転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します (フィークス2号)
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デンジ新人編
1話 偽マキマさんは転生者


1話 マキマさんは転生者

 

 

 

 一台の黒い車がある日本の片田舎にある廃工場に向かって走っていた。

 

 「そろそろ到着いたします。」

 

 高級そうな黒のスーツを身にまとい、ボルサリーノハットを被ったまるで禁酒法時代のマフィアのようなスタイルの男は私に声をかけた。

 だがこんな風貌でも彼の所属は警察で、正義の味方のお巡りさんだ。

 

 「ん……。わかりました。」

 

 声をかけられた私は狭い車の中で伸びをして、昼寝から目覚めた。

 

 「今回出現した悪魔……ゾンビの悪魔ですが、本当にこの人数でいいのですか?万が一に備えてやはりもっと人員を集めたほうが」

 私の前の助手席に座る男が私に提案を行った。ちなみにこの男の服装も、運転席の男と同様にマフィアっぽい感じのファッションである、ご丁寧にマフィアみたいな帽子まで……流行ってんのそれ?

 

 「いえ、このメンバーで十分です。逆に数が多いと警戒されて逃げられる可能性があります。

 ゾンビの悪魔の真の恐ろしさ、それは悪魔自体の強さではありません。真に警戒すべきは悪魔が作ったゾンビの方です。」

 

 私は公安警察のくせにマフィアファッションをした男の提案を淡々と否定する。

 

 「ゾンビの悪魔が作り出したゾンビは、他の悪魔のそれとは違い、悪魔が死んでもゾンビ化は解除されずにゾンビはそのまま活動を続けます。

 このことからゾンビの悪魔は、何らかの科学的な方法でゾンビを生み出していることが予想されます。

 このゾンビ化現象のプロセスは不明ですが、これが伝染性の病気の類であった場合、無尽蔵に被害が広がり、壊滅的な被害になる可能性があります。

 生み出されたゾンビが少数で、全てのゾンビが悪魔自身の護衛に駆り出されているこの状況、少数精鋭の奇襲でゾンビの悪魔と作られたゾンビを殲滅する。これがベストです。」

 

 私は部下に対してなぜこのメンバー、3人だけで来たのかについて、"表向きの"理由を説明した。

 "表向きの"がついてるのには理由がある。私は前世の記憶を持っている。この世界は漫画チェンソーマンの世界だ。前世の私はこの漫画が好きで、2部が楽しみで何度も読み返していた。だが、その2部が出る前に前世の私は事故で死んでしまった。

 だが、その死後あり得ないことが起きた。私の魂は転生して、このチェンソーマンの世界に生まれたのだ。私は原作を読んだ経験から、これから起こることを把握している。だから、私はゾンビの悪魔に大部隊が必要ないことを知っているのだ。

 無論、原作知識があるからといって全てが原作通りに行くとは限らないので、万が一があるかもしれないが、今の私ならそれでも十分対処可能だ。

 

 

 

 「ここが通報のあった廃工場か。」

 

 私はポツリと呟く。

 いよいよだ。原作通りにこの世界が進んでいるのなら、いよいよここから私と彼の出会いが始まる。

 

 「シャッター、開けます」

 

 部下の男がそういうとガラガラと廃工場の入り口のシャッターを上に開けた。

 その先には悲惨な光景が広がっていた。おびただしい量の返り血、無惨にもバラバラに切り刻まれたゾンビの体、そして……その中央に立つ、チェンソーの頭をして、腕からはチェンソーの刃が痛々しく生えた存在。

 そう、この物語の主人公である少年。デンジ君だ。

 

 

 

 うわぁぁぁぁぁ!デンジ君だぁぁぁぁ!本物だぁぁぁあ!

 すっごい!かっこいい!テンションが、テンションがあがるぅぅぅ!

 生きててよかった……マジで生きててよかった……

 

 毎日毎日警察の上司から悪魔の対応をやらされ続けるわ、悪魔だの外国だのからの刺客に襲われるわ、部下の育成が辛いわ、とても苦しい日々だった。でも、そんな毎日も私の最推しの主人公に、デンジ君に会えると思っていたから耐えられた。

 

 おっと、こんな所でぼんやりしてちゃいけない。クールになれ、クールになるんだ私。

 

 

 「凄い……たった1人でこの量のゾンビ達を倒したの?」

 

 私の口から思わず感嘆の声が漏れる。私はそのまま目の前のデンジ君に向かって近づいた。

 

 「もう大丈夫だよ、私が助けに来たから。……といっても、だいぶ遅れてしまったけどね。」

 

 私はとびっきりの笑顔をむけてデンジ君の前に立った。

 

 「だ…抱かせて……」

 

 デンジ君はそういうとチェンソーマンモードの変身を解きながら後ろに向かって倒れそうになった。

 私は反射的にそんなデンジ君をぎゅっと抱きしめ、倒れないようにした。

 

 「はじめまして、私はマキマ……公安のデビルハンターです。安心して、私達は君の敵じゃない。君を助けに来たんだ。」私は彼の背中を子供を安心させるようにポンポンと叩いて言った。

 

 「マキマさん、彼は……一体?」

 

 部下の男が私に尋ねる。

 

 「彼は人だよ。魔人の顔じゃないし、匂いでわかる。でも……ちょっと悪魔の匂いも混じってるけど。」

 

 私が部下にそういうとぐーぐーといういびきが聞こえてきた。

 

 「あれ?デンジ君……寝てる?」

 

 よく考えれば無理もない、一晩中彼はここでゾンビ達をぶっ殺し続けたのだ。普通の人間だったら体力がもたないだろう。

 でも原作ではもうちょっと喋ってたはずだし……私が安心させるように振る舞ったから、それで安心してそのまま眠っちゃったのかな?

 

 私は部下の男達に人差し指を立てて「シー」とやった後、デンジ君を起こさないように慎重に私たちが乗ってきた車へ運んで寝かせた。

 

 

 ちなみに現場の後始末とか証拠集めとかの雑用は、部下と後から呼んだ応援の人達に任せた。

 私?そりゃデンジ君の寝顔を見守る作業よ!職権濫用?職務放棄?じゃかしいわい!こちとら上司様やぞ!

 



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2話 デンジ君と筋肉の悪魔

デンジ君特有のあの喋り方の再現が難しいすぎる……。
デンジ節をマスターするにはどうすればいいんだ……。


 

 

 「いやー、しかし君が無事そうでよかったよ。ゾンビ達相手に一晩中戦ってたんでしょ?偉いね!」

 

 「え!あっ、いやーそれほどでもないっスよ!デンジ君こう見えてめちゃくちゃ強いっすから!」

 

 私は車の中で私の推し、デンジ君と楽しくお話をしていた。デンジ君は上半身裸だったので、今は私のスーツを着せてある。

 しっかしそういえばデンジ君、ポチタと合体した時何故か上半身裸だったんだよなぁ。着替え持ってくればよかったかな?いや、流石にそこまで手際いいとおかしいか。

 

ぐ〜

 

 デンジ君のお腹の中から、腹の虫の音が聞こえた。

 

 「俺ん腹の音っす……」

 

 気まずそうにデンジ君が答えた。

 

 「あーそっか。一晩中ゾンビの悪魔相手に戦ってたもんね、仕方ないよ。

 よーし、それじゃあ次のパーキングエリアで一緒にご飯食べよっか!」

 

 「すいません……俺カネないんすけど……」

 

 デンジ君が気まずそうに言う。デンジ君って育ちの割に凄い良識あるよね……。

 『すんません!俺かねないんで奢ってもらっていいっすか!』とかいってたかろうとしないし、食べ終わった後で『実は金ないんでお会計頼みます!』とか不意打ちで言い出して金払わそうともしてこない、よく考えるとめっちゃ良い子だよね。

 てかそういえばデンジ君って一話でポチタと『今日のメシ食パン一枚だぜ』とか言ってたなぁ……。

 

 可哀想!

 デンジ君かわいそうすぎるよぉぉぉ!

 お腹いっぱいご飯食べさせてあげるのが、この私の義務だ!

 

 私はそう決意してデンジ君に向けて言った。

 

 「大丈夫だよ!私が奢るから好きなだけ食べていいよ!私結構いい給料貰ってるし!

 それに、デンジ君はゾンビの悪魔を倒してくれたからね。そのお礼……にしては些細すぎるけど、それも兼ねてご飯くらいおごらしてよ。

 いやー、本当にデンジ君のおかげで助かったよ、あの悪魔を野放しにしてたら大変なことになる所だった。お手柄だよ、デンジ君。」

 

 そう言っては私は、デンジ君の頭を撫でながら言った。取り敢えずゾンビの悪魔を倒した功績だと言っておけば、デンジ君も気に病まず美味しくご飯食べれるだろう。

 いや別にデンジ君は気に病むタイプではないか……。でもまぁ、褒められて嫌な気になる人はいないだろうし、私は原作のマキマさんとは違い、褒めて褒めて褒めまくって伸ばすタイプなのだ!

 いやーしかし、ちゃっかりデンジ君の頭撫でちゃってるけど、やっぱり頭ゴワゴワしてるなぁ……。ワイルドな感じがあってこれはこれでいいけど。やっぱデンジ君尊いわぁ……。

 

 

 しかしなんか忘れてるような……あ、筋肉の悪魔おるやん。

 

 

 

 高速道路のサービスエリアにて、デンジ君は何を頼むか凄いおおはしゃぎしている。そりゃそうだ、今まで極貧生活で過ごしてた状態だったんだもん。

 でもこれからデンジ君には筋肉の悪魔を討伐して貰わなきゃならない。

 私はこの世界に転生してから原作の展開にどう向き合うのかを考えてきた。そして私が思い至った方針、それは基本的に原作の流れを踏襲しつつも、生存者や犠牲者をなるべく減らすというものだ。

 

 原作の流れを踏襲する理由は2つある。まず一つ目は今後どういう事態が発生せるのかを予測しやすい状況を作り、対策をしやすい環境を整えるためだ。下手に原作ブレイクして予想できない事態になったらまずい、本当にまずい。私はあまり優秀じゃない、支配の悪魔であるマキマさんボディのおかげで前世の私と比べれば、滅茶苦茶仕事とかバリバリできるようになった。

 それでも私は原作のマキマさん並みにスペックが高いとは思えない。仕事では何度かミスをして悪魔を逃したり、京都のお偉いさんからその件で叱られまくったり散々な目にあってる。

 

 それだけじゃない。私はチェンソーマンの眷属とされる悪魔達をコンプリートできていない。『セラフィム』『ドミニオン』『ヴァーチェ』、この三体の悪魔、もしくは魔人がどこにいるのかさっぱりわからない。いや、原作では特に出番がなくて何やってたかわかんないけど……。でもこの三人は裏で重要な仕事をしてたりしたかもしれないし、放置しておいていいのか?という疑問がある。

 しかも原作マキマさんがポチタ版チェンソーマンを倒すために召集していた悪魔でも魔人でもない存在。通称武器人間(87話のサブタイトルから察するに)達も居場所が1人もわかってない。サムライソード(ヤクザの孫)、レゼ、クァンシ、この原作にメインの出番があって、何処の国の出身なのかわかってるメンバーでさえもだ!

 特にサムライソードに関しては死ぬ気で探した。サムライソードであるヤクザの孫がどこにいるのか分かれば、芋づる式にデンジ君の居場所も分かるからね!

 そうすればデンジ君を武器人間になる前に保護できて、原作開始前にデンジ君の物語をハッピーエンドで終了させられただろうに……。

 

 話が脱線したけどまぁ、こんな低スペな私が原作知識というアドバンテージを失ったら、この過酷すぎるチェンソーマン世界で死ぬこと100%だろう。死ぬのが私だけならいいけど、最悪デンジ君を巻き込んで死にかねない。それだけは避けねばならない!

 

 

 そして二つ目の原作の流れをなぞる理由だが、それはデンジくんのレベルアップだ。デンジ君はこの先多くの悪魔と戦うことになると思う、それは一部の後の二部とかでもおそらくそうだろう。

 デンジ君は何度も悪魔と戦っているが、基本的に敵はその度に強くなっている。私が考えるにデンジ君は戦いの中でも成長してるんじゃないかと思う。原作であった修行回と言えるシーンは岸辺さんとの特訓で殺されまくった時だけだし、その特訓と持ち前のセンスだけでデンジ君が強くなったとは少し考えにくい。

 だから多分、今までの悪魔達との戦いを糧にして強くなってるんだと思う。原作の流れを外れてしまうと、そのデンジ君の成長の機会が奪われてしまって途中で死んでしまいかねない。

 心苦しいけど、デンジ君には悪魔と戦いつつこの世界で生き抜く力を手に入れて貰おう。

 

 

 でもやだなぁぁぁぁ!

 デンジ君には安全に平和に生きてほしい。

 許してくれ、デンジ君。

 偽マキマさんである私には君を守り切るだけのスペックがないんだ……。

 

 

 「たっ、たっ……!助けてくれっ!」

 

 おっと、取り乱した。声が聞こえて私は意識を外に向けると、頭から血を流した男が走ってやってきた。

 

 「だ、大丈夫ですかあなた。血が出ていますよ。すぐに手当を受けた方が……」

 

 「娘が!俺の娘が悪魔に森へ拐われたんだ!そ、そんな暇はない!」

 

 「そうでしたか……。しかしご安心ください、私は公安のデビルハンターの者です。詳しくお話ししてもらえますか?」

 

 「あ、あんたデビルハンターなのか!?しかも公安の……?頼む!娘を助けてくれ!」

 

 興奮する男を宥め、安心させてから私はデンジ君に悪魔の討伐をお願いすることにした。

 

 「デンジ君、急なお願いで悪いんだけどさ。この人の娘を助けるために悪魔の所に行って欲しいんだ。」

 

 「えええ、俺頼んだのうどんなんすけど……。てかなんで俺が行くんすか?」

 

 「大丈夫大丈夫、ちゃんと新しいうどん頼んであげるよ。

 デンジ君に行って貰う理由なんだけど、君のそのチェンソーの悪魔?に変身する力を確認したいからなんだ。君の力について、場合によってはこっちの方でも色々と対応しなきゃならないかもしれないからね。

 君にとって不満があるのは十分承知してるよ。君に本来こんな仕事をする義務はないからね。でも上手くこなせたらウチで……公安で正規のデビルハンターとして私と一緒に働けるよ。」

 

 私はデンジ君に向けて職の保証や私と一緒に働けることをちらつかせて、原作通りに討伐に向かうよう促す。デンジ君は美人好きだし、私は中身はともかくガワは滅茶苦茶可愛いマキマさんだからデンジ君も乗ってくれる……と思う。

 原作なら原作マキマさんと出会ったその瞬間に、デンジ君の公安就職は決まってて悪魔討伐に向かうのが割と自然な流れだったのだが、私としたことが……。

 一緒にデンジ君とお話しするのが楽しすぎて、公安にスカウトするのをすっかり忘れていたのだ!

 

 ポンコツすぎるだろ私!

 そこ忘れちゃダメでしょうが!

 

 

 

 「悪魔がよぉ……!」

 

 デンジ君が厳つい顔で言う。

 

 「うん」

 

 「女の子をよお!!さらうなんてよォ!!」

 

 「おお!」

 

 「んなこと許せないぜ!!デビルハンターとして許せるわけねえぜ!マキマさん!そこで待っててください!そん悪魔俺がマッハでぶっ殺してやるんで!」

 

 デンジ君は凄いノリノリで了承してくれた。

 

 「ありがとうデンジ君、すごい助かるよ!

 あ、でもねデンジ君。公安のデビルハンターは民間と違って、悪魔の討伐だけじゃなく確保も行ってるんだ」

 

 「確保……っすか?なーんか、めんどくさそうっすね」

 

 「確保っていっても別に凶暴な悪魔を生け捕りにする必要はないよ。話が通じて協力できそうな悪魔……君の友達だったポチタ君をイメージしてくれればいいかな?そういう友好的な悪魔を連れてきて欲しいって話なんだ。

 

 公安(だけに限らないけど)は君がポチタと協力していたように、友好的な悪魔と協力して活動してるんだ。だからもし森の中にいる悪魔が友好的な悪魔なら、無理に変身をして殺す必要はないよ。

 その悪魔が話が通じるなら説得して連れてきてくれれば、私が上手く解決してみせるよ。話が通じるなら、女の子を拐ったのにも理由があるかも知れないし、優しい悪魔なら助けてあげたいしね。

 まぁ……君が変身して戦う所を見られないのは残念だけどね。」

 

 「ポチタ……みたいな悪魔」

 

 「うん、でも悪魔は基本的に人間に敵対的だからね。友好的に見せかけて凶悪だったり、ヤバそうな見た目で見た目通りにヤバい悪魔がゴロゴロしてるのが現実だよ。

 ポチタ君みたいな優しい友好的な悪魔は少数派だね。君も非正規とはいえ、デビルハンターとして活動してたから分かると思うけど。

 今回の悪魔は明確に子供を拐ったって証言があるから、十中八九ヤバい方の悪魔だと私は思う。もしかしたら、君を騙そうとしていい悪魔のふりをして油断させてから君を殺そうとするかもしれない。

 判断はデンジ君に任せるけど……くれぐれも気をつけてね。」

 

 「うっす!つまり、よさそーな悪魔だったら生きたまま連れてくる!わりー奴ならその場でぶっ殺す!単純でわかりやすいっすね!任せてくださいよマキマさん!」

 

 そう言うとデンジ君はVサインをした後に森へ走りながら入っていった。

 

 

 よーし、じゃあ私も筋肉の悪魔にバレないようについて(ストーキングして)いくか!

 原作だとデンジ君は筋肉の悪魔をやさしい悪魔だと騙されて、痛い目に遭ってたからなぁ。

 じゃあなんで優しい悪魔云々の話をして騙されるリスクを増やしたんじゃいってなるけど、その話をしたのはぶっちゃけデンジ君の好感度稼ぎのためだ。デンジ君にとってポチタという存在はとっても大切な友達だ。そのポチタの存在を認めて、肯定してあげる事でデンジ君とより仲良くなれるだろうという打算が私の中にあってこの話をした。

 

 てかそもそも私、マキマ(中身別人の偽物だけど)も支配の悪魔だからね!デンジ君の中で悪魔=悪ってなると私の正体が万が一バレたとき、大変なことになる。別にバレなきゃいいんだけど、私ってほら、ポンコツだからさ……。隠し切れる自信がない。

 

 悲しい。

 まぁ原作ではデンジ君、筋肉の悪魔に騙された後も普通に勝ってたから大丈夫でしょう。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 大切なポチタを失い、公安のデビルハンターマキマに保護された少年デンジ。彼は張り切って森の中を進んでいた。

 彼の中にあったのは一つ。マキマの期待に応えることであった。

 

 (絶対に悪魔を殺すか連れてくるかして、マキマさんと一緒に働く!

 今までずっと汚ねぇとか臭いとか言われてきた。でもマキマさんはそんなこと気にせず優しくしてくれたし、俺の話も聞いてくれるし、その上滅茶苦茶いいツラしてて……好きだ。

 

 それにマキマさんはポチタのことを、ちゃーんといい奴だって分かってくれた。他の悪魔と違って優しい奴だって。

 ……もしもっと早くマキマさんと俺たちがあってたらどうなったんだろうな。マキマさんは変身とかできない俺にも優しくしてくれんのかな?

 でも……ポチタのことだけは助けてくれそうだな。もし俺たちがもっと早く会えてたら、今でもちゃんとポチタは生きれたのかな。……ポチタ)

 

 「ポチタ死んだの思い出しちまった…‥はあ……」

 

 デンジがため息をつき、うずくまると『あははは』という少女の笑い声が聞こえた。

 

 「「あ」」

 

 声の方に向かうと、女の子が小さなオレンジ色の一つ目の悪魔と戯れており、その女の子とちょうど目があった。

 

 「お願いです!この悪魔さんを許してあげて!」

 

 少女は続ける。

 

 「私のパパ……イヤなことがあると私を殴るの。

 今日も駐車場で殴られてたら……この悪魔さんが助けてくれて……!

 だからお願い!殺さないで……」

 

 少女が縋るような目でデンジを見つめる。

 デンジは先ほどマキマとの会話を思い出した。

 『君の友達だったポチタ君をイメージしてくれればいいかな?』『友好的な悪魔なら、無理に変身をして殺す必要はないよ。』

 

 (そっか……この悪魔はいい奴なんだな。マキマさんだって、ポチタみたいないい悪魔もいるって言ってたもんな。)

 

 デンジは少女に向けて笑顔を向けていった。

 

 「安心して大丈夫だぜ、そういうじじょーなら殺さねーからよ。

 俺も悪魔とダチだったからわかるんだ…悪魔にも気のいい悪魔がいるって。

 その悪魔が殺されないように何とかしてくれる人がいるからさ、俺について来てくれよ。

 親父さんとの問題も……多分その人が何とかしてくれると思うしよ。」

 

 デンジは明るく言った。

 『その悪魔が話が通じるなら説得して連れてきてくれれば、私が上手く解決してみせるよ。話が通じるなら、女の子を拐ったのにも理由があるかも知れないし、優しい悪魔なら助けてあげたいしね。』

 

 デンジの頭の中で、自信ありげで頼りになる表情を浮かべたマキマの顔が思い浮かぶ。

 

 (この娘が親父に殴られてて、それを止めるためにこの悪魔は攫った……。こりゃ十分ちゃーんとした事情だよな!

 マキマさんはめっちゃ優しいし、この娘も悪魔も助けてくれるはずだ)

 

 「あはっ……いいの……?」

 

 少女は安堵の表情を浮かべて尋ねる。

 

 「いいっしょいいっしょ!」

 

 「あはははは!」

 

 

 そうデンジが答えると、少女は笑いながらデンジの手を掴んだ。

 

 「あはは……」

 

 「あははハははハはハはハ

 あはははハハ八ハ八八八八ハハ」

 

 そう少女が高笑いすると、デンジは巨大な筋肉質の腕に持ち上げられた。

 

 「はい!俺の勝ち〜〜!」

 

 「はは……はあ?んじゃコリャア!?」

 

 先ほどまで小さかったはずの赤い一つ目の悪魔は、巨大で複数の目を持つ巨大な肉肉しい化物へと変貌しており、女の子は笑顔にも関わらず辛そうに頭部から血を流し苦しんでいるように見えた。

 

 「俺は筋肉の悪魔だから触れてる筋肉は自由自在ってわけ!」

 

 困惑するデンジは、頭の中でマキマの言葉を思い出していた。

 

 『今回の悪魔は明確に子供を拐ったって証言があるから、十中八九ヤバい方の悪魔だと私は思う。もしかしたら、君を騙そうとしていい悪魔のふりをして油断させてから君を殺そうとするかもしれない。』

 

 (クソ!クソ!クソ!マキマさん言ってたじゃねーか!言われてたのに騙されるなんて糞ダセェ!)

 

 「俺は筋肉の悪魔だから触れた筋肉は自由自在に操れるってワケ!お前に死ぬ前にいいもん見せてやるよ!」

 

 そう言うと筋肉の悪魔は掴んでいるデンジの腕に力を込めて捻り潰そうとした。

 

 「デンジ君危ない!」

 

 しかしその瞬間、どこからともなく長い鎖に繋がれた手錠が投げられて、筋肉の悪魔の両腕が鎖に絡められ、締め付けられた上で手錠が掛けられた。

 

 「な、なんだこの手錠!?ウデに力が入らない!?」

 

 筋肉の悪魔の両腕は、手錠で縛られた影響か力が抜け、デンジは解放されて地面に着地した。

 

 「その声は……マキマさん!?」

 

 「デンジ君助けに来たよ!でもまだ終わってないよ!気をつけて!」

 

 手錠の鎖の先を辿ると、そこには赤毛の公安のデビルハンター、マキマがいた。彼女は踏ん張りながら、手錠の鎖を引っ張りなんとか必死に筋肉の悪魔を拘束しているようだった。

 

 「ク、クソ女がぁ!今すぐ俺を離せぇぇ!邪魔しやがって!まずはテメェから先に捻り潰してやる!」

 

 筋肉の悪魔は身を捩りながら激しく抵抗し、マキマは徐々に引っ張られていく。

 

 

 「オイテメェ……俺を忘れてマキマさんに手出しすんじゃねぇ!」

 

 筋肉の悪魔から解放されたデンジは胸のスターターを引っ張り、チェンソーの悪魔へと変身する。

 

 「な、あ、へ?オ、オマエ悪魔だったのか!?なら協力しよう!だ、騙したこと怒ってるのか?

 お、お、お、落ち着け!ま、まずはこの女を先に殺してから話し合おう!」

 

 危機に陥り混乱した悪魔がデンジに交渉を持ちかける。

 

 「うるせぇ!こっちはマキマさんにオメーに騙されたクソダサいところ見られてイラついてんだよ!

 話し合う!?まずはクソ悪魔のテメェが死ぬのが先だぁ!」

 

      ギジャア!

 

 デンジのチェンソーがあっという間に筋肉の悪魔を切り裂き、バラバラに切断する。

 

 「シャア!ぶっ殺してやったぜぇぇぇ!

 で!話はあっか!?ねぇな!ヨォシ!」

 

 木っ端微塵になり地面に散らばった悪魔に対し、話はあるかと一方的に問いかけた後話を打ち切り、清々しい表情を浮かべるデンジ。

 悪魔を倒し、やりきった安心感からかデンジはふらついてしまう。

 

 (ヤベェ……フラフラする。そうか、変身する時身体切り刻むから血が出てて血が足りてねぇのか)

 

 デンジがそのまま倒れそうになる直前に、マキマは彼を受け止めた。

 

 

 「デンジ君大丈夫!?」

 

 「だ、大丈夫っす。そういえばマキマさんはどうしてここに?」

 

 「そりゃ君の活躍を見るためだよ。言ってたでしょ?君の力を確認したいって。

 待ってて、えっと確か……あった!はい、これ血。飲めば回復できるはずだから。」

 

 マキマはカバンからストローの刺さった輸血パックを取り出し、デンジの口元に持っていきそれを飲ませた。

 

 「……ごめんねデンジ君。ゾンビの悪魔と戦ったばかりなのに無理させて。変身するだけでこんなに血が出るだなんて想定してなくて。本当に痛そう……」

 

 マキマは申し訳なさそうに、悔しそうにポツリとつぶやいた。

 

 「大丈夫っすよ!俺は無事っす!マキマさんがあいつの動きを止めてくれたから俺無事なんで!ちょっと自分を切って貧血になったくらいなら……」

 

 「そう言う問題じゃないよ!」

 

 マキマは叫ぶように言った。

 

 「治るからって、傷がなくなるわけじゃない!苦しんだ事実は変わらない!

 変身するだけでこんなに血が出るだなんて、こんなに苦しそうだったなんて知らずに私は軽い気持ちで……。」

 

 

 

 徐々にトーンの下がるマキマの声、彼女の目から涙がこぼれ落ち、抱き抱えられるデンジの服を濡らした。

 

 「マキマさん……」

 

 ポチタ以外の誰かに心から心配される。それはデンジにとって初めての体験だった。誰かが自分のことを思って、泣いてくれている、大切に思ってくれる。

 デンジはどんな対応をすればいいのか、どんな顔をすればいいか分からなかった。

 

 「ん……んん」

 

 筋肉の悪魔に操られていた女の子が、うめき声をあげた。

 

 「……やべぇ、あの子のことすっかり忘れてた」

 

 「……。あぁ、そうだね。とりあえずあの子をお父さんの下に連れてかないとね。

 デンジ君、貧血の調子はどう?少し治った?」

 

 マキマは涙を袖で拭うと何事もなかったように取り繕い、デンジの体調を確認した。

 

 

 「は、はい!大丈夫です!」

 

 「そっか、それは良かった。それじゃあ行こっか」

 

 そう言うとマキマは女の子を担ぎ、デンジを連れてサービスエリアに向かった。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 デンジ君……マジで苦しそうだった。

 てか私は馬鹿か、変身する時に自分の体を切り刻んで痛いだなんて、作中でもはっきり言及してただろ。

 

 私は当然のことを忘れていた。人は傷付いたら苦しむ。

 漫画の中だと割とデンジ君の負傷とかは軽く流されてるけど、それは周りのメンツが特殊だからだ。パワーちゃんをはじめとする魔人、悪魔勢は元々人間と感性が違うし、血を飲めば回復すると言う性質上、負傷に関する認識が甘い。

 そして人間のデビルハンターだが、彼らも公安という民間で対処できない悪魔を担当する地獄のような環境にいるため、感性が一般とは違っている。我らが隊長岸辺先生曰く、『頭のネジが外れてるやつほど向いている』とおっしゃられている。

 そんな岸辺先生がおっしゃるデビハンに向いていなくて、デンジ君と交流のある常識的なキャラは公安対魔特異4課のコベニちゃんと荒井君ぐらいである。

 コベニちゃんはパワーちゃんが苦手で基本デンジ君のことを怖がってて積極的に関わらないし、荒井くんはサムライソード率いるヤクザの襲撃ですぐに死んでしまう。

 その結果作中内に常識があり、デンジ君が戦いでボロボロになっても身を案じる人が誰もいないのだ。

 そのせいで漫画の読者という視点では、この異常すぎる状況に気づくことが出来なかった。

 未成年の少年が戦いで、ボロボロになり四肢を欠損しようとも、どれだけ血を流そうとも、その事に対して特に気にせず話が展開していくという状況に……。

 漫画だからこそ、『そういうものか』と私は思ってしまっていた。だが現実としてこうはっきり認識すると、『そういうものか』では済ませない。

 

 1番の問題はデンジ君自体がこの状況を全く異常だと認識してないことだと思う。あの優しくて比較的に常識的(銃の悪魔関係を除く)な早川君ですら、デンジ君が戦闘でボロボロになるのを基本案じないのは、やっぱり当の本人であるデンジ君が全く気にしてないからだろう。

 デンジ君はヤクザの下でデビハンやってた時期に、金が足りなくて腎臓も目も睾丸すらも売りに出してるから、その分身体欠損に関する心理的な抵抗感が薄いのかも知れない。

 いやそれ以前に、今まで過ごしてきた環境が酷すぎて、自分がいかに異常な状況にいるかを把握できていないんだろう。

 でも……自分が異常な状況にいると自覚すること、それは今のデンジ君にとって果たしていいことなのだろうか。

 デンジ君はもう武器人間になってしまった。原作では、永遠の悪魔を皮切りにサムライソードやレゼ、そして各国の刺客たちに狙われることになる。

 そんな辛い未来が待ち受けているのに、今の状態が異常だと知ってしまうと、ただただ苦しいだけなんじゃないだろうか。

 

 私はどうすればいいのか、その答えを足りない頭で必死に考えながら森を歩き続けた。結局、どうすればいいのか結論は出なかった。

 

 



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3話 遅いランチと素早い休憩(2回目)

 

 

 

 「アーン」

 

ズルズルズズズー

 

 デンジ君がとても美味しそうに至福の表情で頼み直した、暖かく伸び切っていないうどんを啜る。

 

 「どう?美味しい?」「最高です!」

 

 私は原作通りにデンジ君にかなり遅めの朝ごはんを食べさせている。こんなに嬉しそうに食べてくれると、私も嬉しくなってくる。

 

 「そうだデンジ君!私が頼んだのはカレーとコンビニのアイスなんだけど、よかったらこっちも食べて見る?美味しいよ?」

 

 「食べまぁす!」

 

 「よしよし、それじゃカレーからね。

 ふー!ふー!はい、あーん。」

 

 「あーん!」

 

 

 現在私とデンジ君はSA(サービスエリア)にて楽しい楽しい遅めのランチの真っ最中だ。

 楽しい(楽しい)

 まるでデートでみたいで楽しい!デンジ君も楽しんでるみたいでよかったよかった!

 一緒に食べてる人のガワは美人のマキマさんだからね!中身はポンコツだけど……

 

 

 美味しく食べてる最中にデンジ君と会話が弾み、ポチタの話になった。この短い間で、デンジ君のド底辺トークの話をしたり、私が公安でどんな事をしてるのか話したりするけれども、デンジ君が一番楽しそうなのはポチタがらみの話だ。彼にとって唯一の友人で、家族にあたる存在だもんね。

 辛い人生の中で唯一の癒しだろうから、そりゃ楽しいに決まってる。デンジ君が楽しそうでこっちも楽しい。

 

 「あの、マキマさん……ポチタみたいな悪魔が他にもいるって言ってたじゃないですか。

 それじゃあ俺みたいに悪魔に変身できる人って、公安にもいるんすか?」

 

 デンジ君が武器人間について訪ねてくる。

 

 「うーん。悪魔と契約するデビルハンターや、魔人や悪魔だけどデビルハンターをしてるのはそれなりにいるね。

 でも君みたいに悪魔が人の心臓になって、肉体の主導権を握る存在、『武器人間』は公安には1人もいないよ。」

 

 「『武器人間』……?」

 

 「ああ、私が勝手にそう呼んでるんだ。実際にはなんと呼べばいいのか、わからないんだけどね。数だって少ないし。」

 

 本当はその名前を持つ悪魔が食われたからわからないんだけど、そんな話を今してもただひたすらにややこしいだけなのでそこら辺はぼかしておく。唐突にポチタの正体がチェンソーマン云々話されてもデンジ君も困るだろうし。

 

 「そうっすか……。

 もし他に俺みたいな人がいるんだったら、ポチタを生き返らせて元に戻す方法もあるんじゃないかって期待したんすけど……」

 

 「……」

 

 「俺、ずっとポチタと一緒にいたんすよ親父が死んだあの日から。

 ポチタと一緒に悪魔ぶっ殺して、一緒にゴミ箱漁って食えるもん探して、寝る時はずっと抱いて寝てて……。そんな生活がずっと続くと思ってたのに、俺の為にポチタが俺の心臓になって死んじまったなんて……。俺ぁ、信じられないし信じたくないんすよ。」

 

 デンジ君が暗い顔で言う。彼にとってやはりポチタを失ったことはとても辛いことなのだろう。

 

 「まぁ、確かに信じられないねー」

 

 私はアイスの最後の一口を食べながら言う。

 

 「え…えぇ……」

 

 「だってデンジ君の体から、ポチタ君の匂いがちゃーんとするもん。この匂いは死臭じゃないから、ポチタ君は君のために死んじゃったとは思えないな。」

 

 「……え?」

 

 「ポチタ君は死んで君の心臓になったんじゃない。生きながら君の心臓になったんだよ。

 ポチタ君はデンジ君の夢を見せてくれ、って言ってたんでしょ?

 多分、それは一種の契約だったんだと思う。原理とかは分からないけど、デンジ君が感じてることをポチタ君も感じてるんじゃないかな?

 きっとこのうどんも、カレーもフランクフルトも、さっき食べたアイスだって、ポチタ君も味わってると思うよ!」

 

 私はとびきりの笑顔で言う。どや、このちょいと落としてからぶち上げるムーブは!

 上げて落とすと嫌われるけど、ちょいと落として不安にしてからあげると大体上手くいく……気がする。

 

 「そっか……よかった、そりゃすげ〜〜よかった!」

 

 デンジ君はとても嬉しそうに言う。

 

 「さ、ご飯も食べ終わったし、そろそろまたドライブ再開しよっか!

 お腹いっぱいだけどデンジ君は車酔いとか平気?酔い止めあるよ?

 それと手洗いとかは大丈夫?次のパーキングエリアはちょっと遠いから今のうちに行っといたほうがいいよ。

 それと飲み物欲しいなら言ってね、でも飲み過ぎに注意で。」

 

 「マキマさん、流石にそこまで言わなくても大丈夫っすよ。」

 

 念のためにデンジ君に色々確認したけど、お節介だったみたいだ……。悲しい。

 

 「ごめんごめん、心配しすぎだったね。それじゃあ行こっか。月本さん、運転またお願いねー。」

 

 私は公安のくせしてマフィアみたいなセンスの二人組の運転が得意な方、月本さんに運転を頼み、デンジ君と一緒に後部座席に乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クソ気持ち悪い……漏れそう……コーラ飲みすぎた……」

 

 「デンジ君耐えて!後少し、後15分だから!」

 

 「無理っす……あ、で、出そう」

 

 「どっちが!?」

 

 「どっちも……う、あ、あ、あ!」

 

 「月本さん!急いで!急いで!急いで!」

 

 ちなみに言うと月本さんとデンジ君の頑張りのおかげで車は綺麗なままだった。



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4話 アキとデンジと偽マキマ

 

 

 公安特異退魔4課所属のデビルハンター、早川アキは上司のマキマによって東京デビルハンター本部に呼び出されていた。

 最近作られた実験的な部隊である公安特異対魔4課がらみであることは想像できていた。

 

 早川から見たマキマの印象は、甘さが目立つ上司。無論優秀なことには変わりない、数多くの悪魔を討伐しているし、悪魔によっては敵対的で危険にもかかわらず確保することに成功した悪魔も存在している。

 だが、彼女は身内の人間であるデビルハンターにも本来は敵であるはずの悪魔のデビルハンターにも甘い。

 彼女はよく身内の人間デビルハンターに対してよく飲み会で奢ったり、相談に乗ったりしている。早川の恋人である姫野も自分と付き合う前、自分と付き合う方法を何度か相談していたらしい。

 ただ、早川が少し不満に思っている点は悪魔や魔人のデビルハンターに対しても甘いところだ。早川は家族を全員銃の悪魔に殺された。だから当然のことだが、悪魔に対して嫌悪感を持っている。

 無論、公安で働く悪魔や魔人達が十分な成果を出している以上、自分が咎める権利などないのは承知しているので姫野に軽く愚痴る程度に済ませている。

 だが悪魔はどれだけ成果を出そうが悪魔だと早川は考えている、マキマが悪魔や魔人に対しても相談に乗ったり食べ物を奢ったり、プレゼントなどをしていると聞いた時違和感を覚えたものだ。

 

 だが今では早川の中では、マキマは悪魔だろうと人間だろうと関係なく甘い上司という評価で落ち着いている。悪魔に肩入れしすぎていると思っていたが、敵対的な悪魔を見逃したりせずしっかりと討伐している以上、自分が過敏に反応しすぎているだけだろう。

 彼女は悪魔も人間も敵でなければ分け隔てなく優しくする、そう言う女性なのだと理解した。

 

 

 「あ、きたきた。紹介するよデンジ君、彼の名前は早川アキ。

 デンジ君より三年先輩のデビルハンターで優秀なんだ。」

 

 部屋に入ると、そこにはマキマと金髪のチンピラがいた。

 

 「とりあえず私は手続きとか上司に説明とか色々するから、その間に早川君とパトロール的なことでもして時間潰しててよ。

 多分これから早川君と一緒に、仕事するだろうし今のうちに親睦深めといてね。」

 

 「え……?マキマさんじゃなくてこいつと?」

 

 「こいつなんて言っちゃダメだよ。早川先輩って呼ばなきゃ。

 私は管理職で忙しいからね、これからは基本的に早川君と行動を共にするようになると思うから仲良くね。」

 

 チンピラ風の男が、マキマと仕事ができないという話を聞いて狼狽える。

 早川はこのチンピラ風の男に対して、早くも見切りをつけていた。

 

 「お前とマキマさんじゃ格が違う。見回り行くぞ」

 

 「やだー!マキマさぁーん!」

 

 子供のように駄々をこねるチンピラ。大方マキマに優しくされて、何も考えずにデビルハンターを志したのだろう。遅かれ早かれ逃げ出すか死ぬか、万が一実力があっても民間に行くタイプの人間だろうと早川は感じた。

 

 「デンジ君ファイトー!デンジ君の働きぶりが良ければきっと一緒に仕事できる時間も増えるよ!だから頑張ってね」

 

 「頑張りまぁす!」

 

 元気よく返事をしたデンジと呼ばれた男はそのまま引き摺られて部屋からアキと共に退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずアキ君に頼むところまで終わったぞ!あとはデンジ君について上に報告して、アキ君にデンジ君の面倒を見てもらえるよう説得するだけだ!

 ぶっちゃけ最後のアキ君の説得が滅茶苦茶ハードルが高い。原作では真マキマさんがアキ君を支配の力で洗脳してたから上手くいってた。でも私はその洗脳の力をアキ君には使ってない。

 悪魔とか犯罪者とかには使うことはあるけど、少なくともそうじゃない人に使うことは滅多にない。

 理由は簡単、個人的にそういう力を使うのに抵抗があるのと、岸辺先生が怖いからだ。

 

 原作では公安襲撃編の際に、真マキマさんと岸辺先生が話をしてるシーンで、露骨に岸辺先生はマキマさんを敵視していた。そして刺客編に至っては真マキマさんを暗殺するメンバーにクァンシを勧誘しようとしていたし、物語終盤のマキマ編に至っては対マキマ班なるものを率いて真マキマさんにカチコミを仕掛けていた。

 

 怖すぎる!怖すぎるわそんな展開!

 原作の真マキマさんならともかく、偽マキマさんが生き残れるわけがない!

 

 どういう経緯で岸辺先生がマキマ絶対殺すマシーンと化したのか、私にはわからない。

 真マキマさんが公安メンバー襲撃をあえて見逃す、もしくはヤクザに公安を襲撃するように仕向け、岸辺先生の弟子とかを死なせまくったからキレたのかも知れない。あるいは支配の力で洗脳しまくって味方を増やしまくる真マキマさんを警戒したのかも知れない。

 

 ポンコツな私には、心当たりこそ浮かべども、岸辺先生がブチ切れるラインがさっぱりわからないのだ。なので私は、原作で岸辺先生が洗脳の力を乱用することでブチ切れた可能性を考慮して、あまり洗脳を使っていない。まぁ、仮に岸辺先生が許したとしても、それを使って罪もない人の心とか記憶を弄るのは気が引けるしね……。

 

 実は私は、この死屍累々のチェンソーマン世界で生き残る為に、岸辺先生に鍛えて貰ったことがある。無論、デンジ君やパワーちゃんと違って不死身でも半分不死身でもない為、手加減はしてもらった状態だった。だったんだけれども、それでも私はボロボロに負けまくった。あの時ほど自分のポンコツ具合をハッキリ自覚した時期はない。

 あの岸辺先生にビビらず普通に話せてる原作の真マキマさんマジパネェっす。

 

 原作の真マキマさんはどういうわけか、日本の総理大臣との契約で実質全日本国民を残機扱いできるようになっていた。

 けど私はそんな凄い契約なんて結べてない、日本の終身刑以上の囚人を残機扱いできるレベルの契約だ。いや、それはそれで十分凄いしやばいんだけども……。

 その程度の残機じゃ、岸部先生1人相手でも全囚人を1日で殺され尽くされる未来が見える。いや、半日持つかどうか……。

 

 

 とにかく、私は岸辺先生を刺激しない為にも支配の力でアキ君にデンジ君の面倒を無理やりみさせる気はない。

 どうにかしてアキ君にはデンジ君と同居して擬似家族になって、早川家三人で幸せな日々を過ごしてほしい。

 でも私……そこまでアキ君に好かれてないんだよなぁ。アキ君は初期の頃割と悪魔嫌いだから、悪魔と仲良しこよししてる私にそこまでいい印象持ってないっぽい。まぁ、最悪姫パイこと、姫野後輩にも協力して一緒に頼んで貰おう。

 

 

 そして私は、デンジ君が公安に入るために必要な書類を整理しつつ、支配の力で小動物の視界を借りて、デンジ君とアキ君の初顔合わせを覗き見するのだった。

 

 

 

 

 路地裏で2人の若者が喧嘩をしている。1人はタックルやフックなどの多彩な攻撃を披露し、もう一方はひたすらに金的を繰り返している。

 

 「あのなぁ!お前あれだろ、マキマに優しくされて勘違いした口だろ!」

 

 アキは息を切らしながら言う。

 

 「ああ!?んだよ!なにが言いてぇんだ!」

 

 「言っとくがなぁ、あいつは別にお前だけに優しいんじゃねぇ。あいつは誰にだって優しくしてんだよ。自分に気があるとか恥ずかしい勘違いして、このままこの仕事続けてたら後悔するぞ!」

 

 「どう言うことだよ!」

 

 会話をしながら、2人は攻撃を続ける。

 

 「マキマのやつは甘ちゃんなんだよ!それこそ相手が悪魔だろうと優しくするような!

 お前一度でも異性として好きだとか言われたのか?ねぇだろ!」

 

 デンジはその言葉を聞いて、少し心が揺らいだ。今までマキマさんは自分のことを好いていると思っていた。男としてみているかはともかく、少なくとも1人の人間としては好まれてると確信していた。

 しかし、マキマは誰にでも優しいと言うアキの発言を聞いて、不安になったのだ。

 

 「図星みたいだな……。」

 

 「ああ〜。確かにまだマキマさんの口から言われてねぇな。

 だったら話は簡単だ!テメェをボコして!マキマさんにあって!直接好きだって言って貰う!

 言ってもらえなかったら言ってくれるまで活躍して、言って貰えば問題なしだぜぇ〜!!」

 

 そう言うとデンジはアキの急所に、渾身の蹴りを叩き込みアキを倒した。

 

 

 「やべぇ……やりすぎた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふ、2人ともだいじょうぶ!?」

 

 私は支配の力で覗き見してたので、何が起こったのかを知っているが、知らない体で尋ねた。

 

 「先輩が金玉の悪魔にたま襲われました」「ごめんデンジ君なんの悪魔かもう一度言って」

 

 「ウソです……こいつの嘘です……」

 

 「……色々あったみたいだね。」

 

 取り敢えず私は苦笑いで誤魔化しておく。

 

 「実はデンジ君についての対応が決まって、新しくアキ君に面倒を見て貰うことに決まったんだ。」

 

 「?」

 

 「このチンピラをですか!?ウチにはめんどくさい奴らがただでさえ多いんですよ?これ以上俺の負担を増やそうとしないでください!」

 

 アキ君は全力で拒絶する。そりゃそうだ、さっき喧嘩したばっかの気に食わない相手を自分の隊に入れたくはないだろう。でも部隊に入れるだけじゃなくて、その上これから同居もしてもらいたいんだよなぁ……。しかもパワーちゃんと一緒に。

 

 「彼は戦闘面において、決して負担にはならないよ。彼は今まで非正規のハンターとして活動していて十分な実績があります。

 彼は昨日、トマトの悪魔を倒した。復活して、二次災害を起こさないよう、依頼主に適切な死体の扱い方も指導しながらね。

 そして昨日の夜、いや今日の未明と言ったほうがいいかな?彼はゾンビの悪魔とその悪魔に率いられたゾンビ達を全て討伐した。少なくともその悪魔が率いていたゾンビはね。」

 

 「ゾンビって……マキマさんがわざわざ駆り出されたあの?」

 

 「そうだよ。デンジ君が倒してくれたおかげでこんなに早く帰れたんだ。

 そして今日の昼前、彼は筋肉の悪魔を討伐した。その時はちゃんと私もいて、ちょっとだけ手伝ったけどね。」

 

 

 アキ君のデンジ君を見る目が明らかに変わった。そりゃそうだ、たった2日の間に三体も悪魔を討伐したんだ。しかもそのうち一つはわざわざ上司である私が駆り出されるレベル。

 その上で、彼はアキ君と喧嘩した上で勝利した。どう考えても強いし、タフ過ぎる。

 よかった、アキ君もデンジ君に興味を持ったみたいだ。アキ君は銃の悪魔を殺したがっている。その為にはとにかく、強い仲間が必要だ。実際原作ではデンジ君が銃の悪魔を倒すのに必要だと考え、永遠の悪魔戦で庇って傷を負った。敵からの攻撃じゃなくて、仲間からの攻撃で庇ったんだけどね。

 しかし、姫パイからのアドバイス参考になるわ!アキ君にデンジ君の面倒見させるのにどうしたらいいかと尋ねたら、『デンジ君の実力を素直に教えてあげればいい』と言われた時は目から鱗だった。少し考えればわかることなのに、悩んでたのがアホらしい……。やっぱポンコツだわ私。

 

 「コイツ……一体何者なんですか?」

 

 「昨日まではただの非正規デビルハンター。

 でも今は違う。彼は……」

 

 私は少し間を空けて、溜めてから言った。

 

 「『武器人間』。人でありながら、チェンソーの悪魔の心臓を宿した『武器人間』だ。」

 

 「『武器人間』……マジっすか?」

 

 「うん、今日私がこの目で確認した。といっても変身の際にデメリットがある。自らの体を切り刻みながら変身するんだ、そのせいで体に激痛が走るし血を消費する。

 まだ分からないことが多いけど、取り敢えず悪魔や魔人の子たちと同じように、回復用の血を常備しておくべきだね。

 無論持ち運べる回復用の血にも限りがあるし、無駄に変身させるのは避けたほうがいいかもしれない。」

 

少しアキ君は考えてから、溜息をついて言った。

 

 「わかりましたよ、マキマさん。

 マキマさんの言う通り、コイツはうちの部隊で面倒見ます。」

 

 「ありがとうアキ君!

 ……申し訳ないんだけど、部隊だけじゃなくて家でも面倒見てもらえるかな。」

 

 「え?」

 

 「いや武器人間はすごい貴重だし、上の方も結構注目しててさ。

 頑張ったんだよ?頑張ったんだけど……それでも公安辞めたり違反行動したら殺すって言われて……。」

 

 アキ君が心配しながらデンジ君を見る。そしていまいち飲み込めてないデンジ君が質問した。

 

 「それって……どう言うこと……?」

 

 「……少なくとも私が出世して、上の人たちを黙らせて、デンジ君を守れるようになるまでは公安で頑張ろうってことです。」

 

 

 

 そのあと私は、デンジ君に公安で仕事をするのに必要な書類をこなすように指示したり、ルールや規則などを説明し終わって別れることになった。

 その際デンジ君が思い出したように私に尋ねた。

 

 

 「あっ!すいませんマキマさん!聞きたいことがあるんすけど!」

 

 「ん?何かな?仕事とかルールでまだ分からないことがあるならバンバン聞いちゃって」

 

 「いや仕事とかルールとかも分かんないんすけどそれはどうでもよくて……」

 

 「よくねぇよ」

 

 アキ君が突っ込む。

 

 「あの、俺のことす……」

 

 そう言いかけてから、言い淀み、デンジ君が口を再び開いた。

 

 「好きな人のタイプとかってあります?」

 

 私は少し考える仕草をしてから答えた。

 

 「うーん、元気があって」

 

 「元気……」

 

 「強くて」

 

 「強い……」

 

 「かっこよくて」

 

 「カッコいい……」

 

 「デンジ君みたいな人かな」

 

 「デンジ君……?」

 

 

 

 

 「俺じゃん……」

 

 

 嘘は言ってない。私が好きなのは、元気で強くてカッコいいデンジ君なのだから。

 いやデンジ君が元気なかったら全力で慰めるし、強くなかったら死ぬ気で守るし、カッコよくないとしたらそれはカワイイということなので全力で萌えるけどな!

 よく考えたらデンジ君は好きだけど、デンジ君みたいな人は別もんだからそこまで好きじゃないや。ラーメンは大好きだけど、なんかラーメンっぽいソーメンのことはそこまで好きじゃない感じで。

 

 てかアキ君が私とデンジ君のことをガン見してる。超見てる。目力で穴を開けられたら、とっくのとうに私とデンジ君に穴が空いてるよ。私とデンジ君でお揃いだね!

 

 

 ちなみにアキ君とデンジ君が2人で帰る時、デンジ君が『マキマさんまたもう一回抱きてえなあ』とか言ったせいでアキ君の中での私の評価が、未成年に手を出す性犯罪者にまで落ち込んだ。誤解はすぐに解けたけどマジでビビったわ……。



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5話 パワーちゃん確保

 

 

 時は少し遡る。マキマがデンジと出会う少し前、1人の魔人が公安に通報された。

 

 その魔人は赤いツノを生やし、牧場に住む牛を殺し、その血を吸っていたという。その情報を得た偽マキマは、その魔人のところへ向かった。その魔人に心当たりがあったからである。

 

 

 

 

 「確かここら辺で待ってれば来るはず……。」

 

 私は郊外にある道路の上で車から降り、これからくるはずの待ち人、いや待ち魔人を待っていた。と言っても相手は私がここにいることなど知らないのだが。

 

 「本当に来るんですかマキマさん?」

 

 付き人でガタイのいい方、黒井さんが私に尋ねた。運転が得意な方の月本さんは今日は休みだ。

 

 「うん、そのはずだよ。私の契約した悪魔の力でわかる範囲だと。」

 

 私は答える。実際には私が契約してる悪魔じゃなくて、私の支配の力なんだけどね。支配の力で小動物の視界を借りて、待ち人の位置を確認してる。

 

 「うん?お、見えた見えた!黒井さん、念のためにギリギリ目視できる範囲まで離れといて。」

 

 「俺の本来の役目って護衛だと思うんすけど…‥」

 

 黒井さんが困り顔で言う。

 

 「え!?守ってくれるの?代わりに戦ってくれるの?うっれしー!」

 

 「すんません、素直に離れます。それじゃあ、ご武運を!」

 

 「あははは。あ、ちゃんと車も持っていってね。巻き込まれると徒歩で帰る羽目になるから。」

 

 「はーい。」

 

 黒井さんは車に乗り、来た道を戻りその場を離れた。

 

 

 

 

 「うおおおおぉぉぉぉ!待て待て待て待てぇぇぇ!血ぃぃぃぃいいいい!

 そこのクルマ止まれぇぇえええ!」

 

 大声で叫びながら、全裸で赤いツノを生やした女の魔人、パワーちゃんが全力疾走して来る。大方、黒井さんの乗った車を発見してそれを追ってきたのだろう。

 

 「ストップストップ!そこの魔人さん、ちょっといいかな。」

 

 「うん?おお、ここにもちょうどよく人間がおるのう!女ぁ!勝負じゃあ!」

 

 パワーちゃんはそう言うと、走りながら腕から血を出して槍を作り、それを私に向けてぶん投げてきた。

 

 「危な!?」

 

 パワーちゃんが投げた槍を後ろに飛んでかわし、距離を取る。

 まさかなんの躊躇いもなくぶっ殺しにかかって来るとは思わなかった。いやなんで思わないんだ私、パワーちゃんだぞ?岸辺先生が100点くれるパワーちゃんだぞ?ちなみに私は岸辺先生に点数貰うどころかため息つかれた。

 

 私をガン無視で殺しにかかってくるパワーちゃんを止める為に、私は支配の悪魔の力で鎖を召喚する。といっても、原作のマキマさんが使っていたものとは違う。

 マキマさんが使っていた、ただの鎖とは違い鎖の先端の部分に手足にはめる輪っかのついた手錠のようにしてある。普通に相手を拘束するのにも使えるので、私の戦闘でのメインウエポンにしている。

 私はこの手錠(本来はただの鎖だけど手錠の方が警察っぽくて、かっこいいのでそう呼んでる)をパワーちゃんの片腕にはめて、それを思いっきり引っ張りすっ転ばせた。

 

 「がぁ!な、なんじゃこの鎖は!?」

 

 「悪魔の力だよ、悪魔と契約して戦うデビルハンター。聞いたことない?」

 

 何一つ嘘をつかず、まるで人間であるかのような印象をパワーちゃんに植え付ける。

 万が一私が悪魔とバレたら、絶対パワーちゃんのことだ。それをネタに脅迫してくるかも知れない。そうでなくてもパワーちゃんが些細なことでうっかり秘密をボロボロと漏らしまくって、公安中に私の正体がバレる未来が見える……。

 

 未来!最低!未来!最低!ぴぇんぴぇん

 

 そんな未来を回避するためには、パワーちゃんに私が支配の悪魔だと知られてはいけない。なので香水とかつけまくって、悪魔の匂いを誤魔化して今日はパワーちゃん確保に挑んだのだ。

 ちなみに付き人の黒井さんからは『臭いが…‥少しキツいかも知れないです。』って言われた……。『森の中に出現した魔人の任務だから、万が一私が遭難しても警察犬とか使って見つけやすいように対策したんだ』って必死に誤魔化したら納得してくれた。

 頑張って勇気を出して指摘してくれた、あの黒井さんの生温かい目が忘れられない。

 

 「はあぁぁぁぁ!?手錠!?悪魔の力の手錠!?」

 

 急に出てきた手錠にパワーちゃんは困惑している。

 

 「ウヌはただの人間のふりをしてワシを騙したのか!?何もしてないこのワシを!?こんの詐欺師がぁ!」

 

 「何もしてないって……今死ねって叫びながら槍投げてきたよね?」

 

 「えっ……?いや別にワシそんなことしてないんじゃが……。何言っとるんじゃウヌは……怖ぁ……」

 

 パワーちゃんはドン引きしながら私に言ってきた。こ、これがリアルのパワーちゃんか!すこし感動したわ……。

 

 「ウヌは自分が何をしとるのかわかっとるのか?

 何もしていない者に対して悪戯に暴力を振るい!

 その上で平然と人を騙し!

 挙句の果てに、ありもしない罪をでっち上げて人に被せようとする始末!

 今すぐその命をワシに差し出して詫びるがいい!言っとくが抵抗は無意味じゃ、ワシには警察官の友達が1000人おるからのぉ」

 

 パワーちゃんが堂々と、淀みなく私に言ってくる。あまりにも堂々としすぎてこっちが悪いんじゃないかという気がしてくる。てか警察官の友達が1000人かぁ……可愛いなぁ。

 

 「奇遇ですね、私も警察のお友達はたくさん居ますよ。なんなら私も警察の1人です。総理大臣とも面識ありますし。」

 

 「は?ワシは大統領とマブダチなんじゃが?てかワシが大統領じゃ。大統領権限で死ね!」

 

 パワーちゃんは自分の腕につけられた手錠を引っ張り、私を引っ張ろうと画策する。

 だがこちらは中身がいかに偽物のポンコツであろうと支配の悪魔、素手で弱体化したポチタ版チェンソーマン(デンジ君のふりバージョン)の体を貫通して殴り抜き、心臓を抜きとれる腕力を誇る。引っ張られるぐらいじゃびくともしない。

 

 「なんじゃこの馬鹿力は!?びくともせん……。ウヌはゴリラか!?」

 

 「言っとくけど、君に私は倒せないよ。私の目的は君を確保すること、こっちに従うなら命までは取らないから大人しく投降しなさい。」

 

 「うるさい!ワシには人質を救い出すという崇高な目的があるのじゃ!こんな所で捕まるわけにはいかんのじゃあ!」

 

 パワーちゃんはそう言い、なおも激しく抵抗を続けた。

 

 「残念だけど、こっちにも君を捕まえなきゃいけない理由があるんでね!少し眠ってもらうよ!」

 

 そう言うと私は手錠の鎖を思いっきり上に引っ張り、パワーちゃんを宙に浮かせた後、背負い投げの要領で鎖を肩に背負い、大きく弧を描く軌道でパワーちゃんを地面に叩きつけた。

 

 「ぐぎゃ!」

 

 そこからさらに思いっきり鎖を縮め、パワーちゃんをズルズルと引きずりながら私の下に引っ張り、首を絞めてパワーちゃんの意識を落とした。

 

 

 

 

 人質……やはりニャーコを人質に取られているんだろう。

 いつもの私だったらパワーちゃんのことを考えて、ニャーコを救ってあげに行くかも知れない。だがそれはデンジ君の役目だ。

 

 私はこの世界に転生してからずっとデンジ君を探して来た。原作通りにデンジ君が武器人間になったら辛い戦いに身を置く事になるため、それを回避したかったからだ。

 しかしポンコツな私ではデンジ君を全く見つけられない。そんな中、ゾンビの悪魔が出現したと言う情報も入ってきた。

 もはやここまで来たら、下手な原作ブレイクは諦め、原作をなぞりつつデンジ君をフォローして守る方向にシフトするべきだろう。

 原作をなぞる上で、ニャーコの救出はデンジ君とパワーちゃんが仲良くなる上で欠かせない。だから私が救うべきではないのだ。

 

 

 

 私はトランシーバーで黒井さんを呼び戻し、パワーちゃんを車に乗せて先に帰ってもらった。私にはやるべきことがある。

 

 

 

 周りに家がなく、ぽつんと立っている少し大きな家。私はそこに向かっていた。

 

 「ここがあのコウモリのハウスね。」

 

 私はポツリと呟き、支配の力を使いニャーコの視界を借りて部屋の中を探る。

 

 おお、コウモリの悪魔が寝てる。真昼間だからやはりそのイメージでコウモリの悪魔も寝てるのかな?

 私は抜き足差し足岸辺足で家に近づいた。説明しよう!この音を出さないで早く走る岸辺足は、岸辺先生との修行中に先生から逃げ抜くために編み出したのだ!結局岸辺先生から逃げられなかったけど……。

 私はこの岸辺足を駆使して部屋の中に入り、コウモリの悪魔の目の前に立つことができた。

 えぇぇ……。コウモリの悪魔どんだけ鈍いんだろうか、その耳は飾りか?ここまで弱いのなら支配することぐらい余裕そうだ。

 私は支配の力をコウモリに使い、ニャーコの世話をする様に思考を誘導した。

 ニャーコちゃん少し痩せてたなぁ、コウモリの悪魔め。ニャーコちゃん用にキャットフードの餌をたくさん残してから私はその家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 そのあと私は、パワーちゃんを公安メンバーにスカウトするために、ホラー映画の力を用いて調教することになるのだが、それはまた別のお話。



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間話 偽マキマ版チェンソーマン世界の掲示板1

※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。

 今回は趣向を変え、この偽マキマ版のチェンソーマン世界での読者の反応回です。
 実はマキマさんは原作の初期(1、2巻))の頃から、悪魔であると考える読者がいて様々な考察が飛び交っていたキャラであり、その中には女の悪魔や銃の悪魔などもありました。
 この偽マキマ世界でもそれなりに考察されると思い、マキマさんの正体についての話題が中心に書いてみました。


 チェンソーマンスレ 5本目

 

 

334:名無しの悪魔 2019/3/5 11:56:00 ID:2NbStxiQeP

割とスルーされてるけどさ、マキマさんの正体って何者だろう。

 

 

 

335:名無しの悪魔 2019/3/5 11:56:37 ID:jB12GD4a

>>334

 別にスルーされてないぞ。ただ情報が少なすぎるから議論されてないだけで。

 

 

 

336:名無しの悪魔 2019/3/5 11:58:05 ID:ag1Mt39d

正体ってなに?ただの公安の偉い人じゃないの?

 

 

 

337:名無しの悪魔 2019/3/5 11:58:49 ID:jGt1df1m

落ち着いてくださいね、

ただの公安の偉い人は普通チンピラにあんなに好意マックスで接しません

 

 

 

338:名無しの悪魔 2019/3/5 11:59:38 ID:Kga3c74h

デンジ君が武器人間だからマキマさんはデンジ君に優しいんじゃない?

 

 

 

339:名無しの悪魔 2019/3/5 12:02:14 ID:1Wm9jg8t

>>337

なんだぁ、てめぇ?

 

 

 

339:名無しの悪魔 2019/3/5 12:03:58 ID:1Wm9jg8c

マキマさんがデンジ君じゃなくて武器人間が好きって展開……悲しいなぁ

 

 

 

340:名無しの悪魔 2019/3/5 12:04:45 ID:3456dCJk

マキマさん悪女説。

悪いお姉さんも大好物です!

 

 

 

341:名無しの悪魔 2019/3/5 12:06:33 ID:kmdzpgh

武器人間の力が欲しいなら、別にマキマさんが直々に仲良くする必要なくね?

可愛い女の子を紹介して、その女の子を仲良くさせればいいんでない?

 

 

 

342:名無しの悪魔 2019/3/5 12:08:12 ID:kmdzpgz

普通にデンジ君に母性を感じたから優しくしたんでしょ。

仕事で疲れたキャリアウーマンのできるお姉さんが、若くて元気のある可愛い男の子に癒しを求めてる……。いいよね。

 

 

 

343:名無しの悪魔 2019/3/5 12:09:51 ID:k3mdt1az

普通知らん子供にそんな急に母性マックスで接するか?

だから俺はマキマさんの正体はデンジ君の実の父親だと思う。

 

 

 

344:名無しの悪魔 2019/3/5 12:10:21 ID:lcdT142c

>>343

父親!?

 

 

345:名無しの悪魔 2019/3/5 12:10:33 ID:tz3m1f4a

>>343

マキマさん男性説

 

 

346:名無しの悪魔 2019/3/5 12:1:27 

ID: k3mdt1az1

母親だったごめん。

 

 

 

347:名無しの悪魔 2019/3/5 12:1:42 

ID: jmAg3Da5

それでも若すぎるでしょマキマさん。

俺は実は鎖の悪魔が正体なんじゃないかと思う。

 

 

348:名無しの悪魔 2019/3/5 12:2:26 

ID: 4EebdhdMd2

鎖の悪魔が正体はありそうだけど、じゃあなんでデンジ君にあんなに好感度が高いのか……。これがわからない。

 

 

349:名無しの悪魔 2019/3/5 12:12:37 

ID:qhgp8a1nTu

そもそもデンジママ死んでるんじゃないっけ?

そう思って読み返したら、『血を吐いて死んだ【らしい】』ってデンジ言ってた。

伝聞ってことは確定してないっぽい?

 

 

350:名無しの悪魔 2019/3/5 12:18:00 

ID:Au9xOGUO1l

>>349

マジで!?

って思って読み返してみたけどマジじゃんこれ

 

 

 

351:名無しの悪魔 2019/3/5 12:22:38 

ID:NNSKnF9jNO

>>349

マキマさん「勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

352:名無しの悪魔 2019/3/5 12:25:49 

ID:kmdzpg

じゃあマキマさんがデンジママだとして、なんで今まで離れてたの?

なんでこんな若いの?

これらに一切反論できないよね?

それにマキマさんは最新話でデンジ君が好みだって言ってる。

ここから導き出される結論……

それはマキマさんはデンジ君大好きお姉さんだ!

 

353:名無しの悪魔 2019/3/5 12:29:53 

ID:w4w6QG1FyF

>>352

どんだけお前マキマさん好きなんだよ……

 

 

 

354:名無しの悪魔 2019/3/5 12:33:13 

ID:LVtYTBqu7e

そういえばデンジが悪魔は人の死体乗っ取れるって言ってたよな……。

もしかして悪魔がデンジのカーチャン乗っ取ったんじゃね?

そんでもって、肉体に残った記憶に引っ張られてデンジ相手に母性全開で相手してる。

 

355:名無しの悪魔 2019/3/5 12:37:32 

ID:PqBVgyxWji

それだ!

 

 

356:名無しの悪魔 2019/3/5 12:42:36 

ID:zOrGDLIK1g

>>354

お前天才かよ……

 

357:名無しの悪魔 2019/3/5 12:47:08 

ID:TMjwG2mSQj

マキマさんはデンジ君のお母さんを乗っ取った悪魔だから母性をデンジ君に向けている。

そんでもって肉体的には母だけど、精神は他人だから恋愛的な感情も同時に持っている。

今までの話を統合するとこうじゃない?

 

358:名無しの悪魔 2019/3/5 12:52:33 

ID:o4akzCCrc7

>>357

お前にノーベル賞をくれてやる。

 

359:名無しの悪魔 2019/3/5 12:55:52 

ID:EYDJVx2ROr

待て、マキマさんはデンジじゃなくてポチタの母親なんじゃないか?

マキマは上にもあった通りに鎖の悪魔。

剣の悪魔と結婚して生まれたのが、チェンソー(鎖の剣)の悪魔であるポチタ。

マキマさんはポチタの友達であり、今まで面倒を見てくれて、現在ポチタの心臓の持ち主であるデンジ君に恩義を感じている。

 

 

360:名無しの悪魔 2019/3/5 12:59:00 

ID:kMehzVj1OB

マキマ

巻き魔

チェンソーの鎖は取り外し可能で、切るものに合わせたチェーンを巻くらしい……。

 

 

361:名無しの悪魔 2019/3/5 13:02:38 

ID:DSoKx9nOGt

そういえば気がついたんだけどさ、マキマさん1話でデンジ君が名乗る前にデンジ君の名前呼んでない?

 

 

362:名無しの悪魔 2019/3/5 13:08:02 

ID:XV2YqyVI30

マジだ!

巻き魔=巻き戻る悪魔

タイムリーパー説もあるな

 

363:名無しの悪魔 2019/3/5 13:13:20 

ID:ME57FSXIkF

未来でなんかあって、それでデンジ君に助けられて、高感度バリ高い……。

確かにそれでも納得できる

 

364:名無しの悪魔 2019/3/5 13:19:10 

ID:hYbutDDSrt

今出てるのは

なんの裏もない優しい女説

悪女説

デンジ君のパパ説

デンジ君のママ説

鎖の悪魔説

鎖の悪魔がデンジのママ乗っ取った説

ポチタのママ説

タイムリーパー説

こんな感じか

 

 

365:名無しの悪魔 2019/3/5 13:24:25 

ID:PlT9AOj8mE

パパ説www

 

 

 

 



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6話 デンパワコンビ爆誕!

 

 

 

 

 夢を見ている。これは夢だ。きっと悪夢に決まっている。

 私はそう自分に言い聞かせた。

 

 私の眼下には筋肉の悪魔によって殺され、無惨な死体となって転がっているデンジ君の姿があった。

 「あはははハ八八ハハははは!こいつ弱い!こいつ弱い!」

 

 

 筋肉の悪魔が高笑いしながら、すでに息絶えたデンジ君を殴り、その死体を弄ぶ。

 

 「あははは!あはハ八ハ!あ……は?」

 

 たった一瞬だった。何かを切るような鈍い音がしたと思えば、高笑いをしていた筋肉の悪魔は笑いを止め、真っ二つになり血を噴き出して倒れた。

 

 デンジ君のお腹の中から血と腸が出た。

 その腸がデンジ君の首に絡まり、デンジ君は立ち上がり胸のスターターを引っ張ると……。

 デンジ君は真っ黒でゴツい体をした、チェンソーマンになった。

 ポチタの昔の頃のチェンソーマンだ。

 

 「ポ……ポチタ?」

 

 私は声をかける。

 

 「ヴァァァ!ヴァ!ヴァ!ヴェエエ!!!」

 

 ポチタ、いやチェンソーマンは私に向けて怒鳴った。

 その声からは明確な敵意、殺意、そして何よりも……怒りが感じられた。

 

 なぜデンジをこんな危険な目に合わせた。

 なぜデンジを傷付けさせた。

 なぜデンジを守ろうとしない

 

 私にはチェンソーマンがそう怒っているように感じた。

 

 そしてチェンソーマンは私に飛びかかり、何度も何度も私の体を切り刻み続けて……。

 

 

 

 

 

 私はそこで目が覚めた。

 

 私のベッドは寝汗でびっしょりだった。

 

 私は朝の支度をしながら、今朝の夢について考える。夢の内容は、私が筋肉の悪魔とデンジ君を戦わせ、デンジ君が死んでしまいポチタがチェンソーマンとして復活するものだった。

 

 

 

 デンジ君が筋肉の悪魔如きにやられる、あまり想像しづらい話だが決してあり得ない話ではない。デンジ君だって人間だ。失敗だってするしミスだってするだろう、あの夢はもしかしたら起こり得たかもしれない未来だ。

 

 私がもしもっと早くデンジ君を見つけていれば、デンジ君は原作と違って激しい戦いに身を投じる必要はなかっただろう。だが私は見つける事ができなかった。

 いや、原作と違ってデンジ君が生き残れるとは限らない。私は原作のマキマさんではない。

 原作のマキマさんは私と違って優秀だし、デンジ君が死なないように色々手を回していたのかもしれない。ポンコツである私が原作の真マキマさんのように、うまく立ち回れるとは到底思えない。

 そもそも私自身の出自が原作のマキマさんと大きく異なっている可能性がある。私は日本で出現した支配の悪魔だ、そこを日本政府に悪魔と戦うことを条件に保護された。そして私は日本政府のもとで厳しい訓練を受けて、内閣官房長官直属のデビルハンターになった。

 

 その過程で私は一切昔のポチタ、チェンソーマンとは絡まなかったし話すら聞いたこともなかった。つまり原作の真マキマさんのようにチェンソーマンオタクになる機会が一切なかったのだ。

 もしかしたら真マキマさんは支配の悪魔の持つ、物事を掌握する力を駆使し記憶を保持しながら、ポチタチェンソーマンに何度も殺されるたびに、地獄と人間世界を何度も往復して生き返ってたのかもしれない。それなら一応、このマキマさんとしての人生でポチタチェンソーマンと絡まない理由にも説明がつく。

 だがそうでなかったら?原作マキマさんが送った人生とは全く違った人生を偽マキマである私は送っていたのなら?そのズレの影響が何処まで大きいのか、私には把握できない。

 私が把握しているものでは、姫パイとアキ君が付き合っているという割とデカいズレが生じている。このズレが今後どのような影響を与えるのか、下手したらデンジ君が死に至るかもしれない。私は今更になって不安になった。

 

 てかよく考えたら私、彼女持ちの男にデンジ君を住まわせようとしてたのか!?

 しかもここから女の子のパワーちゃんを住まわせようとしてるとか……。これ姫パイに殺されないか私?

 ていうかそもそもアキ君が了承するかわかんないじゃんこれ!?原作だと真マキマさんは支配の力でどうにかしてたけど……ヤバい、ヤバすぎる。

 なーにが『出来るだけ原作の展開をなぞる』じゃボケェ!自分の原作改変で既に窮地に立たされてるじゃないか!

 

 

 しかもこの後、未来の悪魔の力を借りてやった原作ブレイクの生存者爆増も起こす予定だからなぁ……。仲間の命が大事だし、デンジ君と交流が生まれるであろう人たちを生かしたいし、岸辺先生と対立したくないからやったけど、これ原作なぞる展開とか不可能にならないか!?

 どーしよう……。今私焦ってる、アキ君を刺しちゃった姫パイよりも焦ってる。うっかりアキ君を100回刺しちゃった姫パイよりも焦ってる……。

 

 取り敢えず姫パイになんて言って謝ろうか……。私はそれについて悩みながらデビルハンター本部へと出勤した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ということがあったんです。」

 

 アキ君が、デンジ君が魔人を殺す際に、変身せずに殺したことについて報告する。

 

 「こいつはペットにしてた悪魔……ポチタでしたっけ?それのせいで、悪魔に対する対応が甘過ぎるんですよ。

 別に悪魔と馴れ合いたいのは構いませんが、それでデビルハンターの仕事に支障が出るのは困ります。

 それで俺は、こいつとパワーを組ませてみようと思うんです。」

 

 「パワーちゃんを!」

 

 目を煌かせながら、私は尋ねる。こう言う流れでデンジ君とパワーちゃんが組むことになるのか!

 

 「な、なんでそんなに嬉しそうなんですかマキマさん。」

 

 「ああ、ごめんごめん。私もそろそろパワーちゃんの活躍が見たくてね。」

 

 「別にあいつとコイツが組んでも成果なんて出ると思えませんけど……。

 俺がコイツにパワーと組ませようと思ったのは、コイツに敵じゃない悪魔がどんなやつなのかをハッキリと分からせるためです。

 敵じゃなくてまともな奴もまぁ、ほんの一握りはいるかもしれませんけど大多数はそうじゃない。そのことをコイツに理解させて、悪魔を殺す際に無駄な感情を抱かないようにさせたいんです。」

 

 アキ君は淡々と言う。

 

 「そっかー。わかった、アキ君がそう言うならデンジ君とパワーちゃんを組ませてみよう。

 デンジ君もそれで大丈夫?」

 

 私はデンジ君に尋ねるが、当のデンジ君は神妙な顔をして何か考え込んでいる。

 

 「……デンジ君?」

 

 「おいデンジ、何か不満でもあるのか?お前の望み通り悪魔と友達になれるよう、バディに悪魔を選んでやったんだ。悪魔っていうか魔人だけどな。」

 

 そう言われてもデンジ君は黙りこくっている。

 

 「デンジ君、どうかし」

 

 そう言いかけた所で、デンジ君がガッツポーズをしながら勢いよく発言した。

 

 「胸だ!!」

 

 「ムネダ?」

 

 あ、デンジ君。自分の中に夢がない事を悩んでて、たった今胸を揉む事を目標に設定した所だ。

 デンジ君は今私の胸を揉みたいのかー。そうかー。いよっしゃあぁぁぁ!

 

 あ、アキ君が『コイツまじか』って顔でデンジ君を見つめてる。

 

 「おい!話を聞けバカ!」

 

 「はなし……?」

 

 「公安では小規模任務とかパトロールでは安全のために2人1組で行動する事になるんだ。

 ちょうどよかった、来たみたい。気をつけてね、彼女は魔人だから。パワーちゃんお待たせ、入っていいよ」

 

 そう言うとガチャリとドアが開いて1人の魔人、私が捕まえたパワーちゃんが腕をぶんぶん振りながら入ってきた。

 

 「おうおう!ひれ伏せ人間!!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」

 

 デンジ君は呆然としながらパワーちゃんを見つめる。

 

 「パワー!?名前パワー!?つーか魔人なの!?魔人がデビルハンターなんてやってもいいのか!?」

 

 そう困惑しながら言った後、デンジ君はパワーちゃんの胸に一瞬だけ注目し、

 

 「まぁいいか!!よろしくなあ!」

 

 と元気よく挨拶した。

 

 デンジ君パワーちゃんの胸しっかり見てたなぁ……ぐぬぬ。

 

 あ、アキ君がなんかすげー真顔してる。そう言えばアキ君、パワーちゃんのこと話でしか知らなかったなぁ。

 確かアキ君が聞いてた話って、『仲良くなるのが難しい』とかだったか。人間に露骨に敵対的とか、そういうのを想像してたんだろう。

 アキ君は大方、デンジ君とパワーちゃんがなんか上手くいきそうな感じがしてるのと、2人揃って大馬鹿やらかしそうな未来を予想して自分の選択が失敗だったことを悟り、この真顔の表情なんだろうけど……大正解です!

 私は念の為の輸血パックを渡した後に、元気よく2人が出ていったのを確認して、2人のために2人がやらかした時用の書類を用意しておいた。

 

 

 あ、アキ君まだ出て行ってなかったわ。あ、これ?念のためだよ、うん、そんな暗い顔しないで!アキ君じゃなくて許可出した私の責任だから!うん!なんかあったらね!うん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言う、原作通りなんかあった。民間のハンターが手をつけたナマコの悪魔をパワーちゃんがぶっ殺したのだ。

 

 「民間が手につけた悪魔を公安が殺すのは営業妨害だからね。普通だと逮捕されちゃうよ」

 

 私は優しくそう言うが、パワーちゃんは不満気だ。

 

 「パワーちゃんはもうちょっと考えて行動しないといけないね。

 デンジ君もパワーちゃんが突っ走っちゃった時に抑えれるようにがんばってね。」

 

 「え?俺も〜?」

 

 「そうだよ、デンジ君はパワーちゃんのバディだからね。支え合うのがバディだよ。」

 

 「そうじゃぞデンジ!しっかりワシを支えんか!」

 

 ノリノリでデンジ君を非難し始めるパワーちゃん。

 

 「はあ〜!?何言ってんだテメェ!テメェがナマコの悪魔殺したのが悪いんだろうが!」

 

 「それはウヌが殺せって言ったからじゃろ!」

 

 「ふざけんじゃねえ!マキマさん俺そんなこと言ってないです!言ってねぇ!よ〜んな嘘が言えたもんだなあ!?」

 

 「嘘をつくな嘘を!ワシはしかとこの耳で聞いたぞ!」

 

 2人はどんどん激しく口論を始める。

 

 「うん、パワーちゃん、静かにできる?」

 

 私は能力で鎖を出して、懐から怖い話のたくさん載った本とピーマンを取り出した。

 パワーちゃんは恐怖して静かになった。しめしめ、私のエンドレスホラーヤサイマシマシヒメパイイタズラゴースト祭りが功を奏したようだ。いや姫パイのゴーストを使ったイタズラは別に私じゃなくて姫パイが勝手にやったんだけど。

 

 「で、できる」 

 

 「ああ……!?」

 

 急にだまったパワーちゃんにデンジ君が困惑する。

 

 「偉いねパワーちゃん。それじゃあ、どういう経緯でナマコの悪魔を討伐したのかもう一度思い出してみよっか。勘違いや聞き間違えがあったのかも知れないしね。」

 

 コクリ……とパワーちゃんが頷く。

 

 「まずどういう経緯で悪魔を見つけたの?」

 

 「まずワシが血の匂いを嗅いだんじゃ」

 

 「デンジ君、その話はどう?」

 

 「ああ、確かパワーがそう言って動き出したな、それで……。」

 

 「ああ、デンジ君。ちょっとだけ待ってもらって良いかな?デンジ君の話も聞きたいんだけどさ、一旦パワーちゃんの主張を聞いてからにしたいんだ。私的には今回はその方が状況を把握しやすいと思ったんだけど……ダメかな?」

 

 「大丈夫です!」

 

 デンジ君が元気よく返事する。

 

 「まったく、ワシが話す番なのにそれを無視しようとするとは、デンジは子供じゃのう。」

 

 「ああ!?」

 

 パワーちゃんが余計なことを言い、デンジ君が怒りそうになる。

 

 「ストップストップ、パワーちゃんも余計なこと言わないの。デンジ君も言いたいことはあるだろうけど、我慢してもらっても良い?」

 

 「マキマさんがそう言うなら……」

 

 デンジ君が不満そうにパワーちゃんを睨みながら言う。

 

 「ありがとうデンジ君。じゃあパワーちゃん、その血の匂いを嗅いでどうしたの?」

 

 「ワシは悪魔と戦うために、走りながら、血で武器を作り、ビルの屋上から飛び降りたんじゃ!」

 

 「ふむふむ、それで?」

 

 「そしてワシは下にいた悪魔に血のハンマーで鉄槌を下して、叩き潰してやったのじゃ!」

 

 「うんうん、それでその時デンジ君はどうしてたの?」

 

 「デンジはすっとろいからのぉ……。何もせずに終わったぞ!」

 

 「………そっかぁ。そっかぁ……デンジ君?今の話でおかしいところとか、変なところはない?」

 

 「あー、ありません。パワーが言う通りに俺が何かする暇もなく終わりました。」

 

 パワーちゃんは自分が自白したことに気づかず、ガハハと誇らしげに笑っている。

 パワーちゃん……。デンジ君を煽って楽しんでいるうちに、勝手に殺したせいで怒られたことを忘れてしまったようだ。おそらく言い訳を始めてから時間が経っていなかったため、都合のいい記憶改変も起きてなかったのだろう。

 

 私はパワーちゃんを鎖でぐるぐる巻きにして、抵抗できなくしてから、今日のお昼ご飯の野菜オンリーなヘルシーサンドイッチをパワーちゃんに無理やり食わせた。

 

 デンジ君が少しビビってたけど……仕方ない。

 

 

 

 

 

 「パワーちゃん、デンジ君。私は2人の活躍が見たいんだ。私に活躍が見せられそう?」

 

 「み、み、み、みせ!みせっみせる!見せる!見せますから!どうか!どうか!ご慈悲を!ワシにご慈悲を!もう、あの部屋に行くのは!あの幽霊部屋だけは!」

 

 パワーちゃんがビビりながら、必死に命乞いをする。

 

 「よし、パワーちゃんはちゃんと反省して、頑張ろうとしてて偉いね。」

 

 私はパワーちゃんを優しく撫でる。でもパワーちゃんは恐怖でガタガタ震えてる。

 そりゃ、野菜サンドイッチ無理やり食わせたし、私にされたトラウマを思い出してるんだ。そりゃそうだろう。

 

 「デンジ君」

 

 「あ、は、はい。なんすか?」

 

 「パワーちゃんもちゃんと反省したみたいだから、次は頑張れる?」

 

 「……はい。」

 

 デンジ君が少し元気なく言う。

 ……もしかして、ビビられてる?悲しい……。




 流石に生ピーマンを食わせないで、野菜サンドイッチで済ませるだけの良識が偽マキマさんにはあった。
 姫パイには無さそう……嬉々として生ピーマン食わせて笑ってそう。生ピーの原罪。


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7話 圧迫面接・夢バトル・そしてお見舞

7話 圧迫面接・夢バトル・そしてお見舞

 

 

 

 私はパワーちゃんを叱った後、お偉いさんの対応をしていた。

 部屋の光源は窓の光だけで、全体的に暗く、私に対してプレッシャーをかけたいのか、偉い人たちが一列に並んで私を問い詰める構図となっている。味方は後ろで私を見守ってるアキ君だけだ。

 

 「願わくば日本の敵は悪魔だけであって欲しいものだがな。」

 

 「マキマ君……君にあげた部隊の犬は育っているかね?」

 

 偉い人の言う犬、それは私が部下にしている悪魔のことだ。ようはパワーちゃんとかエンジェル君とかそういうの。

 みんなちゃんと人格があるのに犬扱いするなんて嫌な奴らだ。これだからお偉いさんは好きになれない。

 

 「期待に応えられそうなのが『1人』、そしてまだ未熟ですが潜在能力は計り知れないのが『1人』……と言ったところです」

 

 私は『1人』と言う部分をしっかり強調して言う。大事な大事な仲間なんだから、家畜扱いペット扱いはしない。いや、ペットも家族的な考え方を貶める気はないが、このお偉いさんはペットを家族並みに大切に扱わないタイプの人だろうし……。

 

 「随分と肩入れするんだな。君の仕事は犬を育てて使うことだ。くれぐれも情は入れてくれるなよ」

 

 私はそれに対してニコリともせず真顔で対応した。

 

 

 

 

 アキ君と部屋を出て、公安本部に戻るために私たちは車に乗ることにした。

 

 「アキ君、運転は私がやるよ」

 

 「ええ?そんな悪いですよ。」

 

 「いやいや、アキ君にはデンジ君の面倒を頼んじゃったし、これくらいやらせてよ。それに私の車だし。」

 

 「そうですか、じゃ遠慮なく。」

 

 そう言うとアキ君は車の助手席に乗り込んだ。

 

 そして他愛もない話をして、話題はデンジ君についてになった。

 

 「マキマさんはどうしてそんなにデンジに期待するんですか?」

 

 「うーん、彼の実績とかデビルハンター向きな精神とか、それと彼の能力とか……色々かな?」

 

 「でも実際のところ、使えません。公安は目標や信念がある者だけしかいない。でもアイツはダラダラ生きたいだけだと言ってました。公安に相応しくないですよ。」

 

 アキ君はそうつまらなそうに言う。

 

 「今のデンジ君は、銃の悪魔を倒した直後のアキ君みたいなもんだからね。」

 

 「はあ?」

 

 私がそう言うとアキ君は困惑しながら聞き返した。

 

 「デンジ君はね、今まで夢見てきた夢を掴んだ直後なんだよ。棚ぼたな感じだけどね。だからデンジ君自身も戸惑ってて、とりあえず今の状況を維持すること、今の生活を堪能することで精一杯なんだよ。

 アキ君も、もし銃の悪魔を殺すことができても、そんなすぐに次の夢とか目標なんて思いつかないでしょ?」

 

 私はアキ君にそう言う。

 

 「……マキマさん、アイツの叶えた夢って一体なんなんですか?」

 

 アキ君が私に尋ねる。

 

 「うーん、飢えに苦しまなくて、まともな家に住めて、ヤクザにこき使われずに借金から解放されることかな?これで彼の家族だった悪魔がいれば文句はないんだろうけど……その悪魔はデンジ君の心臓をやってるからね。」

 

 それを聞いたアキ君が少し引きながら言う。

 

 「あいつ……どんな人生送ってきたんすか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 デンジは絶体絶命の危機に立たされていた。後ろには動けないパワーとニャーコ、そして前にはヒルの悪魔がいた。

 

 「み〜〜んな俺のヤる事見下しやがってよお……。復讐だの、家族を守るだの、猫救うだの、あーだのこーだの……。

 

 みんな夢持ってていいなア!じゃあ夢バトルしようぜ!夢バトル!!

 俺がてめーをぶっ殺したらよお〜…!

  テメェの夢ェ!胸揉む事以下な〜!?」

 

  デンジは周りと違い、大きな夢や目標を持っていないコンプレックスや悩みを爆発させ、その怒りをヒルの悪魔に向けながら叫んだ。

 

 「吠えててカワイイわあ!いいわ!私が食べてあげる!」

 

 「ぎゃッハ!いいぜ!俺に夢バトルで勝ったらなア!」

 

 強気で勝負を続けるデンジ、しかし彼の劣勢は明らかだった。

 デンジの戦いを見ていたパワーは、ふとデンジとパトロールを開始する前に、マキマから緊急時の回復用に輸血パックを渡されていたことを思い出した。

 

 (デンジの輸血パックは……あ、コウモリの悪魔に握りつぶされ、血を搾られた時に一緒に潰れてしまったのか。じゃがワシの分の輸血パックはまだ残っておる!)

 

 パワーは必死に力を振り絞って、輸血パックの血を飲み干し、体力を回復させた。

 

 「デンジィ!ワシもその夢バトル参加じゃ!ワシはもうニャーコを助け終わったからのぉ〜!!

 取り敢えずマキマへの嫌がらせじゃ!ワシの夢はマキマに野菜を食わせ返してやることじゃああぁぁぁ!」

 

 

 そう叫びながらパワーは血で剣を作り、ヒルの悪魔に斬りかかった。

 

 「ぐっ!うるさい犬が増えて煩わしいわね!まずはお前から始末してあげるわ!」

 

 そう言うとヒルの悪魔は舌を突き出してデンジの腹を貫いた。

 

 「いただきまぁす!」

 

 「させるかぁ!」

 

 しかしパワーがすかさず血で槍を作って発射し、ヒルの舌を切り落とす。

 しかしデンジを咄嗟に救うために放った血の槍の分、血液を失ったためパワーは貧血状態に陥ってしまう。

 

 「んもぉぉおオ!さっきから邪魔くさいのヨォ!でも……もう限界みたいね……。」

 

 ニタニタとヒルの悪魔は笑いながら言う。

 

 「貴方達と遊ぶの楽しかったけど、もう飽きたわ。それじゃあね。」

 

 ヒルの悪魔が大口を開けて動けないデンジとパワーにかぶりつこうとする。

 

 

 

 「コン」

 

 

 その時だった。巨大な狐が現れて逆にヒルの悪魔にかぶりついたのだ。

 

 「こいつはヒルの悪魔だね、飲み込んでいい?」

 

 「よし」

 

 その狐の正体は早川が呼び出した狐の悪魔だ。デンジの目に4人の男女が映る。

 

 なにやら早川の指示する声を聞きながら、デンジは『夢バトル』とうわ言のように繰り返したのだった。

 

 「安心せいデンジ。この夢バトル、ワシらの勝ちじゃて!」

 

 パワーのその声を聞いて、デンジは安心して眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 夕方の静かな病院、そこに私は向かっていた。目的はコウモリとヒルの悪魔と死闘を繰り広げたデンジ君のお見舞いだ。

 部屋に入るとデンジ君はスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

 

 

 「……デンジ君お疲れ様。」

 

 私はそうポツリとつぶやいた。

 支配の力で今日の戦いを私は見ていた。デンジ君のお腹にヒルの悪魔の舌が刺さった時など、心臓が止まるかと思ったものだった。その時に助けに入ってくれたパワーちゃんやアキ君には感謝の思いでいっぱいだ。

 

 私はボロボロになったデンジ君を見て、とても胸が苦しかった。腕を吹っ飛ばされる……。その痛みは私も公安のデビルハンターとして働いているので、何度かそういう目に遭ってることからその苦痛は理解できる。あれは人が体験するような辛さではない。

 私は何度も何度もこの第二の人生で悪魔や犯罪者と戦い、地獄のような日々を味わってきた。もしこんな苦しみを仕組んだものがいたなら、私はその仕組んだものに対して絶対にキレる自信がある。

 それは誰だってそうだろう。デンジ君だって……いや、デンジ君は今までの環境があまりにも酷すぎたし、すごいポジティブだから気にしないかもしれない。

 だが……デンジ君を心から愛しているポチタはどうだろう。ポチタはデンジ君のために自分の心臓をあげるくらい、デンジ君を愛している。ポチタにとってデンジは、『誰かに抱きしめてほしい』という願いを叶えてくれた存在だ。そしてポチタはデンジ君がもっと子供の頃からずっと支えあって生きてきた家族のような存在だ。きっと……ポチタとデンジ君をこうなる前に見つけることができず、公安の職員として危険な目に遭わせ続ける私のことを許さないだろう。

 

 私はこの第二の人生で、デンジ君と出会えることをモチベーションに生きてきた。何度も辛い目にあったし、挫けそうにもなった。それでもデンジ君と出会うことを楽しみにしていたからこそ、今の自分があると言えるだろう。私はデンジ君には多くのものを貰った、前世でも……そして今世でも。

 だが私はデンジ君になにが出来るだろうか、原作の真マキマさんはデンジ君に多くのものを与えた……与えたものを奪い、デンジ君の心をへし折るために。

 私がデンジ君にしてあげられること、それは原作の真マキマさんよりも多くの幸せをデンジ君が体験できるようにすること、そしてその幸せが奪われないようにすることだろう。私は固く決意した。

 

 「ポチタ……いや、チェンソーマン。君は私を許さないだろうね。

 私がもっとしっかりしていれば、君たちともっと早く会えていれば、こんな過酷な運命を歩まずに済んだのに……。

 でも私はデンジ君が幸せな夢を見続けられるよう、精一杯私も頑張るつもりなんだ。私なんかじゃあまりにもポンコツで力不足かもしれないけど、それでも私なりにデンジ君を幸せにできるよう努力するよ。」

 

 

 スヤスヤと眠るデンジ君の髪を撫でながら私は言った。

 

 

 




 ポチタ「な、なんか知らないけどめっちゃ謝られてる……私がマキマさんのこと許さないとか言われてるんだけど心当たりが全くない。どうしよう……」


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8話 デンジ君へのお見舞いと月本さんとの契約

日間ランキングで総合43位 2次創作 37位になることができました。
これも皆さんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。


 

 

 日の傾いた警察病院の一室にて、1人の少年が目を覚ました。

 

 「ん……んん……マキマさん?」

 

 やっべ!デンジ君起こしちゃった!どうしよう……どうしよう。

 

 「あ、起こしちゃったかな?疲れてるのにごめんね。」

 

 私は起こしてしまったデンジ君に謝った。

 

 「あ、いや、別に大丈夫っす。どうせやることないんでただ寝るか、ここに置いてあるテレビ見るだけっすから。マキマさんはどうしてここに?」

 

 「デンジ君のお見舞いだよ、仕事で遅くなっちゃってごめんね。」

 

 「いや、きてくれるだけで超嬉しいっすよ。そういえばマキマさん、今日俺また悪魔倒しましたよ!」

 

 「聞いた聞いた!これで公安に入ってから2体目だね!いいペースだよ!」

 

 そして私はデンジ君の活躍を、デンジ君の口から直接聞いた。小動物の目を介して見てたけど、デンジ君の口から聞く戦いの話はそれに負けず劣らず、いやそれ以上に面白い。

 デンジ君の身振り手振りや、ちょくちょく挟まれるデンジ君特有の喋り方、デンジ節が小気味良くて結末や話の流れを知っていても、聞いてて飽きがこない。

 

 「そうそうマキマさん、パワーの奴夢バトルで野菜食わせるとか言ってたんで気をつけたほうがいいっすよ。……はぁ、夢バトル。」

 

 デンジ君は夢バトルの話になって、少し元気がなくなった。デンジ君的には、他のみんなと違って大きな夢を持っていないということを気にしているようだ。

 もちろん今のデンジ君はなにも夢を持っていないわけじゃない、女性の……その……胸を揉むという夢というか目標を立てているのだが、それでも偉い夢じゃないという自覚があるみたいでそこそこ悩んでいるようだ。今回の事件の話もデンジ君は恥ずかしいのか、自分の夢の内容についてはちょっとぼかしてた。

 

 「デンジ君、そんなに夢について悩まなくたって良いよ。

 確かデンジ君は少し前までは人並みの暮らしをするっていう夢を持ってたんだよね。」

 

 「ん……まぁ、そうっすね。もう叶いましたけど。」

 

 「でしょ?だったら胸を張ればいいんだよ!もう俺は夢を叶えてやったってね!」

 

 「そうっすか……?でも他の人に比べると、普通の暮らしを送るってその……ショボい気がして。復讐とか家族守るとか、そんな偉くなさそうっていうか」

 

 「でも、それはデンジ君がずーっと夢見てきたものだったんでしょ?ショボいか派手かなんて関係ないよ。

 それでも気になるって言うんだったら、『命を助けてくれた友達との約束を果たし続ける』。

 これから他の人に馬鹿にされたら、そう言ってやればいいんだよ!

 だってポチタ君とそう約束したんでしょ?デンジ君はポチタの心臓を貰う代わりに夢を見せ続けるって。ショボいショボくないだなんて言い方ひとつで変わっちゃうもんだよ。

 家族を守るだって結局は現状維持で何かを変えるわけじゃないし、復讐だって超悪くいえば嫌いなやつに嫌がらせしたいって事だし。」

 

 私は笑顔で言った。それを聞いたデンジ君は声を出して笑った。

 

 「ちょ、ギャハハ!マキマさん、嫌がらせってマジだ!ギャハハ!言われてみれば今のパワーの夢って超しょベーじゃん!」

 

 「確かに!でもパワーちゃんのことだからどんな手段で来るか……こりゃ私も気をつけないとね。」

 

 私との雑談でデンジ君は夢に関する悩みが吹き飛んだみたいだ。それからも私はデンジ君と話を続けて私の予定がギリギリになるまで話を続けた。

 

 

「デンジ君とお話しできてよかったよ。最後にお見舞いのプレゼントだけ渡して帰るね。」

 

 「プレゼント!!なんすかなんすか!?」

 

 デンジ君がすごいワクワクしながら聞いた。

 

  「はい、これ。すぐに退院できるかもしれないけど、暇つぶし用に買ってきたんだ。家でも時間があったら読んでみてよ。」

 

 「……本っすか」

 

 デンジ君が少し残念そうな顔をする。だがしかーし!本をプレゼントされても、そこまでデンジ君が盛り上がらないのは想定通りだ!デンジ君は読める漢字が少ないからね、そんなデンジ君でも大丈夫な本を私は用意したのだ!

 

 「はぁ……て、これ!漫画じゃないっすか!すげえ!」

 

 そう!私がチョイスしたのは漫画だ!デンジ君が読めるように小学生向けの漢字にふりがながついたタイプだ!しかも、ただの漫画じゃない。

 

 「えーと、『漫画でわかる日本歴史大全』に、『世界歴史大全』、『漫画なぜなに悪魔の知識』、あと『ワカッター!社会編』と『科学編』。こんなにいいんすか!?」

 

 私が選んだのは、子供向けかつ勉強になる学習漫画なのだ!デンジ君は原作で小学生向けの月刊漫画雑誌を読んでたし、教育番組だってみてるから気にいるんじゃないかと思って買ったけど、予想通りで安心した。

 

 「マキマさんありがとっす!いやマジでありがてェ!これが……マンガ……!」

 

 デンジ君は初めて読む漫画に大はしゃぎだ、そんなに喜んでくれるとこっちも嬉しくなる。

 

 「マキマさん、俺、これ絶対に大切にします!」

 

 デンジ君が本を抱きしめながら言う。

 

 「喜んでくれて私も嬉しいよ、ちょっと本の数が多いから、退院する時はうちの部下に車で運ばせるから、持ち帰りのことは気にしなくて大丈夫だよ。」

 

 私は笑顔で答えた。

 

 「ええ!?マジっすか!至れり尽くせりで悪いっすね」

 

 「いいんだよ、デンジ君は活躍したんだし。それじゃあしっかり休んで英気を養ってね」

 

 そう言うと私は病室から退室した。

 

 

 

 

 

 「マキマさん、その車で運ぶ部下って俺ですか?」

 

 付き人の月本さんが怪訝な顔で私を見る。

 

 「うん、明日は月本さんも予定空いてるよね。お願いしても大丈夫かな?」

 

 「空いてますけど……ま、いいですよ、マキマさんの頼みなら。」

 

 月本さんは笑顔でそう言ってくれた。

 

 「ありがとう、そうだ月本さん。ちょっとお話があるんだけどいい?」

 

 「ええ、いいですよ。なんです?」

 

 「ここじゃなんだから場所移そっか、長い話になるし。」

 

 そう言って私は警察病院の個室を借りて月本さんと話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、マキマさん。話ってなんですか?」

 

 「……月本さん、単刀直入に言うけどこれから公安は襲撃を受けることになる。そしてその襲撃者は銃を使用してきて、大多数の職員が最初の奇襲で撃たれてしまうんだ。」

 

 

 私はもったいぶらずにこれから起こる運命を月本さんに伝えた。

 

 「……は?な、なに言ってるんですかマキマさん……じょ、冗談きついですよ」

 

 「冗談じゃないよ、これは事実だ。未来の悪魔の力で知り得た情報だ。公安対魔特異4課だけじゃない、1課も2課も、3課だって襲われる。そして人外職員、魔人や悪魔を除いてほとんど生き残らない。」

 

 実際私は具体的にどの日時で襲撃が起こるのかを把握するために、死刑囚を代償に未来の悪魔と契約した。

 

 「……………。」

 

 月本さんは何も言えずに、汗を流して黙り込む。困惑、不安、焦り、後悔、そして……恐怖。さまざまな感情が押し寄せているのだろう。私も悪魔に転生したおかげで、特に恐怖の感情はハッキリと感じられた。

 

 「……そ、それは、俺も襲われるんですか?その、その襲撃は防げないんですか!?」

 

 月本さんは救いを求めるように私に尋ねる。どうか生き残る術があってほしい、自分はどうにか助けてほしい。そう言う期待を込めて私に尋ねる。

 

 「うん、月本さんも襲われるよ。私と一緒に新幹線に乗っている時に刺客に何発も銃弾を私と一緒に撃ち込まれるんだ。腹も胸も、そして頭も撃ち抜かれるよ。」

 

 それを聞いた月本さんは顔が青ざめる。不安を煽って悪いけど、ここからさらに一旦絶望させて貰う。

 

 「この襲撃を防ぐ手立ては十分ある。」

 

 それを聞いた月本さんはごくりと唾を飲んだ。

 

 「でも私は防ぐ気はない」「何故ですか!?」

 

 月本さんは声を荒げて言った。そりゃそうだ、殺されずに済むかもしれないのにそんなこと言われたら冷静でいられる訳がない。

 

 「理由は簡単、ここで襲撃を防いでもすぐ次の別の襲撃が起こるんだ。襲撃犯はおそらく傀儡で、黒幕は別にいる。だから一旦襲撃させて言い逃れをできない状態を作ってから逆襲して次の手を打てないぐらいに叩き潰す必要がある。

 そうしなければ、公安は襲撃を防ぐことにリソースを割き続けることになって、最終的に体力が尽きてしまうからね。そしたら襲撃を防ぐどころか、最終的に悪魔の討伐にすら手が回らなくなるだろう。

 だから、ここで襲撃を受ける必要がある。」

 

 それを聞いて月本さんはがっくりと項垂れた。

 

 「マキマさん、俺は……いえ、私は……。」

 

 月本さんは必死に口から声を絞り出しながら言う。

 

 「悪いけど退職は受け入れられない、機密保持の為に今公安メンバーを辞めさせるわけにはいかないんだ。

 それに襲撃前にターゲットである公安を辞めても、何かの策略とかを疑って念の為に辞めた君を襲撃するだろうし辞めても意味ないよ。」

 

 私は念入りに月本君の逃げ道を防ぐ。悪いけど徹底的に追い詰めさせてもらう。私の計画を成功させる為には、月本君にも私の言うことにしたがってもらう必要があるからね。

 

 少しの沈黙が過ぎ去り、ようやく月本君は私に言った。

 

 「最後に聞かせてください、それは銃の悪魔を倒すのに役に立ちますか?」

 

 「立たないね。銃の悪魔が関わってるかもわからないし、この襲撃を防ぐ程度じゃあの悪魔を追い詰める決定打には到底ならないだろうね。」

 

 そう言うと月本君は絶望した顔をした。私の作戦はまずはここまではうまく行ったようだ。徹底的に希望をへし折り、絶望を突き付ける。

 そして、そこからだ。そこから希望を与えて、それに縋らせる。私が月本君を徹底的に追い詰めたのは、何も月本君が嫌いだからじゃない。むしろ関係が深い分、好きな人の部類に入る。

 だからこそ生きてほしいし、その為には私の思い通りに動いてもらう必要があった。私がやっているのは飴と鞭や、悪い警察といい警察に見られるタイプの交渉のテクニックだ。

 徹底的に追い込んだ後に、優しい希望を見せて、それで相手の心を掌握する。なんかこれDV彼氏みたいだな……。デンジ君に対して行ってるのも意図してないけど同じじゃないのか?そう考えるとすごい憂鬱になってきた。

 

 いや、今は月本君だ。とにかく月本君を説得するのに集中しよう。

 

 「でも、月本君。きみが無事に生き延びる方法が一つある。」

 

 それを聞いて、魂が抜けた表情をしていた月本君の顔つきが変わった。

 

 「ど、どうすればいいんですか!?」

 

 「悪魔と契約して、その襲撃の際のダメージを私に移すことだ。」

 

 「へ?」

 

 「もちろん、銃で撃たれた瞬間はすごく痛いだろうね。でもそのダメージはすぐに私に移るから、傷はすぐに治るよ。

 それとこのダメージを移す契約をするしないに関わらず、今している襲撃の話は悪魔の力で忘れてもらう事になるね。さっきも言ったけど情報漏洩が心配だから、君が襲撃を受ける直前まで身構えもできないから襲撃の際は相当辛いかもしれない。

 後ダメージを移す能力を持つ悪魔は、国家レベルでトップシークレットの悪魔だからどんな悪魔と契約したのか、それは襲撃が終わっても思い出せないようにさせて貰うよ。

 簡単な話じゃないと思うけど、今決めてほしい。少なくともここで契約すれば、一番死にやすい初手の奇襲とそこから10手ぐらいの攻撃は防げるはずだから、生存率は段違いだよ。……どうする?」

 

 私は一気に話して、月本君に迫った。私が話したの要するに、『これから悪魔と契約すれば、襲撃されても多分無事でいられるぞ。でも襲われるまでこの話のことは忘れるし、契約した悪魔については絶対思い出せないぞ』って事だ。

 死亡率100%から生存の可能性が生まれるのだ。月本君からしてみれば飛びつきたい話題のはずだ。

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。マキマさんにダメージを移す!?そんなことしたらマキマさんは……」

 

 あ、どうでもいい事に食らいついてきた。この話するとみんなここら辺に食いついて脱線するんだよなぁ。

 

 「それについては気にしなくていいよ。襲撃までに別の悪魔の力で撃たれても問題ないようにする予定だから。最悪その計画が失敗しても、私もその悪魔の力を使って、ダメージを喰らわないよう工夫するよ。」

 

 それを聞いて、少し落ち着いたのか深呼吸してから言った。

 

 「すいませんがそのお話、辞退させて頂きます。最近入った新人、荒井の奴はお袋さんの為に必死になって頑張ってるんですって。

 特に家族のためとかじゃなくて、ただデビルハンターへの憧れで入ったような俺なんかよりも、彼の方がよっぽど生き残るべきです。

 それに黒井の奴だって、マキマさんが新人を救ってくれたってすごい喜んでたんですよ……。『これでバディの伏さんも悲しまずに仕事できる』って。それであいつらが死んで俺だけ生き残ったら、あいつの喜びは一体なんだったんですか?じゃあなんであの新人は生き残ったんですか!?

 俺にはわかりません……。なんで俺が襲撃で死なないようにマキマさんに選ばれたのか……。 

 だから俺は辞退します。俺を生き残らせて、他の奴を死なせるぐらいだったら、俺を死なせてください。」

 

 月本さんが言う。

 

 「……?いや、別に誰も死なせるつもりないけど。」

 

 「え?」

 

 「ああ、ごめんまだ言ってなかったね。他の人と話すときはちゃんと言ってたんだけど、言うのが抜けてた。

 この契約の話は君にだけしてる訳じゃないよ。」

 

 汗水を垂らしながら月本さんが尋ねる

 

 「……それって、どう言う事ですか?」

 

 「私が1課2課3課4課の全員を回って、この契約の話をしてるって事です。

 なので襲撃の時はみんなのダメージが私に行って大変なことになるね。ハハハ……。」

 

 月本さんがドン引きの顔をしてる。

 

 「ごめんね。月本さんのことは大切だけど、だからといって月本さんだけを救うわけにはいかないんだ。だから契約できる人は全員助けさせて貰うよ。悪いね月本君、私にたった1人だけ選ばれた生存者じゃなくて。」

 

 「……マキマさん、それ大丈夫なんですか!?悪魔の力を借りるとはいえ、たった1人でそんな大勢のダメージを受けたら!それにそのダメージを無効化するための契約の代償だって!」

 

 私は胸を張って言う。

 

 「私は君の上司だよ?上司が体張るって言ってるんだ。部下である君はそんなこと気にせずドーンと任せておいてよ!

 まぁ……私も死ぬほど襲撃が不安だけどね。何せ全員のダメージがいくんだから相当痛いだろうし……。でも私は全体の状況を把握したり、いろいろ手回しが必要だから、襲撃を忘れるわけにもいかないんだ

 いやー、管理職は辛いよ全く。」

 

 私は笑いながらごまかす。

 

 月本君は少し考えてから言った。

 

 「わかりました、マキマさんには何度も助けて貰いました。

 私だけを守ると言うことでしたら、辞退して他の人を守って頂いた方が良いかと考えていました。

 ですがマキマさんがそう言うのであれば、安心です。恥ずかしい話ですが、また助けていただいてもいいですか?」

 

 「うん!大丈夫だよ。バーンと私を頼っちゃって!」

 

 私は胸を叩いて言う。

 

 「それじゃあ、その悪魔と契約させてください。と言っても……私に代償が払えると良いんですが。」

 

 「ああ、それなら大丈夫だよ。

 それじゃあ月本君、

 

 

 

 私と契約しようか。   」

 

 

 

 

 「は?」

 

 

 月本君はポカンと口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、運転お願いね。それと缶ジュースありがとう。」

 

 「……?」

 

 車で運転席に座る月本君が困惑している。

 

 「どうしたの?」

 

 「いや、別に、何か忘れてる気がして……。」

 

 支配の力で記憶を消したせいで、少し混乱しているようだ。

 ん?支配の力はなるべく使わないんじゃなかったか?同意の上で記憶を消すならノーカンノーカン!これくらいなら必要なことってきっとみんなも許してくれるよ!だからきっと岸辺さんも……許してくれるといいなぁ……。

 

 「え、あっはい。俺マキマさんに缶ジュース奢りましたっけ。」

 

 「いや、これは奢ってもらったんじゃなくて正当な対価として頂いたんだよ。ま、気にしない気にしない!」

 

 そう言うと私は、ダメージを移す契約の対価としてもらった缶ジュースを、チビチビと味わいながら飲んだ。

 

 



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9話 姫パイと荒コベコンビ

 

 

 

 「で?言い残すことはあるマキちゃん?」

 

 「違うんです……違うんです姫パイ、いや姫野

さん、姫野様。本当に違うんです。許してください。」

 

 私マキマ、いや偽マキマは危機に瀕していた。目の前にはブチギレてる我が公安対魔特異4課の眼帯美女、姫パイこと姫野様が仁王立ちしていた。

 私は死を覚悟して、床に正座してただひたすらに許しを乞うことしかできない。

 

 「私ね?最初マキちゃんがアキ君のところに武器人間……だっけ?その武器人間の少年を住まわせるって聞いた時はね、半殺しだけで済まそうとしてたんだよ?」

 

 「ひ、姫野先輩!上司を半殺しはまずいです!」

 

 「荒井君は黙ってて」

 

 「は、はい」

 

 「ど、どうしよう……どうしよう……。」

 

 姫パイが殺気を私に向けながら怒り、それを新人の荒井君が静止するも姫パイに封殺され、コベニちゃんはひたすらあたふたしている。

 私は休憩時間に姫パイに呼び出されて、お叱りを受けていた。見よ、この部下からお叱りを受ける哀れなポンコツ上司の姿を!

 

 「でもさぁ、女の子の魔人を彼女持ちに同居させるってどういうことなの?ねぇ?んー?」

 

 姫パイがキレイなアイアンクロー(顔を手で鷲掴みして指先の握力で締め付ける技)を私の顔面にかまして、顔に圧力をかけ痛!痛い痛い痛い!冷静に実況してる場合じゃないぞこれ!?ヤバい!ヤバいって!

 

 「ひ、姫野先輩!」

 

 「おっと、力入れすぎちゃったか。で、マキちゃんさあ、何でそんなことしたの?」

 

 「それは……2人をまともにして貰えるように考えた結果、デンジ君とパワーちゃんの面倒をアキ君に見て貰うのが一番という結論に至って。」

 

 「ふーん。で、何でアキ君なの?」

 

 「それは……あの2人をまともに出来るのは、2人を抑えるだけの実力と気合いがあって、常識的な人しかいないと思いまして……。それを考えたらもうアキ君しか居なかったのでそうなりました。」

 

 「本当にアキ君しかいないの?よく考えたのマキちゃん?」

 

 訝しみながら姫パイが私に尋ねる。

 

 「うん、常識的な人だと他には伏さんや円さんがいるけど、実力面で不安だし2人に逆に引っ張られちゃうなーって。

 他のメンバーだと実力はあるけど、性格面や常識面で難があるから……。だからそれを考えるとどう足掻いてもアキ君になっちゃう訳なんです。はい。」

 

 「ねぇ、私は?私はどうなの?」

 

 「え?姫パイ?だって姫パイは一応実力はあるけど性格面で一番問題があるタイプだし2人の面倒なんてみ痛い痛い痛い痛い!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁ!」

 

 姫パイは再び私にアイアンクローをかまして、私に汚い悲鳴を上げさせた。こちとら乙女なのに!姫パイみたいなおっさん女じゃないの痛い痛い痛い痛い!握力強まった!これ絶対握力強くなったって!助けて!助けて!助けて!

 

 

 「マキちゃん、今絶対私のこと心の中で悪く言ったでしょ。付き合い長いんだからわかるよ。」

 

 「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!許して!許して許して許してえぇぇぇぇ!」

 

 私は新人2人の前でみっともない姿を晒しながら命乞いをした。

 

 「全く、これ以上アキ君のところに同居人とかが増えたりしないよね?」

 

 「ヒャ!姫野様!姫野様!ぎゃああああ!増えない!姫野様!言うこと!絶対!アキ君!同居人!増えない!」

 

 「よーし!言質取ったどー!……これで増えたら次ゴースト使うからね?」

 

 「洒落にならないから!ゴーストは洒落にならないから!」

 

 「だったら増やさなければいいだけでしょ?

 ……あ、2人とも個人的な用事に付き合わせちゃってごめんね?」

 

 「は、はい。」 「うう……怖い。」

 

 姫パイは荒井君とコベニちゃんの2人に謝った。姫パイのせいで新人2人からの印象がだいぶ情けなくなってしまった……悲しい。

 

 「あ、そうだ。お詫びと言っちゃ何だけど、今度飲みに行こうよ!

 あ、新人歓迎会も兼ねちゃえば一石二鳥じゃん!

 というわけでマキちゃん、今回の件許すから飲み会のセッティングとかお願いね。それと奢りもよろしくぅ!」

 

 スムーズな流れで姫パイが飲みの予約を入れる。

 

 「おっしゃあ!マキマさんにお任せあれ!姫パイはどこのお店がいいとか最近オススメある?

 実はアキ君と同居してる新人なんだけど、デンジ君まだ未成年なんだー。だからお酒だけじゃなくて、ご飯も楽しめるお店がいいんだけど。」

 

 姫パイの怒りが収まり、いつもの付き合いやすいノリに変わったので私もそれに合わせて柔軟に対応する。

 やっぱいつもの姫パイは付き合いやすいなぁ。

 

 「マジで!?あのアキ君と同居してる男の子の新人って未成年なの?何歳?」

 

 「16だよ。姫パイも酔っ払って飲ませたりしないでね。

 あ、そうそう!荒井君とコベニちゃんは同期とはいえ年上だから、デンジ君になるべく優しく接してあげてね。」

 

 私は荒井君とコベニちゃんにそれとな〜くデンジ君のことを頼んだ。これでデンジ君に優しくしてくれたら儲け物だ。

 

 「いやいやマキちゃん、私が飲ませるわけないでしょ!そこら辺しっかりしてるの知ってるでしょ?」

 

 「うん、酔ってない姫パイが信頼できるのは知ってる!酒が入ってなくて酔ってない姫パイはなぁ!

 酒が入ってるとそこの信頼すらも吹き飛ぶし……。ね!そうだよね荒井君!コベニちゃん!」

 

 私はここで荒井君とコベニちゃんに話題を振った。

 

 「え!?あ、あ、あ、その」

 

 「あ、あー、俺はよく姫野先輩のおふざけで緊張をほぐして頂いてます。」

 

 急に話題を振られて慌てるコベニちゃんに対して、荒井君は言葉に詰まりつつも返答した。

 

 「私の質問に対して肯定しつつ、姫パイを持ち上げる返答……おお!荒井君上手い!機転が利くねぇ!その機転を悪魔討伐にも活かせれば問題なしだ!

 コベニちゃん、こういう人が出世するんだよ!」

 

 私は荒井君に拍手しながらコベニちゃんに言った。

 

 「荒井君ありがと!てかマキちゃん、そんなに酔った私って信頼ない?」

 

 「ない、ない、ありません。逆に聞くけど姫パイは酔った自分を信頼できるの?酔った自分に責任を負えるの?」

 

 「んー無理!」

 

 「判断が早い!」

 

 元気よく返す姫パイに対して私は突っ込みながら、呆れて笑ってしまった。

 

 「そうそう2人とも、姫パイは飲み会の時だと、普段とは比にならないほど酒癖悪いから気をつけてね。」

 

 私は新人2人に姫パイの飲み会での酒癖の悪さについて警告した。

 

 「むー、マキちゃん私の事ばっかり言って……。そんなこと言ってマキちゃんこそ変なことするんじゃないのぉ?」

 

 「えー?私はそんな酔わないし酒癖も酷くないじゃん。」

 

 膨れっ面した姫パイが私に言う。

 

 「いやいや、聞いたよアキ君から?アキ君と同居してる男の子、好みとか言ってたらしいじゃん?手ぇ出したりしないでよね?」

 

 姫パイが私を揶揄いながら言う。……どうしよう、ニャーコを通してデンジ君を観察したら原作通りパワーちゃんの胸を揉んだみたいで、なんか表情から魂が抜けてたんだよなぁ。

 原作だと真マキマさんが胸を触らせて元気付けてたなぁ。原作の展開になるべくなぞることでデンジ君を強化しようとしてるし、このイベントもやっぱり起こすべきだよね!いや、公安襲撃の際の死者を減らす為の原作ブレイクしちゃう予定だけども!それでもこういうイベントとかは大事だろうし、しっかりと再現すべきだよね!うん!

 

 「………」

 

 「……マキちゃん?」

 

 私は姫パイの心配に対して無言で返すことにした。嘘をつく事はできないし、デンジ君に手を出すだなんて公言できるわけもない。答えは沈黙、これでいい!これがベスト!

 

 「ねえ、ねえってば。マキちゃん?マキちゃん!?」

 

 姫パイが私をユサユサと揺さぶる。

 

 「マキちゃん考え直して!未成年に手を出すのはまずいって!」

 

 「……姫パイがアキ君と付き合ったのって確か3年前だよね?その時アキ君何歳だっけ?」

 

 私は姫パイを黙らせるべく最終兵器をぶちかます。

 

 「あ!もうこんな時間だ!そろそろ次の任務に行かなきゃヤバい!というわけで私は失礼しまーす!それじゃあ荒井君、コベニちゃん。今日のパトロールは私抜きだけど頑張ってね!」

 

 急所をつかれた姫パイは形勢不利と悟り素早く撤退した。

 そしてその場には私と荒コベコンビが残された。

 

 「いやー、上司2人で盛り上がっちゃってごめんね?やり辛かったよね?」

 

 「いえ、俺は大丈夫です。」

 

 「あ、私も大丈夫です……普段からあまり喋れないタイプなので……」

 

 「あはは、気を使ってくれてありがとね!」

 

 姫パイと盛り上がってて、2人とあまり喋れなかったので私は荒井君とコベニちゃんと軽く雑談に興じた。

 

 「マキマさんって、結構フレンドリーなんですね。なんていうかデビルハンターとして有名だし、ベテランだから近寄り難いオーラとかある気がしてました。」

 

 「あ、私もそんなイメージでした。たくさん悪魔とか討伐してるって話を聞いてましたし、もっとエリートな感じを想像してましたけど、結構愉快な方なんですね。」

 

 2人は私と話してるうちに、私に対して好感……というか親しみを抱いてくれたようだ。そりゃ今の私は、側から見れば直属の上司にしばかれるその上のお偉いさんという威厳も何も感じられない女だ。そしてその上で、姫パイとノリノリ楽しく談笑して、2人とも話したのだ。

 お偉いさんというイメージから、ノリのいい優秀な先輩というイメージにシフトしたっぽい。私も原作で見覚えのある2人とは仲良くしたいから、ポジティブな印象を持ってもらえるのは正直嬉しい。

 

 「テレビとか新聞の広報に出てる時はザ・できる女感を出してるけど、実際はこんなもんだよ。でも流石に悪魔退治の際はもうちょっと頼りになるから、そこは安心して大丈夫!無駄に場数を踏んでる訳じゃないからね。」

 

 「姫野先輩からもマキマさんの活躍は聞いてます。なんでも悪魔と契約してる暴力団と戦って、いくつもの組を潰したとか……。」

 

 荒井君が尊敬の目で私を見ながら言う、だが実際はこんなポンコツ女でごめんね。

 私が暴力団を全国でしばき回っていたのは、ヤクザのもとでデビルハンターをしているデンジ君を救い出すためだ。情報収集を兼ねてヤクザをしばく活動していたのだが、荒井君に褒められるとあの活動は全くの無駄ではなかったのだとわかり感動する。

 

 「うん、暴力団と悪魔が結びついた犯罪は一筋縄ではいかないからね。ヤクザが関わってる分民間は関わりづらいし、普通の対魔課にはハードルが高い、そこを考えると特異対魔課の私が出張るのが一番なんだよ。

 もし順調に君達が経験を積んで出世したら、今度は2人がヤクザをしばき倒す番になるかもよ?」

 

 「お、俺がですか!?」

 

 「ひ、や、ヤクザ相手に戦いを……!?」

 

 おっと、2人をビビらせてしまったようだ。そりゃそうか、ヤクザとやりあうだなんて普通は怖いに決まってるよね。ヤバい、長年の公安勤めで感覚が麻痺ってる!

 2人とも怯えてるけど、ヤクザと戦うのは将来なんかじゃなくて、もうすぐ先の事なんだよね……。

 

 「おっと脅かしすぎたかな?ごめん、ごめん、でも安心してよ。

 万が一2人がヤクザと戦うことになっても、絶対に生き残れるよう先輩兼上司であるマキマさんが守るからさ。

 絶対にね。

 

 私は力強く言う。この宣言を決して嘘にするつもりはない。

 

 「はは、あのマキマさんが言ってくれると心強いですね。それでは万が一ヤクザに襲われた時は頼りにさせてもらいます。」

 

 「わ、私も死にたくないんでどうか、どうか絶対に助けてください!絶対ですよ!」

 

 荒井君が笑いながら言い、コベニちゃんが半泣きで言う。

 

  「うん、絶対に助けるよ。だから安心してね。」 

 

 私は2人に対してそう言い、パトロールに向かう2人を見送ったのだった。

 

 



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10話 揉ませる

 

 「よーし!次はこことここにサインして……こっちはハンコ!よし!じゃあ次の書類だね!いいペースだよデンジくん!」

 

 私はデンジ君を誉めてナデナデしながら、一緒にコウモリの悪魔討伐に関する書類を片付ける。淡々と静かに書類整理をこなすデンジ君だが、その目には生気が宿っておらず口は半開きである。

 

 「いやー、書類が多くてごめんね。公安のデビルハンターって、悪魔が出てない時は大体こんな感じで書類整理ばっかなんだよね。つまんないかもしんないけど頑張ってね!」

 

 デンジ君は心ここに在らずといった感じで、何の反応もせずにハンコ押しマシーンと化している。こっそりここにサラッと婚姻届とか混ぜても、デンジ君気づかずにそのままサインしそうだな……。 

 

 「……デンジ君大丈夫?悩みがあるなら相談乗るよ?」

 

 ついに私は覚悟を決めて、デンジ君に優しく声をかけた。

 

 「俺ぁ…俺はずっと追いかけてたモンをやっと掴んだんです。でもいざ掴んでみるとそんなモンは……俺が思っていたよりも大した事なくて……。

 もしかしたら……これから俺がまた何か違うモン追いかけて掴んだ時もっ、追いかけてた頃の方が幸せだったって思うんじゃねえのかって……。

 そんなの……糞じゃあないですか……!」

 

 デンジ君は思い詰めたように、辛そうに言葉を紡ぐ。

 アレ!?おっぱいの話かと思ってたけどまさか違う!?凄い深刻そう!ヤバい!色ボケしてて、重めの話が来ると思ってなかったからどうしよう!

 

 「デンジ君……何があったか言ってみて?力になれるかわからないけど、どんな事でも話したら少しは楽になると思うんだ。」

 

 「初めて胸を揉んでみたら大した事なかったって話です……」

 

 あ、ちゃんと胸の話だった。よかった、安心した。

 

 「そっかあ……。デンジ君、その胸を揉んだ相手は、君が揉みたくて揉みたくて仕方がない相手だったの?それともたまたま胸が揉める相手だったの?」

 

 「たまたま胸が揉める方っす」

 

 デンジ君は言う。私は原作のマキマさんを意識して、デンジ君の腕を触りながら言った。

 

 「デンジ君。エッチなことはね、相手によって幸せの大きさも変わってくると私は思うんだ。

 お互いのことをよく知っていて、お互いが愛し合ってればその分知らない人とするよりももっと幸せになれるはずだよ。」

 

 私はデンジ君に体を近づけ、デンジ君の指に自分の指を絡ませながら言う。

 ヤバい!めっちゃ緊張する!めっちゃ興奮する!落ち着け!落ち着け私!それが無理でも取り繕え!余裕のあるお姉さんムーブをかますんだ!

 

 「勿論相手の心を理解するのも大事だけど、最初はどんな体をしているのかを知る事、それから始めるのもいいかもね。

 手の形、指の長さ、手の温度……」

 

 私はデンジ君の指をひとしきり触った後、その手を私の顔に近づける。ヤバい!めっちゃ胸がバクバクしてる!

 

 「耳の形、髪の手触り、それに……指を噛む力、知れることはいっぱいあるんだよ?」

 

 私はデンジ君に耳や髪を触らせた後、指を甘噛みした。

 

 「私の体のこと、色々覚えられたかな?」

 

 「お、覚えました。」

 

 デンジ君は顔を真っ赤にしてる、私は……どうだろう。仕事の関係上、ポーカーフェイスとかは得意だけど、この恥ずかしさや嬉しさが顔に出ていないだろうか。ニタニタ笑って、気持ち悪い表情になってたらどうしよう。

 私は不安に思いつつも、意を決してデンジ君の手を私の左胸に当てた。

 

 「あア!?アっ!!」

 

 デンジ君が驚きのあまりに立ち上がって転びそうになるも、私はぎゅっと抱きしめてそれを防ぐ。

 

 「おっと危ない!……ふふ、デンジ君はこういうこと初めて?」

 

 「は、あ、ヒャイ……」

 

 「私もだよ……。ほら、私の心臓の音聞こえる?凄いバクバク言ってるでしょ。

 頑張って取り繕ってるけど、実はすっごく興奮してるんだ。ふふふ……。」

 

 私はそう言うと、ハグをやめてデンジ君からそっと離れた。

 

 「どうデンジ君?また胸を揉んでみたわけだけど、今度のも大した事ない?」

 

 「た、大した事ありまぁすっ!」

 

 顔を真っ赤っかにしてデンジ君は叫ぶ。

 

 「ふふ、良かった。私も幸せな気分だったよ……。」

 

 そして私はデンジ君に続けて言った。

 

 「デンジ君、お互いに愛し合う為にはまず自分が愛されるように意識するのが大事だと思うんだ。

 例えば身だしなみに気を遣ったり、他人にも気を使う態度をとったりね。

 そうやって頑張る事で、いろんな人から愛される人気者になれるんだ。」

 

 「人気者……。」

 

 デンジ君が私の言葉を繰り返す。

 

 「うん、みんなに愛される人気者になれば、お互いに愛し合うのはもう簡単。自分が誰かを好きになれば、それで相思相愛だよ。相思相愛なら、お互いのことをもっと知りたくなって、自然と相手のことを知れるし、自分のことも知ってもらえるんだ。

 デンジ君、世界中から人気者になれる手っ取り早い方法って興味ある?」

 

 「あ、あります……」

 

 「ふふ、じゃあ教えてあげる。それはね、

銃の悪魔を倒す事だよ。」

 

 私はデンジ君に言った。この銃の悪魔を倒すという目的、それはデンジ君とアキ君の関係をより良くするきっかけになる。

 アキ君は銃の悪魔を倒す為に、デンジ君を生かそうとするのだ。多分描写外でもこれがきっかけでアキ君がデンジ君に心を開いたりしたんじゃないかなぁと思ってる。

 

 「銃の悪魔……?」

 

 「うん、13年前に米国に出現してどこにいるかもわからない凄く強い悪魔なんだ。

 その悪魔を世界中のデビルハンターが殺したがってるけど、まだどこにいるかも分からないんだ。

 でも、デンジ君ならきっと殺せると思うんだ。だってデンジ君は他のデビルハンターとは違って、悪魔に対しても怯えずに立ち向かえる。そんな凄い人だからね。」

 

 私は微笑んで言う。

 

 「あの……マキマさん!もし俺が銃の悪魔をぶっ殺したら、マキマさんは俺の事……好きになりますか!?」

 

 デンジ君が緊張しながら言う。

 

 「ふふ、デンジ君。私は好きでもない人に胸を触らせるほど、大胆な人じゃないよ。

 でもそうだね、もしデンジ君が銃の悪魔を殺したら、今以上に好きになっちゃうかも。

 それにもし銃の悪魔を倒せば私の仕事も楽になるし、楽になった分デンジ君と一緒にお出かけしたり、遊んだりする時間もたくさん増えるだろうね。」

 

 「デンジ君と一緒にお出かけしたり、遊んだり……それってデートじゃ」

 

 「うん!そうだね!」

 

 私はデンジ君に笑顔で返す。

 

 「マキマさん!俺に任せてください!俺その銃の悪魔の野郎を絶対ぶっ殺して見せますよ!」

 

 「おお!デンジ君さっすがぁ!頼りになるね!

 ……でも、無理は絶対にしないでね。デンジ君が死んじゃったらデートどころの話じゃなくなっちゃうもん。」

 

 私はそのあとデンジ君に対して、銃の悪魔についての基本的な知識を教えて再び書類を片付ける作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 姫野は海に出没した魚の悪魔……恐らく鮭の悪魔を討伐し終わり、公安本部に帰還していた。

 

 「マキちゃんただいま!……てうおっ!マキちゃんどうしたの?」

 

 悪魔討伐の報告に訪れた姫野を待っていたのは、頭を抱えるマキマの姿であった。

 

 「あ、姫パイ……実はちょっと色々あってね。聞いてもらってもいい?」

 

 「……わかった、私になんでも言ってごらん。マキちゃんには色々お世話になってるからね。

 で、何があったの。」

 

 「うん、実は今日ね、デンジ君と書類整理してたの。それでね……それでね」

 

 「うんうん。」

 

 姫野は深刻そうに話すマキマの次の言葉を待つ。

 

 「色々あって、デンジ君に私のおっぱい触らせたの。」

 

 「何やってんだテメェ!」

 

 姫野はマキマの頭をはたいた。

 

 「バカチン!今日私が何言ったか覚えてなかったの!?言ったその日のうちにそんな事やらかさないでよ!」

 

 「だって……デンジ君落ち込んでて……。どうしよう、ふしだらな女の人だって思われたりしないかな?大丈夫かな?」

 

 「心配するところそこじゃないでしょ!」

 

 「そこだよ!そこ以外は割とどうでもいいの!あー、どうしよう、よく考えれば銃の悪魔討伐をお願いする流れも不自然だった気がする……。

 てか私の表情変じゃなかったかな!?ニマニマしてて気持ち悪いって思われなかったかな!?

 ああ、もうどうしよう〜」

 

 「……マキちゃんがご乱心してる。初めて見たかも。」

 

 そのあと姫野はマキマの愚痴を聞きながら、彼女のことを慰める羽目になったのであった。

 

 



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11話 荒井ヒロカズの悩み

 

 

 

 都内にある森野ホテルにて悪魔が発生し、民間のデビルハンターが駆除に向かうも複数名が死亡。

 その後公安に駆除依頼がされて、公安対魔特異4課の早川隊計6名が対応にあたる。

 そして早川隊が突入してから3時間足らず、森野ホテル内にいた悪魔は駆除され、一名の欠員も出ることなく任務は成功に終わった。

 これだけ見れば大戦果も大戦果、どこからみても非の打ちどころない結果と言えるだろう。

 いや、自分も騙せないような嘘をついて自分を美化しようとするな。……俺が仲間を見捨てようとするなんて……少なくとも母さんは俺をそんな人間になんて育ててなんていないはずだぞ、ヒロカズ。俺は自分を心の中で叱った。

 

 「全く……俺は新人の中でも最年長だっていうのに情け無い。」

 

 俺は何度目かもわからないため息を、デビルハンター本部の休憩室でついた。思えば俺はダメなところばかりだった、早川先輩が連れてきた俺と同期の新人、デンジを一目見た時、俺はただのチンピラだと思ってガッカリした。

 あのマキマさんが目にかけている……そう聞いて最初はどんな新人なのかと思ったが、到底まともとは思えない振る舞いから信頼できないと思ってしまったのだ。無論、大ベテランであるマキマさんに『年上だから優しくしてあげてね』と言われた手前、口に出すことはなかったが。

 

 だが、デンジは俺やコベニちゃんなんかよりもよっぽどデビルハンターに向いていた。悪魔によってホテルの8階に閉じ込められた時、俺はただ恐怖することしか出来ずひたすら狼狽えていた。

 一方デンジはどうだ?閉じ込められ時間が止まっていると知った途端に彼がしたのは眠ることだった。俺はデンジのその行動に呆れたが、今考えればあれが最適解だったのかもしれない。体力も温存できるし、恐怖で悪魔を強化することもない。実際にデンジがあの悪魔と戦い続けられたのは、無駄な体力を消耗せずにしっかり休んでいたこともあるだろう。

 

 俺は早川先輩と一緒になって、悪魔を探した。だがそれはどちらかと言うと、俺の持つ恐怖や不安を紛らわす為だった。だか悪魔が見つからず不安がどんどん大きくなり、最終的に俺は部屋に引きこもりガタガタと震えて怯えることしか出来なくなっていた。

 それがいけなかったのだろう。俺の恐怖が状況を悪化させた。俺の恐怖が悪魔を強くして、永遠の悪魔を巨大化させてしまったのだ。

 あの場で悪魔を恐れていたのは俺しかいない。早川先輩は臆することなく悪魔を探し、姫野先輩は余裕を持って休んでいた。コベニちゃんは気絶していてデンジは寝ており、血の魔人は……なんか遊んでいた。あの状況で悪魔に恐怖する人間は俺しかいない。それを考えると自分が恥ずかしくてたまらなかった。

 

 酷いのはそれだけじゃない、あの後悪魔が契約を持ちかけてきた時だ。一度でも『そいつを殺して、外に出た後に対策を練ればいい』そんな言葉が口からでかけた。

 俺は自分の手で仲間を殺そうとしたのだ。しかも自分より年下で、まだ未成年の子供をだ。

 いくら口に出さなかったとしても、恥ずべき考えだった。

 

 そしてバディであるコベニちゃん、彼女を落ち着かせることが出来なかったのも問題だった。

 彼女は閉じ込められた状況で、自分以上に心理的に追い詰められていた。相棒である自分が彼女をしっかりと支えるべきだった。だが俺はそんな彼女を支えることが出来ず、パニックに陥らせてしまい、そのパニックに陥ったコベニちゃんに怯え……最悪の事態を招いた。

 

 俺とコベニちゃんの恐怖がさらに悪魔を強化したのだ。悪魔は8階を傾けるほどの力を手に入れ、俺たちを絶体絶命の危機に追い込んだ。

 そしてコベニちゃんはデンジを刺そうとして、遂に俺まで悪魔のいいなりになって、デンジを殺す為に押さえつけた。

 結果早川先輩がコベニちゃんに刺され、姫野先輩まで冷静さを失う結果になってしまった。

 

 結局あの永遠の悪魔はデンジがチェンソーの悪魔に変身して、三日三晩悪魔と戦い続けて討伐した。

 足を引っ張り続け仲間を殺そうとした俺とデンジ、その差がはっきりと今回の件で見えた。

 

 「俺は……自分が恥ずかしくて仕方がない」

 

 「だいぶ落ち込んでるね……荒井くん大丈夫?」

 

 声が聞こえて、そちらの方に顔を向ける。そこにいたのは公安対魔特異4課のリーダーであるマキマさんであった。

 

 「ま、マキマさん!?どうしてここに!?」

 

 「一仕事終えた新人を労おうと思ってたんだけど ……やっぱ相当落ちこんじゃってるね。はい、ジュース!」

 

 そういうとマキマさんは缶ジュースを俺に向かって投げ、俺はそれをキャッチした。

 

 「あ!しまった!」

 

 マキマさんは目を見開いて言った。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 

 「いや、ごめん。そのジュース炭酸だった……。ちょっと時間置いてから開けてね。」

 

 マキマさんは両手を合わせながら俺に謝ったあとに言った。

 

 「ま、荒井君は新人なんだしそんなに悩みすぎなくて大丈夫だよ。私だって新人の頃はミスしまくったしね。

 契約のおかげでなんとか今も生きてるけど、洒落にならないミスを私も新人の頃にしまくっちゃったなぁ。新人なんてそんなもんだよ。」

 

 マキマさんはそう言って笑いながら言った。

 

 「でも、俺はただの新人じゃないんです。俺はあの中で最年長の新人だった。なのに俺は、足を引っ張ることしか出来なくて……。

 デンジは凄いやつですよ、マキマさんが目にかけているのも納得です。あいつはただ悪魔に変身出来るだけじゃない、デンジはあの状況下でも恐怖に呑まれなかった。その上悪魔相手に何十時間もぶっ通しで戦い続けてた。もし俺が悪魔になる力を持っていても、同じことができるとは思えません。

 同じ新人なのに、俺とあいつじゃ大違いだ。」

 

 「いやまぁ、デンジ君と荒井君じゃあ新人は新人でもデビルハンターとしての年季が違うからねぇ。仕方ないよ。」

 

 「え?」

 

 俺はマキマさんに対して聞き返した。デビルハンターとしての年季が違う?どういうことだ?

 

 「デンジ君はね、公安に来る前からデビルハンターをやってたんだよ。非正規のだけどね。」

 

 「非正規のデビルハンター……ですか?どのくらいやってたんです?確かあいつ16ですよね、学校がそもそも許すんですか?」

 

 「デンジ君は学校に行ってないよ、行かずに借金を返すためにデビルハンターをしてたんだ。」

 

 「な!?」

 

 学校に行かずにデビルハンター?そんなことある訳がない、そんなことを許す親などいないだろう。仮にいたとしても行政が許さないに決まっている。

 

 「デンジ君はね、いろいろ複雑な環境に置かれててね。もっと小さい頃からデビルハンターとして働かされてたんだ。

 だから、君と同じ公安の新人だとしてもデビルハンターとしてはデンジ君の方が圧倒的に先輩なんだよ。だからデンジ君と自分を比較してもあんまり参考にならないよ。

 上を見るのはいいけど、それはちゃんと上を上と認識して初めて意味があるんだから。」

 

 マキマさんが語るデンジの境遇に絶句する。義務教育も受けられずにデビルハンターとして過ごす?

 

 「随分……苦労してたんですね彼。なのに俺は、そんなあいつに頼りっぱなしだった。」

 

 気分がどんどん暗くなる。

 

 「んー、荒井君は気に病みすぎだよ。

 君たちより先輩で一番長く働いてる姫パイだって、あの場ではデンジ君のスターター引っ張るくらいしかできなかったんだし。デンジ君抑えただけでそんなに落ち込んでたら、アキ君を刺しちゃったコベニちゃんはどうなっちゃうのさ?

 それにパワーちゃんに至っては、1人で全部のご飯食べちゃったんだよ?」

 

 「それは……」

 

 俺は言葉に詰まった。

 

 「結局荒井君が悩んでるのは、デンジ君に迷惑を掛けちゃったこと。そこの部分だよね?」

 

 「ええ、まぁそうですね。」

 

 「だったら後でご飯を奢るなり、なんかプレゼントしてあげるなりしてみたら?デンジ君結構そういう体験に慣れてないからすごく喜ぶと思うよ!その時についでに謝れば、快く許してくれるって!

 それにこれから新人歓迎会の飲み会があるんだ!前姫パイと一緒に話してたあれだよ。その時にお詫びの品を渡して謝ればなんとかなるよ!」

 

 マキマさんが親指を立てながら俺に言う。

 

 「そういう……もんですかね?」

 

 「そうそう!そういうもんだよ!もしそれで許してくれなかったら、それから改めて悩めばいいんだし、今回のミスだっていくらでも取り返しがつくんだからさ。

 この悔しさをバネに自分を鍛えて、次は役に立てるよう努力すればいいよ。」

 

 マキマさんは明るい笑顔で言った。

 俺みたいな新人に対しても、俺を元気付ける為にわざわざ声をかけてくれる。マキマさんについてこの公安でいろいろと話は聞いていたが、その噂通りの優しい上司だ。

 そんな上司が俺のことを励ましてくれるんだ、これ以上クヨクヨするわけにもいかない。俺は元気よく答えて言った。

 

 「ありがとうございますマキマさん。お陰で気分が楽になりました。次の機会に挽回できるように、全力で頑張ります!」

 

 「おお!いいねいいね!その調子だよ荒井君!でも、頑張りすぎて死んだりしないようにね。」

 

 「はい、死なないように気をつけます!」

 

 俺は笑顔でマキマさんに言った。

 

 「そうそう、荒井君。そんな気をつけてる荒井君が死なない為の大切なお話があるんだけど……ちょっといいかな?」

 

 マキマさんが俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。その声は先ほどまでの明るいものではない、口調こそ柔らかいままだが、声質が真剣そのものだ。

 

 「え、あ、は、はい」

 

 俺はごくりと唾を飲み、なんとか答……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやー、ジュースありがとねー。

 ってうおぉ!しまった!あー!あー!ああぁぁぁ〜〜〜……。

 ごめんね荒井君、せっかく貰ったジュースこぼしちゃった。」

 

 マキマさんが缶ジュースを開け、そこからジュースを溢れさせながら言う。

 

 あれ?なにかおかしくないか?

 

 「すいませんマキマさん、俺ジュースなんて奢りましたっけ?それと何か話してませんでしたっけ?」

 

 「ん?ああ、話を聞いたこととか色々含めて、お礼として荒井君がジュース奢ってくれたんだよ。

 うえ〜、ベタベタする〜。」

 

 「そう……でしたっけ?」

 

 「うん、そうだよ。それじゃ、荒井君も永遠の悪魔に関する報告のまとめ、頑張ってね!

 私はこれを処理してから行くよ。ああ、勿体ないなぁ。」

 

 「あ、気が利かなくてすみません。これハンカチです。」

 

 俺は少し遅くなったが、ポケットからハンカチを取り出してマキマさんに渡す。

 

 「おお、ありがとう!後でこのハンカチ洗って返すね。」

 

 マキマさんはいい笑顔で言った。

 

 「ははは……。マキマさんって結構茶目っ気がある方なんですね。それでは失礼します。」

 

 「うん、じゃーねー!」

 

 マキマさんに見送られて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩室で1人残されたマキマ、彼女は荒井ヒロカズが部屋から出ていったのを見届けた後、ジュースを飲み干してメモ帳を取り出した。

 

 そのメモ帳には公安対魔特異4課、いや4課だけでは足りない数の人名がびっしりと書かれている。それは1課から4課の名簿であった。そしてそれらには線を引かれて名前が消されていた。

 線が引かれた人物は、ダメージを肩代わりする契約を終えた人物たちだ。

 

 (これであらかた契約し終わったかな……。いやー、長かった。後はダメージを気合いで耐えるだけだ!)

終わったかな……。いやー、長かった。後はダメージを気合いで耐えるだけだ!)

 

 そしてマキマはその名簿の中にある『荒井ヒロカズ』の名前を探し当てて、他の人物と同様に線を引いて名前を消した。

 マキマはそれから空になった缶ジュースを両手で平らに潰した後、その缶をゴミ箱にガコンと投げ入れて休憩室を後にしたのだった。

 

 

 




 気にしすぎと言いつつ、デンジ君を早く見つけられなかったことに悩みまくる偽マキマさん。ブーメランが刺さっておる……。


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12話 偽マキマさんと人外の皆さん(ビーム君、ガルガリさん編)

 7月13日 チェンソーマン2部がジャンプラで始動!
 未来!最高!未来!最高!イェイ!イェイ!


 

 

 路地裏にて、2人の男女が殺した悪魔の前で駄弁っている。

 彼らは公安対魔特異4課のデビルハンター、早川と姫野だ。

 

 「新人歓迎会?」

 

 「そうそう!マキちゃんがアキ君にデンジ君とパワーちゃんを押し付けたじゃない?その件で私がマキちゃんに説教してて、最終的に新人歓迎会の話になったんだよ。」

 

 「俺が2人を押し付けられた話が、新人歓迎会に?話に脈絡がない気が……」

 

 早川が呆れながら言う。

 

 「まぁまぁ、でもいいタイミングだと思うよ?荒井君もコベニちゃんも、デンジ君殺そうとしちゃったじゃない?

 その件で謝りたいらしくてさ、飲みの場なら2人もささっと謝れるだろうし、新人のみんなと親睦も深められていいんじゃない?

 そ・れ・に〜……なんとマキちゃんが全員分奢ってくれるからタダ酒だよ!タダ酒!」

 

 姫野はニッコニコのいい笑顔で早川に言った。

 

 「お前がマキマに奢ってもらうのはいつもの事だろ……。

 って、全員分?いつも思うけど、マキマのやつ本当に金持ってるな。」

 

 「マキちゃん割と無趣味だからねー。いい給料貰ってるくせに自分の事には殆ど使わないから、こうやってタカってマキちゃんに日本経済回させてんのよ。」

 

 「タカリを正当化する為に無駄に話をデカくするなよ……。でも確かに、マキマについて話聞くといつも何か奢ってたりするよな。」

 

 少し考えてから姫野が言った。

 

 「確かに……もはや奢るのが趣味みたいなイメージだったなぁ。もしくはヤクザをしばき倒すのが生きがいのバーサーカー。

 まぁでも、今はマキちゃんの趣味はデンジ君のイメージかなぁ。本当に入れ込んでるよね〜。」

 

 自分のタバコに火をつけた後、早川にも火を貸してから姫が尋ねる。

 

 「正直さ、デンジ君って何者だと思う?

 あの永遠の悪魔もデンジ君のこと知ってたみたいだしさ、私ちょっと気になってるんだよね。

 実はデンジ君ってさ、公安に来る前はヤクザに働かされてたんだってさ。」

 

 「ヤクザに……?」

 

 「そう、マキちゃんがしばき倒してるヤクザ。」

 

 それを聞いて早川はある一つの突拍子もない仮説を思いついた。

 

 「まさかマキマがヤクザ狩りに熱心だったのは、デンジを見つけ出す為……とか?」

 

 「おお!さすがアキ君!」

 

 「そうなのか?」

 

 「うんにゃ、私もそうじゃないかと考えただけで、実際はどうか分からないんだよね。そこはやっぱりマキちゃんに聞いてみないと。

 ……でも、私はそれでほぼ間違いないんじゃないかと思ってる。

 実はデンジ君を見つけた時のことを月本さんから聞いたんだけどさ……。」

 

 「月本?あのよくマキマと付き人みたいに一緒に行動してる月本か?」

 

 「そうそう。月本さんが言うにはね、……マキちゃんデンジ君が自分の名前を名乗る前に、デンジ君の名前を呼んでたんだって。」

 

 「……マジ?」

 

 早川が呆気にとられながら言う。

 

 「うん、伏さんのバディやってる黒井さんいるじゃん?

 伏さんが新人の面倒見る事になった関係で、暇が空いからマキマさんの側にで仕事してたけど、デンジ君を助ける時も一緒にいたらしくてね。

 その黒井さんもしっかり聴いてたらしいから、確かな情報だと思うよ。」

 

 姫野は二本目のタバコに火をつけながら自らの恋人に提案した。

 

 「どう?マキマさんを酔わせて聞き出してみない?私1人なら無理かもしんないけど、2人で協力すればワンチャンあるかもよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公安が保有する、厳重に警備された建物。その地下エリアに私は向かっていた。この施設は公安が捕らえた悪魔達を収容する、政府の持つ極秘の施設だ。

 普段なら私が任務で行く所には誰かしら付いてくるものだけど、今日は1人で来た。

 

 「マキマさん、ようこそいらっしゃいました。本日はどちらの悪魔と面会する予定ですか?またサメの魔人とお会いするご予定ですか?」

 

 その収容施設の地下エリアにて、私の身分証を確認した職員さんが尋ねる。

 

 「そうだね……今日もビーム君とは会うつもりだけど、ガルガリさん、エンジェル君と未来さんにも会いに来たんだ。……それと永遠の悪魔」

 

 「わかりました。サメの魔人と暴力の悪魔、天使君に未来の悪魔と永遠の悪魔ですね。

 天使君、『本来なら故郷に戻れるのにまだ帰れてない』って愚痴ってて不満気なので、ちゃんと謝ってあげてくださいね。」

 

 職員さんがテキパキと対応する。エンジェル君だけ天使君呼びなところに、彼が皆から人気である事が伺える。

 いやぁ……別に天使君以外もみんな割と良い子なんだけどねぇ。ただし永遠、テメェはダメだ!

 ビーム君は元気すぎて私が抑えてないとはしゃぎすぎて迷惑かけちゃうし、暴力さんに至っては元が強力すぎるせいで弱体化させまくらないと話にすらならない。そして未来さんは……見た目が怖いのとテンションが独特なのがなぁ。

 

 私は色々と考えながら、まずはビーム君に会いに行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「イエーイ!ビーム君おはよう!元気にしてた?」

 

 「マキマ!マキマ!イエーイ!」

 

 私は元気よくビーム君に挨拶した。

 

 「やったよビーム君!今日はなんと、デンジ君が永遠の悪魔と戦ってる時の映像だよ!」

 

 私はここにいる色々な悪魔の力を借り、永遠の悪魔の記憶をもとにデンジ君の戦いや活躍を映像にして、それをDVD化したものをビーム君に見せた。

 

 「うおおおぉぉぉ!マジで!?見たい!超見たい!ビームちょうみたい!見せて!見せて!」

 

 「勿論!その為に今日は来たんだから!ポップコーンにフランクフルト、ジュースはコーラの他にも輸血用の血も少しあるよ!」

 

 「やったあぁぁぁ!」

 

 ビーム君はデンジ君版のチェンソーマンの活躍が観れると聞いて大はしゃぎだ。やはりビーム君は頭空っぽで付き合えて楽しいなぁ、気楽に話せる。

 私は最新式のDVDデッキに自作のディスクを入れて、早速再生した。

 

 

 

 「うおおお!ノーベル賞だぁぁぁぁ!永久機関!永久機関!チェンソー様!凄い!チェンソー様!賢い!チェンソー様天才!」

 

 「だよね!3日間も戦い続けて敵を屈服させるだなんて、本当に凄いよね!」

 

 「チェンソー様凄い!最強!」

 

 ビーム君は私が編集して作ったDVDを大喜びで観てくれた。ここまで喜んでくれると、作った甲斐があるというものだ。

 

 「マキマ!マキマ!ビームチェンソー様に会いたい!そろそろ会える?」

 

 「うん!もうすぐ新人歓迎会……まぁパーティをやるつもりなんだ。

 いつも仕事してる伏さんも来るから、その時に会えると思うよ。でも、ちゃんと礼儀正しく振る舞ってね。

 邪魔で鬱陶しいかもしれないけど、服もちゃんと着るんだよ?私もビーム君が着やすい服を頑張って選ぶから。それにデンジ君の相方のパワーちゃんもしっかりと服着てるんだから、ビーム君も着ないとね。」

 

 「了解!ビームも服着る!ビーム礼儀正しくする!

 パーティ!パーティ楽しみ!」

 

 「よし!それじゃあ最後に3日間の永遠の悪魔との戦い分、ノーカット版のDVDセットも置いていくね。それじゃあ新人歓迎会、楽しみに待っててね〜。バイバーイ!」

 

 「バイバーイ!」

 

 私が手を振ったのに合わせてビーム君も大きくぶんぶんと手を振る。私はビーム君に癒されつつ、次の悪魔に会いに向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ガルガリさん久しぶり。調子はどう?キツすぎたりしない?」

 

 地面には高圧電流が走り、とてつもない熱気が充満し、もはや中があらゆる毒ガスで満たされて見ることのできない部屋のガラスに向かって、私は声を掛けた。

 

 「ああ、マキマさんか。大丈夫大丈夫、オレ頑丈だからあんま辛くないしさ。それに元気がありすぎると暴れちゃって迷惑かけちゃうじゃん?

 そういうのってオレ嫌だし。むしろこっちこそごめんね、オレを抑えておくのにめっちゃ金掛けさせちゃってさ。」

 

 ガルガリさんは明るく私に向かって言う。いや……ガルガリさんを抑えるためとはいえ、滅茶苦茶だなこの部屋。私だったら1時間で何回死んでるだろうか。しかもさっきあげた三つは私が把握してるこの部屋の仕掛けの一部だ、実際中でどんな事が起こってるのか、機密保持の観点から私も知らされてないのでわからない。

 

 「そうそう、契約のことなんだけどさ。そろそろ考えてくれた?」

 

 「うーん、オレなんかと契約するよりも普通に狐でいいでしょ。

 オレの力だとほら、本人への負担が契約とか抜きで馬鹿にならないしさ。」

 

 ガルガリさんはやはり契約に関してはあまり乗り気じゃないらしい。

 それはガルガリさんの暴力の悪魔としての契約で使える能力が原因だ。ガルガリさんと契約すると、身体能力が著しく上がり戦いでは敵なしの力を手に入れられる。だが、その強すぎる力に人間の体がついていかずに、契約者が一回の戦闘で入院するなんて日常茶飯事だ。

 自分の都合ではなく、契約者が可哀想だからという理由で契約を拒むガルガリさん。マジ常識と良識の塊ですごい。人格が他の悪魔と違って完成されすぎてませんかね……。

 

 「ま、ガルガリさんは優しいから乗り気じゃないよね。でもね、実はもしかしたら契約者にほぼノーリスクで暴力の魔人の力を行使できる方法が見つかりそうなんだ。」

 

 「え?マジで?」

 

 ガルガリさんは私の話に興味を持ったようだ。

 

 「うん、最近私が捕まえた悪い悪魔を利用して、色々やれば……多分なんとかなると思うよ。

 もうすぐその方法で大丈夫かの検証をしたいと思っててね、もしよかったら実験に協力して貰ってもいいかな?」

 

 「おお、なかなかマキマさんも頑張ってるね。流石にずっとなんの役にも立たずにここにいるのも、申し訳なかったからな。契約者の被害が抑えられんなら喜んで協力するよ。」

 

 「本当?ありがとう。それじゃあ後で実験のために色々とあると思うけど、その時はよろしくね。」

 

 私はガルガリさんに別れの挨拶をしてその場を離れた。次はエンジェル君だ、お詫びに買ったアイス各種を施設の冷蔵庫から取り出して、それをクーラーボックスに入れた。

 ……エンジェル君、無理言って残らせてるから不満溜まってるだろうなぁ。ここから襲撃が起きてさらに故郷に帰れなくなるから……うう、今から不安で怖い。

 サメよりも暴力よりも天使が怖いって何!?あれかな?私やっぱり悪魔に転生したから、天使との相性は悪いのかな?

 しかもエンジェル君、あの岸辺先生の次に強いとかいう話だし……怖い、怖いよぉ。

 私は重い足取りでエンジェル君の部屋に向かった。



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13話 偽マキマさんと人外の皆さん(エンジェル君、未来さん、永遠の悪魔)

 

 

 

 「で?僕はいつになれば帰れるのさ。本当にもう……。本来なら今頃、彼女のお父さんの誕生日を祝ってるはずだったんだよ?」

 

 腕を組みながらエンジェル君は私に向かって言う。

 

 「ごめんなさい!本当にマジでごめんなさい!ここ最近結構事態が動きまくってて……いつ戻れるかわかりません。あ、これ貢物のアイスです!」

 

 私は天使君のために購入した供物(アイス各種)を献上した。

 

 「……はぁ、やっぱりおかしいと思ったんだよ。少し前に長期休暇をくれた時点で、何かあるかもって。

 全くもう、せめて事前に言って欲しかったな。長期休暇くれたって事は予想はできてたんじゃないの?」

 

 「それは……確証は無かったけど、はい。ありました……。誠にごめんなさい。」

 

 エンジェル君はため息を吐きながら私のアイスを受け取り、それをゆっくり食べ始めた。

 

 「全く……誕生日に参加できない分、豪華なプレゼントを贈りたいから、ボーナス弾んでよね。」

 

 「ははぁ!勿論でございます!」

 

 私は必死にエンジェル君に頭を下げる。エンジェル君は原作でも『岸辺先生の次に強い』と真マキマさんから評されてる悪魔だ。私は必死に機嫌を取る。

 

 「えぇ……。本当にくれるの?冗談だったのに。うわぁ……これもっとめんどい仕事もやる羽目になる奴だ。絶対そうだ。」

 

 露骨にエンジェル君が嫌そうな顔をする。畜生!全部お見通しかよ!この後エンジェル君にはヤクザへの報復に一緒にカチコミして貰うからなぁ……。本当に仕事させまくってごめん、故郷の村のみんなと過ごしたいだろうに本当にごめんなさい。

 

 「はぁ……。でも、これも契約の範囲内だから仕方ないか。

 いいよ、力を抑えて皆と過ごすためだ。許してあげるよ……。でもボーナスだけじゃなくて長期休暇もお願いね、前のやつより長いやつだよ。」

 

 エンジェル君は自分の右手に巻かれたブレスレット状の鎖を撫でて、微笑みながら言った。

 エンジェル君の撫でてるのは私が支配の能力で作った鎖だ。あれでエンジェル君の寿命を吸う力をコントロールしている。

 エンジェル君は悪魔の力で、問答無用で触れた人の寿命を吸ってしまう。しかし、私の支配の力にかかればそんなもの容易くコントロールできる。私は必死にエンジェル君を探して見つけた後、彼の力を抑えるという条件のもとで公安で働いてもらう契約をした。

 原作の真マキマさんはエンジェル君の村のみんなをエンジェル君自身に殺させていたが、私はそんな事はしていない。てか能力を見せてもらわなくても知ってるし、知らなくてもそんな怖いこと出来ない。

 というわけで、エンジェル君は定期的に故郷の南国の村に帰り休暇を満喫している。そんなエンジェル君の休暇を邪魔しちゃって本当に申し訳ないが、どうやら許してくれたようだ。

 やはりプレゼントした能力を抑える鎖のブレスレットのおかげで、私に対する好感度は態度に比べて割と高いようだ。

 そりゃそうだ!寿命を吸うことを気にせず村のみんなと触れ合える。これはエンジェル君にとって割と嬉しいはずだ!あのポチタの夢も誰かに抱きしめてもらうことだったし、大切な恋人ともハグできるのならその喜びはかなりのものだろう。

 

 「エンジェル君、ありがとう!頑張って出来るだけ長く休めるようにするから!」

 

 「約束だよー。はい、マキマの分。」

 

 そう言うとエンジェル君はパピコの半分を割って私に渡した。

 

 「え!いいの!?ありがとう!」

 

 「もともとマキマが買ってくれたものだからね。

 ところでさ……そっちの方はどうなの?マキマの方にも春がきたってみんな噂してるけど」

 

 「エンジェル君なんで知ってるの!?」

 

 「前一緒に仕事した人が教えてくれたんだよ。マキマも僕の恋路について聞きまくってんだからさ、そっちもどうなってるのか教えてよ。

 ねぇねぇ、どんなところに惚れたの?」

 

 「えー聞いちゃう聞いちゃう?よーし!じゃあデンジ君の魅力についてたっぷり語っちゃおう!」

 

 「めっちゃ生き生きしてるじゃん!?あの噂マジだったんだ……。」

 

 そして私はエンジェル君にデンジ君の魅力を語り、恋愛関係について先輩であるエンジェル君に色々とアドバイスを貰った。

 姫パイもだけど、恋愛経験者の意見は参考になるなぁ。特に男性目線での意見が聞けたのは収穫だった。

 

 

 さてさて、最後は未来さんだ。いや永遠の悪魔もいるけども。

 しかし未来さんかぁ。よーし、テンションあげてくぞぉ!てか未来さんに会うと否応なしにテンションが上がるな。だって未来さんだし。

 

 

 

 

 

 「未来!最高!未来!最高!」

 「未来!最高!未来!最高!」

 「「未来!最高!未来!最高!」」

 「「イェイ!イェイ!」」「「イェイ!イェイ!」」

 

 私と未来さんはハイテンションで未来最高と叫びお互いにハイタッチした。

 

 「やはりお前はノリがいいな、支配の悪魔。」

 

 未来さんは私に対して言った。だって未来!最高!だよ?そりゃやってみたくなるじゃん。しかもご本人同伴だしさ。

 しかし未来さん、知識量凄いよなあ。あっさり私が支配の悪魔だって見抜いてくる。原作でも未来さんはポチタがチェンソーマンだと知ってたし、そのポチタが出現することすらもどうやってか知ってたし。

 

 「まあね!未来最高って叫ぶの楽しいもん!」

 

 「ふっふっふっ。それで、今日はなんのようだ?……まさか今日も未来最高とだけ叫びに来たのか?いや別にそれでも構わないのだが。」

 

 「いいや、今日はそれプラス契約のお願いに来たんだ。

 敵の襲撃がどのタイミングか、それを知りたい。どう?お願いできるかな?」

 

 「ふむ、いいだろう。それではまず私のお腹に頭を突っ込むといい。」

 

 「はーい」

 

 私は未来さんに頭を突っ込んだ。

 

 「ふむふむ、なるほど。フフフフ、いいだろう。

 契約の対価は人の感覚のいずれか、合わせて10個分だ。2人の感覚5個ずつにするとか、10人分の味覚とか、そこら辺はお前が決めていい。

 どうだ?悪い話じゃないだろう。お前も仲間を救えるんだからな。」

 

 「わかった、それじゃ死刑囚と終身刑の囚人の嗅覚10人分でどうかな?」

 

 「いいぞ!それでは代理で契約する人間を連れて来い」

 

 私は未来さんと契約するため、囚人に未来さんと契約して、ヤクザの襲撃がどのタイミングで起こるかを把握した。

 取り敢えずタイミングは掴めたから、後はもうほぼほぼ大丈夫だな。後は耐えるだけだ!

 

 「ありがとう未来さん、助かったよ。」

 

 「フフフフ、お前が襲撃で受けるダメージは、お前が想像しているよりも遥かにデカいぞ。」

 

 「……それなりに覚悟してるんだけどなぁ。それよりデカいの?」

 

 「ああ、凄くな。それじゃあまた未来で会おう。未来!最高!」

 

 「うん!じゃあね!未来!最高!」

 

 私は最後に未来!最高!をしてから未来さんの部屋を後にした。そんなにやばいのか……怖〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔収容施設の一室、私はそこに向かっていた。これから会う悪魔は別に友人でも何でもない、私が支配の力で操っている悪魔だ。それはデンジ君がつい先日殺した悪魔、永遠の悪魔だ。私がその死体を回収してこの施設に保管している。

 私は部屋を訪れて、永遠の悪魔に話しかけた。

 

 「永遠の悪魔、私は明日の午前10時33分から襲撃を受けます。その際に他の職員も同様に殺されます。それらの襲撃を無効化するために能力を発動しなさい。」

 

 「マキマ様、マキマ様……無理です。 まだ私は本調子ではありません……。一部の場所や少数の人間ならともかく……大勢の人間は私の力では無理です。」

 

 「別に全員に能力を使う必要はないよ、使うのは私だけで充分。

 私が全員分のダメージを負うからね、代わりに私に全力で永遠の力で死なないようにして。」

 

 「は……わかりました。仰せのままに……。」

 

 私は永遠の悪魔への命令を終えると、部屋を後にした。

 

 

 

 いやー!精神的に疲れた……。もう死んでるし悪い悪魔とはいえ、罪悪感を感じるなぁ。まぁ、能力を使うだけだし、これくらい大丈夫でしょ。あの悪魔はここにぶち込まれる前に人だって殺してるし、操って能力を使うぐらい許されるはず。私悪くない。うん。

 もうここでやることも残ってないし、今日は飲み会に備えてしっかり休もう。

 私は永遠の悪魔に別れを告げて、部屋を後にした。



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14話 飲み会

 

 

 「ビーム君、それじゃあ確認するよ?」

 

 「確認!」

 

 私は半袖のラフなTシャツを着たビーム君に確認する。

 

 「それじゃあ守らなきゃいけないルールを言ってみて」

 

 「一つ!服は基本脱がない!

 二つ!人に許可なくベタベタしない!

 三つ!はしゃぎすぎて迷惑かけない!

 四つ!わからない事はマキマか伏さんに聞く! 

 五つ!昔のチェンソー様については喋らない!」

 

 「よし!バッチリだね!」

 

 私はビーム君に親指を立てて褒める。

 

 「それじゃあ飲み会に行こっか!ゴーゴー!」

 

 「ゴーゴー!」

 

 今日は公安対魔特異4課の新人歓迎会だ。基本ビーム君は気性が荒く、非理性的なのでこういう一般人がいる所にはあまり出させていない。

 だが今日は特別で、私がしっかり監督する条件で許可を貰ったのだ。

 

 「おお、アキ君達早いね!私が一番乗りかと思ったんだけど。」「ヒャ!ワアアア!!」

 

 私が店に入りアキ君とパワーちゃん、それにデンジ君の早川家のみんなを見て挨拶すると同時に、ビーム君が大興奮してデンジ君に抱きつきに行った。

 

 「チェンソー様!チェンソー様ア!」

 

 「ふん!」

 

 「ぎゃああああ!」

 

 そして鮮やかにデンジ君に殴られて吹っ飛ばされた。痛そう……。

 

 「ちょ!ビーム君!大丈夫!?デンジ君ごめんね、ビーム君ってばデンジ君に会えるから興奮しちゃったみたいで……。

 ほらビーム君言ったでしょ?同意も得ずにベタベタしちゃいけないって。」

 

 私は倒れたビーム君を立たせながら言う。

 

 「マキマさん、何者ですかコイツ?」

 

 「彼?彼は公安対魔特異4課に所属するもう1人の魔人、サメの魔人のビーム君だよ。」

 

 私はデンジ君にビーム君を紹介する。

 

 「普段は凶暴というか、テンションが高すぎて迷惑がかかるからあまりこういう場には連れて来ないんだけど、デンジ君に会いたがってるから連れて来たんだ!仲良くしてあげてね。」

 

 「俺に会いに……なんで?」

 

 「チェンソー様最高!チェンソー様最強!

 ビーム!チェンソー様にめっちゃ会いたかった!」

 

 「ビーム君にデンジ君の話をしたら、デンジ君のファンになってね。」

 

 私はビーム君がデンジ君への好感度が高い理由を、それっぽく伝えた。正確にはビーム君はチェンソーマンのファンだけど……でもデンジ君のファンでもあるっぽいし嘘は言ってないはず!本当のことも言ってないけど……。

 

 「よかったね!デンジ君、ファン第一号だよ!

 この調子で活躍すればきっと女の子のファンもいっぱい増えるよ!」

 

 「は、はぁ……」

 

 デンジ君は微妙な顔をする。まぁ、急に男の魔人に会わされてもそんなテンション高くはならないよね。

 

 「ビーム……がはっ、ビーム!ガハハハハ!何じゃその名前は!馬鹿っぽい名前じゃのう、ガハハハハハ!」

 

 「テメェが言うなよパワー!」

 

 パワーちゃんが大笑いして、それに対してデンジ君がツッコミを入れる。2人のやりとりが可愛い。

 

 「……マキマさん、そいつ飲み会に連れてきて本当に大丈夫なんですか?

 伏さんから聞いた話だとかなり危険っぽいんですが。」

 

 アキ君が私に向かって尋ねる。凄い常識的な反応だ。

 

 「大丈夫大丈夫!この日の為にビーム君も頑張って我慢することとかマナーとか覚えたし!

 まぁ、さっきはテンション上がってデンジ君に抱きついちゃったけど……憧れのデンジ君がいる場所で暴れたりしないよ!ね、ビーム君?」

 

 「ビーム!暴れない!チェンソー様に迷惑かけない!絶対!」

 

 「ほら、ビーム君もこう言ってるしアキ君も信頼してあげて。

 それに普段は着ない服だって今日はしっかり着てるから、ね?」

 

 「コイツ服普段着てねぇのかよ!?」

 

 「ガハハハ!ビーム!ビームって!ガハハハハハ!」

 

 「キャキャキャ!」

 

 「マキマさん……本当に魔人を2人も連れて飲み会するんですか?今から不安なんですけど」

 

 アキ君が不安なのは本当だろう、めっちゃ不安そうな顔してるし。

 だがビーム君を参加させるのは決定事項だ!私はなんとかアキ君を納得させて、予約したテーブルに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「例えばパワハラ、サービス残業、仕事中にジュース飲んだだけでクレーム入れてくる納税者、パワハラ、休日出勤、パワハラ、そして上司が参加して気が休まらないのに金を出させられる飲み会……。

 この世にはなくなった方が幸せになれるものがたくさんあります。

 そのうちの一つを私の金の力で消し去ります。

 

 というわけで今日は私の奢りです!タダ酒だ!タダ飯だ!公安対魔特異4課新人歓迎会の始まりです!カンパーイ!」

 

 「「「「「「「カンパーイ」」」」」」

 

 ついに公安対魔特異4課のメンバーが勢揃いして、新人歓迎会が始まった。

 

 「ウマイ、飲むの半年ぶりです。」

 

 「私も家で少し飲むくらいですね」

 

 「月本さん、わざわざ車で送ってくださってありがとうございます。多分1人できたら迷って遅れちゃってたと思います。」

 

 「いえいえ、僕ドライブ好きですし。これくらい構いませんよ。それに僕下戸で飲めないですし、お声かけしといて良かったですよ。」

 

 「コベニちゃんも車買う?いいわよ車は。」

 

 「刺身は全部ワシのじゃ」

 

 「チェンソー様!料理!料理持ってきた!」

 

 「んだコレうまそ〜」

 

 「デンジ君!コレは餃子だよ!餃子!美味しいよ!」

 

 「マキちゃんったら、ちゃっかりデンジ君の隣確保しちゃって……。」

 

 こうして楽しい楽しい飲み会、じゃなかった新人歓迎会が始まった。いやー!やっぱり推しであるデンジ君も参加してるといつもよりパーティが楽しいなぁ!

 

 コベニちゃんはあまり美味しいご飯が食べられていないからか、嬉しそうにご飯を食べている。

 荒井くんは緊張しているのかな?口数が少ないな。

 伏さんのところの新人は黒井さんにどんどん食べるように言われて、それに従い頑張ってご飯を食べてる。あまり無理しなきゃいいけど。

 そしてデンジ君はビーム君が持ってきた餃子を美味しそうに食べているな。

 そしてパワーちゃんは唐揚げと刺身の領有権を主張して、独占しようとしてる。いっぱい食べれるから安心していいんだよ、てかそんなに食べれないでしょうに。

 ……とりあえずこの中で気を遣った方がいいのは荒井君かな?飲み始めたばっかだし、暫くして周りに馴染めてなさそうだったらフォローしとこう。

 

 「しかし伏さんのところの魔人、評判の割にはおとなしい気が……」

 

 アキ君が伏さんに向かって言う。

 

 「ははは、マキマさんのお陰ですよ。私と黒井さんだけじゃ、民間人がこんなに多い所には怖くて連れて来れません。といっても、今日はマキマさん同伴とはいえやけに大人しい気が……。デンジ君のファンだって言ってましたけど、凄いですねデンジ君効果。」

 

 伏さんも黒井さんも決して弱くないんだけど、それでもビーム君を連れてくるのが怖いのかぁ。まぁ、急に暴れ始めても咄嗟に止めるのは2人だけじゃ至難の業だしそれもそうか。

 ……そういえば黒井さんの話題が出たから、飲みの席だし気になってたこと聞いてみよう。

 

 「黒井さん黒井さん、そういえば前ゾンビの悪魔討伐に行った時の話なんだけどさぁ。

 月本さんと黒井さんが2人揃ってギャングみたいな帽子かぶってたことあったじゃん?あれってなんだったの?」

 

 「ああ、あれか……。いや実はな?服屋に行った時に、ちょうどあの帽子が大安売りだったんだよ。それでイメチェンも兼ねて買ってみたんだけどな……偶然月本のやつも買っててな。

 それでゾンビの討伐の時にバチ被りしてて……それでお互いに恥ずかしかったなぁ。お陰であの日は俺も月本のやつもすごい無口だった。」

 

 黒井さんが思い出しながらしみじみと語る。

 

 「そんな経緯があったの……。てかそれ今後の鉄板ネタにできる奴じゃん!?

 ギャング帽子で被るとかそうそうないエピソードだよ黒井さん!」

 

 「黒井さんでも恥ずかしがることもあるんですね。」

 

 「おい、それってどう言う意味だよ伏」

 

 

 

 

 

 

 飲み会はその後も普通に盛り上がり、荒井君も最初は緊張してたけど次第に周りに馴染み、先輩である職員たちにアドバイスなどを聞いていた。こんな時でも真面目だなぁ。

 そんな風に思いながら飲み会を楽しんでいると、アキ君と姫パイがビーム君と話している光景が目に入った。アキ君って悪魔とか魔人とか苦手だと思ってたんだけど……何話してるんだろう?私は少し耳を傾けてみた。

 

 「チェンソー様!最高!チェンソー様!めちゃ強い!今日もマキマがくれたDVDで活躍見てた!」

 

 「へ〜DVDねぇ……。あそこに防犯カメラとかなかったと思ったんだけどなぁ。ねぇビーム君、そのDVDってどうやって撮ったかわかる?」

 

 ノリノリで語るビーム君に対して姫パイが色々と聞き出してる。

 

 「確か悪魔の力!それ使ったって言ってた!」

 

 「……まぁ公安の捉えてる悪魔を利用すれば、出来なくもないか。

 それでビーム、お前はどういう経緯でデンジを知ったんだ?」

 

 「マキマが教えてくれた!デンジ!チェンソー様の友達!チェンソー様になれる!」

 

 「……」

 

 「……ん?」

 

 ヤバい!アキ君がデンジ君について情報集めてる!てか今の会話でデンジのファンというよりも、チェンソーマン(ポチタ)のファンだとバレそう!

 どうしよう……油断してた。てかビーム君!なんで喋ってるの!?あ!顔赤い!

 さては姫パイ!ビーム君に酒飲ませたな!?何考えてんだ!ただでさえやんちゃなタイプの魔人に酒飲ませるなんて!?

 

 「あー!あー!あー!ビーム君顔真っ赤じゃん!大丈夫!?コレはちょっと介抱が必要だなぁ!?

 2人とも!話してる所悪いけどちょっとビーム君借りるね!」

 

 ガシっ!

 

 「そうはいきませんよ、マキマさん」

 

 「マキちゃん、ちょおーっとマキちゃんからも詳しい話が聞きたいなぁ?」

 

 ビーム君を拉致ってその場を離れようとするも、がっしりと2人に腕を掴まれて阻まれてしまう。くそう!この場にビーム君連れてきたのは失敗だったか!

 

 「マキマさん、俺はデンジのやつ家で面倒見てるんですよ?もっと俺に色々教えてくれても良いんじゃないですか?」

 

 「そうだよそうだよ。それに私、ビーム君から色々そのチェンソー様について知りたいなぁ。」

 

 「わかった!チェンソー様の武勇伝話す!」

 

 「わー!わー!わー!ビーム君!その話はダメって約束したじゃん!?」

 

 「……あ!」

 

 ようやく気づいたのかビーム君は口をぎゅっと閉じた。

 

 「アキ君!色々知りたいと思うけど、とりあえずそのチェンソー様関連の話はNGで!マジで!

 本当迷惑かけて悪いけど!それだけは本当にNGでお願い!」

 

 「……マキちゃん必死すぎる。冷や汗やばっ。本当にデンジ君ってなんなの?」

 

 「マキマさん、デンジのやつは既に悪魔に狙われてる。そしてコレからも襲われるかもしれない。流石に何も教えずに押し付けるのは違うんじゃないですか?」

 

 「うぐ……。」

 

 どうしよう、すごく正論で困る。確かに何も教えないでいるのは流石に悪いなぁ。仕方がない、ほんのちょっとだけ教えてお茶を濁そう。

 私はビーム君を離してから、覚悟を決めて話を始めた。

 

 「……わかった。ギリギリ問題ない範囲内で言えるところまで言うね。

 銃の悪魔の肉片を取り込んだ悪魔は強化される、コレは常識だよね。でもそれは銃の悪魔だけに限った話ではないんだ。

 正確に言うと、強力な悪魔の体の一部、それを取り込むと悪魔は強くなるんだ。

 そして……チェンソーの悪魔もまた、強力な悪魔の一体なんだ。だから他の悪魔は更に強くなるために、デンジ君ごとチェンソーの悪魔の心臓、ポチタの心臓を狙ってるんだと思う。」

 

 「そうですか……。でもだったらなんで教えてくれなかったんですか?」

 

 アキ君がビールを少し口に含んでから尋ねる。

 

 「それは情報漏洩を防ぐためだよ。永遠の悪魔が言ってたけど、チェンソーの悪魔に比べてデンジ君は強くない。

 だからチェンソーの悪魔について知ってる他の悪魔からすれば、今のデンジ君は狙い目なんだ。チェンソーの悪魔と直接やり合わずに、チェンソーの悪魔の力を手に入れられるからね。

 だからデンジ君のことが知れ渡る前に、この公安でデンジ君に経験を積ませたかったんだ。悪魔たちに対抗できる力をつけるためにね。

 といっても、どうやら永遠の悪魔にはバレてしまっていたようだけどね。」

 

 私は一通り喋ったので、一旦ビールで喉を潤した。

 

 「でもおかしくないですか?デンジから聞いた話だと、デンジに心臓をやったポチタは小さな犬みたいな悪魔でそんなに強くないはずですが。」

 

 「それは多分本調子じゃなかったからだと思う。デンジ君が初めて会った時、ポチタは怪我してて死にそうだったって聞いてない?」

 

 「そんなこと言ってたような気が……。」

 

 アキ君が思い出しながら言う。

 

 「でもマキちゃん、本調子じゃない期間が長すぎやしない?

 数年間もいたならとっくに本調子になると思うんだけど。」

 

 「デンジ君はとんでもない極貧生活だったからね……。あんまりご飯が食べれなかったから、傷の治りが遅かったのかな?

 ……いや違うか。多分ポチタはデンジ君と一緒にいたかったんだろうなぁ。

 ほら、悪魔って強ければ強いほど凶暴になったりすることって多いじゃん?強くなって、デンジ君を傷つけたり、デンジ君に迷惑をかけて離れたくなかったから弱いままでいたんじゃないかな。

 まぁ、実際のところはポチタに聞かないとわかんないけどね。」

 

 長々と私なりのポチタについての考察を語った後、姫パイがビーム君と戯れてるデンジ君を見ながら尋ねた。

 

 「ねえマキちゃん、最後の質問なんだけどさ。

 もしデンジ君がチェンソーの悪魔を手に入れてなかったら、マキちゃんはデンジ君にどう接してたの?」

 

 「そりゃあもちろん!悪辣なるヤクザの被害者として、大事に大事に保護するよ!ポチタも他の悪魔とかにバレないようにデンジ君と過ごせるように手を回した上でね!

 てか滅茶苦茶そうしたかった!あー……なんで私もっと早くデンジ君を見つけられなかったんだ……。そのせいでデンジ君がこんな危険な職場で働くことに……。私はダメだな、本当にポンコツだ。

 ううう……姫パイ。私はポンコツ上司なんだよぉ。ごめんよぉデンジくぅん!ごめんよポチタぁ!」

 

 なんだかだんだん悲しくなってきた。不甲斐ない自分が悲しいやら情けないやら。本当にダメだなぁ、私は。

 

 「あははは!マキちゃんが弱々マキちゃんになってる!ひっさびさに見たなぁ!

 アキ君アキ君!見て!弱々マキちゃんだよ!貴重なマキちゃんの号泣シーン!」

 

 「うええぇぇぇん。」

 

 「あーはっはっは!マキちゃんガチ泣きしてんじゃん!」

 

 「マキマさん泣き上戸だったのか……。姫野は笑い上戸だしここ本当にめんどくさいな。

 あー、はいはい。マキマさん。そんなに悩んでるなら、デンジ君のところに行って謝りに行ってくださいよ。

 俺は姫野の面倒を見るので手がいっぱいなんで。」

 

 「ううううう、アキ君面倒かけてごめんよぉ。じゃあデンジ君のところに戻るね……。」

 

 「マキちゃんバイバーイ!私はアキ君とイチャイチャしてるからー!えっへっへっへ、やーっと2人っきりになれたね!」

 

 「なってねぇよ、周り見ろ周り。」

 

 私は2人から離れてデンジ君の隣に戻ることにした。デンジくぅん……。

 

 「うええぇん、デンジくーん、ううううう。」

 

 私は涙を流しながら後ろからデンジ君に抱きつく。

 

 「だああぁぁぁ!一度許可したからってしつけーぞビーム!」

 

 デンジ君はそう言うと勢いよく拳を私の顔面n

「ぐえぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うお!?なんだ!?ってマキマさん!?

 や……ヤベェ……。ビームだと思ってぶん殴っちまった……。ヤベェ……。」

 

 デンジは冷や汗を滝のように流して焦る。ビームだと思ってブン殴った相手が、自分が恋している相手、マキマだったのだ。

 つい先程までデンジはビームにハグさせてと何度も頼まれ、遂に根負けして許可を出した結果何度もハグされてうんざりしていた。

 一旦ビームのハグ祭りが落ち着き、再び食事を再開しようとした矢先にまた抱きつかれたので、つい反射で殴ってしまったのだ。

 

 「ま、マキマさーん?マキマさん?だ……大丈夫っすか?」

 

 「あ、あなた!?マキマさんに何やってるんですか!?」

 

 倒れたマキマの近くに、伏の下で働いている新人の女が駆け寄る。

 

 「い、いや、俺はそんなつもりじゃなくって、ビームが抱きついてきたと」

 

 「はぁ!?ビームさんとマキマさんじゃ、全然違うでしょう!?あなたの目は節穴ですか!?」

 

 「いや、後ろから抱きつかれたからわかんなかったんだよ!マジで!

 おいこれどうしよう……マキマさーん?マキマさーん!」

 

 「ん〜。むにゃむにゃ……デンジくぅん。えへへ。」

 

 「はぁい!デンジです!……あれ?寝言?」

 

 「ガハハ!マキマのやつが酔い潰れたぞ!チャンスじゃチャンスじゃ!刺身についてたこのたんぽぽを食らえ!」

 

 殴られてそのまま寝てしまったマキマの口に、パワーが食用菊を押し込む。

 

 「モグモグモグ……んー。」

 

 「ちょ、マキマさん!?それ食べ物じゃないです!ぺっしてください!」

 

 「いやたんぽぽは食えるだろ。」

 

 「貴方は黙っててください!」

 

 「まーまー、新人ちゃん。デンジ君も悪気があったんじゃないだろうし許してあげましょうよ。」

 

 「ふ、伏さん……。すいません、マキマさんが殴られたので私、頭に血が昇ってしまって……。」

 

 「新人ちゃんはマキマさんにこの前助けて貰いましたからね、冷静でいられないのは仕方ないでしょう。

 それと新人ちゃん……あれは食用菊だからたんぽぽと違ってちゃんと食べれるんだよ。」

 

 「そうなんですか!?」

 

 「何いってんだよたんぽぽも食えるぜ?そこらに生えてたやつ俺よく食ってたし。」

 

 「「え?」」

 

 「ガハハ!追加じゃ!唐揚げについてた葉っぱ!刺身についてた白い紐!そしてぇ……トドメのピーマンじゃあ!」

 

 「モグモグモグ……美味しいぃ」

 

 寝続けるマキマに対して、レタスや大根などをどしどし食わせるパワー、そして野良たんぽぽを食べてたと宣言するデンジにドン引きする2人、ゲロキスを喰らうアキ。

 そんな賑やかな飲み会は夜遅くまで続いたのであった。



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公安襲撃編
15話 殺意1000%の襲撃


 

 

 

 「月本さん月本さん、京都に何時に着くんだっけ?」

 

 「あと30分ですよ。」

 

 私は新幹線の中で月本さんに尋ねる。私は今、京都のお偉いさんに会うために新幹線に乗っている。

 といってもお偉いさんに会うことはない。なぜなら私はこの新幹線で、ヤクザによって襲撃されるからだ。

 これは原作でも起きたイベントだ。デンジ君に恨みを持つヤクザの孫、通称サムライソードがデンジ君の持つチェンソーの心臓を奪うために、公安対魔特異課、1課から4課全てに襲撃を仕掛ける。その際に原作の真マキマさんも敵に撃たれ、他の4課のメンバーも早川家のみんなと真マキマさん、そして円君を除き皆殺されてしまう。そこで真マキマさんはヤクザを悪魔の力で遠距離から殺害して、そのあと東京へ直ぐとんぼ返りするのだ。

 京都のお偉いさんに合わなくても済むのはいいが、ヤクザに撃たれるだなんてたまったもんじゃない。それにこの私は新幹線でヤクザに撃たれるだけではすまない、公安対魔特異4課だけでなく、1課から3課の職員たちと契約して、そのダメージを私が肩代わりすることになっている。

 つまり、みんながヤクザを撃退するか私が悪魔の力で殺すまで、ずーっと私はダメージを受け続けるのだ。永遠の悪魔の力で、囚人を消費しないとはいえ、大人数のダメージを一身に受けることになる。今から考えても憂鬱極まりない。

 

 「……マキマさん、気分がすぐれないようですが大丈夫ですか?

 酔いが残ってるんでしたら、俺喉乾いてるんでついでにマキマさんの分の飲み物も買ってきますよ?」

 

 「え?いいの?じゃあお願いしてもいいかな?できれば缶コーヒーで。はい、これコーヒー代ね。」

 

 「わかりました、それじゃあ買ってきますね。」

 

 憂鬱な私に気を遣って、月本さんは私にジュースを買ってきてくれるらしい。月本さんは優しいなぁ。昨日コベニちゃんを送ってあげたらしいし。

 私がそんなことを考えて月本さんを見送っていると、前後の席からゴソゴソという音がした。

 はっはーん?これはあれだな?ヤクザがハンドガンを取り出して私をぶっ殺そうとするやつだ。

 月本さんは私の力で死なないけど、それでも撃たれる痛みまでは完全に無くせないからなぁ。巻き込まれないように、逃げてもらえるよう指示出せるよう準備しとこっと。

 私は大声を出す準備をして、撃たれる心構えをした。どんな心構えだ。

 

 「死ね!マキマ!」

 

 「月本さん走って逃げて!」

 

 前の座席から声が聞こえて、私は準備通りに叫んだ。そしてヤクザ達は……

 

 

 

 

 ショットガン、アサルトライフル、サブマシンガン、デザートイーグル(ハンドガンの中でも強いやつ)、などなどのヤバい銃を私に向けてきた。

 ……え?

 

 ババババン!ズダダダダダ!バンバンバンバン!ダダダダダダ!

 ダダダダダダ!バン!バン!バン!

 

 けたたましい銃声が新幹線内に響き続ける。

 

 痛い痛い痛い痛いたいたいたいたいいたい!

 

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!

 

 

 

 めっちゃ撃たれてる!めっちゃ撃たれてる!?原作だとこんなに撃たれてなかったよ!?もう体感10秒くらい撃たれてる!?助けて!?助けて!!助けて!!!

 

 

 

 それからようやく銃撃がやみ、ようやく私は痛みから解放された。

 

 「こちらC班、こちらC班、開始。」

 

 ヤクザがトランシーバーに向かって言う。そして他の客が恐怖して、うずくまり動けない中、1人の男が席から立ち上がり、私に近づいてきた。

 

 「お嬢ちゃん、あんたはやりすぎたんだ。馬鹿だねぇ〜〜。

 これだから学のないやつは。自分を下手に過信して周りに敵を作りすぎたらどうなるか。それが最後までわからなかったかな?ん?まぁ、わかるわけないか?」

 

 そしてその男は新幹線の中だと言うのに、葉巻を取り出して火をつけた。

 私は男の顔に見覚えがあった。そして、『学がない』と言うセリフにも聞き覚えがあった。

 

 その男は、原作で真マキマさんが脅したサムライソードの所属する組の組長であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早川アキとデンジ、パワー、そして姫野はラーメン屋である立花食堂でラーメンを啜っていた。

 早川はラーメンを食べながら思い出す。3年前、今では恋人である姫野とこの店のチャーハンをよく食べていた日々を。昔からここのチャーハンは絶品だった。客は皆ラーメンではなく、チャーハンを目当てに来ていた。それくらいここのチャーハンは絶品なのだ。

 ただ、店主自慢のラーメンは昔は不味く食えたものではなかった。出前で最初に食べた時など、不味さのあまりに吐いてしまったものだった。

 だが、この3年でラーメンの味は劇的に変わった。新作のラーメンは食べても決して吐き気などしない、むしろチャーハンよりも美味いくらいだ。昔と違い、客はチャーハンではなくラーメンを目当てに来ている。これはチャーハンではなくラーメンを食べて欲しがっていた、ラーメン屋の店主にとってはとてつもない進歩だろう。

 

 ……進歩。そう、どんなものも進歩している。俺の復讐もそうだ。着実に銃の悪魔の肉片は集まっている。俺自身も、この3年間で経験を積みデビルハンターとしての腕を上げた。今では班のリーダーを任せられるほどにだ。

 そして新しく部下になったデンジを見る。こいつは……まぁ、性格は酷いがデビルハンターとしての才能は目を見張るものがある。この前も永遠の悪魔と3日に渡り殺し合いを続け、最後には勝利してみせた。

 そしてこいつは、チェンソーの悪魔の心臓を持っている。銃の肉片を取り込んだ、悪魔も狙った心臓を。デンジが悪魔を引き寄せるなら、話が早い。

 そのデンジに群がる悪魔を殺して、銃の悪魔の肉片を集めれば、いずれヤツにたどり着く。

 俺は奴を殺す覚悟を胸に、テーブルに届けられた新作のラーメンを啜ることにした。

 

 「なぁなぁなぁ!お主ら交尾したんじゃろ!?交尾!チョンマゲも眼帯女も、2人で二次会いって、帰ってきたのが朝!これはもう交尾じゃろ!」

 

 「ぶふぉ!」

 

 「うわっ汚ねぇぞテメェ!」

 

 「え〜?パワーちゃんそこ聞いちゃう?聞いちゃうの〜?」

 

 パワーがとんでもないことは真昼間から聞き、姫野のやつは嬉しそうに対応する。

 

 「はっ!ゲロキス女なんかとしても羨ましくなんてねぇな!羨ましくなんて……畜生!

 クソ羨ましい……!おれもしてぇ!マキマさんとそういうことしてぇ〜!」

 

 「お前ら黙れ!もうこの店で飯食えなくなるだろうが!」

 

 俺はキレながら言う。くそ、問題児ばかりのメンツでこの店に来たのは失敗だった。万が一出禁にされて、ここのラーメンとチャーハンが食えなくなるのは嫌だ。

 

 「ふ〜ん。やっぱりデンジ君ってばマキちゃんのこと好きなんだ。」

 

 「超好き」

 

 「マキちゃんがデンジ君が思ってるよりもポンコツちゃんでも?」

 

 「糞好き」

 

 「へぇ〜。そっかそっかぁ!」

 

 デンジが姫野に言う。それを聞いた姫野は嬉しそうな顔で聞いている。

 

 「じゃあデンジ君とマキちゃんがくっつけるよう、協力してあげよっか?」

 

 「マジで!?」

 

 「あっ餃子じゃ!餃子は全部ワシのじゃ!」

 

 2人が盛り上がってるのを尻目に、パワーはもう飽きたのか餃子を独り占しようとしている。俺はそれを阻止しつつ、2人の会話に耳を傾け続けた。

 

 「マジマジ、私たちってマキちゃんにくっつけてもらった所もあるしね。私も恩返ししたいんだよ。ね!アキ君!」

 

 「くっつけてもらったって……。ただ休みを揃えたりとかして貰ったぐらいだろ?」

 

 「いやいや、アキ君からしたらそれだけかもしれないけどさ。私はデートプランとか、プレゼントとか、他にも色々相談に乗って貰ってたのよ。」

 

 「マジで?」

 

 「マジマジ。まぁ、マキちゃん恋愛経験ゼロなんだけどね。それでもマキちゃんなりに真剣に悩んでくれてさ、色々一緒に考えてくれたり手助けして貰ったんだよ。

 だからさ、私もマキちゃんに春が来るように応援したいわけよ。」

 

 そう言いながら、姫野は俺がパワーから死守した餃子を頬張る。

 

 「ああ!ワシのギョーザ!ギョーザが……。ワシのじゃったのに…‥。」

 

 「お前だけのじゃねぇよ。」

 

 「だからさ、デンジ君。今日から私たちは先輩後輩じゃなくて……友達でいこう。だって、そっちの方が相談しやすいでしょ?」

 

 「いいぜ!それじゃあ俺がマキマさんと付き合えるようよろしくな!」

 

 「いいよいいよ、そのかわり……ちゃーんとマキちゃんのこと、幸せにしてあげてよね?」

 

 「おー任せとけ、俺がマキマさんと付き合って幸せにしてやるからよぉ」

 

 そう言うとデンジは姫野に向かってVサインをした。

 

 俺はそんな2人のやりとりを微笑ましくながめていた。

 

 

 

パンパン! パンパンパン!

 

 

 

 その時だった。外から何か破裂するような音が響いたのは。

 

 「なんだこん音……」

 

 「しらんとは愚かな……太鼓の音じゃ」

 

 「祭りか……」

 

 俺は気にせずラーメンを食い続けようとしたが、その時近くの席の男が声をかけてきた。

 

 「ここのラーメンよく食えるな……味ひどくないか?」

 

 「……誰?」

 

 姫野が思わず聞き返す。男が食べていたのは3年前の頃から唯一味の変わらない、クソ不味いラーメン。沼ラーメンであった。他のラーメンは全て味が良くなったのに、なんでかあの沼ラーメンだけは唯一味が変わらずクソまずいままだった。

 

 「俺はフツーにうめぇけどな」

 

 「ワシに気安く話しかけるな!」

 

 デンジとパワーが男に反応する。そりゃデンジの感想はもっともだ。こいつが食ってるのは不味い沼ラーメンじゃない。ちゃんと美味いラーメンだ。

 

 「味の良し悪しが分からないんだな。幼少期に同じような味のモンしか食べてないとバカ舌になるらしい。舌がバカだと幸福度が下がる」

 

 「ワシ幸福じゃが!」

 

 パワーが言い返す。この男はよく知らずに沼ラーメンを頼んでしまったのだろう、この店について詳しくなければそういうこともある。それだけならただの可哀想な男として同情するが、知らない俺らに絡んできた上に唐突に見下してくる。そんな男とは関わりたくない。

 それにこのまま付き合ってたらデンジかパワーがヒートアップしそうだ。既にパワーは臨戦体制に入っている。

 

 「店出るか」

 

 あらかたラーメンは食い終わってはいるし、面倒はごめんだ。

 

 「俺のじいちゃんは世界一優しくてな。じいちゃんの仕事がうまくいかなくて苦しんでたにも関わらず、俺にいいモン食わせてくれてたんだよ。」

 

 男は構わず喋り続ける。

 

 「じいちゃんヤクザやっててさ、必要悪っていうのかな?街を守るために頑張っててさ、女子供も数えるほどしか殺したことがないんだと。薬売った金で欲しいもん買ってくれてさ、み〜〜んなに好かれてた江戸っ子気質のいい人だったんだ。

 

 それなのに……じいちゃんはずっとクソ女に邪魔されててさ。外国のヤクザどもから街を守ってんのに、理不尽に取り締まられててな。どんどんシノギもシマもクソ女のせいで失っちまったんだよ。

 そして挙句の果てには、じいちゃんが面倒見てやった奴が、そのクソ女に拐かされてさ。恩知らずにも襲いかかり、最後は無惨にもぶち殺されちまったんだ。本当に酷い話だよな……。

 

 お前もそう思うだろ?デンジ。」

 

 男はそういうと一枚の写真をデンジに見せつけた。

 

 「なんのつもりだテメぇ……。」

 

 「知り合いか?」

 

 俺はデンジに尋ねた。いまいち話が飲み込めない。急に話しかけてきたと思ったらデンジと面識があったのか?

 

 「テメェと糞マキマを殺すってことだよ!」

 

     ズダダダダダ!

 

 そして男は勢いよく懐からサブマシンガンを取り出し、俺たちに向かって乱射した。

 

 「がっ!」 「ぐっ!」 「きゃっ!」

 

 一瞬だった、咄嗟のことに反応し切れず俺たち3人は撃たれた。

 だが、唯一臨戦体制だったパワー。あいつだけは襲撃に対応でき、男を殴り飛ばして銃を離させた。

 

 「チョンマゲ!」

 

 俺は激痛のあまり薄れかける意識をなんとか保ちつつ、身体に喝を入れて狐の悪魔を呼び出した。

 

 「コン……!」

 

 そして狐の悪魔が召喚され、男を飲み込んだ。

 

 俺は仲間の安否を確認した。そして俺の目には撃たれてちまみれになったデンジと……姫野の姿があった。

 クソ!2人はあいつの近くに座っていた、だから俺よりも遥かに傷がひどい。デンジは武器人間だからなんとかなるが姫野はそうじゃない!

 

 「早川アキ……私の口にとんでもないモノを入れてきたね…。

 人でも悪魔でもなっ……」

 

 キツネの悪魔が俺に話しかける途中で、狐の顔が思い切り何かに斬られる。

 そして中から出てきたのは……両手と頭から刀を生やした存在。おそらく……デンジと同じ存在、武器人間だった。

 



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16話 そして全力の迎撃

 

 

 新幹線の中で、特徴的なもみあげをした中年の男が葉巻をふかしながら、目の前の女性の死体を見つめる。その人物は、今回の公安襲撃を行ったヤクザの組長だ。

 

 「銃だ……」

 

 「ああ!あ……」

 

 周りの乗客は、突然の銃の乱射に怯え震えている。

 

 「付き添いの男は逃げたようです。探して殺しますか?」

 

 「いや、もうすぐ駅に着く。もうマキマはぶっ殺したんだ。そんなことしてたら足が着いてすぐお縄だろう?そんなこともわかんねぇのか?ん?」

 

 「す、すいません!組長!」

 

 「はぁ〜。たくっ、これだから学のねぇやつは嫌いなんだよ。」

 

 そう言い組長が移動しようとした、その時だった。

 

 

 ブシィ!ブシュッブシャア!

 

 

 マキマの死体から血が噴き出した。

 

 「な、なんだ!?何が起きた!?」

 

 組長が驚きマキマを見る。そしてマキマは、さらに体から血を噴き出し続けている。

 

 「な、なんだ!?何が起きて!?く、組長!どうすれば!?」

 

 「お、落ち着け!お前ら慌てんじゃねぇ!クソ!銃をマキマに向けておけ!」

 

 部下のヤクザたちは組長の指示通り、各々銃の照準をマキマに向ける。

 

 暫く血を噴き出し続けるマキマ。そしてその血がようやく止まり、沈黙が新幹線の中を支配する。

 ……そして、沈黙は唐突に破られた。

 

 「ばん!ばんばんばん!ばん!」

 

 撃たれて死んだはずのマキマが唐突に動き、指でピストルを作りつつ叫んだのだ。

 

 「が!」「ぎ!」「ぐわぁ!」「うぐ!」「ぎゃあ!」

 

 すると銃の照準を向けていたヤクザたちは体に穴があき、吹っ飛んでいった。

 

 「な!」

 

 組長は吹っ飛んだ仲間を見て困惑し、再びマキマに目線を戻す。殺したはずのマキマはしっかりと生きており、指で作ったピストルの銃口を組長に向けていた。

 

 「ふー、ふー、ふー。……動くな。

 両手を上げて……ゆっくりと膝をつき……地面に伏して……手を頭に回しなさい。」

 

 マキマは血だらけの体で、組長を睨みながら言った。

 組長は嫌そうな顔をし、マキマの指示に対しても両手を挙げるだけに留めた。

 

 「チッ‥‥バケモンかよ。

 まぁ、待ちなお嬢ちゃん。俺たちが襲撃する予定だったのはあんただけじゃねぇんだ。東京にいる公安対魔特異課のデビルハンター、全員を襲撃する計画を俺たちはしてる。

 なんだったかなぁ……あんたのお気に入りの名前。そう!確かデンジっつったかなぁ?そいつも襲撃の対象だ。もし俺を殺したら、この襲撃を止める奴が居なくなっちまうんだ。わかるか?ん?」

 

 なおも、どこか余裕を持った態度でマキマに相対する。

 

 「止める?そんなつもりあるんですか?もうその計画はとっくのとうに始まってるんでしょう?……私への銃撃を合図に。」

 

 「おおっと、学もねぇ癖に無駄に察しがいいな。だが、あんたのお気に入りは武器人間なんだろ?ぶっ殺されても生き返らせることができる。もし俺を見逃してくれんなら、デンジの死体をお前に返してやるぜ。それからお前が生き返らせればいい。」

 

  「……随分と舐められたものですね。」

 

 マキマの発言を聞いた組長は笑いながら言う。

 

 「舐める?いやいやお嬢ちゃん、これは公正な取引って奴だよ。あんたがあのデンジとかいうチンピラにお熱なのは武器人間だからだろ?

 武器人間て奴ぁ強い、だからあんたも必死になって囲おうとする。あんたが趣味のヤクザ虐めもほっぽり出して、あのチンピラと必死に連んでるのは奴の気を引くためだろ?ん?」

 

 男は馬鹿にしたような態度でマキマに言う。

 

 「いや?デンジ君を救う為に、貴方を見逃すことは安すぎる対価だと私も思ってますよ。

 私が呆れた理由は……

 

 

 貴方が送った刺客程度で、公安を潰せるだなんて思い上がりをしたからですよ」

 

 「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クソ!クソ!クソが!なんでこんなに動けやがる!?鉛玉ぶち込まれた癖によぉ!」

 

 サムライソードは早川アキと戦っていた。

 サブマシンガンで撃たれ、瀕死の重傷を負ったはずの早川アキ。しかし、彼はまるで傷などないかのように、サムライソードと戦っていた。

 いや……実際に彼の体には撃たれた時にできたはずの傷がないのだ。

 

 「ク……仕方がねぇ、あれを使うか。」

 

 サムライソードは早川アキから距離をとり、しゃがみまるで居合でもするかのようなポーズをとる。

 

 「ゴースト!」

 

 その時だった。サムライソードの奇襲を受け、早川アキ以上にダメージを受けていたはずの姫野が起き上がったのだ。

 そして幽霊の悪魔の力で、サムライソードのアゴにアッパーを叩き込み、居合攻撃を阻止した。

 

 「がっ!……何が……どうなって」

 

 「隙ありじゃああああ!」

 

 「な、がぁ!?」

 

 そしてサムライソードが怯んだ瞬間、姫野の血を止め終わり手持ち無沙汰になったパワーが血の武器で不意打ちをかましたのだ。

 

 「ガハハハハハ!ワシがトドメを刺したぞ!ワシの手柄じゃ!ワシの手柄ー!

 デンジ!お前の敵は討ったぞ!安心して成仏するがいい。礼は……そうじゃのう、生き返ったら何やらせるか悩むのぉ〜。」

 

 サムライソードとの戦いで、良いところを持っていったパワーはご満悦である。

 

 「ハァ、ハァ……。か、勝てたのか。しかし、マキマの助けがなかったらヤバかったな。

 しかし、こいつは一体なんだったんだ?」

 

 「さてね、取り敢えずこの戦いで派手に暴れちゃったからね。

 いやー、撃たれた瞬間にマキちゃんとの話を思い出したけど、思い出すなら撃たれる直前とかにしてほしかったなぁ……。あれは本当に心臓に悪いって、実際に心臓撃たれてるし。

 民間人の被害者がいないかも確認しないと。しかし大変だなこりゃ。出禁……にならないと良いけど。」

 

 姫野は伸びをし、タバコを吸いリラックスする。

 

 「おいパワー、お前は撃たれてないから回復用の輸血パックも無事だろ。

 デンジに飲ませて復活させてやれ。」

 

 「えー!これワシの血なんじゃが」

 

 「デンジを生き返らせてひと段落したら、その分の血をデンジからまた吸って返して貰え。」

 

 「ったく、これで仇討ちと合わせて借り二つじゃぞデンジ?」

 

 早川達がサムライソードを倒した安心感で気を抜いた瞬間だった。パーカーの女が急に現れて、サムライソードを生き返らせたのは。

 

 「な!?」 「は!?」 「ん?」

 

 早川達は困惑した。敵の新手があわられ、先ほど殺したはずのサムライソードが生き返らせられるという展開は、油断していた彼らにとって晴天の霹靂だったのだ。

 

 「クソが……テメェらぶち殺してやる!」

 

 「落ち着け!今回の襲撃は完全に読まれてた!これじゃあ、チェンソーの心臓を奪うのは無理だ!ここは退いて立て直す!」

 

 「ちっ!わかった、沢渡。居合で逃げる……捕まれ!」

 

 そう言うとサムライソードは再びしゃがみ、そこに沢渡と呼ばれたパーカーの女が捕まると、一瞬のうちに2人は消え去った。

 

 「な!?」

 

 「き……消えた?」

 

 「あ!逃げた!この卑怯者がぁ!貴様らに恥はないのか!」

 

 早川達は襲撃犯とその仲間を逃してしまった。……しかし、彼らは誰一人として欠けることなくこの襲撃を乗り切ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線の車両の中で、二人男と女が睨み合っている。そして男が口を開き、沈黙を破った。

 

 「はぁ〜、あんたも強情だねぇ。交渉する気はないのかい?」

 

 「ありません、デンジ君達は貴方達の手下には捕まりませんから。……たとえ、刀の武器人間が相手でもね。」

 

 マキマがそう言うと、組長の顔から余裕の笑みが一瞬で消え去った。

 

 「貴方の手札はだいたい読めてます。私が気になるのは貴方の後ろにいる存在、沢渡アカネ……彼女を操る黒幕です。」

 

 「……………」

 

 組長は険しい顔をする。自分の息子が武器人間になったことや、その武器人間になるための改造を行った沢渡の事まで知られていたのだ。

 組長がここまで余裕を持ち振る舞っていたのには、彼にとっておきの切り札があったからだ。だが、その切り札もバレているかもしれない。その恐怖が彼から余裕を失わせたのだ。

 

 「さあ、もう一度言います。両手を上げたまま、膝を突き、地面に伏して、手を頭に回しなさい。10数えます。」

 

 そう言うとマキマはカウントダウンを始めた。刻々と小さくなる数字、組長は渋々ゆっくりと膝をついた。

 

 ブシャァ!

 

 その時だった、マキマがまた血を噴き出し始めたのは。

 急な出血にマキマは思わず怯み、その隙をついて組長は勢いよく走って逃げ出した。

 

 「バン!ババン!バン!」

 

 「ぐっ!」

 

 マキマもそのまま逃そうとはせず、男に向かってピストルの指で攻撃を行った。しかし先ほどの手下のヤクザたちとは違い体に穴を開けて殺すことはできず、組長を吹き飛ばして窓を突き破り、新幹線から放り出すにとどまった。

 

 ごおおおおおぉぉぉぉぉ!

 

 「キャアアア」

 

 窓が割れた事でものすごい風が新幹線内に発生する。マキマは他の乗客が暴風に巻き込まれぬよう、大量の鎖を出して応急的に窓を塞いだ。

 

 「私の攻撃を受けても体に穴が開かないだなんて……。これはあの組長もなんらかの悪魔と契約したみたいですね。」

 

 マキマは顎に手を当てて呟いた。

 

 がさっ

 

 そんなマキマに対して近づく者がいた。マキマは咄嗟にその人物に指鉄砲を構える。

 

 「……なんだ、月本さんか。大丈夫?怪我はない?」

 

 その人物はマキマの付き人である月本であった。

 

 「あ、あの、マキマさん、だ、大丈夫なんですか?

 てか、さっ、さっ、さっ、さっきのってバンってあれ、じゅ、じゅ、じゅ、」

 

 月本はマキマのことを気遣いつつも、先ほどの光景に完全に困惑している。

 そんな筈がない、自分の見たのは何かの間違いだろう。さっきは銃でも撃ってるように見えた。でもマキマは銃などを握っているようには見えない。いや例え銃だとしても、あそこまでの威力を……人体に大きな穴を穿つ程の威力などは出せないだろう。

 もしそんなことが出来るとしたらそれは……悪魔の力だ。

 

 「ああ、これ?」

 

 マキマは自分の指鉄砲を月本に見せ、月本に近づいた。

 

 「ひっ!」

 

 月本は怯えて腰を抜かす。そしてマキマは月本の目の前にやってきて、人差し指を立たせて月本の唇に押し当てて言った。

 

 「シー。これは秘密だからね?」



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間話その2 偽マキマ版チェンソーマン世界の掲示板18スレ目

※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。

2度目の掲示板回です。
 一応、本小説内に描写されてない内容も偽マキマさん世界の漫画チェンソーマンでは描かれているという設定です。
 なので本小説に描写されてない荒井君と偽マキマさんの契約シーンの回想や、偽マキマさんが飲み会で気付かなかった会話、寝てて知らない会話なども漫画では描かれている設定で読者達は会話をしております。



 

 

 

 

 

599:名無しの悪魔 2019/12/13 5:06:24 ID:nhVCP3Z8xt

マキマさんのバン!バン!バン!……て何?

 

 

600:名無しの悪魔 2019/12/13 5:09:55 ID:rPyLNyWAc9

そりゃピストルでしょ、警察の悪魔だし

 

 

601:名無しの悪魔 2019/12/13 5:15:03 ID:HmK6oa3DqE

警察の悪魔が銃っぽいものを使うのは当たり前だろJK

 

 

602:名無しの悪魔 2019/12/13 5:19:14 ID:SlFwHhBWYB

マキマさんのは警官が使用する銃

だから銃の悪魔とは関係ない

 

 

603:名無しの悪魔 2019/12/13 5:23:01 ID:Lv578O2t97

え?マキマさん警察の悪魔なの?

 

 

604:名無しの悪魔 2019/12/13 5:27:20 ID:46SNFGgDCa

いや別にそういう描写があったわけじゃないんだ

 

 

605:名無しの悪魔 2019/12/13 5:30:57 ID:LUYF3DuXed

じゃあなんで警察の悪魔であるって前提で話してんの?

 

 

606:名無しの悪魔 2019/12/13 5:36:50 ID:z19bQJuJDd

そんなのわかるだろ?

なぜなら、俺はマキマさんを信じている!

 

607:名無しの悪魔 2019/12/13 5:41:49 ID:515TSbwwqN

うおおおおぉぉぉ!

 

 

608:名無しの悪魔 2019/12/13 5:44:51 ID:UkA9W90Un6

進撃の巨人のネタじゃねぇか!

いやでもぶっちゃけマキマさんが銃の悪魔だったら、あの鎖は何?って話になるよな……

 

 

609:名無しの悪魔 2019/12/13 5:49:22 ID:mdkoBgzcbt

最近の説だと

警察の悪魔説

鉄の悪魔説

機械の悪魔説

鎖の悪魔説

銃の悪魔説

ってのがあるな

説の有力さは上から順に低くなってくる感じ

多分バン!バン!はミスリードだって考察されてる。

 

 

610:名無しの悪魔 2019/12/13 5:53:35 ID:mj6yJmdKNP

マキマさんが銃の悪魔だったら銃の肉片くっついちゃうし……

 

 

611:名無しの悪魔 2019/12/13 5:58:35 ID:ra6pmMBKyJ

そこは銃の悪魔だからくっつかないように肉片動かしてるんじゃないの?

鎖はどうやったのか知らん

 

 

612:名無しの悪魔 2019/12/13 6:02:32 ID:geccGbbIv9

いや、マキマさんの正体が警察とか鉄の悪魔でもどうやって仲間のダメージ移してたのかがわからん。

荒井くんの回想だとマキマさんと契約してダメージ移してたから、あれはマキマさんの能力だと思うんだよ。

警察とか鉄とか機械の悪魔の力でダメージ移すって……なに?

 

 

613:名無しの悪魔 2019/12/13 6:08:19 ID:ck4BjG3L7L

警察は市民を守る存在だろ?身を挺して民間人とかを守ることもあるし、そこら辺がいい感じに作用した……とか

 

 

614:名無しの悪魔 2019/12/13 6:12:12 ID:bplBZYBwe2

荒井とか他の公安メンバーの名前が載ってたメモ帳は、ダメージ受け渡しの契約をする人リストだったのね……。

殺す人間リストかと思ってビビってたわ。

 

 

615:名無しの悪魔 2019/12/13 6:17:38 ID:Vu7OMRhdu0

わざわざ契約するべき人の名前をメモしておくマキマさん、意外と几帳面?

 

 

616:名無しの悪魔 2019/12/13 6:22:44 ID:nZG8hX59Rq

姫野がポンコツって言ってたし、忘れちゃうんだろ

 

 

617:名無しの悪魔 2019/12/13 6:28:03 ID:l7X9TaFR9k

あのメモ……実は悪魔の力じゃない?

実はマキマは運命の悪魔、鎖は運命の呪縛を表す。

バン!バン!の掛け声は自分が撃ち殺される運命を逆にヤクザに押し付けた。

あのメモ帳は本来死ぬ人たちのリストで、それを名前を消すことで、その人達の死ぬ時に受けるダメージを自分に押し付けた。

 

 

618:名無しの悪魔 2019/12/13 6:31:38 ID:84Tc2gokIE

機械と鉄の悪魔って考察……なに?

詳しく教えて。

 

 

619:名無しの悪魔 2019/12/13 6:35:05 ID:T13U1h64XL

鉄の悪魔説

マキマさんは鉄の悪魔だから鎖とか銃の力が使える。鉄は人類の進歩に大きな影響を与えた存在で、今も人類は鉄を使用して愛しているから、マキマも人類を愛していて悪魔だけど積極的に味方してる。便宜上鉄の悪魔と言っているが、正確には金属の悪魔

 

機械の悪魔説

鉄の悪魔説の類型、マキマ=デウスエクスマキナのマキナの部分説から

機械の悪魔だから、同じ機械である銃(正確には機械というより道具だけど)の力も使えるし、チェンソーの悪魔のチェーンの部分を鎖として使ってる。

 

 

 

620:名無しの悪魔 2019/12/13 6:38:24 ID:l2FgjfPSS4

そういえばマキマさんってチェンソーマン(チェンソーの悪魔?)に謝ってたよね。

まさかポチタとマキマって面識あるの!?

 

 

621:名無しの悪魔 2019/12/13 6:42:01 ID:MtX5a7ICWK

チェンソーの悪魔(ポチタ?)についてわかってる情報

1.マキマさんが謝ってて、チェンソーマンと呼んでる

2.そしてマキマさんは自分がチェンソーマンに許されないと思ってる

3.『昔の』チェンソーマンのファン(ビーム)がいる

……サメの悪魔が全力で慕うってなんだよ!?

 

 

622:名無しの悪魔 2019/12/13 6:47:56 ID:ieOHspwLSi

マキマさんはチェンソーの悪魔についてできるだけ、情報隠したがってるみたいだけど……

それ本当にデンジ君のためなんですかね?

 

 

623:名無しの悪魔 2019/12/13 6:52:20 ID:MtjPH4a7Ry

敵か味方かわかんなかったけど、最近の描写だとほぼ味方っぽくない?

荒井君のあれも救うためだったし。

 

 

624:名無しの悪魔 2019/12/13 6:55:29 ID:52qFIVpvWt

襲撃仕掛けてきたヤクザもチェンソーの心臓狙ってたみたいだしさ、本当になんなの!?ポチタ何者なの!?

 

 

625:名無しの悪魔 2019/12/13 7:00:36 ID:yW1PG7RJ97

飲み会で荒井君がデンジに謝るついでに色々悪魔について話してた時にさ、『悪魔は輪廻転生する』的なこと言ってたじゃん?

だから前のチェンソーの悪魔、チェンソーマンがヤバいんであって、今のチェンソーの悪魔であるポチタはやばくないと思うんだよね。

だからそれを知らずに永遠とかヤクザは襲撃してるんだと思う。

 

 

626:名無しの悪魔 2019/12/13 7:05:17 ID:tnoqKO5sXY

読み返したらさ……。

1話のポチタに、銃痕みたいな怪我あんだけど((震え声)

 

627:名無しの悪魔 2019/12/13 7:11:04 ID:NsCKtBpPO3

あああああああああ!!!!

 

 

628:名無しの悪魔 2019/12/13 7:16:07 ID:sXfNiE9Udf

マキマさん「チェンソーの悪魔もまた、強力な悪魔の一体」

強力って……どのくらいなんです?

 

 

629:名無しの悪魔 2019/12/13 7:20:32 ID:6i90vB9K7n

話が読めてきた……

1.地獄で銃の悪魔VSチェンソーの悪魔(チェンソーマン)が戦う

2.相打ちになって二人の悪魔が地上に出現

3.チェンソーの悪魔はポチタとして転生したあと、同じく地上に転生した銃の悪魔に襲い掛かられて負傷。そこをデンジに救われる。

 

こんな感じの過去なんじゃない?

 

 

630:名無しの悪魔 2019/12/13 7:26:22 ID:8nGyJELyhI

それなら辻褄が合うな。

銃の悪魔によってたくさん人が死んだのは、ポチタと銃の悪魔の激闘の末の結果とかもありそう。

 

 

631:名無しの悪魔 2019/12/13 7:29:33 ID:f60dm7Dvaq

銃が悪って前提で話進めてるけどさ、ポチタの方が悪だったって可能性はないの?

ポチタが銃の悪魔をバラバラにして、肉片ばら撒いて世界の悪魔をパワーアップさせたとか

 

 

632:名無しの悪魔 2019/12/13 7:34:10 ID:iQvRvj4mUq

 それについて考えても「じゃあポチタはなんでそんなことしたの?

 でもってその後のポチタはなんで悪いこともせずにデンジと仲良く暮らしてたの?」ってなるし……。

ポチタ悪玉説だと、なんかの計画を立てて銃の悪魔殺して肉片ばら撒いて世界規模の事件を起こしたのに、それ急に全部ほったらかしにして子供のペットやって遊んでたやべーやつになる。

 なんだよこれ、ポチタやってることが滅茶苦茶じゃねぇか!?

 

 

633:名無しの悪魔 2019/12/13 7:37:26 ID:ylRehBgdz4

ポチタ「銃の悪魔殺すぞ!」

ポチタ「肉片をばら撒いたぞ!」

ポチタ「それを放置して悪魔に肉片食わせて強化するぞ!」

ポチタ「ワンワン!デンジのペットになるぞ!」

ポチタ「私の心臓をデンジにやる」

支離滅裂すぎて怖いわ!?

 

 

634:名無しの悪魔 2019/12/13 7:41:47 ID:gYTz3B4nCO

こんなやつおったら怖い……

 

 

 

635:名無しの悪魔 2019/12/13 7:47:29 ID:sD5hW8z9aT

なんだこの悪魔!?

 

 

636:名無しの悪魔 2019/12/13 7:50:57 ID:l8tdkYQVxT

ポチタは本当になんなんだ……

ヤクザどもにも心臓を狙われてるし、サメには慕われてる。

サメって普通に考えて、割と恐怖されてる存在だよなぁ!?

 

 

637:名無しの悪魔 2019/12/13 7:54:13 ID:nWmXk8QEXP

実は統計データだと、サメなんかよりも蚊の方が人類ぶっ殺しまくってるし、そこまでなんじゃね?

 

 

638:名無しの悪魔 2019/12/13 7:57:38 ID:vd2SvhfhvX

いや、でも蚊よりも普通にサメの方が怖いだろ……

 

 

639:名無しの悪魔 2019/12/13 8:00:54 ID:QOAW3s7VKZ

サメはサメ映画とかでチェンソーに殺されてるからチェンソー>サメなんでしょ

 

 

640:名無しの悪魔 2019/12/13 8:06:52 ID:Cl5yTcXNUb

しかしようやくデンジ以外の武器人間が出てきたな……

そういえばチェンソーって武器じゃなくない?

 

 

641:名無しの悪魔 2019/12/13 8:10:31 ID:anuqWiS5MO

武器人間って名称はマキマさんが勝手に呼んでるだけらしい。ヤクザもそう呼んでたのは、マキマさんが呼んでたから広まったのかな?

もしくはマキマさんがヤクザの孫のこと知ってたからそう呼んでたのか……。

 

 

642:名無しの悪魔 2019/12/13 8:14:46 ID:HQ6Tcu1lzE

でも組長はヤクザの孫が武器人間だとマキマさんが知ってて、動揺してたからなぁ。

組長はマキマさんのバン!食らっても体に穴空いてないし、一体なんなんだろうか

 

 

643:名無しの悪魔 2019/12/13 8:19:30 ID:l66bYKtlNW

ヤクザ達も気になるしチェンソー様も気になるし、なんなら武器人間になった孫とか沢渡とかいう女の情報も知ってるマキマさんについても気になる。

 

 

644:名無しの悪魔 2019/12/13 8:22:40 ID:IfhVfnaTZ4

マキマさんの情報源はどこからなんだ……。

それとマキマさん、チェンソー様についてどのくらい知ってるんだろう。

そういえばマキマさんはポチタのことを「チェンソーの悪魔の『心臓』」って言ってて、別にポチタがチェンソーの悪魔とは言ってないんだよな。これどういうことなんだろうか。

 

 

645:名無しの悪魔 2019/12/13 8:26:10 ID:pSV8vPZfQb

え?ポチタってチェンソーの悪魔の一部であってチェンソーの悪魔とはまだ別なの!?

 

 

646:名無しの悪魔 2019/12/13 8:30:53 ID:VF3nymEr3n

普通に考えれば、ポチタ=チェンソーの悪魔って考えるのに、わざわざ「チェンソーの悪魔の『心臓』」って説明してるマキマさん……。

 

 

647:名無しの悪魔 2019/12/13 8:36:18 ID:8VUD0bwJxi

やっぱこれマキマさん、チェンソーの悪魔と面識あるんじゃね?

でもいったいどこで……

 

 

648:名無しの悪魔 2019/12/13 8:40:15 ID:2oOT2AkFv9

人間世界でチェンソーの悪魔と銃の悪魔が復活した時、実はマキマさんはチェンソーの悪魔と協力して銃の悪魔と戦ったとか……。

 

 

649:名無しの悪魔 2019/12/13 8:43:53 ID:5zQqTptsc6

そういえばビーム君は魔人だし、一旦死にかけたっぽいよな……。

もしかしてビーム君もチェンソーの悪魔とマキマさんと一緒に銃の悪魔と戦ってた!?

 

 

650:名無しの悪魔 2019/12/13 8:48:58 ID:SdT8j9LqHs

悪魔は基本的に人間嫌ってるらしいけど、人間に友好的な悪魔もいるって飲み会で誰か話してたよね。確か天使の悪魔だっけ?

 

 

651:名無しの悪魔 2019/12/13 8:53:38 ID:sfsLbuR0FO

 人間に友好的な悪魔達(チェンソー、マキマ、ビーム、天使etc)が銃の悪魔をやっつけようとした?

 それでそのメンバーは全員死にかけて、魔人になり公安に所属して人間のために戦ってるとか……。

 もしかしてパワーちゃんも人間に友好的な悪魔の一人だったのかも。魔人化した時になんかあって人間嫌いなったとか。

 

 

652:名無しの悪魔 2019/12/13 8:58:31 ID:EKMDjqgodt

 天使の悪魔はまだ魔人化してないんじゃない?ちゃんと悪魔って明言されてるし。

 

 

653:名無しの悪魔 2019/12/13 9:02:42 ID:m88naHKFiQ

逆にマキマさんは悪魔じゃなくて魔人の可能性もあるのか……。でも魔人だとしてもいったいなんの魔人なんだよ!?



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17話 罰の執行

 

 

 

 駅にて、京都公安に所属する多数のデビルハンター達がこれから来る大物を待っていた。その中には京都公安の中でも腕利きのデビルハンターである天童ミチコ、黒瀬ユウタロウも含まれていた。

 本来、たかだか1人のデビルハンターのお迎えの為だけに、ここまでの有力なデビルハンター達を態々向かわせる必要はない。それでもこれほどのデビルハンターを出迎えの為だけに派遣したのは、それだけその大物が重要視されていることの表れだろう。

 その大物の名はマキマ。内閣官房長官直属のデビルハンターであり、公安対魔特異4課のリーダーである。

 

 そして天童と黒瀬の2人がマキマが乗る新幹線が到着する場所で待機していると、情報を受け取った仲間が報告しにきた。

 

 「大変です!東京で特異1課2課3課4課が銃で襲撃されたようです!

 

 「「あ!?」」

 

 その報告を聞いて2人は汗を流して焦った。

 

 「マ、マジ……!?マキマさんは!?マキマさんはどうなったん!?」

 

 「落ち着け黒瀬!そんな簡単にマキマさんがやられるわけないだろ!

 襲撃の規模は?被害は?状況は?」

 

 天童が黒瀬を落ち着かせつつ、報告にきた部下から詳しい情報を聞き出そうとする。

 

 「は!現在入っている情報によると、襲撃者は現在確認できているだけで60名以上の大人数ということです!

 襲撃者の武装はハンドガンだけではなく、サブマシンガンやアサルトライフル、スナイパーライフルなどの重装備で襲撃してきたとのことです。」

 

 「お、おいおい……そないな武器を使うなんて、完全に戦争やないか」

 

 「くっ、被害は!?被害はどうなんだ!?」

 

 「そ、それが……現在流れ弾を食らった民間人などの負傷者についての情報はあるんですが……。

 肝心の特異課での死傷者については依然情報が錯綜しているようで……死者が1人も確認できていないんですよ。」

 

 「「はぁ!?」」

 

 黒瀬と天童は声を合わせて聞き返した。

 

 「どういうことだ……?襲撃を受けたのに特異課での死者が0人?敵の目的は特異課じゃなくて陽動?いや、そもそも襲撃者は殺す気がなかったのか?」

 

 「いえ、多数の特異課メンバーが撃たれたという報告はあるので、殺す気はあったと思われます。ただ、撃たれた特異課職員の中で死亡したという報告が皆無なんです。」

 

 「どういうことなんそれ?……いや、もしかしたらマキマさんが何かやったんかもなぁ。」

 

 黒瀬は以前に協力した際のマキマを思い出す。公安対魔特異4課のリーダーを務め、メディア露出も非常に多いデビルハンターであるマキマ。

 彼女は公安の中でも屈指のエリートであるにもかかわらず、決して偉そうに振る舞わず常に他の職員に対しても丁寧に接していた。

 そしていざ、悪魔や悪魔の力を悪用する犯罪者との戦いになれば、彼女は自分の力を最大限に使い仲間が傷つかぬように動きつつ、敵を圧倒していた。

 彼女の契約する悪魔は機密であり、黒瀬は知らない。ただ、その戦いの時に使用した能力を考えると鎖の悪魔や手錠の悪魔、あるいは警察の悪魔と契約していたと予想している。

 彼女が別の悪魔と契約したか、あるいは他の職員になんらかの手を打たせるかして、仲間が死なないように仕向けたのだろう。黒瀬はそう考えた。

 

 「まぁ、特異課の連中で死んだって報告がないならマキマさんも無事そうやな」

 

 「よかったあ〜!ウチら待ち損になるんかと一瞬焦ったわ!

 まぁ、この感じならウチらの任務がマキマさんを病院に護送することにならなくてすみそうでよかったわ」

 

 「いやいや、マキマさん案外抜けてるところあるからなぁ。もしかしたらヘマして、自分1人だけ身を守るのを忘れて血だらけでこっち来るかもしれんで?」

 

 「ああー、ありそう。マキマさんテレビだとすごく凛々しそうだけど、実際割とおっちょこちょいやしなぁ。」

 

 急な報告に一瞬身構えた2人、しかし死者の報告がないことから緊張が抜け、余裕ができたことから、黒瀬に至っては素の京都弁か駄々漏れになっていた。

 

 そしてついに新幹線が到着した。

 

 「ごぶぅ!ゲハっ!ゴホッゴホッグバァ!」

 

 「「ギャアアアあああ!」」

 

 2人の目の前に現れたのは、全身から現在進行形で血を流し、なんなら口からも吐血しまくって新幹線も駅も血で汚しまくる、付き人に肩を支えられて降りてきた大物、血まみれのマキマの姿であった。

 

 「ちょ!?マキマさん!?きゅ、救急車救急車ぁ!」

 

 「だ、大丈夫です。いや全然だいじょばないけど!ぐはっ!

 そ、それよりも神社……高いとこの神社……げぶぅ!」

 

 「いや観光しとる場合ちゃうやろ絶対!?他の客もドン引きするわ!?」

 

 あまりの事態に混乱した黒瀬は、大阪市民のようにツッコミを入れる。それに対して、マキマに肩を貸している付き人、月本が代わりに答えた。

 

 「いえ、違うんです!マキマさんは今、襲撃を受けている公安メンバーのダメージを肩代わりしているんです!さっきまで落ち着いていたんですけど、襲撃者との戦闘が激しくなったみたいで……。

 マキマさんを助けるためには、襲撃者達を倒すしかありません!そのために標高の高い神社に行く必要があるんです!」

 

 「わ、わかった!気ぃ動転してアホな勘違いしてすまんかった!俺も肩貸す!マキマさん!すぐ着くから!しっかりしてくださいよ!?」

 

 「ぐっ……あ、ありがとう黒瀬くん。がぁ!?」

 

 「喋るな!喋るな!もう大丈夫だから!」

 

 「あ、すいません!それと襲撃者を倒すために、囚人が必要だそうです!

 法務省から終身刑以上の囚人を出来るだけかき集めてください!」

 

 血まみれの女が、さらに血を噴き出しながら2人の男に肩を貸されて移動するという、狂気の光景。当然のことながら、京都駅が混乱に包まれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ……してやられたな。まさか完全に読まれてやがったとは。」

 

 特徴的なもみあげをした若い男、襲撃してきたヤクザの孫が顰めっ面をしながら言う。

 

 「おい、お前の組の誰かが裏切ったとかはないのか?」

 

 沢渡アカネが訝しそうに孫を見る。

 

 「いや、それはねぇ。親父の契約した悪魔の力でそれはできない。それはこの襲撃に参加したじいちゃんの組以外の奴等もな。あるとしたらお前の方から漏れたって線だが……」

 

 「……銃の悪魔がそう簡単に情報を漏らすわけないだろ。

 お前らでもなくあたしでも無いとすると残るは一つ」

 

 「糞マキマの能力か……。」

 

 忌々しそうに孫はマキマの名前を口にする。

 

 そして2人は仲間のヤクザか乗って待つ車についた。

 

 「若!よくぞご無事で!」

 

 「ああ、それで状況はどうなってやがる?親父はマキマの奴を殺し損ったみたいだが。」

 

 「それが組長達は手はず通りに渡された銃をありったけぶち込んだようですが……。なんでも撃たれた後にマキマのやつが生き返ったらし……」

 

 報告してるヤクザが急に喋るのをやめた。

 

 「おい、どうした?」

 

 沢渡が尋ねる。

 

 「おい!マキマが生き返ってどうなったんだ!」

 

 「え、あ、なんか……なんだコレ?。」

 

 仲間のヤクザに対して沢渡が尋ねる。

 

 「早く続きを言え、組長達はどうなったんだ?」

 

 「な、なんか変な感じなんです!」

 

 「変な感じって?襲撃がか?」

 

 「違うそれじゃあねぇ!なんだこれ!?なんだこれ!?なんなんだぁ!?」

 

 男は急に混乱し、大きな声を出し始め……

 

 

 

 パシャア!!

 

 

 男は見えない何かに叩き潰された。そしてその場所には男の服と、血が染み付いた道路が残された。

 ヤクザの孫と沢渡、そして他のヤクザは唖然とした表情でその光景を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私こと偽マキマは、襲撃者のヤクザ達を罰の悪魔の能力で殺す為、京都にある標高の高い神社に来ていた。

 といっても、原作の真マキマさんのようにその姿はカッコイイものでも、凛々しいものでも無い。私はヤクザの襲撃によって服はボロボロだし、その上血まみれだ。

 しかも車に乗ってる最中にも、ダメージを肩代わりしているせいでどんどん傷が増えていくし、そのせいでどんどん血が流れて乗ってきた車が血で汚れまくってしまった。……京都府の公安の車だし、やっぱあれ私が弁償しないとダメかなぁ?

 しかも原作と違うのはそれだけじゃ無い。

 

 「なぜ俺たちも目隠しを……?」

 

 「マキマさんは内閣官房長官直属のデビルハンターだ。一端のデビルハンターじゃ契約している悪魔を知ることは許されない。」

 

 天童ちゃんが黒瀬君に答える。

 

 「……それはわかった。でもじゃあなんでマキマさんは囚人だけじゃなく俺たちも鎖で縛ってるんだ?」

 

 そう、いま黒瀬君が言った鎖。これが原作と大きな違いだ。

 天童さんと黒瀬君、そして囚人達を縛っている鎖は私の能力の支配の鎖だ。これは相手を物理的に縛ることだけじゃなく、縛った相手の力を効率的に支配することができるのだ。……てか、それが本来の使い方だ。

 この支配する力を効率的に使うことで、このボロボロの私でもうまく2人が契約している悪魔……罰の悪魔の能力を使いやすくしている。

 

 「ああ、黒瀬は知らんかったか。マキマさんはこうやって悪魔やデビルハンターを鎖で縛る事で、そいつが使う悪魔の能力を使えるんや。

 さっきマキマさんがウチらの悪魔の力を借りてもいいか聞いてきたやろ?」

 

 「噂には聞いてたけど、マキマさんが能力借りれるってホンマやったんか……。都市伝説だと思ってたわ」

 

 そしてこの鎖で直接縛って支配の力で悪魔の力を借りることのメリットは、効率がいい事以外にもある。

 それは私の能力を誤解させられる事だ。私は基本、人の目がある場所で他の悪魔やデビルハンターの能力を借りるときはこうやって鎖を通して借りている。

 そうする事で私がいちいち能力を借りるのには、近くに能力を借りる対象がいる必要があると誤認させられるのだ!こうする事で、支配の悪魔の持つ、他の悪魔の能力をほぼノーリスクで使えるというチート能力を隠すことができる。

 この能力は本当にチートだからなぁ……。このチートのおかげで何度命を救われたことか。こんな凄い力を、もし対策でもされて防がれたら私は確実に死ねる。なので私はこのチートを秘密兵器として全力で隠しているのだ。

 たぶん、鎖で縛らなくても悪魔の力を借りれることは公安でも知ってる人はいないと思う。あ、でも岸辺先生はすごいからなぁ……訂正、公安でも岸辺先生を除いて気づいてる人はいないと思う。

 

 そして囚人達にもこの支配の鎖を使用している理由、それは私にかけられている永遠の悪魔の力を囚人達にも与える事で、罰の悪魔を使用しても囚人達が死なないようにする為だ。

 といっても、私が肩代わりした襲撃のダメージで死なないようにする為に、その分の永遠の悪魔の力を残しておかなきゃいけない。

 なので囚人に割ける永遠の悪魔の力は限られており復活にはかなり時間がかかる。だから今日中に囚人を復活させて罰の悪魔への生贄にまた使うことは出来ないけど……。

 それでも法務省から借りてる囚人をバンバン死なせるよりはマシでしょ。私の残機も減らないし……。

 

 ……てかよく考えたら、囚人達と一緒に天童ちゃんと黒瀬君を縛ってるのってめっちゃ失礼じゃないか!?うわぁ……どうしよ、今からでも鎖外そうかな?いや、ここで鎖外して能力借りたら『鎖使わなくても能力借りれるん!?じゃあなんでウチらのこと縛ったん!?』って怒られそう。

 ごめん、怒られるの怖いからこのまま縛らせてもらいます。後で東京の美味しい料理屋さんでご馳走しまくるから!許して!

 

 私は2人に心の中で謝りつつ、罰の悪魔の力を使用した。

 

 「三島シュウゾウ……と言いなさい」

 

 「三島……シュウゾウ?」

 

 男がそう答えたのを聞き、私は罰の悪魔の力でヤクザの1人を圧殺した。

 それと同時に囚人がパタリと倒れ、ビクビクと痙攣する。よし!永遠の悪魔の効果でちゃんと生きてる!これで法務省にも怒られずに済むな。私は囚人達にヤクザの名前を言わせ、次々と罰の悪魔の力を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「と……止まった?」

 

 沢渡アカネとサムライソード達は青ざめながら、潰された仲間達を見ていた。

 

 「こんなデタラメな力は多分マキマのだ。大丈夫な間に逃げるぞ!」

 

 2人は車に乗り込んで逃げようとするが……。

 

 「貴方達、銃撃犯ですよね?」

 

 公安対魔特異4課の職員、東山コベニともう1人、顔に傷がある男。

 

 「そこまでだ。貴様らを傷害罪、器物破損罪、公務執行妨害罪、銃火器類特別規制法並びに……殺人未遂の疑いで逮捕する!」

 

 襲撃により傷を負いつつも、マキマとの契約で死ななかった荒井ヒロカズ、2名の公安のデビルハンターが立ち塞がった。

 

 

 



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18話 まともじゃない!

 

 

 「大人しく投降しろ、お前達の企みは失敗した!」

 

 車で逃げようとしていたサムライソードと沢渡アカネ、2人の前に臨戦体制の荒井とコベニが立ち塞がる。

 荒井は狐の悪魔を呼び出せるよう手を狐の形にして2人に向けており、コベニは血のついた包丁を構える。

 

 「ヘビ、尻尾」

 

 沢渡はそんな2人に怯むことなく蛇の悪魔を呼び出し、巨大な尻尾で荒井とコベニを攻撃する。

 

 「させるか!コォン!」

 

 それに対して荒井も咄嗟に狐の尻尾を呼び出して、蛇の尻尾に絡めて動けなくした。

 

 「ちっ!」

 

 「今だコベニちゃん!」

 

 コベニは絡まった尻尾の上を走り抜ける。

 

 「猿か!?」

 

 サムライソードは銃を抜き、コベニを撃とうとするが、その前にコベニに腕を切り落とされ銃を奪われる。

 そしてすぐさまサムライソードに二発の弾を浴びせ、沢渡にも引き金を引く。

 

 カチカチ

 

 しかし、奪った銃にはもう弾は入っておらず沢渡が撃たれることはなかった。

 

 「チッ!もう少し温存したかったが仕方がねぇ!」

 

 そう言うとサムライソードは口で自分の手を引っ張り、刀の悪魔へと変身した。

 

 「な!?悪魔になっただと!?」

 

 荒井は驚愕しつつもコベニに駆け寄り、狐の尻尾をもう一つ召喚してヤクザの孫を攻撃した。

 

 「効くか!」

 

 しかし、サムライソードは荒井の召喚した尻尾を切り刻みそのままコベニに斬りかかる。

 

 「危ない!」

 

 荒井は先ほどのヤクザによる銃撃から庇ったように、再びコベニを庇いサムライソードに斬られた。

 そして荒井は大量の血を流して倒れた。

 

 「そんな……」

 

 コベニは銃で撃たれたのとは比較にならないほどの出血をする荒井を見て動揺し、動きが止まる。

 

 「沢渡!今のうちに逃げるぞ!」

 

 「ああ、また復活されても面倒だ。」

 

 襲撃犯の2人はそう言うと車に乗り込み、逃げ出した。

 

 「……あ、荒井さんを、2度も死なせちゃった。」

 

 1人残されたコベニはポツリと呟いた。

 

 「フ、フフ、2度も死なせるって……。2度も死なせるって……!なんだソレ……!フフフ、フフ、フフフ……!」

 

 あまりの事態に混乱するコベニ。

 

 「ぐっ、う、ううう……。」

 

 しかし、荒井がうめき声を上げたことで、コベニは我に帰る。

 

 「あっ、そ、そうだ。マキマさんが言ってた契約!死なないんだから取り乱す必要なんてなかったじゃん……。

 しかも犯人逃しちゃったし、何やってんだ……何やってんだ私。

 そ、そうだ!とりあえず救急車!救急車呼ばないと!荒井さん!しっかりしてください!」

 

 我に帰りつつもまだ混乱しているコベニは、契約で傷が治ることも忘れ、荒井のために救急車を呼んだのだった。

 そして救急車が到着した頃には、荒井の傷はすっかり治っており、コベニと血まみれだが無傷の荒井は2人して救急隊員に謝ることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう外して大丈夫です。ここで私が出来ることは終わりました。」

 

 私は罰の悪魔で襲撃してきたヤクザの中で、把握している者を倒し終わり、待ってくれている天童ちゃんと黒瀬くん、それと月本さんに声をかけた。

 

 「ふぅ……。て、うわぁ!すごい囚人達がビクンビクンしてる。き、気持ち悪い。」

 

 「……マキマさん、これ大丈夫なんですか?法務省から借りて来た囚人達、ちゃんと生きとりますか?」

 

 月本さんが囚人達を見てドン引きしながら言い、黒瀬君は心配しながら私に聞いた。

 

 「うん、ちゃんと生きてるよ。時間は掛かるだろうけど暫くしたら復活するよ。」

 

 私はそう言うと、天童ちゃんと黒瀬君の前に立って言った。

 

 「2人とも、悪魔の力を貸してくれてありがとうね。本当に助かったよ。」

 

 「いやいや、ウチらはただ突っ立っといただけでなんもしとらへんし。」

 

 「……そういえば迎えに俺らが選ばれたのって、まさかこのため?」

 

 「うん、襲撃が起こることは把握してたからね。」

 

 私は黒瀬君に言った。

 

 「だったら事前に法務省から囚人借りて、神社に待機させといた方がよかったんちゃいますか?」

 

 「いや、事前に大量の囚人を借りる申請をしたり、その囚人達を神社に集めておくのは流石に目立ちすぎるからね。

 不審な動きをして、私が襲撃を把握してることを知られる訳にはいかなかったから、準備はできなかったんだ。忙しくさせちゃってごめんね?」

 

 私は頑張って爆速で囚人を借りてくれた黒瀬君に謝る。

 

 「ああ、そういことなら納得です。マキマさん割とおっちょこちょいな所あるから、うっかり忘れてたんじゃないかと。」

 

 「ああ、確かに。テレビとかだとザ・エリートって感じで完璧超人に見えますけど、マキマさん普通にミスしたりしますもんね。」

 

 黒瀬君も月本さんが笑いながら言う。

 

 「そんな……酷いよ黒瀬君、月本sグボハぁ!」

 

 私が否定しようとした瞬間、思いっきりお腹の辺りを斬られた痛みが走り、目の前の天童ちゃんと黒瀬君が血まみれになった。

 

 「ぎゃああ!」「うわあぁぁ!」

 

 「マキマさん!?」

 

 しまった……サムライソードと沢渡アカネを忘れてた。いや、サムライソードは殺しててすぐ復活するから放置してて、沢渡アカネは黒幕聞き出すためにあえて殺しておかなかったんだけど……。

 それでも安心するのは早すぎた!てかよく考えたらあの組長も生きてるじゃん!……そういえば組長の名前なんなんだろうか。全力で調べてるのに全然情報が出てこないとか、あの組やっぱ隠蔽力が狂っとる。こっちは小動物操って盗聴とか盗み見出来るのにどうなってるの……?

 

 私は出血により服とかを血まみれにしてしまった天童ちゃんと黒瀬君の2人に謝りつつ、4人で東京に戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしの東京!東京よ!私は帰って来た!半日しか離れてないけど。

 私が新幹線に乗り、東京駅に戻るとメガネをかけた甘党系男子、円くんとそのバディであるパールのイヤリングをした女性、遥華さんが出迎えてくれた。

 ……しゃあ!遥華さんがちゃんと生きてる!原作だと名前も出てこないで死んじゃったからなぁ。

 原作だと迎えに来てくれたのは円くんだけだったけど、私が契約した甲斐もあって無事に生き残れたようだ。

 

 「円くん!遥華さん!よかったぁ……生きててよかった。本当によかった。

 出迎えてくれてありがとね。それで、他の特異課のみんなはどうなってるの?」

 

 私は2人に尋ねた。

 

 「襲撃を受けたのは私たちを含む特異1課から4課の全部だね。全員銃で襲われましたよ。」

 

 「ですがマキマさんのおかげで、人外含む全職員が生存。負傷した職員も既に回復しています。」

 

 遥華さんと円くんはスラスラと報告する。私はそれを聞いて、小さくガッツポーズをした。

 っしゃあぁぁぁ!全員生きてる!原作では姫パイも荒井君も死んでたからなぁ……。いやぁ、本当によかった……痛い思いをした甲斐があったよ、うん。マジで嬉しいわ。嬉しさのあまりに踊り出しそう。サンタクロースもハンバーガー食った時、このくらい嬉しかったのかなぁ?

 

 「それと上からの通達です。今回の事件を解決するために、公安特別捜査本部の設置を決定。一時的に全特異課はその捜査本部の指揮下に置かれます。」

 

 「なるほど……。それで捜査本部の指揮官は岸辺先生が務めると。心強いね」

 

 私は笑みを浮かべて言った。1課を含めた全ての課を指揮する、これはもうキャリアとか実力的に考えて岸辺先生が取るに決まってる。

 原作では岸辺先生が隊長を務める一課は壊滅したみたいだけど、死者がいないということはしっかり残ってるってことだから、岸辺先生は隊長としての地位を維持してる筈。古くからいる1課の隊長と、その弟子である4課のリーダーである私。どちらを指揮官にするかと聞かれたら、やっぱ師匠である岸辺先生が選ばれる筈だ。私だってそうする。

 ふっふっふ、あの岸辺先生がリーダーを務めてくれるのだ。最強のデビルハンターを自称するほどに岸辺先生は優秀だ、敵に回るなら死ぬほど恐ろしいが、味方として助けてくれるのなら先生以上に心強い人はいない!

 

 「いえ、捜査本部の指揮官は襲撃を察知し、死者を0人で抑えた功績が評価され、マキマさんが選ばれました。」

 

 「え?」

 

 私は思わず真顔になった。……なんで?

 

 「それとこれを受け取ってください。」

 

 「あ、マキマさんごめんね。私の分もお願い」

 

 そう言うと2人はそれぞれ辞表と異動願の封筒を私に手渡した。

 

 「え?」

 

 「マキマさん。僕さっき契約する時のこと思い出したんですけど、この襲撃を生き延びたら公安辞めるって伝えてましたよね?ちゃんと一言相談したので辞めさせてください。繁忙期だってわかってはいるんですけど、僕も命は惜しいので。」

 

 「マキマさんごめんね。流石に公安のデビルハンターまでは辞めないけど、特異課でヤクザとドンパチするのはちょっと……。それと、他の課の人たちも結構今回のでビビっちゃったみたいで、私たちみたいに辞めたり異動する人多いみたいだから頑張ってね。」

 

 「え?」

 

 私はもうひたすら『え?』と繰り返すことしかできない。そんな哀れな中間管理職の私を、心配そうに京都組の2人と月本さんが見つめる。

 そして私に対して円君が尋ねた。

 

 「最後に教えてください、マキマさんは今回の事態をどこまで想定していました?」

 

 「……少なくともここまでの地獄は想定してない。

 ベテランの岸辺先生を差し置いて私が指揮を取る?いっぱい職員が辞めた特異課を率いて?しかもハンドガンだけじゃなくて、マシンガンとかショットガンとかで武装したヤクザ達を?

 うっそだぁ……。」

 

 私は絶望しながら答える。

 

 「マキマさん、私特異課には残らないけどマキマさんのご武運を祈ってるから!」

 

 「マキマさんすみません。本当に辛い時期だと僕もわかってるんですけど……。応援してますので頑張ってください。」

 

 これから安全圏に移る2人が暖かいエールを私に送ってくれる。私とデンジ君達も連れてって欲しい……。

 

 「あの……マキマさん。俺たち特異課には入るワケじゃないですからね……?」

 

 「……くぅ〜ん」

 

 私は京都組の2人を捨てられた犬のような顔で見つめた。

 

 「そんな捨てられた犬みたいな顔しても無駄ですからね……?ウチら指導に来ただけなんで……」

 

 「俺ら一週間で京都に戻りますから……。」

 

 「……さっきは血で服汚しちゃったり、鎖で縛っちゃったりしてごめんね。

 お詫びに東京の美味しいお店で奢るよ」

 

 「ありがとうございます。あっ、でも特異課には入りませんよ俺ら。」

 

 「……うん、お詫びの奢りだしね。でもせめて、せめて愚痴には付き合ってくれませんか?」

 

 「あ、すみません。私たち辞めるけど一緒にご飯だけ付き合ってもいい?ちゃんと愚痴は聞くから!」

 

 遥華さんがノリノリで釣れた。

 

 「遥華さん聞いてました?2人のお詫びってマキマさん言ってたでしょ。」

 

 そこに円君が鋭く突っ込む。

 

 「天童ちゃんと黒瀬君がいいなら大丈夫だけど……」

 

 「2人ともお願い!これが私にとって、マキマさんにタダ飯奢ってもらう最後の機会になりそうなの!どうせ食べるなら人数多い方が楽しいし!ね!」

 

 「えっ?あ、あー、ええちゃうん?」

 

 「しゃあ!じゃあそっちのお姉さんの方はどうよ!?」

 

 「く、黒瀬がええならウチもええけど……。」

 

 「っシャア!マキマさん、それじゃあ美味しいところよろしくね!いやー、ヤクザの襲撃生き延びた甲斐があったわぁ……。」

 

 「あ、2人がいいなら僕もご一緒します。デザート類が美味しいとこ希望です。」

 

 ものすごい勢いで食事に参加しようとして、見事成功した遥華さん。そして2人が良いと言った途端に秒で参加することを決めた円くん。

 そんな特異課2人を京都組はなんとも言えない表情で見つめていた……。

 

 

 特異課にはちょっと変わった人が多いからね!仕方ないね!




※読み飛ばしてもなにも問題ありません

本作中に出てくる原作で名前が出てこなかったキャラクター達の扱いについての解説

 本作品では月本さんや黒井さんなどのキャラクターが登場します。彼らは原作に出てきたが、名前が判明しなかった公安キャラクターに対して、私が勝手に名前をつけさせて頂き、オリジナル設定などを多数付与させて頂いたキャラクター達です。
 こういったキャラクターは今後増える可能性もあり、読み易くするため、また混乱を避けるために、彼らが原作ではどのシーンで出てきたキャラが元となっているのか、またどの部分がオリジナル設定なのかなどついて、軽く解説したいと思います。

 月本さん
原作の該当人物 マキマさんが新幹線に乗っている時に撃たれた付き人。

 公安対魔特異4課の新人歓迎会におらずら公安対魔特異4課のメンバーかも分からないのですが、本小説内ではオリジナル設定で特異4課の職員という事で扱わせて頂いております。
 また、原作の1話2話で行動を共にしていたシルエット状で容姿がよくわからない付き人のうちの1人も、オリジナル設定で彼ということにさせていただきました。
 名前の由来は付き人(つきびと)を一文字変えて月本(つきもと)。

 黒井さん
原作の該当人物 飲み会でデンジ君に「おら!若いんだからもっと頼め!食え!!」と言っていたガタイのいい公安職員。

 描いている最中に後付けのオリジナル設定で、原作の1話2話に出てきた付き人のガタイのいい方を彼ということにさせて頂きました。伏さんが新人の育成などに集中するため、一時的にマキマさんの第二の付き人をしていたという形。
 伏さんと一緒に行動してヤクザに撃たれていたので、この小説ないで勝手に伏さんのバディということにさせて貰いました。
 名前の由来は黒いシルエットだったので黒井。月本さんと黒井さんは『黒い付き人』を名前の元にしている安直な名付けです。

 遥華さん
原作の該当人物 コベニちゃんと話していた女性の公安職員。

 円さんのバディが不明だったこと、またヤクザに撃たれたシーンでペアで描かれず一人で撃たれていたことから、オリジナル設定で円さんのバディになって貰いました。
 伏さんにIQを尋ねたあと、『わざわざ覚えてるあたり自慢に思ってそう』という発言をしたのが彼女のだったと思われるので、割と遠慮のないキャラとして描かせてもらいました。
 名前の由来は耳に真珠のイアリングをしている→パール→ぱある→はある→→はる→ハルカ→遥華という連想ゲームで考えました。

 以上の上記にあるキャラクター達の設定は、大半が自分が考えた考察とすら呼べない想像によるものが大半です。キャラ達の名前やバディ、性格などは原作にある設定ではないのでご注意ください。


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19話 訓練と契約

 

 私は公安が管理する殉職者が埋葬された墓地に、デンジ君とパワーちゃんと共に来ていた。その目的は、2人をこの墓場で待つ人物に鍛えてもらう為だ。

 そして私は墓の前に立つ1人の最強のデビルハンターの下に辿り着いた。

 

 「デンジ君、パワーちゃん。紹介s」

 「シー、黙れ」

 

 「ハイ!黙ります!」

 

 私が岸辺先生の下に行き、紹介しようとするとその前に岸辺先生が静止し、私はビシッ!と気をつけの姿勢で口を塞いだ。

 

 「質問に答えろ。お前らの仲間が銃で撃たれた時、どう思った?」

 

 「別に〜〜?」

 

 「撃たれた!と思った!」

 

 先生の質問に対して、デンジくんとパワーちゃんが答えた。背中越しだけど、先生が少し喜んでるのがわかる。

 

 「もしもその銃撃で仲間が死んだとして、お前らは復讐したいと思うか?」

 

 「復讐とか暗くて嫌いだね」

 

 「ワシも!」

 

 あ、かなり喜んでる。割と期待してるな……。

 

 「お前達は人と悪魔、どっちの味方だ?」

 

 少しだけ間を置いて2人が答える。

 

 「俺の面倒見てくれるほう」

 

 「勝ってるほう」

 

 そして墓の前に立っている、耳まで裂けた傷を持つ白髪混じりの男性が、振り向きながら言った。

 

 「お前達100点だ」

 

 来ましたー!100点!デンジ君もパワーちゃんもおめでとう!私は最初先生と出会った時、ため息吐かれちゃったけど……。

 

 「「あ?」」

 

 デンジ君とパワーちゃんが声をそろえて言う。

 

 「お前達みたいのは滅多にいない。素晴らしい、大好きだ。」

 

 「…………。恐い」

 

 パワーちゃんがデンジ君見ながら言う。

 

 「マキマ、お前は帰れ。今すぐこいつらは指導だ。」

 

 「え?でも私デンジ君の修行シーンを見t」

 「帰れ」

 

 「ハイ!マキマ帰ります!デンジ君、パワーちゃん!頑張ってね!マジで!」

 

 私はデンジ君達を一瞥した後、キビキビと行進するように手を大きく振りながら足を上げてその場を去ることにした。

 

 「マキマさん!?」

 

 ごめんデンジ君!岸辺先生が帰れって言うから帰ります!でも小動物使って見守ってるから!強く生きて!

 私はデンジ君とパワーちゃんが岸辺先生にシメられるのを聴きながら、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コン」

 

 早川アキが公安の訓練施設で、狐の悪魔を呼び出そうとする。しかし狐の顔は現れず、標的であるダミー人形は無事なままだ。

 

 「コォン!コォン!コンコンコンコンコン!コォン!」

 

 そしてその隣では、荒井が必死に狐の悪魔を呼び出そうと、コンと連呼し続けている。

 

 「……ほら出てこないだろ?キミたちは狐を無茶に使って嫌われたんだ。もう二度と狐は使わせてもらえないだろうね、どうやら狐の悪魔と武器人間は相性がすこぶる悪いようだ。」

 

 「そ……そんな。」

 

 荒井はガックリと項垂れた。

 

 「特にアキ君、キミの方は呪いの悪魔にも嫌われている。どうやらマキマが紹介した悪魔との契約で、払う寿命も肩代わりされたようだ。それで呪いの悪魔が欲しかった『アキくんの寿命』が払われなかったらしい。

 よかったね、契約内容が『アキ君の寿命を払う』じゃなくて『寿命を払う』で。払われた寿命が君のじゃなくて別の人の寿命であれ、契約には違反してない。だから君は死ななかった。」

 

 黒瀬が飄々と言い、早川と荒井が焦りながら黒瀬を見る。

 

 「え、え!?そ、それじゃあ早川先輩の代わりにマキマさんの寿命が!?」

 

 「ああ、それについては大丈夫。マキマさんが払う寿命の代償は、囚人たちに肩代わりさせてるそうですよ。マキマさんもアキ君への伝言で『気にしなくていい』って言ってました。」

 

 「そ……そうか、ならよかった。」

 

 「……そんなことができるんですか。」

 

 それを聞いた早川と荒井は安心する。

 

 「なに安心してるんですか2人とも、全然良くないですよ。悪魔との契約してない状態じゃあ、この先ろくに仕事できませんよ。」

 

 「……指導ってのはそう言うことか。」

 

 「え?」

 

 「早川君は察しがいいけど、新人君は鈍いなぁ。」

 

 いまいち理解できてない荒井に天童が説明する。

 

 「うちらは特異課にいる人間組のキャリア相談にきました。

 今回の事件でやめ時だと思いませんでした?実際君の課でも、ちらほら民間にいったし。」

 

 「続けるなら続けるでそれなりの覚悟をキミ達にはしてもらう。」

 

 

 「覚悟……?」

 

 「覚悟ですか?」

 

 覚悟という言葉にオウム返しをする荒井と早川。

 

 「そう、覚悟」

 

 「やめないならちゃーんと悪魔と契約して、特異課に貢献して貰わなきゃいけないみたいです。今のキミ達じゃ、なにか悪魔と契約してないと実力が足りない。

 公安やめて残りの人生楽しむか、公安続けて地獄を見るか」

 

 その言葉を後に、訓練室は静寂が支配した。そしてしばらくして、早川アキが口を開いた。

 

 「今まで銃の悪魔の動きは掴めなかった。ただアイツは、銃をばら撒いて自分への恐怖を煽ることだけをしていた。

 だが……生捕りにされたヤクザの1人が吐いた。『銃の悪魔がデンジの心臓を狙っている』と。

 ようやく、ようやくあいつの動きを……目的を掴んだんだ、3年働いてようやくだ。

 目の前に銃の悪魔に繋がるチャンスがあるのに、ここで辞められるわけがないですよ。」

 

 アキは静かに、だがしっかりと力強く言った。

 

 「なるほど……で、新人のキミは?」

 

 「……俺はもう2回も足を引っ張っている。一度目はホテルで錯乱し、同僚を殺しかけた。

 二度目は今回だ。死なないと知ってたのにも関わらず、コベニちゃんを庇って逆に混乱させてしまい、主犯格とも言える2人を逃した。

 ……三度目の醜態を晒す気はない!次の任務で挽回してみせる!」

 

 荒井も力強く黒瀬に返した。

 

 「……そですか、わかりました。全く、スバルさんの言葉はつくづくホンマのことやったと痛感しましたわ。

 『特異課にはまとも奴がいないから気をつけろ』ってね。」

 

 呆れ顔で黒瀬が言う。

 

 「月本とか言う付き人は『また新幹線に乗るよりは車乗りましょう!』てやけに車推してくるし、迎えに来てくれた人らはお詫びの為の食事に当然の如くタカろうとするし、マキマは言わずもがな……。

 もうちょっとキミら自分を客観的に見たほうがいいですよ?」

 

 「う、うちの先輩達がご迷惑をおかけしたようですみませんでした!」

 

 荒井は申し訳なさそうに黒瀬に謝った。

 

 「ハハハ、別に新人のキミが謝る必要なんてないですよ。

 それじゃ。ほな、行きまひょ〜か。」

 

 「行く?どこへですか?」

 

 荒井は困惑しつつ尋ねる。

 

 「決まってるでしょ?悪魔と契約しにですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや多いよ!もうキミらで20件目だよ!?」

 

 天使の悪魔、エンジェルは大声で抗議した。

 

 「わかるよ!?僕が寿命武器を作れば、ヤクザを捕まえられて早く休暇に行けるって。

 でも一日中、寿命武器を作らさせ続けるのはおかしくない!?」

 

 「早くしろ、後がつかえてるんだ。」

 

 早川アキは一切動じずエンジェルに構わず急かした。

 

 「早川先輩……。」

 

 そんな早川を京都組と東京の新人デビルハンターを、少し引きながら見つめていた。

 

 「……キミ本当に悪魔に対して容赦ないね。噂通りの悪魔嫌いだね、早川アキ君。」

 

 アキの態度に対して、エンジェルはため息を吐きながら言う。

 

 「俺を知ってるのか?」

 

 「うん、マキマから色々聞いてるよ。さっきも『アキ君が新しい武器を手に入れるために協力して!』って頼み込んできてたし。」

 

 「……さっき?」

 

 「あれ?一緒に来た訳じゃないんだ。マキマの方も色々とこっちに用事があるらしくて、今来てるんだよ。」

 

 「なるほど……マキマが既に頼んでるなら話が早い。天使の悪魔、俺と契約しろ。」

 

 早川アキはなんの躊躇いもなく言った。

 

 「いやアキ君、エンジェル君は基本契約しないんですよ。」

 

 黒瀬はアキに言った。

 

 「どう言うことだ?」

 

 「僕は基本、誰かと契約して能力を貸すとかそう言うのはしてないんだ。

 僕は既に公安に貢献する代わりに、僕の能力を抑えてもらう条件で仕事をしてる。

 その貢献の中には、他の公安職員のために寿命武器を作ることも含まれているのさ。

 だからわざわざ君が僕と契約して、何かを対価に差し出す必要はないよ。あ、でもアイスとか奢ってくれるなら大歓迎だけどね。」

 

 「あ……アイス。」

 

 天使は飄々と言い、それに対して荒井は困惑する。

 

 「ああ、別に僕が貰ったら嬉しいってだけで別にくれなくてもしっかり仕事はするから。安心していいよ。

 ……はぁ。」

 

 天使は言い終わると、どこか憂鬱そうな顔でため息をついた。

 

 「何か手伝いたくない理由でもあるのか?」

 

 早川アキはなんとなく、その表情の理由が気になり質問した。アキが知っている悪魔といえば、凶暴で襲ってくる駆除対象の悪魔や、パワーくらいのものである。アキはこんな表情をする悪魔など初めてみたのだ。

 

 「……僕の能力で出す武器は、僕が人間に触れることで奪った寿命を消費して作ってるんだ。

 僕が寿命を奪うのは死刑執行直前の囚人や、仕事で駆り出された時の犯罪者くらいだけどさ。それでも……罪悪感を感じるんだよ。なんの罪もない人の寿命を使ってない分、まだマシだけどね。」

 

 天使は自分の右腕に巻かれたブレスレット状の鎖を見つめながら言った。

 

 「悪魔はみんな、人の死を望んでいる。俺はそう聞いたが?」

 

 早川の問いに天使が答える。

 

 「……僕はこの現世に生まれた時、村の……故郷のみんなに優しくして貰ったからね。

 そんな経験をした後じゃ、そう軽々しく人の死なんて願えないよ。」

 

 天使の言葉を後に、沈黙が流れた。

 

 「ああ、ごめん。後がつっかえてるんだったね。ちゃんと仕事はするよ。……それで、どんな武器が欲しい?」

 

 「……。そうだな、俺は今までカースの釘を剣にして戦ってきた。だからそれと同じように剣の武器がいい。」

 

 「わかった。で、そっちの方は?」

 

 「お、俺は……」

 

 言い淀む荒井をフォローする為に、黒瀬が割って入る。

 

 「新人君は今までキツネだけを使ってきたんで、これだ!って武器がないんですよ。だからまだ決まってない感じです」

 

 「え、ええ……?じゃあ何できたの?」

 

 「す……すまない。早川先輩が武器を貰うついでに、取り敢えずどんな武器があるのかとか、どういう武器が俺に合ってるのかの相談をしたくて……。」

 

 「あー、そっか。精一杯考えても、その武器が僕が作れない物だったら無駄骨になっちゃうもんね。」

 

 「そうなんです、まぁ新人君はこの後他の悪魔との契約も控えてるんで、取り敢えずは軽い質問と、寿命武器の見学させる為に連れてきた感じですね。」

 

 天童が言い、それにエンジェルは納得して答えた。

 

 「わかった、それじゃあ取り敢えず君のから作らせて貰うね。新人君の相談はその後で……といっても、僕は武器の専門家じゃないから大したことは言えないけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンジェルと一通り話した後、荒井は早川アキと黒瀬の2人と別れ、天童に連れられてある悪魔を収容した一室に向かっていた。

 

 「これから向かう悪魔と、俺は契約するんですか?」

 

 「まぁ、そうなんですけどそいつは本命じゃないみたいです。

 なんでも本命の悪魔と契約する為の土台を整えることが目的とか……。

 ああ安心してください、こいつはマキマに従順な悪魔なんで、なんも取られんで済むと思いますよ。いやー、ホンマにマキマさん凄いわ。どうやったら悪魔を手懐けたりできるんやろ。ウチも楽な条件で悪魔と契約させてくれるよう頼んでみよーかなぁ。」

 

 「悪魔を……手懐ける?」

 

 「あー、手懐けるって言い方はちょっとエンジェル君とかに失礼かな?

 でもマキマさんの悪魔と仲良くするスキルは、ずば抜けとると思いますよ。荒井君はサメ君とかもう会ってたりします?」

 

 「え、ええ。新人歓迎会の時に。」

 

 「新人歓迎会で!?ええ……特異課って、ここで歓迎会しとるん?」

 

 「いや、マキマさんが飲み屋にサメの魔人を連れてきてました。」

 

 「怖!?何その飲み会!?だ、だいじょうぶやったんかそれ!?」

 

 「ええ、どちらかというと血の魔人の方が迷惑でした。」

 

 荒井の発言に天童は衝撃を受けてドン引きした。

 

 「……ウチ特異課じゃなくてホンマよかったわ。おっと、話してるうちに着きましたね。荒井くんはまず手始めにここの悪魔と契約してもらいます。」

 

 そう言うと天童は収容室の扉を開けて、荒井と共に部屋に入った。

 その部屋の中にはガッチガチに鎖に縛られた、肉肉しい赤色の一つ目の悪魔がいた。

 

 

 

 

 「あははは!ハハハ!ハはははハハハ!」

 

 

 

 

 

 そして一つ目の悪魔は狂ったように笑いながら、自己紹介を始めた。

 

 「あは!あはははハハはじめまして!マキマ様から話は聞いてる!オレは筋肉の悪魔!オマエ荒井ヒロカズだな!?契約!契約する!オレはオマエと契約して力をかす!あははは!ハハハハハハ!あはははハハハハハハハハハ!」

 

 部屋の中で、狂ったような笑い声が響き続けた。



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20話 やはり筋肉!筋肉は暴力を解決する!

 

 

 「筋肉の……悪魔?」

 

 「そう!オレ筋肉!契約して公安助ける!公安!公安の荒井助ける!マキマ様にそう言われた!あははは!」

 

 荒井は目の前の悪魔の発言に困惑する。飲み会の最後の方で、デンジと話した時にその悪魔の話を聞いていたのだ。

 話から荒井が想像した筋肉の悪魔は、女の子を操って騙して襲い掛かろうとし、その女の子すらも傷つけようとした下衆な悪魔であり、決して人様のために奉仕精神を見せるような悪魔ではなかった。

 だが荒井を最も困惑させたのは、筋肉の悪魔が生きていることだった。聞いた話では筋肉の悪魔は死んでいるはずであった。だがこうして筋肉の悪魔は生きている。

 

 「天童さん離れてください!こいつはヤバい悪魔です!デンジから聞きました……こいつは人を騙すだけの知能があります!」

 

 荒井は筋肉の悪魔と天童の間に入り、腕を広げて天童を守ろうとした。

 

 「荒井くん大丈夫ですよ。ウチ一応、君よりもデビルハンター歴は長いから簡単にやられませんって。

 それにこいつが裏切ろうとしてても問題ありません、こいつは鎖に縛られてる。ただの鎖じゃない、マキマさんの悪魔の能力の鎖です。

 だから何か企んでても、こいつは暴れられませんって。」

 

 「そ、そうですか。すいません、取り乱しました。

 ……でも、オレが聞いた話だと筋肉の悪魔は死んだって話だったんですけど。」

 

 「んー、報告だと『死ぬほど弱ってたけどギリギリ生きてた』って有りましたからね。そこら辺が伝言ゲームでちょいと変わって伝えられたんやと思いますよ?」

 

 ……伝言ゲーム。いやそんなずはない、俺は筋肉の悪魔を倒したというデンジから、その話を直接聞いたのだ。飲み会で絡んできたサメの魔人も、デンジが殺したと言っていた。

 じゃあ、今俺の前にいるのは?荒井は目の前にいる、筋肉の悪魔を名乗る存在を見つめた。

 

 「こいつは筋肉の悪魔ってくらいだから、君の筋力を増強してくれます。まぁ、こいつは元々死にかけだったから、強化できる筋肉量には制限があるけど。

 それでもこれから契約する本命の悪魔が求めるスペックには十分届くはずですよ。」

 

 天童さんは淡々と説明する。こうして俺の目の前に筋肉の悪魔がいる以上、おそらくデンジとサメの魔人の勘違いだろう。2人揃って勘違いするというのは珍しいことだが、決してそういうことが起こらないわけではない。

 荒井は頭の中の疑問に対して、自分なりの答えを出して、目の前の悪魔に集中した。

 

 「き、筋肉の悪魔、貴様は契約の代償として俺に何を求めるんだ?

 お前の力を使うたびに、俺の寿命をやるとかか?」

 

 荒井は毅然と質問しようとしたが、少し声が上ずっていた。

 

 「対価は別になんでもいい!マキマ様に俺は助けてもらった!だから俺もマキマ様に恩返しする!お前を助ければそれが恩返しになる!

 そうだ!お前が頑張って働けば、マキマ様が楽になる!お前がしっかり働くのが対価ってのはどうだ!?」

 

 「あ、ああ。別に俺は構わないが……それでいいのか?」

 

 「当然!代わりにしっかりとマキマ様のために働け!そうすれば俺もお前も上手くいく!あははは!あははは!あはははハハハハハハははは!」

 

 狂ったようにマキマを崇め、どこまでも荒井にとって都合のいい契約を提示する筋肉の悪魔。

 荒井は恐怖を感じ、自分よりベテランである天童に助言を仰ごうとした。

 

 「え、何これ?怖〜……。ウチめっちゃマキマさんのこと怖くなったわ。」

 

 だが、怯えていたのは天童も同じだったようだ。

 そして最終的に荒井は『しっかりと働く』という甘すぎる条件で、筋肉の悪魔の能力を使うことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや〜荒井くん怖かったなぁ。筋肉の悪魔の見た目もそうだけど、マキマさんのこと崇めまくってるのがそれ以上に……。

 あれってあの鎖のせいなんかなぁ?ウチ前にあの鎖で縛られたことあんねんけど、急に不安になってきたわ……。

 ウチ大丈夫か?おかしくなってたりせえへん?」

 

 「た、多分大丈夫だと思います。普段の天童さんのことは知りませんけど、筋肉の悪魔みたいに変な感じはしてないです。」

 

 「そっかそっか、ありがとう。……念のために黒瀬にも、いやあいつも鎖で縛られとったな。じゃあスバルさんに普段のウチと比べて変じゃないか確認しとくか。

 お、着いた着いた。今度はさっきみたいにホラー展開にはならんと思いますよ。いや、なかなかスプラッタな事が起きてるからさっき以上にホラーか?」

 

 スプラッタという天童の発言に、荒井は少し恐怖する。といっても、さっきからずっと恐怖し続けている気がするが。

 

 「ここが本命の悪魔の収容室ですか?」

 

 「せや。なんでもわざわざここの悪魔が荒井君をご指名したとか……。

 ほら、君のところのちっちゃい女の子、コビト……やったっけ?」

 

 「コベニちゃんのことですか?」

 

 「それそれ、なんでもその子を庇ったって話をここの悪魔が聞いて、それで君に興味を持ったらしいで?」

 

 「……俺についての話を、その悪魔はどこで知ったんですか?」

 

 「……マキマさんがその悪魔と雑談した時に、マキマさんが話したらしい。」

 

 「……」

 

 2人の間に沈黙が流れた。

 

 「ま、まぁ前向きに考えましょう。マキマさんがなんかしとるんだったら、その悪魔もきっとやっすい対価で契約してくれますって」

 

 「え、ええ、そ、そうですね。」

 

 荒井は考えても仕方がないと諦め、収容室の中に入った。

 

 そしてその収容室は部屋の奥半分が防弾ガラスで区切られており、ガラスの中は怪しげな色をした煙で包まれていた。

 いや、それだけではない。部屋の中からバチッ!バチッという電気を流す音をはじめとした、さまざま異音がガラスの中から聞こえていた。

 

 「この部屋は……一体?」

 

 「ああ、いらっしゃい。えーと、あんたが荒井ヒロカズ君……であってるよな?」

 

 「え?あ、ああ。俺が荒井だ。」

 

 部屋の中から声が聞こえた。荒井はガラスの向こう側にいる声の主を見ようとするも、その姿はガラスの中を充満する煙で見ることができなかった。

 

 「まず最初に自己紹介させてもらおうか。俺はガルガリ、暴力の悪魔だ。

 わざわざ来てくれてありがとな、あんたが狐の悪魔との契約を解除されたって聞いてな。もしよかったら俺と契約しないか?」

 

 「ぼ、暴力……!?」

 

 荒井は咄嗟に身構えた。悪魔はその名が恐れられているほどに力を増す。暴力を恐れない人間など、この世にいるのだろうか?

 

 「おっと待て待て。確かに割と物騒な概念の悪魔だが、別に俺は人を襲うのとか好きじゃないから安心してくれ。

 むしろ暴力なんて好きじゃないぜ。ラブ&ピースだよな!ピース!」

 

 「荒井君、安心してええで。この暴力の悪魔は、公安が捕まえてる悪魔の中でも理性的なことで有名なんや。」

 

 「そ、そうなんですか。……質問なんですが、理性的な悪魔であるのなら、公安に協力してもらうことは出来ないのですか?

 サメの魔人や血の魔人よりも落ち着いていますし、暴れ回って危険というような印象も感じません。

 暴力というくらいなら弱くはないはずです。」

 

 「あー、それはちょっと事情があってな。俺って今はこう落ち着いてるけどさ、元気がありすぎると暴れちまうんだわ。

 そうならないように、この部屋を毒ガスで満たしたり、地面に高圧電流を流したりいろいろな方法で俺を弱体化して貰ってるけど、それが無くなるとな……。

 そういう訳で、俺が直接外に出て戦うのは無理なんだ。すまん!」

 

 暴力の悪魔は、自分が今とんでもない状況下に置かれてることをサラッと告白した。

 

 「しかもこの暴力の悪魔はな?契約してその能力を使うと、その反動で入院する羽目になるんや。

 戦わせられへんし、その上契約してもその職員は使い捨てになる。

 そのくせコイツを収容するにも、アホみたいに高い設備が必要になって金ばっか嵩む。

 だから今までタダ飯ぐらいで、気のいいだけの悪魔だったんやコイツは。」

 

 「ハハハ、お嬢ちゃん手厳しいね。ま、事実だから反論できないだけどな。本当に悪いね。」

 

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」

 

 笑いながら雑談する2人に対して、荒井は声を荒げて言った。

 

 「暴力の悪魔を使ったら入院!?使い捨て!?俺はそんな悪魔と契約することになるんですか!?」

 

 「ああ、大丈夫大丈夫!荒井君はさっき筋肉の悪魔と契約したんだろ?

 俺の能力を使って入院する理由は筋肉を酷使しすぎるからだ。筋肉の悪魔と契約したなら、そこのデメリットはカバーできる。既にそのことは実験で実証済みだから安心していいぜ。」

 

 暴力の悪魔は気さくに言った。

 

 「いやー、これでようやく暴力の悪魔もタダ飯ぐらい卒業やな。これで暴力さんも気負いせずご飯を美味しく食えますね」

 

 「あっはっは!俺元々この部屋にいるから飯とか食えないけど、まぁ罪悪感が無くなるのはその通りだな!」

 

 「……普通の人みたいだな、まるで悪魔じゃないみたいだ。」

 

 荒井は暴力の悪魔と天童のやり取りを見て、思わず呟いたのだった。

 

 「おー、俺は割と感性は人間に近い筈だぜ。あんたの話を聞いて、他の人間みたいに普通にカッコいいって思ったしな。」

 

 「お、俺の話?」

 

 「ああ、聞いたぜ?咄嗟に同僚の女の子を二度も庇ったんだろ?それを聞いて、お前に興味を持ってな。

 そういう優しくてカッコイイ人間には俺も長生きしてほしいから、契約を持ちかけたんだ。どうだ?弱体化しているとはいえ、あんたにとってこの力は有用な筈だ、悪い話じゃないだろう。

 ま、あんたが別の悪魔と契約したいってなら諦めるが。」

 

 荒井は少し悩んで結論を出した。

 

 「わかった。暴力の悪魔、ガルガリ。俺はあんたと契約しよう。」

 

 「ああ、よろしく頼むぜ。」

 

 こうして、荒井ヒロカズは筋肉と暴力、二つの悪魔と契約することになったのだった。



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21話 岸辺先生

 

 

 

 

 ボロボロになった武器人間と血の魔人が地面に倒れている。

 そしてそれを頬に軽い切り傷を負わされた、白髪混じりの男が見下ろしながら言った。

 

 「……うん、よし。人外の職員を育てるには、ソイツが俺を倒せるようになるまで狩り続ける。

 過去にたった一度だけ、人外のデビルハンターを育てた時に使った手法だが、やはりこれが1番だな。」

 

 白髪混じりのデビルハンター、岸辺はスキットルに入った酒を飲み言った。

 

 「今のは100点だったぞ、指導を踏まえて明日実戦だ。」

 

 「じっせん?」

 

 パワーが繰り返した。

 

 「俺たちを舐めたヤクザ共にカチコミに行く。俺とお前らはその本丸、首謀者の組長とサムライソードがいる事務所にカチコミを仕掛ける。

 お前らがヘマしたら、その時は処分されて俺とマジバトルだ。」

 

 そう言われたデンジは不敵に笑う。

 

 「そん時ゃ俺は、先生を殺さないで見逃してやるよ。

 俺を強くしてくれたからな、これでもっと悪魔を殺せる。

 そうすりゃマキマさんとランデブーよ!!」

 

 岸辺の目からそう答えるデンジは、決して強がりや虚勢で言ってるようには見えず、厳しい訓練を課したはずの自分に対して本気で感謝しているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「美味しいお酒ヨシっ!美味しい料理もヨシっ!一流のタバコも準備ヨシっ!」

 

 私は指差し確認で、岸部先生達をもてなす準備が整っているかを確認した。

 今夜は明日、ヤクザ達にカチコミを仕掛ける前に岸辺先生達と会食する事になっている。原作でも料亭で岸辺先生と真マキマさんが、2人で話しているシーンはあった。

 だがそのシーンでは最後に、岸辺先生が特異課のみんなを真マキマさんが見殺しにしたのではないかと考え、露骨に圧力をかけてくるのだ!

 当然この私は特異課のみんなを見殺しにしていないし、岸辺先生に怒られるような生き方はしていない。だが原作ではこの会食、岸辺先生がかなりご立腹だったので、ビビりである私としては警戒せざるを得ないのだ。

 

 しかもなんと今回の会食では、原作と違い京都でも指折りの実力者であるデビルハンター、スバルさんも一緒に来る。

 原作と違う展開になっているが、これについては理由がある。

 私はデンジ君を見つける為に、日本全国のヤクザをしばき倒していた。いやもちろん、ヤクザとは関係ない悪魔も地元の公安と協力して倒してたけどね。まぁその結果、多くのヤクザの組が瀕死の状態にまで追い詰められて危機的状況に陥ったのだ。

 そこに私を含めた公安への襲撃の話を沢渡アカネが持ってきて、『憎っくきマキマを殺す!』とサムライソードの組だけでなく日本各地のヤクザまで参加したのだ。

 そして組そのものが窮地に陥っている為に、原作では襲撃に参加せずに静観していたはずのサムライソードの父である組長までもが、なんかヤバそうな悪魔と契約して参加する事態に発展してしまったのだ。

 

 なので原作の『一つの組の極一部のヤクザVS公安』という構図ではなく、『同盟を組んだ日本各地のヤクザ達VS公安』という構図になっている。

 ……正直言って、東京の公安だけじゃ人手が足りん!いやマジで!

 原作と違い日本各地のヤクザを相手にする必要があるから、特異課全部を指揮できてもこれを全て相手にするのは不可能なのだ。

 なので、福岡公安や大阪公安、宮城公安に北海道公安、そして京都公安などなどの地方公安の皆さんにも協力して頂いている。

 そして今夜はそんな地方公安の代表として忙しい中、京都公安のスバルさんにもお越し頂いたのだ。

 ……私がヤクザしばき回ったせいで、余計な仕事増やしてごめんなさい。

 お詫びにめっちゃいい料理とお酒用意したから!しかもいいタバコもあるから!喫煙可能なお店だから遠慮せずに楽しんでください!

 あ、私はタバコはむせちゃうタイプなのでちょっと距離を離れさせてもらいますね。……タバコを理由に、岸辺先生から距離を取るくらいは許されるよね。

 

 私は岸辺先生とスバルさんが来るのを今か今かとドキドキしながら待っていた。

 

 すると右の障子を突き破り、ナイフが私めがけて飛んできた!?

 

 「!?……き、岸辺先生、お、怒ってらっしゃるんですか!?わ、私が岸辺先生のダメージを肩代わりしなかったのは、能力の関係だと申し上げましたけど……まさか疑ってらっしゃる!?」

 

 私は真剣白刃取りの要領でナイフを防ぎ、冷や汗をかきながらいう。

 

 「いいや?ただ可愛い弟子が腑抜けてないか確認したかっただけだ。大事な任務が明日あるのに、その日の夕方にはTVに出る予定みたいじゃないか。

 ちゃんとそれだけの余裕があるのかを確認したくてな。」

 

 「いやいやいや!TVの出演を決めたのは私じゃありませんから!上が任務の日程が決まった後、急に連絡してきたんです!私悪くないです!」

 

 私は必死に抗議した。ヤバい、岸辺先生から見た今の私って、ヤクザを倒し切る前から調子に乗ってるように見えてんじゃん!?

 私が必死に喋っていると、岸辺先生の後ろから天然パーマの髪型をしたベテランの風格を纏う男がひょっこり顔を出して言った。

 

 「まぁまぁ、岸辺さん。マキマちゃんは上司に逆らえないタイプのか弱い女の子やし、そういうのは許したれよ。」

 

 「す、スバルさん!?助かった!もっと助けて!いっぱいお酒とか料理とか、タバコもあるから!あるから!」

 

 「マキマちゃん必死すぎるやろ。そんなに岸辺先生怖いんか?」

 

 「はい!」

 

 「全く……。そんなに昔に修行した時のことがトラウマになってるのか?」

 

 「それもありますけど、たまに挨拶がわりにナイフ投げてくる人は普通に怖いですよ!?」

 

 「岸辺……お前そんなことしとったんか。」

 

 「おいおい、スバルにチクるのは卑怯だろ。

 ま、お遊びでナイフ投げられる程度で騒いでるようじゃまだまだだな。

 俺は昔、『同僚の狙ってる女が、同僚じゃなくて俺のことが好きだった』って理由で任務中に殺されかけたことがある。だがその時の俺は動揺なんてしなかったぞ。」

 

 岸辺先生は嘘か本当かわからない話をしながら、スバルさんと一緒に席に座った。

 しかし、女がらみで任務中に岸辺先生を殺そうとするとか……。そんなことで殺そうとするとか、昔の公安怖っ!その人はその後どうなったんだろうか……まさかその時に岸辺先生の手によって既に亡き者に!?

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、私と岸辺先生、そして京都のスバルさんは料亭で明日についての話をしながら食事を進めた。

 そしてその話についてもつつがなく進み、私がスケジュール的に一足先に帰らせて貰う時間が近づいてきた。

 そんな頃に、岸辺先生は私に質問してきた。

 

 「そういえばマキマ、お前の能力についてちょっと気になることがあるんだが……。

 お前の他人のダメージを肩代わりするアレ。アレって逆のことは出来るのか?」

 

 「ああ、アレですね。出来ますよ、ていうかそれが本来の使い方です。

 むしろあの使い方は一種の規格外運用ですからね……チェンソーを2本稼働させたまま合わせて火おこし機がわりに使う並の無茶運用なので、そんな便利な代物じゃありません。」

 

 「……なるほど。で、その本来の使い方をした時、お前のダメージを肩代わりさせられるのは理論上の最大値だと、何人にまで押し付けられる?」

 

 岸辺先生がめっちゃ私の能力について聞いてくる。普段私の能力にあんまり聞いたりしないのになんでだろう……。え?もしかして私これ生贄の如く特攻させられるんですか!?……やだなー。

 でも岸辺先生に嘘ついて、それがバレるのもやだから正直に答えとこうか。

 

 「り、理論上ですか?そうですね……色々と条件はありますが、日本国民全員をダメージの肩代わりの対象にすることができますね。」

 

 「……そうか。」

 

 岸辺先生はそう言うとお猪口に入った酒をグイッと飲んだあと、私に向けて言った。

 

 「ま、お前が何を考えていようが真っ当に仕事して、俺んとこの犬やおもちゃが死なないようにしてくれてるうちは何も言うことはない。むしろ感謝したいぐらいだしな。

 ……だがくれぐれも良からぬ事をしようだなんて、トチ狂わないでくれよ。そうしたらお前の能力がどれだけ強力だろうが、俺もお前とマジバトルしなきゃいけなくなるからな。

 お前もお気に入りの武器人間と魔人が殉職するより先に死にたくないだろ?」

 

 岸辺先生は私に対して、軽い口調で釘を刺してきた。

 原作のような敵意のこもった感じではなく、本当に念の為に釘刺しておくみたいな感じだ。よかった……『人類の敵っぽい動きしたら即殺す!』みたいな感じではないから、やっぱりそれなりに信頼してくれてるっぽい。

 

 「殉職なんてさせませんよ、デンジ君もパワーちゃんも。

 2人のダメージは私の能力で肩代わりすることは出来ません、それでも……決して死なせるつもりはありません。」

 

 私はそう言うと最後に残ったお猪口の中のお酒を飲み干した。……そして気づいた、岸辺先生が言っていた悪いことの意味の可能性を!

 

 「……あの〜すいません。もしかしてその良からぬ事って、デンジ君とランデブーする事だったりしますか?」

 

 「ええ……。マキマちゃんって、未成年に手を出すつもりなの?」

 

 「……万が一スキャンダルになっても、その件でマジバトル始めようとはしないから安心しろ。ただそれで庇ったりもしないがな、めんどくさいのはごめんだ。」

 

 セーフ!圧倒的セーフ!いやスバルさんには呆れられちゃってるけど!それでも岸辺先生とマジバトルしなくて済むならセーフだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、スバル。お前は今日、マキマと話してどう感じた?」

 

 マキマが帰った後の料亭にて、岸辺とスバルの2人は軽い雑談を口でしながら、本当にしたい会話を誰かに聞かれぬようにメモで筆談で行っていた。

 

 「何か企んでるという雰囲気は感じなかったなぁ、普通の仕事で苦労してる一般人の範疇に思えたで。

 岸辺さんはマキマのどの部分に警戒してるんです?」

 

 「マキマは人間じゃない、人外職員だ。」

 

 岸辺の見せたメモを見たスバルは思わずダミーの雑談を止めてしまう。

 

 「会話を止めるな、盗聴されてることを想定しろ。現にデンジとの修行中の会話を、マキマはしっかり聞いていた。」

 

 『デンジ君とランデブー』、このフレーズは一見何気ない台詞にも思える。だが、この台詞はデンジが言った『マキマさんとランデブー』という台詞が元だろう。無意識的に聞いていたセリフを真似てしまったのかもしれない、だが……『お前を監視しているぞ』、そういうマキマからのメッセージにも受け取ることができる。

 

 「……なるほど。そんくらいの被りなら幾らでも言い訳ができてスッとボケられるし、岸辺さんに対する圧力とも受け止められるな。

 しかし、マキマちゃんが悪魔か。岸辺さんがマキマを警戒しているのは、その盗聴が原因なのか?他にもあるんとちゃうか?」

 

 「お察しの通り。俺が警戒するのはあいつの得体の知れないところだ。

 実はあいつと最初に会った時、俺は思わずため息をついたよ。感性があまりにも一般人によりすぎている。

 並のデビルハンター以下の頭のネジの固さだった。あんな常識人はすぐに死ぬ、俺はそう思っていた。

 ……だが、あいつは死ななかった。無論、あいつがデビルハンターとして活動していく上で、途中でネジが外れたと考えることもできる。だが……本当にそうなのか?」

 

 「というと?」

 

 「俺が最初にあった時も、そして今も、あいつは演技し続けてるだけなんじゃないか?

 あいつは人に好かれる常識人のような振る舞いをしている。それが本性なのか、あるいはそう振る舞うことで仲間を増やす算段なのか……。

 それにあいつはデビルハンターになってから、とんでもない速さで適応した。敵を殺して味方を生かさなきゃいけない場面、そんな状況に直面した時あいつはすぐに成長してちゃんと敵を殺せるようになった。まるでそれがこの世界のルールだと知っていたかのようにな。

 あいつが常識的な人間だったら、頭で理解していようともそれを簡単に実行するにはもっと時間がかかるだろう。」

 

 岸辺はそうメモに書くと、酒を飲んで喉を潤した。

 

 「となると、岸辺さんにビビりまくって見えるのも演技かも知れないと?」

 

 「ああ、最強のデビルハンターにビビりまくってるとくれば、お偉いさん達も俺がいる限り安心してマキマを使えると考えるだろうからな。

 その分、上は油断してマキマへの対策が疎かになる。」

 

 「……ほんま嫌んなるなぁ。」

 

 スバルは頭を抱えた。

 

 「ま、俺の考えは多分杞憂だろうがな。」

 

 岸辺のメモを見てスバルは少し気が楽になり、胸を撫で下ろす。

 

 「岸辺さん、あんまビビらせんといて下さいよ。」

 

 「多分って言っただろ?可能性は低いが、あいつが俺たちを騙して何かを企んでる可能性はゼロじゃない。

 現にあいつは日本中を回ってヤクザを捕まえる過程で、地方公安のデビルハンターや警察、そして地元の市民達から信頼を得ている。お前も俺に言われるまで、マキマに対して好印象を抱いていただろ?

 あいつの振る舞いがもし演技なら、騙されてる奴はとてつもない数になる。しかもメディアにも露出しまくってるからな、今じゃマキマは日本の人気者だ。そして今回の暴力団連合一斉検挙作戦で指揮を任されたあいつの人気はさらに高まるだろう。

 あいつの地位はさらに盤石なものになる。そうなって来ると、もしマキマが良からぬ事を企んでた場合、止めるのがさらに困難になるな。」

 

 それを聞いたスバルは質問する。

 

 「そもそもじゃあなんで上はマキマを人気者になるようしたん?

 悪魔を人気者にしてなんか意味あるんか?」

 

 「恐らく……上はマキマを弱体化させようとしたんだろう。」

 

 岸辺は続けた。

 

 「悪魔は恐怖で強くなる、なら逆に恐怖されるのではなく親しまれたら?愛されたら?その悪魔は力を失い弱まる。

 上はそうする事でマキマを程よく弱体化させて、脅威にならずとも十分に仕事をする程度の強さにしたかったんだろう。」

 

 「それで弱体化はしてるのか?」

 

 岸辺はかぶりを振って答えた。

 

 「いいや、今日もナイフを投げて確認してみたがさっぱりだ。むしろ最初の頃の方が手応えがあったくらいだ。弱った結果、俺を騙すのが下手になったという考えも出来るが……だとしたら元が強すぎてどっちみち弱くなっても焼石に水だろう。」

 

 「なるほど……それは難儀な話やのう。ほんま、岸辺さんの杞憂である事を祈るで。

 マキマちゃんと何度か仕事しとるけど、今までのが全部演技やったってんなら割と心折れるで。うちの若いのもマキマのことを好いとるし、アイツらもメンタルやられそうやな。」

 

 「ああ、特異課の職員でもマキマのことを頼りにしてるやつは多い。もしマキマが裏切ったら、良くて士気はダダ下がりだろうな……。」

 

 「……悪かったらどうなるんや?」

 

 「マキマと一緒に離反する奴が出るかもな。」

 

 「おっかないなぁ……。全く、そんな話知らんときたかったわ。」

 

 スバルは暗い感情を洗い流すように、酒をグイッと飲んだ。

 スバルの言葉を聞いた岸辺は思う。確かにそうだ、マキマが脅威であるという事実。そんなことを知らずにいれば、もっと気楽に過ごせるだろう。

 だが、自分はデビルハンターだ。あらゆる状況、特に最悪の状況も想定しなくていけない。それでも……だ。岸辺の記憶の中にいるマキマも、今日あったマキマも、そんな危険人物とは思えない。いや、思いたくないの間違いだろう。

 公安でデビルハンターをやっていて、多くの同僚や部下が死んでいった。その中でしっかりと生き残ったのはクァンシとマキマの2人だ。特にマキマという弟子は、今日の今日までマキマ以外の弟子達の命をも救いながら、クァンシと違い公安を辞めることなく生き残ってきた。

 

 (本当に、裏切らないでいて欲しいもんだな……。)

 

 料理と酒を平らげた岸辺とスバルは、タバコに火を灯して食後の一服した。岸辺が吐いた煙は、いつもより長く、長く消えずに残った。



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間話その3 偽マキマ版チェンソーマン世界の掲示板22スレ目

※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。


 

326:名無しの悪魔 2019/7/31 0:07:31 ID:PisiCNATp7

 結局のところマキマさん、敵なのか味方なのか……。

 人外だとアル中は言ってたけどだとしたらなんの悪魔or魔人なのか気になる。

 

327:名無しの悪魔 2019/7/31 0:12:25 ID:xjYuKGXnxA

 岸辺先生曰く、恐怖の逆の感情をマキマにぶつけて弱体化させようとしたけど失敗したんだよな

 そして予想だとかなり強力な概念の悪魔

 

328:名無しの悪魔 2019/7/31 0:16:52 ID:R9YMxYT1R7

 人外とは言ったけど、魔人や悪魔じゃなくて武器人間という可能性も

 

329:名無しの悪魔 2019/7/31 0:22:14 ID:IFXG38VfEm

 鎖の武器人間?

 

330:名無しの悪魔 2019/7/31 0:26:21 ID:falOYYjJoz

 マキマさんはもっと永遠とかの概念系の悪魔っぽいよな

 

331:名無しの悪魔 2019/7/31 0:30:32 ID:r1p7AnweUO

マキマ「荒井くん、契約しよっか」

俺「この女何考えてやがる!?」

マキマ「ダメージ肩代わりでグハァ!」

俺「疑ってごめんなさい。俺はマキマさんを信じる!」

 

筋肉の悪魔「マキマ!最高!マキマ!最高!」

岸辺「マキマは人外」

俺「あの女何考えてやがる!?」

 

332:名無しの悪魔 2019/7/31 0:33:50 ID:3GYmnnc85W

手のひら返しがひどい!

 

333:名無しの悪魔 2019/7/31 0:39:26 ID:PcwwHDQpRJ

他人の悪魔の力を借りれるってなんだよ!?

 

334:名無しの悪魔 2019/7/31 0:43:13 ID:RPHjVWZpGU

多分マキマさんは愛の悪魔なんじゃないか?

鎖=愛という束縛を表す

ダメージ肩代わり=愛の力で守る

能力を借りる=愛する人への献身

 

迎えに来させた天童と黒瀬がカップルだったり、早川と姫野をくっつけたり、あの人カプ厨らしいところもあるし。

それに筋肉の悪魔もマキマへの愛に目覚めてたのはやっぱりマキマが愛の悪魔だから

 

335:名無しの悪魔 2019/7/31 0:47:20 ID:O5ytoH02XZ

京都組は能力で選んでたでしょ!

 

336:名無しの悪魔 2019/7/31 0:51:43 ID:Px0eXNtoEr

愛の力で肩代わりするんだったら、能力の都合上肩代わりできないデンジ君とパワーちゃん、岸辺先生を愛してないことに……。

 

337:名無しの悪魔 2019/7/31 0:54:45 ID:EHTBaGLiAJ

あの振る舞いでデンジ君愛してないのはありえん

 

338:名無しの悪魔 2019/7/31 1:00:16 ID:FdsmSQ0XKR

でも岸辺曰く、全部演技の可能性がががが

 

339:名無しの悪魔 2019/7/31 1:05:18 ID:DJNuuuvVUB

お前はアル中と胸、どっちを信じるんだ?

 

340:名無しの悪魔 2019/7/31 1:11:07 ID:eo5tk8p9AK

胸呼ばわりはひでぇ

 

341:名無しの悪魔 2019/7/31 1:14:57 ID:6ucMiF4Vvw

でも愛って怖いか?

 

342:名無しの悪魔 2019/7/31 1:19:26 ID:38xZho64OQ

先生の考察が間違ってて、恐怖されてなくて既に弱い悪魔だから弱体化しなかった説

 

343:名無しの悪魔 2019/7/31 1:24:52 ID:dZ5THKiyUe

マキマは典獄の悪魔

囚人を速やかに手配できたのはマキマが刑務所と深い関係があるから

囚人は鎖で繋がれているもの

そして囚人は懲役で働かされる

だからマキマさんは鎖で縛った相手の能力を使えた

借りてるって言われてるけどあれは無理やり使わさせてるだけで、本来許可なんてなくても使える

 

344:名無しの悪魔 2019/7/31 1:27:57 ID:0ztTwdtqSe

ていうか京都組の能力ヤバない?

あんな普通そうなのに『パァン!』って潰すの怖すぎる

てかなんでマキマは京都組にやらせなかったんだ?

 

345:名無しの悪魔 2019/7/31 1:31:26 ID:ZTF9PHfCt1

岸辺先生に「ダメージの肩代わりは本来自分のを他人に移す能力」的なこと言ってたじゃん?

圧殺レベルの能力を使うには代償で命が必要。

それを囚人に肩代わりさせることで京都組を死なせずに襲撃班を潰しまくったんじゃね

 

346:名無しの悪魔 2019/7/31 1:34:33 ID:OlId8klwgH

囚人「俺たちに人権はないのか!?」

 

347:名無しの悪魔 2019/7/31 1:39:31 ID:UudWZWIifS

早川「お前らに人権はない」

 

348:名無しの悪魔 2019/7/31 1:44:40 ID:OlId8klwgH

囚人「あいつ朝の悪戯まだ怒ってんのかよ」

 

349:名無しの悪魔 2019/7/31 1:49:14 ID:qM3gL5y4WQ

早川と囚人仲良すぎwww

 

350:名無しの悪魔 2019/7/31 1:53:35 ID:BhYnImjuK4

公安に所属する魔人と悪魔名前……

パワー

ビーム

エンジェル

ガルガリ

これ全部天使の階級じゃねぇか!?

 

351:名無しの悪魔 2019/7/31 1:57:08 ID:Pajh9SsXzx

天使はエンジェルだけじゃない?

 

352:名無しの悪魔 2019/7/31 2:03:04 ID:PVVgsKePZi

聖書で天使には階級があるんだよ

セラフィム

ケルビム

ソロネ(ガルガリ)

ドミニオン

ヴァーチェ

パワー

プリンシパティ

アーク

エンジェル

 

ビーム君がケルビムだとすると、4つ出てる

多分これ偶然じゃない

 

 

353:名無しの悪魔 2019/7/31 2:08:14 ID:P4cJQpafHE

MAKIMAはアナグラムでKAMIMA

つまり神魔になる

マキマの正体は神の悪魔

……昔この考察ぶっ飛びすぎだろって言ってたけどごめん

普通に神の悪魔とかあり得るわ

 

354:名無しの悪魔 2019/7/31 2:12:08 ID:85DYISvKoY

うわぁ……

 

355:名無しの悪魔 2019/7/31 2:15:28 ID:ATjNhskUSQ

神の悪魔がなぜ公安で働いてるの?

 

356:名無しの悪魔 2019/7/31 2:18:40 ID:Kg7xxNruh9

神「公安は給料と福利厚生が1番良いんだ!上司が死にそうな時は庇ってくれるし!」

 

357:名無しの悪魔 2019/7/31 2:23:53 ID:HP6QAcaaDH

 

358:名無しの悪魔 2019/7/31 2:29:46 ID:E9Lh9lum2I

神だとしてもじゃあなんで鎖を多用してんだ?

 

359:名無しの悪魔 2019/7/31 2:33:23 ID:Jk2yqUAyr3

悪魔とは別の概念で神というのもいる世界観なのかもしれん

 

360:名無しの悪魔 2019/7/31 2:37:41 ID:OPhDBidN25

個人的に気になるのが筋肉が生きてること

あいつ絶対死んだやろ

 

361:名無しの悪魔 2019/7/31 2:41:17 ID:dpuPqAcBY1

マキマの復活もどういう能力なんだろうか。

肩代わりさせるようだけど、日本国民全員を対象にできるってなんだよ!?

岸辺はなんであんなこと聞いたんだ?

 

362:名無しの悪魔 2019/7/31 2:46:02 ID:qB8b5WTqvd

そりゃ、最大限の力を知った上でもお前(マキマ)と殺しあう覚悟があるぞって示すためだろ

……てかマキマさんの日本国民発言の後でも平然と言える先生ヤベェ

 

363:名無しの悪魔 2019/7/31 2:51:28 ID:pdzLsnZiOo

岸辺の裏切って欲しくないのがマキマの強さとか厄介さよりも、どちらかというと心理的な抵抗っぽいのウケる

あの人なんなん?

 

364:名無しの悪魔 2019/7/31 2:55:19 ID:BUr9fkseqV

岸辺も実は悪魔とか

岸辺もデビルハンターの悪魔でだから悪魔である以上、マキマは岸辺に怯えてる

 

365:名無しの悪魔 2019/7/31 2:59:49 ID:4mL8BcM1Pc

てか岸辺先生、昔の同僚にNTRを理由に殺されかけてんの可哀想

やっぱ男のデビルハンターはクソだな!時代は女の子!

 

366:名無しの悪魔 2019/7/31 3:04:53 ID:AFuakibvQ1

コベニ「デンジ!殺す!」

姫野「オロロロロ」

遥華「ご飯食べに行くなら私もついでに!」

 

367:名無しの悪魔 2019/7/31 3:08:59 ID:cYwyuarGgP

マキマ以外、ヤバイのばっか!

 

368:名無しの悪魔 2019/7/31 3:14:53 ID:KlgNovOyob

天童ちゃんはまだまともだろ!あと伏さんとこの新人!

新人は辞めたけど……

 

369:名無しの悪魔 2019/7/31 3:18:49 ID:RSFghjJIJt

伏さんは確か新人に沢山辞められてるんだっけ?

 

370:名無しの悪魔 2019/7/31 3:24:49 ID:KmMG8kC389

134人でした

 

371:名無しの悪魔 2019/7/31 3:28:33 ID:yA3Axnff7b

どんだけやめてんだよ!

 

372:名無しの悪魔 2019/7/31 3:33:24 ID:ETRPqMmegd

「姫野さんはバディはみんな民間に行ったんだっけ?」

「数えてみたら5人だけだったしアキ君はまだやめてないもん」 

 

373:名無しの悪魔 2019/7/31 3:37:10 ID:txb1IHC0yj

自分の中の公安対魔特異4課の強さイメージ

マキマ>壁>ビーム、デンジ>壁>早川、伏≧姫野、パワー、コベニ≧黒井、円、遥華>>壁>>月本、伏さんとこの新人

異論は認める

 

374:名無しの悪魔 2019/7/31 3:42:30 ID:Tk6PtQXGQd

岸辺は?

 

375:名無しの悪魔 2019/7/31 3:45:33 ID:2gAW4acdHl

アル中先生は1課だからなぁ

 

376:名無しの悪魔 2019/7/31 3:50:44 ID:C7smm1rpwJ

しかしヤクザ連合VS公安か……

普通だったらもっと盛り上がるはずなのに、既にヤクザがボロボロなんですが

 

377:名無しの悪魔 2019/7/31 3:54:27 ID:RtTeEvfsQ0

初手の奇襲を完封されて、全国の公安が団結して潰してる状況だからな

参加してない組とかもあるだろうけど、これでマキマのやってたヤクザ潰しの目的は達成されそう

 

378:名無しの悪魔 2019/7/31 4:00:05 ID:pqUyXuojhw

マキマ曰く、デンジを見つけるためにヤクザ潰し回ってただけで別にヤクザを潰すのが目的じゃないぞ

ヤクザ潰してたら公安全体が恨み買って、襲撃された構図

 

379:名無しの悪魔 2019/7/31 4:04:00 ID:KQ4xyJZkdy

マキマおい!?何やってんだ!?

 

380:名無しの悪魔 2019/7/31 4:08:25 ID:ADe3Hbay6p

マキマ「仕事!」

 

381:名無しの悪魔 2019/7/31 4:11:59 ID:C0ASPbm6Te

ぐうの音もでねぇ!

警察がヤクザしばいて逮捕すんのは当然なんだよなぁ……

でもそれ公安の仕事か?

 

382:名無しの悪魔 2019/7/31 4:15:47 ID:ag5X9IcJGj

悪魔と契約してるヤクザなら、公安のデビルハンターの管轄なんだろ

 

383:名無しの悪魔 2019/7/31 4:21:25 ID:dU92cnU6bo

今のところマキマのやらかしって、ヤクザ潰しまくって恨み買ったのと、囚人を契約に使ったくらいだよな

でもヤクザ潰すのはそれが仕事だし、囚人はちゃんと生きてて回復するらしいし……

マキマさんヤバそうに岸辺先生言ってたけど、何も悪いことしてないぞ!?

 

384:名無しの悪魔 2019/7/31 4:25:13 ID:JPassHZQZX

何も悪いことしてないけど、悪いことしたら公安が詰むかもしれんから警戒してる。

どんな善人だろうが、そいつが核のボタン持ってたら警戒するだろ。

 

385:名無しの悪魔 2019/7/31 4:28:32 ID:npxt7VbCmU

そういうことか

岸辺からするとマキマさんは核持ってる状態なのか

そりゃ警戒する

 

386:名無しの悪魔 2019/7/31 4:32:17 ID:DsVxybC19T

そういえば核の悪魔って出てないよな

 

387:名無しの悪魔 2019/7/31 4:37:04 ID:i3Wb0sMDxX

核はクソ強いから地獄でまだ死なずに暴れてんだろ

逆に今現世に来てる奴は一度死んでる

 



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22話 オペレーション・ビックブラザー

 ギャハハ!見ろポチタ!あの作家、完結してない漫画の二次創作やって、新設定に翻弄されてらあ!必死に考えた独自設定を原作に殺されるなんて信じらんねえよなあ!?同じオタクとして情けねえぜ!

………オェェェェ

 好意の力で偽マキマさんの弱体化をしたはずが、戦争ちゃんの明かした能力から逆にバフになっている可能性が出てきてしまった。



 

 東京都内にある一台の車が走っている。その車には3人のデビルハンターが乗っていた。京都から指導に来た天童と黒瀬、そして2人に指導され新しい悪魔と契約した特異課の早川アキだ。そして車を運転している黒瀬は、早川に話しかけた。

 

 「俺たちはそろそろ、京都の方でも任務が始まるので帰ります。もう会う事もないだろうしひとつ質問させてください。

 アキ君は銃の悪魔を狙っとる聞きました、本気で殺せると思ってます?」

 

 黒瀬はそう聞きながら、銃の悪魔を殺すとデビルハンターになり死亡した兄のことを思い浮かべた。

 デビルハンターになった者は一度はそのことを夢に思い、現実を知り諦める。あるいは……現実を知る前に殺される。

 

 そんなデビルハンターが多い中、公安という最もこの日本で銃の悪魔に近く、過酷な職業に就きながら本気で銃の悪魔を殺そうしている男。早川アキに黒瀬は興味を持っていたのだ。

 

 「今回の襲撃で、マキマさんは100回くらい死んでてもおかしくない状態でしたよ。

 車も血だらけでびちゃびちゃで、もう二度と乗れへんくらいでした。

 しかもその後も、マキマさん思い切り攻撃喰ろうてな?俺と天童の服が返り血で台無しになりましたよ。まぁ、車も服も俺んじゃなくて公安の支給品なんでええんやけど」

 

 「ええんかい」

 

 黒瀬の発言に対して天童が小声で漏らす。

 

 「アキ君、今回の襲撃で特異課で死者が出なかったのはマキマさんの力や。

 それは君もわかってるんやろ?あの状況下で、もしマキマさんが手を講じてへんかったら君は死んどった。

 例え万が一アキ君が死んでへんくても、君の恋人さん。姫野が死んどったのは確実や。それは君もわかってるんやろう?」

 

 車内が暗く、重い空気に包まれる。そして感情を抑えきれない黒瀬は、尚も言い続けた。

 自分と親を残して死んでしまった、もはや話すことのできない、自らの兄に想いをぶつけるように。

 

 「なあ?自分、恋人まで巻き込んでこんなこと続けんのか?そんな諦めきれへんか?

 もし自分ひとりおっ死んで恋人だけ残されたら、その恋人、どんだけ苦しむかわからへんくらいアホなんか!?」

 

 黒瀬の握るハンドルに強い、強い力が込められる。

 

 「……優しいんですね、黒瀬さん」

 

 少し間を置いて、早川アキは落ち着きながら返した。

 

 「俺が公安に入った頃、自分が死ぬことは怖くありませんでした。銃の悪魔に家族を奪われていたんで、ただただ復讐だけを考えていました。

 でもここで働いていて姫野と出会い、大切なものができました。復讐以外のことを考え始めたのはそれからです。

 黒瀬さんの言ってた通り、姫野が死ぬことや俺が姫野を残して死ぬこと、色々考えて悩みました。

 そんな時、姫野は俺の後押しをしてくれたんです。だから俺はもう迷いません。」

 

 アキは懐から、悩んだ時に姫野から貰った『easy revenge! (気軽に復讐を!)』をと書かれたタバコを見ながら言った。

 

 「……そか。いい彼女さん持ったな。」

 

 「ええ、俺には過ぎた女ですよ。」

 

 早川は静かに返した。

 

 「……ま、俺の愛しのミサちゃんの方がええ女やけどな!」

 

 「やかましいわ!すまんな、こいつうるさくて」

 

 天童が突っ込みながら、早川に詫びた。

 

 そして車が公安本部に着き早川はお礼を言い、車を降りた。そんな早川を見つめていた黒瀬はジュースを投げ渡して言った。

 

 「アキ君!キミん事ムカつくけど応援しとくわ!!最後にこの言葉を送る!!

 特異課にはまともな奴がいないから気をつけな!」

 

 そう言い残し、去っていた黒瀬の車に対して、早川アキはしっかりと頭を下げて見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神奈川県の某所にて、大勢の警察がとあるビルを包囲していた。

 彼らは今回の公安襲撃を行ったヤクザを追い詰める為に、手助けしてくれている神奈川県警の皆さんと、公安の対魔2課の皆さんだ。

 

 「神奈川県警より来ました、警部補の椎名です。」

 

 「退魔2課の古野です」

 

 神奈川県警と神奈川公安の椎名さんとへ古野さんが挨拶してくれる。

 

 「特異1課隊長、岸辺だ。」

 

 「特異4課のマキマです。本日はご協力、誠に感謝いたします。」

 

 私たちも一緒に2人に挨拶した。岸辺先生は堂々と立ったままだが、小市民の私はペコリと頭を下げた。

 岸辺先生くらい威厳と貫禄が有れば問題ないが、こちらは見た目も中身も小娘なので何もせず立ったままでいるのは心理的に辛い。

 というか赤ん坊の状態ではなく少女の状態で生まれたから、見た目以上に小娘なのが実態だ……。

 あれ?そのことを考えると、もしかして年齢的にデンジ君と付き合っても問題ないのでは?

 

 「やだなぁ、マキマさん。そんなに畏まらなくていいですよ。

 マキマさんにはうちの者達が世話になってますからね。これぐらい協力するのは当然ですよ」

 

 変なことを考えてる私に対して、古野さんが笑顔で言う。や、優しい……。

 

 「こっちのも、『あのマキマさんと協力したって自慢できる!』って張り切ってますよ。

 あ、そうそう。これが終わったらサインもらっていいですか?俺の娘、マキマさんのファンなんですよ。」

 

 「ええ、わかりました。娘さんにもよろしくと伝えておいてください!」

 

 私は笑顔で返す。割とメディア露出してるからか、サインをねだられることはたまにあるが、子供にも人気と聞くとやはり嬉しい。

 

 そんな感じで軽いやり取りをしてから、岸辺先生のブリーフィングが始まった。

 

 「今回、警察と退魔2課は出入り口の封鎖。そして特異1課4課及びマキマ直属人外部隊が突入し、内部を制圧。主犯格の組長、サムライソード、そして沢渡アカネを確保する。」

 

 「なるほど……それでは特異課の突入作戦について、詳しく教えてくれますか?」

 

 「作戦はない。特異課と人外職員、全員をビルにぶち込む。」

 

  尋ねる椎名警部補に対して岸辺先生は毅然と返した。

 その言葉を聞いた古野さんと椎名警部補は困惑する。

 

 「まぁ、突っ込むのは私が一仕事を終えてからですけどね。強いて言うならそれをしてから突っ込む事が作戦です。」

 

 「一仕事ですか?」

 

 「ええ、おっと。ちょうど準備が整ったようです。」

 

 厳重な武装をした護送車が、ビルの近くにある指揮本部に到着した。この護送車が来てくれなかったら、実質私はこの作戦でニートと化してしまうから助かる。

 いや、万が一ビルから逃げ出したヤクザが居たらそいつを捕まえる為に残るって役割があるけど……。ほぼ万全な1課4課が揃ってる上に、暴力さんを除いた人外職員も揃ってる。

 この状況で逃げ出せる奴がいるとは思えない。サムライソードは壁を壊してどっかに行くかもしれないけど、デンジ君がいるからなんとかなるでしょ。

 

 そんなことを考えているうちに、護送車から悪魔の死体の入った棺桶が運び出される。

 そして棺桶が開けられ、中から悪魔の姿が見えた。

 

 「こ、この死体は一体!?」

 

 椎名警部補が困惑しながら聞く。

 

 私はそんな椎名警部補に、笑顔で返した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 包囲されたビルの中でヤクザ達が武器を持ち、これから突入するであろう警察達に備えていた。

 

 「く、組長……完全に包囲されてます。すごい数ですよ。」

 

 「落ち着け、ここで迎え撃つ準備はしてある。静かにしてろ」

 

 恐怖するヤクザに対して、沢渡アカネはぶっきらぼうに言った。

 

 「うるせぇぞ女!テメェのせいでこんな目になったんだろうが!」

 

 「おい、確かに話を持ちかけたのは沢渡だがそれに乗ったのも作戦を考えたのも俺らだ。

 爺ちゃんが居たら、そんなみっともない言葉吐くなんてゆるさねぇぜ」

 

 激昂するヤクザに対して、サムライソードが窘めた。

 

 「若いもんは落ち着きがなくて困るねぇ……。ま、策はあるから安心しな。親父が残した置き土産があるからな。

 警察が銃を使おうが、こっちには秘密兵器がある。」

 

 「ひ、秘密兵器ですか?」

 

 「ああ、親父が残したゾンビで作ったゾンビ軍団だ。

 銃でドタマをぶち抜こうが、心臓を撃とうがその程度じゃゾンビは止まらない。頭を砕けば別だが、銃でそれをやるのは一苦労……。

 警察がてんやわんやになってるうちにチェンソーの心臓を奪うって寸法よ。

 他の組にも配ってあるから、そいつらもそれで逃れて義理も立つ。その組のどこか一つでも。ゾンビパニックを起こしてカタギに被害がだせりゃ、マキマの責任問題で一矢報いれて一石二鳥。

 学のある奴はこうやって賢く戦うんだよ、ん?」

 

 どっしりと深く椅子に座った組長が、余裕そうに部下達に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦開始を前に、緊張する日本全国の警察と公安のデビルハンター達。

 そんな彼らに、無線を通してマキマの声が聞こえた。それは作戦開始前の激励の言葉、正確に言えば演説であった。

 

 「みなさん、この任務に参加してくださり有難うございます。

 この任務に参加した警察官、公安職員の皆様にはさまざまな思いがあるでしょう、考えがあるでしょう、夢があるでしょう、望みあるでしょう。

 ある者は今を生きる家族のために、ある者は今は死せる家族のために。

 ある者は未来を掴むために、ある者は過去と決別するために。

 ある者は正義から、義務から、欲望からこの場に参加することになったでしょう。

 

 そして目指す場所も、見たい景色も、その想いの強さすらも、何もかもがそれぞれ千差万別でしょう。

 

 それでも私たちは今、たった一つの目的のためにいます。

 それはこの日本の裏社会における一つ時代を終わらすことです。この事件は、警察史、デビルハンター史、犯罪史、そしてなによりも日本史に残る一大事件として残ることになります。我々の勝利という形で……。

 

 みなさんはこの事件を、どのように語るのか。

 新しく入った新人に対して、この事件の凄まじさと共に教訓を語る者。

 家族や友に自らの活躍と栄光、そして勇敢さを語る者。

 飲みの場で、一つの鉄板話のひとつとして場を賑やかせるために語る者。

 ……あるいは、この件について口をつぐみ、ただただ、他者が残した記録の中にある行動でのみ語る者。

 

 それもまた千差万別でしょう。

 それでも、みなさんの語り方が幾千通りあろうとも、幾万通りあろうとも、その語られ方は一つ。

 

 我々の後に続く者達にとっての、偉大なる先立として語られるのです。

 かつて私たちの父が、母が、より良い時代を築くために、奮闘したように……。

 私たちは、私たちが今日築き上げる新しい時代を最初に生きる長子となるのです。そして私たちの弟や妹が尊敬する、偉大な兄弟として語られるのです。

 

 さあ、犯罪者による無秩序の時代を完全に終わらせて、法の支配がなされた秩序ある新時代の幕を開けましょう。

 

 オペレーション、ビックブラザー。開始」

 

 マキマはそう無線で語り、一呼吸を置いて落ち着いた後に安堵しながら言った。

 

 「よし!噛まずに言えた!」

 

 「…………………」

 

 ガッツポーズをしながら安堵しているマキマを見つめていた岸辺は、身を乗り出し無言で無線の通信を切った。

 

 「……すみません、もしかして最後のやつ、聞こえてましたか?」

 

 「ああ、バッチリとな。」

 

 岸辺の一言を聞いたマキマは。顔を赤くして、顔を両手で押さえたのであった。



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23話 暴力団の悪魔

 

 

 日本の地方都市に存在する、公安襲撃に参加したとあるヤクザの事務所。そこはサムライソードの組と同じように、警察と公安に包囲されていた。

 

 「あ、兄貴!本当にゾンビを放つんですか!?」

 

 「ばっきゃろう!そうしねぇと俺らがサツにパクられる!悪魔と契約して銃を手に入れた上に、公安を襲ったんだ!終身刑になって、悪魔との契約の生贄にされるかもしれねえ!

 こうなったら一か八かだ、ゾンビに賭けるしかねえだろう!」

 

 事務所の中でヤクザは怯えつつも、ゾンビという秘密兵器を頼りに状況を打開しようとしていた。

 

 「……たく、いつになったらゾンビの解放が終わるんだ!

 おちおちしてたらサツどもが突っ込んでくんだぞ!あの馬鹿どもが……。まさかゾンビにビビってんじゃねえだろうな?

 おい、そこの。ちゃんと手はず通りにゾンビを逃す準備が整ってんのか見てこい。」

 

 「へ、へい!わかりやした兄貴!」

 

 下っ端のヤクザは指示に従い、部屋を出た。そして……。

 

 「ギャアアアあああ!」

 

 下っ端のヤクザの悲鳴が響いた。

 

 「な、なんだ!?何があった!?

 くそ!テメェらチャカの準備をしろ!」

 

 ヤクザ達はドアに銃を向けて待機した。そしてしばしの沈黙の後、三下の下っ端がドアを開けて帰ってきた。

 

 「オアアアァァァァ」

 

 組が用意したゾンビ達と共に、変わり果てた姿になりながら。

 

 「な!?」

 

 そして部屋に大量のゾンビ軍団が雪崩れ込んだ。ヤクザも当然銃を放ち応戦するが、ゾンビのタフさと圧倒的な物量になす術もなく蹂躙され……部屋の中にいたヤクザは皆ゾンビと変わり果てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっと、ちょっと待ってください。ゾンビ?」

 

 神奈川公安の椎名さんが私に尋ねてきた。

 

 「はい、ゾンビです。

 ヤクザ達はゾンビの悪魔の力でゾンビを保有しています。そのゾンビに噛まれるとゾンビになってしまい大変危険です。

 なのでゾンビの悪魔の力を使用して、逆にそのゾンビにヤクザ達を襲わせています。日本各地で。」

 

 私はニヤリと笑いながら答える。支配の力で小動物達を用い情報収集をおこなった結果、原作通りヤクザがゾンビを保有していたことがわかった。

 ただ厄介なことにサムライソードの組だけじゃなく、公安の襲撃に参加した全ての組がゾンビを保有してると聞いた時私は頭を抱えた。

 原作では、多くの魔人と悪魔を編入した公安対魔特異4課無双でゾンビ軍団に対抗していたが、それができるのは一つの場所だけだ。

 しかも万が一そのゾンビが街に逃げ出して、一般市民を噛んだら大変なことになる。そこで私は無い知恵を必死に絞り、岸辺先生をはじめとする公安の仲間にも相談して対処法を考えた。

 

 そして思いついたのがこれだ!デンジ君が倒してくれたゾンビの悪魔を使い、ヤクザのゾンビを操る!でもって、そのゾンビをヤクザに襲わせれば警察や公安への被害を抑えられる!

 ふっふっふっ、完璧な作戦!今ごろ公安の襲撃に参加したヤクザの事務所は、阿鼻叫喚の大惨事に違いない。実際、目の前のビルから銃声の音がすごいし。

 

 「ヤクザがゾンビを持っている……初耳なんですが」

 

 「ヤクザ達にとって秘密兵器だからね、ヤクザなりに全力でゾンビの存在は隠してたよ。

 だから油断させるために、気付いてないふりをしてたんだ。もし警察がゾンビの存在に気付いてるとバレたら、また別の対策を立ててくるだろうしね。」

 

 私は椎名さんの質問に答える。ゾンビという秘密兵器は、ヤクザにとって心の拠り所だ。『自分達は危険な状況だが、対抗策がある』、そう考えているからこそヤクザ達は未だ心の平静を保っていられるのだ。

 もしそのゾンビの存在を警察が把握してると気付いたらヤクザも余裕が無くなり、なりふり構わず暴れ始める可能性がある。恐怖のあまり街中で銃乱射をし始めたり、ゾンビを警察を迎え撃つためでなく、街中に放って撹乱するために使用したり、そんな迷惑なことをされたらたまったもんじゃない。

 だから私は、こうやってゾンビをヤクザの事務所に集めて迎撃のために使おうとするヤクザを放置していたのだ。そうしてくれれば、あとはゾンビの悪魔の力でゾンビを操って、ワンサイドゲームができるし。

 

 「全く、ヤクザが可哀想になってくるな」

 

 銃声が響く事務所を眺めながら、岸辺先生が漏らす。

 

 「ええ。でも万が一無関係な市民や警察が噛まれることになったら、そっちの方が100倍可哀想ですよ。でもヤクザの方は自業自得ですし。」

 

 ぶっちゃけて言うと、実はそこまでヤクザには同情とかしてない。だってダメージの肩代わりで100回くらい撃たれたし……いやもっとか?

 それにヤクザのせいで特異課の職員が減るわ、ヤクザを捕まえるための公安特別捜査本部の指揮を取ることになるわ、そのせいで忙しくてデンジ君とあんまり会えないわで散々だった。

 

 「マキマさん、そろそろ投降を呼びかけますか?」

 

 「あ、月本さんありがとう。それじゃあスピーカー借りるね」

 

 ゾンビの悪魔を操りながら、ヤクザへの不満を考えていた私の為に、月本さんが拡声器を持ってきてくれた。そろそろヤクザの中にも音を上げる奴が出てくるだろう。私は月本さんから拡声器を受け取り、投降を呼びかけた。

 

 「あー、あーあーあー。事務所に立て篭もる暴力団員に告ぎます!速やかに投降しなさい!貴方達は完全に包囲されている!そして頼みの綱であるゾンビ達も、我々警察が掌握した!

 速やかに武器を捨て投降せよ!そうすればゾンビは貴方達にこれ以上危害を加えることはありません!もし今の段階で投降するのであれば、今回の襲撃事件の罰として死刑、及び終身刑は免れます!私が保証します!」

 

 私は拡声器でヤクザ達に呼びかけた。

 

 「終身刑と死刑を免れる……か。そんなこと言っていいのか?」

 

 岸辺先生が尋ねる。

 

 「一応、検察の人には話を通してありますから。今回の事件は死者は出ていないですし、投降するならば反省の余地ありとして、ギリギリ終身刑よりは軽い判決で済ませてもいいとのことです。

 といっても、今回の事件の罰にのみ限りますけどね。

 他の事件でやらかしていたら、普通に死刑や終身刑はあり得ます。」

 

 私は岸辺先生に答えた。いやぁ……検察の人には頭が上がらない。これで少しでも多くのヤクザが投降して、仕事が楽になればいいんだけど。

 でもサムライソードとかは投降しないだろうなぁ、だからデンジ君は普通に原作通り戦いそう。

 

 私がそんなことを思っていた時、突如ビルの事務所にある窓ガラスが割れて、何かが飛び出してきた。そしてその何かは、私が操っているゾンビめがけて飛んできた。

 

 

 私は咄嗟に鎖を広げて盾を作り、自分と岸辺先生、そして周りにいる警察と公安職員、それとゾンビの悪魔をガードした。

 

 「オラァ!」

 

 そして窓から飛び出してきた何かは一直線に、ゾンビの悪魔を目指して飛んできて、私の鎖にぶつかる。

 あ、やばいこれ防ぎきれない!みんなを守る為に鎖広げすぎた!軌道をよく見て、ゾンビだけ守っときゃよかった!

 私は飛んできた何かが、ゾンビの悪魔を殺す前に、ゾンビの悪魔が操る全てのゾンビの活動を停止させた。

 日本各地のゾンビの活動を止めて、新たなゾンビが作られないようにし終わったのと、ゾンビの悪魔が飛んできた何かに攻撃されて、もう操ることができなくなったのはほぼ同じタイミングだった。

 

 「……たく、マキマ。テメェはとことん人の邪魔をするのが好きだなぁ?

 お陰で俺が考えた作戦が全部おじゃんだ。この落とし前、どうつけてくれんだぁ!?」

 

 飛んできた何かの正体……それは上半身裸で、左手にドスを持ち右手にはハンドガンを構えた刺青をした大男、組長の姿であった。

 あれ組長でかくない!?前新幹線で見た時とか原作だと、あんなに大きくなかったよね!?てか肉体的に強すぎない!?

 

 「作戦がおじゃんになったのは、貴方の計画が杜撰かつ稚拙な楽観に基づくものだったからでしょう?」

 

 「あ゛ぁ゛ん!?」

 

 私はムキムキになって怖くなった組長に対して、毅然と返した。ここで怯えたところを見せたら、他の警察達の士気が下がっちゃうし……。

 

 「古野、こいつの対処はマキマがやる。他の公安職員には距離取らせて援護に徹するよう命令しろ。

 椎名警部補、県警は引き続き人外職員の逃走に対する警戒に当たってくれ。」

 

 岸辺先生は私を信頼して、躊躇なく他の職員達を下がらせた。元々逃げ出すヤクザがいたら、私が対処することになってたしね。

 

 私は露骨に不機嫌そうな態度をとる組長に対して、改めて投降を促した。多分無意味だけど。

 

 「貴方がここの暴力団の最高責任者であることは分かっています。

 今すぐ他の構成員達の武装を解除し、投降するように指示を出しなさい。

 これが貴方が減刑される最後のチャンスです。さあ武器を捨てて両手を上げ、ゆっくりと膝をつき、地面に伏して手を頭に回しなさい。」

 

 私は指で鉄砲を作り、組長に向けた。まるで新幹線で襲われた時のような構図だ。

 ただあの頃と違うのは、私は無傷で大勢の仲間がこの場にいることだ。

 それにビルに突入しているが特異課のみんなもすぐ近くにいる。

 今の私は1人じゃない、そのことを思うと勇気が湧いてくる。目の前の組長がなんの悪魔と契約していようが知ったことか!

 

 「……はぁ。随分と余裕だねぇ、まぁ虎の子のゾンビ軍団も無効化したし、大方武器人間であるうちの若いのの対策も万全済ましてきたんだろ?

 だがなぁ、俺はもう契約しちまったんだよ。

 『暴力団の悪魔』とな。その契約の代償の一つはマキマ、テメェを殺すことだ。もしテメェを殺さなかったら結局俺は契約違反で死ぬのさ。

 投降しようがどうせ生きれねぇなら、テメェをぶっ殺して生き残れる可能性に賭ける。それしかないだろ、ん?」

 

 組長は私に向けて言った。組長が契約したのは暴力団の悪魔だったのか……。

 いや、確かに悪魔と契約したあんたは死ぬかもしれないけど、他の構成員は普通に生き残れるんじゃないの?

 新幹線の時より明らかにパワーアップしてるし、契約したのって多分襲撃の後だよね……?なんで一度失敗した賭けに追い銭しちゃうかなぁ。

 組長の父もゾンビと契約して、結果死んだしもう悪魔と関わるのやめた方がいいと思う。

 

 「さ、お喋りもここまでだ。マキマ、決着をつけようぜ?」

 

 暴力団の悪魔と契約して、上半身裸で刺青をした筋肉隆々の大男と化した組長は、ドスを私に向けて言い放った。

 

 「いいでしょう。貴方を倒して、法の裁きを受けさせます。覚悟しなさい。」

 

 私は鎖を構えて答えた。



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24話 特異課VSヤクザ

チェンソーマンの新PV来た!。

「マキマさんってこんな声かぁ……。」

大勢の人が、心の中でこのセリフ言ってると思う。


 

 「死ね死ね死ね死ね!」

 

 ヤクザ達が立て篭もる事務所のあるビルの4階の通路にて、マシンガンを装備した下っ端達が牽制射撃を行い特異課の職員の行手を防いでいた。

 

 「やれやれ、マキマさんがゾンビを操ってくれたおかげで、ここまでは楽に来れましたが……。

 こうやって守りに徹せられると厄介ですね。」

 

 「おい伏、何かいい策ないのか?IQ高いんだろ?」

 

 「そっちこそ学生の頃にアメフト部を優勝に導いた、ご自慢の肉体でなんとか出来ないんですか?」

 

 伏と黒井は、銃弾の当たらない死角に身を隠しながらぼやきあった。

 

 「ま、普通にいつも通りの方法で倒すのが1番でしょうね。『デビルハンターらしく悪魔の力を使う』」

 

 「それもそうか。敵陣の中にいるとはいえ、退路も確保してあるし後退すりゃすぐに輸血もできる。」

 

 そういうと伏はナイフを取り出し、自らの腕の動脈を斬り裂いた。

 そして動脈から流れた血が、幾つものおもちゃのヘリやクルマへと変貌する。

 

 「痛っ……!ラジコンの悪魔、頼みましたよ」

 

 そして伏はスタングレネードを血で作り上げたおもちゃのヘリやクルマに括り付けて、ヤクザに向かって進ませた。

 

 「な、なんだあのラジコン!?爆弾がくっついてやがる!?」

 

 「う、撃て撃て撃て!こっちに来るぞ!」

 

 ヤクザ達は銃で伏の作ったラジコンのヘリやクルマに向けて発砲するが、それらは全て躱されて遂にラジコンがヤクザのもとに到達する。そして……

 

    ドドドドォォォォン!

 

 「「「「うぎゃああああああ!!!!」」」」

 

 ラジコンに括り付けられた幾つものスタングレネードが爆発し、下っ端ヤクザ達の多くは気絶して、気絶しなかったものも思わずひるんだ。

 

 「黒井さん、今です」

 

 「オウ!」

 

 そして黒井はその隙に、足から生やした血で造られたバネを使い、まだ気絶していないヤクザ達に飛びかかりタックルを食らわせた。

 

 「おっしゃあ!伏、もう大丈夫だ。ここのヤクザは全員気絶した。」

 

 「ふう……ご苦労さまです。その様子ならまだまだ大丈夫そうですね。」

 

 「たりめぇだ!」

 

 黒井は伏に親指を立てて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほい、ほい、ほい、ほい!」

 

 「ぐぇ!?」

 

 「ガハッ!」

 

 「ぐふぅ!」

 

 「ひぎぃ!」

 

 4階の別のフロアでも、ヤクザと特異課の戦いは同じように繰り広げられていた。そして先ほどの伏と黒井コンビのように、戦況は公安側に有利に展開していた。

 特異課に銃を向けるヤクザ達に対して、眼帯をした女性の職員が幽霊の悪魔を使い、次々と殴り倒していた。

 その女性の名は姫野、公安対魔特異4課のデビルハンターだ。

 

 「くっ……あの女だ!あの女を潰せ!よくわかんねえ腕は一本しか使えねぇようだ!全員で同時にかかれ!」

 

 「「「うおおおおお!」」」

 

 特異課の中でもベテランである姫野は、その経験の差からヤクザ達を圧倒するが、その活躍からヤクザ達に目をつけられ総攻撃を受けてしまう。

 

 「ちょっ、やば!退避退避退避!」 

 

 「馬鹿女が!逃すかよ!」

 

 姫野は物陰に隠れ銃弾を躱しながら逃げ、そんな姫野をヤクザ達は必死になって追った。

 そしてついにヤクザ達は姫野を壁際に追い詰めた。

 

 「嬢ちゃん……ちょっとお痛が過ぎたようだな」

 

 ヤクザ達は姫野に銃を向けて尋ねた。

 

 「最後に何か言い残すことはあるか?」

 

 「後ろ見てみ?」

 

 姫野は不敵に笑い、ヤクザの後ろを指差しながら言った。

 

 「馬鹿か?そんな子供騙しに引っかかるわけが……ぐぎゃ!」

 

 ヤクザがそう言いかけたところ、そのヤクザの後ろから早川、コベニ、荒井の3人がヤクザに不意打ちをして叩きのめした。

 

 「おびき寄せ作戦、大!成!功!いやー、撃たれながら走るのってやっぱ疲れるね。みんなもお疲れー。あ、コベちゃんコベちゃん、そこのヤクザ達縛っといて。」

 

 「は、はい!」

 

 後輩達に対して感謝しつつ、コベニに指示を出す姫野。

 

 「姫野先輩……やっぱり囮は俺の方が良かったんじゃないですか?」

 

 姫野を見つめながら、荒井は言った。そしてそんな荒井に対して、早川が答える。

 

 「いや、今回の囮は姫野が適任だ。

 囮をする際に、敵の注意を引く存在感、敵に悟られずに誘導する能力、そしてなによりも囮になっている間死なないだけの生存力が必要だ。

 お前とコベニは経験の浅さから囮だとバレる可能性がある。俺の場合はもう狐が使えなくて火力が低いから、どうしてもヤクザ達からすれば倒すべき優先順位が低い。

 そのことを考えると、場数を踏んでいてゴーストと契約している姫野が1番なんだ。」

 

 「そ、そうですか……。余計なことを言ってすいません。」

 

 「まーまー、荒井君。安心してよ!次に一仕事するのは君の番だからさ。

 あ、その次はコベニちゃんね?」

 

 「は、はい!」

 

 「わ、私もですかぁ!?」

 

 「コベニ、お前何しにここに来たんだ。」

 

 元気よく返事する荒井と、狼狽えるコベニ、そしてそんなコベニに対して、早川アキは突っ込みを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの10階、下から迫り来る公安達に対して、ヤクザ達は怯えつつも、守りを固めていた。

 

 「兄貴!もう既に5階まで突破されやした!ゾンビ軍団も無効化されたし、もう無理です!大人しく投降しやしょうよ!」

 

 「ば、ばっきゃろう!もし仮に警察が俺らを許しても、組にケジメつけさせられんだろうが!

 ムショを出た途端に殺されるんだったら、終身刑や死刑と何がちげぇんだ!」

 

 「で、でも、でも」

 

 「でもじゃねぇ!今親父がビルを出て戦ってんだ!テメェも気張れ!

 親父がマキマのタマを取るまで耐えるんだ!この階はバリケードをこさえてある。並の悪魔じゃ、突破なんて出来やしねぇ。難攻不落の守りだ。ここで耐えてりゃ、勝機がある!」

 

 ヤクザの幹部が、部下を鼓舞して迎撃に備えていた。

 幹部が言った通り10階はバリケードが築かれており、突破は困難だった。

 

 「ふっふっふっ、それに……だ。親父が準備したのはゾンビ軍団だけじゃねえ。秘密兵器はもう一つあんだよ。

 なんでわざわざ10階という中途半端な階にバリケードを築いたと思う?もし築くならサツが最初に突入するであろう1階や最上階だろ?

 答えは……これだ。」

 

 幹部はそう言うと、ガスボンベを指差した。

 

 「こ、これは?」

 

 「毒ガスだよ。こいつの存在は沢渡のやつにも、他の組にも喋ってねえ。

 これを知ってるのは親父と幹部である一部の者だけだ。

 このガスは空気よりも重いから、どんどん下に下がっていく。そうすりゃ下の階にいる公安もお陀仏だ。

 例えそうじゃなくても、再突入のためにはガス対策のための準備が掛かる。サツどもも減らせて時間も稼げる、正に一石二鳥だ。」

 

 幹部は不敵に笑い、部下は狼狽える。

 

 「兄貴正気ですか!?下にはまだ仲間が……」

 

 「敵をこの階まで突破させる阿呆どもだ、どのみちケジメはつけさせる必要があるだろ?

 それともテメェは、親父と俺らが決めた作戦に文句でもあんのか?」

 

 「い、いえ……」

 

 「わかりゃいいんだよ、わかりゃな。それじゃあ、こいつを運んでとっととガスを流しな。」

 

 そしてヤクザ達はついに、毒ガスを下の階に流し始めた。公安を味方諸共殺すために……。

 そして異変はすぐに現れた。ヤクザ達の使う無線に、助けを求める通信が殺到したのだ。

 

 「た、助けてくれ!公安の奴らガスを!毒ガスを使いやがった!」

 

 「い、息が……ゴホ!ゴホ!ゲホ!」

 

 「撤退!撤退させてくれ!このままじゃみんな死んじまう!」

 

 「頼む!このバリケードを!このバリケードを開けてくれ!ゲホゲホ!ガハッ!」

 

 悲痛の声を届ける無線機、それを幹部は全て無視した。

 

 「まったく阿鼻叫喚とはこのことだな、胸が痛むぜ。だがここまでやりゃ、サツどもだって無事にゃすまねぇ。

 どのくらい時間を稼げるかだな。」

 

 幹部は罪悪感で泣きそうになる部下に構うことなく、毒ガスを流させ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「退避!退避!ガスが流されているぞ!」

 

 「布に手を当てて、窓を開けろ!少しでもガスを吸う量を減らすんだ!」

 

 「畜生……ここまで来たのに」

 

 「あいつら正気か!?仲間のヤクザがまだ残ってるんだぞ!?」

 

 同じくビルの下の階にいる、公安対魔特異課のメンバー。彼らもまた、同様に混乱していた。

 

 「やれやれ、毒ガスとは厄介ですね」

 

 「伏さん、無事でしたか」

 

 「そりゃ勿論ですよ。何度か能力を使うハメになりましたがね、そろそろ貧血になりそうですよ。」

 

 ビルの9階にて早川達と伏ペアは合流して、話をしていた。

 

 「おい姫野、お前の幽霊で毒ガスなんとか出来ねえのか?」

 

 「無理無理、無理だよ黒井さん。私のゴーストは目に見えてる範囲じゃないと使えないし。」

 

 「い、一課の人たちは撤退する雰囲気ですし、私たちも撤退しましょうよ姫野先輩……」

 

 コベニが狼狽え、涙目になりながら訴える。

 

 「もー、コベちゃんビビり過ぎ。毒ガスくらいで騒ぐ必要ないって。」

 

 「え!?で、でも、そこのヤクザ……」

 

 コベニの視線の先には、地面に倒れて白目を剥き、ビクビクと痙攣しながら泡を吹いているヤクザがいた。

 

 「彼が倒れているのは黒井さんが殴り倒したからです。ガスは無関係ですよ」

 

 「俺が倒した!」

 

 「泡吹いて痙攣してるのは……」

 

 「そっちはガスのせいですね。さっきまで倒れてるだけで、泡までは吹いてなかったので。」

 

 「ひっ!ひぃぃぃぃ!?」

 

 コベニはますます怯え、悲鳴をあげて泣き始めてしまった。

 

 「……荒井、行けるか?」

 

 「ええ、早川先輩。準備はできています。」

 

 早川アキの問いかけに対して、荒井は力強く答えると、大きく息を吸い込んだ。

 

 「ちょ、荒井さん!?毒ガスが流れてるんですよ!?」

 

 慌てるコベニに対して、伏は落ち着いて言う。

 

 「大丈夫です、毒ガスで苦しんでいるのは階段付近にいたヤクザや、屈んでいたり倒れていたヤクザです。

 上の階から流されてると予測すると、このガスは空気よりも重い。

 高い位置の空気はまだ毒ガスにやられていないはずですよ。もっとも、時間が経てばそれも怪しくなりますが……。

 その様子を見ると、荒井君はそうなる前になんとかする策があるんですか?」

 

 「ええ、暴力と筋肉、そして天使の寿命武器。この三つの悪魔の力はまだ荒井のやつも完全に使いこなせてはいませんが……それでもこれまでの特訓でだいぶものになりました。

 成長したのはデンジとパワーだけじゃないって事です。」

 

 「なるほど……そういえばデンジ君達は大丈夫でしょうか。

 エレベーターを使って別働隊として動いてますが。」

 

 「大丈夫ですよ、岸辺先生に合格を貰ったんですから。」

 

 「早!え、デンジ君とパワーちゃんもう合格貰ったの!?」

 

 毒ガスが流されているにもかかわらず、特異課のベテラン達は、いつものような軽い感じで会話をしていた。

 

 「……そろそろ吸い終わったようだな、荒井。お前の出番だ、だが決して無理はするなよ。」

 

 「……んー!」

 

 早川の声かけに対して、荒井は口を閉じながら答え、天使からもらった寿命武器のメイスを構え、階段に向けて勢いよく走り出した。

 

 「吸い終わったって……何を?て、上から毒ガスを流されてるんですよね!?荒井さんを止めないと!」

 

 「その必要はない、荒井は筋肉の力で肺を強化して、大量の酸素を取り込んだ。息を止めながら戦えるから、毒ガスを気にする必要はない。

 そして10階にはバリケードが築かれているが……今の荒井からしてみれば、なんの障害にもならない」

 

 早川は一緒に新しい悪魔の力を使いこなすために、共に励んだ荒井のことを思い出しながら言った。

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 俺は息をしっかりと止め、ビルの中を全力疾走していた。

 そして俺の目の前に、ヤクザが築いたバリケードが立ち塞がった。突入前に、敵がバリケードを築き籠城することは想定されていた。

 そんなバリケードの破壊、それを成すために俺は他の仲間と違って、悪魔の力を温存してきたのだ。

 俺は筋肉の悪魔の力で肺を強化して、ありったけの酸素を蓄え、暴力の力で道中にいるヤクザ達を薙ぎ倒して進む。

 

 そしてついに、俺はバリケードへと到着した。

 

 「な、なんだあいつ!?毒ガスを流してるのに!?」

 

 「う、撃ちますか!?」

 

 「ば、ばか!ガスに引火したらどうする!」

 

 「引火するんですか!?」

 

 「知るわけないだろそんなこと!」

 

 毒ガスをものともせずに、10階に上がった荒井に驚く、ガスマスクをつけた複数名のヤクザ。

 荒井はヤクザを無視して、メイスを構えた。

 

 (筋肉と暴力、そして……天使から貰ったこのメイスで、バリケードをぶち壊す!そのことをまずは第一に考えろ!)

 

 バキィ!

 

 荒井は走ってバリケードに向かって大きくメイスを振るい、ものの見事にバリケードを粉砕した!

 

 「んな!?人間の腕力じゃねえ!?んぎゃ!」

 

 そして荒井はそのままヤクザ達をメイスで殴り飛ばし、ガスボンベの栓を閉めてガスを止めた。

 そしてガスが消えたことを確認すると、荒井は無線で連絡を取った。

 

 「こちらは荒井ヒロカズ、10階入り口は制圧。無事毒ガスは止めた。繰り返す、こちらは荒井ヒロカズ、10階入口は……制圧した!」

 

 荒井ヒロカズは力強く、報告したのだった。

 

 

 

 



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25話 支配VS暴力団

 

 

 

 

 荒井の活躍を皮切りに、その勢いのまま10階を制圧した特異課。彼らは11階攻略に備えて休憩をしていた。

 

 「荒井君お疲れー。お手柄だったね!」

 

 「ひ、姫野先輩……ありがとうございます。」

 

 「相変わらず肩に力入ってるねぇ……。活躍したんだし、もっと威張ってもいいと思うんだけどなぁ。」

 

 休んでいた荒井に対して、姫野が声をかける。

 

 「手柄と言っても、悪魔の能力ありきの成果ですし、自分の実力とは思えなくて。」

 

 「いやいや荒井君。筋肉の方は割と使える職員多いけどさ、この短期間で暴力の方まで使いこなせてるのは君くらいなんだから、もっと胸張っていいって。

 それに悪魔の力だって、使いこなせてるなら自分の力だよ。」

 

 実際姫野の言う通り、比較的弱い筋肉の悪魔の力は扱いやすいが、強力すぎる暴力の悪魔の力はそうはいかなかった。

 暴力の悪魔はその強すぎる力から、肉体への負荷が重く、まず筋肉の悪魔で肉体を強化する必要がある。しかし、元々の筋力が足りないと、筋肉の悪魔の力で強化しても、負荷に耐えきれないのだ。

 また暴力の悪魔の力は、精神にも影響を及ぼす性質があった。そしてそのまま凶暴化して暴れ回ってしまうものもいた。

 そのことから現在、暴力の悪魔を使うには肉体的な強さと、自らを律するのことのできる精神的な強さ。この二つが求められていた。

 これらの厳しい条件をクリアした者の中で、最もその力を有効的に使えた職員。それが荒井であった。

 

 「そ、そうですかね?」

 

 「そうだよそうだよ、だから荒井君もドーンと胸張ってればいいんだよ。」

 

 悩んでいた荒井は姫野の言葉で、少し元気を取り戻した。荒井は落ち込んでいた自分に声を掛け、励ましてくれた姫野にお礼の言葉を言おうとした。

 ……その時だった。

 

 バリィィン!

 

 上の階からデンジとサムライソードが吹っ飛び、地面に向かって落ちていく光景が窓ガラスに映ったのは。

 

 「な!?」

 

 「ちょ!?」

 

 突然の光景に、姫野と荒井の2人はフリーズする。

 デンジとパワーの2人は、今回の任務で悪魔や魔人からなる人外職員チームと行動を共にすることとなっていた。2人はまだ特異4課に配属されてから日が浅く、他の職員との連携に難があると判断されたからだ。人外職員からなるチームでは、一人一人のスペックが高いためにそもそも連携をしなくても高い成果を出せる為、デンジ達の能力を活かすのに最適と判断されたのだ。

 その為、デンジとパワーとは一時的に早川達と別行動を取っていたのだが、そのデンジがサムライソードに襲われながら落ちる光景を見て、2人は思わず焦ってしまったのだ。

 

 「デ、デンジの奴が!?ヤバいですよ姫野先輩!」

 

 「と、取り敢えずマキちゃんに連絡しないと!」

 

 姫野はトランシーバーを取り出してマキマと連絡を取ろうとする。

 ……その時だった。

 

 ドゴォ!

 

 地上から吹っ飛ばされたマキマが、他のビルに激突する姿が、特異課の2人の目に写ったのは。

 

 「ちょ、ええええええ!?」

 

 「ま、マキちゃあああぁぁぁん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い痛い痛い痛い!?なんだこの悪魔の力は!?相当強いぞ!?

 地上で闘ってるうちに、思いっきり吹き飛ばされてビルにめり込んでしまった……。ここは……うん、みんなが突入してるビルじゃないな。

 ヤバい。神奈川県警の皆さんとも、特異課のみんなとも、岸辺先生とさえも離れてしまった。

 何かあっても岸辺先生さえいればなんとかなる気がしてたけど、これじゃあ負けたら最悪死ぬかもしれない……。てか組長、どうやって私を吹っ飛ばしたんだ?

 

 私は目を凝らして、暴力団の悪魔と契約した組長を探す。組長は警察の包囲をとんでもないジャンプで抜け出し、向かいのビルの屋上に着陸した。そして組長は右手に持ったハンドガンをこちらに向けて、発砲した。

 

 「な!?」

 

 私は咄嗟に鎖を出し、マーベルのクモのヒーローのように他の建物に引っ掛けて巧みに操り、その場から逃げ出した。

 

 ドガァァァ!

 

 そして私がさっきまでいたビルは、組長の撃った弾により思い切り吹き飛んだ。

 

 あ……危なっ!?ビーム君を喜ばせる為に身につけた、チェンソーマン式移動法を習得していなければ、直撃してたかもしれない。いや、さっき食らって吹き飛ばされたのはあれか!あのハンドガンの攻撃か!いやハンドガンレベルであの火力どう考えてもおかしいよね!?

 私は鎖をスイングしながら移動して、異常なまでに攻撃力のあるハンドガンについて考えた。

 

 「くっ!まさか……銃の肉片を食わせたのか!?」

 

 「は!御明察だな嬢ちゃん。そうだ!俺は沢渡から渡された銃の肉片を全部食わせたのさ!この暴力団の悪魔になぁ!」

 

 組長は鎖で移動する私に対して、次々と銃を撃ちながら言った。

 そしてその銃弾がどんどん周りの建物をぶっ壊していく。周りの住人避難させててよかったぁ……。

 

 しかし銃の悪魔の肉片かぁ……原作だと1キロぐらい持ってたな。もしそれを全部食わせてたら厄介だ。

 原作の公安は銃の悪魔の肉片を5キロしか集めておらず、描写されている範囲で、出てくる悪魔が食べた肉片の量は銃弾数発分ほどだった。

 それを1キロ以上……こんな時にこそ岸辺先生に縋りたい。

 私がそんなことを考えていると、組長が私に向けて自信満々に言った。

 

 「俺が暴力団の悪魔に食わせた肉片の量を知りたいか?ん〜?

 11.3キログラム。それが俺が食わせた銃の悪魔の肉片の量だ!」

 

 多い!?原作の公安が集めた量を超えてるじゃん!私は恐怖のあまりに青ざめた。

 このまま逃げてばかりじゃ埒が明かない。私は被弾覚悟で組長に向かって行った。

 

 「はぁ〜。この数字がハッタリだと思ったのか?

 これだから無学で馬鹿なデビルハンターは……。死ねぇ!」

 

 そう言うと組長は怒涛の勢いで銃を乱射した。次々と放たれる弾が私に掠るが、私は構わずそのまま向かって行った。

 30m……20m……10m……。着々と私は組長へと近づいていく。そしてついに私は組長に確実に攻撃を当てられる距離にまで近づき、鎖を使って大きく飛び上がった。

 

 「馬鹿が!俺があえて弾を外してたのに気づかなかったのか!?この時を待っていたんだよ!刺し殺してやるぜ!」

 

 組長は右手のハンドガンを後ろに向けて放ち、その反動で私に向かってドスを構えて飛んだ。

 私はそれに対して、両手で指鉄砲を作り組長に向けて構えた。

 

 「バァァン!」

 

 「ガハァ!」

 

 私の銃の悪魔の銃撃をもろに喰らった上に、かなりのスピードで私に突っ込んでいた組長は大ダメージを受けてビルの屋上に叩きつけられる。

 

 「こ……この力は……銃!?」

 

 組長は私が銃の力を使うことを想定していなかったようで困惑している。

 

 「近づいて来た所を、そのドスで突き殺す……。そんな企みぐらい予想できますよ。

 私を近づく前に殺したいなら、私じゃなくて鎖を狙って落とせばいい。

 それをしなかったということは、近づいて来た所をなんらかの方法で確実に殺そうとしていた。

 あなたは確かに物事を考えられるほど賢い、しかし他人もまた物事について考えていることにまで意識が回らなかった。

 自分だけが賢く力があるのだと慢心し、他者を見下し続けた。それがあなたの敗因です。」

 

 私は返り討ちにした組長に向けて言う。

 

 「クソ……クソ……クソ!テメェも……悪魔に銃の肉片を食わせてやがったのか?

 11キロだぞ……11キロも食わせたんだぞ!?」

 

 「11キロ……確かに一纏めに相手にするのは恐ろしい数字です。でも……私たち公安が集めた肉片は、現時点で128.36キログラム。貴方が棚ぼたで手に入れた肉片如きでは、私たちの努力には決して及びません。」

 

 「ひゃ……ひゃく……!?」

 

 私は組長の心を折るために、私たち公安が集めた成果の集大成を伝える。

 ふっふっふっ!どうだ!原作の公安が集めた量の24倍近くの量だぞ!

 これは支配の悪魔の持つ情報チート能力を駆使して、全国を飛び回って地方公安と協力したからこその成果だ。

 原作の真マキマさんは、公安での仕事よりも暗躍の方を重視していたのか、そこまで肉片集めを頑張っていなかったっぽい。

 だが私は違う!真マキマさんほどの実力はなくとも、デンジ君を探す為に全力で情報収集を行いつつ、しっかりと仕事もこなして地方公安の皆様とも仲良くしていた!

 その結果、情報共有したり共闘したりでどんどん肉片が集まり、支配の力で扱える銃の力も凄いことになったのだ!

 

 「どうします?投降するのが最も賢明な判断ですよ?私ならその悪魔との契約を破棄させて、貴方を生き残らせることができます。」

 

 私はもう一度組長に呼びかける。ここで組長が屈服してくれれば、私の能力で暴力団の悪魔を支配できるだろう。

 

 「……けっ。信じるかよ!」

 

 組長は立ち上がり、再び私に戦いを挑む。ここで諦めてくれれば話が早かったのに……。

 

 「それでは遠慮なく!」

 

 ジャキャン!バシィ!バシィ!

 

 私は両腕から鎖を何本も出して、鞭の要領で組長に振るう!振るう!振るう!振るう!右と左で交互に振るう!

 

 「ガッ!ギャッ!グフゥ!」

 

 そして私は鎖で組長を上に持ち上げ放り投げ、鎖で拘束しながら銃の力をぶっ放す!

 

 「バン!バン!バン!」

 

 組長はどんどん宙に浮き、その後私は鎖を組長ごと引っ張り落下させる。

 そして私は落下する組長に全力でアッパーカットを叩き込んだ!

 

 「ガアアァァァァアア!」

 

 落下の勢いに私の全力アッパーカットが加わり、鎖を縮めているから上に吹っ飛ぶことでその衝撃を逃すことができず、組長は気絶した。

 

 ……よし、勝った!組長+暴力団の悪魔<私の構図が完成した!これで暴力団の悪魔を支配できる!

 私は暴力団の悪魔である組長に引っ付いた入れ墨を支配して引っぺがし、2人の間にある契約を破棄させた。

 これで主犯の1人である組長を生きたまま捕えることができた。後は沢渡アカネとサムライソードの2人だ……。デンジ君は大丈夫かな、特異課のみんなも無事かな?

 私はデンジ君の元に向かいたかったが……沢渡アカネが口封じで殺されるのを防ぐために、私はビルに向かった。

 

 

 



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26話 3人で開く最強の大会

 

 

 「みんなお疲れ様!やったねコベニちゃん、沢渡アカネを確保するなんて大手柄だよ!

 荒井君もバリケードを突破して大活躍だったって聞いたよ?凄いね!」

 

 私が戻った頃には、特異課のみんなはビルを制圧し終わっていた。

 組長は私を倒す為に、サムライソードはデンジを倒す為にそれぞれ外に出て、残った契約者である沢渡アカネを早川班の活躍(特にコベニちゃんの活躍)で確保したのを皮切りに、残ったヤクザを殲滅したようだ。

 

 そして私は、拘束して無力化した組長をビルを包囲していた対魔2課と神奈川県警に引き渡した後、ビルでヤクザを鎮圧したばかりの特異4課のみんなと合流した。

 

 「マ、マキマさん!?だ、大丈夫でしたか?先程思い切り吹き飛ばされていましたが……」

 

 「荒井君……気にかけてくれてありがとう。本当にありがとう。

 岸辺先生とか古野さんとか、当然無事だろうみたいな認識だったから……。優しさが身に染みるぅ。

 あ、私は大丈夫だよ!ちょっと苦戦したけどこの通り元気!」

 

 私は荒井君には元気よく無事だとアピールした。

 

 「ところで……姫パイとアキ君の姿が見当たらないけど、どこにいるの?」

 

 「あ、ひ、姫野先輩と早川先輩は、沢渡を確保した後、吹っ飛ばされたデンジ君の支援のために……」

 

 コベニちゃんが私の質問に答えてくれる。そっかそっか、デンジ君も原作通りサムライソードと一騎打ちしたようだ。

 

 「あれ?荒井君が私が吹き飛ばされたこと知ってるってことは、姫パイ達も知ってるよね?」

 

 「はい、姫野先輩もあの光景を見ていましたので。最初は慌てていましたが、早川先輩と話し合った結果、マキマさんなら問題ないと判断し、沢渡捕獲後はデンジの支援に専念することを決めたようです。」

 

 あれ!?親しいはずの同僚からも心配されてないぞ!?スパルタな岸辺先生や私を過大評価してる対魔2課の古野さんならともかく、かなり距離の近い2人も……。

 

 「マキマさん、本当にお強いんですね……。姫野先輩の言った通りでした、『よく考えたら、マキちゃんがヤクザ如きに遅れなんてとるわけないか!それよりデンジ君の方が心配だし、そっちを助けに行った方が絶対マキちゃんも喜ぶでしょ!』って姫野先輩が言ってて……。

 こんなすぐに戻ってくるとは……。しかもあんなに吹っ飛ばされてたのに、俺よりも全然消耗してないなんて」

 

 荒井君が私に対して、尊敬の目を向けながら言う。

 あー、姫パイ達は別に心配してないんじゃなくて、信頼してくれてたのか。それに私を助けに行くよりも、デンジ君を助けに行った方が喜ぶ……正解!大正解だよ姫パイ!

 私をよく知ってるからこそ、私じゃなくてデンジ君に向かったわけか。なるほど!

 

 

 

 

 私は早川班の後輩組達と軽く話をしたあと、特異課によって拘束されている沢渡アカネのもとに向かった。

 

 「そんな……組長を倒したのか!?10キロ以上も銃の肉片を食わせたはずだぞ!?それだけあれば暴力団の悪魔でも銃の撃ち抜く能力だって使えるのに……。

 まさか……それ以上食わせたのか!?銃の肉片を……お前の契約する悪魔に!?」

 

 沢渡アカネが、無事に戻った私を見て、困惑しながら言う。

 そしてそれを聞いた周りの公安メンバーが、驚愕したり、心配してそうだったり、さまざまな表情で私を見た。

 

 ……あれ!?これ私が銃の悪魔の肉片を勝手に自分の悪魔に食わせたみたくなってない!?しかも組長が食べた11キロの肉片よりも多く!

 これやばい奴だと思われる、特異課のみんなから勝手に銃の悪魔の肉片を他の悪魔に食わせる奴だと思われちゃう!

 てかなんで沢渡は私が銃の悪魔の肉片を食べさせたと思ってるの!?

 

 「それは違いますよ、沢渡アカネ。組長が負けたのは銃の肉片の量が原因ではありません。

 単純に組長と私では、私の方が実力があっただけです。

 それに私は銃の悪魔を見つけるために必要な肉片を、独断で食べさせたりしませんよ」

 

 「……は!随分と口が回るな。新幹線で銃の悪魔の力を使い、組員を殺しまくった癖に。

 よっぽど銃の悪魔の肉片を食わせたことを隠したいようだな。」

 

 ちょ!?誤解されてる!銃の悪魔の肉片を支配して、銃の力を使ってたのを誤解されてる!

 どうしよう!?沢渡の嘘だってことで押し通す!?いや、月本さんがバッチリ私がバンバンやってたところ見てたし……。

 なんならさっきの戦いでも追い詰められて、銃の力使いまくっちゃってた!他の人に見られてたらまずい!言い逃れができない!

 どうしよう!とりあえずこのことを考えるのはあとだ!

 喰らえ!秘技、話題逸らし!

 

 「なるほど……必死になって喋っていますが、とにかく尋問されるのを遅らせたいみたいですね。

 そんなに怖いのですか?貴方の後ろにいる存在は?」

 

 沢渡アカネは汗を掻き、露骨に不安そうな顔をする。

 

 「……ふん、雇い主について言う気はない。」

 

 そう言い、彼女が顔を背けた瞬間……

 

 

 

 オオン!

 

 

 蛇の悪魔が飛び出し、勢いよく沢渡アカネを食い殺そうとした。

 完璧な不意打ちだ。だけど私は口封じの為に蛇の悪魔が、沢渡アカネを殺そうとすることは知ってたから対策済みだ!!

 私は沢渡アカネが食われる寸前のところで、鎖を素早く出して蛇の悪魔を拘束することに成功した。

 

 「な!?」

 

 「ひっ!」

 

 「う、うわぁぁぁ!?」

 

 「へ、蛇の悪魔!?」

 

 だけど他の特異課のみんなは、急に現れた蛇の悪魔に驚き、私に遅れて警戒し始める。

 うん、そうだよね。私も何も知らずに蛇の悪魔が急に現れて、沢渡を殺そうとしたら驚く。みんなは蛇の悪魔に対して武器を構えたり、悪魔の力を使う準備をして備えた。

 

 「そんな……蛇?なんでっ!?」

 

 そして沢渡アカネもまた、他の特異課職員たちと同様に驚き、そして困惑していた。

 

 「……口封じする為に、そういう契約を黒幕がしていたのは予想してた。けど君の振る舞いから察するに、その事まで君は知らされてなかったみたいだね。」

 

 私はそう言った後、思い切り鎖を締め付けて蛇の悪魔を失神させ、それ以上悪さできないようにする。

 

 「く……口封じ」

 

 アカネは青ざめて冷や汗を流し恐怖しながら、私が倒した蛇の悪魔を眺めている。

 私はそんな沢渡アカネにどこまでも冷えた声色で話しかけた。

 

 「アカネちゃん、君は切り捨てられたんだよ。今回の事件の黒幕にね。身に覚えとかない?そういう風に、君の依頼主が失敗した下っ端を切り捨てるところとか。」

 

 私がそう言うと心当たりがあるのか、沢渡アカネは口をパクパクとさせ始めた。

 わりといい感じに追い詰められてるなー。でもこれ以上追い詰めてなんか変なことやらかされても困るし、鞭はここら辺でやめて飴に移るか!

 私はさっきとは打って変わって、明るく優しい声で沢渡アカネに囁いた。

 

「……でも大丈夫。もし君が私たちの捜査に協力してくれるなら……アカネちゃんは殺されたりなんかしない、いや、させない。

 アカネちゃんが生き残る方法は一つ、公安の証人保護プログラムを利用するのさ。君の持っている情報によっては、司法取引で減刑して貰えるチャンスだってある。

 アカネちゃん、アカネちゃんの決断ひとつ。それだけで私たちは、君を守る……本当だよ?」

 

 私はゆっくりと、沢渡アカネに近づきながら、囁くように言った。

 

 「……………お前に従おうが、どうせ私は犯罪者だ。どのみち無事じゃ済まないだろう。」

 

 「そんな事ないよ。アカネちゃんは大事な大事な証人だからね……。」

 

 沢渡アカネは俯きしばらく黙った後、最終的にとても小さい声で自白に応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こちら早川姫野ペア、時計館前の線路内にて拘束済みの目標を発見。応援を求む。」

 

 沢渡アカネを説得し終わった後、休憩中にアキ君から無線で通信が入った。

 なるほどなるほど、時計館前の線路か……。私はアキ君の要請通りに応援を送った後、小動物を操りデンジ君達の様子を見た。

 

 「早川と姫野の先輩も参加するか?最強の大会によ」

 

 さ、最強の大会だぁぁぁ!?原作でも屈指の名シーン、最強の金的大会!うおおおおぉぉぉぉ!

 ……いやいやいや!盛り上がっちゃ駄目だ!

 デンジ君が言っている最強の大会というのは、ヤクザの孫の襲撃によって姫パイが死んだことから、そのお返しに拘束して動けないヤクザの孫を金的して遊ぶというもの。

 そのシーンはデンジ君とアキくんが二人でヤクザの孫を金的して遊び、それはもう楽しそうでどこか爽やかさのある良いシーンなのだ。

 でもコレ普通に考えてアウトだ。うん、めっちゃいいシーンだけど常識的にも法的にも、私刑を加えてるだけだからアウトだ。なんか知らないけど、原作では特に罰とか受けてなかったけど。

 でも……あの名シーンを邪魔していいのかなぁ。

 

 

 「最強の……大会?」

 

 「お前は何を言ってるんだ?」

 

 デンジ君の最強の大会というワードに対して、姫パイとアキ君は理解できずにいる。

 そんな二人に対してデンジ君は説明する。

 

 「コイツは俺たちを弾で撃った。だからコイツもタマを撃たれるべきだろ。

 だから大会を開く!

 3人でコイツのタマを蹴っていって……警察が来る前に一番デケェ悲鳴を出させた奴の勝ち!」

 

 姫パイは唖然とした表情を浮かべ、アキ君は戸惑い、そしてヤクザの孫は恐怖しながらデンジ君を見つめて言った。

 

 「正気かお前……」

 

 「……プッ、アーッハッハッハッ!最強、最強の大会って!イーッヒッヒッ!デンジ君!最高だよデンジ君!

 いいねいいね!私も参加する!」

 

 少し遅れて姫パイが大爆笑する。姫パイめっちゃ楽しそう……。

 

 「ちょ、姫野!?」

 

 「コイツのせいで、円君も遥華ちゃんも、伏さんところの新人も辞めちゃったし。

 それにコイツにサブマシンガンで撃たれた時ちょー痛かったからね。仕返ししてやりたいと思ってたんだよ私も!」

 

 良識のあるアキ君は最強の大会を提案したデンジ君と、それに乗り気な姫パイに翻弄されている。

 

 「早川の先輩も撃たれた時痛かっただろ?コイツボコって憂さ晴らししよーぜ!」

 

 「アキ君!easy revenge!」

 

 二人はノリノリでアキ君も最強の大会に参加させようとする。

 そして少し考えた後、腕まくりをしながらアキ君はデンジに尋ねた。

 

 「なぁ……勝ったら何くれんだ?」

 

 「へ!そりゃもちろんコイツの玉金よ!」

 

 「潰れた玉金……要らない!」

 

 「安心しろよ姫野先輩!コイツ手の刀抜いて引っ張れば、ペシャンコの玉金も元通りよ!」

 

 そして3人はヤクザの孫で最強の大会を始めたのだった。

 うん、法的には色々と問題あるけど仕方ない。3人のやりたいようにやらせよう!

 

 「月本さん、車回してもらっていいかな?サムライソードの対応には私が行くよ。

 デンジ君達が確保してるみたいだけど、油断は禁物だからね。」

 

 「確かに……サムライソードは今回の主犯格ですし、強力な武器人間。沢渡の時みたいに、何かあるかもしれませんもんね。

 わかりました!大急ぎで送りますね!」

 

 私の指示に対して、月本さんは笑顔で答えてくれた。

 

 「うん、ありがとう。運転よろしくね。

 それと……デンジ君達のもとへは急がずにゆっくりと、できるだけ時間をかけて向かって貰っていいかな?」

 

 「へ?……いいですけど。どうしてですか?」

 

 「ちょっと色々とね。ふふっ」

 

 せっかく3人が楽しくやっているんだ。楽しい時間は出来るだけ長い方がいいだろう。私はそう考えて月本さんにはゆっくりと送ってもらうことにした。

 ヤクザの孫?孫はデンジ君傷つけて、姫パイにアキ君を傷つけたから……。ね?うん、仕方ないね。

 

 

 そのあと最強の大会について、岸辺先生から色々と探りを入れられるのはまた別のお話……。

 やっぱ岸辺先生怖い!



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27話 会食と杞憂

 

 

 

 

 「おう、悪い悪い。待たせて済まんな岸辺さん」

 

 「先に酒飲んで待ってたから気にしなくていいぞスバル。」

 

 「いや俺の祝いなのに先に酒飲むなや!」

 

 岸辺とスバル、二人のベテランデビルハンターが料理屋の個室で会食していた。

 今回の公安襲撃した暴力団に対する討伐作戦、オペレーションビックブラザー。今回の作戦で京都地域での指揮を担当したスバルは、今回の功績が評価されて昇進が決まったのだ。

 

 「いやー、しかしそっちの方は大変だったみたいやな?

 こっちはマキマちゃんがゾンビどもを操ってくれたおかげで、だいぶ捗りましたけど。

 天童と黒瀬のやつも『マキマに手伝わん言うたのに、逆に手伝って貰って申し訳ない気分やわ』言うてはりましたよ」

 

 スバルは明るい普段通りの口調で喋りながら、同時にマキマへの傍聴対策に筆談を始めた。

 

 「とりあえず、今回の俺の不自然な出世から教えて貰おうか。

 俺が相手をしたヤクザ達は確かに規模こそ大きかった、せやけどもマキマが操ったゾンビ軍団のお陰でヤクザ達は戦う前から半壊状態やった。

 今回の大阪での作戦も殆どマキマの手柄や、俺が出世すんのはおかしい。一体東京で何があったんや?」

 

 怪訝な表情を浮かべながらも、声色を変える事なく、スバルはメモを用いて岸辺に問いかけた。

 

 「政治的なあれこれの結果だ。一言で言うなら公安のお偉いさん達の地位が吹っ飛んだ。」

 

 「なんやそれ!?一体何が起きたんや?……マキマが何かしたんか?」

 

 公安の上層部の失脚、岸辺の書いた言葉を聞きスバルは驚愕した。

 今回の事件において、確かにヤクザに襲撃を許してしまった事や、武器を手に入れさせてしまった事などの公安の失態とも言うべき点はあった。

 しかし今回のビックブラザー作戦の成功で、それらの失態を十分挽回できるほどの成果は出せた筈だった。その作戦の成功がマキマの功績が大きいとしても、そのマキマの上司である上層部も評価される筈である。

 にも関わらずに失脚した公安の上層部。岸辺はその理由についてスバルに説明をする。

 

 「いいや、マキマが何かしたというよりは上層部の自爆だな。

 近々出世したお前にも知らされるだろうから説明しておく。

 まず今回の事件についてだが……国外勢力が絡んでいた。」

 

 岸辺から明かされた、銃の悪魔についての衝撃の事実。スバルは驚きのあまり、思わず盗聴対策にしていた口頭でのダミーの会話を一瞬止めてしまった。

 

 「銃の悪魔が第三国と協力関係に?それ何かの間違いとちゃうんか?」

 

 「いいや、コレに関しちゃ証拠がある。マキマが中心になって公安が集めた情報や、今回捕まえた沢渡アカネの証言、そして状況証拠。その全部がこの事実を証明している。

 どの国が銃の悪魔と絡んでるのか、それがどこの国なのか、一国なのか複数の国々なのか。

 その関係性は対等なものなのか、あるいはどちらかが明確に上と決まっているのか、そこらへんについちゃ、まだ確定していない情報だから断言はできないがな。」

 

 そして岸辺は、出世したスバルが知れる範囲で教えられる情報をもとに、銃の悪魔が外国の管理下にある根拠を述べて説明した。

 

 「なるほど……そう言う事なら筋は通っとるし納得や。

 しかしその大層な話と上層部の失脚、どう関わってくるんや?」

 

 「上層部は、今俺がお前に話した以上の情報を知っていた。その上でお偉いさんは『銃の悪魔が外国と関わりのある可能性』を端から完全に否定していたんだ。

 『可能性が低い』とか『疑わしい』とかじゃなくてな。そこが問題となった。」

 

 「いやいやいや、流石にそれはあかんやろ。俺も相手すんのは悪魔だけであって欲しいと思うで?そこに外国が加わったらヒーヒーやもん。

 でも考慮すらしないのは流石に……」

 

 「ああ、そうだ。悪魔と戦うなら常に最悪を想定しておくべきだ、なのに上層部はそれを怠り、楽観に基づいた対策しかしてこなかった。

 それが今回のヤクザ達の逮捕で、その楽観が完全に間違いだった事が明らかになってな……。」

 

 「あー、そりゃあかんなぁ。今回のヤクザの襲撃を死者0で乗り切れたのもマキマちゃんの手柄やし、上層部の落ち度が半端あらへんなぁ。」

 

 酒を飲みながら会話を続ける岸辺とスバル。二人は食事とダミーの会話、そして本命の筆談というマルチタスクを平然とこなし続ける。

 

 「しかも……だ。銃の悪魔が外国となんらかの形で絡んでいるという予測。これをマキマはかなり初期の方からしていたんだ。」

 

 「ほおう。やっぱ優秀やなぁ、マキマちゃんは」

 

 「そしてマキマはその予測を上層部に伝えて、対策を練るなど、事前に備えるよう訴えていたんだが、それを無視していてな。

 マキマは指揮系統的には内閣官房長官直属のデビルハンターだ。公安上層部だけでなく官房長官にも、銃の悪魔に関する予測を伝えていてな。

 その結果、『初期から銃の悪魔について適切な予測を立てた上で襲撃を防いだマキマ』と『その予測を聞いていたにも関わらず、楽観論を持ち続けて襲撃を許し、その後始末もマキマに任せた公安上層部』という図式が出来上がってな……。まぁ、実際その通りなんだが。

 それで公安上層部の評価がボロボロになって、お偉いさんが失脚してポストが空きまくった。

 そこでそのポストを埋めるため、白羽の矢が立ったデビルハンターの一人がお前というわけだ。」

 

 岸辺の説明を聞いてスバルはようやく状況が飲み込めた。上層部の自爆と評した理由も含めて。

 マキマが銃の悪魔について得た情報を上層部に隠し、失態が酷くなるように襲撃を見逃したのであれば、マキマが何かをしたとも言えるだろう。

 だが実際のところ、マキマはしっかりと公安上層部に情報とその予測を伝えている。伝えられた上でその可能性を否定したのなら、それは間違いなく上層部の自爆だ。

 マキマが優秀なのもあるが、相対評価によって酷く見られるのは上層部自体に問題がある。

 

 「大体俺が出世した理由については把握できたわ。」

 

 「そうか。それじゃ、お次はその『優秀なマキマちゃん』の話に移ろうか。」

 

 「茶化さんといてくれや。」

 

 岸辺は酒を飲んで喉を潤してから、マキマについて新しく入った情報をスバルに伝える。

 

 「悪い悪い。で、マキマについてなんだがな。どういうわけか銃の悪魔の力を使えるらしい。」

 

 「銃の悪魔の力を……?それは確かなんか?」

 

 「ああ確かだ。俺もマキマが今回の主犯である組長と戦ってる時に、その力を使うのを直接この目で見た。

 マキマの付き人をやってる月本や、新幹線で襲撃に居合わせた民間人も同様に銃の悪魔の力を使う所を目撃したそうだ。

 そして何よりマキマ本人に直接聞いて確認した。」

 

 「マキマに直接聞いたんか!?度胸あんなぁ……。」

 

 岸辺の行動力にスバルは驚く。

 

 「あの時、沢渡アカネが『マキマが銃の悪魔の力を使った』『マキマが強いのは銃の悪魔の肉片を自分の悪魔に食わせたからだ』……と言っていたらしくてな。聞き出すのにあれ以上に適したタイミングはなかった。

 もっとも本人が言うには、『自分の能力で悪魔の力を使ったのであって、銃の悪魔の肉片は食べていない』と言っていたがな。」

 

 「ほーん。で、実際のところどうなんや?公安が管理してる銃野郎の肉片は、マキマのつまみ食いのせいで減ってたりしとんか?」

 

 「いや全く。むしろ……マキマが活動を始めてから、集まる銃の肉片はどんどん増える一方だ。」

 

 そう言うと岸辺はあるデータの書かれた書類をスバルに手渡した。

 それは公安が集めた銃の肉片の量に関するデータであった。公安が集め出した初期は、集めるのに必要な銃の肉片が少なくその収集スピードは非常に遅い。

 だがある時期を境に、収集スピードが爆発的に増えている。そう、マキマがデビルハンターとして活動し始めた時期だ。

 無論、銃の肉片が増えれば増えるほど、捜索に使える肉片の量も増えて、銃の悪魔の肉片集めは捗るものだ。だとしてもこのデータの指し示す予測では、本来現時点で集まっているであろう銃の肉片の量は10キロにも満たなかった。

 この書類は、マキマが公安に対して銃の肉片だけでも大きすぎる影響を与えていることを示していた。

 

 と言っても、マキマが銃の肉片をこんなに集められるのは、小動物を利用して情報を大量に集められることや、銃の肉片を支配する事で他の肉片の位置を把握できるからであるが。

 

 「これ……ほんまか?こんなにマキマの影響力ってあるんか?」

 

 「ああ事実だ。公安が集めた銃の肉片は9割方マキマの手柄だと思って問題ない。

 これだけの量を集められるんだ。実は裏でもっと集めてて、バレないように肉片を食っているという可能性も考えられる。

 そう考えると沢渡アカネが言っていた、銃の肉片による強化も説明がつく。だとすると、マキマの弱体化で行っていたメディア露出作戦が無意味なのも納得だ。恐れられてるのはマキマという悪魔じゃなくて、銃の悪魔なんだからな。

 マキマの強さが銃の悪魔由来だとすると、恐れられていない概念も候補になるな。」

 

 「それは難儀やなぁ……。」

 

 スバルは口にまで出かかったため息を、ビールで流し込んでやり過ごす。

 

 「ああ、だが考えられる中で最悪なのは……マキマの正体が銃の悪魔である場合だ。」

 

 「……………」

 

 あまりにも衝撃的な言葉に、スバルは筆談で何かを返すことも出来ない。

 

 「マキマが銃の悪魔である、この前提で考えても今までの件についてもある程度納得のいく説明ができる。

 銃による襲撃で、公安の職員を死なせずに済んだのは銃の悪魔の能力によるもの。

 他の悪魔がマキマに従っているのは、現世にいる悪魔の中でトップクラスの悪魔だから。

 そして……銃の肉片を効率的に集められるのは、マキマ自身が銃の本体だから。」

 

 「だったら……なんで襲撃に協力したんや。今回の襲撃には銃の悪魔が関わっとったんやろ。なんのメリットがあるんや。」

 

 「今回の活躍でマキマの地位は盤石なものとなった。ゾンビの悪魔を使う事で、公安の死者は0で抑えた上に日本中のヤクザはボロボロになった。

 しかも銃の肉片も10キロ以上手に入れられたんだ。公安も警察も、そして一般民衆も大喜びの大戦果だ。

 もし……今の状況でマキマの正体が悪魔や魔人だって明らかになっても、どれだけの人間が問題視する?」

 

 岸辺はそのあと『流石に銃の悪魔だと知られたらそうもいかんだろうがな』と付け足した。

 だがそれでもスバルの表情が晴れることはなかった。

 

 「そういえば、ビックブラザー作戦の後にやってたマキマが出てた番組……。大好評だったらしいな。」

 

 「ああ、そうだな。」

 

 岸辺は食後の一服をしながら、マキマのことを考えた。

 

 (本当に……考えすぎであって欲しいもんだ。)

 

 



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間話その4 偽マキマ版チェンソーマン世界の掲示板32

※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。


 

 

 

142:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:31:35 ID:61tyC7rWdm

マキマさん銃の悪魔説

先生まで言い始めやがった!

 

143:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:36:22 ID:VKP3uKhvBf

逆に登場人物である岸辺が言い出すって事はマキマ=銃の悪魔ではないんじゃない?

 

144:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:39:56 ID:5WBAawUMI2

マキマが銃の悪魔ならあの鎖はなんなんだろうか

 

145:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:43:10 ID:JDlcYNN4zH

たぶん岸辺が把握してないマキマが部下にしてる悪魔とか

岸辺の予想が正しくてマキマが銃の悪魔ならだけど

 

146:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:48:08 ID:ztknk7U6xK

マキマが銃の悪魔ならなんで公安に協力するんだ?

 

147:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:51:20 ID:voALQ5lXgE

銃の悪魔の肉片が世界中に散らばったの銃の悪魔であるマキマにとっても想定外、肉片が散らばったことでマキマは弱くなった。

だからマキマは肉片を集めて本来の力を取り戻そうとしてる。

 

148:悪魔な名無しさん 2019/9/15 10:55:14 ID:PtoRvpZskf

その説が正しいとして、なんで日本なんだ?

 

149:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:00:04 ID:Evp1hMW58S

世界中を移動して暴れまわってたけど最後に出現したのが日本で、そのまま日本で銃の肉片集めを始めたとか……

 

150:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:05:14 ID:UDKNkVbCdS

日本の公安が銃の肉片集めてて、その上層部が無能だから乗っ取れると考えたんじゃない?

実際今の上層部は吹っ飛んでるし。

しかもスバルさんとか比較的に現場近い人が新しい上層部メンバーになってる=マキマと親しい人が上層部になってる。

だから今マキマの公安での影響力は滅茶苦茶強まってると思われる。

 

151:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:09:17 ID:EjwNNgWiON

ヒエッ

 

152:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:12:42 ID:Og17j2dty5

こっわ!?

 

153:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:17:36 ID:SdEIimXqSd

言われてみれば……今の公安ってもしかしてやばい?

 

154:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:23:05 ID:CfLDLoT8Ug

マキマさんが悪いやつならヤバいけど、そうじゃなけりゃ問題ないでしょ。

むしろ上層部が入れ替わって強化されてるまである

 

155:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:28:39 ID:Fn0nYssFtT

マキマさんの作戦の名前、オペレーションビッグブラザーなんだけどさ。

あれ1984って小説に出てくる超ヤバい独裁者の名前なんだよね。

その独裁者は拷問とかで自分の反対者を洗脳して、逆に自分を愛するように仕向けてたりする。

筋肉とか露骨にマキマへの好意的な台詞をバンバン喋ってたし、たぶんマキマさんは独裁の悪魔だと思う。

 

156:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:33:46 ID:Yboe35EDhg

確かにマキマさんって概念系の悪魔か魔人っぽいよね

 

157:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:38:15 ID:rESG0R9o29

鎖は独裁による拘束、束縛を意味するとか

 

158:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:43:29 ID:ZoFuXQvP5N

独裁、圧政、政治、支配、国家、命令、etc……

概念系であるとしたらこんなものか?

 

159:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:46:30 ID:Ks3Fqrs0Ec

愛させるって点なら前に話題になってた愛の悪魔も普通にありそう。

 

160:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:50:33 ID:FJTJ1Nw1pV

ビックブラザー云々は偶然じゃね?

 

161:悪魔な名無しさん 2019/9/15 11:55:06 ID:jE12toEQBn

でも演説の内容から作戦名決めるなら他にもあるんじゃない?

先駆けとか新時代の夜明けとか

唐突にビックブラザーは強引すぎると思う

 

162:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:00:30 ID:B7fC2mQHB1

マキマさんからそんな物騒な悪魔のイメージしないなぁ……

 

163:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:01:06 ID:8E4d6WRa8c

お前それ暴力の悪魔さんの前でも同じこと言えんの!?

 

164:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:11:33 ID:fYRavF6sIQ

爆速で論破されとる……

 

165:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:15:14 ID:Pua704q9bC

暴力の悪魔はマキマがいるから猫被ってるだけで、マキマがいなくなったら本性表して暴れ始めるんじゃね?

 

166:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:21:01 ID:HaL8xmdsdl

暴力で思い出したけどさ。荒井君の苗字が新井じゃなくて荒井なの、暴力の悪魔の伏線だったんだなって

 

167:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:24:12 ID:8q8X0HErzY

マキマさんが悪魔なら、ポチタとか暴力さんとか未来の悪魔みたいに破格の条件で契約してくれるだろうし違うんじゃね?

 

168:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:30:12 ID:Yn4GpKKMvK

マキマ「缶ジュース一本で、あなたが襲撃された時のダメージ肩代わりするよ!新人ならその後契約とは別にジュース奢るよ!」

 

169:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:33:14 ID:6AMBGe4P0p

破格すぎwww

 

170:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:38:37 ID:IPxFO22qi9

そうだった……マキマさん普通に契約して命救ってた

 

171:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:43:35 ID:DIsxncgXSY

ポチタ 夢を見せる

暴力さん 美味い飯食ったらその時の味覚を暴力さんの任意で共有できるようにする

マキマさん 缶ジュース

 

こいつら悪魔の癖にぐう聖すぎんだろ……

 

172:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:46:58 ID:TmfyQc4s2D

暴力さんのは味覚共有だからな

美味いもん食っても味がわからないとか美味くないとかそういうことも無いし、本当に良心的すぎる

 

173:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:51:27 ID:vr1DYWpptL

銃の悪魔「10万円で武器あげるよ!」

 

174:悪魔な名無しさん 2019/9/15 12:57:18 ID:iYKw2V7NoF

銃の場合だと破格の条件でも自分への恐怖を強化できるというメリットがあるからなぁ

暴力も普通に契約者が能力使うだけで強化されるし

 

175:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:01:26 ID:RA0zrUYeKF

マキマさんと契約してマキマさんにダメージ移せるみたいだけど、なんの悪魔なんだろうか

 

176:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:05:41 ID:PpapHHi5E4

マキマさんって能力借りる場合は、相手を鎖で直接縛るとか制限あるみたいだしなぁ……

と思ったけど銃の悪魔の力使うのはどうやったんだろうか

 

177:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:11:14 ID:UhXLrRsHJS

マキマさんが手に入れた銃の肉片をどっかで鎖で縛ってるとか

鎖でマキマさんと繋がるのが条件じゃなくて、鎖で縛る(マキマと繋がってるかは別)のが条件じゃないかと

 

178:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:16:43 ID:W2XoKpg0Gs

そういえばマキマさんはその気になれば日本国民全員にダメージ肩代わりさせられるとか言ってたな。

超長い鎖で日本人全員鎖で縛るのか?

 

179:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:20:50 ID:bAZu1ypKkj

想像したらシュールすぎwwwwww

 

180:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:26:15 ID:wR23y3lSe3

そりゃ理論上と言いますわ

 

181:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:29:55 ID:HFmphOMa0u

マキマの能力一覧

・鎖を出して戦ったりする

・銃の悪魔の力を使う

・鎖で縛ったデビルハンターの契約悪魔を使う

・契約の代償を囚人に移す?

・契約者のダメージを肩代わりする

・鎖で縛った悪魔を洗脳する

・悪魔の死体を鎖で縛り能力を使う

・会話を盗聴する

 

……あれ!?最後やばくね!?

 

 

182:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:33:47 ID:tJCoD90Nqu

ほんまやんけ!?

 

183:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:37:24 ID:ZXGfOLoIc7

そういえばサラッとこいつ死体操ってんぞ!?

 

184:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:42:20 ID:rjrtMpd5mL

マキマがデンジ君探してたのって、デンジが悪魔殺しまくってくれるからでは?

 

185:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:46:24 ID:eieUUJRvXQ

マキマはチェンソーマン(ポチタの地獄での前世?)について知ってたみたいだし、本当に何なんだろう

 

186:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:50:49 ID:MdKepxrITR

本当に死体操るのはなんなんだ?

マジで分からん……

 

187:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:53:50 ID:kU6LuDfFLB

よく考えたらマキマさんの戦い方、めっちゃフィジカル頼りなところあるよね

何あの腕力?

 

188:悪魔な名無しさん 2019/9/15 13:59:26 ID:EVYnrUmUEa

コベニを見たサムライソード「サルか!?」

マキマを見た読者「ゴリラか!?」

 

189:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:03:04 ID:NZWlBFJ3zv

ヤクザの孫の気持ちを追体験することになるとは……

 

190:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:07:29 ID:pRkyZwYWcy

孫と違ってこっちは戦ってない分気が楽だけど…‥

 

191:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:12:52 ID:nDzamDm2Q7

このスレの書き込みはマキマに聞かれている。

 

192:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:18:13 ID:v41LUv5bjC

怖いこと言わないで

 

193:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:22:34 ID:mCFO39Bkka

マキマさんの鎖を使ったスタイリッシュな移動!

そして不意打ちの銃の力!

そこから鎖を鞭のようにぶん回して組長をボコボコにして!

最後は全力パンチ!

 

……フィジカルどうなってんの!?

 

 

194:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:27:46 ID:hU1CJSxahD

作品のインフレについていけないキャラはよく見るけど、一人だけインフレしまくって他のキャラを置いてぶっちぎり始めるキャラは初めて見た。

 

195:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:31:08 ID:OvL3Xg9Ig1

他の漫画とかにもさ、師匠ポジとか組織のエリートとかで後から関わってくる滅茶苦茶優秀なキャラとかいるじゃん。それと同じじゃない?

 

196:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:35:56 ID:ylbIE0BWaw

師匠ポジは岸辺だし、マキマさんは最序盤からいるから後からくる優秀なキャラとはまた別。

他の作品で例えるなら、ハリポタのダンブルドアが最初から大暴れしまくってるのがマキマさんかな?

 

197:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:41:29 ID:MWpj0P4bV8

ヒロアカのオールマイトがずっと全盛期で活躍してる感じか?

 

198:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:44:50 ID:NexjytesWx

マキマさんはダンブルドア校長とかオールマイトと違って、敵か味方かわからないから緊張感が保たれてるよな

 

199:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:49:08 ID:z9NOBPDvho

マキマは盗聴能力があるみたいだし、デンジ達が孫をリンチしてる時も、察して見逃したっぽいよね。

本当にマキマの能力が謎すぎる……。

マキマは複数の悪魔の力を行使してるのか?

 

200:悪魔な名無しさん 2019/9/15 14:54:56 ID:GznQmjAtJR

でもマキマさんのお茶目な振る舞いが全部演技なのかな……3割くらいは素でやってそう。



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デート編
28話 デート準備


 

 

 

 オペレーションビックブラザー作戦の翌日。私はデンジ君からパワーちゃんが変という連絡を受けて、早川家へと向かった。

 何が起きたかは察しがついている。これは原作にもあったイベントだ。

 

 「このツノは……パワーちゃん血を飲みすぎたね」

 

 「ワシがバッタバッタと倒したヤクザとゾンビの血を吸い尽くしてやったからの〜。」

 

 「ゾンビは倒れてたのを拾い食いしただけだろうが」

 

 誇らしげに胸を張るパワーちゃんに対してデンジ君が突っ込みを入れる。

 

 「これは血抜きをしなきゃいけないね」

 

 「え゛っ!?」

 

 「血抜き?」

 

 「うん、パワーちゃんは定期的に血抜きをしてるんだ。じゃないと今よりも怖くて凶暴な悪魔になっちゃうからね。」

 

 私がそういうとパワーちゃんはフッフッフッと不敵に笑い出した。

 

 「残念じゃったの〜マキマ。ワシは以前のワシとは違う……。超絶強化されたスーパーパワー様の力、とくと味わうがいい!喰らえ!」

 

 そういうとパワーちゃんは私に向けて右ストレートを放った。

 

 「甘い!」

 

 だが修羅場をくぐりまくった私には効かない!私はパワーちゃんの右ストレートを躱しつつ、パワーちゃんの腕を捻り上げた。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!」

 

 「痛そ〜」

 

 絶叫するパワーちゃんと、それを眺めるデンジ君。そしてあまりにも騒ぎすぎたせいで家主であるアキ君も様子を見にやって来た。

 

 「うるさいぞパワー……て、何だこの状況。」

 

 「あ、アキ君ごめんね!実はパワーちゃん血を飲みすぎちゃってて……。

 デンジ君、アキ君、ちょっとパワーちゃんを血抜きの為に連れてきたいんだけど……いいかな?」

 

 「そりゃいくらでも!」

 

 「俺は構いませんよ。」

 

 二人の無慈悲な発言に対してパワーちゃんはガーンと衝撃を受ける。

 

 「ありがとう!デンジ君!

 パワーちゃんの血を抜いてる間の話なんだけどさ……その期間が少し長くなっちゃうかもしれないんだ。だからその間にビーム君が代わりのバディを立候補してるんだけど、デンジ君もそれでいい?」

 

 私がそう言うと、デンジ君がどこか浮かない顔をする。

 デンジ君はパワーちゃんとこの時点で既にかなり仲良くなってるしなぁ。

 

 「浮かない顔だけど大丈夫?」

 

 「最強に元気ですよ……」

 

 デンジ君なりに気を遣ってるけど、落ち込んでるのを全然隠せてないな。

 よーし作戦の事後処理を終えたら多少暇ができるし、デンジ君を励ますためにその暇を有効活用しよう!

 

 「そっか……。じゃあ最強に元気なら明日の休み、私とデートしない?」

 

 「デート?」

 

 唐突の発言にデンジ君はいまいち飲み込めていなかったが、一拍置いてから大声で言った。

 

 「やったーーーーーー!」

 

 「うるせえ!」

 

 「ぁぁぁぁ………ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……マキマ……ワ、ワシを許して…….」

 

 叫ぶデンジ君、それに怒るアキ君、そして私によって腕を捻りあげられ続けたパワーちゃん。

 修羅場と化してしまった早川家を後にして、私は明日の休みを得る為に、作戦の後始末を全力で終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「髪!」

 

 「オッケー!」

 

 「服!」

 

 「オッケー!」

 

 「デートプラン!」

 

 「オールオッケー!」

 

 私はその日の夜、デートの相談の為に姫パイを家に呼び、明日の準備をしていた。

 

 「ありがとう姫パイ……絶対にデート成功させてみせるよ!」

 

 「うん!マキちゃんの初デート応援してるからね!」

 

 姫パイは私に対して親指を立てながら言ってくれた。

 

 「それじゃあ明日のデート頑張るね!」

 

 「おー!しっかしデートでデビリーランドかぁ……。私も今度アキ君と行こうかなぁ」

 

 「いいねいいね!デビリーランドでデート!やっぱりロマンチックだよね!

 そういえばデビリーランドってそういえば結婚式もやってるんだっけ?いいよね……」

 

 私は日本一の遊園地、デビリーランドでデンジ君と結婚式を挙げるところを想像する。

 ウェディングケーキを入刀前に食べ始めるパワーちゃん、それを止めるアキ君、パワーちゃんに対抗して全部食われる前にケーキ入刀をほったらかして自分もケーキを食べ始めるデンジ君。そしてしれっと自分の分のケーキを確保する円さん。終いにはデンジ君とパワーちゃんの乱闘になり、それに巻き込まれたデビルハンターのみんなで結婚式会場大荒れ……。

 うん!で デビリーランドでの結婚式はやめよう!出禁になるだろうしスタッフが可哀想だ!

 

 しかしデンジ君の自由奔放な所は魅力の一つなんだけど、やっぱり教養というかマナーとかそういう常識を学べる環境を用意した方がいいのかなぁ。てか普通に今のうちから学校に通えるようにある程度の勉強は必要だよね。

 

 私がそんなことを考えていると姫パイが私のことをじっと見つめていることに気づいた。

 

 「?……姫パイどうしたの?」

 

 「あー、マキちゃんがすごいデンジ君にゾッコンだなぁ……て思ってさ。」

 

 「うん!デンジ君大好き!」

 

 「そっかぁ……。ねぇマキちゃん、マキちゃんはデンジ君にマキちゃんのこと、どこまで話してるの?」

 

 姫パイは真剣な眼差しで私に尋ねる。姫パイが聞いてること、それは私が悪魔である事をデンジ君に話したのか?ということだろう。

 

 ……うん。実はぶっちゃけると姫パイは私が悪魔だってことを知っている。なんなら自分から明かした。

 私と姫パイは、バンバン殉職者や退職者が出まくる公安デビルハンターという職業で、お互いに辞めず死なずに今まで付き合い続けてきた。しかも年が近いし同性だし、そりゃ距離も近くなる。友人というよりは私の中では親友の部類だ。

 私には姫パイ以外にも親しい人はいるが、それでも姫パイはダントツで仲がいい。

 そして私はそんな大切な友人である姫パイに対して、長い付き合いの途中で悪魔であることを明かしたのだ。

 私が悪魔であることを明かした時は、姫パイもかなり驚いてたなぁ。でも天使君とか友好的な悪魔もいるし、今ではすっかり受け入れてくれてる。

 まぁ流石に支配の悪魔って事までは話してないけどね。姫パイを信頼してないわけじゃないけど、このチェンソーマン世界なら原作に出てないだけで人の心を読める悪魔とかいそうだし。

 

 「……実はデンジ君にはまだ何も言ってないんだよね。」

 

 「そうなの?結構意外〜。デンジ君別に悪魔に対して悪感情とか持ってないんだし、普通に言っちゃっていいんじゃないかな?」

 

 姫パイは驚いた顔で言う。確かにデンジ君はポチタと友達だったし、悪魔に対して悪い感情は抱いてなかったなぁ。

 

 「でもさ……こういう重大な話ってすぐ言っちゃっていいのかなぁ。私としてはこんな短期間に、デカすぎる秘密を共有されても負担に感じちゃうかなぁって思って。」

 

 「ほうほうほう、別に私には負担をかけてもいいと。マキちゃんひどーい!」

 

 「短期間って言ったじゃん!それに……姫パイは特別だよ、私の大切な友達だし。」

 

 「おおう……ちょっとキュンと来たわ。だが残念でした!私にはもうアキ君がいまーす!」

 

 「残念!こっちにもデンジ君がいまーす!」

 

 「「あははははは!」」

 

 私たち二人はふざけて笑いあった。その夜はそんな調子で、時に真面目に、時にふざけて姫パイにデートの準備を手伝ってもらった。

 姫パイがアキ君とデートする時もこんな感じだったな……。一人で悩むのは心細いけど、二人で考えるのは凄く気が楽になる。

 

 「ま!最初のデートなんだし完璧に行くかなんてまだ分からないけどさ、デンジ君マキちゃんにゾッコンだし、失敗しちゃったらまた次のデートで取り戻せばいいんだよ!

 私もアキ君との初デートで、悪魔が出たせいでおじゃんになっちゃった時があったじゃん?でもその次のデートはうまく行ったし!

 だから……人生での初デート、まずは思いっきり楽しんできな!

 失敗したり嫌なことがあったら、昔マキちゃんがよく相談に乗ってくれてた時みたいに、私も話聞くからさ」

 

 「姫パイ……ありがとう」

 

 とびっきりの笑顔で私に微笑む姫パイに対して、私も同じように笑顔で返した。

 ……姫パイは私のことを考えて、全力でデートに協力してくれた。その上で私が失敗して姫パイに対して気を負わないように、しっかりとケアもしてくれた。

 私は本当にいい友人と出会えたと心から思う。私はそのあと姫パイと別れ、しっかりと休んで明日のデートに備えたのだった。



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29話 DATE!

 

 「やったーーーー!」

 

 東京都内に指定した待ち合わせ場所で、デンジ君が嬉しそうに叫びながらジャンプしていた。

 私はそれを遠くから唖然として眺めていた。

 

 「も……もう来てる。待ち合わせ時間は6時半なのに……。今ってまだ5時半だよね?」

 

 私は時計を確認した後、デンジ君に声をかけながら近寄ることにした。

 

 「ごめーんデンジ君。待たせちゃった?」

 

 「ワーーー!!かわいい!!」

 

 私の声に気づいたデンジ君は、私を一目見た後興奮しながら言った。デンジ君はこのコーディネートを気に入ってくれたようだ。

 姫パイに付き合ってもらった甲斐があった!

 

 「デンジ君ありがとう!褒めてくれて嬉しいよ!

 今日は頑張ってオシャレしてきたんだ。姫パイにも手伝って貰ったんだよ。」

 

 その後私はデンジ君と軽く雑談しながら、私が用意した車に一緒に乗った。

 

 「しかしマキマさん早いっすね?まだ5:30っすよ?」

 

 「仕事が終わって楽しみで仕方がなくてね。……って、デンジ君の方が先に来てたじゃん!デンジ君は何時に来たの?」

 

 「眠れなくて5時にきました!」

 

 「早いね!じゃあもっと待ち合わせ時間を早めておけばよかったかなぁ……。

 そういえばかなり早起きしたみたいだけど、アキ君とかパワーちゃんとかに迷惑かけなかった?」

 

 「早川の先輩は日課のトレーニングとかで早起きしてましたよ。パワーの奴は俺たちが起きてることにも気づかないで、ニャーコ抱きしめながら爆睡してました。」

 

 デンジ君が早川家の二人について語る。そういえば姫パイからアキ君がよくトレーニングしてるとか聞いた覚えがある。そしてパワーちゃんはいつも通りだ。

 

 「ところでマキマさん!今日のデート、一体どこに行くんですか!?」

 

 デンジ君が目をキラキラさせながら尋ねる。

 原作だと映画見まくりデートだったけど、デンジ君は最後のハグシーンがある映画以外微妙な感じだった。だから私は別のデートプランを姫パイと一緒に考えたのだ!

 

 「ふっふっふ……今日はね、なんとあのデビリーランドに行きます!」

 

 「デビリーランド!?デビリーランドって、あの東京デビリーランドっすかぁ!?」

 

 「そうだよ!あのデビリーランド!デンジ君が楽しめそうな所どこかなって考えてね。

 もし別の場所がいいなら気兼ねなく言ってね、他にも候補は5つくらい用意してあるから!」

 

 「デビリーランドで!」

 

 「よし!じゃあデビリーランドに向けて……出発進行!」

 

 私は東京デビリーランドに向けて、車を出発させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「デンジ君、もうすぐ高速道路入るけどトイレとか大丈夫?」

 

 「高速道路……?デビリーランド行くんじゃなかったんすか?」

 

 デンジ君が不思議そうに尋ねる。

 

 「うん、そうなんだけどデビリーランドは千葉にあって遠いからね。高速道路使った方がいいんだ。」

 

 「え?東京デビリーランドって千葉にあるのぉ!?東京ってついてんじゃん!?デビリーランドって嘘つき?」

 

 「いや〜、デビリーランドが東京にないのに、東京デビリーランド名乗ってるのには事情があるんだよ。

 千葉って英語とかだとChibaって書くんだけどね……これ麻薬を意味するんだ。」

 

 「麻薬……」

 

 「うん。だから千葉デビリーランドにすると、海外の人からは『夢の国麻薬デビリーランド』って思われちゃうの。」

 

 「あ〜それヤベェな、あんま遊びに行きたくねぇ。」

 

 「でしょ?だからデビリーランドは東京デビリーランドを名乗ってるんだって」

 

 「でもなんで東京なんすか?東京関係ないじゃないっすか」

 

 「デビリーランドの東京は『東京湾』の東京にかかってるらしいよ?昔デビリーランドにでた悪魔を駆除した時に、デビリーランドのお偉いさんから聞いたんだ。」

 

 それを聞いたデンジ君は少し考えてから言った。

 

 「でもそれだったらよぉ、普通に東京湾デビリーランド名乗ればいいんじゃねえすか?」

 

 「……あ!」

 

 私はデンジ君に指摘されて気づいた。本当だ!ちゃんと東京湾デビリーランドって名乗った方がいいじゃん!

 

 「やっぱマキマさんもそう思うっすよね!デビリーランドの奴、絶対見栄張ってますよ。千葉にあんのに」

 

 「ほ、本当だ……デビリーランド、見栄張ってる。今の今までデビリーランドの偉い人に騙されてた!」

 

 私はそんなたわいのない話をしながら、デビリーランドまでのドライブをデンジ君と楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「東京湾デビリーランドに着いたぜ!」

 

 「東京湾デビリーランドに着いたね!」

 

 楽しい楽しいドライブを終えて、私とデンジ君はついに東京湾デビリーランドに到着した。

 

 「うわ〜!めっちゃ人いる〜!?マキマさん、今日デビリーランドで何かあるんすか?」

 

 いつも通り大混雑なデビリーランド、その圧倒的な混み具合にデンジ君は私に質問する。

 

 「いや、今日は特に珍しいイベントとかやってないね。

 3回くらい千葉公安の助っ人で来たけど、今日は少ない方だよ。」

 

 「こ、これで〜!?アトラクションとか並ばなきゃ行けないってアキが言ってたけど、これ乗れんのかな……。そもそもチケット買うまでにどんくらいかかんだこれ?」

 

 「ふっふっふっ!大丈夫だよデンジ君!こんな事もあろうかと、VIP用のチケットを用意してあるからね!

 これがあればチケットもフリーパスも不要!楽々スイスイだよ!」

 

 「おおーなんかすげぇっすね!」

 

 「3回も東京湾デビリーランドを助けたデビルハンターだからね。

 マキマさんはデビリーランドではVIP待遇なのです!」

 

 こうして私達は、他の人たちが並んでいる中、私のVIPチケットを使用して中に入り、デビリーランドを堪能した。

 

 

 

 

 

 デビリーランドでは思い出作りに、写真をいっぱい撮った。

 

 「デケェ噴水だ!マキマさんこの地球儀めっちゃデケェ!」

 

 「デンジ君もそう思う?やっぱり凄い大きいよね!そうだ!デビリーさん!写真撮って!私たちの写真撮って!」

 

 入口の噴水で一緒に写真撮ったり……

 

 

 

 「お化け屋敷じゃん!パワ子が『これはワシが昔住んでた豪邸じゃー』って言い張ってそう。」

 

 「ホラーマンションだねこれは。マンションって実は豪邸って意味だから豪邸には違いないね、ボロボロだけど。

 あ、そうだデンジ君写真撮ろ!ターキー君、写真お願い!」

 

 古ぼけたお化け屋敷みたいなアトラクションの前で、パワ子ちゃんのことを話しながら写真を撮り……

 

 

 

 「すげぇ!火山だ!火ぃ噴いてる!?迫力あんなぁ……」

 

 「モックモクだね!あ、ゾンビちゃんだ!ゾンビちゃん!デンジ君とポーズ取るから写真撮って!写真!

 デンジ君、ポーズ!えい!」

 

 そしてめっちゃ煙の出てる火山を背に、二人でポーズをとり着ぐるみのマスコットキャラに写真を撮ってもらった……。

 良く考えたらマスコットの写真全然撮ってない!?あのマスコット達、写真撮るの頼んでたけど本来はあのマスコットと一緒にスタッフさんに撮ってもらうのが正解だったか……。

 次はちゃんとマスコットと一緒に撮ろう。

 

 

 

 もちろんデビリーランドでは写真を撮ってただけじゃない。アトラクションも楽しんだ。

 

 

 「おー、これが潜水艦の奴か〜。」

 

 「海底二万メートルだね、潜水艦楽しみだねデンジ君。」

 

 「そうっすねマキマさん!……て2時間!?待ち時間長ぇ……。」

 

 「大丈夫!ファストパスっていう待ち時間短くなるチケットがあって、私の貰ったフリーパスにはその効果もあるから。VIP様々だよ」

 

 「おお!さすがピップ!」

 

 「おしい!正確にはビップ」

 

 「ピッブ?」

 

 「ビップだよ、ヴィップ。」

 

 「ビップ!」

 

 「そう!正解!」

 

 

 

 

 「しゃあ!東京湾をこの船で冒険し尽くしてやるぜー!」

 

 「おおー!」

 

 「めっちゃ沈んでる!マキマさんめっちゃ沈んでますよこの船!」

 

 「本当だね……。(急に窓が割れて水が流れ込まないか心配だな)」

 

 「こんなうっすいのに全然入ってこねぇ。……えい!」

 

 「ちょ!デンジ君やめて!窓叩かないで!まだ私溺れ死にたくないからぁ!」

 

 海底二万メートルという、潜水艦に乗るアトラクションに乗ったり……

 

 

 

 「うぉおお!思ったよりめっちゃ揺れる!」

 

 「敵の宇宙船が攻撃してるからね!流石スペースウォー!」

 

 「あ!?ポップコーンが!」

 

 「へ?デ、デンジ君!ポップコーンの蓋を閉めないと!」

 

 「あ!?あー↑!あー↑!あー↓!あー……あぁぁ」

 

 「ぜんぶこぼれちゃった……」

 

 「クソ!シートベルトが邪魔すぎて拾えねぇ!」

 

 「デンジ君止まって!ストップ!スタァァップ!」

 

 超大作映画、スペースウォーをもとにしたアトラクションでポップコーンを全部落としたり……

 

 

 

 「デンジ君ごめん!緊張してきた……デンジ君に掴まってもいい!?」

 

 「マ、マキマさん!?ぜ、全然俺は、その、かまいまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 「やあああぁぁぁぁぁぁぁぁたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 そして遊園地定番のジェットコースターを利用して、どさくさに紛れてデンジ君に思いっきり抱きついたりした!

 ………デンジ君も構わないって言いかけてたみたいだしいいよね!……いいよね?だ、大丈夫だよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして遊園地で朝から遊んでいれば、当然お腹も空く。そこで私たちは不思議の国の王女様のレストランで、一緒にご飯を食べることにした。

 

 「なんか……値段の割に味はそこそこっすね。ジュースも自動販売機より高いのにそこそこの味だし、肉も荒井に奢って貰った牛丼屋の方が美味いし安いし。」

 

 デンジ君はストレートに料理の感想を言う。やっぱりデンジ君は素直で純粋だなぁ……。

 確かにこういう遊園地って、値段の割に美味しくない事もあるよね。

 

 「うーん、やっぱりお店の雰囲気とか装飾品とか、そっちの方にお金をかけてるんだよ。

 味よりも夢みたいな環境でご飯を食べる、そういう体験をする為に高い料金取ってるんだよ」

 

 「うーん、俺ぁ夢みたいな環境でそこそこの飯食うよりも、そこそこの環境で夢みたいにうめぇ料理食う方が好きだな。」

 

 デンジ君はそう言いながらももそもそと出された料理を食べる。うーん、確かにデンジ君楽しくなさそう。やっぱりこういうファンタジックなお店は姫パイや私のような女性向けであって、デンジ君向けではなかったか。

 ……うーん。そうだ!

 

 「そっかぁ、もう料理は頼んじゃったから変えられないけど……もっといい環境になら出来るよ?」

 

 「……どうやって?」

 

 「私がデンジ君にアーンして食べさせてあげるの、初めて会った日みたいに。どう?」

 

 「………!マジっすか!?いいいいよっしゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 デンジ君は大喜びして、楽しんで料理を食べた。3回ぐらいおかわりしてた。

 こんなに喜んでくれて私も嬉しい、最初はミスったと思ったけど挽回できて、よかったよかった。

 

 さあ、お昼ご飯も食べ終わってここから東京湾デビリーランドデートも後半!私は気合を入れて次のアトラクションにデンジ君をエスコートすることを決めた。

 

 

 

 

 

 「……は、腹が……マキマさんごめん、食べすぎた。」

 

 「デンジ君ごめん……食べさせすぎちゃって。」

 

 あまりにも食べさせすぎたせいで、デンジ君のお腹に負担をかけてしまったようだ。地面に落ちたポップコーンも食べてたし、相当ダメージがお腹にいっていたのだろう。

 結局この時点でデートプランの大幅な変更が確定したのだった。



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30話 DATER!

 

 

 

 

 

 「ハァ……ミスったなぁ。ご飯を食べさせすぎてデンジ君のお腹壊しちゃうだなんて……。」

 

 私はトイレの前でデンジ君が戻ってくるのを待っていた。

 といっても、デンジ君が並んでいるのはデビリーランドにきた客は必ず利用する下手なアトラクションよりも人気のある施設、トイレだ。その列に並ぶ人の数も膨大な量となり、私の伝家の宝刀ファストパスも使用できない。

 デンジ君が帰ってくるのはお腹のダメージも考慮して後45分くらいはかかりそうだ。

 

 そんなことを考えていると園内放送が鳴り響いた。

 

 「ご来場のお客様にご連絡いたします。ただいま園内、ファンシーエリア付近で悪魔の出現が確認されました。

 現在当デビリーランド所属のスタッフであるプロデビルハンターが対応に当たっていますが、念のためご来場のお客様は一時的にセーフティエリアにまでご避難ください。

 繰り返しますご来場の……」

 

 どうやらデビリーランドに悪魔が出現したようだ。私も3回ほど悪魔の討伐をしたけど、良く出るなぁ……悪魔を題材にしている遊園地とはいえ、こんな頻繁に出なくてもいいのに。

 

 私がそんなことを考えていると、デビリーランドのスタッフの一人が私に近づいてきた。

 ああ、私が避難してないから避難の誘導にきたのだろう。だけど今はデンジ君を待っているから離れるわけにはいかない。事情を話して後から避難する旨を伝えよう……。

 

 「あの……お休みのところ申し訳ございません。公安のデビルハンターをしていらっしゃるマキマ様……ですよね?

 ご来園して遊んでくださりとても有難いのですが……どうか助けて頂けないでしょうか?」

 

 「……え?避難誘導じゃないの?」

 

 「お恥ずかしながら本当に申し訳ございません……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ギャアアアアア!」

 

 悪魔に捕まり、ジェットコースターのカートや、ゴーカートの小さな車に乗せられ、シートベルトなどでぐるぐる巻きにされて拘束された客やデビルハンターが勢いよく射出されていく。

 射出……そう表現するのが一番適当だった。宙に浮く円状の無限にループするジェットコースターのコースを中心にして、その周りにシートベルトで出来た触手がアトラクション乗り場となる小さな四角い箱のような部屋から生えている。そしてその四角い箱のような部屋がいくつも宙に浮いていた。

 シートベルトで出来た触手が客を掴み、アトラクション乗り場となる四角い箱に人間を入れ、そのなかでカートに人を乗せていく。悪魔は客の乗ったカートを中心のジェットコースターのコースに乗せて勢いよく走らせたあと、意図的に脱線させて吹っ飛ばしているのだ。

 

 その恐ろしい光景を見て、民間デビルハンターのケンゾウは後悔していた。彼はかつては公安のデビルハンターを志すほどに、やる気に溢れたデビルハンターだった。

 デビルハンターとしてのキャリアもベテランで、堅実な仕事を続けてもう7年も民間デビルハンターとして活躍している。

 しかしこの恐るべき惨状は、彼の対応できる実力を大きく超えていた。

 

 (畜生……なんだあの悪魔!?おそらくありゃあ、絶叫マシンの悪魔とかそういう奴だ!)

 

 彼はデビリーランドに雇われた民間のデビルハンターだった。デビリーランドの護衛ということで安定した収入が期待でき、悪魔を倒すことよりも来園客が避難できる時間を稼ぐことを最優先とされる仕事内容。

 堅実な仕事を得意とし、そういった仕事を好むケンゾウとしては、まさしく天職だと考えて最近この仕事を始めた。

 それにデビリーランドほどの施設となれば、公安のデビルハンターが加勢にくるし、彼が聞いた話では実際何度か、あのマキマほどの人物が直々に助っ人に来たという話も聞いた。

 ケンゾウは過去に公安のデビルハンターと共に仕事をした経験がある。それゆえに、そのイカれ具合と常軌を逸した実力を把握していた。

 

 『もし強い悪魔が来ても、公安が助けに来るならば安心だ。』

 

 そんな軽い気持ちでデビリーランド専属のデビルハンターになったのが運の尽きだった。

 公安のデビルハンターが来る……それはつまり民間レベルでは暗に対処できない案件が来ることがしょっちゅうだということを示していた。

 

 悪魔のシートベルトの触手がケンゾウを捕まえんと伸びる。

 

 「クソ!させるかぁ!」

 

 しかしケンゾウは素早く手に持った日本刀を振るい、シートベルトを切断した。

 切られたシートベルトの返り血を浴び、カートに乗って吹き飛ばされた同僚の悲鳴を聞きながら、転職することを心に決めたケンゾウ。彼は奮起して、次々と襲い来るシートベルトを片っ端から切り落としていった。

 しかし実力は並に比べまで十分あるとはいえ、常人の範疇であるケンゾウ……。終わりなき悪魔のシートベルト攻撃にスタミナが尽き、ついには他の哀れな被害者たちと同様にシートベルトに拘束されてしまった。

 

 「し……しま!?おい!やめろ!離せ!離せよ!いや離してください!どうかお願いします!嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だあぁぁぁぁぁ!誰か!誰か助けてぇぇぇぇ!」

 

 命の危機を前にして、ケンゾウはみっともなく叫ぶ。ジタバタと身を捩り抵抗を続けるが、悪魔は我関せずとケンゾウを宙に浮かぶアトラクション乗り場の部屋へと運ばんとする。

 

 「う、うわぁぁぁぁ!」

 

 ケンゾウが一際大きく叫んだ。

 

 その時だった。悪魔が作り出した部屋に思い切り、巨大な鎖の塊が激突して、その部屋を叩き潰したのは。

 

 「お、おひぃ!?」

 

 そしてその部屋が叩き潰された影響で、ケンゾウを縛るシートベルトが緩み、そのままケンゾウは落下した。

 

 そして地面に激突する直前、何者かによって抱き抱えられてケンゾウはことなきを得た。

 

 「大丈夫ですか?私は公安デビルハンターです。もう安心してくださ……て、ケンゾウさん?」

 

 「た、助かった……て!?公安デビルハンターのマキマ!?あ、マキマさん!?

 ど、どうして俺の名前を……。」

 

 自分を助けてくれた人物、その正体は内閣官房長官直属であり、つい最近『全国暴力団討伐作戦 オペレーションビックブラザー』を成功させたことで、さらに名声が高まった公安デビルハンターのマキマであった。

 

 「どうして……って、お会いするのは3度目ですし。ほら、ナマコの悪魔をうちの部下が横取りしてしまった件と洋館の悪魔の件。」

 

 「お……覚えてくださってたんですね。」

 

 ケンゾウはマキマの言う通り、2回ほどマキマとあったことがある。彼にとってそのことは軽い自慢話であったが、まさか当のマキマ本人もそのことを覚えているとは思っていなかったのだ。

 

 「それじゃあケンゾウさん、他の人の避難をお願いしてもいいかな?

 この悪魔は私にとって相性がいいから、私が担当したいんだけど……。」

 

 「あ、ああ。わかった、こいつは逆に俺とは相性が悪いタイプの悪魔だからな。うん。マキマさんの言う通り避難誘導に専念するよ。うん。」

 

 相性が悪い……これはある意味嘘ではない。この悪魔はケンゾウの手に追えるレベルをとっくに超えていた。そういう意味では、相性が悪いというのも嘘ではないだろう。

 マキマが君では勝てないとは言わず、あえてぼかしたのはケンゾウの自尊心を傷付けぬ為だろう。それを理解したケンゾウは、ありがたく相性を理由に悪魔から離れて避難誘導に徹することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと……覚悟はいいかな?」

 

 私は目の前にいるよくわかんない悪魔……ジェットコースターか、絶叫マシンか、はたまたアトラクションか遊園地か、そのいずれかであろう悪魔に向けて言った。

 

 私の発言を理解したのか、目の前の悪魔はシートベルトの触手を私に向けて伸ばしてきた。

 私はそれを身を捩ることで最低限の動きで躱し、幾つもあるシートベルトが生えてる四角い箱?に向けて指鉄砲を構えた。

 

 「バンバンバンバンバーン」

 

 私は銃の悪魔の力を雑に使い箱を次々と破壊した。

 今までこの銃の悪魔の力は人前では使わないように意識してきた。だけどヤクザの一件で、沢渡アカネに私が銃の力を使うことをバラされたから方針転換をしてもう隠すのはやめたのだ。

 多分、沢渡アカネや組長は他のヤクザにも私が銃の力を使ったことを話してるだろうし、そこ経由でどこかもっと別の場所にもバレてる可能性もある。

 だったらもう、隠して奥の手にするよりはガンガン使いまくったほうがいいだろうと考えたのだ。

 どうして使えるの?って質問には「詳しくは言えないけど悪魔の力で色々やってる」で誤魔化すことに決めた。私ほどのデビルハンターになると色々と秘密にできることも多いし。

 

 そんなことを考えていると、ついに残りの箱は一つにまで減った。

 私はその最後の箱が伸ばすシートベルトにあえて捕まり、悪魔のジェットコースターにあえて乗ることにした。

 

 シートベルトによって四角い箱の中に入れられると、私はジェットコースターのカートに乗せられて幾つものシートベルトにぐるぐる巻きにされた。

 どうやらこの四角い箱はアトラクション乗り場の役割をしているようだ。そしてカートはポンっと箱の外へ出された後、ジェットコースターのコースに乗せられて勢いよく走りだした。

 どんどんスピードが上がり、せっかくデートの為に整えた私の髪が乱れまくる。美容院にも行ったのに……。

 

 「ふん!」

 

 私は腕に力をこめてシートベルトの拘束を引きちぎった。

 そして私は鎖を召喚して、私の下にあるレールに引っ掛けるように輪を作り、それを思いっきり引っ張りカートと鎖でレールが縛られるようにした。

 そうする事で悪魔の肉体であるレールが、カートと鎖で挟まれたまま擦られることにより削れていく。

 

 ぐぐぐぢぢぢぢぢぃぃぃぃぃ!

 

 めちゃくちゃ嫌な音を出しながら、私の作った鎖は悪魔のレールを削り夥しい量の肉片の血を撒き散らしてダメージを与えた。

 

 そして20周ほど回転したあたりでジェットコースターのカートの勢いが落ちてきて、50周もするとついにコースそのものもがブチ切れることで私は吹き飛ばされた。

 私は華麗に着地した後、振り返り無惨な姿になった悪魔を確認した後、憂鬱につぶやいたのだった。

 

 「悪魔をすぐに倒せたのはいいけど……服も髪も血でベチャベチャだ……。」

 

 私はため息をついた後、スタッフさんやデビリーランドの専属デビルハンター達に悪魔を討伐したことを伝え、シャワーと替えの服を頂くことにした。



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31話 DATEST!

 

 

 

 「マキマさんお待たせしました〜……て、なんか雰囲気が違うような……。着替えましたか?」

 

 トイレから帰ってきたデンジ君が、私の新しい服に言及する。

 

 「うん!ちょっと悪魔が現れてさ……その悪魔を倒して服とか汚れちゃったから、替えの服を用意してもらったんだ!」

 

 「そうだったんすかマキマさん。新しい服もメッチャ可愛いっすね!」

 

 「!!!……ありがとうデンジ君!」

 

 新しい服もデンジ君に褒められた!いや〜悪魔を倒した甲斐があった!

 

 「そうだ!デンジ君も帰りにここで服とか買ってみない?いろんな服があって、デンジ君にも似合う服も結構あるはずだよ!」

 

 「服っすか?俺ぁ着れれば別になんでもいいっすけど……。」

 

 「デンジ君はあまり服には興味ないタイプなのか……。まぁ、帰りにお土産を買うときに余裕があったら考えてみよっか。」

 

 私はデンジ君がオシャレしてる姿も見たかったが、デンジ君が気乗りしてないのでこの話は後にする。

 

 「それじゃあ気を取り直して、遊園地のデートを再開しよっか!

 さっき悪魔が出た関係で遊べるエリアは減っちゃったけど、その分他の客は怖がって帰ってるだろうし、さっきよりも人が少ないはずだよ」

 

 「え?マジで?そりゃいいっすね!」

 

 「うん!それじゃあ行こっか!」

 

 

 

 そして私の読み通り、遊園地は昼前よりも凄くすいていた。

 本来のデートプランで行くはずだったエリアのアトラクションは遊べなかったけど、十分お釣りが来るくらいに遊びまわることができた。

 しかし悪魔が出たというのにも関わらず、ここのスタッフはみんな休むことなく仕事をしていて偉いなと思う。

 まぁ私がすぐ倒したから死者も出てないし、軽傷者ばかりだったから、別のエリアのスタッフは雑魚悪魔が紛れ込んだ程度に思ってるのかもしれない。

 

 そして私たちは存分に遊園地を堪能して、ついにお土産の時間となった。

 

 「お土産か〜。別にポップコーンの残りでもいいんじゃないっすかマキマさん?」

 

 「ポップコーンだと帰りに湿気っちゃうし、帰りながら食べられないからやめておいた方がいいよ?

 それに今回はデビリーの人がお土産はタダでくれるって言ってたし、どうせなら自分用のお土産含めて貰った方がお得だと思うよ。」

 

 「自分用のお土産!マキマさんあったまいい〜!そーか、その手があったか!

 よーし俺用に沢山お土産買って、余ったやつをパワーとかアキにやりゃ最強だな!」

 

 自分用のお土産という言葉を聞いて、デンジ君はお土産選びに乗り気になったようだ。

 

 「どうせなら他の4課のお土産も買ってあげなよ。きっと喜ぶよ!」

 

 「あー、姫野のは酒で荒井は……俳句好きって言ってたし和風っぽいのでいいのか?コベニはとりあえず菓子やっときゃいいだろ。

 デケェやつとそうじゃない方は……何がいいんだ?」

 

 「黒井さんと伏さんは甘いのは苦手じゃないし、コベニちゃんと一緒でお菓子でいいと思うよ。こういうお土産はお菓子が基本当たりだからね!

 まぁ岸辺先生は辛党だからお菓子よりもお酒の方がいいけど。」

 

 「からとう?辛いもんが好きなのかあの先生?」

 

 「お酒が好きな人のことを辛党って言うんだよ。」

 

 そんなふうに私たちは雑談しながら、沢山お土産を買った。

 タダでくれると言ってなきゃ、私のお財布もかなり軽くなる量だけど、一仕事したおかげで問題ない!

 そしてある程度沢山お菓子を買ったところで、私はデンジくんお着替え作戦を開始する。

 

 「デンジ君デンジ君、お土産にお菓子もいいけどさ。そんなに買っても賞味期限的に辛くない?」

 

 「でもタダなら買わねーと勿体無いし……俺酒とか年齢的に飲めねぇんで」

 

 「お土産はお菓子屋お酒だけじゃないんだしさ、どうせだったらオシャレな服も買ってみない?

 オシャレな服を着ると……メッチャかっこよくなるよ?」

 

 「かっこよく……買います!」

 

 よし!かっこよくなると言う言葉が響いたようで、デンジ君を乗り気にさせれたぞ!

 

 

 

 

 

 

 「と言うわけでドン!ワイルド風ファッションです!」

 

 「おー!いつものスーツとかよりも動きやすい!

 でも首のトゲトゲいてぇ……。それとズボンの穴が昔に戻ったみたいだ……」

 

 「ダメージジーンズはやめよっか!次!」

 

 

 

 「お次は探偵風ファッションです!理知的でカッコイイ!」

 

 「おーこれ手品探偵の服じゃん。パワーに買ったら喜びそー。」

 

 「パワーちゃんって手品探偵好きだったんだ……。それじゃあ、これはパワーちゃんのお土産にしよっか!」

 

 

 

 「ザ!和風!着物姿のデンジ君です!」

 

 「う、動きづり〜!」

 

 

 「お次はパイレーツ!ヨーホーヨーホー!」

 

 「マキマさん……俺で遊んでませんかぁ!?」

 

 「ご、ごめん!デンジ君のいろんな格好を見れるのが尊くて!」

 

 そんなこんなで帰りの際にはお土産を買ったり、デンジ君のコーディネートをして楽しんでから帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの車でお互いにラジオで流れる曲を聞き流しながら、私たちは車でも楽しくおしゃべりしながら帰った。

 

 そういえば私がデンジ君と最初にあった時も、こうやってドライブしながら色々喋っていたことを思い出す。

 

 「マキマさん、今日はめっちゃ楽しかったっす!本当にありがとうございました!」

 

 デンジ君は何度目かの御礼を私に言ってくれた。こんなに喜んでくれて頑張った甲斐があったとしみじみ思う。

 

 「マキマさん……俺、実は悩んでたことがありまして。」

 

 「悩んで……た?過去形なの?」

 

 「ええ、この前ヤクザの刀ヤローと戦ったじゃないですか?

 そのときに言われたんす。

 『お前に限っては心がもう人じゃねえんだよ』って。

 でも……こんなに楽しく過ごせてイイ気分になれんなら、きっと人の心があるんだって思えるんですよ!」

 

 めっちゃデンジ君は楽しそうに、私に向けて言った。

 

 「……そっかぁ。デンジ君、もしもデンジくんに人の心がないとしてさ……そこにあるのは悪魔の心なのかな?」

 

 「……マキマさん?」

 

 「ちょっと気になってね。デンジ君はさ、自分にあるのが人の心じゃなくて、悪魔の心だったら嫌かな?」

 

 「悪魔の心?」

 

 そう私が尋ねると、デンジ君は考え込んだ。それから考えがまとまったのか、自分の考えを聞かせてくれた。

 

 「別に悪魔の心でも、よく考えてみれば問題ねえか!

 ポチタを飼ってたり、パワーと過ごしてて思ったんすけど、人も悪魔もそこまで心に違いがあるとは思えないんすよね。

 嫌なことあったら落ち込むし、イイことあったら喜ぶ。

 よーく考えてみりゃ、人の心がなくても悪魔の心があると思えば何の問題もないっすね!」

 

 「そっか……。デンジ君はそう思うんだ。」

 

 「ええ!……なぁマキマさん、ポチタで思い出したんすけど俺この前夢見たんすよ。

 その夢だと俺の目の前に扉があって、その扉の中にポチタがいるってわかって、俺はポチタがいる扉を開けようとするんす。

 でも、ポチタは『開けちゃダメだ』って言って、そこで目が覚めるんすよ。

 マキマさん……何でポチタは、俺が扉開けんのを止めるんだと思います?

 俺、最近色んな奴と出会って、仲良くなれねぇと思った奴ばっかだったんすけど……最近はあんまそうじゃなくなってきたんす。

 もしかしたらポチタもそれとは逆な感じで、俺のこと嫌いになったのかなって……多分ポチタはそんなこと思わないと思うんすけどね。」

 

 デンジ君は真剣に考えながら私に相談する。大切なポチタと夢の中で再会しようとしたら、なぜか扉を開けるなと止められたのだ。デンジ君としてもちょっと不安なのだろう。

 

 「……………………………。扉の向こうにポチタがいて、ポチタは扉を開けちゃダメって言ってるのか……。

 もしかしてポチタにもデンジ君に見せたくない何かがあるんじゃないかな?それで開けないでって頼んでるとか」

 

 私は本当は扉の向こうに何があるのが知っている。ポチタが開けて欲しくない理由も。だけど私はそこには触れずに、あえてぼかして話した。

 

 「何かって……なんすか?」

 

 「そりゃ秘密とかじゃない?ポチタにも多分知られたくない事とかあるんだと思うよ。

 私だって、知られたくない事とかあるしね。」

 

 「マキマさんにも秘密とかあるんすか?意外っすね。どんな秘密なんすか?」

 

 ……私は姫パイと話したことを思い出し、覚悟を決めた。

 

 「すごい秘密だよ……この秘密を話したのは長い付き合いの姫パイくらいしか居ない。

 だから……話すとしたらデンジ君が私が最初に秘密を話す男の子になるね」

 

 「え?」

 

 少し間を置いて、私は秘密を打ち明けた。

 

 

 

 「実は私……人間じゃないんだ。パワーちゃんみたいな魔人ともちょっとちがう。

 正真正銘の悪魔なんだ。」

 

 「………何で俺にその話をしてくれんすか?」

 

 「デンジ君が好きだからかな……私にとって、デンジ君は大切な存在なんだよ。

 過ごした時間は短いけどね。」

 

 私は赤信号で止まっている車内で、デンジ君に向けてとびきりの笑顔で言った。

 

 「だからデンジ君も安心して。私がデンジ君を大切に思っているように、ポチタも変わらず君のことを大切に思っているはずだから。

 この短い間で色んな人への感じ方が変わったかもしれない、でもどれだけのことがあっても変わらない思いはあるんだよ。君が今もポチタを大切に想い続けているようにね。」

 

 「マキマさん……。」

 

 デンジ君が私を見つめて言う。私は青に変わったことを確認してアクセルを踏みながら尋ねる。

 

 「ねぇ、デンジ君。私が悪魔だって聞いて、私のこと嫌いになった?」

 

 「う〜ん。いや?マキマさんみたいな超可愛い悪魔なら大歓迎っす!」

 

 「そっか……ありがとね、デンジ君。」

 

 私はデンジくんにお礼を言い、その後家まで送ったのだった。



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レゼ編
32話 ジェーンと雨の中出会った


 

 

 

 

 「勉強ぉ〜〜〜!??一体何のために?」

 

デートの翌日、私は早川家を訪れていた、その理由はデンジ君に勉強をしてもらうためだ。

 そのために私がデンジ君にストレートに『勉強をしよう』と言ったのだが、それを聞いたデンジ君は露骨に嫌そうな顔をしている。

 

 「そりゃ学校に通えるようになるためだよ!みんなデンジ君の年頃の子とかは、学校に通ってるよね?

 でもデンジ君の年齢的に通えるのは高校だからね……高校は義務教育じゃないし、ある程度勉強出来なくちゃいけない。

 だから今のうちに勉強しておいて、高校の勉強に置いていかれない程度の学力をつけておこうって考えたんだよ!

 将来のことを考えたら絶対に通うべきだしね!」

 

 私が返答すると、同席していたアキ君が不思議そうに尋ねた。

 

 「でもマキマさん、そんなことしても本当にコイツ学校に通えるんですか?

 コイツは武器人間ですよ?上が許可しますか?」

 

 「ふっふっふっ!心配しなくていいよ!

 何と今回の作戦でデンジ君の活躍が認められてね。それでデンジ君が将来的に自由に学校に行ける算段が大雑把にだけどついたんだよ。

 だから早め早めに入学に備えていろいろ準備しておこうと思ってね!」

 

 「別に俺は心配してないです」

 

 私の説明に対してアキ君はサラッと言う。

 まぁ、デンジ君の活躍が認められた以外にも私と親しい人が今回の作戦で出世したりとか、他にも色々あるんだけど……。

 

 「えー。学校行くって、俺マキマさんと会えなくなるんすか?」

 

 「そんなことないよ。多分デンジ君が学校行く頃には私も有給とか使って休めるようになるだろうしね。」

 

 「でも公安の仕事の合間に勉強すんのめんどくせぇなぁ……。」

 

 あー、そうだよね。公安の仕事しながら勉強すんのは割とハードだよね、うん。でもその件については解決済みだ。

 

 「大丈夫!上に掛け合って勉強の方も公務の一部として扱ってもらう予定だから!

 デンジ君は書類仕事とかは基本少なめだった分、デビルハントで補ってたけど、その時間を割けば休みの時間とかは変わらないよ。」

 

 「マジで!?それなら頑張れるかも……マキマさんマジありがとうございます!」

 

 「それって俺たちの仕事増えません?」

 

 アキ君はジト目で私を見つめる。

 

 「それに関してはもうすぐ地方公安の人が辞めちゃった人の代わりに来るから、一人当たりの負担は変わらない計算だし。むしろ人手が増える分、仕事量は減るはずだよ」

 

 「どこにそんな人手が?」

 

 「ビッグブラザー作戦で、東京だけじゃなくて、地方のヤクザ達も一斉に捕まったからね。

 犯罪組織とかを警戒しなくてよくなったから、うちに来てもらえることになったんだ。

 多分歓迎会とかもする筈だから楽しみにしててね!」

 

 飲み会という話を聞き、アキ君は姫パイの酒癖の悪さを思い出して、ちょっと憂鬱そうだ。

 

 「よーわかんねぇけど、勉強してるのもその分仕事と扱われっから、休みはへらねぇってことすよね?」

 

 「デンジ君正解!」

 

 「それなら一択だ!学校行って普通の暮らしすんのが夢だったかんな、俺勉強しますよ!」

 

 「おー!その調子だよデンジ君!」

 

 思っていたよりデンジ君は乗り気になってくれた。2部は学園編と噂されていたし、勉強ついていけなくてデンジ君が困るのを防げる算段が多少ついたぞ!

 

 まぁ、デンジ君に学校へ行く準備のために勉強してもらう理由は他にもある。それはデンジ君と同じ武器人間、レゼちゃん対策だ。

 レゼちゃんは原作のレゼ編で登場した刺客だ。レゼちゃんはデンジ君にハニートラップを仕掛けて仲良くなった後、デンジ君の心臓を奪うために戦いを仕掛けるのだ。

 そして戦いの末にレゼちゃんは敗北し、デンジ君と公安から逃げようと誘われ、その誘いに乗ろうとしたところを……原作の真マキマさんに殺されるのだ。いや私はしないよ!?私は真マキマさんじゃないし!

 

 まぁ、真マキマさん云々は一旦置いといて……。レゼちゃんはその殺される時に、『私も学校行ったことなかったの』と発言しているのだ。その発言の前にもろくに学校に行けず、デビルハンターとして働かせられてるデンジ君の境遇について、そんなのおかしいと指摘していた。

 そして極めつきにはレゼ編のラストで、レゼちゃんがソ連によって人体実験をされて国家のために尽くす兵士として酷い環境で育ったことが示唆されるのだ。

 

 そんな環境で育ったのならば、デンジ君の状況に対して同情し、そんな環境に放り込んでいる公安に対して警戒するのは当然だ。

 だからデンジ君の環境を変え、真っ当な生活を送れるようにして、レゼちゃんの警戒を解き仲間にする!それが私の目的だ……目的だったんだけど……。

 さっきようやく勉強云々の話をしたように、まだまだその道のりは遠い。公安退職後を見据えた福利厚生支援の一環に、就学の為の勉強を公務として受けさせることが認められた程度だ。

 ……これだけでレゼちゃんを説得するのは正直厳しいよね。

 

 でも私としては早川家のみんなが仲良くしてるのを見たいように、デンジ君とレゼちゃんが仲良く過ごしてる光景も見たいのだ。いや普通に強すぎる恋のライバルが増えるから困るけども……。

 ……まぁ、デンジ君が私じゃなくてレゼちゃんを選んだなら大人しく身を頑張ってひこう。うん。……うん。いや、まだレゼちゃんを味方に出来ると決まったわけでもないし、デンジ君とレゼちゃんが付き合ったわけでもない。ネガティブなことを考えるのはやめておこう。

 ……それはそれとしてレゼちゃんどうしようか。一つレゼちゃんを仲間に引き込む作戦を考えてはいるが……。

 

 私はデンジ君に尋ねることにした。

 

 「そうだデンジ君。最後に聞いときたいことがあるんだけどさ?

 滅茶苦茶痛くて苦しい思いをするけど美人さんと仲良く出来るのと、平穏だけど美人さんとは仲良くなれないの。

 デンジ君はどっちが好み?」

 

 私はデンジ君に尋ねた。

 

 「え?……最初のやつです!おれ痛くても苦しくてもマキマさんの為ならなんでもしますよ!」

 

 「うーん。別に私の為に何かするんじゃないんだけどね。そっか、デンジ君ありがとうね!

 それじゃあ後で勉強を教えてくれる人が来るから、その人とちゃんと仲良くしてね〜!」

 

 「え?マキマさんが教えてくれるんじゃないのぉ〜〜!?そんなぁ〜〜〜!」

 

 ごめんねデンジ君、私もデンジ君と勉強したいけどレゼちゃん対策とかパワーちゃんの血抜きとか、銃の悪魔対策とか色々とやらなくちゃいけない仕事があるんだ。

 私は後ろ髪を引かれる思いで、早川家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  デンジは上機嫌で街中を歩いていた。最近デンジにとって、ここのところいいこと続きのため、浮かれていたのだ。

 思えば転機となったのはマキマさんと出会ってからだろうと、デンジは思い返す。

 ポチタと一つになった後マキマと出会い、ド底辺の環境から、三食まともに飯が食える環境になった。

 そのあと早川アキやパワーと出会い、同居するようになった。最初は仲良くなれないと思ったが最近は上手くやれてる。

 他にも特異課の同じ班であり同期である荒井の誘いで多少、他のメンバーと交流もできた。

 

 そして仕事の内容も少し変わった。今まで他の奴らが書類整理とかやってる時、デンジは手伝ってもらわないと書けないからという理由でその分の時間を悪魔討伐に使っていた。

 だがその分の時間を今は学校に通う為の勉強に使っている、つまりその分戦いで痛い目に遭わなくて済むということだ。変身するだけでとても痛いデンジからすれば、戦う仕事が減るのはありがたい話だった。 

 

 ……その勉強を教えてくれるのがマキマであれば、デンジとしても文句はなかったのだが。

 

 「マキマさんって……やっぱり俺のこと色々考えてくれてんのかな。」

 

 デンジは歩きながらマキマのことを考える。

 別にデンジはなんとなく学校に行きたいという思いはあったが、別に今の暮らしのままでも問題ないと考えていた。

 だがマキマはデンジの将来のためと言い、学校の入学に向けて、わざわざ教育を受ける時間を設けてくれた。

 デンジは将来という先のことなど特に考えずに生きていた、それは今までがヤクザに管理されたその日暮らしだったのも大きい。

 だからこそ、自分のことを考えてくれていると思うとデンジとしては嬉しい気分になるのだ。

 

 マキマはデートの時も色々考えて、楽しい時間をくれた。それに自分が悪魔という秘密も打ち明けてくれたのだ。

 さりげなく早川アキに探ってみたが、アキもそのことは知らないようだった。

 

 「もしかして……マキマさんって、俺がマキマさんのこと好きなのと同じぐらい俺のこと好きなのかも!

 目を閉じるだけでマキマさんの顔が浮かぶぜ……。俺の心はもうマキマさんだけのものだぜ!」

 

 デンジはそう決意するとスキップしながら街中を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (どうしよう……俺は俺のことが好きな人が好きだ。マキマさん助けて、俺この娘好きになっちまう!)

 

 そしてその決意は早くも揺れていた。

 

  「デンジ君苦いの我慢してるのバレバレだよ、口では強がっても表情に出てるし。

 マスター!砂糖とガムシロ、プリーズ!」

 

 「もぉ〜、自分で取りに来てよレゼちゃん。ま、私もどうせならコーヒーは美味しく飲んでほしいからね。

 デンジ君、はいどうぞ。」

 

 「店長ありがとうー。というわけで砂糖とガムシロ投入!」

 

 レゼは店長から受け取った砂糖とガムシロップをドバドバとコーヒーに入れて掻き混ぜる。

 

 「はいどうぞデンジ君」

 

 「ん……おお、うめぇ!」

 

 先ほどと違い甘くなったコーヒーを飲んで、デンジは先ほどとは対照的な笑顔を浮かべた。

 

 「ふふっ。私の特製コーヒー、気に入ってくれた?」

 

 レゼはとびっきりの笑顔でデンジに微笑みながら尋ねた。

 

 「特製って……砂糖とガムシロ以外作ったのレゼちゃんじゃなくて私なんだけどな。」

 

 そんな二人のイチャイチャ姿を見ながら店長は小声で漏らしたのだった。

 



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間話その5 偽マキマ版チェンソーマン世界の掲示板33

 

 

70:悪魔な名無し 2019/9/12 5:02:52 ID:NPTVZAuB67

新ヒロイン登場……すごい展開になったな

 

 

71:悪魔な名無し 2019/9/12 5:07:07 ID:IKIMt5wJYh

ヒロインレースでマキマ一人が爆走してたと思ったら、ものすごい勢いで知らん女が猛追してきた

 

72:悪魔な名無し 2019/9/12 5:11:08 ID:OpVoLghBd4

レゼちゃん可愛い!

 

73:悪魔な名無し 2019/9/12 5:15:01 ID:yitA6VV4Ul

マキマさんは可愛いけどレゼちゃんも可愛いよね

マキマさんと違って裏がなさそうで安心できる。

 

 

74:悪魔な名無し 2019/9/12 5:19:20 ID:NAQmgzHzLQ

でもレゼちゃんが敵の可能性もまだ残ってるぞ!

 

75:悪魔な名無し 2019/9/12 5:23:08 ID:zPitDMl2V6

敵じゃなくても野良悪魔に殺される展開とかありそうで怖い

 

76:悪魔な名無し 2019/9/12 5:26:56 ID:5uxYlPcrGM

マキマさんが普通に人間にしか見えないのに悪魔だったように、レゼちゃんも実は悪魔で敵とかありそう。

 

77:悪魔な名無し 2019/9/12 5:31:56 ID:gQ0acRrVSU

マキマさんが自分から悪魔であること暴露したのはビビった。

どのタイミングでバレんだろうと思ってたらまさかのカミングアウトよ。

 

78:悪魔な名無し 2019/9/12 5:37:30 ID:wDgKTmV1Oq

マキマさんめっちゃデート楽しそうだったし、普通にデンジ君のこと好きだよね。

 

79:悪魔な名無し 2019/9/12 5:40:52 ID:Mzm05YyOhL

好きは好きでも異性としてよりは息子として好きみたいな感じじゃない?

恋愛感情とかじゃなくて母性からデンジに優しくしてそう。

 

80:悪魔な名無し 2019/9/12 5:45:40 ID:MnnFWWi0Y0

勉強させて将来に備えさせてるところとか完全に母親だもんね。

 

81:悪魔な名無し 2019/9/12 5:50:14 ID:FJjtBG8v1F

マキマ 母親

パワー 妹

姫野  義姉

レゼ  嫁

こうだな

 

82:悪魔な名無し 2019/9/12 5:54:46 ID:Wdk0wJuqL0

コベニは?

 

83:悪魔な名無し 2019/9/12 5:58:00 ID:maCHLHOaCl

コベニは荒井のヒロインだからデンジとは無関係や

 

84:悪魔な名無し 2019/9/12 6:02:36 ID:o4kRCJ6elT

当然の如くアキが兄扱いされてて草

しかしマキマと姫野……想像の数倍くらい仲よかった。

マキマが悪魔であるという情報を自分から明かされるって姫パイ何もんだよ!?

 

85:悪魔な名無し 2019/9/12 6:05:39 ID:86RJ13Untl

姫パイはなんやかんやでマキマと3年以上の付き合いがあるからな

逆に数ヶ月で秘密暴露されたデンジの仲良くなり方が異常

 

86:悪魔な名無し 2019/9/12 6:10:37 ID:mcJPr0Xssp

まぁ言われてみればデンジ君のマキマさんと仲良くなるペースはやばい

 

87:悪魔な名無し 2019/9/12 6:13:58 ID:fmEr3ngUg8

マキマが悪魔であるという秘密を暴露したのは

デンジ

姫野

岸辺

スバル

こんなもん?

 

88:悪魔な名無し 2019/9/12 6:18:42 ID:U3bCDKS8O4

岸辺は多分マキマさんじゃなくて国経由で情報を仕入れたんだと思う

スバルは勝手に岸辺がバラした

 

89:悪魔な名無し 2019/9/12 6:23:38 ID:Pfz7QvpAvY

個人情報ばら撒きおじさん!

マキマさんの個人情報ばら撒きおじさんじゃないか岸辺先生!

 

90:悪魔な名無し 2019/9/12 6:28:12 ID:4P0xC7zHoi

岸辺「悪魔だからセーフ」

 

91:悪魔な名無し 2019/9/12 6:32:47 ID:g342uwtfgy

情報といえば、マキマさんもう銃の力使えること全然隠してないな

遊園地で普通に銃の力使ってケンゾウをビビらせてたし

 

92:悪魔な名無し 2019/9/12 6:37:38 ID:Ym5NWfsoKk

ケンゾウって誰?

 

93:悪魔な名無し 2019/9/12 6:42:57 ID:9UE0dfT10g

遊園地にいた民間デビルハンター

あいつ実は2度目の登場である

 

94:悪魔な名無し 2019/9/12 6:47:59 ID:XcT5O5uzNc

マジで!?最初どこで出たっけ……

 

95:悪魔な名無し 2019/9/12 6:52:05 ID:1l9ayMdx0T

ナマコの悪魔横取りされた人だよ

 

96:悪魔な名無し 2019/9/12 6:56:52 ID:GoxrXhniIi

マキマさんの能力……結局なんなんだろう。

銃の悪魔の力が使えるのは銃の肉片食べたからっぽいけど

 

97:悪魔な名無し 2019/9/12 7:01:27 ID:ftsYItqYQh

マキマ「食べてません(自己申告)」

 

 

98:悪魔な名無し 2019/9/12 7:05:17 ID:UKt17D57Xz

マキマさんは膨大な量の肉片集めてるから、ちょろまかして少し食べてもバレないという事実

 

 

99:悪魔な名無し 2019/9/12 7:09:55 ID:lxoT3mcO0b

少し(11キログラム以上)

 

100:悪魔な名無し 2019/9/12 7:15:03 ID:hXc1z1z4iy

組長に勝てること考えればそうなるよね……

 

101:悪魔な名無し 2019/9/12 7:19:43 ID:3xkmgGdl4v

マキマさんが銃の悪魔だとしたら別にちょろまかしてないぞ!

 

102:悪魔な名無し 2019/9/12 7:24:50 ID:0rQwUdYXX8

銃の悪魔だったらそれはそれで嫌だな……

 

103:悪魔な名無し 2019/9/12 7:30:25 ID:58QuPCjXQX

銃の悪魔の正体がマキマさんだとして、なんで肉片ばら撒いたんだ?

 

104:悪魔な名無し 2019/9/12 7:35:16 ID:eUap1MpKeS

肉片を食べると食べた悪魔は強くなるって言われてるけど、実は逆に力を吸収されてる説

マキマは肉片をばら撒いて世界中の悪魔の力を吸収してさらに強くなってる。

筋肉の悪魔を洗脳できたのは肉片を埋め込んで、筋肉の悪魔を乗っ取ったから

 

105:悪魔な名無し 2019/9/12 7:38:46 ID:lmO4KvDwfh

ありそうで怖い……

 

106:悪魔な名無し 2019/9/12 7:43:09 ID:UQpkgjwzFN

でもマキマさん使い勝手がいいから銃の力多用してるだけで、本当の力は鎖の方っぽいよね。

 

107:悪魔な名無し 2019/9/12 7:48:42 ID:26NXtblr2R

鎖が真の能力だとして、なんの悪魔だろうか

やっぱり束縛とかそういう概念系かな?

 

108:悪魔な名無し 2019/9/12 7:53:19 ID:PjN5sHNCqY

多分マキマは鎖を連想させる概念系の悪魔っぽいよね

 

109:悪魔な名無し 2019/9/12 7:58:50 ID:qXPbS3RtgU

俺の中での最有力候補は独裁者の悪魔説

 

独裁者だからカリスマがあって人気のある見た目をしてる。独裁者だから他人の能力を使えるし、連想で鎖をメインウェポンにしてる。

極めつきは演説の時の作戦がビッグブラザーという独裁者の名前。

 

たぶんこれでしょ

 

110:悪魔な名無し 2019/9/12 8:03:13 ID:FK9hsOFVj5

マキマさんの正体も気になるけど、

マキマ『滅茶苦茶痛くて苦しい思いをするけど美人さんと仲良く出来るのと、平穏だけど美人さんとは仲良くなれないの』

これの真意が気になる

やっぱり美人はレゼ?

 

111:悪魔な名無し 2019/9/12 8:07:04 ID:04GfmoUNfU

美人はレゼだろうけど滅茶苦茶痛くて苦しいってなんだよ……

 

112:悪魔な名無し 2019/9/12 8:10:46 ID:FHcmBd42qh

多分悪魔に襲われたレゼを助けるとか?

 

113:悪魔な名無し 2019/9/12 8:14:06 ID:3ebdMCk3HZ

だとしたらレゼのヒロイン力が爆上がりするな

マキマさんが勝てねぇ!

 

114:悪魔な名無し 2019/9/12 8:18:05 ID:BYtdwCy6Je

何はともあれマキマさんはレゼとデンジの今後について何か知ってそう

未来の悪魔とか確保してるし

 

115:悪魔な名無し 2019/9/12 8:22:15 ID:CoJJpfiYyE

そういえばマキマさん「未来最高!未来最高!」って言ってたらしいな

 

116:悪魔な名無し 2019/9/12 8:26:58 ID:FDCGAdj1IZ

恥ずかしがりながら言ったのか、ノリノリで言ったのか……

どっちだろう

 

117:悪魔な名無し 2019/9/12 8:31:24 ID:K9sNU4T5d6

未来の悪魔ってよく考えたらチートじゃない?

 

118:悪魔な名無し 2019/9/12 8:36:20 ID:TcAmrY4jdI

なんで公安に未来さんは捕まってるんだろうか

 

119:悪魔な名無し 2019/9/12 8:41:21 ID:FqneBZJWgD

能力は強いけど戦闘は弱いとか

逆にそんなこと言ったらマキマさんが謎すぎるわ!

 

120:悪魔な名無し 2019/9/12 8:44:25 ID:Xps4CRRLCA

本当になんなんだろうな……

 

121:悪魔な名無し 2019/9/12 8:47:33 ID:OCgmsxuqg8

もう実力的に公安逃げ出すこととか出来そうだけど、契約絡みかね?

 

122:悪魔な名無し 2019/9/12 8:53:11 ID:qYA8UPGQ6A

契約とか抜きに情が移ってるとかありそう

 

123:悪魔な名無し 2019/9/12 8:57:39 ID:RXBk5iOvzM

警察の悪魔だからノリノリで公安職員やってる

 

124:悪魔な名無し 2019/9/12 9:03:08 ID:lDftNgYt3a

そういえば警察の悪魔説あったな

人類への無害さ考えると割と可能性高いのかな?

 

125:悪魔な名無し 2019/9/12 9:06:22 ID:wjNH9uffar

暴力「俺も無害なんだけど……」

 

126:悪魔な名無し 2019/9/12 9:09:57 ID:gwTjtq4wCU

お前絶対裏切るつもりやろ

知ってんねんぞ

 

127:悪魔な名無し 2019/9/12 9:15:39 ID:tsFnL9I9Vr

暴力が裏切るに孫の金玉を賭ける

 



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33話 昼休憩

 

 

 東京都内の公園にて、早川アキはタバコ休憩を終えた。そしてその吸い殻とタバコの空箱を捨てて、椅子に座りながらソフトクリームを食べる天使の悪魔を一瞥して言った。

 

「休憩は終わりだ、それを食い終わったらパトロールに行くぞ。」

 

 「ええ〜。早くない?パトロール再開するなら、君もこのアイス食べてからにしてみれば?美味しいよ?」

 

 天使はすぐ隣のアイスクリーム屋台を指差しながら、アキに勧めた。

 

 「銃の悪魔の場所や外国との関係、その他諸々の情報が揃った。

 それでもうすぐ銃の悪魔の討伐の遠征がある。それに参加する為に俺はもっと悪魔を倒した実績が欲しいんだ、バディになったなら協力してくれ。」

 

 それを聞いて天使は軽くため息をつきながら言った。

 

 「わかったよ、全く真面目なんだから……。あと3分だけ待ってよ、それだけあればちゃんと食べ切るから。あむっ。」

 

 そう言うと天使はソフトクリームを食べ切り、アキと共にパトロールに戻った。

 

 パワーと違い素直に言うことを聞き、協力的な天使の悪魔。アキは内心で戸惑いつつも、共にパトロールを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「皆さん安心してください!もう大丈夫です!」

 

 天使は大声で周りに叫んだ。

 

 「悪魔は処理しました!皆さんは血や肉に触らないようお願いします!」

 

 続いてアキが周りの野次馬に大声で呼びかけて、注意を喚起する。

 

 「けほっ、けほっ……大声出したから喉が痛い……。あ、そこの人!近づかないでください!」

 

 天使の悪魔は喉を痛めながらも必死に声を出して、周りの野次馬に指示を出し続ける。

 

 「おい天使、こっち来い。怪我人だ」

 

 「……」

 

 アキに呼ばれた天使の目に映ったのは、重傷を負った民間のデビルハンターだった。

 悪魔に食われ下半身を失ったが、まだ微かに息がある。

 

 

 「……て……s……て」

 

 消えるようなか細い声で生存者のデビルハンターは呻く。

 

 「あ、ああ大丈夫だ!もうすぐ救急隊も来る!だから……」

 

 「テ……コ……ロ……シテ」

 

 「……………」

 

 だが生存者のデビルハンターは助けなど求めていなかった。ただ苦痛から逃れる為に自ら死を望んでいたのだ。

 

「天使、お前の力なら楽に殺せるだろ。死なせてやってくれ。」

 

 「……………」

 

 「天使?」

 

 黙りこくる天使の悪魔に対して、アキは声をかける。

 

 「嫌に決まってるだろ……死ぬなら僕の目の届かない場所にしろ!」

 

 そう言うと天使は自らの右腕に巻かれたチェーンのブレスレットを解き、瀕死のデビルハンターに巻き付けた。

 

 「天使……一体何を?」

 

 「マキマの力を使う……。マキマは永遠の悪魔の力を使えるから、この鎖を通して間接的に永遠の悪魔の力を僕も使えるんだ。

 効率は悪いけど命に別状がないところまで回復させることはできるはずだ。」

 

 天使の悪魔が言った通りに、民間デビルハンターの傷はゆっくりと、だが徐々に徐々に癒えていった。

 

 「あ、今の僕には触れないでね。普段はマキマの力が僕を抑えてるけど、今はこいつを救うのにその力を使ってるから。

 だから触れたら寿命を吸われるからね。」

 

 「ああ、わかった。だが殺してやった方がそいつも楽なんじゃないか?すごい苦しそうだぞ?」

 

 「……そう思うなら君が殺してやりなよ、僕はごめんだ。

 罪のない人を殺した手で、みんなに触れる気になんて僕にはなれないよ。」

 

 「……そうか。それじゃあ俺は救急隊を呼んでくる。

 ……そいつを救い終わったあと、パトロールはどうする?マキマの鎖なしでもお前はやれるか?」

 

 アキの問いに天使は答える。

 

 「うん、一応できるよ。マキマと会う前はずっと鎖なしでやってたからね。」

 

 アキはその答えを聞くと、救急隊を呼ぶ為に電話を借りにいったのだった。

 先ほど天使と話した時に得た、デンジが殺したはずの永遠の悪魔の力をマキマが使える……という重要な情報を心に刻みながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デンジは悩んでいた。デンジは自分がマキマに惚れていると自覚していたし、そのマキマも自分に対して明確な好意を向けてくれていることを認識していた。

 それでも……それでも心が揺らぐのだ。もっとレゼと話したい、もっとレゼと会いたい、そう思ってしまい、もう6日連続でレゼの店に来てしまっている。まるでマキマを裏切っているような感覚に陥っていた。

 そして今日も……今日もまた、レゼの店に来ていた。

 

 「だけど、今日はいつもと違うぜ!」

 

 そしてデンジは勢いよく店の扉を開けて中に入った。

 

 「あ、デンジ君いらっしゃーい!あれ?今日は一人じゃないの?」

 

 「わぁ……なかなか雰囲気のいいお店ですね!」

 

 「どんな店を紹介されるのかと戦々恐々としていたが……案外普通の店だった。すまん、デンジ。」

 

 デンジは店に一人で来たのではなく、同僚であるコベニと荒井を連れてきていたのだ。

 

 (一人で飯を1週間連続で食いに来てるのは流石に変だ……。まるでレゼと密会してる感じになっちまう。

 でも一人じゃねえなら問題ねぇ!3人で行けば浮気になんねぇだろ!どうだ!)

 

 デンジは独特な考えで、自分がレゼの店を訪れることを正当化していた。

 もっとも、デンジはマキマとは付き合っておらず、レゼと会おうがなんの問題もないのだが……。

 

 「客が多い方がレゼも給料増えんだろ?コイツらは前話した同期のコベニと荒井だ。」

 

 「初めまして、レゼでーす!」

 

 「は、はい!」

 

 「……どうも」

 

 テンション高く挨拶をするレゼに対して、コベニと荒井は応対した。

 

 

 

 

 

 

 

 「しっかしデンジ君よく来るねぇ、友達まで連れて来ちゃって。1週間も連続で来るほど美味しくないでしょココ」

 

 「1週間も!?」

 

 「ず、随分と気に入ってるんだなデンジは」

 

 1週間連続で来ているという話を聞き、驚くコベニと荒井。

 

 「それでデンジ、ここの店のおすすめはなんなんだ?」

 

 「ん?全部うめぇよ?カレーもチャーハンもアイスも。

 あ、マスター。俺の注文はさっきの三つで。」

 

 「そうか、じゃあ俺はチャーハン大盛り一つで。」

 

 「あ、私はカレーライスでお願いします……」

 

 

 そして注文を終えた後、レゼは声をかけた。

 

 「いやー、キミたちがデンジ君のお友達かぁ。話はいろいろ聞いてるよ。デンジ君って普段どんなことしてるの?」

 

 「おいレゼ、お前勉強中だろ。俺たちと駄弁ってていいのかよ?」

 

 「そういうキミは学校に行ってないだろ〜?そっちの方がヤバイと思いますけど。」

 

 「言われてみれば……デンジはまだ16歳だったな……。」

 

 「デンジ君……。」

 

 16歳で同期の中で一番若いデンジが、義務教育すら受けられずにこの公安デビルハンターという職についている。

 その事実を思い出した荒井とコベニの間で暗い空気が流れた。

 しかしデンジは気にすることなく、朗らかに言った。

 

 「へ!残念だったなレゼ!まだ行ってねぇだけでこれから行くんだよ!

 そのための勉強も公安の仕事のうちに入ってんだぜ!」

 

 「……え?」

 

 その言葉を聞き、レゼは驚いたような顔をする。

 

 「そういえばそうだったな、デンジはマキマさんの計らいで勉強の時間があるんだったな。」

 

 「勉強できるって凄くいいことですからね。……私と家族の学費とか、マキマさん出してくれないかなぁ」

 

 「ねぇ……それってほんと?勉強ってどんな感じなの?」

 

 レゼはデンジの勉強について興味を示して尋ねた。

 

 「どんなって……普通のだと思うぜ?国語とか算数とか、あと英語とか社会もやらされてんな。

 そんなかじゃあ、やっぱ算数が一番得意だな!金の計算とかでいろいろ頭使ってたし慣れてっからよぉ。逆に英語はさっぱりだ。」

 

 「へー、そうなんだぁ……。じゃあこれは読める?」

 

 そういうとレゼは自分のノートに金玉と書いた。

 

 「ちょ!」

 

 「え!?え?え!??」

 

 「キンタマ!へへ、この文字だけは勉強する前から知ってたぜ!

 しかも俺もっとすげぇの書けるぜ!」

 

 そう言うとデンジはゆっくりと時間をかけて睾丸と書いた。

 

 「ハハハ!こうがん!デンジ君凄いね!」

 

 「うう……なんでご飯食べにきてこんなの見せられなきゃいけないの……。」

 

 「二人とも!もっと恥じらいを持ってくれ!」

 

 「いいじゃねえか荒井。真面目に勉強してんだからよぉ。しかしやっぱレゼと話してると楽しいなぁ。

 もし学校行くならレゼと同じとこがいいかな……。楽しそうだし。」

 

 そうデンジが呟くと、レゼはデンジを見つめて微笑んだ後、耳打ちして言った。

 

 「ふうん、そっかあ。じゃあ一足先に行っちゃいますか?学校?」

 

 「……え?」

 

 デンジはレゼを見つめ直した後、静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「デンジ君たちなんの話を?」

 

 「はい!カレーライスお待たせ!」

 

 「ああ!いいタイミングだ!さぁコベニちゃんお昼にしようか。デンジたちはなんか大事な秘密の話があるみたいだしな、うん。」

 

 「今日は特別サービスだよ、特別にタダでお代わりしていいからね!」

 

 「え、本当ですか!?うわぁ!ありがとうございます!」

 

 そんな二人の密談をデートの約束と捉えた荒井とマスターは、気を遣いコベニの意識を逸らすことに精を出したのだった……。



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34話 下準備

 

 

 

 私は公安が保有する悪魔収容施設を訪れていた。

 その理由は血抜きをおこなっているパワーちゃんの様子を見るためだ。そして私はその血抜きをおこなっている姫パイに、パワーちゃんの調子を尋ねることにした。

 

 「姫パイ姫パイ!パワーちゃんの調子はどう?」

 

 「おー!マキちゃん!パワーちゃんの調教の方は順調だよ。

 最初にあった時みたいに、ゴーストの力で反抗的な態度とったら私が見えないところから脅かして、ゆうこと聞かせてる感じ。」

 

 「ちょ、調教って……言い方ぁ!」

 

 姫パイは幽霊の悪魔と契約したことで、ゴーストの力を使える。それを利用して、怖がりなパワーちゃんをびびらせて、言うことを聞かせているのだ。

 無論、パワーちゃんは姫パイの力を知っている。ていうか最初に捕まえた時も姫パイにはパワーちゃんの躾を頼んだりしてた。

 だけど姫パイの姿を見せなければ、案外姫パイがやったと気付かずに普通に怪異現象が起きたと思い、パワーちゃんは怖がり素直になっていた。

 

 「姫パイありがとね、パワーちゃんの躾に協力してくれて。

 力づくで押さえつけるのは流石に気が引けるし、適任が姫パイくらいしかいなくて……。」

 

 「いいよマキちゃん。私イタズラ大好きだし、やってて楽しいから。

 パワーちゃんって不意打ちで耳を小指でくすぐるとすっごい面白い反応するんだよ、見る?」

 

 パワーちゃんの調教に、姫パイのワルなところが、存分に発揮されているようだ。

 姫パイもそんなに苦に感じていなくてよかった。逆にパワーちゃんは苦に感じまくってるけど。

 

 「ところでアキ君の臨時のバディなんだけどさ……。どう?エンジェル君とは上手くやれてる?」

 

 「うん!なんだかんだでエンジェル君はまともな悪魔だからね。パワーちゃんとの比較も相まって、特に問題もなく過ごせてるよ。」

 

 私はアキ君がエンジェルと問題なく過ごせていることを姫パイに伝えた。

 姫パイにパワーちゃんの血抜きの手伝いをして持っている間、その分アキ君のバディが欠けることになる。そこを武器作りが主任務で、組む相手が基本いないエンジェル君に白羽の矢が立ったのだ。

 

 「悪魔嫌いのアキ君がねぇ……だいぶ変わったよね。

 この調子ならアキ君にも悪魔であること言えちゃうんじゃないの?

 そう言えばデンジ君とは進展あったの?」

 

 「デンジ君とはデートでいい感じになったよ!それと私が悪魔であることも話したよ、デンジ君も否定せずに受け入れてくれたんだぁ!」

 

 話がデンジ君関連に移り、私のテンションは露骨に上がった。

 

 「おー!よかったじゃん!てか自分でけしかけておいてなんだけど、打ち明けるの早いねぇ!このまま付き合えそうじゃん!」

 

 「うーん。それが強力なライバルがいてさ……。その子が公安に入る予定があるから順調とも言えないんだよねぇ。」

 

 「ふーん、その娘デンジくん狙ってるの?新しく地方から来る人?」

 

 「ううん、ちがうよ。」

 

 「え?じゃ、じゃあ民間から移籍してくるの?」

 

 「ううん、私がスカウトする予定だけどデビルハンターとは違う感じの子」

 

 「……それって、どうしてスカウトすんの?」

 

 「その子とデンジ君がイチャつく姿が見たいから!あ、でも羨ましいから見たくない気持ちもある!」

 

 私の発言に対して、姫パイが目を細めて私をガン見する。

 

 「マキちゃん……あんた疲れてんの?」

 

 「疲れてるけどおかしくなったわけじゃないから!ただデンジ君好きな所とカプ厨の板挟みになってるだけだから大丈夫!」

 

 「全然大丈夫じゃないでしょ!自分からなんでライバル増やしてんの!?」

 

 姫パイが私の首元を掴んでガンガン振る。

 

 「ふ、ふぇえ!だって、だってデンレゼのカップリング見て尊くなりたかったんだもん!いやデンジくん諦める気はさらさらないけど!それでもやりたいんだもん!」

 

 「よくわかんないけど、このおバカぁ!」

 

 その後私は、自分から恋のライバルを増やそうとしてることについて、姫パイから説教を喰らうハメになったのだった。

 ……よく考えれば当然すぎる!?姫パイ今までいっぱい恋の手伝いしてくれてたもんなぁ……。なのに当の本人が意味不明なことしてんだもん。そりゃキレる、うん。今私の恋路を案じてくれてるのが大半だろうけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「都知事、どうかご許可をお願いします。都民の安全と生命が知事のご決断にかかっているのです。」

 

 「うむぅ……。」

 

 姫パイと別れた後、私は都庁にて都知事と面会していた。

 

 「しかしだ……都民の行動の権利を一時的に君に譲渡する……だったか?そんな大それたことを許可するというのは……。」

 

 私の提案に対して、都知事は渋っていた、それはもう渋っていた。そりゃそうだ。

 私はレゼちゃんが暴れる時の対策として、効率的な避難が行えるよう、緊急時に都民の行動の権利を私に委ねて安全に避難させるという提案を行なっていた。

 ぶっちゃけこれができれば、私の予想だと市民の人的被害は0に抑えることができる。

 そうすれば、レゼを公安にスカウトする際の難易度が著しく下がる!誰かを殺した人と、誰も殺してない人をスカウトするのじゃ天と地ほどの違いがあるしね。それが公共機関なら尚更だ。

 

 

 「確かに難しい決断かもしれません、ですがこのままでは多くの被害が出てしまうのです!

 私を信頼してください!そうすれば必ず……被害を抑えて見せます!」

 

 私は力説する。

 

 「わかった……。君ほどのものがそういうのならそうなのだろう、餅は餅屋だ。マキマ君、君を信頼しよう。しかし台風の悪魔が再び現れるとはな。」

 

 「ありがとうございます。都知事、ですが……残念ながらこのお願いは今回だけの物とはできないかもしれません。」

 

 「……どういう事だね?」

 

 「今回の台風の悪魔は、単独ではなく人間と組んでいるという話があります。

 その人間が自発的に協力しているのか、あるいは脅迫されているのか……。それは分かりません。

 しかし、人間と悪魔が組むという事象。これは以前に起きた暴力団による公安一斉襲撃事件と非常に酷似しています。

 このことから、また類似した事件。それもこれから起こると予想されるものよりも遥かに大規模な事件が起こる可能性もあります。」

 

 私はこれから起こる事件の主犯をサラッと台風の悪魔に押し付けつつ、世界の刺客編の際に市民の行動権を確保するための布石を打った。

 

 「なるほど、市民のためだ。その時が来たら、君に一任しよう。」

 

 「ありがとうございます、都知事。全力で……市民への被害は抑えさせていただきます。」

 

 一度お願いを受け入れた後だと、次のお願いを受け入れるのは心理的に抵抗がある。そういう心理効果を見越して、今のうちに次の世界の刺客編のサンタクロース対策のために、許可を今のうちにとっておいた。

 これで人形が使えず、あたふたするサンタクロースがうまくいけば拝めるぞ!そうすれば被害がグッと減る!

 

 私は心の中でガッツポーズしながら部屋を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして都知事の部屋の前でタバコを吸いながら待っていた岸辺先生に、笑顔で吉報を届けた。

 

 「岸辺先生、許可取れました!これで人的被害は抑えられるはずです!

 多少の方便(嘘)は使いましたが、これで爆弾の武器人間をことの次第によっては公安で受け入れられますよね!」

 

 私の質問に対して、岸辺先生は無表情で私を暫く見つめた。

 

 「……先生?」

 

 「なぁ、マキマ。一つ、いやいくつか聞きたいことがあるんだが。」

 

 「は、はい。なんでしょう?」

 

 「さっきの都知事との会話についてなんだが。」

 

 どうやら岸辺先生は私と都知事の会話を聞いていたようだ。……壁薄いな!?

 

 「さっき都民の行動権云々とか言ってたな。それはどう活用するつもりだ?」

 

 「そりゃ勿論効率的な避難の為ですよ!岸辺先生にお話しした、爆弾の武器人間と台風の悪魔が現れた際、私が武器人間と悪魔の場所を確認しつつ、都民を動かして戦いに巻き込ませないようにする。

 そうすれば建物とかはともかく、人的被害は著しく抑えることができるはずです。」

 

 多分0にできるけど、万が一失敗した時の保険のために、控えめに言っておく。いやミスる気はないけどね。

 

 「そうか……ところで、だ。今回は行動権だったが、他の権利……例えば生存権、いやまどろっこしいのはやめだ。もし都知事が了承したら、お前は前言っていたように、自分のダメージを全ての都民に押し付けられるのか?

 それがお前の言っていた日本国民全員にダメージを肩代わりさせる方法か?」

 

 「え?ええ。そうですね。そんなことしませんけど。」

 

 「……はぁ。本当にそんなことしないでくれよ?」

 

 「しませんって!」

 

 岸辺先生がやけに私がダメージ押し付けをやるのを警戒してる。なんでだろう……と思ったけどあれか、原作の真マキマさんが同じことやって、岸辺先生も打つ手無しだったからか。

 岸辺先生ほどになると、私のような身近な悪魔相手でも、常に倒す手段考えてるんだろうなぁ。

 

 「ところで武器人間を仲間に引き入れるという話だが……。デンジの後釜にそいつを添えるつもりか?」

 

 岸辺先生がレゼちゃんについて尋ねる。

 

 「いえ、その娘についてもデンジくんと同じタイミングで、公安からフリーな状態になってもらう予定です。その娘が望めば公安での仕事の続投もあり得ますけど。」

 

 「じゃあそいつを引き入れて、なんのメリットがあるんだ?」

 

 来た!この質問!

 『なんでわざわざ武器人間を新しく引き入れるの?しかもデンジ君と同じタイミングで辞めるのに?』

 という正論しかない質問!

 だが、この質問対策のために色々と言い訳は考えてある!

 

 「そうですね。メリットとして、今後人間に友好的、協力的な悪魔や武器人間が公安でスカウトしやすくなるというものがあります。

 『公安で一定期間働いて、貢献すればそれに伴う報酬が貰える』

 そういう認識が広まれば、今後私や天使君みたいな友好的な悪魔が、大勢特異課などに自ら来る可能性があります。」

 

 「可能性……だろ?本当は何か別な理由があるんじゃないか?」

 

 ギクギク!さすが岸辺先生がすっるどーい!まぁ、さっきまでのは上のお偉いさんを説得するための理由だ。岸辺先生になら本音を言っても大丈夫でしょ。

 

 「本音は今回スカウトする、その武器人間の娘に幸せになってほしいからです。

 岸辺先生なら、そんな理由でも許してくれますよね?」

 

 私は微笑みながら岸辺先生に言った。



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35話 レゼのデートと……

 

 

 レゼは真夜中にデンジと学校を訪れていた。

 ……学校。それはデンジにとって憧れの場所であったが、レゼにとっても同様だった。

 

 「レゼ、この機械ってなんだ?」

 

 「ああ、それは黒板消し掃除機だよ。」

 

 レゼはそう言った後に、使ったこともない道具の説明をする。今日デンジに学校について説明した話は、どれも日本の女子高生という設定のために仕入れた知識だ。

 どれも実際に体験したわけではない。

 それでも楽しそうに話を聞くデンジと話していると、まるで自分が本当に学校に通ってるような、そんな夢のような気分になった。

 

 「やっぱり、俺どうせ通うなら、レゼと同じ学校がいいなぁ。

 しらねぇことはレゼが教えてくれるし、一緒にいると楽しいしよ。」

 

 「私もデンジ君がうちの学校に来てくれるならいいなあ。その時はよろしく」

 

 「そういえばレゼはよぉ、いつもバイトしてるけど遊んだりしないのか?」

 

 「うーん。今度の祭の日とか、休み取ろうと思ってるんだけどね。

 あー!一緒に祭りに行って奢ってくれる人居ないかなー!チラッ?チラチラ?」

 

 「ちょ、俺に奢らせる気かよぉ〜?」

 

 「あははは!冗談冗談!無理に奢らせる気なんてないよ。あ!奢ってくれるなら大歓迎ですよデンジ様!」

 

 「全く、調子いいなぁレゼは。」

 

 まるで同学年の友達同士でやるようなやり取り、これは全て演技のはずだった。しかし……レゼはデンジとのやりとりに、どこか暖かいものを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「デンジ君お待たせー!……て、またいつもの公安スーツ?変わらないねぇ。」

 

 「そういうレゼもいつもの服じゃねーかよ」

 

 「だってこの服着やすいんだもーん」

 

 祭の日、レゼとデンジは待ち合わせ通りの場所で出会い、ともに祭りを楽しむ事にした。

 

 祭りには様々な店があった。

 

 「私田舎出身でさ……。ほーんとうになんにもない田舎で。こんな祭りも初めてだから、上手くエスコートできないかも。」

 

 レゼは自分が祭りについて無知な理由として、以前から説明していた田舎出身という作り話を用いて説明した。

 

 「大丈夫大丈夫、俺だってはじめてだからよぉ。知らないもん同士、祭りをたのしもーぜ!」

 

 明るい笑顔でいうデンジ……嘘をついているという事実が、またレゼの心を傷つけた……。

 

 

 

 

 

 「うおー!あの綿飴とかめっちゃ量あるじゃんと思ったのに、もう無くなっちまったぁ!?」

 

 「詐欺じゃん!でも美味しかったから許す!」

 

 

 

 「チョコバナナうめぇぇぇぇ!おかわり!」

 

 「本当だ……こんなに美味しいお菓子はじめてかも……あむ!」

 

 

 「金魚すくいで全部とって、うめぇたい焼き作りまくるぞオラ!」

 

 「デンジ君、多分金魚すくってもたい焼きにはならないと思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、ついに運命の時間がやってきた。

 『レゼは夏休みで自由な時間がある女子高生』、という設定でデンジに接触を図った。

 もし夏休みが明けたら? 学校に席がないことがバレて怪しまれるのは必然。

 もう時間がないのだ。だが……デンジと過ごした時間はとても心地が良いもので、レゼの心を鈍らせるのには十分すぎるものだった。

 レゼはデンジを殺すのがいやで……成功率の低い、低すぎる説得で解決しようとした。

 

 その為にデンジを人目につかない離れた山の、マル秘スポットに連れて行ったのだった。

 

 「ねぇデンジ君」

 

 「ん?」

 

 「色々考えたんだけどさ、デンジ君の状況おかしいよ」

 

 昔の自分に対して、誰かに言って欲しかったセリフをそのまま言う。

 

 「16歳で学校にも行かせないで悪魔と殺し合わせるなんて……。

 そのうち学校に行けるようにするって言われてるらしいけど、それも本当だか分かんないし、信頼できないよ。デンジ君は本当にその言葉を信じてるの?」

 

 レゼはデンジの手を取り迫って言った。

 

 「仕事辞めて……私と一緒に逃げない?」

 

 

 「私がデンジ君を幸せにしてあげる、一生守ってあげる……お願い」

 

 デンジに対してレゼは多くの嘘をついた。だけどこの覚悟だけは……本物だった。

 

 

 「……わリィ、レゼ。おれ……この仕事続けてぇんだ。だから逃げるのは無理だ。」

 

 だがしかし、デンジは断った。

 

 「最近仕事が認められてきて、監視だって無くなったし。

 周りの奴らとも馴染んで来てよぉ……楽しくやれるようになってきたんだ。

 ここでこの仕事を続けながら、レゼと……会うんじゃダメなの?」

 

 そして……沈黙が場所を包んだ。

 

 「そっかわかった。デンジ君は私の他に好きな人がいるでしょ?」

 

 「え?」

 

 

 

 そして花火が打ち上げられたと同時にレゼはデンジにキスをして……デンジの舌を噛み切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「勝負有り!」

 

 「ぐうう……ご指導ありがとうございました!」

 

 「ありがとうございました。」

 

 公安対魔2課の訓練施設にて、早川アキは2課のデビルハンターと手合わせを行い、一方的な実力差で勝利していた。

 

 「アキぃ〜。わざわざ来てもらってすまないな。」

 

 「野茂さんの頼みは断れません。」

 

 「おおそうか?だったら2課に戻ってこい。他の特異課は血生臭い話もちょいちょい聞くしよ。

 順当にいけば5年後、俺が副隊長だ。そうなったら本気で誘うからな。」

 

 「ありがとうございます。それまでに俺が銃野郎を殺せて辞めてなければ、考えますよ。」

 

 「お前あの作戦で活躍したから、調子乗ってんなぁ?このこの〜!

 ところでそこの天使……だったか?お前も一戦手合わせしないか?」

 

 急に振られた天使はダルそうな顔で言った。

 

「ええ〜。バディが二人とも模擬戦でヘトヘトとかヤバいんで止めときます。」

 

 「天使安心しろ。俺は余裕だ」

 

 「だってよ!」

 

 「さっき手合わせした人に可哀想だと思わないのねぇ!?」

 

 「い、いえ。自分の実力不足は事実なんで……。」

 

 先ほどのデビルハンターが、申し訳なさそうにいう。

 

 「畜生!君ももっと頑張れよ!疲弊させろよ!」

 

 そんな愉快なやり取りを繰り広げていると、他の職員が訓練室に駆け込んできた。

 

 「早川さん!来てください!特異課の人が大変な事に!」

 

 その職員の声を聞いた早川と天使は、大急ぎで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そろそろか、緊張するなぁ……。また痛いんだろうなぁ。」

 

 公安の悪魔収容施設にて、私は緊張しながらその時が来るのを待っていた。

 そう、私が恐れながら待っているのは、対魔2課とレゼの戦闘で生じる、2課職員のダメージの肩代わりの瞬間だ。

 市民の被害を支配の力で防ぐことはできても、デンジ君が逃げるまでの間、2課の職員には戦ってもらう必要がある。

 

 だが相手は爆弾の武器人間であるレゼだ。当然やりあえばタダじゃ済まないだろうし、原作では強者たちがバンバン死んでいた。

 なのでこうして、前回のサムライソード達による特異課襲撃事件の時のように、ダメージを肩代わりする事にしたのだ。

 

 「そんなに嫌なら、最初からとっ捕まえておけば良かったんじゃないか?」

 

 私が待機する部屋に入ってきた岸辺先生が私の独り言を聞いたようで、それに答えながら近づく。

 

 「あ、岸辺先生。いえ、現段階だとレゼちゃんは特に問題を起こしてないので、この状態だと引き込むには弱いんですよ。

 それに問題を起こさせて、ソ連側にレゼちゃんを切り捨てさせる事で、こちらに安心して引き込めるようにする狙いもあります。

 私としては司法取引として、罪をチャラにして普通の生活を送れるようにする代わりに、公安に貢献するというストーリーで行きたいので。

 それとここで初手で潰してしまうと、デンジ君も2課も経験を積むことができないので……。」

 

 「デンジはともかく2課に経験を積ませる必要あるか?徒に苦しめて退職者出すだけだと思うが……。」

 

 岸辺先生は優しいから、2課の人たちが死なないとはいえ、戦闘で負傷するのが嫌なのだろう。 

 ちょいちょい岸辺先生の優しさが滲み出ている。やっぱり教え子は可愛いんだろうなぁ……。その優しさを私にもプリーズ。

 

「近いうちに銃の悪魔の討伐作戦がありますからね、どのような形になるか、まだ予想しかできていない状態です。しかし討伐作戦が長引いた際、その時は2課をはじめとする対魔課の皆さんには、不在となるだろう特異課の穴埋めをしてもらう必要がありますから。

 退職者が出たとしても、経験を積ませて質を上げるのは必要だと思います。」

 

 「銃の悪魔討伐ね……。銃の悪魔強奪とは言わないんだな。」

 

 岸辺先生はもう、銃の悪魔が米中ソの3カ国に分割して保有されていることを知っている。だからこんな言い方になるのだろう。

 だがしかし! 私は銃の悪魔を強奪で済ませる気はない!

 

 「ええ、しっかりと討伐するつもりです!政府としては是が非でも確保したいでしょうが、それでも米中ソが銃の悪魔を喪失して、銃の悪魔討伐国という名誉を得るだけでも十分満足します。

 そこを利用して、銃の悪魔を独断でぶっ殺して『確保するつもりだったが、難しくて討伐に切り変えた』と言い訳して済ませる予定です。

 銃の悪魔が生きているのは、公安として……いえ私としては許容出来ないです。やっぱり仲間のことを考えますとね。」

 

 「……そうか。まぁ、その判断は妥当だろう。銃の悪魔を生かしておきたくないのは、デビルハンターやってるやつなら納得できる。

 しかしマキマ、お前が政府に堂々と逆らう宣言するとはな。意外だったな。」

 

 あ、やばい!?もしかして岸辺先生キレてらっしゃる!?今まで岸辺先生が怖くて、必死に従順な悪魔ムーブしてたからなぁ。

 やばいかも……。てかガチでやばいかも!?

 

 「あ、あの、これは、その、逆らうとかそういうんじゃなくてぇ……その、その、ご、ごめんなさい!違うんです!違うんです!

 仕方ないじゃないですか!みんな銃の悪魔殺したがってるのに!殺したくてこの仕事続けてるのに!そんなみんなの期待を裏切って、銃の悪魔生かし続けますって、そんなのダメじゃないですか!そうですよね岸辺先生!?」

 

 私はパニックを起こしたコベニちゃん並みのどもりで、岸辺先生を必死に説得した。

 

 「そんなに慌てるな。銃の悪魔を殺すという判断や、お偉いさんに逆らう事に不満なわけじゃない。

 ただ珍しいと思っただけだ。今まで割と従順な悪魔のように振る舞ってたからな。」

 

 いつも無表情だった岸辺先生が、何故か少し笑顔を浮かべたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ!レゼちゃんがデンジ君とキスした!あああああああああ!

 おあああああああああ!今度はした噛み切ったァァァァ!

 あ!あ!あ!あ!うお!ビーム君ナイス!ナイスううう!

 

 ……あ、岸辺先生すいません。この後私は爆弾で吹っ飛ばされて大変な事になるので、退室していただいた方がいいと思います。」

 

 「……ああ。わかった、それじゃあ頑張れよ。」

 

 叫び出した私を、今度は可哀想なものを見る目で見つめた後、岸辺先生は静かに退出した。

 

 

 



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36話 オペレーション・ブレイヴニューワールド(素晴らしい新世界)

 

 「さてと、そろそろ福田さんには連絡入れておこう。隊長の古野さんは今別件で訓練所にいないし……。」

 

 私はこれからレゼと戦闘となり、そのときの指揮官となる2課の副隊長、福田さんに連絡を入れる事にし、部屋にある備え付けの電話を手に取った。

 

 「もしもし?対魔2課の福田さんですか?」

 

 「あー、その声はマキマさんかぁ。その様子だと、そろそろ来る感じですか?その武器人間ちゃんが。」

 

 「ええ、その通りです。そっちの方にアキ君がいますよね?

 彼と天使君がデンジ君を連れて逃げられるよう、時間を稼いでください。

 それと輸血パックを渡してデンジ君が回復できるように。」

 

 「わかりましたよマキマさん……。ところでご質問なのですけれど、時間稼ぎの時にうっかり倒しちゃっても大丈夫ですか?

 4課の武器人間君にも経験を積ませたいという事でしたが。」

 

 「おや?結構余裕そうですね?秘策があるんですか?」

 

 「うーん、日々の訓練。それが秘策ですかね?」

 

 電話の向こうから、福田さんの自信の溢れる声が聞こえた。

 

 「それは頼もしい。ただ気をつけてください、対魔2課のダメージは古野さんと都知事さんとの契約で肩代わりできます、しかし痛みまでは軽減できませんので。」

 

 「確か全部マキマさんに行くんでしたっけ?それでそのダメージは永遠の悪魔の力で再生すると……。マキマさん、やっぱりあなたはデビルハンターに向いてますね。

 それじゃあマキマさんになるべく負担が掛からないよう、なるべく傷つかないように倒しますよ。

 そうそう、例の録音した演説。武器人間との戦いが始まったら流させて貰いますからね。」

 

 「うーん。いいけどそんなに重要かな?演説?」

 

 このレゼちゃん確保作戦を決めて、古野隊長と福田副隊長さんに話を通した時、福田さんから演説をしてほしいと頼まれたのだ。

 演説をするタイミングがないと言ったのだけど、『タイミングがないなら、戦ってる最中にBGM代わりに流すから録音してくれ』とよくわからない頼みを受けたのだ。

 

 「そりゃ重要ですよ。あのマキマの考えた作戦で活躍した!その事実で士気も上がると思いますよ?それに合コンで自慢できますし。」

 

 「合コン……好きだね福田さん。2課ってそういうところありますよね。アキ君の古巣なのに……」

 

 「アキなんてその際たる例でしょ!年上の女作ったって聞いてますよ?」

 

 「あははは。そう言われるとそうかもね。……それじゃあ福田さん、頑張ってね?」

 

 「ええ、頑張りますよ」

 

 「それじゃあ、オペレーション・ブレイヴニューワールド。開始」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早川アキ達が2課の職員に呼び出されて下の階に降りた時、そこにはボロボロになったデンジとビームがいた。二人と話をしていると、一人の美少女が近づき、それと同時に訓練施設からアナウンスが流れた。

 

 「対魔2課全職員に告ぐ!こちらは副隊長の福田だ!現在、爆弾の武器人間が当施設に襲撃を試みている。歳若く可愛らしい女性の姿をしているが、爆弾の悪魔へと変身できる!十分に注意しろ!」

 

 そのアナウンスを聞いた野茂とアキは、目の前にいる美女。レゼを警戒した。

 

 「あーあ、この根回しの良さ……最初からバレてたわけか。性格悪っ。」

 

 「アキ、お仲間を連れて後ろに下がってろ。」

 

 「ありがとうございます、野茂さん。」

 

 「貸し1」

 

 アキは野茂にその場を任して、ビームとデンジ、天使を連れてその場を離れた。

 

 対峙するレゼと野茂。そしてアナウンスはそれに構わず言葉を続けた。

 

 「現在襲撃を仕掛けている武器人間は、前回特異課が戦闘をしたサムライソードを大きく上回る実力を持つことが想定される。

 全職員にはあらゆる悪魔、および銃火器類の使用を許可する。特異4課の武器人間、デンジを死ぬ気で守りきれ!

 なお、本作戦は事前から秘密裏に想定されていたものであり、諸君らの負う傷は悪魔の力で最終的に癒えるものである。臆することなく存分に戦って欲しい!」

 

 「事前に想定されていた……?傷が……癒える?わけわかんねぇな?」

 

 「この手際の良さ……あの女がガッツリ関わってるね」

 

 アナウンスの内容に野茂は理解が追いつかずに戸惑い、逆にレゼは何が起きているかを想定して毒を吐いた。

 

 「それでは最後に、本作戦の立案者のご演説をBGMに、仕事に取り掛かろうじゃないか。」

 

 そしてアナウンスは録音へと切り替わり、マキマの声が響いた。

 

 「あーなるほど。傷が癒えるって、マキマさんが肩代わりしてくれんのね……。こりゃあんまダメージ喰らうわけにはいかねえな……。

 ということでそこの美女ちゃん?俺は美人さんを傷つけたくないから、大人しく投降してくれるとありがたいんだが……。」

 

 それに対してレゼは無言で首のピンを抜いて、爆弾の悪魔へと変身することで、自らの意思を示した。

 

 「こりゃどう足掻いても美人を傷つける事になるか……。残念だ」

 

 「大丈夫、死ぬほど苦しむのはマキマ一人だからね!」

 

 そして、対魔2課と爆弾の武器人間、レゼとの戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みなさん、対魔2課に所属するみなさん。急にこの作戦に巻き込んでしまい申し訳ございません。

 ですが、この作戦は必要な作戦だったのです。」

 

 19:42

 野茂が部下達にカビの悪魔で戦わせている間も、演説が流れる。

 

 「この作戦の相手は不死身の武器人間です……。この戦いはこの2課が相手をした敵の中で……いえ、特異4課が相手をした敵でさえもこれ以上に単体で強力な存在はいないでしょう。

 断言します、今回の敵は私が相手をした暴力団の悪魔およびその契約者、そして同組織に所属したサムライソードをはるかに上回る実力の持ち主です。」

 

 19:45

 対魔2課のデビルハンター、加藤と田辺がレゼの攻撃により吹っ飛ばされる。

 

 「そうです、圧倒的な戦力差があります。

 2課に所属するものとして、最も厳しい戦いが待っているという事実、それを否定する気はありません。

 本来相手をするのに相応しいのは俺たちじゃない、特異課の連中だ。そのように思う方達もいるでしょう。確かに事実です。

 それでも2課の皆さんには戦って欲しい。なぜならこの場で彼女を食い止めることができるものは、貴方方を除いて居ないからです!」

 

 19:47

 対魔2課の安藤マサキをはじめとする、新人の2課職員達がレゼに対して発砲。銃弾を直撃させる。

 

 「この作戦は現在の2課の実力よりも、高度なものを求めています…‥それでも、この作戦を終えた時、2課は生まれ変わっているはずです。

 新生した対魔2課として、さらに強力に、偉大な存在へと成長します。」

 

 19:47

 レゼの反撃により、銃撃を行っていた新人職員達が危機に陥るが、直前のところで野茂の狐の召喚が間に合い、新人達は撤退に成功する。

 

 「生まれ変わった対魔2課が生きる世界、それは今までよりも遥かに頼もしく、安全な世界となるはずです!」

 

 19:52

 野茂が追い詰められ、やられるその直前。副隊長の召喚した狐がレゼを喰らい、狐が消えた後に刀で追い討ちを仕掛ける。

 

 「その世界は人と人が安心して愛し合え、共に二人でより良き人生を送り、愛する子ども達と笑い合える世界。

 その世界は悪魔に怯えず、夢に逃避する必要もなく、正気のままに過ごすことのできる世界。

 その世界は人々がその豊かさを享受して、より新しいことに挑戦して、さらに世界をよくできる世界。

 その世界は古き良き文化や遺産が壊されることなく受け継がれ、守られていく世界。」

 

 19:55

 福田副隊長と野茂が連携して戦い時間を稼ぐ。

 同時刻、アキと天使はデンジ達を車に乗せて、その場から脱出することに成功する。

 

 「そんな素晴らしい世界になるはずです。

 ……オペレーション・ブレイヴニューワールド。どうか……ご健闘を」

 

 19:59

 レゼはデンジを逃したことを悟り、デンジ達を追いかけようとするが2課が猛攻を加えて、デンジが回復するまでの時間稼ぎに成功する。

 

 

 

 

 

 20:08

 レゼ、デンジたちを追跡を開始する。

 同時刻対魔2課、一時的に壊滅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「あー、痛……。ガチで痛かった。ったく……副隊長さん。襲撃があるって知ってるなら教えてくれたっていいじゃないですか?」

 

 野茂はボロボロになった状態で、タバコに火をつけながら言う。

 マキマの能力で身体が再生されて死なないとはいえ、服は対象外のため、その戦闘の激しさが身体が治った後でも伺える。

 

 「わりーな。機密うんちゃらの関係で話しちゃいけなかったんだよ。……しっかし、派手にやられたなぁ。

 こんなに痛い思いをしたんだ、辞めちまう奴も出るだろうな。」

 

 「あー、そうですね。でも新人たちはそんなにダメージ食らってないんで、そいつらは案外残るかもしれませんよ?」

 

 「どうだろうなぁ?あのハイレベルの戦いを目撃して、日頃頼りにしてる副隊長である俺までこのザマだ。多分全員辞めてもおかしくないぜ?」

 

 「自分で頼れる副隊長を名乗るんですか?」

 

 「そんくらい自信家じゃなきゃ務まんねぇんだよ、野茂次期副隊長。そのことをしっかり覚えとけよ。

 それと合コンの件。忘れずにちゃーんと俺も連れてけ。」

 

 「へーい。……更衣室、無事だといいっすね。じゃないとこの格好で合コンはキツいでしょ?」

 

 マキマの力で生き残った野茂と福田副隊長は、お互いに軽口を叩きあった。




※読み飛ばしていただいても構いません。


 勝手に名前をつけさせていただいたキャラクター

 福田副隊長さん
 原作の該当人物 対魔2課の副隊長
 
 原作では名前が出ることなくやられてしまった、白髪で狐の悪魔と契約している2課の副隊長。
 
 本小説では事前に偽マキマさんからレゼについての連絡があり、狐の悪魔が武器人間を苦手としている情報もあったので、それを計算に入れて万全の対策ができ原作よりも良い戦果を残すことができた。

 名前の由来は副隊長なので、そこの副を元に福田。後から福田副隊長って読みにくいのでは?と反省。
 


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37話 クラカチットは作られず

 

 

 

 砂浜に波がうち、東から太陽が昇る。見事な夜明けだった。

 レゼはデンジとの戦いの後、敗北して死んだ……。しかし、デンジが血を分けたことで蘇ったのだ。

 

 「信じられない……どうして私を蘇らせたの?」

 

 レゼはデンジに尋ねる。

 

 「俺は素晴らしき日々を送ってる。何回もボコボコにされてひどい目にあって死んでも、次の日ウマイもん食えりゃそれで帳消しにできる。

 でも……ここでレゼを公安に引き渡したら、なんか……魚の骨がノドに突っかかる気がする。

 素晴らしき日々を送っていても、ノドん奥がチクッとなりゃ最悪だ。」

 

 「今私に殺されても同じこと言える?」

 

 「殺されるなら美人にってのが俺の座右の銘!」

 

 それを聞いた後レゼは爆笑してから、冷たく言い放った。

 

 「もしかして……私がまだキミを本気で好きだと思っているの?

 キミにあってからの表情も頬を赤らめたのも全部嘘だよ。訓練で身につけたもの。

 私は失敗した、キミと戦うのに時間をかけすぎた。それじゃあ私は逃げるから。」

 

 そう言って離れていくレゼに対して、デンジは声をかけた。

 

 「なあ?レゼも公安にこねぇか?」

 

 「は?」

 

 「公安ってさ、悪魔や魔人とか、俺みたいな武器人間も雇ってんだしさ。レゼの一人くらい雇えんじゃねーかなって思うんだよ。

 幸い今回死んだやつは出てねーし、行けんじゃねーかと思うんだけどよ。」

 

 「バカなの?2課の人たちを吹っ飛ばしたの忘れたの?」

 

 レゼは呆れた表情で言う。

 

 「でもよぉ、2課の連中もやり返してたし、マキマさんの力で死んでねぇんだろ?だったらなんとかなるんじゃね?」

 

 「なんとかって?」

 

 「なんとかは……なんとかだよ!マキマさんに頼み込むとか……。」

 

 マキマの単語、それを2度も聞かされたレゼは顔を一瞬顰めた後、デンジに近づいて……首の関節を外して動けなくしてその場を離れた。

 

 「レゼ!……なぁ!レゼ!今日の昼……あのカフェで待ってるから!」

 

 デンジの声に背を向けながらレゼは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カフェに向かう道、その道をゆっくりゆっくりとレゼは歩く。デンジが待っているカフェに行くためだ。

 駅を出て、デンジと出会った公衆電話を過ぎ去り、階段を上り、ついにすぐ近くの路地裏にでやってきた。

 

 そして路地裏の真ん中まで来て……レゼは葛藤した。

 本当に私は行くべきなのだろうか?私が行ったら迷惑がかからないだろうか?

 デンジは学校に通えるようになると言っていた。自分と違って、デンジの周りの環境は恵まれている。部分的に似通っているところはある。しかし、デンジの周りの人を見ればわかる。

 彼はモルモットのように扱われていない、彼は周りから人として扱われている。自分とは住む世界が違うのだ。自分がいても迷惑なだけじゃないか?あんな大暴れをした自分がいてもデンジの負担になるだけじゃないか?

 

 そう考えてレゼは最後の最後で引き返そうとした。

 

 

 

 

 「行かないの?」

 

 ……そして振り返るとそこには赤髪の女が、マキマがいた。

 レゼは驚きつつも後ろに下がり、首のピンに手を掛け戦闘準備を整えた。

 

 「待って待って!レゼちゃんをどうこうするつもりはないよ。ただ……デンジくんのところに行かないのか気になって。」

 

 マキマは大袈裟に両手を上げて、敵対の意思はないというジェスチャーを行った。

 

 「何が望み?」

 

 「……望みってほどのものもないけど。強いていうなら、レゼちゃんが公安に入る事とかかな?」

 

 「……なるほど。話が読めてきた。デンジ君が公安を辞めれる云々の話。その後釜に私を添えるつもりだったってわけか。」

 

 「え?違う違う違う!そんなこと考えてないよ、デンジ君が辞める頃にはレゼちゃんも辞めれるようにする予定だから……。レゼちゃんが続けたいなら別にウチで仕事しても構わないけど」

 

 まるで本当に大慌てしているような身振り手振りと表情で、マキマは話を続ける。実際、マキマは大慌てしているのだが……。

 

 「……あなた、何を考えているの?」

 

 「うーん、デンジ君とレゼちゃんが付き合わない程度に仲良く公安やってほしいなーって。私もデンジ君と付き合いたいし。

 あー、でもデンジ君がレゼちゃん選ぶ時は諦めるけどね。」

 

 「……本当に訳わかんない。あなた、デンジ君と付き合いたいってことは好きなんじゃないの?」

 

 レゼは怪訝そうに尋ねる。

 

 「うん、好きだよ。私はデンジ君が大好きで、恋してて……でもそれ以上にデンジ君を愛してるんだ。私はデンジ君に幸せになってほしいんだ。」

 

 マキマはレゼに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 そしてその後、レゼはデンジの待つカフェに行き二人で話し合い……。レゼが公安に入ることが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オペレーション・ブレイヴニューワールドから数日後。早川アキはデビルハンター本部にある、マキマの執務室へと向かっていた。

 その理由は一つ、マキマを問いただすためである。

 

 早川アキはマキマの執務室のドアの前に立ち、ドアをノックした。

 

 「ん?どうぞー」

 

 中からマキマの機嫌の良さそうな声が返ってくる。アキは決意してドアを開けた。

 

 「あ、アキ君!珍しいね、アキ君がこの部屋に来るなんて。」

 

 「ええ、ちょっとあんたに聞きたいことがあってな。銃の悪魔について、あんた何か隠してないか?」

 

 「銃の悪魔……確かに機密の上で隠してる情報はたくさんあるけど。」

 

 「じゃあ質問を変えよう。デンジについて……チェンソーマンとやらについて、詳しく話してくれ。

 新しく入ったレゼと戦った時、ビームが漏らしていた。『ボムが来る、銃の悪魔の仲間』ってな。」

 

 アキの言葉を聞いたマキマは、表情が固まった。

 

 「マキマ。デンジの心臓、ポチタは……チェンソーマンは昔銃の悪魔と戦ったんじゃないか?

 少なくとも何か情報をあんたは持っているはずだ!なんで隠していたんだ!実際にあんたが口止めしていたビームは情報を持っていた!銃の悪魔が爆弾の悪魔の仲間だったって!」

 

 アキは声を荒げながらマキマに問い詰める。それに対してマキマは静かに返した。

 

 「確かにアキ君の予想は部分的にはあってるよ。ポチタは……チェンソーマンは銃の悪魔と戦った。その時におそらく爆弾の悪魔とも戦ったみたいだね。」

 

 一呼吸置いてから、マキマは口を開いた。

 

 「アキ君、チェンソーマンについて話さなかったのには理由があるんだ。

 

 チェンソーマンについての情報は、銃の悪魔討伐の際にノイズでしかないしね。」

 

 マキマは淡々と語りながら、続きを言った。

 

 「ねぇ、アキ君。クラカチットって知ってる?」

 

 「……いえ、知りません」

 

 「クラカチットってのはカレル・チャペックという人が1922年に描いた小説の名前で、その小説に出てくる爆弾の名前でもあるんだ。

 その爆弾はとんでもない力を持った爆弾で、小瓶一つの量のクラカチットで家を完全に破壊できる。ダイナマイトなんて比べ物にならない威力で、量によっては東京だって木っ端微塵にできてしまう爆弾なんだ。」

 

 「あくまで小説の中での話でしょ?現実にはそんな爆弾なんて存在しません。……そのクラカチットがどうしたんですか?」

 

 「チェンソーマンは、そんなクラカチットのような超すごい爆弾とも関係がある。

 もしかしたら、チェンソーマンが望むのならそんな恐ろしい爆弾。そのクラカチットが現実のものになるかもしれないんだ。」

 

「は?」

 

途方もない威力の爆弾、それが現実のものになると聞いて、アキは思わず驚きの声を漏らした。

 

 「考えてごらん?そんな爆弾が存在したらどんな悪魔が生まれるか。それは銃の悪魔なんて比較にならない悪魔が生まれる。

 いや、クラカチットの悪魔なんて必要ない。その爆弾を人類が量産して、世界を2度滅ぼしてもお釣りが来るくらい作り始める可能性だってある。敵対国に備える為にね。そして万が一そのクラカチットを使って戦争が起きたら?世界は滅ぶよ」

 

 マキマの言葉、それをアキは静かに聴きそして少しの間をおいて答えた。

 

 「そんなことになるとは思えません。人類は学んだ。人類が最後に戦争をしたのはもう80年も前です。世界大戦を最後に人は戦争をやめました。

 クラカチットがこの世に生まれても、戦争が起きないのであれば問題ないでしょう。」

 

 部屋の中で沈黙が流れた。そしてマキマは笑うように、何かを嗤うように微笑みながら言った。

 

 「うん、そうだね。人類は第一次世界大戦の後に戦争をやめたね。」

 

 「第一次?」

 

 「ごめん、今のは間違い。でも戦争をしないとしても……だ。ソ連がデンジ君を狙ったように、他の国がクラカチットを手に入れようと、今回みたいに襲うかもしれない。

 そしたら公安は身動きが取れなくなる。

 チェンソーマンについての情報が出回ると、公安がそんな陰謀に巻き込まれて、銃の悪魔討伐どころじゃなくなると思った。だから私は、チェンソーマンの情報を秘匿したんだ。」

 

 アキはそれを聞いて、不満そうな顔をしながらも言った。

 

 「わかりました、銃の悪魔を殺す為に必要なこと。それが真実であるのならば、俺は受け入れます。

 ただ最後に教えてください、その超すごい爆弾……クラカチットの悪魔は存在するんですか?」

 

 「……存在した。今はしない。それが答えかな」

 

 マキマは微笑みながら言った。



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間話その6 偽マキマ版世界のチェンソーマンスレ 46



※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。



 

549:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:40:43 ID:SKuvwl3WSN

今回のマキマさんの発言やばくない?

 

550:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:42:49 ID:TrFCS5c72z

やばいから祭りになってる

 

551:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:45:47 ID:tMXZLv0oIH

クラカチットってなんや?

 

552:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:48:26 ID:ClEYB6fNyM

マキマさんが言ってた通りの超すごい爆弾で実質核兵器

ただ核兵器が作られる前に考えられた存在。

 

553:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:51:17 ID:xTuHEkYtrs

つまりどういう事だってばよ?

 

554:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:53:58 ID:hxpR0BKa8G

あの世界には核と第二次世界大戦がない

 

555:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:55:51 ID:s6BERZ5BH3

アキ君曰く世界大戦から80年経ってる=1998年が舞台?

 

556:悪魔な名無しさん 2019/12/23 20:58:14 ID:L7ZZQh4y5b

なんでソ連残ってんの!?

 

557:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:00:02 ID:JLQ0SOXmIi

そりゃ核と第二次世界大戦がないからでしょうが!

 

558:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:01:38 ID:9WtNLBToA0

でもマキマさんは第二次世界大戦と核を把握してる臭いよね

わざわざ第一次って言ってるし

 

559:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:03:51 ID:HV5iRqIGbj

核兵器の悪魔の方が最強だと思ってたけど……

そもそも核が存在しないのか

 

560:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:05:55 ID:XhUMoVEG8K

第二次世界大戦ないって、あの世界どうなっとるんだ

 

561:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:08:55 ID:wkB3jCzfak

なんでマキマさんは核って言わないでクラカチットって言ったんだろう。

 

562:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:11:03 ID:K0m935v1Ch

そりゃあの世界に核がないからだろう。

核がない状態で核兵器って言っても伝わらんし、一番近い概念がカレル・チャペックのクラカチットだったんだろうな

 

563:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:13:48 ID:Wt6kKBrzLe

カレルチャペックって誰だよ!

 

564:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:16:40 ID:AnYZHbwS8b

ジャーナリストとか小説家とかそんな感じの人

ロボットの概念を最初に考えて小説にしたのもその人

 

565:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:18:25 ID:1jJtXcx0a6

核兵器と第二次世界大戦がないのはまだいい。

マキマてめぇ、どこで知りやがった!?

 

566:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:21:02 ID:OnHlGCAv5f

これは岸辺先生も警戒しますわ

節穴とか言ってごめんなさい

 

567:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:23:30 ID:UaWGnGsbKm

でもマキマさんはデンジの幸せを願ってるから

 

568:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:25:52 ID:mO5WfY8qP0

なんで?

 

569:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:27:54 ID:oIhLlVHTMC

知らん

 

570:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:30:13 ID:SejV8kW7i8

マキマはデンジじゃなくてポチタが好きなのか?

ポチタとマキマの間になんかあって、それでポチタが好きなのかデンジに幸せになってほしいとか

 

571:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:32:48 ID:w8Q8Vh85rB

てかポチタが銃の悪魔と戦ったっていう確定情報来たな

 

572:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:34:34 ID:B5Zv3xXEEY

銃の悪魔=神

爆弾の悪魔=天使

ポチタ=ルシファー

こんな感じでポチタは銃の悪魔に逆らって反乱を起こしたとかありそう

 

573:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:36:52 ID:wh70zdA4Ea

ポチタルシファー説結構流行ってるよね

ただマキマさん曰く銃と爆弾はたぶん同格らしい……

 

574:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:39:45 ID:SO5wbR8sdJ

戦争=神

銃とボム=天使

ポチタ=ルシファー

マキマ=?

 

俺の中だとこう

 

575:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:41:37 ID:sFJtFT12yC

ビームはポチタと一緒に神である戦争の悪魔に叛逆したのかな?

 

576:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:44:08 ID:hbLlWj9Ji2

じゃあ他の特異課の悪魔とかはなんなんだろうか。そいつらも一緒に反逆してたのかな

 

577:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:46:24 ID:ocqP771rgo

ポチタ周りはさっぱりわからんな

 

578:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:48:29 ID:S57VbB2Ibb

個人的にはマキマさんの『クラカチットが現実のものになる』ってセリフ

ポチタの能力は仮想のものを現実に出せる?

 

579:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:51:02 ID:yRjQdTYupI

逆にすでにある現実のものを仮想の存在にしてしまうとか

あの世界にも普通に第二次世界大戦と核があって、ポチタが存在を消した結果仮想のものになった。

 

580:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:53:05 ID:aNiHIFJmDC

マキマさんが「クラカチットの悪魔は存在した。今はいない」

って言ってるから、たぶん核は元から存在したんだろう。

でもってポチタが消した。

 

 

581:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:55:44 ID:eKlgExBkac

それだとポチタ>核・第二次世界大戦になるんだが……

 

582:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:57:44 ID:G3KGdg3Mup

でもマキマさんの話的にそうなるよな

ポチタは本当にチェンソーの悪魔なの!?

 

583:悪魔な名無しさん 2019/12/23 21:59:34 ID:2qsvwFJamb

ソ連は第二次世界大戦でめっちゃダメージ負ってる

ドイツも言わずもがな

逆にアメリカの覇権は第二次世界大戦で得たところも大きい

だから米独ソの力関係が拮抗してる可能性もある

 

584:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:01:53 ID:ELDAkkWdVv

でもあの世界、第一次世界大戦の後は戦争起きてない平和な世界なんだよな……

なんでだろ

 

585:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:04:16 ID:b5PQRynfzn

平和(悪魔が跋扈しながら)

 

586:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:06:00 ID:AvlG45kX0c

悪魔のおかげで国同士で争わずに戦争が無くなった?

でもマキマさん、アキ君が「人類学んで戦争をやめた!」的なこと言ったら笑ってたよね。

 

587:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:08:59 ID:xrFnLRTKyh

平和になったのは第二次世界大戦という概念が消えた。

世界大戦に繋がる可能性の戦争=すべての戦争が消えた

とか?

 

588:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:10:58 ID:MiReqqu8dM

日本は朝鮮戦争で経済復活したから、思ったより1998年でも日本が発展してなさそうなのが納得できる。

 

589:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:12:50 ID:Hj0yvTCDAQ

いやそもそも第二次世界大戦起きてないから、日本はボロボロになってないんじゃないか?

 

590:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:14:34 ID:3H2aX1wKfX

わけがわからん!クラカチットって結局なんだよ!なんでアキは第二次世界大戦しらねぇんだよ!?

 

591:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:17:25 ID:uqTDpUPkr2

報道規制で核と第二次世界大戦が忘れられた……とか?

 

592:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:20:11 ID:w79D7AHctc

でもそんな大規模な歴史改竄なんてできる?

 

593:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:22:53 ID:fulHd1efe1

今回の考察

1.マキマさんの全部嘘で、元から第二次世界大戦と核兵器はあの世界にない

2.ポチタがなんかした結果、第二次世界大戦と核が消えた

3.報道規制でヤバい事件や存在感が忘れられてる

このどれかが答えだろう。

 

594:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:24:53 ID:yQ0HEg7y0k

俺は2

 

595:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:27:23 ID:3vAKZu9Glo

俺も2

 

596:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:29:06 ID:oROyZpYUEu

俺は3

 

597:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:30:59 ID:iBZwTq8HeM

1

 

598:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:33:32 ID:pCPxGNVVil

2

 

599:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:36:29 ID:SbIETVkElh

マキマさんの正体は未来の対をなす過去の悪魔。

過去がなければ未来がないから、未来はマキマが好き。

未来は過去を増やすからマキマは未来が好き。

鎖=過去の因縁などの暗喩

悪魔が過去に助けられたと思ってる=過去を操ってそう認識させた。

いろんな能力を使う=過去に使われた悪魔の力を使える能力。東京都民の行動権を得たのは過去にいた権力の悪魔とかの力でマキマの力ではない

 

この説どうよ?

 

600:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:38:45 ID:etTONKLMcs

確かにマキマさんの正体なんなんだろう……

今回の演説は1984年と違って割と明るい感じだった

 

601:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:40:17 ID:YbY7ccAxXZ

素晴らしい新世界という小説があってな……

1984年と同じディストピア小説なんだ。うん。

 

602:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:42:14 ID:lIFAgy8czr

1984年 

3つの独裁国家たちが絶えず戦争してて市民は困窮

その上思想統制があって酷い監視社会。

戦争してるから爆弾とかが降ってきたりする

 

素晴らしい新世界

国が麻薬配ってるせいで全員薬物中毒

愛し合って子供を作るのはおかしなこととされる

生まれた時からどんな階級と能力なのかが決まってて、子供は工場で作られる

 

どっちも碌でもねぇ!

 

603:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:44:35 ID:jdPEONnpaZ

マキマさん失望しました!レゼちゃん派に切り替えます

 

604:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:46:16 ID:JTH2B4Xhco

マキマさんは演説の内容からするとディストピアの悪魔?

 

605:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:48:27 ID:63jC009wc2

社会への不安や不満が強さになる能力かもしれん。

 

606:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:50:38 ID:B0adYG5n6X

だったらなんでマキマさんは人類の味方をするんだ?

 

607:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:53:00 ID:ZhLrAMWXCL

マキマさんの正体も能力も目的もさっぱりわからん!

 

608:悪魔な名無しさん 2019/12/23 22:55:30 ID:wzOZR87rJw

とりあえずマキマさんは概念系の悪魔だろうなぁ……



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世界の刺客編
38話 世界の刺客


 

 

 

 「というわけで公安対魔特異4課に新しく入ったレゼちゃんです!みなさん優しくしてあげてください!」

 

 「よろしく〜。」

 

 「いぇーい!これからよろしくなぁ!レゼ!」

 

 東京デビルハンター本部にある会議室で、対魔特異4課のみんなにレゼちゃんを紹介する。上層部のお偉いさんに話を通し終わり、ようやく正式にレゼちゃんの公安特異課への採用が決まったのだ。

 

 ノリノリで受け入れるデンジ君に、不安そうな顔をする月本さん、荒井くん、コベニちゃん。面白そうな顔を浮かべる姫パイに、興味深そうな顔をする伏さんと黒井さん。パワーちゃんは何故か偉そうにしてて、アキ君は無表情だ。

 公安対魔特異4課のメンバーの反応はやはりバラバラだ。特にレゼちゃんと軽く戦った荒井君とコベニちゃんが不安そうなのは仕方がないよね。

 そして荒井くんが恐る恐る口を開いて尋ねた。

 

 「あの……マキマさん。本当に失礼な質問なんですけど……大丈夫なんですか?」

 

 「うん大丈夫だよ!レゼちゃんと面談して、もう危険はないと私が判断したからね。

 それに今回の件で、レゼちゃんの裏にいたソ連との関係はほぼ切れたし。

 もしレゼちゃんがやらかしたら、その時の責任は私が取るよ」

 

 不安がる荒井君に対して、私は答える。

 

 今回の作戦、オペレーション・ブレイヴニューワールドでは人的被害は出なかったものの、多くの建物が壊れた。

 そのことについてソ連政府に『今回暴れた武器人間はお前のところのスパイじゃないのか!?』と問い詰めて、『いえ知りません』という言葉を引き出して尻尾切りをさせたのだ。

 なのでレゼちゃんはこれでソ連との縁は切れて、晴れてフリーとなったのだ。

 

 「へぇ〜だいぶ私のこと信じてるんだ。会ってそんなに経ってないのに。」

 

 「うん、レゼちゃんが今回暴れたのは命令されたからだからね。

 逆にそういう命令されなければ、しないタイプだって経験的にわかるもん。」

 

 「そうなんですか。じゃあマキマさんがそういうなら僕も安心できます。

 レゼさん、これからよろしくお願いします!」

 

 私が大丈夫だというと、月本さんは不安そうな表情が消えて、明るく笑顔でレゼちゃんに接した。

 

 「ふふふふ!おい後輩!レゼとか言ったの〜?先輩命令じゃ!あんぱん買ってこい!ガハハ!」

 

 私の大丈夫という言葉に調子乗ったのか、パワーちゃんはレゼちゃんに何故か偉そうに命令する。

 パワーちゃんを一瞥した後、無言で私を見つめるレゼちゃんに対して私は頷きながらゴーサインを出した。

 

 「ふん!」

 

 「ぐげぇ!?」

 

 レゼちゃんは素早くパワーちゃんに近づき、首に攻撃をしかけて動きを封じた。

 

 「パワーちゃん、今のはパワーちゃんが悪いからね。今後他の新人が入ってもいじめないようにね。はい、血。」

 

 

 私はレゼちゃんの攻撃で動けなくなったパワーちゃんに、血をあげて回復させた。

 

「ぐすん……デンジー!新人がいじめてきおる!」

 

 「いやオメーのせいだろ」

 

 「おー、レゼちゃん凄いね。爆弾の武器人間って聞いて建物とか戦いで壊しちゃうと思ったけど、変身しなくても強いんだ。」

 

 「武器人間としての火力もあって、素のスペックも高いと……期待の新人ですね。」

 

 レゼちゃんの強さを初めて見た姫パイと伏さんは感心しながらいう。

 

 「レゼちゃんの凄さもわかったところで、改めてみんなよろしくねー。

 さて、自己紹介も終わったところで……実は親睦会を兼ねた特異4課での旅行を検討しています!

 なんとお先は江ノ島だよ!江ノ島!」

 

 「いえーい!マキちゃん流石ー!」

 

 「江ノ島ってどこだ?」

 

 「江ノ島にはワシの別荘がある」

 

 「絶対嘘でしょ……この子さっきからなんなの?」

 

 「レゼ、こいつのいうことに耳を傾けるな。こいつは虚言癖の見栄っ張りだ」

 

 「旅行……他人のお金だから存分に楽しめます!」

 

 「コベニちゃん……」

 

 「おおおー!江ノ島いいですね」

 

 

 

 私が江ノ島旅行のことを伝えみんなが盛り上がった時。その時だった、扉が開いて何者かが入室したのは。

 

 

 

 ガチャリとドアを開ける音が聞こえ、私は振り返った。

 

 「ん?すいません今ここ会議で使ってて……て、岸辺先生?どうしたんですか?」

 

 「話してるところ悪いなマキマ、まずいことになった。」

 

 そういうと岸辺先生は一本のビデオテープを私に渡した。 

 私はそのビデオテープを再生するとそこには原作で見たニュースの報道が流れていた。

 

 

 『敵か味方か!恐怖デンノコ悪魔!』

 

 その内容はデンジ君がチェンソーマンの姿で悪魔と戦っているシーンを、報道する内容だった。

 

 「な、なんで報道されてるの!?ビッグブラザー作戦以前の映像が残ってるのはともかく、ブレイブニューワールド作戦の映像まで……。都民は全員避難させたはずなのに……」

 

 「レゼ以外に潜入させてたスパイがいて、そいつに映像を撮らせたんだろう。それをテレビ局に垂れ込んで放送させたんだ。敵側の方が一枚上手だったみたいだな。」

 

 画面を覗き込んでいるデンジ君とパワーちゃんは楽しそうにはしゃいでる。

 

 「デンジが電車で戦っておる!」

 

 「テレビに映るって気持ちいいですね!」

 

 そんなふうにはしゃぐ二人とは対照的に、他のメンバーはシリアスな雰囲気でテレビを見つめていた。

 

 「なるほど……私が失敗するのは想定内だったわけか。」

 

 「これはまずいですねぇ」

 

 「後輩も大変だなこりゃ」

 

 「………え?」

 

 みんなの反応に対してデンジ君は違和感を感じたらしく、困惑している。そんなデンジ君に対して、私は何が起こってるのかを説明した。

 

 「デンジ君……今結構厄介なことになっちゃったんだ。

 報道されてデンジ君の存在が知られちゃったでしょ?

 武器人間ってのは、数が少なくてすごく強いんだ。

 だからレゼちゃんみたいにいろんな国が刺客を送ってくる……。デンジ君という武器人間を手に入れるためにね。」

 

 「待ってください。レゼはソ連の刺客でしたよね?なんでわざわざソ連は武器人間であるデンジを欲しがる敵を増やすんです?」

 

 「………」

 

 アキ君の質問に対して、私は黙った。なぜなら理由がさっぱりわからないからだ!

 原作の真マキマさんは私と同じく支配の悪魔で滅茶苦茶すごかった。私とは比べ物にならない大物感があったし、実際大物だった。だからデンジ君という武器人間を、真マキマさんが手に置いている状況をよしとせずに世界各国は刺客を送ったんだろう。

 でも私はそんな悪いことしてないし、大物感だってない。なんで私とデンジ君を引き離そうとするの!?

 それに映像だって撮られないと思って、旅行を楽しんだ後に刺客の対応をしようと思ってたのに……どうして原作通りに旅行が延期になっちゃうんだ……。

 

 「理由はともかく……問題なのはデンジを目当てに刺客が送られることだな。」

 

 私は岸辺先生の一言で正気に戻り、みんなに言った。

 

 「ごめんねみんな。とりあえず旅行は延期、取り敢えず海外から来るお客様のもてなしに取り掛かってもらおう。」

 

 「旅行……延期?」

 

 「はぁぁぁぁ!?おいマキマ!貴様は嘘つきなのか!?」

 

 デンジ君がポカンとした顔を浮かべ、パワーちゃんは憤る。私はパワーちゃんに軽く謝った後、みんなに指示を出した。

 

 「月本さん!宮城公安に連絡を取って日下部さんと玉置さんを呼んで!」

 

 「はい!」

 

 「アキ君は京都公安のスバルさんを!」

 

 「はい」

 

 「そして岸辺先生、吉田ヒロフミさんに連絡を取って、助力を仰いでもらっていいですか?」

 

 「構わないがなんでそんなに及腰なんだ?」

 

 私は公安のみんなと岸辺先生に原作通りの護衛メンバーを呼んでもらうことにした。

 吉田ヒロフミさんに及腰な理由?そりゃ、吉田ヒロフミさんがあの岸辺先生より強いからだ!

 どんだけ強いのかビビる……。怖い!

 

 そして私はデンジ君とレゼちゃんを向いて言った。

 

 「ごめんねデンジ君。私のミスで大変なことになっちゃって。

 これからいろんな国の刺客が来るから不便になると思う。けど絶対にデンジ君のことは守るから!

 それとレゼちゃん。新人歓迎会を兼ねて旅行をするつもりだったけど、延期になっちゃってごめん。どうか、私の代わりにそばにいてもらっていいかな?」

 

 「大丈夫、貴方に言われなくてもデンジ君は守るよ」

 

 「ありがとう……レゼちゃん!」

 

 私はレゼちゃんにデンジ君を頼んだ後、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでマキマ、外国の刺客についてだが、お前はどこから誰が来ると思う?」

 

 「そうですね……まずアメリカですが、あの国はスキャンダルを嫌います。

 人を攫おうとしただなんて知れたら政権だけでなく党にまでダメージがいくでしょう。それを恐れて政府の人間ではなく民間……それも致命的に黒なデビルハンターではなく、際どいグレーなデビルハンターを使うでしょう。

 その条件であれば、死者に変装できる不死身三兄弟が来るはずです。」

 

 「ソ連は?」

 

 「ソ連はレゼちゃんを送った直後ですからね、送らないか、来たとしてもそんな大したことないと思います。

 同じ共産圏である中国であれば、武器人間であるクァンシ……岸辺先生のバディだった彼女が来るでしょう。

 クァンシさんについては岸辺先生の方が詳しいですよね?」

 

 「ああ、まぁな。何度も殺されかけた仲だ。

 アイツには近づきたくないな。全人類が集まって素手で殴り合う競技があったなら一位がクァンシだ。」

 

 「そのセリフ前にも聞きましたよ……憂鬱ですね。しかも魔人も一緒に来るとは」

 

 「とにかくやりにくい女だな。クァンシは警戒しても仕方ないか。警戒すべきは……」

 

 私と岸辺先生は口を揃えて言った。

 

 「「ドイツのサンタクロース」」

 

 「……マキマ、来ると思うか?」

 

 「来ますね。寿命が残り少ないとはいえ、確実に来ます。一番恐るべき相手です。」

 

 「アイツに悪魔を使われたら終わりだな」

 

 「いいえ、終わりません。うちには特異4課だけじゃなくて1.2.3課もいます。壁に当たり、それを乗り越えて生まれ変わった対魔2課もいます。

 そしてビッグブラザー作戦を経て経験を積んだ地方公安にレゼちゃんもいます。

 サンタクロースが能力を使おうと、我々は揺るぎません。」

 

 私は力強く言う。実際今の公安は今までよりもかなり増強されている、刺客編も銃の悪魔討伐も乗り越えられるはずだ。

 

 「……まぁ確かにな。今の公安は勝ち癖がついて波に乗ってる。この波も乗り越えたいもんだな。」

 

 「ええ、今回もまた勝って見せます。そのために岸辺先生、宜しく頼みますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツ某所

 

 

 ある老人がベンチに腰をかけて、新聞を読んでいた。

 そこに帽子を被った男が隣に座り、声をかけた。

 

 「……少し早いがクリスマスだ」

 

 「……プレゼントは誰に?」

 

 「今日本で話題のデンノコ悪魔に……見つけられるか?」

 

 「報酬は?」

 

 「何が欲しい?」

 

 「性別は問わない、美男美女の子供を4人。それと……出来るだけの人手を集めてくれ。そして人手を送り込む手段もな。

 子供は契約と養子に、人手の方は人形にする。」

 

 「人形は現地調達じゃダメなのか?」

 

 「ああダメだ。現地の公安に対策されるだろう。」

 

 少し帽子の男は黙りこくった後、答えた。

 

 「……用意しよう。だが人手の方はそこまで多く用意できないぞ?送り込むのも一苦労だからな。」

 

 そういうと男は一つの手紙を残して去って行った。

 

 サンタクロースはその手紙を持ち上げ、内容を確認した。

 

 『声はマキマに聞かれる。終末の日は近い。マキマを殺せ』



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39話 さらば不死身三兄弟

 

 

 

 

 「というわけでデンジ君。彼らが君の護衛を務めてくれるメンバーだ!

 みんな。自己紹介お願いね」

 

 私はデンジ君にみんなを紹介する。

 

 「宮城公安対魔2課、日下部です。よろしくお願いします。」

 

 メガネをかけたオールバックの金髪の男性、日下部さんが丁寧に礼儀正しく挨拶する。几帳面な性格が垣間見える自己紹介だ。

 

 「バディの玉置だ。よろしく」

 

 一方で額にあるホクロが特徴的な玉置さんは、静かに短く自己紹介した。喋る時とそうでない時の差が激しい、玉置さんらしい自己紹介だ。

 

 「俺吉田な、仲良くしようぜ」

 

 そして最後に民間デビルハンターであり、あの岸辺先生よりも強いと思われる吉田ヒロフミさんは超フランクに自己紹介をした。

 まぁ、吉田ヒロフミさんはデンジ君と同じ高校生だしね。

 

 

 

 「デンジ君安心してね!彼らは護衛のエキスパートなんだ!

 特異4課からはアキ君と天使君、それとレゼちゃんが加わります!

 あ、レゼちゃんはみんなと面識ないから、レゼちゃんも自己紹介お願いね!」

 

 「はいはーい。レゼでーす、要人警護のエキスパートではないけど頑張りまーす!」

 

 レゼちゃんは吉田ヒロフミさんと同様に、フランクな挨拶をした。

 

 「君が『あの』レゼか……。ブレイヴニューワールド作戦での戦いぶりは聞いてますよ。

 君の戦闘能力は俺や玉置以上でしょう。もしもの時は頼りにさせて貰います。」

 

 「へー、日下部さんって私みたいな子供にも礼儀正しいんだ。意外だな〜」

 

 「子供……?君は確k」

 

 「何か?」

 

 「い、いやなんでもない。」

 

 日下部さんが礼儀正しく接しただけなのに、何故か急に部屋の温度が下がった気がする。……なんで!?

 私は何か嫌なものを察知して、話題を逸らす。

 

 「コホン、今ここにいるメンバーの他にも後3人。京都からスバルさんと天童ちゃん、黒瀬さんが追加で来るんだ。」

 

 「へ〜……。なんかそんなオオゴトになってんすねえ〜。」

 

 「大事も大事。京都からくるスバルさんは宮城で対魔2課を指導してくださったお方です。

 大変お忙しいのに護衛に来るなんて……。

 キミ、今日から貴方達の巡回ルートは路地一つまで私が決めさせていただきます。いいですね?」

 

 「ふぁ〜い」

 

 デンジ君の返事に対して、日下部さんはムッと表情を顰める。

 

 「返事はハイだ」

 

 「……へえ?」

 

 「私は君より年上だぞ。返事はキチンと大きな声で」

 

 「……………ヘエ」

 

 「ヘエじゃないハイ!」

 

 真面目な日下部さんと少し緩いデンジ君、相性は少し悪いのかもしれない……。

 

 「まぁまぁ日下部さん。そこらへんで勘弁してあげた方が……」

 

 「マキマさん、それはデンジ君のためにはなりませんよ。デンジ君はまだ若いんだ、しっかりとした常識を身につけなければ今後の人生、困ることの方が多いんです。

 むしろマキマさんはデンジ君のこと甘やかしすぎなんじゃないですか?」

 

 「うぐ……言われてみればそうかも。」

 

 なんとかデンジ君をフォローするが、日下部さんに正論で返されてしまった。

 

 「ねぇ日下部さん。私は?」

 

 「レゼ、キミもしっかりとした言葉遣いを心がけたほうがいいだろう。まぁキミの場合はもう……その……まあとにかく、デンジ君の手本となるような態度を心がけるべきだ。」

 

 「はぁ〜?なんだよそれ、俺だけが子供みてぇな扱いじゃねぇかよ。」

 

 デンジ君は不満顔で答えた。うーん、このメンバーの相性ってもしかしてよくないのかなぁ……。私は不安を感じながらもそんな日下部さんとデンジ君のやり取りを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジョーイ、アルド。準備はいいか?勝負はこの一発で決まると思え。」

 

 「へいへい、わかったぜ。」

 

 「わ、わかってるよ兄さん。大丈夫……だよ。」

 

 道路の脇にある森の中で、3人の男がトゲトゲのついた板状の車をパンクさせる道具、スパイクストリップを準備して待機していた。

 

 「これから殺すのは公安の中でもベテランのデビルハンター、スバルだ。

 まだ移動中で目的地に着いてねぇから気が緩んでるだろう。

 ここで仕留められなきゃ、合流されてデンノコを殺すのは更にめんどくせえことになる。

 だからここで殺す。」

 

 「合流しよーがよぉ、最後に全員まとめて殺りゃあいいんじゃないのか?」

 

 長男エリックの言葉に対して次男のジョーイが尋ね、それに対してアルドが答えた。

 

 「ス、スバルは公安の中でもあの岸辺に認められているほどのデビルハンターだ。

 それにターゲットの周りにいる日下部達はスバルの教え子。京都組の天童と黒瀬の事を考えると、スバルを中心に5人のデビルハンターが高いチームワークを発揮してターゲットを守ることになる。

 い、今ここで仕留めないとまずいんだよジョーイ兄さん。」

 

 「ほーん、なるほどねぇ。」

 

 「ま、そういうことだジョーイ。それじゃあ準備はいいか?」

 

 「ああいいぜ!早速ぶっ殺すか」

 

 そして不死身三兄弟はスバル達が乗る車が近づいてきたのを確認して、スパイクストリップを道路に投げ込み車をパンクさせて事故らせた。

 

 「ヒュー!ビンゴ!」

 

 「まだ終わってねぇよジョーイ。さあアルド、最初の殺しだ。しくじるなよ?」

 

 「う……うん。わかってるよ……。エリック兄さん。」

 

 アルドは汗をかき、緊張しながらも兄達についていき、事故を起こした車に素早く近づいた。

 

 

 

 「っつあ〜……!」

 

 スバルが頭をさすりながら呻き声を上げる。

 

 「なん事故っとんじゃボケ〜……!」

 

 そして事態を把握しきれていない黒瀬が、天童に対して怒った。

 

 その直後のことであった。

 

 「やれ」

 

 パァン!パァンパァンパァンパァンパァン!

 

 長男エリックが合図に応じて、3人は車の中にいるデビルハンター達に向けて発砲した。

 それも一発や二発ではない。装填された弾丸全てを念入りに放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてひとしきり弾丸を撃ち終えた後、次男ジョーイは車の中を覗き込んだ。

 

 「ん……血が出てねえぞ?」

 

 「は?そんなわけねぇだろ?……ん?」

 

 次男ジョーイの言葉を聞き、長男エリックも車を、覗き込み確認する。

 そしてそこには黒瀬、天童、スバル……ではなく彼らにそっくりなマネキンがいた。

 

 「兄さんまずい!マネキンの悪魔の力だ!」

 

 自分たちは罠に嵌められた。その事を理解したアルドは大声で叫び、注意を促した。しかし気づくのが一手遅かった。

 

 「カマキリ!ぶっ飛ばせ!」

 

 「がぁ!」「ぐふぅ!」「ぎゃあ!」

 

 

 地中からスバルの召喚したカマキリの悪魔の鎌が現れ、峰の部分で不死身三兄弟3人をまとめて吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた3人は森の中の木に激突して、全員仲良く気絶したのだった。

 

 「………ふぅ〜。ホンマ危機一髪やったわ」

 

 「さっすがスバルさん!」

 

 3人を倒したスバルの元に、隠れていた黒瀬と天童が声をかけながら近寄る。

 

 「おう、もっと褒めてくれや天童。……しっかし銃を使った奇襲。ホンマえぐいよなぁ。」

 

 スバルは銃の恐ろしさを改めて体感しながら、言葉を漏らした。

 

 「税関の奴らは何しとんねん!

 ヤクザの件含めてこれで2度目やぞ!?」

 

 「まぁ落ち着きや黒瀬。結局マキマさんのおかげで生きとるんやから。今はコイツらを拘束するのが先や。」

 

 天童はボロボロになった車の中にいる撃たれたマネキンを見ながら、マキマとのやりとりを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 それはデンジの護衛に京都組のメンバーが選ばれた時のことであった。

 

 「マネキンの悪魔?」

 

 「ええそうです。これからスバルさん、天童ちゃん、黒瀬君はこの悪魔にそっくりな偽物を作ってもらいます。」

 

 「それはええけど、何のためにそないな事するんや?」

 

 黒瀬が尋ねる。

 

 「それは世界の刺客から京都組のみんなが襲われるのを防ぐためだよ。

 京都組のみんな、特にスバルさんは戦闘力が高くてこの護衛任務の中核になるはずなんだ。

 だから合流する前に刺客達は京都組のみんなを襲う。それを防ぐためにこのマネキンの悪魔の力で偽物を作って欲しいんだ。」

 

 「それええけど、契約に何を支払えばええんや?既に俺らは契約してるからあんま代償のデカいもん払いたくないんやけど……」

 

 スバルはマキマの提案に対して渋ってみせる。というのにも理由がある。

 マキマの言った話は非常に合理的であり、否定しようがない。だがしかし、マネキンの悪魔の作った偽物には大きなデメリットが存在する。

 それは本物と記憶を共有するというデメリットだ。

 スバルは岸辺に声をかけられて、マキマへの警戒に協力している。もしここでマネキンの悪魔経由でその事実がマキマにバレるのは非常にまずい。

 そのためスバルは契約の代償の話を出して、マネキンの悪魔の複製を作るのを回避しようと試みていた。

 

 「ああ大丈夫!マネキンの悪魔は私の説得で無償で複製作ってくれるって!

 だから契約の代償とかは不要だよ!」

 

 マキマは満面の笑みで応えた。

 

 (準備よすぎやろ!あれか?筋肉や永遠とかの、能力を使って洗脳したあれか!?あれしかないよな!クソ!)

 

 スバルは心の中で毒吐きながらも表情には一切出さず、笑みを浮かべながら応えた。

 

 「おお!ホンマか!それは助かるなぁ。せやけどマキマちゃん。悪いんやけど……記憶の複製について、条件があるんや。

 今ちょっとややこしい事件に関わっててな。情報の漏洩を避けなきゃあかんねん。せやからマネキンの複製に共有する記憶に制限をつけて欲しいんやが……ええか?」

 

 「あそっか!マネキンだと記憶複製しちゃうからね。気が利かなくてごめんね。

 わかった!こっちで頑張って調整するよスバルさん!」

 

 「おおきに!ほんま助かるで、いや無理言って悪いな!」

 

 スバルはマキマから記憶のコピーの制限という言質を引き出すことに成功して、安心して自分そっくりのマネキンを作らせることに同意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやー。しかしほんまにマキマさんに感謝やな!」

 

 天童は明るい顔で不死身三兄弟の次男、ジョーイを縛りながら言う。

 

 「せやけどコイツらを拘束しつつ、引き渡さんといかんからなぁ。こりゃ合流はもっと遅くなるで。それまでデンノコ君が無事かどうか不安やわ。……ま、マキマさんがおるから何とかなるか!」

 

 黒瀬は長男、エリックを縛りながら言った。

 

 「……ああ、せやな。」

 

 そしてスバルは、マキマを警戒する必要があるという情報を伝えることができないまま、三男のアルドを拘束しつつ、誰にも聞かれないよう小さくため息をついたのだった。

 

 

 

 

 




※読み飛ばしていただいても構いません。


 勝手に名前をつけさせて頂いたキャラクター

 エリック

 不死身三兄弟の長男。原作だと不死身三兄弟の中で唯一名前が明かされなかった。
 名前の由来は長男の英訳、eldest sonのelの部分をそれっぽい名前のエリックに合わせた。


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40話 オペレーション・フロストパンク

 

 

 

 昼の東京湾にある某港にて、港の職員達がある貨物船の確認をしていた。

 

 「しっかしこの船は……何だ?予定だとこんな貨物船が来る予定はなかった筈だが。」

 

 外国との交易を行う貨物船に、予定にない船があったのだ。不審に思った港側は、確認のために職員を派遣したのだ。

 

 「もしかしたら悪魔が化けた、貨物船の悪魔とか」

 

 「だったらとっくのとうに、この船の乗組員も殺されてると思うぜ?」

 

 そう言いながら職員の一人が貨物船のコンテナを開けると……。

 

 

 ダダダダダダダダダ!

 

 

 「「「う、うわぁぁぁぁぁ!」」」

 

 中から大量の人間、いやサンタクロースが作った人形が一斉に飛び出して、職員達に掴み掛かった。

 

 「ぐ、グギィぃぃ!!?」

 

 そして悪魔の能力が発動して……港の職員達は人形に変えられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 東京デビルハンター本部

 

 マキマの執務室に一人の男がノックもせずに駆け込んだ。その男は息を切らしながらも、大声で部屋の主人、マキマに報告した。

 

 「マキマさん!大変です!東京湾の港が襲撃されました!人形の悪魔の力を用いた襲撃……サンタクロースによる襲撃です!」

 

 「月本さん連絡ありがとう……。ついに来たか。

 特異2課3課を港に回して、対魔1課と2課は特異2.3課の撤退ができるように、その周りで防衛ラインを構築。一部の人外職員も人形の殲滅に参加させて。

 特異1課と4課、地方公安のみんなは引き続きデンジ君の護衛を。

 そしてデンジ君達は民間人が避難する時間を稼ぐために、近辺に留まって人形達を引き付けて貰って。心苦しいけど民間人への被害を抑えなきゃいけない。難しいかもしれないけど、公安のみんなが人形を抑えてるから、デンジ君のところまで行く人形は数が限られるはず……!」

 

 「はい!わかりました!ところでマキマさんはどうなされますか?」

 

 月本に尋ねられたマキマは答える。

 

 「私は……クァンシさんの足止めをする。どれくらいやれるかわからないけどね。

 おっと、その前にちゃんと作戦開始の合図と演説をしなきゃ。」

 

 マキマはそう言うと備え付けの無線機を用いて、演説を始めた。

 そして、無線越しに公安のデビルハンター達に向けてマキマの演説が流れた。

 

 

 

 

「我々が過ごした暖かくも優しき日々、それは今過ぎ去ろうとしています。

 

 それは避けることができず、あまりにも残酷な真実で、過酷な現実です。

 

 我々に対して外国からの魔の手が迫り、その手によってわが国を照らす光が遮られ、冬が来るのです。

 

 その手はあまりにも大きく、我ら公安の全てを闇に包み、全ての終わりだと思わせるには充分すぎるほどです。

 そして一度……その手が全力で振り下ろされれば、我々公安は叩き潰されるでしょう。跡形もなく、無残に、まるで虫ケラのように。

 

 そんな巨大な魔の手に対して最も、堅実で容易な対処法があります。それは逃げる事です。

 我々公安デビルハンターは強力です、私が認めましょう。

 現在の公安デビルハンターは精鋭です、歴史が認めましょう。

 客観的に見て公安デビルハンターは圧倒的な存在です、世界が認めましょう。

 

 故に……我ら公安デビルハンターはその気になればこの巨大な魔の手から、逃亡することができるでしょう。

 一度この場を離れ、実力をつけ、それから改めて挑む。それが最適解でしょう。

 

 

 

 ……ですが、我々にはそれは許されません。

 何故なら、この場にいるのは我々だけではないからです。

 この場には大勢の市民がいます。彼らは我らとは違い、脅威に対抗するべく生きているのではありません。

 彼らは、彼ら自身の幸福を……彼らが幸せに生きてほしいと願う、自分以外の全ての人々の幸福を、それらを支えるために生きているのです。

 彼らは守られるべき存在なのです。

 

 では私たちは?私たちはそんな彼らを守るべき存在です。それが存在意義であり、目的であり、使命です。

 

 我々には脅威からの逃走は許されません。許されるのは脅威との闘争だけです。

 

 民間人の保護と悪魔の討伐……この二つを天秤にかけた時、どちらを選ぶか?我々公安に選択肢はありません。最初から決まっているのです。この公安という組織は、人を守るためにあるのだから。

 

 認めましょう、この脅威と向き合うことはとてつもない困難であると。

 ですが、我々がこの脅威に屈服することは、誇りが、義務が、正義が、そして……我ら自身が許しません。

 

 故に絶望的であろうと、どれだけ過酷だろうと、この脅威という寒さに対して我々は抗い、そして勝利を勝ち取らなくてはいけないのです。

 

 さあ……抗いましょう。敵に……恐怖に……運命に……そしてこの逃れられない闇がもたらす寒さに……。

 

 『オペレーション・フロストパンク』開始!」

 

 

 

 

 

 演説を終えると、マキマは無線機の通信を切り、椅子から立ち上がった。

 

 「それじゃあ月本さん。行ってくるね」

 

 「はい!頑張ってください!」

 

 マキマは月本に見送られながら、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路地裏にて、スーツを着た公安のデビルハンター達が、大通りにいる避難する人々を眺めていた。

 

 「しかし圧巻ですね……これだけの大人数が避難する姿は。」

 

 「これもマキマさんの能力らしい。新人の爆弾の武器人間が暴れた時も、こうして避難させてたんだと。」

 

 公安デビルハンター達の目には、まるでロボットのように、静かに整然と移動する民間人の姿が映っていた。

 

 「しかしあまりにも静かで、不気味ですね。本来の悪魔からの避難はもっとパニックになるはずなのに。まさかもう人形になってるとか……。」

 

 「それは無い。特異課が引いて前線が下がったらしいが、それでもまだ突破されるに早すぎる。

 それでも信じられないなら市民に触ってみればいい。人形にならないからそれでわかるぞ?」

 

 「その確かめ方、嫌すぎますよ!」

 

 男達が雑談をしていると、後ろから魔人を引き連れた眼帯の女、クァンシが近づいてきた。

 

「小姐们!一如往常,请妳们处理 剩莱剩饭了(お嬢さん方!いつも通りに、残ったのを頼むよ。)」

 

 「魔人が複数……。」

 

 「サンタの仲間か?」

 

 「いや違う!こいつはクァンシだ!マキマさんが言ってた岸辺先生の元バディだ!」

 

 キィィィィン!

 

 クァンシが剣を抜き構え、それに対抗してリーダー格の公安デビルハンターも構える。

 しかしその実力差は天と地ほどの差があった。クァンシは目にも止まらぬ速さで切り掛かり、デビルハンター達を斬り殺そうとした……その瞬間だった。

 

 ガギイイィィン!

 

 「ほう?」

 

 「へ?」

 

 「あ?」

 

 「嘘……クァンシ様の剣が止められた!?」

 

 どこからともなく悪魔の力を使い、現れたマキマが鎖でクァンシの剣を防いだのだ。

 

 「お前がマキマか……まさか直々に来るとはな……。」

 

 マキマを見つめながらクァンシが呟く。

 

 「ええ、そうでもしないと仲間を守れませんからね。さぁ……クァンシさん。勝負です!」

 

 マキマは鎖を両手に巻き、ファイティングポーズを構えながら言った。



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41話 支配の悪魔

 

 

 

 「な……何が起きた!?」

 

 先ほどまで戦おうとしていた白髪眼帯のデビルハンター、クァンシ。その女は何故か急に現れた東京公安対魔特異4課のマキマと相対していた。

 

 「地方公安のみんな……一旦離れて岸辺先生と合流して。

 クァンシさんとこの魔人達は強いから、私に任せて欲しい。」

 

 マキマはいつになく真面目な口調で言った。その雰囲気に圧倒されて、地方公安のデビルハンター達はその場から離れた。

 

 「わざわざ仲間を逃して、自分が不利になりに行くなんて頭おかしいんじゃ無いの?」

 

 「ハロウィン!」

 

 「馬鹿?」

 

 ピンツィは呆れた顔をしながら言い、コスモとロンもそれに続いて言う。

 

 「いや、賢明な判断だ。あいつらは足手纏い以上の何者でも無いし、1秒も持たない連中だからな。

 おそらく私以外の他の刺客対策に集めた人員だったんだろう。

 だとしても……弱すぎるけど。」

 

 「御名答、人形対策に集めた人員だったんだけどね……まさかクァンシさんに当たっちゃうとは。

 悪いけど、彼らは見逃してあげてほしいな。」

 

 「ああ構わない、お代はデンノコの心臓で結構だ!」

 

 そう言うとクァンシは剣を振るい、マキマに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 私はめちゃくちゃ焦っていた。何故ならあの全盛期の岸辺先生バディを務めていた、あのクァンシさんと戦っているからだ。

 余裕そうに振る舞ってた?あれは演技だ!あからさまに怖がる素振りをみせると、敵が調子に乗ってますます不利になってしまう。私がデビルハンターをやって学んだことの一つだ。

 

 多少はクァンシさんとの戦いについていけてるけど、まだクァンシさんには武器人間に変身するという手も残ってるし、何なら4人の魔人が残っている。

 乱戦状態になってるから、まだ魔人達は機を窺ってるけど、隙を見せて加勢に入られたらお終いだ。そう思いながら鎖でクァンシさんの剣を鎖で防ぎつつ、魔人の方に気を向けると……。

 

 「見えた!」

 

 レンズの魔人?と思われるピンツィが思いっきり私の分析をしていた。弱点がバレる!?ヤバさがました!?

 私が不安に思っていると、ピンツィがヘナヘナとヘタレこみながら、怯えた声で言った。

 

 「う……嘘?ありえない。そんな……そんなことが。

 く、クァンシ様!逃げましょう!そいつやばいです!超越者ほどじゃ無いにしてもヤバいですよそいつ!」

 

 ピンツィの声を聞いたクァンシさんは私に警戒して、距離を取る。

 

 「あいつの契約してる悪魔がわかったのかピンツィ、あいつは何と契約してる?」

 

 「し……してません。あいつは契約してるんじゃありません。あいつ自身が悪魔……あいつは悪魔です!」

 

 「悪魔?」

 

 「ハロウィン?」

 

 「ま、予想はしてたが……。ピンツィ?」

 

 ヘタレこんだピンツィはブルブルと震え始めた。あれか!支配の悪魔だから真マキマさんみたいな存在だと過大評価してくれてるのか!

 なんか勘違いしてくれてるっぽいので、私は堂々と余裕を持った振る舞いをしながら、交渉のチャンスを引き出そうとする。

 

 「あーあ。ばれちゃいましたか。どうです?取引といきませんか?

 私の正体を黙ってて、公安に降ってくだされば、身の安全は保証しましょう。どうです?」

 

 まず最初に尊大な要求をする。それを拒否られた後、徐々に徐々に要求を引き下げてお互いに納得できる条件まで持っていく。これが交渉の基本だ。

 もちろんこんな要求を受け入れるわけがない、けれどまず最初にふっかけるくらいは許されるだろう。

 

 「ふざけるな……死にたいのか?」

 

 不機嫌な声でクァンシが言う。

 あ!まずい!ダメだった!死にそう!ふっかけすぎた!

 

 「ダメですクァンシ様!逆らっちゃまずいです呑みましょう!その提案を!」

 

 あ!いけそう!頑張れピンツィ!せめてクァンシさんの怒りを抑えて!お願い!

 

 私が澄ました顔をしながら、クァンシさん達を見つめていると、ピンツィが語り始めた。

 

 「マキマは……あの女はやばい悪魔です!超越者には劣るとしても、その力は十分に強大……下手したら銃の悪魔なんかよりも強いかもしれません!」

 

 銃の悪魔よりも!?私そんな強いと思われてんの!?過大評価されすぎな気が……。

 そう思う私をほっといて、ピンツィは続ける。

 

 「悪魔の格としてあいつはあまりにも強すぎます!最盛期の戦争や、飢餓、死にすらも並ぶほどの大物悪魔です!あんなの、公安の下っ端やってるなんて異常すぎます!何かがおかしい!訳わかんない!怖い怖いこわいこわいコワイ!」

 

 なんかすっごくやばい悪魔と同格みたいな評価をピンツィちゃんからされてる。

 あれかな、真マキマさんが言ってた四騎士云々のやつなのかな?

 そして当のピンツィちゃんは超過大評価された私が公安職員やってることに頭の中で整合性を取ることができず、パニックに陥っているようだ。

 

 「貴様……ピンツィに何をした」

 

 静かに……されど怒気を孕んだ声で、 クァンシさんに尋ねられる。いや何もしてないけど……。

 

 「何もしてませんよ。」

 

 私は誠実に答える。

 

 「シラを切るつもりか!」

 

 誠実に答えたのに!酷い!

 

 「クァンシ様、マキマは何もしてません。まだしてません。逃げるなら今です!何もしてない今こそがチャンスです!

 あいつは……支配の悪魔です!」

 

 「ハロウィン!?」

 

 「支配!?」

 

 「支配だと……!」

 

 その言葉を聞いた途端、クァンシさん達の警戒度が一気に上がった。

 そしてクァンシさんは刀を捨てて、眼帯を開けて矢を引っこ抜き……ボウガン(弓?)の武器人間へと変身した。

 

 「お嬢さん方……作戦変更だ。この女から距離をとって離れなさい。コイツは……私がなんとかする。」

 

 「み、む、無理です!腰が抜けました……。コスモ、おぶってぇ……。」

 

 「ハロウィン!」

 

 情けない声を上げるピンツィを、コスモが抱えて、魔人四人は裏路地から逃げ出し、その場には私と変身したクァンシさんが残された。

 

 「……やれやれ。岸辺のやつもどうやってこんな支配の悪魔なんかを飼い慣らしたのか……。いや逆か?岸辺も飼い慣らされてるのか?どうなんだ?」

 

 「私如きが岸辺先生を?無理に決まってるじゃないですか。先生が私如きに支配されるとお思いですか?」

 

 とんでもないことをクァンシさんが言ってのける。冗談でも岸辺先生が支配されるとか、どんだけ岸辺先生が嫌いなの……。

 

 「やれやれ、嘘か本当かわからないな。まぁ、岸辺がどうなってようがやることは一つ。お前を殺させてもらう。」

 

 そう言うとクァンシさんは腕からボウガンを発射して、私に攻撃をし始めた。

 

 私はそれを走って躱し、路地裏の壁を駆け上りながら銃の悪魔で牽制射撃を行い動きを封じる。そして勢いよく近づき拳を放つ!

 

 「もらった!」

 

 「甘い!」

 

 しかしその拳はクァンシさんの腕のボウガンの矢尻によって防がれる。

 手に鎖を巻きつけていなければ、こちらの腕が傷ついていた。あぶないあぶない。

 

 「近接戦なら分があると思ったのか?マキマ。」

 

 「さぁ?どうでしょうね。」

 

 やばい!思考が読まれてる!そうだよ!銃の悪魔とか使い慣れてなくて、ステゴロと鎖を合わせた戦いが一番得意だから、そっちの方がマシだと思ったんだよ!

 ああ……どうしよう!このまま時間稼ぎなんて出来るかなあ?

 

 私がそんなことを思っていると、クァンシさんは跳び上がってから、下にいる私に向けて矢の雨を降らせた。

 

 「効くか!」

 

 私は鎖を大量に召喚して、それで傘を作り矢の雨を防いだ。

 

 ズダダダダダ!

 

 矢が鎖に刺さりまくり、けたたましい音がする。

 

 

 そして私は鎖の傘を解除して、上を見上げる。

 

 しかしそこにはクァンシさんの姿はなかった。右を見ても、左を見ても、前にも後ろにもいなかった……。

 

 

 「…………………………?」

 

 私は顎に手を当てて考える。

 

 「…………………!」

 

 そして私は気づいた。クァンシさんは私をガン無視してデンジ君を捕まえに行ったのだ。

 

 「しまったあぁぁぁ!デンジくぅぅぅぅぅん!」

 

 私は全力で走り、デンジ君の元に急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デンジ君の周りの護衛と連絡を取ろうしたが、おそらくサンタの襲撃で連絡が取れず途方に暮れた私は街を駆け巡っていた。

 

 「デンジクゥゥゥゥン!どこおおおおおお!」

 

 そしてついに見覚えのある人影を私は見つけた。

 青い長髪に泣きぼくろが特徴的な、縦セーターの女性……ドイツのサンタクロースだった。

 

 そしてそのサンタクロースは人形になった人を椅子にしながらつぶやいた。

 

 「その代わりに地獄の悪魔よ、このデパートにいるすべての生物を地獄に招いてください。」

 

 ああああああ!このままじゃデンジ君が地獄に送られちゃう!でもどうやって防げば?

 防ぐ方法が思いつかない!南無さん!

 

 「うおおおおおおおおおお!」

 

 私は全力で走り、ショッピングモールにスライディングをかまして駆け込んで入った。

 

 そして巨大な手にショッピングモールが包まれて……デパートにいたみんなは地獄へと送られた。



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間話7 偽マキマ版世界のチェンソーマンスレ 56

※メタ要素を含む回です、作品への没入感を損なう可能性があります。読み飛ばして頂いても、作品を読む上で支障はございません。


283:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:36:39 ID:vr4WD6ACJx

しかしマキマさんの正体が支配の悪魔とは……

 

284:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:38:13 ID:rA33w63sfC

なるほど!ってなった

 

285:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:40:54 ID:7V3bXHPHRX

支配の悪魔ってことは銃の悪魔説はハズレか

 

286:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:42:58 ID:tNPwhi6ZpG

昔のスレで当ててる人いた!

 

287:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:45:35 ID:Ot5yfagtXr

でもその人5つくらい出してなかったっけ

まぁ、国家とか独裁とか方向性としては概ねあってたな。

 

288:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:47:12 ID:5Qz1oFwyhZ

鎖=支配の象徴だもんね

だからって鎖で戦うのはどうよ!?

 

289:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:49:09 ID:FBZtKbTAUL

多分本来の戦い方的には、

捉えた悪魔とかを無理やり命令を聞かしたり、自分の信者に変えて戦わせるのが本来のやり方なんだろうな。

でもマキマさんは自分で殴ってる。なんで?

 

290:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:51:25 ID:iB7Czs0x3U

マキマさん「その方が早い!」

 

291:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:53:32 ID:kNEXPY6iqH

マキマさんは死んだ悪魔しか操れないのかな?

今の所操ってんのが、死んだと思われてる永遠とか筋肉とかだし。

マネキンは生死不明だけど

 

292:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:55:12 ID:BIVDiJTYYM

死者限定でもノーリスクで操れるのは凄い

 

293:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:57:22 ID:RyDpuGodZQ

日本政府とどんな契約してんのかな

 

294:悪魔な名無しさん 2020/3/23 10:59:28 ID:dOGlsNruM5

死刑囚を残機にできるって言ってたから、全死刑囚の全てを代償にしてるとか。

 

295:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:01:32 ID:6GnQTuq8iq

日本「死刑囚を差し出すから契約してくれ!」

マキマ「うわ!ありがとう!永遠の悪魔の力で死刑囚を残機にしなくても大丈夫なようにするね!」

めっちゃ良心的じゃね?

 

296:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:03:48 ID:E3dhZoF7eq

支配の悪魔だから、日本の支配体制を守るために戦ってるのかな。

だとしたら外国の支配体制とかでもいいやってなって裏切る可能性も……いやないか。

あの本気のスライディング見る限り。

 

297:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:06:27 ID:Anr3WNgF8T

超クールだったトーリカの師匠も、マキマが地獄に運ばれた時、巻き込まれてギャグっぽい顔してたのウケる

 

298:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:08:22 ID:x8LEmhXJ5E

サンタ「いってらしゃい」大物感出しながら

マキマ「うおおぉぉぉぉ!」迫真のスライディング

サンタ「……え?え?え?」

この流れには吹いた。

 

299:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:11:09 ID:BuIrs4AmOW

最初トーリカの師匠、常にポンコツしてるタイプのマキマさんだと思ってた。

 

300:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:13:17 ID:2Z1mzhvd3U

マキマ「ロシアの刺客は来ない!来ても雑魚!」

俺「ひでぇ!」

トーリカの師匠「寿命を代償にカースと契約しました!これでデンジ殺せます」

俺「ダメだこりゃ」

トーリカの師匠「地獄の悪魔を喰らえ!」

俺「!!!!???!?!!!!???」

 

301:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:15:59 ID:NwbucN9iAl

トーリカの師匠ってロシアの刺客なのになんであんなに強いの?

マキマさんの言ってることと違くない?

 

302:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:18:03 ID:dhuYtvC3YC

多分師匠はドイツの刺客

サンタクロース=師匠

あの爺さんはサンタクロースの部下の人形

ロシアは刺客を送ってないで読者が師匠をロシアの刺客と勘違いしてただけ。

 

303:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:20:57 ID:gxcY4MiLH4

そういうことか……ずっと勘違いしてたわ

 

304:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:22:42 ID:j5vx9RR7gn

しかし戦争、飢餓、死とか出てきたけど……これ黙示録の四騎士じゃん

 

305:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:24:43 ID:6j55Ud0vdw

最盛期の戦争って言ってたし、戦争弱ってんのか

 

306:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:26:40 ID:gnnHFMuQH0

あの世界多分第二次世界大戦が消えてるしな。

現代のスペイン風邪レベルの恐怖しか持ってないんだろう

昔はすごいけど今はさほど……てきな。

 

307:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:28:18 ID:UgbWOve9My

なぜスペイン風邪?

 

308:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:30:07 ID:G4BoYReGmU

スペイン風邪は第一次世界大戦の頃に流行ったんだよ。

 

309:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:32:14 ID:Tl9tuobWIL

スペイン風邪だと弱そう。

でも世界恐慌の悪魔とかなら今も普通に強そうだな。

 

310:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:34:28 ID:ickpXNDCul

支配の悪魔であるマキマさんの目的は結局なんなんだろう。

デンジ君スキーなのはわかるけど……。デンジ君のためだけなら公安に入る必要ないだろうし。

 

311:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:36:09 ID:PQ0wmt21Yu

案外公安が心地いいとか

 

312:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:39:04 ID:Eqack0g66n

確かにマキマって公安で楽しそうに仕事してるしね。岸辺先生にはビビってるけど

 

313:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:41:31 ID:rBs28Whqh0

銃の悪魔だと恐れられてる悪魔の真の正体は自由の悪魔。

支配の悪魔であるマキマは、銃の悪魔を支配して、この世を完全に支配したい。そのために銃と組んでない日本と組んでる。

とか

 

314:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:43:17 ID:HQ3JRbfF3p

支配の悪魔ならソ連とか中国の方が合ってるのでは?

 

315:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:44:49 ID:Yb1rlBhnqQ

ソ連「支配の悪魔?レゼちゃん見たくモルモットにするぞ!」

中国「クァンシちゃんの新しい彼女になろうか」

米「自由!最高!自由!最高!」

独「サンタクロースの人形にしまーす!」

消去法で日本しかなかった説。

 

316:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:47:01 ID:LZXRPBOOdc

今の世界の刺客の状態

米 京都組にボコられる

中国 巻き添えくらって地獄送り

独 人形の悪魔と地獄の悪魔で大暴れ

ソ連 一足先にレゼちゃん送って寝返られる

 

まともな成果出してるのがドイツしかいねぇ!

 

317:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:48:50 ID:IFOofM5dkS

アメリカの三兄弟はワンチャンスバルさんとか殺せる可能性あったから

 

318:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:50:54 ID:wBpQ1GfP2O

スバルさんならマネキンなしでも普通に返り討ちにしてそうじゃない?

京都コンビの二人もいるし

 

319:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:52:36 ID:alVW4cJI4U

日本の公安勢はそれなりにどこも成果出してるよね

東京の特異課も地方公安も、そつなく仕事こなしてる。

 

320:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:54:09 ID:6o1LbjUo16

触れたら人形化するのに、人形の処理させられてる荒井君とコベニちゃん可哀想。

コベニちゃんに至ってはリーチの短い包丁だろうし……。

 

321:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:56:58 ID:GZXqqX3VLT

デンジ チェンソー

アキ 刀

パワー 血の武器

姫野 幽霊の手

荒井 寿命武器のメイス

コベニ 包丁

 

一人だけ罰ゲームみたいな武器で戦ってる……

 

322:悪魔な名無しさん 2020/3/23 11:58:34 ID:AOzT9dJizn

天使君!武器作ってあげて!

 

323:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:00:07 ID:IOPiC2fgXn

天使「どんな武器がいい?」

コベニ「日常でも使える奴……節約のために包丁で!」

 

324:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:02:51 ID:SMf55JLGzG

ありそう……

 

325:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:05:50 ID:ngwt8hNYdf

コベニ「日常でも使える奴……節約のために車で!」

 

326:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:07:59 ID:hNTpiAnpXG

無理やろ!

 

327:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:10:28 ID:rDDRluTtPU

マキマ「日常でも使える奴……節約のためにデンジ君人形で!」

 

328:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:12:12 ID:2VDrOaGYXr

マキマさん!?

 

329:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:13:52 ID:iE4tJfwZoj

マキマのデンジ大好きムーブは演技とかじゃなさそう

後、いい上司ムーブも。

 

330:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:15:40 ID:KXzaSuG1SE

何が演技なんだ……

 

331:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:18:12 ID:YJqLicF2B2

大物ムーブじゃね?

 

332:悪魔な名無しさん 2020/3/23 12:20:09 ID:TaZ4OOuBLq

ありそう



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42話 地獄と闇と光の力!!!

 

 

世界が闇に包まれた。そう思ったのも束の間。私……いや特異4課のみんなとクァンシさんとその仲間の魔人達、そしてサンタクロースの弟子であるトーリカは、異様な場所にいた。

 大地には草花が生え、バスタブが転がり空には無数のドアが覆い尽くしている異様な空間。チェンソーマン世界の地獄だ。

 

 「なんだここは?」

 

 異様な状況を前に、アキ君が言う。私はスライディングで滑り込んで倒れた状態から、みんなにバレないようにこっそりと立ちあがりつつ答えた。

 

 「ここは地獄だよ」

 

 「マキマ!?」

 

 「!?ま、マキちゃん!?どうしてここに!?」

 

 護衛としてついてきていた特異4課のメンバーであるレゼと姫パイが驚きながら言う。

 

 「話はデンジ君を復活させてからだね。クァンシさん、一旦休戦といこうか。」

 

 「ああそうだな、マキマ。魔人達の様子がおかしい。一時休戦には賛成だ。」

 

 私はクァンシさんの返答を聞くと、デンジ君のスターターを引っ張り、デンジ君を蘇生した。

 

 「イッたあぁァァァァ!?クソ!ああ!」

 

 「大丈夫デンジ君?助けにきたよ」

 

 「痛……て、マキマさん!え!?助けに!?あざっす!」

 

 私は他のメンバーの状態を確認した。人間組である早川班のみんなや宮城公安のバディは、落ち着かない様子でキョロキョロしてる。

 だけど魔人であるパワーちゃんやクァンシガールズは露骨に狼狽えていた。

 

 「僕たち終わりだ……ここ……地獄だ……地獄の匂いだよ」

 

 天使君は震えた声でつぶやいた。

 

 そんな状況でもクァンシは冷静に仲間に尋ねた。

 

 「ロン、ピンツィ。ここから逃げる方法はあるか?」

 

 「ク……クァンシ様。頭がおかしくなりそうです……。ずっと見られてますぅ……。私たちやばい悪魔に見られてますぅ……。

 ここからずっと先に、銃の悪魔やマキマなんかよりずっとずっとヤバい……。根源的恐怖の名を持つ悪魔達が私たちを見てます……。

 クァンシ様……自殺の許可を……」

 

 「……馬鹿、私がどうにかする」

 

 「あ!ああ!終わった……きちゃった!闇の悪魔……」

 

 ピンツィがそう言うと空にある扉の一つが開き、黒い液状の何か……いや闇の悪魔が現れた。

 

 

 「ধ্বংস কৰা」

 

 何か声のようなものが聞こえた。そう思ったも瞬間だった。私の四肢……いや私を含む複数名の四肢が切断されて吹っ飛んだのは……。

 

 「ガッ!?」

 

 「え!?」

 

 「!?」

 

 「ぐっ!?」

 

 私はこれから起こる闇の悪魔の蹂躙を予想して、素早くお腹の辺りから鎖を出して、トーリカに繋いで地獄の悪魔と契約させることにした。

 

 「クァンシさん!時間を稼いで!」

 

 私はトーリカを喋らせつつクァンシさんに指示を出す。クァンシさんは両腕がないにも関わらず、勇敢に闇の悪魔に立ち向かってくれて……

 

 「বাধা」

 

 クァンシさんの体は闇の悪魔にバラバラにされた……。

 

 だけど時間は十分稼げた!

 

 「地獄の悪魔よ……私の全てを捧げます。なのでどうか、わたしたちをお返しください。」

 

 そう言った(トーリカに言わせた)瞬間、

 

 ポッ!! ズバババァ!!!

 

私に鈴のついた剣が刺さり、チリーンという音と共に大ダメージを喰らった。

 

 「ギャアアアあああ!?」

 

 私は絶叫しながら地獄から現世へと戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私たちは、デパートの屋上へと地獄から戻された……。

 私が息も絶え絶えの状態で、仲間の無事を確認していると、ものすごいキモい体になったサンタクロースがジャンプして、デパートの屋上へとやってきた。

 青い髪に両肩から生えた8本の人形の腕、足は人形の頭でできていてものすごい長身……。これはキモい!

 だが私は臆することなく挨拶した。

 

 「ハッピー……ホリデー……げほっ……サンタクロース。」

 

 私はとれた腕を鎖で持ち血を搾って、デンジ君とレゼちゃんに飲ませた。

 

 「デンジ君……レゼちゃん……。敵はさっきの闇の悪魔の肉片を食べた。

 闇の中じゃ、攻撃は通じない!気をつけて!げほっ!」

 

 「マキマ、貴女はここで終わりです」

 

 「二人とも……信じてるよ!」

 

 私がそう言ってスターターとピンを引っ張ると、二人は復活して応えてくれた。

 

 「りょーかい!」

 

 「ワン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「パワー達は大丈夫なのかぁ!?よ〜くも俺たちを地獄に落としてくれやがって!」

 

 「全く……私の腕も姫野先輩の腕もとれちゃったし、お返しにあんたの腕!ぶっ潰しちゃおうかなぁ!」

 

 レゼはそう言うと、腕を爆発させながら勢いよくパンチを放ち、右肩についてる腕を複数本破壊した。

 

 (爆発のパンチ……腕が取れてしまったのは厄介ですね。体制を立て直すことも含めてここは一旦場所を移しましょうか。)

 

 サンタクロースは複数本の左腕を絡めて大きく振り下ろし、デパートの屋上を破壊してデンジとレゼを地上に落とした。

 

 「痛ぇ……」

 

 「ケホッ、ケホッ……やることが派手すぎない?私が言えたことじゃないけど。」

 

 破壊の衝撃で生まれて煙が晴れると、そこには切られた腕が復活したサンタクロースがいた。

 

 「ふふ……見てください。闇の中で瞬時に傷が治りました。半年の寿命だった体もここまで回復するのですね。まるで貴方達のように。」

 

 「喋ってんじゃねえ!」

 

 そうデンジが言って斬りかかると、サンタクロースが集めた複数の人形達が、デンジとレゼに襲いかかった。

 

 「私たちの邪魔しないで!」

 

 しかし、その人形達はレゼの爆発により一掃された。

 

 「……爆弾の武器人間、厄介ですね。ならこれならどうです!?」

 

 そういうとサンタクロースは人形達の見た目を本物の人間のように変え、人間のように振る舞わせた。

 

 「え?」

 

 「あれ?勝手に体が動く?」

 

 「う、腕が!?腕が変なことに?う、うわぁぁぁ!」

 

 「マジかよぉ〜!?スッゲーわるのやつが使ってくるんやつじゃん!」

 

 サンタクロースの作戦に狼狽えるデンジだが、元スパイであるレゼは構わず人形達を吹っ飛ばし続けた。

 

 「ちょ、レゼ!?」

 

 「あれはただ単に人形を人間らしく振る舞わせてるだけだよ。そうじゃないとしてもやらなきゃこっちが殺される。

 ならさっさとあいつを殺して、人形が増えないようにする方が最も死者を減らせる。

 それが現実だよ、デンジ君。」

 

 レゼの言葉を聞いたデンジは黙った。チェンソーの悪魔になったデンジが、どのような表情を浮かべたかは察することができなかった。

 

 

 

 

 「まずいよ……デンジ君。夜が来た。」

 

 その後必死に戦い続けるも、ついに夜が訪れた。

 そして日が落ち、闇によって力を増したサンタクロースは、黒紫の肌をしたまさしく悪魔というのに相応しい見た目となった。

 

 「ふふふふふ、これが闇の力なのですね」

 

 「ちょっとキモくなってんじゃねぇか〜?」

 

 「いやー、最初っからキモかったと思うけどなー」

 

 軽口を聞いた後、サンタクロースはデンジを思いっきり殴り飛ばした。

 

 「残念、デンジ君を遠くにやったのは失敗だね。これで遠慮なく全力がだせる……。

 

 喰らえ!ナパーム弾!」

 

 そういうとレゼは小指を切り飛ばして闇の悪魔に向けて爆発させた。そして爆炎がサンタクロースを包む。

 

 「ギャアアアアア!」

 

 しかし、その爆炎は消えることなくサンタの身を燃やし続けた。

 

 「へっへっへ!ナイスだレゼ!俺も光の力でぶっ殺してやるぜぇぇぇぇ!」

 

 殴り飛ばされたデンジ。彼は近くにあった車にガソリンをぶち撒けて、その車を鈍器がわりに掴んで燃えるサンタクロースに叩きつけた。

 

 「これが俺のぉ!光ん力だぁぁぁ!ギャアアアアア!」

 

 思い切り叩きつけられた車は質量がそのまま武器となり、サンタクロースを襲う。

 その上ぶちまけられたガソリンと車の中のガソリンが引火して、思い切り爆発してデンジとサンタクロースに大ダメージを与えた。

 

 

 

 

 

 

 「あのサンタクロースを倒したか……。私の助力なしでこの速さとは……。まぁ、いい。潰しあって疲弊してくれたのは好都合だ。」

 

 デンジ達の戦いを見ていたクァンシはポツリと漏らした。

 

 「ク……クァンシさまぁ。もう帰りましょうよぉ。地獄に送られて命があったんです。それだけでもう十分ですよぉ。」

 

 泣きながらピンツィが言った。

 

 「ここで帰ったら、まさしく地獄に送られ損だ。逆に考えろ、あれより酷いことにはならない。

 それに……せめて地獄に送りやがったあいつにはやり返さないと気が済まない。」

 

 「ハロウィン!」

 

 会話を終えると、クァンシはサンタクロースと話していたデンジとレゼの首を不意打ちで刎ねた。

 

 「……クァンシ。貴方も私の人形に加えます。」

 

 「仕事だ、コスモ」

 

 「ハロウィン!ハ〜ロ〜ハ〜ロ〜ウィ〜〜〜ン!」

 

 コスモはかめはめ波の要領で、宇宙の悪魔の力をサンタクロースに浴びせた。

 そして膨大な知識量でサンタクロースの脳を破壊して、再起不能に追いやったのだった。

 

 「さて、あとはデンノコの心臓を回収するだけだな。」

 

 そう言って、デンジに近づこうとするクァンシ。

 

 「待ちなさい!」

 

 その瞬間、3人の人間の姿が見えた。それは先ほどボロボロになったはずなのに、完全に回復しているマキマ、そして岸辺と吉田の3人だった。

 

 「全部隊!クァンシさんを包囲!」

 

 そう言うと、遠くに離れていたデビルハンター達が大量にクァンシを取り囲み、悪魔や武器を構えた。

 

 「寿命……1000年使用!!!」

 

 そう言うとマキマは囚人達の寿命と天使の悪魔の力を使用して、超強力な槍を召喚した。

 

 流石に形成不利と悟ったクァンシは剣を捨てて、降参の意を示した。

 

 「降参する。私が逃げると思うなら四肢を切ってもいい。だから私の女を殺すな」

 

 「わかりました……我々公安は、クァンシさんの降参を受け入れましょう。

 みんな、武器を下ろしてください。安心してくださいクァンシさん。貴女と仲間の魔人の皆さんの安全は保証します。

 ……魔人の皆さんの人権と、教育の機会もね。」

 

 マキマは微笑みながら言った。



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銃編
43話 作戦の後に


 

 

 

 

 世界からの刺客である不死身三兄弟、クァンシ達を捕縛して、サンタクロースを撃破した公安。

 圧倒的な成果を出したにも関わらず、東京デビルハンター本部ではその功労者であるマキマは憂鬱そうな顔をしていた。

 

 「おう、入るぞ……。辛気臭い顔してるがどうした?」

 

 部屋に入った岸辺は、マキマに近寄り声をかける。

 

 「ああ、岸辺先生。ちょっと今回の件で憂鬱な気分になってまして……。」

 

 「憂鬱?いつものように大成功だったと思うが?」

 

 「冗談やめてくださいよ……。今回は人形の悪魔により、少なくない犠牲が出ました。港の職員達……彼らは本来私たちが守るべき一般人だったのに。」

 

 そう言うとマキマはため息を吐いた。

 

 「お前何年デビルハンターやってるんだ?……いや、ここ最近はお前が絡む作戦だと死者はほとんど出てなかったな。

 特異4課も退職者は出しても死者は出さないことで有名だった。」

 

 「ええ……。私は他のデビルハンターのみんなみたいに頭のネジが硬い部分があるんです。そこを悪魔の力などのゴリ押しで、カバーしてなんとかやってきた感じですからね。

 こういう死者が出るとメンタルがやられちゃうんですよ。」

 

 「公安職員じゃなくて、全然関係ない人間でもか。」

 

 「ええ。公安職員だったらもっとダメージやられてますけどね。

 囚人や敵の犯罪者なら容赦なくいけるんですけど……。まぁ、そうやって容赦なく死なせられる人がいる時点で頭のネジは外れてないわけじゃないんですけどね」

 

 「……そうか。なぁ、マキマ。お前は公安やめたいか?」

 

 そう聞かれたマキマは驚いた顔をする。

 

 「え?うーん、苦しいけどやめたいわけではないですね。

 姫パイにアキ君、それにデンジ君達がいますし、なにより頼りになる先生がいますからね。

 ……でもデンジ君と結婚して寿退社したい!ってのはあります!」

 

 「……やれやれ。未成年に手を出すんじゃないぞ。」

 

 そう言われたマキマは焦りながら目を逸らし、わかりましたと頷いた。

 

 「……お前もう手を出したのか」

 

 「お、落ち込んでて胸をちょっと揉ませただけなので!許して!許してください!岸辺先生!」

 

 そのあとマキマは必死に、岸辺先生に対して拝み倒したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公安のある取調べ室。その部屋にてクァンシと岸辺、そしてスバルの3人だけが部屋の中にいた。

 

 「わざわざ私を女達から引き離してなんのようだ?岸辺」

 

 「なに、あの時のデパートの続きだ。お前にはマキマが万が一暴走した時の、備えになって欲しい。」

 

 「そういうことや。まぁ、そんなこと言うても、マキマと戦ってくれる人なんてほとんどおらんのやけどな。頼れそうな部下二人はしっかりマキマに入れ込んでもうたしなぁ。

 肝心のマキマも暴走するかわからへんし……。てかあのマキマが暴走するところが想像できへん。」

 

 それを聞くと、クァンシはため息をついて答えた。

 

 「私を懐柔しようとするのか?あのマキマに情けなく降伏した私を?」

 

 「ああ、口でなんでもすると言ったからって、本当に従うような女じゃないだろうお前は。」

 

 「ふん……まぁいい。ところで……暴走と言ったが、岸辺。お前はマキマの何を恐れてるんだ。」

 

 そう尋ねられた岸辺は少し間を置いた後に答えた。

 

 「そうだな……俺は今まであいつが何か企んでるんじゃないかと、不安に思い色々と考えを巡らせていた。だが調べた結果、その線はないとわかった。だがその一方で、俺は新しいもう一つの恐るべき可能性に気づいたんだ。

 

 その可能性は。あいつにとって「犠牲になっても良い存在」の範囲が広がることだ。

 あいつは他人を3種類に分けている。

 1.守るべき大切な仲間。

 2.仲間ではないが、力の限り守らなくてはいけない一般人。

 3.守る必要がないし犠牲になっても良い存在。

 3を具体的に言うと、『人間の犯罪者』『囚人』『人に害をなす悪魔や魔人その他諸々の敵』だな。

 ここで重要なのは3の存在だ。マキマは死刑囚を平然と契約の対価に使用するし、敵対したヤクザなどを仲間を守るために躊躇なく殺したりする。

 あいつは基本優しい人物だが、3に分類される存在に対してはその優しさを一切向けない。むしろ逆に、1と2を守るために積極的に利用し犠牲にしているくらいだ。

 俺が最近確信した、マキマの考え方がこれだ。」

 

 その説明を聞いたスバルは岸辺に尋ねる。

 

 「なるほど……それで3の範囲が広がるってのはどういことや?」

 

 「あいつはな。頭がイカれているようで、そんなことなく案外繊細なんだ。

 もし大切な仲間を大勢失ったりした場合、怒りの矛先が敵である3に向かうだろう……。そしてその3の存在が、個人や少数の犯罪組織じゃなくて……国家だったら?」

 

 それを聞いたクァンシは冷や汗を流しながら言う。

 

 「なるほど……岸辺、お前は銃の悪魔討伐の際に出る犠牲のマキマの怒りが、米中ソの国家とその国民に向けられることをお前は恐れてるのか。」

 

 「そうだ、俺が恐れてるのはそれだ。マキマが米中ソの3カ国の市民を3に分類し始めることだ。

 それが俺の考えるマキマの万が一の暴走だ。」

 

 スバルはタバコを一服し、椅子に大きく寄りかかりながら答える。

 

 「うーん、確かにマキマちゃん死刑囚とかに容赦しないからなぁ。

 外国人に対して死刑囚みたいな扱い始めたら、それは酷いことなるで。」

 

 「ああそうだ。最悪、二度目の世界大戦が起こるかもしれないな。

 無論、そんなことを望む奴はいないし、マキマにそんなことをして欲しい奴もいない。

 マキマの企みを止めるという考えで今まで動いていたが、その必要性は薄そうだ。しかしだ、マキマが万が一暴走したとしたら?マキマの力は絶大だ。万が一だとしても抑えるためには人手がいる。

 その手始めの人員としてクァンシ、お前に参加してもらいたい。どうだ?」

 

 少し考えた後、クァンシは岸辺の目を見つめて言った。

 

 「まぁいいさ。岸辺、私もその矛先を中国人ということで向けられるのはごめんだからな。

 バディのよしみだ、協力してやるよ。」

 

 こうして、クァンシは岸辺に協力することを宣言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある昼下がり、公安デビルハンター本部の屋上、一人のデビルハンター、コベニが悩んでいた。

 

 そんなコベニに対して宮城公安のデビルハンター日下部が声をかけた。

 

 「コベニさん……なんか悩んでいるのか?」

 

 「あ、日下部さん……ええ。ちょっとこのまま公安を続けていくべきか迷ってまして。」

 

 それに対して日下部はため息をつきながら答えた。

 

 「ああ、そうだろうな。実際私もあの闇の悪魔との遭遇は辛かった。運良く、あの場にいた全員の腕は手術で繋がった。

 だがそれは永遠の悪魔のおかげという部分もあるし、最悪両腕を失ってもおかしくない状態だった。

 いや……むしろ両腕を失うので済めば奇跡。死んでるのが普通の状況だった。それくらいのピンチだったからな」

 

 「え!?あの時ってそんなにやばかったんですか!?」

 

 「え?」

 

 日下部の言葉を聞いたコベニは露骨に青ざめた。

 

 「えーと、君は闇の悪魔戦での力不足について悩んでいたんじゃ……」

 

 「い、いえ……私は自分の車がぶっ壊されちゃったことを悩んでました。

 私たち……生きてる方が幸運だったレベルって……そんなにやばかったんですか!?

 ……やめます……この仕事……やめます!」

 

  引き留めようとしてトドメを刺してしまった日下部。彼はこほんと咳払いをして会話を続けた。

 

 「そ、そうか……。まぁ仕方がない。あんなことがあればな……。

 ところで車についてなんだが、被害の申請とかはしたのか?

 マキマさんのことだからきっと、補填のお金を出してくれると思うぞ?」

 

 「ほ?本当ですか!?日下部さんありがとうございます!教えてくれて助かります!」

 

 コベニは明るい顔をして、日下部に返した。

 

 「よかった……これで家族の送り迎えに使う車がまた手に入る」

 

 「ほう?その様子だと家族と仲はいいのか?」

 

 「……いえ、仲のいい妹がいたりしますが、両親とはあまり……。いえ、かなり悪いです。

 兄の学費を稼ぐために、デビルハンターか風俗かの2択を迫られたりして……。」

 

 「……そうか。そういう家族もあるのか。」

 

 日下部はしんみりと言った。

 

 「日下部さん……日下部さんにはどんな家族がいらっしゃるんですが?」

 

 「どんな……どんな家族か。そうだな、君の歳に近い親戚の子がいるな。まだ高校生で、デビルハンターに憧れを持っている女の子だ。その子は私に憧れてくれているんだ。

 だから……私はその子の為にも、もう少しだけこのデビルハンターを続けてみることにするよ。」

 

 日下部はコベニに微笑んでいった。

 

 「そうなんですか……日下部さん、頑張ってくださいね!」

 

 コベニは日下部に微笑み返した。



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44話 公安対魔特異4課の休暇

 

 

 

 

 公安デビルハンター本部にあるフードコートにて、私はデンジ君と話をしていた。

 世界の刺客からの攻撃を乗り切ったから、それの労いを兼ねてご飯を奢ったのだ。

 

 「刺客達との戦いお疲れ様!よく頑張ったね!早川家のみんなとかデンジ君はどんな調子?」

 

 「アキのやつはさっき見舞いに行ってきました。なんか悪魔の力?を使えば両腕くっつくそうで、姫パイも安心してましたよ!」

 

 「おお!それは良かった……。両腕取れちゃったら姫パイも泣いちゃうだろうしね。」

 

 「まぁ、その後姫パイを不安にさせた罰として、病院食を姫パイと一緒に食ってやりましたけどね!」

 

 「酷い!」

 

 そんな感じで私はデンジ君とやり取りをして、話はついに旅行の話になった。

 

 「デンジ君、そういえば刺客を倒したからさ。もう安心して旅行に行けるけど、デンジ君はどうしたい?」

 

 「え?旅行!?超行きます!」

 

 そう言った後、デンジ君は少し考えた後、気まずそうな顔をした。

 

 「あ……でもそうだった。パワーが今……家で一人じゃやばい感じになっちゃってて、俺がいないとダメな感じで……。」

 

 「確かにパワーちゃんは闇の悪魔との戦いがトラウマになっちゃってたからね。公安の施設でパワーちゃんの面倒見てもらうってのも手だけど……どうする?」

 

 私は答えを予想しつつも、デンジ君の意思を尊重するために尋ねた。

 

 「…………いえ、俺が面倒見ます。よくわかんねえけど、こういうのって他のやつに任せるよりも俺がやった方がいい気がするんで。」

 

 少し悩んだ後、デンジ君は答えた。原作と同じように、デンジ君にとってパワーちゃんは大切な存在になっているようだ。

 

 「そっか……。よしよし、デンジ君偉いね。」

 

 私はデンジ君の頭を撫でながら言った。

 

 「ちょ!?ま、マキマさん!?」

 

 「ああ、ごめん、つい。嫌だった?」

 

 「い、いえ!全然構いません!ただ、何で撫でられたのかなって思いまして……」

 

 「そりゃデンジ君が偉いと思ったからだよ。デンジ君旅行楽しみにしてたでしょ?それでも旅行じゃなくて、パワーちゃんの為にそばに残ることを選んだ。

 私はそれが凄い立派だと思ったんだ。」

 

 「そっすか?」

 

 「うん!そうだよ、デンジ君の良いところだと思うよ。

 ま、旅行はまたの機会に行けるしね。そうだ!パワーちゃんが復活して、銃の悪魔の討伐が終わったら、いつか二人で旅行とか行ってみない?」

 

 「え!?マキマさんと二人でデートォ!?行きます行きます!」

 

 デンジ君は凄いノリノリで返事をしてくれた。私もデンジ君と一緒に旅行行きたかったし、嬉しい限りだ。

 ……まぁ、銃の悪魔を倒した後という条件をつけちゃったけどね。

 公安のみんなとの江ノ島旅行に、銃の悪魔の討伐に、デンジ君との旅行デート!やることが沢山ある。でも今はデンジ君との貴重な食事に集中しよう。

 私はそう思い、楽しく二人の食事を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マキマとの食事から数日、デンジは自分の部屋で目を覚ました。パワーをあやしてる最中に寝てしまったらしく、布団ではなくリビングで寝ていた。しかしアキの優しさからか、その体には毛布がかけられていた。

 

 「おはよう」

 

 毛布をかけた人物が、デンジに対して声をかける。

 

 「パワーの奴、夜中も叫んでて寝れなかったぜ。」

 

 頑張ってデンジがパワーの面倒を見た、その事実に対して早川アキはデンジの変化を読み取り、思わず頬を緩めた。

 

 「しっかし両腕くっついてよかったなぁ。これでまたアキの飯が食えるぜ。片手じゃ作りづれぇしな」

 

 「……まぁな。今回被害が少なかったのは本当に奇跡だ。

 特異4課での欠員も退職届を出したコベニだけで済んだ。最悪、闇の悪魔だけであの場の全員が死んでた可能性もあったしな。」

 

 「そっか、じゃあ今度あったらお前もちゃーんとマキマさんにお礼言っとけよ。」

 

 「何でお前が偉そうなんだよ」

 

 アキが呆れ顔で言うと、パワーの発作がおこり、再び騒いで喚き始めた。

 

 「ぎゃああああああ!」

 

 「また始まった」

 

 「はぁ……」

 

 

 

 

 

 デンジとアキはパワーをあやして、三人で食事を取ることにした。

 

 「こんなことの後でもマキマは旅行に行くらしい。まぁ、伏さん達や月本は闇の悪魔に遭遇してないし、そのメンバーのためってのもあるんだろうが。やっぱりマキマは強いな。

 ……で、何でお前はマキマと行かなかったんだ?」

 

 「へへん、そりゃ俺が偉いからだよ!偉い俺はパワーの面倒を見ることにしたんだ、マキマさんにも褒めてもらったんだぜ?」

 

 「マキマに言われたから残ったのか?」

 

 「うんにゃ、マキマさんには公安の施設にパワーを預けてもイイって言われたけど、自分で決めた。」

 

 

 

 そんなふうに二人が雑談をしていると、インターホンのチャイムが鳴った。

 

 

 ピンポーン

 

 

 「ん?誰だ?」

 

 アキが玄関に移動すると、そこには姫野と荒井が立っていた。

 

 「おいっすー!アキ君!飲みに来たよー!」

 

 「違うでしょ先輩!早川先輩失礼します!パワーが大変だと聞いて、お見舞いに参りました」

 

 「ああそうだそうだ!お見舞いねお見舞い。はい、私が買ったお見舞い品のビーフジャーキーと酒!」

 

 本来旅行に行ってるはずの姫野と荒井、二人の登場に思わずアキは驚いた。

 

 「酒とビーフジャーキーって、完全に俺と飲む気じゃないっすか。

 てか二人とも何でここに?江ノ島に行ったんじゃ……」

 

 「いやぁ、同じ班の仲間であるパワーちゃんが大変なことになっちゃってるじゃない?それを放っておくのも薄情だなーって思ってさ。

 なので優しい姫野先輩は、江ノ島旅行よりもパワーちゃんを優先したのです!

 それにアキ君抜きで江ノ島行くのもアレだし。」

 

 「そうか……。しかし荒井、お前まで旅行よりも見舞いを優先するとは意外だったな。」

 

 「まぁ、四課で残った新人職員の数少ない同僚ですから。

 コベニちゃんは闇の悪魔の一件で、辞めてしまってもう4課では3人しか同期は残ってませんし。」

 

 荒井は少し寂しそうにしながら言った。パワーを単なる魔人ではなく、新人の仲間のうちの一人と自然に考えている荒井に対して、アキは荒井が変わったと感じた。

 最初の頃はパワーを『魔人だから信頼できない』とハッキリと言っていたにもかかわらず、今では大切な仲間と思っている。

 そこまでアキが考えていると、そんな自分は荒井よりも遥かにデンジやパワーへの対応が変わっていることに気づいた。

 二人と出会った時はひたすら叱ってばかりで、うまくやっていけるわけがないと考えていたが、今ではすっかり家族のような存在だ。

 

 「あの……早川先輩?俺なんか変なこと言いましたかね?」

 

 荒井の一言で我に帰り、知らぬうちに笑顔を浮かべている自分に気がついた。

 

 「いや、悪い。ちょっと微笑ましく思ってな。」

 

 「なになになになに?何があったの?」

 

 「いやな、俺も荒井も、みんな変わったなって思っただけだ。」

 

 「ふーん。あ!変わったといえば大ニュース!

 実はあのコベニちゃんが……何と食べ物を分けたんだよ!」

 

 姫野が大はしゃぎで報告する。

 

 「何だ姫野。もう既に酒が入ってたのか。」

 

 「早川先輩!姫野先輩にもコベニちゃんにも失礼すぎますよ!」

 

 「でもコベニだぞ?」

 

 「………そうですけど!そのコベニちゃんが食べ物を分けたんですよ!」

 

 「そうそう、これが証拠です。ジャーン!」

 

 そう言うと姫野は車のおもちゃと飴を複数取り出した。

 

 「これは……?」

 

 「コベニちゃんが新しい車を買いに行った時に貰った飴とおもちゃだそうです。

 再就職に忙しくて来れないので、代わりに渡して欲しいと頼まれました。」

 

 「そうか……コベニは家庭の事情で色々あったんだったな。

 おっと、いつまでも玄関で話してるのもあれだな。中に入ってくれ。」

 

 「はいはーい。」

 

 「失礼します」

 

 そしてアキは同じ班の職員である二人を家にあげたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって江ノ島。快晴の素晴らしい天気の中、デンジ君達をのぞいた私たち公安対魔特異4課の職員達は、慰安旅行に訪れていた。

 

 「海綺麗だなぁ……デンジくんと行きたかったなぁ。」

 

 「あーあ、来ないって知ってたら私も姫野達みたいに、行かないでお見舞いの体でデンジ君家に上がり込んでたのになぁ。

 誰かさんが教えてくれなかったからなぁ。」

 

 私が江ノ島の海を眺めながら座っている隣で、同じように座り、デンジくんを求めているレゼちゃんが、私に対してチクチクと口撃をする。

 

 「ごめん!まじでごめん!」

 

 「許して欲しいなら休暇、デンジくんと一緒に取らせて欲しいなー。」

 

 「うごごごご、武器人間二人が同時に休んじゃうのは……。その……。」

 

 「あー!首痒いなぁ!」

 

 レゼちゃんは首元を掻くようにピンのところに手を持ってきて、露骨な脅迫をしてきた。

 

 「待って待って待って!わかったからぁ!何とかするからそれだけはやめてぇ!」

 

 「よし!言質とった!」

 

 レゼちゃんは嬉しそうにガッツポーズをする。本来デンジ君が来ないという情報、そのことをレゼちゃんにも共有する必要があったのだが、お互い忙しくて伝えられなかったのだ。

 いやレゼちゃんが忙しいのは私が仕事を割り振ってるからだし、全部完全に私のミスなんだけど。レゼちゃんが怒ってるのも当然だ。

 

 「おーい、マキマさんにレゼさん。二人とも泳がないんですか?」

 

 そう声をかけてくるのは、特異4課の伏さんだ。

 

 「あ、はーい!泳ぎまーす!」

 

 私は両手を振って元気よく挨拶を返した。

 

 「……レゼちゃん。デンジ君がいないのは残念だけど、せっかくだし泳ごっか!」

 

 「まぁ、いつまでもウジウジしてても仕方ないしね。

 任務とかじゃない暖かい海でのバカンスか……。そういえば昔にやってみたいと思ってたっけ。よーし!全力で遊ぶぞー!」

 

 そう言うとレゼちゃんは駆け足で海に走っていった。

 

 「あ、ちょっと、私も行くー!」

 

 私は元気いっぱいになったレゼちゃんの後を追い、海へと向かっていったのだった。



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45話 討伐に向けて

 

 

 

 

 

 

 「わざわざ僕を呼び出すなんて珍しいね。一体どうしたの?」

 

 気怠げそうに天使の悪魔、エンジェル君はマキマの執務室で尋ねた。

 

 「重要な話があるから呼び出させてもらってね。

 人目がある場所だと困るから。」

 

 エンジェル君を呼び出したのは、これから起こる銃の悪魔戦を見越しての大事な話があるからだ。

 

 「……やっぱり銃の悪魔討伐絡み?」

 

 「うん、そうだよ。」

 

 エンジェル君はそれを聞くと身構えた。

 

 「ふーん。それで……マキマは僕に何をして欲しいの?」

 

 「いや、天使君がするんじゃなくて私がするんだ。」

 

 そう言うとマキマは小箱を取り出して、天使に渡した。

 

 「この小箱は?」

 

 「私の肉片が入ってる。もし私が銃の悪魔との戦いで死んでも、この小箱の中の肉片を食べれば、自分の能力を制御できるようになるよ。」

 

 天使はそう言われて驚いた。もしこの中にある肉片を食べれば、天使がマキマや公安に協力する必要がなくなるのだから。

 

 「ええっと……。いいの?」

 

 「うん、今まで天使君は真面目に公安に協力し続けてくれたからね。」

 

 「これ受け取ったら、逃げ出して銃の悪魔戦に参加しなくなるとは思わなかったの?」

 

 「うーん。思うけど、やっぱりそれを決めるのは天使君であるべきかなって。

 真面目に働いてくれてたんだし、大切な友人もいる、そんな悪魔を無理やり銃の悪魔の討伐に向かわせるのはよくないしね。」

 

 マキマは笑顔で天使に向けて言った。

 

 「本当にいいの?僕は死にたくないから、不参加を選ぶよ?

 上の人たちにはどう説明するつもりなの?」

 

 「ふっふっふっ。それについては人外職員取り込み政策の一環として、説明するよ。

 『今後公安に雇われる人外職員は、銃の悪魔を倒すほどの功績がないと自由になれない。そう認識されては人外職員集めに支障が出る。だから銃の悪魔討伐に関わってない人外職員にも、十分な報酬を与えることで、今後公安に入る人外職員の心理的なハードルを下げる。』

 こんな感じで説明するよ。

 天使君は今まで真面目に仕事を務めてくれたしね。上の人たちを納得させるだけの功績はあるから気にしなくていいよ。」

 

 それを聞いた天使は少し思案した後、ため息をついて言った。

 

 「本当にマキマは口も頭も回るね。ポンコツなのと頭がいいの、どっちが本物かわかりゃしない。」

 

 「ポンコツなのが本物だよ。ポンコツな頭で必死に考えて思いついた言い訳だし。天使君の功績があるからこそ、この言い訳が作れたんだよ。全部天使君の手柄だよ。」

 

 「全く、人を褒めるのが上手いね。……銃の悪魔討伐は不参加にするよ。

 でも、そのための武器作り。それには協力する。銃の悪魔が居なくなれば、その分悪魔に殺される人は少なくなるし、僕の武器で生き残れる職員も増えるかもしれない。」

 

 「天使君……ありがとう。」

 

 天使が自発的に武器作成に協力を申し出た事に対して、マキマは笑顔で感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京都内にあるカフェ、丸福コーヒーにて岸辺と早川アキはいた。

 

 「はいニャンボちゃん。」

 

 そういうと岸辺は早川家から預かったケージに入った猫、ニャーコを渡した。

 

 「……ありがとうございました」

 

 早川は岸辺のニャーコに対する渾名から、岸辺本人がニャーコを預かっていた事を察して驚きつつも、早川はニャーコを受け取った。

 

 「墓参りはどうだった?」

 

 「悪魔と戦うよりも疲れました。今年は姫野が仕事で来れなかったから、静かになると思ってたんですけど。デンジとパワーのせいでいつもの2倍うるさかったです。」

 

 「その割には嬉しそうだな。」

 

 「20倍うるさい墓参りにならずに済んだので。あいつらもあいつらなりに成長してるんですよ」

 

 早川は嬉しそうにそう言うと、二人がどう変わったのかを語り始めた。

 

 そしてある程度語り終わった後、話は銃の悪魔に移った。

 

 「岸辺隊長……俺たちが銃の悪魔と戦ったとして、どれくらい生き残れるでしょうか?」

 

 「いつになく弱気だな。やはり闇の悪魔との戦いに思うことがあったか」

 

 アキの声はとても静かで、憂に満ちた声だった。

 

 「ええ、あの時はマキマが助けに来てくれたから誰も死にませんでした。

 でもマキマが来なかったら?全滅していたっておかしくない状況でした。俺は手も足もでなかった。

 俺たちが銃の悪魔と戦ったらどうなるのか……そう不安になりまして。」

 

 「お前たちが戦った闇の悪魔は、銃の悪魔以上の存在だった。

 力不足だと感じたのかもしれんが、気に病む必要はない。それに今回の作戦には4課だけじゃない、公安屈指の部隊が集まる。銃の悪魔相手にだって勝てるさ。

 それに……そのお前が手も足も出なくて気に病んでる闇の悪魔、そいつから救ってくれたマキマだって参加するんだ。それじゃあ不安か?」

 

 「そのマキマは信頼できるんですか?」

 

 そう尋ねた瞬間、岸辺は静かにメモを取り出して筆談を始めた。

 

 

 『マキマの話がしたいなら筆談で頼む』

 

 アキは驚きつつも、筆談で応じた。

 

 『何故です?』

 

 『マキマは悪魔の力で小動物の耳を借りれるからな。おっと、メモも俺以外には見えないように気を使ってくれ。

 俺は今、マキマが万が一暴走して人間に害をなした時に備える部隊を作っている。お前がマキマを疑うのなら俺の部隊に入るといい。

 ところで……どうしてこのタイミングでマキマが信用できないと思った?闇の悪魔に助けられた直後なら、恩義を感じると思うが。』

 

 『マキマがデンジの……ポチタのことについて色々隠しているからです。

 そしてポチタの……チェンソーマン以外についても。

 岸辺先生、クラカチットというものをご存知ですか?』

 

 早川アキは岸辺にレゼとの戦いの後に説明されたこと、チェンソーマンとクラカチットなる存在との関係について語った時のことを話した。

 チェンソーマンが望めば、そのクラカチットという恐ろしい爆弾が現実になるという話だ。

 

 『クラカチットか……恐ろしい存在だな。』

 

 『ええ、マキマは銃の悪魔討伐とは無関係でノイズになると言っていましたが。』

 

 『マキマがお前にそう説明したなら、実際にそうなんじゃないかと思うがな。あいつの目的は仲間を守ることにある。

 嘘をついていたとしても、お前を守りたかったんだと思うぞ。』

 

 『岸辺先生はマキマを信頼してるんですね。』

 

 『散々疑った後だからな。』

 

 それを聞いた早川は驚いて岸辺の目を見た。

 

 『そうだったんですか!?』

 

 『ああ、レゼが暴れた時も市民を避難させて被害をゼロにして、対魔2課を全員ダメージを肩代わりした辺りで割と信頼した感じだ。』

 

 『割と……完全に信頼した訳じゃないんですね。』

 

 『あいつは意外とポンコツだからな。銃の悪魔討伐で仲間が死んで、その仲間思いの部分が悪い方向に発揮されるんじゃないかと少し不安でな。

 俺が今作ってる対マキマ部隊は、復讐心でマキマがおかしくなったケースを念頭に作ってる。』

 

 早川アキは岸辺の対マキマ部隊についての話を聞いて、改めて岸辺を見返した。

 自分はマキマについて不信感を抱いても何もしていなかった。だが岸辺はそんな自分とは違い、自分が疑い始めるずっと前からマキマを警戒していた。そしてマキマの警戒を緩めた頃にようやく自分が疑い始めた。完全に周回遅れだ。

 自分よりも遥かに優れたデビルハンターが、暴走しない限り大丈夫だと認めたのだ。早川アキはその言葉を聞き、安心した。

 

 『わかりました……。岸辺先生は俺よりも遥かに色々考えてらっしゃったんですね。

 ならマキマを無駄に疑うのはやめます。』

 

 『疑うのは無駄じゃないぞ、おれの予想が外れてるかもしれんからな。で、対マキマ部隊に参加するか?』

 

 『……対マキマ部隊が動くのは銃の悪魔討伐後なんでしょ?その頃俺は民間に行ってますよ。』

 

 『ハァ……だよな。』

 

 岸辺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして岸辺と話し合い、家に帰った夜中。早川アキは夢を見ていた。

 大柄の悪魔がチェンソーを振り回し、何人もの悪魔を殺しまわっていた。殺し回っていた。殺し回っていた。ひたすらに殺し回っていた。

 そしてその悪魔が殺した一体の悪魔の血が自分にかかった所で……早川アキは目を覚ました。

 

 

 「未来の悪魔……姿を見せろ……」

 

 右目を押さえながらアキは言う。

 

 「未来最高!って言えば出てくるよ!」

 

 「ふざけるな……今の夢はなんだ?」

 

 早川アキは未来の悪魔に尋ねた。

 

 「ふふふふふ……。あれはね、もうすぐくる未来だよ。銃の悪魔との戦い、その戦いで悪魔に最も恐れられる悪魔が地上に降臨するのさ。他でもないマキマの手によってね」

 

 そう言うと未来の悪魔は姿を消したのだった。

 

 一人残された早川アキ、その体は冷や汗でびっしょりと濡れていた。



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46話 オペレーション・ファイアパンチ

 

 

 

 

 

 

 早川アキは自分のチームのメンバー、姫野、デンジ、パワー、荒井を連れて、公安デビルハンター本部にある会議室を訪れていた。

 わざわざマキマの執務室ではなく会議室で話をするのは、それだけこれからの作戦に対する意気込みが強いからだろう。

 早川アキは歩きながらも、昨日未来の悪魔に見せつけられた夢を思い出していた。

 

 大きなチェンソーを持った悪魔、いやあれはよく思い返せば手からチェンソーが生えていたようにも思える。ただその姿はデンジの変身した姿よりも、遥かに禍々しく恐ろしい姿だった。

 

 『悪魔に最も恐れられる悪魔が地上に降臨するのさ。他でもないマキマの手によってね。』

 

 未来の悪魔のセリフが早川アキの脳内でリフレインする。

 マキマを疑うべきか信じるべきか、早川は悩みながら歩いていた。

 

 「アキ君どうしたの?悩んでるみたいだけど」

 

 「いえ、ちょっと良く無い夢を見まして……」

 

 アキの不調を察した姫野は声を掛け、それに対してアキは本当の理由をぼかしながら答えた。

 

 「なんじゃアキ!悪夢でうなされたのか?しょーがないのぉー!ワシが一緒に寝てやろうか?」

 

 「お前じゃねえんだから必要ねぇよ」

 

 「ハァ!?ワシは一人でも寝れるが?」

 

 早川は仲間たちと軽口を叩きながらも歩みを続けて、ついに会議室の前に到着した。

 

 早川アキはドアの扉をノックして、入室した。

 

 

 「みんな元気そうでよかった。呼び出しちゃってごめんね。」

 

 「いえ構いませんよマキマさん!今日はなんのようですか!?」

 

 「デンジ君元気そうだね!今日は重要な話があってね……。

 早川君は察してるようだね。」

 

 話を振られた早川アキは静かに頷く。

 

 「早川君元気ないね?大丈夫?」

 

 「……大丈夫です。」

 

 マキマは怪訝な表情を浮かべながらも、話を続けた。

 

 「これからみんなには銃の悪魔討伐作戦に参加して貰いたいんだ。」

 

 マキマは本題から入った。

 

 「おおー!ようやくですか!これで銃野郎をぶっ殺して人気者間違いなしだぜ!」

 

 「めんどくさいのぉ〜。ま、ワシにかかれば瞬殺じゃがな。」

 

 「……ついに、この日がやってきたんですね。」

 

 「銃の悪魔か。ようやくだね」

 

 「……………」

 

 マキマの言葉に対して、皆それぞれの反応を示した。

 

 「うん、みんな乗り気でよかった。これから話す内容はすごい重要な情報だから口外禁止。要は秘密にして欲しいんだけどいいかな?」

 

 早川は固唾を飲んで続きを待った。

 そして一呼吸をおいてマキマは衝撃の事実を語り始めた。

 

 「銃の悪魔は現在すでに倒されて拘束されてるんだ。」

 

 「なっ!?」

 

 「ええええええっ!?そんなァ!?」

 

 「ソ連が初めて銃の悪魔を見た時は、何者かにやられてすでに意識がなかったんだ。

 今銃の悪魔は全部肉片の状態になってて、アメリカ20%、ソ連が28%、中国が11%、その他の国が7%もってて、残りが世界中の悪魔がそれぞれ持ってるんだ。」

 

 マキマの語りに対して皆驚いた後、早川や姫野、荒井は慌てながら反論した。

 

 「そ……そんな筈は!だって、サムライソードの襲撃の時に銃が!」

 

 「そうだよ!私も撃たれたし!」

 

 「お……俺も撃たれました。」

 

 「それは人間が作った銃だよ。沢渡アカネが自白した。

 銃の悪魔の肉片を持ってる国が、銃への恐怖を増やす為にばら撒いてるんだ。銃の恐怖が強まれば、銃の肉片を持ってない国に対して米中ソは有利になるからね。」

 

 早川アキはふと気づいたようにマキマに尋ねる。

 

 「それじゃあ銃の悪魔を倒しに行くってのは……。」

 

 「日本政府は他の国から強奪する事を望んでいるって事だね。」

 

 

 

 

 そして会議室を沈黙が支配した。

 

 

 

 

 「まぁ、私はそれを無視しちゃうんだけどね!」

 

 「「「え?」」」

 

 そしてマキマは明るい声でその沈黙を破ったのだった。

 

 「上としては、銃の悪魔の肉片を全部手に入れるのがベストだと考えてるけど、討伐できるだけでも及第点だと考えてるんだ。

 銃の悪魔討伐を主導した政治家、そうなれば選挙では当選間違いなしだし、地位も名誉も保証されるからね。

 だから私は最初から表向きの銃の悪魔討伐を目的に動く!……そっちの方が死者だって絶対少ないし、公安のみんなも喜ぶし!

 どう?偉い人の命令をブッチしちゃうわるーい作戦なんだけど……。それでもみんな乗る?」

 

 マキマは微笑みながら言った。

 

 「……俺は銃野郎をぶっ殺すために公安に来ました。お偉いさんの為じゃない。ちゃんとぶっ殺せるなら断る理由はありません。」

 

 「アキ君が行くなら当然私も!」

 

 「俺もやるぜ!銃野郎には恨みはねぇけど、人気者になりてぇからなぁ!」

 

 「ワシも行くぞ!ワシはデンジのバディじゃからな!」

 

 「俺も……俺も行きます!荒井ヒロカズ!微力を尽くさせてもらいます!」

 

 「それじゃあ決まりだね!それじゃあ準備して貰おうか……北海道遠征にね!」

 

 「……え?また北海道ぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1997年9月12日 北海道 朝方

 

 秋真っ盛りの北海道。紅葉が見られて美しい景色が広がる中、内閣官房長官直属のデビルハンターであるマキマこと私は、この場で腕組みをして立っていた。

 

 この場所には私が集めた公安の精鋭たちが勢揃いしていた。

 なんで北海道にいるのかというと、それは銃の悪魔の被害者を減らす為だ。永遠の悪魔の力を使っても流石に何百万人ものダメージを肩代わりするのはキツイしね。その分北海道なら銃の悪魔が現れる場所を誘導できるし、人口密度も低いから被害を軽減できる。

 

 「しかし北海道か……銃の悪魔が暴れた土地でもある。まさに因縁の土地だな。

 ……本当に銃は、いや外国はここに銃の悪魔を送り込むのか?」

 

 岸辺先生は隣に立って私に尋ねた。

 

 「北海道というよりは、私の元に送り込むのが正確ですね。」

 

 私は答えた。

 

 「アメリカに送り込んだ小動物を経由して、大統領が私を銃の悪魔の力で殺そうとしているのが断片的にわかりましてね。

 その情報を逆手に取って北海道で迎え撃つことにしました。」

 

 「賢明な判断だな。東京じゃ人が死にすぎる。」

 

 岸辺先生に褒められた!嬉しい!おっと、浮かれてる場合じゃないや。

 

 「しかし……これだけの人数を集めたのはなぜだ?お前のプランなら7名を集めるだけで十分だと思うんだが。」

 

 「万が一のことを考慮してです。アメリカが送り込むのが銃の悪魔だけとは限りませんので。」

 

 そう、私は今回の任務で大量の人員を集めた。

 

 特異1課から4課まではもちろん、東京対魔2課や宮城公安の日下部さん達、京都のスバルさん達、他にも大勢のメンバーを集めた。

 それだけじゃない、武器人間として公安対魔特異4課に入ったレゼちゃんに、組員の恩赦を条件に協力させたサムライソードと沢渡アカネ、そしてクァンシさんもいる。

 ここまでの戦力を集めた理由は原作通りにいかない可能性を考慮してだ。実際、サムライソードの時は組長がなんか暴力団の悪魔と契約して超絶強化されてたしね。

 

 「おっと……そろそろ演説の時間ですね。」

 

 「いつものあれか、あれをやると士気が上がるからな。何度もリハーサルしたんだから噛むなよ。」

 

 「そんなプレッシャー与えないでくださいよぉ……。」

 

 私は弱音を吐きつつも演説の準備を始めた。

 そして私はマイクを手に取り、皆に語りかけた。

 

 「皆さん……ついに時が来ました。

 決着の時が……決戦の時が来ました。

 我々は10年前のあの日……多くのものを奪われました。

 そして我々は10年間、本来なら得ていたはずの日常を奪われ続けました。

 残酷な真実を伝えます……この決戦で負けても……たとえ勝っても、その奪われた日常は帰ってきません。皆さんもこのことはわかっていたでしょう。

 銃の悪魔を倒しても、死者は蘇りません。

 銃の悪魔を倒しても、建物は直りません。

 銃の悪魔を倒しても、時間は戻りません。

 

 それでも……我々は戦います。それは何のためか?

 一言で言うならば復讐です。銃の悪魔によって多くを奪われた怒れる人類の復讐……そのために殺すのです。そしてその怒れる人類の中には……こうしてこの作戦に参加している人もいるでしょう。

 ですが勘違いしないでください。この復讐は決して終わりではありません。

 この復讐を終えても、皆さんの人生は続きます。

 いえ、この復讐の後の人生のほうがよっぽど長いでしょう。この戦いは人生の序盤で起こる一つのイベントの一つでしかありません。

 

 この先に何が待ち受けているのか?

 

 復讐者として生きていた今までと違い、どう生きるのか?

 

 それはあなた方が決めることです。ただ願うならば、この作戦の後に物言わぬ死体として過ごそうとだけはしないでほしい。

 

 この先には様々な未来があって、人の数だけ自由な生き方があるのですから。

 

 例えば引退して、古着売りを営み平和な暮らしを一般人として謳歌するのもいいでしょう。

 このまま民間デビルハンターとして活躍するのもいいでしょう。

 そして公安に残り、人々に貢献し続ける、それもまた素晴らしいことでしょう。

 

 この事件の後、どう生きるか、自分自身がなりたい自分になる。それが正解です。

 

 ですが今だけ、今この瞬間だけは違います。貴方たちは主人公になるのです。

 

 主人公として、悪しき時代を、苦しみを、因縁を、破壊するのです。

 

 そして再び、悪魔に怯えることのない。無力感に、悲しみに、復讐心に囚われることのない、そんな日々を再生してみせるのです。

 

 私は全力で支援します。復讐の炎を纏ったその拳は、皆さん自身が放ってください。

 

 オペレーション・ファイアパンチ。開始!」



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47話 銃の悪魔と銃の魔人達

 

 

 

 米国 ホワイトハウス

 

 星条旗が翻り、アメリカの最高権力者が居を構え、世界を指導する大国の指導者が職務をこなす建物、ホワイトハウス。

 その建物の中で一人の男が、決断を下そうとしていた。

 

 その人物はアメリカ大統領、数億人を超える人口が住む大国のリーダーだ。

 彼は電話の相手に話しかけた。

 

 「時が来てしまったようだ。マキマはついに銃の悪魔討伐に動き始めた。

 ……うむ。あの悪魔は身内には甘い。犬のように腹を見せて命を乞い、庇護を求めれば守るべき対象と見做し保護してくれるかもしれん。

 だが私は自由の国を背負うもの。ただで屈服するわけにはいかんのだ。

 それに彼女は敵対者にとことん厳しい。一度ヤクザに武器を流して、彼女の仲間を皆殺しにしようとした我が国を許さなかったら?その時は我が国の国民にとって最悪の平和が訪れることになりかねん。

 国民よ、愚かな決断を下し続けた私を、支配の悪魔と対立することしかできん私を許してくれ。

 ……幸いなことにソ連も中国もまだ屈していない。まだ勝ち目はあるはずだ……。」

 

 そして一呼吸を置いてから大統領は言い放った。

 

 「銃の悪魔よ、アメリカ国民の寿命1年を与える。代わりに支配の悪魔を……いや、マキマを殺して欲しい。」

 

 そして演説から数時間が経った頃、北海道沖に銃の悪魔が出現した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来た!」

 

 まず私の側に控えさせていたアキ君を鎖で縛り続けていた私は、未来の悪魔の力で銃の悪魔が出現する前に来ることを把握した。

 そしてプリンシちゃんの能力でワープゲートのようなものを開く。そしてそのワープゲートの下にちょうど銃の悪魔が出現した。

 

 「ここだぁ!」

 

 そこに私は沢渡アカネの蛇の悪魔に飲み込ませた罰の悪魔(天童ちゃんと黒瀬君の契約してる悪魔)に天使君の武器をありったけ装備させた状態で吐き出させる。

 

 そして罰の悪魔は自由落下の速度+吐き出されたスピード+天使君の武器の力が加算されて、物凄い破壊力を銃の悪魔に叩き込む!

 

 そして銃の悪魔はこちらにわずかばかりの銃弾をぶち込んだ後、罰の悪魔の攻撃で死んだ。

 

 何言ってるのかわかんないかも知れないけど……銃の悪魔が出てきた途端に、ありったけの悪魔の力を用いて出てきた途端にぶっ倒したのだ。ようはリスキルだ!

 

 私が倒した銃の悪魔が放った僅かの弾丸、は私たちのいるところとは見当違いのところに飛んでいった。

 

 「……あれ?弾丸が来ないな。なんで?」

 

 私が顎に手を当てて考えていると月本さんが駆け寄ってきて報告してきた。

 

 「大変ですマキマさん!永遠が……連れてきた永遠の悪魔が今の攻撃でやられました!」

 

 「え!?」

 

 永遠の悪魔の能力ははっきり言って超便利だ。だから今回の作戦でも使うために、この北海道に連れてきていた。

 だけどそこを狙って攻撃されてしまい、殺されてしまったみたい……。

 あああああ!!!どこで永遠の悪魔の所在の情報がバレたんだ!?あっ!スパイか!日本が本当にスパイ天国すぎる!

 

 私は最近乱用しまくっていた永遠の悪魔がやられたことに、ショックを受け落ち込んだのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 米国 ホワイトハウス

 

 「…………銃の悪魔がやられたか、だが想定通りだ。我が国の役目は果たした、あとは中ソにまかすとしようか。」

 

 大統領はそう呟くと両手を握りしめて成功を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 マキマによって討伐された銃の悪魔、その悪魔の残骸は唐突に現れた地獄の悪魔の手にギュッと握りしめられた。 

 そして地獄の悪魔の手が開いた時……そこに銃の悪魔はいなかった。

 

 そしてマキマが集めた、公安デビルハンターが待機する北海道の某所にて、大量の扉が上空に現れた。

 そしてその数多の扉が開き……そこから数多の魔人……銃の魔人が現れたのだった。

 

 

 

 

 一体何が起こったのか?事の真相はこうだ。

 各国の刺客を返り討ちにして銃の肉片を恐ろしい勢いで集めるマキマ。そのマキマに対抗するために、米中ソの3カ国は連合を組んだのだ。

 まず米国が寿命を捧げて銃の悪魔で襲わせる。そして次に、やられた銃の悪魔の死体を地獄の悪魔の力でマキマと離れた安全な地獄に移して、そのあと中国が用意した大量の死体にソ連が契約した「物量の悪魔」の力で複数の遺体に憑依させ、大量の魔人を作ったのだ。と言っても「物量の悪魔」の力により、人工的に量産された銃の魔人は弱体化しているが……。

 そして作り上げた膨大の量の「銃の魔人」。これを地獄の悪魔の力で再び現世、それも公安職員たちマキマが待機する場所の上空に送り込んだのだ。

 

 

 

 銃の魔人を大量に投入された、公安の陣地。そこは一瞬で激戦区と成り果てた。

 

 「特異3課!底力を見せろ!」

 

 「宮城公安!ここが踏ん張りどころだ!」

 

 「お前ら、このままじゃ京都公安はあかん奴ら思われるぞ!みっともない姿晒すなや!」

 

 唐突に現れた銃の魔人たち、それに対して各地から集められた公安デビルハンターたちは果敢に立ち向かった。

 元々銃の悪魔を倒すために選ばれた精鋭であり、銃の悪魔と戦うことはわかっていた。急な奇襲とはいえ準備は万端。奮戦しながら銃の魔人たちを屠り去っていく。

 

 しかし腐っても銃の魔人。しかも「物量の悪魔」により数を増されている魔人たちは圧倒的な実力を誇り、徐々に公安職員たちは押されていった。

 

 「クソ!押されている!このままじゃあ……ここまで来たのにやられるってのかよ!」

 

 早川アキは天使の作った刀を振いながら、悪態をついた。

 

 「いいや早川、まだだ。とっておきの秘策がある。

 デンジ!サムライソード!レゼ!クァンシ!…‥出番だ!暴れろ!」

 

 岸辺そう言うと4人の男女が現れた。

 

 「ま〜かせてくださいよ先生!暴れる準備は出来てっからヨォ!」

 

 「全く相変わらず馬鹿みたいな発言だな。学のなさが滲み出ていやがる」

 

 「そう言うあんたからは品のなさが滲み出てるけどね。」

 

 「逆にレゼ、君の発言から品も学も、知性も何もかもを感じさせる。この戦いの後にお茶でもどうだい?」

 

 4人の武器人間たちは軽口を叩いた後、変身をして銃の魔人たちを殲滅していった。

 

 「ギャーッハッハッハ!テメェら全員殺してモテモテになってやらぁ!オラァ!死ね!」

 

 デンジは次々とチェンソーで銃の魔人を切り刻んでいく。

 

 「甘いな!俺のスピードについていけねぇトロイお前らじゃあ、爺ちゃんの孫である俺には勝てねぇよ!」

 

 サムライソードは何度も居合い切りを放ち、弾丸を躱しながら魔人たちを真っ二つにする。

 

 「銃と爆弾。どっちが上か試してみる?」

 

 レゼは爆発するパンチで銃の魔人を吹き飛ばし。

 

 「雑魚狩りなんて早く終わらそう。」

 

 そしてクァンシは銃の魔人たちと撃ち合いを行い、その全てに矢で勝っていった。

 

 

 

 「これがマキちゃんが集めた武器人間オールスター……デンジ君とレゼちゃんの強さは知ってるけど、他の二人もやばいね。」

 

 武器人間の活躍を見ながら、姫野は呟く。

 

 「しかもマキマさんの話によると、剣に鞭に槍、火炎放射器なんかもいるらしいですよ。恐ろしい話ですよね。」

 

 姫野のつぶやきに対して、伏が返答した。

 

 「しかしこの調子なら……マキマが集めた武器人間たちがいれば……銃の悪魔に勝てる!」

 

 アキは拳を握りしめて言った。その時だった、再び上空に大量のドアが現れたのは。

 

 「は?」

 

 アキが驚愕のあまりに声を漏らすと、そのドアから再び大量の銃の魔人が現れたのだ。

 

 「え?え?え?え?」

 

 唐突の事態に荒井は混乱することしかできない。

 

 「クソ!新手か!」

 

 「にしても数が多すぎます!」

 

 「泣き言言ってる場合か!戦い続けろ!」

 

 大量に増波された銃の魔人達。公安は必死に戦うも再び戦況は悪魔側に傾いた。

 

 「ぐふっ!」

 

 「なっ!大丈夫ですか副隊長!」

 

 「がぁぁぁぁぁ!」

 

 「クソ!日下部がやられた!救護班を頼む!」

 

 「スバルさん!どうすればいいんですか!」

 

 「怯むな!戦い続けるんやドアホ!」

 

 次々と負傷していく公安の精鋭達、デビルハンター達に明確な焦りが見え始めた。

 

 

 

 

 次々と増援が送られる中、マキマはそれでも必死に戦っていた。

 

 「く!次から次へとキリがない!」

 

 

 鎖が鞭のように振るわれ、銃の魔人達を吹き飛ばしていく。マキマは鎖を振り回し次々と銃の魔人を屠っていた。

 

 バァァァン!

 

 しかしずっと戦い続けていれば、ついには疲労が溜まる。マキマはついに銃の魔人の放った弾丸に右肩を打たれてしまった。

 

 「ぐふっ!」

 

 そしてさらにそこからハサミを持った銃の魔人とはまた別の悪魔が現れて、マキマに襲いかかる。

 

 ザシュ!

 

 そしてその悪魔はマキマの腹にハサミを突き立てた。咄嗟にマキマはその悪魔を殴り飛ばして倒すが、マキマはその後自分の体の異常に気づく。

 

 「な………体が……治らない?」

 

 マキマは内閣総理大臣との契約で、自らのダメージを囚人に押し付けることができる。最近は永遠の悪魔の力を使っていたので、囚人に押し付ける必要はなかったのだが、それでも契約自体は続いていた。

 

 傷のせいで、思うように動かないマキマに対して、新手の銃の魔人が襲いかかる。

 

 ザクザクザク!

 

 「なにをしているマキマ!ぼさっとしてないでその傷を治せ!」

 

 しかし攻撃される直前、岸辺が助けに入りマキマはことなきを得た。

 

 「岸辺……先生、なんか変なんです。なんか銃の魔人達に……ハサミ持った悪魔が混ざってて、それに刺されたら契約が発動しなくて……囚人にダメージを移せなくて……ぐぅぅぅ!」

 

 マキマは傷で苦しみながら、岸辺に必死に状況を説明する。

 

 「ハサミだと……まさか破約の悪魔の力で、契約を無くしたのか!?……まずいな。

 新手の増援にこっちはみんな劣勢、武器人間も押され気味、頼みのマキマも永遠と囚人に押し付ける契約を無効化されて大ピンチ……か。」

 

 岸辺は冷や汗をかきながらぼやいた。

 

 「この状態になったら仕方がありません……。この状態を打開する方法が一つだけあります。」

 

 「…………本当にそんな方法があるのか?なにをするつもりだ?」

 

 岸辺の疑問に対して、ボロボロになったマキマは息を切らしながら答えた。

 

 「この手だけは使いたくなかったけど……チェンソーマンに助けを求めます。」

 

 「は?チェンソーマン?」

 

 マキマの唐突な一言に対して、岸辺は思わず聞き返した。

 

 「……ええ、私の奥の手です。岸辺先生……私がチェンソーマンに殺されるのは仕方がありません。

 ですが……なんとしてでも私が、私の死体が食べられるのだけは防いでくださいね」

 

 マキマは微笑みながら岸辺に向けて言った。

 

 「マキマ、お前何を?」

 

 岸辺が聞き返そうとしたが、マキマは構わずにそのセリフを言った。

 

 

 

 

 

 「助けて、チェンソーマン」



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48話 チェンソーマン

48話 チェンソーマン 投稿版

 

 

 

 銃の悪魔との戦い。その戦いは銃の魔人達が新しく増援に送られたことで、戦況は大きく銃の魔人側に傾き、公安は苦境に立たされた。

 そしてそれは公安で戦う武器人間達も例外ではない。

 

 「クソ!クソ!クソ!数が多すぎる!これ以上は無理だ!」

 

 「口を動かしてる暇があったら、さっさと居合いを放て!お前はそれしか能がないだろ!」

 

 夥しい数の銃の魔人達、その物量に押されてサムライソードは思わず叫び、そんなサムライソードに対してクァンシは弓を放ちながら叱咤した。

 

 「でも、このままじゃ……」

 

 レゼは爆発するパンチで敵を蹴散らしながら漏らした。次々と押し寄せる敵の数に、レゼも弱気になる。

 

 そんな苦戦を強いられる中だった、地獄の悪魔により一際大きな扉が空に作られて巨大な銃の魔人が降ってきたのだ。

 

 「な!?で、デケェ!?」

 

 「図体がでかい分、銃口から放たれる弾もデカそうだ……注意しろ。」

 

 サムライソードはその大きさに驚き、クァンシは注意を周りに促した。

 

 そしてその巨大な魔人は頭部についた銃口から、散弾の弾を武器人間に向けて放った。

 

 バァァァン!

 

 居合のあるサムライソード、爆発で高機動の動きができるレゼ、そして元の身体能力が優れているクァンシはその攻撃を避けることができた。

 しかし一人だけ、デンジはそのような移動手段を持っておらず直撃を受けた。

 

 「あんぎゃあああ!!!」

 

 「で、デンジ君!」

 

 「今行ったら巻き添えくらうぞ!」

 

 思わず助けようとするレゼを、クァンシが静止する。

 

 銃撃を受けてふらつくデンジに対して、銃の悪魔はさらに追い打ちをかける。

 デンジはどんどん撃たれてボロボロになり、ついに変身が解除されて地面に倒れた……。

 

 デンジにとって絶体絶命のピンチ……そのときだった。

 

 『助けて、チェンソーマン』

 

 デンジは何も言わずに、ムクリと立ち上がり胸のスターターロープに指をかける。

 

 「待てデンノコ!お前はもう血が足りないだろ!一旦引いて血を補充しろ!変身できないぞ!」

 

 クァンシは声をかけるが、デンジは一切反応せずにスターターロープを引っ張る。

 

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……

 

 デンジからエンジンの鳴る音が聞こえ……

 

 

 スチャ!

 

 たった一瞬で巨大な銃の魔人は細切れにされた。

 

 「は?」「なっ!?」「え?」

 

 他の3人の武器人間は、状況を理解できずに思わず声を漏らす。

 

 そしてブシャアアア!と魔人から血が吹き飛び、ようやくデンジが魔人を一瞬で殺したことを理解した。

 

 3人は改めてデンジに視線を向けるがそこにいたのは……黒い禍々しい姿をした、4つの腕からチェンソーを生やしたデンジとはまた別の悪魔だった。

 そしてその悪魔は3人に構うことなく近くの銃の魔人達を殺し回り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「チェンソーマン?なんだそれは?」

 

 私が呼んだ悪魔、チェンソーマンについて岸辺先生が尋ねる。

 

 「チェンソーマン……彼はデンジくんの友達であるポチタが、ポチタになる前の姿です。

 私も詳しいことは知りません。私が知ってる話によると……彼は地獄のヒーローだそうです。ゲホッ」

 

 私は血でむせながら語った。

 

 「地獄のヒーローだと?どういうことだ。」

 

 岸辺先生は訳がわからないと言いたげだ。うん、急にそんなことを言われたら何言ってんだこいつってなるよね。

 私は傷だらけの体に鞭を打って、チェンソーマンについての解説を続ける。

 

 「チェンソーマンは助けを求めるとやってくる。助けを求める原因となった悪魔は、そのチェンソーで殺される。助けを求めた悪魔もまた、同様に殺される。彼を殺そうともチェンソーマンはエンジンを()かして生き返り、復活した彼に殺される。

 そう……それがどれだけ強力な悪魔であろうともです。」

 

 私が話をしていると、岸辺先生のトランシーバーに連絡が入った。

 

 「どうした?……何?デンジが変身して、悪魔をとんでもない勢いで殺しまわっているだと?」

 

 「どうやら……成功したようですね。」

 

 「……とりあえずマキマ、お前は一旦退け。このままだと、たとえ悪魔のお前でも死ぬぞ。」

 

 岸辺先生は私を気遣って声をかける。だが私はそうする訳にはいかない。

 

 「いえ……そうはいきません。私は万が一に備えて、死体ごと消え去らなければいけません。それに……この傷では長くないでしょうし。」

 

 「は?死体ごと消え去る?何を言ってるんだ?」

 

 「チェンソーマン……彼は圧倒的な強さで全ての悪魔から恐れられています。人間の恐怖ではなく悪魔の恐怖を糧に強さを手に入れたチェンソーマン。

 ですが彼が真に恐れられる理由……それはチェンソーマンが食べた悪魔は、概念ごと消え去ってしまうからです。」

 

 「そんな力があるはずが……本当にあるのか?」

 

 「人類史上最悪の政党にして政治思想にして集団。ナチス。

 人類が再び起こした過ち、二度目の最終戦争(第二次世界大戦)

 

 人と人が愛し合う行為、人を救うための医療行為、それらが感染経路となる凶悪な感染症(エイズ)

 

 広島と長崎を焼き払い、世界を2回滅ぼそうとも、お釣りが来るほどに造られたクラカチットを越す爆弾(核兵器)

 それらは確かに存在しました。しかし全て、チェンソーマン によって食べられて忘れ去られました。」

 

 「スケールがデカくて頭が追いつかないが……。それがどうしてお前が死体ごと消え去ることに……まさか!?」

 

 「ええ、チェンソーマンがもし私を食べたらこの世から支配の概念が消え去る。元から支配の概念がなかったことになるのです。

 そんなことになったらどうなるか、想像もつきません。なので、それだけは回避されるべきです。」

 

 私がそう岸辺先生に伝えた瞬間だった、左隣からチェンソーのブゥゥゥンというエンジン音が響きわたったのは。振り向くとそこには、いかつい黒い悪魔、チェンソーマンがいた。

 

 「な!?」

 

 「え!?早!?」

 

 思わず私はビビって声を漏らす。だって来んの早すぎるんだもん!

 

 私は思わず構えようとするが、反応できない速度でチェンソーマンは動き……右から私に近付いていた銃の魔人を細切れにした。

 

 そしてチェンソーマンは私の方を向いて、片手を上げながら陽気に言った。

 

 「ヴァ!ヴァヴァヴァヴン!ヴァヴァヴァンヴァヴァアアヴァンヴァヴァヴァヴァヴァンヴァヴァン」

 

 そう言い終えると、チェンソーマンはチェーンを飛ばして障害物に引っ掛けて、銃の魔人を殺しつつ移動して行った。

 

 「……どうやら、チェンソーマンはお前を殺す気も食べる気も無いようだぞ。」

 

 「そ……想像より何百倍もフレンドリーだった。もっと私に殺意向けてくるかと思ってた。」

 

 私はどうやら、私が思っているよりもポチタに好かれていたらしい。嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早川アキ率いる特異4課の早川班、彼らは他の部隊と同様に苦戦していた。

 

 「く!次から次へと!」

 

 「アキくん!後ろ!」

 

 「ワシに任せろ!」

 

 早川アキの背後から襲いかかる銃の魔人、それを姫野が指摘し、パワーが血の剣で切り倒した。

 

 「ガッハッハ!これで1000体目じゃ!ワシが最強じゃあああああ!」

 

 明らかに盛った数字を申告しながら、腕を上げるパワー。そんな彼女の腕を、銃の魔人の銃撃が吹き飛ばした。

 

 「ああああぁぁぁぁあああぁぁぁ!?」

 

 「パワー!?大丈夫か!」

 

 「パワーちゃん!?」

 

 「腕がぁぁぁぁ!ワシの腕がまたぁぁぁ!」

 

 パワーの負傷に気を取られた早川班、その隙に銃の魔人達に彼らは包囲されてしまった。

 

 「早川先輩!まずいですよ!銃の魔人達が集中攻撃してきました!どうしますか!?」

 

 荒井はメイスで銃の魔人達を倒してはいるが、その表情から焦りが見える。

 

 「くっ!取り敢えず耐えろ!この状況じゃそれしか無い!」

 

 必死に天使が作った剣で応戦する早川、そんな彼の耳にブゥゥゥンというエンジンの音が聞こえた。

 

 「この音……デンジじゃ!デンジが助けにきおったか!遅いぞデンジ!」

 

 「いや、それは違うよパワーちゃん。デンジがいる武器人間部隊はもっと遠くにいるはず……。」

 

 「ワシがデンジのエンジン音を聞き間違えるか!ほら見ろ!デンジがやってきたぞ!おーい!デン……誰じゃテメェ!?」

 

 大喜びしていたパワー。彼女の目に映ったのは、なんかめちゃくちゃゴツくて怖い黒いチェンソーを生やした悪魔だった。

 

 「こいつは……未来の悪魔が見せた!?」

 

 早川アキは目の前にいるのが、夢の中で見せられた悪魔であることに気づいた。

 そして目の前の悪魔は、腕からチェーンを伸ばして周りの銃の魔人達を拘束し、思いっきり引っ張り……全員まとめて一太刀で真っ二つにしてみせた。

 

 「ヴァ!」

 

 黒くてゴツい悪魔、チェンソーマンは早川達に向けて手を振った後、他に残った銃の悪魔を殺し回り始める。

 

 「な……なんですかあれ!?デンジの奴……にしてはゴツすぎますよね!?」

 

 「俺に聞かれても困る……一体何がどうなってるんだ」

 

 状況を飲み込めない早川班のメンバー、彼らは呆然としながらチェンソーマンが銃の悪魔を殺し回る様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 米国 ホワイトハウス

 

 

 北海道にて激戦が繰り広げられる中、チェンソーマンの復活により戦況が再び公安側へと傾いたという情報。それはホワイトハウスのアメリカ大統領の耳にも入っていた。

 

 「地獄の英雄チェンソーマンか……。マキマを排除できたとしても、彼が日本に残り続ければこの作戦の意味がない。

 いや……むしろマキマと違って行動がまるで読めずに世界が危機に陥るかもしれん。とんだ爆弾を投げつけたものだな、マキマ。

 だが……マキマよ。貴様は支配の悪魔にしては、支配の方法を知らなすぎる。」

 

 そう言うと大統領は電話をかけて命令した。

 

 「もしもし、私だ。そうだ、各国のマスメディアに報道をさせるんだ。

 銃の悪魔と戦うヒーロー、チェンソーマンについてな……。」

 



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49話 ハグ

 

 

 

 

 

 「こちら第6部隊!急に黒い悪魔がやってきて、銃の魔人を殺して回り始めました!」

 

 「こちら第24部隊……なんか……助かりました。謎のチェンソーを生やした悪魔が助けてくれました。救援要請を撤回します。」

 

 「こちら第11部隊、デンジみたいなやつが助けに来たんですけど……。マキマさん、何したんですか?」

 

 次々と各部隊から、謎の悪魔に助けられたという旨の報告が入る。謎の悪魔の正体は無論チェンソーマンだ。

 

 「しかしものすごい勢いで銃の悪魔がやられていくな。

 これだったら最初からチェンソーマン頼みで良かったんじゃないか?」

 

 岸辺先生の問いに私は答える。

 

 「ハァ……ハァ……。いえ……私はチェンソーマンに嫌われてると思っていたので。」

 

 「何故だ?」

 

 「デンジ君達は……私がゾンビの悪魔を倒しに向かうその前日に、ヤクザに殺されかけました。結果ポチタはデンジ君の心臓になり各国から狙われる羽目に……。

 私はそんなデンジ君が世界に狙われても大丈夫なように、実力をつけるためにこの厳しい公安という組織に所属させました。

 その結果デンジ君は何度何度も傷つくことに……。なので彼を愛するポチタから、その原因になった私に対して、あまりいい感情を抱いていないと思ったんです。」

 

 「……まぁ、確かにあの年で公安に所属して世界の刺客から狙われるのは可哀想だが……。別に当人は気にしてないし、いいんじゃないか?

 それにそうなったのはお前のせいじゃないし、あいつは今幸せそうだ。

 チェンソーマンとかいう奴だって、お前がデンジの奴のために頑張ってることが分かるから、あんなフレンドリーな振る舞いをしたんだろう。」

 

 岸辺先生はそう温かい言葉をかけてくれた。私なりのデンジ君への思い遣り……それがポチタにも伝わっていた。だとしたら私を殺さないでいてくれたのにも納得がいく。

 

 そんな風に話している最中に、また新しい連絡が入った。

 

 「マキマさんですか!?大変です!先ほど暴れていた悪魔が……特異4課の武器人間、デンジ少年になりました!」

 

 いやチェンソーマンは元からデンジ君なんだけど……。いや違う!何かがおかしいぞ今の報告!

 

 「どういうことだ、第8部隊。詳しい情報をよこせ。」

 

 「はっ!えーと、先ほどまで黒いデンノコを生やした悪魔が暴れ回っていたのですが……。急に苦しみ始めたかと思うと、体の周りが溶け始めて少し縮んだかと思ったら、デンジ少年が変身した時のチェンソーの悪魔へと変貌しました!

 顔は赤いデンノコの姿ですし……ヴァンヴァン言ってるだけじゃなくて『オラァ!』とか言ってるので……。多分デンジ少年だと思います!」

 

 なんでそんなことに!?急にチェンソーマンからデンジ君になるなんて訳がわからない……。いや、もしかして!?

 

 私は死に体の体を無理やり動かしてデビルハンター本部と連絡を取った。

 

 「もしもし?……ゲホ!こちらマキマです。今テレビでチェンソーマンについて報道していませんか?」

 

 「マキマさん!?今戦ってる最中じゃあ……。ちょっとお待ちを……あ!

 大変です!今我々が銃の悪魔討伐をしていることが漏れてます!

 あとなんかデンジ君がチェンソーマンとかいうヒーローとして凄い持ち上げられています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全世界のテレビ。報道されている内容はどれも同じ内容であった。

 

 

 「正義のヒーローチェンソーマン!彼は常に人を救うために戦いました……そんな彼が今!公安と協力して史上最悪の悪魔、銃の悪魔討伐のために戦っているのです!」

 

 「無敵のチェンソーマン!最強のチェンソーマン!圧倒的なチェンソーマン!チェンソーマン!」

 

 「チェンソーマン頑張れー!」

 

 「どうか銃の悪魔を倒してくれ!」

 

 「チェンソーマンはコウモリの悪魔を倒したんです!この目で見ました!」

 

 「爆弾の悪魔が街中で暴れ回った時、彼は勇敢にも立ち向かった!映像がそれを物語っている!

 わかるでしょ!?彼こそがヒーローなんですよ!」

 

 テレビではアナウンサーやインタビューを受けた市民、コメンテーターが各々チェンソーマンを持て囃していた。

 その報道がチェンソーマンへの好意を育み、チェンソーマンの強さの糧であった悪魔からの恐怖を打ち消しているのだ。

 

 

 「やっぱり……。報道でチェンソーマンを弱体化させてる!」

 

 報告を聞いた私は思わず漏らした。

 

 「なるほどな、悪魔は恐れられれば恐れられるほど強くなる。

 銃の悪魔を保有する各国に、チェンソーマンがいたら困る国。そこらへんが報道でチェンソーマンを褒め称えてるんだろう。

 日本はスパイ天国だ。メディアを裏から操作して報道させるくらいのことは容易いだろう。」

 

 岸辺先生が淡々と語る。外国のスパイ本当にやばいな、日本のメディアが完全に乗っ取られてるとは……。

 私がそんな風に思っていると、空からまた一つ、大きな扉が現れて開いた。

 

 また新しい魔人が来る!そう思って身構えたが、出てきたのは大きな銃口だけだった。

 

 あれ?詰まってる?私がそんなバカなことを思っていると、銃口がこちらを向いて……やばい!

 

 「岸辺先生!」

 

 「うお!」

 

 私はそういうと残された力を振り絞って、岸辺先生を放り投げた。

 そしてその直後に銃口から放たれた弾がこちらに放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーン!バーン!バーン!

 

 上空から銃声が響く。赤いデンノコの悪魔が上を見上げると、扉から銃口だけを出して銃撃を行っていた。

 彼の記憶が正しければ……その方向にいたのはマキマだ。

 

 デンノコは焦り、近くの岩をチェーンで引っ掛けて持ち上げて、それを扉に向けて投げつけた。

 

 「オラァ!」

 

 そして投げられた岩は直撃して、扉を粉砕した。

 銃撃が収まったことを確認したデンノコはチェーンを使ってマキマがいた方向へと大急ぎで移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が熱い、意識が朦朧とする、下半身の感覚がない。

 咄嗟に岸辺先生を銃撃から守るために投げちゃったけど怒られないだろうか。

 そんなことを意識が薄れていく中で考えていたら、馴染みのある声が聞こえた。

 

 「マキマさん!大丈夫か!」

 

 「……デンジ君?」

 

 目を開けるとそこには赤いチェンソーの頭をした人物が立っていた。

 

 「………ああ。俺だ」

 

 ぎこちなくその人物は答えた。

 

 「……そっか。」

 

 私は自分の体に目をやると、下半身が先ほどの銃撃で吹き飛んでいたことに気づいた。

 ……これはやばいな。助かりそうにない。でも辛すぎて騒ぐ気にもなれない。

 

 「優しいんだね……君は。」

 

 私がそう言ったあと、場にひたすら沈黙が流れた。

 

 「ねぇ……お願いが……あるんだ。」

 

 「なんだい?マキマさん。」

 

 「『これからきっと辛い目に遭う。嫌なことを思い出したりする。自分が幸せになっていいのかすらも分からなくなってしまう日が来る。

 それでも……ここに君のことを大切に思う人が、愛する人がいたって。君には幸せになる権利が絶対にあるんだって。』

 そうデンジ君に伝えて欲しいんだ。」

 

 私がそう言うと、目の前のポチタは動じずに答えた。

 

 「……気が付いてたんだね。私がデンジじゃないってことに」

 

 「うん、だって……デンジ君のことを出会ってからずっと見てたからね。私に対する言葉遣いとか、雰囲気とか色々違うし。」

 

 「そっか……。頼みの内容が、最後にデンジ君に会わせて欲しいじゃなくて良いのかい?」

 

 ポチタは尋ねる。

 

 「うん、だってデンジ君に私が死ぬところを見せて辛い目に遭わせたくないからね。

 ポチタもだからデンジ君に変わらなかったんでしょ?でも私に気を遣って、最後にデンジ君と会えたと思わせたいから、デンジ君のふりをした。」

 

 「結局マキマさんにはバレちゃったけどね。」

 

 「ははは……。」

 

 私は力無く笑った。

 

 「ねぇ……ポチタ。最後にさ、ハグさせてもらっても良いかな?

 今の君ならハグしても大丈夫そうだし。」

 

 「……マキマ。君は最後の最後まで優しいんだね。」

 

 そう言うとポチタはゆっくりと近づいて、刃が刺さらないように引っ込めて体を差し出した。そして私は報道の力で弱くなっても、まだまだゴツいポチタを抱きしめた。

 

 どんどん消えていく意識。私はポチタを抱きしめながら最後の力を振り絞って支配の悪魔の力を使ったのだった……。

 

 



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50話 公安特異4課の悪魔

 

 

 

 

 銃の悪魔が死んだ。

 

 アキとか他の銃の悪魔恨んでた奴らは最初の方はすげぇ嬉しそうにしてたけど、途中から静かになった。

 

 俺達は銃の悪魔討伐の祝いで色々ウマイもん食ったりした。初めてウナギを食ったけどかなり気に入った。

 

 仕事以外の時はゲームとか映画とか見て過ごしたかったけど、流石にアキに怒られた。

 

 

 

 「アイス買ってくるけどなんかいる?」

 

 「肉系のおにぎり!」

 

 「デンジ、買い物行くのか?だったら酢昆布を頼む」

 

 俺はパワーとアキ二人の注文を聞いたあと、コンビニへ買い物に行った。

 

 俺はゴリゴリくんのアイスを買って、公園のベンチで食べた。アイスの棒にはあたりと書かれていた。

 

 

 

 

 銃の悪魔との戦いでマキマさんも死んだ。

 

 俺は思わずそのことを思い出してアイスを吐き出した。

 

 「……もったいねぇ……」

 

 起きてから寝るまでずっと頭がゴチャゴチャしてる。アキとかパワー、姫野先輩に荒井なんかは俺に気を使ってくれるけどそれでも全部糞に感じる。

 ウマイもん食ってもウマくねぇ。きっと脳みそが糞になってんだ。

 

 俺はそのままベンチに横になった。

 

 「ぐーぐー」

 

 横になって寝ていると、近くから声がした。

 

 「ぐーぐー」

 

 顔だけ動かして見てみると、そこには黒髪の小さなガキんちょがいた。

 

 「ガキんちょ……。俺はお前に構う気分じゃねえんだ。あっち行っててくれないか。」

 

 そう言って俺はしっしっと手で払った。

 

 だが目の前のガキンチョはそんなのをものともせずに近寄り、俺の指に噛みついてきた。

 

 「……いてー。!?この痛み!?まさかマキマさん!?」

 

 俺はハッとなって目の前のガキんちょ、いやお嬢ちゃんをみる。

 

 「?」

 

 不思議そうな顔でおれを見返す目の前のガキんちょ。側から見たら間抜けな光景だったろう。

 

 そんな状態で静止してると近くから声が聞こえた。

 

 「その子は私じゃないよ。その子は新しい支配の悪魔なんだ」

 

 俺はゆっくりとゆっくりと顔を動かして声の主を見た。

 そこにいたのは今度こそマキマさんだった。

 

 「マキマさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はもうすぐ冬なのに、夜の公園でアイスを食べながら寝ているデンジ君に、自分の上着をかけた。

 

 「はい、デンジ君。そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?」

 

 「え?え?え?なんで生きて……いや!生きてるのはめっちゃ嬉しいんすけど!」

 

 デンジ君はとても困惑している。そりゃそうだ、私は死んだと伝えられたのに、こうしてこの場に私がいるんだからね。

 

 「いやー、あの時一応死んだんだけどね……。転生したんだ。」

 

 「転生……。そういえば死んだ悪魔は転生するって……それじゃあマキマさんは生まれ変わったんすか!」

 

 「いや……一応生まれ変わったんだけど微妙に変な感じで生まれ変わっちゃって……。私は二人の悪魔に分離して生まれ変わったんだ。

 私の名前だった支配の名を持つ、新しい支配の悪魔はこの子なんだ。ほら、自己紹介してあげて。」

 

 「……ナユタ」

 

 デンジ君はポカンとしている。まぁ……よくわかんないよね。私も何が起こってるのかいまいち把握してないし。私が理解している内容をデンジ君に頑張って伝えることにした。

 

 「あの銃の悪魔との戦いの時にさ、最後私は死んだよね?

 その時に支配の力を使って、死んだ後も自分の記憶を覚え続けられるようにしてみたんだ。そしてその思惑はうまく行った。

 でも……なんでかわからないけど、支配の悪魔としては転生しなかったんだ。」

 

 「マキマさんって支配の悪魔だったんすか」

 

 「うん、実は言ってなかったけどね。私は支配じゃなくて別の悪魔として転生して、記憶とかそういうの諸々を前の支配の悪魔の力で受け継いだんだ。ちょっとややこしいね。」

 

 「別の悪魔……?それじゃあ今はマキマさんって、なんの悪魔なんですか?」

 

 「『公安対魔特異4課の悪魔』だよ。」

 

 私は笑顔で答えた。

 

 「『公安対魔特異4課』……」

 

 「うん!銃の悪魔との戦いでさ、うちって結構有名になったから、悪魔とか外国から恐れられるようになってね。その結果公安対魔特異4課の悪魔が生まれたんだ。

 特異課といえばマキマ!ってイメージがあるらしくてさ、それが原因で私が支配の悪魔じゃなくて特異課の悪魔に転生したんじゃないかって言われてる。

 実際のところはまだまだ調べてみなきゃわからないけどね。」

 

 私が支配じゃなくて特異課の悪魔に転生した理由って、本当にわからないんだよね。私の前世、いや前前世が人間だったのと関係してるのかな。

 

 「うーん。よくわかんねえっすけど、とりあえずマキマさんも生きてて、なんの問題もなくハッピーエンドってことっすね!」

 

 デンジ君が明るく笑顔で言う。

 

 「ううん……問題はあるよ。とても大きい問題が……」

 

 「え?なんすか?」

 

 「銃の悪魔を倒したから!復讐を果たしたってことで!公安を辞める職員が!多すぎるの!」

 

 私は頭を抱えて叫んだ。

 

 「ううう……みんな銃の悪魔打倒をモチベにしてたから、その目的を果たして公安で無理している意味が無くなっちゃってさ。

 どんどん退職者が出てきてて人手不足。しかも岸辺先生が言うには、『マキマが生きてることを知ったら、安心して公安を辞める奴がもっと増える』って言うし……。

 これじゃあ公安が回らないよぉ……。」

 

 私は悲嘆の声を上げる。

 

 「ええ〜!それじゃあ、江ノ島旅行の代わりの、銃の悪魔討伐祝いのデートは!?」

 

 「ごめん……めっちゃ忙しくてできそうにない。本当にごめんよぉ……。」

 

 私は項垂れながら言った。

 

 「よしよし」

 

 そんな私をナユタちゃんはなでなでしながら、慰めてくれた。ナユタちゃんめっちゃいい子。

 

 「そういえばマキマさん……その子、ナユタでしたっけ?なんでこの子を連れてきたんすか?」

 

 デンジ君が尋ねてきたので私はようやくここにきた本来の目的を思い出す。

 

 「ああそうだった!デンジ君にとても大切なお願いがあるんだ。この子に関することなんだけど聞いてもらってもいいかな?」

 

 「ええ!勿論っすよ!デンジ君なんでも聞いちゃいますから!」

 

 「ありがとう……実はなんだけど、デンジ君にはこの子の面倒を見て欲しいんだ。本当に急な話なんだけどさ。」

 

 「俺がこの子の面倒を……ってえええええ〜〜!?」

 

 デンジ君は困惑している。

 

 「支配の悪魔だった頃の私はね、日本政府に育てられたんだけど、とても辛い日々だったんだ。

 それもデンジ君、君に出会えることを知らなければすごい怖い人になっちゃうくらいにね。

 もしこの子がどこかの国家や政府に育てられたら、今度こそ怖い人になっちゃうと思うんだ。」

 

 私は原作の真マキマさんを思い出しながら言う。

 

 「だからデンジ君、この子を育てて、愛してあげて欲しいんだ。」

 

 「でも……マキマさん。俺、この子とどう接すればいいかなんてわかんないっすよ?」

 

 「大丈夫だよ!きっと……ポチタがどうすればいいか教えてくれるから。」

 

 私は満面の笑みで、デンジ君に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「またチェンソーマンが悪魔を倒したのか!?」

 

 「確か銃の悪魔を殺すまでは公安に所属してたんだよな?」

 

 「あのマキマの相棒だったとか聞いたぞ」

 

 「俺の聞いた話だと上司と部下の関係だとか」

 

 「ねぇ知ってる?チェンソーマンって今は高校生って噂だよ!」

 

 

 

 

 

 ブゥゥゥン………

 

 

 第一部 公安編 完




今までご愛読有り難うございました。
ここまで投稿できたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございました。


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