子の風。

 全方位弦球が完成するコンマ秒以下の刹那に垣間見た異物。

 認識した瞬間、

 

「!?」

 

 白風を纏うフォンの拳がアルテミスの顔面に突き刺さった。

 

「がっ……!」

 

「ようし、今のはすっきりした!」

 

「っ――!?」

 

 ありえねぇだろと、アルテミスは思った。

 なぜならフォンの声が後ろから聞こえたからだ。

 今まさに、顔面を殴られたのだ。

 それにも関わらずフォンは背後にいる。移動した気配もなければ、それに伴って巻き起こる空気の動きさえない。

 瞬間移動でもしたかのようなテンポ。

 

「―――ざっけんな!」

 

「うわっと」

 

 今度こそアルテミスの判断は間に合った。

 自らの二尾の毛髪。

 それが剣山のように広がり空間を突き刺した。

 

「―――!」

 

 結果、剣山が貫いたのは黒い粒子のみ。

 フォン自身は既に十数メートル離れていた。

 だが。

 

「……距離も糞もねぇぞこいつ。ふざけんな」

 

 口の中の血を吐き捨てながら毒づく。

 冗談ではない。

 本当に瞬間移動か何かをしているんじゃないだろうか。

 

「ふざけてるのはそっちだ。好き勝手してくれたみたいだね」

 

 金を灯す鳶色の瞳は静謐さすらあった。

 黒白の風にポニーテールが揺れる。

 

「≪龍の都≫を襲ったことも、アルマのことも、シュークェのことも、御影のことも、カルメンのことも、トリウィア……トリウィアはいいや。どうにかするでしょ」

 

 いいのかよそれで、と突っ込みかけたが冷静になると同意できた。

 

「勿論―――主に喧嘩売ってることも。私は今、怒ってる」

 

「はっ、笑わせんなよ」

 

 これも、冗談ではない。

 怒ってるだって?

 

「オレこそずっと、てめぇら畜生にキレてんだよ!」

 

 吠え、腕を振った。 

 それを意味することは当然弦糸であり、応えるようにフォンの姿が消え、

 

「―――ハッ、見えたぜぇ!」

 

「!」

 

 アルテミスの蹴甲とフォンの白風を纏う足が激突する。

 驚くフォンの視線が僅かにズレる。それは自分の足。

 白い粒子を伴う素足に、

 

「糸屑――?」

 

「応用性が高いんだぜぇ糸ってやつは!」

 

 弦糸の展開、その応用だ。

 通常、アルテミスは弦糸に切断力を持たせて張り巡らせる。

 攻撃と防御を一度に行うためだ。

 だが、理屈はどうあれフォンにはそれを意味をなさない。

 弦糸の展開よりも早くすり抜けている、と推測する。

 

「おらよ――!」

 

 蹴りを連続で叩き込み、当然彼女は掻き消えるが、それでいい。

 狙いは動きと共に細かく切り離した弦糸を広げること。

 それ自体には攻撃力も防御力もない。

 あるのは、一つの概念だ。

 

「――――≪道標の糸道(アリアドネ)≫!」

 

 曰く、迷宮を抜け出るために用いられた道標の糸。

 通常ならばアルテミスにとっての獲物、即ち亜人に対する感知用概念術式。

 フォンの存在を感知していたのもこれによるもの。

 それをばらまくことで即席の感知結界を生み出したのだ。

 

「どんだけ速くても、そこにいるってことだろ……!」

 

 白と黒の粒子の風。

 それを操る陽光背負いの神鳥。

 例え目視できなくても、

 

「狩人は獲物を逃さないぜ、鳥畜生……!」

 

「こっちも逃がすつもりはないさ―――!」

 

 

 

 

 

 

 青白の鎧姿を中心に黒白の疾風が駆け巡る。

 高速戦闘というのも生易しい。

 瞬間移動に等しいフォンの攻撃を感知結界頼りに反応するが、刹那でも遅れれば大きく吹き飛ばされる。

 最早それには逆らわず、吹き飛ばしを次の対応の準備とし、≪龍の都≫の空をはじき出されるように跳びながらアルテミスは戦っていた。

 ふざけやがってと、アルテミスは思う。

 こんなんだから亜人種が嫌いなのだ。

 

 アルテミスはアポロンと同じく戦争孤児であり、現在の王国と亜人連合の国境付近の子供だった。

 スラム生まれ、という点に関してはアポロンやヘファイストスとあまり違いはない。

 彼らとの違いは、その育ったスラムに亜人種が多かったということだ。

 戦死者が多かったのはどの種族も同じだし、社会という結びつきが曖昧な連合のルールはより自然に近いものだった。

 即ち弱肉強食だ。

 自然の法則の中で、魔法の教育を受けてないただの子供は恐ろしく弱い。

 まともに食べるものがないだけならマシ。

 食べ物の奪い合いで、亜人の孤児に殺されかけた数など数えきれない。

 彼らは、生まれついて武器を持っている。

 牙であり、爪であり、肉体そのものであり、自然に対する適応性であり、種族特性そのもの。

 自分と同じくらいの年の子供、どころか自分よりも幼くとも亜人であれば勝ち目がない。

 ずるいだろと、ずっと思っていた。

 生まれた時点で、勝敗が決まってしまっている。

 それは羨望であり、嫉妬であり、憎悪だった。

 本来ならそれを抱えてのたれ死んでいただろう。

 そんな地獄からヘラはアルテミスを拾い上げてくれた。

 救い、知識と力をくれた。

 異世界の存在とその知識。

 そして育ててくれたのだ。

 彼女の持っていた亜人への敵意を。

 ≪ディー・コンセンデス≫の子らはそういうものだ。

 

 ヘファイストスならば世界への優越感を。

 

 アポロンならば世界への対抗心を。

 

 アルテミスならば世界への敵愾心を。

 

 このアースにおいて社会から取りこぼされて不幸となった子供や、或いはゴーティアの眷属である魔族によって幸福を取りこぼした者達。

 それをゴーティア/ゼウィスやヘラが拾い上げた。

 この世界で生まれながら、この世界の敵対者である存在。

 アース内の別アース存在に敏感なアルマ・スぺイシアやネクサスに対するが為に用意された先兵に他ならない。

 過酷な幼少期からの方向性の定められた教育により、彼らは自らの在り方に疑問を持たない。

 定められた神の名の下に、悪魔の眷属となって世界を蝕むのだ。

 

「≪月天神(アルテミス)嚆矢濫觴(アウトマテー)≫ッ!」

 

 弦糸が鋭く、何十本もの槍となってフォンをあらゆる方向から囲む。

 それはアルテミスがフォンの速度を捕らえたわけではない。

 移動の先読みだ。

 

「単純なんだよ……!」

 

 確かにフォンの速度は想像を絶している。

 だが神速を以て行く先自体は複雑ではない。

 ≪道標の糸道(アリアドネ)≫の感知とアルテミス自身の戦略であれば、どこに現れるかを推測するのは難しくなかった。

 だからそうした。

 

「百舌の千贄ってな……!」

 

 千には届かずとも、全身を串刺しにして針鼠にするには十分だった。

 殺到した。 

 

「くろく、くろく、くろく―――」

 

 ふわりと、千矢よりも速く黒い風が巻き起こる。

 それらが千矢に絡みついた。

 コマ送りになったかのように、減速し

 

「――――しろく、しろく、しろい」

 

 大きな円を描く両腕に伴う白風が、千矢を吹き飛ばした。

 白と黒の翔気。

 今フォンの纏うものであり、それは、

 

「具現化された減衰と加速か……!?」

 

 白は加速。

 黒は減衰。

 翔気を構成する粒子そのものがそれぞれのエネルギーだ。

 おそらく物理法則に反した神速もそれによるものだ。飛んでいるはずなのに、飛翔の際に風を巻き起こさず、慣性も重力も無視した三次元駆動。

 ≪山海図経・比翼連理≫。

 空に太極図を描く様な新たなるフォンの在り方。

 トリウィア・フロネシスがアース111最強の人類ならば。

 それこそがアース111最速の翼に他ならない。

 

「そりゃあすげぇ……だけど、気づいているか?」

 

「うん?」

 

「そんだけ速かったら―――誰も付いてこれねぇだろ」

 

 見下すように告げる。

 言葉通り、ウィルはフォンとアルテミスの戦いに追い付いてない。

 ≪道標の糸道(アリアドネ)≫の感知範囲内にはいないし、二人の背後数十秒は掛かるであろう地点にまだいる。

 つまりそれは、まるで速度が足りないということだ。

 

「てめぇは確かに極上だけどよぉ、人間様の翼になりたいなんて笑わせるぜ」

 

「…………あはっ」

 

 答えは、吹き出すような笑いであり。

 そして失笑だった。

 眉を潜め睨み付けて見れば、フォンは呆れ、

 

「なーんにも分かってないな。それは私の主を舐め過ぎだよ。そんなキモイ髪の毛じゃなくてちゃんと眼でみれば?」

 

「あぁ―――、っ!?」

 

 背後に風と気配、感知結界への反応。

 反射的に体を動かした。

 

『―――――≪エアリアル・プリズムスカイ≫』

 

 ごうっ、と突風が吹く。

 外聞もなく体を真下に倒した瞬間。

 ウィル・ストレイトが駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

「流石、主だ」

 

 フォンは満足げに呟きながら、彼の姿を見る。

 自分に寄せてくれたであろう鳥人族の装束と背負う翼。

 だが、それまでと違うものがある。

 翼だ。

 それまでは直線と流線が組み合わさった紋様の翼だった。

 今は違う。

 そこに片翼にそれぞれ七つの円環が生じている。

 

「お待たせ」

 

「ううん、全然」

 

 フォンが自分の翼をはためかせて白黒の粒子を回すと、彼の翼に動きがあった。

 漂う翔気を紋翼の円環が呼吸するかのように吸収し、紋様に循環しているのだ。

 それによって紋様自体が加速と減速エネルギーを発生し、コントロールしている。

 ≪ペリドット≫と≪ビフレスト・エアリアル≫はフォンを模したもの。

 ≪エアリアル・プリズムスカイ≫は、その上でフォンと共に空を往くためのものだ。

 

「―――」

 

 その事実が、喉を震わせる。

 加えて、

 

「分かってたよ、来てくれるって」

 

 フォンは自らの左手に浮かんだ虹色の紋章を翳す。

 ウィル・ストレイトの≪外典系統≫、≪我ら、七つの音階を調べ合おう≫。

 二人は並んだ時点で、互いの速度域の違いを分かっていた。

 だからまずフォンが先行し、その間にウィルは学んだのだ。

 彼女と共にあるための飛び方を。

 

「フォンだけ行かせるわけにはね」

 

 軽く首を傾けて笑うウィルを見ると嬉しくなる。

 決して、二人は一方通行ではない。

 ただフォンがウィルのために飛ぶのではない。

 ウィルだってフォンの空に飛び込んでくれるのだ。

 彼の翼が、≪外典系統≫がそれらの想いを教えてくれる。

 それが嬉しくてたまらない。

 同時に、嬉しさがつつ抜けなのは少し恥ずかしいけれど。

 まぁいいや。

 

「―――」

 

 言葉は必要なく。

 二人は同時に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「っ―――≪月天神(アルテミス)暗香疎影(アルカディア)≫ッ!」

 

 ≪凶禍錘月(ディアナ・ストリングス)≫は伸縮自在の糸を、意思のままに操る異能だ。

 多くの概念術式を扱い、それを上乗せするためにあえて特殊な性質は用意されていない。

 そして今。

 一対の翼が飛び出すよりも早く、己の権能を行使した。

 使用しうる全容量の弦糸を髪槍とし、今度こそ千に近しい数を形成する。

 神々の楽園(アルカディア)を超える狩人の矢。

 全てに追尾、命中時爆裂の術式を込め、当然のように鳥人族殺しも込められている。

 

「空を、楽園を、覆い尽くせ……!」

 

 膨大極まる質量ならば減衰されようとその次が迫るだけ。

 

「――――」

 

 大質量の矢群に、ウィルとフォンの判断は一瞬だった。

 共に。

 空へ。

 

 

 

 

 

 

 黒白と七耀の翼が空へ登っていく。

 僅かに黒白が先行し、彼女が生み出す翔気を七耀が吸い込むことで加速を重ねていた。

 追尾概念を持つ以上、速度で振り払うだけでは足りない。

 故に彼らは、ギリギリまで引きつけた上で誘爆させることを選んだ。

 

「――――」

 

 昇る。

 昇る。

 昇っていく。

 互いの位置を入れ替え合い、フォンは慣性を無視した機動で、ウィルは慣性に囚われながらも遅れることはなく複雑な軌道を描き、それぞれの色の軌跡を伸ばしていく。

 矢群もまた青白い魔力残光を何百本も生み出しながら二人を追いかけた。

 空というキャンバスに、飛翔と追跡の痕跡を刻み付ける。

 まるで狂気のお祭り騒ぎだ。

 

「a――――」

 

 フォンの喉から歌が零れる。

 直線、円、螺旋、曲線、あらゆる軌道を描き、必中と誘爆の中を飛びながら彼女はもうそれらを見ていなかった。

 あるのはただ、幸福だ。

 こんな飛び方、鳥人族だってそうそうできない。

 そもそも誰よりも早く飛べたから≪七氏族祭≫で鳥人族の代表になった。

 誰も、彼女の翼にはついてこれなかった。

 今は違う。

 

「aa――――」

 

「――――mm」

 

 フォンの風の歌に、ウィルがハミングを重ねる。

 近づき、離れるのを繰り返し、突き抜ける風や矢群の爆発の音の中。

 ≪外典系統≫と二色の翔気が、その声は確かに互いに届け合う。

 風の歌は、誰かを求める言葉にならぬ歌だ。

 愛しい人に届きますように。私はこういう生き方をしてきましたよ。

 鳥人族としての全てを乗せた声。

 重なり合う。

 だから何も怖くなかった。

 上昇すればするほど大気は薄くなり、気温は下がる。

 下を意識すれば串刺しと爆発の群れ。

 空に生じた危険地帯を、二人は歌による逢瀬と共に突っ切っていく。

 

「主」

 

「うん?」

 

 愛しい人をの名を呼ぶ。

 風が全てを伝えてくれるとしても。

 全てがわかり合っているとしても。

 それでも、言葉として紡いで伝えたいものがある。

 

「大好きだよ」

 

 何度も、何度でも。

 どれだけ口にしても事足りない。

 

「うん、僕も大好きだ」

 

 そして。

 二人は手を繋ぎながら翔気を解き放つ。

 逆再生するかのように一息で下降を開始し。

 

「――――!」

 

 空に、数多の爆裂の花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

「―――――決めるよ、フォン!」

 

「うん!」

 

 楽園超えの矢群れを、さらに超えてウィルとフォンは再び大地へ飛翔する。

 戦いを始めた時のように。

 だが、違うものがある。

 

「望むところだ……!」

 

 待ち構えるアルテミス。

 その手に、弦糸で編まれた長大な弓矢が握られ、直上の二人へと向けられていた。

 弓の長さだけで三メートル近く、番えられた矢も同じ。

 身の丈をはるかに超える武装ははったりではなく、膨大な魔力が集い青白の多重魔法陣を展開していた。

 

「≪月天神(アルテミス)―――」

 

 ぎちりぎちり。

 それは彼女の黒く染まった敵愾心と復讐心が軋む音でもある。

 たった一人、自分以外にぶつけるしかない激情。

 

「――――不倶戴天(アポロウーサ)≫!」

 

 放たれる。

 膨大な魔力と獲物を狩るという概念によって創造された月光の砲撃。

 異なる法則であろうと、究極魔法に匹敵する必殺技。

 

共鳴魔法(シンクロマジック)!』

 

 だからと言って、二人は止まらない。

 むしろ真っすぐに破滅の月光へと駆け、互いに握った手に力を込める。

 瞬間、さらに二人の翼が形を変えた。

 ウィルの紋翼は左肩に。

 フォンの翔翼は右肩に。

 倍ほどの大きさになった片翼が生じた。

 互いに右足と左足を揃えれば、黒白と若草色を主軸とした七耀が包み込む。

 

『広がる天空! 羽ばたく比翼!』

 

 一対の翼、繋ぐ手。

 まさしく比翼の鳥のように。

 

『疾風怒濤・橄欖謳歌――――!』

 

 激突。

 飛翔と月光がぶつかり合い、膨大な衝撃を生みながら一瞬拮抗し、

 

「オオオオオオオオ―――!」

 

 比翼が吠え、踊る様に回った。

 超回転。

 そして生じるのは竜巻だ。

 別たれぬ翼は螺旋を生み、月光を突き抜け、

 

「―――――!」

 

 月女神を射抜き、大地へと叩き落した。

 後には、輝く陽光と晴れ渡る空の中、比翼だけが空を舞う。

 

「……………………どうでもいいけどさ、主」

 

「うん?」

 

「私、そんな黄緑色のイメージ無くない? 御影やトリウィアは赤と青で合わせてたのに」

 

 

 

 

 




トップガンだったり板野サーカスだったりダブルライダーキックだったり。

フォン
唐突なマジレス

≪山海図経・比翼連理≫
せんがいずきょう・ひよくれんり
山海経は古代中国の地理書というなの妖怪図鑑みたいなやつですね。
今回ジンウやフォンの元ネタである金烏とか比翼の鳥とかもそちらに記載があったりします。
山海図経は山海経のさらに原典というか前進になったやつ。

太陽の鳥・金烏と月の兎・玉兎は対照的なものだったとか元ネタの話です。



感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります!!

次回フォン編エピローグ


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ガール・テイク・ボーイ

5963:1年主席天才

なるほど、そうやって>1と鳥ちゃんが敵倒して解決したわけだ。

 

こっちはこっちでえらい目にあったけど。

 

5964:名無しの>1天推し

いやなんかいい感じに鳥ちゃん復活して大団円だったけど天才ちゃん何してたの??

 

5965:名無しの>1天推し

そーだそーだ、なんかさらっと何事もなかったように帰ってきたけど

 

5966:名無しの>1天推し

こっちはわりと心配したんだぜぇ?

 

5967:脳髄

まったくだ、報連相は大切ですよ

 

5968:1年主席天才

んー

 

5969:1年主席天才

そのうちサプライズになるかもしれないから今回は秘密にしておこう。

それで、他には。

 

5970:名無しの>1天推し

さらっと話進めるぅ

 

5971:自動人形職人

他にはというか……まぁ>1と鳥さんが敵を倒して、

天才さんが戻ってくるまでのタイムラグで……

 

5972:名無しの>1天推し

そんなちょっとの時間で何か起きる……

 

5973:名無しの>1天推し

わけが……

 

5974:名無しの>1天推し

あったんですよね……

 

5975:1年主席天才

まあ話は聞いてるけど君たちからも教えてくれよ

 

5976:名無しの>1天推し

>1達が地面に降りてきたら、

まず>1の頭上の転移門開いたんだよな

 

5977:脳髄

いつも天才ちゃんが開けてるあれな

 

5978:名無しの>1天推し

お、帰ってきたと思ったら……

 

5979:>1先推し公務員

まさかの先輩が落ちてきて、そのまま>1がお姫様抱っこでありましたなぁ!!

眼福!!!

 

5980:名無しの>1天推し

「あ、勝ちましたよ。ご褒美ですかこれは流石ですねただまぁそれはそれとして褒めてくれていいですよピースピース」

 

5981:名無しの>1天推し

さらっと敵の片割れソロで倒してるのなんなの

転移門使える様になってるのなんなの

 

5982:名無しの>1天推し

先輩としか……

 

5983:脳髄

でも二人とも逃げられたんよな

 

5984:1年主席天才

転移門開けられるのはなんだろうな……ほんとに……天才か……? 天才だったな……

流石にまだ長時間集中して、>1の近くっていう限定条件な上に、次の日二日酔いみたいになって寝込んでたけど……やっぱおかしい……僕が何十年かけて…………

 

まぁいいや。

あのヘラとかいうのに回収されたぽいね。

先輩も急に影がアポロンを回収したって言ってたし。

 

相当なレベルの転移だけど、やっぱりアース111の魔法から成立してるせいで

次元サーチにも引っかからないし。対亜人特攻術式も含めて結構なやり手だ。

 

5985:1年主席天才

そこはこっちの問題なので次に行こう。

もっと変なのいたぞ

 

5986:名無しの>1天推し

ウス

 

5987:名無しの>1天推し

うむ……

 

5988:名無しの>1天推し

先輩の後にシュークェ、帰ってきたんだけど……

 

5989:名無しの>1天推し

死んだかと思ったから嬉しかったけど……

 

5990:名無しの>1天推し

 

 

………………全裸、でしたね。

 

5991:名無しの>1天推し

全裸

 

5992:名無しの>1天推し

まっぱ

 

5993:名無しの>1天推し

ふるちん

 

5994:脳髄

全裸がなんだよこっちだって脳髄丸出しだぜ!!

 

5995:名無しの>1天推し

張り合うな

 

5996:名無しの>1天推し

脳細胞渇いてかぴかぴになりそう

 

5997:自動人形職人

まぁあんな自爆特攻したらそりゃ服くらい吹き飛ばすよね……

 

5998:名無しの>1天推し

全裸で腕組んで翼燃やして高笑いしながら帰ってきたからな……

 

5999:名無しの>1天推し

宗教画か?

 

6000:1年主席天才

あぁ……ちょうど僕が帰ってきた所だったな

なんか鳥ちゃんは普通にアップグレードした翼で飛んでるし、

なんか先輩は>1にお姫様抱っこされながらピースしてるし

燃えてる全裸が空中で腕組んで高笑いしてるし。

なに?ってなった。

 

6001:名無しの>1天推し

それはそう

 

6002:名無しの>1天推し

俺らもついていけませんでした。

 

6003:名無しの>1天推し

色々あったけど、最後の最後で一番カオスがぶち込まれた感じ

 

6004:脳髄

とんだ修学旅行だったなぁ

 

6005:名無しの>1天推し

でも鳥ちゃんが>1に嫁入りしたのでオッケーだゼ!!

 

6006:名無しの>1天推し

それもそう

 

6007:名無しの>1天推し

ついにあの3人がな……

 

6008:名無しの>1天推し

長かったぜ……

 

6009:1年主席天才

実際にどうこうってなるのはもう何年か先だけどね

喜ばしいことだ

 

6010:名無しの>1天推し

てかなんのかんの、もうすぐ>1たちも3年生ですぐに卒業かぁ

 

6011:名無しの>1天推し

進路とかどーすんだろ

 

6012:名無しの>1天推し

先輩はまぁ学者で、お姫様はお姫様で……

 

6013:自動人形職人

天才さんは卒業後どうするか決めてるんです?

 

6014:1年主席天才

入学した時の乗算系統術式みたいに、

ちょいちょいなんか新術式発表してそれで金稼ぎたい

 

6015:名無しの>1天推し

り、リアル~~~

 

6016:名無しの>1天推し

実績があるということが違うな

 

6017:脳髄

知識転生無双やんけ!!!

 

6018:1年主席天才

^^

 

6019:名無しの>1天推し

わろた

 

6020:名無しの>1天推し

なんか前も見たな

 

6021:名無しの>1天推し

うける

 

6022:名無しの>1天推し

>1はどーすんだろ

 

6023:名無しの>1天推し

そういえばそういう話までは聞いたこと無いな

 

6024:名無しの>1天推し

就職困らなさそうではあるけど

 

6025:1年主席天才

そのあたりは、本人が来たら聞いてみればいいんじゃない?

 

6026:名無しの>1天推し

それもそうだ

 

6027:名無しの>1天推し

楽しみだねぇ

 

6028:自動人形職人

>1の就職祝いコーディネート作らないと……!

 

6029:名無しの>1天推し

なんか特定キャラのコーデだけ出しまくるソシャゲ運営みたい

 

6030:名無しの>1天推し

わろた

 

6031:名無しの>1天推し

大体合ってる

 

6032:名無しの>1天推し

>1さんの晴れ姿楽しみですね!

 

6033:名無しの>1天推し

うお、光の波動

 

6034:名無しの>1天推し

名無しでも分かる陽の気配

 

6035:名無しの>1天推し

次なにかあっても勇者ちゃんが来てくれればなんとかなりそう

 

6036:1年主席天才

その子≪ネクサス≫だから君たちとは別グループだよ

自分で頑張れ

 

6037:名無しの>1天推し

ぴえん

 

6038:名無しの>1天推し

かなしい

 

6039:名無しの>1天推し

そういうことらしいです! でも時間が空いてれば駆けつけます!!

 

6040:名無しの>1天推し

あぁ~~~~

 

6041:名無しの>1天推し

あぁ~~~~

 

6042:名無しの>1天推し

>1と勇者ちゃんが並ぶとこはちょっと見たい

 

6043:自動人形職人

かなり見たい

 

6044:名無しの>1天推し

うむ……

 

6045:脳髄

まー、なんにしても。

一先ずは問題解決でよかったな

 

6046:名無しの>1天推し

せやせや

 

6047:名無しの>1天推し

うむうむ

 

6048:自動人形職人

ですねぇ

 

6049:名無しの>1天推し

んだんだ

 

6050:1年主席天才

あの子の飛べる姿を見れて僕も嬉しい限りだ

 

6051:名無しの>1天推し

いやー円満解決!

 

6052:名無しの>1天推し

大団円!

 

6053:名無しの>1天推し

これで夜もたっぷり眠れるってもんよ!

 

6054:名無しの>1天推し

あの……

 

6055:名無しの>1天推し

うん?

 

6056:元奴隷童貞冒険者

一個だけ思うんすけど

 

6057:名無しの>1天推し

なんだよもう終わりだぜこれで

 

6058:元奴隷童貞冒険者

いや鳥ちゃんが気持ち受け入れればいいんじゃないかという自分の意見、

わりと間違ってなかったことないすか???

 

6059:名無しの>1天推し

お前……

 

6060:名無しの>1天推し

こいつ

 

6061:名無しの>1天推し

こやつ

 

6062:自動人形職人

それは……まぁ……

 

6063:名無しの>1天推し

言っちゃう~?

 

6064:脳髄

童貞がよ……

 

6065:1年主席天才

こすいなー、君。

 

6066:名無しの>1天推し

ないわー

 

6067:名無しの>1天推し

ださい

 

6068:名無しの>1天推し

そんなんだから童貞なんだよ

 

6069:元奴隷童貞冒険者

あっれー!? なんか扱いめっちゃ酷くないすかー!?

 

6070:1年主席天才

残念ながらここには君の発言をいい感じに上手く解釈して

周りに伝えてくれる有能極まってる嫁奴隷はいないよ

 

6071:名無しの>1天推し

なにそれ

 

6072:名無しの>1天推し

ほしい

 

6073:名無しの>1天推し

それはそれで詳しく

 

6074:元奴隷童貞冒険者

えぇ……?

そんなぁ……へへっ……聞きたいっすかぁ?

 

6075:@everyone

照れんな!!!!!!!

 

6076:名無しの>1天推し

おっ?

 

6077:脳髄

なんかいつもと表記違うな

 

6078:名無しの>1天推し

みんな?

 

6079:1年主席天才

ちょいちょい表記バグるから、同じようなこと同じタイミングで打ち込んだら纏める様に調整しておいた

 

6080:名無しの>1天推し

おー

 

6081:自動人形職人

さっすが天才さん

 

6082:名無しの>1天推し

あれもあれで好きだったけどな

 

6083:名無しの>1天推し

いやー、新しいことも知れたし

 

6084:1年主席天才

おっと、そろそろ面白いものが見れるよ

 

6085:名無しの>1天推し

おー

 

6086:名無しの>1天推し

なんだなんだ

 

6087:脳髄

こうしちゃいらねぇ! ちゃんと>1たちを見ないと!

 

6088:元奴隷童貞冒険者

あっれー!? 自分の話はー!?

 

 

 

 

 

 

 

 風が唸り声をフォンは聞いた。

 それは巨大なものが群れを成して空を往く音だった。

 龍だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()から一斉に龍たちが空へと飛び立っていく。

 全長10メートル程度の小龍から、50メートルもある大型龍まで。

 2枚翼もいれば4枚翼もおり、彼らの群れにはそれぞれ数人の龍人族が人型形態のまま背に乗っている。

 龍化した時に飛ぶことに適していない者達なのだろう。

 彼らは≪龍の都≫の上空を蜷局を巻くように旋回し、龍たちの渦を作り出していた。

 

「……渡りかぁ」

 

 それは龍族の引っ越しだった。

 かつてはフォンの鳥人族も季節ごとに住む地域を変えていたが、しかしスケールが違う。

 

「いやぁ……凄いね。ちょっと現実味が湧かないよ」

 

 苦笑気味の言葉は、隣に寄り添う合うように立つウィルだ。

 寄り添う合う様に、というより、フォンが彼の腕に抱き着いているのだが。

 肩に自分の頬を押し付けつつ、

 

「それ、どっちに対して?」

 

「うーん、どっちもかなぁ」

 

 

 

 

 

「…………………………ぐぅ」

 

「ははは、気持ちは分かるけどね」

 

 目の前の光景を見て唸るアレスにアルマは声を上げて笑ってしまった。

 スーツ姿の彼は細い指で額を覆いながら頭を振る。

 

「……いやだって……おかしいでしょう。見てくださいよ」

 

「見てる」

 

「…………壁、全部無くなったんですけど」

 

「無くなったねぇ」

 

「そんなことありますか?」

 

「君、目で見たものは受け入れたまえ」

 

「………………ぐうぅぅ」

 

 片頭痛を発動したアレスにもう一度笑い、アルマは視線を水平に向ける。

 そこにあるのは大地と、そして地平線の向こうにある空だ。

 壁が無くなったと、アレスは言った。

 正確に言えば、

 

「この≪龍の都≫を囲んでいた岩壁が、そのまま消えちゃうとはね。流石に僕も驚いた」

 

 直径一キロの盆地を囲んでいた断崖。

 斜めに切り落としたような円柱のように見える外界との境界線がまるごと消滅していた。

 結果、≪龍の都≫は山の先端を切り落とした断面に突然生えた集落になっている。

 昨日までは壁はあったが、今朝地響きと共に消失していた。

 天変地異としか思えないが、

 

「あの岩壁自体がエウリディーチェの体だったとはね」

 

 アルマたちが目にしたのは崩れて行く岩塊から姿を現した巨大な龍の姿だった。

 

「いまいちわかりません。人の姿をしたエウリディーチェ様は話してたでしょう。体がそれとは別にあったと」

 

「つまりは端末なんだろうね。人と交流するための分身としてあのエウリディーチェの姿があったんだ。流石に神格としての強度を保ったままじゃあ他の種に対しての影響が大きすぎるし、交流も困難だろう」

 

「…………分かる言葉でお願いできませんか?」

 

「神様だからそういうこともある」

 

「…………分かりやすいですけども」

 

 納得は難しいらしく、重い溜息を吐いてから空を見上げた。

 龍たちが舞う天空を。

 納得は出来なくても壮観だ。

 感じ入るように彼は見つめている。

 自分も同じように龍たちを見た。

 アルマにしてもこれだけの上位存在が群れを成し、一斉に視界に収めるのは早々あることではない。

 大体、敵として薙ぎ払うことの方が多かったし。

 しばらく眺め、

 

「……ねぇ、アレス」

 

「なんでしょうか」

 

「君、龍人たちの護衛してたみたいだけど――――何もなかった?」

 

「…………何故でしょう?」

 

「いや別に。得体が知れない相手だったからね。僕もやられたし、君もどうだったかなと」

 

「………………別に」

 

 空を見上げたまま彼は答えた。

 残念ながら身長的にどんな顔をしているかは見えなかった。

 だから、彼の感情の乗っていない言葉を聞いた。

 

「何もありませんでしたよ」

 

 

 

 

 

 

「おぉ……おぉ……! これは歴史的光景ですよ! ……うっ、酔いが……気持ち悪い……いやしかし! 見逃すわけには!」

 

「元気なのか元気じゃないのかどっちなんじゃお主は」

 

 無表情で興奮しながら体調を崩しているという器用なことをしているノースリーブ姿のトリウィアに思わずカルメンは半目を向けた。

 気持ちは分からなくもないが。

 彼女からしても同胞がこうして一斉に飛んでいるのは初めて見る光景だった。

 

「判断が速いなエウリディーチェ様は。―――()()()()()()()()など、向こうからしたら文字通り天地がひっくり返ったようなものでしょう」

 

「じゃのう」

 

 半狂乱しているトリウィアは放っておいて、隣の御影に頷いた。

 雪空が晴れたからか、簡素な着流し姿の彼女も空を見上げる。

 

「元々≪龍の都≫は隠れ里じゃったからのぅ。それがあっさりバレてしまったのならお爺様たちにしても引きこもっている必要はないし、襲われたのなら連合に参加するにも当然じゃろうて」

 

「大戦時代でもなかったことが起きて、その瞬間を目にするとは……先輩殿があれだけはしゃぐのも納得といえば納得ですけど」

 

「うんむ……それはそうと御影」

 

「はい?」

 

「お主、体は大丈夫なのか?」

 

 トリウィアの不調は≪龍の都≫の山の麓から転移した故の負担ではあるが、御影もまたアルテミスとの戦いで手傷を負っていた。

 それなりの重傷であり、アルマが治療したから大丈夫だとは思うものの、いつもよりテンションが低いような気もしたのだ。

 

「あぁ……ま、絶好調ではないですけどね」

 

 彼女は肩を竦めて、

 

「カルメン先輩こそ、腕は問題ないんですか?」

 

「ん、あぁ」

 

 言われ、自分の腕を見る。

 トリウィアに切り落とされた両腕は、今は左腕だけがある。

 

「普通に腕生やしてびっくりしましたけど……右腕の方は難しかったんでしょうか」

 

「いや、生やそうと思えば生やせるが」

 

 にやりとカルメンは笑い、

 

「片腕の状態をエスカに見せて驚かせて、目の前で生やしてさらに驚かせてやろうと思ってのぅ。サプライズというやつじゃ」

 

「……………………まぁ、愛情表現は人それぞれですね、はい」

 

 

 

 

 

 

 

「……うーむ」

 

 シュークェは腕を組みながら考えていた。

 回りにはウィルとフォン、アルマとアレス、トリウィアと御影にカルメンがそれぞれ固まって龍の群れを見上げている。

 戦いではいい感じに特攻をかまして見せ場を作ったはずなのだが。

 いまいちみんなから距離を置かれている気がする。

 例外はウィルだけだった。

 良い奴だなとは思うが。

 

「全裸で燃えて空を飛ぶの……かっこいいと思ったんだが……」

 

 声は風に溶けて誰にも聞こえなかった。

 

「…………………………番、探すかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――改めて礼を言おう、ウィル・ストレイト、フォン』

 

 低く轟く声はフォンと共に見上げたウィルの頭上に。 

 空に舞う龍たちの中央、一際大きな存在がある。

 頭から尾までは100メートル近く、広げた翼は倍近い。

 巨大すぎて距離感がおかしくなる。

 体を覆う鱗は深い紺色だ。

 まるで冥府の底のような光を吸収する暗い色。

 エウリディーチェの龍としての姿が、二人を見下ろしている。

 

『本来であれば余が守るべきこの地を、汝らは守り通してくれた。我等龍人族はそなたらの健闘を永遠に忘れぬと誓おう』

 

「こちらこそ、ありがとうございました。フォンを助けてくれて」

 

「ありがとうございました! おかげで私は自分のルーツも知ることができましたし!」

 

『――――』

 

 ごろごろと唸るような声はきっと笑ったのだろう。

 人の時と変わらない白と黒の日蝕目が細められ、

 

『フォンよ。今はせめてもの礼として其方に『比翼』の名を授けよう』

 

「……『比翼』」

 

「おぉ」

 

 ウィルは思わず感嘆の声を漏らした。

 二つ名だ。

 本来、国から与えられるものではあるが。

 それでも龍の神が授けるものであれば遜色のないどころか、むしろ誇るべきものであろう。

 名前という概念の重要さを、ウィルはこの地に来て改めて知ったのだから。

 彼は、或いは彼女は続け、

 

『『比翼』のフォン、フォン・フィーユィ。ジンウの後継にして、異なる道を選んだ翼よ。古き神として汝と汝の主、同胞の道行きを祝福する』

 

 頭を持ち上げ、

 

『――――――!』

 

 吠えた。

 

「わっ」

 

「おおっ」

 

 大きな、けれど優しい、遥か遠くへと伸びるような咆哮だった。

 大気の震えが天に伸び、

 

『――――『――――――『――――――――――!』

 

 空に控えていた龍たちが、声を重ねて行く。 

 誰もが天を仰ぎ、声を上げる。

 龍の姿も、人の姿も変わりなく。

 それはまるで、

 

「……フォンの歌みたいだ」

 

「似たようなものじゃ」

 

「あっ、カルメン先輩」

 

 いつの間にかウィルの隣に並んでいた彼女は空を見上げたまま、

 

「ワシらにとってもやはり感情の表れじゃな。戦の前の鼓舞や、死者への弔い。或いは――――恩人への感謝として。込められる想いは数あれど、その最上位のものとしてじゃ」

 

 それからウィルとフォンに視線を向けて破顔した。

 

「龍の、それも龍の群れからの咆哮。歴史を見てもこれを受けたものなどそうはいない。誇るといいぞ?」

 

 告げて、背後へと無駄に無駄の無い動きで去って行った。

 気を使われているようで少しくすぐったい。

 長い咆哮が終わり、もう一度エウリディーチェは自分たちを見つめ、

 

『――――それではまた会おう。異なる種の友人たちよ。新たな居を構えたら改めて招待しよう、今回の礼もその時にな』

 

 翼を広げ、天へと羽ばたいた。

 ゆっくりと、けれど速い速度で龍の群れが大空を駆けて行く。

 フォンとはまた違う飛び方だなと思った。

 風が巻き起こり、南へ流れて行く光景を見上げていたら腕に力を感じた。

 

「ねぇ主」

 

 彼女もやはり去って行く龍の群れを見上げながら、ウィルの腕を抱きしめている。

 

「『比翼』だってさ、私」

 

「うん、いいね。とても素敵だ。君にぴったりだよ」

 

「だよね」

 

 笑みの気配を感じ、ウィルは彼女を見た。

 フォンもまた優しい笑みでこちらを見つめている。

 

「比翼ってさ、1人では飛べない鳥ってことでしょ。なら、私にぴったりだ。だって―――」

 

「君の翼は、僕と飛ぶ為に――だからね」

 

「―――へへっ、流石」

 

 自分で言うのは恥ずかしいけれど。

 なんなら頬が赤くなっているの自覚はあるし、フォンも同じように顔が赤いけれど。

 それでも、そのことを疑うつもりはない。

 フォンは翼も、愛も選んだ。

 だったら、その選択が間違いではなかったと思わせるのが自分の義務なのだから。

 義務であり。

 ウィル自身がやりたいと思うことだ。

 

「あー……あとさ、主」

 

「うん? ……まだ、ペリドットのこと? あれは……その、属性のイメージ的に……」

 

「いや、それはいいよ。冗談だよ冗談」

 

「あ、うん」

 

 地味に気にしていたことをサクッと切り捨てられた。

 トリウィアとか御影には見せる一面を、自分にも見せてくれたのはちょっと嬉しい気もするが。

 フォンは背後、まだ半分発狂しながら空を眺めているトリウィアや静かに粛々と見上げている御影たちを一瞥し、

 

「ほら……その、御影もトリウィアも主の呼び方、変えてたじゃん? ……だから、ね? 私も……とか思ったりして」

 

「…………な、なるほど。ちなみにどんな?」

 

「……………………ウィルさん、とか?」

 

「――――」

 

 思えば。

 アルマは最初『>1』から『ウィル』だ。

 御影は『婿殿』から『ウィル』だし、トリウィアは『後輩君』から『ウィル君』だ。

 そういう意味ではウィルは恋人から呼び方を変えられるプロだと言っていいだろう。

 その上で。

 普段快活な少女がしおらしく上目遣いの『さん』付けで呼ぶのはかなりウィルの琴線を揺るがした。

 ウィル・ストレイト、萌えという概念を初めて知るのであった。

 

「………………良いと思います」

 

「なんで敬語」

 

 彼女は苦笑し、ウィルの腕を抱きしめながら。

 晴れ渡る様な空の笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ改めて。私を離さないでね、ウィルさん?」

 

「勿論」

 

 ウィルもまた抱きしめられた自分の手を、彼女の指に絡めて応えた。

 

「離さないよ。君は僕の翼だから」

 

 

―――≪ウィル・ストレイト&フォン・フィーユィ―――ボーイ・ホールド・ガール―――≫―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクシオス王国首都、王都アクシオス。

 中央にそびえる王城フルリヴィス城。

 その城の地下に、牢獄がある。

 犯罪者を捕らえて収監する監獄は別にあるが、王城の地下には選ばれた囚人のみに対する特別牢獄があった。

 主に国際的な問題に関する犯罪かつ、危険度が低いないし、能力を封印できた者に対してだ。

 即ち、ヘファイストス・ヴァルカンもそれにあたる。

 アルマ・スぺイシアにより異能を封印された彼女は秋から収監され、今に至ってもなお牢獄に閉じ込められていた。

 

「…………ふわぁ」

 

 深夜、貫頭衣の囚人服を着こみ、簡素な造りのベッドでぼうっとしている。

 アクシオス王国では他の国に比べて囚人の扱いが人道的なので、彼女は五体満足で欠伸さえできていた。

 これが帝国や聖国であれば、また話は違っただろう。

 尤も、それもあと数か月でどうなるか分からないのだが。

 

「――――ん」

 

 ふと、彼女は人の気配を感じた。

 この監獄に訪れるのは看守か事情聴取に来る役人であるが、牢の前に立ったのはどちらでもなかった。看守であるならば鎧の音がするし、役人ならばこんな時間に来ることはない。

 牢の前に立ったのはどちらでもなかった。

 少女だ。

 足首まで伸びるロングスカートと黒のセーラー服にシスターらしいフードを合わせたような独特の服装。

 フードから零れる髪は夜明けの光に蜂蜜を溶かしたような黄金。

 瞳は海のような深い青。

 胸には七主教のシンボルである七芒星のペンダント。

 全身の露出は一切なく、身長も低い。それでも体のラインは丸みを帯び、まだ幼いながらもこれから絶世の美女として花開く蕾のような、無垢と色気が混在している。

 

「あら」

 

 少女の存在を見て、ヘファイストスは体を起こした。

 

()()()()()()()

 

「失礼しました。それなりに大変なんですよ、此処に来るのは」

 

「あなたでも?」

 

「私だからこそ、でしょうか」

 

 囁くような、鈴が鳴る様な声。

 声量は大きくないのに、なぜか耳によく届く。

 その声にむずがゆさを感じながらも、無視をしてヘファイストスは笑った。

 

「大変ねぇ――――()()()

 

 アクシオス王国王女ヴィーテフロア・アクシオスへと。

 

「くすくす」

 

 彼女は控えめに、けれど華やかに。

 小さな、けれど良く届く声で。

 無垢な子供のような笑顔で、大人のようにしっかりとした礼節を。

 相反するものを、けれどそのまま秘めながら。

 ヘファイストスへと、告げた。

 

「――――()()()からの伝言があります」

 

 

 




『比翼』のフォン
ウィルさん

ウィル
………………いいと思います!

シュークェ
燃える全裸
婚活するらしいです


以上フォン編でした。


ヴィーテフロア・アクシオス
二律背反の少女
ヴィーテフロアってヴィーナス+アフロディーテだったりします。

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります!。
最近感想の数が減ってたりしたのでフォン編全体の感想やら評価貰えると助かります。

それではついに次章はGRADE2の最終章です。


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ヴィランズ

 

 ロムレス共和国首都セプテム・モンテスは七つの丘に囲まれた都市だ。

 それぞれの丘に小さな街があり、その中央に存在している。

 そしてセプテム・モンテスは正方形が積み重なったような街でもある。

 最下層が最も大きく、最上層が小さい四角が少しづつ螺旋を描きながら空へ伸びている。

 階層もやはり七つ。

 構造もそうであるが、街並みも奇妙であった。

 第一から第四階層の建造物の全てが白亜であり、同じようなデザインと規格が等間隔に立ち並んでいる。ほとんどが二階建ての民家らしきもの。

 街行く人も皆同じような白い貫頭衣を纏っている。

 対照的に五階層以上は高い塀に囲まれ、他階層からは内部が見えないようになっていた。

 まるで、そこを境に住む人を分けているかのようだ。

 その五階層にある建物の一つ。

 三階建ての家屋から、塀に囲まれた街を眺めて息を漏らす女とそれを聞く男がいた。

 

「なんつーか……何度見ても悪趣味だよなぁ兄貴」

 

「妹よ。ことある度にそう言っているな」

 

 先日、≪龍の都≫を襲撃した二人組、アポロンとアルテミスだ。

 

 

 

 

 

 

「だってよぉ、ちょー暇だぜ。体痛くて動かねぇし」

 

「仕方なかろう。我らは怪我人故にな」

 

 窓の外を眺めながらふてくされているアルテミスも上体を起こしながら本を読んでいるアポロンも、清潔なベッドに並んでいた。

 広い部屋には木製の寝台だけではなく、薬品や医療器具が収められた棚があり、見るからに医務室といった風合いだ。

 二人の額や頬、四肢、細身のアポロンの体にも、薄いアルテミスの胸にも包帯が巻かれている。

 

「ま、国自体は悪くないと思うけどよ」

 

 普段ツインテールになっている水色の髪は下ろされ、それをいじりながら彼女はぼやく。

 

「飯も住むところも服だってくれるんだろ? 良い仕組みじゃねぇの。いや、オレらがこの国に来たつーか、合流したのは最近だけどよ」

 

「配給制も一長一短ではあるが……そうだな、我らのような生まれであればそうであろう」

 

 パタンと、アポロンが読んでいた本を閉じ、視線を窓の外に向ける。

 そこにあるのは四階層以下の規則的な街並みとは全く違う光景だった。

 不規則に、それぞれの国、時代様式毎の豪邸が塀の中に並んでいる。

 帝国風の豪奢な石造りのオペラ座のような家もあれば、それよりは装飾が控えめな王国風もあり、さらには玉ねぎ型の屋根を有する聖国風の小さな宮殿もある。

 窓の外から見えるだけでもそんな混沌であり、それは五階層と六階層の貴族居住区全体がそうなっている。

 

「あれだろ? この国もパパが作ったようなもんなんだっけ」

 

「然り。20年前の大戦時、各国が足並みを揃えて戦ったが、当然恐れをなして逃げ出した者もいる。つまりはそれぞれの国の貴族ではあるが。主に旧王国領の王族や貴族、さらには帝国や聖国のものだな」

 

 窓から見える統一性のない屋敷はその故に。

 戦うのではなく逃げることを選び、地位故にそれを可能とした特権階級。

 

「当時彼は魔族の侵攻が少なかった旧ロムレス国に集結し、独自のコミュニティを作り出した。そして王国の誕生に便乗する形でこの小さな丘を領土とした≪ロムレス共和国≫が生まれたというわけだ。小国ではあるが、成り立ち故に各国との潜在的な繋がりも深い。王制ではなく共和制を敷くことで独特の立ち位置を確保しているのである」

 

「へぇ。詳しいじゃん」

 

「うむ――――今読んだ本に書いてあった」

 

 掲げた本の題名は『鳥人族でも分かる共和国の歴史』。

 

「今読んでんかよ!」

 

「仕方なかろう、母上に呼ばれこの国に来たのが先月。その間も皇国が長く、先日の≪龍の都≫だ。療養中でやっとこういうのが読めるわけだな」

 

「……まぁそれはそうだけどよ」

 

 だとしても、先日の戦いもあってタイトルがちょっと嫌だ。

 嘆息しつつ、ベッドに勢いよく倒れ込む。

 その衝撃で体が軋むのを感じつつ、気だるげに天井を見上げた。

 元々、≪ディー・コンセンテス≫は世界各地に散らばったゴーティア/ゼウィス・オリンフォスの養子だ。

 それがここ一年かけて独自行動と集合をバラバラに行っていた。

 アルテミスとアポロンの場合は帝国や王国で冒険者――つまりは何でも屋――をしていたが先月ヘラの招集され、本格的に合流した。

 12人で構成されていたはずの≪ディー・コンセンテス≫だが、ヘルメスは死に、ヘファイストスは捕まり、首魁であるゴーティアも1年前に斃された。

 9人の内、ヘファイストスあたりは顔を合わせていたが大半は先月知り合ったばかりでもある。

 もっと言えば、まだ顔を合わせていない面子だっていた。

 

「……で、裏向きは?」

 

「集まった貴族たちは父上の息がかかった者たちだった」

 

 ことも何気に本を枕元に置きながらアポロンは言う。

 

「と言っても、明確に魔族として正体を明かしたわけではなく大戦の英雄として共和国の建国を誘導したと言った所か。父上が死んで今我らは活動しているが、本来ならばもう数年先に事を起こすつもりだったと言うし、その時の隠れ蓑として使うつもりだったのであろう」

 

「ふぅん。パパは色々準備してたわけだ」

 

「それほどまでに≪天才(ゲニウス)≫を警戒していたのであろう」

 

「はいはい。なんか≪ル・ト≫も消されたらしいし、意味わかんねーよな。どうやったんだ?」

 

「知らん。母上も極北に置き去りにしてそれだけだったらしい。下手に隠れて見つかったら終わりだったからな」

 

「はーん。嫌になるぜ」

 

 吐き捨て、沁み一つ天井を数秒眺めてから起き上がる。

 

「つまんねーわ、暇すぎ」

 

「貴様……兄による有り難い歴史のお話をなんだと……!」

 

「つまんねーわ」

 

「妹が……グレた……!」

 

「いや出会った時からグレてんだろオレぁ」

 

 兄の勤勉さには感心したが興味は薄い。

 趣味が悪い国だが配給制な分トントン。その日の食べるものを心配しなくていいなら御の字だろう。

 それがアルテミスの感想だ。

 この国に生きるのなら、血反吐を吐きながらカビの生えたパンを手に入れることも、それを誰にも奪われないように抱える必要もない。

 

「散歩でもすっかねぇ」

 

 貴族たちがそれぞれの生まれの地を再現した街並みは悪趣味ではあるが散歩としてはちょうどいい。体は痛むが、それでも問題ないだろうと判断。

 窓の外を眺めながらベッドの脇へ両足を下ろし、

 

「――――ヒ、ヒヒ。患者の自己判断、による、外出は、禁止」

 

 飛来したメスが耳元を掠めた。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!? びっくりした!」

 

 窓枠に突き刺さったメスに驚き、掠った感触のある右耳を抑えながら振り返る。

 医務室の入り口に、少女が立っていた。

 十歳前後の幼い容姿。

 切り揃えられてた濃い紫のおかっぱ、その前髪は数筋がピンク色に染まってる。

 気だるげそうな、生気を感じさせない瞳はその前髪と同じピンク。年齢に変わらず配給された子供用の白の衣服の上から医療用の白衣を羽織っているが、サイズが合っていないのか手は袖の中に隠れているし、裾も引きずっている。

 陰気な子どもが医者の真似をしたような装いだが、

 

「ヘスティアァ!? てめぇ患者にメス投げるとかそれが医者のすることか!?」

 

「ヒッ。医者の言うことを、聞かない患者に、人権など、ない」

 

「医者つーか暴君だろ……!」

 

 引きつる様な笑いにたどたどしく、子供らしい高い声で物騒なことを言う。

 ヘスティア・ベスタ。

 神話において炉を司る女神の名を持つ彼女もまた≪ディー・コンセンテス≫の1人であり、この医務室の主であり、即ち医者でもある少女だ。

 ≪龍の都≫での戦いで敗北したアポロンとアルテミスを回収したのはヘラだが、その後に二人を治療したのはヘスティアである。

 どう見ても幼女ではあるが、それはそれとして腕は確かだ。

 彼女の物言いにアルテミスは軽く引き、

 

「おぉ我が女神……!」

 

 アポロンは目を輝かせた。

 

「今日も私の体を見てくれるのか、いやはや愛しい人に世話を掛けるのは心苦しいがしかして心が躍るものがあるな……!」

 

「…………糞兄貴さぁ」

 

「なんだ、妹よ」

 

「まだそれ言ってんの?」

 

「何を言う、我が愛は日輪のように燃え上がっているとも」

 

「………………」

 

 アルテミスは何としても部屋から出たくなった。

 長い付き合いの義理の兄はちょっと気障で口うるさいがそれでも兄だ。

 なのに、

 

「まさか真正のロリコンだったとはな……」

 

「否! 我が女神は体が幼いだけだ! 感じないのか、その小さな体から溢れん慈愛の心を……!」

 

「キッショ」

 

 この兄は先月ヘスティアと顔を合わせた直後に跪いて告白をしたのである。

 かなりキモイ。

 ここ数日の治療中もそんな感じだったのだが、妹としては現実を受け入れたくなかった。

 

「おい医者先生よ、治せねぇのかよアホ兄貴の性癖は」

 

「ヒヒ……ッ……私のような、童女に興奮し、告白するのは、完全に病気。だけど、性癖は治療不可……看取ることしか、できない」

 

「終末医療かー」

 

「おぉ、我が愛に燃え尽きるなら本望……!」

 

「………………」

 

 体調が戻ってきたせいかキモさが増していた。

 

「………………ヘスティア」

 

「なに?」

 

「出歩く許可、下りねぇの? ちょっと今この変態と一緒にいたくねぇんだけど」

 

「ヒヒッ」

 

 笑みを零したヘスティアは裾を引きずりながら歩き出し、

 

「おぉ我が女神、私にも診察を―――ぐはっ!」

 

「お前は、まだ絶対安静」

 

 途中ベッドから身を乗り出してきたアポロンの額をメスの柄で強打し、

 

「手を、出せ」

 

「あい」

 

 差し出されたアルテミスの右手の甲に、軽く人差し指を置く。

 ぼっ、と小さい音共にヘスティアの右の指に紫とピンクが混じった炎が灯った。

 

「…………ふ、む」

 

「どうよ」

 

 炎ではあるが熱は無い。アルテミスからすれば手の上で何かに撫でられているような感覚があり、

 

「……ヒヒッ。良い、ぞ。お前は一先ず、回復だ。戦闘行為は、あと三日は、控える様、に」

 

「おー、やったぜ。治療、あんがとよヘスティア」

 

「これも、仕事」

 

「我が女神よ! 私はどうかね!」

 

「お前は、ダメ」

 

 アポロンが妙にくねらせながら伸ばした手を叩き落としたヘスティアは、白衣のポケットに手を突っ込みながら言葉を重ねる。

 

「アルテミスは、比較的軽傷、というより、傷は致命ではなかっ、た。衝撃が、突き抜けたけ、ど、それだけ。逆に、アポロンのは、≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫してなかった、ら、即死、してた」

 

「くっ……おのれトリウィア・フロネシス……!」

 

「ヒヒッ……無理をする、から」

 

 聞きながらアルテミスは思わず舌打ちをした。

 つまりはウィルとフォンには殺意がなかったのだ。お手て繋いだダブルキックは強力だったが、アルテミスを無力化させるためのもの。ヘラ曰く、ウィルの術式に相手の命を損なわないような制限が掛かっていたのだろうという話だ。

 それに助けられたのは確かだが、それでも気にくわない。

 

「……まぁいいぜ。出歩いて良いならちょっくら散歩してくる。体も鈍っちまうしな」

 

「いや、その前に、リビング、に」

 

「あん? なんかあったか?」

 

「これから、ある」

 

 彼女は陰気な笑みを浮かべ、

 

「――――アフロディーテとアテネが、来る」

 

 

 

 

 

 

 アフロディーテとアテネ。

 新顔、と言うわけではないがアルテミスからすればまだ顔を合わせていない最後の2人だ。

 気持ち悪い言動ではあったが、まだ本調子ではないアポロンを医務室に残してヘスティアと二人で階段を下りて行く。

 今彼女たちがいる建物は三階建てであり、医務室は三階に。リビングは一回にある。

 建物自体は共和国内にいくつかあるアジトの一つであり、使い始めたのは≪龍の都≫から帰って初めてだったりもする。

 リビングはこの世界のどの様式とも違う。

 部屋の中央に10人は同時に使える長いテーブルがあり、少し離れた所にはソファや本棚、さらには本来この世界にはないはずの壁かけ式の液晶テレビやらマッサージチェア、フィットネス用のエアロバイクまでも。

 アルテミスからすれば未だに慣れない奇妙なものは、ヘファイストスが作ったであろうともの。

 奥にはL字型のキッチンや食器棚、冷蔵庫。

 まず降りて来た二人を出迎えたのは、

 

「おぉ、歩けるようになったかアルテミスよ!」

 

 大柄の男だった。

 共和国で配給される貫頭衣は一番大きいサイズなのだろうがそれでも筋肉で張り詰められており、短めの茶髪からは如何にも肉体労働が得意だと物語っている。

 アルテミスを見た彼は破顔し、

 

「丁度チェリーパイが焼けたところだ。快気祝いというわけではないが食べるか? 飲み物は?」

 

 人懐っこい笑みと濃い緑色のエプロンの姿、それに両手のミトンで焼き立てのチェリーパイを掲げる。

 

「あー、サンキュ。ビールでいいぜデメテル」

 

「うむ! ヘスティアはどうする?」

 

「ヒヒッ……私は、私の栄養ドリンクを、飲む」

 

「あいわかった!」

 

 にっこりと笑う家庭的な男、デメテル。

 神話において豊穣の女神を示す名を持つ彼は、作り立てのピーチパイを切り分けてそれぞれ皿に乗せ、注文された通りに冷蔵庫から小サイズのビール瓶とケミカルカラーのドリンクボトルをお盆に用意する。

 

「さぁ食べるといい!」

 

「おー、美味そうじゃん」

  

 早速テーブルに座り、フォークでパイを切り分け口に運ぶ。

 

「おっ」

 

 サクサクとした生地と滑らかなチェリージャム。同時に小さくカットされたさくらんぼも入ってるので触感的な楽しさもある。生地自体に多めにバターが使われているのか、微かな塩気と甘いジャムのバランスが互いを補い合う。

 

「うっめ。デメテル、流石だなァ。マジで美味い。完璧だ」

 

「ありがとう! アルテミスは作った人を喜ばせるのが上手だな!」

 

「ヒヒ……脂質と糖質が過剰……美味しさの、代償……」

 

「わははは! 良いじゃないか! 二人とももっと食べると良い! 大きいことは良いことだ」

 

「おめー、女子に向かってそういうこと言うんじゃねぇよ」

 

 痩せ気味な上に胸が平らな自分とそもそも幼女体型のヘスティアであるが。

 しかし太りたいわけではない。

 世界への反逆という使命はあるが、それでも女としての美意識はそこそこにある。

 軽く文句を言いつつ、しかしチェリーパイの美味しさに免じてそれ以上は突っ込まず、

 

「それで? アフロディーテとアテネは?」

 

「うむ! マムがこちらに送ってくれるはずだ! そのためにこうしてチェリーパイを用意していたのだからな!」

 

 言った瞬間だった。

 リビングの中心に、黒い影が出現する。

 楕円形のそれはヘラが用いる転移門だ。

 3人の視線がそれに集まる。

 現れた影は二人分だ。

 

「―――あん?」

 

 1人は修道服と他の世界の学生服だというセーラー服が合わさったような恰好の金髪の少女。

 思わず目を見張るほどの美少女だ。

 アルマ・スぺイシアもとんでもなかったが、彼女に劣らない。

 そしてもう一人。

 奇妙だったのはそちらだ。

 赤を基調とした装飾鎧。

 だが、その装飾は戦闘には支障をきたさない程度であり、実用的なのが伺える。美少女と違い頭部までも兜で覆っているために、露出は一切なく外見情報が伺えない。

 

「そっちは……見るからにアフロディーテって感じだな。それはともかく……なんだ、そっちの鎧。アテネなのか?」

 

「騎士だ」

 

 独り言に近い呟きに、鎧姿が鋭く答えた。

 中性的な声で、性別も分からない。

 ただ彼、或いは彼女は腰に佩いた騎士剣に手を当てながら、金髪を庇う様に一歩前に出て言葉を告げる。

 

「殿下に仕える――――忠誠の騎士だ」

 

 

 




アポロン
お前……ロリコンだったのか……?

アルテミス
身内相手にはわりと温厚

ヘスティア
オーバーサイズ白衣の陰気ダウナーサイケデリックドクター。

デメテル
デカい体にデカい体の料理系男子

忠誠の騎士
一体いつ出て来た狂気のモブなんだ……



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レスポンス・ミー

 

「殿下ぁ? ……あ、どういうことだ?」

 

「私のことですよ。アルテミス様、ですね。私はヴィーテフロア・アクシオス。アクシオス王国王女であり、お母様よりアフロディーテの名を頂いています」

 

「…………まじか」

 

 名乗りにあんぐりと口を開けて驚くアルテミスだったが、ヘスティアも同じ気持ちだった。

 ≪ディー・コンセンテス≫に召集されるまで、ヘスティアは皇国にて薬師として生計を立てていた。故に他国の事情には詳しくないが、それでもアクシオスの名を持つ少女の存在は知っている。

 

「≪七主教≫の、聖女……?」

 

「えぇ、そう呼ばれることも。貴女は……ヘスティア様ですね。よろしくお願いいたします」

 

「ヒッ……」

 

 引きつるような笑みは面白かったからでも皮肉でもなく、気圧されたからだ。

 ただ、にこりと微笑まれただけだ。

 なのに、その深い海のような瞳と蕩けるような笑顔に引き込まれそうになる。気を抜いてしまったら、ぽかんと口を開けてずっと彼女を眺めていそうな。

 囁き声のようでありながら、しっかりと耳に届く声も。

 

 ――――魔性。

 

 楚々とした小柄な少女に対し、そんな言葉が過り、

 

「なんと! よもや王国の王女まで我が同胞とはな!」

 

「……ヒヒッ」

 

 響いた大きな声に我に返る。

 デメテルだ。

 エプロン姿の大男はリビングに呵呵大笑の声を上げている。

 

「……」

 

 隣でアルテミスがまじか、という顔をしていたがヘスティアも同感だった。

 何とも思わないのだろうかこの男は。

 

「デメテルだ、よろしく頼むぞアフロディーテ! それにそっちの騎士とやらは……」

 

「私の近衛です。パラス、挨拶を」

 

「はっ、殿下」

 

 促された騎士は背筋を伸ばし、右拳を心臓に当て、肘を立てた敬礼で応え、

 

「パラス・パラディウム、殿下の近衛騎士だ。ヘラ殿よりアテナの名を頂いている」

 

 短く鋭く、3人へと告げる。

 

「近衛騎士……それ、は」

 

 名乗りにふと、思い当たることがあった。

 かなり前にヘラが口にしていたことが記憶がある。

 

「近衛でもなんでもいいけどよ」

 

 だが先にアルテミスは口火を切った。

 腕を組み、唇を尖らせた彼女の視線はパラスへと向けられている。

 

「兜、取れよ。挨拶ってのにそれは失礼ってもんじゃねーの?」

 

「は? 貴様私に指図するつもりか?」

 

「あぁ? んだてめぇ喧嘩売ってんのかぁ?」

 

「パラス、兜を外しなさい」

 

「かしこまりました殿下!」

 

「………………」

 

「ヒヒッ」

 

 絶句するアルテミスに思わず笑ってしまう。

 

「…………ヘスティア」

 

「なん、だ?」

 

「うちら、変な奴しか入れないとかあるのか?」

 

「ヒヒッ……ブーメラン、か?」

 

「いやオレもこのアホには負けるだろ……」

 

「わははは! 強い絆で結ばれた二人のようだな! 頼もしい!」

 

 言っている間に、言われた通りにあっけなくパラスは兜を外した。

 まず零れたのは茶色の髪。

 デメテルと似た色合いだが、彼よりも明るい。

 兜に収めるためだろうかシニョンにされ、もみあげから伸びる毛先は緩いカールを帯びている。

 甲冑姿や声からは意外だったが、思いのほか少女らしい。

 顔立ちも鋭さはありつつも整っており、それだけなら貴族の子女にも見える。

 だが、何より目を引いたのは傷だ。

 顔の右側、額から頬にかけて目を通る傷跡がある。

 髪より濃い焦げ茶色の左目と同じ色のはずの瞳はその傷により伏せられていた。

 

「…………なんだ? 私の顔に何かついているか?」

 

「まぁ、口と鼻と目と傷がついてるわな」

 

「当然だろう。それがついていない人間はいるか?」

 

「そういう、疾患もある」

 

「そういうことじゃねぇと思うけどよ……」

 

「くすくす」

 

 ヴィーテフロアが口元に手を当てて笑う。

 

「どうやら、仲良くなれそうですね」

 

 

 

 

 

 

「パイ? 殿下、お気を付けください! まずは私が毒味を致します………………うっま! 超美味いですよ殿下! 早くお食べください!」

 

「マジでなんだよこいつ自由か?」

 

 一悶着ありつつ、新顔の二人も含めて5人がテーブルに着く。

 それぞれの前にはデメテルが作ったチェリーパイがあり、ヴィーテフロアとパラスには紅茶が。

 忠誠の騎士と言っていたので王女の背後に控えると思ったが、パラスは普通に座っていた。

 

「近衛、と言えば思い出した、ことがある」

 

 チェリーパイを切り分けながら口を開いたのはヘスティアだ。

 

「確か何か月か、前。魔族信仰、の残党が王女を襲った、という話があった。近衛が、それを王城に伝えた、と」

 

「うむ。それは私だ。人生最速の猛烈ダッシュだったな。全く……殿下に言われていなければ撫で斬りにしていたものを……」

 

「はて。魔族信仰というのなら我等の味方ではないのか?」

 

「そ、こ」

 

「あぁ、それですね」

 

 紅茶を口にしたヴィーテフロアは少しその味を感じ、

 

「あれは我々≪ディー・コンセンテス≫……つまりはお母様の意思によるものではありませんでした。つまりは、本当に魔族信仰派たちの残党が独断で行ったものです」

 

「はあ? そんなことあんのかよ」

 

「えぇ、残念ながら。お母様もお冠でした。結果的に痕跡を消したはずの魔族信仰派が生きているということが各国に知れ渡りましたしね」

 

 ただ、それはそれとして、

 

「その時点ではお母様も私も、ことを大きくできませんでした。私の真実を知っているのはパラスだけですしね。なのでパラスを城に行かせ、応援を呼んだというわけです」

 

「なる、ほど」

 

「ふぅん」

 

 ビール瓶を傾けながら、アルテミスは頷いた。

 彼女は椅子の上で膝を立て、

 

「それで? アンタらが来た理由は? 態々お茶しに来たわけじゃないんだろ?」

 

「えぇ。()()を伝えに来ました」

 

 空気に、緊張が走った。

 それが何を意味するかをこの場にいる全員が理解しているし、その日のために何もかもは準備されてきたのだから。

 ヴィーテフロアが懐から掌サイズの小さな円盤を取り出した。

 縁を金細工で装飾されたブローチにも見える。

 机の上に置き、中心に触れると、

 

「こんなのまで持ってんのか。ヘファイストスか?」

 

「お母様から譲り受けたものですけどね。おそらくそうでしょう」

 

 テーブルに半透明の板が浮かび上がる。

 空間投影されたホログラムだ。

 

「見た目はブローチですけど、私かパラスの指紋認証でしか起動せず、脳波送信によって情報を自動整理処理してくれています。王城で得た知識を集約するためには随分助かりました。後程そちらの端末にもアップロードしましょう」

 

 すらすらとこの世界の文化水準にはないことをヴィーテフフロアは口にする。

 単語をただ述べているのではなく、その意味を確りと理解した上での発言だった。

 

「……ヘスティア、デメテル。ほら……なんだ、未来アイテム、使いこなせてるか?」

 

「ヒヒッ……自分のメスと魔法と、薬が、一番」

 

「調理器具は使っているぞ! あと声かけたら会話してくれる箱も! 音楽かけてくれるしな! 知らん言語だが!」

 

 この家や≪ディー・コンセンテス≫のアジトには、本来この時代、この世界には存在しないはずの文明・科学レベルの物が多く置いてある。

 ヘファイストスが異能を任せにあれやこれややたら作りまくったのだが、それでもアルテミスたちからすれば奇妙であり、いまいち使い慣れない。

 だがヴィーテフロアはそうではないようで、ホログラムのウィンドウを細い人差し指で操作していく。

 表示されたのは王城と数人の顔写真だ。

 

「二月の十日からアクシオス魔法学園の入学試験が行われます。合わせて各国の王らが王都に集まりそれを見学し、国同士の友好を深めようということになっています」

 

 アクシオス王国の国王ユリウス・アクシオス。

 ヴィンダー帝国の皇帝レインハルト・ヴィンダー。

 トリシラ聖国の導師アリ・ハリト。

 天津皇国の皇王天津院玄武。

 亜人連合の盟主リウ。

 ロムレス共和国の首相ルキア・オクタヴィアス。

 現在この大陸、世界における頂点たちが集まるのだ。

 もとよりアクシア魔法学園は各国の将来有望な子供たちが集まっているため、卒業生などは既に各国の様々な分野で名を上げている。

 視察のためという名分だが、

 

「それは表向き。実際はヘファイストス様の扱いや既に存在が知られてしまった≪ディー・コンセンテス≫に対する会議になります」

 

 振った指に従い画面が変わる。

 王城内の会議室だ。

 

「……≪龍の都≫は言うまでもないし、オレらの≪皇国≫でのことも当然バレてるだろうしなぁ」

 

「帝国や、俺が行った聖国のは発覚しにくいだろう! だが気にするなアルテミス、別にこれはお前たちのせいではないぞ!」

 

「別に気にしてねぇよ。それじゃ、二月十日が俺らの運命の日ってわけか?」

 

「えぇ。或いはその次の日でしょう。試験が十日で、会議自体は次の日に行われる予定のようですから」

 

「なるほどねぇ」

 

 アルテミスは壁に掛けられたカレンダーを見る。

 今は一月十五日。

 約一月後ということになる。

 ウィンドウを見れば、丁寧に『2/10or11』と表示されていた。

 

「ひひっ……あと一月、なら≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫を、さらに改善、できる」

 

「或いは修業もせねばならんな! 各国の主要人物が集まるということは、それだけ俺たちの敵も多い! ヘファイストスも助けてやらんと!」

 

「あいつはなんかポンコツだけど悪運は強いから平気そうだけどなぁ。オレもあの鳥やらにリベンジしてぇけど」

 

 アルテミスは鳩尾あたりの疼きをビールで流し込む。

 喉を焼くアルコールと炭酸の感触で気分を変え、

 

「にしても、アンタも大したもんだなぁ」

 

「はい?」

 

「だって、自分の国滅ぼそうとしてるんぜ?」

 

「――――くすっ」

 

 

 

 

 

 

「くすくすっ……いえ、失礼」

 

 ぞわりと、アルテミスの背筋が震えた。

 どうしてと言われると困る。

 口元に手を当てて、上品に笑う少女に危険な様子なんてないのに。

 

「生憎ですが、私の国ではありません。()()()()()()()()()()()、というのが正確でしょう」

 

 深い海のような青い目。

 暗く、静かで、冷たく。

 深海のような、或いは遥か空の高みか。

 どちらにしても。人が踏み入れられない世界。

 

「父は私に王座を継がせず、≪七主教≫に明け渡しました。国が宗教を立てる為に。本来与えられるはずのものを受け取れなかったのなら。別に構わないでしょう? ねぇ、パラス」

 

「ふぁい、ふぇんふぁのひふふぉふぉひふぇふ」

 

 隣でもっさもっさとチェリーパイをひたすら口に運んでいる騎士とやらは置いといて。

 恨みを語る少女はあまりにも素面だ。

 それは真実のようにも聞こえるし、何もかも嘘のようにも見える。

 相反するものが、当たり前のように同居しているような感覚。

 分からない。

 理解が、届かない。

 理解できないものは恐ろしい。

 

「―――ちっ」

 

 頬に冷や汗が流れるのを感じる。

 最初ほほ笑みを見て、魔性と言う言葉が頭を過った。

 だがそれ以上に、

 

「アンタ」

 

「はい」

 

「…………ママに似てるな」

 

「くすくす、褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

 微笑む聖女が紅茶を傾ける。

 つられて自分もビール瓶を。

 

「………………デメテル、お代わり」

 

 空だった。

 

「おぉ! 持ってこよう!」

 

「……ごっくんとな。姫様、パイ要らないのですか? でしたら私が食べますが」

 

「パラス? 私はまだ紅茶を楽しんでいたのです。お菓子は二杯目と食べるだけです」

 

「なるほど、流石姫様です。お考えが深い……!」

 

「…………飲まなきゃやってられねぇな」

 

「ヒヒッ、アルテミス。まだ完全に、復帰してないから今日は、あと一本だけ」

 

「マジかよ……」

 

 長い嘆息がリビングに伸びる。

 今日一の憂鬱な情報だった。

 

「そういえば皆さま」

 

「あん?」

 

「こちらにはポセイドン様とアポロン様もおられると聞きましたが」

 

「うちのアホ兄貴なら上で寝てる。ポセイドンは……どうしたっけ、あの唐変木は」

 

「あいつなら釣り堀に行ったぞ」

 

「はぁ? 釣り堀? そんなんあったか?」

 

「トレスにあるやつだな」

 

「…………アホか? アホだったな」

 

 トレスというのは七つの丘にある街の一つだ。

 それぞれがそれぞれの産業が割り振られており、トレスには小さいが様々な魚が養殖されている。

 それにしたってちょっと釣りに行く、で行くような距離ではない。

 

「くすくす、お魚が好きなお方なんですね?」

 

「魚、良いですね。私はフライが好きです。鱗もついててパリパリに揚がってるやつ」

 

 そんな料理は知らない。

 隣の騎士は、今は優雅にお茶を嗜んでいた。

 何度目かのため息を吐きつつ、

 

「…………面子といえばよぉ、お姫様」

 

「はい?」

 

「オレらの主役とは、いつ会えるんだ? オレらは誰も会ったことが―――」

 

 言葉が途中で止まったのは。

 ヴィーテフロアが笑っていたからだ。

 彼女はずっと笑っていた。

 魂が引き込まれそうな無垢と魔性を両立させた矛盾の笑みを。

 けれど今の笑みは違った。

 頬が引き裂かれたかのように弧を描く。

 

「大丈夫ですよ」

 

 彼女は言う。

 震える吐息と共に零れる声には、熱があった。

 

「アレスは大丈夫です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 指を振れば、展開されていたホログラムウィンドウが切り替わる。

 それはアレス・オリンフォスの写真だった。

 授業を受けるアレス。

 紅茶を淹れているアレス。

 食堂で食事をしているアレス。

 図書館で宿題をしているアレス。

 戦闘訓練で剣を構えているアレス。

 クラスメイトと談笑しているアレス。

 ウィルたちに連れまわされているアレス。

 何枚にも及ぶ、アクシア魔法学園で生活を送るアレス・オリンフォスの姿。

 

「……………………」

 

 やっべぇ、と。アルテミスは思った。

 ぶわりと、滝のような汗が噴き出した。

 ヘスティアもそうだろうし、デメテルでさえ面くらっている。

 この女。

 真正だ。

 そしてそれらを見て表情を変えないパラスもどうかしている。

 

「心配いりません。彼が何を思い、何を感じているのか、私には手に取るようにわかります」

 

 それに。

 聖女と呼ばれ、美の女神の名を与えられた少女は。

 聖女や美の女神よりも破滅の女(ファム・ファタール)の方が似合いそうな少女は恍惚すら浮かばせながら囁いた。

 

「――――彼はいつだって、私に応えてくれるのですから」

 

 

 




ヴィーテフロア
迫真の恍惚ヤンデレポーズ
いつか会う必要なんてないって言ってたのはそういうことです。

パラス
傷系女子
いつかのダンスパーティーで狂気の忠義を見せていたあのモブです
思い出していただけたでしょうか
トリウィアと気が合いそう


アルテミス
仲良くなれる気がしねぇ



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アレス・オリンフォス――boy dream girl――

GRADE2、最終章開始です。


 

 アクシオス王国王城、フルリヴィス城の最上階には小さな庭園がある。

 王都の街を一望できる空中庭園だ。

 王家やそれに近しい者、招待された者だけが足を踏み入れることができる一種の聖域だった。

 

「―――」

 

 赤毛の少年が、足を踏み入れたのは幼馴染の女の子を探していたからだった。

 目当ての少女はすぐに見つかった。

 彼女はいつも、この庭園で花の手入れをしているからだ。 

 少年はそれを知っている。

 だけど、少女はいつも雰囲気が違った。

 

「どうしたの?」

 

 恐る恐る少年は少女に声をかけた。

 少女は花を愛でるのではなく、庭園の片隅で膝を抱え込んで座っていたからだ。

 

「…………」

 

「えっと」

 

 少年は10歳、少女は9才。

 彼の方が年上だが、

 

「…………私は怒りと悲しみに打ち震えています」

 

「……はぁ」

 

 会話の主導権を持つのは年下の少女の方だった。

 幼い少年には理解しきれない難しい言葉を彼女が当たり前の様に使うということもある。

 

「だってお父様、私を≪七主教≫に預けると言うんですよ? ずっと前から決まっていたなんてことを言って。私のことを政治の道具と考えているのでしょうか」

 

「…………どういうこと?」

 

「建国当時から王家の娘は≪七主教≫に預け、信頼を示すと決まっていたんですよっ」

 

「なるほど」

 

 良く分からなかった。

 数年前、義理の父親に拾われて様々な教育を受けている少年だったが、まだ政治や権力に関することまでは聞き及んでない。

 

「もう……つまり、もうすぐ私と会えなくなっちゃうってことですよ。私はこの城を離れるんです」

 

「それは……いやだなぁ」

 

 少女は少年にとって数少ない友人だった。

 彼の義理の父親は英雄であり国の重鎮でもあるが、拾われた義理の息子である少年に対しての目はあまり良いものではない。

 表面的には取り繕っていても、裏では見下されているのが感覚的に分かってしまうのだ。

 少女の家族はそうでもなかったが、それでも立場的に気軽に話すのは難しい。

 

「君がいないと、おれはこまるよ」

 

「そうでしょうそうでしょう。あなたもお父様に言ってやってください」

 

「それは難しいと思うけど……」

 

「むぅ」

 

 小さな頬を膨らませるのは可愛かったけれど。

 少年にできることはない。

 国と宗教の関係なんて、まだ子供の彼にどうしようもないのだ。

 けれど、

 

「…………」

 

 少年は、少女には笑っていて欲しかった。

 

「私はこれから、誰かから与えられたものだけを抱えて、誰かの意思のお飾りになって生きるんでしょうねー」

 

「……なら、さ」

 

「はい?」

 

 誰か、というのが何を示すかは分からないけれど。

 

「だったら、おれは君の―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

 古い、夢を見た。

 眠気がこびりついた頭はぼんやりとしている。

 

「…………」

 

 体を起こして視界に広がるのは寮の自室だ。

 入学試験の成績の第三席として入学した彼には一人用の部屋があてがわれている。

 共同でなくて良かったと、入寮して心から思ったものだ。

 誰かと寝室を共にするのは考えられない。

 

「ふぅ」

 

 ベッドの脇あった水差しから、寝起きの水分を補給し息を吐く。

 さらに息を吸い、

 

「――――よし」

 

 覚醒した意識と共に起き上がる。

 床にマットを広げ、さらに完全に肉体を起こす為の習慣を行う。

 柔軟。

 腕立て伏せ。

 スクワット。

 天井の縁を使った懸垂。

 そして最後に瞑想。

 胡坐になって背筋を伸ばした。

 

「すぅ―――はぁ―――」

 

 息を深く吸い、深く吐く。

 目を伏せ、全身の血を巡らせる。

 精神を統一させるためだ。

 この時だけは、全てを忘れようと努める。

 できるかどうかは別として。 

 

「―――」

 

 赤い瞳が開く。

 立ち上がり備え付けのシャワーに向かう。

 汗を流した後はクロ―ゼットに。

 開けば糊の利いた白いシャツと黒のスーツ、黒のベストが並ぶ。

 私服のスーツと黒染した学園の制服だ。王都の高級服飾店で仕立ててもらったオーダーメイド。

 シャツ、ズボン、ベストの順番の着て、袖にはカフスボタンを忘れない。

 腕に嵌めるのは入学祝いに義母から貰った、王都でも珍しい腕時計だ。

 一度、洗面所に行き整髪料で赤い髪を整えれば身支度はほとんど終わり。

 

「…………ふぅ」

 

 紅茶を淹れて一息付く。

 朝食は寮の食堂で出るが、その前に自分で淹れた一杯を嗜むまでがアレスのモーニングルーティンだった。

 後は寝台に立てかけられていた直刀を腰の剣帯に。

 ネクタイを締め、皮手袋を嵌め、ジャケットを羽織り、勉強用具の入ったアタッシュケースを手に取る。

 いつも通りの行動。

 気づけばもう一年が経とうとしている、アレス・オリンフォスの朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、少年。奇遇だな」

 

「…………」

 

 1人で寮の食堂で朝食を取り、学び舎に向かうと通学路で声をかけて来たのはツナギ姿のマキナだった。

 寮から校舎までは石畳の道と街路樹と花壇が続いている。

 眉間を抑え、改めて良く見れば二月初めだから木々は寂しいが花壇には季節の花が控えめに、けれど可憐に通学する生徒たちを見つめていた。

 良い景色だ。

 改めて見る。

 

「どうした少年。まだ起きていないのか、なんだ、寝坊でもしたか?」

 

「…………うぅぅ」

 

 いつもの朝はどこに行ったのだろうか。

 目の前には何故か、週末にしか会わないはずのマキナがいる。

 次いで言えば時間は早朝で、まだ登校している生徒も少ない。

 寝坊なんてしたことはない。

 

「…………はぁ」

 

「おっと、こんな爽やかな朝にそんなため息とはどうしたんだ少年。んん?」

 

「………………」

 

「おいおい、どこへ行くんだ」

 

「構内で不審者を見つけたら生徒会に報告義務があるので……」

 

「誰が不審者だ」

 

「一人しかいないかど……」

 

「そもそもそれなら少年でもいいのではないか?」

 

「俺は生徒会じゃないが?」

 

「あぁ?」

 

 これ以上ないくらい怪訝な顔をされた。

 誠に遺憾である。

 なにはともあれ迅速にこの場を離れなければならない。

 マキナがなぜいるのかは謎だが、学園の生徒にこの男と知り合いだと噂されたら恥ずかしい。

 そう思い一歩踏み出そうとして、

 

「おぉい、トリウィア。少年が良く分からないことを言っているのだが」

 

「――――はい?」

 

 木の影からトリウィア・フロネシスが顔を出した。

 

「………………」

 

 呻き声すら上がらない。

 彼女が現れたということ。

 なにやらマキナとトリウィアが知り合いということ。

 それらにも驚いたが、何よりも彼女の服装だった。

 年始から襟足だけ青の髪が伸びており、黒のインナーカラーが追加されている。

 ウルフカット、と言うらしい。

 なんでも御影がカットと染色をしたという話を聞いた。

 改めてなんでもできるお姫様である。

 これはいい。

 問題は服だ。

 トリウィアといえば白衣と十字架のピアスとネックレスが印象的だが。

 白いタンクトップに明るい色のデニム、二の腕にはスパイク付きのリング。

 ベルトのバックルを目立たせるためか、タンクの裾はデニムに仕舞われていた。

 いつもの眼鏡はドロップ型のサングラスに変わり、オッドアイが隠されていた。

 心なしか、サングラスが妙に光っている気がする。

 もっと言えば、

 

「なんですか、そのギター」

 

「ギターですが。かっこいいでしょう?」

 

 ジャーンと、肩に掛けた白いギターが鳴らされる。

 確かにスレンダーでスタイルの良い彼女なので何を着ても様になる。

 なるのだが、

 

「………………いや、分かりません。何故?」

 

「ふふん。少年、ロックと言えばこの恰好だろう。フリンジスーツを着てプレスリーもよかったが、俺はマーキュリーが最推しではな」

 

「プレ……何が何やら。こんな朝に何してるんだよ。というかフロネシス先輩、何故この人がここに。知り合いだったんですか?」

 

「私というかウィル君とアルマさんの友人ですよ。というか、アルマさんの義父です」

 

「どうも、マキナ・スぺイシア。アルマの父です。つまりはウィルの義理の父にもなります」

 

「………………………………………………嘘だろ」

 

 今世紀最大の衝撃。

 全く似ていない。いや、義理というのだから当然なのだが。

 知り合って一年間、週末に絡まれる男がクラスメイトの義理の親というのはちょっと情報が重すぎる。

 

「…………それで、何をしているのですかこんな早朝に」

 

「おい、現実逃避するな。次アルマに会ったらマキナさんの娘さんと呼んでやれ」

 

「それめちゃくちゃキレますよアルマさん。それはそれとしてほら、もうすぐ卒業式でしょう?」

 

「あぁ……ですね」

 

「ですので、卒業祝いに有志で集まって卒業おめでとうソングでもしようかと」

 

「はぁ」

 

「作詞作曲は私。機材提供をマキナさんに」

 

「はぁ……」

 

「ふっ……トリウィアが持っているギターも俺が作ったものだ。あとは魔力通すだけで増音できる装置とかな。他の楽器も俺が色々細工した」

 

「…………売ったのか?」

 

 週末にマキナと会うと良く分からない非魔力式の様々な装置の話を勝手にし始める。それで一商売しようという意気込みはあるのだが、今の所上手く行った話は聞いていない。

 

「いや。材料費だけ貰った」

 

「無償はよくありません。物にはものの適正価値を。本当はもっと払うつもりだったんですけど」

 

「片手間の図面を起こしただけで、俺からしたら大した労力ではない。そんなものに家一軒買うくらいの値段貰われても困る」

 

「…………なるほど」

 

 そんなこと言っているからあんまり儲かってないんだろうなと思った。

 後で聞いたら、材料費以外の金額はアルマに渡しているらしい。

 

「本当は魔力無しでもよかったんだが、魔力以外のリソースを安定させるのがちと手間でな。俺の溢れる脳髄ならば半永久発電機も作れるんだが、アルマに怒られる」

 

「あぁ……発電だっけ。雷撃をエネルギーにするのは分かるけど」

 

 アレスが掲げた手の人差し指と親指の間に小さいスパークが弾けた。

 

「態々電気? として使うのはやっぱり良く分からないな」

 

「うぅむ、まぁそうなんだよな。電池作ると…………やっぱりアルマに怒られるんだよこれが。ちょっと早いらしい」

 

「たまに発明品で『できるけどやれない』って言ってたのはスぺイシアさん由来だったわけだ」

 

「そうだぞ少年。俺は本気を出せば世界を変えられる……!」

 

「はいはい。せめてもうちょっと安定した利益出るもの売ってから言ってくれ」

 

 呆れ気味に息を吐き、

 

「ん……なんでしょう」

 

「いえ」

 

 トリウィアが相変わらずの無表情で、けれど少し意外そうな顔をしていた。

 

「少し驚いただけです」

 

「はぁ」

 

「そうだ。せっかくなら聞いていってくださいよアレス君。まだ途中までなんですけど」

 

「いや、俺は……」

 

「おぉ、良いな。俺もまだ曲自体は聞いてなかったんだ。少年、音楽もわりと詳しいだろ? 一緒に評論家を気取ろうじゃないか」

 

「ふっ……決まりですね。評論家から非難轟轟のロックを聞かせましょう」

 

「それでいいのか?」

 

「民衆からは大うけするからいいんです」

 

「……まぁそれもそうだ」

 

「………………」

 

 勝手に話が進んで、アレスも巻き込まれている。

 思わず眉間を揉むが、しかしこの一年何度も同じことがあった。

 こういう時、変に抵抗しても結局面倒なことになる。

 適当に付き合って、適当に抜けるしかない。

 

「そういえば少年が自分は生徒会とは関係ないって言ってたが」

 

「はい? おかしいですね。補佐枠で生徒会役員を増設するという話でしたけど」

 

「ちょっと待ってくださいそれは聞き捨てなりませんが!?」

 

 

 

 

 

 

 所変わって。

 といっても街路樹の間の道路から、少し外れただけだが。

 そこに楽器を持った数人の生徒が集まっている。

 

「あれ、アレスじゃん。お前もやるのか?」

 

「ありゃ。おはよう、オリンフォス君」

 

「…………お二人まで」

 

 その中にはクラスメイトまでいた。

 背の低い金髪碧眼と薄い褐色の少年と茶の髪をカールにした少女。

 100センチ程度しかない獣頭系のアライグマの獣人や2メートルを超える大型の鬼種と一緒に楽器を手にしている。

 彼らは普通に制服だ。

 

「なんでまた」

 

「おいおい、俺はエスパレア出身だぜ? みんな音楽大好き」

 

「私はほら、音楽系だから。フロネシス先輩に誘われたんだ」

 

「アイネさんは楽器部のエースですので私から誘ったんですよ」

 

 茶髪のクラスメイト、アイネが小さく手を振った。

 確かに彼女は音楽で推薦を貰っている。

 

「エスカ君は……まぁおまけですが」

 

「先輩!?」

 

「案外上手だったので良いんですけどね。……では」

 

 トリウィアがメンバーを見回せば、彼ら彼女はすぐに察しそれぞれの楽器を構えた。

 エスカはドラム、アイネはギター、鬼種はギターよりも弦の数が一本多いベースを。アライグマの獣人は小さなピアノ――キーボード――を。

 ロックという音楽ジャンルは初代国王が生み出したとされるが、このバンドが正しいのかアレスには良く分からなかった。

 

「1、2、3―――」

 

 エスカがドラムを鳴らし、

 

『――――随分疲れた日々だった』

 

 トリウィアのボーカルと共に音楽が生み出される。

 高く澄んだ、良い声だ。

 楽器の演奏も、ちょっと聞いただけでかなりの腕前と言うことが分かる。

 昔ながらのオーケストラによる音楽はある程度嗜んでいるので、それくらいはアレスにも分った。

 隣のマキナも妙に楽しそうに耳を傾けている。

 

『雪、雨、ついでに熱い砂嵐とかもあったけ』

 

 ゆったりとしたメロディに、少し速いテンポの歌詞は続き、

 

『ちょっと思い出してみてみよう。

 転んだり、傷ついたり、ついでに泣いたことがあったけ。

 話せない時、嘘をついた時、誤解し合った時も。

 ちょっと思い出しても、全く大した日々だった――――』

 

 そこで一度音楽が止まり、

 

「…………………………?」

 

 再開しなかった。

 

「……?」

 

 マキナと一緒に怪訝な顔で見合わせ、トリウィアたちを見る。

 タンクトップ姿の才女は無表情で肩を竦めた。

 

「ここまでしかできてないんですよね」

 

「えぇ……」

 

「そんなことあるか? しかもなんかやたら暗い歌詞だったし……」

 

「ここから一気に明るくなるんですよ。きっと」

 

 いい加減に彼女が肩を竦めた瞬間だった。

 

「うるせー! 朝から何聞かせるんだー!」

 

 アレスたちから見て左。

 つまりは寮の窓が開いた大声が上がった。

 それは一度だけではなく、

 

「なんかいい感じの音楽聞えたと思ったらめっちゃ暗いじゃん!」

 

「こんなの聞かされて始まる一日のことも考えろよ!」

 

「今日成績発表でナーバスなんだけどぉ!」

 

「ロックはナッシングですわー!」

 

 あっちこっちの窓から抗議の声が上がっていた。

 無理もないなと、アレスは思う。

 正論は彼らの方だ。

 深く頷いていたが、しかしこのバンドメンバーは違ったらしい。

 次の動きに、またもやアレスは呻くことになる。

 

「―――失礼な連中ですね」

 

 アライグマの獣人がキーボードを蹴り上げて担いだら、横側に銃口が開いて光を灯した。

 鬼種がベースのネックを持ったらボディ部分が光の刃になった。

 エスカがドラムを鳴らしたら、各ドラムとタムのヘッドが寮を向き魔法陣が展開された。

 アイネが、えいっとギターを突き出したら半透明の盾がバンドメンバーを覆った。

 トリウィアがギターのボディを右肩に担いだら、ネック部分に円環魔法陣が何条にも広がった。

 何故かしゃがんで左足を綺麗に伸ばした構えだ。 

 無駄に洗練されている。

 やっぱりサングラスなんか光ってないだろうか。

 

「………………えぇ?」

 

「ふっ、言っただろう? 細工したと」

 

「いやまぁフロネシス先輩は好きそうだけどさぁ」

 

 ぼやいていたが、効果は劇的だった。

 

「毎朝お願いします!」

 

「曲の完成を待ち望みます!」

 

「演奏会を心待ちにしてます!」

 

「ロック最高ですわー!」

 

 逆再生の様に扉が閉まっていった。

 

「ふっ……ロックの勝利ですね」

 

「違うと思いますが……」

 

 いつにも増してやりたい放題が過ぎる。

 最初は生徒会面子で一番まともじゃないかと思っていたが、実は逆ということをアレスはもう知っている。

 個人的に、一番話が通じるのは御影かアルマだ。

 ウィルは――――ウィルである。

 

「……いや、というか。ストレイト先輩や、それこそスぺイシアさんはいないんですか?」

 

「いたら困る。俺が来たとしったらアルマはめっちゃキレるぞ」

 

「どうなんでしょう、フロネシス先輩」

 

 無視をした。

 

「あぁ、それなら」

 

 彼女は小さく頷き、校舎の方を見て、

 

「今頃、入学試験の最終プレゼンでしょう。学園長始め、教師陣に向けて。新生徒会長が指揮をとりますから」

 

 それはつまり、

 

「ある意味――――生徒会長としてのウィル君の初仕事ですね」

 

 

 

 

 

 

「おや、落としましたよ」

 

 マキナやバンドたちが撤収しようとし、アレスもまたいい加減校舎に向かおうとした時だった。

 アイネの懐から何かが落ちたのが見えた。

 ペンだ。

 それも装飾が施された一見して高価そうなものだ。

 アイネも王国では名家出身なので別に驚くことでもないし、楽器の片づけをしていたのならポケットから零れても仕方ない。

 

「わっ……!」

 

 なのに、彼女は妙に慌てていた。

 

「……? どうぞ」

 

 手渡す。

 高価なのは間違いないし、大切なものだったかもしれない。

 ペンの頭にある――――幾層にも重なった真円の水晶体は明らかに高度な細工だ。

 水晶に、アレスの顔が反射している。

 

「あ、ありがとうオリンフォス君! それは……その、お姉ちゃんから貰った大事なものなんだ!」

 

 彼女は妙に焦りながら、毛先がカールした茶の髪を弄り、そのペンを受け取った。

 奇妙な様子に、アレスは肩を竦めた。

 

「いいえ。お気になさらず、クラスメイトなんですからね―――()()()()()()()()

 

 

 




アレス
いつも通りの朝―――からの脳髄マン!
なんのかんのため口なくらいにはマキナと仲良くなっている

トリウィア
この小説で一番自由かもしれない
マーキュリーにデスペラード決めた
服とはべつで、ちょっと見た目変わってます

脳髄マン
知識無双やりすぎるとアルマに怒られる

アイネ・パラディウム
お姉さんがいるらしいです



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アルマ・スぺイシア――1年の果てに――

最後の方ちょっとだけ加筆したので再投稿です。
既に読まれた方は最後数行だけ見返してもらえれば


 

「それでは入学試験について説明させていただきます」

 

 少し緊張気味に、ウィルは言葉を発した。

 学園のある会議室。

 黒板の前に立ち、脇には御影、アルマ、フォンが控えている。

 彼女たちはウィルを手助けしてくれるが、それでもメインはウィルだ。

 それが彼の仕事であるし、自分自身そうあるべきだと思っている。

 制服は今回のためにクリーニングに出そうとして―――完璧に御影が洗濯してくれたし、新生徒会長としての初仕事のために散髪屋に行こうとして―――完璧に御影がカットしてくれた。

 今までは目にかかる長さの髪だったが、目元や額を露わにした短い髪だ。

 整髪料のセットも彼女が教えてくれた。

 肩幕は特別洗濯しなくてもいつも綺麗だが、それは自分で揉み洗いをした。

 朝食は早い時間から動き出したので寮の食堂は開いてなかったが、やはり御影が一汁三菜の朝食を用意してくれた。

 日常生活の大半を御影に握られている気もするが、むしろ望むところ。

 つまり、コンディションとしては万全だ。

 決意を胸にし、

 

「ははは……ストレイト君なら大丈夫なんじゃないかな? 私は特に言うことはないよぅ」

 

 その決意は学園長を素通りした。

 

 

 

 

 

 

「私は今年から入った新参だし、ストレイトくんと天津院さんが主導なら……ねぇ? お任せるよ、ははは」

 

 出っ張った中年太り腹が窮屈そうにし立ての良いスーツに押し込まれ、手にしたハンカチでぴかりと光る不毛の頭頂部の汗を拭っていた。

 困り眉と共に笑うその人こそ、アクシア魔法学園の現学園長ティシウス・アクシオスである。

 

 

 

 

 

 

364:名無しの>1天推し

アクシオスって……あれ? 王様の苗字じゃね?

 

365:新二年主席天才

そうそう。

というか王様の異母兄。

 

366:新二年主席天才

初代の王様は奥さんが沢山いて、当然子供も沢山いる。

ここで賢いのは初代国王は子供が成人するまで、それぞれの仕事を割り振っていたってことだ。

 

367:名無しの>1天推し

へぇ

 

368:名無しの>1天推し

えらすぎ

 

369:名無しの>1天推し

めちゃくちゃもめるやつ~~~~~~~~~~~~~~

それができるの羨ましすぎる……

 

370:名無しの>1天推し

確かに、よくできたな

 

371:新二年主席天才

法律の立案から王様がメインになって、それを押し通したからね。

まだ国の時代が浅いから上手く行ってる……なんて指摘は無粋か。

 

何はともあれ、ティシウス氏は教育庁……この時代レベルで教育庁というのもおかしな話だけど、

現代アースゼロでいう文部科学省みたいなところの責任者で、学園の理事とでもいうべき立ち位置だったんだ。

 

372:名無しの>1天推し

ほうほう

 

373:自動人形職人

あっ……まさか……

 

374:名無しの>1天推し

お偉いさんじゃん

 

375:新二年主席天才

偉かった……んだけども。

 

まぁ前学園長が魔族だったわけで

 

376:名無しの>1天推し

oh

 

377:名無しの>1天推し

あちゃー

 

378:名無しの>1天推し

責任、問題……!

 

379:新二年主席天才

実際の所、学園は各国が共同で設立したもので世界中が騙されてたから

そこまで問題が追及されたわけではないんだけどね。

これに関しては左程問題はなかったらしいんだけど。

 

 

それはそれとして当時の部下の横領と書類改竄がバレて責任取って辞任することになった

 

380:名無しの>1天推し

えぇ……

 

381:名無しの>1天推し

わろた

 

382:自動人形職人

草も生えない

 

383:名無しの>1天推し

そんなことある??

 

384:新二年主席天才

でまぁストレスでハゲるわ太るわで仕事もなくなったけど王族には変わりないし、問題を本人がおこしたわけでもないから、空いた学園長のポストに一先ず次の適任者が決まるまでの補欠として就任して、各国の王族やら集まるせいで心労でさらにハゲて太った上に、経歴が経歴だから自己肯定感が消滅して今に至る

 

385:everyone

学園長――!!

 

 

 

 

 

 

 

「ははは……ねぇ? 私が言うまでもないよね……私なんか……ははは」

 

 眉をハの字で笑うティシウスに対して、アルマは小さく顎を上げた。

 明らかに頼りない男ではあるが、彼女の彼に対する評価は高い。

 時代背景にそぐわない教育庁の大臣という立場。

 なにかと王国の政治は近代的であり、政府が現代のお役所仕事のような印象を受けるがそれはあくまで王都を始めて一部の大都市の話だ。

 

 そしてこの時代、この世界における教育庁の仕事は各地の『教育ギルド』の統括である。

 近代における義務教育、或いはアクシア魔法学園の高等教育のような多岐に渡る指導は現実的に難しい。

 各地に基礎的な魔法、読み書きや大まかな法律を教えた上で、その土地や街に適した職業の為の専門的な知識を教えることになる。

 森にある村や町なら林業、猟業。

 鉱山があるなら採掘業、冶金業。

 ある程度大きな街になれば商業や運送業。

 あくまでも一例だが、必要なところに必要なものというのは変わらない。

 それらがそれぞれの街同士でノウハウや人材を共有するのだが『組合(ギルド)』なのだ。

 こういった先鋭性は現在王都で推進されている教育方針とは別であり、

 

「…………」

 

 並んだ御影、フォンにはいないトリウィアの魔法体系の普遍化が普及すればある程度埋まるであろう格差でもある。

 だが現状それは未来の話であり、そういった違いは為政者側からすればややこしいに尽きる。

 もっと言えばそういった生徒たちは人材という宝であり、山賊や盗賊のような輩に誘拐や攻撃されることもあるので、専門の護衛や傭兵、冒険者を手配する必要もある。

 教育、というのは現代日本から転生した転生者にとっては当たり前の概念であるが、多くの世界では当たり前でないことが多い。

 そしてそういったことの一切を仕切っていたのがこのティシウス・アクシオスという男なのだ。 

 なのだが、

 

「いえ。学園長、彼の話を聞くのが仕事でしょう。なんですか? そのハゲは若者の言葉を跳ね返す為に光っているわけではないでしょう?」

 

「痛い! 痛いよ、お腹つねらないで!」

 

 副官に出張ったお腹をつねられて悲鳴を上げていた。

 彼の背後に控えるタイトスカートとスーツ姿の女。

 鋭利な雰囲気とウェーブのかかった髪をシニョンでまとめた如何にも仕事ができそうな美女。

 ドロテア・エルクスレーベン。

 アクシア魔法学園における学園長補佐であり、帝国出身の医者でもある。

 まだ三十代を少し超えた身でありながら、帝国医学会で多大な成果を生み、学園でも医療に関する教鞭を取っている才女だ。

 

「何を言っているのですか学園長。私のつねりなど、帝国ではお金を払ってでも求める人がいるのですよ?」

 

「知らないよ! いたっ、いたたた!」

 

 その才女は真顔でそんなことを言っていた。

 

「知っているかアルマ殿。エルクスレーベン女子はトリウィアの憧れらしい」

 

「あぁ……?」

 

「それにしても本当にいい声で泣きますね学園長。なんならお金払うので鳴かして良いですか?」

 

「なにそれ! 怖い! 怖いよ!」

 

「…………なるほど」

 

 横からの耳打ちに思わず遠い目で納得する。

 真顔で変なことを言いつつ学園長をつねっている姿を見れば、思い当たるところしかなかった。

 しかし、部下につねられて泣きべそかいている学園長はあまりにも哀れだ。

 ストレスと仕事の多さであぁなったと思うと、

 

「明日は我が身か……」

 

「え? もしかしてウィルさんもあぁやって痛いことされた方がいいの? 私はちょっとそういうのなぁ」

 

「ふっ……私はどっちも行ける!」

 

「相変わらずの色ボケだね……」

 

「ちなみにその御影に憧れの先生とかいるの?」

 

「フラワークイーン女史だな。学ぶことが多い」

 

「はいはい、確かに御影からの尊敬度が一番高そう」

 

「フォンはどうだ?」

 

「あー……ドニー先生かな。≪龍の都≫から真面目に拳法練習してるけど、全然勝てる気しない」

 

「なるほど。確かに達人だ」

 

 アルマの脳裏にムキムキマッチョのおかまエルフの無駄なセクシーポーズとフェレットの獣人のカンフーポーズが過る。

 前者は文科系科目の責任者であり、後者は徒手空拳による白兵戦・護身術の専門教師。

 二人ともそれぞれの方向性が分かりやすい。

 

「アルマ殿はどうだ?」

 

「ん」

 

 問いに小さく顎を上げ、腕を組む。

 

「憧れなんてそれこそ1000年前に忘れた……いや」

 

「?」

 

 掠れた記憶を思い返し、しかし苦笑した。

 両脇で御影とフォンが小首をかしげる姿に笑みが濃くなる。

 或いは、今はいないトリウィアの姿を思い出す。

 憧れと言うのなら。

 2年前、『彼』を抱きしめたいと思った時、近くにいる彼女たちに憧れていたのだろう。

 

「……さてね」

 

「あ、誤魔化したぞフォン」

 

「ね、誤魔化したよ御影」

 

「はいはい、そういうことにしておいてくれ。さてと……」

 

 あまりおしゃべりしている場合でもない。

 斜め前のウィルを見る。

 未だに続いているティシウスとドロテアのやり取りを困ったように見ている。

 だから、

 

「こほん」

 

 小さく咳払い。

 

「――」

 

 そして、ウィルの背筋が伸びた。

 真っすぐに。

 黒い瞳で見据える。

 

「学園長先生」

 

「あ、うん。なにかな?」

 

「信頼していただけるのは嬉しいですが、それでも聞いて頂けると嬉しいです。僕はまだ、多くの人の力を借りないといけません。だから―――学園長も、お力を貸していただけますか?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 学園校舎の屋上、欄干に体を預けながら息を吐く背中がある。

 ウィルだ。

 緊張から解放された故の安堵のものだ。

 数時間前、学園長へのプレゼンを終え、そのまま授業で成績発表があり、終業式があった。

 終業式に関しても生徒会としての仕事があったので半日授業とは忙しかったのだ。

 だから、一通り終えて、彼は珍しく一人で黄昏ていた。

 否、一人なのは、

 

「やっ、学年一位。お疲れだね」

 

「……えぇ。少し疲れましたよ、学年一位さん」

 

 少しの間だけ。

 振り返れば小さく手を振るアルマがいる。

 そのまま手首を返せば、いつの間にか両手にマグカップ。

 砂糖入りのコーヒーと超濃厚エスプレッソ。

 彼女は砂糖入りをウィルに渡し、

 

「もしかしてお邪魔だったかい? 君にもたまには一人の時間必要かな」

 

「まさか。……別に、一人でいたいと思ったこと、あんまりないですね」

 

「それはそれは」

 

 苦笑しつつ、ウィルの隣に並んでマグカップを傾ける。

 欄干の段差に足をかけ、肩をウィルに寄せる。

 マグカップを欄干において、当たり前のように小さな頭と銀の髪を彼の肩に預ける。

 ウィルもまたそれを受け入れながら自分の頭を彼女に寄せ、その細い腰に手を添える。

 視線は正面で、

 

「……懐かしいですね」

 

「ん? ……あぁ、そうか。確かに」

 

 二人の視界には、学園のランドマークでもある時計塔がある。

 一年ほど前、ゴーティアと戦った場所だった。

 

「なんか、凄く昔のことに感じます」

 

「ははは、そうだね。僕にとってもそうかも」

 

「あの時から成長できてたらいいんですけど」

 

「してるだろ。今日のプレゼンもかっこよかったよ」

 

「いえ」

 

 彼は苦笑し、

 

「今日もまた、アルマさんに助けられました」

 

「そうだっけ?」

 

「えぇ。いつも助けられています」

 

「そうかい。それはそれで嬉しいけど、君は君で頑張っているよ」

 

 クスクスと笑いながら、エスプレッソを口に含む。

 二月の風はまだ少し肌寒い。

 けれど二人はだからというわけではなく身を寄せ合い、少しの間コーヒーを静かに啜る音だけが空に消え、

 

「…………1年の時、1人になるのが怖かったんですよね」

 

 広がる青を見上げながら、ウィルは呟いた。

 

「色々な人と出会って、楽しかったですけれど。だから、1人ぼっちだと前世のことを思い出して……それが怖かったんですよ。御影やトリィ、フォンの気持ちもそれで無視してて……今思っても酷いですよね」

 

「そうでもないよ」

 

 アルマの言葉は即座だった。

 彼女はウィルを見て、彼もアルマを見る。

 

「君にはそれだけの傷があったんだ。その痛みを恐れても仕方ないさ。それに」

 

「それに?」

 

「今は違うんだろ?」

 

「……えぇ」

 

 小さく顎を上げて微笑む彼女に、彼もまた小さく首を傾けて微笑んだ。

 

「僕は今、幸福ですから」

 

「―――あぁ、なら良かった」

 

「アルマさんのおかげです」

 

 そう笑って、彼が言ってくれるのが。

 アルマはたまらなく嬉しかった。

 そう言って欲しくて、彼女はこの世界で生きることを選んだのだから。

 だから、嬉しくて。

 小さく背伸びをして、

 

「―――ん」

 

 唇を合わせる。

 舐めた唇はコーヒーの味がした。

 口づけの後、再び彼の肩に体を預ける。

 

「……ふふっ」

 

 それから思わず笑ってしまった。

 

「どうしたんです?」

 

「いや、なんというか……自分でもびっくりというか。自然にキスできるようになったなぁと」

 

「あはは……いや、そうですね」

 

 ウィルと一緒に苦笑い。

 手を繋ぐだけで、緊張していたころが懐かしい。

 いつの間にか、日々の生活の中で当たり前のようにできるようになった。

 それもまた、アルマにとって嬉しいことだ。

 

 人間としての三大欲求がほとんど消えているアルマ・スぺイシアにとって――――心の繋がりの証であるような気がするから。

 

「ふふっ」

 

 これもまた、この1年での変化だろう。

 暖かく、くすぐったいものが胸に溢れた。

 1年でこれだ。

 これから先はどうなるのだろう。

 もう1年、或いは2年後なら、

 

「…………………………」

 

「アルマさん?」

 

「……………………うぅん。ちょっと早いかも」

 

 唐突な赤面に、しかしウィルは内容を察し、

 

「……………………ちなみに、どのくらい?」

 

 ウィル・ストレイト。

 彼もまた男の子なので、どれくらいでお許しが出るかは気になるところである。

 

「えっ…………………………うぅん」

 

 あまり想定してなかった答えだったので珍しく、或いは色恋沙汰に関しては彼女らしく汗を流し、

 

「………………スケベ」

 

 半目でウィルを睨み付けた。

 それからウィルが恥ずかしそうに空を見上げる姿を見ながら少し考え、

 

「………………ほら、僕がギャン泣きするくらい傷ついてたら慰めるためにしていいよ」

 

「……………………」

 

 それはもしかして一生お預け宣言なのかと、ウィル・ストレイトは真面目に悩むことになった。

 

 




ウィル・ストレイト
そんな未来が……あるのか……!?
1年を思うとウィルが幸せって自分で言ってるだけでなんかしみますね

アルマ
キスまでは平気でできるけど、それ以上はまだ恥ずかしい
というか性欲自体がほとんどないので、別に良いかなとなっている

「……スケベ」ってアルマに言わせたいだけの再投稿でした。
それだけの価値があると思うんですよ、アルマのジト目「スケベ」

学園長
小太りのハゲ
学園長補佐
ドSのエンジョイ勢

久々に>1天をば。
やはり>1天ですよえぇ。
いつか、ウィルの前世の話を聞いた時のオマージュというか対になってるサブタイだったりします


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天津院御影――呪いと見栄――

前話は一度更新後最後にちょっと加筆して再投稿したので
まだの方はそちらからご覧ください


 

「あれ、御影何してるの?」

 

「ん、フォンか」

 

 バインダーを片手に学園を見回っていた御影はフォンを見た。

 学園に8つある模擬専用闘技場の内、第四からちょうど御影が出て来た所だった。

 第四闘技場は正方形の壁面に囲まれた岩場と荒野を再現した戦闘場であり、主に土系統の魔法訓練を目的とした場所だ。

 朝、学園長への試験説明に同席して以来の妹分を目にいれ、

 

「……ってなんだその上着」

 

 思わず怪訝な顔を浮かべた。

 

「いいでしょー、これ。マキナに貰ったんだ」

 

 ポニーテールを揺らしながら背中を見せたフォンは制服のシャツ。トレードマークとでも言うべきマフラーに加えて見慣れない上着を羽織っていた。

 妙な光沢のある素材、袖は白く、胴体は黒。

 その背にはやたら凝った金の刺繍で不死鳥が描かれている。

 袖や裾の部分が絞られている造りも含めて、初めて見る形の上着だ。

 王都では他の国や街では見慣れない服装が多く、御影も皇国の皇女として流行は耳に入れているつもりだが、それでも知らないものった。

 少しサイズが大きいのか、手の甲まで袖が伸びている。

 

「スカジャンって言うんだって。ほら、まだちょっと寒いし、いい感じの上着欲しいって言ったらトリウィアの楽器のついでにもってきてくれたんだ」

 

「ふぅむ。スカジャン? どういう意味だ?」

 

「さぁ。ヨコスカジャンパーって言ってた。ジャンパーはジャケットだと思うけど……ヨコスカ? が分かんない」

 

「ふぅむ。またぞろ別のアースの言葉かな? 後でアルマ殿に聞いてみるか。着心地はどうだ?」

 

「けっこー良い! 私はこういうゆったりとした感じの服が好きかな。しばらく使おうかなと思ってる。御影はいつもぴっしりと制服着てるよね」

 

「まあな。郷に入っては郷に従えというのが私の信条だ」

 

 フォンは制服の第二ボタンまで外し、ネクタイも付けていない着崩したスタイルだが、対照的に御影はネクタイは勿論第一ボタンも留めた一切隙の無いスタイルだ。

 制服は規定のものもあるが、そもそも多種族が集う学園であるし、それぞれにアレンジすることも禁止されていない。

 ウィルのように肩幕を付けることもあれば、アルマはジャケットの代わりに季節を問わず――温度調整の魔法が付いているらしい――赤いコートを。アレスなんかは制服の色を染めている。

 別段珍しくもない話だ。特に王国は服装のバリエーションが豊富なので、在学中に気に入ったものを自分の国に持ち帰ることが多い。

 その中でも改造に見本通りに着ているのはやはり珍しかった。

 

「服で言うなら、昔のフォンとは思えないお洒落ぶりだな? こっちに来た頃はかたくなに半袖半ズボンだっただろ」

 

「へへっ、そう言われると恥ずかしいな」

 

 彼女は苦笑し、

 

「ま、ほら。私も色々変わったってことで」

 

 恥ずかしそうに、けれど誇らし気に笑う。

 

「ふむ。確かにな」

 

 同じように御影も微笑んだ。

 変わったのは服装のことだけではない。

 フォン・フィーユィの心も。

 

「人は変わる、皇国の美しく移ろう季節のように。お前は今まさに、秋を迎えているわけだ」

 

「秋? なんでまた」

 

「命が最も育まれるのは秋ということだな」

 

「んー? あー……言われて、見ると? 分かんないこと言う時のパールみたい」

 

「わはは、私だって皇女だぞ。忘れてもらっては困る」

 

「いや、それは忘れたこと無いけど……」

 

 何故かジト目で見られてから、フォンはスカジャンの肩を竦め、

 

「御影は変わらないね、ずっと」

 

「―――そうか?」

 

「うん。会った時から、強く優しく美しく。無敵のお姫様って感じだ」

 

「ふっ……褒め言葉として受け取っておこう」

 

「これで貶すのは無理があるでしょ……」

 

「くくく」

 

 妹分から褒め言葉は悪い気分ではない。

 ただ。

 

「―――そうか」

 

 空を見上げ、息を吐いた。

 少しづつ夕日が傾きつつある空だ。

 

 変わらない、というのも奇妙な話だなと、御影は思った。

 

 ウィルも、アルマも、トリウィアも、フォンも。

 みんな出会った時とは違っているのに。

 ウィルは周りに壁を作らず自分の幸福に我儘になった。

 アルマはこの1年で様々な表情を見せ、この世界に溶け込んでいった。

 トリウィアは知りたくないことを知った。

 目の前のフォンは、言うまでもない。

 自らの翼と心を結び、己のあり方をあるべきものとした。

 なら、自分はどうだろう?

 天津院御影はこの学園に来て何が変わったのだろうか―――?

 

「……ふむ。そういえばフォンは何を?」

 

「闘技場にね。最近拳法真面目にやってるから付き合ってもらおうと思って」

 

「ほう? 誰と?」

 

「それは」

 

「だーれだっ!」

 

「ぬわ!」

 

「おっ」

 

 御影は意外そうに整えられた眉を上げた。

 警戒していなかったとはいえ、御影は勿論フォンにも気づかれずに近づいていたからだ。

 その人物はフォンの背後から両手で目を覆い隠している。

 赤と青のメッシュカラーを入れた金髪のサイドテールに羽根飾り付きのシュシュ。パーカー風にアレンジされた聖国風の衣。

 誰かは言うまでもない。

 

「もー、びっくりするでしょパール!」

 

「へへっ。脇が甘いねー、フォンち!」

 

 振り払われながらもからからと笑うパール・トリシラだ。

 肩に背負った麻袋からは訓練用の短い木刀が二つ覗いている。

 

「なるほど、パール先輩とか。水臭いな、私にも声をかけろよ」

 

「いやー、御影もウィルさんも最近忙しそうじゃん」

 

「ちょいちょいフォンち、まるで私が暇みたいじゃん?」

 

 パールはつんつんとフォンの頬をつつき、

 

「――――ま、暇だけどね! もうあと卒業するだけだしぃ!」

 

 朗らかすぎる満面の笑みだった。

 

「頼んどいてなんだけどテンションが高すぎる……」

 

「いやだって卒業したら国に帰って頭の固い旧体制たちを頭の固すぎる無粋なハゲと一緒に政治に明け暮れないといけないからテンション爆発させないとキツイよ」

 

「世知辛すぎる……」

 

「そんなもんだぜー、学園生なんて卒業したら引っ張りだこだぜー? だぜー」 

 

「内容以前にノリが鬱陶しすぎる……」

 

「というかフォンち、スカジャン来てるじゃん。お洒落目覚めてるとは思ったけどまさか最先端とはやるね……!」

 

「え? 知ってるの? これ流行るの?」

 

「まだちょっとしか出てない市場に出回ったら多分跳ねるよー。肉体労働の人とか騎士団の人とかに。王国の服は布量少ないけど装飾は面白いし、何より機能性が高いからねー」

 

「へぇ……」

 

 流行に敏感な彼女パールが言うのならそうなのだろう。

 問題はマキナ自身はこんな服くらい、なんて思ってあまり売ることを考えていないということだろう。

 市場に少し出たのはマキナとアレスの友人である雑貨屋喫茶≪GBA(グッドアンドバッド・エンジェルズ)≫の店長マクガフィン・バウチャーことマックが少し回しただけのものだったりする。

 勿論そんなことはフォンも御影も良く知らないので、

 

「ふぅん。…………御影?」

 

「うん? どうした」

 

「……えーっと。あー……ほら、結局御影は何してたの?」

 

「おー、そうじゃん。どしたん、ミカちゃん?」

 

「なに、大したことではない」

 

 肩を竦めて、手にしたバインダーを掲げる。

 挟まっているのは学園内の詳細地図であり、既に建物の一部にチェックとメモがある。

 

「入学試験でも各闘技場を使う予定だろう? 合わせて建物の状態をな。ウィルがここの長になるんだ、新参物が()()()()にケチを付けられて、私の未来旦那が見くびられては困る」

 

「おー、さすがミカちゃん内助の功」

 

「あれ? そういう学内の整備、業者に依頼してなかったけ? 試験準備の時に言ってたよね」

 

「したぞ? だからこれはまぁ確認だ。プロに頼んだから仕事を疑っているわけではないが、仕事ぶりを確認するのも私たちの仕事だ。問題があれば修正するし、なければプロの腕に信頼が蓄積し、次も安心して彼らに頼める。そういうことだ」

 

「ふぅん……なるほど」

 

 何かを納得したのか、フォンは何度か頷き、

 

「うん。御影は御影か」

 

 

 

 

 

 

 学園が朱色に染まっていく。

 夕方になれば学園の生徒は寮に戻るか、夜の街に遊びに出かけるか、或いは図書館やグラウンド等で修練に励むかだ。

 王都の中にある小さな町のような学園は、夜に近づけば一通りは少なくなる。

 学園の半分ほどを見回った彼女は、今日はここまでと切り上げて寮へと戻るために足を向け、

 

「――――っ」

 

 微かに眉をひそめながら踵を返した。

 向かう先はなんてことのない建物の同士の隙間。

 道どころか路地とさえ言えないデッドスペース。

 そこに彼女は体を滑り込ませ、

 

「っ…………くそっ……!」

 

 背を壁に預け、崩れ落ちた。

 息を荒げながらネクタイを解き、乱雑な動きで第二ボタンまで引きちぎる。

 薄い褐色のハリのある柔肌の谷間には珠のような汗が拭き上がり、それは全身も同じだった。

 震える手で押さえるのは腹部、臍の辺り。

 

「はっ……はぁっ……!」

 

 臍下から全身に伝う苦痛。

 言葉にすれば簡単だが、あの天津院御影が苦悶に喘ぐというのはどれだけのものかは計り知れない。

 

「……全く、厄介なものだ」

 

 息を押し殺すような呟きは、抑えた腹部。

 ボタンを臍下まで外せば露わになるのは赤い下着。

 

 そして――――そこを中心に浮かんでいた禍々しい紋様に向けた。

 

 フォンの持つ刺青のような綺麗なものではない。

 解読不可能な皇国の古代文字のような羅列が臍を中心に浮かび彼女の全身を苛ませていた。 

 瞼をきつく閉じて息を吸い、

 

「――――いばらか?」

 

「はっ」

 

 目を開いた時、目の前に鬼族の少女がいた。

 学園の制服は規定通りに完璧に。口元を覆う黒い布。黒のおかっぱ頭の右側だけに小さい三つ編み。

 額には薄い緑の二本角。

 いばらと呼ばれた彼女は御影に傅くように膝をつき、懐から符を取り出す。

 

「姫様、どうぞ」

 

「すまんな」

 

 貰った符を臍に乱暴に張り付ける。

 描かれた文字がかすかに光を放ち、

 

「――――ふぅぅぅぅ…………うむ、だいぶマシになった。ありがとう、いばら」

 

「いえ、姫様の護衛としてこの程度しかできないのが口惜しい限りでござる。……やはり、拙者も≪龍の都≫に同行していれば……」

 

「くく、残念だが。いばらがいてもこれは流石にな」

 

 御影の護衛、童乃(わらべの)いばら。

 入学時から御影と共に入学しており、常日頃から彼女の補佐をしているのだが、

 

「そもそもお前、未だにウィルたちに身分明かさずただのクラスメイトのつもりだろ。流石に無理があるんじゃないか?」

 

「いえ。拙者は影の身にて。お館様や奥方様たちとは今後距離を取っておくべきだと思うでござる。拙者なりのこみゅにけーしょん、というやつにござる」

 

「コミュニケーション、な。共通語の発音だけは上手にならんな」

 

「むむっ……」

 

「ふっ……ま、いいだろ」

 

 御影にとっては幼馴染――――というか、代々天津院家の護衛を務める童乃家の娘だ。元々混血故に立場が悪かった御影を最初は良く思っていなかったが、物理的に御影がいばらを叩きのめし以降は自分の側近として仕えてくれている少女に苦笑する。

 それから符によって『浄化』と『封印』され、紋様が消えた腹を摩る。

 

「いばら、本国から連絡はあったか?」

 

「はっ。先ほど届き、連絡に参った次第でござる。…………」

 

 いばらは薄い紫の目を一度伏せ、

 

「――――三大聖域の封印が破られていたようでござる」

 

 その言葉を告げた。

 

「…………やはり、か。参ったな。≪ディー・コンセンテス≫の仕業だろうが。≪龍の都≫と言い、色々やっているようだな連中」

 

 ヴィンター帝国における炎と氷の魔人。

 トリシラ聖国におけるサンドワーム。

 アクシオス王国における天空蛇。

 亜人連合における天宮龍。

 そういった現存する神話の名残。天宮龍エウリディーチェとは実際に対面したわけだが。

 皇国の場合、その国の領土に三つある聖域に眠るとされている三柱の鬼神。

 おとぎ話と思っていたが、エウリディーチェと相まみえればそれがただの伝承ではないと想像が付く。

 古より皇族すら立ち入ることが許されない禁じられた場所。

 

「聖域はどうなっていたんだ?」

 

「どうももぬけの殻だったようでござる。ただ、誰かに何かを持ちだされたのか、それとも元々何もなかったのかは……」

 

「分からんだろうな。数千年近く禁じられた聖域といえば聞こえはいいが、ようはほったらかしだからな。文献やらなにやら調べるのには時間がかかり過ぎる。……他には何かあるか?」

 

「はっ。聖域の件と合わせてまだ機密ですが、王国での各国会談の日付が変更となったとのことでござる。試験の後にから、試験の前日に変更でござる」

 

「は? なんだそれ。入れ替わったんじゃなくて日にちをずらしたのか?」

 

「左様にござりまする」

 

「妙なことだな……まぁいい。父上たちが遅れるということはないだな」

 

「もとより前日に王都入りされる予定でござりましたゆえ」

 

「相分かった。ご苦労、いばら」

 

「はっ。恐悦至極にござりまする」

 

 膝をついた姿勢は崩さず、小さく頭を下げた。

 

「……姫様」

 

 いばらは少し迷いながら口開いた。

 

「その呪いですが……」

 

「なんだ?」

 

「やはり、スぺイシア様に助力を請うた方がいいのでは?」

 

「うん?」

 

「あの方は拙者の及ばぬ方と存じているでござる。お館様や他の奥方様に言えぬ気持ちはわかりますが、それでもその呪いをどうにかできるのではと……」

 

「…………あー、そうか。そうだったか」

 

「姫様?」

 

「いやな」

 

 御影は苦笑し、

 

「アルマ殿にはもう相談した」

 

「なんと」

 

「というか、傷受けて治療してもらった時に」

 

「なん、と……!」

 

 では、といばらは目を見開いて、

 

「では三日前いつ具申するかと悩んで夜しか寝れなかった拙者の葛藤は……!」

 

「三日前なのか? それに寝てるじゃないか。そもそも敵から喰らったわけわからん呪いを私が放置するわけがないだろ? 自分でどうにかできないのはアルマ殿に相談だ」

 

「そうでござった……姫様はそういうお方でござった……!」

 

「というか気にしているのなら言ってくれても良かったんだぞ別に」

 

「姫様なら大丈夫かと思っていたでござるが、先ほどは本当に苦しそうだった故に……」

 

「…………悪い。心配をかけるな、いばら」

 

 御影は息を吐き、服装を整えてから立ち上がった。

 そしてゆっくりといばらの頭を撫でる。

 

「……姫様」

 

「安心しろ、私は天津院御影だ。心配するな。それに……」

 

 いばらを撫でた手で自らの腹部に手を当てる。

 与えられた呪いを。

 怨念。

 情念。

 想念。

 それは、

 

「……きっと、私が向き合わないといけないものだ。だからこそ、アルマ殿も私に任せてくれたんだろうよ」

 

 フォンが自らの原初と向き合ったように。

 彼女のそれと似ているが、少し違うものだと彼女は感じている。

 きっとそれが天津院御影に必要なものだ。

 

「というわけだ。そんな気はないだろうが他のみんなにはやはり内密にな。これは皇女としての命令だ。特にフォンには言うなよ」

 

「はぁ……何故フォン様?」

 

「ウィルと先輩殿には感付かれかねん。気づいてスルーしてる気がしないでもない」

 

「フォン様は鈍いから平気と?」

 

「いや。むしろあれは意外と鋭い」

 

 ただ、と彼女は肩を竦め、

 

「――――妹分には格好つけたいだろ?」

 

 にやりと口端を歪めて笑った。

 自分にしては珍しい見栄だなと、御影は思う。

 それでも張りたい見栄だ。

 そんなことを思うのは、この学園に来て、ウィルたちに出会って生まれた変化だろうか。

 或いは、≪龍の都≫で彼女を背中を押したのだから自分も負けていられないという維持だろうか。

 

「……どっちを選んでも、か。自分で言った手前、ちゃんとしないとな」

 

 もう一つ笑い、

 

「さてと、寮に戻るか。いばら、そろそろお前も一緒に夕食でもどうだ?」

 

「いえ、拙者は忍として屋根裏で手製の丸薬を食すでござる。それが忍者故。ニンニン」

 

「お前、五席なんだから自分の部屋があるだろう……」

 

「姫様に並べなかった席次など、無いも同然ござる……!」

 

 ちょっと過剰に二年前までの試験結果に声を上げるいばらに肩を竦めつつ、御影は歩き出した。

 そして。

 

「――――ん」

 

 風が吹いた。

 ふわりと優しい、それまでの苦悶と呪怨に苛まれた気分が吹き飛ぶような。

 それだけではなく、

 

「…………」

 

 風に舞ってどこからか飛んできたのは――――濡羽色の羽根だった。

 

「…………………………うぅむ」

 

「姫様? 鳥でござりましょうか」

 

「鳥って……まぁ鳥は鳥だなぁ」

 

 御影は銀の髪を弄り、空を見上げる。

 建物の暗い影の狭間に黄昏の空がある。

 しばらく見つめて、

 

「……………………なんとか夕食は誤魔化してそのままウィルとベッドに連れ込んで有耶無耶にできないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「怒ってるー、フォンち?」

 

「べっっっつにー」

 

 御影といばらのいた隙間を挟む建物の屋上からパールはフォンと共に、去っていく御影の背中を見ていた。

 隣で胡坐をかいているフォンはあからさまにふくれっ面だ。

 

「なんで調子悪いの言ってくれないのとか、私にだけ特に隠そうとしてるの酷くないとか、そんな調子なのに普通に仕事してるのとか……」

 

「とかー?」

 

「………………妹分(あんなこと)言われたら、怒るに怒れないじゃん」

 

「あはは。妹も大変だねぇー」

 

「もー髪滅茶苦茶にしないでよぅ」

 

 口で言いつつフォンはパールを振り払わなかった。

 視線は夕焼けを浴びて歩いていく御影の背中。

 凛と伸びた背筋とよどみない歩みはとても何か不調を負っているようには思えない。

 

「信じようよ、フォンち。私が言うまでもないかもさ」

 

「ん」

 

 パールは背後から抱きしめ、同じように御影を見た。

 視線の先と腕の中の後輩。

 今のパールにできることはもうほとんどない。

 生徒会は引退であるし、そうなると聖国に戻ることになる。

 彼女たちの手助けをすることはできない。

 

「いや、そもそも先輩として私ができたことは全然なかったねぇ」

 

「…………そんなこと無いと思うけど」

 

「あるんだなーこれが。情けない先輩だよーほんと。聖国の時だってなにもできなかったし」

 

 けらけらと笑い。

 でもね、とほほ笑む。

 

「だから私は知ってるぜー。君も、ミカちゃんも凄い子だ。だから大丈夫さ」

 

「……うん」

 

 そう、パールもフォンも知っている。

 天津院御影は、

 

「強く」

 

 フォンは言って、

 

「優しく」

 

 パールは続け、

 

「美しく」

 

 二人は言葉を揃えた。

 

「無敵のお姫様ってね?」

 

「……だね」

 

 フォンは苦笑気味に頷き、もう一度御影の背中を見た。

 

「きっと――――証明してくれるさ、御影なら」

 

 

 




天津院御影
アルテミスから受けた呪い継続中
それはそれとして仕事はするしウィルの補佐もする。

童乃いばら
御影の護衛、ウィルの世代の成績第五席。ござる系鬼忍者
なんだけど振り回されがちだし、アルマとかと転移されると流石に追いかけきれない
聖国で捕まった時とかは流石に王宮の中には入れなかったりもした。
実はGRADE1の時から存在だけ言及されてました

フォン
違和感はあったので追いかけたら
妹とか言い出すので何も言えない。
ずるいよ

パール
後輩見守り隊
体術とか剣術も強いんだけど
「あれそれバルマクのとそっくりだね」って言うと滅茶苦茶キレる(フォン1敗

ウィル
後で御影が自分のために建前点検してくれると知って
「結婚しよ……」ってなった


御影とフォンの組み合わせ、好きなんですよね

GRADE2はアース111の話がメインで最終章はそのトリということでこれまで言及しかされなかったモブが名前出て来たり、掲示板は合間にちょっとって感じになると思いますがよろしくお願いします。

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ウィル・ストレイト――価値あるもの――

 

「――――諸君、おはよう! 生徒会新副会長天津院御影だ!」

 

 魔法学園の講堂に天津院御影の声は高らかに響き渡った。

 最大三百人近く収容できる広い屋内に、まるで雷鳴のように。

 それを聞いていたのは百人少しの学園生徒だ。

 アクシア魔法学園、現1・2年の全生徒。それに加えて集合義務は無くても顔を出した三年生が少し。

 クラスごとにざっくりと整列していた彼らは出身国も人種もバラバラであり、学園集会自体も面倒がる者も多い。

 

「1・2年とは全生徒が集まる機会など早々無い! 故に、今この場に皆が集ったことを私は嬉しく思う!」

 

 それでも、誰もがその声を、その姿を見ずにはいられない。

 彼女が現れるまで乱雑だった視線が一点に集中する。

 威風堂々。

 天衣無縫。

 完全無欠。

 この学園には各国王族から大貴族、大商人らの子が当たり前のように在籍しているが、そんな彼らでさえ有無を言わさずに視線を奪う存在感。

 一度気づいてしまえば、思わず背筋を伸ばし、目を離さずにはいられない。

 それが天津院御影というカリスマだ。

 拡声用の魔法具(マイク)も使わずに、彼女は自信満々と言った笑みで生徒たちを見回す。

 

「さて。今日は司会進行としてこうして声を上げさてもらった。なので、早速主役に出番を譲るとしよう。我らが新生徒会長、ウィル・ストレイトから諸君らに話がある」

 

 御影が踵を返す。

 彼女の背後にはアルマとフォン。

 そして御影と入れ替えるように前に出た少年が。

 彼は壇上の中心に立ち、一つ息を吸った。

 軽く首を傾け、柔らかく微笑む。

 

「――――皆さんこんにちは。新生徒会長のウィル・ストレイトです」

 

 

 

 

 

 

「副会長と言葉が重なりますが、こうして皆さんの前に立てたことを嬉しく思います。僕から、皆さんにお願いしたいことがあり集会を開かせていただきました」

 

 不思議なお方でござるなぁ。

 クラスメイトと共に講堂の後方右側でウィルの言葉を聞きながら、童乃いばらはそんなことを思った。

 己の主である天津院御影の後に人前で話す。

 そんなのいばらだったら死んだほうがマシだ。

 それくらいの存在感が主にはある。

 ウィルにしても、そこまでではない。

 なのに。

 

「――――二週間後に行われる入学試験のお話です」

 

 彼が前に立ち、口を開いた瞬間。

 誰もが彼を見たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「実は皆さんに力を貸していただければと思いまして。本来であれば、生徒会員と数人の生徒補助、それから国の貴族の方や騎士団の方に行ってもらうんですけど」

 

 やっぱ不思議だなぁと、エスカ・リーリオは思わず腕を組んだ。

 存在感で言えば副会長の御影の方が凄い。

 自分も含めて視界の全員が。

 声を聴いた瞬間に視線を向けずにはいられなかった。

 ウィルがそうなのかというと違う。

 彼が前に立った瞬間。

 口を開くよりも前、皆が彼を見つめたのだ。

 

「できれば僕は、これから先輩になる皆さんと試験の運営を行いたいと思います」

 

 それは似ているようで違う。

 思わず目を奪われるのと。

 思わず見てしまうのは。

 

「なぜなら」

 

 彼は生徒たちを見回す。

 真っすぐな視線で。

 

「―――僕は、この学園で多くのものを得たからです」

 

 

 

 

 

 

「アクシアとは、古い言葉で『価値あるもの』という意味だそうです」

 

 珍しいタイプですね。

 ドロテア・エルクスレーベンは生徒たちの後方、学園長の背後に控えながら彼に対してそう思った。

 七大貴族の内、医療を司るアガーフェ家の分家出身であるが故にドロテアは様々な人間を見て来た。

 カリスマ、というもの在り方は一つではない。

 現ヴィンダー帝国レインハルト・ヴィンダーや皇国第六皇女にして皇位継承権第一位、次期女王である天津院御影。

 彼ら彼女らは圧倒的存在感で他者を圧倒し、率い、狂奔を与える覇気の持ち主だ。

 この人の言うことを無視できない。

 この人からどうしたって目を離せない。

 そういう人種は、得てして生まれ得る。

 ウィルは、そういうタイプではない。

 

「僕はこの学園で多くの『価値あるもの』と出会うことができました。……本当に。あまりにも多くのものに恵まれすぎたのが信じられないくらいに」

 

 微笑む彼は、他者の魂を焼き尽くすような王者ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

「先生、先輩、友人、後輩、恋人、家族。授業や訓練、様々な高度な教育も、僕みたいな田舎者からすれば信じられないような暮らしも。その何もかも、僕にとっては黄金よりも価値あるものでした」

 

 何故か力を貸したくなる人ですわね。

 シャコ系魚人族であり、漫画研究会所属であり、アレスやエスカ、アルマのクラスメイトであり、密かにウィルとアレスの連載――生徒会、というか御影公認―――を書いているトォンは思った。

 三学期に入って髪が短くなるという作画的なアクシデントがあったが、それはそれで新鮮だったので良しとする。

 画力に関しては自信がある。

 学園の文化推薦で入学しているし、シャコ系故の視力故に微細な光景を写実する技術を持つ。

 問題は、どれだけ対象の在り方まで描けるか、だ。

 

「そしてそれは、皆さんも同じだと思います。この学園は価値あるものを得る為の場所なんですから」

 

 ウィル・ストレイトという青年は決して目立つ存在ではない。

 目立つという意味では天津院御影やトリウィア・フロネシスは勿論、アルマやフォンの方が目を引くだろう。

 それでも、彼はこの学園の中心にいる。

 奇妙な言い方になるが、存在感はないのに確かにあるのだ。

 みんなの真ん中に居て、真っすぐに誰かを見つめている。

 

「僕はそう信じています」

 

 首を傾けて微笑んで講堂を見渡す彼と、不思議と目が合った気もする。

 引き込まれるのとは違う。

 目が離せなくなるのも違う。

 自然と見返したくなる、とでも言うのだろうか。

 その言語化と質感を描くのが難しい。

 だからこそ燃えるというもの。

 何より。

 新入生に普及をしなければいけない使命がある。 

 出るところに出られたら訴えられそうだが、しかし描きたいという欲は抑えられないのだ。

 何故多くの人が彼を助けたくなるのか、その理由を描くまで。

 

 

 

 

 

「ですから新しい後輩には、彼ら彼女なりの『価値あるもの』を見つけて欲しい。そしてそんな後輩たちを皆さんと一緒に迎え入れられたらと思います」

 

 あれ、話進んだ?

 アルマのクラスメイトにしてアルマファンクラブ会員ナンバー1,2,3。

 ティル・ティレリースとアンゼロット・アーベラインと水流珊瑚(みながれさんご)は同時に思った。

 もっとこう……アルマとの話してくれないかなぁ、とも。

 

 

 

 

 

 

 あの三人、また馬鹿な話してる。

 ウィルの背後で話を聞いていたアルマは思った。

 クラスメイトの姦し3人娘はウィルを見ているが、多分余計なことを考えているだろう。

 数秒半目を向けたが息を吐き、ウィルの声に再度耳を傾けた。

 なんだかんだ。

 彼の声を聴くのは心地が良い。

 なぜならば。

 彼は、いつだって一生懸命だから。

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 ここからが本番だ。

 呼吸を整えながらウィルは思った。

 行動を見回せば、視線が自分に集まっている。

 そしてその全てが好意的なものではない。

 自分が誰からも好かれることはないとウィルは知っている。

 対抗心を燃やすように見ている者もいれば、懐疑的な視線もあれば、興味が無さそうな人も、苦々しげに見ている人もいる。

 それでも、目を向けてくれる。

 だから、言葉を紡ぐのだ。

 

「今回の入学試験では幾つかの段階を踏みます。まず開始は夜明け、王都の外の森や丘等の一部範囲をいくつか会場として確保し、そこに試験生をランダムで4人1組でチームにし各フィールドに設置、或いは試験官から通過確認アイテム……バッジのようなものを予定していますが、それを回収してもらいます」

 

 それが第一段階。

 

「そののち、学園に集合して各自学科試験。これはペーパーテスト受けてもらうだけのものですね」

 

 それが第二段階。

 

「15時までに学科受験をボーダーラインとした第一、第二段階をクリアした試験生同士でトーナメント形式で戦闘を行います。ここで合格者の人数調整と全体を通した上位入賞者を決定します」

 

 それが第三段階。

 

「フィールドワーク、学科、戦闘の三つの手順を踏むことになります」

 

 生徒たちに反応があった。

 何かに気づいたようであり、それは正しい。

 

「えぇ。新3年と新2年の入学試験を混ぜた形になります。……まぁ、僕は入学試験を受けてないんですけど」

 

 周囲、特に新3年生から微かな笑いが漏れた。

 ウィルや御影の世代はトリウィアが主導となった戦闘と学科。

 アルマやフォンの世代はカルメンが主導となったフィールドワーク。

 これはそれらを混ぜ合わせたものだ。

 ウィルはその入学試験の後に、前学園長により無理やり滑り込んだかなりグレーな立場だった。正直当時はどうなるかと思っていたが、

 

「くくく」

 

 背後で、懐かしそうに笑っている御影のおかげでみんなに受け入れてもらった。

 それに背中を押され、

 

「皆さんにお願いしたいのは主にフィールドワークに関してです」

 

 みんなを見回す。

 

「各地に在校生を配置できれば、その生徒がそれぞれの課題を用意してもらい、クリアしたら通過バッジを渡す段取りで行こうと思います」

 

 ざわりと、察しの良い一部の生徒が反応した。

 対し、ウィルは頷く。

 

「はい。この課題に関しては各部活、研究会単位での参加が可能とします。それぞれがそれぞれの課題を用意してもらえれば」

 

 一度溜め、

 

「課題の出来や試験としての適正を鑑みて―――来年度の部費の増加も検討させていただきます。勿論、個人での参加の場合は成績の加点も」

 

 ざわめきがより大きいものになった。

 アクシア魔法学園も学校なので当然部活や同好会のようなものがある。

 尤も、1年の時から生徒会に所属し、掲示板という交流を持つウィルにとっては縁遠いものではあるのでこれまでの生活に関わることは少なかった。

 一応トリウィアが主導し、現在ではアルマが引き継いでいる勉強会も扱いとしては同好会に入る。ただの集まりだったが、多くの生徒が集まった結果場所を借りる為の形だけのものだが。

 文学や音楽で推薦される生徒がいるように、部活もまた様々だ。

 様々すぎるが故に部費は分散するし、中にはポケットマネーから捻出している部活や扱うものによっては市場で売り上げを出している部活もある。

 そんな彼らからしたら部費の増加は当然求めるところ。

 個人の成績に関しては言うまでもない。

 

「なお、これは学園長公認ですので後からやっぱり……ということもないのでご安心ください」

 

 

 

 

 

 

 ウィル君それは言わなくていいよ!

 彼の言葉で集まった視線に半笑いで受け流しながらティシウス・アクシオスは思った。

 態々講堂の一番後ろでドロテアと並んでウィルの演説を楽しんでいたのにこれだ。

 幸いにも彼らはすぐにウィルへと視線を戻し、

 

「ストレイト! 部活ごとに課題って好きに決めて良いって言ったな!?」

 

 手と声を上げたのは彼の同級生だろう。

 

「えぇ、そういうことです。勿論事前に生徒会への申請は必要ですが」

 

「――――オレ決闘部だけど、タイマンのステゴロでも!?」

 

「えーと、はい。戦闘も有りです。相手が新入生なのでハンデは付けてもらいますが」

 

「つまり……合法的に喧嘩して部費と成績貰えるのか!?」

 

「言い方は難がありますがそういうことです」

 

 おお……とどよめきがあがる。

 彼らはお互いに顔を見回せ、

 

「魔物調理部が調理難度の高い食材をやらせるのは!?」「マッピング部で即席マッピングさせて新入生を沼に引きずり込むのも!?」「当方詠唱研究会ですが、新入生にオリジナル詠唱を考えてもらって新鮮なニュアンスと恥ずかしさを栄養と摂取するのも!?」「未だに開催出来てない長物レース研究会主催レースもいいのか!」「錬金部が作った浪漫はあるけど実用性があんま無い武器を試してもらう時が来たか……!」「これで結果出したらおもしろ動画研究会から前に申請して却下されてたアクチュー部に昇格できます!」「筋肉部としては筋肉のすばらしさを普及させるチャンスではないか……!」

 

 喧々諤々。

 あちらこちらから怒涛の様に声が上がる。

 少年たちの熱量は今のティシウスにとっては眩しいものだ。

 そして上手いことそれを引き出したなと思う。

 通常、王国の騎士団の力を借りる試験で在校生の参加を提案したのはウィルだ。新しい仲間を今の仲間たちで迎えたいと彼は言った。

 最初はボランティアで募るつもりだったが、それに対し部費の増額と成績加点を提案したのは御影らしい。

 労働には適切な報酬を。

 それが為されていなければ働くものも働かない。

 アルマ・スぺイシアもそれに深く同意し、ティシウスにしても同感だった。

 前職ではそのバランスに神経を使ったものだ。

 そういったことを理解してくれる子らが学園を纏めているということは頼もしい。

 王国を弟に任せた身としては、彼らがその弟の力になってくれることを願うばかりだ。

 

「え、えっと……」

 

 上がる声にうろたえている彼はどこか微笑ましい。

 

「……え? 御影? 何……?」

 

 ふと、御影が彼に何かを耳打ちした。

 彼は若干眉をひそめた後、未だ声を上げ続ける生徒たちに向き直る。

 人差し指を立て、唇に添える動きを取った。

 生徒たちは疑問を覚え、一瞬だけ声が止まり、

 

「―――――しぃー」

 

 囁く様な、けれどよく通った吐息に完全に静かになった。

 

 

 

 

 

 

 は? 私の後輩君えっちすぎませんか?

 私の後輩君演説上手すぎませんか? などと色ボケていたトリウィアは思った。

 

 

 

 

 

 

 ふっ……私の未来旦那えっちだな。

 下手人でありいい仕事をしたと確信しながら御影は思った。

 

 

 

 

 

 

 うわっ、私の主えっちなんじゃない?

 ちょっと反則なんじゃないだろうか。後でやってくれないかなとフォンは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にウィルのウィスパーボイスで生徒をいさめるという、後年ちょっとした伝説になる事件はありつつも集会は終わりを迎えた。

 

「この後試験参加希望者はウィルかアルマ殿が対応するので向かう様に。試験参加に関しては課題以外にもある程度人員を振るのでそれは了承してくれ」

 

 もう一度御影が変わり、最後のアナウンスを行う。

 

「これにて集会を終了する! 感謝しよう、生徒諸君!」

 

 その場を凛とした声で締め、

 

「――――あと、アレス・オリンフォスは用があるので講堂の控室に来るように」

 

 

 

 

 

 

 

「トリウィア、何書いてるの?」

 

「歌詞です。さっきのウィル君の演説を取り入れようと思って」

 

「おいおいあの『しーっ』もいれるのか?」

 

「大丈夫それ? その……ほら、ちょっと………………うわ、この考えトリウィアみたい」

 

「わはは、私も思ったから問題無い」

 

「そう? じゃあまぁいっか」

 

「フォンさん、フォンさん? 一度ちょっと私と話しませんか?」

 

 どうしてこんなことに。

 果たして入学してから何度考えたか分からないことをアレスは思った。

 呼び出された控室は本来講堂でのイベントなどで呼ばれた来賓のためのものなので、それなり調度品の整った応接室のようになっている。

 賓客のためのソファで見慣れた三人娘は姦しくおしゃべりしていた。

 対面に腰かけていたアレスはため息と共に口を開く。

 

「……あの。なんで俺を呼んだんですか?」

 

「おっ、そうだったそうだった。悪いな態々。これをと思って」

 

 御影が取り出したのは一枚の書類とペンだった。

 それは、

 

「……………………生徒会役員参加認定書?」

 

「そうそう。これまでは各学年の主席と次席だけだが枠の増設は可能でな。役員補佐という形になるが、扱いは生徒会と変わらない」

 

「………………何故、俺が?」

 

「?」

 

 3人から何を言っているんだ、という顔で見られた。

 そんな顔をされても困る。

 

「いえ、生徒会に入るつもりなんてないですけど」

 

「でも現状そんな感じじゃない? 放課後私とアルマとアレスで生徒会室行くこと多いし」

 

「………………それは、お茶を淹れるついでですし」

 

「最初ウィルが試験生チーム完全ランダムにしようって言いだした時、ある程度王族は振り分けた方が良いって言ってたのもアレスだな」

 

「……………………それは気になったので」

 

「フィールドワークにおいて、試験生への障害となる配置も考えてくれましたよね。ウィル君に対して『試験を深読みする輩はこの地形ならここを通って他人との遭遇を避けると思いますよ』とか。てっきりそのポイントのどれかにアレス君が行くのかと思ってましたけど」

 

「……………………それは」

 

 それは。

 そんなつもりはなかったけれど。

 お茶を飲むついでに気になった所をちょっと口出ししていただけだ。

 去年の夏終わりからずっとそんな生活をしていたけれど。

 

「とまぁ、今回の試験もアレスの意見を参考にさせてもらっているしな。学年も上がって、生徒会面子も一新して、良い機会だし正式に参加してもらおうと」

 

「ストレイト先輩は?」

 

「ウィル君が言い出したことですよ」

 

「…………じゃあなんであの人が言わないんですか」

 

「だってアレス、ウィルさんが苦手ですって正面から言ったらしいじゃん。僕のことは苦手みたいなんで……って哀愁漂わせて言ってたよ」

 

「…………………………」

 

 思わず頭を抱えた。

 なんで気にしているだろうあの人は。

 3,4か月前のことなのに。

 自分のせいか。

 ちょっと想像できてしまう自分が嫌だ。

 

「……うぅ」

 

 呻きが漏れる。

 これも癖になっているので困っているのだ。

 しわになった眉間を揉み、

 

「………………天津院先輩方は、僕なんかがいていいのですか?」

 

「?」

 

 3人から何を言っているんだ、という顔で見られた。

 既視感。

 やれやれと肩を竦めた御影は唇を吊り上げ、

 

「今更過ぎるだろ。文句があればとっくに言ってる。来年入る生徒会面子にただのウィルハーレムと思われても困るしな」

 

「大体みんなアレスが生徒会だって思ってるよ。そもそもアレスがダメならトリウィアだってダメじゃん」

 

「そうそう私は研究生なので今となっては生徒会とは何の関係もない…………フォンさん。フォンさん? 私何かしましたっけ? この前ウィル君との夜を横でずっと眺めてたのがダメでした?」

 

「今ここでそれを口にするところだよ!!!!」

 

 フォンの怒りが飛んだがアレスが同感だった。

 恐ろしく聞きたくない話だ。

 

「こほん。それにだ、アレス」

 

「なんですか」

 

「――――お前の淹れる茶は実に美味い」

 

「確かに」

 

「間違いないですね」

 

「……………………はぁ」

 

 重い息を吐く。

 なんだかなと思い、

 

「分かりましたよ」

  

 書類にサインをする。

 結局これまでの生活と変わらないし。

 それに何より。

 唯一の趣味を。

 いつか、大切の為にと磨いて来た特技を褒められるのは。

 まぁ生徒会に加わってもいいか、と判断するくらいには嬉しかったのだ。

 

「まぁ……よろしくお願いします、皆さん」

 

「うむ! ウィルが喜ぶ顔が目に浮かぶな」

 

「……うぅ」

 

 その顔が思い浮かぶのがどうにも居心地が悪かった。

 やっぱり自分はずっと流されている。

 尤も。

 今回のこれは、悪くないかもしれないけれど。

 

 




ウィル
しーっ
みんなが力を貸したくなるような人

色ボケ三人娘
私たちの彼氏ちょっとえっちすぎません?

アルマ
えっちだなとは思わないが、それはそれとして耳元でしーっってされたら恥ずか死ぬ

アレス君
晴れて正式に生徒会面子に。



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ストレイトズ――グリーティング――

前回、アレスまでウィルのハーレム扱いで笑っちゃいましたね


 

「ゲンコツ!」

 

「ツメ!」

 

「ヒレ! ……和睦でゲンコツ!」

 

「ヒレ!」

 

「ツメ! ……おかしい、何回目だ。3人しかいないんだぞ?」

 

「私たちこんなに息が合わなかったでしょうか」

 

「じゃあトリウィアが負けてくれていいんだよ……!」

 

「そういうわけにはいきませんねぇ、えぇ!」

 

「ははは、そういうことだ――行くぞ!」

 

 アクシオス王国王城の来賓用一室にてウィルは御影、トリウィア、フォンがアース111式じゃんけんによる熱い戦いを繰り広げるのをぼんやり見ていた。

 入学試験を明日に控え、昨日までその為の調整を行っていたせいか凝っている肩を回す。

 今日この日、各国の王たちが魔族や≪ディー・コンセンテス≫について話し合うのだ。

 

 

「終わらないですねぇ」

 

「終わらないなぁ」

 

 隣に座っているアルマに声をかけた。

 制服姿の彼女は頭を自分の肩に預けてリラックスした様子で息を吐く。

 

「誰が自分の国の王に挨拶に行くか、か。ここまで熱が入るのは……分からなくもないけど」

 

「そうなんですか?」

 

「んー、まぁ場合によっては序列やら国家やら色々あるけど、あれはじゃれ合いだよ。楽しそうでいいんじゃない?」

 

「はぁ。……そういえば、こっちのじゃんけん、アレなんですけど。なんででしょう。今まで特に疑問もなかったんですけど。ふとアース・ゼロの思い出して。グーとチョキと……ぱかーんですっけ?」

 

「パーね、パー」

 

 そうだった。

 流石に20年近く昔のことな上に新しい知識のせいで記憶が曖昧だ。

 じゃんけんをする相手も転生する直前はいなかった……と思う。

 やはり前世で死ぬ直前は思い出せない。もっとも、もう別に良いと思うのだけど。

 

「獣人族のゲンコツに、リザーディアンのツメに、魚人族のヒレだったかな。元々はパーはエルフの耳だったらしいんだけど」

 

「ですけど?」

 

「最初ゲンコツはドワーフだったらしいんだけど、ドワーフがエルフに負けるとかおかしくね? ってなったドワーフがキレてプチ論争になって剣作るからチョキにしろってなったら今度はエルフが怒ってまた論争になって、ややこしいからその二種族が外れて紆余曲折あって今の形になったらしい。どこの世界でもドワーフとエルフの種族は仲が悪い」

 

「はえー」

 

 会話と同時並行で掲示板でアルマが同じ説明をしてくれたのでコメントをしたら同じことが声に出ていた。

 言っている間にも3人のじゃんけんは行われている。

 自分の国の王城で婚約者3人がじゃんけんしているのは妙な感覚だった。

 

「―――ヒレ! はい、私の勝ちです! 終了!」

 

「くっ……トリウィアに負けた……!」

 

「やるな……!」

 

「あ、勝負がついたみたいですね」

 

「ふむ」

 

 見ればトリウィアは目を伏せて無表情のドヤ顔でぱーの掌を突き上げ、フォンは膝から崩れ落ち、御影は頬の汗を拭っていた。

 トリウィアは左目だけを開け、ウィンク状態を維持させながら速足でウィルの下へ来る。

 

「さぁさぁウィル君。まずは私の国の皇帝陛下に会いに行こう? 挨拶は大事だよね、アンドレイア家の権力は引き継がなくても。というか私が皇帝陛下に彼氏自慢したいし―――」

 

「トリウィア」

 

「……………………なんですか、アルマさん」

 

「君、一瞬魔眼使ったよね」

 

「………………」

 

「はぁ!? ずるくない!?」

 

「ず、ずるくないですよー? 私の血の力ですよー?」

 

「ずるでしょ! それが良いなら私だって≪山海図経≫でトリウィアと御影の指を減速させて強制後出し敗北とか出来たし!」

 

「そこまでされると私は物理的に邪魔するしかないんだがな。というか先輩殿、≪番外系統≫でどう勝ったんだ?」

 

「私のはつまり『解析』なので筋肉の動きを解析して何を出すのか先読みしたんです」

 

「ずるっ! 御影も思うでしょ」

 

「うーむ…………ずるだな! 反則負け!」

 

「ば、馬鹿な……!」

 

「………………ウィル、今どんな感情で3人見てるんだい?」

 

「そうですねぇ」

 

 小さく首を傾げて考え、笑う。

 

「仲が良くて嬉しいなぁって」

 

 

 

 

 

 

「じーちゃん、久しぶり!」

 

 御影との一騎打ちにより勝利したフォンは連合盟主であり、自らの祖父であるリウの下へウィルと訪れた。

 先ほど自分たちがいた部屋と似たような間取り。

 そこにリウは王国の高そうな椅子に杖を付いて腰かけている。

 自分の知っている祖父とは違和感が強くて少し笑える。

 鳥人族らしい意匠の、しかし露出はなく全身を覆う長い丈の『チャンパオ』と呼ばれる礼服だ。

 リウは腰の曲がった背の低い老人だ。

 自分はおろかアルマよりも小柄だろう。

 口元には仙人みたいな長い髭を蓄えているのに、頭部は完璧なつるっぱげ。

 加えて、部屋にいたのは祖父だけではなく

 

「エウリディーチェ様!」

 

「久しいな、フォン、ウィル。息災だったか」

 

 伏せられた目と静かな微笑。

 高い位置で結んだ藍色の髪、古びた皮鎧。

 龍人族の長のエウリディーチェだ。

 

「来ていらっしゃるとは聞いていましたが、こちらにいらしたんですね」

 

「うむ。今では余も亜人連合の末端故にな。今日集まる王たちは、大戦時代の知己である故、余も無理を言ってリウの付き人としてはせ参じたというわけだ」

 

「ふぉっふぉっふぉ。ゆうてもワシはエウリディーチェ様のおまけのようなものじゃがのぅ。フォン、ウィル様。ワシの相手もしてくれると嬉しいが」

 

 好々爺と言わんばかりに朗らかに笑う。

 フォンにしてもウィルにしても、彼と会うのは去年の≪七氏族祭≫以来だ。

 

「ふむ、フォンよ。制服着こなしておるのぅ」

 

「あー、ん。まぁね」

 

「ふぅむ、良いことじゃ。エウリディーチェ様や手紙でも聞いたがウィル様との関係も良好のようじゃが――」

 

 ふと、杖が動いた。

 自然な動きだった。

 ウィルとフォンの意識の合間を縫うような達人染みた挙動。

 気づいた時には、

 

「―――その割には乳が増えておらんのう。成長期は終わっておったか?」

 

 杖先が自分の胸を突いていた。

 

「――」

 

「――」

 

「ふむ。余はつつましい胸も悪くないと思うがな」

 

 のんきな声を上げるエウリディーチェの声を聴き、フォンは状況を理解し、

 

「っ―――んのスケベ爺ッ!!」

 

 顔が真っ赤になるのと共に蹴り脚を叩き込んだ。

 我ながら鋭い蹴りだ。

 

「ひょひょひょ! まだまだ子供じゃのう! 未通子のままか? いや、それはなさそうじゃな! 纏う風で分かるぞぅ!」

 

「ジジイーー!」

 

 しかし蹴りは回避された。

 座っていたはずなのに、予備動作も無く直上に飛び上がったのだ。高齢であるリウは翼を折っている。だがそれを感じさせない軽やかな動き。

 この祖父はこうなのだ。

 フォンに体術の基礎を教え、シュークェに武術を修めさせた。

 あとたまに自分の口が悪くなるのはこのスケベ爺のせいだと思っている。

 

「こんっの……! しばらく会ってないけど全く変わってないなじーちゃん! いい歳なんだから落ち着けっての!」

 

「ほっほー! 大体の鳥人族というのはいい歳になってから飛ぶ以外の喜びに目覚めるもんじゃ! お主は違うようだがのぅ!」

 

「じ、ジジイ……!」

 

「ふぉ、フォン! 落ち着いて! 王城、王城だからここ!」

 

「くっ……!」

 

 ウィルに背中から抱かれ、心をどうにか落ち着かせる。

 部屋の中には今の4人だけだが、外には王国の使用人もいれば別の部屋にはリウとエウリディーチェの付き添いも待機しているのだ。

 確かに暴れていい場ではない。

 息を整え、

 

「ふぅっー……ふぅっー…………ありがと、ウィルさん。大丈夫、落ち着いたよ」

 

「ほほほ、見せつけてくれるのぅ」

 

「…………!」

 

「どうどう」

 

 背後からウィルが抱きしめてくれているので落ち着けた。

 そうでなければ翼を広げていただろう。

 

「ふ」

 

 そんな自分たちにエウリディーチェは口元に手を当てながら三度笑った。

 

「悪い。揶揄うつもりはないがな。仲が良くて何よりだ」

 

「いえ、こうしてフォンといられるのもエウリディーチェ様のおかげです」

 

「余は何もしておらんよ。言葉足らずで困惑させていたようだしな」

 

「…………エウリディーチェ様はどっちかって言うと言葉が多いような」

 

「フォン!?」

 

「わははははは! これは一本取られたな!」

 

 大ウケだった。

 未だにウィルに対してとんでもない好きバレをされたことは感謝していいのか怒っていいのか分からない所である。

 結果的には良かったけれど。

 純情乙女の心は複雑なのだ。

 

「……あの、リウさん。僕からよろしいですか?」

 

「はいはい。なんでしょうか、ウィル様。ウィル様は我等が鳥人族の恩人、なんでも言ってくだされ」

 

「こほん、では」

 

 不思議に思ってみたウィルの表情は緊張していた。

 息を吸い、しかし真っすぐにリウを見つめ、

 

「――――お孫さんを僕にください!」

 

「ウィルさん!?」

 

「いいですとも!!」

 

「あれ!? 即答ですか!?」

 

 直角に腰を曲げて皇国式の――無意識なのかウィルはたまに皇国式の仕草が多い――お辞儀と共に叫んだが、リウの即答により微妙な角度で止まった。

 驚くウィルに対して祖父は髭を撫でる。

 

「ほっほっほ。既にフォンはウィル様のものですしのぅ。貴方が悪い人間ではないことは我等を助けてくれた時から知っておりましたし、エウリディーチェ様やシュークェから≪龍の都≫の話も聞いております。で、あれば。貴方様が我が孫娘の比翼であることに、なんと止めることがありましょうか」

 

「じーちゃん……」

 

「発育は足りませんが、どうかこの子をお願いします」

 

「ジジイーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「父上、母上、お久しぶりです。おや、甘楽お姉様までいらっしゃるとは」

 

 久しぶりの両親にウィルを紹介しようと思ったら、思いがけなかった姉の姿に目を丸くした。

 

「お久しぶりですね、御影、ウィルさん」

 

 ころころと控えめな笑みの口元を扇子で抑える鬼の少女。

 いつか見た若草色の着物に、金細工が彩られたほっそりとした美しい白い角。

 野に咲く可憐な草花のような愛らしい鬼の娘。

 御影の姉である天津院甘楽だ。

 

「お久しぶりです、甘楽さん」

 

「まぁウィルさん。そんな仰々しい、お義姉様でも、お義姉さんでも、お義姉ちゃんでも。好きに読んでいただいていいんですよ? そうでしょう、お父様、サーリヤ様」

 

「うむ! 俺のことも是非義父上と呼んでくれていいぞ婿殿! わはは!」

 

「あぁ、君の話は手紙を通してだがよく聞いている。どうか固くならず、家族と思ってくれていい」

 

 甘楽に続いたのは大きな笑い声と静かな言葉だった。

 黒い瞳と黒の総髪と黒の剛毅な二本角。

 赤や緑、青が混じった黒と金のカラフルな袴羽織姿の父は身長にして二メートル半という巨漢だ。

 鬼種の男は人種に比べても大柄だが、彼はその中でも大きく、そして巌のような筋肉を袴姿に押し込めている。

 我が父ながら厳つい強面だが、口を大きく開けて笑い声を上げていた。

 父が広いソファを二人分占領し、その隣には母が背筋を伸ばして座っている。

 三つ編みにし、胸元に垂らされた髪は御影にも受け継がれた銀の色。

 聖国出身故の自分よりも濃い褐色の肌に、柔和な顔立ち以外はよく似ている。

 母は父とは対照的に白を基調とした着物姿だ。

 もうすぐ四十に近いが、それでもまだ若々しさを保っている。

 天津皇国の皇王、天津院玄武。

 その側室である天津院サーリヤだ。

 

「お元気そうでなによりです。父上、母上」

 

「無論だとも!」

 

「御影も変わりはないか?」

 

「はっ! この通り元気溌剌です! ……ん、どうした、ウィル?」

 

「ううん」

 

 自分と両親を苦笑気味に見ていた彼は首を傾げ、

 

「御影が3人いるみたいだな……って。お父さんにもお母さんにもそっくりだね」

 

「ふふん、そうだろう?」

 

「わはは! 分かっているではないか婿殿よ!」

 

「良い目をしている。御影が惚れこむだけはあるな」

 

 両親に似ている、というのは自分にとって褒め言葉に他ならない。

 相変わらずウィルはツボを突いてくる。

 

「ふふっ。こうするとウィルさんには御影が3人いるみたいでしょう? この子は兄弟姉妹で一番お父様に似ていますしね」

 

「へぇ、そうなんですね」

 

「あぁ! もっとも、だから御影を皇位継承第一位に指名したわけではないぞ婿殿。全てこの子の実力だ」

 

「――――はい、それは勿論」

 

「わはは! 流石だな!」

 

 よく笑う父だがいつもよりも笑っている。

 いばらを通して、ウィルとの間にあったことは――異世界のことは伏せて――大体全て報告している。去年の時点で皇国では既に彼の存在は受け入れられていたし、夏の聖国の一件に関しては言わずもがなだ。

 既に次代の女皇として認められている御影を倒したウィルはその実績とその後の御影自身の詳細な惚気文によりある意味アイドル的な人気を博している。

 勿論、ウィル本人は知らないのだが。

 

「玄武様、よろしいでしょうか」

 

 そのウィルが一歩前に出た。

 

「よろしくない!」

 

「あ、すみません……」

 

「義父上と呼ぶがいい! 或いは! 王国流にパパ上でもいいぞ!」

 

「えーと、いえ、王国でもそんな呼び方はしませんが……そう呼ぶために一言良いでしょうか」

 

「ほう! 良いだろう、何でも言うが良い!」

 

「ありがとうございます。……玄武様、サーリヤ様、甘楽さんも。――――どうか、娘さんをください!」

 

「―――――ほーう」

 

 ウィルが腰を直角に曲げたのに対し、玄武が口端を歪めたのを見た。

 立ち上がった父を改めて見るとやはり大きい。

 肩幅だけでウィルの倍はあり、組んだ腕は御影の腰よりもよっぽど太いだろう。

 

「顔を上げるがいい、ウィル・ストレイト」

 

 声には重みがあった。

 言われた通りウィルはゆっくりと顔を上げ、

 

「――――!」

 

 尋常ならざる重圧が彼を押しつぶそうとする。

 それは魔法ではないし、仙術でもない。

 単なる視線であり、しかしそれは時に凡百の魔法を上回る威圧になる。

 ウィルの隣にいるだけで、背筋に嫌な汗が浮かぶほどだ。

 御影の父、天津院玄武とはそれを為す男である。

 魔族大戦において皇国軍の最前線で戦い、王になった鬼種最強の男。

 皇位継承を決定づける午前試合で御影は他の継承候補者を倒したが、それでも父に勝てたことはない。

 トリウィア・フロネシスを知るまで、御影にとって『最強』とは父を指す言葉だった。

 そして状況によっては、叡智の悪魔にも劣らぬとも思っている。

 

「――」

 

 しかし、自分の倍近い大きさの鬼種の王を見上げながらもウィルはその重圧に一歩も引かなかった。

 人の黒い瞳が鬼の黒い瞳を真っすぐに貫き返す。

 いつか、御影が興味を持った視線。

 その時よりもずっと強くなったもの。

 空気が軋むほどの沈黙は僅か数秒で、

 

「わっはっはっは! 流石いい目をしている! あぁ持っていけもっていけ!」

 

「あ、り、が、と、う、ご、ざ、い、ま、す!」

 

 バンバンと猛烈な音を生み出しながら玄武が両手が両肩を叩き、それに揺らされながらウィルが感謝の声を上げていた。

 

「俺のガン飛ばしに正面から返してくるやつなんぞ、そうはおらん! 御影が認めただけはある! わはは! 御影が気に入っていたからではなく、俺も気に入ったぞウィルよ!」

 

「あ、り、が、と、う、ご、ざ、い、ま、す!」

 

「玄武さん、そこまでにしておかないとウィルさんの肩が壊れますよ」

 

「おぉ! 悪い悪いガハハ!」

 

「あ、あはは……」

 

「御影、御影」

 

「はい?」

 

 笑い合うウィルや両親を見ていたら、甘楽に呼ばれたのでそちらに寄ってみる。

 姉は少し声を落とし、

 

「今の気持ちは?」

 

「あぁ――――父上に正面からガン飛ばすウィル見てだいぶ角がふやけてる!」

 

「こら御影! 父親の前でそんなことを言うものではないぞ!!」

 

「はしたないな。……それに、鬼種は結婚の際に両親に許可を貰う習慣はないが、教えなかったのか?」

 

「えっ!? 御影そうなの!?」

 

「あぁ! ウィルがだいぶ前に両親に挨拶を……とか言ってたがこういう光景見たかったから黙っておいたし方々にも口止めを頼んでいた!」

 

「わはは! 流石我が娘、欲望に素直すぎるな!」

 

「母親からしたら心配しかないが……鬼種とはそういうものだ。ウィル、娘をよろしく頼む」

 

「私からもお願いしますね、自慢の妹です。次は皇国にいらしてもらって他の兄妹姉妹も紹介したいです」

 

「―――はい。必ず幸せにします。お義父さん、お義母さん、お義姉さん」

 

 両親や姉に囲まれながらにっこりと笑うウィルを見て。

 御影はたまらなく嬉しかった。

 かつて、ずっと一線引いていた彼を、家族という内側に引き込めたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと私の番だよ……!」

 

「あはは、待たせたね。……でも、帝国の皇帝陛下とは接点ないけど、大丈夫なの?」

 

 王城の廊下をウィルと二人で歩きながらトリウィアは彼の疑問に答えた。

 

「全然。むしろ皇帝陛下は喜ぶよ」

 

 廊下には幾つかの扉があり、それぞれ使用人たちがいつ中から呼ばれてもいいように控えている。トリウィアにとっては慣れた光景ながら、ウィルはどこか居心地が悪そうではある。

 

「陛下は有能マニアみたいなところあるからね。ウィルくんも気に入られると思う。年齢も近いし」

 

「へぇ……」

 

「だから気楽にね。私にもやってほしいな、娘さんをくださいってやつ」

 

「…………皇帝陛下と血縁があるの?」

 

「無いけど」

 

「無いんだ……」

 

 何代かに一度は皇帝の一族にフロネシス家の血が入っているのである意味遠縁ではあるかもしれないが。

 言われたいものは言われたいのだ。

 

「さてと……失礼します、皇帝陛下。トリウィア・フロネシスです」

 

 辿りついた皇帝に宛がわれた部屋の扉をノックする。

 こんこん、という音が響き、

 

「…………ふむ?」

 

「反応が無いね、いないとか?」

 

「そんなはずはないと思うけど……おや、空いてる」

 

 手を掛けたドアの取っ手には鍵が掛かってない。

 少し迷い、控えていた使用人に視線を向けたが肩を竦められただけ。

 なので、

 

「失礼します」

 

 扉を開けて中に踏み込んだ。

 流石にこれで不敬罪になることはないだろう。

 そんなことを考え、見たのは、

 

「うおおおおおおお! ふっ! はっ! 流石は陛下、見事ですなぁ!」

 

「ふっ……! 卿こそ流石の動きだ、アンドレイアは安泰と見える!」

 

 オールバックにした灰色の髪の美青年と長い金髪の青年が、それぞれの髪を乱しながら、珠のような汗を輝かして。

 卓球をしている姿だった。

 

「あ、ディートさん!」

 

「むっ!? ―――おぉ! 我が親愛なる従弟殿! 会えて嬉し―――あぁ、陛下!? 私がウィルと感動の再会とハグをする時間くらい待ってくれてもいいのでは!?」

 

「甘いなディートハリス。勝負の世界は非情なのだ、例え遊戯であってもな。……しかし、隣にいるのはフロネシスか。久しいな、お前もやるか。卓球」

 

「…………………………うぅぅ」

 

 思っていたのと違う。

 アレスが良く呻く気持ちが、今更になって分かるトリウィア・フロネシスだった。

 

 

 

 




ウィル
娘さんを僕にください!!

御影
1年の時、ウィルがずっと自分たちから一歩引いていた、そういうメンタルだったことをずっと気にしていた

ディートハリス
ついに帰ってきた男


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アルマ・スぺイシア――僕らの世界――

久々に感想が二ケタ超えたのが間男なのこのssを象徴してる感じあって笑っちゃいましたね


 

「改めて。はっはっは久しいなぁウィル!」

 

「えぇ! また会えてうれしいですよディートさん!」

 

 満面の笑みでディートハリスと抱き合い背中を叩き合うウィルを見てトリウィアは微妙な気分になった。

 常日頃控えめにほほ笑むウィルにしては珍しい破顔だ。

 彼の前世で、彼の家族に起きたことを考えると、この世界でウィルに家族が増えるということは嬉しい。

 だからフォンも御影も自分の家族を、ウィルの新しい家族として紹介したのだ。

 そういう意味ではディートがいてくれたのは嬉しいことではあるが。

 めったに見れない顔を簡単に引き出されるとちょっと複雑なのだ。

 

「仲が良さそうだな、ディート。離縁したとはいえ従弟は従弟か」

 

「離縁ではありませんよ皇帝陛下。ウィルには諸々の継承権を手放してもらっただけです。依然我が従弟でありますとも」

 

「ふむ、そうか。甘い男だな」

 

 声は甘く、耳に響く。

 足を組みながら一人用のいすに腰掛け、装飾の施されたひじ掛けに肘を付く金の髪の美青年。女性と見間違いそうになるほどの美形であり、その両目もまた輝く様な金だ。白を基調とした軍服風の帝国の儀礼服は機能美を備えながらも為政者としての風格を損なわせず、先ほどまで卓球をしていたとは思えないほどに涼し気だ。

 ただそこにいるだけで光を放つ、黄金のような男だった。

 

「―――お久しぶりです、レインハルト皇帝陛下」

 

「は、はじめまして皇帝陛下!」

 

 彼、ヴィンダー帝国皇帝レインハルト・ヴィンターへとトリウィアは跪き、ウィルも慌ててそれに続いた。

 それが帝国の人間としては当然であり、そうすることが自然だと思わせられるから。

 対するレインハルトは軽い動きで片手を振る。

 

「立つが良い。公式の謁見でもなければ帝国でもない。気を楽にするといい。茶でも飲むか、使用人を」

 

「陛下。ここは王国でございます。何にでも使用人を使うものではありません、必要とあらば私がお淹れしましょう」

 

「ほう、なるほど。トリウィア、ウィル、お前たちもどうだ?」

 

「いえ、今日は挨拶だけと思いますので」

 

「そうか。ではディートハリス、淹れるがいい。そしてお前たちも顔を上げ立つとよかろう」

 

「はっ」

 

「は、はい!」

 

 顔を上げれば魔法でお湯を沸かしお茶を淹れるディートハリスの姿が見える。

 別に王国の貴族でもお茶くらいは使用人に淹れさせるものだが、本人がその気なので良いとしよう。

 なんでもかんでも使用人にやらせる帝国の文化はトリウィアも好んでいない。

 

「皇帝陛下。彼の紹介をしても?」

 

「許す」

 

「はっ。私の婚約者であるウィル・ストレイトです」

 

「ウィル・ストレイトです。お会いできて光栄です、皇帝陛下」

 

「うむ。卿の噂は私も聞き及んでいる。史上初の全系統保有者にして皇国次代女皇の婿、鳥人族の先祖帰りの主、聖国の救世主――そして我が帝国きっての才女の婚約者」

 

「…………きょ、恐縮です」

 

「トリウィアはそのうち私がもらおうと思っていたのだがな」

 

「―――」

 

 目にかかった髪を首の動きだけで払いながら、そんなことを言い、

 

「――――はい?」

 

「!?」

 

 流石のトリウィアも目が点になり、ディートハリスはぎょっとする。

 そんな話は二人とも聞いたことが無かった。

 なにせ帝国社交界と学会で悪名を轟かせ、王国に5年もいるのだ。見合いが持ち出される想定はしていなかったし、だからこそ秋は一悶着あったのだ。

 

「驚くことはあるまい。品種改良は帝国貴族の義務だ。その極致であったトリウィアと、彼女に劣るとはいえ天才である私の()()は自然と言える。……ま、それも先を越されたが―――そうさな」

 

 黄金が怪しく輝き、唇が薄い弧を描く。

 

「今からでも遅くはないか?」

 

 そこに、玄武のような威圧感は無かった。

 あるのは魂を突き刺すような宣託だ。

 このアースにおいて最も純粋に魔法を追求し、系統を蓄積して来た者。

 純粋な数ではトリウィアに劣るとしても。

 数百年間、常に七大貴族の血を取り込んできた皇帝一族の意味を彼女は知っている。

 戦って負けることはないとは思うけれど、戦うことになった時点でこの世界では敗北を意味する。

 

「なるほど」

 

 ウィルは、静かに頷いた。

 愉悦すら浮かばせる黄金に対し、

 

「ですが――――彼女は僕の幸福です」

 

 トリウィアの腰を抱き寄せ、その姿を見せつけた。

 

「―――――」

 

「ほう」

 

「…………ウィル」

 

 

 

 

 はわわわ! おいおいおいおいこれはちょっと想定していないぞ!?

 ウィルと皇帝陛下で痴情のもつれ!? どーすればいいのだ!? 仲裁……してどうなるんだ!? 二人が争って、どうやって穏便に済ませれば……!?

 

 

 

 

「……フッ」

 

 漏れた声はディートハリスのものだった。

 彼は上品な笑みを浮かべ、淹れたばかりの紅茶をレインハルトに差し出す。

 

「陛下、あまり我が従弟を揶揄うのはお良しくだされ。彼は真面目ですから。現状我が従弟と悪い関係になっても良いことはないでしょう」

 

「ほう、そうか?」

 

「えぇ。皇国と聖国と、ついでに王国と関係を悪くしても良いことはありますまし」

 

「ふふふ、甘い男だなディートハリス」

 

 紅茶を受け取ったレインハルトは香りを楽しみ、

 

「――――聊か遊びすぎたか。そう睨むなウィル。戯れだ、許せ」

 

 乙女が見たら一瞬で腰が砕けそうな甘い笑みで微笑んだ。

 

「…………分かりました」

 

「ウィルよ、私からも非礼を詫びよう。皇帝陛下はお前のような将来有望な若者を揶揄うのが好きでな」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

 ウィルは長い息を吐く。

 

「すみません、ディートさん。皇帝陛下、無礼でした」

 

「良い、御相子だ。トリウィアもな。我が友を出し抜いた婚約者がどんなものが見て見てたかったのだ」

 

「………………いえ、皇帝陛下」

 

「?」

 

「トリィ?」

 

 鼻血が出そうだった。

 皇帝陛下万歳。

 レインハルトがウィルをこんな風に揶揄うのは想像していなかったが、結果オーライである。

 自分の国の皇帝を前に、『僕のもの』発言だ。

 ちょっと彼らしくアレンジされてたが大体同じことだ。

 最高。

 私の後輩君かっこよすぎませんか?

 あ、彼氏ですね。その上婚約者でした。 

 

「――――ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 やたら浮かれたトリウィアとずっと苦笑しているウィルというちょっとしたアクシデントはあったものの。

 アルマを始めしたウィルたちはいつか、ダンスホールだった大広間にいた。

 1年近く前はこのバルコニーから飛び降りたが、その時とは内装が様変わりしている。

 広間の中心に、円環状の円卓が置かれている。 

 辺の五分の一はカットされ、その中に人を置き囲むようにできるものだ。

 その円卓に、アース111における王たちが席を並べ、それぞれの側近が脇に立つ。

 亜人連合の盟主リウ、隣には龍人族の長であるエウリディーチェ。

 天津皇国の皇王天津院玄武、隣にはその娘である天津院甘楽。

 アクシオス王国の国王ユリウス・アクシオス、両脇には元帥レグロス・スパルタスと宰相メトセラ・ヒュリオン。

 ヴィンダー帝国の皇帝レインハルト・ヴィンダー、その隣には七大貴族、アンドレイア家次期当主ディートハリス・アンドレイア。

 トリシラ聖国の導師アリ・ハリト、その隣には次期聖女パール・トリシラ。

 アルマたちはその円卓から外れて長机を用意されている。

 

「ウィル、緊張してる?」

 

「…………で、ですね。少し」

 

 隣に座るウィルは少し緊張気味だった。

 アルマからすればこの手の権力者会議自体は見飽きているが、彼はやはりそうでもないらしい。

 フォンも似たようなものだが、流石にトリウィアと御影は平気そうだった。

 

「おっ、みんな見てみろ。見覚えのある仏頂面がいるな」

 

「ん」

 

 御影が促した先。

 リウや玄武の背後にいるアルマたちとは反対側、聖国導師のアリ・アハトやパールの背後。

 

「あっ、バルマクさんだ」

 

 アルマたちとは違い立たされ、手枷もされているがザハク・アル・バルマクもいる。

 去年の夏と変わらず、鋼鉄のような無表情。

 質素ではあるがそれなりに高そうな儀礼服を着ている。

 

「彼も証人だし、パールが色々したらしいね」

 

「あ、それめっちゃ愚痴聞かされたよ私」

 

「私も聞いたなそれ。例のヘファイストスはいないのか?」

 

「彼女は囚人ですし、必要な時にだけ連れてこられるのでしょう。バルマク氏はパールさんとアハト導師が身分を保証しているのであの扱いでしょうね」

 

 トリウィアは煙草を蒸かしながら白衣から懐中時計を確認し、

 

「定刻ですね」

 

 時間を告げる。

 このアース111主要国家の王たちが、魔族や≪ディー・コンセンテス≫に対してどのような対処を取るのか話し合う会議だ。 

 アルマにしても彼らがどんな判断をするかは興味深いが、

 

「……始まらないな」

 

 それぞれの王たちは自分の側近たちと何やら話している。

 カラフルな布を何枚も重ねた聖国の儀礼服に身を包み、髪を下ろしたパールもこちらを見て肩を竦めていた。

 

「共和国首相のルキア・オクタヴィアス氏がまだ来ていませんね」

 

 煙を吐きながらトリウィアが未だ来てないもう一人の名を口にする。

 名前だけはアルマも知っているが、共和国というのは話題に上がることが乏しい。

 アレスの出身国ではあるものの、彼も普段その話をすることはないし、学園にも共和国の生徒は非常に少ない。

 

「――――ふむ」

 

 アルマは広間の中を見回した。

 両脇にはウィルたち。

 眼前には各国の王。

 広間の壁際には王国の護衛騎士たちが連なっている。

 そして。

 

「おっ?」

 

 大広間、正面の扉が開いた。

 全員の視線がそこに向かう。

 ゆっくりと扉は開かれて。

 

「――――ごきげんよう、皆さま」

 

 ヴィーテフロア・アクシオスが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「―――――ヴィーテ?」

 

 まず言葉を発したのは彼女の父であるユリウス・アクシオスだった。

 座席の都合上、扉の正面に座る彼は自身の娘を確認し名を口にする。

 

「皆さまにお話があります」

 

 だが、ヴィーテフロアは父の言葉には反応しなかった。

 セーラー服を組み合わせた修道服姿の彼女はにっこりとほほ笑み、

 

「ルキア・オクタヴィアス様は、今はこちらには来られません。この会議も、開く意味はないでしょう」

 

「ユリウス王、これはどういうことだ」

 

 鋭く問いを投げたのは導師アリ・アハトだ。

 黒褐色の肌と蓄えた髭を持つ顔を歪めた彼の問に、しかしユリウスは答えられなかった。

 否、そもそもこの場で、状況を把握している者はいない。

 この会議にヴィーテフロア・アクシオスがいるはずがないのだ。

 七主教の聖女であり、政教分離が為されている王国では出席権も発言権もありはしない。

 なのに、彼女はこの場に立ち、無垢にして魔性の笑みを振りまいていた。

 

「代わりに、皆さまに一つ伝えなければならないことがあります」

 

 ヴィーテフロアは腕を広げた。

 囁くような、鈴が鳴る様な声。

 声量は大きくないのに、なぜか耳によく届く。

 海の様な深い瞳は――――真っすぐにアルマへと向けられていた。

 

「あ……?」

 

「――――――共和国は、全世界へと宣戦布告を行います。どうぞよしなに」

 

 花の様な笑みで、さらりとそんなことを言う。

 言い方と話のスケールが釣り合っていない。

 朝ごはんを食べていたら急に隠された出生の秘密を聞かされたような唐突さ。

 だから誰も反応できなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視線が交わっていたのは現実時間にして1秒も満たず、

 

「――――――――――――――!!」

 

 アルマは視線を跳ね上げた。

 真上。 

 見ていたのは豪奢なシャンデリアではない。

 そのさらに上だ。

 ウィルたちが困惑するが、構わずに椅子を弾きながら立ち上がった。

 

「エウリディーチェ!」

 

「………………不味いな。()()()()()()()()

 

 異変に気づいていたのはこの中でエウリディーチェだけだった。

 日蝕の瞳を僅かに開け、同じように天上を見ている。

 

「だろうな……っ、やってくれる……!」

 

 吐き捨てた時にはアルマは制服から紺の魔導服と赤いマントに姿を変えていた。

 大きく腕を振り、

 

「アルマさん!?」

 

 ウィル、御影、トリウィア、フォンも強制的に戦闘装束に変え、それぞれの武器も取り寄せた。

 

「手が空いたら連絡する、それまでは状況判断!」

 

 鋭利な指示のみを飛ばし。

 

「ユリウス王! 王都の結界借りるぞ!」

 

 アルマ・スぺイシアは転移を実行した。

 

 

 

 

 

 

 転移先は王城の遥か上空だった。

 広い都市が一望できるような高所、マントによって飛行を行いながらアルマはさらにその直上を見た。

 光がある。

 日中でありながら、太陽とは別に輝く光源。

 それはただ光っているわけではない。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()

 

『第326番!』

 

 アルマは首から下がった金細工のブローチの前で両手で印を組む。

 展開する白の魔法陣、金細工が時計の歯車のように音を立て動き、内部のエメラルドの光が露わになった。

 さらに指を組み替え――――彼女の背に、翼の様に腕が生えた。

 半透明の腕の幻影、それらはそれぞれの指で異なる印を組み、

 

『タウロス・レオ・リブラ・カプリコーン・スコルピオ・サジタリウス・ヴァルゴ・ジェミニ・アリエス・アクアリウス・キャンサー・ピスケス!』

 

 足元に黄道十二星座を示すシンボルによって魔法陣が展開。

 それだけではなく。

 目下、王都アクシオスの十二角形の城壁に同じものが浮かび上がった。

 即ちそれは王都一つ分、約二万人が住む都市と等しい直径約五キロの超巨大魔法陣だ。

 それは元々王都の十二角形城壁に仕込まれていたものでもある。

 大戦時代、人類連合軍の魔族に対する最終防衛都市として設計された王都には、ここまで攻め込まれた時のために都市を囲む防御結界が展開可能なのだ。

 この話はそれなりに有名な話であり、魔族という人類の敵対種がいるが故に各国のある程度の大きさの街には似たようなものがある。

 アルマはそれを強制的に起動させ、自らの魔法と接続していた。

 

『宙に描くは無限の想像!』

 

 紡いだ言葉はアース326の世界法則。

 宇宙、星々と深く繋がった世界であり、天文学、占星術による魔法が発展した世界。

 かつてエウリディーチェは問いかけ、トリウィアは答えた。

 人は星を見ればそこに絵を描くと。

 星座だ。

 冷静に見れば、どれだけ星を繋いでも星座が示す絵にはならない。

 けれど人々はそこに想像を伴うことで宙の絵を生み出した。

 故に、アース326の概念法則は王都の十二角形結界を黄道十二星座とリンクする想像を実現させることが可能なのだ。

 そうした。

 

広がり巡れ(イマジネーション・オブ)輝く願いの一番星(トゥインクルスター)!』

 

 空へ突き出した右手の先に生まれる直径五キロの十二角形魔法陣。

 王都の地上に浮かんでいたものがそのまま転写される。

 

「―――!」

 

 転写と激突は同時だった。

 遥か天空から降ってきた光。

 それは言ってしまえば砲撃だ。

 成層圏から降り注いだ極大のプラズマエネルギー。

 そのまま大地に突き刺されば、王都が丸ごと蒸発していただろう。

 

「冗談じゃない、世界観考えろってんだ……!」

 

 突き出した右腕を左手で支えながらアルマは愚痴を吐き捨てる。

 光の墜落はたっぷり十数秒。

 その間星図の障壁は空間に軋みを上げながらも確かに王都を守り切った。

 

「やれやれ……この前は巨人で次は怪獣か」

 

 だが、それで終わりではない。

 アルマは天空を見上げ、睨みつける。

 成層圏から今の光波を吐き出したものが、降りてくるから。

 同時に、先ほどまで晴天だったはずの空が急に曇り出し、引き裂くような震えがある。

 雷雨の前兆。

 そして暴風の主人の訪れを告げるものだった。

 逆落としの体勢で頭から落ちてくるのは蛇龍だった。

 純白に近い鋭い刃の鱗、小さな四肢はあるが全体から見ると小さすぎてトカゲに進化しかけの出来損ない蛇のようにも、東洋の龍にも見える。あるいは全体に数対の細い爬虫類型の翼も頼りなく見える。

 問題は、その大きさだ。

 全長にして400メートル近い巨大生物。

 太さは5メートル程度と、全長に比べれば細い気もするが気のせいだろう。

 それがなんであるか、アルマは知っていた。

 神代の時代、嵐と雷、そして天災の象徴とされた上位存在。

 人と神が交わる中、それらに一切の関心を見出さず人が立ち入れることのできない遥か天空にて微睡む蛇。

 現存する御伽話。

 生きる伝説の一つ。

 

「――――テュポーン」

 

 ギリシャ神話において曰く。

 多くの怪物魔物の父であり、最高神ゼウスを一度破りながらも、その雷霆を持って封じられた生ける天災。

 すなわち、ゼウスですら殺すことができなかったギリシャ神話世界最大クラスの龍。

 それと同等のものが今この王都に降り立とうといている。

 

「ゼウィス・オリンフォスを思うとなかなか皮肉が効いてるが―――ん?」

 

 呆れ気味に呟いた瞬間だった。

 まだ蛇龍まで距離があるから、どうするかと思った時。

 戦闘時のアルマの周囲には常時不可視の防御魔法陣が展開されており、一定威力・概念強度を持つ攻撃をシャットアウトするのだが。

 

 ぽつりと空から舞い降りた水滴が、()()()と音を立てて防御術式を焼き付けた。

 

「マジかこいつ。成層圏で何食べたらそうなる?」

 

 強酸性の雨だ。

 人間の強度的には勿論、アース111の建設技術ではこの雨が5分降れば王都が滅びるほどに強い。人間なら1秒間全身に浴びただけで焼け爛れるだろう。

 テュポーンが引き起こす嵐はそれで構成されているのだ。

 

「…………やることが、やることが多い」

 

 流石に愚痴がこぼれた。

 空から飛来する全長400メートル超のバケモノをどうにかすること。

 天災蛇に付随する強酸性の嵐を対処すること。

 さらにはそれらの被害を眼下の王都に出さないこと。

 一先ず目の前の仕事だけでそれだけを熟さなければならない。

 

「あー……もう。この世界ならのんびり暮らせると思ったのに。ヘラめ……徹底してるな。こんなの出されたら、僕も片手間というわけにはいかない」

 

 思わずため息が出る。

 一度、目を閉じ、肩から力を抜く。

 息を吸い。

 目を見開いた。

 迫る災厄を見据え。

 開眼する真紅に輝く瞳。

 

「――――――いいだろう、少し本気でやろうか」

 

 ぞっとするほど冷たい声で、マルチバース最高の魔術師はその真価を発揮する。

 胸の前で横にした両手の甲を重ね、右手は上を、左手は下を向ける。それぞれの手で、それぞれの印を組み、それぞれの魔法を行使。

 五本の指が印を結ぶ動き、関節を曲げた角度、それら全てが高度に圧縮された魔法の詠唱だ。

 ()()()()の術師が同じことをすれば数日、数週間準備をしてできるかどうかというものを手の動きだけで凝縮し、一瞬で構築する。

 完成させた。

 まずはテュポーン。

 数秒後には王都に至る蛇に対し、

 

「契約を果たしてもらおう―――」

 

 左手を握り、開いた右手を突き出し、手首を捻った。

 まるで、扉の鍵を開ける様に。

 

「―――――()()()()()!」

 

『■■■■■■■■――――――!!』

 

 絶叫が天空に嘶く。

 アルマの背後の空間に亀裂が入り、灼熱の溶岩と極冷の氷塊で構成された両手が突き出された。

 亀裂がこじ開けられ、炎と氷の魔人がその身を踊り出した。

 中空に現れた50メートル規模の巨人は次いで展開された足場の魔法陣に降り立ち、アルマもまたその肩に立つ。

 

「ル・ト! あいつどうにかしろ!」

 

『ハッ―――テュポーンか! 懐かしい、虫けらに良い様にされているなァ!』

 

「君だってヘラに無理やり起こされて暴れてただろ!」

 

『分かっている! だから貴様に力を貸してやるというのだ魔術師!』

 

 声は火山が噴火するかのように重々しい。

 先月の≪龍の都≫において。

 帝国の果ての氷の大地に眠っていたル・トはヘラによって眠りを妨げられ、アルマへの時間稼ぎに使われた。それをアルマが落ち着かせ―――叩きのめしたとも言う―――来るべき時に向けた戦力として契約をしていた。 

 即ち、ヘラに対し鼻を明かす為なら協力してもいいということだ。

 

『何をしている魔術師! とっとあの女を殺しに行け!』

 

「あほか。君たちが怪獣大決戦したら王都が消えるだろ」

 

『我は構わんが?』

 

「僕は構う―――来るぞ!」

 

 ついに同じ高度まで落ちて来たテュポーンに対して、ル・トが取った行動は単純だった。

 その場で跳躍し、飛びついたのだ。

 

『■■■■―――――!』

 

 災厄の蛇と炎と氷の巨人が王都の上空で絡み合う。

 長大でありながらテュポーンはその体をル・トの全身に絡みつき、戦闘に際して逆立った鱗が刃のように氷炎の体を削っていく。ル・トもまた纏わりつく蛇の体を両手で鷲掴み、超高温と超低温をぶち込んでいく。

 暴れながら巨人と蛇は熱と氷と酸をまき散らしながら真っすぐに王城へと落ち、

 

「中々見ない怪獣大決戦だが―――」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

『お、おぉ……?』

 

 ル・トでさえ思わず声を漏らす光景。

 王都全体に亀裂が入り、砕けたガラスのように散っていく。

 落ちた先には――――また王都と同じ街並みがあり、さらに天上には逆さまになった同じ街がある。

 言葉にすれば意味が不明だが、そうとしか表現できない世界にアルマたちは入り込んでいた。

 空中でテュポーンを引きはがし、街に降り立ったル・トが降り立つ。

 両足で大地を踏みしめ、瓦礫が宙を舞った。

 いぶかしげに世界を見回す。

 

『ぬぅん! …………なんだ、これは魔術師』

 

「王都全体の空間をループさせて作った位相空間だ。君を呼び出した時点で、降っていた酸の雨ごとこっちに送ってたんだよ」

 

『酸……溶ける雨か、アレは厄介だぞ魔術師』

 

「分かってるよ。このレベルはマルチバースでも早々いないんだけど……アース111、困ったもんだな」

 

 100メートル離れた距離で蜷局を巻くテュポーンに息を吐く。

 自在に空を舞い、プラズマの息吹を吐き、酸の嵐を呼び起こす怪物。

 まさしく神に相応しい。

 

「それに―――」

 

 アルマは片目を閉じた。

 現実空間へと視界を飛ばし、王都を俯瞰する。

 既に異変は起きている。 

 情念の獣。

 砂に泳ぐ蟲。

 狂う龍。

 

「良い、とは言えないが最悪でもない。()()()()()()を考えるに別のアースへの門を開けるのは避けたいが――――ふっ」

 

 笑みが零れた。

 既に知っている顔のいくつかが、その異変の対処に乗り出してたから。

 危機はある。

 それはこれまでの戦いと同じ。

 けれど、信頼できる仲間がいる。

 それはこれまでの戦いとは違う。

 この世界で生きるアルマが信じられるこの世界の人間がいるのだ。

 その事実が、何よりもアルマにとっては特別で。

 幸福、なんて言ってもいいかもしれない。

 

「いいさ、踊ってやろう、ヘラ。ヴィーテフロア・アクシオス。――――()()()()()()()()()()を、舐めるなよ」

 

 

 

 




前後の緩急

アルマ・スぺイシア
まあまあ本気
大規模防御結界
街一つ丸ごとの位相空間
魔人召喚
このあたりを片手間でやる女

ル・ト
召喚獣


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パール・トリシラ――昼と夜の下に――

 

 その日、王都の民が見た異変は頭上に展開された巨大な魔法陣だった。

 都市の全域を覆うほどの巨大な魔法陣が現れたと思えば、莫大な光が弾けた。

 成層圏から飛来したテュポーンのブレスをアルマの星図魔法陣が受け止めたものによるものだ。

 次元世界最高の魔術師のそれは王都一帯を蒸発させるだけの破壊を完全に受け止め、空気の震えさえも生み出さなかった。

 次の瞬間にはアルマはル・トの召喚と同時に自分たちを位相空間を転移したので、世界が光に包まれたと同時に終わっていたことになる。

 魔法陣が生まれ。

 光が全てを包み。

 全ては元通り。

 誰もが一瞬の白昼夢とかと思うような連続で。

 

 ―――――直後、王都の城壁が轟音と共に崩壊した。

 

 北、南西、南東。

 王都アクシオスを三角形で結ぶような配置で、都市を守るはずの城壁が粉砕される。

 

 北では角を持つ三つ頭の獣が。

  

 南西では、鋭利な顎を持つ大百足が。

 

 南東では瘴気に身を犯された三体の龍が。

 

 一体一体が家屋一つ分ほどの巨大さとその十倍の破壊を生み出す暴虐が人の都へとなだれ込んだ。

 そして。

 迫る危険はそれだけではない。

 城壁の破壊は三か所。

 それとは別に、街のあちこちに滲む影があった。

 浮かんだ影は瘴気を生み、いくつかの形を取る。

 動物であり、魔物であり、瘴気で構成された生き物だった。

 一匹や二匹ではない。

 無数、と言っていい数が数十秒足らずで生まれ出る。

 その存在に対し、反応は二分される。

 なんであるか分からず、現状を理解できない者は未だほとんどが二十歳程度の若者たち。

 逆に瘴気の怪物たちを目に、稲妻に撃たれたように驚愕したのは彼らよりも歳を重ねた者達だった。

 そのうちの誰かが叫ぶ。

 

「――――魔族だ!」

 

 

 

 

 

 

「な、なんだよ……!」

 

 王都南西。

 冒険者の少年は現実が受け入れられずに声を漏らした。

 遠く強固なはずの城壁を破壊した大きな百足のようなバケモノに、それに付き従う様に出現した瘴気の生き物。

 少年は見たことがなかった。

 彼は王都に来て見ていたのは夢と現実だった。

 王国の小さな村で久方ぶりに生まれた十系統保有。もてはやされて自分なりに鍛えたがそれでも名高き王都の魔法学園に入学することは叶わなかった。

 だから王都に来て冒険者になって一旗上げようとし、現実を突きつけられる。

 冒険者なんて言ってもやることは日雇いの労働者であり、何でも屋だ。広い街で流通の中心なので街の清掃から他の街への交易の護衛等もあるが。単発の仕事が続いているのには変わりはない。

 輝く様な未来が待っている魔法学園の生徒たちを横目に、地道な日々を過ごすばかり。

 そんな少年のような者は珍しくない。

 魔法学園を夢に見て、しかし敗れた若者はいくらでもいる。

 そして今。

 見ているのは現実か―――或いは悪夢だろうか。

 

「きゃあああああ!」

 

 絹を引き裂いたような悲鳴は一つだけではない。

 恐慌と驚愕は連鎖し、伝播する。

 目に見えた危険はやはり瘴気の怪物、魔族だった。

 目の前にいるのは人間大サイズになった、蟻や蟷螂、蜘蛛のような虫の形を持つもの。六本の足と胴体にはそれぞれ刃のような角があれば、鎌のような前足がある。

 それが軍勢となって街へなだれ込む。

 

「そ、そんな、どうすれば―――」

 

 少年は動けなかった。

 けれど魔族は迫ってきた。

 

「ぎゃああ!」

 

「ま、待って、置いていかないで――!」

 

「せめてこの子だけでも助け……!」

 

 逃げ惑う人々は声を上げ、しかし容赦なく蟲たちがその命を刈り取る。

 角で腹を貫かれ、鎌で胸を裂かれ、顎が頭を食らう。

 ほんの少し前まで活気に満ちていた町の一角があっという間に地獄絵図へと変貌していた。

 

「あ、あ……あぁ……!」

 

 少年は動けなかった。

 目の前の惨劇に思考が追い付けなかったから。

 魔物と戦ったことはある。

 だが魔物とは魔という言葉が付いている通り、魔法を使える動物のことだ。

 こんな瘴気を発し、それでいて生命を感じさせないものではない。

 変わらず動けず、どころか震えるだけで。

 迫って来た虫型魔族が振り上げる鎌のような前足を見ているだけだった。

 

「―――何をしとるか!」

 

「!?」

 

 瞬間、少年は誰かに掻っ攫われた。

 

「こんな時に呆けておるとは死にたいか!」

 

「っ……あ、アンタは……!?」

 

 少年を担いで飛び退いたのは知り合いの老人だった。

 行きつけの食堂で日がな一日酒を舐めるように飲む、ぼんやりとした昼行燈。そんな彼がかつてない鋭い目で、声を上げる。

 

「魔族が出たらシェルターに逃げる、そんなことも知らんのか!」

 

「しぇ、シェルター……? そんなのあんのか……?」

 

「かっー! これだから若いもんは! とっと逃げい!」

 

「じーさん、アンタ一人でそんな……!」

 

 言って気づいた。

 少年を庇う様に現れたのは老人だけではない。

 

「小僧、詰所だ詰所。衛兵の詰所の地下にゃこういう時の為のシェルターが街のあちこちにあるんだよ」

 

「二十年前に作られて、結局使われなかったからなぁ。知らなくても仕方ないのか? けどガキだって知ってるだろ」

 

「王都出身ならそうでしょうがね。地方から出て来た若い子は知らなくても無理はないでしょう」

 

「おーい、まともな武器持ってきたぞ! 鍋やら棒切れ振るうよりはマシだろ!」

 

 大通りで八百屋や武器をやっている男たちがそれぞれ前に出た。

 普段、普通の日々で、普通の生活を送っている者たちはしかし魔族を前にしても落ち着いていた。

 彼らは皆、四十を超えた中年から老年になる男たちだった。

 

「なんでそんなに落ち着いて――」

 

「ふん、若造じゃのう」

 

 鼻を鳴らす老人は数打ちの長剣を握る。

 その姿は妙に似合っていた。

 

「お主のような若輩は王都に夢見て来たんじゃろうが―――わしらのような老骨は、戦うために来て、戦いが終わったが故にこの街にい着いたのじゃ」

 

「おいおい団長! 俺らはまだだいぶ若いだろ! 五十だぜ! せいっ!」

 

「私はまだ五十超えてませんが……はっ!」

 

「やかましい! 大して変わらんわ! あと元団長じゃ! 今は宿屋の酒舐めおじいちゃんじゃ!」

 

「それもそれでどうかと思う―――がっと!」

 

 言葉を交わしながら彼らは迫る魔族に対し連携を取りながら倒して行く。

 老人でさえ、驚くほどに機敏な動きで剣を振るっていた。

 魔族の襲撃に、普段は店の親父という人たちが戦っている現状にまたもや少年の思考が止まり掛け、

 

「おい、小僧!」

 

「は、はい!」

 

「ミリアとハリーに伝えてくれ。愛してるってな。嫁と息子だ」

 

「―――」

 

「あ、俺も頼むわ。ミディとフォーン、それに子供たちにもな。せっかく嫁さん二人でウハウハだったのによ」

 

「私はハロルドに。……まぁ彼も戦っているかもしれませんが」

 

「おめーせっかく帝国からこっちに移って法律的にも結婚できたのになぁ」

 

「仕方ないですね」

 

「―――あ、あんたら」

 

 そんな、遺言みたいな。

 なんてことを思いながら理解してしまう。

 みたいなではなく。

 遺言なのだ。

 彼らはこの魔族たちの群れに立ち向かう。

 死ぬと分かっていても。

 

「小僧」

 

「じ、爺さん、アンタも――」

 

「いや、わしはいらん。言うべき相手は先に逝っちまったからの」

 

「―――」

 

「逃げるのじゃ。詰所の下、シェルター。そこなら衛兵やら騎士団やらがいるはずじゃ。あっちの大物はサンドワームだから地下のシェルターも安全ではないかもしれん。やつらは大地を掘り返すからの。なるべく足止めするとだけ、シェルターの責任者に伝えい」

 

「で、でも――」

 

「やかましい! 行けっ!」

 

「……!」 

 

 言葉は有無を言わせなかった。

 そこにあったのは決意なのか諦観なのか分からない。

 ただ余りにも重い何かに突き飛ばされるように少年は走り出した。

 

「っあ、あ、あああああああああああ!!」

 

 喉から声が溢れ出す。

 言われた通りに一直線に。

 背後から野太い声と何かが何かを切り裂き、断ち切る音。

 そんなものが、街のあちこちで生み出されていた。

 子どもを庇おうとする母親も。

 自分よりも幼い子供も。

 魔族を食い止めようと武器を手に取る誰かも。

 どこからか沸き上がる魔族が逃げ惑う人々を殺し、それに抵抗する人々が武器や魔法を振るう。

 駆け抜けながら少年は見ていた。

 魔族。

 親から聞いてた言葉の意味を知る。

 人類の敵対者。

 倒す為に全ての国が力を合わせなければならなかったバケモノ。 

 少年が生まれる前に滅ぼされ、人々からその記憶が消えて行こうとしていたはずなのに。

 

「くそっ……くそっ……なんでだよ……!」

 

 吐き捨て、走り、涙が滲み。

 果てに、老人に言われた詰所に辿りつき。

 少年は見た。

 

「くそっ! なんとしてもここで食い止めるんだ!」

 

「不味い、エレンがやられた! 誰か後方に!」

 

「ダメです、下がってください!」

 

「いやぁー! まだ私の子供が外にーっ!」

 

 また新しい惨劇を。

 詰所は並ぶ建物の角にあり、三階立てのそれなりに立派な石造りだ。

 これでも王都のあちこちにある衛兵の詰所としては平均的な、或いは少し小さめのものであるという。

 衛兵たちは戦っていた。

 多くの虫型魔族に囲まれながら。

 

「……そ、そんな」

 

 どう見ても魔族の方が数が多い。

 5人ほどの兵に20体近い魔族が群がっている。

 鎧を纏い、剣と魔法を振るう衛兵たちは勇敢に戦い魔族を倒して行くが、そのスピードが追い付いていなかったのだ。

 怒号と悲鳴、魔法の発動音が木霊する。

 

「こんなの、どうすれば―――」

 

 絶望を口に漏らした瞬間だった。

 

『―――雨は火天の槍が如く(アグニ・マハートミャ)

 

 炎のように苛烈に。

 流水の矢が全ての魔族を貫いた。

 そして気づく。

 詰所の屋根の上。

 カラフルな布で構成された聖国の儀礼服を纏い、弓を握る少女がいることを。

 

 

 

 

 

 

「戦士団は散開! 魔族の討伐、大楯と瓦礫でバリケード設置、要救助者の確保を同時並行! ここに一時的な防衛ラインを構築する!」

 

「昼と夜の下に!」

 

 引きつれた聖国の戦士団に命令を飛ばしながら、パール・トリシラは詰所の屋根から飛び降りた。

 王城大広間における出来事は判断の連続だった。

 アルマが消え、すぐにヴィーテフロアも消え去り、世界が光に包まれた。

 そして、破壊された城壁と出現する魔族だ。

 状況は誰も把握しきれなかった。

 王権から切り離されたとはいえ王女であるヴィーテフロアの宣戦布告なんて大問題。

 本来ならば王国に対して糾弾と調査が必要だった。

 だが、各国の王たちはそれを選ばなかった。

 アクシオス王ユリウスへの監視は行いつつ、判断を行った。

 王として。

 魔族に対する判断を。

 

「―――即ち、『民を守れ』よ」

 

 誰かの血が流れた大地に降り立ち、愛用の()()()を握りながらパールはそれを口にする。

 そうしなければ、魔族には勝てない。

 パールは知らない過去の大戦でそれが証明されている。

 特に聖国は足並みを揃えず、足を引っ張り合った経験がある故に。

 ユリウス王とアクシオス王国や共和国への疑念はあれど、動かざるを得なかった。

 

「あ、あの! すみません、貴女がシェルターの責任者、ってやつですか!?」

 

「あら?」

 

 声をかけて来たのは聊か貧相な皮鎧の少年だった。

 彼は無傷のようだが目じりに涙を浮かべて震えている。

 

「あの、その……俺……俺、あ、貴女に伝えないと、いけな……いけないと……他にも託されて、それで……!」

 

「……えぇと」

 

 惨劇のショックのせいか言葉が支離滅裂なことになっている。

 パールは懐からシュシュを取り出して、慣れた手つきで髪をサイドテールにする。

 そして、

 

「―――わぁ!」

 

「わぁ!?」

 

 大きな声で少年を驚かせた。

 

「え、なに? なんですか!?」

 

「ちょーっと落ち着いてねー? 大丈夫ー? はい、深呼吸、吸ってー、吐いてー?」

 

 掌を上下させて呼吸を促す。

 

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」

 

「落ち着いたかなー、君?」

 

「は、はい!」

 

「ならよぉーし! それで? 私に何か用かな、言いたいことってなんだろ?」

 

「っ……城壁を壊したやつなんですけど、あれはサンドワームだから――」

 

「―――大地を掘り返すって?」

 

「は、はい、そうです!」

 

 驚いた少年ににっこりとほほ笑み、

 

「ありがとう。他にあるかな」

 

「他は……その、俺や周りの人を庇ってくれた爺さんたちが、きっとまだ戦って……っ」

 

「―――――」

 

 一瞬、パールは目を細め、

 

「りょーかいっ! ありがとね、君は勇気がある! あとは私たちがやるから、街の真ん中の方に逃げて。中央はまだ魔族がいないから」

 

「お……俺にも何かできることはないですか!?」

 

「んー、じゃあお年寄りとか子供とか、途中で動けない人がいたら運んであげて欲しいな」

 

「分かりました!」

 

「よろしくねー!」

 

 少年ははじき出されたように飛び出した。

 きっと、何かをしたかったんだろう。

 無力ゆえに生かされたから。

 できないことだらけだと、何か代わりのできることをしたくなる。

 それが、パールには分かった。

 

「―――さてと」

 

 視線を変える。

 遠く、サンドワームへと向き直り。

 刹那、眼前に魔族が飛びかかって来た。

 

「――――」

 

 広がった鎌のような刃が付いた前足。

 抱きしめるように広げ、そして数瞬後にそれが閉じられればパールの体は両断されるであろう。

 パールのアメジストの瞳が見開かれる。

 そして、次の瞬間、

 

「―――――何をしている、愚鈍な女よ」

 

 魔族の頭部に短剣が突き刺さった。

 それは細かく高速で震え、刺さった箇所から振動が広がり魔族を爆散させた。

 残るのは瘴気の残滓だけ。

 

「………………何って、生存者から貴重な情報を聞いていただけだけど?」

 

 嘆息をしつつ、シュシュを外す。

 学園ではキャラクターのスイッチとして使っていたけれど、なんだかめんどくさくなってきた。

 

「それで隙を晒すとは……愚鈍は訂正しよう。愚劣と言うべきだな」

 

「うるさいわよ不敬者。気づいてなかったわけないでしょう」

 

 言い捨てて、声の主を見る。

 地面に落ちた武骨な曲刀を拾う、鉄の男。

 黒の質素な儀礼服の下には褐色の肌があり、顎から頬に掛けた髭があり、無機質な黒い瞳は遠くサンドワームを見ていた。

 パールもまた今度こそ視線を向けた。

 巨大な大百足は城壁際で蜷局を巻いているだけで、その場から動く様子は今の所はない。

 

「……見たことのない種だ。加えて言えばかなりの大物だな。そうそう見るサイズでもない」

 

「エウリディーチェ様曰く、≪シャイ・フルード≫……おとぎ話の大きなサンドワームに連なる子らしいわよ。それが連れてこられて暴れさせられているみたいね。どう倒す?」

 

「おとぎ話が現実に出ようとも、一見してサンドワームとわかる。ならばやることは同じだ。早々見ない大きさだが、見たことが無いわけではない」

 

「なるほど」

 

 頷き、

 

「パール様! バルマク様! バリケードの設置が完了しました!」

 

 部下の報告が届いた。

 詰所から大通りに設置用の大きな盾と瓦礫を置いた上で土系統の魔法で補強した促成の防衛陣地が作られていた。

 

「結構。半分はここに残って防衛線を死守、もう半分は分散して民衆の救助を」

 

「はっ! 昼と夜の下に!」

 

 戦士は一度額に手を当てた後、左手で胸の中央に手を当て頭を軽く下げる。

 そしてすぐに命令を周りに伝達し、実行に移る。 

 彼らはやるべきことをやってくれるだろう。

 ならば、

 

「あの大物は私たちでやるわよ、頑固者」

 

「命令をするな、不遜な女」

 

「残念。貴方は私の部下ということを忘れたかしら? 次いで言えば各国会議が終わるまでは一番下っ端よ」

 

「………………ここで戦死しておくべきかもしれん」

 

「あはははは!」

 

 苦々し気にバルマクは呟き。

 らしくもなくパールは高笑いをし。

 明るい少女と暗い男は、全く同時に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 踏み出しが同時なら、使用した魔法もパールとバルマクは全く同じだった。

 それは足音から生んだ高周波だ。

 バルマクからは重く低く、パールからは高く澄んだ音が鳴り渡り、大地を踏みしめるごとにそれは連続する。

 

「――キチチ」

 

 続いた音は、魔族たちが漏らした鳴き声だ。

 周囲にいた魔族がその音に反応して集まってくる。

 二人が用いた魔物寄せの魔法によるものだ。 

 本来、砂漠で魔物や食料になるような生き物をおびき出すための魔法であり、固い地面で同じ効果を生むのは難易度が高いが、二人は当然のよう行使する。

 結果的に周囲一帯の魔族が二人へと殺到した。

 節足動物特有の()()()()とした生理的嫌悪感を生む機動。

 建物を、地面を這い回り人を殺すことに特化した怪物が迫りくる。

 

「――――」

 

 その群れをバルマクとパールはそれぞれが握る双剣で突破した。

 バルマクは体をコンパクトに、最短直線の動きを以て魔族たちに切り込む。

 パールは体を大きく伸ばし、最大曲線の動きを以て魔族たちを押し込む。

 高速で突っ走ることで前に進みながら、だ。

 

「ハッ!」

 

「シィィィィッ!」

 

 その呼気は短く重い。

 その呼気は長く鋭い。

 バルマクの斬撃は衝撃波を生み、魔族の体を崩壊させ、眼前に道を作り。

 パールの斬撃は炎を纏い、魔族の体を燃やし、撃ち漏らしを掃除する。

 或いは、時にパールの炎刃が道を生み、バルマクが放った衝撃波が掃討を行う。

 数メートル進むことに十に近い魔族が迫り、消滅させていく。

 前後を入れ替え、左右にすれ違い、前へ前へと。

 二人が振るう二対の刃が一本の道となる。

 

「――――腕は落ちていないようだ。教えた者が良かったらしい」

 

「いいえ、教えたアホが悪かったから私が頑張ったのよ」

 

 軽口を叩き合いながら、しかし視線が交わるわけでもない。

 互いを庇う様子はないのに、連携として完成されている。

 かつて聖女として聖国の宮殿に招かれた少女とその少女に対して戦い方を仕込んだ男だから。

 そんなことを言ったらパールは笑顔で怒りを爆発させ、バルマクは呪詛のように否定するだろうが。

 パールが魔法学園に入学するまで毎日のように口論をし、口論で済まなければ武芸で競い合った過去は変わらない。

 

「―――――ぁ」

 

 途中、パールはあるものを見た。

 それは子供ごと体を貫かれた母であり。

 一緒にバラバラにされた老夫婦であり。

 腹を食い荒らされた子供であり。

 そして最後まで戦い、抗ったのであろう老人や男たちだった。

 パールの胸の奥に燃え上がるものがある。

 それは怒りであり、義憤だ。

 こんなこと光景は許してはならない―――烈火のように燃え上がる激情。

 

「無粋者」

 

「言うな、感傷の女よ」

 

 魔族の群れをぶち抜きながら、しかし二人の言葉は静かだった。

 

「これが魔族だ。これが戦だ。これが死だ。潤沢な井戸がある日枯れる様にそれは無慈悲に訪れる。違いは、これから訪れるものを止めることができるということだけだ。ならば、そうする他ない」

 

「――――そうね。そうだわ」

 

 心は燃え上がる。

 だが思考は冷徹に。

 程度の差はあれど二人が信仰する双聖教の教えのように。

 相反する二つの極点の中心に自らを置くのだ。

 そして。

 

「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 鼓膜を破る様な甲高い絶叫。

 それまで城壁近くにいたサンドワームの方向だ。

 サンドワームという魔物は体表に水分を奪い劣化させ砂状に変える魔法を展開している。

 それにより砂漠の海を自在に泳ぎ、通常の地面であっても砂漠に変えてしまう。

 そんなものが放置されたらどうなるか。

 王都の三分の一は瞬く間に砂の海に沈むだろう。

 魔法による戦闘を行えない者なら満足に逃げることも叶わない。

 故に止める。

 

「キシャアアア!!」

 

 サンドワームは自らが生み出した砂道を泳ぐように迫る。

 その速度はパールとバルマクの疾走速度を超え、ほんの数秒で辿りつくだろう。

 砂を泳ぐサンドワームは固い地面を走る馬より早い。

 全長三十メートル近く、幅は一メートルと少し。大量に分かれた節には鋭い棘、頭部の顎は二メートルを超える巨大なギロチンだ。

 轟風すら生み出しながらパールとバルマクに突っ込み、

 

「――――やるわよ、合わせなさい」

 

「お前が合わせろ」

 

 二人は足を止めた。

 数秒後には巨大な顎と巨体に引き裂かれ、押しつぶされるだろう。

 そうさせないために、

 

『―――≪聖戦儀(ジハーラスラマ)≫』

 

 二人は同時に自らの持つ全ての系統を発動させた。

 王国の≪究極魔法(アルテマ・マジック)≫。

 帝国の≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫。

 皇国の≪神髄≫

 亜人連合の≪絶招≫。

 そして聖国では≪聖戦儀(ジハーラスラマ)≫。

 個人の保有する魔法系統の同時発動に他ならない。

 

「――フン!」

 

 バルマクは双曲剣を大地に突き刺し、

 

『――――≪神が鉄を下し(アル・ハディード)人は授かるだろう(・アンザルナー)≫』

 

 振動が波の様に伝播した。

 

「キシャア!?」

 

 変化は劇的だった。

 サンドワームが生み出し、自らが泳ぐ砂の道。

 それの砂が鋼鉄のように固まり、押し潰される。

 ザハク・アル・バルマクの≪聖戦儀(ジハーラスラマ)≫とは広範囲、指向性を持った砂の固定化と荷重・圧縮だ。

 広大な砂漠において自在に動き回る魔物を拘束し、その上で潰すもの。

 もとよりバルマクとは魔物殺しの部族出身であり、聖国でも導師候補として認定されるまでは対魔物討伐部隊の隊長だった。

 ウィル・ストレイトとの戦いでは全力であり、本気であったが使わなかったのはその為に。

 彼の≪聖戦儀≫は対大型・多数の魔物に向けたものであり、対人に使うようなものではない。

 あの時に使っていたら宮殿が砂に沈んだ上で押しつぶされていただろう。

 だから使わなかった。

 だから今は使った。

 長大な体の半分近くを砂粒に埋めていたため、サンドワームの動きは必然的に停止する。

 節々は砕かれ、青緑の体液が圧縮された砂の大地に染み渡る。

 

「キシャアアアアアアアア!!」

 

 それでも、サンドワームの命は尽きない。

 大概の砂に住まう生物ならこれで十分。

 しかし神話に連なるこのサンドワームには、半身を破砕させるだけでは足りなかった。

 

「ここまでお膳立てすれば問題なかろう、不足な女よ」

 

「私のどこが不足してるって言うのかしら、不毛者」

 

「主に肉付きだ。後輩を見習え。そして私は剃っている」

 

「――――アンタごと巻き込んであげる!」

 

 額に青筋を浮かべ、パールは刃弓に、矢を引き絞った。

 それは曲刀の柄を繋げた弓だ。

 トリウィア・フロネシスの握る拳銃のような複雑な機構を持つものではない。あんなのは彼女くらいにしか扱えない。

 ただ柄同士をかみ合わせ、魔法で補強したもの。

 それで十分であり、曲刀の先端同士を魔力の糸で繋げている。

 二刀は弓となり、番えられた水の矢が炎を纏う。

 烈火。

 流水。

 相反する二つを宿した極矢。

 二の腕に血管が浮かび、刀身が軋むほどに引き絞り放つことで二つの相反する性質による対消滅エネルギーを放つ。

 放った。

 

『≪矢は女神の威光が如く(ディーヴィー・マハートミャ)≫――――!』

 

 水火の極矢は一瞬でサンドワームの頭部で到達。

 接触したと同時には顎と頭が爆散。

 さらにはそこから余剰の貫通力のみで地表に露出していた残りの体をぶち抜いた。

 断末魔すら上がらず。

 神話の砂蟲は現代に生きる者たちに討伐された。

 

「………………妙ね、なんでお前も生きているのかしら」

 

「お前にだけは殺されたくないからだ」

 

 愚痴を言うパールに、表情を変えずにバルマクは返すけれど。

 バルマクは最初から射線から避けていたし、パールもまた真っすぐにサンドワームを狙っていた。

 

「―――ふん」

 

 二人はそれぞれ左右に首を振りながら鼻を鳴らし、

 

『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 何かが崩れる音と甲高い絶叫を聞いた。

 

「………………」

 

 二人は見る。

 今しがた倒したはずのサンドワームとよく似た怪物が、追加で二匹現れたことを。

 首を戻し、二人は一瞬だけ視線を交わして、

 

「……………………戦えるわね、不敬者」

 

「こちらの言葉だ、愚劣な女よ」

 

 それぞれが一体づつ、サンドワームへと刃を向けた。

 戦いは終わらない。

 それでも戦うのだ。

 何もかもが終わるまで。

 




少年
夢破れたモブ

じーさんとおっさんたち
大戦時代傭兵とかだったけど、生き残って平和な暮らしをしていたのでしょう


パール&バルマク
仲良し
ギャル&オッサンの喧嘩ップルに需要はありますか!?


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エスカ・リーリオ――ノビジェーロの意地――

 

 ゴウンと、握った大剣の柄から振動と音が伝わるのをエスカ・リーリオは感じた。

 

「こっ、の……!」

 

 良い当たりだという感触。そしてそれが意味をなしていないことも。

 

「ゴアッ!」

 

 短い咆哮と共に、武器ごと体を押し出す巨体。

 鈍色の甲殻と十五メートル近い大きさ。

 強靭な四つ足と尾、退化した翼。

 龍だ。

 それも大地を司る獣型の地龍であり、頭部には牡牛のような一対の角がある。

 鱗ではなく鋼鉄のような甲殻が積み重なり、生命としての圧倒的強度が上位種ということを周りに示す。

 

「うおっ……!」

 

 巨体と双角による体当たりに、寸前で剣を引き戻し盾とした。

 衝撃が、炸裂する。

 

「――――!」

 

 エスカの体が、地面と平行にぶっ飛んだ。

 踏ん張りはしない。そんなことしたら衝撃に体が弾けるという咄嗟の判断からだ。

 二十メートル吹っ飛び、背後の家屋に激突。壁を破砕しながら屋内へと突っ込んだ。

 

「っ……ってぇ……なっ!」

 

 口の中の血の味に思わず呻く。

 そこはごく普通の台所だった。

 自分が押し潰した食卓には食べ掛けの料理があり、ほんの少し前までは住民が食事をしていたことが分かる。

 この人達は逃げられたのだろうか。

 或いは。

 

「…………くそが!」

 

 吐き捨てながら、エスカは立ち上がった。

 王都南東の住宅街。

 その周辺にエスカがいたのは偶然だった。

 明日に控えた学園の入学試験。王都周辺にいくつか設置された試験会場に前日入りして準備を手伝うつもりだったのだ。

 それが、このありさまだ。

 空の光、そして城壁を突き破って来た三体の龍。

 そのうちの一体が鉄牛龍だ。

 

「ゴ、ア、ア……!」

 

 苦悶のような唸りを上げる鉄龍の目に、理性はない。

 カルメンから≪龍の都≫を襲った連中がいて、彼らが数人の龍人を攫ったということは聞いている。詳しいことは教えてもらえなかった――というか、多分本人も理解していない――上に、その直前に片腕を急に生やすというとんでもないどっきりをされたので詳細は分からないが。

 それでも。

 

「龍ってのは、そんなん様ぁ晒して良いもんじゃないだろ……!」

 

「ゴアアアアアアア!」

 

 咆哮にいかなる感情があったのかは読み取れない。

 それでも魂を軋ませるような咆哮を以て鉄龍は突進を行った。

 

「ッ……!」

 

 対し、正面から迎えようと大剣を構え、

 

「―――――無茶ですよそれは!」

 

 鉄龍の眼前に、斧槍が振って来た。

 それを握るのは鬼種の少女だ。

 小柄な体、切り揃えられた前髪と長めのボブカットは金糸雀色に、同じ色の二つ角。

 制服姿だが、規定のジャケットではなく法被とかいう薄い羽織姿。

 斧槍を地面に突き刺し、鉄龍の双角と接触する直前、

 

「≪鬼道・跳ぬ石波≫……!」

 

 大地から何本の石柱が立ち上がり、鉄龍を覆う様に突き刺さる。

 それらの先端は鋼の甲殻と激突し、砕けるがそれでも動きを止めた。

 ほんの数秒だ。

 だがその僅かな停止の中、鉄龍へと駆ける影がある。

 装飾が施された細剣を握る薄い青の短髪。

 首元には黒のスカーフが巻かれ、制服の裾や襟にはフリルが追加されている。

 駆ける少女は、石柱を蹴り、

 

「≪苛烈なるは剣の舞踏(ヘフティヒ・シュベールト・タンツ)≫―――!」

 

 踊るように乱斬撃を鉄龍に叩き込む。

 ほぼ同時に十五閃。

 鋼鉄の装甲を割るには至らない。

 突進から停止、そこからさらに押し込んだが動きが止め切ったわけでもなかった。

 もう一押し。

 龍という生命に対し、体勢を崩すだけでもまだ足りない。

 

「―――――≪砲迅の赤矢(サギタ・エルプティオー)≫!」

 

「ゴォア!?」

 

 短くとも、今度こそ悲鳴に近い声が上がる。

 鉄龍の鼻っ面にぶち込まれた炎の矢だ。

 炎矢は炸裂と同時に指向性を持った爆撃となり、鉄龍を吹き飛ばす。

 石柱が足を止め、剣舞が動きを抑え、そして爆炎の矢が鉄龍がついにひっくり返したのだ。

 

「今、のは……!」

 

 家屋に空いた穴を出たエスカは見る。

 少し離れたところに弓を構えた少女がいる。

 赤い髪のツインテール。規定通りの制服を着崩し、腕には腕章が。

 刺繍された文字は『W×A』。

 それは法被とスカーフにもそれぞれ目立たぬように、しかし仕込まれているのをエスカは知っている。

 

「お前たちは……生徒会長とスぺイシアの厄介追っかけトリオ……!」

 

「ノゥ!! 『アルマファンクラブ』ナンバー1、ティル・ティレリース!」

 

「同じくナンバー2、アンゼロット・アーベライン!」

 

「同じくナンバー3、水流珊瑚!」

 

「変なポーズで見栄を切るな!」

 

 『W×A(ウィルアル)』の腕章とスカーフと法被の背中を強調させてくる三人に思わず声を上げた。

 弓使いのティル、細剣使いのアンゼロット、斧槍使いの珊瑚。

 エスカのクラスメイトにして、アルマ、そしてウィルとアルマの熱烈なファンでもあった。

 ちょっと頭おかしいんじゃないかと思うが、

 

「なんでこんなのが……」

 

「私たちが四五六席なのかって?」

 

「そりゃあ……推しへの愛ですわ」

 

「えぇ。というかエスカさん、あまり強くないんですから無茶しない方がいいと思いますよ」

 

「うるせぇ!!」

 

 どうかしているオタクではあるものの。

 一年主席アルマ・スぺイシア。

 次席フォン・フィーユィ。

 三席アレス・オリンフォス。

 彼女らに続く成績上位者が四席のティルであり、五席のアンゼロットであり、六席の珊瑚なのだ。

 なお、エスカは成績上位どころかビリに近い。

 学園に入って、変な奴ほど強いのがなんだか納得いかない。

 

「……ってそんなこと言ってる場合じゃないだろ。他のとこは大丈夫なのか!?」

 

 災厄は鉄龍だけではない。

 湧き出る魔族に加えて、他にも龍が二体いる。

 蛇型の水龍と鳥型の風龍だ。

 

「大丈夫とは思えないけどね」

 

 ティルは視線を鉄龍に向けたまま答える。

 その顔は険しく、

 

「近場の衛兵が対処してるけど、全然追い付いてない。龍相手だし不死鳥騎士団に応援要請したみたいだけど……どうかな」

 

「どこもかしこも手一杯でしょう。元々各国の評議もあり、王城周辺に警備が集中していましたし、街の外側に来るのには時間掛かるかと思いますわ」

 

「学園の生徒なら魔族はともかく……って感じでしょうしね」

 

「……ちくしょう!」

 

 吐き捨てるが、現実は変わらない。

 だったら、

 

「…………おい、オタク3人娘。ここは俺が食い止めっから、別の魔族やら龍やらの足止めして来い」

 

「はぁ!? 正気ですの!? 私たち三人にエスカさんでなんとか防戦って感じですのよ!?」

 

「だったら――――他の場所、もっとやべーだろ。魔族はともかく、そこらへんの衛兵じゃあ龍はきついぜ」

 

「それは……そうですけど。エスカ君だけでも同じことではないです―――っ!」

 

 珊瑚の言葉の途中。

 振って来たのは羽毛のような鱗だった。

 それ自体が風の爆発を引き起こしながら、ティルたちは咄嗟に跳んで距離を取った。

 見上げたアンゼロットが叫ぶ。

 

「っ……風龍ですわ!」

 

「シャアアアアアアアアア!」

 

 空に身をくねらせる風の龍。

 羽毛と鱗が生えた鳥のような体で暴れまわりながら空を飛んでいる。 

 翼に焦げ痕や突き刺さった槍や矢があり、おそらく衛兵に攻撃に対して暴れまわっているうちに攻撃がこちらに届いたのだろう。

 ここは戦場だ。

 一騎打ちではなく、意図しない横やりが当然発生する。

 ちょうどいいと、エスカは笑った。

 奇しくもティルたち三人と鉄龍、エスカを切り離すような横やりだったからだ。

 

「そっちはそっちでどうにかしてくれよ! それになぁ、舐めんなよ!」

 

 大剣を強く握り、鉄龍の動きを見る。 

 

「ゴアアアア……!」

 

 起き上がった龍は身を引くし、うなりを上げていた。

 対してエスカは剣を構える。

 身の丈はある巨大な片刃の大剣。

 峰の部分が頭身半ばでくり抜かれて持ち手になっており、振り回しやすいようにしたものだ。

 右手で柄を握り、左手で峰の持ち手を支え、

 

「俺は龍に絡まれるのには慣れてるんだ……!」

 

 飛び出して。

 鉄龍の突進に突き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 小さな体が宙を舞う。

 鉄龍の突撃は、質量と速度を伴った破壊の具現化だ。

 石造りの家屋なら数軒ごと突き抜けるだろう。

 人間が轢かれれば吹き飛ぶどころか拉げて原型も残らない。

 

「ゴアアアア……!」

 

 二十メートルほどの突進を完了させ、大地を削りながら足を止めた鉄龍は乱暴に首を振る。

 ≪ディー・コンセンテス≫によって狂気を与えられ、理性を失わされた龍たちには単純な思考がプログラムとして入力されている。

 即ち、人間を殺すということだ。

 魔族の基本理念に近しいそれで突き動かされているが故、膨大な生命力も相まって三体だけでも王都を半壊できるだろう。

 だから、理性無き狂気が次の命を探し、

 

「――――おい、どこ行くんだてめぇ」

 

「ゴアッ」

 

 背後の声に、首だけで振り返る。

 轢いたのは間違いない。

 鋼鉄のようであり、それを超える強度を持つ甲殻で、高速でぶちかましたのだ。

 殺したと判断できる。

 なのに、

 

「ごふっ……俺は……まだ生きてんぞ!」

 

 血の塊を吐きだし、全身から血を流しながらも褐色金髪の少年は立ち上がっていた。

 挑発的な笑みを浮かべた彼はふらつきながらも、剣を構える。

 

「龍だろ? なら、俺くらい殺してから―――」

 

 言葉を遮ったのは鉄龍の尾だった。

 連なる装甲は高速で振るわれれば、衝撃と共に肉を裂く一撃となる。

 地面をすり鉢状に削りながら、一回転をし吹き飛ばした結果を目にすれば、

 

「――――他に行けよ。つまり、俺を殺すまで俺と付き合えってことだ」

 

 ずたずたになった両腕で剣を構えながら、やはり笑う。

 

 

 

 

 

 

「おらぁっ――!」

 

 大剣を振るう。

 同年代と比べて小柄なエスカの身長は155センチほど。

 それとほぼ同等の長さかつ分厚い刃を持つ大剣だ。

 人種であるエスカ・リーリオにその巨大な武器を素面で振るうほどの身体能力はないし、自在に使えるほど身体能力強化の魔法に長けているわけではない。

 彼が使う魔法は軽量化と重量化だ。

 大剣を振るう時は羽毛よりも軽量化し高速で振るい。

 大剣の着弾の瞬間に基本重量の数倍にすることで破壊を生む。

 恵まれない体躯、恵まれない系統。

 優れた同級生や先輩をと共に過ごしながらも編み出された彼の戦闘技法。

 質量の軽重の切り替えには独特のセンスと技術が必要とするが、そこに問題はない。

 ドラムを叩く様なものだと、彼は思っている。

 適切なタイミングで、適切な位置に、適切な速度。

 かみ合えば良い音が鳴る。

 鳴った。

 

「―――――ぎ、ぃ、ぃ……!」

 

 会心の音は鳴った。

 超重量が余すことなく通る重く低い音。

 なのに押し負けるというのは、極めて単純に威力が劣っているからだ。

 鉄塊の巨体に大剣ごと吹き飛ばされる。

 大剣が盾になっても衝撃は全身に伝播し打撃した。

 

「―――!」

 

 浮遊感。

 体が宙を舞い、刹那意識が飛ぶ。

 だが、

 

「ふんなぁっ……!」

 

 今度は両足で着地した。

 

「――――こんなもんじゃねぇだろ、龍様よぉ!」

 

「ゴアアアアア……!」

 

 身を低くした龍が唸る。

 正気は失えど本能は消せない。

 己がそれを引き付けているのだ。

 どうしてこの雑魚は死んでないんのか―――そんなところだろう。

 

「はっ……これくらいしか取り柄がないかんな……!」

 

 エスカ・リーリオは去年の入学試験で滑り込みの合格だった。

 成績も下の方をさまよっているし、単純な戦闘力でも周りに劣っている。

 これでもそこいらの衛兵や正規の騎士よりは腕が立つ自信はあるが、あの学園はそういうものだ。

 一流が前提。

 そこからどうやって超一流まで行くか。

 それがあの学園というものだ。

 エスカの場合、他人に誇れる技術なんてない。

 誇れるのは、

 

「アンタらのお姫様公認の頑丈さだぜ!」

 

 肉体の頑強性、その一点だけだ。

 亜人連合に近い王国西部の生まれのせいか、先祖のどこかで獣人族と交わったらしく、その性質がエスカには色濃く受け継がれている。

 亜人種のような身体的特徴はないが、それでも獣人族やドワーフ族のような純粋な強度があるのだ。

 こんな体質でもなければ、カルメン・イザベラに絡まれていられない。

 当たり前のように吹っ飛ばされるし、ちょっと物理的接触するだけで普通なら怪我をしそうになる。

 あの龍人もそのあたり力加減ができないわけではないので、エスカだから大丈夫なのだろうと思っているはずだ。

 ふざけんな。

 痛いものは痛いんだよ。

 まぁそれで耐久値また上がった感もあるけども。

 

「―――んがあっ!」

 

 今もまた。

 鉄牛龍の突撃を受けながらも、立ち上がり剣を構えることができる。

 双角の直撃は流石に胴体を貫通しそうなのでそれだけは何とか避け、大剣で逸らし、逸らしきれずに吹っ飛ぶとしても。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 視界が赤く染まり、全身に激痛が走り、よく分らない熱があちこちにあり、それでもなお立ち上がり、剣を構えることができるのだ。

 

「ゴアアアア……」

 

 鉄龍が喉を鳴らす。

 その目は狂気に犯されているが、正気だったのなら疑問に思ったことだろう。

 どうしてこの矮小な虫は、なんども立ち上がってくるのだろう、とか。

 知らないけれど。

 そう考えたほうが勢いが出るからそう思うことにする。

 端から見たら死にかけで錯乱しているようにしか見えないだろう。

 実際そんなところだ。

 

「は……はは……なんでか……なんて決まってるぜ……俺は雑魚だからな。雑魚なりに、やれることやりてぇんだ……!」

 

 唐突に始まったこの戦場。

 自分はきっと木っ端の端役だ。

 主人公というのは生徒会長やアルマ、或いはアレスのような人間だ。

 自分じゃない。

 そんな気がするし、きっとそれは間違いではないのだろう。

 悪い奴が何をしていても、エスカとは接点がない。

 エスカ・リーリオの知らないところで物語は動いていく。

 

「けど、な。なぁおい。お前が沢山人を殺すためにあるってんなら、お前を引き付けてるだけでよぉ、そこそこの人数助けてる―――そういうことにならねぇか? なぁ。そういうことにしておけよ」

 

 自分で自分を鼻で笑うけど。

 そう思えば、立ち上がれる。

 剣を握れる。

 

「あと、もっと言うとだな!」

 

 剣を構え、笑う。

 来る龍牛を挑発するように。

 

「アンタみたいな龍を好き勝手してるなんか知らんどっかの親玉の! 思惑を一分一秒でも先延ばしにできてんなら! そりゃあ痛快ってもんだ!」

 

 一歩踏み出し、

 

「気張るぜ、モブの!」

 

 そして、それまでとは遥かに違う速度と威力がエスカを打撃した。

 

 

 

 

 

 

「―――――――っぁ」

 

 一瞬、理解が遅れた。

 瓦礫の山に落ちてから、攻撃されたことに気づいた。

 

「ごふっ……がふっ……はっ……!」

 

 大きな血の塊が口の中で溢れた。

 仰向けで倒れているせいで、吐き出しきれなかったのだ。

 このままで自分の血で溺れてしまう。

 角が脇に引っかかったのか、大きな裂傷もある。

 朦朧とした意識でなんとか横を向き、血を吐きだし、

 

「――――そんなん、ありかよ」

 

 結果の原因を見る。

 無論、それは龍だ。

 そしてそれは龍の変化でもあった。

 鋼鉄を重ねたような甲殻。

 それが()()()()()

 甲殻が逆立ち、空いた隙間から蒸気のようなものが噴出している。

 理解した。

 先ほどの瞬間、吹き出したのは蒸気ではなかった。

 おそらく、魔法によって炎か何かを吐きだしていたのだ。

 火の属性の使い手は、後方に炎を推進力として発し加速を生むことがある。

 主に手の平や足の裏、或いは武器から。

 天津院御影が斧から炎を吐きだし、地上でサーフィンしているのを見たことあるし、いつだったか学園に突撃して来たシュークェとかいう鳥人族も似たような使い方をしていた。

 それを全身の甲殻を以て行っているのだ。

 どれだけの加速と破壊を生み出すのか、考えるだけでも笑える。

 実際、先ほどとは違う場所にいたし、数十メートルの大きな轍が視界の隅にあった。

 エスカは思い、言葉を零した。

 

「―――――あぁ、良かった」

 

 安堵の息を漏らしつつ、それでも彼は無理やり体を起こす。

 先ほどまでの鉄牛龍は全く戦闘状態ではなかったらしい。

 これがこの龍の真価なのだろう。

 それを自分は引き出せたのだ。

 だから、良かった。

 この規模の破壊だ。

 周囲の戦闘している人も目撃しただろう。巻き込まれた人がいないかだけは心配だが、民間人はほとんど避難していたから大丈夫だと信じたい。戦っている人だったらもう祈るしかない。

 ただ、誰かが見ているのなら。

 きっと対抗手段を考えてくれる。

 この噴出加速は初見殺しが過ぎるが、そうでないなら対抗手段もあるはずだ。

 そして誰かが。

 狂わされた龍を止めてくれる。

 

「なら……まぁ、いいか」

 

 なんてことを思いながら。

 それでもまたエスカはゆっくりと立ち上がっていた。

 小鹿の様に震え、息も絶え絶えに。

 血だまりを作りながら。

 それでも剣を握り立つ。

 我ながらよく立つなとは思うけれど。

 それくらいしか誇れることがない。

 

「ゴアァァァ……!」

 

 鉄牛龍が身を引くし、甲殻が加速器として開く。

 一瞬後には神速の闘牛がエスカを引き潰すだろう。

 先ほどはたまたま角が急所を外したが、同じ偶然は期待できない。

 だとしても。

 

「……っ、は……っ」

 

 隠し玉あるなら出せよ。

 そんなことを言おうとして、言えなかった。

 流石に限界だ。

 どうにかカウンターができないかと、実はこっそり狙っていたがこれも無理だろう。

 まぁ、良い。

 

「――――へっ」

 

 モブはモブらしく。

 誰かにバトンを渡せたなら良い。

 そして、激震が全てを打撃した。

 

 

 

 

 

 

「―――――全く、弱いのに無理しすぎじゃ。そこが魅力だから困ったものじゃが」

 

「………………あぁ?」

 

 衝撃は無かった。

 正確に言えば僅かな風圧があり、しかしそれだけだった。

 

「ゴァ……!?」

 

 眼前、鉄龍の双角がある。

 角一本だけでエスカの身長と同じくらいの大きさ。

 

 それが――――エスカの背後から伸びる手が掴んでいた。

 

 長く、そして燃えるような赤い鱗に包まれた手だった。

 龍の手だ。

 片手一本で、鉄龍の噴出突進を受け止めているのだ。

 見上げる。

 背後に、女がいた。

 フリルがふんだんにあしらわれた深いスリットと前合わせの連合風(チャイナ)ドレス。

 灼熱のような真紅の赤い髪と側頭部から生える赤黒の二つ角。

 白い首筋や頬には所々髪や腕と同じ色の鱗が浮かぶ。

 彼女のことを、当然エスカは知っていた。

 

「――――カル、メン」

 

「然り。龍人族のカルメンさんじゃ。頑張ったのぅ―――それが、お主の強さじゃ。」

 

「――――」

 

 金の瞳を細め、カルメン・イザベラは笑う。

 

「まだ倒れてないところ悪いが、ワシも混ぜてもらおうかのぉ。愛しき我が闘龍士(ミ・マタドール)よ」

 

 

 




エスカ・リーリオ
絶対立ち上がる肉盾不屈系生意気ショタ
カルメン・イザベラ
音速突破する巨大な龍を片腕で止める馬鹿力

歌劇カルメンでは
闘牛士エスカミーリョが闘牛の試合をしてる間に
カルメンは狂った元彼ドン・ホセに殺されていたそうです。
ならこのアース111では、という話。

生意気ショタ×アーパー上位存在人外ドラ娘に需要はありますか!?

ティルアンゼ珊瑚
カプ厨アルマオタク三人衆にして1年456席
なので世界観的にわりと上澄みという
アース111、強いのは変な奴しかいないのか?

雑魚魔族=一般衛兵<<戦闘職騎士
強い人、上澄みの壁
騎士の強い人やら在野の強い人≧学園生徒(エスカとか)<<成績上位組
最上位勢
学園最上勢、『二つ名持ち』、各国の有数の強い人
御影、パール<<フォン、カルメン、ウィル
無法の壁
アルマ、トリウィア

ざっくりみたいなイメージです
最終章につき文字数が限界突破して色んなキャラにスポット当たってますがお楽しみいただけたら幸いです

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります!!!
もうちょっとで総評価900なので、評価いただけるとありがたいです!


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カルメン・イザベラーー龍と闘士の歌――

 

 カルメン・イザベラがアクシア魔法学園に入学した時、はっきり言って調子に乗っていた。

 天狗になっていたと言ってもいい。 

 龍人なのに。

 だが龍人だからそうなっていた。

 亜人族において、例えば膂力では鬼種が最も強いと言われている。

 多様性では獣人。

 魔法の制御ではエルフ。

 頑強さではドワーフ。

 器用さではハーフリング。

 再生力ではリザーディアン。

 空においては鳥人族。

 海においては魚人族。

 七大氏族以外にも様々な種の亜人がおり、彼らには自らが最も秀でた能力を誇っているものだ。

 だがそれは真実ではない。

 あらゆる観点、能力、性能において、あらゆる種族の中で龍人族が最も優れているのだ。

 その破格さと希少さ故に「亜人の中で最も優れているのは」という文言から龍人族は外されている。

 最も強靭な生物。

 神祖であるエウリディーチェの直系であるカルメンはその中でも最高峰。

 

 ――――――そんな傲慢は、入学と共にトリウィア・フロネシスに打ち砕かれた。

 

 当時二年主席でありながら、既に戦闘力においては学園最強だった彼女に。

 入学して調子に乗っていたカルメンは、有体に言って彼女に〆られたのだ。

 あの人間、龍人族が頑丈だから平気でしょうとか真顔で言って龍体時の腹に究極魔法ぶち込んでくるのだから恐ろしい。

 一年くらいトラウマだったし、次の年に御影がウィルに同じようなことをした時はかなり引いた。

 何にしても、カルメンは龍の里を出て、知ることになる。

 龍人族は強いが、けれど無敵ではない。

 他の種族にも強い者はいるし、次の年にはウィルや御影、その次はアルマやフォン、アレスも生徒会に加わって来た。

 強い者を知った。

 そして弱い者も。

 数百年、数千年を生きるが故に周囲に遊ばれること――冷静になるとサバトみたいに十字架に磔にされるのってどうなんだろう――はあってもそれを許したのは上位者故の余裕というもの。

 そういうことにしておこう。

 ただ。

 それとは別に。

 去年、カルメンは出会ったのだ。

 エスカ・リーリオ。

 どうしようもなく弱くて。

 たまらなく強い闘士と。

 

 

 

 

 

 

「悲しいのぉヴェイロ。800にもなってなお、こんな扱いをされるとは」

 

 カルメンは巨大な角をその巨体ごと抑えながらため息を零した。

 鉄牛龍とは旧知であり、なんならおしめを変えてもらったこともある。

 普段は優しい老人だ。

 それが、

 

「ゴアアア……!」

 

 こんな風に狂わされ、暴れさせられているなんて。

 

「腹立たしいのぅ。―――エスカ、ちょい右に寄ってくれ」

 

「あ?」

 

 軽くエスカの小さな体を押してずらし、

 

「――――!」

 

 火柱が鉄龍の顎を打撃した。

 それは炎にカルメンの脚だ。

 種族全員が≪高位獣化能力者(メタビースト)≫である龍人族ゆえに、履いているハイヒールはカルメンの魔力と仙剄によって構成され、龍の鱗と変わらない強度を持つ。

 カルメンの龍鱗はそれ自体が鉄を溶かす高熱と灼熱を有し、靴の先端は鉄を裂く強度がある。

 炸裂する。

 

「ゴアッ―――!?」

 

 爆発と破砕が響き渡る。

 炎を纏う蹴撃が鉄龍の顎の装甲を砕き、体ごとひっくり返した音だ。

 全長十数メートル、数十トンはあるであろう体。

 それが浮いた。

 そして縦回転をし、鉄龍自身が作った轍を地響きを生みながら転がった。

 

「ん」

 

 その中、カルメンはあるものを見た。

 首元に小さな跡があるのを。

 傷、と呼べるものでもない。首周辺に何かが擦れたような痕跡。

 

「――――かはっ」

 

 どうしてそんな跡ができたのか気づき、カルメンは頬を吊り上げた。

 

「エスカ、狙っておったな?」

 

「あ? ……あぁ、そりゃそうだろ。龍つったら、そこだし。まぁ、全然届かなかったけどよ」

 

 即ち、逆鱗だ。

 龍の弱点。

 それを知る彼は突進を受ける度に狙いしかし届かなかったのだろう。

 

「ふふん。良い狙いじゃ」

 

 鼻を鳴らし、

 

「――――エスカ、ちょいと手伝え」

 

「はぁ? 何をだよ」

 

「アレを助けるのに、じゃ」

 

 体を揺らしながら起き上がろうとしている鉄龍を確認し、エスカへと視線を向ける。

 ボロボロになった小さな闘士。

 それでもまだ目に光は消えてない。

 

「逆鱗には神経と血管が集中しておって、十全な攻撃を通せば龍を殺すことができる……んじゃが、ワシがやったら殺してしまうからの。狂わされ、暴れさせられ取るとはいえ同胞じゃ。なるべく殺さず救いたい」

 

「あー……? なるほど? つまり、俺がちょうどいい雑魚で、アンタの助けを借りればいい感じに弱い攻撃ができるって?」

 

「わはは! そういうことじゃな! エスカは弱いしのぅ!」

 

 舌打ちつきの半目を受けながら声を上げて笑って。

 それからもう一度、鋭い牙をむき出しにする。

 爛々と輝く龍の目が、闘士の青い瞳を貫いた。

 

「じゃが―――その弱さが、龍を救う」

 

 手を差し出す。

 大地に突き刺した大剣にもたれかかり、膝をつくエスカへと。

 

「どうじゃ?」

 

「―――――はっ」

 

 闘士は笑った。

 そして立ち上がる。

 これまで通り。

 さっきまで死にかけただったのにも関わらず。

 その手を取らないわけにはいかないと言わんばかりに。

 伸ばされた龍の手を取った。

 

「『お前の盃を喜んで受け入れよう』、だ」

 

「―――ぐるる」

 

 歯をむき出しにして笑い、ある歌の詩を口にしたエスカにカルメンは喉を鳴らした。

 言葉や感情の発露よりも、先に体が歓喜を現し、

 

「では、一口」

 

 自らの牙で唇を裂き、

 

「あ―――んんっ!?」

 

 引き寄せ抱きしめ、エスカの唇を奪った。

 暴れようとする彼の体を無理やり抑え込み、そのまま自らの舌をねじ込み、

 

「―――――ごくん」

 

 自身の血を嚥下させ、

 

「―――――ゴアアアアアアア!!」

 

 鉄龍の加速突進が踏破を開始した。

 

 

 

 

 

 

「――――はっ! てぇてぇの波動を感じましたわ!」

 

 五感以外の何かを超えて感じたものに、思わずアンゼロットは足を止めた。

 思えば数か月前。

 社交界で出会った王国のカリスマ、クリスティーン・ウォルストーン。

 彼女との邂逅はアンゼロットは勿論、ティルにも珊瑚にも天啓だった。 

 エレガントの化身である彼女であり、新たな世界が開けた。

 即ち、良い感じのカップルの波動を感じられたり感じられなかったりするような気がするようになった。

 きっとこの状況であっても、彼女は自らのエレガントを見失わないのだろう。

 

 

 

 

 

 

「むむっ! 北! 北ですわ! 北から新たなエレガントを感じます! 市民を救助しながら向かいましょう! このニューエレガント、今の状況に必要なエレガントな気がしますわ……!」

 

 

 

 

 

 

 先日も学園時計塔近く校舎の屋上からかなり強い波動を感じたが、わきまえたオタクなので校舎の下から3人で『オタ芸』なるダンスを踊って礼賛をするなどした。

 これも数か月前に3人で街で遊んでいている時に出会ったノーズィーマンなどと名乗る不審な男から教えてもらったもの。

 不審な男ではあったが話は盛り上がって、ダンスを教えてもらった。

 専用のサイリウムとかいう光る棒もくれた。

 何故かアルマのことも知っていてアルマとウィルの話でさらに盛り上がり、どっちが攻めがいいのかで殴り合いになり、最終的にはどっちもいいよねという結論で友情を交わし合うことができた。

 自分のことをアルマのパパと名乗る不審者だったが、アルマを推す盟友だ。

 その心意気は疑っていない。

 たまに会う時はいつも近くにある衛兵の詰所を確認しているが疑ってはいない。

 いやあんな不審者はどうでもよくて。

 

「―――おや?」

 

「シャアアアアアア!

 

 眼前頭上。

 風龍が翼を強く震わせ、羽鱗の雨をアンゼロットへと放っていた。

 数十にも渡る鋭い刃。

 

「―――!」

 

「あ、ごめんちょっと止まってた!」

 

「てぇてぇを感じましたよ!」

 

 親友たちも同じように脚を止めていたから、

 

「フッ―――!」

 

 一番最初に復帰していたアンゼロットは瞬発する。

 バレリーナのように。

 つま先立ちで回転し、剣先と指先、そしてブーツの爪先に仕込んだ詠唱代替魔法具の三つで帯状魔法陣を展開。

 三度回り、

 

「――――≪不動に鳴らす爪先(アンベヴェグリッヒ・リィン・ツィーン)≫!」

 

 細剣を大地へと突き刺した。

 刹那、展開される防御魔法陣。

 氷結と鎮静、拡散、封印を主軸にした青と白が混ざった防壁だ。

 石造りの建物くらいなら容易くハチの巣にする羽鱗が障壁に突き刺さり、砕けず

 

「っ―――カバーお願いしますわ!」

 

 背後の二人へと叫ぶ。

 風龍の攻撃を数秒なら耐えられる。

 だが十数秒は無理だ。

 故に背後の2人に声をかけ、

 

「キシャア!?」

 

「――――!?」

 

 頭上の風龍を打撃する赤を見た。

 

 

 

 

 

 

「あれは――――」

 

 珊瑚はその色に目を見張る。

 風龍に対し、横から体当たりを喰らわした巨体。

 赤い龍だ。

 発達した四肢と大きな翼。

 燃えるような鱗。

 

「カルメン前会長―――!?」

 

 前生徒会長、カルメン・イザベラの龍体だ。

 数度だけ見たことあるが、以前よりもサイズが小さい。

 全長10メートル程度だろう。

 だがその威圧、存在感はまるで損なっていない。

 火炎を纏った体当たりは風龍を突き飛ばし、大地へと落下させた。

 勢いのまま火龍は空に舞い上がり、

 

「――――ぁ」

 

 珊瑚は見た。

 龍に、太陽を背負い、大剣を握る少年がいることを。

 そして思い出す。

 龍とはおとぎ話だ。

 もっとも強靭にして偉大な生物。

 遥か昔から世界に息づく、生きる幻想。

 そして、龍の物語には伴うものがある。

 例えば龍を殺す英雄譚。

 強大な悪龍を殺し、英雄となる騎士の物語。

 或いは。

 龍と絆を結び、誇り高き生命の背に乗ることを許された戦士の物語。

 即ち、

 

()()()()()()()()……!」

 

 カルメン・イザベラと、その背に乗るエスカ・リーリオだ。

 

 

 

 

 

 

「ツッコミたいことが多すぎる! なに飲ませた!? なんでこっち来た!?」

 

 風龍と鉄龍の気配を感じながらも、カルメンは背のエスカに答えた。

 

『仕方なかろう。あの3人も学園の生徒だ。見捨てることはできん。そしてお前に飲ませたのは我の血よ』

 

「……その姿のアンタの口調、なんか調子狂うな」

 

『変えたほうがよいか?』

 

「いやまぁいいよ。アホ3人娘を助けたのも分かるけど……血はなんでだ?」

 

『さっきまでのお主の今の体では、流石にな。故に、我の血を与えたのだ。龍の血は時に薬になる』

 

「マジで? 通りで体が軽いと……」

 

『場合によっては飲んだら体が破裂するがな』

 

「おいいいいいいいいいい!?」

 

 叫びを背に受けながらカルメンは翼を広げ、破壊された街を旋回。

 突き飛ばした大地に転がっているのを確認する。

 風龍の体は比較的脆いのでダメージを修復させ、飛び直すのに少しだけ時間はあるだろう。

 

『場合によるが、お主なら大丈夫であろうよ。頑丈だしの』

 

「……まぁ確かに。なんか体の調子は良くなったし……いっか!」

 

『―――ぐるる』

 

 楽観的な言葉に思わず喉が鳴る。

 普通ならそれで済まして良いものではないだろうに。

 彼はそういう性格なのだ。

 

「んでも、この二体はやるとしてもう一体はいいのか?」

 

『んむ。問題なかろう、アレを見るが良い』

 

 鼻筋で戦場の一角を示す。

 離れた所では蛇型の水龍を複数人の騎士が囲んで戦っている。

 自然界では極めて目立つ鮮やかな赤と黄色の鎧騎士たち。

 衛兵ではない。

 王国における対魔物専門家である≪不死鳥騎士団≫だ。

 彼らは互いに連携を取り合いながら、水龍と互角に戦っていた。

 カルメンの耳には彼らの声も届く。

 

「はっはー! 龍だ龍だ! ドラゴンスレイヤーの称号は俺のものだ!」

 

「馬鹿者ぉー! リーチェ……上から達しが合った通り彼らは魔族に操られているのだ! 逆鱗部位にダメージを与えて行動不能にさせるだけでいい!」

 

「隊長! あの≪天宮龍≫とマブってホントだったんですかい!?」

 

「≪天宮龍≫と大戦で肩を並べたとか!」

 

「同じ男を取り合ったとか!」

 

「それでどっちも振られて四十手前でもまだ未婚で男の気配ないとか!」

 

「ハーフエルフでもう何十年は見た目は二十歳そこそこだから新しい出会い待ってるとか!」

 

「貴様らぁー! そこに直れ! この龍より先にたたっ切るぞ!」

 

「ロロロロロロ!」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぎならも水龍と戦えている。

 わめき合いながらも完璧と言っていい連携で危なげもなく、あれならば時間は掛かるだろうが

 

『………………うむ、問題はなかろう!』

 

「まじか。流石だな不死鳥騎士団!」

 

 会話が聞こえていなかったのは幸いだ。

 ウィルにもあまり聞かせたくない。

 そういえば去年あたりに魔物の大量発生で不死鳥騎士団と連携を取ったハーフエルフの騎士団長はウィルと距離を取っていた気がしなくもない。

 

『ま、良いか。お爺様の交友関係には触れたくない』

 

「ん。そいやアンタの爺さんもいるんだろ。何してんの』

 

『王たちと一緒にいる。状況が状況故にな』

 

「あー……そっか。龍神様いりゃあ王様たちも安心か」

 

『んむ』

 

 ことはそう簡単ではないらしいのだが。

 戦いが始まってすぐにエウリディーチェから念話を貰ったが、王たちを守り、見張るとのことだった。

 守ると見張るはかなり違う。

 カルメンの知りえない厄介事が起きているのは明白だ。

 

『……ま、良い。今はこっちじゃ。エスカ」

 

 カルメンが翼を広げ、

 

『―――――行くぞ』

 

「あぁ!」

 

 彼の答えを原動力に、加速を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 カルメンは翼を後方に流し、矢のように空を駆ける。

 眼前には飛び上がろうとする風龍。

 右下方には瓦礫を蹴散らしながら接近してくる鉄龍。

 

『―――!』

 

 まず鉄龍にめがけて牽制を放つ。

 ブレスだ。

 喉から炎が珠状となり、形成された火球は三発。

 

「ゴアァァ!」

 

 本来なら鉄を溶かすほどの高温だが、龍の甲殻を溶かすには至らない。

 着弾時の爆発による衝撃で鉄龍を足止めするためのものだ。

 生み出した時の間に、風龍を無力化する。

 

『オォォ……!』

 

 喉から炎ではなく音が漏れた。

 龍の咆哮。

 龍人種にとっては様々な意味を持つが、この場合、

 

「キシャアアアアアア!」

 

 風龍に対する挑発だ。

 案の定風龍は咆哮を以て応答し、風を纏いながら空へ舞い上がる。

 速い。

 飛翔速度、旋回能力においてはカルメンを上回るだろう。

 攻防の強度においてはこちらが勝るが、背にエスカを乗せている以上気安い被弾はできない。

 加えて前提として無力化というのは難易度が高い。

 だが、

 

「――――お前の盃を喜んで受け入れよう」

 

 背から聞こえてくる歌に、さらに速度を上げた。

 

「――――龍よ、龍よ。なぜならお前は我々へと解り合える」

 

 きりもみで突っ込んできた風龍を躱し、

 

「――――共に戦いに行くことを望むのだから」

 

 背後から追いかけると共に空中戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

「――――祭りの日、誰もが皆集う。祭りの日、誰もが皆見ている」

 

 エスカの喉から低く歌われるのは、彼の故郷の歌だった。

 亜人連合との国境に近い王国西部。

 故に、連合の文化とある程度入り混じり、そして龍人に関する伝承も多くあった。

 そしてこれは、共に戦う人と龍の歌だ。

 

「――――大衆は声を張り、叫び、震え、騒ぐ。それはまるで嵐のように」

 

 風龍と空で渡り合うカルメンに、今のエスカができることはない。

 ただ音楽は得意だ。

 トリウィアのバンドに認めてもらうくらいには。

 だから彼は歌う。

 

「――――なぜならばこれは契約の祭り」

 

 せめて彼女を力づけられないかと。

 

「――――これは我等の祭りだからだ……!」

 

 火と風を纏いながら二体の龍が駆ける。

 

「オオオオオ!」

 

「キシャアア!」

 

 赤龍は火を吹き、緑龍は風を起こす。

 やはり速度は風龍が速い。

 風龍が先行しながら攻撃し、火龍がそれを追う形だ。

 

「――――早く、早く! 構えろ、構えろ!」

 

『オォ……!』

 

 歌が、カルメンの背中を押す。

 咆哮が、エスカの声に重なる。

 龍の翼から陽炎が生まれ、それは加速となる。

 周囲の大気の温度を上げ、気流を生み、乗りこなすのだ。 

 

「――――闘士よ! 気を引き締めろ! 龍よ、龍よ!」

 

『ぐるぅ……!』

 

 熱と歌が相対距離を縮める。

 高速できりもみと旋回を繰り返す為に風圧がエスカを襲うが構わなかった。

 彼が跨った首の付け根あたり、さらに言えば彼が足をかけた二箇所だけに明確な重みがある。

 重量操作の魔法で重心を低くすることで、吹き飛ばされないようにしているのだろう。

 カルメンを気遣っているのだ。

 それが嬉しくて、

 

『オォォ……!』

 

 赤龍はさらにその身を進ませる。

 速度による加速、全身で生み出した上昇気流に乗りカルメンが風龍を追う。

 風龍は真上へと飛翔した故に闘士の歌に押し出され、瞬間的にさらに加速して同じ軌道を駆け抜けた。

 赤い顎が、緑の尾に届き、

 

「キシャッ!」

 

 風龍が大気を裂いた。

 ほぼ直角、減速無しの軌道変更だ。

 風を操る龍だからこそできる物理法則を無視した飛行。

 火龍であるカルメンにもそれは不可能。

 故に、カルメンの牙と牙の間を尾はすり抜け、

 

「――――戦いの中で私は忘れない」

 

「キシャ――!?」

 

 刹那、追い付いた牙が風龍の尾に食らいついた。

 カルメンにはできないはずの動きだった。

 風龍に追いつくために限界まで速度を発揮し、首と頭部を伸ばしていたのだから。

 龍といえどできないことはある。

 だからこれはエスカが行ったことだった。

 荷重魔法だ。

 カルメンの首に捕まっていたエスカが自身の体重を重くする。

 速度を落とさないギリギリの重量に。

 それにより重心が僅かに変化し、角度が変わる。

 龍は多くのことができるが、決して万能ではない。

 人にできることは少ないが、それでもできることがある。

 そして今、カルメンとエスカは共に戦う。

 ドラゴンライダー。

 闘士をに背に乗せた龍と龍を駆る闘士であるが故に。

 

「―――赤い瞳が私を待っていることを!」

 

『オォォ―――!』

 

 喰らついた尾を、赤龍は思い切り振る。

 真下へと。

 

「キシャアア!?」

 

 龍として比較的体重の軽い風龍は振り回され落下した。

 羽鱗をまき散らしながら墜落し、

 

「キシャアアアアアアア!」

 

 姿勢を取り戻し、しかしそれだけではなかった。

 舞い散った羽鱗が宙で螺旋を描く。

 魔法であり、仙術。

 それは人間が行う魔法とは違う。

 生命そのものが術式発動の手順であり、それゆえに発動までは一瞬だった。

 

『キシャアアアアアアア――――――――!』

 

 咆哮が大気を打撃する。

 風の息吹は羽鱗を通過すると共に螺旋を描き、鋭利な刃を含んだ竜巻となって天上を駆けあがる。

 眼下から迫る暴風。

 

『――――』

 

 龍は僅かに身を震わし、

 

「――――」

 

 人は軽く踵で龍の体を蹴った。

 応えるように。

 そして。

 

『纏え仙火』

 

 翼を一度大きく羽ばたかせ、

 

『駆けろ、龍炎……!』

 

 全身に灼熱を纏い、暴風へと突っ走った。

 

 

 

 

 

 空に炎の螺旋が描かれる。

 風龍のブレスに、炎を纏った火龍が突っ込んだ故に生まれた異常気象だ。

 それを目にし、

 

「ど、ドラゴンのドルネケバブ――!?」

 

 ティルがそんなことを叫んだ。

 そうはならなかった。

 

「――――戦いの中で私は忘れない!」

 

『オォォォォォ……!』

 

 歌と咆哮と共に紅蓮の竜巻を突っ切って火龍が飛び出した。

 龍と人の体には纏っていた仙術による炎の残滓が残っていた。

 竜巻とそれに紛れた羽鱗によって生じるはずの裂傷を、炎の膜で防いでいたのだ。

 そのまま進む。

 

「キシャアアアア!?」

 

『オオオオオ!』

 

 赤い龍が緑の龍に組み付く。

 前肢と両翼で風龍の体を抑え込み、

 

「―――赤い瞳が私を待っていることを!」

 

 火龍の背から、闘士が跳んだ。

 握る大剣を振りかぶり、一瞬動きが止まっていた風龍へと落ちる。

 重力を重ね、

 

「――――愛が私を待っていることを!」

 

 さらけ出された喉に切っ先を打ち込み、

 

「――――龍よ! お前が抱いている愛を!」

 

 瞬間的に増大した質量による衝撃が逆鱗と、その奥の神経系を打撃した。

 衝撃は全身を伝播し、強制的に意識を打ち砕く。

 空に響く衝撃音。

 余剰の威力は大気を破裂させ、

 

「キシャ――――」

 

 風龍の声が宙に消えて行く。

 

『――――見事だ、我が闘龍士(ミ・マタドール)

 

「はっ、アンタの背に乗ってし損じたらそれこそ末代までの恥だよなぁ!」

 

 力を失い落ちて行く風龍を視界に収めつつ、カルメンはエスカを背に回収。

 小気味の良い彼の言葉と重さに頬を緩め、

 

「―――――カルメン前会長! 後ろです!」

 

 地上の珊瑚の声を聴くのと同時に、後方から大質量の打撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

『がぁっ――――!』

 

 破壊がカルメンの龍鱗を伝っていく。

 正確に言えば右斜め後方。

 右下から巨大な質量がカルメンをぶち上げた。

 

「ゴアアアアアアア!」

 

 鉄龍だ。

 展開した全身の甲殻から陽炎を昇らせ、宙を泳いでいる。

 

『っこやつ……!』

 

 何したのか、即座に理解する。

 鉄龍が噴出加速により、空へと跳んだのだ。

 膨大な質量を飛ばすだけの推力を生むのにどれだけの速度を生み出すのかは計り知れないが、それを当然のように可能にするのが龍という生命体だ。

 見れば一部の甲殻が砕け、二つあった角の片方が折れている。

 おそらく、風龍と戦っている間にティルたちが負わせた手傷だろう。

 それを行ったのは賞賛したい所だが、

 

「――――エスカ……!」

 

 一緒に吹き飛ばされた彼が問題だ。

 龍体を解除し、人の姿に戻る。

 再度噴出加速された時、少しでも当たりを減らす為だ。

 空に落ちていくエスカは一瞬意識を失っているように見える。

 足裏から出す炎で宙をスライドし、彼を抱きかかえ、

 

「すまぬ、エスカ。ワシのミス―――」

 

「――――なぁ、知ってるかよ。カルメン」

 

 脱力しながらの彼の声を聴いた。

 カルメン共々落下しているというのに、彼はそんなことを感じさせない長い吐息を零し、

 

「さっきの歌さ。うちの地元じゃあ元々は龍と戦う闘士の歌だったらしいぜ」

 

 目を細く開く。

 青い目は優しく、龍を見ていた。

 

「龍を相手に戦う歌が、龍と一緒に戦う歌になったんだ。ずっと不思議に思ってたけど……アンタと出会って、理由が分かったぜ」

 

 だって、

 

「かっこいいもんな」

 

「―――エスカ」

 

「そりゃそうだよな。きっと俺のご先祖様は思っただろうぜ。龍を倒すより、龍と倒したいってな。こんなにすげー存在の隣人でありたいってよ。自分たちはちっぽけだけど、それでも一緒に戦いたいってよ」

 

 だから。

 

「行こうぜ、カルメン。俺の龍(ミ・ドラゴーン)―――アンタの同胞を救うために」

 

 彼の目は諦めなかった。 

 攻撃を受けたことへの非難も、危機感もなかった。

 ただカルメンを眩しそうに見ていた。

 

「―――あぁ」

 

 喉の奥が震える。

 フォンが鳥の歌をウィルへ歌おうとしていたのはこういう気持ちだったのだろう。

 彼女との違いは、

 

「――――オ」

 

 歌ではなく。

 

「――――オオ」

 

 龍としての咆哮だということだ。

 

「オオオオ……!」

 

 燃えるような情熱と共に、カルメン・イザベラはその身を龍へと変生させた。

 

 

 

 

 

 

『オオオオオオ―――!』

  

 天空に、街に、戦場に。

 ありったけの歓喜が籠った咆哮が響き渡る。

 それに伴って生み出されたのは、やはり加速だった。

 前に進むという力。

 それを以て頭から鉄龍へと激突する。

 

「ゴアアアア!」

 

 だが、風龍と違って重量もあり、四肢も短い鉄龍を抑えることはできない。

 肩に食らいつき、牙を食い込ませるが、鉄龍が噴出加速を行えば振り払われるだろう。

 

「――――戦いの中で私は忘れない!」

 

 故に咆哮に続き、闘士の歌のリフレインが巻き起こる。

 小さな闘士は赤龍の尾に掴まっていた。

 それまでの様に首筋に掴まっていたら、頭突きの衝撃に巻き込まれるから。

 

「―――赤い瞳が私を待っていることを!」

 

 尾から背へ、背から首へと闘士が駆けあがる。

 龍と共に戦うことを願う歌と共に。

 龍という存在を救うために。

 一切臆さず、前へと進みながら。

 

『―――』

 

 そう、彼はそういう人間なのだ。

 去年の入学試験。

 カルメンは言わば邪魔役だった。

 試験会場となる森を気ままにさまよい、遭遇した試験生に襲い掛かる。

 ある意味運試しであり、どう対処するかを見る為の者。

 当然、龍人という存在を前に誰もが逃亡した。

 それが正しい。

 脅威に対し、立ち向かうだけが全てでは無い。時に逃げることが最善だ。

 だが、エスカは逃げなかった。

 強くないのに。

 何度も叩きのめされたのに。

 彼は何度でも立ち上がり、何度でも向かってきた。

 戦いながら何かに目覚めることもなく。

 それでも決して心が折れること無く前を向き続けた。

 結局それによってカルメンはエスカにくぎ付けになり、彼は本来の試験をクリアすることはできなかった。後からカルメン自身の推薦で合格になったのだが。

 案の定、学園でも良い成績を出すわけでもなかった。

 それでも彼は折れず、腐らず、諦めず。

 

「――――愛が私を待っていることを!」

 

 今もまた、龍の体を駆け、龍へと立ち向かう。

 弱い力のまま。

 強い心を以て。

 それが、誕生の時点で上位種であったカルメンには眩しくてたまらない。

 

「――――龍よ!」

 

 カルメンが知る最も強き闘士が跳ぶ。

 愚直に大剣を振りかぶり、

 

「―――――お前が抱いている愛を!」

 

 鉄龍の逆鱗へと切っ先を叩き込んだ。 

 そして。

 

「っ…………!」

 

「ゴアアアアア!」

 

 僅かに逆鱗を割りながら、奥へと届かない。

 風龍の時の様にはいかない。

 そもそもの逆鱗の強度、風龍の時は重力を味方に着けていたから荷重の全てを叩き込めたというのが大きい。

 エスカ・リーリオという人間単独では届かない。

 そう、彼だけでは。

 

「―――はっ。熱烈な歌だったからのぅ」

 

 だからカルメン・イザベラが共にいるのだ。

 人の形に戻った彼女はエスカを背後から、片腕で抱きしめた。

 自らが宿す熱が少年と溶け合えばいいなんて思いながら。

 それからもう片腕を振りかぶり、

 

「ワシの抱く愛、くれてやろう―――――!」

 

 剣の柄を打撃した。

 

「ゴァァァーーー!」

 

 突き刺さる衝撃。

 昇る絶叫。

 一瞬、全ては静止し、

 

「―――――ゴァ」

 

 最後に声を漏らし、鉄龍から力が抜けた。

 落ちて行く。

 その身に宿した狂気が抜け落ちながら。

 エスカとカルメンもまた重力に従い落ちて行くが、

 

「――――とっ。グラシアス」

 

『うむ』

 

 龍体となったカルメンが彼を背中に乗せる。

 大地には倒れた二体の龍。

 空には一人の人間と一体の龍。

 太陽を背に人間を背に乗せた龍は翼を広げながら咆哮し、龍に乗る闘士は剣を突き上げ、

 

「成し遂げたぜ、龍助け……!」

 

『オオォォォォォォ―――――!』

 

 二つの勝鬨が空に嘶いた。

 

 

 

 

 




エスカ・リーリオ
カルメン・イザベラ
一人と一体のドラゴンライダー。
筆が乗り過ぎて1万字超えてしまいました

ティルアンゼ珊瑚
スーパーエレガント人の薫陶を受け、スーパーてぇてぇ人になりつつある。

不死鳥騎士団団長
ハーフエルフ
パパ世代敗北者七本槍の一人

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります!!!
もうちょっとで総評価900なので、評価いただけるとありがたいです!

余談ですがハメで投稿してカクヨム経由から応募した別作品の『簡単なことだよ、愛しい人』が電撃大賞の一次選考を通過しました。
どうなるか分かりませんが、今後良い報告ができたらと思います。


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ディートハリス・アンドレイア――青き血の義務――

アルテミスの名前をちょっと修正しました。
読み直してて気づいたんですが、何故気づかなかったのかというところ。

修正前
アルテミス・ディアナ
修正後
アルテミス・ルナ


 

 劇場は断続的な揺れに襲われていた。

 王都北西、その中心部寄りの歌劇場だ。

 主にオペラや舞台劇が公演され、貴族たちにとっては社交場になるような場所でもある。

 防音が施された巨大な直方体の箱、というべき建物。

 普段は高雅な歌と優雅な演技を見ることができるはずの舞台は、

 

「ど、どうすればいい……!?」

 

「ここに立て籠もっていいのか!? 衛兵は何をしている!」

 

「外で守ってくれているさ! だけど……魔族の数が……!」

 

 壇上の手前。観客席の最前列に十数人の大人たちが焦りの汗を浮かべながら言葉を交わしていた。 

 舞台上にいるのは女や子供、それに老人。

 半数は劇場の出演者であり、半数は観客でもある。

 

「……初動が良くなかったな。よもや襲撃が始まったと同時に歌姫の声に聞きほれているなど……」

 

「仕方あるまい、春の新作。それも今日この日に合わせたものだ。舞台以外に意識を持っていくのはな……」

 

「微かな振動や最初の魔族の知らせに飛び出して行った者達はどうなったか……無事にシェルターや騎士団の詰所に辿りつけられればいいのだが」

 

「なんてことだ……我々は歌劇至上主義故にここで果てるのか―――――それも悪くないかもしれんが」

 

「縁起でもないことを言うな!」

 

 話の1人が叩かれた。

 彼らは観劇に来ていた貴族たちだ。

 会話に上がった通り、劇場内の人々は襲撃開始の時点で動きが遅かった。

 高い防音性により、外の状況が伝わってくるのが遅れたのだ。

 真っ先に出て行ったのは逃げるためか、或いは勇敢にも魔族と戦いに行こうとしたのか二択でありそれが大半。

 僅かに逃げ遅れたのは、素早く動けない老人や純粋に状況判断が遅れた演者たち。

 それに、

 

「―――だが、彼ら彼女らを見捨てるわけにはいかん」

 

 誰かが呟き、誰もが重々しく頷いた。

 残った者達はこの劇場の常連達だ。

 時に恋人と、時に妻と、或いは家族や友人と。

 新作の度に初日に観劇し、その後も数度訪れる筋金入りのファンたち。二十を超えた若者もいれば口元にひげを蓄えた中年までいる。

 

「どうだ、むしろここを避難場所にするというのは」

 

「難しいだろう。外の魔族が多い。あと、音が響かなさ過ぎて危機を察知しにくい。逃げるならばシェルターが良い。まぁ、シェルターの次点としては……無くもないのだろうが」

 

「出入口は魔法で封印しましたが、持たないでしょうか。それなりの強度はあると思うんですが」

 

「若いのは知らんか? 魔族は最初の方倒した小型以外にももっと大きいのも出るんだ。上級とか大型とか呼ばれてたが……それだと厳しいだろな。衛兵でもだ。騎士団や『二つ名』持ちが必要になる」

 

「館長、なんか武器になりそうなのないか? 残った俺たちは通常の魔族ならなんとか倒せるくらいなんだが……」

 

「はぁ……そうは言われましても所詮劇場ですし……今日の講演で初披露させるはずだった人間大砲くらいしか……それも大きくジャンプできる程度のものですし」

 

「………………なに? そんなの使うのか、誰を射出するんだ」

 

「そっちの隅にいる金髪の子です。まだ幼く端役ばかりの子役ですが……」

 

「なんと!」

 

 歌劇ファンたちの反応は劇的だった。

 舞台上の端で縮こまっていた少女は突然自分の名が上がったことに肩を震わせる。

 

「彼女は……そうだ、秋にデビューした子だな。その時は踊り子Cだったが」

 

「だがまさか新設備の披露を担うとはな……大きくなった……」

 

「私は最初から伸びると思っていましたよ」

 

「嘘つけ……!」

 

「なんだと……!」

 

 言葉を交わしていた二人の間に軽い取っ組み合いが発生し、

 

「そんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

 周りが叫んだ瞬間だった。

 

「―――――あ?」

 

 天井が崩落した。

 

 

 

 

 

 

「きゃああああああ!?」

 

 絹を裂く様な響きを新人歌手見習いの少女は上げた。

 良い日になるはずだった。

 これまで主役の後ろで歌うだけだったが、春に入り新作ではちょっとした役を貰うことができた。といっても、歌のクライマックスで人間大砲で打ち出されながら歌声を伸ばすというよく分らない役だったが、自分だけの役には間違いないので良いとする。

 冷静になると良く分からないし、案を出した演出家はちょっと頭がおかしい気もするが。

 それでも役は役だ。

 張り切っていたのに魔族の襲撃。

 そして、

 

「天井の瓦礫が!」

 

 誰かが叫んだ通りに。

 防音設計となっているために劇場は全面が分厚い石造りであり、音が反響するような半円状の天井だ。歌劇場故に装飾も多い。

 それらが一息に落ちて来た。

 

「いかん、防護を!」

 

 残った観客の誰かが叫び、それに続いて頭上に魔法陣が浮かぶ。

 大小含め、様々な瓦礫の破片が降り注ぎ、展開された防護障壁が受け止める。

 だが、全てを防げたわけではなく、

 

「きゃあっ!」

 

 いくつかの大きな瓦礫が観客席に、障壁を潜り抜けた小さな破片もまた舞台上に降り注いだ。

 痛みに叫ぶ声がいくつか上がる。

 

「あ、っつ……!」

 

 少女もまた小さな破片が足を裂き、血を流していた。

 急所や顔でないだけ良かったと咄嗟に思ったのは役者としての根性だろうか。

 同じように怪我をしたのは数人で、致命傷のような大きな傷を負ったようなものはいなさそうだ。

 けれど問題はそこではない。

 どうして天井が崩れたか。

 答えはすぐに。

 

「こいつは、さっき言っていた……!」

 

「不味い、大型だ……!」

 

 空いた穴から顔を覗かせるのは瘴気を纏う五メートル近い猿型の魔族だった。

 穴に手を掛けた手は大きく、それを以て天井を砕いたことが良く分かる。

 顔らしい顔は無かった。 

 怪しく光る赤い相貌と口らしい陥没があるだけ。

 明らかに、この世に生きるものではなかった。

 

「ひっ……!」

 

 少女の喉が引きつる。

 まだ10になったばかりの彼女に対するあまりにも明確な死の具現。

 少女だけではなく他の演者も、客たちもそれを感じていた。

 時間が止まる。

 目に見える死を前に、思考が止まり、

 

「――――やれやれ、人のお気に入りの劇場を何だと思っているのか」

 

 死に、光が差し込んだ。

 

 

 

 

 それは室内を覗いていた猿型魔族。

 その首に走った線だった。

 一瞬の後、頭部が横にズレ、

 

「――――あ」

 

 瘴気が一斉に霧散する。

 その霧の中から、飛び込んでくる影が三つ。

 軽やかに観客席の中央に着地した。

 大柄な獣人族の従者と小柄な獣人族の侍女。

 二人を従えるように軍靴を鳴らす男。

 帝国の軍服姿。

 手には戦杖を持ち、逆の手でオールバックの髪をかき上げる。

 おおっ、と男たちの誰かが声を上げた。

 

「アンドレイア殿……!」

 

「如何にも、ディートハリス・アンドレイアだ。俺を覚えているとは結構、王国貴族諸君。判断は遅かったが記憶力は悪くないようだな。だが歌劇愛好家として最低限のことはできているだけ悪くない」

 

 気障に笑う伊達男。

 彼のことを、少女も知っている。

 半年ほど前、少しの期間だが劇場に通っていた帝国の大貴族だ。

 もう一度、おおっと声が上がった。

 

「この棘がある物言い……!」

 

「まさしくアンドレイア殿!」

 

「判断は間違えたけど、役者たちを守っていて偉い! ということですな!」

 

「ふっ……あまりそう解説するものではないよ同士諸君!」

 

 腕を広げて笑うディートハリスは、残っていた客たちとは旧知らしい。

 そういえば半年前にこの歌劇について彼らと語り合っていた姿を見た気もする。

 

「それに」

 

 彼は目を細め、歌劇場内を見回す。

 

「ここで防衛ということ自体は悪くないが、しかしやはり遅かったというべきだな。収容人数はそこそこあるが、如何せん防衛準備が間に合わなかった。天井も壊れた以上、早急に脱出するべきだ」

 

「しかしアンドレイア殿、この人数で移動するには危険では?」

 

「ふっ……何のための俺が来たと思っている!?」

 

「おぉ……!」

 

 彼らだけで盛り上がっているが微妙についていけなかった。

 そもそも彼らは貴族であり、大半の劇団員には遠い存在だ。

 その上ディートハリスは他の国の大貴族の次期当主。

 別の世界と言っていい。

 ただ、

 

「……私たち、助かるの?」

 

 その理解だけが、少女から零れ落ち、

 

「ん――如何にも、若き歌姫よ」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 ディートハリスは少女の小さな呟きに答えた。

 彼は軽い動きで壇上へと上がり、彼女の前に膝をついた。

 

「遅れてすまなかったな、恐ろしい思いをしただろう。だが、もう大丈夫だ」

 

「あ、えと、その……そんな、お立ちくださいお貴族様! そんなことをなされるなんて……!」

 

「何を言うか……ふむ? いかんな、怪我をしている。―――どれ」

 

 言うや否や。 

 ディートハリスは自ら着ていた軍服の裾の一部を引きちぎり、少女の脚の傷に巻き付けた。

 

「ぃひぃ……!?」

 

 引きつった声が漏れる。

 周りにいた同僚も似たような反応だった。

 ディートハリスのような大貴族の服なんて、今の自分が一生働いて稼げるかどうかというレベルだと聞く。

 王国はそこまでではないが、帝国貴族はとにかく金を使いたがるらしい。

 

「お、お貴族様がどうしてこんな……!」

 

「ふっ……これが貴族の義務だからだとも」

 

 少女には分からないことを言って。

 それこそ彼は舞台のワンシーンのような笑みを浮かべた。

 舞台俳優になって主役を勝ち取れそうな甘い笑みに、思わず少女の胸は高鳴り、

 

「若様! なにをしていらしているのですか!」

 

「止めるなアデーレ。これまた貴族としてせねばならぬ――」

 

「なぁーにがせねばならぬですか! ここ来るまでどんだけ魔族倒して瓦礫退かして救助して来たかお忘れですか! そんな衛生的に問題しかない布を傷口に当てるんじゃないですよ! 痛み傷になって腐ってしまいますよ! はい、どいて! 舞台から降りてください! 熱消毒だけしますから! 他の人も、さっきの崩落で怪我をしていたら教えてください、応急処置を行います! ローマン、手伝って!」

 

「ウス、姉さん」

 

「若様はあっちの方々と脱出についての相談を!」

 

「…………………………すまぬぅ」

 

「い、いえ……その、お気遣いありがとう、ございます?」

 

 アデーレという侍女に貴族であるディートハリスは怒られてシュンとしていた。

 

「すみません、うちの若はこういう人でえぇ。やはり未来永劫私が侍女兼愛人として世話を焼かないとダメですね」

 

 何やら凄いことを言いながらアデーレは懐から取り出した紙を少女の傷に巻かれた布に貼る。

 本に挟むような栞のそれは、

 

「っ……」

 

「少し我慢を、熱で穢れを払う魔法符です」

 

 あらかじめ魔法が刻み込まれた魔法具の一つだ。

 高価なもので、庶民が触れることはほとんどないが当然の様に使っているあたり財力の違いを感じる。

 

「これで一先ずは。止血と消毒だけですので、詰所かどこかに行ったら処置をされると良いでしょう」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

「いえ、当然のことですから」

 

 軽い一礼をしてアデーレはすぐに別の怪我人の元に駆けよっていく。

 弟らしいローマンという大男も同じように符を使って手当を行っていた。

 

「……なんか、思ってたのと違うな」

 

 王国の貴族というのはほとんど役人のようなものだ。

 なので無暗矢鱈に偉そうということはないし、そういう横柄な貴族を取り締まるのも衛兵の仕事の一つでもある。

 だが帝国貴族は昔ながら身分の差が激しいと聞く。

 アンドレイアといえば少女のようなまともな学がない身でも知っているような大貴族。

 なのに、彼は平民である自分を気遣い、侍女に怒られ、そして今王国の貴族と脱出の段取りを話し合っていた。

 その事実に、少し笑みが零れそうになって。

 失礼かなと背後を向いて。

 

「―――――え?」

 

 異変を見た。

 

 

 

 

 

 

 その現象を少女は全く理解できなかった。

 だからただ、起きたことを事実としてその目に焼き付いた。

 振り返った背後。

 壁が分解されたのだ。

 正確に言うのなら背後の壁に掛かっていた垂れ幕だ。

 舞台の裏は演劇の為の舞台装置や劇団員の入れ替えをする為のスペースになっており、そのさらに後ろがいわば壁だった。

 そのはずだったのに。

 一瞬、それら全てが小さな立方体に分解され、外の景色が見えた。

 

「――――ローマン! アデーレ!」

 

 鋭く厳しい声を上げたディートハリスが少女の前に立つのと、立方体が動きを得たのは同時だった。

 立方体同士が集まり、形を得たのだ。

 槍だ。

 それも数十本。

 その場にいた全員を貫いて余るほどの量。

 斉射された。

 

「ッ……!」

 

 ディートハリスの手が跳ねる。

 手にしていた戦杖に光を宿しながら、指で弾き、回転を生みながら前方に投げる。

 ステッキに宿った光が長さを倍にし、回転しながら盾になった。

 槍の雨が、光の盾に降り注ぐ。

 

「ちっ……!」

 

 高速で射出し、人一人を容易く貫通する槍衾の六割はディートハリスの盾がはじき返し、三割はローマンとアデーレがその爪を以て殴り飛ばした。

 残りの一割、数本は、

 

「―――ごほっ」

 

 ディートハリスの体に突き刺さっていた。

 

「若様!」

 

「構うな! すぐに全員を逃がせ!」

 

「ッ―――」

 

「――――あーらら。相変わらず甘いわねぇディートハリス様」

 

 音があった。

 声と靴が鳴る音。

 分解され、空白になった舞台奥から現れたのは女だった。

 長身豊満。炎のような赤い髪、艶めかしい右目元の泣き黒子。

 シンプルなシャツとジャケットにスラックスという出で立ちながら妖艶さを漂わせる。

 彼女を前に、ディートハリスは口元から血を零しながら吐き捨てた。

 

「…………ヘファイストス! 貴様、逃げ出していたか……!」

 

「えぇ、勿論。この場の混乱に紛れてねぇ」

 

 ヘファイストスと呼ばれた女は、ディートハリスをせせら笑い、

 

「それにしても、そんなにまでなって平民を守るなんて。それが貴方の言ってた貴族の義務とやらかしら? 大変ねぇ、そんな体になってまで」

 

「ふん……貴様のような誇りの無いものには分からんよ」

 

 彼は嘆息し、

 

「――――諸君、全力で逃げたまえ!」

 

 掲げたステッキから強烈な光が発生した。

 

「ん―――」

 

 目くらましの閃光。

 あまりの光量にヘファイストスも目を閉じた。

 だけど。

 逃げられるはずないと、少女は思った。

 こんな状況で動ける訓練を受けているわけではないし、そもそも逃げろと言われて逃げられなかったから劇場に籠っていたのだ。

 恐怖と戸惑い。

 純粋極まりないただその感情が、行動力を奪う。

 少女だけではなく、周りにいる劇団員も、残ってくれていた観客さえも。

 動けなかった。

 なのに。

 

『≪外典系統(アポクリファ)≫―――≪我、勇気を以て背を押す者也(アンドレイア・プローケーデレ)≫』

 

 声が響いた。

 

「――――え?」

 

 なのに、気づいたら足を動かしていた。

 少女だけではなく、その場にいた全員が。

 動いたと気づいた時には、すでに走り出している。

 アデーレとローマンも槍衾によって得た傷に構わず、逃げる人たちを守るように共に駆けていた。

 まるで誰かが背中を押してくれたような。

 まるで心の中で燻っていた勇気に火を灯してくれたような。

 そんな感覚を誰もが共有していた。

 一瞬だけ、少女は振り返る。

 膝をつき、血を流す彼は右手を掲げていた。

 手の甲に槍と盾を組み合わせたような紋章を浮かべながら。

 彼は笑っていた。

 その笑みが、少女の目に焼き付く。

 そして、誰もが劇場から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「…………へぇ、それが貴方の」

 

 ヘファイストス・ヴァルカン。

 かつてディートハリスと共に行動を共にし、しかして裏切り、数か月王国に拘留されていた女。

 本来ならば今日、彼女は各国王たちの前で尋問と処遇が決定されるはずだったが、混乱に紛れて逃亡したのだろう。

 逃げ出した演者や客たちは追わず、形のいい眉を上げて膝をつくディートハリスに問いかける。

 

「如何にも。我が≪外典血統≫、≪我、勇気を以て背を押す者也(アンドレイア・プローケーデレ)≫。中々悪くないものだろう?」

 

 傷口に治癒魔法をかけて止血をしながらディートハリスは苦笑気味に返した

 血統による系統の派生進化。

 ≪我、勇気を以て背を押す者也(アンドレイア・プローケーデレ)≫。

 

「他対象、複数。行動の命令―――いえ、支援かしら?」

 

「ふっ……どうだかな」

 

 合っていたのでびっくりしたがとりあえず笑っておいた。

 ヘファイストスの指摘通りだ。

 複数、最大数百人規模を対象とした精神への『鼓舞』。

 言ってしまえば他人を勇気づける、というものだ。

 それだけと言えばそれだけだが、戦場においてあらゆる精神負荷を超えて肉体の最大効率の発揮と冷静な判断を可能とするというのは非常に大きい。

 アンドレイア家は帝国において軍部を司る故に。

 血筋の中でもディートハリスの≪外典血統≫は大人数に特化した異能である。

 これによってこの劇場に辿りつくまでも、片っ端から民衆に対して『鼓舞』を行い、避難を手助けしていたし、だからこそ帝国皇帝レインハルトも自らの下を離れることを許した。

 だが、問題はとディートハリスは思う。

 対個人においてはあまり向いていない。

 さらに言えばこの≪外典血統≫、自分を対象にはできないのもちょっと問題がある。

 

「…………ま、己の心くらい、自ら奮わせろということか」

 

 苦笑し、立ち上がる。

 最低限の止血は済ませた。

 

「よかったのかしら、1人だけ残って。貴方の奴隷にも置いてかれたけど」

 

「無論だ。優先すべきは彼らだからな。アデーレとローマンには避難を命じ、それに応えた。それから、二人は奴隷ではないよ。契約と報酬によって成り立つ雇用関係だ」

 

「ふぅん、相変わらずご立派ですこと」

 

 けれど、と女は笑う。

 

「この状況よ。どうするのかしら、私の靴でも舐めてくれる?」

 

「―――ふっ、確かに俺は他人の靴を舐めることに何の躊躇いもない男ではあるが」

 

 だがなと、男も笑った。

 

「貴様のような誇りを持たぬ見下げ果てた下衆の足など舐めん」

 

 握った戦杖を付きつける。

 

「或いはこう考えよう、お前のような危険人物を俺が引き付けているのだ。むしろ御の字ではないか? 貴様一人と俺一人、聊か天秤の傾きが激しい気もするがその能力は危険だし良いとしよう」

 

「酷い言い草ねぇ」

 

 意図的に吐いた毒舌だったが、ヘファイストスは動じなかった。

 むしろにたりと嫌らしい笑みを浮かべ、

 

「一人、というのは勘違いじゃないかしらぁ」

 

「――――!」

 

 振り返り、気づく。

 観客席に男と女がいることを。

 

 

 

 

 

 

 先ほど崩れ落ちてきた瓦礫の中。

 無事だった観客席に二人。

 水色の二尾髪に三白眼と鋭く並んだ歯を持つ女。

 蜂蜜色の髪と伸びた背筋の男。

 女は右の、男は左の前髪がそれぞれ長い。

 どちらも同じ仕立てのスーツ姿であり、女はブラウスだけ、男はネクタイとベスト姿。

 ≪ディー・コンセンテス≫の兄妹。

 アポロン・ヘリオスとアルテミス・ルナだ。

 

「おいおい糞兄貴、オレたちにも矛先が向いたぜ?」

 

 アルテミスは前の座席に足を延ばしてだらしなく座り、どこで拾ったのか観客向けのポップコーンを齧り、

 

「そのようだ。どうやらヘファイストスの茶番に付き合わされるかもしれんな。めんどい」

 

 アポロンは背筋を伸ばしつつ、足を組みながら、やはりどこかで拾ったであろうワインを、態々グラスに注いでいる。

 どう見ても観客の姿勢だ。

 

「……って何してんのよアンタたち! 手伝いなさいよ!」

 

「えー、めんどいぜ」

 

「逃げ出したところを合流したのに、そこの貴族を見かけて復讐すると息まいたのはお前だろう? なら自分でやればいいのではないか?」

 

「空気を! 読みなさいよ! ちょっとは! ドスを聞かせるとか! 他の連中が逃げてたのも無視してたし!」

 

「別に放っておいても死ぬだろ。外には魔族がわんさかいるしよぉ」

 

 妙に緊張感のない会話が繰り広げられているが、しかしディートハリスは聞いていて内心穏やかではない。

 この二人が≪龍の都≫を襲った二人組であるということは彼も知っている。

 良くない。

 実によくない。

 顔には出さず、しかし内心頭を抱える他ない。

 正直ヘファイストス一人でもディートハリスの手には余るというのに。

 彼女をあっさりと倒していたトリウィアやウィルが並外れている。

 

「…………楽しい時に済まないが」

 

 ディートハリスは三人に問いかける。

 

「君たちで一番弱いのは誰だ?」

 

「そいつ」

 

「彼女だ」

 

「ちょっと!」

 

「なるほど」

 

 即答でアポロンとアルテミスがヘファイストスを指を示す。

 ヘファイストスは抗議の声を上げたが、無視されたし、ディートハリスも静かに頷く。

 良い情報は目の前のヘファイストスが一番弱いということ。

 狙い目だ。

 悪い情報は目の前のヘファイストスを倒せる可能性が結構低いということだ。

 ディートハリスは部下を指揮し強化するタイプなので決闘には向いていない。

 

「…………ふっ」

 

 困ったのでとりあえず笑っておく。

 そう、それが大事だ。

 ちょっと考えてみれば別にすぐに負けることもないだろう。

 逆に考えれば危険人物、推定この襲撃を行う者達の幹部を3人引き付けているのだ。

 まぁちょっと負担が重い気もするけれど。

 その分人々が辛い思いをしなくて済むかもしれない。

 こういう時の為に、自分は高度な教育と訓練を受けていたのだから。

 

「いいだろう! ディートハリス・アンドレイア! お前たち三人相手してやろうではないか! 言っておくが私は! 仲間がいれば結構強い!」

 

「あ? オレらも入ってる?」

 

「仲間いないではないか」

 

「本当の所はどうなのかしら?」

 

「死ぬ気で頑張ってお前たちを良い感じに足止めしたら! 誰か助けに来てくれることを願っている、切実にッッ!」

 

「人生で最も格好悪い啖呵でしたが、まぁいいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 声は劇場の入り口から。

 ディートハリスのように空から降ってくるわけでも。

 ヘファイストスのように能力で壁を崩してくるわけでも。

 アポロンとアルテミスのようにいつの間にか席に座っているわけでもなく。

 観客席外周中央の出入り口から普通に入って来た。

 天井で崩れたせいで生まれた影。

 そこからまず靴音と金属音が響く。

 イヤリングと胸に掛かる十字架の音。

 次いで闇の中で小さな灯が燻る。

 

「――――ふぅ」

 

 現れたのは煙草を蒸かす白衣姿のトリウィア・フロネシスだ。

 彼女は常の無表情で、ゆっくりと観客席から舞台へと向かっていく。

 春に入り、肩に落ちるくらいまで伸ばした髪が揺れる。

 青の中に混じる黒。

 

「来たか……!」

 

 アポロンはワインを飲みほしてから立ち上がる。

 かつて敗北した相手に対し雪辱を晴らす為に。

 本当は、ヘファイストスの回収と彼女の我がままがなければ探し回りたかったところだ。

 

「……アンタ、外はどうしたんだよ」

 

 アルテミスは体を起こしながら、横を通り過ぎようとしているトリウィアに問いかけた。

 

「いっぱいいただろ、魔族がよ。逃げてる連中も」

 

「周囲1ブロックは掃討しました。避難も問題ないでしょう」

 

「―――」

 

 さらりと告げられた言葉にアルテミスは口を噤んだ。

 

「…………はは」

 

 ディートハリスも思わず渇いた笑いが出てしまう。

 周囲1ブロックなんて言うが。それだけの範囲にどれだけ魔族がいたか。数十では効かないし、十メートル前後の大型だって二ケタ以上いた。ディートハリスが劇場に飛び込んで五分も経ってないのに。

 けれど。

 この女は、やる。

 

「会いたかったわよぉ!」

 

「―――」

 

 ヘファイストスが叫ぶ。

 端正な顔を歪め、自身を倒し捕まえた女へと。

 約半年投獄されていたのだから、恨みが積もり積もっているから。

 

「アンタを見返す時を、この半年どれだけ……!」

 

「あの」

 

 トリウィアは煙を吐きだしながら眉をひそめ、

 

「―――――誰でしたっけ」

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ! おいおい兄貴、あの女おもしろくね?」

 

「それは否定してないでおこう」

 

「―――――アポロン、アルテミス! やるわよッ!」

 

 トリウィアは明確にヘファイストスの怒りが頂点に達したのを見ていた。

 

「…………冗談だったんですけど」

 

「いや流石にそれは無理があるぞー」

 

 肩を竦めていたら、そそくさと舞台袖に避難していたディートハリスの声を聴いた。

 いつの間にと思うが、その方が助かるので良いとしよう。

 そのあたりの判断は流石と言える。

 

「トリウィア・フロネシス―――半年前は負けたけど、生憎私たちもそのままじゃあないのよ!」

 

「ふむ、ヘファイストスの言葉に乗るのは不本意だが同意しよう。敗北は受け入れた、ならば次は勝利を奪い取ろう」

 

「ま、こいつ三人で囲んでぶっ殺してオレも鳥畜生んとこ行くとするかねぇ」

 

 三者は舞台上と観客席でトリウィア中心とした三角形を作りながら囲んでいる。

 そのまま膨大な魔力を解放し、変化の言葉を紡ぎ、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)―――――』

 

 異界の神性をその身に降臨させた。

 

『打ち鳴らせ――――≪鐵鋌鎬銑(ウルカヌス・ハンマ)≫!』

 

『―――――日輪を回せ、≪桂冠至迅(アポロ・ホイール)≫』

  

『かき鳴らせよッ、≪凶禍錘月(ディアナ・ストリングス)≫ッッ!!』

 

 吹き荒れる魔力は柱のように収束し、三人の姿を変貌させる。

 その様を見て、僅かにトリウィアは目を細めた。

 ヘファイストスとアポロン、既知であるはずのそれが自分の見たものと違ったからだ。

 ヘファイストスのそれは蛸を模し、生物的な変化だった。

 アポロンは獅子を模し、装飾の施された重鎧だった。

 アルテミスにしてもアポロン似た兎を模した軽鎧だと聞く。

 だが、それらとは明確に違った。

 それまでのように蛸、獅子、兎を模しているのは変わらない。 

 ただ外装の様式が全く違う。

 共通して張り付く様な薄い素材のスーツ、その上にそれぞれ全身に装甲が加わり、武装を形成している。

 トリウィアが見たことのないような金属は無駄の無い鋭角的なラインでありながら、各部が発光を生むもの。

 ヘファイストスに至っては背から四本、鋼鉄の触腕が生えている。

 

「――――ふむ」

 

 様式が違う。至るまでの技術と文明も違う。

 或いは、()()()()()()()

 いつか見たマキナのパワードスーツのそれに近い。

 アルマがSFとか呼んでいたジャンルのものだ。

 アース111では生まれるはずのない、生まれるとしたら数百年は先のオーバーテクノロジーにしてサイバーテックスーツ。

 それを前にして、トリウィアは煙草を蒸かす姿勢を変えなかった。

 

「驚いたかしら? 時代にして数百年! 別のアースの技術を取り入れた完成された≪神性変生(メタモルフォーゼス)≫よ!」

 

「いえ別に。別次元、それも進んだ文明の技術を取り入れるのは考えればむしろ当然でしょう」

 

「このっ……!」

 

「えぇ、正しい。――――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………は?」

 

「なんだと?」

 

「あ? こいつなにを―――」

 

 変生しながら疑問を口にした三人にトリウィアは答えなかった。

 しかし三人の変生に応える様に、

 

『≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)≫――――』

 

 その言の葉を紡ぐ。

 

『―――――≪境界超越(エクツェレントゥ)≫』

 

 新たに切り開いた魔導の究極を。

 暗い光が爆ぜた。

 深く、重く、されど華々しく。

 光は収束し、黒と青の魔法陣となって彼女の周囲を駆けた。

 それはトリウィアの全身を包み、何もかもを変えて行く。

 纏う服はただのブラウスとレザーパンツから軍服へ。タイトスカートからガーターベルトが伸び、ニーソックスに繋がり、重厚な軍靴へと至る。

 太ももにあった二丁拳銃は両腰に収まりながら、その銃身に短くも鋭い刃を追加した。

 象徴的な白衣ははためきながら黒いコートへと変化し全身を包みながら、襟が高く立つ。

 胸と耳の十字架、眼鏡も装飾を増やしより重々しいものへ。

 変化はそれで終わらなかった。

 二つの魔法陣。

 一つはトリウィアの頭上で軍帽に。

 もう一つはそのさらに上で形を得る。

 円から重なり、突き出た十字架。それが頭上に浮かぶ。

 まるで、天使の輪のように。

 右の瞳には、揺らめく陽炎も宿る。

 それを以て、変身は完了した。

 故に告げる。

 

『―――――≪十字架の祝福(ヘカテイア・ゼーゲン)≫』

 

 それこそが。

 トリウィア・フロネシス。

 ()()()()()()()()に他ならない。

 

「足りないなら、別の世界から引っ張ってくる。えぇ、その思考は全く正しい」

 

 ヘファイストスも、アポロンも、アルテミスも。

 全く思っていなかった変身に思考が止まる。

 だからトリウィアは言葉を重ねた。

 新たな姿になっても、そのままのを蒸かしつつ、

 

「私の場合、アルマさんからアカシック・ライトを学んでまず実践したのは幻術でした。これはわりとすんなりいきましたね。その次は移動、転移門だったんですが……」

 

 肩を竦める。

 

「これは難しい。座標対象は無理だし、個人対象ならできるんですが脳への負担が激しすぎて吐きまくって一日近く寝込みますし。中々上達しなかったので……やることを変えました」

 

 即ち、

 

()()()()()()()()()

 

 そう、それだ。

 トリウィア・フロネシスに足りないもの。

 アース111最強と最賢を関して尚届かない領域。

 

「――――七つの要素。二十七系統を保有する私が、しかし得られなかったもの」

 

 加熱、燃焼、焼却、爆発。

 液化、潤滑、氷結、活性。

 流体、気化、伝達、加速。

 硬化、生命、崩壊、振動。

 帯電、発電 電熱、落下。

 拡散、反射、浄化、収束。

 吸収、荷重、斥力、圧縮。

 それがトリウィアの保有系統。

 同時に耐熱、鎮静、風化、鉱物、誘導、封印、時間の七系統を持ち得ていない。

 

「てめぇ、まさか……!」

 

「えぇ、アカシック・ライトでそれらの要素を引き出しました。これはマルチバースから力を引き出すものですから」

 

 アルテミスの声に律儀に解説する。

 故に≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)境界超越(エクツェレントゥ)≫とは。

 三十五、全系統を用いた究極魔法に他ならない。

 ウィル・ストレイトが持ち、けれどまだ使いこなせないものを。

 アルマ・スぺイシアが持ち、使いこなした彼女のように。

 足りないものを補った。

 それがトリウィアの新しい力。

 

「貴方達がアップグレードしたのなら、私だってするに決まっているでしょう?」

 

 肩を竦め、吸いきった煙草を指先に宿した黒光で消滅させつつ、新しいものを口にする。

 当然のように勝手に火が付いた。

 吸い込み、

 

「あぁそうそう。お三方、何をこいつはべらべらと解説しているのだろう思っていることでしょう。まぁ別に知られたところで困らないものなんですか」

 

 吐きだす。

 種を語った理由を。

 

「全部解説した上で――――圧倒したほうが恰好良いでしょう?」

 

 ピシリと、空気が軋んだ。

 明確な挑発に、ヘファイストスだけでなくアポロンとアルテミスも悟ったのだ。

 舐められていると。

 

「さてと……そろそろ始めますか。せっかくの劇場ですしね」

 

 腰から形を変えた両刃銃を引き抜く。

 三方に囲むは異界の神性。

 彼らのそれは知らないが、トリウィアが知る知識で名付けるなら、

 

「演目は――――神々の黄昏」

 

 両手を振るう。

 リボルバー同士がぶつかり合い、蒼黒の火花を散らした。

 それが合図だ。

 人が偽りの神を終わらせる物語。

 青と黒の相貌は輝き、告げた。

 

「――――――開演」

 

 

 




ディートハリス
変わらぬ間男
靴を舐める相手は選ぶ
外典血統が自分を対象に含めないあたりキャラクターに出ている

劇団少女
無事に生き残って歌手として名をはせてから
数年後帝国に渡ってトリウィア妹と修羅場を繰り広げる

復活のヘファイストス&アポロン&アルテミス
変身がアップデートされてSFバトルスーツ風にパワーアップ
ファンタジー世界の明確な異物感

トリウィア・フロネシス
エクセレントトロピカ……ではない。
白衣から軍服+天使の輪
アース111最強を更新中
何を持ち合わせてないんだお前は


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シュークェ――人獣混交――

 

 何故こんなことに……?

 そんなことを思いながらシュークェは自らの翼で魔族を殴り飛ばした。

 王国西部の大通り。

 サンドワームや龍のような大物はいなくても大量に湧いてくる様々な魔族から中心部へと逃げる人々が逃亡の河を作っている。

 十人近くが並べるような広い通り。

 そこを駆ける民衆たちと、彼ら彼女を守る衛兵や騎士団。

 そういった人々へと襲い掛かる大小様々な魔族。

 シュークェは数は少ないが無視はできない鳥型魔族の迎撃を主に行っていた。

 鳥人族は戦闘に適したものは少なく、地上からの対空攻撃を行う魔法使いもいるにはいるのだが、

 

「ほわたっ!」

 

 シュークェが飛び回って炎翼で消す方が速かった。

 半裸の鳥人族が放った炎は魔族三体を燃やし、近くの二体に燃え移る。

 そしてその炎が、魔族の体を伝い包み込み燃やし尽くした。

 少し前、≪竜の都≫でナントカミスとかいう糸遣いに苦しめられた故に編み出した対拘束用の仙術だ。

 本来は張り巡らされた糸の類を燃やす為だが、案外使い勝手がよく飛び散った火の粉がそのまま小型魔族程度なら倒せるのでありがたい。

 しかしなんという名前だったろうか。

 ナントカミス。

 人種の女に対して、ミスというのは敬称だった気もする。

 つまり、

 

「ナントカ……?」

 

 地上、二階建ての屋根から犬型の中型魔族が飛びかかって来たので首ではなく、体ごと傾けて回避を行う。

 翼を空に引っ掛けた、空中での静止と移動だ。

 頭が上、足が下だったのが、翼を中心に位置を入れ替える。

 

「ガアアアーー!」

 

 全長三メートルほどの犬型の牙が迫る寸前で回避を成功し、足の先に腹があった。

 故に翼に炎を宿し、

 

「ぬぇい!」

 

 捻りを加えながら超至近距離での噴射加速を乗せ、両足螺旋蹴りで魔族をぶち抜いた。

 炎の残滓を残しながらすぐに体勢を元に戻し、 

 

「おぉ……!」

 

「すげぇぞあの鳥人族……!」

 

「かっこいいわ……!」

 

 走りながら逃げている人々の歓声を背に受けた。

 

「…………ほほっ!」

 

 口端が歪み、声が漏れた。

 走り抜けている民衆が、こちらに賞賛の声を上げてくれている。

 聞こえて来た声の中、女人の声があったので振り替えて見下ろせば、

 

「くそ、あいつできるとは思ったけどあそこまでだったのか……!」

 

「街コンじゃ碌に女子と会話できてなかったのによ……!」

 

「なんだよあの翼……! ワシも欲しいんだけど!」

 

「お前ドワーフ族だろそれでいいのか!?」

 

 鎧姿のむさくるしい衛兵たちだった。

 

「貴様らぁー! 何故このシュークェがお前たちの声援なぞ受けねばならん!?」

 

「どっちかっていうとディスってるよ!」

 

「なんだとぉ……!」

 

 キレている間にも彼らは街の中央に駆けて行った。

 仕方ないので真後ろから飛んできた鳥型魔族を翼で殴り燃やしておく。

 シュークェが何故今人間の都で、人間を守って戦っているのか。

 その理由は、

 

「おのれ、このシュークェの婚活はどうなってしまったのだ……!」

 

 そう、即ち番探しである。

 年明けの一件で兼ねてより『女と全然縁が無いけど自分には許嫁いるから何の問題もなかろ~~』というシュークェの目論見は崩れ落ち、許嫁だと思っていたフォンは目の前でウィル・ストレイトといちゃついてたのでかなり空しくなった。

 一度鳥人族に帰って長であり祖父であるリウに相談したら、

 

『お前みたいなのと番いになる鳥人族おらんじゃろ』

 

 などと遠回しに色々言われてから最終的に直球でそう言われたので諦めざるを得なかった。

 なので王都である。

 様々な人種が溢れ、出会いもある。

 特に、この日他の国の長も来ているとのことで街はちょっとしたお祭り状態。

 それに伴って街の人区画を利用したお見合いのようなものが行われていた。

 ようなものというのは別に番いを見つけるというよりも、それよりもうちょっとライトな関係、結婚を前提にしたりしなかったりする恋人を見つける行いらしい。いくつかの飲食店を貸し切って自由に出入りしたりローテーションを組んだりと趣向に凝っているとか流石人種繁殖にかけては色々豊かすぎるではないか。

 態々書店で『これでモテる! 異種族間恋愛の秘訣! 天津皇国次期女皇インタビュー付き!』とかいう本を買ってみたが文字が読めず素の自分で行ったらなんか会話が成立しなかった。

 

「どこにいるのだ我が運命の女よ……!」

 

 思わず慟哭が上がり、

 

「キアアアアアア!」

 

 空から大型の猛禽型魔族が突っ込んできた。

 

「やかましい、叫ぶな……!」

 

 翼に炎を宿し、

 

「―――君も、大概アルよ」

 

 右肩から声を聴いた。

 

 

 

 

 

 

 声と共に肩に響きがある。

 軽い衝撃だった。

 声がなければほとんど感じなかった重さ。

 

「――――あぁ?」

 

 それは攻撃ではなかった。

 シュークェの肩を蹴り、飛びかかる影だ。

 

「んんん……?」

 

 姿を見て、シュークェは思案する。

 肩を蹴ったそれは小さい。

 精々が五十センチ程度、緑の毛並みを持つ胴長四つ足の獣だった。

 何故か服を着ている。

 鳥人族でも着られているようなチャンパオ、それを体に合わせ、さらには動きやすくしたようなもの。

 見覚えがある様な動物。確か、

 

「…………胴長鼠!」

 

「フェレットアルよ」

 

「喋ったあああああああ!?」

 

 喋るフェレットに驚いている間にも魔族は迫っていた。

 翼を畳み、嘴を突き出した急降下による強襲。

 一本の銛が振ってくるようなものだ。

 

「―――と」

 

 フェレットは、しかしその切っ先を軽く手を添えて体を回した。

 シュークェは目を見張る。

 体術だ。

 獣の姿でありながら、その身軽さを活かしながら猛禽型魔族の体を滑るように跳ねたのだ。

 コンマ数秒以下の動きだった。

 刹那のすれ違いの中、フェレットはその肉球を腹に当て、

 

「――――ほっ!」

 

 ()()()()の掌底が魔族を横合いから吹き飛ばした。

 

「ん、んん……!?」

 

 視界の隅に猛禽型魔族が大通りから弾かれていくが、視界の中央が問題だった。

 淡い光を纏う小男。

 少年と言っていいかもしれない。

 連合風の戦闘装束、三つ編みを首後ろから胸の前に流した緑の長髪。エルフほどではないが尖った耳。

 一瞬前までは動物だったのに、今は人の姿を持って近くの屋根に着地している。

 その変化に関しては迷いなく言葉が出た。

 

「≪高次獣化能力(メタビースト)≫か……!」

 

 元許嫁にして現同郷親戚のフォンと同じ。

 任意で獣化と人間化を操れる亜人族の特異能力者だ。

 近づいて来た小型の魔族を翼の振るいによって打ち出した炎で消しつつ、少年のいる屋根に着地する。

 

「貴様、何者だ?」

 

 問いかけに、少年は背後に手を回しつつ、眉を上げた。

 

「おやおやフォン君から聞いてないアルか?」

 

「聞いておらぬ! ――――なにせ、王都に戻ってからフォンはこのシュークェに対して凄い冷たいからな!」

 

「何したアルか」

 

「別に何も――――王都で良い感じに繁殖相手を見つける方法を聞いただけだ! ウィル・ストレイトもいてフォンなら詳しいだろうしな!」

 

「それ本人に言ったアルか」

 

「無論だ! このシュークェ、思ったことは全て口にしてしまう! 口にしたら蹴られたし、待ち合わせにしてた茶店の店主には追い出されたが!」

 

「それはだめアルなー」

 

「なんだとぉ!?」

 

 会話の間も魔族はひっきりなしに二人に、或いは大通りへと襲ってくる。

 シュークェは翼から炎を、奇妙な少年は掌底を振るって拳圧を飛ばし対処をしていく。

 それと先の動きで分かるのは彼が武術において達人と呼べるものということだ。

 

「まぁ良いアル。僕はアクシア魔法学園の教員、ドニーというアルよ。最近ではフォンに拳法を教えているアル」

 

「なに……!」

 

 つまり、

 

「親戚がお世話になっております……!」

 

 腰を直角に曲げたら、そこを小さな猿型魔族が飛び越えて行き、

 

「いえいえ。こちらこそ良いご家族さんアル」

 

 ドニーの手の払いの着弾で発生した衝撃が消滅させた。

 シュークェは顔を上げ、

 

「しかし貴様、子供に見えるが?」

 

「エルフとのクォーターでアル。見た目通りの年でないアルからな。今年五十になるアルよ」

 

「なんと……! ではそのなんか変な喋り方も理由アルか?」

 

「真似しないで欲しいアルな。―――――これは昔世話になった初代陛下と賭けで負けて『おめー中華ぽくて拳法家とか語尾アル付けろよ拒否権はありませんだって俺王様だから!』という感じで強制されたアル」

 

「チュウカ、とは?」

 

「さて。初代陛下は半分くらい意味不明謎単語の使い手だったアルからなぁ」

 

 意味不明な謎の話を聞いた時だった。

 

「ん?」

 

「アル?」

 

「オオオオォォォォ!」

 

 シュークェとドニーがいる建物、その大通りを挟んだ向かい側。

 全長十メートル近い大きな蜥蜴型の魔族が、建造物を破壊しながら迫っていた。

 ぱっと見その大きさと形から竜に見えなくもないが、翼が無いからやはり蜥蜴のそれだ。

 胴から横に突き出された四肢を動かし暴れ狂うように真っすぐ大通りへの突撃を行っている。

 

「ちっ――――」

 

 距離はまだあるが、速度的に十数秒もあれば大通りにかち合う。

 そうでなくても崩壊し、飛び散る建物が避難の流れを引き裂くだろう。

 背負う炎を猛らせ、飛び上がろうとし、

 

「――――ハーイハイハイハイ!」

 

 それより先に、蜥蜴型魔族の鼻先に飛び込む女装の巨漢を見た。

 その女装を、シュークェは知っていた。

 人種の衣装であり、本屋の成人向け書物の表紙で見てしっかり覚えたその姿は、

 

「チアガール……!?」

 

 

 

 

 

 

「オォォォラッ……!」

 

 ドニーは筋骨隆々のチアガールがポンポンを魔族の鼻先にぶち込むのを目撃した。

 青と白の臍出しノースリーブのユニフォーム姿だ。

 

「懐かしいアルなぁ」

 

 ドニーはアクシア魔法学園設立時から在籍する古株の教員だ。

 そして初代国王と肩を並べ魔族大戦を潜り抜けた身でもある。

 初代国王は常識外れであり、既存の文化とは全く違う服や食事を考え出し、王国を大きく変えた。

 チアガールという概念とその衣装もその一つ。

 大戦が終わり、平和となってから運動する選手へ露出度の高い服と細かく裂いた布で作った飾りを振る応援団を結成しようと言い出した時はいつも通り脳の病気を疑ったがこれがウケが良かった。

 十年くらい前は生徒会が全員――男子も含む――この恰好をして各行事を行ったりもしたものだ。

 最近は落ち着いて、今の学園では一部活として残っている。

 

「おっ」

 

 そんなことを思い出している間に、打撃が魔族の頭部を伝播し、停止が発生した。

 魔族の巨体がつんのめって浮く。

 そこに、

 

「オラオラオラオラオラオラオラオーララララララァァァァァオラオラオラッラララララララァァァァァラーラーラーラーラー!!」

 

 拳撃のラッシュが鳴り渡った。

 何故かパンチの掛け声とバリトンボイスの声出しと裏声が混じっているが気にしないことにする。

 ラッシュは数秒続き、

 

「オーエスッ!」

 

 最後のアッパーが大型魔族を消滅させ、

 

「ハイッ!」

 

 Yの字のポーズを決めて残身とした。

 ユニフォーム越しからも隆起した筋肉が伺える。

 それから筋肉は振り返り、

 

「ちょっとドニーちゃぁん! 楽しくおしゃべりしてる場合じゃないでしょもー!」

 

 筋肉で女装でオカマのエルフが声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「…………なんだ、アレ」

 

「うちの教員アルね。フランソワ・フラワークイーンというアル」

 

「学園というのはけったいなのがいるのだな……」

 

 しみじみと呟くシュークェに肩を竦め、チアダンスを踊りながら跳び回って魔族を消滅させるフランソワにまた怒られないように駆けだそうとし、

 

「ドニー師範!」

 

「アル?」

 

 眼下、通りから声が上がった。

 見れば足を止めた騎士がこちらを見上げている。

 顔の半分が鱗で覆われた縦の瞳孔を持つ、人種に近い性質を持ったリザ―ディアンの騎士だ。

 その顔に見覚えがあり、飛び降り彼の前に立つ。

 

「君は……ヴォール君アルか。久しいアルね」

 

「はぁい! 自分が卒業して三年ぶりでえええす!」

 

「うん、相変わらず喉が震えているようでなによるでアル」

 

 喉を鳴らして威嚇する声帯特性を持っているからか特徴的な話し方をするのは数年ぶりに会う学園の卒業生だ。

 記憶より成長した顔立ちを見上げ、

 

「良い鎧アルね。出世したようアル」

 

「はぁぁい! 師範たちの教えのおかげでぇぇっす! 部隊長になりましたぁぁぁ!」

 

「結構アル―――部隊長から見て、状況はどうアル?」

 

「正直、師範たちが戦ってくれて超助かってまぁぁぁす! 防衛はできても、迎撃が遅れているところでぇぇぇす!」

 

「ま、そうなるアルか」

 

 頷きつつ、避難民を見る。

 一口に避難民と言っても、実情は様々だ。

 前提とする戦闘能力がない市民だとしても、戦闘訓練をしていない大人もいれば、女子供に老人。彼らが走る速度にも大きな差があり、逃亡の流れは間延びしてしまう。 

 そういった延長を騎士団や衛兵たちは補い、守らなければならない。

 騎士団も単騎で大型を倒せる実力者やそれ以上の『二つ名』持ちもいるし、小型魔族程度なら衛兵でも倒せる。

 だが、町中に蔓延り、人々を守りながらだとどうしたって手が足りないのだ。

 緑の髪を撫で思うのは、

 

「……うちの生徒の大半が試験の準備で王都を出ていたのは幸いというかべき悩みどころアルね」

 

 思わず嘆息してしまう。

 学園の生徒ならば並みの騎士程度の戦闘力もあるし成績上位者『二つ名』持ち、或いはまだ貰ってないだけという者も多いのだ。

 その生徒たちはほとんどが王都を出て各地の試験会場の準備に出払ってしまっており、戻ってくるのにも時間がかかるだろう。

 戦力的にはいてくれれば助かるが、教え子たちが巻き込まれないだけよかったというべきか。

 

「―――ま、できることをするアルか」

 

「そうですねぇぇぇ! 師範たちにはぁぁぁ引き続きぃぃぃ迎撃をお願いしまぁぁぁす!! もう少し進めばぁぁぁ中心部の防衛線に辿りついてシェルタァァァに誘導できるのでぇぇぇええ!」

 

「うむ。そのつもり―――」

 

 言ったその時だった。

 警戒の為に周囲を見回す為に空を見上げた。

 駆けて行く避難民の前方上空。

 

「――――」

 

 男が宙に立っていた。

 かなりの高所。

 何か槍のようなものを手にしている。

 目にしてぴりりと背筋に震えが走った。

 魔族とも違う。

 むしろそれ以上の異物感。

 卒業生の騎士が連られて見るが、首を傾げるだけだったので彼は気づいていないのだろう。

 ある程度の戦闘経験と相手の技量を理解する目、それを持ち得る達人と呼べる領域の者でないと気づけない感覚。

 視界の端、フランソワも足を止めている。

 だがドニーもフランソワも届く距離ではない。

 アレに気づいて、尚且つ届く者は、

 

「なんだ貴様あああああああ!」

 

 いた。

 

 

 

 

 

 

 シュークェは炎翼をはためかせて飛び上がり、スーツ姿の男と相対した。

 声の届くギリギリの距離で向かい合う男は、近づいてみるとかなりの長身ということが分かる。

 顔に掛かる濃い藍の長髪。黒のネクタイに黒のダブルジャケット。

 手にしているのは妙な質感の金属による長方形を組み合わせたような三叉槍だった。

 堀の深い目元は暗く、どこか陰気な雰囲気を漂わせている。

 良く見ればただ宙に立っているのではなく、水の膜なようなものの上に佇んでいた。

 奇妙な気配と服装。

 それには見覚えがあり、

 

「貴様……ミス・ナントカの仲間か!」

 

「…………?」

 

 ゆっくりと首を傾げられた。

 なるほど。

 とぼけている。

 

「ふん……往生際の悪い奴め、このシュークェは騙されんぞ!」

 

「…………?」

 

 また首を傾げられた。

 なんと不遜な相手だ。

 己を前にだんまりとは。

 

「貴様もディーコロネンなのだろうが、たった一人でシュークェの前に立つとは――」

 

「俺はたった一人ではない」

 

 食い気味の早口が帰って来た。

 

 

 

 

 

 

「確かに俺は≪ディー・コンセンテス≫の一人であり、今は一人で立っているがだからといって一人ではない。俺には仲間がいてそれぞれの任務がありそれを実行しているだけだ。俺が今単独行動をしているのは俺の能力的に他の面子との共闘が難しいだけであり、俺の人格に問題があって除かれているわけではない――――いいか?」

 

 長髪を男は一息に喋り、

 

「………………」

 

 今度はこちらが首を傾げる番だった。

 声の届くか届かないかのギリギリの距離でボソボソと早口で言われても全てを聞き取るのは難しい。

 そのうち、聞き取れる単語を脳内処理し、最近王都で知ったいくつかの言葉から当てはまるのを決定し、

 

「つまり――――貴様、ぼっちか!?」

 

 男が振るった槍から生まれた水流がシュークェを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「がばばばばばばぼぼぼぼぼ!」

 

 それはシュークェの全身を飲み込む激流だった。

 内側に螺旋を描く流れは不死鳥の抵抗を押しとどめ圧力を与える。

 

「――――っ」

 

 強烈な勢いに思わず大量の息を吐きだしてしまったのが良くない。

 仙術の発動には呼吸を伴う。

 加えて炎を扱うシュークェにとって、ただの水流程度なら蒸発できるが、

 

「んが……!」

 

 背から生み出した炎は、一瞬のうちに消されてしまう。

 それは圧力故であり、水と火という単純な物理的法則であり、

 

「ふぃふふぁんふぉふぁふぉふぉふぁふぃ……!」

 

 ミス・ナントカと同じ……! と口に出そうとして失敗した。

 単純な、物理的な水流では無い。

 魔術的・概念的強化を付与された奔流だ。

 

「……!」

 

 拙いと、シュークェは判断した。

 単純に高所からこのまま大地に叩きつけられればただでは済まない。

 否、シュークェの再生力ならそれ自体は問題ないのだが。

 問題なのは、この下だ。

 未だ多くの人々が逃げる為に駆けており、それに激突してしまう。

 戦うことがままならずに逃げて来た人たちだ。

 対処はできないだろう。

 今のシュークェにも対処が難しい。

 尋常ならざる再生力を前提としているために、攻撃を直接どうするかではなく受けた後にどうするか、という風に戦闘を構築しているのだから。

 この状況、的確に判断できるものは。

 

「フェレットは泳ぎが得意アルよ」

 

 いた。

 

 

 

 

 

 

「フランソワ先生!」

 

 ドニーは水流にシュークェが飲み込まれるのを見ていた。

 同時に大地を蹴る。

 飲み込まれた直後に炎翼で抵抗したが、逃れられていない。

 そのまま行けば彼ごと水流が人々に降りかかるだろう。

 故に同僚の名を呼んだのだ。

 既にオカマエルフは準備ができていた。

 

「ハァイ……!」

 

 大通りの向かいでポンポン同士を合わせていたので、

 

「―――とっ」

 

 その中心部に足裏を乗せ、膝を沈め、

 

「なんでポンポンにナックルダスター仕込んでいるアルか」

 

「チアガールにお触りした不届きものを張り倒す為よ……!」

 

 彼女―――その主張を尊重してそう呼ぶ―――が両手を振り上げると同時に、膝を思い切り伸ばした。

 轟、という音と共にドニーの体が空を往く。

 高速で弾かれるように跳び上がった少年は重心と体重制御しつつ、

 

「フェレットは泳ぎが得意アルよ」

 

 自ら水流に飛び込んだ。

 重い。

 内側に巻き付く様な圧力と不自然な魔力を感じる。

 構わなかった。

 足を延ばし、水流の外へ踝から下のみ置き、指先だけシュークェのズボンに引っ掛け、

 

「……!?」

 

 獣化と共に脱出した。

 

「ごほっ……これは……!」

 

「ちょっとした応用アル」

 

 宙に浮きながら、シュークェの驚愕の声を聴く。

 一瞬で抜け出したのは≪高次獣化能力≫の小技だ。

 ≪高次獣化能力≫保有者は任意で人、獣、半人半獣、さらにはその配分まで自由に変更可能であり、衣類さえも変化に適応できる。

 ドニーが行ったのはそれを応用したものだ。

 前提として人形態から獣形態になれば大きなサイズ変更が行われる。

 自分の身長の場合、大体100センチほどの差異が生まれるのだ。

 

「獣化を自分の体の一部を起点に行うと、その部位まで全身がズレるわけアルな。疑似的な瞬間移動というワケある」

 

 今回の場合、水流から飛び出させた足先を起点にした。

 その上で獣化することで、指を引っ掛けていたシュークェも100センチほどズレて、後は獣化形態のままに体重移動と体捌きで引き抜いたのだ。

 今のような回避もできるし、先ほど猛禽魔族を倒したように接触状態から移動分のエネルギーを稼いで、発剄としてぶつけることもできるのだが、

 

「………………?」

 

「まぁ、分からなくてもいいアル。フォンも首をひねっていたアルしな」

 

 この辺りは経験によるものが大きい。

 翼を広げ滞空するシュークェの肩で息を吐き、

 

「チアフル乙女ハリケェェェエンン!!」

 

 地上に到達する寸前、フランソワが水流を砕くのを見た。

 両腕を真上に伸ばし、回転したままに突撃したらしい。

 技名はどうかと思うが、威力は折り紙付きだ。

 的確に螺旋を読み、水流を飛沫に変えて行く。

 一先ず発生した危機は乗り越え、

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)―――――』

 

 何も終わってないということを突きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『飲み込め―――≪海遷惨冥(ネプトゥヌス・サンクチュアリ)≫』

 

 散らばった水滴が、逆再生のように空に昇っていく。

 空気さえも重くなったような深海の中心にポセイドン・エノシガイオスは三叉槍を掲げた。

 握る手から、姿が変わっていく。

 肌を包むのは鱗模様の厚手のダイバースーツ。

 両手両足に加速器を備えた機械装甲は腰と背のバックパックとチューブと繋がり、さらにはそこから顔の下半分、口と鼻を覆うマスクと接続された。

 シルエットだけ見れば魚人族だが、やはり別世界・別時代における科装(サイバーテック)

 その力を、ポセイドンは解き放った。

 

「――――」

 

 言葉は無く、掲げた三叉槍の先端に水球が生じる。

 水球が、さらに巨大な直系三十メートルの水塊となるのは一瞬だった。

 軽い動きで三叉槍を振り下ろし、水塊が自由落下を開始する。

 

「……!」

 

 眼下、地上から様々な声が上がった。

 悲鳴であり、怒号であり、驚愕だった。

 だが無慈悲に水の巨塊はゆっくり、確実に落下していく。

 地面に激突すれば周囲の建物ごと人々を押し流すだろう。

 衝撃の炸裂で数十人を押しつぶし、二次被害として周囲の建物との激突を促し、局地的・小規模な津波を生む。さらには動きが鈍った所で魔族の餌食になる。

 数十、数百の命を奪うだろう。

 ポセイドンはその事実をどうとも思わなかった。

 暗い緑の瞳で眼下を睥睨し、

 

「――――む」

 

 風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 人々は見た。

 頭上、巨大な水の塊が振ってくるのを。

 誰もが見た。

 一瞬で黒く光る粒子の風が水塊の下に広がるのを。

 それは渦巻き状に、水塊と同じ直径にとなった。

 水塊が黒の螺旋に触れた瞬間、動きが極めて停滞し。

 誰かが聞いた。

 風の中に溶ける歌を。

 

「――――くろく、とおく、おそく」

 

 歌は吹き抜け、

 

「しろく、ちかく、はやく――――!」

 

 白の奔流が、黒の風ごと水球をぶち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

「っ――――」

 

 ポセイドンは舞い散る大量の飛沫に息を飲んだ。

 直系三十メートルの水塊。

 それを一息でぶち抜いたのは、

 

『正名――――』

 

 白と黒の粒子による翼。

 

『――――≪山海図経・比翼連理≫』

 

「『比翼』のフォン……!」

 

 露出度の高い黒衣。

 全身に走り山吹に光る流線形の紋様。

 鳶色の奥に輝く金の瞳。

 フォン・フィーユィ。

 水しぶきを押しのけ黒白の粒子を輝かせながら世界最速がポセイドンの前に翼を広げる。

 彼女は濡れた髪を気だるげにかき上げ、

 

「…………なんか、鎧の感じ随分変わったなぁ。なんだけ、えすえふ? とか前に似たようなの見たことあるけど」

 

「…………」

 

「あれ、無視? これまで見た君の仲間、わりとおしゃべりだったけど」

 

「『比翼』のフォン、それはヘファイストス、アルテミス、アポロンのことか? あれらは確かに喋るが彼らのような軽快さを期待されては困る。確かに彼らは俺の仲間であるが、だからといって口数まで同じではない。その三人だって別に同じようなキャラクターではなかったであろう」

 

「うわ、急にめっちゃ早口で喋るじゃん」

 

「―――――スッー」

 

 深く息を吸う。

 普通に精神に傷を負った。

 聞かれたので説明したのに、内容ではなく言葉の速度に言及を入れるのはどうかしてる。

 故に槍を構えた。

 急に。

 めっちゃ。

 早口。

 全て終わってもしばらくベッドの上で思い返されそうな言葉を反芻しつつ、ゆっくりと短く言葉を放つ。

 

「その名が比翼なればこそ、お前が単身であるうちに、我が槍で貫き殺す」

 

「はっ、分かってないなぁ」

 

 考えながらの言葉は軽く笑い飛ばされた。

 陽鳥は緩く開いた拳を構え、太陽の光を翼に反射させながら輝かせる。

 冥府を招く海神に、陽光を背負う金烏は他意無く告げた。

 

「比翼ってのは、心の在り方さ。私はいつだって、ウィルさんの、主の翼だ。一緒にいないから一人ぼっちとか――――さては君、友達いないな?」

 

 




シュークェ
婚活が、できませぇん!!!!

ドニー
三つ編み中華アルアルショタジジイ
『二つ名』持ちの上澄み勢先生
初代国王陛下とは仲良かったみたいですね

ポセイドン・エノシガイオス
陰キャ
ぼっち・ざ・ごっど

フォン
毒舌の切れ味が日々上がっている
セリフ回しは結構好きなんですよね


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トリウィア・フロネシス――類は愛を呼ぶ――

評価数900ありがとうございます!!!!!!


 

「はっ―――相変わらずの大口ねぇ!」

 

 吠えつつ、ヘファイストスは科装の機能を活性化させる。

 兼ねてより強化され続けた≪神性変生≫。

 ヘスティアにより最終アップグレートされ、科装(サイバーテック)として再構成された≪偽神兵装(デウス・テルム)≫。

 ヘファイストスの場合は全身を覆うボディスーツの上から最低限の補助端末を装備した軽装型だ。

 それぞれの持つ異能に応じて兵装の軽重は決定されているが、

 

「メタルアーム……!」

 

 ヘファイストスの場合は背の六本のメタルアームにリソースが割かれている。

 伸縮自在、先端は三本のマニピュレーター。それらがヘファイストスの首裏の脳波読み取り装置で意のままに動く。無論、マニピュレーターを介して分解と再構成の異能を発動も可能だ。

 何より、科装への進化による最も大きな変化は、

 

「前の時と、異能の強度を同じと思わないことね!」

 

 術式の最適化による異能を含めたあらゆる魔法の強化だ。

 魔法の構成をプログラムとして圧縮、コンピューターにより発動行うことで人間の脳を遥かに超える処理能力を誇る。

 結果的に純粋な身体能力から固有異能を含め、あらゆる要素が跳ねあがっている。

 見せた。

 メタルアームが伸び、マニピュレーターが掴んだのは手前の座席と落下していた瓦礫。

 それらが細かいキューブとなり、新たに形作ったのは、

 

「100mmガンランチャー……!」

 

 質量比を無視した大口径火力砲。

 砲身約一メートルのそれが六門。

 本来人に向けられるものではない兵器だ。

 それを未だ観客席に立つトリウィア・フロネシスと向けた。

 そして、向けられているのはそれだけではなく、

 

「前との違いを見せてやろう……!」

 

「こっちも覚えとけよ!」

 

 彼女の反対側、自分を含めば正三角形の頂点を描く位置にいるアポロンとアルテミスもだ。

 重型装甲を纏うアポロンは高速回転する丸鋸を十二枚射出した。

 以前はこの時代の様式だったが、やはり科装化されたことにより細かい刃超高温のビームエッジになっている。

 中型装甲を纏うアルテミスが構えていたのは機械弓だった。

 番える弓は一本だが魔力で構成された非実体系であり、曰く通常射撃がそれまでの大技のに匹敵するらしい。

 前後三方。

 アース111の基準を考えてもオーバーキルという攻撃が同時に放たれ、

 

「――――すぅ」

 

 トリウィアはただ、一つ煙を吸い、

 

「ふぅ―――」

 

 着弾の直前、彼女の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

「っ……どこへ行ったのだ!?」

 

 物理衝撃、高熱斬撃、魔力射撃。

 三つの破壊が弾ける中、しかしアポロンはトリウィアの姿を見失っていた。

 音も無く、何か魔法を発動したようにも見えなかった。

 すぐに探知術式を起動すれば、科装兜内のヘッドアップディスプレイが周囲のサーチを開始する。

 アポロンの鎧は全身に装甲を重ねた重装鎧。

 露出は無く、鋭角的な素体の上に日輪を模した円環装甲が所々にあり、別のアースならロボか何かにしか見えない外見だ。

 仮にこの世界の金属なら百キロ近い重量はありそうだが、どういうわけか非常に軽く動きはまるで阻害されない。

 頭部の兜にしても、通常のそれのような隙間や覗き穴から外部を見るのではなく、内部に展開されたHUDが周囲の状況を教えてくれる。

 これを作り出したが我が女神万歳。

 全てを終えたら改めて愛の告白をしよう。

 だが今は、

 

「上か……!」

 

 女神が与えてくれた≪偽神兵装(デウス・テルム)≫。

 それが見つけてくれた敵対者を見上げる。

 彼女は頭上にいた。

 崩壊した天蓋の内、まだ残っていた天井。

 外からの光によって生じた影の中、逆落としで天井に立っていた。

 

「むっ……?」

 

 その姿に、僅かな違和感。

 十字輪、軍帽、軍服、黒衣。 

 変身した時と同じように自然体で天井に立っている。

 冷めた表情で、何故か天蓋に空いた穴の外に視線を一瞬送っていた。

 覚えた違和感が喉元から上がってくる直前に、

 

「来るぞ!」

 

 アルテミスが腕を振り、視界に大量の半透明の線が浮かび上がる。

 

【『偽神兵装:流那帝苦』より『偽神兵装:我が女神より賜りし愛の賜物。あぁ、愛を、肌にっ、感じるぅっ……!』及び『偽神兵装:魅惑の蛸足アルケミスト』へ視界情報を同期します】

 

「きもっ!」

 

 何故か妹と同胞から声が上がった。

 『偽神兵装』の長所の一つ、それぞれの異能による予測範囲の同期だ。視界に薄く浮かぶ線は、本来肉眼では確認できないアルテミスの弦糸を視覚可能にしたもの。

 触れたら糸が切れてその挙動を伝える探知術式であるが、彼女の意思に応じて硬化も可能なもの。

 それにしても妹と同胞の名前が酷い。

 言っている間にトリウィアが天井を蹴り、

 

「あぁ―――!?」

 

 キレ気味の声はアルテミスから。

 視界の仮想弦色の悉くが一息に断ち切られたのだ。

 悪魔は既に両腕を広げ、膝をついた姿勢で地上にいる。

 一瞬のことだった。

 天井にいると思ったら地上にいるようなコマ送り。

 ≪龍の都≫で二種類の身体強化を見たが、そのどちらをも遥かに上回り≪偽神兵装≫の感覚素子の把握範囲すらも上回っている。

 速い。

 それも尋常ではない速度。

 そう思った時、

 

「―――では一刀ならぬ二刀」

 

「!?」

 

 目前、既にトリウィアが両刃銃を振るっていた。

 いくら何でも速すぎる。

 反応は思考よりも先に反射で行われた。

 『偽神兵装』にデフォルトで備わった位相空間(ハンマースペース)より円刃を射出。

 数は五。

 脇や肩越しから飛び出させる形だ。

 速度、温度としては甘いが、

 

「回せ、≪桂冠至迅(アポロ・ホイール)≫!」

 

 ≪桂冠至迅(アポロ・ホイール)≫の能力、受けたエネルギーの火力変換は健在だ。科装化により炎を纏うことがなくなったが、輪に生えるビームエッジは初期状態で鉄を溶かし裂く。

 勿論相手の攻撃を高熱斬撃で断てば、その分も熱量と強度を増すことになる。

 故に、

 

「種火は即座に日輪となるぞ……!」

 

 ぶつけて行きながら、アポロンは身を引いた。

 狙いは足止めだ。

 言葉で挑発しつつも、これで与えられるの良くて軽傷程度だろう。

 トリウィア・フロネシスはそういう女だ。

 だから一瞬でも足止めをし、ヘファイストスやアルテミスが攻撃する隙を作る。

 後退には脚部、その足裏のホイールと踵後ろに備えられた補助ローラーを用いた。

 同時に実行した。

 対しトリウィアは二色の目を細ませながら二振りの刃銃を振るい、

 

「―――っと」

 

 五つの刃輪が、その異能を発揮することなく両断された。

 

「これは―――」

 

 今度は動きを目で追えた。

 速いがしかし、十分理解できるレベル。

 問題は斬撃そのもの。

 本来であれば斬撃受け、炎刃にぶつかれば回転鋸である都合上他の刃が異能によって強化されるはずだ。科兵化によりその効率は上がっている。

 にもかかわらず、五輪の異能が意味を為さずに断ち切られた。

 知っている。

 この結果をアポロンは覚えていた。

 究極魔法。

 或いは魔導絢爛。

 その身で切り裂かれた敗北の円環を忘れることはできない。

 即ち、

 

「全系統の収束による破壊概念―――!?」

 

 

 

 

 

 

 

 トリウィアの次の動きを見てアルテミスは気づいた。

 悪魔の女が天井に立っていた時、アポロンだけではなくアルテミスも違和感を覚えていた。

 彼女の狙いが兄に行ったために、それに関する思考を挟むことができたからだ。

 違和感の正体。

 それは服や髪、軍帽だ。

 逆落としにコート姿で立っていたのなら、当然服は腕に引っかかって垂れさがる。軍帽なんて言うまでもないし、スカートなら捲れてしまうだろう。

 それがない。

 さらには、

 

「八艘ジャンプか……!」

 

 視界の中、トリウィアが跳んだ。

 両断したキモイ兄の円刃を足場にして、だ。

 切り飛ばされ、半円になった刃はトリウィアから弾かれたように飛び、そして道を作った。

 辿りつく終点は後退するアポロンへ。

 低速で宙に泳ぐはずの破片刃を足場にしながらの三次元軌道。

 目視可能故、網膜投影型の視界補助術式がそのからくりを看破する。

 もとよりアルテミスの≪偽神兵装≫は多くの概念・哲学を用いる術式型だ。手にした弓はそれを打ち出す媒介でしかない。 

 天地を無視し、足場にできるはずのない半円を宙に固定するその正体は、

 

「重力制御か!?」

 

 

 

 

 

 ヘファイストスは一つの確信を得ていた。

 破片を足場にして駆ける軍服姿の悪魔女。

 かつて敗北させられ、辛酸を舐めさせられ、屈辱を味合わされたこの女の挙動についてだ。

 おかしかったのはの三挙動。

 こちらの包囲攻撃からの天井への移動。

 不良月神の探知弦糸を殲滅しながらの着地。

 そこからのキモイロリコンへの接近。

 ≪偽神兵装≫の感覚素子を超過した速度、それにヘファイストスは覚えがあった。

 周囲メタルアームで座席や瓦礫から新たな兵器を作り、破片群を超えてアポロンへと迫るトリウィアを見て叫ぶ。

 

「――――時間加速ね!?」

 

 

 

 

 

 

 

「全系統の収束による破壊概念―――!?」

 

「重力制御か!?」

 

「――――時間加速ね!?」

 

 トリウィアは三つの問いを聞いた。

 重科兵装へと最後の半円刃を蹴り、

 

「―――――全部です」

 

 己の時間を加速させる。

 まず世界が色を失った。

 ついで引き延ばされるように自己時間が加速し、世界がゆっくりと流れる。

 第二魔導絢爛≪十字架の誓約(ヘカテイア・シュヴェーレン)≫。

 身体強化と思考速度の超加速による疑似時間加速、その発展形。

 真正の固有時間加速だ。

 闇系統には『時間』概念は存在するが、これをそのまま時間加速や停止を行える者はこの世界において未だ確認されていない。

 ことがことだけに極めて高度であり、アルマ曰くマルチバース全体で見ても時間干渉系はレアものだと言う。

 それをトリウィアは体現している。

 体感時間において5秒ほどの疑似時間停止世界での行動。

 疑似時間停止なのは、本当に時間を止めると範囲指定や対象干渉等で難易度が跳ね上がるから。

 それが≪十字架の祝福(ヘカテイア・ゼーゲン)≫による恩恵の一つ。

 

「さて――」

  

 その上で重力制御を肉体に駆けつつアポロンの前へと辿りつく。

 重力制御自体は、元から可能といえば可能だった。

 通常攻撃魔法として用いる≪魔弾の射手≫でも荷重重力弾は用いている。

 これはその範囲と制御をより高次元化したものだ。

 狙いは加速時間内も含めてあらゆる行動に重力補正を掛けることで自由度を跳ね上げる。

 直前、半円を足場にしたのも、それを空間に重力固定したことで可能にした。

 重力制御。

 全系統保有により、元々広かった魔法の選択肢はほぼ無限と言っていいものだったが、トリウィアがデフォルトに追加した魔法がそれだ。

 なぜなら、

 

「―――ぶっちゃけ、楽ですからね。重力」

 

 応用性が広い上に、実用性も高い。

 建国祭の時、新島巴が楽なんでありますよねぇとか言いながら周囲へ雑な荷重を掛けていたのも理解できる。彼女、本職は拳銃遣いというのだからそのあたりもいつか話し合って参考にしたいところだが。

 今は、

 

「おお神よ、告白しましょう」

 

 あまり信心深い方ではないトリウィアは、

 

「――――実はこの瞬間が、いつも快感なんですよえぇ」

 

 零距離で全系統による概念崩壊を、砲撃としてアポロンへぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 全三十五系統。

 各五系統それぞれ織り上げ、七属性をさらに練り上げ、ただ一つ破壊の概念として具象化させる。

 破壊は銃口から刃の峰を通り、

 

「ッ――――」

 

 深淵は、貪るようにアポロンの重装に触れ、その概念を全うしていく。

 ≪魔導絢爛(ヴァルプルギス)境界超越(エクツェレントゥ)≫の発動により全ての攻撃に破壊概念が付与されるようなった。

 対処の物理的強度を無視し、それすらも概念的に破壊する防御不可の法則具現。

 そして、

 

「カァッ―――!」

 

 アポロンの動きを見た。

 全身にある日輪を模した装飾。そのうち、腹と胸にある大円が破壊が触れるのと同時に熱を灯す。

 炎輪だ。

 元よりアース111の基準を超越させるために作られた科兵化は、前提として概念的な強度を持つ。

 円環装飾の重装鎧の意味をトリウィアはすぐに察する。

 射出して来た円刃と同じように、装飾の円環もまたアポロンの日輪なのだ。

 それが、破壊に僅か遅れながら接触状態でも防御陣として展開された。

 

「おっ―――」

 

「ぬぅ―――」

 

 ぶつかり合う。

 回転する高熱の円環が破壊に砕かれながらも拮抗する。

 それはコンマ数秒以下の抵抗だ。

 一瞬で亀裂が入り、もう一瞬で重装ごとアポロンの体をぶち抜く直前、

 

「キモさ極めてるからってそのままにされたら困るぜ―――!」

 

 右から庇ってるのか庇ってないのかよく分らない一撃が来た。

 

 

 

 

 

 

 アルテミスはトリウィアへと蹴りを打ち込むと同時に脚部裏の加速器を稼働させた。

 バトルバニーのスタイルは変わっていない。

 意匠は同じく、科兵化によって構成パーツが変わっているのが大半だ。

 以前は『お前そのバニースタイルはもっと胸が大きい女が着るものではないか? その膨らみでは戦闘中ぽろ……るほどでもないか。ひょっこり? するんじゃないか? 視線誘導か?』などと兄に言われた――しっかり蹴り飛ばした――胸辺りも胸に張りつくボディスーツになっている。

 最大の変化は、脚部装甲だ。

 足先から膝までを覆う装甲の足裏と膝裏には加速器が備えられ、移動や蹴撃の加速を担う。

 そうした。

 

「オラぁッ――!」

 

 アポロンへと砲撃途中のトリウィアへ。

 横から加速の蹴りを叩き込み、

 

「ぬおっ!?」

 

 命中の寸前、空間の歪みに受け止められた。

 

「っ―――重力の盾か!?」

 

 重力操作によって歪められた空間が、障壁となって阻まれている。

 だったら、

 

「最・大・加・速……!」

 

 加速器が、轟という音を立てて瞬発した。

 魔力の噴出音と空間の破砕音。

 蹴りぬく。

 

「ちっ―――」

 

 悪魔の判断は即座だった。

 もう一瞬あればアポロンの重装を撃ち抜けただろうが中断し、右の刃銃を立てて一撃を受けた。

 軍服姿が跳ぶ。

 

「はっ……礼はいいぜ」

 

「くっ……妹よ、一体私のどこがキモイと言うのだ……! あぁっ、我が女神より賜った愛の鎧が砕けてしまった……!」

 

「そういうとこだよ!」

 

 脚部の副加速器で姿勢を修正し着地しながら蹴り飛ばしたトリウィアを見た。

 彼女は軍靴で観客席を蹴散らしながら十数メートル滑り、

 

「おや良い所に」

 

 丁度良い位置にあった席に座り、足を組み、

 

「―――ふぅ」

 

 煙を一息吐きだした。

 散らばった観客席、天上から差し込む光、長い脚を組みながら煙草を蒸かす軍服姿は腹が立つくらい様になる。

 

「無性に腹立つな」

 

「妹よ、そういうところがチンピラなのだ」

 

「うるせぇなぁ―――お前も思うだろ!?」

 

「当然ねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 断続的な重力制御と時間加速、思ったより疲れるなぁ、なんてことを思いながらトリウィアは一息ついた。

 訓練は重ねていたが、それでもやはり実践となると負担の質が違う。

 重力制御はともかく、時間加速は自己感覚五秒以上は続かないし、連続使用も数回までだ。あまり考えずに重ねると早急に体力や魔力精神力を消耗しきってしまうだろう。

 盛大に格好つけたので、ちょっと派手にやり過ぎたかもしれない。

 まぁかっこいいのは大事なので必要経費だが。

 息を吐き、紫煙を吸い、

 

「ふむ」

 

 壇上、ヘファイストスが新たに構成した兵器を見た。

 右三本のメタルアームに六連連装砲。

 左のメタルアームは三本が一纏りとなって、掴むというより生えているのは、

 

「…………なんですかそれ」

 

「答えてあげましょう―――列車砲って言うのよ。魔力機関でちょっと省略と縮小してるけど」

 

 舞台の手前から奥まで一杯に使われた巨大な砲門。

 アースゼロは19世紀欧州にて生み出された列車と共に運用する巨大砲だ。

 目測、砲口が十五センチ丁度。

 現在アース111における銃器は精々10mmから30mm、トリウィアが普段使う変形二丁拳刃鞭銃≪エリーニュス≫の通常口径でも44mmだ。術式刻印による魔導大砲でも100mm前後までしか存在しないし、そもそもこれは魔法による補助具という性質が強いので銃火器としては扱われない。

 それが遥か未来の技術と異世界の魔導で作られたのなら、

 

「私も初めて使うけど―――射程、王都の外壁くらいは全然余裕で超えるからそのつもりでいなさい」

 

 あざけるような笑みが向けられて。

 連装砲の弾幕が斉射された一秒後、列車砲が発射された。

 

「――――!」

 

 故にトリウィアは、斉射と同時に加速の深淵に身を沈める。

 

 

 

 

 

 

 加速された世界で、千を超える細かい弾丸が迫るのをトリウィアは見た。

 それは良い。

 腕を振り、双刃銃の刀身を分解、刃鞭形態に移行。

 解析の魔眼にて銃弾の群れの軌道を計測、自分に当たるものを確認した。

 一秒。

 重力制御を以て両腕を振りぬいた。

 椅子から立ち上がる暇すら惜しい。

 連装砲の狙いは甘く、自分に当たるのは半分程度。刀身を重力加速させた上で重ねて纏わせた斥力で弾き飛ばせばいい。

 二秒。

 既に列車砲は放たれている。

 超加速の世界で尚、発射の魔力光が伝播し、衝撃は劇場全体を揺らして行く。連装砲の弾丸も押しのけるほど。

 トリウィアに届くまで実時間一秒もなく、今の加速内時間でも四秒後だ。

 動き続ける。

 

「―――散ってください!」

 

 魔力による刃鞭の接続を解除。

 それによって生まれたのは細かい刃が左右合わせて七十本。 

 一本幅二センチと少しの刃というよりは鋭利な鉄の破片。

 三秒。

 銃刀身を失い、柄だけを握る両腕を広げながら前に突き出す。 

 重力が伝播し、破片が形を生んだ。

 五本一組の円形。それが十四枚。

 それの内七枚を列車砲の軌道に並べ、残りの七枚を真上に向けた。

 天井の大穴を向く、L字型のレールだ。

 推測できる威力と射程的に、回避してしまえば王都をぶち抜くだろう。

 ただ

 四秒。

 

「歪め……!」

 

 円の内、さらに円同士の合間の空間に重力力場を展開。

 レール内に空間が歪むほどの荷重が生まれ、

 

「――――」

 

 五秒間の加速が終了した。

 

 

 

 

 

 

 列車砲の発射、その衝撃にヘファイストスはメタルアームで無理やり姿勢制御を行った。

 一瞬で舞台が砕け、木片が舞い、観客席を薙ぎ払う。

 ≪偽神兵装≫越しにロリコンとチンピラが文句が来たが今は無視。

 ただ、悪魔がどうなるかを見て、

 

「――――はぁ?」

 

 砲弾の軌道が曲がっていくのを見た。

 大気への打撃ごと、円陣のレールが押しとどめ、速度を落としていく。減速した砲弾はそのままL字型レールに乗り、

 

「!!」

 

 真上へ突き抜け――――遥か頭上で爆発する。

 

「こ、こいつ―――!」

 

 レールの出現は気づいたら行われていた。

 時間加速内で作りだし、対処をしていたのだ。

 加速が何秒間あるのかは知らないが、それでも初見の兵器を前に、この判断力とそれを実行する能力。

 なんというかもう、

 

「アンタの方がよっぽどチートじゃない……!」

 

「――――あぁ、そういえば」

 

 対するトリウィアは柄だけの銃を周囲に重力で浮かせながら、新しい煙草を口に着けていた。

 頭上に青黒の天輪を頂く軍服の女は、変わらずこちらに対して横向きで座席に腰かけたまま。

 そして周囲に浮かんでいるのは柄だけではない。

 数センチ程度の細かい破片が数十。

 トリウィアの周囲、中空に固定されている。

 彼女は右の二指で挟んだ煙草を吸いながら、足を組みなおした。

 

「ウィル君も、持ってるんですっけ。そのチート、世界に対する適正とかなんとか」

 

 左手を上げ、

 

「近しき者同士は共にあることを望む、なんて帝国の諺で言いますけど―――」

 

 振り下ろし、

 

「ふふっ――――私とウィル君、お揃いですね」

 

 笑っているのに全く笑顔に見えない惚気をしながら、全ての破片を重力操作により超音速で射出した。

 

 

 




トリウィア
重力操作
5秒間の超時間加速
究極魔法で付与されていた破壊概念の恒常化
このあたりがデフォルトでついてます。馬鹿。

アルマ
僕も! チートを! 持ってるんだが!!


ひゃっほう推しが自分の能力と同じものをおおおおお!!


偽神兵装(デウス・テルム)
電子化による術式の効率化、それによる強化。
兵装保有者同士の情報交換。無線通信。
それぞれに合わせた装甲の最適化等々、恩恵はいっぱいあります。
アポロンはほぼロボ
アルテミスとヘファイストスは近未来SF風のサイバースーツって感じですね。


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フォン――同心協翼――

 

「沈み屹よ―――アビスの神殿よ」

 

 ポセイドンが掲げ槍を掲げ、背後に魔法陣が展開されたのをフォンは見た。

 三叉槍が刻印された正三角形の方陣は、直線と鋭角で構成されより電子的要素の強いものだ。

 そこから膨大量の水流が溢れ出す。

 同時、ポセイドンの顔周りのパーツが展開し、顔全体を覆うマスクとなる。

 一瞬だ。

 方陣は数を増やし、広がり、同じように水を吐きだして行く。

 生み出されるのはポセイドンは勿論、相対している自分を囲むように分岐して作られる囲い、

 そして空間の間隙を水が満たして行く。

 

「これは―――うおっ、まじか!」

 

 周囲を見回し、この水が地上には落ちないことを確認した時には全方位から水が迫っていた。

 咄嗟に両腕を広げ、減衰の黒風を球状に展開。

 迫る水を押しとどめるが、

 

「――――うわ、ダメだこれ」

 

 数瞬の拮抗の後、深き水が全てを満たした。

 

 

 

 

 

 

「がぽっ……!」

 

 衝撃に、フォンは息を零した。

 呼気は気泡となって水の中に溶けて行く。

 水中だ。

 重く、冷たい深海の世界。

 自身の用いる加速と減衰の奔流は強力だが、流石に膨大量の水圧で全方位から押し潰されると厳しい。

 咄嗟に出したということもあって、減衰風の勢いも足りなかった。

 いや仕方ない。

 加速の白風で脱出もできただろうが、この水が地上に向けられても困るので確認は必要だった。

 魔法陣が出た瞬間に、加速に乗って蹴り飛ばすべきだったかなと反省しつつ、

 

「―――俺は、友達がいないのではない」

 

 水中ながら、声を聴いた。

 顔面を背のバックパックとチューブでつながったマスクで覆った彼の声は、この深海の世界で尚通常通りに届く。

 

「俺の≪海遷惨冥(ネプトゥヌス・サンクチュアリ)≫は単なる水の生み出し操るのではなく、この冥海を生み出すことこそ本質」

 

 いいか? と海神は語り掛け、

 

「即ち、どこであろうとこの水中戦を強制させることができるのだ。常に俺に有利なフィールドで戦える。だが同時にそれは仲間にも同じこと。水中戦に特化しているのはオレだけだからな」

 

 つまり、

 

「俺に友達がいないのではなく、能力の都合上一人で戦っているだけだ――――分かるな?」

 

「――――」

 

「………………」

 

 じろりとマスク越しに睨まれてもちょっと困った。

 水中なので気軽に口を開けない。

 ただ、思った。

 ――――こいつ、なんかペラペラ能力解説してくれた上によく分らない言い訳を始めたな、と。

 どうしたんだろう。

 変なこと言っただろうか。

 さっきの適当な軽口にマジレスしてるのだろうか。

 真面目なのか?

 或いはそういう性格だろうか。

 だとしたらちょっと悪いことをしたかなとも思うが、しかしこいつは敵だ。

 なら、

 

「―――――いや、そんなの知らないけど」

 

 口周りに僅かな空気スペースを作り出し切り捨てる。

 水中での呼吸確保の魔法だ。

 難度としてはそこそこ簡単であり、種族的に魔法が得意ではないフォンでも可能なもの。『気化』系統によって呼吸に必要な酸素を供給する。

 ただし、純粋に酸素のみを作り出すのはあまりよくないらしく、吐いた空気と上手く循環させる術式の系統バランスを組むのは難しいらしいのだが、

 

「……トリウィアに感謝しないとね」

 

 貴重な空気を消費しながら、けれどこれは言葉にしないといけないものだろう。

 彼女が作った風系統による呼吸確保魔法をそのまま流用することでその難易度はクリアだ。

 このあたり、魔法が苦手な獣人族でも使える様にするのだから彼女は凄い。

 超高度で呼吸を確保する魔法は普段から無意識に発動しているのでそれもあるが、やはり感謝するべきことはしておく。

 感謝した。

 

「――――」

 

 だったら不要な口は閉じる。

 だったら、

 

「――――!」

 

 後は、行くだけだ。

 

 

 

 

 

 

「―――!」

 

 冥海にありながら、それでも陽鳥が翼を羽ばたかせるのに対し、ポセイドンは内心驚きを得る。

 水中と空気中では何もかもが違う。 

 物理的・科学的な話をするなら深海とは水深二百メートル以降を指し、以降その深度によって圧力は加算されていく。それだけの水圧だと人間は体よりも先に肺が潰れて絶命することになる。

 もっといえば、

 

164:ポッセー

 知っているか? そもそも浅瀬だろうと深海だろうと体の動きやすさと言うのに変化はないんだ。

 この場合、物理的に言うなら抵抗というのは生じた摩擦が空気や水の圧力によって押し付けられることによって抵抗が増減する。

 水ならばその水量ではなく、その粘性で計算するべきなのだ。

 水圧が高い=動きにくいというのは勘違いでな。

 そして浅瀬だろうと深海だろうと水自体の粘性は変わらないだろう。

 だから、深度に問わず粘性抵抗も同じなわけだな。

 深海における危険性というのは水の抵抗値ではなく、その深度に由来する全方位いからの圧力なのだ。

 

165:ドクターH/エイチ

 急に、なん、だ?

 

166:クッキングゴッド

 ははははは! ポセイドンは急に喋りだすからびっくりするな!

 

167:超☆忠☆義

 知っているぞ。コミュ障というやつだな。

 

168:クッキングゴッド

 そう言ってやるな! 珍しく長文……というかこのスレッドとやら使いほぼ始めてのまともな発言だ、反応してやれ!

 アルテミス、どうだ!?

 

169:狩人番長

 理不尽な悪魔女と戦闘中だよ馬鹿集中しとけ!!!!!!

 

 

「――――」

 

 せっかく学んだ知識を披露したのに相手にされなかった。

 悲しい。

 この決戦に際して、≪偽神兵装≫に備えられた通信機能――転生者同士のネットワークを模したものらしい――をやっと有効利用できたと思ったのに。

 いずれにしても、ポセイドンの≪海遷惨冥(ネプトゥヌス・サンクチュアリ)≫は超科学の補佐した魔法によって生じた一種の結界だ。

 直径百メートル、楕円形の巨大水球。

 厳密の深海の物理法則を適応させるとポセイドン自身も如何に魔法と科学の補助があったとして、粘性抵抗はともかく水圧によってもまともに動けなくなってしまう。 

 故に現在展開している冥海は、魔力によって構想された仮想海。

 実際の深海のような水圧はないが、それでも常人ならばまともに身動きが取れないであろう単純な荷重が全方位からかかっている。

 ポセイドンの着こんでいるボディスーツや各部位のスクリューパックはそれを無効化しており自分は自在に動けるが水中と荷重という二重の負荷を相手に押し付けるのだ。

 だが、

 

「っ―――!」

 

 比翼は、この冥海において尚羽搏きを止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 フォンは羽搏きながら、その仕組みを変えた。

 正名状態において、その翼は光の粒子が集う奔流が結果的に翼の形を得る。

 だが、この冥海においてその形を定めたのだ。

 薄く、長く、纏りを持たせつつ背後に流す。

 加速の白の上から減衰の黒を重ねて、だ。

 白は当然ながら移動の高速化。その上の黒は掛かる負荷の減衰。

 自己加速と負荷減衰の黒白を螺旋状の風帯とすることで前進への推進と為す。

 翼の形状を薄長い一定の形に保つのは水中での抵抗を減らす為に。

 全身と対の翼で一本の鏃のようにして行けばいい。

 行った。

 

「比翼……!」

 

 遠く、けれど届くのはポセイドンの声。

 驚く様な、噛みしめるような呼びかけに答えるつもりはない。

 空気がもったいないからだ。

 何か妙に会話がかみ合わないし、お喋りは止めといたほうが良い気もする。基本的に自分は誰とでも仲良く話せる方だからちょっと新鮮だ。

 

「―――!」

 

 ポセイドンが、腕を振った。

 直後、背後から水流が新たに生み出される。

 数は五。

 海流が棘となって、螺旋を描きながら襲って来る。

 フォンは迷わなかった。

 思考すら挟まない。

 ただ、

 

「……!」

 

 前に出る。

 はっきり言って速度は出ていない。

 正名時の機動と比べれば止まっているようなものだが冥海の今は仕方ない。

 迫る海棘はこちらを掴むように突き刺す動きだ。

 異能による支配のせいか、周囲とは濃淡が濃く、目視で動きが見える。

 だから、避けるだけだ。

 体を回し、白風を追加で放出。

 その先は自分の体と、

 

「―――っと」

 

 海棘へ。

 想定されている以上の加速を得た海棘は速度が暴走し、生まれた隙間を縫う様に滑り抜ける。

 端から見れば、フォンが海棘をすり抜けたようにしか見えないだろう動きだ。

 

「――!?」

 

 事実、ポセイドンは自分の攻撃が命中したように見えたのに、フォンが飛び出してきたことに驚いていた。

 構わず、

 

「フゥ……ッ!」

 

 さらに加速し、その速度を乗せた一撃を一直線に彼へと打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 ≪龍の都≫の一件から一月と少し。

 あれからフォンは真面目に体術というものを学び始めた。

 飛べなくて戦えないという状況がこれから先無いとも限らない。だからドニー師範に弟子入りし、体術、拳法というものを学んだ。

 そして、分かったことがある。

 鳥人族の肉体は人種の体術とは相性が悪すぎるということだ。

 ドニーのように獣人種ならばまだ良い。

 だが、鳥人族はダメだ。

 なぜなら――――体重が違い過ぎる。

 正確に言えば体重を含めた筋肉や骨格の強度や密度の差異。

 人種と同等か、それ以上なら良い。

 だが骨がハニカム構造となり、全身のあらゆる部位が飛ぶ為に軽くなっている鳥人族には都合が悪すぎた。

 パンチ一つ、キック一つにも威力を出す為の大きな要素として自重の移動がある。

 だが、体重30キロを切るフォンにはそれができない。

 人種の動きを可能な限りトレースしても、軽い攻撃にしかならないのだ。

 この体重や骨格も含めてシュークェは鳥人族でも異端児だったのだなと改めて思う。

 勿論鍛錬自体はしている。

 体の動かし方を学ぶのは決して無駄にならない。

 ただ、実践において最も大事なこと。

 鳥人族におけるそれは、

 

「重なれ、加速……!」

 

 結局、それなのだ。

 行先はポセイドン。

 打ち込んだのは肘だ。

 人体で最も固いとされる場所の一つであり、それは鳥人族も同じ。

 寸前で三叉槍に受け止められたが構わず、加速の白をぶちまける。

 勿論、強度自体は人種に劣るが、

 

「オォ……!」

 

「ぬぅっ……!」

 

 加速。

 ただ、それ任せに全てを押しのけて行った。

 肘を中心に全身に白を纏うことで速度を生み、全方位に黒を放出することで荷重へと対抗とする。

 一瞬で移動したのは数十メートル。

 冥海を黒白が突き抜け、

 

「舐めるな……!」

 

 ポセイドンが動く。

 指の動きにて受け止めに使っていた三叉槍を回した。

 同時の周囲の海流も動く。

 三叉槍を中心に発生した渦巻がフォンを弾き、ポセイドンは背のジェットスクリューを噴射。

 背面飛びの要領でフォンを飛び越えてから槍を構え直し、

 

「――――?」

 

 それを、フォンは無視した。

 攻撃が弾かれたことも、背後を取られたことも構わない。

 やることは一つ。

 再加速だ。

 向かう先、突き抜けたのは、

 

「っ――――!」

 

 冥海神殿の外。

 全開の加速で、フォンは水牢から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「っ……はぁっ、はぁっ……! ……きっついなぁ!」

 

 水獄を飛び出し、翼を大きく広げながらフォンは呼吸を荒くした。

 冷たい水中の後に感じる空気は冬の終わりとはいえ太陽の光もあって温もりを感じる。

 温度差に体を震わせつつ、

 

「ふぅっ……―――んっ」

 

 視線をずらした。

 北の方だ。

 それは一瞬であり、

 

「―――――シュークェぇっ! おぉうい!」

 

 同郷の火翼の姿を探し直し、声を張った。

 冥海神殿の水牢の下方、人の群れを守っている彼は遠いが、こちらに気づき

 

「―――――ぁああああんんんんぁああああああ!」

 

 長く伸びる声で答えてくれた。

 だが、距離があり、あちこちにある戦闘音のせいで上手く聞き取れない。

 

「えーと……」

 

 フォンが下に移動すれば攻撃がそちらに来るかもしれないので、彼の元には行けない。

 だから、

 

「――――気づいてよね!」

 

 フォンは全身を使った。

 

 

 

 

 

 

「むっ…………?」

 

 シュークェはフォンの動きに首を傾けた。

 彼女は、巨大な水の塊を指さし、両腕で大きな丸を描き、それを両手で押し出した。

 最後に親指を立てた拳を突き出す。

 

「おぉ……なるほど!」

 

 ジェスチャーだ。

 おそらく意味は、

 

「あの水よりも大きい愛を持てば番も見つけられるから頑張れ―――――ということだな!?」

 

「絶対違うアルよ」

 

 

 

 

 

 

 ポセイドンはフォンが再び冥海に飛び込み、上昇する軌道を目で追った。 

 速く、そして先ほどよりも余裕がある。

 一瞬外に出たことで空気を確保したのだろう。

 この海底神殿においてポセイドンのジェットスクリューによる最高速とほぼ同等の速度を出しているのだから通常のそれがどれほどかは考えたくはない。

 

「だが……敢えて飛び込むか、比翼」

 

 この水底。 

 呼吸を保ち、速度を出せると言ってもポセイドンの領域に。

 舐められていると理解する。

 いや確かに先ほどは攻撃をすり抜けられるような完璧な回避をされてびっくりして一撃を受けて反撃しようとしたらスルーされて外に飛び出されたがそれは初見なので仕方ないし戦いでも尚スルーされたりしてショックだったことなんてことは全くないし逃げられたらどうしようとかも別に思っていない。

 なにはともあれ、

 

「改めて―――歓迎しようか」

 

 今度は一人言。

 そして己の権能を行使した。

 即ち、全てを満たす仮想水の操作。

 先ほども行ったが、あれではダメだった。

 おそらく、弾丸のように打ち出すのもダメだ。螺旋は勿論、線でもダメだろう。速度は勿論、超高速で尚自在に動くセンスが人種の限界を超えている。

 故に、

 

「打ち出すのは、面であるべきだ」

 

 三叉槍を頭上へ、薙ぐように振るう。

 結果生まれるのは波だ。

 水中でありながら、上を取ったフォンへ一辺五十メートルの立方体。幅は周囲の水が追加されていくために、フォンに辿りつくまで広がり続ける。

 操作した水は魔力を通し色が濃くなるせいで、目視できるが、

 

「避けるならば、それはそれで容易い……!」

 

 避けた先で新たな波をぶつければいい。

 ぶつけて行く。

 彼我の距離は三十メートル程度、到達には数秒。

 対して、フォンは、

 

「―――!」

 

 白風を纏い、真下に飛翔。

 正面から波壁へと突っ込む。

 

「―――――」

 

 動きにポセイドンは僅かに目を細め、三叉槍を握る右手とは逆の左手に力を込める。

 頭上を取るフォンのさらに上。

 そこに新たな水の壁を用意するためだ。

 彼女が波壁を突っ切るにしても、あの黒白の飛翔でも速度は落ちる。ならそれを上からさらに押しつぶせばいい。

 そう思い、

 

「――――しろく、くろく」

 

 歌を聞いた。

 短いものが深海に響いて。

 陽鳥は波壁を突っ切るのではなく、断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 フォンが行ったのは、実戦では初使用の仙術だった。

 波壁へと飛び、ぶつかる直前に体を回した。

 放つのは蹴りだ。

 打ち込むようなものではなく、体を回して足先が弧を描く蹴り。

 波壁ではなく、激突の直前に放てば虚水を裂く。

 それだけでは何も起きない。

 生まれた風が水に溶けて行くだけ。

 だから、

 

「にぶく―――」

 

 蹴りが描いた弧に、黒の風を詰める。

 結果、生じた風圧が押し留められる。

 同時進行で白の風で弧を覆い、

 

「―――――するどくっ!」

 

 打ち出す。

 蹴圧の霧散を減衰で押し留め、それを加速させることによって生じる風の爪だ。

 高速で突っ張った仙爪は波壁を割り、数メートル分の亀裂を作り出す。

 無論それだけでは足りず、

 

「鳳仙剄・四つ葉翠……!」

 

 一息に四閃をワンセットとして連続させた。

 暗い海底に芽生える道標の四葉。

 乱斬撃は波壁を裂き割るが水という性質を持つ以上、間隙をすぐに埋めてくる。

 だからフォンは止まらなかった。

 生み出した亀裂が埋まるよりも先に進む。 

 体を回し。

 弧を描き。

 風が裂き。

 体を進めた。

 ポセイドンの元へ到達するまでの数秒で放った数は五セット。

 それだけの数の仙爪を繰り出し、

 

「おお……!」

 

 壁波を抜け、

 

「っ!」

 

 二十一撃目はポセイドンの三叉槍と激突した。

 槍の振り上げと踵の振り下ろしが衝撃を周囲にまき散らし、

 

「――――!」

 

 飛翔と潜水、二つの高速を以て激突を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 それは無音の攻防だった。

 黒白の螺旋を纏うフォンとジェットスクリューによって推進力を得るポセイドン。

 両者の速度はほぼ同等。

 常にフォンが上を取り、ポセイドンは下から迎撃する。

 攻撃の手数が多いのはポセイドンだった。

 槍や指の動きだけで、膨大量の水量を操り、全方位から攻撃をできるというのはあまりにも大きなアドバンテージだ。 

 海棘や波壁は勿論、水の塊を射出し、流れが鞭のようにフォンを打とうとする。

 無論その全てをフォンは回避するが、運動量と疲労においては圧倒的に彼女が勝る。

 この一点を、ポセイドンは勝機として見出していた。

 

「逃がさなければいいのだ」

 

 数度目かの仙爪を凌ぎ、低く自らに言い聞かせる。

 極めて単純な呼吸の問題だ。

 魔法によって誤魔化せるとしても、生物である以上息を吸わなければならない。そして運動量が増えれば増えるほど消費酸素は上がり、加速度的に疲弊していく。

 魔法がある世界であり、異族異種亜人が混在していても根底は変わらないのだ。

 故に待てばいい。

 速度は脅威であり、この海底神殿と、それに付属する水流操作でも陽鳥は捕らえられない。

 だから待ち、凌ぎ、時間を稼ぐ。

 いつか、翼は深海に沈む。

 そしてその時間にして、三分にも満たなかった。

 だが、

 

「っ……ごぽっ……!」

 

 フォンの動きが目に見えて色褪せた。

 

「―――は」

 

 思わず、唇が歪み、マウスピースを含んでいたせいで粘度の高い笑みが零れ、

 

「むっ……!」

 

 表情を引き締める。

 一度アルテミスに同じような笑みを見せたら『うわニチャってきめぇ』と言われたので以後彼女の前で笑わなくなった。笑わなくなったら『お前暗すぎ』とか言われたのがあの女チンピラすぎる。

 悪気がないのが一番怖い。

 そしてフォンもまた、その手のタイプだ。

 悪気が無いのに人を傷つけるのだろう。

 きっとそうだ。

 そしてこういうやつほど友人に囲まれて日々の生活をエンジョイしているのだろう。

 そう考えるとかなりムカつく。

 

「じわじわと嬲り殺して――――」

 

 やろう、そう呟こうとした時だった。

 

「―――――はっ」

 

 フォンが、苦しそうな表情を浮かべながらも笑ったのだ。

 こちらをあざける様な、何かに確信したような笑み。

 一瞬、直前の思考に引っ張られて馬鹿にされたかと思った。

 違う。

 なぜならその視線はポセイドンに向いたものではなかった。

 それよりも、下だ。

 

「っ―――――!」

 

 見るべきは下。

 これまでフォンがずっと上を取っていたために意識を外れた領域。

 冥界神殿内は問題無かった。

 問題があったのはそのさらに下。

 地上。

 ―――――不死鳥の男が、巨大な火の玉を作り出していた。

 

「悪いね」

 

 風が吹く。

 それはポセイドンを横切り、通り過ぎる風で、

 

「君の能力、ちょっと相性も性質も悪い」

 

 だから、

 

「―――――他人の力を借りることにするよ」

 

 それは、ポセイドンには一回くらいしてみたいなーとは思うけれど、能力の都合どうしても無理なことだった。

 

 

 




フォン
煽りのつもりはないんです


ポセイドン
ニチャア……


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フォン&トリウィア――重なる歌――

 

「ぬおおおおおおお…………!」

 

 シュークェは腹から声を捻り出し、気を練り上げていた。

 水球の真下、並ぶ建物の中近くで一番頑丈そうだった石造りの屋根に立ち、両腕と翼を広げ、

 

「おおっ……ほっぉおおおお……んふあああああ……!」

 

 腕と翼の先に、巨大な火球が練り上げられていた。

 現在直径五メートル。

 顔の近くで焚火をしているような熱があるが、しかし球自体の熱量はさらに千度は超えている。

 球形の中で熱が循環し、内部で高まり続けているのだ。

 

「シュークェ!」

 

「おわっ!」

 

 急にフォンが隣に現れた。

 彼女は全身濡れ鼠だが、それには構わずに火球に視線を送り、

 

「―――小さいよこれじゃ! 伝えたでしょ、あの水蒸発くらいさせるような凄いやつ作っといてて!」

 

「あんなジェスチャーでは分からんわ! ドニー殿が解説してくれたが! あとこのシュークェでも流石にちょっと無理ないか!? 規模感違い過ぎるであろうが!」

 

「私が仙術でどーにかするから!」

 

「なら自分で飛ばせばいいんでは?」

 

「あの超寒くて超重い水の中で引きつけてたの見てたでしょ! あと私範囲攻撃苦手だから、シュークェのを加速と減衰で良い感じにして吹っ飛ばす!」

 

「できるのか!?」

 

 強く、問いかけた。

 正直、ちょっと無理がある気がする。

 実際に火球を生み出してみて思ったことだ。

 通常、絶招による爆熱体当たりでその身に宿す熱量を体外に放出して固定化しているのだが、しかしそれでも半分消し飛ばすのがやっとな気もする。

 正直あの根暗男の魔法はシュークェの常識を超えている。

 仙術を以てしても届かず、神に近い領域かもしれない。

 

「――――できる! というかやるんだよ! 私とシュークェで街を、みんなを守るの!」

 

 だが、彼女は吠えた。

 迷いなく、できてて当然と言わんばかりに。

 その在り方は、幼い頃の彼女とも、翼を失った時とも違う。

 もしかしたら初めてシュークェは今のフォンを見たのかもしれない。

 ウィルと出会って変わった彼女と。

 なら、言うことは一つだ。

 

「仕方あるまい……!」

 

 丹田に力を入れ、気を練り上げる。

 さらなる火、さらなる熱量を。

 瞬間だった。

 

「っ――――!」

 

 水球から奔流が飛び出した。

 最初のフォンが受け止めた現れた時と同じもの、それが八つ。

 それだけではない。半分程度の細さの水の槍が、螺旋を描きながら周囲、人々にも向けられていた。

 ドニーやフランソワ、数人の衛兵なら止められるかもしれないが、

 

「ほとんどは、足りないぞ……!」

 

「――――私が行く。シュークェはそのままで」

 

 横が見た時、妹分はもういなかった。

 

 

 

 

 

 

 フォンは、今度こそ飛翔を全開にした。

 冥海のではなく、空に飛び込むことよりその神速は十全を発揮する。

 一番近い水流へは、文字通り刹那で辿りつく。

 

「っ……!」

 

 即座に黒の減衰を盾のように展開し、受け止める。

 減速は強烈だった。

 時間が遅くなったかのように、目に見えて動きが衰える。

 一本だけなら、そこからさらに白の加速でぶち抜けばいい。

 だが、一本ではない。

 大が八、小は十五。

 だからフォンはさらに飛ぶ。

 黒の風はそのままにして、彼女だけが次の水流を受け止めに行った。

 コンマ秒以下の移動。

 黒で受け止め。

 白で渡り。

 二色が連続し、止まらない。

 

「a―――」

 

 喉から声を零しながら。

 

 

 

 

 

 

「―――おい、見ろよ」

 

 逃げていた人々の誰かが、足を止め空を見た。

 黒と白の翼を持つ少女。

 彼女が、

 

「分身……!?」

 

 水流をその身で同時に受け止めていく。

 水流の受け止めと移動を超高速で繰り返すが故の残像分身。

 火球に向かっているものも、避難民に向けられたものも残らず受け止めながら、次々に数が増えて行き、

 

「………………歌?」

 

 誰かが、呟く。

 そして誰もが聞く。

 

『―――――くろく、くろく、くろく』

 

 分身と残像によって全方位(サラウンド)で重なる歌を。

 

『―――とおく、おそく、おもく』

 

 風が、歌に溶け、

 

『―――つめたく、にぶく、ねむく』

 

 歌に、風が舞う。

 

『―――かぜが、うたうよ』

 

 少女は黒を翳し、

 

『―――あなたと、ふたり』

 

 白を纏い、

 

『―――いつだって』

 

 残像がブレ、

 

『―――どこだって』

 

 ここにはいない誰かへの想いを歌いながら、

 

『―――このはねが、つむいでいくよ』

 

 合計二十三本の水流、超高速の残像分と減衰の風による同時の受け止めを完了させた。

 

「おぉ……!」

 

 その背を、誰もが足を止めて見上げていた。

 背に粒子の翼を背負い、全身の刺青を輝かせる少女。

 彼女は、

 

「学園、一年次席……!」

 

 声を上げたのは、街で八百屋を営む中年の男であり、

 

「毎朝、街を飛んでる子だ……!」

 

 隣にいる軽食屋の店主も声を上げる。

 

「朝、見かけるとその日の売り上げが良くなるっていうあの……!」

 

「そうだ、開店準備する時ふと空を見上げた時、あの子が見えたら最高だぜ……!」

 

「おぉ……!」

 

 男二人が頷き合い、周りも深く同意し、

 

「あの子が、こんな無茶を……! 俺たちは、どうすれば!」

 

 自ら問いかけ合い、その瞬間に声を聴いた。

 

「応援よおおおおおおおおおおおお!!」

 

「!!」

 

 声を上げたのはチアガール姿の筋肉エルフだった。

 彼女は両手のポンポンをリズムよく振り、

 

「今から逃げても間に合わないわ! 戦いに参加することもできない!」

 

 だったら、

 

「応援よぉーー!」

 

 躍動する筋肉を大きく弾ませる彼女に対し、恰好と存在に疑問は持ちつつも言葉に対して迷いは無かった。

 

「あぁ……!」

 

 彼らは頷き、フランソワも力強く頷きを返す。

 拳を握り、

 

「さぁ、応援するのよ―――」

 

 振り上げる為の力を込め、

 

「―――――あの、不死鳥のシュークェを!」

 

「…………」

 

 拳の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 

『が、がんばれー』

 

「なんだ貴様らその腑抜けた応援はぬおおおおおおおおおおおお!! はっ! ぬん! とぁー!」

 

 あまりにも心の入ってない民衆の応援に、抜けそうになった気合を入れ直す。

 眼前、風の歌、それも通常喉の震えであるはずのものを確かな言葉の連なりとしたフォンがポセイドンの攻撃を阻止してくれている。

 だが、火球はまだ小さい。

 否、既に七メートル近くに大きくなかったが、

 

「まだ、足りんだろうこれでは……!」

 

『がんばー』

 

 せめて倍は欲しい。

 だがシュークェは既に魔力も気も限界まで振り絞っている。

 絶招の火力としては二割増し程。

 即ち、全力をさらに超えている。

 

「っ…………!」

 

『がんばーれーっ』

 

 それでもと、魔力を、気を、命さえも振り絞り、

 

「――――一人では限界があるアルよ」

 

「!!」

 

『おぉ……!』

 

 火球が一息に一回り大きくなった。

 横を見れば、三つ編みの少年が片手を火球に手を翳し、何かを注ぎ込んでいる。

 それは、

 

「仙剄……!? お前も、仙術を……!」

 

「フォンから聞いたのを自分なりって感じアルだけどね。それより、練った気と魔力を送り込んでるけど良い感じアルか?」

 

「ぬっ……!」

 

『いいぞ、頑張れー先生ー!』

 

 言われ、感じ、気づく。

 火球にシュークェ自身の仙剄とは別の気と魔力が流れ、それが火球を大きくしているのだ。

 

「おぉ……こんなこともできたのか……!」

 

「魔力と気はコンフリクトしないアル。だから、こうして他者から魔力を供給してもらえれば―――」

 

「なるほど、そういうことか!」

 

『頑張れー!』

 

 両手両翼を掲げつつ、背後に振り返り、

 

「貴様ら―――――このシュークェを応援するがいい!」

 

 叫んだ。

 そしてその声を受けた彼らは互いに顔を見合わせ、声を揃えて、

 

『めっちゃしてただろ!』

 

 

 

 

 

 

 フォンは風を聴いた。

 それは小さく吹く、熱を持つ風だ。

 数は多く、至る所から一点に向かう。

 一つ一つはあまりにもか弱い。

 当然だ。

 彼らは、彼女らは戦う力を持たないが故に逃げているのだから。

 けれど不死鳥が目に届く誰もが手を伸ばし、熱を送る。

 

「―――がんばれ」

 

 誰かが小さく口にする。

 

「―――がんばれ……」

 

 誰かが言葉を零す。

 

「―――頑張れ……!」

 

 誰もを守ろうとする不死鳥へと。

 

「上手く行ったら合コン、セッティングするからよ……!」

 

「あぁ、俺も、俺の娘―――の、友達の友達を!」

 

「ほぼ他人じゃねぇか!」

 

「だってうちの娘はなぁ」

 

「私半裸は嫌よお父さん!」

 

「だよなぁ……」

 

「鳥人族の文化だとなぁ。俺も嫁が魚人族だから困ったけど……フォンちゃんみたいに服着てくれれば……」

 

「うちも旦那が蟲人族だから食事とか生活とか合わせるの大変だったのよねぇ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 一瞬、風が止まり、

 

「うおおおおおおおとにかく頑張れえええええええ!」

 

「貴様らぁー! ほんと応援する気あるか!? あと、友達の友達、お願いします!」

 

 また風が吹き、熱が集う。

 青黒を受け止め、神速を体現し、残像を残す中で、くすりと笑ってしまう。 

 面倒がられたりはするけれど、それでも嫌われないのがシュークェという男なのかなと思う。

 

「っ……!」

 

 不死鳥が、声にならぬ雄たけびを上げる。

 腕と翼の中に、本来彼でも扱いきれぬはずの熱が形になり、

 

「鳳仙絶招・改……!」

 

 結実する。

 三十メートル近い直径に達した大熱球。

 

「――――≪三界火翼・一切衆生≫!」

 

 放たれた。

 両腕と両翼に押し出されるようにゆっくりと冥海神殿へと浮上していき、

 

「っ……はっ……はっ――――――フォォォォン!!」

 

 不死鳥は陽鳥の名を叫ぶ。

 故に、フォンは飛翔を以て応答とした。

 水流からの離脱際に、細いものには加速と減衰のバランスを甘くした仙爪を置いておく。結果、激突当時に二種の力が暴発し、水流を砕いた。

 爆砕の瞬間には、とっくにフォンは大熱球の下にいる。

 

『―――しろく、しろく、しろく』

 

 起こしたのは加速の白だ。

 

『―――ちかく、はやく、かるく』

 

 それを大熱球の周囲を飛び回り、

 

『―――あつく、するどく、さましく』

 

 加速を注ぎ込む。

 

『―――かぜが、うたうよ』

 

 さらに真下に跳び、手と翼を翳す。

 

『―――みんなと、かさねて』

 

 白が、大熱球を頂点として螺旋を描き、

 

『―――いつだって』

 

 その権能が発揮される。

 

『―――どこだって』

 

 加速が、神速を奏で、

 

『―――このねつが、とんでいくよ……!』

 

 赤熱を押し出した。

 

 

 

 

 

 

 ポセイドンがその瞬間見たのは白だった。

 自身の肉眼、科装ゴーグルのレンズの視界補助、或いは全ての近くがその色に染まった。

 神速を受けた大熱球が冥海に激突したことによる大規模な水蒸気爆発だということには意識を取り戻してから思い至った。

 人種の街に火と水の混じり合いが、爆裂となって咲いたのだ。

 陽鳥の白は、大熱球を押し出すだけではなく、その内部にも溶け合っていた。

 それがどうなるか、それが真上数百メートルまで吹き上がった神殿が教えてくれた。

 加速はあらゆる現象に及んだ。

 単に高速で飛んだだけではない。

 仮想水との反応よりも高熱と衝撃が全体に伝播するのが速かったのだ。

 ただ熱や火を外部から冥海神殿にぶつけたのなら、一部は蒸発するがすぐに深海に押し留められただろう。

 そうはならなかった。

 深海が熱球を飲み込むよりも早く爆裂し、衝撃と熱は全体を駆け抜ける。

 直上加速を付与されたために、全方位ではなく真上へと。

 何もかもが、飛沫となって跳ね上がった。

 下手にポセイドンだけを倒して残った膨大量の水が街に落下しないようにさせるためだろう。

 これだけの水量が街に落ちれば甚大な被害となる。

 だからぶち上げたのだ。

 

「っ……!」

 

 そんなことを、飛沫舞う空の中で思った。

 落ちている。

 意識を取りもしてもなお、爆発による衝撃のせいか視界は歪んでいた。

 ≪偽神兵装≫に備え付けられた処置術式でも回復に数瞬掛かるほどだった。

 背や両足のジェットスクリューも一時的にダウンし、異能によって体勢を整えるまでさらにもう数秒。

 

「―――――やぁ」

 

「っ……!」

 

 それよりも早く、陽鳥が目の前に現れ、

 

「これ以上、迷惑かける人が多い場所で戦うのは止めようか――――!」

 

 拳が顔面に突き刺さり、

 

「――――!?」

 

 白い風と共に、世界が引き延ばされた。

 打撃を顔面に受けたまま、フォンがそのままに飛んだのだ。 

 一瞬で移動したのは数百メートル。

 あまりの速度によってまたその一瞬意識が途絶えた。

 次に目覚めたのは、

 

「――――ここなら、迷惑かけても問題なさそうだしね」

 

 王都北西部、どこかの劇場の直上。

 蹴りの一撃と共に、劇場の天蓋に開いていた穴へと叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

「っああああああああああ!!! これで私が動かなくなると思ったら大間違いよぉおおおお!」

 

 叫びながら、ヘファイストスはやっとの思いで立ち上がった。

 全身をぶち抜いた大量の刃は、自分をハチの巣にしたがそこは異能のおかげだった。

 蛸という生物を模した故に、ヘファイストスの≪偽神兵装≫は再生力に長けている。

 体中に開いた穴も、一分ほどで塞がり、回復することができた。

 その間にも悪魔の女はアポロンとアルテミスと戦っていた。

 戦っているというか、滅茶苦茶にさせられているというべきか。

 それでも踏ん張って倒されていないのだからここは流石と言うべきだろう。

 だが、

 

「ここから、逆転劇よぉ……!」

 

 瞬間だった。

 頭上の天蓋、そこに開いていた影が墜落してきた。

 粉塵を巻き上げ、そこに大の字で伸びているのは、

 

「――――ポセイドン!?」

 

「っ……ぐ……!」

 

 埋めき声を上げる陰気な同胞だ。

 それだけでは無かった。

 続いて舞い降りる翼。

 鳥人族の少女に、悪魔は微かに唇を尖らせ、

 

「…………私なら、迷惑かけていいんですか?」

 

「だって――――トリウィアなら問題ないでしょ?」

 

 鳥人族が、その黒風を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 劇場内の全てを黒風が埋め尽くすのをトリウィアは確認した。

 一瞬だ。

 黒の奔流が形成する翼を勢い良く広げた結果。

 屋外ではなく、室内でその権能を用いるとどうなるかがその答えがこれだ。

 あらゆるものの停滞である。

 重力による荷重ではない。

 まるで時間が遅くなったかのように、あらゆる速度、行為が遅くなる。

 開いた掌を握りしめるだけでも十数秒かかるほど。

 驚いた。

 風は移ろうものだ。

 何らかの形を得ても、役目を果たせば解けて世界に溶ける。

 それが閉所で用い、空間に積層させるだけでこうなるとは。

 アポロンも、アルテミスも、ヘファイストスも、ポセイドンも。

 トリウィアでさえ≪境界超越(エクツェレントゥ)≫により強化された肉体、時間加速、さらには細かい重力制御を用いたとしてやっとなんとか動けるかというほど。

 

「―――」

 

 魔力が、既に尽きかけていた。

 ヘファイストスを倒してから僅か一分と少しだが、常時≪魔導絢爛≫を使い続けているようなものだ。

 当然、消耗も大きくこの超停滞の中では何もできない。

 故に、

 

「――――廻せ、≪叡智の天輪(アカシック・ハイロゥ)≫」

 

 新しい煙草を咥えながら、頭上の天輪が輝き回転する。

 結果、使い果たした魔力の全てが回復した。

 天輪は、ただの飾りではない。

 弁だ。

 アカシック・ライトはマルチバースから力を引き出す魔術。

 不足系統を引き出して全系統を体現した。

 だから今度は純粋なリソースとして引き出すだけだ。

 理論上は無限に戦い続けられるが、実際の所は精神的な消耗は避けられないのでいつかは限界が来るだろう。

 

「ですが、今ではありませんね」

 

 魔力は回復。

 だがそれでも超停滞の中では足りない。

 故に、

 

『――――≪黄金童話(ニーベルンゲン)神々の黄昏(ゲッテルデメルング)≫!』

 

 最大効率の身体強化を発動する。

 身体能力強化魔法『黄金童話』。

 ≪龍の都≫でもアポロンに対して用いた『戦乙女騎行』や『英雄凱歌』は、それぞれに特化した身体機能があった。

 だが、『神々の黄昏』が強化するのは、

 

「あらゆる全て……!」

 

 その通りの強化が、それまでをはるかに上回る強化を発揮した。

 頬や露出した太ももやニーソックスの下から青黒に淡く光る幾本もの直線のラインが浮かぶ。

 それまでは、例えば『英雄凱歌』なら鬼種に匹敵する膂力があった。

 今は違う。

 あらゆる種族において頂点である龍人族にも届く性能を手に入れた。

 それを以て、時間加速と重力制御を発動。

 結果、

 

「――――ほら、トリウィアなら問題ない」

 

 どんよりと時が流れる世界で、背後から声が掛かった。

 軽い音と共に背中が重なり、煙と共に嘆息する。

 

「無茶ぶりじゃないですか」

 

「でも、それに応えてくれるのがトリウィアでしょ。戦ってる途中でもこっちに合図送ってくれたし」

 

「まったく」

 

 苦笑してしまう。

 最初に天蓋に立った時、巨大な水球の中で戦うフォンが見えて、その後の列車砲の爆裂で気づいてくれるだろうと思ったのは確かだが。

 これは彼女なりの自分への甘えなのだろうか。

 だったら良いなと思い、知りたいなと考えた。

 それからやっぱりいいかなとも。

 知識欲は自分にとって呪いだった。

 知りたいという呪縛のままに多くの知識を得て、けれど代わりに失ったり傷つけたものがあった。

 けれど。

 ウィルは、それを祝福と呼んでくれた。

 呪いではなく祝福であり、それがトリウィア・フロネシスだと。

 祝福(ゼーゲン)だ。

 そして今、

 

「えぇ。この祝福が、貴方を一人にしませんとも」

 

「ほぅら」

 

 二人で笑みを零し。

 そして行く。

 

 

 

 

 

 

『―――しろく、くろく、あおく』

 

 歌と共に黒白の陽鳥と青黒の天使が駆ける。

 何もかも停滞する中で二人は高速で、フォンが言葉を口ずさみ、

 

『―――天高く、空深く、風強く』

 

 そこにトリウィアが言葉を重ねる。

 フォンがアルテミスとポセイドンを。

 トリウィアがヘファイストスとアポロンを。

 それぞれ蹴り上げ、飛ばし、

 

『―――かぜが、はこぶ』

 

『―――深淵が、深まる』

 

 中空、四人を一か所に纏めた。

 

『―――しゅくふくを、このめに』

 

『―――連理が、この背に』

 

 一塊の真下、フォンとトリウィアは集い、

 

『―――広がる叡智と!』

 

『―――ふかき、ひよくを!』

 

 手を、刃銃を翳し多重方陣が展開された。

 青、黒、白。

 三色で構成された魔法陣。

 アース111の神性を受け継ぎ、自らの名を正した陽鳥と。

 マルチバースの力を引き出し、境界を超えた天使が。

  

絢爛絶招(シンクロマジック)!』

 

 フォンが拳を振りかぶり、トリウィアが引き金に指をかけ、

 

『――――≪十字福音(ヘカテイア)疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドランク)≫!』

 

 深淵の暴風をぶちまけた。

 この世界を構成する三十五の要素が織りなす破壊概念が加速に乗り、減衰によって触れた瞬間に重く残る。

 何もかもを打ち砕き、破砕する風のミキサーだ。

 アポロンも。

 アルテミスも。

 ヘファイストスも。

 ポセイドンも。

 抗うことは許されない。

 事前の超停滞から叩き込まれたが故に、防御も回避もできず、

 

「―――――終演」

 

 トリウィアの宣告により、全ての幕は下りた。

 

 

 

 

 

 

「おー、ちゃんと生きてる」

 

「こっちで非殺傷掛けてましたからね。まぁ、甘い気もしますけど……」

 

「ウィルさんは、こうするよね」

 

「えぇ」

 

 打ち上げた四人をトリウィアは重力制御で回収し、魔力で作った鎖で拘束をしておく。

 トリウィアは白衣、フォンは鳥人族の装束の上からスカジャンを羽織った姿に戻り、

 

「どうするの、こいつら」

 

「一先ず能力を封印しておきました。なんならちょっとした仮死状態なので、しばらくは大丈夫でしょう。正直、今は放置するしかないですね。この場にずっといるわけにもいきませんし……」

 

 ≪龍の都≫の時のようなヘラとやらの転移で回収されても困るが。

 今は手が足りていない。

 あちこちに蔓延る魔族を倒し、民間人の救助も必要だ。

 アルマと連絡が付けば助かるが、現状未だ無し。

 

「一先ず可能な限り強力な結界を張って、認識阻害と拘束をしておきます」

 

「ん、任せ―――」

 

 頷きは、行えなかった。

 フォンが顎を真上に跳ね上げ、トリウィアも同じ動きをする。

 トリウィアが手を伸ばせばフォンがその手を取って飛翔。

 大きくなった天井の穴から飛び出し、

 

「っ……!」

 

 二人は北の空に、息を飲んだ。

 あちこちで戦火や煙が上がっているが、それ以上の異変は無い。

 だが、知覚とは別、もっと深い所。

 精神を蝕む何かが、広範囲にばらまかれている。

 

「これは―――」

 

 何かの精神汚染。

 王都の北部。

 思い返すのは、そこに現れた存在とそこに向かった人。

 その名を、フォンが噛みしめる様に口にした。

 

「御影……!」

 

 

 

 

 

 

「―――――ごほっ」

 

 天津院御影は、血の塊を吐き捨てた。

 身体には傷があり、膝をついた地面には既に血だまりができつつある。

 

「…………参ったな」

 

 大戦斧を支えにしつつ、前を見た。

 そこには、

 

「オオォォオオオオオ――――――!」

 

 雄たけびを上げる、巨大な三つ首の獣。

 蛇と狐と狗の頭。

 それは天津皇国における神話。

 皇国の三大聖域に封印されていた鬼神。

 エウリディーチェ曰く、人を愛し、憎み、寿ぎ、矛盾に耐えられなかった神格。

 つい先日、封印が破られたと聞いたその名は、

 

「≪三鬼子≫……!」

 

 それが現実となって、絶望をばらまいていた。

 

 




トリウィア
ほぼ無限魔力回復もあります
うーんこの

フォン
キュウニウタウヨー
トリウィアに対してはどんだけ無茶ぶりしてもいいでしょみたいな甘えがあったりなかったり

シュークェ
頑張った


御影
絶体絶命


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童乃いばら――主の下の心――

電撃大賞で三次通ったりしてテンションアッパーとナーバス繰り返して遅れました


 

 王都北部。

 その中心部にあったのは小規模の学校だ。

 王都の学校といえば中心部のアクシア魔法学園が世界的に有名だが、それは各国から集まった一部のみが入学できる選ばれた場所。王都の一般の子供たちが通える場所ではない。

 そのため、平民には平民向けの学校が、貴族には貴族向けの学校がいくつか存在している。

 初代国王の意向により、王国、特に王都では読み書き計算の習得が推奨されており、貴族の家系ならばより高等な教育が義務とされている。

 『貴風園』という名の貴族向けの学校もその一つ。

 主に10歳ごろまでの少年少女が通う場所。

 王国の中心部に小さい町くらいの広さを持つ『アクシア魔法学園』が例外であり、基本的には他よりも大きい建物と小規模な校庭を持つ程度だ。

 いつか国の未来を担うことを願われた子供たち。 

 そんな場所で、

 

「っ……良くないでござる……!」

 

 童乃いばらは口と鼻を覆う布当ての下で苦々しげに呟いた。

 三十メートル×五十メートル程度の広さの校庭は普段生徒たちの運動の場は、しかし今は戦場となっていた。

 大量に湧いて来た魔族は良かった。

 対処できる。

 この場に向かった御影、甘楽、いばらの相手にはならないし、同着した騎士団もいた。

 問題はそこではなかった。

 

「オォォォォオォ――――!」

 

 慟哭を上げ、絶望をまき散らす三つ首の獣。

 三鬼子。

 皇国神話の化生を前に、危機へと追い詰められていた。

 

「姫様……!」

 

 声を上げた先。

 校舎、校庭の中央に三つ首がおり、外周部の物置小屋か何かを背にし膝をつく主の姿。

 戦いの中、三鬼子の吐いた息吹(ブレス)の波動を彼女はまともに受けてしまったのだ。

 

「っ……くっ……これは……!」

 

 御影の下に駆けつけようと足を踏み出しかけ、しかし足の重さに驚く。

 ダメージや疲弊ではない。

 精神が、蝕まれているような感覚。

 或いは、

 

「姫様の継承権第一位獲得祝いに十升開けた次の日の二日酔いのような……!」

 

 王国に来てからは主に倣って禁酒しているが、過去最高の二日酔いをさらに重くしたような負荷。

 そういえばあの時姫様本人は倍以上飲んでいたのに全く堪えてなかった。

 流石姫様。

 手足に重りを付けたようなものだが、心の中で御影への礼賛を五回繰り返し、

 

「忍者ぱぁうわぁ……!」

 

 どうにも発音が上手く行かない共通語と共に立ち上がる。

 ついでに周りを見れば、校舎に避難してた生徒や一般人を守る衛兵たちが膝をついており、

 

「できるわけないだろ…………従妹を最強無敵で完璧無欠のダンジョン攻略者にするなんて……」

 

「分からない……接待の飲み会のせいで嫁に出て行かれて…………俺はどう生きればいいんだ……?」

 

「僕……社交ダンスやりたかったんですけど……無理ですよねへへ……だってプライベートに友達いない……コミュ障ぼっちが社交ダンスなんて……」

 

「結婚……年齢……親の気配……私のことが大好きな男……!」

 

 なんか凄いことになっていた。

 三鬼子の影響なのか、直前彼らが頑張っていたからか魔族が少ないのは不幸中の幸いだが彼らが闇を吐いて動けないのは拙い。

 だがそれ以上に、

 

「姫様……!」

 

 未だ動かない御影が最優先だ。

 三鬼子は低く唸り天を見上げ、おそらく精神汚染らしきものをまき散らしているがすぐにでも彼女を攻撃してもおかしくない。

 行かねばと身構え、

 

「――――!」

 

 それよりも先に奔る影があった。

 着物姿の白角の少女。

 両手に鉄扇を構えた彼女は、

 

「甘楽様!」

 

「気を逸らしますよ」

 

 短く己に告げた甘楽は、止まらなかった。

 日頃ころりと優しいほほ笑みを讃える主の姉は、しかし黒曜の瞳は鋭く染まり、

 

「―――えいっ」

 

 軽い掛け声と共に鉄扇を振るった。

 結果生じるのは破壊を伴う豪風と幾本もの雷撃の刃だ。

 通常火か土属性を得意とする鬼種だが、次いで持つのは雷属性。

 彼女はそれに特化している。

 鉄扇を媒介に雷刃を生み出し、しかし風の方はほとんど素の膂力らしい。

 それだけで巨大な鉄槌に打たれたのに等しいだけの衝撃を生むのだから流石姫様の姉上だ。

 

『――――シャッ!』

 

 反応があった。

 三鬼子の三つ首の内、額に角を持つ蛇だけが攻撃を察知。

 残りの二首はまだ姫様を見ていたが、激突する前に共通する四肢が跳ねる。

 巨体はしかし俊敏だ。

 跳んだ。

 傾いていく太陽を背にした三つ首は風雷を軽い動きで避けながらも御影から距離を取り、

 

「――――忍法・影縫いの術……!」

 

『―――!』 

 

 いばらが投擲した苦無が影に突き刺さり、その動きを止める。

 指で印を組み発動するのは土系統を軸に封印系統と荷重系統を織り交ぜた拘束鬼道忍術。

 真正面から殴り合いを好む鬼種だが、中には自分のような絡めてを得意とするものもいる。

 忍なのだ。

 自分の主は呵呵大笑と共に最前線に殴りこむに行く性格なのでそういう術を覚えたし、無論鬼種として必要があれば殴り合いもする。

 忍だからって忍ぶとは限らない。

 結果、入学時五位だった。

 ダメだ、思い出すとちょっと心が浸食に負けそうになる。

 だから力を振り絞り、それでも、

 

「く、ぬっ……! 甘楽様、長くは……!」

 

「頑張ってください。私も頑張りましょう」

 

「っ―――御意!」

 

『オォォォォ―――!』

 

 影縫いの精度は敵の強さとそのまま直結する。

 そして三鬼子の強度はいばらの知る何よりも強い。

 例え甘楽が気を引付けても、そう長くは止めて置けない。

 なら後は。

 

「姫様……!」

 

 ここしばらく、彼女の調子が悪いことをいばらは知っている。

 或いは主が三鬼子について気にかけていたことも。

 彼女の身に植え付けられた呪いと関係がある、かもしれない。

 この学校に辿りつき、三鬼子と戦い始めた時は普段通りだったが、何かしらの影響が出たのかもしれない。

 拘束を維持しながら視線だけで主を見る。

 

「―――?」

 

 そして気づいた。

 なんとか片膝を立てた彼女は、しかし三鬼子では無く背後に意識を向けていることを。

 

 

 

 

 

 

「っく……効いた、な、流石に」

 

 ふらり立ち上がりながら血の塊を御影は吐き捨てた。

 直前に受けた息吹は、振動咆哮とでもいうべきものだった。

 音の打撃。

 空気が振動が指向性を持ち、全身を破砕させるもの。

 加えて精神汚染付き。

 気力を奪い、諦観を与える波動だった。

 精神汚染は、まだよかった。

 それはここ一月、断続的に御影が蝕まれているもの。

 だが振動咆哮の方が直撃した。

 鬼道による火炎の防御膜を咄嗟に展開したが、防ぎきれずに無様にも倒れ伏すことになった。

 

「……やれやれ」

 

 全身の皮膚が浅く裂け、血に濡れた髪をかき上げながら見るのは背後だ。

 三鬼子も恐ろしいが従者と姉が引き付けてくれているので任せるとする。

 重く感じる大戦斧に体重を掛けつつ、背にあった小さな倉庫が無事なのを確認し、

 

「――――おおい、怪我は無いか?」

 

 声を掛ける。

 少しを間を開けて、恐る恐るという感じでスライド式の戸が開いた。

 顔を出したのは、

 

「……あ、あの」

 

 幼い女の子だった。

 白と青の制服の少女は顔色が悪く、怯えも見て取れる。

 

「怪我は無いか」

 

「は、はい! ありがとうございます……えっと」

 

 少女は胸元で抱えていた絵本に一瞬視線を落とし、

 

「―――ヒメトーノサマー!」

 

 微妙に間違った皇国語で呼ばれた。

 

「……いや、共通語でいいぞ?」

 

「は、はい! お姫様(プリンセス)!」

 

「うん、まぁいいか」

 

 苦笑しつつ、歩み寄り頭を撫でた。

 くしゃりと、髪に通した指からは震えが伝わってきている。

 

「逃げ遅れたか?」

 

「は、はい……わ、私、ここでこっそり本を読んでて、それで、周りの音、聞こえてなくて、それで……」

 

「どうどう、落ち着け落ち着け。もう大丈夫だからな」

 

 実際は大丈夫かどうか怪しいが。

 

「……大丈夫、なんですか?」

 

「―――あぁ」

 

 それでも大丈夫と諭すのは大事だ。

 相手は子供なのだから。

 自分もまだ大人、と言えるほどではないかもしれないがそれでも少女がよんでくれた通り自分は皇国皇女だ。

 例え、自分の国ではなかろうと民を守らなければならない。

 三鬼子の咆哮に対し、回避をしなかったのもそれだ。

 攻撃の直前、背後に人の気配を確かに感じ、それゆえにまともに受けた。

 少女に傷はないのだからその価値はあった。

 

「すぐに安全な所にと言いたいが……うぅむ」

 

 三鬼子はかろうじで姉と従者が引き付けてくれているが、長くはもたない。

 遠く、魔族から学校関係者や避難民が集まった校舎を守ってくれていた騎士団も崩れ落ちていて動くのは難しそうだ。今は魔族の侵攻が落ち着いているようだが、それもどれだけ持つのか分からない。

 精神汚染が良くなかった。

 気力や活力を奪い、諦観と絶望を強制させる波動が広範囲にまき散らされた。

 必要なのは決断だ。

 最優先するべきは民であり、次のその民を守る騎士、さらには姉と従者、そして自分。

 となると目の前の少女を、この精神汚染が広がる状況でどうするかなのだが、

 

「…………ん? お前、名前はなんだったか」

 

「あ、はい! マクリアです! マクリア・エアル!」

 

「なるほど、良い名前だなマクリア。しかし……マクリアは、大丈夫なのか?」

 

「はい! プリンセスが守ってくれましたから!」

 

「んー……?」

 

 そういうことではないと思うのだが。

 実際に騎士団は潰れているし、今の自分だって三鬼子から受けた汚染と()()()()()()()が同時に身を蝕んでいる。

 平気面しているのはこれまでの一月の慣れとマクリアに対する見栄だ。

 その二つが欠けていたら、動きが制限されていただろう。

 なのに、マクリアは顔色は悪いしこの状況故の消耗は見られるが精神汚染を受けた様子は無い。

 

「―――」

 

「……え、えっと? どうしました、プリンセス?」

 

 何か、見逃してはならないという気がした。

 根拠はない。

 直感だ。

 だがやはり具体的な何かに思い至らない。

 少女が絶望に染まらない理由、それは、

 

「―――――即ち、エレガンス!!」

 

 答えが、上から来た。

 

 

 

 

 

 

 光は、声と共に来た。

 カーテンのように広がり、『貴風園』全体を覆い、

 

「輝けエレガンス! 我がエレガンティア! エレガントなエレガンテーション!」

 

 続く声が響き渡り、

 

「≪究極魔法(アルテママジック)≫!」

 

 宣言が行われ、法則が伝播した。

 

「≪――――パレス・オブ・エレガント≫!!」

 

 『貴風園』内に存在する存在、そのほぼ全ての動作が停止した。

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 なんでござるかこれは!? と叫ぼうとし、しかしいばらは口を開くことができなかった。

 三鬼子に対する影縛りが限界を迎えようとした瞬間だった。

 変な声があり、変な詠唱があり、変な宣言があった。

 そして何かしらの魔法行使があり、結果が不動を強制されている。

 自分だけではない。

 影縛りでなんとかという度合いだった三鬼子の動きが止まり、

 

「まぁ? どういう神髄でしょうか」

 

「!?」

 

 鉄扇を口元に当てた甘楽は、普通に動いていた。

 不動の様子もない、むしろ、

 

「おや? おやおや? 妙に動き安い気がしますね。いばら、貴方は違うのですか?」

 

「……!」

 

 片膝を立てて、指で印を組み、全身で力んだ状態のままの不動なので体勢的に負担を覚えるので動きたいが動けない。

 動きたいが動けない。

 何故。

 

「―――簡単なことです」

 

 答えは校舎の屋上から跳び、危なげなく着地した女。

 皇国で見ないどころか王国にしかないシルエットの細い白のスーツドレス、片目にモノクルを掛けた金髪の美女。

 その人物をいばらは知っていて、

 

「……! ――――……。」

 

 名を叫ぼうとして、喋れなかった。

 その様子を見た女はキレのある動きで自分を指で指し

 

「貴女には――――エレガンスが足りませんわ!」

 

 酷いダメ出しが来た。

 

 

 

 

 

 

「言葉は使えるでしょう。良く通る発声と声質をしているのは認めることですから」

 

「―――クリスティーン・ウォールストーン女史ですか」

 

 いばらは甘楽に抱えられながら御影とクリスティーンの会話を聞いた。

 主は動きを止めたままだが会話は可能なあたり不動の条件が良く分からない。

 もっと言うと、

 

「ぷ、プリンセスと……ご、ごゆーじん、でしょうか!」

 

 彼女が守ったであろう少女は不動を受けていなかった。

 御影の様子を気にしつつ、慣れない動きでスカートを広げる礼をするあたり中々の胆力だ。

 

「……?」

 

「……何故、彼女は動けているのですか、女史」

 

「私の究極魔法による効果ですわ、皇国皇女殿下」

 

 本来秘するべきものを、彼女は何気なく口にする。

 彼女は有名だ。

 初代国王が発端とした王国の多様な文化をさらに広げ、世界的にも美のカリスマと呼べる存在。

 さらには『二つ名』持ちであり、その名は、

 

「私が頂いた二つ名は『美の審判(ジャッジメント)』。これは私の究極魔法を由来とします。それはルール強制の結界展開魔法」

 

 その条件とは、と口にしつつ彼女は体を振る。

 高く掲げた右の五指を天に翳し、左手を首元に添え、腰に反りを作り、右の踵を上げで両足に角度を生み、

 

「――――そう! エレガントさを持たぬ者には、そのノットエレガント故に不動を与える! それが私の能力なのです!」

 

「……」

 

 いばらはちょっと何を言っているか分からなかった。

 共通語、難しくないでござるか?

 だが、

 

「……なるほど」

 

 御影は言葉で頷く。

 理解できたらしい。流石姫様。

 だが同時に疑問を得た。

 姫が守った少女が動けていることもそうだが、甘楽は動けている。自分が動けていないのもまぁ仕方ないだろう。

 忍者故に華やかさはない。

 だけど。

 続けて思うことは一つだ。

 えれがんす、と言う言葉は知っている。優美や雅、風情を現す言葉。

 ならば。

 どうして姫様が動けないのでござる?

 

 

 

 

 

 

「貴女がエレガンスに欠けているとは言いませんわ、皇女殿下。むしろ、私の知る限り有数のエレガンスボルテージの持ち主。こうして直接話すのは初めてですが噂はなんども聞いていましたもの。えぇ、アベレージ30000EVはあるでしょう」

 

 御影は困っていた。

 初手から何を言っているのかよく分らん。

 とりあえず体は動かせないし、聞いておくことにする。

 

 

 

 

 

 今、訳の分からん言語で訳の分からん言葉を連ねたモノクル女に対して御影は動揺もしなかった。

 流石だ。

 しかしやはり疑問だ。

 優美さが足りないということはないはずだ。

 御影は鬼種として戦闘に関してはアグレッシブ極めているが、だが同時に文化面的にも完璧なのだ。いつだったか、学内料理コンテストでも1年次の段階で優勝して今年はフラワークイーン先生と共に審査員側に回っていて食レポも完璧だった。さらには裁縫や掃除やら所謂花嫁修業的なのも完璧。

 完璧が三つ並んでしまったが、それが自分の主というものだ。

 流石。

 これも何回目か分からないが、まだ足りないくらい。

 それを踏まえた上で思うのは、やはり何故、だ。

 

「――――ですが」

 

 クリスティーンはポーズを変えながら言葉を続けた。

 トリウィア・フロネシスがたまにやっているようなのと似ている。

 

「今の貴女は本来持つエレガンスとは、少し違いますね。皇女殿下――――そこの従者の方」

 

「……?」

 

 突然振られたが、返事はできない。

 

「従者であるなら、貴方があるべきは主を想うことでしょう。為すべきことを為すといことがエレガントではないと断ずるほど私は無粋ではありませんわ。故に、主への敬意と親愛を以て答えてください。――――貴方は、主が()()()()()と、そう思うことはありませんか?」

 

「――――それは」

 

 いばらは、発声を自覚した。

 そして主を見る。

 現在主の姉の肩に米俵のように担がれているのが恰好が付かないが、それでも発言を求められており、これは否定できないものと判断できる。

 なぜなら、

 

「―――――拙者、思わなくなくもないでござる」

 

 色々な思いを込めて口にする。

 そして思った。

 ないが三度も続いてしまって分かりにくいでござる。

 言葉って難しい。

 

 

 

 

 

 

 難しいことを言うなぁと御影は息を吐いた。

 身体は動かず、続きを待った。

 

「……その、姫様が皇国の時はもっと前に出ていたでござる。皆の前に、混血であり、遠い異国の出であるが故の不利を払い、母のため、父のため、民のために自らの価値を証明する。それが姫様でござった」

 

 だけど、と繋いだ瞬間に彼女の体が動いた。

 気づいた甘楽が自然な動きで下ろしてくれたので、いばらは降りつつ頭を下げる。

 膝をついた。

 首を引く。

 即ち、自らの角を晒したのだ。

 

「ですが、姫様は学園に来て―――お館様、ウィル・ストレイト様と出会い、変わられました」

 

 そこで僅かに言い淀み、

 

「いえ、お館様を疎んでいるわけではござりません。姫様の良人として過不足無いと思うでござる。鬼種の女として、相手に尽くすことも素晴らしく流石姫様と思うのも本心でござる」

 

 ただ。

 言葉を選びながらも、自らの腹心は言う。

 

「――――かつて、皇国の誰もを認めさせた熱を持つ姫とは変わってしまったな、と」

 

 

 

 

 

 

「――――そうかぁ」

 

 わりと、効いた。

 それの是非はともかく、しかし受け入れなければならない言葉だ。

 自分は変わってないのかと思っていたが、しかし根本的に一歩目で変わっていたらしい。

 まぁ、仕方ないとも言える。

 ウィルとの出会いは衝撃だったし、そこからずぶずぶ沼に嵌っていった。

 一年時はウィルがこちらに対して一歩引いていたから、そのギリギリのラインを楽しんだが、アルマが来て、序列を自ら定め、しかし夏の一件が極めつけだった。

 確かにここ最近、自分はウィルにとって良き妻であろうとしていた。

 思えば、昔の自分なら入学試験の時に演説は自ら行っていただろうし、学園の建物の見回りも、いばらに任せていたように思う。

 三年になり、卒業が見えて来たからだ。

 ウィルやアルマ、トリウィア、フォンと五人でどういう生活をするのかを真面目に考えなければとも思うし、それぞれの立場や進路も踏まえる必要がある。そのあたりは当たり前の様に自分が率先して考えるべきと思っていた。

 確かに、変わっている。

 変化はあったのだ。

 気づいていないだけで。

 だったら、まずは言うことがある。

 

「ありがとう、いばら。お前には世話を掛けるな。私は良い従者を持った」

 

「―――いえ、拙者姫様の忍び故に」

 

 膝をつく己の忍の様は、確かに美しかった。

 有り難い。

 出来ることならば今すぐ彼女を抱きしめたいが、

 

「――――動けないということは、これが私の不足ですか? クリスティーン女史?」

 

 問いに対して、クリスティーンはゆっくりと頷いた。

 

「いえ、それは知りませんけど」

 

 

 

 

 

 

「まぁ、面白い方ですねぇ。……大丈夫ですか、いばら?」

 

「つ、角に響いたでござる……!」

 

 今度はクリスティーンの言葉を理解で来たが、できたが故に頭から地面に激突してしまった。

 痛みに顔をしかめ、立ち上がろうとし、

 

「あ! 動かないでござるよ!?」

 

「落ち方がエレガントではなかったのでしょう、えぇ」

 

 甘楽が厳しい。

 この人はこの人で楽しそうにしているあたり凄い。

 少女は少女で動けない頭を撫でてくれるあたり良い子だ。

 ちょっと和み、

 

「ど、どういうことですかクリスティーン殿……!?」

 

「私にわかるのはエレガントか、エレガントでないか、いかなるエレガントを秘めてるだけですわ!」

 

 最後で急に分からなくなった。

 エレガントとはなんだろう。

 そもそもカウント制だったのだろうか。

 王国文化はやはり良く分からない。

 

「私の究極魔法であのケダモノを止めていますが、しかしそれもあとわずかでしょう! EVがマイナスに振り切れてますが、あの強度は流石に止め切れません! そして、私には分かりますわ、えぇ!」

 

 語気が強め、テンションが上がった彼女は主を指指す。

 

「皇女殿下には尋常ならざるエレガントが秘されています! 故に! 解放するのです! それが勝機と私のエレガントスカウターが言っています! さぁ、見せてください、貴女のグランドエレガントを!」

 

 やっぱり意味が全く分からないでござるよ?

 

 




クリスティーン・ウォールストーン
二つ名持ち、究極魔法の使い手
謎の概念持ち込みまくり
そこまでにしておけ

いばら
良い悪いではないが、変わったなぁとは思っていた
それはそれとして意味不明でござるよ?

甘楽
王国面白い人が多いですねぇ

御影
うーんわかるようなわからないような……


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天津院御影――プリンセスの条件――

 

 さて、どうしたものかと御影は息を吐いた。

 三鬼子は不動を与えられ、自分もそれは同じ。

 甘楽、クリスティーン、いばら、マクリアの視線を受けつつ御影は考える。

 良い状況ではない。

 クリスティーンの究極魔法により、場の停滞が生まれているがそれも長くは続かないもの。

 そしてその彼女が示した。

 自分が、自分で抑えているものが勝機だと。

 

「――――ふむ」

 

 吐いた息には力が抜けていた。

 不動のせいで、体に力を入れなくても立てるのだ。

 だからリラックスして考えることにする。

 思い当たることは、ある。

 いばらに言われたことだそうだ。

 

「確かになぁ」

 

 学園に来て、温くなっていると言われれば否定できない。

 肉欲的には燃え広がるどころか爆散している自覚があるが、それまで命題として掲げて来た自己の証明、その全てをウィルにぶつけて来たのだ。

 結果、一歩引いた一年間があり、その半年後に結ばれた。

 そう思うと自分の肉欲大爆発を一歩引いて一年半受け続けていたウィルは凄いんじゃないだろうか。

 

「……うぅむ」

 

 こういう思考が、いけないのだろうか。

 身を引いてた。

 力量的にアルマ、トリウィア、フォンに劣るために結婚は考えていたが四番目だと思っていた。

 今更思えば入学直後、ねじ込まれたウィルの主席に殴りこんだ自分と比べれば甘いということもできるだろう。

 何故、そうなってしまったかといえば。

 

「――――」

 

 苦笑してしまう。

 きっと、ウィルだけではなくアルマも、トリウィアも、フォンも。

 自分の身内として、好きになったからだ。

 だからこれは悪いことではない。

 いばらもそう言っていた。

 言っていた本人は膝をついた角晒しから地面に激突したので土下座体勢が固定になっているがまぁ良いだろう。

 だったら、

 

「―――難しいな」

 

 悪いことは、なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「第一皇女殿下、貴女の妹御はどうにかできると思いますか?」 

 

「そうですねぇ」

 

 甘楽は右に土下座を置き、左のクリスティーンの声に首を傾けた。

 視線は、小さく息を吐いたり、言葉を漏らす妹に向けて。

 珍しい様子だ。

 彼女が生まれてからの付き合いだが、あぁして悩む様子は見たことが無い。

 即決即断、ないし精々が一呼吸で決断を出すのが妹だ。

 それがあぁしているということは、思う所が多々あるのだろう。

 

「クリスティーン様は、どう思われます? そのエレガントスカウター的に」

 

「生憎、私が分かっているのは秘めたエレガンスだけです。それがどのようなものかは私には分かりませんわ」

 

「なるほど」

 

「甘楽様、何故そちらの方と意思疎通できているのでござるか……?」

 

「大事なのは本質ですよ、いばら」

 

「えぇ……?」

 

「ふふ」

 

 笑みを扇子で押さえ

 

「少し、そちらの貴女」

 

「え、あ、はい!」

 

 妹の傍にいた少女を呼ぶ。

 制服らしき姿を見るに、逃げ遅れたこの学校の生徒だろう。

 絵本を抱えた少女は可愛らしい小走りでこちらの元に来て、

 

「プリンセスのお姉様!」

 

「あら」

 

 呼び方に意外を感じた。

 

「私も、一応皇国の姫になるんですよ」

 

「え、あ、す、すみません! 失礼をしました! ――――セープックします! 皇国では、そうするんですよね!?」

 

「まあまあまあまあ」

 

 開いた扇子を上下に仰いで諌め、覚悟決まってるでござるな……! とか感心しているいばらには軽い蹴りを入れておく。

 

「ぐあっ」

 

「おぉ、五センチ真横スキッド―――エレガンスワン!」

 

 隣、モノクルの美人は一体の不動による負担が強烈なはずだが楽しそうだ。

 独自理論で生きているタイプの変人は色んな意味で強い。

 なので、目の前で慌てた様子の少女に改めて声を掛ける。

 

「お名前は?」

 

「ま、マクリアです!」

 

「マクリアさん。んー」

 

 ぱちんと、音を鳴らして畳んだ扇子を顎に当てて、身を小さく屈める。

 新鮮な気持ちだ。

 鬼種の男衆は大柄だし、女性として甘楽は平均的だ。

 第一皇女という立場上、大人と接することが多いので子供相手に視線を合わせるの久しぶりで、

 

「妹を、御影を知っていたのですか?」

 

「え?」

 

「プリンセスの姉、と呼んでくれたでしょう? ということは御影を知ってるのかなと」

 

「あ、はい! プリンセスのことは前から知っていました!」

 

「へぇ、それはどうしてですか」

 

 聞いた答えに、甘楽は笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

「先ほどの質問にお答えしましょう、クリスティーン様」

 

 濃くした笑みを隠さず、御影の元へ行く少女の背中を見つめていた甘楽は言う。

 

「大丈夫ですよ、あの子は」

 

「その心は?」

 

 えぇ、と頷き、

 

「皇位継承権を掛けて彼女が私たち兄弟姉妹に戦いを挑んだ時、誰も侮りはせずとも負けるつもりはありませんでした。ですが―――負けたんですよね。正面から、一切の言い訳もできぬ敗北を彼女は与えました」

 

 くすりと笑う。

 

「その最後に負けたのが私だったんです。あの子の証明が何に対してなのかを見ました―――えぇ、あの子は、天津院御影ですからね。大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「プリンセス!」

 

「ん?」

 

 御影は声を聴いた。

 それはマクリアのものであり、彼女は不動の自分の正面に笑顔で来て、

 

「私、プリンセスが憧れだったんです!」

 

「………………んん? どうした、急に。私のこと……知ってたな、そういえば」

 

 嬉しいことを言われたが、しかしピンとは来ない。

 今が初顔合わせのはずだ。

 だが彼女は初見で自分が皇国の姫であるということを知っていた。

 皇国皇女として、或いは学園の二年次席として一般市民にも知られているからそのあたりは流したが、

 

「この学校は、貴族向けの学校です! だから色々、算数とか、語学とか、礼儀作法とかそういうの、たくさん勉強します! 男の子なら紳士らしく、女の子なら淑女らしく! みたいな」

 

 確かに今の言葉からも彼女の教養の高さは伺えた。

 そして彼女の言葉は笑顔と共に続き、

 

「それで―――私の目標はプリンセス、貴女なんです!」

 

「―――」

 

「プリンセスはうちの学校じゃ有名なんです! 毎年、魔法学園の生徒会の人の話は沢山来ます! 『貴風園』じゃ魔法学園への入学を目指している子も沢山いますので! 私もそうです!」

 

 理解できる。

 アクシア魔法学園は世界最高学府であり、入学して卒業すれば将来は引く手数多だ。当然、王国貴族にとっては子供が入学するだけでかなりのステータスだろう。

 溌剌した声で彼女は語る。

 

「私はいつか、魔法学園に入学します! それで、プリンセスになります!」

 

 それは。

 

「強く、優しく、美しく!」

 

 少女の夢だ。

 

「お仕事もできて、みんなの模範になって、旦那様になる人も支えてて、戦っても強くて! 私はそんなプリンセスになります!」

 

 彼女が両手で差し出したのは、抱えていた絵本だ。

 マクリアがあの物置で読んでいたのは、

 

「血蹴りの王女様か……」

 

 確か、王国、というか初代国王由来の子供向けおとぎ話だ。

 内容は確か、

 

「はい! 平民の女の子が継母の意地悪で世界一王女決闘回に出場して、伝説の達人老人から貰ったガラスブーツのキックで沢山勝ってついでに王子様も張り倒したらプロポーズされて、プリンセスになるお話です! 私はこれが大好きで、このプリンセスが大好きで、プリンセスは元々プリンセスだけど、かっこいいのは同じで……えぇと……はい!」

 

 自分で言っていて、内容が荒れ始めたのに気づいたのだろうか。

 まだ子供のようで、敏い。

 マクリアは笑っていた。

 春に咲く、花のように。

 

「――――プリンセス、貴女は私の夢なんです!」

 

 少女は夢を語る。

 

「――――っ」

 

 御影は、息を飲んだ。

 あまりにも真っすぐで、無垢な、澄んだ祈り。

 なりたいものになると、誰に恥じるでもない宣言。

 それは。

 それは。

 まるで。

 

「……って言っても、周りには笑われちゃって。だからあの物置で読んでたんですけど……えへへ、やっぱりおかしいですよね。私、王族ではないですし」

 

「………………あぁ、確かにおかしい」

 

「ぁ―――」

 

 声を漏らした少女に自分は、

 

「おかしくて、素敵だ」

 

 不動だったはずの手を頭に乗せる。

 動きは、当たり前の様に取り戻し、

 

「私もな、初めて皇位を求めた時笑われたよ。お前には無理だとな。混血で、さらに遥か異国の血を引き、体も鬼種の女らしくなかったからな」

 

 まぁ、と苦笑する。

 

「連中も悪気はなかったんだろうな。そういうものだと思っていた。当然だ、私は何も示していなかったからな。―――だから、私は自分の力を示した。お前はどうだ? マクリア」

 

「えっ……えっと! お勉強、頑張ってます! 入学した時はクラスでドベあたりだったんですけど、最近は半分より上の成績になりました!」

 

「素晴らしい。半分超えたな、他には?」

 

「運動も頑張ってます! 戦闘訓練は、私はまだ解禁されてない年齢なんですけど、魔法の扱いは取り組んでます! 筋トレもします! プリンセスみたいに大きな武器振り回したいので! あとキックの練習も!」

 

「うむ、良い心がけだ。お前くらいの年頃の人種が無理に筋トレとかすると背が伸びないらしいから無理はするなよ?」

 

「はい! 先生にも言われました! 無理なく頑張ります!」

 

「作法はどうだ?」

 

「それも頑張ってる最中です! どれも、あんまり得意ではないですけど、上手な人に教えてもらっています! 最近は先生にも同級生にも上達したねって褒められるようになりました!」

 

「最高だな、向上心があり、少しづつでも前に進んでいるのだから」

 

「ありがとうございます!」

 

「あぁ――」

 

 息を漏らす。

 最早惑いは無かった。

 膝を折って、少女に目線を合わせる。

 綺麗な空の色をしていた。

 

「――――ありがとう、私に憧れてくれて。焦がれた先に向かって全力で駆け抜けることができるならお前と私にそう違いはない。先か後かというだけだ」

 

「……え、えっと」

 

 少し難しい言い方だったか。

 ならもっと分かりやすく、頭に乗せた手を引き寄せて、彼女の額と自分の額を重ね―――――片角で彼女の額に触れながら言った。

 

「マクリア、お前はプリンセスになれるということだ」

 

「ほんとですか!?」

 

「あぁ、私が保証しよう。私も今のお前と同じように立場を得たからな」

 

 にやりと、口端を歪めて笑う。

 すると少女も同じような笑みを頑張って真似してくれた。

 かなり嬉しい。

 

「ようし。それじゃあこれからあっちの土下座かましてる私の忍者とその隣の綺麗な私のお姉様に守ってもらうと良い」

 

 今は。

 そう、今は。

 

「未来のプリンセスが夢を叶える為に―――――私が良い所を見せよう」

 

 

 

 

 

 

「――――全く、我ながら鈍かったな」

 

 苦笑しつつ、動きを取り戻した体で角に触れた。

 大戦斧は地面に突き刺し、空の手。

 マクリアが姉の元に辿りついたのを確認して、

 

「さて」

 

 軽い動きで一歩前に出て、

 

「クリスティーン殿!」

 

「なんでしょう?」

 

 振り返らない。

 視線は真っすぐに、不動、しかし僅かに動きを取り戻そうとする三鬼子を見据えながら吠えた。

 

「時間稼ぎと忠言、天津院御影が感謝する! その礼に」

 

 右の五指を開き、呪いが刻まれた腹を叩くように指を食い込ませ、

 

「――――見たいと言ったものを見せよう!」

 

 封じていたものを解き放った。

 

 

 

 

 

 

「――――姫様!?」

 

 その気配に、いばらは顔を上げた、

 不動は掛からない。

 忍が、主を想った故の行動だったからだ。

 だがその事実は気にならなかった。

 気になったのは御影から溢れ出したもの。

 ここ一月、主を苦しめたそれの正体はもう見当が付いている。

 それは、

 

「三鬼子の呪いと、同質のもの―――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 御影の腹部、どころか全身から溢れ出した赤黒の、炎のような呪いが三鬼子の断片だと、御影は直感した。

 本体ではない。

 おそらく≪ディー・コンセンテス≫が聖国や≪龍の都≫で暗躍したように皇国の聖域からその呪いの一部なりを奪うなりしたのだろう。

 三鬼子。

 古くから皇国に伝わる伝説。

 神代の時代、鬼種と共にあった三つ柱の鬼神は、しかし鬼と道違えて自ら眠りについたという。

 簡単に言えばこういう話で、皇国内の地域によっては当時の鬼に封印されたとか、殺されて遺骸が収められたなどのバリエーションがある。

 エウリディーチェの話を聞く限りは自らの封印だったのだろう。

 その理由が、今御影から溢れ出したもの。

 感情だ。

 

「――――!」

 

 怨念。

 情念。

 想念。

 愛しい。

 憎らしい。

 認めたい。

 許せない。

 それらはこれまで感じ、しかし抑えていたものだ。

 押さえなかった。

 

「ハッ―――!」

 

 笑みが溢れ、歯がむき出しになる。

 そして。

 炎が御影を飲み込み、意識が別の位相へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ――――これは

 

 御影は見ていた。

 感情のさらに奥で、流れて行く光景を。

 それは過去だ。

 かつて三鬼子たちが見て来たもの。

 

「――――神が生まれた時代の頃からか」

 

 遥か遠い昔、人の祈りが神を生み出した。

 概念に対して名付けることで形を得て、神となり人の上に君臨した。 

 三鬼子もそうだった。

 彼ら、或いは彼女らもまた人に崇められ、人の上に立つことになった。

 大陸の東、山脈に囲まれた刃のように細長く突き出た半島。

 一つ目の鬼神を長とした鬼の国。

 三つ柱の鬼にはその配下として国を治めていたのだ。

 だけど。

 時は流れ、世界は変わっていく。

 人の文明が発展し、神が人と交わり始めたのだ。

 崇められていたものと崇めていたものが同じものになり、繁栄していく。

 

『――――どうして?』

 

 彼らは、その変化を見ていた。

 

『――――お前たちが、私たちを作ったのに』

 

 声が、どこからともなく聞こえてくる。

 

『――――お前たちが、私たちを殺すのか?』

 

 感情だ。

 怨念。

 情念。

 想念。

 彼らはそれが理解できなかった。

 神と交わる様な人も。人と交わる様な神も。

 人によって緩やかに絶滅していく神々を。

 

「あぁ―――」

 

 御影は見ていた。

 三鬼子が世界から取り残されていくのを。

 御影は感じていた。

 三鬼子が世界に対して抱いた想いを。

 

『――――何故だ』

 

『――――何故、私たちを否定する』

 

『――――何故、私たちが消えて行く』

 

『――――その繁栄が憎らしい』

 

『――――その慕情を認められない』

 

『――――その未来を見ていられない』

 

 反響する慟哭。

 交差する悲嘆。

 燃え上がる憤怒。

 

「―――あぁ」

 

 気づけば、御影はどこかに立っていた。

 『貴風館』ではない。

 霧に包まれた白い世界。

 自分の正面に、赤黒く燃える三つの火。

 繁栄を、慕情を、未来を拒絶した神。

 

「そうか」

 

 息を吸った。

 吐き、言う。

 微笑む御影には、彼らに対する非難は無かった。

 だって、

 

「お前たちは、誰もを愛していたんだな」

 

 そうだ。

 

「愛しているから離れたくなかった」

 

 人とも、神とも。

 

『―――』

 

「そうじゃなかったら。人とも神ともあり方を違えたのに眠ることを選ばないはずだろう? 憎くて、認められなくて、それでも愛して、寿いだからお前たちはただ眠ることを選んだんだ」

 

 そうだ。

 人を愛し、憎み、寿ぎ、許せなかった。

 片方だけだったら、簡単だっただろう。

 知識としてエウリディーチェから聞いているから知っているし、感情を身に宿知りて理解する。

 

「優しすぎて、真面目過ぎだったんだなお前たちは。変わりゆく世界に対して目を背けられる矛盾を抱えて、それを受け止めきれなかった。人と神が交わる世界に自らの居場所が無いと判断して、身を引いたわけか」

 

 微笑む。

 

「……どこかで聞いた話だ。私よりも、よっぽど慎ましいが」

 

 強さに序列をつけて控えていた自分よりよほど真面目だ。

 結局肉欲大爆発してしまったし。

 まぁアレはウィルが反則だったので仕方ない。

 仕方ない。

 だから。

 

「なぁ、おい」

 

 目前の想念たちに声を掛ける。

 それは断片といえど、三鬼子そのもの。

 彼らに手を伸ばす。

 

「―――私と行こう」

 

『―――――?』

 

 炎が揺らめいた。

 首を傾げる様にも見えて笑みが深まる。

 

「世界は変わった。確かに神の時代は終わり、人の世だ。だからこそ、お前たちがあれこれ悩む必要はきっとないぞ? むしろ、見届けると良い。かつて、お前たちの同胞の、創造主たちの選択がどのような結果を生んだのか」

 

『――――何故、お前に?』

 

「私も、半端者だからだ」

 

 即答した。

 

「私は人間と鬼の混血で、皇国と聖国の混血だ。それでもまぁ、皇国の皇位継承権第一位を勝ち取って、この王国に来た」

 

 だけど。

 

「どうにも愛を知ってな」

 

 苦笑して、

 

「色ボケ……というか肉欲ボケして、どうにも私は熱を失っていたらしい。私の従者にさっき教えてもらった。だけど、だけどな」

 

 聞いて欲しいんだ。

 

「そんな私を夢と言ってくれる少女と出会ったんだ。私が自分の理想だと。私の様になりたいと。なぁ、おい、どう思う?」

 

『――――どちらが、本当のお前なの?』

 

「どっちもだ。或いはどっちでもない」

 

 もう一度、即答する。

 

「本当の私なんて、無いんだよ。正しいあり方なんて私には無いんだ。半端者で、混ざり者で、感情に振り回されて、そのくせ理性でふるまって」

 

 良いも悪いも無いのだ。

 いばらが熱を失ったという自分も。

 マクリアが夢だと言ってくれた自分も。

 ウィルを愛している自分も。

 アルマを揶揄う自分も。

 トリウィアと色ボケている自分も。

 フォンの姉である自分も。

 変化したしてない、なんて悩むのがそもそも違うのだ。

 だって。

 

「あらゆる全てが、私なんだ」

 

 そして。

 

「それはお前たちも同じさ、三鬼子。人を憎んでいるのも、人を愛しているのもお前たちなんだ。だったら矛盾を抱えて行こう。私と一緒に」

 

 手を伸ばしたまま、一歩踏み出す。

 炎が揺れる。

 構わなかった。

 

「行こう」

 

 三つの炎に。

 

「一緒に」

 

 その果てに、何があるのかは分からないけれど。

 それでも一つ確かなことがある。

 

「―――――きっと、楽しいぞ?」

 

 

 

 

 

 

「――――!」

 

 クリスティーンは見た。

 甘楽は見た。

 いばらは見た。

 マクリアも見た。

 御影の体から、吹き上がる様に炎が溢れ出すのを。

 けれどそれは、もう黒ではない。

 鮮やかな赤。

 燃えるような橙を含む真紅の炎。

 火の粉は瞬く間に広がり、

 

「おぉ……! おぉ……! エレガントオブエレガント……! EVが……計測不能……!」

 

 同時、クリスティーンの究極魔法による結界が限界を迎えた『貴風館』に舞う。

 

「―――綺麗」

 

 夢見る少女が息を漏らした。

 

『オォォォォォ……!』

 

 三鬼子が警戒するように、恐怖するように唸りを上げた。

 舞い散る火の粉は花吹雪のようであり、三鬼子が広げていた汚染を焼き払う。

 

「――――はっ、全く簡単な話だったんだ」

 

 その中で。

 あらゆる全ての中心に、炎を纏う御影は笑う。

 

「全てが私だ。悉くが私だ。良いも悪いも無い。正しいも間違いもない」

 

 フォンが、己の存在を定める為に正しい名を世界に告げたのとは違う。

 トリウィアが、他の世界から欠落を埋め、それまでの己を超越するのとも違う。

 或いはアルマやウィルのように、その万能を以て世界を為すのではない。

 己がやることはずっと同じだ。

 悩む必要はない。

 そんな時間すらもったいない。

 あらゆるものが己だと思うのなら。

 

「それを自らを以て世界へと証明する―――これが、天津院御影だとな!」

 

 吹き上がる炎が、御影の背後に形を得た。

 獣だ。

 狗、狐、蛇。

 本体の断片であるが故に精々三十センチ程度の大きさ。

 大きな力を持たず顕現すら曖昧でデフォルメされた二頭身のような彼らに対して、

 

「誓おう!」

 

 琥珀が輝き、声が轟く。

 

「あらゆる矛盾を、あらゆる半端を抱えて!」

 

 それは熱だ。

 それは夢だ。

 それは己だ。

 

「――――私は私であり続ける!」

 

 片角が炎を宿す。

 それこそが天津院御影の証明。

 

『――――!』

 

 三頭が吠え、宙を駆ける。

 御影を中心に軌跡を描いて巡り、

 

『≪祈りて舞い、誓いて夢に―――我示さん!≫』

 

 紅蓮が吹き荒れた。

 

『しゃしゃー!』

 

 まず蛇が、背後にあった大戦斧と合一し、片刃だったそれに刃を追加した。

 左右対称となり、さらに同じものが柄の反対側にも展開。

 都合、巨大刃四つを持つ両刃斧となる。

 

『こーん!』

 

 狐は、御影を包むように衣となって自ら纏われた。

 袷に重なる羽織のように。炎の意匠を残しながら朱と橙を彩る。

 腰に巻き付いた炎は巻き布となり、右が長く、左が短い左右非対称。

 足先はハイヒール、首元の狐毛のファーはどこか王国風の王皇折衷スタイル。

 広がる炎が連続して衣装となり、変身を完了。

 狗は最後だった。

 頭上に跳ねた狗は形を失い、すぐに新しい形を得た。

 

「―――ふっ」

 

「あっ―――」

 

 一瞬、マクリアに視線を送り。

 手にしたのはティアラだ。

 自ら手に取り、角に嵌める様に頂く。

 狗耳を模した姫冠はぴたりと収まり、

 

『わふっ!』

 

 銀の髪が炎を宿した。

 髪を炎の赤としつつ、毛先は元の銀を残して広がる。

 輝くティアラと燃えるドレスは、まさしく少女が夢見たプリンセスのように。

 

「――――」

 

 カツンと、高らかな靴音が響いた。

 腕を振れば長く広い袖が翻り、右の腰布が棚引く。

 琥珀の両目が爛々と輝いている。

 伸ばした手へと、両刃斧が当然のように自ら浮遊して握られに行った。

 振った。

 豪と、熱が舞う。

 

「ハッ!」

 

 変身を完了した御影は息を吐いた。

 物理的な高温を発する熱を以て、己の名を証明として告げる。

 

『――――――≪征花繚乱・朱天ノ焔≫』

 

 世界が圧倒される。

 あらゆる矛盾を受け止め、それでも尚己であろうとする女を。

 神の力を宿す混血を、きっと誰もが目を背けられない。

 

「三鬼子よ」

 

『オォォ……!」

 

 低く慄く獣に対して。

 自らに宿ったものと同じように、御影は手を伸ばした。

 笑みと共に五指を開いて差し出した。

 

「お前が抱えた絶望も、私が解き放ってやる」

 

 強く。

 優しく。

 美しく。

 真紅に燃え、神を纏う半人半鬼のプリンセス。

 

「さぁ――――覚悟は良いか?」

 

 




御影
プリンセスエンゲージ!
呪いは受け入れば祝いに。
御覚悟は、よろしくて?

これで全員強化形態持ちってわけですね


三鬼子(デフォルメ)
妖精ポジション



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天津院御影――夢に燃える――

 

 

「エーレーガーンートォォォオオオオオオオ――――!!!!!」

 

 クリスティーンだ。

 甘楽は隣の美女がどこから声を出したのかと言うほどの大声量の叫びを聞いた。

 彼女は両拳を天に突きあげ、ついでにモノクルを爆砕させ、

 

「―――――」

 

 ぶっ倒れた。

 顔面から地面に突っ込んだのでかなり痛みを伴いそうだが、

 

「……あら、良い笑顔」

 

「ほんとなんなんでござるかこの人は!?」

 

 仰向けにしてみれば仕事をやり切ったような澄み渡る笑顔で気絶している。

 エレガントがどうこうはよく分らないが、無理もない。

 

「流石に三鬼子を止めておくのに消耗したのでしょう」

 

 究極魔法を用いたとはいえ。

 三鬼子の断片であろうとはいえ。

 相手は神に連なるものだ。

 それを数分間完全拘束していたのだから成果としては破格だし、疲弊も尋常ではないだろう。

 

「今は休んでください」

 

 くすりと笑う。

 

「後は、私の妹がやってくれるでしょう」

 

「―――――はっ! エレガントモーニングございます! この世紀のエレガントを見逃すわけにはいきませんわ!!!」

 

 この人自由すぎないだろうか。

 

 

 

 

 

 

「そうだ……従妹だけじゃなくて俺も一緒にダンジョン攻略者になって最強無敵完全無欠になればいいだけじゃないか……!」

 

「どう生きるかなんて決まってた……! まずは嫁に許してもらうまでゲザをかまさないと……!」

 

「あはははは!! ぼっちでもダンスができるって僕が証明すればいいんだ!!」

 

「結婚相手がいないなら見繕えばいいだけじゃない!? この前隣の家の女の子が大人になったら……とか言ってくれてたし……!」

 

 絶望が払われ、夢に満ちた声が上がっていく。

 舞う火の粉は花びらのようだった。

 それまで周囲一帯を支配していた三鬼子の汚染を禊ぎ焼くかのように。

 ふりまかれた絶望を、鬼姫の夢が照らし浄化する。

 炎のドレスを纏う御影がその中心だ。

 正面から三鬼子を対峙する彼女は不敵な笑みを浮かべ、

 

「―――ごついなおい」

 

 指運にて両刃斧を回した。

 元々の大戦斧に、そのまま刃が三つ増えている。

 両端に二枚ずつ故にバランスはいいとしても、

 

「存外軽い。お前たちのおかげか?」

 

 自分の身に宿った三体の神精に語り掛ける。

 不思議な感覚だった。

 全身に力が漲ってる。

 活力が心に溢れている。

 出来ないことは何もないんじゃないか、そんな不遜なことを思ってしまうくらいだ。

 

「ふぅ」

 

 息を吐いた。

 それは熱を持ち、

 

「行くか」

 

 行った。

 

「―――――あれ?」

 

 前進は三鬼子を通過し、校舎へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 周りに微妙な空気が漂う。

 甘楽も、いばらも、クリスティーンも、マクリアも、立ち直ったばかりの騎士たちも。

 

『―――――?』

 

 三鬼子でさえ、振り返って首を傾げた。

 

「あら?」

 

「おや、どうされましたか甘楽様」

 

 その中でふと目を空を見上げた甘楽は一歩横にずれたら、いばらの目の前に両刃斧が降って来て地面に突き刺さる。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!?」

 

『しゃ、しゃー』

 

「あらかわいい」

 

 半透明の蛇の妖精が焦ったように頭を下げているあたり、本人も困っているのだろう。

 

「おーい!」

 

 声は大穴を空いた校舎から。

 瓦礫を払いつつ頭を掻く御影は手刀を立てて、

 

「すまーん! いばら、ちょっと手と足が滑った」

 

「軽く死にかけたでござるよ!?」

 

「いやマジですまん。なんか、上手く行かんな」

 

 はははと笑った御影は三鬼子に視線をずらし、

 

「そっちもすまん。ちょっとやり直していいか?」

 

 拒否と言わんばかりに攻撃がぶち込まれた。

 

 

 

 

 

 

「――――――お、おぉ?」

 

 三鬼子の攻撃は三つ尾だった。

 高速で伸縮し、そのまま三つ槍となって御影のいた場所に突き刺さった。

 対し自分は跳躍で回避を行おうとした。

 軽い判断だが、動きとしては力の入ったものだった。

 それくらいに三鬼子の攻撃は鋭かったし、新たな姿と力を得たからと言って慢心できるはずもない。

 相手は神の断片なのだから。

 だから、強く大地を蹴り、

 

「どんだけ跳んだんだ、私は」

 

 空だ。

 空の中にいる。

 風が全身を包み、ドレスがはためく。

 眼下、戦場となった王都の街が広がっており、おそらく一息に三十メートルほど跳躍したのだろう。

 

「――――」

 

 流石に気づく。

 先ほどの無様な突進の原因。

 さらには巨大な両刃斧が軽いと思ったことが勘違いだったと。

 自分の膂力が、それまでと段違いに跳ね上がっているのだ。

 身体強化の魔法を全力で回すよりも遥かに強力な強化。

 それが息を吸う様に、当然のように使えている。

 

「――――はっ。これがお前たちの力か?」

 

『わふー!』

 

『こーん!』

 

 両肩に狐と狗の妖精が降り立ち、声を上げる。

 良く見れば結構可愛い。

 もう一体を地上に置いてきてしまったのは申し訳ない気もする。

 

『しゃー!』

 

 言った瞬間、眼下から両刃斧が飛来して手の内に収まった。

 

「……至れり尽くせりか?」

 

 目を伏せながら苦笑。

 開いて、

 

「―――」

 

 街を見下ろす。

 戦火が広がっている街を。

 戦っている者がいる。

 守っている者がいる。

 戦いきった誰かがいる。

 守れなかった誰かもいる。

 民だ。

 国は違えど、御影が背負うべき人たち。

 

「――――なら、やることは決まっている」

 

 強く。

 優しく。

 美しく。

 

「行くか」

 

 今度こそ。

 

 

 

 

 

 

 御影は自らの力を違えなかった。

 足先から溢れた炎はドレスの布と一体化し、宙に爆ぜた。

 天空の真紅の花を咲かせて向かう先は、当然地上の三鬼子だった。

 

『オオオオオオオ―――!』

 

 迎え撃つ慟哭。

 即ちそれは、一度は御影に痛撃を与えた振動咆哮だ。

 指向性を持ち、振れたものの肉体を心を砕く声。

 斜め上、爆裂加速で迫る御影に対して放たれたそれに、

 

「お―――おおッッ!」

 

 大上段から両刃斧を振る。

 刃に灼熱を宿し、大気を焦がしながら、何一つ滞ることはい。

 威力が線となって通った。

 咆哮を縦に割ったのだ。

 

『―――!』

 

「―――!」

 

 どちらともなく声にならない音を口から漏らした。

 三鬼子のそれは驚愕であり、御影のそれは次の動きの為のものだった。

 中空で大質量を振るったことにより、彼女の体もそれに振り回される。

 今の膂力ならそれを抑え込むことも可能だ。

 抑え込まなかった。

 

「踊ろうか、三鬼子」

 

 大斬撃の勢いを殺さず、そのまま体を縦に回転。

 姿勢と勢いを制御し、前宙しながら距離を詰める。

 まだ両刃斧の間合いではない。

 それでもそのまま握った大物を横に薙ぎ払った。

 

『ゴアアアアア!』

 

 灼熱の斬撃波が三つ頭に悲鳴を上げさせ、止まらない。

 回転運動だ。

 爆裂による加速と大質量の武器によって生じる慣性。

 膂力によって制御するのではなく、それらを先行させて力を上乗せする。

 勢いによって前に出つつ、炎によって刀身を包み斬撃を振るえば、

 

「咲け……!」

 

 燃える大輪を咲き誇らせる。

 

『ア――――!?』

 

 駆け抜け様に放った炎熱斬撃は確かに三鬼子の体を焼き斬った。

 裂いた体表から零れたのは血では無く、魔族の瘴気のそれだ。

 おそらく、三鬼子の魂、その断片とでも呼ぶべきものを瘴気で肉付けしているのだろう。

 

「ま、だからどうって話だがな、とっ」

 

 勢いに靴先が地面を削りながら滑り、両刃斧を構え直す。

 絵面がちょっと変わるくらいか、なんて考えつつ軽く頭を振った。

 両刃斧を中心とした体重移動は威力は出るが、少し目が回る。

 使いどころを考えなければと思っていれば、

 

『―――――ナゼダ』

 

「お?」

 

 声が耳に届いた。

 狗、狐、蛇。

 三つの口から零れた声は、その通り三つ重なって、

 

『イトシイ、ニクラシイ…………クルオシイ』

 

 呪詛が空気に滲む。

 それまでのようにまき散らされたものではなく、御影に直接向けられたもの。

 

『オマエハ、チガウノカ。オマエガ、マジリモノ、ダカラカ――――?』

 

「はっ、そう言われてもな。そのあたりはお前たちの分身? ともうやったんだが」

 

『わん!』

 

『こーん!」

 

『しゃー!』

 

『―――――ナゼ』

 

「お前たち、可愛すぎて気が抜けるぞ?」

 

 苦笑し、

 

「いいだろう、三鬼子。そっちの方は言葉じゃ理解し合えなさそうだ」

 

 その笑みにさらに悦を乗せた。

 口端が凄惨に歪み、

 

「お前たちも鬼だ―――戦いで解り合おうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクリアは御影と三つ首の怪物の戦いを見ていた。

 もっとも、彼女自身はまだ戦闘訓練も受けておらず、憧れの人が何をしているのかを理解できるわけではない。

 理解できるのは、怪物がその巨体さを感じさせない速度の動きでで御影を襲っていること。

 そして、

 

「――――プリンセスが、踊ってる」

 

 少女の目には、そう見えた。

 残像すら残して駆けまわる怪物の動きの中心に御影はいる。

 両刃斧を振り、されど大きく動かず、踊る様に。

 

「迎撃、カウンターに徹しているようですね」

 

 隣に立つ甘楽が解説をくれた。

 自分と違い、彼女は全て目で追っているのだろう。

 

「あの子の新しい『息吹』……あの斧、クの字が四つ付いてるのはちょっとやりすぎかと思いますけど」

 

「かっこいいですね!」

 

 何故か目を細められた。

 

「……まぁいいでしょう。刃は大きいですが、クの字の分持ち手は長いですからね上手いこと自分が軸になって指運で回しているようです。いくら鬼種でもあの三鬼子のような大型の魔獣に対して、あの大きさの武器を使うのは大変でしょうけど今の御影なら問題ないようで」

 

「えぇと……つまりプリンセスは凄いってことですか!?」

 

「はい、そういうことです」

 

「なるほど!」

 

 分かりやすい。

 御影も素敵な人だけれど、その姉も良い人だ。

 

「!!」

 

 豪と、また強烈な音がマクリアを打撃する。

 思わず身を竦めるが、

 

「目を逸らさないのですね、貴女は」

 

 ころころと甘楽は目を細めて笑う。

 

「あの戦いは、この世界においても最大規模のものです。正直、私が混ざっても足手まといになりそうですし。三鬼子も御影にご執心のようなので今すぐ危険、ということはないですし、何かあれば私も守りますけど」

 

 それでも、

 

「怖いでしょう?」

 

「怖いです!」

 

 だけど。

 

「プリンセスは良い所を見せてくれるって言いました!」

 

 そうしたら、彼女はそれまで以上の彼女自身を見せてくれた。

 だったら。

 

「私は見届けたいです! プリンセスの戦いを!」

 

「そうですか」

 

 ころりと甘楽は口端を歪めた。

 

「エーレガァーンスゥ……!」

 

 背後で美女が低く唸っていたがそれはよく分らないので気にしないことに。

 

「いいですね、貴女」

 

「わっ」

 

 くしゃりと、自分の頭に手が乗る。

 甘楽が撫でる手は優しく滑り、

 

「見届けましょう、一緒に」

 

 

 

 

 

 

 見届けなければならないと、御影は己を奮い立たせた。

 

『ナゼ―――?』

 

 この三鬼子の慟哭と悲嘆を。

 同時、巨体を活かした高速の突進も受け止めなければならない。

 獣の体、三つの頭と三つの尾。

 それらはどれも立派な武器だ。

 四肢の打撃、口による噛みつき、尾は槍衾。胴体でぶつかってくるだけで十分な破壊を生む。

 対し、御影は両刃斧の長い柄を活かし、それ自体を回転させることで三鬼子の攻撃を受け流す。

 

「ハッ―――」

 

 言葉で言うのは簡単だが、難易度は高い。

 高速で迫る巨体というのはそれ自体が脅威だ。

 まず突進があり、そこから四肢、口、尾の攻撃に分岐するためにそれに合わせた対処が必要になる。

 難しい。

 難しいが、

 

「お前の葛藤は、もっと難しいものだったんだろう……!」

 

 出来ないことではない。

 今の自分ならできる。

 

「ハハ――!」

 

 笑うような案件でもない気がするが、しかし鬼種の本能として声が上がるのは抑えきれない。

 闘争に、酔うのだ。

 受け流すというより、より正確に言うなら弾いて威力を逸らすというべきだろうか。

 当てた瞬間、重低音と共に両手に衝撃が走る。

 

『オマエハ―――!』

 

 そう認識した瞬間には、三鬼子は既に駆け抜け、踵を返している。

 次だ。

 鬼獣が駆け。

 鬼姫が弾く。

 巡る鬼獣が描く起動は、鬼姫を中心とした天体図のように。

 

「簡単なことだ!」

 

 汗を流し、衝撃の余波で浅く全身を裂かれながら御影は叫んだ。

 

「それが私だから!」

 

『――――!』

 

 対し、何を感じたのか鬼獣が跳ねた。

 抱きしめるような前足の動きは、しかし両足による押し潰しだ。

 全体重を乗せたような飛びかかり。

 対し、

 

「ハハハハハハ!」

 

 御影は避けず、両刃斧を掲げて迎え撃つ。

 世界が、激震した。

 

「ぬっ……ぐぬぬぬぬ……!」

 

 大地に亀裂が入り、力んだ全身に血管が隆起する。

 大質量による大衝撃。

 

『イトシクテモ、ニクラシイ! ソレヲナゼ!』

 

「っ―――」

 

 何故と。

 数千年分の問いが、超重量となって御影にのしかかる。

 自分が和解し、力になってくれた三鬼子とは怨念の質量と密度が違うのだろう。

 同じ問いなれど、怨念としての純粋な圧力が違う。

 

「だった、ら……やはり鬼らしく、物理か……!」

 

 全身が軋みを上げる。

 掲げた両腕、握った両刃斧、ちょっとはしたなく広げた両足。

 

「っ―――――」

 

 一瞬、息を吸いながら体を沈め、

 

「だっ――――――あぁあああああああああああ!」

 

 跳ね上げた。

 

『――――!?』

 

 巨大な獣がひっくり返る。

 即座に追った。

 

『マザリモノガ!』

 

 だが、三尾が瞬発した。

 速く、鋭く。

 槍となって御影を止めようとする。

 対し叫ぶのは、

 

「玉藻! 力を貸せ!」

 

『こーん!』

 

 名を与えられた鬼狐が一瞬実体化。

 すぐに消えるが代わりに、

 

「舞い燃えろ九尾……!」

 

 腰裏から炎の尾が九本。 

 乱れ舞い、三本ずつが鬼獣の尾を弾き、

 

「吠えろ、拒魔(コマ)!」

 

『わふっ!』

 

 一瞬浮かんだ狗鬼は姿を消した後、御影の髪に影響を与えた。

 髪が揺らぎ、犬耳のような形を取ったのだ。

 跳躍中、未だ宙に体を置く御影は豊満な胸を逸らし、

 

「雄ォォォオオ――――――!」

 

 吠えた。

 声であり、それは同時に衝撃であり、熱だった。

 三鬼子が使っていた振動咆哮と同種のもの。

 鬼獣のそれは精神汚染を伴っていたが、御影の場合は純粋な高熱だ。

 熱波咆哮が、獣を撃ち焼く。

 

『―――――ッ』

 

 流石に直撃は堪えたのだろう。

 初めて三鬼子が体勢を立て直す為に体を横に回し、背後へ跳ぶ。

 御影は咆哮の反動によりすぐには追えなかった。

 だから呼ぶ。

 

「―――夜刀!」

 

『しゃー!』

 

 両刃斧の柄に巻き付くように、蛇鬼が浮かび消える。

 それをその場で振りかぶり、

 

「ふん……!」

 

 投擲した。

 黒の影を残しながら高速で空を駆ける獲物に対し、三鬼子は回避するが、

 

「食らいつけ、夜刀!」

 

『!!』

 

 両刃斧に宿った夜刀が御影の意思に応え、追尾。

 うねる様な軌道を描きながら三鬼子を追いかけ自らを叩き込んだ。

 

『しゃー!』

 

『キサマモワレラトイウノニ……!』

 

 当たりは浅い。

 三鬼子は自ら零れた瘴気も構わず、三尾を夜刀へと瞬発させ、

 

「させるか……!」

 

 両刃斧が消える。

 柄から伸びていた帯を御影が全力で引いたのだ。

 元から通常の大戦斧時から鎖鎌感覚で用いられていた黒帯。

 伸縮自在のそれは元々皇国で討伐された蛇の魔物から作られたものであり、夜刀とも親和性が高い。だからこそ夜刀も『伊吹』に宿ったのだろう。

 引き戻し、握りこみ、

 

「はっ! 流石は、神の力だな……!」

 

 賞賛と共に自らも前に出る。

 対する三鬼子も体勢を立て直し、それまでのように全体を駆使し襲い掛かる。

 今度は御影も舞いによる迎撃ではなく、両刃斧の重量移動を活かした炎の大輪を咲かせ自ら攻めに行った。

 激突音と燃焼音が連続し、互いに高速で位置を入れ替えながら、

 

『ナゼダ、ドウシテ――――!』

 

 同じ問いを三鬼子が叫ぶ

 だが、同じことをと、とは思わなかった。

 だって、その問いは。

 

「これから先、ずっと私が受けるであろうものだ……!」

 

 天津皇国の皇族において、異種の血を持った混ざり物の王として。

 そして、これから人種の子を孕み、鬼の血を薄める女王として、だ。

 

 

 

⚫︎

 

 

 

 

 皇国の歴史でも、異種が皇族の家系図に記されることはある。

 だがそれは立場的には側室であり、長い歴史の間、王はずっと純血だった。

 御影は違う。

 このあたり大戦によって世界のあり方は変わり、父はその出兵のついでに母を連れて帰ったのだから時代の流れとでも言うべきものかもしれない。

 それでも事実として、御影は皇国始まって以来の混血の女王となり、さらには婿としてウィル・ストレイトという人種と結ばれるのだ。

 鬼と人の子である御影が二分の一。

 半鬼と人種である御影の子の、鬼の血は四分の一。

 血が、薄れていく。

 悪いとは思わない。

 そもそもその是非は後の歴史家が判断すればいいだけだ。

 ただ生まれる前に両親の選択があり、自分の選択があり、ウィルとの選択があり、それらすべての結果だ。

 

「あぁ、そういうことだ……!」

 

 御影は笑みを浮かべながら両刃斧を回し、

 

「聞け、三鬼子……!」

 

 威力に言葉を乗せて行く。

 

「詳しく語ってやる……!」

 

 いいか、

 

「―――――ウィルはな、普段は大人しいくせにたまに急にとんでもないことを言うんだ!」

 

 

 

 

 

 

 鬼の姫が、荒ぶる神に想いと力を奉納していく。

 

「だがな、そこがいい! 支え甲斐があるし、我がままを通してほしいと思う!」

 

 全身を振り、

 

「アルマ殿は、私以外には母性とか年長者的な雰囲気を出すのに私にはたまに変な意地を張ってくるから寂しい! だがそれが良い! 私にだけ見せてくれる可愛らしさだ!」

 

 炎を滾らせ、

 

「先輩殿は、日常生活がちょっとずぼらすぎる! 今後一緒に生活をすると思うと心配事が多い! だがそれが良い! 独自路線で生きてるからなあの人は!」

 

 舞いを巡らせ、

 

「フォンはたまにやたら辛辣だ! 呪いの一件は一先ず黙ってくれてたが、今後がちょっと怖い! だがそれが良い! されたらちょっと興奮するかもしれん!」

 

 大輪を咲かせ、

 

「分かるか!?」

 

 想いを力に乗せて叩きつける。

 

「愛しさも憎らしさも紙一重だ! 別けなくていいんだ! 好きな相手の嫌いな所も言えないなんてどうかしてる! 私はウィルのダメなところは沢山言えるし、好きな所はそれ以上に言えるぞ! アルマ殿や先輩殿やフォンにもな!」

 

 獣の攻めと激突するたびに肌が裂け、衝撃が体を撃つ。

 構わない。

 この相手には、言葉だけじゃダメなのだ。

 力だ。

 鬼という種が信仰するもの。

 己の生命、その全てをぶつけ合う相互理解。

 

「感情なんて纏らなくていい!」

 

 熱を宿した咆哮が放たれ、

 

「理性で抑えきれなくていい!」

 

 九尾が攻防一体を体現し、

 

「何もかもは一つなんだからな!」

 

 両刃の斧が蛇のように駆ける。

 

『ワレラハオニヲ、ヒトヲ!』

 

 獣もまた、吠え、暴れ、力を叩きつける。

 

『アイシテイタ! ニクンデイタ! ソレデモイイトイウノカ!』

 

 その力は無尽蔵のようであり、それだけ多くの苦しみがあったのだ。

 だからこそ、姫もまたありとあらゆる全てを重ねて行く。

 

「あぁ、何も問題は無い!」

 

 激突。

 舞い、咲いて、駆けて、暴れて。

 力を以て何度でも語り合う。

 数千年の葛藤が張れるまで。

 

「何度でも問え! 何度でも叫べ! 何度だって暴れろ……!」

 

 笑う。

 楽しい。

 これで楽しめるのは人としてどうかと思うが、鬼種としては全うなので良いだろう。

 思えば学園に来てからこういう戦いは全然していなかった。いばらにも変わったと言われるわけだ。もう一度反省。全部終わったらウィルたちとも思いっきり戦ってみたいし、それが終わったら肉欲大爆発させてもいい。これはいつも通りか。

 あぁと、口端が吊り上がる。

 歓喜と充実が、全身を巡り、

 

「それがこれまでのお前たちだというのなら、その証明を何度だって私は受けよう……!」

 

 そして、

 

「私を知って、これからを積み上げろ……!」

 

 その全てを解き放った。

 

『―――――!』

 

 炎が巡る。

 

『わん!』

 

『こーん!』

 

『しゃー!』

 

 拒魔、玉藻、夜刀もまた御影の意気に応える様に吠え、

 

『≪征花絢爛・夢天ノ焔≫――――!』

 

 狗耳が盛り、九尾の衣がはためき、蛇の斧が灼熱を迸らせた。

 宿った三鬼子の断片、それらの同時展開に最終形態変化。

 火の粉が花の様に舞い、

 

『―――――』

 

 獣は、それに目を奪われた。

 人と神の力が溶け合った炎。

 それはかつて、三鬼子が愛したものに他ならなかったから。

 無くなったと、彼らは思った。

 神は消え、人と鬼だけになった。

 だから苦しんだ。

 だから憎んだ。

 そして今、愛し憎んだものが自らを受け入れようとしてくれている。

 

『アァ……ソレハ、マルデ―――』

 

「――――夢のよう、か?」

 

 鬼の姫は微笑んだ。

 

「あぁそうだ。夢を見るだけがお姫様じゃない―――――自らを以て、誰かに夢を示すものだ!」

 

 火が、炎が、真紅が、火の粉が、何もかもが溢れ出す。

 何もかもは握った両刃の戦斧集った。

 振りかぶり、

 

「≪神髄≫―――――」

 

 絶望を解き放つ夢を、神に捧げる。

 

『≪天津叢雲≫―――――≪禊祓≫ッッ!!』

 

 古来、炎とは不浄を浄化するもの。

 闇を照らし、営みを照らす。

 故にそれは、超高熱による灼熱の奔流であり、同時にあらゆる穢れを焼き祓う禊ぎだった。

 光が、駆け抜けた。

 両刃斧を振ったのは二度、十字の大斬撃。

 浄化の炎閃が、鬼の獣を飲み込み、

 

『ソレガ、オマエカ――――』

 

 理解と納得のつぶやきを漏らし、三鬼子が光となって弾けた。

 三つの光は空に昇っていく。

 それがどうなるか、御影には分からない。

 皇国の聖域に帰るのか、空に溶けるのか。

 分からないけれど、彼らが解き放たれたのは確かだった。

 だからドレスの裾をつまみ、膝を少し沈める。

 顎を引き、片角を晒して別れの言葉を告げた。

 

「――――――ごきげんよう」

 

 

 




御影
モードエレガント完備
やりすぎたかもしれない
無敵のプリンセス


自作『簡単なことだよ、愛しい人』が電撃大賞の最終選考に残りました。
ちょっと更新頻度が不安定になるかもしれないので申し訳ない。
しかし上手く行けば天才ちゃんの書籍化に一歩近づいたかも……?


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アレス・オリンフォス――Boy seek girl――

 

 時は少し遡る。

 王都各地で戦いが始まった頃。

 アレス・オリンフォスは一人生徒会室にいた。

 ウィルたちが王城に出向していた為に、入学試験に関する作業をできる範囲で行っていたのだ。

 と言っても、まだ生徒会に加入したばかりで雑用の身としてはそれほどできることもない。

 書類の点検等で不備があれば、ウィルに小言を言ってやろうとも思ったが流石というべきかそのあたりは一切不備が無くて唸らざるを得なかった。

 結局、やることは早々に終わり彼らの帰りを待って紅茶を淹れていた時だった。

 

 王都の街を魔族と神の眷属たちが襲撃を開始したのだ。

 

 その瞬間、街の人々の多くは激震によって何かの始まりを感じていた。

 外周部の一部にいたものは襲って来るサンドワーム、三鬼子、龍たちに慄き、それ以外の場所でも各地から滲む出る魔族に驚き、戦い、逃げることによって混乱が始まった。

 だが、アレスは違った。

 声だ。

 

「―――待たせたのぅ」

 

 唐突に、その主は生徒会室に現れた。

 顔をベールで隠した喪服姿の女。

 彼女は何の前触れもなく、生徒会室にいたのだ。

 

「母、さん」

 

 カチャリと両手から音が鳴った。

 いつも通りに淹れた紅茶。

 習慣になってしまって、つい癖で8人分も淹れてしまってどうしようかと思っていた分の一杯目。

 

「ふむ。相変わらずいい香りじゃのぅ。ゆっくりと味わいたい所だが、今日はそうも行くまいか」

 

 フェイスベールの奥、笑みの気配。

 表情は見えないが、それでも彼女の視線が真っすぐに己に向けられていることが分かる。

 

「≪龍の都≫、あの時の話の続きをするとしようかのぉ」

 

 

 

 

 

 

 つい二か月ほど前のことだ。

 ≪龍の都≫での一連の事件の最中でも彼女はアレスの前に前触れなく現れていた。

 その際、躱した言葉は少ない。

 話したというよりも一方的に告げられたというべきだろう。

 

「今一度、お主をヴィーテフロアが共に在れるようにしてやろうと、妾は言ったのぅ」

 

 そうだ。

 彼女はそう言った。

 ただそれだけのことは、

 

「―――」

 

 アレスの心の奥に響く。

 脳裏に、幼い頃の花園の記憶が過る。

 だが、

 

「……今、起きていることと母さんは関係あるんですか? 貴女が、ここにいるはずがないでしょう」

 

 外の騒ぎは、意識にとっては遠い世界ことのようで耳には届いている。

 そしてアレスの義母は本来ここにいるはずがないのにここにいた。

 なぜなら、

 

「貴女は――――ロムレス共和国首相、ルキア・オクタヴィアスです」

 

「そうじゃのぅ」

 

 指摘にヘラ――或いはルキア・オクタヴィアスは鷹揚に頷いた。

 

 

「王城で会議のはずでしょう?」

 

「それは欠席した。代わりにヴィーテフロアに行ってもらったし、この騒ぎも妾が主導だからの。共和国として、他国に宣戦布告を行っている頃じゃろう」

 

「―――」

 

 言葉が、続かない。

 意識して整えなければ呼吸が乱れ、手が震える。

 

「……何故、そんなことを」

 

「くふっ。それが重要かのぅ」

 

 言うまでもない。

 窓の外、遠くでは粉塵が舞い、破壊が生まれている。

 かつての大戦において、この王都は人類にとっての最終防衛ラインであり、しかしそうとは使われなかった場所だ。

 その王都が、攻撃を受けている。

 問題しかない。

 なのに。

 

「妾がお主の大願を叶えるための一手にすぎん。なら、何も問題はなかろ」

 

「―――」

 

 ぞわりと。

 胸の奥、形容しがたい何かが首をもたげた。

 ルキアが言っていることは滅茶苦茶だ。

 道理が通っていない。

 アレス自身の願いの為に、王都におきる戦いを容認しろと言っているのだ。

 そんなの。

 

「―――はっ」

 

 息が漏れ、額から頬へと冷たい汗が伝うのを自覚する。

 そして。

 

「―――――その女から離れろ、少年!」

 

 生徒会室の壁が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 飛来したのは炎と雷属性による攻撃魔法。

 アレスにはそう見えた。

 見えたというだけで、奇妙なことに魔力は感じなかった。

 だが、壁を外からぶち抜いて来た閃光はルキアを飲み込み、

 

「無事か、少年」

 

 その穴から人型が現れた。

 奇妙な恰好だった。

 黒と青の色を持つ流線形の金属に全身を包んでいるが、しかし鎧というにはアレスの知るそれはとは違い過ぎた。

 パーツ同士の繋ぎ目は無く、比喩ではなく体に張り付いているかのような黒の外装。顔面には単眼の瞳と胸の中央の核らしきものは青く輝いている。

 そして右腕は大砲をそのままくっつけたような状態。

 全く見たことのない様式であり、アレスの知るどんな文化体系にも存在しないような技術で作られているであろうものだが、

 

「……マキナ、か?」

 

「肯定しよう」

 

 頷いた瞬間、顔の鎧部分が消える。

 露わになったのは見慣れたマキナの顔だが、普段より険しく、

 

「トリウィアが王城から帰って来たら卒業式ライブのリハをやる予定だったからそれの準備をしていてな。かと思えばこの騒ぎで、生徒会室に覚えるのある魔力波形を探知した。壁は壊したが、後で修繕しておく」

 

 口調もまた普段より硬い。

 姿も相まって、アレスの知るマキナではないような。

 

「当然じゃのう。この男、別の世界からの来訪者じゃ。妾たちの遥か未来の世界らしいのぅ」

 

「……驚かせてすまないな、少年。無事か?」

 

「―――」

 

「お主の父とも同じじゃな。あれもそうだった。別の視点を持つが故に、我等この世界に生きるものを俯瞰して見ておる。箱庭の人形を愛でる様にのぅ」

 

「先の女は≪龍の都≫でアルマを転移させ、ここしばらくウィルたちの敵になっている女の首魁と思われている」

 

「おぉおぉ、詳しいのぅ。その場にもいなかったのに。おまけに良いタイミングに現れる。―――まるで、お主を監視していたようじゃ」

 

「―――」

 

「少年」

 

 マキナが問うてくる。

 

「―――あの女、()()()()()()?」

 

「なに、を」

 

 思考がまとまらない。

 マキナはルキアの所在を聞いて来た。

 だが、彼女の声はずっと聞こえている。

 いや、それもおかしい。

 視界には確かにいない。

 気配もない。

 なのに。

 

「ほっほっほ。この男の感知能力も、万全ではないようだのぅ」

 

 彼女の声は、すぐ耳元が聞こえてきている。

 声だけが。

 直接、心に囁かれるかのように。

 

「なんなんだよ」

 

「……少年?」

 

「簡単なことじゃよ、アレス」

 

 囁き。

 響き。

 木霊する。

 怪しい声は、アレスの内側、一番深い所に滲んでいく。

 白い紙に、真っ黒なインクを落としたみたいに。

 

「アレは敵じゃ、我が子よ」

 

 そのインクは、心の中である式を描いた。

 元々アレスの為に作られたもの。

 その名を与えられた意味の結実となるもの。

 偽りの神々は誰も彼も、アレスが使うために進化を重ねられた。

 それが今、本来の使用者の魂に刻まれていく。

 だけど。

 大事なのはそれでは無かった。

 大事なのは言葉だ。

 それが全ての引き金になりうると、ヘラは知っていた。

 

「排除しなければ――――もうあの子には会えんぞ?」

 

 

 

 

 

 

「だったら、おれは君の――――君だけの、騎士になるよ。何があっても君だけのもので、君だけの意思に応えるよ」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 気づいた時、マキナは生徒会室から吹き飛ばされていた。

 雷撃だ。

 耐熱耐雷、さらには耐魔術加工までされているマキナのナノマテリアルパワードスーツ≪デウス・エクス・ヴィータ≫の装甲でも無視できないほどの強烈な威力。

 先ほど自分が開けた穴に飛ばされ、しかし大地へ激突。

 何度か跳ね、体勢を立て直し、

 

「っ……何を!」

 

「―――」

 

 自らを追って降り立ったアレスを見据える。

 俯いた少年の表情は、見えなかった。

 だが、腰に佩いていた直刀は手に握られ、スパークを纏っている。

 感じるのは、間違いなく敵意。

 刹那の間で思考が巡る。

 確かに自分はいつもの外見が大きく違う。

 ヘラを確認したために、急遽スーツを展開して乗り込んだのだ。

 この世界の基準から見れば千年単位は未来を先取りした兵装だ。混乱させても仕方ないだろう。ならば、ちゃんとした説明が必要だと思い、

 

「少年―――俺だ! 脳髄だ!」

 

「もういい」

 

 ばちりと弾ける火花は、明確な拒絶を示すものだった。

 

「アンタの戯言はうんざりだ」

 

「そんなことを言われてもな」

 

 だって。

 

「……今なら、いつもの冗談で流すぞ?」

 

「もういいって言った」

 

 言葉は凪いでいた。

 だがそれは嵐の前の静けさだ。

 マキナは感じていた。

 アルマから魂魄だけを確保され、ナノマシンの集合体となった身なれど。

 過去に、似た気配を得たことがある。

 機械たちとの戦争の終盤、たまにいたのだ。

 普段大人しい類の人間が極度に追い込まれて爆発することが。

 だけど。

 

「――――少年、何故だ?」

 

 分からない。

 こうなる人間は知っているが、アレスがそうだとは思わなかった。

 

「何があった? あの女に何を言われた。仮に脅されているとしても、ウィルやアルマがいれば――」

 

「それがうんざりなんだよ!」

 

 怒声が轟く。

 彼は頭を振り乱し、

 

「アンタも! スぺイシアさんも! あの人も! 他の連中も! どいつもこいつも馴れ馴れしく俺を何にでも巻き込んで! 我慢するのも限界だ!」

 

 直刀をマキナへと向ける。

 

「だから、もういい。だから、まずはアンタからだ。何もかも斬って捨てる」

 

「それがお前の望みか?」

 

「そうだ」

 

 ぎちりと、柄を握る手が軋む。

 真っすぐに、刺すような視線には怒りに染まり歪んでいた。

 言葉が届かないことを悟ってしまう。

 だけど、言わずにはいられなかった。

 

「それが……お前の意思か?」

 

 返事は無く。

 帰って来たのは稲光を伴う魔力の爆裂だった。

 空気が弾け、雷光が轟く。

 告げられたのは祝詞だった。

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)―――――』

 

 神への変貌。

 他の世界の力、他の時代の技術を身に宿す御業。

 科学に振り切ったマキナの世界とは違う、魔法と科学の融合。

 

『戦え――――≪一意戦神(マルス・ディスティニー)≫』

 

 宣告は天から落ちる赤雷と共に行われた。

 

「……!」

 

 発生した衝撃にマキナは数センチ背後に滑り、顔を腕で覆わざるを得ない。

 瞬間的にフェイスアーマーも再展開したが、全身の計測機能が一瞬ダウンするほど。

 感覚を取り戻し、認識したのは姿を変えたアレスだった。

 黒の鎧武者だ。

 全身を覆う重厚の科装装甲。

 四肢や胴に何本もの長方形のフレームを束ねて重ねたような漆黒の鎧。

 左手にはそれまでの直刀ではなく、身の丈もあるような機械作りの斬馬刀を手にしていた。さらに、腰部や肩には小型ながら砲門すらある重武装。

 あらゆる色の無い艶消しの黒(マッドブラック)

 

「―――望みなんて、たった一つだ」

 

 声は静かに。

 周囲に赤雷のスパークを纏い、頭部にに同色の相貌、全身にやはり同じ色のラインを巡らせたアレスは言う。

 

「ずっと、俺の願いは一つだ。そのためだけに生きていた」

 

 だからと、彼は斬馬刀をマキナへと突きつける。

 

「その願いが叶うなら―――俺は、何を切り捨てても構わない」

 

 

 

 

 




久々に短めでした

アレス
一番大事なもののためなら

ヘラ/ルキア
どうすればアレスが選択するかを知っている


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また、第三十回電撃大賞で「簡単なことだよ、愛しい人よ」が銀賞を受賞しました。
今後書籍化するので詳細は今後twitterか活動報告等にてお知らせしていきます


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マキナーー友としてーー

3477:マキナ

ウィルとアルマはいるか!?

 

3478:名無しの>1天推し

うおっ

 

3479:名無しの>1天推し

びっくりした、脳髄ニキか?

珍しいなその名前

 

3480:名無しの>1天推し

いないと思ってたんだけど、どうした?

 

3481:自動人形職人

>1なら今街の中で魔族と戦ったり住民の避難誘導したりしてます。

天才さんは未だ連絡が取れず

 

3482:名無しの>1天推し

状況が状況だけに>1、ここ見てないぽいんだよな

一瞬だけ天才ちゃんと連絡取れないか確認してたけど

 

3483:名無しの>1天推し

どうしたんだ?

 

3484:マキナ

ウィルが来たら学園に来いと伝えてくれ!

アレスが多分洗脳キメられてロボットアレスになって襲ってきている!!

 

3485:Everyone

何してんの!?!?!?!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 掲示板から意識を外した時、マキナは既に空を舞っていた。

 胸の量子プラズマコアから両手のひら、両足の裏の噴射機へ供給されるエネルギーを推進力とし、太ももの裏、背中のスラスターによって姿勢制御。

 

「何がどうなっている……!」

 

 ≪ディー・コンセンテス≫の技術を以て鎧を纏うアレス。

 ヘラに何かされたのか、元々秘めていたものを爆発させたのか、そのどちらもか。

 掲示板で洗脳とは言ってしまったが、先ほどの彼には確かに彼自身の意思があった。

 願いは一つだけと、彼は言った。

 ならば、それゆえか。

 一気に垂直に飛び上がりながら考え、

 

「むっ……!」

 

 高速で追ってくる黒鎧の姿を見た。

 即座に頭部のモノアイの視覚素子が重装の駆動を解析する。

 全身にフレームを並べた重装故に機動力は左程だろうが、単純な加速力は己を上回っている。

 足裏、太もも裏、腰、肩裏にそれぞれバーニアがあり、それらにより莫大な加速を生んでいるのだ。

 背面のほとんどから赤黒の雷を放出しながら、こちらに迫ってきている。

 

「ちっ……!」

 

 上昇から円へと軌道を変え、アレスを誘導する。

 何にしても、戦うとなると場所が良くない。

 現状、王都のあちこちで戦闘が発生しているが中央部分は比較的魔族の発生が少ない。特に広大な敷地を持つ学園は避難場所としては適しているし、実際既にそう使われていた。

 講堂や特別なギミックの無い闘技場などに多くの人が避難してくるだろう。

 そうなると戦場では適していない。

 それに、

 

「……あまり衆目を浴びたら困るぞ」

 

 異世界技術しかない自分にしても、アレスにしても。

 戦いの後を考えた場合、人眼には触れたくない。

 そうなるといっそ王都から出るか、或いは避難場所として使われなさそうな所に行くしかないが、

 

「っ!!」

 

 砲撃がスーツをかすめた。

 推進力にも使われている赤雷の閃光だった。

 マキナのナノマテリアルパワードスーツの装甲は単純な熱量だけでも1500度までなら完全断熱を可能とし、大気圏突入も単独でこなせるが、

 

「ちっ……!」

 

 速度を重ね、連続して放たれた砲撃を回避する。

 単なる熱量は機体限界に届いていない。だが、計測機器は回避推奨。

 現状を演算しても、計算が成り立たない。

 その原因は一つだ。

 

「―――魔法か。それもただの魔法ではないな」

 

 超科学世界、俗な言い方をすればSF世界から来たマキナにとって魔法というのは意味不明、というわけでもない。

 そこに存在しているのなら観測し、考察し、解明するのが科学だから。

 この世界の魔法でも、系統や魔力というエネルギーは観測基準に取り込んでいるし、魔法という結果も大半が解析可能だ。その気になればある程度の再現もできる。

 それでも。

 惑星一つ分の管理運営を行っていたマキナでさえ、未だにブラックボックスな領域が明確に存在している。

 即ちそれは、

 

「―――アルマのアカシックライト、或いはその再現か!?」

 

 

 

 

 

 

 

『この兵装術式は≪天才(ゲニウス)≫の力を模したものでのぅ』

 

 空を舞い、背と腰の砲門から攻撃を行いながらアレスは義母の声を聞いた。

 声だけ、頭の中に直接響くそれは状況に関係なく伝わってくる。

 

『数多の世界にはズレがあり、そこには無が広がっている。≪天才(ゲニウス)≫はその無を有として無限という言の葉が誇張ではないだけのリソースを引っ張っているそうじゃ。まぁそれは妾たちにはまだ為しえないことじゃがの。―――似たようなことはできる』

 

 初めて使う上に、原理が全く分からない武装ながら使い方が何故か分かる。

 本来使えない飛行を当然と実行し、見慣れない火器を扱えている。

 

『次元のズレから虚無に干渉して存在する物として観測し、引き出せるのならその際にエネルギーが生じるらしくてのぅ。その変換を利用して魔力を確保しておる。≪天才(ゲニウス)≫はそういう引き出しからの変換プロセスを無視してそのまま力を確保しているらしいが』

 

 それでもと、ヘラは笑う。

 

『事実上は無限のエネルギーじゃ。ゴーティア……ゼウィス様は、次元相転移エンジン、などと呼んでいたがの。完成させたのはヘスティアじゃが。向こうも向こうで、この世界から数千年近く進んだ科学技術のようでもあるのぅ』

 

 話の内容は分からなかった。

 エンジンがどうとか、アレスにとってどうでもいい。

 だけど。

 

「アンタも、別の世界から来たのか……!」

 

 肩から砲撃を射出しながらマキナを追い、問う。

 超音速の中、届かぬはずの声はしかし彼に届き、

 

「そうだ」

 

 両手両足のブースターを器用に使い、砲撃を避ける男が答えた。

 肩の主砲は回避し、腰の副砲の砲弾は掌から放たれる光弾で迎撃を行いながら、

 

「俺は別の世界で生まれ、死に、色々あってな。今はアルマの計らいでこの世界で生きている」

 

「……っ! なら!」

 

 確かめたいことがある。

 現状、マキナは円に、アレスは直線の三次元軌道を描くドッグファイトを行っている。単純な最高速度ではこちらが勝るが、小回りは向こうの方が上なので追いきれていない。

 届かない。

 

『求めるがよかろう』

 

 だが母の囁きは耳に届いている。

 

『その力は、お主の為のものじゃ。お主の願いを叶える為のものじゃ。狼の戦神よ、主が求めれば武器はその意のままに従うじゃろう』

 

「―――」

 

 明確な形は思い浮かべなかった。

 魔法はともかく、こんな複雑な機構を持つ鉄の鎧の仕様なんて知らない。

 だが、求めることは明確だ。

 

「聞かせろ、マキナ……!」

 

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

 この日、何度目かの驚愕にマキナは支配された。

 アレスの攻撃手段は肩と腰の主副合わせた四砲。加えて手にしている斬馬刀だった。

 スーツの解析機能を使ってもそれだけであったのだが、

 

「肩に追加武装か……!?」

 

 主砲が備え付けられた装甲が展開し、そこから無数の小さな影が飛び出した。

 短い筒であり、それ自体が加速しながらマキナへと飛来する。

 マキナよりも、アレスよりも速度を持つそれは、

 

「マイクロミサイルか!」

 

 赤い残光が軌道を描き、マキナを追う。

 

「ちっ……!」

 

 即座に思考演算に誘導ミサイルの速度と機動が追加され、それを加味した飛行経路を視界に展開する。

 人間がスーツを着ているのではなく、実際にはナノマシンで構成された仮想肉体の表面がスーツに計上変化しているためそのロスはほぼ無いに等しい。

 示されたのは、さらに真上だ。

 両足のスーツの表面が波打つように胎動し、膝下全体がブースターに変化。

 準備は淀みなく整う。

 飛び上がった。

 

「―――!」

 

 大気を破裂させ、水蒸気爆発を起こしながら上昇。

 一瞬でさらに数百メートル跳ね上がり、ミサイルを振り切って、

 

『―――逃がさない』

 

「なっ―――」

 

 閃光が、マキナの左腹をぶち抜いた。

 全身のシステムが狂う。

 それは数秒で復旧し、状況把握を自動的に開始した。

 故に、見た。

 肩の追加武装どころではない。

 

「っ―――()()()()()、か!?」

 

 アレスの黒鎧が、根本的に形状を変えている。

 長方形のフレームが重なっていた装甲、その配置が変わっている。

 肩に砲門として二門追加、腰の副砲を覆う様に展開し大型化。さらに両腕上腕部にも接続されハンドキャノンの様相を為す。

 

 騎士が、人型の戦車に変貌していた。

 

「っ……ただの装甲ではなく、兵装も兼ねた自律兵器……!」

 

 理解は一瞬。

 返答は、

 

『―――フルブラスト』

 

 合計八門、さらには全身の装甲から射出されたマイクロミサイルが一斉に天上へと放たれた。

 マキナの判断は一瞬だった。

 真下から迫る砲撃の壁。

 

「最大加速……!」

 

 それに対して飛び込んだのだ。

 両肩から機動制御ウィング、全身にスラスターも増設し制動の自由度を上げる。

 砲撃の柱はその隙間を抜け、マイクロミサイルは爆発するよりも先に落ちて行く。

 距離を取るのも、横にずれるのもダメだ。 

 アルマのアカシックライトと同等のリソースならエネルギーの枯渇は期待できない。さらには先ほどの急上昇に対応して砲撃して来たのなら下手に平面機動をしても効果は薄いだろう。

 故に、最も危険な場所に飛び込むことで活路を見出すのだ。

 

「はっ……!」

 

 思わず笑ってしまう。

 遠い記憶。

 もう何年、何十年前なのかは分からない。

 それでも、そうやって戦ってきた。

 相手が半分機械化したのはむしろ都合がいい。

 結果的には慣れた攻撃を受けているのだから。

 当たれば装甲が消滅する砲撃は途切れることは無く、落下するマキナに照準を合わせて微調整されていく。

 だからそれを計算し、予測し、疑似的な未来予知とでもいうべき落下機動を算出する。

 それは時間にすればほんの数秒程度に過ぎない。

 だが、その中で声が上がった。

 

『アンタがスぺイシアさんと元々繋がっていたというなら!』

 

 引き絞るような声だった。

 通信回路に割り込まれたのか、超加速の中でも声は鮮明に届き、

 

『アンタが――――――アンタが俺の下に来たのは、俺を監視するためだったのか!?』

 

 

 

 

 

 

 アレスは覚えている。

 マキナと初めて出会った時のことを。

 魔族信仰者たちが王城を襲った次の日。

 そしてウィルやアルマがアレスの下に訪れて、事情聴取――そう言えるものかどうかは甚だ疑問だったが――をした、その直後だ。

 その時は彼らの繋がりを知らなかったからただ奇特な隣人ができたなと思った。

 だけど、彼らの繋がりがあると知った今はそう思わずにはいられない。

 そういう立場には慣れている。

 ゼウィス・オリンフォスという魔族の首魁の息子だったのだ。

 公にはならず、まだ国の英雄として国葬が上げられたがそれでも知っている者は知っている。

 だから、懐疑の目で見られるのは仕方ないのだ。

 それでも。

 

「っ……アンタが……!」

 

 喉が引きつった。

 

「アンタはその為に、ずっと俺に関わって来たのか!?」

 

『―――そうだ』

 

 答えは静謐さを秘めていた。

 今まさに、自分が放った閃光と爆発の軍勢が襲い掛かっていることを感じさせない静かさ。

 

「―――」

 

 対し、自分は言葉が出なかった。

 それは落胆だったのか。

 やはりそうだったのかという納得だったのか。

 自分でも分からない。

 ただ、≪偽神兵装≫の変化は明確だった。

 両肩に二門づつ連結された砲身。

 右肩の砲身フレームが離脱し、自律浮遊で左肩の砲口に接続。

 砲身の長さが倍になった所に左腕で支えれば、左腰砲身フレームも移動してそれらを接続、エネルギーの供給経路を確保。

 一瞬、砲撃も弾幕も途切れ、

 

「――――!」

 

 極大の光が、柱となって左肩から放たれた。

 単純計算で三倍のエネルギー放出を以て空へ伸びる。

 衝撃波が空を駆け抜け、アレス自身も数十メートル落下するほど。

 そして。

 強化砲撃は、その範囲と速度ゆえにマキナを飲み込み、空に赤黒い爆発の花を咲かせ、

 

『―――だが!』

 

「!?」

 

 そこから飛び出す影がある。

 マキナだ。

 アレスにとって自分の知る限りの魔法では最大級の攻撃魔法を上回るものであり、龍だろうと一撃で屠れるであろう威力だったはずなのに。

 鉄の男は五体満足、どころか無傷だった。

 どうやってと、一瞬脳内が驚愕に染まる。

 その一瞬の間に、マキナはアレスへと到達していた。

 激突する。

 

「っ……!」

 

「だが、それが全てだったわけではない!」

 

 視界が高速で回転する。

 全身をナノマシンが覆うマキナとフレーム装甲が重なっているアレス。

 鋼を纏う二人が共に空を落ちていく。

 兜内の視界に投影された高度計が見る見るうちに数字を減らして行く中、叫びが上がった。

 

「確かに初日は監視の為にお前の下に訪れたが、最初だけだ! それ以降はただ、お前の友人として……!」

 

「今更そんな詭弁を信じられるか……!」

 

「詭弁だと!? そんな監視の為に1年近くも週末だけとはいえウザ絡みできると思うか!?」

 

「ウザ絡みの自覚あったのかよーーー!」

 

 叫びと共に、二人の鋼鉄は学園に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 二人が落下していく先は学園内の闘技場の一つだった。

 風属性を象徴として作られた第四闘技場。

 そこは四階建ての円柱状の建造物。

 中心の直径約三十メートルは吹き抜け構造になっており、そこを石造りの橋から頼りなく掛けられた縄一本、簡易的な吊り橋らが大量に掛けられ疑似的な多層構造になっている。外周の壁面部には簡易的な踊り場と螺旋階段があるだけ。

 主に三次元的な機動の訓練の為の闘技場。

 今、この場は無人だった。

 まともな足場の少ない吹き抜けの円柱状建造物と言うこともあって避難場所として適していないという理由があり、特別な構造のない第一や地下に閉所戦闘訓練用に作られた第五闘技場などに基本的には民衆は逃げ込むだろう。

 それを、マキナは分かっていた。

 激突して空中でもみ合っている間に、細かく落下機動を誘導していたのはその為であり、

 

「止めてやるぞ、アレス……!」

 

 それもまたその為の行動に他ならない。

 共に円柱の頂点に入った瞬間、マキナは背からウィングユニットをパージ。

 さらに位相空間からナノマシンを抽出し、離脱させたのも合わせて構造変換。

 形成されたのは、 

 

「レーザービット……!」

 

 自律飛行型のレーザー兵器が四つ。

 小型量子リアクター内臓の為、それ自体が高出力プラズマレーザーを照射可能であり、マキナの意思に応じて自在に動く。

 一瞬で散開し狙うのは、

  

「どこを……、っ!?」

 

 アレスでは無かった。

 そしてアレスはすぐにレーザービットに意識を向けられなくなった。

 マキナは既に新たな行動を起こしていたからだ。

 

「巨人……!?」

 

 そう。

 落下する中、マキナの背後に巨人の上半身が形成される。

 

「デウス・エクス・ヴィータ……!」

 

 本来全長十メートル級の機械巨人。

 腰から上だけ、左肩から先は存在しないがかつてのクリスマスの戦いでマキナが変形したもの。

 一瞬で出現した巨影にアレスは悟ったように息を飲む。

 

「さっきの砲撃もそれで……!?」

 

「肯定しよう! 半身分のナノマシンが消し飛んだがな!」

 

 先刻の強化砲撃。

 あれはマキナにも回避不可能なものだった。

 だから直撃の寸前で巨人を召喚し、文字通りの肉盾とした。

 膨大量のナノマシンが蒸発したが、マキナ自身は無事で済んだのだ。

 そして今。

 

「機械相手の戦い方を教えてやる……!」

 

 巨人のスラスター噴射させながら、アレスの機体を蹴りつけ落下を加速。

 地上部に片膝立ちで着地し、即座に両足をアンカーに変形し固定。

 マキナ自身が右腕を突き上げれば、巨人もまた同じ体勢になり、

 

「武装展開……!」

 

 巨人の左脇腹部分がごっそりと抜けながらも右腕に武器が作りだされる。

 極太の杭が装填された射出兵器。

 狙いは僅かに遅れて落下してくるアレスへ。

 さらに、

 

「ビット!」

 

 頭上に残されていたレーザービットは既に役目を終えていた。

 円柱状の吹き抜けの中、網目を描くように照射されたレーザーが焼き抜いたのは壁面。

 崩壊機動は計算されたレーザーにより、内側に流れ込むように倒壊した。

 

「前門の杭、後門の瓦解―――!」

 

 本命は勿論杭。

 それが対処されたとしても、純粋質量落下による攻撃による生き埋め。

 攻撃の失敗を前提とした段取り。

 かつて機械たちと戦っていた時の戦法だ。

 人間よりも遥かに強大なそれらはこちらが必死で用意した攻撃手段がまるで効かないなんてことも普通にあった。

 故に斃せなくても次に繋げられるように動くようになった。

 そこまでして、なんとかレジスタンスとして活動できる、そういう戦いだった。

 対等に戦えるわけではない。

 ギリギリの瀬戸際を渡り歩く戦いだった。

 

「だが、今は……!」

 

 頭上、崩落する建物を背にしたアレスへ右腕を向け、思いを口にする。

 体の全ては敵だったナノマシン。

 残っているのは、心しかないから。

 

「お前を張り倒しても止めるぞ―――友として……!」

 

 右腕の杭打機が撃鉄を起こす。

 そして、射出の為に叫ぶ言葉は一つ。

 

「パイルッバンカーアアアアアアアア!」

 

 轟音と共に射出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、マキナは見た。

 水蒸気爆発を引き起こしながら突き抜ける撃杭。

 アレスへと延びる中、しかし彼に動きがあった。

 

『≪一意戦神(マルス・ディスティニー)≫――――――』

 

 アレスの装甲フレームだ。

 戦闘用に加速させていた思考の中、飛来する瓦礫よりも、突き進む撃杭よりもそれらは早く動いていた。

 これまで、彼の装甲と砲身として動いていたものがこれまでと違う動きを得る。

 重装甲を為していたフレームの半数がパージ、彼の両手に集結し、新たな形に合一する。

 それは刃渡り五メートルはある巨大な機械二刀。

 握りしめ、

 

『――――第二(セカンド)進軍戦型(マーク・グラディウス)

 

 一瞬で最適化が実行された。

 剥かれた装甲の内部機構が新たに銀の表皮を再形成、兜も目を覆うバイザーとなり重装から中装装甲へ。

 黒鉄の重機械から黒銀の二色鎧となり、

 

「オリンフォス式戦神術――――四式・周く陽輪」

 

 巨大刀が閃き、赤雷が円環を描いた。

 一瞬だ。

 二刀は上下へ。

 上へ振られたものは崩落に斬線を通した後、赤雷が蹂躙し。

 下へ振られたものは撃杭を両断、巨人を断ち切り、

 

「―――――」

 

 マキナの右肩から左腰まで駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

「―――――なるほど、それがお前の力か」

 

 アレスは勝手に変形した鎧の身軽さを感じながら、マキナの声を聞いた。

 

「戦神という存在からどういう能力が出てくるかと思ったが……状況における装甲の進化変形か。先ほどの砲撃特化の姿からさらに装甲の形式も変化しているあたり、まだまだ派生がありそうだな」

 

「冷静だな、アンタも」

 

 自分でもまた感覚的に理解できない力を冷静に分析する彼に思わず嘆息する。

 第四闘技場は既に半壊していた。

 四階分の内、一階部の外壁が残っているだけであり、周りには瓦礫の山が作られている。

 その中でマキナは横たわっていた。

 

「そんな、頭と左肩しかない姿で」

 

 先の攻撃により右肩と胸から下は無くなっている。

 だが、奇妙なことに血は流れずマキナは平静なまま。

 代わりに切断面から粒子のようなものが漂っているだけだ。

 

「生憎、人間の体ではないからな。自分でもよく分からん」

 

「そうか」

 

 頷いて。

 右の巨大刀を向ける。

 

「残った体を蒸発させれば、お前も死ぬのか?」

 

「―――さてな」

 

 マキナは苦笑する。

 誤魔化しではなく、本当に分からないような力の無い笑み。

 

「自前のナノマシンの大半が消し飛んだが、それが消えたら死ぬのかやはり自分でも分からん」

 

「……まぁいいさ」

 

 アレスは肩を竦め、バイザーの奥から目を細めた。

 やることは、変わらない。

 

「どっちにしても、今のアンタは消す。……俺にはやらなきゃいけないことがある」

 

「――――」

 

 死に体の男はただ目を伏せた。

 何を思うのか、肺が残っているかも怪しい体で息を吸い、

 

「―――おっ?」

 

「?」

 

 急に、真上を見上げた。

 唐突な動きだった。

 数秒何もない空を見据え、

 

「…………確かに俺ではお前を止められない」

 

「何を今さら―――」

 

「だから、本命に任せるとしよう―――頼んだぞ」

 

「!?」

 

 言った直後。

 マキナの姿が消えた。

 地面に広がった白い火花が円になり、落ちて行ったのだ。

 転移をしたと理解し、しかしどこに、と思う間は無かった。

 なぜなら。

 

「――――えぇ、頼まれましたよ」

 

「……!」

 

 背後に振り返り、声の主を見る。

 黒髪黒目、黒い戦闘衣、片肩の赤いマント。

 この一年、嫌と言うほど関わり、何よりもアレスの心に焼き付いた少年。

 

「ウィル・ストレイト……!」

 

「えぇ、お待たせしました。アレス・オリンフォス」

 

 その瞳は、真っすぐに己を貫いていた。

 

 

 

 

 




一意戦神(マルス・ディスティニー)
第一・開戦戦型/マーク・ボレアス
重装強襲型
派生として砲撃形態有り
第二・進軍戦型/マーク・グラディウス
中装広域殲滅型
状況に応じて特化し、変形・進化する戦神の鎧
理論上は無限に進化する。

アレス
本当は友人だと思っていた。
友を切り捨て、そして。

マキナ
必殺技は滅茶苦茶大声で叫ぶ
本当に友人だと思っていた。

ウィル
お待たせしました
ボーイミーツボーイ。




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アルマ&マキナー1人ではなく――

 

『■■■■■■■■―――――!』

 

『この長細蜥蜴がぁあああああ!!』

 

「……ポータルを抜けた先、大怪獣バトルが広がっていた」

 

 王都の空。

 見慣れたと言っていいのか分からない白光の転移門をくぐったと思ったら、巨大な溶岩と氷の巨人と暴風を纏う蛇龍が激闘を繰り広げていた。

 

「悪いね、マキナ……って随分な恰好だな」

 

 あきれ気味に声を掛けて来たのは魔法陣に立つアルマだった。

 無人の街の天上に全球型の魔法陣を展開している。

 

「アレスにかなりやられた。良い状況とは言えない」

 

「分かってる。―――だけど、ウィルが着いた」

 

 そう言う彼女の横顔に迷いは無かった。

 あるのは全幅の信頼と、自らのやるべきことに対する使命感。

 

「なら、大丈夫だ。彼を信じよう」

 

「―――」

 

 いつか砂漠の城壁で見た彼女ではない。

 或いは、クリスマスの時に浮かれてウィルを助けに来た彼女でもなかった。

 彼の様に真っすぐに、目前の怪獣対決を見据えていた。

 

「……分かった。俺を呼んだ理由は?」

 

「この雨だ。成分分析、できるだろう? かなり強力な酸性雨だ」

 

「ふむ」

 

 確かに分析すればアルマの言う通り。

 人間は勿論、マキナのナノマシンの肉体も溶けるほどに強力な酸度だ。

 あの蛇龍の出現と共に彼女が姿を消し、この空間で戦っていたのも納得できる。

 

『■■■■……!』

 

『えぇい、鬱陶しい……!』

 

 巨人の体にまとわりつく蛇龍はマキナをして、空前絶後だ。

 だが、

 

「お前でも倒せないのか?」

 

「倒す、というか消滅させるのは簡単だけどね」

 

 嘆息しながら、アルマは答える。

 

「あれはヘラに暴走させられてるだけで、れっきとしたこのアース111の神性だ。あの規模の相手しつつ、実空間に影響を出さないようにするのは色々厳しいんだよね。この後も色々やることがあるし」

 

「……興味本位で聞くが、手段を択ばずに倒すならどうするんだ?」

 

「んー……一番後先考えないならブラックホールでも作るよ」

 

「馬鹿の考えたSFみたいなことを……」

 

「僕もやりたくない。昔≪D・E≫に崩壊された世界をそれごとブラックホールで消滅させたら後始末滅茶苦茶大変だったんだよね」

 

「そう……」

 

 話のスケールがデカすぎる。

 

「それ以外の手っ取り早く済ます方法は余波が大きいし、そうでない場合は手間がかかり過ぎる。ただでさえこの規模と強度の空間形成をしてるからね」

 

「なるほど……それで俺か」

 

 先ほどのアレスに追い詰められた時。

 視界に直接アルマからのメッセージが届いたのだ。

 『手を借りたい』。

 そして『ウィルが行った』という二つ。

 

「そうだ。あれを見てくれ……というか、嫌でも目に入るだろうけど、ル・トの方を特に」

 

「俺はあの巨人を使い魔よろしく使ってるのが気になるが……まぁいいだろう」

 

 言われた通りに視線を向ける。

 溶岩と氷塊で形成された魔人に刃のような鱗を持つ蛇龍が絡みつく。

 それ自体は拮抗し、どちらが強いというわけではないが、

 

「――――なるほど。この酸性雨か」

 

 ル・トを構成する岩塊が酸性雨のせいで溶けて脆くなり、結果破壊されている。

 どういう原理かは計測しきれないが、ル・トの体も再生するらしくそれだけで敗北にはならないが押されている。

 アルマも、現在打てる手としてはその劣勢を覆せないから自分を呼んだということだろう。

 それは理解した。

 が、それはそれとして。

 

「どうしろと? いくら俺の≪デウス・エクス・ヴィータ≫でもあのサイズに対応できる形態はないぞ? アレスとの戦いで、ストックしてるナノマシンも九割消し飛んだ。今はこの真っ二つ死体もどきかプリティ脳髄モードだけなんだが」

 

「プリティかあの姿。まぁいいけど――――はい」

 

 アルマが指を鳴らす。

 一件変化は無かった。

 変化があったのはマキナの持つ位相空間だ。

 

「……アルマ?」

 

「これなら十分だろう?」

 

「これだけのナノマシンをどうやって……お父さん、悪いことは許しませんよ!」

 

「誰がお父さんだ!」

 

 いつも通りのやり取りをしつつ。

 アルマの魔法より補充されたナノマシンは膨大の一言。

 常備している分の十数倍はある。

 

「別にこれくらいは訳ない。さっき複製して、少し細工しておいた。設計は任せるが、とにかくル・トの体表を君のナノマシンで覆ってくれ。勿論可能な限り強度と対酸性を強くしてね。その上で僕が魔法で強化コーティングするから、それでちょっとル・トと協力してテュポーン殴り倒してくれ」

 

「最後のちょっとが全然ちょっとじゃなくないか……!?」

 

 さっきのブラックホールのスケールのまま、わりととんでもないこと言われた。

 いやまぁ惑星管理していた脳髄も大概だが。

 

『ぬおおおお!! 我の腕返さんかああああああ!!』

 

 言ってる間にもル・トの右腕がもげて宙を舞う。

 妙にゆっくりと街並みに落下しているように見えるのはその巨大さ故だろう。

 それでもル・トに堪えた様子は無いあたり頂上の生物というのが伺える。

 

「……コアでもあるのか?」

 

「あぁ。胸部のコアが壊れなければ体の方はいくらでも崩壊して問題。そのコアも必要に応じて体内で移動可能だから、ある意味君と似たような存在かもね」

 

「………………ふむ」

 

 少し考え、

 

「設計は任せる、と言ったな?」

 

「まぁ、体表さえ覆ってくれればいいけど……」

 

「なるほど」

 

「………………おい」

 

 アルマの半目が突き刺さる。

 

「何考えてる? あんまり遊んでいる暇はないんだぞ?」

 

「ふっ」

 

 にやりとマキナは笑みを浮かべ、残っている片手で親指を立てた。

 

「俺にいい考えがある!」

 

 

 

 

 

 

『――――ル・ト! 増援を送る!』

 

『ぬぅっ! やっとか! 期待させたのだから相当ではないと許さんぞ……!』

 

 テュポーンに右足を砕かれながら、ル・トは脳内に響く声に応えた。

 己が蛇龍に存在強度として劣っているわけではない。

 それは断じてない。

 だが今のテュポーンは魂を狂わされ、己の身を顧みずに溶ける暴風雨をまき散らしている。

 自分の体はいくらでも再生するとはいえ、千日手に近い状況だ。

 故に魔術師が助っ人を呼んだらしいが、

 

「よう、魔人殿。俺が助っ人の脳髄だ」

 

『……!?』

 

 いつの間にか目に当たる所の前に、妙な物が浮かんでいた。

 ル・トには遠い記憶だが、人間の頭部の中身のようにも見えるし、妙に可愛らしくなっている。

 何故か絵で描いたような目が二つついていて、

 

『貴様―――どうやって喋っている!?』

 

「お前が言うのかそれは」

 

 失礼な。

 

「だが応えてやろう――――脳髄パワーだ」

 

『なにぃ……!? 人間の脳髄とやらはそんな力を……!』

 

 やはり人間という種族はどうかしている。

 勝手に神と崇めたら、自分たちとは全く違う形の神々と交わるわ、神からその身を引きずり下ろすわでやることなすこと滅茶苦茶だ。

 

「そうだ。脳髄パワーを見せてやろう。――――行くぞっ!」

 

『んんんんん!?』

 

 そして。

 ル・トは思った。

 人間はどうかしてる。

 

 

 

 

 

 

 ル・トの体がテュポーンの体当たりによって破砕する。

 膨大な衝撃はル・トの胴体で炸裂し、

 

「――――散!」

 

 マキナの声と共に、その通りになった。

 

『■■■■―――?』

 

 溶岩と氷河の体が部位ごとに分かれていく。

 既に飛んでいた右腕右足とは別に左腕、左足、頭部、さらには胴体も縦に分かれながら吹き飛び、

 

「ナノマテリアル展開! オールパッケージング!」

 

 全ての部位の表面がスパークと共に波打った。

 一瞬だ。

 各部位が位相空間より転送されたナノマシンに覆われ、

 

「装甲形成!!」

 

 高熱と低音の岩の塊という都合上、凹凸だらけだった表面が整えられる。

 ほぼ完全な立方体となり、

 

「アルマ! 魔導ラミネートを!」

 

「…………はぁ」

 

「否!! そこは魔導ラミネート刻印! だろう!」

 

「まどうらみねーとこくいんー」

 

 ありえないほどの棒読みの魔法使いが印を組む。

 ナノマシンの表皮の上に、さらに複雑な幾何学模様により装甲強度が重ね掛け。

 そして。

 

「全パート、ブースター展開……!」

 

 各構造体の底面にナノマシンによる加速器が形成される。

 巨大な質量が空を駆け抜けた。

 

『■■■■……!?』

 

 テュポーンの長い蛇体を縫う様に飛び、それは天上へと。

 先にもげていた右足右腕も同じような加工がされて後に続いた。

 一つ一つはただの巨大な塊に過ぎない。

 だがそれらは集い、列を成す。

 

「合体フォーメーション―――――!」

 

 合一する。

 先ほど分裂した時とは逆再生。

 両腕、両足、左右胴体部、頭部。

 それぞれがあるべき位置に接続しようとすれば、ナノマシンによる即勢形成でジョイント部分が出現。

 ()()()()、という重低音と共に合体。

 その轟音は連続し、瞬く間に人の形を得た。

 続いて脳の皺を模したような幾何学模様が走る頭部に簡易的ながら口、鼻も形作られ、目がある部位にV字型の王冠が出現。

 それは上にズレ、その下からアイパーツが露わになった。

 光が灯る。

 右は燃えるような赤。

 左は凍てつくような青。

 二色は全身に広がり、体の正中線から全身をその二色に分割していく。

 

『超脳髄氷炎魔人――――!』

 

 マキナが叫んだ。

 ル・トも叫ばないと完成しないと言われたので一緒に声を揃えた。

 着色と同時に、胸部の赤青入り混じったコアパーツ。全身には関節部や肩に棘状のクリアパーツが左右のカラーパートに合わせて出現。

 

『―――――脳髄キング!!』

 

 接合時の衝撃を背後に放出したことにより起きた大爆発を背にし、巨人は己の名を叫んだ。

 それは右半身に灼熱を。

 それは左半身に氷結を。

 科学の極致と魔法の極致を纏う。

 相反する矛盾をその身に体現した二色の巨人。

 それこそが超脳髄氷炎魔人・脳髄キングである。

 

 

 

 

 

 

3694:1年主席天才

なんかマキナがル・トと合体して巨大ロボになったから写真送るわ

 

3695:Everyone

何やってんのぉ!?!?!?!

 

 

 

 

 

 

 

「くくく……一度はやってみたかったんだよな、合体ロボ……!」

 

 脳髄キングの胸部コア内コックピット。

 全球型の空間は周囲の光景を三百六十度投影し、その中央に搭乗席が浮かんでいる。

 両手で握るレバーには幾つのボタンがついており、それで様々な操作が可能。周囲には空中投影型のディスプレイが様々な数値を表示もしている。

 大半は雰囲気づくりなのだが。

 機体操作の九割はマキナの脳内で行われているのが実際の所。

 

『おい脳髄! 本当にこれで大丈夫なのだろうな!』

 

 操縦レバーの中央にはデフォルメされた可愛らしいル・トが投影されている。

 声もちょっと高くなっている。

 これも飾りだ。

 

「ふっ……俺を信じるがいい、相棒!」

 

『待て! さっき会ったばかりだろう!?』

 

「行くぞッッーーライトバーニング! ロケットパァーンチ!」

 

 

 

 

 

 

 

 空に残っていたアルマは、巨大なロボットが駆動するのを見た。

 右肘のクリスタルパーツから炎を逆噴射させ加速を生んだ拳をテュポーンへと叩き込む。

 轟音、激震。

 

『■■■■――――!?』

 

 殴り飛ばされたテュポーンが大きく吹き飛び、無人の街にめり込む。

 

『待てぇーい!』

 

 無駄に拡散されているマキナの声が響き渡りながら、大きな足音と共に蛇龍を追っていく。

 酸の雨は変わらず降り注いでいるが、魔法と科学の二重装甲は物ともしていない。

 それはそれとして。

 

「…………なんだかなぁ」

 

 思わず目を伏せながら天を仰ぐ。

 ちょっと思っていたのと違った。

 

「ナノマシンとかいくらでも見たけど、ここまで自由になるのは初めて見たな……うぅむ……」

 

 腕を組み、

 

「…………素直に認めるの、ちょっと癪なんだよな」

 

『フハハ! 素直になってパパを褒めるといいぞぉ!』

 

「パパ言うな」

 

 通話魔法越しでも大分鬱陶しい。

 ル・トには悪いことをしたかもしれない。

 

『中々面白いなぁ脳髄よ! もっとなんかできること無いのか!?』

 

『あぁ! 必殺技は胸からビームが出る!』

 

『ガハハ! なんだそれはぁ!! やるぞやるぞぉ!』

 

「……」

 

 どうやら好相性だった。

 

「…………マキナ、ここは頼むよ。装甲に展開した魔術式にはテュポーンの封印術式も仕込んでおいた。ビームでもロケットパンチでもなんでいいからそれ起動して叩き込んでおいてくれ」

 

『―――それは良いが』

 

 一転、声は静かになり、

 

『あえて聞くぞ、大丈夫なのか?』

 

「……ふっ」

 

 苦笑する。

 ただの問いかけには、多くの感情が込められていた。

 それをアルマは知っている。

 多分、ウィルや他の掲示板勢も知らない一面。

 

「君、本当に心配症だねぇ」

 

『―――』

 

「安心したまえ」

 

 指を振るう。

 背後に転移門を開かれた。

 それ飛び込みながら、アルマは笑った。

 かつてただ一人になって機械の星を動かしていた男に。

 

「僕も君も、もう一人で戦っているわけじゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「―――――なるほど」

 

 転移先は広い空間だった。

 室内だ。

 古い石造りの長方形のホールのような場所。

 天井を支えている柱が等間隔に並んでおり、その先に人影が並んでいた。

 

「―――来た、か」

 

 ブラックスーツに白衣姿にピンク混じりの紫髪の少女。

 

「おぉ! 来たな! こうも上手くいくとは流石はマム」

 

 短い茶髪に白シャツを腕まくりした大柄の青年。

 

「……」

 

 顔に傷を持つ、明るい茶髪の少女。彼女も当然のようにブラックスーツ。

 

「……ん?」

 

 三人目はどこか見覚えがある気がした。

 

「ふむ……まぁいいか。それで、君たちはあれか。≪ディー・コンセンテス≫の残りか」

 

「あぁ! 残りと言われるのは心外だがそうだ! デメテルだ、覚えておくといい≪天才(ゲニウス)≫!」

 

「ヒヒッ……ヘスティア、だ」

 

「―――アテネ」

 

「なるほど」

 

 予想で来ていた名前だった。

 そこに驚きはない。

 彼女たちが待ち構えていたことも。

 気になるのは、

 

「この空間……封鎖されているのか」

 

「如何にも!」

 

 デメテルが快活に応答する。

 

「お前の使う≪アカシックライト≫を封じる為の魔法が掛けられている! その理屈は……俺は知らん! ヘスティア!」

 

「ヒヒッ……他次元への、接続を切っている、から。お前はマルチバースから、力を引き出せない」

 

「なるほどね」

 

 クリスマスの時、ゴーティアがアルマの侵入を防ごうとしていた時に使っていたのと似たようなものだろう。

 実際、それは有効だ。

 アルマは膨大な魔力をマルチバースから引き出すことにより、あらゆる魔法の行使が可能だが、その次元への繋がりを絶たれればアカシックライトは使えない。

 それを見越して、この三人はアルマを待ち構えていたのだろう。

 

「今の僕なら、勝てると思っているわけだ」

 

「否」

 

 鋭い声は、アテネから。

 腰に佩いた長剣の柄に手を置きながら、静かに言う。

 

「勝てるとは思っていない。だが―――時間稼ぎはできる。そういう算段だ」

 

「へぇ」

 

 笑ってしまう。

 悪くない心がけだ。

 ≪アカシックライト≫を封じたのも悪くない。

 ル・トの前に置き去りにしただけではダメだったという反省もあるだろう。

 だが。

 

「――――まだ甘いな」

 

 悪くはないが。

 良くもない。

 ≪アカシックライト≫はアルマにとって力の大元の一つではあるけれど。

 それ以外の手札が無いわけではないのだ。

 

「来るといい。遊んでやるとは言わない。――――僕も本気で、叩きのめしてやる」

 

 

 

 




マキナ
合体だあああああああ!!
ロケットパァーンチ!!

ル・ト
どうかしてるけど意外と楽しかった


アルマ
ふぁーw甘い甘い!



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次回、アルマのマジバトル


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アルマ・スぺイシア――エメラルドの魔法――

「≪枯樹生華(ケレス・アバンデス)≫!!」

 

「≪薪尽火滅(ウェスタ・トーチ)≫―――!」

 

「――――≪守節死義(ミネルヴァ・ロイヤリティ)≫」

 

 デメテル、ヘスティア、アテナの三人は最初から全力だった。

 アルマ・スぺイシア。

 3人とも直接対面をするのはこれが初めてではあるが、ヘラから父であるゴーティアが語っていた危険性を知っている。

 曰く、次元世界最強の魔法使い。

 ゴーティアたち次元を渡り歩く者の天敵。

 異なる世界の力を手にしてもなお、勝てる見込みが無いということは分かっている。

 だが、

 

「はははははは! だが、罠には掛かってくれたなぁ!」

 

 デメテルが纏うのは全身を覆う重装甲だった。

 元々大柄な体をさらに包み、全高三メートルほどの科装。

 両肩から太い角を生やした姿はまるで機械化した猪のようでもあった。

 アーマーの表面には樹の蔓がまとわりつき、二重の装甲を為していた。

 

「―――ヒヒッ。じゃなきゃ死ぬだけ、だ」

 

 ヘスティアが纏うのはほとんど装甲を持たない軽装備だ。

 科装仕様の競泳水着のようなボディスーツの上から白衣。

 耳を覆うヘッドギアから伸びるセンサーイヤーと太ももまでのロングブーツは驢馬を思わせるもの。

 白衣の下や両手の指の間には電熱ブレードのメスが何本も収まっている。

 

「―――」

 

 アテナが纏うのは騎士らしい中装甲だ。

 それまでの騎士甲冑が科装らしい鋭角的なデザインにリメイクされたと言うべきだろうか。

 随所に猛禽類、それも梟の衣装があり、口元意外を隠すバイザーが備わっている。

 両手には細見の科装剣が握られ、銀光を放つ。

 重軽中、猪驢馬梟。三者三様の偽神たち。

 

「―――!」

 

 三人が同時に攻撃を放つ。

 デメテルは纏わりついた蔓を槍のように射出して。

 ヘスティアは十指で挟んだ電熱メスを投擲して。

 アテナは双剣を振り、十数の剣閃を放って。

 単純だが、しかし牽制というには苛烈な三種の攻撃はアルマへと殺到し、

 

「――――アッセンブル」

 

 展開された七色の光が弾き飛ばした。

 七色七枚の円形魔法陣。加えて複雑な文様が刻まれた帯状魔法陣が彼女の周囲を包み込む。

 魔法陣がそれぞれ独立し、彼女の周囲を巡って軌跡を描いた。

 

「ギャザリング―――」

 

 光の中で、アルマが手にしたのは万年筆だった。

 艶の無い黒地に二つの銀の糸が螺旋を描く様な装飾がされたもの。

 アルマの誕生日に、ウィルがくれたもの。

 宙に線を描くように、軽く振るい、

 

「―――アルテマ・エレメンツ」

 

 その軌道に従い、彼女の魔導着が光に包まれた。

 ペン先が触れれば纏うマントが消え、次に胴着、黄金のブローチ、アームカバー、ブーツと順番に。

 首のチョーカー以外の全てがほんの一瞬だけ消え去り、次の瞬間に再構成を開始した。

 虹の光が集まってミュールになり、アームカバー、ドレスを形成し、かつて王城の舞踏会で身を包んだプリンセスラインドレスとよく似たものに変化する。

 違いは濃い翡翠と白の色。

 トレードマークのマントの代わりにはシースルーのケープが肩を覆い、頭部には花を模した髪飾りも。

 さらには銀の髪が腰まで伸び、先端に行くにつれて翡翠のグラデーションを生んだ。

 最後に、変わらぬチョーカーの鍵を弾けば澄んだ音。

 それ共に手の中の万年筆が光となって弾け、背後にさらなる形が作りだされる。

 赤青緑橙黄白紫。

 七色の翼のように背後に広がったそれは、ウィルから貰った万年筆を模した筆剣。

 そうして、彼女の変身が完了した。

 虹が重なった翡翠の風が周囲に吹き荒れ、真紅の瞳が輝く。

 笑みは不敵に。

 その名を告げる。

 

「――――≪シュプリーム・エメラルド≫」

 

 その姿こそがアルマ・スぺイシアの究極魔法。

 七属性全てを同時展開した、ウィル・ストレイトの系統収束の完成形。

 かつて魔人ル・トを下した姿が、ここに降臨する。

 

「おいおいおい! なんだあれは! テレビ? のアニメ? だかあぁいうのちょっと見たぞ! マジカル少女戦士!」

 

「言ってる、場合か……!」

 

「ッ―――!」

 

 翡翠の魔術師に対し、真っ先に飛び出したのはアテナだった。

 思わず叫んだデメテルに思わず突っ込んだヘスティアに構わず駆ける。

 姿勢は低く、両手に握った剣を背後に流しながら。

 

「へぇ、中々速いね」

 

 アルマの前へ一瞬で到達し、双剣を振るい、

 

「散れ……!」

 

 言葉通り、剣閃が散った。

 刹那の間に放たれた数は三十。

 ≪偽神兵装≫による権能や科装による機能でも、魔法ですらない。

 無論、兵装による前提の身体強化は強烈に掛けられているが、それでも根幹を為すのは純粋な彼女の技量。

 魔法と戦闘術が前提で融合したこのアース111では極めて珍しい剣術で、

 

「―――これも中々だね」

 

「―――え?」

 

 バイザーの奥で、アテナは目を見開いた。

 繰り出した三十の高速斬撃。

 その全てをアルマは手刀で一つ一つを完璧に捌き、受け流していたから。

 

「ぁ―――」

 

 次の瞬間には、声を後ろから聞いた。

 ≪偽神兵装≫の感覚素子が全く感知できない動きで背後にアルマは現れ、

 

「はい、お疲れ」

 

 ぱちんと、指が鳴る。

 次の瞬間には七色の筆剣がアテナの全身を貫き、その場から吹き飛ばした。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 続いて咆哮と共にデメテルが大きな両の拳を叩きつける。

 一息にジャンプして来た勢いで叩き込んだ衝撃は、敷かれていた古い石畳を爆砕し、

 

「ぬぅ……!?」

 

 既にアルマはいない。

 彼女もまた跳躍し、中空で姿勢を整えながら離れた石柱の側面に着地。

 石柱と垂直に一瞬停止し、

 

「―――!」

 

 顔を上げ、真紅の瞳が輝いた。

 行く。

 跳躍は、筆剣と伸びた長髪により、虹と翡翠の残光を描く。

 真っすぐにデメテルへ駆け抜け、 

 

「息吹け、大樹よ……!」

 

 対する重鎧の右腕に蔓が集い、巨大な拳を作りだす。

 ≪枯樹生華(ケレス・アバンデス)≫。

 それは膨大な生命力の発露だ。

 超再生と身体能力の超活性、それと同時に身にまとう植物を自在に操作し攻防一体と武器とするもの。

 ≪ディー・コンセンテス≫においてその耐久性は随一であり、だからこそ時間稼ぎという点においては最適な人選だった。

 龍の突進を上回る威力の樹拳が飛来するアルマへと、カウンター気味に放たれる。

 対し、その直前で彼女は着地、大質量に対して掌を掲げ、

 

「―――!?」

 

「軽い」

 

 ぴたりと、受け止めた。

 衝撃は風となってアルマの背後に駆け抜けたが、ただそれだけ。

 

「よっ」

 

 続く動きは軽いものだった。

 拳を受け流したのは手首の軽いスナップ。

 

「うおっ!?」

 

 だがそれだけでデメテルは体勢を崩し、前につんのめる。

 そして見た。

 懐で、舞う様に背を反らす少女を。

 動きは美しく、ゆっくりとさえ言える。

 まるで女神のように優雅に。

 地面と平行になるほどに体を反り、可愛らしい膝が差し出され、

 

「ふっ―――!」

 

 鋭い呼気と共に足先が跳ね上がった。

 

「あぼぉっ……!?」

 

 爪先がデメテルの腹部にめり込み、潰れた蛙のような声が漏れた。

 直後、衝撃が炸裂する。

 全高三メートルの科装と樹木の二重装甲を破砕し、天上へと跳ね上がった。

 天井に激突した時にはデメテルの意識も≪偽神兵装≫も既に消失し、アルマの蹴り上げの威力が強すぎて天上に張り付いたまま落ち来なくなっていた。

 

「―――おっ?」

 

「滅茶苦茶、か……!」

 

 蹴り脚を下ろしたと当時に、アルマの周囲に突き刺さるものがある。

 ヘスティアの電熱メス。

 アルマを囲んで石畳に突き刺さった数は十二。

 

「開け、ウェヌスの祭壇……!」

 

 ヘスティアの叫びと共に、メス同士が赤い光で繋がれた。

 ≪薪尽火滅(ウェスタ・トーチ)≫の権能は熱だ。

 ヘスティア、ウェヌスとは炉を司る神であり、その能力もまたその概念を模している。

 アポロンの日輪のように直接燃えるのではなく、熱という概念を起点として結界を作りだすことも可能だ。

 味方がその領域に収まれば心身を温める暖炉のように体の傷を治し、敵を収めれば焼き焦がす焦熱の炉となる。

 

「っ……!」

 

 ヘスティアも必死だった。

 展開した正十二角形の方陣は攻撃目的というよりはアルマの動きを押し留めるためのもの。

 動きを止めることで、あっという間にやられてしまったデメテルとアテネを回復させなければならない。

 能力の発動媒体であるメスから伸びる光が結ぶまで約二秒。

 光が繋がり合い、

 

「―――欠伸が出るね」

 

 七色が駆け抜け、

 

「…………あぁ?」

 

 何も起きなかった。

 

「なに、を―――?」

 

「君が張ろうとしていた結界を書き換えた。これ、ペンに見えるのは別にハッタリじゃないんだよ」

 

「―――」

 

 当然のように、アルマは言葉を並べる。

 やったことはただその通り。

 紋様の筆剣はそれ自体が魔法発動媒体でもある。紋様は圧縮された術式であり、自律駆動するそれぞれの属性の乗算式結晶体。

 同時に形通りのペンとして魔法術式を刻み、構築もできる。

 だから、ヘスティアの能力を無効化したのもそれだ。

 ペンとしてヘスティアの結界に直接介入し無効化したというだけのこと。

 

「そんな、ことが……! ≪偽神兵装≫の権能は、この世界にはなく、ゼウィス・オリンフォスが雛型を作り……ヘラ母様、が、完成させた、ものを、私が発展、させたのに―――」

 

「おいおい」

 

 苦笑しながらアルマは右手をヘスティアへと突き出す。

 人差し指と中指を立て、その先に筆剣が舞った。

 一瞬だ。

 筆剣が軌道を描いたと思った時には、指先に複雑に編み込まれた紋様の術式が既に完成されている。

 曲がりなりにも≪偽神兵装≫を作っていたヘスティアには分かる。

 その完成度と美しさが。

 自分が同じものを作ろうとした何か月もかかりそうなものを、アルマは文字通り一瞬で作りだしてしまう。

 

「―――だから、簡単すぎるんだよ」

 

 指先が光る。

 光は魔法陣を通り砲撃となってヘスティアを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「――――大したものですね、全く」

 

「そうかい?」

 

 聞こえて来た声に、アルマは振り返った。

 ヘスティアは砲撃を受けて壁にめり込み、デメテルも天井に張り付いたまま。

 そして気絶したままアテナを膝に乗せ、頭を撫でているのは、

 

「ヴィーテフロア・アクシオス」

 

「えぇ、アルマ・スぺイシアさん」

 

 セーラー服にも似た修道服姿のヴィーテフロアだ。

 彼女は自分の騎士を優しく撫でながら周りを見回す。

 

「この子は勿論、デメテルもヘスティアも。戦えば『二つ名』持ち数人だろうと容易く倒せるとか、うまくやれば一国の軍も制圧できるとかの触れ込みだったのですけれど。貴方を相手の対策も、まるで意味を為さなかったようですし」

 

「次元封鎖のことかい?」

 

 肩を竦めたアルマは一瞬光に包まれ、元の赤マントと青の魔導着に姿を戻し、

 

「対策になってないんだよね、それ」

 

 ため息を一つ。

 

「多分ゴーティアから聞き齧ったことをそのまま使ったんだろうけど、次元封鎖が効くのは僕が他の世界にいる時だけだ。別のアースから転移する分にはちょっと困るけど、もうその世界にいるなら自前の魔力と魔法でどうとでもできるわけだね」

 

「あー……なるほど。別にそのアカシックライトとやらが使えなくても、この世界の魔法は使えますものね。それにしたってここまで瞬殺とは思いませんでしたけど。なんですかさっきの姿」

 

「ウィルと合わせたんだよ」

 

「おぉ……! その話、もうちょっと詳しく聞きたいですね……!」

 

 ヴィーテフロアは一瞬、顔を喜色に染めるが、

 

「それよりも、ヘラはどうした?」

 

「ここのさらに奥にいます」

 

 アテナを膝から下ろしたヴィーテフロアは立ち上がり、ホールの奥を指差した。

 明かりがなく、暗がりが広がっているが、

 

「正確に言えばこの地下ですね。地脈へ直接干渉できる儀式場があります」

 

「はぁん、なるほど。悪の親玉はそこで仕上げをしているというわけか」

 

「えぇ―――()()()()()()()()()

 

 だからと、ヴィーテフロアはにっこりと笑う。

 無垢な少女のようであり、魔性の妖女のようでもあるほほ笑みで。

 

「後は――――貴女が全て解決すれば御終いです」

 

「いいや」

 

「――――?」

 

 アルマもまた笑った。 

 眉を顰めたヴィーテフロアに対し、肩を竦めて言った。

 

「悪いが――――()()()()はご破算にさせてもらおう」

 

 

 

 




≪シュプリーム・エメラルド≫
魂に希望を! キュアスぺイシア!

アルマの究極魔法。ウィルの各属性特化の完成系。
全属性掛け合わせによる万能形態。
トリウィアの究極魔法も同じような仕組みだけど、トリウィアは時間加速やら重力制御やらの浪漫型。
アルマは物理で張り倒す
パルテノンキック!
万年筆要素は実はあんまり意味がないけど、ウィルからのプレゼントということで態々専用の術式を追加したそうです

この姿でル・トを張り倒したそうです

ヴィーテフロア
計画があったそうですよ?

デメテルヘスティアアテナ
普通に戦ってたら、他のディー・コンセンテスと同じくらいには強いんだけど相手が悪すぎた



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ウィル・ストレイト――僕は君の――

「えぇ、お待たせしました。アレス・オリンフォス」

 

 静謐すら伴った彼の言葉を聞いた瞬間、アレスは飛び出していた。

 ≪第二・進軍戦型≫移行により巨大化した二刀はフレームが分離し、刀を佩くように腰にジョイント。

 刃渡り一メートル程度、対人用の機械二刀に変形する。

 脚部装甲の足裏から赤雷を放出する加速器の速度に乗り、彼我の距離を一瞬で詰め、

 

「……!」

 

 ×の字に振り下ろす。

 言葉は、作れなかった。

 だが言語化できない激情は斬撃となり、

 

「――――」

 

 ウィルの虹刀が正面から受け止める。

 激突による衝撃は、周囲の瓦礫らを吹き飛ばす。

 それでも。

 

「アレス君」

 

 細められた黒い瞳は何かを言いたげながらも、静かだ。

 二刀を押し込み、一刀に押し返され、

 

「言いたいことがあるなら言えよ、ウィル・ストレイト……!」

 

「―――」

 

 赤雷のスパークが二人を中心に弾ける。

 

「……分かりました。君の事情は、マキナさんから聞いたんですが」

 

 彼は息を吸い、小さく首を傾げた。

 

「――――――それはそうと、なんでそんなに僕に対してキレてるんですか? 会話から始めようと思ってたんですけど」

 

 怒りのあまり、二刀を力任せに振りぬいた。

 

 

 

3966:二年主席転生者

めっちゃキレゲージ振り切れたんですけど、僕なにかしました!?

 

3967:ステゴロお嬢様

言いたくないけどそう言う所ですわよー!?

 

 

 

「アンタの、そういうところが……!」

 

 吹き飛ばしたあと、地面を削り滑るウィルを追って飛び出しながら、体を回す。

 二刀を地面と平行に揃えれば、刀同士が合一。

 刃渡りは倍に、刃幅は三倍の巨大刀になったそれをぶち込んむ。

 横一文字の大斬撃。

 赤の斬撃は体勢を立て直していたウィルへ放たれ、

 

「――――≪ルビー≫!」

 

「!」

 

 赤の魔法陣がそれを受け止める。

 斬撃は回転から放った都合、ウィルから見れば右斜め前から差し込まれていた。

 それに対し刀を握ったままに掲げた右手の先に展開された魔法陣。

 受け止めたのは一瞬だ。

 防御というよりも瞬間的な間を生んだだけ。

 その間の間に、魔法陣は斬撃よりも早くウィルを通過し、

 

『≪光彩流転(カレイドスコープ)≫―――≪花紅(グラニット)≫!』

 

 刀から大戦斧に、黒の戦装束から赤の鬼装に。

 武器と姿を変化させるのと大斬撃が受け止められた。

 

「天津院先輩の……!」

 

 言うまでもなく知っている。

 ウィルの固有魔法による能力、武装、姿の変身。

 天津院御影との絆の発露。

 それを初めて見せた時、アレスもまたその場に立ち会っていた。

 そうだ。

 ずっと、アレスはウィルの足跡を見ていた。

 だからこそ。

 

「俺は、アンタが……!」

 

「アンタが……って、僕がなんですか!?」

 

 少年が問いかけ、

 

「――――知るか!」

 

 少年は答えなかった。

 

「なら―――」

 

 そして。

 

「聞かせてもらいます……!」

 

 真っすぐに、彼は来た。

 

 

 

 

 ウィルは自らの力を振り絞った。

 二色の赤が激突し合い、衝撃の花を咲かせる。

 片や灼熱の戦斧であり、片や雷撃の大刀だ。

 灼熱が守り、雷撃が攻める。

 ウィルは向上した膂力によって、アレスは全身の加速器の補助によって大振りながら高速でぶつかり合う。

 

「っ……!」

 

 対峙するアレスの目元はバイザーで覆われていて見えない。

 分かるのは固く結ばれた口元だけ。

 今分かっていること、つまりはマキナを通してアルマから念話で送られたことは限られている。

 アレスが洗脳されたのか、或いはこれまでの鬱憤が爆発したのか―――或いは、元々裏切っていたのか。

 最後のそれは可能性としては存在しているが、元よりウィルは信じていない。

 分かっているのはただの事実と結果。

 そこに込められたものを、自分はまだ知りえてない。

 だから、

 

「知るために……!」

 

 燃え盛る力を振るう。

 動きを変える。

 防御主体から攻撃主体に。

 前に出る際、足裏で爆発を起こして加速。

 既に放たれていたアレスの斬撃に合わせ、

 

「爆ぜろ……!」

 

 力任せに押し込み気味に振りぬいた。

 想いを、心を、希望を咲かせるように。

 この赤は、それができる色だ。

 

「はっ……!」

 

 大刀が跳ね上げられ、しかしアレスは笑った。

 それでこそだと言わんばかりに。

 後ろに大きく後退しつつ、しかし体勢は崩さず、

 

「あぁ、それでいい! 俺は、アンタを斃さないと駄目なんだ……!」

 

 大刀を手を離した。

 

「!」

 

「オリンフォス式戦神術――――」

 

 新たに手にしたのは両腰にジョイントしていたフレーム。

 アレスが逆手で握れば、展開し小太刀サイズの二刀になる。

 抜刀と同時に、振りぬいた。

 

「―――十式・移ろい風息!」

 

 逆手抜刀から放たれたのは乱斬撃六閃。

 迫るそれに対しウィルはほとんど反射で動いた。

 

『≪サファイア≫――――≪光彩流転(カレイドスコープ)・フューリーズ≫!』

 

 右手を握ると同時に体を回しながら跳んだ。

 それを迎える様に青の魔法陣が展開、くぐり抜けて変身が完了する。

 青のコート姿、アンダーフレーム眼鏡、右目には青く浮かぶ十字架。

 さらに赤い大戦斧もまた青の二丁拳銃として姿を変える。

 かつてトリウィアと戦った時は魔法による武装形成だったが、≪極虹鍵ビフレスト≫の形状変化により実体を得ている。

 それを、回転と共に振った。

 アクロバットな側宙でアレスの乱斬撃にあった隙間に飛び込みつつ、二丁拳銃と両足で打撃。

 砕いた。

 着地し、

 

「――――!」

 

 迫るアレスの二刀斬撃を迎撃する。

 

「おぉ……!」

 

 逆手二刀の速度は高速の一言だ。

 もとより普段から雷魔法による移動と抜刀術による高速斬撃を得意としていたアレスだが、≪偽神兵装≫による補助もあり、その速度はさらに上がっていた。

 今のウィルを完全に上回っている。

 

「フッ―――」

 

 それでもウィルは焦らない。

 迎撃と同時に展開した水の衣を防御手段として増やし、超高速の動きを観察、理解、先読みすることで速度差を穴埋めしていく。

 もとより目は良く、この姿はそういった分析と対処に適した姿だ。

 深淵に沈みながら己のものとする叡智。

 即ち、

 

「愛しき祝福よ……!」

 

 数秒間に交わされた攻防は百に届いた。

 その全てをウィルは完全に捌き切り、

 

「アンタは……!」

 

「―――?」

 

 アレスは表情を歪める。

 何故かは分からない。

 だが疑問について考える暇はなかった。

 

第一(ファースト)開戦戦型(マーク・ボレアス)!』

 

 重装を纏う騎士が空へと飛びあがったからだ。

 

 

 

 

 

 

『≪ペリドット≫―――≪光彩流転(カレイドスコープ)・エアリアルプリズム≫!』

 

 薄緑の魔法陣を通り、また姿を変える。

 鳥人族のような黒い袖無しと臍出しの戦闘着。

 首元には風に吹かれて棚引く濃い黄色のマフラー、露出した腕や腹筋にはそれぞれに流線形の刺青がある。

 青かった右目は、やはり薄緑に。

 変身と同時に空に上がり、

 

「拙い……!」

 

 しかし、気持ちは穏やかではない。

 先ほど戦っていた闘技場の跡地はまだよかった。

 上空の戦いもまだいい。

 だが、この後またどこか学園内の別の場所に降り立ったら良くない。 

 現在の学園は人々の避難場所になっており、そんなところで戦うわけにはいかないのだ。

 地上で戦えるとしたら、人々の避難所になっていない場所。

 幸いと言うべきか、来るまでに確認した限りでは屋内や地下の空間が使われているようなので、場所がないわけではない。

 それでも今の自分とアレスがやりすぎれば余波でどんな被害が出るのか。

 彼は分かっているのかいないのか。

 

「分からない君ではないでしょう……!」

 

「っ……!」

 

 一瞬、その声は迷いを見せ、

 

「――――俺にはもう、関係ない……!」

 

 次の瞬間、その迷いは切り捨てられ、両肩の砲口が光を放つ。

 赤雷砲撃を避けるのは、今の姿なら容易い。

 だがそうすれば地上に着弾することもある。

 なら、

 

「速く、高く、強く……!」

 

 飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「あれは――」

 

 学園に避難している誰かが、空を見上げて呟いた。

 薄緑の翼と黄色の尾を靡かせ、赤雷を砕いていく。

 彼らは少し前のマキナとアレスの戦いも見ていた。

 だが、上空で行われていたこと速度域、さらには一部目で追えたものもどちらも全身を覆う科装故に誰なのかは分からない。

 敵味方なのかも判断できず、怯えることしかできなかった。

 だが、

 

「―――生徒会長だ」

 

「ウィル・ストレイト……!」

 

 誰かがその名を呼び、空を見上げた。

 地上に向けられる光を砕き、学園全体を守っている彼の姿を。

 空において、緑は時に赤になり、青になりながら、落ちてくる赤雷の砲撃の全てをカバーする。

 

「おぉ……!」

 

 ある人は水の槍から守ってくれた少女を思い返した。

 ある人は劇場から逃がしてくれた少女を思い出した。

 ある人は絶望を燃やして夢に舞う少女を思い出した。

 誰もが知っている。

 彼女たちと彼の繋がりの深さ。

 もとより二年前に王都に彼が現れてから、その全系統保有ということで噂で持ち切りだったし、それ以降も話は終わらなかった。

 今年一年、街は彼の話で持ち切りだ。

 夏には聖国を救い、皇国の王女と婚約。

 秋には帝国の大貴族と友誼を結び、世界一の才女との婚約。

 冬には≪龍の都≫を守り、鳥人族代表とも婚約をした。

 栄光とロマンスに溢れ、学園での人望は言うまでもない。

 そのことを多くの人が知っている。

 だから、どんな状況なのか分からなくても信じれることがある。

 それは。

 

「彼が―――戦ってくれている」

 

 どうして? 

 そんなの簡単だ。

 

「僕たちを―――誰かを守るために……!」

 

 誰かが、或いは誰もが叫んだ瞬間に。

 赤が緑に追いつき、二つの色は大地へ落下した。

 

 

 

 

 落下した先は、学園にある時計塔の正面だった。

 開けた場所ではあるが故に、人影はない。

 だから止まらなかった。

 

「あぁ……そうだ! そうだよなぁ、アンタは!」

 

 ≪第二・進軍戦型≫と変化、一刀を握りしめながらもアレスは叫ぶ。

 

「なんのことですか!?」

 

 ウィルもまた、属性特化の姿ではない黒衣と虹刀を以て答えた。

 

「教えてください! どうして……どうして僕を憎むんですか!? 僕を苦手と思っていたのは知っています! なんなら嫌われているとも思っていました! だけど! だけどどうして!?」

 

 斬撃が高速で交わされ合う。

 アレスの一刀は正確にウィルの命を狙い、ウィルはアレスの動きを止めようと刀を振るう。

 属性変身をしていなくても、もはや技量は互角に近い。

 

「っ……!」

 

 その動きに、アレスは思わず歯噛みした。

 ちょっと前まで刀という武器での戦いなら、アレスが勝っていた。

 なのに、ほんの少しの時間ぶつかり合っただけでこれだ。

 己の動きを見取り、自分のものとする。

 ウィル・ストレイトにはそれができる。

 

「ぁ……のっ……!」

 

 喉から叫びが漏れそうになった。 

 胸の奥に溜めていた暗い感情。

 この一年ずっと蓋を閉じていた闇。

 言ってはいけないと、叫ぶにはあまりにもみっともないと思っていたものをなんとか抑え、

 

『――――言ってやると良い。お主はもはや、何も抑えなく良いのだからのぅ』

 

「―――どうしても何もあるか!」

 

 気づいた時には叫んでいた。

 

「アンタはそうだ! いつだって! どんな時だって! 何もかもを手に入れている!」

 

「何を―――」

 

「俺はずっと見て来たんだ!」

 

 握る刃には過剰な力がこもり、しかし≪偽神兵装≫がそれをアジャスト。

 最適な行動として、ウィルを殺害するために実行させる。

 身体はもう勝手に動き、故にアレスは全てを吐き出した。

 

「愛しい人と結ばれ!」

 

 春にアルマと。

 夏に御影と。

 秋にトリウィアと。

 冬にフォンと。

 

「敵とさえも、分かり合って!」

 

 バルマクとは奇妙にかみ合った会話をしたり。

 ディートハリスとは親戚として。

 シュークェとは彼の一族の恩人として。

 本来恋敵であるはずの彼らとも、最終的には良好な関係になっていた。

 

「多くの人がアンタを応援して!」

 

 学園の生徒も教師も。

 王都の人々も。

 ウィルを応援していたし、今まさに背中を押している。

 

「アンタはずっと―――光の中を歩んできた!」

 

「だから何だって言うんですか!」

 

「――――()()()()!」

 

 叫びは引き裂く様なものだった。

 言っていることが情けなさすぎるのに、体は止まらない。

 むしろ、赤雷は勢いを増していく。

 

「俺は違う! 俺は違う! 俺は……違うんだ! 誰も俺の背中なんて押してくれない!」

 

 世界に対する背反者の息子だから。

 それを自分は理解している。

 だから誰とも距離を取るようにした。

 

「俺のことを知れば、誰もが敵になる!」

 

 魔族に乗っ取られた英雄の息子だと知られたなら。

 ほんの少しだけ繋がりがある人にも、見放されるかもしれない。

 それが、ずっと怖かった。

 

「誰よりも、愛しい人とも―――彼女にも会えやしない……っ!

 

 ヴィーテフロア・アクシオス。

 ずっと離れていたけれど。

 幼い日々、彼女と過ごしたことは忘れていない。

 彼女と交わした約束を。

 彼女だけの騎士になるという誓いを。

 それはもう、果たされることはない。

 果たされてはいけないのだ。

 

『そうじゃのう。仕方ないのぅ。だったらどうするべきか今のお主には分かるじゃろう?』

 

「―――だからこの世界を、壊さないといけないんだ……!」

 

 自分は何を言っているのか。

 八つ当たりだ。

 あまりにも醜い嫉妬だ。

 ずっと心の奥底で淀んでいたものだ。

 それを今、止められない。

 

「だから……!」

 

 叫び、刀を振るう。

 刃が、稲妻が。

 アレス・オリンフォスの感情が、

 

「アンタのことがずっと嫌いだったんだ―――――!」

 

 ウィル・ストレイトへと到達した。

 

 

 

 

 

 

「――――!」

 

 ウィルがまず感じたのは、ぞっととするような冷たさだった。

 すぐにそれは熱になり、左鎖骨から右脇腹に刻まれた線から血が噴き出す。

 瞬間的な失血と呼吸の静止に、一瞬意識が遠くなりかけ、

 

「っ……ぁ……!」

 

 精神力で無理やり己の意識を繋ぎとめる。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

「っ……はっ……はっ……!」

 

 荒い息は、自分だけでは無かった。

 思わず膝をついてしまった自分とは違い、アレスは両足で立っているが呼吸は乱れ、科装のあちこちからは蒸気が噴出している。

 王都での戦闘が始まって数時間分の疲労が、一気に襲い掛かって来た。

 激痛と倦怠感はこれまで感じたものの中で、最も強烈だ。

 今すぐにでも倒れたくなる。

 だけど、そんなことはできない。

 

「っ……それが……君の、本音ですか……?」

 

 やっと彼の言葉を聞けたから。

 

「あぁそうだ! アンタのことが大嫌いだ!」

 

 赤毛の少年は、これまで見たことのない様子だった。

 あまりにも荒々しく。

 あまりにも悲痛に。

 

「何もかも、俺が手に入れなかったものを持っている! アンタはずっと自由で、俺は運命に縛られて! 何も手に入れられなかった! なぁ、おい。分かるかよ、アンタには!」

 

 見つめても、彼の目は隠されて見えなかった。

 だけど。

 ウィルはまるで、彼が泣き叫んでいる子供のように見えた。

 

「何もない自分が……アンタが何もかも手にするのを見せつけられるのを! 打ちのめされた! 見せつけられた! 俺じゃあダメだって! 俺はアンタには絶対に届かないんだって! 俺には……俺には……彼女と会えないんだって! アンタがいる限り、俺はずっと負け犬なんだって」

 

「…………だから、僕を殺すんですか?」

 

「そうだ!」

 

 アレスは表情を歪め叫ぶ。

 

「――――」

 

 対して、ウィルは顔を落とし、ただ一度息を吸った。

 長く吐き出し、顔を上げ、

 

「それでも――――僕は君のことが好きですよ」

 

 首を小さく傾けて、笑いかけた。

 

「――――」

 

「君が僕のことを嫌いでも、僕が君のことを好きだということも、友人だと思っていることも、大切な後輩であることは何一つ変わりません」

 

 ふらつきながらも立ち上がる。

 止まるわけにはいかないから。

 

「だから、君を止めるよ―――()()()

 

「…………せん、ぱい」

 

「うん。僕は君の先輩だからね」

 

 彼の話は聞けた。

 悪意を以て吐き出されたものだとしても、彼の言葉であることは変わりない。

 だったら、今度は自分の番だ。

 我ながら悪い癖だとは思うけれど

 彼が止まれないのと同じように、自分だって止まれない。

 

「我がままだけどね」

 

 苦笑し、

 

「僕の幸福には、君もいて欲しいんだ。だから、うん。乱暴な言い方だけど……張り倒してでも、君を止めるよ」

 

「…………俺は、アンタを殺す」

 

「ダメだよ。殺させないし、殺されない」

 

「アンタの幸福に、俺はいない」

 

「それを決めるのは僕だから」

 

「アンタの近くにいたくないんだ」

 

「僕は君にいて欲しいんだ」

 

「俺がこんなことをしても?」

 

「マキナさんには後で謝りに行こう」

 

「あいつも嫌いだ」

 

「えーと……それは……悪い人じゃないよ?」

 

「鬱陶しいだろ」

 

「まぁそういう時があるかもだけど。頼りになるでしょ」

 

「……アンタには、もう沢山の人がいる」

 

「君も必要だ」

 

「俺に必要なのは、一人だけだ」

 

「なら、その人も一緒に」

 

「………………話し合おうとか最初に言ったが、聞く気ないだろ」

 

「話し合うなら、ここじゃなかったね」

 

 きっと。

 相応しい場所がある。

 それは御影やトリウィア、フォンにアルマ、パールやイザベラもいる場所で。

 彼が淹れてくれたお茶なんかを飲みながらがいい。

 

「だから今は、全部ぶつけて良い。僕は全部受け止めるよ」

 

 ウィルは笑って、右手を横に突き出し、

 

「――――あぁ、本当に。アンタのそういう所が大嫌いだ」

 

 アレスは吐き捨てながら、刀を軽く振って。

 二人は自らの力を行使する。

 

『アッセンブル―――――()()()()()()()()()()!』

 

 ウィルが右手を握りしめた瞬間、周囲に三枚の魔法陣が発生。

 赤、青、緑。

 三方向から彼を包み、光に包まれる。

 

『≪一意戦神(マルス・ディスティニー)≫――――――』

 

 アレスが自らの神の名を告げた瞬間、纏うフレームの全てが分離して周囲に展開。

 赤黒い稲妻で繋がり合い、雷光が迸った。

 そして。

 

『―――――≪トリニティダイヤ≫ッッ!』

 

『≪第三(サード)決戦戦型(テレフォテウス)≫――――!』

 

 ウィル・ストレイトとアレス・オリンフォスは、今の己における最高の姿を持って相対した。

 

「きっと、君のことが好きなのは僕だけじゃないよ」

 

 ウィルはこれまでとは違い白を纏っていた。

 握る刀は変わらず、戦闘装束だった黒の胴着の色違いだが、肩幕は腰に広がる短いマントとして移動。

 白の衣には所々に赤、青、緑の金属パーツが張り巡らされている。

 大きな違いは彼の背後だった。

 紋様剣だ。

 燃える炎のような。

 深い水の流れのような。

 羽ばたく翼のような。

 それらを模した三色三種の紋様剣が片翼のように左肩の後ろに広がっている。

 それまでの変身は単一属性の特化だった。

 これは違う。

 御影の炎、トリウィアの水、フォンの風。

 三つの姿、三つの属性を融合させた今の彼にとって最大最高。

 

「アンタは惚気ないと戦えないのか?」

 

 アレスはこれまでと同じ黒を纏っていた。

 変化は体に装着されたフレームの大半が外され、軽装になっていたこと。

 両手両足や関節部保護の最低限の装甲以外は体に張り付く様なアンダースーツであり、両腰には機械刀を佩いている。

 大きな違いは二つ。

 目元を覆っていたバイザーが外れ、赤い瞳が露わになっていたこと。 

 そして彼の背後二本三対、計六本のフレームが翼のように広がっていたことだ。

 赤雷の双翼。

 それぞれ左右三本同士の間には薄い光の膜が張られて、スパークを弾けさせていた。

 

「まだ、足りないくらいだけどね」

 

「……そう言う所も嫌いだ」

 

 やっと二人の視線が交わる。

 黒は真っすぐに見据え、赤はうんざりするように見返す。

 ウィルは苦笑し、刀を構えた。

 アレスは何も言わず、右刀の柄に手を添えた。

 

「それじゃあ」 

 

「あぁ?」

 

「もっと君のことを教えて欲しい」

 

「言ったら何か変わるのか?」

 

「君がすっきりするよ、多分」

 

「…………あぁもう、勝手な人だなアンタは」

 

「よく言われる」

 

「ちょっとは直す気になれ――――!」

 

 そうして。

 二人の少年は、己が全ての激突を開始した。

 




ウィル
君が嫌いでも僕は君のこと好きですよ

アレス
そういう所だぞほんと


GRADE2はウィルが多くのものを手に入れる物語でもありました。
同時に、アレスがそれを影から見せつけられている物語でもありました。

次回、W最強形態バトルです

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ウィル・ストレイト&アレス・オリンフォス――ボーイ・フェイス・ボーイーー

 

「――――すぅ」

 

 アレスは深く息を吸い、体に染みついた動きを実行した。

 右手で刀の鞘を、左手で柄を握る。右足は後ろに下げ、左膝は沈め、体もそれに応じて深く屈める。

 飛び出すことのみを前提とした抜刀体勢。

 アレスにとっての基本姿勢。

 この状態に雷属性の加速魔法をかけて斬撃を放つのが彼の基礎にして奥義。

 だが、今はそれだけではない。

 全身の軽科装と背後のフレームによる六枚翼が赤雷と共に鳴動。

 アレスの疾走を補佐する。

 息を吐き、

 

「―――ハ」

 

 踏み出した瞬間、視界から色が去った。

 魔法と科学により体感速度、身体強化、移動補正、それら全てが極限域まで強化。

 神速を体現し、それに対応した動きを実現するために、色覚を捨てるほどの集中力を発揮しているのだ。

 行った。

 行って、

 

「―――!?」

 

 赤い稲光の一閃は、既にウィルの肩を斬りつけていた。

 彼の背後、後方五メートル程度の距離で静止して再びウィルへと体を向ける。

 瞬発から疾走斬撃、反転までコンマ一秒にも満たない。

 ウィルでさえも反応できない動きは、当然のように止まらなかった。

 流れる様に右刀を納刀、左刀での抜刀体勢を取る。

 全身で稲妻を宿し、

 

「――――≪纏雷縮地≫」

 

 名の通りに。

 雷光を纏い、地の道を縮めた。

 やることは変わらない。

 違うのは、向かう先がウィルの背だということだ。

 色を失った世界では、まだ肩から噴き出した真っ黒な雫が宙を舞っている。

 確かに入ったが、浅かった。

 第三形態に移行し、跳ね上がった速度故に、僅かに斬線がブレたせいだろう。 

 次は通す。

 

「シッ―――!」

 

 振るう。

 右から左上。

 確実にウィルの脊椎を断ち切る軌跡。

 抜刀と斬撃の刹那には、思考の余地は無い。

 刃は振るわれ、

 

「≪ペリドット≫!」

 

「―――!?」

 

 色彩を失ったはずの世界に、緑が吹き抜けた。

 紋様剣だ。

 それは軽やかに宙を駆け、稲妻の通り道に割り込む。

 光の線で剣の形を取っているだけのそれは、確かに斬撃と拮抗。

 それが何なのか、アレスはすぐに理解した。

 

「フォンさんのか……!」

 

 ≪偽神兵装≫で強化されたアレスの速度域に追いついてくる風の紋様剣。

 もとより、ウィルの属性特化変身はそれぞれが御影やトリウィア、フォンを模したもの。

 その発展型というのなら、その剣がフォンの力を象徴していても不思議ではない。

 

「っ――!」

 

 反撃として右刀を逆手で握り、即座に刀身を射出した。

 ≪纏雷縮地≫による上乗せが無くても、鞘の内部機構に電磁力による加速がデフォルトで備わっている。

 故にその気になれば体勢が崩れていなくても、その射出力のみでも高速斬撃が可能だ。

 

「――――その翼に、追い付けないものは無く」

 

 だが、それすらも紋様剣は反応する。

 剣のような、翼のような鮮やかな緑の軌跡。

 まだアレスの左刀が、直前の拮抗から立て直しきれていないほど僅かな間にも間に合わせていた。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に背後にステップ。

 まだウィル自身は振り返ってすらいない。

 紋様剣が抜刀斬撃に追いつくなら、それを上回る速度と密度で攻撃をすればいいだけ。

 判断し。

 

「――――≪サファイア≫」

 

 軌跡が彩りを描くのを見た。

 青だ。

 速度が速いわけではない。

 振り返ろうとしているウィルの肩越しに、青の紋様剣が遅いとさえ言っていいほどの速度でこちらに切っ先を向けた。

 向けられたと思った瞬間、閃光が放たれた。

 

「そうなるか……!」

 

 考えるまでもない。

 トリウィアを模したものであり、彼女よろしく遠距離攻撃を担うもの。

 閃光に見えたのは青く輝く高速の水流だ。

 だが、今のアレスからすれば避けるのは容易い。

 右に一歩分だけ体をズラすことで回避し、

 

「――――その瞳に、見通せぬものは無く」 

 

 水閃が、()()()()

 

「あぁ!?」

 

 真っすぐに飛んでいたはずの水閃がほぼ直角にアレスを追ってきた。

 驚いて思わず、さらに背後に跳んだらまた軌道を曲げて追尾してくる。

 

「この追尾力……!」

 

 流石に刀で切り払いながら、思ったことをそのまま口にした、

 

「帝国学会で伝説になったという素人質問事変の執拗さを再現したのか……!?」

 

「あの探求心がトリィの魅力だよ……!」

 

「限度があるだろうが!」

 

 言い返しつつ、赤雷を纏う。

 ≪纏雷縮地≫に追いつく速度の緑。

 必中と見てもいい追尾の青。

 そうなればもう一色が何なのかは考えるまでもない。

 

「天津院先輩……!」

 

「流石、分かってるね!」

 

「分からないわけあるか! それを言ったらスぺイシアさんの分どうしたんだよ!」

 

「≪ルビー≫―――――ッッッ!」

 

「あ! 誤魔化すなよ!」

 

 やっと振り返ったウィルは右手に虹刀を、左手に赤の紋様剣を握っていた。

 

「っまずい……!」

 

 アレスは即座の判断を敢行した。

 位相空間(ハンマースペース)から予備フレームを二本射出。十字に組み合わせながら眼前に展開する。

 対して、赤の剣は切っ先を地面に掠めながら火花を散らせ、

 

「その炎に燃やせぬものは無し……!」

 

 炎閃が突っ走った。

 

 

 

 

 

 アレスが展開した十字フレームは、炎熱斬撃が放たれた時には赤雷の盾となっていた。

 それ自体が触れたものを焼き焦がす攻性防御は、

 

「っ……バ火力だと思ったぞ……!」

 

 一瞬で蒸発した。

 炎熱斬撃は、二段構えだった。

 まず振り上げの一閃が盾に走り、それだけでは盾には大したダメージにはならなかった。

 問題はその後。

 刻まれた斬撃痕が爆発を起こしたのだ。

 数メートルの火柱が上がり、フレームの盾は破砕。周囲に衝撃波をまき散らした。

 

「ふぅっ……!」

 

 アレス自身は盾を展開した時には≪纏雷縮地≫で真横に数メートル移動していたから爆発には巻き込まれていなかった。

 その上で、止まらない。

 広がる爆風の前に再移動、背のフレームウィングで衝撃を受け止めながら加速。

 三色の紋様剣の能力は把握できた。

 その上で、やることは変わらない。

 雷を纏い、駆けるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 アレスに対する迎撃は最早ウィルの意思を超えて行われている。

 ≪トリニティダイヤ≫は≪ルビー≫、≪サファイア≫、≪ペリドット≫の収束強化形態だ。

 今のウィル自身に特別な能力が備わっているわけではない。

 各形態の特化した身体能力をそれぞれに同時に発動し、現在のウィルにとって最高値の強化を得ているのだ。

 膂力、思考速度、速力。

 それぞれが極限まで高められている。

 加えて三色の紋様剣。

 防御破壊、必中追尾、最速反応。

 通常時の≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫による魔法行使は封印されるが、限界強化の身体能力と事象干渉まで至りかけている紋様剣があれば十分でもあるだろう。

 加えて、ウィル自身の長所である目の良さは当然据え置き。

 間違いなく、今のウィル・ストレイトにとって最強形態と言っていい。

 だが、

 

「速い……!」

 

 爆発斬撃を回避され、さらには駆けだしたアレスに思う。

 フォンのような目にも止まらぬ、というわけではない。

 彼女とは違い、赤雷を纏うが故に移動の残滓が必ず残る。

 だが、それだけだ。

 ウィルの目をしてでも、追いきれず、気づいた時には赤い稲光が嘶くだけ。

 

「だからこそ、頼むよ……!」

 

 神速には神速を。

 アレスなら真っすぐに向かってくると信じて、風の紋様剣を走らせる。

 

「!!」

 

 気づいた時には、眼前でアレスと風紋剣がぶつかり合っていた。

 やはり今はまだ目で追いきれない。

 それでもやりようはある。

 故に、虹刀を握る力を込めて前に出ようとし、

 

「――――!?」

 

 見た。

 アレスが取った二つの動きを。

 一つは振りぬいた左の刀を手放したということ。

 そしてもう一つは、

 

「翼……!?」

 

「来い……!」

 

 言った通りのことだ。

 背に展開されていた六枚のフレームウィング。

 その一つがアレスの手に飛来し収まり―――雷刃が射出された。

 

「抜刀……!」

 

「トリィ!」

 

 叫んでから本人の名前を呼んでしまったと気づいたが、そっちの方がテンションが上がる説もあるので良しとする。

 実際、水紋剣は叫びに応えてくれた。

 水閃が放たれ、抜刀と同時に着弾。

 握られていた刃を弾き飛ばす。

 凌ぎはしたが、問題は解決されたわけではない。

 

「その翼も、君の刀……!?」

 

「素直に教える馬鹿がいるか!?」

 

「僕は言えるよ! 赤は御影、青はトリィ、緑はフォンの!」

 

「さっき種明かししたしそれは基本的に説明になってないだろうが!」

 

 一瞬納得しかけたが、アレスにはちゃんと伝わっているのでこれは問題は無いだろう。

 問題はアレスのフレームウィングだ。

 ウィングの根元が柄になっていて、そこから刃が射出された。

 つまり、それ自体が抜刀機構となっている。

 腰の二刀を合わせ、合計八刀流。

 それは、

 

「マキナさんが喜びそうじゃん……!」

 

「風評被害で訴えるぞ―――!」

 

 

 

 

 

 

 アレスは八刀の内、七を切り捨てた。

 フレームウィングから発生する刃は稲妻が刀の形に固定化されたもので重さはほとんど無く、ウィングの柄自体も非常に軽量。

 さらにはどんな体勢でも背から手中に収まってくれる。

 結果的に斬撃を繰り出し柄を放棄。自律飛行で自動納刀されることで、

 

「食らい尽くせ……!」

 

 一瞬の内に八撃を繰り出すことが可能になる。

 だがその内、順に繰り出す七撃は、ウィルの紋様剣によって阻まれる。

 

「っつ……!」

 

 最初の三撃は風紋剣に撃ち落とされた。

 次の二撃は鋭角軌道を描く水紋剣の狙撃によって雷刃を撃ち抜かれている。

 続く一撃は炎紋剣の斬撃が刻まれ、爆発する前に雷刃自体を消失させることで爆撃を回避。

 風紋剣の速度は今のアレスでも意味が分からない速度域で最速斬撃三回でやっと対処できる。

 水紋剣の狙撃にしても異常な精度でこちらの動きを先読みしているのか抜刀しようと思った時には刃に着弾していた。

 特に炎紋剣は完全に一手分の攻撃を潰されているが、まともに受ければ耐えるのは難しい。

 故にこそ、

 

「一刀、専心……!」

 

 最後の一太刀を以て、ウィルに届かせる。

 元より唯一つのことに全てを懸けるのはアレスにとっては当然のことだ。

 むしろこの他の斬撃を迎撃されることを前提とできるが故に、さらに速度と鋭さを上乗せできる。

 なのに、

 

「ここに来て、まだ……!」

 

「当然……!」

 

 届いていない。

 ウィルの反応速度が上がっている。

 音速の数倍の雷閃に、虹刀を確実に合わせ撃ちあってくる。

 

「ちっ……!」

 

 つい先ほどもアレスに追いつくように飛躍的に剣術の技量を上げて来たが同じことが起きている。

 そして、改めて思うことは、

 

「嫌味か、アンタそれ!?」

 

「ごめん、もう何を指しているのか全然分かんないや!」

 

 彼の剣術は、あまりにも正道が過ぎる。

 アレスの場合であれば、極端な前傾姿勢から移動を兼ねた抜刀剣術。

 父から教わった≪オリンフォス式戦神術≫も所謂必殺技として会得しているが、それも含めて通常の剣術体系から見れば邪道と言うか一極特化しすぎたものだ。

 対して、ウィルのそれは基本の形に恐ろしく忠実だ。

 決められた形を、アレスの攻撃に応じて繰り出す。

 言葉にすれば簡単だが、実行することは簡単ではない。

 三流は型通りに動くのがやっと。

 二流は型を正しく出せるようになる。

 一流であれば状況に応じて最適な型を使いこなし、咄嗟のアドリブすら繰り出せる。

 そういう意味ではウィルは間違いなく一流に到達していた。

 

「お」

 

 どんな角度、姿勢から最速抜刀を射出しても確実に彼は刀を合わせてくる。

 故に、アレスはその完璧を崩そうと速度を上げ、

 

「おぉ―――」

 

 ウィルもまたそれ追い付き、

 

「おぉ……!」

 

 激突は苛烈さを増して行った。

 

 

 

 

 

 

 二人は最早、大きく移動することは無かった。

 互いに位置を入れ替え、左右にスキッドすることはあってもそれだけ。

 正面から互いにぶつかり合うから。

 

「―――アレス!」

 

 三色の紋様剣を舞わせながら虹の刀を振るう少年が叫んだ。

 

「一つだけ聞くよ!」

 

「あぁ!?」

 

 赤黒の稲妻を纏い八刀を射出しする少年は叫び返し、

 

「君は、楽しくなかったの!?」

 

「―――」

 

 赤い目が一瞬見開かれた。

 だが≪偽神兵装≫による行動補助は一連の動きを損なわせず、

 

「みんなで色々なことをした! 確かに巻き込んじゃったのは否めないけど!」

 

 それでも少年は思いを口にする。

 

「夏には一緒に御影を助けに行った!」

 

 赤は力強く、

 

「秋にはディートさんと僕とで王都のあちこち観光した!」

 

 青は鋭く、

 

「冬には≪龍の都≫を守った!」

 

 緑は速く、

 

「この春には生徒会に入ってくれた!」

 

 虹は―――真っすぐに。

 

「みんなで君の淹れてくれたお茶を飲む時間が、僕にとって幸福だったんだ!」

 

「それはアンタたちに巻き込まれたせいだ!」

 

 稲妻が抗うように射出し、

 

「何もかも、俺の意思じゃない!」

 

 それは七度繰り返され、

 

「流されるままに、惰性でそうしただけのことだ!」

 

 八度目に少年の命を狙い、

 

「確かに君が流されやすいのは否定できないけど!」

 

「アンタってやつは―――――!」

 

 虹と雷が激突し、

 

「でも」

 

 視線が混じり合い、

 

「何もかも、最後には君自身が選択したはずだろう!?」

 

「――――っ」

 

 初めて、稲妻が押し負け、

 

「君はそれを意思の弱さだと思っているみたいだけど、僕は全く思わない!」

 

 だってと、虹が駆け、

 

「それは、君の優しさだ!」

 

「こいつ……!」

 

「なんだかんだと付き合ってくれるの、本当に嫌だったら無理でしょ!?」

 

「―――」

 

 言葉と共に虹の一撃が打ち込まれ、

 

「―――――ふざけんなこの野郎!」

 

 キレ気味の反撃を打ち出された。

 

 

 

 

 

 

「アンタは、アンタはほんとにさぁ! 開き直りか!? 自分たちは好き勝手やりたいから貧乏くじを引けってか!? 我がままにも過ぎるだろ!?」

 

「君もそれを楽しんでるって言ってるんだよ!」

 

「そういうのはな! 我がまましてる側が言ったらダメなんだろ!」

 

「確かに自分で言ってちょっと思ったけど仕方ないじゃん! 意地張ってるし!」

 

「張ってるわけあるか! あの空間俺にとっては地獄だったぞ!?」

 

「具体的に! 直せるなら直すから!」

 

「良いのか!?」

 

「――――とりあえず一人一つで!」

 

「まずアンタが嫌いだ!」

 

「よし、一端僕は置いておこう!」

 

「畜生! ムカつく! なら言うが! 天津院先輩はちょっと覇気強すぎるだろ!」

 

「良いね! そこが御影の魅力!」

 

「くそ! あの人に悪口はちょっと思いつかない! フロネシス先輩は無表情でなんか唐突に変なことするのが怖い!」

 

「意外性を大事にしてるからね!」

 

「フォンさんはたまに冷静になって毒吐くのはなんなんだ!」

 

「周りをよく見てるってことさ!」

 

「トリシラ先輩はちょいちょい問題をスルーして俺に押し付けてくる節がある!」

 

「君を信頼してるってことだね!」

 

「イザベラ先輩はそもそもほとんど会話が通じないし喋り方がだいぶ変だろあれ! 誰か直してやれよ!」

 

「エスカ君に期待しよう!」

 

「スぺイシアさんは……スぺイシアさんもまぁいいだろう!」

 

「アルマさんは最高だからね! あ、ちょっと待ってアレス!」

 

「あぁ!?」

 

「生徒会に対する文句、あんまりないんじゃない!? ほら、やっぱり君は生徒会のみんなが大好きってわけ!」

 

「アンタが嫌いって話だーーーーー!」

 

 

 

 

 

 あぁくそ、何をやっているのだろう。

 剣撃を交わし合いながらアレスは思った。

 変な話になっている。

 変な話をしながらも戦いは止まっていないのに。

 これじゃあまるで。

 

「あぁ」

 

 思っていることを全部ぶちまけているのに。

 変な話に付き合わされて。

 いつの間にかそれに乗っかってしまって。

 それじゃあ、いつもと変わらない。

 

「ははっ」

 

 ウィルは、笑っていた。

 度重なる激突は直撃は無くても僅かに掠めた刃により、傷は増えている。

 血を流しながらも彼は楽しそうに笑っていた。

 いつもと違うのは、それかもしれない。

 首を傾けながら控えめにほほ笑むのはよく見たけれど。

 無邪気とさえ言っていい彼の笑顔を見るのは初めてだ。

 

「―――楽しいか?」

 

「うん」

 

 問いかけに、ウィルは頷いて、

 

「形はどうあれ、君の言葉を聞けているから。やっと君の本心を聞けたから。君が僕を嫌いでも、君は僕の大好きなものを好きでいてくれているから。だから、嬉しいし、楽しいよ」

 

 そんなことを言う。

 

「あと僕、こういう喧嘩したことなかったから。ちょっと楽しいよ」

 

「俺は今、アンタを殺そうとしてるんだが」

 

「よく考えれば御影とは最初に≪究極魔法≫撃たれたし、トリィにも撃たれた上でだまし討ちでマジバトルしたから、あんまり気にしなくていい気もしてきた」

 

「なんだよ」

 

 どうかしてる。

 あぁくそ。

 

「――――はっ。ほんとに、頭おかしいよ」

 

「あ、笑ったね」

 

「……あぁ、嘲笑ってやったよ」

 

「あはは。でも、笑った」

 

「うるさいなぁ」

 

 はっ、と声が漏れた。

 ほんとにどうかしてる。

 ウィル・ストレイトのこういう所が嫌いだ。

 

『――――』

 

 遠く、どこかで誰の声が聞こえた気がした。

 でも、今となってはもうそれは聞こえていない。

 何もかも己の全ては、目の前の彼に向けられているから。

 

 

 

 

 

 

 ウィルとアレスは自然と距離を開け、向き合った。

 息は上がり、疲弊は濃く、体中の至る所に浅くも傷がある。

 それでも。

 

「……今更止まらないだろ」

 

「うん、それでいいよ」

 

 ウィルは首を小さく傾けて微笑んだ。

 

「君の全部、僕にぶつけてくれると嬉しい」

 

「――――あぁ、くそ」

 

 アレスは小さく呻いた。

 彼は息を吐き、空を見上げて。

 真っすぐに視線を向けた。

 

「アンタが嫌いだ、ウィル・ストレイト」

 

「僕は君が好きだよ、アレス・オリンフォス」

 

 そして。

 

「――――この虹に、通せぬ意思は無く」

 

 ウィルは虹刀を振り上げる。

 その刀身に三色の紋様剣が重なり、彼の背には魔法陣が展開。

 刀身に刻まれた紋様から極虹が光の奔流となって溢れ出す。

 繰り出すのは三属性収束斬撃砲撃。

 

「――――我流奥義」

 

 アレスは右腰の刀を握り、構える。

 背後の六翼が赤雷を放出。フレームウィング同士を循環し。

 大気を焦がし、空気を震わせながら右の鞘の中に充填されていく。

 繰り出すのは雷撃収束抜刀斬撃。

 互いに全てを振り絞った最後の必殺。

 

「あはは」

 

「はっ」

 

 一瞬の空白。

 刹那の間に見たお互いは、何故か笑って合っていて、

 

「≪アルコ・イリス≫―――――――!」

 

「≪雷霆一閃≫――――――!」

 

 極虹と雷霆が放たれた。

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 アレスは空を見上げていた。

 ≪偽神兵装≫は解除され、黒の制服姿。

 砕けた地面に大の字になって倒れている。

 身体は、まともに動かなかった。

 

「いやぁ……疲れたねぇ」

 

 頭上には黒の胴着と赤の肩幕姿のウィルがいる。

 逆袈裟に斬撃痕はあるが浅く、彼は立っている。

 つまりは、それが勝敗であり、決着だった。

 

「――――俺の負けか」

 

 自分には大きな傷はない。

 ウィルの放った極虹斬撃は、≪偽神兵装≫のみを消し飛ばし、しかしアレス自身にダメージを追わせなかったのだ。

 

「……なぁ」

 

「うん?」

 

「………………俺は」

 

 何を言うべきか、迷った。

 恨み事か、負け惜しみか。

 よく分らなくて。

 

「俺は……」

 

 そう、アレス・オリンフォスは。

 

「―――――アンタが、羨ましかったんだ」

 

 大切な人に囲まれている彼が。

 みんなから愛されている彼が。

 大事な物を大事にできる彼が。

 羨ましかったのだ。

 

「…………そっか」

 

 困ったように、彼は首を傾けた。

 彼もまた何を言うのか迷った様子で、

 

「はい」

 

 結局、何も言わずにこちらに手を伸ばした。

 ここまでしたのに。

 彼を殺そうとしたのに。

 それでもまだ、ウィルはアレスを見放さなかった。

 何故か、なんて考えるまでもない。

 彼が言っていた。

 ウィル・ストレイトにとってアレス・オリンフォスは彼の幸福に含まれているのだから。

 

「…………あぁ、くそ。アンタって人はほんとに」

 

 本当にどうかしてる。

 そんなことを思って、彼の手を取ろうとして、

 

「―――――――締め切り破壊! シャコパァーンチ!」

 

「だっ!?」

 

 突然の拳が、横からウィルの顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 アレスはウィルの体が中空で三回転半して地面に落ちたのを見た。

 そして、それを為したのは、

 

「成敗!」

 

「…………トォンさん?」

 

 赤茶色の髪から白い触覚を二本生やし、両手を白い甲殻で覆ったシャコ系魚人族の少女。

 アレスのクラスメイトであるトォンだ。

 加えて駆け寄ってきたのは彼女だけではない。

 

「オリンフォス君、大丈夫!?」

 

「うがっ! おいパラディウム! 俺を捨てるな!」

 

 茶髪に制服姿の少女はやはりクラスメイトのアイネ・パラディウムであり、どうやら彼女に肩を借りていたようだが今まさに捨てられたらしいエスカ・リーリオもいる。

 エスカに関しては今のアレスよりも満身創痍と言った様子だ。

 

「凄い傷……! 一体どんな極悪人にやられたの!?」

 

「安心なさい、アイネ……その極悪人は今この私のシャコパンチで張り倒しましたわ。悪・必・打!」

 

「…………なぁ、おいトォン」

 

「なんですの?」

 

「…………お前が張り倒したの、生徒会長じゃね?」

 

「なんですの!?」

 

「いやぁ…………良いパンチでしたよ……トォンさん……えぇ……良い感じに顎に入りました……」

 

 立ち上がったウィルはプルプルと膝を震わせて、足取りも怪しい。

 それを見て、トォンも、アイネも、エスカも首を傾げ、

 

「つまり――――生徒会長が極悪人でしたの!?」

 

「そんな……!」

 

「マジかよ」

 

「いやいやいやいや! 三人とも、落ち着いてくださいよ!」

 

 何故かアレスが立ち上がってウィルを庇うことになった。

 三人とも怪訝そう―――いや、トォンだけはやたら速い拳速のシャドーボクシングをしている。

 

「逆でしょ逆! 疑われるのは僕の方では!」

 

「……? どうしましたの、オリンフォスさん。生徒会長に攻撃されたんでしょう?」

 

「それは! ……まあそうですけども」

 

「やはり! 避難場所になってる学園で派手な戦闘してるのがいたのでどんな奴かと思えば! まさか生徒会長だったとは……! 許せませんわ! 新刊は闇落ち生徒会長で行きます!」

 

「いやいやいや!」

 

「え? じゃあオリンフォス君が闇落ちしたの?」

 

「それは! ……まぁそうですけども」

 

「マジかよ。まぁお前ストレス溜まってそうだったもんな」

 

「それは! ……まぁそうですけども。主に後ろの人のせいで……」

 

「あっ、そこは追加するんだ……」

 

 後ろがやかましい。

 それは本当だ。

 いや、それにしたって。

 困惑するしかない。

 

「…………なんで、この人と僕で、僕の味方みたいなことを?」

 

「はぁ?」

 

 三人は、三人とも同じように眉を顰め、

 

「友達だからですわ」

 

「友達だからだよ?」

 

「ダチだからだろ。そんなん言わせんなよ」

 

 同じことを、当たり前の様に言い放った。

 

「―――――」

 

 意味が、分からない。

 何を言っているんだろう。

 ウィル・ストレイトとアレス・オリンフォスがいて、後者を選ぶなんて。

 

「…………あははっ」

 

「何笑ってるんだよアンタ」

 

「いやぁ……君、纏めると自分には友達がいないみたいなこと言ってたけど」

 

「雑な纏め方するな……!」

 

「でも―――いるじゃん。君の味方」

 

「―――――」

 

 息が、詰まった。

 頭の中に真っ白になる。

 

「……? オリンフォス君、そんなこと言ってたの?」

 

「まぁ! そういうムーブですの!? 確かにオリンフォス君は影が似合う男なのでそういう葛藤描写は取り入れたいと思っていましたが! 最終的にはクラスみんなに囲まれて幸せなピースをしてエンディングのつもりですわよ?」

 

「そこまでにしておけよ。なんかそういう感じじゃないっぽいぞ」

 

「――――」

 

 何かを言おうとして、失敗した。

 疲労とは別の要因で、膝から力が抜けて崩れ落ちる。

 

「大事なものってさ」

 

 隣にウィルが座る。

 

「大事だって受け入れるの、難しいよね。僕も去年はそうだったし」

 

「……アンタも?」

 

「うん」

 

 彼は苦笑し、

 

「まぁ僕も色々意地張ったり壁作ったりしてて……今思い返すと恥ずかしいや」

 

「………………今は自分を恥じるとこないのか?」

 

「全くないね!」

 

 顔を腫らしながら、彼は胸を張っていた。

 

「…………はっ」

 

 頬が、勝手に緩む。

 三人の友達が映っている視界は、自然と溢れた涙で滲んで、

 

「やっぱり―――あんたのこと、嫌いだよ」

 

 

 

 

 

 




ウィル
多分、誰かと喧嘩したのも初めてだったのでしょう
地味に剣術スキルが爆上がりした

アレス
変態雷速八刀流。
アンタのことが嫌いです(強調


トォン
アンタのことが嫌い(大好き)です!?!??!?!?!!?




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アレス・オリンフォス――???―――

クリスマス!
ということは……


 

「―――――全く、斯様に杜撰な顛末とはのぅ」

 

 その声は、アレスの影から放たれた。

 そして声と共に、

 

「!?」

 

 ウィル、エスカ、アイネ、トォン。 

 四人の影が何条もの帯状に伸び、体を拘束した。

 

「これはっ―――!」

 

 咄嗟にウィルは右腕に魔法陣を展開しかけ、

 

「お主は良いが、あちらの三人がどうなるかのぉ」

 

「……!」

 

 影の言葉に動けなくなる。

 

「っ…………母さん!」

 

「あぁ、無論妾じゃて」

 

 アレスが叫び、応えはやはり影から。

 ずぶりと、影は浮かび上がり、不定形のそれは人の形を得ていく。

 喪服のような、ベールで顔を隠した黒い女。

 ヘラ。 

 或いは、ロムレス共和国首相、ルキア・オクタヴィアス。

 老人のようにも少女のようにも見える彼女は、

 

「…………残念だったのぅ」

 

 労うように息を吐いた。

 

「妾の声も途中から聞こえておらなんだな? 全く……ここまでお主が熱くなるとは思わなんだ」

 

「っ……」

 

「まぁ、良い」

 

 繰り返されるため息。

 ベールの奥で、彼女は優し気に微笑んだ。

 

「母、さん……」

 

「あぁ、言ったじゃろう。妾じゃ。お主の母じゃ」

 

 声には慈愛すら満ちていた。

 

「お主の夢を叶える為に力を貸す母じゃ。会いたいのであろう? 彼女に」

 

「それ、は」

 

()()()()

 

 言葉に力が籠った。

 その圧にアレスも、拘束されている四人も息を飲む。

 

「愛しい人に会いたいがために、全てを犠牲にするという気持ちが妾には分かる。だからこそ、妾はお主を選んだのじゃから」

 

 ヘラはアレスへと手を伸ばした。

 優しく、頬を撫でる。

 まさしく母が子供を愛でるように。

 

「だから」

 

 彼女は言う。

 

「―――――あの四人は殺すが良い」

 

「―――」

 

「アレス!」

 

「静かにせよ」

 

「んぐっ……!」

 

 ウィルは声を上げようとしたが、影帯が口に塞がれた。

 ヘラはそれには構わず、

 

「さぁ、アレス。――――あの子に会いたいのじゃろう?」

 

「――――ぁ」

 

 アレスは息を飲んだ。

 身体が震えて。

 そして。

 

 

 

 

 

 

「―――――できません」

 

 ぱしりと、渇いた音がした。

 それはアレスがヘラの頬を弾いた音だった。

 

「…………いいのかのぅ?」

 

 何が、とは彼女は言わなかった。

 けれどアレスには分かっている。

 

「……良いわけじゃ、ない」

 

 身体の震えは止まらなかったし、声も同じように震えた。

 自分の感情が分からなかった。

 彼女に、会いたいとは思う。

 彼女への誓いを果たしたいと思う。

 だけど。

 

「…………友達が、できたんだ」

 

 口にした言葉は、随分と陳腐なものだった。

 エスカが、アイネが、トォンが息を飲む。

 

「それに」

 

 アレスはウィルを見た。

 彼は口を塞がれ、口元は見えず動けなかったけれど。

 優しく微笑み、アレスのことを見返していた。

 微笑んでいると分かってしまうのがどこか腹立たしいが、

 

「……お節介な先輩もいる。俺を受け入れてくれる人たちも」

 

 だから。

 

「だから、殺せない。母さんが何をしたいのか、俺には分からないけれど。俺は俺の願いの為に、誰かを犠牲にはできない。そんなことをしたら、俺はきっと、彼女に顔向けできないから」

 

「――――そうか。残念じゃ」

 

 ゆっくりとヘラは頷いた。

 声は静かで、表情もベールで隠れているから感情は露わにならない。

 弾かれた手を握り、

 

「では、死ね」

 

 広げた掌に、影の球体が生まれていた。

 

「―――」

 

 一瞬のことだ。

 真っ黒な、あらゆる光を取り込む球体。

 至近距離で向けられたそれに、アレスの本能が危険を叫ぶ。

 当たれば死ぬ。

 そしてこのタイミングでは避けられない。

 

「―――あぁ」

 

 罰かなと、思った。

 マキナを、ウィルを傷つけた。

 学園にも少なからず被害を出した。

 この状況で、自分はやってはならないことをした。

 ただ一人に会いたいが為に。

 馬鹿みたいだとも、思った。

 こんなことになるなら。

 意地なんて張らず、さっさと会っておけばよかったのに。

 

「ごめん、ヴィーテ」

 

 苦笑気味に言葉を漏らし。

 影球は自身の胸へと吸い込まれ、

 

 

「―――――――いいえ、謝る必要はありません」

 

 

 

 

 

 

 ヴィーテフロア・アクシオスは望まれるものに応えるのが自分の使命だと思っていた。

 

 自分が生まれたのは王国が建国されてから数年、国としての規模や文化、国交等々、何もかもが急速に成長して行く中で誕生した。

 古くからずっと続いていた魔族との戦いを知らない世代の王族。

 自分の親や祖父世代からすれば意味のあるものだったらしい。

 そんなことを、物心ついた時から理解していた。

 自分どうも、頭の回りが良かったらしい。

 こんなふうに言うとちょっと嫌味臭いが、事実なので仕方ない。

 正確に言うのならば、他人が自分に求められるものを理解していたというべきか。

 王国の長女。

 新しい時代に生まれた王族。

 魔法も礼儀作法も勉強も対人能力も。

 幼いころから望まれる分だけ応えれば周りが喜んでくれるのだから、そうするべきだと思っていた。

 

『おめーはあれだなぁ。お利巧すぎるから、ちょっと心配だぜ爺ちゃんは』

 

 そんな自分に、そんなことを言ったのは祖父だった。

 九歳になるよりも少し前のこと。

 その時祖父は既に王の座を父に引継ぎ、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていた。

 

『俺に似たのかもしれねぇけど。爺ちゃんは頭も良いし腕っぷしもある完璧超人だったしな。まーゼウィスと……あとダンテとは戦いたくないけど。いや、負けないぜ? 俺の方が強いけど。俺元王様だし、爺になったし。下々の民とは戦わないってだけで』

 

 言い訳がましいこと口にする祖父にはあまり威厳を感じなかった。

 これは父もそうだったので、血筋なのかもしれないが。

 

『って今はヴィーテの話な。マイグランドーター。あれだ。簡単な話だぜ、我がままに生きていいんだよ?』

 

 祖父は言った。

 

『俺は我がままにやったぜ。ちっせぇ国だったアクシオスをでっけぇ国にして、魔族と戦って倒して、ユリウスに後継いで、おもろい遊びやら美味い飯やら考えて実践したわけだ。俺が皇国贔屓なのは米があるからだしな。お米最高。マヨネーズ掛けたら無限に食える』

 

 確かに祖父が作ったというマヨネーズは最高に美味しい。

 食べ過ぎると母にもお世話役にも怒られるが。

 

『ユリウスのやつも、まあ好きにやってんだろあれ。大戦の時は身分隠した王子様ムーブでダンテのラブコメ至近距離から眺めて愉快極めてたし。俺みたくハーレムせずに嫁さん一筋だしよ。方向性は違うけど、あいつも人生楽しんでる』

 

 だけど、

 

『お前の場合はちょっと違うよな。世代つーか時代のせいか、お前さんが賢すぎるせいか? どっちでもいいけど。おめーもうちょい好きに生きろよ。俺らみたいにな。って八歳に何言ってるんだろうな、ワハハ』

 

 祖父は優しく微笑み、

 

『求められるのに応えるんじゃなくて、お前が求めるものを求めるままに求めて良いんだ』

 

 そう言って頭を撫でてくれた。

 今思えば八歳の幼子に言うことではないけれど。

 実際あまり理解できなかった。

 この時は自分が求めるということが良く分からなかった。

 

 それからしばらくして――――祖父は亡くなった。

 

 大往生だった。

 ヴィーテフロアにとって人生の転機になったのはそのさらに少し後。

 父から七主教に預けられるということを聞いた――――ではない。

 

 アレス・オリンフォスに対して嘘泣きをかました時のことだ。

 

 そう、嘘泣きである。

 城内のお気に入りの庭園で彼に対して怒りながら泣いていたが、怒ってもいないし悲しかったわけでもない。

 七主教に預けられると聞いても、別に何も思わなかった。

 

『…………私は怒りと悲しみに打ち震えています』

 

 そうは言っても、怒りも悲しみもなかった。

 それが求めらえたことなら、やり遂げればいいだけ。

 なのに彼に嘘をついたのは、

 

『もう……つまり、もうすぐ私と会えなくなっちゃうってことですよ。私はこの城を離れるんです』

 

 気心の知れた友人がどんな反応をするか知りたかったというだけ。

 悪戯心、と言えば可愛いのだろうか。

 後から思えば随分意地が悪いが、子供心ということで。

 ただ、そんな子供心は思ってもいなかったカウンターを受けることになるのだが。

 

『だったら、おれは君の――――君だけの、騎士になるよ。何があっても君だけのもので、君だけの意思に応えるよ』

 

 彼は、ヴィーテフロアにとってとはとんでもないことを言ったのだ。

 あの時に受けた衝撃は、今でも忘れられない。

 人の求めに応えることを使命としていた自分。

 そんな自分だけに応えてくれると、彼は言った。

 彼に深い考えは無かったと思う。

 けれど。

 王族として。

 魔族を知らない世代として。

 未来の七主教の聖女として。

 多くのことを期待された自分に対する純粋無垢な誓いは、あまりにも眩しかったのだ。

 

 まぁそんなこんなで。

 何気ない少年の一言が少女に心に突き刺さる、みたいな。

 祖父が知ったらあれこれ根掘り葉掘り聞いてきそうな淡い話になる――――はずだった。

 

『――――ほぉほぉ。これはちとおもろいことになったのぉ』

 

 二度目の転機は、アレスの義理の父であるゼウィス・オリンフォスと出会ったことだ。

 否、ゼウィスとはこれまでも何度か会ってはいる。

 父の盟友であるし、国の英雄なのだから。

 だけど。

 七主教に行く前日出会った時の彼は違った。

 ゼウィス・オリンフォスは、ゼウィス・オリンフォスでは無かったのだ。

 

『やはりこの世界、中々のポテンシャル。帝国の『悪魔の子』も大概じゃが、お主もお主じゃな。―――儂が何なのか、分かるかの?』

 

 分からない。

 ソレが何なのか、ヴィーテフロアには何もわからなかった。

 ただ、感じたのだ。

 圧倒的な恐怖。

 無限の深淵を覗き込んだかのような大きすぎる不明。

 人の形をし、既知の姿であるのに全く別の存在。

 まるで、ずっと遠い世界からの来訪者かのように。

 

『ふむ。分からずとも、本質を見ているのかの。まぁワシも≪天才(ゲニウス)≫に悟られぬ程度にしか権能を出しておらぬしの。―――だが、面白い。良い余興になる。今から言う話をよく聞くが良い』

 

 ソレは、いくつかのことをヴィーテフロアに教えてくれた。

 ゴーティアという異世界から来た者ということ。

 ゼウィス・オリンフォスは死に、彼の体を乗っ取っているということ。

 そのことを知るのはこの世界では彼の妻と数人の義理の子、そして自分だけということ。

 彼にはある目的があるということ。

 

 そのために――――アレス・オリンフォスを利用するつもりでいるということ。

 

『さぁどうするかのぅ、未来の聖女よ』

 

 英雄の皮をかぶった化物は、笑っていた。

 どうするなんて言われても。

 どうしていいか、ヴィーテフロアには分からない。

 

『ワシはお主を、ワシがアレスを使うための駒にする為に利用するつもりじゃ。事を起こすには五年、或いは十年先かもしれん。その間にお主に何ができるかのぅ』

 

 化物は楽しんでいた。

 それはただの余興に過ぎない。

 

『例えば』

 

 悪辣に。

 まだ十にも満たぬ少女の心を壊して行く。

 

『これから先、お主がワシに協力するというのなら――――いつか目的を為す時、アレスの身は想像する最悪を逃れられるかもしれんぞ?』

 

 そして。

 その提案がヴィーテフロア・アクシオスの人生を大きく歪めた。

 実際の所この五年間で何か大きなことをやらされたわけではない。

 むしろ、ゴーティアはほとんどヴィーテフロアを放置していた。

 ≪七主教≫に預けられてから、彼に会うのは年に一度程度。彼自身が言った通り、何かをするにはずっと先の予定だったのだろう。

 問題だったのは、彼女の心の方だ。

 

『――――私は』

 

 いつも、思っていた。

 

『私は――――ただ、期待に応えたかっただけなのに』

 

 皆を喜ばせたかった。

 王女として、聖女として。

 そして、彼が誓ってくれた自分として。

 ≪七主教≫の聖女として育ちながら、何もできず、何かをすればゴーティアに悟られるのが恐ろしくて何もできず。

 

 ―――――三度目の転機は一年前。

 ゴーティアが敗北し、

 

『我が夫の大願は妾が引き継ぐ。故に、力を貸してもらおうか』

 

 ルキア・オクタヴィアス/ヘラが、ゴーティアの子供たちを率い≪ディー・コンセンテス≫が動き出したこと。

 ゴーティアが残した異世界の技術を用い、彼女は彼女なりの目的を果たそうとした。

 だけど。

 

『ルキア・オクタヴィアスは、ゴーティアじゃない』

 

 そうだ。

 だったら、出し抜けるのではないだろうか。

 だったら、彼を救い出せるのではないだろうか。

 分からないけれど。

 五年間、彼とは会えていない。

 ここ一年の動向は近衛騎士であるパラスの妹から貰ってはいるが。

 心の底で彼が何を考え、感じているのかは分からない。

 もしかしたら、彼もまたこの世界を恨み、ヘラに賛同しているかもしれない。

 だけど。

 もしも。

 もしも、だ。

 アレス・オリンフォスが、かつて誓ってくれた時と変わらなかったのなら。

 性格の悪い女の子が、恋した時のままの男の子なら。

 その時、ヴィーテフロア・アクシオスは―――――。

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 影球がアレスに触れるよりも。

 ウィルが反射的に拳を握り魔法使うよりも。

 影球ごとヘラを打撃したものがあった。

 乳白と黒紫が入り混じった光だった。

 直径二メートル近い砲撃がヘラを吹き飛ばす。

 

「――――ぁ」

 

 だが、アレスはそれを見てはいなかった。

 見ていたのは――――空間の穴からゆっくりと現れた一人の少女だった。

 軽科装姿だ。

 身体に張り付くアンダースーツに、肩や腰から固定された半透明の衣を纏っている。

 乳白と黒紫。

 入り混じった二つの色。

 髪は夜明けの光に蜂蜜を溶かしたような黄金。

 瞳は海のような深い青。

 彼女を、アレスは当然知っている。

 

「…………ヴィーテフロア・アクシオス」

 

 ずっと、アレスが会いたかった人。

 

「アレス・オリンフォス」

 

 囁く様な声は、声量は小さいのに不思議と耳に届く。

 

「…………あー」

 

 彼女は何故か、少し居心地が悪そうにし、アレスの背後に視線を向けたと思えば顔をしかめた。

 疑問に思って振り返れば、アルマ・スぺイシアが両手の平をこちらに差し出している。

 お構いなく、と言わんばかりに。

 

「……こほん」

 

 咳払いに、アレスはヴィーテの方を向いた。

 よく分らない。

 ヴィーテがここにいる理由も、アルマと知り合いらしい理由も。

 

「………………アレス?」

 

「あ、あぁ」

 

「まぁ正直、私が思っていた状況と計画ではないのですけれど。それでも、一先ず良しとしましょう」

 

「あ、あぁ?」

 

「混乱してます?」

 

「あ、あぁ」

 

「してますねぇ」

 

 ヴィーテフロアは息を吐き、

 

「だけど、確かなことは一つ」

 

 彼女は手を伸ばした。

 青い瞳が潤み、零れ落ちた雫が輝いた。

 ずっと堪えていたものが溢れ出したみたいに。

 

「……ぁ」

 

 いつの間にか、自分も泣いていた。

 何も分からない。

 だけど、そう。

 一つだけ、はっきりとしている。

 

「ヴィーテ……!」

 

 ずっと会いたかった少女。

 在りし日、彼女の味方になると誓った相手。

 そんな彼女が今、目の前にいる。

 

「えぇ、えぇアレス」

 

 泣き笑いと共に海のような瞳が輝く。

 彼の名を誇るように。

 もはやそこには恐怖も絶望も無く。

 あるのは再び出会えたことへの喜びだけ。

 変わらないでいてくれててありがとうと、彼女は思い。

 こんなことってあるのかと、彼は思った。

 

私の騎士(マイ・ナイト)――――やっと、会えましたね?」

 

 

―――≪アレス・オリンフォス&ヴィーテフロア・アクシオス≫―――

―――≪ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン≫―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アレス
やっと、会えた

ヴィーテ
マイナイト
気になる男の子に構ってちゃんムーブしたら心にぶっ刺さって、
それをラスボスに広げられてしまった。
なのでヤンデレは素です。


アルマ
ふっ……僕にもこういう時があったな……(後方保護者腕組み



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ウェルカム・バック

 

「――――」

 

 伸ばされた手を、アレスはすぐには取れなかった。

 ずっと会いたかった少女が手を伸ばしてくれているという現実を受け止めきれなかったから。

 今日は、多くのことがあった。

 感情が滅茶苦茶で、整理しきれず、戸惑い、

 

「……むーっ」

 

「いや、えっと……」

 

 ヴィーテフロアが頬を膨らませていて嫌な汗をかくことになった。

 

「手を取ってくれないんですか?」

 

「…………取って、いいのか?」

 

「まぁ! 貴方がとってくれなかったら私は良い感じの雰囲気で良い感じのセリフを発したのに台無しになるというかなり痛い女になると思うんですけど、そのあたりどう思います?」

 

 どう思うなんて言われても困る。

 どうしたらいいんだろう。

 途方に暮れ、振り返ってウィルを見た。

 彼は既にアルマによって影から解放されており、こちらに向けて、

 

「――――あいたっ」

 

 無駄に良い笑顔で親指を立てて、アルマに肘で小突かれていた。

 ダメだ、使い物にならない。 

 どういう感情なんだ。

 

「……えっと」

 

 改めてヴィーテフロアの方を向いてみれば、

 

「むぅ」

 

 相変わらず、彼女はむくれていた。

 

「――――ぁ」

 

 それを見て、思い出す。

 かつて王城の庭園で騎士であることを誓った時も、彼女は同じような顔をしていた。

 その顔をされると、どうにかしたくなってしまうのだから。

 ずっと昔に近い、忘れられなかった少女が今目の前にいることをアレスはやっと認識した。

 

「…………ヴィーテ」

 

 噛みしめるように名を呼び、

 

「――――全く、鈍い所は義父に似たのかのぅ」

 

 

 

 

 

 

「…………おや」

 

 ヘラの素顔を、ヴィーテフロアは初めて見た。

 会う時にはいつもヴェールで顔を隠している彼女だが、

 

「てっきり酷い傷があるとかとんでもない醜女とかババアなのかと思っていたのですが……意外と、そうでもないですね」

 

 年のころが四十前後だろうか。

 不吉なほどに白い肌と黒い瞳はこれまでの印象とは変わらず、頬や目じりの皺が時の積み重ねを伺わせる。

 

「酷いことを言う小娘じゃのぅ。これでも六十にしては努力してると思って欲しいのじゃが」

 

「……………………まぁ、その年にしては確かに」

 

「ヴィーテ……?」

 

 何を納得しているんだと言わんばかりにアレスの半目が横から突き刺さったが仕方ない。

 

「……いえ、それはそうと私とアレスの感動シーンさらっと邪魔してくれたのはどういう了見ですか」

 

「さらっと妾をふっ飛ばしたであろう。そもそもアレスがすぐに反応しないのが悪いのではないか?」

 

「……………………確かに」

 

「ヴィーテ……?」

 

「おっと失礼。これは後々話合うとして」

 

「――――ふん」

 

 ヘラは鼻を鳴らし、視線をヴィーテフロアとアレスずらし、

 

「ん?」

 

 自分たちの背後にいるアルマへと向ける。

 

「……デメテルたちも、時間稼ぎにすらならなんだか。アレスもヴィーテフロアも手から離れるとは、元々の計画は見るも無残なものじゃ」

 

「では、敗北宣言ですか?」

 

「否」

 

 喪服の女は手をかがけ、

 

「――――何事も、予備プランを立てて置くものじゃよ」

 

 指を鳴らし、姿が消失した。

 

「なっ……!」

 

「アルマさん!」

 

 隣でアレスが、背後でウィルが声を上げる。

 対してヴィーテフロアは緊張を解くように息を吐き、

 

「虚数転移だね。流石に僕を警戒したんだろう」

 

 アルマは肩を竦めた。

 

「思った通りですね、アルマさん」

 

「あぁ。―――これでいい」

 

「アルマさん……?」

 

「ヴィーテも、何を……」

 

「場所を変えて説明しよう。一度御影たちとも合流したいしね。その上で、話をしよう。ヴィーテフロアがこれまでどうしていたのか、ヘラの狙いが何なのか。そして、僕たちがどうするべきなのかを」

 

 

 

 

 

 

 本日何度目にになるか分からないが、どうしてこうなったのだろうとアレスは思った。

 アルマが開けた空間ポータルをくぐった先は、王都中心部のある大衆食堂だった。

 普段であれば多くの人で賑わっているが、周囲一帯人の気配無く、伽藍としている。

 人がいないのは避難が完了しており、魔族も掃討されたということだろう。

 それは良い

 良くないのはその食堂で、

 

「おお、やっと来たか。こっちの準備はできているぞ?」

 

 エプロン姿の天津院御影が、アレスたち四人を出迎えたことだ。

 

「…………」

 

「あれ、御影。何をしてるの?」

 

「決まっているだろう、ウィル。そっちも含め、皆あちらこちらで戦い疲弊しているんだ。そうなると、まずは腹ごしらえだ」

 

 腰に手を当てた彼女は大きな胸を張り、

 

「あぁ、それと。アレス」

 

「は、はい?」

 

「おかえり」

 

 

 

 

 

 

 二十人ほどが入れる食堂の中央で、四人掛けのテーブルが二つ繋げられた。

 テーブルの上には様々な料理が広がっている。

 当然料理人なんていないので御影を筆頭にして作られたものだ。

 

「……トリウィア、普通に料理作ればわりと美味しいのになんでいつも変なゲテモノ作るの?」

 

 フォンはスプーンで掬ったマッシュポテトをまじまじと眺め、右隣のトリウィアは香草と鶏肉を挟まれたサンドイッチを口にしている。

 

「そりゃあ知的好奇心故ですよ。帝国の料理は大体芋と肉のバリエなので面白みがないのでやらないだけです。炭水化物の補給には適しているので今回は作りましたけど」

 

「いやずっと普通に作ってくれればいいよ」

 

 フォンの左隣では机の正面席でははちみつを掛けた野菜とチーズのピザをウィルが手を付ける。

 

「これ、ピザって今焼いたの? 生地とかって時間掛かるんじゃない?」

 

「まぁ作り方次第だな」

 

 応えるのはウィルの右隣、フォンの正面で王都産地ビールをひたすらに流し込む御影だ。

 ジョッキ一杯を一息で流し込み、

 

「生地の発酵やらをしっかりすれば時間はかかるが、今回は最低限の時間で終わらせた。発酵時間少ない分食感が軽いものになる。このあたりは好みの話だな。ウィルはどうだ?」

 

「へぇ。うーん、僕はどっちも好きだな。というかこのチーズと蜂蜜が好きかも。御影は久々のお酒はどう?」

 

「たまらん。こんな事態だから軽率に飲酒解禁するものだ」

 

 背後に置いた大樽から直接ジョッキで掬ってビールを補給する。

 

「……というわけで、僕とウィルは前世は別の世界で一度死んで、ウィルはこの世界で生まれて、僕は別の世界から来たんだなこれが。ゼウィス・オリンフォスは他の世界での僕の敵がその体を乗っ取った奴で、ルキア・オクタヴィアス、≪ディー・コンセンテス≫はその残党ってわけだ」

 

「ははー、なるほどのぉ」

 

「……………………ごめん、アルちゃん。全然話しについていけないや」

 

 ウィルの対面でどす黒い珈琲を片手にアルマの解説を聞いているのは、その左右側にそれぞれ座るカルメンとパール。

 イザベラはレアステーキを丸ごと齧りつきつつ、パールは頭を抱えながら焼いた魚をおかずに白米を口に運ぶという器用なことをしていた。

 そして。

 パールの右、御影の左に二人分の席に座るのが、

 

「………………」

 

「………………」

 

 無言でうどんを啜るアレスと無言でマヨネーズが大量に掛かった炒飯を食べるヴィーテフロアだった。

 ヴィーテフロアは≪偽神兵装≫を解除し、シスター服姿だ。

 互いに横目でちらちらと見合うが、どちらも会話の機を伺っているが切りだせずにいる。

 何度かウィルが二人に声を掛けようとして、その度に御影に止められていた。

 彼ら彼女らは会話をしたりしなかったりだが、アルマを除いて共通していることは一つ。

 食事の手を止めないということだ。

 この場にいる九人が九人ともそれぞれの戦いを終えた後であり、英気を養うために。

 何よりも。

 これで終わりでないということを皆、分かっているからだ。

 だから、

 

「――――さて」

 

 それぞれの食事が一通り終わり、アレスが全員分の紅茶を淹れたところで。

 アルマが立ち上がる。

 みんなを見回し、

 

「話をしよう。これから僕らがどうするか、を」

 

 

 

 

 

「まず君たちから確認したいだろうことから行こうか」

 

 ティーカップを両手で包んだヴィーテフロアはアルマの視線を感じたが、自分はまだ紅茶の赤い色を見つめていた。

 

「……」

 

 これから自分のことをいくつか説明しなければならない。

 ウィルとアルマが連れて来たから、御影達も受け入れてくれていたが、内心は警戒しているだろう。実際、食事中の手の動きが微かに注視されているのを感じる。

 正確に言えば状況を鑑みた上での最低限の反応だ。

 敵意はないが、警戒しないわけにはいかない、という感じ。

 或いは、拒絶されるかもしれない。

 それでも。

 

「―――ふぅ」

 

 紅茶を口にする。

 懐かしい、味だ。

 記憶にあるよりもずっと良い味だけれど。

 それでも彼が淹れてくれたという現実が勇気をくれる。

 だからヴィーテフロアは視線を上げ、

 

「はい」

 

 アルマを見つめ返し、胸に手を当てる。

 

「王城での会議のこともあり、私に対する疑念はあるでしょうが全てお話させていただきます。理解を頂けるかは分かりませんが、どうかこの世界の危機においては協力していただけると幸いです」

 

 息を吸い、

 

「あれは……そう、アレスが私に対して一生涯の騎士になるという熱烈告白をしてくれたすぐ後のことでした」

 

「ヴィーテ!?!?」

 

「わははは! おい、私はこいつ気に入ったぞ!」

 

「あぁ、うん。御影はそうだろうけど……ヴィーテフロア、なるべく簡潔に」

 

「あ、はい。アルマさん」

 

 

 

 

 

 

「えーと……」

 

 話を聞き終え、フォンは腕を組み、首をひねり、

 

「つまり……ヴィーテフロア殿下はアレスを人質に取られつつ五年放置されてたらゴーティアが倒されて、ヘラなら出し抜けると思って裏切ってスパイをしていた?」

 

「まぁフォンさん。要約の天才でしょうか?」

 

「え、ほんとぉ?」

 

 あまりない褒められ方をしたから少し照れる。

 ヴィーテフロアの説明は分かりやすく、悲壮感のようなものを感じさせない話し方だった。

 アルマに言われた通り、客観的に要点だけを簡潔に。

 感じのは彼女の地頭の良さだった。

 

「はい。それに殿下など不要です。ヴィーテで構いません。来年は私も学園に入学予定ですし、そうなれば先輩後輩の関係ですから」

 

「あ、そうなの? じゃあヴィーテで」

 

「……あ!? ヴィーテ、学園入学するのか!?」

 

「えぇ、まぁ。何か疑問がありますか、アレス」

 

「…………いや、えっと」

 

「横から指摘しますけど、学園の性質的にヴィーテさん……そう呼ばせてもらいますが、ヴィーテさんが入学するのは至極当然では。王族であり、七主教の聖女ですし。七主教の聖女といえば光と闇の属性に長けていると私も聴いたことはあります」

 

「まぁ、帝国一の才女にそう言っていただけるとは気恥ずかしいですね」

 

「というか、アレス」

 

「……なんですか」

 

「お前を庶務に入れたのはそれを見越して、というのもちょっとあるぞ。入学したら彼女も生徒会入りだろうしな」

 

「……………………先輩!」

 

「え!? 僕!?」

 

 急に矛先を向けられたウィルは一瞬驚きながら首を傾け、

 

「…………いや、普通にアレスが早くヴィーテさんに会いに行けばよかったんじゃない?」

 

「こ、こいつ……!」

 

「ぶっ……!」

 

「おい、ヴィーテフロア君が笑ったらだめじゃないか?」

 

「いえ……しかし……くくっ……本当にそうでっ……ふふふっ……さ、流石ですねウィル先輩……!」

 

「…………ぐぅ」

 

「わぁ、ウィルちがそういう厳しめのマジツッコミするの珍しいねぇ」

 

「んー、確かに」

 

 パールの言葉に、フォンは頷いた。

 彼がこういう不躾で、無遠慮な言い方をするのは珍しい。

 あまりフォンが見たこと無かったウィルの一面だ。

 

「まぁウィルさん、男友達少ないからなー」

 

「……フォンよ、あまりそう言うことは言うものでもないと思うのじゃが」

 

「話題が逸れそうなのでマジなツッコミを私もしますが」

 

 フォンの隣で、トリウィアは煙草に火をつけつつ、軽く手を上げる。

 

「実際問題、アレス君がヴィーテさんに会いに行っても状況的にはあまり変えられなかったのではないでしょうか。アルマさんがいる以上、向こうもそう簡単に動かなかったでしょうし、ヴィーテさんも実情を語れなかったのでは」

 

「んん……こほん。えぇ、それはそうですね。言うまでもないですが、≪ディー・コンセンテス≫ではアルマさんとは絶対に戦闘を避ける様に言われていました」

 

「だろうね」

 

 アルマが飽きれ気味に息を吐き、

 

「聖国ではヘルメスが実際にそうだった」

 

 

 

 

 

 

「あー、あの時の」

 

 未だマルチバース云々とかは理解しきれないパールはやっとかみ合いそうな話を聞く。

 

「あの時の怪しい男か女か分かんないのがヘラの手先だったわけだ」

 

「そうだね」

 

 アルマは同意し、

 

「あの時、アレは僕を見た途端魔族に変貌した……今思えば未完成の≪偽神兵装≫だったんだろう。僕の読心術なり解析なりを警戒して、完全に魂ごとを破壊した上での変身だった。ゴーティアの一味だっただけあって、そのあたりは徹底していたよ」

 

「私たちの方ではアルマさんに殺されたとヘラから言われていましたしね。それもあって≪偽神兵装≫がアップデートを重ねられたという感じです。……それにしても、未完成と言っても暴走状態のヘルメスは随分強かったはずなんですが……というか、本来ゴーティアが持っていた別世界別神話の因子を私たちは植え付けられ、それによる過剰強化を制御し、科学によって兵装科したのが≪偽神兵装≫なわけですが」

 

「あぁ、うん。大体理解してる。本当ならその因子で≪ル・ト≫や≪テュポーン≫みたいな疑似神格魔族でも生み出すつもりだったんだろうね。動物やらを模した鎧になってるのはその残滓って感じかな。暴走状態のヘルメスも、最新版の≪偽神兵装≫と同じくらいの強さだったけどそれくらいならまあ僕の敵じゃあないよ」

 

「流石ですねぇ」

 

 何を言っているのか全く理解できなかった。

 トリウィアだけは何度か頷いているあたり流石と言える。

 そして先ほどの解説や今の話の内容から読み取れることだが。

 自分の後輩はなんかとんでもない存在らしい。

 マルチバースがどうとか、転生がどうとか、ウィルとアルマが転生者だとか。前学園長が魔族の首魁に乗っ取られていたのは知っているが、それが別世界から来た化物だとか。

 地頭は良い方だと思うが、理解できる限界を超えている。

 

「んん」

 

 なので、理解は諦めることにする。

 アルマが元々底知れないことは分かっていた。

 今回は底の深さが自分には理解できないことを理解できた。

 なら、それでいい。

 

「つまり、アルちゃんはめっちゃ凄いってわけだ」

 

「ふふん、まぁそういうことさ」

 

「頼れる後輩だねぇ」

 

 小さく顎を上げてドヤ顔をする後輩に苦笑しつつ、

 

「じゃあ、ヴィーちゃんはいつのタイミングでアルちゃんに話を通したわけ?」

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 パールの問いに、トリウィアは紫煙を吐き出した。

 それは自分も気になっていたことだ。

 ウィルとアレスのもとにアルマとヴィーテと二人で合流したとのことだし、この場所に来てからもその二人はある程度通じ合っているようにも見える。

 そもそも各地に散らばっていたこのメンツを集めて、ヴィーテやアレスを含めて四人で後から行くと連絡してくれたのはアルマだ。

 ならばどの時点でアルマとヴィーテが繋がっていたのか。

 

「前提として、この六年私はヘラに常時監視されていました」

 

 パールの問いに対し、ヴィーテは全員に応えるように話しをしていく。

 

「ヘラは影を媒介とした魔法を使います。転移もそうですが、影に潜むことも影を通して見聞きすることも。私はずっとゴーティアに対して服従し、他人に話すことができなかったのはそれが理由です」

 

 そこで彼女はアレスを横目で見て苦笑する。

 

「……だから、貴方が私の下に来てくれても、何も言えなかったでしょうね」

 

「ヴィーテ……」

 

 少し場に沈黙が下りた。

 寂しそうに微笑むヴィーテフロアと自らを責めるように顔を曇らせたアレスに対して口をはさめなかったからだ。

 何を言うべきか迷ったし、他のみんなもきっとそうだったのだろう。

 六年間大切な人を人質に取られ、雌伏の時を過ごした彼女と。

 大切な人を思い続け、しかし彼女の苦しみに気づけなかった彼。

 

「……」

 

 それだけ長い時間、誰かを想ったことはトリウィアにはない。

 時間が長ければ尊いという話でもないけれど。

 或いは秋に、ディートハリスとの結婚を受け入れてそのまま何もしなかったら、自分もずっと彼への想いを抱えて生きることになったのだろうか。

 

「いや、それは違うかな……?」

 

 恋愛熟練者の自分だったらこう、なんか良い感じに上手いことやっていただろう。

 うん、間違いない。

 二人の境遇に、変に同情するのも違うと思うし。

 何やらフォンとアルマあたりから半目が突き刺さっているが気にしないことにする。

 

「こほん。それで……私がいつアルマさんにことを伝えたかと言うと、私が最初に会議へと乗り込んだ時です」

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 ことここに至って、カルメンはついに疑問を得た。

 アルマがどういう存在なのかも、ヴィーテとアレスの関係についても特に不思議に思うことはなかったからだ。

 龍人種であるカルメンは人を魂で見る。

 初めて見た時から、条理から隔絶した存在であることは分かっていた。

 エウリディーチェと同等以上の時点でどうかしている。

 そこにマルチバースがどうこう言われたとしても、驚きよりも純粋な納得が強かった。

 アレスとヴィーテにしても似たようなものだ。

 色々あったようだが、色々あったな以上に思うことはない。

 後輩が色々大変で、色々頑張ったな、とは思う。

 ただ、

 

「なんじゃ、そんな余裕があったのか?」

 

 この場においてアレスと自分だけは王族たちの会議に出席していなかった。

 だからその時に何があったかはパールからざっくりと聞いているだけ。

 

「確か……会議中にヴィーテフロアが乗り込んだとかなんとか」

 

「カルちゃん、ヴィーちゃんと言ってることまんまだよ」

 

「なんと」

 

 パールに言われちょっと考えて言葉を選び、

 

「ヴィーテフロアが殴りこみに行った?」

 

「ある意味間違ってないのですが……」

 

「だが実際そんな暇はなかったよな? あの時、ヴィーテが現れ、すぐにアルマ殿が転移で消えた。あの場にいた私たちから見ても、二人に意思疎通をしている時間も、様子も無かった」

 

「そうだ。僕とヴィーテは会話をしていたわけじゃない。……この辺り、大したものだと素直に思うけどね」

 

 アルマは嘆息し、

 

「彼女は、僕に心を読ませたんだ」

 

「……?」

 

 言ったことの意味が分からなかった。

 まぁよくあることなので周りを見回してみれば、トリウィア以外は理解できていない。

 これもよくあることなので解説を待つことにする。

 

「ヘラに監視されていた私はアルマさんに丁寧に説明することができませんでした。なので一つ賭けをしたわけです。各国の王族が集い、不自然に私が宣戦布告をする中で私が彼女を直視していたら―――そこに疑問を持ち、読心をしてくださるのではないか、と」

 

 

 

 

 

 

「まんまと引っかかった……と言うのも変な話か」

 

 御影は二人の会話を聞きながら会議の時のことを思い出していた。

 

「あー……説明すると長くなるんだが、思考を読む……というか相手の情報をスキャンのはちょっとした癖でね、僕が相手するようなのはそうしても大体概念防壁持ちだから心を読むというより、ちょっとでも情報を得る為だったりする。この世界からその手の魔法はほとんど使ってないし、必要なかったんだけど……ヴィーテの場合、そこらへんスカスカだった。あからさまにガン飛ばしてきたしね」

 

「意図的にオフにしていましたから。と言っても、頭の中であれこれ思い浮かべていたら、一秒足らずでアルマさんがテュポーンの迎撃に行ったので、ちゃんと伝わっているのか驚きましたけど」

 

「思考速度には自信があるからね」

 

 肩を竦めるアルマだが、しかしこちらとしてはすぐに理解できるわけでもない。

 だが、まぁ整理すれば簡単といえば簡単かもしれない。

 ヴィーテフロア頭の中でアルマに対する説明を浮かべていた。

 アルマはそのヴィーテフロアの思考を読み取った。

 相手がアルマでなければ成立しないが、しかしアルマ相手なら全く勝ち目のない賭けでもない気もする。

 無茶であることには変わりはないが。

 そうなると問題は、何を伝えたかだ。

 

「こほん」

 

 ヴィーテフロアは一度咳払いしてからほほ笑み、

 

「ここからが本題ですが、ここまでで何かご質問はありますか?」

 

 ゆっくりと周りを見回す。

 上手いな、御影は思った。

 今この場は、本質的にはその話を聞くために、そしてそれからどうするかを確認する場所だ。

 だからその前に話を整理するのは正しい。

 正しいが、

 

「……ふむ」

 

 御影にはそれだけではないように見えた。

 自分から見ても完成された笑み。 

 それが偽りだと、言うつもりはない。

 

「ヴィーテフロア」

 

「はい。どうぞなんでもお聞きください。如何様な問いにも、私にできる限りならお答えを―――」

 

「言っておくがここでお前に対して他に何かできることがあったのかと、問うつもりはないぞ」

 

「―――――」

 

 完成された笑みが、止まった。

 それを見て、御影は自分の推測が正しかったことを確信する。

 単純な話。

 ビールを喉に流し込み、

 

「結果論だ」

 

 言う。

 

「確かに今日、多くの者が命を失った。当たり前に享受されるべき多くの営みが奪われた」

 

 親を失った者が。

 子を失った者が。

 友人を、恋人を、家族を、隣人を。

 家も、憩いの場も。

 夢も、希望も。

 多くのものが失われてしまった。

 それは事実だ。

 ここにいるみんなが、それを目の当たりにしてきた。

 

「その責任は問われるだろう。ヘラを始めとした≪ディー・コンセンテス≫たちは勿論、守るべきを守れなかった我々王族も」

 

「それは……!」

 

「だが、それは全て終わった後だ。ヴィーテフロア・アクシオス」

 

 強く、言い切る。

 真っすぐに彼女の青い瞳を見据えて。

 ウィルの専売特許な気もするが、良いとしよう。

 

「お前がこの事態を止められなかったことの責任を感じ、それを責めて欲しいという気持ちがあるとしてもだ。それを論ずるのは今じゃない。全てが終わった後だ。私は、私たちは今はお前を信じて行動を共にしよう」

 

「……聞いてもよろしいですか?」

 

「勿論」

 

「なぜ私のことを信じられるのでしょうか」

 

「ふむ」

 

 問われ、空になったジョッキで背後の樽からビールを補給し、

 

「いやまぁお前を信じているわけではないのだが。ほら、お前のこと肩書くらいしか知らんし」

 

「…………」

 

「あ、天津院先輩!?」

 

「くくく……」

 

 形容しがたい顔をしたヴィーテフロアと慌てたアレスを肴にして飲む酒は美味かった。

 

「ま、そういうことだ」

 

「どういうことでしょう」

 

「ヴィーテフロア・アクシオスは知らんが、アレス・オリンフォスのことは知っている」

 

「―――」

 

 面食らった顔をしたのは二人分。

 酒が進んでしまって困る。

 困らないか。

 

「そっちのお前の騎士はなんとも付き合いの良い男は私たちの大事な仲間で、信頼できる後輩だ。ヴィーテ、お前のことを信じ切るのはまだちょっと時間が足りないが、お前を信じるアレスを信じよう。つまらん女に惚れる男でもないだろうしな?」

 

「……………………参りました」

 

 ヴィーテフロアが零したのは力のない、けれど険の取れた笑みだった。

 両手で包んだカップをゆっくりと口に運び、

 

「……この六年、私にとっては筆舌にしがたい時間でした。そうですね、御影さんたちにも分かりやすく言うなら……」

 

 一瞬考えてから呟いた。

 

「ウィルさんを人質に取られた状態で完全敵対状態のアルマさんの下っ端になる……?」

 

「おい、無罪放免で良いんじゃないか?」

 

「私でも知りたくない状況ですねそれ」

 

「死んだほうがマシかもしれないなぁ……」

 

「……」

 

「あの、アルマさん? どういう感情です?」

 

「まぁ僕でも僕が敵になったら凄い嫌だしな……」

 

「ふふふ」

 

 ヴィーテは口元に手を当てて三度笑い、

 

「そんな状況でしたが私はちょっと思っていました。もしも……もしも、アレスが自らの意思でヘラに付き従うなら――――いっちょ私も世界滅ぼしてやろうかと」

 

 

 

 

 

 

「ヴィーテ!?」

 

「ふふふ」

 

 ヴィーテフロアは思わずと言わんばかりに叫んだアレスに笑ってしまった。

 今日は随分と彼に名前を読んでもらっている気がする。

 六年ぶりだからもっと呼んで欲しいけれど。

 他の皆は皆で笑みが引きつっているのも中々愉快だ。

 

「私も私でずっとアレスが何を考えているか分かりませんでしたし、まー一種の自暴自棄ですね、えぇ。そんなことが無い様に、この1年はアイネさんに写真を送ってもらってどういう学園生活を送っていたのかは知っていましたけど」

 

「ん……?」

 

 全員が首を傾げた。

 

「何か?」

 

 ニッコリと笑って返したら全員がそっと目を逸らした。

 良い笑顔だったはずなのだが。

 パラスの妹であるアイネ・パラディウムにはペン型のカメラを渡して日々の様子を盗撮、もとい資料集めを頼んでいただけだし。

 細かい説明はせず、アレスとの関係をぼやかして話したら八割ほど妄想して補完しつつ全てを察して盗撮――ではなく資料集めを引き受けてくれた。

 

「いずれにしても、アレスがヘラを拒絶できたのはあなた方のおかげなのでしょう」

 

 彼女たちはずっと話を聞いてくれた。

 アルマには話を通したとはいえ、逆に言えば彼女以外は誰も自分の意図は知らない。

 それこそ自分が同じ立場なら全く信用しないけれど。

 それでも、彼女たちはアレスを通して自分を信じてくれた。 

 あぁ、それは。

 

「――――なんて、尊いことでしょうか」

 

 祈る様に胸に手を当てて、息を吐く。

 だからこそ。

 

「感謝を。天津院御影様、貴方の言葉はとても優しく、暖かなものでした」

 

「ふふん。ま、私はプリンセスだからな」

 

 大きな―――ちょっと、いや、かなり羨ましくなるくらいに大きな――胸を揺らして胸を張った後、彼女は苦笑し、

 

「いや、お互い様か」

 

「ふふふ」

 

 お互いに笑い合い、

 

「んふふー」

 

「……なんですか、先輩」

 

 その隣でウィルも笑い、アレスは眉を顰めていた。

 ヴィーテフロアのイメージするウィルの笑顔とは違う、妙に意地悪そうな笑い方だ。

 

「ほら、()()()()()()?」

 

「……………………ぐぬぅ」

 

 何やら男同士で通じるものがあったらしい。

 それもそれで、アレスがちゃんと繋がりを持っている証だ。

 

「では、気を取り直して」

 

 先ほどと同じように皆を見回し、けれどさっきよりも余裕を持って。

 

「ヘラの目的をお伝えします」

 

 言うべきことを。

 

「彼女の狙いは、ゼウィス・オリンフォスの復活」

 

 その言葉に、場に緊張が走る。

 だがヴィーテフロアは言葉を続けた。

 

「即ちそれが意味するのは――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 




ウィル
後輩を構いまくるタイプだった

アレス
は、腹立つ……!


ヴィーテフロア
アレスを盗撮しまくっていたのは趣味だし、
アレスがヘラ側につくならもうどうにでもなれー!くらいのメンタル
ヤンデレなのは素

アルマ
実際僕が敵とか嫌すぎ

御影
こういう時、こういうことを言えるのはこの人

フォン
ウィルさん男のファンはいるけど男友達あんまりいないよね

トリウィア
恋愛クソザコナメクジ……?
知りませんが……

パール
良く分からんが後輩のことは信じれる

カルメン
良く分からんがまぁええやろ

ヘラ
美魔女


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セイヴ・ザ・ワールド

だいぶおまたせしましたが、最後にお知らせあります


 

「認識の共有のために説明するが、ゴーティアというのは各次元世界に合計七十二に偏在する存在だ」

 

 事情を知らないアレスやカルメン、パールに向けてアルマは言葉を選び始めた。

 なるべくわかりやすく、必要なことだけを。

 しかし、よく考えれば去年の段階でもウィルたちにもざっくりとした話しかしてなかった気もする。

 

「≪D・E≫の上位種の一体だが、ここで問題なのは偏在しているということ。七十二体いるんじゃなくて、分体が七十二枠あるというと分かりやすいかな。一つの世界のゴーティアを消滅させたら残り七十一体になるんじゃなくて、ある程度時間をおけば再び復活するというわけだ」

 

「つまり、消滅させるには同時に七十二体を撃破する必要があると?」

 

「鋭いなトリウィア。だけど流石にそれは現実的じゃない。……いや、一回やってみたんだけど、二十くらいまで限界だった。羽化前の状態……このアースでいえばゼウィス・オリンフォスに擬態していた時だと僕でも探知できないからね」

 

 厄介だ、と息を吐きつつ紅茶をすする。

 自分好みの香りが強いもの。

 食後にアレスが全員分淹れてくれたものだが、こんな時でも彼はそれぞれの好みに合わせたものを提供してくれるのだから流石だ。

 

「とにかくそういう経緯もあって、僕に出来たことは≪ネクサス≫……マルチバースを超えたチームを作って、カウンター気味に対処していくだけだった。百年くらいイタチごっこだったのには流石に僕も堪えてね」

 

 そこで小さくアレスが手を上げた。

 

「………………あの、アルマさんって幾つなんですか?」

 

「大体千」

 

「………………」

 

「ふーむ、意外と若かったんじゃのぉ」

 

「カルちん? 龍人基準にしてもバグってない?」

 

「いや、魂の格的に万は行っているかと思ってのぅ」

 

「思考加速分とか加味すると千どころじゃないのはそうだけどね」

 

「あの、アルマさん。去年の僕と究極魔法で倒せたのはどうだったんでしょう」

 

「うん、あれは有効だったよ。さっきの話でいえば七十二枠の一枠を確実に潰せた。世界改変から行う存在の消去だったからね、あれ」

 

 そんなんだったんだ……としみじみ呟くウィルだが、彼の特権の本質は世界改変の方なので単にゴ―ティアを消滅するよりも上位のものだ。

 本人はまだまだ自覚が薄いようだが。

 

「ただ、ウィルと僕の特権を使うにしても、各マルチバースで虱潰しにするには時間がかかり過ぎる。結局ゴーティアという存在は僕にとって完全討伐が極めて難しい相手だった」

 

「え、そんなの復活させようとしてるわけ? ヘラは。ウィルさんとアルマにどうしようもできないなら私たちでもどーにでもできなくない?」

 

「うん、まぁそう」

 

 えっ、と驚くのはフォンだけではなく、他の面子も訝しげな様子だった。

 実際のところ、本当にアルマにとっても難題だったのだ。

 自分は万能に近いが、しかし本当に万能というわけではない。十二いる≪D・E≫の上位種の中でもどう倒せばいいかという問題はずっと出なかった。

 だが、それも今日までだ。

 

「――――重要なのは、今回のゴ―ティア召喚にはこの点が考慮されていないという点だ」

 

 指を立て、言う。

 

「先程、王城の地下で地脈と接続した大規模召喚陣を確認した。テュポーンの攻撃を防いだ時に、僕も即席で地脈接続された王都の防御結界を拝借したけど、用途は違えど似たようなものだね」

 

「…………羨ましい」

 

 軽くのけぞりながら、煙草の煙を長く吐いたトリウィアに苦笑する。

 気持ちは分からなくもない。

 地脈、龍脈、レイライン。大地に走る莫大なエネルギーの運用は大抵のアースにおいて最大規模の魔法行使だ。このアース111でもそれは同じだが、アルマの知る限り都市防衛用としてしか使われておらず、個人運用の記録はない。

 トリウィアとしては一度はやってみたいことだろう。

 

「アルちん? 一応確認なんだけど、地脈使ったらそのゴ―ティアってのを召喚できるわけ? 聖国って地脈関連の技術全然発達してないからいまいちピンとこないんだけど。そんな異世界召喚とかならなおさらにさ」

 

「結論から言えばできる。異世界からの召喚というと突拍子もないと思うかもしれないが、然るべき術式を組んでリソースさえ確保すれば難しい話じゃない。実際、ウィルも一度転移門を開けてるし……いや、トリウィア、目を、というか物理的に演出で眼鏡を輝かせるな。今度教えるから」

 

 ぴかーっ、なんて擬音が似合いそうなくらい不自然にトリウィアの眼鏡が発光し、フォンとパール、アレスが半目を向けていた。

 次元間移動用の転移門を空ける魔法は今でこそ簡単に使っているが、かつては習得に百年以上をかけたものだ。トリウィアなら、すでに次元宇宙からのエネルギーの引き出しは習得しているので数ヶ月もあれば覚えてくれるだろう。

 

「とにかく、術式はそれこそゼウィス時代のゴ―ティアから教えてもらったんだろうし、リソースにしても地脈を使えば十分、むしろ大きすぎるぐらいだ。召喚自体は問題なく行われるだろう」

 

「なーるほど? じゃー、ヘラがゴ―ティアがいっぱいいるってのを理解していないっていうのは?」

 

「あぁ」

 

 頷き、

 

「ヘラの術式は、別の世界からゴ―ティアを呼ぶというものだ。その上で術式には偏在という特性が考慮されていまい」

 

 つまり、それが意味するというのは、

 

「召喚術式が発動されれば――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 反応は様々だ。

 あまり理解ができていない者もいれば、察して表情を歪める者もいれば、感情が表情に出ない者もいる。

 

「……ヘラは、言っていました」

 

 そのどれとも違う様子のアレスの言葉を、アルマは聞く。

 眉をひそめ、思い出しているであろうへラのことを口にした。

 

「愛しい人に会いたいがために、全てを犠牲にする気持ちが分かるって。……俺にとって、それはヴィーテで。なら、あの人にとって、それは父さんで……けど、今のスペイシアさんの話を聞く限り呼び出されるのは……」

 

「そこは分からない」

 

 アレスの言葉を短く遮る。

 感傷だ。

 義理とはいえ親子の関係であり、ついさっき裏切った彼には思うところがあるのだろう。

 それは彼の優しさだが、

 

「残念ながら、僕が確認できたのは召喚術式の仕様までだ。ヘラがゴ―ティアの偏在を理解しているのかしていないのか。呼び出すのが彼女の知るゼウィス・オリンフォスでなくても構わないと思っているのかまでは分からない。これに関しては、本人に確認するしかないね。そんな余裕があればの話だけど」

 

「……ですか」

 

 もっと言うのなら、ヘラは召喚したゴ―ティアを君に憑依させるつもりでアレスを育てたのだろうし、そもそもゴ―ティアがアレスを養子に迎え入れたのも同じ理由かもしれない。

 ゼウィスは高齢だった為に、次の器としてアレスを選んだ。似たような例は他のアースでもあった。

 

「…………んん」

 

 流れでそれを口に仕掛けたが、複雑そうな顔をしているアレスを見て止めておく。

 今日一日、彼には色々なことがありすぎた。今となっては、そんな状況の彼に伝えても落ち込ませるだけだろう。

 

「ふむ」

 

 少し話の流れが悪くしてしまったと感じた。この後の話のためになるべく簡潔に前提情報を伝えたかったのだが。

 ゴ―ティアの集結という事象を前に、自分も少し逸っていたかもしれない。

 どうしたのかと思っていたら、

 

「ねぇ、アレス」

 

「……なんですか先輩」

 

「さっき、僕に惚気けないと戦えないとか言ってたけどさ…………今、君もなんか凄いこと言わなかった?」

 

「はぁ?」

 

「だって、全てを犠牲にしても会いたいのがヴィーテさんだって」

 

「…………」

 

 言われたアレスは数秒固まり、

 

「あんたって人は!!」

 

 謎のマジギレだった。

 

「え!? なんでキレられてるの僕!?」

 

「ふむ……確かになかなかの惚気けだな……私とウィルも負けないがな!」

 

「一度は言われてみたいセリフですね……私とウィル君でも成立するでしょうが!」

 

「いやぁアレスも結構熱いんだよね……私とウィルさんもそうだけど!」

 

 御影、トリウィア、フォンがそれぞれ胸を張れば、

 

「へーい、そこの色ボケ三人組ー、変に張り合わないでねー。アレちん、怒りと照れでなんか顔がすごい色になってるよ」

 

 半目のパールの冷静な突っ込みが入り、

 

「ワシとエスカだって負けとらんからの! さっきラブラブドラゴンヒューマンソングを歌ってきたばかりじゃ!」

 

 カルメンが大音量で叫び、

 

「……ヴィーテ、君的にはさっきのアレスの発言、どうなんだい?」

 

「まぁ。嬉しいですよ? ――――というか、それくらい思ってもらってる前提で二重裏切りしてたんですから。そうじゃなかったら許しませんよ、ふふふ」

 

 ひぃっ、と盛り上がっていた全員から声が漏れた。

 

「ヴィーテ……」

 

「アレス? 今感動するとこあった?」

 

 普通にウィルは無視された。

 

「……ふふっ」

 

 弛緩した空気に思わず笑ってしまう。

 無自覚だったかもしれないが、先程よりは話を続けやすい空気になった。

 ウィルの自分や、掲示板連中とも違うアレスへの接し方も興味深いが。

 今は話を進めなければならない。

 

「こほん。何しても、全ての世界のゴ―ティアが召喚される」

 

 だから、

 

「―――――ヘラには、是非とも召喚をしてもらおう」

 

 

 

 

 

 

「なんで!?」

 

「うーん、まぁそうなるよね」

 

 ヴィーテフロア以外の全員が同じようなことを叫んだが、それ自体は想像の範囲内だった。

 だから、言葉を重ねていく。

 

「なぜかは単純だ。この世界で、ゴ―ティアの偏在存在を全て召喚させ――――その全てをここで撃破する」

 

「……!」

 

 察したように緊張を走らせたのは御影とトリウィア。

 ウィルとフォン、パールやアレスは意味を理解しようと眉をひそめ、ヴィーテには全てを話しているから静かに紅茶を飲んでいる。

 アホ面しているカルメンは知らない。

 

「賭けではある。危険も大きい。おそらく全存在が集結すれば、各世界のやつの対人類端末、この世界でいう魔族のようなものを生み出してこの王都を破壊しようとするだろう。それのままこのアース111を飲み込むかもしれない。……だけど」

 

 そう、だけど。

 思わず握った拳に力が入る。

 

「やつを知って四百年、≪ネクサス≫でさえできなかったゴーティアを完全討伐する、おそらく唯一のチャンスだ。これを見逃すことはできない」

 

「アルマさん。そもそもとして、可能なんですか?」

 

「勿論。じゃなかったら言わない」

 

 トリウィアの問いは当然のものだ。

 だから自分にしては珍しく強く断言した。

 

「魔族もどきが生み出すと言っても、生産量には限りがある。去年の建国祭の時より少し多い程度だろう。今回は僕も最初から闘うし、何よりウィルと僕の究極魔法を使わずとも物理的に本体を叩けば消滅可能だ」

 

「……なるほど」

 

 頷いた彼女は新しい煙草に火をつけ、腕を組む。

 すでにどう闘うのかを考えている。それが頼もしく、嬉しい。

 だが、それよりも前に自分には言わないといけないことがあった。

 

「…………ふぅ」

 

 少し、緊張する。

 この千年、≪ネクサス≫を結成してから三百年。

 それでも言ったことがなかった言葉。

 この世界に来るまでは言えなかった。

 ウィルと出会うまでは想像すらしなかった。

 それでも。

 

「アルマさん」

 

「……ん」

 

 小さく首を傾げた彼に、小さく顎を上げながら微笑んだ。

 それだけで、緊張は消えていった。

 ウィルが、自分の言おうとしていることを理解しているかは分からない。

 理解してくれていたら嬉しいし、理解していなくても自分の背中を押そうとしてくれていたのならそれはそれで嬉しい気もする。

 まったく色ボケも大概だ。

 でも、こんな自分を、それでいいと思う。

 

「……みんな」

 

 彼らを、彼女たちを見回す。

 アルマからすれば、弱く、幼く、頼りない者たち。

 しかし、共に生きることを望んだ者たち。

 

「はっきり言って、危険だ。マルチバース全てのためにといえば聞こえは良いが、その分この世界を危険に晒すということでもある。僕の身勝手でさえある。……それでも、だ」

 

 息を吸い、言う。

 

「―――――僕に、力を貸してほしい」

 

 

 

 

 

 

 王都の中心は小高い丘になっており、そこに王城はそびえ立っている。

 王城麓の城下街は平時であればこの世界で最も栄え、賑わった場所ではあるが、今日この時に限って人の気配は全く無かった。

 出現していた魔族は倒され、人々はそこから少し離れた魔法学園内に避難し、その上でアルマの魔法によって強制転移、学園にも彼女に結界によって守られていた。

 無人の街には寂しげな風が吹くだけ。

 変化があったのは、空だった。

 先のテュポーンのような、光が振ってくるわけではない。

 亀裂だ。

 王城上空の空間に小さな亀裂が入り、瞬く間にそれは広がり、虚空から垣間見える。

 そこから、黒い靄のような固まりが王城へと次々に降り注いでいた。

 

「…………世界の終わりのような光景って感じですね」

 

 そんな光景を、大通りからウィルは見上げていた。

 

「まぁ、間違ってはないよ。僕も初めて見る光景だね」

 

 隣、アルマは興味深そうに探査術式を走らせている。

 そして、さらに自分とアルマの両脇には、

 

「お父様たちもちゃんと転移で飛ばしてくれるあたり、流石だなアルマ殿」

 

「転移、どうにかして覚えたい所ですねぇ」

 

「あの空のやつ、潜ったらどうなるんだろ?」

 

「フォンち? 絶対やめてね? 振りじゃないよ? 絶対ろくなことにならないよ?」

 

「わははは! 流石じゃのぅフォン! ワシもちょっとやってみようかと思ったところじゃ!」

 

「……全く、この人たちは緊張感がない……」

 

「ふふふ。頼りになりますね、アレス」

 

 天津院御影。

 トリウィア・フロネシス。

 フォン・フィーユィ。

 パール・トリシラ。

 カルメン・イザベラ。

 アレス・オリンフォス。

 ヴィーテフロア・アクシオス。

 アルマにとっても、ウィルにとっても大事な仲間が横に並ぶ。

 

「ふふっ」

 

「……なんだね、ウィル」

 

 少し照れて唇を尖らせたアルマが可愛い。

 先程の言葉に他のみんなは迷いなく頷いた。

 だからこうして共に立っていることがウィルは嬉しい。

 

「いえいえ」

 

 もう一度笑い、

 

「さぁ、皆さん」

 

 ウィルの掲げた手に≪ビフレスト≫が飛来し。

 アルマが組んだ指印に魔法陣が展開し。

 御影は大戦斧を担ぎ上げ。

 トリウィアは二丁拳銃の弾倉同士をぶつけ鳴らし。

 フォンは背から翼を広げ。

 パールは二刀を握り。

 カルメンは龍の爪と鱗を生やし。

 アレスは直刀の柄に指を掛け。

 ヴィーテフロアは両手に黒紫と乳白の入り混じった光を宿し。

 

「―――――― 一緒に、僕たちの世界を救いましょう」

 

 一歩、共に踏み出した。

 

 

 

 

 

 




次回最終決戦

グレード1がいろんな世界から来た助っ人での最終決戦で
グレード2はアース111のみんなでの最終決戦という感じ。

掲示板勢についてはまた後ほど言及します

感想評価推薦、お気に入り追加いただけるとモチベになります。


告知ですが、電撃大賞銀賞受賞作が『バケモノのきみに告ぐ、』と改題し5月10日に発売が決まりました。
まだ少し先ですが、活動報告やXを通してお知らせしていくのでそちら見ていただけると幸いです。



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アライブ・イン・マイアース 1

 

 それは、本来であれば一つの次元、一つの場所に存在するはずがないものだった。

 アースゼロより広がったマルチバースに«D・E≫が訪れた際、それらは人類史に刻まれた神話、伝承、伝説から存在を模倣し、己のものとした。

 紀元前十世紀、古代イスラエルの王ソロモン。彼が持つ、七十二の悪魔を使役する魔導書。

 それがゴ―ティアの存在原理。

 広大なマルチバースに降り立ってから、ゴーティアは存在を七十二に偏在し、世界を貪り続けた。

 ≪D・E≫の上位種は不死性が高く、単純な火力で消滅させられるのは半分程度。概念的に致命傷となる傷を与えなければならないものも多い。

 その中でも七十二の世界の七十二体。励起状態で世界侵攻をするのは三分の一、残りは≪天才≫ですら探知できない休眠状態になっているゴ―ティアは上位種において最も討伐が困難な存在だった。

 

『………………こんなことは、初めてだのぅ』

 

 そのゴ―ティアが今、一つの身体に、全存在を全て押し込めていた。

 男にも、女にも、子供にも老人にも聞こえる声が多重となる。外見もまた黒い瘴気に包まれた人型になっており、明瞭では無かった。

 黒い影がいたのは、王城地下だった。

 地脈を利用した大規模結界の術式が刻まれた場所であり、それをヘラが召喚陣に書き換えたもの。

 影はふと、頭上を見上げ、

 

『…………転移ができぬか』

 

 忌々し気に舌打ちをする。

 すでにアース111には次元封鎖が敷かれている。

 アルマによるもので、これでゴ―ティアはこの次元を脱出することはできない。

 彼、或いは彼女は、迷わなかった。

 

『仕方あるまい。むしろ、好機と言えよう』

 

 アルマ・スペイシア。

 四百年続く宿敵。

 一年前にゼウィス・オリンフォスに擬態していた偏在体との同期は取れず、彼女がなにをしたのかは分からないが、

 

『≪天才≫―――――貴様との腐れ縁に、終止符を打つとしよう』

 

 言って、影はその身からさらなる瘴気を溢れさせた。

 

 

 

 

 

 

「―――――ん、来たね」

 

 丘の上の王城を見上げるアルマは、その変化に声を上げた。

 城の至るところか、瘴気がにじみ、地に、空に、集まり多くの形を成していく。

 

「……人の実家に、ひどいことをしてくれますね。あれ、掃除したらちゃんと落ちるんでしょうか」

 

「ヴィーテ? 多分そこじゃないよ」

 

 ヴィーテフロアとアレスの軽口の間も、瘴気は王城から溢れ続け、

 

「…………なんだ、アレ」

 

 御影が疑問の声を上げる。

 視界を埋め尽くすように生まれたのは、去年も戦った大小様々な動物を模した魔族。

 それに加えて、

 

「なんか、明らかにロボみたいなのもいますけど。見たことない魔獣とか……」

 

 明らかに生物ではない鋼の身体に瘴気を滲ませた巨人やアース111には存在しない形状の生物も数多くいる。

 

「さっきも説明したけど、他の世界のゴーティアの端末だね。見た目が違うだけで、中身はそんなに変わらない。数は多い……あ、そうだ」

 

 思いつき、パチンと指を鳴らす。

 そしてこの場にいる全員の左上でに、小さな環状魔法陣が浮かび上がった。

 

「僕がいつも使ってる魔力供給を術式化したものだ。あれだけの数相手だと、魔力もすぐに尽きるだろうからね。それを使えば魔力がほぼ無限に供給され続ける。あとおまけで念話も繋げてる。戦闘中の邪魔にならないように、視界に文字投影と脳内通話も勝手に判断するから安心してくれ」

 

「………………アルちゃん? なんかさらっと凄いこと言ってない?」

 

「注意点は、それぞれの魔力の最大量になるように供給され、それにはラグがあるという点だ。その供給量は無限だけど、供給自体を無制限にすると体のほうがパンクする危険がある。例えば限界を振り絞った魔法行使をしたら、全快するのに数秒ラグがあるから、それだけは注意するように」

 

「……パンクってどうなるの?」

 

 フォンが小さく手を上げて問い、

 

「文字通り、ぱーんって弾ける」

 

「こわっ!」

 

「まぁセーフティは掛けてるから平気平気」

 

 左右から半目の視線を感じるが肩を竦めて適当に受け流す。

 息を吐き、足元の石畳を踏みしめながら改めて視界を確認する。

 前方の王城から湧き続けるゴーティアの眷属、その数はすでに千を超えている。

 問題は本体であるゴーティアが王城のどこにいるか。召喚された時点では地下にいただろうが、移動していてもおかしくない。

 というか、現状ゴ―ティアの位置を探知できない。

 

「……上手く位置を隠してる。眷属を薙ぎ払いながら探すから、見つけ次第突っ込む。それまでは、周囲の眷属の掃討だ。いいね?」

 

 みんなの頷きを確認し、

 

「ま、気楽に行こう。正直、今の僕たちなら楽勝さ」

 

 笑った瞬間だった。

 

「おっ?」

 

 王城の正門付近に動きがあった。

 それは機械型の眷属であり、人型ではない。

 三メートル近い、音叉のように二又に別れた砲身を持つ、巨大な戦車だった。

 それが五輌並び、砲身に紫電を蓄えている。

 

「…………あの、アルマさん。なんですかあれ。魔力感じないですけど」

 

「あぁ、トリウィア。いいところに目をつけるね。結構いろんなアースで使われてるみんな大好きレールガンかな。電磁力で砲弾を打ち出す兵器。あの瘴気は魔力とは別物で、構造再現もしてるから慣れないと感知しにくいかもね。魔力じゃなくて熱源探知したほうがいいよ?」

 

「言ってる場合かー!」

 

 全員の突っ込みの直後、超音速の電磁加速砲が連続で叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 炸裂した砲弾は膨大量の土砂を掘り起こし、巻き上がった土煙と共に衝撃を撒き散らした。

 破壊は伝播し、周囲の大地に亀裂を入れる。

 魔法を用いない単純な物理破壊はこの世界おいては極めて珍しい。音速超過の加速弾ともなれば、対処できる者も限られている。 

 そしてそれは、

 

「おっと、っと……!」

 

 この場に集まった彼らも当てはまることは言うまでもない。

 砲撃に対し、前へ跳躍した彼らは背後の衝撃に背中を押され、ウィルは数秒身体を泳がせながらも姿勢を整える。。

 他のみんなも上手く姿勢を制御し、勿論フォンは全く意に介さず、トリウィアはかっこいいだけのポーズのまま浮かび、

 

「きゃー! アレス、お姫様抱っこなんて大胆ですよー!」

 

「いやヴィーテから飛びついてきたよね!?」

 

 ヴィーテは喜色満面でアレスに横抱きにされていた。

 目前、眷属の大群が空を埋め尽くそうとしているのに、彼女は数年ぶりの再会を満喫していた。

 そして、

 

「はっ―――全く、頼れる後輩じゃのう!」

 

「そうだけどさぁ! それはそれとして私は今年卒業で本当良かったと思うよ!」

 

 前に出たのはカルメンとパールの二人だった。

 カルメンが姿を龍体に変化し、その背にパールが乗る。

 赤龍の姫は顎から炎を零し、砂漠の聖女は髪飾りを解き、

 

『さぁ―――後輩たちの道を作るとしよう!』

 

「風穴空けるわよ、カルメン!」

 

 龍の口中に炎が集い、小さな光球となって輝く。

 聖女の双剣が柄同士で合一し、弓となり、魔力の矢を番え、

 

『龍仙・絶招……!』

 

『≪聖戦儀(ジハーラスラマ)≫!』

 

 解き放つ。

 

『一至火世・天壌劫火ッッッ!!』

 

『≪矢は女神の威光が如く(ディーヴィー・マハートミャ)≫――――!』

 

 それは圧縮された超高熱の熱戦と炎水の対消滅を宿す矢。

 二条の究極が、眷属への群れへと突き刺さり、文字通りの風穴を空ける。どちらの攻撃も直線の形だが、宿した高熱故に周囲の眷属たちも蒸発させ、城門へと到達する。

 

『むっ……!』

 

 蒸発が、城門の前で止まった。

 小型の眷属たちが集まり、その身を呈して盾となることで押し留めたのだ。

 

「流石に数が多いわね」

 

『だが――――道は作ったぞ!』

 

 

 

 

 

 

「打ち漏らしは私達が叩く! だから―――行きなさい!」

 

『ゴォオオオオオオオ!!』

 

 凛と響く声と龍の咆哮を背に、今後こそウィルたちは前に出た。

 カルメンとパールが空けた風穴、そこに飛び込む。

 すぐに眷属たちが彼らを覆い尽くそうとし、

 

『アッセンブル! ギャザリング―――――トリニティエレメンツ!』

 

『アッセンブル・ギャザリング―――――アルテマ・エレメンツ』

 

『祈りて舞い、誓いて夢に―――我示さん!』

 

魔導絢爛(ヴァルプルギス)境界超越(エクツェレントゥ)

 

『正名――――』

 

Omnes Deus(オムニス・デウス) ――――』

 

『―――――Romam ducunt(ロマ・ドゥクト)!』

 

 膨大量の魔力放出が、押し返す。

 

『≪トリニティダイヤ≫――――ッッ!』

 

 三位一体を片翼とし、

 

『――――≪シュプリーム・エメラルド≫』

 

 翡翠の至高を体現し、

 

『≪征花繚乱・朱天ノ焔≫ッ!』

 

 夢を気高く燃やし、

 

『―――――≪十字架の祝福(ヘカテイア・ゼーゲン)≫』

 

 深淵の祝福を冠し、

 

『≪山海図経・比翼連理≫ッ!』

 

 己が名を世界に示し、

 

『戦え、≪一意戦神(マルス・ディスティニー)≫――――ッッ!』

 

 闘争の運命を鎧とし、

 

『惑え、≪一実恋愁(ウェヌス・リバース)≫!』

 

 美と愛の化身が顕現し―――七人が七人とも、己の究極を体現する。

 

 

 

 

 

 

 アルマは現在、幾つかの術式を同時発動させていた。

 アース111全体に掛けた次元封鎖。これによってゴ―ティアの逃亡を阻止。

 次いで王城を中心に直径一キロ、及びそこに隣接し、避難所となっている学園への結界。これは戦闘による被害の拡大を避けるため。

 加えて、テュポーンとマキナ、ル・トが戦っている位相空間の維持。

 さらには他のみんなに付与した魔力供給と通信術式の維持。これ自体はほぼオート故に負担は少ない。

 そして、最も肝要と言えるゴ―ティア本体の位置の探索。

 それをマルチタスクでこなしつつ、

 

「さぁて、一人で半分は削ろうかな」

 

 ゴ―ティアの眷属の大群を見下ろし、不敵に笑い、翡翠の衣を棚引かせながら真上に飛び上がる。

 ウィルたちもそれぞれ散開していくのを確認。特に、機動力に長けたフォンが城の裏手に回ってくれたのが助かる。結界を張っているとはいえ、無闇矢鱈に散らばられてても面倒だとは思っていた。

 これだけの大規模戦闘には不慣れだろうが、魔力供給もあるので広範囲に眷属たちを殲滅できている。

 

「いいね。掲示板面子も合わせて、もうちょっとすれば≪ネクサス≫とも遜色無くなるかな」

 

 何か自分たちにもチーム名でも付けた方が良いかなんて思いつつ、

 

「―――筆剣展開、多重投影」

 

 アルマの背後に、七色の筆剣が展開。

 さらにそれらは柄を中心として時計の針のように回転すれば、その軌道に同じ筆剣が七本づつ浮かび上がる。

 合計、四十九本の筆剣。

 

「行け―――≪全ての筆(オムニス・カムラス)≫!」

 

 行った。

 眷属たちはすでに大小合わせて数千近い。特に、飛行能力を持つ小型眷属の数が多く、空を埋め尽くしている。

 対し、四十九条の流星となった筆剣には事前に術式が刻まれている。

 前提の機動として音速超過でのホーミング。小型に対しては速度と筆剣に込められた属性で貫通させる。

 中型以上の音速に反応できない相手に対しては四肢や末端部位を破壊した上で中心部を破砕。

 四十九の筆剣は、一瞬でその指示を実行した。

 周囲百メートル圏内の眷属がまたたく間に消滅、七色の軌跡は中空に巨大な球体を描く。

 

「ん、いいね――――そう思うだろう?」

 

 問うた先は真横。

 筆剣の流星をくぐり抜けてきた上位個体。≪偽神兵装≫を装備した≪ディー・コンセンテス≫ほどではないが、三体もいれば匹敵するほどの脅威度はある。

 その二体がアルマの左右に飛来した。

 どちらも全長十メートルを超える大型。

 左は漆黒の機械の巨人。右腕にはその身体と同じ程の大きさを誇る腕と肘にはロケットブースターを備えている。

 右は同色の騎士甲冑。大剣と大盾、背には瘴気で構成された六枚翼の騎士天使。

 人類が全員魔族的な特徴を持つアース364と一度文明崩壊した後に復興をしているアース942の敵性種。

 どちらも、それぞれの世界の住人を執拗に滅ぼす殺戮存在。

 

『■■■■――――!』

 

『■■■■……!』

 

 騎士天使の剣は瘴気を纏い、機械巨人の右腕加速器から瘴気が噴出。

 大質量、超加速の斬撃と打撃が双方向からアルマへと迫り、

 

「――――とっ」

 

『■!?』

 

 アルマの両手に受け止められる。

 左の鉄拳は掌で、右の剣は、その腹に彼女の五指が食い込み静止されていた。

 彼我のサイズ差を無視した圧倒的膂力。

 

「よっと」

 

 鉄拳を軽く押しのけつつ、アルマは身体を回した。

 右手に食い込ませた剣を巻き込みつつ、振り下ろし、

 

『―――――!?』

 

 機械の巨腕を縦に両断する。

 さらに剣の腹を蹴り、跳躍。

 翡翠と虹が舞い、騎士天使の背後に周り、

 

「ふっ……!」

 

 回し蹴りをぶち込んだ。

 衝撃は一瞬で騎士天使の甲冑を伝播し、五体を粉砕。その破片が機械巨人に打ち込まれ、動きを停止させ、

 

「来い、カムラス」

 

 七色七本の筆剣が輪を作り、その中心に翡翠の光が発生。

 

「消せ」

 

 指を鳴らせば、放たれた砲撃が全てを飲み込み蒸発させた。

 

「……うん。調子いいな、この姿」

 

 ≪シュプリーム・エメラルド≫。

 全属性全系統を体現しつつ、発揮される能力は二つだけ。

 魔法発動と自律戦闘を兼ねる≪全ての筆(オムニス・カムラス)≫。

 ウィルに与えた≪全ての鍵(オムニス・クラヴィス)≫はあらかじめ組み込まれた術式を即座に発動するものだが、こちらはリアルタイムで術式を描き発動するもの。

 鍵と対を成す筆。

 

「次はなんだ?」

 

 周囲、七剣の流星は有象無象の眷属を切り刻み、貫いていく。

 それでもやはり単純な大型や小型であろうとも強度の高い上位個体。現在起きている戦いの中で、最も上位個体の集結度が高い。

 先ほどの二体はただの尖兵であり、続いて迫るのは十を超える数。

 

「結局、物理が一番ってね……!」

 

 それら全てを徒手空拳で殲滅していく。

 翡翠と虹の残光を空に描きながら、膨大な魔力と膂力を眷属たちに打ち込み、砕く。

 拳が、蹴りが。一つ一つが必殺を体現しているのだ。

 それが、≪シュプリーム・エメラレルド≫のもう一つの能力。

 純粋極まる身体能力の強化。

 ただそれだけのシンプルな強化が、アルマの膨大な経験値によって振るわれればそれだけであらゆるものを凌駕する至高となり得るのだ。

 駆け抜け様の攻撃だけで上位個体十体を倒し、次に待ち構えていたのは、

 

「へぇ、そういうのもいけるか」

 

 全長二十を超える超大型が三体。

 龍、翼を持つ機人、水晶で構成された幾何学的立体物。

 小中型の眷属が数百が大型を核として構成されたものだろう。

 戦力でいえば、王都を蹂躙していたサンドワーム、龍種を遥かに上回り、≪三鬼子≫のそれにすら匹敵しかねない。

 それでも。

 

「いいのか、ゴーティアこの程度で」

 

 アルマは不敵に笑う。

 背後に七剣を翼のように背負い、七色の光芒を輝かせる。

 

「この十倍は持ってこないと――――足止めにもならないぞ?」

 

 

 

 Alive in Earth111 アクシア魔法学園新ニ年首席≪至高の翡翠≫アルマ・スペイシア

 

 




同時強化変身はロマンだと思うのです

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