疾走の馬、青嶺の魂となり (乾いた重水)
しおりを挟む

1.第3コーナーのその先で

前スペース用

 

 

 

「おっと一頭落馬! 一頭落馬! これは何が落馬したんでしょうか!? 

 

 ライスシャワー落馬! ライスシャワー落馬であります! 

 

 大波乱! 大波乱! 第3コーナーの下りであの、あの天皇賞では先行でわたったライスシャワーが落馬しています! 

 

 第3コーナーで大アクシデント! 第3コーナーで大アクシデント!」

 

 

 

 ───────────

 ───────

 ───

 

 

 

 ……妙に明るいな。

 ここはどこだ? 

 京都競馬場? いやいや、私はあそこで死んだのだ。そこにいるはずがない。

 

 

 じゃあ一体……? 

 

 

 周囲を調べようと、妙に見えづらい目で周囲を見ようとして──

 

 

 

「──!?」

 

 

 

 待て待て。

 

 

 何で私は仰向けに寝っ転がることが出来ているのだ!? 何でその姿勢で安定しているのだ!? 

 

 

 しかも困ったことに、体が思ったように動かない。

 

 

 兎にも角にもどうにか立ち上がらねば。

 前脚と後脚をこう上手いこと動かしてだな──

 

 

「──!!? ────!?」

 

 

 脚が──────白い。

 何より脚の先が5本に分かれている。

 待ってくれ本当に理解できない何があったの誰か教えて助けてぇ……

 

 

「ひっぐ……」

 

 

 待って何今の嘶きどうやって出したの私!? 

 

 

 お、OK、一旦落ち着け私。

 状況把握だ、状況把握をするんだ私。

 

 

 どうにかこうにか首を動かして自分の体を見る。

 

 

 白い体。

 妙に丸っこい四肢。

 5本に枝分かれした脚先。

 何よりそのヒトデ型の体型は────

 

 

 人間だ──!? 

 

 

「ああああああ──!?!?」

 

 

 

 すぐにデカい人間がカッ飛んできた。

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 いやぁしかし、死んだと思ったら人間の仔になっていたとは。

 実に奇妙なこともあるものだ。

 

 

 さて、私の前にいるこの人間。

 関わってきた人間が雄ばかりだったから自信がないが、おそらくこの人間は雌。

 普通に考えて私の母親に当たる存在であろう。

 これからよろしくお願いします。

 

 

 しかし、妙に気になる点が一つ。

 

 

 

 人間の耳ってそんな形だったっけ。

 

 

 

 なんか葉っぱを丸めたみたいな変な形だったと思うのだが、目の前の人間のそれは馬のそれと酷似している。

 

 

 人間の雌は馬のような耳になるのだったか? いやでも前世の記憶だったら雌雄共に変な形だったしなぁ……

 

 

 などと考えているうちに、人間が後ろを向いた。

 

 

 

 その尻には立派な尻尾が生えていた。

 

 

 

 

 ──ちょっと待て流石に人間に尻尾が生えてないことぐらいは覚えてるぞ! 

 

 

 

 

 待って? 本当にこいつ人間? 実は馬だったりしない? 

 いや絶対馬じゃねぇわなんなの君馬と人を混ぜたみたいな存在なの? 

 

 

 

 疑問が頭の中を濁流のように過ぎ去った後、ふと思い立ったことがある。

 まさかと思ったが、恐る恐る手を頭の横まで上げてみる。

 

 

 何もない。

 

 

 そのまま頭頂部へと──

 

 

 

 あったわ耳。

 

 

 

 次に、ほぼほぼ確信しながら尻のあたりまで手を動かして──

 

 

 

 あったわ尻尾。

 

 

 

 なんということだ。私も馬人だったのか。

 

 

 

 

 ?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????? 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 あの衝撃の時から暫く経ち。

 とりあえずなんとか立ち上がって数歩歩けるようになり、不明瞭ながらも言葉を発せるようになった頃。

 

 

 ──いやしかし人間の成長って本当に遅いな。立ち上がるどころか這いずって移動できるようになるまでもかなりの日数を要したぞ。よくここまで繁栄できたな。

 

 

 断片ではあるがこの世界について学ぶことができた。

 まず、私や母親のような人間は「ウマ娘」と呼ばれる種らしい。

 名前の通り、馬と人が混ざったような存在のようだ。

 馬のごとき速さと力。人のごとき知能と器用さ。

 なんと素晴らしい存在ではないか。

 なお、ウマ娘になったということは男から女になったということである。

 この時点で前世も今世も童貞が確定した。なんで。

 

 

 そして、これは動物図鑑を読んで(字はまだ読めないので絵を見ていた)気づいたのだが──

 

 

 

 この世界に馬は存在しない。

 

 

 

 どこかのタイミングで馬と人が混ざったのか、はたまた最初からウマ娘として存在したのか。

 それについては分からないが、ともかく馬及びその近縁種は存在しないらしい。

 

 

 では競馬は存在しないのかというと──

 

 

 これはいつだったか、両親とテレビ(人間が作ったなんかすごい箱)を見ていた時。

 画面に複数のウマ娘が映り、台の上に立った後、芝の上を走っていた。

 どこか見覚えのあるような景色だったのだが──

 

 

 その後のファンファーレの音で一気に理解した。

 

 

 間違いない! G1ファンファーレだ! ならばこれは競馬か!? 

 

 

 テレビから聞こえる「東京優駿」の単語。

 画面に映る東京競馬場の景色。

 

 

 ああ間違いない、これは日本ダービーだ! 

 

 

 ゲートに続々とウマ娘たちが入っていき、全員入った時──

 

 

 

 

 

 

 その後は一瞬だった。

 テレビから聞こえる歓声。抑えられない興奮。記憶の底から蘇る数々のレース。

 

 

 ──ああ、私もまたあの場所で走りたい。

 

 

 母親は、目を輝かせる私を見て「やっぱりこの子もウマ娘なのねぇ」と呟いていた。

 

 

 あの日のことは忘れられない。

 

 

 その後思い返して色々と考えていたのだが──

 出走していたウマ娘は齢14〜17と思われる。

 身体が完成するのがその辺りなのであれば、私があの場所に立てるのは当分先。

 それこそ私の前世の寿命を二倍しても足りない時間だ。

 

 

 ならば、今は人間らしく知能を鍛えるべきだろう。

 

 

 人間の脳みそというのは本当に素晴らしく、馬時代よりも遥かに物覚えがいい。

 せっかく人間として二度目の命と高度な頭脳を得たのだ。色んな知識を追い求め続けようじゃないか。

 

 

 きっと、人としても生まれたことに意味があるのであれば、知識を得ることがあの先へ進むための条件であるのならば。

 

 

 私が、こちらの世界でも「ライスシャワー」という名を得たのであれば。

 

 

 私が、世界が、そう望むので有れば。

 

 

 競走馬「ライスシャワー号」は──

 

 

 

 ──人間としても、馬としてでもなく──

 

 

 

 ──ウマ娘「ライスシャワー」として、再びターフを駆けよう。

 

 

 

 

 

 

下スペース用

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.好奇心は猫を……?

前スペース

 

 

 すごい。人間の脳みそすごい。

 いやもう信じられないぐらい頭に情報が入ってくるし素早く理解もできる。

 馬時代とは比べ物にならない思考速度。

 

 

 なるほど、これが成長が遅くとも地上の王足る所以か。

 実に素晴らしいものを手に入れたぞ。

 

 

 などと貪欲に知識を漁って数年が経ち。

 周りの人間からやれ天才児だの神童だのと揶揄われるようになってしまった。

 

 

 例え馬であっても前世という人格(この場合馬格か?)形成を既に経ているのだ。何も知らなければそりゃあ賢い子供に見えるだろう。

 

 

 あと知識を求めすぎたせいもあるかも知れない。

 だって…………どんどん覚えるの楽しいんだもん……

 そうやって覚えてたらめっちゃ褒めてくれるから余計に勉強しようってなるんだもん……

 

 

 私は悪くない。断じて。

 私を生まれ直させたこの世界が悪いのだ。ありがとう世界。

 

 

 両親も舞い上がったのか数学やらピアノやら英語やら色々と教えてくれた。めっちゃ楽しかったです。

 

 

 母親は特にレースについてよく語ってくれた。

 ウマ娘というのは馬よりも走りたいという欲求が強いのだろう。自分の娘が非常に賢かったら私だって競馬のコツやらなんやかんや教えていた筈だ。

 

 

 さて、レース関連の話を聞いたところ、どうやらレースに出るにはトレーニングセンター「学園」に行かねばならないらしい。

 まだ学校に行ったことがないのでどういう場所なのかよく分からないが、おそらく栗東トレセンとか美浦トレセンとかがウマ娘用に変質した場所だろう。

 

 

 と思ったがどうも違うらしい。

 中央競馬に当たる中央トレセンは一つのみ存在し、栗東や美浦は寮に変わっているようだ。

 栗東と美浦はかなり離れていたと思うのだが、何故かどちらも中央トレセンの近くにあるのだ。

 その栗東やら美浦やらは地名ではないのならば一体なんなんだ、と言いたくなったが黙っておくことにした。

 

 

 その中央トレセンだが、存在するのが中等部及び高等部(英名ではJapan Umamusme Training Schools and ”Colleges”であるため大学部も存在するようだが……?)、つまり小学校を卒業してからの入学となる。

 なんと生まれてから入るまで12年もかかるのだ。馬ならとっくに種牡馬入りして、なおかつその産駒が走っている頃だ。いやほんっっっと成長遅いな。

 

 

 それまでの馴致はどうするのかといえば、専用のクラブスクールに通うなり自分自身で鍛えるなどする必要がある。

 

 

 ちなみに、ウマ娘に騎手を乗せる訳には行かないので、当然レース運びは自分の頭で考える必要がある。

 レースの最後の方となると頭が上手く回らなくなるため、馬時代と比べて位置取りやスパートのタイミングがかなり難しくなっている。

 これを子供の脳みそに処理させるのはなかなかに酷なことだと思うのだが、これは馴致で頑張って鍛えるしかない。

 

 

 では今の内から筋肉を鍛えまくればいいではないかと思ったのだが、幼少期に鍛えすぎると筋肉によって成長阻害が起きるらしい。

 

 

 つまり今出来るのは基礎的な身体作り、知識収集、低酸素状態での思考回路強化ぐらいである。

 

 

 まあ知識収集全ツッパなのだが。まだ小学校にすら入っていないのに肉体を鍛える必要はないだろう。

 

 

 というわけで勉強頑張るぞー! 

 

 

 

 

 

 

 あと言い忘れていたのだが、この世界ではレースの後で何故か踊るらしい。

 

 

 本当になんで……? 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 しばらく経ったあと、親がPCをくれた。

 

 

 楽   し   い

 

 

 いやぁインターネットでの情報収集やらゲームやらが楽しすぎる。

 人間め、私がせっせと走っている間にこんなに楽しいことをやっていたのか。羨ましいぞ。

 

 

 ちなみにしっっっっかりとネットリテラシーも身につけたので問題は無い。何も面白そうだからとホイホイ突っ込んでいくほど弱っちい精神は持っていない。

 ちゃんと情報の真偽も複数のソースから確認している。

 どこかのサイトで見かけたヤバい人間とは違うのだ。

 

 

 とりあえずこちらの世界のレース映像を片っ端から見てレース勘を保ち続けている。

 馬時代は走るだけだったが、他者の目線からレースを見るというのは新鮮で、やはり興奮するものだ。

 

 

 それとウイニングライブ。

 初めはなんでする必要があるんだと思っていたが、見てみるとこれはこれでいいものじゃあないか。

 

 

 センターに立てるのが勝ったウマ娘だけというのも競争心を煽るようによくできている。

 

 

 ライブ映像にもどっぷり浸かってしまった。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 この世界でも、レースに勝つと賞金が貰える。

 ウマ娘は娯楽や酔狂だけで走っているわけではないので当然である。

 

 せっかくなので試しに前世の総賞金と比較してみようかとURA(前世のJRAに当たる組織らしい)のサイトから計算してみた所──

 

 

「──8おく8885まんえん……?」

 

 

 なんか前世よりもかなり増えてね? 

 しかも出走手当抜きでこの金額。

 前世は確か7億2949万7200円だったから、さらに+1億5000万強増えている。

 

 

 というか、一般人の平均生涯年収が3億に届かないぐらいだったので──

 

 

 

 ──前世通り頑張るだけで一生遊んで暮らせるじゃん。

 

 

 この日、私の走る理由が増えてしまった。

 

 

 

 

後スペース用



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.やっとこさ入学

 

 

いやぁ〜〜〜〜〜〜〜長かった。

ついに中央トレセンの合格発表日である。

発表数分前なので、トレセンの発表ページにF5アタックを仕掛けながら待機。

 

 

この日のために厳しいトレーニングを……いやそんなに厳しくなかったかも……

まあともかく色々やってきたのだ。

 

 

ただ無闇矢鱈に走るのは逆効果だろうとトレーナー(前世における調教師)用の分厚い本やら論文やらを読み漁り。

せっかくだからとトレーナー試験の過去問である程度の点数が出せるまでは粘って(今思い返してもあの試験の難易度はイカれている。合格最低点の半分すら届かなかった)。

取り敢えずあの坂路バカの真似をして毎日山をランニングし。

水泳が身体を痛めづらく、かつ心肺機能を鍛えると実に良さそうなのでスイミングスクールで鍛えて。

地元で開催されている草レースに参加して競馬の感覚を取り戻しつつ。

息抜きのための娯楽及び忍耐力向上としてフ◯ムゲーのトロコンを行い。

 

 

苦節n年。

その結果がようやく出てくるのだ。

 

 

──ただいくら頑張って食事量やら栄養バランスやら睡眠時間やら調節しても身長が150cm行かずに成長止まったのは嘆くしかない。

こんなところまで前世通りじゃなくていいから!

 

 

そうそう、受験会場であったことを記しておく。

 

 

一応中央を受験したのだ。もしかしたら知っている馬だったウマ娘がいるかもしれないと若干の期待を寄せながら会場へ向かったのだが、その道中にて

 

 

「バクシンバクシンバクシ〜〜ン!!!!!」

 

 

とウマ娘専用レーンを爆走してるヤバいのがいた。

 

 

……いやもうバクシンとか言ってる時点で絶対サクラバクシンオーじゃん。

案の定少し先でスタミナ使い果たして転がってたし。

私とは主戦距離が異なるのであまり詳しいことは知らないのだが、短距離レースでは尋常ではない強さを誇ったらしい。

ステイヤーで良かったと心の底から思った。

 

 

その後、会場にいた受験生の中でやたらムッキムキな奴を見かけた。

もしやと思ってよく見てみたら、Tシャツにデカデカと「HANRO」と書いてあった。

そうですね、例の坂路バカでございます。

ダービーでコイツに負けたの未だに悔しいなぁ……

 

 

取り敢えず偶然を装い適当に会話して、本人(本馬?)であることが確定した。

……なんかロボットみたいな口調になってて若干困惑したが。

君、馬の時は全然そんな性格じゃなかったよね……?

あと、自分の名前を伝えた時に一切の動揺が見られなかったことを確認した。

追加で前世のことをそれとな〜〜く言葉に含ませてみたのだが、やはり反応は無く。

前世の記憶を持ち越したのはやっぱり私だけなのか、と若干落胆してしまった。

 

 

後は特に何もなく筆記試験やって実技試験やって面接やって終わり。

ただ、面接官が幼女だったのはすごいビックリした。

何で幼女が面接官なんだと思ったが、まさかの中央の理事長であった。

……あの見た目で成人してるの?マジで?

 

 

面接の時に、自分の夢を聞かれたから正直に回答したら目を見開かれたのが若干気になるところ。

別に「勝ちたいのはもちろんだが、何より最後まで走り切るのが一番だ」という旨を伝えただけなのだが。

 

 

いろいろ懐古しているうちに発表時刻数秒前である。

 

 

ページ更新!いやサイトおっっっっも!

 

 

 

 

──やっと繋がった。えーっと私の番号はっと……

 

 

 

合   格

 

 

 

 

当たり前だろ死んでもG1三勝馬だぞ落ちるわけねぇだろ!

 

 

ひとまず両親に合格を伝えて安心させ、とっとと入学手続きに入る。

 

 

さて、寮はどうしようか。

前世通り美浦でもいいのだが、そこまで変わりがないのなら栗東でもいいような気もする。

正直どちらでもいい。

 

 

迷ったのでコインを放り投げる。

結果は美浦。

というわけで今世も美浦です。お世話になります。

 

 

やることも無くなったので、Ste◯mでプ◯ムンとかカプ◯ンのゲームでもやって入学までの時間を潰すとしようか。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

さて、今世での全体の目標を定めよう。

最低限の目標として、前世に劣る戦績を取らないというものにする。

 

 

追加の目標としては

 

・芙蓉S後、および6歳時*1春天前の骨折回避 

・オールカマー後の低迷期を無くす

・7歳宝塚で死なない

 

を取り敢えず設定。

上2つを達成すればまず間違いなく最低限は超える。

 

 

ここで迷うのがダービー及び菊花賞。

前世ではダービー2着、菊花1着だった。

このままではつまらないので、折角なので変えてみようと思う。

今現在考えているプランとして

 

・ダービー及び菊花にてミホノブルボンに勝利する

・菊花までは目立たないように重賞への出走を控えて、菊花で伏兵として無敗三冠をぶち壊す

 

の2つを考えている。

 

 

──面白いことになるのは絶対に後者なんだよなぁ。

無敗三冠を見ようと詰めかけた数多の人間の前で「三冠逸おめでとうございまぁぁぁす!!」するのとか絶対楽しいじゃん。

多分ブーイングの嵐が起きるが知ったこっちゃない。私の娯楽が最優先だ。

ついでに言えば、ヒール呼ばわりはとっくに慣れてるから問題無し。

どうせならヒール街道突っ走って行こうじゃぁないか。

 

 

というわけで後者決定。ミホノブルボンと観客には涙を飲んでもらおう。

 

 

 

 

────こんなこと考えてないで引っ越しの準備しろよ私。

明日には荷物全部美浦寮に送らないといけないんだぞ。

取り敢えず真っ先にそのHELL◯INGとジョ◯ョ全巻セットをダンボールにぶち込め。途中で読み始めたら悲惨なことになるぞ。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

入学式も顔合わせも終わり、自分の寮室に戻ってきた。

まさか生徒会長が式辞にクッソ寒いダジャレ仕込んでくるとは予想していなかった。マジかよ皇帝。

 

 

寮の同室は何年か上の先輩だった。

感じのいい人で寮とか学園について色々と教えてくれた。

自分で言うのもなんだが、私は可愛らしい見た目をしているのでそれもあるかもしれない。

なぜか私の漫画セットを見た時に顔が引き攣ったが。

別に変な本を読んでいるわけではないのに、全くもって心外である。

 

 

さて、この学園で非常に感動したことがある。

カフェテリアだ。

まず食べ放題。非常にありがたい。

そして何より、IDを読み取らせることで注文した料理の栄養素をwebで確認できるのだ。

流石スポーツ専門校。お陰でカロリーやらタンパク質のバランスやらの計算が大変やりやすくなりました。

もうこれだけで中央に来た甲斐があると言うものだ。

 

 

そうそう、料理で思い出した。

 

 

 

 

──人間テメェ肉も米もクッソ美味いじゃねぇか!

何で馬時代は草ばっかり与えたんだよ!

 

 

雑食動物である人間の身体を持てて本当に良かった。

 

 

まあ、ともあれ念願の中央トレセンに来たのだ。

本格化が来るまでは教官の下で程々に鍛えておくとしよう。

 

 

 

あと

 

*1
旧年齢表記



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.何だお前!?

 

 

トレセンに入学して数ヶ月が過ぎた。

とはいえトレセンで特筆すべきことなどは特に無く。

授業受けて合同トレーニング受けて自主トレしての日々を送った。

 

 

授業に紛れて工作は行ったが。

別に怒られるようなことでは無く、美術の時間に競走馬の絵を描いただけである。

先生に聞かれた時は適当にはぐらかしたが、これは私以外にも前世持ちのウマ娘がいないかどうかを確かめるためである。

書写は得意だったのでかなり本腰を入れて描き上げ、その結果無事に美術室前に飾られることとなった。

作者名も付記してあるので、もし前世持ちがいたら私に接触してくるだろう。

……私の他にもいてくれたら嬉しいな。自分だけというのはなかなかに孤独なものなのだから。

 

 

ちなみに同室の先輩だが、ついに先日GⅢを勝利した。

これが初めての重賞勝利とのことだったのでそれはもう盛大にお祝いした。

自分が重賞をかなり勝っていたから感覚が麻痺しているが、中央というのは7割近くのウマ娘が未勝利戦を突破できずに終わるような世界である。

そんな中で重賞を勝つというのはとても素晴らしいことなのだ。

この調子で勝ち進んで欲しい。

 

 

今の私の状態だが、まあ当たり前ではあるが本格化の兆候はない。

今はマックイーンの世代がクラシックの時期なのでデビューは来年になるだろう。

それまでは普通に学園生活を送るとしよう。

 

 

──と思っていたのだが、計画に若干の修正を加える必要が出てきた。

理由としては、レースの変化である。

レースの主な変化としては、ジュニア期にホープフルステークス(GⅠ)が追加、シニア期の大阪杯がG1に昇格など。

私に関係があるものとすれば、3歳時に走った新潟3歳Sが1200mから1600mに、芙蓉Sが1600mから2000mに距離延長。

4歳時のNHK杯が廃止。

といった具合。

 

 

これらの影響により、ミホノブルボンの出走予定の正確な把握がやや困難になった。

別に馬時代に出走したレースが変わる、ということではない。

新設されたレースに追加で出走する、ということが大問題なのだ。

過去のレース結果を見ていると、何人かのウマ娘の勝ち鞍が馬時代よりも増えているのだ。

また、レース場や距離変更があったレースでは、当然ではあるが出走したウマ娘が馬時代とは異なる、というのもかなり面倒くさい。

もしもブルボンが余計なレースに出て、そこで負けて無敗じゃ無くなりました、なんてことになったら折角のお楽しみが消えてしまう。

 

 

頼むから前世通りダービーまで全勝してくれ。そうしたら心置きなく菊花賞でぶっちぎれるから。

 

 

一方、変化しなかったレースは前世通りの展開になるのかという点に関してだが、こちらに関してはおそらく心配しなくても良いだろう。

シンボリルドルフが皐月で斜行やらかしても、降着せずに無敗三冠を達成していたのが一応の根拠となる。

 

 

幸いにも菊花賞は何の変更もないため、まあ安心して大丈夫だろう。

重賞にあまり出ないと決めたため、そこまでのレースに関しては自分で決めなければならず、展開も当然わからないが。

取得賞金が足りなくて菊花賞に出られませんでした、なんてことにはならないように気をつけなければ。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

やることも無くなって校内をぶらついていたある日のこと。

そういえば今日は選抜レースが開催される日だったな、と思い出して会場に足を向ける。

 

 

会場はなかなかに盛況で、ウマ娘をスカウトせんと若干ヤバい目つきで見るトレーナーや、友人を応援しにきたウマ娘、はたまた自分の参考にしようと必死になってレースに食らいついて見るウマ娘などでごった返している。

 

 

人混みを避けて4角のあたりからレースを見ることにした。

 

 

 

──ああもうそこで仕掛けちゃダメだって。前離れてて焦るのはわかるがありゃあ垂れる。

だからもう少し経ってからじゃないと……ほーらお前も垂れた。何やってんのもう。

でも別のあいつはよく展開見てたな。流れに惑わされずに脚溜めてたわ。

……はい、無事に差し切って勝利。あの子は伸びるな。今後も頑張れ。

 

 

 

などと後方競馬厨面して観戦していたら──

 

 

「ほぉう、いいトモだな……ちゃんと鍛えられて美しく締まっている……こりゃ天性のステイヤーの脚だな……」

 

 

突如オッサンに後ろからトモを触られた。

 

 

え?は?何してんのコイツ?

 

 

しばらく硬直してしまった。マジで何してんの?

その間にも男はブツブツいいながら脚を撫で回している。

するとウマ娘が3人走り寄ってきて──

 

 

「「「オラァ!!」」」  「へぶっ!?」

 

 

哀れオッサンはウマ娘3人に蹴り飛ばされてしまった。

しかし男は何事もなく起き上がった。クッソ丈夫だなお前。普通馬に全力で蹴られたら死ぬぞ?

 

 

「コイツま〜た勝手にウマ娘の脚触ってんじゃねぇか!何回目だよお前!」

「トレーナー、そろそろ良い脚見かけたら触りに行くのやめたらど〜お?」

 

 

3人のうち鹿毛とデカい方の芦毛の2人が男に詰め寄って行った。

ていうかこの男トレーナーだったのか。じゃあ問題ないな。調教師は普通に全身触ってたし。

残った小さい方の芦毛が申し訳なさそうな顔でこちらに来た。

 

 

「大変申し訳ありませんでした、うちのトレーナーが粗相を働いてしまって……」

「いえいえ大丈夫ですよ、テキの方ならこういう事もあるでしょうし」

「たとえトレーナーでもダメですわよ」

 

「おいトレーナー、あの子に敵呼ばわりされてるぞ。とっとと土下座した方がいいんじゃね〜のか?」

「いやテキっていうのはトレーナーの別の言い方であってenemyの方の敵じゃねえから」

「でもやったことは敵そのものだろ」

「それは……まあそうなんだが……」

 

 

別に脚を触られたぐらいで何を大袈裟な、と思ったが自分が馬ではなくウマ娘であることを思い出した。うん大袈裟でいいわ。

やはり馬の記憶があると周囲の常識と若干のズレが生じてしまうな。これは前世持ちの数少ない欠点といったところか。

 

 

「いやその……さっきはすまなかった」

「いえいえ全然気にしてませんから大丈夫ですよ。

 

 

……ちなみにどこか修正すべき所ってありますか?」

「いや、上手く鍛えられているから問題はないぞ。せいぜいほんの僅かに重心が右に寄っていることと上半身が若干下半身より鍛えられてないことぐらいだな」

「成程」

 

 

「……え、本当に気にしてないの?」ボソボソ

「痴漢してきた相手によく聞けますわね……」ボソボソ

 

 

……おいそこの3人、何故そんな目で私を見る。

足を触られたのだから、別に自分の状態を聞くことぐらい要求してもいいではないか。

 

 

「……それで、トレーナー、えーっと……触りに行ったってことはそれなりの才はあるってことなんだよね?」

「おう、コイツはステイヤーの才能の塊みたいな脚を持ってる。それこそマックイーンやゴルシ並みにな」

「……本当ですの、それ?」

「ああ、間違いねぇ」

 

 

おい待てトレーナー。今マックイーンって言ったか?

マジで?じゃあこのデカい方の芦毛がマックイーンなの?まあアイツデカかったしな。

ゴルシについては名前を聞いたことはないが、鹿毛か小さい方の芦毛かのどっちかだろう。

 

 

「マックイーンって、メジロマックイーンさんのことでしょうか?」

「はい、私がメジロマックイーンですわ」

「……!?」

 

 

小柄な方だった。

……お前そんな上品な奴だったっけ?

もっと面白おかしい奴だったと記憶しているのだが。

 

 

「同じステイヤー同士、いずれ春の天皇賞で戦う時が来るかもしれませんわね。

……ですが、天皇賞の盾は私の使命。到底譲るつもりはありませんわ」

「……え、ええ。こちらも全力で立ち向かおうと思います」

 

 

……OK、何とかまともな返答ができた。

いや、まあ、その。

 

 

 

 

──お前絶対そんなキャラじゃなかっただろ!!!

使命という言葉から滅茶苦茶離れた場所にいるような奴だっただろお前!!

私知ってるからな、お前春天のファンファーレ聞いた瞬間「うっわ今日長い奴じゃんめんどくせぇぇぇぇ」ってやる気無くしたの見てたからな!!

引退後に主戦騎手が会いに行ったらまた走らされると思って逃げ出したの知ってるからな!!

……普通に考えて、そんな状態で2着に食い込むあたり本当に強かったんだろうけど。

こっちの世界だと性格が大きく変わった奴が多くて困惑する。

 

 

やがてトレーナーがこちらに向き直り、口を開いた。

 

 

「そういえば名前を聞いていなかったな。教えてくれるか?」

「ライスシャワーです」

「OK。さてライスシャワー、俺はチーム『スピカ』のトレーナーをやっている者だ。お前の才能を見込み、是非スカウトしたい」

 

 

……ふむ、どうしようか。

この男やチームに関しては何も知らないのだ。

しかし、マックイーンが所属しているというだけでかなりの有能性を感じる。

先程も私の脚を見ただけでいいトモだと判別し、その後ちゃんとステイヤーとしての才能を見抜いてきた。

何より、中途半端な知識で自主トレを続けるよりも本職のトレーナーの下指導を受けた方がいいに決まっている。

というわけで答えは一択。

 

 

「では、そのスカウトを受けます」

 

 

チームメンバーから歓声が上がった。

鹿毛が早速駆け寄って来た。

 

 

「ボクはトウカイテイオー! これからよろしくね!」

「はい、よろしくお願いします」

「も〜、そんなカタくなくてもダイジョーブだよ〜」

「……うん、わかった」

 

 

トウカイテイオー。無敗三冠馬シンボリルドルフの産駒。

前世では2度、どちらも有馬記念で競った相手だ。

まあ1回目はどちらも悲惨だったが。私が8着でテイオーが11着。ひっでぇ結果だ。

確かその時の勝ち馬がメジロパーマーだったはず。

……そういえばパーマーって春秋グランプリ連覇してたな。いいこと思いついた。

それはそれとして、2回目ではトウカイテイオーが1着で私が再びの8着。

ついでに言えばナイスネイチャの3回目の3着でもある。

あの頭のデカくて白いビワハヤヒデが2着だったが、コイツ滅茶苦茶調子悪そうだったんだよな。弟は三冠馬だし兄弟揃って滅茶苦茶強かったな。

この時はトウカイテイオーも1年振りのレースだったのに勝ちやがったので大概バケモンだが。

このチーム、マックイーンに加えテイオーもいるとかちょっと強すぎないか……?

 

 

「アタシはゴールドシップ!趣味は蒙昧の字を書きながら未来を考えること!特技は美術館での人探し!好きなものは三角定規のレバ刺し!これからもよろしくな!」

「よ、よろしく……?」

 

 

ダメだ、このデカい方の芦毛からは関わっちゃいけない香りがすごいする。

ゴールドシップに関しては聞いたことがない。

ゴルシはゴールドシップの略称だろうか。

先程トレーナーが、「ライスシャワーはゴールドシップに並ぶ才能を持つ」と言っていたのでおそらくコイツもなかなかに強いのだろう。

 

 

……私が入ったことにより、このチームにG1級の実力を持つウマ娘が4人集まったことになる。

強すぎないか?前世は厩舎に一頭でも重賞馬がいればいい方だったぞ……?

 

 

「では改めまして、メジロマックイーンですわ。これからよろしくお願い致します」

「……はい、よろしくお願いします」

 

 

メジロマックイーン。説明不要。

 

 

──やっぱ慣れねぇよコイツが上品な言葉使うの!

もっとはっちゃけて欲しい。ゴールドシップと性格入れ替えたらいい感じになるんじゃないか?

そうそう、春天では覚悟しとけよ。前世より馬身差つけてボッコボコにしてやるから。

 

 

その後、チームの部屋に行こうという話になり、場所を案内してもらっている時に、テイオーがポロっと、

 

 

「新しい子をスカウトするために選抜レース見にきたのに、結局レース走ってない子をスカウトすることになっちゃったね〜」

 

 

と口にした。

……そういえば選抜レースの会場だったな、あそこ。

まあ見た感じあそこで走ってる連中よりも私の方が強いし、このチームにとって最善の結果になったんじゃなかろうか。

チームメンバーが中長距離に偏っていることからトレーナーの得意な育成が長距離というのは判断できるし、私にとっても最善である。

早めにこのチームに入れたのは実に運が良い。

 

 

これからはチーム『スピカ』のメンバーとしてトレーニングを積むとしよう。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.どこ行くねーん

アニメを全速力で履修中のため、もしかしたら間が空くかも知れません。


 

 

 

 スピカでのトレーニングにも慣れてきた頃。

 トレーナーの指導はガッチガチに組み上げられたというものではなく、ある程度は自主性に任せたトレーニングを行わせるといったもの。

 

 

 本格化が来ていない現時点では、肉体よりも技術的な面に重点を置いてトレーニングを行なっている。

 ゲート訓練だったり展開予想であったり。

 

 

 あとはウイニングライブの練習。今のうちに歌詞だけでも覚えておいた方がいいとのことだったので、チームメンバーでカラオケによく行った。

 しっかしトウカイテイオー歌上手かったなぁ。普通に歌手としても大成できるんじゃなかろうか。

 テイオーが時折見せるクソガキムーブは微笑ましい顔で見ていたが。

 コイツのダービーからどう変わっていくのかを知っているからだが。トウカイテイオーの成長を近くで見られるというのもこのチームに入った利点だろうか。

 ただ、骨折の可能性を忠告しておくべきなんじゃないか、という思いもある。

 しかしあの挫折を経験しないと成長しなさそうだよなぁ……

 と、いろいろ知っているからこその保護者面をしてしまう。

 前世じゃ一個年上だったはずなのだが……

 

 

 技術トレーニングで後一つやってみたいことがあるのだが、相手にテイオーしか取ることができず、そのテイオーはハチミツで腹を壊したため現在できない。

 別にテイオーでなければならないというわけではないのだが、マックイーンにはまだ手札を喰らわせたくないし、ゴールドシップに関しては脚質が追い込みのため不可能。

 というわけでダンスレッスンを行っている。

 

 

 ──ところで、うまぴょいって何なの? 

 

 

 

 

 そうそう、マックイーンはやはり面白いやつだった。

 野球とスイーツに関してはなかなかに愉快なことになるのだ。

 

 

 まず野球。

 最近は「どういうわけか」死んだ魚のような目でテレビを見ている時間がある。

 口からちょっとここに書けないレベルの罵詈雑言が漏れ出ていて本当に面白かった。

 さらに、「何故か」334という数字に過剰に反応するのだ。

 ボソっと呟くだけで耳を忙しなく動かす様子は実に愉快だった。

 

 

 次にスイーツ。

 コイツ、甘いもの好きなくせにすーぐ太るからあまり食べられないらしい。

 普段からケーキ屋のチラシを見て涎を垂れ流したり、街中のスイーツショップの匂いにふらふら釣られたり。

 この間、カフェテリアでの食事の時テイオーと一緒にマックイーンの目の前でメロンパフェを素知らぬ顔で食べてやったところそれはもう笑えr悲痛な表情を浮かべていた。

 美味しゅうございました。

 

 

 今度チームの部屋でチョコアイスでも食べようか。特に深い意味は無いが。ええ、決して。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 無事にテイオーが腹痛から還ってきたので、並走トレーニングを依頼する。

 なお、当の本人は懲りずにハチミツドリンクを飲んでいる。

 どんだけ好きなのアレ。ていうかそこそこの値段したよね? どっから金出てるの? 

 ──いや、本人は出さないが所々に育ちの良さが垣間見える時があった。

 なんか「じいや」とかいう不穏な単語を口にしていた気もする。

 前世的に考えて、メジロ家はメジロ牧場の反映。

 じゃあテイオーは何なんだと思ったが、おそらくパーソロン系の影響だろうか。

 じゃあこっちでもテイオーとルドルフは親戚だったりするのだろうか……? 

 でもそれだったらテイオーがカイチョーカイチョーと鳴かずにもう少し親しげな呼び名になるはずだよなぁ……

 

 

「お〜い、ライス〜? 聞こえてる〜?」

「…………あっ、ごめん。考え事してた」

 

 

 テイオーの声で思考の底から浮上する

 マッタクモー、ナニヤッテンノサーとテイオーに言われてしまった。相変わらず半角カナが似合う声だ。

 

 

「……ちなみに、何考えてたの〜?」

「ええっと……」

 

 

 さて、これは言ってもいいものか。

 ……別に親戚関係を聞くぐらいなら問題はないか。

 

 

「……テイオーとシンボリルドルフさんって親戚だったりする?」

「なんで急にそんなことを……え〜っと、まあ一応……? でもかなり離れちゃってるから親戚とは言い難いかなぁ……」

「へぇ……」

 

 

 遠い親戚。

 まあ妥当なラインだろうか。本当に前世通りだったら近い血縁関係をもつウマ娘が千人を超えてしまう場合もあるし。

 大種牡馬というのは大変だなぁ……

 

 

「ていうか、マークの練習でしょ? 早く始めようよ!」

「そうだね。じゃあコースは2000m右回りで」

「オッケー! まあどんなに長くても逃げ切っちゃうモンニ!」

 

 

 そう、やりたかったのはマーク練習である。

 マックイーンを相手にできなかったのは耐性をつけさせたくなかったからだ。

 

 

 さて、本格化が来たテイオーと、まだ来ていない私。

 もちろん簡単に差せるとは考えていないが、まあテイオーの鼻をへし折るぐらいは目指したい所。

 

 

 スタート位置に着き、合図として空のペットボトルを投げる。

 地面についた瞬間、同時にスタートを切った。

 位置取りは、もちろんテイオーの後ろ。

 スリップストリームの利益を最大限受けられるように位置を調整し、テイオーに圧をかけ始める。

 

 

「……っ」

「…………」

 

 

 若干テイオーが加速する。それに合わせて、いやそれ以上に加速し──

 

 

「……!?」

 

 

 ぴったりとテイオーの後ろに張り付く。テイオーが跳ね上げる泥が容赦なく身体にかかるが、完全に無視してさらに圧を強くする。

 

 

「……っ! …………ッッ!」

「…………」

 

 

 テイオーもここまで来るとは予想していなかったのか、若干ブレが生じ始める。

 そのブレを見極め、適切なタイミングで足音や気配によるフェイントをかける。

 内から抜くぞ、右に行くぞ、後ろに下がるぞ。

 時には歩数を調整しテイオーと同じタイミングで足をつけるようにし、唐突に気配を消す。

 一瞬できた意識の隙間を狙い、また一気に圧をかける。

 様々に翻弄しながら進めていき──

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ、…………ああっ!」

「…………ふっ!」

 

 

 テイオーの体力がかなり消耗したタイミングで抜かす。

 そのまま差を開けてゴールイン。

 数秒してから、息も絶え絶えなテイオーがゴールに辿り着いて、そのまま地面に倒れ込んだ。

 しばらくテイオーが息を整えて、ようやく口を開く。

 

 

「なに今の!? メチャクチャ走りづらかったんだけど!? ていうか近すぎでしょ!? 急に消えたと思ったらいきなり出てくるし! どこで覚えたのそんなの!?」

「だってそういう練習だし……」

「ワケワカンナイヨ-⁉︎」

 

 

 どこで覚えたのかは勿論言えない。覚えたというより教えてもらったの方が近いが。騎手の方、本当にありがとうございました。

 しかし、マークが無事に上手く出来て何よりだ。

 折角だからと追加で色々やってみたが効果はかなり大きいようだ。

 もう少しブラッシュアップしてより理不尽にしていきたいところ。

 今はテイオーが使い物にならなくなってしまったので、また後日になるだろうか。

 ゴルシがせめて先行できたらよかったのに。

 ……いや、ゴルシは得意なのは追い込みと言っていただけで、もしかしたら先行や逃げもできるかもしれない。

 ちょっと探してくるか。

 

 

「……えっ、ちょっとどこ行くの!?」

「ゴールドシップを探しに」

「えっなんで…………待って同じことやるの!? ていうかゴールドシップって逃げか先行って出来たっけ!?」

「させる」

「怖いよ!?」

 

 

 

 

「むっ、ゴルシちゃんセンサーが逃げろと言っている。マックちゃんちょっと席外すわ!」

「どこに行くんですのゴールドシップ! 待ちなさい! 私のプリンを返してくださいまし!」

 

 

 

 

 ──遠くからマックイーンの声が聞こえる。

 どうやらゴールドシップを追っているらしい。

 つまりそこにゴールドシップがいるのだ。

 というわけで声のする方へ向かうと……

 

 

「あっ、ライスさん! ちょうどいいところに! ゴールドシップを捕まえてくださいまし!」

 

 

 何故か怒り心頭のマックイーンと合流した。

 そして少し先にはゴールドシップが。

 実にちょうどいい。このままマーク練習もさせてもらおう。

 

 

「……! よおライス! 実は今……ヒイッ!」

 

 

 初っ端から圧を全開にして追尾開始。

 状況も相まっていい練習相手になりそうだ。

 

 

「な、何でそんなにコエエんだよライス!? うわぁっ無言でこっちに来るんじゃねぇっ!」

 

 

 ゴールドシップがすぐさま逃げ出す。

 別に殺して食うわけでもないのに大袈裟な。ただマークの練習をしたいだけなのに。

 ゴールドシップが逃げ道上の物体で妨害してきたり、曲がり道の多いルートを通ったりするが、強引に押し通る。

 

 

「う、嘘だろぉ!?」

「…………」

 

 

 どんどんと距離を詰めて、そのままゴールドシップに張り付き続ける。

 

 

「ひいいいいいいいいいいいいいい!!」

「……………………」

 

 

 ゴールドシップは果敢にも逃げ続け、体育館を通り、カフェテリアを通り、etc………………

 

 

「誰かたすけてぇぇぇぇぇぇ………………!」

「………………」

 

 

 

 やがてテイオーのいるコースまで来た。

 

 

「テ、テイオー助けてくれよぉ! なんかめちゃライスが追っかけてくるんだけどぉ!」

「うわぁ、本当にやったんだ……」

 

 

 ほとんど泣きそうになりながらテイオーに泣きつくゴールドシップ。そのままテイオーの後ろに隠れるように姿勢を変える。

 テイオーは諦めたような、哀れむような目でゴールドシップを見た。

 ガタガタと震え涙目でこちらを睨むゴールドシップに、なにも怖がる必要はないと示すために、朗らかな笑顔で優しく声をかける。

 

 

 

 

「ゴールドシップさん、今マークの練習をしてるんだけどね、あと3本ぐらい付き合って欲しいの」

 

 

 

 

 ゴールドシップとトウカイテイオーは抱き合って震え上がった。

 

 

 後にゴールドシップは、「ライスシャワーは恐ろしい鬼だ」と語ったとか語らなかったとか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.夏合宿前の掌編集

遅刻しました
アニメですが、やっとスペの宝塚まで見れました。
もっと急がねば


 

 

 

 1.猛暑

 

 

 蝉の音が響きだし、夏の訪れを感じる頃。

 つまり、外でのトレーニングが辛くなる季節である。

 馬は暑さに弱いのだ。ならば当然ウマ娘も然り。

 

 

 ここが田舎で標高が高いところであればまだマシだっただろう。

 しかし、残念ながらトレセン学園は東京の府中にある。

 流石ヒートアイランド現象、クッッッソ暑い。だるい。とける。しぬ。すずしいところにいたい。あいすたべたい。めじょまっきーんかってきて。

 暑さのせいで思考もだるだるに融けている気がする。

 

 

 そうだ、コース場の上をドームで囲って空調を利かせればいいんじゃないんだろうか。

 そうすれば豪雨でも練習できるし。日差しもカットできて素晴らしいじゃないか。

 あの理事長に言えばやってくれるかもしれない。ポケットマネーで色々やってくれたし。

 いやでも流石にだめかな……どうかな…………

 

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……………………」

「……ライスシャワーさん、完全に暑さにやられてしまっていますわね…………」

「あれじゃあもうお米というかお粥なんじゃないかなぁ……」

 

 

 粥どころではない。もはや重湯のレベルなのだ。

 あの眩し過ぎる太陽をどうにかしてくれ。日差しが強過ぎる。

 

 

 ん? 太陽……太陽神……ヘリオス…………

 

 

 

 つまりダイタクヘリオスを[自主規制]すれば涼しくなるのでは? 

 

 

 

 そうと決まれば話は早い。早速──

 ……あぁぁ、その気力すら起きない。誰か代わりにやってきて。

 

 

「ライスの目がなんかヤバげな感じになっちゃってるよ!? 本当にアレ大丈夫なの!?」

「……とりあえず首筋と脇下と内股を冷却しましょうか。血液を冷やせば多少はマシになるはずですわ」

「あんなに暑さに弱くて夏合宿大丈夫かなぁ……」

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 2.期末考査

 

 

 前期末考査が無事に終わった。もちろん補習は回避。

 サクラバクシンオーは悲惨なことになっていたが。頭バクシンとは正にこのことか。

 彼女を指導する先生方はさぞかし苦労する羽目になるだろう。なんとか頑張って支えてほしい。

 

 

 全教科返ってきたので、そろそろ順位が発表される頃である。

 幼少期から知識を身につけまくったのだ。国語の記述で少しだけ減点を食らったが、それ以外は満点なのでまあ1位だろう。

 そもそも中1レベルなのだからこの程度当然ではあるが。

 

 

 数日後、順位表が掲示されたとのことなので早速見に行く。

 

 

 

 

 

 第一学期期末考査・中等部第一学年

 五科目総合(500点満点)(上位50名)

 

 

 

 1位  キョウエイボーガン 500

 2位 ライスシャワー   496

 3位 ミホノブルボン   487

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ……………………は? 

 

 

 …………………………………………は??? 

 

 

 キョウエイボーガン? え? は? 

 え、アイツ? 菊花で破滅逃げしたアイツ? アイツに負けたの? しかも満点? 

 

 

 はああああああああああああああ???? 

 

 

 え、キョウエイボーガンってそんな賢そうな奴だったっけ? 

 これもウマ娘化の影響なの? 天才に変わるパターンもあるの? 

 

 

 …………いや、ミホノブルボンも3位まで食い込んでいるな。ミホノブルボンも馬時代はそこまで賢くなかったはず。それがこの結果なのだ。

 そうなのか、ウマ娘化で極端に頭が良くなるパターンもあるのか。

 これは素直に羨ましい。前世持ちだとどうしてもそこを土台として発達するのだ。

 元から賢い奴は賢い土台から始まるのでそのような人は私よりも有利なのだ。

 

 

 ──いや、これは言い訳か。より解答の正確性を詰めなかった私のせいだ。

 二学期末は絶対満点取ってやる。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 3.合宿準備

 

 

 夏合宿が近づいてくる。

 合宿場所はメジロ家提携の練習場付き旅館。なんとプライベートビーチも付属している。

 流石はレース界の名家、これがお金の力か。トレーナーも予算が浮いたと大喜びしていた。高級旅館にタダで泊まれるという理由もきっとあるだろうが。

 

 

 メジロ家が気前良く貸してくれた理由は、今回の夏合宿の主目的がマックイーンにあるからだ。

 マックイーンは現在一勝クラス(500万下)。春天への足掛かりとなる菊花賞を視野に入れつつ、9月の函館で一勝クラス突破を狙って行く。

 

 

 副目的はトウカイテイオー。デビュー戦は12月にすることになったので、やや遠いがこちらもしっかりとトレーニングを行う。

 私とゴールドシップは本格化がまだの為、2人のアシストもしながら基礎作りを行なっていく。

 

 

 さて、現在は合宿に持って行く荷物の用意である。

 トレーニング機材は貸し出してくれるとのこと(何とトライアスロン用の服まで貸してくれるようだ)なので、各々私物を準備することになる。

 

 

 とはいえ特に何も無いが。私服とPCとタブレットぐらいのものだろう。

 そんなわけで適当に詰め込んでいたのだが──

 

 

「…………ライスちゃん? ええっと、夏合宿の準備……だよね?」

「? はい、そうですが……」

「……水着、持って行かないの?」

「はい、トレーニング用の水着は向こうが用意して──」

「そうじゃなくて! プライベートビーチついてるところ行くんでしょ!? 私的な水着って持ってないの!?」

「学園指定のものだけですけど」

「それで行く気だったよね!? ぜっっったい、ダメ!!! ああもう、明日空いてるって言ってたよね!? 可愛いやつ買いに行くよ!」

「え、いや、でも、別にそんな──」

「いやもでもも無い! ていうかライスちゃん普段着も可愛げがなさ過ぎるよ! Tシャツとジーパン以外見たことないよ!? ついでに買いに行こう!」

「え、ええ…………」

 

 

 というわけで服屋に連行されることとなった。

 あと決してTシャツとジーパンしか持っていないわけではない。ゲーセンに行くときのためのもっと動きやすいズボンもある。上は知らん。

 まあ、ファッションに無頓着かと訊かれれば「はい」としか答えられないのだが。

 

 

 翌日、ショッピングモールにて私は着せ替え人形と化した。

 いい服は結構なお値段がするのだとこの日思い知らされた。

 総額を脳内で何クレ分かに換算してしまったことは内緒だ。

 服以外にもファッション雑誌を買わされたりもしたが、まあ楽しい日であったことには違いない。

 雑誌に書いてある内容はさっぱり分からなかった。

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 4.テイオー、尾行

 

 

 ライスシャワー。ボクたちチームスピカのメンバー。

 加入した経緯はちょっとアレだったけど、トレーナーの見抜いた通り強いウマ娘だ。

 トレーナーには一体何が見えてるんだろう。この間だってマックイーンの1kg増を見ただけで言い当てたし。こういうことが出来ないと中央のトレーナーにはなれないのかな。

 ライスシャワーの強みはなんと言ってもその膨大なスタミナとマーク技術。

 トップスピードはボクよりも遅いけれど、徹底的なマークでゴリゴリこちらのスタミナを削ってくる。

 それほど頻度は高くないけれど、マークの練習になったら逃げたくなっちゃう。ゴルシは確実に逃げるけど。

 でも、無敗の三冠ウマ娘になるんだったらマーク対策もしなくちゃいけない。

 さすがにライスほどのマークはしてこなくても、複数人からマークされることだってあるはずだ。

 正直とっても怖いし疲れるけど、頑張ってやらなくちゃ。

 

 

 そんなライスシャワーだけど、そういえば個人的なことをそんなに知らないなぁ。

 確かに、彼女は優しくて、賢くて、謙虚だ。

 でもそれはあくまで客観的な評価であって。

 何の食べ物が好きなのか。休みの日は何をしてるのか。なんでトレセンに来たのか。

 そういうことをボクは一切知らない。本人があまり言わないのもあるけどね。

 

 

 でもある日、はちみーを買いに行こうとしたとき、ライスシャワーを見かけた。

 とてもシンプルで地味な格好だったから逆に目立ったんだけどね。

 どこに行くんだろうと思って、声をかけようかとも思ったけど、それじゃあライスの素顔が見られないんじゃないかって思ったんだ。

 だから、こっそり跡をつけることにした。

 始めはどこに行くかさっぱり分かんなかったけど、ついて行ったら──

 

 

「ゲーム……センター……?」

 

 

 ライスがゲームセンターに入っていったんだ。

 ちょっと意外だなぁと思った。あんまりそういう場所に行きそうに見えなかったから。

 ボクはゲームセンターには行ったことがなかったから、何があるんだろうと思って入った。

 ぱかぷちのクレーンゲームとか、カーレースのゲームとか、良く分かんないブースとかがいっぱいあってワクワクしちゃった。

 

 

 ライスは奥に行って、なんか洗濯機みたいな形の筐体の前に立った。

 よく見たら手袋をつけてて、それで何をするんだろうって気になっちゃった。

 隣の画面でリズムゲームだと分かったけれど。ショッピングモールに置いてある太鼓のやつしか知らなかったけど、こういうのもあるんだ。

 ゲームが始まったんだけど、ライスの動きがすごかった。

 音楽に合わせてボタンをすごい速さで叩いたり、画面を擦ったり。

 あんなに激しく動いてるのに全然ペースが落ちてないし、よく見たら重心が全然ブレてない。

 思わず見入っちゃった。

 ライスはそのまま立て続けに三曲やって、コンティニューして、また三曲やって……

 汗は出てるけど全然疲れてない。本当にすごいスタミナだ。

 その後はゲームを変えて、足のパネルを踏むやつをやってた。そっちでもすっごい足捌きで。

 もしかしてこれってトレーニングの一環なのかなぁ。

 ゲームだったら楽しく出来るし、ウイニングライブの為のリズム感も鍛えられる。結果もすぐにスコアとして分かるし、かなりいいんじゃないかな。

 後でボクもやってみようかな。

 ライスがこんなことをやってるのを知れてよかった。見つかる前に帰ろう。

 

 

 

 




ちなみにライスはトレーニングとか考えてなくて単純にスコア詰めに行っただけだったりします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7.トレーニングの様子は全カットで

アニメを見る時間をください()
誰か「時間.zip」とか持ってたりしませんか?


 

 

 

 いよいよ夏合宿。

 ゴツゴツした荷物を持ち、見繕ってもらった私服に着替え、集合場所に集まる。

 集合時間5分前のはずだが既に全員が揃っており、私が最後だったようだ。

 私が来たことに真っ先にゴールドシップが気付いた。

 

 

「ライスー! おせーぞー!」

「一応まだ5分前ですわよ。楽しみにしすぎですの」

「そうだぞゴルシ。旅行じゃなくて合宿だからな?」

「そう言うトレーナーさんこそ1番早く来ていたじゃあありませんか」

「……さぁて、なんのことやら」

 

 

 トレーナー、お前もか。

 まあ高級旅館に行けると言うだけで楽しみになるのは違いない。私だって期待しているのだ。

 

 

 ちなみに交通手段もメジロ家が提供してくれるそうなのだが──

 

 

「なあマックイーン、どうやって行くんだ? バスか?」

「いいえ。そろそろ迎えが来るはずで…………ちょうど見えましたわね。アレですわ」

「「「「……アレ?」」」」

「ええ、アレですわ」

 

 

 来たのは真っ黒な車。正面からは一般的な高級車のように見えるが──

 ──長い。すっごい長い。

 これはもしかしなくても。

 

 

「リム……ジン…………」

「実物初めて見た……」

 

 

 トレーナーと私が呆然として声を漏らした。ちなみに時間ピッタリに到着している。

 中からいかにもな運転手が出てきて、慇懃な挨拶を交わす。

 そのままひょいひょいと荷物をトランクに詰め込んでいった。

 

 

「さあ、乗りますわよ」

「お、おう……」

 

 

 トレーナー、ゴールドシップ及び私は若干尻込みしている。こんな車に乗ったことなどないので当然ではある。

 テイオーは慣れた様子でリムジンに入っていったが。なんで慣れてるんですかねぇ? 

 

 

「ええっと、それじゃあ……」

「し、失礼します……?」

 

 

 車に乗るだけでもこの有様である。高級車、それもリムジンなんかは無意識のうちに「傷つけないようにしよう」「汚さないようにしよう」と考えてしまうのが実に平民らしい。

 シートがとても座りやすい。めっちゃ刺繍入ってる。シートベルトもすごいお洒落。前の座席の後ろに画面ついてる。上品な香りがする。

 こんな感じで至る所から高級感を放出しまくっているせいだと決めつけておこう。そうでもしないと気分が落ち着かない。

 これがお嬢様の日常なのか? 実に恐ろしい……

 

 

「それでは、発車致します」

 

 

 リムジンは静かに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「……適応はええな、お前」

 

 

 電子書籍を読んでいるとゴールドシップから声をかけられた。

 五分経ったら慣れたのだから仕方あるまい。

 

 

「……で、何読んでんの?」

「メ○ドインア○ス」

「うっわマジかよお前……」

 

 

 そんなに引くような本では無いだろう。

 普通のハートフル(hurtful)な冒険活劇なのに。

 

 

「外見の可愛さと読んでる本のエグさが一致してねぇ……」ボソッ

「何か言った?」

「イエ、何デモアリマセン……」

 

 

 ちなみにこの時、テイオーとマックイーンは気楽に会話していたのだが、トレーナーは未だにそわついていた。

 帰りもあるのだから早く慣れた方がいいぞ。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 数時間後、目的地に到着した。

 ご丁寧に「スピカ御一行」という看板まで置いてある。

 荷物は部屋まで上げてくれるとのことなので、その間に施設の案内やトレーニング機材や場所の確認などを済ませておく。

 

 

 その後、部屋の案内に移った。

 部屋はウマ娘四人用の大部屋が一つ。トレーナー用の個室が一つとのこと。

 案内の人について行き、エレベーターで最上階へと上る。

 扉が開かれると──

 

 

 

 

「「「おおぉ……」」」

 

 

 

 

 絶景かな。部屋の調度があらゆるものと調和しており、素晴らしいものとなっている。

 マックイーンの小さなドヤ顔も納得できる。

 まあとっとと着替えてトレーニングに向かうのだが。楽しむのは後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 初日のトレーニングが終わった。

 砂浜めちゃくちゃ走りづらかったです。

 あと尋常じゃない大きさのタイヤを引かせるんじゃない。むしろ引けたことにビックリしたよ。

 軽くシャワーを浴びてから、大浴場へと向かった。

 

 

 

 

 風呂がデカい! 景色がキレイ! 雰囲気が上品! 

 いやあ素晴らしい。しばらくここを利用できるというのは本当にありがたい。

 風呂場なのでまあ当然他のウマ娘の体も見えるのだが──

 ゴールドシップは流石の恵体。デカいしデカい。

 他三人が貧相なのでより目立つ。

 

 

 

 

 だがしかしマックイーンよ。

 私やテイオーはまだ小柄だからまあ分からなくもない。

 しかしあなたは身長が160cm超えていてその状態なのだ。なんなら私達二人に負けてるんじゃないのか? 

 一体どこに置いてきたというのか。

 

 

 

 

 そんな話はどうでもいいのだ。やはり筋肉の話の方が大事だろう。

 皆走るアスリートだから脚の筋肉が素晴らしいことになっている。

 テイオーやゴールドシップは上半身もきちんと筋肉のラインが浮き出ている。

 マックイーンはやや腹筋が足りないように見えるか。

 私は全身引き締まっている。見た目だけなら1番鍛えられているんじゃないだろうか。

 しかしウマ娘の本格化というのは不思議なものだ。筋肉が増えるのではなく、筋肉の発揮する力が増えるようで、腕相撲では四人の中では弱い方だったりする。

 そもそもウマ娘の筋肉が質量を無視してパワーを出している可能性があるのだから、ウマ娘というのはつくづく変な生物だ。

 しかし結局は筋肉が解決してくれる。本格化の謎もマックイーンの謎も筋肉の前では些細なことだ。

 やはり筋肉……! 筋肉は全てを解決する……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がり、浴衣に着替えたのだが、着方が分からなかったのでテイオーに教えてもらった。危うく左右を間違えるところだったが、間違えても案外間違いではないというのが私の状況なのだ。寝るときにこっそり変えてみようか。

 ゴールドシップが「浴衣を着てやることは一つだろ!」と卓球を薦めてきたので、四人でダブルスをすることにした。

 全員初心者なので初めのうちはあっちへこっちへボールが飛んで行ってしまったが、慣れてくるとしばらくラリーが続くようになり、試合として成立するようになった。

 マックイーンのスマッシュがゴールドシップの左目に直撃したが、ゴールドシップは異常な程頑丈な眼球を持っているのですぐさま復帰した。

 ……鉄串がブッ刺さっても無事なのは本当にどうかしていると思うが。

 

 

 

 

 部屋に戻ると、美味そうな食事が出来上がっていた。実際美味かった。ついでにカロリーや栄養素をまとめた紙も渡してくれた。ありがとうメジロ家。

 1番量を食べていたのはマックイーンだったが。なんとなくカロリーを読み上げようとしたが、今日は気分が良いのでやめておいた。

 

 

 

 

 その後はトレーナーの部屋に向かいミーティングを行う。

 若干アルコールの香りがしたが黙っておいた。まあ初日ぐらいは許されるだろう。

 部屋に戻るともう布団が敷かれていた。ほんの十数分だったと思うのだが……

 

 

 

 

 ゴールドシップがトランプを持ち出して来たので、インディアンポーカーで遊ぶことにした。

 折角なので何か賭けようという話になり、各々が持ち込んだおやつをかけることになった。

 賭けやすいように個包装のものを使い、準備を行う。

 

 

 

 

「一番強いのって2だっけ?」

「それは大富豪でしょう? 分かりやすいように単純に数字の大小にしませんこと?」

「じゃあそれで行こうぜ!」

 

 

 

 

 山札から一枚抜き取り、自分には見えないように頭の上に掲げる。

 

 

 

 

 メジロマックイーン、1。

 トウカイテイオー、1。

 ゴールドシップ、1。

 

 

 

 

 勝ったな。

 ただ他三人も勝ったような表情を一瞬浮かべていた。

 つまり私のカードもかなり低い数字なのだろう。

 そして各々が「他がこんなに低いなら自分は勝っただろう」と考えている。

 そりゃあ全員低い数字になるのはかなりの低確率だ。自分の数字が大きいと信じ切ってしまうだろう。

 つまりやることは一つ。

 その気持ちを煽るように、非常に迷う素振りを見せながら一つだけ追加で賭ける。

 後は勝手に互いを煽りながらドンドン賭けてくれる。

 

 

 

 

「「「「せーの、オープン!」」」」

 

 

 私は2だった。対戦ありがとうございました。

 そそくさと賭け金を回収し始めると、他三人がすぐに私を睨みつけてきた。

 

 

 

 

「ちょっと!? 絶対勝つって分かってたならなんであんな賭け方したのさ!?」

「完全に騙されましたわ……」

「畜生! 2回戦だ! 次は素寒貧にしてやるからな!」

 

 

 

 

 その後は極端に偏った数字が出ることもなく、全員のお菓子がいい感じに混ざったところで終わった。

 

 

 

 

 このような感じで合宿は続いてゆく。

 

 




修学旅行パロを入れようかと思いましたが人数が足りなくて泣く泣く断念しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.マックイーンとテイオーのレース

Q.ライス知りすぎじゃね?
A.優駿劇場じゃあ新聞読んでたやつおるしこれぐらい許されるやろ(適当)


 

 

 

 

 

 

 夏合宿も終わり、いよいよマックイーンが始動する。

 まず最初の9月始めの一勝クラス(ダート1700、晴、良、1人気)では惜しくも2着。

 しかしその2週間後(ダート1700、晴、重、1人気)には見事勝利。

 さらにその次の週の2勝クラス(芝2000、晴、不良、1人気)も勝った。

 3週間後の3勝クラス(芝3000、曇、稍重、1人気)では再びの2着。

 こんな過密スケジュールでも連対は外していないのだ。調子は向いてきている。

 ……というか、マックイーンはバ場が重い方が走りやすいのだろうか。案外ダートでも結果を残せたんじゃないか? 

 

 

 

 

 そして3週間後の11月4日。

 ついに迎えた菊花賞。

 芝3000、雨、重、4人気。

 ライバルとなるのは同じメジロ家のメジロライアン。

 皐月3着、ダービー2着であり、皐月もダービーも勝ちウマが故障で引退していたため1人気。

 対するマックイーンは皐月もダービーも出ておらず、注目は集まらなかった。

 しかし2枠2番と内枠、しかも走り慣れた重バ場。

 しかもマックイーンは根っからのステイヤー。こんな状況で負けるはずもなく──

 

 

 

 

「マックイーンだ!  メジロはメジロでもマックイーンの方だぁ!!」

 

 

 

 

 勝利。

 まあここまでの流れは全部前世通りなのだが。まさか天候まで一緒になるとは……

 そんな事など他のチームメイトが知るはずもなく、G1を勝ったのでお祭り騒ぎとなるのは当然。

 元々マックイーンはメジロ家では分家の出なのだが、本家のトップの人まで祝電を寄越してきた。

 

 

 

 

 ちなみに賞金の一部はトレーナーにも入る。そしてトレーナーは財布の紐が緩い。

 はい、焼肉美味しかったです。ありがとうマックイーン、ありがとうトレーナー。

 

 

 

 

 この後は天皇賞春に目標を絞っていく。そのため3月まではレースに出ない。

 復帰戦として阪神大賞典を予定している、とのこと。

 

 

 

 

 テイオーは「マックイーンには負けてられないモンニ!」と張り切った様子。

 無敗三冠を目指しているため負けられないというのもあるだろう。

 

 

 

 

 ちなみにテイオーのダービー後の骨折をどうするのかについては、テイオー本人とトレーナーにさりげなく助言するに留めておくことにした。

 折れて出られないか、折れずに出れるか、はたまた折れても出られるか。

 この助言がどう運命を狂わせるのか。

 私の例の宝塚も変えられるのかの実験でもある。

 テイオーにはデメリットは無いし、別に実験しても構わないだろう。

 結果を期待しておこう。

 

 

 

 

 さて、テイオーのデビュー戦に話を移す。

 12月初日のデビュー戦(芝1800、晴、不良、1人気)では上がり最速を出して圧勝。

 3週間後のオープン戦(芝2000、晴、良、3人気)や、年が明けてから2週間後のオープン戦(芝2000、晴、良、1人気)でも上がり最速で勝利。

 帝王の名に違わぬ強さを見せつけていった。

 その後は3月の若葉Sまで休養。

 

 

 

 

 こんなに勝ちを繰り返しているとチームスピカへの注目も集まり、メディア対応も増え、トレーニング以外でも忙しくなってきた。

 まだデビューしていない私やゴールドシップにすら「こんな強いチームのメンバーだから何かあるのだろう」と取材がきた。

 私は程々に答えていたが、ゴールドシップは何の関係もない単語を強引に繋ぎ合わせたような返答を返して取材陣を困惑させていた。

 発言をよくよく噛み砕き反芻すれば意味が分かるようになっているのが余計タチ悪い。

 

 

 

 

 ただtwitterに関しては何も言われなかった。

 上げてるのがゲームと飯の画像ぐらいしかないから当然ではあるか。

 プロフィールに所属を書いていなかったらその辺のアカウントと区別できないんじゃないか? 

 ただ、ほとんどいなかったフォロワーがいつの間にか急増していたので「これがブランド力……!」と一人感心していた。一連の投稿のどこにフォローする価値を見出したのか、全くもって不思議である。

 

 

 

 

 取材に来るということは取材代が出る。さらにレースの賞金も入る。つまりトレーナーの奢りが増える。

 うーむ、私だけ得をしている気分になる。貰えるものはありがたく貰っていくが。

 折角なので深夜にラーメンの画像をツイートするよう予約しておいた。私をフォローしたことを後悔するといい。

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 

 

 さて3月。

 まずはマックイーンの阪神大賞典。

 芝3000、晴、良、1人気。

 結果は上がり最速を叩き出して堂々の1位。

 天皇賞への準備は万全と言ったところか。

 

 

 

 

 その1週間後の若葉S。

 芝2000、晴、稍重、1人気。

 こちらも上がり最速で勝利。

 クラシック初戦の皐月へと意気揚々と進む。

 

 

 

 

 メディアも「春のG1はスピカのものだ!」とこぞって書き立てる。

 はいそうですね、メディア対応が死ぬほど忙しくなります。

 レースが国民的娯楽になっているとは知っているが、まさかここまでとは思っていなかった。

 テレビカメラが何台来たのかは途中で数えるのをやめた。

 トレーニングの邪魔になるかと思ったが、あの二人の集中力は素晴らしく、ほぼ意に介していない様子。

 

 

 

 

 それと他のチームのウマ娘を見かけるようになった。

 十中八九偵察だろう。

 私の元にも、マックイーンやテイオーの様子を聞き出そうとするウマ娘が来るようになった。

 追い返す気は無い。むしろドンドン見て聞いて行くといい。

 そして彼我の実力差に絶望するといい。

 

 

 

 

 あの二人は、強いぞ。

 

 

 

 そして、4月を迎える。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.運命は

アニメ2期を見始められたと思ったら新作アニメの告知が来ました。
新しくヤベェウマ娘が実装されました。
あと細江純子(cv.細江純子)も実装されました。
どういうことなの……


 

 

 

 

 

 

 

 5月になった。

 え? 4月? 

 勝ったに決まってるだろ、あの二人だぞ! 

 

 

 

 

 皐月の2週間後に春天があったのだ。

 こうなると常に祝勝会やってる気がして来る。

 テイオーは無敗三冠の一歩目、マックイーンはメジロ家念願の天皇賞の楯を手に入れた。

 テイオーの次走はもちろんダービー。

 マックイーンは宝塚記念でライアンとの再戦を控えている。

 

 

 

 

 あーあ、こっちでもレースに賭けられたらよかったのに。

 そうなった場合、今頃テイオーもマックイーンもATM扱いされていそうではあるが。

 というか賭けれないのにURAはどこから利益を得ているのだろうか。

 一応、レース場への入場料とライブのチケットがあるにはあるが。

 後はウマ娘の関連グッズとかか。

 それだけで賞金稼げるのか? 

 

 

 

 

 ……いや待った、前世のどこかのタイミングでオグリキャップによる競馬ブームの経済効果は数兆円規模とか聞いたことがあるぞ。

 そして前世以上にレースが人気なこちらの世界だったらグッズの売り上げがそれはもう凄まじいことになってるんじゃないか……? 

 そういえば、たづなさんがグッズの売り上げの利益をトレーナーと話していたのをどっかで聞いたような……そしてトレーナーの顔が蒼白を通り越して無色になっていたような……

 ……これ以上は考えるのをよそう。お金の話って怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、チームメンバーの私はいよいよ隠れづらくなってきた。

 まだ選抜レースすら出ていないのに、ゴールドシップと共に記事が作られていたことがある。

 やめて……広めないで……伏兵にさせて……

 

 

 

 

 いやマックイーンと似たようなローテ組めばいいか。そうすれば「マックイーンと同じローテだから問題ないな」と菊花まで引きこもっても不審に思われずに済む。

 よしクラシック期にデビューしよう。後は夏の後までお休みだ。

 一応デビュー後に負け続ければ評価は下がるには下がるのだが、わざと負けるのは駄目だ。

 どうにかして最低限勝って、しかも評価を下げるような勝ち方をしなければならない。

 難しいなぁ……

 周りに「これフロックだろ」と思わせるようなレース展開を、誰にも気付かれないように作り出さなくてはならない。

 走っている時に脳みそが焼き切れそうだなぁこれ。

 

 

 

 

「スピカメンバーだから強いだろう」という先入観を裏切れば普通に負けるより評価は下がるだろうか。

 自分自身を罠にかけるように他のウマ娘を誘導するのか? 

 初戦であれば全員からマークが来そうだからそれを参考にしつつ再現して行くか。

 ただまあこれをするのが非常に難しいのだが。

 一応デビューまで1年弱あるのだからゆっくり考えるとしよう。

 

 

 

 

 さて、本日は5月26日。

 いよいよ東京優駿、日本ダービーの日だ。

 テイオーが勝つのは決定事項ではあるのだが、私にとって重要なのはテイオーの脚だ。

 今までの助言で何か変わるのか。それを見届けねばならない。

 テイオーに言ったのは「負担のかかる走り方は切り札として温存した方がいい」。

 トレーナーに言ったのは「テイオーの脚を毎レース後すぐに検査した方がいい」。

 実際に、皐月の時はあの負担のかかる走りをほとんどせずに勝つことができた。

 その影響で、前世より若干バ身差は小さかったが。

 走法の変化程度ならレース結果自体は変わらないのだろうか。

 しかしトレーナーは若干骨に疲労が溜まっている兆候があると言っていた。

 であればやはり折れてしまうのか? 

 私の生命に繋がることであるため細心の注意を払わねば。

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り、レースが始まる。

 

 

 

 

 ただ彼女の脚のみを見つめる。

 

 

 

 

 頼むから折れないでくれ──

 

 

 

 

「トウカイテイオー抜けた! トウカイテイオー抜けた! トウカイテイオー抜けた! リードは2バ身から3バ身! もう打つ手は無い! もう打つ手は無い! トウカイテイオー、二冠達成!!」

 

 

 

 

 ──どうだっ!? 脚は!? 

 おそらく異常なしに見えるが……

 

 

 

 

 ……いや、これは──

 

 

 

 

「──トレーナー!」

「──ああ分かってる! クソッ、左か! おい! テイオー止まれ!」

 

 

 

 

 テイオーも若干の違和感を感じたのか大人しくトレーナーの指示に従う。

 無敗二冠に沸いていた場内の雰囲気が、困惑とどよめきに変化して行く。

 

 

 

 

 テイオーが救護室に運ばれてしばらくの後、アナウンスを告げる音が鳴った。

 

 

 

 

「会場にお集まりの皆様にお知らせです。第11R・東京優駿にて勝利したトウカイテイオーですが、脚に故障が発生したためウイニングライブへの出演は取り消されます。繰り返します。第11R──」

 

 

 

 

 会場の一部で悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 

 

「おはよう、テイオー」

「あ、おはよう……」

 

 

 

 

 翌日、入院したテイオーの見舞いに行った。

 挨拶もどこか元気がない。

 不安で眠れなかったのか、目元に隈も出来ている。

 テイオーの脚の検査を行ったところ──

 

 

 

 

「骨にヒビ、か。 早く治るといいね」

「……うん、夏の半ばまでには復帰できるってさ。 早く治して菊花賞を勝たなくちゃ、ね」

 

 

 

 

 ──骨にヒビが入った程度で済んだ。

 これはつまり、助言程度であっても、故障という大まかな事象は防げなくともより重い症状は回避できるということか。

 しかし元々出走できなかった菊花に出られるのだ。

 運命は変えられると見て問題は無さそうだ。

 

 

 

 

 だがしかし、たとえ復帰できたとしてもテイオーには厳しい戦いになるだろう。

 テイオーと並走していると、3000はテイオーにとってやや長過ぎるように感じられた。

 長距離のためのトレーニングも、怪我のリハビリのために開始が遅れるだろう。

 その間にも他のウマ娘はトレーニングを重ねて行く。

 それをテイオーも分かっているのか、表情に焦りが見られる。

 しかし、あのトウカイテイオーなのだ。

 もしかしたら奇跡を見せてくれるんじゃないか、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ダービーが終わったということは、いよいよデビュー戦が始まるということだ。

 運命が変えられるのなら。

 同世代に一人、絶対に運命を変えなければならないウマ娘がいる。

 そのために、デビュー戦に出る前からそのウマ娘に接触して説得しなければ。

 

 

 

 

 昼休み、隣のクラスに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──失礼、サンエイサンキューって今いる?」

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 ──やっと説得が終わった。

 直接聞いてみると本当にクソみたいな環境に置かれているなこの子。

 状況はやはり前世と似たようなもので、「父親の会社が上手くいかないのを自分が稼いだ賞金でなんとかしなければならないから、できる限りレースに出続ける」というもの。

 こんなもん通報したら一発アウトなレベルである。

 前世では3歳時に7戦、4歳時はほぼ毎月レースに出るという最悪なローテーションを組んでいた。

 むしろよく有馬記念まで故障しなかったなと。

 私の後ろで痩せ衰えた馬が苦痛に喘いでいたのを思い出す。

 

 

 

 

 彼女を「クソローテやめろ、勝てるレースも勝てなくなる、G1勝てる実力はあるから数絞って稼げ」と必死に説得してやった。

 有馬記念までが非常に辛いことになるし、何よりその後が最悪過ぎる。

 本来なら安楽死となるレベルの骨折であるが、馬主が「繁用牝馬にすれば金が稼げる」からと治療を続行、そのまま苦しみ続けることになっていた。

 

 

 

 

 もし、こちらの世界でも同じことになったら。

 本当に考えたくもないことになってしまうのではないか。

 

 

 

 

 説得していても「私が稼がなくちゃ」「お父さんは悪くない」などとウジウジしていたため「レース中に足折って死んでも知らんぞ」と半ば脅迫まがいのことをしてしまった。

 まあ一応納得はしたようだし、他のウマ娘にも聞いてみろとも言って置いたから大丈夫だと思うが……

 これで周囲の人間全員が曇ることは避けられたのだろうか。

 

 

 

 

 もし競馬の神とやらがいるのなら、そいつはかなりの性悪作家だろう。

 変えなければならない運命が多すぎる。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.ユメヲカケル


 データ吹っ飛んだので遅れました

 アニメは2期2話までしか見てないのですが、ここまで変わってたら別にもういいよなぁってなってます。

 あとウチのライスは声が若干低かったりします。



 

まえ

 

 

 

 また夏がやってくる。

 

 

 マックイーンは宝塚で残念ながらライアンに負けてしまった。

 その後スイーツをやけ食いしていたことを思い出す。

 そんなに食べたら太るぞと忠告してやったのに「それは明日からの私が考えますわー!」と抜かしやがった。

 きっと某球団が負け続きのせいもあるかもしれない。

 

 

 しかしコイツの芸人適性の高さは一体何処から来たのか。

 以前メジロ家のウマ娘と会ったことがあったのだが、メジロアルダンは清楚なお嬢様の見本みたいな人だったのに、どうしてここまで差がついたのか。

 青は藍より出でて藍より青しとは言うが、マックイーンの場合は虹色に光り輝く不純物のように思える。

 これでレースはクソ強いのだから不思議なものだ。

 

 

 

 さて、テイオーは現在メジロ家のリハビリテーション施設に缶詰になっている。

「菊花に出て勝つ!」と張り切って治療に専念している。

 注射からは逃げ出すのだが。

 以前逃げるテイオーを取り押さえたことがあった。

 酷く嫌がるテイオーに、工具で手をやらかすよりは全然痛くないと言ってやったら凄い目で見られた。

 一時期機械いじりにハマったことがあり、その時にちょっと事故っただけなのだが。

 別に隠すものでも無いかと残った傷跡を見せたらドン引きされた。その隙に注射が打たれた。テイオーは独特な声で鳴いた。

 直後に私が主治医に捕まった。

 そのまま連行されて傷跡を治療された。

 唐突だったので驚いたが、痕が綺麗さっぱり無くなっていたので技術の高さに驚いたものだ。

 

 

 ちなみにマックイーンはこの後ダイエットに苦しむ羽目に陥った。

 馬鹿じゃねぇの? 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 テイオーも復帰して、再びの夏合宿に向かう。

 私のデビューはまだまだ先だが、本格化も既に来ているのでゴリゴリ鍛えていく。

 しかし本格化というものは厄介で、ゲーセンの滞在時間がドンドン伸びていってしまった。その分スコアを詰められるから良いのだけれど。

 ただ本格化が来ても身長は伸びなかった。胸は若干デカくなった。正直邪魔。

 ミホノブルボンもサクラバクシンオーもあんなデカいものぶら下げてよく走れるな。絶対痛いと思うのだが。

 

 

 そういえばゴールドシップっていつデビューするんだ? 

 

 

 

 

 トレーニングの休憩時間。

 ちょっと試したいことがある。

 軽い靴に竹を加工したものを取り付け、接地面積を広げる。

 その作業をトレーナーや他三人が見つめて来る。

 まあ期待しておくといい。

 人間や馬には不可能だろうが、ウマ娘の軽さと膂力ならば。

 

 

 靴を履き、海に向かって走る。

 そのまま海面の上へと──

 

 

「──行けた!」

 

 

 海の上を走れてしまった。

 いやまさか本当に出来るとは。

 陸地にいる四人から驚愕の目線を感じる。

 正直かなり走りづらい。バランスが崩れる崩れる。

 だが、m◯im◯iやD◯Rで鍛えた体幹は伊達じゃない。

 ゴリ押しで海の上を走って行く。

 少しでも足を止めると沈んでしまうので、大きく円を描いて元の場所に戻る。

 

 

「なあライス! なんだよ今の! その靴貸してくれよ! 頼む!」

「え、ええっと、靴のサイズ合わないから新しく作るしかないよ」

「じゃあ作り方を教えてくれ!」

 

 

 陸地に着くと真っ先にゴールドシップが詰め寄って来た。こういうの好きそうだもんね君。

 

 

「ボクなら合うんじゃない? 貸してよ!」

 

 

 確かにテイオーならば履けるだろう。

 早速テイオーに貸した。

 テイオーは意気揚々と海に向かって行き──

 

 

「わっ、とと、あっ、ああっ!」

 

 

 すぐに海にダイブした。

 しかしこの程度で諦めるテイオーではない。やがて4度目で走れるようになった。

 

 

 海の上を走るテイオーを見ると、何処かで見かけたゲームを思い出す。

 何だったっけアレ、女の子が海の上で砲撃し合うやつだった気がする。

 そんなことを考えていると、トレーナーが近寄って来た。

 

 

「なあライス、アレ全員分作ってくれないか? アレはいいトレーニングになる気がしてな……」

「え、あー、その……」

「後で焼肉奢るかr「やります」……判断はええな…………」

 

 

 おいそこ、チョロいとか言わない。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 今日は休息日。

 ボクたちは旅館にあったカラオケの機械でスコアを競ってる。

 みんな、選ぶ曲には個人差があって。

 ボクは「恋はダービー」とか「SEVEN」とか。

 マックイーンはライブの曲ばっかり。

 ゴルシは般若心経とか4分33秒とかの何でカラオケにあるのか分かんない曲。

 ライスは雑多なのかな。邦楽洋楽限らず、聞いたことない言語の曲も歌ってた。「conflict」っていう曲らしいけど、なんて言ってるのかさっぱりだった。

 まあどんな曲でもボクが1番だけどね! 

 ただトレーナーも結構上手かったな。選曲がうまぴょい伝説だったから思わず笑っちゃったけど。

 

 

 で、マックイーンがユメヲカケルを歌ってた時。

 

 

「限界だって超えてみせる、ねぇ……」

 

 

 ってライスが呟いてた。

 

 

「? 何か思うところでもあるの?」

「うん、まあ……

 

 ……………超えちゃいけない限界だってある、ってだけ」

 

 

 この時のライスの目が。

 悔いるような、謝るような。

 どこか遠い目で、でもどこか怖くて。

 多分、過去に何か良くないことがあったんだろうけど。

 絶対に聞いちゃいけないことだって思った。

 ライスに怪我を恐れるところがあるのも、これが原因なんじゃないかなって。

 

 

 気になるけど、自分から言うまでは聞かないでおこう。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

「うあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

 

 テイオーの必死に喘ぐ声が聞こえる。

 走っている距離は3000メートル、菊花賞と同じ距離。

 

 

 ただ、残り200メートルが──伸びない。

 何度繰り返しても、目標タイムに届かない。

 間違い無く、距離適性の壁だ。

 

 

 テイオーの顔に焦りが浮かんでいる。

 ダービーの後に骨にヒビが入り、それを必死に治して来たのに、今度は距離適性という新たな障害が現れたのだ。

 しかも、ダービーで骨が折れかけたという事実が、無自覚のうちに心に壁を作っている。

 テイオーの往く道は、何故こんなにも苦しいのか。

 

 

 数日後、テイオーがチームメンバーを呼び寄せた。

 何の用かと思っていたら──テイオーが頭を下げた。

 

 

「お願い! みんなの時間をボクに全部ください!」

 

 

「見てて分かったと思うけど、マトモにやったら3000メートルを走りきれない」

 

 

「だから、どんな手を使ってでも勝ちを狙いにいく!」

 

 

「マックイーン、ゴルシ、ボクの前を走ってください!」

 

 

「ライス。 キミの、──キミのマーク技術をボクに全部ください!」

 

 

 急に何を言い出すかと思えば、敬語まで使って要求してきた。

 

 

 基本的にあらゆる分野において、技術というのは資産だ。

 特にここはレースの世界。

 それなのに、技術をタダで寄越せということのどれだけ無茶なことか。

 

 

 

 ああ、しかし、だと言うのに。

 

 

 

 

「…………本気で行くけどいいんだな?」

「っ! 分かってる! ありがとう!」

 

 

 

 

 私は、彼女に夢を賭けているのだから。

 全く、愉快なものだ。

 

 

 

あと



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.三冠は成るか

 圧 倒 的 難 産
 レース描写難しいんじゃぁ
 菊花賞はテイオーINナカノハヤテOUTとなっています。




 ついでに没ネタを晒します。
 実はテイオーを秋天に出すルートもありました。
 この時点ではクラシック級で秋天勝ったのは戦前のハツピーマイトだけですし、皇帝を超えるという目標なら十分足り得ますしね。
 しかしこの時私の中の三女神が
「マック1着テイオー2着にした後に斜行降着で順位入れ替えようぜ」
 とかそそのかしてきやがったんですよね。
 一瞬ええやんコレと思ったのですが、気分が良かったのでスピカ全員を曇らせるのはやめておきました。
 菊花と秋天のどっちに行くかをアンケートで決める案もあったことをここに白状します。


 長くなりましたが以下本編です。


 

 

 

 まえ

 

 

 

 

 

 

 秋が来た。

 

 

 

 

 

 

 マックイーンの秋天も、事前に忠告しておいたおかげか斜行せずに1着を取り。

 

 

 

 

 いよいよテイオーの菊花賞の日だ。

 パドックに立つテイオーは、覚悟の決まった目で前のみを見つめる。

 

 

 

 

「1枠1番トウカイテイオー、1番人気です」

「怪我からの復帰初戦ではありますが、凄まじく仕上がったバ体ですね。無敗三冠まであと少しです」

 

 

 

 

 チーム全員がテイオーをじっと見つめる。

 

 

 

 

 私があれほどシゴいてやったんだ。

 負けたら承知しないぞ。

 

 

 

 

 そう意を込めてテイオーに視線を送る。

 

 

 

 

 テイオーは私の目線に気づくと、若干目をそらした。

 

 

 

 

 待てや。

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

「やっほー、テイオー」

「……ナイスネイチャ?」

 

 

 

 

 返しウマの時、テイオーにネイチャが声を掛けた。

 その後ろにはレオダーバンやイブキマイカグラ、シャコーグレイド等もいる。

 

 

 

 

「怪我、ちゃんと治ったんだね。一緒に走れないんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」

「当然でしょ。怪我ぐらいで止まってなんかいられないから」

「……はは、アンタはそういうウマ娘だったねぇ…… 夢に真っ直ぐで、キラキラしてて……でもね」

 

 

 

 

 ネイチャやその他のウマ娘の眼光が強まる。

 

 

 

 

「……私達は、トウカイテイオーの無敗三冠をただ祝うために来たんじゃない。 復帰明けだからって容赦はしない。 夢を砕こうとも構わない。

 

 

 

 

 ──アンタに、テイオーに勝ちに来た!」

 

 

 

 

 帝王への、革命者共の宣戦布告。

 

 

 

 

「──ボクだって、負けるためにここに来たんじゃない。夢を成しに来た。

 鬼に鍛えられたんだ。いかなる手を使おうとも、ボクはキミたちに勝つ!」

 

 

 

 

 テイオーから、尋常ではない圧が噴き出す。

 恐れる者、慄く者、──悦ぶ者。

 意志が、夢が、全てがぶつかり混じり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り、ゲートに入って行く。

 トウカイテイオーから漏れ出る闘気に萎縮したウマ娘がいるのか、ゲートインにやや時間がかかる。

 

 

 

 

「各バゲートイン完了──スタートしました第52回菊花賞! 

 各バ綺麗にスタートを切りました、出遅れはありません。

 

 

 まず先陣を切ったのはフジヤマサンゲン、そのすぐ後ろにフジアンバーワン、一バ身半離れてホクセイシプレー。

 

 

 さて注目のトウカイテイオーは中団、サクラヤマトオーの後ろにピッタリとつけています!」

 

 

 

 

 トウカイテイオーがマークしている。

 これは予想できたウマ娘が少なかったのか、やや動揺が見られる。

 特にマークされているヤマトオーはかなり焦っていた。

 

 

 

 

(テイオーがマーク!? しかもこんなに近くで!? 『いかなる手も使う』って言ってたけどさぁ!)

 

 

 

 

 11番人気だったのにマークされているという予想外への焦り。

 背中に感じる凄まじい圧。

 何よりそれを行なっているのがトウカイテイオーなのだ。

 

 

 

 

 当然ではあるが掛かってしまう。

 何よりスタート直後の3コーナーの坂でのことだ。

 しかし4コーナーの中頃でヤマトオーは何とか落ち着きを取り戻し、スタミナを取り戻そうと速度を下げる。

 

 

 

 

 ある程度下がったところでテイオーはヤマトオーの後ろを離れ、次にワンモアライブの後につく。

 

 

 

 

 この時点で他のウマ娘がテイオーの作戦に気付いた。

 潰れるまでマークし、切り替えて行くのだと。

 

 

 

 

(クソがっ、まるでカエル飛びかよ!)

 

 

 

 

 何人かは悪態をついた。

 一度でも後ろに付かれるとマズい。おそらく適当な近くのをマークしている。他のヤツに押し付けなければ。

 テイオーから離れていこうと、前へと前へと行ってしまい──

 

 

 

 

「さて1000メートルの通過タイムは58.9、かなり早いペースになっています!」

 

 

 

 

 ──異常なハイペースを生み出した。

 

 

 

 

 前がテイオーにぐちゃぐちゃにされているのを、ナイスネイチャは見ていた。

 

 

 

 

(うひゃー、なかなかにエゲツないことやってんなー。ちゃんと斜行しないように行ってるし、他は斜行しないように動かなきゃいけないし。後ろで正解だったな)

 

 

 

 

 差しや追込にとってハイペースは有利。であればこのままテイオーに勝手にやってもらうのが得策か。

 しかし垂れて来たウマ娘を回避していかなくてはならない。前を塞がれると厄介だ。

 垂れウマに対処している間にも、テイオーは死神の如く一人ずつ狩っていく。

 前に逃げて行ったウマ娘も、その分スタミナが削られていて──

 

 

 

 

「さあ第3コーナーの坂に入って行きましたが、先頭集団が大きく減速! やはりハイペースでスタミナが尽きたか!?」

 

 

 

 

 一気に先頭集団との差が縮まる。

 そしてテイオーが抜け出した。

 今までスリップストリームでスタミナを温存し続けて来たのだ。このままではテイオーの一人勝ちだ。

 そして後方で控えていたウマ娘も次々に抜け出して行く。

 そのまま先頭集団を抜き、そのままテイオーを抜き──

 

 

 

 

 テイオーを抜いてはいけないことに気づいた。

 即座にテイオーにマークされてしまう。

 

 

 

 

 そんな哀れな一人を見ながら、レオダーバンは先頭へと抜け出して行った。

 坂を下るとき、テイオーが内から抜いて行くのがチラリと見えた。

 そしてテイオーの圧が来る。次はお前だと告げる。

 ──私の後ろに来るんじゃない! 

 すぐ後ろのヤツにマークを押し付けようと、若干外に寄った。

 寄ってしまった。

 

 

 

 

「さあ内からトウカイテイオーが一気に抜け出したぁ! 残り400メートル!」

 

 

 

 

 最内をテイオーに抜かれた。直後に自分の失策を呪った。

 

 

 

 

(クソッ、やられた! ──だが、あんなにかき乱してたならスリップストリームがあってもテイオー自身のスタミナはそこまでないハズ!)

 

 

 

 

「──ああああああぁぁぁぁっ!」

「レオダーバンも負けじと追い縋る! 外からはナイスネイチャ、イブキマイカグラも来ている!」

 

 

 

 

 四人が並び、抜かし、抜かされ、そして残り100メートル。

 

 

 

 

 テイオーは自身のスタミナが尽きかけているのを感じていた。

 レオダーバン、ナイスネイチャ、イブキマイカグラ。おそらくまだ伸びる。

 このままでは抜けない。

 

 

 

 

 そう、このままでは。

 

 

 

 

(切り札は、最後まで取っておくものだぁっ!)

 

 

 

 

 テイオーステップ。足を思いっきりぶん回す。

 脚への負担が急増する。左脚に嫌な痛みが走る。

 ライスの言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

(これが『超えちゃいけない限界』かもしれない。本当に痛いし怖い。でも──)

 

 

 

 

 

 

「ボクは、負けられないんだぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴール板を──僅かに抜け出し、突き抜ける。

 

 

 

 

 

 

「──トウカイテイオー1着!! 見事無敗三冠を達成しました!!!」

 

 

 

 

 

 その実況を耳にして、トウカイテイオーはぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

 

 あと



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.記者会見でバラすな

 

 

 

【無敗】菊花賞記者会見実況スレ【三冠】

 

 

1:レース好きの名無し

 始まりましてよ

 

2:レース好きの名無し

 きちゃあ

 

3:レース好きの名無し

 テイオー車椅子やんけ

 

4:レース好きの名無し

 また折れたんか

 

5:レース好きの名無し

 >>4

 1回目はヒビ入っただけだろ! 

 

6:レース好きの名無し

 有馬ェ……

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

「トウカイテイオーさん、無敗三冠達成おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ではまず、─────」

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

15:レース好きの名無し

 まあ無難な質問が続くな

 

16:レース好きの名無し

 当たり障りのねぇな

 もっと弾けろ

 

17:レース好きの名無し

 >>16

 いや中央にしては珍しいマトモなウマ娘やぞ

 マトモ枠を減らすな

 

18:レース好きの名無し

 >>17

 マトモ……? (クリークを見ながら)

 まあ比較的マトモか……

 

19:レース好きの名無し

 そいつは上澄では……? 

 

20:レース好きの名無し

 アレは後ろで魔王流れてるよ

 

 

 

 ─────────

 

 

「週刊テールズの木志屋です。今回、肉体をかなり絞られたようですが、普段よりも負荷の高いトレーニングをなさっていたのですか?」

「……うん、まあ、はい。

 いや、その、スピカの皆に『全力で協力してほしい』ってお願いしたんだけどね。

 その内の一人がすっごくスパルタで、怪我明けのウマ娘にやらせる量じゃないでしょっていうか、その〜……」

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

33:レース好きの名無し

 なんか始まった

 

34:レース好きの名無し

 目が死んでて草

 

35:レース好きの名無し

 ……何があったんです? 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

「まずお願いした次の日にトレーニングシューズ山ほど買ってきて、何かと思ったら『とりあえずまずは一週間でこれ全部履き潰して』って言って来たんだよ!? 

 しかも後ろからメチャクチャ追い立てて来るし! 

 疲れ切って倒れてたら首筋にいきなり冷却スプレーぶっかけて来たし、びっくりして跳ね回ったら『まだ動ける体力があるなら次行こうか』って脅してくるし! 

 しかも全部のトレーニングボクと同じことやってるから休むに休めないし!」

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

45:レース好きの名無し

 ヤバすぎて草

 

46:レース好きの名無し

 誰だよそれやらせたの

 

47:レース好きの名無し

 スパルタってレベルじゃねーぞ! 

 

48:レース好きの名無し

 完全に愚痴で草

 

49:レース好きの名無し

 >>46

 一緒にやってたならトレーナーじゃなくてウマ娘だろ

 

50:レース好きの名無し

 これできるのマックイーンぐらいでは……? 

 

51:レース好きの名無し

 マックイーンがこれやらせるか? 

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

「夏合宿でポニョのコスプレして海の上走ってたのと同一人物とは思えないんだけど!?」

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

57:レース好きの名無し

 ライスシャワーかよ!! 

 

58:レース好きの名無し

 ええ……(困惑)

 

59:レース好きの名無し

 すまん、ポニョのコスプレってどういうこと? 

 

60:レース好きの名無し

 相変わらず見た目とやってることが一致しねぇ子だなほんと

 

61:レース好きの名無し

 >>59

 これ

 ttps://twitter.com/rice_shower/status/…………

 

62:レース好きの名無し

 >>59

 本人ツイッター見ろ

 

63:レース好きの名無し

 >>61

 何度見ても笑うわこれ

 

64:レース好きの名無し

 >>61

 えっ何これは……

 

65:レース好きの名無し

 >>61

 21万ファボは草

 

66:レース好きの名無し

 >>61

 ウィッグで隠しきれてない髪の毛 -810点

 クッソ適当な服 -1919点

 8bitサングラス +8888点

 最後の華麗な転倒 +114514点

 

 

 うーん完璧

 

67:レース好きの名無し

 固定ツイートもアイコンもこれなの草

 

68:レース好きの名無し

 何すか スピカって面白いやつしかいないんすか

 

69:レース好きの名無し

 こんな子がさっきのスパルタやらせつつ同じことやってたってマジ? 

 

70:レース好きの名無し

 >>61

 これyoutuberのウマ娘が挑戦してはことごとく失敗してるの、やっぱ中央ってすごいわ

 1番上手く行ったのでも静水の25mプールを超えたぐらいだし

 

71:レース好きの名無し

 >>70

 波立つ海の上を走るとかエッグい体幹いるだろうしな

 

72:レース好きの名無し

 カメラ、ライスシャワー映したな

 

73:レース好きの名無し

 顔草

 

74:レース好きの名無し

 苦虫数十匹噛み潰したような顔してるやんけ

 

75:レース好きの名無し

 見た目は可愛いよね

 なお中身

 

76:レース好きの名無し

 ライスシャワーのツイッター、飯とゲームしかなくて草

 しかもやってるのsteamゲーとか音ゲーばっかりやんけ

 

77:レース好きの名無し

 >>76

 地味に音ゲークッソ上手いしな

 セガ三機種虹レートは強い

 

78:レース好きの名無し

 >>77

 ヒエッ……

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

「月間トゥウィンクルの乙名史です。よろしければ次のレースをお聞かせ願えますか?」

「えーっと……トレーナー?」

「あ、俺が答えます。

 まあ、こんな状況ですので有馬は回避します。

 で、次走ですが、皇帝を超えるという目標の下、シンボリルドルフが取れなかった海外G1を目指し──

 

 

 

 

 ──ドバイシーマクラシックを考えています」

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

91:レース好きの名無し

 ドバイシーマ!? 

 

92:レース好きの名無し

 マジかよ

 

93:レース好きの名無し

 まあ欧米よりは日本の芝に近いしな

 

94:レース好きの名無し

 そういや今まで海外G1勝った日本のウマ娘っていないのか

 

95:レース好きの名無し

 ドバイシーマって何

 

96:レース好きの名無し

 ターフじゃなくてシーマか

 

97:レース好きの名無し

 >>95

 ドバイ芝2410

 1着賞金はなんと348万米ドル(3億9672万円)

 

98:レース好きの名無し

 >>97

 2400mで作ったつもりがゲート入れる幅のこと忘れてて10メートル伸ばしたの好き

 

99:レース好きの名無し

 次走海外か

 

100:レース好きの名無し

 初海外G1勝利願ってるぞ

 

 

 

 

あと



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.デビュー戦


(前話について)
Q.なんでライスはあんな奇行をしたんですか?
A.まず前提として、ライスは競走馬だった頃の感覚が抜けきっていません。なんなら復活しつつあります。
それを踏まえて、
1.人気の決定に金が絡まない事が頭から抜け落ちている
2.人気=注意度であり、人気は前走や過去の戦績"のみ"で決まると思い込んでいる
3.レースの外では基本的に何してもいいと思ってる(ココ重要)

要するに、「お前頭サラブレッドかよぉ!」(※事実)ということです。
楽しいことはやりたくなっちゃうもんね、仕方ないね。



 

 

 

 

1月になった。

有馬記念はやっぱり「これはビックリ」してしまった。

あの状態のダイユウサクに勝てる算段が思いつかなかったので、マックイーンには何も言わなかった。

まあダイユウサクの劇的勝利を奪うのが気が引けるからでもあるが。

 

 

さて、とっくにデビューしていたミホノブルボンは無事に無敗で朝日杯を勝った。

菊花までその調子で頼むよ。

そうそう、ホープフルステークスで面白いことが起きた。

 

 

──マチカネタンホイザ、1着。

 

 

いやぁまさかタンホイザが勝つとは。

馬時代ではずっとG1を勝ちきれなかった奴だったのだが、こっちで新設されたG1に勝てたのでよかったんじゃないか?

もしかしたら私が死んだ後に実はG1勝ってました、なんてこともあるかもしれないけれど。

 

 

 

ちなみに私の元に「はよデビューしろ」「皐月もダービーも出ろ」「ちくわ大明神」「なんでジュニア期出ないの」などと数多くの催促が来ているのだが、「距離適性外なので出ません」の一点張りでなんとか通してきた。

まあマチカネタンホイザが注目を引っ張ってくれただろうしやっと地味に行けるんじゃないかな。

ていうかタンホイザって朝日杯もホープフルも出てたんだよな……中2週しか空いてないのに勝ったのか……いやスゲェなアイツ……

 

 

 

 

 

今日は私のデビュー戦だ。

未勝利と一勝クラスだけはとっとと突破して暫く休む予定だ。

 

 

……なのだ、が。

周りから凄まじく警戒されている。

何かそんなに警戒されるようなことしたっけ。

全く心当たりが無いのだが。

 

 

あーアレだ、スピカ所属だからか。

なんだじゃあ想定通りじゃん。だったら気楽に行こうか。

このレベルの面子なら何も考えなくても勝てるだろ。

 

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

 

 

「6番ライスシャワー、完全に包囲されています! 残り310メートルしかありません!」

 

 

──何だよこれテメェらふざけんな!!

前後左右完全に囲まれたまま最終直線だよ、この[規制済み]どもめ!!

警戒にも程があるだろ!!

お前ら絶対裏で結託してただろクソがぁ!!

 

 

これ抜けねぇぞ、どうすんだこれ。

一応抜け出そうと思えば出来なくはないのだが、無理に突破することになるし、なにより怪我をさせてしまうのはマズい。

ていうかここから抜け出すのは今後の予定を考えると良くないな。

そもそもこの状態から1着取れるやつは覇王か何かだろ。

 

 

よし、今回は諦めよう。

ただ掲示板には入らないと流石にマズい気がする。

最後の直線なので、包囲していたウマ娘が前へと抜け出して行く。

そうして出来た隙間を突いて進み、なんとか4着に滑り込む。

 

 

あーもう面倒な、2週間後にもう一度だ。

次作戦どうしようか。「囲んだら勝てる」って思われただろうなコレ。

なんてことをしでかしてくれたんだ、まったく。

 

 

 

 

 

 

というわけで未勝利戦。

まーた凄い警戒されてる。

返しウマの時、スピカの連中に呼びかけられたので向かう。

 

 

「なあ、多分また囲まれるだろうけど作戦はどうするつもりなんだ?」

「作戦? ええと、色々考えたけど、何も考えないことにした」

「ん? それってどういう……?」

「ああ、つまり──

 

 

──私、ツインターボになります」

「「「「…………え?」」」」

 

 

まあ見てなって。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

 

「ライスシャワー、逃げる逃げる! 囲まれるのを嫌ったか、6バ身、7バ身と差をつけて行きます!」

「ウソ、ライス本当にやっちゃったよ……」

「確かに囲まれはしませんけれど……」

「だからってツインターボはねぇだろ……」

 

 

仕方ねぇだろ1番思考が楽なんだもんコレ!

ツインターボもこっちじゃかなりバカになっているし、これならただバカみたいに走るだけで済む。

そうそうツインターボ、あのオールカマーのことは忘れてないからな。

 

 

体力を使い果たすのはよろしく無いので、ほぼ勝ちが確定したら急速にペースを下げる。

コレで周囲に逆噴射したと思わせておく。

ぶっちぎりで勝つよりも、勝機をチラ見せしておいた方が突っ込んで来てくれるからだ。

そのまま1バ身差まで落としてゴール板を駆け抜ける。

本当に面倒が増えた。アイツら許さんからな。

 

 

次はまた二週間後、二月頭に1勝クラスだ。

さーて、初めてのウイニングライブの準備をしなければ。

 

 

 

 

 

え、何この服、めっちゃ腹出てるじゃん。露出度高すぎんか?

皆こんな服で踊ってたの? マジ?

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

 

あの後、一勝クラスは一発で通過出来た。また破滅逃げしただけではあるが。

3月になってすぐに、テイオーがドバイに飛んだ。

マックイーンの阪神大賞典ぐらい見ていけばいいのにと思ったけれど、絶対に勝つために早くから体を慣らしておきたいらしい。

馬だった頃にはドバイなんて無かったからわからないが、日本の芝と似ているらしいから特に問題は無いと思うけれど。

「カイチョーを超えるんだー!」とうるさく旅立っていったのを思い出す。

ただ若干私から逃げるように行ったような気がする。

別に何もしないのに、何で逃げたんだ?

 

 

それと、とうとう同室の先輩が卒業した。

すぐには就職せず、大学に行くらしい。

4月になったら新しい同室が来るのだ。

マトモなウマ娘だったらいいけれど。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

チームスピカ総合スレ Part103

 

 

396:レース好きの名無し

【速報】ライスシャワー、一勝クラス突破

次は6月頃の予定

 

397:レース好きの名無し

まあ抜けるやろな

 

398:レース好きの名無し

今回もクッソ逃げてて草

 

399:レース好きの名無し

>>398そら初戦で完全包囲されたからな

まあしゃあない

 

400:レース好きの名無し

まーた逆噴射してるよ

勝ってるからいいけど

 

401:レース好きの名無し

なんでクラシック出えへんのや

 

402:レース好きの名無し

>>401

距離適性ってあれほど

 

403:レース好きの名無し

>>402

ライスの適性ってどんぐらいやねん

皐月もダービーもスタミナ足りるやろ

 

404:レース好きの名無し

>>403

逆や

適性が2800↑だから短すぎるんや

 

405:レース好きの名無し

>>404

あーなるほど、伸ばせるけど縮めるのは難しいからな

 

406:レース好きの名無し

ライスシャワー「菊花はとるで」

 

407:レース好きの名無し

>>406

超長距離適性なら海外とか行けばいいやんけ

 

408:レース好きの名無し

確かに

 

409:レース好きの名無し

>>407

ライス「賞金低い知名度低い、なんでわざわざ行かなくちゃ行けないんですか?」

 

409:レース好きの名無し

>>410

ライスはそんな口調で言わね~~

 

411:レース好きの名無し

言うには言うのか……

 

412:レース好きの名無し

実際にツイッターで言ってたし……

 

413:レース好きの名無し

次のスピカってどこ行くんや

 

414:レース好きの名無し

>>413

3月にマックの阪神大賞典からの、テイオーのドバイ

4月にマックの春天

 

415:レース好きの名無し

サンガツ

まあ勝つやろ

 

416:レース好きの名無し

ドバイはオペラハウスとかヘクタープロテクターとか出るんだよなぁ……

 

417:レース好きの名無し

ヒエッ

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.季節は巡り

ゼンノロブロイを期待してくれた方が多いと思いますが、ロブロイは03世代なのでどう足掻いても出ません。
ごめんね


 

 

 

 

 

 夏がまたやってきた。

 

 

 今までの出来事を軽く説明しておく。

 

 

 まず新しい同室がやってきた。

 聞き覚えの無い名前なので、ある程度戦績が予想できてしまうのだが、未勝利でもめげずに頑張って欲しい。

 レガシーワールドみたいな急に覚醒するパターンかもしれないし。

 

 

 次はスピカの戦績。

 

 

 トウカイテイオーのドバイシーマクラシックは、オペラハウスにアタマ差で2着に敗れてしまった。

 残念がるファンもいたが、復帰明けでこの結果なら、と期待するファンも多くいた。

 どうやらあちらでライバル宣言して来たらしく、次に会うのはジャパンカップになるとのこと。

 ドバイは新設だからよく知らないが、この年のJCはテイオーが勝つはずなのでもしかしたら雪辱を果たすかもしれない。

 

 

 

 マックイーンに関しては特に言うことが無い。

 だって普通に春天勝ってくるんだもん。

 強すぎて退屈でつまらないウマ娘だと世間も言い始めた。

「つまらないとは何ですの!」と本人はやや不満そうにケーキを貪っていたが。

 強いって言われてるんだからいいじゃん。

 

 

 その次はテイオーの宝塚。

 これはまた新たなローテーションだ。

 ていうかもう完全に別物では。

 ここでメジロパーマーに勝ってもらわないと春秋グランプリ連覇を阻めないので、頑張ってテイオーから逃げ切ってほしい。

 

 

 

 

 ━━と思っていたのだが、テイオーがトレーニング中に怪我。

 秋まで出走できないことになってしまった。

 SNS等でも「またかよ」「でしょうね」「ノルマ達成」「ちくわ大御神」「ドバイでライブ踊れたの奇跡では」などと散々に言われてしまっていた。

 しっかし相変わらず怪我の神に愛されているなぁこのウマ。

 ただのドSな神かもしれない。だったら滅びろ。

 

 

 

 結局宝塚はメジロパーマーが勝利。

 もしかして大枠の運命は変えられないんじゃないかという気さえしてきた。

 

 

 

 宝塚と前後して私の2勝クラスがあり、難なく突破。

 菊花賞前に3勝クラスで収得賞金を稼ぐ予定だ。

 

 

 

 

 

 さて、少し時を戻してクラシック戦線の話に移る。

 三冠路線は、ミホノブルボンとマチカネタンホイザのジュニア級王者の衝突と目されて━━いなかった。

 朝日杯でブルボンが強すぎたため、タンホイザではやや力不足と見られていたのだ。

 

 

 そして、実際そうなった。

 

 

 ━━やはりブルボンは強いな。

 あれで身体はスプリント向きって本当か? 

 スプリンターにスタミナつけると本当に怖いな。

 

 

 

 

 しかしだなブルボン。

 朝日杯のときも常々思っていたのだが。

 

 

 ━━━━何だその痴女みたいな勝負服は。

 

 

 お前そのスタイルでピッチリな勝負服ってどうなんだ。

 走ってるとき結構揺れてたし。

 走りづらいだろそれじゃあ。

 しかも布面積かなり小さいし。

 思わずツイートしたぞ。

 絶対そのうちコスプレ服として出てくる。ていうか出たし。

 

 

 あれ本人がデザインして着てるってマジか……? 

 

 

 

 ティアラ路線では、桜花賞では前世通りニシノフラワーが勝利。

 しかしオークスはなんとサンエイサンキューが勝利。

 やっぱり数絞ったらちゃんと強いじゃんお前。

 なんであんなクソローテを走らせたんだ。

 

 

 

 時を戻して、今は7月。

 私は菊花賞のみに出るのだけれど。

 今のうちに勝負服のデザインを業者に提出しなければならない。

 これには非常に困った。

 私は模写は得意なのだが創作はどうも苦手なのだ。

 さてどうしようかと悩んでいると、ふと名案が浮かんだ。

 持ってるゲームのキャラデザを参考にすればいいじゃないか。

 早速steamのライブラリを開いて━━

 

 

 ━━だめだわ、レースの雰囲気に合うようなデザインのゲームがほとんど無いぞ。

 なんてもん買ったんだ過去の私。

 使えそうなのがL◯Rぐらいしかないぞ。

 

 

 どうすんだこれ。

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 勝負服のデザイン決まらない

 

 56リツイート 2引用ツイート 470いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 steamでいい感じのデザインのゲーム買ってたっけな

 

 10リツイート 109いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 使えるゲームがほぼ無ぇ! 

 何してんだよ過去の私! 

 [画像]

 

 521リツイート 53引用ツイート 5,192いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 とりあえずL◯R見るか……

 

 150リツイート 19引用ツイート 980いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 親指も人差し指もシ協会もリウ協会もかっこいいな

 [4枚の画像]

 

 310リツイート 29引用ツイート 1,308いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 シャオ部長、良いな

 これ参考にするか

 

 268リツイート 42引用ツイート 1598いいね

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower・昨日 ︙

 

 カラーリングとか諸々調整してだいたいこんな感じ

 あとは業者と相談

 [画像]

 

 

 1,059リツイート 219引用ツイート 1.5万いいね

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

スピカの黒いアレ総合スレpart21

 

 

 

512:レース好きの名無し

 勝負服のデザイン来たな

 

513:レース好きの名無し

 公表するのか

 

514:レース好きの名無し

 まだ企画段階だけどな

 

515:レース好きの名無し

 デザイン元がヤバいんですがそれは

 

516:レース好きの名無し

 コイツのsteamライブラリ、女子学生のしていいやつじゃない

 

517:レース好きの名無し

 >>516

 そもそも女子学生がSteamゲーをやりますか……? 

 

518:レース好きの名無し

 >>517

 だってライスシャワーだし……

 

519:レース好きの名無し

 これで説明がつくの酷いな

 

520:レース好きの名無し

 元となったゲーム知らんのやがそんなにヤバいん? 

 

521:レース好きの名無し

 >>520

 ストーリーも設定も何もかもが地獄だぞ

 買え

 

522:レース好きの名無し

 布面積広すぎぃ!? 

 

523:レース好きの名無し

 割とガッチガチで笑っちゃうんですよね

 

524:レース好きの名無し

 鎧みたいなの見えるんですがその

 

525:レース好きの名無し

 ではここでミホノブルボンの勝負服を見てみましょう

 

526:レース好きの名無し

 >>525

 うお……でっか……

 

527:レース好きの名無し

 >>525

 いつ見ても股間に悪いデザインだな

 

528:レース好きの名無し

 >>525

 ライスシャワー「何だこの痴女みたいな服!?」

 

529:レース好きの名無し

 >>525

 ミホノブルンブルンボイン

 

530:レース好きの名無し

 >>528

 ライスはそんなこと言わn……

 

 

 ……言ってたわ…………

 ttps://twitter.com/rice_shower/status/……

 

531:レース好きの名無し

 >>528

 全視聴者の心の声を代弁したツイート

 

532:レース好きの名無し

 マチカネタンホイザはゆるふわでまともな感じなのにどうしてここまで差がついたのか

 

533:レース好きの名無し

 ブルボンの何がヤバいって全部本人の意志なんだよな

 

534:レース好きの名無し

 コワ〜……

 

535:レース好きの名無し

 バクシン:カッコイイ

 フラワー:可愛らしい

 タンホイザ:ふわふわ

 

 ブルボン:エロい

 ライス:厳つい

 

536:レース好きの名無し

 >>535

 ブルボンはムッキムキのバ体が見られるので筋肉フェチにはいいぞ

 

537:レース好きの名無し

 ブルボンファン「「「尻、ごっついなぁ」」」

 

538:レース好きの名無し

 ていうか勝負服決めたってことは菊花行くのは確定か

 

539:レース好きの名無し

 ライスに勝ってほしい気持ちもあるし2年連続の無敗三冠を見たい気持ちもある

 心がふたつある〜

 

540:レース好きの名無し

 ライス勝ったらブルボン教徒荒れそう

 

541:レース好きの名無し

 でもブルボンがライスに勝てるのか? 

 長距離だったらライスの独壇場やぞ

 

542:レース好きの名無し

 黒いのが走らんからわからんのや

 上がってる動画もポニョぐらいしか無いし

 

543:レース好きの名無し

 言うてブルボンもダービーでまだ余裕ありそうやったしな

 夏でさらに燃料タンク積んでくる可能性は大いにある

 

544:レース好きの名無し

 ブルボンってミドルだっけ

 どっかで本質はスプリンターって聞いたんやが

 

545:レース好きの名無し

 >>544

 合ってる

 ただのスタミナつけまくったスプリンターやぞ

 

546:レース好きの名無し

 >>545

 ただ……の…………? (練習メニューを見ながら)

 

547:レース好きの名無し

 あの鬼畜トレーニングを実行できる精神力ヤベェな

 何したらそう育つんや

 

548:レース好きの名無し

 ていうかそもそもライスの脚質って何なんや

 最近の逃げはただ囲まれるのを回避してるだけやろ

 

549:レース好きの名無し

 >>548

 デビュー戦とテイオーの愚痴インタビューを見た感じ先行

 しかもおそらくマーク屋

 まだ一度もレースでやってないから憶測でしかないけど

 

550:レース好きの名無し

 ブルボン先頭でその後ろにつく感じかな

 

551:レース好きの名無し

 >>550

 キョウエイボーガンがハナを取る宣言してるからわからんぞ

 

552:レース好きの名無し

 >>551

 そういやそうか

 ところでボーガンって3000持つんか? 

 

553:レース好きの名無し

 今まで2000以下だからなぁ

 多分持たない

 

554:レース好きの名無し

 マチカネタンホイザ「あの……あの!」

 

555:レース好きの名無し

 タンホイザって勝てるんですかねぇ

 

556:レース好きの名無し

 今までブルボンに勝ったことねぇしな

 実力差あるしキツイやろ

 

557:レース好きの名無し

 嘘でしょ……まだ7月なのにもう菊花賞の話してる……

 

558:レース好きの名無し

 今年もポニョ見られるんかな

 

559:レース好きの名無し

 >>558

 次は艦これの可能性が微レ存……? 

 

560:レース好きの名無し

 >>559

 えっ、ぜかまし服を着るライスシャワーが見られるんですか!? 

 

561:レース好きの名無し

 ぜかましって何

 

562:レース好きの名無し

 >>561

 ……え? 

 

563:レース好きの名無し

 >>562

 艦これのリリースが何年前なのか数えて来い

 泣くぞ

 

564:レース好きの名無し

 >>563

 やめろ

 

 

 やめろ

 

565:レース好きの名無し

 今日の老人会会場はここですか? 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.菊花賞にむけて

今回はかなり短いです。
あとarcaeaやってて遅れました


 

 

 

 さて、どうしようか。

 迷っているのは9月からのレース予定である。

 収得賞金に関しては、適当な3勝クラスとオープンにいくつか出ればまず足りるだろう。

 しかし菊花への叩きをどうするかが決まらないのだ。

 出ようと思えば出られるが、出来れば出たくない。

 しかし何もせずに本番というのはいかがなものか。

 

 

 色々考えていると、ふと名案が思い浮かんだ。

 レース場を借りて練習すればいいのだ。

 こうすれば外部からの目線も気にせず好き勝手に走れる。

 あちらで菊花賞の動きを思い出していけばいいのだ。

 

 

 というわけで早速予約。スピカの連中も連れて行くことに。

 マックイーンは残念ながら宝塚前に骨折してしまっているので見学に近いが。

 

 

 予定日が来るまでに、菊花賞に出るウマ娘の過去のレースの映像を確認する。

 

 

 特に確認すべきなのが、ミホノブルボンとキョウエイボーガン。

 ミホノブルボンは言わずもがな。

 キョウエイボーガンに関しては、彼女にハナに立ってもらわないと困るのだ。

 私がブルボンを抜けたのは、ボーガンがブルボンの前を走り続けたことが大きい。

 本番でも破滅逃げしてくれるとありがたいのだが。

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 レンタル日。

 スピカの面々には一旦待ってもらい、自分ひとりでとある地点に向かう。

 着いたのは4枠8番の位置。

 菊花賞の枠番。

 目を閉じて、あの時を思い出す。

 

 

 一つ内のミホノブルボン。

 ゲート内の閉塞感。

 静まり返る会場。

 

 

 目を開くと、ゲートの中にいた。

 隣の栗毛の馬の重圧を感じる。

 心なしか視点も高く、視野も広い気がする。

 

 

 さあ、あの時の自分を。

 ヒールたるライスシャワーを。

 完全にトレースしよう。

 

 

 

 幻覚のゲートが開いた。

 ミホノブルボンが先頭に向かうが、さらにその先にはキョウエイボーガン。

 その少し後ろにメイショウセントロ、続いてマチカネタンホイザ。

 そして私。

 コーナーの坂を越え、直線で歓声を浴びる。

 

 

 先頭がどんどん差をつけ、10馬身差までいくが、3コーナーの坂でその差が縮まっていく。

 今だ、と鞍上の意思が届く。

 下り坂で先頭めがけ一気に上げる。

 4コーナーの始めでキョウエイボーガンが垂れるのを右に見て、ミホノブルボンへと突っ込む。

 

 

 最後の直線。

 スタンドからの大歓声が耳に響く。

 もうミホノブルボンとの差はほとんど無い。

 その内からマチカネタンホイザが急速にあがってくる。

 

 

 でも、勝つのは私だ!

 ミホノブルボンを完全に抜き去る。

 そのまま少しずつ差を広げ、1馬身差を付けてゴール板を切る。

 

 

 スタンドの歓声とどよめきが少しずつ薄れ、視点も低くなり、視野も狭くなる。

 スタンドにいるのはスピカのみ。

 

 

 ゴールドシップとトレーナーがドリンクを持ってこちらに来る。

 来るまでの間、私は歓喜に満ちていた。

 

 

 ━━間違いなく、あの時よりも実力は上だ。

 あの時よりも差を広げられるはずだ。

 

 

「……ねえマックイーン」

「……言わなくても分かっていますわよ」

 

 

「「…………あの動物の幻覚は一体……?」」

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 新幹線の中で、一人パソコンをいじる。

 表示されているのは、菊花賞に出場するであろうメンバーに関する膨大な量のデータ。

 ミホノブルボン、マチカネタンホイザ等の有力バ。

 しかし、そのウマ娘たちが私の最注目ではない。

 一人のデータを注意深く読み、過去の言動を漁り、レース映像を何度も見直す。

 至るところに注釈を書き込み、データをアップロードし続ける。

 乗務員が横を通ったとき、私の()()鹿()()が揺れた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.誰が為の菊花賞

 

 

 

菊花賞実況スレ

 

 

1:レース好きの名無し

 さて

 

2:レース好きの名無し

 きちゃぁぁぁぁ

 

3:レース好きの名無し

 ブルボン三冠! ブルボン三冠! 

 

4:レース好きの名無し

 はえーよホセ

 

5:レース好きの名無し

 いつ

 

6:レース好きの名無し

 >>5

 15時35分

 

7:レース好きの名無し

 あと1時間あるぞ

 

8:レース好きの名無し

 ブルボン勝てんの? 

 

9:レース好きの名無し

 まあ行けるやろ

 タンホイザもそんなにやったし

 

10:レース好きの名無し

 調教タイムいいゾ~これ

 

11:レース好きの名無し

 2年連続3冠って初? 

 

12:レース好きの名無し

 >>11

 有敗ならシービー→ルドルフがあるぞ

 無敗は無い

 

13:レース好きの名無し

 スピカの黒いのはどうなんや

 スピカ菊花賞強いやろ

 

14:レース好きの名無し

 >>13

 前例が2つしかねぇ! 

 

15:レース好きの名無し

 >>14

 それ以外の例が見当たらないんですがそれは

 

16:レース好きの名無し

 スピカ菊花賞勝率100%は草

 

17:レース好きの名無し

 黒いのはようわからん

 重賞走れや

 

18:レース好きの名無し

 5戦4勝やから実力はあるぞ

 大舞台でのそれは知らん

 

19:レース好きの名無し

 レースより普段の行動のほうが話題になるウマ娘

 

20:レース好きの名無し

 スピカのメンバーを紹介するぜ! 

 

 スイーツ食べすぎ野球場のオッサン・メジロマックイーン! 

 唯一の常識人・トウカイテイオー! 

 超絶自由人・ライスシャワー! 

 リアルハジケリスト・ゴールドシップ! 

 以上だ! 

 

21:レース好きの名無し

 >>20

 テイオーの胃に穴あいてそう

 

22:レース好きの名無し

 自由人に追いかけ回される常識人の図

 

23:レース好きの名無し

 イロモノチームだぁ……

 

24:レース好きの名無し

 なんでブルボンとかタンホイザより黒いのに話題吸われてるんだよ

 

25:レース好きの名無し

 >>24

 だってこの世代で一番面白いし……

 他のクラシック組が影薄いし……

 

26:レース好きの名無し

 なんでやブルボンも個性的やろ! 

 

27:レース好きの名無し

 >>26

 個性がそこまで目立たないし話題になりにくいし……

 

28:レース好きの名無し

 ワイトレセン周辺在住、ゲーセンで黒いのとよく遭遇

 

29:レース好きの名無し

 >>28

 は? うらやま

 

30:レース好きの名無し

 >>28

 黒いの何やってるん

 

31:レース好きの名無し

 >>30

 来店時ワイ「あの子ENDYMIONやってるな……(感心)」

 プレイ時ワイ「あの子まだENDYMIONやってるな……(尊敬)」

 退店時ワイ「あの子ずっとENDYMIONやってるな……(畏怖)」

 

32:レース好きの名無し

 >>31

 ヒエッ……

 

33:レース好きの名無し

 ライスシャワー「ENDYMIONを逃がすな」

 

34:レース好きの名無し

 >>31

 何時間ぐらいおったん

 

35:レース好きの名無し

 >>34

 だいたい4時間ぐらい

 

36:レース好きの名無し

 >>35

 ……は? 

 集中力もスタミナもバケモンかよ……

 

37:レース好きの名無し

 ENDYMIONを逃さないやつ初めてみた

 

38:レース好きの名無し

 もしかしてライスシャワーって強い? 

 

39:レース好きの名無し

 >>38

 ・チームスピカ

 ・去年テイオーを追いかけ回した

 ・囲まれなかった初戦以外全勝

 強い(確信)

 

40:レース好きの名無し

 今回も破滅逃げやろ

 

41:レース好きの名無し

 >>40

 破滅逃げは囲まれないためやで

 前走は普通の逃げやってたぞ

 今回はブルボンにマーク行くから多分逃げはやらない

 

42:レース好きの名無し

 サンガツ

 ていうかテイオーにマーク教えたの黒いのだっけ

 

43:レース好きの名無し

 >>42

 yes

 

44:レース好きの名無し

 普段の行動がアレ過ぎて強いという実感が湧かない

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

246:レース好きの名無し

 パドック次誰

 

247:レース好きの名無し

 >>246

 ブルボン

 

248:レース好きの名無し

 来た

 

249:レース好きの名無し

 エッッッッッッッッ

 

250:レース好きの名無し

 あーいけませんエッチ過ぎます

 

251:レース好きの名無し

 いや筋肉すっご

 

252:レース好きの名無し

 鍛えすぎやろ

 

253:レース好きの名無し

 トモ何あれ

 

254:レース好きの名無し

 完璧な仕上がり

 勝ったなガハハ

 

255:レース好きの名無し

 キリッとしてるけど中身幼女なんだぜアレ

 

256:レース好きの名無し

 犬っぽいとかよく言われてますねぇ……

 

257:レース好きの名無し

 かわいい

 

258:レース好きの名無し

 2年連続無敗三冠頼むぞ!!! 

 

259:レース好きの名無し

 反動で20年ぐらい三冠でなさそう

 

260:レース好きの名無し

 次誰

 

261:レース好きの名無し

 ライスシャワー! 

 

262:レース好きの名無し

 ブルボンのこと凶人を見るような目で見てて草

 

263:レース好きの名無し

 服ごっつ

 

264:レース好きの名無し

 あれでも元のデザインからナーフされてるんよ

 

265:レース好きの名無し

 色変えて青になったな

 

266:レース好きの名無し

 被服面積デカ過ぎやろ

 

267:レース好きの名無し

 頭以外肌色が見えねぇ

 

268:レース好きの名無し

 仕上がりが何一つわからん

 

269:レース好きの名無し

 あー情報隠すためにゴツくしたんか

 なるほどね

 

270:レース好きの名無し

 元ネタ知らんけどかっこよ

 

271:レース好きの名無し

 >>270

 元ネタのキャラもカッコイイぞ

 問題は女子中学生がやっていいゲームじゃないってことだな

 

272:レース好きの名無し

 >>271

 エロゲ? 

 

273:レース好きの名無し

 >>272

 普通のsteamのゲームや

 ただ世界観がエグすぎて大人でもキツイ

 

274:レース好きの名無し

 なんでそんなゲームやってんの……? 

 なんで勝負服のデザインにしたの……? 

 

275:レース好きの名無し

 >>262

 誰だって最初は変態だと思うよあれは

 

276:レース好きの名無し

 >>274

 だってライスシャワーだし

 

277:レース好きの名無し

 返しが強すぎる

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 ファンファーレが鳴り、ゲートに入っていく。

 4枠8番、ミホノブルボンの隣。

 今日は変なことをするつもりはない。

 最後の直線まで馬の時と同様に走る。

 それで勝てたのだ。ならば下手にいじる必要はない。

 抜け出す時により多くの差を稼げるよう本気で行けばいい。

 

 

 やっとこの日が来た。

 鼓動が高まる。高揚が抑えられない。

 あの感覚だ。

 視点が高くなり、視野が広くなる。

 もう待ち切れない。

 ゲートよ、早く開いてくれ。

 さあ、さあ、さあ━━

 

 

 

 

「第53回菊花賞、今スタートが切られました!」

 

 

 

 

 ━━最高のショーを始めよう。

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

「これから第三コーナーに向かいます! その後は3バ身差でセントライトシチー、…………」

 

 

 

 ここまでは問題ない。全てあの時と同じように動いている。

 少しづつ上げろ、坂を駆け上がれ。

 その先に私の本望が待っている! 

 

 

 

「3コーナー上り詰めて今度は下りにかかりました! 

 800メートル、キョウエイボーガンリードは半バ身。

 ミホノブルボン相変わらず2番手。

 3番手は1馬バ身差メイショウセントロ、さあ外からライスシャワーがぐんぐん上がってきた! マチカネタンホイザも後に続きます! …………」

 

 

 

 3コーナーの終わりで沈むキョウエイボーガンを傍目に、一気に先頭へと詰める。

 

 

 ああ、来た! 来た! 来た! 

 私の出番だ! 刮目せよ! 

 あの栗毛の背に一直線に突っ込め! 

 

 

 最後の直線の直前で1バ身まで詰めた。

 ブルボンの背に強烈な圧をかける。

 後は一気に━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、凄まじく嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい。

 何かが違う。

 何だ? 何が違う? 

 何だこの違和感は? 

 

 

 

 

 

 

 待て。

 キョウエイボーガンが3コーナーの終わりで沈んだ? 

 確か4コーナーに入ってからのはず。

 

 

 

 違う。

 沈んだのなら問題ないはずだ。

 しかももとは16着。

 沈んだ奴の挙動が変わったところで、私にとっては何も変わらない。

 

 

 

 

 なのにどうしてこんなにも嫌な予感がするのだ? 

 

 

 

 

 耐えきれずに後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 ━━キョウエイボーガンは、遠く後ろに沈んでなどおらず。

 

 

 

 私の2バ身後ろにピッタリと付け。

 

 

 

 その目は、ミホノブルボンでも、マチカネタンホイザでも無く。

 

 

 

 

 ━━━━ただ私のみを、凄まじい殺気を持って凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 




万人に恨まれ、たった一人に愛された馬。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.決意

 

 

 

 なぜそこにいる。

 

 

 なぜ沈んでいない。

 

 

 なぜ━━私を見る!? 

 

 

 

「さあ直線コースに入りますが、先頭はミホノブルボン! しかしライスシャワーがすぐ後ろにいます! さらに後ろからは━━キョウエイボーガン!? キョウエイボーガンです!」

 

 

 

 マズい。

 マズいマズいマズい! 

 このままでは確実に抜かれる! 

 

 

(━━クソッ、仕方ない!)

 

 

 ブルボンからマークを外し、ボーガンから逃げるように進路を変更する。

 

 

 そのままブルボンを抜かすが、まだ足りない。

 まだ逃げなくてはならない! 

 

 

 

 

 だが、離れない。

 離せない。

 

 

 

 真っ直ぐ私を睨みつけ、追いかけてくる。

 

 

 

 キョウエイボーガンが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「━━私がただ沈むだけだと思ったか? あの時の俺のように?」

 

 

 

「違う! 違う!!!」

 

 

 

「このレースに全力を懸けているのはお前だけじゃない!」

 

 

 

 

「私はあらゆる手を使って勝ちを模索して来た!」

 

 

 

 

「俺は、私は、決してくだらない馬なんかじゃない!!!」

 

 

 

 

「俺を愛してくれたあの人の為に!!」

 

 

 

 

 

 

「私は勝たなくちゃならないんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、会場にいたほぼ全ての人が、一条の矢を幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━っ、キョウエイボーガンが一気に上がってきた!! 

 そのままミホノブルボンをかわし、ライスシャワーに並んで━━抜けたーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 抜かれた。

 

 

 

 ああそうか、お前もそうだったのか。

 

 

 

 私と同じならば言ってくれればよかったのに。

 

 

 

 成程、完全に掌の上だったということか。

 

 

 

 私は負けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━負ける? 

 この私が? 

 このレースで? 

 キョウエイボーガンに? 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━ふざけるな。

 ふざけるな!!! 

 あってはならない! 

 そんなことがあってはならない!! 

 

 

 

 

 

 

 

 私は黒い刺客だ! 漆黒のステイヤーだ! ライスシャワーだ!! 

 

 

 

 

 たかが策を弄された程度で負けるような弱い馬ではない!!! 

 

 

 

 

 このレースで、この菊花賞で━━

 

 

 

 

 

 

「━━私の勝ちを譲るつもりは無い!!!」

 

 

 

 

「━━いやライスシャワーが差し返す! ミホノブルボンは来ないのか!? お互いに先頭は譲らない! 残り200メートル!!」

 

 

 

 

 

 

「「はああああああああぁぁぁぁっっっっ!!!」」

 

 

 

 

 周囲から音が、色が、余計なもの全てが消えていく。

 ただあるのは地面と、ゴール板と、私と、ボーガン。

 

 

 

 抜かし、抜かされ、並び、並ばず。

「コイツに勝つ」以外の意識は消え失せた。

 

 

 

 

 

 勝つのはキョウエイボーガン(決意)か、ライスシャワー(運命)か。

 

 

 

 

 

「凄まじい競り合いです! 完全に並んだ! 後続とは6バ身近くの差がついています! 淀の舞台を制するのはどっちだ!? 横並びになって今ゴールイン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじいうねりが観客席に生まれている中、私もボーガンもターフに倒れ込んだ。

 マトモな呼吸すらおぼつかない。

 

 

 

 ━━ああクソ、ボーガン、お前、本当に、

 

 

「お前、ふざけんなよ、マジで……」

「……はは、は、あんだけ、やったのに、ここまで、僅差に、なるとは、ははは…………」

「お前も、私と、同じなら、先にそう言えよ、クソ野郎」

「すまんね、ここだけはどうしても、勝ちたかったんだ」

 

 

 息も絶え絶えになりながらボーガンを睨みつける。

 本当にやってくれたな、お前。

 

 

「……よお、久し振りだな、ライスシャワー号。あの時の以来じゃないか」

「ああそうだなキョウエイボーガン号。まさかお前がそうだとは思ってなかったよ、本当に」

「随分と人間生活をエンジョイしてるみたいじゃないか、ええ? 私が散々メタ張って来てるってのに」

「それだけやっておいたくせに、完全に抜くことすら出来なかったみたいだけどな」

「それを言うな悲しくなる。本当お前マジで強いよ、何食ったらそうなるんだよ」

「そっちこそステイヤーじゃないくせによくここまで喰らいついたな、何してきたんだよ」

 

 

 お互いに軽口を叩きあう。

 まさかこんな形で同類に会うことになるとは。

 

 

 

「ていうかライスお前完全に素が出てるじゃねぇか、隠さなくていいのか?」

「お前相手なら別にいいだろ。いつ私がそうだと気付いた?」

「お前の描いたあの絵だよ。んなもん一発で伝わるわ」

「じゃあ接触してこいよ」

「やだ。菊花賞で勝たなくちゃならないのになんで言わなきゃならないんだよ」

「お前本当にこの……そういやこっちに来たってことは死んだのか?」

「おう、32まで生きたぞ。ちなみに俺等の世代で一番長く生きたぞ」

「マジ!?」

「マジマジ。

 そうそう面白いことがあってな、ナイスネイチャってまだ生きてたんだけどさ、あの馬33歳の時に3500万稼いでな。いやーあれは凄かった」

「待って何したんだよ気になる」

 

 

 

 私が知らない話をキョウエイボーガンが持ってくる。

 何をしていたのかは気になるところではあるが、相槌を打って聞いていた。

 

 

「……で、どっちが勝ったんだ?」

「そりゃ私だろ。お前に負けたらステイヤーの名が廃る」

「は? 最後に抜け出したのは私だろうが」

「じゃあ掲示板見てみろよ」

 

 

 

 掲示板には当然写真判定が付き、ディスプレイにはゴールした瞬間の映像が何度もリプレイされている。

 

 

 

 リプレイを見て、自分の感覚的に━━

 

 

 

 

「「やっぱり私の勝ちだな」」

 

 

 

 

 

 

「「━━あ゛?」」

 

 

 

 

 

「おやおや老いぼれて目が腐り落ちたようだなキョウエイボーガン。あれはどう見たって私の勝ちだろ」

「テメェこそ娯楽のやりすぎて目がいかれたんだろ、どっからどう見たって私だろうが」

「は? お前みたいな[規制済]に私が負けるはずがないだろバカかお前」

「あ゛あ゛!? んだとお前この[検閲済]! [放送禁止用語]!」

「[侮辱的発言]! [ちくわ創星神]! [自主規制]!」

「██████! [暴言]!」

 

 

 

 

 

「━━ええ、たった今写真判定が出ました!」

 

 

 実況の声に従い、罵詈雑言の嵐を止め掲示板を見る。

 

 

 

 

 

 

  〉同着

12

 

 

 

 

 

「「再審を要求しまぁす!!!」」

 

 

 

 私達は声高に主張した。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 結局あの後判定が変わることはなく。

 初のG1での同着となってしまった。

 私は未だに納得がいっていない。

 絶対に私が勝ってただろあれ。もう一回やり直せ。

 会場の空気がエライことになっているが気にしてはいけない。

 

 

 さて、いい加減地下バ道に行かなくてはならないのだが。

 

 

 

「ボーガン、いつまで倒れてんだよ」

「いや〜ジジイに3000メートルはキツイって。足動かん」

「今はウマ娘だろうが。後が差し支えるから早く立て」

「待って急に引っ張らないであ痛った!」

「……肩貸そうか?」

「いやお前のチビな体格じゃ意味ないだrゴッフぅ!?」

「歩け」

「はい……」

 

 

 

 

 色々と後始末をしたあと、インタビューへと向かう。

 とはいえ変な質問は少なく。

 悪意のある質問は正論でねじ伏せ。

 次走の話に移ったのだが。

 

 

 

「次走ですが、私もボーガンも有馬記念を予定しています」

「待って私何も言っていないんだけど!?」

「今回同着という優劣がつかない形になってしまったので、そこで改めて再戦という形で━━」

「話聞いて? 私まだ出るとか何も決めてないんだけど? 勝手に私の次走を決めないで?」

「同着かましといて何を言っているのやら」

「手札フルオープンした後にあなたに勝てる算段が思い浮かばないから嫌なんだけど!?」

「500メートルも短いんだから十分そっちの方が有利でしょう。それともこのまま逃げるおつもりで?」

「やってやろうじゃねえかこの野郎! (即答)」

「皆さんちゃんと言質取りましたね? というわけで有馬記念で決着をつけることになります」

「━━あっ待って今のナシでオフレコでお願い待ってホントウ待ってお願いだからああっ」

 

 

 

 

 

 




一応ボーガンはウマ娘というゲームの存在自体は知っていました。
多分あの人に色々とおしえてもらったんじゃないかな(捏造)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18.裏側、敗者、情報、追加

 

 

 

 

 

 

 

菊花賞実況スレ

 

 

 

 

480:レース好きの名無し

 ブルボン掛かってね? 

 

481:レース好きの名無し

 ボーガン邪魔ァ! 

 

482:レース好きの名無し

 ああああああ

 

483:レース好きの名無し

 ブルボン落ち着けマジで頼む

 

484:レース好きの名無し

 黒いの上がってきた! 

 

485:レース好きの名無し

 ボーガンお前ああああああ

 

486:レース好きの名無し

 >>484

 逆や

 3角の急坂で前二人が垂れとる

 

487:レース好きの名無し

 それはそれとして黒いのも来てるやろあれは

 

488:レース好きの名無し

 ライスぅぅぅ差せえええぇぇぇぇぇぇ

 

489:レース好きの名無し

 ブルボン逃げて

 

490:レース好きの名無し

 >>488

 黙ってろ米兵

 

491:レース好きの名無し

 ボーガン垂れた! 

 

492:レース好きの名無し

 あいつ行くだけ行って垂れよった

 ホンマ邪魔

 

493:レース好きの名無し

 そら(あんだけ速度出してたら)そうよ

 

494:レース好きの名無し

 黒いのきてりゅうう

 

495:レース好きの名無し

 俺のマチタンはどこ……? 

 

496:レース好きの名無し

 逃げろおおおお

 

497:レース好きの名無し

 差せ! 

 

498:レース好きの名無し

 >>495

 お前のじゃねぇよハゲ童貞

 

499:レース好きの名無し

 あれ垂れてなくね? 

 

500:レース好きの名無し

 >>498

 頃すぞ

 

501:レース好きの名無し

 黒いの来ないで

 

502:レース好きの名無し

 ん? 

 

503:レース好きの名無し

 お

 

504:レース好きの名無し

 後ろ向いた

 

505:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

506:レース好きの名無し

 え

 

507:レース好きの名無し

 ボーガン!? 

 

508:レース好きの名無し

 は? なんで? 

 

509:レース好きの名無し

 ブルボン!!! 

 

510:レース好きの名無し

 あああ抜かれた

 

511:レース好きの名無し

 ガン無視やんけ

 

512:レース好きの名無し

 ボーガンめっちゃ来てる

 

513:レース好きの名無し

 何今の幻覚

 

514:レース好きの名無し

 矢? 

 

515:レース好きの名無し

 ふぁーwwwwww

 

516:レース好きの名無し

 黒いのを抜いた!? 

 

517:レース好きの名無し

 意味わからん

 何で脚残っとんのや

 

518:レース好きの名無し

 ブルボンうわあああああああ

 

519:レース好きの名無し

 ライス差し返した

 

520:レース好きの名無し

 はっや!? 

 

521:レース好きの名無し

 一気に加速したぞアイツら

 

522:レース好きの名無し

 他が遅れたんじゃ

 

523:レース好きの名無し

 めっちゃ離すやん

 

524:レース好きの名無し

 ブルボン……

 

525:レース好きの名無し

 なんだあの二人!? 

 

526:レース好きの名無し

 加速えっぐ

 

527:レース好きの名無し

 どうだ!? 

 

528:レース好きの名無し

 ライス抜けええええええええ

 

529:レース好きの名無し

 並んだ! 

 

530:レース好きの名無し

 ゴール! 

 

531:レース好きの名無し

 どっち!? 

 

532:レース好きの名無し

 わからん

 

533:レース好きの名無し

 ボーガンあんな強かったんか!? 

 

534:レース好きの名無し

 どっちだよ!? 

 

535:レース好きの名無し

 ブルボンあああああ

 

536:レース好きの名無し

 マチタン差した! 

 

537:レース好きの名無し

 うおおおお流石俺のマチタン!!! 

 

538:レース好きの名無し

 ブルボン4着ってマ? 

 

539:レース好きの名無し

 前二人と何バ身着いたんだこれ

 

540:レース好きの名無し

 >>537

 だからお前のじゃねぇよキモデブ

 

541:レース好きの名無し

 嘘やろ……

 

542:レース好きの名無し

 ライスはまだ分かる

 ボーガンは完全に分からん

 

543:レース好きの名無し

 >>540

 デブじゃねぇよ氏ね

 

544:レース好きの名無し

 >>543

 ハゲと童貞とキモいのは否定しないのか……

 

545:レース好きの名無し

 何でボーガンなんだよクソが

 

546:レース好きの名無し

 リプレイ見ても差が分からん

 

547:レース好きの名無し

 マジでどっちだよこれ

 

548:レース好きの名無し

 ブルボンなんでぇ……

 

549:レース好きの名無し

 菓子屋の精神ボロッボロで芝

 

550:レース好きの名無し

 米兵大歓喜やろこれ

 

551:レース好きの名無し

 ボーガンあんなん予想できるか

 

552:レース好きの名無し

 なんか言い争ってね? 

 

553:レース好きの名無し

 何してんだよwww

 

554:レース好きの名無し

 ワイ現地勢、僅かに聞こえて来る言い合いの内容にドン引き

 

555:レース好きの名無し

 ええ……(困惑)

 

556:レース好きの名無し

 >>554

 何言ってるん

 

557:現地勢

 ちょっとここにすら書けないような罵詈雑言なんやが

 女の子がそんな言葉使っちゃいけません

 

558:レース好きの名無し

 す、スポーツマンシップ……

 

559:レース好きの名無し

 着順で大喧嘩は芝

 

560:現地勢

 いや、口悪いだけでそこまで雰囲気は険悪では無い

 ……気がする? 

 

561:レース好きの名無し

 疑問系かよ

 

562:レース好きの名無し

 ライスってそんな言葉使うんか……

 

563:レース好きの名無し

 ブルボンもマチタンも置いてけぼりで芝3000

 

564:レース好きの名無し

 >>562

 でもだいぶ前にtwitterで無名の胎児にガチギレしとったぞ

 案外使うかもしれん

 

565:レース好きの名無し

 写真判定まだなん

 

566:レース好きの名無し

 あんな僅差やとそら時間かかるやろ

 

567:レース好きの名無し

 >>564

 アレに関してははキレていい

 唾棄すべき存在

 

568:現地勢

 ブルボンガチ凹みしてるのが見える見える……

 

569:レース好きの名無し

 泣きそう

 

570:レース好きの名無し

 ブルボンは3000無理おじさん「やはりブルボンは3000無理だった」

 

571:レース好きの名無し

 お

 

572:レース好きの名無し

 来た

 

573:レース好きの名無し

 どうだ!? 

 

574:レース好きの名無し

 同着!? 

 

575:レース好きの名無し

 同着

 

576:レース好きの名無し

 同着!? 

 

577:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

578:レース好きの名無し

 はあああああああ!? 

 

579:レース好きの名無し

 同着とかあるんか!? 

 

580:現地勢

 あの二人即座に再審請求出したんやが

 

581:レース好きの名無し

 同着かよ! 

 

582:レース好きの名無し

 >>580

 芝

 

583:レース好きの名無し

 ええ……

 

584:レース好きの名無し

 >>580

 納得いかんかったんやろなぁ

 

585:レース好きの名無し

 審判「あの」

 

586:レース好きの名無し

 運営かわいそ……

 

587:現地勢

 ライス&ボーガン「「再審を請求しまぁす!」」

 息ピッタリで芝3200

 

588:レース好きの名無し

 畜生やけ酒じゃぁ

 

589:レース好きの名無し

 ボーガンとか分かるかよ……

 

590:レース好きの名無し

 大穴ってレベルじゃ無いよアレ

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 

【ライスシャワー】菊花賞記者会見スレ【キョウエイボーガン】

 

 

 

 

1:レース好きの名無し

 荒れそうなので先に警告

 荒らしは即通報してね

 頼みます

 

2:レース好きの名無し

 建て乙

 

3:レース好きの名無し

 乙

 >>1 把握

 

4:レース好きの名無し

 ボーガンは絶対に沈むと思ってた奴www

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに沈みはしたな、うん

 

5:レース好きの名無し

 アレなんだったんだ

 

6:レース好きの名無し

 現地勢ニキおる? 

 

7:現地勢

 はいよ

 

8:レース好きの名無し

 俺も現地いたんだけど、なんか幻覚っぽいの見えなかったか? 

 一緒に来た友人も何か見えたって言ってたんやが

 

9:レース好きの名無し

 ここの人間に友人がいたのか!? 

 

10:現地勢

 矢みたいなの見えたな

 あと変な動物

 

11:レース好きの名無し

 >>9

 ここにはボッチしか集まらないという前提で話すのはやめろ

 

 

 やめろ

 

12:レース好きの名無し

 矢は俺も見えたわ

 動物は知らん

 

13:レース好きの名無し

 何アレ

 

14:レース好きの名無し

 多分それ領域

 ソースはこれ

 ttps://wikipedia.org/……

 

15:レース好きの名無し

 >>14

 はえーサンガツ

 もしかして矢ってボーガンの領域か? 

 

16:レース好きの名無し

 こんなんあるんか

 現地行きもありだな

 

17:レース好きの名無し

 ボーガン領域出せるのか……

 ところでブルボンってどうなん

 

18:レース好きの名無し

(目を逸らす)

 

19:レース好きの名無し

 ワァッ……

 

20:レース好きの名無し

 泣いちゃった……

 

21:レース好きの名無し

 最後200メートル10.5とか出てるんですけどあの

 

22:レース好きの名無し

 >>21

 ふぁ!? 

 

23:レース好きの名無し

 3000メートルだよなこれ

 

24:レース好きの名無し

 結局何バ身差開いたんだ……? 

 

25:レース好きの名無し

 >>24

 6

 

26:レース好きの名無し

 最後の直線だけでそんなに離したんか……

 

27:レース好きの名無し

 ライスもそうだが伏兵がやべぇんだよ……何であんなアホみたいに逃げた後にあんな余力があるんだよ……

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

100:レース好きの名無し

 ライス大人しい……大人しくない? 

 

101:レース好きの名無し

 黒いのはあくまでクッソ自由なだけでふざけるタイプじゃないから……

 

 

 

 ─────────

 

 

 記者『レース直後に言い争っているように見えましたが』

 R『ただのじゃれあいです』

 B『同郷だったので色々と素が出まして……』

 

 

 ─────────

109:レース好きの名無し

 同郷!? 

 

110:レース好きの名無し

 じゃれ……あい……? 

 

111:現地勢

 あれが……? 

 

112:レース好きの名無し

 出身同じなんか? 

 

113:レース好きの名無し

 初めて知った

 

 

 ─────────

 

 

 記者『ミホノブルボンによる無敗三冠を期待されていた方も多いと思われますが、それについて何かコメントは?』

 R『あー、なんです、私達に八百長をしろと?』

 

 

 ─────────

 

 

121:レース好きの名無し

 芝

 

122:レース好きの名無し

 これだからゴミ週刊誌は

 

123:レース好きの名無し

 まあ実質八百長しろって言ってるようなもんだもんなこれ

 

124:レース好きの名無し

 オブラートってご存知? 

 

125:レース好きの名無し

 ライスにもボーガンにもキレられてて草

 

126:レース好きの名無し

 この質問何がひどいって1番傷つくのブルボンなんだよな

 

127:レース好きの名無し

 本物のマスゴミやんけ

 

128:レース好きの名無し

 なんか正論ぶっかけ始めたぞ

 

129:レース好きの名無し

 ライス「レースはあなたのためだけの見せものではない」

「ウマ娘の尊厳及びレースの価値そのものを害している」

 ボーガン「粗狙いのためだけに悪質な質問するのやめたら?」

 ゴミ「」

 

130:レース好きの名無し

 >>129

 黒いのの語調強すぎてびっくりした

 あんな怖い声出せるんかあの子

 

131:レース好きの名無し

 画面越しなのに思わず背筋正したわ

 

132:レース好きの名無し

 言葉よりなによりも目が怖すぎる

 

133:レース好きの名無し

 >>132

 これよ

 もう米をおかずにできないねぇ……

 

134:レース好きの名無し

 してる奴いるのか……

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

157:レース好きの名無し

 次走きた

 

158:レース好きの名無し

 はえー有馬なんか

 

159:レース好きの名無し

 ボーガン狼狽えてて芝

 

160:レース好きの名無し

 いや芝

 

161:レース好きの名無し

 ええ……

 

162:レース好きの名無し

 あ

 

163:レース好きの名無し

 あーあ

 

164:レース好きの名無し

 ボーガン「やってやろうじゃねえかこの野郎!」

 

165:レース好きの名無し

 ふぁーwwwwww

 

166:レース好きの名無し

 完全に乗せられてて芝7000

 

167:レース好きの名無し

 言質www

 

168:レース好きの名無し

 この子ひっでぇ! 

 

169:レース好きの名無し

 ボーガンもしかして乗せられやすい……? 

 

170:レース好きの名無し

 黒いの腹も黒いやんけ

 

171:レース好きの名無し

 >>169

 閃いた

 

172:レース好きの名無し

 >>171

 投獄した

 

173:レース好きの名無し

 はええよ

 

174:レース好きの名無し

 司法「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 

 

「……マスター」

 

 

 

 

「……負けてしまいました」

 

 

 

 

「……あの時、私は気付いてしまいました」

 

 

 

 

「ライスシャワーさん、特にキョウエイボーガンさんは、私のことが初めから視界にすら入っていませんでした」

 

 

 

 

「私は蚊帳の外でした」

 

 

 

 

「そう気付いた時、脚が動かなくなりました」

 

 

 

 

「……悔しいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の脚は、治りますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、たとえ治ったとして──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私は、あの二人と同じレースで走れますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私には、分かりません……」

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 菊花賞の数日後。

 レース場だったからあまり話が出来ていないよねと、キョウエイボーガンと共に個室付きの喫茶店に来ている。

 そこでボーガンについての話を聞いていたのだが。

 

 

「なんか……お前、凄い経緯辿ってんな……」

「だろ? あの人には感謝してもしきれないよ、本当に」

「いい人に拾われたなぁお前……ていうかこの菊花賞にその人来てくれたのか?」

「それは知らないさ。来てくれたかどうかよりも、俺があの人に胸張って誇れることが出来たってほうが重要なんだよ。見てくれてたらそれはそれで嬉しいけどな」

 

 

 なんか凄いことになっていた。

 数奇な運命なもんだ。

 他にも私の後の競馬事情を聞いていたりしたのだが──

 

 

「待ってくれ。あのサンデーサイレンスがヤバい種牡馬で? その仔のディープインパクトってのがもっとヤバいやつで? 親子で無敗三冠? 冗談だろ?」

「冗談じゃねぇんだよなぁこれが」

「で、海外G1勝ったのか?」

「勝ったぞ。フランスのが幾つか、ブリーダーズカップ、あと香港とドバイだな」

「ちなみに凱旋門とKG&QEは?」

「まっだで〜す。凱旋門は惜しいとこまで行ったんだけどな。二年連続2着かました奴がいたし」

「まだなのかよ…………と言うか聞いてた感じだと血統がまずいことになってそうなんだが」

「実際マズイ。血統の墓場とか言われてる」

「だめじゃねぇか……」

「えーとあとなんかあったっけ、……ああそうそう、マックの鞍上の人いただろ。あの人まだやってるぞ」

「……え? 何年目?」

「……わからん。あとあれだ、すげぇぞ、牝馬がダービー勝ったんだよ」

「……はぁ!? 嘘だろ!?」

「マジ。ちなみに父親もダービー勝ったから親娘ダービー制覇だな。もう二度と出てこないぞこんな偉業」

「偉業どころか異業だろそれ……」

 

 

 どういうことだよ。

 未来の競馬おかしいだろ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 カフェの帰り道。

 なんか白くて頭がデカいのを見かけた。

 

 

「……アレ、ビワハヤヒデか?」

「そいつ以外いないだろあの頭。分かりやすいなぁ……」

「今までで一番特定しやすかったな……」

 

 

 割と離れているはずなのに何故かビワハヤヒデがこちらをチラチラと見つめて来る。

 何でこの距離で気付くんだ。

 ビワハヤヒデもかなり強かったな、と思いながらビワハヤヒデに近づく。

 

 

「……おや、誰かと思えば。ライスシャワーにキョウエイボーガンか。私はビワハヤヒデだ。菊花賞勝利、おめでとう」

「はいどーも、あんがとね」

「ビワハヤヒデさんですか、期待してますよ」

「……おや、名前を覚えてくれているとは」

「ま、一つ下の重賞勝ちウマ、しかも無敗となれば覚えるよ。次は朝日杯だろう、幸運を祈るよ」

「ああ、感謝する。その期待に応えられるよう全力を尽くすよ。

 ……さて、妹を迎えに行かなくては」

 

 

 ビワハヤヒデの妹。

 十中八九ナリタブライアンのことだろう。

 

 

「妹。もしかしてナリタブライアン?」

「おや、妹の名前まで覚えてくれているとは。これを聞けばあの子もきっと喜ぶだろう。よく君達の話をしていたよ。もしよかったら、会ってくれないだろうか?」

 

 

 会うことに何も問題はないだろう。

 将来の三冠バなのだからむしろ会ってみたい。

 というわけでビワハヤヒデと共にナリタブライアンを迎えに行くことになった。

 

 

「ああ、その、お願いしておいてなんなのだが、妹は少し不思議なところがあってな……」

「……ほう?」

「まあ、そこまで変ではないのだが……

 まず、妹はかなり臆病でな。こうして毎日迎えに行っているんだ」

 

 

 なるほど、ブライアンらしいな。

 あいつビビりだったし。

 

 

「あと、食べ方がどうにも変でな……野菜が好きみたいなんだが、食べる前にとても不安そうな顔をするんだ」

 

 

 それは確かに不思議だな。

 ボーガンの顔が一気に引きつったが、何かあったのか? 

 

 

「それと、よく私のことを『お兄ちゃん』と呼び間違えるんだ。そんなに私が男らしく見えるだろうか……?」

 

 

 あっ違うわこれナリタブライアンそのものじゃねえか!! 

 ブライアンもかよ、もしかして意外といるのか……? 

 

 

「いや、多分そんなことは無いと思う……というか原因に凄まじく心当たりが……」

「!? 本当か!?」

「いや、一旦会えば確定するからとりあえず会ってみようか……」

 

 

 そんなこんなでナリタブライアンのいる所まで来たのだが……

 

 

「ほらブライアン、挨拶して」

「あ、ええと、な、ナリタブライアンです……」

 

 前髪は目が隠れそうな程長く。

 後ろの髪も長く手入れはあまりされておらず。

 ━━なんだこれ。

 馬の時よりもビビり度が加速しているんじゃないか? 

 

 

「はい、よろしく。

 ……で、あー、その、ライスシャワーの描いた絵って見た事あるか?」

「? 無いです、ごめんなさい……」

「ああいや責めてるんじゃなくて。ええと写真撮ってたからーっと……あった、これよこれ」

 

 

 ボーガンが私の描いた馬の絵をブライアンに見せると━━

 

 

「えっ!? あ、いや、その、もしかしてお二方も……?」

「うん、その通り」

「ええと、その、どうやったら怖がらずに走れますかね……?」

「あー、それはだな━━」

 

 

 その後色々と助言してやって別れた。

 

 

「で、あいつ大丈夫なの?」

「実力自体はあるし行けるんじゃないかな……」

 

 

 

「……あっ!!」

「どうした急に」

「あいつ多分ウイニングライブ踊れねぇ!!!」

「……あっ」

 

 

 




Q.元馬増やしすぎでは?
A.これ以上増やす予定もつもりも無いです。
 あとナリブはそこまで出てきません。

Q.じゃあなんで出したの
A.お前らガチ陰ビビり泣き虫シスコンなぶーちゃん見たくないの?

Q.ぶーちゃんの見た目は?
A.ポケモンにオカルトマニアっているやろ? あれ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.日常回(?)

お前らガチ陰ぶーちゃん好きすぎだろ(困惑)
まあ俺も好きだけど。
お陰で出番が増えたよ! オラっブライアン表出てこい!
あくまでオカルトマニアなのは(うちのSSでは)外見だけだから気をつけようね!

あと、もしガチ陰ぶーちゃんで創作したいという方がいらっしゃいましたら、ご自由にお使いください。ていうか作れ(豹変)
私も見たいんだよ!!!!
「ガチ陰ぶーちゃん」でタグつけてくれたらpixivの方でも巡回します。
それとこの世界のマヤブラを提唱してくださった方、先生褒め称えるので後で職員室に来てください。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブライアンに懐かれた。

 今まで独りぼっちで寂しかったのもあったのか、元馬の私達の所によく来てくれるようになった。

 来るだけ来て話したりはせず、私達の近くでじっとしていることが多い。

 しかし、まあその、ブライアンを膝に座らせて髪をといたりとかいろいろしてやっているとだな……

 

 

 

 

 

 

 コイツ可愛らしいな……と思ってしまう訳で。

 大人しくていい子で、臆病なのに強くて。

 こんな子が妹にいるビワハヤヒデが羨ましくなってしまった。

 

 

 

 

 あーこの子スピカに入ってくれねぇかなー。

 そうすればずっと可愛がれるのに。

 

 

 

 

 

 

 ……何かヤバい扉を開けた気がする。

 急いで閉じなきゃ……いやでもこの子なんか危なっかしいし……なんか騙されやすそうだし……別にこんぐらいは問題ないよな……? 

 

 

 

 

 

 

 さて、元馬連中で適当な部屋に集まっていた時のこと。

 ふと気になることがあり、ボーガンに質問する。

 

 

 

 

「なあボーガン、お前のトレーナーの話聞かないけどどこ行った」

「ん? ああお前知らんのか。 私だよ」

「……は? どういうこと?」

「だからそのまんまだよ。私トレーナー免許持ってるんだわ」

「……はぁ!?」「……えっ!?」

「ふっふっふ、これを見たまえこれを」

 

 

 

 

 そう言って財布から小さなバッジを取り出した。

 アレは間違いなくトレーナーバッジだ。

 

 

 

 

「……待て、あのクソ難度のテスト突破したのか!? つーかその年齢で取れるのか!?」

「トレーナー試験に年齢制限ないんだよなぁこれが。めちゃくちゃ勉強したぜはっはっは」

「嘘だろ……アレ過去問ですら半分取れなかったのに……」

「……ええと、それなら少しは話題になってるんじゃないんですか…………?」

「いや、理事長に口止め頼んだ。全部自分の為にしか使わないつもりだったし、公表したらスカウト求める奴らが寄ってきて鬱陶しいだろ?」

「そんな旨いネタ、メディアが取り上げるだろ普通……何でどこにも載ってないんだよ……」

「これもぜーんぶお前対策だったんだよライスシャワーよぉ! お前のせいで結果がアレだったけどな!」

「私が知るかそんなん!」

 

 

 

 

 若干険悪な雰囲気になりかけた所で、ボーガンが悪いことを思いついたかのようにニンマリと笑った。

 

 

 

 

「しかしいいのかライスシャワーさんよぉ、そんな態度をとって…………私がトレーナーってことはなぁ……」

 

 

 

 

 そういうとボーガンはブライアンを引き寄せ──

 

 

 

 

「──ブライアンをスカウトしてもいいってことだぞぉ?」

「ふえぇっ!?」

 

 

 

 

 こ、こいつ! 

 

 

 

 

「卑怯だぞお前!」

「お? いいのか? やっちゃうぞ?」

「断る! ブライアンはウチに来てもらう!」

「えっ!?」

「はぁー? この子をあんなチームに行かせられるかボケ!」

「あんなチームとはなんだとテメェ!」

 

 

 

 

「あ、あのっっ!」

 

 

 

 

 ブライアンがか弱く主張した。

 

 

 

 

「ぼく、お兄ちゃんと同じチームがいいので、ええと、だから、その……」

「……あー…………」「じゃあ仕方ないか…………」

 

 

 

 

 ボーガンとの間に休戦協定が結ばれた。

 

 

 

 

 しかし私は決して諦めぬ。

 いつか必ずブライアンを引き込んでみせる──! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 菊花賞の少し前に遡り、テイオーの秋天。

 ケガ明けのためそこまで本気を出さず、本命はジャパンカップだと事前に明言。

 G1を叩きに使うというよくわからない状況だが、G1以外に出ると他から不満が出てきてしまうので仕方ない。

 結果は5着。調整という面が大きかったためそこまでネットでも荒れなかった。

「勝ったら折れてたから勝たなくて良かった」とかいう意見を見かけた時はキレかけたが。

 

 

 

 

 そしてジャパンカップ。

 ドバイでリベンジを誓ったオペラハウスに見事3バ身差で勝利。

 テイオーの実力を示した一戦となった。

 

 

 

 

 ……これは後でボーガンから聞いたのだが、オペラハウスは世紀末覇王とまで呼ばれたテイエムオペラオーの父だそうだ。

 なんだよその二つ名。戦績聞いたら納得はしたけども。

 インタビューで日本が気に入った旨を話していたので、もしかしたらオペラオーと繋がるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、本日はそんなジャパンカップの数日後。

 いつも通りスピカの部室に向かうと──

 

 

 

 

「おいトレーナー! 今回はぜってーに許さねーからなぁ!!!」

 

 

 

 

 なぜか、トレーナーがスピカの面々に羽交締めにされていた。

 

 

 

 

「…………どういう状況?」

「聞いてくださいましライスさん! トレーナーったら一人で焼肉に行きやがったんですのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 

「か、壁に埋まってますわ……」

「と、トレーナー? 生きてる? おーい?」

「な、なあ、これ大丈夫だよな? ちゃんと生きてるよな?」

「……しぬかとおもった…………」

「これで生きてますの貴方……」

「おめーも大概人間辞めてるよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 

 

スピカの黒いアレ総合スレpart53

 

 

 

 

 

 

236:レース好きの名無し

 そろそろ25時か……

 

237:レース好きの名無し

 もうそんな時間か

 

238:レース好きの名無し

 来るぞ……飯テロ! 

 

239:レース好きの名無し

 今日のラーメンはなんじゃろな

 

240:レース好きの名無し

 日課

 

241:レース好きの名無し

 この為にtwitterフォローしてるまである

 

242:レース好きの名無し

 自分から地雷原に突っ込むのバカだろ

 

 

 俺もそのバカの一人だけど

 

243:レース好きの名無し

 これで明日も生きられる

 

244:レース好きの名無し

 >>243

 飯テロで生きるな

 

245:レース好きの名無し

 さて

 

246:レース好きの名無し

 来た! 

 ttps://twitter.com/rice_shower/status/……

 

247:レース好きの名無し

 ん!? 

 

248:レース好きの名無し

 ラーメンじゃねぇ!? 

 

249:レース好きの名無し

 焼肉かよぉ! 

 

250:レース好きの名無し

 これはこれで胃にくる……

 

251:レース好きの名無し

「スピカのメンバーと叙◯苑に来ました。

 トレーナーは一人焼肉という大罪を犯したので来ていません」

 芝ァ! 

 

252:レース好きの名無し

 >>251

 トレーナーかわいそ……

 

253:レース好きの名無し

 叙々◯とか上流階級すぎる

 

254:レース好きの名無し

 これがG1勝ちウマ娘の財力……! 

 

255:レース好きの名無し

 肉旨そう……

 

256:レース好きの名無し

 俺も行けるようになりてぇ……

 

257:レース好きの名無し

 >>256

 今の職業は? 

 

258:レース好きの名無し

 >>257

 自宅警備員

 

259:レース好きの名無し

 働けや

 

260:レース好きの名無し

 ニートが高い肉を食えるとでも? 

 

261:レース好きの名無し

 焼肉行く前にハロワ行け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビワハヤヒデのヒミツ
最近、妹があの二人の所によく行くせいでさみしい。


ぶーちゃんの一人称ですが、普段は「わたし」、素の時は「ぼく」です。


それと、ライスシャワーの耳(髪)飾り、並びにキョウエイボーガンの勝負服&耳飾りを活動報告の方で募集しております。
今まで決めてなかったので……
よろしければ是非。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.鎌の先は

原因不明の体調不良でかなり遅れてしまいました。
申し訳ないです。

あとarcaeaやってました

今回有馬を書くにあたって、パーマー育成したり他の馬について調べたりダイタクヘリオスの戦績見てたんですが。
1992年
10/11 毎日王冠
11/01 天皇賞(秋)
11/22 マイルCS
12/20 スプリンターズS
12/27 有馬記念
えっ何この超過密ローテは……(困惑)

ブルボンってHANROじゃなくてCHAMPだったんですね……

あとKey Ingredientはいいぞォ……
from a place of love とかSAN値が削れる削れる


 

 

 

 

 

 

 世間がクリスマス一色に染まる時期。

 あらゆる所に紅白や紅緑の物体が溢れ。

 ケーキ屋が過労に陥り。

 その辺でカップルが闊歩し。

 クリスマスプレゼントのために、大型家電量販店が人間で埋め尽くされる。

 

 

 

 

 まあ私にはほとんど関係ないが。

 クリスマスケーキに関してはマックイーンが小さい超高級ケーキをたくさん持ってきてくれた。

 いろんな味を楽しめて実に良かった。

 ただ、そのうちの幾つかには香り付けのための洋酒が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへへへへっっへへへえへへぇ……」

「テイオーが壊れた!」

「ええっ!? 菓子用の洋酒だけでこれですの!?」

「よっっわ……」

「……だれがよわいってぇ!?」

「うわ面倒臭い酔っ払いのタイプだ!」

 

 

 

 

 テイオーが酔った。

 誰がこんなの予想できるか。

 

 

 

 

「うるさぁい! ぼくはありまでもぜったいにかっちゃうもんに!」

「…………ハッ」

「らいすぅ!? いまはなでわらったでしょ!」

「うん」

「ちょっとぉ!?」

 

 

 

 

 馬時代ですら私より後ろだったのに負けるはずがないだろ。

 そもそも私はアイツと決着をつけるのだ。

 沈みっぱなしのテイオーなんざ無視だ無視。

 

 

 

 

「相変わらず神経が図太いと言いますか……」

「アタシもどっちが勝つかわかんねぇしな……」

「……正直テイオーよりもボーガンの方が怖い」

「「!?」」

「ライス? 流石にアタシでも本人の前で言うのはちょっとどうかと思うぞ……?」

「いや、強さじゃなくて行動の話だよ。テイオーはどう動くかがある程度予想がつくけれど、ボーガンは本当に何してくるのか一切わからなくて本当に怖い。あの菊花然り」

「あー成程……」

「まあわからなくはないですわね……」

「もー! そんなにいうならぼくだっておおにげを──」

「「「やめとけ(やめなさい)」」」

「なんでー!?」

 

 

 

 

 喚くテイオーは適当に放っておくとして。

 

 

 

 

「……ちなみに何か対策は考えておりますの?」

「うーん、対策というかゴリ押しというか……基礎能力自体は私の方が上のはずだから、相手の作戦を力技で突破するとか……ただそもそもの地力を封じて来そうでなんとも……」

「でもよー、不可能じゃないのか? 相手に実力を出させないようにレースを操るのって」

「普通なら。でもボーガンならあり得ると思う」

「随分と彼女を評価しているんですわね」

「…………色々と思い知ったから、ね」

 

 

 本当に恐るべき相手だよ、まったく。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

今年の有馬記念について語るスレ

 

 

1:レース好きの名無し

 今年もまたメンツが濃い……! 

 

2:レース好きの名無し

 爆逃げコンビ・メジロパーマー&ダイタクヘリオス

 不憫な帝王・トウカイテイオー

 超絶気性難・レガシーワールド

 ブロコレの兆し・ナイスネイチャ

 鉄の女・イクノディクタス

 みんな大好き・ホワイトストーン

 潜む弓手・キョウエイボーガン

 黒いアレ・ライスシャワー

 

 うーんこの

 

3:レース好きの名無し

 黒いアレは草

 

4:レース好きの名無し

 最近さらに自由度が上がったからな黒いの

 

5:レース好きの名無し

 菊花取ったから本性出して来た感じある

 

6:レース好きの名無し

 今まで隠せていましたか……? 

 

7:レース好きの名無し

 >>6

 駄目みたいですね()

 

8:レース好きの名無し

 ただ遠慮が無くなっただけだな……

 

9:レース好きの名無し

 最近twitchやってるってマ? 

 

10:レース好きの名無し

 >>9

 マジ。ただゲームやってるだけだけどな

 今はthe witnessやってるんだが、ついにアレに気付いた

 

11:レース好きの名無し

 全てを察した時のクソデカため息大好き

 その後ゲームそっと閉じたのもっと好き

 

12:レース好きの名無し

 パーマーとヘリオスの大逃げが見られるの期待しかない

 

13:レース好きの名無し

 パーマーはともかくヘリオスに2500はキツくないか? 

 

14:レース好きの名無し

 いいんだよ沈んでも

 見てて楽しいんだから

 

15:レース好きの名無し

 サンエイサンキュー出ないの? 

 

16:レース好きの名無し

 >>15

 秋華賞→エリ女→有馬記念はキツイって

 

17:レース好きの名無し

 ローテキツいししゃあない

 

18:レース好きの名無し

 ヘリオス「え?」

 

19:レース好きの名無し

 >>18

 毎日王冠→秋天→マイルCS→スプリンターズS→有馬とかイカれてるよ君

 

20:レース好きの名無し

 >>19

 イクノディクタス「そうです。もっと間隔を開けた方がよろしいかと」

 

21:レース好きの名無し

 >>20

 おまいう

 

22:レース好きの名無し

 不憫な帝王……? 

 何回も骨折してスピカの連中に振り回されてるだけじゃん

 

23:レース好きの名無し

 だけ……? 

 

24:レース好きの名無し

 何回も骨折したのに立ち上がるのは不憫じゃなくて不屈なんよ

 

25:レース好きの名無し

 ライスとボーガンの有馬で決着つける宣言、クッソ傲慢で笑った

 アレ上の世代ぶっ潰すの前提として発言してるだろ

 

26:レース好きの名無し

 菊花見てたらできそうな気がするの本当ヤベェなあの二人

 

27:レース好きの名無し

 あんだけ速度出して故障しないか不安

 

28:レース好きの名無し

 今のとこ大丈夫らしいけど

 

29:レース好きの名無し

 爆逃げ二人がハイペース作るから菊花の再現になりそう

 

30:レース好きの名無し

 ボーガンがどうするかだな

 パーマヘリに合わせるかさらに行くか抑えるか

 

31:レース好きの名無し

 当日を待つか

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 有馬記念。決戦の地。

 

 

 変更点は、サンエイサンキューが抜けてキョウエイボーガンが入ったことのみ。

 サンエイサンキュー、秋華賞1着エリ女3着は普通に強いんだよ。本当なんであんなローテ組まされたんだ。

 

 

 私? 

 やっぱり大外16番だったよ。

 ここでも前世再現しなくていいから。

 

 

 ちなみにテイオーにあの惨事の記憶はない。あったら気まずい。

 

 

 まあ、何も気にする事はない。

 結局ステータスでゴリ押すことにした。

 策略なんか関係ない。

 私はただアイツをネジ伏せればいい。

 

 

 

「14万3000人を超えるファンが詰めかけております中山競バ場。グレード1のファンファーレが木霊致します」

 

 

 優駿が、ライバルが、ゲートに入っていく。

 

 

「さあ、いよいよ最後の一人、大外16番、二人目の菊花賞ウマ娘ライスシャワーの枠入りを待つばかりです━━さあ16人枠入り完了しました。

 ゲートが開いて、さあグランプリを制するレースが始まりました!」

 

 

 出遅れなし! 

 

 

 ボーガンはどこだ!? 

 

 

 

 ━━いた! バカ二人の直後! 

 

 

 

 メジロパーマーの後ろにピッタリとついている。

 

 

 あいつまさか。

 

 

 ━━間違いない、明らかにペースがあの時以上だ! 

 

 

 クソ、どうする? 

 

 

 あいつはスリップストリームでスタミナを温存できる。

 そもそも3000であの走りができたんだ、余計無視できないことになった。

 

 

 かと言ってあの3人とその後ろはかなり差がある。

 控えたら追いつけない。

 追いかけたらペースが乱れる。

 

 

 ならば、その中間か。

 

 

 

 

「先頭はメジロパーマーにダイタクヘリオス、そのすぐ後ろにはキョウエイボーガン、この3人が非常に早いペースを作り上げているぞ! そして3バ身離れてライスシャワー、そのまた3バ身後ろには……」

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

「依然として大逃げでありますメジロパーマーとダイタクにボーガン、さあ4番手ライスシャワーまでは8バ身、その後ろも10バ身離れているぞ! 早く追いかけなければならない!」

 

 

 

 

 ああくそ早すぎる、アイツ何考えてんだ!? 

 まだバ身差つけるのか!? 

 

 

 今は3コーナー。

 今スパート掛けないと確実追いつかない! 

 

 

「━━はぁっ!」

 

 

「さあライスシャワーが上がってきた! トウカイテイオーは後方3番手、まだ来ないのか!? メジロパーマー大逃げ! 宝塚の再現なるか!? 残り400!!」

 

 

 上がれ上がれ上がれ上がれ! 

 中山の直線が短すぎる! 

 

 

 追いつけ、抜かせ! 

 あと5バ身、4バ━━

 

 

 

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 キョウエイボーガンの身体が。

 

 

 

 ぐらりと揺れた。

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

 

 

 ゆらゆらと速度を失い、外へとヨレて行く。

 

 

 

 

 一瞬見えた横顔には苦悶の表情が浮かんでいて。

 

 

 

 

 私はただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

「おおっとキョウエイボーガン一体どうしたのでしょうか!? 故障発生か!?」

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 ────4着。

 

 

 正直、結果なんかどうでもよかった。

 

 

 歓声も、メンバーの声も、全てが遠く感じられた。

 

 

 ボーガンが載せられた救急車のサイレンだけが、耳の中で反響し続けていた。

 

 

 

 面会許可が出てから、すぐにボーガンの病室に行った。

 

 

「……来たぞ」

「ああ、お前か……」

 

 

 重い沈黙が病室を覆う。

 

 

 

 

「……脚、治るのか?」

「さあ?」

「さあ、ってお前……!」

「わからんもんはわからん。医者もそう言ってたからな」

 

 

 なぜ。

 何故。

 ナゼ? 

 

 

「ああそうだライス、あの有馬。

 本来との変更点、覚えてるか?」

「……サンエイサンキューではなく、お前が出た」

「そう。そして、サンエイサンキューは有馬でどうなった?」

「…………ぁ」

 

 

 ああクソ、そういう事か。

 

 

 

 

「死神の鎌は、誰であろうと振り下ろされるって事だ」

 

 

 

 運命って奴はどこまで糞なんだ。

 

 

「もちろん、鎌がカス当たりすることもある。テイオーが菊花出られたのはお前の助言だろ。当たり所はこちらで変えられる」

「……だったら、あの宝塚はどうなる?」

「まあ、お前が出なかったら……多分誰かが死ぬ。お前がある程度の対策を持って出れば、死にはしない」

「……」

「ま、タイムリミットまで2年以上あるんだ。今決めることじゃない」

 

 

 私はどうしようか。

 いつの日か考えよう。

 

 

「ボーガン」

「なんだ?」

「……これ」

 

 

 私は紙袋をボーガンに渡す。

 

 

「……絶対に治せよ」

 

 

 私は病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれ」

 

 

 

「……手紙? 私に?」

 

 

 

「……は? ファンレター?」

 

 

 

「……私なんかに届くとは」

 

 

 

「わーお、子供からも来てる」

 

 

 

「これ差出人は……あっ」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「そうか……見ててくれたんだな……」

 

 

 

「あーあ、絶対に治さなくちゃな」

 

 

 

 弓手はまた立ち上がる。

 

 

 

死神は鎌を研ぎ続ける。

 

 

 

 

 来たるべきその時の為に。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.有馬の前後で

 

 

 

 

 時は少し遡り、有馬の二週間前。

 寮の談話室のテレビで朝日杯を見ていた時のこと。

 周囲には他の寮生も沢山おり、かなり混雑している。

 

 

 

 

 レースは終盤へ近づき、そして──

 

 

 

 

「──ビワハヤヒデ1着! 無敗でジュニア級王者に君臨しました! 2着は──」

 

 

 

 

 テレビからも周囲からも歓声が沸き起こる。

 

 

 

 

 しかしビワハヤヒデが1着か。

 あの有馬でテイオーの2着に入ってたんだし強いよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん? 

 

 

 

 

 

 

 本来朝日杯は2着じゃなかったっけ。

 

 

 

 

 

 

 何か嫌な予感がしたので、一旦談話室を離れる。

 スマホを取り出し、ナリタブライアンに電話をかける。

 

 

 

 

「……もしもし」

「あっライスシャワーさん観ましたか観ましたよねお兄ちゃん勝ちましたよ凄いですよね」

 

 

 

 

 ブライアンの大音声に思わずスマホを遠ざける。

 

 

 

 

「……うん、おめでとう。その兄に何した」

「え? いやぁ、お兄ちゃんには無敗三冠を取ってもらおうと思って色々と仕込みをですね」

……ええ…………もしかして兄弟で無敗三冠狙ってる?」

「? 当然ですが」

マジかよお前……まあうん頑張って。多分二人なら出来るから……それじゃ……」

 

 

 

 

 通話を終了して、ため息をつく。

 

 

 

 

「関係者全員の脳みそ焼き焦がす気かよ……トレーナーとかどうなるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

朝日杯スレ

 

 

 

 

856:レース好きの名無し

 コイツ強すぎんか? 

 

857:レース好きの名無し

 出たレース全部レコードとかマジでイカれてる

 

858:レース好きの名無し

 来年にまた無敗三冠出るってマ? 

 

859:レース好きの名無し

 アイツら居なかったら3年連続だったのに

 

860:レース好きの名無し

 >>859

 菓子屋は愚痴言ってないで怪我の復帰祈ってろ

 

861:レース好きの名無し

 記者会見ですわ

 

862:レース好きの名無し

 なんだその腰の穴は

 

863:レース好きの名無し

 エッッッッ

 

864:レース好きの名無し

 うおでっか……

 

865:レース好きの名無し

 何でそこに穴開けたの? 

 殺す気か

 

866:レース好きの名無し

 パドックの時と全く同じ流れで草

 

867:レース好きの名無し

 ブルボンの勝負服はエッチ

 ビワハヤヒデの勝負服もエッチ

 無敗二冠は確定だな

 

868:レース好きの名無し

 いや、そのりくつはおかしい

 

869:レース好きの名無し

 胸見てないで話聞け

 

870:レース好きの名無し

 >>869

 でもよぉ……意識が! 

 

871:レース好きの名無し

 >>870

 下半身に脳みそ付いてそう

 

872:レース好きの名無し

『この勝利は妹のおかげでもあります。ブライアンが全力で付き合ってくれたので勝利を手にすることができました』

 去年この流れ見たぞ

 

873:レース好きの名無し

 一つ下の世代に鍛え上げられるなんてことないやろハハハ

(トウカイテイオーから目を逸らす)

 

874:レース好きの名無し

 >>867

 無敗三冠確定したぞ、おめでとう

 

875:レース好きの名無し

 ナリタブライアンって何者

 

876:レース好きの名無し

 >>875

 外部公開の校内レースで見たけど、クッッッッッッソ強い

 既にクラシック級の実力あるぞ

 

877:レース好きの名無し

 >>876

 は? 

 

878:レース好きの名無し

 >>876

 動画plz

 

879:876

 ほい

 [動画]

 

880:レース好きの名無し

 なぁにこれぇ(恐怖)

 

881:レース好きの名無し

 レース前「かっっっっわ!!」

 レース後「こっっっっわ!!」

 

882:レース好きの名無し

『目標は姉妹での無敗三冠です』

 言いやがった!!! 

 

883:レース好きの名無し

 ええ……

 

884:レース好きの名無し

 動画見た後だと出来る気しかしない

 

885:レース好きの名無し

 ワイ来年デビュー予定、絶望しかない

 

886:レース好きの名無し

 >>885

 トレセン生がこんな掃き溜めに来るな

 

887:レース好きの名無し

 こんな所にいないでトレーニングしてきて

 

888:レース好きの名無し

 こんな場末の掲示板にトレセン生いるのか……

 

889:レース好きの名無し

 地方トレセンはいたけど中央までいるのかここ

 

890:レース好きの名無し

 ワイ新参、ここに地方いたの初耳

 

891:レース好きの名無し

 >>890

 ここの黎明期にいたんだわ

 安価スレ立ててレース走ってたぞ

 

892:レース好きの名無し

 安価でレース??? 

 

893:レース好きの名無し

 作戦も距離も全部行ける子だったから安価で決めてたな

 本人は器用貧乏とか自称してた

 

894:レース好きの名無し

 マジで

 スレ教えてくれると助かる

 

895:レース好きの名無し

 ttps://hakidamekeijiban.com/……

 ttps://hakidamekeijiban.com/……

 ttps://hakidamekeijiban.com/……

 ここらへん見るといいぞ

 案外いい結果残してて面白かったわ

 黎明期のアイドルやぞ崇めろ

 

896:レース好きの名無し

 >>895

 ありがとう

 全部見てくるわ

 

897:レース好きの名無し

 地方行こっかな……

 

898:レース好きの名無し

 行くな行くな

 お前もスレ立てて走れ

 

899:レース好きの名無し

 お前が第二のアイドルだ

 

900:レース好きの名無し

 中央編始まったな

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 年が明けた。

 

 

 

 

 ボーガンからは「多分次の宝塚までには治りそう」と連絡があった。

 なんでも急速に治りが早まったらしい。

 最近上機嫌なのだが、治りが早いから上機嫌なのか、上機嫌だから治りが早いのか。

 おそらく後者の気がする。

 

 

 

 

 これ、私に宝塚に出ろって言ってるよなぁ……

 春天でマックイーン倒す後だからかなり損耗してそうなんだよなぁ……

 

 

 

 

 とはいえ春天以外に出ようと思うレースがないから別にいいのだけれど。

 長距離、G1もG2も少なすぎる。

 海外行けよと言われそうだが、海外は面倒臭そうというかなんというか。

 別に国内だけでいいかなぁとは思う。

 なんだかんだ日本って便利だし。

 その辺はトレーナーと相談して決めてみようか。

 

 

 

 

 あと、最近同室がよくトレーニング中の私を観察する様になった。

 トレーニング場まで付いてきたりメニューを質問してきたり。

 こっそりカメラ撮ってるけどバレてるからな。

 害がないから黙ってるけど。

 

 

 

 

 このメニューについて来れたらかなり強くなるし頑張れよ。

 最近匿名掲示板に入り浸っているようだけど。

 ゲームばっかりやってる私が言えたことでは無いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.奇妙な同室

 

 

 

 レースの予定表とにらめっこをする。

 春天と宝塚以外に何を走るかがさっぱり決まっていない。

 

 

 いっそこういう時は馬の時と同じレースに出てみるか。

 というわけで目黒記念と日経賞にチェックを入れる。

 目黒記念の方はマチカネタンホイザに負けたから要注意だな。

 

 

 ボーガンの退院はまだ先だし、ブライアンは姉貴にベッタリだしで若干暇だ。

 

 

 スピカの連中とは一応絡んではいるが、春天でマックイーンと戦うから、と現在チームを分けているのだ。

 

 

 私はゴールドシップと。

 マックイーンはテイオーと。

 

 

 ゴールドシップをシバキ回しながらトレーニングするのは楽しくはある。

 煽り運転ならぬ煽り走行をしながら毎回ぶっちぎるので風景パズルの苦しみから逃れられて非常に良い。

 ちなみにボーガンから聞いたところによるとこいつ2012世代の馬らしい。

 何で今いるの……? 

 

 

 しかしトレーニングをしていてふと思った。

 スピカ、新入部員入れないのか? 

 

 

 と思っていたらトレーナーからいい感じの子紹介してくれと頼まれた。

 さては忘れてたな。

 

 

 とはいえ未デビューの知り合いなんかブライアンと同室のアイツぐらいしか知らんぞ。

 同室に関しては空いた時間で指導してやっている。

 何で急に頼り始めたのか聞いてみたら「お金の為です!!」とすっごいイイ笑顔で言われた。笑える元気があったらしいので坂路ダッシュを追加してやった。

 まあ物欲ほど分かりやすくて追いやすいものもないからちょうどいいのだろうか。

 せっかくだしある程度成長したらスピカに打診してみるか。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

中央で生き残りたい

 

 

1:クソザコウマ娘

 ttps://hakidamekeijiban.com/……

 ここのスレの885です

 来年デビューですが既に心が折れそうです

 誰かトレーニング教えてくだしあ

 

2:レース好きの名無し

 本当にスレ立てたんか

 

3:レース好きの名無し

 なぜここで聞くんだよ

 

4:レース好きの名無し

 図書館とか教官とかあるだろ……

 

5:レース好きの名無し

 ここに中央いるのか……

 

6:1

 >>4

 図書館は活字嫌いなので嫌です

 教官はクッソ忙しい 予約埋まってる

 

7:レース好きの名無し

 字読めや

 

8:レース好きの名無し

 予約埋まるんか

 まあ競争率すごいから埋まるわな

 

9:レース好きの名無し

 せめて友人とか寮の同室とかおるやろ

 

10:レース好きの名無し

 メンタルトレーニングか? 

 アイワナやれアイワナ

 

11:1

 >>9

 その手があったか

 

12:レース好きの名無し

 イッチアホなん? 

 

13:レース好きの名無し

 活字嫌いって時点で予想はしてた

 

14:レース好きの名無し

 まずそれが一番に思いつくやろ普通

 

15:レース好きの名無し

 まあその同室が役に立たんかったら終わりやけどな

 

16:レース好きの名無し

 なお中央の未勝利突破率

 

17:レース好きの名無し

 >>16

 やめろ

 

18:1

 >>16

 やめてくださいお願いします

 

 あと同室はG1勝ってたので問題ないですね

 帰ってきたら聞きます

 

19:レース好きの名無し

 ふぁ!? 

 

20:レース好きの名無し

 だから何でその状況で話を聞くって言う選択肢が出て来ないんだよ!? 

 

21:レース好きの名無し

 G1勝ちウマ娘とか上位0.1%未満の超絶上澄みやんけ

 そんなのと同室とか羨ましすぎる

 

22:レース好きの名無し

 今おらんのか

 

23:レース好きの名無し

 イッチマジでアホの子だろ

 

24:レース好きの名無し

 ちなみに同室の勝ちレースはどこなん? 

 

25:レース好きの名無し

 同室のサインくれ

 

26:レース好きの名無し

 釣りじゃないよな? 

 

27:1

 >>24

 菊花賞です

 同着でしたけど

 

28:レース好きの名無し

 おい

 

 おい

 

29:レース好きの名無し

 待てや

 

30:レース好きの名無し

 たった今二択に絞られたぞ

 

31:レース好きの名無し

 どっちだ……? 

 

32:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

33:レース好きの名無し

 なーんか絶対こっちだろうなって予感がする

 

34:レース好きの名無し

 >>33

 わかる

 

35:レース好きの名無し

 こういう時は大概アイツ

 

36:1

 黒い方です

 

37:レース好きの名無し

 ですよね!!! 

 

38:レース好きの名無し

 知ってた

 

39:レース好きの名無し

 釣りやろ? 

 

40:レース好きの名無し

 本当か〜? 

 

41:1

 本当だって!!! 

 勝手に撮ったけど許して! 

 [菊花賞のトロフィーの画像]

 

42:レース好きの名無し

 ふぁーwwwwww

 

43:レース好きの名無し

 wtf

 

44:レース好きの名無し

 マジかよ

 

45:レース好きの名無し

 釣りじゃなかったんかよ

 

46:レース好きの名無し

 トロフィーにイッチの顔反射して映ってんぞ

 

47:レース好きの名無し

 まじやん

 

48:1

 中央にきた時点で顔バレ前提だから問題ナシ! 

 ていうか既にこの掲示板私の顔上がってるんですよね

 

49:レース好きの名無し

 え? 

 

50:レース好きの名無し

 どのスレだよ

 

51:レース好きの名無し

 何で上がってんの? 

 

52:1

 >>1 に貼ったスレに上がってた動画あるじゃないですか

 あそこに私映ってますよ

 

53:レース好きの名無し

 待って? イッチあのレース出てたん? 

 

54:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

55:レース好きの名無し

 誰だ? 

 

56:1

 ナリタブライアンの2つ内の栗毛が私です

 4着だったぜふへへ(白目)

 

57:レース好きの名無し

 頑張ったよお前

 

58:レース好きの名無し

 ああ……心折れそうってそういう……

 

59:レース好きの名無し

 言うて2〜4着までほぼ差ないやん

 1着がおかしいだけで

 

60:レース好きの名無し

 むしろアレに出て折れなかったのスゲェな

 

61:1

 あの瞬間「クラシック取りてぇ〜〜」という夢は儚くぶっ壊れました

 今は「お金いっぱいほちい」です

 

62:レース好きの名無し

 芝

 

63:レース好きの名無し

 ウッソだろお前www

 

64:レース好きの名無し

 切り替えが早すぎる

 

65:レース好きの名無し

 ぞ、俗物的……

 

66:1

 やっぱり金だよ金

 栄誉なんかよりも金の方が使えるって悟ったわ

 

67:レース好きの名無し

 芝

 

68:レース好きの名無し

 まあ事実ではある

 

69:レース好きの名無し

 金稼ぐためにも未勝利突破して勝ちまくろうな! 

 

70:1

 >>69

()

 

71:レース好きの名無し

 おい

 

72:レース好きの名無し

 がんばれよそこは! 

 

73:1

 別に未勝利突破したら掲示板入りでもお金もらえるじゃん

 

74:レース好きの名無し

 あっダメだ結構折れかけだコイツ! 

 

75:レース好きの名無し

 勝たなきゃ後のレースに出づらいから勝っとけよ! 

 

76:1

 ちなみに一個怖い話してもいいですか

 

77:レース好きの名無し

 なんだ

 

78:レース好きの名無し

 ええよ

 

79:レース好きの名無し

 ばっちこい

 

80:レース好きの名無し

 はよ

 

81:1

 あのレースあるじゃないですか

 8人立てだったじゃないですか

 

 

 

 

 

 あの中から既に5人自主退学しております

 

82:レース好きの名無し

 うわぁ……

 

83:レース好きの名無し

 おっっっっっも……

 

84:レース好きの名無し

 怖いというか重いんだよ

 

85:レース好きの名無し

 つっっら

 

86:レース好きの名無し

 待って聞きたくなかった

 

87:レース好きの名無し

 イッチは辞めるなよ

 

88:レース好きの名無し

 ここで夢を追いかけると落っこちてしまいます

 だから、金を追いかける必要があったんですね

 

89:1

 辞めないよ

 お金欲しいもん

 

90:レース好きの名無し

 その意気だイッチ

 最も金に汚い重賞ウマ娘になるのだ

 

91:レース好きの名無し

 やだよそんなの

 

92:レース好きの名無し

(中央へのイメージ)壊れちゃ〜う

 

93:レース好きの名無し

 そういや適正どこなんや

 黒いのと違ったらそれはそれでダメだろ

 

94:レース好きの名無し

 たしかに

 

95:1

 ミオスタチン遺伝子はC/Tだったので使える……はず…………! 

 

96:レース好きの名無し

 中距離か

 ならまだ行けるな

 

97:レース好きの名無し

 C/Cじゃなくてよかったな

 

98:レース好きの名無し

 マイル〜中距離適正か

 一番レース多いから金策はしやすいな

 

99:1

 黒い人ゲーセンから帰ってきたので聞いてみますね

 

100:レース好きの名無し

 やっぱりゲーセン行ってたんか黒いの

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

139:1

 メニュー聞いてみたらサラッと坂路10本とか出てきたんですけどあの

 

140:レース好きの名無し

 イッチ死んだな

 

 

 

 

 

 




最近ネタもモチベも時間も湧かなくて辛い
大筋は決まってるけど細かいネタが思い付かない
誰かネタ.zipとか時間.zipとか持ってないですか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23.2月と言えば

うちのライスの簡単な資料です。
下手くそだけど許して(懇願)
髪飾りは一旦白いライラックにします。


【挿絵表示】



 

 

 2月14日。

 バレンタインデー。

 

 

 とりあえずトレーナー用に適当にデパ地下で買ったものを与えておいた。

 

 

 で、友人たちの間でもチョコレートが交換されるのだが。

 

 

 なんか今年はめちゃくちゃ貰ってる気がする。

 

 

 クラスメイトはまだいい。

 見知らぬ生徒からも急に渡されて大変困惑した。

 とりあえず礼を言おうと思ったらとっくに逃げてしまっていたり。

 念の為にと持ってきていた紙袋が全部埋まった。

 

 

 

 とりあえず一旦寮に持ち帰ろうと靴箱を開けたら━━

 

 

 

 ドサドサドサッ

 

 

 

 中からチョコレートの箱が大量に出てきた。

 ハート型でかなり凝ったものもある。

 

 

 お前ら、どうした急に。

 

 

 来週目黒記念だから今すぐは消費できないっての。

 

 

 ……売店からレジ袋買ってくるか。

 

 

 その後はゴールドシップとのトレーニングだ。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

「ホラホラホラァ!!! おっっそいよぉ!!!???」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」

 

 

 

 

 

「ライスシャワー、凄まじい迫力でマチカネタンホイザを追い立てて行きます! 1000メートルの通過タイムはなんと56.2!」

 

 

 

 

 目黒記念。

 とある理由でタンホイザを全力ですり潰す。

 

 

 

 

「━━1着はライスシャワー! マチカネタンホイザは大きく離されて2着!」

 

 

 

 足で地面を掻きながら息を整える。

 

 

 

「━━ぜぇ、ちょっと、あの、なんで、あんなことを、ぜぇ……」

「……私は今大変機嫌が悪いです」

「えっ、なんで、なにか、したっけ?」

 

 

 

「チッ……ゴールドシップあの野郎逃げやがって……」

 

 

 

「━━ねぇ!? 完っ全にとばっちりだよね!? ねぇ!?」

「あいつ見つけたら覚えとけよ……」

「聞いてる!?」

 

 

 

 観客席から野次が飛ぶが中指と睨みつけで返答する。

 これが私の姿勢だ覚えとけ。

 

 

 全責任は逃げたアイツにある。

 ご丁寧に「メガロドンとチューブワーム釣ってくる」と書き置きを残しやがった。

 

 

 私は何もしていない。

 メニューもトレーナーと相談して決めたものだから私のせいではない。決して。

 

 

 

 チョコレートのカロリー消費とかも考えてない。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

「」

「これ終わったらウッドチップ5本ね」

「」

「……生きてる?」

「」

「……えい」

「ゴフッ」

「生きてるようで何より。じゃあそろそろ行こうか」

「」

「それ終わったらゲーセン行こうか」

「!!!」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

中央で生き残りたいpart2

 

 

 

218:イッチ

 あの黒い悪魔め騙しやがって

 

219:レース好きの名無し

 とうとう悪魔呼ばわりか

 

220:レース好きの名無し

 かわいそうかわいい

 

221:レース好きの名無し

 何されたんや

 

222:イッチ

 いつも通りド畜生外道トレーニングやってたんですけどね

 終わったらゲーセン行こうって言ってくれたんですよ

 やっと遊べるとウキウキしながら行ったんですよ

 

 

 

 

 

 

 ふざけんななんで着いた瞬間D○R連コインしたんだよ

「じゃあこれ使い切って」じゃねえんだよ

 さらっと私用のカード発行してるんじゃねぇよ

 

223:レース好きの名無し

 えげつねぇ……

 

224:レース好きの名無し

 芝

 

225:レース好きの名無し

 ○DR連続はいやーキツイでしょ

 

226:レース好きの名無し

 ゲーセンはトレーニングジムじゃないんだよなぁ

 

227:レース好きの名無し

 なお黒いのの認識

 

228:イッチ

 何がひどいって隣空いてるからって最高難易度すぐ横でやり続けてるんだよ

 なんでトレーニングの後にあんなに動けるの

 なんかめちゃくちゃカロリー消費のとこ見てるし

 

229:レース好きの名無し

 相変わらずのスタミナお化けだな

 

230:レース好きの名無し

 よかったやんカード代もゲーム代も出してもらって

 タダでゲームできたんやろ? 

 

231:イッチ

 よくねぇよ

 

232:レース好きの名無し

 即答で芝

 

233:レース好きの名無し

 ゲーセンにはちゃんとスポドリ持っていけよ

 脱水で死ぬぞ(2敗)

 

234:レース好きの名無し

 一回で学習しろ

 

235:レース好きの名無し

 バカなの? 

 

236:レース好きの名無し

 ちげぇよ

「脱水なら水でいいだろ」って思って水だけで行ったら塩分不足で死んだ

 

237:レース好きの名無し

 あほくさ

 

238:レース好きの名無し

 おバカ! 

 

239:レース好きの名無し

 せめて塩分タブレットぐらい持っていけ

 

240:イッチ

 なーんか最近黒い人の機嫌が若干悪くて怖ぁい

 

241:レース好きの名無し

 イッチやらかしたんか? 

 

242:レース好きの名無し

 セプク案件? 

 

243:イッチ

 私じゃねぇよ

 なんかゴールドシップって人が逃げたらしい

 

244:レース好きの名無し

 あぁ……(察し)

 

245:レース好きの名無し

 twitterで愚痴ってましたねぇ

 

246:レース好きの名無し

 目黒記念のアレはそういう……

 

247:レース好きの名無し

 >>246

 アレ本性出てて最高

 

248:レース好きの名無し

 俺も睨んで中指立てて欲しかった

 

249:レース好きの名無し

 >>248

 わかる

 

250:レース好きの名無し

 壁際に追い詰めてすぐ横の壁を思いっきり蹴ってほしい

 

251:レース好きの名無し

 >>248 >>249 >>250

 変態だー!! (画像略)

 

252:レース好きの名無し

 イッチ次の校内レースいつ出るんや

 

253:イッチ

 >>252

 再来週の土曜

 確か外部公開してたはず

 動画だけかもしれないけど

 

254:レース好きの名無し

 またブライアンと当たったら笑うで

 

255:レース好きの名無し

 ブライアンはもう出ないんじゃなかったっけ

 

256:レース好きの名無し

 そうだったわ

 

257:レース好きの名無し

 まあ明らかに同世代ぶっちぎってるから出る意味ないもんなぁ

 

258:レース好きの名無し

 スパルタ始まってから初めてのレースじゃね? 

 

259:レース好きの名無し

 そういやそうだな

 

260:イッチ

 圧倒的な成長を実感する、私もなぁ……

 

261:レース好きの名無し

 これで負けたら後がクッソ怖いですねぇ! 

 

262:イッチ

 >>261

 ヤメロォ! (建前) ヤメロォ! (本音)

 

263:レース好きの名無し

 死ぬなよイッチ

 

264:レース好きの名無し

 骨ぐらいはネットに晒してやるよ

 

265:イッチ

 晒すな拾え

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24.同室ちゃん

ライスは同室の掲示板は見てないです
ただ画面チラ見して「まーたやってるよこいつ」っていう認識ですね
これに関しては私の描写力不足ですねぇ申し訳ない
多分そのうちバレます


 

 

 

 

 私の同室は変人だ。

 

 

 

 

 とにかく自由。ひたすら自由。

 思いついたことを大抵すぐに実行する。

 

 

 

 

 twitterの固ツイもアイコンも未だにポニョのやつで。

 暇さえあればすぐにPCいじったりゲーセンに行ったり。

 かと思えばトレーニングは尋常じゃないほどキツいのをこなす。

 

 

 

 

 そして私にもそれをやらせてくる。

 マジでキッツイ本当しんどい。

 道端でぶっ倒れてたらトニービン先輩が介抱してくれた。感謝。

 あと私の中での呼称が「黒鬼」から「黒い悪魔」に変わった。

 

 

 

 

 その悪魔が、柵を挟んで目の前にいる。

 

 

 

 

「━━レースの後、色々声かけられると思うけど真っ直ぐ私の所へ来て」

「あっハイ。ちなみに理由は?」

「その時に言う」

「今教えてくださいよ〜……」

 

 

 

 

 今から校内レース。

 外部にライブ配信されているからスレ民も見ているはず。

 あー緊張する。

 私だけを見ている人間が何人かいるということを考えるだけで鼓動が早まる。

 

 

 

 

 ゲートの前まで行く。

 大きな鉄の門が歓声の中でも静かに鎮座している。

 一人、また一人とゲートに入っていき、私の番が来る。

 

 

 

 

 ゲート直前で尻尾を大きく3回転。

 スレで決めた合図。

 

 

 

 

 ━━案外アリだなこれ。

 心が切り替わる感じがする。

 今後のルーティーンにしよう。

 

 

 

 

 鉄門に一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━さあ大きく尻尾を回した3枠4番オフサイドトラップ、今ゲートインです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━今ゴール! オフサイドトラップ、全く他者を寄せ付けなかった!」

 

 

 

 

 

 

 …………あれー? 

 なんか…………勝った。

 勝った実感が湧かない。

 パパーっと走って最後に抜いて終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは……アレじゃな? 

 強くなりすぎたってやつじゃな? (傲慢)

 

 

 

 

 いや〜やっぱあの外道トレーニングすごい力付いてるじゃん! 

 黒い悪魔とか呼んですいませんでしためっちゃ効果ありましたねぇ! (テノヒラクルー)

 これは今後も安泰だなやったぜ。(慢心)

 

 

 

 

 凱旋気分でライスさんの所に向かう。

 スカウト目当てのトレーナーが沢山寄ってきたけど、まずはこっちだ。じゃないと後が怖い。

 

 

 

 

 ライスさんは彼女のトレーナーと何やら話しているらしい。

 

 

 

 

「…………ビの兆候があるから坂路とプールだけに絞ってて……」

「ライスさぁーん! 勝ちましたよー!」

「……はいおつかれ。調子乗ってるとこ悪いけどこれ名前書いて」

「はい? なんですかこれ」

 

 

 

 

 ライスさんから一枚の紙を渡される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナー契約書。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

「今日からスピカ所属ね」

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃れられぬ悪魔。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 日経杯が終わった頃。

 

 

 

 

 逃亡者を見つけた。

 

 

 

 

「…………ゴールドシップ?」

「おっライスじゃーん! 聞いてくれよぉ道々のドアを蹴りながら空を裂く悲鳴をマントルから饒舌に編んでたんだけどさぁ」

 

 

 

 

「ねえ」

「……はい」

 

 

 

 

「あと一ヶ月で春天だよね」

「…………はい」

 

 

 

 

「どこ行ってた」

「………………ナーシサス次元のホログラムを登りに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギッ、メギメギメギメギ……

 すぐ近くの木を思いっきり蹴り倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一回どうぞ」

「すいませんでしたアタシが悪かったですお願いだから殺さないで下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25.新年度

 

 

 

 

 4月。

 ゴルシを追い回しながらトレーニングに励む。

 ボーガンから「多分マックイーンに強化入ってるぞ」と言われ、アレに更に強化が入ったら尋常じゃないことになると焦っている。

 そりゃあ私がテイオーを強化したんだからそれを見てマックイーンが強くなるのは当然か。

 

 

 

 

 真面目に走る強化マックイーンとか怖すぎる。

 全力でやらないと勝てないぞこれ。

 宝塚までに回復間に合うかなぁ……

 

 

 

 

 素直にボーガンにも頼って色々やってみるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 食堂にて。

 なんかやけにざわついている。

 何があったのかと思うと━━

 

 

 

 

 食事の山があった。

 オグリキャップ以来だなアレ見るの。

 もう卒業したから見れないかと思っていたのに。

 

 

 

 

 飯の山の前に座っているのは誰だ、と山を回り込むと━━

 

 

 

 

 

 

「━━お久しぶりです、ライスシャワーさん」

「……え? ミホノブルボン? ……ああうん、久しぶり」

 

 

 

 

 久しぶりだなミホノブルボン。

 何でこんなに食べてるのか理解出来ないけど。

 

 

 

 

「……この食事の山は?」

「……まず、私が故障していることは知っていますね?」

「うん」

「次に、オグリキャップさんが繋靭帯炎から復帰したことも知っていますね?」

「うん」

「繋靭帯炎は不治の病とされていますが、オグリキャップさんは多量の食事、並びに湯治によって回復しました」

「……うん?」

「私の怪我は繋靭帯炎より軽いです。ですので、同じことをすれば治療できるのではないかと考えました。故にこのような多量の食事を摂っているのです」

「…………いや、そのりくつはおかしい」

「いいえ。前例が存在している以上可能であると考えます」

「……ちなみにカロリー消費は?」

「現在可能な運動で行っています」

「……わお」

 

 

 

 

 

 

 オグリキャップに関しては突然変異じゃねぇのかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 皐月賞。

 やっぱりビワハヤヒデが勝ったよ。

 ブライアンマジでやりやがった。

 

 

 

 

 というかブライアンの成長が著しい。

 いつの間にか私の身長を抜かしやがった。

 しかも10cmも。

 私150しかないんだぞ。

 ちょっとぐらい分けろ。

 

 

 

 

 一緒に走ったら普通に追い付いてくるし。

 未デビューのウマ娘が出していい実力じゃない。

 オフトラに話したら暫くぶっ倒れたぞ。

 

 

 

 

 お前もうクラシック終わったら海外行ってくれ。

 多分凱旋門行けるんじゃないかな。

 芝とか海外バとかよく知らないからわからないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ〜もうクソが! 日本語マジでわかんねぇ! 『が』と『は』の区別がつかねぇんだよマジで!」

「まあその辺りは難しいからねぇ」

「難しいっても限度があるだろうが!? 何で3種類も文字があるんだよ!? 何ですぐに主語省略するんだよ!? 日本に来てからもう2年過ぎてんだぞ!? 未だにカタコトでしかしゃべれないのイカれてるぞマジで!」

「その分表現力は高いからね。案外あの子たちもカタコトでもわかってくれてるでしょう?」

「永住するんだから話せなきゃダメだろうが。つーかあいつら入学したんだろ? トレセン行ってくるわ。久々に顔が見てぇ」

「つい先々週会ったばかりなのに?」

「気になるんだよ! 特にマーベラス! あいつの疝痛と骨折ヤバいんだから確認してくる!」

「はいはい。気をつけてね」

 

 

 

 

 

 




Q.最近短くね?
A.ネタ切れ症候群を患いました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26.春天

Q.前回の最後の二人、片方はアイツとしてもう片方誰なん?

ヒント(透明文字): 赤い方はまだアメリカにいる
ヒントその2:コイツがニホンに来るきっかけ


 

 

 もうすぐ春天という時。

 

 

『……あーわかるわかる。私に絡んでくる奴らほんっと個性的というか話が通じないというか、アイツなんか頭にマリファナ詰まってんじゃねぇかと常々思ってるよ』

『わたくしもゴールドシップとかゴールドシップとか絡んで来ますのよ……この間なんて妙な4本足の生き物をけしかけて来ましたのよ……』

『お互い大変だなぁ、ええ?』

 

 

 マックイーンともう一人、鹿毛のウマ娘がいた。

 会話は英語。

 鹿毛の方は私服だから、海外からの見学者だろうか。

 

 

「……あら、ライスシャワーさん。おはようございます」

「おはようございます。今は案内中ですか?」

「ええ、この方は……」

「『ああ、私がやるよ』……ハジメマシテ。ワタシはサンデーサイレンス、です」

……マジかよ…………『こちらこそ初めまして、ライスシャワーです。それと英語で大丈夫ですよ』」

『おお、ありがてぇ。よろしくな』

 

 

 とりあえず握手を交わす。

 というか米国二冠バがなんでここにいるんだ。

 活躍をボーガンから聴いている以上すごい緊張する。

 

 

『サンデーサイレンスさん、この方が先ほどのゴールドシップをコントロールできる数少ない人です』

『は? マジ? こんな華奢っぽいのに?』

『あなたほどではないですけどね』

『……アッハッハッハ、違いねぇ! よく見りゃぁ案外しっかりしてるじゃねぇか!』

『して、今日はどういった御用件でここに?』

『ああ、日本に来てから教えてきた奴らが入学したからな。様子を見に来たんだよ』

『そういうことですか。いつの日か競うことになるかも知れませんね』

『油断するなよ、アイツらはかなり強えぞ? なんたって私が教えてきたからな』

『ならば楽しみにしていますよ』

『こっちこそ。……ああ、もうこんな時間かよ。アイツが待ってるんだ、そろそろ帰るよ』

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 春天の日。

 私はスピカの先輩方と共に京都に来ている。

 

 

 メジロマックイーンさんとライスシャワーさんの激突。

 

 

 さっきお互いが会話していたけど、重圧が凄すぎて周りから人が居なくなっていた。

 漫画だったら絶対目と目の間に火花散ってた。

 明らかに「お前を潰す」ってオーラが二人から出てたもん。

 すっごい怖かったよ本当に。

 ゴールドシップさんとか逃げ出したし。

 すぐにトレーナーさんが足引っ掛けて捕まえたけど。

 

 

 パドックの前の時。

 

 

「テイオー先輩、どっちが勝つか賭けません?」

「いやダメでしょ」

「じゃあ私はライスシャワーさんに2兆ジンバブエドルで」

「だからダメだって。ていうかそれほぼゼロじゃん」

「だったら花京院の魂も賭けます」

「いやそっちじゃなくて」

 

 

 待ってる間にスマホを取り出す。

 

 

 

 

53:イッチ

 二人の重圧ヤバすぎて怖い

 

54:レース好きの名無し

 画面越しでもわかるのに直接会ったらそら怖いわ

 

 

 

 

 テレビ越しとかすごいな、あの人たち。

 あそこまでは行かなくとも、なんかオーラとか出せるようになりたい。

 カッコいいし。

 

 

 

63:イッチ

 >>54

 新幹線の車内クッソ怖かったぞ

 

64:レース好きの名無し

 他の乗客かわいそう

 

65:レース好きの名無し

 いるだけで営業妨害は芝

 

 

 

 営業妨害か。

 流石にそこまで行かないでしょ。

 

 

 ──前日のレストランもなんか人少なかったな。

 周りの人がとっとと帰ってたな。

 

 

 やっぱ行ってね? 

 

 

 

72:イッチ

 お高いレストラン行ったのに味がしなかったぜ

 

73:レース好きの名無し

 芝

 

74:レース好きの名無し

 勿体ねぇwww

 

 

 

 

 アレはお金返して欲しい。

 いや学校の経費で落ちてたわ。

 じゃあ時間で。

 

 

 

79:イッチ

 あー始まって欲しくない

 でも結果は知りたい

 

80:レース好きの名無し

 心がふたつある〜

 

81:レース好きの名無し

 ちゃんと見て技術吸収しろ

 

82:イッチ

 私に春天は長すぎるっての

 

 

 

 

 

 ただ見るだけのはずなのに、緊張がおさまらない。

 心臓が早鐘を打つ。

 

 

 

 

 

 あっそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「テイオーさんちょっと失礼しますね」スウゥ~

「ピイイイィィィッ!?」

 

 

 

88:イッチ

 テイオーさん吸うと落ち着く

 いい匂いする

 

89:レース好きの名無し

 ファッ!? 

 

90:レース好きの名無し

 イッチ!? 

 

91:レース好きの名無し

 何やってんのお前!? 

 

92:レース好きの名無し

※百合の花が咲いています。大切にしましょう

 

93:レース好きの名無し

 ここに塔を建てよう

 

 

 

 

 




ssは元馬じゃないです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27.殻

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ晴れの良バ場となりました第107回天皇賞(春)」

 

 

 

 

「一番人気はやはりこのウマ娘、『ターフの上の名優』メジロマックイーン。8枠14番での出走です」

 

 

 

 

 マックイーンさんの名前が呼ばれる。

 

 

 

 

 あの人、気迫が凄い。

 

 

 

 

 遠くにいるのにビリビリと肌に来る。

 

 

 

 

 仕上がりも完璧。

 

 

 

 

 そりゃあ黒い人もベッドであーだこーだと対策を練るわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲートインですが……なかなか入りませんね。瞑想……でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マックイーンさんは目を閉じてゲート前に立ち止まっている。

 

 

 

 

 やがて顔を上げ、ゆっくりとゲートに入っていった。

 

 

 

 

 

 

「2番人気を紹介しましょう、『黒鬼』ライスシャワー。2枠3番です」

 

 

 

 

 黒鬼。

 

 

 

 

 いやもう私としては「鬼じゃなくて悪魔だ!」と大声で主張したいのだが。

 

 

 

 

 この呼び名には一応原因があって。

 

 

 

 

 先週、ライスシャワーさんに「写真撮ってくれ」とお願いされて、露出多めのトレーニングウェアを着た写真を撮ったのだけれど。

 ライスさんがTwitterにそれを投稿した。

 

 

 

 

 そしてエゲツなく絞られた身体に凄まじく反応が付いた。

 

 

 

 

 いやあ撮った私が一番実感したよね。

 何だあの筋肉。

 金剛力士像とか言われててクッソ笑ったぞ。

 

 

 

 

 そしていつの間にか鬼に名称が変わった。

 目黒記念とかのアレも原因だろうな、きっと。

 

 

 

 

 ちなみにスレ民には私が撮ったってことは一瞬でバレた。

 まあ私しか撮る人いないしね。

 

 

 

 

 今スレを見ると、実況が黒鬼呼ばわりしたことに沸いている。

 君たち、もうすぐ始まるぞ。

 

 

 

 

 

 

 全員がゲートに入り━━

 

 

 

 

 

 

「マックイーンの三連覇か、ライスシャワーが勝利をもぎ取るか、はたまた。

 ━━さあ天皇賞春、今スタートです!」

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 マックイーンが強化されているなら、やることは一つ。

 

 

 

 

 得意分野で全て押し通す! 

 

 

 

 

 スタートしてすぐにマックイーンの後ろをマーク。

 マックイーンはチラリと後ろを見て、「やはり来ましたわね」と微笑を浮かべた。

 それを見て「来てやったぞ」と獰猛に笑み返す。

 

 

 

 

 メジロパーマーが相変わらず先頭、その少し後ろにマックイーン、続いて私。

 

 

 

 

 ずっとポジションをキープしていると、横からチラチラと視界に入ってくる奴がいた。

 

 

 

 

 マチカネタンホイザだ。

 

 

 

 

 正直かなり鬱陶しい。

 耐え切れなくなって思わず「失せろ!」と怒鳴りつけてしまった。

 途端にビビり散らした様子だったが、今度は静かに私の後ろについていた。

 意外とやるじゃないかお前。

 

 

 

 

 私達の圧によってか、パーマーがさらに加速。

 あの時よりもさらに早いペースでレースが進んでいく。

 

 

 

 

 その状態を保ったまま、三コーナーの終わりまで来た。

 

 

 

 

 その状態を保つしかなかった。

 

 

 

 

 あの時よりもさらにハイペースになるのは想定済み。

 であれば、少しでもスタミナを温存しておかないと差し切れない。

 マックイーンの無尽蔵とも言えるスタミナでも、限界はあるはずだ。

 故に、マークをしながらスリップストリームを使うのが得策。

 

 

 

 

 それをマックイーンは許容した。

 小細工があろうとも叩き潰す、真正面から迎え撃つ。

 

 

 

 

 そんな意思を感じる。

 

 

 

 

 こいつならやってしまえるのではないか、との思いがチラつく。

 

 

 

 

 だとしても、勝たせるつもりは毛頭ない。

 

 

 

 

 その余裕ごとぶっ潰す! 

 

 

 

 

 パーマーが垂れ始めたのを合図に、私達は一気に加速し始めた。

 

 

 

 

「間もなく最後の直線、一気にメジロマックイーンとライスシャワーが上がってきた! 少し遅れてマチカネタンホイザ、……」

 

 

 

 

 

 

 お互いに目が合った。

 

 

 

 

 

 

 ━━行くぞ! 

 ━━かかって来なさい! 

 

 

 

 

 

 

「「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 追いつき、追い越し、追いつかれ、抜かされ、また追いつき。

 

 

 

 

 何度も交わし交わされ、そのたびに差は縮まり。

 

 

 

 

「縮まってたまるか」と再び離しにかかる。

 

 

 

 

 あまりにも暴力的なスピード。

 歓声が消え、色が消え。

 

 

 

 

 何も考えず、「負けてたまるか」という意思のみで脚をぶん回す。

 

 

 

 

 

 

 ゴール板が近づいて。

 

 

 

 

 魂の奥底から勝利を求めた時。

 

 

 

 

 何か、殻を破るような感覚を覚えて。

 

 

 

 

 グン、と身体が前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ライスシャワーがわずかに抜け出してゴールイン! やはり鬼は強かった──!」

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと周囲の音が聞こえ始めた時、

 

 

 

 

 視界がぐらりと歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

425:レース好きの名無し

 起き上がらんぞ

 

426:レース好きの名無し

 大丈夫か

 

427:レース好きの名無し

 動いて

 

428:イッチ

 全員走り終わったの確認したら直ぐに向かいます

 アレ多分ヤバい

 

429:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

430:レース好きの名無し

 待ってくれ壊れるほどは出して欲しく無かった

 

431:レース好きの名無し

 イッチ頼む

 

432:レース好きの名無し

 終わったか? 

 

433:レース好きの名無し

 無事であってくれ

 

434:レース好きの名無し

 イッチ行った! 

 

435:レース好きの名無し

 トレーナーはよ

 

436:レース好きの名無し

 マックイーン頑丈だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28.安否

スイープは来ませんでした。
俺はikzeになれなかった……!
金さえ……金さえ有れば……!



 

 

 

 

 

 

 

 

「ライスシャワーさんっ!!!」

 

 

 

 

 倒れたライスさんの元へ急いで駆け寄る。

 倒れてから微動だにしない。

 

 

 

 

 最悪の想像をしながら向かった。

 

 

 

 

「ライスさん!? 大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

 地面に突っ伏したままのライスさんに声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、オフトラ? トレーナーもそこにいる?」

 

 

 

 

 

 

 ━━あれ? 

 なんか無事っぽいぞ? 

 

 

 

 

 

 

「え、えーっと? 大丈夫なんですか?」

「うん大丈夫。身体が微塵も動かないこと以外は」

「全然大丈夫じゃないんですけどそれ!」

 

 

 

 

 やっぱりダメじゃないか。

 

 

 

 

「怪我とか故障とかしてないかすっごい不安なんですけど」

「あーいやこれは多分セーフな気がする」

「それを決めるのは医者です。早く担架に乗せますよ」

 

 

 

 

 ゴールドシップさんとトウカイテイオーさんが持ってきた担架にライスさんを乗せる。

 

 

 

 

 ━━この人見た目以上にかなり重いな! 

「筋肉は重い」「力の入っていない人は重い」というのは知っているけどここまで行くのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜」

「運ばれてる間にそれ歌わないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 運ばれていったのを確認してから元の場所に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

484:イッチ

 なんか余裕そうでした

 

 

 運ばれてる時ドナドナ歌ってたので問題ないかと

 

485:レース好きの名無し

 思わず膝の力抜けたわ

 こぼしたコーヒー返せ

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 あの後のライブ。

 マックイーンさん曰く「負けたレースでセンターを踊ることほど悔しいことはありませんわ」とのこと。

 まあ分からなくもない。

 だけどスイーツやけ食いは良くないと思うんですよ。

 春天終わったからってまだあなた宝塚あるでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 ライスシャワーさんには精密検査が行われた。

 結果、極度の疲労以外は何も異常は無かったらしい。

 

 

 

 

 本当にセーフだった。

 ほんっと安心した。

 

 

 

 

 今日は見舞いに来た。

 

 

 

 

「おはようございまーす」

「はい、おはよう」

 

 

 

 

 ベッドの上に座るライスさんの顔を見た時、なんか違和感を感じた。

 じっと見てようやく気付いた。

 

 

 

 

「目が凄いことになってますよ」

「……え? マジ?」

「いやほんとですって」

 

 

 目の写真を撮り、見せる。

 

 

 

 

「ほら、虹彩のフチ。めっちゃ黒くなってますよ」

「え、なにこれ……」

 

 

 

 

 そして近くに寄って更に気付いた。

 

 

 

 

「ていうか髪の毛がより黒くなってません?」

「は? 流石にそこまでは……」

 

 

 

 

 ライスさんが自身の髪を確認して、

 

 

 

 

「うっわマジだ……」

 

 

 

 

 と呟いた。

 

 

 

 

「何ででしょうか……」

「ん〜〜心当たりがないとは言えないが……」

「……それは」

「なんか、身体の感覚が違うというか……神経だけぶっこ抜いて新しい肉体に移植したみたいというか……」

「え、大丈夫なんですかそれ」

「いや、むしろ前より『しっくり来る』気が……ただ慣れてないから凄い動きづらい」

 

 

 

 

 あのレースで何があったのか。

 

 

 

 

「とりあえず、暫く休養ですか?」

「だなぁ……宝塚はまあ無理だな……ボーガンには悪いなぁ……」

 

 

 

 

 キョウエイボーガンさん。

 ライスさんの友人だけど、私とはあまり接点がない。

 たまに一緒にバカやってるらしいけど。

 

 

 

 

「……カマーは様子見るとして……秋天は短いから出たくねぇな……どうすっかな……」

 

 

 

 

 

 

 何やらぶつぶつ呟いているけれど、この様子なら大丈夫でしょ。

 

 

 

 

 

 

「あ、北海道行きたい」

「……なぜです?」

「いや、なんか草原の上で走りたくなって来た……」

「は、はぁ……」

「あとアレだ、サラダ食べたい」

「ええ……?」

 

 

 

 

 

 

 春天、マジで何があった。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 ━━通話ログ━━

 

 

 

 

『ライスお前ぶっ倒れやがってよぉ……出しすぎなんだバカ』

「いやマックがあそこまで来るとか予想できるかよ……」

『アレは私も驚いたぞ。……はー、宝塚出れなくなりやがってこの野郎〜』

「しょうがないじゃん。お前復帰明けだけど勝てるの?」

『……多分。あぁいや元の勝ち馬マックじゃねぇか。うわきっっつ……』

「すまんな強化してしまって」

『お前マジで許さんからな……』

「何やかんやで削れてるだろ……多分。おそらく。きっと」

『あのさぁ……そうそう、宝塚と言えばだな』

「何があった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブルボン出走するってよ』

 

 

 

 

 

 

「……What?」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

766:イッチ

 部屋がさみしい

 

767:レース好きの名無し

 まだ入院してるからなぁ

 

768:レース好きの名無し

 黒いのはどうなんやろ

 絶対に大丈夫だという確信があるけど

 

769:イッチ

 ノーパソ持っていってあげたし大丈夫でしょ

 

770:レース好きの名無し

 雑だけど最適解

 

771:レース好きの名無し

 Twitterじゃ元気だよなぁ

 

772:レース好きの名無し

 入院してツイートが増える

 まごうことなきツイ廃

 

773:イッチ

 いやほんとに部屋が静か

 同室の存在って大事

 

774:レース好きの名無し

 おぢさんが招き入れてあげようか笑  

 

775:レース好きの名無し

 きっっしょ

 

776:レース好きの名無し

 >>774

 本物はもっとキモい

 -1919810点

 

777:レース好きの名無し

 おじさん構文普通に難しくね? 

 

778:イッチ

 あのキモさは本物じゃないと出せない

 Twitterでエミュ垢作ろうとして挫折したわ

 

779:レース好きの名無し

 何やってるんですかねぇ

 

780:レース好きの名無し

 なぜおじさんエミュ垢を作る気になったのか

 

781:イッチ

 ちなみにこれがはじめての挫折な

 

782:レース好きの名無し

 アホ過ぎる

 

783:レース好きの名無し

 そんなもので挫折するな

 

784:レース好きの名無し

 あのレース前に作ろうとしてたのかお前

 

785:イッチ

 >>784

 入学して一ヵ月後にやろうとしてた

 

786:レース好きの名無し

 お前才能あるよ

 

787:レース好きの名無し

 黒いのの同室になったのも宜なるかな

 

788:レース好きの名無し

 イッチはデビュー戦いつにするんや

 

789:イッチ

 スピカはみんなデビュー遅いんだよね

 しかし私は勝ちウマ娘第一号を目指す

 

790:レース好きの名無し

 お!? 

 

791:レース好きの名無し

 ダービーの後すぐか

 

792:レース好きの名無し

 負けたら笑える

 やっぱり笑えない

 

793:イッチ

 ジュニア期のうちにオープンまでは上がりたい

 賞金ほしいし

 上がれるかはわかんないけど

 

794:レース好きの名無し

 イッチならいけるやろ

 

795:レース好きの名無し

 黒いのの指導受けてるやんけ

 

796:イッチ

 >>795

 今!! 入院中!!! 

 

797:レース好きの名無し

 あっ

 

798:レース好きの名無し

 芝

 

799:レース好きの名無し

 言うて疲労ならそろそろ帰ってくるやろ

 

800:イッチ

 身体の感覚がおかしいとか言ってるから復帰はかなりかかるよ

 

801:レース好きの名無し

 >>800

 え? 

 

802:レース好きの名無し

 待てや

 

803:レース好きの名無し

 はよそれを言え!! 

 

804:レース好きの名無し

 大丈夫なんかいなそれ

 

805:イッチ

 本人は「絶対に戻るし多分前より良くなる」って言ってるから大丈夫

 

806:レース好きの名無し

 ホンマか? 

 

807:レース好きの名無し

 感覚って戻れんの? 

 

808:レース好きの名無し

 前より良くなるってなんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29.バカ騒ぎ

〜春天〜

意志「勝ちてぇぇぇぇ」
ウマソウル「勝負なら任せろ」殻バリバリ
肉体「ああああああああ」


つまりこういう事。


 

 

 

 

 

 

 

 日常生活に差し支えがないレベルまで回復したので退院。

 あくまでも日常生活において、の話である。

 なので、久々にゲーセンに行っても━━

 

 

 

 

「あちゃー、スコアも精度も全っ然出ねぇ……」

 

 

 

 

 こうなる。

 回復するまでは低難易度詰めるか……

 

 

 

 

 トレーニングも、今はかなり軽めのものにしている。

 下手にやって怪我したら怖い。

 

 

 

 

 ただオフトラへの指導はやめるつもりはない。

 一番最初のデビュー戦に出たいとのことだったので、教えられることを詰め込んでいく。

 

 

 

 

 しかし改めてこの学園クッソ広いな。

 歩いて移動してたらかなり時間がかかってしまった。

 学内用の自転車って使えたっけな。

 最悪オフトラに背負わせて運んでもらうか。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し流れ5月末。

 日本ダービー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……うん。

 ビワハヤヒデが勝ったよ。

 

 

 

 

 ここから菊花賞までは全て勝っていたはずなので、無敗三冠が確定した。

 

 

 

 

 とうとうやりやがったなナリタブライアン。

 テイオーの有馬が不安でしかないんだが。

 出来れば奇跡の復活はウマ娘としてであっても見たいんだけど。

 ちょっと手を加えるか……

 

 

 

 

 そういやブライアンっていつデビューするんだろうか。

 本人は特段急いでいない様子だったけど。

 

 

 

 

 しかしブライアンと同世代のウマ娘が哀れすぎる。

 ブライアン、多分希望すら一切見せずに鏖殺して行きそうだからなぁ……

 退学者が増えそうでなんとも言えない。

 

 

 

 

 これで「ジュニア期の重賞総ナメします」とか言い出したら流石に止めるぞ。

 せめて合計4つまでに抑えてくれ。

 これでも大分多いけども。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

中央で生き残りたい Part21

 

 

 

 

 

 

57:イッチ

 抽選に受かった! 

 タイムも出た! 

 内枠引いた! 

 あとは勝つだけ! 

 

58:レース好きの名無し

 やっとデビュー戦か

 

59:レース好きの名無し

 デビュー戦って基本映像残らんのよね

 

60:レース好きの名無し

 このためだけにレース配信のサブスク登録してきたわ

 

61:レース好きの名無し

 >>60

 俺もソーナノ

 

62:レース好きの名無し

 同志よ

 

63:イッチ

 お前ら私のこと大好きかよ

 

64:レース好きの名無し

 当たり前ダルルォ? 

 

65:レース好きの名無し

 当然

 

66:現地勢

 レース場で直に見てるで

 

67:レース好きの名無し

 近くだから見に来たわ

 

68:レース好きの名無し

 >>66

 どこにおる

 

69:現地勢

 >>68

 最前列の青ニット帽がワイや

 人そんなにおらんし分かるやろ

 

70:レース好きの名無し

 >>69

 確認した

 行くわ

 

71:レース好きの名無し

 折角やし現地勢全員集まろか

 

72:レース好きの名無し

 >>71

 判別どうするよ

 

73:現地勢

 >>72

 普通にスマホでこのスレ見せたらええやろ

 

74:現地勢その2

 おk把握

 

75:イッチ

 なんかオフ会になってない? 

 

76:レース好きの名無し

 お前を応援しに来たんやぞ

 

77:レース好きの名無し

 離島民やけど画面から応援しとるで

 

78:現地勢

 結構集まってきて芝

 20人近くいるぞ! 

 

79:イッチ

 ファッ!? 

 

80:レース好きの名無し

 結構居るじゃねぇか! 

 

81:レース好きの名無し

 ROMってるのも居るだろうからな

 それでも多いか

 

82:現地勢その3

 数ヶ月ぶりに外出したわ

 太陽が眩しい

 

83:イッチ

 待って控室でめっちゃ緊張してるんやけど

 

84:レース好きの名無し

 黒いのも見にきてるやろ

 

85:レース好きの名無し

 多分勝てるって

 

86:イッチ

 時間来た

 パドック行ってきます!!! 

 

87:レース好きの名無し

 行ってこーい! 

 

88:レース好きの名無し

 行ってらっしゃい! 

 

89:レース好きの名無し

 健闘を! 

 

90:ちくわ集合論

 チクッワ・タルタルスキーの定理

 

91:レース好きの名無し

 ノシ

 

92:レース好きの名無し

 なんだ今の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パドックに上がる。

 緊張で身体が震えるけれど、意を決してジャージを放り投げる。

 

 

 少ないながらも、私を見てくれている人がいる。

 デビュー戦なんか見るのはコアな人たちばっかりだけど。

 

 

 ライスさんはすぐに見つかった。

 あと、あの人たちは……

 

 

 いた、青ニット。

 となるとあの一団が全部スレ民なのか。

 手と尻尾を振って、気づいたよ、と合図。

 するとやけに野太い声援が届いた。

 周りの人がチラチラ見てるのがどこか面白い。

 

 

 なんか緊張もほぐれてきた。

 

 

 じゃあ、行きますか! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

118:レース好きの名無し

 お前らの声が画面から聞こえてきて芝

 

119:レース好きの名無し

 現地勢映ったな

 

120:レース好きの名無し

 あそこだけチーズ牛丼の匂いがしそう

 

121:レース好きの名無し

 画面「「「うおおおおおお!!」」」

 

122:レース好きの名無し

 周囲の人めっちゃ気にしてて芝なんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 返しウマも終わり。

 

 

 尻尾を三度回し、鉄籠の中に入る。

 

 

 一度、二度と深呼吸。

 前をじっと睨み、全神経を研ぎ澄ます。

 

 

 そして━━ガコン、とゲートが開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 3角に入る。

 ここまでは順調に逃げ続けれている。

 

 

 

 まだ脚はかなり残っている。

 

 

 

 耳を後ろへ向ける。

 このレベルじゃあ、わざわざ見る必要もない。

 足音だけで位置を把握しろ。

 あの鬼の指導を思い出せ。

 

 

 

 ━━2バ身に2つ。3に1つ。

 

 

 

 これなら、行ける! 

 

 

 

 

 ━━3、2、1、今っ! 

 

 

 

 

 

 

「さあオフサイドトラップがさらに上げてきた! 後続は大丈夫か!?」

 

 

 

 

 

 4角を越え、直線に入る! 

 

 

 

 

 歓声が近づいて来る。

 

 

 

 

 

 

「イッチ行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「逃げろぉぉぉ!!!」

「ファミチキくださぁぁぁい!!!」

「きしめえええええええん!!!」

「何か叫んどけぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ━━ああ、この声は。

 

 

 

 

 何叫んでんだよアイツら。

 まったく、笑えるじゃんか。

 

 

 

 

 

 

「━━ハハハ! アハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 ああ、楽しくなってきた。

 笑いが止まらない。

 

 

 

 

 思いのままに、駆ける。

 

 

 

 

 前へ。

 前へ。

 前へ! 

 

 

 

 

 

 

「━━オフサイドトラップ、6バ身以上の差をつけて今ゴールイン!」

 

 

 

 

 

 

 終わってからも、笑いが止まらない。

 そのまま、元凶どもに親指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

150:レース好きの名無し

 おwwwまwwwえwwwらwww

 

151:レース好きの名無し

「ファミチキくださぁぁぁい!!!」

 

152:レース好きの名無し

 あーもう滅茶苦茶だよ

 

153:レース好きの名無し

 はっきり聞こえてきて爆笑したわ

 

154:レース好きの名無し

 イッチが勝ったことよりもお前らの行動の方が気になるわwww

 

155:レース好きの名無し

 イッチ爆笑してて芝

 

156:レース好きの名無し

 俺も行っとけば良かった

 

157:レース好きの名無し

 お前らのせいで珍レースだよ

 

158:レース好きの名無し

 周りの困惑っぷりよ

 

159:レース好きの名無し

 他のウマ娘が可哀想になってきたわ

 

160:レース好きの名無し

 次は関西来てくれ

 ワイも行きたい

 

161:レース好きの名無し

 >>158

空白       (^∀^ )<アハハハハハ!! 

 

 

( °Д°) ( °Д°)

( °Д°) ( °Д°)

 

 

162:レース好きの名無し

 お前ら愛してる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30.身体

 

 

 

 

 

 宝塚記念。

 

 

 

 

 やはり目玉は春天で尋常じゃない走りを見せたメジロマックイーン。

 というか、あのレース前世より差が縮まってるんだよ。

 訳わかんねぇよマックの実力……

 

 

 

 

 他には、相変わらず大逃げかますメジロパーマー。

 安田→宝塚とかいう意味不明なローテを組んだイクノディクタス。

 これで馬では2着だったんだから頑丈にも程がある。

 怪我から復帰したキョウエイボーガンとミホノブルボン。

 なんやかんやで順調に結果を残し続けているサンエイサンキュー。

 私も出たくはあったんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トウカイテイオー? 

 ……うん。気を付けたんだよ。滅茶苦茶よく見てたんだよ。

 

 

 

 

 何でいつの間に剥離骨折してたんだよ。

 コイツの怪我で防げたのダービーのアレだけじゃねぇか。

 しかも緩和に過ぎなかったし。

 なんかに取り憑かれてない? 大丈夫? ケツに塩振っとこうか? 

 

 

 

 

 

 

 ともかく、かなり豪華なメンツが揃っている訳で。

 ただ、なんとなく結果が見えている。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━メジロマックイーン堂々の1着! 2着はキョウエイボーガン、3着はミホノブルボン!」

 

 

 

 

 

 

 まあ、こうなるな。

 いや、惜しいとこまでは行ったんだよ。

 ボーガンとブルボンがマックに対処する方向で一致したから、かなり追い詰めてはいたんだよ。

 

 

 

 

 最後に半バ身抜かされた。

 なんなんアイツ。

 限界まで行けば勝てるけれども、まず限界を出せる状況で、かつ限界を出す意思がないと勝てないってのはもうラスボスなんだよ。

 

 

 

 

 怪我明けじゃなかったらもしかしたら、とは思うけど。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

「イメージソング?」

 

 

 

 

 トレセン某所にて、URA職員と向き合う。

 

 

 

 

「ええ、菊花賞天皇賞での目覚ましい活躍によりまして、上層部から『作ってはどうか』とのことで」

「あー……なるほど」

 

 

 

 

 ウマ娘それぞれの固有の歌。

 要するにファン向けの商売。

 

 

 

 

 まあ、URAから色々と補助を受けているのだし、これぐらいは協力してもいいだろう。

 こちらは歌うだけで良いのだし。

 

 

 

 

「では、その話を受けさせていただきます」

「ありがとうございます。ではこちらのWebフォームから入力していただければ、いくつかサンプルをお作りいたしますので、よろしくお願いします」

「はい、わかりました」

 

 

 

 

 寮に戻ってからパソコンで欄を埋める。

 そのうち、大体の方向性を決めるであろう、

 

 

 

 

「好きなアーティスト、ねぇ……」

 

 

 

 

 この質問まで来た。

 

 

 

 

 いいのか? 私は音ゲーマーだぞ? 

 アーティストという大まかな括りでいいのか? 

 

 

 

 

 では遠慮なく。

 

 

 

 

 Fr○msとSakuzy○とモ○モ○あ○しとSilentr○○mとARF○rest入れて、終わり! 

 

 

 

 

 曖昧な質問にしたURAが悪い。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 嘘だろ、ちゃんと作りやがった。

 すまんURA、絶対突っ返されると思ってたわ。

 カッコいい曲じゃん、歌詞も良いし。

 流石プロ……

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 ランニング中。

 やはりまだ若干の違和感が残る。

 これはどうしたものか、と色々と考えてみる。

 

 

 

 

 いっそ春天を再現して走ってみるか。

 あの時の姿勢とかフォームとかを出来る限り思い出していく。

 

 

 

 

 こうか? 

 いや違うな。

 もう少し前傾か? 

 あーダメ。

 

 

 

 

 色々と試行錯誤している内に━━

 

 

 

 

「お、おお?」

 

 

 

 

 何かそれっぽい感覚が来た。

 ガッチリとハマったわけではない。

 正解に近づいているような感覚。

 

 

 

 

 ともあれ、ここからは手探りになりそうだ。

 そして、感覚的にかなり時間がかかりそうな気がする。

 数ヶ月では終わらなさそうだぞ……

 

 

 

 

 ━━もしかしてこれ低迷期来てる? 

 待ってくれ。

 そこまで馬時代再現しなくていいから。

 ……映像を出来る限り撮っておき、後で考えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 トレセンに来る前を思い出す。

 こんな感じであーだこーだやってたな。

 当時思ってたのとはかなーり違うことになってるけど。

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

「えー只今より第n回元馬集会を開催します。まずは各々の次走から」

「オールカマー。身体の調整が目的。ついでにターボ潰す」

「デビュー戦です。7月初週を予定しています」

「で、私が秋天、と。ライス、私と秋天出ようぜ」

「短いから嫌。一応JC出るからそっちで」

「やだよ2400長いじゃん」

「菊花走り切ったくせに何言ってんの?」

「あとレガシーと一緒に走りたくないんだけど。気性難が過ぎる」

「レース前にトレーナーぶん投げるだけじゃん。馬の時よりマシだろ」

「十分おかしいからな?」

「……それはそう。ところでブライアン、ジュニア期の出走予定は?」

「重賞をたくさん」

「「ダメ」」

「なんでですか!?」

「お前が蹂躙したら他の奴が哀れ過ぎる。多くても4つまでな」

「何で情けをかけなくちゃならないんですか」

「一応トゥインクルシリーズは興行としての面もあるから。あんまりやりすぎるとURAに怒られるぞ」

「……は〜い」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31.(多分)ギャグ回

 

 

 

 

 夏。

 つまり夏合宿。

 

 

 

 

 毎回高い宿を提供してくれてありがとう、メジロ家。

 ただこれも今年で終わりなんだろうな。

 マックイーンは今年引退するはずだし。

 

 

 

 

 あと宿に着いた時、オフトラが泡吹いてぶっ倒れた。

 この高級感はびっくりするよね。

 来年からは別の所だろうから、今の内にここの雰囲気を感じておけよ……

 

 

 

 

 色々と準備してウォームアップ済ませてトレーニングへ。

 全員一緒にやるやつを済ませて。

 

 

 

 

「オフトラ、はいコレ」

「……靴?」

「そう、例の靴」

「…………待ってくださいよ、私はアレをやるつもりはないんですけど」

「……GO!」

「いやその私は」

「いいから早く行く!」

「畜生やってやらぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理です、10歩以上走れません」

「出来るまでやって」

「そもそも海の上なんて走れるわけないじゃないですか」

「反例:私」

「何でできるんですか?」

「他のスピカメンバーも全員できるよ?」

「何でできるんですか???」

「スピカだから」

「説明になってません!!」

 

 

 

 

 

 

 結局、1時間ほどで走れるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようこそスピカへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 それは、突然に始まる。

 

 

 

 

 布団が敷かれ、しかし就寝までは時間がある。

 ふと、ゴールドシップが枕を掴んだ。

 

 

 

 

 それを見た者も自らの枕を掴む。

 

 

 

 

 訪れる静寂。

 張り詰めた緊張が、ぷつ、と切れた時。

 

 

 

 

 交戦開始だ━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずゴルシの豪速枕が飛んでくる。

 姿勢を低くし、尻尾を用いてマックイーンへと勢いを逸らす。

 さらに自らの枕を時間差で投擲。

 しかしコレを見事受け止められる。

 テイオーの枕がオフトラに飛ぶが、ゴルシの方へと蹴り飛ばした。

 蹴った回転を用い枕を私へと飛ばす。

 マックイーンが私とテイオーへと投擲。

 私は斜めに跳ね、2つの枕をキャッチ。

 その勢いでくるりと一回転、オフトラとテイオーに送枕。

 ゴルシが着地後の隙を狙い投げてくるがコレを蹴り返す。

 テイオーは飛んできた枕に自分の枕を投げ相殺。

 そのまま回し蹴りで二つをオフトラへと飛ばす。

 しかしオフトラが低空からテイオーに狙撃、飛んできた二つのうち片方を私に蹴り、もう片方をキャッチ。

 私は枕を尻尾にてキャッチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして最初の状況へと戻る。

 

 

 

 

 さあ、第二ラウンドだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜い、お前らそろそろ寝ろよ〜〜」

 

 

 

 

 しばらくして、酒の匂いがするトレーナーが来た。

 別の言い方をすれば、良い的がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 この瞬間、全員の意思が一致した。

 

 

 

 

 

 

 ━━ドゴォッ! 

 

 

 

 

 枕とは思えぬ音を立てて、トレーナーは吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 ゲームセットだ。

 じゃあおやすみ。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 ━━アメリカ某所にて━━

 

 

 

 

 

 

「サンディ〜……どこぉ〜……?」

「いや日本行ったじゃん。2年以上前に」

「いやそうだけどさぁ……そうだけどさぁ!」

「いつまでロスってんの……」

「電話ぐらい出てくれたって良いじゃん! 全っ然出てくれないし!」

「1日に何十回も電話かけてたらそりゃあ嫌にもなるでしょ……」

「……え、もしかしてワタシ、サンディに嫌われた? いやだいやだぁぁ〜〜!」

「あのさぁ……何でそんなにアイツの事好きなの?」

「だって……サンディは……サンディは…………っ! とにかく好きなの!」

「もう少し言語化する努力してよ」

「だって全部好きなんだもん! 会いたい!」

「はぁ……」

「会いたい会いたい会いたい〜〜!」

「…………」

「……決めた! 日本行く!」

「……えっ、ちょっ、ハァ!? ゴア、アンタ取材の仕事とかは!?」

「パス! サンディが最優先!」

「……Oh, my…………」

「行くったら行くの! 家に連絡する! 

 ……あ、セバス!? 今すぐ日本行きのプライベートジェット用意して! ……うん、今日行く! じゃあお願い!」

「……アンタがドラッグ漬けになる心配はしなくて良さそうだね、アイツ以外は脳みそに効かないんだから…………」

 

 

 

 

 

 




他のSS書きてぇー
でも完結できなくなるので我慢します
多分明日からも連日投稿するから待ってて


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32.襲来

 32

 

 

 

 

 

 

 ヤバい。

 

 

 

 

 本当にヤバい。

 

 

 

 

 フォームの改善が進まない。

 

 

 

 

 ある程度までは来た。

 しかしそこからどうしても進まない。

 映像と睨めっこする日々がかなり続いている。

 状況再現のためにマックイーンと併走もしたのだが、それでもダメだった。

 

 

 

 

 何か、何か手は無いのか。

 一旦、トレーニングから離れることすら視野に入れている。

 音ゲーは離れたら改善することがあるけれど、スポーツにおいてそれが起きうるかはわからない。

 

 

 

 

 今度のオールカマーがダメだったら、本気で考えてみよう。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower 昨日

 

 

 次走はオールカマーです

 復帰初戦ですが、頑張っていこうと思います

 

 

 3182いいね 132引用ツイート 2109リツイート

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

「ターボさん、次走が決まりましたよ」

「え!? どこ!? テイオーと一緒のとこ!?」

「いえ、残念ながら。オールカマーです」

「え? でもさ、トレーナー?」

「何でしょうか、ネイチャさん」

「確かライスシャワー出てくるんだよね? こんなこと言っちゃあアレだけどさ……その……勝算とか、あるの?」

「……そうですね。以前であれば出しませんよ」

「……つまり?」

「ええ、今の彼女であれば、おそらく。良い作戦を思いつきました。

 ━━ターボさん、早速トレーニングに行きますよ」

「うん! わかった!」

 

 

 

 

 

 

「……トレーナー、いつの間にライスシャワーの状態なんか手に入れたんだろう…………」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 時は少し遡って7月。

 

 

 

 

 

 

「私、見に行こうと思います」

「……何を?」

「ナリタブライアンのデビュー戦です」

 

 

 

 

 オフサイドトラップが、そう切り出した。

 ……今のオフトラが見ても、恐らく良くない気がする。

 

 

 

 

「……多分絶望しかないよ?」

「分かってます。それでも」

 

 

 

 

 彼女は、こちらを力強い目で見て、

 

 

 

 

「諦めないために」

 

 

 

 

 そう、口にした。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「━━ナリタブライアン、大差をつけて今ゴールイン!」

 

 

 

 

 圧倒的なまでの力の差。

 恐らく大半がタイムオーバーを食らっただろう。

 

 

 

 

「ははは、凄いなぁ……」

「……コレが今のブライアン。壁は高いよ?」

「ええ、そりゃあもう実感しましたよ。━━でも」

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に追い続けます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……引退するまでに追いつけなかったら?」

「追いつけるまで引退しませんよ」

「ブライアンが先に引退したら?」

「影だろうが追い続けます」

「無いものを追うのは怖くないのか?」

「影を恐れはしませんよ」

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 トレセンにて。

 マックイーンやテイオー、サンデーサイレンスと会話していた時。*1

 

 

 

 

 

 

「イージーゴアさんって、どんな方だったのですか?」

「…………」

「もしもし?」

「……あー、いや、その、あまり苦手なタイプというか……本人は善意100%でくるから余計タチ悪いんだが………………」

「……例えば?」

「どんな場所であろうが、私を見つけたらすぐに『あっ、サンディ〜〜!!!』ってクソデケェ声で呼びやがる。パーティ会場ですらやりやがったんだぞ? 

 あと何かあったらすぐに私の所に伝えやがる。どんなにクソどうでもいいことであってもな。しかも直接。

 せめて電話なりWhatsAppなり使えって電話番号渡したら、一日中スマホがピロンピロンブーブーブーブー鳴りやがる。

 2日でブロックしたぞ、クソッタレ。

 そしたら『なんでなんで』と泣きつくから余計うるさくなる。

 しかもどっから手に入れたのか私の予定を把握してやがる。

 数百マイル離れた場所まで付いて来やがったこともあるんだぞ?」

「あなたのことが大好きなんですね」

「マジで対応に疲れるんだよ……」

「ああ、それと、良い日本語を教えて差し上げましょう」

「……なんだ?」

 

 

 

 

「日本語には、『噂をすれば』という言葉があります」

 

 

 

 

「……意味は?」

 

 

 

 

「あちらをご覧ください」

 

 

 

 

 

 

 サンデーサイレンスが、ゆっくりと首を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンディ〜〜!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げえぇぇぇぇぇぇぇっ!!?!?」

 

 

 

 

 即座に逃走を図るサンデーサイレンス。

 しかし、既に加速してこちらに向かって来ていたイージーゴアから逃れられるはずもなく。

 

 

 

 

「久しぶり会いたかった寂しかった声聞きたかったどう元気してる? ちゃんと食べてる? みんなと仲良くしてる? ちょっと痩せてない大丈夫食べさせたげよっか?」

「……! …………!」

 

 

 

 

 完全に正面からホールドされている。

 体格差のせいで窒息してしまっている。

 

 

 

 

「……ぶっはぁ! 窒息死するかと思った! お前無駄にチチでけぇんだよ!」

「あ、ゴメン」

「つーか、何でお前が日本にいるんだよ!?」

「会いたかったから」

「ハァ!?」

 

 

 

 

 ゴアを睨みつけるサンデー。

 この間もガッチリとホールドされている。

 

 

 

 

「サンディ、ちょっと吸わせて?」

「何を……むっぐう!?」

「……ぷはぁ、ありがと!」

「は、いや、ちょ、おま━━!?」

「もっかいする?」

「いらねぇ!!」

 

 

 

 

 ようやく拘束から抜け出し、一気に距離を取る。

 テイオーが「ミチャッタ……ミチャッタ……」と顔を赤くして悶えている。

 

 

 

 

「仲が良いんですのね」

「でしょ!? そう見えるよね!? ねっサンディ?」

「ど! こ! が! 仲良く見えるんだよ!? 目ん玉ショットガンで穴開けたのか!?」

「しないよそんな事。 サンディを見れなくなっちゃう」

「こいつ……!」

 

 

 

 

 高火力フルバーストで攻めるな。サンデーが死にかけてる。

 

 

 

 

「お前仕事は!? あっちじゃ忙しいはずだろ!?」

「うん。あと2時間後にはジェット機乗らなくちゃ」

「何でそんなにスケジュールキッツイのに日本に来てんだよ!? 金と時間をクソの山に投げ捨ててる自覚あんのか!?」

「そんな事ない! サンディがこの世で一番なんだよ!? 最も有効な使い方だよ!」

「イカれてるよお前……」

 

 

 

 

 サンデーは全てを諦めたような目で空を仰いだ。

 アメリカじゃずっとあんな感じだったのか……

 

 

 

 

「もう行かないと。 じゃぁまたね!」

「二度と来んな!」

 

 

 

 

 中指を立てて吐き捨てた。

 

 

 

 

「良い友人ですね」

「勘弁してくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テイオー? おーい?」

「アワワワワワ……」

「ダメみたいですわね……」

 

 

 

 

 

 

*1
以下、カッコ内は英語




サンxゴアを書きたいがために登場させました(自白)
正直書いてて1番楽しかったです
サンxゴア流行れ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33.オールカマー

33

 

 

 

 

 

 

オールカマー。

 

 

 

 

ライスさんは、結局間に合わなかった。

ダメならダメなりにやってみるしかない、とは言っていたけれど。

 

 

 

 

ずっと画面を睨み頭を抱えるのを隣で見て来たから、その努力が報われてほしい、とは切に願う。

 

 

 

 

ライスさんがパドックに出たけど、やはり分かる人には分かるのか、若干の困惑が生じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

38:レース好きの名無し

あるえぇ?

 

39:レース好きの名無し

なんか本当にクッソ調子悪そうなんですけど

 

40:イッチ

「勝てるかどうかわからない」とか言ってたんで本当にヤバいですね

 

41:レース好きの名無し

は? G2やぞ?

 

42:レース好きの名無し

そんなヤバいの出てたっけ

 

43:レース好きの名無し

>>42

ショウグン

だけどショウグンに負けるのは考えたくない

 

44:レース好きの名無し

やっぱり春天で燃え尽きたんじゃねぇの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、どうしてもそう考えてしまうよね。

正直、私だって不安だ。

 

 

 

 

祈るように、縋るように両手を握る。

 

 

 

 

出走の時間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

ゲートが開く。

 

 

 

 

あの目立つ青髪が、いつも通り先頭を突っ走る。

その後ろを、あの時よりも近くで追う。

 

 

 

 

スタミナに関してはあまり問題はなかった。

ならば、実力を出せなくても追いつける位置に着くしかない。

そして、私の判断が他のウマ娘に影響を与えたのか、後続もかなり上がってくる。

そんなことをしたらどうなるかは自明なのに。

何人かは自分のペースで走っているようだが。

 

 

 

 

ツインターボは、あの時と同じように普段より少し遅く走っている。

━━いや、もっと遅い。

とうとうペースを抑えることを覚えたのか?

まあこれでもかなり速いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

終盤に近づいた。

今行けば、おそらく勝てる。

春天の最後を思い出して、再現する様にスパートをかける。

 

 

 

 

ツインターボだけが4角にいる。

そこに私が加わり、どんどんと差を縮めていく。

 

 

 

 

7バ身、6バ身。

 

 

 

 

5バ身まで近づいた時。

ターボの耳がピクリと動き。

チラ、とこちらを見た。

 

 

 

 

そして、体勢が大きく前傾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっと、ツインターボ再加速!? 差が縮まらない!」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

275:レース好きの名無し

!?

 

276:レース好きの名無し

はぁ!?

 

277:レース好きの名無し

ターボ!?

 

278:レース好きの名無し

 

279:レース好きの名無し

逆噴射しないのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライスさんっ!!」

 

 

 

 

思わず、身を乗り出した。

 

 

 

 

信じられない。

再加速。

絶対に沈むだろうと。

必ず追い抜けると思った。

なのに。

 

 

 

 

差が、縮まらない。

 

 

 

 

ツインターボさんは、魂も何もかも全てを燃料にして飛んでいる。

ライスさんは驚愕したように目を見開いている。

 

 

 

 

━━ダメなのか。

 

 

 

 

暗い予想が頭をよぎった。

 

 

 

 

しかし。

ライスさんが目を閉じ。

再び開いた時。

 

 

 

 

明らかに、瞳の色が変わったように見えた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

なんだあれは。

死に物狂いで走る青い体からは、ジェット機のような轟音が聞こえる。

 

 

 

 

間違いなく、限界を超えて走っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

負けたくない。

 

 

 

 

二度も!

お前に負けたくはない!

 

 

 

 

走れ。

走れ。

走れ!

 

 

 

 

勝つんだ!!

 

 

 

 

 

 

ピシリ、とヒビが入るような感覚。

 

 

 

 

━━これだ!

 

 

 

 

目を閉じ、一気に集中する。

目を開けて、ただツインターボのみを見つめる。

 

 

 

 

魂から、全てを賭けて追う。

 

 

 

 

4。

 

 

 

 

3。

 

 

 

 

2.5。

 

 

 

 

2。

 

 

 

 

1.5。

 

 

 

 

1。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ああ、だけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━逃げ切った! 逃げ切った! ツインターボ1着! 信じられない逃亡劇!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━悔しい。

 

 

 

 

 

 

けれど。

手がかりは、やっと掴めた。

 

 

 

 

 

 

あんなものを見せられたのだから、案外気持ちよく負けたものだ。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

 

 

328:レース好きの名無し

ウッソだろ……

 

329:レース好きの名無し

なにこれ現実?

 

330:レース好きの名無し

思わずターボ応援したわ

 

331:レース好きの名無し

逆噴射装置故障してない?

 

332:レース好きの名無し

>>331

してないよ

エンジンが逆向いてただけ

 

333:レース好きの名無し

G2の盛り上がりじゃない

 

334:レース好きの名無し

あそこから追えるライスもライスだけどターボがヤバ過ぎた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負けた。

 

 

 

 

けれど、その顔はどこか清々しい。

きっと何かを見つけられたんだろう。

 

 

 

 

ツインターボさんは地面に倒れ、肩で荒い息をついている。

やがて仰向けになり、

 

 

 

 

「見たかテイオー!! これが諦めないってことだああぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

 

と叫んだ。

 

 

 

 

ライスさんが笑顔で近寄り、ターボさんの手を取った。

何かを話しているが、ここからでは聞こえない。

けれど、どちらも笑顔だ。

きっと互いの健闘を讃えあっているのだろう。

 

 

 

 

会場が歓声に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34.掌編その2

お待たせ。
一応活動報告でも言ってありましたが、一週間ほど休んでネタ探ししてました。
というか書いてると他の娯楽が出来ないので久々にエルデンリングをやってたりしてました。
マレニア倒せないので大人しくファルムアズラ行きます。
アニメ? まだ見終わってないです…………
いや映像って情報伝達速度遅いじゃないですか。
全部文章化して読ませてくれたら2時間有れば終わると思うんですけどねぇ……
ちなみに今回はかなり無理やり引き出して書いた奴なので、もしかしたらまた一週間空くかもしれません。
というかこの辺が書くこと無さすぎて辛いんですよ。
94年に関しては、92組の活躍はダイジェストっぽくしてやろうか、とか考えています。
オフトラとブライアンのクラシックで誤魔化そうかなとか思ってたり。
ただこうすると最終回が一気に近づいてしまうんですよね。
……まあはい。割と終わりは近いです。
長々と愚痴っぽいのを書いてしまいましたが、ここから本編です。


34

 

 

 

 

 

 

 

 

天皇賞(秋)。

 

 

私がここまで来るとはな。

俺の時には想像もつかなかった。

 

 

ライスの奴は手がかりが掴めたとか言って出なかった。

せっかく得意条件でやりあえると思ったのに。

一応JCで戦えるはずだからいいけどさ。

 

 

しかしだなライスシャワー。

なんでマックイーンが出てるんだよ。

お前絶対繋靭帯炎を予防とか先延ばしとかやりやがっただろ。

秋天がラストランって言ってるけど絶対勝つじゃねぇか。

京都大賞典で馬以上のヤベェの出したくせにドリーム行くのかよ。

いや有馬出られたら困るんだけどさぁ。

 

 

他に変わったのはブルボンとサンキューが出ることぐらいか。

 

 

 

 

さて、アイツに起こった現象について考えてはみたのだが。

まず、春天とオールカマーの違い。

 

 

一つに、「出力」のようなものが違う。

フォームなどはほぼ同じだったのだが、速度および加速度が明らかにオールカマーの方が小さい。

本人は「同じ感覚だった」と述べているので、何かしら妙な原因がある。

 

 

二つ、走り切った後の差。

春天は数日間マトモに動かなかったが、オールカマーは普通に立って歩ける程度でしかなかった。

オールカマーはまあ想定内。

問題は春天。

アイツの化け物じみたスタミナであってもあそこまで疲労する、というのは異常だ。

むしろ、あれは疲労などではない気がしてならない。

 

 

三つ、コレは完全に感覚でしかないので信憑性は低いが━━

━━春天は、何かを引き寄せているような、そんなモノを肌で感じた。

運命、因果、宿命、etc……

実際、ライスシャワー号は春天は勝ったがオールカマーは負けている。

 

 

さて、どう解釈したものか。

やり方はライスから聞いている。

 

 

この秋天で試してみるか。

私の考えが正しければ、レース後にぶっ倒れはしないだろう。

俺は神戸新聞杯から一回も勝ってないからな。

 

 

JCまでにものにできるかは怪しいが、ぶっつけでやるのは無しだ。

よし、やるか。

 

 

 

 

 

━━━━私、秋天を実験台にしてないか?

いやいや、G1だぞコレ。

ちゃんとやれ。

 

 

 

さーて、いい加減ゲート入るか。

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

……マックイーン強いっすね…………

まあ、上手くいったからいいか。

来月に間に合わせるぞ。

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

ビワハヤヒデがとうとう無敗三冠をしでかしやがった。

いろんなところがお祭り騒ぎになってるんだよな。

 

 

隔年で無敗三冠だから感覚が麻痺しそうだ。

誰が隔年にしたのかはともかく。

来年もどうせブライアンがとるから私たちの世代だけ穴が空くことになる。

 

 

お陰でちょっと悪質な記者が私やボーガンやブルボンに来てるんだよなぁ。

勝手に学校に入ってきて私の周りのウマ娘に鬱陶しい取材してたから、後ろでこっそりスマホで動画撮って、最後に記者が名前と所属言ったら後ろから肩ポンして映像をtwitterに投げた。

報道の自由がどうのこうのと言って強引に取材してたからこっちも報道の自由でtwitterにあげてもいいよなぁ?

いやー大変気分がいい。

 

 

大部分のメディアはビワハヤヒデやそのトレーナーに行ったんだけども。

問題はブライアンがハヤヒデ以上の実力で。

来年の無敗三冠がほぼ確定した状況で。

しかもトレーナーがまだ新人だった。

 

 

過労とかプレッシャーとかでぶっ倒れた。

療養のため、姉妹に温泉旅行に連れて行かれた。

ご愁傷様です。

 

 

新人トレーナーと担当のウマ娘姉妹が温泉旅行に行く。

……何もおかしな所はないな。

多分。おそらく。きっと。

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━━

 

 

 

スピカの部室にて。

袋に手を入れ、中身を口へと運ぶ。

それをテイオーがじっと見てくる。

 

 

「……何食べてるの?」

「小魚」

「……え?」

「ああほら、小学校の給食でアーモンドフィッシュって出たでしょ。アレの魚だけのやつ」

「あ、うん。……ええ? なんで?」

 

 

何故そんな目で見る。

お前のゲロ甘ハチミーよりよっぽど健康的だぞ。

 

 

「骨密度を大きくしようと思って」

「あー……え〜? ホント〜? 本当は身長伸ばしたいんじゃないの〜?」

「どっかの誰かさんがよく故障するからこっちも不安になっただけだよ」

「…………ゔ」

「そもそも、もう成長期終わってるから伸びないでしょ」

「確かに…………ねえ、それちょっと貰っていい?」

「どうぞ」

「ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おさかなの味がする」

「そりゃそうでしょ」

「でも思ったより食べられるねコレ」

「おやつ代わりとか作業中のツマミとかで案外行けるよ」

「虚無になって食べてる感じがする」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35.ジャパンカップ

Arcaeaヤバない?

あと頑張れ私。
94年さえ越えたらもう勝ち確なんだ……!


 

 

 

 

 

JCも近くなってきた頃。

ブライアン達の温泉旅行も無事に━━無事に? 終わったらしい。

どうやらトレーナーが旅行先でも仕事をしようとしたようで、抑えるのに苦労したとのこと。

療養目的なんだから仕事しちゃあダメでしょうが。

 

 

オフトラは1勝クラス、オープンと順調に勝ち進んで行っている。

「重賞はまだキツいです」とか言ってるからしばらくはオープンに居座るだろう。

 

 

賞金が入ったからか、ゲーミングPCが欲しいと言い出した。

是非自作PCに手を出して欲しかったので、知識を与えてPCショップに連れ回してつよつよCPU&GPU&メモリ&SSDのモノを一緒に組み立ててやった。

流石に3090二台積みとかXeonとかThreadripperとかまでは行ってないが、それでもウルトラハイエンド級のものにした。

ヌルヌル動く重量級ゲームはいいぞ。

このままblenderとかディープラーニングとかに手を出して頂きたい。

 

 

というかやはりデビュー戦で700万もらえるのおかしい。

実際のウマ娘側の取り分は75%の525万だけども。

いやコレでも全部載せMacPro買えそうだな……

まあ馬は高けりゃ数億とか行くからそれに比べたら安い買い物か。

馬主はなんで数千万単位の金をポンと出せてしまうのか……

まあ種付け代でレースの賞金よりも稼ぎまくる馬はいるからそういう所から出ているんだろうな。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

 

 

ジャパンカップ、最後の直線。

 

 

「「「はああああああぁぁぁぁああっ!!」」」

 

 

前のボーガン・ブルボン・レガシーの逃げ3人がバカみたいに早いペースを作り出し、後続が悲惨なことになっている。

勝手に競り合ってどんどん加速して行くからタイムが大変なことになっている。

 

 

だが、私だって負けていられない。

手がかりは掴めたとはいえ未だ不完全。

だとしても、使わない手は無い。

 

 

魂をエネルギーの炉に焚べる。

 

 

━━逃がすものか。

 

 

脚を前へ、前へ。

先頭の3人に突っ込むように加速して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

アイツらクッソ早くね?

 

 

 

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいマジで追いつけない仕掛け所ミスったマズい!

こんなペースで仕掛け所を見つけるのは正直無理難題と言ってよかったが、まだマシなタイミングはあったはず。

しくじった。

 

 

もういい、後先考えずぶっ放す!

 

 

 

 

「あああああぁぁぁぁぁぁああっ!!!」

『ライスシャワーが後ろから上がってきたが、間に合うか!?』

 

 

間に合うかじゃない、間に合わせるんだよ!

 

 

3バ身、2バ身、1バ身、━━0!

 

 

追いついた!

 

 

 

 

 

 

けど。

 

 

 

 

「「「はあああああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」」」

 

 

 

 

まだ加速するのか!?

クソ、抜けない!

 

 

 

 

ゴール板直前で、ボーガンが一瞬耳をコチラに向けたのが見えた。

そして、弦を一瞬溜めた後━━矢が弾き出された。

 

 

ごく、ごく僅かに前に抜け出し━━

 

 

 

 

『4人が横並びになって今ゴールイン! キョウエイボーガンが抜け出したように見えましたが果たして!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴール板を抜けた直後、逃げ3人がぶっ倒れた。

3人揃ってヤムチャしやがってのポーズはやめろ。

 

 

まあ当然というべきか写真判定になった。

今回は……なんかダメな気がする。

 

 

 

 

少し後、まずボーガンの1着が確定し。

しばらく後に、2着にブルボン、3着にレガシーが入った。

 

 

私は4着。

 

 

 

 

 

 

……クソ。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

580:レース好きの名無し

早い早い早い

 

581:レース好きの名無し

逃げがヤバいのしかいないせいだな

 

582:レース好きの名無し

(足が)壊れちゃ〜う

 

583:レース好きの名無し

後ろ死んでる

 

584:レース好きの名無し

勝手に競り合って勝手に早くなるのやめろ

 

585:レース好きの名無し

追いつくかコレ?

 

586:レース好きの名無し

ライス追えええええ

 

587:レース好きの名無し

上がった!

 

588:レース好きの名無し

来た

 

589:レース好きの名無し

行けるか

 

590:レース好きの名無し

ファッ!?

 

591:レース好きの名無し

なんでまだ前が加速するんですか

 

592:レース好きの名無し

並ぶな

 

593:レース好きの名無し

逃げろブルボンんんんん

 

594:レース好きの名無し

抜かせ

 

595:レース好きの名無し

どうだ

 

596:レース好きの名無し

お?

 

597:レース好きの名無し

ん?

 

598:レース好きの名無し

ボーガン跳ねた?

 

599:レース好きの名無し

僅差やめろ

 

600:レース好きの名無し

跳ねてねぇな

一瞬だけ溜めて伸びた

 

601:レース好きの名無し

分からん

 

602:レース好きの名無し

ややボーガン体勢有利か?

 

603:レース好きの名無し

3人芝

 

604:レース好きの名無し

ヤムチャしやがって……

 

605:レース好きの名無し

ライスもやるんだよぉ!

 

606:レース好きの名無し

黒いのはスタミナだけはあるから……

 

607:レース好きの名無し

上4つ写真とか珍しいな

 

608:レース好きの名無し

 

609:レース好きの名無し

やっぱボーガンか

 

610:レース好きの名無し

よく抜け出せたわあれ

 

611:レース好きの名無し

他どうよ

 

612:レース好きの名無し

マジで差がわからん

 

 

 

 

 

624:レース好きの名無し

きた

 

625:レース好きの名無し

 

626:レース好きの名無し

ブルボン、レガシー、ライス!

 

627:レース好きの名無し

判定お疲れ様

 

628:レース好きの名無し

何度リプレイ見ても同着にしか見えんかったわ

 

629:レース好きの名無し

4人全員タイム差無しとかおかしいって

 

 

 

 

 

635:レース好きの名無し

僅差ってレベルじゃねーぞ!?

 

636:レース好きの名無し

ボーガン

| 7cm

ブルボン

| 2cm

レガシー

| 2cm

ライス

637:レース好きの名無し

?????

 

638:レース好きの名無し

むしろコレめっちゃ写真判定早かったな……

 

639:レース好きの名無し

よう判定出せたわ

 

 

 

 

 

 

 




私の中でのビワハヤヒデのトレーナー
新人。
性格はアプリトレに似ている。能力は優秀な新人といったところ。
「自分はハヤヒデやブライアンにふさわしいのか」とか考えちゃう。
それはそれとして、ハヤヒデに脳みそ焼かれている&ハヤヒデにクソデカ感情を抱いている(※恋愛感情に非ず)ので手放す気は毛頭ない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36.有馬

 

 

 

 

 

 有馬記念。

 私もボーガンも出走を見送った。

 理由は言わずもがな、テイオーの応援とビワハヤヒデの対策である。

 ブルボンは出たけれど。最近はシルコレになりつつあるが。

 

 

 今回の有馬でテイオー、それからサンエイサンキューがドリームに上がる。

 サンキューは多分関わった中で一番良い結果になったんじゃ無いのか? 

 声をかけたのは純粋なる善意からだけど。

 ……別に元が牝馬だったからとかでは無い。決して。決して。

 

 

 今日の応援はスピカの面々とボーガン。隣にはカノープス。

 ブライアンは彼女のトレーナーと一緒らしい。

 私のすぐ横にいるオフトラが“何故か”元気がないので声をかける。

 

 

「どうした2位。そんな顔して」

「その2位が原因ですよ!?」

 

 

 悲痛な顔で嘆くオフトラ。

 

 

「まあそう怒らない」

「いや言ったじゃないですか! ブライアンは中長距離だからホープフル行くって!」

 

 

 ……オフトラにG1の空気を体感させるために朝日杯に出させたのだけど。

 

 

「なんで“両方”出てるんですか!? おかしいでしょ!?」

「それに関しては同意するよ……」

 

 

 ブライアンが朝日杯とホープフルの両方に出やがった。

 ホープフルはまだ開催されていないが、出走登録がしてあった。

 クソローテにも程があるだろ。

 オフトラに7バ身ぐらいつけて勝っていたのは異常でしかない。

 もしかして私が重賞に出走数制限かけたからか……? 

 いやでもかけてなくても多分両方出てたんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 今回の有馬は、1着と2着はテイオーとハヤヒデが競り合うだろう。

 私が気になるのは3着だ。

 案の定ナイスネイチャ(お馴染みの3着)なのか、ミホノブルボン(なんか増えたの)なのかは実際に走らないと分からない。

 私ならナイスネイチャに賭ける。

 案外レガシーやサンキューが突っ込んでくるかもしれない。

 金が賭けられたら面白そうだったんだが、残念ながらここは馬ではなくウマ娘の世界。

 もしかしたら裏とか三店方式とかでやってたりするかもしれないけど。

 ただ、もし、今日賭けられるなら━━━━

 

 

 

 

 

 

 私はテイオーに全ツッパする。

 

 

 

 

 

 

 賭け金としてでは無く。

 競バの神へのリクエスト券として。

 

 

 全財産を賽銭箱にぶち込んだみたいなもんだ。

 頼むぞ、テイオー。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

『━━外からテイオー! 外からトウカイテイオー!!! トウカイテイオー上がってきた!!!』

 

 

 

 

「「「行けえぇぇぇぇぇぇっ!!」」」

「行けええぇぇぇああああああああぁぁぁぁ!!!!」

「ライスさんマジ声デカいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『━━━━トウカイテイオー、奇跡の復活ッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁああああ!!!」

「鼓膜破れそう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでそんなに気合い入って応援してるんですか……?」

「いい言葉を教えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

192:イッチ

 今日の黒い人の言葉

「全財産賭けた気持ちで応援するといいぞ」

 

193:レース好きの名無し

 競艇にいるおっさんみたいだな……

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 年が明けた。

 

 

 ブライアンはホープフルも勝ちやがった。

 ジュニア期にG1を2つ、しかも無敗。

 なんなら姉が無敗三冠。

 すでにURAの脳みそが焼けている雰囲気を感じる。

 ポスターとかCMとかでめっちゃ推してくるし。

 すでにぬいぐるみとかCDとかが売れまくっているし。

 メディアも基本この二人ばっかり取材しているし。

 

 

 ただ、昨日道端に彼女たちのトレーナーが落ちていた。

 どう考えても過労だ。

 軽いものならなんでも治せるとの噂の保健室に放り込んでやった。

 その後ハヤヒデに連絡したら、1分かからずにすっ飛んで来たのは正直かなりビックリしたけど。

 

 

 もしかしたら放り込んだときに擦り傷あるかもしれないから、そうだったらゴメン。

 ウチのトレーナーが異様に頑丈なせいで人間に対する扱いが雑になってしまった。

 うっかり全力で蹴ってもピンピンしてるのは本当に人間かどうか疑うが。

 

 

 

 

 年が明けたということは、今年は94年に相当するわけで。

 春天前に骨折したせいで年3戦しか出来なかった年である。

 着順は5→2→3だから一応掲示板には入っているのだけれど。

 確か勝ってたのがビワハヤヒデ→ステージチャンプ→ナリタブライアンだったか。

 ……京都記念と有馬記念は出たくねぇな。あの姉妹とやり合うのはかなり嫌だぞ。

 

 

 とりあえず骨折に気を付けながら、叩きとして日経賞出るか。

 今回こそは春天3連覇するぞ。

 

 

 

 

 ちなみにマックイーンがもうすぐ高等部を卒業する。

 大学に行ってもレースには出られる。

 別にトレセン付属の大学に行ってもいいのだけれど、マックイーンは普通の大学に行くようだ。

 トレーニングのときだけトレセンに来る形になる。

 とはいえドリームはトゥインクルよりさらに興行色が強いから、そこまでのパフォーマンスは求められていないけれど。

 

 

 大学受験にあたって非常に気になることができたのでちょっとマックイーンに聞いてみる。

 

 

 

 

「共通テストちゃんと点取れたんですか?」

「…………え、ええ。当然ですわ」

「……数学IA」

「やめてくださいまし!」

 

 

 

 

 

 




Q.結局3着誰なの?
A.???「今日はすこぶる調子がいい! しかし三年連続3着も捨て難い……」
ナイスネイチャ「誰!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37.上のお方

 

 

 

 

 諸々をすっ飛ばして3月。

 

 

 オフトラは皐月の前哨戦となる若葉Sを勝ち。

 私は日経賞を勝った。

 危うくツインターボが逃げ切るところだったが、無事に逆噴射して3着に沈んだ。

 

 

 ネットの某所で私は「2400以下の重賞は勝てないウマ娘」とか言われている。

 全く以てその通りだったよ。馬の時は。

 せめてウマ娘になったからには何か1つ勝ちたい。

 今年の秋に何かいい感じのレースは無いものか。

 来年の予定はもう決まってしまっているからな。

 

 

 あと最近ゴルシが変になった。

 精神性は元から変だったが、今回は肉体的に変なのだ。

 先日「次のゴルシちゃんと交代してくるぜ!」と言い残してどこかへ行き(直後に全力で追いかけたがどこにも居なかった)、その次の日にはまた現れたのだが。

 何と言うか……「匂い」が変わった気がする。

 ゴルシの記憶に齟齬は無いから問題は無いと思うのだが、なーんか違和感を感じる。

 問い詰めても「ゴルシちゃんは遍在するのだ」とか宣って実に腹立たしい。

 絶対に調べ尽くすからな。

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

628:イッチ

 ただいま

 

629:レース好きの名無し

 おかえりイッチ

 

630:レース好きの名無し

 おかえり! 若葉S勝利おめ! 

 

631:レース好きの名無し

 おつかれ

 

632:レース好きの名無し

 乙

 

633:現地勢一同

 待ってたぞイッチ

 

634:イッチ

 >>629 >>630 >>631 >>632

 ありがとう

 >>633

 レース中もバッチリ見えてたぞ 来てくれて感謝

 

635:レース好きの名無し

 レース映像に映る謎の集団……一体これは? 

 

636:レース好きの名無し

 一部だけ青い帽子ばっかりかぶってるのマジでわかりやすいな

 

637:レース好きの名無し

 何で青なんだよ

 

638:レース好きの名無し

 >>637

 ・デビュー戦の青ニットニキが発端

 ・青ってサッカー代表の色じゃん

 

639:イッチ

 替え歌で応援するのやめろ

 レース中に笑いそうになる

 

640:レース好きの名無し

 あれ内容酷すぎて笑ったわ

 

641:現地勢一同

 我々渾身の一作やぞ

 

642:レース好きの名無し

 そんなものに心血注がなくていいから

 

643:レース好きの名無し

 お前らの記事できてて芝

 ttps://umamusumeracemedia.jp/article/……

 

644:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

645:レース好きの名無し

 芝

 

646:イッチ

 何だよこれwww

 

647:レース好きの名無し

「青い帽子を被った謎の一団」

 芝

 

648:現地勢一同

 朝日杯の時になんか色々聞かれたと思ったらこれか

 

649:レース好きの名無し

「ただの非公式ファンクラブです」

 おっそうだな

 

650:レース好きの名無し

 非公式であって本人公認とは言ってないの芝

 

651:現地勢一同

 一応このスレのことは黙っておいたぞ

 

652:レース好きの名無し

 ナイスゥ! 

 

653:レース好きの名無し

 こんなところにイッチがいるとかバレたら終わりだからな……

 

654:レース好きの名無し

 ライブってあとどれぐらい? 

 

655:レース好きの名無し

 >>654

 3時間後

 

656:レース好きの名無し

 サンガツ

 

657:レース好きの名無し

 若葉S勝ったってことは……そういうことじゃな? 

 

658:レース好きの名無し

 出るんだろ? 

 

659:レース好きの名無し

 出るって言え

 

660:イッチ

 えー、お察しかと思いますが、皐月出ます

 

 

 いやだああああああああああああブライアンと走りたくねぇぇぇぇぇぇぇぇ

 

661:レース好きの名無し

 いやっほう! 

 

662:レース好きの名無し

 やったぜ。

 

663:レース好きの名無し

 頑張れイッチ

 熾烈な2着争いに負けるなよ

 

664:レース好きの名無し

 >>663

 すでに1着が決まっているみたいな言い方やめろ

 

665:イッチ

 >>664

 アレに勝てるわけねぇだろ

 

666:レース好きの名無し

 イッチが言うのか……

 

667:レース好きの名無し

 まあ朝日杯がアレだったからな……

 

668:レース好きの名無し

 マイルとは思えない着差だったな(白目)

 

669:レース好きの名無し

 ちなみに2着入れるんですか? 

 

670:イッチ

 

 

 

671:レース好きの名無し

 なんか言えよ

 

672:現地勢一同

 絶対応援しに行くからな

 ブライアンに一泡噴かせてもいいんやぞ

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

ぶーちゃんの

はじめてのおつかい

(ナレーション:三女神)

 

 

 

 

 さあ始まりました「はじめt……え? もう何回か行ってる? 別にいいからそういうの…………はじめてのおつかい」。

 

 

 今日おつかいに行くのは東京都府中市の中央トレセン栗東寮810号室右側のベッドにお住まいのナリタブライアンちゃん、[編集済]歳。

 

 

 昨日は、“夜中に窓にカラスが激突した”ことにビックリして泣いちゃいました。かわいいね

 

 

 

 

 今日はトレーニング用の蹄鉄を買いに行くようです。蹄鉄を使い潰したのはこれで累計[編集済]回目。頑張り屋さんですね! 

 

 

 お駄賃を握りしめて、寮からいざ出発! 

 

 

 まずは府中駅に向かいます。

 

 

 果たしてちゃんと行けるかな? 

 

 

 

 

 

 

 駅に向かっている時に━━

 

 

 プップー! 

 

 

 ぶーちゃんのすぐ近くを”車がクラクションを鳴らしながら、すごいスピードで通り過ぎて行き“ました。

 

 

 どうやら、”車線に鳩が数羽止まっていた“ようです。

 

 

 ビックリしたねぇ。 耳もしっぽもピーンってしてる。かわいいね

 

 

 ともあれ、なんとか駅にたどり着きました。

 

 

 改札をくぐって……

 

 

 ピンポーン! 

 

 

 あらら。”ICカードがうまく読み込まれなかった“みたい。後ろの人に必死に謝ってるのかわいいね

 

 

 電車に乗って、目的の駅へと……

 

 

 あらら? 電車が止まっちゃった。

 

 

 ”何かのトラブルが起きた“のでしょうか? 不安そうな顔かわいいね

 

 

 数分後にはちゃーんと動き出したようです。よかったね。

 

 

 

 

 

 

 さて、無事に駅につきました! 

 

 

 ここからショッピングモールはすぐ近くです。

 

 

 しかし、道は入り組んでいて迷いやすいです。

 

 

 でも大丈夫、何度もお姉ちゃんと行ったことがあるで問題ありません! 

 

 

 いつものスポーツ用品店に向かっている時に、

 

 

 ガラガラガラガッシャーン!! 

 

 

 わあ、すごい音。

 

 

 すぐ近くのお店で、”積んでいたものが崩れちゃった“みたい。ビックリしてるのかわいい 泣きそうな顔かわいい 足震えてるのかわいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 かわいいね……かわいいね……

 

 

 え? もうおつかい終わっただろって? 

 

 

 うるせえよいつまでも続けるぞ私は! 

 

 

 いいからアイスティーでも持ってきてよホラホラ。

 

 

 

 

 

 

 ……ところで、そちらのお二人は? 

 

 

 

 

 …………え? セントサイモンとダイヤモンドジュビリー? 

 

 

 

 

 馬鹿やめろ! こっちくんな! 

 

 

 いった! 何すんだお前ら! 三人に勝てるわけないだろ! 

 

 

 お願い許して! お姉さん許して! 

 

 

ああああああああああああああああ

 

 

 

 




三女神、気に入ったウマ娘は像まで引き寄せて勝手に継承しやがるので多分他にも好き勝手やってる(偏見)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38.皐月賞

 

 

 

 

 

【負確の】中央で生き残りたい part114【皐月賞】

 

 

 

 

1:イッチ

 飯入らん

 吐きそう

 

2:レース好きの名無し

 建て乙

 

3:レース好きの名無し

 乙

 ちゃんと食べろ

 

4:レース好きの名無し

 おつ

 食べてよく寝てくれ

 

5:レース好きの名無し

 いよいよ明日だぁ

 

6:現地勢一同

 建て乙

 注意事項貼るわ

 

7:現地勢一同

※私達との現地観戦を考えている人へ

 discord.app/……

 ↑こちらのDiscord鯖にて当日のマニュアル・注意事項などを記載しております。

 また、何人ほど集まるかの確認も兼ねているため、「かならず」参加をよろしくお願いします。

 観戦の際はマナーを守りましょう。何卒よろしくお願いします。

 

8:イッチ

 >>7

 乙

 いろいろありがとね

 

9:レース好きの名無し

 7枠15番……キッツ

 これでナリブ1番とかもうさぁ……

 

10:レース好きの名無し

 でも出るのはやっぱイッチ強えよ

 

11:レース好きの名無し

 他のウマ娘も、ナリブがいるのに参戦したってことは覚悟決まってるのばっかだな

 

12:レース好きの名無し

 インタビュー会場の空気ヤバかったな

 全員ナリブ睨み付けてんだもん

 

13:レース好きの名無し

 >>12

 なおイッチは笑っていた模様

 

14:レース好きの名無し

 >>13

 あれどっちかっていうと諦観に似た乾いた笑みだろ

 

15:イッチ

 いや……みんなブライアンにマークいって奇跡的に全員ぶっ潰れてくれないかなぁって思ってた

 

16:レース好きの名無し

 芝

 

17:レース好きの名無し

 うーんこの

 

18:レース好きの名無し

 よゆうの(ない)えみ

 

19:イッチ

 こうでもならないと勝てる気がしねぇんだわ

 とりあえず早めに寝るわ おやすみ

 

20:レース好きの名無し

 おやすみ

 

21:レース好きの名無し

 よく寝ろよ

 

22:レース好きの名無し

 おやすみ

 俺も明日行くからもう寝るわ

 

23:レース好きの名無し

 イッチ勝ってくれよ

 ブライアンを倒すイッチを見たいんだ

 

24:現地勢一同

 イッチは諦めてるかもしれんが、俺達はお前の善戦じゃなくて勝利を願ってるんだ

 勝てよイッチ! 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

336:イッチ

 おはようございます

 

337:レース好きの名無し

 おはようイッチ

 

338:レース好きの名無し

 お前らは寝れたか? 

 俺は寝付けなかった

 

339:レース好きの名無し

 >>338

 俺も

 昼前に仮眠取るわ

 

340:レース好きの名無し

 おはようイッチ

 寝れないの俺だけじゃなくてよかった

 

341:イッチ

 >>338 >>339 >>340

 遠足前の小学生か? 

 

342:レース好きの名無し

 イッチは寝れたんか? 

 

343:イッチ

 なんとか

 朝ごはん食べなきゃ

 

344:レース好きの名無し

 よかった

 しっかり食えよ

 

345:現地勢一同

 入場完了です……

 めちゃくちゃ人多いわ

 まだ来てない人はマジで急いだ方がいい 場所無くなるぞ

 

346:レース好きの名無し

 はっや、流石やで

 

347:レース好きの名無し

 そんなにおるんか? 

 

348:現地勢一同

 過去最高を記録しそうらしい

 外に人溢れるぞこれ

 

349:レース好きの名無し

 個人で行こうと思ってたワイ、家での観戦を決意

 ごめんイッチ

 

350:イッチ

 いいよ全然

 自分の身体を大事にね

 

351:現地勢一同

 4月だからって油断してると熱中症なるぞこれ

 水持ってくるよう告知しといてよかったわ

 

352:レース好きの名無し

 ぐう有能

 

353:レース好きの名無し

 ワイ競バ場近くのコンビニ店員、忙しすぎて死ぬ

 今休憩中なんやけど、もう戻りたくない

 

354:レース好きの名無し

 お仕事お疲れ様です

 レース見れそう? 

 

355:レース好きの名無し

 始まるまでにはシフト終わるから大丈夫

 それまで耐えるわ

 

356:レース好きの名無し

 皐月賞の日にシフト入ってるとは……おぬし、かなりの有能店員じゃな? 

 頑張れよ! 

 

357:イッチ

 重労働お疲れ様

 じゃあそろそろアップ行くね

 

358:レース好きの名無し

 いってら

 

359:レース好きの名無し

 いってらっしゃい! 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 勝負服に袖を通す。

 軽い素材で作られているはずなのに。

 自分の能力も上がっているのに。

 

 

 

 

 朝日杯の時よりも、勝負服が重く感じた。

 

 

 

 

 あの時は、まだG1に慣れるという理由でしかなかった。

 でも今日は、本当に勝ちを狙いに来ている。

 

 

 正直勝てる気はしないけど。

 だからと言って、勝ちを放棄する気はない。

 スレの人たちも見てくれてるしね。

 

 

 勝利の女神が、私にチュウしてくれたらいいのに。

 

 

 

 

 もうすぐパドックに出る、とレスをする。

 人前に出る前に声援を受けるというのは、どことなく優越感を感じる。

 

 

 

 

 ようやく15番目、私の番だ。

 快晴の光の中に出る。

 

 

 沸き上がる歓声。

 今までとは比べ物にならないくらいの。

 特に大きい声がした方を見れば、やっぱりアイツらが居た。

 どうやら今回は真面目に応援するらしい。

 手を振って声援に応える。

 

 

 心なしか、勝負服が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 大きなうねり、歪みがターフの上にあった。

 誰もがブライアンを打ち倒さんと気を張っているのに、そのブライアン本人は何もないかのように平然としている。

 ここには自分以外誰も居ないかのように。

 

 

 ブライアンの目に自らの背を焼き付けてやろうと、17対の耳が絞られていた。

 

 

 

 

 

 

『━━クラシック最初の一冠皐月賞、栄光を得るのはナリタブライアンか、はたまた他の誰かか。

 ━━今ゲートが開きました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 先手を切ったのはサクラエイコウオー。

 その後ろに、

 

 

『ナリタブライアン、かなり前目につけています!』

 

 

 掛かったわけではないだろう。

 脚質を前に変えたわけでもないはず。

 ならば、きっと━━

 

 

 

 

(アイツはアレで“差し”のつもりなのか!)

 

 

 

 

 気付いたウマ娘は私だけではない。

 

 

 アレで差しなんかやられたらたまったものじゃない。

 それを防ぐには、前に壁を作るしかない。

 皆がそう考え、全体がゆっくり前へ前へとズレて行く。

 言葉を交わしたわけでもないのに、檻が形成されて行く。

 

 

 私は前から4番目、先頭のスリップストリームを受けられる位置へ。

 檻ができているとはいえ、ブライアンに合わせてペースはかなり早い。

 最後まで檻が保つかは悩ましい所だ。

 壊れた時のために、今の間は出来る限りスタミナを温存しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3コーナー、残り600メートル地点。

 まだ檻は保っている。

 小回りコーナーで外に膨らみやすい。

 特にこんなハイペースでは。

 

 

 だが、ここにいるのは覚悟の決まった奴らのみ。

 まだ閉じ込め続ける、そういう意志がなんとか内側を走らせていた。

 

 

 

 

 しかし、最後の直線に入ると、もう壊れかけだった。

 

 

 怒号に近い歓声に包まれる。

 当然だ、全員で一人をマークし続けたのだから。

 

 

 その声援に、あるいは重圧に、残った微かな体力を削られたのか、ブライアンの左前を走るウマ娘が、ほんの僅かに外にヨレた。

 

 

 周りは咄嗟にその隙間を埋めようと動いた。

 

 

 が、ブライアンが抜け出す方が早かった。

 

 

 

 

 

 

 ぬるり、と隙間を抜け出し、怪物が檻から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 ━━まだだ! 

 

 

 抜け出されたのは急坂の直前。

 ならば、檻の蓋が開いても、コースを絞ることは出来る! 

 

 

 急坂を斜めに登らざるを得ないように、ブライアンの前を走るウマ娘達が隊列を変える。

 私は壁の一番下。

 

 

 しかし、やはりと言うべきか、ブライアンはスルスルと坂を登って行く。

 

 

 抜かされた瞬間、私もスパートをかける。

 真っ直ぐ登っても、急坂であることには変わらない。

 ハイペースによって削られたスタミナがさらにすり潰される。

 

 

 移動距離のごく僅かな差を、出来る限り保つ。

 

 

 横を見るな、板だけを見ろ。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『━━━━ナリタブライアンが先頭に立った!!!』

 

 

 

 

 黒い化物が、横に見えた。

 

 

 抜かせるか、と意志だけで脚を回す。

 

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 ゴールはすぐそこなのに。

 

 

 ほんの少し抜き返せばいいはずなのに。

 

 

 なのに。

 

 

 その差は、広がるばかりで。

 

 

 

 

 

 

『━━ナリタブライアン、ゴールイン! 信じられない末脚! 圧倒的な強さで包囲網をものともしなかった!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芝に倒れる。

 まともに呼吸すら出来ない。

 脚が鉛よりも重く感じる。

 

 

 だというのに。

 あいつは。ナリタブライアンは。

 

 

 

 

 特に疲れた様子も見せず。

 普段のトレーニングが終わったかのように、そこに佇んでいた。

 

 

 

 

 ブライアン(化物)は、ただじっと掲示板を見ていた。

 着順やリプレイではなく、タイムだけを見つめ。

 どこか不満そうに、さっさと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソ。

 

 

 クソ。

 

 

 なんだっていうんだよ。

 

 

 ブライアンにとって、これはレースですらなかったのか。

 ただのタイムアタックでしかなかったのか。

 

 

 私たちをなんだと思ってるんだよ。

 ただのモブ? それとも邪魔な障害物か? 

 きっと、それですらないんだろう。

 

 

 ただの動く壁。背景。テクスチャ。

 

 

 アイツは、私たちをその程度にしか見ていないように感じた。

 

 

 

 

 青い空を仰ぐ。

 傾き始めた太陽が、ブライアンの勝利を祝うように、私たちの敗北を晒すように輝いていた。

 

 

 息は整ってきた。脚も多分動くだろう。

 

 

 でも、

 

 

 

 

 立つ気力が無かった。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

656:レース好きの名無し

 ……何なんすかあれ

 

657:レース好きの名無し

 怖い

 強いというよりただただ怖い

 

658:レース好きの名無し

 言葉がでねぇ

 感嘆とかじゃなくて、理解不能とかの意味で

 

659:レース好きの名無し

 急坂ありの2000やぞ? 世界レコードやぞ? 何で疲れてねぇんだよ

 

660:レース好きの名無し

 あんなレース、普通はイッチみたいにぶっ倒れるんだよな? 

 勝機が一切見えねぇんだけど

 

661:レース好きの名無し

 おーい冷えてっか〜? 

 俺は凍りついた

 

662:現地勢一同

 泣きそう

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

881:イッチ

 今戻りました

 

882:レース好きの名無し

 おかえりイッチ

 よう頑張った

 

883:レース好きの名無し

 おかえり

 カッコよかったぞ! 

 

884:レース好きの名無し

 イッチのやること見てて面白かったし楽しかったわ

 ともあれお疲れ様! 

 

885:レース好きの名無し

 よく食らいついたわ

 流石やなイッチ

 

886:現地勢一同

 おかえりなさい、そして本当にありがとう

 

887:イッチ

 ありがとう

 勝てなくてごめんね、せっかく来てくれた人もいたのに

 

888:イッチ

 何だろうなこれ

 悔しいのかな

 悔しいんだろうな

 なんか違う気がするけど

 

889:イッチ

 虚というか

 絶望? 

 考えがうまくいかない

 

890:イッチ

 何としても見られなかった、多分

 

891:イッチ

 いくらやっても届かないんじゃないかってずっと頭をぐるぐるしてる

 

892:イッチ

 なんで走ってるんだっけ

 

893:イッチ

 連投ごめん

 見苦しいよね

 

894:レース好きの名無し

 ええんやで

 どんどん吐き出していけ

 

895:レース好きの名無し

 別に無理してここに居なくていいからな

 ゆっくり落ち着いていこう

 

896:イッチ

 ありがとう

 しばらく居座るわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々に真面目なの書いた気がする


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39.灰被りの脳

ぼく「早く帰って(カエル狩り)周回しなくちゃ」
サイゲ「ワンダーアキュート実装! ホッコータルマエ実装! デアリングタクト実装!(現役馬) 新規育成イベント実装! 水着ゴルマク実装! うおおおおおおおおお!!!」
ぼく「!!?!!?!????!??!?? (喜びで)痛い痛い痛い痛い! (財布が壊れるのは)わかったからもう!」




メイケイエール!!!!!! お待ちしております!!!!!!!





 

 

 

 

980:レース好きの名無し

 暗い話は終わり終わり! 

 なんか明るい話しようぜ

 

981:レース好きの名無し

 ならイッチ、いい話がある

 

 

 皐月賞の2着賞金は6000万だ

 やったなイッチ、家が建つぞ

 

982:イッチ

 !!! 

 

983:レース好きの名無し

 俺の総資産超えてて芝

 

984:レース好きの名無し

 >>983

 ここにいる全員超えるだろ

 

985:レース好きの名無し

 もうすぐブライアンのインタビューだってよ

 

986:レース好きの名無し

 もう次スレ立てていいんじゃね

 

987:イッチ

 完走早かったな……

 立てるわ

 

988:イッチ

 立てた

 ttps://hakidamekeijiban.com/…………

 

989:レース好きの名無し

 おつ

 じゃあ埋めるか

 

990:レース好きの名無し

 うめ

 

991:レース好きの名無し

 かゆ……うめ……

 

992:ちくわ統一理論

 4つのちくわを一つに

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

1:イッチ

 化け物のインタビュー、はっじまっるよー

 

2:レース好きの名無し

 たておつ

 

3:レース好きの名無し

 おつ

 

4:レース好きの名無し

 画面切り替わったぞ

 テレビ点けろ

 

5:レース好きの名無し

 きた

 

6:レース好きの名無し

 記者多スギィ!? 

 

7:レース好きの名無し

 この数でダービーじゃないのか……

 

8:レース好きの名無し

 ブライアン来た

 

9:レース好きの名無し

 うおっまぶしっ

 

 

 いやフラッシュ焚くなや

 

10:レース好きの名無し

 フラッシュ焚いてるカスがいますね……

 

11:レース好きの名無し

 注意されてて芝

 多分普段レース取材しない所だな

 

12:レース好きの名無し

 うーん(見た目は)地味な子

 

13:レース好きの名無し

 図書館の隅っこで本読んでそう

 

14:イッチ

 なお

 

15:レース好きの名無し

 イッチは本当に頑張ったよ……

 

16:レース好きの名無し

 あれ? トレーナーは? 

 

17:レース好きの名無し

 ビワハヤヒデ来た

 

18:レース好きの名無し

 ハヤヒデ『トレーナーは胃潰瘍で入院中の為、私が代理を務めさせていただきます』

 oh……

 

19:レース好きの名無し

 ハヤヒデなんかキレてね? 

 めっちゃ記者睨むじゃん

 

20:レース好きの名無し

 取材責めとか付き纏われたりとかされたんだろ

 そらキレるわ

 

21:レース好きの名無し

 なんか黒いのツイートしてたような

 

22:イッチ

 >>21

 3日前のこれが最新

 

 

 ライスシャワー @rice_shower 4月14日

 ビワハヤヒデのトレーナーが校内で倒れていたため、医務室に搬送しました(1日ぶり9回目)。

 ていうか凄い勢いで体重減ってるけど大丈夫か? 持った感じ50kg無かったぞ

 

 

 

23:レース好きの名無し

 想像以上にヤベェぞこれ!? 

 

24:レース好きの名無し

 トレーナーって身長どれぐらいだっけ

 

25:レース好きの名無し

 >>24

 ハヤヒデより少し高かったから170後半か

 いやその身長で50kg無いのは本当にまずいですよ! 

 

26:レース好きの名無し

 ていうかビワハヤヒデ身長でけぇな? 

 

27:レース好きの名無し

 >>26

 身長だけじゃなくて何もかもがデカいぞ

 

28:レース好きの名無し

 >>27

 うお……(戦績)でっか……

 

29:イッチ

 トレセンの電話が悲鳴あげてるらしい

 というかあんなに疲れてるたづなさん今まで見たことない

 

30:レース好きの名無し

 たづなさんって疲れるんですか……? 

 

31:レース好きの名無し

 たづなさんが疲れるわけないだろ

 

32:イッチ

 >>30 >>31

 お前らはたづなさんを何だと思ってるんだ

 

33:レース好きの名無し

 >>32

 え? たづなさんって複数人いるんじゃ無いの? 

 

34:レース好きの名無し

 俺は概念的存在だと思ってた

 

35:イッチ

 たづなさんクローン説はトレセンでもよく言われるけどさぁ……

 

36:レース好きの名無し

 たづなさん会見場の端っこにいるぞ

 

37:レース好きの名無し

 ほんまや

 

38:イッチ

 は? ついさっきうちのトレーナーと話してたんだけど

 

39:レース好きの名無し

 ……え? 

 

40:レース好きの名無し

 !? 

 

41:レース好きの名無し

 唐突なホラーやめろ

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 

131:イッチ

 やだこの子怖い……

 

132:レース好きの名無し

 勝つことが確定事実かのようにずっと喋ってる……

 

133:レース好きの名無し

 なんなんコイツ

 

 

 

 ━━━

 

 

『終始激しいマークを受けていましたが、やはり苦しかったでしょうか?』

「え? ……あー、いえ、特には。『なんだか走りづらいなー』ぐらいでしたね」

『……そうですか…………』

 

 

 ━━━

 

 

134:レース好きの名無し

 はぁ!? 

 

135:イッチ

 ミ゜

 

136:レース好きの名無し

 あんだけやられてその程度の認識なのかよ!? 

 

137:レース好きの名無し

 イッチが死んだ! 

 

138:レース好きの名無し

 記者もドン引きしてて芝

 

 ━━━

 

 

『次はやはりダービーですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、間にNHKマイルを挟みます」

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………はい?』

「あ、聞こえませんでしたか? すいません」

『あ、ああいえ、聞こえたはずでしたが、おそらく聞き間違えました。もう一度お願い出来ますか?』

「私の次走はNHKマイルカップです。その後にダービーに出ます」

『…………………………』

 

 

 ━━━

 

 

 

 

139:レース好きの名無し

 は? 

 

140:レース好きの名無し

 え? 

 

141:レース好きの名無し

 なんて? 

 

142:レース好きの名無し

 NHKマイル!? 

 

143:レース好きの名無し

 はぁ!? nhkマイル!? 

 

144:レース好きの名無し

 待ってこの子何言ってるの

 

145:イッチ

 ???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????? 

 

146:レース好きの名無し

 あたまおかしいよこの子(震え声)

 

147:レース好きの名無し

 お前は何を言っているんだ

 

148:レース好きの名無し

 ク、クソローテ……

 

149:レース好きの名無し

 >>148

 でもよぉ、ナリタブライアンだぜ? 

 

150:レース好きの名無し

 いやそんなクラシック夏未勝利みたいなローテ組まんでも……

 

151:レース好きの名無し

 >>149

 なるほど(理解)

(間隔を見る)

 …………うん? (理解不能)

 

152:イッチ

 ねえ横で黒い人ぶっ倒れたんだけど

 

153:レース好きの名無し

 芝

 

154:レース好きの名無し

 黒い人が倒れるレベルか……

 

155:レース好きの名無し

 ガンジーコピペの新種か? 

 

156:レース好きの名無し

 記者もそりゃあ聞き間違えだと思うわな……

 

157:レース好きの名無し

 ビワハヤヒデェ! 『ブライアンなら可能です』とか言ってないで止めろぉ!! 

 

158:レース好きの名無し

 駄目みたいですね(諦観)

 

159:レース好きの名無し

 nhkマイル予定してたウマ娘、多分悲鳴あげてるぞ

 

160:レース好きの名無し

 死神かな? 

 

161:レース好きの名無し

 >>159

 既にいっぱい上がってるぞ

 ttps://twitter.com/……

 ttps://twitter.com/……

 ttps://twitter.com/……

 ttps://twitter.com/……

 

162:レース好きの名無し

 うわぁ……

 

163:レース好きの名無し

 迫真の「来るんじゃねえ!!!」

 俺もそう思う

 

164:レース好きの名無し

 出走回避多そう

 

165:レース好きの名無し

 >>164

 ダービーに限ってそれは無いだろ

 何があろうとダービーやぞ

 俺なら負けるとしても出たいわ

 

166:イッチ

 >>165

 これ

 多分2着を実質1着と見做して来るのもいるだろうし、有力バが回避するのを期待して多分登録者は増える

 なによりブライアンが連闘になるから、「もしかしたら……」を狙うのも多いと思う

 

167:レース好きの名無し

 >>166

 はえーやっぱ皆ダービーに出たいんですねぇ……

 

168:レース好きの名無し

 >>167

 全ウマ娘の夢やぞ、当然やろ

 

169:現地勢一同

 イッチが勝ってくれたら最高だな

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 アイツやりやがった。

 どうするんだよこれ。

 オフトラが精神的にダービー駄目そうなら、NHKマイルを薦めるつもりだったのに。

 

 

 今すぐにでもブライアンに電話を繋げて問い詰めたい所だが、なんとか堪える。

 そして姉。なぜ止めない。

 お前も既に脳味噌が丸焦げになってるのか。

 早く頭蓋骨に還元剤ぶち込んでこい。

 

 

 

 

 

 

 ピロン、とスマホが鳴る。

 見てみれば、ボーガンからのLINEだった。

 

 

 

 

 

 

『今中山にいるよな?』

「y」

『ちょっと会場に乱入してブライアンを縛り上げてくれ』

「私を逮捕させる気か」

『ブライアンのせいで栗東寮がヤベェんだよ』

 [動画]

「地獄か?」

「twitterに上げたらバズりそうだな……」

『上げるか』

『お前が上げてくれ』

『そっちの方がフォロワー多いだろ』

「いいのか?」

『いいぞ』 

「じゃあファイルでくれ」

「LINE直接通すと劣化するから.movか.mp4でくれると助かる」

『OK』

 IMG_9461.mov

『ほい』

「thx」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライスシャワー @rice_shower 9分前

 

 

 これはボーガンから届いた栗東寮の様子

 [動画]

 

 

 3643いいね 648リツイート 93引用ツイート 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

250:レース好きの名無し

 でも、イッチほんまにダービー出るんか? 

 

251:レース好きの名無し

 俺は出て欲しい

 でもアレの前じゃあ気軽に出ろとは言えない

 

252:レース好きの名無し

 ダービーで心ポッキリ逝ったら元も子もないしな

 

253:レース好きの名無し

 イッチが決めることやろ

 

254:イッチ

 ダービーは

 

255:レース好きの名無し

 おう

 

256:レース好きの名無し

 さあ

 

257:イッチ

 出ます! 

 

 

 2着賞金8000万とか逃すわけねぇだろ! 

 

258:レース好きの名無し

 よっしゃ! 

 

259:レース好きの名無し

 それでこそイッチ

 金を求めよ

 

260:レース好きの名無し

 やったぜ。

 

261:イッチ

 こうなったらヤケクソだ全力で1着狙うぞ! 

 化け物でもG1三連闘は流石に影響出るだろ! 

 出なくてもなんとかする! 

 目指せ2億! 

 

262:レース好きの名無し

 マジか! 

 

263:レース好きの名無し

 ええぞ! 

 

264:レース好きの名無し

 ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!! 

 

265:現地勢一同

 ぜってぇ行くからな

 ウイナーズサークルで待ってろよ

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

「ライスシャワーさん」

 

 

 オフサイドトラップが、スマホから顔を上げ、じっとこちらを見た。

 

 

 

 

「ダービーに勝ちたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁぁ……」

 

 

 溜息が出る。

 

 

「今の私ですら勝てる気がしないんだけどなぁ……」

 

 

 そう、口に出た。

 

 

 コイツは爆弾を抱えている。

 本人も、薄々感づいているだろうが。

 

 

「…………オフサイドトラップ」

 

 

「はい」

 

 

 ━━でも。

 

 

 全てのホースマンの夢、

 全てのウマ娘の夢。

 

 

 東京優駿に全てを懸けた馬がいた。

 ダービーに全てを懸けたウマ娘がいた。

 

 

 ならば。

 

 

 

 

 

 

「全部捨てる覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………私も春天があるんだけどな。……トレーナーとボーガンに連絡するか」

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 やってやろうじゃないか。

 

 

 

 

 なあに、何かあっても━━

 

 

 

 

 コイツは、無事之名馬の体現者だったんだろう? 

 

 

 

 

 なら、なんとかなるさ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40.94春天

なんと40話ですよ。
4月に始まってよくここまで継続できたなぁ……
今のうちに予告しておくと、多分50話ぐらいで終わると思います。
とは言っても、「予定してる終わりまで大体こんぐらいじゃね」という曖昧な予測ですのであしからず。


 

 

 

 

 春天。

 

 

 出て来る中で一番ヤバいのがビワハヤヒデ。

 どうにかしてコイツに勝たなくては。

 

 

 マックイーンの時みたく全力マークでもいいのだけど、対策されてそうな気がしなくも無い。

 幸いにも不調は克服したと思われるので、95の時と同じくマークせずに行っても良さそうではある。

 

 

 というか、やっっっっっっっと身体が合った。

 1年だぞ1年。

 日経賞でようやく10割までいった。

 おそらく10割から更に伸びると思われたので、春天までにゴリゴリ詰め込んでいた。

 

 

 

 

 滅茶苦茶骨折に気を付けながら。

 テイオーとか見てると怪我は避けられない気がして仕方がない。

 なんなら「なんか折れそう」という謎の勘がビンビン働いている。

 万が一レース中に折れたら最悪だぞ。

 一応、骨密度を高めたりとかの対策はやってきたけども。

 まあ、こっちは治った方の骨折だし、最悪折れても走ればいいか。

 

 

 

 

 

 

 ただ、ある日とあることに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 全部ぶっ壊してやるか。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

「ハロー」

 

 

 ターフでビワハヤヒデに声を掛ける。

 

 

「……ライスシャワーか。今日はよろしく」

「えぇ、こちらこそ」

 

 

 互いに握手をする。

 

 

 身長差が20cm以上。

 黒と白。

 いい対比じゃないか。

 

 

 コイツに1番人気を取られたのが癪でならないが。

 

 

「……まあ、なんだ。そっちの妹が随分と派手なことをなさっているようで」

「ははは。最初は私も止めたさ。……だが」

 

 

 ビワハヤヒデは賞賛するような、しかし何処か諦めの入った声で、

 

 

「皐月賞の疲労具合を見て『いける』と思ってね。……つくづくブライアンには驚かされる」

「……ああ、全く。ウチのチームも大概な目にあったよ」

「ふふ。だが次も勝たせてもらうよ」

「勘弁してほしいね」

 

 

 

 

 他愛もない話が続く。

 

 

 

 

「ああ、そうだ。ウチのチームと言えば」

「……?」

「ウチにはあなたと同じ芦毛がいてね。……正確にはいたんだけど」

「…………」

「実は最近また来てもらってね。色々と手伝ってもらったんだよ」

「…………ッ!」

「どうも最近はあなた達姉妹ばっかりが話題になっているらしい。ここらでちょっと乱してやろうと思ってね」

「……何をするつもりだ?」

 

 

 

 

 何を? 

 やることは決まっている。

 

 

 

 

「……3分12秒5」

「…………なに?」

「どうも、そのうち春天で出るタイムらしい」

「待て、そのうち出るとは……」

「例の芦毛と色々やっているうちに、それから10秒以上縮められるんじゃないかと感じてね」

「…………は?」

 

 

 

 

 唖然とした表情が見える。

 実に愉快だ。

 

 

 

 

「ある時疑問に思ったんだよ。『なんで斤量が無いのにこの程度の速度しか出せないのか』って」

「キ、キンリョウ……?」

「やがて気付いた。元の魂がこちらの肉体、或いは(ことわり)に縛られていると。じゃあそれを解放すればどうなるんだろう?」

「…………」

「騎手やその他装備含めて58kg。一般に斤量1kg当たり一馬身、または0.2秒と言われている。単純計算で58*0.2=11.6。12.5から引いて0.9秒。あと0.9秒なら行けるんじゃないか?」

「な、何を言って━━」

「問題はこれが可能なのが私とボーガンしかいないこと。アイツに教えることができたらよかったんだけど。

 ともあれ、つい先日ここを借りて実験してみた。どうも12秒5を出したのは逃げ馬だったらしい。幸いにも私は逃げも出来たからね。とはいえかなり抑えてやったんだけど。

 ……どうなったと思う?」

「一体何を━━」

「今から再現してみせるさ。どうせ秋まで暇になるだろうし、いっそ全力で行ってみるよ」

「ま、待ってくれ!」

 

 

 

 

 手のひらだけ振り返して、その場を離れた。

 

 

 

 

 見とけよ、全人類。

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 

 

『━━ライスシャワー、圧倒的大差で1着!! タイムは━━

 

 

 ━━に、2分59秒8!!? 

 

 

 さ、3分の大台を切りました……!!』

 

 

 

 

 ゴール板を駆け抜けて、すぐに邪魔にならないようにして観客席側へ移動。

 そして観客を見ながら、左手首を指先でトントンと叩く。

 

 

 

 

「━━ろーく、なーな、はーち、きゅーう、じゅーう、…………」

 

 

 

 

 カウントを続ける。

 やけに静かな場内で、私の声はよく響いた。

 

 

 

 

「じゅーご、じゅーろk…………意外と早かったね」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、━━」

 

 

 

 

 ビワハヤヒデがようやく2番目にゴール。

 息も絶え絶えになっている彼女を見つめながら、笑顔で━━

 

 

 

 

「━━でも残念。全員まとめてタイムオーバーだよ」

 

 

 

 

「━━━━━━━━」

「まあ安心して。出走停止は1ヶ月だけだから宝塚には出られる」

 

 

 他のウマ娘もぞろぞろとゴール。

 

 

「さて、トレセン学園の標語はなんだったか分かるか?」

「……Eclipse first, the rest nowhere」

「そう、その通り。そして、どうやら━━

 ━━私はそれに最も従順なウマ娘らしい。実際私もエクリプス系の血統だしね。まあほとんどがそうなんだけど」

 

 

 ビワハヤヒデが、いや観客を含めた全員が、私を化け物か何かのように見ている。

 

 

「……一体何をしたんだ」

「さっきも言った通りだよ。自分の核となるモノを解き放つんだ。別にドーピングなんかじゃぁない。検査も白だよ」

「……訳が、わからない」

「まあ、そうだろうね。でも━━」

 

 

 自分の脚を見る。

 

 

「━━やはり駄目だったか。秋までとは言ったけど、来年まで伸びるかもね」

「…………脚を犠牲にしたのか!? 最初からそのつもりで!?」

「大きな結果には、それ相応の対価は必要だよ。動きを減らせばライブには出られるから問題はない」

 

 

 どうせ暇になるんだしな。

 

 

「……なぜそこまでする?」

「可能だったから」

「は?」

「よく『できる』と『しなければならない』は別だと言われている。しかし、それは『してはならない』ということじゃない。そして、私はこれがやりたかった。だからやった」

 

 

 それのどこが間違いだと言うのか。

 

 

「そもそも最初は、菊花賞で全員に中指を立てて、賞金を得るためにトレセンに来たんだ。私は自分の欲望のために走っているんだよ」

「…………そんなもののために……ッ」

「そんなもの?」

 

 

 思わず聞き返す。

 

 

 

 

「では聞くがあなた達はなんのために走っているんだ? 栄誉が欲しいから? 勝ちたいから? それとも単に走りたいから? 結局のところ欲望じゃないか。あなた達こそ欲望でのみ走っているじゃないか。あなた達にとって走ることは義務なんかじゃない筈だ。私は義務だった。走ることこそが生存手段だった。だがその手段の中に欲望を見出した。過去の義務に欲望の可能性を見出した。義務が義務で無くなった時、私の目的はまさにその欲望の追求へと変わった。可能性が行動の大きな前提となることについて疑問の余地は無い。そして何より『欲望の実現可能性』こそがもっとも大きな動機となり得るのはあなた達もよく理解しているだろう━━中央を目指すのは速く走れるから。重賞に出るのは中央で勝てるから。G1に出るのはG2・G3に勝てるから━━、これらの行動は全て欲望によって行われているのだろう? 欲望のために行動することそのものは何も悪しきことではない筈だ。何より私は強欲だった。強欲であるが故に目的に対し努力を重ねた。既に可能な手段に更に磨きをかけた。可能性を限りなく1に近づけようと邁進した。故に勝った。負けたあなた達の一体どこに『そんなもの』と言える根拠があるんだ? あなた達にああだのこうだの言われる謂れは無い」

 

 

 

 

 何も返答は無い。

 

 

 私は脚の痛みを堪えながら地下バ道へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ライスシャワーのひみつ

コーヒーにミルクと砂糖を多く入れると、なぜか周りから驚かれる。

━━━

ぼく「エクリプス系は競走馬の95%ね。念のためにライスの父系調べとくか」

ぼく「ヘイルトゥリーズンと芋おって芝」

ついでにゴルシ調べたら牝系に星旗いてびっくりしたんですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41.反響

前回凄まじい無知を晒しましたが「そっちの方がストーリー的に面白い」ので続行します。
ウマ娘世界だったら賭け事じゃないし馬主的な存在もいないし純粋な競技だし、(一応)個人が自分の意思で行っているものなんだから、もう少しルール厳しくしたっていいでしょ(適当)
ていうかまだ馬券買えねぇカスが詳しいルールとか知ってるわけねぇだろ!
あとJRAの競馬辞典はもっと詳しく書けよ! 騙されたよ!

まあガチ中世ヨーロッパとかいう異端者即拷問&モンゴル兵が逃げ出すほどの劣悪衛生環境を事細かに書くよりも、適当にナーロッパ書いた方がウケがいいのと同じ同じ
クソの臭いがするガチ無知農奴の文字読めないヒロインが魔女裁判にかけられて殺される話とか絶対流行らないゾ(確信)
あと正直修正めんどくさい



 

 

 

 

 

 

 

 

594:レース好きの名無し

 カメラさん1人しか映ってねぇぞ! 

 

595:レース好きの名無し

 差がえっぐい

 

596:レース好きの名無し

 通過タイムおかしい……おかしくない? 

 

597:レース好きの名無し

 大逃げ ←だいぶ前にやってたから分からなくはない

 

 

 カメラに1人しか映らない ←は??? 

 

598:レース好きの名無し

 ビワハヤヒデ追いつくかこれ? 

 今から行っても間に合う気がしねぇんだけど

 

599:レース好きの名無し

 流石にステイヤーとは言え垂れるだろ

 ……垂れるよな? 

 

600:レース好きの名無し

 垂れたとしてもこの差はまずいですよ! 

 

601:レース好きの名無し

 4角抜けた! 

 

602:レース好きの名無し

 待ったこれ3分切り行くんじゃね? 

 

603:レース好きの名無し

 行ってたまるか

 

604:レース好きの名無し

 あ、ハヤヒデ映った

 

605:レース好きの名無し

 >>604

 コースの反対側にな

 いやなんで? 

 

606:レース好きの名無し

 垂れねぇぞコイツ!? 

 

607:レース好きの名無し

 待って3分はやばい

 

608:レース好きの名無し

 カメラ諦めてんじゃねぇ! 

 もっと画角広げろ! 

 

609:レース好きの名無し

 おおお3分行くかコレ!? 

 

610:レース好きの名無し

 あと100! 

 

611:レース好きの名無し

 何が起きてるの……

 

612:レース好きの名無し

 いけえええええええ

 

613:レース好きの名無し

 行け! 

 

614:レース好きの名無し

 間に合うか!? 

 

615:レース好きの名無し

 ゴール!! 

 

616:レース好きの名無し

 コレは行ったか!? 

 

617:レース好きの名無し

 ちょうど! 

 

618:レース好きの名無し

 やったか!? 

 

619:レース好きの名無し

 どうだ!? 

 

620:レース好きの名無し

 ! 

 

621:レース好きの名無し

 おお!? 

 

622:レース好きの名無し

 2:59:8!!!! 

 

623:レース好きの名無し

 行ったああああああああああああ!!! 

 

624:レース好きの名無し

 マジかよ!? 

 

625:レース好きの名無し

 ふぁーwwwwwwwwwwwwww

 

626:レース好きの名無し

 59.8!! 

 

627:レース好きの名無し

 3分切りよった

 

628:レース好きの名無し

 omg

 

629:レース好きの名無し

 うっそだろお前

 

630:レース好きの名無し

 黒いの何してるん

 

631:レース好きの名無し

 なんかカウントしとる

 

632:レース好きの名無し

 何やってんすか

 

633:レース好きの名無し

 ハヤヒデゴール! 

 

634:レース好きの名無し

 やっとか

 

635:レース好きの名無し

 やっと……? 

 

636:レース好きの名無し

 3分15か

 

637:レース好きの名無し

 3分15って普通なら勝ち時計では……? 

 

638:レース好きの名無し

 ていうかコレ全員タイムオーバーじゃね

 

639:レース好きの名無し

 あっ

 

640:レース好きの名無し

 エクリプスかよ

 

641:レース好きの名無し

 >>640

 セクレタリアト「は?」

 

642:レース好きの名無し

 どっちもバケモンなんだよなぁ

 

643:レース好きの名無し

 ああ、カウントしてたのってそういう……

 

644:レース好きの名無し

 あっふーん(察し)

 

645:レース好きの名無し

 性格悪すぎて芝

 

646:レース好きの名無し

 コイツ初めからコレやるつもりだったんじゃ……

 

647:レース好きの名無し

 黒いのだしあり得る

 

648:レース好きの名無し

 待ってビワハヤヒデ宝塚出れる? 

 

649:レース好きの名無し

 >>648

 未勝利以外は一律1ヶ月間だから大丈夫やぞ

 

650:レース好きの名無し

 3分切りのタイム出してやることが煽りなのホント性格悪い

 

651:レース好きの名無し

 ライスシャワーやぞ

 

652:レース好きの名無し

 それは万能の言葉じゃねぇんだよ

 今回は当てはまるけど

 

653:レース好きの名無し

 >>652

 毎回当てはまってる気がするのは俺だけですか? 

 

654:レース好きの名無し

 ライスシャワー「平均して1ハロン11.25より速く走れば3分切れるぞ」

 

655:レース好きの名無し

 そう言われるとできそうな気がする

 いややっぱ無理だろ

 

656:レース好きの名無し

 >>654

 それが出来れば苦労はしねぇ! 

 

657:レース好きの名無し

 >>654

 なるほど、完璧な作戦っスね──っ

 [不可能だ]という点に目をつぶればよぉ〜〜

 

658:レース好きの名無し

 >>657

 ライスシャワー「できたぞ」(2:59.8)

 

659:レース好きの名無し

 なんでだよ

 

660:レース好きの名無し

 おーい、イッチ生きてるかー? 

 

661:レース好きの名無し

 そういやイッチまだ反応ないな

 

662:イッチ

 なんなんすかこれ

 

663:レース好きの名無し

 生きてた

 

664:レース好きの名無し

 俺もそう思う

 

665:イッチ

 なんか黒い人長文でレスバやってるんだけど

 

666:レース好きの名無し

 !? 

 

667:レース好きの名無し

 いつぞやの菊花賞かな? 

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 春天の大レコードは、それはもう大きな話題になった。

 

 

 まずウチのトレーナーが急激に忙しくなった。

「なんか2年半ぐらい前を思い出すな」とは言っていたからまだ余裕はありそうだけど。

 しかしテイオーの三冠からもうそんなに経っていたのか。

 ……よく考えたらこっちも原因は私だな。すまんトレーナー。

 

 

 トレーナーが忙しいということは必然的に私も忙しくなる訳で。

 一般的には「何なんこいつ」と言った反応が多かったが、やはりドーピングを疑う者も多かった。

 あんなレコード、しかも走り終わって怪我をしているとなると「薬で無理やり強化したから身体が耐えきれなくなったのでは」と考えるのも、まあ分からなくはない。

 ちゃんとレース前もレース後もドーピング検査しているし、URAもしっかり対応しているから、一部の匿名掲示板の更に極一部を除きほとんどは居なくなった。残りは知らん。

 ちらっと覗いてみたが、そう言った主旨のスレッドに対して否定的なレスが多かったから、まあ大丈夫だろう。

 クソコラミーム画像とかシットポスト、トローリング*1をやろうとしているのが居た時はプロバイダに通報してやろうかと本気で考えたが、どうもそこの管理人はまだ知性が残っていたらしい。すぐに通報されて追い出されていた。

 

 

 トレセンの事務室は特に変わっていなかった。

 電話の中身が姉妹から私に変わっただけで、クソ忙しいのはそのままだった。

 

 

 その姉妹からは、最近変な目で見られるが。

 コレに関してはどうでもいい。

 

 

 

 

 ブライアンに喧嘩を売りに行くのだから。

 

 

 

 

 さーて、どうにかしてオフトラをダービーウマ娘にしなくてはならない。

 

 

 おそらく━━いや、ほぼ確実にダービー後に屈腱炎になると思うが、とにかくダービーまで起きなきゃいい。

 ボーガンから聞いた所によると、オフサイドトラップ号は何回もエビったのに秋天を勝ったらしい。

 どうやって勝ったのかは教えてくれなかったが。

 

 

 とりあえずボーガンとウチのトレーナーを会わせて色々と相談。

 ━━していたら。

 

 

 

 

「とりあえずスピカのサブトレになったから」

 

 

「は?」

「いや、いつかは私もトレーナーやんなきゃいけないわけだし。そのための勉強だよ。

 あとサブトレの方が色々やりやすいだろ?」

「……ああ、なるほど」

 

 

「ついでに言うと、私次の宝塚で引退するからな」

「はぁ!?」

「いや、俺の時の最後の方の戦績知らんのか。ダラダラ続けるよりもその辺でやめて次に行った方が私にとってはいいんだよ」

「……そうか」

「それと、お前の例の宝塚をどうにかしないといけないからな。そっちに専念してぇ」

「…………分かった。私を理由にされたらどうしようもないよ」

 

 

 自分のために動いてくれているなら引き留めづらい。

 

 

「あとスピカへのスカウトとかな。やることが多い」

「あ」

「さては忘れてただろお前。チーム存続かかってんだぞ。95は今から間に合うか分からんから96メインでスカウトだな……」

「…………96か」

 

 

 96年。

 私の知らない年。

 見てみたくはあった。

 

 

「……その後も誰をスカウトしたいとかあるのか?」

「まずエアグルーヴにタイキシャトルにシーキングザパール……それからサイレンススズカ、メジロはドーベルにブライト、あとは黄金世代をできる限り集めて……ジハードもだな。テイエムオペラオーは欲しいしナリタトップロード、メイショウドトウにアグネスデジタルも欲しい。エアシャカールとかタップダンスシチーに01のクラシック取った3人も良い。02も良いのが多い……03、04、05は絶対に欲しいのが少なくとも2人ずついる…………」

「いや多い多い多い。トレーナーが死ぬ」

「私も全員スカウトできるとは思ってない。ただサンデーサイレンスの初年度産駒のG1馬のほとんどをリギルに取られたのがクッソ痛ぇ。あの人こっち側の事知らねぇのになんで的確に走る奴引っこ抜くんだよ……」

 

 

 …………は? 

 いくら眼のいい馬主でもG1取る馬ばっかり買うとか不可能だぞ。

 ましてや血統とかで判断しづらいウマ娘側で? 

 

 

「……マジで?」

「マジ。リギルのチーム一覧見たら知ってる名前が出るわ出るわ。リギルって最近再稼働したんだけど、いくらなんでもやりすぎだろ…………」

「実は知ってました、とかじゃないのか?」

「それとなーく示唆してみたけど反応無し。自分の眼だけで選び取ってやがる」

「こっわ……」

 

 

 

 

*1
大雑把に言えばクソレスや荒らしのこと。




キョウエイボーガンのヒミツ

実は、ペレー帽が嫌い。

━━━

ボーガン「これはHJKSKで……これはMRVLSSND……なんだこれはたまげたなあ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42.日本ダービー

テイオー(ウマ娘) ←かわいいね♡

テイオー(競走馬) ←(写真を見る)なんだこのイケメン!?

参考画像: https://cdn.netkeiba.com/img.db/v1.1/show_photo.php?horse_id=1988101025&no=7692&tn=&tmp=no


 

 

 

 

 

 

東京優駿。

またの名を、日本ダービー。

 

 

オフトラが全てを懸けるレース。

ブライアンに喧嘩を売りに行くレース。

 

 

さて、そんな当のオフトラ本人は━━

 

 

 

 

「ハ~ナ~シ~テ~ェ……」

「嫌ですもう少しだけお願いします」

 

 

 

 

テイオーをがっちりと抱きかかえていた。

なんでだよ。

 

 

その様子をバッチリ動画に撮っている私が言えた事ではないが。

後でTwitterに上げるか。

 

 

「デ、デレナイ……」

「ドリームに行った人に負けるようなヤワな鍛え方してないんで」

「ライス、キタエサセスギダッテ~」

「いやテイオーもマックイーンも嬉々としてトレーニングさせてたよね?」

「ム~……」

 

 

しばらくしてテイオーが諦めた。

オフトラのなすがままにされている。

 

 

「……なんでずっと抱きしめてくるのさ」

「いやぁ……こう、三冠ウマ娘を吸ってそれっぽいのを得ようと……」

「それっぽいのって何!?」

 

 

まあ、願掛けのようなものだろう。

 

 

倒すべきブライアンだが、当然のようにNHKマイルを勝った。

だが問題が一つ。

NHKマイルでかなり抑えていた。

体力を温存し、半バ身程度と無駄に差をつけずに勝っていた。

これでは消耗を期待することはできない。

 

 

しかもブライアンは大外枠、8枠17番。

東京競バ場はかなり外側不利とされているが、ブライアンであれば問題はないだろう。

そして外にいるということは、檻を形成しづらいということ。

皐月賞ではあんな檻からも逃げ出した。

何より、他のウマ娘たちに若干諦めの空気が漂っている。

おそらく、今回も檻に閉じ込められるとは考えない方がいいだろう。

 

 

 

 

要するに、ほぼ真正面からやりあうしかないということ。

 

 

「いや〜キツイでしょ……」

「まだ時間はあるし、もう少し考えを詰めようか……」

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

「……やっぱこれしかないか」

「そうだな」

 

 

全員の意見が一致した。

 

 

「ライス、オフトラにできるんだな?」

「勿論。ただブライアンだしデバフは望めないと思う」

「それでもやるしかねぇ」

 

 

時間が近づく。

 

 

一つのレスを投稿して、スマホを置く。

 

 

「準備はできた?」

 

 

ライスさんが尋ねる。

 

 

「……ええ、なんとか」

「ならよかった」

 

 

控室のドアノブに手を掛ける。

 

 

ああそうだ、とライスさんが呼び止める。

 

 

「何ですか?」

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━、━━━━━━━━━━━━━━━━」

「……っ」

「わかったか?」

「━━わかりました」

 

 

 

 

さて、それじゃあ━━

 

 

 

 

「━━行ってきます」

 

 

 

 

 

 

444:イッチ

ちょっと命懸けてくる

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

 

 

『さあバックストレッチに入りまして先頭は依然アイネスサウザー、その後ろにメルシーステージ。注目のナリタブライアンは中団前の方。そのすぐ後ろにはオフサイドトラップがピッタリとついています』

 

 

 

 

ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザザッ、と二つの足音が重なる。

目の前の黒い髪が揺れる。

この距離を保ち続けろ。体力を使うな。

そのことだけ考えろ。

今は必要じゃない情報は考えるな。脳をも温存しろ。

 

 

 

 

もうすぐ第3コーナー。

ブライアンはいつ仕掛ける?

同時に行く? でもブライアンの末脚に並べる?

━━いや、並んでみせる。

 

 

600だ。

それまでにブライアンが仕掛けなかったら行こう。

 

 

緩やかに坂を下る。

6のハロン棒が近づいた時、ブライアンが動いた。

フェイントを警戒する必要はない。

どうせ他の誰も視界に入ってないんだから、わざわざ騙す必要はない。

 

 

今は無理に抜かすな。

だが抜かされるな。

並び続けろ。

 

 

一人、また一人と抜かして行く。

ブライアンのギアも一つずつ上がって行く。

 

 

上がれ。

上がれ上がれ上がれ!

 

 

死ぬ気で並ぶんだ。

最後に少しでも抜かせばいい。

 

 

坂を登り切り、残り300の平坦な直線。

そして、前に誰も居なくなった。

いるのは横のブライアンだけ。

 

 

「ああああぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!」

 

 

全力で脚をぶん回す。

 

 

まだか。

ゴールはまだなのか!?

 

 

速度の限界が近い。

でも、ここで超えなきゃどうするんだ。

 

 

ブライアンが、こっちを見た。

━━私を見た。

 

 

怪物が、深く踏み込んで前に飛び出す。

まだ上がれるのか。

 

 

でも私だって、まだいける筈だ。

追いつこうと更に前傾して━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶちぶちっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脚から嫌な音がした。

 

 

━━嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

ここで、こんな時に。

 

 

少し前のブライアンに、三女神の幻影が重なって見えた。

私は邪魔だとでも言うように、脚が鈍くなる。

 

 

「く、そがっ……っ」

 

 

私にやる冠はないってか。

クソどもめ。

 

 

これで終わりか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

「何ですか?」

 

 

 

 

「本当に勝ちたいのなら、たとえ脚がもげたとしても走り続けろ」

 

 

「……っ」

「わかったか?」

「━━わかりました」

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

ああ、そうだ。

まだ脚はもげてない。

なら走れる。

 

 

なあクソ女神。

私を止めたきゃ、脚ぐらい取ってみせろよ。

 

 

 

 

私は、案外しぶといぞ。

 

 

 

 

「━━━━━━━━━ッ!!!!」

 

 

 

 

声にならない咆哮を上げる。

内からの衝動に突き動かされる。

全身がひび割れて行く感覚。

自分がどうやって前に進んでいるのか、自分でもよくわからない。

 

 

ゆっくりと流れる時間の中、ブライアンの背中が近づく。

でもその姿はすぐにボヤけてくる。

 

 

いや、これでいい。

何も見るな。

この流れを止めるな。

ただ前に進むんだ。

 

 

何も感じない脚で、何も見えない視界で、何も聞こえない世界で、走り続ける。

 

 

前に行くんだ。

前に、前に、前に。

 

 

『━━━━━━! ━━━━━━!』

 

 

走れ。

前に。

 

 

 

 

まえ?

 

 

前ってどっちだっけ?

 

 

どこに行けばいいんだっけ?

 

 

でも走らなきゃ。

 

 

進んで、進んで、すすんで、すす━━

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

━━━━━━

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

━━━━

 

 

 

 

━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

白い。眩しい。

 

 

思考に靄がかかっているみたいだ。

ぼーっと白を眺める。

 

 

ゆっくりとピントが合ってくる。

白い天井。白い照明。視界の端には白いカーテン。

それと同時に思考も晴れる。

 

 

ここはどこだろう。

いや、とにかく起きなきゃ。

 

 

そう思っても、身体がうまく動かない。

 

 

「起きたか」

 

 

聞き覚えのある声がする。

声は近くからするのに、なぜか遠く感じる。

目を向けると、ライスさんが居た。

 

 

「……おはよう、ございます」

「ん、おはよう」

「……ここは病院ですか?」

「そこ以外にどこがあると思う?」

「……確かに」

 

 

ライスさんは手に持っていた本を置き、こっちを見つめる。

 

 

「どれぐらい寝てたんですか?」

「2日」

「…………」

「ゴール板過ぎた後も速度を落とさず、そのままバランスを崩してぶっ倒れて転がって、なお地面に這いつくばって前に進んでた。んで救護班に回収されてここに運ばれて今に至る」

 

 

あの時、前に進むことしか考えていなかった。

多分意識もなかっただろう。

 

 

「……結果は」

「?」

「ダービーの結果は、どうだったんですか」

「ああ…………」

 

 

ライスさんが遠くを見つめて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたよ。ハナ差だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、ですか…………」

 

 

虚無感に包まれる。

頭の中で事実を反芻する。

 

 

しばらくして、悔しさが込み上げてきた。

 

 

病室の中、私の泣き声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

包帯で巻かれた脚を見る。

もう走れないのだろうか。

 

 

「さーて」

 

 

ライスさんが呼びかける。

 

 

「来年の予定を決めなくちゃな」

「……え?」

「え?」

「いや……私走れるんですか?」

「え、うん」

 

 

マジですか。

正直ほとんど諦めてたのに。

 

 

「今年いっぱいは治療とリハビリに専念しなくちゃいけないけど。来年は多分大丈夫らしい。全く頑丈な奴め」

 

 

若干羨ましがるような声で言った。

 

 

「ま、とにかく……怪我人同士がんばろう」

 

 

そう言えばあなたも脚やってましたね。

というか、この状況って。

 

 

「……あの」

「?」

「私もライスさんも怪我で休養じゃないですか」

「そうだな」

 

 

「ウチのチーム現役全滅ですけど大丈夫なんですか?」

 

 

「……………」

「……大丈夫なんですか??」

「多分……多分? テイオーとマックイーンがドリームにいるし大丈夫でしょ……大丈夫だよな?」

 

 

……トレーナーの胃が無事であることを願う。

 

 

 

 

「あ、そうだ」

「はい?」

「はい、チーズ」

「えちょ待っ」

 

 

慌ててピースと笑顔を作る。

 

 

「てかそれ私のスマホじゃ」

「そうだよ」

 

 

そう笑ってスマホを投げ渡す。

 

 

「オフトラのこと心配してる連中がいるんだろ? ちゃんと無事だって報告してやれ」

「……はい!」

 

 

まったく、気の利く。

 

 

掲示板でスレを探す。

いつのまにか2つも完走していて申し訳なく思う。

 

 

文章を打ち、画像を添付して送信。

 

 

 

 

 

 

364:イッチ

ただいま起きました

心配かけてごめんね

[画像]

 

365:レース好きの名無し

!!

 

366:レース好きの名無し

大バカ野郎が帰ってきたぞ!

 

367:レース好きの名無し

何やってんだバカ野郎!

クッソ心配したんだぞバカ!

 

368:レース好きの名無し

マジで不安だったんだからなこの大バカ野郎!

それはそれとして無事でよかった!

 

369:現地勢

ガチで夜寝れなかったんだからな!?

無事でよかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43.爪痕

Q.そういやブルボン何してるん
A.国内のマイルを荒らし回ったり“海外旅行”に行ったりしてます。現在G1五勝目。
 もうクラシック終わったし、国内の中長距離は変なのが多いし、自分の本来の得意距離行くよね。
 短距離? まだバクシンオーいるんで……

「九龍城もリゾート地も行きました。……マスター、次はイギリスに行きたいです」
「いや……あそこの料理は正直……」
「イギリス料理ではなく、その他の国の料理を食べればいいのです。……そうですね、おにぎりなんて如何でしょう」



 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、…………」

 

 

 走る。

 速度を上げ、後ろの“ナニカ”から逃げる。

 

 

 早く終わってくれ。

 50メートル先のゴール板がやけに遠く感じる。

 加速しているのに。できる限り逃げようとしているのに。

 

 

 “ナニカ”は確実に近づいてくる。

 

 

 “ナニカ”は凄まじい形相でぼくを追いかける。

 お願いだから何処かに行ってくれ。

 怖いんだ。

 

 

 何がそこまでおまえを駆り立てるんだよ? 

 すぐ後ろまで来て。そして横に並んだ。

 

 

 抜かれるわけにはいかない。絶対に。

 残った力を振り絞り、恐怖を振り切るように━━あるいは、恐怖による馬鹿力をもって━━少しだけ抜け出した。

 ゴールして、やっと終わったと安堵する。

 

 

 でも。

 

 

 あいつは終わっていなかった。

 

 

 ゴール板を越えても、”ナニカ“は止まらなくて。

 そのまま地面に転んでも、口から泡を吹いても、なお進み続けていた。

 

 

 なんなんだよあれは。

 

 

 怖い。恐い。こわい。

 

 

「ひっ……」

 

 

 口から悲鳴が漏れた。

 

 

 それに反応するかのように、”ナニカ”がこっちを向いた。

 

 

 

 

 

 

 そこで目が覚めた。

 

 

 またこの夢だ。

 動悸と冷や汗が止まらない。

 

 

 少し落ち着いてから、時計を見る。

 午前4時15分。

 まだ早朝ですらない。

 もう一回寝ようと思っても、不安が抑え切れない。

 

 

 居ても立ってもいられず、自分のジャージを取り出す。

 同室の子を起こさないように、静かに着替えて外に出る。

 とにかく何かしてないと不安になる。

 

 

 暗い河川敷を走る。

 走っていても、後ろにいるんじゃないかと非現実的な想像をしてしまう。

 いないと分かっていても、自然と脚が速まる。

 そのうち全力疾走に近くなって、やがてスタミナが切れた。

 

 

 ゆっくりと後ろを向く。

 当然、何もいない。

 馬鹿げたことだと分かっているのに、ほっとする。

 そして、来た道を戻る。

 

 

 

 

 

 

 最初の地点で休んでいたとき。

 

 

「やほー」

「!!!!!!!」

 

 

 あいつがいるのかと思わず飛び上がる。

 

 

「あああごめんごめん驚かすつもりはなかったんだって。いやホントに」

 

 

 声で違うとは分かっていたけど、それでも驚いてしまう。

 

 

「……ネイチャ寮長」

「はーい、寮長さんですよー、っと。……いやー、やっぱ寮長って呼ばれるのはまーだ慣れないねぇ」

 

 

 声をかけてきたのはナイスネイチャさんだった。

 

 

「えーっと、まー、最近よく夜に抜け出してるでしょ?」

「あ……ごめんなさい」

「ああいや怒ってるんじゃないよ、別に。原因はわかってるし。不安で仕方ないのもよくわかるよ」

「…………」

「アタシだってちょっと見ててビビっちゃったもん。『なんなのあの子』って」

 

 

 ぼくの横に座って、話を続ける。

 

 

「こうやって抜け出すのも、まあ止める気はないよ。アタシとしてはもうちょっと寝て欲しいかなー、って思うけど」

「…………」

「もちろん、アタシは寮長だから、外に出るのを無理やり止めることもできる。でもそれじゃあ根本的な解決にはならないじゃん? 

 それに、アタシの仕事は『禁止する』ことじゃなくて『しなくてもいいようにする』ことだから。

 あと、ブライアンはお姉ちゃんに見栄張って強がっちゃうでしょ? 

 わかるもん。大事な人に心配かけさせたくない、強くありたいって。

 だからさ、アタシに話してみてよ。

 独りで抱え込んでたら、どんどんそれに引き摺り込まれちゃうもん」

 

 

 

 

 ぼくは、ポツリポツリと話し出した。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 

 ダービーも終わり、オフトラも退院した。

 

 

 うちのトレーナーが上からお小言を頂いてしまった。

 現役全滅が原因だ。

 とは言うが全体的に見たら元よりマシなんだよな。

 怪我するやつばっかりスカウトするトレーナーは本当に運がないと言うかなんというか。

 

 

 でも怪我が原因で引退したのはいないし、ちゃんと復帰しても勝ってるし。

 もう少し言うなら私が勝手にやっただけのものもあるし。

 それもきちんと監督しろと言われたらぐうの音も出ないけど。

 だからお小言程度で済んだのだろうな。

 

 

 ふと気になったんだが一度も怪我をせずに引退まで行った馬ってどれぐらいいるんだ? 

 どんなのも大小はあれど怪我してる印象があるんだが。

 馬とウマ娘がリンクしてるなら“こっち側”でも分かるだろ、と思って調べても出なかったんだよな。

 検索の仕方が悪いのか? 

 

 

 

 

 ナリタブライアンは、この後は菊花賞に直行するらしい。

 いやー宝塚に出ると思ったんだが。

 まあ、宝塚がボーガンのラストランだって伝えたからな。

 凄まじく睨まれたが。

 

 

 

 

 そんな宝塚記念。

 

 

 

 

「……なあ、本当になんかやらかさないといけないのか?」

 

 

 ごねるボーガンに詰め寄る。

 

 

「当たり前だろ。私もやったんだから」

「…………はぁ。安全に行くわ」

 

 

 心の中でガッツポーズを決める。

 

 

「で、何すんの?」

「まあ見とけって」

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

『━━さあラストランとなるキョウエイボーガンは、なんと()()()に位置しています!!!』

 

 

 

 

 マジかよお前。

 

 

 会場が騒然となっている。

 そりゃそうなるよ。

 

 

 ウマ娘全員が動揺しているうちに、ぐんぐんと追い抜いて挙句の果てに5バ身差つけて勝ちやがった。

 

 

 お前いつの間に追い込み━━いや、もはや捲りだなこれ━━なんか練習したんだよ。

 私と同じく大逃げ仕掛けると思ってたんだが。

 おそらくガッチガチに大逃げ対策を組んでいたであろうビワハヤヒデが不憫でならない。

 

 

 そんなビワハヤヒデを10秒以上置いてけぼりにした奴がいるらしい。

 一体どこの誰なのやら。

 全く身に覚えがございません。

 

 

 

 

「…………」

「……オフトラ、何その目は」

「あなた達って何かやらかさないと気が済まない人種なんですか?」

 

 

 

 

 私は目を逸らした。

 

 

 

 




ナイスネイチャ寮長の発想は自分でも天才だと思うんですが、皆様いかがでしょうか。


Q.もしオフトラがダービー勝ってたらどうなるん?
A.ジリリリリリリリリリ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44.反ミーム?

アニメカービィのBD発売が決定致しましたが、アニカビファンの皆様生きておられますでしょうか。
私は、あの数々の問題発言やパロディを合法的に観られると知って2つほど残機が減りました。
ちなみにアニカビって01〜03年までやってたので約20年前なんですよね。そんな前なのか……
となるとその辺りで存命の馬がアニカビを見ていた可能性が微レ存……?



 

 

 

 

 

夏合宿。

怪我人二人は砂浜を歩く。

砂がクッションとか海水には消炎効果があるとかなんとか。

要するにリハビリである。

 

 

マックイーンとテイオーは普通にトレーニングをしている。

ゴールドシップは砂でクラインの壷とかカラビ=ヤウ多様体とかを量産していた。

どうやってそんなものを砂で作れたのか、セミナーを開いて一から全部説明して欲しい。

 

 

ボーガンは後から合流するらしい。

トレセンでスカウトに励んでいるようだ。

宝塚を勝ったから、ウマ娘からの受けはいいと思う。

何人か成功してるといいけど。

 

 

「おーいライス! 見てくれ!」

 

 

ゴールドシップから呼ばれた。

見に行ってみると、二つの平面の間に球が幾つかある構造物があった。

 

 

「……なにこれ」

「左はtheta関数による対称性通信。右はκコア的関数。真ん中の球が対数殼」

「は?」

「正直ゴルシちゃんにもこれが何なのかさっぱり分からん」

「は?」

 

 

分からないものを作って見せるな。

余計分からなくなる。

 

 

「いやぁ、超高度数学の英語の500ページ超の論文を読むのは流石のゴールドシップ様でもしんどくてな……事前知識を含めたら1000ページ超えちゃうし……だから解説動画を模すしかなくってよぉ……その解説動画も何一つ分かんねぇんだけど」

「……ちなみに何の論文?」

「Inter-universal Teichmüller Theory」

「名前しか知らないな。なにそれ」

「んー、これはゆるーく言うと掛け算と足し算を分離するものなんだけどー、それにはまずthetaリンクっていうのを掛け算系のモノイドと抽象的な群としての局所的なガロア群だけで構成して」

「OK、ストップ。それ以上はいい」

 

 

慌てて止める。

何か入っちゃいけない世界の気がする。

というか何でそんなの知ってんだよ。

 

 

「いいのかぁ? 宇宙を感じられるぞ〜?」

「数学的な宇宙とか理解したくない……」

「なあ頼むよ〜一緒に論文読もうぜ〜」

「絶っっっっっっっ対に嫌」

 

 

へばりついてくるゴールドシップを押し退ける。

 

 

「ちぇーっ。ゴルシちゃんは正八胞体でも作ってるか」

「いやトレーニングしろよ」

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

夏も終わりが近づいた。

 

 

少し前には、ブルボンが「おにぎりコース許すまじ」(超訳)とか言ってるくせにKGⅥ&QESで2着に入ったりして国内を沸かせていた。

ボーガンから聞いたところによると、ブルボンは馬の時にどういう訳か引退後の方が馬体が仕上がってるとかいう意味不明な状況になっていたようだ。

もし走れていたらこんなことになっていたのだろうか。

ちなみに次はフォア賞からの凱旋門らしい。逃げは向かないけど頑張れ。

 

 

 

 

私の怪我はどうやらもう治りかけらしい。

来年までかかると思ったんだけど。

 

 

となると春天までのレースを考えなきゃならない。

秋シニア三冠のレースに出てもいいのだけれど、「無茶してないよ」アピールとして抑えながらGⅢ・GⅡに絞ろうと考えている。

 

 

というかそろそろ2400以下の重賞に勝ちたい。

いい感じのローテでいい感じの距離のレースはないものか。

誰か提示してくれないかな。

 

 

さて、スピカの部室でダラダラとDy○amixの下埋めをしていると。

 

 

 

 

「……なんで…………」

「どうしたお前」

 

 

ボーガンが死んだ目で入ってきた。

大丈夫か? 関節変な方向に曲がってない?

 

 

「……サンデー四天王いるじゃん。96世代の」

「ああ、そんなのがいるって言ってたな」

 

 

コンコン

 

 

「既に4分の3取られてるんだけど」

「はぁ!?」

 

 

……あ、good出た。クソが。

 

 

というか何だよそれ。何でもう取られてるんだよ。

 

 

コンコンコン

「その後もGⅡ勝つ連中探したらカノープス行ってたし。なんなんこれ」

「……どうなってんだよ」

「アイツら眼が良すぎる……」

「……4分の3取られたなら、残り一人はどこ行ったんだ?」

 

 

「あのー、聞こえてます……?」

そいつならまだ取れる可能性残ってるんじゃないのか?

そんな考えを否定するかのように、

「あの……もしもし……?」

 

 

「行方不明」

 

 

「勝手に行方不明にしないで」

と答えた。

 

 

いや待て待て待て待て。

 

 

「あの……もう入りますよー?」ガチャッ

「行方不明って何!?」

「ああ……一応出席自体はしてるみたいなんだけどな……休み時間とか放課後になった途端どっかに消えるらしくってな……教室前に張り付いてても、いつのまにか消えてるんだよ……やっと見つけたと思ったらフサイチコンコルドとかファイトガリバーとかだったりで別の奴だったし……」

「ちゃんと前通りましたよ……?」

なにそれ怖い。

 

 

「……飯時にカフェテリア行けばいるんじゃないのか?」

「どこで飯食ってるかすらわかんねぇんだよ。目撃情報が一切無い」

「カフェテリアの店員さんも気付いてくれない……気付いてくれるのはQRコードリーダーだけ……たまに反応しないけど……」

「……最悪寮内で探せば…………そいつ栗東か?」

「栗東。あともうやった」

「気付いてください……後ろです、後ろにいますよ……」

やったのかよ。

……ん?

 

 

「やったのに?」

「イエース。居ない。ヤベェぞ、同室の奴が『顔を覚えてない、それどころかそもそも顔を合わせてすらいない』って言ってんだぞ。もうホラーだよこれ」

「えっ、わたし会ったよね……? あいさつしたよね……?」

「……もはや幽霊の類だろそれ」

「私もそれを疑い始めてるよ。一応入学試験のデータとかは存在してるんだけどなぁ……」

「幽霊じゃないです……ちゃんと生きてます……」

「そこまで居ないならもうデータのバグとか疑うしかねぇよな……」

「あの……バグじゃないです……ちゃんと今ここにいます……」

「いつもこう……闇の中で踊っても、誰も見えない……気付けない……」

何なんだよそいつ。

そんな生きた怪奇現象みたいな奴が来たらそれはそれで怖えぞ。

「失礼なこと考えられてる気がする……」

 

 

「……ちなみにそいつの名前は?」

「ダンスインザダークです。そろそろ気付いてください……」

「ダンスインザダーク。長距離走れるからウチに合うと思うんだけどなぁ……」

「わたしも合うと思ってここに来たんです。だから……あの……気付いて……」

スカウトしたくても見つからないんじゃやりようが無い。

その時、ふと閃いた。

 

 

「なあ、そいつってサンデーサイレンスのとこのだよな?」

「ああ、そうだけど……」

「サンデーサイレンス先生……あの人だけはよく気付いてくれた……」

「確かマックイーンがサンデーサイレンスの連絡先持ってるから、そこから連絡して探すのはどうなんだ?」

「……アリだな。後で聞いとくわ。とりあえず今はまた探してくる。名前とか強さとか家柄とかは目立つ筈なんだけどなぁ……」

「えっ、あの、後ろ……」

 

 

そう言ってボーガンは外に出た。

「あの、待って……後ろ、後ろにいます……お願いだから気付いてください……」

 

 

どうか見つけ出せることを祈ってる。

本当にいるのかだいぶ怪しく感じるけど。

「わたしはちゃんといますよ……」

 

 

……気分転換に半球とかJoKでもやるか。

 

 

 

 




†ダンスインザダーク†
編集画面がtransparent塗れだよ。可読性もあったもんじゃねぇな。

Q.コイツそんなに地味か?
A.普通は目立つんですよ。何でだろうね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45.認識

 

めも、可能性、ステイヤーズs  12月前半 中山3600 、オールカマー 9月後半  中山2200、福島記念 11月前半 福島2200、年明け史実で 多分減らす

 

 

「……まだ見つからないの?」

「うん……」

「後ろですよー……」

 

 

 スピカの部室で嘆くボーガン。

 今はマックイーン以外の全員がいる。

 

 

 ダンスインザダークが本当に見つからない。

 一度スピカ総出で校内を探し回ったことがあるのに、それでも見つからない。

「すぐ近くにいましたよ……」

 

 

「……やっぱりいないんじゃないの?」

「いや、出席記録とかのデータにはちゃんと残ってるんだよ。だからいる筈なんだよ……」

「でも見つからないんだろー? もう諦めるか?」

「う〜〜〜〜〜ん……」

「あの、います……ここにいます……」

 

 

 誰に聞いてもどこにも居ない。

 あのたづなさんですら見つけられなかったのだ。

「たづなさんも気付いてくれなかった……」

 最早どうしろと。

 

 

「……一応、そいつ以外にアテはあるのか?」

「うん、あるにはあるけど……どちらかと言うと個人的な興味からなんだけど……」

「へぇ。誰?」

「マキノプリテンダー」

 

 

 誰だよ。

「誰ですかそれ?」

 

 

「マキノプリテンダー……どっかで聞いたような……どこだったか」

 

 

 トレーナーがうんうんと唸り出す。どうも知っているらしい。

 

 

「ほら、アレです。T大と共同で実験やってる子」

「ん? ……ああ〜! アイツか!!」

「じ、実験……?」

「実験ってなんですか」

 

 

 テイオーが恐る恐る聞く。

 

 

「そ。独自に開発した食事とか摂ったり、全身に機械貼り付けて走ったり。精密なサンプルデータを提供してる」

「へ〜……」「へ〜……」

「でも、それじゃあスカウト難しいんじゃねぇの? なんかめんどくさそう」

 

 

 ゴールドシップが言った。

 確かにそうだ。

 

 

「そう。一応トレーナーは選べるみたいなんだけど、お察しの通りチーム制とは合わない。だから『個人的な興味』って言った」

「あ、ここに契約書あった。勝手に書いていいのかな」

「ふ〜ん」

 

 

 まあ、多分スカウトされることはないだろう。

「あの……これ書いたので、机の上に置いておきますね」ペラッ

 

 

 

 

 その後も高大連携とか入試とか色々話をしていると。

 

 

「……あれ?」

「どうした?」

 

 

 何かがおかしい。

 何か違和感を感じる。

 

 

「いや……何か違和感が……」

「?」

 

 

 ふと机を見ると、一枚の紙が置いてあった。

 

 

「……あそこに紙とか置いてたっけ」

「いやしらねぇよ」

 

 

 ゴールドシップが真顔で突っ込む。

 

 

「いや多分なかった、さっきまでそこで音ゲーやってたから」

「ゲームかよ!」

 

 

 なんか言ってるが気にせず見に行って、

 

 

「……は?」

 

 

 気の抜けた声が出た。

 

 

 

 

 ダンスインザダークの名前が書かれた、トレーナー契約書があった。

 

 

 

 

 なんで? いつ? どうして? 

 訳がわからないまま、皆に見せる。

 

 

「……これ置いてあったんだけど」

「……えっちょっ、はぁ!? なんで!?」

 

 

 ボーガンが驚いて声を上げる。

 ずっと探し回ってたウマ娘の契約書が置いてあったんだ。

 そりゃあそうなる。

 

 

 全員が困惑している。

 その時。

 

 

 

 

 

 

「あの……」

 

 

「「「「「「うわああああぁぁぁぁぁぁあああっっっっ!!!!?」」」」」」

 

 

 

 

 いた。

 そこにいた。

 初めからずっとそこにいたかのように、ダンスインザダークは立っていた。

 

 

「あ、やっと気付いてくれた」

「い、いいいいいいいいつからいたんだよ!?」

 

 

 ゴールドシップがガチビビりしながら問う。

 

 

「ええっと、ライスシャワーさんがそこでゲームをやっていた時からです」

「んな訳あるか!?」

 

 

 思わず素で反論する。

 嘘つけ絶対居なかった。

 

 

「いや居た訳ない……居た訳が……」

 

 

 急いで記憶を辿る。

 ここに来てarc○ea開いてfinal verdict詰めて横からコイツが見てきてftr arcanaでex出して……

 

 

 うん? 

 

 

「……いる」

「え?」

「待って記憶にいるんだけど何怖い怖い怖い怖い」

 

 

 頭を抱える。

 いや馬鹿な。横に居たなら絶対に気づく筈。

 でも記憶にはいる。

 何が起こっている!? 

 

 

「ちなみに先週からずっとキョウエイボーガンさんに声かけたりしてたんですけど、一向に気付いてくれなくて……」

「…………はぇ?」

 

 

 ボーガンが弱々しく呟く。

 

 

「いや……そんな……あれ? …………あああああああああああああああ!!!? ああああああああああああああああああっ!!!!!?」

 

 

 頭を抱えて叫ぶ。

 他の皆も記憶を辿って、そして居たことに気付く。

 何より、一切気が付かなかった自分に恐怖している。

 ゴールドシップは完全にダメになった。顔を真っ青にしてガタガタ震えて縮こまっている。

 

 

「本当に、気付かれたことが少ないんですよね」

「少ないとかじゃねぇよ……アノマリーの域だよもう……」

 

 

 認識阻害かけられた時ってこういう感覚なのか。

 全員がまじまじとダンスインザダークを見る。

 

 

「ええっと、一応ダンスインザダークであってるんだよな?」

「はい。一向に気付いてくれないので勝手に契約書に書きましたけど」

「それは別にいいよ。というわけでスピカにようこそ」

「嘘だろ!?」

 

 

 ゴールドシップが悲鳴を上げる。

 

 

「だって……お前……お前……!!」

「はあ? 別に気付かなかっただけだろ。それはそれとしてスカウトはするぞ?」

「え、いや、ちょ、はぁ!? 怖くねぇの!?」

「認識が改変される感覚を味わえて大変興味深かった。できることならばもう一度体験したい」

「イミわかんねぇ!」

 

 

 ゴールドシップがまだ何か言っているが、トレーナーもボーガンも無視。

 

 

「あー白いのが何か喚いてるけど無視していいぞ。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくー」

「ヨ、ヨロシク……」

「よろしくお願いしまーす」

「ゴルシちゃんもう帰りてぇ……」

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 

 

 いよいよ秋シーズン。

 私はとりあえずオールカマーに出ることにした。

 今回はツインターボはいない。

 なぜか「秋天に出る!!!」とか主張しているし。

 秋天にはビワハヤヒデ出るから頑張れよ。

 

 

 ちゃんとTwitterでも記者会見でも「無茶な走りはせず安全に行く」と主張はしてある。

 ……主張は守るよ。うん。守りますよ。ええ。

 

 

 

 

 私は2200メートルを逃げ続けて勝った。

 ほら、半バ身しか空いてない。

 ちゃんと安全に行った。

 念願の2400以下の重賞制覇だ。

 

 

 なのにボーガン、なんだその目は。

 

 

「常に半バ身をキープし続けたくせに何言ってんだテメェ」

 

 

 ずっと先頭にいれば勝てる。

 だったら、一つ後ろから一定距離を保ち続けたら勝てるということだ。

 周りに合わせるだけでいい。

 なんて思考が楽になる作戦なのか。

 

 

「お前の後ろのやつの顔見てから言え」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46.青いエンジン

 

 

秋天の日。

私はゲーセンにいた。

秋天にはうちからは誰も出ない。

ビワハヤヒデが出るし、どうせ屈腱炎回避して勝つだろうから、後で結果だけ見ればいいかと思ったのだ。

 

 

全国大戦で進行マスを稼ぐ。

あっこの野郎ハイセ◯スナンセ◯ス投げやがったふざけんな!

お前後でTeri◯maの刑だからな覚悟しろよ。

お互いに中指を立て合いながらゲームに興じる。

 

 

キリのいいところで切り上げ、休憩。

時刻は午後4時。

もう秋天は終わったか、とスマホを開いた。

そこにあった勝者の名は。

 

 

 

 

「ツインターボォ!!?」

 

 

 

 

ゲーセンで大声を出してしまった。

マジかよターボ。

何があった。

何したお前。

まさか逆噴射しなかったのか。

クソがマジで見とけばよかった。

次はジャパンカップらしい。

帰ったら絶対に動画見る、と決めてまた筐体に戻った。

今日がイベント最終日なのだ。

早く完走しないと。

動画は後でも見られる。

 

 

次のジャパンカップは見に行く価値があるかもな、と思いながら私は黒譜面を投げた。

 

 

道化師外し忘れて自爆した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

 

 

 

私の次走はステイヤーズステークスだ。

12月にあるのでまだ先だけど。

 

 

菊花賞はブライアンが勝った。

勝ったには勝ったが、どこか焦り、あるいは恐れを持っているように感じられた。

大丈夫だろうか。

 

 

ブライアンが菊花賞を勝ったので、姉妹揃っての無敗三冠が達成されたことになる。

学校にマスコミが押し寄せ、姉妹の実家にも取材が行き、テレビでは特番が組まれ、トレーナーが過労で倒れた。

まあいつものことだ。

いつも倒れられても困るが。

 

 

素晴らしいことに4年中3年も無敗三冠が出たのだ。

魔窟か何かだろうか。

どっかの誰かが1年穴を開けたのだが。

テレビやネットでそのことが言われるたびにボーガンと一緒に指差して嘲笑するのはとても気分がいい。

なお穴を開けられた側のウマ娘は凱旋門賞で2着だった。

あと20cmだった。惜しいなぁ……

 

 

そんな「穴あき」の世代にも注目は来る。

未だに走り続けているのがだいぶ減って来ている癖に、引退していないのが私・ブルボン・バクシンオーとかいう、他世代からしたらなかなかに理不尽な面子が揃っている世代なのだ。

 

 

テレビの突撃取材が来たことがある。

まず無敗二冠ウマ娘のブルボンにカメラが向く。

次に面白そうな気配を感じ取った私がその場に現れる。

さらに何かやらかそうとしている私を感知したボーガンがついて来る。

そして揃った92クラシック組。

ブルボンが記者を起点に爆弾を投げ付けた。

 

 

「今なら無敗三冠を取れると思います」

「は? お前外国で成績いいからって図に乗るなよ」

「よしブルボンちょっとターフに出ろ、私が引退したからって鍛えるのをやめたと思うなよ」

「いいでしょう、条件はダービーと同じで構いませんか?」

「「異議なし」」

「ではそれで。私が勝ちますが」

「あ゛? その腐り落ちた認識機能に現実突きつけてやるよ」

「はっ、お前がクラシックディスタンスで私に勝てるわけないだろうが」

「黙ってろマイラー、口にダート突っ込むぞ」

「すいません一応これ取材なんです。もう少し穏便に出来ませんか?」

「「「レースこそ最も穏便な手段ですが」」」

「……ハイ、ソウデスネ……ちなみにレースを撮影しても?」

「ご自由に。先頭に立つ私をキチンと映してくださいね」

「「は?」」

 

 

結果は不明、ほぼ同着だった。

キチンと測る機械が無かったのが悔やまれる。

体感では絶対に私が少し出ていたはず。

絶対に。

絶対にだ。

 

 

なお一番の勝者はテレビ局である。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

 

 

 

ジャパンカップ。

 

 

私はターボを応援しに来ていた。

というか今回のジャパンカップ、非常に観客が多い。

やはりツインターボ人気か。

さすがツインターボだ。

また、今回はトレーナーが「絶対に勝てる」と断言していたのもあるだろう。

果たして東京の2400を走り切れるのか。

 

 

一般客として応援するのは場所取りがしんどいな、と思っていたのだが、杞憂に終わった。

ターボに応援しに行くと話したら、カノープスに混ぜられたのだ。

というわけで今横にカノープスの面々がいる。

 

 

「感謝していますよ、ライスシャワーさん」

 

 

突如南坂トレーナーに礼を言われた。

 

 

「あの時のオールカマーで、ターボさんは何か壁を突き破ったように感じます」

 

 

「そして、その突き破る原動力の一つがあなたです」

 

 

「あの時から1年━━ターボさんは“燃料タンク”を身につけました」

 

 

ああーー恐ろしい。

永遠に逆噴射しないツインターボ。

それは、きっと。

 

 

「あなたの春天よりはマシですが、それでも“酷いこと”になるのは保証しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ジャパンカップは、ツインターボが10バ身の差をつけて勝った。

 

 

 

 

最後に若干のスタミナ切れが見られたが、もはやそれすらどうでもよかった。

今までに聞いたことのないような歓声。

ただ私やブライアンが圧倒するのでは生まれ得ないもの。

ツインターボでしか、この歓声は生み出せないだろう。

 

 

「……次は有ですか?」

「ええ。このまま秋シニア三冠を取りますよ」

「おお怖い。有を回避してよかった」

「それはこちらのセリフです。ブライアンに加えてあなたも対処しないといけなくなってしまう」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47最後の春天

Q.更新遅かったな
A.忙しかったんです
 エタったわけじゃないのでご安心を
 なぜなら次回フィナーレなので


 

 

 

 

 

ステイヤーズステークスも似たような感じで勝った。

また半バ身差キープしただけだが。

いろんな所で「人の心が無い」とかひどいことを言われたが無茶はしていないので問題ない。

ライオンが死んでもスターを取得できれば問題ないのと同じだ。

「こうすれば勝てる」とオフトラやダークに示したつもりなのだが「余計なこと吹き込むんじゃねぇ!」とトレーナーとボーガンに怒られてしまった。

何故だ。

その後ゴールドシップに「常に距離キープしてヌルヌル動くの気持ち悪い」と化け物を見る目で言われたので軽く締め上げておいた。

近場にフックがあったら吊るしていたのに。

 

 

 

 

そして有馬記念。

 

 

 

 

『ツインターボの先頭は終わらないっ! ナリタブライアンは伸びを欠くか!?』

 

 

『ツインターボ、史上初の秋シニア三冠達成! 有終の美を飾りました!!』

 

 

 

 

有馬は、ツインターボが勝った。

ちょっと何が起きてるかわからない。

マジで何した南坂T。

私が原因とか言われても何一つ理解できない。

 

 

ツインターボからは、ダービーの時のオフトラに似た雰囲気を纏っていた。

魂からの覚悟。

しかし暴走にも似たオフトラのそれとは異なり、抑えて制御下に置いていた。

その技術には舌を巻くものがあった。

実行したツインターボ、そして彼女を指導した南坂トレーナー。

流石だ。

ターボが引退してしまうのが悔やまれる。

ネイチャ? まだ走ってるよ。

いつまで走るんだこのヒト。

 

 

 

 

ブライアン。

あの状態のツインターボに怯えていた。

前に“恐ろしいモノ”がいたからか、一定以上詰めることができなくなっていた。

明らかにダービーのせいだな。

なんか……すまんかった。

これを重く見たブライアン陣営が休養を選択。

次はいつになるやら。

 

 

さて年も明け。

オフトラの復帰戦はバレンタインステークス。

その後は取得賞金を稼ぐためオープン・G3あたりを高頻度で出る予定だ。

そういえばオフトラって未だに重賞未勝利なんだよな。

勝たせなくては。

 

 

私の次走は京都記念━━ではなく、春天直行。

「お前が加減できないのはわかったからもう春天と宝塚以外出るな」とはボーガンの言。

私から言わせて貰えば、前回の春天みたいなことをしてないので十分に加減したつもりなのだが。

 

 

数を減らすのは足の負担をできる限り減らすためだ。

だが宝塚での事故対策などと言っても一般人には信じられないだろうし、何も理由がないのに春天を回避するのはあまり印象がよろしくない。

というか有馬記念サボったのでちょっとお上の気分がよろしくない。

「春天三連覇かかってるんだぞ出ろよ絶対出ろよ」という意志が上から漏れてきている。

確かに集客力が欠けるのは良くない。

お金は大事。

 

 

 

 

そして、今日はその天皇賞・春。

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

今回の相手はただ一人。

 

 

「今日はよろしくお願いします、ライスシャワーさん」

「こちらこそ、ミホノブルボン」

 

 

ミホノブルボンだ。

まさか春天に出るとはな。

 

 

「後はキョウエイボーガンさんがいれば完璧だったのですが」

「ああ……ボーガン、ブルボンが出るって言った時『ブルボン出んのかよ引退しなきゃよかった!』って数時間喚いてたよ」

 

 

ちらっと観客席を見る。

そこには歯を食いしばり血涙を流すボーガンがいた。

握りしめる柵がミシミシと歪んでいく。

舌を出して煽ってやると中指で返事された。

おおこわいこわい。

 

 

「まあ……なんというか、随分と淋しいレースだな?」

「7人しかいませんからね」

 

 

コースを見回す。

私たちの他には5人しかいない。

その5人全員がこっちを見てきているのだけれど。

 

 

「一体誰のせいなのやら」

「9割以上あなたが原因だと思われますが」

「へえ。ブルボンが1割以下というのは、所詮その程度ということで?」

「訂正します。私とあなたで10割です。内訳は……今から決めましょうか」

 

 

ピリピリと空気が張り詰める。

いつの間にブルボンが煽りを学習したのかは知らない。

「お前とボーガンのせいだろ」と言われたら否定できない。

例の番組は割とバズった。

私とボーガンはともかく、ブルボンがあんな発言をするのが珍しかったようだ。

 

 

 

 

発走時刻が迫る。

ブルボンが強い眼光を以ってこちらに向き直った。

 

 

「ライスさん。あなたは私の三冠を阻みました。

……今度は、私があなたの三連覇を阻む番です」

 

 

あの時の意趣返しということらしい。

 

 

「━━やってみろ」

 

 

「━━望むところです」

 

 

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

 

 

 

 

レースは、馬の時とは違った形で進んだ。

ブルボンがいるから当然ではあるが。

そして、ブルボンがいるからこそ、本来の得意範囲で競えた。

ブルボンが正確に前を走り、私がずっとマークし続ける。

 

 

4角の終わりが近づいた時、私はこの時間が惜しいと思った。

 

 

まともに走れる最後のレース。

走り続けることの叶わなかったミホノブルボン号(ライバル)と、このレースで、この世界で競えるという喜び。

 

 

とても、惜しい。

 

 

ゴールが近づく。

 

 

私にとっては正真正銘のラスト(最後の)スパート。

 

 

ブルボンが横に並ぶ。

競り合い、抜かし合い、ゴールに駆ける。

全力は出せなくとも、私達は本気だった。

 

 

それは、とても楽しかった。

両者の顔に笑顔が浮かぶ。

 

 

終わりが近い私。

まだ先があるブルボン。

 

 

 

 

その差を示すかのように、ブルボンが僅かに前に出た。

 

 

 

 

『ミホノブルボンが僅かに抜けて今ゴールイン!! あの時の、菊花賞のリベンジを、今果たしました!!』

 

 

 

 

悔しいが、悔いはない。

 

 

 

 

「……なあブルボン」

「なんでしょう」

「KGQEも凱旋門も出るんだよな?」

「はい」

「……勝てよ。たとえ私が見てなくとも」

「……はい。必ず」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Fin.F

2つに分けて投稿します。
続きは明後日。


mae

 

 

 

 宝塚記念。

 私の目的地。

 

 

 私が死んだ地。

 

 

 

 なぜこのレースに出ようと思ったのか。

 

 初めは出る気なんてさらさらなかった。 

 なんで自分が死んだレースに出なくちゃならないんだ、と。

 出なかったら何も起きないのだろう、自分からわざわざ死にに行く真似はしたくない。

 

 予定が狂ったのは、最初の有馬記念だった。

 本来怪我をするはずのサンエイサンキューが出走せず代わりにボーガンが出走したのだが、そのボーガンが負傷したのだ。

 その時ほど、運命というものを呪った時は無い。

 レースの順位は勝手に変えられたのに、怪我が発生するということは変えられないのか。

 きっと偶然だろう。

 その希望は、テイオーの怪我や他のレースの結果から絶望に変わった。

 レースの女神は随分と寛容なようだが、死神はとても仕事熱心らしい。

 幸いにも、発生そのものは抑えられなくとも軽減・遅延程度であれば見逃してくれるようだが。

 

 となると、もし私が宝塚に出走しなかった場合、他の誰かが重症またはそれ以上の怪我を負うのは確実だろう。

 私の時は四足歩行だったから何とか立つことができた。

 しかしウマ娘は二足歩行。

 時速70km近くで疾走する生身の生物の足が、途中でへし折れたらどうなるか。

 まあ──酷いことになるのは確実だ。

 

 他の奴らが死にかけるのは見たくない。

 何も知らずに宝塚に出て、何の兆候も無いのに死にかけるというのは余りにも心が痛む。

 アレは痛い。そして怖い。

 誰かがそんな思いをするぐらいならば、全部を知っている私が万全な対策をもって痛い目に遭うほうが何倍もましだ。

 何事も起こらずに平和に終わるのであれば一番だ。

 だが、恐らくそうはいかない。

 死神が見逃してくれる回数は決まっているように感じる。テイオーの最後の方の怪我はもうどうにもならなかった。

 何度も許してくれるわけではないらしい。

 私はもう死神の免罪符を使い切ってしまったかもしれないのだ。3歳時の骨折が起きなかったから。

 あと少しは残っていると信じて、何も起きないことを願うばかりだ。

 

 私はこのレースで引退する。

 事故で走れなくなるから、というのもあるが、春天で実力が衰えていることを痛感した。

 ならば全力で命乞いさせてもらおう。

 後のレースのことは考えなくていい。

 どれだけ不格好でも、生きてりゃ何とかなる。

 

 とにかく対策を練った。

 受け身の練習、体の強化、勝負服の調整。

 折れる箇所が左脚だとわかっているのなら対策はいくらでも立てられる。

 これらが結実することを祈る。

 

 何度も吐いて、魘されて、それでも続けた。

 

 

 そして、その日が来た。

 

 

 ────────―

 ──────

 ──―

 

 

 重い足取りでゲートに向かう。

 

 少しでも時間が伸びてくれれば。

 そんな私の願いを無視して、時間は無情に過ぎる。

 

 何事もないかのように振舞ってもやはり少しは外に出てしまうようで、一部観客から私の不調を見抜かれてしまった。

 残念、不調どころか絶不調だ。

 

 出走者は何人かが入れ替わってはいるが、私の番号は変わらない。

 8枠18番。

 

 ゲートの数メートル前で立ち止まる。

 他のウマ娘はもう入った。

 私が最後だ。

 

 ゆっくりと息を吸い、ゆるやかに吐く。

 

 覚悟を決して、ゲートに入る。

 

 

『さてラストランのライスシャワーがゲートに入り、──宝塚記念、今スタートです!!』

 

 

 

 

 

 このレースでやることは一つ。

 あの時を再現しろ。

 

 他の奴に鎌を触れさせるものか。

 

 あの時の自分をマークしろ。

 完全にトレースしろ。

 一歩一歩まで、正確に再現しろ。

 

 

 あの場所が近づくにつれ、体感時間が引き延ばされていく。

 景色が二重に見える。

 馬とウマ娘が重なって見える。

 存在感も、体温も、駆ける音も、何もかもが記憶のそれと合致していく。

 

 それでいい。

 

 結果だけを捻じ曲げろ。

 

 

 

 一歩が数十秒に感じられる。

 迫る恐怖を押しのけて足を進める。

 

 

 

 あと三歩。

 

 

 

 あと二歩。

 

 

 

 あと一歩。

 

 

 

 

 そして、私の左足は折れた。

 

 

 

 やはりだめだったか、と悔やむ。

 だが元々こうなることを予期して準備してきたのだ。

 

 

 痛みは未だ脳に達していない。

 

 酷くゆっくりと流れる時間の中。

 

 私は受け身をt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メギャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────―

 ──────

 ──―

 

 

 

 

 

 ボーガンは見た。

 

 

 そのへし折れた()()を。

 

 

 バランスを崩し、大きく転倒した黒い彼女を。

 

 

 何度も地面を跳ね、やがて動かなくなった友人を。

 

 

 むき出しになった白い骨が、彼女の血で赤く染まる様を。

 

 

 会場は数瞬静まり返り、そして悲鳴で埋まった。

 

 

 柵から乗り出して、今すぐにでも駆けつけようとして──やめた。

 

 

 今自分が行ったところで何ができるのか、と。

 

 

 自分を戒めるかのように柵を強く握りしめる。

 

 

 ひしゃげた柵の破片が掌に刺さり、血が流れだす。

 

 

 ただ、彼女の足に赤色が広がるのを見ていることしか出来なかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Fin.L

mae

 

 

 

 私は、ベッドに横たわる管まみれのライスを見ていた。

 

 

 幸いにも一命は取り留めた。

 ちょっと傷口からの雑菌がヤバかったらしいが、なんとか山場は越えたようだ。

 しかし、一向に目覚めない。

 

 だけど、どこか安心していた。

 あの場所で死ななかったのだ。

 鎌はすでに振るわれた。

 ならば、もうこれ以上はない。

 きっと大丈夫だ。

 

 実際、怪我も癒えつつある。

 ちゃんと心電図も脳波も出てる。

 今までの栄養管理が功を奏したのか、はたまたここの医者が有能なのか。

 両方だろうな。

 まさか緊急手術にメジロ家お抱えの面々が来るとは思ってもみなかったが。

 あとは、こいつが目覚めるのを待ち続ければいい。

 

 暗くなった窓の外を横目に、備え付けのテレビの電源を入れる。

 

 

 

「さーて、いまからKGQEだぞ。ブルボンの奴めっちゃ意気込んでるからな。『なにが神のウマ娘ですか』ってな。ちゃん見とけよ、ライス」

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、病室に送られた見舞いの品の中にトロフィーが一つ増えた。

 

 

 

 なあ、見ただろ? 

 

 すげぇじゃねぇか、あのラムタラに勝ったんだぞ? 

 

 インタビューでもずっとお前のことばっかしゃべって。

 

 お前が怪我しても折れずに、見せつけてやるって前向いて。

 

 そんで勝ったんだ。

 

 だから、早く起きてやってくれ。

 

 あいつ、お前の言葉をずっと待ってるんだから。

 

 凱旋門は直接見てやれよ。

 

 だから──

 

 

 

「起きろよ、なあっ……!」

 

 

 

 脳波は変化しなかった。

 

 

 

 

 そのまま数か月が過ぎた。

 

 

 ────────―

 ──────

 ──―

 

 

 その日、日本中が湧き立っていた。

 

 日本初の凱旋門賞制覇。

 それを成し遂げたウマ娘が帰国するのだから当然か。

 

 空港のゲート付近には大量のカメラマンが。

 飛行機が到着したのはその場の全員が把握済み。

 今か今かと待ち構えていると、その姿が現れた。

 誰もがテレビの向こうで何度も見たウマ娘が、

 

 

 

 ──全力疾走で突っ込んできた。

 

 

 片手には大きなキャリーバッグ。

 カメラに向かってサービスする暇なんかない、と瞬く間に出口に向かった。

 全力疾走するウマ娘を至近距離からカメラに入れるのは至難の業だ。

 局によってはすでに走り去った後の通路しか映っていない、なんてこともあった。

 

 すぐさま車に乗り込みその場を去ったミホノブルボンを、誰もが呆然と見つめていた。

 

 

 

 法定速度スレスレで走る車の行く先は病院。

 着いた途端また走り出し、面会許可を得る。

 受付の人間はこれを予想していたのか、非常にスムーズに手続きが終わった。

 

 エレベーターを待つ時間が惜しいとばかりに階段を駆け上がり、そして一つの病室の前に着く。

 扉を開けて、その部屋の主を見た。

 彼女は未だに眠っていた。

 

「……早すぎんだろお前」

 

 既に部屋に居たボーガンが、呆れた声を出した。

 息を整え、ケースから一つのトロフィーを取り出す。

 

 

「──ライスさん。勝ちました」

 

 

 どうかこの人に見てほしいと。

 そんな思いに応えるかのように、わずかに脳波に変化があった。

 

 

 が、すぐに元に戻る。

 

 

「……起きろよ」

 

 ボーガンの声が響く。

 

 しかしブルボンは諦めなかった。

 

 

 

 

「......トロフィーで腹部を殴ったら起きませんかね」

「ごめん今なんて?」

「叩けば起きますか?」

「お前は何を言っているんだ。人体は昭和の機械じゃねぇんだぞ?」

「怪我そのものはほぼ完治したのですよね?」

「うん、してるけどちょっと待て。一応こいつ怪我n」

 

 

 ごすっ。

 鈍い音と共に、ごふっとライスシャワーの口から空気が漏れる。

眉がやや顰められるのがブルボンの目に入った。入ってしまった。

 

 

「まじかよお前!?」

「反応あり。続行します」

「おいちょっと待て何もう一回振りかぶってるんだおい!?」

 

 

 慌てて奇行を止めるボーガン。

 しかし。

 

 脳波が、確実に反応した。

 

 

「……え?」

 

 

 ライスシャワーの顔が歪み、そしてうっすらと目が開く。

 

 

「…………ってぇ」

「……は? まじで? こんなので?」

「…………ブルボン?」

 

 

 弱弱しく、ライスシャワーが言った。

 

 

「おはようございます。 凱旋門勝ちましたよ」

 

 

「ああ……やっぱり」

 

 

 そう笑って。

 

 

「にしたってその起こし方はどうなんだ」

 

 

「結果目覚めたので大丈夫でしょう?」

 

 

「そういう問題じゃ……いや、まあいいか。

 

 

 

 

 …………おはよう」

 

 

 

 

「はい。おはようございます」

 

 

 

 

 End.

 




後日蛇足を投稿します。
それがどんな蛇足かはともかく。
簡単な後書きもその時に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。