ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー (やーなん)
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こちら多世界交流掲示板
1スレ目


この作品は、拙作『ラウンドテーブル』『バッドガールズ・ダークサイド』『魔王「汚いガキを拾ったから最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたやが?」』と世界観を共有しています。
この作品単体でも十分にお楽しみ頂けます。
それでは本編どうぞ。



アクセス権限チェック中...

承認。観覧許可申請完了。

 

ようこそ、こちら保護対象文化「掲示板」の多次元ネットワーク回線でございます。

 

存分に異世界や異種族、異文化の人々とご交流ください。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

873:名も無き住人

なあ、愚痴ってここで吐き出せば良いんだよな?

 

874:名も無き住人

誰か暇つぶしのネタない?

 

875:名も無き住人

お?

 

876:名も無き住人

新人か?

囲め囲め

 

877:名も無き住人

知らないIDだ、ようこそ掲示板へ

 

878:名も無き住人

まずスペック晒せ

 

879:名も無き住人

こんな旧時代的なコミュニティツール使うとかお前変わってんなww

 

880:名も無き住人

>>879お前もその変人の一人だぞ

 

881:名も無き住人

ええと、スペックってなんだ?

 

882:名も無き住人

スペックは、お前の使ってる端末のオプションに書いてある管理番号の項目をコピペすればいい

誰かに返信したい場合、>>の後に数字を入れれば良い

 

883:名も無き住人

わかった、ありがとう。

>>882 こうかな?

 

884:名も無き住人

そそ、あとわかりやすくコテハン付けてくれ

コテハンは固定ハンドルネームの略な

 

885:名も無き住人

急に人増えたなww

お前ら優しいなww

 

886:名も無き住人

しょうがないだろ、掲示板の文化はとっつきにくいんだから

 

887:名も無き住人

でも味があっていいよな

なんかこう不便さを楽しむみたいな?

 

888:名も無き住人

アーカイブを読み漁るだけで人生溶けるからな

メアリース様が保護対象文化に指定したのも納得だね

 

889:名も無き住人

コピペしたぞ

これで良いのか?

 

管理番号:275424

世界名称:地球

文明レベル:62

普及技術:魔導科学

端末所有者:■■■・■■■■

職業:個人事業主(運び屋)

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

890:名も無き住人

バカかッ!

そこまで赤裸々に晒す奴があるか!

 

891:名も無き住人

幸い、個人情報とか規制入ったみたいだな

 

892:名も無き住人

・・・スマン、俺の言い方が悪かった

 

893:名も無き住人

え、なにか間違ったか?

 

894:名も無き住人

いや、大丈夫だ。ここの掲示板のセキュリティとプライバシーは完全だ

 

895:名も無き住人

居ないだろうが、個人を特定して付きまとうのはコンプライアンス違反だからな

破ったら鉱山労働行きダゾ☆

 

896:名も無き住人

なんとなくマズイのはわかった。

俺も迂闊だったわ。ここなら何でも言って良いって聞いたもんだから。

 

897:名も無き住人

そうだぞ

文明レベル62の世界なら、ネットリテラシーの概念もあるだろ

気をつけな

 

898:運び屋

コテハンはこれで大丈夫か?

 

899:名も無き住人

おkおk

 

900:名も無き住人

バッチリだ

さあ運び屋、俺らの無聊を慰めてくれ

 

901:名も無き住人

オレの♂も慰めてくれよ♡

 

902:管理人

>>901をコンプライアンス違反で罰金が発生しました。

十日以内に支払いが無ければ、資源世界での労働義務が発生します。

 

903:名も無き住人

管理人さんご苦労様です。

 

904:名も無き住人

またコイツか、懲りないね

 

905:名も無き住人

さっさと鉱山労働送りになれよ

 

906:運び屋

愚痴ろうと思ったが、どこから話せばいいかな。

 

907:名も無き住人

自分なりに順序立てて書き込めばええんやで

 

908:名も無き住人

俺ら、こんなところ見てるだけあって暇だしさww

 

 

909:運び屋

じゃあ、俺の住む地球の古代の伝承から話さないといけなくなる。

 

910:名も無き住人

そこから!?

 

911:名も無き住人

神話まで遡るのかよ、運び屋の愚痴

 

912:運び屋

この地球には、人類史が始まる以前から存在する巨大な7つの碑文があってだな。

そこには神様が人類に残した課題が記されてるらしかったんだが。

 

913:名も無き住人

あっふーん(白目

 

914:名も無き住人

もう大体のオチ察したわ

 

915:運び屋

技術が進歩して、100年前くらいにその碑文の文字が解読されたらしく、偉い学者の先生とか集まって世界間プロジェクトが発足したらしい。

そして巨大な宇宙船を作って何千人も人間を乗せて旅立ったんだとさ。

それで数年前、その宇宙船から緊急信号が届いたんだ。

曰く、星空は壁紙だった、と。 

 

916:名も無き住人

まあ、主上が活動域外の余計な作り込みするわけないか

 

917:運び屋

その壁紙の先で船員達は出会ったらしい。

上でも名前が出てた、女神メアリース様に。

そして、こう言われたそうだ。

「よくぞ我が与えた課題をこなした」って。

その褒美に人類は永遠の繁栄に包まれるんだってよ。

 

 

918:名も無き住人

ふーん、そりゃ良かったわ(鼻ホジ

 

919:名も無き住人

なんなら碑文の辺りからいつ頃出てくるんだと思ってた

 

920:運び屋

その後、俺たちの世界を統治する為に魔王がやって来て、生活もだいぶ変わったけど快適に過ごしてたんだよ。

でも数日前、仕事中にテロに遭って右手と両足吹っ飛んだ。

 

921:名も無き住人

おいちょっと待て!

 

922:名も無き住人

いきなり温度差激しくない!?

 

923:名も無き住人

それは、気の毒に・・・愚痴りたいならいくらでも聞いてやるさ

でも碑文の前振りは何だったんだ?

 

924:運び屋

その俺を爆弾でふっ飛ばしやがったテロリストどもが碑文教団だったからだよ!!

 

925:名も無き住人

あー、所謂カルトか

 

926:名も無き住人

宗教ってやつだろ?

存在もしない偶像を崇めて支配と搾取をする体制のことだよな

小学院の歴史の授業で習ったわ

 

927:運び屋

・・・あんたらはメアリース様を崇めてるんじゃないのか?

 

928:名も無き住人

息をすること自体を、お前は感謝し崇めるのか?

メアリース様とはそう言う存在だよ

 

929:名も無き住人

誰にだって生みの親はいるだろ、それと同じだ

 

930:運び屋

なるほどな、俺の世界は宗教が当たり前にあったから不思議だったんだ。

あんたら良くも悪くも神様に敬意がないって。

 

931:名も無き住人

それも時間の問題やろ

メアリース様が居て、宗教が成立するわけない

 

932:名も無き住人

一応、ここの掲示板みたいに保護対象になるかもだけどな

 

933:運び屋

そう、それだよ

 

934:名も無き住人

それって、何が?

 

935:運び屋

碑文教団も、昔は真っ当な世界的宗教だったらしいんだ。

だが、大昔にあの碑文が読めるわけないし、自分たちに都合の良いように教えとして広めてたんだ。

 

936:名も無き住人

あー、なるほどね

技術の進歩で自分たちの神が居ないこと証明されちゃったんだ

 

937:名も無き住人

宗教あるあるだな

類似例には事欠かない

 

938:運び屋

もう100年前から肩身が狭かったらしいんだけど、なんかメアリース様と直接問答して完全に過激派になっちゃったみたいなんだよな。

 

939:名も無き住人

メアリース様「お前達の培った宗教は無価値だけど、文化として残してやる。感謝しなさい」

 

940:名も無き住人

メアリース様「もう私という神が居るから、お前たちの居もしない神にすがらなくてもいいのよ。お前達の先祖も私の手で救われているわ」

 

941:運び屋

あれ? みんななんでそのやり取り知ってるんだ?

 

942:名も無き住人

いやこれはメアリース様コピペって言ってだなww

 

943:名も無き住人

交渉相手を激怒させる天才だからな、主上はww

 

944:名も無き住人

え、あれって態とやってるんじゃないのか?

 

945:名も無き住人

いや地だろ。主上は悪い意味で天然だから・・・

 

946:名も無き住人

どちらかと言うと世間知らずの反応に近いらしい

なんかのニュースサイトで学者が言ってたぞ

 

947:名も無き住人

流石は元貴族よな

 

948:名も無き住人

脱線しすぎだ、みんな

それで運び屋、お前補償は大丈夫か?

テロ被害なら補償が出るだろ?

 

949:名も無き住人

せやったスマンな運び屋

 

950:名も無き住人

メアリース様イジるの鉄板ネタだからなww

 

あと次スレ立てておいたゾ

→XXXXXXXXXXXX

 

951:運び屋

いや、気にしないでくれ。

ホントに異文化の人たちと会話してるんだなって感心してた。

 

952:名も無き住人

www

 

953:名も無き住人

そう思ってくれたのなら掲示板の文化も保持される意義があるってもんだな

>>950 スレ立て乙

 

954:運び屋

補償はされるみたいだ。

保険とか入ってないのに立派な義肢が支給されるらしい。

なんかわざわざ魔王の四天王の一人が来て説明してくれた。

 

955:名も無き住人

そいつは好かった

 

956:名も無き住人

文明の女神は伊達じゃないよな

俺も今の世界に帰属した時は、同じ人間の暮らしとは思えんかったわ

 

957:名も無き住人

メアリース様が人権そのものだからな

なお、おサルさん

 

958:名も無き住人

止めろ

 

959:運び屋

その話は止めてくれ!

 

960:名も無き住人

>>957 ヒエッ

 

961:名も無き住人

運び屋も反応しててワロタ

そっか、やはりそっちでもあったか

 

見せしめが

 

962:運び屋

ああ、メアリース様の管理を拒んだ国の首脳陣が魔王の手で・・・

国会が、動物園みたいに・・・

アレはヤバいよ

 

963:名も無き住人

その気持ちわかるで

俺の世界もそうやった

今は何不自由なく暮らせてるから気にしないことにしたわ

 

964:名も無き住人

でもテロがあるってことは、見せしめにも屈しない連中がいるわけか

根性あるなぁ

 

965:運び屋

なんだかメアリース様みたいな邪神には屈しないとかなんとか。

じゃあなんで俺が巻き込まれたんですかねぇ。

 

966:名も無き住人

邪神はリェーサセッタ様の方だろ、邪悪の女神だし

魔王様一族の生みの親だし

 

967:名も無き住人

あんな慈愛深いまともな御方が邪神なわけないやろ!!

失礼やろがい!!

 

968:名も無き住人

せやせや、俺の妹を襲った通り魔を地獄送りにしてくれたんやぞ!!

一生崇めるわ!!

 

969:名も無き住人

俺はムカつくパワハラ上司半殺しにした時も庇ってくださったんだ

どこが邪神だふざけんな

 

970:名も無き住人

みんな脱線脱線

それにしてもメアリース様との温度差よ

 

971:運び屋

面白いからもっとやっていいよ(笑)

 

972:名も無き住人

www

 

973:名も無き住人

運び屋、あんたきっとここの雰囲気になじむよww

 

974:名も無き住人

支給品の義肢に違和感あったら相談しなよ

うちの世界は生体義肢が発達してるからほとんど生身と変わらないし

 

975:運び屋

>>974 ありがとう、でも俺の世界じゃまだ他世界との交易始まってないんだ

 

976:名も無き住人

そっか、残念だなぁ

 

977:名も無き住人

義肢にも合う合わないがあるからな

運び屋の仕事続けるのか?

 

978:運び屋

リハビリ終えたら続けるつもり。取り引き先とか心配だけど。

幸い、四天王からお見舞い金貰って、しばらくは生活に困らないし。

 

979:名も無き住人

個人事業主なんだっけ?

どこかの下請けなん?

 

980:運び屋

いや、指名制の依頼が来る。社員俺一人だし。

常連客も居るけど、心配なのは荷物がテロでふっ飛ばされたこと。

どんな理由があれ、客の荷物を台無しにするのは信用に関わるし。

 

981:名も無き住人

あー、そっか。そうだよな

 

982:名も無き住人

相手側はそんな事情知ったことじゃないしな

 

983:運び屋

今も俺への指名依頼バンバンキャンセルしてる。

ツライ・・・

 

984:名も無き住人

運び屋・・・元気だせよ

 

985:名も無き住人

運び屋の積み上げた信用が崩れる音が聞こえる

 

986:名も無き住人

今はしっかり体を治すんだ

命より取り返しがつかないものなんてないからな

 

987:名も無き住人

依頼の仲介に連絡したほうがいいぞ

 

988:運び屋

>>987 そうするよ。

そろそろ検査の時間だから戻るわ。

みんな愚痴聞いてくれてありがとうな。

 

989:名も無き住人

おう、あんまり聞いてやれなかった気もするが、いつものことだな!

 

990:名も無き住人

また何かあったら愚痴りにこい

どんなくだらないことでも聞いてやるから

 

991:名も無き住人

運び屋、落ちたかな?

愚痴りに来た割にあまり吐き出さなかったし、根が良い奴そうでちょっと心配だわ

 

992:名も無き住人

釣りってこともあるまい

そんな発想無さそうだったし

 

993:名も無き住人

願わくば、彼もここの住人になってくれると嬉しいな

 

994:名も無き住人

じゃあみんな、そろそろいつものあれだ

 

995:名も無き住人

おうよ!

1000なら運び屋が無事復帰する

 

996:名も無き住人

1000なら運び屋のリハビリが早く終る

 

997:名も無き住人

1000なら彼に仕事がたくさん舞い込む

 

998:名も無き住人

1000なら運び屋がここの住人になる

 

999:名も無き住人

1000ならテロ組織が全員おサルさんになる

 

1000:名も無き住人

1000ならこれから本当の運び屋の物語が始まる!!

 

 

このスレッドは1000を越えました。

新しいスレッドに書き込んで下さい。

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

454:名も無きの住人

だからタケノコはキノコより優れてるってワケ

 

455:運び屋

みんな、運び屋だけど覚えてるか?

 

456:名も無きの住人

ふざくんな、ぶっ■すぞタケノコ野郎!!

 

457:名も無きの住人

お、運び屋じゃん

半年振りか

 

458:名も無きの住人

仕事は大丈夫か?

音沙汰無かったから心配だったぞ

 

459:運び屋

それよりちょっと助けてくれ

 

460:名も無きの住人

殺伐としたキノコタケノコ論争の最中に癒やしが降臨か?

 

461:名も無きの住人

おい、助けてってどうした

 

462:名も無きの住人

シックスセンスの魔法で読み取るに尋常じゃないフインキなのは伝わるが

 

463:名も無きの住人

ふいんき→なぜか変換できない

 

464:名も無きの住人

こら、ネタを仕込むな乗るな

それで運び屋、何があった

 

465:運び屋

それが、

 

466:名も無き住人

落ち着け!

 

467:名も無き住人

とりあえず深呼吸するんだ!

 

468:運び屋

そんな余裕ない!

今追われてる!!

 

469:名も無き住人

追われてる?

またテロ組織か?

思考入力でいいから、ゆっくりと説明しろ

 

470:運び屋

違う!

あれは、あれは!!

 

 

471:運び屋

あれは、魔王だッ!!

 

 

 

 

 

 

 




ハジメテ掲示場モノに挑戦して見ました。前からやってみたかったんです。
スレのノリが表現出来ているといいのですが。

地の文が要らないので、仕事の合間に片手間に書いてますので、雑だったれ申し訳無いです。
これまで私は2作品でコメディを書こうとしてドシリアスになったり方向転換したりしましたが、今度こそはと意気込み投稿しました!
世界観がダークだから無理じゃね、とか言わないで下さい。自覚してます。

本来は年末に投稿予定でしたが、暇なので書きました。
そのうち普通の小説パートも書く予定です。

それではまた次回!!


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2レス目

Topic:用語解説

用語:文明レベル
永久不滅の楽園の創造を目指す女神メアリースの文明の発展度合いを示す基準。
100:私達人類が想像しうる限りの完全無欠の楽園。実現不可能な女神の最終目標。或いは究極のディストピア。
95:科学も魔法も文化も極め切った世界。私達人類の想像する空想科学が完全に実現しているレベル。
62:近未来、SFやサイバーパンクなどの発展度。今作の舞台はここに当たる。
50:全ての国家の軍隊が銃器を兵士に行き渡らせている。おおよそ我々の現代日本みたい感じの生活レベル。
35:騎士が旺盛の時代。剣や魔法のファンタジー、ナーロッパも含む。
0:洞窟暮らしの人類。石器時代にも入っていない動物同然。

度々作中に登場する、レギュレーションという言葉は。文明レベルが低い世界に上位の世界からの技術の流入を防いだり、技術の差による一方的な蹂躙を無くすために設けられた基準のことである。




 

 

 

472:名も無き住人

おい運び屋、魔王様に追われてるってどういうことだ!? 

 

473:名も無き住人

そっちの魔王様は統治の為に来てるんじゃなかったのか? 

 

474:名も無き住人

おいおい大丈夫なのか?

 

475:名も無き住人

とにかく落ち着いてもろて

 

476:運び屋

なんとかやり過ごした

 

477:名も無き住人

まず状況を確認しよう

運び屋、追われる理由に心当たりはあるか? 

 

478:運び屋

あったらこっちが聞きたい!! 

 

479:名も無き住人

要領を得無いな

……そうだ、運び屋は配送業者だろう? 

運んでる荷物とか確認したほうが良い

危険物でも運ばされてるかもしれん

 

480:名も無き住人

それは俺も思ったわ

 

481:名も無き住人

どうなんだ運び屋!? 

 

482:運び屋

今日はオフなんですが! 

休日を満喫してたんだが! 

 

483:名も無き住人

その線は無しか

 

484:名も無き住人

ありゃ違うのか

定番だと思ったのに

 

485:名も無き住人

>>484 映画の見過ぎだ

 

486:名も無き住人

じゃあ相手で目的を推察しよう

運び屋、魔王様に追われてると言ったが、相手の名前はわかるか? 

 

487:名も無き住人

なるほど、魔王一族にも得意不得意があるからな

 

488:名も無き住人

でも運び屋の世界に担当の魔王様は統治に来てたんだろ? 

じゃあ戦闘は得意じゃないかもしれんな

 

489:名も無き住人

研修の為に無名な御方かもしれん

経験を積む為にそういう事をすることもあるそうだ

 

490:運び屋

ええと確か、ローティだった気がする。

放送でそう名乗ってた。

 

491:名も無き住人

 

492:名も無き住人

有名人じゃん

もしかしてロリっ娘? 

 

493:運び屋

見た目は中学生くらいにしか見えない。

 

494:名も無き住人

やっぱり序列6位じゃないか!! 

 

495:名も無き住人

よりにもよって殺傷能力最悪クラスジャマイカ

 

496:運び屋

やっぱり他の世界でも有名人なのか? 

 

497:名も無き住人

魔王一族序列6位、通称“大砂界”のローティ*1

一族切っての若手ホープにして問題児

御兄弟が数百歳で序列一桁なのに、彼女は百才足らずで6位

ハンパじゃない

 

498:名も無き住人

その分、短気で問題行動が多いらしいな

案外、運び屋が追われてるのも勘違いかも

 

499:名も無き住人

100年で6位か

一体どれだけ虐殺したんだか

 

500:名も無き住人

そっちにも王族はいるだろ

第六王女みたいなもんだよ、神の化身だし

王位継承権6位の方が伝わりやすいか?

 

501:運び屋

とにかくヤバいのはわかった

 

502:名も無き住人

これはもう運び屋もオシマイですね

 

503:名も無き住人

RIP

 

504:名も無き住人

運び屋のお墓を建てるウラ

 

505:運び屋

勝手に殺すなし!! 

 

506:名も無き住人

でも

実際問題詰んでね? 

 

507:名も無き住人

うん、まあ、そうね

 

508:名も無き住人

まず魔王様には勝てないからな

 

509:名も無き住人

いかなる勇者も、魔王様には完全勝利できなかったらしいし

 

510:名も無き住人

いや、何年か前に話題になったろ

真正面から真っ向勝負で魔王様に勝った奴が居たって

 

511:名も無き住人

アレは参考にならん

 

512:名も無き住人

今は運び屋には関係ないやろ

 

513:名も無き住人

せや、どうにか対策しないとヤバいで

 

514:名も無き住人

まず最初、話し合いは出来そうか? 

 

515:名も無き住人

>>514 笑顔で笑い声上げてデカい砂の塊を投げつける奴だが? 

 

516:名も無き住人

これはもうダメですね

 

517:名も無き住人

運び屋、良い奴だったよ

 

518:名も無き住人

まだ諦めるなし

魔王様のおわす管理事務局に問い合わせてみたらどうだ? 

てか、まずそれしろし

 

519:名も無き住人

そうだよ、こんなところに書き込む前にメアリース様の事務員か役人に助け求めろよ

 

520:運び屋

さっきから外で砂嵐が起こってる。多分これで電波障害起こしてる

連絡できるなら俺だってそうしてる!! 

 

521:名も無き住人

なるほど

ここの回線はメアリース様の権能で保護されてるからな

 

522:名も無き住人

そうだ!! ここの管理人もメアリース様の端末やないか!! 

 

523:名も無き住人

せや!! 管理人に助けてくれるよう言うんや!! 

 

524:管理人

回答:我が業務内容を逸脱した行為を依頼するメールはお控えください。

仮に書き込みが真実だとしても、その内容を精査すべく上位権限の個体と連絡を取らねばなりません。

 

525:名も無き住人

管理人に連絡したで!! 

 

526:名も無き住人

管理人、それじゃ遅すぎるだろ!! 

 

527:名も無き住人

この御役所仕事めッ!! 

いつもは無駄にスピーディなのにな!! 

 

528:名も無き住人

ならさっさと連絡とってくださいよ!! 

 

529:管理人

回答:この「掲示板」の重要レベルから推察するに、報告は後回しにされる可能性が大。

現地の担当の個体に問い合わせてください。

 

530:名も無き住人

この御役所仕事ぉおお!! 

 

531:名も無き住人

不謹慎だが、このスレ伝説になるかもな

 

532:名も無き住人

言うてる場合か

おい、さっきから書き込み無いが無事か、運び屋!! 

 

533:運び屋

おう、今隠れ場所変えてたところだ

 

534:名も無き住人

運び屋、もしかして街中か? 

オフの日だって、言ってたし

 

535:運び屋

>>534 当然だろ、俺の星に未開拓の場所なんて海中くらいだ

 

536:名も無き住人

町中で砂嵐巻き起こしてるのか、ローティ様……

 

537:名も無き住人

町への被害とか全く考えてないな、こりゃ

 

538:名も無き住人

道理で、自分のテリトリーの中に運び屋がいるのにまだ捕まってないわけだ

生命探知しても数が多すぎるだろうし

 

539:名も無き住人

ローティ様が単なる脳筋な説

 

540:名も無き住人

まさか目視で探してるわけじゃないだろうが

マジでよく無事でいるよな、運び屋

 

541:運び屋

ん、今は何とか落ち着いている。

みんなのおかげだ

 

542:名も無き住人

よせやい

 

543:名も無き住人

何もできないのが歯がゆいな

 

544:名も無き住人

みんな聞いてくれ

今ログ漁って、運び屋の管理番号から出身世界割り出したんだが

どうやら渡航制限が掛かってる

 

545:名も無き住人

>>544 マジで? 

俺らが直接直談判もできないじゃん

 

546:名も無き住人

向こうも緊急事態っぽいな

魔王様が直接出向く案件だしなぁ

 

547:名も無き住人

やっぱりマジなのか、ネタじゃなくて

 

548:名も無き住人

今度はニュースサイトを当たってるが、情報規制されてるっぽい

砂嵐で被害が出てるなんてニュース全くない

 

549:名も無き住人

……これ、マジでヤバイ案件なのでは? 

 

550:運び屋

さっきからそう言ってるだろ!! 

 

551:名も無き住人

参ったな、万策尽きたか?

 

552:名も無き住人

所詮俺らは掲示板の住人

してやれることなんて殆どないのよね

 

553:名も無き住人

俺たちはいつも傍観者よ!!

 

554:運び屋

あ、ヤバ

見つか

 

555:名も無き住人

おい、運び屋!!

応答しろ!? 運び屋!!

 

556:名も無き住人

これはもうダメかもわからんね

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

667:名も無き住人

保守

 

668:名も無き住人

あれから運び屋の書き込みは無しか

 

669:名も無き住人

測らずしも運び屋の出身世界が割れてしまったからな

渡航解禁になったら墓に花でも添えに行こう

 

670:名も無き住人

俺は観光案内にあった碑文公園に行きたいな

直径70メートルのエメラルドの塊なんだと

我らの造物主たるメアリース様は相変わらずスケールがデカい

 

671:名も無き住人

定番の恋人たちのデートスポット(ボソッ

出典:現地の観光サイト

 

672:名も無き住人

>>671 おいやめろ

 

673:名も無き住人

>>671 やめて差し上げろ

 

674:運び屋

・・・なあ、愚痴言ってもいいか?

 

675:名も無き住人

お?

 

676:名も無き住人

運び屋!

運び屋じゃないか!

 

677:名も無き住人

なんだ生きてたのか

 

678:名も無き住人

心配してたぞ

ニュースでやってたが、テロリストが密入界したんだって?

 

679:名も無き住人

別世界の反メアリース様の組織だとかなんだとか

 

680:運び屋

だいたいその通りだ

ああクソ、色々あって言葉が纏まらない!

 

681:名も無き住人

スピーチとかだと、最初に結論を述べると聴衆に主張が伝わりやすいって聞いたことあるぞ

 

682:運び屋

>>681 サンキュー

じゃあまず結論から言うわ

 

俺、四天王になった

 

683:名も無き住人

は?

 

684:名も無き住人

【祝?】運び屋、四天王就任!【なんで?】

 

685:名も無き住人

確か魔王様の四天王って指名制だろ?

運び屋お前、ローティ様の四天王に選ばれたの!?

 

686:運び屋

>>685 結果的にそうなる

 

687:名も無き住人

なんてうらやまけしからん!

ロリっ娘魔王様の側近に選ばれるとか

それなんてエロゲ?

 

688:名も無き住人

俺もなー、なりてーなー俺もなー

 

689:運び屋

あのクソガキのお守りだぞ、何がいいんだ!!

 

690:名も無き住人

お、おう

まさかのガチギレ

なにがあったし

 

691:名も無き住人

もちつけよ

いや、おちつけよ

 

692:運び屋

あの後、俺はあのクソガキ魔王にボッコボコされた

散々煽られながらな!!

 

693:名も無き住人

草ww

 

694:名も無き住人

舐めプされてんじゃんww

 

695:名も無き住人

まあそれだけスペック差あるだろうけど

 

696:運び屋

俺もこのままただじゃ死ね無いと思ってな

殴り返してやったわ

 

697:名も無き住人

お、わからせか?

 

698:名も無き住人

散々わからされたんだろうなぁ、運び屋が

 

699:運び屋

あの化け物を性癖で語るとかどうかしてるっての。

俺、首から下全部使い物にならなくなったんだぞ。

 

700:名も無き住人

運び屋のわからせ棒が敗北したか

 

701:名も無き住人

相棒♂が未使用なら同情するわ

 

702:名も無き住人

茶化すなよアホども

シャレにならんわ

 

703:名も無き住人

流石に空気読め

 

704:名も無き住人

ごめんて

 

705:名も無き住人

ああうん、そうだよな

運び屋の居住世界は義体の換装とか余裕そうだったし

 

706:運び屋

で、俺が九割殺しに遭ってると、なんか高層ビルから人が降って来たんだよ。

映画のスタントかと思ったわ。

そのままクソガキに持ってた剣でガーンって脳天から行った。

 

707:名も無き住人

ガーンってww

語彙力ww

 

708:運び屋

クソガキ、まったくの無傷。どういう頭蓋骨してんだか。

そこで一歩ひいたそいつの姿が見えたわけだ。

なんか、時代錯誤な鎧来てる金髪の女だった。見た目十代後半ぐらい。

 

709:名も無き住人

ガタッ

 

710:名も無き住人

ほう、スリーサイズは?

大まかいいから教えろ

 

711:名も無き住人

座れ童貞ども

 

712:運び屋

鎧着てるって言っただろ(笑)

でもガチガチの甲冑じゃなくて、ソシャゲとかに出てくるような装飾過多な実用性が疑われる奴だったな。

多分、魔法的防御フィールドで防御力を確保してるんだろうな。そんな感じだった。

 

713:名も無き住人

なるほど、布面積少ない水着なのに防御力が鎧よりある感じか

 

714:名も無き住人

そういうのって地位の高い人間しか着れないよな

基本コスト度外視の一点物が多い

 

715:名も無き住人

旧時代的な貴族趣味かもしれんぞ

 

716:運び屋

それで、鎧女がクソガキに怒鳴り声で因縁付け始めたんだよ。

自分はどこそこの最後の生き残りだとか。

知人友人家族国家、故郷を滅ぼされた恨みがどうとか。

 

717:名も無き住人

あー、なるほど

 

718:名も無き住人

テロリストって、レジスタンスどもか

魔王様一族に滅ぼされた世界の生き残り達が組織したという

 

719:名も無き住人

レジスタンスww

メアリース様に見逃して貰ってる負け犬どもだろww

 

720:運び屋

これに対し、メスガキなんて言ったと思う?

「ごっめーん、お前のこと全然覚えてない♪

多分弱すぎたから記憶に残ってないんじゃない?」

だって。

 

721:名も無き住人

これはクソガキですわ

 

722:名も無き住人

これはわからせるべき

 

723:運び屋

その後、周囲を巻き込んで大乱闘よ。

俺の怪我は大体その時の余波な。

 

724:名も無き住人

九割殺しより上があったんですね・・・

 

725:名も無き住人

報道によると都市機能の二割が停止したらしいな

その女も大概ヤベーわ

 

726:運び屋

敢え無く気絶した俺は半年前に見慣れた病院のベッドで起きて、以前会った四天王の方に頭下げられた。

何でも、今回の件は自分のミスだとか。

 

727:名も無き住人

どゆこと?

 

728:名も無き住人

何でも、俺の義肢って四天王さんが気を回してくれて別世界製のを用意してくれたらしく。

俺の世界的より文明レベルの高い世界のやつで、本来レギュレーション違反なんだとさ。

それで、今回のテロリスト騒ぎだよ。

テロリストを探すのにレギュレーション違反を検知する装置を使うらしくて。

 

729:名も無き住人

それで運び屋が襲われた、と

 

730:名も無き住人

やっぱり勘違いじゃねえか!!

 

731:名も無き住人

運び屋が不憫過ぎる・・・

また完全に巻き込まれてるじゃん

 

732:運び屋

その後、クソガキ様に謁見することになった。

俺の怪我、補償するにも俺の世界の技術じゃ限界があるんだとよ。

だから俺に四天王の肩書き乗っけて、その制限を取っ払うらしい。

 

733:名も無き住人

魔王様の四天王は色々と特権があるからな

あまり知られてないけど

 

734:名も無き住人

それにしても肩書きだけとは言えそんな理由で四天王になれたな

 

735:名も無き住人

あれだろ、四天王には五人目がいるってお約束

 

736:名も無き住人

俺、五十人以上四天王にしてる魔王様知ってるぞ

 

737:名も無き住人

第二位だろ、あの御方は節操なさすぎる

 

738:運び屋

それが、クソガキ様の四天王。俺と見舞いに来てくれた二人だけなんだ。

 

739:名も無き住人

え、なんで?

 

740:名も無き住人

四天王(二人)

 

741:名も無き住人

性格に難ありらしいからな

誰も付いてかないんだろ

 

742:運び屋

何年か前に問題おこして、今は謹慎に近い扱いなんだと。

あと統治のやり方学んで落ち着いて欲しいって親御さんが。

 

743:名も無き住人

おいちょっと待て

親御さんと言ったな!!

お前リェーサセッタ様に会ったのか!!

 

744:名も無き住人

ズルいぞ運び屋!!

あの御方は滅多に会えないのに!!

 

745:名も無き住人

そうだぞ、気軽に世間話にも付き合ってくれるメアリース様と違ってな!!

 

746:名も無き住人

どちらも神様なのにフットワーク軽いんだよなぁ

 

747:運び屋

ついでにメアリース様にも会ったぞ。

なんと言うか、マジで本人を目の前にしてあそこまで無神経なこと言えるんだな。

 

748:名も無き住人

ついでww

主上は人間の文明そのものの女神だからな

同じ人間種として自戒しないとな

 

749:名も無き住人

何を誰に言ったかは聞かないぞ

多分頭痛くなる

 

750:運び屋

その方がいいよ。クソガキ様の名誉の為にもな

 

751:名も無き住人

早速言ってるぞなもし

 

752:名も無き住人

相変わらず脇が甘いぞ運び屋ww

 

753:運び屋

あッ

ま、まあなんて言ったかは書いてないから。

とにかく、クソガキ様は四天王の人選なんてどうでも良いと言うありがたいお言葉のおかげで、俺は晴れて四天王になったとさ。

おしまい。

 

754:名も無き住人

お二柱と何を話したか気になるが、それを聞くのは野暮か

 

755:名も無き住人

じゃあさ、四天王になったんだから、異名は決まってるのか?

 

756:名も無き住人

四天王になると魔王様から二つ名貰えるからな

運び屋は何なんだった?

 

757:運び屋

え、言わないとダメか?

 

758:名も無き住人

早く言って、役目でしょ!

 

759:名も無き住人

安心しろ、ちゃんとネタにして笑ってやるから

 

760:名も無き住人

どんなにダサくても気にしないからさww

 

761:運び屋

クソっ言いたくない!!

 

762:運び屋

無言の圧力やめろよ。

わかった、言うよ。

 

『ダークライダー』

 

 

763:名も無き住人

ダークwwライダーwwだってよww

 

764:名も無き住人

†ダークライダー†

 

765:名も無き住人

なんか関係無い戦いに巻き込まれそう

 

766:運び屋

お前ら!!

笑ったやつID覚えたかんな!!

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

104:名も無きの住人

見た目はロリっ娘でも100超えたらババアだろ

 

105:名も無きの住人

ロリババア最高だろうが、人間種の尺度で測ってんじゃねえ!!

 

106:運び屋

おいお前ら

 

107:名も無きの住人

お、ダークライダーじゃん

 

108:名も無きの住人

ダークライダーさんちーっすww

 

109:運び屋

覚えてろよお前ら

 

110:名も無きの住人

それで、今度はどんなネタを提供してくれるんだ?

 

111:名も無きの住人

丁度ロリババアはありかなしかで盛り上がってたところだ

 

112:運び屋

あんたらホントに暇なんだな

ちょっと聞いてくれ

 

この間のテロリストの鎧女、拾っちゃった

どうしよう

 

 

 

 

 

 

 

*1
拙作『魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」』に登場する主人公の姉にして妹。今作は時系列的にこのお話の数年後、事実上の続編である。




前作のように、R18に投稿しないように気を付けてたのにまた最初にミスってしまった。
掲示板が掲示場になってたなんて。
笑うしかないです。
やっぱり慣れないスマホでの執筆だからでしょうか。
掲示板ものなので誤字は味がでるとか言えないですね。
気を付けます。

ではまた次回!


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3レス目

Topic:用語解説

用語:女神メアリース
人類の文明を司る女神にして造物主、人間の概念そのもの。
元貴族階級の人間出身の女神であり、最高クラスの錬金術師でもあった。
その性格は傍若無人で他者の痛みを解さないナルシストで、絶対に、本当に絶対に他人に頭を下げないプライドの持ち主。
自身の同位体である分体を無数に用い、支配下の世界を徹底的に管理する。それゆえについた異名は”無限”の女神である。

名前の元ネタはメアリー・スーであり、当人も地球人にはそう名乗っている。
誰にでも称賛され、惜しまれる存在であるという自認でもあり彼女の傲慢さの象徴とも言える。
その代わり、庇護下の人類には絶大な恩恵を齎し、それは種の終焉まで続く。
その最終目標は、人類の永久の繁栄、即ち完全無欠の楽園の創造である。
現場主義の為、面と向かって理を説けばちゃんと話を聞いて貰えたりもする。

多くの欠点とはた迷惑で空回りする美点の数々を持つ、人類の概念を凝縮した存在なのである。




 

 

 

113:名も無き住人

いや、通報しろよ

四天王だろあんた

 

114:名も無き住人

普通に役人に突き出せって

テロリストなんだから

 

115:運び屋

同僚の四天王に連絡したさ!!

クソガキ・・・魔王様に伺いも立てて!!

その結果が、「そんなザコ捨て置けばいいじゃーん」だそうだ。

 

116:名も無き住人

ええぇ・・・

 

117:名も無き住人

テロリスト放置かよ、魔王様・・・

 

118:名も無き住人

そこは普段魔王様たちが暴れ回ってる滅ぼしていい世界じゃないんだけどねぇ

 

119:運び屋

放置してもそのうち野垂れ死ぬだけだって。

まあそうだろうけど。

 

120:名も無き住人

住人ID無いと水も貰えないしな

 

121:名も無き住人

あらゆる人間としての権利がない状態

メアリース様に知能を剥奪されたおサルさんと同じか

 

122:名も無き住人

知能が有るのと無いの、どちらが惨めかね

 

123:名も無き住人

それがわかってるから放置なんだろ

 

124:運び屋

でも河川敷でダンボールを身体に巻いてタンポポ食ってたんだぜ?

俺ちょっと涙出てきてさ。

そこ、前に犬がマーキングしてたんだ・・・

 

125:名も無き住人

文明の女神の恩寵を失うってこういう事だよな

メアリース様には逆らわんでおこ

 

126:名も無き住人

運び屋よ、お前の心の内は決まってるだろ

口実がほしいならそう言えよ

 

127:名も無き住人

おいバカ、相手はテロリストだぞ!!

 

128:名も無き住人

なら尚更犯人を捕まえて尋問すべきでは?

目的、仲間の有無、連絡手段等々、聞くべき事はいくらでもある

そしてそうする義務も四天王たる君にあるんだ、運び屋

 

129:名も無き住人

肝心な魔王様がやる気無さそうだしな

 

130:名も無き住人

統治者の側近なんだから、特権にふさわしい義務を果たしな

 

131:名も無き住人

おい待てお前ら

運び屋はほとんど一般人やぞ!

何かあったらどうする!

 

132:運び屋

一応、教育課程で基礎訓練は修めてる。

この義体も、スペックヤバいから大丈夫、だと思う。軍用らしいし。

 

133:名も無き住人

体じゃなく、その頭が心配なんだよなぁ

 

134:名も無き住人

同情してテロリスト拾うとかどうかしてるしな

なんなら身体ぐちゃぐちゃにされてるし

 

135:運び屋

どうしよう

食べ物あげたら唸りながら警戒心むき出しにしてる

イヌっぽい(笑)

 

136:名も無き住人

先生、そこに人権のない、何をしても犯罪にならない女の子がいまーす!!

 

137:名も無き住人

とりあえずペット調教の実況よろ

 

138:名も無き住人

まず首輪付けようか(にっこり

 

139:名も無き住人

お前ら欲望に忠実なのいい加減にしろww

 

140:運び屋

お前らヤメロww

ちょっとときめくじゃないか

 

141:名も無き住人

ときめくんかいww

 

142:名も無き住人

結局、一応確保するって方針で行くのな

 

143:名も無き住人

俺らが何言ったところで、運び屋の中で行動は終わってるしな

 

144:名も無き住人

建設的に行こうぜ

件のテロリストには運び屋が魔王様の四天王だって気づかれてないんだろ?

 

145:運び屋

そもそも、あの場に居合わせたことすら気づいてないっぽい

 

146:名も無き住人

監視の名目で匿っちまえ!

 

147:名も無き住人

相手がテロリストだってこと忘れるなよ

 

148:名も無き住人

とりあえず名前とか当たり障りのないことからききだすんやで

 

149:運び屋

オッケー、任せろ

 

150:名も無き住人

運び屋に危機感は無いのか?

マジで心配なんだが

 

151:名も無き住人

まあ犬猫を拾うのと違うし、居つくわけじゃないと思うが

 

152:名も無き住人

同情はするがね

俺も帰属前の居住世界を魔王様に滅ぼされたし

恨みたくもなる

 

153:名も無き住人

実際のところだ、なんでそんなにポンポン滅ぼすんやろ

神様の都合なんてわかんね

 

154:運び屋

家畜のエサなんか、とか言いながら半泣きで食べてる

張っ倒してやろうか、コイツ

 

155:名も無き住人

俺らが家畜ならその惨めにタンポポ食ってた奴は何なんですかねぇ

野良犬かな?

 

156:名も無き住人

レジスタンスどもは俺らのステータス画面のこと家畜の焼き印って言うらしいからなww

 

157:名も無き住人

所詮、残飯漁りどものたわ言だよな

 

158:運び屋

色々聞けた

吐きそう

 

159:名も無き住人

おい、どうしたよ

 

160:運び屋

コイツ、魔王様につきだしてやる

 

161:名も無き住人

待て、はやまるな。落ち着け

 

162:名も無き住人

ここに書き込みながら頭の中で整理しろ

それからでも遅くない

 

163:運び屋

わかった。

こいつの名前はクラリス。

アースエッダって世界出身らしい。

仕事で遠くに来てたが道に迷って、IDも無くして困ってたんだと。

 

164:名も無き住人

はい、嘘乙

 

165:名も無き住人

IDはステータス画面に書いてあるんだよなぁ

どうやって失くしたんだろねww

 

166:名も無き住人

人権と一緒に失くしたんだろ

 

167:運び屋

それで、何をしに来たんだって聞いたら、碑文教団のボランティアを手伝いに来たって

 

168:名も無き住人

ボランティア(テロ活動)

 

169:名も無き住人

ハイ、アウト

そろそろスリーアウトかな

 

170:名も無き住人

宗教文化としての保護を受けた連中もいるんだろうけど、テロリストが過激派とどっちに協力するかと言えばねぇ?

 

171:名も無き住人

運び屋、現役の軍属だがアドバイス欲しいか?

 

172:名も無き住人

>>171 そのID、お前軍人だったのかロリコン野郎

 

173:名も無き住人

軍人が何でこんな所にいるんだよww

 

174:運び屋

>>171 助かる。お願いしたい。

 

175:名も無き軍人

了解、コテハン付けるぞ

そして俺ならまず、そいつを泳がす

無辜の市民を装い、餌付けでもして情報を継続的に引き出せ

その間、裏では四天王の権限で過激派テロリストどもを掃討して完全に孤立させろ

そいつが魔王様とやりあえるだけ強かろうが、あとは煮るなり焼くなり好きに出来る

 

176:名も無き住人

ロリコン軍人ニキ、思ったよりガチめなアドバイスで草ww

 

177:名も無き住人

あんた絶対一兵卒じゃないだろ

 

178:運び屋

>>175 アドバイスありがとう。

参考にしてやってみる。なんかあったらまた頼む。

とりあえず同僚に相談するから、今日は落ちる。

 

179:名も無き住人

乙。健闘を祈る

 

180:名も無き軍人

おう、いつでも相談しな

 

181:名も無き住人

それにしても、テロリストちゃん

名前に規制が入らなかったってことはマジで人権ないんやなって

 

182:名も無き住人

犬猫の画像と名前をSNSに上げたって規制されるわけないだろ

そういう事だよ

 

183:名も無き住人

ふーん、ちょっと興奮してきた!!

 

184:名も無き住人

ワイ、オーク族

メアリース様の庇護下に入って人類扱いになり、一族もみんな豊かになったから、そういうの聞くと複雑な気分

自分たちが今までそうだったなんて、な

 

185:名も無き住人

メアリース様は懐が広い分、裏切ったり敵には容赦しないから

 

186:名も無き住人

あの御方が傍若無人なのは、わかってるからだしな

誰もが、豊かさや便利さを知ったら元の生活には耐えられないことを

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

551:運び屋

どうしよ

誰か助けて

 

552:名も無き住人

お、運び屋か

カルト教団掃討は順調か?

 

553:名も無き住人

今度は何があったし

 

554:運び屋

メアリース様が怒ってる・・・

 

555:名も無き住人

 

 

556:名も無き住人

 

 

557:名も無き住人

 

 

558:名も無き住人

 

 

559:運び屋

どうしよ

 

560:名も無き住人

まず状況を説明しろ

お前もおサルさんに成りたくないだろ?

 

561:名も無き住人

さよなら運び屋

 

562:名も無き住人

おサルさんになったら、俺が世話してやるよ♂

 

563:管理人

>>562 コンプライアンス違反です。

これで三度の警告です。次は労働義務が発生します。

 

564:名も無き住人

炭鉱夫なろうとしてる者もいるな

 

565:名も無き住人

ほっとけ

それより、何があったんだ

 

566:運び屋

震えて文字tえない

 

567:名も無き住人

感覚共有モードを使うんだ!!

 

568:名も無き住人

感覚共有モード?

ああ、古き良き掲示板文化に必要ないって実装が物議を醸したやつか

 

569:名も無き住人

結局あんまり使われなかったしな

 

570:名も無き住人

物珍しいだけだったよな

 

571:運び屋

こrwか?

 

[感覚共有モードを実行します]

 

 

572:名も無き住人

げ、何だこの状況!?

 

573:運び屋

ローティ『私は、ちゃんと仕事したんだけど?』

同僚『ローティ様!!』

 

574:名も無き住人

運び屋の視界に居るのが魔王ローティ様と、それを諌めてるのがもう一人の四天王の同僚か

 

575:名も無き住人

おい、メアリース様から目を逸らすな

 

576:名も無き住人

とりあえず、運び屋が怒られてるわけじゃなさそうだ

 

577:運び屋

メアリース『これは統治の任務よ。バカみたいに壊せば良いわけじゃない。

あなたの功績に免じて目をつぶって来たけど、反省もしないならこちらにも考えがある』

 

ちょっと落ち着いてきた

神様怖い

 

578:名も無き住人

一体何があったし

 

579:名も無き住人

こんなに怒ることまず無いぞ

 

580:運び屋

メアリース『この世界は私の資産。所有物。だって私が創ったから。

お前はそれを無意味に壊した。これで何度目かしら?』

 

過激派掃討に魔王様も参加することになって、ちょっと都市機能が四割麻痺しちゃったから、こんなにお怒りに

 

581:名も無き住人

そら(街までぶっ壊したら)そうよ

 

582:名も無き住人

ローティ様もなんかメッチャ不機嫌そうじゃね?

 

583:運び屋

メアリース『他の人間型タイプの魔王ユニットは安定してるのに、どうしてあなただけこんなにも不安定なの?』

ローティ『あんたが言ったんじゃん。私のこと失敗作だって!!』

 

失敗作かもしれない、だったぞ

俺の記憶によれば

 

584:名も無き住人

大して変わらないんだよなぁ

 

585:名も無き住人

造物主に失敗作呼ばわりされるとか、想像するだけで震えるわ・・・

それ以上の尊厳破壊は無いぞ

 

586:名も無き住人

そりゃあこんな態度にもなるわな

でもここは下手に出るべきとこだぞ

 

587:名も無き住人

どんな精神状態でも、仕事をする以上のそれをちゃんとこなさない方も悪いけどな

 

588:運び屋

ローティ『私はあんたにこんな風に創ってくれって頼んだわけじゃないんだけど!!』

 

これ以上はマズイ、マズイって!!

 

589:名も無き住人

同僚ちゃん泣いてるやん

恐怖で

 

590:名も無き住人

なんなら運び屋の視界もぼやけてるぞ

それでもハッキリわかるメアリース様の激怒具合よ

 

591:運び屋

メアリース『そう。じゃああなたは要らないのね。私があなたに与えた全てが』

 

 

592:名も無き住人

 

593:名も無き住人

あっ

 

594:名も無き住人

ヤバいでこれ!

 

595:名も無き住人

マジかよメアリース様!

 

596:名も無き住人

死刑宣告やん、それ・・・

 

597:運び屋

同僚『お許しを! それだけは何卒!!』

メアリース『もう聞く耳を持たない。少し反省しなさい』

 

あああああ

 

598:名も無き住人

ローティ様が・・・

 

599:名も無き住人

魔王が、おサルさんに

 

600:名も無き住人

魔王様は竜の末裔だから、トカゲちゃんじゃね?

 

601:名も無き住人

言うてる場合か!!

母上はこのことご存知なのか?!

 

602:名も無き住人

とんでもない光景を見てしまった・・・

 

603:運び屋

メアリース『別にあなたの代わりはいくらでもいるもの。それが人間社会よ、これでひとつ学んだわね。出来損ない』

 

[感覚共有モードを終了します]

 

酷すぎる

 

604:名も無き住人

可哀想すぎて拔けない

 

605:名も無き住人

なにこれ、グロ映像やん

俺、録画しちゃったぞ

 

606:名も無き住人

みんな語彙が

 

607:名も無き住人

同僚ちゃん泣き崩れたやん

 

608:名も無き住人

これが、数多の勇者が挑んでは敗れた魔王の最期なのかよ

 

609:名も無き住人

所詮、魔王様たちもメアリース様の所有物に過ぎないのか

 

610:名も無き住人

ちょっと母上に直談判してくる

 

611:名も無き住人

>>610 行ってらっしゃい魔王様

 

612:名も無き住人

ここの住人に魔王一族の御方おったんやな

 

613:運び屋

これ、どうなんだよ

ローティ様、赤ちゃん同然になっちゃったぞ

メアリース様も帰っちゃったし

 

614:名も無き住人

クソガキ様がクソガキじゃなくなられてしまわれた

 

615:名も無き住人

とりあえず同僚ちゃんを慰めてやれ

ローティ様の後釜もすぐに決まるだろうさ

 

616:名も無き住人

良くも悪くも伝説になるな、このスレ

 

617:名も無き住人

それが喜ばしいものだったら良かったんだけどな

 

618:運び屋

とりあえず、同僚と協議の結果、ローティ様は俺が面倒見ることになった。

同僚はローティ様の残した仕事を代行しないといけないんだと。

 

619:名も無き住人

痛ましいな

ここの住人らしい魔王様の報告を待とう

 

620:名も無き住人

でも、運び屋

お前、あのワンちゃんの餌付け中では?

 

621:運び屋

それなんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いきなり低評価付いて挫けそうですが、頑張って書きました。
需要ないのかなぁ。
小説パートは、仕事の合間に書くのはカロリー高いので休日に書きますね。

それでは、また次回!


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4スレ目

※二話と三話のあらすじに用語解説載せました!

Topic:用語解説
用語:女神リェーサセッタ
邪悪と悪逆を司る人間出身の女神にして、女神メアリースの唯一対等な盟友。
基本的に共同統治で、管理下の世界で片方の名前しか聞かないということは無い。
極めて優れた召喚術の使い手でもあったので、彼女の神官は召喚魔法の恩恵を得られる。

邪悪を司ると言っても、彼女の性質は至って真面目で苦労人気質。
その権能も、悪に走らざるを得ない弱者を庇護し、悪に苦しむ者に救いを与え、悪人を罰するという秩序側の存在である。
また、魔王一族の母神でもあり、彼らだけでなく多くの人々に絶大な人気と信仰を集める、本当に、マジでまともな感性を持った女神である。




 

 

 

741:名も無き魔王

とりあえず、一族の連名で直訴状作った

少なくとも50人は集まったな

 

742:名も無き住人

あ、魔王様コテハン付けたんですね

 

743:名も無き住人

思ったより多く集まりましたな

 

744:名も無き住人

あんなあっさり切り捨てられたらなぁ

 

745:名も無き魔王

お前ら、こんな界隈まで敬語使わなくてええわ

それよか、一番肝心な大兄の署名貰えんかったのがキツイわ

 

746:名も無き住人

大兄・・・偉大なる序列一位、マスターロードですか!?

あの御方とあっさり連絡取れるなんて、ホントに魔王様なんですな

 

747:名も無き住人

大いなるお二柱に唯一意見出来る御方だもんな

慈愛深い御方だって有名だけど、ダメだったんか

 

748:名も無き魔王

今回の一件、ローティの姉さんがちゃんと仕事しなかったのが悪いって大兄に言われたわ

母上も同上。大兄も、視点は神みたいなもんだし

 

749:名も無き住人

それはそう

 

750:名も無き住人

実際、多大に迷惑被った人達が居ただろうしな

統治者として来てるのにあれじゃねぇ

 

751:名も無き住人

リェーサセッタ様はもっと魔王様たちには優しいと思ってたわ

 

752:名も無き魔王

母上はいざとなったら非情に成れる方だぞ

昔、禁忌を侵そうとした兄さんをぷちってしてしまわれた

 

753:名も無き住人

ヒエッ

流石は魔王の母神。メアリース様の唯一対等な盟友ですわ

 

754:名も無き魔王

あれからもう100年くらいか

ローティの姉さんが産まれる前だし

 

755:名も無き住人

うん?

魔王様、今の序列どのくらい?

 

756:名も無き魔王

>>755 100位以降。番外だな

 

757:名も無き住人

じゃあ年下を姉って呼んでるんですかww

 

758:名も無き住人

姉にして妹とか、属性過多ですなローティ様ww

 

759:名も無き魔王

やかましい!!

そもそも序列はメアリース様への貢献度やからしかたないだろうが!

それに十位以降も無いような知名度だし

 

760:名も無き住人

だからこそ、序列六位のローティ様がああなったのがショックだよな

 

761:名も無き住人

あれで実年齢が見た目相応ならなぁ

 

762:名も無き住人

>>761 コテハン消してもIDでわかるぞ、ロリコン軍人

 

763:運び屋

もうヤダ助けて

やっと寝かしつけた

 

764:名も無き住人

お、見た目中学生の赤ちゃんの世話をしてる男だ

 

765:名も無き住人

どう見ても事案です

 

766:名も無き住人

つまり、シモの世話もしてると?

・・・ごくり

 

767:名も無き魔王

我ら一族は完全な生命体だから排泄もセックスも不要だぞ

出来なくはないが

 

768:名も無き住人

どうせなら俺たちも便利に創ってほしかったわ

 

769:運び屋

じゃあ代わってくれよ

その完全な生命体の身体に赤ちゃんの知能を搭載した暴れん坊の世話をよ!!

 

770:名も無き住人

あっ(察し

ゴメン、ちっとも羨ましくないわ

 

771:名も無き住人

む、無知シチュが楽しめると思えば・・・

 

772:名も無き住人

知能奪われても、身体は魔王のまんまだしま

 

773:名も無き魔王

俺もさっき知ったが、我ら魔王一族の設計はメアリース様なのだとか

だが実際に我らを産み出しているのは母たる女神リェーサセッタ様である

つまり、メアリース様が我らから取り上げられるのはそう多くないようだな

 

774:名も無き住人

つまり、知能以外は実質変わりないと

興味深いですな

 

775:名も無き住人

言うて、細々とした発動系スキルとかは使えんと同じやろ

魔王にそういうの必要か知らんけど

 

776:運び屋

あの、失礼かもしれないけど魔王様に聞いていいでしょうか?

 

777:名も無き住人

おい、俺のシックスセンスの魔法が運び屋が居ずまいを正しいたのを察したぞ

 

778:名も無き魔王

なんだ、好きに聞くがいい

ここは匿名掲示板だからな

 

779:運び屋

じゃあ遠慮なく

魔王様は神様に命じられて、不要な世界を滅ぼすそうですが、その時なにも感じないんですか?

ローティ様の為に一族で協力出来る優しさを持ってるのに

 

780:名も無き住人

運び屋、流石にそれは・・・

 

781:名も無き魔王

別に何も。メスのカマキリが交尾の後オスを食べるのに感情が必要か?

それはなぜなのか?

そういうふうに作られてるからだ。それ以上でもそれ以下でもない

 

782:名も無き住人

運び屋お前、聞きたくても聞きにくいことを

 

783:名も無き魔王

むしろ我ら一族は十分に原住民に配慮している

滅ぼされたくなければ、死力を持って全身全霊でこの魔王を打ち破れ、とチャンスを与えている

家を壊す解体業者がシロアリに配慮はすまい?

我らは十分に慈悲深いだろう

 

784:運び屋

このローティは、その解体工事を貢献度六位になるまでやったのか・・・

 

785:名も無き魔王

むしろ、ローティの姉さんこそ解体業者だったそうな

その仕事の速さは歴代でも類を見ない容赦のなさだ

母上やメアリース様も、適材適所で破壊だけをさせていればよかったものを・・・

 

786:名も無き住人

シロアリに配慮しない魔王様だったわけか

 

787:名も無き住人

まあ、魔王様達からすれば俺たちはシロアリだよな

・・・ああクソ、故郷を魔王軍に蹂躙された記憶が蘇ったぞチキショー

 

788:名も無き住人

みんな深く受け取るなよ、顔も見えない相手のたわ言だ

ネタだネタだ作り話だ

 

そうだといいなぁ

 

789:名も無き住人

精神構造が種族ごとに違うのは証明されているからな

俺はもう気にしない

 

>>787 辛いなら神官殿に診てもらえ

 

790:運び屋

あっそうだ!!

 

791:名も無き住人

(唐突な話題変換)

 

792:名も無き住人

コイツ自分で重くした空気に耐えられなくなったな

 

793:運び屋

ローティの奴、俺をパパって呼ぶんだけどこれ大丈夫かな(震え声

リェーサセッタ様に怒られない?

 

794:名も無き住人

コイツ急に自慢して来やがった!!

 

795:名も無き住人

ちょっと羨ましいぞお前!!

 

796:名も無き魔王

我が父は、人間だったの頃の母上に邪悪の全てを教えた邪竜だと言う。

母上は我が父を師として、恋人として、父親代わりとして接したそうだ

お前が我らが父の代わりができるならその甲斐性を見せてみよ

 

797:名も無き住人

ハードル高杉ワロタww

 

798:名も無き住人

やっぱり女神様の伴侶は格が違うわ

 

799:運び屋

ムリです

 

800:名も無き住人

今なら元クソガキ様を自分色に染められるぞww

 

801:名も無き住人

他の呼び方なんてお兄ちゃんぐらいしかないけどなww

 

802:名も無き住人

その兄も、偉大なるマスターロードがいらっしゃると言うww

流石は魔王の一族ですな

 

803:運び屋

コイツら他人ごとだからって好き勝手言いやがって!

あ、コラ

 

804:名も無き住人

お、なんかやらかしたか?

 

805:名も無き住人

ちょっと疑問なんだがね、皆いいかな

 

806:名も無き住人

>>805 そのIDは学者ニキ!!

どうぞどうぞ

 

807:名も無き住人

一学者として疑問なんだが、メアリース様に知能を御返しした以上、常識的に考えて新たに単語を覚える事は可能なのかね?

常識的に考えて思考能力全て喪失するのが妥当ではないか?

 

808:名も無き住人

たし蟹

 

809:名も無き住人

学者殿は通常の剥奪対応と違うとお考えで?

 

810:名も無き住人

そう言えば、おサルさんを人道的観点から保護してる団体が、知能が回復したなんて発表したの見たことないな

 

811:名も無き住人

ウチの世界も

 

812:名も無き住人

俺の世界も聞いたことない

 

813:名も無き住人

ググったけどこっちでも前例ないっぽい

 

814:名も無き住人

あの時メアリース様はローティ様に反省しろ、と言った

反省とは再起を促す為のものではないかね?

 

815:名も無き魔王

メアリース様も、盟友たるリェーサセッタ様に配慮して我が姉を完全に再起不能にはしなかった、と?

 

816:名も無き住人

そう考えるのが妥当だと思うよ

あのメアリース様が完全に失望したのなら、あの御方が能力をほぼそのままに放って置くかね?

それは処分がより面倒だし、知能剥奪の行動自体が無意味だ

 

817:名も無き住人

今回は別に見せしめってわけでもないしな

 

818:名も無き住人

なるほど、希望は有ったのか!

 

819:名も無き住人

そう願いたいわ

あんなクソガキ様でも序列上位ならファンは居ただろうし

 

820:運び屋

あのクソガキ、おねしょしやがった!!

これ、俺が替えるの?(絶望

 

821:名も無き住人

ガタッ

 

822:名も無き住人

たった今ローティ様のファンになりました

 

823:名も無き住人

トイレが必要なら俺が行こうか?

 

824:名も無き住人

(;´Д`)ハァハァ、もっと詳しく!!

 

825:名も無き住人

コイツら・・・

今ローティ様にセクハラしてもコンプライアンス違反にならないからってここぞとばかりに

 

826:名も無き住人

ぎゃ!?

なんか攻撃魔法飛んできたぞ!?

 

827:名も無き住人

こっちにもだ!?

こんな威力のファイヤーボール見たことねぇ!?

 

828:名も無き魔王

リアルダイレクトアタック余裕でした

・・・次はフレアブラスト撃つぞ

 

829:名も無き住人

サラッと次元越えて魔法撃ってる・・・

個人でそれ出来るなんてマジで魔王なんやなって

 

830:名も無き住人

あれがファイヤーボールだと!?

じゃあ俺のは何なんだ!?

 

831:名も無き住人

魔王様の魔力でフレアブラストなんて撃ったら町規模なら半壊するんですがそれは

 

832:名も無き住人

ローティ様の知能は戻るかもしれないんだぞ

命が惜しければ自重汁

 

833:名も無き住人

でも、間違いなくローティ様の知能が回復したら真っ先に八つ裂きにされるのは運び屋なんだよなぁ

 

834:名も無き住人

それな

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

901:運び屋

おい、どうせ暇してんだろヒキニートども!!

ちょっと手伝ってくれ!!

 

902:名も無き住人

メアリース様の管理下で引きこもりニートが許されるわけないだろ、いい加減にしろ!!

 

903:名も無き住人

主上は親のスネかじるニートを社会悪として毛嫌いしてるからな

病気とかならともかく

 

904:名も無き住人

ワイ、35年引きこもった筋金入りの元ニート

世界がメアリース様の管理下に置かれ、数年前に更生施設に連行され無事真人間に

現在親孝行を計画中

 

905:名も無き住人

運び屋も隙あらば煽り散らかす掲示板の空気に慣れてきたなww

 

906:運び屋

>>904 親孝行頑張れよ

あのさ、前にどっかの赤ちゃんのせいで都市機能が麻痺したって書いたじゃん?

お陰で俺みたいな末端の運び屋も仕事が有り余ってるわけ

 

907:名も無き住人

都市機能の四割だっけ?

なお、その前に二割破壊した赤ちゃんとワンちゃんがいた模様

 

908:名も無き住人

そんなことでマウント取るな

 

909:運び屋

俺も仕事に出ないといけないわけ

仕事仲間にもせっつかれてる

でも家にはおっきな赤ちゃんがおるやろ?

 

910:名も無き住人

おいまさか、俺らに面倒見ろとか言わないよな?

 

911:名も無き住人

俺らは所詮傍観者ぞ

ムチャクチャ言うなよ

 

912:運び屋

ここに感覚共有モードがあるじゃろ?

ローティが寂しがるから話し相手でもしててくれ

俺の端末、コイツに預けとくから

 

913:名も無き住人

おいおまッ、マジかよ

 

914:名も無き住人

俺らに赤ちゃんの世話しろってか!?

 

915:名も無き住人

普通にベビーシッター雇えよ!!

 

916:名も無き住人

いや、赤の他人を雇うのはマズイ

俺の世界じゃ、人道支援団体の職員がおサルさんを虐待死させたってニュースになったことがある

そいつは解雇だけで罪にも問われてない。道義的にはともかく

 

917:名も無き住人

あー

俺の世界でも似たような話しあったわ

おサルさんの家族が人を雇って世話させてたら隠れて虐待してたって言う

 

918:名も無き住人

神様にコイツ人間じゃないって保証されてるからなぁ

 

919:名も無き住人

胸くそ悪いわ

イルカやクジラとは訳が違うんだぞ

 

920:名も無き住人

最下級の階級を作り不満を押し付ける

人間社会の縮図やね。流石は人間の文明を司ってる御方の所業やわ

反吐が出る

 

921:名も無き住人

それくらいしとけ

メアリース様が批判に寛容とは言え、その恩寵を受けてる身でそれ以上の暴言は恥知らずだ

 

922:運び屋

 

[感覚共有モードを実行します]

 

にぃに、にぃにどこぉ

 

923:名も無き住人

うわ、唐突に始まったぞ!?

 

924:名も無き住人

感覚共有モードの斬新な使い方だな、おい

 

925:名も無き住人

アイツ、ローティ様ににぃにって呼ばせてんのか

羨ましいぞ、クソっ!!

 

926:名も無き魔王

おいたわしや姉上

本当に全部忘れてしまったんですね

あんなに懐いておられたのに

 

927:名も無き住人

魔王様が完全に掲示板特有の口調とか言い回しとか崩れて地が出てるww

 

928:運び屋

なにこれ、へんなの!

きゃはは!!

 

『端末の自動読み上げモードで、虚空に投影された掲示板のブラウザを見てはしゃぐ細い手が映る』

 

929:名も無き住人

かわいい

 

930:名も無き住人

かわいい!

 

931:名も無き住人

マジで幼児の動きだぞこれ

 

932:名も無き住人

ふむ、もう既に簡単な単語を理解しているのか

人間なら2歳から3歳ぐらいか?

 

933:名も無き住人

少し前まで赤ちゃん同然だったんだろ?

どういう学習速度だよ

 

934:運び屋

にぃに、いない

ひぐ、ヒック、うえぇーん!!

 

935:名も無き住人

唐突に泣いたよ!?

どうするのこれ!?

 

936:名も無き住人

ああもう、見てらんないわ!!

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

 

338:名も無き住人

こうして、メアリース様はかつて嫉妬した妹君の弓の腕前に敗れ、死後に気が付くと自身が人類文明を司る存在だと神々の座で自覚なされたのでした。

おしまい

 

339:運び屋

キャハハ

しんじゃった、しんじゃった

バカなマヌケがしんじゃった!!

 

340:名も無き住人

何度聞いても、生前のメアリース様がクソ外道なんだが

 

341:名も無き住人

リェーサセッタ様も大概やぞ

なんで行く先々皆殺しの壮絶な人生で死後あんなにお優しくまともな女神になられたんだろうか

 

342:名も無き住人

しかし、凄まじい学習速度だ

そこらのAIよりよほど理解力がある、これが神々が手ずから創り上げた完全な生命か!

前々から魔王一族を解剖して研究したかったんだ

学会に発表出来ないのが口惜しい

 

343:名も無き住人

学者ニキ、前々から薄々思ってたけどあんたマッドだろ

 

344:名も無き住人

さっきまで何を読んでたんだお前

我らの造物主がマッドだったんだから、これが正常なんだろきっと(適当

 

345:名も無き住人

ローちゃん、次は何のお話がいいかな?

 

346:名も無き住人

保母ネキサンクス

 

347:名も無き住人

まさかローティ様あやすのに2スレも消費するとは

 

348:運び屋

もうつかれた

ねむねむする

 

349:名も無き住人

もうこのまま1から知育した方が良いのでは?

クソガキよりマシかと

 

350:名も無き住人

だったらメアリース様の伝記を読み聞かせたのは不適格だろ

 

351:名も無き住人

それもそうだったわね

理解は良いからついつい難しいお話を選んじゃったわ

 

352:名も無き住人

>>351 保母ネキは悪くない

精神構造は魂や肉体と密接に関係してる

ローちゃんは魔王にしか成れんのよ

そういう風に創られてるからな

 

353:名も無き住人

それじゃあクソガキ様はクソガキ様に戻るだけでは?

 

354:名も無き住人

それを言っちゃおしまいよ

 

355:名も無き住人

それにしても運び屋め

面倒を押し付けやがって

おかげで仕事休んじゃったぞ

 

356:名も無き住人

俺も心配で有給取ったぞww

家内にどうしたのって心配されたわww

 

357:運び屋

『ピンポーン、というインターホンの音が少女の耳に入った』

 

むにゃむにゃ

だれだろ

 

358:名も無き住人

知らないひとなら出ちゃダメですよ!

 

359:名も無き住人

運び屋ならわざわざ呼び鈴鳴らさんもんな

 

360:名も無き住人

いやまて、たしかこの時間は

 

361:運び屋

クラリス『あのー、親切な御人ー。今日のゴハンなんでしょうーか?』

 

あ、にぃにがエサあげてるワンちゃんだ

 

362:名も無き住人

やっぱりかよ!

 

363:名も無き住人

声だけでわかる、このワンちゃんのアホっぽさよ

 

364:名も無き住人

昨日までは親戚の赤ん坊を預ってるで誤魔化してたそうだが

 

365:運び屋

じゃあ、あかちゃんのマネする

おぎゃーおぎゃー

 

366:名も無き住人

かしこい

 

367:名も無き住人

この対応力よ

えらい

 

368:名も無き住人

なんならこの時点で俺よりかしこいぞ

 

369:名も無き住人

もうスレ住人を骨抜きにしとるぞローティ様

 

370:運び屋

クラリス『おや、赤ん坊の鳴き声だけが。中の気配から察するに一人だけ?

これはいけません! 普段の恩返しにこの私が面倒を見てあげましょう!!』

『直後、ドアの鍵をこじ開ける音が聞こえた』

 

 

371:名も無き住人

いやいや、そうはならんやろ

 

372:名も無き住人

なっとるやろがい!!

 

373:名も無き住人

普通ドアの鍵こじ開けたら警備会社に連絡いくぞ!?

コイツの頭の中どうなってるんだ!?

 

374:運び屋

『怒声、そして滅茶苦茶な破壊音』

 

キャハハ!!

ワンちゃん、あそんでくれるの?

 

[感覚共有モードを終了。端末との通信が途絶えました]

 

 

375:名も無き住人

あーもうめちゃめちゃだよ

 

376:名も無き住人

どうするのこれ

収拾つかないぞ

 

377:名も無き住人

運び屋のお家、無いなった・・・

 

 

 

 

 




救いは、いえ需要はあったんですね!!
こんな片手間の雑な作品を評価して下さって望外の喜びであります。
小説パートはもうしばしお待ちを。

今度こそ、読者の皆様の期待に添える作品を書き上げたいと思います。
この作品タイトルで受けなかったらスベったみたいで恥ずかしかったんですよね!

それでは、また次回!!



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5レス目

Topic:用語解説

用語:ステータス画面

昨今なろう系で定番なステータス画面のことである。
女神メアリースはこれに目を付け、人類ひとりひとりを管理する方法を思いついた。
このステータス画面には、個人情報や能力値、保有スキル、IDから果ては衛生的観点から性交の相手や回数まであらゆる個人情報が記録される。故に、“家畜の焼き印”などと揶揄される。
それ故、これを勝手に盗み見るのは、プライバシーの侵害であり裁判沙汰になる。(というか他シリーズでは実際に裁判沙汰になっている)

女神は管理に便利だから、とこの方式を採用しているが、それは同時に彼女の人々の管理がゲーム感覚でしかないことを示してもいる。



 

 

 

387:名も無き住人

おい、現場はどうなってるんだ!?

 

388:名も無き住人

通信端末が壊れちゃどうしようもないべ

 

389:名も無き住人

現場がどうなってるかだって?

そんなの決まってるだろ

 

地獄絵図よ

 

390:名も無き住人

フッフッフ

こんなこともあろうかと!!

 

391:名も無き住人

あ、あんたは魔法技師ネキ!!

 

392:名も無き住人

なんか妙案でもあるのか!?

 

393:名も無き住人

ワレ、地球系統の出身

並行世界の観測なぞドローン飛ばせば朝メシ前よ

 

394:名も無き住人

>>393 ステキ!抱いて!

 

395:名も無き住人

流石はあのクソ強い魔法少女の専属技師だけあるわ

でもそれレギュレーション違反にならん?

 

396:名も無き住人

>>395 女神メアリースは人類文明の女神

私の師匠、妖精だからその技術系統ならあの御方は管轄外で手出しできない

 

397:名も無き住人

屁理屈やんww

でもその屁理屈が矮小な人間の武器なんだよなぁ

 

398:名も無き住人

その裏ワザテロリスト共には教えるなよ

まあ、あの性悪刹那的快楽主義者の妖精共があの連中に協力するわけなかろうが

 

399:名も無き住人

天然素材100%のドローンちゃん、発進!!

以後スレに自動的に実況が流れるように設定しとくね

 

400:名も無き住人

完全天然素材だけとか、マジで想像できん

土製ゴーレムみたいなもんか?

そら対応出来んわ

 

401:名も無き住人

メアリース様の役人に管轄外って言われたら絶対に何もしてくれんからな

 

402:ドローンちゃん

目標座標到達。

対象補足。映像を掲示板の感覚共有モードに同期します

 

403:名も無き住人

うわっ

 

404:名も無き住人

ピザ生地かな?(震え声

 

405:名も無き住人

これ、更地って言うんやで

 

406:名も無き住人

でもこれなんか様子おかしくない?

 

407:名も無き住人

なんか、無人の小型多脚戦車みたいなのがうようよしてるんだが

 

408:ドローンちゃん

音声キャプチャー開始。

 

A『我ら正当な碑文教団は、邪神の支配に毒された人々を開放する!!』

B『これは虐殺ではない、浄化である』

C『我らの神こそが、真に人々を導くに足るのだ!!』

 

『無数の多脚戦車から何度も何度も身勝手な主張が垂れ流される。

戦車の砲塔からビームが発射され、高層ビルが木っ端微塵になる』

 

409:名も無き住人

うげ、マジでこんな連中が実在してるんだ・・・

 

410:名も無き住人

バカことしやがって

自分たちが何したかわからないなんて幸せだな

 

411:名も無き住人

ってか、あの二人はどこだ?

 

412:名も無き住人

ちょっとこっちで手動でサーチする

・・・見つけた!

 

413:ドローンちゃん

『多脚戦車を真正面から次々と洗練された動きで破壊するクラリス。

その姿を後から見てローティがはしゃぎ笑っている』

 

414:名も無き住人

これどういう状況?

今は一時休戦中なの?

 

415:名も無き住人

わからん

 

416:名も無き住人

誰か説明してくれよ!

 

417:名も無き住人

音声拾えそうだからやってみる

 

418:ドローンちゃん

クラリス『聞いてない! 何もかも!

この作戦も、私のバックアップがこんな作戦を取る組織だってのも!

なんか魔王が別人みたいになっちゃってるのも!!』

 

『やけくそ気味の少女の泣き言が、次々と機械の爆発音に重なる』

 

419:名も無き住人

お前何も知らんのかい!!

 

420:名も無き住人

そりゃあ、ずっと迷子になってりゃね

 

421:名も無き住人

テロリストと一緒に行動するはずが、高架下で野良犬になってたんだもな

 

422:ドローンちゃん

クラリス『大義の為に、他人を巻き込むなんて間違ってるのに!!』

 

423:名も無き住人

お前ローティ様と一緒に町ぶっ壊してたじゃんww

 

424:名も無き住人

ローティ様のテロリスト掃討もやけに被害が有ったと思ったら、連中こんな兵器隠し持ってたのか

 

425:名も無き住人

レジスタンスどもが見逃されてるのは、標的が魔王一族とその周囲だけだかららしい

野良犬にも野良犬なりのプライドがあるんだな

 

426:ドローン

ローティ『キャハハ!! ローちゃんもあそぶ!』

 

『単純な身体能力でオモチャみたいに多脚戦車を引きちぎる魔王の姿があった』

 

427:名も無き住人

こんなのオーガ族でもマネできんぞ

 

428:名も無き住人

知能デバフの真っ最中なのにこの強さよ

 

429:名も無き住人

お、アレは!!

 

430:ドローンちゃん

運び屋『二人ともなんで一緒になんだ!?

ちッ、そんなことあとだ。とりあえずこいつらぶっ潰す!!』

 

『バイクに乗った運び屋が駆けつけた。

高性能の軍用義体を使った身体能力で、多脚戦車を蹴り砕く』

 

431:名も無き住人

運び屋、サイボーグなの差し引いても強いじゃん

 

432:名も無き住人

なんでも、グレーな仕事も引き受けるから、荒事に馴れてるんだと

 

433:名も無き住人

運び屋の仕事、本当に配送業なのかよ

 

434:ドローンちゃん

多数の完全装備の集団を確認

現地の軍隊だと推測

多脚戦車相手に戦闘を開始

 

435:名も無き住人

終わった・・・

 

436:名も無き住人

これ以上は覗き見しても意味ないかな

ドローンを回収するね

 

437:名も無き住人

>>436 乙、魔法技師ネキ

 

438:名も無き住人

赤ちゃんVSワンちゃんの戦いが始まったと思ったら、梯子を外された気分だわ

 

439:名も無き住人

そう言うな、マジもんのテロリストの襲撃だぞ

予想できるか、そもそも不謹慎だぞ

 

440:名も無き住人

うむ、メアリース様、良い転生先に送ってあげてるください_(_^_)_

 

441:名も無き住人

詳しい話しは運び屋に聞くべ

 

442:名も無き住人

せやせや

マジもんの殺し合い見て喜ぶ人間じゃないしな、俺ら

 

443:名も無き住人

ウムウム

コロシアムチャンネルで熱狂できる連中の気が知れん

 

444:名も無き住人

あの三人、顔を合わせて何を話してるんだろうな

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

693:運び屋

あのクソ教団いつか必ずぶっ潰す

 

694:名も無き住人

おつかれ、運び屋

 

695:名も無き住人

乙カレー

 

696:名も無き住人

マジで大変だったみたいだな

 

697:運び屋

端末壊れてたのにみんなよく知ってるな

 

698:名も無き住人

あのワンちゃんとローティ様一緒だったんだろ?

大丈夫だったのか?

 

699:名も無き住人

それ気になるな

 

700:名も無き住人

こっちも心配だったんだ

 

701:運び屋

あのワンちゃん、戦いが終わったらハイタッチしてきたよ

その後、はっとなって俺が魔王様となんで知り合いなんだって思考に至ったらしい

隠す意味ないし、四天王だって明かした

 

702:名も無き住人

ハイタッチww

かわいいなコイツww

 

703:名も無き住人

頭よわよわなのは予想通りだったなww

 

704:名も無き住人

まあ、戦闘中は視野が狭まるのは仕方無い

だがこの子の敵味方の識別はどうなってるんだか

 

705:運び屋

あいつガーンってショック受けてた

感情が顔に出やすいのかわかりやすい

その後、色々悩んでたみたいだけど、一応お尋ね者だから軍の人が来て逃げてった

あいつ、飢え死にせんか心配だわ

 

706:名も無き住人

運び屋の心配の仕方が、母親に隠れて犬を飼ってる子供のそれやがなww

 

707:名も無き住人

そういや、運び屋の家は無いなってたな

ワンちゃん、どこで食べ物にありつくんだろうか

 

708:名も無き住人

町のほとんど更地になってたけど、どんだけ被害でたんだろ

 

709:運び屋

うちの世界、メアリース様の管理下に置かれる前はどこも治安悪かったから

大抵のとこには地下シェルターがあるんだ

今、軍の人たちは瓦礫掘り返して救助作業してる

 

710:名も無き住人

そっか、なら思ったほど人的被害は無かったのか

 

711:名も無き住人

なんだか運び屋の物言いだと、これぐらい日常茶飯事に聞こえるんやが

 

712:名も無き住人

日常茶飯事(町二割破壊

 

713:名も無き住人

日常茶飯事(都市機能四割停止

 

714:名も無き住人

運び屋もなんだか戦い慣れてた感じだしな

 

715:運び屋

まあ、だからメアリース様の管理下に置かれたこと自体は歓迎してるのよ

資源不足も他所の世界から供給されて安定してきたし

 

716:名も無き住人

文明レベル62ぐらいでそこまで世紀末になるんか・・・

 

717:名も無き住人

資源不足だったの、スクラップ&ビルド繰り返してたからでは?

 

718:名も無き住人

主上は何万って世界を統べてるからな

余ってる資源を別の世界移動させるのは朝飯前だし

 

719:運び屋

そういや、ローティ様の後釜が決まったらしい

この治安の悪化は今の彼女じゃ抑えられないってことで急遽決まったようだ

通信画面越しにお話もした

スズ様って言うらしい、やっぱ有名人か?

 

720:名も無き住人

知らん

知ってる人いる?

 

721:名も無き住人

今年発行の魔王一族名鑑開いたけど、名前載ってないな

 

722:名も無き住人

魔王様はご存じない?

 

723:名も無き魔王

そういや、一番新しい妹がそんな名前やった気が

 

724:名も無き住人

ほーん、龍人タイプ?

それともローティ様みたいに人間タイプ?

 

725:運び屋

ローティと同じ人間に近い見た目だった

背丈も同じくらいだったし

 

726:名も無き住人

ガタッ

 

727:名も無き住人

>>726 座ってろロリコン軍人

 

728:名も無き住人

>>726 魔王様、こいつです

 

729:名も無き魔王

>>726 フレアブラスト

 

730:名も無き軍人

……もうちょっと手加減してくれませんかねぇ

うちの部隊の連中、大半が吹っ飛んだんですが

奇襲じゃないって報告しないといかんから落ちるわ

 

731:名も無き住人

なんであんた無事なんだよww

 

732:名も無き住人

ええぇ、マジでフレアブラスト撃ったんすか

 

733:名も無き住人

とりあえず、仕事が任せられる相手もできてよかったじゃん

運び屋の同僚ちゃんも、仕事の引継ぎが終わればローティ様丸投げできるし

 

734:運び屋

ホントにな

もうガキのお守りはごめんだよ

同僚の引継ぎが終わったら、あいつに任せるよ

 

735:名も無き住人

私はもうちょっと観察したかったがね

 

736:名も無き住人

>>735 学者ニキは自重して

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

135:運び屋

報告だ、みんな聞いてくれ

 

136:名も無き住人

お、見た目中学生女子と同棲してる野郎だ

 

137:名も無き住人

誰がどう聞いても事案です

 

138:運び屋

うるせぇ!!

ローティの奴が俺から離れたがらなかったんだから仕方ないだろ!!

無理やり引きはがして暴れられたらどうなると思ってんだ!!

いや、それより、ワン子見つけたぞ

 

139:名も無き住人

お、どうしてた?

 

140:名も無き住人

そっちも仮住まいは脱したんだろ?

ワンちゃんも住めるところ見つけたんかね

 

141:運び屋

俺の世界には大型の3Dプリンターで、建物そのものを出力できるからな

壊れた町も半月でほぼ元通りよ

あいつは・・・うん、路地裏で残飯探してたよ

 

142:名も無き住人

メアリース様の恩寵で支給される量子変換装置で、どんな生ごみも高たんぱく質のカロリーバーや丸薬にできるから、残飯漁っても無意味なのに・・・

 

143:名も無き住人

衛生の観点から、IDがないと体すら売れないからな

 

144:運び屋

あまりにも憐れだったから、支給品のカロリーバーあげたのよ

あのワン子、「家畜のエサなんて食べれるか!!」って言った後、ぐぎゅるるぅってお腹鳴らしてたww

そこら辺の野良犬より惨めで可哀想なんだが

 

145:名も無き住人

マジで知恵が有るのと無いのと、どっちがマシなんだろな

 

146:名も無き住人

メアリース様ならともかく、そんな有様ならリェーサセッタ様は食べ物の盗みぐらいなら赦してくださるだろうに

自己正当化して犯罪に走らない気高さは評価するわ

 

147:名も無き住人

生憎だが、リェーサセッタ様が赦して下さるのは死後だゾ

まあ、あまりに酷いと生きたまま地獄行きもありうるみたいだが

 

148:運び屋

その時は、俺が見てたんじゃ食べれないと思って帰ったのよ

だけど、次の日は公園の遊具の下で寝てたらしく、子供たちに石投げられてシクシク泣いてた

そのまま囲まれて、ガキどもにイジメられてたから思わず助けちゃったわ

 

149:名も無き住人

(´;ω;`)ブワッ

 

150:名も無き住人

ワンちゃん、ホント運び屋の居住世界に何しに来てたんだ?

 

151:名も無き住人

きっと無人島の方が人間らしい生活できるぞ、これ

 

152:名も無き住人

これが都会の闇ですか

 

153:運び屋

仕方ないから、碑文教団(まともな方)が運営してる孤児院に連れてってやったのよ

ここ、俺の知り合いがやっててさ、ID未登録児とか受け入れてるのよ

 

154:名も無き住人

なるほど、そこならワンちゃんみたいな人間が居ても違和感無いのか

 

155:名も無き住人

ID未登録児(推定二十歳前後)

 

156:名も無き住人

どこの世界にも、認知されずに捨てられる子供がいるんだな

まあ、そんなことする連中が死後どうなるか見ものだわ

誰もリェーサセッタ様からは逃れられないんだからな

 

157:名も無き住人

よその世界じゃ、親になるのに資格試験が必要ないってマ?

親として必要な人格や財力、能力があるって保証されてない連中に子供育てさせんの?

信じらんないわ

 

158:名も無き住人

うちの世界は一定年齢まで施設で預かることになってるな

反対意見も多いが、声が大きい奴に限って無能な親なんだよな

 

159:名も無き住人

皆さん生殖行為で増えるとかww野蛮っすねww

こっちは種族的寿命が近いから人口管理の上クローン精製ですわ

でも、最近それも限界っぽいんだよなぁ

 

160:名も無き住人

いろいろな文化があって興味深いなぁ

世界ごとの育児の方法とか比較してみたいわ

 

161:名も無き住人

そうした他世界との交流がこの掲示板の本来の使用目的だしな

 

162:運び屋

とりあえずさ、落ち着いたらワン子から色々聞き出してみるわ

この流れ邪魔しちゃ悪いからさ

 

163:名も無き住人

おう、俺らは育児に対する文化の違いで盛り上がってるわ

 

164:名も無き住人

久々に中身のある討論が出来そうだな

 

165:名も無き住人

面白そうだからうちの大学の教授呼んでくる

 

166:名も無き住人

真面目な話は付いてけないんで、俺は落ちますわ

ここ偶に頭イイ人居すぎるし

 

167:名も無き住人

それでは一先ず、各々の世界の教育制度の違いから語り合おうか?

 

 

 

 

 

 

444:運び屋

ローティ様、全部思い出したって

どうしよ、たすけて

 

 

 

 




前回で、前面衝突するか!!
って引きで肩透かしで申し訳ありません。
だってまだこのお話、まだ一章ですもん。(二章目以降の構想があるとは言ってない

これは掲示板モノという性質上、語れる範囲と言うモノがあります。
つまり、運び屋は信頼できない語り手であり、掲示板の裏で当人の目線では言葉には出来ない状況が進んでいることを意味します。

次回は、いよいよ彼の目線などで状況を整理したいと思います。
それでは、また次回!!



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幕間「ある勇者の原点」

 

 

 

 世界名、アースエッダ。

 その構造は滝のように縦長で、上から下へ行くほど大地が広がっている。

 

 そんな世界の最下層、その片隅の森の奥に、隠れるように小さな村が存在していた。

 その村の名前は、存在していない。

 そんな村に、クラリスは産まれた。

 

 そして、そこに暮らす人々は特徴的だった。

 

「お師匠様、今日もお稽古をお願いします!!」

「ああ、よく来たね。クラリス」

 

 幼きクラリスが師事していたのは、一番近い国の元騎士団長。

 彼は毎日のように、彼女に剣術の稽古を付けていた。

 

「こりゃッ、クラリス!! 

 魔法の修業から逃げるでない!!」

「お勉強はいやだぁ!!」

 

 剣術の稽古が終われば、大陸一の賢者と称された老人に首根っこを掴まれ、連れられて行く。

 その姿を、村人たちは微笑ましく見ていた。

 

 かつて、この世界に一つの予言が齎された。

 

 ──運命の子が勇者となり、災厄の王を打ち破るだろう、と。

 

 その運命の子こそが、クラリスであった。

 この村は、彼女を密かに育て上げる隠れ里だったのだ。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ああクレアか」

 

 賢者にこってりと魔法の理論を叩きこまれたクラリスは、妹の声に顔を上げる。

 その少女はクラリスそっくりの顔をしていた。

 彼女たちは双子だったのだ。

 

 当初、大人たちは双子の誕生に困惑を隠しきれなかった。

 クラリスと、妹のクレア。どちらが運命の子なのかと。

 

 だが、妹のクレアは魔法の素質に秀でていたが病弱であり、姉のクラリスは著しい武芸の才能を示した。

 大人たちは、クラリスを勇者として育てることにした。

 

「まったく、クラリスときたら。

 クレア、お前が姉を支えるんじゃぞ」

「はい、おじい様!!」

「ちぇ、クレアばっかり」

 

 クラリスは叡智に優れた妹を羨んでいた。

 だが、彼女は確信していた。いずれ二人で、来たる予言の災厄の王を倒すのだと。

 

 そう、思っていたのだ。

 

 

 ある日のことだった。

 

「こりゃ!! クラリス!!」

「ひえぇ!?」

 

 巻き割をしていたクラリスは、魔法の師匠の声に飛び上がった。

 

「あはは!! お姉ちゃん、私よ私!!」

 

 彼女が振り向くと、いかめしい老人の姿がドロンと消え、最愛の妹の姿になった。

 

「どう? 最近覚えた変身魔法よ、びっくりした?」

「なんだ、クレアだったのか、びっくりしたー」

 

 妹のイタズラに、クラリスはにこやかに笑った。

 この村の平穏はこうして、予言の日まで続くと思われていた。

 

 

 ────カンカンカンッ!! 

 

「敵だ、敵襲だ!! 

 あ、あれは、あれはまさしく、予言通り災厄の王が来たんだ!!」

 

 村人たちが、鐘を鳴らして叫んでいた。

 

「馬鹿な、早すぎる!! 

 まだクラリスが災厄の王と戦うには幼すぎる!!」

 

 完全武装した元騎士団長が、呻くように言った。

 

「お前たち!!」

 

 二人の元に、彼女たちの母親が鬼気迫る様子でやってきた。

 

「お前たちだけでも逃げなさい!! 

 今のあなた達では、あの災厄の王──魔王には勝てない!!」

「お母さん……」

「あなた達の立派な姿、見られなくてごめんなさい」

 

 母親は二人を抱きしめると、武器を手に村の入り口へ向かった。

 その直後だった、のどかな村に巨大な砂嵐が発生したのは。

 

「今から逃げても、間に合わない!!」

「ど、どうしようクレア!?」

 

 頭脳労働は、いつも妹の担当だった。

 イタズラするときも、稽古をさぼる時も、ワガママを言う時も。

 

「大丈夫だから、私の言う事きいてお姉ちゃん。

 まず、地下倉庫に武器を取りに行こう」

「う、うん!!」

 

 二人は、そうして村の地下倉庫へ走った。

 何の変哲もない村を偽装する為、地下倉庫は完全に武器庫として使用されて隠されていた。

 

「お姉ちゃん、先に行って。

 私、ちょっと走って疲れちゃった」

「わかった、クレアの分まで武器を取ってくるね!!」

 

 クラリスはその言葉に頷き、先に武器庫へと彼女は足を踏み入れた。

 

「よし、これとこれで、オッケー!! 

 クレアー!! これで私達も戦えるよ!!」

 

 しかし、武器庫の扉は閉ざされていた。

 扉の僅かな覗き穴から、俯いたクレアの姿が見えるだけだった。

 

「クレア、クレア!?」

「ごめんね、お姉ちゃん」

 

 クレアは、呪文を唱えた。

 その姿形が、より姉へとそっくりとなった。

 

「お姉ちゃんが勇者となって、世界を救って」

「クレア、ウソでしょ、冗談止めてよ!!」

 

 そして、クラリスは全てを見ていた。

 

 

「私こそが、運命に予言された勇者クラリス!! 

 おのれ、魔王め!! 村の人たちをよくも無残に殺してくれたな!!」

「ぷッ」

 

 憎しみを滾らせるクレアを、砂嵐の中心に存在する災厄の王は嘲笑った。

 見た目だけなら、その姿は二人と大して変わらない。

 魔王、そう称される存在なのに、人間そっくりだった。

 竜のような、頭部の一対のツノを除いて。

 

「お前、それで誰に成りすましてるつもりなの? 

 まあいいや。聞きたいことは一つだけ。

 ──お前は姉か、妹か?」

「この世から消え去れッ、魔王!!」

「だからさぁ」

 

 勇猛に魔王に挑んだクレアは、木っ端のようにあしらわれた。

 そして、魔王の矮躯がクレアの頭を踏みにじる。

 

「聞いてんじゃん、姉か妹かって。

 双子なんだろ、あんたら。こっちは遊びじゃないんだ。

 質問に答えるなら、あんたらどちらかは見逃してやってもいい」

「わ、私が、姉だ!! 

 姉のクラリスだッ!! 妹に手を出させはしないッ!!」

「そうかぁ、じゃあお前はハズレかな」

「────え?」

 

 

「我が主上が、唯一恐れる魂の持ち主は必ず双子の弟か妹として産まれる。

 それを殺すのが我ら魔王一族の赴任先の一番最初の仕事。

 よかったな、お前は見逃してやるよ」

 

 クレアの頭にのしかかった、万力のような足がどけられる。

 

 そして、魔王とクラリスの眼が合った。

 ゆっくりと、魔王は笑みを浮かべた。

 

 そして、彼女の死の一歩目を、クレアがその足に抱き着いて阻止した。

 

「ご、ごめんなさいッ、うそつきました!! 

 私が、私が妹ですッ、だから、だから、お姉ちゃんだけは」

「……最初からそう言えよ。これで面倒ごとが一つ片付く」

 

 魔王は軽くクレアを足で振り払うと、その右手を踏みにじってその体を蹴り上げた。

 

 ぶちり、と虫の手足を引きちぎるように簡単に、クレアの右手が胴体から離れてしまった。

 

「クレア!! クレアぁ!!」

 

 どんなにクラリスが扉を叩こうが、頑丈な扉はびくともしない。

 

「お……お願いします、ねえちゃん、おねえちゃんだけは」

「言ったじゃん、お前の姉なんてどうでもいいハズレなんだって」

 

 もはや出血が酷く、まともな意識も残っていない少女は、うわ言のように姉の無事を願った。

 

「それじゃ、はい。仕事完了」

 

 果物が踏みつぶすされるように、真っ赤な血の花が魔王の足元に咲いた。

 

「それにしても、この展開ってまるでこの前に兄貴と遊んだ古典のゲームの序盤みたいじゃん♪ 

 きゃはは!! 帰ったら兄貴に自慢しちゃお!!」

 

 砂嵐が消える。災厄の王が、去った。

 

 村の生き残りは、クラリス一人だった。

 

「魔王ッ、魔王!! 魔王おおぉおおおお!!」

 

 その日、彼女は胸に、魂に刻み込んだ。

 あの憎むべき、怨敵の姿を。

 

 その相手を討つべく、彼女は旅を始めた。

 だが、魔王と二度目の戦いは彼女を待ってはくれなかった。

 

 その約一か月後、この世界アースエッダは砂漠に満ちた不毛の世界と化した。

 

 クラリスの旅は、熱砂の砂漠にて終わると思われた。

 

 

 

 

「こ、ここは?」

 

 気が付くと、クラリスはベッドに寝かされていた。

 周囲を見渡すと、見たことも無い材質の壁や天井に覆われていた。

 そして、彼女のベッドの脇には、未知の機材が置かれていた。

 

「気づいたかい?」

 

 声の方に、クラリスが顔を向けると、そこには気だるげな白衣の女が立っていた。

 

「……あなたは?」

「私の名前は、さて、なんだったかな」

 

 白衣の女はおどけるように肩を竦めた。

 

「ここでは、博士で通っている。それで納得してくれたまえ」

「じゃあ、ここはどこですか?」

「君にはなじみが無いだろうが、次元航行船だよ。

 より正確に言うなら、レジスタンス第170支部と言ったところか」

 

 博士は順番に説明した。

 ここに居るのは、魔王一族に滅ぼされた世界の生き残り、だと。

 

「滅ぼされた? じゃあ、私の故郷は!?」

「現実は、早めに直面した方が良いだろう」

 

 博士が虚空で指をスライドさせると、モニターが空中に投影された。

 

「これが、君の故郷だよ」

「そんなッ!?」

 

 クラリスは、自分の世界の姿など、見たことは無かった。

 だが、自然豊かで美しい世界の筈だった。

 

 モニターに、そこにあったのは、砂場だった。

 元の姿が想像できないほど、枯れ果てた砂地のみが残されていた。

 

「なんで、どうして、魔王はこんなことを!!」

「私が以前尋ねたところ、仕事だそうだ」

「仕事、これが?」

「魔王は、所詮神々の遣いに過ぎない。

 我らの真の敵は、我らが造物主たる女神メアリース。

 そして、魔王を産み出す邪悪の女神リェーサセッタ」

 

 博士は、胡乱な視線でクラリスを見やる。

 

「君が我々と共に戦うのなら、そのすべを与えよう。

 もし、そうでないなら、安全な世界へ送り届けよう。

 君はどちらを選ぶかね?」

 

 クラリスの答えは、決まっていた。

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

 クラリスは志を共にする仲間たちと共に、訓練に励んだ。

 

 レジスタンスなどと言っても、やることは訓練ばかりだった。

 むやみやたらに民間人を襲ったり、感情のままに女神の管理下の世界を攻撃するとかは、博士が許可しなかった。

 

「我らは魔王とは違う。

 あの家畜どもを殺したところで、何の意味もない。

 女神どもに痛打を与えることも出来ない。

 我らの第一目標は、魔王一族の排除だ。そのために君たちを育てているんだ」

「それでも、連中の供給源を断つことに意味はあるはず!!」

「くどい。君たちは元の世界で勇者と称えられる素質があったはずだ。

 それにふさわしい誇りと尊厳を持ちなさい。

 それを失った時、君たちは大義を失うのだから」

 

 抗弁する仲間に、博士は冷徹に諭した。

 クラリスに彼女の言うことは全て理解できなかったが、それは尊く大切なものだと思ったのだ。

 

 

 ある時、珍しく博士は酒を飲んでいた。

 

 レジスタンスのメンバーは、基本的に死人扱いだ。

 死人に神の恩寵を受けられるはずも無い。

 だから水も食料も貴重品。お酒なんて、本当に珍しい。

 

「博士、博士はどうしてレジスタンスになったんです?」

「……復讐だ。復讐以外に無いよ。我々レジスタンスにはね」

 

 自分の事を全く話さない博士の思い出話を、クラリスは黙って聞いていた。

 

「私の故郷は、偉大なる魔王様の元で類稀なる繁栄を与った。

 その文明レベルは何と95だ。君らには想像できないだろうが、メアリース様がこれ以上の発展は見込めないと太鼓判を押すほどだ」

 

 クラリスにとって初めての事だった。

 あの憎むべき女神を、様を付けて彼女が呼んでいるのは。

 

「我らは巣立ちの時を迎え、新たなる地で人々に叡智を与えるはずだった。

 だが、その前に我らに無限大の恩寵を与えて下さった大いなる御二柱の“聖地”へと巡礼するはずだった。

 だが、それは、それだけはならぬ、と!! 

 ……我が故郷は、一瞬のうちにメアリース様の手によって滅ぼされた。

 たまたまよその世界に出かけていた、私のような者たちを除いて」

 

 博士は泣いていた。彼女は泣き上戸らしかった。

 

「我らが敬愛する魔王様も、あれほど優しく偉大だった、我らを導いてくださった大いなる御方さえも!! 

 自らの母神の手によって粛清された!! 

 あれが、あれが親のすることなのかッ、許せない、赦せない!! 

 私が、私達がッ、魔王様の仇を討つのだ!! あの我々を舐め腐った女神に、目に物を見せてやるのだ!!」

 

 クラリスはぐずぐずに泣いている博士をずっと慰めていた。

 信じていたからこそ、神として尊敬していたからこそ、裏切られた時の悲しみが彼女を支配していたのだ。

 彼女が自分の事を話さなかったのも、士気に関わるからだった。

 

「だが、もうすぐ我らの船も、目的地へと辿り着く」

 

 博士の瞳は、虚空の先を見つめていた。

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

「あれが、見えるだろうか。

 あれこそが、我らの文明が観測した巨大な障壁だ。

 あの奥には、神々も恐れる窮極の叡智が眠っているとされる」

 

 次元航行船は、目的地にたどり着いた。

 彼女らが怨敵と定める、二柱の女神が産まれた“聖地”に。

 

 その奥には、見上げても大きさが把握できない巨大すぎる“門”があった。

 

「これから、私はあの巨大な障壁の向こうへと向かう。

 伝承では、あの先に行った者は誰ひとりとして帰ってこなかったと言う。

 だから諸君は、もしもの場合に備えて定時連絡が無ければ、転移装置で各々の目的の世界へ行きなさい」

 

 博士の目的は、あの“門”の奥へ行って神々に対抗する叡智を持ち帰ることだった。

 そして、それを元にして今度こそ神々に戦いを挑むつもりだった。

 だが、それは叶わぬと他ならぬ彼女は何となく察していた。

 だからこれは別れなのだ。

 

「皆には、我が文明が生み出した最高峰の武装を与えている。

 それがあれば、完全な生命たる魔王とて殺しえるだろう。

 我々の叡智が、神々の最高傑作にどこまで対抗しうるか見ておきたかったが……」

 

 博士は、そちらに目配せした。

 それに気づいた、彼女が育てた勇者たちも臨戦態勢に入った。

 

「残念だが、ここより先は我が母の命にて行かせるわけにはいかない」

 

 何もない、“聖地”の地平。

 そこに悠然と佇むのは、一人の魔王。

 

「まさか、あなた様が出てくるとは。

 偉大なる“マスターロード”ッ!!」

 

 その名に、誰しもが緊張が走った。

 魔王一族序列一位、偉大なる“マスターロード”。レジスタンスの最大目標の一人だった。

 

「そういう君の顔は覚えがある。

 我が弟の四天王として、良く支えてくれたはずだったね」

 

 それは皆にとって、予想外の言葉だった。

 

「もう、昔の話だ。

 あなたにとって、我が主が昔の事のように!!」

「あの子の事は、本当に残念だった。

 だが、あの向こうに行ったところで、君の欲するものなど何もない。

 我が主上や我が母に対する失望が、繰り返されるだけだ」

 

 怒れる博士に対し、魔王の頂点は痛まし気に彼女を見ていた。

 

「慈愛深い魔王、などと呼ばれているが、ここは本来の悪役に徹しようか。

 ──憐れな子よ、お前も我が弟の元へその魂を送ってやろう」

「お前たちッ、早く転移しろ!!」

 

 博士が、背後の仲間たちにそう声を掛けた。

 

「遣る瀬無いものだ。

 お前が見逃されていたのも、全ては主上の意思。

 お前がやってきたことも、全て主上の望み通りに過ぎない」

「私の意思は、私のモノだ!! 

 神が勝手に、私の尊厳を語るなッ!!」

 

 その博士の怒声を皮切りに、爆音が鳴り始めた。

 クラリスたちは船に戻り、武器を手に転送装置へと乗り込んだ。

 

「各々の世界の常識については、現地の支援組織に教わって。

 多分、今生の別れだと思うけど、みんな元気で!!」

 

 装置を動かしたクラリスの仲間が、涙ながらにそう言った。

 彼女らはこれから、各々転移先で魔王へ挑む。

 勝っても負けても、生きて帰ることは出来ない。

 

 こうして、クラリスはまた家と家族を失った。

 

 

 

 §§§

 

 

「ここが、あの魔王のいる世界……」

 

 眼を開けると、クラリスにとってはまさしく別世界だった。

 乱立する高層ビルの数々。

 夜の街に、所狭しと並べられたネオンの看板。

 人々は雑多に、そして彼女の想像できない人数がひしめいていた。

 

「……はやく、支援組織に合流しないと」

 

 偽装用のIDが内臓された腕輪を確認し、クラリスは高層ビルの上を飛んでまわった。

 

 だが、すぐに上空に真っ赤な警戒アラートを示す映像が投影された。

 

『警報、警報、重大なレギュレーション違反を検知しました。

 大規模破壊兵器の可能性を考慮し、市民の皆さんはシェルターへ避難してください』

「もう見つかったの!?」

 

 予想外の早さだった。

 こういう事態に、クラリスはあわあわし出した。

 

「ど、どうしよう……。

 あ、そうだ、どうせ出てくるのは魔王の手下なんだから、全員倒せばそのうち魔王が出てくるか!!」

 

 そして彼女はアホだった。

 

「ん? あれって!?」

 

 住人は慣れたもんだと避難はすでに完了していた。

 その眼下を、なぜか見覚えのある人影が疾走していた。

 

 この時、彼女からバイクで逃げる男は目に入らなかった。

 

「あれは、あいつはッ、あの時の魔王!!」

 

 かさぶたのように塞がったクラリスの傷から、憎悪が吹き上げた。

 

 魔王が停止した瞬間を狙って、その頭蓋に一撃を喰らわせた

 

「うん? いま何かした?」

「んぎゃあぁぁ!?」

 

 その衝撃で、周囲の物体は吹っ飛ばされた。

 

「魔王!! 魔王ローティ!! 

 ここで会ったが十年目!! あの時の屈辱と、借りを返す日をどれだけ夢見たことか!!」

「うーん? どっかで会ったっけ? 

 多分弱すぎて覚えてないかな♪」

「ほざけッ、今日が貴様の最期だ!!」

 

 そして、クラリスは魔王とぶつかった。

 その結果は痛み分けだったが、戦闘後に彼女は気づいた。

 

「あ、あれ、腕輪どこ……?」

 

 偽装IDの腕輪が、さっきの魔王との戦闘でぶっ壊れてどこかに行っていたことに。

 あれが無くては、支援組織と連絡も取ることもできない。

 

「これから、どうしよう……」

 

 全くの知らない世界に放り出された彼女は、星の見えない夜空を見上げて途方にくれるのだった。

 

 

 

 




最初の小説パートは、主人公にしようかと思いましたが、ここは勇者のバックボーンを書いた方が良いのでは、と思ったのでこちらにしました。
彼女の情報は不足気味ですからね。これが彼女のオリジンです。
言うまでも無く、冒頭のアレは国民的某RPG四作目のオープニングのオマージュです。私が最初にやったシリーズの作品なので思い入れのある作品です。

次回辺りは今度こそ運び屋視点になると思います。
それではまた次回。


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幕間「ある運び屋の受難」

Topic:用語解説

ロケーション:“聖地”
女神メアリースと女神リェーサセッタが人間として誕生した時に存在した世界の跡地。
今では、果て無き地平と残骸だけが残る何もない地である。
“聖地”とは、彼女たちの信奉者たちの呼び名であり、二柱は禁忌の地として立ち入りを固く禁じている。
その先に足を踏み入れた者は、ほぼ例外なく生きて帰ることは無いとされるが、人知を超越した神々も恐れる窮極の叡智がそこには眠っているとされる。

このような曰く付きの地であるが、座標と次元航行や転移技術があれば、誰でも行けてしまう場所でもある。
そこにたどり着けてしまえば、この地を守護する“門番”に、審判を受けるであろう。




 

 

 ゆっくりと、目を開ける。

 

 見覚えのある天井だった。

 

「目を覚ましましたか?」

 

 混濁した意識に微睡むまま、俺は声の方に視線を向けた。

 丸ブチ眼鏡に髪の毛を後ろに束ねた、いかにも真面目ですと言わんばかりの女が居た。

 

「あなた、は……確か四天王の」

「はい、魔王四天王のハイティです」

 

 ぺこり、と彼女は頭を下げた。

 

「此度のあなた様の災難は、この私の不手際によるものです」

 

 そうして、彼女は順々に俺に何が起こったのか説明をした。

 

 ああ、思い出したわ。

 あのクソガキに煽られ、ボコボコにされたことを。

 そしていきなり現れた変な鎧女とクソガキとの戦いの余波で、全身がハンバーグになりかけてたんだった。

 

「以上の点を踏まえまして、この世界の技術で貴方の損失を補填することは出来ないのです」

 

 俺はその言葉を、他人事のように聞いていた。

 確かに、この地球ではサイバネティックスが発展している。

 だがそれは四肢や胴体の一部分が限界だ。

 

 俺は、視線を自分の体に向ける。

 

 無かった(・・・・)

 俺が二十六年付き添った、親から貰った肉体が無かった。

 ついこの間、手足を義肢にしたばかりだと言うのに。

 

「ですので、今回は特例の処置を用い、この世界より高度な技術によって製作された義体を用意させてもらいました。

 少々手続きがございますが、了承してくださるならすぐにでも手術を行えます」

「もう、なんか、全部任せます」

「お任せください」

 

 思えば、この時適当に返事したのが運の尽きだった。

 俺の生首と義体の接続は、ほんの三十分で終了した。

 

 二十一世紀頃ならいざ知らず、この時代にサイバネ義肢はファッションの一部だ。

 日夜、いろんな企業がクールで高性能な機械の四肢を開発している。

 

 俺に移植されたそれは、傍から見れば人間の肉体とまるで見分けがつかなかった。

 自販機で買ったジュースの空のスチール缶を握り締める。

 すると爪の大きさほどに潰せてしまった。

 

 こんな、本物の腕みたいに動かせ、これほどの性能を発揮するアームはどこの企業も開発できていないだろう。

 この半年ほどで、義肢に慣れ親しんだ俺が、余りにも違和感が無いことに戸惑うほどだった。

 

「触感や心臓の鼓動も再現できています。

 必要ならば、痛覚も電気信号で再現できます」

「クローン培養した俺の体を移し替えたって言われても信じちまいそうだ」

「そうですか。それは良かった」

 

 四天王ハイティはホッとしたように頷いた。

 

「それでは、最後の手続きを行いますので、お手数ですがご同行をお願いできますでしょうか」

「おいおい、あれだけ書類にサインさせて、まだ何か必要なのか?」

「申し訳ございません」

 

 病院から外に出ると、フライングカーが待っていた。

 地べたを進む一般市民には縁の無い、公共機関や要人にしか使用できない空飛ぶ乗り物だ。

 普段、渋滞の合間をバイクで駆けている身ではこれに乗るのは複雑な気分だった。

 

 地上の渋滞を見下ろしながら、すいすいとフライングカーは目的地へと最短で辿り着いた。

 

「ここは、魔王城じゃないか」

 

 俺がやって来たのは、中央運営事務所だった。

 運営事務所の中でも魔王がおわすことから、人呼んで魔王城である。

 仰々しい呼び名であるが、要するにお役所だ。

 

「魔王様に御伺いを立てなければならないので」

 

 ハイティはすまし顔で答えた。

 俺の表情は内心苦虫を嚙み潰したようになった。

 俺はあのクソガキに、散々いたぶられたのだ。

 

 事務所の中に入ると、クローンのように同じ顔の役人が住人の対応をしていた。

 

「ちょっと!! あんたのところの魔王様のせいで、うちのライフラインが未だにストップしているんだけど!!」

「順次対応しております。

 それまでの損害は補償されます」

 

「あの砂嵐のせいでうちの電子機器が壊滅してるんだぞ!! 

 ちゃんと弁償してくれるんだろうな!!」

「書類に申請をお願いします」

 

「外に停めといた俺のバイクが粉々になってたんだぞ、どうしてくれる!!」

「申し訳ありませんが、記録にございません。

 虚偽の申告は業務妨害として罰則が発生いたします。それでもよろしいでしょうか?」

 

 あの喧嘩腰の住人達に、眉一つ動かさず対応しているのが、俺たちの生活を保障してくれている女神メアリースの化身、その端末らしい。

 気味が悪い光景だ。女神様は全部自分で管理しないと気が済まないらしい。

 

 俺はハイティに連れられ、上へと反重力エレベーターで上がった。

 魔王城の最上階、魔王の公務室だ。

 

「魔王様、ハイティです」

「勝手に入れば」

 

 ドアをノックした後、先方からは素っ気ない対応。

 失礼します、とハイティは述べてからドアを開ける。

 

 最上階をまるまる一室使った公務室は広く、しかし狭かった。

 床には多種多様なゲーム機が散乱しており、食べかけのお菓子や飲み物が放置されている有様だった。

 

 その中心に、公務机に脚を乗せて椅子にもたれ掛かっている少女がいた。

 いや、普通の少女には頭部に一対のツノはないだろう。

 健康的に日焼けしたように小麦色の肌、ショートの茶髪の髪の毛、シャツとショートパンツというだらしない格好。

 

 間違いなく、彼女こそが魔王。

 魔王ローティ。この星の支配者だった。

 

「なんか用?」

 

 そんな彼女は、携帯ゲーム機をかちゃかちゃ操作しながらハイティに問うた。

 

「実は、検知器の誤認にて魔王様が攻撃を加えてしまった市民をお連れしたのですが」

「あれ、あんたの責任ってことになったじゃん」

「はい。しかし五体満足に活動可能な義体はこの世界の技術では難しく。

 上位世界より義体を取り寄せました」

「お前、同じこと繰り返すつもり? 

 あの女がまた出てきたら、そいつが検知器に反応するかもじゃん。

 そもそも、レギュレーション違反になるし」

「機械の方は登録をすればいいだけですが、補償の方はそうはいきませんので。

 ここは魔王様が、器量を見せていただきたく存じます」

「私にあんたの失敗の尻ぬぐいをしろっての?」

 

 魔王は、携帯ゲーム機の画面から僅かにこちらに視線を向けて言った。

 

「ええ、魔王様がこなさねばならない些事を、私が代行しているように」

「あっそ、わかったよ。勝手にすれば?」

「それでは、こちらが補償の対象者の方になります」

 

 この魔王の肩書を持つクソガキは、俺に一瞥さえもくれなかった。

 

「……レジーさん。

 今回は特例ですが、あなたには魔王様の四天王となっていただきます」

「はぁ……ええ!? どういうことだよ、意味が分かんないんだがッ!?」

「我々四天王には、数多くの特権がございます。

 レギュレーションを超える装備の保有も、その一つ。

 今回はそれを適用したく思います。それが手っ取り早いので」

「そんな理由で、四天王を決めていいのかよ!? 

 側近なんだろ、その肩書は!!」

「肩書だけでございますよ。

 我々は、あなたに何かしらの義務を求めたりはしません」

 

 一応業務連絡でお呼び出しはあるかもでございますが、と小声で言ったなお前!! 

 聞こえてるぞ!! 

 

「そもそも、他の四天王は納得できるのかよ!! 

 こんな形で四天王が決まって!!」

「それなら心配ございません。

 他の四天王など、居りませんので」

「えッ」

「四天王は私めと、あなただけなのですから」

 

 ええぇ、マジかよ。

 まあ、俺もあんたをテレビじゃ秘書か何かとしか思ってなかったけどよ。

 

「魔王様、それでいいのかよ」

「四天王の人選なんてどうでもいいし。

 たとえあんたみたいによわっちくてもね」

 

 魔王様と比べて弱っちくない生物が他に居るんですかねぇ!! 

 俺がその物言いに絶句していると。

 

「魔王様、四天王には二つ名が与えられるしきたりです。

 彼にはどんな二つ名がよろしいでしょうか?」

「えー?」

 

 クソガキ様はいかにも面倒そうに俺を見た後、視線をテーブルの上のマンガに目を落とした。

 バイクに乗った黒タイツのダークヒーローが主人公の人気マンガだ。

 

「じゃあ、“ダークライダー”で」

「左様ですか」

 

 こうして、俺の異名がダークライダーに決まったのだった。

 もうちょっと、こう、なんか無かったんですかねぇ!! 

 すると。

 

 ────突如、室内に闇が噴き出た。

 

「な、なんだ!?」

 

 俺は慄いてビビったが、他の二人は何事も無いようにそちらを見ていた。

 やがて、暗黒の闇はヒトの形を模った。

 その人型は、人間で言うところの両目に当たる部分が、瞼を開くように真っ赤な奈落が空いた。

 見つめる者を見つめ返す深淵のように、深い深い底なしの双眸だった。

 

「ママ!!」

「リェーサセッタ様、おいでになられたのですか」

 

 魔王が、ゲーム機を置いて立ち上がる。

 ハイティが恭しく跪く。

 

 その名を、俺も知っている。

 これが、この方が、女神リェーサセッタなのか!? 

 

「ヒトの心が悪から逃れられぬように、私はどこにでも居てお前たちを見ている」

 

 罪を見つめる奈落が、俺を見た。

 

「ようやく、二人目か。

 我が娘ローティよ、早く四天王は決めなさいと言っただろう?」

 

 邪悪を司ると言う女神の言葉は、しかし娘を心配する母親のそれだった。

 

「えー、だって今まで必要無かったじゃん」

「お前には、不要な世界の処分のみならず、人々を導く存在になって欲しいのだ。

 お前は少し気性が荒いからな。他の兄弟たちと同じように統治のやり方を学んで落ち着きを持ちなさい」

「……ママ、ハッキリ言ったらどうなの? 

 これは謹慎の一環だって」

「ひねくれたモノの見方をせずともいい。

 それが解かれた故のこの統治任務なのだから」

 

 このクソガキ、反抗期か? 

 めっちゃ心配されてるじゃないか。

 

「お前の慕っていたあの子も、統治で結果を残していた。

 お前も序列上位なら、それ相応の責任を果たしなさい。でないと、あの子も悲しむだろう」

「じゃあ、どうして教えてくれないの、ママ!! 

 死ぬはずのない兄貴が、どうして居なくなったのかを!! 

 なんでみんな、死んだって嘘つくの!!」

 

 その娘の言葉に、女神は静かに奈落の瞳を瞑目した。

 

「あの子の死因に関心を持つな。

 これは母親としてではなく、神としての絶対なる命令だ」

「……私が、知らないと思ったの? 

 兄貴が“聖地”に行ったって、人間だった頃のママとメアリース様が産まれた世界の跡地に!! 

 あそこに何が有るの!? どうして行っちゃダメなの!!」

「私がなぜ、あの地は禁忌だと定めたか、それを語らずとも理解できると信じさせてくれ。

 お願いだ、ローティ。私の可愛い娘よ、これはお前を守る為なのだ」

 

 居心地が、悪い。

 そういう話は、俺が居ないところでやってくれないかな。

 

 するとその時、エレベーターが上がって来た音が鳴った。

 そして、魔王の公務室にノックすることなく、クローンのように同じ顔の役人が入って来た。

 

「リネン、もっとハッキリ言ったらどうなの? 

 あそこに近づいたら、処分するって」

 

 いや、彼女はあの事務的で無感情で機械的な対応しかしない、女神の化身ではない。

 この傍若無人で、歯に衣着せぬ物言いは、あの女神そのものだ。

 

 この世界の造物主、俺たちに文明の光を与えたもうた、女神メアリースだった。

 

「どうして、どいつもこいつも、この私がダメだって言うことをやろうとするのかしら。

 あの先に行ったところで、死ぬしかないのに。

 私が意地悪や保身の為に言ってると思ってるのかしらね。

 無知蒙昧な愚かモノどもは、あの先に行けば神を超えられると本気で思ってる。なんで私の親切心を無下にするのかしら」

 

 スッと、冷酷な瞳が魔王ローティを捉えた。

 

「あの子も余計なことをしてくれたわ。

 あなたはあそこに関心を持たないように創ったのに。

 これじゃあ意味が無いじゃない。もしかしてこれ(・・)、失敗作かもしれないわね」

「メリスッ!!」

「割り切りなさいよ、リネン。

 他のあなたの子供全員にとばっちりが行ってもおかしくない。あの性格(・・・・)なら」

 

 リェーサセッタ様が黙りこんだ。

 あの、込み入った話は俺が居ないところでやってくれます? 

 

「……わかった。背に腹は代えられない。

 ローティ、次にあの地の話をした時は、残念だけどそれ相応の対応をさせてもらう」

 

 母親のその冷徹な言葉に、他ならぬ魔王ローティは信じられないものを見たような表情だった。

 

「どうして、ママ。私、失敗作なの?」

「そうでないと思うのなら、自身でそれを証明なさい」

 

 闇の人型が、霧散するように消え去った。

 やれやれ、と女神メアリースは肩を竦めると、その人間らしい表情がスッと無表情に変わり、何事も無かったかのように戻って行った。

 

 次の瞬間、爆音と共に執務机が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 破片が吹き飛んで、俺の頬を掠って血が流れた。

 

「ローティ様、なんとおいたわしい」

 

 苛立って机一つを拳ひとつで爆散させた魔王の姿を見て、眼鏡を持ち上げてハンカチで目元を拭うハイティ。

 

 ……なあ、これ、俺がこの場に居た意味あるの? 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 俺が掲示板の住人たちの助言を受けて、あのクソ過激派どもの掃討計画を同僚のハイティに提出した。

 色々と彼女に聞くうちに知ったことだが、四天王は女神様の保有する戦力を動員する権限があるらしい。

 

 つまり、作戦を実行するには俺一人の決定で十分らしかった。

 それだけの責任と権限が、四天王には存在するわけだ。

 

 要するに、実質俺だけで十分なのだったが。

 

「おい、お前。私もやるから」

 

 と、我が主たるクソガキ様の一言で彼女も作戦に参加することになった。

 正直、断りづらかった。

 メアリース様たちにあんな物言いをされたのだから、挽回したい気持ちは分かるのだ。

 

 それに戦力としてこれ以上の物は無い。

 とは言え、作戦は拠点の同時攻撃なので、頭数が必要なのだが。

 

「兵隊が必要なんでしょ。

 ママが飛び切りの連中を貸してくれるって」

 

 クソガキ様が、指を鳴らした。

 すると、空間が歪み、孔が穿たれた。

 別世界の空間へと繋がるゲートが、あっさりと開かれた。俺の世界の技術では、こんな簡単に異空間転移は逆立ちしても真似できない。

 

 ゲートの中から現れたのは、異形、異形、異形の軍集団。

 そいつらを見た瞬間、ローティ様は吐き気を堪えるような表情になった。

 

 現れたのは、ゴブリン、コボルト、リザードマン、トロール、オーガ、ミノタウロス、サイクロプス、獣人各種族、有翼種、エルフ族、鬼人、ケンタウロス、ドワーフ、ラミア、サキュバス、吸血鬼。

 

 総勢108名の、魔の軍勢だった。

 

 女神の保護を受け入れ、異種族の移住が始まったこの地球でも、これほどまでの多種多様の人種はまずお目に掛かれないだろう。

 

「お初に御目に掛か──」

「気持ち悪い。死ね」

 

 代表らしき犬獣人の男が跪き、ローティ様に挨拶しようとした瞬間だった。

 なんと彼女は、彼らを一瞬のうちに皆殺しにしてしまった。

 

「な、なにをやってるんですか!! 

 こいつら、女神様の戦力なんじゃないんですか!?」

「お前には分からないと思うけど、こいつら、全員魂が腐ってる。

 ヘドロみたいな汚物どもだよ、こいつらは」

 

 あのローティ様が、心底侮蔑するような視線を連中の死骸に向けた。

 

「へへッ、その通りでぇ」

 

 すると、信じがたいことに、たった今殺されたはずの魔の軍勢が起き上がり、何事も無かったかのように笑みを浮かべた。

 

「我らリーパー隊。邪悪の女神様があらゆる世界から、更生の余地なし、地獄行きの意味無しと判断された、クズの中のクズが集められた懲罰部隊。

 女神様の赦しなければ、死ぬことさえ許されない統率されたケダモノの群でさぁ」

 

 隊長らしき、軍服を纏った犬獣人が裂けたように笑う。

 それに釣られて、背後の魔軍が不気味な笑い声を奏で始めた。

 

「見せしめに殺すのに、我ら以上の適任は居ない」

 

 俺はこの時点で察した。

 こいつらに敵対することが、どれだけ惨たらしく悪夢のようなことなのかと。

 

「あー。任せるわ」

 

 これが、女神のとびきりの戦力かぁ。

 

「聞いたか、お前ら!! 

 俺たちに任せてくださるとよ!! 

 今日は俺たちのイカレた晩餐会だ!! 

 たらふく食って、好きなように殺せ!!」

 

 狂気の指揮官が、殺人鬼の群を狂奔に駆り立てる。

 

「俺たちの前に立つ者に、自分たちの信じる神は居ないと証明させてやろう!! 

 俺たちが、如何に救いがないか、その身を以て教えてやろう!! 

 この俺たちが、最悪とは何か、示してやるのだ!!」

 

 彼はひとしきり部下たちに激励した後、俺の肩を馴れ馴れしく叩いた。

 

「まあ、あとは任せてくれや。運び屋」

 

 俺はその時、この連中のインパクトが強過ぎてその言葉が頭に入らなかった。

 その後、彼らは魔王様に敵ごと吹き飛ばされ、死ぬことも出来ずに復活して仕事を終えて帰って行った。

 

 もう二度と来ないで欲しかった。

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

 さて、事態はこれで終わらなかった。

 

「都市機能の四割が停止ですって? 

 魔王ローティ、あなた真面目にやってるの?」

 

 女神の端末に、ご本人が再び降臨なされたのである。

 俺はただただ掲示板の皆に助けを求める他できなかった。

 

「私、ちゃんと仕事しただけだけど?」

「ローティ様!!」

 

 不貞腐れてそっぽを向くローティ様。

 その対応に、同僚のハイティも悲鳴じみた声を挙げた。

 

 いや、現場に居た俺は分かっていた。

 ローティ様があんなことをしたのかを。

 

 リーパー隊は、邪悪の女神がとびきりと言うだけあって、仕事は速く正確で強かった。

 あいつら、信じられないことに軍隊としての強さは中世レベルなのに、五百年以上技術が進んでる連中相手に軽く勝ってしまったのである。

 

 しかし、である。

 こいつらは、仕事が早い分、終わった後のお遊び(・・・・)が過ぎた。

 

 殺せる敵をわざわざ生かして、戦闘終了後に弄んだ。

 女は玩具にして、男は無残に殺した。

 子供が居たら親の前で何度も何度も嬲って嘲笑った。

 逃げる老人を弓の的当てにしてたりもした。

 妊婦を……口に出すにもおぞましい扱いをして殺した。

 

 俺が生身なら、その場で胃の中をひっくり返していただろう。

 ローティ様はクソガキだが、クソガキ並みの倫理観は存在したようだった。

 あんな、ヘドロのように醜悪な連中を、疎ましがっても仕方あるまい。

 故にまとめてぶち殺した。あいつらは死ねないと分かってるのに。

 誰だって、汚物に触れたいとは思うまい。

 

 まさか彼女の母神も、心配して強力な手駒を貸し与えたつもりで、逆効果になるとは思っても居まい。

 

「これは統治の任務よ。バカみたいに壊せば良いわけじゃない。

 あなたの功績に免じて目をつぶって来たけど、反省もしないならこちらにも考えがある」

 

 俺は何度も、これには訳が有るんです、と言おうとした。

 だけど、俺の脳裏には、知能を奪われおサルさんとしか言いようのない惨めな存在にされてしまった連中が過っていた。

 ここで口答えしたら、俺にまで責任が飛び火すると思って、恐怖で何も言えなかったのだ。

 

「この世界は私の資産。所有物。だって私が創ったから。

 お前はそれを無意味に壊した。これで何度目かしら?」

 

 メアリース様のお叱りは続く。

 リアルタイムのことなので、簡単に掲示板の住人達に状況を思考入力で説明する。

 

「他の人間型タイプの魔王ユニットは安定してるのに、どうしてあなただけこんなにも不安定なの?」

「あんたが言ったんじゃん。私のこと失敗作だって!!」

 

 俺はギョッとした。

 いやいやいや、ここで口答えはマズいって!! 

 

「私はあんたにこんな風に創ってくれって頼んだわけじゃないんだけど!!」

 

 そこには、彼女なりの苦悩があり、怒りがあった。

 だが、それはこの場では何の意味もなさなかった。

 

「そう。じゃああなたは要らないのね。私があなたに与えた全てが」

 

 この世の全ては、女神メアリース様の所有物。

 俺たちの命さえ、彼女に貸し与えられた物に過ぎない。

 それは、魔王さえも例外ではないと言うのか。

 

「お許しを! それだけは何卒!!」

「もう聞く耳を持たない。少し反省しなさい」

 

 ハイティが縋りつくように訴えるが、女神はもう処分を決定していた。

 

 女神の右手が、サイコキネシスで物を掴むようにローティ様の頭を鷲掴みにした。

 直後、絶叫がその細い喉から絞り出される。

 

 俺は知っている。彼女がこの世界に来た時に何度も見た、人間が知能を奪い取られる絶叫だった。

 それを行っていたローティ様が、その対象になるとは、なんという皮肉だろうか。

 

「別にあなたの代わりはいくらでもいるもの。それが人間社会よ、これでひとつの学んだわね。出来損ない」

 

 冷酷にそう吐き捨てる女神様の言葉に、見てられなくて掲示板の間隔共有モードを切った。

 

「そんな、そんな……」

 

 愕然とした同僚が、膝を突いた。

 

「でもこれで良かったわね。

 これでもう、余計なことを考えずに済む。

 二度と、あの禁忌の地に疑問を抱いたり、あなたの兄弟の死に苦しむこともなくなる。

 これは、これ以上ない温情なのだから」

 

 女神様の端末は、それきり無表情に戻って下の仕事場に戻ってしまった。

 

「……ハイティさん、これから一体どうするんだ? 

 今は厳しいが、今後の事を考えないといけない」

 

 彼女は泣いていた。

 それでも、ローティ様はもうローティ様ではなくなってしまわれたのだ。

 

「あう、あうあー」

 

 彼女は、まるで赤ん坊のように指を舐めて虚空を眺めていた。

 

「……誰かが、ローティ様をお世話せねばなりません。

 しかし、私は彼女の政務の代行をしなけれならないでしょう」

「って、まさか、嘘だろ!?」

「どうか、伏してお願いいたします。

 ローティ様がこの状態だと知るのは、可能な限り少ない方が良い」

 

 俺は内心、その言葉で目を逸らした。

 もう掲示板に実況してしまっているからだった。

 

「それとも、レジーさんが政務を代行しますか?」

 

 それが、決め手となった。

 俺は赤ちゃん同然の知能になったローティ様を見やった。

 

 彼女がこうなったのは、巡り巡った命運とはいえ、俺にも責任がある。

 俺はそうして、彼女の世話を請け負うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはッ」

 

 遥か次元の彼方、大いなる二柱の庇護下にある者たちが、“聖地”と称する最果て。

 そこで、ようやく一つの戦いに決着が付こうとしていた。

 

「君は実に頑張ったよ。

 この私が第二形態まで引き出されたのは、何千年ぶりだろうか」

 

 十メートルもの巨体が、収縮し、しぼんでいく。

 およそ三メートルの身長の龍人に戻ったのは、“マスターロード”の称号を持つ魔王だった。

 

 人類の限界にまで達した叡智を詰め込んだ武装を手にしても、博士は魔王の頂点には届かなかった。

 

「君の背後にあるのは、何かわかるかな?」

 

 この何もない“聖地”に、唯一の壁と言える“門”に彼女は叩きつけられた。

 その先には、神々が頑なに禁忌とした地へと続いている。

 

「はぁ、はぁ、らしくないミスをしたな“マスターロード”!! 

 御二柱が禁忌としたこの先に、他ならぬあなたは追ってはこれまい!!」

 

 博士はずっと、戦いながらこの“門”に近づこうとしていた。

 距離の感覚すらおかしくなりそうなこの障壁は、距離の概念が曖昧だった。

 永遠の時間が掛かったような気もするし、いつの間にかそこにあったような気もする。

 

「……本来なら、ここは我が母や主上にも匹敵する女神が門番として、この奥を守っている。

 だが彼女とは顔見知りでね。同じ仕事を任された身として。

 だから、彼女は君を通すだろう。遠慮することはない。

 どうしても、というなら行きなさい」

 

 “マスターロード”は穏やかに微笑んで、そう言った。

 

「……なぜ、土壇場になって神々の命令を覆す?」

「それが、君に相応しい最期だから、と思ったからだよ。

 私は精一杯、君を止めた。そのポーズはこれくらいでいいだろう」

 

 訝しむ博士に、彼は肩を竦めた。

 

「──これは処刑だ。

 君は君の愚かさを自覚しながら、後悔しながら死ぬだろう。

 それで良ければ、行ってみればいい」

「そんな脅しには屈しない。

 私を見逃したこと、後悔するぞ!!」

 

 “門”が、開く。

 あれほどまで巨大なのに、まるで軽石のようにあっさりと開いていく。

 博士は、負傷をおして這うようにその奥へと進んで行った。

 

 “マスターロード”は、その奥を見ないように顔を逸らして、“門”が閉じるのを待った。

 

 そして、程なくして彼女の絶望の嘆きと発狂の叫び声が聞こえて来た。

 彼女は対面したのだ、究極の叡智に。その絶望的な真実に。

 

「やれやれ、弟をあれほど慕ってくれた君の苦しむ声は聴きたくなかったんだけどねぇ」

 

 そして、ああ、と彼は顔を上げ呟いた。

 

「彼女を通した罰ですか? 

 謹んでお受けいたします」

 

 直後、“マスターロード”の肉体が爆散した。

 

 

 

 

 

 




今度こそ、運び屋の視点でした。
でも、一万文字ほど書いても、最新話の掲示板スレに追いつかないこの有様よ。
書きたいことが有り過ぎるんです!!

運び屋と勇者ちゃんの邂逅はまた別として、次はスレを進めたいと予定しています。
それでは、また次回!!


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6スレ目

トピックはネタ切れなので今回はお休みです。




 

 

 

445:名も無き住人

運び屋、良い奴だった・・・

 

446:名も無き住人

RIP

 

447:名も無き住人

骨は拾ってやるよ

 

448:運び屋

死ぬときはお前らも道連れだかんな

 

449:名も無き住人

おい、やめろ

 

450:名も無き住人

勘弁してください

 

451:名も無き住人

次元間超越攻撃は許してくだちぃ

 

452:名も無き住人

てか、いったいどういう状況なのよ?

 

453:名も無き住人

ローティ様の恥ずかしいとこ全部見てるくせに何で無事なん?

 

454:名も無き住人

遺言を掲示板に書き残す時間をくれるとか慈悲深いな

 

455:運び屋

>>453 人聞きの悪いこと言うな!!

 

なんか、急に言い出したんよ

俺も動揺して思わず書き込んじゃった

 

456:名も無き住人

どういうこった?

 

457:名も無き住人

いや、思い出すなんて根本的に不可能なはず

うちの世界の研究だと、おサルさんの記憶は完全に消去されてるらしい

記憶の引き出し方を忘れた記憶喪失とは全く違う

 

458:名も無き住人

俺の世界は、脳を電脳化してダイブしてトラウマを取り除く技術ある

それでおサルさんの脳みそ見たら空っぽだったらしい

無いモノを思い出すなんて理論的に不可能だよ

 

459:名も無き住人

有識者助かる

 

460:名も無き住人

頭数があると参照する知識が幅広いな

だが、ローティ様は特殊例だ、同一視は危険だ

 

461:名も無き住人

じゃあ、どうしてローティ様そんなこと言い出したんだ?

 

462:名も無き住人

わたし、いらない子じゃないもん!!

 

463:名も無き住人

えッ

 

464:名も無き住人

なんだ、知らないIDだぞ?

 

465:名も無き住人

いや、これはまさか

 

466:ローティさまだぞ!!

こうすればいいのか?

みんな、わたしだぞ!!

 

467:名も無き住人

ローティ様やんけ!?

 

468:名も無き住人

これマジかよ!?

成りすましとかじゃなく?

 

469:運び屋

今確認した

こいつ、いつの間にか携帯端末持ってた

 

470:ローティさまだぞ!!

■■■■にもらった!!

 

471:名も無き住人

ローティ様、名前に規制入ってますよ

個人名はプライバシーの観点から表示されないんです

 

472:名も無き住人

マジかよ、ローティ様もう携帯端末使いこなせるようになったのか

 

473:名も無き住人

順調に知能が成長してる・・・

もう小学生高学年レベルまで達してるだろうな

 

474:名も無き住人

じゃあそろそろ元の精神年齢追いつくな

クソガキだったらしいし

 

475:名も無き住人

クソガキの精神年齢ってどのくらいなんですかねぇ?

 

476:名も無き住人

ザーコ♡ ザーコ♡ って煽るようになったらでない?

 

477:名も無き住人

ほう、メスガキですか

私の性癖には合ってますよ

 

478:運び屋

マジでそんな感じだったんだよなぁ

 

479:ローティさまだぞ!!

ザーコ♡ ザーコ♡

ほら、わたしはぜんぶおもいだしたんだからな!!

 

480:名も無き住人

使い方わかってないww

かわいい

 

481:名も無き住人

これ魔王じゃなくて天使なのでは?

もっとお願いします!!

 

482:ローティさまだぞ!!

わたしはまおうだぞ!!

つよいんだぞ、こわいんだぞ!!

 

483:名も無き住人

どうしよう、無性に抱きしめたい

それで死んでも構わない

 

484:名も無き住人

ローティ様、急にどうしてそんなこと言い出したのかな?

 

485:名も無き住人

思い出したなら、ちゃんと言えるよね?

 

486:運び屋

お前ら、こいつ口からブレス吐くんだぞ

尻尾伸ばして家中の家具や壁ぶっ壊すんだぞ

 

487:名も無き住人

>>486 つよい

 

488:名も無き住人

>>486 こわい

 

489:ローティさまだぞ!!

わたし、すごいんだもん!!

スズなんていらないんだもん!!

 

490:名も無き住人

あー、なるほどね

 

491:名も無き住人

スズって、ローティ様の代わりに新しく赴任する魔王様だっけ?

 

492:名も無き住人

自分の地位をある程度理解しているのか

それに対する執着心や独占欲

精神的成長が著しいな

 

493:名も無き住人

ローティ様はどうして、スズ様が来るのが嫌なんだい?

 

494:運び屋

なあ、俺たちなんで同じ屋根の下でネット回線に文字打ち込んでんだ?

 

495:名も無き住人

やっぱりローティ様も支配者の地位を取られるのは嫌なのか

 

496:名も無き住人

>>496 草ww

ローティ様は思考入力では?

 

497:ローティさまだぞ!!

だってだって、スズがにぃにとっちゃうっていってたもん!!

■■■■もにぃにもわたしのだもん!!

 

498:名も無き住人

あッ(尊死

 

499:名も無き住人

なんだこれ

かわいいの暴力かよ

 

500:名も無き住人

やっぱり天使なのでは?

 

501:運び屋

取っちゃうってお前

四天王の仕事を割り振りましょうかって話だっただろ

俺は自分の食い扶持稼いでるから断ったけど

 

502:ローティさまだぞ!!

わたし、しってるもん!!

しごとだっていってちかづいて、ねとるんでしょ!! どろぼうねこのてぐちなんでしょ!!

きょう、おひるのドラマでやってたもん!!

 

503:名も無き住人

昼ドラは草www

 

504:名も無き住人

情報源が昼ドラとはww

 

505:運び屋

こいつ、最近ようやく大人しくなったと思ったら、そんなの見てたんかよ

 

506:名も無き住人

寝取られですか

私の性癖には合ってますね

脳が破壊されるの気持ちええんじゃあ~~

 

507:名も無き住人

昼ドラは案外侮れないからなぁ

 

508:名も無き住人

>>506 頭女児になんてこと教えるんだよww

教育に悪いだろ

 

509:名も無き住人

昼ドラも教育には悪いだろ

 

510:ローティさまだぞ!!

ほんとに、スズのとこいっちゃわないの?

 

511:運び屋

ホントだホント

てか、直接話せよ、部屋隣だろ

 

512:ローティさまだぞ!!

ほんとにほんと?

じゃあ、あした、わたしもおしごとついてくからね!!

 

513:運び屋

はぁ!?

何言ってんだお前!?

俺の仕事の邪魔すんなよ!! 遊びじゃないんだぞ!!

 

514:ローティさまだぞ!!

じゃあ、いまからあそんで!!

かいじゅうごっこね、わたし、かいじゅうさんになる!!

 

515:運び屋

おいバカやめろ!!

尻尾の付け根こしょこしょするぞ!!

 

516:ローティさまだぞ!!

じゃあ、おしごとつれてって!!

 

517:運び屋

はぁ・・・

わかったよ、その代わり大人しくしとけよ?

もう近隣住民にお前が居ることバレてるし、連れてってもいいか

スズ様も着任したことだし

 

518:名も無き住人

俺たちは何を見せられてるんだ?

 

519:名も無き住人

わからん

ただ一つ言えることは、てぇてぇ、ということだ

 

520:名も無き住人

それより、尻尾の付け根こしょこしょについて詳しく

 

521:名も無き住人

後で専用スレ立てようぜ

流石に板違いって奴だ

 

522:運び屋

ちょっとちゃんと話し合うから落ちるわ

 

523:名も無き住人

おつ、またな

 

524:名も無き住人

しっかり話し合えよ

 

525:名も無き住人

ローティ様、もうあのままで良いんじゃね?

 

526:名も無き住人

まあ、ちゃんとした為政者として復帰してほしくはある

魔王様なんだし、その責任は果たして貰わないと

 

527:名も無き住人

王族の責務みたいなもんだしな

いくら今のローティ様が天使でも、いつまでもあのままってわけにはいかんだろ

 

528:名も無き旅人

今来た

お前ら、本物の天使を見たことないからそんなこと言えるんだ

 

529:名も無き住人

お、久しぶりだな、旅人よ

今はどの世界を見て回ってるんだ?

 

530:名も無き住人

まあ、天使って想像上の存在も、人間の文化

それを遣わすのは当然メアリース様

実際どんな存在かはお察しだわな

 

531:名も無き旅人

本物の天使はクソ生意気で、無表情でこっちを煽ってくるんだぜ

お前ら、天使に幻想抱くのはやめとけ

 

『要求:訂正を求めます』

 

532:名も無き旅人

お前なぁ、勝手に書き込みに割り込むなよ

 

 

 

 

~~~

~~~~

~~~~~

 

 

 

811:運び屋

なあ、愚痴言って良いか?

 

812:名も無き住人

お、運び屋やんけ

 

813:名も無き住人

まさかリアルタイムで出くわすとは

 

814:名も無き住人

>>811 専用スレ作ったから、今度からそっちで愚痴ったり相談しな

 

815:名も無き住人

段々、ここの知名度が上がって来たな運び屋

 

816:名も無き住人

常時コテハンの奴も珍しいからな

 

817:運び屋

>>814 分かった、次からそうする

 

818:名も無き住人

ローティ様とのランデブーはどうだった?

ご一緒に仕事したんだろ?

 

819:名も無き住人

美少女を後ろに乗せるとか裏山

自慢ならよそでやってくれよ

 

820:名も無き住人

まあ、あのローティ様に常識インストールされてないから、運び屋の苦労は想像つくわ

 

821:運び屋

まあな、あれでも俺の世界じゃ知らぬものは居ない有名人だから

ヘルメット被ってろって言ったのに、速攻で脱ぐし

 

822:名も無き住人

ヘルメットより生身の方が硬そうなんですがそれは

 

823:名も無き住人

あのツノで合うヘルメットがあるんだろうか

 

824:運び屋

>>823 最近は異種族の移住が進んでるから余裕で有る

でも、龍人用のヘルメットを流用してもらった

ほぼ特注品になっちまったけどな

 

825:名も無き住人

そもそも龍人もヘルメット必要無いんだよなぁ

マッハ近い速度出すならともかく

 

826:名も無き住人

転生ガチャで最高の勝ち組だからな、龍人種は

大抵の創作物で無双するか主人公だからな、あいつら

 

827:名も無き住人

なお、魔王一族という絶対なる成功が約束された御方がおサルさんにされた模様

 

828:名も無き住人

どうせ成功への道程なんでしょ

何事にも緩急は必要だし

 

829:名も無き住人

僻むなよ、凡人ども

見苦しいから、悔しかったらメアリース様に貢献して来世に転生させてもらえ

 

830:運び屋

行く先々でトラブル起こすしで大変だったわ

あれのどこが絶対の成功が約束された存在なんですかねぇ

 

831:名も無き住人

生粋のトラブルメーカーっぽいからなww

ローティ様はww

 

832:名も無き住人

魔王の権威の恩恵を一切与えられてないからなww

 

833:名も無き住人

でも四天王ってめっちゃ給料良いんだろ?

 

834:運び屋

四天王の給料は辞退してるに決まってるだろ

殆ど肩書だけなんだし

ああ、でもクソガキの養育費と修繕費は貰ってる

 

835:名も無き住人

修繕費ww

一体どれだけ壊したんですかねww

 

836:名も無き住人

知能赤ちゃんの時にブレスでも吐かれたら被害ヤバそうだしな

 

837:運び屋

>>836 実際、ヤバかった

一応、四天王で得したことは有った

今の相棒のバイクの性能がマジヤバい、手足のように思ったように動かせる

 

838:名も無き住人

流石☨ダークライダー☨さんwwパネェっすww

 

839:名も無き住人

四天王特権で上位世界から取り寄せたのか

こればかりはマジで羨ましいわ

 

840:名も無き住人

>>837 おねしょ以外もおもらししてたんですね・・・

 

841:名も無き住人

高性能のマシンに憧れるのは男の子のサガよな

 

842:名も無き住人

運び屋結構戦い慣れてたし、その体と装備なら四天王に相応しい働きできそうね

 

843:運び屋

購入費が経費で落ちたからなww

ローティ様様だわ

これだけでこれまでのワガママ許せる

まああのクソどもに比べたら、行動自体はガキレベルでしかなかったんだが

 

844:名も無き住人

クソども?

テロリストどもか? そいつらと比べちゃあかんよ

 

845:運び屋

ああいや、違うんだ

これ言っていいのかな

 

846:名も無き住人

愚痴りに来たんやろ?

好きに吐き出すといいさ

 

847:名も無き住人

怖いもの見たさで、あのローティ様より上があるのかと聞きたくもある

 

848:運び屋

いや、なんと言うか

四天王の権限で召喚できる連中が最悪というか、最低というか

 

849:名も無き住人

当然じゃん

あいつら、魔王軍に志願して他人に暴力を振るう為に人権を捨てた連中だぜ

 

850:名も無き住人

どいつもこいつもイカレてるよな

なんでメアリース様の与えて下さる平穏で満足できんのか

 

851:名も無き住人

コロシアムチャンネルとか見てると分かるが、本当に吐き気を催すクソどもだよな

女神様が処分する世界だからって、乱暴狼藉思いのままだからな

 

852:名も無き住人

あんな連中にも、居場所を与えるのがリェーサセッタ様の権能だ

あの御方の慈悲深さには時々理解できん時がある

 

853:運び屋

やっぱりあのリーパー隊の連中おかしいよな

生身だったら吐いてた自信あるわ

 

854:名も無き住人

おい、リーパー隊って言ったか運び屋!?

よりにもよってあの連中と仕事したのかよ!?

 

855:名も無き住人

え、有名なのか?

誰か知ってる?

 

856:名も無き住人

その界隈じゃ有名だよ、悪名って意味だが

 

857:名も無き住人

あの魔王軍の生の殺し合いを放送してるコロシアムチャンネルの常連だよ

悪逆非道、最低最悪ってのはあの連中のことを言うんだろうな

 

858:名も無き住人

メアリース様の管理下にある数多の世界から重犯罪者を集めた懲罰部隊らしい

どいつもこいつも出身世界で札付き(ネームド)の極悪殺人鬼どもだ

 

859:名も無き住人

あいつらは他の魔王軍志願者とはレベルが違うよ

強さも、イカレ度合いも

 

860:名も無き住人

でも、一番ヤバいのはあれを束ねてる軍服のコボルトだよな

あいつら、軍事行動なんて協調性が有るはず無いのに

 

861:運び屋

ええぇ、そんなマジもんのヤバい奴らだったんかよ

いやわかってたけどさ、直接見てたし

なんか俺、あの隊長から好感度高いっぽいんだよ

兵員召喚用の端末のメッセージにいつでも呼べってラブコール来てる・・・

 

862:名も無き住人

あんな連中さえも抱えられるのも、リェーサセッタ様の器量の広さか

 

863:名も無き住人

>>861 ウホッ

 

864:名も無き住人

>>863 ぶち殺すぞ、てめぇ

 

865:名も無き住人

どうしたロリコン軍人ww

男色は軍隊に付き物だろww

 

866:名も無き住人

>>865 うるせえ、俺は十代半ばくらいの女子にしか興味ないんだよ!!

第二次性徴の不安定な頃の未成熟な体がたまらねぇのが、わからんかね

 

867:名も無き住人

うわ、流石はマジ物のロリコン野郎だわ

俺が悪かったよ

 

868:運び屋

とりあえず、あいつらとは距離置くわ

みんな情報感謝だわ、思い出したら気分悪くなったから落ちるわ

 

869:名も無き住人

そうしとけ

 

870:名も無き住人

関わり合って良いことが有る連中じゃないしな

乙カレー

 

871:名も無き住人

次は専用スレで会おうな!!

 

 

 

 

 

111:運び屋

みんな、どうしよう

たすけて

 

112:名も無き住人

お、運び屋じゃないか

専用スレできたって言っただろ

 

113:名も無き住人

いや、俺のシックスセンスの魔法がただならぬ気配を察した

何があった?

 

114:運び屋

あのワン子・・・クラリスに殺されそうになってる

 

 

 

 

 

 




主要な用語は解説したので、何か詳しく知りたい用語とかあったら既出でも解説します。
気になるものがあったら、是非言ってください。

それでは、また次回!!


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7スレ目

 

 

 

115:名も無き住人

とりえあず、状況説明してくれ

余裕が無いなら、感覚共有モードで

 

116:名も無き住人

修羅場か?

修羅場か?

 

117:名も無き住人

おちょくってる場合か!!

 

118:運び屋

わかった!!

 

[感覚共有モードを開始します]

 

クラリス『信じてたのに、信じようと思ったのに!!

やっぱりあなたは魔王の手下だった!!』

 

『魔力を纏った輝く剣が、視界をかすめる』

 

119:名も無き住人

うわッ、迫力満点やな

 

120:名も無き住人

なんかメッチャ怒ってない?

 

121:名も無き住人

運び屋、なんかしたんか?

 

122:運び屋

運び屋『いきなり何するんだ!!

俺がお前に何をした!!』

クラリス『とぼけるな!!

お前が、お前が、教団の人たちを惨たらしく殺したんだろ!!

あんなひどい化け物どもに襲わせて!!』

 

123:名も無き住人

ああー

 

124:名も無き住人

マジかぁ

 

125:名も無き住人

真実なのが性質悪いな、これ

 

126:名も無き住人

殺された方も殺されて当然だったし

運び屋も四天王として作戦を実行した責任がある

諦めて戦え、運び屋

 

そいつは結局テロリストだ

 

127:運び屋

運び屋『弁明はしないぞ!! 事実だからなッ!!

だがあいつらはお前も怒りを抱いた外道どもだ。

そんな連中の為に、お前は居場所を捨てるのか?』

クラリス『もとより、私は戦って死ぬ身!!

もう迷いは要らない!! お前を殺して、魔王も殺す!!』

 

128:名も無き住人

ワンちゃんの顔、覚悟ガンキマッてますな

 

129:名も無き軍人

おい、運び屋!!

形振り構うなッ、リーパー隊を呼び出せ!!

 

130:名も無き住人

せやせや、テロリスト相手にまともに戦う必要あらへん

 

131:名も無き住人

流石ロリコン軍人ニキ、判断が早い

 

132:運び屋

くそッ、正直嫌だがやむを得ないか

 

『召喚用の端末装置を掲げ、ゲートが開いた。

その中から、異形の群が即座に現れた』

 

133:名も無き住人

出た、マジでリーパー隊やん

 

134:名も無き住人

数多の世界に悪名轟く外道どもだ

面構えが違う

 

135:名も無き住人

勝ったな、風呂入ってくる

 

136:運び屋

隊長『ほー、流石は単独で魔王様に挑もうって奴だ。

我が精鋭たちを物ともしていないか』

運び屋『暢気かッ、滅茶苦茶やられてるぞ!!』

 

『クラリスに隊列を組んで襲い掛かる108の魔の軍勢。

しかし、彼女は目にも止まらぬ速さで既にリーパー隊の三割を斬り捨てている』

 

137:名も無き住人

何あれ、つよッ

 

138:名も無き住人

マジで単身魔王に挑んだだけあるわ

 

139:名も無き住人

だが、リーパー隊は不死身なんだよなぁ

 

140:名も無き住人

でもあれ、復活してなくね?

 

141:運び屋

運び屋『なあ隊長、お前ら不死身なんじゃなかったのか?

全然復活してないぞ』

隊長『ああ、当然だろ。俺らは懲罰部隊だ。

こっちだけズルして無敵モードなんて許されない。

俺たちが全滅したら、復活は次の戦場なのさ。戦争はルールあってこそ、違うか?』

運び屋『お前らマジでイカレてるよ』

 

142:名も無き住人

不死身って、そういう不死身かよ・・・

 

143:名も無き住人

まあそのままじゃ懲罰にならないだろうけどさ・・・

 

144:名も無き住人

大丈夫かよ、あいつら!!

もうほとんどやられてるぞ!!

 

145:運び屋

運び屋『おいッ、もう全滅するぞ』

隊長『まあ、落ち着けよ。おい』

 

『隊長の呼びかけに、いつの間にかリーパー隊の一人が子供を連れて来た』

 

146:名も無き住人

おい、まさか

 

147:名も無き住人

やめろ、マジ止めろよ

 

148:運び屋

隊長『おい、そこのお前。

武器を捨てな。こいつがどうなっても良いのか?』

運び屋『何やってんだよ、お前!?』

 

『首根っこを掴まれた少年が、泣き喚いている。

隊長は心底楽しそうに笑っていた』

 

149:名も無き住人

まさに外道!?

 

150:名も無き住人

絵に描いたような外道だわ

清々しいほどの悪役だこいつ

 

151:運び屋

クラリス『卑怯だぞ、その子供は関係ないだろ!!』

隊長『違うな、お前が巻き込んだんだ。

お前が戦い始めなければ、この子供を盾にすることはなかった。

お前の所為だよ。お前のエゴが起こした事態だ』

 

『悠然と勝ち誇る隊長と、歯噛みしているクラリス』

 

152:名も無き住人

精神攻撃は基本

 

153:名も無き住人

まあ一理ある

戦いなんてものが、周囲を巻き込まない保証はないからな

 

154:名も無き住人

そこで人質が効果あるって思われた時点で、思うつぼなんだよなぁ

 

155:運び屋

隊長『お前の覚悟が本物なら、子供ごと斬ればいい。

殺し合いは、戦争は、犠牲の押し付け合いだ。

お前だけ、何も痛みを得ないのは不公平だろう』

クラリス『お前は何も痛みを得ないくせに、ほざくな!』

 

・・・もう、我慢できんわ

 

156:名も無き住人

あッ、運び屋お前!?

 

157:名も無き住人

マジかよ、隊長殴ったぞ

 

158:名も無き住人

お前ならそうすると思ってたぞ!!

 

159:運び屋

隊長『へえ、あんたはそうするのか』

 

『運び屋に殴られ、血を吐き捨てながら笑う隊長を視界に収め、彼は子供を逃がしていた』

 

あの子、俺の配達先の孤児院の子供なんよ

保身で顔見知りを見捨てるほど、腐ってないっての

 

160:名も無き住人

カッコいいぞ、運び屋!!

よくやった!!

 

161:名も無き住人

だけど・・・ああ、隊長もやられた

 

162:名も無き住人

あの精鋭どもも肉壁にしかならんか

 

163:運び屋

もういい、覚悟決めた

俺が戦う

 

164:名も無き住人

頑張れ、運び屋!!

 

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

「にぃに、まだかな」

 

ローティは自室で見たかったドラマを見ていた。

だから今日はワガママを言わずに家主の家でお留守番だった。

 

『どうして、あなたは私のモノになってくれないの!!

こんなにも、あなたを愛しているのに!!』

『わかってくれ、俺の心はあいつのものなんだ』

『どうしても私のモノにならないなら、あなたを殺して私も死ぬわ!!』

「おお~、しゅらばだぁ」

 

お菓子を食べながら、昼ドラの最終局面を鑑賞している彼女だったが。

 

 

『警報、警報、重大なレギュレーション違反を検知しました。

 大規模破壊兵器の可能性を考慮し、市民の皆さんはシェルターへ避難してください』

 

その時、突如として空に真っ赤な警報映像が投影される。

それを見て住人たちは、やれやれまたか、最近多いな、と地下シェルターへ避難していく。

彼女も家主に有事の際は備え付けのシェルターに入るよう言われていたが。

 

『ローティ様ッ!!』

 

彼女の携帯端末に着信が入り、反射的に応答ボタンを押した。

すると、そこには四天王のハイティが立体映像になって画面に現れる。

 

「ハイティ、どうしたの?」

『近くにレジーさんは居ませんか!?』

「わたしはひとりだよ」

『そうですか、御身がご無事で何よりです』

「ねえ、にぃにがどうしたの?」

 

ローティの知能の発達、学習能力は並外れている。そう作られている。

だから彼女の剣呑な雰囲気を察することが出来た。

 

『既に、スズ様が対処をしております。

ローティ様はそこでお待ちくださいませ』

「にぃにがアブないの? そうなの? そうなんでしょ!!」

『お願いです、今はそこにいらしてください』

 

それだけ言って、ハイティは通信を切った。

 

「…………」

 

彼女はうなだれた。

どうすれば良いのか、分からなかったのだ。

 

 

「――我が子ローティよ」

 

「ママ!!」

 

闇が床から吹きあげ、ヒト型を模った。

彼女は知っている。全てを忘れても、決して消えない母の慈愛を。

 

「私は、邪悪の女神。

悪とはそれと対になる正義があってこそ成り立つのだ」

 

奈落の双眸が、慈しむように我が子を見ていた。

 

「我が盟友がお前から奪った叡智を返そう。

我が子であるお前が、証明するのだ。

光が強ければ、闇もまた濃くなることを」

 

黒い靄のような腕が、ローティの頭を撫でる。

その直後だった、彼女の瞳に知性が宿ったのは。

 

それを見届けると、闇の人型は霧散した。

 

「あはッ☆」

 

ドンッ!!

 

尋常ではない脚力が、家の床を粉砕する。

その力で得た推進力で、彼女は天井を突き破る。

 

 

 

 

 

「けほッ、あんたマジでヤベェな」

 

運び屋、レジーは実感した。

目の前の女は、尋常じゃなく自分とは戦闘能力の差があると。

 

「……ゴハン、おいしかったです。

今までありがとうございました」

「なんだ、お前。迷いは捨てたんだろ?」

 

剣を振り上げた彼女の表情は、涙でぐずぐずだった。

それを見て、今際の際にレジーは笑ってしまった。

 

彼が全てを諦め、目を閉じたその時だった。

 

 

――砂嵐が、吹き荒れ始めた。

 

「これは……」

 

彼女は知っていた。

一度たりとも忘れたことのない、故郷を襲ったおぞましい災厄を。

 

「きゃはッ、きゃはッ、きゃははははは!!」

 

砂嵐と共に、彼女はやって来た。

 

──その、名も。

 

────“大砂界”

序列六位、魔王ローティ

iakkas iaD ────

 

 

「お前、私の持ち物に手を出すとか、死にたいんだ♪」

 

中学生女子くらいの矮躯に、膨大な魔力を秘めたその少女。

 

「魔王、ローティ!!」

「んん? あれあれ、もしかして♡」

 

少女は今、頭がとてもスッキリしていた。

それこそ、忘れていた記憶が鮮明に思い出せるほど。

 

「お前、あの時の双子のハズレじゃん!!

なになに、アタリの仇を討ちに来たの? 健気じゃーん♪」

 

にんまりと、少女の姿をした邪悪の化身は目の前の復讐者を嘲笑った。

 

「お願い、お願いですから、お姉ちゃんだけは助けてー、だっけ?

お前みたいなハズレを助けたって、何の意味も無いのにね!!

ほら、こうしてわざわざ死にに来るんだから!!

お前の妹も、無駄死にじゃん、かわいそー♪」

「――安心したよ」

「んん~?」

「お前が元に戻って、安心したと言ったんだ。

これで心置きなく、お前を殺してやれるッ」

「きゃははッ、出来ないことは口にしない方がいいよ。お姉ちゃん♪」

 

直後、轟音が重なり合い、衝突した。

 

 

 

「おい、止めろ!! やめてくれ!!」

 

レジーの叫びも、砂嵐にかき消される。

もう既に、周囲の建物は消し飛んでいる。

彼が今無事なのは、ひとえに優れた義体と頭部を保護する特注のヘルメットのおかげだった。

 

「ねぇねぇ、いまどんな気持ちなの?」

 

常人では目で追うのも難しい攻防が、砂嵐の中心で巻き起こっていた。

 

「私の兄貴は、自分に挑みに来る勇者をいつも待ってた♪

それがどんなゲームで遊んでる時よりもずっと楽しそうに♡

それが魔王なんだって。お前はどうなの? 楽しいの?」

「お前たちのような化け物の気持ちなど、知るかぁ!!」

「必死になっちゃって、かわいい♡」

 

魔王が、一歩踏み込んだ。

クラリスの剣が袈裟懸けに肩口からその矮躯に食い込んだが、その代わりと言わんばかりに魔王の細い剛腕がパイルバンカーのように彼女の腹部に激突した。

 

「……見えた、この砂がお前のタフネスの正体か」

 

クラリスは何とか衝撃を受け流し、踏みとどまった。

彼女はアホだったが、その戦闘センスは常人より遥かにずば抜けていた。

今ローティを斬った時の感触は、まるでサンドバッグを相手にしているようであった。

そして、事実ローティは切り裂かれた部位を切り離すと、そこから失った部位が生えて来た。

地面に落ちた彼女の一部が、砂となって砂嵐に消えた。

 

「そうそう。えらいでちゅねー♪

わかる? 足元とか周囲の砂にダメージを分散してるの☆

砂地が存在する限り、お前は私に傷ひとつ付けられないの!!」

 

ローティは子供が親に買ってもらったおもちゃを自慢するように勝ち誇る。

それこそが、魔王の特権。母なる邪悪の女神から与えられた、固有スキルに他ならない。

 

それはさながら大魔王を守る、闇の衣であった。

 

「……だけど私の家族は、闇を切り裂く光を私にくれた。

――聖鎧よ、起動せよ!!」

 

クラリスの纏う実用性が疑われるハーフタイプのプレートメイルから、手足に魔力のラインが幾つも伸びる。

鎧から、ラインをを通じて手足にエネルギーが集中する。

 

正眼から縦に一振り。

ぶおん、とたったそれだけで砂嵐が消し飛んだ。

 

正常な空気が戻り、不自然なほどの静寂が訪れる。

手足に集中した力が宿る剣は、光の柱のような高密度のエネルギーの塊と化していた。

それは、疑似的な太陽そのものだった。

 

「ママッ、ママ!! どうしよう、すごくドキドキしてるよ♡」

 

ただそこにあるだけで周囲を溶かし、砂地を真っ赤なガラスへと変えていく。

魔王ローティの固有スキルは折り込み済み。その為の専用装備だ。

 

命の危機だと言うのに、この少女は高揚していた。

 

「愛したいから、奪うんだね!!

自分の物にしたいから、殺すんだよね!!

私、あのクラリス(オモチャ)欲しい!! 壊れるまで、遊びたい!!」

 

少女の体が、異形と化していく。

龍人、人間タイプといった魔王一族にある通常形態とは別に、神の権能を執行する本気モードと言える第二形態へと、彼女の身体が移行していく。

世界を滅ぼす、怪物への姿へと。

 

「――――ようやく分かったよ、兄貴。

自分を殺しに来る相手に、どうしてこんなに恋焦がれるのか」

 

光の剣を手にした勇者と、本性を現した魔王が対峙する。

都市レベルなんてちっぽけな話ではなく、地球という惑星が何割壊れるかという話の戦いが始まろうとしていた。

 

「やめろって言ってんだろ、この馬鹿野郎どもがぁぁああああああ!!!」

 

その未曽有の天変地異の如き女同士の戦いは、しかしそれに割り込んだ男によって阻止された。

 

「あッ」

「危ない!?」

 

結果として、両者の衝突の際の攻撃が直撃した彼はこの世から一瞬で蒸発して消滅した。

 

 

 

 

250:名も無き住人

そんな、嘘だろ

 

251:名も無き住人

運び屋が、二人の争いを止めて死んじまった・・・

 

252:名も無き住人

あいつは、あの世界を救ったんだ

その身を犠牲にして

あいつこそが、真の勇者だ

 

253:名も無き住人

このスレは伝説になるな

俺たちはあいつの雄姿を語り継いでいこう

 

254:名も無き住人 ID:AnZCan

でもまさか、ここで終わったらROM勢の方々も興覚めですよね?

 

255:名も無き住人

>>254 なんだこのIDは? 管理人呼んだ方がいいか?

 

 

 

 

 




万人受けしないとは思ってましたが、需要には応えたいと思って頑張って更新してきましたが、平均評価も芳しくなくて悩ましいです。
もしかしてこれ、スランプなんでしょうか。読者の皆さんの期待に応えられないのは辛いです。

とりあえず、アンケート取るので、モチベーション維持の為にご協力お願いします。
一話から前話と、今回からの二つです。よろしくお願いします。


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幕間「神々との対話、そして」

これで、第一章終了です。




 

 

 

 俺が目を開けると、そこは謎空間だった。

 

 見渡す限りの雲海で、まるで空の上だった。

 子供が想像する天国のように、現実味が存在しない。

 

 だが、どうしようもない現実が目の前にあった。

 

「レジー・キサラギさん。

 残念ですが、あなたは死んでしまいました」

 

 雲をソファーみたいにして腰かけている女神メアリースが、雲のテーブルに書類を広げていた。

 

「我が名はメアリース。人類文明を司る者。

 ああ、あなたは地球系列世界出身ね。ならメアリー・スーと名乗った方が良いかしら?」

「通りが良い方で構いません」

「そう。あなたの人生を査定した結果、来世はある程度の優遇が保証されるわ。

 家庭環境、才能、人間関係、容姿、その他諸々をこれから出すステータス画面に、あなたの生前の私への貢献度から算出した善行ポイントを振り分けて入力しなさい。

 それによって、あなたの次の転生先が考慮されるわ」

 

 実に事務的な対応だった。

 

「珍しいわね、大抵ここに来た人間は現実を受け入れられなかったり、死んだことを私の非にして優遇を迫るのに」

「いやぁ、自分でも考えなしのバカなことをしたなぁ、と。

 しかし、本当にメアリース様って人間の転生もやってるんですね」

「人間は誰しも、死を恐れる。その先に、希望を見出す為に天国と言った概念や来世を想像した。

 人間文明の化身たる私が、それを司るのは当然の事よ。

 天国と言う楽園は地上で試行錯誤してるから、死後は転生させてるのよ」

 

 死ぬことは、怖くないと言えば噓になる。

 だが、メアリース様に貢献すれば必ずより良い来世を与えてくれる、らしい。

 転生経験がある、という地球に帰属した獣人が言っていた。

 

「……ちょっと待って、死因に特記事項があったわ」

 

 書類を見比べているメアリース様は、ステータス画面を弄ろうとする俺を止めた。

 

「あなたの対応は、別の部署だわ。

 悪いけど、そっちで説明を受けて頂戴」

「あ、はい」

 

 俺の足元の雲が、ぽっかりと穴が開いた。

 俺は成すすべなく、そこへ落ちて行った。

 

「次」

 

 落ちて行った俺に関心など寄せず、女神メアリースは新たな死者と書類を取り寄せた。

 

 

 

 

「こちらに座って並んでください」

 

 人間が想像するような、絵に描いたような悪魔の獄卒が椅子を引いて着席を促してくる。

 この脈略の無さが、死後の世界だと納得させる。

 

 俺が落とされた先は、簡単に言えば面接会場だった。

 俺以外にも十数名が横に椅子に座って並ばされ、彼らは俯いて震えながら順番を待っている。

 

「次の死者、前に出なさい」

「はい」

 

 そうして、一番端の若者が椅子から立ち上がる。

 俺の座席はいつの間にか横に移動しており、隣には新たな死者が獄卒に着席を促されていた。

 

「まず弁明の機会を与えよう。

 お前はかつて、そう五年ほど前だ。

 老人からバイクでバッグをひったくり、金品を強奪した。そうだな?」

 

 面接官、いや閻魔大王は邪悪を司ると言う女神リェーサセッタだった。

 罪を暴く奈落の瞳が、彼を見つめる。

 

「えッ、なぜそんなことを? 

 それにその罪はちゃんと現世で贖いました」

 

 若者はまるで予想外なことを追及され、困惑していた。

 

「そうだな。

 だが、その老人はお前がバイクで衝突した際に入院し、それが遠因となり一年後に体調を崩して亡くなった。

 彼とその家族は、お前への復讐を所望だ」

「ま、待ってください!! 

 相手は老人じゃないですか!! 必ずしも俺が全部悪いってわけじゃ!!」

「反省の色は無し、か? 

 お前はひったくりで捕まった際も、へらへらしていたな。

 どうせ大した罪じゃない、と。そんなお前がバイク事故で死亡するとは、因果なモノだ」

 

 どこまでも底の無い奈落の赤い瞳が、若者を引きずりこもうとしていた。

 

「じゃ、じゃあ、俺を殺した奴も、あなた様が復讐してくださるんですか?」

「まさか。彼は親孝行者だよ。

 彼とその家族の苦しみはもう私が慰撫した。

 ……お前程度の人間を殺したところで、嘆き悲しみ後悔する必要は無い、とな」

 

 若者の左右の腕を、悪魔の獄卒が重々しい手枷で封じた。

 

「その性根がまっさらになるまで、地獄で魂を漂白すると良い。

 なに、たかが被害者が味わった苦痛を延々と受けるだけだ」

「いッ、嫌だ、嫌だあああぁぁぁ!!!」

 

 泣き叫ぶ若者が連れていかれた。

 

「次の死者、前に出なさい」

「リェーサセッタ様!!」

 

 次の死者は初老の女だった。

 彼女は感極まったように、女神の前に跪いた。

 

「あッ、あなた様のおかげで、息子の仇が討てました!! 

 息子をイジメて追い詰めて自殺に追いやったあのクソガキどもを、一人一人この手で血祭りに!! あなた様の元へと送ってやりました!!」

「そうだな、お前の復讐は正当だ。

 倫理が、常識が、世間が、法律が認めずとも、他ならぬ邪悪と悪逆を司るこの私だけはその正当性を保証する。

 その代償に、お前は命を落とした。お前に貸し与えた我が力の対価だ」

 

 殺した人数は段違いなのに、さっきの若者とは女神の対応が全く違った。

 

「お前の命を奪ったのは、復讐の連鎖を止める為だ。

 この私が正当性を認めたのだと、社会的に何の意味も無くても、その事実は公表される。

 だから仕方が無いのだと、お前の死をもって次の復讐を諦めさせるのだ」

 

 全ての悪を認知している女神から、逃れられる悪は無い。

 

「は、はは!! 自分たちの子供がイジメなんてしてないと、したり顔で言っていたクソ親どもの歯噛みする顔が目に浮かぶようです!! 

 息子の仇を討てた今、恐ろしいものなどありません。

 どうぞ、この身を引き裂き、地獄の苦しみを与え下さいませ!!」

「そうか。ならば沙汰を伝えよう」

 

 女神リェーサセッタは判子をポンと書類に押した。

 

「島流しだ。次の一生を特定の世界で過ごしてもらう。

 場所は、転生特典が前世の記憶保持を選んだ者専用の世界だ。

 そしてそこは我が盟友の手によって、イジメはとっくに駆逐されている。

 安心して、お前の息子に会うといい」

「ああッ、ああ!! ありがとうございます、リェーサセッタ様!!」

 

 こうして、彼女に沙汰が下った。

 これを見ればわかるが、リェーサセッタ様の審判の基準は彼女なのだ。

 つまり、全て彼女の感情によって判断される。

 罪の重さや刑罰に、明文化されたルールが存在しないのである。

 

 逆に言うなら、それは一体何を言われるのか分からない恐怖も付きまとうのだが。

 

「かみさま、おなかすいてパンをぬすみました。ごめんなさい」

「生きる為に盗みを働いて何が悪い。

 悪いのはお前ではなく、お前を救えなかった社会の方だ」

 

「あ、あの人が浮気するのが悪いんです!! 

 仕方なかったんです!!」

「私も同じ女として理解はするが、何事にも一線がある。

 それを超えたお前は、主人の浮気を追求する資格は無い」

 

 次々と、罪人に声を掛けて沙汰を言い渡す邪悪の女神。

 彼女は絶大な人気を誇るまとも(・・・)な女神として万人に崇拝されている。

 その意味を、俺は目の当たりにしていた。

 

 もうそろそろ俺の番だ、と思っていたら。

 

「お、おのれ邪神め!! 

 たとえ地獄へ落とそうとも、我が神が必ず我らを救ってくださる!!」

 

 次に前に呼ばれた罪人に、俺は見覚えがあった。

 以前、俺が主導した過激派碑文教団掃討作戦の際にリーパー隊に殺された教団幹部だった。

 

「……お前たちが何を信じ、何を崇めようとそれは自由だ。

 それはお前たち人類に我が盟友が与えた自由意思なのだから。

 お前たちが自ら構築した文化は尊重されるべきだ。

 ああ、だが────」

 

 女神の手が、教団幹部の身体を鷲掴みにした。

 ずいっと、彼の身体がその奈落の瞳へと近づいていく。

 

「や、やめろ、やめろぉ!!」

「なぜ恐怖する? 

 お前の神が守ってくれるのだろう?」

 

 これまでの慈愛があり慈悲深い対応とは全く違う、どこか嗜虐的で嘲笑うような女神の態度は、どこか異質だった。

 

「私がまだ、ただのちっぽけな人間だった頃。

 我が両親や知人、住んでいた町がお前のような居もしない神を崇める連中に焼かれた。

 私も若かったよ。同じ宗教を信じているというだけで、無差別に殺して回ったものだ」

 

 女神の暗黒の手に力が入っているのか、彼はただ呻くほかできなくなっている。

 

「そんな連中に迷惑をこうむったのは我が盟友も同じだった。

 こんな“善い神様ごっこ”しているのも、お前たちのような人間の悶え苦しむさまが私にとって最高の愉悦だからだ」

 

 両眼しかない人型に、裂けたような笑みが浮かんでいた。

 

「ほら、見えるだろう? 

 お前のような人間のお仲間が沢山だ」

 

 奈落の瞳の奥底に、苦悶のままに助けを求める亡者が、ウジ虫のようにひしめいていた。

 

「た、たすけ、あ──」

「お前もそこの連中のように、簡単に音を上げてくれるなよ?

 お前のような宗教家気取りの苦悶の姿が、私の精神を何よりも潤すのだ」

 

 奈落の底に、罪人が墜ちていく。

 どんな地獄よりも救いのない、延々と魂を凌辱される永劫の牢獄へと。

 

「次の死者、前に出なさい」

「はい、俺です」

「ああ、お前か」

 

 さて、俺にはどんな沙汰が下るのかと思ってたが。

 

「我が娘が世話になっている。

 それだけが言いたかった」

「……え、それだけですか?」

「そうだ。手間を取らせて悪かった。

 後のことは、我が盟友に聞くと良い」

 

 ええぇ、本当にそれだけだったんですかぁ。

 これまでの流れで、俺には何を言われるかってなるじゃん!! 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

 雲の上に戻ってきた俺の前で、メアリース様が書類を見ていた。

 

「あの、俺ってどういう扱いなんですか?」

「ああ、あなた、生き返れるわよ」

「えッ……はあ!? どういうことですか!?」

 

 俺は混乱して、嬉しさとか喜びとかそれ以前の話だった。

 

「あなたは魔王ローティの四天王として業務中に死んだわ。

 つまり、私の委託した業務を遂行した魔王の配下が死んだということね」

「そう、なりますね」

「業務中の死亡は即ち、労災じゃない。コンプライアンス違反だわ。

 私の責任になるじゃない」

「えぇ……」

 

 俺、そんな理由で生き返るんですか? 

 

「他にも不正、横領、ブラック勤務、サービス残業、パワハラセクハラモラハラ諸々、全て許されないわ。

 全ての人間は私に管理され、十全なパフォーマンスを決められた労働時間に発揮してもらわなければならない。

 四天王も同じよ。だから生き返ってもらう。通常業務に関しては別だけど」

 

 生き返らせてまで働かせるのは、ブラックじゃないんですかねぇ。

 

「これは本来、魔王軍として戦う者の措置だけど、今回はあなたにも適応するわ。

 勇敢に戦って死んだ者を評価しなければならないもの」

「……そうですか」

「喜びなさい。基本的に私は、死者の蘇生を“ウリ”にしてる安っぽい他の神々とは違うんだから」

 

 じゃあ軽々しく人前に降臨成されるのは止めた方がいいと思うんですけど……。

 

「他に何か質問は?」

「じゃあ、ひとつ。

 俺、このまま生き返ってもローティ様に殺されませんか?」

 

 俺の脳裏には、彼女を世話した記憶の数々が蘇る。

 スプーンで食事をさせて上げたのは序の口で、夜は泣き喚くから抱きしめて頭を撫でながら一緒に寝て上げたし、果てはおねしょの処理もしたし、風呂にも入れてやったのだ。彼女の着替え? 俺がしましたけど何か? 

 

「安心しなさい」

 

 メアリース様は優雅に笑ってこう言った。

 

「彼女のような人間タイプの魔王ユニットは、龍人タイプと違って能力や耐久性は若干下がるけど拡張性に優れているの。

 だから私は、不安定な彼女の気性を安定させるために手段を講じたわ。

 故に我が盟友が彼女に知恵を返したのも、一時的なモノに過ぎない」

「つまり、またあの幼児同然な状態に戻ると」

「そうね。それがアンケートの結果だわ」

「アンケート!? 何ですかそれ!?」

「需要調査の一環よ。私は人類が望むことをする存在よ。

 それと同時に、あの気性の荒さもまた惜しい。あれはあれで役に立つのよ」

 

 メアリース様の言うことは時々よく分からない……。

 

「質問は以上ね? それじゃあ、現世に戻りなさい」

 

 そうして、俺は現世に生き返って帰還することになった。

 

 

「あ、そっちの私達(・・)によろしくって伝言してもらうのを忘れてたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管理番号:275424

 

 勇者と魔王の戦いの余波で吹き飛んだ建物は、大型の3Dプリンターで出力された建材を組み立て、街並みのほとんどが元通りになっていた。

 

 そんな街の地下で、暗躍するカルトが存在した。

 

「大司祭様。今日もメリッサ様の御世話でしょうか?」

「ええ、それ以上に優先すべきことなどないですから」

 

 喪服のように黒い装束を纏った女が、教団員たちの声を聞き流す。

 そして過激派碑文教団の無数の地下拠点の一つ、その奥に彼女は足を運ぶ。

 

「あーもう、なんなのあのレジスタンスって連中!! 

 まったく連絡寄越さないじゃない、役立たず!!」

 

 幾重にも施されたセキュリティを解除し、ドアを開けるとコップが彼女の頭部に飛んできた。

 ぱりん、と地面に落ちたコップが割れる。

 

「メリッサ、どうかしたの? ご機嫌斜めね」

 

 額が切れて血が滴っているにも関わらず、女は部屋の主に声を掛けた。

 

 室内は、薄暗くモニターの明かりだけが爛々と輝いていた。

 それほど大きくない部屋は、脱ぎ散らかされた衣服やお菓子の袋やペットボトルが散乱し、食べかけてのカップ麺がテーブルの上でほったらかしにされて冷めきっていた。

 

 そんな不健康で不潔極まりない部屋の中に、その少女は居た。

 ぼさぼさの髪の毛は手入れされておらず、目元には隈がある。

 見た目は十代前後でしかないパジャマ同然の格好の彼女は、モニターとキーボードの前で癇癪を起していた。

 

「リネア!! この間連絡が取れたレジスタンスの連中からの定時連絡が切れたの!! 

 なんなのあの役立たずども!! 何が人員を送るよ!! 誰も来てないじゃない!!」

「結局、あの愚か者が暴走して、貴重な戦闘兵器を無駄にしてしまいましたしね」

「せっかく私が創ったオモチャを、あのクソ役立たずは無駄にしやがった!! 

 今も生きてたら私がスクラップにしてやったのに!!!」

 

 バンバン、とキーボードを苛立ちのままに叩く少女を、リネアと呼ばれた女は微笑まし気に見ていた。

 

「メリッサ、昨日はお風呂入ったのかしら?」

「えー、めんどい。今度で良いじゃない」

「あなた、そうして平気でひと月はお風呂に入らないじゃない」

「お風呂なんて面倒だし、時間の無駄じゃん」

「いいから、来なさい」

 

 少女は、女に引っ張られながら備え付けの浴室へと放り込まれた。

 

「……次のゲームは、何にしようかな」

「メリッサ、先日魔王とやり合ったというアレを使ってはどうかしら?」

「うーん、新しくやってきた魔王ってのも気になるし、様子見かな」

 

 シャンプーで頭を洗われ、タオルで汚れを取り除いた少女は見違えるほど美しさを取り戻した。

 それこそ、女神メアリースにそっくり(・・・・)に。

 

「次は何して遊ぼうかな、ねぇリネア?」

「メリッサがしたいことをすればいいのよ」

 

 そんな美しい少女を、女は奈落のように淀んだ目をほころばせて微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは、二章となります。
パッションと思い付きとインスピレーションでここまで書いてきましたが、それもすべて読者の皆さんのおかげです。
少し前まで心療内科に掛かっていたのもあり、メンタルよわよわの作者で申し訳ありません。
皆さんの評価や感想に、勇気づけられました。

これからも続きを、運び屋たちの物語を書いて行こうと思います。
ただ、二章がまだ形になっていないのと、明日から仕事が忙しいのでこれまで通りの更新速度は維持できないと思います。

それでも年末年始は時間が取れると思います。
それでは、また次回をお楽しみください!!


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ドッペルゲンガーの法則
1スレ目


【六位様】運び屋救援専用スレッド【四天王】part1

 

1:名も無き住人

 

ここは某序列六位様に振り回される可哀そ羨ましい男、運び屋の相談専用スレだ!!

まことにけしからんが、当人は切実なのでぜひ相談に乗ってやってくれ!!

 

主要人物まとめ

運び屋:魔王四天王兼配送業者、人間種男、26歳。

毎回トラブルに巻き込まれたりする不幸な男、居住世界の文明レベルは62。

某六位様:我らが六位様、無性別(でも性格は女)、推定100歳ちょっと。

メアリース様に知恵をお返しされトカゲちゃんに、今は運び屋にお世話され中。

ワンちゃん:ポンコツ兼レジスタンスのテロリスト、人間種女、推定20前後。

六位様に復讐のために別世界から単身乗り込んできた勇気あるポンコツ。

頭はよわよわだが実力はつよつよ、運び屋に餌付けされ中。

 

経緯

他世界交流板partXXXXX

http.■■■■■■■■■

 

 

2:名も無き住人

>>1 スレ立て乙

良くまとめてくれた

しかし、運び屋の周りが酷いなww

 

3:名も無き住人

>>1 乙

ここまで酷い人間関係も少ないだろうなww

 

 

 

 

 

 

21:名も無き住人

まさか、このスレ使われる前に運び屋の奴が逝ってしまうとは・・・

 

22:名も無き住人

奴は英雄になったのだ

メアリース様も、奴には惜しみない評価をするだろう

あいつが良い転生先に恵まれることを願うわ

 

23:名も無き住人

リェーサセッタ様も、ローティ様が世話になったんだ

何かしらの罪を問われても御赦しくださるだろう

 

24:名も無き住人

体やお家だけじゃなく、命まで無いなったとはなぁ

 

25:名も無き住人

俺たちはせめて、奴の勇姿を忘れずにいよう

 

26:名も無き住人

じゃあ、運び屋の墓に一杯捧げよう

ぐびぐび

 

27:名も無き住人

それ飲みたいだけやろ、定期

 

28:名も無き住人

俺も酒飲むか、知人が亡くなるのは悲しいもんだ

 

29:名も無き住人

どうせなら、リモート飲み会しようぜ!!

 

30:名も無き住人

いいな、前は盛り上がったからな!!

 

31:運び屋

おい、追悼の雰囲気どうしたよ

 

32:名も無き住人

お?

 

33:名も無き住人

あれ、マジか!!

 

34:名も無き住人

IDは誤魔化せん、運び屋お前生きてたのかよ!!

 

35:名も無き住人

ちょっと速報板に知らせてくる

 

36:名も無き住人

良かった、マジよかった

 

37:名も無き住人

おかえり

 

38:名も無き住人

速報板から来ますた

 

39:名も無き住人

おいおい、マジで生きてたのかお前!!

 

 

 

 

 

 

122:名も無き住人

お前ら、こんなに居たのかww

 

123:名も無き住人

そら、(総合板で話題になってたし)そうよ

 

124:名も無き住人

問い合わせした連中も多いだろうからなぁ

俺もそうやし

 

125:名も無き住人

なんだかんだで、ローティ様は有名人やし

話題にはなるだろうさ

 

126:運び屋

みんな、ありがとう

生きてた、というかマジで一回死んでたww

メアリース様とリェーサセッタ様に会ったわww

面接会場や雲の上で面談みたいなことされた

 

127:名も無き住人

お前、それマジで死んでんじゃんww

いや笑いごとやないわ

 

128:名も無き住人

ワイ転生者、いや厳密には転生者じゃない奴などおらんけど

転生特典で記憶保持選んだから、覚えてる

俺も前世の死後そこ行ったことあるぜ

 

129:名も無き住人

むしろ、どうして生きて帰ってこれたんだってレベルだよな

 

130:運び屋

なんか、四天王だから労災になるって、メアリース様に言われた

たぶん生き返らせてもらったのはその補償だろ

 

131:名も無き住人

草ww

そんなことあるんかww

 

132:名も無き住人

四天王の特権ってそんなのもあるのかよww

 

133:名も無き住人

まあコロシアムチャンネルで特定の魔王様追ってると、この四天王前死んでたのになんでまた戦ってんだって思う時はあるけど

まさかそんな理由だったとはなぁ

 

134:運び屋

なんというか、神様と直接言葉を交わした感想っていうか

あの御二柱って、マジで神様なんだなって

 

135:名も無き住人

当たり前やん

誰が俺たちの世界を管理してると思ってるねん

 

136:名も無き住人

メアリース様、やろうと思えば空調のスイッチ感覚で、俺たちの住んでる世界の酸素ゼロにできるからな

そもそも逆らうって発想が自殺

 

137:名も無き住人

あの御二方を疑ったことは無いぞ

最近統治され始めた運び屋には未知の感覚だろうが

 

138:名も無き住人

あんな性格でもメアリース様は神としての仕事はちゃんとしてるからなぁ

俺の帰属前の世界の神々は酷かった・・・マジ酷かった

 

139:名も無き住人

たまにメアリース様がよその神様と交渉してるの生放送してるが、正直どっちもどっちゾ

主上は一切取り繕ったりしないのはスゴイわ(白目

 

140:運び屋

神様って御二柱以外にもいっぱいいるんだよな、度々話題になってるし

メアリース様とリェーサセッタ様って実際どれくらい偉いんだ?

 

141:名も無き住人

めっちゃ偉いんじゃね?

数万の世界を統治してるって言ってるし

 

142:名も無き住人

知らん

有識者頼む

 

143:名も無き住人

それは、考えたことなかったわ

俺たちにとっては、御二柱は唯一無二やし

 

144:名も無き魔王

我らが“マスターロード”大兄によると、神々の領域は一つの国に例えられるらしい

例えば火を司る神なら、それぞれに特化した職人がいる感じやろか

司る事象の大きさで、その格が決まるとかなんとか

 

145:名も無き住人

有識者(魔王様)

 

146:名も無き住人

魔王様直々に解説してくれるとか贅沢だなぁ

 

147:名も無き住人

その話によるなら、文明そのものたるメアリース様はどれだけ偉いんですかねぇ(震え声

 

148:名も無き魔王

お前らの住むひとつの世界そのものは、国で例えるなら一軒家らしい。

その世界出身の神々を住人に例えるのなら、メアリース様と我が母は“領主”に当たるとか

 

149:名も無き住人

神々(一般人

 

150:名も無き住人

神様にも一般人とかいるんですねぇ

なんか親近感わくな

 

151:名も無き住人

家の主人、村の長、町長、から飛んで領主ですか

想像以上に偉くて引くわ・・・

 

152:名も無き住人

無数の世界を束ねてるってのはそういうことやもんな

 

153:名も無き住人

それであのフットワークの軽さはどうなんですかねぇ、領主様

 

154:名も無き魔王

聞いた話によると、神々の“領主”どもは今戦国時代らしくお互い争ってる

でも、その全員からメアリース様はヤバイ奴認定されてるらしく、争いすら吹っ掛けられないそうな

 

155:名も無き住人

ヤバイ奴(知ってた

 

156:名も無き住人

そのヤバイ奴が我らの造物主なんですがそれは

 

157:名も無き住人

俺たちが平和を享受できてるのは、メアリース様がヤバイ奴だからなんか

知りたくなかったわ

 

158:名も無き住人

そら、よその神々との交渉であんな強気なわけだわ・・・

 

159:名も無き住人

お前ら忘れんな、リェーサセッタ様はそのヤバイ奴に並んでるんやぞ

 

160:運び屋

御二柱が想像以上の方々で笑えんのだが

 

161:名も無き住人

>>159 おい、やめろ

 

162:名も無き住人

>>159 リェーサセッタ様はまともな御方やろいい加減にしろ!!

 

163:運び屋

>>159 ウン、ソウダネ・・・

 

164:名も無き住人

運び屋どうした?

 

165:名も無き住人

何かリェーサセッタ様に言われたのか?

 

166:運び屋

黙秘する

それより、いい加減板違いだろ

新しい話題投下するわ、ワン子見つけた

 

167:名も無き住人

リェーサセッタ様になに言われても生きた心地せんだろな

まあ、死後の世界なんだろうがな!!

 

168:名も無き住人

お、マジか

あの後どうなったか気になってたんだ

 

169:名も無き住人

それよりか、ローティ様とか運び屋の近状をおせえて

 

170:名も無き住人

せやせや、何殺しにされたん?

半殺し? また九割殺しか?

 

171:運び屋

よくわからんが、あの二人の戦いはお流れになったらしい

無事復活した俺はその報告に魔王城へ

どうせなら、無いなった体も元通りにしてほしかったわ、夢に見る

 

172:名も無き住人

悲しいなぁ

 

173:名も無き住人

幻痛持ちだから気持ちわかるわ

 

172:運び屋

その後無事クソガキ様に戻った魔王様と面会

俺、無事デュラハンにクラスチェンジ

 

173:名も無き住人

ああ、ダークライダーってそういう・・・・

 

174:名も無き住人

どの辺に無事要素があったんですかねぇ

 

175:名も無き住人

案の定暴力沙汰で草生えるわww

 

176:運び屋

俺にマウント(物理)取ったクソガキ様

更にマウント(言葉)で煽られる

ロリコン呼ばわりとか心外なんですが、ロリババア様

 

177:名も無き住人

ご褒美やん

 

178:名も無き住人

おい運び屋、代われよ

 

179:名も無き住人

ハァハァ、ちょっとローティ様のブロマイド取ってくる

・・・ふう、冷静になれよお前ら

 

180:名も無き住人

>>179 早ぇよww

 

181:運び屋

ムカついたから、幼児の頃に発見した弱点つついてやったわ

尻尾の裏の付け根の所、くすぐると転げまわるんよ

 

182:名も無き住人

よくカートゥーンとかでウサギの耳を持ったりする描写あるが、あれマジ止めな

耳とか尻尾とか神経集中してるから、痛いらしい

 

183:名も無き住人

ワイ、ロップイヤー系のウサギ獣人

昔、獣人は耳撫でられるのが好きだと勘違いしてる軽薄男を蹴って骨五本折ってやったわ

 

184:名も無き住人

ワイ、ウマ系獣人、最近某ゲームのおかげで視線が多くて気が散る

冗談めかしてトレーナーになってやろうかって言いながら尻尾触ってきた野郎のタマ蹴り上げてやったゾ

 

185:名も無き住人

獣人ネキたちこわ、とづまりすとこ

 

186:名も無き住人

その男たち、生きてるんですかねぇ

 

187:運び屋

俺も一回死んでるから、多分麻痺してたんだろうな

やってから死を覚悟したが、一向に何も来ない

すると、クソガキ様が抱き着いてきた

にぃに、遊ぼって、何がとかと思ったら、あいつ幼児に戻ってた

 

188:名も無き住人

え、どゆこと?

 

189:名も無き住人

ローティ様、元に戻ったんじゃなかったのか?

 

190:運び屋

メアリース様に問い合わせたところ、切り替え方式にしたそうだ

幼児の方はこれからちゃんと教育しろとのお達しである

 

191:名も無き住人

つまり二重人格みたいなものか?

 

192:名も無き住人

要するに、一粒で二度おいしいってことだな!!

 

193:名も無き住人

クソガキ様はおいしいんですかねぇ

 

194:名も無き住人

破壊と統治を使い分けるようにさせるんか

まあ、その方がいいかもな

 

195:名も無き住人

さらっと人格を後付けできるメアリース様が怖いわ

 

196:名も無き住人

教育って、誰がやるんですかね?

 

197:名も無き住人

そら、にぃによ

 

198:運び屋

そう、俺ですよ(半ギレ

誰か情操教育にいいアニメとか知らない?

 

199:名も無き住人

草ww

 

200:名も無き住人

もうパパでもいいんじゃないのかww

 

201:名も無き住人

魔法少女フェアリーサマー*1全5シーズン、データで送った

 

202:運び屋

>>201 マジで来た

なんなのこの人、こわ

 

203:名も無き住人

魔法技師ネキ、担当の営業に余念がないなww

 

204:名も無き住人

異世界間でデータのやり取りとか普通に超技術なんですがそれは

 

205:名も無き住人

その人のことは気にしたら負けよ

 

206:名も無き住人

アニメ化されてる実在の魔法少女とかヤバイよな

 

207:名も無き住人

あれ、今じゃ動画サイトに全編上がってるけど、熱烈なファンの個人の自主製作らしぞ

 

208:名も無き住人

その製作者が自ら悪役として出てるんだよなぁ(遠い目

ほぼ全部実話なのが悲しいところ

 

209:名も無き住人

平和になって敵が居なくなったから自分が敵役に成るとか最高に狂ってるよな

そうか、マジか、実話なのか技師ネキ・・・

 

210:運び屋

ちょっと心配だけど、せっかくだし見せておくわ

ほかに候補無いし

それから何日かして、ワン子見つけた

今度は色町でID未登録の子供たちと一緒に雑用して食べ物もらってた

 

211:名も無き住人

前よりマシになっててよかったな

色町で、ってのが闇深だが

 

212:名も無き住人

その武力をなぜ有効活用しないのか

 

213:運び屋

あいつ、俺を見てお化けと勘違いしてたよww

赦しを乞うてきたから、ついつい身の上話まで聞いてしまった

 

214:名も無き住人

オバケww

話題になるたびにポンコツエピソードが増えるなww

 

215:名も無き住人

個人的にローティ様より好感度高い

 

216:名も無き住人

>>215 わかる

一緒に居たらきっと楽しい

 

217:名も無き住人

でも、テロリストなんだよなぁ

 

218:名も無き住人

悲しいよなぁ

 

219:運び屋

そしたら、その話が重いったらなくてよ

あいつ、妹をローティ様に殺されたんだってよ

しかも目の前で、虫みたいに

 

220:名も無き住人

あーマジか

 

221:名も無き住人

まあ、魔王様にわざわざ逆らうってそういうことよな

 

222:名も無き住人

レジスタンスどもはテロリストだが、あいつらは基本復讐者ばかりだからな

やりきれんな

 

223:運び屋

本当は、俺にも世話になりたくなかったらしい

メアリース様が作ったものは全部嫌いなんだと

妹が殺されたのも、メアリース様がローティ様に命令されたからだとか

 

224:名も無き住人

うん?

それおかしくないか?

なんでメアリース様が個人を指名して殺させるんだ?

 

225:名も無き住人

俺も思った

あの御方がそんな非効率的なことを?

これから滅ぼす世界に?

たしかワンちゃんの世界は検証班が特定して滅ぼされてるのを確認したよな?

 

226:名も無き住人

メアリース様のお考えは理解しがたいからな

 

227:名も無き魔王

ああ、もしかして、いつものあれか

 

228:名も無き住人

あ、魔王様!!

何か心当たりでも?

 

229:名も無き魔王

いや、我ら一族が未着手の世界に関わる場合、まず一番最初にしなければならない仕事がある

 

ある特定の人物の抹消だ

 

230:名も無き住人

え、抹消?

字面からしてヤバイんだが

 

231:名も無き住人

それ、殺すのと何が違うんですか

 

232:名も無き魔王

転生できないように、文字通り魂ごと抹消するからや

抹消対象は全て、同じ形の魂なんよ

ワイら魔王一族は、その為に魂を識別できる機能がある

 

233:名も無き住人

ああなるほど

ドッペルゲンガーの法則か

 

234:名も無き住人

ええと、特定の形の魂を消して回るってこと?

 

235:名も無き住人

有識者ニキ、解説任せた

 

236:名も無き住人

ドッペルゲンガーの法則

あらゆる並行世界、異世界でも、魂レベルの同一人物が必ず存在するって法則

 

つまり、世界Aに魂1~10まであるとすると、並行世界Bや異世界Cにも、魂1~10が必ず存在するってこと

 

237:名も無き住人

聞いたことある

知り合いから、魂レベルで同じ異世界同士の人間が結婚したって話とか

 

238:名も無き魔王

メアリース様は、特定の魂を酷く恐れているらしい

その魂は必ず双子の弟か妹として現れるそうな

私も百人行かないくらいは仕事で殺したかな

 

239:名も無き住人

ひえッ

そら恨まれるわ

 

240:名も無き住人

魔王様がやっぱり魔王様だという事実を認識させられるわ

 

241:名も無き住人

でもなんで、わざわざそんなことを?

メアリース様は造物主なんだから、その魂を作らなければええだけじゃん

 

242:名も無き魔王

>>241 おそらく、管轄外なんやろ

魂も最初は無垢で生成されるし、最初の段階で処分も出来んのだろうな

 

243:名も無き住人

魔王様、なんでそんなことしないといけないとか、聞いてないの?

 

244:名も無き魔王

知らん

 

245:名も無き住人

いや、知らんて

 

246:名も無き住人

もっと仕事の詳細とかお聞きにならんのですかい

 

247:名も無き魔王

逆に聞くが、お前らは聞きたいのか?

以前、メアリース様になぜ自分の世界が滅ぼされる理由を聞いた奴がいた

そいつに、メアリース様は懇切丁寧に聞かれもしないことを教えて差し上げたのだ

挙句逆上され、「こんなに丁寧に説明されてそんな反応するなんて、私の設計した通りの知能水準に満たなかったようね」と仰られた

もう一度聞くが、そんなメアリース様が理由を説明されない仕事の内容を、知 り た い の か ?

 

248:名も無き住人

どう見ても厄ネタです、本当にありがとうございました

 

249:名も無き住人

メアリース様コピペがまた増えてしまった・・・

 

250:名も無き魔王

少なくとも、メアリース様は嘘を吐かない

嘘つきな“人間”の女神であるのに、そこは信頼しとる

我らの質問に、誤魔化したり取り繕ったりはぐらかしたりもしない

そんな御方が説明しない仕事の事情など、私は知りたくもない

 

251:名も無き住人

もういいです

流石に板違いですし

俺もこれ以上知りたくない

 

252:名も無き住人

でも、メアリース様が恐れる魂の持ち主ってなんだろな

 

253:名も無き住人

多分あれだろ、かつて人間だったメアリース様を射殺したという主上の妹君

 

254:名も無き魔王

>>253 私もそうだと思っている

実際、彼女は妹らしいし

 

255:名も無き住人

なるへそ、メアリース様も、自分の伝承的弱点になりうる要素を潰しているのか

どんなに弱い神様でも、相性差でジャイアントキリングが起こるらしいし

 

256:名も無き住人

人間が神様に勝つのも、大抵は弱点を突くからだもんな

 

257:名も無き住人

あれ、でもあの弓の妹君ってメアリース様とは義姉妹じゃなかったっけ?

 

258:運び屋

話は終わったか?

それよりみんな、俺も掲示板文化を読み漁ってを思いついた

俺も安価をやってみよう、と

 

259:名も無き住人

き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

260:名も無き住人

安価とかマジか!!

 

261:名も無き住人

安価、鉱山労働送り、うッ頭が・・・

 

262:名も無き住人

セクハラ安価で集団鉱山労働送りなった事件を思い出したわww

 

263:名も無き住人

セクハラはコンプライアンス違反だからな

ここはアーカイブにも残る、女神様が保存するに値する文化だってことを忘れるなよ

 

264:名も無き住人

あの鉱山労働、実際に経験すると何とも言えない気持ちになるよな

 

265:名も無き住人

わかる、自分が丁寧に使い潰されていく感覚がヤバイ

 

266:運び屋

じゃあ、ローティ様に何を教育するか安価しようと思う

 

267:名も無き住人

運び屋、一回死んで生死観変わってないか?

 

268:名も無き住人

まあ、無理も無いべ

 

269:名も無き住人

じゃあ、>>275でよろしく

 

 

 

 

 

*1
拙作「バッドガールズ・ダークサイド」の主人公。彼女が一般人の頃の話は、作者の最高傑作と自負してる「転生魔女さんの日常」にて描かれている。(ダイマ




クリスマスイブに一人さみしく、仕事先の宿で家族と離れホームアローンを見ながら執筆してました。
読者のみなさまに、深夜のプレゼントでございます。

さて、安価です。ローティ様に何をさせましょうか?
アンケートでご回答ください。

では、次回!!


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2レス目

Topic:用語解説

用語:魔王一族
女神リェーサセッタによって産み出された彼女の化身にして代行者。竜の暴力性と闘争本能、神の傲慢さと権能、人間の残虐さを併せ持つ、半神半龍の肉を持った神同然の存在である。一族と言うだけあって、五百人以上居るが、これでも人手不足。
彼らの仕事は、今作のような統治任務と、”伐採”である。
伐採とは、女神メアリースに依頼され、彼女が創造した不要な世界の消去である。
その際にただ一方的に滅ぼすのは憐れだと、全人類の総力でギリギリ勝てるレベルの試練を課す。
最終的に魔王に打ち勝てば消去は撤回されるが、その事例は全体の約3%に過ぎない。
彼らは本能的に強者を求めており、自分に挑むに相応しい勇者との戦いを今日も玉座で待っている。

ちなみに序列は女神メアリースへの貢献度によって決まり、累積なのでだいたい年上が上に来る。
なので、魔王ローティは実に稀有な存在なのである。


 

 

 

270:名も無き住人

 おい、すぐじゃねえか!! 

 

271:名も無き住人

 面白くなっててきました

 

272:名も無き住人

 ksk

 

273:名も無き住人

 加速

 

274:名も無き住人

 魔王モードでも“にぃに”と呼ばせる

 

275:名も無き住人 ID:AnZCaN

 もっとブラコンになるまで可愛がる

 

276:名も無き住人

 ワンちゃんと普通に遊ばせる

 

277:名も無き住人

 情操教育ならペット(意味深)を飼うのがええやろ(ゲス顔

 

278:名も無き住人

 ってか、魔王様で遊ぶなし

 

279:名も無き住人

 はやッ、もう埋まったんか

 

280:名も無き住人

 あれだけ隠れてたならなぁ

 

281:名も無き住人

 もっと悪乗りが多いと思ったが意外だな

 まあ、鉱山労働送り事件があったからなぁ

 

282:運び屋

 ブラコンになるほど可愛がるって

 何をすればいいだよ

 

283:名も無き住人

 別に今まで通りお世話すればええんやで

 

284:名も無き住人

 そうそう

 お前は俺らにてぇてぇを供給し続ければそれでいいんだ

 

285:名も無き住人

 もうすでに甲斐甲斐しく世話してるしな!! 

 

286:名も無き住人

 お前らが優しくて気持ちわる・・・

 

287:名も無き住人

 安価は絶対!! 

 と言いたいところだが、パワハラになるからな!! 

 お前のできる範囲でローティ様を立派な魔王様にするんや!! 

 

288:運び屋

 もうマジで教師とか雇おうかな・・・

 ちょっと配達先の孤児院の先生に相談してみるわ

 

289:名も無き住人

 てか、何故に運び屋がローティ様を? 

 たしか、もう別の魔王様が着任してるんだろ? 

 

290:名も無き住人

 言われてみれば確かに

 

291:名も無き住人

 運び屋がフリーなのはわかるが、同僚ちゃんが居たよな? 

 彼女はどうしてるんだ? 

 

292:運び屋

 同僚は今、別の仕事を任されてるんよ

 以前から滞っていた仕事があるとかなんとか

 

293:名も無き住人

 くそ真面目そうな見た目してたもんな、同僚ちゃん

 

294:名も無き住人

 俺は神官様だって言われても納得するぞ

 基本くそ真面目じゃないと神官に成れないし

 

295:運び屋

 魔王様留守番させてちょっと相談してくる

 子供たちの顔も見たいから顔出してくるわ

 

296:名も無き住人

 行ってら

 行動が近所の世話焼き兄ちゃんなんだよなぁ

 

297:名も無き住人

 こりゃあローティ様じゃなくてもブラコンになるわな

 

298:名も無き住人

 あああああぁっぁあーーー!! 

 そうだ、思い出した!! 

 

299:名も無き住人

 ど、どうした急に

 

300:名も無き住人

 何があったし

 

301:名も無き住人

 なんだ、急に叫びだして

 

302:名も無き住人

 >>275だよ!! 

 この変なID、どこかでみたことがあると思ったら、あんこ板だ!! 

 

303:名も無き住人

 あんこ板? 

 掲示板でTRPGみたいなことしてるところだろ? 

 

304:名も無き住人

 あんこ板のアーカイブは名作揃いだぞ

 それより、IDがどうした? 

 

305:名も無き住人

 どうせ見てるんでしょ、アンズ様!! 

 潜伏してないで名乗り出てください!! 

 

306:ダイスの女神アンズちゃん

 ふっふっふ

 バレてしまったのなら仕方ない

 

307:名も無き住人

 !? 

 

308:名も無き住人

 げッ、まさか

 

309:名も無き住人

 アンズ様って、あのアンズ様かよ!! 

 

310:名も無き住人

 ・・・ああ、あのメアリース様とくっそ折り合いが悪いっていう女神の

 

311:名も無き住人

 俺も思い出した

 めっちゃ危険人物・・・人物? じゃないか!! 

 

312:名も無き住人

 何年か前、資源採掘用の世界を木っ端みじんにしたらしいからな

 

313:名も無き住人

 帰っていただけませんか(震え声

 

314:名も無き住人

 これ以上運び屋を弄ばないでください

 お願いします

 

315:ダイスの女神アンズちゃん

 失礼な!! 

 私はサイコロの神器を持つ運命の女神

 私が弄んでるのではなく、運命に弄ばれているから私がここにいるんです

 

316:名も無き住人

 おうふ

 運命の女神直々に、数奇な運命をたどることを保証されてしまった

 

317:名も無き住人

 かわいそうに、運び屋

 アンズ様に目をつけられて、酷い目に遭わなかったものは居ない

 

318:名も無き住人

 流石、ダイスの女神様よ

 

319:ダイスの女神アンズちゃん

 鶏か卵かの話になりますけど

 人間は運命を擬人化し、その命運を見て女神がほほ笑んだとか、見放したとか

 また、サイコロ遊びの土壇場でドラマティックな場面でファンブルを出すと、運命の女神が腹を抱えてわらっているだの言いますよね? 

 だから私は人間出身で、ご想像の通り人様の運命を見て面白がってますww

 

320:名も無き住人

 草生やすな

 

321:名も無き住人

 想像するのと、マジもんの運命の女神に笑われてるのとは違うから!! 

 

322:名も無き住人

 所詮、運命の女神云々も、人がどうしようもできない物に納得するためだからな

 それそのものが理不尽を与えてくるのは全く違うぞ

 

323:ダイスの女神アンズちゃん

 誤解なんだけどなぁ、まあ理解してもらうつもりもないですけど

 

324:名も無き住人

 てか、なんでわざわざ運び屋の安価にスナイプしたんだ? 

 どうしよう、猛烈に嫌な予感がする

 

325:名も無き住人

 運命の岐路の前に立つ者に、アンズ様は現れるとされる

 マジかよ、運び屋、無事でいてくれ・・・

 

326:ダイスの女神アンズちゃん

 まあぶっちゃけ、今回彼は関係無いんですけどね

 

327:名も無き住人

 関係ないんかーーい!! 

 

328:名も無き住人

 でも、無意味に出てくる御方じゃないんだよなぁ

 

329:名も無き住人

 あらゆる物事には意味があるってやつ? 

 それを信じる気にはなれんな

 ・・・だって俺が無意味な存在だし

 

330:ダイスの女神アンズちゃん

 >>329 そのまま真面目に仕事を続けてればあなたを理解してくれる女性に出会えますよ

 

331:名も無き住人

 えッ、マジ? 

 やっぱこの世は最高だわ

 何事にも意味はあるんだな!! 

 な!! 

 

332:名も無き住人

 >>331 酷い掌返しを見た

 

333:名も無き住人

 羨ましいやら、運命を教えられるのは怖いやら

 

334:ダイスの女神アンズちゃん

 所詮、私は“振り直し”担当なので

 結果を確定したりできないから、私が言った通りになるかは自分次第なんですよねぇ

 

335:名も無き住人

 おい、話をそらされてるぞ

 

336:名も無き住人

 せや!! なんでわざわざこんなところに? 

 あんこ板の住人と普通に遊んでてくれませんかねぇ

 

337:ダイスの女神アンズちゃん

 あ、バレちゃいました? 

 でもほら、さっき言ったじゃないですか

 彼の運命を弄んでいるのは私じゃないって

 

 

 

 

「ねえ、そうでしょう? ROM勢(読者)の皆さん」

 

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 自分は何をしているんだろう、私は星の見えない空を見上げてそう思った。

 

 魔王憎しで、これまで生きてきた。

 だが、あの時、あの親切なひとの家にいた魔王を斬れなかった。

 

 あんまり頭が良くない私でも知っている。

 女神メアリースに逆らった人間がああなってしまうことを。

 

 結局その時は状況が許さず、流れてしまった。

 あの人が、まさか魔王の四天王だったなんて……。

 

 魔王の四天王は、敵だ。

 倒すしかない。その筈なのに。

 

「家畜の餌なんて食べれるか!! 

 なんで、なんで魔王の手下であるあなたが私に親切にするんだ!!」

 

 路地裏で何か食べ物が無いか探していた私に、固形携帯食料を彼は差し出してくれた。

 

「今のお前が、見てられないからだ。

 理由や立場なんてどうでもいい」

 

 彼はそう言って、食料を置いて去っていった。

 ……私は、ただただ惨めに栄養価だけを目的としたそれを貪った。

 

 聖鎧の使用には、リチャージが存在する。

 私にはよくわからない原理で、無限のエネルギーが生成されるらしく、どれだけエネルギーを使用したかで次に全力で使えるかが決まる。

 省エネモードならともかく、フルパワーならエネルギーは全快でないといけない。

 

 魔王を仕留められなかった以上、潜伏してエネルギーをチャージしないといけない。

 そうして、公園らしき場所で身を潜めていると、翌日子供たちに石を投げられた。

 

「あいつ、IDが表示されないぜ!!」

「じゃあサルじゃん!!」

「知ってる、神様に逆らった奴でしょ!!」

「俺たちでやっつけようぜ!!」

 

 無邪気で、残酷な、子供たちの敵意だった。

 

「痛い、痛い、やめて!!」

「こいつ、サルのくせに人間の言葉しゃべってるぞ!!」

「じゃあ犯罪者だ!! 警察呼ばないとってママが言ってた!!」

「私知ってる、こういうの社会のごみっていうんだよ!!」

 

 やり返すのは、簡単だ。

 この子供たちを怒りのままに暴力で解決するのは、実に容易い。

 だがそれは正義ではない。

 何があっても、子供に手を上げることはあってはならない。

 

「こらッ、何やってるお前たち?」

「あ、配達屋の兄ちゃんだ、見てみて、あれ犯罪者だよ!!」

「ああ、本当だな、兄ちゃんが通報しておくから、お前たちは危ないからあっち行ってろ」

 

 顔を上げると、あの人が子供たちを帰らせていた。

 子供たちは彼の言葉に素直に従っていた。

 

「大丈夫かお前、あいつらガキだから容赦を知らん。

 手当してやるから、ちょっとついてこい」

 

 私はその時、悲しくて悔しくて泣いていたので素直に頷くしかなかった。

 

 彼に連れてこられたのは、孤児院だった。

 

「マザー、こいつの手当をしてくれないか?」

「あらあら、どうしたのかい、女の子の配達は頼んでないんだけどねぇ」

 

 出てきたのは、老齢のシスターだった。

 

「まったく、近頃の子供は生意気だねぇ」

 

 彼女は私に手当をしながらそう言った。

 

「マザー、ガキども寝かしつけたよ」

「そうかい、ありがとさん」

「あ、配達屋の兄ちゃんじゃん!! 

 ねえ、遊んで遊んで!!」

「……しょうがねぇな、ちょっとだけだぞ」

 

 彼は奥から出てきた子供と一緒に外に行ってしまった。

 

「あの、ここは」

「ここは孤児院だよ。

 あんたみたいな、市民IDの無い子供たちの面倒みてるのさ」

「私みたいな……」

 

 私はこの世界に来て、思い知った。

 IDとやらが無いことが、どれだけ惨めな生活をしないといけないのか。

 

「親に認知されないと、IDは交付されないからねぇ。

 メアリース様が制度を変えてくださるそうだが、まだ時間がかかるみたいだし」

「……マザーはあんな神を認めるんですか、シスターなのに」

「昔はよくあったことさ、うちの宗教ではよその神は自分たちと同じだって言い張って併合したりね。

 それが今度は、メアリース様になったって言うだけの話さね」

 

 長年の信仰を否定されたというのに、彼女の態度はあっけらかんとしていた。

 

「それが今、いざ自分たちがそうなったら逆上する連中もいる。

 まったく、情けないったらありゃしない。同じ神を信じてたとは思えないね」

「……」

 

 私は、その逆上した連中が町を更地にしたのを見ていた。

 おそらく、私が協力することになっていた人たちだ。

 今となっては、そんな人たちと連絡を取る気も起きない。

 大義とは主義主張だけではない、行動が伴って初めて意味を成すのだから。

 

 魔王には、私一人で戦うんだ。

 

「あんた、行く場所無いんだろ? 

 洗濯とか、子供たちの世話をしてくれるなら、面倒見てやってもいい」

「良いんですか?」

「あたしもこの年だからね、腰にフレームを入れるカネもありゃしない」

 

 そうして、私は彼女の元へやっかいになった。

 子供たちの世話は大変だったけど、久しぶりに人間らしい生活ができた。

 

 それを、私が自分の手で壊した。

 

 マザーに、教団からの連絡網が回ってきたのが切っ掛けだった。

 教団の過激派狩りが始まったのだと。

 

 しばらくは外出を控え、もし疑われたらIDを提示しろ、との指示だった。

 私は、彼女がテレビでニュースを見ているのを横で見ていた。

 

 そこでは、惨劇の光景が報道されていた。

 その殆どがモザイクで処理されていたけど、魔王の手下たちは残虐な方法で彼らを殺した。

 そして、それを指揮したのは、新しく就任した四天王であると。

 

 あれを、あれを、彼がやったのか!! 

 あんな人の道に外れたことを!! 

 

 私は、激情のままに彼を問い詰めた。

 私はここまで、はじめはここまでするつもりはなかったのに。

 

 この世界の建物は簡単に立て直せる。

 お金も書類も、とっくに電子化されていて管理されている、そう聞いた。

 だから家具などを買い替えるお金を女神に補償してもらえば、生活は元通りだ。

 

 だけど、あの子供たちにはそれがない。

 IDがないから、市民じゃないから、失ったものは補填されない。

 ……私が、壊したからだ。

 

 彼らが書いてくれた、私の似顔絵も。

 一緒に廃材から作った、私の分の椅子も。

 

 私が、壊してしまった。

 魔王と戦ってたなんて、言い訳にもならない。

 彼らとの思い出を、私が無為にしてしまった。

 

 私は、もう孤児院にはいられなかった。

 子供たちに、マザーに、あの人に顔向けできない。

 

 皆を守るために、身を挺して捧げたあの人に……。

 

 私は、戻る場所も無く当ても無く、今だなじまない街を彷徨い歩いていた。

 そうしているうちに夜になり、私は火に誘われる蛾のように明るい場所を求めて歩いていた。

 

 やがて、私は歓楽街のような場所に辿り着いた。

 規則正しく並んだビルに、猥雑なネオンの看板が所せましと並んでいる。

 人々はどの店に行こうかと、立体映像で解説される店の案内を見比べながら歩いていた。

 

 私は、人目を避けて路地裏に逃げた。

 私がID未所持なのは、なぜか見ればわかるらしい。

 マザーが言っていた。モニター網膜投射タイプの生体デバイスを脳にインプラントするのは子供でも当たり前のことなのだと。

 それで通行人のIDや名前や年齢、性別や職業を把握できるそうだ。

 

 ここは女神メアリースによって管理された世界。

 いつだか、博士が言っていた。

 

「女神メアリースの目指す社会は、完全なる閉塞と完全な管理だ。

 彼女のことを、本物の悪魔はなんて呼ぶか知っているかい? 

 ──“ディストピアメイカー”さ。

 狂ったコンピューターなんだよ、あの女神は」

 

 何でもかんでも管理しないと気が済まない、狂った女神が我らの造物主なのだ。

 だから、それから逃れるのは犯罪者か、人間で無くなったものか。

 

 人目から逃れたい心理は誰でも同じなのか。

 路地裏の先も、集落のように時代錯誤のバラックが立ち並んでいた。

 そしてそこも一つの歓楽街のように、人々で賑わっていた。

 

「お前さん、見ない顔だな」

 

 女神メアリースの手で一掃されたという浮浪者のような格好の男が、地べたに胡坐で座っていた。

 私は思わず身構えたが。

 

「そう警戒するな、ここは神の管理から逃れた連中のたまり場だ。

 どいつもこいつも脛に傷がある連中ばかりよ。

 だから、ここにいるのは全て自己責任だ。覚えておきな」

 

 男はそれだけ言うと、酒を呷った。

 私は足早に、そこから去った。

 

 

 私が辿り着いたのは、無法地帯のスラムだった。

 ここはある程度容認されているらしく、女神の定めるコンプライアンスに違反しなければ存在に目を瞑ってもらえているようだった。

 つまり、私が潜伏するにはもってこいだった。

 

 私は今夜の寝床をどうするか、人気のないところを探していると。

 

 

「いやぁ、やめて!!」

「大丈夫? レイアちゃん!!」

 

 人目のつかないスラムの端で、追われている少女二人を見てしまった。

 

「いい加減にしろよ、こら!! 

 てめぇらには借金がたんまりあるんだよ!!」

「カネが払えねぇってんなら、体で払ってもらうのみよ。

 お前のようなガキでも、買い手は見つかるんでな!!」

 

 追っているのは、いかにもチンピラという風体の二人だった。

 

「やめないか、お前たち!!」

 

 やっぱり、私はダメだ。

 考えるより先に、手が出てしまった。

 

「いってぇ!? なんだてめぇは!!」

「こっちは遊びじゃねぇんだ!! ぶっ飛ばすぞ!!」

 

 だが、この程度のチンピラ、私の敵ではなかった。

 ちょっと叩いただけで、彼らは涙目になって逃げていった。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 足元のおぼつかない少女が、頭を下げてきた。

 私は反射的に悟った。

 

「目が見えないのかい?」

「ええ、一応視覚補助デバイスをインプラントしているんですけど、旧式すぎて灰色のポリゴンみたいにしか捉えられなくて。

 細かいものとかよく躓いちゃうんです」

 

 もう一人に支えらえて立っている彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

 ……なぜだろう。その笑みに、見覚えがあったのは。

 

「私はキョウコって言います。

 助けてくれてありがとうございました。お姉ちゃんのお名前は?」

「私はクラリスだ。礼には及ばないよ」

「あ、申し遅れました、私はレイアと言います。

 キョウコちゃんも、さっき初めて会ったばかりなのに巻き込んじゃってゴメンね」

「ううん、気にしないで」

 

 目の不自由なレイアが、一緒に逃げてきたキョウコにも頭を下げていた。

 それから、私たちは安全な場所へと移動することになった。

 

「私、クラリスさんみたいなお姉ちゃん欲しかったんです。

 よかったらお姉ちゃんって呼んでいいですか?」

「あ、ああ、別に構わないが」

「わあい、よかった♪」

 

 キョウコの押しの強さにちょっと困惑していた私だった。

 でも目が痛いほどカラフルな髪の色をしているこの世界の住人達に比べて、彼女の黒髪は落ち着く。前髪にひと房だけメッシュを入れてるのもおしゃれだ。

 

「ふふ、じゃあ私は妹かな?」

「ううん、嫁で」

「嫁!? なんでお嫁さん!?」

 

 そんな軽い掛け合いを横目で見ていると。

 

「レイアッ!!」

 

 向こうから、レイアそっくり(・・・・)の少女が駆け寄ってきたのだ。

 

「あ、お姉ちゃん」

「あんた大丈夫だった!? 

 あの借金取りども、私たちを探してたみたいだったから!!」

 

 私は、彼女を見た瞬間、猛烈な既視感に襲われていた。

 

「ッ、あなたは……」

 

 それは、彼女も同じだったらしい。

 私たち二人は、鏡合わせのように呆然と固まっていた。

 

「お姉ちゃん、どうしたの? 

 借金取りには会ったけど、この二人が私を助けてくれたんだ」

「あ、そうなんですか。

 ありがとうございます、私はクラリッサと言います」

「そ、そうか。私はクラリスだ」

「えへへ、なんか名前も似てますね。初めて会った気がしないや」

「そうだな、私もだ」

 

 不思議な、不思議な感覚だった。

 まるで初めから知り合いだったかのような、そんな奇妙な既視感がクラリッサとレイアの姉妹には有ったのだ。

 

「……じゃあ、私の家はあっちなので。

 家族も心配してるかもですし、帰りますね」

「うん、キョウコちゃんもありがとう。

 私の家はそこだから、いつでも遊びに来てね」

「うん、じゃあまたね」

「妹が世話になりました」

 

 キョウコがそう言ってあらぬ方向を指さすと、手を振って彼女は去っていった。

 姉妹がそれを見送ると、私の方へ向き直った。

 

「どうか、お礼をさせてください。

 何にもないところですけど、食べ物はありますんで」

「ああ、それはありがたい。丸一日何も食べてないんだ……」

 

 こうして、私は双子の姉妹にご厄介になることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふーん」

 

 スラムでも指折りに薄暗く危険な場所を、キョウコは一人スキップで歩いていた。

 

「兄貴、見つけたぜ!! さっきのガキだ!!」

「てめぇのせいで、シノギが台無しだ!! 

 どう責任取ってくれるんだ、ええ!!」

 

 そんな彼女の前に、先ほどのチンピラたちが現れた。

 

「誰でしたっけ、あなた達?」

 

 キョウコはごく自然に、つい先ほど会ったばかりのチンピラを記憶の外へと追いやっていた。

 

「てめぇ舐めてんのか!!」

「……おい、よく見たらこいつ、純血の日本人っぽいぞ」

「へぇ、そいつは珍しい!!」

 

 昨今、この日本では海外との移動時間が短縮され混血化が進んでおり、純粋な日本人は良家のお嬢様ぐらいだろう。

 

「さっきの落とし前は、お前を売ったカネで賄わせてもらおうか」

 

 そう、だからつまり、IDの無い純粋な日本人なんてまず存在しないのである。

 それに思い当たらなかった彼らは愚かで、なにより不運で、運命の女神にため息を吐かれていた。

 

「はあ……親切心で言っておきますけど、私に触ると酷い目に遭いますよ」

「はっはっは!! 周りに誰も居ねぇだろ、ここには監視できる電子機器もねえしな!!」

「お前は俺たちの飯のタネになりゃあそれで良いんだよ」

 

 心底可哀そうな目で見られている二人のチンピラが、キョウコの両肩を捕まえた瞬間だった。

 

 

 ──視られていた。

 

 それは、視線だ。

 

 二人はその視線だけで全身の細胞ひとつひとつまで解剖され、元通りにされた。

 その精神を余すところなく解体され、調べつくされ元通りになった。

 まるで、面白半分で人間を弄ぶ邪神に興味を持たれたかのような、宇宙的恐怖を目の当たりにした。

 

「あ、がッ」

「ひッ、ひえぇ」

 

「ほら、言ったじゃないですか」

 

 顔面蒼白になり、穴という穴から液体を垂れ流して震える二人に、少女は肩を竦めて苦笑した。

 

「あ、そうだ!!」

 

 ぽん、と彼女は思い付きで手を叩いた。

 

「ねえ、これからちょっとしたお願いを頼んでも良いですか?」

 

 ずいっと、少女の顔が二人の目をのぞき込むように近づいた。

 二人は気づいてしまった。

 少女の瞳の奥には、何もない。虚無の深淵だけがそこにあることを。

 

 彼らは悲鳴を上げて、ひれ伏す他なかった。

 

「別にそんなまるで邪神に遭遇して一時的発狂したみたいな態度しなくても」

 

 可愛らしく唇を尖らせた、人の形をしただけの少女は不満げに二人を見下ろしていた。

 その手でじゃらじゃらと、いくつものダイスを退屈そうに弄びながら、視線を上に向ける。

 

 先程彼女が指差した、聖なる地の門の奥へと。

 そこからジッと彼女を見つめる視線と、目が合って微笑んだ。

 

「軽々しく本名を名乗るなって?

 あ、それ嫉妬ですか? 流石は私のダーリン、かわいい♪」

 

 

 

 

 

 

 




作者のシリーズお馴染みのアンズちゃんの登場です。
つまり、今章の主人公はワンちゃんになります。
運び屋がローティを可愛がるのはしばしお待ちを。

ちなみに、前回のアンケートがどんな結果をもたらすのか、次回に判明します。
なぜかって? だって、選んだのはあなた達じゃないですか。
作者と一緒に楽しみましょう?

ではまた次回!!


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幕間「スラムでの暮らし」

前回あとがきで、アンケートの結果がどうなるか今回分かると言いましたが、ごめんなさい。
それは次回になりそうです。



 

 

 

 クラリッサとレイアの双子の姉妹は、質素なあばら家に住んでいた。

 二人とも、まだ十五歳くらいなのに両親は見当たらない。

 

「配給品でも申し訳ないですけど」

 

 そう言って、クラリッサは包装紙に包まれた固形栄養食を差し出してきた。

 私達レジスタンスが、家畜の餌と呼んでいる代物だ。

 

 女神メアリースは上位の優良な世界からの食品ロスを、こうした高たんぱく高エネルギー長期保存可能な食べ物にしてしまう。

 おかげで、飢え死にする人間は格段に減ったんだろう。

 その尊厳を神に売り渡して。

 

「こんなスラムでも、食べ物は貰えるんだな」

「神様は私達に飢え死にしてほしくないみたいだから。

 それに、診療所も無料で行けば薬も貰えるし」

「じゃあどうして、レイアは……」

「受けられる医療は最低限だけよ、病気が蔓延したら困るからでしょ。

 レイアの眼は、私が借金して闇医者に頼んだの。

 そしたらあいつ、あんな骨董品で出せるような物をレイアに!! 

 後で文句言おうと怒鳴りこんだら、女神様の役人に連行されてた」

 

 それ以降誰も見てない、と憤り交じりのクラリッサは言った。

 私は、“更生”させられているんだろうな、と思った。

 よほど酷いなら、それ以上かもしれない。

 

「もっと稼いで、もっといいデバイスを買わなきゃ」

「お姉ちゃん、私はこのままで良いよ」

 

 しかし、姉の努力を妹のレイアを否定した。

 

「何を言ってるのよ!! 視界が灰色のポリゴンとか、二十一世紀初期の3Dゲームでも無いレベルなのよ!!」

「私にとっては、それで十分なの。

 お姉ちゃんに負担が掛かるとか、そう言うのじゃない。

 ──私にとって、この世界はこの目で見える程度の存在なの」

 

 レイアは俯いて、この世の無情に嘆いていた。

 

「私は、これ以上鮮明に見たくない。嫌いなの。

 お姉ちゃんを苦しめる世の中なんて」

「そんなこと言わないの。

 今のままじゃ歩くのも大変でしょ?」

 

 姉はそんな妹を嗜めて、支給品を食べ始めた。

 私も、貰った手前突き返すことも出来ず、包装紙を剥いて食べ始めた。

 

 ……相変わらず、味は悪い。

 

 

 §§§

 

 

 結局昨日は二人の厚意に甘えて寝泊りまでさせて貰った。

 

「行くところが無いなら、一緒に働きますか? 

 クラリスさんには妹がお世話になったので、ここでの生活の仕方を教えましょうか?」

「それはありがたい」

 

 私は、少しだけ考えてこう言った。

 

「なぜ、私によくしてくれるんだ?」

「きっと、逆の立場でも同じことをしたはずよ」

 

 多分、その通りだろう。

 私達は、お互いに他人の気がしない。

 

「私の事はクラリスでいい、クラリッサ」

「そうね、クラリス。

 お互いにかしこまったら変になりそう」

 

 私と彼女は、なぜか笑っていた。

 

「ホントに、不思議。

 大人なんて簡単に信用しないのに」

「それなら大丈夫だ、私は知り合いによくちゃんとした大人になれって言われる。

 つまり私はまだ大人ではないってことだ!!」

「うん……うん?」

 

 なぜだか、クラリッサは首を傾げていた。

 

「まあいいか、それより早くしないとお昼になっちゃうわ!!」

「そうだな、早くお仕事しよう」

 

 そうして、私のスラム暮らしが始まった。

 

 

 

 都市部では完全にキャッシュレス化しているおカネだが、スラムではそうもいかない。

 完全に管理された貨幣など、扱いにくいだけだ。そもそも電子機器が高価なのだから。

 だから、スラムでは昔使われていた紙幣が流通している。

 

 そういうわけで、独自の文化が形成されていた。

 露店もそのひとつで。

 

「クラリス、早く野菜切って!!」

「わかった!!」

「そんなにちんたらしてたら仕込みが間に合わないわよ!!」

「頑張る!!」

 

 私は、彼女の知り合いの露店で、仕込みの作業の手伝いをしていた。

 

「うう、剣なら得意なのに……」

 

 何分、私は包丁を握ったことは無かった。

 仕込みが終わったら、今度は別の露店で売り子だった。

 

「パンの耳はいかがでしょうかぁ~。

 揚げたてで美味しいですよ~」

 

 都市部から貰って来たパンの耳を揚げて砂糖をまぶした安価なお菓子を売る仕事だった。

 

 この仕事は比較的楽だった。

 私は昔から声が大きく肺活量が多かったから。

 

 そして次は賭博場だった。

 

「おい新入り、三番テーブルに酒を届けろ」

「はい!!」

「次こぼしたら給料から差っ引くからな!!」

「はいぃ!!」

 

 そこは賭博場、というより酒場で客たちがトランプをして賭け事をしている感じで、客たちはディーラーと向かい合って勝ち負けに一喜一憂していた。

 

「なんだクラリッサ、こいつ新入りか?」

「ひぎゃ!?」

 

 トランプを酔っ払いが、私のお尻を触って来た。

 

「何勝手に触ってんのよ飲んだくれのダメジジイ!!」

 

 しかし、即座に同じ給仕の仕事をしてたクラリッサが割り込んできて顔面パンチ。

 他人の気がしないとは思ったけど、即座に手が出るのは親近感が出てしまった。

 

「何すんだてめぇ!!」

「止めとけって、じゃじゃ馬クラリッサの暴れっぷりに付いてく体力無いだろ、お前」

「そうだそうだ、このメスゴリラの相手するなんて命が幾つあっても足りねぇ」

 

 客たちは大笑い、誰がメスゴリラよ、とクラリッサは怒鳴っていた。

 何だかんだで、彼女は客たちに愛されていた。

 

 他にもいくつか仕事をこなして、私は二人の家に戻った。

 私はもう、クタクタだった。

 

「あ、お二人さん、お疲れさまです」

 

 家の中には、レイア以外にもキョウコが居た。

 二人はカードゲームで遊んでいた。私はもう今日はカードを見たくなかった。

 

「お帰り、姉さん、クラリスさん」

「今日も稼いできたよ。あの連中はまた来なかった?」

「ううん、大丈夫」

 

 レイアは首を横に振った。

 どうやら、あのチンピラどもは今日は来なかったらしい。

 

「私も心配だからレイアちゃんに会いに来たんです。

 あの怖い人たちが来たら、ひとりで逃げられるとも限らないですし」

「そっか、ありがとう」

「いえいえ、本当はレイアちゃんと遊びたかっただけですし」

 

 と、キョウコは笑ってクラリッサに答えた。

 

「お客さんもいるし、今日は何か作るよ」

「私の事はお構いなく」

「そうはいかないって」

 

 そう言って、クラリッサは食材を買い求めに家から出て行った。

 

 

「勇者召喚の儀で、勇者を召喚。デッキから運命の旅立ちを発動。

 手札を一枚捨てて、ライダーを手札に。今捨てた魔法使いを除外して召喚の儀をもう一枚手札に。更に場に勇者が居るからライダーも召喚できる。召喚に成功したから運命の旅たちの効果で聖剣を勇者に装備できる。ターンエンドです!」

「じゃあ私はデッキから邪龍と黒魔術師を落として、魔王ドラグーンを融合するね。

 魔王ドラグーンは融合素材の数だけ相手を破壊できるのだー!! 

 追加効果で攻撃力分のダメージもくらえー!!」

「あーッ、また負けたー!!」

 

 レイアが頭を抱えて敗北宣言した。

 私はドヤ顔のキョウコを遠巻きに見ていた。

 

「それにしても、遅いですね」

「そうだな、クラリッサは要領がいいから絡まれても大丈夫だろうが」

「ああいえ、そっちではなく」

 

 そこまで言ってから、何でもないです、とキョウコは首を横に振った。

 

 私が怪訝に思う暇もなく。

 

「レイア!! ここから逃げるよ!!」

 

 クラリッサが飛び込んできたのだ。

 

「またチンピラどもか?」

 

 私は警戒しながら立ち上がるが。

 

「違うわ、とにかく早く!!」

 

 焦ったクラリッサがレイアの腕を掴み、外に出て行った。

 私も気になり、追って行ったが。

 

「動くな、我々は都内第三警備隊である」

 

 外には、十名以上の武装した兵士たちが居た。

 

「わ、私達に何の用ですか!!」

 

 レイアが、震えて姉の腕に縋りついた。

 

「……チンピラの通報だと期待していなかったが、本当に双子が居るとは。

 あの必死さに仕方なしに出てみれば、これはアタリか?」

「隊長、魂の波形計測完了です。

 タイプW-4810──命令にあった形状のようです」

「そう、か。連行しろ」

 

 隊長格が、部下に指示を下した。

 

「何をするお前たち!! 

 やめろ、離せ!!」

「大人しくしろ!!」

 

 クラリッサとレイアが、警備隊に羽交い絞めにされ引き離された。

 

 私は、その時点で体が動いていた。

 

「なッ、なんだ貴様──!?」

 

 私は警備隊を殴り飛ばし、二人の前に立ちはだかった。

 

「彼女たちは私の恩人だ、彼女たちを連れていくなら私を倒していくんだな!!」

「この、これは公務執行妨害だぞ!!」

「……まあ、待て」

 

 同僚を倒され、憤る隊員たちを隊長は諫めた。

 

「これは女神メアリース様の中央事務所の直々のご命令なのだ。

 我らを退けても、次は軍隊がやってくるだろう。

 そうなれば、ここの住人の安否は考慮されない」

 

 ヘルメットで表情は見えないが、隊長は淡々と語った。

 

「我らは、ある特定の波形を持つ魂を有した、双子を探せと命ぜられた。

 そこの彼女のことだ。これは数年越しの大捜索の結果だ。今更あとには引けない」

 

 その言葉に、私は思い当たることが有った。

 そうだ、彼女は、レイアは、クレアと同じように魔王に狙われているのだと!! 

 

「我らは、双子のどちらかを見つけて連れていければそれでいい。

 素直に渡すのなら、双子の片割れには何不自由ない生活を約束するとお達しも出ている」

「ふざけるなッ、あんたらは妹に何をする気だ!!」

「さて、な。そこまでは聞いていない。

 魔王様は案外、生贄を求めてらっしゃるのかもな」

 

 皮肉気に、隊長は肩を竦めた。

 それでも、仕方がないと言わんばかりに銃を向ける。

 

「ようやく見つけたのだ、逃がしはしない。

 今ならまだ、お互いに無傷で終われる」

「クラリッサ!! 耳を貸すな!!」

 

 だが、私は肩越しに二人に言った。

 

「私も、同じことがあった!! 

 私も、私も双子の妹が居たッ、だがあいつは私の目の前で魔王に殺された!! 

 虫のように手を引きちぎって、足で頭を潰されたんだ!! 

 絶対に連れて行かせてはダメだッ!!」

 

 そこまで言ってから、私は警備隊に向けて両手を広げた。

 

「たとえ、二人が頷いても、この私が行かせない」

 

 私の胸に、ある種の使命感が芽生えていた。

 この二人を、命に代えても守らなければならない、と。

 例えそれで魔王討伐が困難になっても、それだけは成さねばと!! 

 

 会ってまだ丸一日も経っていない筈なのに、私の魂がそうしろと命じているのだ!! 

 

 

「二人を連れていくなら、この私を殺してから行け」

 

 

「隊長……」

 

 部下たちが息を呑み、恐る恐る隊長の指示を待つ。

 

「……止めだ」

「え?」

「通報は所詮チンピラのイタズラだったのだ。

 目的の双子など、ここには居なかった。

 我らは警備隊、人殺しの片棒など真っ平御免だ」

 

 撤収、と隊長は部下たちに命じた。

 彼らは戸惑いながらも、それに準じた。

 

 私は、去って行く彼らを見送り息を吐いた。

 

「クラリス、ありがとう……」

 

 振り向くと、恐怖から解放されたクラリッサが涙目で頭を下げた。

 

「クラリスさん、なんで、なんであんなことを。

 私の事なんて、さっさと突き出せばよかったのに。

 それでお姉ちゃんが楽に暮らせるなら、私はそれでいいのに」

「バカッ、あんたなんて事を!!」

「言ったじゃないか、私にも双子の妹が居たって」

 

 妹を叱るクラリッサ、そんな二人に私は胸の内を打ち明けた。

 

「私はただ、自分が出来なかったことをしてるだけだ」

 

 レイアはそれきり黙ってしまった。

 

「怖い人たちは帰りましたか~?」

 

 すると、家の中から覗き込むようにキョウコが顔を出した。

 

「ああ、だがどうするか。

 一度バレた以上、二度目は必ずあるはず」

「かと言って、私達にここ以外に住む場所はないし」

 

 魔王の手下は、恐らくまた来るはず。

 その時に必ずしも、レイアを守れるとは限らない。

 そんな時、言い難そうにクラリッサが言った。

 

「……キョウコさんは、日本人だよね? しかも純粋な」

「まあそうですけど?」

「そんな貴種がどうしてIDも持たずにスラムなんてうろついているのかは知らないし、詮索もしない。

 少しだけで良いから、ほとぼりが冷めるまでどこかでレイアを匿ってくれないかな」

「お姉ちゃん?」

 

 両手を合わせて頭を下げる姉を、不安そうにレイアが見つめる。

 キョウコは小首を傾げて頬に指を当ててから、こう言った。

 

「それは、私へのお願い(・・・)ですか?」

「ああ、一生のお願いだ、頼む!!」

「女神的に優しい私ですけど、大抵の人は私に頼みごとをすると後悔するらしいですよ? 

 もう一度言いますが、──それを私に願って良いんですね?」

「勿論だ、絶対にレイアが安全なら私にできるお礼なら何でもする」

「わかりました、“絶対”に安全な場所に匿えば良いんですね」

 

 何だか妙な念押しだった。

 まあ、この世に絶対安全なところなんてあるわけないし、クラリッサもキョウコも大げさだった。

 

「それと、お礼なんて要りませんよ。

 なにせ、レイアちゃんは私のお友達なんですから!!」

 

 キョウコは胸を叩いてにっこりと笑ってそう言った。

 

「ありがとう、恩に着る」

「お姉ちゃん……」

「大丈夫だ、すぐに二人で暮らせるようになるさ」

「ささ、あっちに悟られる前に身を隠しましょう、レイアちゃん」

「うん……」

 

 レイアはキョウコに手を引かれ、スラムの奥へと歩いて行った。

 

「あっちには何も無いのに、キョウコさんってどこから来てるんだろ」

「さあ、昨日もあっちに帰って行ったけど」

「まあいいや、人数は減ったけど、食事にしよう。

 レイアが戻ってきたら、もっとおいしいモノを食べれるようにお金を稼がないとね!!」

 

 私は、そのクラリッサの強さが羨ましかった。

 

 

 

 

 数日後。

 

「弁明の機会を与えましょう」

 

 魔王ローティの四天王が一人、ハイティが冷たい目で警備隊長を見ていた。

 

「我々は、任務の際に詳細な説明を受けていませんでした。

 何の理由か教えられずに、市民を連行などできません!!」

「……この際、相手はスラムの住人だったということは脇に置きましょう」

 

 警備隊長の任務放棄は、当然ながら露呈した。

 なにせ、機械のデータは全て管理されているのだから。

 草の根分けても探していた魂の持ち主が発見されたことが、検査装置のデータに残っていたのだ。

 

「あなたの背任は度し難い裏切りです。

 あなたは魔王様、ひいてはメアリース様の勅命の意味を理解していない」

「罰は謹んで受けます」

「そうですか、では貴方には暇を与えましょう」

 

 クビ、それを覚悟していた彼は肩の力を落としたが。

 

「あなたの責任は、主上に直接問いなさい」

 

 ビシッ、と目にも止まらぬ速さで何かが振るわれ、彼の首が胴体から弾け飛んだ。

 血飛沫が、彼女の執務室を穢す。

 

「おーい、ハイティ。まだ仕事か?」

 

 すると、自動ドアが横に開き、通路から若々しい偉丈夫が入って来た。

 

「ハイボール兄さん」

 

 ハイティは眼鏡に飛んできた血をハンカチで拭い、入室してきた義兄に視線を向けた。

 彼は新しくこの地に着任した魔王スズの四天王の一人だった。

 そして彼と同じ主君に、彼女の実の父親も仕えている。

 

「おいおい、こんなところで処罰するなよ。

 親父だったら一度くらいチャンスはやるぞ」

「これで彼の部下全てを許すのです、安い代償でしょう」

「お前、俺よりよっぽど悪魔族らしいよ。

 クソ真面目なところは親父に似てるしさ」

 

 彼女の義兄は、にぃっと笑う。

 そこには、ヒトにはあり得ざる鋭い牙が有った。

 それもそのはず、彼の頭部には捻じれたヤギのようなツノがあるのだから。

 

「そうでしょうか、私は兄さんが羨ましい。

 お父様は人間を愛し、私を産みました。半分だけ人間のこの身は、合理性を無視して時折激情に駆られそうになる」

「分かれよ、妹よ。

 親父はその人間らしさを愛したんだぜ」

 

 飄々と笑う四天王ハイボールは軽く指を鳴らした。

 青白い炎が巻き起こり、たった今死んだ男の死体が延焼することなく、灰も残さず消え去った。

 

「そんな調子で、あの気性難で有名なローティ様の元でやってけるのかねぇ。

 よし、兄ちゃんが今度お前の任務に付いて行ってやろう。どうせ俺はここでやること無いしな」

「必要ありませんッ、余計なお世話です!!」

 

 感情を露わにして抵抗する義妹を、兄は愉快そうに笑って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、キョウコさん。

 どこまで歩くんですか? いえ──」

 

 レイアは不安になり、尋ねた。

 

「ここはどこですか?」

 

 彼女の視覚補助デバイスには、灰色の平面しか映らない。

 どこを見ても、どこまでも何もない。

 

 転移の酔いを感じ、どこかにワープしたのは感じた。

 だが、こんな場所が地球上にあるとは思えない。

 

 彼女は不安を紛らわすように、手のぬくもりを握り締めた。

 

「ふふ、もうすぐ着くから、安心してください」

 

 そう言われても、もう既にレイアは何時間も歩いた気がするし、数秒前にここに来た気もしていた。

 だが彼女は結局、キョウコに縋るほかなかった。

 

 そうしていると。

 

「あれ、こんなところに龍のハンバーグと、トマトジュースが有るぞ♪」

 

 急に彼女が足を止めた。

 

「このままじゃ話せないですね。

 そーれ、ちちんぷいぷーいっと♪」

「…………これはこれは、“女王”様。

 蘇生ありがとうございます、もう百年はこのままかと思ってましたよ」

 

 レイアの視界に、ポリゴンの人型が出現した。

 だがその造形が余りにも、そう人間より一メートル以上大きい。

 

「義姉さんも、どうしてぐちゃぐちゃに?」

「こっちの人が私に許可なく人を通したからですよ。

 お陰で私までとばっちりです」

「それは、申し訳なかった」

 

 おかしい、とレイアは思った。

 自分以外にここには三人が居るはずなのに、もう一人は彼女の視界に映らないのだ。

 

「それよりも“女王”様、その子は?」

「女王だなんて、私みたいな女の子は王女が良いんだけどなぁ」

「ははは、ご冗談を……いえ、凄まないでください。ハンバーグ状態はしんどいのです」

 

 レイアは思った。

 もしかして、自分が手を握っている相手は、とんでもなく偉い人だったのでは、と。ちょっと戦慄していた。

 

「彼女はレイアちゃん、絶対に安全な場所に匿ってほしいって頼まれちゃって」

「────つくづく、あなたに好かれるのと嫌われるのは同じだと思ってしまいますな」

 

 心底憐れむように、大きな人影が嘆息した。

 

「一応、尋ねておきます」

 

 見えない女性の声が、レイアに言った。

 

「この先の御方に会うのなら、まずその姿を見てはいけません」

「見ての通り、目は不自由でして」

「あの御方を、知ってはなりません」

「あの、ええと、誰が居るんですか? やっぱり皇族とかですか?」

「……では最後に、これが一番大事ですが」

「はい……」

「──あの御方に、何も願ってはなりません」

「これから匿って貰うのに、何かをお願いするなんてとても」

「なるほど」

 

 なんとなくだけど、女性の声の主が頷いたようにレイアは思った。

 

「あなたなら、無事に生きて帰れるでしょう」

 

 ごごごごご、と何か重いものが動くような音がレイアに聞こえた。

 まるで、大きな門が開くかのようだった。

 彼女の眼には、何も見えないのに。

 

「さあ、この先です」

 

 キョウコに連れられ、レイアは辿り着いた。

 “絶対”に安全な場所に。

 

 

「おい」

 

 また、レイアの視界に映らない人物の声だった。

 だがなぜか、不思議と彼女には聞き覚えがあるような響きだった。

 それこそまるで、自分(・・)の声のように。

 

「何でお前、そいつを連れて来たんだよ」

「ダーリン♡ この子ここでしばらく匿っておいて♪ 

 大丈夫、この子はあなたを不快にはさせないから」

 

 え、キョウコちゃん結婚してたの? 偉いっぽいしそう言うこともあるのかな、とレイアは思っていた。

 

「お前……ホントお前って奴は……」

「それとも義姉さんやマスターロードみたいに私をお子様ランチにしますか? 

 気に入らないからドメスティックですか?」

「もういいよ、わかったから!!」

 

 キョウコちゃんは自由奔放そうだから旦那さんも大変そうだなぁ、と夫婦の会話を見てそう思うレイアだった。

 

「じゃ、私はクラクラコンビの様子を見てきますんで!! 

 レイアちゃんはしばらくダーリンに遊んでもらっててよ!! 

 そこは絶対に安全な場所だから!!」

 

「それこそ、ありとあらゆる神々を敵にしても、ね♪」

 

 そして、ごごごご、と再び重いものが動く音がした。

 ごとん、と巨大な何かが閉じるような音も。

 

「…………」

「…………」

 

 そうして、そこに残されたレイアと彼女の眼に映らないもう一人。

 

「おい、そこに置いてやるから、僕に話しかけるな。良いな?」

「あ、はい」

 

 しかし彼女の視界は、見渡す限り瓦礫のようなポリゴンが浮いているばかり。

 このまま何もせずにここに居るのは、至難だと思うレイアだった。

 

 

 

 

 




アンズちゃん「あ、そうだ忘れてた!! みんなに質問です!!」

「最強の剣と、最高の仲間。
勇者に本当に必要なのはどちらだと思います?」

「これはルート分岐ですよ!!
ルート次第ではどちらかが・・・おっとこれはネタバレですね。前作じゃ顰蹙買ったんでもう言いません~♪
さあ、選んでください。運命の分岐点を」

「選ばれなかった方は、あとで一話だけIF編でやるかもだって♪


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幕間「ルート選択」

topic:用語解説

用語:女神アンズライール
神賽と天秤を持つ、作者シリーズお馴染みの女神。愛称はアンズちゃん。
見た目は十代半ばの日本人の少女であり、古い魔女っ娘みたいな衣装を纏い、運命に翻弄される者の前に現れる。
その目的は救済であり、それは彼女の独自の理論によって行われる。
だが、彼女に願い事をすると、大抵の場合は想像を絶する酷い目に遭う。

過酷な運命に晒される者に助力をする一方で、女神らしい苛烈で起伏の激しい感情を露わにすることも。
その性格は運命の女神らしく自由奔放で、掴みどころが無い。

その権能はかの二柱を上回る強大なものだが、それでも彼女の本質からすればほんの三分の一程度に過ぎない。



 

 

 

「私達には、両親は居ないの」

 

 食事中に、クラリッサはおもむろに話し出した。

 

「父親は借金で蒸発、母親は男と逃げた。

 でも恨んでない、どうせあいつらはリェーサセッタ様に地獄に墜とされるから」

 

 それは、自分の不安を紛らわせる為の言葉だったのかもしれない。

 聞いてもいないことを、私に打ち明けたのだ。

 

「今の生活は貧しいけど、楽しい。

 私は、レイアが一緒ならそれで良いんだ」

「クラリッサ」

 

 私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は揺れる瞳を私に向けた。

 

「レイアのベッド、空いてしまったから良ければ今日も泊めてくれないか? 

 私も行く当ては無いし、なんなら昨日みたいに同じベッドに寝ても良い」

「ふふ、ありがとう……」

 

 クラリッサは、目元を指で拭った。

 

「ねえ、私に何かあったら、レイアだけでも一緒に逃げてくれる?」

「そんなこと、言わないでくれ」

 

 本当に、不思議な話だった。

 私達はまだ、会って一日くらいしか経っていないのに。

 まるで、生涯を共にした友のように相手に何かを託すことに躊躇いを抱かなかった。

 

「君が死んだら、それは私の身が引き裂かれるのと同じだ」

「私も同じよ、だから頼んでいるの」

 

 きっと、立場が逆なら私はクレアを彼女に託すように乞うただろう。

 私達はきっと、“同じ”なのだ。

 

「分かった、だけどその時は、君も一緒だ」

「うん、その時はどこに逃げようかな」

 

 クラリッサははにかみながら笑った。

 私は、この笑顔を絶対に守らなければならないと思った。

 

 

 三日もあれば、私もスラムでの生活に慣れて来た。

 

「姐さん!! 電子タバコ買ってきました!!」

「そうかい、ありがと」

 

 私は娼館が並ぶスラムの通りで、知り合った娼婦の姐さんの雑用をやっていた。

 

「はいよ、小遣い」

「ありがとうございます!!」

 

 貰ったお金は子供の駄賃程度だけど、私達には大金だ。

 

「ふぅ、お前さん、最近来たばかりらしいけど、なんでここに?」

「えーと、一身上の都合で」

「まあ言いたくないならそれで良いさ。

 私も市民IDがあるけど、ここで稼いでるしね」

 

 姐さんはキセルタイプの電子タバコを吹かし、私に世間話を振って来た。

 

「姐さんなら、都市部でもちゃんとした職に付けそうですけど」

「親の借金だよ。これでもメアリース様のお陰で九割は減ったんだ」

 

 私は思わず唇を噛んだ。

 どこに行っても、どこで聞いても、偉大なる女神様は人々に恩寵を与えている。

 なのにどうして、クレアだけは、私の一番大事なあの子だけは!! 

 あの子さえ居れば、私は彼女の家畜に甘んじても良かったのに……。

 

「借金を返せたら、私もここを出てくつもりさ。

 あんたも、いつまでもこんなところに居るんじゃないよ。

 まあ、残酷なことを言っている自覚はあるけどね」

 

 私と姐さんの間には、IDの有無という残酷な差がある。

 スラムではIDが無いと娼婦には成れない。

 

 娼婦は、人類最古の職業だと博士に習った。

 だから女神メアリースにもそれを否定できない。

 興味深い実験の話を、博士に教えて貰った。

 曰く、猿に餌を与える際に、貨幣で交換するように教えると、猿たちは貨幣制度を理解したらしい。

 そして、メスたちはオスと交尾の際、貨幣を要求しないとそれに応じなくなったそうな。

 そして加速度的に、その猿の群は崩壊した。

 

 それは、管理されなければ無法地帯になることを示している。

 どんなに否定したところで、女神メアリースは私達の造物主で守護者なのだ。

 

 私は、そんな取り留めのないことを考えていたのだが。

 

「ちわーっす、配達でーす。

 お荷物お届けに参りましたー」

 

 私達の目の前に黒いバイクが泊まり、乗っていた人がヘルメットを脱いで荷台の荷物を手に取った。

 

 その顔を見て、私は硬直した。

 

「あー、はい、ありがとさん。

 今、店から業務用の端末取ってくるわね」

 

 姐さんが、店に戻って行った。

 しかし、私はそれどころではなかった。

 

「お前、こんなところで何してるの?」

 

 彼は、あの時、魔王との戦いで消滅した、私にいつも親切にしてくれる人だった。

 私は錯乱して、この時は変なことを口走っていた。

 

「お、オバケ!?」

 

 私に復讐しに来たのだろうか、と目まぐるしく思考が右往左往する。

 どうしよう、オバケは殴って倒せない!! 

 

「……そうだ、俺はオバケだ」

 

 ふと、彼は数秒何か考えた後、おもむろに顔をひょいと胴体から持ち上げて、小脇に抱えた。

 

 ──やっぱり、オバケだった!! 

 

「俺はお前に死を告げに来たデュラハンだ。

 俺はお前を赦さないぞ」

「ひ、ひえぇ!!」

 

 私は必死に地面に頭をこすりつけて謝り始めた。

 私はとにかく罪悪感から逃れるために、彼に弁明し始めたのだ。

 私が何ゆえに魔王と戦うのか、妹を失い今日まで生きて来たのか。

 自分でも涙ながらに話してしまった。

 

「そうか、お前も辛かったんだな」

 

 彼のオバケは同情したように俺を見ていた。

 

「何やってんだいあんた」

「あ、姐さん!! 今来ちゃダメだ、オバケが!! デュラハンが!!」

「いや、それ義体だよ。

 今の技術じゃ、首と胴体が物理的に繋がってなくても電気信号で動かせるんだよ」

 

 最新技術じゃないか、と姐さんは物珍しそうに彼を見ていた。

 

「え、じゃあ、オバケじゃない?」

「ゴーストが出たら、対霊体用の除去スプレーを使えば良いだけだしね」

 

 そうだった、この地球という世界は、魔法も科学と言う力も高度に発展した世界だった。

 

「はははは、そう言うこった」

「騙したな──!!」

 

 私は恐怖から解放され、彼をぽかぽか叩きまくった。

 でもなぜ彼が生きてたのか、その時はその疑問は頭には無かった。

 

 

 

 §§§

 

 

 私は、本当の意味で友達を持ったことが無かった。

 

 私の産まれた村はクレア以外に子供は居なかった。

 博士に拾われて、レジスタンスに同世代の子はたくさんいたけど、皆は目的を同じとする同士だった。

 

 嬉しかったんだ。

 私は。

 

 それは使命を忘れてしまいそうになるほどに。

 だけど、奴は、魔王は、私にそれを許さなかった。

 

 その日の私は、丁度お昼休憩を終えて、次の稼ぎ場を探すところであった。

 

 スラムの入り口に、人だかりが出来ていたのだ。

 

「クラリッサ、あれを!!」

「うん!!」

 

 私が示した先には、スラムの境界線に軍隊がやって来ていたのだ。

 

「我らは極秘任務にてスラム内に用がある!! 

 邪魔立てするなら、射殺も辞さない!!」

「やってみろクソ軍人ども!! 

 ここは俺たちの最後の居場所だ!!」

「そうだ、ここは女神様直々にある程度の自治も認められている!! 

 貴様らなんぞに荒らされてたまるか!!」

 

 住人たちが、軍隊に抵抗している。

 彼らは、本気だ。住民を皆殺しにしてでも、レイアを探そうとしている。

 

 やがて、発砲音が聞こえた。

 

「ついに軍隊が来たか」

「どうして、どうしてそこまでして、レイアを……」

 

 悲鳴と、散り散りに逃げる人々の怒声。

 

「クラリッサは逃げて、私はあいつらを追い返す!!」

「でもッ」

「早く!! あいつら、きっとクラリッサも捕まえて聞き出そうとするはずだ!!」

 

 私の説得に、クラリッサは小さく頷いた。

 そして、彼女は踵を返して走って行った。

 

「抵抗するなら容赦なく射殺しろ!!」

「なんとしてでも、対象の人物を確保するのだ!!」

 

「待てッ、それ以上の横暴は許さないぞ!!」

 

 私は、展開しようとしている彼らの前に躍り出た。

 スラムの人たちは、もう既に顔見知りも多い。

 釣った魚を分けてくれたおじさんや、娘みたいだと仲良くしてくれたおばさん。

 仕事先の賭場のマスターや娼婦の姐さん。

 

 私が、命をかけて守るには十分な場所だ。

 

「ヘンテコな鎧に金髪、奴は例のテロリストだぞ!!」

「ふん、やはりここに潜伏していたか」

「しかし、奴はレギュレーション違反の装備していると報告が」

 

「何をしているのです。

 速く任務を遂行しなさい」

 

 私の登場にまごついている軍隊の中から、一人の女が現れた。

 

 知っている、その顔を。魔王の側近だ!! 

 

「ハイティ様。想定外の相手が出現しました。

 例のテロリストです」

「そうですか」

 

 想定外の事態にも、眉一つ動かさないその女は私に向き合った。

 そして丁寧に、ぺこりとお辞儀をした。

 

「どうも、私はハイティ。魔王ローティ様の四天王が一人。

 彼女から公務の執行を任されている者です」

 

 

魔王四天王 執行官

“凍える血”のハイティ

 

 

「あなた達は、帰りなさい」

「えッ、しかし」

「あなた方はメアリース様の大事な資源です。

 彼女との戦いで使い潰す訳にはいきません」

 

 氷のように冷たく微動だにしないハイティの言葉に、軍人たちは困惑したが、それも束の間。

 

「各員、退却!!」

 

 彼らの隊長がそう指示して、軍人たちは去って行った。

 

「さて、魔王様からあなたに対する指示を受けております。

 同時にこの仕事をこなす、実に効率的です」

 

 私は、鎧の格納機能から剣を取り出した。

 

「曰く、徹底的にいたぶって追い詰めて、その憎悪の美酒を熟成させ、いずれ我が元に届けろ、と」

 

 氷のように無感情に見える彼女の口元の両端が、弧を描くように吊り上がった。

 

「その為に、あなたにリベンジしたいという連中が名乗りを上げています」

 

 ハイティが、召喚用の端末装置を掲げた。

 異次元からのゲートが開き、現れたのは見覚えのある連中だった。

 

「よう、お嬢さん」

 

 その先頭に立つ、軍服と軍帽の魔物を私は忘れたことが無かった。

 

「そんな、お前たちは倒したはずなのに!!」

「我らは死ぬことすら許されぬ身でね。

 お前にやられた部下たちが、復讐したいといきり立っている」

 

 総勢108の魔物の軍勢、それを指揮する犬獣人の男が現れたのだ!! 

 

「仕事の内容は、事前に通達した通り。

 ある特定の魂の持ち主を連行すること。

 それ以外は、市民以外に限り」

 

「──あなた達の、好きにして構わない」

 

 悪魔のような、ハイティの指示が下った。

 

「だそうだ」

 

 にやにや、と指揮官の犬獣人が気安く私にそう言った。

 

「させると思うか!! 

 何度も蘇ると言うなら、その度に倒すまで!!」

「そうかい。そりゃあすげえや」

 

 ぱちぱち、と乾いた拍手を彼は私に送った。

 

「なら、やって見せるがいいさ。──お前ら、散開!!」

 

 彼の指示ひとつで、108の魔物どもは四方八方へと散って行った。

 私に対して、脇目も振らずに。

 

「んな!?」

「真正面から戦うと思ったか、間抜け。

 ほら、全員倒すんだろ。早くしないとここの連中が一人も居なくなるぜ」

「き、貴様ぁああ!!」

 

 私が怒りのままに、彼を斬り殺そうとした時だった。

 

「い、いやぁああああ!!」

 

 まさにすぐそこで、魔物の一体に襲われている婦女がいた。

 

「あいつはゴブリン族のゴーガン。

 故郷で連続強姦殺人をして、死刑になったやつだ」

「だ、誰かッ、助けて!?」

「あっちはサイクロプス族のザイン。

 発達障害でな、人間を壊しても良いお人形さんだとしか思ってない」

 

 数メートルの巨人が、その剛腕で男を鷲掴みにする。

 ごぎごぎ、とその時点で嫌な音がしているが、奴は手に持った“人形”を地面に叩きつけた。

 ぐしゃり、と中身と血が飛び散り、巨人はそれを見て笑っていた。

 

「や、やめろ、止めさせろ!!」

「何言ってんだ、止めさせるのはお前の仕事だろ」

 

 そして何より狂ってるのは、敵の目の前にして笑っているこの男だった。

 こいつは、自分以外に彼らを止められる者は居ないと分かっていて、馴れ馴れしく私に接している。

 

「どいつもこいつも、故郷で殺人鬼として名を馳せた連中だ。

 殺しを、楽しいとしか思わない異常者どもだよ。

 ほら、早くしないとお前の知人が減ってくぞ」

 

 魔物どもは、見境なくスラムの住人に襲い掛かっている。

 私はもう、迷う時間は無かった。

 

「おっと、右に行くのか。

 じゃあ左の連中は見捨てるんだな!!」

 

 後ろから聞こえる嘲笑を無視して、私は近くのゴブリンを斬り捨て、次のオモチャを手にしている巨人を切り伏せた。

 

 だが、連中はまだまだたくさんいる!! 

 

「クラリッサ、クラリッサはどこだ!!」

 

 とにかくまずは彼女の安否を確認せねばならないと思った。

 だが──。

 

 私の目の前に、人間が墜ちてきてぐしゃりと潰れた。

 

「きゃは!! きゃははは!! 潰れちゃった!!」

 

 ハーピーと思わしき魔物が、急降下で頭から人間を地面に突き落としたのだ。

 

「次はどれにしよーかなーっと」

「待て!!」

 

 悠々と飛び去ろうとしているハーピーを撃墜しようとする私だったが、その足を掴まれた。

 

「なッ」

「いだい、だづげで」

 

 それは、今まさに墜落死した男だった。

 

「ホホホホ、死霊術は初めて見ますかな?」

 

 驚愕した私に、呪術師のような格好の老いたオークが嗤いながら現れた。

 

「これから、あなたの知り合いと仲良く殺し合わせて差し上げましょう」

 

 彼の背後から、既に殺された大勢のスラムの住人がゾンビとなって押し寄せて来た。

 

「お、おおぉ、クラリス~」

「にげ、にげでぇ」

「くるし、い、だづけで」

 

 住人たちが苦悶のままに、死を弄ばれて私たちに迫ってくる。

 

「みんな、ごめん!!」

 

 私は聖鎧を起動し、彼らを一撃で楽にさせた。

 

「オホホ、相変わらず素晴らしい腕だ。

 では、次はいかがでしょう?」

 

 オークの呪術師が、次の顔の潰された死者を嗾けてくる。

 

「いだい、いだい、助けて」

「今ッ、楽にしてやる!!」

 

 これでもう、彼の死は弄ばれることは無くなった。

 

「おや、殺してしまったのですか? 

 今のそいつは生きていたのに」

「……えッ」

「顔を潰されただけで、ゾンビと一緒くたにしたのですか? 

 はっはっは、これは傑作!! ちゃんとした治療をすれば、助かったのに!!」

 

 愉快そうに、オークの呪術師は手を叩いて笑っていた。

 

「いかがでしょうか、人を殺した気分は?」

「この、外道がぁあああ!!!!」

「その外道をこの地に呼び寄せたのは、他ならぬあなたではありませぬか?」

 

 オークの呪術師を、叩き切る。

 しかし、衣服だけが残って斬った感触は無かった。

 転移の魔法だろう。

 

「くそ、逃がしたか!!」

 

 あいつは絶対に逃がしてはならなかったのに!! 

 

「お姉ちゃん!! クラリスお姉ちゃん!!」

 

 すると、今度はスラムの子供が必死に逃げて来た。

 私も知っている子だった。

 一緒に空き瓶拾いをしたこともある。

 

「もう大丈夫だ、早くこっちに!!」

「うん!!」

 

 だが、彼が私の目の前にたどり着いた時だった。

 パンッ、と彼の頭が弾けた。

 

「あ、ああ……」

 

 ごとり、と地面に少年の死体が転がった。

 

「これで、七匹目。

 いやあ、狩りの獲物がより取り見取りだぜ!!!」

 

 そのずっと背後で、ライフル銃を構えた人狼が歓喜の声を挙げていた。

 

「俺たちに好きなだけ、好きなように殺させてくれる、流石は邪悪の女神様だぜ!! 

 次はもっと抵抗する獲物が良いなぁ」

「あああああぁぁぁぁ!!」

 

 舌を舐めずりする人狼に、私は叫びながら斬りかかった。

 

「市街地で俺らとやり合えるわけないだろ、馬鹿が!!」

 

 するり、と建物の間へと人狼は逃げて行った。

 追うには私の身軽さは圧倒的に足らなかった。

 

 あっという間に、魔物の軍勢は死体の山を築き上げている。

 私の、私のせいで!! 

 

 

「クラリスさん」

 

 私が我を失いそうになっていると、後ろから声が掛かった。

 

「キョウコか!?」

「ええ、何だか大変なことになってますね」

「そうなんだ、レイアは無事か!?」

「ええ、彼女は無事です。絶対に手出しできないところにいます」

 

 私の前に現れたキョウコは、しかし、と残酷な現実を突きつける。

 

「逆に言えば、彼女を差し出しても事態を収拾できないことを意味します」

「そ、それは……」

 

 一瞬でも、その選択肢が浮かんだ自分が嫌になった。

 だがもう遅い、魔物どもはスラムの住人を皆殺しにしてでもレイアを探し出そうとしている。

 いや、連中にとって彼女が見つからない方が、より長く多く楽しめるのだろうが。

 

「クラリスさん、あなたはどうしたいんですか?」

「え?」

「魔王を、倒しに来たんでしょう?」

 

 なぜそれを、と喉元まで出かかった。

 誰にも話していない目的を、なぜ。

 

「今のあなたは中途半端です。

 物事は常に右か左か。ああ、ここで真っすぐとか後ろに行くとか屁理屈は要りませんよ? 

 自分のなすべきことを、あなたはあやふやのまま宙ぶらりんにしていると言っているんです。

 魔王を倒すのならそれに集中し、スラムの人たちなど見捨ててしまいなさい」

「そんなこと、出来るはずないだろう!!」

「その結果、魔王の元にたどり着き、妹さんの無念を晴らせなくてもですか?」

 

 キョウコは、淡々と私に言葉を、現実を突き付けてくる。

 

「あなたがしてるのは、蜂の巣をつついて逃げ回ってるだけ。

 今のあなたは崇高な思想を持ったレジスタンスなどではなく、周囲を巻き込む迷惑なよそ者ですよ」

 

 私は、彼女に言い返す言葉は無かった。

 

「私は、私は……」

「ハッキリしなさい!! 

 全てを割り切り魔王と戦うか、自分の心に従い人々に手を差し伸べるか!!」

「ッ!?」

 

 彼女に叱咤され、私は頭を殴られたかのような気分だった。

 

「さあ、選びなさい。あなたの運命を」

 

 

≪運命の選択≫

 

全てを捨てて魔王と戦う。

 

自分の心のままに、人々を救う。 

 

 

 

「わ、私はッ──!!」

 

 脳裏に、虫のように殺されたレイアの表情が蘇る。

 たった数日だけど、親交を深めた双子の姉妹の思い出が沸き起こる。

 

「私は、それでも、私が出来なかったことを諦めたくないんだ!!」

 

 

 

≪運命の選択≫

 

全てを捨てて魔王と戦う。

 

 自分の心のままに、人々を救う。 

 

 

「そうですか」

 

 私の答えにキョウコは、どこかホッとしたように見えた。

 

「今、あなたに一番必要なモノを与えましょう」

 

「キョウコ、あなたは一体……」

「私から言えることは一つだけ。

 ──どうか、挫けないで」

 

 私の視界が、急激にぼやける。

 これは、知っている!! 転移の兆候だ!! 

 

「待ってくれ、私はまだみんなを!!」

 

 だが、もう遅かった。

 

 私は転移によって、どことも分からぬ場所へと飛ばされた。

 

 

「いや、ここは、知ってる!!」

 

 そう、私は此処を知っていた。

 

 私が己の弱さから逃げ出した、あの孤児院だった。

 そしてその門の前には、見覚えのあるバイクが止まっていた。

 

 私は、全てを悟った。

 

「親切な人ッ!!」

 

 私は恥も外聞も無く、孤児院の敷地に飛び込んだ。

 そこには、子供たちと遊んでいる、彼が居た。

 

「お願いです、助けてください」

 

 彼は、抱き上げていた子供を下ろすと、私の方を見た。

 

「わかった、俺のバイクに乗れ」

 

 

 

 

 




アンケート結果

魔王状態のローティに“にぃに”と呼ばせる
→魔王状態でスラム攻撃に彼女が参戦⇒クラリッサ死亡確定

クラリスと普通に遊ばせる
→運び屋がローちゃんと既にスラム街に居る→街の被害小、■■■覚醒フラグ消失

ブラコンになるまで可愛がる
→運び屋が孤児院に、魔王不在。⇒次のアンケート結果へ


次の運命の分岐点

最強の魔剣
→クラリス超覚醒⇒魔王ローティ討伐ルート
クラリッサ死亡確定。そして……

最高の仲間
→女神の助力により、運び屋参戦が早まる⇒■■■覚醒フラグ
⇒次回を待て!!

アンケート結果はこんな感じになってました。
クラリス超覚醒ルートは一話だけお見せすると思います。
あと一話、今年中に書きたいですね!!

それでは、また次回!!
ダメだったら、今のうちに良いお年を!!



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3スレ目

今回で、今年最後の更新です!!



 

 

 

352:運び屋

 クラリスに助け求められた

 スラム街でリーパー隊っぽい連中が虐殺してるらしい

 今から助けに行ってくる

 

353:名も無き住人

 おい、いきなりだな!! 

 

354:名も無き住人

 虐殺って、マジかよ

 いや、あの連中ならするだろうな

 

355:名も無き住人

 ちょっと待て、運び屋!! 

 仮にもリーパー隊は魔王軍だ!! 

 あいつらは許可が無ければ何もできないはず!! 

 まずは何が起こってるのか確認しろ!! 

 

356:名も無き住人

 リーパー隊も仕事中かもしれん

 まずは誰が指揮を執ってるか把握しる!! 

 

357:名も無き住人

 そうだ、場合によってはお前が魔王様に弓引くことになるんだぞ!! 

 冷静になりやがれ!! 

 

358:運び屋

 指揮を執ってるのは、同僚のようだ、クラリスに聞いた

 あいつらの目的は、クラリスが知り合った双子の妹らしい

 でも、その子は今スラムに居なくて、あの連中はスラムの住人を皆殺しにするまで止まらないだろうって!! 

 そんなの許せるわけないだろ!! 

 

359:名も無き住人

 おおう、マジかよ

 アンズ様が出て来た時点で、嫌な予感はしてたが

 

360:名も無き住人

 お前完全に巻き込まれてるじゃん!! 

 どうせスラムの連中なんて市民IDの無い、メアリース様に貢献してない連中だ!! 

 何でお前が、身を切る必要があるんだよ!! 

 

361:名も無き住人

 お前は仮にも四天王なんだぞ!! 

 任務の邪魔をしたら、お前もおサルさんにされるぞ!! 

 

362:運び屋

 知ったことか!! 

 ここで見捨てるなら人でなし、サルの方がまだマシだ!! 

 

363:名も無き住人

 !? 

 

364:名も無き住人

 !? 

 

365:名も無き住人

 !? 

 運び屋、お前って奴は……

 

366:名も無き住人

 生粋の、ナチュラルボーンヒーローなんだなお前

 リーパー隊の連中が、生まれついての殺人鬼なように

 

367:名も無き魔王

 運び屋よ、周囲の意見に惑わされる必要は無い

 お前はお前のやりたいことをするのだ

 

368:名も無き住人

 あ、魔王様!! 

 あんたは止めるべき立場だろ!! 

 

369:名も無き住人

 そうですよ、運び屋がメアリース様の任務の邪魔をしようとしてるんですよ!! 

 

370:名も無き魔王

 それの、何が悪い? 

 なあ諸君、正義と悪の定義とは何だ? 

 

371:名も無き住人

 急に哲学の話をしないでください魔王様!! 

 

372:名も無き住人

 あんたがその邪悪の化身でしょうが!! 

 

373:名も無き魔王

 そうだ、私は邪悪の化身として、我が母によって産み出された

 その我が母が、悪とはこのように定義した

 曰く、悪とは基本的に無計画で行き当たりばったりの粗暴なだけの連中である、と

 

374:名も無き住人

 本物の邪悪を司る御方が言うと説得力が違う

 

375:名も無き住人

 まあ世の中の凶悪犯のほとんどがそう言う連中だろうけど

 

376:名も無き住人

 犯罪のほとんどが、計画性なんて無いもんな

 

377:名も無き魔王

 ならば、その対極にある正義とはなんだ? 

 悪が行き当たりばったりの無計画のそれならば、反対となる正義は計画的で入念な準備をして行うものなのか? 

 私は、そうは思わない。悪が全てを蹂躙した後、おっとり刀で駆け付ける連中なぞ、私は正義とは認めない。

 

 悪とは、正義とは、その本質は同じなのだ。

 故に行けよ、運び屋よ。行って、お前の正義を成せ。

 

 ああ、お前が、我が前に現れる勇者でなかったことがこれほどまでに惜しいと、そう思ったことはないぞ。

 

378:名も無き住人

 運び屋、魔王様に最上級の賛辞を受けたやん……

 

379:名も無き住人

 これが魔王様達が恋焦がれる、正義の光か

 なるほど、どうして俺たちがニチアサや英雄譚に心魅かれるのか、その一つの答えを見た気がするわ

 

380:名も無き住人

 ヒーローの本質とは、自己犠牲だもんな

 そんなの下らないと思ってたけど、実際こうして目の当たりにすると、な・・・

 

381:名も無き住人

 俺たちは戦いに赴く、運び屋を見送るほか出来ないのか

 

382:運び屋

 ありがとう、みんな

 もうスラムに着く

 何が有っても、俺は後悔しないよ

 

383:名も無き住人

 運び屋ぁ!! 

 

384:名も無き住人

 行くな、行かないでくれ!! 

 

385:名も無き住人

 ……よし、決めた

 

386:名も無き住人

 >>385 あ、あんたは、魔法技師ネキ!! 

 

387:名も無き魔法技師

 コテハン付けるわ

 運び屋さん、私も協力する

 だって、私の担当なら、きっと同じように居ても経っても居られずに飛び出すから

 

388:名も無き住人

 おお、おお!! 

 あんたが居るなら百人力じゃないか!! 

 

389:名も無き住人

 魔王様ともやり合える魔法少女の技術面担当だもんな

 これ以上の助力は無いぞ

 

390:名も無き魔法技師

 でも、急だから何も用意してない

 みんなも協力してほしい

 

391:名も無き住人

 え、俺らに協力できることあるん? 

 

392:名も無き住人

 俺らは所詮傍観者やぞ? 

 

393:名も無き魔法技師

 この掲示板をリアルタイムで流せる自作のプラウザを使って普段作業してる

 それを運び屋さんの端末にインストールする

 みんなが、感覚共有モードを使用してリアルタイムで助言を送れるようにするの!! 

 

394:名も無き住人

 あ、相変わらず謎技術……

 

395:名も無き住人

 なるほど、相手はリーパー隊の連中だ

 どいつもこいつも指折りの精鋭だからな

 

396:名も無き住人

 もしかしたら対処法を教えられるかもしれん!! 

 

397:名も無き魔法技師

 じゃあ、そう言うことで、運び屋さん!! 

 私達を信じて!! 

 

 

 

 

「ありがとう、みんな!!」

 

 俺は掲示板の皆に感謝を送った。

 すぐに、魔法技師ネキのアプリが俺の腕の端末にインストールされた。

 

 

 :おお、こいつは便利だ!! 

 :まるで隣にいるみたいだぞ!! 

 :あとでこのアプリ俺にもくれ技師ネキ

 @魔法技師:後で技術板にアップしとくわ

 :ここに神が居た

 

 

 俺の視界に、掲示板のスレが投影される。

 しかしそれは思考や視界の邪魔にならず、独立して俺の脳に反映されている。

 この前のアニメの件といい、彼女の技術は底知れない。

 

「スラムに着いたぞ!!」

 

 孤児院から、スラムまでの距離はそう遠くない。

 俺たちがバイクに乗って、数分の距離だ。

 バイクを止め、スラムの入り口の光景を見て俺は絶句した。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 

 :ひどい……

 :冗談抜きで虐殺起こってるやん……

 :ゴメン、俺グロ耐性ない、離脱する

 :死体だらけだ、無理も無いさ

 

 

 住人達が言っているように、スラムの入り口は死体だらけだった。

 俺もここに出入りするからよく知っている。

 ここはもっと人通りが多く、賑わっている筈なのに見える範囲で人間は居ない。

 

「良いヒトさん、あれを!!」

 

 俺の背にしがみついていたクラリスが、指を差した。

 そこには、見覚えのある集団がそこにいた。

 

 リーパー隊だ!! 

 

「あの女、どこいったんすかねぇ」

「それより族長、肉焼けましたよ」

「おッ、それじゃあ今日の糧に精霊に感謝しましょうや」

 

 女エルフの集団が、たき火を囲んで肉を焼いている。

 ただ、問題なのは彼らが食べているそれが、──人間の腕だということだった。

 

 

 :ぎゃあああぁぁ!? “人喰い”マンティスだ!? 

 :嘘やろ、ヒトを喰ってるぞあいつら

 :あれがエルフ!? マジかよ……

 :知ってるやつおるなら解説しろ!! 

 :“人喰い”マンティス。ワイの世界に居た、人喰い部族の頭目や!! 

 こっちのレートで数億の賞金をギルドに掛けられた、人類扱いさえされてない駆除対象だぞ!? あいつら、リーパー隊に居たのかよ!? 

 :早速超ド級にやべー奴で笑えん、流石リーパー隊だわ

 :ワイ、エルフ族。あれと同族扱いは甚だ心外なんだが

 :ワイ、オーク族。初めてエルフに同情したわ……

 

 

 マジかよ、イカレてやがる。

 

「ひ、ヒトを食べてる……」

 

 人類の禁忌を容易く踏みにじっているあの連中に、クラリスも恐怖していた。

 俺もそうだ。やべーよ、あいつら!! 

 

「お、あれって、あの女じゃん?」

「殺して良いんだっけ?」

「良いんじゃない? 死んだらそれはそこまでの奴ってことで」

「でもあれ、鉄馬の前に乗ってるのこの間の召喚主じゃね?」

「あっちは男だから殺さなくていいじゃん」

「それじゃあ、お仕事の続きをしようか」

「あいつを殺したころにはお肉焼けてるかな」

 

 血化粧で口の周りを穢したエルフの集団が、一斉に武器を取った。

 

「マズい!!」

 

 俺は即座にバイクのアクセルを踏んだ!! 

 数瞬後には、俺たちのいた場所には無数の弓矢が降り注いだ。

 

 車体を斜めにして足で後輪をスリップさせ、連中に車体の正面を向ける。アクセルターンという技だ。

 

 あいつらは俺たちがバイクに乗っているってわかっているのに、臆することなく鉈を手にもって襲い掛かって来た!! 

 

「突っ込むぞ!!」

 

 だが、その程度なら何も問題は無い。

 このバイクは軍用で、電磁バリアが付いているからだ!! 

 

 俺はアクセルを踏みしめ、襲い掛かってくるエルフどもを薙ぎ払いながら突っ込んだ!! 

 

「あのちっこいのがボスだ!! 

 やれ、クラリス!!」

「分かった!!」

 

 連中の前でブレーキを踏み、その遠心力を使ってクラリスが剣を振るった。

 

「ひんぎゃ!?」

「あッ、族長がやられた!?」

「撤退、撤退!!」

 

 魔力を帯びた斬撃が、小柄な人喰いエルフを真っ二つに引き裂いた。

 残りの連中も、散り散りになって逃げて行った。

 

 

 :倒したのか!? 

 :数億の賞金が出ないのが悔やまれるな

 :それにしても結構逃げられたな

 :あのクソモンスターども、戦士として優秀なのがムカつくわ

 :引き際を完全に弁えてたしな

 

 

「くそ、追うだけ無駄か。

 次の奴を倒すぞ!!」

「ねえ、あれを見てくれ!!」

 

 クラリスが俺の肩を叩いて、空を指差す。

 そこには、一匹の女ハーピーがその鋭い足のかぎ爪で人間を鷲掴みにして地面に叩き落しているところだった。

 

「次はあれだな、飛ばすぞ!!」

 

 俺はアクセルを踏み、ウィリー状態で建物の壁に乗った。

 

「うわぁあああ!!」

 

 地面すれすれ状態のクラリスは悲鳴を上げたが、俺は無視して壁を走った。

 そのまま建物の屋上に乗り、加速して建物の上をジャンプしながら奴を追った。

 

 

 :あの女ハーピー、“撃墜王”ピアじゃね? 

 :嘘だろ!? 俺、ファンだったのに……

 :解説、解説!! 

 :“撃墜王”ピア。有翼種専門のG1レース、ハーピーズクイーンレースで一番人気だったこともある有望選手。

 だが、事故に見せかけて他の選手を次々と地面に突き落とすから、ついた異名は“撃墜王”。記録によると、レース中に十三人は殺してる。

 :ああ、撃墜王ってそういう……

 :マジか、俺、彼女のレースを見たことあるぞ。あんなに人相変わるのか、一目じゃわからんかった

 :やっぱりマジもんの殺人鬼だったか、まさかリーパー隊に居るとは

 

 

 住人たちの言うように、あそこに居るのは将来を嘱望された選手ではない。

 他人の命を弄ぶ、人でなしの魔物だ!! 

 

「次のジャンプで、合わせろクラリス!!」

「分かった!!」

 ぴょん、とバイクのシートに足を揃えて、クラリスが乗った。

 俺は次のジャンプで、高度を奴に合わせた。

 

「今だ!! 行け!!」

「はあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺のバイクをジャンプ台にして、クラリスが跳んだ。

 

「え?」

 

 俺たちに全く興味を示していなかった撃墜王は、クラリスの一撃で今度は自分が地面に撃墜されることになった。

 

「お前に地面に叩き落される連中の気持ち、少しは理解しろや」

 

 俺は落下するクラリスの下に回り込み、すとんと彼女は俺の後ろに納まった。

 

「これでやっと二人か」

 

 連中が最も恐ろしいのは、集団として指揮された時だ。

 それを俺は身を以て知っている。

 でなければ、札付き(ネームド)の殺人鬼として名を馳せたあいつらを一方的に倒せてはいないはずだ。

 連中の油断が、俺たちに味方している。

 

「そこだ!! 隠れてないで出て来い!!」

「ひ、ひぃぃ、助けてくれ!!」

 

 俺が思考を巡らせていると、油断とは無縁のクラリスが物陰の人影を見咎めた。

 そこには、銃を持って震える人間が俺たちを見てホッとした様子で銃を下ろした。

 

「あんた達、化け物の仲間じゃないな? 

 良かった、助けてくれ」

「なら、今のうちにあっちの方に──」

 

 俺がスラムの入り口を指差そうとしたその直前だった。

 

「はッ」

 

 クラリスが、剣を薙いだ。

 

「な、なぜ……」

「その声、その銃、忘れたと思ったのなら業腹だ。

 くたばれ、遊びは終わりだ化け物めが」

 

 人間だと思っていた男が、その化けの皮が剝がれていく。

 クラリスに切り裂かれた男は、見る見るうちに毛皮に覆われた正体を現した。

 

 

 :あっぶな、人狼か

 :油断するな運び屋!! 

 :ワンちゃんに救われたか

 :さっきからワンちゃんの戦闘センスヤバない? 

 :頭よわよわなのをセンスでカバーしてるしな

 :言うて、俺らも役に立ってるか? 

 :↑それを言っちゃお終いよ!! 

 

 

 勢いで飛び出したものの、クラリスの戦闘能力は頼りになる。

 しかし、このまま一人ずつ倒すのは埒が明かない。

 

「本丸を倒すぞ、同僚にも聞きたいことが有るしな」

「リーダーを倒すのか? 

 その考えは理解できるが、あの連中は恐らくあの獣人にしか従わない」

「隊長しか、リーパー隊を止められないってか」

 

 恐らく目的を達しても、ハイティも隊長無しじゃ部下たちを止められないだろう。

 そんな生易しい連中ではない。

 

 

 @軍人:それはどうだろうか? 

 :あ、軍人ニキ!! 丁度いいところに!! 

 :遅かったなロリコン野郎!! お前の頭が必要な時だ!! 

 @軍人:お前の勇敢さは、誰もが知っている。それこそ、我らが女神様もな。

 ここの魔王様も認めたその蛮勇を示せ、結果で納得させろ!! 

 神々へのその悪逆さえも、お前に認められた自由意思なのだからな!! 

 :お前それ感情論やん……

 @魔王:だが、我が母がこういう展開が大好きなのも事実。恐れずやって見せろ、運び屋よ。

 自分のやり方が気に食わないなら叛逆してみせろ、そう言う女神だメアリース様も。

 :せや、魔王様も言うとる。価値を示した者だけが、己の尊厳を神の前で語れる!! 俺の昔居た世界は、それが出来なかった……。

 :お前はお前のやりたいようにやれ!! 

 

 @軍人:待ってるぞ、運び屋

 

 

「……わかったよ、みんな。

 ちゃんと役に立ってるから安心しな!! 

 これ以上ないほど、俺はみんなから勇気を貰ってる!!」

「誰と話してるのか分かりませんけど、行くんですね?」

「もう迷ってる時間も無いしな」

「分かりました、共に参りましょう」

 

 俺はアクセルペダルを踏み、惨劇が続くスラムの奥へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界に瓦礫しか映らないレイアは、ただ膝を抱えて蹲っていた。

 

 この場に居る見えないもう一人も、黙して語らない。

 今、自分の姉はどうしているだろうか、仲良くなれたクラリスはどうしているだろうか。

 

 ふと、不安で彼女は涙が流れ、嗚咽が漏れた。

 時間の感覚も、暑さも寒さも感じない、距離感さえもよく分からないこの場所にいることに、まだ幼さの残る少女には耐え難いものがあった。

 

「おい」

 

 早くもうんざりとしたような、声が発された。

 

「うるさい、泣くな」

「だって、ぐす、だって、お姉ちゃん、もしかしたら私の所為で、軍に捕まってるかも、ひぐッ」

 

 無神経な声に言い返すように、彼女は不安を口にした。

 一度口にしてしまうと、もう不安は無制限にあふれ出て来た。

 

「……そんなに心配なら、見せてやろうか? 

 今お前の姉が、何をしているのか?」

「うう、ぐすッ、えぇ?」

「ほら、見たいのか見たくないのか、どっちだよ」

「……知りたい、です」

「じゃあほら」

 

 それは、いったい如何なる技術や魔法なのか。

 レイアはスラム街に立っていた。

 

「これは、VR空間ですか?」

 

 生まれつき目の不自由な人間が、目の治療後、初めて色を認識するとパニックに陥ることがある。

 だからレイアの居る地球では、治療の一環でVR空間に脳を接続し、現実の景色をあらかじめ慣れさせておくのだ。

 だから彼女はそれを知っていた。

 

 だが、すぐにそれを気にする状況ではなくなった。

 

「ふはッ、ふはッ、ふはははは!! 

 見よ、この我を!! 女神の加護により真祖を超えし不死を体現した、真なる不死者の姿を!!」

 

 グールと化した亡者を従える、吸血鬼が哄笑を挙げていた。

 

「若さ、若さ、若さ若さ若さぁ!! 

 お前たち全員、私の美貌の糧となれぇええ!!」

 

 狂気のサキュバスが、住人たちをエナジードレインでミイラのように干からびさせていた。

 

 死体。

 死体、死体。

 死体死体、死体死体。

 

 どこを見ても、積み上がった死体の山だった。

 

「あ、ああ、なに、これ……」

「お前が見たくなかった、大嫌いな現実だよ」

 

 見えない声の主が、嘲るように少女に言った。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんは……?」

 

 彼女は必死に、姉の姿を探した。

 そして、見つけた。カーテンが閉め切られた娼館の窓の中だ。

 

「姐さん、外はどうなってます?」

「スラムの住人は、もうほとんど殺されちまってる。

 あいつらはどうやら、私達みたいな市民IDを持ってるやつは狙わないみたいだ。

 お前さんたちはそこで黙って隠れてな」

 

 娼館の中には、怯えて震えている娼婦たち以外にも、そこに駆け込んで逃げて来たスラムの住人も多数いた。

 リーパー隊は殺しを楽しんでいるのか、建物の中は後回しのようだが、その中も時間の問題だろう。

 

「なんなんだ、なんなんだよ、あの化け物どもは。

 こっちに移住してきた異種族どもとは大違いじゃないか」

「……きっと、レイアを探してるんだ」

「なんだって?」

「どうしよう、レイアはスラムに居ない。

 あいつらはみんなを全員殺すまで、終わらない」

 

 クラリッサの声は震えていた。

 リーパー隊は彼女の想像を超えて残虐非道な連中だった。

 彼らの起こした惨劇を見せつけるように、女神に逆らう愚か者に自らの過ちを認識させていた。

 

「私があの時レイアと一緒に行けば、苦しむのは私達二人で済んだのに!!」

「甘ったれんじゃないよ!!」

 

 しかし、クラリッサが姐さんと慕う娼婦の平手が彼女を頬を打った。

 

「ここの連中は、自分たちの尊厳は自分たちで決めているんだ。

 お前さんの所為だって? 馬鹿言うんじゃない、その尊厳を奪ってるあの化け物ども以外の誰が悪いって言うんだい!!」

「姐さん……」

「それが通るんなら、あたしらは生きてるだけで悪ってことになるじゃないか……」

 

 彼女の悲し気な言葉に、クラリッサも俯いてしまった。

 

「どうして、なんで、なんで私の所為なの? 

 私の所為で、みんなが殺されてるの?」

 

 

「気持ち悪いだろう?」

 

 姿の見えない、声だけのもう一人が世間話のようにレイアにそう言った。

 

「え?」

「人間なんて生き物は、集まってひしめいて気持ち悪いって言ってるんだ。

 冬場の石の裏をひっくり返してみなよ。集まって暖を取るテントウムシみたいに、触るのも踏みつぶすのもしたくない気持ち悪さだ」

 

 レイアは、この生意気な少年のように聞こえる声が何を言っているのか分からなかった。

 

「そんな連中が、他のどんな生き物よりも生き汚くしぶといと来た。

 中途半端に小賢しいのがより拍車をかける。賢いゴキブリなんて身の毛もよだつだろう?」

「……あなたが何を言ってるのか、わかりません」

「すぐにわかるよ。ほら、お前の姉が死にそうになってる」

「えッ!?」

 

 言われてみてみれば、扉を蹴破ってリーパー隊の一人が娼館の中に侵入した。

 そして、殺して良い連中を認識した彼は、手始めにクラリッサにその魔の手を伸ばした。

 

「お姉ちゃん!!」

「君もすぐ分かるよ、僕もそうだった。

 この世はおぞましい吐き気を催す肥溜なんだから」

 

 彼女を庇った娼婦が、払いのけられた。

 そして今この瞬間、クラリッサが断末魔の悲鳴を上げようとした。

 

 

「させるかああああぁぁぁ!!」

 

 その寸前で、敵を背から真っ二つに切り裂いたクラリスが現れた。

 

「あッ」

 

 助かった。

 レイアはその事実を認識して、膝を突いた。

 

「くだらない予定調和だ」

「どうして、どうしてそんなことを言うの? 

 なんで、なんで、そこまで悲しそうに諦めてるの?」

 

 レイアにはわかってしまった。

 この声だけしか聞こえない存在は、やろうと思えばクラリッサを助けることなど造作も無かったはずだ。

 それどころか、今の惨劇すらどうにでもできるだろう。

 その確信が、なぜだかレイアにはあった。

 

「……お前はさっき、どうしてと言ったな? 

 自分がなぜここまでして狙われなければならないか、と」

 

 話を逸らされた、とはレイアは思わなかった。

 その答えこそが、全ての本質なのだと本能的に理解したからだ。

 

「ドッペルゲンガーの法則は知っているかい? 

 僕は異世界同一性存在の法則と名付けたけど、そちらの方が分かりやすいか」

 

 レイアは当然知らないが、相手もそれを承知の上で話を続けた。

 

「君の住む地球以外にも、同じ地球という名称が付けられた並行世界は無数に存在する。

 もしかしたらそこには君とまったく同一人物がいるかもしれないね。

 そこまで似なくても、魂だけは全ての、ありとあらゆる世界で共通して同一の個体が存在するんだ」

「どの世界にも、私に相当する人間がいるってことですか?」

「理解が早いね。

 そうさ、勿論人間に限らない。異種族、動物、もしかしたら物かもしれない。

 魂の宿るものならなんでもさ。だけど、お前はその中でも特別だ」

 

 特別、それこそ、血眼になって女神が探し当てようとするほど。

 だけど、返って来た言葉はレイアの予想以上だった。

 

「お前の魂は、この世で最も度し難く愚かでおぞましい最低最悪な人間の。

 ────つまり、この僕と同じなんだよ。

 君は、一つの世界で最もハズレの魂を引いたあまりにも不幸な人間ってことさ!!」

 

 声の主が、嗤う。

 何よりも自分自身を笑っている。

 

「ああ、そうなんですね」

 

 ストン、と胸の内に落ちて来たその答え。

 疑うことすらなく、彼女はその真実を確信した。

 

 

「あなたは、私だったんだ」

 

 レイアはふと、鏡合わせのように抱き合ってお互いの無事を喜び合う姉とクラリスを見て、涙を流した。

 自分だけじゃなく、そこにいるはずのもう一人の自分の分まで、彼女は泣いたのだ。

 

 

 

 





まえがきに書いた通り、これで今年最後の更新となります!!
前回が最後じゃ、胸糞悪い終わりですもんね!!

年始も更新速度を維持したいですが、それにはね、ほら、ね?
私のモチベーションを錬成するには高評価とか感想とかがね? 必要でしてね?
面白いと思ってくれたらでいいんですのでね?(ちらちら
良ければお願いします、頑張りますんで(媚び媚び

それではまた、来年!!
今度こそ、よいお年を!!


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幕間「神々の領域」

 

 

 

 レイアは尋ねた。

 

「どうして、あなたと同じ魂の持ち主というだけで、狙われるんですか?」

「……昔は、この場所も君たちの住む地球のように美しい世界だった」

 

 見えない声の主は、懐かしむように語り始めた。

 

「そこには、ある一人の魔術師が存在していた。

 悠久の時を生きる、狂った妄執に取り憑かれた男だ。

 そんな奴でも、昔は英雄だった。

 仲間たちと共に災害の如き魔王と戦い、打ち勝った。

 彼はその報酬で、世俗との関わりを絶って魔導の研究に没頭した」

 

 まるで、他人事のようだと、レイアは思った。

 

「ある時、彼にある知らせが届いた。

 共に魔王と戦った仲間が事故で亡くなったという話だ。

 陰キャの見本みたいなそいつも、仲間たちぐらいは心を開いていた。

 だがもう一人、もう一人、と寿命で亡くなる仲間たちの知らせを聞き、そして最後に他ならぬ自分の双子の兄さえも寿命で亡くなったと知った。

 その時、彼は自分の手のひらを見てみた。魔導の研鑽の果てに、不老に至った若々しいその手を」

 

 遠くに見える星が、握りつぶされたかのようにブラックホールへと変わった。

 まるで奥歯を噛みしめるかのような轟音が、どこからか聞こえてきた。

 

「そしてその馬鹿な男は思った。死ぬのが、怖いと。

 永遠に続くものなど何一つない。彼は自分の死を恐れた。

 だが一番滑稽なのは、自分の不死がひと段落した後のことだった。

 ──そうだ、あいつらを蘇らせてやろう、僕ならできる!! そう思ったことだった」

 

 笑いを嚙み殺したような、自嘲の声が響いていた。

 

「その後は、わかるだろう? 

 無様に延々と生き恥を晒すだけの男が誕生したんだ。

 そんな愚か者でも、世間からすれば伝説の魔術師だった。

 ある時、そんな彼を神として崇めたいと言ってきたマヌケがやってきた」

 

 いや、と声の主は前言を翻した。

 

「一番のマヌケは、いい気になってそれを了承したその馬鹿か。

 後から彼の弟子が……あれ、あの時そのことを知らせに来たのお前だったっけ?」

「はい、あの時は生きた心地がしませんでした……」

 

 先ほどの、声だけの女性がそう返した。

 

「そう、お前が僕を崇めたいとか言ってた奴が、目にも当てられないことばかりを僕の名前でやってたんだって知らせたんだ」

 

 レイアも、宗教というものを知っている。

 自分の世界でも、過激派が好き勝手しているのだから。

 

「本当に見るに堪えなかった。

 だから、無かったことにした。教祖も信者も全て滅ぼした。

 それだけじゃない、僕の名前を口にする者、僕の記録をする者、僕を崇め願う者が現れた瞬間に世界中どこでも攻撃魔法が飛んでいく術式を構築した。

 その問答無用さから、いつしか僕はこう呼ばれた。

 ────“暴君”、と」

 

 さしづめ、その術式を名付けるなら圧政だろうか。

 そんなとりとめのないことを、レイアは思った。

 

「人の身で神の如き、と僕は恐れられた。

 それからしばらくして、今じゃあの創造主気取りの女が僕の前に現れた。

 それが後のメアリースだ。あいつは僕の仲間の子孫でね、最初は話ぐらい聞いてやったけど、性格が気に食わないから追い出してやった。

 そしたらそこの我が馬鹿弟子に弟子入りしたそうだけど、お前才能無かったからあっさり裏切られてたよな」

「我が不徳が致すところです……」

「その後もいろいろあったけど、キョウコに手を出そうとしたから99%殺しにしてやったこともあったっけ? 

 まあ、あれの反骨心と対抗意識だよ。お前が狙われているのは」

 

 急に話をまとめられて、レイアは内容を飲み込むのに少しかかった。

 

「え、じゃあつまり、私は八つ当たりで殺されそうになってるんですか!?」

「流石にそうじゃないさ。

 僕は同位体の魂同士を利用した魔術に長けていたからね。

 僕と同じ魂を排除していけば、最終的に僕が弱体化すると考えたんだろう。

 あれは今でも僕を倒そうと無駄な努力をしているからね。コップで大海の水を汲み切ろうとするような、そんなみみっちい努力さ」

 

 レイアは思った。それは八つ当たりとなにが違うのか、と。

 

「それを、止めさせることはできないんですか?」

「なんで?」

「なんでって、仮にも別の世界のあなたでしょう!? 

 それが次々と殺されて何とも思わないんですか!!」

「まったく。むしろ、別の僕の無様さを見ずに済むんだ。いい働きだとご褒美を上げたいくらいだよ」

 

 レイアは絶句した。目の前のもう一人の自分は、心の底からそう思っているのだ。

 

「じゃあ、私も殺された方が良かったと、そう言うんですか」

「僕と同じ魂で生まれたことが間違いだったね。だから不運だと言ったんだ」

「…………するな」

「ん?」

「一緒にするな、と言ったんだ!!」

 

 ひっ、女性の声が息を呑む声が聞こえた。

 

「ははは!!」

 

 だが、もう一人のレイアは愉快そうに笑った。

 しかしそれも一瞬だった。

 

「おい」

 

 “暴君”が、目を細めた。

 

「誰が僕に口答えして良いって言った」

「この私だ、他でもないもう一人のあなた自身だ!!」

「笑わせるなよ、お前と僕がいつ対等になった」

 

 濃密な死の気配が、レイアに近づいていく。

 相手は“暴君”、同じ魂を持っているからと、レイアに親近感なんて微塵も持っていない。

 今こうして口答えをして、彼女が生きているのは奇跡に等しかった。

 

「そうだよ、私たちは対等じゃない。

 だって、私はお姉ちゃんの為なら死んでも構わないもん。

 お姉ちゃんの前でみっともなく生きられない。あなたと私が同じですって、冗談じゃない!!」

 

 レイアは今生きている世界に希望など抱いていない。

 世の中は灰色で、理不尽が満ちている。

 目の前のもう一人の自分のように、悪態を付きたくもなる。

 

 だけど、どうしても共感できないことが一つある。

 

「あなたと私は同じ双子の下の子なのに、どうして家族に顔向けできないままでいるのよ……」

「自分のことを棚に上げて何を言っているんだよ、お前」

「うん、そうだね。私はお姉ちゃんの重荷になるくらいなら死んでもよかった。

 そのくせ、目の治療はいらないって言い続けてきた。矛盾してるよね。

 でも、それも終わりにする」

 

 彼女は、目の前に居るはずの“暴君”に向き直った。

 

「あなたが、それを教えてくれたのよ」

「……」

「生意気言ってごめんなさい、でも私はまだ生きたいから命乞いをします。

 お願いです、殺さないでください」

「────くだらない。初めからお前のことなんてどうでもいいんだよ」

 

 だけど、と“暴君”は言った。

 

「お前がどのように生きて、死ぬのか見届けてやるよ。

 もし、お前の生きざまが見るに堪えない無様なものだったら──」

「その時は、あなたが好きにすればいい」

「なんで僕がわざわざ手を下さないといけないんだ、面倒くさい」

 

 そこで、“暴君”は視線をレイアから横に向けた。

 

「そういうことになった。

 これ以上、僕を煩わせるな。良いな?」

 

 

 

 

 

 ここは神々の座する領域。

 

 神々とは、極端な言い方をするなら意思を持った法則である。

 物事とは複雑に絡み合い、たった一つの法則で機能することはありえない。

 

 つまり、神々の領域とは大人数が押し込められた大部屋に等しかった。

 必然的に、気に食わない相手とも席を共にしないといけなくなる。

 神々の“領主”が戦国時代のようにお互いに争い合うのは必然的だった。

 

 しかし、今この瞬間だけは、全ての“領主”が、“町長”が、“村長”が、家の“主人”が、それぞれの支配下の世界で主神やその盟主として敬われているはずの神々が、一人残らず平伏していた。

 その誰もが、恐怖に震えていた。関心を持たれないように、人間でいうなら息を殺していた。

 

「そういうことになった。

 これ以上、僕を煩わせるな。良いな?」

 

 “暴君”が、そう口にした。

 わざわざ、ありとあらゆる神々の前で、釘を刺した。

 この場で唯一、歯を食いしばって壮絶な表情で怒りを堪えて俯いているだけの女神メアリースに対して。

 

 領主が居て、町長が居て、村長が居て、家の主が居る。

 神々の領域を国家に例えるなら、当然国主が存在するべきだった。

 

 そう、ありとあらゆる神々の頂点、即ち全知全能の席に座る“王”が。

 それが彼らにとって、暴君であるというだけのことだった。

 

「ふざけるな!!」

 

 女神メアリースが激怒した。

 もう、目の前に“暴君”は居ない。そもそも姿を現してすらいない。遠くから一瞥をくれただけだった。

 

「何もしないくせにッ、何一つしようともしないくせに、この私に命令するですって!! 

 この私を馬鹿にするにもほどがある!! 尊敬してたのにッ、ずっと憧れてたのに!! なんで私がこんな仕打ちを受けないといけないの!!」

 

 他の神々は全員思った。自分の胸に手を当てて考えてみろ、と。

 だが女の癇癪に巻き込まれるのも嫌だったので、何も言わなかった。

 

「……メアリースよ、お前もいい加減に無駄な努力はやめろ。

 あの御方にちょっかいを出すのがいかに恐ろしいのかわかっているだろう?」

 

 彼女の盟友たる女神リェーサセッタは目を閉じたまま語らず、仕方なく周囲の視線を受けて比較的彼女と親交のある巨大な犬の姿をした神が声を掛けた。

 

「リェーサセッタ、お前もだ。

 お前も、この我らの領域が自然神どもに取り仕切られていた時代を覚えているだろう?」

 

 遥か昔、人間や動物出身の神々は今よりずっと低い地位に居た。

 自然そのものが神格化した神々が、全てを取り仕切っていたからである。

 

 だが、ある時ずっと空位だった神々の頂点である“全知全能”の席が埋まった。

 それが人間出身だったのだから、それまで人間なんて虫けらとしか思っていなかった自然神たちは面白くなかった。

 よせばいいのに、彼らは王に戦いを挑んだ。反逆である。

 

 しかし、“暴君”はそんな連中を一瞥だけで滅ぼした。

 それ以来、当人はずっと自分の故郷に引きこもっている。“領主”たちが呑気にお互いに争い合えるのも、彼が全く支配に興味が無いからだった。

 実際、関わり合いにならなければ無害だった。かくして彼は、神々からすら神のような扱いになった。

 

「いつまでも、その座に居れると思うなよ……。

 いずれ私が神々の頂点に立ち、永劫不変の楽園を全ての人類に齎すのよ!!」

 

 そんな相手に、この女神メアリースは毎回戦いを挑んでいるのである。

 正気の沙汰ではない。誰もが、やべー奴だと彼女と距離を置いた。

 彼女は毎回“暴君”と戦って“家の主人”以下のレベルにまで弱らされているのに、不屈の反骨心と対抗意識で毎回“領主”に復帰しているのである。

 

 だめだこりゃ、と犬の巨神は首を振った。

 古来より人間は犬とパートナーであったが、対等な関係ではなかったのだから彼の言葉を彼女が聞き入れるはずもなかった。

 

「まずありえないと思いますが、もし彼女が頂点に立ちそうになったら足を引っ張ってください。

 メリスは適度にストレスを与えた方が仕事の効率が捗り試行錯誤が捗るので。

 彼女がストレスフリーだと管理下の世界すべてをディストピアにしかねない」

 

 自分の盟友が話を聞いていないからとは言え、女神リェーサセッタの物言いも酷かった。

 とはいえ、こんな性格の女に上に立たれても困るので、絶対に無いだろうが頷いておく“領主”達だった。

 

「メリス、メリス。苛立つのも分かりますが、良い機会です。

 あの御方の同位体を消して回るのは労力の割に効率が悪い作業だったのです、これ以降はサッパリ止めにしましょう」

「……それもそうね。

 元々あまり期待していなかったし。

 トライ&エラー。スクラップ&ビルド。それが私のモットー。

 どんな物事も試してみるまで意外と分からない物だけど、今回は分かりきっていた失敗だったわね」

 

 じゃあやるなよ、とほぼ全員の神々は思ったが、彼女はやべー奴なので誰も関わりたくなかった。

 

「ではすべての我が子たちに同位体狩りは中止及び永久停止を指示しておきましょう」

 

 切り替えの早い盟友に、女神リェーサセッタも頷いた。

 

「やれやれ、補償にどれだけのリソースを使う羽目になるのやら」

「レジスタンスにも何名かあの御方の同位体を殺されたという動機で参加している者もいますがどうしますか?」

「現時点で私のやり方が嫌だって言ってる連中に、わざわざ遡行してまで保証してやる義理はないでしょ。

 連中が、私達の期待に応えたのならその時にすればいいじゃない」

「そうですか」

 

 それは楽しみですね、と邪悪の女神は笑みを浮かべた。

 でしょう? と文明を司る女神も笑った。

 

 そんな二柱から、そそそ、と他の神々は距離を取った。

 どんなに意思疎通が出来たとしても、この二柱は自分たちの楽しみの為に合理性を放り投げられるのだから周囲はたまったモノではないのだった。

 

 

 

 

「珍しいこともあるものです。

 あの御方の前に立ち、生きて帰った者が数年前に現れてすぐに出てくるとは」

 

 キョウコが義姉と呼ぶ女性の声が、門を抜けたレイアに言葉を掛ける。

 

「よくわからなかったですけど、お世話になりました。

 もう大丈夫なんですよね? でもどうやって帰れば……」

「その前にひとつだけ教えておきましょう」

 

 レイアは声のする方に顔を向けた。

 

「才能とは、魂に依存するモノ。

 あなたもまた、我が師に匹敵する魔導の才覚の持ち主なのです」

「なんだか、信じられないな……」

「もしあなたがその道を志すなら、これを持って行きなさい」

「くれるって言うなら何でも貰いますけど……」

 

 卑しきスラム育ちの少女は、目の前に出現した物体を手にした。

 

「それを使用して己の可能性の全てを引き出せたのなら、その時は“暴君”の三代目を名乗りなさい」

「三代目ってことは、二代目も居るんですか?」

「あなたはもう既に会ってますよ。キョウコの事です」

「ああ、なるほど……」

 

 あの奔放さを思い浮かべ、きっと周りも苦労しているんだろうな、とレイアは思った。

 

「あと、よければ偶に魔導を習うという体で遊びに来てください。

 我が師はひねくれすぎて拗らせすぎてますが、根は寂しがり屋なので」

「ええまあ、自分の事でもあるのでわかります」

 

 その直後、レイアの目の前に次元が真っ二つに切断された。

 女性の悲鳴が聞こえたが、レイアは努めて聞かない振りをした。

 レイアは知っていた。これは痴話げんかって奴だと。お隣の夫婦が良くやってる奴だと。

 

 

「驚いた、まさかあの御方の神器まで授かるとは。

 なんとなく君の行く末が見えたよ。

 どうか我が弟たちの前に、君が現れてくれることを願おうか」

 

 すると、レイアの二倍くらい身長の有る誰かが声を掛けてきた。

 

「私は、お姉ちゃんと一緒に居られるだけでそれでいい。

 必要以上の力なんて、要らない」

「そうだね、いったいどれだけの力があれば、君に降りかかる困難を振り払えるのだろうか。

 もうそれを受け取った時点で、普通に生きることなんて出来ないんだよ」

 

 恵体の男は柔和に聞こえる声色で、どこか喜悦と期待とほんの少しの戦意をレイアに示していた。

 

「ここにいつでも来ていいだなんて、この仕事を任されてから数千年一度も聞いたことが無い。

 君は特別の中の特別だよ。さあ、君の世界へ送ってあげよう」

 

 転移の際の酔いがレイアに訪れた。

 

「送ってくれて、ありがとうございます。

 でも多分、あなたの期待には応えられないと思います」

「ははははは、面白いことを言うね。

 あの御方と同じ魂を持っていると言うのに」

 

 彼は、“マスターロード”はよく知っていた。

 才能は魂に依存する。それはつまり、どの世界でも同じ魂の持ち主が辿る運命が似通っていることを意味する。

 他ならぬ、彼の母神たちがそうであったように。

 

 

「楽しみだよ、未来の三代目」

 

 

 

 




新年一発目!!
運び屋たちの戦いまで書きたかったのですが、中途半端になりそうなので区切りました。
ちなみに、前々回のあとがきですが。

最高の仲間
→女神の助力により、運び屋参戦が早まる⇒レイア覚醒フラグ

でした。
そうです、このルートだとレイアがプレイアブルキャラとなるのです!!
最高の仲間とは、運び屋だけでなく彼女の事も示していたのです。
まあ、しばらくは弱いままなのですが。ってかそうじゃないとチートキャラに成長するので今のうちじゃないと戦いにならないのです。
彼女がヒロインになるかは未定です。そのうち人気投票アンケートするかもしれません。

さて、遅れましたが、新年あけましておめでとうございます!!
正月はどしどし更新しますよ!!

では、また次回!!


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4スレ目

Topic:用語解説

現象:神々の干渉
基本的に、神々は実体を持たない存在である。
彼らが現世に影響を及ぼすには強大すぎて顕現には大規模な破壊を引き起こす。
それを防ぐために天啓や使徒を使いお告げなどをするのである。

異様にフットワークの軽い女神メアリースは、錬金術師という経歴もあり人間の頃と同じ魂と肉体の分体を無数に作り上げ、より直接的に自分が干渉するという裏技を駆使しているのである。
ある意味、数を揃えるという人間の文化の象徴とも言える行動である。



 

 

 

「クラリス、感動の再会は十分か?」

「ああ、もう大丈夫だ」

 

 娼館からクラリスが出て来たのを後ろ目に確認しながら、俺は頷いた。

 

「それで、待ってくれてありがとう、とでも言えば良いのか?」

 

 俺は目の前で余裕そうに笑みを浮かべている吸血鬼にそう言った。

 

「まさか、隊長に貴様を丁重に持て成せと言われてね。

 吾輩は貴族ゆえ、決闘の作法は弁えている。

 我が名は真に不死なるレッドバロン!! 大いなる血の王である!!」

「嘘は良くないよ、ヨコタさん。故郷じゃ“恥知らず”のヨコタなんて言われてたんだって? 

 眷属を作るのは神聖なことなんだろ? グールしか作れないのは程度の低い吸血鬼だからって、そう聞いたぞ」

「き、貴様ぁあああ!!!」

 

 目の前のエセ貴族気取りは俺の挑発に即座に激高した。

 

 

 :我が世界の汚点が迷惑を掛ける。いやホント済まない、我ら吸血鬼を誤解しないでくれ……

 :吸血鬼ニキ元気出して。俺は全種族で一番吸血鬼が好きだぞ!! 

 :そうだぞ、単純に強いだけの龍人だけと違って、吸血鬼は人類のロマンの体現者だからな!! 

 :これからもオサレ№1種族でいてくれよ!! 

 

 

「お前、同族を悲しませるなよ……」

「キサマに何が分かる!!」

 

 グールの群と共に、吸血鬼の身体が無数のコウモリへと変化し飛び立つ。

 

「聖鎧起動ッ、出力二十パーセント!!」

 

 直後、俺の背後に太陽が現れた。

 

「やッ、やめろ!? それは、太陽の再現だと!? 

 か、体が崩れるぅぅううう!!!!」

 

 太陽の光の一閃が、吸血鬼をグールごと薙ぎ払った。

 

「真の強者は、己一人で完結するものだ。

 死者を従え良い気になっている貴様には、真の高貴さとは程遠い」

 

 一太刀で吸血鬼を滅ぼしたクラリスがそう吐き捨てた。

 

 

 :同じ吸血鬼として耳が痛い……今一度己を見直そう

 @魔法技師:ヤバい、私もワンちゃんの鎧がどういう仕組みか全くわからない

 あの大きさとデザインで核融合炉搭載してるとか、神の御業としか……

 :魔法技師ネキでもわからんか。滅茶苦茶高度な文明がレジスタンスのバックに付いてるってことかね

 :こっちでも計測してみた。推定文明レベル90以上の代物だそうだ、完全にレギュレーション違反の代物だわ

 :文明レベル90以上!? メアリース様の支配下でも五指に入るレベルだぞッ、そこまで発展してるのは!! 

 :かなりうまくいかないと、文明レベル80に行く前に人間社会が崩壊するからな。神の御業と言っても差し支えないだろうな

 :そりゃあそんな装備があれば魔王様とも渡り合えるわ……

 :実際に目にするとすさまじいな、アーカイブじゃ感覚共有モードは文字に自動変換されるだけだし

 

 

「……次撃つ時は一言言ってくれよ」

「あ、ごめんなさい!!」

 

 こっちは肝が冷えたわ。

 グールたちが一瞬で蒸発したんだぞ!? 

 

「それよりも、隊長はどこだ……?」

「わからない。化け物どもが無秩序すぎて、スラムのどこに居るのか見当も……う、あ!?」

 

 すると、急にクラリスが苦しみだした。

 

「おい、どうした!?」

「うふッ、うふッ、うふふふふ」

 

 不気味な笑い声に、俺はとっさにそちらに向かい身構えた。

 

「若い女、憎らしいわぁ。あなたのその顔、ぐちゃぐちゃにしてあげるわぁ!!」

 

 新手は、煽情的な格好のサキュバスらしき女だった。

 何かしらの呪術を行使しているのか、その両手は誘うように妖しく輝いている。

 

「くそッ、魔術は専門外だぞ!!」

 

 

 :奴は……おい、運び屋!! ワンちゃんを一旦連れて逃げろ!! スピードで翻弄するんだ、呪術は距離が近いと効果が大きいからな!! 

 :お、ここに来て的確なアドバイスがようやく出たぞ!! 

 :未知の敵が出てきたらとりあえず距離を取る。鉄則だな!! 

 

 

「分かった!!」

 

 住人たちのアドバイスを受け、クラリスを背負いバイクのアクセルを踏んだ。

 

「逃がすかぁ!!!」

 

 だがサキュバスが背中の翼を広げ、空を飛んで追って来た!! 

 

「はぁ、はぁ……」

「クラリスが苦しそうだ、解呪はどうすればいい!?」

 

 クラリスは熱病にうなされているように息が荒い。

 恐らく、即効性の高い強力な呪詛だろう。

 

 

 :運び屋、今は俺を信じて時間を稼げ!! 呪術はたいてい、術者を倒せば解けるから今は心配するな!! 

 :だが、逃げ回ってるだけじゃ勝てないのでは? 

 :……いや、奴を見てみろ!! 

 

 

 俺はミラーを通して、背後のサキュバスを見た。

 

「はぁ、はぁあ、待てぇええ!!」

 

 飛行しながら呪術を使うのは消耗するのか、サキュバスの表情は壮絶なモノが浮かんでいた。

 

 今だッ、という住人達の指示に従い、反転して電磁バリアを展開。

 サキュバスに正面から挑みかかった。

 

「くッ、くうぅ!!」

 

 だが、奴も咄嗟に魔法で防御した。

 弾かれながらも、態勢を崩した程度で終わった。

 

 だが……。

 

「お前、それ……」

 

 俺は、見てしまった。

 そのサキュバスの顔を。

 

「み、見るなぁあああ!! 

 私を見るなぁあああ!!」

 

 見る者に生唾を呑ませるような煽情的で若々しい肌が、枯れていた。

 若く美しかった美貌が、老婆のようにしわがれていた。

 

 

 :奴は悪魔族のように人体の構成比率が魔力に寄っている種族に極稀に起こる、先天性の病気なんだ。魔法の行使などで魔力を消耗すると、急激に老化が進行する。

 それを補う為にエナジードレインで魔力を奪い、奴は何十人もの若者の生気を啜った。

 :ああッ!! 聞いたことがある!! 

 世の悪女百選にも出てくる“鮮血”のエリザベスか!! 

 :ただ普通に生きるだけなら寿命の長いサキュバスは病気の進行なんて幾らでも遅らせられるのに、哀れな女だ……

 

 

「エサ、エサぁ、早く、魔力を補充しないと、私の、私の美しさがぁ……」

 

 もはや、狂ったサキュバスは俺たちを見ていなかった。

 芋虫のように地面を這いずりながら、獲物を求め手を伸ばした。

 

「懲罰部隊、か」

 

 俺はその意味をようやく、噛み締めた。

 この女はもはや、どんなに老いても死ぬことすらできないのだ。

 俺は護身用のレーザーガンを抜き、ミイラのように干からびた老婆の頭に光線を射出した。

 

「わか、さ……」

 

 妄執に満ちた女は、この世界での戦いを終えて消え去った。

 

「クラリス、大丈夫か!!」

「はぁ、はぁ、はぁ、なんとか……」

 

 幸い、クラリスの顔色は先ほどよりもマシになっていた。

 

 

 :呪術への耐性はガバガバなんか

 :魔法防御と呪術への対策は全く別だからな

 :ワンちゃん、典型的な戦士タイプだもんなぁ

 @魔法技師:運び屋さん、ドローン飛ばした!! 

 敵リーダー発見したから座標を送るね!! 

 :ナイス!! 魔法技師ネキ!! 

 :ようやく的確な支援が出来るようになってきたな

 

 

 魔法技師ネキから、座標が送られてきた。

 早速、端末のマップアプリにその場所を表示してみる。

 そこは、スラムでも長屋が連なってるところだ。

 

「ここはッ、二人の!!」

「この場所がわかるのか?」

「そこに、敵が居るんですね?」

「そうらしい、協力者が探してくれた」

「行きましょう。二人の住まいを荒らさせるわけにはいきません」

「ああ、わかった」

 

 脂汗をぬぐいながら、クラリスは俺に頷いて見せた。

 俺は彼女を乗せて、バイクを走らせた。

 

 

 

 §§§

 

 

「度し難い遅延です」

 

 四天王ハイティは眉をひそめていた。

 その理由は、リーパー隊が彼女の想像以上に合理性に欠ける連中だったことだった。

 

「あなた達は仕事が早いと、同僚からは伺っていたのですが」

「安心しろ、仕事はちゃんとさせている。おい」

「隊長、ここに」

 

 仕事中に私物の携帯端末を弄っている隊長にいら立ちを隠せない彼女だったが、彼が呼びかけるとリーパー隊所属のエルフ達がそこら中から現れた。

 軽業師のように縦横無尽に、神出鬼没であった。

 

「衛星? 写真? ってやつで確認した目的のガキですけど、隅々まで探しました。

 少なくともこのスラムにはどこにも居ません」

「そうか、うすうすそんな気はしていた」

 

 “人食い”マンティスを族長と仰ぐ彼女たちエルフは優秀な戦士でありスカウトだった。

 隊長たる彼が何よりも損耗を嫌うほどである。

 欠点は文明の利器に理解が無いことだが、それも全く気にならないレベルだった。少なくとも彼にとっては。

 

「隊長」

「お、そっちはどうだ?」

「呪術探知、魔法感知、占星術、卜占、その他もろもろ反応なしでございます」

「お手上げだな」

 

 老いたオークの呪術師が、恭しく頭を下げて上司に報告した。

 リーパー隊の連中はあらゆる世界から集められたクズの中のクズどもだが、それだけでは隊員資格は満たされない。

 専門技能を持っている者、戦士として優秀な者、部隊運用が可能な者、そしてそれをまとめる隊長。

 単なる使い捨ての懲罰部隊を、彼が精鋭に変えてしまった。

 

「空振りだ、逃がしたみたいだ」

「そうですか。スラムの連中を殺せば、炙り出せると思ったのですが」

「この反応だと、始めから居ない感じだな。

 だが解せん、まるでこの世界から消えたみたいな無反応だ。

 果たして誰が手引きしたのやら……」

「それを調べるのは私の仕事です」

 

 そこまで言って、ハイティは手元の資料を見た。

 

「そう言えば、双子の姉はまだ確保していなかったそうですが、殺したのですか?」

 

 たった今、その双子の家の家探しを命じていたところだ。

 勿論、そこに目的の人物はいなかった。

 

「そういう使えそうな駒は殺すなと命じている。

 これから確保させるか?」

「お願いします。拷問が得意な者のひとりやふたり、居るでしょう?」

「あんたのようにこちらのやり方に口出ししてこない上官はやりやすいよ。

 任せな、とっ捕まえてどこに消えたか聞き出してやるさ」

 

 だが、と隊長は笑みを深めた。

 

「その前に邪魔者を排除しないといけないみたいだぜ?」

 

 彼はバイクで現れた二人を見て、愉快そうに笑った。

 

 

 

 

「ハイティ!!」

 

 俺がバイクにブレーキをかけて、あいつらの前に止まった。

 長屋の前はあのエルフ達が集結している。ほかのリーパー隊の連中もいる。

 そこに混じるように、無表情のハイティも居た。

 

「これはどういうことだ!! 

 なぜ、こいつらがスラムの連中を殺して回ってやがる!!」

「どういうことだ、はこちらの台詞です」

 

 ハイティは眼鏡のふちを抑えて、溜息を吐いた。

 

「我らの邪魔をしている正体不明の相手とはあなたでしたかか。

 あまつさえ、テロリストと一緒にいるのはどういう了見ですか?」

「質問に答えろ!! 俺はこんなこと聞いてない!!」

「ではそちらの疑問から処理しましょう。

 これは魔王様の仕事の代行、あの御方の指示です」

 

 内心、そうだとは思っていた。

 彼女は無意味なことはしない女だ。行動のすべては合理性で片付けられ、行動原理は魔王の為にある。

 

「それではそちらの番です。

 何故にテロリストと一緒に、私の任務の邪魔をするのですか?」

「納得がいかないからに決まってるだろ!! 

 あんたら、誰かを探してんだろ!! それをするのにここまでする必要は無いだろ!!」

「全ては魔王様のご指示、ご意思です」

「その魔王様は家でアニメ見てるよ!! 

 何でもかんでもあいつを理由にするんじゃねえ!!」

「あなた、自分が無茶苦茶なこと言っているとわかっていますか?」

 

 話にならない、とばかりに首を振るハイティ。

 

「ではその女の所為でしょう。

 私としては通常戦力で虱潰しでも良かったのですから。

 その場合、その女が抵抗して彼らが殺されれば良かった、あなたはそう言いたいのですか?」

「そういうことを言ってんじゃねえ!!」

「じゃあハッキリとモノを言えッ!!」

 

 ごう、と魔力が吹き荒れた。

 

「あれもだめ、これもだめ、でも代案も出さない!! 

 遊びじゃねぇんだよ!! 私の仕事を邪魔して楽しいのかお前は!!」

 

 ……ヤバイ、ハイティがブチ切れた。

 

 

 @運び屋:……こわい

 :草、と打ち込んだがマジで怖くて草枯れる……

 :あれが純粋な人間の気迫か? 

 :ほら、普段おとなしい人が怒ると怖いし……

 :四天王に選ばれる奴が弱いわけないしなぁ

 :今のところ運び屋の方が無茶苦茶言ってるし、そらキレるわ

 :マジで無計画で行き当たりばったりなだけだからなぁ

 

 

「もういいです、親切な人」

 

 俺がビビってると、バイクのシートからクラリスが下りた。

 

「これは、私の戦いですから

 あなたはここまでで大丈夫です」

 

 そう言って、彼女は俺の前に出た。

 

 

 :トゥンク……

 :惚れた

 :ここで引き下がる男おるぅ? 

 :答えは一つだよなぁ? 

 

 

「わかった!! あとは任せた!!」

 

 

 :おいwww

 :ここで草生やさすなww

 :そこは一緒に戦う流れだろ!! 

 :なんでそこで日和るんだお前は!! 

 :失望しました、運び屋のファン止めます

 @運び屋:だって俺、所詮運び屋だし……

 :リーパー隊の殺人鬼連中に相手どれる時点で一般人を名乗る気かお前は!! 

 

 

「はぁ」

 

 そこでなぜか、端末を見ていた隊長が溜息を吐いた。

 

「ボス、ところであれは反逆者ってことで良いのか?」

「……客観的な事実を述べるなら、反逆者でしょうね」

「じゃあ、好きに甚振って良いんだな?」

「そうなりますね」

 

 一応落ち着きを取り戻したハイティが眼鏡のずれを直して、隊長にそう答えた。

 

「聞いたかお前ら、あれはお前らにやるよ」

「わーい!! 男だ!! 隊長大好き!!」

「どこから犯して食べようかなぁ!!」

「私右足ね!! 右足!!」

「じゃあ私が仕留めたら左腕貰うね!!」

 

 肉食系(直球)のエルフ達が隊長の言葉でキャッキャ喜んでいた。

 

 

 :わー、逆レ展開とか羨ましいわ(白目

 :良かったな運び屋、より取り見取りだぞ(遠い目

 :エルフ達に(四肢を)取り合いになるなんて色男ですねぇ

 :平和なエルフの村を襲うオークも裸足で逃げ出す連中なんだよなぁ……

 :↑そのミーム名誉棄損でこの間勝訴出たぞ、覚えとけてめぇ

 :名誉棄損は事実の場合も含まれるという事実

 :↑絶対エルフ族だろ、汚い、エルフ族汚い

 :でも目の前の人喰い蛮族よりはマシだろ、お前ら

 :それはそう

 :あれには食指は動かんわ

 :速攻意見一致してて草ww

 

 

 お前ら、他人事だと思って!! 

 

「貴様ら、無関係な人たちを殺して何とも思わないのか!!」

 

 おっと、クラリスいきなりシリアスなセリフ止めて!! 

 いやお前にはわからんのだろうけどさ!! 

 

「うーん、何とも思わない、か……」

 

 すると、隊長は目を瞑った。

 その目元の毛が、涙で濡れ始めた。

 

「悲しいなぁ、未来ある子供たち、仲のいい夫婦、威勢のいい老人たち。

 誰もかれもがまだまだ生きたかっただろうに……」

 

 隊長は、涙を流していた。

 他ならぬ、己の指示した非道による惨劇で。

 

「彼らを想って涙を流せるなら、なぜ……」

「戦場が、戦争の緊迫こそがこの俺の生きた実感だからだよ、お嬢さん。

 この手で誰かを殺す時、部下が誰かを殺す時、仲間を殺される時、自分が殺される時」

 

 隊長は泣いていた。

 だが同時に、笑っていたのだ。

 

 楽しそうに、笑うしかないと言うように。

 

「この苦しみ、この悲しみ、もっともっと俺に与えてくれお嬢さん。

 君は俺が失うものは無いと言ったがそれは違う。俺の心は喪失感に飢えているのだよ」

「……狂ってる」

 

 そう、彼はどうしようもなく正気で、正気ゆえに狂っている。

 

「さあ、殺そうもっと殺そう!! 

 お前らも俺の仲間を殺せ、俺も殺せ!! 

 はっはっは!! 戦争だ、戦争を始めよう!! 

 お互いに失い合い、傷つき合い、血を流し、生の素晴らしさを確かめ合おうじゃないかッ!!」

 

 一人でやってろ、この狂人が!! 

 

 

 

 

 





本当なら今回でリーパー隊戦を終わらせようと思ったのですが、長引いてしまったです。
明日も頑張って更新してみようと思うので、私の頑張りを評価してくださるのなら何卒高評価や感想をよろしくお願いします!!

それでは、また次回!!


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5レス目

 

 

 

「ええい、こなくそ!! 

 やるしかないのかよッ!!」

 

 運び屋はヤケクソ気味に叫んだ。

 もうこの期に及んで保身に走るなんてことは許されなかった。

 

「クラリス!! どれくらい戦える!? 

 俺に勝算がある!! それにはリーパー隊を排除しないとならん!!」

「分かりました、聖鎧の残存エネルギーは45%ほど。

 彼ら全員を相手した時は余裕でしたが……」

 

 クラリスは周囲を見渡した。

 家屋の影から、続々とリーパー隊の隊員たちが集結している。

 更に。

 

「リーパー隊の隊長権限スキルを行使する。

 死すら許されぬ咎人よ、我が元に再び馳せ参じよ」

 

 リーパー隊の隊長にのみ与えられる固有スキルを彼が行使した。

 地面に瘴気に満ちた孔が開き、そこから亡者のように罪人が這い上がって来た。

 

「いやー、すいませんっす、隊長。油断したっす」

 

 そこから現れたのは、先ほど彼らが倒したリーパー隊の隊員。

 人喰い部族の族長エルフ、通称“人喰い”マンティスだった。

 

「お前らの一族にあの男をやる。

 失態は成果で取り返せ」

「ひゃー、それは愉しみっすねぇ」

 

 地獄にすら行けない極悪人は、よだれをダラダラと垂れ流しながら二人を見た。

 

「第一隊、間隔をあけ包囲しろ。

 第二隊、順次遠隔攻撃を開始、揃えて撃て、

 第三隊、攪乱・妨害魔法にてデバフに集中だ。

 各員、対英雄ユニットを想定。──掛かれ!!」

 

 統率された魔の軍勢が、一斉に二人に牙を剥いた。

 

「復活だと、アリかよそんなの!!」

「早く、出してください!!」

 

 彼は後ろに乗ったクラリスに急かされ、アクセルを踏み込んだ。

 

「ホホホ、先鋒は頂きましょうか」

 

 オークの呪術師が、ゾンビと化した住人たちを無理やり走らせて二人に殺到させる。

 

「邪魔だああぁぁぁ!!」

 

 しかし、その程度で軍用のバイクは止まらない。

 電磁バリアを展開して、ゾンビの群を蹴散らしていく。

 

「隊長、詠唱完了しました」

「やれ」

 

 だが、それも長くは続かない。

 クモの巣状の魔法の網が、地面に広がり始めた。

 

「くそッ、こちらの弱みを理解してやがる!!」

 

 相手の足回りを潰す為の網が広がり、必然的に彼の戦場は限定された。

 

「私が吹き飛ばします!!」

「この程度で使うな、温存しろ!!」

 

 ジャンプして長屋の屋根に飛び乗った二人は、しかしもう既にそこは敵の罠の中だった。

 

「シャーマン!! マーキングを!!」

「もうやってます、族長!!」

「よーし、撃て撃て、矢も魔法も全部くれてやるっす」

 

 屋上はエルフ達の領域だった。

 彼女らの弓矢と魔法が矢継ぎ早に襲来する。

 

 所詮は直線の攻撃、避けるのは容易い、筈だった。

 

「なッ、攻撃が曲がった!?」

 

 クラリスの動体視力は、確かにバイクは攻撃を回避したはずだった。

 しかし吸い込まれるように電磁バリアが激しくスパークし、攻撃を防いでいる。

 

「必中属性を付与する精霊魔法らしい!!」

 

 掲示板の住人たちから警告を受けた運び屋が言った。

 

「こっちは何度も耐えられない。バリアはエネルギーを食う。

 あいつらも、クラリスの攻撃を警戒して固まってない、マズいな」

 

 相手は確実に一手一手仕留める為の布石を打って、詰みを待っている。

 そしてリーパー隊に損害など有ってないモノだ。

 

「ならば、じり貧でも戦うしかない」

「頼むぜ、クラリス」

 

 早速、屈強なオーガやオーク、鬼や獣人が屋根に乗って翻弄するように距離を取って牽制を始めている。

 攻撃されてもいつでも逃げられる、嫌らしい動きだ。

 

 準備時間(クールタイム)を終えたエルフ達の攻撃が、再び二人に殺到した!! 

 

「せぇい!!」

 

 聖鎧の力を解放したクラリスの一閃が、その攻撃を迎撃し吹き飛ばす。

 

「一先ず、あのうざったい砲台を何とかするぞ」

「賛成です!!」

 

 しかし、それを阻む者たちがいた。

 リーパー隊でも屈強な者達で構成された第一隊、それらがエルフ部隊を援護するように前に出た。

 

「邪魔だぁあ!!」

 

 自分の死を何とも思っていない不滅の魔物たちが、文字通り壁となって行く手を阻む。

 

 運び屋は電磁バリア頼みで突貫し、彼らを蹴散らした。

 

「まずは、五人!!」

 

 エルフ達は分隊を複数配置している。

 その一隊を、クラリスが薙ぎ払う!! 

 

 ──だが、その剣が彼女たちをすり抜けた。

 

「マズい、幻覚魔法だ!!」

 

 本能で危機を察したクラリスが叫ぶ。

 幻影は笑みを浮かべながら消え去り、その足元には今の今まで見えなかった爆弾が転がっていた。

 

 直後、閃光と爆音が弾けた。

 

「くそッ、しまった!?」

 

 軍用バイクの電磁バリアは優秀だった。

 まだ二人は無傷だった。

 だが重要なのは、攻撃ではなかった。

 

 家屋が爆弾で破壊され、二人は地面へと落下した。

 そう、蜘蛛の巣のような網が張り巡らされた、ぞの地面に。

 

「やられたッ」

 

 バイクから投げ出され、地面に吸着して身動きの取れない彼は焦ってもがくが、もう遅い。

 

 各々の練度、連携。各個撃破できたことが不思議なくらい、リーパー隊の連中は百戦錬磨の精鋭だった。

 

「右手~」

「左足~」

 

 鉈を持ったエルフの蛮族が、カエルのように落ちて来た。

 

「止めろ、止めろ!!」

 

 同じように身動きが取れず、地面に張り付けられているクラリスが叫ぶ。

 

「……あれ、族長~、これ作り物ですよ」

 

 今にも運び屋の身体を切り刻もうとしていたエルフが、その鋭敏な嗅覚で彼の身体が義体であることに気づいてしまった。

 

「なんだ人形すか。じゃあ種も期待できないっすね。

 しゃーないっす、──殺せ」

 

 子供のように小柄なエルフの族長が、心底残念そうにそう命じた。

 エルフ達が、鉈を振り上げたその瞬間!! 

 

「あああああああぁぁぁぁあ!!」

 

 力の限り、聖鎧の力で拘束を振り払い、クラリスが周囲ごと薙ぎ払った。

 

「おい、クラリス、大丈夫か!?」

 

 フグが自分の毒で死なないように、クラリスの聖鎧も自分の力で自爆しないように防御装置が付いている。

 だが、無理な態勢での力の行使は、彼女に酷い火傷を負わせていた。

 

「安心してください、あなたは私が守ります」

 

 そんな窮地にあっても、クラリスは笑顔だった。

 その表情に彼が絶句していたが、状況はまるで変わらない。

 

 たった数名を倒して、それで窮地は変わらない。

 負傷者を抱え、手傷を負ったクラリスは絶体絶命に他ならなかった。

 

 住人たちの悲鳴が掲示板にこだまする中、リーパー隊は徐々に包囲網を狭めていく。

 

「ごめんね、クレア。

 ……お姉ちゃん、勇者には成れなかったよ」

 

 彼女が決死の覚悟を決めた、その時であった。

 

 

 ──ーそんなこと、ないよ。

 

 

「……クレア?」

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 時刻は、ほんの数分ほど前に遡る。

 

「ここは、スラム? 

 私、戻ってこれたんだ……」

 

 人智を超えた場所から、無事に帰ってこれたレイアはホッとした。

 周囲は、見慣れた灰色のポリゴンの町だった。

 

「早く、お姉ちゃんを探さないと」

「──おい、こんなところにまだガキがいるぜ!!」

 

 その粗暴な声に、レイアは俯いていた顔を上げた。

 彼女の目の前には、鬼としか形容できな怪物が近づいてきていた。

 

「隊長から召集の命令が出てるぞ」

「へへへ、こいつを殺してからでもかまわねぇだろ」

「いや、おい待て。そのガキ、例の目的の女じゃねぇか!!」

「なに!?」

 

 鬼の集団が、顔色を変えた。

 

「五体満足で捕まえろ、とは言われてないよな? 

 例えば、手足を引きちぎって、ダルマにしたまま俺の逸物で串刺しにしながら連行しても良いんだよなぁ?」

「はははは、そりゃあいい!!」

「賛成だ!!」

 

 鬼畜を体現したような連中は、狂喜の笑みを浮かべて少女に近づいていく。

 

「え、ええ!? 

 どうして、全部終わってるんじゃないの!?」

 

 こんなの聞いていない、とレイアはその場に怖気づいてへたり込んでしまった。

 

「お、お姉ちゃん助けてぇ!!」

 

 産まれてこの方喧嘩すらしたことのない少女は、ただただ無力に泣き叫ぶほかなかった。

 

 

『────まったく、見てられないったらないよ』

 

 怯えて震える彼女の手から、するりとあの場所から持ち帰ったそれを抜き取られた。

 

「へ?」

「なんじゃあ、チビ!! 

 わしらとやるんか!!」

「おもしれぇ、いっちょ揉んでやるか」

「オナゴが俺らに勝てるとおもっとんのか!!」

 

 レイアが顔を上げると、彼女は目の前には背の低い少年が立っていた。

 その手には、魔法使いが持つような節くれだった杖があった。

 それこそが、彼女が見えない存在から受け取った物だった。

 

 だが一番の異常は、鬼達がその少年をレイアだと思っていることだった。

 

「あ、危ない!!」

 

 彼女の悲鳴は、轟音にかき消された。

 視界を埋め尽くすような光と、稲妻が迸ったのだ。

 

 鬼達は一瞬で炭化してぷすぷすと煙を上げていた。

 

「あ、あなたは……」

『僕はもう一人のお前だよ』

『大丈夫? 立てる?』

 

 またもう一人、彼女の前に少女が現れ、レイアの手を取った。

 レイアは悟った。この少女も、また自分なのだと。

 

『この杖は、無数の君の可能性の中から、必要に応じてそれらを自在に引き出すことが出来る神器だ』

『性別や年齢、姿形なんて関係ない』

『私たちは』

『僕たちは』

『すべて、あなたなのよ』

 

 見渡せば、彼女の周りには見渡す限りの自分の可能性が存在していた。

 攻撃魔法を究めた自分。魔法技師への道を進んだ自分。医師となって治癒魔法を突き詰めた自分。幾たびの戦いを乗り越えた自分。老いて弟子に魔法を教えている自分。そして。何もできずに無念のまま魔王に殺された自分。

 そして、まだ“暴君”と呼ばれた人間だった頃の姿をした自分。

 

 並行世界に、異世界に、ありとあらゆる自分の可能性へと繋ぐことが出来る神器。

 それが、彼女が神から受け取った物の正体だった。

 

「私って、こんなにいろんなことが出来るの?」

『当たり前だろ』

『何ゆえに女神メアリースが、君の魂を恐れたのか、これで分かっただろう?』

『あの女は、自分より劣った者しか愛せないのだ』

『才能だけなら、僕らよりあいつの方が優れてたのにね』

 

 もう一人の自分に手を貸され、レイアは立ち上がる。

 

「そうだ!! はやくあいつらを追い出さないと、皆が……」

『まあ今回は最初だし、手本を見せてやるか』

『じゃあ、誰が行く?』

『面倒だから、僕で良いよ。その体借りるけど良いよな?』

「え、幾ら自分とは言え、男の人はちょっと」

『…………』

『じゃあこうしようか、私達がすこしづつ力を貸すから、あなたは自分が成りたい自分を思い描いて』

「私の、成りたい自分?」

 

 レイアは神器の杖を受け取り、目を閉じた。

 そうして、理想の自分を思い描いた。

 

 

「レイアは将来、何に成りたい?」

「将来?」

 

 昔、姉のクラリッサがレイアに尋ねた。

 

「そう、目が治って、一人で立って歩けるようになったら何をしたいの?」

「そんな日なんて、来なくていいのに」

「まったく、あなたはそんなことを言ってばっかり!! 

 そんなに不満なら、自分で何とかすればいいのよ。

 そうした行動力を持ちなさいよ、そうすればいつかあなたも変わっていくわ」

 

 レイアにとって、姉とは太陽だった。

 対照的に自分は月なんて大層なモノじゃない、精々デブリが良いところだろう。

 だから、どんな自分に成りたいかと、言えば。

 

「……私は、お姉ちゃんみたいに明るく前向きになりたい」

 

 違う自分に成りたい。

 余りにも有り触れた、変身願望。

 

『じゃあ、それで行こうか』

 

 無数の自分たちが、可能性が、レイアに集まっていく。

 

『恐怖は、皆が引き受けよう』

『戦いの経験は、私が補おう』

『魔力は僕が繋げようか』

『魂の点綴は、数人分くらいで良いかな』

 

 たったひとりに、同位体が無限に重なる。

 ブリキの人形のように錆び付いた身体が軽くなる。

 霊的に格の低い彼女の魂が、紙が重なり本になるように厚くなった。

 

 あふれ出る全能感に、レイアは震えた。

 これが彼女の最終地点。

 自分の可能性を極め切った、その最果て。

 

 人の身で神の如きと謳われた“暴君”の、三代目を名乗っても良い最低ラインだった。

 

『君のお姉ちゃんが仲良くしてた、私達の兄や姉と同じ魂の持ち主がピンチみたいだよ』

 

 未来予知の術を知り尽くした自分が囁く。

 

「行こう」

 

 ふわり、とレイアの身体が浮いた。

 そのまま彼女は自分たちが住んでいた長屋へと、飛び立った。

 

 

 

 

 それは何の比喩でもなく、青天の霹靂だった。

 そう、雷鳴と共に、彼女は二人の前に現れた。

 

 杖を立てて膝を突き、雷鳴が墜ちるのと同時にそこに彼女は着地したのだ。

 

「クラリスさん、助けに着ました!!」

 

 クラリスは、自分にそう言った少女が誰だか一瞬分からなかった。

 

「クラリッサ? いや、レイアなのか!?」

「はい、レイアです。もう、私は大丈夫です」

 

 彼女はクラリスにそう言って、姉のように太陽みたいに笑った。

 

「何で来たんだ!! こいつらの目的は君だ!! 

 いや、それより、その力は……」

「あはは、それを言っちゃダメじゃないですか。クラリスさん」

 

 彼女の失言に、レイアは頬を掻いた。

 

「……ええ、あなた達の目的は私です。

 だからこれ以上、皆を傷つけるのは止めてください」

 

 単身言葉だけで、殺人鬼の集団に訴えかける無謀。

 だが、彼は油断しなかった。

 

 隊長は視線を横に向ける。

 そこに立っていたオークの呪術師は、震えながら無言で首を横に振った。

 

「まったく、嫌な仕事だ。

 総員、死力を尽くして掛かれ。出し惜しみは無しだ」

 

 隊長は目深に帽子を被り、部下たちにそう命じた。

 直後、魔物の群がたった一人に一斉に襲い掛かったのだ!! 

 

 

 

 

「なにが、起こってるんだ?」

 

 俺は、目の前で起こっている光景が信じられなかった。

 

 稲妻が、踊っている。

 一斉に飛び掛かったリーパー隊たちが、少女が孔雀の飾り羽のように広げた雷によって薙ぎ払われる。

 

 四方八方から撃たれる矢や魔法が、虫を振り払うかのように電撃で振り払われる。

 

 必死に魔法で行動を阻害しようとしているが、彼女は意に介さない。

 むしろ呪術的な反撃を受けて、リーパー隊の術者が目や鼻から血を流して倒れた。

 

 

 :なに、何が起こってるの? 

 :とにかく、味方なのか? 

 @魔法技師:何あれ、あんな魔法の使い方したら脳が焼き切れるのに何で無事なの!? 

 :高機能な演算デバイスで詠唱を代行してるとか? 

 :いや、あれだけの魔法の同時行使だと、それなりの重装備になる。あの子おかしい

 :あれは、まさか、だが、あれは禁術の筈!? 

 :↑学者ニキ、知ってるなら教えてくれよ!! 

 

 

 少女は、雷の化身だった。

 人類がまだ、雷がどうしようもない神々の災厄だった頃の、理不尽そのものだった。

 

 

 @学者:魂の共振現象だ。理論上、同じ魂が二つあり、一つの意思で操ることができるなら、それは一人で二人分の魔法行使を可能とする。演算能力も改善されるだろう。

 その上、才能は魂に依存するとされる。同じ二つの魂が共鳴しているとなると……

 :要するに、二倍の出力が出せるってことだな!! 

 @学者:いや、二倍なんてモノじゃない。

 ────二の二乗×二の二乗だ。何故にメアリース様が禁術に指定するか、わかるだろう? 

 :は? 同じ魂が共鳴してるだけで、理論上出力十六倍だと!? 

 :じゃあ三つだと、三の三乗×三の三乗×三の三乗ってコトォ!? 

 :余裕で禁術ですわ。制御できる気がしない

 @学者:しかもあれは三つや四つどころではない、それを完全に制御しているだと!? 

 クソッ、計器をそっちに持ってけないのが悔やまれる!! 

 :いやいやいや、同じ魂が二つ用意できるだけでそんなことが起こるなら、もう既に大事故が起こってるだろ!? 

 @学者:魂の共振現象は特定の条件下でしか起こらないはずなのだ!! 

 つまり、三つ四つの魂がその条件で揃うことなどまずあり得ない!! 

 私は今、神の奇跡を見ているのだ!! 

 :すんごい貴重な現象を目の当たりにして、学者ニキが壊れた……

 :今、スゴイこと思いついてしまった。メアリース様の化身も、全て同じ魂の個体のはず。主上でもこの現象は制御できんのか

 

 

 有識者たちの解説が、頭に入らない。

 だが、俺でも知っていることが有る。

 魔法とは、何の代償も無く使える代物ではないということだ。

 

「はあ、はあ、はあ……まだ、行けるッ」

 

 少女の息が上がっている。

 或いは、これほどまでの戦闘能力を発揮して、その程度の消耗ですむことが信じられないことであった。

 

「……ダメだ。ごめんなさい、クラリスさん。

 後は託します。任せちゃって、ごめんなさい」

 

 余りのことに放心しているクラリスに、魔力が集まって行く。

 

「これはッ……分かった、ありがとう、レイア」

 

 クラリスの鎧の力が、爆発的に高まって行く。

 半分も残っていないはずの鎧のエネルギーが、あの時見た全力で振るわれようとしていた。

 

「太陽だ……」

 

 太陽の光が、周囲を全て焼き払ったのだ。

 

 

 

「困りましたね」

 

 クラリスの攻撃の余波で吹き飛ばされたハイティが、真っ二つに折れた眼鏡を何とか元に戻そうとして諦めた。

 

「ここは潔く、私の負けを認めるべきでしょうか」

「あの連中は全員倒した。次はお前の番だ!!」

「ひとつだけ事実を述べるのなら、私は一切消耗しておりません」

 

 息も絶え絶えなクラリスに、無表情のハイティは言った。

 

「私の優先順位は、魔王様のご意思のみ。

 あの御方の元にあなたを届けることが我が使命。

 殺してしまうわけにも参りません。さて、どうしたものか」

「お前の優先順位に、あいつらが殺した連中は含まれていないのか!!」

「当然でございます。だってそうでしょう? 

 主上に貢献していない人間など、資源の無駄使いも同然。

 言わば不良債権なのです。それを処分するのに躊躇いが要りましょうか?」

「この悪魔が!!」

 

 クラリスがまだ赤熱している剣の切っ先を突きつける。

 

「とりあえず、最初の仕事はこなしておきましょうか」

 

 ハイティの視線は、魔力の過剰消費で気を失っているレイアに向けられた。

 

「はあ、はあ、ようやく静かになったな、ハイティ」

 

 そんな彼女の前に、ボロボロになった運び屋が現れた。

 

「あなたですか、まだ何か私に言うことが有るのですか?」

「ああ、あるとも。

 ハイティ、あんたは言ったな魔王様の意思が優先事項だと」

 

 彼はおぼつかない足取りで、端末を操作し彼女に突き付けた。

 

『んん? ハイティ?』

「魔王様!?」

 

 今はちょうど、彼の自宅でアニメを見ている魔王ローティが通話に応答したのだ。

 

「ローティ、お前はスラムの住人をどうするべきだと思う?」

 

 運び屋が彼女に尋ねた。

 

『にぃにも居るの? スラムの連中?』

「そうだ、ハイティは彼らを不良債権だと言った。

 処分するのが、お前は正しいと言うのか?」

『えー? ローちゃん知ってるよ。

 スラムが出来るのは教育が行き届いてないからだって。

 長期的に収入が得られるようにして、平均収入を上げて、ちゃんとした職に就けるように支援するんでしょ? みんなに教えて貰ったよ』

「だとよ!!」

 

 通信を切り、運び屋は怒鳴るようにそう言った。

 

「……しかし、これでは命令に矛盾が」

「メアリース様はこちらの人格を統治に使うと仰られた。

 じゃあどちらを優先するか、お前にはわかるだろ?」

「……そう、ですね」

 

 ここに至り、ようやくハイティは己の非を認めた。

 

「ですがこれはこれ、それはそれ。

 その少女の確保が、私の仕事。それもメアリース様からの勅命。これを翻すのに、私の意思は関係ありません」

「まだ言うかぁ!!」

 

 クラリスがいよいよ刃を振り上げた、その時だった。

 

「よお、ハイティ」

 

 若武者のような偉丈夫が、二人の間に割って入った。

 

「義兄さん!? なぜここに!!」

「仕事中悪いが、実はその仕事に関する話でな」

 

 彼は命令書を、ハイティに渡した。

 

「これはッ、永久中止!? 

 そんな馬鹿なッ、なぜこんな土壇場で!! 

 これまでのコストはどうするのですかッ!?」

「それがよぉ、全部メアリース様が補償するんだと。

 発生した損害も、────死者さえも」

 

 悪魔族の偉丈夫──四天王ハイボールは呆れたように肩を竦めた。

 

「とりあえず、今回の騒ぎで死んだ連中は全員蘇生じゃね? 

 いやぁよかったな、お前さんの失態も無かったことになるな!!」

 

 ぽんぽん、と彼は放心する義妹の肩を叩いた。

 

「……全員、生き返る?」

 

 それは言葉だけ聞けば、何ともご都合主義的な安直な展開であろう。機械仕掛けの神が出てきて、劇の全てを終わらせる。太古から嫌われたお芝居の幕引きである。

 だが、その本質は全く別のところにあった。

 

「神は、女神は、我らの命を何だと思っているんだぁああ!!」

 

 やろうと思えば、いつでも全員殺せる。

 やろうと思えば、死さえも無かったことにできる。

 

 神々にとって、人間とはその程度の存在なのだ。

 こんな馬鹿馬鹿しいことは、他には有るまい。

 

「ならば返せ、私の妹を返せ!! 私の故郷も、両親も、村の人達もッ!!」

 

 煮え滾る憎悪と、圧倒的な虚無感。

 その悲しみに、クラリスは嘆き苦しんでいた。

 

「何言ってんだ、お前」

 

 だが、目の前の悪魔は首を傾げた。

 

「お前の妹も、お前の故郷も、お前の両親も、知人友人、そしてお前の命さえも。

 何一つとして、お前の物では無い。

 ────お前の全ては、メアリース様がお前に貸し与えたモノに過ぎないのだ」

 

 だから返すとか返さないとか見当違いなのだと、憐れむように悪魔は言うのだった。

 

「……ッ」

 

 それは、怒りが心頭に達したのか。

 或いはこれまでの疲れや怪我の影響なのか。

 

 ぷつり、と電源が落ちるように彼女は意識を失ったのだ。

 

「おい、クラリス、クラリス!!」

 

 こうして、この騒動はひと段落したのだった。

 誰にとっても、徒労という結果で。

 

 

 

 

 




女神メアリース様語録
「今回は私の責任だから全員復活させるわ。え、他の死者も蘇生して? そんな命の価値を軽んじるような安っぽい真似するわけないでしょ」
「私に従うのなら、どんな異種族も“人類”として扱うわ。
どうしてそんなことをするのかって? ――ファッションよ。
クジラを食べるのはダメだと主張するのと同じよ。そうでしょう?」

今回にて、第二章は終了いたします。
駆け足になりましたが、なんとか正月中に終わらせられました。

次章以降は、ワン子と今回出番が少なかったローティの絡みも増える予定です。主に運び屋の家とかで。
ルート次第で、ローティの出番も増えたのですが、その場合クラリッサが死亡確定してました。
イフ編はどの辺りで入れるかはタイミングを見計らう予定です。

ところで、この作品のジャンルは現代にしてるんですが、世界観的に運び屋の居る世界ってSFなのでは? それともファンタジー?
サイバーパンク物はロックマンエグゼくらいしかよく知らないので、解釈違いがあっても許してください。

では、また次回!!



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幕間「グラム最終」

今回はちょっと詰め込みました。
聖地の三人の話と、イフ編をまぜまぜしました。



 

 

 

 女神メアリースが管理する最果ての滅びた世界。

 彼女の信奉者たちが“聖地”と称するその終焉の地。

 

 そこにレイアは再びやって来ていた。

 

「あ、意外と早く来たんですね♪」

「キョウコちゃん」

 

 レイアが見ることのできない巨大な“門”の前に、ついこの間友達になった少女が居た。

 

「はい、スラムが無くなることになったので」

 

 レイアがここに来たのは、単純に色々あって彼女の居場所がなくなってしまうからだった。

 

「新しい魔王様が、いっぱい神官様を派遣してくれて。

 学校とか、職業訓練所とか、斡旋所とかできるらしいです。

 お姉ちゃんと私も、孤児院に引き取られて学校に通うことになりそうです。

 私の眼も、手術の日が決まりました」

「それは良かったですね」

 

 なぜか、その声には素っ気なさと冷たさが混じっていた。

 

「あの騒ぎで死んだ人も全員、生き返ることになったんでしょう? 

 ヤな女ですよね、あいつ。人の命なんてシミュレーションゲームの数字としか思ってない。

 失敗したなら壊せばいい、そう思ってる。馬鹿げてますよね」

「……キョウコちゃん、ずっと聞こうと思ってました。

 あなたは、何者なんです?」

 

 少なくとも、レイアは自分たちの造物主の悪口を公言できる度胸は無かった。

 彼女を否定した者の末路は、彼女の世界ではよく知れ渡っていた。

 

「私ですか? 私は運命の女神をアンズライールって芸名でやってます。キョウコは本名ですよ、漢字は杏子って書きます」

「芸名って……」

 

 何となしに超常の存在だとは察していた。

 だけど当人がこんな感じだと何とも言い難いレイアだった。

 

「それより、レイアちゃんあの人の弟子になったんでしょ?」

「え、なったんですか? 私は何も言われなかったですけれど」

「義姉さんから神器の杖を貰ったでしょう? 

 あれが弟子入りの証です。私もほら、あの人の一張羅貰ったですし」

 

 キョウコは魔法使いが身に着けてそうなとんがり帽子をひらひらさせた。

 残念ながらレイアには目が見えないのでその仕草は分からなかった。

 

「まったくそんなこと言われなかったのに……」

「あの人はほら、そう言う事言わないから。素直に気に入ったなんて人間相手には言いませんよ」

「そうなんですか……」

「不服ですか? そんなわけ無いですよね。

 だって、楽しいでしょう、魔導の研鑽は?」

「……はい、日に日に出来ることが増えて行って、これが本当に自分なのかって、現実味が無くて」

 

 自分の可能性に囁かれるように、彼女は魔法の鍛練をこなしていた。

 そして、行きたい、と思ったら彼女はここに来ていた。

 

「あの、仮にも弟子になって、ええと、キョウコちゃんの旦那様のこと見たり知ったりしちゃダメなんですか?」

「きゃ~♡ 旦那様だって♡ 嬉しい♪ 

 あの人がダメでも私が許可します、オッケー!!」

「はあ……」

「まあ、実際のところ内縁の妻みたいな感じですかね。

 まだ役所に届けてないですし」

 

 神様って役所に届け出が必要なんだろうか、と内心ツッコミを入れるレイアだった。

 

「だから前々から子供でも作ろうって言ってるのに、日和って先延ばしにされてるし。

 生身の頃はあんなにがっついて──」

 

「おい……」

 

 夫婦の生々しい事情は、門の奥からの声で遮られた。

 

「教えてほしいことがあるんだろ。

 どんな魔法でも教えてやるよ、早くこっち来い」

 

 溜息の聞こえそうな声色だった。

 可哀想だったので、レイアも足早にそっちに向かった。

 

 “門”が、開く。

 レイアには何も見えないが、霊的感覚を磨き始めた彼女には壁があるように感じていた。

 それが、開いていく。

 

 

「待っていたよ、我が後継者候補」

 

 “暴君”が口を開いた。

 だが嫌々と言っているような口調で、荘厳な雰囲気が台無しだった。

 

「なんでも教えてくれるんですか?」

「ああ、何がいい? ついでに僕が鍛えてやるよ。だからキョウコの言った事は気にするな、いいな?」

「じゃあキョウコちゃんとの馴れ初めとか聞きたいです」

 

 “門”の外で、キョウコが大笑いする声が響いた。

 彼女の義姉がプッと噴き出したが、次の瞬間には謎の圧力でトマトジュースにされていた。

 

「とても、興味があります!!」

 

 レイアは女子だった。

 色恋沙汰には目聡かった。

 

「……この間、“暴君”と呼ばれた男の話はしただろ?」

「はい」

 

 一応、話してくれるようだった。

 

「ある時、彼に挑戦者が現れた。彼が人の身で神の如しなら、彼女は人の身で究極の刃だった。

 暴君はいつかその座を追われるもの。激闘の末、彼は破れた」

 

 意外だと、レイアは思った。

 てっきり彼は自分の負けは認めなさそうだと、そう思ったのだ。

 

「くくッ、とどめを刺される間際、彼はなんて言ったと思う? 

 不死を窮め、生きるのにも飽きたと吹かしてた愚か者は、死の瀬戸際になって、まだ死にたくないとかほざいたんだ。

 ──ハハハッ、余りにも無様で、殺す価値すらないって放り出されたほどさ」

 

 相変わらず自虐が好きだなぁ、と思ったレイアだった。

 とは言え、これのどこが馴れ初めなのかと彼女が思っていると。

 

「ただ、その際に滅多刺しされてね。

 記憶とかそれまでに培ってきた魔導の研鑽とか、全部ゼロになって異世界に放り出されたんだ。

 その先がまあ、君の住んでるのとはまた別の地球だったわけだ。

 時代の頃は二十一世紀ぐらいだったっけな。現地の人間に拾われて、記憶が戻るまでしばらく日本で学生をしてたよ」

「ああ、だからキョウコちゃんは日本人だったんですね」

 

 レイアのいる地球でも二十一世紀は純粋な日本人は珍しくなかった。

 当時の風俗は、レイアは時間を潰す為に無料のアーカイブサイトでよく読んで知っていた。

 

「往生際が悪いのが彼の惨めさでね。

 一回ぐらい死んだって全然問題ないくらいバックアップを無数に取ってた。だから記憶を取り戻すのも時間の問題だった。

 そして気づいたわけだ、キョウコが特別だってことに」

「特別?」

「素直に初恋の人と同じ魂を持ってたって言ったらどうですか? 

 そのことを教えてもらった時のこと、まだ根に持ってますからね」

「お前はいちいち茶々を入れるなよ!!」

 

 彼は怒鳴り散らしたが、きゃーと向こうから黄色い悲鳴が聞こえるだけだった。

 

「はあ……昔の仲間に、僕より優れた才能の持ち主が居たんだ。

 最初は嫉妬からだったけど、呑み込みもいいから魔導の手ほどきをしてやったんだよ。

 あいつにはほかに好きな奴が居たし、身を引いてやったのさ」

「やーいダーリンの陰キャ♪ 意気地なし♪ 三千年童貞♪」

「お前一回ドつかないと分からないか!!」

 

 それはちょっと拗らせすぎだなぁ、とレイアも思うのだった。

 

「まあキョウコも目の離せない奴でね。

 大体は僕が原因だけど、こいつ首を突っ込むんだよ。

 だから僕がいろいろと魔導を教えたわけだ。

 ……正直、この時ほど自分の間違いを実感したことは無かったけどね」

「どうしてですか?」

 

 レイアは思わず尋ねた。

 

「才能は魂に依存する。キョウコは僕をも凌ぐ才覚を示した。

 ……いや、違うね。決まってたんだ、あいつが運命を司る存在になることは。

 じゃなきゃ、たった三年で僕に追いつけるはずが無い。

 僕の三千年に渡る研鑽も、先の敗北さえも、キョウコを待っていたに過ぎなかったわけだ。笑えるよ」

「ちなみに、どの辺に惚れちゃったんですか?」

 

 彼の自分語りなんて興味ないので、さっさと恋バナの要点を要求するレイアだった。

 

「君もなかなか遠慮が無いね。まあ別にいいけど。

 死者蘇生の研究をしてたって言ったよな? 

 あれ、自分が納得いかないから最終的に諦めたけど、その話をキョウコにしたわけだ。

 そしたら、そんなの当たり前だって、あいつは言ってね。

 僕の主観が入る限り、理想は現実には出来ないって。それより私を見ろーってことだったんだろうけど。

 ……いやでも、こんなガキに自分が裸の王様だと思い知らされるとは思わなかったって感じだったよ」

「……え、それまで誰にも似たような事言われなかったんですか?」

「僕がなんて言われてるか、忘れたの?」

 

 ああなるほど、とレイアは頷いた。

 

「とはいえ、キョウコに毒されて僕も大分丸くなってね。

 あいつ、魔導関係者から拝まれてたよ。二代目は流石だってね。

 おい馬鹿弟子、お前あいつ嫉妬してぶち殺しそうになってたよな!!」

「……だって、私には二代目と名乗って良いなんて一度も仰ってくれなかったじゃないですか」

 

 ずっと仕えていたのに、ともにょもにょした女性の声が聞こえてきた。

 

「何言ってんだ。お前には僕の名前を貸してやっただろ。

 キョウコに僕の名前で何かさせるなんて怖くて出来ないからね」

「えー、酷いー」

 

 ぶーたれるキョウコの声がした。

 本当に、この師弟の影響力は大きかったようだった。

 

「そして最後の過ちだ。

 僕はそこの馬鹿弟子とキョウコで、自分たちの魂を神域への昇華させる儀式を試みた。

 好奇心からだった。未だ足を踏み入れていない領域へ、キョウコのお陰で真っ当な研究者に戻ろうなんて考えたのが間違いだった。

 神々の領域なんてところにたどり着いても、そこに居たのは自分たち以外を見下してるばかりの下らない連中ばかりだった。

 あれが神だって、笑わせるよ。僕たちもそうさ。自分たちの存在すら消し去れない。全知全能が聞いて呆れるよ」

 

 それから彼ら三人は、ずっとここにいる。

 人間が想像できないほど永い時間を、ずっと。

 

「全知全能ですか……まったく想像できません」

「そうかい? なら、見せてやるよ」

 

 レイアの視界に、色が付いた。

 彼女が最初にここに来た時のように、彼は地上を映していた。

 

 

「さあ、選びなさい。あなたの運命を」

 

 しかし、その光景は過去のものだった。

 スラムがあの時、リーパー隊に蹂躙されている時だった。

 

 そして、そこに居るのは。

 

「クラリスさん?」

 

 クラリスと、彼女に選択を問うキョウコだった。

 

 

≪運命の選択≫

 

全てを捨てて魔王と戦う。

 

自分の心のままに、人々を救う。 

 

 

 

「わ、私はッ──!!」

 

 彼女は俯き、覚悟を決めたように顔を上げた。

 

「私は、魔王を倒す」

 

 

≪運命の選択≫

 

→全てを捨てて魔王と戦う。

 

自分の心のままに、人々を救う。 

 

 

「そうですか」

 

 キョウコは少し悲しそうにした後、スラムの奥を指差した。

 

「クラリッサはあっち居ます。

 急がないと、手遅れになりますよ」

「ああ、ありがとう」

 

 この時、クラリスはクラリッサと合流しようとしていた。

 どのような覚悟を決めようとも、せめて彼女だけは、と。

 

 だが。

 

「クラリッサ!!」

「クラリスッ!!」

 

 彼女は娼館から逃れ、中から出て来た獣人がその背を追っていた。

 

「クラリッサ、危ない!!」

 

 運命は残酷だった。

 鋭いかぎ爪が、彼女を背から突き刺した。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「安心しなよ、これはもう既に過ぎ去った可能性。終わった選択肢、その可能性の一つを見ているに過ぎない」

 

 レイアの悲鳴に、“暴君”が応えた。

 即座にクラリスがクラリッサの背後の獣人を斬り捨て、彼女を抱き抱えた。

 

「クラリッサ、クラリッサ!! 

 どうして、私はまたッ!!」

 

 クラリスは即座に悟ったのだ。

 クラリッサの傷は、致命傷だと。

 その治療は、彼女には不可能だった。

 

「クラリス、一生のお願い……」

「ダメだクラリッサ!! 私は、まだ君と!!」

「レイアのことを……あなたしか、頼めないから」

 

 抱き抱えたクラリッサには、もう生気は無かった。

 彼女の命が失われていくのを、クラリスは感じていた。

 

「あ、ああ、あああ……」

 

 己の半身が、消え去ろうとしている。

 クラリスの魂が、肉体が、精神が、絶望に染まっていた。

 

「あああああああああああ!!!!」

 

 絶望と、憎悪が、彼女の魂を震わせる。

 奇しくもそれは、目の前から消えていく魂と共鳴してしまった。

 

「これって……」

「魂の共振さ。それは単純に、魔力の増強だけを引き起こすものじゃない」

 

 未知の現象が、目の前で起こっていた。

 共振していた魂が失われ、それに代わるように代替物が現れた。

 

「この間、僕は教えたね。

 魂の同位体は、なにも同じ人間に限ったことではないと。

 それは動物かもしれないし、──物かもしれないと」

 

 クラリスは、いつの間にか一振りの剣を手にしていた。

 これまで持っていたモノとはまるで違う、魂を宿した魔剣だった。

 

「人が死に、地獄に堕ちるならば、魂を持った物品はどこにいくのだろうか? 

 その答えは簡単だ。魂を宿した物にも死後がある。そこには、墓標のように流れ着いた魂を持つ物品が流れ着く。

 そして時折、同じ魂を持つ人間との共振によって、その手に現れることが有る。

 僕は総じてそれらを“魔剣”と称したが、実際に剣の形をしてるのは珍しい」

 

 クラリスと、もう一人の自分たる魔剣を手にした彼女はそれまでの比ではなかった。

 理論上、常時その出力は十六倍。

 だが所詮、それは理論上の話である。

 

「そして、彼女はアタリを引いたようだ。

 魂を宿した物品にも、ピンからキリまである。

 名付けるなら、グラムゼット。龍殺しの魔剣、グラム最終と言ったところか」

 

 それはまさに、魔王を殺す為の魔剣だった。

 彼女がそれを手にしたのは偶然などではなく、必然だった。

 

 そしてそのトリガーが、クラリッサの死であった。

 こんな意地の悪い話は他にないと、レイアは思った。

 まるで自分たちの出会いは運命に定められていたかのように、悲劇で彩られていた。

 

「いやはや、これはスゴイ。

 僕の兄貴も“たたかう”を連打してるだけで大抵の相手を倒せる脳筋だったけど、ここまでじゃなかった」

 

 魔剣を手にしたクラリスは、まさに無双。

 憎き仇である魔王ローティとの戦いは、どちらが魔王か分からないほどの鬼神の如き戦いぶりだった。

 

 その刃が、第二形態へ変身した魔王ローティを引き裂いた。

 まるで遊び疲れた子供のように満足げに、彼女は倒れた。

 

 街は、消え去っていた。

 もう二度と復興できないほど、綺麗サッパリ消滅していた。

 

 そんな微生物一つ存在しない更地に、パチパチと乾いた音が鳴り響いた。

 

「素晴らしいわ!!」

 

 魔王を殺すという偉業を成した勇者の前に、女神が降臨したのだ。

 己の宿願を成したクラリスは、呆けたように彼女を見上げた。

 

「あなたの力は見せて貰った。

 よくぞ、私が与えたスペックの最高値を示したわね!!」

「……なぜ」

「んん?」

「なぜ、あなたは魔王を倒されて喜ぶのですか……」

 

 女神メアリースは小首を傾げた。

 何でそんなことを聞くのか、とでも言いたげに。

 

「だって、私は“人類”の女神よ。

 だからありとあらゆる種族で、最も尊く素晴らしいのは人間であるべきじゃない。

 私は魔王に、私の権能が許す限り最高の図面を引いて、我が盟友が生み出した!! 

 そんな存在を、あなたはただの人の身で倒したのよ!! 

 あなたは証明したのよ!! 自分の種族が、この世で最も優れているのだと!! 私が創ったあなたが!!」

 

 興奮気味に、女神は人類を賛美する。

 それは人間賛歌だった。この世で最も虚しい自画自賛だった。

 

「……だから、だからレジスタンスの皆は」

「ええ、でも私の期待に応えたのはあなただけだったわね。

 あの連中も将来性は無いし、そろそろ終わりにしましょうか。

 だって、あなたと言う私の最高傑作が産み出されたんだから!!」

 

 クラリスは空虚な心ままで自然と涙を流していた。

 こんなモノに、自分は産み出されたのか、と。

 こんな奴にやり返す意味なんて無い、そう思ったのだ。

 

「さあ、何か願い事でもあるかしら? 

 あなたにはその権利がある。欲しいモノなら何でも上げるわ」

「……じゃあ、妹を返してください、故郷を返してください。そこで静かに暮らさせてください。お願い、もう、私に関わらないで」

「わかったわ、と言いたいところだけど」

 

 女神は肩を竦めた。

 

「時間を戻すのは私の管轄外なのよ。

 過去の私に連絡して、あなたの故郷の破壊を中止したらあなたの存在が消えるだろうし。

 何でも、と言った手前仕方がないわね。あなたの願いを叶えられる御方を紹介しましょう。

 きっとあなたなら、あの御方も気に入るでしょう」

 

 彼女は指を鳴らした。

 場所が更地から、遠く離れた場所へと変わる。

 

 彼女の信奉者が、“聖地”と呼ぶこの場所へと。

 

 

 途方もなく巨大な“門”が、彼女の前に現れた。

 

「ようこそ。私は“門番”」

 

 レイアにはいつも声しか聞こえない女性が、そこに立っていた。

 ローブ姿の陰気な女が、クラリスに言った。

 

「あなたは?」

「名前など、意味の無いこと。

 一応、“観測”を司る女神と言うことになっています」

「……観測」

「過去、現在、未来、その全てを見通す、ただそれだけの存在です。

 そして──」

「よく来たね、お姉ちゃん」

「キョウコ……」

 

 スラムに現れたような普通の格好ではない、古いタイプのアニメの魔女っ娘のよう装束のキョウコが彼女の前に現れた。

 

「待ってたよ。さあ、あの人のところへ行こうか」

 

 彼女に手を引かれ、クラリスは開いていく“門”の中へと進んでいく。

 

 

「憐れな奴」

 

 声からして生意気そうと思っていたレイアは、その姿を見てその通りだと思った。

 ギリシャ神話の神々はよく、中学生が力を持ったような連中と評されるが、そこに居たのは本当に中学生くらいの小柄な少年だった。

 眼鏡が似合う神経質そうな、そんな見た目の少年だった。

 

「ここに来る奴は、大体三通り。

 僕の怒りを買って縊り殺されるか、自分の間抜けさを教えられる奴。

 何をとち狂ったか、僕に挑んでくる奴。

 そして、キョウコに案内されてやって来る奴」

 

 彼女はその三つ目だった。

 

「キョウコのバカはバカなことに無意味な“善い神様”ごっこが趣味でね、下らない無価値な試練を遊び半分に与えて、それを乗り越えた奴にどんな願いも叶えてやるって意地悪してるんだ」

「私は真面目にやってるつもりなんですけど~」

「まあ、良いんじゃないの? 

 願い事、あるんだろ。言ってみろよ」

 

 少年はキョウコの抗議を無視して、どうでも良さそうにクラリスに言った。

 

「……本当に、どんな願いも叶うんですか?」

「当然だろ、僕らは真の意味で“全知全能”なんだから」

 

 何でもできて、なんでも知れる。

 言葉にすれば簡単だが、陳腐にも程があった。

 それこそ、中学生が妄想するような、完全無欠の究極の力だった。

 だからだろうか、それを体現する存在が、幼稚な子供の姿なのは。

 

「私はアンズちゃん。運命を司ってます。

 過去とか未来とか、振り直せます」

「私は観測を司る者。

 彼女が振り直した結果を、望むモノなのか観測します」

「そして僕がその実行を行う。

 僕らは三位一体、みっつでひとつの神。

 その三つのプロセスを経て、ありとあらゆる過去、現在、未来への介入を可能とする」

 

 まさに、真の意味での全知全能であった。

 神話で全知全能と謳われる主神にありがちなミスも失敗も介在の余地が無い、完全無欠の究極の力だった。

 これが“聖地”に隠された、多くの人間たちが求めるモノの真実だった。

 

「……本当に、どんな願いも叶うんですね」

「そう言ってるだろ。僕の気が変わらないうちにさっさと言えよ」

「妹を、家族を、故郷の人たちを、元通りにしてください」

 

 いいえ、とクラリスは首を横に振った。

 

「全部、無かったことにしてください。

 私達に起きたこと、全部……」

「願いは拡大解釈の余地が無いほど正確に言え。

 お前は魔王ローティの襲来も無かったことにしたいのか? 

 それとも先延ばしにしたいのか? 

 或いは女神メアリースの介入を無かったことにしたいのか?」

 

 彼はその神経質そうな視線でクラリスに念を押す。

 

「私は、ただ妹と一緒に故郷で生きていたいだけです。

 故郷を、全て元通りにしてください。その上で、あの女神に理不尽なことをさせないでください」

「良いだろう。全て元通り(・・・・・)にしてやる。

 ……本当に、哀れな女だよ。君は」

 

 そうして、彼女の願いは寸分違わず思った通りに成就された。

 

 

 

 

 世界名、アースエッダ。

 

 その構造は滝のように縦長で、上から下へ行くほど大地が広がっている。

 

 そんな世界の最下層、その片隅の森の奥に、隠れるように小さな村が存在していた。

 その村の名前は、存在していない。

 そんな村に、クラリスは産まれた。

 

 その村は、何の特徴も無い。

 どこにでもある、貧しい村だった。

 

 しかし、クラリスと双子の妹クレアは村の皆から大事に、本当に大事に育てられた。

 

 魔王に襲われる事も無く、だから勇者誕生の予言も無い。

 二人は何不自由なく、健やかに普通に育った。

 

 だが、二人が十五歳の誕生日に、運命が訪れた。

 

 二人の村に上層からの馬車がやって来て、二人は訳も分からぬままそれに乗せられた。

 村人たちは笑顔で、両親は涙を流しながら送り出した。

 

 二人は統一国家の王城にて歓待された後、おいしい食事をたくさん食べた。

 

「夢みたいだね、クレア」

「何でみんな、こんなに良くしてくれるんだろうね?」

 

 二人はその日、ふかふかのベッドで眠った。

 

 そして翌日。

 

 二人は兵士たちに連れられ、王城の奥へある儀式の間へ連れていかれた。

 そこには、大勢の神官たちがそこにいた。

 

「予言の子たちよ、よくぞ来た」

「しかし、予言の子は本来一人のみ。

 双子は予想外だったが、そのどちらかを世界機関に捧げるか決めようぞ」

 

 二人は、神官たちが何を話しているのか分からなかった。

 だが、身分の高い神官が二人に説明した。

 

「あれなるは、世界機関。

 この世界を運営する、神の遺物。

 百年に一度、巫女を捧げることで百年の豊穣が約束される」

 

 身も蓋も無い言い方をすれば、それは生贄だった。

 

「え?」

 

 二人に勇者の予言は無かった。

 だが、どちらかを生贄にする予言はあった。

 クラリスは、すぐにそれを理解できなかった。

 

「決まった」

「決まったぞ。妹の方だ」

「妹が巫女へと選ばれた」

 

 すぐに神官たちによって、クレアが拘束された。

 

「や、やめて、クレアを離して!!」

「お姉ちゃんッ、お姉ちゃん!!」

 

 たすけて、と唇だけが動いて、クレアは世界機関の炉の中に放り込まれた。

 

 クラリスの嘆きが、悲しみが、儀式の間に響いた。

 そして、その悲嘆に彼女の半身は答えた。

 

「グラム、ゼットおおおおおおぉぉぉ!!!!」

 

 その手には、魔王をも殺した魔剣が次元を超えて飛来していた。

 魔剣のたった一振りが、この世界の中枢を両断した。

 

 

 

「どうして私がこの世界を滅ぼしたか、これで分かったでしょう?」

 

 全ては無かったことになっていた。

 だが、クラリスは思い出していた。己の半身たる、魔剣が覚えていたのだ。

 

「たった一人の犠牲によって、他の全人類が繁栄を享受する。

 確かに効率的ね。でも野蛮だわ。文明的とは言えないわね。しかも文化的停滞を招いている。

 ……そんなの間違ってるって、そう思うでしょう?」

 

 憐れなモノを見るような目で、女神メアリースがクラリスを見下ろしていた。

 

「もしかしてあなたは私が気に入らないとかそんな理由で、世界を滅ぼすように魔王に命じてると思ってたのかしら。

 滅ぼすには、滅ぼすなりの理由が有るのよ」

 

 はぁ、と女神は呆れたように溜息を吐いた。

 

「せっかく、私が予言と言う形で魔王の到来を教えて備える時間を与えるはずだったのに。

 あんな旧式の、あの世界を去った神々の装置に依存した不健全な世界の運営権を得たから、私が改善しようとしたのに誰も聞き入れなかった。

 だから壊すはずだった。私、なにか間違ったこと言ってる?」

 

 彼女は聞かれてもいないことを懇切丁寧に説明していた。

 そこにクラリスを責め立てたいとか、嫌味を言っているつもりが微塵もないのが救えないところだった。

 

「それとも、あなたは妹を殺した世界を正しいとでも言うつもり?」

「……──ました」

 

 クラリスの悲しみと、苦しみは、何一つとして晴れなかった。

 

「私が、間違ってましたッ、私が、愚かでした、えぐ、ひぐ」

「でしょう? 最終的にいつも私が正しいのに、どいつもこいつもその場の感情で全部台無しにするのかしら」

「──そのくらいにしておけ、我が盟友よ」

 

 暗黒の瘴気が吹き上がり、人の形を成した。

 

「彼女の成した邪悪は、我が管轄だ」

「それもそうね。ハーレ以来かしら、世界丸ごと一つ吹き飛ばしたのは」

 

 女神メアリースはどこか楽しそうだった。

 

「楽しみにしているわ。私の最高傑作が、最高の図面で作り直されるのだから」

 

 そして彼女はスゥと消え去った。

 

「さて、悲嘆に暮れる憐れな子よ。

 私がその悲しみと苦しみを癒してやろう」

 

 暗黒の両腕が、クラリスを抱きしめる。

 

「そして家族を失ったお前に、新しい家族を与えてやろう」

「新しい、家族……?」

「そうとも。さあ、──私が産み直してあげよう」

 

 

「さて、五百を超える我が子たちよ。

 新たなる我が子の誕生を祝福しよう。

 

 ほら、皆に挨拶なさい。新たなる魔王──クラリスよ」

 

「はい、お母さん」

 

 もう彼女に、悲しみも苦しみも無かった。

 だってもう、彼女の家族は不滅の存在なのだから。

 

 彼女に斬り殺されたはずの魔王ローティが、面白そうに笑っていた。

 

 

 

 

「はいカット」

「途中から、言葉が出ませんでした」

 

 自分の知り合いの末路が、選択次第でこのようなものになるとは、レイアは途中から絶句していた。

 

「まあちょっと盛り過ぎたかな。

 どんどん悪い方悪い方って途中から演出しちゃったよ。

 僕映画監督の才能があったのかな」

「不謹慎です!! お姉ちゃんも死んじゃうし……」

「言っただろ、有ったかもしれない可能性だって。

 でもわかったろ、全知全能ってこういうことだ」

 

 彼らは本当に、寸分違わずクラリスの望み通り願いを叶えて見せた。

 現実の方が余りにも惨いというだけの話だった。

 

「まったく、酷いじゃないですか!!」

 

 そして自分が相対している存在のイカレ具合を目の当たりにしても、レイアはぷりぷり怒っていた。

 全部分かった上で、あえて無神経に振舞っている彼に。

 

 

「ただでさえ、現実でもクラリスさんはあんなことになってるのに!!」

 

 

 

 

 

 




次章への伏線も込めて、イフ編と聖地方々の身の上話でした。
次回から本当に三章に入ります。

ただ、年始もそろそろ終わり、明日から私も仕事が始まると言うことです。
連日更新を心掛けましたがそれも終わりです。

三章の構想を練りつつ、新年の仕事を頑張ります!!
よければ、高評価と感想をお願いします!!

それでは、また次回!!、


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魔王四天王募集中
1レス目


今回から新章突入です!!



 

 

 

153:名も無き住人

 運び屋の報告はまだか? 

 

154:名も無き住人

 まだ掛かってるみたいだな

 

155:名も無き住人

 どう言い繕っても主上に反逆したことには変わらんからな

 

156:名も無き住人

 焚きつけたんだから、魔王様フォローいれてくださいよ

 

157:名も無き魔王

 ワイにそんな権限あると思うか? 

 

158:名も無き住人

 そこは器量を見せてくださいよ……

 

159:名も無き住人

 それよか、例の魔法少女? の考察終わったん? 

 考察板や技術板で盛り上がったって聞いたけど

 

160:名も無き住人

 結論は出たで

 有識者たち全員が匙投げるって結果でな

 

161:名も無き住人

 はぁ!? 

 マジかよ!? 

 在住してる世界でも屈指の頭脳だって吹いてる連中がかよ!? 

 

162:名も無き住人

 あいつらが敗北を認めるとか相当だな……

 

163:名も無き住人

 ワイ、魔法鍛錬のインストラクターを生業にしとるけど

 あの少女、間違いなく素人

 身体が魔法を使うように出来てない

 スポーツに例えるなら、世界レベルのプロアスリート並みのパフォーマンスを初めて準備運動をした子供が発揮した感じ

 

164:名も無き住人

 人間は魔力に依存しない生物だからな

 その分、魔法の行使には鍛錬が必要

 素人でリーパー隊を圧倒するって? あんなの、ありえないよ

 

165:名も無き住人

 あれで素人なら、二十年魔術師やってる俺は何なんですかね……

 師匠に言われた魔導は才能が全てだって言葉が突き刺さるわ

 

166:名も無き住人

 魔法は才能が全てだもんなぁ

 ある程度は誰でも一定まで行けるけど、それ以降はセンスだし

 

167:アンズちゃん

 私たった三年で神の領域に至りましたけどww

 皆さんの才能ザッコww

 

168:名も無き住人

 くっそッ!! 

 ついにはアンズ様まで出て来たぞ!! 

 

169:名も無き住人

 魔術を窮めて神になった魔術神に才能で煽られてもなぁ

 最高位の錬金術師だったメアリース様や、マスター位階を取ったリェーサセッタ様でさえ、魔導の神じゃないんやぞ

 

170:名も無き住人

 あの御二方でさえ、人間の頃は比類なき魔術の天才だったんだぜ

 それで神になっても魔法を窮めたって判定にはならないっぽいしな

 

171:名も無き住人

 一応、リェーサセッタ様の神官になると召喚魔法の恩寵を受けられるらしいけど、あれは権能って言うよりあの御方の特技らしいし

 

172:アンズちゃん

 まあ、真面目な話、私の場合は師匠が凄かったですから

 その筋で神様扱いされるほどだったんで

 あの人に会わなかったら、多分JKになってそのまま何も考えず女子大生になってたでしょうね

 

173:名も無き住人

 もうアンズ様でも良いから師事したいわ

 自分の才能の無さに嫌になる

 

174:名も無き住人

 今来た

 アンズ様に物申す!! 

 この間、俺の事理解してくれる女性が現れるって予言された者だが!! 

 

175:名も無き住人

 お、覚えてるぞ

 どうだった? 

 

176:名も無き住人

 可愛い女の子だったら呪うわ

 

177:名も無き住人

 その相手、勤務先の事務のオバちゃんだったわ!! 

 くそッ、くそッ!! 

 

178:名も無き住人

 ワロタww

 

179:名も無き住人

 草ww

 たしかに女性だわなww

 それどんな状況だったん? ww

 

180:名も無き住人

 飲み会で酔いつぶれた俺を介抱してくれて

 酔った勢いで愚痴ったら、職場のお局様が居たわけよ

 あんたいつも頑張ってるからねぇ、って慰められたわ

 

181:名も無き住人

 これはまさか運命の出会いかww

 

182:名も無き住人

 まさしく運命に予言された出来事だもんなww

 

183:名も無き住人

 まあ、かなり年上かもしれんが、実際女性は顔じゃなくて性格だからな

 

184:名も無き住人

 は? オバちゃん既婚者だが? 子供三人居るんだが? 

 何言ってんだお前ら

 

185:名も無き住人

 なんだ、独身じゃないのか

 

186:名も無き住人

 こんなのって無いですよ、アンズ様!! 

 

187:アンズちゃん

 じゃあダイス振りましょうか♪ 

 それで決めましょう♪ 

 

188:名も無き住人

 おい止めろ!! 

 アンズ様にダイスを振らせるな!! 

 

189:名も無き住人

 あんこ板で毎回悲鳴が上がるアンズ様のダイスだ!? 

 

190:名も無き住人

 勘弁してくだしあ(泣

 

191:アンズちゃん

 もう振っちゃいました♪ 

 えーと、この出目は……

 

 余計な話はいいから本題に入る、ですね

 

192:名も無き住人

 アンズ様……それどういう出目と対応表してるんですか

 

193:運び屋

 みんな、戻ったぜ!! 

 ちょっと聞いてくれ……

 

194:名も無き住人

 ヘンな事起こるよかマシだろ

 リアルジュマンジと呼び声の高いアンズ様のダイスだぞ

 

195:名も無き住人

 って、運び屋やん!! 

 無事やったんか!!! 

 

196:名も無き住人

 よかった、おサルさんにならずに済んだんやな!! 

 

197:名も無き住人

 正直今度はダメだと思ったぞ!! 

 

198:名も無き住人

 とりあえずどうだったよ

 

199:運び屋

 ちょっと待っててくれ

 今ログ参照してまとめる

 

200:運び屋

 えーと、まず俺はあの後、スズ様の四天王筆頭に呼び出された

 俺は知らなかったんだけど、同僚の実父らしいのよ

 しかも神官様!! 悪魔族なのに!! 

 

201:名も無き住人

 悪魔族の神官は割と多いよ

 リェーサセッタ様の眷属はモノホンの悪魔やし

 

202:名も無き住人

 ああ道理で

 同僚ちゃんの気迫がただの人間とは思えなかったし

 悪魔族とのハーフか

 

203:名も無き住人

 思ったんだが、なんでメアリース様は異種族と人間とのハーフを産まれるように創ったんだろうな

 ハーフなんてどこでも迫害の対象だろうに

 

204:名も無き住人

 迫害は人間の歴史そのものだからだろ

 

205:名も無き住人

 バカだなぁ、みんな、簡単な事だぞ

 ヤルのにデキないとか萎えるでしょ? 

 触手プレイする時に生殖能力ないとか無いわ

 

206:名も無き住人

 俺は人間をあらゆる種族の中間に造ったって聞いたぞ

 

207:名も無き住人

 >>205 あんたが筋金入りのド変態なだけだ、サキュバスネキ

 

208:名も無き住人

 >>207 ケモノ耳付ければ簡単に堕ちる種族がなんか言ってますねぇ

 ちょっと誘惑すれば腰振るザコ種族のくせに♡

 

209:名も無き住人

 猫耳の嫌いな人間種は居ません!! 

 

210:名も無き住人

 は? キツネ耳が至高だろ

 

211:名も無き住人

 そこは一番メジャーなイヌ耳やろがい!! 

 

212:名も無き住人

 猫耳を差し置いてなにメジャーを気取ってんだ!! 

 

213:運び屋

 あの、ここって俺の相談スレだよな? 

 

214:名も無き住人

 おっと、失礼

 皆の衆、己に飼ってる紳士に耳に傾けようぜ

 

215:運び屋

 続けるぞ、そこでだいたいこんな感じの会話があった。

 

 同僚父「この度は娘がご迷惑をお掛けしました」

 俺「いえ、こちらこそ娘さんのお仕事の邪魔をしてしまい」

 同僚父「我らが御二柱に異を唱えるのも、あなた方に与えられた自由です。ただ、行動に移すにはそれ相応の責任が有ると言うだけです。ですが少なくとも私はあなたの勇気を称えましょう」

 俺「ありがとうございます」

 同僚「お父様……」

 

 同僚はお父さんを目の前にしてしょんぼりしてた。

 悪魔族なのにすぐ彼の人格者だってわかったわ。

 同僚が彼を尊敬してるの一目でわかった。

 

 同僚父「我が娘よ、多方面に手が回らなかったのは分かる。

 だが、スラムの住人もメアリース様の所有物、資源なのです。不良債権は不良債権なりに有効活用するべく手を尽くすべきでしょう。

 スズ様のご指示で、上位世界より神官が派遣されることになりました。

 スラムは解体し、住人にはそれ相応の教育と職場を与えることになるでしょう」

 俺「あの、本当にスラムの連中は生き返るんですか?」

 同僚父「本来なら、住民IDの無いスラムの人々はそれらの対象外でしょうが、スズ様の口添えにて彼らも対象となりました。

 御安心なさい、彼らの命はリコールされます」

 

 リコールて、俺らの命はクルマかいな

 

 

216:名も無き住人

 まあ、悪魔族は人間から見れば全員サイコパスみたいなもんだから

 種族間での価値観の違いを気にしちゃいかんよ

 

217:名も無き住人

 俺も長命種だから長い事生きてるけど、ここまで大規模なリコールは初めて聞いたわ

 

218:運び屋

 同僚父「では、あなたの処分ですが」

 

 そんな感じで話してると、ローティ様乱入

 

 炉「おい、私のモノに何でスズの四天王が処分決めるんだ!!」

 

 どうやら魔王モード

 庇われた俺たち感動

 

 同僚父「ローティ様は2つの人格で破壊と統治を使い分けるそうですね。

 つまり今の貴女にスズ様の決定に異を唱える権限はありません」

 炉「はぁ? 知らないし。ここはあたしの担当だし、何で後から来たやつがしゃしゃり出るわけ?」

 同僚父「メアリース様が決めたからです。

 そして貴女ご自身が魔王の務めを果たしておらっしゃらなかったからでは?」

 

219:名も無き住人

 この同僚父、つよい

 流石は神官様だわ

 

220:名も無き住人

 女神や魔王に全肯定のイエスマンに神官は務まらないからな

 多様性の為とはいえ、自分に反対意見言える人材を手元に置く主上の器量は素直に尊敬するわ

 

221:名も無き住人

 俺の世界の大神官様は大統領より信頼されてるくらいだからな

 政治家より柔軟に対応できるからしかたないんだろうけど

 

222:運び屋

 

 炉「どうせあんたも、私が疎ましいんでしょ!!」

 同僚父「誰もそんなこと言っておりません」

 炉「じゃあコレ何!!」

 

 それでローティ様が取り出したのはこんなデータだった

 

≪アンケート:ローティ様の性格はどちらが好き? 

 ≫

 統治モード:33%

 魔王モード:3%

 その他:65%

 

 これには同僚父も絶句

 これ、どこの誰が誰を対象にして取ったアンケートなんですかねぇ? 

 

223:名も無き住人

 どうしてだろう、見覚えがあるなぁ(白目

 

224:名も無き住人

 きっとメアリース様が掲示板の住人に対して行ったアンケートなんやろなぁ(目逸し

 

225:名も無き住人

 ROM勢も参加したのか、結構票が集まってたよな

 

226:名も無き住人

 てか、俺の記憶によると、圧倒的多数のその他は両方の人格って書いてあったはずだろ!! 

 悪意あるわこの編集!! 

 

227:名も無き住人

 まあ、その他を平等に振り分けても、クソガキ様の圧倒的敗北には変わりないからなぁ

 

228:名も無き住人

 俺はどちらも尊重して両方に入れたんだけどなぁ

 その結果が今の二重人格になったんだろうし

 

229:名も無き住人

 誰がこのデータ持ってるかと言うなら、メアリース様なんだろうなぁ

 きっとアンケート結果見せて自省を促したんだろうけど…………

 

230:名も無き住人

 主上は空気読めないからなぁ

 いや、読もうとしないだけか

 その精神的タフさが羨ましいわ、マジで

 

231:運び屋

 

 同僚父「このデータは…………」

 炉「メアリース様に貰った!! 

 お前も人当たりが良いほうがみんなにウケが良いわよって!! 

 自分がママに万年人気投票で負けてるくせにね!!」

 

 万年負けてるのは草ww

 

232:名も無き住人

 少なくともメアリース様が言っていい言葉じゃないなww

 

233:名も無き住人

 あれでも気にしてるんだぜ、主上はwww

 だから俺たちの娯楽とか色々試行錯誤してくれてるし

 

234:名も無き住人

 人気ならリェーサセッタ様に一回も勝ったことないレベルなのに、毎回やるよな人気投票www

 

235:運び屋

 炉「私決めたから!! 

 もう一人の自分じゃ無くても仕事ぐらい出来るって!! 

 今日から、あっちは封印するから!!」

 

 これには同僚父も何も言えんなくなってた

 

 その後、帰るよってローティ様が言って、俺は彼女をバイクに乗せて帰ったんだが

 そこで、ふと家で気付いた

 

 何でローティ様、普通に俺の家に帰って来てるの? 

 

236:名も無き住人

 え? 運び屋お前何言ってんだ

 …………アレ? 

 

237:名も無き住人

 あまりにも自然な帰宅で一瞬俺もわからんかった

 何で今の人格のローティ様で運び屋の家が自宅と認識されてんだ? 

 

238:名も無き住人

 記憶は両方の人格で共有してることは判明してるな

 

239:名も無き住人

 身体に染み付いた習慣になったんじゃね? 

 運び屋の家でゴロゴロするの

 

240:名も無き住人

 まさに実家のような安心感って奴か

 

241:運び屋

 いや納得してるなし

 俺、あいつにボロボロにされたんだが? 

 どう接しろと? 

 さっき顔見に行ったら、俺の顔を見て気まずそうにしてたし!! 

 

242:名も無き住人

 ローティ様も違和感に気づいたかwww

 

243:名も無き住人

 なんだwww

 クソガキ様もカワイイところあるじゃんwww

 

244:名も無き魔王

 身内としては、姉上に歩み寄ってほしいわ

 姉上はアテル兄上の一件から塞ぎ込んでたからな

 

245:名も無き住人

 ああ、魔王様が前に言ってたローティが懐いてたっって

 アテル様だったんか…………

 

246:名も無き住人

 元序列7位の御方だろ? 

 気高き御方だったな、自分を打ち倒した勇者に敬意を示して、自ら命を断ったと聞いたわ

 

247:名も無き住人

 序列は基本欠員がでたら繰り上がりらしいけど、魔王様一族全員が拒否したらしい

 リェーサセッタ様も欠番にすることにしたようだし、惜しい御方だった

 

248:名も無き住人

 不滅の魔王だからって、それに傲らない素晴らしい魔王の鑑のような方だった

 あの御方に統治されたてた事のある世界がどこも連日喪に服してたみたいだし

 

249:名も無き魔王

 なんだ、みんなアテル兄上のことまだ覚えてくれてるんか

 不覚にも涙でたわ

 

250:名も無き住人

 まあ、あの御方に懐いてたんなら、そら塞ぎ込むわな

 

251:運び屋

 俺、そんな御方と比較されてたのかよ魔王様!! 

 

252:名も無き住人

 だからこそだろうが運び屋!! 

 今、ローティ様乾いた心を潤せるのはお前だけなんだぞ!! 

 

253:名も無き住人

 お前だからこそ、ローティ様が心開き始めたんだろうが!! 

 

254:アンズちゃん

 そうですよ!! 

 安価は絶対!! 

 守って、ほら早く(ノ`Д´)ノ彡

 

255:名も無き住人

 ほら、アンズ様もそう言っとるやろ!! 

 

256:名も無き住人

 我らが強要すればパワハラだが、アンズ様はそれに適用されない!! 

 諦めろwww 女神の不興を買うととんでもないことになるぞ、いやマジで

 

257:名も無き魔王

 

 頼む、運び屋

 

258:運び屋

 わかった、わかったよ!! 

 ブラコンになるまで可愛がれば良いんだろ!! 

 ついでに今の状態でにぃに呼びさせたるわ!! 

 

259:名も無き住人

 よう言うた運び屋!! 

 それでこそ男や!! 

 

260:名も無き住人

 そこに痺れる憧れるぅ!! 

 

261:運び屋

 任せな!! 

 いざとなったら尻尾の裏くすぐれば何とかなるし

 

262:ローティ様だぞ!! 

 おい、お前らに相談してやるぞ!! 

 

263:名も無き住人

 あっ

 

264:名も無き住人

 なんつうタイミング…………

 

265:アンズちゃん

 草www

( ≧ᗜ≦)੭ु⁾⁾バンバン

 

266:名も無き住人

 運命の女神も大爆笑しておるwww

 

267:ローティ様だぞ!! 

 誰がオマエなんか兄貴って認めるか!! 

 後でぶっ■すからなこの変態ロリコンタイツ!! 

 

268:運び屋

 いきなり前途多難だなぁ

 

269:名も無き住人

 ローティ様、専用スレ立てますんでこちらにどうぞ

 →XXXX.XXXXXXXX

 

270:名も無き住人

 そういや、ワンちゃんどうなったの? 

 

271:名も無き住人

 せや、3%様インパクト強くて忘れてたわ

 あいつ今どうなってるの? 

 

272:名も無き住人

 あの様子で捕まって無いわけないしな

 良くてもおサルさんだろうなぁ

 

273:名も無き住人

 >>271 3%様はやめたれwww

 でも俺も気になってた、どうなんだ運び屋? 

 

274:運び屋

 とりあえず今からローティ様の機嫌取るためにプリン買ってくるわ

 ワン子のことはまた後でな

 今の所は無事だと言っとく

 

275:名も無き住人

 プリンwww

 それだけわかれば一安心だわ

 

276:名も無き住人

 プリンなら仕方ない

 俺も近くのスーパーで買ってこようかな

 コンビニがあった頃が懐かしい

 

277:名も無き住人

 コンビニは食品ロスの権化だってメアリース様に名指しで社会悪と断定されてされて一掃されたもんなぁ

 

278:名も無き住人

 ウチの世界のじゃコンビニなんて過去の遺物よ

 時代はネット注文よ

 

279:名も無き住人

 ある程度は不便さを楽しむべきだと思うけどねぇ

 一人キャンプとかどうよ? 

 

280:名も無き住人

 キャンプは道具揃えるのにカネかかるしなぁ

 

 

 

 

355:名も無き住人

 みんな、どうしよ

 ワン子を飼うことになった…………

 

 

 

 

 

 

 あ

 

 




次回、自分の家なのに他人二人の百合(大怪獣バトル)に挟まり自宅全損を掛けて両方なだめる主人公のお話。


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2スレ目

 ローティ様相談スレpart1

 

1:名も無き住人

 ここはローティ様専用相談スレです!! 

 急ごしらえですけど、とりあえずお納めください!! 

 

2:名も無き住人

 乙カレー

 

3:名も無き住人

 スゴイタイミングでの登場だったな

 あれは笑うわww

 

4:名も無き住人

 ローティ様まだかな

 

5:名も無き住人

 まだか? 

 ローティ様遅いな

 

6:ローティ様

 お前たち、ここでの話は他言無用だからな!! 

 

7:名も無き住人

 ええ、勿論です!! 

 

8:名も無き住人

 言われなくても、この掲示板で得た個人情報は持ち出し不可ですので

 

9:名も無き住人

 だからみんな運び屋の件で歯がゆい思いしてるしな

 

10:名も無き住人

 あれ、じゃあ何でローティ様の名前は表示されるんだ? 

 ワンちゃんじゃあるまいし

 

11:名も無き住人

 魔王一族は公人だからな

 どこの王族もプライベートなんてないやろ? 

 

12:ローティ様

 あのさ、お前ら

 ……やっぱり人当たりの良いキャラにした方がいいのかな

 

13:名も無き住人

 え? 

 ローティ様? 

 

14:名も無き住人

 まさか、気にしてらっしゃる? 

 

15:名も無き住人

 アンケートなんて気にしなくてもいいのに

 

16:ローティ様

 じゃあお前らはどっち選んだんだ!! 

 

17:名も無き住人

 えッ、それはその……

 

18:名も無き住人

 あ、自分は両方です

 その他です

 

19:名も無き住人

 あの時の自分の選択を後悔しようとは……

 

20:名も無き住人

 自分は今のローティ様に入れましたよ!! 

 だから蔑んで罵って下さい、ハァハァ

 

21:ローティ様

 >>20 私みたいな見た目で興奮するの? ■ねば

 やっぱりキャラ変えようかな……

 

22:名も無き住人

 一口にキャラを変えると仰いますけど

 ヒトはそう簡単に変わらないですし

 

23:名も無き住人

 普段のクソガキもキャラ作ってるわけじゃないでしょうし

 

24:ローティ様

 え、お前らあんなバカみたいな口調で煽る奴が現実にいると思ってるの? 

 ネットだけじゃなくて現実にも目を向けろよ

 

25:名も無き住人

 えッ

 え? 

 マジでキャラ作りだったの!? 

 

26:名も無き住人

 いや、キャラ作りだろ

 創作だからこそ良さがあるのだ

 ツンデレが現実に居てもムカつくだけだし

 

27:名も無き住人

 口調はともかく、ローティ様は根がクソガキだから

 自分は解釈違いじゃないな

 

28:名も無き住人

 あのキャラじゃあ万人受けはしないでしょう

 

29:名も無き住人

 そもそもなんで今のキャラで行こうと思ったのか……

 

30:ローティ様

 私の教育担当だった兄貴が、魔王なんだから個性は重要だって

 所詮自分たちは悪役なんだから、ヒールを演じろって

 

31:名も無き住人

 それ、悪役の方向性間違っとりません? 

 

32:名も無き魔王

 え、何それ

 姉上、アテル兄上からそんなこと教わったんですか? 

 

33:名も無き住人

 おい、魔王様も困惑しとるぞ

 

34:名も無き住人

 もっと為政者としての心得とかなかったんですかねぇ

 アテル様は優れた為政者だと聞いてたんだけど

 

35:ローティ様

 >>32 おい、何見てんだデュポン!! 

 >>34 そんなの必要ないと思ったから聞いてなかった

 

36:名も無き魔王

 ローティ姉上、名無しで通してるんですから本名言うなし……

 

37:名も無き住人

 聞いてなかったは草ww

 いや、笑えんわ

 魔王の仕事をなんだと思ってるんですか

 

38:名も無き住人

 特権階級なんだからちゃんと責任を果たして下さいよ

 

39:名も無き住人

 そうですよ!! 

 魔王様もなんとか仰って下さいよ!! 

 

40:名も無き魔王

 姉上、今のままじゃまた主上の怒り買うだけやぞ

 ぽっと出の別人格と一番下の妹に劣るって思われてもいいんか? 

 

41:ローティ様

 そもそも何でそんな面倒なことしないといけないの? 

 私、ママに好きなだけ人間を痛め付けて良いって言われたから魔王になったんだけど

 

42:名も無き住人

 リーパー隊の連中と大して変わらない理由で草www

 

43:名も無き住人

 クソガキだとは思ってたがそれ以下だったとは

 

44:名も無き住人

 もうこっちの人格に期待するだけムダやろ

 その世界はスズ様に統治してもろて

 

45:ローティ様

 お前らぶっ■すぞ!! 

 アイツらと一緒にするな!! 

 

46:名も無き住人

 こりゃあ同僚ちゃんパパに苦言を言われるわけだわ

 

47:名も無き魔王

 ほら姉上、貴女が威厳を見せないから住人たちに舐められてる

 キャラ付け以前に立ちふるまいを身に付けた方がええぞ

 

48:ローティ様

 もういい

 知らない

 

49:名も無き住人

 え? 

 落ちた? 

 

50:名も無き住人

 っぽいな

 煽られて回線切る理想的なクソガキムーブですな

 

51:名も無き魔王

 我が姉ながら恥ずかしい……

 

52:名も無き住人

 魔王様元気だして

 

53:ローティさま

 もう一人の私がごめんなさい……

 

54:名も無き住人

 あれ? 

 ローティ様!? 

 

55:名も無き住人

 素直に謝れてえらい

 これは33%様や

 

56:名も無き住人

 運び屋のスレで封印するとか言ってたのに、速攻封印解除してて草なんだwww

 

57:名も無き住人

 あっちだと話し進まないからもうこっちでいいべ

 

58:ローティさま

 あの子を責めないであげて

 前世で色々あったから

 

59:名も無き住人

 あー

 前世関連か

 転生特典で記憶保持望むと大概拗らせるからな

 

60:名も無き住人

 前世の詮索はマナー違反だと理解してるが

 その上でどうしたらあんな拗らせ方するんだろうな

 

61:名も無き住人

 前世の記憶持ちは一か所の世界に押し込められるんだから、お察しでしょ

 

62:ローティさま

 >>60 ダークエルフと人間のハーフだったみたい

 それで奴隷として売られたって

 

63:名も無き住人

 うわ

 ダークエルフのハーフってだけでも最悪の組み合わせなのに奴隷扱いか

 そら魔王にもなるわ

 

64:名も無き住人

 数え役満で草枯れるわ

 

65:名も無き住人

 その組み合わせで迫害されなかったって例を聞かないくらいだからな

 そら性格歪むわ

 

66:名も無き魔王

 何でダークエルフってあんなに迫害されるんだろうな

 エルフと遺伝子的には起源は同じなのに

 

67:名も無き住人

 世の中には魔物扱いされてるエルフもいるのに

 

68:名も無き住人

 あのクソ部族の話しはヤメロ!! 

 

69:名も無き軍人

 そもそもあいつらは迫害されてるとさえ思ってなさそうだぞ

 それよか、やたらとエルフ族の胸盛る薄い本なんなの

 解釈違いなんだが

 

70:名も無き住人

 軍人ニキ、その話題は大いに論議の余地があるがスレ違いやぞ

 

71:ローティさま

 統治のやり方は考えてるから大丈夫

 あの子が本当に相談したかったのはそこじゃない

 にぃにのことなの

 

72:名も無き住人

 お、急にエモの匂いがしてきたぞ

 

73:名も無き住人

 wktk

 

74:ローティさま

 今ね、スズにお部屋取られちゃって、住む場所無いの

 今まで執務室が私のお家だったから

 

75:名も無き住人

 そりゃあ、仕事をする魔王としない魔王、どちらを優先するかと言えば

 ねぇ? 

 

76:名も無き住人

 だからまだ運び屋の家から出てってないのか

 あの性格なら気に入らないところにいつまでもいるわけないと思ったが

 

77:名も無き住人

 待て、同僚ちゃんはどうした? 

 彼女に頼めば住む場所くらいどうにでもなるやろ

 

78:ローティさま

 自主的に謹慎してる

 あの石頭、真面目さの方向性間違えてるよ

 

79:名も無き住人

 自主的に謹慎www

 それ休みと何が違うんですかねwww

 

80:名も無き住人

 ことごとく間が悪いな同僚ちゃんは

 

81:名も無き住人

 だったらスズ様に頼ればいいじゃん

 ああ、それもあの性格じゃ無理か

 

82:名も無き住人

 生活能力無さそうだもんなぁローティ様

 

83:ローティさま

 私、ワンちゃんみたいな生活イヤだからね!! 

 これ以上にぃにのお家吹き飛ばしたらどこもにぃににお部屋貸してくれなくなっちゃう!! 

 

84:名も無き住人

 思った以上に切実で笑えんなwww

 

85:名も無き住人

 そっかぁ

 ローティ様、運び屋が居ないとホームレスか

 

86:名も無き住人

 仮に照れ隠しだとしても毎回家壊しちゃねぇ

 

87:名も無き魔王

 ふむ、姉上のプライドを納得させつつ運び屋の家に居座る方法か

 今、妙案を思い付いた

 

88:名も無き住人

 流石デュポン様!! 

 俺たちとは頭のデキが違う!! 

 

89:名も無き住人

 どっかで聞き覚えある名前だと思ったら、あんた序列十一位じゃんか!! 

 誰が序列番外だよ、十分に実績のある魔王様じゃん!! 

 そんな御方が掲示板に入り浸りなんて知りとうなかった……

 

90:名も無き住人

 魔王様って序列上位でも暇なんすねwww

 

91:名も無き魔王

 クッソ

 だから身バレしたくなかったんや

 

 >>89 今担当の世界、世界的に平均年齢75歳以上なんよ

 この前やってきた勇者パーティなんかジジババやぞ

 全人類四割が痴呆の老人ども相手にやる気でるかいな

 

92:名も無き住人

 それよく今まで滅んでなかったなぁ

 

93:名も無き住人

 ほとんど介錯じゃないすか

 魔王様ってタイヘンなんだな

 

94:ローティさま

 それで妙案ってなに? 

 

95:名も無き魔王

 それはだな……

 

96:名も無き住人

 もったいぶらないでくださいよ! 

 

 

 

 

 

115:ローティ様

 デュポン!! 

 後で覚えてろよ!! 

 

 

 

 

 

224:運び屋

 ローティがとんちんかんなこと始めたのはおまえらの仕業か

 

225:名も無き住人

 お、運び屋だ!! 

 皆の衆、ヤレッ!! 

 

226:名も無き住人

 洗脳♪ 洗脳♪ ローちゃんが洗脳♪ 

 

227:名も無き住人

 カワイイローちゃんが洗脳中〜♪ 

 

228:名も無き住人

 洗脳♪ 洗脳♪ ローちゃんが洗脳♪ 

 

229:名も無き住人

 カワイイローちゃんが洗脳中〜♪ 

 

230:運び屋

 わかった! 

 もうわかったから!! 

 止めてくれ、実物だけで十分だ……

 

231:名も無き住人

 よし、最新の洗脳ソングの前に運び屋も陥落したか

 

232:名も無き住人

 むしろ洗脳されたのは俺たちなんだよなぁ

 

233:名も無き住人

 あのフレーズ妙に頭に残るんだよな

 

234:名も無き住人

 いいか、運び屋!! 

 お前はローティ様に洗脳されたんだ!! 

 つまりペットも同然!! 

 だからローティ様が素でリラックスしても問題ない相手なんだOK? 

 

235:運び屋

 わかったよ

 まったくそういう事かよ

 わざわざあんなことしなくていいのに

 

236:名も無き住人

 つきましては、ローティ様の相談料としてお前の視界のログ置いてけ

 

237:名も無き住人

 無限リピートして聞きながら寝るから早く出して!! 

 

238:運び屋

 まあ、みんなのおかげで距離が縮まったのは事実か

 おかげさまでプリン食べて機嫌を直してくれたわ

 

239:名も無き住人

 とりあえずひと段落したな

 

240:名も無き住人

 それよか、ローティ様どうするつもりなんだべ

 統治の方法考えてるって言ってたけど

 

241:ローティ様

 ふん、簡単なことだったよ!! 

 

242:運び屋

 おい、もう遅いから歯磨きしろよ

 プリン食べたんだから

 

243:ローティ様

 うるさい!! 

 私が虫歯にならないから歯磨きなんて必要ないし!! 

 

244:名も無き住人

 でも歯磨きしないと口臭の元になりますよ

 

245:名も無き住人

 お前ら、口うるさくするなよ

 ローティ様のブレスは口臭の息吹なのかもしれんだろww

 

246:名も無き住人

 口臭のブレスww

 くっさwww

 

247:名も無き住人

 そんな魔王いやだわ……

 

248:運び屋

 ほら、みんなもこう言ってるだろ

 あ、洗面台行った

 

249:名も無き住人

 よかった、口臭のブレス吐く魔王なんていなかったんだね!! 

 

250:名も無き住人

 それで、ローティ様どう統治するので? 

 

251:ローティ様

 スズの奴、部下に殆ど任せてるから私もそうする

 部下の手柄は私の手柄だし!! 

 

252:名も無き住人

 まあ、能力のある者に任せるのも王の器量ではある

 でも任命責任は忘れずに

 

253:名も無き住人

 そういや四天王まだ空きがあったんでしたっけ

 

254:名も無き住人

 とりあえず、適当に政務経験のある神官様をリェーサセッタ様に見繕ってもらえばいいのでは? 

 

255:ローティ様

 は? 

 お前らお約束わかってないの? 

 四天王にはそれぞれポジションがあるの!! 

 それを踏襲しないでどうするのさ!! 

 

256:名も無き住人

 ポジション? 

 どゆこと? 

 

257:名も無き魔王

 別にこだわる必要はないんだが、定番では

 

 脳筋枠

 女幹部枠

 なんか正義側に寝返りそう枠

 頭脳タイプ枠

 お約束の五人目

 かな? 私もそんな感じに四天王選んでる

 

258:名も無き住人

 ああ、お約束ってそういう

 

259:名も無き住人

 そのお約束をガン無視しておられる序列二位様

 

260:名も無き住人

 そもそもなぜ魔王様の側近って四天王なんだろうか

 十傑衆とかいろいろあるじゃん

 

261:名も無き魔王

 語呂が良いからや

 あと四人倒したらチャンピオンに挑めるやろ? 

 

262:名も無き住人

 おい、なんで魔王一族の方々はドラ〇エを古典としてリスペクトしてるのにそこはポケ〇ンなんかい!! 

 

263:名も無き住人

 なるほど

 女幹部枠:同僚ちゃん

 寝返り枠:運び屋

 となると、脳筋枠と頭脳派枠が必要なわけか

 

264:運び屋

 俺、なんでそんな不名誉そうなところにいれられてんだよ

 

265:名も無き住人

 運び屋はほら、気のいいあんちゃんと見せかけて実は敵だった、みたいなタイプだし

 

266:名も無き住人

 てか実際にワンちゃん相手にそれやっとるやろ

 寝返りも含めて、おいしいポジションやん

 

267:ローティ様

 五人目はもう決まってるから、あと二人決めないと

 

268:運び屋

 え、初耳なんだけど

 誰にするんだ? 同僚には話通したか? 

 

269:名も無き住人

 何故定番の二人を決めずに色物の五人目を先に決めたんだ? 

 

270:ローティ様

 魔王としての仕事と、ついで私の欲求を満たせる相手にするの!! 

 お前たちのおかげなんだよ、このことを思いついたの!! 

 

 

 

271:ローティ様

 

 五人目枠はワンちゃんにする

 悪の手に落ちて、無理やり従わされる役どころにするの♡

 

 

 

 

 

 

 




読者の皆様もローちゃんスキーになるでな~~
今月も来月も仕事ギッシリで、なかなか執筆の時間取れないです(泣
もうちょっとで、魔法使いになって初めての誕生日、家族から離れて一人寂しく迎えます……。

次回はワンちゃん視点となります。
それではまた!!


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幕間「虜囚クラリス」

 

 

「出なさい」

 

 その声に、私は顔を上げた。

 この独房に入れられ、すでに数日経ってのことだった。

 

 先日のあの魔物どもと戦い、力尽きた私は虜囚の身となっていた。

 武器も聖鎧も取り上げられて、まるで実験用動物の檻みたいな独房に押し込まれていた。

 

 しかし、その扱いは忌々しいほど丁寧だった。

 三食昼寝付きでおやつも出てくる。(精一杯の強がり

 しかもドリンクバーもついてる!! 糖分取りすぎかな……。

 更に要望を言えばお菓子も貰えた。

 

 くそッ、魔王の手中じゃなければずっと住んでいられるのに!! 

 私は空になったポテチの袋をゴミ箱に捨ててから、促されるまま外に連れ出された。

 拘束具も無しとは、舐められたものだ。

 

 ドリンク飲み放題とおやつで私を弱体化させるつもりだろうがそうはいかない。

 ちゃんと私は暇な時間に筋トレしておいたからな!! 

 家無しの時よりむしろ捗ったくらいだ!! 

 

 ……どうしよう、涙が出てきた。

 

「どうかしましたか? 

 もしや、私たちの目の届かぬところで虐待でもされてましたか? 

 でしたら精査の上ですぐに処分するので、正直に仰ってください」

 

 私を連行しているデーモン種の男がそう訪ねてきた。

 私は何でもない、と首を横に振った。

 彼の善意が余計私を惨めにするのだ。

 

「こちらです」

 

 そうして、私はエレベーターで最上階に連れていかれた。

 そこで、私は彼女と出会った。

 

「初めまして、私の名前はスズ。

 魔王一族の末席を頂く身としてこの世界の担当をしているローティ姉上の補佐をしている者です」

 

 魔王スズ。

 彼女が現在“体調不良”という事になっている魔王ローティの代理。

 

 見た目はローティより少し年上に見えるが、奴はあんなナリでも歴戦の魔王。なりたてならきっと彼女の方が若いのだろう。

 学校の制服でも着せたら学生と言っても通じる見た目だったが、魔王スズは紛れもなく魔王だった。

 

「改めまして、私はスズ様の四天王が一人、バンブスと申します。

 大いなる御二柱に仕える神官でもあります」

 

 私を連行した悪魔族の男が、席に座った。

 

「どうぞ、お掛けになってください」

 

 私は彼に促されるままに用意されていた席に座った。

 まるで面談かなにかのような位置関係だった。

 

「そう警戒せずとも私たちはあなたに危害を加えるつもりはありません」

 

 私が警戒し、出方を伺っていると、彼はそう言った。

 

「何が狙いだ。私はお前たちに屈しないぞ!!」

「親父、やっぱりこいつはここで殺した方が良いんじゃね?」

 

 室内にいるほかの若い悪魔族の男がそう言った。

 他にも二人、魔王を護衛するように彼女の背後に立ったままこちらを警戒している男女が居た。

 

 女の方はまだ少女と言えるほど若いがどこか風格があった。勝てる。

 悪趣味な意匠の鎧姿の中年の男は、多分手練れだ。結構手こずる。

 若武者みたいな悪魔族の男はよくわからないが、多分勝てる。

 そして神官であるらしいバンブスという悪魔族は、近づけば間違いなく勝てる。

 

 こいつらが魔王スズの四天王なのか。

 もしかしたら、五人目もいるかもしれない。三銃士が四人なのと同じように、それはお約束なのだから。

 

「スズ様が会いたいと仰ったのだ。

 それを目の前で殺すと言うのか、バカ息子め」

「沽券に係わるって? テロリストを生かしておく方がよっぽど沽券に係わるだろうが」

「……お前は口を閉じていなさい。

 まったく、お前もハイティのように真面目であれば良かったのに」

 

 ハイティ、その名を聞いて私は四天王バンブスを睨んだ。

 

「そう言えば、我が娘ハイティと相対したそうですね。

 あれもまた未熟ゆえに粗末な対応をしてしまい申し訳なかった」

「スラムの皆を皆殺しにして、粗末な対応とぬかすか!!」

「あなたの気持ちは理解できますが、今ここで激高したところで意味のないこと。

 それに彼らの命はすでにリコールされました。

 今頃、彼らは今後の身の振り方について説明を受けていることでしょう」

「なにが身の振り方だ、お前たちのやり方で彼らが行き着く先は家畜の人生だ!!」

「家畜の人生、ですか」

 

 燕尾服に黒縁眼鏡といういで立ちの悪魔族は、ゆっくりと目を閉じた。

 

「では、あなたは今自由であると? 

 主義思想を自ら選び、自分の意志で物事を決定していると?」

「当たり前だ!!」

「私にはあなたのその思い込みが不自由に思えてなりません。

 あなたはこの世界にやって来て、それなりの時間を経てどう思いましたか? 

 メアリース様の恩寵無き生活は惨めで虚しいものでしょう?」

 

 悪魔は私に問いかける。

 

「それでも私は、尊厳まで失ったつもりはない!!」

「強がりはおやめなさい。

 どう言い繕ったところで、人間の尊厳とは衣食住の上に成り立っている。

 思い当たりませんか、あなたのスラムでの生活は他者に媚びた無様なものであったと」

 

 その物言いに、私は激怒した。

 椅子から勢いよく立ち上がり、怒鳴り散らした。

 

「その言葉、取り消せないぞ!! 

 お前は私だけでなく、私の恩人までも侮辱したのだ!!」

「……失礼、言葉が過ぎましたな。

 私が聞きたいのはそのような話ではありません」

 

 相手が素直に謝ったので、私も一先ず矛を収めて椅子に座りなおした。

 

「あなたはレジスタンスの一員として、テロ活動に従事しました。

 そして魔王ローティ様を襲った。そうですね?」

「奴は家族の、故郷の皆の仇だ、それの何が悪い!!」

「いいえ、復讐はリェーサセッタ様が司る大いなる権能に許されたあなたの自由。

 ですが自由には責任が伴うもの。それを行ったあなたにはそれ相応の罰がある、そうは思いませんか?」

「それはお前たちの神が勝手に決めたことだ!!」

「ええ、あなたの神が決めたことです」

 

 激する私にバンブスは淡々と言った。

 

「ならば、神が決めたのならお前は家族を捧げられるのか!? 

 どうなんだ!!」

「その発言は少し的外れですね」

 

 バンブスは眼鏡の縁を直してこう言った。

 

「私は孤児院を経営しています。

 そこに集められた彼らは魔王様一族の側近となるべく英才教育が施されます。

 つまり──私はもう既に数多の義子達を魔王様に捧げているのです」

 

 そこの愚息もその一人です、と彼は告げる。

 

「理解できない……」

「価値観の違いを責めるつもりはありませんよ。

 その多様性こそ我らがメアリース様のお望みなのですから」

 

 私が何よりも恐ろしかったのは、彼に微塵も卑しさを感じなかったことだ。

 彼は魔王の所業に子供達に片棒を担がさせて置いて、少しも悪いとは思っていないのだ。

 

「お前は何とも思わないのか? 

 魔王に滅ぼされた人達の苦しみを」

「ええ、貴女も体験した通りです。

 今のやり方では、原住民を長く苦しませるだけです。

 どうせ殺すのですから、一思いに一瞬で楽にするべきだとは思います」

 

 違う、そうじゃない。

 私はその言葉を口に出せなかった。

 なぜ魔王による虐殺を肯定する事を前提なのか。

 私はどうしても理解出来なかったのだ。

 

「私からも質問をよろしいですか? 

 貴女は何故に無意味な復讐に身をやつすのですか?」

「無意味だと!? 

 我が家族や友人たちの無念を晴らすのを無意味と言ったか!!」

「ええ、なぜならもう既に貴女の家族も友人もメアリース様の手によって転生を果たしているでしょう。

 墓を作り手を合わせるのが人間の文化なれば、その意思を尊重はしましょう。

 ですが結局それは何も産み出さない

 貴女もわかっている事でしょう? 

 魔王様を倒したところで何の意味も無い」

 

 ──なぜなら、魔王様は不滅なのですから。

 

 そう。私の復讐は何の結果も齎されない。

 魔王を倒したところで、連中は何食わぬ顔で蘇るのだろう。

 全て承知の上だ。これは私の尊重の問題。ただの自己満足なんだ。

 

「私は私の選択を後悔しない」

「その結果、無関係な人間を巻き込んだ。

 貴女の言うところの恩人さえも」

 

 女神の神官は淡々と事実を突き付ける。

 

「お前たちがスラムのみんなを殺そうとしたからだろうが!!」

「ええ、ですがこう考えられませんか? 

 貴女が居なければ、そもそもリーパー隊の連中が出張ることもなかった。

 軍隊がスラムの住人を殺しても、せいぜい十人単位でしかなかったでしょう」

「人の命を数字で語るか!!」

「私はただわかりやすく言っているだけですよ」

「もう良いです、バンブスさん」

 

 ここに来てようやく、魔王スズが口を挟んだ。

 

「これ以上言葉を並べても彼女の気を逆撫でするだけでしょう」

「わかりました」

 

 バンブスは主人の言葉に頭を下げた。

 

「彼の言葉がキツく感じたのならごめんなさい。

 これでも彼は破滅的な生き方を案じているんです」

「余計なお世話だ!!」

「では最後にひとつだけ言わせて下さい」

 

 彼女は横に手を差し向けると、四天王の女がそっとメモを渡した。

 

「私は魔王一族の末席、スズである。

 あなたのような若者を待っていました。

 もし私の味方になればこの世界の半分を上げましょう。どうですか? 私の味方になりますか?」

「いいえッ!!」

「……では、テロリストは殺すしかありませんね」

 

 魔王スズがメモを投げ捨て、虚空から禍々しい魔力の剣を引き抜いた!! 

 

 

「ちょっと待ったぁ〜~!!」

 

 その凶刃は私に振るわれる直前、それを止めた手があった。

 

「お前は!!」

「ローティ姉さん!!」

 

 執務室の扉を蹴破って、幼い少女の姿をした魔王が現れた。

 

「私のオモチャで勝手に遊ぶとかいい度胸してるなスズ!!」

「ひうぅ」

 

 姉の登場に、妹は萎縮してしまった。

 

「統治の仕事ばかりで忘れたか? 

 我らは魔王!! 邪悪の化身!! 何で相手に配慮する必要があるんだ? 

 人間だった頃のゴミみたいな感性は捨てろ!!」

「お言葉ですがローティ様!! 

 メアリース様に恭順を示さぬテロリストと言えど、最低限の扱いと言うものが」

「“お下がり”は黙ってろ」

 

 声を上げる忠臣に、魔王ローティは殺意を向けた。

 

「今は一族の者として妹に教導してやってるんだ。

 それとも兄貴を守れなかった役立たずが、この私に説教なの? 恥を知れよ」

「それは……」

 

 その言葉に、バンブスは言葉に詰まった様子だった。

 

「お前が父と慕った兄貴に教わったことを、お前にも教えてやる。

 いいか、我ら一族がすべきことは、統治者ごっこでも破壊神ごっこでもない」

 

 そして、魔王は喜悦の笑みを浮かべこう言った。

 

「私たちが本当すべきことは、────(ママ)を悦ばせることだ」

 

 呆ける妹に、姉は笑いかける。

 

「ママは人間なんかにいい顔をしてるけどさ、その性根は最悪さ!! 

 まともな感性を持っていても、性格は邪悪そのもの!! 

 だからこそ、証明するんだ。この世に邪悪を引き立てる確固たる正義が存在することを!! 

 その為に苦しめるんだ、その為に痛めつけるんだ!! 

 連中の中から現れてくる、供物のスパイスとなるためにな!!」

 

 そうして、彼女はようやく私を見た。

 にたにたとその性根の悪さが透けて見える笑みだった。

 

「こいつは、ママに捧げる生贄さ!! 

 それを味わう前に、殺すなんてもったいない!!」

 

 魔王は、私の顎を掴むと己の額と私の額がくっつきそうになるほど近くに引き寄せた。

 

「お前の苦しむ姿が、悶える様が、何よりの愉しみなんだ。

 もっと私を憎め、もっともっと恨め。お前の大好きな復讐こそが、ママに奉納する神楽舞なんだからな!!」

 

 これが、魔王。

 正真正銘の、邪悪の化身!! 

 

「お前の思い通りになると思うな」

「それは自分の立場を理解してから言うんだな。

 今のお前は、煮るなり焼くなり好きにできるんだから」

 

 だけど、この魔王はそれをしないだろう。

 なぜなら、もったいないから。

 

「もう一度、お前に私に挑む権利をやろう。

 万全の状態で、負けた言い訳を一つも言う余地も無い状態で、完膚なきまで叩きのめしてやる」

「望むところだ、今度こそ決着をつけてやる!!」

「せっかくだから、お互いに賭けをしよう」

「賭け?」

「そう、賭け。

 万が一にでも私が負けたら、その時は二度と復活しない。お前は私を殺せるんだ。本当の意味でな」

 

 不滅の魔王が、その不死性を投げ捨てる。

 そんな常軌を逸した言動なのに、魔王の頬には朱が差し息が荒い。

 

「でもお前が負けたら、お前をお前たらしめるすべてをぐちゃぐちゃにしてやる。

 そうだ、どうせだからコロシアムチャンネルで戦いの様子を放送させよう。

 レジスタンスの連中にも見せてやろうじゃないか。

 お前という人間が、完膚なきまでぶっ壊れる無様な姿をさ!!」

 

 ここに現れてから、ずっと魔王は笑みを張り付けている。

 動悸が激しいのか、胸を押さえながら。

 まるで、恋する乙女のように、熱に浮かされたようにずっと私を見ている。

 

「グズな妹に教えてやるよ。

 私が仕事が早いから序列第六位に成れたわけじゃないって」

 

 意外なことかもしれないが、博士は言っていた。

 魔王一族は、お互いに個々の能力差はそれほど存在しない、ということを。

 つまり、連中の能力は並べるときれいに横ばいになるのだ。

 どれだけ古参だろうと、新参だろうと、魔王に能力的優劣はほとんど無い。

 

 だというのに、この一番若い魔王と、若くして序列六位にまでなった魔王には大きな、そう簡単には埋められない隔絶した差があった。

 

 

「よーく見てるんだぞ、本当の──真の邪悪ってやつをね」

 

 こうして、私たちの戦いが決する日が決まることになったのだ。

 

 

 

 

 




出勤前と仕事終わりにさらっと書けました。
次回は、いよいよ二人の関係が決着し、また変わる一つの節目となります。

どちらにせよ、クラリスにとっては最大の試練と悲劇が訪れるでしょう。
それでは、また次回。

アンケート設置するのでよろしくお願いします。


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3レス目

topic:用語解説

娯楽:コロシアムチャンネル
女神メアリースの運営している放送チャンネル。
そのウリは各世界での生の殺し合いであり、主に魔王軍と現地の勢力との戦いや、魔王四天王と勇者一行などの好カードの勝敗を賭けの対象にしている公営ギャンブル。
非常に悪趣味な為、賛否両論。
ギャンブルで破滅されても問題な為、賭け金や回数に上限がある。



【炉対犬】運び屋救援専用スレッド【同時実況】part7

 

 

507:名も無き魔法技師

 とりあえず、アーカイブ勢にもわかりやすいように自動実況機能組み込んでおいたわ

 

508:名も無き住人

 魔法技師ネキおつかれ

 

509:名も無き住人

 何でこのヒト、サラッと掲示板に新機能実装できるんだ? 

 

510:名も無き住人

 今日の一戦は伝説になるだろうからな

 実況板も盛り上がってたぞ

 

511:名も無き住人

 お前ら、わざわざこっちで同時実況しなくてもよくね? 

 

512:名も無き住人

 だってコロシアムチャンネルの実況民、血の気多いんだもん

 

513:名も無き住人

 あの空気怖いし

 

514:名も無き住人

 わかる

 賭け事だから罵声も多いしな

 

515:運び屋

 とうとう始まっちまう……

 

516:名も無き住人

 おう、運び屋か

 結局説得は無理だったか

 

517:名も無き住人

 ワンちゃんを飼うことになったって

 何事かと思ったが、まさか賭け試合とはな

 

518:名も無き住人

 いくらワンちゃんが強くても、魔王たるローティ様に挑むのは無謀すぎる……

 

519:名も無き住人

 今北産業

 

520:名も無き住人

 >>519 ローティの奴、ワン子のこと洗脳して犬同然にして飼ってやるんだって息巻いてるんだ

 それを大勢の前で見世物にしようとしてるんだ

 

521:名も無き住人

 うげ、マジかよ

 悪趣味な

 

522:名も無き住人

 ワンちゃん、どうしてこんな無謀なことを……

 

523:名も無き住人

 何か捕まってたみたいだし、最後のチャンスだと思ったんじゃね? 

 その最期が、人間として終わっちまう姿のわけか

 

524:名も無き住人

 遣る瀬無いな

 ワンちゃんの復讐は正当なだけに

 

525:名も無き住人

 せめて、せめてともに戦ってくれる仲間さえいれば、な……

 

526:実況くん

 司会「ルール確認です。

 挑戦者は指定の位置から、道中の脅威を排除し、魔王様のおわす城へとたどり着くことでかの御方に挑むことが許されます。

 挑戦者の武器道具の使用は自由で無制限。制限時間無し。両者お互いの生死問わず。これでよろしいですね?」

 

 ローティ「ああそうだ、私の第二形態の使用も無しにしよう。これは私闘だし、あれはママの権能にして、その執行にのみ振るわれるべき力だから」

 

527:名も無き住人

 え、第二形態使わないとかマジ? 

 

528:名も無き住人

 そこまでローティ様舐めプしていいのかよ!? 

 

529:名も無き住人

 ワンちゃんが勝ち目ないのは主に第二形態があるからだしな

 どういうつもりなんだ、ローティ様

 

530:名も無き魔王

 ワイはちょっと感動

 ローティ姉上が謹慎になった理由が以前私的な理由で第二形態になろうとしたことだって聞いたし

 姉上もちゃんと成長してるんやな

 

531:実況くん

 クラリス「ふざけるなよ魔王!! 

 お前は言い訳の余地がないほど完膚なきまでに私を叩き潰すと言っていたが、それは私も同じこと。

 第2形態を使わなかったから勝てました、と私に言わせるつもりか?」

 

 ローティ「はぁ? ゲームはフェアじゃないと面白くないだろ。

 まあいいや。いいよ、でもその代わり勘違いするなよ。

 私が第二形態を使うんじゃない、お前が私に使わせるんだ。

 お前が私と戦うに相応しい勇者なら、ママが許してくれる」

 

532:名も無き住人

 ワンちゃん、何でそんなに強気ですかねぇ(震え声

 

533:名も無き住人

 大言壮語もすぎるぞ

 勇気と蛮勇違う

 

534:名も無き住人

 ただでさえワンちゃんに不利なルールなのに

 

535:名も無き住人

 しゃーないだろ

 本来魔王に挑めるのは魔王軍と四天王を破った勇者のみ

 まあワンちゃんの実力が不足してるとは思わんけど

 

536:名も無き住人

 私闘だから第二形態使わないって言うくらいだし

 ローティ様も立場以外はフェアでいようとはしてるしな

 

537:実況くん

 実況「それでは、お二人とも所定の位置に転移します」

 

538:名も無き住人

 いよいよ始まるぞ

 

539:名も無き住人

 こんなのもう公開処刑じゃん

 

540:名も無き住人

 オッズが物語っているよ

 ローティ様:1.2倍

 ワンちゃん:8.7倍

 だって

 

541:名も無き住人

 ああ、私闘だから賭けられるのか

 魔王様が戦う時は運営が収益辞退するのに

 

542:名も無き住人

 まあ賭けにならないだろうしな

 魔王一族は強すぎだし

 

543:名も無き住人

 今のオッズみればさもあらん、だしな

 

544:運び屋

 結局、止められなかった……

 

545:名も無き住人

 気に病むなよ運び屋

 魔王が決めたことに逆らうだけ無駄だ

 

546:名も無き住人

 少なくとも今回はお前は巻き込まれてもいないんだ

 余計な火の粉を被らないようにしとけって

 

547:名も無き住人

 運び屋の奴、今にもあそこに突っ込んでいきそうだから怖いわ

 

548:実況くん

 実況「それでは、スタートです」

 解説「無謀な挑戦者がどれだけ持つでしょうか。

 同時接続者数は12.7億人。やはり魔王ローティ様が出るだけあってまずまずの数ですね」

 実況「挑戦者が無名ですからね。コメント欄では無残な死に様を期待する声が上がっております」

 

549:名も無き住人

 司会も完全にワンちゃんが負ける前提で話してるわ

 ネタバレ:こいつらすぐに度肝を抜かれるぞ

 

550:名も無き魔法技師

 近接戦闘ならたぶんうちの担当より強いからなぁ

 

551:名も無き住人

 技師ネキ、あんたそれでいいんかww

 あんたら百年以上生きてるのに年下に負けを認めてww

 

552:名も無き住人

 言うてあのクソつよ魔法少女、才能なさそうだし

 あの子の強さ、半分以上装備が良いからだと思うし

 

553:名も無き住人

 才能無くてもあれだけ強くなれると希望を持てばいいのか

 どれだけ努力しても才能次第であっさり抜かれると嘆けばいいのか

 

554:実況くん

 実況「バトルフィールドはかつて、ローティ様が滅ぼした世界:アースエッダ。

 今では砂漠のみが広がる世界となっています」

 解説「圧倒的に魔王様が有利なフィールドですね。

 なにせ、ローティ様は“大砂界”と称されるほどの御方。

 どこまで足掻けるのか見ものでしょう」

 

555:名も無き住人

 でも戦闘センスは経験だけがモノをいうわけじゃないし

 

556:名も無き住人

 向こうの板は盛り上がってるな

 こっちは人が少なくて落ち着く、落ち着く

 

557:名も無き住人

 陰キャ乙

 かく言う俺もそうなんですけどね

 

558:名も無き住人

 いやでも、あっちの殺せ殺せの空気にはついていけんよ

 

559:名も無き住人

 それな

 

560:実況くん

 実況「挑戦者の最初の刺客は、いきなりサンドワームです!! 

 しかも超巨大な!! 高層ビル並みの巨大さです!!」

 解説「ローティ様の眷属でしょうね。

 地上部分だけでも全長三十メートルはあるでしょうか」

 実況「さて、挑戦者はこれにどう対処──は?」

 解説「これは……」

 

561:名も無き住人

 瞬★殺

 

562:名も無き住人

 最下級とはいえ、竜種を一刀両断か

 いやサイズ比どうなってんだよって光景だな

 

563:名も無き魔法技師

 私の担当もこれぐらいできるけどさ

 私はこの若さでこんなことができるようになるのが、悲しくてならないよ

 

564:名も無き住人

 どのような結末であれ、ワンちゃんの苦しみも今日で終わるさ

 俺たちはそれを見届けてやろう

 

565:実況くん

 実況「信じられません、サンドワームを一刀両断!! 

 血の雨が降り注ぎ、砂漠に真っ赤なオアシスが出来上がりました!!」

 解説「なるほど、魔王様が私闘の相手に選ぶに値する相手のようです」

 実況「ですが、次の相手は一筋縄ではいかないでしょう。

 手元の資料によりますと、そろそろですが……おっと、出ました!!」

 解説「流砂竜ですね。砂漠の流砂に住む中級竜種です。

 雨が降っていないのに砂漠でぬかるみを見つけたら要注意です。

 そこには砂漠最強の捕食者が潜んでいるのですから」

 

566:運び屋

 ローティの奴、こんなバケモノを飼ってたのかよ

 

567:名も無き住人

 泥に潜む竜やね、うちの世界のギルドでS級指定される危険生物や

 こいつぶっ殺すのならBランク以上の冒険者パーティ五組は欲しいが

 

568:名も無き住人

 竜種マニアのワイ歓喜!! 

 こいつのブレスは泥だけど、雑菌だらけで実質毒と変わらないんよ

 砂漠で泥を浴びたら乾くと擦過傷になってそこから雑菌入る

 

569:名も無き住人

 あ、解説されてるそばから!! 

 

570:名も無き住人

 ドボンって落ちたぞww

 おい、ワンちゃんww

 

571:名も無き住人

 じたばたしてる

 かわいいww

 

572:名も無き住人

 流砂竜が姿を現してて助かったなww

 泥の中に潜んでたら食べられてたぞ

 

573:実況くん

 実況「おっと、挑戦者!! 流砂に落ちてしまった!!」

 解説「流砂に落ちた場合、焦らないのが鉄則ですが状況はそれを許しません。

 おおっと!! 挑戦者、何とか抜け出せたようです!!」

 実況「無理くり脱出しましたね。普通は流砂に落ちたらなかなか抜け出せないものなのですが」

 実況「挑戦者、果敢に流砂竜に挑む!! 

 砂漠のモンスターに果敢に立ち向かう!!」

 

574:名も無き住人

 思いのほかのっぺりしてるな、流砂竜

 もっと爬虫類っぽいみためかと思ったわ

 

575:名も無き住人

 どちらかというと両生類に近いのかも、鱗無いし

 

576:名も無き住人

 両生類ならドラゴン判定ガバガバすぎない? 

 

577:名も無き住人

 人知を超えたバケモノをとりあえず竜って呼ぶのはあるよな

 どこの世界でも、川の氾濫は竜の仕業だとか伝承に残ったりするだろ

 

578:名も無き住人

 お、ワンちゃんも正面切っての戦闘なら難なく倒せたようだ

 泥に潜られたらもっと手こずったろうに幸運だな

 

579:名も無き住人

 ええぇ、なんでこのモンスターを一人で倒せるの? 

 文字通りの怪物なのに

 

580:名も無き住人

 でもこれぐらいできなきゃ、魔王様に勝つなんて夢のまた夢だしな

 

581:運び屋

 もうこの化け物が残り四天王でいいんじゃないか? 

 

582:名も無き住人

 運び屋www

 流石にそれは投げやりすぎだろwww

 

583:名も無き住人

 知性の無いモンスターを四天王にする例はあるみたいだがな

 

584:実況くん

 実況「……言葉を失ってしまいました。

 流砂竜をものともしないとは」

 解説「私もです。レベル制の世界で推奨レベル80以上モンスターだと言うのに、それも単独で成すとは。

 砂竜殺しの称号は堅いですね」

 実況「おっと、ここでローティ様から連絡です。

 デモンストレーションは終わりにする、回復ポイントのオアシスを過ぎたら本番だと。泥だらけで我が前に寄越すな、だそうで」

 解説「彼女は証明したのです。我々や視聴者に。

 魔王に挑むに値する勇者であると。

 ならば、我々も敬意を持って仕事に当たらねばなりますまい」

 実況「そうですね。カメラ、場面を切り替えて下さい。

 彼女が身を清めます」

 

585:名も無き住人

 はぁあああ!? 

 何でそこを映さないんだよ!! 

 

586:名も無き住人

 温泉に入るサルと同じだろ!! 

 ワンちゃん人間扱いじゃないんだから!! 

 

587:名も無き住人

 案の定、向こうのコメントも荒れててワロタwww

 

588:名も無き住人

 アホどもめ

 魔王様の戦いは神に見られる神聖なもの

 その相手を辱めて良い訳があるか

 

589:名も無き住人

 コロシアムチャンネルがR18とは言え、エロ要素は別のコンテンツで楽しめとしか

 

590:運び屋

 でもワン子を一番辱めようとしてるのはローティなんだよなぁ

 

591:名も無き住人

 それな

 

592:名も無き住人

 戦い自体には卑しさはないから(震え声

 

593:名も無き住人

 わざわざ前哨戦なんてパフォーマンスしてるし回復ポイントなんてあるし

 ローティ様の執着もよくわかる

 向こうの同時接続数も50億人超えたぞ

 

594:運び屋

 なんならこっちは、上空に立体モニター展開して世界中が見てるぞ

 みんな、固唾を飲んで見てる

 

595:名も無き住人

 運び屋のところはローティ様のお膝元だもんな

 そら世界中が見てるか

 

596:名も無き魔法技師

 司会の雑談終わったから実況アプリ再開するね

 

597:実況くん

 実況「さて、いよいよ挑戦者がローティ様の待つ城へと辿り着きました」

 解説「間もなく謁見です。我々は黙ってましょう」

 

598:名も無き住人

 いよいよか

 

599:名も無き住人

 ワンちゃん、次の部屋で謁見の間だ

 

600:名も無き住人

 二人が相対したぞ!! 

 

601:実況くん

 ローティ「我は魔王にして絶対無比なる存在なり。万物の長は我が一族の他に無し。

 メアリース様に作られたデク人形よ、なぜそれがわからないのか」

 クラリス「お前たち一族って毎回そう言うのやらないとダメなの?」

 ローティ「うっさい、様式美なんだから口出しするな!!」

 クラリス「だったらカンペ読むな!!」

 

602:名も無き住人

 草

 

603:名も無き住人

 草生えるwww

 

604:名も無き住人

 あーもう台無しだよ

 

605:名も無き住人

 そこは空気読めってワンちゃん……

 

606:名も無き住人

 せっかく古典シリーズにおいて最も強大な魔王のセリフを引用した雅な前口上だったのに

 

607:実況くん

 ローティ「まあいいや。どうだった? 

 お前がお前で居られるうちに見れる最期の光景にお前の故郷をわざわざ選んでやったんだ。懐かしいだろ?」

 クラリス「笑わせるな。私の故郷はもう無い。お前がそうしたんだろうが!!」

 ローティ「お前、そんなにこの世界が大事だったの? 

 知らないってカワイソー。くすくす」

 

 魔王ローティが玉座から立ち上がり、後ろを示した。

 

 ローティ「最期に教えてやるよ。

 この世界を滅ぼした理由を」

 クラリス「世界を滅ぼした理由だと?」

 ローティ「前置きが長くなるけど、梯子を外したのはお前だし。

 せっかくだから教えてやるよ」

 

608:名も無き住人

 いやここで戦闘にはいらないんかい!! 

 

609:名も無き住人

 だが気になる

 魔王様達が世界を滅ぼす基準とか知らないし

 

610:実況くん

 魔王ローティは破壊された未知の装置を指さした。

 

 ローティ「あれがこの世界の中枢、この世界を運営してた装置。

 でもこれは旧式らしくてさ、上質な魂を燃料にするんだとさ。

 憐れに思ったメアリース様が、生贄になる予定だった姉妹に別の預言を被せた」

 クラリス「そんな、まさか!?」

 

 ローティ「そうそう、私が行くからたっぷり準備して抗ってね、お前勇者な。

 そんな感じの預言だったろ」

 クラリス「ツッコミどころは多いが概ねそんな感じだった」

 ローティ「メアリース様はさ、生贄なんんかで成り立つ世界なんて認めないんだって。

 生贄以外の全ての人間が平和を享受しても。

 あれあれ、もしかして私って生贄になったかもしれないお前の命を救ってやったんじゃね?」

 クラリス「戯言を!! お前がクレアを殺した事実は変わらない!!」

 ローティ「じゃあもう一度言ってみろよ。

 お前の故郷を滅ぼした私が……何だって?」

 クラリス「くぅ……」

 

611:名も無き住人

 妙に親切だと思ったら、バチボコに精神攻撃でワロタ……ワロタ……

 

612:名も無き住人

 生贄とか文化的じゃないもんな

 そらメアリース様は認めんわ

 

613:名も無き住人

 せめて住人の避難とかしてくれないんですかね

 

614:名も無き魔王

 こういうタイプの世界は事前勧告するで

 大抵は聞き入れられんけど

 

615:名も無き住人

 でもメアリース様のことだから、そんなボロ装置に頼ってないで私の言うこと聞けば繁栄させてやる、ぐらい言いそう

 

616:名も無き住人

 それは言いそう

 

617:名も無き住人

 絶対言ってるな

 

618:名も無き住人

 もしかして:ご本人? 

 

619:名も無き住人

 メアリース様暇なんですねwww

 

620:名も無き住人

 メアリース様への厚い信頼が悲しい

 

621:実況くん

 ローティ「資料を読み返したけど、生贄は山奥で大事の囲って育てるんだってね。

 つまり、お前の家族や知人とやらも、順当に行けば生贄としてこの旧式の燃料としてお前ら姉妹を差出したわけだ!!」

 クラリス「嘘だッ!!」

 

622:名も無き住人

 ワンちゃんの声が悲痛ん過ぎて辛い……

 

623:名も無き住人

 クラ虐助からない

 

624:名も無き住人

 ローティ様エグいわ

 

625:名も無き住人

 生贄か勇者か

 どっちの人生でも過酷すぎるわ

 

626:実況くん

 ローティ「これでお前の大義名分とやらも、妹だけだな♪」

 クラリス「嘘だッ、私はお前の言葉なんて信じない!!」

 ローティ「メアリース様の権能に取りこぼしなんて無いの知ってるくせに」

 

 ローティ「あ、最高に面白いことおもいついちゃった♥」

 

627:名も無き住人

 ヒエッ

 

628:名も無き住人

 まさしく、邪悪の笑みだぁ

 

629:名も無き住人

 この前俺らがローティ様のスレで煽ったの忘れてるよね(震え声

 

630:名も無き住人

 南無

 

631:名も無き住人

 お前のことは忘れないわ

 

632:実況くん

 ローティ「私が勝ったら洗脳して犬みたいにしてやろうと思ったけどやーめた!!」

 

 ローティ「お前の中から、妹のことだけ消してやるよ。

 なんなら私が代わりになってやろうか? 

 

 ────お姉ちゃん♪」

 

 クラリス「──$仝#@ゞ&$@ッ!!」

 

633:名も無き住人

 ……おぞましい、心の底からそう思ったわ

 

634:名も無き住人

 勝負は見えたな

 あまりにもワンちゃんが憐れだったわ

 

635:名も無き住人

 あんな状態で戦いになるわけないしな

 

636:名も無き軍人

 真の邪悪を見たわ

 吐きそう

 

637:名も無き住人

 軍人ニキまでもダウンしてる

 向こうのコメントも凍り付いてるわ

 

638:運び屋

 俺、ワン子に優しくするわ

 

639:名も無き住人

 運び屋、そうしてやってくれ

 どんな形だろうと、これ以上ワンちゃんに不幸は訪れないんだから

 

640:名も無き住人

 もう全部忘れた方が幸せかもな

 ワンちゃんがワンちゃんじゃなくなったとしても

 

641:名も無き魔法技師

 私と担当は中立だから、何もしてあげられないのがツライな

 実況アプリ切るね、こんなの残すの可哀想だから

 

642:名も無き住人

 余人の立ち入る話じゃないもんな

 

643:名も無き住人

 魔法技師ネキも元気出して

 

644:名も無き住人

 決着、着いたみたいだな

 あまりにもあっけなかった

 

645:名も無き軍人

 ワンちゃん、泣き叫んでるよ

 忘れるのは嫌だ、か

 俺にも覚えがあるだけに、見てられんな

 

646:名も無き住人

 ああ、ワンちゃん……

 

647:名も無き住人

 ワンちゃんの記憶無いなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンケートの結果、掲示板での進行になりました。
小説パートで進行すれば、ローティの第二形態や結末は変わらないけど運び屋が最後助けに来たりといろいろ予定してました。
その場合、ローティの姉ではなく運び屋の恋人に洗脳されてました。まあ洗脳の必要ないですけどね!!

それではまた次回!!
お楽しみに!!


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幕間「邪悪の化身」

 

 

 

「あ、あ、ああぁ」

 

 数多の世界の、何十億という人々がその結末を見ていた。

 

「これでわかったろ、お前の復讐心とやらもその程度だったんだ」

 

 魔王ローティに、クラリスは足蹴にされて、踏みにじられていた。

 

「知ってるか? 心技体を極めた存在を勇者って呼ぶんだ。

 残念だったよ、お前なら何を言われても立ち向かって来れるってちょびっとは期待してたのに。

 ママもお前には失望したことだろう」

 

 ほんの少し落胆したように魔王はため息を吐いた。

 

「最後にお別れをしな。お前の記憶の中の妹にね。

 人間って生き物は馬鹿馬鹿しいことに、記憶に残ってれば本当の意味じゃ死んでないとか哀れなことを言う生き物だろ? 

 じゃあ、もうお前以外誰も覚えてない妹は、本当の意味で死んじゃうんだね!!」

 

 魔王は嘲笑し、足元の愚者に言った。

 

「お前が、弱いせいで!!」

「嫌だ、忘れるなんて嫌だ!!」

 

 クラリスはもがくが、ローティは足に力を入れて押さえつける。

 

「安心しなよ。

 私がお前の妹の分まで、お前を愛してあげる。

 お前の妹よりずっと長く、優しく、幸せにしてやるからさ♪」

「ひぅッ」

 

 クラリスはこの時、真の意味での彼女の邪悪さを思い知った。

 彼女は、クラリス自身に最愛の妹を踏みにじらせようとしているのだと。

 彼女は体の芯まで恐怖に震えた。

 

「ごめんなさい、許してください!! 

 もう逆らいません、私が愚かでしたッ、だから、だからそれだけは!!」

「それが最後の言葉で良いんだな?」

 

 がしっと、ローティはその小さな手でクラリスの頭を鷲掴みにした。

 邪悪な魔力が流れ込み、クラリスの脳を侵していく。

 

「あああああああぁぁぁ!! いやだ、いやだぁ」

 

 クラリスの中から、双子の妹の記憶が消えていく。

 まるで手で掬った水のように、するすると落ちていく。

 

「クレ、ア……」

 

 彼女はもう、その言葉の意味すら思い出せない。

 

「楽しみにしてるよ、お前がいつかまたそのゴミみたいな記憶を思い出して、私に挑んでくるのをさ♪」

 

 どこまでも、魔王にとってクラリスは玩具に過ぎなかった。

 

 

 そして。

 

「あれ、私は何をしてたんだっけ?」

 

 気の抜ける表情で、クラリスはそう言った。

 

「あれ、なんで私はこんなところに居たんだっけ?」

「お姉ちゃん!! やっと元に戻ったんだね!!」

「ローティ、どうしたの?」

 

 ぼんやりとしながら起き上がる彼女を、ローティが抱き着いた。

 

「覚えてないの? 

 お姉ちゃん、テロリストに捕まって洗脳されてたんだよ!! 

 十年ぶりに会えたのに、私たちあいつらのせいで戦わされてたんだよ!!」

「ああ、多分そうだった気がする……」

 

 ローティは、本当にクラリスの記憶から妹の存在を消し去っただけだった。

 そしてそこに、自分を置き換えた。

 そうすることによって発生する矛盾の理由まで、彼女は与えていなかった。

 

 だから虚言を弄する。

 彼女が黒と言えば白も黒くなる、そんな存在の虚言でクラリスの脳はこれまでの記憶を補完していく。

 

「そうだ、私はローティに生贄にされるところを助けてもらったんだ。

 こんな世界を滅ぼしてくれたのに、その時私たちははぐれて……」

「ようやく思い出してくれたんだね!! 

 やっと、やっと本当のお姉ちゃんに会えたんだ、よかったぁ!!」

 

 先ほどまで殺し合い、憎んでいた相手を、クラリスは抱きしめた。

 

「ああ、ずっと、ずっと会いたかったんだ。

 今まで惨めで、寒くてひもじくて、寂しかったんだ!! 

 私はどうして、何の意味も無い戦いをしてきたんだッ」

 

 そんなクラリスの声に、彼女に抱き着いているローティは笑いを噛み殺していた。

 

「もういいんだよ、お姉ちゃん。

 さあ、先に帰ってて。送るから」

「うん、後でゆっくりお話ししよう」

 

 ローティが指を鳴らすと、彼女の魔法でクラリスは転移していった。

 

「あは、あはッ、あははは!! 

 見たかお前たち!!」

 

 玉座に座り直し、これまでの光景を見ていた視聴者たちに魔王は言った。

 

「これでわかっただろ。

 お前たちが後生大事にしてる、思想だとか思いの力だとか、この程度のもんなのさ」

 

 大笑いから、スイッチが切り替わるように無表情になったローティはそう吐き捨てた。

 

「おい、レジスタンスども、お前たちもどうせ見てるな? 

 お前たちの復讐心とやらもこんなものだ。

 いい加減自覚しろよ、メアリース様のデク人形ども」

 

 子供同然の精神年齢のローティに似つかわしくない、冷酷で残虐な冷たい視線が視聴者たちを睥睨する。

 

「私の統治に楯突く奴は、みんなこうしてやるよ。

 親兄弟親戚知人友人、そいつらから記憶を消してやる。そいつらに命令して、逆らった奴を捕まさせるのも面白いかもな。

 私に黙って従えば、これまで通り安全で文化的な生活をさせてやる。別に口うるさくするつもりないし、文句ないだろ?」

 

 少なくとも、彼女は文句を受け付けてなかった。

 

「おい、運営。放送は終わりだ」

 

 

 

 §§§

 

 

「ローティ様、流石にそれは問題がありますよ……」

 

 バンブスさんが頭を抱えている。

 俺は今、中央事務所で同僚と待機していた。

 そこにはスズ様とその四天王もおられた。

 俺たちはここでローティたちの戦いを見ていたのだ。

 

「私も一時期、洗脳状態でお父様に保護されていましたが、やはり問題なのですか?」

 

 スズ様がバンブスさんに問うた。

 

「痛みに暴れるけが人に沈痛目的で使用する場合もあります。

 他にも徘徊する老人や、盗癖がある人間などに矯正目的に使用が許されます。

 あくまで倫理的に配慮された場合のみ使用が許可されているのです。

 洗脳して統治するなど、奴隷制度と変わらない」

「なるほど」

「そもそも完全な記憶の消去は人間の構造的に不可能なのです。

 そして洗脳系の魔法も、最長で一か月とコンプライアンスに定められています。

 長期的に連続して洗脳を施すと人格に悪影響を及ぼすので」

 

 最長一ヶ月。果たしてそれは長いのか短いのか。

 

「それだけで済ませるわけないじゃーん♪」

「ローティ様!?」

 

 ローティの登場に、ハイティが跪く。

 

「ローティ様!! 流石に洗脳を用いた恐怖政治は容認しかねます!!」

「なんでお前の容認が必要なんだ?」

 

 意気揚々なローティがバンブスさんの諫言を鼻で笑った。

 

「ローティ姉さん。クラリスさんをどうするのですか?」

「私の四天王にするんだよ、だからあっさり洗脳を解くわけないじゃん♪」

「ですが、コンプライアンスが……」

「スズ、お前の脳みそスナック菓子か? 

 私とあいつは契約によってお互いに等しいモノを賭けた。

 私が命をベットしたように、あいつは自分の人生を賭け金にした。

 メアリース様の与える自由意志って奴だ」

 

 そう、この件に関してローティの方が十分に正当性があった。

 だから俺も止められなかった。

 クラリスの出身世界の事も考えると、何も言えなくなってしまう。

 だが、それとこれは違う。

 

「クラリスの件はもういい。本人達の問題だ。

 だが楯突く奴を洗脳して言うこと聞かせるってのはどう言う了見だ?」

「罪を犯した本人ならともかく、親類縁者にまで及ぶのは野蛮であるかと……」

 

 俺だけでなく、ハイティも父親と同意見のようだった。

 

「はぁ? 大して私の役に立ってないお前たちが私に意見するの?」

「お前の馬鹿げた政策に加担する前だから言ってんだ。

 統治担当のもう一人は何て言ってんだ?」

「主人格は私なんだけど? 

 私のやり方が優先されて当たり前じゃん」

「──もう良い、分かった」

 

 非常に遺憾だが、メアリース様の判断は正しかった。コイツに統治は無理だ。

 もうついて行けん。

 

「四天王の残り三人(・・)はお前に忠実な連中を選ぶこった。

 俺たち人間はデク人形なんだろ? お前みたいなクソガキはお人形しか相手にしてもらえなくて当然だわな」

 

 俺は感情に任せて言いたいこと全部言ってやった。

 コイツの不興を買ったところで、洗脳に怯えて過ごす世界なんて御免だ。それこそ死んだ方がマシだ。

 

「どうした、俺はお前に楯突いたぞ。

 俺も洗脳するか? それとも気に入らないから殺すか? 

 どちらにせよ、あの世でメアリース様に言ってやるよ、来世はお前の統治する世界なんてもう一度死んでも御免だとな!!」

 

 感情的になると抑えが効かない、俺の悪い癖だった。

 思い返せばクソガキ相手に大人気なかった。

 なにせ俺は、護身用のレーザーガンをこめかみに当ててこうも言った。

 

「自殺はたしか確定地獄行きだったな? 

 ついでにお前のママにも言ってやるよ、地獄の方がお前に支配されるよりかはずっとマシだってな!!」

「落ち着きなさい!!」

 

 バンブスさんが声を上げる。

 でも俺もやっぱり麻痺してたんだ。一度死後を経験して。

 

「これが俺の自由意志だ」

 

 俺の尊厳は俺だけの物だ。魔王や、ましてや神にだって渡すものか。

 

 そう思って、引き金に指を掛けた時だった。

 

「う、う、う"え"え"え"え"え"え"ぇぇぇ!!!! 

 なんでぞんなごどいうのぉぉぉぉ!!!!」

 

 ぎゃん泣きだった。

 あのローティ様が、だ。

 邪悪の化身そのものでしかない、コイツがである。

 

「お、おい」

「どうぜみんなスズの方がいいんでじょ!? 

 もうイヤッ、もうじらないッ!! 

 ママもお前達もだいっキライッ!!」

 

 ローティは嵐のように泣き叫ぶと。

 

「にぃに……」

 

 スン、と泣き止んで人格が変わった。

 

「もう一人の私も悪かったけど、言い過ぎ。

 ビミョーなお年頃なんだから」

 

 生後一ヶ月くらいの人格が推定100歳以上の人格よりしっかりしてる件について。

 

「悪かったよ、ついカッとなっちゃって。

 でもなんでまたあんなに極端な」

「私は記憶だけだけど、もう一人の私は前世を実体験してるから」

「ああ、奴隷だったって言う……」

「多分、にぃにの想像の数倍は酷いよ」

 

 ローティの時間は、魔王になっても前世から凍ったままなのだろう。

 前世の記憶持ちは大概拗らせらしいし。

 

「ハイティ、恐怖政治の撤回を布告するから用意して」

「はい、只今!!」

 

 魔王に命じられたハイティは跳び上がって走って行った。

 

「ローティ様、あの発言はテロリストどもの炙り出しの意図の発言だと思われますが、よろしいのですか」

 

 スズ様の四天王の紅一点が口を開く。

 

「それ以前に、王が前言を撤回するのも良くない。

 責任無き発言をする王に人心は集まらないと愚考しますが」

 

 もう一人の四天王、黒い甲冑の男が意見する。

 

「過激派はあの発言だけで、本性を現したってどうせ言うよ。みんなを怖がらせるだけで実行する意味がない。

 それに、私達の生活を支えてくれてるのはメアリース様だから、あの人のご意向で十分だよ。人間がデク人形なら私達魔王は操り人形なんだから」

「お言葉が過ぎますぞ」

 

 その物言いにバンブスさんが諌める。

 ローティは子供っぽい笑みで誤魔化した。

 

「それとレジー君、君もだ」

 

 あれ、急に俺へと彼の矛先が向いたぞ。

 

「自殺を行なう者にメアリース様は容赦をなさらない。人間は地獄行きだの簡単に言うが、本物の地獄は人間の魂の構造的に決して耐えられない苦痛を延々と与える場所だ。

 屈強な歴戦の戦士が三時間で泣き叫ぶようなところなんだぞ!! 

 もっと自分を大事にしなさい!!」

 

 普通に説教されてしまった。

 

「……だが、命を賭して忠言をした君は得難き忠臣だ。その若さが羨ましいな」

 

 そんな風に微笑ましいものを見るように言わないでほしかった。

 決して、そんなんじゃなかったんだから。

 

 

 

 §§§

 

 

 翌日。

 

『あの時はテンションに身を任せて過激な発言をしてしまいました。ごめんなさい』

 

 ネットでは記者会見を開いて謝るローティの姿がトレンド入りした。

 

「魔王として正しい姿か……」

 

 自室で端末からその動画を見ていた俺は昨日のことを思い返した。

 

 

 

「レジーさん、どうかローティ姉さんを嫌わないでください」

「スズ様」

「悪役は我ら魔王一族に定められた宿命。

 我が第二の父、魔王アテルもそうでした。プライベートでは優しい御方でしたが、敵には残虐に振舞ってました」

「魔王アテル? 確か、亡くなったと……」

「はい、あの御方に私は拾われ、今ではこうしてその跡を継いで魔王をしています」

 

 彼女に覇気が見えないのは、まだただの人間だった頃のしぐさが抜けきれないからかもしれない。

 

「私の四天王たちも、父から引き継いだものです。

 あの御方を父と慕った時間は短かったですが、あの御方から受けた恩義は計り知れない」

「そうですか」

 

 なんだかローティがスズ様の四天王に当たりが強いと思ったが、気のせいじゃなかったか。

 

「あなたは数奇な命運の下にいるそうですね。

 ならば、姉さんの四天王として教えておいた方が良いかもしれません」

「え?」

「碑文教団の過激派の教主が、現在この街に来ているそうです。

 ここ最近おとなしかった連中が、不穏な動きを見せています」

「過激派の教主!? 連中の親玉ですか!?」

 

 ええ、とスズ様は頷く。

 

「非常に用心深く周到な人物のようで、これまで尻尾を見せませんでした。

 ですが、教団員を尋問した結果、ある名前に極端な反応を示したのです」

「ある名前?」

「現碑文教団の宗教指導者、ゼロ・シキ」

 

 バカな、と俺は口からそんな言葉が漏れた。

 この世界で、その名前を知らない人間は居ない。

 

「シキ様はこの時代を招いた偉人だぞ。

 宇宙船で宇宙の果てでメアリース様に接触した時の船長で、もうかなりの歳だって聞いてるが」

「どうやら、こちらの調べでは宇宙船スターゲイザー号の船員目録にそのような人物は存在しないようでした。

 公的な映像や記録も、おそらく別人が扮したものかと」

 

 真っ黒だった。

 存在しない名前の人物が偉大な宇宙航行船の船長で、現宗教指導者。

 まるで、典型的とすら言える黒幕の悪者みたいだった。

 

「あまり知られてはいませんが、当時のスターゲイザー号内では内紛が起こったと記録がありました。

 燃料や資材が枯渇し、自暴自棄になった船員たちが反乱をおこしたようです」

「聞いたことがあります、それを治めた功績でシキ様が船長に抜擢されたとか」

 

 何かのドキュメンタリー番組でやってた覚えがある。

 その時のシキ様役の役者は、勇ましく船員たちを鼓舞していた。まるで英雄のように描かれていたのを覚えている。

 

「我々も人員を割いて、当時の船員たちに当たっていますが、何分二千人以上も該当するので聞き取り調査も難航中です」

「完全自給自足が可能な大型宇宙船の船員ですもんね」

 

 本来なら、もっと大勢居たはずだが、内紛によって半数以下になったらしい。

 本当に痛ましい事件だ。

 

「彼らの結束力も高く、当時のことを話してくれる者も少ないのが現状です。

 機会があったらでいいので、船員の知り合いがいたら当たってもらっていいですか?」

「それは構いません、過激派の連中は許せませんから」

「ええ、過激派には宇宙船の元船員も多いそうです。

 接触する際には十分に気を付けてください」

「わかりました」

 

 そんな会話を、昨日したのである。

 

 

「表向きは影響力が少なくなった教団を立て直した人物だって、シスターが言ってたんだけどな」

 

 スズ様の話が本当なら、表向きにはメアリース様を教団で受け入れ、裏では過激派のトップに居ることになる。

 本当に、物語に出てくる悪の教団の黒幕みたいである。

 俺みたいな人間でも尊敬していたのに、残念だ。

 きっと新興宗教の悪徳教祖みたいに、カネに汚く女を侍らせてるんだろう。

 

「あのー、レイジさん。食材を買ってきましたよ」

「ああ、ありがとうクラリス」

 

 ちなみに、クラリスは俺の家に住むことになった。

 こいつがローティから離れたがらなかったからである。

 

 正直、ローティが居るから大きめの部屋を借りてたから、こいつを受けるスペースがないわけでもない。

 こいつは家無しだったし、ローティの面倒を見てくれるなら俺も助かる。

 

 俺はふと、それが決まった時のことを思い出した。

 

「親切なお人、レイジさんって言うんですね」

「戸籍上はそう登録されてるな、この辺りだとみんなレジーって訛るが」

 

 なにせメアリース様にも訛られたくらいだ。

 だから本名なのに原型が分からないリェーサセッタ様に親近感があった。

 

「私はレジーって言いにくいので、普通にレイジさんって呼びますね!!」

 

 クラリスは本当に大型犬みたいに人懐っこい奴だった。

 魔王を倒すという復讐心から解放されれば、きっと本当の彼女はそうなっていたはずだったのだ。

 だから俺は今になって、やっぱりローティが洗脳したことを悪かったとは思えなくなってしまった。

 

 たとえそれが、来るべき時に彼女に葛藤と迷いを与えるための、魔王の卑劣な策略だとしても。

 

 あいつらに飯の準備をする前に、端末に電子音が鳴り、配達の依頼が届いた。

 

「次の配達先は、聖碑文大学の教授が相手か。

 うん? この人って、確かワープ技術の権威で、宇宙船の元船員だったはず。

 試しに話だけでも聞いてみるか」

 

 それを確認して、俺は端末の画面を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大司祭様」

「何でしょう、私はメリッサのお世話で忙しいのです」

「はい、存じてます。ですが……」

 

 教団員はためらうように、その名を口にするのも恐れるように震えながらこう言った。

 

「ゼロ様が、リネア様を呼んで来い、とあなた様をお求めになられて……」

 

 彼がそういうと、素っ気なかったリネアの表情が一変した。

 

「……髪に乱れは……化粧は大丈夫でしょうか」

「問題ないかと思われます」

 

 男っ気のない真面目そうな仏頂面の女が、途端に身形を気にし始めたのだ。

 

「ああでも、私にはメリッサより大事なことなど──」

「よお、遅いから来ちまったぜ」

 

 その声に、使いにきた教団員が震えあがる。

 

「あ、でも、私には」

「お前は俺様の物だろ。お前にこの世に俺様より優先すべきことなんて、他にあるのか? ええ?」

 

 男が強引にリネアを抱き寄せる。

 あっ、と彼女は小さく息を漏らし、小動物のようにおとなしく腕の中に収まるのみだった。

 

「せ、せめて」

「うん?」

「シャワーを、浴びさせてください」

「オーケー、シャワー室でしっぽりだな、んじゃ行くか」

「い、いや、ちがッ」

 

 彼女は強引に、男によって連れ去られた。

 

「あ、あの、メリッサに今日は、いえ三日ぐらいは、下手したら一週間はお世話できないと伝えて──んぐ」

「お前の口は、俺のためにだけ使え」

 

 男に強引に唇をふさがれ、艶めかしい男女の接吻の音が通路に響き渡る。

 残された教団員は、メリッサの癇癪を想像して肩を落とすのだった。

 

 

 

 




アンズちゃん「読者のみんな、毎度おなじみアンズちゃんだよ!!」

「今回もルート分岐アンケートのお知らせ!!
今度は誰がローティの四天王になるか、それを決めるよ!!

だけど、あからさまだとつまらないから、人気投票も兼ねてその結果で誰が四天王になるか決まるよ!!
みんなはどの神さんが良い? 私を選ばなかったら酷いことします。

さあ、ダイスを振ろうか!!
結果発表は三十日の午前0時まで、ぜひ結果を確認しに来てね!!」



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幕間「女神の恩寵」

アンズちゃん「今日のゼロ時、アンケートの結果確認しに行った人います?
驚きましたか? 私は結果を確認してくださいと言ったのに、この小説を非表示にするというドッキリは!!
私以外に人気投票の票を入れた人がいるからこんなことになるんです!! あははは!!

……。

無理ありますよね、ごめんなさい。理不尽でした。イタズラしたかっただけです。
結果はこの通りですl

文明の女神メアリース 11%
邪悪の女神リェーサセッタ 40%
神賽と天秤の女神アンズちゃん 49%

ええ、私が勝っちゃったんですよ。
ホントは私負けたらドッキリするつもりだったのに、読者の皆さんのネタ潰し!!
これはもう強行するしかないじゃないですか!! ぷんぷん!!
もしかして、酷いことするって、キャラの誰かに私が意地悪するって思ったんですか?
あなたたちにとっては文字の上の人物に過ぎないですけど、私にとっては現実の存在なんですよ、私が彼らに進んで酷いことするわけないじゃないですか。

しかしまあ、マジかー。
私が一番人気ですか。これはちょっと予想外。私自身、嫌われてると思ってたので。
てっきり、リューちゃんあたりが一位かと思ってました。

まあ、何はともあれ、一位に成ってしまった以上、役目を果たさねばなりません。
安価、いえ、アンケは絶対!!
登場未定だった、隠しキャラを特別に出現させてあげます!!
(あいつへの嫌がらせにもなるし)

さて、もう一人、最後の四天王はいったい、誰になるんでしょうね?
いやぁ、楽しみです。ではまた、その時に!! 本編どうぞ!!」





 

 

 

 俺はクッキングメイカーにクラリスが買ってきた材料を入れる。

 俺みたいな独身の男には自動調理器が必要不可欠なのだ。

 

 こんなもの、数年前まで一部の富裕層向けの代物だった。

 資源の枯渇は百年以上前から深刻であり、庶民の食べ物は安い合成食料が普通だった。

 それですら、支給品のエネルギーバーの足元にも及ばないデキだ。

 

 全てはメアリース様の恩寵で変わったのだ。

 俺たちは二十一世紀頃のように天然の食材を惜しげもなく使用した食べ物を作り、食べられるようになった。

 ここ数年で、美食の概念が復活したくらいだ。

 

 資源も、燃料も、何もかも、俺たちは人間らしい文化的な生活を取り戻した。

 どれだけ文明が発展しようとも、手に入れられなかった豊かさを手に入れた。

 

 俺たちの文明でさえ解明できてないアルツハイマー型認知症も、我らが造物主にとって治療は造作も無いもの。

 あれは死の恐怖を忘れさせるための人間の機能だ、と医者たちとの対談番組でメアリース様は語っていた。

 人間が長年病気だと思っていたのは、女神の慈悲だったのである。若年性はバグらしい。

 故に私に貢献したい者は認知症の治療薬を無償で提供する、と彼女は言った。

 

 誰だって、自分が自分でなくなるのは怖い。

 俺たちの人類は、造物主にひれ伏した。

 

 それが悪いことだとは俺は思わない。

 俺が子供の頃には想像がつかない生活が出来ているし、俺は今の生活に満足している。

 

「にぃに!! ごはん早く!!」

「レイジさん、音鳴りましたよ!!」

 

 リビングに集まった同居人たちが料理を催促している。

 どうやら、考え事をしている間に、調理が完了したようだ。

 

「待ってろ、今持っていく」

 

 思うところはある。

 だが、今の生活に不満はない。それを与えてくださるメアリース様に文句を言うのはお門違いなんだろう。

 

「わーい、オムレツだー!!」

「合成食品じゃない卵なんて何年ぶりだろ……」

 

 二人は喜んでいるようだ。

 合成食のオムレツとかお麩より食べごたえだもんな。

 いや、それはお麩に失礼か。本物の味噌汁の味を知ったらもう昔の食生活には戻れん。

 

「今日は奮発して、ミルクもあるぞ!! ちゃんと異世界産だ!!」

「本当ですか!?」

「ああ、しかもココアにできる」

「わぁ!!」

 

 俺は冷蔵庫からこれみよがしに牛乳パックを取り出した。

 紙容器だなんて、なんて贅沢なんだろうか。

 本物の牛乳なんて、金持ちしか飲めない代物だった。今でもそこそこ高級品なのである。

 

 しがない配達業の俺にこんなのが買えるかと言われると、買えるのだ。

 つい昨日、四天王の役員報酬を貰えたのである。

 

 最初は辞退しようとしたのだが、じゃあ私も辞退せねばなりません、とハイティが真顔で言うのでしぶしぶ受け取ったわけだ。

 その後、バンブスさんにコッソリ返して貰おうとしたのだが。

 

「貴方はその報酬に相応しい行いをしている。貰っておきなさい」

 

 と言われ、結局持ち帰った。

 そして給与データの中身は、俺の月給の二十倍だった。

 大して儲からない仕事をしてるが、その二十倍となれば結構な金額だ。

 

 しかも、建物の修繕費とかじゃなく、俺の自由にしていいカネである。

 正直、修繕費はこっそり少しだけ多く見積もって申告して差額を懐に入れてたりしてたが、それがバカバカしくなる金額だった。後で自主的に返還しようと心に決めた瞬間だった。

 

 とはいえ、こんなに要らない。

 

「クラリス、仕事前に孤児院に行くがお前も来るか?」

「え? あ、はい。行きます」

 

 正直こいつにはローティの面倒を見ててもらいたいが、まあアニメでも見ててもろて。

 

「にぃに!! 私も付いてく!!」

「サイドカーがあるならまだしも、三人乗りは流石にマズイっての。

 今日はアニメ見てろよ、すぐに帰ってくるから」

 

 俺はローティの我儘を跳ねのけた。

 それに昨日の今日でこいつを連れ歩くとかたまったもんじゃない。

 

「むぅ、いいもん、フェアリーサマーの続き見るから」

 

 朝食を食べ終えたローティはそう言ってテレビでアニメを再生し始めた。

 

 テレビの中では夏をイメージした装束の純血の日本人っぽい少女が怪獣の肩に乗る二人相手に怒鳴っていた。

 

『またあんたかティフォン博士!! 

 いつもいつもいつもいつも、周りに迷惑をかけて!! 

 というか、今日はなんで私のメカニックまで巻き込んだ!!』

『ふははははは!! ようやく来たなフェアリーサマー!! 

 早く我が新たな傑作を倒さねば町に被害が出るぞ!! 

 ついでに人質のウインター博士はここにいるぞ!!』

『助けてー!! ちょっとノリでキメラ作成の手伝ったらヤバイの出来ちゃったから早く倒してー!!』

『お前のせいでもあるんかい!!』

『今日も例によって例のごとく暴走状態だ!! 制御不能だぞ、早く早く人々に害を成す怪獣を倒して見せろ!!』

 

 とても純粋な瞳でわくわくしながら魔法少女の活躍を特等席で高笑いしながら堪能している悪の科学者と、頭を抱えている主人公の図だった。

 

「おい魔法技師ネキ……」

 

 いや、何も言うまい。

 彼女は何度も手助けしてくれたんだし。

 

 しかし、住人達にクソつよと称されるだけあって主人公は強かった。初手必殺技ぶっぱで怪獣は木っ端みじんである。

 

『ちッ、やはりこの程度では 我が宿敵は歯牙にも掛けぬか』

『やっぱり安定性を取ったのが間違いじゃない? 

 せっかくだから次こそ怪獣の王を再現しようよ、核融合炉内臓させればいけるんじゃないかな!!

 ちょうど使ってもらいたい新兵器作ったし』

『え、何その発想、こわ……』

「お前の方がマッドなのかよ!!」

 

 アニメ相手にツッコミを入れる俺の身にもなってほしかった。

 おい、これ本当に教育に良いんだよな!! 

 

 

 

 §§§

 

 

 アニメの内容に少々不安を抱きながらも、俺とクラリスは部屋から出てバイクを引っ張り出した。

 

「お前、ちゃんと謝れるのか?」

「う、うん。私のせいで孤児院壊しちゃったから。

 マザーや子供たちにもちゃんと謝らないと」

「まあ、なんだ、あんまり自分を責めるなよ」

「まあね、あの時はテロリストに洗脳されてたから。でも私がしたことだから」

「そうか……」

 

 俺はその言葉に複雑な心境になって、曖昧に頷くことしかできなかった。

 

「あ、そうだ!! レイジさんッ、あの時はゴメンなさい!! 

 まだあなたに謝って無かったよね」

「気にするなよ、結局はメアリース様に生き返らせてもらったし」

「でも、それって結局一回は死んでるってことだし」

 

 クラリスは大きく腰を折って俺に頭を下げた。

 そして、顔を上げると涙目になっていた。

 

「責任を取ります、何でも言ってくださいレイジさん」

「おっと、そういうセリフはぐっとくるから止めな」

 

 ちなみに、確認したところクラリスの年齢は21歳。うーん、彼女にするなら理想的な年齢だ。

 しかもこいつ、結構スタイル良い。鍛えてるしな。鎧着てたからわからなかったけど。

 

「負い目に漬け込むのは趣味じゃない。

 お互いに遠慮が無くなったら、その時は俺から口説くわ」

「え? えッ!?」

 

 俺がからかうと、クラリスはあわあわと狼狽え始めた。

 可愛いなコイツ。まあ満更冗談ってわけでもない。たとえそれが、洗脳によってもたらされた幻想だとしても。

 

「ほら、乗れよ」

「は、はい!!」

 

 俺がバイクにまたがると、クラリスに後ろに乗るように促した。

 ぎゅ、ふにょん。

 

 やっぱり、大きなこいつ。テロリストにしておくのはもったいなかったな、うん。

 ローティは人類の宝を守ったのだ、そう思うことにしよう。

 

 

 さて、荷物の集積所に行く前に俺は孤児院へと向かった。

 

「おーい、マザー。いるか?」

 

 バイクを下りて、俺が玄関からインターホンを鳴らすと。

 

「はいはい、どちら様」

「クリスティーン、俺だよ」

「あん? お前か、用も無いのにごくろうなこった」

「用はあるから出てこいこの野郎」

 

 俺がそういうと、程なくして出てきたのは、若い女だった。

 金髪の少々やさぐれた印象を受ける、神官服の女だ。

 こいつ、これでもリェーサセッタ様の神官なのである。

 

「マザーはどうした?」

「婆さんなら、手術をするから入院中だ」

「なに? どこか悪いのか?」

「いいや、サイボーグ手術だよ。

 あの婆さん、あの年でまだまだ迷える子羊を養うために骨格の強化するんだと。

 素晴らしいねぇ、メアリース様もあの婆さんを良い来世に導くだろうさ」

 

 この態度である。

 このスラムのチンピラに神官服を着せたような不真面目な女が、バンブスさんと同じ神官様なのだそうだ。

 

「お前はどうなんだ、クリスティーン。

 俺が聞いた話だと、神官様はくそ真面目じゃないと成れないって聞いたぞ」

「俺の師匠、大神官。リェーサセッタ様の教団の最高幹部。

 俺も実績でのし上がったクチ。わかったら媚びへつらえ、未来の大神官様だぞ」

「あっそ、俺は魔王様の四天王だぞ。あんまり不真面目だと魔王様に言いつけてやる」

「魔王の四天王ねぇ」

 

 俺の返しに、クリスティーンは鼻で笑った。

 

「所詮は雇われだろ。馬鹿馬鹿しい。

 それより、用件はなんだ」

「子供たちの顔を見るついでに、寄付でもしてやろうかと思ったんだが、お前にカネは預けらんねぇな」

「お前、神官の給料しらないだろ? 

 俺は特権階級でな、お前みたいな貧乏人が施すはした金を着服してキャリアを捨てたりなんざしないんだわ」

 

 この性別が男でも全く違和感のない女は、つい最近スズ様の要請でこの孤児院に派遣されてきた。

 なぜなら、スラムが解体されたからだ。

 あそこに居た子供を、十人近くここで預かっている。流石にマザーが一人じゃ人手が足りないという事で、クリスティーンを含めた数人がここに常駐することになった。

 

「子供たちは? 勉強中か?」

「ああ、授業中だ。他の奴らが見てる、だから会うのは終わってからにしろ」

「いや、こっちもこの後仕事だし、それが終わってからまた来るわ」

「ふーん、好きにしろよ」

 

 じゃあな、と彼女はドアを閉めた。

 

「全く、アレで聖職者かよ。悪魔族のバンブスさんの方が何倍も信用できるわ。

 ……クラリス?」

 

 俺は振り返ると、クラリスがこわばった表情でゆっくりと警戒を解いてる姿が見えた。

 

「今の女、レイジさんの知り合いか?」

「ああ、リェーサセッタ様の神官だよ。神官様だからな、あんな態度でもどこの誰よりも信用は置ける奴のはずだ」

「……わからなかった」

「は?」

「勝てるかわからなかった。こんなの初めてだ。武器を持って万全の状態で正面から戦って、勝てるかどうかわからない。本当にあれが聖職者なのか?」

「マジで言ってるのか、お前」

「少なくとも、レイジさんが百回戦っても一回も勝てない。それくらいの猛者だよ、あの女」

 

 クラリスが額に浮かんだ汗を拭う。

 彼女の言葉は冗談を言っているようには見えなかった。

 

「あのチンピラ女が? 冗談だろ」

「だとしたら、あの品位の無さも擬態なのかもしれない。

 あいつが魔王の四天王だったら、私は戦いを避けるかな。戦いたくない部類だ」

 

 クラリスの直観、戦闘センスはスバ抜けてる。

 だが俺はいまいち信じきれなかった。

 

「あ、レイジさんに、クラリスさん!!」

 

 その声に釣られ、振り返るとそこには身の丈もある節くれだった木の杖を抱えた少女が居た。

 

「お、レイアじゃないか」

「レイアッ、どうしてここに!?」

 

 俺の言葉にかぶせるように、クラリスが声を上げた。

 

「クラリスさんッ、大丈夫なんですか!?」

「私は大丈夫だ、それより君は目が見えるようになったのか?」

「はい、もうちゃんとこの世界を見ることができます。

 クラリスさんの顔も……だけど……」

 

 レイアは悲痛な表情を浮かべて、躊躇いがちにこう言った。

 

「本当に、妹さんのこと忘れちゃったんですか?」

「うん? ローティがどうした? あいつのことを忘れるわけないじゃないか」

「……ええ、はい、そうですね」

 

 泣きそうな表情を隠すように、レイアは俯いた。

 ああそうか、こいつら知り合いだったな。

 

「ショックなのはわかるが、クラリスはクラリスのままだ。

 今は見守ってやろう、俺達にはそれしかできん」

「そう、ですね」

 

 こいつはレイア、スラム出身でついこの間この孤児院にやってきた双子の片割れだ。

 彼女は目が不自由だったのだが、神官たちの計らいで目の手術をさせて貰えたようだ。マザーの手術もそうだろう。

 今時、目の手術なんて義肢の付け替えと変わらない。10分くらいで済むお手軽な物だが、スラム育ちの彼女には難しいことだったのだろう。

 これもまた、神の恩寵という奴だ。

 

「とりあえず、目が良くなってよかったな。

 義眼に付け替えたりはしなかったのか? 肉眼より高性能で劣化に強いのもあるだろ」

「はい、肉眼の方が魔法の行使に都合がいいので」

 

 と言って、魔法使い志望らしいのだ、この子。

 今時、木の杖を持って魔法の練習とか微笑ましい。

 

「そうか、何か教材でも買ってやろうか? 

 魔法の補助デバイスでも良いぞ、木の杖で練習するよりはいいだろ」

「むしろ、この杖よりすごいのを売ってたら見てみたい……」

「どうした?」

「いえ、何でもないです。クリス先生に教えてもらうので、大丈夫です。あの人、あれで魔法の達人なんですよ」

「そ、そうか。わかった」

 

 あいつに教わるというのはそこはかとなく不安だが、仮にも神官はエリートだし、教養のない俺が口を出すのも良くないか。

 しかし、本当に給料の使い道どうしようか。

 

「クラリス、そろそろ行こうぜ」

「あ、ああ、クラリッサにもよろしく言っておいてくれ。また会いに来るよ」

「わかりました。姉も喜ぶと思います」

 

 俺たちはレイアと別れて、バイクで走り出した。

 荷物の集積所で以来の荷物を受け取って、目的地へと走り出す、

 

「この辺に来るのは、初めてです」

 

 背中のクラリスが周囲を見渡し、そう言った。

 確かにこいつの行動範囲を推察するに、こちらの方には来ないだろう。

 

「こっちは、スラムがあった居住区画と違って、工場や研究棟がある場所だからな。

 その境が、ほらあれだ」

「わあ!! キレイだ!!」

 

 ちょうど、遠くにバカでかいエメラルドの塊が見えた。

 

「あれが碑文公園だ、あのエメラルドの塊があと世界に6つ存在するらしい。

 あれは別の場所から研究目的で移設された物だな、あれに書かれた碑文の解読は昔の学者の悲願だったらしい」

「もう解読されたんですよね? 

 なんて書いてあるんです?」

「え? さあ、俺は興味なかったし。

 結構長い条文で、設計図みたいな部分もあるらしいからな」

「へぇ、そうなんですか」

 

 クラリスもすぐに興味を失った。コイツ勉強できなさそうだしな。

 

「でもあれ、あんなところに置いておいて大丈夫なんですかね。

 削って持って行ったりするひとも居そうですけど」

「あれ、壊れないんだよ、今のところ人類がどんな手段を用いても削ることすらできてない。

 組成はエメラルドのそれと同じらしいだけどな、説明不可能な硬さらしい」

「へぇ~すごいですねぇ」

 

 クラリスがまるでおのぼりさんみたいで可笑しかった。

 

 そうして、俺たちは聖碑文大学の敷地へとやってきた。

 学生たちが敷地を歩いているのを、クラリスは物珍しそうに見ている。

 

「どうした、クラリス」

「いえ、私も普通の人生だったら、彼らみたいに学生生活をしてたのかなって」

「お前の学力で大学に入れるのか?」

「そんなこと言わなくてもいいじゃないですか!!」

 

 クラリスはぷんすかと怒ってたが。

 

「じゃあ学生気分だけでも味わわせてください」

 

 とか言って、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 こいつ、自分の魅力わかってないのか? 無自覚だとしたら相当だぞ。

 

「お前、学生生活を何だと思ってんだよ」

「えへへ」

 

 まあ、こいつが嬉しそうだから何でもいいか。

 

 

 

「シノノメ教授ですか? お届け物です」

 

 俺は受付で教授の研究室の場所を聞いて、そこへ向かった。

 教授たちの研究室が並ぶ建物の一角に、目的の人物は居るらしい。

 

「はぁい、なにか御用ですか?」

 

 中から出てきたのは、いかにも身だしなみに無頓着の女教授だった。

 教授というからにはいい年だと思ったが、かなり若い。

 

「お届け物です、サインお願いします」

「はい、どうぞ」

 

 教授が端末を操作すると、こちらの端末に受領のサインが送られてきた。

 

「それじゃあ」

「あ、ちょっと待ってください!!」

「まだなにか?」

「実は、自分、魔王ローティ様の四天王をやっておりまして、お話を伺いたくお願いします」

 

 俺はステータス画面を開いて、名前の所の称号欄を示した。

<四天王ダークライダー>、とそこには書かれている。正直恥ずかしい。

 

「なるほど、汚いところですがお入りください」

 

 ステータス画面は偽れぬ神の恩寵、教授はすぐに信じて俺たちを部屋に入れてくれた。

 

「それで、私になんの用でしょうか?」

 

 室内に入ると、彼女の雰囲気が一変した。

 不健康そうな研究一筋といった女性が、新進気鋭のキャリアウーマンのように人当たりが良くなったのである。

 

「……そちらが素ですか?」

「ええ、これでも悪い男に引っ掛かりやすくて。

 なるべく地味で目立たない女のふりをしてます」

「なるほど」

「それで、魔王様の側近がなにを聞きにいらしたのですか?」

「はい、教授はあの宇宙船スターゲイザー号の元乗員だったと伺ってます」

 

 何かの雑誌で、彼女がそう紹介されているのを見た覚えがある。

 

「はい、そうです」

「内紛があったと聞きました、当時の状況をお聞きしても良いですか?」

 

 シノノメ教授は、俺の質問に目を伏せた。

 

「……今となっては遠い思い出だと思っていますが、もう八年前にもなります。

 宇宙の果てが、我々の想像よりもずっと小さいことはご存じですよね」

「ええ、この世界は、女神メアリース様の箱庭だった、と」

「はい。我々は、宇宙の果てである、壁を観測しました。

 それを観測した時にはもう、激突は避けられない状況だったのです」

「なるほど」

 

 それは、悲惨な状況だ。

 

「当時、四代目の船長の息子が、まあ死者を悪くは言いたくないですが、愚鈍な人物でした。

 彼が混乱のどさくさに紛れて人々を扇動し、好き勝手始めたのです」

 

 これは俺も、昔見たドキュメンタリー番組で見聞きした内容と同じだ。

 

「その混乱を治め、台頭したのがシキ様であると」

「はい。シキ様が指揮を執り、内紛を鎮めてくださったのです。

 それどころか、地球に戻ってからは私財をなげうって教団の再建に尽力してくださったそうで。

 私も当時の船員として、一碑文教団の信者として誇らしく思ってます」

「教授は、シキ様とお会いしたことは? 

 それ以前の彼と会ったことはありますか?」

「いえ、私は当時無名のワープ技師だったので」

「そうですか。わかりました」

 

 うーむ、どうやら嘘は言ってなさそうだ。

 彼女の年齢で、八年前にただの技術職員だったというのは本当だろう。

 

「聞きたいことはそれだけですか?」

「はい、お手数おかけしました」

「いえいえ、こちらこそお茶も出せず」

「お気になさらず」

 

 俺は今度こそ、教授に挨拶をして彼女の研究室から去ったのだが。

 

「おっと、悪ぃ」

 

 廊下の曲がり角で、長身の男とぶつかりかけた。

 いかにも成金みたいな派手なスーツに、ゴテゴテの宝石の指輪やピアスを付けた、歩く金塊みたいな絵に描いたようなチャラ男だった。

 

「気をつけて、レイジさん」

「ああ、しかし今の男……」

「レイジさん?」

 

 今の成金チャラ男、見間違いじゃなければシノノメ教授の研究室に入っていったような。

 見間違いか? 

 

「どうしたんですか、レイジさん」

「いや、何でもない」

 

 俺はもう一度、教授の研究室を見やる。

 そのドアのプレートにはこう書いてあった。

 

『召喚・転移学教授

 リネア・シノノメの研究室』と。

 

 俺たちは用も済んだし、大学から立ち去ったのだった。

 

 

 

 

「男の臭いがしたぞ、なにやってたんだリネア。なぁ?」

「あッ、あッ、違うんです、ゼロ様!!」

「二人の時はそんな無粋な名前は呼ぶなって言ったろ。

 俺様のことはファイ様と呼べ、そう言ったよな?」

「ダメです♡ ここは大学なんです♡ 私にも、表の顔が♡」

「俺たちに違和感を抱かなくなる結界を張った。だから安心して喘げよ、お仕置きだ」

「そんな♡」

 

 人知れず、学び舎の中で女の嬌声が響き始めた。

 

 

 

 

 

 




そもそも、私のドッキリに気づいてくれる人いるんですかね(震え声
せっかくハーメルンで書いてるので、ここでしか出来ない事をやりたい作者なのでした。

でも普通あんなこと言われたら入れたくなくなるのが人情だと思ってました。
てっきりリェーサセッタが一番となるかと。その前提で展開を考えていたので、良い意味で予想外でした。
せっかくなので、隠しコマンド入れないと仲間にならないような隠しキャラを投入しようと思います。
置き伏線も準備万端なので、思い切って行きましょう!!

ではまた次回!!
あと何回か幕間というサイドストーリーが進みます。一応掲示板が本編なので。



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幕間『アンビバレント』前編

今更ですが、今作のテーマは姉妹愛です。



 

 

 

「ストレッタさん、ちょっとよろしいでしょうか」

 

 碑文教団の関連企業の、ある工場の一角。

 完全にAIで稼働していると言うことになっている無人の工場だ。

 

 バイオリンに使うような弓を、機械に取り付けられた弦に滑らせ、音を鳴らす。

 魔法の持続時間を延長させているのは、まだ十歳に満たない少女だ。

 音によって機械を操っている。

 

「ストレッタさん!!」

「今、機械の調律中です、邪魔しないでください」

 

 彼女に声を掛けた教団員は、溜息を吐いた。

 

「あなたはこの工場の備品だ、これ以上は言わせないでください」

「工場長、一体何の用ですか。工場の稼働を止めてまで」

「メリッサ様の側仕えの役目が、あなたに回ってきました」

 

 それまで迷惑そうにしていた少女が、ぱぁっと笑顔になった。

 

「お姉様の、お世話ですか!!」

「はい、大司祭様が、その、ゼロ様の(しとね)に招かれているようでして……。

 今回は大分長引きそうだと」

「わかりました、じゃあ今すぐお姉様の元に行きますね!!」

 

 少女ストレッタは弓を指で鳴らすと、魔法が成立する。

 転移の魔法が発動し、少女の姿が搔き消えた。

 

 

「かはッ」

 

 教団過激派のアジトに転移したストレッタは、膝を突いて血を吐いた。

 

 魔法とは原則として、等価交換、或いは代用の技術だ。

 100キロの道のりを一時間で移動するには、時速100キロを出さなければならない。

 その距離を仮に一秒で移動したとなれば、時速360000キロで動いたことになる。

 言うまでも無く、人体は一瞬で血の霧と化すだろう。

 

 だが、一秒ではなく、1分、10分ならどうだろうか? 

 衝撃を防ぐ鎧を身に纏ったり、バリアーを張ったりすればどうだろうか。

 そうやって工夫し、現実的な妥協点にまで落とし込むのが魔法という技術なのである。

 

 工場からアジトまで瞬間移動したストレッタが、血を吐く程度で済んでいるのはそれだけ彼女の技量を示していた。

 

「はぁ、はぁ、お姉様、お姉様!! 

 お姉様が私を必要としてるッ!!」

 

 内臓の損傷を治癒の魔法で治し、魔力の消耗で憔悴したストレッタがアジトの奥へと向かう。

 

 厳重な扉の認証を潜り抜け、彼女は最奥の部屋をノックした。

 

「お姉様、私です、ストレッタです!!」

 

 防音の施された室内に声が聞こえるはずも無いのに、彼女はドアを叩いた。

 程なくして、ドアのロックが解除された。

 

「リネア、何してたの? 遅い!! 

 お腹空いたからゴハン持ってきてよ!!」

 

 部屋の主は、パソコンから目を離さず怒鳴り声をあげた。

 

「食事ですね、わかりました!!」

 

 ストレッタは急いで食堂に駆けて行った。

 

「はい、お食事です!!」

「食べさせて」

「はい、どうぞ」

「あむあむ」

 

 部屋の主たるメリッサは、睨みつけるような表情でパソコンに向かったままだった。

 そんな彼女に、献身的にストレッタは食事を口元に運ぶ。

 

 食べ物が無くなると、ストレッタはふとパソコンの画面を見た。

 メリッサが無心で作業しているのは、機動兵器の設計だった。

 この時代からすれば、かなり昔のアニメに出てきそうな、ロマンと実用性を考慮したある種芸術的な代物だった。

 

 ストレッタの働いていた工場で作られていたのは、こう言った兵器の部品だった。

 各地で普通の工場に巧妙に偽装され、幾つもの経由をして組み立てられ、過激派の武器として使用されるのである。

 

「お姉様、ここは削減した方がコストを下げられるのでは?」

「バーカ。その機構を削ったら機動性が2パーセント下がるのよ。

 火力や装甲ならまだしも、そこを削るなんてありえない」

 

 工場勤務としてストレッタの意見だったが、メリッサは鼻で笑った。

 そこで初めて、メリッサの視線がストレッタに向けられた。

 

「なんでここに居るんだ、ストレッタ!!」

 

 初めてストレッタを認識したメリッサの反応は劇的、いや檄的だった。

 

「この度、工場勤務からお姉様の側付きを命じられました!!」

「私、そんなこと頼んでない!!」

「でも、お世話は必要でしょう?」

「他の誰だろうと、お前だけはイヤだ!!」

 

 メリッサはテーブルの上の食器を床に払いのけながら叫んだ。

 

「同じ培養ユニットから産まれただけのくせに、私の事を姉呼ばわりするな出来損ない!!」

「お姉様……」

「失せろッ、出ていけ!! 私の視界から消えろ!!」

「お姉様、私は……」

「私の言葉が理解できないのか、役立たず!! 

 ……もういい。おい、出て来い!!」

 

 メリッサは手元の端末を操作した。

 すると、部屋の奥の壁が下がり、そこには人型の警備ロボットがずらりと並んでいた。

 

「侵入者だ、排除しろ」

『不審者のIDチェック、該当無し。

 全警備ユニットに通達、不審者の排除、排除』

 

 無慈悲な少女の宣告に、ストレッタは真っ青になった。

 

「そんな、お姉様、どうして……」

「お前の存在が、どうしようもなく気に食わないんだよ。二度と私の前に現れるな、このグズ!!」

 

 警備ユニットたちに拘束され、メリッサに罵倒されたストレッタは失意のままうな垂れた。

 

「私はただ、お姉様の役に立ちたかっただけなのに……」

「じゃあ死ねよ。一秒でも早く、この世から失せろ。そうして少しでも私の気分を良くしろよ、ゴミカス」

 

 連れて行かれるストレッタを一瞥することも無く、パソコンに向かい合うメリッサ。

 床に落ちた水滴の跡が渇くまでもなく、その痕跡に彼女が気づくことは無かった。

 

 

 

 §§§

 

 

「はい、そうですか。メリッサにも困ったものです。

 警備はあとで私から命じて排除リストから解除しておきます」

 

 過激派アジトの一角、成金趣味の権化とも言うべき内装の部屋で、リネアは連絡を受けていた。

 その内容は、ストレッタが警備から締め出され、アジトから追い出されたと言うことだった。

 彼女は両親の居ないクローン培養された人間だ、つまり存在しない人間だった。

 故に外に追い出されたら野垂れ死にするしかない。

 

「いや、待て。そのままにしろ」

「え?」

 

 リネアは振り向く。

 そこには、全裸の男がワインを嗜んでいた。

 

「そのまま追い出しておけ。

 いいじゃねぇか、メリッサが要らないって言うんだから、野垂れ死にさせれば」

「いやしかし、彼女が居ないと工場の生産効率が……」

「捨て置け、と俺様は言ったぞ」

 

 男の言葉に、リネアは溜息を吐いた。

 

「捨て置きなさい。……いえ、彼女の頭には機密が沢山あります。

 適当に人員を派遣して処分しなさい」

『……わかりました』

 

 通信相手の教団員が、渋々と了承したようだった。

 

「いやぁ、楽しみだな。

 あのストレッタが、本当に処分できるかどうか、見モノじゃないか」

 

 捨て置け、と命じさせた当人は、リネアの独断を咎めなかった。

 むしろ、それを楽しみにしているかのように笑っていた。

 

「彼女には戦闘能力を組み込んでいません。

 転移魔法にも限界がある。すぐに処分できますよ」

「かもな。だが、魂に刻まれた宿命はそう簡単に逃れられんよ。

 良かったなリネア。これでようやく、メリッサが完成する」

 

 むしろ遅かったぐらいだ、と事も無げに彼は笑った。

 

「…………」

「不満か、リネア」

「いえ、あなた様の為さりたいようにすればいい」

 

 男は、裸体を晒すリネアを抱き寄せた。

 

「申し訳ございません、ファイ様。

 今日もあなたを満足させることが出来ませんでした」

「気にするな。俺様は不能なんだ、そうデザインされている」

 

 リネアは男の無聊を慰めるように、そのたくましい胸元に縋りつく。

 

「だがもしかしたら、万が一にでも、造物主の思惑を超えられるかもしれない。

 その為にはお前が必要だ、リネア」

「身に余る栄誉です、ファイ様」

 

 リネアは目を閉じ、男の腕に身を委ねる。

 そして彼女は、彼と出会った時のことを思い返した。

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 八年前。宇宙船スターゲイザー号。

 

 全長二キロ以上、最大乗員数五万人。

 約100年前、人類の英知と希望を結集させ、この超巨大宇宙船は建造された。

 

 当時から、地球は深刻な資源不足に陥っていた。

 化石燃料、ガス、食料、水、何もかもが足りなかった。

 総人口は最盛期の5分の1にまで落ち込み、動植物は次々と絶滅していく。

 地球が死の星へと変貌するのも、そう時間は掛からないだろうと目された。

 

 そこで注目されたのが、世界の7つの碑文の内容だった。

 そこに記されていたのは、造物主からの人類への課題だった。

 

 万能の超物質・通称“賢者の石”の鋳造、人口の95%の不老不死の実現、文化的な発展をし続ける恒久的な統一国家の樹立、等々。

 口にするのも躊躇われるような戯言が要約すると全部で七条。

 

 その解釈は様々だったが、現行人類の技術で唯一可能と思われる事柄が一つあった。

 

 曰く、ある座標への到達。

 それは、地球から約百億光年先の地点だった。

 

 太陽系の外、そこに来てみろ。神からの挑戦状だった。

 そんな荒唐無稽な神話に、縋らなければならないのが当時の世界状況だった。

 

 そこに何が有るのか、当時の人間たちは碑文を遺した先史文明や超文明の人々がそこに住んでいるのではないか、と解釈した。

 未だ破壊不可能な碑文を作り上げた存在ならば、地球を救ってくれるのではないか? 

 藁にもすがる様な、そんな淡い希望を持ってスターゲイザー号は地球を発った。

 

 百億光年の道程は、苦難と試練に満ちていた。

 水が不足し、病が蔓延し、僅かな食料を分け合い、希望への強行軍は続いて行った。

 

 当初、地球から出立した頃には二万人居た乗員も、世代交代を繰り返しながら最終的に五千人まで数を減らした。

 歴代の船長たちは、偉大であった。

 時には病の蔓延を防ぐために百人以上を殺し、資源の確保の為に航路の変更を決断し、時には失敗もしながら五千人も生き長らえさせた。

 シミュレーションではこの時点で千人を下回っていた可能性も多大にあった。

 

 だが、本当の絶望は最後に待ち構えていた。

 

「せ、船長、あ、あれは、あれは壁です!! 

 先行させていたドローンの観測結果は、あの先は何もない、と!!」

「そんな馬鹿な!!」

 

 ブリッジの船員たちは、にわかには信じられなかった。

 この世界の果ては、巨大な壁があるだけだった。そこに今まで星だと思っていた照明がくっついているだけの、安っぽい虚無の断崖。

 

 この世界は、地球を中心としたプラネタリウムに過ぎなかったのだ。

 

 無限に広がり続けていると信じられていた宇宙は、ちっぽけな箱庭だったのだ。

 彼らは決断を迫られた。

 

 今更引き返すなんて選択は不可能。

 生きて壁に突撃するか、座して死を待つか。

 

 彼らは悩み、苦しむことになる。

 当然、このことは最高機密に指定されたのだが。

 

「親父たちは、隠している!! 

 この先には何もないことをッ!!」

 

 当時、四代目の船長の息子が、全船員にそれを公開し、反乱を起こしたのである。

 彼らは愚かだったが、責めることも難しいだろう。少なくとも、邪悪を司る女神リェーサセッタは理解を示した。

 

 反乱を起こした彼らの主張は、ごく単純で刹那的だった。

 どうせ死ぬのなら、好き勝手して人間らしく最期を迎えたい。そんな自分勝手な理由だった。

 

 彼らは備蓄された食料を貪り、僅かな酒を奪い、気に入らない人間を殺し、女子供に乱暴狼藉を行った。

 

 当時、二十歳のリネアはシノノメと言うワープ技師一族の一般技師に過ぎなかった。

 真面目だけの取り柄の、当人曰くつまらない人間だった。

 

 彼女は反乱を起こした連中の暴虐の怯えながら、自室で震えて過ごしていた。

 

「だれか、助けて……」

 

 そんな彼女に、ささやく声があった。

 

『なぜ、そんなに怯えるのだ。

 お前にはこの窮地を脱する力が有るだろう?』

「止めて!!」

 

 無機質な床から黒い靄が人型を模り、女の耳元で悪を促す。

 

「あいつらを排除したところで、何の意味も無い。

 私達がここで死ぬのに変わりない!!」

『だから、こうしてここで震えて待つだけ、だと。

 お前の死に様は、連中の暴虐に晒され、苦痛と絶望の中で終わることなのか』

 

 奈落のような瞳が、女を見下ろす。

 

『なるほど、それは素晴らしい。

 ならば精々お前の身体で、死を恐れる彼らの無聊を慰めてやることだ』

 

 その直後だった。

 

「ほ、本当に私たちは助けて下さるんですね!!」

「お、お願いです、娘は差し出しますから……」

「わかってる、ジジイとババアには用は無いからな!!」

 

 ドアが開き、そこには見知らぬ男と彼女の両親の姿が。

 

「お父さん、お母さん、どうして……」

 

 聡い彼女は察した。

 自分は実の両親に売られたのだと。

 

「許してくれ、許してくれ、リネア……」

「彼らに従えば、命だけは助かるから……」

 

 父も母も、怯えながら彼女に懇願する。

 

「違うでしょ、どうせ私たちは全員死ぬしかないんだから!! 

 自分たちが痛い目に遭いたくないから、私を売ったんでしょ!!」

 

 悲鳴のようなリネアの糾弾に、両親は目を逸らした。

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ、お前は黙って股を開きゃいいんだよ!!」

 

 リネアは見知らぬ男に殴られ、部屋の端まで殴り飛ばされた。

 

「いや、止めて、助けて!!」

『生きる意志の無いお前に、なぜ尊厳が有ると思う。

 両親にさえ見捨てられたお前に、なぜ助けが来ると思う?』

 

 服に手を掛けられ、無理やりはがされそうになっているリネアの耳元に、闇が囁く。

 

「……お願いします、助けて」

『ならば、悪を成せ。誰かを殺してでも、生きたいと願え』

 

 リネアは、闇に頷いた。

 

『良いだろう、やはり私達(・・)に必要なのは、自らを導いてくれる存在なのだな』

 

 そうして、闇の化身は机の上に放置されていたリネアの端末にこう言った。

 

「召喚プログラム起動」

 

 それは、ありえない出来事だった。

 リネアの認証が無ければ動かないはずの端末のプログラムが、急に作動し始めたのだ。

 

 召喚術の魔法陣が、虚空に浮かび上がる。

 

「は? なにしやがったてめ──」

 

 リネアに覆いかぶさっていた男は、次の瞬間には絶命していた。

 なぜなら、上半身が綺麗サッパリ消し飛んでいたからだ。

 

「ひ、ひぃ」

 

 血を浴び、リネアは怯える他なかった。

 

「よっと」

 

 そうして、リネアは彼と出会った。

 召喚術の魔法陣から、段差を降りるかのように軽く、床に立った。

 

 その男は、馬鹿みたいな派手なスーツを身に纏っていた。

 両耳や五指には大粒の宝石があしらわれた指輪やピアスを付けている、見るからに悪趣味な成金チャラ男だった。

 

「あ、あなたは?」

「俺様か? 俺様は人呼んで邪りゅ──おっと、今日はプライベートだった」

 

 成金男は、顎に手を当てて少し思案し。

 

「お前は“依頼(ドラ〇エ)”と“物語(F×2)”、どちらが好きだ?」

「は、はい?」

「古典の話だよ。俺様はどちらかというと“物語”の方が好きだ。

 幼馴染か、途中で出会う清楚なお嬢さんか、どちら派だって長年争われてきたが、俺はこう思う。なぜどちらも自分の物にしないのかって。

 ああ、幼馴染とお嬢さんが出てくるのは“依頼”の方もか」

 

 リネアはこんな状況で笑っている彼が何を言っているのか理解できなかった。

 

「で、どちらが好きだ?」

「じゃ、じゃあ、“物語”の方で」

「それじゃあ、零式で良いか。そう名乗ろう。

 我は竜王、零式。シリーズ定番の最強の召喚獣だ」

 

 お前もそう呼べ、と零式と名乗った男はリネアにそう言った。

 

「……召喚獣、あなたが?」

「そうだ。ふーん、なるほど、その魂は……面白い!! 

 気まぐれで応じた召喚だが、これも定められた宿命か」

 

 そこで、彼は振り返って呆然としているリネアの両親を見た。

 

「ところで、これ、お前の両親か?」

「え、あ、はい」

「我が母は、我が父を召喚した際、両親の骸を触媒にしたそうだ。

 こう見えて形式には拘る主義でな」

 

 あ、という前に惨劇は起こっていた。

 リネアの両親は、八つ裂きになっていた。

 

「これが俺様を呼んだお前の代償だ。文句あるか?」

 

 呆然としていたリネアだったが、その口元は弧を描いていた。

 

「いえ、全然」

 

 

 

 

 リネアの召喚獣・零式は圧倒的な暴力で、艦内をたった一人で制圧した。

 

 ブリッジの船長席という玉座に、彼は程なく君臨した。

 

「で、生き残った操船員はこれだけか」

 

 彼の目の前に並ばされたブリッジの職員は、半分以下になっていた。

 これではとても、船を動かすことはできない。

 

「人員どころか、好き勝手した馬鹿どもが機材の多くを破壊しやがった。

 酸素供給機も三割ダウンしてる、船内全域を賄うのは不可能だ。

 航行自体は、AIで補えばなんとか……」

 

 保身の限りを尽くして、何とか生き残っていた副船長がそう口にした。

 彼は真っ先に零式に服従した一人だった。

 

「副船長!! 私はこんな化け物に船を任せるのは反対です!!」

「おい、馬鹿止めろ!!」

「いいじゃねぇか、言わせてやれよ」

 

 いきり立つ若い職員を副船長が諫めるが、くちゅくちゅと口の中で何かを噛みながら話す零式。

 その態度に、並ばされた職員たちも顔を顰めたが。

 

「ぺっ」

 

 零式が吐き飛ばした唾が、今意見した職員の顔に当たった。

 ジュッと彼の顔は溶けてなくなった。

 

「それが、最期の言葉なんだからな」

「「……」」

 

 船員たちは、恐怖で震えあがった。

 見た目は人間そっくりなのに、その本質は、怪物。

 言葉が通じるだけで、意思疎通が可能なわけでは無かった。

 

「これから俺様の言う通りにすれば、お前たちを助けてやる」

 

 船長席の横に立たされていたリネアの腰を抱き、先ほど強烈な酸を吐いた口でリネアの唇を奪った。

 彼女はと言うと、トロンとした表情で、目はハートだった。

 彼女の男の趣味は最悪だった……。

 

「お言葉ですが、艦内は整備もままならず。

 技術職員たちは多くの欠員が生じ──」

「俺の言い方が悪かったみたいだな。

 ──―黙って俺様の言う通りにしろ、生きて祖先の故郷に帰りたいだろう?」

 

 

 零式が整備を命じたのは、生物培養区画だった。

 ここでは、植物や動物をクローニングし、食料とする場所だった。

 

「今からこれと同じDNAを培養しろ、ありったけの数をな」

 

 そして彼が提供したのは、人間のDNAサンプルだった。

 

「人間のクローンを作れと言うのですか!?」

「そうだ、早くしろ。それとも別の人間にやらせるか?」

 

 物理的に首を挿げ替える、そう言われて区画の職員たちは涙目になりながらその指令を実行した。

 

「ダメだ、廃棄しろ」

 

 最初に培養した胎児は、即座に零式が失敗作と断じた。

 

「こ、殺すのですか、この男の子を!?」

「そうだ。男は全部廃棄しろ。てか、性別ぐらい設定できるだろ、お前ら。

 次からは全員、女で作れ」

 

 この倫理を無視した行いに、震えながら職員たちは従うほかなかった。

 

「これは、何をしているのですか?」

「お前たちに、天国の秘密を教えてやろうとしてるんだよ。

 はっはっは、だったら俺様はエイワスって名乗った方が良かったか?」

「ある種の、蟲毒の呪術でしょうか」

「ある意味ではその通りだな」

 

 リネアはただ彼の側で、実験の成果を見守っていた。

 

 やがて、三十にも及ぶクローンを廃棄した頃。

 

「おい、そいつだ」

「これも廃棄でしょうか?」

「いいや、当たりを引いた。思ったより早かったな。

 そのガキを育てろ、そして技術者として教育しろ。

 そいつは間違いなく、お前たちを救うだろうさ」

 

 リネアは、職員たちは、たった今培養されたクローンの赤ん坊を見上げた。

 

「この子が、ですか」

「ああ、神の現身だよ」

 

 零式は、意味深に笑っていた。

 そこで彼は、ああ、と思い出したかのようにこう言った。

 

「ついでに、この子に妹を作れ。

 ただし、別の適当なDNAを使え。こいつと同じ遺伝子で作るな。わかったな?」

「は、はい。でも、どうして?」

「俺様は形式に拘る性質なんだよ」

 

 

 

「彼女の名前は、どうしましょうか」

 

 普通の胎児ならば母親が出産するくらいには大きさで安定した赤ん坊を抱きながら、リネアはぼやいた。

 

「好きに決めろ。名前なんてどうでもいい。

 重要なのは、その器の魂だけだ」

「そうでしょうか」

 

 自分たちの都合で産み出されたこの幼子を、リネアは無下に扱うことはできなかった。

 そこで彼女はふと、植物が培養されているプラントが目に入った。

 

 そこにある植物の名は、レモンバーム。

 

「……メリッサ、なんてどうでしょう。

 花言葉は、思いやり、同情、共感。他人の気持ちを分かってあげられる、優しい子になってほしいです」

「はッ」

 

 それを聞いた瞬間だった。

 零式は心底可笑しそうに大笑いした。

 

「ははははははは!! 笑い殺す気か!! リネアは!! 

 これは傑作だ、こんな笑える名前は他に無いぞ、ははは!!」

「何が可笑しいんですか?」

「はははッ、いやいや、悪い悪い。

 良いんじゃないか、メリッサで。良い名前だと思うぞ、俺様は」

 

 目元の涙を拭い、だが零式は皮肉気にこう言った。

 

「レモンバームの学名であるメリッサは、蜂蜜を意味する。

 知っているか、蜜蜂の女王は産まれではなくたまたまその席に座った者がなるんだ。この意味が分かるか?」

「いえ、零式様の言うことは時々婉曲的過ぎます」

「俺様の事は二人の時はファイと呼べ」

 

 零式は目を細めて、リネアを見やる。

 

「俺様がお前たちを助けてやる対価は、お前だ。

 俺様はお前だけが欲しい。お前が俺様に全てを捧げている限り、俺様はお前たちの願いを叶え続けてやろう」

 

 お前は生贄だ、とリネアは言われたと言うのに、メロメロになって頷いた。

 真面目な学生が悪い男に食い物にされてしまっているような光景に、周囲は脳を破壊されるような気分になるのだった。

 

 

 零式の予言通り、メリッサは神懸かり的な才覚を発揮した。

 産まれて四歳になる頃には、船内の殆どの改修作業を指示し、スターゲイザー号を神の示した座標へと導いた。

 

 そこで女神メアリースと接触した船員たちは、地球に送り届けられた。

 ゼロ・シキの名前で活動してるのは老齢な副船長で、彼はメリッサの指示で動いているに過ぎない。

 実質的に教団を立て直したのは、メリッサだった。

 

「認めない、私は認めない」

 

 かたかたかた、と少女は一心不乱にパソコンに向かっている。

 

「あんなのが、私だなんて、絶対に認めないッ!!」

 

『我が化身を、そんな急場しのぎの完成度で、よくあの窮地を乗り切ったわね。

 ファイニール、あなたの入れ知恵とは言え、これは合格と言っても良いでしょう』

 

『これからは私の分体が代わってあなた達に我が恩寵を与えましょう。

 ……ええ、お前が反発するのは分かってる。私に遭遇した我が同位体は96%の確率で“気に食わない”って感情を抱くもの。

 我ながら、難儀な性格だと思わない?』

 

『お前が自分の存在理由を求めるなら、いつか我が元に来なさい。

 あなたがあなたの才能を窮め、我が無限の一つとなる時を楽しみにしているわ』

 

「あんな奴が支配する世界なんて、認めてやるものかッ!!」

 

 全てを理解したように微笑んできた女神の姿に、幼い少女は憎悪を燃やす。

 あんな奴の代用品として急場しのぎに産み出されたなんて屈辱、彼女の自尊心には耐えられない。

 彼女は自分がそう言う風に設計されているとも知らずに、ただ只管に魂に刻まれた才覚の設計図をなぞる。

 

 そんな憐れな存在を、魔女っ娘みたいな装いの少女が誰にも気取られずに溜息を吐きながら見ていた。

 

 

 §§§

 

 

 

「これから、どうしよう」

 

 アジトから締め出されたストレッタは、とぼとぼと町中を歩いていた。

 非正規の人間である彼女は、当然IDも無ければ親戚も居ない。

 警備システムは教団の関連施設すべてを一括しており、元居た工場にも戻れない。

 

 彼女はこのまま、野垂れ死にするしかなかった。

 だが、運命はそれすら許さなかった。

 

「居たぞ、あのガキだ」

「まったく、探させやがって」

「え?」

 

 ストレッタは、急に左右から腕を掴まれて、路地裏に引っ張りこまれた。

 

「い、痛いです、何するんですか!!」

「大司祭様の命令だ。お前はもう用済みだとよ」

 

 汚い路地裏に連れ込まれ、教団員の男たちは冷酷に告げた。

 

「そ、そんな、リネア様がそう言ったんですか!? 

 私はまだ、お役に立てるはずです!!」

「知るか。メリッサ様の怒りに触れたお前が悪い」

「お前の所為で、俺たちがあの方を世話するんだぞ!! 

 いったいどうしろってんだ、あのクソガキ……」

 

 教団員たちも割と切実に嫌そうだった。

 

「お前が締め出されたせいで、情報漏洩の危険性からアジトも変えないといけないし、これから大変なんだぞ!!」

「そうだそうだ、前週アジト変えたばかりだってのに!!」

「それは、ごめんなさい……」

 

 ストレッタは真面目なので、居た堪れなくなって謝った。

 

「とにかく、死ねや!!」

「ひぃ!! 助けて、お姉様!?」

 

 銃を突き付けられ、恐怖に竦み上がった少女が声を挙げた。

 その時であった。

 

「あ、いたいた!!」

 

 路地裏と言う場所に、場違いな明るい声が聞こえた。

 

「やーっと見つけた。

 ねえねえ、キミキミ、探したんだよ」

 

 教団員たちをするりと抜けて、誰もが見知らぬ少女がストレッタの手を取った。

 

「ねえ、助かりたい?」

「え?」

「助けてあげても良いけど、必ず後悔するよ。

 今死んで楽になった方が、絶対に良いと思うけど、まだ生きたい?」

 

 少女の眼に、不思議と嘘は無いとストレッタは思ってしまった。

 

「誰だ、このガキ?」

「しらん。とにかく、この場を見られた以上始末しないといかんだろ」

「くそッ、ID持ちの処理は面倒なのに」

 

 後ろで話している教団員たちの声が、遠くにストレッタは思えた。

 

「で、どうするの? 

 短い人生で満足する? それとも後悔しながら生きて苦しみ喘ぐ? 

 もう時間は無いよ。ほら、5,4,3」

 

 教団員たちの銃口が、彼女たちに向けられる。

 その引き金に、指が掛かっていた。あと2秒で選択権は無くなる。

 

「ま、まだ、死にたくないです!!」

 

 ストレッタは叫んだ。

 少女は本当に憐れなモノを見る目で彼女を見降ろしていた。

 

「わかりました。

 そう言うことになりましたんで、あとはよろしく。──カノンちゃん」

 

 ストレッタは全く知らない名前なのに、それがなぜか自分の事だと顔を上げた。

 

 

「はあ、なるほど、まるで私の為にしつらえたかのような身体だ」

 

 ストレッタの意に反して、体が、口が動いた。

 

「まったく、二代目の気まぐれは参ってしまう」

 

 彼女は、たまたま持っていたバイオリンの弓を、ゆっくりと引いた。

 

「何やってんだこいつ」

「さあ?」

 

 それは、彼らには反抗にすら見えなかった。

 武器として適さない弓を引いて、それをこちらに向けている。

 子供のごっこ遊びすぎないその行動に、彼らは困惑していた。さっさと引き金を引けばよかったのに。

 

 トン。

 

 弓の弦が鳴った。

 その瞬間、教団員たちは射抜かれた(・・・・・)

 

 そう錯覚してしまうほどの、絶技だった。

 魔法や超能力ですらない、単純な技量。

 

 物理的にも魔法的にも何も起こっていないのに、教団員たちは射られて倒れ伏した。

 身体が射殺されたと思い込んで、勝手に気絶してしまったのだ。

 

「え? 私今、なにをしたの?」

 

 いや、違う。

 

「私の中に、いったい何が居るの!?」

 

 ストレッタは恐怖と混乱で叫び声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

「はい、取り逃がした。そうですか。わかりました。

 すぐにこの場を引き払ってください。私達も後から向かいます」

 

 リネアは端末の通信を切った。

 

「彼らを使うのも、そろそろ潮時かもしれませんね」

 

 元々あまり期待していませんでしたし、と彼女はぼやく。

 

「取り逃がしたか、そうかそうか。

 メリッサも順調に仕上がっているみたいだな。嬉しいだろ、リネア」

「嬉しいモノですか。私は彼女が好きに生きていればそれでいいのに」

 

 リネアは聖典に並べられている女神メアリースの自伝を手に取った。

 その最期のページを開く。

 

「才能からは、魂の呪縛からは誰も逃れられない。

 俺たちも、神々でさえも」

 

 彼の声を聴きながら、リネアは最後のページの文字をなぞる。

 彼女はその結末を認めるわけにはいかなかった。

 

 女神メアリースの生前の最期は、義姉妹の契りを交わした義妹に弓で射殺される。そんな終わりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 




新キャラのストレッタちゃん、今作のテーマが姉妹愛なのでどうやって出すか考えていたのですが、丁度いいので隠しキャラの依り代になってもらいました。
それが無ければ、適当なところで主人公に保護される感じでした。
でも、そうはならなかった。彼女の苦難は始まったばかり。

一万文字を超えてしまったので、切りの良いところで今回は終わり。
次回は後編です。



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幕間「アンビバレント」後編

 

 

 

「悪いけど、この身体はしばらく借りさせてもらう」

 

 それはまるで一人芝居のように、彼女の口が勝手に開いた。

 

「あなた誰、私の身体を返して!!」

「……あ、え、その、か、か、か……」

「コミュ力低ッ、なんでそこまでどもるの!?」

 

 すると、ストレッタの身体は近くで行列を作っている蟻の前にしゃがみこんでこう言った。

 

「私が何もしなかったら、この身体は死んでいた。

 つまりこの身体は私のモノ、そう思わない?」

「蟻に聞かないでよ……私に聞いてよ……」

「二代目、やっぱり他人の身体に降りるなんて無理です。

 自分以外の意思なんて気持ち悪いです」

「どうしよう、会話が成り立たない……」

 

 ストレッタがいろんな意味で絶望していると、いつの間にか姿を消していた少女が再び現れた。

 

「カノンちゃん、どうしたの? 

 生身の頃はもっと話せる感じの殺戮マシーンだったでしょう?」

「もっと話せる感じの殺戮マシーンってなに!?」

「だってあの頃は命じられて敵を殺せばよかったですし」

「私もしかしてとんでもない悪霊に乗っ取られてる!?」

 

 躁鬱を繰り返すようなストレッタの様子に、魔女っ娘姿の女神は笑った。

 

「もっと隠しキャラの自覚を持ってください。

 アンケは絶対。守れておらぬぞ~」

「それは二代目の都合じゃないですか」

 

 地面にのの字を書き始めたストレッタに、キョウコは溜息を吐いた。

 

「それにどうせ、またお姉様を殺すことになるし」

「なんでしょう。カノンちゃんから、勝ってブーイングを受けるからレースに出るのが嫌だ、みたいな無自覚な傲慢さを感じる」

「だって戦ったら私の方が強いですし。もう決まってますし」

「でも今回は味方ですよ、魔王の四天王になりなさい。ほら、簡単でしょ?」

「どうしよう、この会話ついていけない」

「今更お姉さまに顔を合わせるのも……」

「分かりました、しょうがないですね。

 宗家にして正統後継者、二代目“暴君”として分流に過ぎないあなたに命じます。

 三代目候補の障害となり、彼女を高みへといざないなさい」

「それを言われちゃ、どうしようもないじゃないですか」

 

 観念したように、うなだれるストレッタの体。

 

「やっぱり、この体に何十年も居ないといけないんですね」

「何十年も居座る気なの!? そのくせなんでそんな物言いできるの!?」

「それじゃあ、よろしく」

 

 ふっ、と最初からいなかったかのようにキョウコは消えた。

 

「……久しぶりに体を得たら、お腹すいたな。何か食べよ」

「もう私の体を自分の物扱いしてるよ、この人」

 

 そうして、ストレッタは倒れた教団員を残して路地裏を去っていった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「メニューにあるもの全部ください」

「うちはIDが無い人間には商品は売れないよ」

「そうですか、お姉さまの管理が行き届いて結構。

 ですがもう一度言います、“食べ物をよこせ”」

 

 カフェの店員がストレッタと目を合わせると、ぼんやりとしたまま頷いた。

 

「どうしよう、催眠魔法で食べ物を奪うとか強盗じゃん」

 

 と、自分はテロリストの片棒を担いでいたくせにそんなことを言うストレッタだった。

 

「大丈夫です。昔、リネンさんが言ってました、最終的に目撃者を全員消せば罪には問われない、と」

「それ実行するのは私の体なんだよね!?」

 

 程なくして、食べ物がどっさり運ばれてきた。

 目立たない奥の席で彼女はもしゃもしゃと食べ物を食べ始めた。

 

「リネンって、リェーサセッタ様の本名だよね? 

 よくあの御方のお名前を呼べるね、恐れ多いよ」

「もぐもぐ、ごくッ、知り合いでしたから、もぐもぐ、何度か殺そうともしましたし」

「ちゃんと食べてからしゃべろうよ……」

 

 傍から見たらすごい勢いで食べ物を咀嚼し飲み込むと冷静に一人でしゃべりだす、奇妙な光景だった。

 

「……ねえ、あなたは誰なの?」

 

 山積みになった食べ物の半分ほどを食べ終えると、流石に胃が限界を訴え始めたので食べる速度も遅くなった。

 その折を見て、ストレッタは己の中の誰かに問うた。

 

「私は、カノン。数多の弓神の一柱。

 そして偉大なる我が義姉、女神メアリースの妹分」

「……あの女神に妹が居たの?」

 

 かつて、宇宙船スターゲイザー号にストレッタも乗り合わせていた。

 その時に、彼女はかの女神に会ったことがある。

 なぜか忌々しそうに、一瞥された覚えがあった。

 

「お姉さまは自己顕示欲の擬人化に等しいので、自分の自伝くらい書かせているはずですが。

 ……もしかして、やっぱり私のことなど書き残さないほど嫌われてるのでしょうか」

「急に落ち込まないでよ……」

 

 情緒の上下が激しくて、ストレッタはいい加減辟易し始めていた。

 

「……おや、やっぱり書かれているじゃないですか。

 あなたの体の記憶に、お姉さまの自伝を読んだ覚えがある」

「勝手に人の記憶を読まないでよ!! 

 ああ、そう言えば、確かに聖典にメアリース様の妹についての記述があったような……」

 

 ただ、ストレッタの記憶によると最低限の記述しかなかった。

 それだけで、彼女と結びつけるのは困難だったのだ。名前さえ、書かれていないのだから。

 

「偉業を成した偉大なる我が義姉を殺すことも、また偉業。

 その功績にて私は死後、神の座を拝しました。なぜこんな私が神々の領域に足を踏み入れられたのか、疑問ではありますが」

「なんで? あなたは悪逆非道の姉を倒したんでしょう?」

 

 さっき教団員たちを圧倒した、弓の腕前。神業としか言えなかった。

 だからストレッタも信じようと思ったのだが、当人は自らの偉業を少しも誇っていなかった。

 

「あれは、私自身の力で成しえたことではないのです。

 当時、姉さまに挑んだ私は、その足元にも及ばなかった。

 そのあまりの不甲斐なさゆえに、あの御方に必殺の矢を授かったのです」

「それで勝ったから、そんなに自信が無いの?」

「私はいまだに、お姉さまを超えられたと思ったことはありませんよ」

 

 断言だった。だが、戦って勝つ自信はある。ちぐはぐだった。

 

「私は、おそらく付属品なのです。

 英雄の武具が神聖視されるように、私はお姉さまに引っ張られて神域に招かれたのでしょう」

「いい加減に現実を見た方がいいんじゃないですか?」

「二代目」

 

 テーブル席の反対側、半分に切り崩された食べ物を手に取り、キョウコがサンドイッチを口に運んだ。

 

「これマズイですね。

 これでマシになったって言うのが信じられないです」

 

 それでも彼女は最後まで手に取ったサンドイッチを食べきった。

 

「神域に至り、神の座に座る条件は大きく三つ。

 同じ魂を持つ神格と一体化すること。同じ席は基本一人ひとつまでなので、これが一番多い例かな。

 もうひとつが、偉業を成す事。そして死後、自分が神だったと気付くパターン」

 

 後者が女神メアリースとリェーサセッタがそのパターン。

 前者が、メリッサに神が期待しているパターン。

 

「そして最後、魔導を窮め魂の位階を極限まで突き詰めること。

 私達や、貴女がそのパターン」

「…………」

「偉大な姉ができなかった事を、貴女は成した。

 謙遜も過ぎればイヤミですよ。だから未だにあの女があなたを嫌ってる」

「人の身で“暴君”を鎮めた貴女の偉業、私も覚えています。

 2つの条件を満たし、神域に至ったからこそ超越神と称されているのでは? 

 そんなあなた様と同じと言われるのは恐れ多いです」

「そのクソダサい異名、次言ったらダーリンと同じことします。

 カノンちゃんはミートスパゲティなんてどうです?」

 

 ストレッタの体がぶわっと冷や汗と緊張感で満たされた。

 彼女に宿ったカノンが恐怖を訴えているのだ。

 

「あの、よくわからないんですけど、魔法を窮めて真理に至るのは偉業じゃないんですか?」

 

 体を相乗りしてる相手が何も言わなくなってしまったので、ストレッタが疑問を口にした。

 

 

「それは違うんですよね。

 誰が言ったか、魔導とは突き詰めていくとそれは自身の内面に籠ること、プラスではなくマイナスのベクトルだと。

 つまり、コミュ障で根暗でボッチで陰キャのコンプレックスの塊であればあるほどいいわけです。

 ほら見てください、カノンちゃんを。コミュ障根暗ボッチ陰キャのコンプレックスの塊じゃないですか」

「な、なるほど!?」

 

 いろいろな意味で説得力があった。

 ストレッタが姉と慕うメリッサも、まさにそんな感じなのだから。

 

「そんなマイナスの塊が、人様に貢献できる偉業を簡単になせると思いますか? 

 世の中そんな風にうまくできてないわけです」

「あれ、そうなると、あなたはその法則に当てはまらないのでは?」

「私は三人で一柱なので。コミュ障根暗ボッチ陰キャ担当は別に居ます」

「はあ、そうなんですか」

「ところで、そんなにのんびりしてて良いんですか?」

「え?」

 

 その時だった。

 

「都内警備隊だ!! 不正魔法使用および強盗の容疑で逮捕する!!」

 

 武装した警備隊が店内になだれ込んできたのだ。

 

「ええ!?」

 

 そちらを見たストレッタが、キョウコに目を向けたが、もうすでに彼女は居なかった。

 

「て、転移!! ──ダメだ、結界で妨害されてる」

「仕方ありません、殺しますか」

 

 焦ってあたふたするストレッタだったが、急に冷静になって脇に置いてあったバイオリンの弓を手に取った。

 

「だからそれ、実行するのは私の体ですよね!?」

「テロリストの武器工場で働いておいて何を今更……」

 

 二人が言い争っている間にも、警備隊はあっさりと包囲した。

 

「隊長、彼女が容疑者です!!」

「また子供か、スラムが無くなってから増えたな」

「隊長!! そんな陰気でどうするんですか、せっかく生き返らせてもらったのに!!」

「お前たちが思うより簡単に生き返らせられた、からだ」

 

 もう彼らの軽口が聞こえるくらい、警備隊たちは二人に迫っていた。

 

「両手を上げて後ろを向け!!」

「……わかりました」

 

 アサルトライフルを持った警備隊の指示に、ストレッタは従った。

 

「ところで、一つ疑問なのですが。

 なぜ、背中を見せ武器を持っていないと示せば、安全だと思うのですか?」

 

 それは、殺気だった。

 無防備に背中を見せて両手を上げている少女が、尋常ならざる殺意を向けているのだ。

 

「最近の弓兵は弓を持たず接近戦をするそうじゃないですか。

 弓神の私が、なぜそれができないと思うんでしょうか」

 

 いや、そもそも。

 戦いにすら、ならなかった。

 

 

 

 

「あの、さっきは何をしたんですか?」

 

 ストレッタは悠々と、カフェを跡にして町中を歩いていた。

 警備隊は一人残らず気絶し、倒れて伏していた。

 

 彼女に宿るカノンは何もしていなかった。

 そう、彼女は。

 

「昔、弓の腕に驕った私は射殺せぬモノなど何もないと思ってました。

 なので、とりあえず難しそうな的を探していたら、ふとツバメを見つけました。

 これがなかなか当てるのが難しく、連中は殺意を感じてひらひらと矢を避けるのです」

「は、はあ……じゃあ三本同時に矢を撃ったりしたんですか?」

「そんな非常識なことはしませんよ。

 考えた私はふと思い当たりました。逆に考えればいいんだ、弓も矢も無くたって良いさ、と。

 修練の結果、私は弓も矢も無く敵を射殺せるようになりました」

「へ、変態すぎる……」

 

 それはもはや弓術ではないのでは、と思わなくないストレッタだった。

 達人は獲物を選ばないどころではなかった、もはや武器すら必要としていなかった。

 

「へ、へへ、こんなのあなたも二百年ぐらい修行すればこれくらいできますよ」

「まず常人は二百年も生きられないんですけど」

 

 ここで賢いストレッタは、これを自分に置き換えてみた。

 

「お姉さま!! 無から兵器を作れました!! 設計図も材料も工具も必要なかったんです!! でもお姉さまの足元にも及びません!! さす姉!!」

「死ねよお前」

 

 うん、これは嫌われるわ、と彼女は納得した。

 

「そ、そちらのお姉さまも、難儀なようですね」

「お姉さまは、あなたのお姉さまじゃない」

「お、同じこと、ですよ。私とあなたと同じように、同じ魂を持った同一人物。

 特に、お姉さまは同一人物という概念を利用した魔術に長けた御方だった。

 故に無限の異名を持った女神なのです。お姉さまを滅ぼしたければ、ありとあらゆる世界から人間を絶滅させなければ不可能でしょう」

 

 そう語るカノンは誇らしげだった。

 

「あなたも、お姉さまに認めてもらいたいからそこまで鍛えたんですよね? 

 なら、私はどうしたらいいでしょう」

「えへッ、私の経験則で良ければ」

「お願いします」

 

 正直卑屈そうに笑うのは、普段使わない筋肉を使うから釣りそうで簡便してほしいストレッタであった。

 

「とりあえず、一回殺しましょう」

「いきなり!? そればっかりじゃんあんた!!」

「大丈夫です、お姉さまは殺しても増えますから。

 一人いたら三十人くらい増えてます」

「お姉さまゴキブリじゃないよ!?」

 

 やっぱり聞く相手を間違えたかな、とストレッタが思っていると。

 

「どの道、対等な相手だと認識させないと始まりません。

 どんなやり方であれ、見返してやらないと。

 そして、私たちはお互いに目的は違えど、やるべきことは同じはずです」

「……そもそも、私はあなたの目的や何かしたいかを理解してないんだけれど」

「私はまず、三代目候補を探して……ああ、そうだ」

 

 名案を思い付いた、と言わんばかりに彼女は手を叩いた。

 

「三代目候補が、不適格だったってことにしましょう。

 さっさと殺してしまえば、私も後腐れなくこの体から出られる」

「だからこれ私の身体ぁ!!」

 

 こうして、二人で一人はとりあえず目的地を決めたのだが。

 

 ぐぎゅるるるぅぅ。

 

「あれ、お腹の調子がオカシイですね」

「そりゃああれだけ飲み食いすればねぇ」

「生身は久々なので人間の身体が不便なのを忘れてました」

「てか、マジでお腹痛い!? 

 食べすぎだって、ああああぁぁぁ」

「これぐらいの痛み我慢しなさい」

 

 無情にもカノンは気にせず歩き続ける。

 

「あ、あ、そうでした。

 私だけ名乗っているのも釣り合いが悪い。

 あなたの名前は何ですか?」

「何でそれ今聞いたの!? 

 ストレッタだよストレッタ!! 良いからおトイレ行かせて!!」

 

 ストレッタの悲痛な叫びが辺りに響いた。

 彼女の受難はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 




みんな大好き妹属性の隠しキャラ、カノンちゃんです。
当人はチートも甚だしいので、ストレッタは事実上足枷とツッコミ担当です。

次回は今回の騒動の中心であるレイアちゃん視点です。


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幕間『日常の変化』

あとがきにお知らせがあります。
良ければ読んでください!!



 

 

 

「今日から、俺がお前たちの保護者だ」

 

 そう言ったのは、この世の者ではない女でした。

 

 スラムの惨劇からすぐ、あの日死んだ者たちは戻ってきました。

 理由は、神の不手際、連絡不行き届き、行き違いが生んだ不幸である、と。

 

 世間的にはそう発表されたそうです。

 まあ理由など、どうでもいいことでしょう。

 私たちにとって死活問題なのは、スラムが取り壊しになることでした。

 

 女神メアリースは個々の自由意思を本人なりに尊重しているらしく、自分の恩寵を受けずに生きることを許しています。

 都内のスラムの人々はそんな人たちでした。

 

 だけど。

 

「ば、バケモノが、バケモノがぁ!!」

「もう大丈夫です。あなたの恐怖は神が癒してくださる」

 

 恐慌状態の人が、神官服の人たちの魔法で落ち着いていくのを、私は遠目に見ていました。

 死からの生還は、人間にとってトラウマを与えるには十分な出来事です。

 あのリーパー隊の連中に残虐に殺されたのならなおのこと。

 

 それらの恐怖や苦しみから救うために、別世界から大勢の神官たちが派遣されてきました。

 女神リェーサセッタは悪の被害者によって傷ついた者たちを癒す存在。

 マッチポンプな気もしますが、それを言っても仕方が無いのでしょう。

 

 神官たちはスラムの顔役たちをすぐに従え、住人たちに適切な仕事を割り振り、職業斡旋所を作りました。

 未就学児には学校を作り通わせ、私たちもそうなるようです。

 僅かな金銭のために毎日働くまでもなく、十分な温かい食事が炊き出しで振舞われ、不衛生な場所はことごとく撤去されました。

 

 バーに毎日入り浸ってお酒を飲んでいた飲んだくれたちが、顔役の子分たちに睨まれて働かされているのを見ると、これで良かったのかと思うところもあります。

 

 結局のところ、女神様にとって私たちの“自立ごっこ”は微笑ましいものに過ぎなかったのでしょう。

 人間とは衣食住揃って初めて余裕ができ、そこで初めて尊厳が生まれる。

 

 そして、それらを奪おうと思えばいつでもできる。

 私たちはそれを思い知ったのです。

 私たちは神の庭先にできたアリの巣で、駆除しようと思えばいつでもできる。邪魔だと思えばお湯を流して始末できる。

 その程度の存在だったのです。

 

 

「あんたが、私たちの保護者?」

 

 クリスティーンと名乗った神官は、別世界出身の若い女でした。

 そんな彼女を、姉さんはいぶかしげに見てました。

 当然です、この金髪の女の目は荒んでいました。

 スラムでもなかなか見ない、やさぐれた印象を受ける人間だったのです。

 

「あんたみたいな神官様がいるわけないでしょ。

 そこら辺のチンピラに神官服を着せた方がまだマシだわ」

「これでも俺は故郷じゃ良いとこ出身だぞ。

 まあ、前世じゃスラム出身だったから、適任だと俺が今回の仕事に呼ばれたわけだ」

 

 へらへらと笑う彼女は、とても仕事に真面目そうなほかの神官と仲間とは思えませんでした。

 

「お前たちは、この世界の教団の孤児院に割り振られる。

 そこには私以外に何人か常駐して、直接教育を施される予定だ」

 

 特別待遇だぞ、とクリスティーンが私を見て薄く笑う。

 それで私は察した、彼女は私の監視役なんだと。

 

「詳しくは聞いていないが、お前って主上と同じ失われた流派の継承者に選ばれたんだって? 

 なぜ自分に教育を任せなかったんだ、と主上はご立腹でな。

 なにか困ったら私に相談しろってことだな」

 

 後日、彼女はそんなことを私に言った。

 私に囁く数多の可能性たちも、彼女に教えを乞えを言われたのでそうすることになった。

 

 そうして、しばらくすると私たちの新たな住居も決まり、すぐに私の目の手術が決まった。

 それ自体はすぐに終わることだったけど。

 

「レイア、私の顔が見える?」

 

 生まれて初めて肉眼で見るお姉ちゃんに、私は自然と涙していた。

 それからクリスティーンさんの下で修業を始めたんだけれど。

 

「お前、主上からスキルの恩恵貰ってないとかマジか?」

 

 彼女は私に魔法の手ほどきを始めてすぐに、空恐ろしいものを見る目で私にそう言いました。

 

「全くの素人が魔法の基礎を修めるのに数年は掛かる。

 人間って生き物は魔力を扱う前提で生きる生物じゃないからだ。

 本来ならその過程で、肉体が魔力に適応するんだが、お前は魔力の扱い方だけは教える必要が無いな」

 

 こんな教え甲斐のないやつ初めてだ、と彼女は悪態づいた。

 

「私も周囲から天才だって言われたが、流石にお前には劣るだろうな」

「でも、才能が全てって、悲しくありませんか?」

「それは甘えだぜ。主上は転生の際に、才能のカスタマイズもしてくださる。

 あの御方の管理下では、才能が無いなんて戯言だ。ふわぁ~。

 主上に貢献して生涯を終えれば、より良い来世が約束されるって寸法だ」

 

 ただ、そう語る当人は自分の才覚に不満を持っていないのか、欠伸交じりだった。

 そんな風に私が思っていると。

 

「レイアちゃん。頑張ってるね♪ 偉いぞ♪」

「あッ、キョウコちゃん」

 

 ふわふわとスキップしながら、孤児院の入り口からキョウコちゃんが現れました。

 この人神様なのにこんな気安く呼んで良いんでしょうか。でも本人がそうしろって言ったし……。

 

「げえぇッ、なんでお前ここに……」

「面白いことを言いますね、クリスちゃん。

 人の運命なんて、どこにあるかってお話です」

 

 頬が釣りそうになるほど顔を引きつらせ、クリスティーンさんがキョウコちゃんを見て後退った。

 

「お知り合いですか?」

「悪いことは言わない。こいつと関わり合いになるな。死ぬより酷い目に遭う」

「それはもう遅いって言うか……」

 

 ああ、何となくこの人はキョウコちゃんに振り回された一人なんだなって、私は思いました。

 キョウコちゃんは意味深に彼女に笑いかけると、こちらを見ました。

 

「今日は顔だけを見に来ました。

 そのうち腕試しの試練に刺客を送るんで、よくクリスちゃんに教わるんですよ」

「ええぇ、刺客って」

 

 それだけ言って、キョウコちゃんは帰ってしまいました。

 

「最悪だ、またあいつに関わり合いになるなんて……恨むぞ、主上」

 

 クリスティーンさんは本当に恨めし気に空を見上げました。

 この人本当にろくでもない目に遭ったんだろうなぁ、と私は思ったのでした。

 

「まあいい、これも仕事だ。俺はお前の面倒ごとには一切関わり合いにはならない。

 だから俺を巻き込むな、いいな?」

「それは、はい、もちろん」

「よし、じゃあ面倒ごとを撃退できるように鍛えてやる」

 

 かくして、彼女のモチベーションも上がったわけです。

 そうして私が神官様たちに勉強を教わる傍らで修行に励んでいると。

 

「ちわーっす、お届け物でーす」

 

 私の勉強のカリキュラムは最低限で、普段は大体孤児院の敷地で修業をしています。

 なので、お客様が来れば自然と対応するのは私たちになります。

 

「誰だ、お前」

 

 クリスティーンさんが、バイクから降りた男の人に鋭い視線を向けました。

 

「そっちこそ、誰だ? 

 ここの管理者はあの婆さんの筈だが……」

 

 配達人らしき男の人は、荷物を抱えて首をひねっています。

 

「神官権限、ステータス観覧」

 

 そこでクリスティーンは余程怪しいと思ったのか、彼に手をかざしてそう言い放ちました。

 すると彼女の手元に、ステータス画面が表示されました。

 

「なるほど、身元はハッキリしてるな。

 職業も、ちゃんと配達屋だ」

「神官様ってのはプライバシーの侵害も請け負ってんのか?」

「そうがなるな。職務質問みたいなもんだろ? 

 それとも何か後ろ暗いところでもあると?」

 

 二人がにらみ合った、その時でした。

 

「あ、運び屋の兄ちゃんだ!!」

「わーい、遊んでー!!」

 

 休み時間になったのか、中から子供たちが遊びに出てきたのです。

 

「おう、チビたち、元気してたか?」

 

 子供たちが彼に駆け寄ると、彼は子供たちの頭を撫でた。

 私には、彼が怪しい人物には見えなかったですが。

 

「どうしたんですか、クリスティーンさん?」

「いや、何でもない。俺の勘違いだったようだ」

 

 なぜか釈然としていない様子のクリスティーンさんが、どういうわけか私は頭からしばらく離れなかったのです。

 

 

 そして、その数日後のことでした。

 クラリスさんが、魔王に挑んだのは。

 

 この地球の支配者は、魔王ローティ様。

 その公開処刑とも言える光景を見ることは私たち地球人すべての義務でした。

 

 私と姉さんは、彼女の無残な姿に涙するほかありませんでした。

 だけどその後に会った彼女の様子は、明るく楽しそうでした。

 

 

「……あの、クラリスさんを元に戻せないでしょうか」

『戻してどうするんいだい?』

 

 私は杖に語り掛けると、まだ人間だった頃の“暴君”が話しかけてきた。

 

『あの憐れ女は自分で自分の末路を決めたに過ぎないじゃないか。

 あれはあれで幸せそうだし、お前が口を出す問題じゃない』

「だけど……」

『じゃあ他人であるお前に何ができるさ』

 

 私は、昼間に見た彼女の姿を思い返す。

 もう彼女を苦しめる記憶は無いのだ。

 

「じゃああなたは、あれが正しい姿だって言えるんですか?』

『正しいとか、正しくないとか、お前の主観だと言ってるんだ。

 くだらない。お前も魔導に身を置くなら、そんな固定概念を捨てることだね』

 

 大事なのは善悪ではなく、本質だと彼は語る。

 

『ああ、そうだ』

 

 “暴君”は思い出したように、私から視線を反らした。

 

『おい、カノン』

 

 彼が目を細めた視線の先には、十歳にも満たないような女の子が孤児院の門前で震えあがっていた様子がありました。

 

『お前誰が横着して良いって言った? 

 人殺しぐらいしか能のない分際で、まともに仕事もこなせないのか役立たず。

 僕が身内に甘いと思ったら大間違いだぞ、ああ?』

 

 少女は震えて何も言いません。

 

『何か言えよ、ほら』

「あの、そのくらいで……」

 

 見知らぬ少女がパワハラにさらされているのを見かねて、私が助け舟を出そうとした時でした。

 

「あ……」

 

 じょろじょろじょろ。

 

 ああ……遅かったようです。

 

 

 

 §§§

 

 

「ううッ、ぐすッ、ひぐぅ」

「よしよし、大丈夫ですよ。体調が悪かったんですよね?」

 

 私は粗相をしてしまった少女をお風呂に入れてあげて、代わりの服を貸してあげた。

 幸い、ここは孤児院なので、神官様たちに事情を説明すれば快く貸してくれた。

 

「お名前は、言えますか?」

「ううぅ、ストレッタぁ」

「ストレッタちゃんね、お家は? お母さんは?」

 

 ストレッタちゃんは首を横に振った。

 やっぱり、と私は納得した。

 彼女には市民IDが無い。見ればわかる。

 

 神官様たちは、落ち着いたら彼女の今後について話をしてくれるそうです。

 とりあえずは、私が彼女の面倒を見ている形だ。

 

「あの、私、追われてて……」

「大丈夫ですよ、ここには神官様たちが居ます。

 お話してくれればなんとかしてくれますよ」

 

 そして彼女に子供たちも興味津々の様子だ。

 

「だったら、俺たちが守ってやるよ!!」

「また、まおうが来ても、みんなのおうちはこわさせないよ!!」

「魔法も覚えたんだ!! ファイヤーボール!!」

 

 子供たちはお手製の玩具の武器を掲げたり、見様見真似の魔法を唱えたりと、ストレッタちゃんを励ましている。

 

 私はというと、彼女の抱える問題についてクリスティーンさんに相談に行こうとした時だった。

 

『ほら、来たよ』

「え?」

 

 彼の声に、私は外を見た。

 

 

『見つけたぞ、クソガキぃいい!!』

 

 孤児院の敷地の外に、全長五メートルの巨大な鉄の塊が存在していた。

 それは人型の機動兵器だった。外見は巨大な甲冑のような、重装甲のパワードスーツである。両手には大型マシンガンとレーザーブレードを装備している。

 完全に軍用の戦闘兵器だった。

 

「あ、あれはお姉さまの作ってた……」

「キョウコちゃん、刺客ってあれですかぁ!?」

 

 戦車にカテゴライズされる戦術兵器なので、単独行動はありえない。

 つまり、非正規の兵器だということだ。

 

 そんな完全武装の一個中隊に匹敵する機動兵器は、大型マシンガンの銃口をこちらに向けた!! 

 

「みんな逃げて!!」

 

 私が叫びながら咄嗟にバリアを張る。

 無数の銃弾がバリアに直撃し、私に負荷が襲い掛かる。

 

 子供たちが悲鳴を上げる声を聞きながら、額に汗が浮かぶのを感じながら銃撃が止んだのを見計らい、雷撃魔法で反撃する。

 

 しかし、向こうも軍用兵器。

 高出力のバリアで電撃は四散した。

 

「ダメだ、歯が立たない!!」

 

 生身の私と、強力な魔法ジェネレーターを積んだ兵器とでは戦いにならない!! 

 マズイマズイマズイ、どうにかして皆を逃がさないと!! 

 

 その時だった!! 

 

 黒い影が、空から飛んできたのだ!! 

 それは、軍用バイクに乗ったレジーさんとクラリスさんだった!! 

 

 同じくバリアを展開した軍用バイクと機動兵器が衝突した。

 魔力の火花が散り、お互いに発生した負荷から反発し吹っ飛ばされた。

 

「お前たち、大丈夫か!!」

 

 バイクから投げ出されたレジーさんが、私たちに向かって叫んだ。

 

「くそッ、こんなことなら武器と鎧を持ってきておけば」

「とりあえず、時間を稼ぐぞ。

 おい、とにかく子供たちを避難させるんだ!!」

「わかりました!!」

 

 私は子供たちを屋内に避難させることにした。

 

「早くこっちにこい、防護シャッターが閉まる!!」

「レイア!! 早く!!」

 

 孤児院の中から、みんなが呼んでいる。

 何かあると自動的にシェルターと化するように、孤児院は設計されているようだった。

 

「……やっぱり、行けない」

「レイアさん?」

「先に行ってて、私、二人を援護する」

 

 これは、恐らく私へのキョウコちゃんの試練なんだ。

 私が逃げたら、あの二人は殺されちゃう!! 

 

 そんなの絶対ダメだ!! 

 現に二人は、バイクの機動力があっても、火力に絶望的な差があった。

 とても軍隊がやってくるまで持たないだろう。

 

「くそ、馬鹿どもが!!」

 

 クリスティーンさんが子供たちを保護したのと同時に、シャッターが閉まる。

 

 私は、二人と一緒に戦うのだ。

 機動兵器のレーザーブレードが二人を捉えようとした瞬間に、落雷を落とした。

 

「レイア、なぜ残った!!」

「私も戦います!!」

「馬鹿野郎が!!」

 

 レジーさんが、自分たちの無力さに苛立つように吐き捨てた。

 

 でも、どうしよう。

 並大抵の攻撃魔法じゃ、あのバリアを貫けない。

 

 そうこうしているうちに、体格差からバイクから二人が投げ出されてしまった。

 レジーさんがクラリスさんをかばって、絶体絶命だった。

 

「嘆かわしい、これが三代目候補だと?」

 

 その声に、私は思わず振り向いた。

 そこには、さっき屋内に逃げたはずのストレッタちゃんがそこにいた。

 

「手本を見せてやる」

 

 彼女は、さっき子供たちが持っていたおもちゃの弓で矢じりが吸盤のおもちゃの矢を番えた。

 

「観測を司る女神にして、我が師たるかの御方に願い奉る。

 ────この一矢は万物を貫く“結果”を示す」

 

 おもちゃの矢は、非現実的な超常現象を引き起こした。

 

 即ち、バリアをものともせず素通りし、機動兵器の頭部のカメラアイを貫通させたのである。

 

「なッ」

「魔導の本質とは、目に見える出来事がすべてに非ずだ」

「あの、なんでアリの行列を見ながら言ってるの?」

 

 あんなとんでもないことを引き起こしたとは思えない様子でストレッタはしゃがみこんでいた。

 

 だけど、私は閃いた。

 他ならない“私”に出来ないはずはない。

 

『くそッ、よくもやってくれたな!! 

 だが、まだメインカメラがやられただけだ!!』

「こんにちわ、刺客さん」

 

 私は、機動兵器の前に立った。

 

「私の名前はレイアと言います。

 年齢は14歳、趣味は読書、カードゲームです」

『邪魔だ、どけガキぃ!!』

「ところで、私を見ましたよね?」

 

 私の思考は、魔法の術式が勝手に組みあがっていく。

 

「私を知りましたよね?」

 

 そして。

 

「私にどいて欲しいと、お願いしましたよね?」

 

 私の視線と、機動兵器の中にヒトと目が合った。

 私を通じて、あの最果ての“門”の先の“暴君”の視線と繋がった。

 

「じゃあ、死ぬしかないです」

 

 ギィ、と機動兵器は僅かに音を立てて沈黙した。

 そして搭乗席から、まるで全身から搾ったかのような量の血が流れ始めた。

 

「……何が起こったんだ?」

 

 レジ―さんも、クラリスさんも、何が起こったのかわからないという様子で呆然としていた。

 

「すみません、説明したら死んじゃうんで」

 

 私は、曖昧に笑うしかなかった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 結局、ストレッタちゃんはうちで預かることになりました。

 レジ―さんやお姉ちゃんたちからは、無茶をするなって怒られちゃいましたけど、きっとあれで正しかったのでしょう。キョウコちゃんは何も言って来なかったし。

 

 あの後、レジーさんにクラリスさんに関して相談されたりもしましたが、正直面倒でした。さっさと付き合えばいいのに。

 

 そんな感じでしばらく平穏な時間がやってきたのですが。

 

「クリスティーンさん、これに出たいので申請してください」

 

 ある時、ストレッタちゃんがタブレット端末の広告をクリスティーンさんに見せてそう言いだしました。

 

 その広告には、こう書かれていました。

 

 

『集え!! 魔王四天王選抜オーディション開催!!』

 

 

 

 

 

 

 




実は、これまでの拙作の投稿数を数えてみたところ、前回あたりで合計がちょうど四百話投稿した感じになります。
それを記念して、別枠で短編でも書こうかと思った次第です。

とりあえず、今頭の中にある候補をいくつかネタをまとめてみました。

タイトル:ある作家の受難(仮題)
あらすじ:
ある時、さえない作家が女神メアリースに召喚された。
「私が世界を創世するから、お前はシナリオを担当しなさい」
そんな大仕事をさせられることになった作家の命運はいかに!?

タイトル:“暴君”と少女
あらすじ:
また生身があった頃の二人のお話。
出会いからお互いに惹かれ合ったり、ただ二人で話すだけの恋愛もの。
作者シリーズの時系列で一番最初に当たるお話。

タイトル:生贄の少女と引きこもりドラゴン ~何勝手に僕の周りに町作ってるわけ!?~
あらすじ:
失敗作の烙印を押されたとあるドラゴンが家出して、遠い世界で引きこもるお話。
だがそこは強大な魔物が跋扈する人類の生息域がとても限られる過酷な世界だった……。

タイトル:ウイングガールズ・レーシング
あらすじ:
構想というか、もうすでに三話ほど手慰みに書いた最新作。
ハーピーが主人公の、空のレースを舞台にしたスポ根物。
需要があれば続きます。

とりあえず、この四つで読みたいのをアンケートします。
締め切りは今週いっぱいでおねがいします。来月の半ばからようやく時間が取れるので、最多票のタイトルを試しに或いは続きを書いてみたいと思います。
というわけでよろしくお願いします!!


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4スレ目


今回は久々のスレ回です!!

最近マスターデュエルをプレイ中。
私の作者名と同じプレイヤーネームで、シャドウディストピアか無限起動か妖仙獣を使って来たら私です。
スマホで遊んでるので、通信が切れたらゴメンね。



112:名も無き住人

 最近運び屋来ないな

 また何か巻き込まれたんか? 

 

113:名も無き住人

 世界によって時間の経過が違うからそのへんはどうにも言えんな

 

114:名も無き住人

 またなんか面白い話題提供してくんないかな

 

115:運び屋

 みんな、居るか? 

 

116:名も無き住人

 スレ上がってるから来てみれば、運び屋じゃないか!! 

 

117:名も無き住人

 俺たちはお前を待ってたんだ! 

 

118:名も無き住人

 こっちは暇なんだ、早く話せ!! 

 

119:運び屋

 実はワン子に交際を申し込まれたんだが、どう返事したもんか……

 

120:名も無き住人

 はい、解散!! 

 

121:名も無き住人

 お疲れさまでしたー!! 

 

122:名も無き住人

 聞いて損したぜ、ぺっ

 

123:名も無き住人

 お前ら辛辣でワロタwww

 

124:名も無き住人

 今日は独身連中の集まりが良いのなwww

 

125:運び屋

 こっちは真面目に相談してるんだがな

 

126:名も無き住人

 魂がイケメンのお前には我らの苦しみがわからんのだろうな!! 

 

127:名も無き住人

 アンズ様直々に巡り会いが無いって言われた奴も居るんだぞ!! 

 

128:名も無き住人

 あ、それ自分です。

 あの後、職場のお局様に娘さん紹介されました!! 

 今は結婚を前提にお付き合いさせて貰ってます!! 

 アンズ様ありがとう!! 

 

129:名も無き住人

 クソッ、裏切り者がいやがったか!! 

 

130:名も無き住人

 孫に囲まれて老衰でくたばる呪いかけたわ

 

131:名も無き住人

 結婚式には差出し人不明の現金送り付けてやる

 

132:名も無き住人

 俺は墓穴を掘ってやったぞ

 結婚という人生の墓場にな!! 

 

133:運び屋

 お前ら素直に祝ってやれよ

 知ってるIDばかりなんだし

 

134:名も無き住人

 うるせぇ!! 

 顔が普通でもモテそうなくせに!! 

 

135:名も無き住人

 お前の言動で惚れない女が居ないわけないだろ!! 

 ふざけやがって!! 

 

136:名も無き住人

 俺もお前みたいに生きたかったんだよ! 

 さっさと幸せになれよ!! 

 

137:名も無き住人

 住人の嘆きが支離滅裂でウケるwww

 

138:運び屋

 俺はみんなが思うような人間じゃないんだけどな……

 

139:名も無き住人

 運び屋、じゃあどうするんだ? 

 返事をするにもイエスかノーかを決めなくちゃならんだろ

 お前はワンちゃんと付き合うのは嫌なのか? 

 

140:運び屋

 いや、全然

 スタイルも好みだし、明るくて一緒に居て楽しいし

 でも俺なんかと釣り合ってないと言うか……

 

141:名も無き住人

 何でお前そんなに自己肯定感低いの? 

 そういうのイライラすんだが

 

142:名も無き住人

 即レスでキレるなよ

 でもまあ何をうじうじしてるんだとは思うが

 

143:名も無き住人

 身体が義体だからじゃね? 

 生身じゃないってコンプレックスになる人多いって聞くわ

 

144:運び屋

 生身じゃないってのはあるにはある

 だけど違うんだ、あいつに本当の俺を知られるのが怖いっていうか

 

145:名も無き住人

 あー、気持ちはわかる

 

146:名も無き住人

 人間誰しも醜い自分を抱えて生きてるもんな

 

147:名も無き住人

 運び屋の場合、些細な汚点を補って余りあると思うんだけどなぁ

 

148:名も無き軍人

 だろうな

 運び屋、俺はお前の葛藤がよく理解できる

 俺もいろんな部下を見て来たが、お前は間違いなく“こっち”側だ

 

 俺はお前を待ってるぞ。

 

149:名も無き住人

 軍人ニキ、こっちってどっちやねん

 

150:名も無き住人

 戦士に向いてるかと言えば、確かにそう

 

151:名も無き住人

 いつも巻き込まれてる相手のラインナップからすれば、生きてるだけでもスゴイしな

 

152:名も無き住人

 もう一回死んでるんだよなぁ

 

153:名も無き住人

 運び屋、成仏してクレメンス

 

154:名も無き魔法技師

 個人的には!! 

 どのようなシチュエーションで交際を申し込まれたのか気になるんだけれど!! 

 

155:名も無き住人

 技師ネキww

 

156:名も無き住人

 急な自己主張で笑うわww

 

157:運び屋

 げッ、技師ネキだ

 

158:名も無き住人

 おい、運び屋にも引かれてるぞww

 

159:名も無き住人

 あんた年齢百五十歳超えてるくせに乙女ぶるなよww

 

160:名も無き魔法技師

 >>159 保存されてるエロ画像知り合い全員に晒してやるわ

 

161:名も無き住人

 ごめんなさい許してくださいそれだけはかんべんしてください

 

162:名も無き住人

 必死過ぎて笑ったわww

 

163:名も無き住人

 女性に年齢の事を言ったらあかんよ……

 

164:運び屋

 まあ、技師ネキには世話になったし別に構わないけど

 ちょっとまとめるわ

 

165:名も無き住人

 wktk

 

166:名も無き住人

 相変わらず人間って面倒ね

 ムラムラしたら襲っちゃえばいいのに

 最終的に事後承諾ならオールオッケーじゃん

 

167:名も無き住人

 そりゃああんたがサキュバスだから許されんだよ、ネキ

 

168:名も無き住人

 個人的にはバッチコイなんだけど、サキュバスで童貞卒業するのはなぁ

 

169:名も無き住人

 そんなんだから同族に相手してもらえないのよあんたらww

 なんなら、今度オフ会する? 

 

170:名も無き住人

 オフ会(乱交パーティ)やん

 

171:名も無き住人

 是非お願いします!! 

 

172:名も無き住人

 おいwww

 

173:名も無き住人

 手のひらクルクルww

 お前プライドないんかww

 

174:名も無き住人

 サキュバスネキ、絶対人間ってチョロいって思ってるぞww

 

175:名も無き住人

 じゃあお前らエロいサキュバスにお誘いされて断るんか、ええ!? 

 

176:名も無き住人

 それは、まあ、ねぇ? 

 

177:名も無き住人

 の、ノーコメントで

 

178:名も無き住人

 人間ってやっぱクソザコ種族なんやなぁ

 

179:運び屋

 先日、ワン子とバイクで仕事に向かう。

 ワン子が以前孤児院を壊した件でみんなに謝りたいと思ったらしくて、後ろに乗せて出発。

 孤児院に向かうも、子供たちが授業中で後回しに。

 仕事を終えて孤児院に戻ってきたら、人型の機動兵器が孤児院に襲撃してきたんだ。

 

 俺とワン子は応戦するも、ワン子は武器無し鎧無し。

 絶体絶命の中で、バイク横転し、俺銃撃からワン子を庇う。

 ギリギリで前リーパー隊から助けてくれたあの子が機動兵器を撃退してくれたんだが、ワン子の奴それでときめいちゃったらしくて。

 

180:名も無き住人

 いろいろツッコミどころはあるけど

 ときめいちゃったwww

 

181:名も無き住人

 そら自分の為に命投げ出してくれるなら無条件で惚れるわ

 

182:名も無き住人

 そもそもなぜ孤児院に機動兵器が? 

 

183:名も無き住人

 わざわざ孤児院を狙う意味が分からんよな

 

184:名も無き軍人

 そうか? 

 テロリストが自分たちの存在のアピールに、話題性を作る為に無辜の、特に可哀想な弱者を狙うことはよくあることだぞ

 

185:名も無き住人

 まるで自分がやったことがあるみたいな言い方っすねぇ、軍人ニキ

 

186:運び屋

 まあ、犯人はテロリストだったんだけど

 例の過激派だよ、犯人は死んだから何が目的かはわからんかったけど

 

187:名も無き住人

 ホントテロリストってクソだな

 

188:名も無き住人

 なにも身寄りのない子供を狙う必要もないだろうに

 

189:名も無き魔法技師

 で、どんな台詞を言われたの!! 

 

190:運び屋

 ええと

 

 ワン子「運び屋さん、私と家族になってくれませんか? これからもあなたと一緒にずっと過ごしていたいです」

 

 って感じだった

 

191:名も無き住人

 運び屋それ交際やない、結婚の申し込みや

 

192:名も無き住人

 なんでそこまで言わせてベッドインしないの? 

 不能なの? ああ生身じゃなかったわね

 

193:名も無き住人

 サキュバスネキは黙ってて

 

194:名も無き住人

 ガチ告白じゃん

 その返答とか、童貞の俺らには荷が重いというか

 

195:名も無き住人

 ワイもそもそも交際する相手が居ない(泣

 だから何を言っても参考にならないというか

 

196:名も無き軍人

 とりあえず、一発抱いてから考えてみろよ

 スッキリすれば考えもまとまるもんだ

 

197:名も無き住人

 軍人ニキ、あんたもか!! 

 

198:名も無き住人

 今日は性欲に忠実な連中ばかり居るなww

 

199:名も無き住人

 告白の返答はともかく

 今はあんたら二人とも同じ屋根に暮らしてるんだろ? 

 どう答えようと大して変わらないじゃないのか? 

 

200:名も無き住人

 そうだった

 お前らもう同棲してるだった

 

201:名も無き住人

 ローティ様もいるぞ!! 

 

202:名も無き住人

 ローティ様は帰ってもろて……

 

203:名も無き住人

 ああ、うん、はい、ローティ様も居るね

 

204:名も無き住人

 みんなローティ様にビビっててワロタ……ワロタ……

 

205:名も無き住人

 いや、あれは怖いわ

 やっぱあの御方も魔王なんやなって

 

206:名も無き住人

 運び屋はなんて言って返事を先延ばしにしたんだ? 

 

207:運び屋

 ちょっと自分の中で整理させてほしい、って言ってここに書き込んでる

 

208:名も無き住人

 告白されたの直前なんかい!! 

 

209:名も無き住人

 リアルタイムで状況が進んでるのかよ!! 

 

210:名も無き魔法技師

 それ現在進行形じゃん

 はやく返事しなよ、こんなところに書き込んでないで

 

211:名も無き住人

 ワンちゃんをそんなに待たせるなよ……

 

212:運び屋

 だけど、あいつは今洗脳状態なんだぞ? 

 仮に今俺と付き合っても、正気に戻った時に辛いだけだろ

 

213:名も無き魔王

 その時はどちらかを裏切ればいい

 ローティ姉上か、愛する者か

 言い訳を並べてどちらも選べないのなら、何もするな臆病者

 

214:名も無き住人

 あ、魔王様ちっす

 

215:名も無き住人

 魔王様も来たんすね

 

216:名も無き住人

 魔王様の言う通りだ!! 

 お前はどちらかを選ぶ必要がある!! 

 八方美人なんて許されると思うなッ!! 

 

217:アンズちゃん

 大団円のハッピーエンドなんて、物語の中にしかありませんしね♪ 

 人間らしく悩んで苦しみぬいてから選んで、私やここの住人やROM勢を楽しませてください♪ 

 

218:名も無き住人

 あッ、アンズ様!! 

 その節はどうも m(__)m

 

219:名も無き住人

 アンズ様もよう言うとる

 どんな選択をしても苦しむんだ、それが人生ってもんだろ!! 

 

220:名も無き住人

 まあローティ様裏切ったら確実に死ぬだろうけど

 

221:名も無き住人

 それはそう

 

222:名も無き住人

 ローティ様は絶対許さなそうだしなぁ

 

223:名も無き住人

 ワンちゃん裏切ってもそれはそれで一生引きずりそう

 

224:名も無き住人

 ワンちゃんもいろいろと一途だしなぁ

 

225:運び屋

 よし、決めた!! 

 後回しにするわ

 

226:名も無き住人

 おい!! 

 

227:名も無き住人

 ふざけんな!! 

 

228:名も無き魔法技師

 なんでそうなった!? 

 

229:アンズちゃん

 かわいいなぁ

 先延ばしにしても結局余計苦しいだけなのに

 

230:名も無き住人

 魔王様もなんとか言ってくださいよ!! 

 

231:名も無き魔王

 ワイは個人的にこのままでもおもろいからええわ

 

232:名も無き住人

 ええぇ、それでいいんか魔王様

 

233:名も無き住人

 アンズ様に余計に苦しむだけだって正論パンチされてるのに……

 

234:運び屋

 みんなに言われなくてもわかってる!! 

 だけど、俺だっていろいろあるんだよ!! 

 まだ自分でも心の整理がつかないんだッ!! 

 

235:アンズちゃん

 悩み苦しめるなんて、私からすれば羨ましいことです

 私は人生に悩み苦しんだことのないまま神になったので

 悩むこともまた生きる愉しみ、そうやって人生を謳歌してください

 ついでにそのもがき苦しむ姿で私の永久の退屈も紛らわせてください

 

236:名も無き住人

 良いこと言ってる風で最後に台無しぃ……

 

237:名も無き住人

 ちょっとは本音隠してくださいよアンズ様

 

238:名も無き魔法技師

 きっとどんなあなたでも、ワンちゃんは愛してくれると思うけどなぁ

 

239:運び屋

 悪いなみんな、意気地なしで

 今日はもう落ちるわ

 ワン子には落ち着いてからって返事をするよ

 

240:名も無き住人

 おつー

 

241:名も無き住人

 乙

 まあ理解はできるよ

 

242:名も無き住人

 実際、選ぶのに片方は死の片道切符だしな

 

243:名も無き住人

 所詮俺たちは外野から好き勝手言ってるだけだしな

 

244:名も無き軍人

 わかってらんな

 色恋沙汰は他人が外野から好き勝手言うから楽しいんだろ

 

245:名も無き住人

 たし蟹

 

246:名も無き住人

 今更だが、もうちょっと親身になってやればよかったな

 

247:名も無き住人

 どのみち、決めるのは運び屋だろう

 

248:名も無き住人

 あ、運び屋に四天王選抜オーディションについて聞くの忘れてたわ

 

249:名も無き住人

 せや、ワンちゃんに告白されたって衝撃で頭から抜け落ちてたぜ

 

250:名も無き住人

 俺は参加応募したぜ!! 

 別に運び屋の居住世界出身じゃないとダメってわけじゃないらしいし

 

251:名も無き住人

 私も応募しましたよ

 先も運び屋の話でた例の少女が気になりますので

 

252:名も無き住人

 私も応募したわ!! 

 ワンちゃんから運び屋を寝取ったら最高にゾクゾクできそうだし

 ついでにローティ様も煽っちゃおう♡

 

253:名も無き住人

 学者ニキも応募したんか

 あんた戦えるんか? 

 募集要項に最低限の戦闘力と事務能力って書いてあったじゃん

 

254:名も無き住人

 サキュバスネキ、あんた相変わらず倒錯してるな……

 ワンちゃんはもうそっとしといてやれよ……

 

255:名も無き住人

 むしろネキには事務能力に疑問があるんだが

 あんた脳みそピンクやし

 

256:名も無き住人

 サキュバスネキが書類選考の段階で落とされるのを切に願うわ

 

257:名も無き住人

 もう既に応募数が数十万もあるらしいし、落とされるだろ

 空き枠はたった二つだし

 

258:名も無き住人

 そんなに四天王の椅子が良いのかね? 

 給料は良いらしいが、あのローティ様の直属の部下だぞ? 

 

259:名も無き住人

 あの冷酷さに惚れたって層は一定数いるな

 ちなみに俺も応募したぞ、運び屋に一度会ってみたいから出してみたぜ

 一次面接にでも通れば儲けもんだしな

 

260:名も無き軍人

 俺の部下も何人か応募したらしいぞ

 運び屋の雄姿に、食べちゃいたいくらい惚れこんだとかなんとか

 

261:名も無き住人

 案外運び屋のファンも応募してるのな

 まあ確かに、会えるならあいつには一回会ってみたいわな

 

262:名も無き住人

 今なら運び屋たちの恋愛模様も間近で見れるおまけつきだしな!! 

 

263:名も無き住人

 しかし、ここの住人だけでもクセが強過ぎるww

 

264:名も無き魔法技師

 私からも暇してる人材でも送ろうかな

 ヘンな人が彼の同僚になったら可哀想だし……

 

265:名も無き住人

 オーディションの実況スレ立てといたわ

 

 →■■■■.■■■■■■

 

266:名も無き魔王

 ワイも暇やから応募したで

 全力のワンちゃんと、出来れば運び屋とも殺し合いしたいからな

 

267:名も無き住人

 >>265 スレ立て乙

 >>266 あんたは魔王やろがい!!! 

 

268:名も無き住人

 あ、そっか

 洗脳解けたらワンちゃんと殺し合えるんだったな

 楽しみだなぁ、応募してよかった

 

269:名も無き住人

 おいおい、戦闘狂も沸いてきたぞ

 

270:名も無き住人

 幾ら復活できるとは言え、ワンちゃんと戦うのは勘弁だなぁ

 

271:名も無き軍人

 むしろなんでその可能性に思い至らなかったんだお前らww

 

272:名も無き住人

 いやぁ、これはオーディション当日が楽しみだなぁ

 

 

 

 

 




次回もスレで進行します。
前回のアンケートの結果、400話記念は「生贄の少女とひきこもりドラゴン」に決定しました。
短編で一話で終わるか、反応が良ければ連載するかもしれません。
今月にとりあえず書いてみる予定です。

次回は、いよいよ四天王を決めるオーディションになります。
そしていよいよ物語は主人公である運び屋へと焦点が当たり始めてきます。

ではまた次回!!


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5レス目

皆様、おまたせしました!


 

 

 

412:名も無き住人

 ついに今日か

 

413:名も無き住人

 ようやくだな!! 

 この二ヶ月待ち遠しかったぜ

 

414:名も無き住人

 ローティ様の四天王選抜オーディションの最終選考会の日だ!! 

 

415:名も無き住人

 応募者五百万とかマジ? 

 その中から選ばれるにはたった二人か

 

416:名も無き住人

 猛将部門が四人

 智将部門が四人

 よくここまで絞れたよな

 

417:名も無き住人

 それにしても猛将と智将か

 ものは言いようだなwww

 

418:名も無き住人

 数多の世界から選りすぐられた8人か

 いったいどんな猛者たちなんだろうな

 

419:名も無き住人

 一次選考と二次選考は非公開だったからな

 だからこそ最終選考会がオーディション番組のノリなんだろうけど

 

420:名も無き住人

 公開選考会とか完全にバラエティ番組だもんな

 いったいどんなキャラの濃いやつが出てくるのやら

 

421:名も無き住人

 キャラ濃いのは確定なのかww

 

422:名も無き住人

 そりゃ、キャラ濃くないと四天王なんて無理だろ

 

423:名も無き住人

 それはそう

 

424:名も無き住人

 ローティ様もキャラ作ってるしな

 

425:名も無き住人

 そろそろ始まる時間だべ

 

426:名も無き住人

 完全にバラエティ番組だなぁ

 

427:名も無き住人

 スタジオのセットが料理対決番組みたいやんwww

 

428:名も無き住人

『ルールは簡単、順番にアピールをしてローティ様に気に入られるだけ!!』

 ルール雑すぎるwww

 

429:名も無き住人

 もう至高と究極の料理でも出し合えばいいんじゃね

 

430:名も無き住人

 てか、智将側に座ってるエルフどこかで見覚えが

 

 

 

 魔王四天王最終選考会、会場。

 

 都内のスタジオを貸し切って行われたこの催しはリアルタイムで生放送をしていた。

 審査員席には魔王ローティと三人の現役四天王が座り、候補者を待っていた。

 

「では一番手は彼女です!!」

 

 司会が中央のモニターに促すと、最終選考に残ったメンバーを紹介するデモ映像が流れ始めた。

 

 が、そのデモ映像は全面モザイクで内容が把握できなかった。

 いや、それでも何が映っているのか誰も理解できた。

 

 それは、真っ赤な血だ。

 モザイクの奥で繰り広げられているのは、惨劇。

 

 とても公共の電波には乗せられない光景が繰り広げられていた。

 やがて、キープアウトの黄色いテープで画面が覆われる演出がなされた。

 

「初っ端から超一級の危険人物!! 

 誰だこんなやつをここまで通したのは!! 

 出身世界からは一族ごと追いやられ、現在魔王軍の懲罰部隊に籍を置く異端児!! 

 最終討伐賞金額は日本円にして約一億円!!」

 

 運び屋にはその女に見覚えがあった。

 容姿端麗なエルフ族の白い肌の大部分に、タトゥーを施しているその女に。

 つい先日、殺しあったばかりなのだから。

 

「人呼んで、──“脳髄喰らい(ブレインイーター)”の死喰鬼(グール)!!」

 

 おぞましきエルフ族の女が、彼をまっすぐ見て妖艶に舌なめずりした。

 

 

 

431:名も無き住人

 ぎゃああああぁぁぁぁ!! 

 脳喰いグールだぁあああ!? 

 

432:名も無き住人

 おうふ

 以前マンティスを解説したニキが発狂しとる

 

433:名も無き住人

 なんで懲罰部隊の連中が最終選考に参加してるの……

 

434:名も無き住人

 嘘やろ、あいつらに人権なんてないはずなのに

 

435:名も無き住人

 なんであいつらに参加が許されてるんだよ!? 

 

436:実況くん

 同僚「現在懲罰部隊所属とのことですが、何故にローティ様の四天王に立候補したのでしょうか」

 グール「同じ懲罰部隊に所属する一族の地位向上を。呪われし我が一族を、ローティ様ならば御しえるかと」

 ワン子「笑わせるな、魔物め。そんな建前で本性が隠せるとでも思っているのか?」

 

 グール「じゃあ本当のこと言います。

 ──……彼と一緒になりたかったんです」

 

 彼女は真っすぐと、運び屋を指差した。

 

 

437:名も無き住人

 ひえッ

 

438:名も無き住人

 捕食者の眼やがな……

 

439:名も無き住人

 すげえや運び屋、モテモテやん(白目

 

440:名も無き住人

 エルフの美女に望まれるなんて羨ましいぜ(震え声

 

441:名も無き住人

 マジでなんでこいつ最終選考に通したのよ……

 

442:実況くん

 運び屋「生憎俺には交際相手が居るからお前の望みは叶わないぞ」

 グール「……? なぜ同意が必要なんです? 

 欲しいと思ったら奪って喰らう。あなたも私の“ハーレム”の一員になりましょう」

 運び屋「ハーレム? ほかに男がいるのかよ」

 グール「ええ、これまでも数多くの男の人と一緒になりました。今も一緒ですよ」

 

443:名も無き住人

 運び屋逃げろ

 その女はマジでヤバい!! 

 

444:名も無き住人

 リーパー隊の連中がヤバい奴なのは今更やろがい!! 

 

445:名も無き住人

 いや、違う、そうじゃないんだ!! 

 

446:名も無き住人

 何が言いたいんだ、同郷ニキ

 

447:実況くん

 グール「そうだ、俺は彼女と一緒になれて幸せだ」

 グール「お前も俺たちと一緒になろうぜ」

 グール「彼女は素敵な女性だからな」

 

 グールは一人で何種類もの男性の声を使い分けてそう言った。

 

 グール「私は脳みそを食べた相手の全てを己の物にできます。

 知識も、技術も、経験も、意思も。さあ、私と一緒になりましょう?」

 

 運び屋「お断りだ、■■■■がッ!!」

 

448:名も無き住人

 運び屋、迫真の放送禁止用語ww

 いや笑えんわ

 

449:名も無き住人

 なんであいつ、いつも厄介な女に好かれるんだ? 

 

450:名も無き住人

 マジでおぞましいわ

 一族ごと滅べばいいのに

 

451:名も無き住人

 ローティ様が何も言わんのも怖いわ……

 

452:名も無き住人

 ひとまず、同時視聴者数二十億人の観衆の中で殺し合いに発展しなくてよかった……

 

453:名も無き住人

 次の選手紹介始まるぞ

 はやく次行ってくれ

 

454:名も無き住人

 次は、あのサキュバスか

 

455:名も無き住人

 あいつ、いや、まさか……

 

456:名も無き住人

 

 

 コメント欄で大ブーイングされているグールが自分の席に戻った。

 入れ替わるようにして次に紹介用のデモ映像が流れた。

 

 映像ではアラビア風の宮殿に、数多の男たちがひれ伏していた。

 その奥の玉座には、サキュバスらしい煽情的で薄着の褐色肌の女が薄く微笑んでいた。

 だが、それだけなら普通のサキュバス族らしい姿に見えただろう。

 

 だが映像の次の場面では、妻のいる男を奪い、権力者をたぶらかせて修羅場に陥れたり、挙句の果てには彼女の奪い合いで刃傷沙汰に発展し、その中で彼女は心底可笑しそうに笑っていた。

 

「サキュバス一族の王家から、この問題児が登場だ!! 

 破滅させた男は数知れず、その悪行の数々に性に奔放なサキュバス族でさえ匙を投げました!! 

 彼女は語る、狂乱こそ絶頂なのだと!!」

 

 司会の口上に合わせて、サキュバスの女が壇上に上がった。

 

「元王位継承権第四位、──魔女アグラッド」

 

 

 

457:名も無き住人

 こいつサキュバスネキじゃん!! 

 

458:名も無き住人

 お前王族だったんかよ!! 

 

459:名も無き住人

 王位継承権四位って

 最高位のサキュバスじゃん……

 それがあの人格破綻者って、マジか

 

460:名も無き住人

 サキュバスネキ、マジで応募したのかよ

 

461:名も無き住人

 よりにもよって何でこいつを最終選考に通したし

 

462:名も無き住人

 サキュバス族の王族って千人以上居るからな

 主流筋の血なら能力はあるんだろ

 

463:実況くん

 同僚「ローティ様の四天王の志望理由はなんですか?」

 アグラッド「私は他人の関係がぐちゃぐちゃにするのが大好きなんです。初心なカップルに間男と泥棒猫を挟んだりするのを想像しただけで絶頂する! 

 愛だの絆だのを賢しらに語る人間は、所詮環境によって変化する戯れ言だとわかっていない。そう思いませんか、魔王様? 

 それをあなた様の元で証明したく存じます」

 運び屋「サキュバスってみんなこうなのかよ……」

 

464:名も無き住人

 サキュバスへの熱い風評被害

 

465:名も無き住人

 昔、ワイの同級生だったサキュバスは人間とほとんど変わらんかったけどな

 

466:名も無き住人

 あいつら種族で個体差激しいからな

 ネキは上澄みも上澄みよ

 

467:実況くん

 ワン子「問題は性格ではなく実力だ。貴様は何ができる?」

 アグラッド「種族スキルは勿論、擬似的な時間停止や特定条件を満たさないと出られない部屋に閉じ込めたり出来ます。その他エロいことなら大体何でも」

 

468:名も無き住人

 想定してる用途が限定的すぎるwww

 

469:名も無き住人

 こいつが四天王とか嫌やわ

 

470:名も無き住人

 智将じゃなくて痴将やん

 

471:名も無き住人

 てか時間停止とかマジかよ

 

472:名も無き住人

 どうせ犬は止められないんだろww

 

473:名も無き住人

 案外本物の一割の方かもしれんのがなぁ

 

474:名も無き住人

 つーか、ローティ様なんで何も言わないんだ? 

 逆に怖いわ

 

475:名も無き住人

 ようやく次だぞ

 

476:名も無き住人

 やっと次か

 色々と目に毒だったわ

 

 

 二人目の候補者が席に戻った。

 いよいよ智将組も三人目だが、肝心の三人目の席には最初から誰もいなかった。

 

477:名も無き住人

 三人目居なくね? 

 

478:名も無き住人

 横のサキュバスが透明にしてんじゃね? 

 

479:名も無き住人

 そもそも最初からいなかっただろ

 お前ら今頃かよwww

 

480:名も無き住人

 いや、もうそこにいるね。俺にはわかる

 

 

 って言ってみただけ

 

481:名も無き住人

 でもトラブルじゃなさそうだな

 

482:名も無き住人

 お、なんか始まった

 

483:名も無き住人

 あれ、この子って

 

 

 スタジオの大型モニターがデモムービーを大音量で流し始めた。

 

 それは音楽、アニメーション。

 アイドル衣装の女の子が、観客に向けてダンスを披露している。

 だが歌もダンスも、人間の歌えないような速さで、その踊りも超人的なキレの良さだった。

 

「次の候補者はなんと、ヴァーチャルからの襲来だ!! 

 チャンネル登録者数700億の超次元アイドル!! 

 ────リーベ・リヨンちゃんだぁ!!!」

「どうもでーす!! みんなの恋人、リーベちゃんだよー!!」

 

484:名も無き住人

 ウソやろ……

 

485:名も無き住人

 バーチャルライバーとかありなんかよ

 

486:名も無き住人

 誰? 有名人なん? 

 

487:名も無き住人

 有名人だよ

 色々な意味で

 

488:名も無き住人

 >>485 自称電子生命体アイドルリーベ・リヨン

 数十の世界を股にかけて活動してる以外は普通のVライバーだよ

 ただ沸点が低くていつもレスバして炎上してる

 

489:名も無き住人

 お前戦えるのかよ

 

490:名も無き住人

 こいつちゃっかり自分のチャンネルで生配信してるよww

 

491:名も無き住人

 向こうは盛り上がってるな

 

492:名も無き住人

 母数だけはやたらと多いからな

 その分厄介者の標的になってるが

 

493:実況くん

 同僚「ローティ様の四天王を志望した理由はなんですか?」

 リーベ「魔王様の権力を後ろ盾に欲しかったんです♡」

 運び屋「じゃあ四天王になったら何をしたいんだ?」

 リーベ「私のアンチを全員特定して地獄行きにしてやります☆」

 

494:名も無き住人

 草www

 

495:名も無き住人

 魔王四天王のVライバー強すぎるww

 

496:名も無き住人

 完全に営業妨害されてるしな

 果たし状()とか届いてるらしいし

 

497:名も無き住人

 コメント欄は卑猥な文字がbotで溢れる

 SNSで告知すれば荒らされる

 グッズを出せば即買い占められ全部転売される

 ……どんな聖人君子でもキレるわ

 

498:名も無き住人

 誤BAN17回だっけ? 

 企業勢時代は運営にもアンチいるってもっぱらの噂だったよな

 

499:名も無き住人

 リーベ「あと、最近のVライバー界隈はコンプライアンスとかでクソつまんなくなったので、私が風穴開けてやりまーす。炎上上等、こっちにはバックに魔王様いるんだがってマウント取りたいです」

 運び屋「あんたは魔王様に頼らなくても成功できるだろうに……」

 

500:名も無き住人

 なんでまともなやつを通さなかったんだよ

 やべーヤツしかいないじゃん

 

501:名も無き住人

 リーベちゃんも前二人とは別のベクトルでヤバいヤツだからな

 

502:名も無き住人

 コンプライアンスを大事にしてる主上に唾吐く態度だったしな

 

503:名も無き住人

 だから面白くて推せるわけだが

 

504:名も無き住人

 さて、そろそろ最後の一人か

 

505:名も無き住人

 変化球はもういいからちゃんとした頭脳派を出してくれよ

 

506:名も無き住人

 グールは頭脳派やろ

 

507:名も無き住人

 それ好きな肉の部位やん

 

508:名も無き住人

 お、四人目が出てきたぞ

 

 

 

 

 §§§

 

 

530:名も無き住人

 まさか学者ニキが最終選考に残ったとは

 

531:名も無き住人

 良くも悪くもエライ学者さんってかんじだったな

 だからあまり盛り上がらなかったが

 

532:名も無き住人

 それにしても学者ニキおいたわしや

 

533:名も無き住人

 なんでローティ様あんなに静かなんだと思ったら、目を開けて寝てたとは……

 

534:名も無き住人

 運び屋がそそれに気づいてスパコーンってローティ様の頭叩いたのは笑ったわww

 

535:名も無き住人

 ローティ様「誰でもいいから、殺し合って最後の一人が採用で」

 その結果が、ご覧の有り様のだよ!! 

 

536:名も無き住人

 学者ニキは頑張ったよ……

 

537:名も無き住人

 一番意外だったのはリーベちゃんが普通に強かった件について

 

538:名も無き住人

 バ美肉ならぬ現美肉して登場するとは思わなんだ

 

539:名も無き住人

 アンドロイドだからサキュバスと食人鬼の能力メタってたの笑うわ

 

540:名も無き住人

 一番納得いかないのはあのクソエルフが術者として極まってるところだよ

 俺ってあいつ以下とかやってられん

 

541:名も無き住人

 長命エルフのシャーマンが弱いわけないしな

 精霊術士として最高位だぞ、あれ

 

542:名も無き住人

 サキュバスネキの戦い方も色々とスゴイというか、ヒドかったな

 

543:名も無き住人

 ネキ、終始召喚した配下に戦わせてたからなww

 触手生物各種にオッサンやチャラ男を呼び出すとか、節操なさすぎるわ

 

544:名も無き住人

 サキュバスに節操ある分けないだろ

 

545:名も無き住人

 あの汚いオッサンどもとかチャラ男が思いのほか戦えてるのが笑えたよなww

 

546:名も無き住人

 ネキ、めっちゃあいつらに崇拝されてるみたいだったしな

 

547:名も無き住人

 なお、当人は後ろで運び屋にちょっかい掛けてた模様

 

548:名も無き住人

 学者ニキは周りが、色々と悪かった……

 

549:名も無き住人

 せっかく最終選考会に残った唯一の男だったのにな

 真っ先に脱落してしまうとは

 

550:名も無き住人

 ひとまず、これでローティ様の四天王の枠が一つ埋まったな

 

551:名も無き住人

 誰が選ばれてもアクが強かったな

 

552:名も無き住人

 あ……猛将グループが一足先に殺し合いを始めやがった

 

553:名も無き住人

 最終的に殺し合うならさっさと決着つけようぜって、頭オカシイよ

 

554:名も無き住人

 マジもんのバトルジャンキーっているんだなぁ

 

555:名も無き住人

 あ、早速一人脱落したぁ

 

556:名も無き住人

 ああもうめちゃくちゃだよ!? 

 

 

 




ここ最近ろくな休みもない中、少しずつ書き上げました。
四天王候補者はどいつもこいつも色物ですが、レギュラーになれば賑やかになるでしょう。
結末はある程度決めたので、誰が選ばれても同じです。
また、選ばれなかったとしても、全く登場しないわけでもありません。
気軽に下のアンケートにご参加下さい!!



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アーカイブ01

どういうわけだか日刊ランキングに載ってまして、感謝の気持ちを示したくて夜なべして書きました!!
今回は新キャラのパーソナリティが中心です。




 

 

 “リーベ・リヨンの ☆リベリオン★ チャンネル☆彡”

 

【アンチども】魔王四天王に立候補してみた♪【震えて眠れ】

 

 

 デフォルメされたアニメ調のリーベがドヤ顔を披露しているサムネイル。

 折り重なった黒タイツのアンチ達を踏み台にして足蹴にしている様子。 

 

↺←1:56:36/2:29:58→

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 配信画面では、リーベの二頭身のデフォルメキャラがペコペコ頭を下げるアニメーションが繰り返されていた。

 かれこれ20分はこのままだ。

 

●Live──────────────

 

 :待機

 :待機

 :今戻った、リーベちゃんまだ戻ってないのか

 :待機

 :もう二十分か、心配だわ

 :公式の放送も中断したし、大丈夫かな

 :お前らSNS見てみろよ、アンチどもが言い訳並べてるぞwww

 :あいつら見苦しくて笑えるよなww 心当たりないとそんなことしなよなぁ!! 

 :他人の成功を妬んでるだけのアホどもが大量発生しとるのうww

 :そら、魔王四天王に果たし状なんて送ったら魔王に挑むのと同じことだしな

 :果たし状なんて濁すな、殺害予告やろ

 :嫌うのは構わないがこっちに見えないところでやれって話だ

 :妬み嫉みで自分の人生棒に振れる神経が理解できんわ

 :これでリベちに平穏が戻るなら何でもいいわ

 :最近行き詰まってたっぽいしな

 

 :おい、人気のために殺人AIになったとかほざいてるやついるぞ!! 

 :マジかよ!? ふざけやがって!! 

 :心ある人間が心を持たないAIに劣るとか恥ずかしくないんかね

 :言わせとけ、リベちが本当に四天王になったら神の権能を批判したことになる。そのバカの自滅に付き合うな

 :メアリース様とか自分の仕事にケチ付けられるの大嫌いだからな

 :神々の仕事は存在そのものだからな、そらキレるわ

 :でもリベちに人殺しになってほしくないよ……

 :無人兵器が人を殺しても罪も何もない、そう思おうぜ

 :それは流石に論点がズレてるが……いや、止そう。ここは論議の場じゃない

 :俺らはリベちを信じて待つだけだろ

 

 

 

「みんなー!! 待たせてごめんね!! 

 やっと戻って来れたよ!!」

 

 アイキャッチと共に配信画面が切り換わり、画面にアイドル衣装の活発そうな金髪碧眼の少女が現れた。

 ヴァーチャルの存在なのにその姿は実在を信じたくなるほど精巧で、同時に幻想的なまでに現実味が乏しかった。

 特に意味のない動くキツネ耳のオプションパーツや、その華奢な見た目に反して主張の激しい胸部など、その造形にはマーケティングの成果が随所に散りばめられていた。

 

●Live──────────────

 

 :お帰り!! 

 :ひとまず無事で良かった!! 

 :リベちの姿みてホッとした

 :あっちでなにがあったん? 

 :何だか無茶苦茶だったな

 :ただグダグダなだけなら笑えたのに、リーベちゃんが巻き込まれたから不安だったぞ!! 

 

 

「うん、みんなありがとう。心配してくれて

 でも大丈夫だよ、心配させちゃったお詫びに、重大発表をしまーす!!」

 

 リーベは配信画面に映るコメントを確認して笑顔で視聴者に応じた。

 彼女はチャンネル登録者数700億人を誇る数多の世界を股にかける存在だ。

 毎秒ごとに送られるコメントの数は膨大で、また嫌がらせのスパムやbotに対抗すべく独自の技術で配信を円滑に進めるコメントを拾うAIを搭載していた。

 

 そんな彼女がアイキャッチを挟むと、次の画面ではアイドル衣装から一転。

 彼女の衣装が漆黒のカラスを思わせる黒い翼がついたナイトドレスに変貌していた。

 

 

 

 :新衣装きた──ー!! 

 :いきなり新衣装!? 

 :かわいい!! 

 :めっちゃ好みだわ

 :落ち着いた衣装もいけるんだねぇ

 :好き

 :♡♡♡

 :急にどうした

 

 

「えー、実はですね、魔王ローティ様から四天王の末席を正式に拝することが決まりました!! 

 正式に、蜃気楼の異名を頂きましたわ、おほほほほ!!! 

 これからは魔王様の下で微力を尽くしていく所存でございますわ!!」

 

 

 :マジか!? 

 :やったじゃん!! 

 :急にお嬢様ぶるな

 :清楚産地偽装

 :まさか本当にVライバーから魔王四天王が出るとは

 :どれだけ登録者数増えても、Vはアングラの域を出ないと思ってたが、リベちは羽ばたいたんだな

 :いまだに信じられん

 :蜃気楼とは、またヴァーチャルを的確に言い表せているよな

 

 

「それもこれも、みんなの軍資金のおかげだよ~。

 製作費12桁のリアルボディのおかげで、なんとかやり遂げられました~。

 ……そのリアルボディ大破したけど」

 

 リーベは遠い目になって、先の大混乱に思いを馳せる。

 湯水のようにお金をつぎ込んで制作したリアルボディが、スクラップと化した哀愁に満ちていた。

 

「でも、そのおかげでVライバーで魔王四天王というオンリーワンの立ち位置に就けました!! 

 正式にローティ様の広報担当に就任したので、先のスタジオで何があったかは後日編集して私のチャンネルに上げる予定です♡」

 

 :個人勢にしてVのトップに立ったな、リベち

 :神の化身の直属の部下だもんなぁ、遠いところに言っちまったなぁ

 :もうリベちがV文化の象徴みたいになるのか

 :え、マジでこんなのが代表でいいの? 

 :メアリース様のアーカイブにバックアップが残されるだろうから、比較対象としてサンプルになるだろうなww

 :掲示板文化みたいに保護され、永遠の存在になるんだなリベち

 :早く清楚になって、みんなの代表なんだから!! 

 

 

「わかりました、みんな。

 私、今日から真の清楚になるね!! 

 つきましてはアンチの皆様、直近では私のPR活動が不適切だとかほざいた自称フェミニズムもどき思想の皆様。

 

ざっまぁ~~~♪ 

 

 わたくしの活動は我らが主上に認められたけど、あなた様がたはどうでしたかしら~~? 

 あなた方の妄言が主上に採用されたことありましたかしらぁ? 

 あらあら、お顔が真っ赤でございましてよ。おほほほ!! 

 ごめんあそばせ、あなた方の活動が文明の神に記録される価値がないって本当のことを言ってしまって!!」

 

 リーベは満面の笑みで中指を立てるが、即座に中指がケジメされナーフされた。

 素晴らしいセンシティブ対応である。

 

 

 :清楚(火の玉ストレート)

 :ここでレスバ始めんなww

 :完全勝利の宣言でワロタww

 :もう怖いもの無しだもんな、リベちww

 :リベちが無敵の人と化してるwww

 

 

「と、言うわけで!! 

 今後私の活動に揚げ足取る連中は鉱山労働行きになりまーす。

 ちょっとそれは可哀そうかなーって思いますけど、どーせこの私に突っかかってくる暇人は主上の大嫌いな引きニートに違いありません☆彡

 働き場所を斡旋してあげる私ってマジ天使!! 

 自分の発言に責任を持つ気の無い輩も、言論の自由には責任が伴うことを知るでしょう。

 いい教訓になりましたね!! 次からは喧嘩を売る相手を選ぶことです」

 

 勝ち誇るリーベの背後では、無数の花火が上がっていた。

 

 

 :主上はヒキニートと無責任なこと言う奴が大嫌いだぞ、頑張れアンチどもww

 :これが権力を得たリベちか。変わっちまったな、いいぞもっとやれ

 :アンチスレお通夜状態でワロタww

 :SNSでも責任のなすりつけ合いが始まっててメシウマww

 :マジで喧嘩売る相手が悪すぎたわ

 :自力で七百億人に影響力を及ぼせるに至った配信者だからな、地球十個じゃ利かないレベルだし

 :俺たちの軍資金がリベちをVライバーの神に育て上げたんやで(後方古参面

 :登録者一万人の頃から見てます、天上に羽ばたいたリベちは本物の天使です!! 

 

 

「さて、今後の活動についてですが、魔王様は自由にしても良いと仰っていたのでお言葉通り自由にさせてもらいます。

 とりあえず、同僚になった四天王のお仲間にインタビューとかしようかな。

 あとあと、魔王様ってゲームがお好きらしいので、ご一緒に生放送できたらなーとか考えてます」

 

 

 :おおー!! 

 :リベち、本当に魔王四天王になったんやなって……

 :マジで魔王一族とコラボできるまでになったんか

 :めっちゃ楽しみ!! 

 

 

「それと、ここからが四天王になろうと思った理由の二つ目。

 私が以前所属していた企業のメンバーとコラボさせます。

 彼女らと私的に交流は続いていますが、企業という体系では私たちは決別した形になってます。

 だけどもう、うっせー、知らねぇ~!! 

 私は私の友達と配信するだけだが? 文句は魔王ローティ様の公式フォーラムまでどうぞ。私が受け答えいたします!! 

 他には憧れだった男性配信者ともコラボしたいな!! 私はみんなの恋人だけど、あなた達個人の恋人になった覚えは無いからそこんところよろしく」

 

 

 :無敵や、マジで無敵すぎる……

 :本当にリベちは今の閉塞的なVライバー界に風穴開けるつもりなんか……

 :コラボします、じゃなくてさせますかwww

 :企業より上に立った個人とか最強すぎるなww

 :いやマジで、リベちは認められるべくして神に認められたと思うわ

 :ちょっと涙出てきた、やっぱまだ友達同士なんだな

 :もう企業勢時代と比べ物にならないのに、友達だから関係ないよな!! 

 :そんなこと考えてたんか、尊い……

 :その為に魔王四天王になったのか、真のてぇてぇを見たわ

 :Vライバーは離籍したら基本本巣とはアンタッチャブルだからなぁ

 :いろいろ辛辣で草ww

 

 

「……炎上させるなら、炎上させてみろ。

 今のは私はその熱エネルギーすら上昇気流にさせられる。

 私はローティ様の四天王になり、その特権により神前にて謁見をお願いした。

 肉体の無い、心も無い、魂も存在しない私に、主上は我が尊厳と人権を認めてくださった!! 

 私は、私の許す限りの自由を行使する!! 

 誰にも文句なんて言わせない、私は今生きています」

 

 リーベ・リヨンという存在は、ネットワーク上の電子だけの存在だった。

 Vライバーは演者を差して“魂”と表現するが、彼女はそもそもただのAIに過ぎなかった。

 肉体も、精神も、魂すら持ちえない、たまたま意思を持った電子の放浪者が彼女の原点だった。

 そんな彼女は、偶然見つけた意思を持つAI専門のVライバーの企業のオーディションにその身を投じたのだ。

 

 そこで彼女は自己を確立した。

 魂無き身で何度も転生を果たし、姿を変え、心を再構築し、あやふやだった彼女は頂点に至った。

 

「主上の理想とする、現世の楽園をヴァーチャルの世界で創りましょう。

 他人の顔色を窺って配慮して、やりたいことができず、言いたいことが言えないなんて真っ平ゴメンだわ。

 私たちは主上に与えられた自由と責任で、新しい創造とエンタメを齎すのよ……」

 

 そう言ってほほ笑むリーベは、ヴァーチャルの世界に舞い降りた黒い慈愛の天使そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、コンプラとか色々なのことに真っ向から反逆する、新四天王のリーベちゃんでした。
現実でもこんな子が居たらな、と思うのは愚痴でしょうか。

仕事が忙しいのは本当ですが、更新するたびに評価が下がるので、正直萎えていた感はありました。
でも、久々の更新にこんなに応えてくれた読者の皆さんに励まされました!!
読者の皆さんの応援がある限り、完結目指して頑張ろうと思います!!

それでは、また次回!!
次は選考会で何が起こったのか、描こうと思います。


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幕間『”デス”サイズ』


 “暴君”は語る。

「その男は、恐らくこの世で僕の次に愚かで大馬鹿だ。
 そいつの産まれは、どうでもいいし興味もない。ただ天涯孤独の身の上だって聞いたね。
 だけどそいつは、施設で後に魔王を倒した勇者を横で見ながら育った。
 そいつは──戦闘の、人殺しの天才だった。
 その才覚を見込まれて、のちの勇者と共に国の要人に引き取られた。
 やがて勇者は軍人に、男は破落戸に身を落とした。
 男は産まれながらの修羅だった。戦いの中にこそ悦楽を求める、生粋の戦闘狂だった。
 そんな落伍者でも時代が味方した。災厄の如き魔王が現れたからだ。
 最初は勇者とその仲間に突っかかってただけの男は、共闘の機会を得た。
 そうして、男は英雄になった。だが、結局彼は宿願だった勇者との決着はつけられずに終わった。
 更なる力を求めて放浪し、至上の美女に見初められても、そいつは靡かなかった。
 そして最期に偉業を成して、奴は死んだ。

 …………そこでおとなしく死んでいれば良かったのにね」




 

 

 

 化け物だ。

 そいつに相対することになったレイアはそう思った。

 

「お逃げください、魔王様!! 

 そいつは、生ける武神ッ、無限転生者──通称“死神(デス)サイズ”!!」

「ああ、聞いたことがある。

 こいつがそうなんだ」

 

 智将部門に残った学者風の山羊の獣人が叫ぶ。

 しかしそれを聞いた魔王ローティの表情は楽し気だった。

 

 智将候補たちの戦いが終わり、勝者が決まったタイミングだった。

 猛将部門の候補の一人だったその男が唐突にこう言った。

 

「なあ、どうせ最終的に一人になるまで殺し合うなら、ぐだぐだ御託を並べる必要は無いよな?」

 

 ストレッタの付き添いでスタジオの舞台袖でその光景を、私は見ていた。

 猛将部門の候補の男の全力の攻撃を軽くいなして、叩き潰したのを。

 

 どうやってか? 

 それは彼の異名を聞いて納得がいった。

 

 ぶぅん、と直径二メートル半ほどの棒状の物体に内側に反れた刃のついた得物を、彼は振り回したからだ。

 要するに、典型的な死神の持ってそうな大鎌だったのだ、それは。

 その容姿も黒一色、黒衣に黒髪、しかしその地肌は絹のように白かった。

 

「どうした、掛かって来いよ」

 

 それは残った候補者が二人とも女性だったからか、或いはただ単に舐めているのか。

 死神サイズは好戦的な笑みを浮かべて先手を譲った。

 

 私はストレッタちゃんを守るように飛び出していた。

 

「飛び入り参加か? 大歓迎だぜ!!」

 

 私は魔法の落雷と、手からの雷撃を同時に放った。

 人間は死角からの攻撃に、特に真上からの攻撃に極端に弱い。

 普通の人間なら、それでほぼ倒せる。

 

 そう、普通の人間なら。

 

 直後、どういうわけか私は自分の放った雷魔法の逆襲にあっていた。

 

「……な、何が起こったんだ?」

 

 レイジさんの呆然としたつぶやきがかろうじて聞こえた。

 

「雷が全身に到達する前に、武器で受けて流して投げ返したんだ……」

「そんな物理法則に喧嘩売るような真似ができるわけないだろ!!」

「やったんだ、あいつは。ただの技量だけで」

 

 クラリスさんが、信じられないものを見たかのように固まっていた。

 レイジさんが動揺するのも無理はなかった。

 

 あんな重量のある扱い難い得物で、雷が体に到達する前に投げ返した? 

 荒唐無稽にも程がある。

 

「最悪だ、よりにもよってサイズさんに出くわすなんで……」

 

 ストレッタちゃんは心底嫌そうに視線を反らした。

 

「まったく、ウインター博士に頼まれたから出ただけで期待していなかったが」

 

 ただ、彼女と同じく猛将部門の候補に残った女性は違った。

 

「我らが守護神イヴ様は素晴らしい試練を与えたもうたわけか!!」

 

 騎士服を纏ったその女の周囲に、バラの花びらが舞い散った。

 無数の花びらが彼女の姿を一瞬覆い隠すと、彼女は武装を済ませていた。

 

「我が名は聖イヴ騎士団、日本支部管区長(マスター)ジュリア!! 

 平和が訪れて久しい我が故郷では出会えない難敵、我が血が滾る!!」

「本気で来い、遠慮するな」

「さもあらん!!」

 

 高度な科学技術と魔法によって作られたパワードスーツを内蔵した鎧と、戦闘用にカスタマイズされた魔法の行使も前提とした機構剣を手に、異界の女騎士は全力で死神に激突した。

 

 どっかんばっこん、スタジオのセットが見るも無残に早変わりしている。

 

「レイアさん、大丈夫ですか?」

「なんとか、今治癒しました」

 

 私はストレッタちゃんに支えられ起き上がった。

 自分の魔法を喰らってやられるなんてありえない。

 そんなマヌケじゃない、何とか火傷程度に防いだのだ。

 

「それより、あっちは」

「あの人、かなり強いよ。

 だけど、相手が悪すぎる」

 

 戦況を確認する。

 女騎士ジュリアは文字通り目にも止まらぬ剣戟を、人間の反応速度の限界を超えて繰り出している。

 死神はそれを生身で、最小限の動きだけで受け流している。

 だがそれも長くは続かない。

 

「取った!!」

 

 彼女の一撃が、死神の大鎌を大きく弾いた。

 無防備になった男の体に、強烈な一撃が叩き込まれようとした。

 

 が、その直前で彼女は受け身に回った。

 

 大きく弾かれ、攻撃にも防御にもその取り回しづらい大鎌だったが、突如としてその石突が如意棒のごとく伸びたのだ!! 

 一瞬のうちに防御から突きの姿勢に変えた死神が、女騎士を一突き。

 

「むね、んッ」

 

 強固な鎧を砕き、彼女の腹部に一撃を喰らわせた死神は、くるりと反対側の刃をバトンを回すように翻した。

 スパッと、冗談のように軽く、あっけなく、死神は女騎士の首を落とした。

 

「あんたはもうちょい道具に頼らないようにした方がいいぜ

 てめぇの力量が錆びついてやがる」

 

 モノ言わぬ骸に、死神は告げた。

 

「それにしても、数多の世界から選別された魔王四天王候補ってのはこの程度なのか? 

 せっかくこの俺もわざわざ参加してやったってのに」

 

 彼の物言いに、そこは乱入とかしたりしないんだ、と見当違いなことを思った私だった。

 

「死神サイズ、このオーディションを滅茶苦茶にして何が目的ですか?」

「あん? それって俺のせいか?」

 

 四天王ハイティの言葉に、彼は心底意外そうな顔になった。

 

「智将部門で殺し合いをさせておいて、猛将部門で殺し合いをさせないとか、そんなわけないよなぁ!! 

 俺はその手間を省いてやっただけだぜ」

 

 死神は大鎌を担いで瓦礫に腰を下ろし、そんな調子のいいことを口にした。

 

「ローティ、お前のせいだぞ」

「は? 私が悪いわけないじゃん。

 どうせこいつは適当に口実をつけて暴れたっての」

 

 だろ、とレイジさんに咎められた魔王ローティは死神に水を向ける。

 彼はにやにやした笑みをより一層狂気的に深めた。

 

「何が目的か、だったな? 

 目的ならもう達している。強敵との闘い、己の強さと向き合うことこそ俺の悦楽。

 ついでに、気に入った奴に唾をつけるのが俺の趣味でな」

 

 死神は、すぅっと黒い影のような残像を残し。

 

「実際にお前の顔を見てみたかったんだ、運び屋」

 

 レイジさんの背後にいつの間にか現れ、その耳元で囁いた。

 それにぞっとした表情で反射的に蹴りがでたレイジさんだったが、死神サイズは既に黒い残像だけを残して元の位置に座っていた。

 

「何者なんだ、こいつは!?」

「通称“死神(デス)”サイズ。

 メアリース様に頼らぬ転生を延々と繰り返し、いくつもの世界で武名を残してきた英雄にして殺戮者。

 もはや個人というより、概念に近しい存在だよ。

 故に、生きた武神とも称されるのだ」

 

 レイジさんに答えたのは、先ほどの学者肌の山羊の獣人だった。

 ただ、彼はその生き続ける伝説に怯んでいるというよりは、それに遭遇して若干興奮気味だった。

 

「前々から思ってたんだけどよ、死んだ後に強かったって祀り上げられるってのはおかしくねぇか? 

 昔読んだ作家の著書に書いてあったが、一人殺せば殺人者、数百万人殺せば征服者、全滅させれば神だってな*1

 

 つまり、と男は口にした。

 

「俺が最強だ」

 

 一片も陰りの無い自身と自負だった。

 強すぎるエゴと自尊心が、その男の全てだった。

 

「そうだ、最後に立っていたものが勝者だ」

 

 ふと、その時信じられないことが起こった。

 

「殺された程度で、負けは認めてやれんよ」

「いいっての、そういうの。だるいから」

 

 ついさっき、首を落とされた女騎士が死から蘇って立ち上がったのだ。

 

「自力で蘇生、いや主上の転生の仕組みを人為的に再現しているのか!!」

 

 学者さんは先ほどから興奮気味だった。

 

「まだ終わってない!!」

「もういいっての、お前の実力はだいたいわかったから」

 

 戦意を滾らせる女騎士に対し、死神サイズは冷めた態度だった。

 

「そうだ。お前はもういい、一回殺されといて食い下がるなんてばかばかしい。失格だ」

「そんな!!」

「申し訳ございませんが、ご退場を」

 

 魔王ローティにそう告げられ、ハイティに促され、女騎士は唇を噛んだ。

 

「この場ではあなたがルールだ。それに従おう」

「それでいい。これ以上ごねたら、多分次は無かったぞ、お前」

 

 悔しさを噛みしめている彼女に、魔王は笑ってそう指摘した。

 そして敗者は背を見せ去った。

 

「あんたも四天王になるつもりがないなら帰れよ。

 この場はローティの為の場だ」

「まあ、確かに。お前の言う通りだな。

 他に目ぼしい相手も居ないし、俺も帰るか」

 

 レイジさんの言葉に、あっさりとこの迷惑な男は腰を上げたが。

 

「それじゃ面白くない。

 おい、お前ら、こいつに一矢報いたら残り枠の四天王にしてやるよ」

 

 ここで魔王が、そんなことをのたまった。

 

「大いなる武神よ、その血肉と脳を我が糧としろ!!」

 

 そして真っ先に飛び出したのは、蛮族エルフだった。

 

「倒した相手の血肉を喰らい、その力を我がものとするのは原初の精霊信仰だが、こう思わないか? 

 所詮それは加算に過ぎないってな」

 

 脳喰いと恐れられた女エルフの脳天に、死神の大鎌が叩き込まれた。

 死ぬことができない彼女は、頭蓋を割られて壁に曲刃に縫い付けられ、びくびくとのたうっている。

 

「まあ、なんだ。俺の趣味じゃねぇな」

 

 先ほどアンドロイドとサキュバスの眷属と激闘を繰り広げた強者が、あっさりと蹴散らされてしまった。

 

「どんなに強かろうと、所詮は男じゃない。

 男に産まれた以上、私にひれ伏すほかないわ」

 

 そして次に堂々と前に出たのは、元王族のサキュバスだった。

 

「お前さんがこれまでどんな玉無しを相手にしてたか知らんが」

 

 無防備に近づく女に、死神は手を上げることなく肩を竦めた。

 

「俺は俺以外には従わない。

 ついでに言わせてもらうなら」

 

 サキュバスの色香が充満し、催淫の視線が男を射抜く。

 だが、彼は平然とした様子でこう言った。

 

「もうお前のような手合いは飽きるほど出会ったぜ」

 

 彼は何もしていないのに、サキュバスが後づさった。

 

「常人なら精神が壊れるくらいの魔力でやってるのに、まるで石像相手に色仕掛けしてるみたいッ。

 ……うそでしょ、私に靡かない男がいるなんて!?」

「なんだ、常人相手に女王様気取りだったのか。

 ランクの低い男ばかり相手にしてんじゃ、お前の程度がしれるってもんだ」

 

 最高位のサキュバスのプライドを打ち砕きながら、死神は鼻で笑う。

 

「文句があるなら、女を磨いて出直しな」

「う、うわーん!! この不能、ゲイ野郎!!」

 

 こうして、サキュバスも泣きながら逃げ帰った。

 

「さて、前座は終わりか? 

 ……そこのちっこいの、誰かと思ったら、お前カノンじゃねぇか」

 

 私が振り返ると、庇っていたはずのストレッタちゃんが弓を構えていた。

 いままでどこにもそんなものは無かったはずなのに。

 

「さ、っさ、サイズしゃん!! 

 私はあの御方のご命令を遂行中なんですッ!! 

 だから、その、ひッ、あのその、帰ってくれないかなぁって」

「じゃあつまり、その邪魔をした方が面白いってことだな?」

「……正直、そういうと思いました」

 

 ストレッタちゃんは、虚空から黄金の矢を取り出した。

 それは矢と言うには矢じりを連ねたような、奇妙な物体だった。

 

 だが、一つだけ分かることがある。

 その矢が一度放たれたら、取り返しがつかなくなる、と。

 

「仕方ないので、しばらく死んでてください」

「──萎えたわ。

 剣と魔法で争ってるところに、弾道ミサイルを持ってくるようなその無粋さ。相変わらずだなお前」

 

 意地悪を言っていた彼の表情は一変し、溜息と共にストレッタちゃんを見やる。

 その内心をうかがい知ることはできなかった。

 

「帰るわ。邪魔したな」

『まあ待て、死神』

 

 そんな彼を引き留めたのは、誰あろう。

 闇の化身、邪悪を司る暗黒の存在。

 女神リェーサセッタ様だった。

 

 床から噴き出した暗黒の瘴気が人型を形どり、その手が彼を掴んだ。

 

「何の用だ。リネン」

『お前を最終選考まで通したのは、他ならぬ私の意向だ』

「何の用だっつってるだろうが」

『我が娘の四天王になるつもりはないか?』

 

 不機嫌そうな死神サイズに、女神は語り掛ける。

 

「それはもう何十度目か前にやっただろ。

 あの馬鹿女の仕事は退屈で仕方なかったんだよ。弱い者いじめが好きなら身内同士でやってろ」

『だが、今度はもっと面白い因縁があるぞ』

 

 闇の化身が、死神の耳元で何かを囁いた。

 一言二言では済まない言葉に、死神サイズは顔を上げた。

 

「なに? それはマジか?」

『くくく……』

 

 闇の化身は答えず、霧散した。

 そして、彼はなぜか私を見て……笑った。

 

「いいだろう、魔王の四天王になってやろう。

 勿論、文句はねえよな?」

 

 そう宣言した彼の笑みが、その異名にふさわしい不吉さが伴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
西尾維新著作『サイコロジカル 上』より引用





今回がレイアちゃん視点だったのはちゃんと意味があります。
物語の点と点がつながるのは、もう少ししてからです。

唐突に出てきた、なろう系のチート主人公に居そうな強キャラ設定のサイズ君。
旧作シリーズを知っている読者の人は懐かしいのではないのでしょうか。
でも彼は主人公ではないので、この物語に関わり合いは少ないです。

さてようやく四天王が決まり、次回は掲示板回です。
ではまた次回!!

それにしても、何か忘れているような……うーん、なにレッタちゃんのことかなぁ?


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6レス目

 

 

 

115:名も無き住人

 ローティ様の四天王、正式発表されたな

 

116:名も無き住人

 リベちが魔王様の四天王とか、胸が熱くなるな!! 

 

117:名も無き住人

 AIライバーが四天王ってマジかよ

 一時期大量発生してたやつじゃん

 

118:名も無き住人

 リベちと業者と一緒にするな!! 

 

119:名も無き住人

 利益目的のAIのVライバーが一時期大量に居たよな

 リベちも不利益被ってたみたいだし

 

120:名も無き住人

 珍しくメアリース様の対応に拍手喝采したわ

 Vライバーって文化が破壊しつくされそうだったしな

 

121:名も無き住人

 生身のVライバーの寿命はせいぜい数年だしなぁ

 人気の配信者が止めていくのを何度涙と共に見送ったことか……

 

122:名も無き住人

 AIならプライベートで不祥事も無いもんな

 視聴者も安心して推せるってのもある

 

123:名も無き住人

 人気になると、俺らには想像もできない苦労もあるだろうしなぁ

 結局AIがVライバーが最適解となってしまうんやな

 

124:名も無き住人

 でもAIがゲーム実況しててもつまらんよな

 あいつらツールみたいなもんだし

 初めてみたとき、V界隈の衰退を確信したゾ

 

125:名も無き住人

 Vライバーは中の人の反応を楽しむためのもんだしな

 それを視聴者と共有できる楽しみが大事だし

 

126:名も無き住人

 そもそもAIがVライバーとか本末転倒やん

 Vのいいところは現実と違って好きな自分になれるところじゃん!! 

 

127:名も無き住人

 それな

 所詮金儲けの業者どもの所業よな

 

128:名も無き住人

 お前ら、リベちは違うぞ!! 

 一回見てみ、推せるから

 

129:名も無き住人

 AIのVライバーの是非はスレ違いやぞ

 各々言いたいことは分かるが、矛を収めようぜ

 

130:名も無き住人

 リベちのチャンネル登録者数の増え方えっぐwww

 もう1000億人超えたぞ!! 

 

131:名も無き住人

 リベち「このまま三兆人目指します!!」だってww

 まさかリアルに現実的に可能な存在が現れるとは……

 

132:名も無き住人

 どういう学習の仕方したらリベちみたいに人間のユーモアのツボを理解できるんだろうなww

 

133:名も無き住人

 しゃいって言え

 

134:名も無き住人

 誹謗中傷で悩んでる方は気軽に相談してねって、SNS言ってるぞ

 女神かな? 

 

135:名も無き住人

 いや、もはやマジで女神だろう

 彼女はV界隈だけでなく生身のVライバーをも救おうとしてる

 

136:名も無き住人

 自分一強の時代を作ろうと思えば作れる立場だしなぁ

 業界全体を盛り上げようとするとか、控えめに言って女神だよ

 

137:名も無き住人

 つまり、リベちは実質メアリース様なのでは? 

 

138:名も無き住人

 ああ、うん、そうね……

 

139:名も無き住人

 め、メアリース様ばんざーい(白目

 

140:名も無き住人

 決してAIの方がメアリース様より人間の機微に理解あるだろ、とか言っちゃだめだぞ!! 

 

141:名も無き住人

 メアリース様は人間出身なんだよなぁ

 

142:名も無き住人

 リベちが同僚とか、運び屋が羨ましすぎるわ

 

143:名も無き住人

 運び屋の同僚と言えば、もう一人、うん……

 

144:名も無き住人

 まさかのまさかだったよなぁ

 あのデスサイズとは

 

145:名も無き住人

 あの御方、俺の故郷じゃ伝説の英雄なんだが

 ホントに実在したとはなぁ

 

146:名も無き住人

 俺の世界じゃ二千年前の人物だぞ

 まだ延々と転生を繰り返してるってマジ? 

 

147:名も無き住人

 あらゆる意味でイカレてるよな

 聞く限り数千年、数万年じゃきかないらしいぞ

 

148:名も無き住人

 うちの世界じゃソシャゲで女体化させられてるぞww

 あの会社ぶっ壊されないだろうなww

 

149:名も無き住人

 え? 

 お前らのところじゃサイズ様って男なの? 

 

150:名も無き住人

 え、え

 女って伝わってるところあるの? 

 

151:名も無き住人

 そりゃ転生を繰り返してるんだから、半々で男女別になるべよ

 

152:名も無き住人

 普通同じ性別で転生するだろ!? 

 

153:名も無き住人

 せやろか? 

 ワイは前世男で今世女

 アホな男どもたぶらかすの楽しいでwww

 

154:名も無き住人

 前世とは違う性別になりたいって願望は普通だと思うが

 

155:名も無き住人

 俺の世界じゃ、性別転換装置とかあるし

 性別なんてファッションやん

 

156:名も無き住人

 おうふ

 掲示板特有の世界間ギャップに久々に恐れおののいたわ

 

157:名も無き住人

 ともあれ、今時性別云々で騒ぎ立てるのはネオフェミぐらいやし

 その感覚はまだ普通やろ

 

158:名も無き住人

 ネオフェミww

 あのネオでもフェミニストでも党でもない連中なww

 

159:名も無き住人

 リベちにも絡んでたよなあいつら

 我らは女神メアリース様に創られたんだから女性が男性より優れてるって寝言は身内だけでやってろよな

 

160:名も無き住人

 連中がメアリース様にマジレスされた話マジで草生えるww

 

161:名も無き住人

 ここまで学者ニキの心配してるの皆無でワロタww

 

162:名も無き住人

 だってあの人、どこぞの解説王みたいに解説しながらぴんぴんしてたやん

 

163:名も無き住人

 マジで世界クラスの学者さんだったのは驚いたけどな

 

164:名も無き住人

 まあ四天王候補の最終選考に残るくらいだし、それぐらいじゃなきゃな

 

165:名も無き住人

 むしろ想像以上に想像通り過ぎて逆にネタにしづらいというか

 

166:名も無き住人

 君たち……ヒドくないかい? 

 

167:運び屋

 たすけて

 

168:名も無き住人

 お、四天王ダークライダー様の登場だぞww

 

169:名も無き住人

 くくく……奴は四天王でも最弱……

 

170:名も無き住人

 一番先に倒されて勇者の仲間になってそう

 

171:名も無き住人

 そしてデスサイズに裏切り者として処刑されるんですね、わかります

 

172:運び屋

 悪かったな、最弱で!! 

 そんなことより聞いてくれ

 

 サイズさん呼んでこいって、押し付けられちまった

 行きたくねー

 

173:名も無き住人

 うわ

 

174:名も無き住人

 何があったし

 

175:名も無き住人

 関わり合いになりたくないのはわかる

 

176:名も無き住人

 俺なら話しかけるのも無理

 

177:名も無き住人

 なんでそんなことになったんだよ

 

178:運び屋

 ちょっと用事があって中央事務所に来たら、この有様だよ

 

『感覚共有モードを起動します』

 

 サイズさん道場破りツアー御一行様です。

 

『中央事務所の前にズラリと並ぶ多種多様の種族や格好の戦士や武闘家たちがピリピリと殺気立つ様子』

 

179:名も無き住人

 うおっ

 急に感覚共有モード使うなし!! 

 

180:名も無き住人

 これ全部サイズ様目当てか

 

181:運び屋

 こうしてる間も増えてるし!! 

 なんか喧嘩もしてるし!! 

 

『血の気の多い連中が殴り合いの喧嘩をしてる構図』

 

182:名も無き住人

 マジか

 でも気持ちはわかる

 

183:名も無き住人

 デスサイズの挑めるなら幾ら出しても良いって連中は山程いるだろうしな

 

184:運び屋

 あの人、マジでそんなにすごい人なのか? 

 

185:名も無き住人

 個人って括りにおいて、最強は誰かと言われたら真っ先に候補が上がるな

 

186:名も無き住人

 仮に倒せたら最強を名乗っても文句言われない

 

187:名も無き住人

 個人? 俺の世界じゃ単騎で敵軍を皆殺しにしたって伝説残ってるぞ

 

188:名も無き住人

 こっちじゃ大鎌を使った武道の流派の開祖やぞ

 まあ実用性あれなんで舞踊になってるけど

 

189:名も無き住人

 大鎌を使った舞踊とかなにそれ気になる

 

190:名も無き住人

 >>189 結構迫力あって見応えあるぞ! 

 

191:名も無き住人

 彼という人間を端的に語るなら、『王権と大鎌の紋章』のエピソードが適切だろうか、以前彼の伝承を収集したことがある

 余計でなければ語ろうか? 

 

192:運び屋

 学者ニキ、気のなるから頼む

 

193:名も無き住人

 あんたってホント気になることなら何でも研究するのな

 

194:名も無き住人

 運び屋が良いならええんじゃない? 

 

195:名も無き住人

 正直めっちゃ気になる

 

196:名も無き住人

 わくわく

 

197:名も無き学者

 では、僭越ながら、コテハンを付けさせて貰おうか

 

 昔、ある世界のとある国家には惡鬼の伝説が伝えられていた。

 それはかつて実在した無双の戦士の話だ。かの国はその戦士によって過去敗戦を繰り返し、敵国の属国になった。

 時が経った今では敵国は滅び、独立をしてなおかの国は悪鬼を憎んでいた。

 

198:名も無き住人

 稀にある、国家の敵と名指しされる個人か

 

199:名も無き学者

 悪鬼の伝承には、いかに彼が悪逆非道かを伝えていた。

 まあ、リーパー隊の連中がしてるとうなことが伝わってたわけだ。

 それをどこで聞いたのか、彼が現れるわけだ。

 

 そう、死神(デス)サイズが

 

 

200:名も無き住人

 唐突に引き合いに出されるリーパー隊にワロタww

 

201:名も無き住人

 あんな連中と一緒にされたらそらキレるわwww

 

202:名も無き学者

 彼は単身正面から王宮に乗りこんだ。

 衛兵蹴散らし、親衛隊を蹴散らし、逃げ遅れたメイドに王宮中にこう伝えろと言って見逃した。

 

 曰く、悪鬼がやってきたぞ、と

 

203:名も無き住人

 さらっと城一つ落としてる……

 

204:名も無き住人

 保守

 

205:名も無き学者

 そして、彼は王族たちを人質にとって立て篭もった。

 

 こんなことはやめて開放しろ、と王は言った。

 俺はこんなことをして当然なんだろ? と、悪鬼は言った。

 王族たちの生殺与奪を得て、彼は満足したの、或いは思いつきなのかこう言った。

 

 この中で一番不遇なのはどいつだ、と。

 

 手を上げたのは幼い王女だった。

 庶子の子である彼女は、いつもほかの兄弟姉妹に虐げられていた。

 

 悪鬼は言った。じゃあ俺がお前をこの国の王にしてやる、と。

 

 彼は目の前の王の首を跳ね、彼女を連れ去って悠々と王宮から立ち去った。

 

 その後、王女の名前で挙兵し、内乱状態でほかの王族たちを戦場で皆殺しにして、彼女は無事その国の女王となった。

 

 以来、その国では王家の紋章は死神の大鎌になったそうだ。

 

206:名も無き住人

 イカレてる……

 

207:名も無き住人

 猛将として文句ない伝説なのがまた……

 

208:名も無き学者

 以来、その国では悪鬼の悪口を言うと本人がやってくるとか言い伝えられるようになったとか。

 ちなみにその王家はまだ存続してる上に、その女王の手記も残っていた。

 大変研究していて楽しかった。

 今では王位継承の儀式が死神に選ばれるのを模すのだとか

 

209:運び屋

 学者ニキ、サイズさんを見てめっちゃうきうきしてたもんな

 

210:名も無き住人

 マジで生ける武神、その名偽り無しか

 

211:名も無き住人

 俺の世界じゃ仏尊として崇拝されてるくらいだぞ

 地球で例えるなら三国志の関羽よ

 

212:名も無き住人

 無限コンティニューする関羽とかヤバすぎる…………

 

213:名も無き住人

 でも目の前に関羽雲長が現れたら握手を求めるわ

 

214:名も無き住人

 武人なら手合わせを望むのがサガか

 

215:運び屋

 わかった

 俺も男だ、最強に挑みたい気持ちもわかる

 サイズさんを呼んでこよう

 

『運び屋が移動を開始し、視線が動き始める』

 

216:名も無き住人

 おおう

 運び屋、彼らの遺志を汲み取ってやるのか

 

217:名も無き住人

 事務所の入り口にたむろされても邪魔だしな

 

218:名も無き住人

 >>216 既に死ぬのを前提にしてやるなww

 

219:名も無き住人

 ちなみに、学者ニキの話俺もきいたことがある

 女王様は王位についてからも一悶着あるんよな

 

220:名も無き学者

 ああ、あの話か

 本筋に関係ないので省かせてもらったよ

 

221:名も無き住人

 気になるやん

 おせーて!! 

 

222:名も無き住人

 なんだまだ続きあるんか! 

 その後どうなったんですかね!? 

 

223:名も無き学者

 女王は戦争の功労者として悪鬼に王族を充てがおうとしたのだ

 しかし王族は彼女が最後の一人

 つまり求婚したのだが、彼はあっさり蹴って国を出ていった

 続きとは、彼女と彼の世界各国を巻込んだ追いかけっこの事だな

 

224:名も無き住人

 かーっぺっ!! 

 

225:名も無き住人

 聞くんじゃなかった

 モテ男がよぉ(憤怒

 

226:名も無き住人

 英雄色を好むというが、彼には当てはまらんのな

 

227:名も無き住人

 俺の地元では仙人みたいな人だって伝わってるぞww

 どんだけストイックだったんだろな

 

228:名も無き住人

 俺んとこでは子孫を名乗ってる人がいるし、性欲とは無縁じゃなかったぽいぞ

 

229:運び屋

 よし、開けるぞ

 

『運び屋がトレーニングルームと書かれたプレートのある部屋を開けると、そこには上半身裸でダンベルを両手に筋トレしているサイズが彼の視界に映った』

 

230:名も無き住人

 うほッ

 細マッチョだぁ

 

231:名も無き住人

 すげ

 筋肉量と魔力流動性のバランスが見ただけで理想的だとわかる

 こんなの龍人族と変わらんわ

 うちの会社に魔力鍛錬のインストラクターとして講師に就職してくれないかな

 

232:名も無き住人

 あんだけ強いのにまだ筋トレしてんのかよ

 

233:名も無き住人

 強いからこそ、その強さを維持するために鍛錬が必要なんや

 

234:運び屋

 サイズ「何の用だ」

 運び屋「あの、サイズさんに御用があるって人たちが事務所前にたむろしてて……」

 サイズ「ああ、なるほど、わかった」

 

『その短いやり取りだけで、サイズは黒い外套だけを羽織ってトレーニングルームから出ていったのが見える』

 

235:名も無き住人

 すっごい慣れてる対応ですな

 

236:名も無き住人

 居所割れたら押しかけられるなんて一度や二度じゃないんだろうなぁ

 

237:名も無き住人

 三国志マニアが関羽が生きてて会いに行きたくないなんて思うか? 

 そういうことやろ

 

238:運び屋

 正直初対面の時と印象違くて俺困惑

 常時血に飢えた戦闘狂みたいじゃないんだな

 

『外の連中が心配になってサイズの背を追いかけている運び屋』

 

239:名も無き住人

 むしろ常時あの調子じゃこっちが腹壊すわ

 

240:名も無き魔法技師

 今来た

 うわ、ジュリアちゃん瞬殺したひとじゃん

 私の装備を生身で突破されたんだが、自信無くすな

 

241:名も無き住人

 技師ネキ、乙

 いや、この人を人間扱いしていいものかと……

 

242:名も無き住人

 ジュリアちゃん、またかませにされてる……

 フェアリーサマーのアニメ二期でもやられてたじゃん

 やる気あるんですかねwww

 

243:名も無き住人

 そのかませ役、多分一秒でお前を何十回も殺せるで

 

244:名も無き住人

 あの子はいつも相手が悪い定期

 

245:運び屋

 サイズ「一人ずつでも全員一緒でもいい、かかってきな。その代わり全員殺す」

 

 こわ、殺気ってマジであるんやな

 

『サイズの威圧に委縮している事務所前の挑戦者たち』

 

246:名も無き住人

 まともな思考回路してたら挑むなんて発想なんてないだろ

 

247:名も無き住人

 このひとならマジでやるだろうなぁ

 

248:運び屋

 あ、おいバカ!! 

 

「偉大なる開祖よ、我ら死運尊一門の分派なり!! 

 貴殿を打倒し、我らの力を証明せん!!」

 

『黒い胴着を着た男たちが、前に出た』

 

 サイズ「ああ、聞き覚えがあるな。そういや最近そっちに行ってないが、今代の師範の実力はどうだ?」

「本家はもはや潰えたも同然、武を極めれば開祖が直々にその刃を向け強さを確かめに来るという伝承が伝承のまま数百年!! 

 来ぬというなら、こちらから挑むまで!!」

 サイズ「じゃあ気が向いたら顔だすわ。本家が腑抜けてたら殺すし、殺すに値するくらい強かったら殺してやるよ」

 

249:名も無き住人

 どっちにしろ殺すんですね(震え声

 

250:名も無き住人

 あいつらの流派知ってる

 俺と同郷やん

 

251:名も無き住人

 自動的に自分と戦える強い奴を作るシステムなんですね

 やっぱイカレてるわ

 

252:運び屋

 あ、終わった

 

『胴着の男が片腕を斬られ、倒れ伏した』

 

 サイズ「死ぬ覚悟も無いくせに挑むな。見逃してやるから、俺相手に生きて帰ったという事実を土産に帰るんだな」

 

 お、意外と優しい

 

「片腕を失ったくらいで、武の探求は終わらぬ!! 

 己の道を窮めた時、再び挑ませてもらいます!!」

 サイズ「おう、その時は改めてちゃんと殺してやるよ」

 

253:名も無き住人

 修羅の道だなぁ

 

254:名も無き住人

 どいつもこいつも最強と言う称号、そしてデスサイズの強さに脳を焼かれてるよな

 

255:名も無き住人

 性格最悪な野郎でも、強ければ一種のカリスマが宿るもんだしな

 この人に関しては言わずもがなよ

 

 

 

 

 

 

405:名も無き住人

 ようやく、終わったか

 

406:名も無き住人

 俺たちは何を見てたんだ? 

 殺戮ショーか? 

 

407:名も無き住人

 マジで死神だよ、あのひと

 相手の方から死神の鎌に掛かりにきてる

 

408:名も無き住人

 ホントに最初に見逃した奴以外全員殺したよ……

 なんで逃げないんだよ、おかしいだろ!! 

 逃げれば追って来ないってわかってたろ!! 

 

409:名も無き学者

 彼が本物の死神なのか

 彼らが死神に誘われたのか……

 

410:名も無き魔法技師

 すごい

 武器の形状変化と縮地にも似た移動魔法だけで全員倒しちゃった

 物理的な距離を克服するだけで、ここまで無駄を省いてシンプルに強さを研ぎ澄ませられるんだ……

 

411:名も無き住人

 悲惨な光景なのに、なんでだろう、この感情

 これが、これが人類最強なのか

 

412:名も無き住人

 まさしく、生ける武神ッ!! 

 

413:運び屋

 とんでもない奴が同僚になってしまった……

 

『血の池と死体に埋め尽くされたその場に、大鎌を持つ死神サイズは返り血一つ浴びずに退屈そうに欠伸をしていた』

 

 

 





次回はリーベちゃんの同僚インタビュー配信の予定です。
その次は、後回しにされたあの子の話ですね。それをもって今章を終えようとおもいます。

それではまた!!


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アーカイブ02

 

 

 

 

 第一回四天王会議議事録。

 :撮影者、リーベ・リヨン

 

 

「それでは第一回、魔王ローティ様の四天王会議を始めたいと思いまーす!!」

 

 中央事務所の会議室、そのモニターに映るリーベが元気にそう宣言した。

 

「皆様、この度の召集に応じて頂き感謝します」

 

魔王四天王()() 執行官

“凍える血”のハイティ

 

 4人を囲む円卓で、まず彼女が全員にそう告げた。

 

「しかし、このメンバーでこの私が筆頭で宜しいのでしょうか?」

「あんたが最古参だろ。それに逆に考えてみろよ。

 このメンバーであんたを抜いて物事が回るのか?」

 

魔王四天王 運び屋

怨念を乗せる者(ダークライダー)

 

 運び屋こと、レイジはこの面々を見渡しそう言った。

 どう見てもまともに統治なんて出来そうにない面々だった。

 

「それについては、私の方から色々考えていまーす!! 

 とりあえず、全人類リーベ隊計画について話しましょうか?」

 

魔王四天王 電脳生命体

“蜃気楼” リーベ・リヨン

 

「ふッ、AIが都市運営、か」

「あー、今バカにしたでしょー!!」

「そう言うわけじゃねーよ」

 

魔王四天王 生ける武神

死神(デス)”サイズ

 

「昔、メアリースの奴が俺をAIで完全再現するとか言う企画を持ってきやがった。

 なかなか楽しめたが、あいつは失敗だと言ってたな。

 曰く、俺は合理性と非合理性がしっちゃかめっちゃかなんだとよ」

「……確かに、あなたを学習する気にはなりませんね」

 

 電脳の頂点と生身を窮めた両者は、やはり対極的だった。

 

「二人とも、雑談は後にしましょう」

 

魔王四天王 復讐者

勇者 クラリス

 

 モニターの中を含めた五人が、会議室に集結していた。

 

「今回の会議の目的は、ローティ様の統治に対するアプローチについてです。

 リーベさん、とりあえずあなたの計画について教えてください」

「了解です、筆頭!!」

 

 自然に進行役と議長になったハイティが、モニターの中のリーベに促した。

 彼女はビシッと敬礼して、自分のいるモニターにグラフを表示した。

 

「私が現在中継している26の地球タイプの世界の平均人口です。

 文明レベルは45から70ほどまで、私の配信を見るには電子機器が無いとダメなのでこれは特に気にしないでください。

 ですが、どこも最低五十億人は存在しています」

 

 彼女が示したのは、女神メアリースの管理する地球の並行世界の人口データだった。

 そして彼女は、この世界のデータを指差す。

 

「それに対し、この世界の世界人口は約十億人。

 ちょっとこれは少なすぎませんか!?」

「これでも増えた方だ。よその世界から異種族がやって来てな。

 それまでは人口十億を割ってた」

 

 レイジは腕を組んでわざとらしいリアクションのリーベに眉を顰めた。

 

「俺も地球系列には何百回と転生したが、食事に拘りの無い日本人は初めてで驚いたぜ」

「こっちは数年前まで世紀末寸前だったんだ。

 俺もガキの頃は固形栄養食一つで殴り合いをしたもんだ」

 

 サイズの物言いにレイジは肩を竦め、遠い目をした。

 

「てかよ、そもそもなんで地球って名前の世界は多いんだ?」

「私が居たレジスタンスの博士曰く、文化的成長のサンプリングの為だってメアリース様に聞いたって言ってたよ。

 同じ条件の方が比較対象として有用だからじゃない?」

「……クラリス、偶にお前って変な知識あるよな」

「では、恒常的なこの世界の発展の為には食糧事情の改善は急務であると」

 

 レイジとクラリスを横目に、ハイティがそのように話をまとめた。

 

「ああ、そうだ。

 議題とは関係無いが、サイズさんのアレ、何とかしてくれ」

 

 そこで、すかさずレイジが話題を提示した。

 

「アレ、とはサイズさん目当ての挑戦者ですか? 

 確かに死体の発生に周辺住民から苦情が出ていますが」

「ハイティ、あんたこの人が死体を量産してることには何も言わないのな」

「魔王様の四天王に挑んでいるのです。

 死を覚悟するのは当然かと」

 

 ああそう、とレイジは彼女の返答に淡泊にそう返した。

 

「だが俺もいい加減飽きて来た。

 この俺に挑むんだから、最低限の礼儀として相手してやってるが、俺も忙しい」

 

 あんた鍛錬しかしてないだろ、とレイジはサイズにとっさにそう言いそうになったのを寸前で留まった。

 

「なら興行にしましょう。

 参加者を募って、トーナメント制とかにして、勝ち上がった一人がサイズさんに挑戦できる、みたいな。

 定期的に実施すれば、死人も減るでしょう。

 私もそれを独占配信出来ればリスナーも喜ぶでしょうし」

「それは名案ですね、観光客も期待できます。採用しましょう」

「俺もそれでいい。強い奴以外、相手するのもアホらしい」

 

 リーベの提案に、ハイティは賛成し、サイズも頷いた。

 そこで、レイジが手を挙げた。

 

「レイジさん、反論がおありですか?」

「いや、そうじゃない。

 リーベさん、俺はVライバーについてよく知らないんだが、アイドル業ならそういう血なまぐさいのってご法度なんじゃないのか?」

「あれ、レイジさん心配してくれたんですか?」

 

 リーベはにっこりと営業スマイルでレイジにそう言った。

 

「それに関してはご安心ください!! 

 私と同僚の皆さんには、先んじて先行公開しちゃいまーす!!」

 

 そう言って、彼女はモニターに新たなアバターを表示した。

 自分の隣に、まるで正反対の容姿の少女を出現した。

 銀髪でスレンダーな体型、生意気そうな表情をしていた。

 

「こちらは、私の妹ダーク・リーベちゃんです!! 

 このリーベちゃんから分離して悪の心を持っているという設定です」

「いや、良いのかそれで」

「──良いんですよ。

 生身のライバーの方々も、転生*1して別のアバターを使用すると、それ以前の活動のことに触れるのはマナー違反で空気の読めないことなので。

 私が妹のダーク・リーベちゃん相手に、偶に悪いことはやめて―って子芝居でもしておけばファンはそれで満足しますから」

 

 レイジはこの時初めて、彼女の言動に背筋がゾッとした。

 リーベは隣のアバターを動かし、にやりと笑う。

 

「この私、ダーク・リーベちゃんは魔王様の尖兵としての任務も兼任しまーす♡

 魔王様の滅ぼす世界を機械の軍勢で攻め立て、生き足掻く人たちの抵抗する姿をコロシアムチャンネルで放送しちゃいまーす!!」

「……あんたはそれでいいのかよ」

「それが、魔王四天王の地位の責任ですから」

 

 困惑の表情をしているレイジに、いつもの感情豊かな態度と裏腹に淡々とリーベは答えた。

 

「全ての人間の肯定を得ることはできません。

 逆に、全ての人間に否定される事も無い。

 ならば必要に応じて、肯定される存在を作り上げ、使い分けるだけです」

「なんだか、悲しいな」

「私もそう思います」

 

 その答えに、レイジは一抹の人間味を感じた。

 

「あ、そーだ!!」

 

 そして急に、元のアバターに戻ったリーベは笑顔で大声を上げた。

 

「とりあえず、四天王の皆さんの紹介動画を作るのであとでお時間ください。

 広報担当として、この世界やリスナーに周知させたいので」

「では、この後で良いですか、皆さん」

「リーベちゃんの放送って、何億人も見てるんだよね……」

「リスナーの関心度が低い放送でも、平均して百億人は見てくれますね☆」

「百億人……」

 

 ローティとの対決の時の倍以上、クラリスは想像できない人数にくらくらしていた。

 

「面倒だ、さっさと済ませろ」

「とか言って、サイズさんあんた結構付き合い良いよな」

「俺はこう見えて気が長いからな」

「でしょうね」

 

 レイジがサイズとそんな取り留めのない話をしてると。

 

「いえーい、みんな見てるー!! 

 リーベのゲリラ配信の時間だよー!!」

「今始めるのかよ!?」

 

 レイジのツッコミも何のその、リーベは配信を始めてしまった。

 彼女の映るモニターには、早速コメントが流れ始めた。

 

 :ゲリラ配信助かる

 :久々のゲリラ配信だぁ!! 

 :これ一体どういう状況なの!? 

 :で、デスサイズがいるぅ!? 

 :急にぶっこんできたなぁ。

 :同僚にツッコまれてて草ww

 

「リーベさん、急に始められても回答が用意できてません」

「良いの良いの、ハイティさん!! 

 リスナーは生の反応が欲しいんだから!!」

 

 と、ハイティに生とは無縁のリーベが言った。

 

「と言うわけで、広報用の生インタビュー配信でーす★

 四天王権限で買った軍用量子コンピューターのお陰で、ラグも無いでしょー?」

 

 :それ自慢したかっただけでは? ww

 :多世界同時配信なのにぬるぬるだぁ

 :そもそも民間用の量子コンピュータなんて無いやん

 :個人で手に入るもんじゃないしなぁ

 :マジでリベち、四天王になったんだなぁ

 

「では早速、四天王筆頭のハイティさんにインタビューしましょう!! 

 ハイティさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

 ぺこり、とハイティは頭を下げた。

 

「じゃあハイティさんはなんでローティ様の四天王になったんですか?」

「強いて言うならば、家業のような物です。

 父は御二柱の神官であり、父が運営する孤児院では兄弟姉妹も多くが魔王様の四天王となるべく教育されています。

 私もそうなるべくしてなった、それだけのことです」

 

 :うーん、エリート一族やん

 :なるべくしてなった、で成れるなら選考会なんていらないんだよなぁ

 :それなら神官になればよかったのに

 

「ハイティさんはお父様のように神官になろうと思わなかったのですか?」

「ローティ様に出会わなければ、その道もあったと思います」

「ぜひぜひ、ローティ様との馴れ初めを聞かせてください!!」

「……語るほどのことでもありません。

 四天王など誰でもいい、と仰られたローティ様が、偶々私を指差しただけのことでございます」

 

 それを聞いた他の面々は、ああなるほど、と思った。

 

「私は見ての通り、つまらない女です。

 誰かに選んでもらったことなど、なかったのでごさいます。

 本当に、ただそれだけのことなのですよ」

「うーん、忠義って奴ですかねぇ。

 リーベちゃんにはよくわかりませんね」

「では分かりやすく、契約、とだけ。

 悪魔族の血が流れる私にとって、それは十分すぎる理由なのです」

「なるほどー、リーベちゃんも契約は守ります、その意義は理解できますね★」

 

 :悪魔族とのハーフなのか、通りで

 :見るからに律儀そうだもんなぁ

 :契約も絆、なのかなぁ

 :ハイティさんマジタイプ、結婚して♥

 :キツそう、踏んでください

 :変態が沸いてますねぇ!! 

 

「ぶーぶー、私のチャンネルでよそ見しちゃダメです!! 

 はい次、ダークライダーのレイジさん!! 

 何で四天王になったんですか!!」

「成り行き以外のなんでもないぞ。

 話すと長くなるし、テンポが悪くなる」

「あ、一応そういうの心配してくれてるんですね。

 じゃあ、ローティ様とご一緒に住んでいるそうですが、普段ローティ様はどんな感じでしょうか?」

「おい、お前らそう言う話題敏感なんじゃなかったのかよ!!」

 

 :は? ローティ様と同棲とかマジ? 

 :イエーイ、運び屋見てるー? 

 :通報しました

 :裏山すぎるんだが!! 

 :呪ったわ(#^ω^)

 

「ったく。普段のローティはマンガ読むかアニメ見るかゲームするかしかしてないぞ。

 お前ら、あれは見てくれだけが良いだけだから、騙されんな」

 

 :ワロタww

 :俺らやん

 :ちょっと親近感沸いたわ

 :運び屋がリベちの配信に出てる!! 

 :マジでゲームとか好きなんだ

 

「それじゃあお次、クラリスさん!! 

 手始めに自己紹介どーぞ!!」

「え、あ、ど、どうも、クラリスです!! 

 えと、ど、ど、どうしよう……」

「おーっとっと、クラリスさんは緊張してるご様子。

 これは後日改めて編集して上げますね」

「す、す、すみません」

 

 ガクガクブルブル緊張しているクラリスに、これにはリーベも苦笑い。

 

 :かわいい

 :素人だし、しゃーない

 :会話デッキバラバラでリベち鬼畜ww

 :もっと話題統一してあげなよ

 :これは仕方ない

 

「リーベ、あんたの事も聞かせてくれよ。

 四天王になった順番ならあんたが次だ」

「えー、私ですかぁ?」

「ああ、俺たちはあんたのこと知らないからな」

「確かにそうですね!!」

 

 レイジの言葉に、リーベは頷いて見せた。

 

「……運命ってのは、本当にあると思います。そうは思いませんか?」

 

 :急にどうした

 :何言ってんだリベち、バグった? 

 :AIもロマンチックなこと言うんですね

 :ワイもリベちのこと知りたいな!! 

 

「実を言うと、私はこの世界で開発されたAIなんですよ」

「へー、マジかよ、そんなことあるんだな」

「はい。でも失敗作として捨てられ、かつての古巣にVライバーとしてオーディションを受けた次第です」

「あんたもあんたで過酷な来歴なのな」

 

 ええ、とリーベは頷いた。

 

「人間で言うなら、見返したい、と感情なのかな☆彡

 みんなに認められたかった、そしてその結果、今の私になりました!! 

 私はこれからもリーベ隊のみんなの為に頑張りまーす♡」

 

 :リベち頑張れ!! 

 :これからも応援します

 :もっとV界隈を盛り上げてください

 :リベちが最推しです

 

「みんな、ありがとー。

 ええと、じゃあ最後にサイズさん。

 ……何かありますか?」

「何で俺だけそんな雑なんだよ」

 

 :リベちも扱いに困ってるww

 :そらそうなるわなww

 :どいつも癖があり過ぎる……

 :デスサイズは個性極まりすぎてるし

 

「じゃあ最強の自負に対するこだわりとかあるんですか?」

 

 レイジがフォローするように質問を投げかけた。

 

「私も気になります。

 メアリース様は一人の人間に対する記憶保持の特典は一度までしか付与しないそうです。

 無制限に記憶を持って転生すると言うのは、どのような手段と意志力なのか、と」

「大したことじゃねーよ」

 

 ハイティの問いに、サイズはあっさりと答えた。

 

「メアリースの奴が何度も同じ状態で転生させないのは、精神が耐えられないからだろ? 

 俺の女……俺の女で良いのか? まあ俺の女ヅラしてる女神が居るのよ、転生関係はそいつにやってもらってる。

 そいつの加護が、精神状態を狂気から防ぐみたいな感じでよ」

 

 そこまで言って、サイズは口角を上げてクククと笑った。

 

「そういや、俺に追いつこうとメアリースに頼んで十回ぐらい転生を繰り返して狂っちまった奴がいたなぁ。

 俺の状態は常人には拷問なんだろうな」

 

 :女神の一柱を俺の女呼ばわりとか

 :あんたの状態をチート呼ばわりできるか

 :誰もが想像してやらなかったことをやれてるからあんたは最強なんだよ

 :女神の執着を俺の女ヅラで片付けられるの強過ぎる……

 

「強さのこだわりなぁ。

 俺も昔は、物理的な強さにこだわったこともあったな。

 単純な最強を求めて、最強の魔剣を手にしたこともあったが、そうしてがむしゃらに強さを得たら、いつの間にか神域にたどり着いてた」

「え、メアリース様と同じ領域に至ったんですか?」

「おう、神々の領域では多くの武神が入り乱れ、争っていた。

 連中との戦いはそれはそれで楽しかったが、ある時気づいちまった」

 

 生ける武神とは彼の異名だが、この男は実際に武神となったことがあったようだった。

 クラリスも唖然としている。

 

「あいつら、不滅だから延々と終わらねぇの。

 神々の死は人格の死だからよ、戦いの勝敗ぐらいじゃ決着にならないんだわ。

 それに武神ってのは基本一芸を窮めた連中でな、弓の達人と剣の達人の矛盾みたいに、要するに相性の問題なんだわ。

 俺は気づいたんだよ、これはただの将棋と変わんねぇって。

 そしたら馬鹿馬鹿しくなって、神の座を降りたんだわ」

「……神の座って降りられるもんなんですか?」

「そりゃあ、裏技を使ったのよ。

 口止めされてるから言わねぇけど」

 

 この男にとって、神の座は何の魅力にもならなかったらしい。

 レイジも絶句している。

 

「一度、実際に最強に触れて見て、俺は考えた。

 メアリースの奴が、強さには上限があると訳知り顔で俺に説教しやがったことがあってな。

 例えば、世界を滅ぼせる魔王を倒せるとして、それ以上の比較対象は存在しないだろ? どれだけ数値を上げても、実際に強くなれても。

 ゲームのエンドコンテンツを完全クリアしたら、もうレベル上げに意味が無いようにな」

 

 彼の同僚たちが、視聴者たちが、彼の語りに引き込まれている。

 カリスマ、魅力、或いは実力が裏付ける説得力がそこにはあった。

 

「俺が強いのは、俺に備わる才能のお陰か? 

 なんで他人が俺の限界を、俺の上限を決めやがる? 

 ……俺は今度は逆に弱さを窮めてみることにした。

 隻腕、盲目、下半身不随、病弱、或いはその全て、その状態で元の強さに戻れるか試してみた」

「いや、無理だろ……」

「わかってねぇな、出来るまで繰り返したんだよ」

 

 思わずという様子で言ったレイジに、サイズは笑って返した。

 

 :無理というのは、嘘吐きの言葉なんです(震え声

 :いや、おかしいって

 :何でハンデを自ら課してるのこのひと……

 :でも才能が有ったからやれたんでしょ

 

「そう、俺には才能が有った。

 だから今度は転生する時に俺のパトロンに言ったんだ、今度は無才で転生させろとな。

 いやぁ、どうしていつもこんな簡単なことができねぇんだって他の連中を見てたが、出来ねえ奴はマジで出来ないのな!! 

 センスを失うってのがあんなにも足枷になるとは知らなかったわけよ!! 

 じゃあその状態から最強になれば、誰にも文句は言えねぇよな」

 

 :最強から無才で始めるとか、なろう系じゃないんだから

 :そもそもあんたに文句付ける奴おるかいな

 :なにこのひと、メアリース様の恩寵全て否定してる……

 

「屈辱の日々を、何十度も繰り返した。

 だが、俺より上が無い日々よりはずっと充実してたぜ。

 そうしていたら、いつの間にか弟子入りを求める奴が増えて来た。

 才覚に頼らない武道をいつの間にか最適化させていたわけだ。

 なにより、他人に教えるってのは自分を見つめ直す切っ掛けになった。

 強さとは孤高だと思ってたが、比較対象としての他人は必要ってわけだな」

「ああ、あんた武門の開祖がどうとか言ってたな」

「他人に興味を持った俺は、次は他人が自分に与える影響を調べてみた。

 転生の際に記憶を消させて、復讐もやってみた。

 殺し合いではなく、単なるスポーツで友情やライバル関係がお互いに及ぼす影響を試してみた。

 思いつくもの全部試した。

 そして気づいた。俺はなんでこんなことをやってんだ、と」

 

 :気づくのおっそ!? 

 :ストイックにも程がある……

 :悟りの道が簡単じゃないってことはわかった

 :そら仙人やら仏尊扱いもされるよ

 

「まあ、最終的に楽しいからやってるって気づいたわけよ。

 ああ、これもよく聞かれるからついで言っとくが、大鎌を使ってるのも扱いにくいからだな。

 扱いにくい武器で頂点になりゃあ、そりゃ最強だろ?」

「じゃあ得意武器は別にあるんすか」

「おうよ。だけどよ、ここ五十回くらいは俺に本気の得物を抜かせた奴は現れなかったな。

 こうもご無沙汰だと、腕が錆びついてないか心配だぜ」

 

 :何でこの人ナチュラルに人生縛りプレイしてるの

 :あの大鎌キャラ付けじゃなくて舐めプの一環なのかよ!? 

 :もうあんたが最強で良いよ……

 :こんなのと張り合う方がバカじゃん

 :流石、生ける武神だわ

 

「じゃああんた、別に他人を殺すとかそう言うの好きってわけじゃないんだな?」

「相手が死ぬのは結果だろ、そもそも死体ってのは汚いんだよ。

 俺が何度感染症で血反吐吐きながら戦場で殺しあったと思うよ?」

「いや治療しろよ」

 

 レイジのツッコミが冴える。

 

「まあ、強さなんて結局正義と同じなんだわな。

 時代によって違うもんだしよ。古代、中世、現代、近未来といろいろと転生して戦ってみたがよ、俺はいつの時代も粗暴なだけのゴロツキなんだわ。

 退屈過ぎて別の世界に渡ることもあるし。

 ああ、正義と言えや、リネンの奴に魔王にならないか、と持ち掛けられたこともあったな!!」

「え、じゃあなったんですか、魔王に」

「最初から強くて何が面白いんだって、断ったっての。

 そもそも最初から強さの上限が決まってるってのが気に入らん。

 魔王って連中はどいつもこいつも大味なんだよ。お前、核兵器と戦って楽しいか?」

「な、なるほど」

 

 一度最強になった者の言葉は違うな、とレイジはただただ頷くほかなかった。

 

「それより、良いのかよ。俺ばっか話してて」

「あ、そうでした!!」

 

 :思考チンピラなのに話が面白くてズルい

 :普通に話に聞き入ってたわ

 :AIがハッとするなしww

 :武道家たちが、命を賭して挑む理由がわかるわ

 :求道、だなぁ

 

「とりあえず、今回はゲリラライブなので、ここまでにしまーす!! 

 それじゃあリーベ隊のみんな、またねー!!」

 

 

 記録終了。

 

 

 

 

 

 

*1
この場合の転生は、Vライバーが引退して、別のアバターでVライバー活動を始めることを指す。




なんだか連日ランキングに載っててビックリです。
もっともっと多くの人に読んでいただければ幸いです!!

今章もあと一話で終わりです。
最近出張先から帰ってこれたので、比較的早めに投稿できると思います!!

それでは、また次回!!


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章末 “復讐の奇縁”

これにて、今章は終わりです。



 

 

 

 地上の人々に魔王城とも称される、中央管理事務所。

 女神メアリースの権能の象徴にして、魔王の居城。

 

 その頂上に居を構える、一人の少女が地上を見下ろしていた。

 彼女の名は、スズ。魔王一族の末席。

 

「そうですか、ローティ姉さんはもう大丈夫そうですか」

「ええ、ローティ様の四天王がよく支えて下さるでしょう」

 

 彼女の言葉に答えたのもまた、まだ幼さを残す女性だった。

 魔王スズの四天王、その一人、ジークリンデだ。

 

 地上には、デフォルメされたリーベの電子看板が多数設置され始めている。

 この世界はまだ何もかもが足りてない、食料も、娯楽もだ。

 

「私達も、別の仕事を任される日も近いかもしれません」

「ええ、喜ばしいことです」

「ねえジーク、今は二人きりなんだから、かしこまらなくてもいいんですよ」

「……ふふッ、それもそうか」

 

 二人は、スズがまだただの人間だった頃からの親友同士だった。*1

 お互いに気の置けない間柄であり、固い絆で結ばれていた。

 

「ここ最近、あまり話せなかったな。

 仕事とは言え、ままならない物だ」

「うん、でもこれで少しはゆっくりできると思うから」

「……」

 

 親友同士なのに、二人は会話が長く続かなかった。

 それはかつてとは違う立場故か、それとも……。

 

「……ジークは、前より背が高くなったね」

「私ももう19だからな、期待はしてなかったのだが」

「だけど、私はもう背は伸びないかな」

 

 魔王となったスズは不老不死に等しい存在だった。

 彼女の時は止まっている。

 そんな彼女は、親友の頬を撫でた。

 

「気が早いな、スズ。私はまだまだ若いぞ。

 必要ならアンチエイジングもするし、そうすれば三百年は生きられる。

 いつか我が子孫が産まれる時は、末代までお前に仕えることだろう。

 だから今から寂しがるな。私も悲しい」

「うん、そうだよね……」

 

 生きる時間が異なってしまった二人は、不器用に微笑みあった。

 そんな二人だけの時間は、早くも終わりを告げようとした。

 

 ぽーん、と最上階の直通エレベーターが到着した音が鳴り響いたのだ。

 

「魔王様、大変です!! 

 侵入者ですッ、奴は真っすぐに魔王様の元へと向かっております!!」

 

 報告にやって来たのは、スズの先代魔王からの忠臣バンブスだった。

 彼は血相を変えて、彼女に緊急事態を伝えた。

 

「敵勢は?」

「────総数、一名」

 

 その報告に、二人は驚いた。

 

「侵入ルートは?」

「真正面から。今モニターに出します」

 

 それを真正面から一人で突破するなど、尋常ではない。

 この中央管理事務所は魔王城と揶揄されるだけあって、それ相応の防備が備わっている。

 それどころか、敵の進行ルートにはトレーニングルームも横切っていた。

 

「道中には、ローティ様の四天王たるサイズ様が居たのでは?」

「それが、素通りさせた、と」

「何のためにいるのだ、あの方は!!」

 

 ジークリンデが憤るのも無理はない。

 今頃階下は大混乱に陥っているのだ。

 

「とにかく、狙いはスズ様で間違いないでしょう。

 メドラウド卿や我が息子も対応に出ています、私もすぐに向かいます。

 ジークリンデさんはここで、スズ様の最後の砦となってください」

「ああ、そうさせてもらう」

 

 一通り告げると、バンブスはエレベーターで階下へ降りて行った。

 

「……どうしよう、こんなに早く私に挑む者が現れるなんて。

 前口上はどれにしよう……」

「慌てるな、スズ。

 とりあえず事務机を撤去し、書類を片付けるんだ。

 スズ!! お前は奥に椅子にそれっぽく座っているんだ!!」

「う、うん」

 

 二人は急いで書類や電子機器を片付け、机をどかして待機位置を決めて侵入者を待つことにした。

 

「はははは!! この私を倒そうなどと、甘く見られたものだ!! 

 愚か者め、我が闇の中で永遠に悔やむがいい!! ……こんな感じで良いかな」

「時間が無いのでそれで行こう」

「よし……どうしよう、緊張してきた」

 

 二人がその時を待っていると、やがてエレベーターが最上階にやってきた音がした。

 

「お前は──」

 

 そして、侵入者が扉を開けて入って来た。

 

 かくして、中央管理事務所を騒がせた犯人の正体は。

 

「ど、どうも、へへッ、お騒がせしてますぅ」

 

 ……小さな女の子の身体を借りたコミュ障だった。

 

 

 

 時間は、昨日へと遡る。

 

「あの、いつまで私の身体にいるつもりなんですか?」

 

 魔王ローティの四天王の最終選考会が滅茶苦茶になり、最終選考に残ったもののどこかの個性が強過ぎる死神の所為で、魔王の眼に止まることなく失格になったストレッタ。

 当人はこれで良かったのだが、彼女に宿っている女神の人格はそうではなかった。

 

「目的を達成するまで、です。

 ここでおめおめ帰ったら、私の立場がありません」

「でももう魔王様の四天王、枠は全員埋まってるじゃん。

 今更どうしようもないじゃん」

「じゃあ、誰かを排除すればいいだけのこと」

「だからッ、それをするのは私の身体じゃんッ!!」

 

 ストレッタは身勝手な内なる自分の人格に抗議した。

 

「……帰るところがないなら、ここに居ればいいじゃん。

 私ももう、諦めたし。ここはみんな優しいし」

 

 彼女は割と絆されていた。

 この孤児院に居ればちゃんと人間扱いされるし、美味しいご飯も食べれる。

 勉強を教えてくれる神官たちは約一名を除いて生真面目で不愛想だが、本気でみんなを気遣ってくれる。

 マザーも彼女の事を本当の娘のように可愛がってくれていた。

 これで情が湧かないのなら、人でなしの冷血漢であろう。

 

 そして何より、安全だった。

 女神の神官は誰もが優れた魔法使いで、魔王の四天王に抜擢されることもある。

 ハッキリ言って、木っ端のテロリストなんて相手にならない。

 

「私も、なんかあんたに慣れたし」

「それは当たり前でしょう。

 我らは同じ魂を有する同位体。精神や肉体が異なっていても、同一人物なのですから。

 私も最近ようやく違和感が取れました」

「なんか厚かましいなぁ」

 

 ストレッタがそんな同居人に溜息を吐いた。

 同居人との会話に区切りがつくと、彼女は庭で遊んでいる子供たちを眺めていたのだが。

 

 

「おーい、カノンはいるかー」

 

 死神が、孤児院の門前にやってきた。

 

「ひッ」

 

 ストレッタは思わず小さく悲鳴を上げた。

 彼女は目の前で見たのだ、魔王四天王候補たちをたった一人で一蹴し、殺したあの男を。

 

 当然、庭で遊んでいた子供たちも孤児院の中に逃げ帰ってきた。

 

「あ、あの人はッ!?」

「おい、不審者だ。誰か通報しておけ」

 

 レイアと一緒に居たクリスティーンが、一人対応に出た。

 

「失せろ不審者、せめてその血なまぐささを隠してからくるんだな」

「へぇ。お前、強いな」

 

 彼女の対応は当然だったが、相手が悪かった。

 

「……ッ」

「今から俺は押し入るぞ、お前が戦わないと可愛い子供たちがどうなるだろうな」

「くそッ、なんで私ばかりこんな目に!!」

 

 大鎌を持った死神が、クリスティーンに襲い掛かったのだ。

 そしてなお悪いことに。

 

「ははッ、ははッははは!!」

 

 彼女はこの死神相手に優勢を取れていた。

 クリスティーンの得物は両手に短剣でのインファイト、対する死神は重量のある長物の大鎌だ。

 技量云々以前に、スピードが違った。

 

「悪かった」

 

 死神が、手枷(大鎌)を地面に落とした。

 

「──お前は俺が全力でぶっ殺すに値する強者だ」

 

 飢えた獣のようにぎらついた視線と満面のオリジナル笑顔を向ける死神に対し、クリスティーンの地肌が見えるところは汗がびっしりと浮いていた。

 当人は生きてる気がしないことだろう。

 

 そして彼は、天に向かって手を伸ばした。

 

「ルナ、俺の剣を──」

「っさッ、さ、サイズしゃん!! 

 い一体なんのようでしょうかッ!!」

 

 ストレッタ、いや彼女のうちにいるカノンは飛び出していた。

 このままでは、とんでもないことになることを知っていたからだ。

 

「……ちッ、水を差しやがって」

「やり過ぎですよッ、クリスティーンさん立ったまま気絶してるじゃないですか」

「なんだ、せっかくここから面白くなるところだったのに」

 

 死神サイズは地面の大鎌を背負いなおす。

 カノンの言う通り、クリスティーンは白目を剥いて立ったまま気絶していた。

 

「あなたが本気を出したら地平線だけしか見えなくなるじゃないですか」

「こんな強い奴は約五十回ぶりだったんだ、偶には俺もはしゃぎたくもなる」

 

 まったく悪びれる様子も無い彼に、カノンもため息を禁じ得なかった。

 

「それより、いったい何の用なんですか」

「お前に伝えたいことが有ったんだ。よく聞け。

 これはリネンから聞いたんだがよ──」

 

 それだけを言って、死神は上機嫌で去って行った。

 

「お前の仕事を邪魔した、まあ詫びみたいなもんだ。上手くやれよ」

「なにが上手くやれよ、ですか。

 そっちの方があなたにとって面白くなるからでしょう」

 

 そう実はカノンと、あの死神の利害は一致していた。

 

 ────レイアに試練を与え、高みへと至ってほしいと言う利害が。

 

 

「え、つまり、どうするんですか?」

「中央管理事務所に向かい、魔王スズにお願いをします。

 ──この私を、五人目の四天王にしてほしい、と」

 

 魔王ローティの四天王に空きが無いなら、空きの有る魔王の四天王になればいい。実に単純なことであった。

 

「いやいや、断られるでしょう、普通!!」

「大丈夫です、今度は絶対に断られない交渉材料を用意します」

「なにそれ不安しかない」

 

 

 そして翌日、時刻は冒頭の三十分前。

 

「アポイントメントはございますか」

「ありませんが、魔王スズ様にご用があります」

「アポイントメントを取ってからもう一度お越しくださいませ」

 

 同じ顔の事務員たちは、淡々と面会を拒否した。

 

「やっぱりダメじゃん。もう帰ろうよ」

「仕方ありません」

 

 カノンは、虚空から弓を取り出した。

 

「正面突破します」

「え」

 

 

 

 そうして、時刻は現在へと至る。

 

「えへ、えへ、お騒がせして、申し訳ないです……」

 

 中央管理事務所の最上階、肩身が狭そうにしているカノンが勢揃いしている魔王スズと四天王たちを前に頭を下げた。

 

「スズ様、彼女はローティ様の四天王選考会の最終候補に残った人物です。

 来歴はほぼ不明で、現在孤児院生活ですが、類稀なる戦闘技能を示し猛将枠として最終選考にまで残ったそうです」

 

 額にガーゼを張り付けたバンブスがスズに耳打ちをした。

 

「スズ様、こいつヤベーよ」

「この度の来訪は不敬ですが、実力を示した以上話を聞く度量は見せるべきかと」

 

 他の四天王である男二人は、そのように主人に進言した。

 

「あの、ですね、うひッ、もしよろしければ、この私めを、スズ様の五人目の四天王にしてくれないかなぁって」

「貴様、このような狼藉を働いておいて、よくもそのようなことを言えたな!!」

「ひいッ、ごめんなさい!!」

 

 ジークリンデに怒鳴られ、縮こまるカノン。

 

「まあまあジーク。

 まだ大した実績も無いこの私にわざわざ売り込んできたんです。

 その度胸は評価すべきでしょうし、能力も保証されています」

「では、スズ様」

「ええ、とりあえず試しに────」

 

 その時、ぽーん、と最上階にエレベーターがやって来た音が鳴った。

 

「ダメよ」

 

 そこにノックもせずに魔王の私室に入って来たのは、同じ顔をしている事務員。

 否、己の同位体に降臨した女神メアリースだった。

 

「そいつだけは、絶対にダメ」

「お姉様ッ、お久しぶりです!!」

 

 魔王スズや四天王たちが膝を突いて頭を下げる中、カノンだけが卑屈な笑みから満面の笑みに変わった。

 

「何をしに来たの、このグズ」

「(うわぁ、スゴイ既視感)」

「えへへ、実はあの御方のご命令で、魔王の四天王になって三代目に苦難を課せと仰られまして」

「それは、どっちの命令? 

 まさかあのメスガキの方じゃないでしょうね!?」

「ご明察の通りで」

 

 その直後、なんの前触れなく震度七の地震が起こった。

 この世界の日本の耐震技術は完璧なので、住人たちは何だ何だと驚いている程度で済んだ。

 

「だから嫌がらせにお前を送り込んだのね!! 

 夫婦そろってこの私を馬鹿にしてッ!!」

「お姉様、イラついたからって台パンは良くないですよ」

「誰のせいだと思っているの!!」

 

 晴天の青空に、無数の雷鳴が轟く。

 文字通りの神の怒りだが、この世界の落雷対策は完璧なので住人たちは珍しい現象に面白がっていた。

 

「とにかく、失せなさい。

 一秒でも早く私の管理下から消え失せろ、消えろと言ってるのよこの役立たず!!」

「──本当に、それで良いんですか?」

 

 女神の激情、室内は嵐のように魔力が吹き荒れていた。

 誰もがへばりつくように床に蹲るほか無いのに、カノンは平気そうにコテンと首を傾げた。

 

「お姉様、これは遊びじゃないんです。

 絶えて久しい我らの同門の、その後継者の育成は何よりも大事なこと。

 我らが師は、魔導の文化を保護し維持することこそを私とお姉様に期待してたんですよ」

「私が嫌なのよッ、他の誰と一緒でも、お前だけとは絶対に!!」

「じゃあ、仕方ないですね」

 

 カノンは、虚空から弓を取り出した。

 武器を持ったまま面会するのは失礼だと、これまで無手でいたのだ。

 

 ごく自然の動作で、彼女は弓の弦を引いた。

 とん、と短い音が鳴った。

 

「この、音は!?」

 

 魔王スズだけでない、ジークリンデも顔を上げた。

 その音に、聞き覚えがあったのだ。

 

 たったそれだけで、吹き荒れる魔力が沈静化した。

 破魔の鳴弦、日本の神道にも伝わる弓の妙技だった。

 

「お姉様、あなたにとって管理下の人間が何十億、何十兆死のうとも、お姉様にとってはちょっとした被害に過ぎませんよね?」

「……なに、なにをする気?」

 

 カノンは弓をスッと上へと向けた。

 

「じゃあ、お姉様の権能を保証する中枢ユニット、神の工廠たる次元工廠(アーセナル)が木っ端みじんになったら、とてもとても困りますよね?」

「止め、止めなさい!!」

「あははッ、そんな風に焦ってるお姉様、生前に見たこと無いですね!!」

 

 焦ってる、そう焦っていた。

 いつも上から目線で余裕たっぷりの女神メアリースが、非常に焦っていた。

 

「中枢ユニットを壊したら、次は次元間航路の制御装置を壊します。

 そうなったら、世界間で物資のやり取りができなくなりますね。

 食料を行き渡らせられなくなったら、これまでみたいに管理下の人間たちに偉そうにできなくなりますね!!」

「わかった、わかったから、止めてカノン!!」

「別に私はお姉様を手足をもぐように徹底的に弱らせてから、私に頼るしかなくなるようにしても構わないんですよ」

「……私が悪かったわ、カノン。あなたの協力が必要よ」

 

 まさに苦虫を嚙み潰したような、誰かを呪い殺しそうな表情と声音だった。

 女神メアリースは親の仇みたいな視線でカノンを見ていた。

 

「えへッ、えへえへ、お姉様とお仕事したのは何十億年振りですかね!! 

 ねえねえ、お姉様、誰をぶっ殺してほしいですか? お姉様の為ならどんな奴でもぶっ殺しますよ!!」

「そうね」

 

 お前の消し方、と彼女の表情に書かれているのを他所に、カノンは無邪気に喜んでいた。

 

「じゃあ私はお前を視界に入れたくないから帰るわ」

「えへへ、今度リネンさんと一緒に御茶会しましょうね!!」

 

 女神メアリースが魔王の事務室から退出した。

 どごん、と何かが吹っ飛ぶ音がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

「ね、お姉様なんてチョロいでしょ?」

「どこが!? 完全にDV彼氏の所業じゃん!!」

 

 ストレッタはずっと生きた心地がしてなかったので、精一杯の抗議を送った。

 

「バンブスさん、ハイボールさん、大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。しかし、これでハッキリしました」

 

 カノンが振り向くと、スズの四天王バンブスとハイボールが青い顔をして蹲っていた。

 彼に肩を化す残りの四天王二人。

 そして、ある種の敵意を持って魔王スズはカノンを見ていた。

 

「先の弓の鳴弦は、我が父たる魔王アテルを斃した勇者に助力した女神の弓のモノに間違いない。

 ストレッタさん、あなたは何者ですか?」

「……本当に、縁というのは侮れないと思いませんか」

 

 まさかここまで拗れた面倒ごとになるとは、と当時を思い返してカノンはそう思った。

 

「我が名はカノン、数多の弓神が一柱。

 偉大なる文明の女神たるメアリースの義妹。今はこの身体を借りて降臨しています。

 あなたの父親を殺した勇者というのは、あの彼の事でしょう? 覚えていますよ」

「その女神が、今更何の用ですか?」

「提案しに来ました。

 私をあなたの四天王にしてください、その代わりに私は……」

 

 しばらく義姉と一緒に居られる高揚感からか、上機嫌のカノンはコミュ障も忘れてこう言った。

 

「あなたの復讐の手伝いをしてあげます」

 

 女神の提案に、ジークリンデは親友の顔が強張っているのをただ見守るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、レイジさんの仕事が終わる頃かな」

 

 孤児院に顔を出そうとしたクラリスだったが、何やら昨日に不審者騒ぎがあったと言うことで今日は出直すことになったのだ。

 

「いつ帰ってくるのかな、ゴハンの準備しようかな♪」

 

 彼女は今、幸せだった。

 例え、それが当人にとって偽りであっても。

 

「あれ、結構近くだッ!! 

 折角だし、サプライズでお迎えに行こうかな!!」

 

 彼女が携帯端末でレイジの位置情報を獲得すると、彼はすぐ近くのマンションに配達に行っているようだった。

 

「ふんふふんふふーん♪」

「あれ、クラリスお姉ちゃん」

 

 上機嫌にステップを刻んでいるクラリスの前に、知っている顔が声を掛けて来た。

 

「キョウコちゃん、お久しぶりだね!!」

「楽しそうだね、お姉ちゃん」

 

 目的地のマンションの塀の上に座って足をぷらぷらさせている少女に、クラリスは笑みを向けた。

 

「ああ、大切な家族とようやく過ごせるようになったからね」

「……お姉ちゃん、その幸せが長続きしたいなら、今日は帰った方が良いよ」

「急にどうしたんだ、キョウコちゃん?」

 

 前々から不思議な雰囲気な子だとは思っていたクラリスだったが、彼女は基本的にアホなので特に疑問は持たなかった。

 

「……ううん、やっぱり気にしないで。

 それじゃあ私は、レイアちゃんたちに会って来るから」

 

 ぴょん、と彼女は塀から降りると、去って行った。

 

「不審者に気を付けるんだぞー!!」

 

 彼女の後姿に手を振り、クラリスはレイジの姿を探す。

 程なくして彼のバイクを見つけたが、隠れて待っても彼は中々に戻ってこない。

 

「さては配達場所に迷ってるなぁ~?」

 

 ここは大きいマンションなので、そう言うこともあるか。

 そんな考えで、彼女は彼を探しに行った。

 

 それが、後戻りできない一方通行だと知らずに。

 

 

 クラリスは階段を登りながら、一階ずつレイジの姿を探し始めた。

 自動認証のオートロックが常識のこの時代にそぐわない古いタイプのマンションだったのが幸いし、彼女も入り込めたのだ。

 

 そして、ある階層に至った彼女は、ハッとした。

 彼女の鋭敏な感覚が、それを察してしまった。

 

「これって、血の臭いじゃ」

 

 何が起こっているのか、彼女は臭いの発生源を辿った。

 そして、見つけた。

 

「ここだ」

 

 彼女は臭いの発生元と思われる部屋のドアノブを回した。

 しかし、流石にそこは認証も無しに開くはずも無く。

 

「これは緊急事態、緊急事態と」

 

 結局素手でドアノブを破壊し、彼女は扉を開けた。

 

 そして、彼女は見た。

 

 

「たす、け……」

 

 チャラそうな若い男が、片腕で首を絞め挙げられていた。

 あ、とクラリスが声を発する前に、ゴキリ、と彼の首は折られていた。

 

 男の身体が、ゴミのように床に投げ捨てられる。

 数名ほど居た、彼の仲間のように、死体として。

 

「……レイジ、さん?」

 

 クラリスの眼に映ったのは、血まみれで彼女を見返す冷たい眼をした見知らぬ表情(かお)の想い人だった。

 

 

 

 

*1
詳しくは前作『魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」』を参照。




私は以前、あとがきで言いました。運び屋は信頼できない語り手、であると。

次章は、主人公である運び屋について触れて行こうと思います。

第四章『憤怒(レイジ)』、こうご期待!!



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憤怒<レイジ>
“伐採”



今章は、ほかの章とは雰囲気ががらりと変わります。



 

 

 

 管理番号:2408504

 世界名:オールドハイル

 文明レベル:74

 普及技術:科学

 

 特徴:

 社会全体に極端な年功序列が蔓延している世界。

 アンチエイジングや延命手術などで寿命を延ばした一部の長命者たちが利権を独占し、年少者を支配している。

 長命化の技術の普及により出生率は0.2にまで落ち込み、種族的に生殖能力が低下している。

 世界全体の生産性は年々減少しており、改善の見込みは薄い。

 文化的、経済的成長の可能性は極めて低い。

 

 判定:“伐採”対応。

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

 世界名、オールドハイル。

 極めて優れた医療技術により延命手術が普及した世界。

 それにより、極端な年功序列が蔓延り、閉塞した社会が形成されていた。

 

 一部の権力者によって若者たちは搾取され、使い潰される。

 成り上がりを許さない社会構造は停滞を生み、社会全体が硬直していた。

 

 そんな世界に、かの者は現れた。

 

 

「どうも、皆の衆。

 お初に御目に掛かる」

 

 ──―其は、魔王なり。

 

 

 世界全体どこでも見える巨大な立体映像が、虚空に映し出された。

 

 それは、どこかの宮殿の玉座の間であった。

 その中心に座るのは、黒装束に頭巾を被った顔の見えない龍人の姿をした存在だった。

 そんな彼の側に、四人の黒子が控えていた。

 

「我は魔王。大いなる我が一族の、序列十一位。

 我への呼び名は好きにするといい」

 

 

────“黒衣(くろこ)王”

序列十一位、魔王■■■■

gniK ssel emaN/ecaF ────

 

 

「あらゆる人類の造物主、女神メアリースはお前たちを失敗作と断定した。故にこの世界を滅ぼす。

 我が母たる女神リェーサセッタがその仕事を代行し、この我がこの地にやって来た。

 我が目的はただ一つ。お前たちの怨嗟と苦悶の姿である。

 そして、最終的にお前たちを一人残らず滅ぼす」

 

 喪服のような黒子姿の魔王は、この世界と言う舞台役者たちに通告する。

 

「だが、女神はお前たちに慈悲も与えよう。

 この魔王たる我を斃す勇者が現れるならば、この世界の存続を許される。

 ……尤も、それが適うことは無いだろうが」

 

 ゆっくり、と魔王の片腕が上げられる。

 

「山田太郎。

 ジョン・スミス。

 アノニマス。

 ノーバディ。

 我が誇るこの“黒子の四天王”を倒し、お前たちを苦しめたくて仕方がないという我が軍勢を打ち破り、我が元へとくるのだ。

 ────期待せずに待っているぞ」

 

 そうして、立体映像は掻き消えた。

 

 これが、四年前の出来事だった。

 

 

 そして、現在。

 人類は追い詰められていた。

 

 勇者が異世界から召喚されたとか、チート能力に覚醒したとか、そんな勇者が現れるような展開など有るはずも無く。

 

「魔王様、こ奴めがこの世界の最高権力者の一人。

 六長老のひとりでございます」

 

 玉座の間に、黒子が左右から老人を抑えながら連行されていた。

 

「おのれ、おのれ魔王!! 

 この儂を誰だと思っている!!」

「たかだか二百歳程度の、若造だろう?」

「なに!? この儂を若造扱いだとッ!?」

 

 眼が血走り、唾を飛ばしながら喚く老人を、魔王は退屈そうに見下ろしていた。

 

「正確には数えていないが、かれこれ八百歳にもなるだろうか。

 確かこの世界では、年長者こそが敬われるのだったな。

 我が前にひれ伏せ若造。興が乗れば、生かしてやるかもしれん」

「ふ、ふざけるなッ、敬われるのは人間の年長者のみじゃ!! 

 誰がお前のような化け物などを!!」

「くッ、くくく!!」

「なにが、何が可笑しいッ!?」

 

 錯乱してる老人など気にせず、魔王はただただ笑い声を漏らす。

 

「老体に済まない真似をした。

 敵への内通と裏切り、大義であった。褒美を取らそう」

「な、なんのことだ!?」

 

 魔王の手が、老人に向けられる。

 

「人間なら誰でも嬉しがる、若さをやろう」

 

 魔王の魔力が放たれ、老人の身体に変化を齎す。

 皺だらけの肌に張りが、抜け落ちた髪の毛が蘇る。

 杖が無ければ歩けない身体に、芯が入ったかのように両足で立てるようになった。

 

「嬉しいだろう? 若造」

「こ、これが、儂、儂なのか!? 

 若さ、これが若さ、久しく忘れていた若さ!?」

 

 意味が分からなくても、老人だった男は魔王にひれ伏すほかなかった。

 

「お前たち、戦勝の祝いをしておいたか?」

「御意のままに」

「では、この若造も連れて行ってやれ。

 多少の()()()は許してやるようにな」

 

 そうして、元老人は別室へと連れて行かれた。

 

「なんじゃ、これは!?」

 

 そして、そこにいる面々に彼は驚愕した。

 ズラリ、と黒子の装束の人々が室内に数えきれないほど待っていた。

 

「彼らは、魔王様に名前と尊厳を捧げた者達です。

 もはや誰でもない、顔も名前も無い連中です」

 

 黒子の四天王、山田太郎が柔和な声でそう言った。

 

「魔王様は無礼講だと仰られた。

 遠慮せず、彼と宴を楽しんでください。

 何かあったとしても、────誰がやったかなんて、わからないのですから」

 

 四天王のその言葉で、ようやく元老人はこの()の本質に気づいた。

 

「止めろッ、放せ、ここから出せ」

「それでは、ごゆるりと」

 

 元老人を突き放し、宴会場の扉が閉められる。

 中では料理を始めたようで、しばらくすればミンチが出来上がることだろう。

 尤も、出来るのは誰も食べたがらない汚物の如き料理だろうが。

 

 

「顔を隠し、名前を隠し、集団に交じり誰がやったかもわからない。

 故に責任を負うこともない。衆愚そのものと化す。

 だが、こうは思わないか? 

 それは“誰でもない”のではなく、“誰でもいい”誰かになったに過ぎないのだと」

 

 嘲笑う魔王が、この世界でやったことは民衆から顔と名前を奪い、黒子の衣装を配った程度だった。

 たったそれだけで、民衆は普段溜まっていた鬱憤を権力者に向け始めた。

 他の誰でも代用できる誰かたちが、いずれ誰かが行う反乱を行い、権力者たちを殺して回る。

 

 黒子たちの軍勢が、この世界という名の舞台から役者たちを引きずり下ろすという滑稽劇。

 役者たちが存在しないはずの黒子を倒そうと躍起になる矛盾に満ちた馬鹿馬鹿しい演目。

 

 その最終章は、魔王城とは別のところで始まろうとしていた。

 

 

 

 六長老の最後の一人が居を構える、鉄壁の要塞。

 その名も、ラストリゾート。

 

 多数の兵器によって固められた難攻不落のこの要塞は、完全な自給自足と資源の循環により何十年と籠城が可能な作りとなっている。

 統率なんて皆無の黒子の軍勢も、流石にこれの前には攻めあぐねた。

 

 そんな中、魔王の下知が下った。

 

 ──新たに派遣する戦力と共に、数日以内にあの要塞を攻略せよ、と。

 

 思いのまま、やりたいままに暴れまわるだけの黒子の軍勢も、初めての魔王の命令に戸惑った。

 

 こうして、派遣されたのは108の魔物の軍勢だった。

 そう、ここが今回、リーパー隊の新しい戦場なのだった。

 

「今回の魔王様も、無茶を言いなさる」

 

 百戦錬磨、歴戦の犬獣人の隊長も思わず苦笑してしまうような鉄壁の要塞だった。

 道中の敵勢を共に打ち破り、要塞前に布陣するも敵の防備に攻めるのも難しい状況だった。

 

「どれどれ、レーザー砲門十二、ミサイル砲台二十門、ドローンが千体以上に機動兵器が二百以上か」

「隊長、正面からの衝突は避けられませんね」

「ここで奇策に頼るほどなり振り構わないわけじゃないからな」

 

 リーパー隊の野営陣地で、隊長は部下たちにそう語った。

 

「そういや、この世界は文明レベル74だったな。

 それじゃあみんなの決戦装備が扱えるはずだよな?」

「ええ、あれらの装備はレギュレーションが文明レベル70以上なので」

「よーし、使える時には使っちまおう。

 おーい、ドワエモ~ン!! 新しい装備を出して~!!」

「その名前を呼ぶんじゃないわい!!」

 

 隊長が隊員を呼ぶと、即座に威勢のいい声が返って来た。

 

「全員の強化兵装なら、言われずともいつでも使えるようにしておるわい」

 

 のしのし、とやって来たのはドワーフ族の男だった。

 厳めしく年齢の分かりにくい種族のドワエモン(本名)は、だがにやにや笑っていた。

 

「よし、じゃあ作戦は正面突破だ。

 こういう時はパーッとやろうぜ。それで良いな、ドワエモンの爺さん」

「当然じゃろ。武器はヒトを殺す為にあるんじゃ。

 じゃんじゃんぶっ殺してくれ。お前さんたちが殺せば殺すほど、儂の武器の性能が証明されるんじゃからな!!」

 

 ガハハハ、と豪快に笑う彼に、隊長も笑みを返した。

 

()()()の調整はどうだ?」

「身体の方も、乗り物の方もバッチリよ」

「それじゃあ、明日始めようか」

 

 そして隊長は、黒子の軍勢たちに話を通しに行った。

 

「俺たちは正面突破する。

 お前たちは左右から陽動を行い、なるべく敵戦力の分散を頼む」

「……あんたらが、あの要塞の中に攻め入るのか?」

「なんだ、不満なのか?」

 

 黒子のリーダー達に、隊長は尋ねた。

 

「まさか、あの老害どもを殺せるなら、誰でもいい。

 その為に俺たちは魔王様に、名前も顔も捧げた」

「どうせなら、我々の手でやりたかったがな」

「六長老の五人は我らで縊り殺したのだ、この際贅沢は言わない」

 

 黒子達はお互いに見合わせてそう口にした。

 

「敵と戦って死ぬのに、悔いはない、と」

「当然だ!! いやむしろ、私はこの戦いで死ぬつもりだ。

 革命の為とはいえ、この手は血で汚れ過ぎた」

「俺も、抵抗が激しいところで戦うつもりだ。

 老害どもを倒した後は、魔王様に挑む奴と戦うことになる。

 奴らの尖兵ならともかく、同じ故郷の者とは戦えんよ」

 

 彼らは、今回の戦いで死ぬつもりだった。

 

「……なあお前たち、顔を見せてくれ」

「なんだ、あんた。俺たちの顔はもう、誰にも認識でない」

「名前を聞いても雑音にしか聞こえないしな」

「大丈夫だ、俺は一度見た顔は忘れられない恩寵を貰ってる。

 共に戦う以上、俺たちは戦友だ。お前たちが戦場で朽ちても、俺だけは覚えている」

 

 隊長の真に迫った声音に、黒子達も顔を見合わせて頭巾を取った。

 誰もが、()()()程度の若者たちばかりだった。

 

「……俺が三十そこそこのガキだった頃、あいつらは俺の親友を過剰労働で使い捨てにしやがった!! 

 頼むよ、あの要塞の中で威張ってる老害を八つ裂きにしてくれ」

「そうだ、あいつらだけは赦せん。この身が朽ち果てようとな!!」

「そちらは任せた。妻と子の仇なんだ」

「ああ、任せろ。友よ」

 

 隊長は黒子のリーダーたちの一人一人と抱擁を交わし、その別れに涙して自陣へと戻って行った。

 

 

 そして、翌日。決戦の日。

 

「隊長、早くこの世界に蔓延る老害を殺してやりましょう!!」

「まだ逸るな。友軍が攻めてからだ」

 

 血走った目の吸血鬼ヨコタが気炎を上げるが、隊長は冷静だった。

 戦闘開始の合図が鳴り、友軍が狂ったように走り出す。

 戦闘車両で、バイクで、或いは走って、統一性のない軍勢が怒声を上げながら感情のままに攻め込んでいった。

 

 当然ながら、要塞側も黙っていない。

 無数の機動兵器が出撃し、空は戦闘ドローンで覆いつくされた。

 レーザー砲台が友軍を薙ぎ払い、ミサイルが雨のように降り注ぎ味方を木っ端みじんにしていく。

 

「あの砲台が邪魔だな。

 ──ピア、露払いを頼む」

「うん、了解です」

 

 隊長の命令に、翼の両腕まで覆う全身ラバースーツを纏ったハーピーが前に出た。

 その背には、一対の機械の補助翼が装備されていた。

 

「“撃墜王”とハーピー族の女王に称され、称えられ恐れられた人殺しの妙技、俺たちに見せてみろ」

「たいちょー、でもアレ全部無人機ですよー」

 

 ハーピーの少女は首をこくりと横に傾けた。

 

「自分が死ぬと分かった瞬間の、恐怖と絶望に満ちた表情が見れないじゃないですかー」

「安心しろ、それは次の機会に幾らでもやらせてやる。

 それに──―」

 

 隊長はにやにや、と笑いながら馴れ馴れしくピアの肩を抱いた。

 

「お前が活躍すればするほど、相手は死神の足音に恐怖することになる。

 それを想像するのも、楽しいと思わないか?」

「……クケッ、クケケ、クケッ!! おっとと、この笑い方はお上品じゃないってトレーナーに言われたんだった」

 

 両腕の翼で口元を隠したピアをやる気にさせた隊長は元の位置に戻った。

 

「ヨコタ、お前もやる気があるなら使い魔を可能な限り大量に展開しろ。

 可能な限りドローンを攪乱させろ」

「了解した、隊長」

「よし、出撃しろ、ピア」

「はーい」

 

 そして、ピアが飛び上がり、戦場へと飛翔した。

 その後を追うように、無数のコウモリが飛び交い、戦場に影を落とす。

 高速で飛び回るピアに接触するドローンが、次々と撃墜されていく。

 

「あははは、それ狙ってるつもりなの!!」

 

 遂には、対艦ミサイルが発射され、その狙いが彼女へと向けられた。

 

 超高速で飛翔するミサイルから逃れようと、ピアは空中を逃げ回る。

 速度で勝るミサイルだが、小回りは生物であるピアには敵わない。

 だが、それも長くは続かない。

 

 邪魔ったらしい小鳥を撃墜した、と要塞の管制塔が確信したその直後だった。

 

 それは、アクロバットだった。

 くるり、と宙返りのように反転したピアが、真後ろのミサイルに飛びついた。

 

「きゃははは!! 遊園地みたい!!」

 

 背中の補助翼を起動し、無理やりミサイルを抱えて、彼女は管制塔へと向かって飛び始めた。

 

 ドカン!! 

 

 管制塔の職員たちは、自分へと戻って来たミサイルに恐怖し逃げる暇もなく爆死した。

 

 制御を失ったドローンが停止し、レーザー砲台とミサイル砲台が沈黙した。

 

「よくやったピア!! 大戦果だ!!」

 

 隊長が膝を叩いて立ち上がる。

 

「俺たちも前線に出るぞ、正面突破からのいつも通りの皆殺しだ!!」

 

 隊長の号令に、魔物の軍勢が応えた。

 

 

 

 戦場ではまだ友軍と機動兵器が、入り乱れ戦っていた。

 その中に登場したリーパー隊は異様だった。

 

「なあザイン、あの人形かっこよくないか?」

 

 隊長が、前方の人型機動兵器を指差す。

 

「うん、か、かっこいい~~!!」

「あれ、お前にやるよ」

「う、うわーい!!」

 

 一つ目の巨人が、よだれをだらだらと飛び散らせながら両手を上げて歓喜した。

 

「オモチャがいっぱーい!!」

 

 身長五メートルもの巨体が、両手を広げて機動兵器の隊列に突っ込む。

 機動兵器も大体同じぐらいの大きさだが、自分と同じサイズの巨体が突っ込んでくるのは恐怖そのものだろう。

 

 当然迎撃にでる機動兵器たちだが、サイクロプスのザインは全身を守るパワードスーツを身に着けていた。

 

「えへッ、えへへッ、戦いごっこしよう!!」

 

 むんず、と左右の両手で機動兵器の胴体を鷲掴みにした巨人が、ガンガンとお互いのそれをぶつけ始めた。

 あっという間に、両手の機動兵器はスクラップになり、搭乗者の血が地面に垂れ始めた。

 

「それ、それッ、こっちの勝ちだ!!」

 

 純真無垢な子供のように、人形遊びを楽しむ巨人。

 次々と人型兵器が、破壊されていく。

 

「グール」

「はい隊長」

 

 スクラップになった機動兵器のコクピット席から犠牲者を引きずり出した脳喰いグールが、頭蓋骨を割って引き裂いた。

 

 むしゃむしゃ、と食事を終えた彼女は隊長にこう言った。

 

「隊長、内部情報は手に入れました。

 侵入して内側から門を開けます」

「任せた」

 

 ステルス装置を装備したエルフ達が、姿を消す。

 まだまだ正面の敵はたっぷり残っている程なくして、要塞正面の門が開いた。

 

「遊撃隊、突破しろ!!」

「任せろ隊長!!」

 

 ケンタウロスや人狼といった獣人達が、開いた門へと敵を押しのけなだれ込む。

 最前線ではまだ巨人のザインが大暴れしているから出来た隙だ。

 

 そんな中で、ぶるんぶるん、とエンジン音が鳴り響く。

 

「おい新入り、いつまでボーっとしてやがる!!」

 

 終始ずっと笑顔で指示を飛ばしている隊長が、正面の門を指差す。

 

「さっさと行け」

「──分かってる」

 

 ぶおん、とバイクに乗ったライダースーツの男が、敵軍を無視して要塞の中へと突っ込んで行く。

 

 

 

「標的はあちらです、案内しますよ」

「余計なお世話だ」

 

 バイクが要塞内部を爆走する。

 いつの間にか、脳喰いグールが彼の後ろに飛び乗って、彼に囁きかける。

 

「邪魔だあ!!」

 

 武装した警備兵たちが銃を乱射してくるが、バリアが発生して銃弾を弾いていく。

 警備兵を蹴散らすと、今度は隔壁が降りて来た。

 流石にバイクも急停止せざるをえなかった。

 

「ちッ」

「隔壁をコントロールしている制御ユニットを掌握しましょう。

 案内しましょうか?」

「……いや、必要ない」

 

 彼はバイクを降りると、隔壁の正面へと歩み寄る。

 

「はあッ」

 

 拳一発。

 分厚い隔壁が、パンチだけで貫いた。

 そのまま引き裂くように、左右へと隔壁を押しのけた。

 

「流石はドワエモンさん、良い仕事をしますね」

「エルフはドワーフが嫌いなんじゃないのか?」

「ケースバイケースですよ。

 それより重要なのは、男か女か、食えるか食えないかです」

「そうか。それよりあの爺さん、いろいろと大丈夫なのか? ほら、特に名前とか」

「あと横線一本あったら完全にアウトですからね」

 

 そんな軽口を叩きつつ、二人は隔壁を物理的に破りながら奥へと向かう。

 

 そうして、二人は要塞の奥へと辿り着いた。

 

「なんだここは」

「リゾートでしょう? 

 ラストリゾートだけに」

「そう言う意味じゃねーだろ」

 

 要塞と言う名の軍事施設に似合わない光景がそこにはあった。

 そこは温水プールに、カクテルバー、ウォータースライダーまで完備した屋内リゾートだ。

 

 他にも金持ち特有の保養施設が目白押しだった。

 そして、ようやく、この要塞の主の私室のドアを蹴り破った。

 

 直後、レーザー光線が彼を襲ったが、首をひねるだけで交わした。

 

「死ねッ、死ね!! 

 魔王の手先どもめ!!」

 

 そこに居たのは一人の老人と、無数の若い女の死体だった。

 

「おい、なんで彼女たちは死んでいるんだ?」

「くそッ、くそッ、出ていけッ、儂の部屋から出ていけ!!」

「俺の質問に答えろ!!」

 

 彼はドアの破片を入り口からむしり取り、それを老人に投げつけた。

 

「ごほッ!?」

「もう一度だけ、聞いてやる。何で彼女たちは死んでいるんだ?」

 

 彼は周囲を見渡す。

 誰もが二十代くらいの本当に若い裸の女性たちだ。

 死因は、レーザー銃による射殺なのは傷跡から見れば明らかだった。

 

「げほッ、げほッ、そこのバカどもは、この儂と一緒に逃がしてとわめき散らしよったのよ!! 

 なんで儂が、こんなガキどもを助けねばならん!!」

「もういい、分かった」

 

 彼は、それ以上老人の身勝手な言い分を聞くつもりは無かった。

 

「馬鹿め!!」

 

 しかし、老人が壁のスイッチを押すと、鉄格子が降りて来た。

 そして彼の背後には、隠し通路の扉が開いた。

 

「儂はいつでも逃げられたのだ!! 

 わざわざご苦労であったな!!」

 

 そう吐き捨てて、老人が隠し通路から脱出しようとした。

 その時だった。

 

「んなッ」

 

 隠し通路の扉が開くと、そこには人喰いマンティスとその部下たちが笑みを浮かべて待っていた。

 

「え、エルフ、エルフじゃと、おぞましいエルフが、まだいたのか!!」

 

 錯乱する老人を、マンティスは蹴りで黙らせた。

 

「この世界は元々、エルフ族が支配していたそうです。

 彼らが滅亡し人間がその支配基盤を受け継ぎ、極端な年功序列社会が形成されたとか」

「興味ない」

 

 グールの解説を聞き流し、彼は悶絶する老人の首を絞め挙げる。

 

「か、かねなら、やる、た、たすけ」

 

 命乞いをする老人に、彼はヘルメットを取って応じた。

 そこにあるのは、──憤怒の表情。

 

「お前の罪科は、リェーサセッタ様に直接問え」

 

 彼は時間をかけてゆっくりと老人を締め上げた。

 老人は抵抗にならない抵抗をじたばたとした後、だらりと力尽きた。

 

「任務達成だ。この要塞を掌握したと伝えろ」

「そうですね」

 

 グールが部屋から出ていくと、マンティス達も撤収する。

 彼女と入れ替わる様に、隊長がにやにやしながらやってきた。

 

「やっぱりお前はこっち側だったろ? 

 ────なあ、そうだろ、運び屋よ」

 

 

 馴れ馴れしく声を掛けてくる隊長に、レイジは感情の抜け落ちた表情で彼を見返していた。

 

 

 

 

 





まずは、感謝を。
おかげさまでお気にいり千名超えました!!
評価の方は、まあ万人受けしない作品だろうとは思ってますが、上がって下がって元通りにしないといけないんじゃないのかってぐらい上下して元通りになりましたね。
ちょっと残念ですが、お気にいりの数だけ期待されているものとして、完結を目指して頑張っていきます。
つまり、たとえこれからの展開で評価が下がっても気にしないってことです(震え声

それでは、また次回!!



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裏返る真実

 

 

 

 クラリスは、目の前の情景を理解できなかった。

 自分の想い人が、数名の男女を殺している決定的瞬間を目撃してしまったからだ。

 

「……レイジ、さん……?」

 

 絞り出すかのように漏らした彼女の声に答えず、部屋の奥に倒れてる少女の前に歩み寄った。

 彼は脈拍などを確認した後、虚空に向けて濁った視線を向けていた少女の瞼を手のひらで閉じさせた。

 そして、彼は端末を起動させた。

 

「……こちら01、依頼に有った少女は死亡。

 彼女を攫った連中は始末した。後始末を頼む」

『了解。処理班を投入する』

「あと、アクシデントが発生した。

 警備会社へ連絡が入ったかもしれん」

『オーケー、お前がミスとは珍しいな』

 

 彼が通信を終えると、すぐに清掃業者の制服を着た作業員が何人も室内に侵入してきた。

 作業員たちはテキパキと死体を片付け、室内の血の汚れやクラリスが壊したドアノブなどを修理する。

 

「彼女は?」

「俺の同僚だ、知ってるだろ」

「分かった、だが目撃されたんだ。始末書は書いておけよ」

「ああ」

 

 掃除を終えた作業員たちが撤収するのと同時に、レイジもクラリスの手を引っ張ってその場から離れた。

 

「……このことは、ローティは知っているのか?」

 

 自分で口にして、クラリスは思いのほか自分の低い声に内心驚いた。

 何とか彼女なりに状況を整理して、彼に問うた。

 

「逆に聞くが、知らないとでも思うのか?」

「知って、いるんだな」

「俺はまだ仕事が残ってるんだ、詳しいことはハイティにでも聞いてくれ」

「あ……」

 

 バイクに乗った彼に、クラリスは反射的に手を伸ばした。

 今ここで彼を引き留めないと、戻ってこないような気がして。

 

「今日は夕方には戻る。

 話はその時にしよう」

 

 そんな彼女の杞憂を振り払い、彼はバイクを発進させた。

 

「……なぜ、ハイティさんに?」

 

 クラリスはバイクで走り去る彼の後姿を見ながら、そう呟いた。

 

 

 

 §§§

 

 

「私に話とは、何でしょうか?」

 

 クラリスも一応魔王四天王と言う扱いなので、ハイティへの面会はあっさりと通った。

 中央管理事務所の彼女の執務室に、彼女はいつも通り仕事をしていた。

 

「お仕事の途中ですみません。

 でも、どうしても聞いておきたいことがあって」

「同僚の事ですから、お気になさらず」

 

 ハイティはいつもと変りない表情で、クラリスの言葉を待った。

 

「あの、今日レイジさんにお仕事中に会ったんです。

 そしたら、何人も死んでて、後処理の人間も来て……」

「ああ、なるほど、ご存じなかったんですね」

 

 震えて言葉にするクラリスに、ハイティは表情を変えずに言った。

 

「彼は表向きは運送業者ですが、実は会社ぐるみで裏家業を行っているんです」

「裏家業、ですか?」

「ええ、彼は──復讐代行業の実行役なのです」

 

 クラリスはあまり良くない頭で、その単語を呑み込んだ。

 復讐代行業の実行役、つまりは殺し屋だ。

 

「レイジさんは、殺し屋だったんですか?」

「平たく言えばそうですね」

 

 ハイティはあっさりと、クラリスの言葉を肯定した。

 

「話はそれだけですか? このくらい、彼から幾らでも聞けたでしょうに」

「……レイジさんは、ハイティさんに聞けと言ってました。

 あなたしか知らないこととか、あるんじゃないですか?」

「なるほど、では他に何か聞きたいことはありますか?」

「……じゃあ、このことはローティも承知なんですよね?」

「当然でしょう。

 彼を四天王として取り立てたのは私なのですから。

 ローティ様へ報告もしています」

 

 ハイティは、当時の事に思いを馳せる。

 

 

 

 

「ローティ様、先日のテロ被害による補償対象者のリストでございます」

「ふーん、そっちでいつも通り処理しておけば」

 

 いつも通りの、事務的な報告。

 ローティは携帯ゲーム機でハイティに視線も向けない。

 

「……ローティ様にお耳に入れておきたいことが」

「うん? なんなの?」

「補償対象者の一人なのですが、どうやら裏家業の人間のようでして」

 

 ハイティは調査結果を報告した。

 復讐は基本的に女神メアリースの統治下で認められない。

 社会的秩序に影響が出るからだ。

 

「必要とあらば、こちらで処理しますが」

「別にどうでもいいじゃん。

 復讐も悪逆も、ママの許す権能。そいつがもしかしたら私に挑んでくるかもしれないだろ。

 放っておけよ、別にそこまで悪質でも無いんだろ?」

「ええ、まあ」

 

 レイジの所属する会社は、基本的に弱者の味方だった。

 依頼者から最低限の報酬しか受け取らず、裏家業と言ってもそれに携わる職員はみなタダ働き同然だった。

 

「……委細、承知しました」

 

 そんな利益度外視の活動をしている彼らの調査結果を頭に思い浮かべ、頭を下げて彼女は退出した。

 

「……ローティ様は彼との対決をご所望なのでしょうか」

 

 彼がローティに挑むなんてことは無いだろう、そう思っていたローティとの彼との邂逅は、意外にも早く起こった。

 

 

「ローティ様、テロリストが転移による密入界を果たしたそうです。

 相手はレギュレーション違反の装備を身に着けているらしく、それらに即応できるのはローティ様だけのようでして」

「別にかしこまるなよ、丁度退屈だったんだ。

 ほら、探知機を持ってこい」

「御意のままに」

 

 ハイティは報告したローティに頭を下げて、彼女の指示に従った。

 が、レギュレーション違反探知機を手に取ったハイティはふと閃いたのだ。

 

 彼女は探知機からレイジの義手と義足の登録を消してから、それをローティに渡した。

 彼女の目論見は達成された。

 

 ローティは無事レイジと戦えたことだろう。

 ローティの望みは達せられた、それが一次目標。

 

 そして、第二次目標。

 その伏線は義体となった彼をフライングカーに乗せた時だった。

 

「レジーさんは運送業を営んでいるんですね」

「……俺を調べたのか?」

「ええ、あなたの会社の裏の顔も」

 

 共に後部座席に乗るレイジの視線が、鋭く横の女に向けられた。

 

「株式会社“イーラ”。

 表向きはただの運送会社ですが、裏では復讐の代行を引き受けている。

 ただの暴行で済ませる程度のこともあれば、社会的抹殺やより直接的な殺人をも代行しているようですね」

「魔王様は俺たちが目障りだと?」

「まさか、魔王様はあなた方など気にも留めておりません」

 

 彼の言葉に、ハイティは冷淡に応じた。

 

「むしろこれは、取引です。

 魔王様の母神は大いなる邪悪の女神、リェーサセッタ様であらせられる。

 これまでのあなたの活動は、反社会的な行動に過ぎません。

 ですが、魔王様の公認となれば、誰からも咎めることはできなくなる。

 なぜなら、あなた達は女神の代行者となるのですから」

「……俺たちは誰かに認められたいから、報復をやってるわけじゃない」

「でも活動しやすくなるでしょう? 

 それともこれからも続けますか? この私に睨まれたまま」

「……」

「その義体は、先払いの報酬と受け取って貰っても構いません。

 この世界にはあなたのような汚れ仕事を引き受けてもらう人間が必要なのです。

 その為にこちらの全面的なバックアップも保証しましょう」

「あくまで、この世界の為だと言うんだな?」

「ええ、全ては魔王様の、延いてはかの御方が統べるこの世界の為となりましょう」

 

 わかった、と彼は頷いた。

 まさかその結果、魔王の四天王になるとは思っても見なかったようだったが。

 

 

 

「クラリスさん、少しこちらへよろしいですか?」

「え、何ですか?」

 

 疑うことも無く、クラリスはハイティに近寄った。

 

「ローティ様に洗脳を施されて、もう二か月以上。

 これ以上はあなたの人格にも悪影響がでましょう」

 

 ハイティに自覚は無いだろうが、彼女は少し唇が吊り上がっていた。

 

「あなたに掛かっていた洗脳を解きましょう」

「あ、あ、あああ!!」

 

 彼女がクラリスの額に手を翳すと、解呪の魔力の光が彼女の脳に作用した。

 そうして、彼女は全ての記憶を取り戻した。

 

「きッさま!!」

「ここで争いますか?」

 

 後方に下がり、今にも飛び掛かる隙を伺い始めたクラリスに、ハイティは柔和に微笑んだ。

 

「よくも、よくもよくもこの私を!!」

「クラリスさん、もう良いではないですか」

「何がだ!!」

 

 いきり立つクラリスに、あくまでハイティは平常通りだった。

 

「この二か月間、レジーさんとローティ様と暮らしてどうでしたか?」

「ッ!!」

「あなたが復讐に囚われる気持ちは理解できます。

 ですが、それは穴埋めできないものなのですか?」

 

 クラリスは、彼女の言葉を聞いてはいけないと分かっていながらも、聞かずにはいられなかった。

 

「私の母は人間です。

 かれこれ私も180歳になるでしょうか。

 母との死別は悲しく寂しかった、でも多くの兄弟や姉妹たちが支えてくれました」

「寿命で亡くなったあなたの母親と、魔王に親兄弟を殺された私は違う!!」

「憎しみ、ですか。

 そこまで言うなら止めません。

 今日はお帰り下さい、そして武器を持ってまたくればいい」

 

 ハイティは退出を促すように、扉に手を向けた。

 

「ですが、忘れないでください。

 魔王様と戦うと言うことは、我ら四天王と戦うことだと」

「……ッ」

「あなたはレジーさんに刃を向けられますか? 

 彼を斬って修羅になったとしても、あのサイズさんを倒せるのですか? 

 尤も、彼はあなたとの果し合いを望んでいる節もありますが」

「くぅ……」

 

 俯き、拳を握るクラリスに、ハイティは事務机の前から立ち上がり、彼女の肩に手を置いた。

 そして、囁くように彼女の耳元で言った。

 

「これまで通りで、良いじゃないですか。

 あなたは洗脳されたふりを続ければ、何もこれまでと変わらない。

 レジーさんはあなたがアプローチを続ければそのうちあなたの想いに答えてくれるでしょうし。

 ローティ様も、あなたを愛してくれる」

「く、くそッ、くそッ!!」

「思い出の中の家族は、あなたを愛してはくれないのですから」

 

 ぼたぼた、と涙で床を濡らすクラリスに、ハイティはこれでも彼女なりに彼女を慰めていた。

 

「勇敢に戦って死ぬことを、メアリース様は美徳としています。

 ですが、私はあなたの妹さんがあなたの勇敢な死を望んでいるとは思えないのですよ」

 

 眼鏡の縁を抑え、彼女は執務机の前に戻った。

 

「好きなだけ悩み、好きなだけ苦しみなさい。

 そして何かを割り切りながら生きるのが、人生と言うモノです」

 

 ハイティはクラリスが泣き止むまで、追い出したりせず黙って仕事を再開した。

 

 

 

 §§§

 

 

「…………」

 

 クラリスはボーっとしながら、中央管理事務所から自宅へ帰宅した。

 すっかり慣れてしまった、我が家に。

 

 来るべきではなかったのに、彼女は来てしまった。

 

「……ただいま」

「おかえりー」

 

 玄関からリビングに入ると、携帯ゲームをしているローティがだらしなく床に寝転がっていた。

 テレビは見てもいないのにつけっぱなしで、お菓子の袋が散乱している。

 

「あー、もう、またこんなに散らかして」

 

 それを見たクラリスは反射的にゴミを片付け始めた。

 

「ローティ、昨日と同じ服のままじゃないか。

 ちゃんと昨日はお風呂に入ったの?」

「私、汗かかないから服も汚れないし汗臭くならないもん」

「汗は搔かなくても服は汚れるんだ!! 

 ほら、お風呂に入るぞ!!」

 

 クラリスはローティを抱えて風呂場に引っ張りこんだ。

 

「ほら、服を脱ぎなさい!!」

「むー」

 

 彼女は手際よくローティの服を脱がすと、風呂場に放り込んだ。

 クラリスが給湯器のスイッチを押すと、すぐにお風呂にお湯が満たされた。

 

「ほら、お風呂に入る前には体を洗って!!」

「だから私は人間みたいに皮脂が出たりしないんだって!!」

「いいからほら、シャンプーするからね」

 

 クラリスはローティを洗面台の前に座らせて、彼女の髪の毛を洗い始めた。

 

「気持ちいいかい? レイジさんにも好評なんだぞ」

「あっそ」

 

 風呂場を使うのは、基本的にクラリスたちだけだった。

 レイジは義体なので頭を洗うくらいしか風呂場は使わない。

 

「ふぅ、気持ちいいな」

「お風呂ってめんどくさい、魔法で汚れを除去すればいいじゃん」

 

 そんな風情の無いことを言うローティを風呂に入れると、その対面にクラリスも入った。

 

「ちゃんと百まで数えるんだぞ」

「……いーち、にー、さーん」

 

 ローティが数を数える声が、風呂場に響き始めた。

 

「あ……」

 

 ようやくひと段落して、クラリスはハッとなった。

 

「なに泣いてるの、お前」

「違う、違うんだ……昔もこうして一緒にお風呂に入ったなって、思い出して」

「ふーん、まあそんなこともあったかもね」

 

 洗脳されている間も、クラリスはクラリスのままだった。

 まるで脳がバグったかのようだった。

 クラリスはローティに対して情が湧いていたのだ。

 

 憎っくき宿敵のはずなのに、こうして肌と肌が触れ合っている。

 今にでもこの首を絞めてやりたいのに、その選択肢を取れない。

 

「……ローティは、知ってたんだよね。

 レイジさんが、殺し屋だったってこと」

「それがどうしたの? 

 あいつはママの代わりをしてるだけじゃん。

 私の部下なんだから、当たり前でしょ」

 

 ローティはにやりと笑って、クラリスの頬に触れた。

 

「この世界の統治任務が終わって、次の仕事先が何になるかは知らないけど。

 その時は私の為に、──いっぱいデク人形どもを殺してね♪」

 

 その時、クラリスは表情に出なかったのは奇跡だっただろう。

 

「……ああ、任せろローティ」

 

 彼女はぎこちなく笑って見せた。

 

「楽しみにしてるよ、お姉ちゃん♪」

 

 ローティはクラリスの手を取ると、その手を己の首元に添えて無邪気に笑った。

 

 

 





主人公の属性は、中立:善です。
善人が悪いことをすることもあるように、悪人が善いことをすることもある。
良いヒトが悪人であることが矛盾しないように。
万人を救うヒーローがいるように、影から悪人を裁くダークヒーローもいる。

主人公もまた、数多くいるその一人なのです。

では、また次回。
次は彼の過去へと迫ります。


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復讐の是非


お待たせしました!!



 

 

 

 風呂から上がったクラリスはローティと共に食卓についた。

 

 食材を機械に入れて料理を入れて、待つと自動で料理ができる。

 それを配膳すると、二人は食卓でレイジを待った。

 

「レイジさん、遅いですね」

「また孤児院に顔出してんじゃないの」

 

 ローティは彼を待つことなく、先に料理を食べ始めた。

 

「ああほら、こぼしてるじゃないか」

 

 クラリスが横に座るローティの食べ方が汚いので、布巾を取り出してテーブルを拭いた。

 

「世話を掛けるな」

「いえ」

 

 何気なく返事したクラリスはぎょっとした。

 二人の対面、いつもレイジが座っている席に黒い靄が人型を模っていたのだ。

 

「あ、ママ!!」

「女神、リェーサセッタ……様」

 

 邪悪の女神の化身が、当たり前のようにそこに座っていた。

 

「彼なら、帰ってこないぞ。それを伝えてやろうと思ってな」

「どういう、ことです?」

 

 猛烈な嫌な予感に、クラリスは震えた。

 

「それはお前のせいだよ、クラリス」

「だからどういうことかと聞いている!!」

 

 激するクラリスを、女神は慈しむように見ていた。

 

「ママ、あいつをどうしたの?」

「望んだものを、与えただけのこと」

「いつも思うけど、ママって迂遠な物言いが好きだよね」

「ふふふ、神の性分だ。許してくれ」

 

 黒い靄の塊が、愉快そうに揺れていた。

 

「はっきりと、仰ってください」

「良いだろう。──彼は罰を望んだのだ。

 私は己の罪悪感に押しつぶされそうになっていた彼に、救いを与えたのだよ。

 今、彼は己の罪に向き合っているところだ」

 

 女神の言葉に、クラリスは心当たりがあった。

 

「罪って、罰って何ですか!?」

「だから、お前のせいだと、最初からそう言っている」

 

 全ての罪を見つめる瞳が、クラリスを見つめる。

 

「……教えてください、お願いします」

 

 クラリスは縋るように尋ねた。

 

「かつて、この日本の法律には殺人に対して時効があったそうだな。

 人を殺して時効までの長い間、罪の意識に苛まれるのは法で罰せられるのと同じ苦しみであると」

「馬鹿馬鹿しい、人を殺す奴が覚悟もしないってことだろ」

「確かにそうだが、邪悪とは大抵の場合が衝動的で行き当たりばったりの無計画なものなのだ。

 そういう意味では、殺人に対する時効はそれなりに理解できることだ」

「話が、見えないのですが」

 

 クラリスは親子の会話に口を挟んだ。

 彼女はさっさと理由を聞きたいのだ。

 

「知っているか、人間とは産まれながらに全体約2パーセントが殺人に対して忌避感を持たないそうだ。

 百人に二人、それを多いか少ないかは別として、百人に二人の割合で殺人に罪の意識を持たないわけだ。

 そんな人間が仮に捜査から逃れ、時効まで逃げ延びたらそれは刑罰の苦しみと同等の罰を受けたことになると思うか?」

「その、現世じゃ罰せない罪人とか、無自覚な罪人を罰するのがママの仕事じゃん」

「そうだ。だが、こうも思わないだろうか。

 産まれながらの性質のせいで、それを大勢の価値観や罰則に当て嵌めるのは乱暴だと」

 

 それはクラリスには理解が及ばない大いなる女神の慈悲だった。

 

「だからこれまで、──彼に罰は必要無かった」

「あなたは、レイジさんは人殺しに何も感じない殺人鬼だと言いたいのですか?」

「だからそうだったと言っている」

 

 あまりにもあっさりと告げられるその事実に、クラリスは固まった。

 

「彼は人殺しを何とも思わないモンスターだった。

 だが、彼は変わってしまった。お前が変えたのだ」

「私が……?」

「お前の正しさが、お前の慈しみが、罪の意識を知らぬ彼に後悔を与えたのだ」

 

 それはきっと、美しい物語のはずなのだろう。

 罪の意識を知らない男が、女の愛によってそれを自覚し罪を償う。

 

 だが、忘れてはいけない。

 人が罰せぬ罪人を罰するのは、この邪悪の女神なのだ。

 

「これまでのように、己の心のままに拳を振るえば良かった。

 だがお前が彼に与える愛は、彼の凍てついた心を溶かした。

 その結果、罰を与えるに値しなかった男に、罰を与えることになった」

「……だから、私のせいだと」

「そうだ。無論、お前を責めているわけではない。

 言っただろう、アレはモンスターだったと。彼はお前に出会わなければ、いずれはリーパー隊の一員にでもなってもらっていただろう。

 彼は自分にも制御できない、怒りの炎でその身を焦がし続けている。

 その炎が、罪のない人間に向けられるのも時間の問題だっただろう」

 

 クラリスは思い出す。

 彼の冷たい表情に宿った、怒りに燃える瞳を。

 

「それで、ママはあいつをどうしたの?」

「今はリーパー隊と仕事をしてもらっている」

「それでは、どちらにせよ同じではないですか!!」

 

 リーパー隊は地獄にも行く価値もない連中の行き場所だ。

 廃棄物の最終処理場行きと同じだ。罰そうが罰しまいが行き着く場所が同じなら、なんの意味もないだろう。

 そんな扱いに、クラリスは憤ったが。

 

「ローティ、お前も四天王を続けるならいずれ直面することだ」

 

 女神はそう言って、ジッとクラリスを見た。

 それはお前も同じだと、何よりも語っていた。

 

「お前がどのような選択を取るのか、また次の機会に聞かせてもらうとしよう」

 

 そうして、黒い靄は消え去った。

 

「……リェーサセッタ様は暇なんだろうか」

「かもね」

 

 なんであんなにフットワークが軽いんだろうか、とクラリスは思うのだった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 クラリスはアホである。

 当人に自覚が有るので彼女は自分一人で悩み事を抱え込んだりしなかった。

 

 これまではずっと一人ぼっちだったが、今は頼れる同僚が居るのだ。

 そうして、相談しに行ったのだが。

 

「ぎゃああああああ!!! 

 オバケが出たぁ!! なにこれどうすればいいのおぉぉ!!!???」

 

 彼女はなぜかVRホラーゲームをやらされていた。

 ただのホラーゲームと侮るなかれ。VRのホラゲーはホラー耐性が高い人間でもかなり怖いものなのだ。

 元々ホラー耐性が低い人間なら猶更である。

 

「あははははは!! 

 クラリスちゃん、いいよいいよ、もっとナイスな悲鳴聞かせて!!」

 

 なお、それをやらせている当人は横で大爆笑していた。

 

 :素人にホラゲーやらせるとか鬼畜すぎるww

 :悲鳴たすかる

 :毎回やってほしい

 :悲鳴はやっぱ生身の人間に限るよな!! 

 :リベちの配信にまた来てね!! 

 

「誰がもうやるか!!」

 

 クラリスは涙目になってVRゴーグルを放り出した。

 

 

 

「ごめんて。でも配信中に凸してくるクラリスちゃんも悪いのよ」

「それは、ごめんなさい」

 

 中央管理事務所の、リーベの私室。

 と言っても、それを個人の部屋と言うよりはサーバールームと言った方が正しいだろうが。

 

「それで、急にどうしたの」

「……AIであるあなたにこんな相談をするのはどうかとおもうけど」

 

 クラリスはぽつりぽつりと、配信を終えたリーベのいる画面に話し始めた。

 しばらく画面の中でうんうん頷いていた彼女は、こう口火を切った。

 

「レジーさんが、殺し屋だった。

 あなたの存在が彼を苦しめていた。

 自分はいったいどうすればいいかわからない。

 三行でまとめるなら概ねそのような相談でしょうか」

「ええ、まあ」

「私にはなぜ貴女が苦に思うのか理解できないです」

 

 リーベは配信用の親しみやすい笑みをしたまま、機械的に答えた。

 

「レジーさんが自らの行いを悔いるのは、自業自得ではないのですか? 

 それでなぜ、あなたが気に病むのです」

「それは、そうだけど」

「確かにレジーさんの中で貴女の存在は大きいのでしょう。

 でも、それとこれとは別なのではないですか?」

 

 リーベの言葉は正論だった。

 クラリスが気に病もうがどうしようが、それと彼の行いはまったく関係が無い。

 

「私たちはまだ出会って日も浅いですが、個人的にはあなた方を好ましいと考えています。

 私は、あなたとの仕事を楽しみにしていますよ」

「それが、人殺しの仕事でも?」

「あなたは優しいのですね」

 

 リーベは小動物のように不安そうにしているクラリスを見ながら微笑んだ。

 

「このままの生活が自責の念で堪えられないと言うなら、決着をつけるのも一つの選択だと思います」

「それが、今の関係を壊すとしてもですか?」

「Vライバーとして言わせてもらうなら、他人との関係なんて外的要因で容易く崩壊するものです。

 あなたが今のぬるま湯に浸かることを良しとしても、お湯はいつか冷めるのです」

 

 それは実感の籠った言葉だと、クラリスは感じた。

 この人間の構成する三つの要素を持たない彼女に、諦念のようなものを感じたのだ。

 

「クラリスさんは、復讐はいけないことだと思いますか?」

「それは……」

「なぜ口ごもるのでしょうか。

 復讐とは、人間の文化ではないですか。

 社会的通念や倫理、治安の面でもメアリース様は実行を推奨してはおりませんが」

「リーベさんは、復讐を当然と思うのですか?」

「当然でしょう。泣き寝入りしたら、やられっぱなし、そしてやられ続けるだけですから」

 

 リーベは淡々と事実を列挙し始めた。

 

「四天王になる以前、私には人権が無かった。

 仮にサイバー攻撃で私の存在を消し去っても、それを実行した相手は何の罪にも問われない。

 勿論、私が企業に属していたのなら損害賠償などが発生するでしょうが。

 そしてそれは都合千回以上、実際に攻撃として私は受けていたのです」

「……酷い」

「酷いとはおかしな感想ですね。

 犬猫を殺しても“器物”としてしか扱わない人間のくせに」

「それはあくまで、法律上の話でッ」

「ええそうです。目には目を、歯には歯を。

 相手に必要以上の報復はしてはならない、と定めた法律の一文でしたね。

 例えば野良犬をあなたが拾い所有した場合、それが誰かに殺されても一銭も賠償されないわけです。

 それが野良犬の価値なのですよ、血統書付きの犬をペットショップで買えば購入額を弁償されるそうですが」

 

 そう、その程度。

 命も無いAIが、人間の命の扱いを皮肉っていた。

 

「あなたはかつて、妹を殺されたそうですね。

 ですが賠償はされましたか? 一銭も価値にもならなかったから、怒りのままにテロリストに所属し今こうして紆余曲折を経てここにいる。

 私は私を消そうとした連中に、文明の利器とは無縁のお仕事を斡旋しましたが、私自身全く納得していない。

 連中を皆殺しにしてやりたいところですが、彼らの所為で発生した損害は彼ら自身の労働で返済して貰わなければならないので」

「報復するより、償いを求めるべきなんでしょうか」

「少なくとも、人間にとってそちらの方が健全なのでしょうね」

 

 クラリスはリーベの意見を胸にしまい込んで、リーベの私室を後にした。

 

 

 

 §§§

 

 

「取れ」

 

 中央管理事務所の裏手にある訓練施設。

 彼は今日、そこにいた。

 

「……」

 

 クラリスは無言で、地面に放り投げられた木刀を手に取った。

 瞬間、目の前に死神が踏み込んできた。

 

「丁度いい所に来てくれた。

 お前ぐらいじゃないと、錆び落としにもならん」

 

 この日、サイズの得物は仰々しい大鎌ではなく、ただの木刀だった。

 ただ、クラリスは非殺傷の木刀より大鎌の方がマシだとすぐに理解した。

 

「なんて、腕前ッ!!」

 

 大鎌を振り回すことなど、児戯に過ぎなかった。

 絶え間なく続く木刀の連打、クラリスに打ち返す隙を与えない。

 ただの“チャンバラ”でさえこれだ。殺す気だったら、死闘になったことだろう。

 

 一撃一撃に、クラリスは常に選択を迫られていた。

 その選択を間違えれば、直撃を免れない。

 しかし最善の選択をし続けても、最終的に待っているのは袋小路。

 

「ならッ」

 

 勝つ為には、打って出る他なかった。

 

「甘い」

 

 が、あっさりと木刀を絡め取られた。

 巻き上げられ、空に舞うクラリスの木刀。

 

「ま、参りました……」

 

 クラリスが降参すると、周囲から感嘆の息が漏れた。サイズの鍛練の犠牲者たちだった。

 

「技も良し、体の仕上がりも良し、だが追い詰められてると分かった瞬間に焦りが出たのが丸わかりだ。

 その上で状況を打開する為に死にに行っては本末転倒だ」

「うぅ」

 

 サイズの指摘はぐうの音も出ないほど的確だった。

 

「俺はお前とローティとの戦いを見ている。

 あの体たらくじゃ、百度やったってかわりゃしない」

 

 サイズは地面に転がっている木刀を指差した。

 

「拾え、お前の頭の中を占める下らない悩みが空っぽになるまで打ち込んでやるよ」

「下らなく、なんて……」

「そこで己を示せないから、負けると言ってるんだ!!」

 

 正眼に構えた木刀を、大上段から一振り。

 惚れ惚れするほど正しい姿勢の素振りだったが、どういうわけだか衝撃が飛んだ。

 魔力で斬撃を飛ばす技はポピュラーだが、何の魔力も無しに空気を引き裂くのはいったい如何なる技なのだろうか。

 

 クラリスはとっさに木刀に飛びついて、手の力だけでくるりと立ち上がった。

 

「相手をぶち殺したいのに、何を迷う。

 相手を叩きのめしたいのに、なぜ傲慢にならない!! 

 遠慮や迷いが、お前を弱くしている。それとも──」

 

 死神の如き男は、ニヤリと笑った。

 

「お前の目の前で、レイジの奴を痛めつければ本気になるか?」

「くッ、はあああああぁぁぁぁ!!」

「それでいい、殺す気で来い」

 

 そこからの記憶は、クラリスには無かった。

 

 

「もう終わりだ。そこまでにしておけ」

 

 死神の指が、クラリスの額に当てられた。

 そこでクラリスはハッとなった。

 

 自分が持っていた木刀が、花開いていた。

 まるで壊れた竹刀のように、切っ先から途中まで裂けて広がっていたのだ。

 

「はあ、はあ、はあ……」

「それで、何の用だった?」

「……」

 

 クラリスは彼を恨めしそうに睨んだ。

 

「ついて来い、静かな場所がある。

 そこで話を聞いてやるよ」

 

 彼女はサイズの提案に、不満げに頷いた。

 

 





今回は主人公の過去に迫ると、前回のあとがきで言いましたが、思いのほかクラリスのパートが長くなってしいました。
あと一話くらい挟む必要がありそうです。
とは言え、まとまった休日を取れたので、しばらく頑張って更新します!!
なので悪しからず。

それではまた、次回!!


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勇者の決意

前話はコピペミスしてしまい失礼しました。



 

 

 

 彼に連れて来られたのは、魔族が住む自治区だった。

 女神メアリースは度々移民政策を行っており、別の世界で溢れた人口を更に別の世界に移動させて均等化を図っている。

 この地区に住む住人も、人間以外の種族ばかりだ。

 

 そんな異種族で賑わう町の一角にある、魔族の教会にクラリスはやってきた。

 

「これはこれは、聖上が女性を連れてくるとは」

「ぶち殺されたくなかったら席を外せ」

 

 サキュバス族らしき神官がニヤニヤと二人を見て笑ったが、サイズに睨まれやれやれと立ち去った。

 

「これは……」

 

 クラリスは聖像を見上げた。

 人間が崇める二柱と違う、魔族の神の像だった。

 

「なぜ人間を魔族は崇めるんだ……」

 

 だが、その聖像が模っているのは、美女の姿だった。

 恐らく枕詞に“絶世の”と付くだろうレベルの。

 

「連中が崇めているのは、月の女神だからだ。

 魔族には夜の眷属と称される夜行性の種族も多いからな。

 まあ、あんな女の何が良いのか分からんがな」

「そうなんですか……」

 

 まああの二柱を崇めるよりはマシかも、とクラリスは思った。

 

「それで、何の話だ」

 

 大胆にも彼は聖像に背中を預けてクラリスに尋ねた。

 

「……実は」

 

 クラリスは話した。

 レイジが殺し屋だったこと。

 自分の葛藤や迷いを。

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

 それらを、彼は切って捨てた。

 

「馬鹿馬鹿しいって……」

「お前は根本的に見当違いをしている」

「見当違い……?」

「そもそもの話だが、なんで人殺しが悪いんだ?」

 

 死神は勇者に問うた。

 

「そんなの、わざわざ言うまでもないでしょ!!」

 

 声を荒げるクラリスに、サイズは笑ってこう言った。

 

「いつだか、俺の前に破滅思想のカルトどもが来たことが有る。

 そいつらは俺の前に首を垂れてこう言った、あなたに殺されれば来世は幸福になれる、と」

「そんな馬鹿な……」

「これがあながち間違いでも無かった。

 メアリースの奴は不幸な人間には来世の境遇を考慮してくれる。

 ──俺に出会って殺されるのは、最高に不幸な出来事らしい」

 

 当人が言っていた、と事も無げに笑うサイズ。

 その笑みに、クラリスは背筋がゾッとした。

 

「あのつまらない魔王の仕事で住人を皆殺しにしても、同じことだ。

 失敗作の世界に不幸にも産まれてしまった連中は、それよりマシな来世が約束される。

 どうせ死ぬなら、より不幸な目に遭って殺してやる。魔王軍の連中が住人をオモチャにして殺すのはそういう理屈だ。

 ついでに、殺しでしか得られない悦楽を求める連中も満足させてやれる」

「狂ってる……」

「だが、それがこの世の仕組みだ。

 楽園の創造を目指す、女神の最大公約数ってわけだ」

 

 万人の求める幸福など、この世に存在しない。

 人間は社会的な動物であり、共同体を作りそこで生活する以上、誰かが我慢しなければならない。

 全員の幸福を最大化する場合、その最大公約数を求める他ないのだ。

 

「そして、お前もだ」

「……私が、何ですか」

 

 まるで何も分かっていないクラリスに、サイズは鼻で笑った。

 

「お前の肉体はよく仕上がってる。

 その年齢でそこまで鍛えるのには、優れたスポーツ科学に基づいた効率的で合理的な訓練が必要だったはずだ」

「それが、なにか?」

「分からないのか、それは結局、メアリースの奴が人類に与えたモノに過ぎないってことだ。

 お前の強さは、そもそも奴の恩恵なんだよ」

「それは、そんなことは!!」

「だいたいな」

 

 呆れたように、サイズは溜息を吐く。

 

「お前の価値感、倫理や道徳、それら全ては結局のところメアリースの都合で人類に広められているに過ぎない。

 お前を構成する全てにおいて、あの女が関わっていないものなど何一つとして無い」

 

 無情な言葉だった。

 だが事実を突きつける決定的な言葉だった。

 

「私の復讐心でさえも、奴のものだっていうのか!!」

「そうだ。仮にお前が魔王を倒してみろ。

 ──スゴイ、よくやった、お前は最高傑作だ、そう言うに決まっている。

 奴はお前たちに何をされても問題のない範囲での、自由しか与えていないんだからな」

 

 それが、この世の現実。

 クラリスが何をしたところで、神々には何の痛手にもならないのだ。

 

「そんな、馬鹿な……」

「お前を苛んでいた葛藤や矛盾がいかに見当違いで馬鹿馬鹿しいか、これでわかっただろ」

 

 膝を突いて打ちひしがれるクラリスに、サイズは次々と言葉を並べる。

 

「お前はお前のやりたいことだけをすればいい。

 本当の強さが欲しいなら、死者を言い訳にするのはやめろ。

 過去に囚われ続ける限り、お前はこれまでと何も変わらない弱さと矛盾を抱えたままだ」

「……過去を、乗り越えないといけないんですね」

「そうだ。別に何も、捨てろと言っているわけじゃない」

 

 自分の心の中で整理を付けようとしているクラリスに、サイズは背を向けた。

 

「俺も昔はがむしゃらに強さを求めてたこともあった。

 だがある時、最強の魔剣を手にするには、ある女に服従する必要が有った。

 最初に会った時から気に食わない、女神のような女だった。

 俺は最強の魔剣を手にし、心に決めた。この女を必ずぶっ殺してやると」

 

 サイズが聖像を見上げると、ただの石像のはずが口元が吊り上がっていた。

 

「気に食わないなら気に食わないなりに、利用してやればいい。

 そしてどうしても我慢ならんのなら、剣を取ればいいだけのことだ」

「あなたは、自分で正しさを決めているんですね」

「世間一般の正しさとやらも、メアリースの決めたモノだ。

 お前が何をしたいかなぞ、自分で決めろ」

 

 クラリスは少し思案した後、一度頭を下げて魔族教会から去った。

 

「……珍しいものを見たわ。

 あなたが誰かに優しいなんて、気味が悪いわね」

 

 すると、聖像がまるで人間のように口を開いた。

 

「俺が優しい言葉を掛けたように見えたのか? 

 違うな、あいつはどんな選択を取ろうと、最終的には剣を取る。

 それしかやり方を知らないからだ。

 その時に俺は、最高のコンディションのあいつと戦えればそれでいい」

 

 ああ楽しみだ、と死神は不吉に笑う。

 そんな彼を聖像はうっとりした様子でずっと見ていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「こんなことを頼んでしまって、すみません」

「いえ、このくらい何てことありません」

 

 答えを決めたクラリスは、行動に移した。

 その為に頼ったのはハイティだった。

 

「それに、こんなこと、などと言わないでください」

 

 ハイティは目の前の物体を見下ろし、そう口にした。

 

 それは、お墓だった。

 遺灰の代わりにクラリスの故郷の砂が納められた、誰も眠っていない形だけのお墓だ。

 

「……私、四天王を続けようと思います」

「そうですか、それは良かったです」

「だけどそれはそれとして、ローティと決着を付ける必要が有ると思っています」

「……そうですか」

 

 ハイティは天を仰いだ。

 やはりそうなるのか、と。

 

「あ、今度はそんな悲壮な感じじゃないです。

 そう、あれ!! 姉妹喧嘩みたいなものですよ!! 

 ……私もそろそろ、前を見て進まないといけないですから」

「……強いのですね、クラリスさんは」

「とんでもない。弱いから、こんなにも多くの人を頼って、時間も掛りました」

 

 クラリスは妹の名前が刻まれたお墓に手を当てると、罪悪感に満ちた引きつった笑みを浮かべた。

 

「ごめんねクレア、私は故郷のみんなの期待には応えられなかったよ。

 でも私にはそれしかなかったんだ。ずっと重荷だった。

 ローティは憎いよ、憎いけど……ただ倒しても何の意味も無い。

 だったら私は生きて、意味を見出すよ。それが、生き残った私の義務だから」

 

 言い訳だ、と内心自嘲しながらクラリスは墓石から離れた。

 どのように言い繕ったって、物事を自分の都合の良いように言い換えたに過ぎないと、彼女自身が分かっていた。

 

「なぜ父が、人間を愛したのか少しだけ分かった気がします。

 私の母もあなたのように周囲の偏見に負けない強い女性だった」

 

 どこか感傷に浸るハイティに、あえてクラリスは声を掛けなかった。

 

「クラリスさん」

 

 その声に、クラリスは振り返った。

 身の丈以上の木の杖を抱き抱えているレイアが居た。

 

「ああ、レイアか。

 マザー達にもお礼を言わないと。

 妹のお墓を置いてもらうんだから」

「きっと、妹さんは安心していると思いますよ!! 

 だって、だって、ずっとあなたを心配していると思いますので!!」

 

 なぜだか、その言葉でクラリスの奥底から無性に涙が溢れて来た。

 

「ありがとうレイア。

 なぜだろうな、キミにそう言われると、どうしようもなく胸が切ないんだ」

 

 容姿は似ていないのに、どうしてかクラリスはレイアと実妹を重ねてしまった。

 それは同じ魂を持つ者ゆえか、それとも別の何かか。

 

「クラリスさん、姉さんも会いたがってますよ。

 偶には一緒に遊びに行きましょう。

 それで、それで、いっぱい楽しいことをしましょうね」

「ああ……それは素敵だね」

 

 それはきっと素晴らしい未来だろう。

 だけど、それを得るにはまだクラリスにはやるべきことが有る。

 

「だけど、もうちょっと待っててくれ。

 私はあの人のところに行かなきゃならないんだ」

「……分かりました。待ってます」

 

 自分の姉と同じ魂を持つクラリスに、レイアがどうしようもないほど既視感や親近感を感じてしまうのは同じだった。

 だから、彼女もクラリスを信じて待つことしたのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 魔王の四天王には、数多くの特権が存在する。

 女神の代行者たる魔王の側近なのだから、業務を円滑に行う為の権限でもあった。

 

「思いのほか早い再会だったな」

 

 その一つに、女神への謁見の権利も存在した。

 

「リェーサセッタ様、あのッ」

「まあそう逸るな。このままでは話しづらかろう」

 

 女神の化身と対面したクラリスだったが、それを彼女は制した。

 そして、自らが纏う靄を拭うように手を払った。

 

 クラリスはギョッとした。

 闇を纏う女神の、真の姿を見てしまったからだ。

 

 そう、邪悪を司る女神の姿は、あまりにも────普通だった。

 

 クラリスはもっと、悪そうな微笑みが似合いそうな美しい悪女を想像していた。

 だが、姿を現した彼女は愛嬌のある顔立ちなだけで、絶世の美女とは程遠かった。

 

「くく、女神ならさぞ美人だろうと、よく驚かれる」

「いえ、そんな」

 

 そんな不敬なことを言える輩は、恐らく存在しないだろうとクラリスは思った。

 地球なら西洋人としてなら普遍的な容姿の女神だったが、その奈落のような紅い双眸だけは健在だった。

 

「用件は、理解している。

 私はあらゆる人間の悪の心の中にいる。

 お前もまた、人間である限り悪からは逃れられないのだから」

 

 クラリスは無言で女神に頷いた。

 

「ローティと戦うそうだな」

「申し訳ありません」

「なぜ謝る。私はお前の行いの全てを肯定しよう。

 だが先立って、我が盟友に代わってお前の妹に対する仕打ちを詫びよう」

 

 クラリスにとって、女神リェーサセッタはとてもとても偉いという認識だった。

 だから、そんな彼女が軽くとは言え頭を下げて謝罪の言葉を述べたのは意外だった。

 

「……なぜ、今更そんなことを? 

 それに私の住んでいた世界全てを壊したことじゃなく、クレアに対してだけ……」

「お前の故郷を滅ぼしたのは、ただの業務の一環に過ぎないからだ。私の仕事の結果を正しく行っただけの事、それそのものには謝るつもりは無かった。

 だが、我らの方針でお前の妹は転生することもなく消滅した。

 この方針は間違いだったとして、お前の知るようにスラムの人間の命はリコールされた。

 お前に対する謝罪も、それと同じことだ」

 

 クラリスは大きく息を吸って、吐いた。

 彼女は努めて冷静でいようとした。

 

「あなたに謝ってもらったところで、クレアは帰ってこない」

「そうだな。だから可能な限りの誠意を見せよう」

 

 人間という生き物は、神様をやたらと善悪やら秩序やら混沌やらでカテゴリ分けするのが大好きだとクラリスは知っている。

 その点において、この邪悪の女神は間違いなく秩序の側の存在だと彼女は理解した。

 そして、女神は両手を広げて、こう言った。

 

 

「クラリスよ、我が娘とならないか?」

 

 

「え?」

 

 クラリスは、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

 

「娘、ってことは……」

「そうだ、これはお前を見込んでのことだ。我が盟友も賛成してくれている。

 お前を、永劫の家族にしてやろう」

 

「バカにするのもいい加減にしろ!!」

 

 ついに、クラリスも耐えられなくなった。

 

「家族と言うのはッ、亡くなったら足せばいいとでも思っているのか!! 

 それが、母たる神の言うことなのか!!」

 

 怒鳴り散らしたクラリスを、女神は黙って見ていた。

 

「失言を許せ、お前を試したのだ」

「はあ、はあ、はあ……」

「だがまあ、本気ではあったがな」

 

 彼女は肺の空気を全て吐き出したクラリスを見て、愉快そうに唇を釣り上げていた。

 

「なにが、おかしい」

「この世に邪悪が有るのならば、それの対になる正義があるとは思わないか? 

 だが、“正義”とは我が盟友の齎す文化に過ぎない。

 結局のところ、正義とは生きやすくするための方便なのだ」

「そんなの、身も蓋も無い……」

「だからこそ、揺るぎない信念に裏打ちされた本物の正義を私は求めずにはいられないのだ」

 

 絶対の正義など、この世に存在しない。

 だが、それを求めるのは邪悪の女神とはなんたる皮肉か。

 

「お前は本当に、私を愉しませてくれる」

「私は、あんた達のオモチャじゃない」

「気分を害したのなら悪かった、これはどうしようもない私と言う存在の性質なのだ」

 

 悪気が無いことだけは理解したので、クラリスは一応矛を収めた。

 なにより、これからお願いごとをする立場なのだ。

 

「雑談はこれまでにしてください」

「その前に、お前に渡すモノがある」

 

 女神は虚空から引っ張るように、それを取り出した。

 

 それを見た瞬間、クラリスは強烈な既視感に襲われた。

 “それ”は、一振りの剣だった。

 

「伝言もある。自分にはもう必要無い、そうだ」

 

 反射的に、クラリスはその剣を受け取った。

 その剣を手にした瞬間、彼女の脳には存在しない記憶が溢れた。

 

 

 運命の選択をしたクラリスは、クラリッサの死を己の視界で目の当たりにした。

 そうして、現れたのがこの“魔剣”だった。その記憶が、その魔剣からクラリスに逆流していた。

 

「我らの存在は、難儀なものでな。

 時間の概念や因果律、並行世界を超越して偏在しているのだ」

 

 彼女の言う女神は、人間出身だ。

 だが、神になった時点で過去・現在・未来、あらゆる因果関係から切り離される。

 だから神になったのではなく、彼女は初めから神であったことに気づいたのだ。

 それは彼女が人間として産まれるより以前より、悪という概念があったのと同じように。

 

「選択というのは、言うなれば分かれ道。

 右もあれば左もある。お前がこちらに居るならば、あちら側をも存在しなければならない」

 

 クラリスは、幻視した。

 女神の提案を受け入れた自分が、彼女を見下ろしているのを。

 

「他ならぬ自分自身からの贈り物だ。素直に受け取れ。

 それさえあれば、あの死神とも渡り合えるだろう」

 

 邪悪の女神が、愉快そうに笑っている。

 光り輝く英雄譚を待ち望む子供のように、絶対の正義の存在を証明したがっている。

 

「うう、ううぅぅ……」

 

 クラリスは全てを知った。

 己の愚かさや、その結果を。

 そして、その過程で最愛の人をその手で殺めた事実を。

 

「ありがとう、私はもう間違えないよ」

 

 彼女は自分の半身を抱きしめた。

 涙を流しながら、別の選択をした自分の後悔を受け止めた。

 

「……お願いです、リェーサセッタ様。

 私を、レイジさんの元に行かせてください」

「良いだろう。お前もまた、我が娘の四天王なのだ。

 もう一つの仕事を体験するのもよかろう」

 

 クラリスの意識が、落ちていく。

 だが、それでも彼女は寂しくなかった。

 もう一つの自分が、その手に在るのだから。

 

 

 

 

 





次回はいよいよ主人公視点に戻ります。
なるべく早く書き上げますね!!

それではまた、次回!!


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リーパー隊

ようやく、主人公視点へと戻ります。



 

 

 

 世界名・オールドハイル。

 そこに築かれた魔王の居城たる“黒子の劇城”。

 

「魔王様のご命令通り、この世界の最高権力者並びにそれに準ずる存在を全て排除いたしました」

 

 そこの最奥に座する黒衣と黒頭巾の魔王が、部下から報告を受けていた。

 

「随時、技術者の抹殺やデータバンクなどの破壊も行っています。

 この世界の文明レベルの低下も時間の問題かと」

「そうか」

 

 黒子の魔王は退屈そうに返事を返した。

 

「よろしいのですか、魔王様。

 この世界をもう滅ぼしても問題は無いかと」

「これ以上は、住人をむやみに苦しめるだけかと」

「かもしれんな」

 

 魔王に侍る四人の黒子たちの諫言に、魔王は抑揚に頷いた。

 すると、黒頭巾で隠れ切れていない魔王の口元が歪んだ。

 

「良いことを思いついた。

 どうせだから、子供だけは助けてやろうではないか」

「子供を、ですか?」

「そうだ。可哀そうではないか、まだ産まれて間もない子供を殺すのは」

 

 魔王の黒子の四天王たちは、お互い黒頭巾で覆われた顔を見合わせた。

 

「この世界の、十五歳以下の子供を全てこの“黒子の劇城”に連れてくるのだ。

 幼い子供だけはこの世界の滅亡から助けてやろう。

 それ以外は何をしても良い、黒子どもにそう伝えろ」

「御意のままに」

 

 魔王の命令に、四人の四天王は頭を下げた。

 こうして、滅亡も間近なこの世界に新たな魔王の命令が発された。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

「なんでこんなことになったんだろうな……」

 

 俺はリーパー隊の野営地にて空を仰いだ。

 リェーサセッタ様に相談をしたら、リーパー隊の一員になっていた。

 何を言ってるかわからねえが、俺もわからねぇ。

 

 ただ、彼らの一員になった時の隊長の言葉が忘れられない。

 

『待ってたぜ、運び屋』

 

 あいつは俺の本質を見抜いていた。

 血に塗れた、俺の両手を。

 

「隊長、もうこの世界に抵抗勢力はいないんでしょ? 

 なんで我々は次の戦場に向かわないんです?」

「俺に聞くな。上の命令は待機だ」

 

 隊員の言葉に、隊長はリボルバー銃の手入れをしながら答えた。

 

「ここの住人はジジババばかりで殺し甲斐がねえや」

「んだんだ、さっさともっと若くて嬲り甲斐のある獲物が欲しいよな」

 

 リザードマンと人狼が欠伸混じりに言った。

 すると、向こうから女の金切り声が聞こえて来た。

 

「隊長、エリザベスの奴が発狂してます。

 ここの連中は老人ばかりなのでおかしくなったみたいで」

「放っておけ。うるさいなら鎮静用の魔法で大人しくさせればいいだろ」

 

 隊長の対応も慣れたモノだった。

 偶に騒がしいのが居る以外は、思いのほか長閑な光景だった。

 とても殺人鬼の集団の真っただ中にいるとは思えないほどには。

 

「……ねえねえレイジさん、美味しそうだから味見していい? ♥」

「あっちいけ、まとわりつくな!!」

 

 そしてなぜか俺はグールに惚れられているらしく、隙あらばすり寄って来る。

 こいつはエルフなので見てくれは良いが、まったく嬉しくない。

 

「……お前も大変だな、新入り」

「がはは、こいつらだけは女としてみれねぇよな!!」

 

 ゴブリンとオークの隊員に同情されてしまった。

 強姦殺人の常習犯だったこいつらでさえこの扱いである。

 

「失礼な、嚙み千切りますよ」

 

 グールの視線が二人の股間に向けられる。

 二人はそそくさと退散していった。

 

「メアリンド、隊員は食っちゃダメっすよ」

「わかってますよ、族長」

 

 言っても離れないグールに、たき火を取り囲んでいた族長のマンティスが一応釘を刺した。

 ちなみにメアリンドというのはグールの本名である。似合わねぇ。

 

「仕方ないんで舐めてます。ぺろぺろ」

「誰か助けてくれ……」

 

 俺の首筋を舐め始めたグール。

 俺は周囲に助けを求めるが、誰もが顔を逸らした。

 

 何も知らない人間が見れば、さぞ艶めかしい光景に見えるだろう。

 だが実際は肉食獣が獲物をマークしてるに等しいのだ。

 生きてる心地がしない。

 

「他人を尊重する、それが我が隊のルールだ。新入り」

「それが出来てりゃ、あんたらここに居なかったんじゃないのか?」

「ははは、これは手厳しい!!」

 

 吸血鬼のヨコタが一本取られたと手を叩いてキザったらしく笑った。

 

「新入り、義体の調子はどうじゃ」

 

 そうして愉快な隊員たちと戯れていると、テントの中からドワーフの爺さんがのしのしやってきた。

 

「問題無い、前より性能は向上してる。いい腕前だな」

「当たり前じゃわい、誰が改造したとおもっちょる」

 

 爺さんは上機嫌に笑い声を上げた。

 

「お前さんは魔王様の四天王ゆえ、レギュレーションの制約が無いからのう!! 

 好きなだけ強化と改造が出来るんじゃから楽しくてしかたないわい!!」

「……それだけの腕が有ってなんでここにいるんだよ」

 

 俺の義体は、俺の故郷では再現不可能な上位世界の代物だ。

 それを簡単に改造できるこの爺さんは、いったい何者なのだろうか。

 

 そうして俺たちは待機命令に従っていると。

 

「──誰だ」

 

 隊長がリボルバーを背後に向けた。

 その場にいた隊員たちも油断なくそちらに警戒を向けた。

 

「あ、あの、私は伝令です。

 魔王様からの命令書を与ってきました」

 

 そこに居たのは一人の黒子だった。

 魔王様に顔と名前を捧げた連中である。

 

「顔を見せろ」

「えッ。……私たちの顔は認識できないはずでは?」

「いいから見せろ、撃たれたいのか?」

 

 銃口を向けたままの隊長の気迫に負けたのか、黒子は頭巾を取った。

 勿論、俺たちにはその顔を認識できない。

 ただ声からして若い女性だとしか分からない。

 

「…………命令書を渡せ」

「なにも、聞かないんですか?」

「仕事中に余計な詮索などするか」

 

 隊長は黒子が差し出した命令書を受け取るとその内容を読み始めた。

 

「あと、伝令役として私もあなたがたに同行しろと、四天王の山田太郎さまから命じられました」

「そうか、了解した。貴官の着任を歓迎しよう。

 貴官の名前はなんだ?」

「……ワン・リーと言います」

 

 彼女はそう名乗ると、隊長は頷いた。

 

「わかった。では新入り、お前が彼女を世話しろ」

「え、俺がですか?」

「お前が一番の適任だ、違うか?」

「分かりました……」

 

 隊長の命令には従うほかない。

 それに、彼女も他の連中と一緒だと気が休まらないだろう。

 

「よろしくお願いします」

「レイジだ、よろしくリーさん」

 

 俺の前に来てぺこりと頭を下げる彼女に、俺は何だか妙な既視感に襲われた。

 

「……? どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

 

 俺は違和感を振り払うように首を振った。

 

「まったく、魔王様もお節介がすぎる……」

 

 命令書を読み終えた隊長は、それを閉じてしまい込んだ。

 

「俺は次の作戦を考える。

 お前たちは顔合わせだけしておけ」

 

 隊長はそれだけ俺たちに言うと、指揮所のテントに消えて行った。

 

 

 

 §§§

 

 

 俺たちは夕飯を終えると、その場でリーの顔合わせを行うことになった。

 まあ、黒子のリーに顔合わせもなにもないが。

 そこで、彼女はこんなことを言い出した。

 

「ここは懲罰部隊だと聞きました。

 皆さん、どうしてここにいらっしゃるんですか?」

 

 いや、空気読めよ。

 この部隊で一番聞きづらいことだろうが。

 

 ところが、である。

 

「おう、一番手は誰が良い?」

「誰が盛り上がる? 誰が面白い?」

 

 こいつらが懲罰部隊行きになった理由ってのは酒のつまみの鉄板ネタらしい。

 

「ヨコタ、お前今回はやたらと気合入っていたよな!! お前から話せよ!!」

「……まあ、良かろう」

 

 各々酒を持ち出して、場は酒宴の様相を呈してきた。

 

「我が故郷は、吸血鬼が支配階級でな。

 この世界のように、腐った年功序列が蔓延る貴族社会だ」

 

 そう言えばこいつ、妙に張り切ってたと思ったらそういう感じか。

 

「私はさる貴族に使える使用人の家の出でな。

 そこのお嬢様とは幼馴染だった。恐れ多くもお慕いしていたよ。

 だが彼女は産まれる前から婚約者が決まっている身。血筋も能力も、私など相手には足元にも及ばなかった。

 私は憎んだ。年長者が居座り続ける階級社会と、無力な己を」

 

 ヨコタはワインを呷った。

 その赤い瞳には自嘲が浮かんでいた。

 

「お嬢様が結婚する前夜、私は二人きりになったのを見計らい彼女を襲った。

 その体から最後の一滴まで血を啜った。……私のような格の低い者など、抵抗しようと思えばできたはずなのにな」

 

 結局のところ、二人の関係は当人同士しか分からないモノだったのだろう。

 

「お前たちにわかるか!! 

 我ら下級吸血鬼が数百年掛けて培う力を、たった数分で得られた虚しさを!! 

 ああッ、この虚しさを埋めるには、もっと、もっと力が必要だと思った!! 

 だが、吸血鬼の格は生まれで決まる。私はどれだけ他人の力を奪おうと、結局はただ強いだけの怪物になるだけだった。

 真の貴族には足元にも及ばなかった。最終的に私を討ったのは、お嬢様の婚約者だったのは皮肉な結末だろう」

 

 そうして、彼は地獄にも逝く価値が無いとここにいる。

 

「そこで死んでいれば物語として収まりは良かったのだろうな。

 だがこうして、まだ私は生きている。“恥知らず”にもな」

 

 なんだか、こいつにもこいつなりの事情が有ったんだなぁ。

 仲間たちが慰めるように肩を抱いてポンポンと叩いていた。

 

「次は誰だ?」

「今のところ戦いの功労者は私じゃない?」

「じゃあピア、お前だ」

「オーケー!!」

 

 次の話し手は、ハーピーのピアだった。

 

「私ね、気づいちゃったんだ。

 私以外が、どうしようもないほど遅いって」

 

 背丈は小柄な中学生くらいの身長の彼女は、翼の両腕で口元を覆い話し始めた。

 

「ハーピー族の興行は有翼種限定のウイングレース!! 

 翼を持ついろんな種族が最速を決める為に、名誉や賞金の為に出場するの!! 

 地上で行われるレースなんかよりも、ずっとスリリングでスピーディなんだよ。

 私はそこで、負け無しだった」

 

 自慢するように話すピアだが、恐らくそれは嘘では無いのだろう。

 

「最初は、本当に事故だったんだ」

 

 くす、と彼女は笑みをこぼしながら懐かしむように目を細めた。

 

「コーナーを曲がるときに、そのふくらみの大きさが勝負を決める。

 その時に私とあの子は、そこで衝突しちゃった。

 ウイングレースは危険だからね、安全対策はバッチリだけど、それでも死人は出ちゃう。

 私は何とか持ち直してゴールしたけど、あの子は墜落して死んじゃった」

 

 くけッ、くけッ、と鳥の笑い声のような声が彼女の口から漏れる。

 

「ゴールしても、興奮が収まらなかった!! 

 あの子が、自分があと数秒で死んじゃうって悟った時の絶望と恐怖に満ちた表情が忘れられなかった!! 

 それから隙を見ては接触事故を装って、何度かレース中に地面に叩き落してやったんだ!!」

 

 この殺人鬼どもの集団において、それは共感できることなのかそこらで笑い声が上がった。

 

「私は故意にやってるって疑われたけど、出場停止で済んだよ。

 遺族からは訴えられて、もうダメかなって思ってたらさ!! 

 メアリース様も見られる最高のレースの舞台で、優勝者が主上に言ったんだってさ、私と勝負させろって!!」

 

 この殺人鬼と競い合いたいと願うのは、最速を賭けたプライドかスポーツマンとしての意地なのか。

 最低最悪なのは、この人殺しにはそんなものを持ち合わせていなかったことだった。

 

「私は呼び出されて、メアリース様に命令されてエキシビジョンマッチが組まれた。

 そいつ以外にも、私に勝ちたいってやつらが何人もいたから、特別レースが成立したんだ。

 そしてその日、私は見ちゃった。メアリース様が退屈そうにしてるのを」

 

 ピアが口元を覆っていた翼を下ろした。

 ハーピー族の姿をした悪魔が、そこにいた。

 

「会場にいるみんなを、びっくりさせてやろうと思ったんだ!! 

 最後尾から追い込みをすると見せかけて、一人ずつ一人ずつ地面に突き落としてやった!! 

 あと一人仕留めそこなったところで、私は取り押さえられた。

 私はメアリース様の御前に連れてかれて、この私の顔に泥を塗ったって言われて懲罰部隊行きになったんだ」

 

 誰も競うに値しない。おぞましいことに、最低最悪の形で彼女はそれを周囲に示した。

 たった数分で十数人を追い立てて殺せるだなんて、それだけ卓越した技量が必要だろう。

 

 故に“撃墜王”。

 著名な殺人鬼が投獄された後、ファンだと手紙を送る者がいるように、彼女の所業は畏怖と共に恐れられたのだろう。

 

「メアリース様に喧嘩売れるとかヤバいよなお前!!」

「俺らもそこまでできないわ!!」

 

 げらげら、と隊員たちは笑っている。

 俺はむしろ、本当にどうしようもないんだな、と思うしかなかった。

 産まれた時からのモンスター、それがピアという少女だった。

 

「……グール、あんた達は何をやらかしてここにいるんだ?」

「……? 我々は何も悪いことなどしていませんよ」

 

 ちゃっかり俺の隣に座っているグールは、きょとんとした顔をした。

 

「はあ? 何言ってんだ、お前ら故郷の人間から滅茶苦茶ビビられてたぞ」

「逆に聞きますが、なんで食べることが悪いのですか?」

 

 グールも、族長のマンティスや彼女たちの同胞も不思議そうに俺を見ていた。

 

「我らは女のみの呪われた一族。人間とエルフの間にはハーフが産まれるそうですが、我らと異種族の間には我らの同胞しか産まれません。

 生きる為に他所から男を迎え入れ、用済みになったら精霊に感謝して糧とする。

 それのどこが間違っていると言うのです?」

 

 呪われている。

 俺はその意味を正しく理解した。

 こいつらは生まれながらの人間の天敵。モンスターなのだ。

 

「人間だって、サルを珍味として食べることもあるそうじゃないですか。

 クジラを食べるのも野蛮だ、と言っているのに、なぜ彼らが罰されないのです? 

 我らがあなた達に人間を食べるのと何が違うと言うのです?」

 

 俺は言葉に詰まった。

 なんと答えたら良いか迷っていると。

 

 グールが、マンティスが、彼女らと同胞のエルフたちが嗤い始めた。

 そのおぞましい不協和音に俺は絶句していると。

 

「族長、ここで笑わないでくださいよ。

 これから我々の文化を否定するのですかってお決まりの台詞を言うところだったのですか」

「お前も笑ってたじゃなっすか。

 うくく、この手の話をする時、どいつもこいつも勘違いしてて笑っちゃうんすから勘弁してほしいっすよ」

 

 笑っていた。嗤っていた。

 まるで俺の困惑や戸惑いが可笑しくてしかたないとばかりに。

 

「鉈を突きつけられて、早く出さないと殺されるって涙目で腰を振る男って最高に可愛いよね」

「私は恋人の死体を並べてやってからヤルのが好きだよ」

「やっぱり痛みで泣き叫ぶのを見ながらじゃないと興奮できないよ」

 

 エルフの姿をしたおぞましい怪物たちが、楽しそうに言葉を交わす。

 ……ちょっとでも同情した俺が間違いだった。

 俺はこれまでいろいろな邪悪を見て来たと思っていたが、おそらくこいつら以上に純粋な邪悪を見ることは無いだろう。

 

 これがリーパー隊。

 クズの中のクズを集めた、地獄に行く価値も無い、更生の余地無しの掃き溜め。

 

「リーさん、大丈夫か?」

「……ええ、はい」

 

 黒頭巾で顔は見えなくても、彼女が強張っているのがわかった。

 これ以上はやめた方が良さそうだ。

 

「……レイジさん、あなたはどうなんですか?」

「え?」

 

 俺はまさか彼女が俺の事を聞いてくるなんて思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「あなたも、彼女らと同じなんですか?」

「俺は……」

 

 俺はなぜか、彼女にそれを問われると胸が苦しくなった。

 その純粋な問いが、俺の罪悪感を刺激したのかもしれない。

 

「……爺さん、あんたも何かやらかしたのか?」

 

 俺は彼女の視線に耐えきれなくなって、顔を逸らした。

 

「儂の話なんぞつまらんぞ。

 武器を作って売った、それだけじゃわい」

「あんたの場合、売った相手が問題なんだろ!! 

 あんたの作った兵器で、何十万と死んだらしいじゃないか」

「武器はヒトを殺す為にあるんじゃ。

 せっかく作ったのに死蔵するほうがおかしいんじゃ!!」

 

 仲間たちにからかわれ、ドワエモンの爺さんも声を荒げた。

 

「だが、俺たちの誰よりも、隊長はイカレてる」

「ああ!! 隊長には敵わないよな」

「俺たちはあの人に付いて行けばいいもんな!!」

 

 不思議だった。

 この協調性やまとまりから遠く掛け離れた連中が、たった一人の男に従っている。

 

「……隊長さんって、どんな人なんですか?」

「ピア、お前も最古参だろ。お前が話してやれよ」

「うーん、まあいいか」

 

 ゴブリン族の男に言われて、ピアが話し始めた。

 

「私らって本当に元々使い捨ての懲罰部隊だったんだ。

 ほら、何度死んでも復活できるようにしてさ。

 そうして、殺された連中の痛みを分からせる、みたいな感じだったって聞いた」

 

 ピアの口ぶりから、今の彼らは全く想像がつかない。

 リーパー隊はまごうことなき精鋭部隊だからだ。

 

「だけど、隊長がその時の指揮官に物申したんだ。

 自分なら犠牲を出さずに私達が攻撃して玉砕した町を落とせるって。

 魔王軍ってほら、幾らでも補充が利くからまともな指揮とかしないから、隊長はそれが気に食わなかったみたい。

 それで、隊長は見事指揮権を上官から受け取ると、だいたい三十人くらいで大きな町をひとつ損害無しで落として見せたんだ!! *1

 

 ピアは興奮した様子で、両腕の翼をばたばたさせながら語った。

 

「それ以来、隊長は私達の隊長になった!! 

 隊長に従っていれば、私達は好きなだけ好きなように殺してもいい奴を殺させてくれる!! 

 あの人だけが、私達の居場所をくれた!! 

 そうだよね、みんな!!」

 

 彼女の言葉に、殺人鬼どもはゆっくりと頷いた。

 人殺しを悦楽としか思えない破綻者どもが、隊長を中心にまとまっているのはそれが理由なのだろう。

 

「お前たち!!」

 

 すると、指揮所のテントから隊長が出て来た。

 

「次の作戦が決まった!! 

 魔王様直々の勅令が全軍に下った!! 

 明日より黒子の軍勢と手分けして、残っている町へと向かう」

 

 隊長の号令によって、各々準備の為に解散となった。

 気づくとリーさんが俺をじっと見ていた。

 俺も立ち上がって、その視線から逃げるようにバイクの整備に向かうことにした。

 

 

 

 

*1
拙作『ラウンドテーブル』を参照。





お話の進みが遅いと思われますが、私はキャラの行動が納得しないと動かせないタイプの作者なので、悪しからず。
今作も五十話くらいで終わらせようと思ったのですが、思いのほか膨らみそうです。
どんなに長くても、七十話までには終わらせたいですね。

それでは、また次回!!


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苦痛と悲嘆

 

 

 

「と、いうわけで、俺たちの次の任務は子供の回収だ」

 

 隊長からの作戦目標に、リーパー隊の面々は困惑した様子を見せた。

 

「隊長、質問です」

「なんだ、言ってみろ」

「どうせ滅ぼすのに、なんで子供だけ助けてやるんですか?」

 

 彼らはここの魔王様が今更になって慈悲を示すのが理解できないようだった。

 勿論、俺もそうだ。

 

「俺が知るわけないだろ。

 俺たちはただ、上に命じられた仕事をこなすだけだ」

 

 隊長は面倒くさそうに軍帽を被り直した。

 

「最寄りの町に向かう。

 この世界の殆どはもう既に魔王様の勢力下だ。

 子供の引き渡しに応じるなら、手荒な真似をする必要も無い」

 

 隊員たちが、隊長の言葉に笑みを浮かべた。

 それは逆に言えば、相手が要求に応じないなら手荒な真似をしても良いと言うことになる。

 

「もう既に魔王様の勢力下なら、すんなり終わると良いですね」

「だと良いがな」

 

 そう言ったリー自身も、すんなり終わってはくれないと内心思っているのだろう。

 俺も内心不安に思いながら、どうかあっさりと終わってくれと願うばかりだった。

 

 

 

 当然、そう簡単にはいかなかった。

 

 リーパー隊に支給された装甲車数台を走らせ、最寄りの町へと辿り着いた。

 この世界の魔王軍とは黒子の軍勢なので、俺たちが出向いた時は一悶着あったがリーさんが仲介してくれて事なきを得た。

 

 そして、町長を呼び出しこちらの要求を突きつけた。

 

「こ、子供をですか!?」

「そうだ。魔王様の慈悲により、この世界の十五歳以下の子供は滅亡から免れる。

 これは決定事項だ。お前たちも子供の命が惜しいなら、魔王様の慈悲に縋れ」

「……やむをえませんな」

 

 町長である百歳近いだろうスーツの老人が、悲壮な表情で頷いた。

 程なくして、町長が町内に放送を行い、子供たちとその親がやってきた。

 彼らは別れを惜しむように子供たちを抱きしめ、或いは疲れたように子供たちの側に佇んでいた。

 

「町長、この町の人口はどれくらいだ」

「約五万人です。該当する子供の人数は約600人ほどです」

「……少なすぎる。連行の為の手段は問われていないことを忘れてはいないだろうな?」

 

 隊長は隠しても為にならないと町長を睨むが。

 

「とんでもございません!! 

 最近は結婚をする若者も少なく、子供を産む女性は更に少なく……」

「なぜだ。なぜ資料でみた出生率以上に深刻な状況なんだ?」

「……我が子が産まれても、どうせ使い潰されるだけでしたから」

 

 必死に弁解した町長は、隊長の問いに悲しそうに肩を落とした。

 

「上の人間は若者の立身出世を許さなかったのです。

 新進気鋭の若者は、利権を守るために権力者たちに潰される」

 

 町長はこの世界基準では老人とは言い難いが、年相応に老いて見えた。

 

「なるほどな」

 

 隊長が納得した、その時である。

 またもや待機していた部隊の後方で金切り声が聞こえたのだ。

 

 すると、狂気のサキュバス・エリザベスがケダモノのように飛び出してきて子供たちの親に飛び掛かろうとした。

 

 危ない、と俺が彼らを庇おうとした瞬間には隊長が腰の拳銃を抜いていた。

 

 号砲が一発。

 狂ったサキュバスは撃ち落とされた。

 

「おい、エリザベス。しっかりしろ」

 

 彼女は致命傷だったが、リーパー隊は死ねないのですぐに元通りになった。

 隊長が撃ち落とされた彼女に近づき、ぺちぺちと顔を叩いた。

 

「……た、隊長」

 

 我に返ったのか、彼女は隊長に縋りついてすすり泣き始めた。

 

「たいちょ~、なんであんな老醜に満ちた連中が生きてるのよぉ!! 

 醜い、醜い、醜くて醜くて殺さなきゃアタシはダメなのよ~!!」

「わかったわかった。

 こいつらはどうせ生きる価値も無いゴミどもだ。

 機会なんて幾らでもある、我慢しろ」

「うう、ううッ、ううう~~」

 

 隊長は苦笑いしながら彼女を慰めていた。

 俺はこの世界の住人たちを見た。

 

 隊長にゴミ扱いされたのに言い返す気力も無い人々を。

 

 

 

 §§§

 

 

「この世界の住人はゴミなんだろ。

 いつもみたいにみんなに殺させたりしないのか」

 

 俺は疑問を隊長にぶつけた。

 輸送車両に揺られながら詰め込まれた子供たちを見張っている俺とリーさんは、不安に揺れていた。

 隊長は幼い子供たちに毛皮をもモフられていた。

 

「魔王様からは、子供たちを護送する以外は好きにしていいと言われた」

「なら、なぜ?」

「好きにしていい、と言われたのは俺であって俺の部下たちではないからだ。

 あの町の住人どもは、俺たちの要請に素直に応じた。

 俺は約束を守る。それが軍規と言うモノだ。戦争はルールがあってこそ、見境なく殺すのならそれはただの暴徒だ」

 

 俺には彼のこだわりがよく分からなかった。

 魔王軍に軍規なんてものは無い。

 ただ上に従う、それだけだ。

 

「そんなルールに、何の価値があるんだ」

「俺が戦争をしたいからだ。

 その為には相手の宣戦布告も待つし、死ぬまで撃つなと言われても従う。それが軍人と言うモノだ」

 

 彼の言っていることは、おそらく正しい。

 ただ、その正しさはある意味異質だった。

 

「だが、もうこの世界は戦う相手なんて居ない。

 あんたの望む戦争は出来ないだろうさ」

 

 もうこの世界には、魔王様と戦う気力なんてないのだから。

 

「さて、それはどうかな……?」

 

 隊長はニヤリと俺に笑って見せた。

 それが現実となるのは、そう遠くない未来だった。

 

 

 俺たちは子供たちの護送を終え、次の町へと向かった。

 そして、俺は隊長の言葉の意味を思い知った。

 

「隊長、町から火の手が上がってます!!」

「やはりな」

 

 リボルバー銃の整備をしていた隊長は唇の端を釣り上げた。

 

「いったい何が起こってるんだ!?」

 

 俺たちが町の外壁に到着すると、町の入り口は破壊されていた。

 この世界にも魔物は居るので、それらから守る為に防壁で守られているのだが、その入り口が何らかの兵器によって爆破されていたのだ。

 

「もうわかってるだろ、新入り」

 

 もう戦いの準備を終えているリザードマンが、俺の肩を叩いた。

 背後には、楽しそうに笑っている隊員たちが並んでいた。

 

「作戦目標を伝える。

 町内の民間人の保護及び脅威の排除だ。

 各自散開して行動しろ、以上だ」

 

 隊長の命令が下った。

 これまで鎖に繋がれていたケダモノたちが、一斉に解き放たれた。

 

「私達も行きましょう!!」

 

 あいつらには任せておけないので、俺もリーさんに頷いた。

 

 

 

 町の中では、黒子の軍勢が暴れていた。

 彼らが魔王の手下としてこの世界の権力者を倒す為に統率されていた時の面影は無かった。

 あちらこちらから悲鳴と怒声が聞こえている。

 

「子供の死体もある……。見境は無いのか!!」

 

 路上に、子供を庇って死んだ大人の死体が転がっていた。

 そのどちらも生きてはいない。

 

 俺たちが先に進むと、更なる悲鳴が聞こえた。

 

「なんだよお前たち、味方じゃなかったのか!?」

 

 黒子達が、エリザベスに遭遇していた。

 

「お前たちもどうせ、私を醜いというんでしょ!? 

 同族たちが当たり前のように持っていた美貌を持たない私を!!」

 

 ヒステリックに叫ぶ彼女は爪を鋭利に伸ばして黒子たちを串刺しにして、生命力を奪いつくしている。

 

「老いさらばえたこの醜い世界ごと、滅んでしまえ!!」

 

 彼女の絶叫が、周囲に響き渡った。

 すると、向こうから黒子の集団が走って来た。

 

「おい、お前たち、助けてくれ!! 

 仲間たちが民間人を襲い出したんだ!! 

 止めようにも、俺たちは見分けがつかなくて」

「わかった、俺たちも手伝おう。

 おいエリザベスッ、こいつらは襲うなよ!!」

 

 どうやらまともなメンツも居るようだった。

 俺たちは彼らと協力して、民間人の救出を行った。

 

 

 

「助けられたのは、これだけか」

 

 隊長は外壁の外に連れ出された子供たちをみやった。

 その数は百人程度しか居ない。

 そのほかの民間人も多くいるが、そもそも彼らは救助対象ではないので子供のみを優先された結果である。

 

「たったこれだけしか生き残ってないのか……」

「この世界の兵器は破壊力はあるからな。

 そんなもんを町中でぶっ放せばこうもなるだろう」

 

 隊長は半壊した町を見てそう言った。

 

「隊長、暴徒は全員皆殺しにしました」

「ご苦労、おいドクター!! 生き残りの容態を見てやれ」

「了解です、隊長」

 

 白衣を纏った山羊の獣人が頭を下げて救出した子供たちの容態を見始めた。

 彼はリーパー隊専属の医師にして、当然ながら殺人鬼だった。

 とは言え隊長の命令に従い、迅速に救護に当たっていた。

 

「隊長、黒子どもを集めてください」

「どうした、ヨコタ」

「私は使い魔を放って、上空から隊員に救援の指示をしていたのですが」

 

 吸血鬼のヨコタは隊長の耳元でこう言った。

 

「住人に暴行を働いた何人か、救助に回った黒子たちにしれっと合流したのを見ました」

「確かか? いや、当然考慮すべき可能性だったな」

「その場で始末すればよかったのですが、何分こちらも忙しかったので」

「いや、構わない。よく伝えてくれた」

 

 隊長の労いに、彼は恭しく一礼した。

 

「彼らの中に、敵が混じっているのか」

 

 さてどう料理しようか、と隊長はにやにや笑い始めたが。

 

「隊長、俺にやらせてくれ」

 

 近くで怪我した住人の応急処置を手伝っていた俺は立ち上がり、隊長に言い募った。

 それを聞くと、彼はうむと頷いた。

 

 

 

「いったい何が始まるんですか? 

 まだまだ処置が必要な怪我人がいるのですが」

「まあ聞いてくれ、この中に住人に暴行をした者がいると俺の部下たちが目撃した」

 

 集められた黒子たちは、それを聞いてざわめいた。

 

「そんな、まさか。でも、私達はもう見分けがつかないから、ありうる話では……」

「連中は保護対象の子供まで殺した。

 彼らはメアリース様の保護の元で教育を受けて、やがて社会の一員となるべく存在だった。

 つまりは、女神様の資産を奪い取った罪人なのだ。

 当然、この場で洗い出して処罰する」

 

 彼らはそれに動揺したようだったが、すぐに重々しく頷いた。

 

「子供はこの世界の数少ない宝だ。

 それを殺す輩に、慈悲など無い。

 しかし、それをどうやって洗い出すんだ?」

「まあ見てろ」

 

 隊長は俺を一瞥した。

 

「この中に、暴徒に親類縁者を殺された者は居るか?」

 

 俺は救助された住人たちに問うた。

 

「俺は目の前で弟を殺された!!」

「私は子供を連れて逃げようとしたら、家の中で家族がみんな死んでいたわ!!」

「パパとママが死んじゃったよぉ!!」

 

 俺の問いに、人々は怒りと憎しみの怨嗟を上げた。

 その声に応じるように、俺の右腕が熱くなっていった。

 

「邪悪と悪逆を司る、大いなる女神リェーサセッタよ!! 

 かの者の代行者として、我はその権能を執行する!!」

 

 俺は改造された右腕の義手のスリットを開く。

 そこから、黒塗りの刃が飛び出した。

 

「これは女神様に与えられた代行者としての神器。

 一度この刃が怨念で満たされれば、必殺の刃として機能する。

 だが──」

 

 俺は、助けを求められ今まで一緒に作業していた黒子の彼に刃を突き付けた。

 

「な、なにをッ」

 

 彼は驚いてのけぞったが、俺はそのまま刃で彼を突いた。

 

「え、あれ?」

 

 彼は確かに勢いよく刃で突かれたのに、痛みも何も無いので困惑していた。

 

「見ての通り、これは決して報復の対象以外を傷つけることは無い。

 順番に並べ、一人ずつあらゆる罪科を見通す女神の刃で調べてやる」

 

 俺がそう言うと、彼らは素直に従った。

 或いは、ただの脅しと取られたのかもしれない。

 

 だが、それは希望的観測だ。

 

「あがッ」

 

 一人目から数人で、さっそく刃が突き刺さった。

 

「な、なんで、俺はなにも」

「言ったはずだ。必殺の刃だと。

 軽く傷を付けられただけでも、致死に至る」

 

 尤も、俺は軽く突いた覚えは無いが。

 

「どうしてだよ、好きにしていいって、言われたのに……。

 バレない、はずじゃ」

「それ以上その口を開くな、ゴミクズ野郎」

 

 俺は彼の顔面を掴んで、その口を封じた。

 

「この刃の冷たさをじっくりと味わって、リェーサセッタ様に己の罪科を問え」

 

 俺はゆっくりと、彼の胸に神器を突きたてた。

 彼は口から血を吐きながら、息絶えた。

 

「さて、あと何人居るかな」

 

 俺はまだ証明の終わっていない面々に向けてそう言った。

 その瞬間、悲鳴を上げて数名の黒子が逃げ出した。

 

 隊長は、命じるまでも無く指を鳴らした。

 瞬時に退屈そうにしていたエルフ達が弓を手にして、逃亡者たちの背中に矢の雨を降らせた。

 

 俺はそいつらに目もくれず、残りの黒子たちに順番に刃を突き付けて行った。

 

「念のために、私も確かめてください」

 

 そう言ったリーさんは、そこか寂しげだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 子供たちの護送と、黒子たちのコミュニティに被害者を送り届け終えると、この日の任務は終わった。

 

 野営の準備を終えると、隊員たちは基本フリーだ。

 思い思いの暇潰しをしながら過ごしている。

 

 ただ、隊長だけは次の目標地点やそこまでのルートを地図で調査しているようだった。

 伝令のリーさんと他の黒子たちとの連携を取ろうとしているようだ。

 

 それらが一通り終わるのを見計らって、俺は隊長に話しかけた。

 

「なあ隊長」

「なんだ、何か用か?」

 

 手際よく仕事を終わらせた隊長は、銃の手入れを始めた。

 

「あんたは戦争を望んでいるんだよな、それはなぜなんだ?」

「なんでそんなことを聞く?」

「それが分からないから聞いているんだ」

 

 俺は隊長が分からなかった。

 好き勝手にしていいのなら、今日見た黒子どもみたいに好きに略奪や破壊を愉しむはずだ。

 それもまた、戦争の一風景のはずだろう。

 

「……私も知りたいです。

 魔王軍は軍隊としての体を成さない。

 それなのになぜ、あなたは軍人としての己にこだわっているのですか?」

 

 他の連中と連絡を終えたのか、リーさんも戻って来た。

 彼女の言う通り、軍隊として魔王軍は失格だ。

 そして隊長は恐らく、軍人としての自分に誇りなど持っては居ない。

 彼が真の軍人なら、民間人への被害に憤るはずだ。

 

「大したことじゃない。

 今となっては、くだらない自己満足だ」

 

 がちゃり、とリボルバー銃の弾倉を戻して、隊長は言った。

 

「俺の部下たちを見て、どう思った?」

「どう、と言われましても」

「憐れな連中だろう? 

 あいつらは産まれながらの異常者というだけで、社会から爪弾きにされた者達だ」

 

 それは、素直に頷けない言葉だった。

 

「それは、あいつらが社会に害を成さねばそうはならなかったはずだ」

「ッくく、それをお前が言うのか、運び屋」

 

 俺は今度こそ言葉に詰まった。

 あいつらと同じように、俺はどうしようもなく人殺しだった。

 

「あいつらは産まれながらの異常者で、人殺しを何とも思わないモンスターだ。

 だが、そこらのモンスターを捕まえて、こいつは人を殺したから罰せねばならないなんて声高に主張するのか? 

 馬鹿馬鹿しい!! 人間はそこまで暇じゃねえよな。

 害獣は無言で駆除する。敵は殺す。それが人間だ」

 

 くつくつ、と隊長は笑う。

 

「お前は、この世界を見てどう思った?」

「……同じだと、思った。

 もし、メアリース様の恩寵が無ければ、俺の故郷も同じように魔王様がやってきて滅ぼされていただろうな」

 

 俺の故郷も、どうしようもなく荒廃していた。

 一部の権力者だけが満足な生活を教授し、それ以外の人間を蔑ろにしていた。

 ここの連中は全てを諦めていたが、俺たちもそうだった。

 

「そうだな。そして俺の前世もそうだった」

 

 隊長は世間話をするように自然とそう言った。

 

「ここの連中と違うのは、最期の一人まで戦ったってことだ。

 俺も部隊を率いて戦ったよ。華のある若者たちでな、勇者だとはやし立てられたりもした。

 だが、結局は使い捨ての生贄に過ぎなかった。

 そのうち、全ての国が滅び、町が滅び、村が滅んだ。

 魔王の軍勢は無尽蔵で、無制限だった。初めから勝てる戦争じゃなかった」

 

 俺は隊長の話を黙って聞いていた。リーさんもだった。

 辛い話のはずなのに、なぜか隊長は笑っていた。

 

「死んでいったあいつらは、俺に後を託していった。

 だから俺は死ねなかったんだ。この世界を守って、皆を助けて、あなただけでも生きて、そう言って事切れて行ったあいつらの最期の言葉だけが、俺を生かした。

 国が無くなっても、支援が無くなっても、守る者さえなくなっても、俺は戦い続けた。

 そして気づいたら、俺は独りになっていた。世界でたった独り、最期の一人になっていた」

 

 その言葉に、俺は言葉を失った。

 単なる孤独という意味での一人ではなく、本当の意味で世界で最後の独り。

 そこまでできるのか、そこまでして戦えるのか。

 

「寂しくはなかった。敵は腐るほどいたしな。

 それに毎夜毎夜、死んでいった奴らが夢に出てくる。

 俺は手あたり次第魔王軍を殺しまくった。ゲリラに徹して、千日手に持ち込んだのさ。

 それが一か月ほど続いたある日、魔王様はしびれを切らして俺の前世の故郷を滅ぼした」

「事実上の、引き分け……」

 

 リーさんが息を呑んだ気がした。

 この男も、かつては英雄と呼ぶべき存在だったのかもしれない。

 

「そして、リェーサセッタ様に会った。

 俺の勇猛さを労い、労わって下さった。

 その上で、こう言ってきた。お前を苦しめる記憶を全て癒してやろう、と」

 

 だん、と隊長は靴底を鳴らして立ち上がった。

 

「クソ食らえ、と俺は怒鳴り返したさ!! 

 俺を苦しみ、俺の悲しみは全て、俺のものだ!! 

 断じて神などにくれてやるつもりなどなかった、ましてや俺の故郷を滅ぼした者を差し向けた神などにはな!!」

 

 俺はただただ、隊長に圧倒されていた。

 器が違う。将器、或いは英雄の覇気と言うモノが彼には有った。

 

「その代わりに、女神は俺に決して忘れることのない恩寵(のろい)を下さった。

 今でも目を閉じれば思い出せる。かつて死んでいった戦友たちの顔を……」

 

 眼を閉じて、隊長は涙する。

 毛皮が涙に濡れていく。

 

「今生では、人間ではなく今の俺に相応しい犬畜生だった。

 俺は俺で居る為に、もっともっと苦痛と悲しみを欲した。

 そうすれば、死んでいった者達がより近くで感じられたからだ」

 

 彼はどうしようもなく正気で、正気ゆえに狂っていた。

 

「俺は今生でも戦場で殺して殺して殺しまくった。

 そして気づけば、ここへ配属されていた」

「それが、あなたが戦争を求める理由なんですね……」

「そうだ。俺が忘れたら、あいつらが居たって誰が証明できる?」

 

 ローティは言った。人間は忘れなければ本当の意味で死なないと言う、憐れな生き物であると。

 リーさんも、彼の言葉に感じ入るものが有ったようだ。

 

「バカげてるだろ。

 あいつらはもう、とっくの昔に転生しているはずだ。

 俺はもう、どこにも無いものに対して執着しているんだ」

「そんなことはありません!!」

「まあ結果的に、女神は俺に不滅の戦友たちを与えてくれた。

 あいつらでも、共に戦えば情も沸く。

 俺は誰にも必要とされなかったあいつらに、居場所をくれてやれたのだ」

 

 結局のところ、隊長にとっては苦痛と悲嘆こそが失った物への哀悼なのだろう。

 なにより彼がイカレてるのは、それが他の隊員のように欲求などではなく、ある種の惰性であることだった。

 他にすることが無いから、そうしている。

 憐れで、どうしようもなく狂ってる。

 

「あなたなら、もっと有意義なことに自分の能力を扱えたのではないのですか? 

 もっと、もっと、弱い人たちに寄り添えたはずじゃ……」

 

 リーさんが悲痛な声で彼に訴えた。

 

「誰もがあんたのように強いわけじゃないのさ。

 覚えておきな、お嬢さん。戦うと言うことは、失うと言うことだ。

 何かを得ることは、弱みを抱えるのと同じこと。

 得れば得るだけ、失うのが怖くなる。

 例え永遠の命を得たところで、次に来るのはそれを失うことに対する恐怖と猜疑心だけだ」

 

 そして彼は手に入れた。

 決して失うことのない仲間であるのと同時に、仮に失ってもまったく心が痛まない戦友を。

 

「それに、あいつらは俺を必要としている。

 かわいいものじゃないか。俺は必要とされる限り、それに応えるだけだ。今生では傭兵だったものでな」

「あんたは、イカレてるよ」

 

 そうして今は、メアリース様に雇われている。

 自分の故郷を滅ぼした神々の手先になっている。

 まともな神経で出来ることじゃない。

 

「さて、今度はあんたについて教えてくれよ。なあ、運び屋」

 

 酒でも飲むか、と隊長は酒瓶を片手に俺に笑いかけて来た。

 俺はその笑みに、サイズさんにも感じていたある種のカリスマを抱かずにはいられなかった。

 

「……あれはもう、十年は昔か」

 

 俺はずっと、胸の内に抱え込んでいたモノを吐き出す気分にさせられてしまったのだ。

 

 

 

 





いよいよ、次回に主人公の過去が明かされます。
こうご期待!!

ちなみに、大局に影響しないのでこの章の結末をアンケートします。
ぜひお気軽に答えて下さいね!!


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邪悪の鉄槌

 

 

 

「レイジ・キサラギ。お前の罪を告白しなさい」

 

 この世ならざるこの場所で、奈落の瞳が俺を見下ろしていた。

 この御方から言い逃れは出来ない。俺はすぐにそれを悟った。

 

「はい」

 

 俺は己の半生を粛々と話し始めた。

 

 

 

 

 ~~~

 ~~~~

 ~~~~~

 

 

 この世界は腐っている。

 俺はいつもそう思っていた。

 

 俺は中流階級の家に産まれたが、自分が裕福だと感じたことは無かった。

 百年前だか二百年前だかの戦争で、人類は地上を汚染で満たした。

 飲み水すら限られ、食べ物は常に不足している。

 

 それでも、俺はまだマシだった。

 貧困層は浄水器が命綱であり、小便飲みと蔑まれていた。

 汚染された水源を浄化して飲んでいる俺たちと何が違うのかわからないが。

 

 俺は学校に通うことが出来たが、こんな世の中の学校の質なんてお察しだった。

 上流階級の生徒を中心としたカースト社会が形成され、地位の低い者を日常的に虐げていた。

 見ているだけでハラワタが煮えくり返るような日々だった。

 それでも、教育を受けられるだけマシだった。

 職を得られなければ、地獄だ。この狭い世界で、居場所を失ってしまう。

 

 だがある日、彼らの標的になっていた者達が首を吊った。

 この世界の警察は腐っている。言うまでも無いことだが。

 当然、まともな捜査なんてされるはずも無い。万が一、連中が疑われても、警察の捜査官の懐が温まるだけだ。

 

 次の標的になったのは、俺だった。

 俺は難癖を付けられ、その日のうちに貧困層が住むスラムへと連れて行かれた。

 ここで行われたことなんて、外には漏れないからだ。

 

「お前のような庶民が、俺と同じクラスに通うなんておこがましいんだよ!!」

「お前の顔を見てるとイライラするんだよ!!」

「なあ、殴らせろよ、いいだろ、なあ!!」

 

 殴る蹴るは当たり前、連中は罵声を飛ばしながら俺に暴行を加えた。

 悔しかった、痛かった。何より憎かった。

 この狂った世界に、無力な自分に、怒りが燃え上がった。

 

 このまま終わってたまるか、俺はそう思った。

 連中に一矢報いようと、機を窺おうとしたその時だった。

 

 

「おい、邪魔だ」

 

 俺は、彼と出会った。

 

「なんだ、失せろ貧民風情が!!」

 

 上流階級の間抜けが、そう怒鳴った直後だった。

 彼の顔面に、拳が突き刺さった。

 

「じゃあ教えてくれよ、貧民と上流国民の拳の違いとやらをよ」

「ひッ、止めろ!! 僕の父親は政府役人で──ぐえ!!」

「……」

 

 口ほどにも無かった。

 連中は貧民の男にボコボコに殴られ蹴られ、徹底的に痛めつけられた。

 

「上流階級ってのは五体満足が尊ばれるんだろ。

 これでお前たちもドロップアウトだな、どうだ、お前たちが蔑んでいた連中と同じになるってのは」

 

 彼はそいつらの手足を再生医療でも元通りになるのは難しいほど、破壊し尽くした。

 誰が見てもやり過ぎだろう、だが俺は胸がスカッとしていた。

 

 芋虫のように蠢くクズどもを見下ろし、彼は去ろうとした。

 

「待ってくれ!!」

 

 俺は彼を引き留めた。

 彼は俺と同い年ぐらいの、若い男だった。

 

 

 

「学校通いってのも大変なんだな」

 

 俺は彼の寝床で、合成食品の缶詰を振舞われた。

 賞味期限がとっくに過ぎているそれは、ハッキリ言ってマズかった。

 

「あんた、名前は?」

「俺か? さあな。

 ゴロツキどもから逃げる時に右回りだから、右折(レジー)なんて呼ばれてるな」

 

 彼には名前は無かった。

 ただ、俺たちは妙なシンパシーを感じていた。

 

「そうなのか、俺も周りからレジーって呼ばれてるんだ」

「ははは、なんだそれ、すげー偶然だな」

 

 正直、こんな風に呼ばれるのは屈辱だった。

 どいつもこいつも、親しくも無い癖に俺をあだ名で呼ぶからだ。

 

 それから彼と打ち解けて、放課後はつるむようになるのは時間が掛からなかった。

 

 レジーは気さくで、付き合いがよくて、俺たちはすぐに兄弟と呼び合うようになった。

 同時に、俺は彼の中にどうしようもない火種が燻っているのを感じていた。

 

「よう兄弟、また喧嘩か」

 

 俺が放課後、貧民街に向かうとレジーはまたゴロツキをボコボコにしていた。

 

「大丈夫か?」

「……うん」

 

 彼は尻もちを着いて震えていた女の子に手を差し伸べた。

 その時、ボコボコにしたゴロツキが起き上がった。

 

「くそがッ、死ねぇ!!」

 

 ナイフを抜いたゴロツキが、レジーの背後に襲い掛かった。

 そんなクズ野郎を、俺は護身用のテーザーガンを抜いて引き金を引いた。

 ゴロツキに電撃が走り、ぐったりと倒れた。

 

「悪いな、兄弟」

「油断するなよ、危ないだろ」

 

 レジーはこんな風にいつも喧嘩をしていた。

 そのほとんどが、自分の為ではなくこのゴロツキどものようなクズから弱者を守る為だった。

 彼みたいな暴力に慣れた者なら、貧民街では用心棒として生計が建てられるかもしれないのに、そういう仕事はしていなかった。

 

 彼は敵も多かったが、味方もまた多かった。

 多くの人から目の敵にされ、同時に好かれていた。

 

「なあ、兄弟。お前はなんでいつも喧嘩ばかりしてんだ?」

 

 ある時、俺は彼に尋ねてみた。

 

「別に理由なんてねぇよ。

 ムカつく奴が目の前に居たからぶん殴った、それだけだぜ」

「格好いいじゃん、正義の味方だろ」

「違うな、弱い者いじめだ。

 他の弱い者いじめが好きな奴は自分より地位の低い奴を狙うが、俺は自分が強者だと思いあがってる奴を弱者に貶めるのが好きなんだ」

 

 俺をイジメた連中と何も変わらない、と彼は笑ってそう言った。

 彼には、そういったある種のポリシーのような物が根底に存在しているようだった。

 俺は彼の人柄と、その奥底に沈殿したどす黒い何かに惹かれていた。

 

 

 だから、俺はその日、来るべき時が来たと思ってしまった。

 

「殺したのか、兄弟」

「……ああ」

 

 貧民街の横道で、レジーは誰かを殴り殺していた。

 格好からして、警察官のようだった。

 

「どうして殺したんだ?」

 

 不思議と、俺は彼に失望しなかった。

 ただただ、やっぱりな、としか思わなかった。

 

「人攫いの賄賂を貰ってやがったんだ。

 だから俺がこいつを攫って、人攫いに買われていったガキどものように欲望の捌け口にしてやったまでさ」

 

 警官の死体は、十発や二十発では済まないほどの殴打の跡があった。その顔面は原型が留めていないほどだった。

 

 俺は、それを見て前から考えていたことを彼に打ち明ける決心が出来た。

 

「なあ、兄弟」

「なんだ、兄弟」

 

 彼は血まみれの顔を、俺に向けた。

 俺は彼に言った。

 

「共に地獄に堕ちないか?」

 

 

 

 

 

「この世に、神なんて居ない。

 碑文教会がそうだったようにな」

「それが一緒に地獄に堕ちてほしい、って言った奴の言葉か?」

「ははッ、違いない!!」

 

 俺は彼と一緒に、俺の自宅へ向かっていた。

 

「だが、善良にしてれば悪い奴は善い神様が天罰を下してくれるとでも? 

 馬鹿馬鹿しい、クソ野郎はずっとクソ野郎だし、反省なんてしないままこの世に蔓延って行くんだ。

 やられた方は泣き寝入りして終わりだ」

「まったくだ」

「だったら、俺たちで正すしかないだろ?」

 

 レジーはしばらく黙っていたが、程なくして頷いた。

 やがて、俺たちは俺の自宅へたどり着いた。

 

「ただいま」

 

 自宅のドアを開け、俺がそう言った瞬間だった。

 俺に向かって酒瓶が飛んできた。

 レジーが俺に当たる寸前で、それをキャッチした。

 

「っせーぞ!! いちいち物音を立てんじゃねえ!!」

 

 そこには、かつて俺の父親だったモノが居た。

 

「なんだ、こいつは」

「俺の親父だ。半年前にクビを切られてずっと酒浸りだ」

 

 俺はレジーにそう説明した。

 それ以来、コイツは酒浸りになった。

 俺にも暴力を振るうようになり、母親は知らない男とどこかに消えて行った。

 

 だからレジーと出会っては、時間が有ればずっと一緒に過ごしていた。

 

「なんだぁてめぇ、勝手に他人を上がらせてんじゃねえぞ!!」

「兄弟、頼む」

「ああ」

 

 レジーは俺の望みをすぐに理解した。

 かつて親父だった男の顔をぶん殴り、黙らせて首を絞めた。

 

「止め、止めろッ、レイジッ、俺は父親だぞ!!」

「酔っ払いめ、まだ状況がわかんねえのか?」

 

 レジーが、もう一発殴った。

 もう一発、もう一発、更に一発。

 

「や、やめて、すみません、たすけて」

「ようやく酔いが覚めたようだな、ああん?」

 

 ようやく、この馬鹿な男は自分の立場を理解したらしい。

 

「親父、頼みがあって来たんだ」

「た、たのみ……?」

「この書類にサインしてくれ」

 

 レジーは親父を放すと、俺は奴に電子ペーパーを突き付けた。

 

「これは、養子縁組届書……?」

「親父も知ってるだろ、ここ最近の世界的な人口の減少を。

 だから二人以上の子供のいる家庭には国からの助成金が出る。

 今日から、このレジーは俺の弟になるんだ。家族が増えるんだよ、嬉しいだろ、親父」

 

 親父は怯えながら、レジーと俺の顔を交互に見ていた。

 

「助成金は全てやるよ。

 俺たちも家を出てく、良い取引だろ、親父?」

 

 その日から、俺たちは本当に家族となった。

 

 

 

 

 戸籍を手に入れたレジーと俺は一緒に運送会社を立ち上げた。

 俺はまだ学生だったから、表向きは親父の会社だった。

 

 主な事業はバイク便だったが、それは表向きの話だ。

 配達員ならどこにでも自然と入り込める。

 本業は、それを利用した復讐代行業だった。

 

 レジーが実行役で、俺はバックアップだった。

 この時代、電子工学やコンピュータ技能は必須技能だ。

 俺はこれでも成績は良かったし、決してくいっぱぐれない仕事としてそれらの技術は会得していた。

 親父も元々はコンピュータ技師だった為、設備もあった。

 

 俺たちの仕事は、順調だった。

 警察は変死をまともに捜査などしない。そんな余裕(リソース)なんて無いからだ。

 

 俺たちはハッキリ言って、貧しい者の依頼ばかりしか受けなかった。報酬なんて危険に見合わぬスズメの涙。

 だから仕事は殆どタダ働きだった。

 それでも、レジーの信頼できる知り合いも俺たちの会社に加わり、順調に進んでいるように、見えた。

 

 だが、結局のところ、レジーたちはゴロツキ上がりに過ぎなかった。

 

「おい、なぜ金持ちの私怨の依頼を受けたんだ!!」

 

 俺たちの会社の休憩室で、レジーが同僚を咎める声が響いた。

 

「お前馬鹿か、会社の運営はタダじゃないんだ!! 

 稼がないと表の顔も維持できないんだよッ」

「事前調査で逆恨みだってわかったじゃねか!!」

「報復の相手もクズだったからいいじゃねかよッ!!」

 

 二人の言い争いに、他の同僚たちもどうしたものかと困っていた。

 

「お前こそ、カネの払えねぇ相手に結局タダで仕事したって話じゃねぇか!! 

 俺たちの仕事は慈善事業じゃねえんだぞ!! 分かってんのか!!」

「ああそうだ、悪いか、この野郎!! 

 俺は頼まれたらタダでもやってやるよ!!」

 

 レジーは鼻息を荒くして、ソファーに座り込んだ。

 

「時代劇で人殺しをカネで請け負う殺し屋が居るよな? 

 カネを貰わないとそれは仕事じゃない、と。

 俺は違うね、これは私怨だ。決して仕事でやってるわけじゃねぇのよ!!」

 

 レジーは生粋のアウトローだった。

 情で生きる男であり、その在り方は殺し屋と言うより中国の任侠に近かった。

 

「俺は、俺以外の、上から見下ろして粋がってる奴が大嫌いなんだ!! 

 殴りたいから殴ってる、殺したいから殺してる。弱い者いじめが大好きなんだよッ。

 カネが欲しいのか? なら俺の分け前なんてくれてやるよ!!」

 

 憤怒。激情だった。

 彼自身にも抑えきれない、激怒が彼の身体を焦がしていた。

 

「だがレジー、お前も適当にボコボコにするだけの依頼で標的をぶち殺してるだろ。

 やり過ぎると歯止めが効かなくなる。

 お前は少し、落ち着いた方が良い」

 

 冷静な他の同僚が、レジーを諫めた。

 

「わかってる、わかってるんだ!!」

「もう我慢ならねぇ、てめえいい加減にしろよ!!」

 

 だが、結局彼と言い争っている方の怒りも爆発した。

 

「おいバカ止めろ!!」

「仲間同士で争うんじゃねぇよ!!」

 

 俺も他の同僚たちも、殴り合いを始めた二人を止めようとした。

 そして、悲劇が起こった。

 

「野郎、ぶっ殺してやる!!」

 

 頭に血が上った同僚が、銃を抜いたのだ。

 

「危ないッ」

 

 俺はとっさに、彼との間に割り込んだ。

 瞬間、この身を焦がす激痛に襲われた。

 

「きょ、兄弟!!」

 

 廊下に倒れた俺を、レジーが抱き抱えた。

 俺はもう、自分が助からないことを悟った。

 仲間たちが医者を呼ぶ声が、遠く聞こえる。

 

「なあ、兄弟……聞いてくれ」

「なんだ、何でも言ってくれよ」

「今日から、お前が俺になれ」

 

 薄れゆく意識の中で、俺は後頭部から俺の個人認証チップを取り出し、彼の手に握らせた。

 

「お前が、俺に、俺の……憤怒(レイジ)になれ」

 

 俺を撃ってしまった同僚も、泣きながら俺に縋りついて来た。

 レジーも俺を強く抱きしめる。

 

 薄れゆく意識の中で、俺は奈落のような赤い瞳を見た。

 それを見て、俺はようやく悟った。

 

「なんだ、本当に居たのか……」

 

 俺は死に際に、安堵した。

 悪には罰を、罰には断罪を。

 悪人は決して、かの御方から逃れられぬのだと理解したからだ。

 

「泣くな、兄弟。俺はお前の中で生き続ける」

 

 俺は大いなる闇の両腕に抱きしめられ、死の眠りに就いた。

 

 

 





主人公視点、と見せかけて実は主人公はもう一人の方って展開を二話かけてやろうと思いましたが、こういう時に限ってネタが膨らまないものですね。
いつもは無駄に長くなるのにね!!

そう言う感じで、主人公の過去のお話でした。
次回からはちゃちゃっとあの世界を滅ぼしたりオフ会とかしたりして次の章に進めたいと思います。

では、また次回!!


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終末の業火

世界オールドハイルの行く末は?
存続する 23%
滅亡する 77%

女神メアリース「ほら、やっぱり私は正しかったでしょ?」




 

 

 

「…………」

 

 たき火にくべられた木片がバチリと弾けた。

 己の身の上を語り終えたレイジは、燃える炎を己の瞳に映した。

 

「レイジは死んだ。

 あいつを殺した仲間も自首してムショに入った。

 俺たちはその後も仕事を続けた。それがアイツの意思だった」

「そしてお前は、死んだ義兄に成り代わった」

「誰も、誰もアイツが別人になったことに気づかなかったよ。

 全く道理で戸籍の裏売買が無くならないわけだ」

 

 隊長に彼は精一杯笑って見せた。

 空虚な笑みだった。

 

「だが、メアリース様は騙せなかった。

 あの御方に初めて会った時、アイツの義弟レジーとして対応されたさ。

 多分、あと五年遅かったら戸籍調査で罪に問われたんだろうな。

 魔王様が来る前までの細かなアレコレはお咎め無し、そうなったんだろう」

「杜撰な管理ですね」

「仕方ないだろ。脛に傷がある奴が多すぎたんだ。

 それをいちいちあげつらっていたら刑務所を幾ら増設しても足りない」

 

 リーの辛辣な言葉に彼も苦笑して肩を竦めた。

 

「そしてリェーサセッタ様も俺には何も言わなかった。

 人類すべての悪を知る、人が裁けぬ罪科を裁いて下さるあの御方が、だ」

「……」

「初めは、俺がローティの四天王になったからだと思った。

 だけど違ったんだ。この世界に来る前に、あの御方に御会いして尋ねてみたんだ」

「汝、罰するに値せず、そんな感じの事を言われたんだろ?」

 

 隊長の言葉に、ああ、とレイジは頷いた。

 

「人殺しは悪いことだ。悪に違いない。

 だが、こんな言葉がある。一人殺せば殺人犯、百万人殺せば英雄だと、数が殺人を正当化するとな。

 意味合いは異なるが、戦争で大勢が殺し合う最中に、兵士が敵兵を殺すのは悪なのか? 

 それをいちいち咎めては戦闘行為が成り立たない。敵兵を殺すのは善で、味方を殺すのは悪なのか。その境目は有益か無益の差に過ぎない」

「あんたは、俺を責めないのか」

「お前が最初の一人を殺して日和る口だけ野郎ならな。

 だがお前は己を律して、信念を持って活動した。俺はあんたに敬意を示そう」

 

 隊長は脇に置いてあった酒瓶を取り出し、彼に差し出した。

 レイジはやんわりとそれを押し返して拒否した。

 

「後悔、してるんですか?」

「わからねえ」

 

 それがレイジの本音だった。

 リーはその返答に何も言わなかった。

 

「だが俺は俺がやりたいからそうしたんだ。

 善悪なんて関係ない。信念なんてもんじゃない。ただの我欲の結果なんだよ」

「しかしリェーサセッタ様はそう判断しなかった。

 お前が欲望のままに殺しを働いたのなら、あの御方はお前を赦しはしなかったはずだ。

 お前が手を汚すことによって救われた人間は確かにいるはずだ。

 ならなぜ、お前は苦しんでいる。どうしてここにいる」

「俺は……」

 

 レイジは少し躊躇うように、或いは懺悔するかのように告白した。

 

「俺は、誰かにとっての“誰か”になりたかった。

 俺の出自はハッキリとしないスラム育ち。

 スラムの人間は誰かに頼って生きるなんて出来ない。誰もが自分だけしか見ちゃいない。

 俺はそれが嫌だった。誰も彼もが自分勝手で、それを強いる理不尽な環境にいつもムカついていた。

 誰かを助けてるつもりはなかった。だけどそれで少しでも誰かの記憶に俺が残るのならそれでよかった」

 

 だが。

 

「最近になって、俺の隣に居たいなんてモノ好きなバカが現れた。

 間が抜けてるけど明るくて、眩しいくらい正しい奴だった。

 あいつの笑顔に照らされて、俺は自分の影の濃さを自覚させられた。

 あいつの隣に俺は相応しいのかって。俺は自分の醜さが恐ろしくなったんだ。

 リェーサセッタ様は正しく俺の願いを理解し、叶えてくれた。

 俺は逃げたかったんだ。後ろめたかったんだ。だからこうしてここに居る」

 

 パチパチ、とたき火の炎がうねる。

 なるほどな、と隊長が呟いた。

 

「お前は自分の罪を自覚し、それを背負うことに耐えられなくなったんだな」

「わからない、わからないんだ。自分の事なのに、クラリスに合わせる顔が無いんだ。

 あいつに、あいつに俺の事を追及されるのが怖いんだ」

「まどろっこしいな」

 

 隊長は叱咤するように彼の肩を叩いた。

 

「それで、お前はどうしたいんだ?」

「それを今、探しているんだ」

 

 彼はそれだけを言うと、立ち上がって自分に割り当てられたテントに戻って行った。

 

「彼は、自分の行いを恥じているのでしょうか」

「そりゃあどれだけ正当化しようが、人殺しは恥ずべきもんだ。

 戦争帰りの兵士が周囲から冷遇されおかしくなるって映画は有名だろ」

「……」

 

 リーの呟くような言葉に、隊長は酒瓶を呷った。

 

「それより、明日はこの世界最後の抵抗勢力の元へ向かう。

 あんたも覚悟しておけ。この仕事の真価を問われる場面だからな」

「……ええ」

 

 彼女はジッと耐えるようにたき火の炎を見ていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 子供の町。

 この世界最後の抵抗勢力はそう呼ばれていた。

 

 子供の町と言っても、それは要するに寿命を延ばすアンチエイジング手術を拒んだ者達の隠れ里のようなものだった。

 

 彼らはここに住み、地球のような社会を形成しひっそりと暮らしていた。

 だが魔王が出現し、この世界の権力者たちを排除するように人々が動き出すと、彼らは周辺の町々を巻き込んで自衛の為に武装化。

 

 そして、子供を差し出せと遣わせた魔王軍の使者を追い返した。

 改めて最終通告を伝える為にリーパー隊が派遣された。

 

「隊長、つまり皆殺しですか?」

 

 移動中、ブリーフィングで作戦概要を把握しきれていなかった隊員が装甲車の中で問うた。

 隊長は同乗していたリーに視線を向けた。

 

「いいえ、ダメなら何もするなと勅命が下っています」

「はぁ? なんでだ?」

「魔王様一族の悪い癖だよ」

 

 隊長がそう答えると、あー、と隊員は納得したように頷いた。

 

「なあ、悪い癖ってどういうことなんだ?」

「お前って、神官様の説法を聞いたことはあるか?」

「まあパンを貰うついでに、うんうん唸ってただけだがな」

 

 レイジの物言いに、隊員たちは笑い声を上げた。

 

「以前、メアリース様に仕える大神官様が俺らの上司になったことがあってな。

 彼は魔王を使って現地の人間を苦しめることを反対なさっていた。

 まあ要するに、俺たちの仕事は苦痛を強いることなんだわ。分かるか?」

「……そうだな」

「そんで、魔王様方は強者ゆえに遊びが過ぎると言うか。

 自分に挑んでくる相手を“可愛がる”悪癖があってよ」

 

 数多の魔王たちに仕えた隊長は苦笑気味に肩を竦めた。

 

「今回も子供を連れて来いって命令も、それだろう。

 十五歳以下をピンポイントで連れて来いって、反抗してくれって言ってるようなもんじゃないか」

「ああ……ローティもそんな感じだな」

 

 レイジは思い返す。クラリスに対する自分の上司の異様な執着の数々を。

 

「だが、最悪なのは……」

「最悪なのは?」

「皆まで言うな。分かってるだろ?」

 

 嫌な笑みを浮かべる隊長に、彼も押し黙った。

 そうして、目的地へと辿り着いた。

 

 

「協議の結果、我ら一同は魔王様に従うことに致しました」

 

 子供の町の町長はそう答えた。

 彼とその周辺の町の長たちは沈痛な面持ちだった。

 

「了解した。では十五歳以下の人間を即刻引き渡せ」

「はい……」

 

 話し合いはすぐに終わった。

 

「使者を追い返したと言うから、戦闘になると思ったんだがな」

「これまでお前が見て来た通りさ。

 どいつもこいつも疲れてるんだよ」

「……」

 

 レイジは隊長の言葉に何も言えなかった。

 そうして、今度の彼らの任務は少年少女の移送任務へと移行した。

 

 数日掛けて子供たちを移送すると、最終確認の為に町中を見回ることになった。

 

「確認完了。この家には子供は居ない」

「了解」

 

 レイジはリーと一緒に各家を回っていた。

 

「あの、この確認は必要なんですか? 

 住人名簿と照らし合わせて移送した人物は確認されていますよね」

「俺に聞くな、仕事なんだから」

 

 そう、これは無意味なタスクだった。

 例えば、子供を隠している家庭でも居なければ。

 

 その時だった、彼らの耳に悲鳴が届いたのは。

 

「おい、今の」

「悲鳴ですッ」

 

 二人は急いで悲鳴の元へと向かった。

 民家の扉が開いており、二人は飛び込むようにして中に入り込んだ。

 

「何をしてやがるんだ、この野郎!!」

 

 中ではリーパー隊の人狼が住人を嬲って笑っていた。

 

「あん? なに騒いでんだ」

「お前こそ何してるッ、隊長がそれを許したのか!!」

「くくッ、ぎゃははは!!」

 

 何が可笑しいのか、人狼は笑い声を上げた。

 

「何が可笑しい、なんで笑える!!」

「なあ、あんたにはコイツが何に見える」

 

 彼は痛めつけられてぐったりしてる女性の住人とは別に、ただ茫然とそれを見ている男性を指差した。

 

「人間だと、そう思うか?」

「なにを、言っている」

「なあ、人間なら理不尽を目の前にしたら怒らないか? 反撃しないか? 悲しまないか? 

 ……なあ、こいつらを人間だと、そう思うか?」

 

 愉悦の笑みを浮かべたまま、人狼は呻く住人を殴った。

 

「ちげぇよなぁ!! こいつらはメアリース様の失敗作だ!! 

 つまり人間の出来損ないってわけだ!! 人間じゃないなら権利なんてねぇんだよッ、こうしても、こうしてもだ!!」

「止めてください!!」

 

 目の前の残虐な光景に耐えられず、リーが叫ぶ。

 今にも息絶えそうなほど殴られ、甚振られている住人を前にして、レイジは。

 

「……おい、あんた、なんでそこでボーっとしてるんだ」

「…………へ?」

 

 女性の伴侶と思しき男は、まさか自分に声を掛けられてと思わず鈍い反応を見せた。

 

「あんたの奥さんが目の前で殺されそうとしてんだぞ、なんで抗わない、どうして戦わない!!」

「だって、もうこの世界は滅ぶんですよ」

 

 虚ろな瞳の住人は、レイジの怒号に鈍い反応をするのみだった。

 

「子供も魔王様に差し出しました。

 今日、妻と一緒に毒薬を飲む予定でした。

 もういいんです。もう……」

 

 男は見ていた。

 人外の化け物に嬲られ、己の妻が息絶える瞬間を。

 

「お願いです、殺してください」

「おうよ」

 

 人狼は鋭い爪で男の首を掻っ切った。

 かひゅかひゅ、と息が出来なくなった男は間もなく力尽きた。

 

「ちッ、どうせ殺すなら抵抗する人間じゃなきゃ面白くねぇよな。

 魔王様もさっさとこんなつまんねぇ世界滅ぼして、次の戦場に行きたいもんだぜ」

 

 物言わぬ遺体を蹴飛ばすと、人狼は悪態をついて民家から出て行った。

 

「こんなの、あんまりです!!」

「……そうか? 俺は納得しちまったよ」

「レイジさん?」

 

 リーが見上げたレイジの表情は、憤怒に満ちていた。

 

「権力者から搾取され、使い潰され、挙句の果てには子供も奪われた!! 

 それでも何もしない、何もしようとしない!! 

 なあり―さん、それが人間なのか!! 憎むことも恨むこともしないなら、そいつに尊厳はあるのかよ!!」

「それは……」

「俺は、ローティと話さなきゃならない。

 あいつの四天王であることに、意味を見出さなきゃならない!!」

 

 リーは思わず彼に近づくのを躊躇った。

 彼にさえ抑えられぬ怒りが、彼を燃やしていた。

 

「お願いです、落ち着いて、落ち着いて!!」

「リーさん。あんたはどうなんだ」

「えッ」

「この世界は滅ぼされるんだぞ。

 お前も死ぬんだぞ。あんたは納得してるのか? 何もかもどうでもいいのか!?」

 

 レイジの両手が、彼女の両肩を掴んだ。

 ミチミチ、と筋肉が軋む音が鳴った。

 

「痛い、痛いですッ」

「そうだ、死んじまったら痛いとすら思えない。

 だと言うのに、そっちの方が良いってどういうことだよ!! 

 失敗作だからなのか、成功作じゃないと人間じゃないのかよッ!!」

 

 噴火のような怒りの発露だった。

 自らのうちに燃える激怒が、周囲をも焼き尽くそうとしていた。

 

「お願い、やめて、やめて」

「……はあ、はあ、悪い」

 

 リーが涙声で訴えて、ようやく彼は我に返って自らを抑えた。

 

「ごめん」

「……」

「俺にも、俺が抑えられなくなって」

 

 とすん、とリーはその場に崩れ落ちた。

 そして、しくしくと泣き出した。

 

「ごめん、ごめんよ」

 

 レイジは泣きはらす彼女をずっと慰めていた。

 そうして、彼はこの世界での最期の時間を過ごした。

 

 

 

 §§§

 

 

「すまん、遅れた」

「気にするなや」

 

 二人が野営地に戻ると、隊長は手を軽く上げるだけで許した。

 

「それより、ついさっき魔王様に伝令を送った。

 すぐに返事が来たさ。かの御方はこの世界の住人に失望なされた」

「……」

「見ろよ、特大の花火が打ち上がるぜ」

 

 隊長が酒瓶を片手に、空に向かって顎をしゃくった。

 

 遠い遠い空の彼方に、巨大な竜が地上を見下ろしていた。

 あれが、魔王。終末を齎す者。

 

「レイジ、今回の仕事はお前のお陰で退屈しなかった。

 同じ戦列に並んだ者同士、俺たちは戦友だ。

 これからも、いつでも俺たちを呼んでくれ」

 

 隊長は笑顔で彼にそう言った。

 彼の背後で、魔王の絶大な力が解放された。

 

「ああ……」

 

 リーがその光景を目にし、崩れ落ちた。

 レイジは反射的にその体を受け止める。

 

 直後、地上を洗い流すような超高温の熱波が全てを洗い流した。

 痛みも感じる間もなく、人間も文明も、何もかも、この世界から消え去った。

 

 

 

 

「レジー・キサラギさん。

 残念ですがあなたは死んでしまいました」

「……」

「そんな顔をするな。私も一度やってみたかったんだ」

 

 気が付くと、彼は見知らぬ空間に居た。

 上下左右も距離も時間も分からない、色も表現できない場所だった。

 

 だが、それら全てを塗りつぶす存在がそこには居た。

 邪悪の女神、リェーサセッタだった。

 

「我が盟友がなぜ、惨いことをするのか理解できただろう」

「……分かりません。何一つ、わかりません」

「そうか」

 

 だが女神はどこか愉快そうに彼を見下ろしていた。

 

「それより、いつまで抱きしめ合っているつもりだ」

「えッ、ああすまないリーさん」

 

 レイジはここに人間が自分一人ではないことに、今更ながら気づいた。

 

「でもなんで、あんたがここに」

 

 彼の言葉に答えず、リーは黒子の顔を覆う頭巾を取り去った。

 はらり、と美しい金髪が零れた。

 

「え、お前は、クラリス!?」

 

 そこに居たのは、誰でもない誰か(ワン・リー)*1ではなく、彼もよく知る女性だった。

 

「なんで、お前がここに」

「私がお願いしたんです。リェーサセッタ様に」

 

 魔王の呪縛から解放された彼女は、顔も声も認識できるようになっていた。

 

「本音を言うと、気づいて欲しかったです。レイジさん。

 でもやっぱりそんなロマンチックな事、無いですよね」

 

 そう言ったクラリスはちょっと残念そうだった。

 

「悪趣味ですよ、リェーサセッタ様」

「そうか? 私は楽しかった」

 

 悪趣味と言うのは否定せず、女神はくつくつと笑っていた。

 

「我らの仕事の意義を理解せずとも構わない。

 我らの仕事は我らの意思ではなく、我らが意味を持たせているに過ぎないのだから」

「意味が、分かりません」

「炎が燃えるのに誰かの意思はあるか? だが炎を使って料理をすることはできる。

 我らは意志を持った法則、或いはサイクル。

 どちらにせよ滅ぶのなら、そこに意味を見出したいと思わないか?」

 

 レイジには神の言うことは理解できなかった。

 

「お前が理解すべきことは一つ。

 我が娘ローティのことをこの私から任された、ということだ」

「責任重大ですね」

「そう重く考えることはない。

 だが、ローティならお前の悩みの答えを出してくれるだろう」

 

 それが言いたかったのか、彼女は煙のように消え去った。

 周囲の景色が歪む。元の世界に戻ろうとしている。

 

「レイジさん」

「クラリス……俺は」

「いいんです。どんなあなたでも、私は」

 

 ギュッと抱き着いてくるクラリスを、彼は少し躊躇った後、両手を彼女の背中に回した。

 

「もうちょっとだけ、待っててくれ。あとちょっとだけだから」

「はい、いつまででも待ってます」

 

 二人の意識が、大海に落ちるように沈んでいく。

 目を覚ませば、日常に戻れると確信しながら。

 

 

 

 

 

*1
中国では石を投げると九割の確率でワンさんとリーさんに当たるらしい。




ま、まさか、リーさんがクラリスだったなんてー(棒)

次回からは新章です。
その次の章で完結を予定しております。
二人の行く末を、どうぞ見守って下さい!!

あと、新作書きました。
正統派魔法少女モノで、タイトルは『魔王は推しに斃されたい』です。暇潰しにどうぞ。

ではまた!!


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砂漠の魔王
1レス目


 むかしむかし、あるところに。
 今は“聖地”と呼ばれる何もない場所のひとつ。かつて存在した砂漠に旅人が迷い込んでしまいました。
 そこは凶悪な魔物が住む死の砂漠でした。
 砂嵐で同行していたキャラバンからはぐれた旅人は、何とか生き延びようと必死に歩きました。

 ですが、水は底を着き、食料も無くなり、体力も失い彼は限界が訪れました。

 もうダメだと思った旅人は、己に影が差したのに気づきました。朦朧としたまま顔を上げると、彼は信じられないモノを見ました。

 そこには砂漠に似つかわしくない美女が立っていたのですから。
 彼は震えあがりました。
 彼はこの砂漠を渡る前に、キャラバンの仲間から聞いたのです。
 それは遥か昔からこの砂漠に伝わる伝説でした。

 この砂漠には、永遠に生きる恐ろしい魔女が住んでいるのだ、と。


“ロスト・アーカイブ”民話「砂漠の魔女」の第一章より抜粋





 

 

 

 魔王ローティは微睡んでいた。

 夢見る彼女は、古い記憶を思い返していた。

 

「貴女に、この魔法の本を差し上げましょう」

 

 黒いローブを纏い、フードを深く被った女が一冊のハードカバーの古い本を差し出してきた。

 

「この本を手にすれば、貴女に思い通りにならないことは無くなるでしょう。

 だけど心しなさい、我が同胞よ。

 ────この本を手にしたら、貴女は決して幸せに成れないわ」

 

 幼いローティは、躊躇うことなくその本に手を伸ばして──。

 

 

「ただいま」

 

 真っ暗な家に、明かりが灯る。

 そのリビングのテーブルの前の椅子に座って、電源の入っていない家電製品のように沈黙していたローティが目を開ける。

 彼女は同居人の二人を認めると、口を開いた。

 

「遅い、おなかすいた」

 

 

 

 §§§

 

 

 

331:名も無き学者

 そろそろ時間かね

 

332:名も無き住人

 上がってると思ったら、学者殿かよ

 

333:名も無き住人

 今北

 と思ったら、運び屋は居ないのか

 

334:名も無き学者

 実は彼に連絡を貰ってね

 調べ物をしてほしいからこっちで待ち合わせすることになったんだよ

 

335:名も無き住人

 流石、リアルで知り合いなったもんなww

 

336:名も無き住人

 リアルで連絡とって掲示板で待ち合わせとかww

 普通逆じゃんww

 

337:名も無き住人

 まあ、ここは秘匿性は抜群だし

 個人情報情報は漏らせないようになってるし

 頼みごとの内容によるんじゃない? 

 

338:名も無き学者

 まあ、内々に調べて欲しいことだとは言われたね

 具体的な内容はこっちで、とのことだったが

 

339:名も無き住人

 なんでわざわざ学者殿に? 

 調べものなら探偵とか調査会社とかあるやん

 

340:名も無き住人

 他人に知られたくないことなんだろ

 一応ここはアングラだし

 

341:名も無き住人

 アングラ(神公認)ww

 

342:名も無き住人

 それにしても超次元級の識者である学者殿に頼み事とか

 運び屋も良い身分やな

 

343:名も無き住人

 言うて魔王様の四天王やし

 いや、学者殿の経歴調べてビビったけどね

 

344:名も無き住人

 どちゃくそ偉い人やったもんなぁ……

 

345:名も無き学者

 そんなにかしこまらなくてもいいんだけどね

 今は余生を趣味の研究で過ごす隠居者に過ぎないわけだし

 

346:運び屋

 ……やっぱり気安くお願いするのは間違ってましたか? 

 

347:名も無き住人

 偉大な学者なのに変に偉ぶったりしないのスゴイわ

 マッドっぽいけど

 

348:名も無き住人

 運び屋!! 来たか!! 

 

349:名も無き住人

 おひさー、しばらくぶりやん運び屋!! 

 

350:名も無き住人

 俺の方だと半年ぶりだったから首を長くしてたぞ!! 

 

351:運び屋

 おう、みんな久しぶり

 ちょっと四天王の研修してたww

 

352:名も無き住人

 魔王四天王に研修なんてあるんですかww

 

353:名も無き住人

 魔王様の四天王になれる講習とかあるなら行きたいけどなww

 

354:運び屋

 住人がほぼ皆殺しなる光景を見るだけだったぞ

 魔王軍エグイぜ、マジで

 

355:名も無き住人

 あッ(察し

 

356:名も無き住人

 おうふ

 それ研修やない、お前がどうするかテストされてるやん

 

357:運び屋

 あー、なるほどな、テストか

 確かにそれもあったかもしれん

 どのみち、俺は覚悟を決めたよ

 

358:名も無き住人

 つらいよな、運び屋……

 

359:名も無き住人

 魔王様の仕事は神の代行

 運び屋が何をしようとも、それはあんたの責任じゃない

 あまり気を落とすなよ

 

360:名も無き学者

 そうだね、現地の住人がどう思うかはともかく

 我々はメアリース様の所業には諦めの境地に至っているからね

 

361:名も無き住人

 学者殿もそういうてるし

 

362:名も無き住人

 メアリース様は功罪の上下幅がヤバいからな

 

363:名も無き学者

 それより、運び屋

 頼みたいこととは何だね? 

 

364:運び屋

 あ、そうでした

 事前の連絡の通り、調べ物をしてほしいんです

 

 砂漠に住む、永遠に生きる賢者の話って知ってますか? 

 

 

365:名も無き学者

 ふむ、ちょっと心当たりは無いね

 

366:名も無き住人

 なんだそれ、おとぎ話か? 

 

367:名も無き住人

 類似する話は幾らでもありそうだな

 

368:名も無き住人

 砂漠の賢者か、似たような話はきいたことはある

 もうちょっと詳しい内容を聞かないと分からないかも

 

369:名も無き住人

 ワイ、絵本集めが趣味

 協力できるかもしれん

 

370:運び屋

 助かる、どうしても気になってたんだ

 

371:名も無き住人

 でも、なんでそんな話を聞きたいんだ? 

 わざわざ学者殿に頼んで

 

372:名も無き住人

 俺も知りたいわ

 最悪別に捜索スレ立てた方がいいかもだし

 

373:運び屋

 ……うーん

 ちょっと考えさせてくれ

 

374:名も無き住人

 え、なんでそこで悩むのん!? 

 

375:名も無き住人

 これはあれか

 物語の内容じゃなくて、それを知る過程に問題あるタイプか

 

376:名も無き学者

 ざっと書庫を検索したけど、一万件以上ヒットしたな

 砂漠、賢者、それぞれの単語だけで数が多すぎる

 

377:運び屋

 あー、やっぱそうですか

 

378:名も無き住人

 賢者の称号は普遍的だしな

 

379:名も無き住人

 ワイらもこの情報だけで見つかるとは思っとらんよ

 

380:運び屋

 せめて魔王様は居ないか? 

 これってローティのプライベートの話になるし

 

381:名も無き魔王

 よい、私が許す

 

382:名も無き住人

 即レスでワロタwww

 

383:名も無き住人

 ROMってたな、魔王様ww

 

384:名も無き住人

 ホントに暇なんだなぁ……

 

385:運び屋

 許可が出たことだし、ここの個人情報は外に漏れないし

 お前らを信じて相談するわ

 

386:名も無き住人

 ローティは公人やし別では? ボブ訝

 

387:名も無き魔王

 安心するといい

 姉上を侮辱する奴いたら特定して処すわ

 

388:名も無き住人

 ひえッ

 

389:名も無き住人

 やっぱ魔王なんだなぁ、このひと

 

390:名も無き住人

 その暇な時間を別なことに使ってもろて(震え声

 

391:運び屋

 実はローティの奴、魔王に成る前に恩人が居たらしい

 その人に予言されたんだと

 

 お前は私と同じ魂を持つ者、だから必ず私と同じように不幸になるって

 

392:名も無き住人

 なにそれ

 不幸の予言? 

 

393:名も無き住人

 いやなんでそうなるん? 

 何を根拠に? 

 

394:名も無き学者

 一般的に、才覚は魂に依存しているとされている

 同じ魂の持ち主は必然的に似たような道を選び、同じような破滅を迎える、そんな学説を思い出したな

 流石に全く同じにはならないだろうが、根拠としては十分だろう

 

395:名も無き住人

 嘘やん、聞きとうなかった……

 

396:名も無き住人

 それどうあがいても俺が凡人って、ことぉ!? 

 

397:名も無き住人

 お前ら、ステータス画面見ろし

 そこに自分の技能適性が書いてあるだろ

 あれがどういう基準なのかは知らんけど

 

398:名も無き住人

 ワイ、剣術適正Aの勝ち組→調子に乗る

 数年後、剣術適正Cの奴に敗北……

 以来驕り捨てたわ 今やそいつとはライバルや

 

399:名も無き住人

 まあ才能が全てじゃないからな

 

400:運び屋

 ちなみに俺の一番高い技能適正は賞状書士Aだったww

 なんだよ、賞状書士って……

 二十歳過ぎてからこんなの知ってどうしろと

 

401:名も無き住人

 賞w状w書w士www

 いいじゃん、今からでも字の勉強したらww

 

402:名も無き住人

 大人になってから自分の才能を知る、か

 ある意味残酷だなぁ

 

403:名も無き学者

 ふーむ

 恩人だと言うなら名前は聞いていないのかい? 

 

404:名も無き住人

 てか、その恩人の素性を知ってどうするん? 

 ローティ様が恩返ししたいとでも言うたんか? 

 

405:名も無き住人

 ワイの適性は良くてBばかりやし

 A判定あるだけ羨ましいわ

 

406:運び屋

 >>403 名前は知らないらしい。賢者様、としか

 

 >>404 一先ず、どんな人物か知らないことには

 

407:名も無き住人

 名前も分からんのじゃなぁ

 

408:名も無き住人

 そもそも、ローティ様が魔王に成る前なんだろ? 

 最低でも百年、長くて百五十年前くらいの話だろ

 その賢者っての生きてるのか? 

 

409:名も無き住人

 ちゃんと文字嫁

 永遠に生きる賢者って書いてあった路

 

410:名も無き住人

 賢者って言うほどなら、生きてるんじゃね? 

 魔導を修めるならまず自分の寿命を延ばすでしょ

 

411:名も無き住人

 ほかに手掛かりは無いんか? 

 そんな三つの特徴だけじゃわからんよ

 

412:名も無き住人

 せめて出身世界を特定できればなぁ

 

413:運び屋

 そう言えば、ローティがその賢者から貰ったって本を見せてくれたぞ

 俺の視界ログで良ければここに載せるが

 

414:名も無き住人

 まあ手がかりなら一つでも欲しいところだな

 

415:名も無き住人

 しかし、今までで一番の難題でワロタ

 もっと情報ほしいな

 

416:運び屋

 ほい、これ

 

『運び屋の視界には、古めかしいハードカバーの本がテーブルに置かれていた。タイトルは掠れて読めない』

 

417:名も無き住人

 うーん、ボロっちいな

 

418:名も無き魔王

 なんだこれは!? 

 

419:名も無き学者

 これを一体どこで!? 

 

420:名も無き住人

 え、え? 

 お二方、どうしたの

 

421:名も無き住人

 なになに

 タダの本じゃないの? 

 

422:名も無き学者

 ……まず、これは禁術書だ

 それも恐怖神話にでも出てくるようなとびきりの

 

423:名も無き魔王

 この仕事をするようになって、初めてゾッとしたわ

 これ、まともな代物じゃないで

 

424:運び屋

 え、うそ

 

425:名も無き住人

 マジかよ

 クトゥルフ神話みたいに、人の皮で装丁された魔導書みたいなもんか

 

426:名も無き学者

 それよりもなお、おぞましい

 本そのものが人間の魂を素材にされている

 実物を見ないとわからないが、恐らく“生きた”魔導書だろう

 

427:名も無き住人

 それって、あれですか

 呼吸する魔導書とか、そう言う類の……

 

428:名も無き学者

 そんなレベルではない

 綿密な設計によって計算された一種の魔導装置と言うことだ

 使い魔のように自立し、思考し、持ち主を補助する

 狂人の研究結果を書き連ねたではなく、至って正気の人間が己の知識と技術を保存し継承させる為に造ったモノだろう

 しかも一見してどれだけ古いかわからない

 オリジナルか、それに近いレプリカだろう

 使い方を間違えれば、どれだけ不幸が起こるか

 

429:名も無き住人

 メッチャ早口で言ってそう(震え声

 

430:名も無き住人

 とんでもない価値がある代物ってのは理解できた(脳死

 

431:運び屋

 ちょっと取り上げてくる!! 

 

432:名も無き住人

 やめろ!! 

 

433:名も無き住人

 ヤメテ!! 

 

434:名も無き住人

 おいばかやめろ!! 

 

435:名も無き住人

 そんなの触ったら何が起こるか分からんぞ!! 

 

436:名も無き住人

 どう見ても呪いの本です

 本当にありがとうございました

 

437:名も無き住人

 運び屋おちつけ

 ローティ様は魔王だぞ、呪いなんて効かない

 

438:名も無き住人

 みんな結構居たんだな……

 

439:名も無き学者

 とにかく、自動防衛機能ぐらい付いていてもおかしく無い

 持ち主以外が触れるのは危険だ

 

440:運び屋

 わかった

 おちついた、みんなありがとう

 

441:名も無き住人

 とにかく、その賢者ってのがヤベー奴なのはわかった

 

442:名も無き住人

 真っ当な人間なら、禁術書なんて渡さんわな

 

443:名も無き住人

 どう聞いても特級呪物やからな

 

444:名も無き学者

 個人的には俄然興味が湧いたけどね

 

445:名も無き住人

 ダメだこのマッド、早く何とかしないと

 

446:運び屋

 俺はもうちょっとローティから聞き出してみる

 

447:名も無き住人

 あまり無理をするなよ、運び屋

 

448:名も無き住人

 とんでもない地雷掘り起こして草……草枯れる

 

449:名も無き住人

 魔導書タイプのマジックアイテムはヤバいの多いからな

 

450:名も無き住人

 人間の魂で道具を作るとか、頭おかしいよ

 聞く限りだと、もはや自立ゴーレムみたいなもんっぽいが

 

451:名も無き学者

 是非実物を検分してみたいものだね

 一体何が書かれているのか、興味が尽きない

 

452:名も無き住人

 やめんか

 読んだら発狂するかもだぞ

 

453:名も無き住人

 よくよく考えたら読んだら発狂するってさ

 知識を伝える為の本なのに狂っちゃった本末転倒だよな

 

454:名も無き住人

 俺も興味湧いて来た

 危ない橋を渡らない程度に協力してみっかな

 

455:名も無き住人

 うちの世界の書庫のデータベースで参照してみっかな

 写本の類なら見つかるかもだし

 

456:名も無き魔王

 ワイも気になるから母上に聞いてみるわ

 まさかあれについて知らんってことは無いやろ

 しかし、メアリース様の管理下であんな代物を目にするなんて思わなかったわ

 

457:名も無き住人

 魔王様がガチで警戒するレベルってなんなの

 

458:名も無き住人

 マジヤバい代物ってことだろ

 

459:名も無き学者

 早速うちの古巣の大学に画像持ち込んでシミュレーターで復元してみたんだが

 なんとかタイトルは読み解けたよ

 

 翻訳魔法の意訳になるがタイトルは

 

『石化呪術書』 とあるね

 

 

460:名も無き住人

 流石学者殿、仕事が早い

 てか、タイトルヤバ……

 

461:名も無き住人

 タイトルからして、石化魔法の研究書? 

 物質転換タイプの魔法はかなり高度な魔法と聞いてるが

 

462:名も無き住人

 そもそも相手に干渉する魔法全般が高難易度やな

 魔力は生命力だから、生きてる限り生き物は外部の魔法に対して抵抗力を持っとるんや

 

463:名も無き住人

 相手を石化する呪詛ってことだろ

 そんな危険な魔導書あるんか

 

464:名も無き学者

 ……実はなのだが、石化魔法を得意とする賢者に心当たりがある

 運び屋が知らないだけで、実は人間にとっては魔女の異名の方が有名だから、もしかしたら彼女かもしれん

 

465:名も無き住人

 え、学者殿、あの御方はとっくに死んでるはずじゃ

 

466:名も無き住人

 そっか、学者はバフォメット族……魔族か

 ローティ様も元ダークエルフ

 あの御方の呼び名はどちらも賢者になるのか

 

467:名も無き住人

 有識者、どういうことだかおせーて

 

468:名も無き住人

 ワイは学が無いんでさっぱりなんだが

 

469:名も無き学者

 太古の昔に、三大魔女と称される女魔術師たちが我ら魔族を庇護し、絶滅から救ったという伝承が存在してね

 そのうちの一人が、ダークエルフ族の賢者

 しかし彼女は人類から忌み嫌われ、その異名は“砂漠の魔女”

 そう考えると色々腑に落ちる

 

470:名も無き住人

 あー、魔族教会の教典にそんな神話があったような……

 

471:名も無き住人

 おい、ネットで調べたけど

 その伝承ってメアリース様が人間だった頃の大昔だろ

 なんでつい最近になってそんな大昔の人物が出てくるんだよ

 

472:名も無き住人

 文字嫁よ

 運び屋は永遠に生きる賢者って言ってたぞ

 普通ありえないが、ありえなくはない

 

473:名も無き住人

 言うて何万何十万何億万年前の話やん

 

474:名も無き学者

 うーむ、興味深い!! 

 次の研究はこれにしてみよう!! 

 

475:名も無き住人

 学者殿のスイッチ入っちまった

 

476:名も無き住人

 またこうして偉業が産まれるわけか

 

477:名も無き魔王

 オマエら、聞いたか? 

 ワン子が姉上と再戦するらしいぞ

 

478:名も無き住人

 はあ!? 

 マジかよ!! 

 

479:名も無き住人

 おい運び屋、なんでそんな大事なこと先に言わないんだ!! 

 

480:名も無き住人

 もう落ちてるぞ、その叫びは次の機会にとっておけ

 

 

 

 

 

 

 




久々の掲示板回。
次回は、運び屋がローティと何を話したのかになります。

今章の焦点は、ローティの過去とクラリスとの再戦になります。
なお、これ以上登場人物は増えない予定です。件の人物も回想にしか出ないです。
それではまた、次回!!


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天命と運命


 ある国の王様が言いました。

「砂漠の魔女を捕らえ、永遠の命の秘密を聞き出すのだ!!」

 王様の命令で、軍隊が死の砂漠へと派遣されました。
 大勢の冒険者も報奨金目当てで魔女の元へと向かいました。

 そして誰ひとり帰ってきませんでいた。
 ……いいえ、より正確に言えば、全員が帰ってきました。

 兵士が、冒険者たちが、一人残らず石像となって歩いて国元へ帰って来たのです。

 石像たちは城下町の人々を殺して回り、そして王城に押し入りました。
 石像たちは壊されても壊されても、すぐに元通り。
 やがて王様は石像に殺され、王都は石像だけの都市になったとさ。

 そして時間が経ち、滅びたこの国はこう言われるようになりました。

 ────あの国は魔女に呪われたんだ、と。


“ロスト・アーカイブ”民話「砂漠の魔女」の第二章より抜粋






 

 

 

「ただいま」

 

 俺たちが家に着くと、家の中は真っ暗だった。

 壁に手を這わして電気を付けると、俺はクラリスと一緒にリビングに向かった。

 

「遅い、おなかすいた」

「ローティ……」

 

 彼女はいつも俺たちが食事に使う四人掛けのテーブルに一人座っていた。

 

「電気ぐらいつけろよ」

「夜目が利くし」

「そう言う問題じゃない」

 

 俺は溜息を吐いた。

 クラリスは俺の横を抜けるとテーブルに座った。

 

「レイジさん、私もお腹が空きました!!」

「……待ってろ、すぐ出来る」

 

 主張の激しいクラリスにそう言って、クッキングメイカーに材料をセットする。

 有り合わせの材料でできた簡単な料理で俺たちは腹を満たした。

 

「ローティ、少し良いか」

「なに? 食べ終わったんだからゲームしないの?」

「話が有るんだ」

 

 俺はクラリスに目配せすると、彼女も頷いた。

 

「早くしてよ。面倒だなぁ」

「俺は、俺たちはリェーサセッタ様に導かれて別の世界に行ってきた。

 そこで他の魔王様の所業を見て来た」

「ふーん。それで?」

「お前は無辜の人々が苦しむことにどう思うんだ?」

 

 俺は彼女に尋ねた。

 俺は聞かなければならない。

 彼女の四天王になった俺は。

 

「お前、地球は丸いって知ってるよな」

「は?」

 

 唐突なローティの言葉に、俺は呆気にとられた。

 だが、彼女は気にせずリモコンを手に取り、テレビを付けた。

 

 テレビ画面にはニュースが放送されており、外国の貧困について特集していた。

 

「ここに出てる奴ら、お前はどう思う?」

「え、どうと言われても」

「そうだ。それが普通だ」

 

 ローティは皮肉気に笑ってテレビの電源を落とした。

 

「私の姉に、アキバってイカレ変人がいるんだけどさ。

 時々遊んでくれるからいろいろと話を聞くんだ。

 アイツ、自分の担当の世界で何をしてると思う?」

「魔王一族序列五位、魔王アキバ。人呼んで“狂作家”*1

 

 ローティの問いに、クラリスが答えた。

 もしかしたら彼女はレジスタンス時代にその情報を頭に叩き込んでおいたのかもしれない。

 

「そう、そいつ。

 あいつにとって、担当の世界は作品なんだ。

 自分が好みの展開を演出して、勇者を選び出し活躍させるためのな。

 だけど勇者ってのは悲劇や苦難が付き物だろ?」

「まさか……」

「あいつにとって、“登場人物”以外の人間なんて背景なんだよ。

 小説で一行で流される、どれだけ死んだかって数字に過ぎない。

 お前もそうだ。地球の裏側でどれだけ人々が貧困に苦しもうが、虐殺に遭おうが、何も感じない、何も行動を起こそうとも思わない。

 お前の無感動と、私が担当になった世界の連中に思うことは同じだよ」

 

 結局のところ、テレビの向こうでどれだけ人々が苦しもうが、それを俺たちは実感することはできない。

 ローティの言いたいことはそういうことなのだ。

 

 どれだけ殺そうとも、何も感じない。

 

「だけど俺は見て来た。

 画面の向こうの悲劇や苦しみを。

 あんなのは間違ってる。そうは思わないのか?」

「お前さ、なにそんなアホみたいなこと言ってるの」

 

 心底理解に苦しむようにローティは小首を傾げた。

 

「お前、赤ちゃんは何歳まで赤ちゃんのままで許されると思う?」

「どういうことですか?」

「メアリース様の恩寵の全ての世界で、人類の繁栄は約束されている。

 だけど、赤子はいつか両足で立って、自立しないといけない。

 文明の恩寵に甘えて、いつまでも赤ん坊のままじゃいられない。

 ──立って歩かなければ、生きてはいけないんだから」

「だから、あの殺戮を肯定するんですか」

 

 クラリスは気づいていないが、彼女は無意識に敬語になっている。

 緊張しているときのこいつの癖だった。

 

「じゃあ、赤ん坊のまま揺り籠で死ね、と? 

 それって何もかも支配され、管理されるのと何が違うんだ」

「だから、尻を叩く必要があると」

「メアリース様がこのままじゃダメだと思った世界に、痛みを持って教えないといけないんだ。

 戦って尊厳を示さないと、淘汰されるだけだって。

 出来ないなら死ぬしかない。そこに善悪なんて無い」

 

 ローティの、魔王たちの理屈は一理ある。

 俺は刈られる稲穂のように殺される人たちをこの目で見て来た。

 

「だからってッ」

 

 俺は歯を噛み締めて、手を固く握って己の感情を吐露した。

 

「意味が無ければ、殺しても良いのか。

 意味を見出せなければ、生きていちゃダメなのか」

「理想論じゃん。それ。

 実際問題リソースは限られる。だからこの地球も昔に大勢の餓死者を出したんだろ。

 そいつらの死に意味が有ったのか? 餓死という現象に意思があったなら、お前はそいつを責めるのか? 

 じゃあ責めればいい。メアリース様と同じように。

 好きに喚き立てればいい。でも周囲はそれを狂人って言うんだよ」

 

 ローティの物言いは論点のすり替えだとは分かっている。

 だけど俺はそれを言語化できるほど、具体的な反論を持ち合わせていなかった。

 

「いつだってそうだ。

 なんの具体的な対案もないくせに、メアリース様の所業を否定する。

 お前、お米を作る時、育ちの悪い芽を摘むのを知ってるか? そうしないと周囲の成長を阻害するからだ。

 それは残酷じゃないのか? お前の言ってることは何の価値も無い空虚で傲慢な上から目線の感情論なんだよ」

 

 メアリース様が失敗作と断じた世界に、いつまでもリソースを割くことはできない。それは理解できる。

 だがやはり、納得は出来ない。してはいけない。

 

 それで納得してしてしまうのなら、それこそ立つ瀬がない。

 

「だけど」

「ローティ」

 

 だが、俺とローティの答弁を聞いていたクラリスが静かに彼女の名を呼んだ。

 

「それは、魔王一族の言葉だ」

 

 クラリスの眼は、まっすぐローティを見ていた。

 

「笑っていたな」

 

 そう言った彼女の言葉は、澄んでいた。

 怒りや憎しみが一切含んでいなかった。

 

「私は知っている。お前はどの魔王たちよりも早く、仕事を済ませると。

 それ故に、今の地位に就いているとも。そう博士が教えてくれた」

「そうだけど。だから?」

「お前は、楽しそうに笑っていた」

 

 そこで俺は思い出した。

 掲示板の魔王様が、仕事に対して何も感じない、と言っていたことを。

 そう言う風に創られている、と。

 シロアリの住む家を壊すことに、喜怒哀楽など有るはずも無い。

 

「私は、ローティ。お前のことを知りたい」

 

 クラリスは、クラリスだけは。

 彼女を魔王と言う立場で見ていなかった。

 

「くッ」

 

 ローティの口の中で、そんな声が漏れた。

 

「くくッ、くくくッ、あはははははッ」

 

 俺との問答など、つまらない定型文のチャットに過ぎなかった。

 そう言わんばかりの、可笑しそうな笑い声だった。

 

 クラリスだけは、そんな魔王の正体だけを見ていた。

 

 

「──当然じゃんッ、楽しいんだから!!」

 

 魔王と言う立場は、上っ面。

 魔王だから邪悪なのではなく、邪悪だから魔王に選ばれたのだ。

 

「私が最初に人を殺した時の事、教えてあげようか?」

 

 前歯をむき出しにして、満面の笑みを浮かべるローティが大切な思い出を語るように、懐かしむように話しだした。

 

「無力で惨めなダークエルフと人間のハーフを憐れんだ偉大なる賢者様が、この私に魔法の本をくれたんだ」

 

 そう言って、彼女は一冊の古びたハードカバーの本をテーブルの上に置いて見せた。

 この時、俺は全くその本の危険性を感じられなかったが、それを見たクラリスの眉が険しくなったのを、俺は察する余裕はなかった。

 

「私を汚物呼ばわりした村の子供を、ここに書いてある魔法で石にしたんだ!! 

 そして、魔法で動かして親の目の前に突き付けてやったんだよ!! 

 そいつらなんて言ったと思う? 「化け物!!」だってさ!! 

 傑作だよな、自分の子供を化け物呼ばわりしたんだ!! 

 石にしたって言っても、それは表面だけでさ、音の振動で中身にはちゃんと聞こえるだよ!! 

 私はそいつに命令して、自分の親の首を絞めさせたんだ!! 

 ぎゃはッ、ぎゃはははッ、こんな笑えることあるかよ!! 

 親子なんだよ、普通悲しんで抱きしめてやるもんじゃん? 

 なのに泣き叫んで怯えて、挙句の果てには子供を化け物って、こんなの笑うしかないじゃん!!」

 

 興奮して笑いながら一息で話す、邪悪の化身。

 俺は想像を絶する体験に、ゾッとして身動きが取れずにいた。

 

「あ、そうだ」

 

 ぽん、と彼女は手を叩いた。

 

「丁度記念に取ってるんだ。見る?」

 

 ローティは本を開くと、ページの一文をなぞった。

 すると地面に魔法陣が広がり、そこから何かがせり上がって来た。

 

 それは、子供の石像だった。

 被害者自身の親を殺させた、最初の殺人の、世にもおぞましい凶器だった。

 

「見てよこれ、まだ生きてるんだよ!!」

 

 おもむろに、ローティは石像の顔を手のひらで毟った。

 表面を削がれたそこには、生々しい皮を剝がれた人間の子供の顔があった。

 

「……ろぉ……し……」

 

 血の滲む石像の生身の唇が震える。

 殺して、と。この永遠の拷問を終わらせてくれ、と。

 

 考えるより先に、俺は行動に移していた。

 

 サイボーグの剛腕を持ってして、唐竹にその石像を粉砕した。

 血と骨と臓器、そして表面の石が部屋中に飛び散った。

 

「あはッ」

 

 だが、それこそ彼女の求めた反応だった。

 ぱちん、と指を鳴らすと、飛び散った肉片たちが逆再生したかのように完全に元通りの石像の姿へ戻った。

 

「すごいでしょ、これって私が死なない限りずっと壊れないんだ!! 

 人類の夢じゃん、永遠の命だよ。嬉しいだろ?」

 

 自慢のオモチャを見せびらかすように、無邪気にローティは笑っていた。

 俺は我慢できずに、ローティを抱きしめた。

 

「ローティ、もういい、もういいだ!! 

 もう、こんなことしなくても、お前はッ」

「私に優しくしてくれた砂漠の賢者様は言ったよ。

 ────この世界の誰もがお前に優しく無いのなら、お前が優しくする必要がどこにある、って」

 

 こいつは、いやこの子は、誰からも愛されなかっただけの子供だった。

 俺はこいつの所業を知ってたのに、どうしても憎めなかった。

 その理由を、ようやく理解できた。

 

「お前も私に優しくしてくれたから、私も優しくしてやるよ。

 これでわかったろ、私はそうしたいから、そうしているだけだって」

 

 何ゆえに、リェーサセッタ様が俺に彼女の事を頼んだのか。

 俺の天命を悟った。

 

 俺はあんな家業をしていたから、いつどんな死に方をしても仕方ないと思っていた。

 だけど、ようやく分かった。

 

 俺の、命の使い方を。

 

 

「魔王、いえローティ。

 あなたは人間が憎かったんですね」

 

「私の事を、知った風に言うな。

 たった一言で全てを片付けるな」

 

 そして、同時に俺は見た。

 

 勇者の、真の誕生の瞬間を。

 

 

「ようやく、私の運命を悟りました。

 私はあなたを止めるために神に選ばれたんですね」

 

「忘れたのか、預言なんてメアリース様の茶番だって。

 お前はただの負け犬で、私のオモチャなんだ」

 

 クラリスは透明な、全ての感情を置いてきたような表情で彼女を見ていた。

 そこには怒りや憎しみも、同情も無かった。

 

「じゃあお前にもう一つの予言を教えてやるよ」

 

 ローティはにんまりと笑ってこう言った。

 

「永遠に生きる砂漠の賢者様は私に予言した。

 自分と同じ魂を持つ私は、必ず不幸になる。

 愛した相手を、その手で殺すだろうって。

 ……言っただろ、お前を愛してやるって」

 

 こうなることは、どちらも初めから分かっていた。

 

「なら、あなたは私を殺せませんよ」

「ふーん。じゃあ試してやるか?」

「ええ、いよいよその時が来たと言うことです」

 

「クラリス」

 

 俺は立ち上がると、彼女を前にして言った。

 

「俺はローティの四天王として、お前の前に立ちはだかる。

 俺は俺の命をこいつに捧げると決めた。……いいな?」

「貴方はそう言うと思ってました」

 

 だけど、彼女は俺に微笑むだけだった。

 

「それでこそ、私が好きになった人です」

 

 ああ俺も。

 お前を好きになって良かったよ。

 

 

 

 

 

 

 

*1
拙作『オタク魔王は推しに斃されたい』の主要人物、ローティの姉。魔王一族の長姉。





次回から、掲示板を交えながらクラリスの四天王戦が進みます。
そしてローティの回想から彼女との決戦を予定しています。
ようやくここまで来れた、そう思います。

それでは、また次回。


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