小心者、コードギアスの世界を生き残る。 (haru970)
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原作開始前
第01話 日本、燃える


始めまして、あるいは他作品を既にご覧になった方たちはどうもです!

初のリクエストと詳しい設定などを頂いて、かなり刺激されて堪え切れなくなり投稿しました!

文才の無さ故に拙い文章など出てくるかもしれませんが、頑張ります!

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 <(_ _)>

誤字報告、誠にありがとうございますschneizelさん!


 さて、唐突だが皆さんは『コードギアス』と言う作品をご存じでしょうか?

 

 デビュー作のフルタイトルは『コードギアス 反逆のルルーシュ』と言い、個性的な美男美女が勢ぞろいで登場し、彼らを中心に進んでいくストーリーだ。

 

 学園モノにメカ、神秘や超能力などのさまざまなジャンルを併せ持つ作品だ。

 

 いわゆるパラレルワールドの世界線で、『もしもイギリス帝国が存命し続けて国号も神聖ブリタニア帝国に改号し、アメリカがそのままイギリス帝国のモノで、勢力をそのまま拡大していたら』というモノ。

 

 そんな世界の中、母親を暗殺されて外交の道具として見放された兄妹の内、一人の皇族が復讐を誓い、とある出来事をきっかけに世界規模の反逆を企てる。しかも根本的な動機として、復讐と妹の幸せの為に戦うダークヒーロー的な物語だ。

 

 要するに、受けが幅広い作品だ。

 

 始めはテレビアニメでスタートしたが後に漫画やゲーム、ドラマCD、小説にインターネットラジオまで展開された大ヒット作品だ。

 

 ちなみにタイトルの中に入っている『コード』と『ギアス』は作品内で登場する特殊能力のことを示し、上記での復讐が始まるきっかけとなっている。

 

 ウゥゥゥゥゥ~~~~~!

 

 ボォン! ボォボォォォン!!!

 

 空襲警報のけたたましいサイレンが続く中、遥か遠くの爆発音が遅れて俺の耳に届き、俺を無理やり現実逃避から呼び覚ます。

 

 それでもこれだけは思わせてくれ。

 

 お父さん、お母さん……

 顔も覚えていなくて唐突ですが、日本が現在燃えています。

 

 俺は山からその風景を見ていた。

 

「お母さん、お兄ちゃん……どうなっちゃうの?」

「大丈夫だ、カレン。 ここまで火は届かないはずだ。」

「お兄ちゃんの言う通りよ、カレン。」

 

 そして俺の前には赤髪の兄妹二人と、彼らの母親であるブルネットの女性が今にも泣きそうな妹の方をあやしている光景。

 

「(ついに、始まったか……『第二次太平洋戦争』。)」

 

 時は皇暦2010年8月10日、つまり『コードギアス』という作品の中で神聖ブリタニア帝国が日本帝国に宣戦布告し、侵略を始めた日付。

 

 その光景を、まさか実際(リアル)に見るとは思わなかった。

 

 もうお察ししているかもしれないが、俺はどうやら『コードギアス』の世界に転生してしまった。

 

 ……どうしてこうなった?

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 21世紀、俺は()()()()()使()()()()()()()()()()()に勤めていたしがない社会人。

 

 ()()()()()()()()()

 

 だって気が付けば体の感覚がないわ、宇宙の中をフヨフヨ彷徨っているわでよくわからない空間の中で意識は覚醒し、混乱していた。

 

「(ここは、どこだ?)」

 

 そう()が思うと、ふと違和感を覚えた。

 

 違和感として感じたのは『どこ』という単語に対してではなく、『俺』。

 

「(俺は()()?)」

 

『俺』が『日本生まれ』なのは()()()()()。 

 誰が総理大臣や、町の構造や景色も()()()()()

 最近どこの国が一方的に侵略されたニュースとか、どんなアニメや漫画や映画を見たのかとか。

 

 とかとかとか。

 

 だが『俺自身』の身の回りの事となると、途端に記憶が曖昧に……空白(ブランク)となる。

 

 育った町は?

 学校は?

 友人は?

 同僚は?

 両親や家族の名前や顔などの家族構成は?

『俺』自身の見た目は?

 

 わからない。

 

 何も、思い出せない。

 

 ()()()()()()

 

【思い出せなくて結構。】

 

 その時、少女……少年? 

 とりあえず中性的な声がぼんやりと聞こえてくる。

 

「(誰だ?)」

 

【誰でもない。 人間(ヒト)にとって、“在る”と同時に“無い”存在。 だが“在る”から見えるものには見えるし、聞こえるモノには聞こえる。】

 

 あれか? 宗教で俗にいう『神様』か、世間的には『上位存在』って奴か?

 

【あら? 面白い例えね、嫌いじゃないな。】

 

 ……今、思っていたことを口にしていました? 

 今の『俺』に口があるかどうかは別として。

 

【人間の考えたことを読み取るのは意外と簡単だよ? 私たちにとっては。】

 

 私たち?

 

【まぁ、今は話を進めましょう? 単刀直入に言うわ。 ()()()()()()()()()。】

 

 ああ、なるほど。

『魂だけ』だからフヨフヨしているのか。

 

【……驚かないの?】

 

 驚き過ぎて一周まわって冷静になっているだけだ。 

 実体(身体)の感覚がないのに思考が可能となると……夢の中か、死に間際かの経験か、幽体の三つになる。

 

 それに君の『身体は死んだ』と言ったことで、後者の二択という事を今確信した。

 

【やはり君は面白い。 生命は本能的に“生き(存在し)続けたい”と願う者のはずだったと思ったけど?】

 

 “我思う、故に我在り”だ。 それがどんな形であろうとな。

 

【……………………うん、合格だ! 気に入った! そんな君に素晴らしい選択肢をあげよう! 

 一つは、このまま宇宙の輪廻に引きずられて一体化する。 要するに君の“個”が綺麗さっぱりされてから“全”の一部に吸収(リサイクル)されることだね。】

 

 ……それはご勘弁願いたいな。 せっかく今経験していることを忘れるのは忍びない。

 

【そこで二つ目。 ()()()()()()()()()()()。】

 

 ……………………何だって?

 

【丁度いいところに、ほかの世界に“空き”があってね? そこに君の魂を送り込むのさ。】

 

 それっていわゆる、『神様転生』って奴か?

 

【そうなるね。 そうとくれば、『()()特典』も付けよう!】

 

 おお! なんか知らんがワクワクするな!

 ワクワクする心臓も、胸もない状態だけど。

 

 あ。

 俺って、その世界でも人間か?

 

【そうだね。 ()()だよ。】

 

 性別は? 見た目は? 身体能力は?

 

【そこまで気にする、普通?】

 

 俺にとっては文字通りの死活問題だぞ? 

 神様特典があっても『体が不自由だ』、『盲目』、『死に間際の動物』とかだったら、それらを考慮した上の特典を考えなくちゃいけない。

 

 ああ、あと今覚えている記憶もこのまま継続するのか?

 

【どれだけ聞く気なのさ?!】

 

 うるさい。 

 ゲームやスポーツをスタートする前は可能な限り前情報やマニュアルを頭に叩き込むのが定石。

 始めの町にいるNPC全員にAボタンを連打して全員にあらゆるパターンで話しかけて隠し会話やクエストが無いか確認するタイプだ。

 

 ………………………………多分。

 

【しょうがないなぁ~……君の性別は男! 身体も()()()()高性能! 見た目は“可か不可で言えば可寄り”にするよ! それに記憶を続けさせないつもりだったら全部消してそのまま転生させているよ?! それでいいでしょ?!】

 

 良し。 いいだろう。

 判断材料としては十分だ。

 よくやった。

 

【なんで上から目線口調なのさ?】

 

 それと転生する世界はどんな世界なんだ?

 

【それは転生してからの“お楽しみ”ってやつさ♪】

 

 なるほど……慎重にいかないと駄目なタイプか、これは?

 

【と言っても時間に限りはあるけれどね? 何せ魂だけなんてこれ以上不安定な存在は無いし。 だから早く決めてほしいかな? あ、それと特典は()()()()()だよ? 流石に“全能”とかはダメだけど。】

 

「(……………………………………………………………………………………………………………)」

 

【ってもしもーし? 聞こえてるー? 返事をしてくれるかなー?】

 

 黙れ。

 今は取り込み中なんだ。

 

【うっわ。 また出たよ、上からの目線口調。】

 

『何でもアリ』ということは、逆に転生先の世界も『何でもアリ』の可能性がある。

 

【う~ん……この合理的な思考、いいね!】

 

 俺が悶々と考え込んでいる間に、“自称神”が何か言った気がするが無視

 

【その神の定義も、人間が付けたんだけどね? だから自称じゃないよ?】

 

 ここはどんな特典で行く?

『全能』がダメならば、定番ものの能力系か?

 鑑定や解析系、ESP(エスパー)系、魔法系……それとも純粋な自己強化系で行くか?

 

 だがもしそれ等があまり適用されない、または裏目に出るような世界となるとマズいな。

 

 となると……『Simple is best(シンプルイズベスト)』か。

 

 ……………………………………よし。

 

【お? 決まった?】

 

 ああ。

 

 俺の特典は────

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「坊ちゃま、 分からない所は御座いますか?」

 

「今の所は大丈夫です、先生。」

 

 俺はいま、勉強をしている。

 と言っても前世の記憶を使えば数学や理科などは問題ないのが分かった瞬間、代わりに他の部門とかを家に優先されている。

 

 立ち居振る舞いに交渉術や護身術、乗馬に作法やマナー。

 

 それらをスポンジのように俺は吸収していく度に教師たちからは感心される。

 

 もうこの転生先の身体が優秀のなんの。

 身体だけで、物理的な面はカバーできる予想だ。

 今は体格が小さすぎて、本領を発揮できないが。

 “流石は貴族”ってか?

 

 いや、英才教育のおかげか。

 

 ……教育と言えば一から習っているものがある。

 

 ()()()()()()()()だ。

 

 そう、ブリタニアだ。

 

 神聖ブリタニア帝国だ。

 

 十歳にも満たない、『大丈夫』の答えにスーツを着た男性が感心するような息を小さく吐きだす。

 

 相手は俺に気付かれないように振舞っていたがいかんせん、俺の耳はそれを綺麗に拾いあげては罪悪感を覚えてしまう。

 

 勉強は確かに難しいが、罪悪感を覚えているのはそれの所為ではない。

 

 俺の人生設計に対してだ。

 

 俺が『自称神』に転生させられた先は赤ちゃんスタートだった。

 

 これが出産直後ではなく、物心がつくような生後数か月あたりだった。

 

 それのおかげで俺が『スヴェン・ハンセン』という事も分かった。

 

 名前からすでに日本人ではないことを予想はしていたが……流石に下級貴族の家とは思わなかった。

 

 しかもその貴族が『ブリタニアの貴族』で、まさかの『コードギアスのブリタニア』だったと知ったときと言えば、俺の叫びが自動的に泣き声に変換され、『坊ちゃまが初めて泣きました!』と使用人たちに騒がられてちょっと複雑な気持ちになった。

 

 だってコードギアス、バッタバタと人が割と死ぬんだもん。

 

 俺もその昔に一度か二度見たことがあるからうろ覚えだが、俺の知っているキャラだけでもメインと思われる登場人物は物語が進む度に結構あっさりと死んでいく。

 

 シャーリーとユーフェミアのような身体能力的にほぼ一般人たちはともかく、強者でも結構な数が死んでいる。

 

 疑似的な『時間停止』のギアス持ちのロロ、四聖剣(しせいけん)と呼ばれるほどのいわゆる『四天王』のうち三名が戦死している上に、実質的な『核兵器』が二期の後半あたりで雨霰のようにバカスカ撃ちまくられる。

 

 せめてもの救いがどういうわけか放射能がないことだが、破壊力はご察しの通り健在。

 

 とりあえず、『Hey(ヘイ)! オレ様たち死亡FLAG(フラグ)! コンゴとも家族と親戚たちと共にヨロシク!』とゾロゾロそこかしこにある世界なのだ、『コードギアス』は。

 

 一つの過ちで即死亡フラグが湧き上がるのだ。

 

 そこでだ。

 

 俺ことハンセン家のスヴェンはブリタニア帝国の貴族の嫡男。

 

 ドタバタに巻き込まれる可能性は大いにアリなのだ。

 

 だから俺の目標は第一に生き残る!

 第二に生き残る!

 第三に何が何としても生き残る!

 

 ついでに美少女を妻にしてのんびりと余生を生きるとか……

 

 つまりはだ。

 全力で自己の基礎能力を底上げし、基盤を盤石に整えた上で面倒ごとをマタドールのように、華麗に回避!

 

 これしかない!

 

 え? 『神様から特典もらっただろ』、だと?

 

 それは保険だよ、保険。

 切り札。

 俺としてはそうそう切るつもりのないジョーカーだ。

 

『自称神』があっさりとオーケーを出した時に気付けば良かったが、今思えばあまりにもすんなりと答えが来たことで失念してしまった。

 

 確かに特典はもらったが……今判明しているのは使用の結果だけで、ぶっちゃけるとどんな副作用や後遺症が出るのか分からないものだから、極力使わない方針で行こうと思う。

 

 可能な限りリスクを抑えた試行錯誤はちょくちょくとこれからする予定だが。

 

『原作に介入しないのか』だって?

 

 逆に聞くが、誰が好き好んで自ら地雷原に生身で突貫する?

 

 いるかも知れないが、少なくとも俺は違う。

 

 出来ればだが、ルルーシュたちを悲惨な結果から救ってやりたい気持ちは大いにある。

 

 あるが……命あっての人生だ。

 

 前世でどう俺が死んだかは知らないがせっかくの第二の生、満足したい。

 

 というわけで、『面倒ごとから逃げて、貴族ライフを満喫してはブリタニア帝国崩壊後に隠居するために備え、ついでにそれとなく目立たない程度に活躍する!』

 

 これしかない!

 

 それを決意した俺はとにかく片っ端から未来で助けになるようなモノ全てに手を出した。

 

 あれだ、『手に職』って奴だ。

 

 その結果、『ハンセン家の隠し玉』と呼ばれることになったが……まぁ大丈夫だろ。

 

 あれ? この場合、『神童』とかになる筈なんじゃね?



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第02話 燃える前の日本に島流し

なるはやで次話の投稿です!

お気に入り登録、感想、誠にありがとうございます! 活力剤にしております! (シ_ _)シ

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

誤字報告でより良い文章の提供、誠にありがとうございます灰茨悠里さん!


 あれから更に数年後の今、『それがどうしてこうなった?』と俺は誰かに聞きたい。

 

「着いたぞ。 ここが、()()()世話をする家だ。」

 

 俺の()護衛役の黒服黒サングラスが放心する俺を車の中から引きずり出している間、もう一人の元護衛役が俺の全財産が詰め込んであるリュックをトランクから引きずり出す。

 

 目の前にはどう見ても、一昔前の日本ではどこにでもあるような民家が一件。

 

 俺が()()()()()として送られた家だ。

 

 俺は『面倒ごとから逃げて、貴族ライフを満喫してはブリタニア帝国崩壊後に隠居するために備え、ついでにそれとなく目立たない程度に活躍する!』と言ったな?

 

 あれはどうやら嘘のようだ。

 

 決意を新たにして数年、俺の父親が実は日本人の愛人を持っていて彼女との間に子供ができてしまい、出産後に愛人は死亡したとか。

 その際に、父親は自分の家に嫡男がいなかったことで愛人との子供を家で育てていた。

 

 だがようやく正妻であるハンセン夫人が妊娠し、純粋なハンセン家の子が生まれたことで混ざりものであるハーフはお払い箱だとさ。

 

 これでハンセン家は堂々と腕を振って、『純血の子供を持っている』とほかの貴族たちに宣言(アピール)できる。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 …………………………な、わけがない。

 

 うん。

 お察しの通り、そのハーフとはこの俺のことだ。

 つまり、俺は『混血』だったらしい。

 

 まぁ、これで母さん……いや、今となってはハンセン夫人(元母さん)が俺に一度も接触してこなかった理由が分かった。

 

 ついでになんでハンセン家ではほぼ軟禁状態だったのかも。

 乗馬とか外出する際に、大げさなほどに護衛がいたのも多分俺の監視も兼ねていたんだろう。

 

 最初はデビュタント(お披露目)前だからと思っていたが、新たな事実を聞けば辻褄があう。

 

 というわけで俺は急遽、ブリタニア本国からハンセン家が媚びを売ろうとした有力な遠縁の家に、『従者見習い』として極東の日本に島流し派遣された。

 

 後は保険の意味もあるかもしれない。

 元々ハンセン家は下級貴族らしいから、なるべく打てるカードは保ちたい理由はわかる。

 

 分かるんだが…………………………

 

 コン、コン。

 

 ガラガラガラ。

 

「はい? どなたでしょうか?」

 

 元護衛役……もういいや。

 

 監視役の一人が民家のドアにノックをすると、スライディングドアの向こう側からぼんやりとした目つきの女性が出てくる。

 

『というか、どこかで見たことあるぞ』とさっきから警報を鳴らす考えを俺はすぐに黙らせる。

 

「先日、連絡をしたハンセン家の使いです。」

 

「え────?」

「────こちらが『従者見習い』の者です。」

 

 女性が監視役にがっちりとホールドされている俺を見ると目を見開かせた。

 

「まぁ?! まだ子供じゃないですか────?!」

「────それは我々の知ったことではない。 連絡した通り、確かに送り届けましたよ?」

 

 バタン、バタン!

 ブロロロロォ~!

 

 まるで行動に『ここにこれ以上いたくない』という意を含めたように、監視役たちはさっさと俺の荷物を置いては車の中に戻り、すぐにその場から去っていく。

 

「………………えっと……ま、まずは中に入りましょうか?」

 

 女性はにっこりとした笑みを向け、ホコリまみれになった俺のリュックから汚れを払い落として中へと進む。

 

「お邪魔しマス。」

 

 うわ。

 前世から数年経っている今、日本語が少しぎごちなかった。

 完全にバラエティー番組とかで出てくるエセ外国人の口調だ。

 

 ただまぁ、懐かしい気持ちにはなるのだから雰囲気に流されたことは勘弁してくれ。

 

 できるだけ表札を見ないようにしながら、俺は家の中へとさっさと入る。

 

「長旅、疲れたでしょう? あまりおもてなしをできなくてごめんなさいね? 日本のお茶しかないのだけれど……」

 

「ダイジョブ。 日本のグリーンティー、オーケーです。」

 

 畳の匂いがお茶と混ざって、俺は安らぎが身体に染み渡るのを感じる……

 

『ザ・昭和』の名残の持った平成だぁ~。

 

「えっと……ハンセンくん、だっけ? お名前の方は、何と言うのかしら?」

 

Sven(スヴェン)、言いマス。 九歳、デス。」

 

「そう……」

 

 ギュ。

 

 どういうわけか、女性は俺の隣に移動しては優しく抱きしめた。

 

「そんなに気を張らなくていいのよ? 泣きたければ、いくらでも泣いてもいいのよ?」

 

 なるほど。

 この女性は俺のポーカーフェイスを『我慢している』と解釈したのか。

 

 まぁ精神年齢はともかく、九歳の子供でしかも一人で外国に『従者の練習をしておけバイビ~』だからな。

 

 ただこの浮かべている顔は来るべき未来に備えて、他人に俺の考えていることや心の中を悟らせない為の表情だ。

 つまりは平常通りなので、彼女が気にすることは無いのだが……

 

 今それを彼女に言って、変に勘繰られるのはごめんだ。

 メリットとデメリットが噛み合わない。

 

「私の子供たちの父親がブリタニアの貴族なのだけれど……私はただの主婦だからここにいる間は楽にしていいのよ? えっと……す、すぇ、すうぇ………………少し言いにくいから、“スバル”と呼んで良いかしら?」

 

「かまわなイ。」

 

「じゃあ、今日からは(スバル)ね! 苗字も……そうね、“半瀬(はんせ)”というのどうかしら?」

 

「それでイイ。」

 

「あとさっきも言いかけていたのだけれど、私にはね? 子供が二人いるの。」

 

 はい、()()()()()()

 

「一人は男の子で、スバルより少し年上。」

 

 はい。 それ()知っています。

 

「もう一人は女の子でね? ちょうどあなたと同い年なのよ!」

 

 ハイ、()()()()()()

 

 もう俺の心のHPはゼロです。

 

「だから、互いに仲良くなりやすいと思うの!」

 

 ゼロよ~~~~~~~。

 

「はい。 全力でサポートいたしまス。」

 

 お? そろそろなまりが解けて来たな。

 流石は俺(のハイスペックな身体)。

 

「えっと……同い年の友達として接してね、昴君?」

 

「はい。」

 

 女性は笑みを向けながらも、どこか哀れんだ顔を俺に向ける。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ……うん。

 もう認めるとしよう。

 この目の前の人こそ────

 

『────ただいま~!』

『あれ? お兄ちゃんのともだちのくつ?』

『いや? 俺の知り合いにこんな高そうな靴を履きそうな奴はいない。』

 

 玄関の方から二人分の声がしてくる。

 噂をすればなんとやらだ。

 

「あらあら、丁度いいわ。 今から紹介するわね、昴君。」

 

 玄関から通じる通路から赤髪の少年と少女は居間へと入ってくる。

 

「あれ? 母さん? その子は誰だ?」

 

 少年は俺を見るなり?マークを頭上に浮かばせる。

 

「ふわぁ~! かみのけがしろい~! しらががいっぱいだ!」

 

 白髪と違うがなオイコラ。

 

「これは銀髪と言います。」

 

「しらがにしかみえない! へんなの!」

 

 ……………………明日から黒く染めるか。

 

「この二人が先ほど言っていた子供たち、()()()()()()()()()()よ。 ナオト、カレン? この子は半瀬(はんせ)(すばる)、貴方たちの遠縁の親戚になる子で、今日から私たちの家で面倒を見るわ。 って、あらいけない! 私ったら自分の自己紹介をするのを忘れていたわ! 私は紅月留美(るみ)よ!」

 

 そう。

 

 ここは『紅月家』だ。

 

 そしてこの目の前にいる兄妹こそ、後に日本を隷属化したブリタニア帝国に対してレジスタンス運動をするグループの中核を担う二人になるのだ。

 

 紅月カレンは実行員と言うだけで頭が痛くなるが、紅月ナオトはそのレジスタンスのリーダーを原作では務める存在だ。

 

 頭と胃が痛くなる、ダブルショックである。

 

 今まさに(内心では)頬に両手を当ててダブルショーック!

 

 ………………良し。

 

『面倒ごとから逃げて、貴族ライフを満喫してはブリタニア帝国崩壊後に隠居するために備え、ついでにそれとなく目立たない程度に活躍する!』

 と言っていたが……それから。

『極力面倒ごとを自分から遠ざけて、距離をとった従者ライフ&裏方仕事でブリタニア帝国の侵略時とその後に備える!』

 へと変更だ!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれから俺はカレンたちとはすんなりと仲良くなった。

 

 友達として。

 

 ナオト……いや、ナオトさんは歳の割に落ち着いて大人びていた所為で精神年齢が近いからか、すぐに冗談を言い合えるような仲になった。

 

 “固い顔するなよ!”と言われているが、そもそも俺はこのポーカーフェイスを今更崩すことはしない。

 

 だから身内以外の前では愛想笑いをしているというのに、今度は時折彼にドン引きされる。

 

 どないせぇ言うねん。

 

 カレンはこの年からすでにやんちゃで、『花より団子』の性格だった。

 川を見れば釣りより泳ぐことを考えるし、クワガタ虫も素手で捕まえたり、ズボンだろうがスカートだろうが木登りをしたりで………………

 

 しかもナオトさんはナオトさんでそれに付き合うし……

 

 取り敢えず兄弟そろって、かなりのアウトドア&アクティブ派なのだ。

 

 それと余談にしたいのだが、留美さんの押しに負けた末にカレンの通う小学校に俺は編入した。

 

 留美さんには『別に通わなくてもいい』と言ったのだが、『子供時代は一度だけ! 青春を楽しんできなさい!』と言われて俺の反対は却下された。

 

「ほぉ? 君が半瀬くんという、おのこか。 噂はかねがね、ナオトから聞いているよ。」

 

 そして今、俺の前には『本当に数か月だけ歳が違うのか?!』とツッコミを入れたい、この歳ですでに美貌溢れる黒髪の少女が値踏みするような眼で俺を頭からつま先を見ていた。

 

「始めましてお嬢様、自分は半瀬(はんせ)(すばる)と言います。」

 

 俺のこの徹底した愛想笑い&人当たりの良い口と設定が憎い。

 

「それも年齢に似合わず作法の知識があるとな、感心ものだな。」

 

 …………どうしよう?

 思わず自己紹介をしてしまったが、問題はそこではない。 

 そこではないのだ。

 

 問題は目の前にいる美少女だ。

 

 ある日、ナオトさんが俺の教室に来てはこの子を連れて来た。

 

 その時に紹介された彼女の名は『毒島(ぶすじま)冴子(さえこ)』だそうだ。

 

 なんでやねん。

 

 俺の知っている『毒島冴子』と言えば、『HOTD(学園黙示録)』に出てくるキャラクターだぞ?

 

 世界が違うやんけ。

 

 彼女と会った瞬間、俺は以下の疑問を思い浮かべた。

『そもそもここは本当にコードギアスの世界なのだろうか?』と。

 

「??? どうした、半瀬くん?」

 

「お? いつもは人に興味なさそうな昴でも、毒島には見ほれるか? ん?」

 

 ナオトさんがニヤニヤしながら俺をからかう。

 

「いえ。 ただ“ナオトさんよりは腕が立つ”と思っていただけです。」

 

「んぐ……こいつ、こういう時は可愛くねぇな?!」

 

 話題を振ったのはアンタだよ、ナオトさん。

 

 実際、今の彼と俺が戦っても純粋な技術で言えば容易に俺が勝つだろう。

 

『俺が全力を出せば』、と言う前提付きだが。

 

 今はまだ原作前。 極力目立ちたくはない。

 原作開始前の時代で、俺が原作キャラを何らかの刺激を与えてしまってはどこで原作が崩れるのか分からなくなる。

 そして一旦崩れてしまえば、俺の持っている『原作知識』と言う圧倒的なアドバンテージはアテにならなくなる。

 

 数少ないカードはなるべくタイミングを見て切らなければならない。

 

 だからナオトさんや他の子供たちとはなるべく、()()()()で勝ち負けするように調整している。

 

 だから『ご褒美が欲しい』と思っていたが、流石に『毒島冴子』は予想外だ。

 

「ふむ? その言い方だと、ナオトに何度か勝利を収めている話は本当のようだな?」

 

 俺が悶々と考え込む(現実逃避している)間に毒島がニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「今日、君は学校後に予定は立ててあるのかな?」

 

 あれ? 

 何この流れ?

 なにぞ?

 

「確か無かったよな、昴?」

 

「いや、俺は────」

「────てか基本的におれやカレンに合わせているだろ? おれもカレンも、今日は毒島の所に行く予定だったからな? おれ等が行って、お前が行かないのはどうだろうな~?」

 

 ナオトさん、それ卑怯です。

 

 でも嫌な予感がするので断固拒否し(逃げ)ます。



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第03話 奇跡との出会い

次話です!

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ダカダカダカッ!

 

 すばる は にげる をつかった!

 

 学校後、こっそりと裏口から脱出しようとした俺はナオトさんに捕まって、そのまま年季の入った木造の道場まで連行された。

 

 しかし まわりこまれてしまった!だよトホホギス。

 

「ここが私の通う道場だ。 “通う”と言っても、気分次第で来る程度だが。」

 

 そして後ろから前に出た毒島はそう誇らしく、完全にドナドナ気分の俺へと告げる。

 

 ちなみにカレンは途中で『飽きたからもう帰るねぇ~!』でもうここにいない。

 

 ちくせぅ。

 

 道場内から活気に溢れた声が外まで響き、俺はとある単語と俺の『絶対に会ってはいけない人物』リストの上位の者の姿に固まった。

 

「む? 枢木(くるるぎ)の姿が見えないこともそうだが……先生が既にいるのは珍しいな?」

 

「今日の私は非番だ。 スザクは父親といる。 今日は何か外せない用事があるらしい。」

 

 毒島が話しかけたのは正座から立ち上がった『藤堂鏡志朗(とうどうきょうしろう)』。

 

 日本軍の中佐で、原作では日本侵略の際にブリタニアが使用するナイトメア相手に純粋な状況分析から生じた戦術と戦略、そしてそれらを扱う指揮で通常兵器を使い、勝利したことから『奇跡の藤堂』と日本軍と後のレジスタンスの希望として担ぎ上げられる人物。

 

 ある意味、あのルルーシュと渡り合える思考能力を持ちながら本人自身も戦えるという数少ない『文武両道』の人物だ。

 

 軍人の出立ちの所為で固定概念や義や先入観などに囚われやすく、時々それらが足を引っ張るが。

 

 しかも毒島の言った『枢木』と、藤堂の言った『スザク』は十中八九、『枢木スザク』の事だろう。

 

 こちらもまたコードギアスの中心人物……と言うか、『もう一人の主人公』とも呼べるような存在だ。

 

 その『枢木スザク』が居ないのは良かったが────

 

「────ッ!」

 

 藤堂鏡志朗の視線が俺に向けられた瞬間、ヒシヒシと伝わってくる覇気に思わず身構えてしまい、隠し持った(手作りの)暗器に一瞬だけ手が伸びると彼の目が細められて俺は身体の動きを止める。

 

「………………毒島くん、彼は?」

 

「半瀬昴と言う者です。 ナオトに何度か勝ったことがあるらしいので、今日は両名とも連れてきました。」

 

「ふむ……」

 

 藤堂鏡志朗がジッと俺を見ては────

 

「────毒島。 彼と一試合をしてみてはどうか?」

 

「え────?」

 「────良いのですか、先生?!」

 

 俺の言葉を、目をキラキラと輝く毒島が遮った。

 なんだ?

 今までクールに徹していた彼女が、急に水を得た魚みたいに元気になったぞ?

 

 いや、もっと具体的な例えをするのなら血の匂いを嗅いだサメだな。

 

「うむ。 私から見ても、彼ならば君と渡り合えると見た────」

「────あの────」

「────ではすぐに着替えて参ります先生────!」

「────だから私────」

「────うむ。 君も着替えてきなさい。」

 

「……………………………………………………………………………………はい。」

 

 俺の意見は無視ですか? 

 そうですか、(無視)ですか。

 

 ミーンミーンミ~~~~ン

 

 またもドナドナ気分のままと今度は短命な蝉の気分も混ざり、剣道着に着替えさせられてからまた道場内へと戻される。

 

 主にナオトさんに。

 

『おい、アイツ……』

『今度の餌食は新入りか? ……先生が間違えるなんて考えにくいが……』

『おい、誰か救急車を前以て呼んどけ。 “毒島案件だ”と言えばすぐに来るはずだ。』

 

 そして周りから聞こえてくる声に、なぜ毒島が嬉しがっていたのか分かったような気がした。

 

 てか最後のヤツ、『毒島案件』ってどいうこと?

 

 ドナの?

 

「行ってこい、昴!」

 

「ナオトさん、恨みますよ?」

 

「骨は拾うぞ?」

 

 「死ぬ気は毛頭ない。」

 

「だろうな! まぁ……頭部への直撃だけは何としてでも防げ。」

 

 荷馬車が~ゴトゴト~子牛を乗せて行く~♪

 

 そう言われながらナオトさんに背中を押されるまま俺は中央の開けた場所に足を運び、同じく剣道着に着替えた毒島が構えると俺も反射的に構える。

 

 それだけで周りは静まり返ること数秒間、先に訪れた沈黙を破ったのは毒島だった。

 

「先手が欲しいのならくれてやるが?」

 

「いえ、レディファーストですので。」

 

「では────」

 

 その瞬間、明確な()()を当てられて体中の髪の毛がゾワゾワと立ち上がる。

 

 「────参る!」

 

 まるで血に飢えていた猛獣が檻から解き放たれた幻覚を目の前にしたような気分の中、嬉しそうな毒島が鋭い突きを俺目掛けて繰り出す。

 

「(うをぉぉぉぉ?! マジかぁぁぁぁ?!)」

 

 予想以上に速い『それ』には、()()()()()()見覚えがあった突きだった。

 

 藤堂の『三段突き』。

 

 同じ世界とは思えない、最先端技術が満載されている人型メカ(ナイトメア)の『ランスロット』に乗ったこれまた製作者公認の『チートスペック人間』である枢木スザクでも完全に避けきれなかった技だ。

 

 使用者は違うが、他メディアで見たものと目の前の毒島の動きは酷似していた。

 

 それを俺は反射的に持っていた竹刀をそのまま上げながら、左右へと一撃目と二撃目を避け、本命と言うか最後である突きを受け流すとバックステップで距離を取り、竹刀を構えると毒島もまた竹刀を元に戻そうと────

 

「────両者、そこまでだ。」

 

「え?! せ、先生?!」

 

「……」

 

「なぜです?! まだ一度しか────!」

「────そこまでだ、毒島。」

 

 だが藤堂の制止の声により、試合は続くことは無かった。

 

 俺としてはスッゲェ助かるが、毒島はブッス~と頬を膨らませて不機嫌になり、いつの日か俺に再試合を約束させた。

 

 というか地味に毒島の気迫が怖い。

 これ、もうすでに誰かを()っているのでは?

 

 それに予想外に()()も一瞬だけとはいえ、使ってしまった。

 

 ()()藤堂の前でだ。

 

 本当に瞬きの一瞬だけだから『気付くのはもはや不可能に近い』と思いたいが……

 …………………………どうしてこうなった?

 

「スッゲェよ昴! 毒島のアレを初見で防いだの、初めて見たぞ!」

 

 道場(地雷原)からさっさと距離を置きたくなった俺に追いついたナオトさんが嬉しそうに声をかける。

 

「ナオトさん、夜でも良いので『ビッグモナカ』と『ラムネ』を1ダースずつお願いします。」

 

「え……………………そ、そんなに食べれるのか?」

 

「半分はカレンの時間稼ぎ用です。」

 

 でないと俺の食べる分が無くなる。

 

「へぇ~? そういうときもカレンのことを考えるのか?」

 

 なんだ?

 ナオトさんが急におっさんみたいにニマニマし始めたぞ?

 

「アザラシのぬいぐるみもこの間、屋台で勝ち取ってプレゼントしていたもんな~?」

 

 いや?

 それは原作で彼女の部屋で見たことのあるタバタッキ(ぬいぐるみ)があったからそれを狙って、貰ったのをあげただけで深い意味は無い。

 

 そもそもナオトさんが今日みたいに、射的の屋台へと引っ張ったのが事の発端じゃないか?

 

 なんかそう考えたら腹が立ってきた。

 

「取り敢えず、『ビッグモナカ』と『ラムネ』を1ダースずつお願いします。 でないと留美さんに北東から二番目の畳の下に隠してあるナオトさんの本の隠し場所を教えます。」

 

 勿論そんなことが言えることもなく、俺はただナオトさんを脅すだけに押しとどめた。

 

「お、おお……わかった。」

 

 そしてまたもドン引きされるとは何ぞや?

 

 

 ___________

 

 藤堂 視点

 ___________

 

 藤堂にとって、スザクの次か同等の問題児お気に入りである毒島がある日突然、いつものようにフラッと道場に来ては見慣れない子供を連れて来た。

 

 彼の第一印象は『チグハグ』だった。

 

 見た目や仕草は年相応の子供の振る舞いだったが、浮かべていた笑みは舞踏会や会場などで汚い政治家たちが互いを騙し合うときによく使う『仮面』に似ていたという印象を藤堂に与えていた。

 

「(加えて私の覇気をぶつけた瞬間、彼は立ちすくんだり泣いたりするどころか一瞬だけ闘志を示していた。)」

 

 そう、それが何よりも藤堂が感じた『チグハグ』と言う印象を裏付けていた。

 

 軍人である藤堂の覇気は、並大抵のものであるならばすぐさまに『恐怖』と『従属感』を本能に叩き込む、いわば『威嚇』にも使えるレベルのモノだった。

 

「(それを僅か九歳である子供が、臆せずに戦う構えを取るか。 そんなことをしたのは毒島以来だ。)」

 

 藤堂は未だに試合を中断させられてどれだけ不服なのかを訴える毒島を見ながらそう思う。

 

「(それだけでも『何かがある』と思わせるには十分だ。 だというのに、見よう見真似で毒島がほぼ完ぺきな状態で繰り出した私の三段突きをいなすとは……しかも()()でだ。 

 最初の突きに対し、竹刀を上げたがそれを受け止めるのではなく敢えて躱し、二つめの突きも躱すなどと……どれだけの思考能力と身体能力があればできるのだ? 九歳の子供に?)」

 

 藤堂の『三段突き』は文字通り、三つの突きの一つ一つが本命になり得る威力を持ち、敵に一度目や二度目の突きをどうにかしても、三つ目の突きが待っていると思わせないほどの連続攻撃。

 

「(しかも三つ目の突きに関しては、躱すどころか受け流してすぐに迎撃態勢に入っていた。毒島やスザクも研鑽を重ねれば出来るかも知れないが、今は無理だろう。 私が思わず、止めに入るほどの者……『半瀬(はんせ)(すばる)』、か……

 それは果たして、容赦のない毒島から彼を守る為か? あるいは────)」

「────先生? 何かいいことでもあったのですか?」

 

 藤堂は気付いていなかったが彼の頬は緩み、僅かながら笑みになっていた。

 

「ん? いや、何も。 (全く……末恐ろしいよ、新しい世代が。)」

 

 この時は丁度、日本の桜が咲き始めていた春の皇歴2010年4月であったこともあり、そよ風で桜の花びらが道場周りを舞っていた。

 

 尚、藤堂のこの考えを(スヴェン)が聞いていれば彼は全力で『全くの偶然です』と訴えていただろう。

 

 彼に信じられるかどうかは二の次として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして皇歴2010年8月10日、日本に対してブリタニア帝国は宣戦布告を行い、空陸海からの同時四方面の電撃侵略を開始することとなる。

 

 

 皇歴2010年9月、内閣総理大臣である枢木ゲンブは自宅で己の銃で自らの頭部を撃った状態で発見される。

 

 死因は徹底抗戦を宣言し、立て続けの敗戦に敗戦を重ねた責任感からの()()

 

 日本政府はこれを機に、正式にブリタニア帝国へと降伏を申し出た。



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第04話 『ざまぁ』と下着

誤字報告、誠にありがとうございます!

とりあえずストックが続くまでは連続投稿を続けようと思います。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

7/3/2022 5:41
誤字報告、誠にありがとうございますモルゲンスタインさん!


 紅月家に引き取られた一年は楽しかった。

 

 何せ前世とは違っても、日本は日本だからな!

 

 ただやっぱり髪を染めても、俺の顔から容易に『日本人ではない』と分かるからか他の子供たちは近づかなかったな。

 

 ……………………フッ、学校帰りに一人で食べる『ビッグモナカ』は美味しかったぜ?

 

 少なくともカレンの野郎に見つかるまでは。

 

 あいつ、俺がかじっているのを横からかっさらって『あ! わたしもー!』と言いながらバクバクと容赦なしに食べていくからな。

 

 しかもあれで『胃が痛くならない』&『頭がキーンとしない』のだから、もう子供のころから人間離れしていたのかと納得してしまった。

 

 原作ではスザクほどではないが、彼女も人間離れした運動神経の持ち主だったし。

 

 ………………考えてみれば、コードギアスのほとんどの登場人物の身体能力がバケモノじみていたな。

 

 俺のもその部類にはギリギリ入るんだろうけども。

 

 困ったものだよジョージィ。 Ha、ha、ha。

 

「スヴェン君、カレンの様子はどうだい?」

 

「カレンお嬢様の調子はこの頃いつもよりは良いかと存じ申し上げます、()()()()()。」

 

 そんな思い出に浸って目が遠くなりそうな俺は愛想笑いを浮かべたまま、シュタットフェルト家の現当主であるジョナサン・シュタットフェルトにそう答えると、彼が疲れた苦笑いを浮かべる。

 

 原作通り、2010年の8月にブリタニアは日本に対して宣戦布告を宣言し、四方面からの電撃作戦を行った。

 

 開戦から一か月以内に負け続けていた日本は徹底抗戦派の筆頭であった枢木ゲンブの死をタイミングにして、ブリタニアに降伏した。 

 

 これもまた、原作通りに。

 

「(と、いうことは藤堂と出くわしたあの日にスザクがいなかったのは()()()()関連だろうな……多分。)」

 

『あの兄妹』とは勿論、外交の捨て駒として日本に送られたルルーシュとナナリー・ヴィ・ブリタニアの二人。

 そして彼らが幼少時代のスザクが秘密基地として使っていた枢木家の土蔵に住まわされることを理由にいちゃもんをつける……

 

 まさにコードギアスが中心に回る重要人物たちが初めて出会うシーンだ。

 

 幼少期エピソードの筈が、すごくダークな内容だっただけに覚えている。

 

「そうか。 それは重畳……すまないね、スヴェン君? 本来なら、他家のご子息である君もそんな『従者見習い』などをする道理はないのだが────」

「────いえ。 マイ・ロードのお許しと慈悲があるからこそ私はここにいます。 感謝以外、何もございません。」

 

 そして俺はカレンたちと共に正視の後継ぎができる様子のないシュタットフェルト家に引き取られ、俺は本格的に『従者見習い』となった。

 

『従者見習い』というか、『()()()()()カレンの世話係役』がメインなのだが……

 本性は男勝りな()()といえどもご令嬢だ。

 男の俺がこの役回りをさせられているのは絶対にシュタットフェルト夫人の嫌がらせだよな?

 そうとしか考えられん。

 

 あと、留美さん(紅月ママ)()()にシュタットフェルト家のメイドとして雇われている。

 

 最初はカレンたちと俺だけを引き取るとシュタットフェルト夫人はゴネていたが、現当主であるジョナサン・シュタットフェルトが独断で強行し、彼女と契約を交わした後だった。

 

 ………………毎日シュタットフェルト夫人や彼女側の使用人たちから嫌がらせや暴行を受けているから、彼女が『無事』と言える部分は『原作通りだから』だけど。

 

 ちなみにジョナサン様が強行した理由は(憶測だが)、『()()()()()カレン』の精神安定剤をそばに置きたかったからか、あるいは責任を感じたからかは知らないが。

 

 まぁ……そのせいで元々シュタットフェルト夫人がナオトさんやカレンに向けるはずのヘイトは俺や留美さん(紅月ママ)に向けられているけど。

 

「……これからも、カレン()()を頼む。」

 

「イエス、マイ・ロード。」

 

 またも外交任務に本国へと駆り出されたジョナサン・シュタットフェルトを俺は屋敷の前で待っていた車まで見送って見えなくなるまで腰を折り、頭を下げ続けた。

 

 この行動の半分だけは演技だ。

 

 原作でほぼ出番がない人だったけど、今ではこうやって会う機会があるから断言しよう。

 

 ブリタニア人とか、関係なく『シュタットフェルト伯爵自身は凄くいい人だ』、と。

 

『従者見習い』である俺をこうやって見送りに指名したり、気を使ったり、カレンやナオトのことを思って家族や正妻の反対を無理やり抑えて留美さん(紅月ママ)を雇うぐらいだし……

 

 おそらくシュタットフェルト夫人は猫をかぶって政略結婚を完成させ、玉の輿を狙って成功したんだろう。

 それにジョナサン様も貴族と今の職務の立場があるから、表立って彼女に対して大きな行動が取れなくなっている。

 

 でないと、色々と納得がいかない。

 

「おい、お前。」

 

 ほぉら、早速来た。

 

 俺は愛想笑い(表側)の仮面をつけたまま振り向くと案の定、不機嫌そうなシュタットフェルト夫人と彼女の背後にメイド二人ほどが控えて立っていた。

 

「はい、何でございましょうシュタットフェルトふ────?」

 

 ────ヒュ!

 

 シュタットフェルト夫人は近くに置いてあった花瓶を俺の顔めがけて投げる。

 動作のタイミングから見て、おそらくは俺が振り返り始めた頃に花瓶をすでに持っていたのだろう。

 

 花瓶は俺の鼻に接触して、そのまま顔面に直撃────

 

 

 

 

 

 ビュンッ!

 

 ────される前に俺はそれを手に取り、遠心力を利用して花瓶の中身が漏れないように体ごと回転させてからシュタットフェルト夫人たちにニッコリとした笑みを再度向ける。

 

「こちらの花瓶、水を入れ替えておきます。 お手を煩わせて申し訳ございません。」

 

チッ。 私のことはシュタットフェルト伯爵夫人と呼びなさいと、何度言えば分かるのですか?」

 

 いま舌打ちを打ったな、こいつ。

 あわよくば花瓶を俺に直撃させて壊れたのを擦り付けて解雇しようって魂胆か。

 

『パーフェクト従者見習い』に全力を入れた俺をなめるなよ、この売女(クソビッチ)が。

 

 ジョナサン様が長期不在気味だからって、屋敷に新しい愛人とか呼び出しやがって。

 

「失礼いたしました、シュタットフェルト伯爵夫人。」

 

「……………………フン!」

 

 シュタットフェルトのビッチ夫人はそれを最後に、踵を返してツカツカと歩き出して明らかに不機嫌な主人の次のターゲットになってしまったメイドたちが俺を睨む。

 

 フハハハハハ!

 だが今はその睨みなど堪えぬわ、この愚か者どもめー!

 おそれおののくが良いわー!

 

 フハハハハハハハハハハハ!

『完璧すぎて付け入る隙がない従者』であることにこの体の全力を入れた俺は礼儀良くかつ皮肉も交えるのだぁぁぁぁ!

 

 ハァ~……一人でこのデカいホールで(内心の)どや顔しても虚しくなるだけだ。

 

 中庭の近くに花壇用の一式があったな。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 花瓶の入れなおしとアレンジメントのセットをしてから、『我がお嬢様』の具合を見てきますか。

 

「────、────!」

 

 ん?

 

 俺がそうぼんやりと考えながら歩いていると、かすかにだが怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 この屋敷に、怒鳴り声をする人物は大方決まっている。

 シュタットフェルト夫人か、あるいはメイドたちかの二択。

 

 だがこの時間帯、シュタットフェルト夫人は出かけているはずだ。

 つまりは後者ということで、思いつく()()()()()

 

「貴方! なぜ花壇を荒らしたのです?!」

 

「(ああ~、やっぱりか。)」

 

 俺は物陰から怒鳴り声のする中庭の様子を見ると、予感が的中していた。

 

 中庭の花壇は見事なまでに荒らされ、その日に花壇の世話係にされていた留美さんを数人のメイドたちが取り囲んでいた。

 

 留美さんのメイド服には土や葉っぱがこびりついており、彼女の三つ網だった髪の毛はほどけかけて泥まみれだった。

 

「わ、私は────」

「────もしや気まぐれで行ったとでも? みっともない!」

 

「それでもシュタットフェルト家に仕えるものですか?!」

 

「それとももしや、召使の責務もイレヴンは満足にできないと言うのですか?!」

 

「(『言い訳もさせない』ってか……それにしても、あいつら(駄メイド)たちの声デカいな。 野次馬が出てきたじゃないか……わざとか?)」

 

 次から次へと、怒鳴り声を聞いたほかの使用人たちなどが群がり始める。

 

 その中には、衛兵の姿も。

 

「(だが、()()()だ。)」

 

 俺はにやけそうな顔を引き締めて『愛想のよい(仮面)』を再びかぶって物陰から出る。

 

「わ、私はつい先ほどここに来たばかりで……花壇はすでに────」

 「────嘘はいけませんよ、このイレヴン如きが。」

 

私は……嘘なんか────

 

 ────今にも声とともに身体が消え入りそうな留美さんを背後に、俺は彼女の前に立った。

 

 これ以上ない笑顔を顔に浮かべて。

 

「同じくシュタットフェルト家で仕える者同士、虚偽の報告は感心しませんよ? 同時に許されることでもありませんが。」

 

 「す、すば────スヴェンくん? ど、どうして?」

 

 メイドたちの視線が俺へと向けられ、彼女たちは皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「まぁ、なんてひどい。」

 

「私たちはそのようなことはしておりません。」

 

「ええ、私たちはそこのイレヴンが花壇を荒らしたことに注意をしただけです。」

 

 メイドたちがクスクスと笑う。

 

 彼女たちは生粋のブリタニア人たちで、古くからシュタットフェルト夫人に仕えていた者たちだ。

 加えて俺は貴族とは言え『従者見習い』で、後ろにいる留美さんは『イレヴン』で『ただのメイド』。

 

 言い合いへと発展するのなら、普通ならば誰が有利なのかは一目瞭然。

 

 そう、()()()()()な。

 

 仮面を維持したまま、俺は口を開ける。

 

「最初に言ったはずです。 “虚偽の報告は感心しません、同時に許されることでもありません”、と。」

 

「「「????」」」

 

「どちらかを信じるなんて、実に愚かな質問です……衛兵!」

 

 俺の叫びに野次馬と一緒に紛れ込んでいたジョナサン様側の衛兵数人が前に出て拘束する。

 

「な?!」

 

「は、はなしなさい!」

 

「どういうこと?! な、何を?!」

 

 勿論、拘束したのはブリタニア人のメイドたちだ。

 

 俺が懐から書類を出すと近くの衛兵も同じ書類を出す。

 

「ロード直属の衛兵長とともに調べました。 貴方たちには横領の疑いがかけられています。」

 

 これを聞いたメイドたちの顔色はわかりやすく真っ青になる。

 

「お、横領ですって?!」

 

「ふざけないで!」

 

「そんなことは────!」

「────とぼけても無駄です。 貴方たち三人は屋敷の消耗品などの仕入れ値をごまかしてきたでしょう? それもここ数年間の間。」

 

「「「ッ?!」」」

 

「シュタットフェルト家に仕える者たちでありながら、自らの主の信頼を裏切ったのです。 相応の処罰が待っていることでしょう。」

 

「そ、そんな?!」

 

「あの程度の金額!」

 

「そうよ────!」

「────はて? “あの程度の金額”と? あなたたちの金銭感覚は随分と狂っているようですね? それに金額がどうあれ、貴方達は『仕えるべき主の信頼を裏切った』という事実に変わりはない。 どちらにせよ終わり(フィニッシュ)です。

 

 衛兵に黙り込んだメイドたちが連行され、時間の経過とともに『余興』を見に来た野次馬たちはその場を後にする。

 

 近くの場と窓やバルコニーに気配がないことを確認してから留美さんへと振り向く。

 

「……………………フゥ~。 大丈夫ですか────?」

 

 ポス。

 ギュウゥゥゥゥゥ。

 

「────(ぐえぇぇぇぇぇぇぇ。 嬉しいけど苦しいぃぃぃぃ。)」

 

 振り向きざまに、留美さんが俺を力いっぱいに抱きしめる。

 

 声が出せないほどに。

 

「ごめんなさい昴君! 私が! 私が我儘をあの人に言ったばかりに! ブリタニア人である、貴方にまで迷惑を! う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 とうとう泣き始めた留美さんは俺の肩で声を押し殺してすすり泣きと謝罪を始める。

 

 そんな彼女を、俺は黙って泣き止むのを待つしかなかった。

 

 一年だけだが、一緒に住んでいたころの留美さんは俺にとって第二の……

 いや、その言い方は的確じゃないな。

 

 彼女は俺のことを、実の息子であるナオトさんと同等の扱いをしてくれた、いわば『転生後の母親』だ。

 

 周りに俺が感知できる気配がないとはいえ、双眼鏡で口を読む術はこの世に存在するし、この屋敷は主人たちの部屋以外は使用人たちが非常時に使用できる抜け道などが存在する。

 

 つまり、どこで誰が耳を立てているのかわからない。

 

 だから今の俺にできることと言えば、できるだけシュタットフェルト夫人側の人間を排除することぐらいだ。

 

 

 

 それを考えて生じる胸の痛みは………………まだまだ消えそうにない。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 コン、コン。

 

 俺はとある部屋のドアにノックをするが、返事はなかったことで次は手袋を外して小指の爪でドアの表面を引っ掻いた。

 

 カリカリカリカリカリカリカリ。

 

 俺がしたのは中にいるはずであろう人への合図だった。

 

『……どうぞ。』

 

「失礼します、()()()。」

 

 部屋の主人から許可を得た俺は部屋の中に入るとすぐさまドアを閉め、分厚い特注品のドレープカーテンをかけると機械的な雑音めいた音がベッドスタンドから部屋の中を包む。

 

 これで大声を出さない限り、『部屋の中の声は外部に聞こえない』という寸法だ。

 

「調子はどうだ、カレン?」

 

 俺は仮面を外し、平常運転(ポーカーフェイス)へと戻る。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……窮屈。 病弱設定したのをすっごい後悔している。」

 

 部屋の中のベッドに上には寝間着をラフにはだけさせながら、両足をブラブラさせて片手に駄菓子を持ち、もう一つの手で本を読んでいたカレンがいた。

 

「だがそのおかげで、貴族の義務ともいえる舞踏会や家同士の付き合いから遠ざけられている。 それに…………」

 

「“それに”?」

 

「『ハーフ』だという事で、他の子供たちから暴行を受けていたことも設定に再利用できただろう?」

 

「いや~、それはスヴェンの助言があったからだよ! 当たる瞬間に、大げさに首や体を捻ってノーダメージの割に大怪我したように見せつけられたし! 相手にカウンターを入れてやったし! でないと皆を片っ端から物理的にぶっ飛ばしていたよ!」

 

 そのおかげで恐らく、原作のジョナサン様は立場が危うくなっていたんだろう。

 貴族的にも、社会的にも。

『じゃじゃ馬が後遺症で病弱になった娘の父親』と言うレッテルを張られて。

 

「よせ。 お前が殴っていたら一時的にはスカッとするかもしれないが、きっと後でねちねちとしたことをされてもっとイライラしていたぞ?」

 

 って、そうじゃないだろ俺。

 ベッドの上で寝転がりながら俺へと顔だけ向けるカレンに注意するべきところだろうが?

 

 “下着(パンツ)が見えそうだぞ”って。

 

「それもそうなんだけどさぁ~、設定のおかげで殆んど監禁状態じゃん? いっそのこと、お兄ちゃんみたいに家を留守に出来る理由にすればよかったな~。」

 

 そう、この時からすでにカレンは『病弱な身体が日常に支障をきたす程』の設定を本格的に始めていた。

 出来るだけ、ブリタニアの世界や貴族絡みのものから自分を遠ざける為に。

 

 丁度『紅月家』から半ば無理やりシュタットフェルト家に引き取られたことと転入された先の学園での虐めを理由に、『ストレスの所為で心身ともに病弱』の設定をカレンはし始めた。

 

 即行動に移ったのは『十歳の子供にしてはよく出来た』と言えるが、兄であるナオトは同じことを言っていられない。

 

 何せ、彼はシュタットフェルト家の嫡男という立場だ。

 たとえ病弱でも、無理やり『政治』と言う表舞台に引きずり出されるだろう。

 

 そこでナオトさんは『平民として生きて来たから他家で己を貴族として鍛え直したい』と言って、外をブラブラしている。

 

 それでもやっていけているのは、彼が貴族の礼儀作法などを実際に身に付けているとアピールできるからだ。

 

 と言うか、彼は普通に『やればできる男』だ。

 

 道理で原作ではレジスタンスのリーダーだったわけだ。

 

 ちなみに原作開始時点で、引き継ぎでリーダーをやっている扇にも会ったが、顔見知り程度だ。

 

 あっちは何故か俺のことを『気味悪い子』と思っているみたいで、避けられているが好都合だ。

 

 コンコン、ガチャ。

 

 カレンの部屋のドアがノックされて開けられると、カレンは光速の速さに迫るスピードでブランケットをかぶって『寝たきり状態』を装い、俺はすぐに入ってくる者に愛想笑いを浮かべる。

 

「ん。 スヴェンか。」

 

「どうかなさいました、シュタットフェルト伯爵夫人付きのメイドさん? お嬢様は見ての通り、寝ておりますが────?」

「────いや。 お前たち二人に話があって来た。」

 

 …………………………どういうことだ?

 

「先ほど夫人様宛てに、招待状が届いた。 お前には、ナオト様の代理としてお嬢様のエスコートをしてもらう。 そして二人で他家との『お茶会』に参加するようにと夫人様が申していた。 分かったか?」

 

 ………………………………はい?

 

 カレンも?マーク出しながらブランケットから様子を見るな。

 設定がバレるぞ?

 

「承知しました。 謹んでお受けしましょう。 して、主催者はどこの家でしょうか?」

 

 この明らかにナオトさんたちに嫌がらせをしようとしたところで丁度彼が家にいない期間に気付いて八つ当たりで適任者を俺に振ったシュタットフェルト夫人の申し出に乗る、俺の『パーフェクト従者見習い』を演じる口が憎いでござる。

 

「主催者は『Eka・rüga(イカ・ルガ)家』と聞いておられます。 決して、ご無礼が無いように。」

 

 皮肉の含んだそれを最後にカレンの部屋のドアは閉まり、部屋の主は起き上がり、俺も『仮面』を取る。

 

 と言うか、『Eka・rüga(イカ・ルガ)家』って原作にあったか?

 ピンとこないのだが……

 

「ど、ど、ど、どどどどどうしよう昴?!」

 

 カレンが明らかに慌て始めて、ベッドから飛び降りてこけそうになりながらも俺の腰に抱き着く。

 

 と言うか下着(ブラジャー)が見えちゃうって!

 

「落ち着け、カレン────」

「────私、貴族の礼儀作法とかマナーとか全然知らないよ────?!」

「────落ち着け────」

「────もしかして、今までサボっていたことがアイツにバレた────?!」

「────だから落ち着けよ。 俺に考えがある。」

 

「す、昴ぅぅぅぅ~~~~……」

 

 俺は仮にもカレンの『世話係』。

 

 付け焼刃になるとはいえ、この『お茶会』でカレンを『病弱なご令嬢』として他家にアピールしてやる!

 

 こんな『雨の中に段ボール箱の中に捨てられた子猫か子犬みたいにまるですがるような上目遣いをする』といった迫真の演技ができるカレンならばいける筈だ!




今更ですが紅月ママとシュタットフェルトパパの名前は独自設定です。

ちゃんとあるのなら申し訳ございません。 (汗



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第05話 混血、雑種、なんでもござれ

おはようございました、連続投稿でございました。  ←オレンジ卿風の寝起きセリフ

お気に入り、評価や感想等々誠にありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです!

誤字報告、誠にありがとうございますあーるすさん! <(_"_)>


 あれから数日後、ついにお茶会の当日となった。

 

 カレンは病弱設定通りなほど顔色が優れない様子だが……

 何とか今日は乗り越えられる程度に立ち居振る舞いやダンス、刺繍に令嬢のたしなみも叩き込んだつもりだ。

 少なくとも自分の指を針で刺すのは何とか十回のうち四回ほどまでに下げられた。

 

 誰か俺をほめてくれ。

 そして胃薬をくれナウ()

 

「すば────“スヴェン”、大丈夫?」

 

 車の中で、隣でフリルのついたドレスを着て自分を着飾ったカレンがそう声をかける。

 

 やっぱり素材が良いだけに、似合うな。

 Good(グッド)なほどに。

 

 普段の(あっけらかんな)カレンを見ているから、違和感ありまくりだが。

 

「私は何も問題はございません、()()()。 (ニコッ)」

 

う゛。

 

 俺が面と向かってカレンをお嬢様呼びすることだけは慣れなかったらしく、彼女はバツが悪そうな顔をしてそっぽを向いてしまう。

 

 「歯痒いなぁ……その、車の中だし? スヴェンは私のエスコート役なんだから、今ぐらいは────」

「────ダメです、お嬢様。 あと口調にお気をつけてください。」

 

「……はい。」

 

 そう。

 俺は一応貴族とはいえ、表向きの認識は殆んど『従者見習い』。

 それに今尚も慣れさせておかないと、本番でボロが出る可能性が浮かんでくる。

 

「エスコートは本来、恋人や婚約者がする者。 それらが居なかった場合、家族の誰かが一緒にいるのが一般的です。」

 

 「でも……スヴェンだし……」

 

 いや、理由になっていないから。

 

 俺が元々貴族だから嫡男であるナオトの代わりはギリギリオーケーだけど、本来は即ノータイムのアウトだからね?

 

 さて、お茶会の家に着いたようだ。

 任務開始(ミッションスタート)、だ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「う~~~……皆に見られているよ~。」

 

 カレンは周りの者たちに引きつりそうな笑みを返しながらも小声でそう俺に話しかえる。

 

 「はかなげな笑みをキープですよ。 『病弱』、『低血圧』、『箱入り』に集中集中。」

 

 俺も愛想笑い(仮面)をキープしつつ、腹話術の要領で答える。

 

 「……わかっているけど、身体のところどころがスースーする。 肩とかつま先で立っている足とか足首とか。」

 

 “お前のラフなタンクトップとホットパンツ姿と比べて多いじゃねぇか?!”というツッコミ衝動を抑え込みながら腹話術を続ける。

 

 「慣れろ。 出来るだけ露出の少ないドレスを決めただろう?」

 

 「それでも……ねぇ昴、もうちょっと近くに寄ってよ────」

 「────ダメです。 これ以上距離が近くなると『特別な相手』と周りから意識されます。」

 

 「幼馴染だから、別に────」

 「────そうなると噂は一発でそこら中の家に広がるな。 そして結果的に今より更に周りから根掘り葉掘り探られるぞ。 あとはあること無いこと流されて対応を見定めるとか。」

 

 「グッ、これだからブリタニアはッ!」

 

 今すぐにでも“どうどうどう”とじゃじゃ馬をなだめたい衝動を抑える。

 

 今そうすると流石にカレンは爆発して、すべてが台無しになるだろう。

 そして俺は顔に付いた(ひづめ)跡から『ただのスヴェン』から『にやけ顔のスヴェン』に早変わりになるだろう。

 

 正直、馬に乗って逃げたい。

 ヒヒーン。

 

『ほう、あれがシュタットフェルト家の……』

『やはり噂通り、気品ある美貌をお持ちですな。』

『大人に引けを取らぬ振る舞いとは微笑ましい……病弱なのが玉に瑕だな。』

『そうだな、跡取りができるかどうか……』

 

 周りから聞こえてくる声に、俺は俺自身に『よくやった!』と気持ちを込めて内心のガッツポーズを決める。

 

 原作を見て予想はしたが、素のカレンは良くて『お転婆』。 酷くて………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 ま、まぁそれは今考えなくともいい。

 

 そんな彼女に、ブリタニアご令嬢の立ち振る舞いを学ばせた俺に誰かご褒美をくれぇー!

 

「ようこそいらっしゃいました、私はアンジュリーゼ・イカ(Eka)ルーガ(rüga)ミスルギ(Measerugi)と申します。」

 

 神様。 俺はこんなご褒美をご所望しておりませぬ。

 

 何故そう思ったのかは以下の通りだ。

 隣でカレンが主催者の家の一人である彼女に挨拶を交わしながら相手を見る。

 

 赤みがかった目に長髪の金髪で、顔の右側には縦ロール。

 そして極めつけはアホ毛

 

 リアルのアホ毛だ。

 リアルアホ毛が二本とも『ピーン』っと天元突破しておるぞ。

 

 相手は誰だと思っている?

 

 完ッッッッッッッッ全に『クロスアンジュ』のアンジュじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ?!

 

 ……ちょっと自分が覚えている姿より、幼いような気がするけど。

 

 え? なに? どゆこと?

 毒島だけならまだしも、なんで『クロスアンジュ』のアンジュがここに?

 ナンデ? Why(なんで)

 

「皇族の血が流れている身とはいえ、今の私は家族ともども政治に直接関わらない家としております。 どうか、ゆっくりとおくつろぎくださいませ。」

 

 礼儀正しいアンジュリーゼがニッコリとした笑みを俺たちに向ける。

 

 ……………………ええのぉ~~~~。 (付け焼刃の)カレンとは大違いだ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥ~。」

 

 俺は洗った手をハンカチで拭きながら、長い溜息を吐き出した。

 

 あれからアンジュ……いや、『アンジュリーゼ』のご家族と顔を合わせた後、カレンのフォローとダンスを立て続けにしてドッと疲れていた。

 

 何せアンジュリーゼだけでもびっくりなのに、母の『ソフィア』、兄の『ジュリオ』、車いすに乗った妹の『シルヴィア』と出てきては認めざるを得ないだろう。

 

 『完全に“クロスアンジュ”じゃねぇか?!』、と言い出したい。

 

 言ったら言ったで狂言者を見るような視線が俺に突き刺さってカレンだけでなくシュタットフェルト家に泥を塗ることになるしクソビッチシュタットフェルト夫人に解雇される理由を与えてしまう。

 

 いや、でもマジでなんで?

 ナンデ?

 

 まさかDRAGON(ドラゴン)がこの世界にでもいるということか?

 

 意味が分からん。

 

 毒島の時も『奴ら』が居たらやばいかと思ったが……幸いにも『奴ら』は頭を吹き飛ばせば何とかなるし、基本的にコードギアスはナイトメアがあるから全勝できる……筈だ。

 

 だが流石にDRAGON(ドラゴン)は一期後半で出てくるフロートシステムや二期の飛翔滑走翼でもないと従来のナイトメアは圧倒的に不利だ。

 

 そこまでになると、流石に生き残るだけで精一杯になるぞ?

 

 余談だがカレンに足を踏まれそうになったのはダンスのリズムと、足運びを調整して何とか回避した。

 

『可愛いねぇ君?』

 

『え、あの……』

 

 そう思いながら歩いていると、人気のないテラスの方から男女の声が聞こえてくる。

 

 これはアレだな。

 テンプレで言う、『貴族の男に絡まれた女性が言い寄られている』シチュエーションだ。

 

 そして物陰から見た場面は案の定、テンプレの奴だった。

 

「こんな会場より、楽しいところに行かないか?」

 

「こ、困ります!」

 

 酔った見慣れない貴族の男性が彼女の腕を掴んでいた。

 

 ()()()()()()()()()を。

 

 ってよりにもよって絡まれているのが()()()()かよ?

 しかも凄くしおらしい女性のように振舞っている……だと?

 

『クロスアンジュ』ならば、“触るなこのクソキモ豚野郎!”とか罵詈雑言を叫びながら金的攻撃している筈だろ?

 

 ………………だけどこうやって見過ごすのも、後味が悪いな。

 

 ガッ!

 

「な、なんだ貴様は?!」

 

「あ、貴方は……」

 

「彼女が嫌がっているでしょう? その辺にしてはいかがでしょうか?」

 

 俺はすぐにテラスに出ては男の腕を掴み、アンジュリーゼから彼を引き離して二人の間に入る。

 

「確か、シュタットフェルト家の────?」

「────ッ?!」

 

「はい、ミスルギ家の御令嬢に覚えられて至極光栄でございます。 大丈夫でしたか?」

 

「あ、はい! だ、大丈夫です!」

 

 俺がニッコリとした笑顔を向けた先のアンジュリーゼはホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 いや、マジでなんでしおらしいの?

 俺の覚えている『クロスアンジュ』じゃないぞ?

 

 そもそも『コードギアス』の世界に『クロスアンジュ』ってどういうことやねん?

 

『毒島冴子』が居たことで今更感アリアリだが。

 

 もしくは、()()()()()()だけか?

 

「シュタットフェルト家だと? …………そうか! その銀髪、見た目とふるまい……」

 

 男が俺の腕を振り払い、見下すような笑みをする。

 

「貴様がハンセン家の『良く出来た()()』か!」

 

「ッ。」

 

「え?」

 

 そんなあだ名になっているのか、大人社会での俺は。

 だが後ろから来たアンジュリーゼの呆気に取られた声を窺うと、あまり広く知れ渡っていないみたいだな。

 

「けッ! イレヴンの混血が、由緒正しいザッド伯爵の息子である俺に意見か?! 偉くなったものだな?!」

 

 そこはハンセン家が頑張っているみたいだな、目の前のようなアホが吹聴しなければ。

 釘を刺すか。

 

「そうですか、ザッド伯爵のご子息でしたか。 では後日改めて、苦情を伯爵にこちらのミスルギ嬢と共に申し立てましょうか?」

 

「そ、その必要はない! 私は気分が悪い、これにて失礼する!」

 

 男はそれを聞き顔色を悪くし、小物がよくするような捨てセリフを言ってからその場を去る。

 

 「混血……」

 

「(ん?)」

 

 俺がアンジュへと振り向くと────

 

 

 

 

 

 

「ッ。」

 

 ────彼女の俺に向ける視線は冷たいものだった。

 

 「そうですか、これが混血……いえ、()()()()()ですのね。」

 

「ミスルギ嬢────?」

 

 俺が口を開けるとアンジュリーゼが今まで見せたことのない、スンとした表情を浮かべていた。

 

「────誰の許しを得て私に話しかけているのですか? 私が先に声をかけた幻惑でも? 思いあがらないでくださいませ。 野蛮で下品で汚らわしい、混ざりモノの分際で。」

 

「…………………………………………………………」

 

 彼女が自分に向けた視線と豹変ぶりに少し堪えたが、幸いに長年もの間に俺が鍛え上げた仮面は分厚い。

 

 仮面が無ければ動揺が漏れていたかもしれなかったが……

 

 さっきも言ったが幸い、仮面は分厚かった。

 

 今、胸の奥で感じているモノは表情()に出ることは無い。

 

 だから、大丈夫だ。

 

 大丈夫。

 

 大丈夫だ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「スヴェン……大丈夫?」

 

『病弱設定』を生かし、『体調を崩したので途中で帰る作戦(カレン命名)』を実行した俺とカレンは今、帰りの車の中だ。

 

 全て、前もって考えたプラン通りだ。

 

 だから、何も────

 

「────スヴェン?」

 

 俺は仮面をつけなおす。

 

「ああ、失礼しましたお嬢様。 少々考えごとをしておりました。」

 

 ポス。

 ナデナデナデ。

 

ひぅえ?!」

 

「あ。 申し訳ございません、失礼致しましたお嬢様。」

 

 ハンセン家から日本に島流しをされた時も動揺したと思ったが……

 どうやら今回の方が、ダメージがかなり大きかったようだ。

 

 紅月家で世話になっていた時みたいに、思わずカレンの頭を撫でてしまった。

 

 でも、あれが一般的なブリタニア貴族の精神なんだよな。

 

『ブリタニア人以外は自分たちとは違う、人間ですらない。』

 

 再度、思い知らされたよ。

 

 「やっぱり……アは、嫌いだ。」

 

「ん? 何か言いましたか、お嬢様?」

 

「え?! う、ううん……なんでも、ないの。」

 

「さようですか。」

 

 俺ですらほとんど聞き取れない何かをカレンはボソッと言った気がしたが、彼女が否定するのなら掘り下げる必要はない。

 

 それを最後に、俺たちの間に会話は無いままシュタットフェルト家の屋敷へと帰った。

 

 尚かなり後になって知ったことだがこのお茶会の数年後に、こともあろうことかアンジュリーゼは自身のデビュタントでリィード伯爵のご子息に彼女の家族が実はその昔、ブリタニアが今より小さな帝国であった頃に日本との和平交渉を決める際に日本から送られた子女を先祖に持っていると暴露された。

 

 彼女のミドルネームの『イカ(Eka)ルーガ(rüga)』の由来が実は当時送られた子女の苗字、『斑鳩』であることも。

 

 だが俺が上記を知ることとなるのは、さっき記入した通りに今から更に後。

 

 変わり果てた様子の彼女(アンジュリーゼ)と、アッシュフォード学園で再会した後に知ることとなる。




と言う訳でブリタニア上級階級貴族の精神を詰め込んだ初期アンジュリーゼでした。

クロスアンジュ1話アンジュリーゼ:あら? 子がノーマだったのですか? ならば次は普通の子供を産めばよいのです。

ノーマのママ: キィエエェェェェェェ! ←発狂&襲い掛かろうとする

上記を初めて見たときの世界観のインパクトが未だ鮮明に…… (汗汗汗汗汗


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第06話 近付く原作を遠ざける

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 お茶会から数年ほど経った今、俺はカレンと共にアッシュフォード学園に無事入学した。

 

 やはり原作通りにカレンは『病弱かつ成績優秀』、そして俺は彼女の代わりに『通う係』として。

 

『テステス~、聞こえるか?』

 

 そんな俺は今、都会から少し離れた山の中で無線機のテストを行っていた。

 

 無線機と言ってもブリタニア正規の物ではなく、アングラで売られていた旧軍用のものを直して独自に改造した奴だ。

 

「ああ、声質は良好だナオトさん。」

 

『やっぱ昴はスゲェな! 壊れたやつを直すどころか、性能をアップするなんて!』

 

「なんてことはない、俺は手先が器用なだけだ。」

 

 皮肉にもハンセン家で世話になっていた頃、がむしゃらに能力を底上げしようと色々なものに手を出していたことが幸いした。

 

『それだけな訳がないだろ?! おれ等の銃も、装備の類も安く仕入れてお前が手を加えているじゃねぇか!』

 

「ただ出来そうだったからやっただけだ。 全くの偶然だ。」

 

『ハァ~、欲もなくて可愛くない奴のままだよな……そのそっけない口調も。 カレンの言っていた、学園とかで噂になっている“人当たりのいい奴”はどこに行った?』

 

「こっちの方が素だ。」

 

『はいはい、分かっているさ……これでお前が本格的に運動に参加をしてくれれば────』

「────俺はナオトさんたちが思っているほど、そこまで出来る奴じゃない。 こういう地味な仕事が性に合っている。」

 

『そういう事にしとくよ。 でも、気が変わったらいつでも────』

「────それは無い。

 

 そう。 

 これまでの会話で分かっているかもしれないが、ナオトさんが本格的にレジスタンスを立ち上げ、扇もパートでやっていた教師も辞めて本腰を入れた。

 

 あとついでに原作でも目立ちたがり屋な玉城も。

 

 ナオトさんと扇はハーフのブリタニア人や名誉ブリタニア人になっても状況が変わらない人たちを中心に志望者や支援者の数を増やし、ついには実行員と後方支援の部類が出来るまで大きくなった。

 

 かくいう俺も、後方支援の整備班……の手伝いをしている。

 

 事実上のワンマンチームに近いが。

 

 一番大きくて構成員の殆んどが旧日本軍の生き残りで結成された『日本解放戦線』や、中部の『サムライの血』に日本降伏直後のどさくさで『日本解放戦線本体』に合流できなかった軍人たちが元一般人を鍛え上げた『大和同盟(やまとどうめい)』に比べたら数も規模も備品も圧倒的に劣っている。

 

 だが、そのどのグループよりも勝っている点がナオトグループにも()()()()ある。

 

 元新宿だった『シンジュクゲットー』を拠点に活動していることだ。

 

 何故ならばシンジュクゲットーは現在、日本だったエリア11を牛耳るブリタニア人の多くが活動する中枢に最も近く、かつ最も監視が厳しいゲットーエリアだからだ。

 

 だというのに、ナオトさん率いるレジスタンスは何度もブリタニアの監視や追尾を逃れながら活動を続けている。

 

 ナオトさんの手腕は純粋に凄い。

 それで元は他の皆と一緒で一般人の学生だったのだから、純粋に凄い。

 

 戦術はゼロとなったルルーシュや藤堂ほどではないが、洗練されていて、にわか軍人も顔負けするほどだ。

 しかもきっちりと足を引っ張る玉城のようなメンバーでも不満にならない役割をそれとなく用意して不満を抑え込んでいる。

 

 原作で見た、扇のグループとして活動していた印象はない。

 

 もしナオトさんが居なくならずに、そのまま原作でレジスタンスのリーダーを続けてゼロとなったルルーシュと合流していたら……

 

 もしかすると、原作でのブラックリベリオンはあそこまで結末が酷くなかったのかも知れない。

 

 本当に限りなくゼロに近い可能性だが、あるいは────

 

「────いや、今は目の前のことだ。」

 

「ん? なんか言ったか、昴?」

 

 思わず俺は思っていたことを口にし、退屈そうに小銃の点検がてらにナイフを片手でジャグルするカレンが反応する。

 

 彼女も時々屋敷を抜け出してはレジスタンス行動を共にするが、ナオトさんはなるべく彼女を後方支援部隊の護衛として配置していることが多い。

 

「何でもない、気を引き締めていただけだ。」

 

「ふ~ん? アンタでもそうやって自分に声掛けをする時があるんだ? 本当に機械じゃなくてよかった!」

 

「……………………お前は俺のことをどう思っているんだ、カレン?」

 

 まさかどこぞのサイボーグ人間じゃないだろうな?

 I’ll(アイル) be(ビィ) back(バック)

 

「『何でも黙々とそつなくこなしちゃう不愛想な奴』。 で、私の『演技の模倣先』。」

 

「それは違うな。」

 

「え?」

 

「俺はお前に演技を教えた覚えはない。」

 

「まぁね。 私が勝手に見真似で会得したんだし────」

「────だから下手くそなんだ。 たまにボロが出そうになって、冷や冷やする。」

 

 ヒュッ!

 パシッ!

 

 カレンが俺の方に目掛けて投げた鞘入りのナイフを、俺は空中で掴み取る。

 

 あっぶねぇな、おい?!

 

 「よし。 表にでろ、昴。 今日こそお前の顔に一発ぶち込んでやる。」

 

断る。 お前と違って俺は明日、学園に通わなければいけない用事がある。」

 

「??? “通わなければいけない用事”、だって? なにそれ? ……………………あ。 あああ~、なるほどね~。 もしかしてデート……とか?」

 

 こいつ……ニマニマしていて、明らかにからかっているな?

 

「大変よね~? 学園とかで設定を続けるのは? 『誰にでも人当たりのよくて有能な優男』さん?」

 

 お前に言われたくねぇよ、『素手でハチとか払い落とす病弱設定』。

 

 フ、だが残念かな?

『男子と女子がともに時間を過ごす』ことを『デート』と定義するならば、俺の答えは『イエス』だ。

 

「そうだな、“デート”とも言えなくはないな。」

 

 と言う訳で、ここはクロスカウンターじゃい!

 くらえーい!

 

 「んな?!」

 

 ガシャン!

 

 ん?

 なんだ、カレンの奴(あぶ)ねぇなオイ?!

 

「銃を落とすな。 暴発したらどうする?」

 

 そしてそんな初歩的なことが原因で死んだらどうする?!

 今までの頑張りがパァになるじゃねぇか?!

 

「あ、あ、あ、アンタが()()()……だと?!」

 

 おお?

 思ったよりダメージが大きいな、これ?

 ナチュラルなd20をロールしたか?

 クリティカルヒットか?

 

 「私より先にアンタがデートなんてありえないよ?!」

 

 どういう意味だオイ?

 

 ポーカーフェイスの『全力ジト目』をお見舞いだ。

 

「う゛……だ、だってアンタってば女性に色目使わないじゃん! 一度も!」

 

 いつの間にか聞き耳を立てていた他のレジスタンスたちがウンウンと頷く(主に女性たち)。

 

 いや、そもそもお前たちレジスタンスの女メンバーに『手を出す』という選択肢は俺にないからな?

 そうなると自然にレジスタンス行動→黒の騎士団への入団→ブラックリベリオンで捕まるか死ぬ→捕まっていたら後にシュナイゼルの口車に操られるという泥沼に漬かるからね?

 

 俺は裏方でいいの。

 目立ちたくないの。

 積極的に命に関わる出来事から距離を取りたいの。

 

「カレン、お前の言っている意味が分からない。」

 

「だって……アンタ、今まで毒島さんからのアプローチとかに全然反応しないじゃん!」

 

 ああ。 

 いい忘れていたが、毒島さんは無事に日本侵略を生き残って意外なことにキョウト六家の遠縁の者としてアッシュフォード学園に通っている。

 

 いや、俺もびっくりしたよ? 毒島さんがキョウトの家系だなんて。

 そんな設定ないし。

 六家の神楽耶(かぐや)なら、他メディアで編入することもあったけど。

 

 毒島が剣術部の副部長なのは驚かないけどさ。

 ……ただ、『剣術部の女王様』ってあだ名はどうかと思うが。

 

 それにな、カレン? お前は『アプローチ』と言うが、アレは剣術部に俺を誘惑しようとする時の言動と目つきは確実に俺のことを『全力を出せる玩具』としてしか認識していないぞ?

 

 何せ以前に、エグイ勝ち方して顧問から他校との試合以外で出禁を一時期食らったからな。

 

 それにしても、アッシュフォード学園指定の女性の制服はええのぉ~。

 コードギアスだから美少女ぞろいだし。

 特に生足が目の保養に……

 

 って、これ以上あらぬ誤解がカレン+周りの人たちから拡大する前に訂正するか。

 

「ああ、すまん。 “デート”と言うのは半分嘘だ。」

 

「はぇ? は、半分?」

 

「知り合いの女性が留学して、慣れない環境に困っていてな? 明日、学園の案内をする約束がある。 というか約束させられた。」

 

「“知り合いの女性”だって? ……誰?」

 

「ちなみにカレンも知っている奴だぞ。」

 

「わ、私が知っている奴?」

 

 原作では見たことがない、?マークを出してキョトンとカレンも『ポケ-とする猫』そのまんまで目の保養だな。

 

 近づいたら『フシャー!』と鳴かれて次の瞬間、自分の顔中が引っ掻き傷だらけになっているかもしれないが。

 

 俺は今までいじっていた対戦車ライフルの作業に一区切りを終えてからボロイタオルで手に密着した油などを拭きながら未だに困惑しているカレンを見て答える。

 

 

 

 

 

 

 

「『アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ』だ。」




す、ストックがそろそろマジでヤバイです…… (汗


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第07話 少女の壊れた日常

短めですが何とか投稿できました。

お気に入り登録、評価、感想、誠にありがとうございます! (シ_ _)シ

この話は主にアンジュリーゼ視点です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 時間は少々遡る。

 

 それは、一人の少女が信じていた周りに裏切られる後まで。

 

 


 

 ___________

 

 アンジュリーゼ 視点

 ___________

 

『いつもの日常』の筈だった。

 

 何時ものように朝起きて。

 使用人たちが学園の制服を持ってきて、着替えを彼女たちにさせる。

 学校でミスルギ家の長女としての振る舞いを胸にしながら一日を過ごして、昼は部活動。

 

 それが繰り返され、やっとデビュタント日が決まった。

 

 何時ものように朝起きて。

 使用人たちがドレスを持ってきて、私がその中から一着選ぶと使用人たちに着替えをさせる。

 朝食を取り、来るべき客人たちに家族全員で家の用意。

 その流れのまま、上位の家の者たちが来て、私のお披露目が────

 

「────ぁ。」

 

 夢から覚めると、見覚えのない天井に一瞬戸惑う。

 

「(そうだ、私は………………) アンヌ? サリィ?」

 

 

 未だにダルイ身体を起き上がらせ、彼女は思わず侍女たちの名前を呼ぶ。

 

『おはようございますアンジュリーゼ様、よく眠れましたか?』

『今日は、どのドレスを着用されますか?』

 

 声がしたと思われる方向をアンジュリーゼが見ると、見慣れない寮の一室が目の前に広がっていた。

 

 そんな中、侍女も使用人の気配も周りになく彼女は一人ポツンと居た。

 

「…………………………………………」

 

 その事実にやっと(理解)が追いついた彼女はただ、ベッドの上で毛布をかぶって膝を抱えた。

 

「(一時的よ。 そう、お父様も言っていた。 これは一時的な処置よ。)」

 

 アンジュリーゼは一瞬、お披露目会で宣言されたことを思い出しそうになる。

 

「(違う! 私は、栄えあるブリタニア帝国の……由緒正しきルーガ(rüga)ミスルギ(Maiserugi)家の長女、アンジュリーゼ! 決して! 断じて! 混ざりモノ(混血)などではない!)」

 

 彼女の脳裏に次に浮かぶのは、お披露目会で宣言されたことを()()()周りの豹変ぶりだった。

 

 今までは気軽に挨拶していた同期たちや同じラクロス部の部員たちはアンジュリーゼを無視するようになった者たちは、まだマシな方だった。

 

 婚約者候補などの類は勿論、ルーガ(rüga)ミスルギ(Maiserugi)家と縁を切る、または知らぬ存ぜぬと申し出る家が後を絶たなかった。

 

 そして家でも学園でも変化は起きていた。

 

 危害を加える者。

 ねちねちとした嫌がらせを実行する者。

 見て見ぬふりをして知らんふりをする教師たちや使用人。

 これらを始めに、静観どころかアンジュリーゼが『いつ壊れるか』、『いつ暴走するか』、『いつ自害するのか』を賭ける者たちなども出始めた(自分でいっぱいっぱいだった彼女は知る余地もないが)。

 

 それらはまるで、『人が急に変わった』としか言いようが無かった。

 

 ちなみに当初、『いつ自害するのか』が賭けの対象として追加されたのは彼女の家族のことが暴露されて一年後に起きた、とある事件がきっかけとなる。

 アンジュリーゼの母が発狂し、レターナイフで自らの夫であるアンジュリーゼの父を襲い、最後は自分の首を斬り、亡くなった事件だった。

 

 ミスルギ家の屋敷やアンジュリーゼの母の部屋に部外者が侵入した痕跡がないことや、母の様子が事件の当日から既におかしかったことから警察が出した結論は『過激なストレスにより精神に異常をきたし、錯乱状態に陥った』とのこと。

 

 無論、アンジュリーゼの父は調査を続けることを申し出たが、使用人やソフィア(アンジュ母)とその日に会った数少ない者たちなどの証言が出た為、再調査が行われることは無かった。

 

 アンジュリーゼ本人が次に気が付いたころには、既にエリア11(日本)でも旧新宿近くの新シンジュク行きのチャーター便に乗っていた状態。

 

 急いで書いたらしき、父から渡された手紙を握りながら。

 

 手紙に書かれたことは今後の簡潔な説明と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などのことだった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「やぁ、アンジュリーゼ。 久しぶりだね?」

 

 彼女を待ち構えていたのは実に久しぶりに笑顔をするルーベン・K・アッシュフォードだった。

 だが相手が“久しぶり”と言っている割にはアンジュリーゼ自身、目の前の男はパッと思い浮かばなかった。

 

「えっと……お久しぶりです? ルーベン様────?」

「────そう堅苦しくならずともいい。 今の私は、ただのしがない理事長だ。 それに、君と最後に会ったのは君が生まれて一年も経っていない頃。 覚えていないのは当然だ、意地悪をして悪かったね? さっそくだが────」

 

 ────アンジュリーゼは夢を見ているような調子のまま、ルーベンの話を聞き流すままアッシュフォード学園に連れてこられ、またも気が付けば寮室のベッドの上にいた。

 

 窓の外は既に日の光が無くなりかけ、オレンジ色へと変わっていたこととお腹から来る音にアンジュリーゼはハッとする。

 

「………………」

 

 クゥゥゥ。

 

「……まだ、何も食べていない……」

 

 淑女にあるまじき事態ではあるが、彼女にそんなことを気にする余裕も気力もなかった。

 

 ボーっとし、空腹のまま彼女は周りを見渡すとぼさぼさのまま、長い髪の毛が流れる。

 

「使用人を……呼ぶベルは?」

 

 彼女は空腹もあってか、意識が朦朧としながらもそのまま部屋を出ては使用人を……

 否、()()()()()()()()()()()()()

 

「(誰か……誰かいないのかしら────?)」

 

 ────ドサッ!

 

 彼女の足は整備されたコンクリートの床から庭らしき場所へと出てはもつれてしまい、草の上へと仰向けに倒れた後は微動だにしなかった。

 

「(眠たい……ベッドに…………………………………………戻って……朝起きて…………………………………………起こしてもらって…………………………………………)」

 

 顔に草がチクチクと刺さりながらも瞼を襲ってくる誘惑に彼女は身を委ね、ただ眼を閉じた。

 

『ッ。 お嬢様! 誰かがこちらで倒れております!』

 

 それが耳へと最後に届き、アンジュリーゼは意識を手放した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ハッ?!」

 

 悪夢を見ていたアンジュリーゼがバッと目を開けると、またも知らない天井を見上げたことで、悪夢が現実と身に沁み始めていた。

 

「あ。 気が付かれましたか?」

 

 横から聞いたことのない少女の声がし、アンジュリーゼが横を見ると大きな車椅子が目に入る。

 

「……シルヴィア?」

 

 アンジュリーゼが見ると大きな電動車椅子に乗った少女を見て、思わず妹の名を呼ぶ。

 

「いいえ、私はナナリーと言います。」

 

「(あ……違う。 シルヴィアじゃない。 別人? ナナリーって、誰?)」

 

 ゆるふわウェーブの髪をした少女は目を閉じたままアンジュリーゼにニッコリとした笑みを向ける。

 

「起きたようだな。 苦労を掛ける、ナナリー。」

 

「いえ、お兄様たちの頼みですもの。 なんてことありませんわ。」

 

 アンジュリーゼが次に見たのは黒髪と紫色の瞳を持った少年の姿だった。

 

 その時、彼女の視界に入ってきたのは自分の腕に繋がっていた点滴。

 

 そして────

 

「────すまないな、二人とも。」

 

 パタン。

 

 近くの椅子に腰を掛けた銀髪の少年が持っていた本を閉じながらニッコリとした笑顔を向ける。

 

「ヒッ────! (────ま、混ざりモノ!)」

 

 アンジュリーゼは思わず息を飲むと、どれだけ喉が渇いていたのか嫌でも意識してしまい、言葉は続けられず、部屋の中に黒髪の少年が入室する。

 

「なんだ、やはりスヴェンの知り合いだったのか?」

 

「だからそう言っただろ、ルルーシュ?」

 

「でもビックリしました。 咲世子さんと一緒に校内を散歩していたら、人が倒れているのですもの。」

 

「ありがとう、ナナリー。」

 

「スヴェンさんには、お兄様ともどもお世話になっていますから。」

 

「どちらかと言うと、私がルルーシュの世話になっているのだけれどね?」

 

 アンジュリーゼが固まっている間、スヴェンはルルーシュとナナリーとのやり取りを続けた。

 

「スヴェン、お前は苦労する相でも持っているのか?」

 

「ルルーシュほどじゃないさ。」

 

「そうお前は言うがな? 確か主は病弱で休みがちで、容態の変化次第で急遽学校を早退しないといけない時もあるんだろ?」

 

「後たまにですがお兄様が出かけている間、私の話し相手などになってくれたりしますよね?」

 

「……すまない、ナナリー。」

 

「いえ、私は別にお兄様を責めているわけではないのです。」

 

「要するに、私が“苦労人”と言いたいんだな、ナナリーは?」

 

「あら、スヴェンさんもようやく自覚をお持ちになって?」

 

「ハハ、かもね?」

 

「(何よ、これ。)」

 

 アンジュリーゼの中では怒りが湧き出ていた。

 

『なんで混ざりモノであるスヴェンがニコニコと笑いながら兄妹と思われる友人二人と楽しそうに笑っている』、と。

 

『自分は理不尽なことでこんなにも不幸だというのに』、と。




出来る間にストックを作ってきます。 (汗

というわけでアニメを見てリサーチしてきます。 (開き直り


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第08話 『先輩』と『悪役令嬢』

お気に入り登録、評価、感想、誠にありがとうございます! とっても励みになります! <(_ _)>

あと今回はスヴェン視点でキリの良いところまで書けました!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

6/25/2022 20:51
誤字報告、誠にありがとうございます鷺ノ宮さん、どてらさん、ソーシローさん! m(_ _)m

やはり急いで投稿すると誤字が多発してしまいますね。 (汗汗汗


 い、今! ありのままのことを話すぜ?!

 

『ある日、生徒会の手伝いをしに来ていたら血相を変えたナナリーと小夜子さんがぐったりとしたアンジュリーゼを生徒会のクラブハウスに連れ込んできて、弱っていた彼女に俺は言われるがまま点滴を打った。』

 

 いや、まぁ……生徒会の手伝いは()()()()()としてだな?

 え? 『まずはナナリーたちとの馴れ初めを説明しろ!』だって?

 

 ああ、別に良いぞ。 それも今の状況に関係しているからな。

 

 じゃあ行くぞ?

 

 せーの。

 

 1. アッシュフォード学園に入学してカレンの代わりに第二の学生ライフをそれとなく満喫していた。

 2. 原作でしか見たことのない電動車椅子を見たら案の定にナナリーがどうやら同期の中等部でそれなりの家を背後に持つ同年代の子たちに絡まれていた。

 3. 売り言葉に素っ気ない返しをしたナナリーに危害が加えられそうになったから『人当たりの良い優男の先輩』として割り込んだ。

 4. 場を収束させたと思ったらどこからともなく現れたミレイ・アッシュフォードに腕を掴まれて“貴方! 採用だから来て!”と言われた。

 5. 腕が確かな感触に挟まれているのを感じて流されるままナナリーと後から駆け付けた彼女の親友らしき子と一緒にクラブハウスへと連行されてそのまま生徒会の書類手伝いをさせられた。

 6. その時にコードギアスの主人公であるルルーシュやほかの生徒会のメンバーとも出会った。 なおこの時のシャーリーは俺を見たら『うわ?! 本物のハンセン君?! 幻じゃなかったんだ……』とか(幻は知らんがな)。

 7. 書類仕事が終わったら今度は“ねぇ~、何かおつまみ作って♡”とミレイに言われて手っ取り早く離れるために即席ポテチをクラブハウスの台所で作ったら皆に大喜びされた。

 8. その日からどこからか現れるミレイに見つかってはクラブハウスへとドナドナ。

 9. 以上である、完。

 

 

 

 

 …………………………いや、本当にそうだって。

 

 原作でも生徒会長であるミレイ・アッシュフォードはかなりのむn────豪快&強引な性格を持っていた描写があったけど、ここまでとは俺も予想していなかった。

 

 というかナナリーが虐めを受けているのって、アニメではその素振りも無かったからそのまま思わず焦りながら割り込んでしまって、『原作を変えちまったか?!』って焦ったよ。

 

 でも今思い返しても『スファルツァ家』なんてアニメとかでは出ていなかったし、多分カットされたシーンか設定の一つなんだろうさ。

 

 いつの時代、『どこか違う』ってだけで虐められることはあるんだ。

 どんな些細なことでも。

 それを、()()()()()()()()()()

 

 つかあのエカテリーナって子、うっぷんを晴らしたいだけの悪役令嬢っぽかったな。 

『ナナリーが実はブリタニア皇族だ』なんて知ったら、どうなっていたんだろう?

 

『ざまぁ』展開は……ナナリーだから無いか。

 

 というわけで生徒会の手伝いを時折させられ……()()()()()()()()、今では割と足をクラブハウスに運ぶようになってしまった。

 

 この場所こそ、最大の地雷原の密集地帯だというのに……

 

 気をつけよう、地雷探知機を使うんだ。

 

 だが上記でも言ったように半分は書類の処理と、半分はクラブハウスの台所でひっそりと料理人の真似事で極力距離を取っている。

 

 あとはと言えば、ミレイの押しの強さだ。

 

『う~ん、冷静沈着&少し皮肉屋さんが二人でしかもイメージカラーが対極的な白と黒! はぁ~、目と心と頭の保養になるわぁ~! しかも何でもできるなんて流石ね♪ スカウトしてよかった♡』

 

 だから敢えてこう言ってやったぞ、一応。

 

『俺は正式な生徒会員になった覚えはないのですが?』、と。

 内心では『俺はスバルえもんじゃないぞ』と強く思いながら。

 

 だがそこでナナリーの親友である少女は俺の肩に手を置きながら『諦めなさい。 ミレイ会長は準会員だろうが生徒会員だろうが中等部だろうが使える人材は使うわよ?』、と俺に伝えた。

 

 遠い目をして。

 

 一応(内心で)言うぞ?

 

 なんでやねん。

 

 あとよく聞けお前ら。

 ここに足を運んでいるから更に分かったことだがナナリーってばマジ天使。

 

 原作のルルーシュを知っているからこそ言うが、なんで彼が世界を敵に回してまでナナリーを幸せにしたいか分かる。

 

 天使が降臨しているとしか思えない。

 

 マジ癒される。

 

 一緒にいるだけで、心が自然と優しい気持ちに包み込まれるような感じがする。

 

 マイナスイオン効果なんて目じゃない。

 

 カレン(じゃじゃ馬)とは大違いだ(色々な意味で)。

 

「ハッ?!」

 

 そんなことを思い出しながら近くの椅子に座って読書していると、アンジュリーゼが息を吐き出しながら目を覚ました。

 

「あ。 気が付かれましたか?」

 

 時間で言えばもうすでに下校時間を回っていてマジ天使で看病をしていたナナリーが優しく目を覚ましたアンジュリーゼに話かけると彼女がナナリーを『シルヴィア』と呼ぶ。

 

 多分、ナナリーの電動車椅子を見て連想したんだろう。

 

 けどな、アンジュリーゼ? ナナリーはシルヴィアとは違うのだよ。

 一緒なのは車椅子ぐらいなものだ。

 

「いいえ、私はナナリーと言います。」

 

「起きたようだな。 苦労を掛ける、ナナリー。」

 

 そしてナナリーの声に近くの部屋にいたルルーシュが入ってくる。

 

「いえ、お兄様たちの頼みですもの。 なんてことありませんわ。」

 

 ハァ~……ええ子や

 

 パタン。

 

「すまないな、二人とも。」

 

 本を閉じて、ニヒルな笑みを浮かべて、“すまない”って……

 そんなことをするキザ野郎がどこにいる?!

 

 ……ここにいる俺でした。

 

 クッ! もっと言うべきことがあるだろうが、俺!

 口下手か俺は?!

 

 ……口下手でした。 すんません。

 ちくせぅ。

 

「ヒッ!」

 

 アンジュリーゼは俺に気が付いたと思えば、目を見開いて既に悪い顔色がさらに悪くなる。

 

 ……いや、そこまで露骨なリアクションをされると凹むのだが?

 

 顔に出なくてよかったよアサガオ~。

 

「なんだ、やはりスヴェンの知り合いだったのか?」

 

「だからそう言っただろ、ルルーシュ?」

 

「でもビックリしました。 小夜子さんと一緒に校内を移動していたら、人が倒れているのですもの。」

 

「ありがとう、ナナリー。」

 

 いや、本当に。 

 マジで。

 

「スヴェン、お前は苦労する相でもあるのか?」

 

 ルルーシュ、お前にだけは言われたくない。

 

「ルルーシュほどじゃないさ。」

 

 色々な意味も含めて、そう返すとルルーシュは両手を上げて肩をすくませる。

 

 まぁ、この頃の彼は『ただ生きている』状態であってその日その日をのらりくらりと過ごしているだけだからな。

 

 そこでヒソヒソとルルーシュがわざと開けたままのドアから入ってきた、ナナリーの親友である少女が配置に着いたのか急にナナリーを後ろから抱きしめる。

 

 バッ!

 

「なーなーりっ!」

 

ひゃあ?! あ、アリスちゃん?! も、もう驚かせないでください!」

 

 ナナリーの親友であるこの金髪ツインテの『アリス』は原作では生徒会……

 というよりはナナリーと絡む場面など見たことがない。

 アニメとかで省かれた接点とか、オンエア出来なかった内容と思えばいいか。

 

 ナナリーに友達の一人もいないのは余りにも不自然だからな。

 

 ルルーシュたちの話に戻るが、彼らと会って俺が病弱な学生の代わりに学園を通っていると話したら、意外と似た境遇にいるルルーシュとアリスがシンパシーを感じたのか割とすんなり話し合えるようになった。

 

 かく言うアリスも、妹もいて数年前に事故で足が不自由になったとかなんとか。

 

 この世界は足が不自由になる呪いでもあるのか?

 

 ……俺が転生した身体が健康体でよかったよ、マジに。

 

 そこから俺たちはそれとなく話していく間、アンジュリーゼは一言も喋ることは無かったのが気になったが……こればかりは彼女自身が開き直るまで待つしかない。

 

「あ、そう言えばスヴェン先輩!」

 

 キュゥゥゥゥン。

 

 む、胸が! マイハートがッッッッ!!!!

 

 ヌッハァァァァー!

 『先輩』って陽気な女子に呼ばれるの、最高やのぉぉぉぉ~!

 

「何だい、アリス君?」

 

「このあいだの焼いた()()、美味しかったです!」

 

「そうかい、それは良かったよ。 だけど、正確には“ピッツェッタ”という小サイズを示す言葉がアレにはあるんだ。」

 

「スヴェン、お前……料理や家事とかとなると細かくなるな? ピザはピザで、結局はサイズの違いだけだろう?」

 

 ルルーシュ、さっきも言ったがお前にだけは言われたくないよ。

 

 あれから少し時間が経った後、クラブハウスに戻ったミレイが一段落した俺たちの所へと来ると突拍子もないことを俺に言う。

 

「と、言う訳でぇ~! アンジュリーゼさんの知り合いであるスヴェンくん、彼女のエスコートをお願いできる? あ、ちなみにこれは会長命令だから♪」

 

 なんでやねん。

 

 会長“命令”ならお願いでも何でもないじゃん。

 お茶目にウィンクしても変わらない事実だぞ。

 

「“と言う訳”も何も……ミレイ会長、私は男ですよ? それに────」

「────だ・か・ら・よ! なにも彼女を“部屋の中までエスコートしなさい”と言っているわけじゃないわ。 あくまで寮までの案内。 

 学園内だけれど、時間が時間だけにね? それとも、スヴェンは遅い時間に弱った女の子を一人で帰す気なのかしら?」

 

 ……確かに?

 ミレイ会長にしてはまともに聞こえる。

 なんかはぐらかされたような気がするが、俺の気のせいか?

 

「そうですね。 ではその頼み、このスヴェンが承りました。」

 

「うん、良い返事ね! 私はそういう素直な子、好きよ!」

 

 おお、良い笑顔。

 ミレイもコードギアスのキャラクターだけあって見目麗しいな。

 

 そしてリヴァルがジト目で俺のことを見るが、無視だ。

 

 お前はバイクに使った金とパーツ代の借りが俺にあるだろうが?

『一緒にバイクをいじっ(改造し)た仲じゃねぇか!』、だと? 

 それとパーツ代は別料金に決まっているだろうが。

 

 そもそもお前のアプローチをミレイはことごとくスルーしている、いい加減に気付けよ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「こちらが女子寮となります、ミスルギ嬢。」

 

「……」

 

 相変わらず俺の言葉を無視する彼女に、俺はそつなく接し続けると周りからはヒソヒソする声が聞こえてくる。

 

『ねぇ、あれってスヴェン君じゃない?』

『ほ、本当だ! まだ校内に居たんだ?! いつもは下校時間、すぐ帰るのに珍しいね?』

『しかも門とは正反対にある女子寮の近くまで来るなんて?!』

『あの後ろにいる女、誰? ……彼女?』

『でもなんんか雰囲気が違くない?』

『それにスヴェン君の振る舞い方って、従者そのものだよね?』

『さるお方がお忍びで来ている……とか?』

『萌える。』

『きゃあああ~!』

『でも私的にはスヴェン君とルルーシュ君の組み合わせが……』

『『え?』』

 

 ああー……従者振る舞いはマズったか?

 つか、周りは言いたい放題だな(特に最後の方)。

 何でアッシュフォード学園にいるかは凄くやつれて落ち込んでいるアンジュリーゼを見ればいくつかの予想はついたから、少しだけでも慣れた環境を────

 

「────ねぇ。 知っていた、の?」

 

「……」

 

『何を?』とアンジュリーゼに聞き返しても十中八九、彼女の現状についてだろう。

 

 彼女ほどの貴族の令嬢が理由もなく、侍女や護衛を一人もつけずに単身で突然アッシュフォード学園に編入される筈がない。

 

 大まかな思い浮かべられる理由としては『政治の派閥関係』、『家同士のいざこざ』、そして『厄介払い』。

 

 シュタットフェルト家の使用人たち経由の情報源だが、彼らは貴族の派閥の動きなどに人一倍敏感だ。

 彼らの職や待遇に直結するからな。

 例えば自分の主人が負け組の派閥に入っているとなると給料や解雇はもちろん、ほかの家の者たちに対してどう接するのかが変わってくる。

 

 だが俺の従者情報網(ネットワーク)に、『派閥』に関する大きな動きは聞いていない。

 もしあったとしても水面下のもので、とてもじゃないが俺が気軽に首を突っ込んでいいような案件じゃなくなる。

 

 俺の首が物理的に飛ばされる可能性もあるからな。

 

 あとは『厄介払い』。

 短い間だったが、数年前に俺から見たアンジュリーゼは令嬢としてほぼ完璧な振る舞いだったから自家の線は薄い(ブリタニア貴族の意識が人一倍強かったが)。

 

 全くの関係がないとは言えないが。

 

 何故なら『ミスルギ家から距離を置き始めている家がある』という事から、『家で何かがあった』のだろう。

 

 そしてさっきの『知っていたの?』と言う問い。

 

 この世界は『コードギアス』だがアンジュリーゼの妹、シルヴィアは電動車椅子に乗っていた。

 

 体面を気にする上級貴族ならば、立てるのなら意地でも立っている。

 

 つまり、多少なりとも『クロスアンジュ』の設定がこの世界でも活きているという事だ。

 

 そう考えれば、恐らくは『クロスアンジュ』の冒頭と同じで────

 

「────そう……黙っているという事は、貴方も知っていたのよね?!」

 

 バチン!

 

「「「きゃあ?!」」」

「スヴェン君を、ビンタした?!」

 

 俺の目の前に、星が散っていく。

 

 うおおおおお~~~~

 

 ほ、星が! 星が見えたスタ~~~~!

 

「私が……“()()()()()()”という事を! それを知って、嘲笑って!」

 

 そしてアンジュリーゼの言葉で、俺の推測が当たっていたことが確定する。

 

 これはアレだ、多分。

『自分を生粋のブリタニア皇族の血しか流れていなかったと思ったら実は別の人種が混ざっていた』か?

 

 それでも────

 

「ご無礼をお許しください、ミスルギ嬢。 何分、学生の身でございますので至らない点がまだまだございます。」

 

 ────俺は『表側の仮面』を継続する。

 ここで彼女を罵倒したり、訂正したりしても逆効果だろう。

 

 この場合相手からアプローチを自らしてこなければ、『他人に理解を強要された』と不満を持ちやすくなる。

 

 それまでは、以前と変わらない対応をし続ける。

 

「ッ」

 

 彼女は歯を食いしばり、何も言わずに笑みを向け続ける俺の横を素通りする。

 

 うん。 完璧に『クロスアンジュ』の冒頭で、島流しにあった直後のアンジュリーゼそのものだな。

 

「スヴェン君大丈夫?!」

「保健室、行く?」

「何よ、あの子?!」

 

 ……………………これはフォローが大変そうだな~。

 Ha、ha、ha。

 ハァ~~~~……………………

 何で引き受けたんだろ?

 あ。 設定ですか、そうですか。

 

「うん、大丈夫だよ。 気にしてくれてありがとうシュニさん、マイヤーさん、ベラルさん。」

 

 俺は近くまで来て、今すぐにでもアンジュリーゼをリンチにでもかけたそうな三人を名前で呼び、気を自分へと向けさせる。

 

 ここにいるのが三人だけでよかった。

 

「はわ。」

「私たちの、名前を?」

「しかもさん付け……ということは()()属性?!

 

 ごめん。

 正直に言うと、君たちの名前を知っていたのは駆け付けた時にカバンの中が見えたからだ。

 

 てか最後の『受け』とはどういうこっちゃ?

『守る』の言い間違えか?

 

「実はここだけの話、彼女とは旧知でね? 急に決まったことなどでいろいろとフラストレーションが溜まっているんだ。 だからあれは決して本当の彼女の姿じゃない。

 私としては昔の話でもして場を和ませようとしたのだけれど、彼女の逆鱗に触れたらしい。 だから、彼女のことは大目に見て許してやってくれないか? でないと私が困るんだ。 もちろん、他の人たちにも私から言うつもりだけど君たちも手伝ってくれると非常に助かる。」

 

「「「は、はひ。」」」

 

 彼女たち三人がコクコクと頷く。

 

「うん、いい子たちだ。 (ニコッ)」

 

 「「「は、はわぁ……」」」

 

 ぐおぁぁぁぁぁぁぁ。

 

 今すぐにでも穴を掘って飛び込みたいぃぃぃぃ。

 

 何が“いい子たちだ”だぁぁぁぁぁぁ?!

 

 でもこれぐらいしなきゃアンジュリーゼが虐めにあってしまうのが容易に想像つくんだぁぁぁぁぁ!

 

 俺じゃない!

『人当たりが良い優男』設定が悪いんだぁぁぁぁぁぁ!

 

 内心で叫び(悶え苦しみ)ながらも出来るだけのことをした俺はその日、クラブハウスで取り合えずマッシュポテトを作ってストレス発散を実行。

 

 マッシュ、マッシュ♪ なんでもぶっ潰せばなんにでも使えマッシュ♪

 

 特にピッツェッタのトッピングとして、相性は抜群だ。

『ピザ』じゃなくて『ピッツェッタ』だぞ。

 出前じゃないぞ。

 俺特製のだぞ。

 

 え? 『そもそもなんで(こだわ)るんだ?』、だって?

 

 ……いや、その……なんだ?

『コードギアス』って言ったら、いつでもどこでも出前を頼む『不思議ちゃん』のおかげで『ピザ』だろ?

 

 けど出前は素直に高い

 

 だから作った方が安く付くし、ボーナス効果として他の皆が喜ぶ。

 

 ……絶対にカレンの我儘の所為で料理が出来るわけじゃないぞ?

 

 シュタットフェルト家で庶民的なモノを作れないからじゃないぞ?

 

 カレンの為に唐揚げ作ったら匂いに釣られたほかの使用人がクソビッチ(シュタットフェルト夫人)にチクったとかじゃないぞ。

 

 ………………………………………………カツ丼、食いてぇなぁ。




クロスアンジュ、観るハードルは高いけどやっぱり面白いな。

ストック? 知らない子ですね。 (汗汗汗汗汗汗汗


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第09話 フルフェイスメットのライダーにクラスチェンジ

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お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

6/26/2022 9:17
誤字報告、誠にありがとうございますななかさん!


 アッシュフォード学園に入学したアンジュリーゼはすぐさま噂になった。

 

 悪い方向に。

 

 誰に対しても距離を置く『高嶺の花気取り』。

 そして俺には傲慢、我儘、短気のジェットストリームアタック。

 まるで一種のゲームに出てくる、『ざまぁ』される(された?)悪役令嬢そのものだ。

 

 ハァ~……どうしたものか。

 

「ちょっとスヴェン?」

 

 そんなことをシュタットフェルト家で考えていると、後ろからカレンがおずおずと名前を呼んだことで俺は今にも滑り落ちそうな仮面を戻す。

 

「……はい、なんでございましょうか?」

 

 「ね、ねぇ? 私、もっと学校に行こうか? なんか大変そうな顔しているよ?」

 

 え?

 顔に出るまで疲れていたか、俺?

 やばいな……なにか考えないと。

 でも俺の知っている『アンジュ』って基本、我儘が強いからな~。

 

「いえいえ、お気になさらずに。 では、今日も良い一日を。」

 

「う、うん……ありがとう?」

 

 カレンの言っていることは多分だが、俺の()()()()の事だろう。

 

 一つは、『病弱なカレンの代わりに学園を通う世話係』生活。

 彼女は事情により出席数が免除されている代わりに良い成績が前提とされている。

 試験などは『教師が個人で見張る』って感じでなんとか原作までには持っていけそうだ。

 ただ、これらに理事長であるルーベン・アッシュフォードが直接関与しているらしく、多分だがカレンがあっていた虐めとかからの配慮だと思う。

 道理で原作でもルルーシュが『殆んど見かけなかった』と言っていたわけだ、同じ二年生だというのに。

 

 二つめは『レジスタンスの後方支援、及び整備班』生活。

 これは出来るだけナオトさんが気を使ってくれて簡単な作業しか回してもらっていない。

 主にこの時間は俺専用の装備開発に専念できる。

 これから色々と動き出すからな、『備えあれば患いなし』だ。

 だけど玉城の奴が『暇だからなんか作れ』ってうるさかったから、原作で見た『仕込みナイフinポーチ』を取り敢えず作ったら何故かカレンが『これは私のだから! 他の奴らが何か欲しいのなら“自分でアイデアを考えな!”って言え!』で、頑なに同じようなものを俺が作るのを嫌がるし……

 

 余談だが玉城には『靴底に仕込みナイフ』を作ってやったが、早速無茶をして壊しやがった。

 “お気に入りのスライディングナイフだった”? 

 “高い靴だった”? 

 知らん。

 それを面白がって空き缶や壁を次から次へと蹴ってぶっ刺したお前が悪い。

 

 そして最後は『世間知らず(アンジュリーゼ)のフォロー』。

 まぁ要するに、シュタットフェルト家でカレンの為にやっていることを学園でアンジュリーゼにやるってことだ。

 

 上記の二つは紅月家に島流しされたからある程度の覚悟はしていたが、三つめは管轄&完全な予想外だ。

 

 何せ俺は実質上、カレン(レジスタンス)アンジュリーゼ(生粋の箱入り)のダブル世話係(フォロー)をしていることになるし。

 

 だが心配されずとも何とかやっていけている間は二人には秘密だ。

 特にカレンだ。

 

 もしこのことを彼女が知ったら容易に病弱設定を壊してでも宣戦布告の“めぐりあい”……じゃなくて、“なぐりあい宇宙”へと事は発展するだろう。

 

 人は悲し()み重ねて大人になる~♪ 

 俺は信じ(Believeし)てしまうぜ~♪

 

 ……コホン。

 原作が始まるのは確か二年生……その時まで一年を切ったというのに、カレンに明らかな原作外の行動に出させては駄目だ。

 

 何のために様々なことを耐え忍んで、それ(原作一話)までの一連の出来事を出来るだけなぞらえていると思う?

 

「と言う訳でミレイ会長。 いつまで私にミスルギ嬢の世話をさせるつもりですか?」

 

 元々“と言う訳で”で全てを始めた原因(ミレイ)に、それとなく“いつまでボランティア活動をさせるのか”で抗議した。

 

「あら? あの子に口が利けるのって、貴方ぐらいよ? あとはおじいちゃん(理事長)だけど、さすがにそんなに時間が取れないわ。」

 

 あれは“口が利ける”と呼ぶよりは、『ストレス解消の愚痴を受けている』だけなのですが?

 

 余談だが“配給品の食べ物ですって? そんなもの食べられるわけないじゃない。 貴方が何か作りなさい”と言われて作った肉じゃがを、彼女が高級なシチューと間違えて黙々と食べたのがおかしかったとか。

 

 けれどそんな『面白い事』より『ストレス』が勝っている。

 

「それにあの子って箱入り過ぎるから、学園にいる間は『従者見習い』としての能力を活かせれる “練習台”と思えばいいじゃない!」

 

 プライドが高くて頑固な箱入り貴族はノーサンキュー。

 

 しかも俺の場合、『従者見習い』は色々と都合が良かったからで本気でそれを一生やるつもりはない

 

 機嫌次第でころころ変わる要求と雑務の追加。

 身の回りの世話に食事の準備に掃除。

 ……………………………………………………あと(下着を含む)洗濯。

 

 最後のは『肌着(下着)はご自分で』と伝えようとしたが、聞く耳を持たなかった。

 

 決して俺の意思で始めたわけじゃないぞ?

 

 体(と精神)が持たねぇよコンチクショウ。

 

「ミレイ会長ならば同じ女性ですし、それに────」

「────無理。 話かけようとしたけれど、相手にされなかったわ────」

 

『────同じ没落貴族同士なのにねぇ~?』という続きの言葉を、俺は困った顔で苦笑いをするミレイが言ったような気がした。

 

「それに、もし本当にスヴェンが嫌だというのならあの子に構うことをやめれば済む事じゃない?」

 

 前言撤回。

 

 そんな、“もう面倒見たくないからペットをポイ捨てバイバイビ~!”をする最低野郎みたいなことが出来るかッ!

 しかもその邪悪な笑みは、それを知っていてわざと言っているだろ?!

 

「う~ん、でもスヴェンの言い分もあるから……あの子がせめて、私たち生徒会と()()()話し合えるまででいいわ!」

 

 ミレイさんや。

 その条件、難易度が逆にヘルモードなのでは?

 

 どないせぇちゅうねん。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「その……心中お察しします、スヴェンさん。」

 

 俺はあの後、癒しを求めた。

 

 ナナリーマジ天使。

 

「ありがとう、ナナリー。」

 

 彼女の侍女である小夜子さんが淹れた紅茶を俺は飲み干して、一時の平和をかみしめてから再び()()へと向かう。

 

 やっぱりすごいな、小夜子さんは。

 従者としても、武術方面でも()()をしなければまるで勝てる気がしない。

 

「ごちそうさまでした。」

 

 ハァー……昴、いってきま~す。

 

 内心でため息を出しながら席を立つとその時、ルルーシュが入って来て俺を見ては複雑そうな顔をする。

 

「ん。 スヴェンか? 丁度良かった、になるのか?」

 

「ルルーシュ? どうかしたのか?」

 

 丁度良かったとは何ぞや?

 

「俺の見間違いと思いたいのだが……スヴェン、ミスルギさんから租界へ出る予定とかあるか聞いたか? さっき通りかかった学生から彼女が少し前にフラフラしながら学園の門から出るのを見たと言っていたぞ? 時間もかなり遅くなっているし────」

 

 ────あンのひねくれ娘ぇぇぇぇぇぇ!

 

「ルルーシュ! リヴァルに“バイクを借りる”と伝えてくれ。」

 

 俺は近くの窓を開けて、そのまま飛び出した。

 

 昴! 行きまぁぁぁぁぁす!

 

「スヴェン、バイクのエナジーは満タンに戻しておけよ?!」

 

 知ってらぁ。

 

 俺は地面に着地し、転がりながらリヴァルのバイクにまたがってスペアキーでエンジンをかけてから携帯をいじる。

 

 プルルルル。 プルルルル。

 

「(頼む、出てきてくれ!)」

 

 ピッ♪

 

 フルフェイスのヘルメットをかぶる前に携帯を耳にかけ、バイクをフルスロットルにしながら学園の門を抜けると同時に優男()の仮面を取り外す。

 

『久しぶりだな、()?』

 

「ああ。 久しぶりだな、()()。」

 

『君からこんな時間に連絡を寄こすとは何ごとだ?』

 

「手を貸せ。」

 

『相変わらず強引だな君は。 学園で見かける()()()()調()()はどうしたというのだ?』

 

「今は急いでいる、お前の雑談に付き合う気はない。 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギが租界へと出たとついさっき聞いた。 一人でだ。」

 

『ふむ……それで? 君は私に彼女を探す()()()をしてほしいと?』

 

「話が早くて助かる。」

 

『良いだろう。 今度の週末、私と付き合え。』

 

「彼女が無事ならばな。 今、どこにいる?」




短くて申し訳ございません……
キリが良いところ&ストックが出来ていないので……(´;ω;`)

ただ、このぐらいの長さでしたら大体同じ時間帯&毎日投稿は可能……と思いたいです。 (汗汗汗


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第10話 マッドなS

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誤字報告、ありがとうございますはるるかさん! (シ_ _)シ

クロスアンジュ的要素と学園黙示録が少しだけ出てきます、ご了承くださいますようお願い申し上げます。 (汗

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ___________

 

 アンジュリーゼ 視点

 ___________

 

 アンジュリーゼは現実味のない、放心したような様子のまま夜の租界へと出ていた。

 

『租界』。 それは他国の占領後、ブリタニアの国民が住む区域を指す単語を意味する。

 

「綺麗だねぇ、ねえちゃん!」

「何も一晩中、付き合えって言ってるんじゃねぇよ!」

「そうそう。 三、四時間だけでいいんだよ! 金は払うからさぁ!」

 

 昼はともかく、夜が落ちた都会はどの時代でも変わらない。

 

 それに租界と言っても規模が小さいため、アッシュフォード学園からゲットーはそれほど離れてはいない。

 

 徒歩で30分ほどだ。

 

 そんな場所に紛れ込んだアンジュリーゼは運が悪く、夜の街を徘徊するような酔っ払いたちに絡まれていた。

 

 ほぼマフィアなどの裏組織が仕切る租界外縁部の近くで。

 

「クッ! いい加減に離れなさい!」

 

 そして未だに箱入り貴族の精神をしていた彼女はどう対処すれば()()なのか分からなかった。

 

 彼女からすれば、今の状況は判断に困るシチュエーションどころか、少し前の彼女であればこのような場所にこのような時間で外出するのは────

 

 ────ガシッ!

 

「へへ! 細い腕だねぇ────!」

 

 プッツン。

 

 「────離れなさいって言っているでしょうが?!」

 

 バキッ!

 

「グハァ?!」

 

 アンジュリーゼのキレがある拳が、腕を掴んだ男の顎にクリーンヒットする。

 

「こ、このアマ!」

 

 ボカッ!

 

 「近付くな!」

 

 この淑女からかけ離れた行動は一言で片付ければ『ストレス』から生じていた。

 

 実はスヴェンの接し方は正解の一種だったらしく、微弱にだが彼女の物理的なストレスを減少はさせていた。

 

 だが、精神的なストレスは溜まる一方だった。

 

 急に変化した身の周り、(貴族として育ったアンジュリーゼにとって)庶民の生活と言う名の不自由(屈辱)、気軽に心の中で思っていることを話す相手がいない等々で余裕がなくなった彼女のイラつきボルテージは限界突破していた。

 

 その上、もともと言動が男勝りの方が性に合う彼女。

 以前までは『貴族としての体面』を第一に気にかけ、今までは『淑女の鏡』の意地を張っていたのだが……

 

 結果は御覧の通りで、感情と共に彼女は暴発した。

 

 だが────

 

「は、離しなさい! このッ!」

 

「や、やっと捕まえたぜ!」

「ったく! 手間かけさせやがって!」

 

 ────所詮は16歳の少女、そして荒ぶっている精神。 

 酔っぱらっているとはいえ、大の男数人相手に生半可な護身術で敵う訳がなかった。

 

「離しなさい! 私を誰だと思っているの?! か弱い女に総掛かりで────!」

「────んなこと知るか! “金払う”って言ってんのにあれだけ追いかけっこされたんだ! 付き合ってもらわねぇと気が済まねぇ!」

 

「ッ?! 貴方たち、まさか何か勘違いをして────!」

 

 ガッ!

 ビリビリビリビリビリ!

 

 「────きゃあああああ?!」

 

 男は片方の手でアンジュリーゼは腕を頭の上で拘束されたまま、もう片方の手で男は彼女の制服を首からお腹辺りまで一気に力ずくで引き裂くと彼女の玉のような白い肌とへそが露出する。

 

「大声出すなよ! どうせそれ(制服)も客用なんだろうが?! ゲットー近くに、こんな時間に本物の学生が一人でのこのこと来るわけが────!」

 

 ────パサッ。

 

 その時、彼女の破られたコートから何かが地面に落ちて男たちはそれに気付く。

 

 それはアッシュフォード学園の紋章が入った生徒手帳だった。

 

「お、おいこの手帳……へ? まさか……本物?」

「……おいおいおいおい! やばいぞ?! という事は本当に貴族様かどこかのお嬢様という事じゃねぇか?!」

 

 急に上記の男たち二人の態度が変わったことに気付いたアンジュリーゼは睨みを利かした目つきを、自分の腕を拘束する男に向ける。

 

「そ、そうですわ! 私にこれ以上の狼藉を働けば────!」

 

 バチィン!

 

 「────うるせぇぇぇぇぇ!」

 

 男は平手で彼女の頬を叩き、アンジュリーゼの眼前に星が散っては今何が起きたのか理解がイマイチ追いついていない表情を浮かべた。

 

「んなもん、立場も仕事も何も無くなったオレには関係ねぇ! 大体よぉ?! お前たちのそれもこれも全部、貴族様の所為だろうが?! オレのように?!」

 

 それは酔いに任せた怒りだけを持ったものではなく、本音も混じっていた。

 

 この男たち三人、実はというと貴族の抗争に巻き込まれて職を失った下っ端たちなのだ。

 それから今のやりとりで察したかもしれないが彼らが仕えていた主は見事に敗北し、あまり能力の高くない彼らは路頭に迷っていた。

 

 そして酒などの娯楽に没頭するようになり、シンジュクゲットーに出ては人権のないイレヴン(日本人)を狩っていた。

 

 この世界での『ホームレス狩り』もどきの、理不尽な『非ブリタニア人(原住民)狩り』である。

 

「それは……」

「確かに……」

 

「ならよぉ?! 貴族様の所為でこんなことになったオレたちのケアも、貴族様の義務だろうが?!」

 

 さっきまでオドオドしていた男たちまでもが、明らかにアンジュリーゼに殴られて発狂寸前の押しに感化される様子を彼女は固まったまま、今目の前で起こっていることを第三者のようにただ見ていた。

 

 それはこのような出来事に陥っても未だに状況認識が出来ていないからか、あるいは頬を平手打ちされたショックからか、それとも────

 

「(────ああ。 私、今()()なんだ。)」

 

 アンジュリーゼはぼんやりとした様子で周りを見る。

 

 つい少し前までは望めば、なんだって手に入っていた。

 

 靴や服、軽食、夜食、風呂、着替えであろうと文字通り、()()()()至れり尽くせりだった。

 

 それが今はどうだ?

 単身で見知らない土地に送られ、余裕がなくなっては虚勢を張って、更にイライラした気持ちの発散をした挙句、人っ子一人徘徊していないようなゲットーに近い地区にズカズカと『火遊び』程度の覚悟で迷い込む。

 

 社会にあぶれた者たちが、どうして社会のルールを守る必要があるのかを議論するのをぼんやりと見ていた。

 

 そして今、彼女の脳裏に浮かぶことと言えば────

 

『────ちょっと、混ざりモノ?』

『はい、こちらに。』

『この後、馬に乗りたい気分だわ。 用意をしてきて頂戴。』

『はい、ではすぐに軽食と飲み物も準備してまいります。』

 

 または────

 

『────ちょっと、ここが分からないわ。 貴方がやりなさいな。』

『ミスルギ嬢、これは課題ですのでご本人が────』

『────“()()()やりなさい”と、私は言っているのよ。』

『……では簡単な解き方の形式などを別のページに記しますので、それをご参考にしていただければ────』

『────ハァ、使()()()()奴ね。』

『申し訳ございません、学生の身ですので。』

 

 等々を思いだしていくと、常にとある単語が度々浮かび上がる。

 

『使えない。』

 

 その単語を思い出したことで彼女が────アンジュリーゼが脳裏に次々と浮かび上がらせるのは自分が何度『使えない』と、なぜか自分の周りに付き纏った少年に言ったのかだった。

 

『使えない。』

『使えない』、『使えない』、『使えない』。

 

 それを彼女は、()()()()()()()()()()()に使っていたと気付く。

『かつての今まで通り』の気分に浸ったまま。

 

 その単語こそ、今の自分に当てはまることだと気づ────

 

 ────ギュウゥゥゥゥゥ!

 

「きゃ?! い、痛い!」 

 

 そこで急に胸を強引に掴まれたことでやっと『夢』から覚めた彼女は一気にパニックに陥り、内心で助けを呼ぶ。

 

「(だ、誰か────!)」

 

「────女子一人に、大人で数人がかりか? それでもお前たちはおのこ()か?」

 

「「「あ?」」」

 

「え?」

 

 男たちとアンジュリーゼの耳に届いたのは凛とした女性の声。

 

 そして声がした方向を彼らが見るとアッシュフォード学園の制服を着た黒髪のハイポニーテールの少女が自信満々気に視線を返していた。

 

 ()()()()のようなものを背負いながら。

 

「何だテメェは?!」

 

「私か? そこでお前たちが強姦しようとしている女に用がある者だ。 だから彼女を離してはくれまいか? ()()()()()()()()()()()()()からな。」

 

 突然出てきた少女の煽るような態度に一人の男がズカズカと近づいて拳を振るう。

 

 「あ゛?! テメェも一発────!」

 

 バキッ!

 

「────アグラァァァァ?!」

 

 その男の拳を容易に避けてから黒髪の少女は彼の顎にカウンター気味の掌打を当てると鋭い、何かが割れる音が聞こえて男は叫びながら後ろへとよろけて顎を覆う。

 

「今ので歯が何本かイッたのか? 全く……カルシウム不足だな。」

 

 少女の凛とした笑みが深くなっていき、背負っていたモノを手にする。

 

「さて。 これで“()()()()”が成り立ったわけだが……そこの女、巻き込まれたくなければジッとしていろ。

 

 そこからアンジュリーゼが見たのは男たちが瞬く間に制圧……

 

 否、一方的に()()()()()にされる男たちだった。

 

「ひ、ヒィィィ?!」

 

「も、もう勘弁し()らは(ださ)いぃぃぃぃ!」

 

 一人の男が明らかに折られた骨や打撲からくる激痛で気を失うと、ほかの二人が命乞いのようなセリフを吐きながら変な角度で曲がった足等で逃げようとする。

 

 だが────

 

フハハハハハ! なんだ貴様ら、その体たらくは?! たかが骨が数本やられただけだぞ? かかってこい。

 

「「ヒッ?!」」

 

 少女の冷たく、瀕死の獲物で遊ぶ猫に追い詰められていくような気がした男たちの足はすくみ、彼らは息を素早く飲み込むだけだった。

 

意地でも立て。 漢を見せろ! 夜はまだまだこれからだ! フハハハハハ────

 

 ────バシュ、バカン!

 

 何かが高速で空中を切る音とほぼ同時に、笑う少女の足元でアスファルトが抉れては跳ねる。

 

「……女相手に、銃を抜くか。」

 

 少女の目が険しいものになりながら首を少し回し、後ろで気を失っていた筈の男をにらむ。

 

 いや、正確には彼が持っていた拳銃を睨んでいた。

 

「ここで、お前のような奴にボコボコにされたまま寝ていられるか!」

 

「この阿呆が……別に撃ってもいいぞ。 ()()()()()()()。」

 

「この────!」

 

 ヒュンッ!

 ザクッ!

 

「────ぎゃあああああ?!」

 

 もう一度拳銃を撃とうとした男の手の甲をガラスの破片が突き刺さる。

 

「すまない、毒島。 迷惑だったか?」

 

「いや? だから私は“撃てるのならな”と言ったのだ。」

 

「ッぁ……」

 

『なんで?』、とアンジュリーゼは新たに横道から出た少年に対して声を出したかった。

 

 彼は唯一、自分が知っている『日常』の再現をしてくれていた人物だった。




やせいの 毒島冴子 が現れた!


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第11話 『裏』と『表』

次話です。

ここからはスヴェン視点に戻ります。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

誤字報告、誠にありがとうございます船の名前さん!


 うおおおおおおおおおおお!

 

 ちゃんとガラスが当たって良かったぁぁぁぁぁぁ

 

 セェェェェェェフゥゥゥ!!

 

「すまない、毒島。 迷惑だったか?」

 

「いや? だから私は“撃てるのならな”とそこの馬鹿に言ったのだ。」

 

 俺は()のポーカーフェイスを維持しながら、()は冷汗ダラダラで焦りに焦りまくっていた。

 

 何せ俺はバイクの運転に集中するために耳と気配察知能力が抜群の毒島を乗せてかっ飛ばしたと思ったら『いたぞ』の一言だけ言って急にバイクから飛び降りるわ、流石にそのまま他人のバイクをほっぽり出すわけにもいかないわ、ちゃんと機能するバイク駐車場に止めて全力疾走するわ、やっと追いついたと思ったら毒島が銃を持った半殺しの奴に撃たれそうになっているわで地面に落ちていたガラスの破片を思わず手に取って投げたら奇跡的に当たったわ……

 

 わははのわは~。

 

 おおおっと、他人の前だ。

『人当たりのいい優男』の仮面を着用だ前田(まえだ)

 

「そこのお三方? レディ相手に銃を抜いたとなると、かなり酔いが回っているみたいですね? それも脅しではなく、発砲までして。 しかもそこの女性の服が破れていることを見ると状況は一目瞭然。 どうでしょうか? 双方、ここで見聞きしたことすべてを()()()()ことにするというのは?」

 

「あ?!」

 

「ふざけるなよ! こっちはそこのイレヴンに半殺しにされたんだ!」

 

「訴えてやる!」

 

 うん、俺もお前たちが怒ってもいいと思う。

 多分、毒島が()()煽ったんだろ?

 

 俺もお前たちだったら訴えているが、そういうワケにも行かないんだよなぁ~。

 

 ウ~~~~~!ウ~~~~~!

 

「「んな?!」」

 

「け、警察だと?!」

 

 男三人は見るからに、音量が増していくサイレンに青ざめる。

 

「おそらくは発砲音を誰かに通報されたのでしょう。 銃さえ置いていけば、警察には貴方たちとは別方向を示しておきます。 “顔も暗くて見えなかった”、ということも────」

 

 ガシャ!

 

「────逃げるぞお前ら!」

 

 男たちは体の傷が嘘かのように、その場からたちまち逃げていく。

 

 ああああ、良かったぁぁぁぁ。

 

 ブン!

 

「ぁ」

 

 っておいぃぃぃぃぃ?!

 

 最後の野郎、逃げ去り間際に石をアンジュ目掛けてブン投げやがったぞ?!

 

 アンジュは一瞬恐れたような顔をして、ソレがカノジョとはチガウダレかとカブル。

 

『自分を“日本人”だと言い切りやがって! 日本なんて国はもう無いんだよ!』

『同じ道を通っているってだけで生意気なんだよ、このイレヴンが!』

『そうだオレ、その昔に石を投げて怪我させるバツがあったと聞いたぜ! こいつの赤い髪の毛、良い的になりそうだよな────?!』

 

 「(────おおおおおおおおおおお!!!)」

 

 俺は考えるより先に走っていた。

 

 とりあえず走っ(反応し)ていた。

 

 毒島もまさか相手が負け惜しみに石をアンジュリーゼに投げるとは思わなかったのか、俺のいる方向へ振り向いていた為に投げられた石が自分の横を素通りするまで気が付かなった。

 

 もう()()()()()()だろう。

 

 石はそのまま綺麗にしかめながら目をつぶるアンジュの顔へとまっすぐ飛ぶ。

 

 バキッ!

 

 石がアンジュリーゼに当たる直前、俺はバイクの手袋をしたままの拳で横へと()()

 

 その反動で、俺の身体が背後にいるアンジュのほうへと後ずさり、()()と衝突する寸前につま先と足に力を入れて無理やり自分の身体を止めながら制服の上着を脱ぎ、乱れて目を覆いそうな前髪を後ろへと流しながら、唖然とするアンジュリーゼへと振り返りざまに脱いだ上着を彼女の肩に回して笑顔(仮面)を向ける。

 

 …………………………思わず身体が動いちまったよ。

 

「失礼しました()()()、お怪我などございませんか? (ニコッ)」

 

 そして俺はこの『パーフェクト従者見習い』の口と顔が憎いでござる。

 

 取り敢えずいつも通り(ポーカーフェイス)に戻すか。

 

「……………………あ、はい。」

 

「ブフッ! も、もう駄目だ。 ブァハハハハ!」

 

 呆けていてポーっとしていたアンジュリーゼがやっと反応し、毒島がケタケタと笑い始め、俺は仮面を再度外してから彼女を全力のジト目で見る。

 

「おい、笑うことはないだろ毒島?」

 

「スヴェンのその、振る舞いがっ! フハハハハハ! お前の()との違いが! あはははは! こ、これが笑われずにいられるか?!」

 

「この()は、信用できる者にしか見せていないだけだ。」

 

「しかも一人称が変わるその徹底さもだ! フフフ……そうだな、世間でいう“ぎゃっぷかん”という奴だ。」

 

「そういう毒島もな。」

 

 何せオフでは『凛とした貴族お嬢様』を気取っているのに、いざ夜になると『自ら不法行為を行っている者たちと荒事になるよう誘導させてから相手をなぶるドS』に豹変するからな。

 

 完全に性転換した(&性格が変わる)コウモリマンだ。

 シーズ(She’s)バッ〇マン(Ba〇man)

 

 おかげで俺のもう一つ作っていた『裏の顔』の()()()()としてもかなり役立っているのは否定出来ないが。

 

「それとさっきのサイレンはなんだ? 本物とは少し違ったが────?」

「────時間差でセットした携帯を、反響の良い横道に設置しただけだ。」

 

 警察とかのサイレンって、人間の耳がとらえやすい波長になっているからな。

 携帯のスピーカーの音量を最大限(マックス)にして、よく反響しやすい場所に設置し、『警察』を連想させるような精神に誘導すれば酔っぱらった者たちには本物のように聞こえる。

 

 いや、聞こえてしまう。

 早い話が『早とちり』と『精神の乱れ』を利用した手品(トリック)だ。

 

 「……な、んで。」

 

「「ん?」」

 

 さっきまで顔を俯いていたアンジュリーゼから声が出る。

 

「なんで、私を助けた……のですか?」

 

 アンジュリーゼが口を開けたと思ったら、そんな問いが来た。

 

 いや、『なんで』って言われても……

 

『後味が悪い』?

『責任感』?

 そのどれとも微妙に違うな。

 

「…………やせ我慢なら、よせ。」

 

「え?」

 

「度が過ぎるのは、見ているだけで辛い。」

 

 本当のところ、多少とはいえ縁を繋いだ奴が近くで自傷行為に走るのが嫌だった。

 原作でのカレンがなぜあれほどブリタニアを憎むのかも、『虐め』と言う言葉が生温いほどの仕打ちを彼女は経験しそうになっていた。

 

 俺とナオトさんが割り込んだから良いものの、日本侵略後にずっとアッシュフォード学園に通うまで()()()()を経験していればどんな奴でも捻くれてしまうだろう。

 

 それ以前に原作開始で()()()()にいられたことがびっくりだよ。

 降伏したのは割と早かったけど戦後の日本、治安機関が武装解除されてブリタニアが本格的に基盤を固めるまでアニメとかじゃ絶対に描写できないような、一時期的に全土が無法地帯だったからな。

 

 それほど、シュタットフェルト家に引き取られるまで過酷な生活を強いられていた。

 

 ……取り敢えず、()()()()()()()()()()()()()()()とだけ言わせてくれ。

 

 そんなことを黙って考えていると、毒島がどういう訳か笑みを浮かべて口を開けた。

 

「今ので分かったかもしれないが、彼は見た目と口調に反して()()()()()のだよ。 昔から助けを求めている奴を見ると、放って置けないタチだ。 ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。 私は『毒島冴子』だ。 これでも一応、同じ歳の者だ。」

 

 いや、なに急に仕切っているんスか毒島さん?

 そもそも俺は『優しすぎる』とかじゃなくて、『生き残るため』の布石を打っているだけだからな?

 

 恩を売ればそれがいつ、どこで役立つのか分からないし、原作メンバーと関わりを持ってしまったのならいっそのこと行動の調整もある程度出来るようにしておける。

 

 ……天邪鬼であるミレイ以外は自信を持って言える。

 言いたい。

 頼むから言わせてくれ。

 

 打算ありまくりだかんね?

 アリアリだよ?

 

 アリアリアリアリアリーヴェデルチ~。

 

 全ては俺が生き残るためだ。

 

「そうだろう、昴? ああ、表の世界では“スヴェン”と名乗っているのだったな?」

 

 おいいいいいいいいい?!

 

 毒島の奴、こいつ(アンジュリーゼ)の前で俺の『(スヴェン)』と『()』の名前を二つともゲロっただとぉぉぉぉぉ?!?!?!

 

「……表の、世界?」

 

「そうだ。 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ、確かお前の身体()()ブリタニアの血だけが流れているわけではないのだろう? それだけだというのに、君がかなりの仕打ちを周りから受けていたことを耳にしている。」

 

「ッ!」

 

 アンジュリーゼが毒島の声に身構え、上着をギュッと掴む。

 

 無理もないが。

 でも毒島はこの会話をどこへと向かわせている?

 

「そして学園での君の行いはかなり酷いらしいな? 心のゆとりがないからか? それともかつて友や学友、自分を中心に回っていた社会にまで見限られて血迷っていたか? それらすべては君が、『血が混ざっている』だというだけで手のひら返しの結果だ。 そんなブリタニア(社会)のことを、お前はどう思っている?」

 

「ッ」

 

 アンジュリーゼがヒュッと息を吸い込む。

 

 ………………いや、マジで彼女はこの会話でどこに行こうとしているの?

 

「別に何を言ってもいいぞ? ここには私たちしかいない。 “反逆罪だ”とか、“不敬だ”とかで、お前を告発や批判する者はいない。」

 

 あ。 もしかして毒島の奴────?!

 

「────ああ、ちなみに昴は『裏の世界』、つまりは陽の当たらない世界で『情報屋』として活動している。 

 お得意先にはブリタニア人は勿論の事、私のように()()()()()()たちもいる。 私は彼の情報を元に鬱憤────ああ、失礼。 社会のゴミどもの掃除をしている。 

 つまりはだ、彼は殆どの相手に()()()()を出来る立場にいるという事だ。 それに私から見れば、君には度胸も見どころがある。

 さて、これを知った君はどうしたい?」

 

 ……………………………………どうしてこうなったし。

 

 危うし俺の胃、誰か助けて。 

 ただいま土壇場のストレス留まりでゲロ吐きそう。



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第12話 言葉の綾、つまりは早とちり

おはようございました! (二回目)

前話が短かったのが気になったので少々早めの次話投稿です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 <(_ _)>


 あの出来事から、アンジュリーゼは『悪役令嬢』らしい言動は辞めた。

 

「ごめんなさい!」

 

 と言うか180度に態度が変わって、次の日から彼女は親身になりながら今まで悪い態度をしていた生徒会の皆に腰を折って深~くお詫びした。

 

 皆の分を焼いたクッキー(形はアンジュリーゼが整えた)が入った袋を差し出しながら。

 

 と言うか後ろに立っている俺に見えちゃうだろうが超ミニスカがオイバカやめろ黒のヒラヒラレースががガガガががががががガガガがが。

 

 ………………………………………………………………………………………………………………いや、これも俺が『誠心誠意を持って謝れ』ってアドバイスをした所為だが、まさかのまさかでそれを当日と次の日に実行へ移すとは思わなかった。

 

『クロスアンジュ』で見た、周りを気にせず我が道を歩むアンジュだ。

 

「………………ううん、気にしていないよ! 何か理由、あったんでしょ? でもこうやって向き合ってくれようとしているからちょっとだけ許しちゃう!」

 

 ルルーシュやリヴァルにニーナはポカンと未だにしていたが、流石はシャーリー・フェネットだ。

 

『ちょっとだけ』だが。

 

 原作では明るく活発で非常に心優しい女性。

 彼女は原作でも『ゼロ』として覚悟を決めていたルルーシュの拠り所になっていた描写が数々ある。

 

 そして…………原作の二期では彼女が殺されたことで、ルルーシュの良心や遠慮は完全に折れた。

 あと腐れもなく、完膚なきまでの粉々に散って。

 

 それこそ、それまでの修羅場を首皮一枚で何とか潜り抜け、一度は反逆に失敗したことで目をつけられ、慎重に慎重を重ねることに徹していたルルーシュに号泣させるほど。

 

 その直後、無我夢中の子供のように怒りをぶつけて全面戦争をブリタニアへ仕掛ける程に。

 

 一人の女性の死が、ルルーシュを拡大自殺者のごとく行動させるほどのきっかけとなるような存在になっていたのだ。

 

 だから、俺は────

 

「────それでぇ~? アンジュリーゼちゃんのあの変わり様、スヴェンのおかげなんでしょう?」

 

 俺の考えを近くまで来てニヤニヤしていたミレイが遮り、俺は人当たりの良い笑みを向ける。

 

「いえいえ、私は何もしていませんよ。 恐らく、何か()()()()()のでしょう。」

 

 ミレイはまたも邪悪な笑みを浮かべて小声で話しかける。

 

「“吹っ切れた”、ということは()()()のね? やっぱり学生身分を盾に……と思いたいけれど、スヴェンのことだから何か良い案が(ひらめ)いたんでしょ?」

 

 凌いだ? 何を?

 というか“言い訳”?

 ナニソレ?

 

「???」

 

「え? 何その顔? だって、アンジュリーゼちゃんから聞いているんでしょ? “()()()()()()に困っている”って。」

 

 ……………………………………………………………………………………はぇ?

 

「昨日のこと、聞いたわよ? 彼女が租界に一人で出たって聞いたらどこかの誰かさんが騎士のように颯爽と飛び出たことを。 しかも帰って来たのは夜遅くだとか? それって、しつこく付き纏う相手から────」

「────ちょっと待ってください。 夜遅くに戻ってきたのは、彼女を探すことに手間取っただけです。」

 

 さっきミレイは何て言った?

 社会の対応?

 アンジュリーゼが? 

 “しつこく付き纏う相手”?

 え?

 なぜに?

 なんだこれ?

 

「え? じゃあ、スヴェンは今まで彼女の()()に乗っているんじゃなかったの?」

 

 相談? 

 なんの?

 

「いえ、ですから彼女の()()()()の世話をしていたのですが?」

 

「え?! まさか、そこまでしていたの?!」

 

 ……んんんんんん?

 何か変だぞ?

 

「私って、てっきりスヴェンがアンジュリーゼちゃんに自立や生活力のノウハウや、彼女にお見合いとかからの断り方とか逃げ方を教えたりしていたとてっきり思っていたのだけど……道理で……」

 

 んんんんんん?

 

 致命的なまでに話が噛み合っていないような気がするぞ?

 

「あの、ミレイ会長……………………私はそのことに関して、全くの初耳なのですが?」

 

「えええ?! だだだだだって、スヴェンはもうすでにカレンちゃんの世話をしているじゃない?! いくら私でも“そこまで面倒を見なさい”なんて言わないわよ!」

 

 “いくら私でも”ってことは、人使いが荒いことをある程度は自覚しているという事かいな。

 

 いや違う。

 違うだろ、俺。

 今注目すべきところはそこじゃないだろ、俺?

 

 言い方からだと、ミレイはまるで一度も俺に………………………………

 

 そう言えば彼女(ミレイ)が今まで言った言葉を思い返すと、一度も“世話係をしろ”とは言っていないような?

 

『と、言う訳でぇ~! アンジュリーゼさんの知り合いであるスヴェンくん、()()()()()()()()をお願いできる? あ、ちなみにこれは会長命令だから♪』

 

 今考えると最初のこれはただ単にエスコートをお願いしているな、寮までの。

 

『あら? あの子に口が利けるのって、貴方ぐらいよ? あとはおじいちゃん(理事長)だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 そして俺が世話を見始めたところに“いつまで世話を見させる気だ?”と言う問いの答えが上記のこれか。

 

 ん?

 そう言えば何故ここでルーベンさん(理事長)が話に出て来たんだ?

 彼がアンジュリーゼの世話をする訳が……………………………………………………

 

 もしかして、もしかしたら、もしかするのか?

 

「ミレイ会長? そう言えば以前、私が“いつまで”の問いをしたときに確か理事長を出しましたね? あれはどういう意味ですか?」

 

「え? だからさっきも言ったように、おじいちゃんは“婚約の話の対応や相談を時間の空いているときにならしてもいい”って言ったって私に伝えていたわよ?」

 

 ………………………え?

 え?

 え?

 

「で、ですが確か! “あの子(アンジュリーゼ)って箱入り過ぎるから、学園にいる間は『従者見習い』としての能力を活かせれる “練習台”と思えばいい”とミレイ会長が────ハッ?!

 

 そこでまたもミレイの言葉が脳内に浮かんで、俺は重大なことに気が付いた。

 

あの子(アンジュリーゼ)って箱入り過ぎるから~。』

 

 『箱入り過ぎるから~。』

 

 あれはもしや……

 

 『箱入り過ぎるから~。』

 

 もしや、『従者見習い』≠『世話係』?

 

 そして確かに『従者見習い』であればある程度の生活力を教えたり、婚約などの社交的な相談に乗ったりなどするが、『世話係』と違ってそこまで親身になってまでアレコレしたりは……

 

 それにルーベンさん(理事長)が会話で出たことをプラスして考えると……

 

 え?

 

 ……………………ま、まさか────

 

 「────今までは、()の……勘違い(早とちり)……だった………………だと?!」

 

 _| ̄○lll ←*注*スヴェン(の心境)

 

 「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……」

 

 ────思わず公衆の前でがっくりと膝と手を地面に着きながら項垂れるのを俺は、顔を両手で覆いながらかつて出したことのない程の長~いため息を出すだけに何とか押し留める。

 

「ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴメンねスヴェン?! ほ、ほ、ほ、本当に! 貴方はカレンちゃんのこともあったし、まさかそこまでするまで話がズレていただなんて私思わなくてッ!!!」

 

 あと、何か慌てた様子のミレイから(原作を含めて)今まで聞いたことのない、真剣な謝罪の言葉を聞いたような気がした。

 

 ガジガジガジガジガジ。

 

 アーサー、足を噛まないでくれ。

 割と痛い。

 

 余談かもしれないが、『一日水着で学園生活』の際には俺一人だけ朝一でこっそりとクラブハウスに呼び出してはモジモジしながら『お、お詫び的なサプライズ?』と消え入りそうな声と共に頬と耳を紅潮させながら上着を脱いだらスリングショット水着姿のミレイが居た。

 

 な、何を言っているのか分からないと思うが……俺も何をされたのか分からなかった。

 

 ………………………………いや、グッとは来たよ? 

 刺さったよ?

 

 主に心臓。

 

『殆んどヒモじゃねぇか!』と叫びたい衝動をこらえたよ?

 

 流石の彼女も恥ずかしかったのか、俺が固まっている間に彼女はビキニタイプへと早着替えをしてその一日を過ごしたが。

 

 あと他の生徒会の女性陣にビキニタイプを見繕ったのはナイスなのですが……

 

 アリスはともかくナナリーにビキニなど言語道断だ

 

 しかもそこで折れたと見せかけて次に出したのが青のスク水とはどういう訳だ

 

 更に旧スクタイプで胸の名札にはご丁寧に『ななりー』が書かれているとは。

 

 ガジガジガジガジガジ。

 

 アーサーよ、足を噛んでくれてありがとう。

 

 おかげで仮面を維持できたよ。

 

 そして色々な意味で仮面(ポーカーフェイス)が無ければ即死だった

 

 ……………………………………あと全部脳内フォルダに永久保存しました、ハイ。

 




次回予告:

『そのグラスゴー、赤でもらい受ける』。

余談:
次話から元の長さに戻せれると思います、大変ご迷惑をおかけしました。
ではおやすみなさいです。


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第13話 そのグラスゴー、赤でもらい受ける

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 

誤字報告、誠にありがとうございますHIGHレボリューションさん、あーるすさん! m(_ _)m


「皆、よく聞いてくれ。」

 

 ナオトさんの表情はいつにも増して険しかった。

 

 今俺がいるのはシンジュクゲットーを拠点にしているレジスタンスの基地。

 

 より正確に言うとナオトさんのレジスタンスが拠点にしている場所でも一際大きな一つだ。

 

 今までこのように大勢が集まることは無かったが、内容が内容だけに戦闘員、非戦闘員に関係なくメンバー()()が招集されていた。

 

「皆を一か所に集めたのは重大なことが分かったからだ。 ブリタニア帝国は新たな毒ガス兵器を開発した。」

 

 ナオトさんの言葉に周りでそこかしこのメンバーたちがつばを飲み込む中、俺はこう思う。

 

『ああ、ついにこの時が来てしまった』と。

 

「その輸送先がエリア11、それもトウキョウ租界エリアだとも判明した。 場所が場所だけに、オレはこれを奪取してブリタニアの非道を世界に証明するつもりだ。」

 

『コードギアス』での世界はサクラダイトという特殊な電気抵抗が無い超伝導物質のおかげで電気系統の技術が飛躍的に進んだ世界だ。

 

 それを応用した発電やバッテリーの技術や研究は進んでいる反面、化石燃料やそれを利用した内燃機関や原子力などのような技術は未発達。

 

 はっきり言うと、俺にとって(多分)馴染みのあるそれ等はかなりマイナーな学問に分類された分、大規模な戦略兵器は珍しく、『毒ガス』のような化学兵器はこっちの世界では『核兵器』と同等の扱いをされている。

 

 そしてナオトさんの提案した『レジスタンスによる毒ガス奪取事件』。

 これは俺にとって実質上『コードギアスの原作開始直前』を意味する。

 

 ナオトさんはレジスタンスメンバーたちに説明をする中、俺は迷っていた。

 

 ()()()()()()()をするかについてだ。

 無論、原作での描写は何もない。 

 殆どアドリブ状態となる。

 

 最初はこの作戦に関して、俺は『事なかれ』と流れを静観する気でいたが、数年間を共にしていると情も湧く。

 いや、()()()()()()()と言ったほうが的確か。

 

 そしてなぜ悩んでいるかというと、原作開始の時点でナオトさんは既に『行方&生死不明』として扱われていた。

 そうなっていたからこそ扇が率いるレジスタンスは当初、グダグダな動きをしていたところをルルーシュにつけこまれて物語(原作)が始まる。

 

 リーダー役を引き継いだ扇は決して無能ではないが、組織のリーダーとしては感情でモノを判断しすぎる傾向がある。

 

 特にお調子者の玉城はいろんな意味でダメだ。

 

 カッコつける為に単身で前に出ようとするわ、貴重な重火器を遠慮なく使うわ、ちょっとでも見た目が良い女性なら言い寄るわ、エトセトラエトセトラ。

 

 コホン、すまん。 脱線した。

 

 さて、ここで問題。

 ナオトさんを失ったレジスタンスは上記で挙げた通りグダグダで、その状態で毒ガス奪取を実行した結果、多くの一般人が巻き込まれて死んだ。

 

 ならばそこで『俺がリーダー役を引き継げばいい』、と言うものでもない。

 グダグダだったからこそルルーシュの指示に渋々ながらも従い、彼は『こいつら(レジスタンス)は利用できる』と思えたし、レジスタンス側も『(ゼロ)の能力は本物』と実感できたのだ。

 

 それに正直、俺はそこまで自信がない。

 

 俺の第一目的は『生き残る』ことだ。

 自ら前に出るのは怖いし避けたいし、万が一にでもルルーシュに目を付けられでもされてみろ。

 それこそ無限に死亡フラグが湧き上がるきっかけになってしまう。

 

 そうでなくとも原作のカレンのように『有能な駒』として酷使されるのは目に見えている。

 

「────そして毒ガスを奪取する下準備として、オレたちは自分たち用のナイトメアを捕獲する。」

 

 ナオトさんの言ったことに明らかな動揺とざわめきが部屋中に渡っていく。

 

「ナイトメアをですって?!」

「そんな無茶な!」

「まさか軍に喧嘩を売るのか?!」

「ナオト……お前、本気か?」

 

「ああ、オレは本気だ。」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ナオトさんの答えに皆が黙る。

 

 完璧にお通夜状態だが無理もないか。

 今までのレジスタンスがしてきた事といえばせいぜい、孤立した巡回パトロールなどにゲリラ戦を仕掛ける程度が関の山。

 

 単なる『嫌がらせ』程度の活動をしてきた。

 とてもじゃないが、『ナイトメアの奪取』などとなると自殺行為としか思えない。

 

 ()()の作戦ならば。

 

「扇。 入手した情報によれば、毒ガスの有効範囲は都市一つをまるまる覆うような代物、 今までにない規模の類だ。

 故に俺たちが奪取などの動きをすれば、取り返すために必ず軍は動くだろう。 必然的にナイトメアも出てくる。 そしてナイトメアにはナイトメアでしか対抗できない……オレは、藤堂じゃないからな。」

 

「……昴、いよいよだね。」

 

「そう、だな。」

 

 俺は隣で意気込むカレンの言葉を聞きながら複雑な気持ちになる。

 

 (スヴェン)が“レジスタンスのメンバーだ”という事はレジスタンスの幹部以外には秘密にしてもらっている。

 

 表向きの俺はあくまで『情報屋』、かつ『整備班』。

 

『整備班』は俺が前線から身を引いた場所で居られる為と……原作では扇レジスタンスの初であるナイトメアと関係している。

 

『情報屋』なのは俺がいち早く、()()()()()()()()()()の情報を入手できると思ったからだ。

 

 何せガセネタでも、パンドラの箱級の政治的猛毒だ。

 もし事前に知ることが出来ていれば、上手く根回しなどしたりして立ち回れると思ったからだ。

 

 例えば現在のエリア11の総督であるクロヴィス・ラ・ブリタニアや、彼の配下であるバトレー・アスプリウスとか、もしくは研究所の施設とか。

 

「そしてオレたちはナイトメアの入手には目星はつけている。」

 

 そこでナオトさんがチラッと俺を見る。

 すると重しが急にお腹に圧し掛かったような幻覚に(さいな)まれる。

 

 ……頼む。

 そんな期待に満ちた目で見ないでくれナオトさん。

 

 俺はそっち(ナイトメア)の情報を入手したことに今、後悔しているんだ。

 

「旧トウキョウタワー近くの博物館に、展示品として配置される予定のグラスゴーを奪う。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「納得いかないよ!」

 

「カレン、落ち着け。 今は作戦中だ。」

 

 俺とぷんすかと怒るカレン(珍しくぷっくり頬っぺ付き)が今いるのは目的であるナイトメアが輸送される旧トウキョウタワーの近くにある博物館……

 

 ではなく、トウキョウ租界から少し離れた国道を俺たちは再開発中のビルから張り込みをしていた。

 

 主に俺が双眼鏡を使い、カレンが周りの警戒をして。

 警戒と言っても深夜を既に回った時間だからか、夜の活動はほとんどない。

 せいぜい陽光が出ていない間に道の整備や、租界の清掃作業が行われているぐらいだ。

 

「落ち着いていられると思う?! 何かあっても、ここからじゃ何もできないじゃない?! 初めて大きな作戦の前線に立てたのにさ!」

 

 それがお前の兄の狙いだと思うよ、カレン。

『初めて』にしてはきつい状況(配置)だが……仕方がない。

 

「ナイトメアのセンサー、ファクトスフィアを甘く見るなよカレン。 夜だからこそ展開される可能性は高くなる。」

 

 カレンが俺の真剣な声を聞いて声を一段階低くする。

 

 そこまで警戒することは無いのだが……彼女らしいと言えばらしいか。

 

「……そこまでなの?」

 

「そうだな。 展示品とはいえ、ナイトメアの輸送だ。 こういうケースも配慮して護衛にナイトメアが一つか二つは鎮圧目的で同行しているだろう。 そしてファクトスフィアはどのナイトメアにでも装備されている代物。 使えば広域であらゆる索敵に使用できる。 展開中には望遠はもちろんのこと、サーモグラフィ(赤外線)、音響センサー、生物探知機能などのあらゆるシステムが組み込まれている。」

 

「……………………それ全部が一つの機械に取り付けられているなんて、ズルそのものじゃん。」

 

「だから日本は負けた。 ナイトメアフレーム一機一機が戦車と同等の火力を持ち、ヘリのような機動力を誇り、斥候並みの索敵能力を保持している。 ただし、弱点もあるが。」

 

『弱点』と言うキーワードを聞いてカレンの目がキラキラし始める。

 

「じゃ、弱点?! どんな?!」

 

 子供かお前は。

 あと近い。

 

「現在のナイトメアでは少なくとも展開中、身動きが取れない。 センサーが狂うし、大きな行動を取るには出力が足りないからな。」

 

「なるほど……じゃあそこを一気に叩けば────」

「────だから基本、ナイトメアはツーマンセルで作戦行動を────ん?」

 

 双眼鏡で見ていた景色にゆっくりと動いている点灯が目についた。

 目を凝らし、そこに集中すると見えたのは大型トレーラーだった。

 

 ナイトメア輸送用の。

 

「カレン、無線機を貸してくれ。」

 

「もしかして来たの────?!」

「────いいから早く貸せ。

 

 ルンルン気分になりそうなカレンから無線機を受け取っては素早く送信ボタンを続けて三回押す。

 

 プップップッ。

 

 パチパチッ!

 

 すると素早くスピーカーから返事のような音がして相手が了解したことで、俺は近くの地面に広げられたブルーシートにうつぶせになり、置いてあったイアマフラーに似た耳プロテクターをつけ、バイポッドの付いた対戦車ライフルを構えながらスコープに付けない目を眼帯で覆う。

 

「カレン、双眼鏡でナオトさんたちを追ってくれ。」

 

「分かったよ……そう言えばさ? 何で眼帯をするの? 映画とかでは目をつむっているじゃない。」

 

「あれは映画だから見栄えが良いだけで、本来は目を開けたまま片目に思考を集中させるもんだ。 でないと神経が疲れる。」

 

「あと、ごついね? その銃?」

 

「ああ。 ()()()だからな。」

 

 俺が構えているのは元来の対戦車ライフルから、まったく別の何かに魔改造したオリジナルだ。

 

 ()()のコンフィグで全長2,500ミリ、重量は35キロちょい、そして特殊加工された全長170ミリの口径20ミリ徹甲弾を使用している。

 

 これだけの説明でかなりの化け物と思うかもしれないが、上記で示したようにこれは魔改造された武器で、()()()()ではない。

 

 火力を出来るだけ追求して()()を使った代物だ。

 つまりは(恐らく)世界でオンリーワンの『火薬使用型対KMF(ナイトメアフレーム)ライフル』だ。

 

「それで……ナイトメアの装甲を貫通できるの?」

 

()()()はな。」

 

 と言うか俺が昔に前世で見た『設定資料上』な。

 

「なら大丈夫か。」

 

 カレン、お前のその自信はどこから湧いてくる?

 

 パッ!

 ドガァァァァン!

 

 ナイトメアフレーム用の大型トレーラーの前を走っていた装甲車の下が光った瞬間、爆発音とともに装甲車の後方が無理やり持ち上げられて転倒し、後ろを走っていたトレーラーが急ブレーキをかけて横へと曲がりさかさまになった装甲車にぶつかる。

 

「始まった!」

 

 ドミノ現象のように、今まで難無く道を走っていた装甲車などの隊列が乱れる。

 

 任務開始(ミッションスタート)だ。

 

「カレン、俺から離れていろ────」

「────へ────?」

「────サプレッサーをしているが、耳をやられるぞ。」

 

「『さぷれっさー』って、なに?」

 

「皆が間違って『サイレンサー』と呼んでいる物の名称だ。」

 

 俺はカレンの質問を無視してスコープ越しにナオトさんたちが向かうであろう大型トレーラーを二台ともゆっくりと視界を交差させると案の定、一つ目のコンテナが開き始める。

 

 人型機動兵器、第4世代型KMF(ナイトメアフレーム)RPI-11。

 通称『グラスゴー』。

 

 ブリタニア帝国が初めて他国侵略時に力を入れて量産し、実戦投入した機体だ。

 

 レジスタンスとブリタニアの銃撃戦が行われている間に、一機が立ちながら足に装着されているランドスピナーを展開しようとしたところで俺はゆっくりと引き金を引く。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

「きゃ?!」

 

 分厚い皮をした風船が破裂するような、重い一発が俺の構えた銃から発し、グラスゴーの回っているランドスピナーのコマ部分が欠けて自己崩壊する。

 

 その勢いでグラスゴーは足先を躓かせた人のように前へと倒れ、俺は照準を露わになった背部に合わせ直してまたも引き金を引く。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 スコープ越しに背部にあったコックピットモジュールに大きな穴が生じ、グラスゴーはそこから動くことは無かった。

 

 操縦系統か、あるいは中のパイロットを()ったか……

 念には念を入れて二発目を撃ち込むが反応はなかった。

 

「(どちらにせよ、これで一機は沈黙化。 もう一機は……)」

 

 俺は身体ごとライフルと一緒に位置をずらし、出撃したもう一機が対人機銃でレジスタンスに対して弾幕を張りながらトレーラーの陰でファクトスフィアを展開している姿を見る。

 

 多分、さっきのグラスゴーを撃破したのは対ナイトメアフレームライフルを装備したナイトメアと思って探しているのだろうが、お門違いだ。

 

 相手はナイトメアに通用するような火薬銃に魔改造した歩兵モドキだ。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 露出したファクトスフィアに穴が開き、敵のナイトメアが明らかに動揺するような動きを見せる。

 

 狙撃をされたのに『索敵カメラをそのまま出す』という事は、明らかに戦いなれていない新兵。

 

「(情報通り、正規軍ではなく(守備)軍だったな。)」

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 グラスゴーの横でアスファルトが跳ねると、そちらに上半身ごと向ける。

 

 戦闘中でメインセンサーを失くしたからこそ敏感になった人間味が仇になったな。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 自分に向けられたコクピット部分に、20ミリ徹甲弾を撃ちこむと二機目のグラスゴーも動かなくなり、二発目をお見舞いする。

 

「(二機目、沈黙完了。) カレン、ナイトメアたちに視線を移せ。 動き出したら俺の肩を叩いてでも知らせろ。」

 

 そのまま俺は照準を沈黙化した敵のKMFから未だに応戦するブリタニアの歩兵たちに移し、引き金を引いていく。




余談の補足:

作中で魔改造されたライフルに一番近い武装は現在で言うとダネル社の対物ライフルNTW20になります。

全長1,795ミリ
使用弾薬:一番近いコンフィグで全長110ミリの20ミリ口径
重量:約31キロ(弾倉+オプション付き)

こっちは実在する化け物です。 (汗


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第14話 悶々としていたら頼まれた

ジワジワとする暑さの中で次話です。

お気に入り登録、評価、感想、誠にありがとうございます。 <(_ _)>

楽しんでいただければ幸いです。

誤字報告、誠にありがとうございますNakaya0106さん!


 今度の作戦で一番の脅威はナイトメアだ。

 

 ナオトさんの言った通り、藤堂ほど観察力から生じる情報を元に戦略を練る能力が無ければナイトメアはナイトメアでしか対抗できない。

 

 よってナイトメアを奪取する際、敵側には必ずナイトメアが同行している。

 

 だから俺は出来るだけ敵側が不利で、レジスタンス側が有利な状況が訪れるのを待っていた。

 

 そして俺は『日本解放(侵略)博物館』に展示される予定のナイトメアの情報を掴んだとき、少し喜んだ。

 

 展示品用ならば廃棄寸前のものだからブリタニアにとっては重要性が低い。

 護衛もその分、質も数も練度も低いと踏んだからだ。

 

 それに、『日本侵略に使った機体をそのままそっくり対ブリタニア運動に使う』なんて最高だと思わないか?

 

 如何にもフリーダムファイター(レジスタンス)のやりそうなことだろ?

 第二次世界大戦の後半で大活躍した空挺兵だ。

 ガンホー、ガンホー、ガンホー。

 

 あ、違った。

 “ガンホー”は海兵隊だったな確か。

 

 レジスタンスだと“ビバ・ラ・ヤーパン”だっけ?

 ……なんかそれも違う。

 

 俺はそうおぼろげに考えながら、作戦中に使っていた火薬使用型対KMFライフルのことに思考を切り替える。

 今日は上手くいったが、やはり改良の余地があることを実感する。

 

 まずは反動軽減システムの見直し、弾丸を直接銃に込めるスタイルから箱型弾倉にチェンジ、音量軽減のためサプレッサーの強化。

 

 それと弾丸の量産の目途。

 

 一発一発が(薬莢含めて)手作りだから、慎重に撃たないといけないしもうそれだけで一種の内職だ。

 

 どこかに兄想いの弟か妹はいねがぁー?

 

 え? 『ナナリーなら手伝ってくれんじゃね』、だと?

 

 ナナリーに火薬(危険物)の扱いをさせられるかッ!!!!

 そもそも咲世子さんが忍者技術の関係で『火薬の製造だ』ってバレて俺が死ぬわ! 物理的に!

 

 考えてもみろ。

 いつの間にか背後に回った咲世子さんが至近距離で顔だけ笑いながらその背後に浮かぶ鬼の仮面がががががガガガガガガガがががガガ。

 

 …………思い浮かべるだけで(おそ)ロシア。

 日本人だけど。

 

 生徒会なんて『ニーナ』という地雷が巻き込まれてすぐにたどり着かれてしまうからアウト。

 

 アリス? あいつはどこか悪い予感がするから却下。

 

 毒島とアンジュリーゼはそういう細かいことは苦手というか……危なっかしい。

 特にアンジュリーゼは初めてのものを作ると、なぜか毎回『謎の物体X』に変質してしまう。

 

 となると、自然と俺一人とカレンで作業をすることとなる。

 

 まぁ、それは今置いとくとして。

 一応ここでも話しておくがカレンにも言った通り、ナイトメアが敵にいて味方にいないことは様々な面で非常に厄介だ。

 

『戦車と同等の火力を持ち、ヘリのような機動力を誇り、斥候並みの索敵能力を保持している』。

 

 これらは全て事実と原作で見た情報に基づいている。

 

 だが同時にどのような兵器にも付け入る隙(欠陥)はある。

『完全無欠な兵器』なんてものは存在しない。 

 ()()()()()()。 ()()()()()()()

 技術的な面でも現実的な面でも、敵に利用されたり寝返られたりされると止める術がないからだ。

 

『戦車と同等の火力を持つ』? 『ヘリのような機動力を誇る』? 『斥候並みの索敵能力を保持している』?

 

 ならばそれらの長所と思われる点を最小限に抑えるか逆手にとりつつ、弱い方面を最大に引き出せる状況を作ればいい。

 

 通常時カメラの視界が巻き上がった土煙で悪く、友軍が参加している乱戦に火力をむやみやたらに撃てぬように戸惑うように敵を誘導すればいい。

 

 それに『戦車並みの火力』と言っても、『装甲も戦車並み』というわけではない。

 この世界の銃や武装は全てサクラダイトの応用で電磁力を使っている、故に装甲等は電磁力を使った武装相手を想定しているから前世と比べると軽金()装甲並みだ。

 

 これは別に『武装の貫通力が弱いから』だとかじゃなく、単純に電気モーターは化石燃料エンジンのように爆発的なトルクが一気に出せない欠点を補うための軽量化だ。

 現に日本が攻められた時、日本軍が使っていた戦車は装甲を分厚くしたまま身動きが取れず圧倒的な機動力でナイトメアに急所を次々と突かれて翻弄された。

 

 機動力が活かせることのできない()()()と、まだ身動きが上手く取れない出撃直後に攻撃を仕掛ければいい。

 それに適度なビルや利用できる地形が無ければ、ヘリが厄介な最大の理由である上下を自由自在に動くことはできなくなる。

 現在でのランドスピナーでは建物の間に足を、つっかえ棒のようにくっつける必要があるからな。

 

 眼前で分かりやすい情報(戦闘)を開幕させて、当たり前の索敵能力を使う事を断念させればいい。

『眼前で戦闘が起きているのにわざわざファクトスフィアを展開して機動力を下げることは無い』と言う優位性から来る理論を逆手に取る。

 

 結果、敵は最大の戦力(ナイトメアフレーム)を活用できなかったどころか、それらを失って動揺したどさくさに紛れてレジスタンスの皆は展示品となる予定だったグラスゴーを乗せたトレーラーごとあの場から盗む事が出来た。

 

 よって作戦は()()成功したとも言える。

 

ナイトメア(グラスゴー)を動かせ!」

「ダメ! 展示品用だからか、作動キーを入れてもうんともすんともしない! もしかして、エナジーフィラーが────?」

「────ならクレーンだ! クレーンを使え! 早くしろ!」

 

 今いるのは()の拠点で、現在は軍用トレーラーからナオトさんが別のルートで入手した毒ガス研究所を行き来している清掃員用トレーラーにグラスゴーを移している途中だった。

 

「おい、しっかりしろ!」

「う……うぅぅぅ……」

「い、いてぇよぉ……」

「俺の……俺の腕……どこだ?」

「誰か……明かりを点けてくれないか? 暗すぎて何も……何も、見えない。」

 

 そこかしこから聞こえてくるのは銃撃戦を生き残って負傷した者たちのうめき声と、彼らを介護しようと努力する者たちの声。

 

 作戦の実行部隊の参加者70人のうち、トレーラー奪還に便乗して生還者が38人。

 そしてその38人中、24名が命に係わる重傷を負っていた。 病院にでも今すぐ連れて行かないと、恐らく朝まで持たないだろう。

 

 ほかの残り14名も怪我はしているが、()()()()()

 状況をできるだけ自分たちに有利にセット出来たのに、この損害。

 さすがは腐っても訓練を受けた軍人、差があり過ぎる。

 

「そっか……そんなにか……」

 

 残りの14名の中に、ナオトさんがいたことは正直嬉しかった。

 報告をまとめた俺が言うのもなんだが。

 

「ナオトさんは立派にやりました。」

 

「昴にそういわれると、頑張った甲斐があったよ────」

 

 バババババババ!

 

 その時外から発砲音が聞こえ、さらに騒がしくなったことでナオトさんは座ったまま上着を気直す。

 

「────ナオト、大変だ! いつの間にか警察がこっちに気付いて発砲してきた! すぐにでも包囲されるぞ!」

 

 突然部屋に焦りながら入ってくる扇たちに対してナオトさんは平常心を保つ。

 

「どうしてこんなに早く居場所が相手にバレたの?!」

「というか警告も何も無しかよ?! あれでも一応、警察だろうが!」

 

「落ち着けよ、井上に玉城。 これぐらいは予想できていたことだ。 多分、奪ったトレーラーに取り付けた探知機でも追跡したんだろうさ、それに奴らも焦っているんだろう……肝心のグラスゴーの調子は?」

 

「今すぐにでも動かせる様子じゃないから、前もって準備したクレーンで載せ換えをしている。 それよりも────!」

 

 パパパパァァァン!

 

 『────きゃああああ!』

 『────う、撃たないでくれ! 私たちはただ────!』

 

 ────パパァァァン!

 

「「「「ッ。」」」」

 

 外からさらに発砲音と、無関係な人たちの悲鳴が聞こえたことで扇達が身構えるがナオトさんは声を荒げずにただ平然と喋りだした。

 

「今すぐに動ける奴らは全員、簡単なバリケードを内側に張ってから予定通り旧地下鉄を使って脱出の用意をしろ。 バリケードはすぐに破られるようなものでもなんでもいい、足止めが目的だ。 

 それと、助かりそうにない負傷者たちの間で銃をまだ撃てる奴には銃を持たせろ。」

 

 ナオトさんの最後の言葉に、扇達がギョっとする。

 

「まさかナオトお前……負傷者たちに“時間稼ぎをしろ”って言うのか────?」

 

「────奴らは俺たちを皆殺しにするつもりだ。 たかがレジスタンスがナイトメアを奪うだけじゃなく、二機もやっつけたんだ。 

 良くてその場で射殺、最悪でなぶりものにされて情報を吐き出させてからプロパガンダ用途で公開処刑されるのがオチさ。

 ならここは動ける奴らに“後のことを託す”と動けない奴らに伝えれば、否が応でも了承するはずだ。 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 さ、伝えに行ってくれ扇、井上、玉城、南。」

 

「ナオト、お前は?」

 

「俺はちょっとそこにいる昴と話すことがある。 すぐに追いつく。」

 

「……分かった、一つ先の旧地下鉄駅で待っているからな!」

 

 扇さん、何か不安そうに俺を見たな。

 なんでだろう?

 

 最後に扇が出るのを確認してからナオトさんが俺に向く。

 

「昴、カレンの様子は?」

 

「……初めて身近な人達の損傷を見て、顔色を悪くしていた。」

 

 実際は吐いていたが、それを言うとナオトさんにいらぬ心配をさせるだけだ。

 無理もないか。 日本の戦後とは状況が違う。

 あの時は殆どが見知らぬ人たちだったし、幸いにも丸焦げになって真っ黒いマネキン状態だったからな。

 

 でも今度はつい数時間前まで楽しく、何気ない話をしていた顔見知りたちがげっそりしながら足や腕などを失くした状態で帰ってきたんだからな。

 

 しかもそれはまだマシな方な者たちだ。

 失明、顎の半分を吹き飛ばされた者たちや明らかに痛々しくて酷い怪我なのに生きている状態。 

 それだけで本人も、()ている人たちも辛い。

 

「そっか……そうだよな、あいつにこんな惨状を今まで見せたくなかったのが仇になったな……」

 

 ナオトさんの顔色がさらに悪くなったような気がした。

 

「昴、実は頼みが────」

「──── “もしオレが死んだらリーダー役を引き継げ”以外なら聞こう。

 

 ナオトさんの目が点になり、数秒過ぎてから彼は苦笑いをする。

 

 図星かよ。

 

「ったく、お前は……じゃあさ、代わりに()()()()()()。」

 

 ………………“カレンを頼む”?

 “カレンを頼む”って多分、留美さん(紅月ママ)のことも入っているんだろう。

 だから普通は『カレン()を頼む』か、『家族を頼む』じゃないのか?

 どっちにしろ、俺の答えが変わるわけがないが。

 

「ああ、頼まれた。」

 

 俺の答えに、ナオトさんがキョトンとしてから乾いた笑いを出す。

 

「……はっはっは! それも即答かよ? 相変わらずお前らしいというか……なぁ、昴? ()()()あいつを頼んだぞ。 あいつは快活な性格をよくしているが、ただオレや扇に合わせているだけの強がりだ。 本来のあいつは、歳相応の女の子で根は繊細な奴なんだ。」

 

 ああ、知っているさ。

 原作でも数々の描写はあったからな。

 

「だから、頼む。 あいつには、普通の人生を歩ませたい。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 」

 

 ナオトさん、その頼みはナイトメア・イン・ヘルモードより高いです。

 あんたがギブアップした、かつての『忍者の外伝』以上だ。

 

「お前のことだ。 もう、察していると思うが、()()()()()()()()()()()。」

 

 ……やっぱりか。 それでも……

 それでも、俺は────

 

「────ナオトさん、俺に“残れ”と言ってくれ────」

「────ダメだ。 後の作戦に使う予定のグラスゴーがお前には控えているだろう? お前が学園で()()()()()()()()なんてしているのも、大方こんな事態を予測していたからだろ?」

 

「ッ。 あれは……趣味だ。 ()()()()()()()()()()()()。」

 

「そうか?」

 

「ああ。」

 

 嘘はついていない。

 確かに、俺はアッシュフォード学園に置いてある()()()()()()()()()()()()をいじって、整備の腕を磨いていた。

 

 だがそれはあくまでこれから来るであろうイベントで『自分は整備が本業ですよ~』とアピールし、前線から身を遠ざける為にしていたことだ。

 

 バン! ババン! バン!

 

『この、ブリキ野郎どもがぁぁぁぁぁ!』

 

 パパパパパパパパァァァン!

 

「手を出してくれ、昴。」

 

 外から聞こえてくる発砲音は音量を増していき、ナオトさんはいつも着けている赤いヘッドバンドを外してそれを俺に手渡す。

 

「お前がリーダーをやりたくないのなら、これを扇に渡してあいつの補佐をしてくれ。 あいつは感情的になりやすく、優柔不断だが人望を集めるのが得意だからな。 足りない部分はお前が補ってくれ。」

 

「……」

 

『それはできない』と言いたくなるが、俺は敢えて返事をせずにヘアバンドをただ受け取る。

 

 パパパパパパパパァァァン!

 

「さぁ、行けよ。」

 

 部屋のすぐ外で激しい銃撃音が聞こえ、ナオトさんは俺を押す。

 

「ナオト()さん……俺、待っていますから。」

 

 それを最後に俺は背を向けて走り出す。

 

 よってナオトさんの顔はわからない。

 多分、俺が紅月家に送られてから俺の表情(ポーカーフェイス)を誤解してからよく浮かべる、いつもの二カっと笑みを向けていたのだろう。

 

 そんな気がする。

 俺の気のせいかもしれない。

 

 「お前になら……任せられる。」

 

 だから、去り際の消え入りそうな声もただの空耳かもしれない。




次回予告:

『センチメンタルブルー』。


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第15話 センチメンタルブルー

少々長くなりましたが次話です、最初はナオトさん視点です。 

楽しんでいただければ幸いです。 (シ_ _)シ

7/3/2022 20:38
誤字報告、誠にありがとうございますプッコプコさん、あーるすさん! m(_ _)m


 ___________

 

 紅月ナオト 視点

 ___________

 

『ナオト()兄さん』、か。

 

 初めてそう呼ばれたな。

 いつもは『ナオトさん』なのに。

 

 「お前になら、カレンの隣を任せられる。」

 

 そうボヤキながら昴の背中姿を見送ると気が遠くなりそうになり、ジワリと湿った感覚が腹辺りから感じる。

 

 上着をそっと除けてみると、赤い染みがすでに広がっていた。

 

 ベルトの圧縮力に、体を貫通した傷が勝り始めたのだろう。

 すでに下半身の足先がしびれを通り越して冷たい感覚だけが返ってきていた。

 

「(強がってみたけど、扇と昴は見抜いていたな……きっと。)」

 

 何せこの仮拠点を作戦に決めた時点で二人に仕掛けを頼んでいたからな。

 そこでオレが“時間を稼ぐ”なんて言ったら、意図を見抜かれるのも無理ないか。

 

 オレは座っていた椅子の横に置いてあった握力グリッパーに似たものを手に取って懐に手ごと突っ込んで目を瞑る。

 

『変なガキ』。

 それがオレの昴に対しての評価だ。

 

 初めて会った時から、妙に不愛想で日本人ではないことから一人になりがちな奴だった。

 だが別に知らない国に来たからとか、俺たち日本人が嫌いだとかはなく、ただ単に『無表情のままでいたい』という感じがした。

 

 だからせめてオレたち周りの奴らだけでも笑顔になって接することを(留美)さんやカレンに伝えた。

 

 昴には見え見えな魂胆だったらしくて彼も次第に自然な笑いを始めた。

 いや、()()()()()と呼んだ方が正確か。

 母さんたちは喜んだが、あの笑顔はオレがするようなやつだと分かった。

 

 要するに、『作り笑い』だ。

 昴はオレたちから『仮面』を学んで周りを窺うようになった。

 十歳の子供がだぞ?

 同い年のカレンは年相応の子供みたいにコロコロ表情を変えるのに反して、昴はいつもニコニコしていた。 そのせいで扇には不気味がられていたが。

 

 これだけでも『変な奴』だというのに、スポーツなどでもあいつはどこか手加減している節があった。

 

 別に『相手をした全員に勝つ』とかじゃない。

 実力が違うやつらにチグハグな具合で、()()()()()()()()を繰り返していた。

 

 試しにオレも手加減した場合でもオレが負けたり、本気を出してもあいつが勝ってしまう。

 

 極めつけは、毒島と無理やり会わせた時だ。

 

 毒島は生意気な奴だが剣道の腕も、見た目も双方かなり良い。

『成人したら絶対大物になる』と断言できるほどに。

 

 大抵の奴ならばあいつに見惚れるか、照れて目を背けるかのどちらかだが昴はただ固まっていた。

 

 今まで付けていた笑みの仮面が崩れそうなほど動揺して。

 

 それに、毒島が繰り出した藤堂さんの三段突きを()()()ことだ。

 今まであの技を初見でそんな芸当をできたのはオレの知る限り、いまだに誰一人としていない。

 

 スザクでさえも二段目を受け流しては三つ目の突きに敗れ、毒島に至っては一つ目を躱しながら懐に入り込んで二つ目がかすってしまい、バランスを崩されて結果的に負けている。

 

 それなのに昴は躱し、最後の突きまでも受け流した。

 使い手が毒島だということを配慮しても、異常だ。

 何せ剣術()()ならば藤堂さんも認めているほどだ。

 

 普通ならそれをスザクのように(威張)るか、毒島のように悔しがるかが普通だというのに、オレに『迷惑料にお菓子を奢れ』って……

 

 謙虚と言うか欲が無いというか、そういうところだけが子供らしい振る舞いと言うか……

 

 取り敢えず『変な奴』だが、『悪い奴』ではない。

 

 (留美)さんの為に色々と動いていることは噂に聞くし、学園でもカレンの為にも優等生を貫き通してくれている。

 

 それに今回の裏方に徹した動きも的確だった。

 練度が低く、士気が脆い守備軍、奇襲の時間帯と場所。

 そして今では旧式のグラスゴーとはいえ、ナイトメアフレームの急所を突く発想等。

 あとは見たことも聞いたこともない新しい銃の開発まで。

 

 そのどれもが無ければ、レジスタンスは今夜の作戦でほぼ壊滅状態に陥っていただろう。

 しかもあれで『本気を出していない』感じがするから、オレは正直アイツが味方でよかったと思うよ。

 

「手をゆっくり上げろ!」

「急な動きをすれば即刻射殺するぞ!」

 

 閉じた瞼越しでもわかるほど眩しい光が当たったことでオレは気が付く。

 

 ヤバい、思わず気を失っていたみたいだ。

 

 ゆっくりと瞼を開けると、フラッシュライトを装着した銃を持った警官隊たちがオレのいる部屋のドアから銃を向けていた。

 

「貴様がリーダー格か。」

 

 警察のリーダーっぽい男に答えようとして、オレは喉をこみ上げる液体をぐっと飲みこんでから口を開ける。

 

「……だとしたら?」

 

「貴様の置いていかれた部下たちは全員始末した。 負傷者に武器を持たせるなど……さすがは“神風”などの言葉で死を美化させる、自殺願望者のイレヴンたちだ。 投降すれば、命だけは助けてやろう。」

 

「……一つだけ、訂正させて良いか?」

 

「ん?」

 

 オレはゆっくりと懐から手を出すと、警官たちが息を飲み込む。

 

「『自殺願望者』と、『死によって大きな成果を成し遂げる』ことは違う────」

「────き、貴様! それは?!」

 

 彼ら全員が目を見開いてみていたのは手に握られ、すでに作動ボタンの押された起爆スイッチ。

 

「そうだ。 アンタたち警官隊がオレたちに『テロ』のラベルを付けるもんだから、そう振る舞いたくなったよ。」

 

「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 (カレン、)( 母さん)────!」

 

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」

 

 「────万歳(ごめん)!!!」

 

 カキィィィン

 

 オレが握力を緩めると共に、聞こえる筈のない信管の音が聞こえたような気がした。

 

 

 

 その直後、あらかじめ加工を施されて設置されていたサクラダイト式爆弾は的確にビルを支えていた基盤を爆破し地下にあった駅から強度が弱まっていき、蟻地獄のように崩壊する地下を追うようにビル本体が地中へと飲み込まれて行く。

 

 

 

 


 

 

「……………………」

 

 薄暗い倉庫のような部屋の中、俺はただ無心で手を動かす。

 

 手からはひんやりとした金属独自の冷たい感覚が伝わってくる。

 

 ここはアッシュフォード学園でも、大きな祭り以外ではほとんど用途がない道具などが置いてある保管庫。

 

 その中にある、現在のナイトメアフレームの先祖と呼んでもおかしくないモノの整備(日課)を俺は今日もこなしていた。

 

「フゥー。」

 

 俺が息を吐き出しながら見上げていたのは第3世代KMF、形式番号YF6-X7K/E通称『ガニメデ』。

 

 アッシュフォード家が爵位をはく奪される前に、アッシュフォード財団と知られていた頃に実戦配備を目指した試作機だ。

 

 そして皮肉にもアッシュフォード家が没落する最大の理由が、こいつの開発に深く関係していたルルーシュの母親であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが殺されたことで開発計画から帝国の軍は手を引き、費用の回収出来なかったことから没落の一途を辿ることとなった。

 

 マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアはかつて帝国でも超越した戦闘能力を持つ『ラウンズ』の一人で、始めは『ナイトオブシックス』の称号を持っていた。

 

 そしてシャルルがまだ皇帝になったばかりの皇帝即位直後、反対派皇族によるクーデター時に彼側の陣営だったマリアンヌは寝返った『ラウンズ』をほぼ一人で鎮圧して見せた覇者だ。

 

 当時十一人のうち寝返った()()()()()()()を、たった一人で。

 

 これで彼女についた二つ名が『閃光のマリアンヌ』。

 そして原作でも確か、帝国最強であるはずのナイトオブワンのビスマルクも彼女には敵わなかったらしい。

 

 正真正銘の『化け物』だ。

 

 おっと、脱線しそうになったが早い話が彼女のおかげでナイトメアフレームは兵器として価値を見出された。

 そしてその祖にはガニメデがいた。

 が、政治のおかげでお払い箱となった。

 

「ねぇ先輩?」

 

「なんだい、アリス?」

 

 というか気配殺して毎回くるなよ。

 心臓に悪いだろうが。

 油断も隙もありゃしない。

 

「な~んか落ち込んでいません?」

 

「そうかい? 私はいつも通りのつもりだけど?」

 

 アリスがわかるぐらい出ていたのか?

 気を引き締めないとな。

 

「……ナナリーが心配していましたよ?」

 

 ナナリーが?

 というかナナリーが気付いていたのか、さすがだな。

 アリスが気付いていたらちょっと傷つく。

 

「なんか失礼なこと考えていません?」

 

「滅相もない。 (ニコッ)」

 

「………………………………まぁいいわ。 あとええっと、カレン先輩でしたっけ? 今までにない程体調を崩しちゃったんでしょ? それと先輩の様子、何か関係しているの?」

 

「ええ、まぁ……元々体が弱い方ですから、今は寝込んでおられます。」

 

 本当は『喪に服している』というのが正確だが。

 

 あの時、奪取したグラスゴーのトレーラーに追いついて一つ先の旧地下鉄へ向かっている途中に、後ろで仮拠点にしていた場所から巨大な爆発音がして俺と扇は何が起きたのか察した。

 

 だがカレンやほかの知らないメンバーたちが来た道を逆走し、彼らを追った俺たちがたどり着いたのは崩落したビルの瓦礫で道が塞がれたトンネルだった。

 

 予想はしていたとはいえ、目を虚ろにしたまま放心したカレンをなだめるのは結構辛かった。

 

「(そう言えば、色々あり過ぎてナオトさんのヘッドバンドを扇に渡しそびれたな。 今日、屋敷に帰ったらカレンに渡すよう伝えるか。)」

 

 そう思いながら俺はガニメデのオープンコクピットへと梯子を使って上り、椅子に座って各システムの状態と稼働率をチェックしていく。

 

「あの、先輩?」

 

 そしていつもなら上がってこないアリスもなぜか今回は珍しく梯子を上がり、俺のいるところまで来ていた。

 

「ん?」

 

「……いえ、なんでもありません。」

 

「なんだ、アリスの割に歯切れが悪いね? 何か悪いものでも食べたのかい?」

 

 「ちょっとそれどういう意味ですか。」

 

「いやなに、いつもの君ならズバズバとした物言いだから“君が言いよどむのはちょっと気持ち悪いな”と思っ────」

 「────なるほど。 つまり心配している私にケンカを売っているんですね?」

 

「そこは“私”じゃなくて、“ナナリー”の言い間違いなのではないのか?」

 

 ブン!

 

 アリスが器用に梯子を掴んだ両手を軸にし、彼女の繰り出したキレのついた蹴りを俺は首を横に動かして躱す。

 

 プチカポエラっぽいな。

 

「ちょっとだけでも心配した私がバカだったです!」

 

「…………………………………………」

 

「って、何か言ってくださいよ?!」

 

 こいつでもナナリー以外を心配はするんだな。

 

 一応、礼はするか。

 

 「………………ありがとう。」

 

 ブン!

 

 「礼を言ったのに結局蹴るのかい?!」

 

 「なんか恥ず────()()()()

 

 「いつにも増してカリカリしているねアリス?!」

 

 「うっさい!」

 

 理不尽。

 

 結局その日も俺を蹴ろうとするアリスの足を俺は避けた。

 

 というかそれでも一応女の子だろうが。

 パンツ見えちゃうでしょ?!

 

 でもそう忠告したところで、火に油を注ぐ効果になるのは目に見えているからなぁ~。

 

 どうしたものか……やっぱり蹴りとかを避け続けながら、他愛ないやり取りするか。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 シュタットフェルト家の屋敷に今日も警官たちが捜索願の出されたナオトさんの進捗報告をしに来ていた。

 

「やっぱり無茶があり過ぎるよ、最後に立ち寄ってたはずの家にも行ってないんだろ?」

「音沙汰も何もなく、そのまま消えたしな。」

 

 聞こえてくるやる気のない警察官たちのやりとりを聞くと、ナオトさんが『行方不明』となるのは時間の問題か。

 

 そのせいで屋敷はドタバタしていた。

 当主であるジョナサン様はよりカレンのことを気にかけるようになり、くそビッチ夫人はどうにかして実権を手に入れようとしている。

 

 恐らく原作ではナオトさんがいなくなった所為で留美さんへの当たりがさらに強くなっていたかもしれないが、俺の働きで使用人の皆にそんな余裕はなくなった。

 

 気がかりなことと言えばカレンだ。

 あの夜、崩壊したトンネルを放心したまま瓦礫を素手で退けようと頑なにやめようとしなかった彼女を半ば無理やりあの場から動かした。

 

 そして今の彼女といえば────

 

「────大丈夫か、カレン?」

 

「……………………………………」

 

 彼女の部屋のカーテンは全て閉まっていた為に薄暗く、窓も開けないので空気も湿っていた。

 

 当の本人といえばただボーっと天井をベッドから見上げているか、布団にくるまってカタツムリ状態のまますすり泣きをしているかの二択だった。

 

 ご飯は食べているが、いつも時間があればベッドの下に隠しているダンベルで筋トレをしたり、屋敷を抜け出して扇さんたちの手伝いをしていたのに今ではそれすらやっていない。

 

 はっきり言ってこのままだと、本当に病弱になってもおかしくはない。

 

 あ、そういえば────

 

「────カレン。 実はというと、ナオトさんから預かりものをしているんだ。」

 

「……おにいちゃんから? ぁ……」

 

 初めて俺に反応したカレンの前でナオトさんのヘッドバンドを取り出すと明らかに彼女の態度が変わってそっと俺の手から受け取る。

 

「おにいちゃん……………………」

 

 やつれたカレンはただ目を瞑り、ヘッドバンドを両手でぎゅっと抱きしめる。

 

「「…………………………………………」」

 

 俺と彼女の間に言葉はなく、静かに時が過ぎる。

 

 それが数秒間だけだったとしても、ただ部屋の中に置いてある時計からチクタクとした音しか聞こえない状態でいる俺には数分にも感じ取れた。

 

 その間、カレンはただ無言で泣き続けた。

 見ていて少し辛かったので、彼女の座っていたベッドを見る。

 

 ……うん。

 随分と迷ったけれど、やっぱりカレンには()()()()()()()()

 

「カレン。」

 

 俺が彼女の名を呼んでからゆっくりと続きを口にする。

 

「俺が……()()()()()()()()()()。 だから────」

 「────いで。」

 

「ん?」

 

 俺が見上げると、さっきまでの弱々しい姿から一転していた。

 

 「……けないでよ、昴。」

 

「カレン? な────ッ。」

 

 目を開けたカレンは、復讐に満ちていた。

 

「アンタが、パイロットだって? ふざけないでよ。 私がやるに決まっているでしょ?

 

「かr────」

 「────私がやらないで、どうしてお兄ちゃんの敵が取れるというのよ?!」

 

「カレン、声が────」

「────壊してやる。 私が! 警察がなんだ?! 軍がなんだ?! 兵器がなんだ?! 貴族階級とかがなんだ?! そんなの……私()()に関係ない! 全部……全部! 全部全部全部全部全部全部全部全部!」

 

 泣きながら怒るカレンはただ湧き上がる本音を口にしながら、髪を上げてナオトさんのヘッドバンドをする。

 

 「私が……全部ぶっ壊してやる!」

 

 カレンの容態悪化を防ぐために、人払いを衛兵に徹底させて良かった。

 ギリギリで内容は聞こえない筈だ。

 

 そう思いながら俺は不意にもこうも考えてしまう。

 

『ああ……

 これが……

 これが原作(ゴーイングマイウェイ)のカレンか』、と。

 

「昴! 私にパイロットの仕方を教えなさい!」

 

 うん。

 カレン(熱血ヒロイン)はこうでなくちゃな。

 

 口調が『お嬢様モード』になっているけど、まぁいいか。

 

「もちろんです。 見習いとはいえ、私はお嬢様の『従者』。 どんな時でも応えるのが私の役目です。 (ニコッ)」

 

 思わず『従者見習いモード』になったが、しっくりと来た。

 

「じゃあ、まずは気が引き締まる服装ね! フィット感がある奴!」

 

 なんでじゃい。

 

 そこからカレンはおれの助言を聞き、いくつかの服のバリエーションを試して最後には原作一期で着ていた服装に落ち着いた。

 

 いや、原作視聴者ならばわかるかもしれないが彼女の初期服装は出るところは出て引き締まっているところは引き締まっている。

 

 視聴者ならばご褒美だがいざ現実でしかも幼馴染となると…………………………

 

 一応それとなく、『出るところ()が強調されるぞ?』と言ったが『変態!』と言われてビンタを食らいそうになった。

 

 なんでじゃい。

 

 こちとら親切心故の────

 

 ドゴォ!

 

 ────ゴォヘェガァァァァァァ?!

 

 声にできない痛みが俺を襲う。

 

「び…………ビンタからの…………回し蹴りは卑怯………………………………ガクッ」

 

 「知らないわよバカ! このバカ!」

 

 何かを聞いたような気がしたまま、意識は薄れていった。

 

 すぐにカレンが無理やり俺を起したが。

 

 いや、『片付けを手伝って』って……

 

 しょうがねぇ~な~。



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第16話 頭と胃を悩ませる事態

お気に入り登録、評価、感想と誤字報告、誠にありがとうございます! (シ_ _)シ

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

前半は第三者視点です。

7/3/2022 22:22
丁重な誤字報告、誠にありがとうございますモルゲンスタインさん! <(_"_)>ペコッ


 「この愚か者どもがッ!!!」

 

 訪れた平穏な朝に似つかわしくない、荒い声がブリタニア帝国の紋章がでかでかと描かれたとあるビル内で鼓動する。

 

 マント付きの軍服とモノクルをしたスキンヘッドの男性がびくびくとしているブリタニア士官の二人に一喝し、報告書を投げつける。

 

「ヒッ?!」

 

「も、申し訳ありませんバトレー将軍────!」

「────『展示品用のナイトメアを盗まれた』だと?! しかもよりにもよってテロリストどもなぞに! なぜ事前に感知し、防げなかった?! これが殿下の耳に入ってでも見ろ────!」

 

「────“殿下()の耳に入れば”……なんだ、バトレー?」

 

「「「ッ!」」」

 

 モノクルをした男────バトレー将軍はギョっと目を見開いて背後から聞こえてくる穏やかそうな声に振り向くと彼が怒鳴っていた士官たちは膝を床につける。

 

 その場にいたのは肩の近くまで伸ばした金髪の美男子、クロヴィス・ラ・ブリタニア。

 

 エリア11の現総督、つまりは皇帝代理。 

 実質上、帝国宰相であるシュナイゼルを除いてトップに近い権力の地位を持った一人となる。

 

「こ、これは殿下。 このようなお早い時間に騒いでいたこ奴らを私は────」

「────よい、バトレー。 小耳にはさんだが、餌に小汚いネズミどもが食らいついたのだろう?」

 

「殿下、“餌”とはいったい────?」

「────前もって情報を出すように指示していたのだよ。 “展示品のナイトメアが運搬される”と。」

 

「殿下! 軍事のことならば、私に一声かけていれば────!」

「────お前は()()()忙しかったのでな?」

 

「ん、むぅ……」

 

 バトレーは何とも言えない、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「それに私とて備えはしていた。 万が一の場合でも(グラスゴー)は動かせないよう、本物の作動キーはすでに私自らの手で破壊している。」

 

「「(実際ハンマーを振るっていたのはニコニコしていた妹君なのに────?)」」

 

 キッ!

 

 「────貴様ら、この私に何か言いたげな顔だな?」

 

 「「滅相もございません、殿下ッッ!」」

 

「……まぁいい。 そんな顔をするな、バトレー。 念には念を入れて(グラスゴー)のオペレーティングシステムも使えない物に改ざんされている。 この二段構え、運よく作動キーの代わりになるモノをどこからか調達したとしてもナイトメアフレーム用のソフトウェアも入手しなければいけない。 到底、私のエリア11でそんなことがイレヴン共に出来るとは思えん。 

 して、食らいついたネズミどもは一掃したのだろうな?」

 

 クロヴィスは笑みを浮かべていたが、口以外は全く笑っていないことにバトレーたちは気圧されていた。

 優男風でも、クロヴィスは皇族。

 その威圧感は半端がなかった。

 

「は、はい! 無論こちらも多少の損害が出ましたが突入部隊の中継映像を確認し、テロリストどものリーダーと思われる男が自爆を選択したことと、拠点にしていたビルが()()()()()崩壊したこともこちらで確認できております! 目下、新たな情報が入り次第対応するよう伝えております!」

 

「ならよろしい。 私はアトリエへと戻り、絵の仕上げを続けてくる。」

 

 そう言い、踵を返したクロヴィスの背中を見たバトレーはホッと胸を下ろす。

 

 さっきの報告は概ね事実に基づいていたが……

 

 まさかクロヴィスに『餌本体(グラスゴー)は盗まれたままです』と報告するわけにはいかない。

 

 芸術などを愛するクロヴィスは『ナイトメアが盗まれた』という事より、『展示品を盗まれた』ことに怒り狂うだろう。

 どうなるかわからない。

 罵倒はもとより、降格を言い渡されるかもしれない。

 

 バトレーは内心と表面上共々、冷や汗を掻きながら士官たちを睨む。

 

「いいか、お前たち! 大至急、代わりの展示品の手配を早急にしろ! スペアパーツを使った張りぼてでも何でもいい! 今の殿下に、延いては側近である我らに失態は絶対に許されないのだ!」

 

「「イエス、マイロード!」」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 クロヴィスは無言のまま、どこかの庭園らしき場所で絵を描き続けていた。

 

「お兄様~! 言われた通り、絵具を持ってきましたのです~!」

 

「ああ、ありがとうライラ。」

 

 その場に駆け付けた金髪ツインテール少女────ライラにクロヴィスはにっこりとした人間味の強い笑顔を向けて絵具チューブを受け取る。

 

「はえ~! これって、マリアンヌ様とルルーシュお兄様とナナリーですね!」

 

 ライラがキラキラとした目で見上げていたのはやさしく微笑む黒髪の成人女性と今より幼いルルーシュ、そして自らの足で立っているナナリーたちが描かれた巨大な絵画。

 

「ああ。 せめて、絵の中でも彼らの優しい笑顔を他の者にちゃんと見せたいと思ってね?」

 

 そう言いながら、クロヴィスは思わず筆を力強く握りしめて硬い表情をする。

 

「ライラ……彼らは仇を取るために、慣れない総督に自ら進んで赴任した私を許してくれると思うか?」

 

「お兄様……」

 

 クロヴィスとライラ。 二人はマリアンヌ、ルルーシュ、ナナリーたちのことが好きだった。

 だが平民上がりのマリアンヌを目の敵にしていた母親であるガブリエッラ・ラ・ブリタニアにより、彼らの好意は立場も体も弱いナナリーを苛めるために利用された。

 

 特にライラに至っては洗脳に近い教育を受けそうになっていた所を、クロヴィスが巧みに妨害をしていた。

 

 が、彼にできることと言えばそれぐらいだけだった。

 

 自分を弱愛していた母が使用人などの人間たちを使ってナナリーを通してマリアンヌを陥れるような行為をしていたのは知っていたが、当時のクロヴィスではライラを護るのが精いっぱいだった。

 

 そのまま時は流れていき、『それ』は起きてしまった。

 

『マリアンヌ暗殺事件』。

 彼女と彼女の子供たちであるルルーシュたちを狙ったテロリストたちが厳重な筈だった警備を潜り抜けて宮殿にいたマリアンヌの殺害に成功し、ナナリーは足と目が不自由になるきっかけだった。

 

 ぎくしゃくした関係のままルルーシュたちと離れ離れになった挙句、ルルーシュたちの死亡報告が帰ってきたときは普段は温厚であるクロヴィスは怒りに身を任せてエリア11(日本)の総督を自ら買って出た。

 

 そしてせめてもの弔いとして、イレヴン(日本人)には必要以上に厳しくかつ暴力を使わないねちねちとした嫌がらせを強いた。

 

『憧れたマリアンヌの形見である愛しい(ルルーシュ)(ナナリー)を死に繋げた元凶』として。

 

「(だから私は認められなければいけない、父上や兄上たちに! 亡くなったマリアンヌ様の為にも! 意味のない死を遂げたルルーシュとナナリーと! そして愛しい(ライラ)の為にも『コードR』で私は力を、さらなる権力を得るのだ!)」

 

「お兄様……お顔がなんか怖いです。」

 

「ッ。 すまない、ライラ。 マリアンヌ様の事件を思い出してしまってね……そうだ! ライラは何かしたいことはあるかい?」

 

「じゃあ私、『学校』というものに通いたいです!」

 

 ライラは一点の曇りもない、ヒマワリのような笑顔でそう告げるとクロヴィスは複雑な心境になる。

 

『ライラ・ラ・ブリタニア』。 彼女は皇族でありながらその存在を『マリアンヌ暗殺事件』後、クロヴィスによって長らく周りから秘匿されていた身である。

 

 あらゆるメディア、書類、戸籍などから抹消するだけでなく、同じ皇族である親族たちにでさえ彼女の認識は良くて『ああ、そう言えば居たような気が』程度のモノ。

 

 この徹底さから、いかにどれだけクロヴィスが彼女を弱愛しているかわかるだろうか?

 流石は腹違いとはいえ、ルルーシュの兄である。

 

 よって彼女は皇族でも『特に箱入り』がぴったり合うような人生を今まで歩み、皇女としての『おしとやかで極度の人見知りな性格』を強いられていた。

 クロヴィスがエリア11の総督になってからやっと『外の世界』に出られたことで、本来の純粋無垢な性格へと戻ったことにクロヴィスは嬉しかった半面、このような我儘(願い)が急激に増えたことで頭を痛めていた。

 

「そ、そうだね。 少し、私の方でもライラが(安全に)通える学園をバトレーと相談してみるよ。」

 

「ありがとうお兄様、大好きです!♪」

 

 クロヴィスがライラの素直な笑顔に胸がほっこりしたのも束の間だった。

 

「あ。 ねぇお兄様? お兄様は忙しい身ですので、ガマカエルのおじ(バトレー)様に私が直接話をした方がいいのかしら?」

 

ブフッ?! が、ガマカエル……だ、大丈夫だライラ。 あ、明日さっそく彼と話してみる。」

 

「はいで~す!」

 

 その日、クロヴィスがバトレーを見るとなぜかいつも以上のニヤニヤとした笑みにバトレーは一日中嫌な汗をいつも以上に搔いたそうな。

 

 そしてそれがさらにクロヴィスの顔をにやけさせたとか、なんとか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「どう、昴君? 動かせそう?」

 

 俺の後ろに立っていた、青みがかった黒髪セミロングの井上が奪取したグラスゴーの状態を尋ねる。

 

「駆動部に問題はないな。 俺が手に入れ(コピーし)たナイトメアフレーム用ソフトをグラスゴー用に変換すれば何とかいける筈だ。」

 

「流石はカレンちゃん自慢の昴君ね!」

 

 クッ!

 建前上の主従関係だと分かっていても、ちょっとグッとくるぜ!

 

「だが問題は作動キーだ。 こっちはどうしても時間がかかる。」

 

「そうなの?」

 

「ああ。 作動キー本体は何とかなるがIDパスワードの判明の為に一番手頃なブルートフォースアタックだがこれも理論的にあり得るすべてのパターンを入力して突破を試みる行為だから必然と時間をかけることになるし何より使うパソコンをブリタニア側に探知できないようネットワークから切り離した独立状態になるから自然と性能も旧式の────ん?」

 

 不意に後ろを見ると、口を開けたままポカーンとした井上がいた。

 

「どうした、井上さん?」

 

「う、ううん! 昴君が凄く饒舌になったから、つい……」

 

 “つい”ってなんだ、“つい”って。

 

 バシュウゥゥゥゥ!

 

「ブハァァァァァァ! あっつい!

 

 ムワッとした蒸した空気と共に勢いよく呼吸をする汗まみれのカレンが開いたグラスゴーのハッチの中から出てくる。

 

「カレン、お前が乗るって言いだしたんだぞ?」

 

 俺はなるべく今のカレンを見ないように努力しながら作業を続ける。

 

「わかってるわよ! でもこの中、マジ最悪! 狭いし空調もないし、下手なサウナ室より蒸す! これだからブリタニアは!」

 

 兵器とはそう言うものだよ、カレン。

 

「それに毒島との模擬戦に比べれば、こっちは汗をかくだけマシだし。」

 

 あの『ブリタニアをぶっ壊す』宣言からカレンも毒島との組手をしてもらっている。

 ちなみにここで言う“も”とはアンジュリーゼの事だ。

 

 皆に謝った後、アンジュリーゼは俺に“毒島を正式に紹介してくれ” と頼み、今は毒島と時間が合えばちゃんとした訓練を受けている。

 

 名目上は“痴漢(変態)を撃退するだけ”と言っているが……

 どこからどう見ても“相手を殺る”ような手ほどきばかりだ。

 

 それと毒島なりの気遣いか、ちゃんと彼女とカレンがバッタリ会わないように調整してくれている。

 

 こっちとしては非常~~~~~~~~~~にありがたいが、毎回二人が意識を失うまで相手をするのは止めてくれ。

 

 “頑張った女子(おなご)を背負うのも甲斐性の見せ所だ”は確かに二人を背負う俺としてはご褒美ですが、実に良い(スッキリした)笑みをしながらそれを言うアンタのストレス発散の言い訳にしか見えないんだが?

 

 まぁ……そのおかげで二人は格闘戦(特に短剣術)が向上しているのは疑いようがないけどな。

 

「だからと言って下着姿なのはどうかと思うが?」

 

「別に良いじゃん! 今は他に誰もいないし!」

 

 扇たちは次の毒ガス作戦の為に出払っているから確かに拠点にいる人数は少ないけど?

 

 俺はノーカンか?

 

「カレンは俺を空気か何かと勘違いしていないか?」

 

「ん? 昴は昴じゃん!」

 

 あの、カレンさんや?

 だから俺、男なんですけど?

 

 もしかして『男』として見られていない?

 …………………………やめよう。

 考えても空しいだけだ。 今は原作に向けて、俺に出来ることをやるだけだ。

 

「毎度言うが、何時間も籠って仮想訓練(シミュレーター)をするのは構わないが脱水症状には気をつけろよ? 当時の引退したパイロットたちの話と、また正規軍が出しているマニュアルにも作戦行動時間《タイムリミット》は一、二時間が上限として記されているからな。」

 

「昴がいるから大丈夫!」

 

 イミがワカラナイヨ。

 

「あああああ、もう!」

 

 って髪の毛をわしゃわしゃするなぁぁぁぁぁ!

 首を振るなぁぁぁぁ!

 犬かお前は?!

 

 ぎゃあああああああ?! 

 汗が飛び散るだろうがぁぁぁぁぁぁ?!

 

「お疲れ様、カレン。 はい、タオルと飲み物。」

 

「サンキュー、井上さん! ゴクゴクゴクゴク……何その笑み? ゴクゴクゴクゴクゴク。」

 

 整備に集中集中。

 喉の渇きを潤すためにかのコーヒー牛乳を飲む45度の所為で黒のタンクトップがその胸に密着してしまってはみ出た横乳なんて俺はちょっとしか見ていないからな。

 

 ……………………見えそう見えそう♡。

 

「ううん。 “幼馴染だけあってカレンは昴君のことを信用しているな~”って────♪」

「────ブフォア?! ゲホゲホ、ゴホ?! ち、違うよ?!

 

 おいカレン、他の場所に向けて吹き出せよ!

 こちとら電気系統作業をしているんだぞ?!

 

 感電したらどうするつもりだ!

 

 首と髪と顔にもかかったし、最悪だよもう……

 

「うんうん♪ そういう事にしておくわ♪」

 

 「だから違うってば! こいつはジロジロ見ていたら私に殴られることを知っているからであって────!」

「────うんうんうん♪」

 

 「だから違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!! 昴も何か言ってよ!」

 

「………………………………………………」

 

 そんな必死になることは無いだろう?

 

 何時もの調子で『私とこいつがぁ~? アッハッハッハ! 私が好きになるのはお兄ちゃん(ナオト)以上の男だけだよ!』と笑い飛ばせよ。

 

 無心だ。

 無心になって取り敢えず時間のかかるIDパスワードのクラッキング作業を始めるか。

 

「……ね、ねぇ? ちょ、ちょっと~~~……」

 

「ウフフフフフフ♪」

 

 何か外野(カレンたち)が言ったような気がしたが、多分問題ないだろう。

 

 ん? 左腕部に違和感が?

 

 これって、まさか……原作のあれか。

 

 オレンジに襲われて、上手く動かせなくなってカレンが焦った原因だな。

 

 …………………………………………………………どうしよう?




余談:
“ライラ”を見て、やしきたかじんさんを思い出すのは自分だけでしょうか? (・ω・)

ライリー、ライリー、ライリーリラ~♪ (o´ω`)


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第17話 マッドは『マッド』でも『狂気』ではない

輻射波動のマイクロウェーブ破を受けたような暑さの中で煮えながらも原作に向けて次話の投稿です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

7/5/2022 21:35
誤字報告、誠にありがとうございますプッコプコさん! <(_ _)>


「ではいってきます、咲世子さん。」

 

「はい。 いってらっしゃいませ、お嬢様。」

 

 アッシュフォード学園の朝、ナナリーはいつものように中等部への登校を咲世子に見送られていた。

 

「ナナリ~!」

 

「アリスちゃん? ……今日()お一人ですの?」

 

「ング……それ、どういう意味?」

 

 いつもと違うことをナナリーが指摘するとアリスが複雑な顔をする。

 

「だっていつもならアリスちゃんとスヴェンさんが仲良く言い合いをしているので……」

 

「な、“仲良く言い合い”って……ただ気に入らないだけよ。」

 

「気に入らないって……何がですか?」

 

「だって高等部と中等部の建物は違う方向なのに、よくナナリーをルルーシュ先輩と共に迎えるなんて絶対に裏があるわ! 頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群、楽器の演奏技術に作法その他諸々……優良物件過ぎてルルーシュ先輩と並んで、学園の裏サイトでは“女生徒たちの付き合いたい男子トップ5”の一人をずっとキープしているのよ? だというのに浮いた話が一つもない! 

 絶っっっっっっっっっっっっっっ対に何かあるわ! ホモとか!」

 

 ナナリーがクスリと笑う。

 

「アリスちゃん、もしかして焼きもちですか?」

 

「はぇ?! ち、違うわよ!」

 

「フフ、冗談ですよ。 スヴェンさんからはどちらかと言うと、咲世子さんやミレイ先輩と似たような感じがして来ますから。 何か知っています?」

 

「高等部の女子たちが噂していたけど、あいつは今日は遅く来るみたいよ?」

 

「珍しいですね?」

 

「あいつの主人であるシュタットフェルト家のご令嬢と関係しているんじゃない? ほら、病弱らしいからさ。」

 

「大丈夫でしょうか……」

 

「アイツなら心配ないわよ、多分。 そこら辺のゴキブリ以上の回避能力持ちだし。 それよりも私、困っているの! 聞いてくれるナナリー?!」

 

「え? あ、はい?」

 

 活発な様子が似合うアリスが何時もとは違う切羽詰まった様子になっていたことにナナリーはびっくりした。

 

「久しぶりにj────()が連絡をして来てね?! “近い内、そっちに来る子の面倒を見ろ”って一方的に言ってきたのよ!」

 

「まぁ……それは急ですね。 アリスちゃんと過ごす時間が減ってしまいますね?」

 

「あ、それは大丈夫かもしれない。 何せその子も中等部に転入してくるらしいから。」

 

「あら、ではその子とも一緒に時間を過ごせますね!」

 

「うん……ただ……」

 

 アリスの浮かない声にナナリーがコテンと頭をかしげる。

 

「“ただ”?」

 

「その来る子……()()()()()()なのよ。」

 

「貴族の方ですか?」

 

「…………………………ナナリー、誰にも言わない? 絶対に?」

 

「はい、アリスちゃんの頼みでしたら例えお兄様にでも言いません。」

 

 「……………………侯爵(マーキス)。」

 

「まぁ! ……それは、とても大変(責任重大)ですね。」

 

 ナナリーがそう言うのも無理はない。

 

『侯爵』とはブリタニア帝国内で皇族を除けば、上から数えたほうが圧倒的に早い貴族階級。

 

 ここまでとなると、先祖の中に皇族との繋がりがあっても全くおかしくはないほどの者たちがほとんどなのだ。

 

「ですが、そのような方が何故アッシュフォード学園に? 本来なら本国での教育機関に通うような気がするのですが……」

 

「それがまっっっっっったく分からないから困っているの! jy────“家”の人からも“深く詮索するな”って念を押されるし!」

 

「あの……辛かったらいつでも相談に乗りますから、元気出してアリス?」

 

「な、ナナリ~~~~~~~~~~……ふぇぇぇぇぇぇ。」

 

「よしよし。」

 

 アリスは涙目になりながらナナリーを抱きしめるとナナリーが彼女の頭をなでる。

 

 余談だがその姿は聖母が悩む羊をなだめるそのものである。

 

「ありがとうナナリー! ナナリー成分を十分補充出来たわ!」

 

 数分後、抱きしめ合うのをやめたアリスの言葉に?マークをナナリーが頭上に出す。

 

「“ナナリー成分”???」

 

「(クッソー! マッド中佐のハゲ野郎~~~~!!! こちとらアンタが出した監査命令の為に学園にいるというのに、“さるお方が転入するから護衛もしろ”だなんて~~~~!!! 

 “貴様の能力ならワケない” なんて知るか! クソハゲが! せめてダルク……は口が軽いから無理だとしても、サンチアかルクレティアくらい寄こしなさいよ! 

 一人じゃ無理があるっつーの! “今のエリア5での作戦が控えている”だ~~~? 知らないわよ!)」

 

 そしてアリスは内心でこれ以上ないほど愚痴をイライラしながら零していた。

 

女子学生()の仮面』を必死に維持しながら。

 

 もうすでに察したかも知れないがアリスはただの女子学生を装っている軍人で、ブリタニア帝国の()()()特殊機関の実行部隊の一員である。

 

 その名も『特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)』と呼ばれ、現在エリア11に駐在しているバトレー将軍直属の少数精鋭部隊。

 

 その存在は、ブリタニア帝国でも一握りの上層部たちにしか知らされていない機密情報の塊である。

 

 そんな部隊の一員であるアリスがなぜアッシュフォード学園にいるのかは、またあとで記入しようと思う。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「私は()()()()・ブリエッラで~~す! これから少しの間だけよろしくお願いしますです~~~~!」

 

「まぁ……想像と違い、かなり元気な方でよかったですねアリス?」

 

「ハ、ハハハ。 ハハハハハ。」

 

 アリスたちのいるクラスには元気よく、笑顔いっぱいで両手を振りながら自己紹介をする金髪碧眼縦ロールの少女に虚ろな目をしてドライな笑いを出すアリスの顔は引きつっていた。

 

 「(“さるお方”が“()()()()”なんて聞いていないわよぉぉぉぉぉぉ?!)」

 

 アリスは怒りを軸にして、何とか気が遠くなる意識を保った。

 

 上記の転入生、『ライブラ・ブリエッラ』に関してアリスは学園門まで見送りに来たSPらしき者から情報の漏洩を防ぐために口頭で彼女の身元を伝えられた。

 

『現総督の実妹だ』、とだけで彼女はその他を悟った。

 

「(現総督と言ったら、クロヴィス殿下の事……でも、彼に『妹がいた』だなんて聞いたことが無い。 ビグロブ(サーチエンジン)に検索を掛けてもヒット数は()()。 もし『直接の命令』も、『口頭で伝える』と言う徹底さが事前に無かったら大きなドッキリとしか思えない冗談みたいな話だわ。)」

 

「ライブラさん、しつもーん!」

 

「ハイです~?」

 

 その時、一人のクラスメイトが手を挙げながら自己紹介をしたライブラに問いをかける。

 

「ブリエッラさんに好きな人とかいますかー?!」

 

「ブフォォォォ?!」

 

「??? どうしたの、アリス?」

 

「……ちょっと、むせただけ……」

 

「私の好きな人は~、お兄様で~す!♡」

 

「「「「“お兄様”?」」」」

 

「(ぎゃあああああああ! この子、ナナリー以上に天然だぁぁぁぁぁ?!)」

 

「あ、ナナリーと一緒だ。」

 

「ふぇ?」

 

 ライブラは『ナナリー』と聞き、クラスの何人かが見ていた目線を追う。

 

「あ、申し遅れました。 私がナナリー・ランペルージです。 始めまして、ブリエッラさん。」

 

「……うん! 初めましてです!♪」

 

「(何、今の間と顔?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ライブラちゃん可愛い~~~~!♡」

 

「く、く、苦しいです~。」

 

「懐かしいですね、アリスちゃんもよくミレイさんにああやって抱きしめられていましたね?」

 

「ウン、ソウデスネ。」

 

 何時もよりゲッソリとしたアリスは生気の抜けた生返事をナナリーに返す。

 

 場所はクラブハウス。

 

 あの教室での自己紹介以後、アリスは気を引き締めていざという時すぐにフォローが入れるようにしていたため精神的に疲れていた。

 

 今まで何もなかったとはいえ、ライブラ(と名乗って姿も多少変えているライラ)の行動と発言はどこか危うく、彼女と話し合う時間もなかったので気が一瞬も緩められなかった。

 

「フゥー、いつにも増してクラブハウスは騒がしい────ッ?!」

 

「ってあれ? ミレイ会長、新しい子ですか?」

 

「あら、良いところに来たわねルルーシュにスヴェン。 この子はライブラ・ブリエッラちゃん! 今日ナナリーのクラスに転入してきたばかりな素直な子よ~!」

 

「ミレイさんの胸が苦しいです~。」

 

 

 


 

 

 クラブハウスにスヴェンと一緒に入ってきたルルーシュはライブラの姿を見ては玄関で一瞬だけ固まっていた。

 

 その間、彼の脳内は以下のような思考が張り巡らされていた。

 

「(『ライブラ』、だと? 違う! そいつの名はライラ! ライラ・ラ・ブリタニアだ! 現エリア11総督であるクロヴィス・ラ・ブリタニアの妹がなぜここに? 子供のころから容姿が多少変わったところで見間違うものか! だがなぜここにいる? 分からん。 まさか俺とナナリーの事がバレた?! いやそれにしてはミレイ会長は平然とし過ぎている、それに────!)」

 

 ────ここから彼は何個もif等を類推してからついには『様子見(確認)』に徹することに決めた。

 

 幸い、何個かの要因が彼を過激な行動に今すぐ出ることを止めていた。

 

 ライラがナナリーや彼の事を覚えていない行動をしていること。

 次に学園長の孫であるミレイが事前に何も言ってこなかったことから彼女はライラがルルーシュたちに気付いていない様子、そしてミレイが何時もの調子であるという事はライラも素性を隠していると推測できた。

 

「(大丈夫だ、この様子だと奴は俺やナナリーの事を覚えていないみたいだ。 ここでまさか、奴の母親であるガブリエッラ・ラ・ブリタニアが俺とナナリーに極力接触させなかったことが幸運に転じるとはな! 

 もし上手く出来るのなら、一方的にクロヴィスの情報をこいつから引き出せるまたとないチャンスだ!)」

 

 ここまで考えることに要した時間、一秒未満である。

 

「(だが遠目とはいえ、俺とナナリーを見たことがあるかもしれん……仕掛けるか。) やぁ、()()()()()ブリエッラさん。 俺はルルーシュ・()()()()()()。」

 

「ブハァ! 初めましてです! ライブラ・ブリエッラです~!」

 

 ミレイの抱擁から自分を解放したライラが満面の笑みで挨拶をルルーシュに返す。

 

「(本当に俺やナナリーを覚えていないみたいだな。 それとも演技か?)」

 

「初めまして、ブリエッラさん、スヴェン・ハンセンです。」

 

「…………………………」

 

「ブリエッラさん?」

 

「凄くキラキラしているのです~!!! もしかしてどこかの王子様ですか?!」

 

「……いえいえ、一介の学生でございます。 (ニコッ&歯がキラッ)」

 

「そうですか?」

 

 ライブラは首をかしげて数秒後に同い年のアリスたちの元へと駆け寄り、今度はシャーリーたちも加えて元気よく挨拶をしていく。

 

「(……すこし想定外な行動を起こしたが問題はない。 次の確認だ。) 急な転入ですね会長? 何か聞いていますか?」

 

 ルルーシュはその様子を見ながらライブラ(玩具)を取り逃がして残念がるミレイに問う。

 

「ん~、何か今朝のお爺ちゃんも驚いていた。 あの子、あれでも()()()()()なんですって。」

 

「ブリエッラ侯爵家の?」

 

「(やはり素性を隠蔽しているか、しかもその様子ではかなり高度に。)」

 

「ミレイ会長……流石に私に“彼女の面倒を見ろ”なんてまた言わないですよね、ミスルギ嬢の時のように?」

 

「(スヴェン、まだあのすれ違いの事を根に持っているのか……無理もないが。)」

 

「い、言わないわよ……あの時は本当にごめんってスヴェン……」

 

「(そう言えばスヴェンは従者見習いをしていたな。) スヴェン、ブリエッラ侯爵家の事を知っているか?」

 

 ルルーシュの質問にスヴェンはいつもの笑みを浮かべながら口を開ける。

 

「ええ。 と言っても『偏屈者で世間嫌い』で有名な家で、他家との交流なども最小限と聞いています。  ですがその昔からの功績が認められて未だにその爵位を維持しているとか。 ブリエッラ嬢を見る限り、『世間嫌い』を反面教師にしているみたいですが。」

 

「ねぇねぇスヴェン! ブリエッラ家に、男の子は居るか分かる?」

 

「私が知る限り、()()()だと聞いております。」

 

「なぁ~んだ。 ライブラちゃんみたいな男の子がいたら、生徒会の空気────コホン! 男女比率が丁度いいぐらいになるのにな~。」

 

「今“空気”と言っていませんでしたか、ミレイ会長?」

 

「気のせい、気のせい♪」

 

 ミレイとスヴェンのやり取りを横に、ルルーシュは内心ほくそ笑んでいた。

 

「(こいつ(ライラ)を使えば、今まで考えていたいくつかの計画の前倒しも夢ではない!)」

 

「そっかぁ! じゃあブリエッラちゃんには憧れているお兄さんがこのエリアに配属されているのね!」

 

「ハイですシャーリーさん!」

 

「ブリエッラ家に嫡男? ……これは何か事情が匂いますね。」

 

 これを聞いたアリスの顔色は悪くなり、スヴェンは考え込むような仕草をするがルルーシュの中では容疑が確信へと変わった瞬間だった。

 

「(やはりか。 しかも存在している戸籍を使うとは……だが何の目的でライラをここに送ったのか知らんが人選をミスったな、クロヴィス。 ライラを上手く利用すれば、貴様らも俺やナナリーの味わった────)」

「────それで、家族と一緒にブリエッラちゃんはエリア11に来たの?」

 

「いいえ! 大好きなお兄様と一緒にいたいからです!」

 

「へぇー、本当にナナちゃんみたい!」

 

「えへへへ、来たのは私一人だけですけど……」

 

「ッ。」

 

 ライブラの言ったことに、ルルーシュは一瞬だけ今の彼女とかつて、目と足がまだ正常だった頃のナナリーを連想してしまう。

 

「(………………クソ! 何を考えているんだ俺は!)」

 

 

 

 余談であるが、その時のスヴェンはライブラたちのやり取りを見聞きして内心ほっこりしていたそうな。

 

『アリスみたいに原作では登場しなかったキャラの一人や二人の追加、もう俺は驚かないよ。 俺や毒島やアンジュリーゼと言う前例がいるし、何より素直で元気で良い子じゃないか……何故かイライラさせるアリスと違って。 それにしても立派なDRILLたちだなぁ~、頼んだら天元突破セリフをノリノリで言ったりして』と考え(のほほんとし)ながら。




次回予告:

原作ミッション、スタート。


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『反逆のルルーシュ』
第18話 原作ミッション、スタート


お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

そしてやっと原作です。


 場所はシンジュクゲットー、レジスタンスが今日の作戦の為に全員召集されていた。

 数が少なくなったことで戦闘員や非戦闘員に関わらず、全員がまたも今度の作戦に参加していた。

 

 俺も含めて。

 

「本当に実行部隊と同行しなくていいのか、昴?」

 

「ああ。 俺は別ルートで、何時ものように後方からフォローに徹する。」

 

 物々しい武装を担いだ扇たちにそう告げる。

 皆、ナオトさんがしていた赤いヘッドバンドをして。

 

「それにしても、そのヘルメットはなんだぁ昴~? それじゃあヘッドバンド巻けねぇじゃねぇか!」

 

 玉城が珍しく正論(に近い)言葉は俺のかぶっているフルフェイスヘルメットを指摘していた。

 

「だから俺は腕に巻いている。 それにこれ(ヘルメット)か? ……念には念を入れて、()()()をしているだけだ。」

 

 特殊なメイクだが。

 

「メイク……って“化粧”の事か?」

 

「“変装”と呼んでくれ、吉田さん。 これは俺の場合、()()()()()()()()()()だ。」

 

「……なるほど、昴の置かれている状況は確かに複雑だからな。 呼ぶ名前も昴のままでいいのか?」

 

 そう言えばそうだな……

 

「じゃあレジスタンス活動中はカタカナの“スバル”でいい。 急に名前を変えようとしても、作戦に支障が出るかも知れないからな。 他の奴らには“信頼のおける狙撃手を雇った”とでも伝えてくれ。」

 

「狙撃手、ねぇ……」

 

 扇たちが見たのは前回から更に改良を重ねた火薬使用型ライフル。

 

「あれ? なんか以前よりもっとスリムになっていないスバル?」

 

「今回の仕様は対人に変えた。 ナオトさんが練った作戦通りに皆が動けば、警察も軍も出ない筈だからな。」

 

 俺はチラリと玉城を見ながらそう言うと、彼は一瞬ムッとする。

 

「んだよその目は?! おれが何かしたってのかよ?!」

 

(原作で)ネタは上がってんだよ玉城。

(原作での永田(ながた)曰く)テメェの身勝手な行動で作戦が暴露しちまうんだよ。

 

 そう。

 何を隠そう、今日は『毒ガス奪取』が決行される日なのだ。

 

「そのメイク(変装)、カレンの奴にもしてみたらどうだ? アイツもお前と似たような立場だろ?」

 

「勧めたがきっぱりと断られた。 “どうせ髪型も服装も変えているし、出るときはグラスゴー(ナイトメア)の中に乗っているし”、だとさ。」

 

「カレンらしいや……んじゃ、行ってくる。」

 

 扇たちを次々と見送った後、俺はすかさずカレンが乗っているトレーラーへと走る。

 

 さて、俺が生き残る為の()()を打ち始めようではないか。

 

「カレン!」

 

「昴?! 永田、止めて!」

 

 止まったトレーラーから変装したカレンが窓を開けたドアをよじりあがって携帯を出す。

 

「カレン、これを持っていてくれ。 あと、活動中の俺は『スバル』だ。」

 

「同じじゃん。」

 

「日本語と英語ではイントネーションが違う。」

 

 散々日本語から英語に言語を教えて変えたときに言っただろうが?

 

「はいはい、そうでしたね……それで渡した『これ』は何? ……旧式の携帯?」

 

()()()携帯電話だ。 短い通信可能な距離と俺の決めた周波数でしか活用できない代わりに、傍受されても内容が暗号化されて相手にはノイズとしか受け取れない。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

 俺の真剣な顔にカレンが携帯を受け取る。

 

「分かったよ。 でも、どうしてこれを私に────?」

「────保険だ。 ()()()()()()のな。」

 

「カレン、スバル! トレーラーを出すぞ、時間が間に合わなくなる!」

 

「ぁ────」

 

 ────カレンが何か言いたげな顔をするが、永田はそのままトレーラーを出す。

 

「……………………」

 

 ピリリリ、ピリリリ♪

 

 誰も居なくなった拠点に俺一人だけが残され、まるでタイミングを見計らったかのように携帯電話が鳴って出る。

 

「俺だ。 ()()()()()か?」

 

『手配通りに動いている。』

 

 電話の相手は毒島だった。

 

「早いな。」

 

『お前から頼まれて、どのぐらい時間があったと思う?』

 

 それもそうか。

 

「それとは別に、()()は大丈夫そうか?」

 

 ここで俺と毒島が指している“彼女”とはアンジュリーゼの事だ。

 今日、彼女は学園を休んでいる俺(そして間接的にカレン)が怪しまれないように『スヴェン()の代理』としてクラスに出てくれている。

 

『上手く“優等生”を演じているよ、君たちの分も。』

 

 そっか。

 アンジュリーゼは元々“やれば出来る子”だったからな、『クロスアンジュ』でも。

 

「それと……()()()()()()()()()()?」

 

『皆元気にしているみたいだよ? ああ、ランペルージ君はカルデモンド(リヴァル)君にどこかバイクで連れていかれたよ。』

 

「そうか。 恩に着る。」

 

『たまには剣術部に顔を出してくれ。』

 

「……分かった。」

 

『君、今躊躇しなかったか?』

 

「気のせいだ。」

 

 ピ♪

 

 良し。 これで原作通りに事が動いていることも確信が持てた。

 

 今の内に胃薬を飲もう。

 

任務開始(ミッションスタート)だ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『帝国臣民の皆さん! そしてもちろん、協力頂いている大多数のイレヴンの方々も────!』

 

 ああ、うっざ。

 オオサカ爆弾事件に対し、『会見の時間』が報道されてクロヴィスの声が町中のスピーカーから聞こえてくる。

 

『さあ皆さん、正義に殉じた8名に哀悼の意を共に捧げようではありませんか……』

 

 原作で“総督は看板役者”なんて本人は言っていたけど、今の演説を聞いていたら分かる。

 とてもパーティ中だったとは思えない。

 

 そんな考えをする俺はシンジュクゲットーの中にあるはずの『とある倉庫』を探していた。

 

 「あった。」

 

 俺がそうボソッと言いながら入ったのは倉庫らしき場所。

 地面は土と雑草だらけで運び出されずに放置された木材にはカビが生えはじめ、屋根は錆びて大きな穴から青空からの陽光が所々差し込んでいた。

 

 そして極めつけは入り口の反対側に誰かがスプレー缶で()()()()デカデカと書いた文章と、奥には地下へと続く階段。

 

 日本を解放せよ

 

 俺はそう書かれた壁を背にして、向かいにあるビルを今度は目指した。

 遠くから聞こえてくる爆発と衝撃音をBGMに。

 

 

 

 


 

 

 とあるトレーラーはブリタニア軍の出した戦闘用ヘリに追われていた。

 

「クソ、軍まで出てきた! 玉城の野郎が、勝手なことをするから荒事に────!」

「────その為に私がここにいるんでしょう?!」

 

 運転手は永田。

 そして清掃員の帽子を脱ぎ捨てたのはカレン。

 二人とも紅月ナオトが行方不明になってから扇率いるレジスタンスのメンバーたち。

 

「(やっぱりお兄ちゃんの作戦通りにいかなかった! 玉城の奴、無事に合流できたら一発ぶん殴ってやる!)」

 

「カレン、やっぱり“アレ”を使うか?!」

 

「ダメ! そんなことしたらただの無意味な虐殺だよ! ブリタニアと同じになっちゃう!」

 

「そ、それもそうだな……すまん、気が動転していた。」

 

 彼女は助手席からトレーラー内へと移動する際に、彼女自身も慌てていたのか無線機を入れたままの上着を脱ぎ捨て、待機させていたグラスゴーへと乗り込む。

 

「スゥー……ハァー……」

 

 カレンはグラスゴーに乗り込み、深呼吸して荒ぶる精神を落ち着かせてから作動キーを入れて操縦桿を握り、近くにガムテープで固定されたスペアの無線機に向かって声を出す。

 

「(大丈夫。 やれる。 あれだけ仮想訓練も、毒島の手ほどきも受けたし、お兄ちゃんがいなくなってからはもっと積極的に戦闘経験も重ねた! やるしか、ないんだ!) 永田! 後方ハッチを開けて!」

 

『あいよ!』

 

「(刮目しろ、ブリキ野郎ども! アンタたちの使った兵器の恐怖を、そのままそっくり返してやる!)」

 

 カレンはトレーラーのハッチが開くとすぐさまグラスゴーに搭載された唯一中距離武装であるスラッシュハーケンで追ってきたヘリたちを撃ち落とす。

 

「どうだ! ッ?!」

 

 だが次に来たのはさっきより大型の空輸機から落下してきたのはグラスゴーより新型であるナイトメアフレームだった。

 

「サザーランド!」

 

 型式番号RPI-13、第5世代型KMF通称『サザーランド』。

 

 正式にグラスゴーをフェーズアウトするための対KMF運用も設計に入れた次世代量産機が次に出てきた。

 

「(それでも! 昴が整備してくれたこの機体と、私のド根性で!)」

 

 敵のサザーランドは持っていた銃器でカレン機を撃ち始め、初撃を何とか躱すが既に高速移動した上に急な動きでグラスゴーはバランスを崩しそうになり、転倒アラームが鳴る。

 

 ビィィ、ビィィ、ビィィ!

 

「うわぁぁぁぁ?! こなクソぉぉぉぉぉ!」

 

 カレンはスラッシュハーケンの可動部をジャイロのように使って無理やりバランスを取り直す。

 

 たった一世代だけとはいえ、グラスゴーはいわゆる“試作機”。

 対して次世代機であるサザーランドは実戦データを元に改良に改良を重ねた“兵器”として作られている。

 

 それと性能差だけでなく、この時カレンを追っていたサザーランドを操るブリタニアの純血派たちは多少なりともナイトメアフレームでの実戦を経験した者たちだった。

 

『カレン! このままじゃ共倒れ────うわぁ?!』

 

「永田?!」

 

 それを最後にトレーラーからの通信は途絶え、カレンは苦戦を強いられるも何とか再開発地に紛れて一機の不意を突き、スラッシュハーケンで敵の腕の切断に成功する。

 

「やった!」

 

 カレンはすぐにグラスゴーのランドスピナーを巧みに使って敵の落としたアサルトライフルを通りざまに拾い上げて引き金を引く。

 

「これでもくらえ!」

 

 ビィィィィィィ!

 

『現在のOSで非対応の武器使用が認識されました。 ドライバー(ソフトウェア)をインストールします、少々お待ちください。』

 

「え?! きゃあああああ?!」

 

 カレンが呆気に取られている間にアサルトライフルを持っていたグラスゴーの左腕が破損してしまい、彼女はそのままシンジュクゲットーの奥地へと逃げ込む。

 

 そして空には、数えきれないほどのVTOL機がシンジュクゲットーの上空へと飛んできては、名誉ブリタニア(元日本)人部隊を下ろして人海戦術で盗まれたトレーラーを探し始める。

 

 カレンは逃げ込んだ旧下水道でグラスゴーを潜めながら、開いたマンホールからグラスゴーの通信用アンテナを伸ばしていた。

 

「扇さん、聞こえる?」

 

『カレン! 無事か?!』

 

「ええ、でも状況が急に変わっちゃって永田とは離れ離れになっちゃった。」

 

『そうか……でもグラスゴーの通信が使えるという事はまだ使えそうなんだろ?

 

「ええ、でも左腕がやられた。」

 

『それでも正規のパイロット相手に良くやった……やはり情報通りか?』

 

 カレンは脱水症状対策のために操縦席近くに入れておいたゼリー飲料を飲みながらタオルで掻いた汗を拭きとる。

 

「ああ、この対応は間違いなく大規模な兵器。 絶対に“医療器材”なんかじゃない。 やっぱり毒ガスで大当たりだね。」

 

『そうか……なぁ、カレン? スバルからは何か聞いていないか?』

 

「ううん、私は何も。 扇さんたちは?」

 

『それが、今日の朝別れた後からずっと音沙汰無しなんだ……もしかしてアイツ見つかってもう、ブリタニアの連中に────』

 

  ダァン!

 

 「────縁起でもないこと言わないで!」

 

 カレンは扇の言葉を遮り、苛立ちからか足で思わず床を蹴って鈍痛が響く。

 

「あいつは! スバルがそんな簡単にやられるもんか! きっと……きっと私たちの為に今でも独りでいろいろやっているに違いない!」

 

『……そう、だよな。 悪かった、カレン。』

 

「ううん、こっちこそ怒ってゴメン……」

 

 

 


 

 

 厳重な指揮用陸戦艇、『G1ベース』ではバトレーがまたも声を荒げていた。

 

「テロリストに逃げられただと?! この馬鹿者が!」

 

『も、申し訳────!』

「────貴様ら親衛隊だけに情報を与えた意味を何だと心得ておるのだ?!」

 

「もうよい、バトレー。 この際だ、ゲットーを壊滅せよ。」

 

「ッ?! し、しかし────!」

「────“アレ”が知れ渡ってしまえば私は廃嫡を免れん。 本国には演習を兼ねた“区画整理”と伝えよう。」

 

「で、では────」

「────第三皇子クロヴィスとして命じる! シンジュクゲットーを、壊滅せよ!」

 

「「「「「イエス、マイロード!」」」」」

 

 クロヴィスは拳を握り締める。

 別に廃嫡されることだけを懸念していたわけではない。

 

『これでもし、ライラの存在が大っぴらにされてしまえば』と彼は思っていた。

 

「(絶対にそれだけは避けねばならん! ルルーシュたちのように政治の道具などにされてたまるか! 今までの努力が水の泡と化す!) シンジュクゲットーの包囲が完了次第、根絶やしにしろ!」

 

 


 

 

 

 

「(来たか。)」

 

 

 戦闘音が鳴り響く中、さっき見つけた倉庫から少し離れた建物の中からスヴェンは狙撃銃を構えていた。

 

 

 先ほど場所を特定した倉庫は階段を下りれば旧地下鉄と繋がっている。

 そこにブリタニア皇族直属の親衛隊が待ち伏せするかのように立っていた。

 

 そろそろだろうと見ていると案の定、彼らが何かに反応するかのように急に慌ただしく倉庫に突入する。

 

 多分、心配したシャーリーが電話でも掛けたんだろう。

 なんて間の悪い……

 

 スコープを通して見ていたのは、親衛隊が奥の階段から引きずり出された少年と少女。

 白い拘束衣を着た少女が、アッシュフォード学園の学生からブリタニア皇族の親衛隊によって引き離される場面。

 緑の髪の毛をした少女と、黒髪の少年だ。

 

 原作のヒロインともいえるCCと言う少女と、原作主人公であるルルーシュだ。

 

「ッ」

 

 指揮官らしき男が拳銃をルルーシュに向けるとCCが兵士の手を振りほどいてルルーシュを庇うように飛び出すと、彼女は額が撃ち抜かれた勢いでルルーシュの前で倒れる。

 

 原作でも迫力あるこのシーンをリアルで見ると更に現実味を帯びるな。

 聞こえないが何を言っているのかは想像できるし、原作でも見たけどルルーシュのショック顔は迫力ある。

 多分、自分の母親であるマリアンヌが殺された事態を連想してしまっているんだろう。

 

 更に見ていると、奇妙なことが起きる。

 

 つい先ほどまで呆けた表情をしていたCCの顔がにやけ、ショックに陥っていたルルーシュの顔がいつの間にか自信満々の顔へと変わり、左目を手で覆いながら立ち上がる。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()ようだ。

 恐らく、『契約』をあの一瞬で成したのだろう。

 こうして第三者の視点から見るとビフォーアフターがリアルで行われたような、現実離れた光景だ。

 

 これから俺がすることも、()()()()()()()が。

 

 狙撃銃を俺は構え、タイミングを逃さないために神経を集中させる。

 

 動くのはルルーシュが初めて自分のギアスである『絶対遵守』を発動した後、親衛隊たちが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 予想していたそのタイミングで俺は狙いを定め、久しく使っていないチートの一部を作動する。

 

「(『“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』。)」




そしてようやくチートお披露目です。

思っていたより遅く出ました。 (汗


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第19話 魔神を降臨させない

ぺ、ペンが止まらなかった! 

実際は携帯のタッチスクリーンでしたけど。 (汗

少し長めの次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 俺の名は『ルルーシュ・ランペルージ』。

 しがないブリタニア人で、妹のナナリー・ランペルージとアッシュフォード家の慈悲で居候をしている。

 

 いや、違うな。

 ()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 名前も嘘だ。

 本当の名はルルーシュ・()()()()()()()

 第11皇子であり、剥奪されたが元第17皇位継承者だ。

 

 母親を殺され、政治の駒(人質)として日本に送られ、その日本をブリタニアが攻めるまでは。

 

 第二次太平洋戦争で、俺と妹は()()何もかも失い、公的には『死亡』となっている。

 

 その日から、俺は……ずっと嘘の人生を歩んでいた。

 

『生きている』、という嘘を。

 

 名前も、経歴も、何もかもが嘘。

 そして未だに全く変わらない世界に飽き飽きしては『絶望』と言う嘘で、『諦める』事も上手くできなかったが……

 

 今は違う。

 確かな力を感じる。

 圧倒的な、『相手を支配する』力だ!

 

「なあ? ブリタニアを憎むブリタニア人は、どう生きればいいと思う?」

 

 今まで感じたことの無い優越感に思わず笑いたくなる衝動を抑えながら立ち上がり、特に意味のない問いで親衛隊の注意をそらして時間を稼ぐ。

 

 この力を『理解する時間』を。

 

「む? 貴様、主義者か?」

 

「ふ、フフフフフフ。」

 

 相手の間抜け面に思わず、抑えていた笑いがこみ上げてしまう。

 

「どうした? 撃たないのか? お前の言った通り、俺はただの学生だぞ? それとも気づいたか?

 撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだと?!

 

 ついにこの『力』の使い方を『理解した』俺は手を左目から退けると相手は戸惑う。

 恐らくは何か物理的な変化が生じているのだろう。

 

 このことで更なる愉悦感が湧き上がり、俺は思うままの事を口にして()()()

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 貴様達は、死ね!

 

 親衛隊たちの目が奇妙な赤色を帯びて、誰もが喜びの笑顔を浮かべていた。

 

 「「「「「イエス、ユアハイネス!!!」」」」」

 

 明らかに正気ではない表情と、声に親衛隊は指揮官含めて拳銃を自らのこめかみに当てて引き金を────

 

 

 

 

 バスッ!

 

 

 

 

 ────引ける前に、全員がほぼ同時に()()()()脳天を撃ち抜かれて全滅し、それぞれが丸出しになった地面に次々と倒れていく。

 

「…………………………はッ?!」

 

 俺は一瞬呆けそうになるがすぐに状況の整理をして、彼ら親衛隊が背後から()()()()()ことを理解して階段の中に身を隠す。

 

「(親衛隊は自らの銃ではなく背後から頭を撃ち抜かれた。 その返り血が地面に付着した角度とパターンから逆算すると……)」

 

 俺が目にしたのは少し距離がある廃ビルだった。

 

「(狙撃ポイントはあそこか、少し遠いな……従来の狙撃銃であそこからの精密射撃が可能なのか? ……いや、これは狙撃を生業としている者の可能性が高い、ゆえに改造品だろう。 だが……)」

 

 ここでルルーシュに疑問が生じる。

 

「(弾丸の着点時は俺の見たところ、()()()()だった。 そんなことは狙撃のチームが連携を取って初めて可能とする所業、つまり()()()()()……一体どこの組織の者だ? 親衛隊を撃った理由は? 目的はなんだ?)」

 

 ドゴォン!

 

 次に倉庫の中へと無理やり入ってきたのは各パーツが紅い塗料にペンキ塗りされたサザーランドだった。

 

「(さて、さっきの狙撃が俺を狙っているのだったら親衛隊を撃つ前に俺を狙う筈だ。 ならば目的は俺の保護か? ……それにこの際だ、力の再確認をするか。)」

 

『ここで何があった? ブリタニアの学生がなぜこんな所にいる? 答えろ!』

 

 使った力は確かに親衛隊に効いていた。

 そして狙撃者たちは俺を狙わなかった。

 

 ならば、俺自らが出迎えようではないか。

 

「そこのお前、ナイトメアから降りろ。」

 

 


 

 

 

 スヴェンはすぐに狙撃を終えてから移動を開始していた。

 

 本当はあのままルルーシュが『寄こせ、お前のナイトメア!』シーンを満喫したかったが、目的の一つを達成できたのですぐにその場から離れていた。

 

 目的とはいたってシンプルなモノ。

 

魔神(ルルーシュ)の降臨を防ぐ』といったもの、あるいは『人間の心を保たせる』。

 

 原作でのルルーシュは自らのギアス経由と怒り任せとはいえ、初めて人を殺めるタイミングが上記での親衛隊たちがCCを撃った報復の『命令』だ。

 

 その後の彼は蠢く心境の渦の中、人を殺したことに対しての『恐怖』や『後悔』などより人生で初めて感じた『達成感』と『充実感』を噛み締めていたような描写があった。

 

「(つまり、彼の手をできるだけ汚させなければ作中の非人道的な行い等をある程度はより良い方向に持っていけるはずだ。 あと彼の事だ、俺の狙撃ポイントを割り出して奪ったサザーランドで俺の正体を暴こうと来るだろう。)」

 

「ッ! そこの貴様、止まれ!」

 

 角を曲がったところで名誉ブリタニア人部隊らしき防護スーツとガスマスクをした歩兵とばったり会ってしまう。

 

 だが()()()だ。

 

 俺は狙撃銃を入れていたギターケースを上に投げると相手の気がそれにそれた一瞬で近づき、むき出しになっていた喉を殴る。

 

ごぶゅ?!

 

 生々しい音と息がガスマスク越しに聞こえ、俺は心の中で謝りながらも防護スーツと(水で洗った)ガスマスクを着用する。

 

『貴様! どこの所属だ?! 部隊名とIDを示せ!』

 

 後ろを見ると本隊より先行したらしきサザーランドが銃をこちらに向けていた。

 俺は『激しく脈を打つ心臓の鼓動から来る震えに気づかないでくれ!』と強く念じながらも堂々と両手を上げる。

 

 仮面(物理含む)が厚くて良かった。

 

「俺は偵察中隊のガレス・ベクトルです。 テロリストと思われる者と遭遇し、身柄を確保したところです。 彼の身からこのようなディスクを押収しました、本部にご送信願えないでしょうか?」

 

『いいだろう。 だがその前にIDの確認をする! 妙な動きをすれば即座に撃つ!』

 

 バシュ!

 

 サザーランドのハッチが開いて、パイロットらしき男性が銃を俺に向けながら降りてくるのを見計らう。

 

「(『“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』。)」

 

 そう念じると、ピタリと背景音を含めて周りの何もかもが()()()

 

 俺はその中、パイロットの持っていた銃を手に取っては元持ち主である者の脳天にそれを向けて撃ち抜くと時間が『再開』される。

 

 何が起きたのか分からない表情をしながら地面に倒れるパイロットよりも、俺は自分の身体に注意を向けていた。

 

 やはり、()()()()()()()()()()()

 

 俺はそれを未だに不気味と感じながらサザーランドに乗り込んでウィルスを搭載した作動キーを差し込むと違法プログラムが動き出す。

 

“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』。

 これは俺が自称神様に頼んだ特典の一部を、転生先がコードギアスと知ってから実戦に向けて応用化させた技だ。

 

『時間』と言う概念を一時的に()()()()()()()、『時間の意味を無くした世界』の中を俺だけが行動できる。

 

 まぁ、身も蓋もない言い方をすれば『何某奇妙な冒険』で登場するラスボスたちが使う反則級の能力に似ている。

 

 実際、彼らも同じ能力の保持者と遭遇か油断をしていなければ常時『俺TUEEE!』状態だったし。

 

 え? 『じゃあもっと頻繁に使えよ!』だって?

 

 じゃあ聞くけど、ここをどこだと思っているんだ?

『コードギアス』の世界やぞ?

 

 怖くて乱発したかねぇよ!

 

『コードギアス』を見た奴なら解るかもしれないけど、『ギアス』みたいな超能力は何も『便利なだけの能力』ではない。

 

 作中でも説明はあるがギアスは使えば使うほどに力が増し、能力者が望んでいた方向性から徐々にかけ離れていく。

 

 それこそ本人がその能力を『使いたい、使いたくない』と言った意思を無視するようになるまで。

 

 つまりは何らかの代償を強要されるという事だ。

 それを踏まえてもう一度聞こう。

 

 そんな世界で能力によって捻くれた末路が待っていると知って、その能力を使いまくりたくなるか?

 

 しかも能力を使った後に異常を感じさせないようなモノを?

 

 コードギアス作内で今すぐ思いつくかつ一番近い能力を持った奴でも、『体感時間の停止』が関の山だぞ?!

 しかも停止出来る範囲は限られている上に『意思』を持った生物にしか効果がないプラス『使用中は自身の心臓も一時停止する』という副作用を負ってまでだぞ?!

 

 俺の場合、一部だけでそいつの能力の上位互換だぞ?!

 

 怖えよ!

 普通に怖えよ!

 一部だけでもヤバそうなのに、怖くて能力をフルに使う気がとことん失せるよ!

 

 それに、今までの試行錯誤で欠点もあることは数個確認できている。

 

 1. 止められる時間は初期状態で一秒ほど(止まった時間で一秒という表現もなんだが、取り敢えず体感的に一秒ほどだ)。

 2. 止められる時間が延びるのは、能力を使わなかった時間の経過によって『充電(リチャージ)』される(数時間で一秒未満ぐらい?)。

 3. 『“時間”に意味は無い』のオンとオフは任意だが明確に意識する必要がある。

 4. 銃や機械などの類は『“時間”に意味は無い』の使用中も動いたり、作動できるが動作で発する熱などの二次効果の負担は能力使用中に減ることは無い。 つまり負担が溜まる一方で不具合が出やすい。

 

 などと言ったものが今のところ確認できている。

 

 そう考えている間に、乗り込んだサザーランドの敵味方識別信号(IFF)をカットすると電子音が聞こえてくる。

 

 ピィー!

 

 スピーカーから違法プログラムが無事にアップロードされた音が出て、画面には俺が待っていた文字が出る。

 

『疑似作動プログラム、完了』

 

 よし、まずはこのサザーランドを────

 

 

 

 


 

 

「無関係の人たちがいそうな建物を! ブリタニアめ!」

 

 クロヴィスの号令でゲットーを包囲し、ブリタニア人ではない者たちを発見次第に射殺するき満々の戦車やヘリは手当たり次第にビルや建物を襲い、それらをカレンは次々と撃破していった。

 

『カレン! 大丈夫か?! グラスゴーはまだ無事か?!』

 

「大丈夫! 扇さんたちは住民たちを逃がして! 彼らは何も関係ない!」

 

 無線機から同じように戦っていると思われる扇の声に、カレンは答えた。

 

『そ、それが……妙なんだ。 ()()()()()()()()()んだ』

 

「…………え? どういう意味?」

 

『そのままの意味だ。 今まで見たところは殆んどがもぬけの殻だった。 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような感じで────』

「────それって、まさか……」

 

 扇とカレンの脳裏をよぎったのは朝から音沙汰がなくて別行動をすると宣言した、地味で目立たないように立ち回りをしては戦況が有利に運ぶ努力をする一人の少年の姿。

 

『多分、アイツだろうさ。 道理で何も連絡しなかったと思ったら、こんなことに備えていたのかよ!』

 

「(やっぱり、凄いや!) じゃあ扇さん、私は出来るだけブリタニアの注意を引くから包囲網を────ッ!」

 

 カレンは聞こえてくるアラートの原因を確認する前に回避運動に入り、その場から移動すると彼女の機体がいた場所は飛んできた銃弾によって蜂の巣状態となった。

 

 ビィィィィ!

 

「(やばい! あとエナジーが三十分を切った!) それに、あれは左腕を撃ったサザーランド────!」

『────西口だ! 線路を利用して移動しろ!』

 

「(レジスタンスの無線機から?!) 誰だ、お前は?!」

 

 そこで聞きなれない声が無線機を通じてきたことで、カレンは反射的に疑問を出す。

 

『誰でも良い! 勝ちたければ、私を信じろ!』

 

「勝つ────?」

 

 ────ヴィィィィィ! ヴィィィィィ!

 

 カレンはポケットに入れていたマナーモードにしていた携帯を素早く片手で出して、それを耳にかける。

 

『カレンか? もし聞こえているのなら“うん”とだけ口にしてくれ。』

 

「(す、昴?!) う、うん?」

 

『良し、無言のままでいいから聞いてくれ。 今の男の指示通りに移動し、同じ線路を走っている列車を飛び越えろ!』

 

 カレンは言うとおりにすると、彼女を追っていた純血派のサザーランドも同じく線路の上を走る。

 

 先行していたサザーランドはカレンと初めて交戦した、純血派というグループのリーダー役で辺境伯の爵位を持つジェレミア・ゴットバルトだった。

 

「惰弱なイレヴンめ、逃げるだけでは“狩り”とは呼べんだろうが……ん?」

 

 彼の前では線路の上を走る旧式の列車を紅いグラスゴーが飛び越す場面に、彼は笑いそうになる。

 

「ふん! 子供騙しな作戦だな!」

 

 無論、普通の列車でもナイトメアを押し返すような力は無く、ジェレミアは列車を逆に片手で止める。

 

「おい! お前はグラスゴーを────!」

 

 ────ドドォン!

 

 ジェレミアが部下に追うように命令を下す前に、横から来たスラッシュハーケンが部下の機体を戦闘不能にさせる。

 

「な?!」

 

 彼がメインカメラをスラッシュハーケンの出所に向けると、同じ純血派仕様のサザーランドがあった。

 

「ど、同士討ちだと?! 貴様! どこの部隊の者だ?! 敵は片腕を失くしたグラス────!

 

 ────ダダダダダダダダ!

 

 だが味方と思っていたサザーランドが自分を襲ってきたことで、ジェレミアに最悪の事態が脳裏をよぎる。

 

「ま、まさかテロリストが────ハっ?! ク、クソ!」

 

 中破したジェレミアのサザーランドの前方から、カレンのグラスゴーが迫ってくるのを見たジェレミアは脱出装置のレバーを引いてその場からコックピットごと離脱する。

 

「か、勝った! ありがとう! でも、サザーランドをどこで────あ、あれ? (居ない?)」

 

 カレンが見たビルからすでに自分を助けたサザーランドの姿は無かった。

 

「お~い! カレン!」

 

「扇さん! それにみんなも!」

 

 彼女は無事である扇たちを見てやっと安心する。

 

「さっきの通信はなんだ?!」

 

「え? 扇さんたちにも聞こえたっていう事は────」

 

 ────ジ、ジジジ!

 

『お前がリーダーか? そこの列車には私からのプレゼントが入っている。 勝つ為の道具だ。』

 

「ア、アンタは誰だ? 名前ぐらい────」

「────扇、そこまでにしておけ。」

 

 さっき聞いた声に、カレンは線路へと出てきた(ブリタニアの防護服からフルフェイスヘルメット&ライダースーツに着替えた)スヴェンを見て笑顔になる。

 

「スバル!」

 

「スバル、今のはどういう意味だ────?」

「────どうもこうも、相手が誰だろうと今は関係ない。 列車の中を見てみろ。」

 

 彼がそう言いながら列車を開けると────

 

「────ッ!」

 

 カレンたち全員が息を飲み込む。

 

 列車の中には正規軍が使う、サザーランドが何機も待機状態で入っていた。

 

「す、スゲェ。」

「こっちにも武器弾薬があるわ!」

「これ全部が俺たちの……話を聞いてもいいんじゃねぇか、おい?!」

 

『グラスゴーの女! お前はその機体のままでいい! 目立つからかく乱に向いている。 エナジーフィラーの交換だけはしておけ。 十分後に新たな指示を出す。 その間に武器装備の点検などを済ませろ。』

 

 

 

 喜ぶカレンたちから少し距離の空いた廃ビルの中から彼らを監視していたルルーシュは制服の襟を緩め、興奮で火照った身体を涼ませる。

 

「フゥー……思っていたより疲れるな、命がけのゲーム(指揮)は。」

 

 ルルーシュはファクトスフィアから得た情報を元に、作戦を練りながら並行で別のことを考える。

 

「(しかしあのグラスゴーの女パイロット、見どころがある。 俺が指示を出さなくてもこちらの作戦の意図を理解し、即座に行動へと移った。 

 それよりも親衛隊を撃った組織、またはチームだ。 これまで俺は幾度となくわざと隙を作りながら移動したのになぜ何もしてこない? それとも何か別の目的があったのか? もしくは既に達成してこの地区から撤退した?

 ……まぁいい、俺の邪魔さえしなければどうでも良い。 それにしても、レジスタンスがまさかゲットーの住人を前もって逃がすとは用意周到だな。 多少見どころがあるじゃないか、あのもじゃもじゃ頭。)」

 

 余談だがルルーシュが『もじゃもじゃ頭』と呼んだのは天然パーマの扇である。

 

「(……よし、条件はクリアしつつある。 ゲーム(指揮)を再開するか。)」




ではおやすみなさいませです。 (*´0`)ゞoO オヤスミィ~


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第20話 連邦……帝国の白い悪魔(意味深)

次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

あとロイドが若干(?)暴走します。 ご了承くださいますようお願い申し上げます。 (汗

7/6/2022 10:13
誤字報告、誠にありがとうございます神薙改式さん!


「で、殿下……様子がおかしいです。」

 

 汗を掻くバトレー(ガマガエル)がふんぞり返っていたクロヴィスへと振り返る。

 

「ゲットーにいる筈のイレヴンが、報告より圧倒的に少ないようです。」

 

「それがどうした? 危険に敏感な臆病者たちが散っただけなのだろう?」

 

「そ、それがまるで、我々の壊滅作戦を予想していたかのような────」

「────ならばネズミ共が同胞を逃がしたのだろう、問題はない。 作戦を続行せよ。」

 

 

 余談だがスヴェンが過去、夜のゲットーへと出る毒島に頼んだのは以下の通りだった。

 

 “時間が余った時でいいからシンジュクゲットーの住人達を避難させる手筈をしてくれ。”

 

 これは勿論、来るべきシンジュク事変に備えての頼み。

 

 原作では沢山のゲットーの住人が老若男女問わずに一方的に虐殺される描写があったこと知っていた彼は毒ガス強奪作戦が行われる朝、即座に毒島に連絡を取った。

 

 そして毒島は躾をした奴隷者たちに連絡を送り、ゲットー内に住んでいる者たちの撤去避難を命じていた。

 

 それを知らないクロヴィスたちはそのままテロリストたちの殲滅を行おうとするが────

 

「────バ、バカな! 我が軍がテロリスト風情に?!」

 

 クロヴィス達は焦った。

 一方的に立場が180度変わったのだ。

 

 今まで優勢だったブリタニア軍が次々と撃破され、その手腕はまるで相手にこちらの情報が筒抜けであるような────

 

 『────こんにちは~!』

 

 G1ベースの作戦モニターに映ったのは場違いなまでに白衣を着ながらゆる~~~い口調と呑気そうな学生らしきもののドアップ顔。

 

「な、なんだ! 今は作戦中だぞロイド!」

 

 モニターに映っていたのは『ロイド・アスプルンド』。

 軽~~い態度と調子の外れたテンションで性格は印象的に『マッドサイエンティスト』が当てはまる彼は世界初の第七世代ナイトメアフレーム、作中でもぶっ壊れドチート性能と最先端の技術を誇る『ランスロット』の開発者だ。何気に色々な意味で『変人』ではあるが伯爵の爵位を持つ貴族でもある。

 

『いやねぇ? そろそろ特派の嚮導兵器の導入許可をクロヴィス殿下にお願いしようかと……ダメ? まだダメなの? もういいでしょ?』

 

「貴様! 殿下に向かって不敬であろう!」

 

ロイド。」

 

 そこで怒り狂いそうなバトレーと違い、冷静を装うクロヴィスがロイドの名を呼ぶ。

 

『あ、は~い?』

 

「勝てるか? 貴様の()()を使えば?」

 

『“ランスロット”とお呼びくださいよ、で・ん・か♪』

 

貴様────!

「────よい。 では出撃させろロイド。」

 

『いやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!♪ セシル君、聞いたよね?! ね?! ね?!

 

『あの……通信切りますね、ロイドさん?』

 

『あっは♪ 忘れてた!♪』

 

 プツン。

 

 バトレー達が不安になるが、ものすごいスピードで突貫するランスロットが戦場へと出ると不利だったはずの戦況が次々とランスロット一機によって打破されていく。

 

「「「「「おおおお!!!」」」」」

 

「全く……いらん借りを兄上(シュナイゼル)に作ってしまったな……」

 

 


 

 

「クソ! 一体どうなっている?! 敵は本当に一機だけなのか?!」

 

 ルルーシュは荒れに荒れまくっていた。

 

 彼の練っていた戦略通りに、事は進んでいた。

 あと一息と言うところまで計画は着々と進んでいた。

 

 そう、過去形だ。

 なぜなら新たに導入された一機が戦場に現れてからその全てが覆されていったからだ。

 

 あらゆる戦略も作戦も、予備の万が一で練った伏兵もまるで『関係ない』とごり押しで突破した行動はルルーシュにとって屈辱でしかなかった。

 

「こんな! こんなバカげたことがあってたまるか! 一機だけの活躍で、たかが一機だけで俺の戦略が────ッ!」

 

 ルルーシュのサザーランドが身を潜んでいた廃ビルの会場に、今まで見たことが無い白いナイトメアフレームがスラッシュハーケンを使って登ってくるのを見た。

 

「貴様か! 俺の作戦を────ッ!」

 

 だが『登ってきた』とルルーシュが思った頃にはすでに敵は至近距離まで近づき、ルルーシュは防衛戦を余儀なく強いられる。

 

「(こいつは! こいつはイレギュラーだ!)」

 

 そのまま白いナイトメア────ランスロットはその余りある性能差でルルーシュのサザーランドを追い込んでいく。

 

「この動きに場所……こいつが指揮官か!」

 

 ランスロットに搭乗していたのはルルーシュの幼馴染で、名誉ブリタニア人である『枢木スザク』。

 

 そう。

 皮肉にも親友同士であるスザクとルルーシュは今、命を懸けた戦いに身を投じていた。

 

 スザクはシンジュク事変に巻き込まれて死んだと思ったルルーシュの為に。

 ルルーシュは、己の復讐のために。

 

 各々が目的のために動いていた。

 

「ッ?! (やられる?!)」

 

 ついに追い詰められたルルーシュを、カレンが不意打ちでランスロットに襲い掛かる。

 

「おい! 借りはこれで返したからな!」

 

 だが第七世代と第四世代のナイトメアフレームの差は一目瞭然。

 しかもカレン機に至っては既に限界以上に駆使したために本調子ではなかったことから彼女の脱出機能は数秒後に発動してしまい、カレンもその場を離脱した。

 

 だが意外な行動にランスロットが出たことで、ルルーシュは無事に逃げることができた。

 

「……はぁ?」

 

 その行動は、変人であるロイドでさえも気の抜けた声を出させる程。

 

「戦場で人助け~?」

 

 ランスロットはルルーシュを逃がす代わりに、逃げ遅れたと思われる人たちを崩壊するビルから助けていた。

 

「彼、変わっているねぇ~?」

 

 その場にいた整備士は『お前が言うな、ロイド・アスプルンド!』と同時にツッコミを入れたそうな。

 

 

 

 


 

 

「よし、次は────」

 

 スザクは次々とテロリストが奪ったと思われる識別信号を出していないサザーランドを撃墜していた。

 

 その姿はまさに『無双』そのものである。

 

 彼の乗っているランスロットは試作機であるものの、現在開発中の遠距離武器に耐えられるほどの機体強度と運動性、両腕と両腰に2基ずつ装備されている強化型スラッシュハーケン、そして腕部に搭載された『ブレイズルミナス』で実弾を防げる、何某ゲーム風に呼ぶ『光の盾』を持っている。

 

 この時点で未完成ながらも圧倒的に従来のナイトメアフレームをあらゆる面で凌駕しているのだからまさに『バケモノ』だ。

 

「これで!」

 

 ランスロットの腕に取り付けられたスラッシュハーケンの応用手刀で敵であるサザーランドの頭部を身体から切り落とすと相手の脱出装置が作動するのをスザクは見送り、胸部に内蔵されたファクトスフィアを展開する。

 

 ビィィィィィィ!

 

「上?!」

 

 ランスロットのアラームが鳴り、スザクは上を見ながら来る銃弾を躱す。

 

 彼が見たのは両手にアサルトライフルを装備したサザーランドが、ビルの中へと後退する後ろ姿。

 

「逃がすか!」

 

 ビィィィィィィ!

 

「罠?!」

 

 スザクはサザーランドの後を追い、崩れた壁の穴を通るとまたもアラームが鳴り響くと同時に彼はブレイズルミナスを展開して、ランスロットは作動したケイオス地雷から発射された散弾を防ぐ。

 

 ダダダダダダダダダダダダダダ!

 

 土煙の向こう側からランスロットを襲う銃弾を、スザクはブレイズルミナスを展開したまま前へと進んでいく。

 

 そして土煙の向こう側へと突き抜けると────

 

「────誰もいない?!」

 

 彼が見たのはアサルトライフルを固定した簡易的なトラップだった。

 

「(こんな短期間で罠を仕掛けるなんて……かなりの手練れだ!)」

 

 スザクはまた追おうにもアサルトライフルが設置された通路を進んでいくときらりと何か糸のようなものを見て全力でランドスピナーに急ブレーキをかける。

 

 彼が糸の先を見るとケイオス爆雷を使ったトラップだと気付く。

 

「……(まさか、こいつが指揮官だったのか?!)」

 

 スザクは今まで以上に、慎重にファクトスフィアを展開しながら行動へと移る。

 

「(さっきの罠、明らかに僕の乗っているこのランスロットじゃなければ二段目のトラップでやられていた。 何者なんだ? 戦略でも、操縦技術でも優れているという事は部隊長か何かで、さっき交戦したのは彼の観測機か何かか? それともまさか……)」

 

 指揮官=有能な戦士か罠好きと結び付けて。

 

 

 


 

 「(やばいヤバいヤバいヤバいヤバいやばいやばいやばい。)」

 

 スヴェンは体中と内心でも嫌な汗を掻きながら移動し、そこら中に倒れていたブリタニア軍とレジスタンスの機体から武装を調達しながらありとあらゆる時間稼ぎ()を張っていった。

 

 スザクが追っていたサザーランドとは言うまでもなく()()()()()スヴェン機だった。

 

 本当はランスロットに撃墜されたふりをして、襲われる部隊から直前にIFFをカットして離脱し、ランスロットの検索範囲ギリギリで原作の流れになるかどうか潜んでいたのだが。

 

「(どうしようあれ本当にナイトメアフレームか? 原作で見たけどマジ激ヤバ以上の運動性でケイオス爆雷とアサルトライフルにまたケイオス爆雷の三段構えの罠を全部突破しやがった理不尽の塊だロイドもロイドだがランスロットを使いこなせるスザクも意味わからないしブレイズルミナスなんて攻撃無効化の術なんてどうやって破れる? ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………無理。 無理無理無理無理無理無理無理無理むりむりむりむりむり無理無理無理無理無理むーり。)」

 

 スヴェンは『無理』という言葉を内心で連打しながらも動くことを止めなかった。

 

 だが────

 

 ────ドォン!

 

 きゃあああああああああ?! でででででででででででで出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 未だかつてない危機感を感じながらスヴェンはB級ホラー映画で出てくるヒロインのような叫びをあげながら迫ってくる死神の鎌(ランスロット)にサザーランドを180度ターンさせて器用にジグザグに逆走しながらアサルトライフル二丁で応戦する。

 

 それはまさに必死の『敵前大逆走』だった。

 

「クゥ!」

 

 そんなスヴェンを追うスザクはルルーシュを庇った時、脇に受けた銃弾の傷がジクジクと痛み出すのを気力で抑えながら無理に体を酷使していた。

 

 いや、“せざるを得なかった”といったほうが正解だろう。

 

 スザクが『ここぞ!』と言うときに放つ攻撃が上手く当たらなかったことで、彼はランスロットと言えども()()無理をした機動戦を行っていた。

 

「(この操縦技術! まさかテロリストにも熟練のパイロットがいるのか?!)」

 

 ちなみにスヴェンと言えば────

 

 「(♪くぇ×¥●rちゅい&%おp~~~~~~~~!!!)」

 

 ────言語化できないほど猛烈にテンパっていた。

 

 よって彼の行う行動一つ一つは必死に『生き残る』ことに特化させた全身全霊を集中し、無我夢中で行ったモノ。

 

 どれほど必死だったかというと、さっきから無意識に『“時間”に意味はない(Time Has No Meaning)』をランスロットの攻撃が当たる直前に使って()()()()()()()()()ようにちょくちょく発動させて己の機体から逸れるようごくわずかに当たり位置を調整させるほど。

 

 いわゆる戦車での『避弾経始(ひだんけいし)』の応用である。

 

 さっきスヴェンは『乱発したくない』と言っていたが、今の危機満載の状況下でそんな悠長なことは言っていられない。

 そして彼は確かに『“時間”に意味はない(Time Has No Meaning)』を何度も発動させてはいたが一つ一つが(体感で)一秒未満だったことも幸いしていた。

 

 故に、『初期状態での一秒』を超えて彼が懸念している副作用は見当たらなかった。

 もしくは、ただ単に命がけの鬼ごっこに全神経を集中していた故にそれさえも考えていなかったか。

 

 このせいで、スザクがさらにムキ(本気)になっていたのは言うまでもないが。

 

 そしてやっとサザーランドの両手を破壊できたと思った時、スザクはまたも目を見開くこととなる。

 

「なに?!」

 

 次にスザクが驚いたのは逆走するサザーランドがまるで予測していたかのように、今度はスラッシュハーケンを使って()()()()()()()を空中移動し始めたことだけでなく、左右のスラッシュハーケンの巻き取り速度さえも利用して従来では出せない加速をしていたことだ。

 

 ビィィィ!

 

「な?! え、エナジーが!」

 

 その間にもサザーランドはひっきりなしにアサルトライフルとケイオス爆雷を互いに使って攻撃の一手をやめなかった。

 

 おかげでランスロットは必要以上に回避運動とブレイズルミナスを原作以上に使っていた。

 

 ランスロットは確かにあらゆる面で厄介な存在だが、試作機とロイドのロマンを詰めた機体故にエネルギー消費が激しく、稼働時間が極端に短かった。

 

 一応、スヴェンはランスロット対策にそれを視野に入れたあらゆる時間稼ぎパターンを想定していたが……

 

「(ヒィィィィィィィィィィィ! やっぱり無理だぁぁぁぁぁアハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! そうだ! これは夢だ! 夢だぁぁアヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァァァ!)」

 

 流石に今の彼にはそこまで考える余裕はなかったし、今スラッシュハーケンを使った行動も何某漫画で見た立体機動装置を使った動きをがむしゃらに模していたに過ぎない。

 

 ただし、ここは巨人がいる世界ではなく『コードギアス』。

 

「な?! 僕のランスロット並みの動きを……たかが量産機であるサザーランドがしているだとああああああぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 よって、スヴェンのした行動はランスロットを経由してモニターしていたロイドに奇怪な声を出させていた。

 

 「セシル君! スザク君に敵のパイロットの捕獲命令を出して! 今すぐに出して!」

 

「え? で、でも────」

「────出して出して出して出して出して出してぇぇぇぇぇぇ!!! ハァ、ハァアハァァァァァ!!! 欲しい! 欲しいィぃぃよォォォォォ!!! 美味しそうなパーツが欲しいぃィィィィぃぃぃぃぃヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!

 

 未だかつてない程興奮しながら息を荒くし、目を皿にしてはだけさした白衣を今にでも脱ぎ捨てる勢いのまま画面を舐めそうになるロイドに誰もがドン引きした。




ショックと好奇心とその他の感情が混ざって変な方向性にねじ曲がった故の暴走です。 (汗汗汗汗汗汗汗


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第21話 変わったことに戸惑う気持ちより痛い

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7/7/2022 7:51
誤字報告、誠にありがとうございますbxs06514さん!


「このまま君を連行する! 死にたくなければ、すぐにハッチを開けて投降しろ!」

 

 ようやくスヴェン機がスラッシュハーケンのワイヤーを切ったランスロットに追い込まれていた。

 

 「(ヒィィィィィィィィィィィィィ! このままじゃブリタニアというかロイドのモルモットにぃぃぃぃぃぃ?! 万事休すぅぅぅぅぅぅぅ?!)」

 

 スヴェンの機体にはありとあらゆるアラームが鳴っており、モニター画面にもヒビが無数に刻まれ、頑丈であるはずの無線機もいつの間にか強力なガムテープ固定から外れて壊れていた様子はいかにどれだけ彼の機体が限界を超えていたのかを物語らせていた。

 

(表情を変えずに)顔色を悪くしたのは何もスヴェンだけではなかった。

 

「(帰還できるほどのエナジーがあるかどうか……でも、何とか間に合ってよかった……頼むから投降してくれ!)」

 

 ランスロットも殆ど無傷ではあったが、エナジー残量が心許無かったのだ。

 

 そこに、スヴェンにとっては天啓にも似た言葉が辺りに鳴り響く。

 

『全軍に告ぐ! 直ちに停戦せよ! エリア11総督にして第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアの名の下に命じる! 建造物などに対する破壊活動もやめよ! 負傷者はブリタニア人、イレヴンに関わらず救助せよ! これ以上、いかなる作戦も行動も私は許可しない!』

 

 クロヴィスが()()()全軍に作戦中止(不許可)を宣言したのだ。

 

「やったー! セェェェェェェフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 ありがとうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 

 ほんにありがたやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 

 もう心の中で“女みたいな名前だな”なんて思わないよカミーユぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!

 

 

 スヴェンは作品も世界も何もかも全然違うことを口にしながら今にでも“アイキャンフライ!”を実行する気分のまま、すべてのアラームが鳴るボロボロの()()()()サザーランドをさらに酷使して、棒立ちしたランスロットから離れて機体が完全に崩れる前に脱出装置を発動させては離脱する。

 

 何故ランスロットが棒立ちしていたかと言うと────

 

「────あの。 えっと、ロイドさん? どうしましょうか────?」

 『────嫌だぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「……へ?」

 

『ロイドさん、落ち着いて────!』

 『────僕の! 僕のパーツが逃げていくよぉぉぉぉぉん!!! あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 『もう! ロイドさん────!』

 『────スザク君! 伯爵家当主であるロイド・アスプルンドが君に命ずる! 何が何でも入手せよ────!!!』

 『────ロイドさん? 節度というものを教えて差し上げましょうか?』

 

 『ア、ハイ。』

 

 通信越しに聞いていたスザクでさえ寒気を感じさせる冷たいその一言で、暴走していたロイドが一気に畏まる。

 

『そうですか。 教えてほしいですか♪』

 

『え?! ちょっと待ってセシル君! セシルさん?! じゃなくてセシル様────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?!?!?!

 

 ブツン。

 

「…………………………………………」

 

 そして衝撃を受けたスザクは決して声の持ち主であるセシルを何が何でも絶対に怒らせないよう、肝に銘じたそうな。

 

「それにしてもあのパイロット……危険すぎる。 もしあれがグロースターか、もう少しでも僕がミスを犯していたら……精進しないと!」

 

 尚もしこれをスヴェンが聞いていたらスライディング土下座を決めながら『偶発的な事故が事故に重なった億に一にあるかどうかの機転でしたモノですもう勘弁してくださいましもう本当に無理ですお願いします』と全力で媚びていただろう。

 

 

 


 

 

 あれから一晩経った今でも、スヴェンはほぼ寝たきり状態だった。

 

ぐおぉぉぉぉぉぉぉ……」

 

 俺、疲れたよパトラッシュ……

 

「うぎぎぎぎぃぃ……」

 

 俺は今、シュタットフェルト家の自室でベッドに横たわりながら我慢したうめき声を出して近くのスポドリ入り水筒を飲み干す。

 

 クロヴィスの戦闘中止命令で助かった俺は、あの後すぐに奪取した()()()()()()()()()を隠してから屋敷に戻り、そのままベッドに倒れこむように身を投げて爆睡した。

 

 これも生き残るための布石だ、自室の中に非常食や荷造りしたリュックのように。

 それに、コードギアスの世界でナイトメアを所持しているかどうかで生存率がガラリと変わるからな。

 

 だが今、対ランスロット戦で身体を酷使した反動で体中のあらゆる筋肉と腱がかつてない程悲鳴を上げていた。

 

 と言うか筋肉があったなんて知らなかった場所も痛い。

 今まで筋肉痛はあっても一晩経てばすぐに回復したのに……

 

 これが“若さゆえの過ち”って奴か?

 

 ちなみにいつの間にか目を開けたらフルーツの盛り合わせ(切り分けられたリンゴがウサギ型)がベッドスタンドに置かれていたので多分、寝ている間に留美さんが様子を見に来たのだろう。

 

 本当に気遣いがありがたい。

 

 というわけでシャキシャキシャキシャキシャキシャキ~。

 

 ごっそさんでした。

 

 あとカレンと同じ屋敷にいるというのに上手く動けない状態だから携帯で隠語ありのやり取りを軽くしたが、無事に扇さんたちも原作通りに生き残ったようだ。

 

 玉城も。

 

 俺としては原作通りで結果オーライで満足できる筈なんだが……一つだけ気になることがあった。

 

 未だに夢を見ている気分で、寝たきりのまま腕だけを使ってパソコンを開き、ネットから貴族使用人用の裏サイトにアクセスする。

 

 書かれているものは殆どがガセネタか噂に基づいているものだが意外と使える。

 

 その中でも、俺はとあるスレッドのタイトルを見る。

 

『神聖ブリタニア帝国第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアが凶弾にて()()()?!』

 

 ……これ、多分だけど要するに『クロヴィスが撃たれました~!』って書いてあるんだよな? 

『クロヴィスが死にました~!』ではなくて?

 

 原作でクロヴィスはギアスを使い、接近したルルーシュによって尋問された後ノータイム零距離で脳天を撃たれたはず。

 

 つまりは有無を言わさずの即死だった。

 

「(これって俺の、所為なのか?)」

 

 そんな疑問(不安)が俺の脳裏でチリチリと燻っていた。

 

 だがあの日からこうもずっと報道されているのは()()()ということだけ。

 原作で起こったこの事件を俺はよく覚えている、何せクロヴィスの死を皇帝シャルルが葬儀で国威発揚の演説に使うからな。

 

 もしシャルルが“なぜだぁ?!”とでも叫ぶ場面があるのなら、俺はすかさず“坊やだからさ”とサングラスをかけながら返したい。

 

『心の中で』だけど。

 

 ただまぁ……そうなると俺自身が『孤独の復讐をする為に皇族を皆殺しにする』ルートに突入するからご勘弁願いたいけどな。

 

 っと、現実逃避はこれぐらいにしておこう。

 

 俺はベトベトの身体をシャワーで洗い流そうと思い、立ち上が────

 

おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ?!」

 

 ────ろうとして俺を襲う痛みから動きを断念する。

 

 マジで痛い。

 

 痛い

 

 もうそれしか言いようがない。

 

おおおおおおぉぉぉぉ……」

 

 だけどよく考えたら俺……基本装備の上に不完全だったとはいえ、ランスロット相手に生き残ったんだよな?

 

 地味にすごくね?

 それか現時点で俺なりに考えた対ランスロット対策がかなりスザクを動揺させたか。

 それとも単に運がよかったか……

 

 どっちでもいい。

 

 誰か俺を褒めてプリーズ。

 

 …………………………癒しが……癒しが欲しい。

 

 ガチャ!

 

「すb────スヴェン? 起きている?」

 

 入ってきたのは『病弱設定口調』のカレン。

 

 何しに来たお前。

 

「身体、拭きに来たよ?」

 

 神様、この系の癒しは求めていないッス。

 

 というかもう動き回れるほどに回復していたのかカレン?!

 昨日の今日だぞ?!

 

 分かってはいたけれど、マジで原作ではスザクに次いでの化け物だな!

 

 原作で着ぐるみ着てスザクを追うこともできていたし……

 

 というわけでタライとタオルだけを受け取って、他は断った。

 

 え? 『もったいない!』だって?

 

 あのな?

 今だから言うけど、カレンの辞書に『加減』なんて言葉は存在しないんだよ。

 子供のころ、ナオトさんがマジで痛がる愚痴をしていたぐらいなんだ。

 

 それに扇も参加して、ナオトさんの赤くてヒリヒリしてそうな背中に軟膏を塗ったのは何を隠そう彼だ。

 

 と言うわけでカレンの気持ち(とタオル他)だけは受け取った。

 

 さて、明日からまた学校だ。

 気を引き締めていこう。

 

 あ。 あとアンジュリーゼと毒島にお礼をしなきゃな。

 

 毒島は剣術部に(あと保健室に予約を入れてから)顔を出すとして、アンジュリーゼは多分────

 

『ち、知人として当然のことをしたまでですわ! お礼ならば貴方の作る献上品ならば、考えなくもないわ! (縦ロールふさぁ)』

 

 ────なんてことを言いそうだから、多分スコーンかクッキーを焼けばいいだろ。

 

『紅茶抜きで茶菓子を食べろと? (ジト目)』 ←またもスヴェンの脳内アンジュリーゼ

 

 そうだな、紅茶付きであげよう。

 

『よくってよ! (フフンッ)』←まだスヴェンの脳内アンジュリーゼ

 

 はいはい。

 

 …………………………あ。

 

 カレンに湿布を頼んでおけばよかった。

 

 身体を拭いてからでも呼び戻せないかな?

 

 

 

「なんで私が湿布なんかをブツブツブツブツ……

 

 結局呼び戻せました。

 そしてカレンが自分用に使っていた湿布を今貼ってもらっている。

 

「はい、おわ~りッ!」

 

 バシン!

 

「グッ?! (最後のは必要ないだろうが?!)」

 

「喝、入ったでしょ?」

 

 いらねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 

 仰向けになっていたスヴェンは見えなかったが、カレンは年相応の無邪気な笑顔を浮かべていた。

 

 

 


 

 

 

 微睡の中、クロヴィスは夢を見ていた。

 懐かしく、酷く、残酷な夢を。

 

 それは7年前、平民でありながら他者を圧倒的に凌駕する能力で騎士侯という爵位だけでなく、実質的な帝国最高の称号である『ナイトオブワン』まで獲得し皇妃になった、ある意味クロヴィスにとっては憧れる、実在する英雄譚の英雄。

 

 自分自身が武勇に優れていなくとも、“別の能力で他人より優れていれば認められる”という象徴。

 

 そしてその象徴は暗殺され、形見であるルルーシュたちは政治の道具(人質)として『日本』という、サクラダイトと言う物質しか取り柄のない極東に送られて戦争に巻き込まれ、呆気なく死んだ。

 

 その銃口が自分に向けられて火を放つ────

 

「────ウッ?!」

 

 クロヴィスが目を開けて身体をビクリと跳ねさせると今までに感じたことの無い痛みが腹部から伝わり、視界がぼやける。

 

「で、殿下?」

 

 クロヴィスは聞きなれた声の方向を見ると────

 

 「────ガマガエル?」

 

「バ、バトレーです……」

 

 明らかにしょんぼりとするバトレー将軍がドア付近に立っていた。

 クロヴィスが目を凝らして周りを見ると、自分が病室にいることがうかがえた。

 

「お兄……さまぁ~……」

 

 そして自分の太股に身を乗せて寝ていたライラに気付き、バトレーが口を開ける。

 

「殿下の妹君様は、“ずっと起きるまでいる”と言ってつい先ほど眠られました。」

 

「状況は? あれからどうした?」

 

「……………………」

 

「言え、バトレー。」

 

「は、はい。 ではまず、“アレ”に関してですが包囲網が崩れた際に見失ってしまいました。」

 

 バトレーが“アレ”と呼ぶのは、彼らが『コードR』と呼んでいたCCという少女だった。

 

「……それで?」

 

「つ、次は『殿下が倒れた』という事でエリア11の総督の入れ替わりを皇帝陛下が命じました────」

「────バトレー。 私が聞きたいことはそんなことではない。 私が聞きたいのは賊の事と、私の状態についてだ。」

 

 バトレーは気まずい顔をし、いつもの豪華そうな服から病院着を着ていたクロヴィスを見る。

 

「…………侵入した賊に関して誰も、私を含めて()()()()()()のです。」

 

「なに?」

 

『覚えていない』。

 これは、ルルーシュがギアスを使うと対象の直前と直後の記憶が脳に入力されない為である。

 

 だがそんなことをクロヴィスたちは知る余地もなく、ただ単に『不可解な侵入経路を使った』と言った事実だけを見抜く。

 

「……恐らく、()()だな。」

 

「ええ、()()でしょうね……ですがまさか私の施設以外に、C()C()()()を────」

「────バトレー。」

 

 クロヴィスはバトレーから、スゥスゥと寝息を立てるライラを見る。

 

「ング……申し訳ございません、殿下。」

 

「それで? 私自身の状態はどうなのだ?」

 

「……………………殿下。 心苦しいのですが……脊髄損傷だそうです。」

 

 重い石がずっしりと体に乗ったような感覚にクロヴィスは眩暈がするのか、目を腕で覆う。

 

「…………………………そう、か…………ライラはもう────?」

「────はい。 既に殿下が損傷したことは見ての通り存じておりますが…………」

 

「見込みはどうだ? はっきりと申せ。」

 

「……医者どもの見立てでは、回復する()()()はございます────」

「────だが低いのであろう? お前のその言い方と態度で丸わかりだ……この後、どうなる?」

 

「ハッ。 皇帝陛下がこちらに来る予定です。 恐らくは殿下の見舞いに────」

「────ハッ。 父上が情だけで動くものか。 恐らくは今の状況を逆に利用するのだろう。」

 

「それと、今は総督の代理として私が任命されていますが……次の総督が引継ぎをなされば、殿下に負傷を許した私は本国に呼び戻されるでしょう。」

 

「……そうか。」

 

「申し訳ございません、殿下。」

 

「よい、気にするなバトレー。」

 

 クロヴィスの目を覆う腕の下から、雫が彼の頬を伝って枕に落ちていく。

 

 感覚が無く、力の入らない下半身を感じながら『これがナナリーたちの感じていた気持ちの片鱗なのか』とだけ彼は思い浮かべていた。




何がどうしてクロヴィスがこうなったのかは次話で明かす予定です。 (´・ω・`)/


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第22話 ある事ない事、さすミレ

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「(“第二皇子シュナイゼルと第二皇女コーネリア……彼らが知っている”、か。)」

 

 ルルーシュは先日、ギアスを使ってクロヴィスから聞いた『実の母親を殺したのは誰だ』の問いで得た情報を考えながら生徒会の書類処理をしていた。

 

 とても初めてギアスのような超能力を使ったとは思えないような行動に出た彼は、クロヴィスのいるG1ベースの付近にいたバトレー将軍含めて警護の兵士たちまでも巧みに離れさせてからクロヴィスと(変装越しとはいえ)直接相対した。

 

 その勢いは初めて自転車を乗りこなした子供のように興奮、感情が高まった状態だった。

 初めてのギアス、初めての指令経験、初めての勝利。

 

 それ等が全て合わさり、原作での彼は怒りと復讐の意味もかねて皇族であるクロヴィスをわざと煽るような言動をしていたが、アッシュフォード学園にライラが突然来たことで警戒からガスマスクを脱いではすぐにギアスをかけて単刀直入に質問へと切り出していた。

 

「(だがまさか、ライラが転入してきた理由が“愛する妹に頼まれたからだ”とは夢にも思ってもいなかったがな。)」

 

 余談だが、その答えを真顔のまま答えたクロヴィスに対してルルーシュ本人は思わず『はぁ?』と気の抜けた声を出して呆れていた(すぐに気を引き締めたが)。

 

「(しかしまさか、『人を自らの手で撃つ』という行為があれほどまでに精神的負担を強いられるとは……予想外だった。)」

 

 意外なことに、ルルーシュは質問をしたあとクロヴィスを殺すつもりだった。

 持っていた拳銃のレーザーポインターをうろたえながら命乞いをするクロヴィスの額に合わせて引き金を引こうとした瞬間、()()()()()()()()()()()のだ。

 

 これは別に物理的な変化があったわけではない。

 

 人は初めて他人を害するとき、特殊なケース(例えば上記で記した興奮状態)や慣れ(訓練を積んだ兵士)などを除いて『躊躇い』を本能で感じる。

 

 これは別に『相手を傷つけたくない』等といった同情からではなく、単純に『相手を害すれば己も害される可能性が出てしまう』という保守的本能が無意識に働くからである。

 

 これをルルーシュは『引き金が重い』と錯覚し、指に力を入れ過ぎた結果に彼が撃った弾丸は距離もあり、クロヴィスの額から腹部へと着弾した。

 

 それと同時に足から感覚がなくなっていくことと気分が悪くなったルルーシュは最後までクロヴィスの状態確認もせずに無理やりその場から走って撤退した。

 

 意外にも、スヴェンがルルーシュの(ギアスを使った間接的手段とはいえ)『初めの殺し』を妨害した結果が既にここで出ていた。

 

 よって原作とは違い、クロヴィスは重症ながらも生き永らえていた。

 

 さらに余談だがライラと少しの間(監視の為)とはいえ時間を共にしたことも関係あったのかもしれない。

 ルルーシュは決して認めはしないし、表面的な意識もしていないが、ほぼ毎日のように生徒会に来てはシャーリーやミレイとともに空気を軽くさせる姿はどこか昔のナナリーを彼に思わせていた。

 

 そんな彼女の兄を殺せば、どうなるかは予想がつくが上でも記したようにこのことを言われても未だに吐き気がするルルーシュは決して認めないだろう。

 

『自分がそこまで(覚悟が)甘かった』だなんて。

 

 

 


 

 

 

 ベシ!

 

「うぉ?!」

 

「こぉら、ルルーシュ! 今お得意の居眠りをしていたでしょ?!」

 

 考えに耽っていたルルーシュの頭をミレイが丸めたポスターで叩いていた。

 そしてスヴェンこと俺は、コードギアス特有である学園(癒し)パートを全力で満喫していた。

 

 これだよこれ♪

 思春期真っ最中の少年少女のやり取り……

 ええのぉ~~~~♡

 ほっこりする♪

 

「いえいえ、今のは考えごとをしていたんですよ会長。」

 

 シレっと嘘をつけるところもルルーシュだな。

 

「なら俺と動かなくなったバイクを置き去りにした罰だと思えばいい!」

 

 そういや、リヴァルは原作で置いてけぼりを食らったっけ?

 

「リヴァル、お前なぁ……」

 

「そういえばルルって結局、昨日は何していたのよ? 何度も掛けなおしても繋がらないし!」

 

 リヴァルの次に、今度はシャーリーがルルーシュに問いをかける。

 

 何せシンジュク事変、彼はシャーリーに電話をかけて外部からのニュース情報を取るだけ取って電話を切った。

 

 一方的にである。

 

 俺から見てもそれは『無い』な。

 え?

『毒島の時もお前はやっただろ?』だって?

 

 だって……毒島だし?

『気にしていないぞ私は! ただし私の相手(サンドバッグ)をしてくれ! ん? 何か他の単語が聞こえただと? 気のせいだ!』

 

 保健室の予約制ができたのも、彼女のおかげ(?)だ。

 

「ああ、昨日は────」

「────ルルーシュのことだから、賭け事で負けた奴に追われて逃げていたのではないでしょうか? あとミレイ会長、これらの確認をお願いします。」

 

 そこにニコニコしながらペンを走らせていた俺は言い訳を考えていたルルーシュの言葉を遮り、終わった書類の束をミレイに渡す。

 

「「早?!」」

 

 ミレイとシャーリーの呆気顔、ゲットだぜー!

 フフン!

 従者見習いと貴族の英才教育は伊達じゃない!

 

「スヴェン、お前早すぎだろ?! もっとのらりくらりしようぜ~?」

 

「リヴァルも本気を出せば、これぐらいどうということはない筈さ。」

 

 つかお前、本気出したら普通にお前の本命を知らない女子にモテまくるぐらいの実力あるのに、カリフォルニアの親父が嫌いだからってグレて母方姓の『カルデモンド』を名乗ってブラブラするから『ダメ男』とレッテルを張られてミレイが相手をしてくれないんだよ。

 

「そこでシャーリーの名前を省いた理由はあるのかな?」

 

 ほらな? こいつ(リヴァル)、実は聡い方なんだよ。

 能力の使い道が間違っているだけで。

 バイクの魔改造をしたり、裏サイトで女子のスリーサイズ表なんか作ったりして。

 

 ナナリーの欄があったからそこは念入りに潰したけどな。

 

『ユーザーからのご希望?』だと? 知らねぇよ。

 

 園芸部の男子の何名かはその金を別のモノに使えよ。

 

「シャーリーは元から脱線しようとしたリヴァルに便乗しただけ、と言えばわかるかな?」

 

「はいはいはいはい! スヴェンの手伝いがあるといっても、彼がいつ出ないといけなくなるか分からないから部活の予算審査に専念しましょ!」

 

 俺の反論にリヴァルは苦笑いを浮かべ、ミレイが無理やり話を戻す。

 

「ま、降りないだろうけど馬術部がまた乗り込んできたらスヴェンに賭けてまた勝ってもらおうぜ?」

 

 そこで俺に頼るなよ。

 

 俺は何某猫型ロボットじゃねぇっつーの。

 

 今度からお前を『の〇太』と呼び始めるぞコラ。

『しょうがないな~リヴァル君』を言い始めるぞ?

ゴルディオンハンマー(ピコピコハンマー)』をミレイに渡すぞ?

 

 それに馬術部がカチコミしてきた時も、あれは状況が重なっただけだ。

 

 ミレイが俺の腕を離さずのまま頼み込んだ角度でその日の彼女が装着した大人の下着をチラ見させている間、勝手に話を進めて俺が生徒会代表として駆り出されるし……

 

 マシュマロ(たわわな胸)の誘惑には勝てなかったよチクショウ。

 

 ま、馬は人と違って素直だし? 馬乗も案外楽しいから全力出して勝ったけどな。

 けど二度目はノーサンキューだ。

 俺はそもそも生徒会役員じゃないし、勝手に準生徒会員のような扱いを流れ的にされているだけだし。

 

 ミレイが猫祭りをまた開催したら考えてもいいが、その時は絶対に口にするぞ?

 

 ナナリーに着せる衣装の丈をもっと長くしろ!

 車いすに座っている彼女にミニスカワンピースなんてものを着せたらパンツが見えちゃうでしょうが?!

 

 それにな、リヴァル?

 あの後馬術部がどれだけしつこかったか土下座のまま説教してやろうか? ん?

 お前のバイクがボロボロだったのも、奴らから逃げるために俺が乗っていたからだぞ?

 

 ガァァァァァッツ!」

 

 キィィィン。

 

 近くにいた俺は耳鳴りに耐えながら淡々と書類を片付けながら原作シーンがリアルで演じられたことで癒しを味わい、次の来るはずのシーンに内心ワクワクする。

 

 そういえば次回は『ミレイガッツ』を録音して、彼女の着メロにすればいいな。

 着メロが~♪ 増えてく、増えてく~♪

 

「ま、またそれですか?」

 

「そう♪ これは皆が頑張りたくなる呪文で~す♪」

 

「そんなインチキ魔法にかかりませんよ、会長。」

 

「あ、じゃあ私はかかったことにします!」

 

「うん、皮肉屋ルルーシュと違ってシャーリーは素直で肉体派だから安定の返事ありがとう~!」

 

「“鍛えている”って言ってください!」

 

「う~ん、確かに鍛えているから腰も贅肉も引き締まっていてトップとアンダーのバランスが整って良いわね~♡」

 

 ミレイ(と彼女に釣られてリヴァル)が見たのはシャーリーの決して小さくはない、制服の下からでも主張をする双山()だった。

 

「なななな何言っているんですか?! 会長の変態!

 

 シャーリーはパッとそれらを隠し、ミレイはニコニコし、リヴァルはニヤニヤし、ルルーシュは困った笑いを出し、ニーナは黙々と書類を片付ける。

 

 俺はと言えば書類を片付けてはいたが内心、ここにいる筈であるライブラのことが気になっていた。

 彼女も彼女でシャーリーに負けず劣らずのムードメーカーだからな、いるだけで楽しくてウキウキする。

 

 彼女は昨日から学園から姿を見せていなく、代わりにアリスがクラブハウスに来ては『今日、ライブラは恐らく来ません。 そして彼女の付き添いで病院に行くので私も早退します』とだけ言い残したのだ。

 

「(このタイミングで『病院への付き添い』となると、ライブラにはブリタニア軍人に知り合いがいるということか? それともシンジュク事変に巻き込まれた人────?)」

「────ねぇスヴェン? ここにいて大丈夫なの? 今日、“彼女”来ているでしょ?」

 

「大丈夫ですミレイ会長。 もしダメでしたら私はここにいませんよ。」

 

 ミレイが言う“彼女”とはカレンのことだ。

 流石に一年とは違って二年は何回かは顔を出さないといけないらしく、今日は登校しているのだ。

 

「お?! 会長、『幻』の一人が今日来ているんですか?! 珍しい!」

 

 ちょっと待て。

 何だそのあだ名は?

 どっから来た?

 

 というか“幻”とはどういうこっちゃ?

 

「あれ? スヴェンは知らないの? 女子たちの間でスヴェンは『幻の紳士』で通ってて~、カレンは……ええと?」

 

「『幻の赤バラ』だ!」

 

「そうそう、それ! ありがとうリヴァル!」

 

 シャーリー、俺の心境を読んでからの説明ありがとう。

 

「……『幻の赤バラ』?」

 

「お? さすがのルルーシュも気になるか?」

 

 あ、この流れは……

 原作でルルーシュがカレンにギアスを使う日だ。

 

 危うく俺の生き残る次の布石を打つタイミング見逃すところだった。

 

 “ダメだ、気が緩んでいたな”と思いながら、俺は今処理していた書類を最後に立ち上がる。

 

「ミレイ会長、やはり彼女の様子を見に行ってきます。」

 

「ちなみにアンジュリーゼちゃんは今日、剣術部に通う予定らしいから~♪」

 

「……?????」

 

 ニマニマしながらそう言うミレイに対し俺は?マークを浮かべる。

 なんでそこでアンジュリーゼの名前が出てくるんだ?

 

「……なぜミスルギ嬢の名が出てくるのかは存じませんが、ありがとうございます。」

 

「そういうことにしておくわねぇ~♡」

 

 いや、そんな顔をされてもマジで分からんがな。

 たまにミレイはこのように意味不明なことを言うが……

 

 彼女のことだ、悪いことではないだろう。

 

 あ。

 焼いたクッキーを渡しやすくする為に居場所を教えてくれたのか。

 

 流石ミレイだ。

 

 

 


 

 

 

 ルルーシュたちはニコニコしながらも?マークを浮かべていたスヴェンをクラブハウスから見送る。

 

「……会長?」

 

「ん? なぁにルルーシュ?」

 

「今のはどういう意味でしょうか? なぜアンジュリーゼさんの名が出てくるのですか?」

 

「むっふっふー! 知りたい? ねぇ、知りたい?」

 

 ルルーシュたちは『聞いて! ねぇ聞いてよ!』といった空気を出すミレイを見て全員が頷く。

 

「実はね、噂なんだけど~────」

 

 

 

 

 スヴェンは知る余地もないが、数分後にクラブハウスからは『えええええええ?!』と顔を紅潮しながら叫ぶシャーリー。

 

『アイツが羨ましいぃぃぃぃぃ!』と(心の中で)血の涙を流しながら叫ぶリヴァル。

 

『あ、そうなんだ』と呆気らかんに平然と口にするニーナ。

 

 そして────

 

「(────ほう。 これは使えるな……使えるか?)」

 

 ルルーシュはわずかながら邪悪な笑みをしながらそう思い書類が終わった皆と一緒に教室へと向かう。

 

 教室にルルーシュが戻るとクラスは先日のシンジュク事変のニュースで盛り上がっていた。

 

「あ……ルルの言っていたことって────?」

「────そう、このことだったんだシャーリー。 知り合いがリアルタイムで見ていたらしくてね? (おかしい……なぜあのことを伏せる?)」

 

 “あのこと”とはクロヴィスが撃たれたことの情報が出ていなかったのだ。

 

『総督が賊によって撃たれた!』など、メディアにとってはこれ以上ない美味しいネタの筈だというのに────

 

「────カレン! 久しぶり!」

 

「(ん?)」

 

 ルルーシュが見たのは儚げな、あるいは眠たそうな表情を浮かべた赤髪の少女がクラスメイト達に囲まれた場面だった。

 

 そして彼女の半歩後ろに立っているスヴェンの姿。

 

「(なるほど、あれがスヴェンの仕えているシュタットフェルト家のご令嬢か。)」

 

「ん~? ルルーシュ、もしかして彼女を狙っている?」

 

 リヴァルがからかいと本気半分ずつの問いをルルーシュにするとシャーリーの耳がぴくぴくと聞き耳を立てた。

 

「違うよ、“珍しい”と思っただけだ。 始業式以来だからな。 (なるほど……グラスゴーに乗り込んだ女をどこかで見たと思ったら、似ていたからか……あるいは……)」

 

「お目が高いね~、ルルーシュ。 『カレン・シュタットフェルト』。 体が弱いらしくて去年もお目にするのは数回程度。 

 でも成績は抜群に優秀で、もっぱらの噂ではスヴェンが手取り足取り教えているとか教えていないとか。 あ、これちなみに男性陣の妄想ね?

 あとシュタットフェルト家のご令嬢だから金はあるし、箱入りで性格も穏やか♪

 でもバラ(お姫様)に近づくにはトゲ(スヴェン)を突破しなくちゃいけない。 難易度が高いけど、ルルーシュなら出来なくも────」

「────だから違うって。」

 

 余談だがシャーリーは体をよじらせてまで聞き耳を立てていた。

 

 そしてその所為で思わず机から落ちそうだったそうな。




ペンが! ペンが止まらない~~~! *注*実際はキーボードです。


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第23話 手刀でハチを

切りのいいところまでなので少し短めです、申し訳ございません。 m( _ _;)m

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 俺は珍しく登校したカレンの『従者見習い』をしながらドキドキしていた。

 

 場所は中庭で、カレンの知人たちに加えて以前に『アンジュリーゼビンタ』を目撃したシュニ、マイヤー、ベラルの三人*1とワイワイしながら弁当を食べていた。

 

 一応言っておくが、ドキドキしていたのは何もキャピキャピする女子学生特有の甘~い空気を味わっていたからではない。

 

 カレンは『病弱設定』で相槌を儚げに返すだけだが、蚊帳の外である筈の俺は原作ではいなかった人たちが来たことで冷や汗を掻いていた。

 

 その三人がいつ、『アンジュリーゼビンタ』をうっかり暴露してしまうかどうかで生きた心地がしなかった。

 

 ……ゲロ吐きそう。

 

 ヴヴヴヴヴヴヴ。

 

 おい。 そわそわするなカレン。

 蜂が来ているのはわかっ(聞こえ)ている。

 

 バチン!

 

 というわけで、笑顔のままかつ『紳士の平手で払い落し』じゃい。

 

「きゃ?!」

「は、蜂?!」

 

「お怪我はございませんかお嬢様方? (ニコッ)」

 

「「「「「きゃ~~~~♡」」」」」

 

 ……何で俺こんな設定にしたんだろう。

 

 「プ、プププ……」

 

 何だよカレン?! 文句あるのか?! 笑うなよ! 

 絶対に笑うなよ?! お前の病弱設定が崩れるからな?! 

 腹筋を力ませろ! 耐えろ! 耐えるんだ!

 

 プルプルプルプルプルプルプルプル

 

 それは力み過ぎだ! 身体が震えているじゃねぇか!

 

 ヴヴヴヴヴヴヴ!

 

「きゃあ!」

「また蜂よ!」

「逃げて逃げて~!」

 

 おぅふ。

 蜂が次々と出てきた。

 流石にこれを全部払い落したら確実に咲世子さん並みの超人認定されてしまう。

 

 というわけでカレンと一緒にすたこらサッサ~。

 

 シュパ!

 

 茂みの後ろにカレンの後を追うと彼女が手刀で俺たちを追った蜂を落とす。

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! この設定、イライラする!」

 

 「ぼやかないぼやかない。 覚悟を決めて『病弱設定』にしたのはカレンだろ?」

 

 てかよく見たら蜂が真っ二つに切られているやんけ?!

 

 どんな手刀やねん?!

 

 ……大きくなったらビール瓶を素手で開けられたりして?

 

 ガサッ。

 

「ッ?! だ、誰?」

 

 来たか。

 

 そう思いながら俺はカレンの視線の先を見ると案の定、目を細めていたルルーシュが立っていた。

 

「『質問に答えろ』。」

 

「あ……はい。」

 

 ルルーシュの左目が赤くなり、ギアスの紋章が浮かび上がって隣のカレンが気の抜けた声を出す。

 

 これだ。

 これを俺は狙っていた。

 

 ルルーシュのギアスは『絶対遵守』。 

 直視で視線を合わせた相手の神経(シナプス)をいじって絶対的な暗示状態へと陥れる。

 これに多少は抗うことは出来ても、最終的には命令を実行してしまう。

 

 一見するとかなり応用範囲で強力(厄介)な能力だが、欠点は幾つかある。

 

 1. まず相手がルルーシュの目(詳しくはギアスの宿った左目)を直接見ている

 2. 一番の状態でルルーシュが口頭で命令しなければならない。 (声が聞こえていなくともルルーシュの口の動きで伝わる)

 3. 同じ相手には一度しか使えない

 4. 直視でも射程距離あり(原作でルルーシュは“約270m”と言っていた。

 

 大まかにこうだった……筈だ。

 

 しかも厄介なことに対象の神経(シナプス)をいじった副作用でギアスを使われる直前、途中、直後の記憶は残らない。

 

 てか四番の奴の例え方はなんだよ。

 レーザーかよ。

 “真の英雄は目で殺す”かよ。

 

 ……まぁ、それを置いとくとして?

 見ての通り厄介だから、俺は『同じ相手には一度しか使えない』と、『ルルーシュがまだ自分のギアス誓約に不慣れだ』ということに賭けて()()()()()()()()()()ことにした。

 

「……おい。 『質問に答えろ』!」

 

 あれ?

 ルルーシュの顔がさらに険しくなって俺を見ているぞ?

 ……………………………………え?

 

 …………………………………………………………………………もしかして、ギアスが俺に効いていない?

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ナンデ?

 

 

 


 

 

 どういうことだ?

 

「……おい。 『質問に答えろ』!」

 

 彼女(カレン)はすぐに『命令』を受託したというのに、なぜこいつ(スヴェン)は違う?

 

 まさか、力が通用していないのか?

 それとも抗っているのか?

 もしくは別の要因(ファクター)でもあるのか?

 

「あ、はい。」

 

 そう考えているうちにスヴェンがカレンと同じような口調で答える。

 

 まさかこの(ギアス)、効果が『一人ずつ』だというのか?

 それとも再使用に、時間がかかるのか?

 

 ……やはり早急に、今日中にでも力のスペックを見切らなければいけないな。

 

「おい女。 昨日、シンジュクでグラスゴーに乗っていたな?」

 

「はい。」

 

「そしてお前(スヴェン)。 お前ももしかして、昨日はシンジュクにいたのか?」

 

「はい、いました。」

 

 なるほど、通りで珍しくこいつ(スヴェン)も欠席していたわけだ。

 

「二人はテロ活動をしているのか? それはなぜだ?」

 

「私は日本人だから。 ブリタニアの血も半分入っているけど。」

「私もハーフです。 支援をしている身で、テロ活動自体はしていません。」

 

「な?! (は、ハーフだと?!)」

 

 これは……少し予想外だ。

 

 俺が驚いたのは見た目の事だけではない。

 ハーフはある意味、ブリタニア人からすればナンバーズ(原住民)以上に見下される対象になりがちだからだ。

 

『汚れた混血』、『雑種』、『出来損ない』など。

 ナンバーズ(原住民)は『人ではない』が、ハーフはそれだけということで『軽蔑の対象』だ。

 

 そんな二人がシュタットフェルト伯爵に保護されているどころか、正式な『ご令嬢』と(見習いではあるが)『従者』だと?

 

 いや。 今、それは良い。

 肝心なのは過激になりがちな男のスヴェンではなく、女のこいつが直接戦闘をするという事だ。

 ナイトメアフレームの操縦など強力な兵器を乗る分、それだけ敵の的にされやすい。

 

「何がお前(カレン)をそこまでさせる?」

 

「ブリタニアのせいで、大切なお兄ちゃんは死んだ。 隣の彼も、ひどい目に遭った。 だから、私はブリタニアが憎い。」

 

 至極単純な理由だが、それほどまでに憎んでいるということか。

 兄が亡くなっていれば、なおさらか……

 

お前(スヴェン)は?」

 

「私はカレンの付き添いということで、情報屋まがいのことをしています。」

 

「主人と一緒に、直接戦闘に加わらないのは何故だ?」

 

()()()()()()()()からです。」

 

「……………………綺麗事だな。 ()()()()?」

 

「違う。 私は『綺麗事で何も変わらない』というのを信じない。 『やり方は他にもある筈だ』と視野を常に広くさせているだけで、“人を殺さない”とは言っていない。」

 

 そう俺が思わず吐き捨てると、スヴェンは出された質問に答えた。

 

「ッ。」

 

 こいつ(スヴェン)は……()()()()()()()()()()

 

 まだ昔、スザクと出会ったばかりの……

 

「『もういい』。」

 

『終わり』を告げるとカレン、そしてスヴェンの二人がキョトンとしたような顔を浮かべて俺を見る。

 

「えっと……私たちに何か用?」

 

「いや、もう用は済んだ。」

 

 俺は踵を返し、そこで念には念を入れてギアスをもう一度発動させる。

 

「ああ、それと『シンジュクのことは誰にも言うな』。」

 

「「???」」

 

 ん?

 二人の様子が────

「────ちょっと“シンジュク”って、どういうことかしら?」

 

「?!」

 

 な?! 

 ギアスが、効いていない……だと?!

 

 いや、ただ単に俺の目を見ていなかっただけか?!

 

 それとも不発か?!

 

「『教室に戻れ!』」

 

「先に貴方が質問に────!」

「────お嬢様。 貧血を起こしてしまいますよ?」

 

「ぁ……ご、ごめんなさい────」

『────ルルー! カレンさんにスヴェンく~ん! 次、理科準備室だよ~!』

 

 どこか病弱とは思えないほどヒートアップする予兆を見せるカレンを、スヴェンが落ち着かせると背後からシャーリーの声が聞こえてくる。

 

 だが俺にとって好都合だ!

 

「あ、やっべ! 俺、実験器具を出さなくっちゃ!」

 

 とにかくここは戦略的退散だ(逃げる)

 

 何かまだ言いたげなカレンを俺は無視してその場から走る。

 

 クソ、やはりこの力を優先的に調べつくさなければならない!

 

 このような初歩的ミスを、俺がするとは何たる失態!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 良し。

 取り敢えずこの力を検証して判明できた条件は幾つかあるが、強力な道具()だということに変わりはない。

 

「お兄様?」

 

「ッ。 ごめんナナリー、ちょっと考え事をしていた。 なんだい、それ?」

 

 俺が意識を愛しい妹のナナリーに戻すと、彼女から渡されたのは紙でできた鳥や動物を形どる紙だった。

 

「これらはね? 咲世子さんとスヴェンさんに教わった『折り紙』というものですの。」

 

「『オリガミ』?」

 

「一枚の紙を器用に折ると様々なものが作れるんです。 鶴やカカシ、カエルにインコにウサギや船に、船長さんの帽子まで。 凄いですね?」

 

「あ、ああ。 確かに。 (やはりスヴェンがハーフだということは本当だったのか。 ならばギアスにはちゃんとかかっていたということか?)」

 

 

 尚原作では咲世子がナナリーに教えたのは鶴だけだったがスヴェンも加わったことと、彼が懐かしみから()()張りきったことでナナリーが折れる折り紙の種類がかなり増えていた。

 

 

 ルルーシュはナナリーと嘘のない、本心からのやり取りをしながら並行で今日の失態を悔いていた。

 

「この鶴をね? 千羽折ると願いが叶うんですって……お兄様なら何を願いますか?」

 

 『ナナリーの幸せに決まっている!』

 

 そう言い(叫び)たい衝動を(ルルーシュ)はグッと全力で抑えて逆に質問を質問で返す。

 

「そういうナナリーは?」

 

「私ですか? う~ん……『優しい世界でありますように』、と。」

 

 ナナリー……

 俺が必ず、少なくともお前にとってはそうである世界を作ってみせるよ。

 

「じゃあそんな世界が出来上がるように、俺は頑張るよ。」

 

「本当ですか? じゃあ約束しましょう?」

 

 そこでナナリーはなぜか小指を出す。

 咲世子さんから教わった、日本流の約束の仕方らしい。

 

 ナナリー……

 お前にだけは、絶対に嘘をつかないと約束するよ。

 

 今も、これからも……

*1
8話より



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第24話 原作の初回サービスシーンをミスる

前回が短めでしたので今回はちょっと長めです。 (´・ω・`)

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 マジでビビった。

 

 なんでルルーシュのギアスが(スヴェン)に効かなかったの?

 いや、こう……『答えたくなる』感じが湧き上がったから効いたのか?

 けど……それだけだぞ?

 え? なんで? え?

 もしかして俺の勘違い?

 ルルーシュのギアスはこの世界では違う効果なのか?

 でもカレンは原作通りに全部ゲロっていたし、ルルーシュの様子だとちゃんと『ナイトメアから降りろ!』も原作通りの流れのまま……

 

 最後もちゃんと原作通りに、シャーリーが二階の窓から彼とカレンの様子を窺っていたし……

 

 なんで?

 分からない。

 

「だから昴はどう思う?」

 

 今思い浮かべられる要因としては、俺には『前世』がある。

 つまり、俺には『前』と『今』があるから?

 

 いやいやいや、それでも変だ。

 以前にも言った通り、ルルーシュのギアスは対象の神経(シナプス)に直接働く力だ。

 だから構造上コードギアスの人間と同じな俺も同じくルルーシュのギアスにかかる筈なんだが……

 

 あともう一つの可能性としては俺の特典だが……こっちは『任意』だった筈だから関係ない……と思いたい。

 

 時間があれば調べてみるか────

 

「────ねぇ昴?! ちょっと聞いているの?!」

 

「ん? いや、全然?」

 

 今俺とカレンが居たのは屋上だ(ちなみにドアのカギはカレンが既にピッキング済み)。

 さっきまでカレンの愚痴に相槌を打ちながら考えていたところだ。

 

「だーかーら! あのルルーシュって奴、明らかに怪しいと思わない?! “シンジュクのことは誰にも言うな”なんて?!」

 

 やっべぇ。

 この展開の方を考えていなか(はノープランだ)った。

 

「そうか? 今でも持ち切りの話題だぞ? 学園内の誰もが────」

「────それでも、“誰にも言うな”なんて変よ! しかも私たちに! あ、肉もーらいっ。」

 

 ヒョイ。 パク!

 

 ああああああああああああ?!

 俺の牛肉サンドがッッッ?!

 

「なら俺はお前のカツサンドをもらおう────」

 

 ヒョイ。 モグ!

 

「────あ!」

 

 俺はお返しとばかりにカレンと同じように、素手で彼女の弁当箱から一番近いカツサンドを取っては一気にそれを頬張る。

 

 はぁ~♡

 ソースがええのぉ~~~~。

 

 「それ……」

 

 前世のタカ〇ソースに似とるやんけ~~~~♡

 

 「食べ……かけ……ブツブツブツブツ……」

 

 流石は留美さん♪

 

「……気にしているの私だけ?」

 

 モグモグゴクン。

 

「何がだ?」

 

「何でもない……それにさ? 昴は思わなかった? アイツの声が無線機で聞こえた例の奴と似ているって?」

 

 ギクッ。

 

 そ、そういえば初期のルルーシュはまだ音質変換ユニットを搭載したマスクをしていなくて生の声だったな。

 

「それはどうかな? 無線機や電話の声は合成されたものだからな、案外同じように聞こえているだけの場合もあるから割と当てにならないぞ。」

 

 鍛えたポーカーフェイス(仮面)がありがてぇぇぇぇ!

 

「そっか……そうだよね……それでも、もし私たちの正体に気がついている様子なら早めに処()をしておかないと……」

 

 やべぇ。

 そういえば原作でのルルーシュが『自分のギアスは一人に一回だけ』と判明した後にあったな。

 疑惑を持ったカレンをクラブハウスへドナドナ→

サービス回(カレンのシャワーシーン)』→

 ルルーシュの策でカレンの中では『ルルーシュ≠無線機の声』だっけ。

 

 ああ、それと『カレンがルルーシュのことが気になるきっかけ(ハプニング)』……だったよな?

 

「………………………………………………」

 

「昴? どうかした?」

 

 このキョトンとして頷く俺を覗き込むカレンがなぁ~。

 

 後々ルルーシュと……

 

 知ってはいたけれど、いざ対面するとちょっと凹む。

 

「何でも、ない。」

 

 いや、ここは割り切っていこう。

 俺はどうせ『コードギアス』の世界にとっては『イレギュラー』なんだ。

 だから必要以上に関与はしないつもりだし、裏方仕事で良い。

 

「そ、そう?」

 

「ああ。」

 

 だから、俺は何が何でも生き残って人生を満喫する。

 

 その為ならば、俺は脇役でいい。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あ、ルル! この後────」

「────すまん、シャーリー。」

 

 ああ、やっぱり……

 

「スヴェン、カレンの時間は大丈夫か? 彼女と話したい事があるのだが。」

 

「へ?」

 

「そう来ると思ったわ。 いいでしょ、スヴェン?」

 

 来たか、『サービス回(カレンのシャワーシーン)』と『ルルーシュ≠無線機の声』。

 

「畏まりました、こちらで時間の調整を致します。」

 

「へえ?!」

 

「「「きゃ~~~~!♡」」」

「ルルーシュが……赤バラ攻略に挑戦しただと?!」

「俺はフラれる方に一票。」

「上手くいくことに一票。」

 

 シャーリーをそっちのけでカレンと俺に近づいたルルーシュに黄色い声(そして男子の妬む声その他)が出る。

 

 あとシャーリーの呆気にとられた声も。

 

 う~ん、分かっていたけれどルルーシュって『押し』が強いな。

 

 というか周りをガン無視かよ。

 どこぞのゲイボルカーに乗るランサー(香車)かよ。

 

 道理で原作の彼とCCはソリが最初は合わなかったわけだ。

 二人とも周りを気にせずにやりたいことをやるからな、『同族嫌悪』って奴だ。

 

 ルルーシュが歩いている方向に付いていくと予想通り、クラブハウスへと招かれた。

 

「すまないスヴェン、少し彼女と二人だけで話したいんだ。 いいかな?」

 

「お嬢様、すぐにでも悲鳴などの不穏な音などしましたら飛び込みますから。」

 

 そう言いながらニッコリするとカレンがアイコンタクトを取る。

 

『え? いいの? 私、こいつが危険なら()るよ?』

『間違いでやったらダメだ。 まずは確信に変えてから────』

『────分かった! いざとなったら尋問してから()るね!』

 

 なんで『尋問』で更にウキウキになるの?

 

 カレン、おまん……そんな子とちゃうかったやろ?

 

 バターン

 

 クラブハウスのドアが重い音をしてピッタリと閉まる。

 さっきはカレンにああ言ったが、正直に言うとクラブハウスはアッシュフォード家がルルーシュとナナリーを守るために(限度はあるが)小型の要塞化している。

 

 防弾ガラスに鉄骨入りの壁造りに建物の部屋一つ一つが防音仕様。

 名目上は『舞踏会などを開いて招いた要人などが安心して使える為の改装』。

 

 警備上の基本的な改装だが、学園に使うはずだった予算の二割をクラブハウスに回したらしいからな~。

 

 やっぱりあの噂、本当なのかな?

 前世でいつか見た“没落前はミレイの婚約者候補の一人がルルーシュだった”説。

 

 ありかもしれないな、割と。

 

 ……さて。

 今頃はリヴァルが自分のバイト先から入手したシャンパンで乾杯しようとして、シャーリーとドタバタしている頃かな?

 

 んで転んだはずみで緩んだコルクが飛び出てカレンは頭からシャンパンを浴びて────

 

 ────ガチャ!

 

「あ、スヴェン先輩を発見です!」

 

 あれ? ライブラ?

 今日は来ていたのか。

 

 仮面(愛想よい)仮面(優男)

 

「慌ててどうしたのですか、ブリエッラさん? (ニコッ)」

 

「カレン先輩がシャンパンを浴びちゃったのです! 着替え、持っていないですか?」

 

 ……元気そうでよかった。

 あとで君とナナリーの好物であるチーズケーキを出すとしよう。

 

 アリスがまた勝手に食ってなきゃな。

 

「それは大変だ。 着替えとなると、教室のカバンの中にジャージ────」

「────分かったです! では私が持ってくるです!」

 

 そしてそのままピュ~っと走る縦ロールライブラ。

 

 う~ん、やっぱり元気で素直でええ子や。

 

「す、スヴェ~~~ン?」

 

 そして雨に濡れた猫……じゃなくてカレンが申し訳なさそうな声を出してびしょ濡れのままこちらを開けたままのドアからひょっこりと頭だけを出して見る。

 

「あの子、大丈夫かな?」

 

「???」

 

「私たちのカバンどころか、教室の場所を知っているの? あの子、中等部でしょ?」

 

あ。

 

 カレンに気付かせられたすぐ後に、俺はライブラの走った方向にBボタン長押し方向キーダッシュした。

 

 シャカシャカシャカシャカシャカ~。

 

 片手をあげて、ピョ~ン。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ありがとうですスヴェン先輩!」

 

「いやいや、こちらこそ。 元気いっぱいな君から元気を分けられた気分だよ。」

 

 これは嘘でも何でもなく、俺の本心からの言葉だ。

 

「ん~~~? 先輩って実は寂しがり屋ですか~?」

 

 ライブラが(彼女なりに考えたと思われる)小悪魔的な笑みをしながらこっちを見上げる。

 

「私だけじゃないさ。 皆、ブリエッラさんがいなくてミレイ会長がいつもより張りきっていました。」

 

 高等部の建物内を調べ潰す勢いのまま『ここはスヴェン先輩のクラスですかー?! 違いましたですかー!』と走り回るライブラにやっと追いつき、今はカレンと俺のカバンが置いてあった教室から取った帰り中だ。

 

「そうですか?」

 

「ああ、そうさ。」

 

 時間的にはもう、ルルーシュがミレイとシャーリーがカレンの制服を洗うために共同洗濯場へと出て、咲世子さんがクラブハウスの一室からルルーシュの服を取って、それをルルーシュが『自分が謝りたいから直接渡す』の後だろう。

 

 つまり、俺は見事にサービス回(カレンのシャワーシーン)をミスったわけだ。

 

「ねぇ、スヴェン先輩?」

 

 おっと、ライブラが心配そうにこっちを見ている。

『人のいい仮面』を再度着用っと。

 

「なんでしょうか?」

 

「スヴェン先輩は、カレン先輩の世話係をしていると聞きましたです。 そこで、頼みがあるです。」

 

 お?

 なんか真剣な顔になった?

 珍しいな。

 

 というかキリっとしたからか、純粋に大人びて綺麗だ。

 

 10年……いや、5年後は確実に化けるな。

 

「私にも、人の世話の仕方を教えて欲しいです!」

 

 急だな、おい。

 

「ええっと……何でか聞いても良いかな?」

 

「その……えっと……他の人に言いません?」

 

「ええ。 お望みとあらば、カレンお嬢様にも言いません。」

 

「…………………………お兄様の、世話をしたいのです。」

 

 ……んんん?

 どういうことだ?

 

 疑問に思っている雰囲気を出す俺に気付いたのか、ライブラが補足をする。

 

「えっとですね? お兄様、この間のシンジュクで怪我をしたのです………………脊髄損傷です。」

 

「ッ。 」

 

 それは……重いな。

 

 うわぁ。

 道理でライブラ、学園を休んでいたわけだ。

 想像しただけで俺まで憂鬱になるよ。

 

「その……お医者様はなんて?」

 

「……………………“治る可能性はある”、と言っただけです。」

 

 それって遠回りに、“回復の見込みは限りなくゼロに近い”に言われているんじゃね?

 

 ……キツイ。

 

 いや、それよりも当事者であるライブラだ。

 よく見ると、彼女は普段より少し化粧をしてクマを隠している。

 

 それに……今にでも泣きそうな様子だ。

 

「……………………」

 

「スヴェン先輩? どうしたです?」

 

 俺が急に立ち止まったことでライブラがこちらに振り向く。

 

 その笑顔も、どこか俺の仮面と雰囲気が似ていた。

 

「……()()()()さん。」

 

「は、ハイです?」

 

「出来ることは決して多くはないかもしれません。 ですが、私に頼みたいことがあればいつでもお申し付けください。」

 

「……………………ありがとうです!」

 

 彼女はさっきより軽い感じの笑顔を浮かべる。

 

 ……………………うん。

 この子はナナリーやカレンや留美さんとは色々違うけど、なんとなく純粋に力になりたいな。

 

 

 この後、クラブハウスに戻るとカレンはルルーシュの私服に着替えていたことで原作の進行を確認できた。

 

 そこで二階にあるパソコンを使い、日課になりつつある使用人用裏サイトに新たな書き込みがあった。

 

『第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアは名誉ブリタニア人である元枢木ゲンブの息子に撃たれた! 名誉ブリタニア人制度の支持者、立場が危うい?!』

 

 それを見ると同時にクラブハウスにいた皆がザワつく。

 

 恐らく、俺の今見たことのニュース発表を見たのだろう。

 

 来たか、『オレンジ事件』。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「“明後日の16時、旧トウキョウタワーの展望室に1人で来い”、か……スバルはどう思う?」

 

 あれから二日後、カレンはゼロ(を名乗る前のルルーシュ)のアリバイ工作の言葉の意味を俺に聞いてきていた。

 

 場所は他のレジスタンスから借りている拠点。

 

 先日ブリタニア正規軍に勝ったところを一部始終見られて尊敬されたらしい。

 

「恐らく、そのままの“接触しよう”なんじゃないのか?」

 

 その中で俺は、火薬式狙撃銃のアタッチメント(取り付けパーツ)を調整している最中だった。

 

 火薬のにおいが思いの他きつかったからか、ここにいるのはカレンとそれに慣れていた扇グループの幹部たちだけ。

 

「う~ん……でも理由が────」

「────理由ならあるさ。 『機密兵器である毒ガス奪還』、『旧式のグラスゴーでの活躍』、そして『命令を実行に移せる力量』。」

 

「スバル、それは────」

「────扇さんの言いたいことは分かる。 “全部ナオトが考えた作戦のおかげ”、“幸運だった”、“無我夢中だった”。 だがこうも考えられないか? 無線機の声は『()()()()』だったと。」

 

「人手不足?」

 

「あれだけの装備を揃えられたんだ。 なぜ自分で動かさない?」

 

「あれは……そうも、言えるのか?」

 

「後の可能性は単純に、“お前たち(レジスタンス)を試していた”とも言える。」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

「相変わらず辛辣だね、スバル君?」

 

「俺は現実主義者(リアリスト)なだけだ、井上さん。 それで? どうする扇さん?」

 

「え?! お、俺か?」

 

「ほかに“扇”はいないだろ? まさか俺が玉城にでも聞いていると思ったか?」

 

「おい?! 可愛げのない奴だな!」

 

「お前に可愛いと言われると鳥肌が立つ。」

 

 「おい?!」

 

「杉山、吉田。 お前たち二人の予定は空いているか?」

 

「扇?! お、俺もフリーだぜ?!」

 

 だからお前はお呼びじゃねぇんだよ玉城。

 

「明日、俺と一緒にカレンの尾行をする。 カレン、明日はその男の言うとおりにしてみよう。 いざとなったら俺たちが何とかしてお前だけでも逃がす。」

 

「扇さん……」

 

 うん、これで原作の図が出来あ────

 

「でも、私はスバルにも来て欲しいかな?」

 

 ────が……る………………………………………………は?

 

 俺のように?マークを浮かべた者たち数人の視線を集めていたことに、カレンはハッとしたような顔を上げて両手を自分の前で振るう。

 

「だってこの中で私と同い年ぐらいなのって彼だけじゃん?! だから尾行者として気付かれにくいと言うか、なんというか!」

 

 なるほど、一理………………あるのか?

 

 ほら扇達も?マーク出しているじゃねぇか。

 

 仕方ない、助け船を出すか。

 

「そうか、それもそうだな。 扇さんたち大男三人なんて、明らかにストーカーにしか見えないからな。」

 

 「「「おい?!」」」

 

 てかそもそも同じ赤とデザインのヘッドバンドをしている時点でアウトだ、このトンチキ共が。

 

 さて、どうやって原作通りに動か(進行さ)せるか……

 




次話投稿、少し遅れるかも知れません。 申し訳ございません。 _○/|_


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第25話 不可能を可能にする鷹じゃない人物、参上

お待たせ致しました、少し長めの次話です。 <(_ _)>

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 租界境界線を走るリニアカーの中で俺とカレンを含む扇たちは自分を『ゼロ』と名乗る者と相対していた。

 

「その前に、顔を見せてみたらどうだ?」

 

 「良いだろう……ただし! 見せるのは私の顔ではない! 見せるのは私の『力』だ! 『不可能を可能』にしてみせれば、少しは信じられるだろうか?!」

 

 お前はどこぞの大型口径ビーム兵器をモビルスーツ単機で真正面からまともに受け止めながらも記憶喪失と顔に傷跡だけで済ませる化け物ナチュラルか。

 

 そんなツッコミは別として、結論から言うと尾行は殆んど原作通りだった。

 

 少し違いがあるとすれば旧トウキョウタワーの外で『連れを待つバイク乗り』のふりをしていた俺ぐらいか。

 

 そもそも原作では旧トウキョウタワーを指定したのはカレンが一人で来ることは無いと踏んだルルーシュがどれぐらいの人員がレジスタンスにいるか確認する為だったし、そこから外に出てリニアカーに移動するし。

 

 でも生ゼロかっけぇぇぇぇぇぇ!

 

 無機質な仮面に大きなマントを羽織った中二病満載の服装に、芝居のかかった言葉遣いと自信満々のあの声!

 

 迫力が画面(テレビ)越しと違う!

 

 いやその……少年心が刺激されるのだよ。

 

 仮面(フルフェイスヘルメット)が無ければ、俺のにやにやする顔が場の空気を台無しにしていたぜ。

 

 うん? 流れ?

 ああ、概ね原作通りで問題は無かった様子だ。

 

 扇たちの下手な尾行も丸わかりだ。

 

 流石にギアスが掛かった人たちがまるまるリニアカーの車両を埋め尽くした場面はびっくりしたが……

 

 もう転生してから10と数年、うっかり忘れていたよ。

 

 そもそもこの『扇たちとゼロのご対面シーン』に俺自身がいることになるとは想定していなかったし。

 

「分かった。 だがお前の言う“作戦”とやらに、皆を参加させるわけにはいかない。」

 

 そして今、扇がゼロと交渉していた。

 原作と周りの情報から恐らく、冤罪で窮地に立たされている幼馴染のスザク救出作戦だろう。

 

「流石作戦の直前にゲットー内の住人を避難させることはある。」

 

「え?」

 

「は?」

 

 扇の所為で気まずい空気が続くかのように思われたがゼロがわざとらしい咳をして話を強引に戻す。

 

「ゴホン! ……よかろう! ハンデなどは承知の上! 作戦は私含めて二、三人さえいれば成功したも同然だ!」

 

「そうか。 なら俺と……()()()で。」

 

 うんうん、そこは扇とカレン────

 

 「「「────え。」」」

 

 そこに俺とカレン、そして意外なことにルルーシュ(ゼロ)の声がハモる。

 

「ちょっと扇さん?!」

 

「カレン、もしお前の身に何かあったらあの世で俺がナオトに半殺しにされるからな。」

 

「……よ、よし! 十分だ! うむ! 良いだろう!」

 

 あ、ルルーシュ(ゼロ)が突然の出来事クラッシュから帰ってきた。

 

 ()()はテンパっているけれど。

 

(次いでだけど)元々自分を疑っているQ1(カレン)に自分を見極めさせることも想定した上での計画だったし。

 

 そして扇、なぜ俺を指名した?

 

 

 スヴェンは忘れていた。

 ナオトは彼を信用していた理由は『どこかチグハグだが悪い奴ではない』と判断できたからこそだ。

 

 が、扇は元々前々から『チグハグで怪しい』と感じたままだった。

 

 明らかに嫌々ながらもレジスタンスの為になる技術を()()身に付けていて、()()()立ち回っていた。

 より正確に言うと、()()()()()

 それに(ナオトたち曰く)カレンと同じくハーフという事だが、『逆にそれを使ってブリタニアに取り入って内通している』可能性も捨て切れずにいた。

 よって、この命がけの作戦でゼロもスヴェンをも見極めようと扇は思っていた。

 最悪、内通者であれば本性を現すかも知れないしもしゼロの『スザク救出作戦』が上手く行かなくともそれほどの痛手ではない。

 

 

「それでは、このようなモノを作れ。」

 

 そこでゼロが出したのは、クロヴィスがパレードなどでよく乗っていた車両の写真だった。

 

 

 

 

 

『オレンジ事件』。

 

 いわゆるクロヴィス暗殺未遂で逮捕されたスザクを犯人に仕立て上げ、一気に軍部を掌握したジェレミアが信用の失くしたバトレーを拘束し、代理執政官としてエリア11の総督着任までに『名誉ブリタニア人制度』の廃止を目的に動いた事件だ。

 

『オレンジ』の由来はスザクの護送中に現れた『ゼロ』と名乗る者がジェレミアにおどしとして“オレンジを公表されたくなければスザクと私たちを全力で逃がせ!” と言ったことからだった。

 

 実際には『オレンジの公表』は口から出まかせで、本命はゼロがギアスを使ったことに違和感を持たせないファインプレーなのだが。

 

 その所為で、ギアスに感化されたジェレミアは文字通りに『全力でスザクやゼロたちを逃がす』為に味方である純血派の邪魔をもしたことが、ジェレミア自身前もって声をかけたありとあらゆるテレビ局によって報道された。

 

 この所為で純血派だけでなく、ジェレミア自身の信用は地に落ちることとなり、他のブリタニア人だけでなくかつての同志である筈の純血派にもジェレミアは冷遇されることとなる。

 

 ゼロは無事に救出したスザクに『ブリタニアを変える為に仲間になれ!』と誘うも、スザクは『内部からブリタニアを変える!』と宣言し、幼馴染二人は違う道を歩みだしてしまう。

 

 とまぁ、原作の語り(現実逃避)はここまでにして言っても良いか?

 

 良いよね?

 

 怖かった。

 ゲロ吐きそうだった。

 正直、漏れそうだった。

 

 何せ原作でクロヴィスの車両に似せた車の運転手がカレンだった筈なのに、何故か俺だったよ。

 

 想像してみてくれ。

 

 自分だけが見た目だけ改造したオンボロ車両を運転していつハリボテ外装のガムテープが剥がれ落ちるか冷や冷やしながらポツンと橋の上で4,5メートルの人型兵器数機に囲まれて銃口からビンビン感じてくる殺気の中にいることを。

 

怖い』。 言えるのはそれだけだ。

 

「うううぅぅぅ……ひっぐ……」

 

 そしてそれから数日後、世間がゼロの起こした事件で騒いでいた頃の俺は家庭科室にいて、隣ではライブラが涙を流していた。

 

「ほらブリエッラさん? 早くしないとどんどん泣くだけですよ?」

 

「スヴェンゼンバイ(先輩)どうじでへいぎ(どうして平気)なんでず?!」

 

 涙目(そしてエプロンをした)ライブラが俺を見上げる。

 

 彼女の元には皮むき中のタマネギ。

 

「慣れですよ。」

 

ふごうへい(不公平)でずぅぅぅぅぅ!」

 

 ちなみに俺たちの横にはすでに皮をむいたポテト、ニンジン、そして牛肉。

 もうすでに察しているかもしれないが、『日本のカレーライス』だ。

 

 この数日間、ライブラに他人の介護をするための術を一通り触らせていて、今日は料理だ。

 

『なんでカレーライス』だって?

 

 ハズレにくいから。

 それにライブラの兄さんはなんか見た目と違って『がっつり食べるタイプ』だとか。

 写真とかは見せてもらっていないが、『シュッとニンジンみたいに細いです!』と彼女は言っていた。

 

『よくパーティーとかひらいていますが体面もあるのであまり食べず、後でこっそりガマガエルオジサンに内緒で料理を注文しているです!』とも。

 よくパーティーとか開くって……エリア11にいる間の顔合わせかな?

 

 てか『ガマガエルオジサン』って誰だか知らないが、何故だか苦労人の様子が思い浮かべられるぞ?

 

 とまぁ、ハズレをしにくくて無難で量も作れるカレーの出番と言う訳だ。

 

 洗ったお米を炊飯器に入れるだけだし、適当に切った肉を炒めてからこれまた適当に切った野菜を入れて煮てカレー粉入れて終わりだからな。

 

 最初俺がライブラに“カレー”と言ったら彼女はいやそうな顔をして『え?! インド軍区のあれですか?!』と口にしていたので『日本のカレーライス』と正したら興味津々になったが。

 

 ニコニコしながら何を食べても“美味しいです~!”と言うライブラでも好き嫌いあるのな。

 

 最初は卵焼きとかを教えようと思っていたのだが、意外と彼女が器用で要領が良いことで結構ぐんぐんと教えたことはスポンジのように吸収していった。

 だからついついハードルを高くしてしまう。

 

「ジィ~。」

 

 あと何故かアリスが時折俺たちのやり取りを隠れながら見ている。

 

 と言うかお前も手伝え、“自称毒見係”。

 

 いつかマジでシャーリーかアンジュリーゼの『謎の物体X』食わせるぞこら。

 

 特に無断でピザを片っ端から食い荒らすなよ。 少し前までメモか金ぐらい置いていただろうが。

 

 他にも困ったことと言えば、世間はゼロが大胆な行動に出たことで他の地区のレジスタンスも活気付いていることだ。

 その所為で治安維持のために普通の警察だけでなく、軍警察も出てきているとかで、たまに毒島とアンジュリーゼが愚痴をこぼしに俺に電話をかけてくる。

 

 俺なりのアフターケアとして剣術部に顔を出すと毒島が納得いくまで相手をさせられて保健室に湿布と包帯&軟膏を取りに行き、茶菓子(手作り)を茶葉と共にアンジュリーゼの所に持っていっては愚痴を聞く。

 

 そして今はライブラに介護の技術を身に付けさせている。

 

 う~ん、なんとも危険から身を遠ざけていられる充実かつ穏やかな状況なのだ!

 スカッとする!

 ス・バ・ラ・スィ~!

 

 視界の端でチラチラと緑色の髪の男装したどこぞの不老不死少女を俺は見ていな~い!

 

 見ていない!

 

 見ていないぞぉ~!

 

 ダカラミテイナイッテバ。

 

 それに俺は総督が不在の間に他のレジスタンスがドンパチやっているどさくさに紛れて『情報屋』経由でランスロットのデータを餌にしてパーツや物資を取り寄せてもらってウハウハだからな~!

 

 いい具合に相手も食らいついて、釣りも返ってくるほどだよ!

 

 Ha、Ha、ha!

 

 

 尚その日、出来立てのカレーを味わっていたスヴェンは裏サイトの書き込みを見て一気に冷静になる。

 

『エリア11の新総督は武闘派でまさかの神聖ブリタニア帝国第2皇女コーネリア・リ・ブリタニア?! エリア18鎮圧の次はエリア11の完全踏破か?!』

 

 無論、彼が冷静になったのはこの書き込みだけではなかった。

 

『無罪と定められた名誉ブリタニア人枢木スザク、釈放後に早くもブリタニアの少女に手を出す?!』

 

 大層なタイトルの下にはサングラスをしたスザクが足を怪我したアーサーを抱いている()()()()()()()()()()()()()()の少女と話している写真があった。

 

 その少女のことは、コードギアス一期を見た誰もが知っているだろう。

 

 コーネリアが総督に着任すると同時に、副総督として日本に来た神聖ブリタニア帝国の第3皇女、『ユーフェミア・リ・ブリタニア』。

 彼女はルルーシュ、そして後にスザクの初恋の相手。

 心優しくて偏見を抱かずに誰に対しても接し、誰もが平等で幸せになれる平和な世界の実現を目指す『理想家』。

 

 どれほどかと言うと、恐らくブリタニア帝国全土でも初の『行政特区』を日本人の為に作ろうとしたほど。

 

 

 そして()()が更に狂いだすきっかけ────

 

「(────いや、まだだ。 ()()()()()()()()()()()()()。 まずは()()()()()()だ。)」

 

 俺は僅かに脱線しそうになる意識を現在()に引き戻す。

 

「本日付けをもちまして、このアッシュフォード学園に入学する事になりました────」

 

 そう、作中でも()()()()()()と呼んでも過言ではない人物が立っていた。

 

「────枢木スザクです。 よろしくお願いします。」

 

 教室の前ではアッシュフォード学園の制服を身にまといながら自己紹介をする、名誉ブリタニア人の枢木スザクが立っていた。

 

 ………………どうしよう?

 

 …………

 ……

 …

 

「ねぇ、スヴェン?」

 

 声を掛けられて、俺はハッとする。

 

「ん? 何でしょうミスルギ嬢? 紅茶が薄かったでしょうか? それともスコーンの味付けが何か問題あったのでしょうか?」

 

 俺たちが居たのはアッシュフォード学園の中庭にあるテラスで目の前には未だに立派なDRILL(縦ロール)一本をしたロングヘアーをしながら頬杖をテーブルに突いたアンジュリーゼ。

 

 上を向いているアホ毛もあるのに……

 こいつはダブルバスターコレダーでも決めるのか?

 

「ここにいつも以上に来るのって、あの子が関係しているでしょ? 転入生のえっと……『クルルギ』だっけ? イレヴン……名誉ブリタニア人の?」

 

 ギックゥゥゥ!!!

 

「ななんの事でしょうか?」

 

「だって明らかに彼のいる教室を避けて、いつもは私たちが声をかけなければ来ない冴子や私のところに通っているでしょ?」

 

 後は特派のロイドさんたちを避けるためにだね。

 アッシュフォード家がライバル視しているのか学園内から叩き出したし。

 

 じゃなくて!

 アンジュリーゼ。 お前、『アンジュ』になって(覚醒して)もいないのに鋭いな?

 

「あの子……やっぱりクロヴィス殿下を()ったのかな?」

 

「う、う~~~~ん……あの報道ではゼロが“自分がクロヴィスを撃った”と宣言していましたし、正式に枢木は『誤認逮捕』らしいですし……どうでしょうね?」

 

「スヴェン……貴方でも迷う時はあるんだね?」

 

 ギクギクゥゥゥ!!!

 

「し、心外ですね。 私に迷う要素は────」

「────“枢木スザクは粛清されるべし”、だっけ?」

 

「……………………」

 

『枢木スザクは粛清されるべし』。 

 これは今学園の裏サイトにかなり勢いが日に日に増していく声だ。

 

 彼は『名誉ブリタニア人』だが、同時に『枢木ゲンブの息子』であり『逮捕歴のあるイレヴン』。

 

 ハッキリ言って、アッシュフォード学園での彼の立場は現状で酷く弱い。

 それに彼自身、顔見知りである筈のルルーシュとナナリーたちの為に『無関係の人』を演じている。

 

『彼らに迷惑が掛からないように』との気遣いから……と思われがちだが、実は彼なりの事情がある。

 これはかなり原作の後に判明することだが、スザクは『罰されたい』願望を持っている。

 

 それこそ、“その為ならば死んでもいい”と彼が思えるほどまでの。

 

 だがここは学園、せいぜいがいじめで既に彼は地味な奴にあっているが、それがいつエスカレートしていくのか分からない。

 

 アッシュフォード学園だし、過激派の奴らはいないがそれでも彼のジャージやロッカー、果ては少し目を離した隙にカバンが盗られるなどのハプニングはある。

 

 それに、俺が何もせずとも『知らないふり』に我慢が出来なくなってルルーシュが介入するはずだ。

 

「ねぇ……私が何とかしてあげても、よろしくてよ?」

 

 はぇ?

 

 なんだこのそっぽを向きながら縦ロールをいじるアンジュリーゼは?

 

 わいはしらんぞえ?

 

 ……………………あ、なるほど。

 スザクに以前(転入する前)の自分を重ねているのか。

 

 う~~~~ん、これは意外だ。

 

「いざとなったら、あほな男子どもを()()するけd────?」

 「────バカなことはやめろ。」

 

 あ、これアカン奴や。

 絶対に毒島の所為で狂戦士化しとる。

 頼むからどこぞの“AAAAAAruthuuuurrrrrrrrrr!!!”と叫ぶ騎士のように戦闘機(F-15J)をハイジャックして個人運用化しないでくれよ?

 

「ん、んな?! バ、バカとは何ですか?!」

 

 そういや思わず『ポーカーフェイスの俺』を出してしまったか。

 というかアンジュリーゼが怒り過ぎて真っ赤になりながらワナワナと体を震えさせている?!

 

「そ、それでは! 私はこれにて失礼いたします!」

 

「あ! ちょっと! 待ちなさいよアンタ!」

 

 ここはBボタン長押しダーッシュ!

 

 そして背後から投げられるスコーンをすかさず挙げた片手でキャーッチ!!!

 

 食べ物を粗末にするなぁぁぁぁぁ!

 

 俺がそのままスザクがよく出入りするようになったクラブハウスの中に入るためアーサー()を避けてドアを開けると────

 

「────おい。 ピザがもう無くなったぞ。」

 

「……」

 

「聞いているのか? 固まってないで早くもっと作れ。」

 

 ぬあああああああああああああああああああああああああああああ?!

 

 ナンデココニCCががガガガがガガガが?!

 

 しかも不服そうに俺の生焼けピザ(歯形入り)ををヲヲををヲオおおオオ?!

 

「チッ、使えない奴。」

 

 バタン。

 

「……………………………………ハ?!」

 

 クラブハウスのドアは固まったままの俺の前で閉まり、思考停止していた俺の脳が再起動し終える。

 

 そ、そう言えば彼女……この時はクラブハウスに居候していたんだっけ?

 

 じゃあ却って俺がクラブハウスにいることは悪手?

 

 どうしよう?

 

 ……ちょっと待てぇぇぇぇぇぇい?! アイツ今、“ピザがもう無くなった”って言わなかったか?!

 

 それって生徒会の皆の分含めてかよ?!

 ミレイのパイナップルハムピザもリヴァルのペパロニキノコピザとニーナのホウレン草ピザとカレン&シャーリーの“とにかく肉!”系ピザとナナリー&ライブラの野菜ピザと俺のタマネギとキノコピザもかよ?!

 

 あとついでにアリスのチーズハムピザ。

 

 どれだけ食べるんだよ?!

 朝昼晩ピザかっ?!

 

 あ、ピザでしたか。 そうですか。

 

 ……予備の食材、家庭科室にまだあったよな?




次回予告:

着メロ、ゲットだぜぇ~!


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第26話 着メロ、ゲットだぜぇ~!

独自設定/解釈が後半で発動します。
ご了承くださいますようお願い申し上げます。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 クソ~、仕立て上げるのに少し時間がかかってしまった。

 

 CCめ~!

 いや、これからルルーシュが呼んでいたように『ピザ女』に改名じゃい!

 

 俺は両手に焼く前のピザを乗せたトレイを両手で持ちながらクラブハウスへと足を運んでいると。

 

「あ。 すば────スヴェン?」

 

 おおっと、病弱設定のカレンと遭遇!

 

「久しぶりに、クラブハウスへ一緒に歩いていかない?」

 

 そして周りの視線からの集中砲火!

 

 これは多分、カレンの後を良くつけている園芸部と写真部の連中だな。

 

 ……それにしては数が多くないか?

 

「ええ、勿論お供いたしますともお嬢様。 (ニコッ)」

 

 本当に久しぶりだな。

 何故か『カレンがいるところにスザクあり』だからな……

 気まずいのなんの。

 

ププ……でもどうしてここに?」

 

 おい、“ププ”なんて笑うなよ。

 せめて設定を活かせるように“フフ”にしろよ、『病弱設定おしとやかなお嬢様』。

 

「丁度ピザを切らしてしまいまして。 今、家庭科室で下ごしらえを終えたところです。 お嬢様の好きな野菜()たっぷりめのも作っておきましたよ?」

 

「本当?!」

 

 ウッ?!

 このキラキラ顔の破壊力!

 と言うか設定が崩れかけているのだが?!

 

 キンコンカンコ~ン♪

 

『こちら、生徒会長のミレイ・アッシュフォードです……標的は猫だ!

 

「「……猫?」」

 

 俺とカレンが頭を傾げて、ミレイの声が出た近くのスピーカーを見る。

 

『部活は一時中断! 校内を逃走中の猫を捕まえなさーい! 協力したクラブは予算を優遇するわ!』

 

 おいおい、そこまで重要な猫かよ…………………………

 て、あれ?

 待てよ?

 そう言えば『コードギアスの猫』と言えばよく俺の足をガジガジと噛み付く『アーサー』だよな?

 

 な~んか引っ掛かる────

 

 『猫を捕まえた人にはスーパーデラックスなちょ~うラッキーチャンス到来! なんと! 生徒会メンバーからキスがプレゼントされるのだぁ~~~!!!』

 

 ────あ゛。

 

「え?! ちょっと待ってよ?! 生徒会って……まさか、私たちも?!」

 

 カレンがびっくりしながら『人のいい仮面』をかぶって固まったままの俺を見る。

 

 いや~、確かにあったわ~。

 

 超忘れていた。

 

 ガサガサガサガサガサ!

 

 「「「「「もちろんですよね?!」」」」」

 

「い゛?!」

 

 おー、おー、おー。

 

 原作通りに園芸部と写真部がいるな。

 

 それに心なしか芸術部に応援団にクッキング部に演劇部に吹奏楽部と軽音楽部まで?

 

 俺が主に手伝いをした部活が何でここに?

 

 ……………………イヤマジナンデ?

 

「二人とも生徒会を出入りしているしカウントされるよね?!」

「という事はライブラちゃんやアリスちゃんも?!」

「キス……」

「“頬に”、とかのオチではないですよね?!」

「いやそれは流石に無いでしょ?!」

「唇?」

「え?! 指定できるのでしょうか?!」

「場所の指定ができるの?!」

「それだったら唇……」

「この際、頬っぺたでも……でも場所を指定できるのなら?!」

「「「「「唇!!!」」」」」

「あ、でも私キスされるならミレイさんが良いな……」

「「「え。」」」

 

 「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 男子たちは闘志を燃え上がらせて両手を上げた!

 

 「「「「「きゃああああああ!!!♡♡♡」」」」」

 

 女子たちは黄色い声を出して身体をくねくねさせた!

 

 ドドドドドドドドド!!!

 

 そしてその場にいたと思われる30名プラスの者たちが猫を探すために走り去る。

 

 どうしてこうなった。

 

「や、やめてよね?! わた、私たちの初めてが?!」

 

 頬を紅潮させながら慌てるカレン。

 

 う~ん……青春!

 

「ス、スヴェン! これはあの女(ミレイ)の悪い冗談か何かだよね?!」

 

 カレン、口調。

 設定が崩れとるがな。

 

 『『『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』』』

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

「うぃえ?! な、なになになになになになに?」

 

 アッシュフォード学園、全体から聞こえる男女の雄叫びと地鳴りがしたことにカレンの身体が子犬のようにビクリと跳ねる。

 

「悪いが、この様子では冗談ではすまないようだ────」

 

 ────ビュン!

 

 カレンがとても病弱とは思えない速度で、その場を走り去る。

 

「これだからブリタニアはぁぁぁぁ!

 

 ……ブリタニアは関係ないゾ?

 

 ってもう姿が見えないだと?! 

 は、早えぇぇぇぇ……

 

 俺はそのままクラブハウスの中へ入り、持っていた未完成のピザを冷蔵庫の中へと入れてから外に出る。

 

『注意! ピザは作りかけ! 食べたら食中毒アリ!』と書いたメモを張ってからな。

 

 ちなみに俺はアーサーを探すつもりはない。

 

 え? 『何で猫を探さない?!』かだって?

 

 実はなんと、このイベントのおかげでルルーシュは高等部を中心に『スザクは自分の友達』と宣言するからだ。

 小さな出来事だが、スザクが生徒会の皆を始めに皆と仲良くなるきっかけだ。

 

 つまりは原作通りに事を運ばせる必要がある。

 

 あ!

 忘れる前に、『あの場所』に行かないと!

 

 

 

 


 

 

「(あああ、もう! 病弱設定にしなければ良かった!)」

 

 カレンは焦る気持ちとは裏腹にヌボーっとした表情で歩き、周りに他の学生がいなくなるのを見計らってからまた走る。

 

「人を! 勝手に商品にしてぇぇぇ────!」

 

 ドスン!

 

「「────きゃ?!」」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 カレンが周り角から走ってきた誰かにぶつかって、彼女は『病弱』と『箱入り』の設定から反射神経で謝る言葉を出す。

 

 同じく慌てていた様子である、()()姿()のシャーリーに。

 

「シャ、シャーリー?! なんて格好で走っているの?!」

 

 余りの衝撃にカレンは早速設定を投げ捨てていた。

 

「だ、だって私たちのキスがかかっているのよ?!」

 

同感! で、でもとりあえずは私の上着を羽織ろうね?」

 

「うん、ありがとうカレン! ()()()()寒かった!」

 

 そして幸運にも、シャーリーも焦りから()()()()()()()を気にかけていなかった。

 

 その間、別の場所では中等部と高等部の女子たちがとあるスピーカー付きの柱の元に集まり、それを見上げていた。

 

「ねぇ、上の方に居るのってスヴェン先輩なんじゃない?」

「あんな高いところに登るなんて……」

「凄い、猫探しに本気なの?!」

「じゃあ何?! スヴェン先輩も生徒会の誰かからキスをもらいたいというわけ?!」

「やっぱり噂のミレイ先輩じゃ……それともやっぱりカレン先輩との禁断の愛?!」

「「「きゃあああああ!」」」

「私としては、スヴェン先輩とルルーシュ先輩の組み合わせが……」

「「「え゛。」」」

 

 スヴェンはアッシュフォード学園でもとても人間が容易に登れないような柱の上に、携帯を出して()()()()()()をしていた。

 

『猫を捕まえたら! 所有物は私に! 私に! 渡しなさっ────うぇっほケホッ、ケホッ?!』

『ナナリー、何か猫の特徴とかないの?』

『う~ん……足音がちょっと変だったから、足が悪いと思います。 あ。 それとその猫はこんなふうに鳴きます。 すぅー』

 

 ナナリーが息を大きく吸う音がスピーカー越しに聞こえてくる。

 

“にゃあ~”

 

 ナナリーの猫のモノマネがエコーし、声がスピーカーを経由して学園中に響き渡る。

 

 尚、もし誰かがスヴェンの声を聞こえる範囲内まで近くにいたとしたら、誰もが自分の耳を疑うだろう。

 

 まさか彼が『キタキタキタキタァァァァァァ! ナナリーの“にゃー”物真似、ゲットだぜぇぇぇぇ!!! ついでに! ミレイのむせた声もぉぉぉぉ!』と誰も思わなかっただろう。

 

 

 

 またも別の場所では上着を脱いだカレン、そして彼女の上着を代わりに羽織ったシャーリーがアーサーを追い込んでいた。

 

「これで私たちのキスは安泰ね────」

「────ね、ねぇカレン? もし捕まえたら、ご褒美には誰を指名するの?」

 

「はぇ?」

 

 シャーリーの突拍子もない問いに、カレンは気の抜けた声と顔をして思わず視線をアーサーのいる場所から外す。

 

「も、もしかして……ルルに使う気なの?!」

 

 ここでも、原作通りに男装したCCがアッシュフォード学園の中庭で出てきたことでルルーシュは無理やりカレンの顔を手で押さえるようなことが起き、不運にもシャーリーはそれを目撃してしまい、『二人が口づけ(キス)をしていた』との勘違いをしていた。

 

「は、はぁ~? なんで、私がアイツなんかと────?」

「────え? だって……その……」

 

「……な、なによ?」

 

「「……………………………………」」

 

 どことなく気まずい空気を出す二人の足元を、ゼロの仮面をかぶったアーサーがすり抜けたその時に『ソレ』は出てきた。

 

 ドドドドドドドドド!!!

 

「「へ?」」

 

 二人がとても女子とは思えない、唸り声のようなものが聞こえて方向を同時に見る。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 「「きゃああぁぁぁぁぁ?!」」

 

 そこにいたのは血走った獣の目つきと、こん棒(ラクロスラケット)を持った原始人のごとき女性(アンジュリーゼ)。彼女がすごい勢いで迫っていたことにシャーリー、そしてカレンまでもが互いを抱きしめあって恐怖に叫んだ。

 

ネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコォォォォォ!!!!」

 

 アンジュリーゼは猫をラクロスラケットで捕獲しようとそれを鎌のように振り回すが、アーサーは器用に近くの(とい)を駆け登り、屋根を走る。

 

「逃がさないわ!」

 

 ガッ! シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!

 

 バキ! バキバキバキ!

 

 これを見たアンジュリーゼは同じく(とい)をよじ登ろうとするが、半分ほど登ったところで彼女を支えられずに彼女は(とい)ごと地面へと落ちては頭を打つ。

 

 ゴッ!

 

「グェ?!」

 

 これが某ゲーム(またはアニメ)だと、『アンジュリーゼ、頭を強打してリタイヤ!』とテロップで出ていただろう。

 

 あと、アンジュリーゼの頭にメタなひよこか星が回っていたのかもしれない(または巨大なたんこぶが浮き出るなど)。

 

「「(痛そう……)」」

 

 そして肉体派の二人は呆気にとられながらも自分たちの頭を覆った。

 

 

 


 

 

 スザクはアーサーを追い詰めるも、自分を蔑ろにするような行動をとって屋根から落ちそうだったルルーシュを救っては(ゼロの仮面を脱いだ)アーサーを保護し、仲良しそうにルルーシュと喋っていた。

 

「ねぇ……二人は知り合いなの?」

 

「「え?」」

 

 カレンが恐らく、その場にいた皆の疑問を代弁する問いを掛けるとルルーシュとスザクは固まる。

 

「「……あ。」」

 

 今まで『他人のフリ』をしていたのをド忘れしていたのだ。

 

「でも……その子はイレ────」

「────ミレイ会長、クルルギさんを生徒会に入れてみてはいかがでしょうか?」

 

「「「え?」」」

 

 ニーナの恐怖が混じった言葉を遮るように、スヴェンが口を開けたことに当事者たちがわずかに目を見開いた。

 

「この学園ではどこかのクラブに所属しなければいけないのですが、彼は軍人。 いつ不在になるか分からないのなら、生徒会がいいのでは? それに自分の身を挺してまでルルーシュを助ける彼は悪い人ではないようですし。」

 

 無論、これをスヴェンは意図的にニーナの言葉を遮り、彼の人となりを知ってもらおうと原作でのルルーシュのアイデアを使った。

 

 少しだけ、時間をくれないだろうか?

『ニーナ・()()()()()()()()』という、『コードギアス』でも特大級の地雷に関して話したいと思う。

 

 この世界に憑依したから原作では語られなかった事情などを聴くことが出来て一ファンとしては嬉しい反面、かなり黒い裏事情もあったことに落ち込んだこともある。

 

 かなり隠蔽されていたが、ニーナと彼女の家族はミレイとアッシュフォード家とは子供のころからの知り合い(いわゆる幼馴染)で、家同士も懇意にしている。

 

 これは原作でも描写があったが、その理由は結局設定資料にも出てこなかった。

 

 俺がかき集めた情報ではニーナの祖父が没落した家の為に知恵を振り絞って後にナイトメアフレームとなる『人型ロボット』の設計図を手に、手当たり次第にスポンサーになりそうな家を回っては笑われて門前払いされていたところをアッシュフォード家が支援したところから始まる。

 

 瞬く間にシンプルなデザインで文字通りに『手足のついたコクピット機』はアッシュフォード、そしてそれまで落ちぶれていたアインシュタイン家の双方の株をグングンと右肩上がりさせていき、アインシュタイン家はかつての栄光を取り戻した。

 

 突然周りからちやほやされるニーナにとっては両親や文献などから聞いた家の昔話、『夢』が実現したかのように思えたのだろう。

 

 だが全ていいことばかりでなく、甘い汁を吸おう(または利用しよう)と思う輩も当然出てくる。

 

 昔から裕福だったアッシュフォードならいざ知らず、彼らからすれば成金のアインシュタイン家の方が圧倒的にカモにしやすいと目を付けた。

 

 実際ニーナの祖父はそのような者たちに騙され、命を落とすばかりかブリタニアの機密事項である『ナイトメアフレームの基本設計図』がブラックマーケットを通して各国へと出回ってしまった。

 

 さらに追い打ちをかけるように数年後、『マリアンヌ暗殺事件』が起きて当時開発中だった第三世代KMFのガニメデはブリタニア政府の後ろ盾を失い、アッシュフォード家は没落。

 

 そしてニーナ本人と両親も今まで『友』と思っていた者たちから相手にされない、または邪険にされることで隠遁生活を始めていく。

 

 そこからはかなり曖昧で噂話が元になるが、逃げるようにエリア11に引っ越したときにさらにイザコザがあってニーナの両親は死亡したという記録があった。

 

 情報屋の輪を利用して裏ルートにて入手した当時の警察資料によると死因は『毒殺』。

 

 そしてその犯人である元日本人男性も()()()()()()()()()()

 彼の死因は『刺殺』。

 当時、両親よりさらに人見知りになっていたニーナはその頃は引きこもりのような生活を送っていたらしく、両親たちとは顔もあまり合わせていなかったらしい。

 

 証言によると、いつも父親が毎日その時間帯にかける音楽が無かったことから部屋から出て様子を見ると死んだ両親たちと、彼らの所持品を漁る犯人を目にして犯人に気付かれてしまい、焦った相手は子供だったニーナに顔を見られたことからか扼殺を試みた。

 

 焦ったニーナは近くに落ちていたステーキナイフで犯人を刺し、いつもは静かな彼女の悲鳴を聞いた近所の人間が警察へと連絡をした。

 

 この時のアッシュフォード家が学園の立ち上げや根回しなどに忙しく、ミレイたちがニーナと会ったのは事件後でニーナの身柄を引き取ったころとなる。

 

 とまぁ、ニーナがなぜ作中でイレヴンを極端に怖がるのかこれを知った身としては分からなくもない。

 

 ダークな内容だったよ。

 

 とてもテレビに描写出来ねぇよ。

 

 クロスアンジュのように、『夜の時間アニメ』ならまだ……………………可能性はあったのか?

 

 と言う訳で、俺は『ニーナのイレヴンへの恐怖が憎しみに変わってフレイヤ(核弾頭)開発して“イレヴンは皆死ねば良いのよ!”』フラグを全力で折らせていただきますとも。




次回予告:

機関銃トーク


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第27話 機関銃トーク

感想にお気に入り登録に誤字報告、誠にありがとうございます!

お手数をおかけしています。 ┏(;_ _ )┓

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 時は過ぎていき、新総督であるコーネリアが『サイタマゲットー壊滅作戦』を実行する少し前のアッシュフォード学園では、ニーナはいつものようにひっそりと人気のなくなった教室で黙々とパソコンと向き合っていた。

 

 ピッ!♪

 

「あ、分裂した? やった!」

 

「上手く熱中性子を吸収したね。」

 

 ひゃあああああああああああああああああああああああ?!」 

 

 急に他に誰もいない筈と思い込んでいたニーナはあまりの驚きに椅子から盛大に転げ落ちてしまう。

 

「スススススススススヴェン君?!」

 

 彼女は目を見開き、早くなった心臓の鼓動からか身体がわずかに震えながら俺を見上げていた。

 

 え? 何この図?

 俺が悪いのか?

 

 ……俺が悪いのか。

 

「おや、驚かせて申し訳ございませんニーナさん。 大丈夫ですか?」

 

 俺はやさしく微笑み(仮面を維持し)ながら手を差し伸べる。

 

「あぅぅぅぅぅ。 お尻が痛いです……」

 

「申し訳ございません、ニーナさん。 まさかそこまでビックリするとは思っていなかったものでしたので。」

 

 ニーナを立ち上がる助けをしながら謝る。

 

 実際は“予想範囲内”だったが。

 

 俺はパソコン画面を見ると案の定、ウラン235のシミュレーションデータが表示されていた。

 

「これは……ウランですね? 質量数235の?」

 

「え? あ、はい! もしかして、スヴェン君もその分野も知っているんですか?! さっきも『熱中性子』と言っていましたし!」

 

 おおおう?

 これは思っていたより凄い食いつきだ。

 

 完全に好奇心をくすぐられた『原作のマッドサイエンティスト組(ロイドたち)』の流れだ。

 

「ええ、()()()()ですが。」

 

『原作で見た受け売りだ』なんていっても何を言っているか分からないし、言わない方が吉。

 

 作中のニーナは他人が信じられないような描写もあってか、一人で悶々と負の感情満載の考えに落ちる。

 

 しかも唯一心から信じられそうな相手が死んでは引きこもりから陰湿キャラへと変身するし。

 

 そして彼女の『核』技術をブリタニアの宰相に目をつけられて利用され、出来上がった『フレイヤ』でトウキョウ租界は文字通り『消えた(消し飛んだ)』。

 

 だから俺が今している行動は秘儀、『事前にニー()と接して、他人と話しやすくさせる橋係作戦』だ。

 

 ……うるせぇ、ネーミングセンスが最悪(そのまま)なのはわかっている。

 

「確かウラン235に熱中性子を吸収させると、2つの原子核と高速中性子に分裂するのでしたよね?」

 

 必死に前に聞きかじった情報(おそらく前世)を口にするとニーナの様子が急変する。

 

 「はい! その通りです! さっきも研究や資料のデータを元に仮想実験プログラムをしていたのですけれど────!」

 

 よしよし、いいぞぉ。

 もっとこの話題経由で元気な君を引き出してやろう。

 

「────ですがウラン235は困ったことに天然ウランの僅か0.7%しかないのがネックですね。 いくらデータがそろっても、試すことができないというこt────」

 

 ────ガシッ!

 

 「はわぁぁぁぁぁぁぁ! まさかスヴェン君がそこまで知っているとは感激ですぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 誰このキラキラ目をさせながら手をガッシリと掴んでグイグイ来る子?!

 

 鼻が! 顔が近い! 荒い息遣いが! 吐息がががガガガが!!!

 

 圧が半端ない!

 

 俺……選択肢を間違えちゃったかな?

 

 え? 『ところでお前、サイタマゲットーに介入はしないのか?』だって?

 

 ……すまん、それは流石に管轄外と割り切っている。

 

 シンジュクは既に『毒島』と言う要因(ファクター)があったから根回しが比較的にしやすかったし、作中の冒頭で大勢の無残な死体や殺され方をされた日本人(イレヴン)を見たルルーシュは『人の命は軽い』と錯覚し、そのまま魔神となる一途を辿ろうとしたから介入した。

 それに、見知った奴(カレン)が大勢死んだ日本人を間近に見て(取り敢えずアニメでは)泣いていたからな。

 

 殆んど自分にノーリスクで出来るのなら、するさ。

 それにいくら俺が手を回したとしても、何もシンジュクゲットーの被害が『ゼロ』だったわけじゃない。

 死亡者は何人か出ていると聞いた。

 

 その中には男も、女も、老人や子供たちも含まれていた。

 

 やはり、全部の人を救うのは無理だったよ。

 

 だから俺ができることと言えば、情報屋たちに“近いうち、サイタマゲットーもシンジュクのように壊滅される動きがある”と言う噂を流す程度だ。

 

 それよりもさっきから手を放さずにマシンガントークするニーナを誰か何とかしてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 ガチャ。

 

「あら、ここにいたのニー……ナ?」

 

 教室のドアが開いて入ってきたのはミレイだった。

 

 神様! ナイスです!

 

 彼女ならこの場面を何とかできる筈!

 

「あら? あらあらあら~? ごゆっくり~♡」

 

 急にニヨニヨしたと思ったら退出した?!

 なんで?

 

「へぇぇぇ?! ここここここれは違うのミレイちゃん! まままま待ってぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「オホホホホホホホホホホホホホホホ~♪」

 

 ニーナが悪魔のような笑いを出すミレイを追い、俺はウラン235のデータが表示されたパソコンにフラッシュドライブを差し込んでデータを丸コピーする。

 

 データは幾らあっても困らないし、腐らせることは無いからな。

 

 それはそうと、待ち受けている次のイベントに気が重くなる。

 

 あと胃が荒れる。

 

 何せランスロットの時の『偶然』とは違い、今度は俺自らが選んで『意図的』に身を危険に晒す『時』が着々と近づいている筈なのだから。

 

 

 

 

 その『時』は俺が思っていたよりかなり早かった。

 

 クラブハウスで(準会員の俺やアリスにライブラを含めた)猫祭り衣装を着た生徒会たちにミレイが猫球をポムっと合わせて注目を集める。

 

「さ~て皆の衆! 実は私から楽しい~お知らせがありま~す! なんと来週、生徒会メンバーの親交を深めるために河口湖のコンべーションセンターホテルで行なわれるサクラダイト分配会議に! 二泊三日の親睦旅行を予定しているので~す!」

 

 これだ、俺の胃を荒れさせていた原因は。

 

『河口湖のホテルジャック事件』。

 その物々しい名前から、想像は既につくだろうか?

 

(黒猫ハイレグレオタード風衣装を着た)ミレイの言ったように、河口湖のコンべーションセンターホテルで行なわれるサクラダイト分配会議はサクラダイトの国際分配レートを決定する会議だ。

 ブリタニア帝国だけでなくサクラダイトを主流にしている国、つまりは『世界』のパワーバランスを決定するといっても過言ではないほどのビッグイベントだ。

 

 そしてそこを狙った日本解放戦線でも過激派である草壁中佐が人質を取り、立て篭もるという話が原作で行われた。

 

 しかも胸糞悪いことに、建前上は『ブリタニアに囚われた人質交換』だが草壁は相手が絶対に交渉に応じないコーネリアと知っていた為、真の目的は『日本はまだ反抗する意識を持っている』という馬鹿げたモノ。

 

 実質な将来性皆無の特攻に加えて、彼らは見せしめにブリタニアの人質をホテルの屋上から突き落とすといった下劣な行動をわざわざ報道されるように行っていた。

 

 原作で草壁と相対したゼロは彼のことを『古い考え方』、『救えない』と言っていたが100%同感だ。

 

「へぇ~! 河口湖ですか!」

 

「あ、でもサクラダイト分配会議は招待状式ではなかったですか?」

 

「ふふ~ん。 良いところに気付いたわねライブラちゃん♪ 落ちぶれたとはいえアッシュフォード家、コネを使えばなんてことないわ♪」

 

「会長! 私参加します!」

 

「あ~、俺はちょうどその日を欠席する店長に変わって仕事が入っているな……ったく、店長も休暇を取る日のタイミング悪すぎるだろ。」

 

(ブチネコ風着ぐるみ衣装を着た)リヴァル、安心しろ。

 

 お前の店長はルルーシュのギアスによって大型キャンプカーを改装したトラックを黒の騎士団初の『動く司令塔』を確保するためにその日はちゃんと(裏仕事で)働いている。

 

「ルルーシュは────」

「────俺はちょっと外せない先約があるから、無理だな。 ナナリーは?」

 

「行っても、皆さんにご迷惑をかけると思いますから……」

 

「ランペルージ兄妹はアウトかぁ~。 う~ん……じゃあ他には────」

「────はいは~い! じゃあ私は行くです~!」

 

 元気よく手を挙げたライブラ(トラ柄ネコの着ぐるみ風衣装)を、(ミニスカヘソ出し三毛猫衣装を着た)アリスがギョッと何故かする。

 

「え゛?! ら、ライブラさm────さん?! 何を────?!」

「────ナナリーたちの代わりに行って楽しんでお話を聞かせるです~!」

 

「ありがとうございます、ライブラさん。」

 

「私に任せなさいです!」

 

 そしてどや顔と可愛らしい『フフン!』を決める。

 

 う~ん、ライブラってば今日も元気だな。

 お兄さんと上手くいっている証拠なのかな?

 

 「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

 アリス、喜ぶべきだろ? 

 なんで俯きながらブツブツ不服そうに独り言を言うんだ?

 

 別に来たくなければナナリーのようにきっぱり断ってもいいんだぞ?

 

「僕は、軍の勤務が入っていて……」

 

 そしてスザクもアウトと。

 

「私は……」

 

「あー、カレンちゃんは難しい? やっぱり、家が反対しそう?」

 

「……まだ聞いていないけど、多分。」

 

「そっか~……ならその様子だとスヴェンも────」

「────お嬢様。 身勝手ながら、私もその旅行に参加してもよろしいでしょうか?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 俺の突然な申し出にミレイやカレン達がポカンとする。

 

 すまんが、このイベントだけは無理やりにでも参加しなくちゃいけない。

 

 より良い結末の為に。

 

「どう、カレン? 大丈夫そう?」

 

「えっと……」

 

「お嬢様。 ()()()()()()()()()()()でしょうか?」

 

「ッ……」

 

 うん、ちょっと言い方が卑怯だったのは認める。

 それに今の言葉遣いはナオトさんがいなくなってから、俺とカレンだけがわかる『隠語』だ。

 

 基本、『見習い従者』に休暇はない。

 だが子供の頃からの付き合いで『多少の我儘』として周りに見られているが、今使った『隠語』の意味は『別行動を取りたい』。

 

「……そうね。 少しぐらいなら大丈夫、かな?」

 

 気のせいか、(ミレイと同じ衣装をした)カレンの猫耳がへにゃっと沈んだような……

 作り物だろ、それ?

 

 そしてシャーリー、何故視線を俺とルルーシュを互いに合わせながら?マークを出す?

 言っておくが俺はノーマルだからな?

 

 

 


 

 

 当日、河口湖へと向かう装甲列車付きの車両の中で準会員たちも含む生徒会のメンバーたちはくつろいでいた。

 

「フンフフ~ン♪」

 

 その一室の中ではスカッツにシャツとトップスにブーツ服装をしたライブラが顔を窓にくっつけそうな勢いで揺れ動く景色を見ながら鼻歌を歌っていた。

 

「ライブラさん? 羊羹などどうですか?」

 

「“ヨウカン”とはなんです?」

 

「エリア11の名物だそうです。 餡子に砂糖と寒天を加えた甘菓子です。」

 

『甘菓子』と聞いて?マークが!マークへと変わるように、彼女の目は光りだした。

 

「食べまーす! です!」

 

 う~ん、このハムハムする仕草がハムスターのような、小動物のような。

『無邪気』だな。

 

「なんで寄りにもよって貴方と一緒の車両なのよ……しかもいつの間にか名前呼びになっているし……ブツブツブツ……

 

 そして俺の隣にはいつもは口うるさいチワワアリスが私服姿でブツブツ独り言を続けていた。

 

「あ! あれが“フジサン”ですね!」

 

 ライブラの声に窓の外を見ると、俺が思い浮かべた景色とは程遠い山が窓の向こう側に広がっていた。

 

『フジサン』。

 別名『サクラダイト採掘鉱山施設』。

 変わり果てたその姿を俺は見て、胸の中に何かモヤモヤしたものを感じるまま他の皆とコンベンションホールを楽しむフリをしていた。

 

 来るべき時に備えて。

 

 ……今の内に胃薬を飲もう。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 後に黒の騎士団となるグループのキャンピングカー式アジトを扇達がおっかなびっくりに見ているとがっちりした体格で眼鏡をかけていた南がテレビをつけるとちょうど『河口湖畔ホテルジャック事件』の報道が映っていた。

 

『ホテルジャック犯は日本解放戦線を名乗っており、サクラダイト分配会議のメンバーとその場に居合わせた観光客や従業員を人質にとっています。』

 

 それをふんぞり返っていたルルーシュが、ほかの見入り始めていた者たちと違って平然とした態度で見ていた。

 

「(孤立したホテルに立て籠もって人質を取っただと? 何か別の大きな作戦の陽動か?)」

 

『これが内部から犯人が送ってきた映像です。 御覧の通り、議長の他に学生らしきモノたちの姿も見受けられます。』

 

「み、皆?!」

 

「(ん────ファ?!)」

 

 カレンの驚く声にルルーシュがゼロのマスクの下で画面越しに見た光景に素っ頓狂な(内側の)声を出しては固まる。

 

 カレンの言った通り、生徒会のメンバーたちが画像の中にいた。

 

 ミレイ、シャーリー、ニーナはもちろんのこと、準会員たちのスヴェンにアリスと“ライブラ”と名乗っているライラ。

 

 そして、眼鏡をかけた()()()()()()()()()()()()も。

 

「(あ、あれは! まさか?! いいいいいや、見間違いか?! 他人の空似という線も……いや待て。 待て待て待て待て待て!  待つのだ俺! たとえ皇女が()()がいるかもしれないとしてもだ! おおおおお落ち着け俺! ブリタニアと敵対するには組織が必要だ! 日本解放戦線はその意味では魅力的な組織だ! だが早すぎるし、作戦の意図が掴めん! それに時間がガガガがががが?!)」

 

 ルルーシュは盛大に(テンパ)っていた。

 

 

 

 

 

 ドン!

 

「あのバカ者が!」

 

 別の場所では日本解放戦線の軍服を着た藤堂が珍しく、怒りを露わにしながら拳を床にたたきつけていた。

 

 彼は過激な行動をとった草壁だけでなく、己の不甲斐なさにも腹を立てていた。

 

『シンジュクゲットー』で軍属でもないレジスタンスがブリタニア正規軍に勝ったこと。

 そして名誉ブリタニア人である枢木スザクを救出したことで今まで『烏合の衆』と思われていた扇グループが名を広げていたことに、草壁は『この来ている波に便乗せねば日本解放戦線の名が泣く!』と、組織のトップである片瀬少将に草壁が訴えていたのを、藤堂は殆ど理由も言わずに『今は動くべきではない』と言ったのだ。

 

 理由を並べなかったのは自分と同じ中佐であると共に、『草壁ならばそんな功を焦る愚行に先走る人物ではない』と踏んでいたから。

 

 だが誤算だったのは、片瀬少将が自分に話をそらしたことで草壁は更なる劣等感を感じていたこと。

 ()()()『同じ中佐だというのに、なぜ片瀬少将は自分より藤堂の言葉を仰ぐ?!』という負の感情が今まで積もりに積もってついに草壁を独断で動く決意を実らせていたのだ。

 

「ん?」

 

 そこで藤堂が目にして違和感を覚えたのはとある少年の姿だった。

 

「(……誰だ? 私はこの子をどこかで……)」

 

『昔にどこかで見た』という引っ掛かりを感じながらも、この騒動をどう利用(あるいは救済)するかを考える藤堂だった。




久しぶりに藤堂を出せました。 (;^ω^)

規約違反に当たるかもしれませんので『狂犬加入』のアンケートを取りたいと思います!

お手数をおかけしますが何卒ご協力をお願い申し上げます!

尚ヴィレッタ姐さんの方はもうスバルを介入させる予定です。 (;・∀・)


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第28話 犬猿の仲

感想にお気に入り登録にアンケートへのご協力、誠にありがとうございます! <(_"_)>

投稿する際に票を見たら凄いことになっていましたので驚きと感動のミックスで一気に眠気が吹っ飛びました。

では長めの次話です! 楽しんでいただければ幸いです!


 G1ベースの中でブリタニアの士官たちはいつもより険しい顔をした総督のコーネリアに、現状の把握している情報や侵入経路を話していた。

 

 武闘派であるコーネリアらしくない、『人質()()作戦』を。

 

「ホテルに繋がる橋はメインを残して全て落とされ、孤立した要塞となっています。 上空、及び水中からの接近はいずれも失敗していますので救出作戦を展開する為に、コンベンションセンターホテルの真下まで伸びている資材搬入用トンネルをナイトメアが使えばホテルを水没させる事ができます。 その混乱に乗じ、救助隊と特殊部隊を同時に送ります。」

 

 ギリッ!

 

「(クソ! テロリストどもが!)」

 

 コーネリアは腹が煮えくり返るような思いをしていた。

 

「ももも目下! サザーランドを既に送り込んでいます!」

 

 その圧力は思わず喋っていた士官に冷や汗を流させ、『自分が何か粗相をしたのではないか?』と錯覚させるほどだった。

 

 これは原作でもそれとなく描写されていたが今まで一学生として育っていた世間知らずで実の妹であるユーフェミアに、社会勉強をさせようとコンベンションホールにお忍びで会議に参加させたのはほかでもないコーネリア本人だった。

 

 だが原作と違ってもう一つ、彼女を必要以上に焦らせる要因があった。

 

 それはついさっきユーフェミアが逃げ遅れたことを映像中継で知った直後に、皇族のみが使用できる直通電話の内容だった。

 

 電話の相手は(コーネリアにとって)役者を演じ切ることが数少ない特技である弟のクロヴィス。彼が今まで聞いたこともない慌てた様子でコーネリアに懇願した内容。

 

 それは────

 

「(よりにもよってユフィだけなく、ライラまでもがあそこにいるとは!)」

 

 ────『ライラを救ってくれ』だった。

 

 さらに追記となるが、コーネリアは皇族の中でもライラの存在を知っている数少ない人物の一人だ。

 

 コーネリアはその昔、皇族とは思えない腕っぷし(と本人の希望)でマリアンヌの警護長を務めていた時期もあった。

 そしてマリアンヌを一目でも見たいと思っていたクロヴィスは何かと理由を作っては母親と一緒にマリアンヌのいる宮殿に出入りしていたところからクロヴィスとコーネリアは犬猿の仲となった。

 

 彼女とクロヴィス双方にとって忌々しい記憶だが、お互いが昔に自分たちの妹の自慢話をしては互いにムキになり、()()まで発展したのは一度や二度だけではなく当時のSPたちも頭を悩ませていたとか。

 

 近くの者にコーネリアが練習用の刃を潰した剣を持ってこさせてはクロヴィスをボコボコにする。

 花壇など近くにあればクロヴィスは筆とキャンバスを持ってこさせて芸術で競い合い、ジッと地味な作業ができなかったコーネリアは近くの者に練習用の刃を潰した剣を持ってこさせてはボコボコにする。

 

 などなど。

 

 とまぁ、クロヴィスからすれば幼少の頃にライバル視していたルルーシュ以上に苦手な相手であろうコーネリアに直接連絡を取ったことも彼女にとっては驚きであったが、彼のナルシスト気味な口調が微塵も無かったことがどれだけクロヴィスが弱気になっていたのかを伝えていた。

 

「(幸い、ユフィはお忍びだったから名簿に名は出ていない。 ニンジン役者(クロヴィス)の妹であるライラも、学生を装っているから観光客として来ている…………)」

 

 ビィィィィ!

 

「お、送り込んだサザーランドが全滅したと入電!」

 

「「「「何?!」」」」

 

「敵は改造したリニアカノンを砲台化させたグラスゴーを設置している模様です!」

 

「(チィ! やはりそう一筋縄では行かないか!) 長丁場になる! 包囲網を固め、ほかの地区の警戒レベルも上げろ! これが別作戦の陽動の可能性も捨てるな!」

 

「「「「イエス、ユアハイネス!」」」」

 

 ピリリリ! ピリリリ!

 

 通信機から電子音がすると近くの者がそれを取る。

 

「…………総督閣下、参加申請が届きました。」

 

「どこからだ?」

 

宰相閣下(シュナイゼル)直属の特派です。」

 

「(またか? ナンバーズを乗せた、第七世代とあの偏屈な貴族か……しつこいな。 兄上(シュナイゼル)の直属でなければ……)」

 

「それと……その……」

 

「なんだ、早く言わぬか?!」

 

 急に士官が気まずい、歯切れの悪い様子になるのを見たコーネリア腹心の部下であるダールトンが怒鳴る。

 

「そ、それが……特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)と名乗る部隊からも申請が……」

 

「なんだと?」

 

特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)』。 以前にアリスが所属していることは記載したが、ここで更に補足をすると機密情報の塊である彼らは特派よりさらに特殊な立ち位置にある。

 

 表向きは『バトレー将軍直属の少数精鋭部隊』だった筈だが、クロヴィスの暗殺未遂の責任を問われてそのバトレーがブリタニア本国に呼び戻されたことで、正式に本国からの命で『独立部隊』と籍が変わっていたのだ。

 

「……特派に、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)か。 気に食わんな。 『そんなに参加したいのなら待機せよ』とだけ返せ!」

 

「イエスユアハイネス!」

 

「姫様……」

 

「わかっている、ギルフォード。」

 

 ダールトン、そしてコーネリアの親衛隊隊長と騎士であるギルフォードもコーネリアから特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)のことは()()()()()聞いていたし、何度か紛争が絶えない激戦区でも遭遇したことがある。

 

 一見すると特派の新型(ランスロット)に乗るのがナンバーズ(スザク)である件まで見ると、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)も同じと言える。

 

 だがその先から圧倒的な違いがあり、コーネリアと(特に)ダールトンは特派より更に特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)がいろいろな意味で嫌いだった。

 

 理由は────

 

「────ダールトン。」

 

「ハ。」

 

 コーネリアの声にダールトンが彼女の言葉を察してその場を後にするとさっきおどおどしていた士官が近くの者に小声で問いを投げた。

 

 「おい、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)ってなんだ?」

 「何やらすごい部隊らしい。 遂行した全ての作戦が成功率100%だとか。」

「な?! 本当か?!」

 「ああ。 けど噂に聞くと部隊員全員が()()()で、今までの隊員の中には『戦死』は誰一人として居ないかわりに────」

 

 「────貴様ら私語を慎め! 作戦中だぞ!」

 

「「い、イエスマイロード!」」

 

 明らかに堪忍袋の緒が切れたギルフォードの注意に士官たちがビビりながらも職務に戻る。

 

 

 

 場は移り、ダールトンが足を運んだのは明らかにG1ベースの外にある森の中だった。

 

「これはこれは、アンドレアス・ダールトンではありませんか。 久方ぶりですな?」

 

 ダールトンをまるで迎え出るように立っていたのは両目とスキンヘッドの所為でよく見える側頭骨を某漫画(アニメ)のように機械化した中年ブリタニア軍人の男性だった。

 

「遠路はるばる、よくこの極東の島に来たなマッド()()。」

 

「今は『大佐』です、アンドレアス・ダールトン。 先のエリア5鎮圧作戦での功績を認められ、昇格いたしました。」

 

「……前回見た時より、ナイトメアフレームの輸送コンテナが少ないような気がするが?」

 

「所詮は()()()ですからね。 心配には及びません、()()の手配はもうすでにしております故。 それにこの場にいない()()()()は別の任務を遂行中ですので。」

 

「……そうか。 邪魔したな。」

 

「いえいえ。 私の部隊に声をかければ、いつでもご期待に応えてみますとも。」

 

 ダールトンは何も言わずにその場を去る。

 

「(『もう一人は別の任務』、か。 つまり、一昨年に(コーネリア)様たちと一緒に見てから八人使()()()()()と言うのか、あの腐れ外道が。)」

 

 そのがっちりした身体と体中に残る傷跡の見た目に反して戦災孤児の世話を見ているダールトンにとって、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)は特に吐き気と憎悪が湧き出るような部隊だった。

 

 先ほど、G1ベースにて話し合っていた士官の噂は事実に基づいていたもので、『訳アリ』とは特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の隊員全てが『とある適性を持った占領区難民の()()』。

 

 今まで亡くなった隊員は正式には『戦死』ではなく、『反逆罪』で処刑(粛清)されている。

 

 ダールトンが上記で“八人使い潰した”とは文字通りの言葉だった。

 そしてマッド大佐の“消耗品の補充の手配”もそのままの意味である。

 

「ん~。 相変わらず嫌われているね、マッド(狂った)()()♪」

 

 ギリリリ!

 

「その声と口調……シュナイゼルの『犬』か?」

 

 そんなマッド大佐のこめかみに血管を浮き上がらせる、軽~い口調のロイドをマッド大佐は振り返りもせずに憎しみを込めた言葉を口から出す。

 

「ワンワン♪ そうは言うけどねぇ~? いくら()()()()でもボクたち特派は貴方の部隊と違って丁重に一つ一つを作り上げてはメンテを怠ってはいないし、パーツを明らかに使い捨てにするようなことはしない。 長い目線で見ると、コスパがいくらなんでも悪すぎだよ♪」

 

「吠えていろ! 貴様の従来の技術強化(ランスロット)より、私の革命的技術(サクラダイト合成繊維)の方が優れていることを帝国中に────いや、私を嘲笑った世界に認めさせてやる!」

 

「コスパも燃費も悪い貴方のやり方じゃ、到底無理だと思うけどねぇ~?」

 

 それを最後にロイドは鼻歌をしながら離れていくが、途端にマッドの顔には不敵な笑みが浮かぶ。

 

「それに、貴様のランスロットは()()()とやらに負けていたと聞いたが?」

 

 固まったロイドが歩みを思わず止めてしまい、鼻歌もぴたりと止まる。

 

「……おかしいねぇ~? あのデータはシュナイゼル殿下にしか送っていない筈なんだけど……」

 

「貴様自慢の玩具(ランスロット)も所詮、その程度という事だ。 それに()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っておこう。 だからこれでも私は君に感謝しているのだよ、()()()()()()()?」

 

 

 ロイドが珍しく笑みをするのをやめるとピリピリした空気を発するまま、彼は歩みを再開する。

 

「なぁに、あれ? ねぇ、ルクレティアなんか知っている?」

 

「あの二人、旧知なのよダルク。」

 

 このやり取りをコンテナの陰から見ていたショートカットで褐色の少女────ダルクはおっとりしてそうな、サイド三つ編みにした白に近い銀髪の少女であるルクレティアに問いを掛け、意外な返事にダルクが眉毛をハの字にさせる。

 

「そう~? 全然見えそうにないけど?」

 

「『旧知』と言っても、『ライバル視』の類だ。」

 

 そこにダルクやルクレティアよりは年長者で、それほどルルーシュたちと歳が離れていなさそうなツリ目で黒髪ロングの少女が裏から出てくる。

 

「あ。 サンチアお帰り~! で、どうだった?」

 

「周りはマスコミと正規軍だらけだ。 近くの町に出たくとも出られん、金は返すぞ。」

 

「ちぇ! 『このエリアのお菓子は美味しいらしいよ』ってアリスから聞いていたのになぁ~。」

 

「アリス、まだ自分がエリア11のどこにいるのか言えないんですかサンチア?」

 

「中佐────ああ、違った。 『大佐』は未だに“極秘任務に就いている”とだけ言っている。 ()()()()()()()()()()()とも言っていたが。」

 

「でもさぁ~? ()()ハゲのいう事だよ? 二人はハゲを信用できると思うの?」

 

「「「……………………………………………………………………………………………………」」」

 

 ダルクの言ったことで三人が黙り込んだことに、ダルク本人が場の空気を変えようとする。

 

「で、でもさ! なんか面白そうじゃん! あの特派のランスロットの相手をしたサザーランド! あれってきっとギアスユーザーだよね?! 今まで見たことも聞いたこともない動きだったもん!」

 

「未だに『可能性は高い』だけだ、ダルク。 間違えるな。」

 

「そこで私たちの出番です。 相手も能力を使わざるを得ない状況を作って確信に出来れば、きっとアリスも呼び戻されるでしょう。」

 

「はぁ~、アリスは良いなぁ~。 もしハゲの言うことが本当だったら、『比較的に命の危険はない』ところにいるんだから。」

 

 ダルクたちは知る余地もないが、アリスは今彼女たちが居るコンベンションホールに立て籠もっている草壁中佐率いる部隊によって人質になっていた。

 

 

 


 

 

 怖い。

 

 俺ことスヴェンは、ドキドキとさっきから心拍音が耳朶にうるさく届く中、身体の震えを必死に我慢しながら横を見る。

 

 隣にはミレイはガタガタと震えるニーナの手を握りながら背を擦って安心させようと気丈に振る舞い、シャーリーはブリタニア帝国では珍しい『祈り』をするかのように胸の前で手と手を絡ませてギュッと瞼を閉じていた。

 

 反対側にはムスッとするライブラに、そんな彼女を見て冷や汗を掻くアリス。

 

 そしてさらに距離を置いて眼鏡と髪型を少し変えて帽子をかぶったユーフェミアと、彼女の護衛の女性らしき姿があった。

 

 俺がここにいる理由の本命である彼女が覚えている原作通り、ここにいたことで少しだけホッとする。

 

 これでユーフェミアがいなかったら本気で泣いているぞ、俺。

 

 難しい顔をしているのは、先ほど日本解放戦線に連れていかれた男性に関係しているのか?

 

 なら安心しろユーフェミア、尋問とか指とか耳とか鼻を切り落とされたわけじゃないから。

 

 原作通りならそいつは今頃ホテルから突き落とされて、地面に落とされた熟し過ぎたトマトのように即死の筈だ。

 

 グゥ~。

 

 そこに場違いな音が聞こえてくる。

 

 誰だ? こんな時にお腹を鳴らしているのは?

 

 「お、抑えてくださいライブラさん!」

 「む、むぅぅぅぅ……やっぱり無理ですよアリス~。」

 

 よりにもよってライブラかよ。

 てかそれでムスッとしていたのかよ。

 

 スッと俺はポケットの中に手を突っ込んでは同じ動作で『カロリーのメイド』を取り出してアリスに渡す。

 

 彼女が『なんでこんなの持ち歩いているのよ?』というジト目を俺は無視する。

 

 答える気のない俺の意図を読んだのか、アリスはそれをライブラに渡すと顔をパァ~っと明るくさせて彼女はモグモグとそれを頬張る。

 

 俺は視線を日本解放戦線の奴らに移すが、どうやら俺たちの『監視』と言うよりは『威圧』の意味の方が高いな。

 

 ここまでブリタニア軍が来ないと思っているからか、人質たちが躍起になるのを防ぐためか……

 多分、両方なんだろうな。

 

 外はもう真っ暗だ、もうゼロがここに来ていてもおかしくない筈。

 コーネリア、白い悪魔(ランスロット)の突入を早く決断してくれ。

 

 そんなことを考えているうちに震えているニーナの口が小さく開くと同時に、俺が口開けて彼女の言葉を隠すような音量で喋りながら両手を挙げる。

 

 「イレ────」

≪────すみません、曹長殿。 草壁中佐に会わせてもらえませんでしょうか?≫

 

 日本解放戦線の兵士たちはギョッと銃を構えながら俺を見て、周りのミレイたちを含んだブリタニア人は全員はてなマークを浮かべて俺を見る。

 

 それもそうだろう。

 俺が今、口にしたのは()()()()()()だ。

 

≪き、貴様! 何故ブリタニア人が日本語を喋る?!≫

 

 良し、予想通りに俺を撃たなかったな。

 任務開始(ミッションスタート)だ。

 

≪自分は父の旧知である藤堂中佐に頼まれ、この会議に観光客として潜入していた旧日本秘密情報部の河野(こうの)の息子です。≫

 

≪な?!≫

≪藤堂中佐?!≫

≪旧日本秘密情報部だと?!≫

≪どういうことだ?!≫

 

 よーしよしよし。

 驚け驚けテメェら。

 頼むから驚き続けて俺を撃つなよ?

 頼むよ?

 

≪一応隠密行動中でしたが、そちらの独断で藤堂中佐に頼まれた潜入任務も水の泡と化したので。 ですので、せめて草壁中佐に藤堂中佐のお考えを伝えたいのですが……≫

 

≪……どうする?≫

≪どうするも何も……≫

≪怪しい。≫

 

 うん、俺もそう思う。

 だから俺もダメ押しをするさ。

 

≪皆さんが本土防衛戦にて草壁中佐に命を拾ってもらい、ここにいる皆が決死の覚悟で草壁中佐に従っていることも藤堂中佐から聞いていますが……≫

 

 この一言で日本解放戦線の皆がハッとする。

 

 図星だろう?

 普通に考えて、こんなバカげた作戦を言い出した草壁についていく奴はそうそういないだろうからな~。

 

 ここら辺の設定資料と昔みたその説、思い出して良かったぁ~!

 

≪………………分かった、案内しよう。 ただし、手を頭に付けたままだ。 妙な動きをすれば即射殺する。 ゆっくりと立て。≫

 

≪ありがとうございます。 (ニコッ)≫

 

 言う通りにすると、俺は不安気に見上げていた生徒会の皆に笑顔を向けてほかの不安そうに俺を見る人たちを見渡す。

 

「ッ!」

 

 そしてひっそりと護衛の女性が俺から視線を外した隙に()()()()変装しているユーフェミアにウィンクをしてから日本解放戦線の人たちに従い、おとなしく連行された。




というわけでイレギュラーズがエリア11に呼ばれてしまいました。 (汗


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第29話 散る赤と予想外

感想にお気に入り登録にアンケートへのご協力、誠にありがとうございます! (シ_ _)シ

アンケート期間はナリタ事変あたりまで続ける予定です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 夜が訪れた河口湖周辺では、未だかつてない程ガチガチの包囲網を展開したブリタニア軍が敷いていた。

 

 そしてコーネリアはゼロを乗せた報道局のトラックがコンベンションホテルの敷地内へと消えても、ずっと歯がゆい気持ちでいた。

 

 それは自分の力では無事にユーフェミアとライラを救う事が出来ないとか、ゼロを送り込めば多少の時間稼ぎにはなるのと彼と日本解放戦線を一網打尽に出来るという算段からなどではない。

 

「(なぜ、ゼロはユフィやライラの事を()()()()()?)」

 

 以前示した通り、ユーフェミアは副総督に任命される(つい最近)まで学生生活を送っていた。

 ライラほど徹底されていないにしろ、ユーフェミアも世間に名前は知られているが容姿まではまだメディアによって公開されていない。

 

 だというのに、ゼロは確かに自信満々で以下の通りコーネリアに告げていた。

 

『選べ、コーネリア! クロヴィスを悲しませながら自分も悔やむか! それとも彼に恩を売りながらユーフェミアを含めた人質たちを助けるかを! 前者ならば私を今、その銃で撃て! 後者ならば我々を通らせろ!』

 

 まるで、確信を持ったような言い方だった。

 

「(だが私にとっては好都合だ。 この際、忌々しい日本解放戦線もろとも始末してやる!) 特派と突入部隊の準備はまだか?」

 

「もうじき双方、終わると聞いています。」

 

「姫様、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)から新たな申請が────」

「────無視するように伝えろギルフォード。」

 

 結局リニアキャノン攻略にコーネリアは得体の知れない特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)に借りを作るより特派(シュナイゼル)を選んでいた。

 

『同じナンバーズを使うのなら、せめて生存率が高い方を選ぶ』。

 そして、『同じ借りを作るのなら少なくともある程度の予想ができる兄上(シュナイゼル)の方がいい』と。

 

 これはダールトンがたまにしてしまいがちな『情からの判断』ではなく、単純に『使える駒は多く手元に持っていた方がいい』という戦略的なものだった。

 

 特派(ロイド)がこれまでのデータの元に出した計算上、ランスロットの機体性能上では二発に一発は当たるとされていた。

 

 対してマッド大佐によれば“作戦は100%成功()()()()”という、怪しさ満点のものだった。

 

 コーネリアから出撃を許されて喜んでいたロイドを横に、突入準備をするスザクと彼の心配をするセシル。

 

 その間、ホテル内部ではルルーシュがゼロとして日本解放戦線の『値踏み』をしていた。

 

 自分の同胞(手駒)になるのか、あるいは……

 

 

 


 

 

 ルルーシュはゼロとして、案内された会議室のソファーに座りながら対面していた草壁中佐と口でのやり取りをしていた。

 

「(『義』、『誠意』、『使命感』か……この男は()()だな。)」

 

 そしてルルーシュは話している間、草壁中佐の考え方がまさに一昔前の軍人らしく『柔軟性に欠けているか』を実感させていた。

 

 よってその時点で草壁中佐個人には『不合格』の烙印をルルーシュはすでに押していた。

 

「(だが、腐っても正規の軍人だ。 この作戦が別の目的を果たすための可能性が三つほどある。 一つ目はブリタニア軍に有効な打撃を与えるための陽動。 二つ目はここを占拠することで何らかの成果を出す。 三つめはわざと目立つような行動をとり、俺のような者を誘い出して接触し、試す。 自らの手札となる人質を減ら()すなど、愚の骨頂だが……『個人』、『隊』、そして『組織』として見極めなければいけない。)」

 

 だがルルーシュの思っていたそれ等の可能性に当てはまらないどころか、内外双方に自分達の存在アピールするという強行的な『プロパガンダ』だった。

 

 しかも本作戦は日本解放戦線としての行動ではなく、草壁個人の部隊の独断ときた。

 

「(なん……だと? これほどの無能者の暴走を許すとは……やはり日本解放戦線は大きすぎたか。 これでは同盟どころか合併されてしまうな。) お前たちは『古い時代』そのものだ。 もう、救えない。」

 

 そうルルーシュが告げると、さっきまで余裕綽々だった草壁や部屋の中の兵士たちの表情が険しいものへと変わっていく。

 

 草壁に至っては怒りに任せて日本刀を抜刀していた。

 

「(兵士たちが何も疑問を持たないところを見るとおそらく、草壁一人が例外ではないのだろう。 日本解放戦線は『使う』ことはあっても『協力』することはないな。)」

 

「どういう意味だ、ゼロ! 返答次第によっては────!」

「────貴様らの作戦に『未来』はない。 あまりにも曖昧で結果が不確かな方法の上に将来性がない。 

 過激な行動で一時の注目は浴びても、一時的なものだ。 ブームのようにな。 

 最悪、次の月には大衆の記憶から無くなっていてもおかしくはない程度の作戦で命を粗末にしている。」

 

「き、貴様ぁぁぁぁ! 知った風な口を────!」

 

 コンコン。

 

『────中佐。 先ほど連絡した人質を連行しました。』

 

 顔を赤くさせる草壁からノックされたドアにルルーシュが意識を一瞬だけ移す。

 

「(やはり来たか。 昔から夢見がちで平和主義のユフィが多分、名乗り出たのだろうな。 もしくはライラがそれを見かねて“連れていくなら私を連れて行くのですー!”とか……もうこれ以上こいつら(草壁達)と話しても、得るものはない────)」

 

 カシュン!

 

「────『死ね』。」

 

 ゼロのマスクの一部がスライドし、ルルーシュの左目が露出する。

 

 赤く、ギアスの印が浮き出る目が。

 

 その一言が『命令』として部屋の中にいた日本解放戦線の草壁と兵士たちの脳に直接叩き込まれる。

 

 すると草壁は刀を己の腹部に切っ先をつけ、兵士たちは銃口を自分のこめかみにつけるか口の中で咥える。

 

 グサッ! ドババ。

 パパパパーン!!!

 

 草壁たちは何の戸惑いも声もなく、ただ静かに自分たちの命を絶つ。

 

 乾いた銃声を聞いたのか、勢いよく部屋のドアが開かれて無傷のゼロを見ては銃を構える。

 だが予めこれを予想していたルルーシュは既に手にしていた拳銃で兵士に致命傷に至らない傷を負わせる。

 

「グァ?!」

 

「落ち着け。 私は何もしていない、話をしていただけだ。 そして中佐たちは見ての通り、己の行動の無意味さを悟って自決された。」

 

 平然と答えるゼロの指摘にやっと部屋の状態を見た兵士は青ざめながら肩の傷を抑えながら外にいる仲間たちに伝えるためか、そのままその場を立ち去る。

 

「フ. 女性ながら自ら名乗り出るとは大したも────のほぁ?!

 

 ルルーシュは彼が連行してきたであろうユーフェミア、あるいはライラを想定して言葉を放つもドアの前に立っていた人物が全く予想外だったことに、ゼロとしてあるまじき変な声を出してしまう。

 

「………………ええっと? 私は女性ではないです。 あと、これはどういう状況なのでしょうか?」

 

 立っていたのは引きつる笑顔を浮かべていたスヴェンだった。

 

 この瞬間、ルルーシュの頭は一気に八つほど浮かんだ提案を彼は即座に止めた。

 

 そのどれもが口封じに類するものだったからだ。

 日本解放戦線が思っていた以上に使えない組織と断定した今、『ゼロ』は『象徴』にするつもりだ。

 故に『完璧』でなければいけない。

 

 

 余談ではあるが、『即座』と言っても数秒間ほど彼は固まっていた。

 

 笑顔を浮かべながらも困った様子のスヴェンを前にルルーシュは思考を止めたまま、自分が遅く帰ってくる期間によく咲世子さんと一緒に何かとナナリーの世話をする友人を立たせたままはどうかと思ったのか、部屋の中へと招き入れてから自分がしてしまった失態に気付く。

 

「(何をしているのだ俺は?! こいつにはもう既にギアスを使っている! いやそれよりもだ、何故ここに? いやここに居るのはわかっていたことだがなぜユフィやライラではないのだ? もしかして、代わりに名乗り出たと言うのか?! しかし────いや違うだろ俺?! 俺は何を考えてこいつを招き入れた?! 誰か俺に説明をしてくれ、判断材料が足りなさすぎるあ゛あああ゛あ゛あああ゛あ゛ああ゛!)」

 

「……ゥ。」

 

 急に部屋の中を見ていたスヴェンの顔色が悪くなって口を手で覆い、ルルーシュはさらに慌てる。

 

「お、おい?! 大丈夫か?! (しまった! それよりも、この惨状はいち学生には刺激的すぎるだろ、俺?!)」

 

 ルルーシュが横目で見たのは切腹時に自らの臓器をかき出した草壁の遺体や、自分の頭蓋骨を撃ち抜いた兵士たちの飛び散った脳が引っ付いた壁だった。

 

 そして本人に自覚はなかったが不覚にも、一瞬だけとはいえ『ゼロ』としてではなく素の『ルルーシュ』としての言葉を出してしまった。

 

 スヴェンもそれに気付いた様子はなかったが。

 

 


 

 

 

 アホなタイミングで胃薬の効果が切れちまった。

 

 俺はさっきからムカムカし始めた胃から、何かが逆流しそうな感覚に口を覆うとゼロが驚くような声を出す。

 

 というか『おい、大丈夫か』って素のルルーシュじゃん。

 

「す、すみません……ちょっと胃の調子が悪くて。 (ストレスから。)」

 

「い、いや。 こちらも(死体だらけの部屋に)招き入れて申し訳ない。 しかもよく確認せずに“女性”と判断してしまい────」

「────はは。 “クール”とは言われているけど、流石に“女性”と間違えられたのは初めてだったよ。」

 

 あー、ハズイ。

 

 予定も狂った。

 

 計画通りに事が進んでいたら俺がユーフェミアやライラではなかった時点で驚くまでは想定していたけど、まさか招き入れるとは予想外だ。

 

 本来なら、『見ての通りテロリストどもは自決した。 私の同胞もほかの人質たちの救出に動いている、お前も戻れ』とかでその場から離れて胃薬飲む予定だったのに……

 

 やっぱり日本解放戦線に睨まれたとしても無理やり服用すれば良かったヨホホのホホヨ。

 

「「…………………………………………………………」」

 

 特に言葉も出ない、気まずい空気が俺と(ソファーに戻った)ゼロの間に続く。

 

 もうナニコレ?

 

 何このお通夜状態?

 

 目的は達成できたし今すぐ逃げたい。

 

「ん?」

 

 俺が窓の外を見ると地上からものすごいスピードで白い物体が宙を舞いながら緑色の何かを持っていた銃らしきものから打ち出す。

 

 ズズズズゥゥゥゥン。

 

「チッ。 白カブトか。」

 

 地鳴りのような音とビルがわずかに揺れると生でゼロの『白カブト呼び』が聞こえた。

 

 つまり、ランスロットが突撃に成功したのか……

 

 もうちょっと早く来てくれよスザク~!

 あとコーネリアも早く判断してくれよ~?!

 

「行くぞ。 私の部下も他の人質たちを保護している筈だ。」

 

 ゼロを追うようについていくと一期でよく見た黒の騎士団員制服を着た者たちがブリタニア人たちをゴムボートに誘導していた。

 

 ってゼロもう見当たらないし?!

 

「ぁ……す────ング。」

 

 そして俺を見て声を上げそうになった帽子とバイザーの下からでも赤髪が目立つ黒の騎士団員にまた口を手で覆いながら視線を送ると、相手も口をつぐんでから天然パーマの男の元へと小走りに近づいて耳打ちをする。

 

 流石に長い間一緒にいるだけあって、こっちの意図を即座に掴んだな。

 

 う~ん、原作とちょっと違って察しが良くなっているのは喜ぶべきか……危険視するべきか。

 

 やがてホテルは崩壊し、インパクトの所為で覚えがいのあるゼロの演説(パフォーマンス)が耳に届く。

 

「ブリタニア人よ! 恐れることは無い! 捕らわれていた人質は全員、救出した! 貴方の下へとお返ししよう!」

 

 船の上にいたゼロを、あらかじめ用意された照明が一気に彼と彼の背後に立っていた者たちを照らす。

 

 てか扇? 玉城? お前らはなんでポーズを決めてんの?

 

 お前らは悪の手下AとBか? それとも召使AとB?

 

「人々よ! 我らを恐れ、求めるが良い! 我らの名は黒の騎士団! イレヴンだろうと、ブリタニア人であろうと、『武器を持たない者の味方』である!」

 

 う~ん、迫力満点。

 

 余は満足でござる。

 

「力ある者よ、我を恐れよ! 力無き者よ、我を求めよ! 世界は、我々黒の騎士団が裁く!」

 

 俺みたいな半端物はどうしろと?

 

 そんな俺の持つ悩みを答えてくれそうな人はいなかった。

 

 そもそも俺の事情を誰にも話す気はないけど。

 

 ま、これで一応『最悪の結果』を少しでも崩せたのなら良しとするか。

 

 

 

 

 

 余談だがスヴェンはこの時、ある意味真の『最悪』をまだ知らなかった。

 

 彼が以前、キョウトから物資やパーツを確保する為に送ったランスロットに関するデータ*1を、インド軍区の()()()()()が高値でそれを丸ごと買い取ったことを。

 

「あのプリン伯爵の機体データを、こんな思わぬ形で入手できるとは────待って。」

 

 そして、そのデータの中には()()()()()()()()()()も含まれていた。

 

「何、これ?! データは確かなの?! それとも…………………………ウフフフハハハハハ! 面白い! 面白すぎるわぁぁぁぁぁぁ! 閃き(インスピレーション)がどんどん湧いてくるわぁぁぁぁぁ! お前たち! 紅蓮弐式とは別に機体を特注で作るわよ! は? 『予算?』 そんな馬鹿でみみっちい事を言うんじゃないよお前たち! いざとなったら無頼や無頼改のデータを横流しすりゃ済むことなんだよ!」

 

 そんな愉快な高笑いをする、キセルを持った彼女の近くにいた者たちはまた胃と頭が痛くなったそうな。

 

 だがそれは、また後の話となる。

*1
25話より




暑い時期が続いていますが皆さんも頑張りましょう。


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第30話 『リフレイン』

どうしてもキリの良いところまで書きたかったので少し長めの次話となってしまいました。 (汗

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 m(_ _)m


 河口湖ホテルジャック事件から一週間ほどが経った。

 

 俺は久しぶりにのんびりとした時間を────

 

ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 マジしんどい。 寝ていい? 寝る……スゥー。」

 

 ────満喫できていなかった。

 

「おい、寝るな。 よだれぐらい拭け。」

 

「んうぅぅぅぅ~。」

 

って俺の服で拭くなよ。 ライダースーツは汚れにくいから逆にお前の顔に引っ付く────」

「────おねが~い。」

 

 ……ま、良いか。

 

 カレンがまたも黒の騎士団活動で身体を駆使した結果、殆んど俺に身体を預けていたカレンがダルイ感じの声を出してはついに電池切れ寸前となった。

 

 今は丁度、シュタットフェルト家の屋敷に忍び込むところだが……

 

 フルフェイスヘルメットとライダースーツを着た俺のこの姿を見たら絶対に衛兵を呼ばれるな。

 

『カレンお嬢様を攫おうとした不審者』として。

 

「昴は良いよねぇ~? 整備班だから必要時以外は呼ばれないし、私みたいに無茶ぶり頼まれないし~? ………………まさか『スバル』の呼び方も、『素顔を隠す』のも考えのうち?」

 

 ギクッ。

 

「まさか。 結果的にそうなっただけだ。 それに俺も……」

 

「“俺も”、何?」

 

「……いや、なんでもない。」

 

「ケチ~。」

 

 言えるわけがない。

 

『俺も社会の裏で、特にナンバーズの間で爆発的に売れ始めた麻薬の調査をしています』なんてな。

 

 ()()()()()()()

 

 何とか無事に屋敷の隠し通路を使ってカレンをベッドに放り込んだ後────『みぎゃ?! ……スヤァ~』────俺も自室に戻って着替えてから、また出かける用意をするとバッタリ留美さんと会ってしまう。

 

「きゃ?! す、すば────()()()()君? こんな夜中に、どこ行くの?」

 

「少々野暮用で、租界に。」

 

「そ、そう……気を付けてね?」

 

『そういう留美さんこそどこか出かけるのか?』と私服に着替えていた彼女に言いたかったのをグッとこらえて、そそくさとそのまま素通りしようとした留美さんを見送r────

 

「そういう留美さんこそどこか出かけるのですか?」

 

 ────無理。

 

 やっぱり、見過ごせない。

 

「ッ」

 

 俺の問いに、留美さんは息を詰まらせたように固まりながら目をそらす。

 

 この具合だと……()()みたいだな。

 

 良かった。

 

 ()()()()()

 

「留美さん、悪いことは言いません。 ()()()()()()()。」

 

「ッ……昴君の……それは、どう言う意味……かな?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 弱々しい笑顔を向ける彼女に俺はきっぱりと言い放つと、留美さんはフルフルと震える手を胸の前に置きながら半歩下がる。

 

 俺も心苦しいが、この事件は留美さんにとって後遺症を残すようなことに急発展する。

 

 それこそ身体の自由が色々と効かなくなり、寝たきり状態になるほどだ。

 

「それに、カレンだけじゃない。 悲しくなるのは、()()だ。」

 

 足がガクガクと笑いそうなのを、俺は誤魔化すように踵を返して留美さんからとっとと離れる。

 

 「私は……どうしたら……」

 

 大丈夫だ、留美さん。

 

 この時をある意味、()()()()()

 

 俺が、何とかするから。

 

 だから、もう少しだけ我慢してくれ……

 

 

 

 

 

「おい、この情報は確かなんだろうな?」

 

「へ、へぇ……『坊ちゃんの条件に照らし合わせる』、という事ですが。」

 

 俺の前にはいつかアンジュリーゼを襲おうとした酔っ払い三人衆だ。

 

 こいつらはあの後、『スヴェン()が見逃していたのは何か理由がある』と思った毒島が独断であの後追跡して調ky────“躾けた”らしい。

 

 悪い予感しかなかったので詳しいことは敢えて聞いていない。

 

 俺としては完全に誤算だったがこいつら、俺より長い間ここ(租界)で使用人をしていただけあって『裏の世界の伝手』を探し出す腕は結構いいと思う。

 

 何でこいつらがその才能を使わなかったと聞いてみたところ、理由は単純だった。

 

 “有効活用できるかつ足のつかない金が無かった”だそうだ。

 

 と言う訳で、こいつらには主に俺の『情報屋』としての『情報収集役』をさせている。

 

 だからこいつらの名前は聞いていないし、俺もこいつらに名前を言っていない。

 彼らは俺を『坊ちゃん』。

 俺は彼らを(内心で)酔っ払いモブA,B,Cと呼んでいる。

 

 連絡するには租界の中でいくつかのポイントに印をつければ『どこ』と『重要性』が分かる。

 

 何か互いにあったとしても、あくまで『ギブアンドテイク』の関係だ。

 

 最悪、毒島の事などがバレると俺は思ったのだがそのことを口にしたら三人とも急に頭を抱えだして唸り声を出した。

 

 悪い予感しかなかったので詳しいことは敢えて聞いていない。←二回目

 

「あのぅ……」

 

「ん? そう言えば、お前の手はもう大丈夫か?」

 

 確かガラス破片を投げたと思ったが……

 

「は、はぁ。 ブリタニアの医療技術と坊ちゃんの金で何とか。」

 

 マジか。

 スゲェな、ブリタニアの医療技術。

 

「……それでその、一応条件に見合うものを探し出せましたけど……それらの真偽までは────」

「────そこまでは俺も求めていない。 金も、命あってのモノだからな。」

 

 そこは俺もこいつらと同感だ。

 

 彼らにさせていたのは原作で主にエリアの住民たちをターゲットした麻薬、『リフレイン』のディーラーに取引先や搬入先などだ。

 

「あと、少し耳に入れたいことがありまして。」

 

「なんだ?」

 

「ええっと……」

 

「……ああ、金か。」

 

 俺はポケットの中から何枚か札を渡す。

 

「……実は、記者かテレビ局の奴みたいなのを何度か見ましてね? 坊ちゃんの頼みで嗅ぎまわっていた俺たちも何度見かけましたので言いたかっただけです。」

 

 メディア関係の人か。

 多分、ネタ探しだろうな。

 どこの誰かは知らないが、ご苦労さま。

 

 さてと。

 酔っ払い三人衆に集めてもらったリフレインに関する情報の中で、キーワードたちを探す。

 

『警察』、『租界内部』、『ナイトポリス』だ。

 

 原作で明確に覚えている内容を、単語で照らし合わせてれば広い租界でも主な場所はかなり絞られる。

 

 そして、あとは『中華連邦』と……

 

 ピリリリ!

 

 携帯から音が出て、画面を見ると丁度俺が求めていた情報が送られていた。

 

 大まかにとはいえ、ブリタニア軍が『怪しい』と睨んでいる地区で何人かの軍人たちに“近寄るな”と警告が出されている場所だ。

 

 これは意外なことに、アンジュリーゼが学園でブリタニア軍に知り合いや親族内にいる学生たちから入手した情報だ。

 

 アイツ、何故か俺がBボタン長押しダッシュをした後に何度か連絡をして来て“本当にできることは何もないか?”と聞いてきたから適当に“じゃあブリタニア軍の情報くれ”と言ったらさっそく巡回ルートを寄こしやがった。

 

 …………………………………………既に『アンジュ』になっとらん、これ?

 

 覚醒イベントオワタ?

 

 ちょょょょょょょょょょっと会うのが怖いですが?

 

 ま、まぁ大いに助かってはいるし?

『情報屋のスヴェン』としても?

『黒の騎士団のスバル』としても?

 

 ……………………うん! 考えないようにしよう!

 

 

 

 

「はぁ~い! 元気にしていたスヴェン?」

 

 次の日、何故かミレイがシュタットフェルト家の屋敷に来ていた。

 

 何しに来たミレイ。

 ホテルジャックあとは今まで散々俺を避けていたくせに。

 

 あとニーナもライブラも。

 あとついでにアリスも。

 

 ずっとロンリーボーイ状態だったから、黒の騎士団と情報屋とカレンのフォローを両立するのが楽だったけれど。

 

 寂しくなかったからな?

 俺はウサギじゃないから寂しさで死ぬことはないぞ?

 本当だからな?

 だからピザをいつも以上に作ってそれの減り具合でホクホクしていたなんてただ一時的なことだからな?

 

「…………………………………………………………」

 

 固まった(と思われていたっぽい)俺とミレイを留美さんがオロオロとしながら互いに見る。

 

「えと、すば────スヴェン君のお友達と聞いたから呼んだのだけれど────」

「────あ、来ちゃった♡」

 

 リアルで“あ、来ちゃった♡”と言われてもなぁ~。

 相手がミレイだし。

 それでも似合うのだから“さすミレ”か?

 

「ミレイ会長、何の用でしょうか?」

 

「う~ん……制服も似合うけど燕尾服もいいわ!♪」

 

 「な・ん・の・用でしょうか?」

 

 俺は忘れていないからな、アンジュリーゼの件。

 

「う……えっと、カレンに渡したい物があって……」

 

 あ。

 そういやこんなシーンあったような気が。

 

 主に覚えているのは、カレンが自室で隠し忘れたダンベルとかの筋トレ道具がドアップで出ていたところだけど。

 

「留美さん、ここからは私が引き継ぎます。」

 

「迷惑……だったかしら?」

 

「いえいえ、全くもってそのようなことはございません。」

 

「そ、そう?」

 

「ええ。」

 

 ミレイをカレンのいるところに案内する為、オドオドする留美さんを後にする。

 

「ふ~ん……さっきの女の人と知り合い、スヴェン?」

 

「ええ、まぁ。 同じ職場ですので()()。」

 

「「…………………………」」

 

 コンコンコンコン。

 

 特に会話もないまま、カレンの部屋まで来ると()()ノックをする。

 

『……はい?』

 

「スヴェンです。 ミレイ会長がお嬢様に“渡したいものがある”そうです。」

 

『……そう、入っていいわよ。』

 

「失礼します、お嬢様。」

 

 ドアを開けると『病弱設定』のカレンがいた。

 

 そして50キロのダンベルもやはり隠しきれていなかった。

 

 片手で50キロって……ゴリラじゃん。

 

 その細腕のどこからそんな筋力が生まれてくる?

 

「会長────?」

「────は~い、カレン♪ 実はと言うと、二人に渡すものがあってね? スヴェンも、一緒にどう?」 

 

「では紅茶と茶菓子を持ってきます。」

 

 

 

「ちょっとお祖父ちゃん(理事長)が直接渡した方が良いって……これ、二人の成績証明書なの。 ()()からの。」

 

「ッ。」

 

 思い出してきたぞ、この展開。

 なぜミレイがいつもより弱めの笑みを浮かべていた理由も分かったような気がした。

 

「という事は、私とスヴェンが『ハーフ』だという事もバレた?」

 

「ええ、そうね……私はそんなモノ、全然気にしないけれどね? ……それでカレンの、父か母がシュタットフェルト家の────?」

「────父が当主で、実の母はどんくさいメイド。 かつての男を頼って、この屋敷で働いています……」

 

 やっぱり、カレンにはそう留美さんは映ってしまうか。

 

 留美さん、クソビッチ(シュタットフェルト夫人)から“カレンに近寄るな”って口酸っぱく言われているしイジメもどんどん過激化しているしな。

 

「そう……複雑ね。 正妻も妾も娘も一緒に住んでいるなんて……スヴェンは?」

 

「一応、父がブリタニア人で母が非ブリタニア人と()()()()()()()。」

 

「「え。」」

 

 カレン、そしてミレイが不思議そうに俺を見る。

 

「それって、どういう────?」

「────なんかカレン以上に複雑な感じがするけど……」

 

 あれ?

 俺、カレンには言っていなかったっけ?

 

 ……言ってないような気がする。

 

「父は片手で数えるほどしか姿を見ていませんし、実の母は出産時に他界していると聞きましたから。 それに、事情が事情だけに写真の類もなかったので母は『覚えていない』というよりも『知りません』。 父もほぼ同じことを言えますが。」

 

「「………………………………」」

 

 あ、あれ?

 なんか急に黙り込んだぞ二人とも?

 俺は気にしていないし、今更実家のことを話しても痛くも痒くもないんだが?

 

「その……凄いね、スヴェン?」

 

 ミレイさんや。 その“凄い”はどういう意味でしょうか?

 

「うん、色々できるから余計に。」

 

 あ、なるほど。 そっちか。

 

「そうですね。 子供の頃は他に出来ることも無かったのでただひたすらに部屋で勉強していましたからね。 

 あとは監視付きの乗馬でたまに部屋の外に出るぐらいですかね? ですので、エリア11になる前の日本に身一つで送られたときよりかなり色も肌に付きましたし。」

 

「「………………………………………………………………」」

 

 おおう?!

 

 なぜかさらにお通夜状態に突入?!

 

 ナンデ?

 

 

 


 

 

 ルルーシュはゼロとして、次々と法では裁かれない組織や裏社会活動を潰して着々と民衆を仲間につけていた。

 

 ブリタニア人であろうと、ナンバーズであろうと関係なく。

 

「(計画通りだ。 民衆はいつも社会に不満を持っているからな。 “何かしたいが自分が痛いこと、汚れることは嫌だ”で行動に出ない。 それを黒の騎士団が代理でやり続ければ自然と支援者も錯覚し、一歩踏み出す者たち自らが名乗り出てくる。)」

 

 彼が次にターゲットにしたのはかなりの度合いで租界とゲットー両方に流通している『リフレイン』だった。

 

「(思っていたより使えるな。 流石は『情報屋』と自称するだけのことはある。)」

 

 以前、スヴェンにギアスをかけて彼が情報屋として活動していることを知ってから何度かカレン経由で情報を買ったり売ったりしていたが、下手な記者よりコネがあるような成果を見せていた。

 

「(それに、意外と多種多様な人物が扇のグループにいたことも大きい。)」

 

 ルルーシュが次に視線を送ったのは黙々とカレンのグラスゴーを手袋越しでも器用に整備するフルフェイスヘルメットとライダースーツを着た『スバル』。

 

 彼のそばにある『大きな槍』に似た、新型兵器と思われるものを見ながらルルーシュは考えを続ける。

 

「(いまだに地味な仕事しか受け付けないが、シミュレーターで出したパイロット適正はB。 カレンほどではないがブリタニア正規軍とそう変わらない腕に整備やモノ作りの心得……おそらくは元軍人か技術士か何かだったのだろう。) では、作戦通りに私が合図をしたら全員、あの倉庫に突入せよ。」

 

「ああ、わかった。」

 

 もじゃもじゃ頭()が返事した頃にはもうすでにルルーシュは移動を開始していた。

 

 今夜襲撃するのは新たにナゴヤの租界に搬入されると思われるリフレインの倉庫だ。

 

 今までの場所より大きな動きがある、警察用のナイトメアまでもが配備されている可能性という情報もあるので修理が終わったカレンのグラスゴーも引っ張り出していた。

 

「ん? 何だテメェ?!」

 

「『俺の命令に従え。』」

 

 

 ルルーシュはギアスを使い、リフレイン密入組織の一員と思われる武装した男を『駒』と『内部情報提供者』として使った。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「日本、万歳! 日本、バンザーイ!」

「はい! 来月、私たち結婚するんですよ! 玉の輿です!」

「栄転だぞ! 今度はパリ支店だ!」

「来週の花火、一緒に行くよね? いつもの神社で待っているからね!」

「任せて下さいよ! 日本のサクラダイトに関する技術は未だに世界一ですから!」

「決まったぞ留学! 俺は! 俺はやってやるぞぉー!」

 

 ルルーシュ達とカレンは倉庫内へと突入し、裏組織の人間らしき者たちを一掃しながら逃げた者たちを追うと、奥に待ち受けていたのは数十人ほどのリフレイン使用者。

 

 日本がまだ『国』として健在した時代に、自ら溺れる者たちだった。

 

 そして────

 

「────ナイトポリス?!」

「────警察までグルだったのかよ?!」

 

「(やはりか!) Q1(カレン)!」

 

『任せて!』

 

 ルルーシュが声を出す前にカレンはもうすでに行動を起こし、瞬く間に同じグラスゴーがベースになっているとは思えないほどの手腕でナイトポリスを鎮圧化する。

 

「(よし、これでこの者たちの保護を────)」

 

 『────動くなテメェらぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 ルルーシュたちがスピーカー越しの声の方向を見ると、もう一機ナイトポリスが()()を手にしながら銃を()()に向けていた。

 

 『動けばこのイレヴンをぶち殺す! 特にそのグラスゴー! ちょっとでも動いたら撃つ!』

 

『何か』、『ソレ』、とは日本人と思われる『誰か』だった。

 

「い、いや! 放してぇぇぇぇぇぇ!」

 

「(この声と慌てようから女性、それもリフレインを使用していない正常な者か。 近くにいたのか? どちらにせよ、この時間帯と場所にいることで『リフレイン』────)」

 『────な、んで?』

 

「ん?」

 

 そこに、チャンネルを開いたままカレンの声がゼロのマスクの中に搭載されている無線機から聞こえた。

 

『どうして、アンタがここに────?!』

 「────おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 無線機から来るカレンの苦しそうな声より、聞き慣れていない叫び声が意外な人物から発していたことにルルーシュ、カレン、扇たちまでもが耳を疑った。

 

 スバルだった。

 

『こ、このぉ!』

 

 ナイトポリスのパイロットは慌てていたのか人質の事を完全に忘れ、ハンドガンを一心不乱に走るスバルへとそれを向けて乱射する。

 

 同時にスバルは背負っていた槍らしきモノに外付けされていたワイヤーを射出してその先についていた金具をナイトポリスに引っ付けると、電動リールで急速に巻き取っていく。

 

 これにより人間では出せない速度で近づくと同時に撃たれた弾丸をかい潜り、彼はその加速と勢いを利用して一気にナイトポリスのコックピットブロックまで駆け上がって槍を構える。

 

『ば、バカn────?!』

 「────でやぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ボン!

 

 聞き慣れない、乾いた噴射と共に槍がナイトポリスのコクピットブロックへ一気にくぎ打ち機のように撃ちこまれ、むせ返るような匂いが辺りに散漫する。

 


最も危険な状態、それは爆発する衝動。

たくまずして自ら仕掛けた『時限(次元)爆弾』。

それがどのようなきっかけで突然に目を覚まし、偽りの仮面を打ち破るか分からない。

本人が望もうと、望むまいと。

 

例えるのなら、『地雷』である。

 

自爆、誘爆、御用心されたし。

 

次回予告、『ナリタ連山、近づく』。





……次回予告、こらえ切れなかったです。 (汗


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第31話 ナリタ連山、近づく

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

誤字報告、誠にありがとうございます! お手数かけております。 (汗

溶けそうな暑い中、共に頑張りましょう!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


 気が付くと、人質を取っていたナイトポリスに万が一の場合の為に持ってきていた『保険』を使用した後だった。

 

 ヘルメット超しでも鼻を襲う火薬の匂い。

 手には使用済みの磁石型グラップリングフックを付けた未だに噴射の所為で熱いパイルバンカーの試作機。

 足元には巨大なクギ状の鉄の塊を打ち込まれたコックピットブロックと、飛び散った()()()()

 

 そしてすぐ横には────

 

「ヒッ?!」

 

「ッ」

 

 ────顔を真っ青にして怯えた様子の()()()が俺を見ていた。

 

 

 

 

 

「お母さん!」

 

「カ、カレン?! どうして、貴方がここに?! それにそのヘッドバンドは、ナオトの?!」

 

 俺は離れた場所から、グラスゴーを使い動かなくなったナイトポリスから留美さんを下した後に出てきたカレンたち母娘を眺めていた。

 

 さっきまで熱かった身体も冷えてきたことで、パイルバンカーと俺の衝動的行動について反省点を何個か思い浮かべるとカレンたちの話し声が耳に届いてくる。

 

「カレン! 貴方、ナイトメアになんかに乗って……まさか貴方、最近噂になっている黒の騎士団の────?!」

「────そんなことはどうだっていい! お母さんこそなんで……どうしてこんなところにいるの?! ま、まさかお母さんもリフレインを────?!」

「────ち、違うわ! 確かに古い知り合いから渡されていたけれど使うか迷って……結局怖くなって、ここに来て返すつもりだったわ!」

 

「ま、“迷った”って……もういい加減にして! 貴方はいつもそうよ!」

 

「か、カレン────?」

「────日本を滅茶苦茶にしたブリタニアにすがって、男にすがって、今度は“薬を使おうか迷った”ですって?! “怖くなって返しに来た” って、どれだけ……」

 

「カレン────」

 「────もう私の名前を呼ばないで! ほっといてよ!」

 

 カレンは涙を浮かべながらただただ叫んだ。

 

 それは子供の頃以来、久しく目にしなかった『カレン』だった。

 

「だって……」

 

 「“だって”何よ?!」

 

「ナオトはもういないから、“せめて私だけでも”と思って。」

 

「…………………………は?」

 

「“ずっと、そばに居るよ”って直接口に出来なくても……いつか貴方がもう、私を必要ないと思う時まで居たかった。 でも、貴方はブリタニア人になっても幸せにはならなかったのね? ごめんね、カレン。 契約違反でクビになっても話せば良かったわね────」

「────まさか全部……全部、私の為にしていたと言うの?」

 

「だって、貴方は私の娘よ? 自分の子供の幸せを願わない母なんてそう居ないわ。 それとも、やっぱり嫌?」

 

「……………………………………………………」

 

「それだったら……私、明日にでも屋敷を出るから……」

 

「…………う────」

 

 

 そこでカレンはやっと留美さんの行動原理が全て自分にあると察し、ただただ留美さんに抱かれるまま、泣いた。

 

 俺は複雑な心境のまま、それをヘルメットの下から見ていると横から声を掛けられる。

 

「珍妙なモノを作ったな、スバル?」

 

「ゼロ……」

 

「まさか歩兵用の、対KMF武装が出てくるとは思わなかったぞ。」

 

 そうだ。

 そう言えばルルーシュの前でパイルバンカー(試作兵器)を披露してしまったのだった。

 これは大きな(痛恨の)ミスだ。

 

 どうする?

 

 どうすれば……

 

「あれは()()()だ。」

 

「ほう? それにしては多大な成果を見せつけたようだが?」

 

「確かに。 だが今回は運が非常に良かった上にあらゆる条件が有利に重なった偶然だ。  そもそもこの武器、『歩兵武器』としては失格だが、ナイトメアの武装として転換の余地があった。 結局、兵装は間に合わなかったが。」

 

「面白いな。 出来次第、私に報告しろ。」

 

 うわぁ~。

 嫌だなぁ~。

 声だけからでも、マスクの下が『魔神ガーゼロ』の顔をしているってわかるよぉ~。

 

 馬鹿。

 

 熱くなった俺の馬鹿。

 

 出来るなら過去の自分を殴りたい。

 

 ………………………………………………どうしてこうなった?

 

 

 

 

 あれからリフレイン中毒者や後遺症の持つ者たちを保護するために軍警察を呼んで彼らがちゃんと仕事をするのを見届けていた。

 

 あるものは足の自由が利かないらしく、担架に乗せられてから救急車の中へと消える。

 

 勿論、その人混みの中に留美さんの姿はない。

 

 今頃は、カレンが彼女を連れて屋敷に戻っているだろう。

 

 予定とかなり違ったが、彼女たちが無事に和解できる状況に持っていけて良かった。

 

 ルルーシュには、『スバル』は目を付けられたけど結局ヘルメットを外すことにならなくて良かった。

 

 ……しかし暑いな。

 それに掻いた汗もべたべたするし。

 

 俺はヘルメットを取って、目に入りそうだった汗を袖で────

 

「────へぇ?」

 

 俺は反射的に振り向きながら拳銃を構え、背後から聞こえた声の持ち主をちゃんと目にする。

 

「これはまた面白いな。 まさか()()()とここで出会うなんて。」

 

 彼を観ていたのは、白い拘束衣を未だに着ていたCCだった。

 

「(何でここにCCが?)」

 

 

 

 スヴェンは単に思い出せなかったのか(あるいは忘れたのか)、原作でのリフレインエピソードの最後にCCは静かにルルーシュを見守っていた描写があり、『嘘の涙は人を傷つけ、嘘の笑顔は自分を傷つける』と言う意味深いモノローグをしていた。

 

 今回も感傷に浸っていた彼女は帰り道中、運よく見たのは丁度スヴェンがヘルメットを取った直後だった。

 

 スヴェンにとっては、『運が悪い』以外のなんでもないが。

 

 

 

「(いや、それは今いい。 問題なのは、メイクをしていない素顔を見られたことだ。)」

 

「“なんで私がここにいる”、と聞きたいようだな? 散歩だよ。」

 

「……………………」

 

「どうした? 喋らないのか? 案外お前は学園の外では退屈な男なのだな、“スヴェン”とやら? ああ、それとも“スバル”と呼んだ方が良かったかな?」

 

『CC』。

 見た目は15、6歳の少女の見た目をしているが文字通り『不老不死』。

 既に長い時を生きてきたおかげか自分に危険があろうがなかろうが自由気ままな性格で、あのルルーシュでさえ扱い方に頭を悩ませる程の自由人だ。

 そんな奴が俺の素顔を見てスヴェン=スバルで、“面白い”とまできた。

 今何とかしないと、マウントを取られたまま俺を困らせるのは火を見るより明らかだ。

 

 一か八かだ。

 せめて釘をさせればいいが、もし俺の見当違いだったら……

 

「なら、俺もお前を“()()”と呼ぼう。」

 

 

 

 スヴェンの言葉に飄々としていたCCは口をつぐみながら今まで見せたことの無い、キッとした真剣な目つきを彼に向ける。

 

「貴様、どこでそれを聞いた? 何故知っている?」

 

「さぁな。 どこと何故だと思う?」

 

「……………………………………」

 

 尚スヴェンは己の仮面(ポーカーフェイス)深く感謝していた。

 

 「(設定資料で見た、CCの名前が初期のモノで合っていて良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)」

 

「……フフ。 お前、あの坊やとは違う意味で本当に面白いな?」

 

「(『坊や』って『ルルーシュ』のことだよな? って違うだろ俺! このままだと俺の素顔を見てオサラバする気だぞこいつ(CC)は!)」

 

「じゃあな。 気が向いたらまた────」

「────待て。 お前に話がある。」

 

 また風の赴くままのような態度に戻ったCCがこの場から去るのを何とか引き止める。

 

「なんだ? 私はもうお前に話すことなど何も────」

「────俺は()()()()()()()()()()()。」

 

「ッ……話とはなんだ?」

 

 良し、グイグイとあっちから食いついてきたな?

 予想通りだ。

 

 明らかに呼び止められて嫌そうな顔を浮かべる彼女を、半ば強引な手で『取引』のテーブルへとつかせる。

 

「俺は別にお前の『それ(願い)』を妨害するつもりはない。 むしろ手助けしたい。」

 

「……ハッ。 何を言うかと思えば。 私はもう坊やと契約を結んでいるのだぞ? お前の助けなど必要ない。」

 

「だが使える駒は多いに越したことは無いだろう? だからこれは『契約』ではない、これはお互いの利の為だ……そうだな、『同盟』……いや。 『不干渉』に近いな。 

 俺は可能な限り、お前の頼みを聞く。 代わりにお前は単純に、俺の事を誰にも伝えなければいい。 ああ、気が向いたのならこちらの頼みも聞いてくれるとありがたい。 無論、こっちの方はいつでも断ってもいいぞ。」

 

「……正気か、お前?」

 

「前もって言うが、これにはあらゆる連絡手段を含んでいる。 例えば……()()もな?」

 

「…………………………………………」

 

 スヴェンが最後に言ったことに対して、CCの眉毛がピクリと反応する。

 

 実は彼女、作中でも時々見かけると思うが突然特に誰もいないのに喋り出すときがある。

 

 それはまるでどこかの誰かと喋っているようで、信じられるかどうかは別としてその時はいわゆる『世界』に『意識』を通して本当に『()()』と会話しているのだ。

 

 これは、CC以外には恐らく片手でも多すぎるほどの者しか知らない機密事項に近いことだ。

 

 今スヴェンが言ったことは明確にそれを意識したものらしく、CCの興味を引くには十分だった。

 

「………………お前の事を伝えなければ、私の頼みを聞くのだな?」

 

「“可能な限り”、だが。 (さぁ、どう出る? 作中随一の気楽かつ傍若無人?)」

 

「………………………………生意気な若造だ、たかがピザ作りが得意のくせに。」

 

 「(やっぱりピザ食べとったの、お前かいな?!)」

 

 CCはここでくるりと背中を見せてそのまま歩き出しながら手を上げて振る。

 

「その調子で作り続けろ。 ()()()()()()()ぞ?」

 

 ようやくそれを最後に、彼女はビルの屋上から姿を消してスヴェンはやっと長~いため息を出す。

 

「(今のは、彼女が承諾したのも同然……ルルーシュに漏れることは無い、あれはあれで義理堅いからな。 あとは俺の頼み事は基本的にスルーされるとして……彼女の頼みごとと、『願い』だな。)」

 

 尚スヴェンはこの時知らなかった。

 

 自ら悪魔との契約をしていたことに。

 だがそれは、またあとの話となる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『リフレイン作戦』からまた数週間後、俺はかなり充実した時間を過ごしていた。

 

 まずシュタットフェルト家の屋敷では留美さんがミスをしなくなり、カレンも(出来るだけ)自然体で彼女と接するようになった。

 

 クソビッチ(シュタットフェルト夫人)? 

 

 アイツなら愛人たちが互いを陥れようとしてそれがジョナサン様(シュタットフェルト当主)にバレないよう動いててんやわんやで『留美さんいじめ』どころではなくなった。

 

 なんてことはない。

 愛人たちに互いの事を知らせたり、アポイントがかち合ってしまうなどのちょ~~~~~~~~っと調整をしただけだ。

 

 フハハハハハ!

 踊れ踊れ道化ども!

 この私の為にぃぃ!

 

 あと留美さんってなんとなくだが、俺のフォローもしてくれているような気がする。

 恐らくカレンから俺が『情報屋』まがいの事をしていると聞いたからだが、明らかに俺が『黒の騎士団員スバル』として活動していることも意識しているっぽいのは、気の所為か?

 

 俺が聞いてもカレンは“流石にそっちは頼まれた通りに黙っている”と答えたし。

 

 留美さん自身に聞いても、ニコニコするだけでスルーするし。

 

 助かってはいるからあまり深入りしていないけど。

 

 そしてアッシュフォード学園でも奇妙なことが俺の周りで起きていた。

 

 今まで余所余所しくしていた奴らが向こうから来たのだ。

 

 話を聞くと原作のように四六時中、学生に質問攻めされたらしく、上手くクラブハウスなどに立ち寄れなかったらしい。

 

『やっと先輩たちやアリスに部屋から出してもらったですー! “あのホテルジャックで目立っちゃったからライブラの充実した個室で匿って”とか“危ないから”なんて知らないです! あ、スヴェン先輩! プディングを大量に作ってみたです! 食べますー?』

『と言うかアンタ食べなさい。 一応それ、ナナリー用に作った失敗作だから。』

 

 これがライブラとアリス。

 と言うかシャーリー、ミレイ、ニーナ……お前ら、なにこの子(中等部)の部屋に押し入って籠っているの?

 

 ライブラの部屋はあれか? お前たちに取ってアラモ*1か何かか?

 

『スヴェン、都合悪かったらいつでも言ってね? 生徒会の書類整理とかならルルーシュたちに押し付けるから。』

『あ、スヴェン君。 えと……時間があったらでいいんですけど、この理論を読んでどう思うか感想をくれますか?』

 

 ミレイがなんか申し訳なさそうな顔(優しい目)をするし、ニーナはな~んか頬を紅潮させてモジモジするし。

 

 二人とも、熱でもあるのかな?

 

 とまぁ、女性陣がなんか異様なほどにやんわりと接してくるのだ。

 

 どうしてこうなった?

 俺、何かした?

 なんか怖いんですけど?

 

 


 

 

「フゥ~ン……そ。」

 

 そして目の前には俺の話を聞いて、ジト目アンジュリーゼとニヤニヤしながら腕と足を組みなおす毒島がいた。

 

 紫でした。

 

「フフ! 恵まれているな、スヴェン?」

 

 何に?

 

 ちなみに今いる場所はいつしか、俺がBダッシュしてナナリーの『にゃ~』を録音する為に走り去ったテラス。

 

 珍しくここに足を運んだら毒島が既に居たので、自然(?)とアンジュリーゼもここに来た。

 

 バリバリバリバリバリバリ。

 

 おい、なに次から次へと食っていやがる?

 

 以前見せた『淑女』らしさはどこに捨てた?

 やっぱり『アンジュ』になったのか?

 そこんとこどうなの?

 

「ん? 毒島、その腕の動きは……怪我でもしたのか?」

 

「よくわかったな? 一応見えないよう、肩に肌色の包帯も巻いているのに。」

 

「一瞬紅茶を飲むときに躊躇したからな。」

 

「よく見ているな?」

 

「当たり前だ。」

 

 「フゥ~~~~~~~~ン?」

 

 なんだアンジュリーゼ、その声は?

 縮退炉(しゅくたいろ)をチャージしているのか?

 頼むからバスター三号みたいになるなよ?

 

 え? 『意味が分からない』って?

 奇遇だな、俺もだ。

 

「最近、夜の租界に出ると噂されている輩と接触を図ろうとした。 そいつはブリタニア人の兵士を次々と襲っては殺しているらしくてな? このままだと租界の治安や、裏社会のパワーバランスなどに支障が出てきてしまうのでアンジュと探しに出た。」

 

 まさかのアンジュ呼びデタァァァァ?!

 

「まずは話をしようと思ったのだが……潜んでいた私たちを逆に奇襲したのだ、問答無用でな。 この肩の傷だが、その輩とやらに付けられたのだ。」

 

 え。

 

「今思い出してもむかつくわよ……しかもビルとビルの間が狭い横道にいた私たちを上から襲撃するなんて、ただものじゃないわ。」

 

 奇襲されたとはいえ毒島とアンジュリーゼの二人が応戦して、毒島に怪我をさせただと?

 どんな化け物だよ?

 

「しかしよく怪我だけで無事だったわね、私たち? ……冴子?」

 

 

 アンジュリーゼの他愛ない独り言に毒島が考え込む。

 

 彼女が思い浮かべるのは先日の夜、明らかにアンジュリーゼより自分を先に狙った刺客が去り際に言った言葉。

 

『違う。 お前たちじゃない。』

 

「(あれは、どう言う意味だったのだ? まさか誰かをおびき出す為の行動だというのか?)」

*1
地球で起こったテキサス独立戦争中で有名な籠城戦が行われた砦の名前




あ、暑いぃぃぃぃ……
空調ががガガガがガオガイガー…… _:(´ཀ`」 ∠):_ …

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます。 次話かその更に次の話辺りに反映させるかと思います。


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第32話 ナリタ攻防戦

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

溶けそうですが、熱中症に気を付けて頑張りましょう!

余談ですがアンケートの進み具合にびっくりです。
まさかこれほど近いとは思いませんでした……

ご協力、誠にありがとうございます! そしてお読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! (シ_ _)シ


「おはようございますですナナリー!」

 

 アッシュフォード学園の朝を、元気のいいライブラの声がクラブハウス付近に響き渡る。

 

「おはようございます、ライブラさん。 いつもより、すごく張り切っていらっしゃいますね?」

 

「モチのロンです! この間作ったパウンドケーキとパイを寝かして置く必要が無くなったのです!」

 

「(『モチ』? 『ロン』?)」

 

 そのままライブラは咲世子によって押されながらはてなマークを出すナナリーの車椅子の横を歩く。

 

 ちなみにライブラのこの表現はスヴェンから聞いたものを応用しただけであると追記しよう。

 

「あれ? 今日、アリスは一緒じゃないのですかライブラさん?」

 

「ん~、なんか家に呼び出されたみたいです。」

 

「珍しいですね?」

 

「です。 それと先輩たちは? 姿が見当たりませんですけど?」

 

「お兄様なら二、三日ほど一人で旅行に出ると聞いています。 スヴェンさんは、カレンさんのお世話をしているとメイドの方から連絡があったらしいです。」

 

「う~ん…………………………なんか寂しいですね~。」

 

「そう、ですね……」

 

 ナナリーの顔にわずかにだが影が落ちたのを見たライブラは、目が見えないとわかっていてもナナリーにニカッとした笑みを向けながら元気いっぱいの声をかける。

 

「じゃあ、私が目一杯ナナリーと話をするです! ここにいない先輩やアリスたちの分までです! あ、咲世子さん! 『ヨウカン』や『ダイフク』の作り方を知っていますですか?」

 

「『ヨウカン』? 『ダイフク』??? 何ですか、それは?」

 

 聞き慣れない言葉にナナリーはハテナマークを出す横で、咲世子は内心ビックリしていた。

 ペーパークラフト(折り紙)ならまだしも、まさかブリタニアの者から通でなければ知らない筈の和菓子が出て来るとは思っていなかった。

 

 そしてライブラはこの頃、エリア11の文化や食に触れ始めた兄の喜ぶ顔を思い浮かべていた。

 

 未だに疑問の目で出されたものを見るが(特にカレーライスの時は『な、な、なんなのだこの物体は?! 食するものなのか?!』とかなり慌てていたが)ライブラの期待する目に結局は負けてしまい、エリア11のモノを口にするクロヴィスは当時の弱気な性格からほど遠いほど元気なものとなっていた。

 

 実はプライドの高い彼に聞いても答えが来るわけがないので知る余地もないが、彼は密かに『家族愛』に飢えていた。

 長年騙しあい、闇討ち、暗殺未遂が日常茶飯事の皇族である彼は、ひょっとするとそれをマリアンヌやルルーシュ達を見て感じて彼が彼女たちに惹かれた要因の一つだったのかもしれない。

 

 それに自分の脊髄損傷を呪うことは未だに続けてはいたが、同時にそのおかげで久しくライラとのんびりした時間を過ごせたことにひっそりと感謝はしていた。

 

「ええ、私でよければ。 ナナリーお嬢様、羊羹と大福は『和菓子』の部類です。」

 

「やったです~! ナナリーには味見役をお願いしますです~!」

 

 ナナリーはクスっと笑みを浮かべ、期待を胸の奥に秘めた。

 

 咲世子さんが珍しくウキウキする声のトーンで、それらが如何に日本人である彼女にとって思い出深いもの等が想像できたからだ。

 

 

 

 

「…………………………」

 

 別の場所でニーナはひっそりとパソコンのキーを打ち込んでいた。

 が、ある時にそれを止めては横に置いてある論文へと目を移す。

 彼女がスヴェンに送った書類に基づいて、彼が書き上げたものだった。

 

 彼がそれを渡す時の顔が、ホテルジャックで自分が『イレヴン』と思わず口にしてしまいそうなのを強引に遮るときの行動と、去り際にウィンクした時の顔を連想してこう考えてしまう。

 

『あれは多分……………………』、と。

 

「スヴェン君……」

 

 ニーナは窓の外に広がる、青い空を見上げて彼の名を静かに口にしてハッとしてはパソコンに戻り、キーボードをさっきよりも無意識に力強く打ち込んでいた。

 

 

 

 

 アッシュフォード学園では珍しく、毒島が人目につくように登校して来ていた。

 

「「「「おはようございます、毒島の姉御!」」」」

 

 そして高級そうな車から降りてきた彼女を、一昔前のアニメか漫画のように何人かの男子生徒たちが迎えに来ていた。

 

「あれって、NACの────?」

「珍しい……いつもは人目を嫌うのに────?」

「お、拝めるぞ! だ、誰か写真を代わりに撮ってくれ────!」

 

 そんなヒソヒソ話を気にすることもなく毒島はまさに“お嬢様”らしい仕草などで珍しがる学生たちに平然と挨拶をしていく。

 

 それこそ、()()()()()などが目立たないほどまでに学生と教師たちの注目を浴びながら。

 

「(がんばれよスヴェン、カレン……そして────)」

「────毒島さん! 連絡先の交換を────!」

「────すまないなカルデモンド君、私は────」

 「────俺の名前を知ってくれていたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「(…………………………面倒くさい男だな。)」

 

 感激で泣きそうになるリヴァルを毒島は笑顔を絶やさず見ながらそう内心で彼を評価したそうな。

 

 

 


 

 

『ナリタ連山』、エリア11で最大の勢力と規模を持つ日本解放戦線の本拠地があると噂される場所で、昔から温泉町で有名なナリタ市も比較的に旧日本人であるイレヴンの人口密度が多い場所でもある。

 

 よって世界中からブリタニアの者たちが癒しと観光のために良く出入りする都市で、今までブリタニアは中々大規模な軍事作戦にあと一歩というところで踏み出せずにいられた。

 

 今までは。

 

「(日本解放戦線。 ユフィに危険な体験をさせたことを後悔させてやる!)」

 

 ナリタへ移動中のG1ベースの中にいたコーネリアは怒っていた。

 

 そして草壁中佐と名乗ったホテルジャックの主犯の行動や作戦に対して何もしない日本解放戦線に怒りの矛先を向けていた。

 

 その鬱憤を晴らすために『リフレイン』の出先である中華連邦の隠し拠点らしき島を徹底的に空爆してから彼女自らナイトメア単身で乗り込んで逃げ回る残存兵や生き残った機動兵器をグロースターのランスでめった刺しにするほど。

 

 だが怒りは収まらなかった、()()()()()日本解放戦線に対して。

 

「(ホテルジャックのことを肯定するか、利用するか、何かすると思えば『だんまり』とはな。 『テロリスト(日本解放戦線)の中に藤堂がいる』と聞いたが、やはり噂か。 ハッキリいって落胆したぞ、すでにマイナスだったがな……生温いな、人参役者(クロヴィス)め。 威勢だけは良かったが、実力が全く伴っていない。 日本解放戦線のようにな。)」

 

 コーネリアは“どうしても”とせがんで、政庁ではなく本作戦に同行してG1ベースのブリッジに立っているユーフェミアを見た。

 

「(それに対して、ユフィの突然の頼みには驚いた。 “戦いを実際に見てみたい”などと……)」

 

 

 当の本人であるユーフェミアはホテルジャック事件、自分が名乗り出ようかどうか迷っていた。

 

 皇族である自分がいれば、日本解放戦線は少なくとも話を聞くだろうと思って。

 だが中々そのタイミングがこなかったこと。

 護衛である変装した女性のSPがユーフェミアを止めていたこと。

 そしてとある少年が急に聞きなれない言語を喋りだして日本解放戦線の兵士たちを動揺させるだけでなく、そのまま乱暴をされずに連れていかれたとき明確に自分にウィンクを向けたのだ。

 

 まるで、お忍びで来ていたユーフェミアの正体を知っていたかのように。

 

 幸い、SPの方はそれを見逃していたがその同年代であると思われる少年の手腕が明らかに場慣れしたものだということを理解するのは容易かった。

 

 あの事件後、名誉ブリタニア人で元イレヴンであるスザクに少年が言った言葉を何個か覚えている限り発音すると、スザクはギョッと目を見開いて固まった。

 

『皇女殿下……それらは()()()です』、と。

 

 本来忘れがちではあるが、世界の三分の一以上を牛耳るブリタニア帝国の母国語である英語がコードギアスでは主流でブリタニア帝国本国はもちろん、支配しているエリアも同様である。

 

 よって、ブリタニア人が英語以外を話すのは『珍しい』を飛び越えて『奇怪』である。

 

 これを後に姉であるコーネリアと相談すると、意外と彼女は感心していた。

 

『仮想敵の言語を知っているだけでなく、話せるのは戦略的に評価できるものだ』と言って。

 

 これにより、ユーフェミアはいかに自分が世界を知らなさすぎることをわずかにだが気付かせていた。

 

 

 

 

 ナリタ連山では、黒の騎士団がゼロの指示に従って“ハイキング”をして頂上を目指していた。

 

 歩兵用の武装はもちろん、グラスゴーをチューンした新しくキョウトから贈られたナイトメア、無頼も騎士団員と土作業や発掘用の貫通電極などを詰めたトラックを押していた。

 

 そして後方では殿を務める赤い機体、紅蓮弐式の姿もあった。

 

 中にいたカレンはどこかぼんやりしながら再度、ポケットの中に入れていたメモを見る。

 

 そこに書かれていたのは輻射波動の細かい、発射時設定のメモだった。

 

「(スバル……どういうことなの?)」

 

『カレン、何か聞いてないか?』

 

 無線機からさっきまで新人たちと今回の行動原理などを議論していた玉城の声が出てくる。

 

「へ?! あ。 ごめん、何も聞いていない!」

 

『扇は?』

 

『いや……その……俺もだ。』

 

 これを聞いたカレンの胸は少しだけ重くなる。

 

「(私も扇も言えないよ。 『()()()()()()()』だなんて……私たちも半信半疑なのに。)」

 

 一方、扇も自分の無頼の中で渡されたメモの再確認をする。

 

 ゼロに渡されたメモには、明確にどの深さまで掘って、どのポイントに設備を埋めるかが書いてあった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(スバル、お前……あれはどういう意味だったんだ? わざわざゼロがわからないようなタイミングでこれを渡して、『無関係の人たちを巻き込みたくないならこれの指示通りに動いてくれ』なんて……)」

 

 それを考えながら、二人はナリタ連山を登る前に自分にメモをゼロが見ていないところで渡したスバルがいると思われるナリタ市を見た。

 

 

 


 

 

「ほい、これおつりね。」

 

「ありがとう。 貴方も、いつでも避難できるようにしておいたほうがいい。」

 

「そうかい? ここは安全だと思ったんだけどねぇ……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。≫

 

 俺ことスバルが日本語でそれを言うと、駄菓子屋のおばちゃんの目の色が一瞬だけ変わる。

 

≪そうかい。 じゃあ()()()()()()()。≫

 

 俺は駄菓子屋を後にして(大型トラックに偽装中の)KMF輸送トレーラーの中へと戻ると戦利品を袋から取り出し、ヘルメットを取ってそれ等を頬張る。

 

 バクッ!

 

 ビッグモナカうんめぇ~~~~~~~~~~。

 

 あ、窓には一応コーテイングしているから大丈夫だ。

 窓に顔を当てるまで近くに来たならともかく、パッと見たら暗く見えるように加工している。

 

 ゴクゴクゴクッ!

 

 「プッハァァァァァ!」

 

 ラムネもうんめぇ~~~~~~~~~~。

 

 余は満足じゃよ~~~~~。

 

 あ、一応言っておくが別に他の皆に置いて行かれた訳じゃないぞ?

 ゼロであるルルーシュに、念の為の『遊撃部隊』ということで別行動中でナリタ市に残っている。

 

『部隊』といっても、俺一人だけなんだけどね……

 

 ……………………………………こんな~はずじゃ~、なかったよね~♪ あの夏の日、の~♪

 

 え? 『元ネタ古い』? 

 

 うるさいよそこ。 自覚はしている。

 

 それに俺は(この世界では)まだ17なんだ。

 

 ズズゥゥゥゥン……

 

 俺がトレーラーの中でくつろいで待機していると、遠くからくぐもった爆発音が聞こえてくる。

 

 始まったか、コーネリアの『日本解放戦線壊滅作戦』が。

 

 ゴミをゴミ袋に放り込んで、後方へと移動する。

 

 なるべく置いてあるナイトメアを見ないように、待機状態へと機体を移行させておく。

 

 さて、と。 扇とカレンが渡したメモ通りに動いてくれれば良いが……動かなかったら俺はニーナの分も泣くぞ。

 

 実は渡したメモには、ゼロが今回使う『山崩し』を前もって俺がニーナと一緒に『仮想状況訓練』と称して計算しなおしたものが書かれている。

 

 これはもちろん、原作でのルルーシュがあまりにもコーネリアの大軍に大打撃を与えるためにわざと大雑把な計算をしたことで、被害が予想以上に広がってしまったのを防ぐためだ。

 

 別に偽善や同情や人道主義からの行動ではない。

 

 実はルルーシュがこれから行う人工的な『山崩し』で起きる土砂崩れに出張中だったシャーリーの父親が巻き込まれて死んでしまうのだ。

 

 最悪だろ?

 

 ルルーシュは自分の考えた非人道的作戦を行ったことで、知人の父を殺してしまうのだ。

 

 しかもそれだけで止まらず、遺体の身元確認でナリタにシャーリーは母親と来た際、()()()ルルーシュを見たヴィレッタと会ってしまい二人はルルーシュに疑いを持ち始め、さらにこのトラウマをシャーリーは利用されてルルーシュに銃を向けてしまう。

 

 今考えると本当に複雑な気持ちになるな。

 

 あの恋愛に関して引っ込み思案のシャーリーがあまりの動揺と悲しさと癒しを求めた末にルルーシュにキスをするのだから。

 

 …………出来れば、もっとハッピーな結末にしたい。

 それに前にも言った通り、後にシャーリーが絶望的な局面に立たされていたルルーシュ最後の拠り所となっていた。

 

 そして、この事件のせいで彼女は……………………

 

 パン!

 

 いってぇぇぇぇぇ~。

 

 俺は自分の頬を手で叩いてからヘルメットを着用する。

 

 暗い気持ちになるな、俺。

 

 これからコーネリアと加勢に来たスザクによって退路を求めるゼロたちが待っているんだ。

 

 任務開始(ミッションスタート)だ。

 

 

 

 


 

 ユーフェミアはコーネリアと親衛隊を出撃して後退するG1ベースの中で士官たちに作戦内容を聞いていた。

 

「この、後方にある部隊()()は?」

 

「ああ。 それらは()()()()()をパイロットとして有する友軍です。」

 

「一つはランスロットということですか。 では、このもう一つは?」

 

「……特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)と呼ばれる部隊です。」

 

「ナイトメアをナンバーズ如きが動かすなぞ、本来なら許されざる事なのですが……かの部隊────特別派遣嚮導技術部(特派)は第二皇子様の肝いりで、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)は本国直々に『独立部隊』として動く特権を持っているので、我々の人事権は及ばぬのです。」

 

「そんな部隊があるのですか……」

 

 

 

 

 

『……ムッ。』

 

『ん~? どうしたのサンチア~?』

 

 特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)専用の大型トレーラーの中にあるナイトメアに各自待機し、いつもは必要最低限の言葉以外発さないサンチアが部隊内部通信越しでも聞こえるほどの声を出したことにダルクが珍しがって声をかける。

 

『いや、()()変な感覚があってな? ルクレティア、ポイントAの43を探ってみてくれ。』

 

 いわれるままルクレティアは目を閉じて、考え込むような姿勢になる。

 

『……? なんです、これ?』

 

『どうなの?』

 

『あ、アリスちゃん……それが……』

 

『はっきり言え、ルクレティア。』

 

『ハッキリ言えないのです。 何か、()()()()()()()感じがするのです。 こんな感じは今まで体験したことがございません。 サンチアは?』

 

『私にはその場所周辺が()()だ。』

 

『え?! じゃあもしかしてハゲが言っていた────?!』

「────噂の“ギアスユーザーかも知れない”奴かもね。」

 

 特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)独自のパイロットスーツに身を包んだアリスは操縦桿を握る手に力を入れた。

 

「(さっさとこれを終わらせる。 サンチアたちには悪いけど、フルスロットルで行くわ。)」

 




狩る者と狩られる者。
それを利用する駆虎呑狼の計を図る者。

力をもたぬ者は生きては行かれぬ暴力の場へと山は化す。

あらゆる信念を持った者が集うナリタ市。
ここは第二次太平洋戦争が生み落とした表と裏が今衝突する都市ナリタ。

怪しい匂いと情報に惹かれて危険な奴等がその出所を求めてやってくる。

次回:
『ナリタ激戦区を駆けるワンマン部隊』

スヴェンの食したモノは彼の見積もりと同じで、甘すぎた。



……また次回予告をこらえませんでした。 (汗
暑さの所為にしておきます。 (汗汗汗

あと活動報告にツイッターリンク入れておきました。


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第33話 ナリタ激戦区を駆けるワンマン部隊 (前編)

感想、お気に入り登録、アンケートへのご協力、誠にありがとうございます!

活力剤にしてもらっています!

感想でもらったアドバイスで何とか暑い中を凌いでいます!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


「(フ。 やはりコーネリアらしい大規模作戦だ。)」

 

 ナリタ連山の頂上近くにいたルルーシュは自分専用の無頼から山を見下ろしていた。

 

「(利用させてもらうぞ、コーネリアに無能な日本解放戦線。 俺の『黒の騎士団』の演習敵(経験値)となるがいい。)」

 

 彼が横を見るのは今回の作戦の要となる紅蓮弐式。

 正確には異様な形をした右腕だった。

 

「(それに、インド軍区で名高い技術者の『輻射波動機構』を受け取ったこのタイミング。 この局面を利用しない理由はない。)」

 

『輻射波動』とは、インド軍区で有名なラクシャータ・チャウラーが新たに開発した技術の産物だった。

 

 触れた対象に高周波を短いサイクルで直接照射し、膨大な熱量を生み出して相手を爆散させる。

 要するに早い話が『電子レンジの応用で敵を“よく出来ました♪”の失敗時の結果になるまで焼く』武器だ。

 

「(とまぁ、以前話題になった『アンジュリーゼ家庭科事件』の例えは今は置いておくとしよう。)」

 

 思わず身震いをしたルルーシュは自分の作戦のおさらいをもう一度内心でする。

 

「(今回はほぼこの辺りの駐留軍を引っ張り出したコーネリアの軍に大打撃を与える。 むろん、今の戦力では無理な話だ。 

 “()()()()”ならばな。 

 あらかじめセットした掘削機に紅蓮弐式の輻射波動を使い、人為的な土石流を発生させて敵の包囲網もろとも周りを崩壊させる。 これを見れば日本解放戦線は攻勢にでて脱出を試みるだろう。 その時がコーネリア、お前のチエック(詰み)だ。

 さすれば一気に反ブリタニア勢力は立ち上がり、弱体化した日本解放戦線ではなく、大活躍した黒の騎士団の旗のもとに集まるだろう。)」

 

 ルルーシュは仮面をつけなおしてニヤリと笑みを浮かべながら無頼の外へと出てどっしりと構えた。

 

 コーネリアの計画が次のステージになるのを待つだけだったからだ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「クックック。 全くもって、順調すぎる。」

 

 ルルーシュは意図的にブリタニア軍が一気に展開した包囲網の中、今まで以上の笑みを無頼と仮面の中でしていた。

 

 包囲網の規模とブリタニアの戦力を前に黒の騎士団のほとんどが動揺し、幸いにも()()()()()玉城がほかの皆の代弁をして抗議の声をあげてくれた。

 

『“奇跡を起こしてみせる”だぁ~?! 奇跡が意図的におこせるわけねぇだろうがよ! お前にはリーダーは無理だ!』

 

 これに対してルルーシュは予定していた動作と言葉で即座に怯むこともなく言い返した。

 

 自ら携帯していた拳銃を捨てて、『ならば誰でもいい! この私抜きで勝てると思うのならば、私を撃て!』、と。

 

 結果は、今ルルーシュ(ゼロ)が無事に自分の無頼に乗っていることで想像がつくだろう。

 

「(“誰でも撃て”と言ったが、そうは出来まい。 ()()()()()()()()のだ。 『ゼロ』を撃てば、必然的に撃った奴が『ゼロの代わりにリーダーシップを取る』ということだからな。)」

 

 ルルーシュは意識をせず、遠くのナリタ市を見ては自ら独立させた(切り取った)イレギュラー(不安要素)を思い浮かべる。

 

「(それにいざとなれば、奴に声をかけて退路を確保する。 奴が同意にしろ、拒むにしろ俺のマイナスになるものは何一つないのだからな。)」

 

『黒の騎士団は正義の味方』と唱える一方で、そのリーダーであるゼロは仮面の下では魔王に似合う笑みをしていた。

 

『ゼロ、発光信号が出たよ。』

 

 Q1(カレン)の声に、恐らくブリタニア軍が日本解放戦線本拠地の入り口を発見した合図の信号を見る。

 

「(そしてコーネリアのことだ。 そこの突破を信頼できる部下、つまりは親衛隊の何人かに華を持たせる為に突破を命じるだろう。)」

 

 ルルーシュが外部スピーカーを使って声を周りで様々な反応をする黒の騎士団員たちに届ける。

 

「よし、すべての準備は整った! 総員、戦闘準備! これより黒の騎士団はブリタニア軍に奇襲をかけ、第3ポイントまで一気に行くぞ! 作戦目的はブリタニア帝国の第二皇女コーネリアの確保! 突入ルートの先陣を切るのは我がエースが乗る紅蓮弐式だ! いけるな、カレン?」

 

「ええ、いつでも。」

 

「使うのは三番の貫通電極だ。」

 

「(昴のメモの、読み通りだ。)……わかった。 」

 

 一瞬、間のあったカレンの短い返事に彼女の紅蓮弐式は地面に突き刺さった円柱型の装置を掴む。

 

「(……ん? よく見れば俺の指示した位置と深さより少しだけ違うな? 素人による手違いか? ……まぁ、些細な違いだ。 問題なかろう。)」

 

「出力確認。 輻射波動機構、涯際状態維持……」

 

 カレンは深呼吸をしながら出力の最終チェックをする。

 ゼロの計算のまま打つか、昴のメモか。

 

「鎧袖伝達! (間違っていたら数回、顔を殴ってやる!)」

 

 彼女は昴のメモどおりに打つことを決めながらボタンを押す。

 

 ドォン!

 

 輻射波動は貫通電極を伝い、地下水脈まで届くと一気に急激な温度変化を利用した水蒸気爆発が起きて地面が盛り上がり、山頂から予想していた以上の精密さで雪崩のような土砂が一気に駆け下りてゆく。

 

 ズズゥゥゥゥン!!!

 

 ルルーシュは乗っていた無頼のファクトスフィアを展開し、急変する状況を冷静に解析していた。

 

「(ほぉ~? 予想以上の成果だ、これは状況が限られるが利用できる。 まさか()()()()()()()()に被害が出るとは思わぬ収穫だったな。 さて……スバルとやらにも動いてもらうか。)」

 

 ルルーシュは自分の機体にのみ増設された外付けの無線アンテナを展開して、出力にブーストをかけて暗号化された通信を放つ。

 

「こちらキング。 R1、予定通りに作戦を────」

『────こちらR1。 無理だ、敵襲を受けている。 状況は“極めて難しい”と言わざるを得ない。』

 

 通信超しでも聞こえてくる音で、如何にスバルが激戦を強いられているのかをルルーシュに想像させていた。

 

 スバル本人の平然とした口調がいつもと変わらないので一瞬、自分の耳を疑ったが。

 

「なんだと? まさか『白カブト』か?! (えええい、忌々しい! いつも最悪な時に! ……いや、これは好都合だ。 イレギュラー同士、潰しあえば────)」

『────わからない。 これ以上の通信は傍受されて位置がバレる可能性があるので、そちらも独自で頑張ってくれ。』

 

「は?」

 

 向こうが切った通信にルルーシュは思わず気の抜けた声を出してしまった。

 

 

 


 

 

 時は少々、カレンが起こす土砂崩れの前まで遡り、場所はナリタ市でトラックの中でふんぞり返っているスヴェンことスバルへと移る。

 

 

 

 おお~、派手にドンパチやっているね~。

 

 俺はナリタ市にまで響く戦いの音を双眼鏡越しに見ていた。

 

 フジサンとは違ってナリタ連山はまだ温泉観光地だけあって大自然に覆われていた。

 

 だが自然では決してありえないナイトメアフレームという人型の人工物が“ハイキング”をしていた。

 

 重装備で山に取り付き、至る所で爆煙を上げ、山との勝負ではなく同じ人間を相手にしながら登っていた。

 

 日本解放戦線も無頼を出撃させてブリタニア軍に対抗するためゲリラ戦を行っているようだが、圧倒的戦力の差と練度と戦略で撃破されていく。

 

 原作通りなら、日本解放戦線のリーダーをしているのは元日本軍の少将である片瀬(かたせ)帯刀(たてわき)という奴の筈だ。

 

 今だから言うが、俺はこいつが嫌いだ。 

 

『日本の誇り』を割り切れずに独立を夢に見て旧日本軍を集めて組織させるのはまだ評価できる。

 

 が、ホテルジャックを独断で強行した草壁とかなり似ているのだ。

 草壁と同じで『古い時代』に囚われているものの、彼と違って片瀬は()()()()()

 

 主に防衛線で活躍したからか、思考が『守り』重点で『厳島の奇跡』を聞いたからこそ藤堂に必要以上の期待と依存をしていた。

 

 何をするにも“藤堂は?”、“藤堂がいれば!”、“藤堂はどう思う?”、等々。

 

 もし元々彼が少将にまで上がった理由が自分の能力であったとしても、原作コードギアスの描写を見る限り彼の信頼と自信は自分ではなく全て藤堂にいっていた。

 

 つまり『草壁ほど過激な行動に出ない』が、逆にそれが理由で『片瀬は草壁より酷い』と思っていい。

 

 とまぁ、ここまで説明できる余裕が今の俺にあるわけだが……

 

「(どうしよう?)」

 

 作中では俺のような奴がいない状態でも、ルルーシュは生き残った黒の騎士団員たちを連れだしたからハッキリ言って手持ち無沙汰だ。

 

 それに記憶が正しければ、ゼロを追い詰めたスザクがCCの精神干渉攻撃っぽいモノに当たってランスロットが暴走したドサクサで逃げたからな。

 

 一応ここから出来ることといえば遠距離支援だが……

 今の俺の手元にあるナイトメアは()()()()()じゃない。

 

 う~~~~ん……

 

 せっかくナリタに来たから、毒島やアンジュリーゼやナナリー、それにライブラたちに土産でも買おうかな?

 

 お代はその店にちゃんと置くぞ?

 世紀末的な時代でも世界でも何でもないからな。

 

 毒島はそれなりに喜びそうだが、アンジュリーゼは未だにブリタニア文化に染まりきっているからなぁ~。

 

 天使のナナリーと天真爛漫なライブラならなんでも喜びそうだし……

 

 アリスには適当に温泉卵でも買えばいいだろう。

 どうせチワワのようにキャンキャン吠えるだろうしな。

 

 う~~ん……

 

 ここにいればアンジュリーゼに聞け────ってアホか俺は?! 

 携帯があるじゃねぇか!

 

 情報屋用の暗号化変換器をつけて……メッセージを打つ。

 

『今ナリタにいるのだが何か土産は欲しいか?』

 

 ぽちっとな。

 

 お? トラックの中から向こう側の道でウロウロするロングの金髪発見。

 閉鎖されたナリタから出られなくなったブリタニア人かな?

 

 あっちにフラフラ~。

 こっちにフラフラ~。

 ガラスに額を当てて、閉まったお店の中を見たり────ん? 何かポケットから出した?

 

 ピロリン♪

 

『奇遇ね、私もナリタよ。 今どこにいるの?』

 

 え゛。

 

 ま、()()()? ←*注*あまりのテンパりぶりに語彙力低下

 

 俺は向こう側にいる金髪を見ながら携帯にメッセージを打つ。

 

『そうなのか? 出来れば両手を挙げて輪っかを作ってくれないか?』

 

 送信。

 

 すると俺が見ていた金髪が両手を挙げて輪っかを作るではないか。

 

 なんでやねん。

 

 ナンデここにおんねんワレ?

 

 プアアァァァァァン

 

 俺がトレーラーのクラクションを鳴らすと、金髪が体を跳ねらせて変なポーズをとる。

 

 ちょ、お前……

『シェー!』ポーズって……

 

 ブリタニア……という過去の世界でもあるのか、ソレ?

 

 そして予測通り、金髪が近づくとロン毛一本ギガドリルブレイカー(縦ロール)装備のアンジュリーゼだった。

 

「スヴェン?! 何ですかそのトラックは?! その格好も! それに、この町はどうなって────?」

「────いいから乗れ。 ここはもう戦場だぞ。」

 

「……………………え?」

 

 トレーラーのドアを開けるとアンジュリーゼがぽかんとしたまま状況が呑み込めずただ突っ立っていた。

 

 めんどくせぇ。

 

「って、きゃああああ?!」

 

 俺は無理やり彼女をトラックの助手席に引きずり込んで、トレーラーのエンジンに電源を戻して移動を開始する。

 

「ななななな何をするのよ、この変態!」

 

『どうしてここにいる?』、

『なぜここがわかった?』、

『どうやってここまでこられた?』、

 などいった疑問等が浮かんだが、俺が口にしたのは今この瞬間に必要な言葉で彼女が状況を理解できるものだけだった。

 

「悪いな、いま日本解放戦線の本拠地であるナリタではコーネリアが率いる大規模なブリタニア軍の殲滅作戦が展開されている。 ()は黒の騎士団の一員だ。 信じられないのなら後ろを見ればいい、()のナイトメアが置いてある。」

 

 ポカーンと、口を開けたままアンジュリーゼはさび付いた人形のように首を回し、後ろに乗せてあるナイトメアを見ては青ざめる。

 

「というかお前、何をしにここに来た?」

 

「あ……いや……その……えっと……」

 

 「言え。 もしくだらない理由だったら放り出すぞ。」

 

「は、はぁぁぁぁぁ?! 貴方は何様のつもりですか?!」

 

「この自動車の運転手だが?」

 

「無免許運転でしょうが?!」

 

「そうか。 ならお前も乗った時点で共犯者だな。」

 

「貴方が引きずり込んだんじゃない! というか学園と今の貴方、まるで別人よ! それに────!」

 

 ああああああああああ。

 やっぱりまだ『クロスアンジュ』冒頭の『面倒くさいアンジュリーゼ(皇女モード)』だな、こいつ。

 

()()()()()()()。」

 

 まだ何かギャアギャアと言う彼女の名前を呼んで黙らせる。

 

「ング?! な、な、なによ? 突然名前で呼ぶなんて?! 貴方に呼び捨て────!」

「────今は俺の言うことを聞いてくれ。 出来なければ死ぬぞ。

 

「そ、それは脅しのつもりですか?! 脅迫ですよ?!」

 

「俺は本気だ。 こういった静けさこそ嵐の────ッ! 掴まっていろ!

 

 プアアァァァァァ

 

 ギギギギギギギギギ

 

 ガリッ!

 ドンッ!

 

 俺は視界の端でキラッとした光に寒気が走ると同時に対向車線をはみ出したトレーラーを避けるため思わずトレーラーのハンドルを思いっきり切るとタイヤが悲鳴を挙げ、すぐ横のアスファルトが抉れて次の瞬間、重い発砲音が大気を震わせた。

 

「きゃあああああ?! 何?! なになになになになになんですか?!」

 

「狙撃だ。 口を閉じろ、舌を噛むぞ。」

 

 アンジュリーゼは両手で大げさなほど口を覆う。

 

 よし、とりあえずは黙ってくれたか。

 状況は最悪に近いがな。

 

「後ろのナイトメアのハッチは開いている。 先にコックピットの中へ乗り込め。」

 

 アンジュリーゼが頭を縦に振り、左右に回避運動をするトレーラーの中をぎこちない動きで後ろへと消える。

 

 俺はといえば口うるさい奴(アンジュリーゼ)が居なくなったことで、狙撃をうまく回避する。

 

 だが、酷使したトレーラーが限界だ。

 

 いたるところからオーバーヒートを起こしたのか煙が上がり始め、焦げた匂いもしてくる。

 

『こちらキング。 R1、予定通りに作戦を────』

 

 そして無線機からルルーシュ(ゼロ)の声だとぉぉぉぉぉ?!

 

 もうホント勘弁してくれ、最悪のタイミングだ。

 

「────こちらR1。 無理だ、敵襲を受けている。 状況は“極めて難しい”と言わざるを得ない。」

 

 ああ、ちなみに『R1』とは俺のことだ。

 

『なんだと? まさか“白カブト”か?!』

 

 だったらもう俺、VARIS(ヴァリス)の直撃受けて死んでいるよルルーシュ。

 

「わからない。 これ以上の通信は傍受されて位置がバレる可能性があるので、そちらも独自で頑張ってくれ。」

 

『は?』

 

 ハンドルをガムテープ、そしてペダルをリュックサックで固定させてから俺はアンジュリーゼが乗ったはずのナイトメアを見て内心ため息を出してから乗り込む。

 

 ついに直撃を受けるトレーラーが爆発する寸前に中から無理やり力ずくでコンテナを突き破り、飛び出てはランドスピナーを全力で飛ばして今までの狙撃が来ていると思われる高台の死角にあるビルの陰に移動する。

 

 「きゃあああああ!!!」

 

 そして横には叫ぶアンジュリーゼのせいで耳鳴りがする。

 

 アタマイタイ。

 

 ……………………どうしてこうなった?




戦場で人は何を求める? 

『金』?
『名声』?
『理想』?
『野心』?

それとも『明日』か?

そのどれもが戦場である限り、己の手を血潮に染める覚悟と逆に討たれる覚悟が必要である。

次回:
ナリタ激戦区を駆けるワンマン部隊 (後編)

『宗教』?
それもアリかもしれない。 





アンケート、本当に思っていたより近くてびっくりです……

なお、明日いつもの時間に投稿を予定しておりますのでその少し前の結果で内容を変えます。

もし加入するとしたら借りる設定はググった見た目と受けた印象ぐらいなものです。

結果がどちらになってもご了承くださいますよう再度お願い申し上げます。 ┏(;_ _ )┓

作者はロススト未プレイですのでアドバイスをメッセージなどで(お手数かけますが)頂ければ幸いです。 (゚ー゚;Aアセアセ


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第34話 ナリタ激戦区を駆けるワンマン部隊 (後編)

感想、お気に入り登録、アンケートへのご協力、誠にありがとうございます!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! (シ_ _)シ

追記:
『グラスゴーコピーでは機動の無理があるのでは?』と言う指摘を受け、後編の無頼をサザーランドに勝手ながら変えさせて頂きました。 ストーリー自体に変わりは無いはずですが、突然の変更で申し訳ございません。 m(_ _;)m


 スヴェンとアンジュリーゼからかなりの距離を離れた場所にナイトメアとは思えない、滑らかな形をしていたものが狙撃銃らしきライフルを構えていた。

 

「(チ、また躱しただと? なんなのだ、あのトラックは?!)」

 

 その機体はランスロットと同じく『第七世代ナイトメアフレーム』として認識されている『GX01』。

 従来のナイトメアとは完全に違うデザインのそれに乗っていたサンチアは思わず舌打ちをしながら次の弾丸を撃つため銃身にエネルギーをため込む。

 

 GX01の見た目は『ナイトメア』というよりは『大型の人造人間』に近く、実際に外装の隙間から見えるサクラダイト合成繊維が人工的な()()()()の役割を担っていた。

 

 以前、開発者であるマッドがロイドにも言っていたが、ランスロットは基本技術をさらにグレードを上げて開発された機体に反してGX01は一から()()()され、ナイトメアを()()()()()()()()()()技術体系だった。

 

 ふんだんに使われたサクラダイトはランスロットの比ではないが、これによってスザクのようにパイロット適正Sでなくとも()()()機動力を出すことが可能となり、稼働時間も今出ている量産機とほぼ同じだった。

 

 だがGX01の真骨頂はそんなことではない。

 

『ルクレティア、まだ感じるか?』

 

 巨大な狙撃銃を持ったサンチアの機体のすぐ近くに跪く機体の中のルクレティアがまた考え込んでいるような姿勢のまま喋りだす。

 

『ええ。 いまだにボンヤリとだけですが。』

 

『お前の能力で幸い、発見することができた。 (まさかまた敵を目視で追わなければいけない日が訪れるとは……無様だな。 それに……)』

 

 ここでサンチアの脳裏を過ったのは先ほど二つのトレーラーが反対方向に逃げたことで、自分が感じた『空白』のスペースが二つに分かれたこと。

 

 だがこれをマッドに報告したところで彼は『一つに目星は既につけている、お前たちはこっちに向かっているトラックを迎え撃て』と言って指揮官用重装甲車の中へと戻り、今に至る。

 

『(いや、今は敵の見極めだ。) ダルク、アリス。 準備はいいか?』

 

『はいはーい!』

『ええ、いつでも。』

 

『ならば作戦通り、奴を予想経路4に誘導する。 そこからはアリスとダルクの出番だ。 様子見で行くぞ、レセプターの同調と()()()伝導回路の開放を忘れるな。』

 

『『『了解。』』』

 

 サンチア、ルクレティア、ダルク、そしてアリスの額にボンヤリと赤いギアスマークが浮かび上がり、四人の機体に搭載されたサクラダイト合成繊維がほんのりと赤くなり、まるで血管のように色は迸る。

 

 その姿はまさにウォーミングアップを終えたスポーツ選手たちのようで、さらに人間味が増した。

 

 もうお察しの通り、四人の少女は()()()()()で全員がギアスを使える。

 

 そしてGX01の恐るべき性能は、搭乗者のギアスを本人だけでなくナイトメアにも適用されることだった。

 

 例えばサンチアの『ジ・オド』は対象の気配、そして条件付きではあるが対象の動向や感情さえも感知することができる。

 

 ルクレティアの『ザ・ランド』は地形自体を結成する空間や物体構造を知覚と解析してその情報をダイレクトにフィードバックすることができ、サンチアの『ジ・オド』と合わせば最先端技術を使われているランスロットのファクトスフィアでも真っ青なほどの超精密センサー付きGPSとなる。

 

『先に行っているわ、ダルク。』

 

 アリスがそう言い終えると、とても物理法則が守られているとは思えない速度で彼女のナイトメアがその場から消え去る。

 

『あ、待ってよ~!』

 

 ダルクのナイトメアが踏ん張りを利かせたジャンプをすると、とてつもない跳躍力を発揮して向かいのビルのそのまた向こうのビルまで軽々と跳んでいく。

 

 アリスは横転したトラックの残骸物が近くのビルまで転々と続いていたことでそれを辿ると、目に入ったのはケイオス爆雷を使ったトラップが発動した瞬間だった。

 

 彼女たちの機体GX01には、ランスロットのブレイズルミナスみたいな盾は無い。

 

 だが────

 

「────私には効かない。 ()()()()。」

 

 ケイオス爆雷が爆発するより早く、アリスの機体はまるで瞬間移動したかのようにそれを掴み取っては地面にたたき落とし、罠を無効化していた。

 

 アリスのギアスは『ザ・スピード』。

 加重力の原理を使い、その名の通りに相対的な高速スピードを可能にする。

 

 パチン。

 

 アリスが耳にしたのは細い何かがブツリと千切れる乾いた音。

 

 よく目を凝らすと、彼女がもぎ取ったケイオス爆雷からワイヤーが伸びていた先には大型口径の銃口のような筒が既に火を噴いていた。

 

「二つ目のトラップですって?!」

 

『ド~~~~~~ン!』

 

 アリスと筒の間にダルクが建物の壁をそのまま引きはがしたらしいオブジェを難無く即席の盾のように持ちながら、放たれたロケットを受け止める。

 

『ダルク、先に行くわ。』

 

『ええええ?! 感謝ぐらいしてよ~!』

 

 アリスは返事をせずに高速移動を再開し、機体の腰に下げていた六つの剣の内二つを両手に持つ。

 

「(あんな短期間で二重トラップを設置するなんて……相手は軍の訓練でも受けたというの? だとすると元ブリタニア軍? マオ……な訳ないか。 それとも教団からの脱走者? ……どちらでも関係ない、私はさっさと終わらせ────!)」

 

『────ッ! アリスちゃん!』

『────二時の方向だ! 迎え撃て!』

 

 そのまま彼女が無人と化したナリタを凄まじい速度で駆け抜けていると突然ルクレティアとサンチアの声にアリスがハッとして反射的に剣を構えるとけたたましい、鉄が削られる音がGX01の兵装を伝ってコックピットブロック内に響く。

 

「チェーンソー付きの刀なんて悪趣味ね! 何なのこいつは?! ……はぁぁぁ?!

 

 ようやく自分と相手の武器が交差したことで飛び散る火花の向こう側を見たアリスは驚愕し、自分の目を疑って素っ頓狂な声を出す。

 

『アリス! 敵の情報をありのままでも良い、言え!』

『アリスちゃん?』

『どうしたのアリス~?』

 

 アリスはカラカラになった喉を、口に残っていた唾を無理やり飲み込んで潤う感じを誤魔化し、からようやく声が出るようになる。

 

「ラ……ラン……スロット。」

 

『は?』

『はい?』

 えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

 サンチア、ルクレティア、ダルクがそれぞれ度肝を抜かれたような声を出す。

 

 

 

 

 対する、アリスが『ランスロット』と呼んだ機体の中ではもう一人、度肝を抜かれた者のように絶叫を続けていた。

 

 ぎゃああああああああ!!! イヤァァァァァァァァァァ!!!」

 

 叫んでいたのは顔を真っ青にしたアンジュリーゼ。

 

「腕が痛い。 叫ぶのをやめろ。 (どないしよどないしよどないしよどないしよどないしようんとこと、どっこいしょぉぉぉぉぉぉぉぉ?!)」

 

 そして腕を全力でアンジュリーゼに掴まれながら表面はポーカーフェイスを維持して全く予想だにしていない展開に、スザクと対面した時ほど内心テンパっていたスヴェンだった。

 

 彼が乗っていた機体は確かにパッと見れば『ランスロットだ』と間違えてもおかしくはない。

 

 何故なら外装がランスロットの特徴を()()()()模倣していたからだ。

 

「(ハッタリのおかげで助かったけどマジでどうしよう俺あんな機体……え? 俺は()()()()()()()って、どこだ? いや、今はそんなことよりどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ────)」

 

 スヴェンが上記で暴露したように、彼は出来るだけ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 持っていたのはMVS(メーザーバイブレーションソード)ではなく、原作では藤堂と四聖剣が無頼改に乗って初めて披露した『廻転刃刀』だった。

 

 コードギアスのゲーム、『LOST COLORS』をプレイした者たちならば今頃『ランスロット・クラブ?』と頭をかしげているかもしれない。

 

 だがランスロット・クラブと違い青くはない。

 どちらかと言うとスヴェンの機体は銀に近い白で、可変式アサルトライフルもない。

 先ほど言ったようにMVSもない。

 特徴的だったルミナスコーンもない。

 

 代わりにあったのは今使用している廻転刃刀、腰から下げていた通常のアサルトライフルにケイオス爆雷、背中に多数のロケットランチャーの弾頭と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 その姿を敢えて文章にすると『ランスロット・クラブを目指して改造されかけのサザーランドに紅蓮の予備パーツに入れ替えをして無頼改の武装も無理やり付けた』が一番近いだろう。

 

 スヴェンにとっても『闇鍋機体』だった。

 

 そしてそれに乗っていたスヴェンは対峙していたGX01を見たときから、脳に妙な引っ掛かり(デジャヴ)を感じていた。

 

「(“新型が間に合わなかったから今はオプションパーツだけで我慢してね♪”だなんて言われても元々俺はパーツだけを頼んだけだけど実際今はそれのおかげで助かってはいるから良しとしても────)」

 『────でりゃああああああ!』

 

 上からダルクがまたも建物の瓦礫をスヴェン目掛けて投げつける。

 

『ちょっとダルク! 私がいるでしょうが?!』

 

『でもでもアリスなら避けられると思って────』

『────私語は無しだ二人とも! まだ終わっていないぞ!』

 

「「ッ」」

 

 高速で巻き添えを避けたアリスと、軽い態度のままだったダルクがサンチアとルクレティアのギアス能力から提供されたセンサー反応を見て驚きながら()()のランスロット似の機体を見る。

 

「(あっぶねぇぇぇぇぇ。 ビルの一角を無理やり投げるなんてどれだけのパワーを持っていやがるんだあの機体?!)」

 

「ウップ……」

 

 スヴェンが横眼で見たのは顔を真っ青から土色に変えたアンジュリーゼだった。

 

「吐くなよアンジュリーゼ、放り出すぞ? (やはり『“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』は控えるべきか……そうも言っていられない状況だがな────!)」

 

『────バカな?! こいつ、私の高速(ザ・スピード)付きの太刀筋を躱した?! (いいえ、まぐれよ!)』

 

 速度が増していくアリスの猛攻を、スヴェンはギリギリ凌いでダルクの建物や建造物を使った広範囲攻撃をアリスと()()()()()()()()で躱していく。

 

「(アリスのスピードのように速度を上げるギアス? いや、それだけならば彼女とダルク二人掛かりでも致命打一つ与えられないのはおかしな話だ……まさか……試してみるか。)」

 

 指揮官用重装甲車の中にいたマッドが通信を開く。

 

GX01a(アリス機)、CC細胞抑制剤の中和使用を()()()()。』

 

「え────?」

 

 マッドの言葉に反応したのか、アリスの座っていた操縦席と握っていた操縦桿が彼女を拘束するような形に変わり、機体からパイロットスーツへと直接繋がっていたチューブから緑色の液体が彼女の体に注入される。

 

 「────あ、あ゛ア゛ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

 

 するとアリスは獣のような悲鳴を上げ、自分を蝕む痛みから逃れるため暴れようとするが拘束椅子のように変形したコックピット席と操縦桿によってわずかに身じろぐ(痙攣する)のがせいぜいだった。

 

ガはッ?! ハッ?! ハッ?! ハッ?!」

 

 ようやく謎の液体の注入が終わり、拘束から解かれたアリスはガタガタと震えながら自分の体を抱く。

 

 そこにはいつもことごとくスヴェンに突っかかるようなアリスでも、無邪気にナナリーと接するアリスでも、さっきまで奮闘していた軍人でもない、ただの『怖がる少女』がいた。

 

『120秒以内に敵を倒せ(殺れ)。 その時に中和剤を打ってやる。』

 

「……イエス、マイロード。」

 

 目を見開いて白黒させ、汗が滝のように体中から流れるアリスにマッドの冷たい命令(宣告)が下されると、さっきまで叫んでいて息が絶え絶えにもかかわらず、血管が浮き出た様子のアリスは操縦桿を握り、声帯に無理やり力を意識して入れながら命令承諾の言葉をマッドに返す。

 

「むぐ?!」

 

「(こいつ、さらに速くなりやがった?!)」

 

 アンジュリーゼがくぐもった叫び声を出し、スバルは全神経をさっきの比べ物にならない速度で自分を襲うアリスに心が冷え、躊躇する間もなく『“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』を使ってもギリギリ攻撃を受け止める。

 

「(特典を使っても躱せない! 持ちこたえてくれよ、『ランスロ紅蓮モドキ』!)」

 

「(速い! GX01a(アリス機)の全力に対応できている?!)」

 

 このやり取りを『消耗品(アリス)』が乗っていたモニター越しに見ていたマッドは冷静に解析していた。

 

「この動き、攻撃動線を予測しているわけでもない……読心(どくしん)の類か? だがGX01a(アリス機)が今のところ善戦しているところを見ると限定的なものとはいえ、使い道はある。」

 

 マッドはニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、通信をサンチアに繋げる。

 

『サンチア。 敵のコックピットを撃て。』

 

『よ、よろしいのですか? あそこには、まだ────』

 

GX01a(アリス機)ごと撃ちぬいても構わん。 サンプルが細胞単位でも構わん。 やれ。

 

『…………イエス、マイロード────なんだ、これは?!』

『は、早い!』

 

 サンチアは戸惑いながらも狙撃銃を構えると、今になって感知した気配にルクレティアとともに驚く。

 

『これは、あのランスロットモドキと同等の────?!』

「────なんだと?!」

 

 マッドがサンチアとルクレティア経由のマップを見るとあらゆる障害物を無視した直線的な動きで激しい攻防戦を繰り広げるアリスとスヴェンに近づいているのを見る。

 

「まさか、こいつがギアスユーザーか?! おのれ!」

 

 アリスは自分たちのいる場所に突貫してくるサザーランドに思わず動きを止め、目を見開いた。

 

「何、あいつ?! まさか?!」

 

 スヴェンは逆に()()()()()()()()に驚愕していた。

 

「(三次元機動?! いやそれだけじゃない、構えているのは────)────()()()()! 掴まっていろ!」

 

 スヴェンは返事を待つまでもなくその場から消えると両方の肩に構えていた大型キャノンを連発する。

 

「くっ! 敵が逃げ────!」

『────戻れ、GX01a(アリス機)。  中和剤を()()()()()。』

 

 アリスの体にまたも液体が注入され、彼女は引いていく激痛にホッとしながら自分を襲う眠気にあらがう。

 

『マッド大佐?』

 

『コーネリア殿下直々のお達しが来たのだ、サンチア。 (クソ! 雑魚(日本解放戦線)などの残党狩りに呼ばれるとは! 

 だが確かに新総督には恩を売るために“いつでもお呼びください”と言った手前、無視するわけにもいかん……

 次だ! 次こそ入手してやるぞ、サンプルを!)』

 

 まるで互いの斬新な機動(動き)を熟知しているような連携で、アリスたちから遠ざかるランスロットモドキと新たに現れたサザーランドの反応がマップ上から消えるまで、マッドは恨めしそうに睨んだ。

 

 

 


 

 

 いやマジで何の? ナイトメアなの、あれ? 覚醒化した小型エヴァじゃん。

 

 不意打ちできたから逃げられたけど次は無理ゲーだよ?

 

 いや、まずはこいつだ。

 

 (スヴェン)はまたもひっきりなしに様々なアラームを出す自分の機体を無視して、俺と同じ立体機動しながらついて来たサザーランド以外に来ていないことを確認する。

 

 アンジュリーゼ?

 落ち着いた瞬間そそくさと非常用キューポラハッチから出て漫画とかで見る『口からキラキラするオロロロ~』をしている。

 

 俺はまだ稼働できる腕でアサルトライフルと大型キャノンを捨てて敵意のない事を示すサザーランドに構えてから外部スピーカーをオンにする。

 

「サザーランドのパイロット、降りて素顔を見せろ。」

 

 念のため外部スピーカーをオフにしているとサザーランドのコクピットブロックが開き、出てきたのは俺が全く想定予想だにしていない者の姿だった。

 

 ゴシックっぽいヘッドドレスの下にパッチリとした青い瞳に整った顔。 艷やかで流れるような黒髪は太ももまで伸び、その姿はまさに『清楚の表現化』と呼んでいい。

 

 だがそんな印象と裏腹に引き締まった身体とプロポーションの度合いと、ガータベルトを着用しているのもかなり……

 

 うん。

 

 はっきりと言おう。

 

 ディ・モールト(非常に)

 

 ディ・モールトベネ(非常に良い)!!!

 

 見た目からの判断だが、かなり俺好みの女性だ!

 

 って動き早ぇぇぇぇ?!

 

 俺が感動している間に飛び出て機体の足元まで一気に駆けてきただと?!

 

『マズイ!』、と思っていた俺の目の前で少女はどういうわけかそのままの勢いで膝を地面につきスライディングを決めながら、手と手でいつかホテルジャックでシャーリーが見せた『祈り』のポーズをとりながら俺を見上げていた。

 

 そして目をキラキラとさせながらこうハッキリと叫んだ。

 

 

 

 「ああ! 神様!」

 

 

 

 「なんでじゃい。」




………… (´・ω・;`)←暑さとは関係ない汗を盛大に掻き、胃薬を服用する作者

えええ……本日の7/21/2022 07:30を持って、『狂犬加入アンケート』終了させていただきます。 結果は528対464で合計992人が投票してくださりました。

結果と参加者人数に感激と驚きから変な声を思わず出してしまい胃もキリキリと音を鳴らせながらも投稿いたしました。

そして妄想版ほぼ別人(?)『狂犬』の加入となりました。 
ご協力してくださった皆様に、心の奥から再度感謝の言葉を送りたいと思います。

投票へのご協力してくださった皆様、誠にありがとうございます。 m(_"_)m

これからもエタらないよう、頑張って書こうと思いますのでアンケート結果をご了承くださいますよう深く、お願いしたいと申し上げます。 m(。_。;)m

余談:
妄想版だから別人かもしれないがスヴェン、強く生き残ってくれ……
あと次話投稿、遅れるかもしれません。 申し訳ございません。


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第35話 狂信者

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

携帯投稿の上に上手く表現が出来たかどうか不安で、前半はほぼ回想ですが……温かくお読みいただければ幸いです。 m( _ _;)m


 私には、何も無い。

 家族も、名前も、自分自身でさえも無い。

 

 皇歴2010年8月、ブリタニア帝国によって全てを無くした。

 

 だが、『生きている』。 辛うじて『生命として』だが。

 

 やがて両親の友人と名乗る女性に引き取られ、『日本人』から『ブリタニア人』に国籍を変えて苗字も変えた。

 

 今の私は、『マーヤ・ガーフィールド』と認識されている。

 それが変わった私の名前だ。

 

『新しい私』に変わったのに変わりのない毎日、変わりのない世界、そして変わらないブリタニア帝国。

 

 私以外がまるで、変わらなかったという風に何もかもが振る舞う。

『これがあるべき姿だ』と主張するかのように。

 

 私が『違う』といっても、結局は一人だ。

 

 ()()()()()()

 

 そんな私でも、偽善と分かっていながらも『変えたい』という欲を抑え込む(騙す)ために『日本人』が未だに住んでいる近くのシンジュクゲットーに行っては孤児たちに食料を与えていた。

 

 そして皇歴2017年。

 シンジュクゲットーは当時の総督であった第3皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニアの命により大規模な『演習』という名の『一方的蹂躙』が行われた。

 

 幸いにもゲットー中に誰かが避難するように言っていたらしいが皆がすぐに信じる、または動ける状態ではないのもまた事実。

 

 現に私が養っていた孤児の何人かは

 

 

 目の前で

 

 

 落ちた瓦礫に

 

 

 潰さ────

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 殺す。

 

 気付けば近くの半壊した民家だった瓦礫から拝借した包丁を手にして、旧倉庫街を何故かウロウロしていたクロヴィスの親衛隊を見つけて機を伺っていた。

 

 殺す。

 

 一人だけじゃ足りない。

 

 殺す。

 

 三……いや、五人はせめて頸動脈ぐらいは切っておきたい。

 

 殺す。

 

 灰色気味だった世界に、赤だけが目立っていた。

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

 命アル限りコロシテヤル。

 

 そこでチャンスが到来した。

 親衛隊たちは学生服を着た少年を見つけては、何やら彼をなぶっていた。

 

 同じブリタニア人なのに?

 違う。

 アイツらが『ブリタニア軍』だからだ。

 

 だがそのおかげで丁度、彼ら全員が背を潜んでいた私に向けている。

 好都合だ。 

 隊長らしき者の背中に集中し、包丁を握っていた手に力を入れる。

 

 チャンスは一度きり。

 

 殺す。

 

 まずは最初に肝臓を刺す。

 次に隣の者の

 そして

 いざとなったら眼球を抉りだして、視神経を引きちぎってやる

 

 上手くいけば、この体の生命活動が終える前に致命傷を与えて道連れに出来る。

 

 そう思い、まさに出ようとしたところで親衛隊たちが一斉に背後から撃たれた。

 

 ……え? なんで? どうして?

 撃たれた?

 誰に?!

 

 私が殺す(死ぬ)はずだったのに!

 

 冷静になりきろうとした頭に怒りが再び戻る。

 

 無我夢中で復讐を横取りした者を探すと、丁度フルフェイスヘルメットとライダースーツという、怪しさ満点の誰かがギターケースを囮にしてブリタニア軍の偵察部隊らしき男の注意を引かせてから弱点を一気に突いて殺害していた。

 

『凄い』。

 

 純粋にそう思い見ていると着替え始め────お、男の人?!

 

 思わず目を覆ってもくっきりと脳内に浮かぶのは露わになった(男性)のイメージ。

 どうにかしてそれを消すと今度はブリタニアのナイトメア(サザーランド)が出てきた。

 

 ああ。

 もう終わりだ。

 変装していても、すぐに不審がられて撃たれるだろう。

 今度こそあの男はナイトメアに撃たれて死ぬ。

 

 やっぱり、何も変わらないのか……

 

 そう思っていたのに、どういう訳か今度はパイロットが降りてきては男性に瞬殺され、流れるまま男はブリタニアのサザーランドへと乗り込む。

 

 そして本来はIDロックなどがかかっているそれを動かす。

 

 ……『凄い』。

 

 もうそれだけしか思え(言いようが)なかった。

 

 魅入られるまま、私はその人を追って物陰からひっそりと見ているとナイトメアを隠してから仲間と思われる人たちと徒歩で合流した。

 

 あれ? さっきまでの『凄さ』はどこに?

 何か……今は『地味』な感じね。

 

 それでもレジスタンスと思う者たちが急にナイトメアを手に入れて反撃を開始!

 日本人がようやく、同じ土俵どころか巧みな戦略で優勢に出て胸が躍った!

 

 そのまま行け!

 反撃の狼煙になれば!

 

 そう思ったのも束の間、今度は見たこともないブリタニア軍の新兵器らしき機体に一機、二機、三、四……

 

 ああ……やはりダメなのか。

 

 やはり、何も変わらないのか……

 

 そう思いながら灰色の世界に『地味』だった筈の人が、今度はブリタニアの新兵器を相手に見たこともない機動や巧妙なトラップを使って相手を凌いでいた!

 

 凄い! 凄い!

 

 そう思った瞬間、圧倒的性能差を前に華麗に来る攻撃を避けるだけどころか隙あらば仕留めようとするあの人────いえ、()()()が乗ったサザーランドの動きは美しかった。

 

 まるで、空を舞う天人のような……

 

 ああ、『真の戦い方』とはこういう事なのでしょうね。

 

 ただただ『敵を殺す』のではなく、あらゆる『戦略』、『武器』、『機転』を使って相手を誘い込みながらも『反逆』する。

 

 なんて……なんて素晴らしいのかしら!

 

 久しぶりに灰色の世界に色がその日から戻り、静まり返る様子のない高揚感に胸が包まれて誘われるまま、私は夜の租界へと出ては高ぶりを()()()

 

『私も何かしなくては』、という思いから。

 

 ()()を夜な夜な繰り返しているうちに、今度はサイタマゲットーでブリタニアの動きがある聞いた私はそこに出向いた。

 

『あの方』はどうやら来ていないようで、やはりダメだった。

 

 サイタマのレジスタンスはブリタニアに鎮圧された。

 時間の無駄だった。

 

 今度はホテルジャック事件で、『ゼロ』と自ら名乗る者が『黒の騎士団』とやらの設立宣言をした。

 

『もしかして“あの方”かな?』と思い、更に夜の租界に出ては目についたゴミ清掃を続ける。

 

 どうやら『話がある』者たちが居たが、『あの方』ではないことを知れば私に話すことは何もない。

『あの方』でないことがイライラしたから、思わずとして一人の肩を脱臼させ、もう一人の肩にかかと落としを食らわせてしまった。

 

 大丈夫、手ごたえはあった。

 骨にヒビぐらいは入れられた筈だ。

 

 これで当分、邪魔は入らないだろう。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ああ! 『あの方』に会って感謝をしたい!

 毎日の夜が楽しい!

 一言『ありがとう』と言いたい!

 会える日が待ち遠しいわ!

 

 あれからしばらく豚どもに次々と鳴かせると、どうやら『あの方』が一番いる可能性は『黒の騎士団』みたい。

 

 ならば噂のナリタに、久しぶりの遠足にでも出ようかしら?

 

 あら、こんなところにサザーランドに乗ったゴミが。

 

 ちょうどいいわ。

 

 神の贄となりなさい。

 

 

 


 

 

 

「────と言うのが一連の出来事を簡潔に纏め上げたモノです。」

 

 重い。

 

 こう……色々と重い

 

 いや、(スバル)は別にこのキラキラした目のまま跪きながら祈るように手を絡ませながらニッコリした姿はまるで俺を崇拝しているシスター姿が『重い』ということじゃない。

 

 それもあるけどソウジャナイ。

 

「まずは席に座れ。」

 

「よろしいのですか。」

 

「いいから座れ。」

 

 よろしいかどうかじゃなくて女の子を床に座らせるのは嫌だ。

 

「そこでなぜ俺の事を『神』と呼ぶ? それに乗っていたナイトメアをどこで手に入れた?」

 

「先ほど、日本解放戦線の方を追って先行していた()()譲ってもらいました♪」

 

 ……………………………………笑顔の筈なのに悪い予感が猛烈にするので敢えて深く聞かないでおこう。

 

「それで、『神様』呼びは?」

 

「先ほど共闘した際に、啓示を受けたのです。 『これは運命なのだ』と。 私が居る場所は、やはり御身の傍という事が肌で感じ得たのです。」

 

 うわぁ。 やっぱり、クソ重い案件やんけ。

 

 メンヘラ? リアルメンヘラなのコレ?

 と言うか誰この子?

 モブ? モブなの?

 俺の所為で狂ったモブなの?

 

 流石コードギアス、モブでも性能クソ高いキャラおるやんけ。

 

 でも俺、本当の本当にどうしよう?

 

 ちなみに今、俺たちがいたのは近くで無事だった二階が民家+一階がカフェのような場所だ。

 

 鍵は俺がピッキングしようと思ったら、目の前の少女が近くの石でドアのガラスを壊した。

『神様の手を煩わせるのもどうかと』と言いながら。

 

 いや、お前、本当に何なの?

 

 いやいやいや、『どうせ誰もいませんし』って。

 

「そういえば、まだ名を聞いていないな。」

 

「あ! 私としたことが! 『マーヤ・百目木・ディゼル』、あるいは今使っている『マーヤ・ガーフィールド』とでも。 ですがどうかお好きなようにお呼びください、神さ────。」

「────ならばまずその『神様』というのをやめろ。 俺には『(すばる)』という名……ん?」

 

『マーヤ・()()()・ディゼル』、だと?

 まさか、こいつ……

 

「貴方も、穢れ────『ハーフ』なの?」

 

 やっと回復しつつも顔色が優れないアンジュリーゼが俺の聞きたいことを先に言う。

 

 というか珍しいな、言い直すなんて……他人の前だからか?

 

「………………………………」

 

 マーヤさんや、アンジュリーゼが質問したのですが?

 なぜに無視しとるのですか?

 

「ちょっと、何か言ったらどうなのよ?」

 

 おーい。 マーヤさんやー。

 

「昴様、このうるさい()()を躾いたしましょうか?」

 

 ファブッ?!

 

 「んな?!」

 

 俺は内心、アンジュリーゼは口から素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 ちょ、『雌犬』って────

 

「────誰が“雌犬”よ?! 貴方何様のつもり?!」

 

「さっきから昴様に色目を使ったり、わざと髪の毛を手で後ろに流してうなじをアピールしたりなど明け透けな────」

 「────だだだだだだだだまらっしゃいよ貴方ぁぁぁぁぁ

 

 うわぁ……

 アンジュリーゼに対してズケズケとした言い様……

 

 俺はいまだにキーキーと騒ぐアンジュリーゼに平然とするマーヤを見ながらも意識をそらす。

 

 どないしよ?

 

 誰かタシケテ。

 

「……ディゼルさん。 いや、百目木さん────」

 「────ああ! やっと名前を呼んでもらいました!」

 

 それはもうええから。

 というか顔を紅潮させてウットリした目と頬に手を当てるその動作ヤメロ。

 全然違うのは知っているけどなんか動作が……

 

 アンジュリーゼもステイ。

 

 落ち着け俺、まずは現状の整理だ。

 このままだと、黒の騎士団たちと合流すればマズイことになる。

 アンジュリーゼだけでもヤバいのに、マーヤまで加わっていたらもう収束がつかない。

 

 どうする?

 

「大体ね! 貴方、どうやってナリタまで来たのよ?! 私だって毒島が呼んだ六家の車に乗ってブリタニア軍の交通規制を通るのがやっとだったというのに!」

 

 アンジュリーゼもアンジュリーゼだが毒島……お前、何やってるんだよ?

 

「あら、やはりブリタニア人らしく他人任せでしたか。 私は自作のバイクで来たわ。」

 

「バイク?」

 

 ちょっとまて。

『自作』って……作ったのか?

 いや、それは今いい。

 

「ディゼルさん。」

 

「何でございましょう、昴様?」

 

「まずは“様”を無しにしてくれ。 お前のバイクにサイドカーは付けられるか?」

 

「はい? 時間さえあれば作れると思いますけど?」

 

 作れるんかい。

 

 だが好都合だ。

 

「ならばサイドカーを作って、アンジュリーゼと共に先にシンジュク租界へと戻ってくれ。」

 

「え。」

 

 アンジュリーゼが嫌な顔をする。

 

「了解しました。 昴の頼みとくればたとえm────」

「────あと他人のことは名で呼べ。」

 

 そしてまたも雌犬(ビッチ)呼びする前に釘を刺す。

 

「………………………………………………わかりました。」

 

 今の間が長かったのは気のせいか?

 

「ではサイドカーを作ってまいります……よろしいのですか?」

 

「何がだ?」

 

「いえ。」

 

 マーヤが出る前に一瞬だけアンジュリーゼのほうを見てからその場から出る。

 

「待ってスヴェン。 貴方、黒の騎士団員なのよね?」

 

 ギクッ。

 

「ああ、そうだな。 (あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)」

 

「フゥ~ン……冴子は知っているの? (ニッコリ。)」

 

「いや、知らない……(はずだ。)」

 

「私は気にしていないからね? 別にね────? (ニコニコニコニコ)」

 

 あっるえええええええええ?

 

「────貴方が『情報屋』もやって、反ブリタニア帝国の運動どころかどっぷりと反乱に手を貸していたことを黙っていたことも全ッ然気にしていないからね。 一つだけ聞いていいかしら?(ニコニコニコニコ)」

 

 なんかニコニコしている割に負の煙みたいなのが浮き出ているのですけれど?

 

「もしかすると噂になっている、よく学園を欠席する貴方の主人である『カレン・シュタットフェルト』も、さっきの子も黒の騎士団なのかしら?」

 

 お前、あの子(マーヤ)の話を聞いていなかったのかよ。

 

()()()()()()()()、さっきの子は今日初めて会った。」

 

 「そしてシュタットフェルトさんの方は呼び捨てで否定しないのね?」

 

 あ゛。

 

 アンジュリーゼのくせに誘導質問とは姑息な!

 

 こ、これは……『ゴゴゴゴゴゴゴ』案件か?!

 

「そ。 なら私も入団しても、よくてよ?」

 

 …………………………はい?

 

 

 


 

 

 プアアァァァァァ!

 

 ナリタから出る道に、スヴェンたちが襲われる直前にすれ違ったトレーラーがクラクションを鳴らす。

 

「チッ、また軍人どもか!」

 

「それだけ隊列が乱れているという事だろ。 我々としては助かるが……ん?」

 

 トレーラーの中にいた一人の男性が前にいる軍人たちが何かブツブツとつぶやいていたことに気付く。

 

「おれん……おれんじじゃない……わたしは……わたしはぜ……じぇろを……」

「……お……おれは……い……イレヴンなんかに……まけて……まけ……」

「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ────?!?!?!」」

 

 変わり果てた姿のジェレミア、そして()()()()()の二人は地面へと崩れ落ちては変な声を出す。

 

「「────ぽぺ。」」




ストックもこれでゼロォォォォォ。
アイデアはあるのですが書く時間があるかどうかが問題です。 (汗


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第36話 発足の発端

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

誤字報告、ありがとうございます! お手数かけております。 (汗

楽しんでいただければ幸いです! 


「フゥー。」

 

「どうしたの、スバル?」

 

 租界にある黒の騎士団の拠点で、重~いため息を思わず出したことで紅蓮弐式の整備の手伝いをしていた隣のカレンから心配する声がかけられる。

 

「何でもない。」

 

「……そう? 聞いたよ、ナリタでは凄く苦労したんでしょ?」

 

 あの後、『闇鍋ランスロットモドキ』を偽装しなおしてゼロとCCを迎えに来たカレンと合流し、無事に日本解放戦線とブリタニアの小競り合いが続くナリタを後にした。

 

 アンジュリーゼも連絡先を交換したマーヤ経由でちゃんと学園に忍び込んだらしいし、アンジュリーゼの入団(とそれにつられて入団希望)を止めたから結果オーライだ。

 

 そして案の定、次の日の俺はまた筋肉痛と頭痛で寝込んでいるとまたも『カレン湿布バチン』を受けた。

 

 マジ痛かった。

 

 ただ前回ほど酷くはなかったことから、右腕の損傷が酷かった紅蓮弐式の整備に急遽取り掛かっていた。

 

 話を聞くと、原作とほぼ同じ流れでランスロットとの戦いで受けたダメージらしい。

 

 輻射波動、やっぱり強力だけどピーキーだな。

 腕自体がギミックありすぎて脆すぎる。

 

「まぁ……苦労をしたのは否定しない。 だが『こいつ』のおかげで、俺は何とか生き残ることが出来た。」

 

 俺が見上げるのは偽装した『闇鍋ランスロットモドキ』だった。

 

「それにしても……キョウトから無頼と紅蓮弐式を送られた時も驚いたけど、まさか()()()()()()()()()()()()()()とはねぇ、スバル?」

 

 う゛。

 

 カレンの横ジト目攻撃!

 何気に効果抜群!

 

「ちょっと、そこんとこどうなのスバル(スヴェン)?」

 

「……結果的にそうなっただけだ。」

 

 いや、それ以外にどう言えと?

 俺だってパーツは頼んだけれど、頼んでもいない()()()がわんさか付いてきて思わず立ちすくみそうだったよ?!

 

 更にカレンのジト目が鋭くなり、ため息をするまで数秒間ほど続いた。

 

「ハァ~……またソレなのね? いいよ、深くは聞かない。」

 

 流石カレン。

 幼馴染は伊達じゃない。

 

 というか“またソレ”とはどういうことやねん?

 

「あ、それはそうと。 明日は予定が何もないから、俺はアジトには来ないぞ────」

「「「────えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」

 

 おい、女性陣。

 何で聞き耳立てているの?

 

「「「仕事が……」」」

 

 知らんがな!

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ニュースでは『日本解放戦線の壊滅に成功するも多大な被害がブリタニア軍に出た』が流れていた。

 

 原作では、日本解放戦線は抵抗らしい抵抗ができていなかったが……どうやら俺の横槍でどうにかなったな。

 

 これでブリタニアと日本解放戦線の双方が削り合っていれば、後の原作を動きやすくなる筈だろう。

 

「あ。 おはようスヴェン。」

 

 アッシュフォード学園の中庭に、アンジュリーゼが立っていた。

 

「おはようございます、ミスルギ嬢。 ()()()どうでしたか?」

 

「ええ、無事に着いたわ……あの時(ナイトメア)のように生きた心地がしなかったけれど。」

 

 アンジュリーゼの顔が明らかに青くなる。

 

 うーん、やはりラクロスやっていただけ体力と運動神経あるけどエアバイク無しだったから高速移動は苦手か。

 

「ねぇ……本当にするの?」

 

「それがベストだろう……多分。」

 

 上記のこの会話は、黒の騎士団への入団希望だったアンジュリーゼ(とマーヤ)を説得した時のことを示していた。

 

 と言っても、アンジュリーゼたちが黒の騎士団に入団すると100%俺への危険度が増すからだ。

 

『俺の知り合い』というだけでルルーシュにギアス掛けられて何をされるか分かったものじゃない。

 

 最悪、俺の監視をされるか()()()()をされる。

 

『DEAD END』じゃないけど『BAD END』に近い暗~い展開まっしぐらだ。

 

 というわけで俺が二人に提案したのは────

 

「────ん?」

 

 アッシュフォード学園の中庭を歩いた少し先では人だかりが珍しくできていた。

 

 いつもなら朝練などで、この時間帯の校内はガランとしているのに?

 

 そしてその中心では────

 

「あ、スヴェン! おはようございます!」

 

 ────()()()がニコニコしながらトトト~と、迷いなく俺に駆け寄りながら挨拶をしてきた。

 

 その笑顔は他人からすれば屈託のないモノだったが、俺からすれば自ら足を生やして近づいてくる地雷以外の何ものでもなかった。

 

 というかおまん、アッシュフォード学園の学生やったんかい。

 

「幻が三人そろった……だと?!」

 

 え? 三人?

 

「『紳士』に『黄色のバラ』に『黒チューリップ』だ! 誰か取材用カメラを取ってこい! 携帯じゃだめだ!」

 

『黄色のバラ』って……アンジュリーゼの事か?

 こいつは『バラ』じゃなくて火と火が合わさった『炎』だぞ?

 現にダブルバスタ(アホ毛と)ーコレダー(一本縦ロール)は今日も展開中だ。

 

 頼むから俺が近くにいるときは発動するなよ?

 

「しかも『紳士』と『黒チューリップ』が何か知り合いっぽい?!」

「え? じゃあまさか……『紳士』の本命の相手って……」

 

 うるさいよ外野。

 見た目だけなら俺も『本命』って呼びたいよ?

 

「……スヴェン?」

 

 そして静かに横からくる(プレッシャー)に気付くとアンジュリーゼの声がガがガがガガ。

 

あとで相談したいことがあるのだけれどお時間よろしいかしら?

 

 ガイヤー! 

 六神合〇! 

 ゴッッッッッドマァァァァァァァァァァー〇!

 

 掌から衝撃波を出したブースト付きのBボタン長押しダーッシュ!

 

 ガシッ!

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い?!

 アンジュリーゼ! 痛いっ()()()?!

 手首がもげるっ()()()ぉぉぉぉぉ?!

 

 い・い・か・し・ら?

 

 「…………………………………………ハイ。」

 

 マーヤもニコニコしていないでタシケテェェェェェェェェ!!!

 

「手を繋ぐなんて、お二人は仲が良いのですね?」

 

「ぃ?!」

 

 お?

 

 マーヤの言葉にアンジュリーゼがハッとして俺の手首を離す。

 

 マーヤ、ナイスだ!

 

 そう思っていると『どういたしまして♪』と答えるようなマーヤの声を錯覚する。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 今、アッシュフォード学園の(高等部の)間ではマーヤが登校したことで持ち切りだった。

 

 しかもそこで『さすが黄色のバラを改心させたことはある!』って……

 そこまでの事だったのか?

 

「でかしたわスヴェン! どうやってあの不登校気味のガーフィールド(マーヤ)さんを来させる気にしたのぉぉぉぉ?!」

 

 ムニュン。

 

 アッ♡

 ミレイさん、立派な乙パイが拙者の腕に当たっているでゴザルヨ?♡

 

「これで彼女は留年せずに済むかもしれないわ!」

 

 そこまでだったんかい。

 と言うか何気にミレイが貴重な涙目なんだが? 

『出席数が足りてなくて留年』はマジなのか?

 

 リヴァルも血涙目でハンカチ噛みながら『キィィ!』するなよ。

 中途半端な男がするとキショイだけだ。

 

 当の本人であるマーヤは、他の学生たちに取り囲まれて所謂『転校生状態』の質問攻めだ。

 

 横から聞いていると、義母が会社経営者なのか。

『社長令嬢』なんだな~。

 

 夜は『軍人殺し』なんてしているけど。

 お前はどこぞの並行世界のコウモリ(バッ〇)マンか*1

 

「あ、スヴェン……とアンジュリーゼさん? お昼を共にしませんか?」

 

 そうこうしている間に昼休み、まるで当然のごとく俺(と教室のドア付近にいたアンジュリーゼ)を誘うマーヤ。

 

「私たちでよければ。 (ニコッ)」

 

「ええ、よくってよ。 (ふさぁ)」

 

 うーん、ちょっっっっっと丸くなったけど未だに『高飛車お嬢様』なアンジュリーゼ。

 そんなんだから未だに(生徒会メンバーと毒島以外)、ほぼボッチなんだよ。

 

 そしてどこかピリピリしている彼女に俺は『ドナドナ~♪』される横で携帯にメールを打って送信する。

 

『ドナドナなんて久しぶりだな』と思いながら。

 

 

 

 バタン!

 カチッ。

 

 マーヤの後を追って屋上に出ると、アンジュリーゼがすぐさまドアを閉めて鍵をする。

 

「貴方、スヴェンと馴れ馴れしいけど彼の何?」

 

「貴方こそ昴の何ですか?」

 

 ああ、もう。

『優男』の仮面外しちゃえ!

 

落ち着けお前ら。 あと、俺はここでは『スヴェン・ハンセン』と名乗っている。 黒の騎士団活動中は『スバル』だ。」

 

「なるほど……わかりました。 (表と裏の顔を使い分けているのですね? 流石です!)」

 

「理解が早くて助かる。」

 

「やっぱりこっちが素なのね……」

 

「そうだな。 俺は基本的にある程度信頼している奴にしかこの側面を出していない。」

 

「え?」

 

 いやいやいやいや。

 何でまるで俺が変なことを言ったような反応するんだよ?

 

「それで、昨日の続きですが────」

「────その前に、お前に聞きたいことがある。」

 

 いや、冷静に考えよう。

 そもそもこいつは信用できるのか?

 

「なぜ俺の提案に即答した?」

 

「御身のそばにいることが助けになるかと……」

 

「俺のそばにいてお前は何を望む?」

 

「腐った国の滅亡ですが?」

 

 ド直球。

 

 だがそもそも俺は生き残ることを第一に優先しているからな?

 いや、そういう意味ではマーヤは優秀な人材とも言えなくはないか?

 

(特典なしで?)俺並みのナイトメア操縦技術。

 バイクやサイドカーの自作。

 毒島たちの証言によるとブリタニア軍人でも躊躇なくかつ証拠隠滅しながら殺す手腕。

 

「えーっと、ディゼルさん? それとも────?」

「────貴方にはややこしいかもしれませんので『マーヤ』と呼んでもいいよ? 私も『アンジュリーゼ』って呼ぶから。 (ニッコリ)」

 

 うーん、しかもサラッとディスる要領。

 

 これで『(スヴェン)が神様じゃない』ってこいつが断定したら『私をだましたわね グサリッ! DEAD END』まっしぐらじゃね?

 

「では俺も『マーヤ』と呼ぼう。」

 

「いいのですか?!」

 

「あ、ああ。」

 

 あっるえぇぇぇぇぇ?

 プルプル震えて怒っていらっしゃる?

 いや、喜んでいるのか?

 

 どっちだよ?

 

 そう言えばこいつ……転生者じゃないよな?

 

「マーヤさん。」

 

「はい?」

 

「『令和』、『平成』、『マック』、『マクド』、『サーティワン』、『ミスド』。 これらに聞き覚えは?」

 

 俺は今すぐ思い浮かべられる前世の単語を次々と口する。

 

 が、マーヤはハテナマークを出しながらただ困ったような顔をする。

 

「その……勉強不足で申し訳ございません。」

 

 転生者じゃないのか?

 それとも警戒心が強いだけか?

 

「マーヤは俺のことをどう思っているんだ?」

 

『神』、と。 ですので、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 “何なりとお申し付けください”……だと?

 

 女の子がそんなこと言っちゃダメでしょうが?!

 

 妄想がガがガガがガガ。

 

「フゥ~ン? じゃあ何? こいつ(スヴェン)が『死ね』って言ったら────」

「────救われる前はもとより死ぬ覚悟でした。 無論、喜んで死にます。」

 

 Oh……

 

「へ?! じゃ、じゃあ『俺を慰めろ』とか────?!」

 「────喜んで差し上げるわ。」

 

 差し上げる?

 何を?

 ナにヲ?

 

「そ、そうか。 ならば学園では普通に接しろ。」

 

 物理的に引き始めるアンジュリーゼの後を追いたい気持ちを抑える。

 

「はい! では早速、恋仲として────!」

 「────『普通の同級生』だ。 『友人』だ。」

 

「………………………………わかったわ。」

 

 今、何気に犬耳としっぽがシュンとしたような錯覚が見えたっぽいんだが?

 

「それと、表向きの俺は────」

「────はい! 『スヴェン』として優男風の学生を装いながらもシュタットフェルトさんの従者見習いで『情報屋』で、『スバル』は『素顔を隠しながら黒の騎士団員の目立たない役割』をしているのですね?」

 

 ちょっと待て。

 今までのやり取りでそこまで理解したというのかこの子は?

 

 ボク コノコ コワイ。

 

「と、取りあえず……ここに来るはずの────」

 

 ガチャガチャ。

 コンコン。

 

『────おい、スヴェン。 そこにいるのか? 来てやったぞ?』

 

 鍵がかけられた屋上のドアから、俺がメールを打った毒島の声がした。

 

「あれ、この声って……冴子?」

 

 何も言わずに俺がドアを開けると、やはり屋内から出てきたのは毒島だった。

 

「ふむ?」

 

 彼女は屋上へ出てくるなり俺とアンジュリーゼ、そしてマーヤを見てはいつものニマニマとする顔を浮かべながらマーヤを見る。

 

「私は毒島冴子だ、よろしくなマーヤ・ガーフィールドとやら?」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします毒島さん。」

 

「これでも同い年だ、気軽に毒島と呼んでくれたまえ。」

 

「ええ、そうする。 こっちも『マーヤ』でいいわ。」

 

 え?

 なんで会っていきなり意気投合してるのおたくら?

 本当に会うの、初めて?

 

「冴子……この子と前に会ったことがあるの?」

 

「いや? 初対面だが?」

 

「話すのも初めてです。 私、今日までほとんど学園に登校していなかったから。」

 

 ええ~? ほんとにござるかぁ~?

 

「それはそうとアンジュ、昨日はどうだった?」

 

「え? 昨日? 散々だったわよ冴子! スヴェンが黒の騎士団だということも初めて知ったし、ナイトメアの無茶苦茶な操縦が出来ることもこの子もまとめて最悪! 冴子は知っていたの?!」

 

 おいいいいいいいいいいいい?!

 なに毒島に黒の騎士団を暴露しとるんじゃいいいいいいいい?!

 

「いや、知らなかったが容易に想像は出来るぞ? それはそうと、スヴェンから私に頼みとはなんだ?」

 

 色々とスルーですか毒島。

 さいですか。

 

「毒島は確か、六家の遠縁だよな?」

 

「ああ、それが?」

 

「お前は彼らと……いや、正確には()()()面会を申し込むことはできるか?」

 

「まぁ……スヴェンの頼みとあらば、申し込むが、相手によってできるかどうかは変わってくるな。 誰だ?」

 

「『桐原(きりはら)泰三(たいぞう)』だ。」

 

「「え?」」

 

 急にNACの大物が出たことにアンジュリーゼ、そしてマーヤが声を出す。

 

「う……よりにもよって……できなくも……ないと思うが?」

 

 逆に毒島の顔は珍しく引きつっていた。

 どうしたのだろう?

 ま、いいか。

 というか面会できるのか。 

 ハッキリ言って望み薄だったけどスゲェな毒島。

 

 ……やっぱり何も聞かずに俺の頼みを聞いてくれる彼女にも、アンジュリーゼたちにした提案をするか。

 

「日付は後で連絡する。」

 

「いや……その……スヴェンの頼みだからな。」

 

 毒島がそっぽを向いた?

 何か気まずいような空気が……

 

 いや、毒島に限ってそれはないだろう。

 それに彼女のことだ、上手くやってくれるだろう。

 

「さて。 俺からの提案なんだが毒島、お前は()()()()()反ブリタニア組織に籍を置く気はないか?」

*1
とある世界線でブルースが殺され狂ったジョーカー(マーサ)トーマス(バットマン)が銃などを巧みに使って犯罪者を殺しまくるダークなバットマン




一昨日、全てを出し尽くして苦しみながらも生きてきた。
昨日、取りあえず現実から目を背けるために体に鞭を打って『普通』を装った。
今日、セッティングに夢中でほかのことに気が付かなかった。
明日、出来心の良心で青春を魔神が知らずに味わう裏で、小心者が柄にもなく前に出る。

エリア11は早く終わりすぎた戦争が残した『混沌』と『思惑』と『野心』が未だ渦巻く『魔女の鍋』状態。

深く問わなければ『何でもアリ』。

次回予告:
『雨、時々鉄』

明後日? そこまでのことは分からない……かも。  ←作者の本心


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第37話 雨、時々鉄

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

蒸す&HOTな日が続いていますが頑張ります!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


「さて。 俺からの提案なんだが毒島、お前は個人として反ブリタニア組織に籍を置く気はないか?」

 

 そう提案した俺に対して、毒島はわずかに目を細めた。

 

「…………………………面白い言い方をしたな、スヴェン?」

 

 ま、そりゃあそうだろうな。

 

 特に六家の関係者である彼女(毒島)からすれば。

 

 旧財閥系家門である六家は日本敗戦直後、侵略者であるブリタニア帝国に身を翻して植民地支配の積極的協力者となった。

 

 今でもブリタニア帝国の軍事活動を支持するほどの莫大な税を納めている。

 

 ()()()()

 

 その実、六家はその金の幾分かをブリタニアの監視官に渡して『キョウト』と呼ばれる秘密結社で日本全国の反ブリタニア運動の支援を行っている。

 

 武器、情報、金、その他諸々。

 

 ここまで反対運動がエリア11で絶えないのは、ひとえに『彼ら(キョウト)のバックアップがあるからこそ出来る』とも言い換えられる。

 

 そして毒島は遠縁といえども『六家』。

 今までの行動力や言動などを考えれば、『キョウト』と無関係であるはずがない。

 

 故に、俺は提案に『個人』とつけた。

 

「反ブリタニア組織といえば、この頃噂になっている『黒の騎士団』とやらにか?」

 

「違う。」

 

 来た。

 来てしまった。

 俺が一番取りたくなかった方法をとる時が。

 

 ああ、ゲロ吐きそう。

 

 さっき胃薬を溶かした水と追加の胃薬を飲んだのに(ストレスから)まだ吐きそう。

 

 いうぞ。

 言うぞ!

 俺は言うぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 別にレイズもポーカーも魂も賭けていないけど言ってやるぅぅぅぅ!!!

 

 そう思い、俺は数時間にも感じられる(恐らく実際は数秒にも達していない)間の後に口を開ける。

 

「俺は、()()()()()()()。」

 

『ドス』っと、重い何かが俺の腹と肩に乗せられたような錯覚が俺を襲う。

 

 うん……

 最初はこの世界が『コードギアス』と分かってからなるべく原作や原作キャラから距離を取りたかったけれど、流れで主人公であるルルーシュの『懐刀』とも呼ばれるカレンと直接のかかわりを持ってしまったから無理。

 

 ならばと思い、『黒の騎士団(主人公側)にいながら原作知識を使って上手く立ち回る』と決めていたが……

 この間のナリタ市で遭遇した意味不明機たちなどが出てきた。

 

 それからよく考えたら、俺一人では無理がある。

 特典(チート)があったとしてもだ。

 

 いや、フルに活用すればどうにかなる……かも知れないがまだ命を賭ける時じゃない。

 元から賭ける気はないけれど。

 

 ならどうすれば良いと考えたら、『仲間を増やせばいい』。

 

 まったくもってルルーシュが考えぬいてたどり着いた結論とかぶってしまって不本意だが、俺の活用できる人員を増やすしかない。

 

 あれだ。

『私設武装組織』だ。

 安心しろ、別にクライマックスで『俺が! ナイトメアフレームだ!』とか宣言するつもりはないから。

 

「ほぉ? スヴェン、思い切ったな? 黒の騎士団とは違うやり方でブリタニアに挑むつもりか?」

 

 挑む気はもとから毛頭ございませぬ。

 

 とは言えない。

 

「違う。 黒の騎士団一つに、()()()()()()()()()()()と感じただけだ。」

 

 これは本心だ。 

 実際、原作ではルルーシュは自分一人に全てが依存するように仕向けた結果、土壇場で彼がいなくなった瞬間に黒の騎士団は瞬く間に崩壊した。

 

 多くの戦死者を出して。

 

 俺はなるべくそうならないように、黒の騎士団を()()()()()()()()()()()を作る。

 

『組織』といっても、構成員は今ここにいる俺とアンジュリーゼたち(そして承諾するなら毒島)だけの予定だが。

 

 俺の言葉を聞いたアンジュリーゼが腕を組んで(バスターポーズを決めて)『フフン! (ふさぁ)』。

 

 マーヤがニコニコして(静かに祈るように)肯定する。

 

 そして毒島は口端が吊り上がる。

 

「なるほど。 君の()()が、どのようなことを意味するのか分かって言っているのか?」

 

 まぁな。

 つまり某アニメや漫画でいう『秘密結社』だ。

『陰から主人公側を支援する組織』、お助けキャラ的な。

 

 う~ん、少年心が刺激される。

 

 胃はもたれそうだけど。

 

「ああ。」

 

「…………………………いいだろう、君の軍門に下ろう。 日付けが分かった時、もう一度連絡をくれ。」

 

「無論だ。」

 

 俺は胃がムカムカしながらも不安で脈を強く打つ心臓のまま屋上を後にする。

 

 今朝、咲世子さんが『ナナリーお嬢様が熱を出されました!』って騒いでいたからな。

 

 俺の予測……

 というか原作通りなら、今日は『シャーリーため息出すデイ()』なのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 屋上ではアンジュリーゼ、毒島、マーヤの三人はスヴェンが後にしても無言でいた。

 

 その沈黙を破ったのは意外なことにマーヤだった。

 

「これは……もしかして────?」

「────ああ、多分君の思っている通りだマーヤ。」

 

「え? え? え?」

 

「やはりですか……随分と理解が早いのですね?」

 

「これでも奴とは昔からの知り合った仲だからな。 これぐらいはやる男だろうと思っていたさ。」

 

「????」

 

 ただただハテナマークを出すアンジュリーゼを横に、毒島とマーヤは勝手に話を進めていた。

 

「昔からの……聞いてもいいかしら? 昔の昴の事を。」

 

「ほぉ? 名前を教えるまで君を信頼しているとはな? 何故だ?」

 

「『彼の為ならばこの命惜しくは無い』という、真摯な言葉と誠意を伝えたまでです。」

 

 マーヤの顔を見て、毒島は思わずニカっとする。

 

「お前も見る目があるな!」

 

「毒島こそ。」

 

「この際だ、冴子でいい。」

 

「では私もマーヤと。 それと、冴子の知っている昴は────?」

「────あ。 彼の昔話なら私も聞きたい!」

 

 やっと自分も輪の中に入れると思ったアンジュリーゼが口を開ける。

 

 どこかズレながらも、意気投合する三人だった。

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園生徒会室では、いつかのように書類が溜まっていた。

 

 ただし前回と違ってルルーシュとリヴァルの姿は見えず、居たのはミレイ、シャーリー、ニーナの三人、そして準生徒会員のスヴェンとライブラだった。

 アリスは熱を出したナナリーの看病をしていて、同じクラブハウスだが別の場所にいる。

 

「う~~~! 書類がいっぱいありすぎるです~~~!!! 先輩たち、何でもっと早く処理しないですかー?!」

 

「うぐ……いや、その……ねぇスヴェン?」

 

「私に振っても内心ではライブラさんと深く同意していますから、ミレイ会長。 (ニコッ)」

 

「んぐ……スヴェンまで────」

「────はぁ~……」

 

 見事に正論で撃沈されるミレイの横では今日、何度目かわからないため息をシャーリーが吐きながら手元にある封筒を見る。

 

 いつも(ライブラに次いで)元気な彼女が何かに悩んでいるのは、誰もが見ても明白だった。

 

 気付かない人がいたとすれば、彼女が悩む理由の相手だけだろう。

 

 多分。

 

「どうしたの、シャーリー? ルルーシュがいなくて寂しい?」

 

「ち、違いますよ。 その……『今日もルルとカレンって欠席なんだなぁ~』って。」

 

「呑気ねぇ~。 先日のナリタで世界が騒いでいるっていうのに。」

 

「でも確かに先輩たちがいないと寂しいです! いくら陰険でヌボ~っとしてもです!」

 

「い、『陰険』……」

「『ヌボ~』?」

 

 ここでライブラが思い浮かべたのはルルーシュ(陰険)カレン(ヌボ~)で、シャーリーとスヴェンも時間差アリで二人を思い浮かべた。

 

 人はそこにいるだけの存在感で、かなり調子が違ってくる。

 ポツンと一人でいるのと、無言でも誰かと一緒にいるような違いである。

 

「いいわねぇ~、真っすぐで。 そういうところ、私は好きよ♪」

 

「茶化さないでください会長!」

 

「じゃあはっきりと言っちゃえばいいのよ。 “好きです~”って。」

 

 ミレイの言葉にシャーリーの顔が真っ赤になり、彼女はモジモジしながら頬に手を当てる。

 

 そして何故かニーナもモジモジ身じろいだ。

 

「だ、だめですよ。 もしそれで────」

「────シャーリー、少し横から口を出してもいいでしょうか?」

 

「「スヴェン?」」

 

 ここでずっと黙々と書類とにらめっこをしていたスヴェンが声を出したことにミレイとシャーリーが視線を向ける。

 

「短い間ですが、ルルーシュの人柄は()()()()()知っていると思いたい自分ですが……彼はかなりの鈍感かと思われます。 特に『色恋沙汰』に関しては。 

 ですから、はっきりと言葉にしないと彼は永久に気付かない可能性がありますよ?」

 

「え、あ……そ、そう……なのかな?」

 

「そうですよ? 特に頭のいい者ほど、周りに気付かないのですよ?」

 

「そ、そうだよね! ルルって頭良いのに、変な使い方するし! うん! そうだね!」

 

 シャーリーが一瞬戸惑うが、思い当たる節があったのかスヴェンの言葉に同意した。

 

「はぁ~……本人としてはどう思う?」

 

 そして今度はミレイがため息を出し、ちょうどその時に部屋に来た私服姿のルルーシュに話題を振った。

 

「ん? 何がでしょうか会長?」

 

「るるるるるる、ルル?! なななな、なんでここに?!」

 

 シャーリーが慌てながら手をアタフタとする。

 

「いや、ナナリーが熱を出して看病をしてくれていたアリスに休憩を取ってほしくて。 ちょうどさっき交代したところで気分転換に来ただけだ。」

 

「ルルーシュ、今時間は空いていますか?」

 

「ん? どうしたんだスヴェン────?」

「────へ────?」

「────いや、シャーリーが悩みを持っているそうなので相談に乗ってほしいとか。」

 

「あわわわわわわ?!」

 

「??? そうなのか、シャーリー?」

 

「へ?! いや、その────!」

「────違うのか────?」

「────へぇぇぇぇぇ?! ちちち違わなくて! ……ちょちょちょちょちょっと! 一緒に! 来て?!

 

 シャーリーはニヤニヤとするミレイ、キラキラと目から星を放つライブラ、ニコニコするスヴェンから逃げるようにルルーシュの手を無理やり引っ張りながら生徒会室から出ていく。

 

「(よし、これでルルーシュとシャーリーの関係を前進させる!)」

 

 実はというと、スヴェンにとって『ナナリーが熱を出した』ことは『シャーリーがルルーシュにコンサートチケットを渡す』というナリタ後のイベントを思い出させていた。

 

「(それに日付もさっきチラッと見えたから、それを毒島に送ろう。)」

 

 原作では様々なすれ違いが起きて、このイベントは微笑ましい青春モノから悲劇へと繋がった。

 

 以前に言ったが、ナリタに出張中だったシャーリーの父ジョセフがゼロの起こした土砂崩れにあって窒息死したのだが、スヴェンはこれを変えた。

 

『自分にノーリスクかつもっとハッピーな結果』の一環でルルーシュに、『人の心を保たせる』為に。

 

「(今頃は甘酸っぱい青春を謳歌するだろうな~、あの二人は。)」

 

「あ、あの……スヴェン君?」

 

「ん? 何でしょう、ニーナさん? (珍しいな、彼女が声を出すなんて……もしかして俺の『事前にニー()と接して、他人と話しやすくさせる橋係作戦』の成果か?)」

 

「この間は……ありがとう。」

 

「(“この間”?)」

 

「私が、“イレヴン”って言いそうだった時。」

 

「(ああ、あれか。 色々あって忘れていたよ。) いえいえ、どういたしまして。 (ニコッ)」

 

 そういいながらも『優男』の仮面を維持しながらスヴェンは内心、ニーナの見せた変わり具合にガッツポーズをしていた。

 

「『青春』ねぇ~。」

「です~!」

 

 ミレイとライブラは笑顔だった。

 

「(あううううううう! ミレイちゃんにライブラちゃん~~~~~~!!!(ポッ))」

「(違うぞお前ら、ニーナは人として成長しただけだ。 それにお前らはまだ知る余地もないがこれで『フレイヤ(戦略兵器)』開発を止められるのなら安いモノさ。)」

 

 一人(ニーナ)は内心で悶え、もう一人(スヴェン)は否定をしていると、超ご機嫌なシャーリーが戻ってきていた。

 

「えへ、えへへへへへ♡」

 

「うまく渡せたみたいね。」

 

「うん!」

 

「これでシャーリー先輩は、『おとなのかいだん』って奴を登るのですか?」

 

「ふぇ?!」

「お、大人の階段……」

 

「ニーナまで?!」

 

「まぁ、大きな一歩目ね♪」

 

「(ニコニコニコニコ。)」

 

 「会長の変態! ストップ! ほかの人も変な想像しない!」

 

 生徒会室に戻ってきたシャーリーはこの上ないほどご機嫌な様子で帰ってきたのを生徒会室にいた者たちがからかうのだった。

 

 

 

 


 

 

「コンサート、面白かったねルル!」

 

「あ、ああ。 そうだな。」

 

 私服姿のシャーリー、そしてルルーシュはついさっきまでクロヴィススタジアムの中でオーケストラを楽しんでいた。

 

 だがシャーリーはルルーシュと二人きりでいられたことで劇場に全然集中できなかったが、それはルルーシュも同じだった。

 

 集中できなかった理由はシャーリーとは程遠かったが。

 

「(おかしい……)」

 

 ルルーシュはゼロとして、反ブリタニア組織に支援を行なっているキョウトからの誘いで今日会う日の筈だった。

 

 だが急に別の用事が入ったのか、別の文が送られて来た。 『最初の勅書に書かれたのとは違う日にして欲しい』、と。

 

「(何故キョウトは急に会見の日を変えたいと追記の勅書を送った? 変更の理由も説明も何も無かったことからキョウトにとって予想外の出来事(ハプニング)が起きたとみられる。 が、『日にちの変更をしたい』という事は致命的なものではないな。 

 ブリタニアに動きがあったとしても、情報網に何も引っ掛からなかった。

 日本解放戦線も、予想より被害は少なかったが草壁との一件で彼らにすぐ動く度胸は無いはずだ。

 では何が────?)」

「────ルル! ねぇ、ルルってば!」

 

「(おっと。) どうした、シャーリー?」

 

「もう! 話聞いていなかったでしょ!」

 

「すまない、ちょっと考え事を────」

 

「────あ。」

 

「ん?」

 

 シャーリーの視線に釣られ、ルルーシュが見るとスタジアムの外は雨が降っていた。

 土砂降り、とまでは行かないがとても中を移動できるものではない。

 

「ど、どうしよう……私、傘持ってきていないよ~。」

 

「天気予報で言っていただろ?」

 

 「……に浮かれて、チェックするの忘れた。」

 

「え? 今なんて?」

 

「チェックするの忘れた。」

 

 バサッ!

 

「ほら────」

「────へ?」

 

 ルルーシュは折り畳み傘を取り出して、それをシャーリーの上に差す。

 

 大きさは丁度、二人が密着すれば入る大きさの傘だった。

 

 シャーリーは驚きながらも頬を赤らませ、未だに彼女の変化に気付かないまま平然とルルーシュは横に並んで歩き出す。

 

 「あ、相合傘だよね? これって?」

 

「何か言ったか?」

 

 「な、な、なんでもないの!」

 

「顔が赤いぞ? 雨に当たったか? ほら、もっと近くに────」

 「────だだだだだだだいじょぶダカラ!」

 

「そうか?」

 

 二人は肩を並べながら、一つの傘の下で歩くのだった。

 そこには、誰が見ても青春を満喫中のカップルの姿だった。

 

 

 

 

 

 上記とは明らかに別の場所では、着物を着た毒島の向かいに年を取っても尚鋭い目と気迫を持った老人が座っていた。

 

桐原(きりはら)泰三(たいぞう)』。

 六家とキョウトのリーダーである家の(すめらぎ)に変わってその二つの組織のリーダー格をやっている人物で、日本がまだ国だった当時は枢木ゲンブと並んで『裏の政治』を牛耳っていた。

 

「お久しぶりです、桐原様。」

 

「久しいな、毒島の娘。」

 

 挨拶を交わしながら、桐原が視線を一瞬だけ向けたのは堂々と(カチコチに)して(固まって)いた少年、()()()()だった。

 

「(なんで……俺がここに?)」

 

 そして彼らの周りを取り囲むように立っていた桐原のSPたちが出す圧と明らかに武装していることにスヴェンは(内心)ダラダラと汗を掻いていた。

 

「(………………………………………………どうしてこうなった?)」



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第38話 思っていたのと違う

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

少々長くなってしまいました……

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 時間は数日間程巻き戻したい。

 

 スヴェンは『ナナリーが熱を出した』、そして『シャーリーがため息を一日中していた』と言う条件が重なったことで原作での『雨のコンサート』に当たりをつけていた。

 

 あとは日付だけだったが、生徒会室でシャーリーのチケットに書かれた日付がやっと見えたことで、原作でルルーシュがキョウトと会う筈の『桐原泰三』にダメ元で毒島に面会を申し込ませた。

 

 本当ならばシャーリーは父親の身元確認で結局彼女自身もコンサートに行けず、ルルーシュもキョウトに接触されてどちらも行けなかったが、シャーリーの父親ジョセフはスヴェンの活躍によって生きている。

 

 なので、あとはゼロとキョウトが会うタイミングをずらせば二人は無事にコンサートに行けるわけだが……

 

「スヴェンさん?」

 

 ベッドの上で横になっているナナリーの声によって現実に呼び戻される。

 

「何でしょうか、ナナリー?」

 

 咲世子さんは栄養満点のおかゆを作るためにキッチンにいて、今はルルーシュとチワワ(アリス)も席を外しているので代わりに俺がナナリーの傍にいる。

 

「お兄様って、この頃外出する日が続いているのですが……スヴェンさんは何か知っていますか?」

 

 おぅふ。

 どうしよう?

 

 って、やれることは一つだけだ。

 

「さぁ、そこまでは……」

 

「そう、ですか。 スヴェンさんも知りませんか……手を、握ってもらっても良いですか?」

 

「手を?」

 

「お願い、します。」

 

 よく見ると、ナナリーはいつも以上に心細い空気を発していた。

 

 それもそうか、ゼロとしての活動が続いているから寂しいのか……

 

「勿論、良いですとも。」

 

 はぁ~。

 ナナリーの小さくて柔らかくてプニプニした華奢な手に癒されるぅ~。

 オキシトシンがぁ~、分泌されるぅ~。

 

「スヴェンさん……本当にお兄様が何をしているのか分からないのですね?」

 

「ええ、残念ながら。」

 

 素直に言えるわけがない。

 

『お前の兄は、お前の為に自分や他人の命を利用して世界に喧嘩を売っている』なんて。

 

 でも────

「────ですが、『彼の全ての行動はナナリーの為』と断言できます。」

 

「そうですか?」

 

「ええ。 彼は言葉足らずですが、彼の全ての行動はナナリーの為です。 遊びに行くのもお金をナナリーの為に貯めて、頻繁に外出するのも結果的には全部ナナリーの代わりに外の世界を見聞きして伝える為です。 ナナリーは正真正銘、彼の生き甲斐です。」

 

「まぁ……それは……いくらお兄様でも、ちょっと言い過ぎなのでは?」

 

 全然。 どっちかというと、言い足りないぐらいだ。

 

「スヴェンさん、私……()()()()なのです。」

 

「……ええ、以前にも確か仰いましたね? 理由はナナリーの話したいときに────」

「────それなんです。 スヴェンさん、私────!」

 

 部屋のドアが開き、ルルーシュが部屋の中に入ってくる。

 

「────ありがとうスヴェン、もういいよ。」

 

「では、ナナリー。 ルルーシュが戻ってきたのでこの場を彼に譲ります。」

 

「ぁ……」

 

 ナナリーが何か言いたそうだったが、ここはもう兄妹の空間だ。

 部外者である俺はとっとと出ていくとしよう。

 

 ガシッ。

 

「ちょっと待てスヴェン。 お前、ナナリーに何か変なことをしていないだろうな?

 

「……は?」

 

 「俺が入って来たとき、ナナリーの手を握っていただろう?

 

 ギギギギギギギギギ!

 

 痛い痛い痛い痛い痛い! 

 肩が痛い!

 

「あの、お兄様? 私がスヴェンさんに手を握ってほしいとせがんだだけですので────」

 

 パッ!

 

「────なんだ! そうだったのかナナリー! ビックリしたよ。」

 

 なんと言う手のひら返し。

 

 ちなみにその夜、シュタットフェルト家の自室の鏡で肩を見ると案の定クッキリと彼の手形のあざが出来ていた。

 

 ピリリ! ピリリ!

 

 携帯の着信音がして確認すると、毒島から『面会OKだ』のメッセージが来ていた。

 

 そっか、上手くいったか。

 

 ん? 『その日の予定は空けておくように』?

 

 なんで?

 ……………………あ、なるほど。 多分、桐原泰三と会った後に内容とかの話をしたいってわけか。

 

 流石毒島だ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 それがどうしてこうなった。

 

 あ、ありのままの出来事を話すぜ?!

 

 毒島が桐原と会う筈の日突然、マーヤが俺を昼に誘ってきてはアッシュフォード学園の校門前まで来たと思ったら着物姿の毒島が立っていてあまりにも似合っていて魅入られていたらリムジンに乗せられて『日本』の時代から代々続いているっぽい和風の料亭に連れてこられ怖じ気る気配もない毒島に『中で待っていよう』と言われるがまま彼女の顔パスで奥の方へと連れてこられて懐かしい畳などの匂いがする個室にドナドナ~。

 

 もう嵐のような流れだった。

 

 な、何が起きたのか分からない気持ちを落ち着かせるために思わず正座してお茶入れてホッとしてしまいたかった程だった。

 

「うむ。 ちゃんと正座が出来ているな。 関心関心。」

 

 着物姿と髪を上げて横にいる毒島はいつもより美人で綺麗で更に大人びていて、思わずチラチラ見てしまう。

 

 う~ん、ええのぉ~。

 風流やのぉ~。

 お茶がうめぇ~のぉ~。

 

 これでSPっぽい奴らがギラギラした空気を向けていなければええのにのぉ~。

 

「お越しになりました。」

 

『誰が?』と問う時間もなく、ゆっくりと部屋に入ってきたのは桐原泰三本人だった。

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ナンデ?

 

 俺が思考停止している間に毒島が桐原に謝辞し、彼も社交辞令を交わす。

 

 しかも毒島はあたかも慣れている動作や言動でお嬢様っぽいのだけれど?

 お前……『学園黙示録』でそんな設定あったっけ?

 

 いや、もう……何が何だか。

 

 俺が宇宙を漂う猫のままでいると急に桐原が俺を見る。

 

「────して? ワシとしては久しぶりに連絡を受けてびっくりしたのだが……お主は?」

 

 うぉぉぉぉぉ、怖えぇぇぇぇ

 

 流石日本の裏政治を牛耳っているだけの事はある。

 気迫が半端ねぇぇぇぇぇ。

 

「……初めまして、半瀬(はんせ)(すばる)と言います。」

 

 ポーカーフェイス、今マジで感謝。

 

「ほほぉ? 敢えて()()()を名乗るとはな……それにその動じぬ姿勢……」

 

 “敢えて日本名を名乗る”って……どゆこと?

 

 毒島もニコニコしないで説明プリーズ。

 

「昴、彼の事をどう思う?」

 

 こっちが説明してほしいねんけどぉぉぉぉ?!

 

 どうしよどうしよどうしよどうしよどないしよ?

 

 ……ええい! ゼロ! 言葉を借りるぞ!

 

「『桐原泰三』、サクラダイト採掘業務を一手に担う『桐原産業』の創設者に枢木政権の影の立役者。 そして()()()()ブリタニアの植民地支配の積極的協力者……だが裏では全国のレジスタンスを束ねて支援するキョウト六家の重鎮。 そしてそのキョウトでも今は年若い皇神楽耶の後見人として実質的なリーダー────」

 

 ────口を思わずつぐんでしまう。

 

 ただならぬ空気が、目の前の老人から出ていたからだ。

 

「お主……それを知りながら、わざわざ毒島の娘に連絡をつけさせたというのか? なるほど……」

 

 あっるええぇぇぇぇぇ?

 なんか反応が原作ゼロ(ルルーシュ)と会った時と全然違うのですけれど?

 

「ですから言ったでしょう? 『認めている』、と。 それと昔、私の『見よう見まね三段突きを完封した少年』も彼の事です。」

 

 ああー、そういやあったな。

 特典を藤堂の前で思わず出して焦った奴。

 今としては懐かしいな~。

 

「何?! こ奴が……むむむぅ……」

 

 あれれ?

 なんか桐原じいさんの俺を見る目が変わった?

 

「これで分かったでしょうか、桐原様?」

 

 ちょっと毒島さん、オイラにも分かるように説明してくだせぇ。

 

「なるほどの……お主がこ奴を支持する理由は分かった……だが────!」

 

「────ッ。」

 

 桐原が杖を握っていた手に力を入れたと思ったら次の瞬間、反射的に身体を跳ねさせた俺の髪が数本ハラハラと眼前を舞う。

 

 彼の持った仕込み刀が俺の頭皮寸前まで────っておおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいい゛いい゛い゛い゛?!

 

 こいつ本当にジジイかよ?!

 

 さっきまで部屋の向かいに座っていたはずなのに、全く見えなかったぞ……

 

「……ここまでして、動じぬとは────」

「────ですから言ったでしょう、桐原様?」

 

 お前は何を言ったの、毒島?

 

「確かに……僅かに頭を動かし、ワシの太刀筋を躱すとは……」

 

 いや、滅茶苦茶ビビッて固まっていただけなのですが?

 

「これでご理解できたでしょうか?」

 

 だから誰か俺にも説明を。

 

「……ワシはこのような童ではなく、お主の見る目を信じる。」

 

「ありがとうございます。」

 

 いやいやいやいやいやいや。

 何勝手に完結させようとしてんの毒島と桐原?

 

「じゃが……もう一つ条件がある。」

 

 条件?

 なんの?

 

「桐原様?」

 

「ワシを昔みたいに『おじいちゃん』と呼びなさい────」

 「────何急に言っているのですかき・り・は・ら・()()?」

 

 おおおおう?!

 笑顔のまま青筋を浮かべた毒島の背後に『ゴゴゴゴゴゴゴ』が?!

 

「だって久しぶりに()から連絡が来て『会わせたい()がいる』って来たからちょっと期待したのに反ブリタニア(裏ビジネス)のことじゃったんだもーん。」

 

 なん……だと?

 

 この人今……毒島の事を『孫』って呼んだか?

 

「いい年をした老人が“もーん”なんて語尾付けないでください、気持ち悪いだけです。」

 

「ええ~? 別に良いではないか? ここには今、ワシとワシの直属の部下にお主らしかおらんのじゃし。」

 

「??? 神楽耶様なら無理やりにでも来るような気がしたのですが?」

 

『神楽耶様』って……

 毒島、お前……『(自称)ゼロの幼な妻』と知り合いなんか?

 

 と言うか『桐原泰三』……思っていたのと凄く違う。

 

 さっきまで『切れる老人』だったのが今では『孫をからかうジジイ』だ。

 

「あ奴、興味津々じゃったよ? 『刀にしか興味の無かった冴子にも春が来たのですね♪』、と言っておったぞ?」

 

 ああー、うん。

『学園黙示録』で起きた『奴ら』の襲撃が無かった毒島ってそうなんだよね。

 

「コホン! ……と言う訳で桐原殿────」

「────『おじいちゃん』。」

 

「「………………………………………………」」

 

 「と! 言う訳で! 桐原殿────!」

 「────『おじいちゃん』!」

 

 「桐原殿────!」

 「────『おじいちゃん』!」

 

「………………………………………………」

 

「冴ちゃん、ワシ……もう歳なんじゃよ? 何時亡くなるか分からない────」

 「────いけしゃあしゃあと妖怪ジジイ────」

「────のだからこのぐらいの我儘は聞いても、バチは当たらんと思うのだが?」

 

 さ、『冴ちゃん』って……

 なんか今日、桐原と毒島の色々な面を見たような気がする。

 

「……………………………………おじい様。

 

 「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 毒島が照れながら小声で言うと桐原がガッツポーズをとる。

 

 さっきまでのヨボヨボ弱々しいジジイはどこ行った?

 

「聞いたかえ皆の者?! 冴ちゃんが! 冴ちゃんが十年ぶりにワシの事を『おじいちゃん』と呼びよったぞぉぉぉぉ?!」

 

「言っていません!」

 

「なぁに、『おじいちゃん』と『おじい様』なんて些細な違いを脳内で変換すれば────!」

 「────しなくて良いです!」

 

 ああ、うん。

 訂正するわ。

 

『孫をからかうジジイ』じゃなくて『孫バカ』だわ。

 

「して冴ちゃん、()()は? 相手と()調()なんじゃろ?」

 

 「ブッ?!」

 

 思わず飲みかけのお茶を小さく吹き出してしまった。

 毒島。 お前、相手がいるのかよ?!

 

 ……多分、日本帝国時代からの許嫁とか何かだろなぁ~。

 

 おじいちゃんッッッ!!!」

 

「ムホホホホ────ア、ちょっと待って冴ちゃんそれは勘弁────グゴゴゴゴゴゴ?!」

 

 そして毒島……お前はお前で老人(桐原)を容赦のないスリーパーホールドに入れるのな?

 

 

 

 

 

 あの後桐原のSPたちが妙に手慣れた作業気味に毒島を桐原から引きはがし、俺の組織の支援を(彼個人とはいえ)取り付けることが出来た。

 

 なんか……ドッと疲れた。

 

「……昴。 普段、桐原のジジイはああでは無いからな? 何故か私の前だけなのだ。」

 

 ああ、うん。

 そうだよね。

 

 原作からじゃとてもあんな性格とは思えねぇよ。

 もっと堅物かと思ったら、激甘の孫バカとは……

 

 ちょっとコードギアスファンとしては嬉しいというか、複雑と言うか何というか……

 

「だとしても驚いたぞ。 まさか毒島がキョウトの遠縁どころかまさか桐原泰三の孫だったとは」

 

「言いふらすようなモノでもないさ。 知らない人から見れば特に、な……」

 

『売国奴の桐原』。

 それが桐原についたあだ名だ。

 

 知らない人からすれば、そう見えるが────

 

「────だがある意味、これでやっとホッとしたよ。」

 

 ん? さっきまで沈んでいた顔が笑顔になったぞ?

 それに“ホッとした”って……

 

 ああ、『自分が桐原の孫』を知っても態度を変えないことか?

 

「安心しろ。 俺は見る目があると思いたいだけだ。」

 

「君ならそう言うと思ったよ。」

 

 俺は六家の車へと毒島と一緒に乗り、特に他愛のない話をする。

 

 

 

 


 

 

 

『売国奴の桐原』。 それが世論でワシについた二つ名。

 だが所詮はあだ名、好都合だった。

 

 これならば、多数の民衆は少なくともワシがまさか反ブリタニアの者たちを支援していると思わぬはずだ。

 

 最初は大きな組織を支援し、いずれ来るべき革命の為の『戦力』としていたが……

 

 日本解放戦線の急激な弱体化でその希望は薄くなった。

 そしてそれに代わるように勢力をつけ始めた『黒の騎士団』だが、果たして仮面をして、素顔を見せぬものが束ねる組織を信頼できるのだろうか?

 

 そう思っていたところに孫の冴ちゃん()から連絡が来た、ワシを名指しで『とある男に合わせたい』ということで。

 

『スヴェン・ハンセン』、または『半瀬(はんせ)(すばる)』。

 こ奴は以前から広い情報網を使い、名を広げていた。

 それとは別に、『スバル』としてナオトのグループの時から活躍しておる。

 

 だがそれ以前の、日本に来る前の事が全く浮かんでこない。

 それどころか、まるで突然現れたかのように紅月家に引き取られる前の消息が全く掴めなかった。

 

 初めて冴ちゃんが連れて来た奴を目にしたとき、ワシを見ても動じなかった。

 

 背筋を伸ばしたまま左膝をついて次に右膝と順番についてお尻の辺りに足が来るように座るだけでなく、脚が痺れないように親指を重ねていた。

 

 その立ち振る舞いと態勢がワシに様々なことを伝えてきた。

 

 所詮、口では誰もが何とでも言える。

 本性は身体が教えてくれる。

 

 だが……ワシも痛む身体に鞭を打って繰り出した抜刀術に反応するだけでなく、『害する気が無い』と悟ったのか僅かに身を反らせただけだった。

 

 それに、ワシの裏の顔を知っている者ならば冴ちゃんとのやり取りに、誰もが反応を見せるというのに奴の態度に全く気負いを感じられなかった。

 

『静』そのものだ。

 

 この者ならば……得体のしれぬゼロよりかは幾分かマシかも知れぬ。

 

 いやはや、八年前に『ワシの冴ちゃんを泣かせた藤堂以外の男だとぉぉぉぉぉ?!』と荒ぶる気に身を任せなくて良かったわい。




運命を左右するのは何か?
偶然か、巡りあわせか、はたまた人の選択か、それとも『神』に並ぶ存在か。
または無い脳を振り絞って身勝手に動いた男か。

それは答えのない永遠の謎かけだが、間違いなく彼ら彼女らの運命を変え始めたのはがむしゃらに生きようとしただけの男である。

そのツケが今、彼の元へと帰ってくる。

次回予告:
『紅蓮の新しい兵装』

美女がほほ笑むのは、誰の為に?


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第39話 紅蓮の新しい兵装

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

ちょっと投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。 m(_ _;)m

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


「オイお前。 これを作れ。」

 

「お前……何でここにいる?」

 

 ここはアッシュフォード学園のクラブハウス……ではなく高等部の科学教室。

 

 そこで俺が()()()()()の調べ物をしていると、私服姿のCCが『チーズ君』の載ったパンフレットを持ちながら声をかけてきた。

 

 てかお前、原作ではたらふくルルーシュの名義でピザ頼んでポイント稼いでいただろうが?

 

「何でって、お前がここいるからだが?」

 

 コタエニナッテイナイヨ?

 

「分かった。 作ってやるから────」

「────ああ、それとピザのチーズは多めにしてくれ……って、何をしている?」

 

 って今まで回りをガン無視していたのか、マジでルルーシュ並みの『ゴーイングマイウェイ』だな。

 

 いや、あいつがCC並みなのか?

 どっちでも同じか。

 

「ほぉ? 顕微鏡も進んでいるな? 前見たときは鏡を照明代わりに使っていたぞ。」

 

 って横から覗くなよ! 近い!

 

 中身BBAでも見た目は15,6歳だぞ!

 他人が見たら誤解しちゃうでしょうが!

 分かっているのかお前(CC)?!

 

 いや、こいつの事だから『分かっていながらやっている』という線も────

「────やっぱりつまらんな。」

 

 注意持続時間が短いところがルルーシュと違うところだろうな。

 

「これはただの趣味だからな────」

『────ミィ~。』

 

 すると俺の足元にアーサーが鳴き声を出しては頭を擦り付ける。

 

「意外だな? そいつ、いつもは引っ掻くのに?」

 

「少し前まで俺の足に噛み付いていたな。 (なるほど、CCは引っ掛かれるのか。 『同族嫌悪』って奴か?)」

 

「どういう風の吹き回しだ────?」

 「────フシャアァァァ!」

 

「ッ!」

 

 そう言いながらCCが撫でるように手を出すと毛が逆立ちしたアーサーが彼女の手を引っ掻いてそのまま逃げていく。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ああ。 こんなもの、傷の内に入らないさ。」

 

 まぁ、不老不死といえどもCCに『痛覚』はあるからな。

 一応社交辞令だ。

 

「消毒液ぐらい塗ったらどうだ?」

 

「唾をつけておけばそのうち治る。 じゃあこのぬいぐるみと追加のピザ、今日の晩()()()待つからな?」

 

「……晩を超えたら?」

 

「お前の正体をばらす。」

 

 妖艶な笑みを浮かべて自分の傷ついた手をペロリと舐めるCCは普通ならば色っぽいかもしれないが、その時の俺にとっては死神の笑みに他ならなかった。

 

 ……裁縫セット、カレンのタバタッチ(ぬいぐるみ)を直して手芸部に置いたままだったよな?

 

 俺のバカ。

 今更『自分の身体を調べよう』なんて思ってここ(科学教室)に来始めた俺のバカ。

 

 CCめ、血痕も残していきやがって。

 

 いや、ピザの作り方を覚えた俺のバカ。

 

 取り敢えず血を拭いてからダッシュだ。

 

 

 

「この音、裁縫ですかスヴェンさん? それにこの匂い……またピザですか?」

 

「ええ、少し頼まれ事をされまして。」

 

 科学教室からあの後すぐに後片付けをしてから手芸部へBボタン長押しダッシュし、裁縫セットと材料をちょろまか────()()()すぐ作業に取り掛かった。

 

 ピザもオーブンにセットしたから、あとはチーズ君(ぬいぐるみ)を作れば大丈夫だ。

 

 チクショウめ~。

 素顔と『スバル=スヴェン』がバレたあの時、CC相手に『出来る頼みを聞く』なんて言わなければよかったぜ~!

 

 でもそうするとルルーシュに言われて『雑巾第一号』になっちゃうかも知れないと思うと……

 

 俺は考えを切り替えて黙々と針を通していく。

 

 「じゃあ後で私とナナリーの分、勝手に取るわね!」

 

「きゃあ! アリスちゃん?!」

 

 突然大声を出しながらアリスがナナリーを後ろから抱きしめて俺は思わず身体を跳ねさせる。

 

 ビクゥ!

 

 ブスッ。

 

 アンギャァァァー?!?!?!

 

 いーたぁーいよぉぉー?!?!

 

「アリスさん? どうしていつもながら気配を殺してから近づくのですか?」

 

(表面)』では仮面を維持しながらも、内心では針を思いっきり自分の指に刺した痛みで絶叫していた。

 

「だってアンタ(スヴェン)、いつも驚かないじゃない。 ナナリーはするのにねぇ~♪」

 

 俺が理由かい。

 

「いえいえ、自分は見習いとはいえ『従者』ですから気配に敏感で居なければいけないので……ん? アリスさん、怪我をなされたのですか?」

 

 アリスの二の腕辺りに包帯がはみ出ていたことを指摘すると、彼女はサッとそれを隠す。

 

「こ、これは……ちょっと転んで────」

「────消毒液を付けますか? (とびっきりに痛いヤツ。)」

 

「いいいいいいのよ! ちょっとした擦り傷だから!」

 

 珍しく慌てるアリスはそれを最後にその場から消える。

 

 ……桐原のジジイにも負けないスピードだったな。

 

「スヴェンさん……さっきのアリスちゃん、何か隠したがる声でしたけれど────」

「────多分、あの慌てようからしてナナリーに心配させたくない様子でしたね。」

 

「それだけじゃないと思うのですけれど……」

 

 天使(ナナリー)よ、なぜに俺を見てそう言うのだ?

 吾輩には心当たりがございませんが?

 

 

 


 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 夜が訪れ始めるクラブハウスとは別の場所にいたアリスは苦しそうな息を出しながら包帯の巻かれた腕をグッと握っていた。

 

 彼女は別に先ほどまで全力疾走していたためではなく、()()から息を荒くしていた。

 

 彼女は背負っていたカバンから注射器のようなものを出しては躊躇なくそれを腕に差し込んで中の液体を注入すると徐々に荒い息が収まってくる。

 

 「……クソ。 これじゃあ、ナナリーとの時間……いえ、『ミレイ・アッシュフォードの監査』と『ライラの護衛』に支障が……」

 

 アリスは悔しそうな顔のまま、学園を後にする。

 

 数日後の夜、日本解放戦線の総指揮官である片瀬が流体サクラダイトを乗せたタンカーで国外脱出を試みるという情報をコーネリアが得て特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)にも声をかけたのだ。

 

 ナリタでは多くの士官と部隊に大きな損害が出てしまい、再編成を行いながら本国に出した補充要請が受諾されたばかりでエリア11の守備隊はギリギリの人員はあったものの実質的な『人手不足』となっていた。

 

 よって、コーネリアはマッドにも声をかけ、彼はこれをチャンス到来と期待して作戦に参加することを承諾していた。

 

 そして夜の訪れた港で特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)は遊撃隊を任されていた。

 

 少し離れた場所にいるサザーランドを中心にした狙撃隊には特派のランスロットの姿も見える。

 

 ()()()()()()()の様子を伺いながら。

 

『正規兵たちのファクトスフィアではどのタンカーがダミーか分からないらしい。 ルクレティアはどうだ?』

『……タンカーたちだけに標的を絞ればできなくもないと思います。』

『そうか。 作戦開始とともにやれ、大佐(マッド)は功績を望んでいるからな。』

 

 突入要員であるアリスとダルクは互いのGX01で待機しながらダルクとルクレティアの通信を聞いていた。

 

 ダルクはやっと手に入れた和菓子を頬張り、アリスは痛みが走る腕を擦っていた。

 

 同時刻の港の倉庫街にて、黒の騎士団はキョウトからの要請で日本解放戦線の逃亡協力の準備をしていた。

 

「スバル……どう思う? って、なんで濡れているのよ?」

 

 その中には黒の騎士団のエースことカレンも勿論いた。

 そしてその横には濡れた頭をタオルに包めていたスバルが偽装したランスロット似モドキの整備をしていた。

 

「どう思うって、何がだ? それにこれはゼロに頼まれて泳いできただけだ。 (実際は機械水雷を仕掛けて来たんだが。)」

 

 原作ではタンカーは一台しかなかったため、ルルーシュは彼自身の手でタンカーの底に爆弾を仕掛けていた。

 

 だがタンカーが増えたことと、キョウトにもどれがダミーで本命か伝えていない日本解放戦線のおかげでルルーシュは『敵のコーネリアが海兵騎士団を総動員する、水陸両用KMFのとる筈の経路にこれらを設置する』と言い、スバルとともに海へとさっきまでダイブしていた。

 

「その……『日本解放戦線を逃がす』って話。 扇さんも言いかけていたけれど、私たちと合流すれば大きな────」

「────ダメだ。 弱体化したとはいえ、日本解放戦線は恐らく主導権を握る為に色々やらかすだろう。 そうなれば組織の系統や編成がややこしくなるから多分ゼロは『逃がす』選択を取ったのだろう。 (本当は『生贄(犠牲)にして統一性を高めることと藤堂たちを取り込む』ことを企んでいるが。)」

 

 

「そっか……やっぱり、大きくなりすぎることも悩み事だね……それはそうと、私の紅蓮にも()()つけてくれる?」

 

「(え゛。) 本気か? あれは見栄っ張りの玉城でさえ装備することを断念した武装だぞ?」

 

「でも私になら使いこなせると思うんだ……ダメかな?」

 

「別に俺としては構わないが手伝えよ?」

 

「そのために私も整備の手伝いをしているんじゃない!」

 

 カレンが誇らしそうにニカッとしながら胸を張る。

 

「(う~ん、やっぱ大きいな。 D以上は絶対あるな。) よし、なら左腕のグレネードランチャーとは反対側に取り付けるぞ。」

 

 スバルが黙々と装備の取り付けに移って集中していた為、さっきまで暗かったカレンの空気が軽くなっていたのに気づかなかった。

 

 逆に彼らのやり取りを見ていた井上はニコニコとほっこりしていたが、『口をはさむまい』という気遣いから黙っていた。

 

 

 

 

『ゼロ! ブリタニア軍が攻撃を開始したぞ!』

 

 扇は倉庫街から爆音がした方向を双眼鏡越しに見ていると、ブリタニア軍のサザーランドとポートマン(水陸両用KMF)が急速に展開したのを焦る気持ちで見る。

 

『……………………』

 

『おいゼロ! 聞こえているのか?!』

 

『早まるな、扇。 思ったよりコーネリアの展開が早い。 このまま出れば、相当の被害を我々だけが出してしまう。 見ていろ。』

 

『で、でも────なッ?!』

 

 扇は新たな方向から来た爆発に見ている方角を移すと港のあらゆる場所のコンテナから無頼が次々と出てきて自分たちに背後を向けていたブリタニア軍に奇襲をかける。

 

 本来ならナリタ事変で日本解放戦線は片瀬と士官数人、そして歩兵隊以外は全滅していた。

 

 そしてナイトメアを保持していない彼らはそのままたやすく制圧されるはずだったが、スヴェンの所為で日本解放戦線はかなりの戦力を保ったまま脱出することが出来た。

 

 通常ならばブリタニア軍も奇襲とて応戦し、練度の高い彼らならば制圧できていただろう。

 

『ナリタ事変で原作以上の被害が出ていなければ』、だが。

 

 よって、ブリタニア軍は苦戦を強いられ本来なら後で動くはずだったスザクも『タンカー無力化の為に歩兵部隊を撃つ命令よりは』と思い、無頼たちを迎え撃った。

 

 その間、タンカーたちは港から前進していくと今度は上に乗っていたコンテナからも無頼改が岸で奇襲にあったサザーランド、そして海中にいるはずのポートマンに向かって武器を乱射する。

 

 この際に誰かの弾丸がルルーシュとスヴェンが仕掛けた機雷に直撃し、爆発を起こしてそれに巻き込まれたタンカーも引火して誘爆してしまう。

 

 この機にルルーシュは黒の騎士団に待機していたコーネリアの部隊を強襲させ、彼女の騎士団はナイトメアに乗る前に次々と叩き落されていく。

 

 次はコーネリアの直属の部隊というところまで来て、近くで日本解放戦線の無頼を薙ぎ払っていたスザクのランスロットが介入し、彼とコーネリアがカレンとルルーシュと交戦し始める。

 

『ゼロ! 白カブトは私に任せて────!』

『────ナリタでの決着をつける!』

 

 ランスロットと紅蓮が激しい攻防を開始し、ルルーシュは起動前に攻撃されたことで被弾したコーネリアを攻撃していく。

 

 意図的に距離を作られていることに気が付いたスザクは援護に行こうと前回のように紅蓮の輻射波動を受け止め、またも互いが弾かれる。

 

 スザクはこの反動を利用して紅蓮から距離を取ろうとするが、カレンもこの結果は見えていたことで今度は左腕を突き出した。

 

 「まだまだぁぁぁぁ!」

 

 「なんだあの装備は?!」

 

 スザクは二度目の、釘状の何かが装着された左腕を持っていた未作動のMVSで受け止める。

 

 「取った! いっけぇぇぇぇ!」

 

ボン!

 

バキン!

 

 「MVSを貫い────うわぁぁぁぁ?!」

 

 カレンが左腕の操縦桿に後付けされたボタンを押すと新しく装備された即席のパイルバンカーが未作動だったMVSを貫いて、そのままランスロットに今まで受けたことのないダメージを負わせた。カレンは場違いにも、子供のように無邪気でスカッとした笑顔を浮かべる。

 

 「どんなもんだい! 私の! 私()()の紅蓮をなめるな!」




蒸すけど~♪ キーボードがぁ~♪ 止まらない~♪


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第40話 イレギュラー対イレギュラー

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「ッ!」

 

 バカン!

 ドンッ!

 

 カレンの高ぶる気持ちも束の間、急に首筋から側頭部に向けての寒気の様なゾワゾワ感がしては本能的に後ろへと飛ぶと紅蓮のいた場所のコンテナに大きな穴が開いて重い響きが大気を震わせる。

 

「狙撃?! あの機体……新型?」

 

「あれは……なんだ?」

 

 スザクもカレン同様に狙撃が来たと思われる方向を見てカメラをズームするとぼやけたGX01の機体を見て二人はハテナマークを出す。

 

『おめでと~う! あれはかつて、僕とセシル君の教授だった人の機体でランスロットと同じ第七世代KMFと認定されているよ? 今は()()僕たちの味方らしいから()()()()()()安心してもいいよ?』

 

「ロ、ロイドさん?!」

 

『ロイドさん! 思考放棄から帰ってきたのはいいですが急に私を押し退けないでください! 今は戦闘中ですよ?! 戻ってください!』

 

『あっは☆ ごめ~ん♪ だってさ? 僕のランスロットがまさか頭の悪そうで非現実的な武器にダメージを受けるとは思わないじゃん? あ、コンソール返すね~?』

 

「……ハ?! せ、戦闘を続行します!」

 

 ロイドがいつも以上に緩~いテンションだったことと、普段は温厚な声を荒げてさらにドスの効いたモノを聞き、思考停止しそうだったスザクは無理やり意識を自分に襲い掛かる紅蓮に戻す。

 

 原作と違って被弾したスザクとコーネリアがカレンとルルーシュたちと対峙している間、サンチアは新たな弾丸ともう一度撃つ為のエナジーを装填する。

 

「(私の見たところ、あの紅い機体が一番の脅威。 総督閣下(コーネリア)と対峙しているあの紅い面をしている無頼はそこまで操縦技術が高くない、今の不意打ちされた総督閣下とやっと渡り合えるぐらいだ。 こいつ(紅蓮)さえ何とかすれば一気に────)」

 

『────マッド大佐、またあの感覚です。 近くにいます。』

 

 特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)のアリスたちが参戦しようとしたところで、ルクレティアの通信があった上に()()()()()がGX01たちの前に現れたことで部隊の指揮官であるマッドが標的を変更した。

 

GX01a(アリス機)GX01d(ダルク機)! そのランスロットモドキのパイロットを殺す気で倒せ! サンチアは殿下たちの援護を続けろ!』

 

『『『了解。』』』

 

 スヴェンは確かに、前回は奇襲に遭い不意打ちで何とか凌げていた。

 

『次は無理ゲー』とも言っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()と言う『前提付き』だが。

 

『もう一機────?!』

『────ダルク! 私の“ザ・スピード”を展開するから中距離援護に回って! 私に当てる気でもいい! (ハゲがまた中和剤の中和をする前に終わらせる!)』

 

 アリスたちの前に、『ランスロットモドキ』がもう一機出ては即座に彼女たちに接近して交戦に入る。

 

『やはりこの機体を警戒していますね。』

『ああ、彼の思惑通りだ。 それにしても私は初戦だ、フォローを頼めるか?』

『無論です。 あの方にも頼まれていますし。』

『心強いな。』

 

 二機の『ランスロットモドキ』に乗っていた()()()()()が隊内通信で連絡を取り合い、命を懸けている状況とは思えない笑顔をしながら高速で移動するアリスと次から次へと手当たり次第のモノを投げるダルクの攻撃を躱す。

 

 ドガン!

 

『『何?!』』

『もう一機が?!』

 

 アリスとダルクたちがいる場所に新たな方角からの弾丸が近くのコンテナを破壊し、援護射撃の為に全体の戦況の把握をしていたサンチアが方角を見ると狙撃銃らしきものを抱えながら移動する新たなナイトメアを見る。

 

「(三機の『ランスロットモドキ』だとぉ?! アスプルンドのガキめ! 散々“僕のランスロットじゃないよ~! 試作機も本国から取り寄せようと要請を出して返事が返ってきたばっかりだし予備パーツの在庫の見直しも全部二回も怖いセシル君たちにやってもらってデータの漏洩が無いように面倒くさい封蝋をした手紙で連絡を取り合っているし~!”などとぬかしておったのにこの体たらくか!)」

 

 マッドは先日の『ランスロットモドキ』が出てきたことでロイドに正式な問い詰めをしていた。(実際は脅迫に近かったものだが。)

 

「(ヒィィィィ! 威嚇だけでも怖い!)」

 

 この三機目に乗っていたのは他でもない、初めて命の奪い合いに首を突っ込んで涙目になりながらも歯を食いしばるアンジュリーゼだった。

 

 この三人、短い間ながらもガニメデが置いてあるアッシュフォード学園の倉庫……の更に地下のスペースを経由してスヴェンが情報屋として利用している隠れ家の一つに忍び出てはそこに届けられたナイトメアフレームを組み立てながら同じく送られてきたナイトメアシミュレーターで仮想訓練を続けていた。

 

 表向きの送り主は『キョウト』となっていたが、毒島が読んではクシャクシャにしてごみ箱に入れようとした手紙に書いてあった『ワシ、奮発したぞい! v (´ω`v) おじいちゃん褒めてちょ? (´・ω・`)ノ』で一目瞭然だった。

 

 余談だが三人は驚くべきナイトメア適性を出していた。

 マーヤは一度実際に乗ったことがあるからか、シミュレーターで最高ランクである一歩手前のA+。

 毒島は最初、操縦をオートにしたままだったが徐々にコツをつかんでは総合的なB+をたたき出した。

 アンジュリーゼは────『ウプ……き、気持ちわる……エチケット袋ッ!』────オート付きだが何とかCに留まることが出来た。

 

 故に以前、スバルが乗っていた機体には(嬉しさのあまりで涙目になった)マーヤが乗り、無頼改(をさらに改造して接近戦に特化した機体)には毒島が乗ることとなった。

 

 アンジュリーゼはサザーランドを改造した遠距離強襲型の威嚇射撃(怖がらせ役)の機体で『取りあえず当てなくても良いから敵を撃っては移動を繰り返す』ことに。

 

 今回、彼女たちはスヴェンの頼みで出てくるかも知れない特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の注意を引いていた。

 

 さて、スヴェン本人は何をしていたかというと────

 

『サンチア!』

 

 ────ルクレティアの通信とほぼ同時にGX01s(サンチア機)の頭上にスヴェンが()()()()()()飛びついていた。

 

 いつかの火薬使用型対KMFライフルに(以前ナイトポリスを沈黙化させた)槍と外付けのワイヤーを取り付けたことで更にゴツゴツした装備を巧みに使ってサンチア機に張り付いた。

 

「(上手く意表を付けた! このまま畳みかける!) うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 彼はその槍を機体の(もし人と例えるなら)()()()につけてトリガーを引く。

 

 ボン!

 バキバキバキ!

 

「グアァァァァ?!」

 

 今のスヴェンにとっては聞き慣れた重苦しい音と共に釘がサンチアの機体に打ち込まれる瞬間、新しい形状の所為か狙いが少しずれ、釘はサンチアの肩を掠る。

 

「(上手く狙いが付けなかったけど手ごたえあり! このまま次を撃つ!)」

 

「サンチア────ッ!」

 

 ドン!

 バシュ!

 

 打ち込まれた釘が戻ったところでスヴェンは狙いを大雑把につけて20ミリ徹甲弾をルクレティア機の方へと撃つと彼女のメインモニターに穴が開き、銃弾はそのまま彼女の横を貫通する。

 

「きゃあ?!」

 

「なんと?! 敵もまさか……チームを────ハッ?!」

 

 マッドがハッとして気が付くと、さっきまでサンチア機の上に居た筈のフルフェイスヘルメット(スバル)がいつの間にか自分が中にいる重装甲車の側まで来て、サンチア機を貫いた()を再度構えていた。

 

 強化ガラスの向こう側にいる自分を明確に狙って。

 

「ぬ、ぬおおおおおおお────?!」

 

 ドン!

 

「────ぐああああああああ?!」

 

 マッドの恐れていた通り、自分の首を反射的にひねって装甲車を貫通した釘が肩に直撃し、彼は痛みに叫びながらも鎮痛剤の入った注射器を手に取りながら装甲車のさらに奥へと身を投げ出す。

 

『グッ……ダルク! 撤退だ! 大佐を連れて退却!』

『ええええええ?!』

『口答えするな! このままでは大佐がやられる! アリス、殿を務めろ!』

『そうは言うけどねサンチア! こいつら、思っていた以上にやるのよ?!』

『ならば死ぬ気で殿を務めろ!』

『相変わらずの理不尽ぶりね!』

 

 サンチアはマッドの叫び声を聞き、彼の安全第一に指令を出すとアリスはボヤキながらも『ザ・スピード』をフルに活用し、マーヤの牽制攻撃と本命である毒島の三段突きを受け流していく。

 

『サンチア達から離れろー!』

 

「うお?!」

 

 そしてスヴェンはお構いなしにコンテナをこん棒のように振り回すダルクから逃げるように全力で疾走する。

 

『このゴキブリ野郎────!』

『────ダルク、目的を忘れるな! チャフとスモークを使う!』

 

逃がさない────!』

『────待てマーヤ! このままだと黒の騎士団や日本解放戦線に発見される、アンジュリーゼとともに退くぞ────!』

『────ブリタニアァァァァァァァ! 逃げるなぁぁぁぁぁ!!

 

 毒島の声が聞こえていないかのようにマーヤ機はそのまま煙がモクモクと出る場所へ突込んでいく。

 

『チィ! アンジュ、私はマーヤを追う! お前は先に私の痕跡を消してから隠れ家に戻れ!』

 

 

 

『グワァァァァァ?!』

 

『不意打ち程度で私にナイトメア戦で勝てると思いあがったか、ゼロ?!』

 

 コーネリアの満身創痍であるグロースターを相手に、ついに敗れたゼロの無頼からコックピットブロックが自動的に射出される。

 ルルーシュは本来、パイロットとしての腕は正規兵と変わらない。

 

 対するコーネリアは文武両道で『ブリタニアの魔女』という二つ名が知れるほどの操縦技術を持っている。

 

 起動前に攻撃を受けたとはいえ、元々彼女を生きたまま捕獲するルルーシュたちの攻撃はさほど過激ではなかった。

 対するコーネリアは彼を殺す気でいた。

 

『生きたまま相手を捕獲する』と『単純に相手を殺す』では難易度の差は明確であり、ルルーシュはコーネリアに敗北した。

 

『ゼロ! こんのぉぉぉぉ!』

 

『くっ! 後ろから攻撃とは────!』

『────殿下!』

 

『ええい! 白カブト!』

 

 これを見たカレンはすぐに追い打ちをかけようとしたコーネリアのグロースターの足を飛燕爪牙(スラッシュハーケン)で打ち抜き、ランスロットとまたも対峙する。

 

「(今の叫び声は、ゼロ?!)」

 

 ゼロが飛ばされた現場近くにはフード付きの外套を羽織ったとある人物が慌ただしい港を走っていた。

 

「(上手くいけば、奴の正体を暴くチャンス! そして生け捕りにすれば、私は────!)」

 

 フードの者がゼロの落ちたところにつくと、彼女が見たのはパラシュートが上手く作動しなかったコックピットブロックの外に放り出されて地面に横たわるゼロの姿だった。

 

「フフ……フフフフフフ! これで……これで私は────何?!」

 

 その者が高ぶる気持ちから笑いを出し、ゼロの懐に入っていた拳銃を取り出してから外れかけだったゼロの仮面を剥ぎ取る。

 

「まさか……学生本人がゼロだと?!」

 

 気を失ったルルーシュを見て驚いてフードが外れ、その下から現れたのは腰まで届く銀髪で褐色の肌をした美女だった。

 

「だが、生きている! こいつを捕縛して、コーネリア様に届ければ私は本物の貴族に────!」

「────動くな────!」

「(────しまった!)」

 

 その場に居合わせたスヴェンがライフルを褐色の女性に向けながら荒い息継ぎを悟られないよう、必死に息を整えようとしていた。

 

 

 

 


 

 

 

 フルフェイスヘルメットの中で俺は今にでも吐きそうな気分を必死にこらえながら、自分が()()()()()()()()()ことにホッとしそうになって緊張感が薄れるのを我慢しながら対KMFのライフルを目の前の褐色美人に向けていた。

 

 こいつの名は『ヴィレッタ・ヌゥ』。

 彼女は元オレンジ卿……じゃなくてジェレミア・ゴットバルトを筆頭としていた純血派のメンバーで彼の直属だった。

 だが『オレンジ事件』、そして純血派のナンバー1だったジェレミアとナンバー2のキューエル卿をナリタで失ったせいで純血派は事実上解散となった。

 

 ヴィレッタはそれでも病的なまでに貴族入りすることを求めて、ルルーシュのギアスの受けて生きた第一号。

 そう、原作の二話でルルーシュの『ナイトメアを寄こせ!』と言ってサザーランドを奪取されたのが彼女だ。

 

 原作ではルルーシュのギアスをかけられてもかすかな記憶を元に彼女は『ゼロ』と『アッシュフォード学園の学生』が繋がっていることを独自に調査し、ナリタ事変で身元確認の為に来たシャーリーのメモ帳の中に張ってあったルルーシュの写真を見て疑惑が確信へと繋がり、シャーリーを水先案内人に使って後を追ってこの港に来ている……はずだ。

 

 なぜ、彼女がここに?

 

 

 尚スヴェンは知る由もないが、元々洞察力が鋭くて頭の回転も速い彼女はシャーリーとの接点がなくともそのままアッシュフォード学園の名簿長と写真集を報道局のディートハルトに頼んで取り寄せて学生一人一人を見ていき、『ルルーシュ・ランペルージ』を見ては違和感を持ったことで原作とほぼ同じ動きをしていた。

 

 

 ヴィレッタは背後から聞こえた俺の声に持っていた拳銃をゆっくりと地面に下ろしていく。

 

「違う! そのまま投げ捨てろ! 横にだ!」

 

「チッ!」

 

 ヴィレッタが舌打ちをしてゼロの拳銃を言われたように投げ捨てる。

 

「そのままゆっくりと────!」

 「────ブリタニアァァァァァァ!!!

 

 俺の指示を、突然背後からコンテナを無理やり突き破って現れた傷だらけのマーヤ機から彼女の声が外部スピーカーを通して遮る。

 

「(マーヤ────?!)」

「────ふん!」

 

 俺がマーヤに気がとられた瞬間、ヴィレッタは自分の拳銃を取り出して乱射しながら横へと走る。

 

 死ねぇぇぇぇ!!!

 

 マーヤ機は持っていたアサルトライフルをマイクロ弾に切り替え、ヴィレッタを狙って乱射する。

 

「グァ?! わ、私……私は、ここで!」

 

「ま、まて────グッ?!」

 

 ああアアあア?!

 

 突然脇腹に鋭い痛みを感じてよろけながらも、俺はヴィレッタの後を追うと意識を失ったらしい彼女がちょうど港から落ちていく瞬間を目撃する。

 

 やべぇ。

 

 今の彼女は原作で錯乱したシャーリーに小型拳銃で撃たれた時より重症のはずだ。

 

 もしこのまま彼女が、死んだりしたら原作の流れが────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そう思った瞬間、気が付けば倒れる彼女の後を追うようにゴツゴツとした防波堤へと俺は飛び込んでいった。




偶然が偶然を呼び寄せ、その結果が雷のように人を突然打つ。
意識は行動を、行動はさらなる意識を理想へと育つ。

理想はやがて『執着』、『信念』、『愛着』、『憎悪』などに行きつく。
それらは全てに仮借なく干渉し、更なる偶然という嵐を育む。
 
今度の放たれた雷は誰を狙う?

次回予告:
マオ

『必然な偶然』は果たしてあり得るのだろうか?



久しぶりに次回予告できました。 (汗


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第41話 マオ

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。 m(_ _)m


『ゼロ?! 応答してくれ! 日本解放戦線のタンカーは無事に脱出した! そっちはどうなった?! 俺たちはどうすればいい?!』

 

 扇は少し前に一台のタンカーが無事に港から脱出したタイミングで泥沼化し始める戦場を見てゼロに指示を仰ごうとしていたが、ゼロからの返信がないままが続いて焦っていた。

 

『こちらCCだ。』

 

『CC?!』

 

 扇はゼロ専用の回線に、彼の愛人と噂されるCC の声が返ってきたことにびっくりしていた。

 CCは急遽日にちが変更されたキョウトとの謁見で、『ゼロの影武者役』をしたことで彼女の存在は黒の騎士団(の幹部たち)に知れ渡った。

 

 ちなみに『ゼロの愛人』の命名は(どうでもいいが)玉城である。

 

『ゼロは大丈夫だが傷を負って、今は動けない状態だ。 扇、撤退命令を出せ。 目的は果たせた、これ以上の消耗は無意味だ。』

 

『わ、分かった!』

 

 場はCCと外されたゼロの仮面を手に取ったルルーシュたちへと移る。

 

「これでいいのか?」

 

「……ああ。 しかし、これは少々マズイことになった。」

 

「お前が“マズイこと”というのは」

 

「俺の素顔を見られたかもしれん。」

 

「なに?」

 

「気が付いた時には、仮面は俺の頭から外されていた。 そして周りを見れば、少なくとも二人……いや、ナイトメアに乗った奴も含めて三人ほどの者たちに見られたかもしれん。」

 

「三人……手痛い失態だな。」

 

「そうだな。 唯一の救いは、()()()()()()()()()()()ことぐらいか?」

 

 ルルーシュが見たのは地面に付着した血痕と、ナイトメアで無理やり突き破られたコンテナの惨状。

 

「一人目は俺の拳銃を抜き取って素顔を見て、二人目が一人目にその拳銃を捨てさせ、そこにさらに乱入したナイトメアに二人は撃たれたようだ。」

 

「……ブリタニア軍、黒の騎士団、日本解放戦線か?」

 

「かも知れん……あるいは────おい、なんだその手は?」

 

 ルルーシュが見たのは、包帯が巻かれたCCの手だった。

 

「これか? 猫に引っ掛かれただけだ……なめてみるか童貞坊や?」

 

「そんなことより今は撤退だ、手伝えピザ女。」

 

 ルルーシュはその場の血を採取してからCCとともにその場を念入りかつ手っ取り早い証拠隠滅に取り掛かる。

 

 

 

 

 別の場所では、毒島機とマーヤ機を乗せたトレーラーが静かに港と租界の境界線辺りで息をひそめていた。

 

 毒島は警戒の為かトレーラーの上に胡坐をかき、時々横で青を通り越して土色かつ目からハイライトが消えたマーヤに視線を送る。

 

「(ブリタニア、それも軍人に対しては過激なまでの憎悪を感じていると感じていたが……まさか、周りが全く見えなくなるほどとはさすがに予想していなかった。 それに、さっき言ったことが本当であれば……)」

 

 毒島が思い浮かべるのは動きがやっと止まったマーヤ機に追いつき、マーヤから聞こえてきた独り言のような通信だった。

 

『なぜ神様はブリタニア軍人を? その所為で神様も撃ってしまった。』

 

「(察するに、そのブリタニア軍人とやらを撃ったマーヤを止めようとして昴が割り込んだのか? 何かの作戦? それともその軍人と接触したかった? どちらにせよ、あのままあの場に居座れば黒の騎士団に目撃されてしまう。 外装を外せばサザーランドに見えるアンジュの機体ならばある程度誤魔化しが付くし、彼女は『逃げ』に徹していればかなりの腕だ。 ブリタニアと日本解放戦線の残党騒動が収まる前に、昴を見つけていれば良いが……)」

 

 

 


 

 

 俺、スヴェン・ハンセン。

(身体的に)17歳。

 前世(多分)ありのアッシュフォード学園高等部の二年生。

 

「ガボゴボガババババ?!」

 

 ただいま海へと落ちた瀕死の褐色美女の後を飛び込んでオーバーワークされた肺が爆発しそうな感じを必死に息を吐きだして誤魔化しています。

 

 どうしてこうなったし。

 

 いや、言うまでもなく『原作ストーリーの維持』が結果的にこうなった。

 俺が生き残りやすい立ち回りの為……と言いたい。

 

 この褐色美人────名を『ヴィレッタ・ヌゥ』というキャラはコードギアス原作の二期でかなり重要な立ち位置が待っているのだ。

 

 それこそ、ルルーシュと直接関りを持つだけでなくアッシュフォード学園にまで『()()』として身を置くほどだ。

 

 実際は『ルルーシュ=ゼロ』の真実を使って男爵の爵位を授かって彼の監視をする『ブリタニア機密情報局部隊長』としてだが。良くも悪くもヴィレッタは真っ直ぐな信念と願望を持った奴で、それは『貴族出世』すること。

 

 故に扱いやすく、もし彼女がここで死んでしまって二期の監視員が予想できない奴などが出てきたりしたらルルーシュがゲームオーバー……引いては俺の第二の人生の終わりに繋がっても不思議ではない。

 

 あとあまり関係ない余談だが、確か設定資料で彼女は六人兄弟の長女で実質な女手一つで家族を養っていたはずで、それが理由で『出世』に固執している。

 

 ともかく、俺の最大の強みである『原作知識』を活かすためにヴィレッタ・ヌゥの生存は必要不可欠なワケで、ここで死なれたら困るのだ。

 

 防波堤のコンクリートブロックに頭を打ったらしいヴィレッタはそのまま海へと転げ落ちていったので俺は飛び込んで、今は溺れかけと。

 

 だがこうやって(物理的に)頭を冷やしてみれば俺が強襲した新型もイレギュラーだし、ブリタニア人であるヴィレッタを俺が助けたことも……

 

 いや、俺は『脇役』でいい。

 

 だからもし俺の所為で原作(ストーリー)から離れていくのだとしたら、俺が戻してこのまま俺は『コードギアス』をやり過ごす。

 

 あれ?

 

 体は苦しいはずなのにポカポカし始め、なぜか気持ちが良くなってきたぞ?

 

 あ。

 

 これ。

 

 酸素欠乏症って……

 

 奴……

 

 か?

 

 

 

 

 

 

 

 って諦めている場合じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 うおぉぉぉぉぉぉ!!!

 こなクソォォォォォォ!!!

 

(寒さで)ふるえるぞ俺のハート!

(真っ白に)燃えつきるほど俺はヒート!!

(世界に)刻むぞ俺のビートォォォォォォォ!!!

 

 俺は未だに背負っていた対KMFライフルと被っていたヘルメットを破棄して身軽になり、必死に気を失ったヴィレッタと自分を引きずって海上を目指しながらじわじわと痛む脇腹に集中して意識を保つ。

 

 こんなことならスザク並みにどチートな身体を(自称)神様特典にすれば良かったが返却はただいま不可能でございまするぅぅぅぅ!

 

 息が苦しい!

 視界も真っ暗になってきた!

 空気を欲する衝動を(豆腐)の意志で抑え込む!

 

「ブハァァァ!」

 

 俺は今!

 海上を突破したオルカだ!

『フリー・ウィ〇ー』だze!!!

 

 ムホホホホホホホホホホホ!!!♡

 シャバの空気がうんまいのぉぉぉぉ~!

 

「スぅ~────がばばばば?!

 

 しょっぱ?!

 

 俺がもう一度息を吸い始めている間に、体がまたも海の中へとリバウンドして沈んでいき、口の中に海水が空気の代わりに入ってくる。

 

 そういや、今はヴィレッタを抱えている状態だった!

 

『こんなところで死んでたまるか!』と思いながら、疲れた体を気力で動かして何とか海岸へとたどり着いてやっと一息を入れられるようになった。

 

 身体が……お、重い……

『疲れた』という事も口にできないまま、深呼吸をただ続ける。

 

 携帯は……多分海水に浸かったからダメだろうな。

 

 近くの建物に入って電話を……いやそれよりも止血をしないと。

 

 チーズ君で使った裁縫セット、持ったままで良か────ってイタタタタタタタタ?!

 

 当たり前だけど麻酔なんてないから傷口に塩!

 

 負けるものかぁぁぁぁ!

『何に?』とはキカナイデ。

 

 ……ふぅ。

 ん? 何で『“時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』使わなかったって?

 

 ………………………………………………………………次はヴィレッタだな。

 

 無視していないヨ?

 まさかマーヤが俺ごとヴィレッタを撃つとは思わないじゃん?

 

 別に普段使っていない上に直接自分の身の危険じゃなかったからド忘れしちゃったわけじゃないヨ?

 

 それはさておき、流石正規の軍人だけあって見事な体つきだなぁ~。

 俺のように麻酔無しで傷口塞いでも痛がる素振りもしないし。

 

 そもそも息もしていないし。

 

 ……んんんん?!

 

「…………………………………………」

 

 よく見たらヴィレッタ、息してへんやん!

 

 おいいい゛い゛い゛い゛い゛?!

 

 冗談はよせ!

 

 ここで死んだら何のために俺が身体を張ってまで海にダイビングしたと?!

 

 只の馬鹿じゃん?!

 外野うるさいよ?!

 

 こちとら中身は平凡な奴ぞえ!

 

「すぅー!」

 

 

 スバルは息を深く吸ってとっさに人工呼吸を一心不乱に始める。

 

 

「……ブハァ?! ゲホゲホ、ケホ?!」

 

 

 何回目か分からない人工呼吸の過程で空気を送っているとヴィレッタがむせた咳をし始めてようやく彼は真の意味でホッとしながら彼女の身体を回復体位に動かす。

 

 

「(マジ疲れた。 寝たい。 寝る。)」

 

 彼は近くの倉庫の陰まで自分とヴィレッタを引きずってまたも回復体位に戻した彼女の隣で瞼を────

 

『────やっと見つけた! 貴方、大丈夫?! それにずぶ濡れじゃない!』

 

「(ヒィ~ン。 もうオイラを寝かしてくれよ~。)」

 

 そこにアンジュリーゼの声が聞こえてきたことでスバルは重たくなっていた瞼を開ける。

 

 だが心身ともに疲れた彼はそうも言っていられないし、彼女がここに来たのはどっちかと言うと好都合だった。

 

 彼女にもっと近く来るようにスバルがジェスチャーし、自分とヴィレッタをコックピットブロックにヴィレッタと共に乗り込む。

 

「ぎゃあああ?! 冷た?! 身体拭きなさいよ! ってその人は誰よ?!

 

「(ああ、ウッザ。)黙れ。

 

「んな?! あ、貴方ねぇ────?!」

 「────いいから黙って隠れ家に戻れ。 (今は『高飛車お嬢様』に付き合うほどの余裕はねぇんだよ。)」

 

 アンジュリーゼと合流してからの記憶は朧気で断片的だった。

 

 覚えているのは隠れ家に入ると凄く落ち込んでいたマーヤが俺の状態を見るなり慌てて自害しようとしたところを無理やり止めて『次はちゃんと見ろ』を言ったことぐらいか?

 

 ああ、あと『褐色軍人(ヴィレッタ)を殺すな、個室に寝かせて起きたら俺をたたき起こせ』とも言ったな。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「俺はスバル。 倒れていた君を一応手当てしたのだが……『ゼロ』、とは何のことか知っているか?」

 

「『ゼロ』? 何でしょう?」

 

 目の前には案の定、原作のように記憶喪失っぽいヴィレッタ。

 

 そして今よく考えたら扇がゼロに対して不信感を得るタンカー自爆疑惑が無くなっていたやんけ。

 

 俺は……何を……

 

 あのままこいつを放って置いていたら────いや、もしそれで彼女が死んだとしたらそれはそれで罪悪感が出る。

 

 ブリタニア軍人だけれどそれは家族の為であって、ナンバーズを見下すのも『純血派』といった一つのコミュニティの方針に従っていたっぽいし……

 

 モラトリアム。

 

「────あの?」

 

 おっと、考えに夢中になっていた。 やったことはしょうがないし、胃がキリキリ痛むが……『扇役』をするか。

 

「君の名は? 所属は?」

 

「さぁ……ボロボロだったけれど服装と、自分の姿を鏡で見たときに自分が『ブリタニア人』ってことぐらいしか……」

 

「そうか。」

 

「そのヘルメット……苦しくないですか?」

 

 今の俺は予備のフルフェイスヘルメットをワザとかぶって記憶喪失のヴィレッタと話をしていた。

 

「これをかぶっているのは、()()()()()()()()()()()からだ。」

 

「その……私は別に構いませんかと────」

「────俺の素顔は女に見せるようなものではない。 (さて、これで『じゃあ取らなくて良いですって言ったらでいいけれど……』)」

 

「恩人の顔でそこまで邪険にすることはないです。」

 

「……そうか。 ならお言葉に甘えよう。」

 

「ッ」

 

 俺がヘルメットを取ると、露わになった素顔にヴィレッタは目を見開いて口を覆う。

 

 頭はネジやノコギリなどにえぐられた穴や傷、皮膚の色が変質した火傷に顔は至る所が深く刻まれた跡が無数にあり、片方の目玉は濁っていた。

 

 無論、これらは()()()()()だ。

 本来はゼロ(ルルーシュ)の『ヘルメットを取れ』対策だったけれど、意外なところで役立った。

 

「(ちなみにモデルは『NARUT〇』の『森乃兄貴』だ……どうでも良いかもしれんが。)」

 

 数秒間、静かな場だけが続きヘルメットをかぶりなおす。

 

「私は……どうしたら……」

 

「記憶が戻るまでここを使ってくれてもかまわない。 一通りの物はそろっている、その……服もだ。 誓っていうが、腹の傷を治療しただけで何もしていない。」

 

「……」

 

 ただただ困惑するヴィレッタの部屋を後にして、よくわからないもやもやした心のままアパートの居間にあるソファにドカっと乱暴に座っては大きなため息を出す。

 

「ハァァァァ。」

 

「お疲れ様。 勝手に淹れたけれど、良いでしょ?」

 

 アンジュリーゼが俺の前に紅茶の入ったコップを置く。

 

「そうだな。 一応言っておくが、今は特殊な変装をしている。」

 

 俺がヘルメットを取ると明らかにアンジュリーゼの顔色が一瞬だけ悪くなる。

 

「……へぇ~、よく出来ているわね?」

 

「ああ。」

 

 お? 紅茶美味いな……元々貴族令嬢だからか?

 

 俺がやっと一息ついている所にアンジュリーゼが口を開ける。

 

「ねぇ、スヴェン? 私が言うのもなんだけど……一人で気負う事はないのよ?」

 

「???」

 

「スヴェン……“スバル”の能力は素晴らしいわ。 羨望していないと言えばうそになるくらい。」

 

 なんだ?

 アンジュリーゼがしおらしいぞ?

 

「何なの、その顔? これは……まぁ、素直な気持ちです。 貴方は自分の力を使って道を開いていて、羨ましい限りですわ。 ですが、私は知りました。 人間、どれだけ優れていても限界があるのです。 『一人で出来る』と言って『全部一人でやる』ことはないの。 スバルは、もう少し他人に頼った方が良いと思う。」

 

 ……ダレコノ子?

 

「その……一度だけでも良いから、周りを見てみて? 頼れる人や、協力してくれる人がきっといるから。」

 

「…………………………………………………………」

 

 なんか……『アンジュリーゼ』や『アンジュ』らしくない。

 

「考えておこう。 アンジュリーゼ……あの部屋にいる奴が何かいるようだったら頼めるか?」

 

「あの褐色女? ところであいつ、どうするの? ブリタニアの軍人でしょ?」

 

「……上手くいけば仲間に出来るかも知れないと思っただけだ。 それに、どちらにせよ恩を売るのは悪くないと思わないか?」

 

「ハァ……貴方、さっきの私が言ったことを脳の片隅にでも置きなさいよ?」

 

 

 

「…………」

 

 アパートのバルコニーに出ていた俺は、夜が明け始める景色を見ながらアンジュリーゼの言ったことを思い返していた。

 

『スバルは、もう少し他人に頼った方が良いと思う。』

 

 アイツには珍しい正論だったな。

 俺は所詮、身体のスペックが少し高くて(自称)神様特典を持っているだけの奴だ。

 ルルーシュやスザクみたいな『何でもできてしまう』奴じゃない。

 それに、上手く立ち回れているのもある程度画策が出来ているのも『原作知識』があるからだ。

 

 これまで『誰にも頼らなかったのか?』と聞かれればYES(イエス)でありNO(ノー)でもある。

 

『頼った』ことはあっても、『全ての信頼』を置いた訳ではなかったからだ。

 

『原作知識がバレる』以前に、コードギアス(ストーリー)人物(キャラクター)たちに頼り過ぎてしまえばいずれ原作の描写からかけ離れた行動を起こして、原作の全てとまでいかなくても一部が崩壊して『知っている』より悪い結末に繋がりかねない。

 

 だから俺は俺なりの『原作をキープしつつより良い経過』に時々介入していた。

 

 だが……これから来る出来事(イベント)はナリタや昨日の港より大きな規模のモノがある。

 

 俺一人でやれることに限界があると薄々感じていたからこの『黒の騎士団お助けサークル』を作ったわけだが……もうそこで原作とは違うか。

 

「一人黄昏れるなんてらしくないぞ? どうした、スバル?」

 

 後ろから毒島の声がかけられ、後ろを見ると彼女はどこか疲れた様子だった。

 

「毒島……」

 

「後でマーヤに声をかけてくれ。 彼女は君を誤って撃ったことを相当気に病んでいる……それを聞いた私もびっくりしたが、それほどあの褐色軍人に価値があるのか?」

 

「ある……と言う可能性を持っているだけだ。」

 

「君が賭け事をするなんて珍しいな。 そういう類は嫌いと思っていたが……」

 

「ああ。 賭け事はあまり好きじゃない。 好きじゃないが……」

 

 そこでとある考えが脳内に浮かぶ。

 

『一人で限界があるのならば、やはりより積極的で他人を巻き込んだ介入も解決策の一つかもしれない』、と。

 

 だがそうすれば、俺は『原作知識』と言う強みを失う。

 

 ……ならばもう、こうするしかないか?

 

「毒島。 あとで学園で皆と、もう一度あの屋上で話そう。 ()()()()()()()()。」

 

 やるか。

『原作の流れを見てアドリブで対応する』。

 

 それをするには、毒島達にはある程度『これから起きる事態』とかを話す。

 

 まずは『マオ』だ。




マオ本人は次話に出す予定です。


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第42話 マオ2

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます。

誤字報告、誠にありがとうございます。
お手数をお掛けしております。 m(_ _)m

楽しんでいただければ幸いです。

では本編に行きましょう。


「あの、これ……論文の続きです。」

 

「ありがとうございます、ニーナさん。 時間がある時にお目通ししておきますね?」

 

「う、うん……でも面白いね? 『ウランを使った新しい可能性』なんて、私には考えられなかった。」

 

「(う~、そこまで感動されると罪悪感が~。 “これも所詮は前世から引っ張り出した『原子力発電所』をネタにしたんです”とは言えない!)」

 

「青春ねぇ~♡」

「です~♪ 面白いね、ナナリー?」

「ええ。」

「スザク~! お前は! お前だけは俺を裏切らないでくれ~!」

「リヴァル? それってどう言う意味なのかな?」

「そこでボケるな! 勿論、ルルーシュとシャーリーの事だよ! この間なんか仲良く相合傘を差して夜の租界を二人で────」

 「────ふぇぇぇぇぇぇぇ?! ななななな何でリヴァルがそのことを?!」

 

「(思春期の子たちのやり取り、ええのぉ~。)」

 

 スヴェンはアッシュフォード学園のクラブハウスで『癒し成分』を補充していた。

 

 あの後、ヴィレッタがいない場所で彼は特殊メイクの事や『これから起きるかも知れない事態』をアンジュリーゼ、毒島、マーヤの三人に話していった。

 

 大まかには以下のようなモノだ:

『注目を浴びすぎた黒の騎士団に、ブリタニアが本腰を入れる可能性。』

 こっちは『ブラックリベリオン』を指している。 原作の描写とかを見ている限りどうもブリタニア本国はエリア11の反抗勢力を一網打尽にしたいような動きを見せていた。

『ブリタニアの魔女』と知られているコーネリアが居たからこそ、彼女の手腕を試していたような話が二期ではチラホラとあった。

 

 ブリタニア帝国第2皇子(シュナイゼル)とかブリタニア帝国宰相(シュナイゼル)とか腹黒虚無感男(シュナイゼル)とか。

 

 それと上記の流れで『黒の騎士団は横ではなく縦の組織でゼロに何かあれば組織も影響を受ける』とも。

 以前にも言ったが、黒の騎士団の要は良くも悪くも『ゼロ一人』だ。 彼がいなければ組織が回らないように意図的に作られ、これで反逆や反乱や離反の可能性を潰していた。 

 逆に言うと、彼一人がいなくなれば組織として機能できないまま攻撃を受けると全滅しかねない。

 

 最後に『人体実験などで超能力を得た敵の可能性』だ。

 これは勿論ギアスの事だがこいつらに『CC』の事や『コード保持者』に『契約』うんぬんを説明するよりは理解しやすいし脅威も伝わる。

 下手したら『ギアス』と言う単語を知っているだけでもそれなりのリスクを伴うし間違った奴の前で思わず単語を出すだけで即アウトの可能性もある。

 取り敢えず例として『敵にそれを使える者がいてエリア11に来ている情報もあるから早急に対処する』とも言った。

 

 つまりはマオの事だ。

 

 俺自身にルルーシュのギアスは効いていなかった様子だが、それが単に『ギアスが効かなかった』のかあるいは『命令系の能力が効かなかった』のか分からない。

 

 検証はしたいが……怖くてできないし、ルルーシュ以外のギアス使う奴に今から『やぁ! おいらギアス効かないみたいなんでかけてくんね?』と言えるわけがない。

 

 どちらにせよ、マオの能力は厄介な類だ。

『自分から一定距離(500メートル)内にいる人間の思考を心の声として知覚する』というもので、知的キャラや後ろめたい情報を持った相手(つまりルルーシュや俺)には最悪の相性を持つ。

 

 ヴィレッタには不自由のない生活を送ることのできる環境と、いくつかの注意事項を言い渡して携帯(GPS機能入り)も貸した。

 

 そして今は毒島たちにステージ(ナリタ)下準備(セッティング)をしてもらっている。

 

 本当は俺自身も加わりたいが、『優等生』と『病弱で休みがちのカレンの代わり』の設定からそれほど頻繁に欠席出来ない為学園にいる。

 

 マーヤも『出席数がヤバい』ということで同じだが、代わりにアンジュリーゼと毒島には動いてもらっているしマーヤには学園でもできる作業を頼んでおいた。

 

 ジリリリ! ジリリリ!

 

 一昔前のデザインをしている電話が突然鳴り、スザクが出る。

 

「はい、アッシュフォード学園生徒会です。」

 

 もうすっかり生徒会に馴染んでいるな、スザク。

 

「……ルルーシュ? 変わったこと? あるよ? 君がいないことだ。」

 

 この天然め。

 

 片方の会話だけだが、おそらく誰もが電話の話し相手がルルーシュと気付いただろう。

 

「最近授業も休みがちだし、ちゃんと学生やりなよ? ……それって『今日は』じゃなくて『今日も』だろ?」

 

 スザクがそう言いながらチラッと見たのはナナリー。

 

「……今日もなのですね、お兄様。」

 

「じゃあ今日はお泊り会です!」

 

「お! なら今宵は夜通し語り明かそうじゃない!」

 

「おお~! 『こいばな』と言う奴ですかミレイ先輩?!」

 

「そうそう♪ ね、シャーリー?」

 

「な、なんでまた私に振るんですか?!」

 

「だってシャーリーお前、この間ルルーシュと雨の中を二人っきりで傘をさしてキスする隙を────」

 「────そこも見たのリヴァル?!」

 

「うん。 あ、ちなみにこれが写真ね?」

 

 「きゃああああああ?!」

 

「おおお~~~!!! 『おとな』です~!」

 

「あともうちょっとかな? あとは寝室で『OK』の書かれた枕と────」

 「────わ、わ、わあああああああああああああ!!!」

 

「し、寝室……」

「枕???」

 

 そのままスザクが電話を切ると上記のようにナナリーをライブラやほかの生徒会メンバーが励まし、リヴァルとミレイに話題が振られたシャーリーはアタフタと慌てて茹蛸状態になる。

 

 ニーナ、なぜそこで赤くなる?

 ライブラも深追いはするなよ?

 

 そう言えばこの頃アリスを見ていないな。

 

 ……どうでも良いけど。

 

 見るときは元気がないし顔色も悪いしピザもこの頃あまり食べないしなんか気まずいし。

 

 ……本当にどうでも良いけどね。

 

 …………………………………………チョコフォンデュ、作っておくか。

 

 別にアイツだけの為じゃなくて、女子たちに受けがいいからな?

 

 本当だぞ?

 

 ピリリ! ピリリ!

 

 携帯が鳴ってみると、マーヤからメッセージが届いていた。

 

『あとは本番。』

 

 彼女への返事を書いている内に、今度はアンジュリーゼと毒島から『OK』が送られくる。

 

 これで()()()の準備は整った。

 

『開始』。

 

 そう三人に送信すると席を立つ。

 

「あれ? スヴェン先輩、どこか行くのですか?」

 

「ええ。 今さっきお嬢様の件に関しての連絡が来たので、これで失礼致します。」

 

 良し、あとは『奴』が釣れることを祈るだけだ。

 

 

 

 


 

 

 

 数日後、ナリタ連山の麓にあるナリタ市にルルーシュは単身で来ていた。

 

 見るからにイライラしていた彼は別にシャーリーの部屋を(下着のタンスを除いて)漁った末に日記を見たわけでも、ナリタ行きのリニアカー予定表を見つけたわけでもない。

 

「(クソ! まさかここまで堂々と歩き回るとはどんな神経をしている?! 『軍の一部に追われている』と言っているが、追われている自覚はアイツにあるのか?!)」

 

 ルルーシュの脳に浮かぶのはここに来る前のクラブハウスのテレビで見た映像。

 ナリタ事変(土砂崩れ)で亡くなった者たちの為に建てられた慰霊碑の報道だった。

 その映像の片端に一瞬だけ背景でフラフラする()()()()()がチラッと映ったことを見たルルーシュはかつてないほど素っ頓狂な声を上げ、ナナリーが声の主を兄と特定できなかったほどに裏返っていた。

 

 そのまま彼は慌ててナリタに来ていた。

 

「(クソ! 忌々しいピザ女め~!)」

 

「へぇ~? 君、C()C()の事を知っているんだ?」

 

「ッ?!」

 

 ルルーシュはビックリしながらも横の男の方を見る。

 

 そこにいたのは長身で白髪を垂らしてゴーグル付きのヘッドフォンをした男がいた。

 

「誰だ? お前? (CCを知っている口ぶり……そして俺への接触方は自分に絶対的な自信を持つ特有の雰囲気……出方を見るか。)」

 

「さぁ、誰でしょうねぇ? 知りたかったらさ、()()()()()()()()()()()()()()。 えーっと、『象棋(シャンチー)』……じゃなかった、『チェス』って言うんだっけ?」

 

「チェスだと? ……いいだろう。 (こいつ……俺の事も知っている? 何が目的で近づいたかは知らんが安い挑発に乗ってとっとと勝って聞き出してやる。)」

 

 そしてこの二人は知る余地もないが、その場をフヨフヨとうろついていた小型無人機(ドローン)が彼らを見つけると、とある者たちの携帯に座標を送った。

 

「(……来た。)」

 

 少し距離の離れた廃ビルから一番近かった者はライフルを取り出し、つけられたスコープを座標の辺りへと向ける。

 

「(いた……)」

 

 スヴェンはそう思いながら、地面から500メートル以上の廃ビル内でホッとした。

 

 先ほどの小型無人機は『ファクトスフィア』というものが出来てから途中で開発中止、そして予算削減された設計図をアンジュリーゼに頼んで保管庫から手に入れてもらい、毒島にその設計図を基に『キョウト(桐原)』で作り、復活したマーヤに頼んで『とある特徴に合う者を発見すればその座標をスヴェンたちに送られる』という調査プログラムを作ってもらっていた。

 

 そしてナリタ市では待ち伏せるようにライフルを持って彼はマーヤたちと一緒に()()をしに来ていた。

 

 相手はイノシシやウサギなどではなく()()で、待機場所は『地面から500メートル以上離れている狙撃ポイント』だが。

 

「(一番近かったのが俺でよかった……毒島は銃が好きじゃないし、アンジュリーゼはまだガク引きをするからな。)」

 

 原作では『シャーリーに正体が知られた』と言う疑いからルルーシュは彼女の部屋をあさり(CCは下着やタンスをあさる係)で、ナリタ行きのリニアカーの予定表を見つけてはナリタに来ていた。

 

 だがスヴェンの活躍でその線は無くなったが……ここでCCのストーカーであり、ルルーシュと同じくギアスを使える『マオ』という男をどうやっておびき出そうか迷った。

 

 スヴェンは(ちょっと困った顔をした)毒島に頼んで、未だに報道されて視聴率の低いナリタのニュースにチラッと『緑髪の少女』が一瞬だけ映るように頼んでいた。

 

 勿論、本人ではなく合成映像なのだがマオを釣るには十分だったことにスヴェンは安心していた。

 

「(ってマオ(白髪男)はともかく、なんでルルーシュがここに? シャーリーフラグ、折ったはずなのに?)」

 

 幸か不幸か、スヴェンの張った罠にルルーシュも釣られていたことを彼は知らず、ハテナマークを出しながらスコープの調整をして照準をマオの頭にゼロインする。

 

『マオ』。 

 人口が大きく、裕福とそうではない者たちの格差が激しい中華連邦ではよくある話だが彼は幼いころ、『口減らし』の為両親に捨てられた経歴があり、ちょうど行き倒れていたところを明らかにアジア系ではないとある旅人に拾われた。

 

 そのとある旅人とはCCで、彼女は彼の面倒を見る代わりに契約を持ちかけた。

 

 CCとの契約によって得たギアスは『人の心が聞こえる』という、残酷なモノ。

 既に『捨て子』ということで人を嫌っていた彼は人間の生々しい感情を耳にし続けてしまい、唯一『心』が聞こえないCCに更に依存し、精神年齢が子供のまま育った。

 

 マオにとってCCは『母親』で、『安らぎ』で、文字通り『(彼の知る)世界の全て』だった。

 精神年齢が幼いため『社会のモラル』や『ルール』などを平気で無視し、他人を殺すことなど平然と行い、目的の為ならば体が不自由な者を平気で縛りあげて保険の為に爆弾を近くに設置する。

 

 その反面、マオはCCに捨てられたことを認められず一途な想い一つで中華連邦から極東の日本(エリア11)まで来た。

 四六時中、聞こえてくる他人の声を以前に録音したCCの声を聞きながら我慢してまで。

 

 スヴェンは深呼吸をし始め、精神を統一させながら心を落ち着かせる。

 

「(同情はする。 良くも悪くも『純粋無垢』だが、CCを知っているルルーシュと会ってしまった今では『体の不自由(ナナリー)を縛って爆弾を設置する』フラグが立ってしまった。 それ以前に、お前の能力は危険過ぎる。 だから、俺の安寧の為に死んでくれ────)────マオ。」

 

「ッ!?」

 

 スヴェンが思わず口にしたその言葉に、彼の背後から息を素早く吸う音がする。

 彼は反射的に拳銃を抜き、振り返ざまにそれを構えた。

 

「動くな。 両手をゆっくりとあげろ。」

 

 スヴェンが見たのはどこか軍服を思わせる服装にミニスカートを着た、真っ白でショートカットの少女だった。

 

 そして服装には『黒の騎士団』の紋章と似たものが付いていた。

 

「あーあ。 ボクとしたことが失敗し────」

「────手をゆっくりと後頭部につけろ。 (黒の騎士団紋章と似ている……まさかルルーシュの護衛か何かか?)」

 

「ハイハイ。」

 

 スヴェンがよく見ると少女は以前に負傷したのか左目に眼帯をしていただけでなく、服装の下から露出していた手足にも包帯が至る所で巻かれていた。

 

 明らかに自分が優勢だというのに、スヴェンの本能はさっきから警報を鳴らし続けていた。

 

『彼女を知っている』。

『彼女は危険』、と。

 

「(だが『どこ』だ? 『どこ』で知っている? 『危険』とはどういうことだ?)」

 

 スヴェンは自分に対してその問いをするが答える者がいる筈もなかった。

 

「貴様は?」

 

 そう考えた彼は目の前の少女に質問を投げて、彼女の出方を見た。

 

「ん? ボクの名前を知っていると思ったけれど、()()()()()()のことだったかぁ~。 いや~失敗失敗、大失敗。」

 

「(『あっちのマオ』? ということはこいつの名は『マオ』? ということは────待てよ?)」

 

 彼が考えているうちに様々な点と点が繋がり始め、少女は後頭部で結ばれていた眼帯の結びをスヴェンに勘付かれないようゆっくりと解いていた。

 

「(『少女マオ』。 『黒の騎士団に似た紋章』。 『スファルツア家』。 『エカトリーナ』。 『ナナリーのイジメ』。 『親友のアリス』。 『手足に包帯』。 ナリタと港で遭遇した新型を見た『引っ掛かり(デジャヴ)』……………………まさか?!)」

 

 一つ一つのパズルのピースが単体では大きな図面は分からないが、ある程度それらがやっとかみ合って全体図が自然と想像できるような感覚でスヴェンは『とある結果』へと至った。

 

 スヴェンは氷の刃が胸を刺すような、冷たい感じに気を取られて目の前の状況に気が付くと眼帯が外れて()()()()()()()()()()()を放つ少女の左目と自分の目が合っていた。

 

「────ボクは『ザ・リフレイン』の()()────」

「(────思い出した! こいつ、『ナイトメア・オブ・ナナリー』のマオか! 『 “時間”に意味は(Time Has No)』────!)」

 

 少女の『ザ・リフレイン』を聞くとほぼ同時に、スヴェンは自分の確信で焦りながらも『時間の意味』を無くそうとした。

 

 さて、皆様は『人間の神経細胞が情報を伝達する』速さをご存じだろうか?

 一番速度が速い反射神経の信号で『毎秒約120メートル』と言われているそれは十分に速い。

 特に『意識するだけ』ならばさらに速いだろう。

 

 だが光の速さに至っては『毎秒約30万キロメートル』。

 

 比べることがそもそもおかしいほどの差で、マオは既にギアス(光による伝達能力)を発動していた。

 

 スヴェンの『 “時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』は確かに強力だが、明確に意識する必要がある。

 

 だが彼は動揺から更に出遅れていた。

 

 つまりどういうことかと言うと、マオのギアスが先にスヴェンを襲って彼は目の前が真っ白になった。




やっとここまで来れました。 (:.;゚;Д;゚;.:)ハァハァ

ちなみに記憶喪失ヴィレッタの名前は『千草』ではありません。


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第43話 マオとマオとイレギュラー(ズ)

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます。

…………………………お、お読み頂きありがとうございます! 
色々不安ですが楽しんでいただければ幸いです! (;゚∀゚)=3ハァハァ


 さて。

 ここでスヴェンが言っていた『ナイトメア・オブ・ナナリー』()()()登場したブリタニア帝国特殊独立部隊、通称『特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)』について補足を付けたいと思う。

 

 以前に彼ら彼女らは『エリアから適性を持った占領区難民の孤児』と記入していたが、その適性とは『CC細胞を埋め込めてかつ生き残って廃人化しない』ことだった。

 

 この過程を終えた者はCC細胞を端末(インターフェイス)としてギアスの力を疑似的に再現可能となる。

 

 つまりこれが何を意味するかというと、疑似的な『ギアスユーザー』の()()が可能ということ。

 

 だがもちろん、自然に得た力ではないからには代償が必要だ。

 

 その代償とは『CC細胞は埋め込まれた過程で発症した力を使えば使うほど、CC細胞は寄生虫のようにホストに激しい拒否反応(痛み)を与えながら()()侵食していく』。

 

 そしてこの浸食を一時的に止めることが出来るのが『抑制剤』という、ブリタニア帝国全土でも片手の指で足りるほどの人員しか製造方法が知らない液体である。

 

 だが所詮は効果は一時的であり、根本的な解決にはなっていない。

 

 所詮『抑制剤』も『消耗品』とみなされている『実験体』がより『長持ち』、そして『従順』にする為の処置だ。

 

 故に特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の隊員は体内に時限爆弾を埋め込まれているも同様だ。

 力を使えば使うほどCC細胞の浸食は早まり、たとえ力を使っていなくとも『抑制剤』を定期的に摂取しなければ浸食は進行する。

 

 つまり彼ら彼女ら特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)抑制剤(首輪)依存させ()られている、事実上ブリタニア軍の消耗品(奴隷兵)だ。

 

 これがなぜ特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の隊員が一人も『戦死』せず全員『反逆罪』で処刑されているかの裏事情である。

 

 ここからは少女のマオの話へと繋がる。

 

 マオも元は特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)に所属し、主に現地での諜報員や尋問に暗殺で活動していたことから能力を頻繁かつ長い時間使っていた。

 

 否、『命令で使わざるを得なかった』と言い直したほうが正しいだろう。

 

 サンチアとほとんど歳が変わらないはずのマオはその所為で体の7割ほどをCC細胞に侵食された事実にとうとう耐えられず、大量の抑制剤を強奪して特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)から脱走した。

 

 だが先ほど言ったように抑制剤の効果は一時的、それに製造方法も数も限られている。

 

『ならどうする?』といったところで、マオ(彼女)マオ()と出会った。

 

「(そうだ。 そして僕の体に埋め込まれた細胞の大本であるCCを彼は探していた。 精神面も性格も見た目と違って子供のまま歪んでいたが利害は一致していた。 彼はCCを探し、僕はこの埋め込まれたCC細胞からの解放を。 『契約』とやらをすれば、ボクのギアスは正常な物となってチャンスはある。)」

 

 望み薄だが他に宛はなく、マオ(彼女)マオ()は『CCを探す』旅を一緒にした。

 

 二人のマオは性格的にお互いソリは合わなかったが、意外と能力的に相性が非常に良かった。

 

 マオ()はギアスを使って情報収集と旅路の確保を。

 マオ(彼女)はそれまでの経験を生かしてより精密な操作と軍事施設への潜入、そしてギアスで男のマオに『裕福な仮初の時(リフレイン)』を。

 

 マオのギアス能力は名前から察せるように、ナンバーズの間で流行っている麻薬の『リフレイン』と似ている効果が出せるが、その比ではない。

 

 その面ではマオ(女)はマオ(男)のギアスと似ているが、少々仕組みが違う。

 

 マオ(女)も()()()()ならギアス能力の過程で相手の記憶を読み取ることが出来る。

 

 マオ(男)は神経(シナプス)を経由して対象の意識をリアルタイムで読み取れることに加え、彼自身が集中すれば深層意識や過去の記憶でさえも読み取れる。

 マオ(女)の場合も神経(シナプス)を経由して記憶を読み取るが、この時対象の意識をループさせて一旦止めている。

 

 というのも記憶が常に最新されている状態のままだと彼女のギアスでは最新された情報量に追いつけない。

 

 これが契約して得た正式なギアスと疑似的なギアスユーザーの違いかどうかは定かではないが、少女のマオには関係なかった。

 

「(やっと……やっとCCの確かな手掛かりを得たんだ! 目の前の趣味悪そうなライダースーツ野郎から情報を抜き取って、マオ(男)と────)」

 

『────僕は両親の顔なんて覚えていない。 両親がいるのかもわからない。』

 

 マオ(女)がギアスをスヴェンに使った瞬間、彼女の予想通りに対象の記憶の閲覧が始まった。

 

「(これが、ライダースーツの記憶?)」

 

『一番初めの記憶は白い壁の白い部屋に透明なガラスの向こう側に黒いフードや白衣を着た人たち。』

 

「(これは……まさか、こいつもギアス饗団の?)」

 

『僕に表現したこの力はギアスと呼ぶらしい。 これを使って人を殺したり尋問する訓練、そして実験────』

 

「(────いや、違う! この記憶はこいつじゃない! この記憶は僕のだ?!)」

「(────違う! この記憶はこいつじゃない! この記憶は僕のだ?!)」

「(────この記憶はこいつじゃない! この記憶は僕のだ?!)」

「(────この記憶は僕のだ?!)」

 

 マオ(女)の考えがまるで反響するかのように続いて彼女が横を見ると無数の自分が同じ動作と声になっていた考えを時間差でしているところを見た(聞こえた)

 

「(な、なんだこれは?!)」

「(なんだこれは?!)」

「(これは?!)」

「(は?!)」

 

 更に続く記憶の閲覧がカレイドスコープのように合わさってぐちゃぐちゃになり────

 

「「「「「(────ギギギギギギギギギアアアアアアア

 ススススをををををととととめめめめめめないいいいいととととと! ぼぼぼぼぼくくくくくくががががががももももももももたたたたたたたたああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」」」」」

 

 無数の自分が無数の自分の記憶を無数に再生しているのをマオ一人は止めようとするが一気に直接流れて入る情報量がねずみ算式に増えたことで収束がつかなかった。

 

 スヴェンが意識を失い、地面に落ちて一秒未満の出来事だった。

 

「………………………………カッ

 

 少女のマオの口から意味不明な声が息と共に吐きだされ、タラリと鼻から血が出ては白目を剥いた彼女も地面に倒れた。

 

 スヴェンとマオが気を失っている間、場はナリタ連山の山頂へと移動する一つのモノレールの中にいる二人の男へと移る。

 

「……………………」

 

「あ。 これってボクの勝ちでいいんだよね? いやぁ、ボクってこのゲーム初めてなんだよねぇ~。」

 

 目を見開きながらチェス盤を見て動揺するルルーシュに対し、余裕満々のマオだった。

 

「(何が初めてだこのキツネ野郎が! ここまで一方的にやられるとは……何者だこいつ?!)」

 

「え~? CCに聞いていない?」

 

「は? (なんだこいつ、何を言っている?!)」

 

「聞いていないのかぁ~。」

 

「(いや待て、俺は口にしていないことにこいつは反応した。 それにCC……まさか────?!)」

 

「────アッハッハ! 凄いねぇ君! 今のでボクの正体について何件もの推測を立たせるとはね! ご名答、ボクは君の先輩だよルルーシュ~? あ、サングラスは取らないよ。 君のギアスは相手の目を見ないと効果ないのは分かっているから。」

 

「クッ! 貴様……俺の思考を────?!」

「────そういうこと。 僕も君と同じくギアスを持つもの、先輩だよ♪」

 

 その時、モノレールはちょうど山頂までつくと急に止まった揺れでチェス盤上のピースが全て倒れ、マオは拳銃を出してルルーシュにそれを向ける。

 

「さてと、色々考えているみたいだけどボクには無駄だよ。 ぜ~んぶ筒抜けだかr────」

 

 バリン!

 バスッ!

 

「────ぬあああ?!」

 

 突然ガラスが割れる音の直後にマオの手が撃たれ、ルルーシュはその隙をついてモノレールから身を投げ出して物陰に隠れる。

 

「(何だったかは知らんが好都合だ!)」

 

「る、ルルーシュゥゥゥゥゥ! テメェェェェェェ!!! “知らない”ってしらばっくれるなよぉぉぉぉぉ?!」

 

 プシュウウ、ガシャ。

 

 モノレールのドアが閉じて、ナリタ市まで戻り始める。

 

 だがこれに対してマオは怒鳴ったり、癇癪を起こすことはなかった。

 

 なぜなら────

 

「C、CC!」

 

 ────彼が追い求めていたゴールがそこにいたからだ。

 

 すぐそこにルルーシュがいることとついさっき狙撃されたのを忘れたかのようにおもむろにサングラスを脱ぎ捨てて、出来るだけガラスに顔を押し付けてモノレールのコンソールの後ろにいたCCに近づこうとしていた。

 

「ああ! 本当だ! 本当の君だ! なんて静かなんだ! 待っててね、CC! 僕が! 僕こそが君の隣にいるべきなんだよ! すぐ迎えに行くから待ってて!!」

 

 マオは狂信者(あるいは無邪気な子供)のように上記のような言葉をずっと口にした。

 

 対するルルーシュはさっき自分が助かった理由(狙撃)について考えを巡らせていた。

 

「(さっきのは狙撃……まただ。 また誰かが()()敵を撃った、シンジュクの様に。)」

 

 彼が慎重に物陰から様子を窺うが、やはり前回のように追撃はなかった。

 

「(やはりか。 目的は『俺を守る』線が強くなっている。 だが最終的には────)」

「────あいつ……まさかここまで来るとは思わなかった。」

 

 CCの声に、ルルーシュは感じていたイラつきをぶつける。

 

「貴様……俺の味方か? 敵か?」

 

「前からも言っているが、“共犯者”だ。」

 

「ぬけぬけと……そもそもなぜここに来た?! 貴様の不注意と気まぐれでテレビなど映るからこうなったんだ! それに勝手にナナリー用の服を着るな!

 

 余談だがCCは今ゴスロリ服装に見事なツインテールを決めていた。

 

「ここにいるのはお前がいるからに決まっている。 それに服に関してだがお前、まさか私に“裸で出かけろ”なんて願望を持っていないだろうな? あと帰りの道はお前が運転しろ、土道なんて手の傷に響いて敵わないからな。」

 

 CCは未だ包帯を巻いている手をルルーシュに見せて、彼はただ頭をガシガシと掻いてその場をどこからか()()()CCのバイクにまたがってモノレールとは逆方向にナリタ市を後にしていく。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 同時刻、モノレールに近い廃ビルの一つのフロアではアンジュリーゼがいまだに震えている自分の手を見る。

 

『よくやったね、アンジュリーゼさん。 初めてにしては上出来だと思う。』

 

 彼女たちは座標が送り続けられているはずのスヴェンが標的を撃たなかったことから一番近いマーヤとアンジュリーゼの二人が狩りを続行し、毒島はスヴェンの様子を見に移動していた。

 

 そして障害物と位置からマーヤの待機場所では狙撃不可能となったことで責任がアンジュリーゼの肩に乗っかり、標的が(遠めにとはいえ)見たことのある同級生(ルルーシュ)もいたことから更に緊張していた。

 

 その所為か、彼女の撃った弾丸はマオの頭から大きく逸れて手を打ち抜いていた。

 

「(……人を撃つのって……やっぱり難しい。 ナイトメア越しにならともかく、生身の人間を撃つと思うと……)」

 

『取りあえず……私はこのまま標的をマークしておくからアンジュリーゼさんは冴子のほうに動いてくれるかしら?』

 

「わ、分かった。」

 

 彼女はライフルを大雑把に分解してからハイキング用のバッグに詰め込んで帽子をしてから廃ビルからスヴェンのいる場所へと歩き出す。

 

「(あのバカ(スヴェン)……何かあったのかしら?)」

 

 

 

 ピィーピィーピィーピィーピィー!

 

「う……ボクは……何を?」

 

 けたたましい電子音を鳴らせる時計のようなものに、マオの意識は徐々に覚醒していく。

 

「(そうだ。 ボクは確か、マオ(男)が接触するときの為に警戒していたら案の定レンズフレアを……って何を悠長に思い出しているんだボクは?! この音は────!)」

 

 マオ(女)は『-00:47』と示していた時計を見ると絶望的な気持ちに陥りながら自分の腕に巻かれた包帯を乱暴に剥ぎ取る。

 

「………………………………………………………………………………は?」

 

 彼女は口をあんぐりとさせ、真っ白で色白の肌をただただ見て思わず思考停止しそうになる、考えに耽ってしまう。

 

「(どういうことだ? 確かに『時間制限』は過ぎている。 だというのに()()()()()()()()()()()なんてありえないよ?! 残った抑制剤も安全な場所に隠していて無意識に取ることもできなかった……こいつが何か関係────いや、そんなことはどうでもいい! 何故か知らないけれど、早く抑制剤のところに行かないと! ハッ?! そう言えばあいつは────?!)」

 

 明らかな動揺で彼女は意識が既に戻っていたスヴェンが保険をかけて即座に『 “時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』を使ってマオの背後を取っていた。

 

 「────動くな。」

 

「……お兄さん、ボクに何をしたの?」

 

「……………………」

 

「答えたくないのなら別にそれで構わないけれど、ボクはもう敵対する気はないよ? もう時間切れ気味だからあまり長くないし、今にでもこの体は崩壊し始めるはずだから────」

「────C()C()()()()()()()()()()()()()()なのにか?」

 

「(……やはり何かやったな。) どうやってCC細胞の中和をしたのさ?」

 

 スヴェンの言葉でマオの思い浮かべていた疑惑は確信になりかけ、久しく自分の身を蝕むような痛みを感じない平穏を感じながら上記の問いを投げかけていた。

 

 このどうしても冷静そのものとしか見えないポーカーフェイスの向こう側ではスヴェンは内心焦りまくっていた本心を知らないまま。

 

 

 

 


 

 

 

 どうしよう。

 

 マジでどうしよう。

 

『ナイトメア・オブ・ナナリー』なんて想定外だったけれど今考えれば『クロスアンジュ』のアンジュリーゼも『学園黙示録』の毒島冴子がいた時点でその可能性は前からあったけれどどれだけニュースサイトや新聞やタブロイドや裏の掲示板やアングラニュースをどれだけ毎日子供の頃から血眼になってチェックしても『リビングデッド(奴ら)』とか『未確認生物的トカゲ(ドラゴン)』とかなかったから『あ、キャラだけか』と思っていたけどまさか『コードギアスのコミック』が混ざっているとは思わなかった誰かタシケテー!

 

「お兄さん、ボクに何をしたの?」

 

 何もしてねぇよ。 そんな性癖は持ち合わせておりませぬぜよ。

 

「答えたくないのなら別にそれで構わないけれど、ボクはあまり長くないよ? もう今にでもこの体は崩壊するはずだから────」

「────CC細胞が消えかかっているのにか?」

 

 思わず解かれかけ包帯の腕が普通っぽかったから答えちゃったけど誰かマジタシケテ。

 

「どうやってCC細胞の中和をしたのさ?」

 

 『CC細胞の中和』なんて知らんがな。 

 そもそも俺はなんもしてへん。

 

 確かコミックでも『抑制剤』は完全に治るわけでもなかったような気がするしどないしよ。

 

 あれ? ということはアリスも『ナイトメア・オブ・ナナリー』の『アリス』だよね?

 滅茶苦茶わかりやすい『ザ・スピード』って奴の?

 『アキ〇スピードスターズ』?

 

 話を戻せば色々とあいつの説明がつくけれど……

 

 うわぁ……じゃあ俺、アイツと戦っていたのか?

 

 なんか複雑だけど納得。

『なっとく』?

『なっとう』?

 

 どじでこげなこつなっとう?

 

「スバル、大丈夫────誰だ貴様?!」

 

 野生の毒島が現れた!

 

 だがスヴェンは混乱中だ!

 

 スヴェンはポーカーフェイスを維持した!




最後のほうのスヴェンは色々な情報量と意味とその他もろもろでキャパオーバーして壊れました。 (汗

胃もたれどころじゃないです。 (汗汗汗


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第44話 思っていた通りだけど違う

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 場所と時は更に移ろい、租界にあるアパートの(記憶を失くしたヴィレッタがいるビルと同じだが部屋が違う)一つへと移る。

 

 その中で取り敢えずは目の前の事に対処することを決めたスヴェンはいた。

 

 場の流れのまま毒島に加えてアンジュリーゼたちとマオに発信機を間接的につけたマーヤとも合流し、マオ(女)が隠したと思われる抑制剤の入ったスーツケースを持って連行した彼女に『知っていることをすべて話せ』と。

 

 あとは特殊メイクで皮膚のかぶれを避けたかったこともあって、今の彼は素顔になっていた。

 

「(いやマジであのマオに発信機を気付かれずに付けるってどれだけ有能なのマーヤ? 俺、マジでこいつの事が怖いんだけれど? ……いや、今はマオ(少女)の事と『ナイトメア・オブ・ナナリー』の確認だ。)」

 

 スヴェンに目的は複数あったが、一つは自分がおぼろげに覚えているコードギアスのコミック(『ナイトメア・オブ・ナナリー』)内の情報との照らし合わせだった。

 

 そこで得た情報はマオがブリタニアに所属していた頃の情報は以下のとおりである:

『ブリタニアの特殊部隊“特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)”』。

 彼ら彼女ら用のKMF、『GX01シリーズ』。

『隊員全員が人造超能力者(ギアスユーザー)』。

『全員が副作用を抑える抑制剤に依存させられている実質上の奴隷』。

 

 などなど。

 

 最初、マオはギアス嚮団の場所も話そうか迷ったがスヴェンが横から彼女の言葉を遮ったことで断念した。

 

 結果、彼女の言ったことはほぼ彼が知っているコードギアスのコミック(『ナイトメア・オブ・ナナリー』)の情報と一致し、アニメの内容に沿っていることが分かった。

 

 そして幸か不幸か、彼の懸念していた一つがスッキリしたことに胸の高鳴りを感じて内心でガッツポーズをしていた。

 

 「(良かったぁぁぁぁぁぁ! これで『マス〇ーゼロ(東方〇敗)参上』の線はほぼ無くなった!)」

 

 彼は何某アニメに出てきた“だぁぁから貴様はアホなのだ、ドモ〇よ!”が特徴的な人のように、その身一つでナイトメアと互角以上の格闘戦を繰り広げるゼロを思い浮かべていた。

 

 実際、『ナイトメア・オブ・ナナリー』でのゼロはあのランスロット相手に肉弾戦で互角以上の動きを見せていた。

 

「(これでルルーシュが頭脳だけでなく、身体も超人だったら暴走時に手を付けられなかったよ……)」

 

 マオから話を聞いた毒島達は様々な反応を見せていた。

 

「そう……ブリタニアに、そんな裏の顔もあっただなんて……」

 

「帝国ほどの大きな国ならば、そのような類に手を染めているだろうと睨んでいたが……」

 

「(うんうん。 平等な反応ありがとうアンジュリーゼに毒島。 問題は────)」

 

 スヴェンはメラメラとメタ的な青白い炎を静かに背後に纏わせていたマーヤを横目で見る。

 

「(────うん。 完全にブチ切れていますね彼女。 『ギアス嚮団』と彼らの場所を知ったらどうするかは火を見るより明らかだ。)

 

 無理もない。

 

 マーヤが反ブリタニア活動に本腰を入れたきっかけ自体が『無垢な者たちを一方的にブリタニアが自分たちの都合で巻き込んだ』ことで、マーヤは目の前で養っていた日本人の孤児たちを殺されたのだ。

 

 同じような境遇を持った孤児たちを、ブリタニアが自分たちの都合のいい道具に作り変えられるだけでなく使い潰されているのなら────

 

「────神様。」

 

「……なんだ? (『神様』呼びに戻っている────)」

「────その者たちには勿論天誅を下しますよね?」

 

「(顔は笑っているけれど目がヤバい。 このままだと一人でカチコミを決めそうだ。) ()()()な。 だが今はその時ではない。」

 

「……そうですか。」

 

 マーヤの返事に間があったことに内心冷や汗を掻くスヴェンだが、次に毒島が口にした事で更に掻くこととなる。

 

「スバル、()()()()()()()()()()()()使()()()()()?」

 

「「「………………」」」

 

 毒島の問いは言葉通りの意味……だけではなかった。

 

 ギアスの事を知った彼女は色々な推測をし、それ等を確かめる意味も含めて上記を口にした。

 

 だから敢えてマオたちが居るこの場でその質問をしたし、例え推測の中でも()()()()()が当たっていたとしても、彼女はどこかスヴェンのことを信じたかった。

 

 毒島にとって、『スバル』は会った当時()から『変な人間』だった。

 

 スバルがナオトと同じ作り笑いを徹底している所ではなく、彼の言動だった。

 

 彼はまるで周りが本の一ページ、あるいは舞台を見るような……『自分以外全てが役者』のように『観客的な第三者』の位置からものを見ていた。

 

 これを常時できるのはよほどの馬鹿、または『今の自分』を『批評できる自分』というある種の才を持った人間がするようなことだった。

 

 そして先日彼が自分たちに話した内容が、『キョウト』でも掴んでいなかった情報はとても『一介の情報屋』という枠を超え、マオが話した内容が『それ』をある程度裏付けるには十分過ぎた。

 

 長い沈黙の末に、スバル(スヴェン)が口を開ける。

 

「……俺の力は、『()()()()()()()()()』と考えればいい。」

 

「違うのか?」

 

「俺の能力はどちらかと言うと『研ぎ澄まされた勘』のような感覚に近い。 ()()()()()()()()()()()()。 何せ近くに他にギアスを使う奴がいなかったからな、違いが分からない。」

 

 そこでスヴェンの視線に釣られてみたのはアパートに連れ込まれてからバクバクと出されたお菓子を次から次へと頬張るマオ。

 

「……ん? ()に?」

 

「食うか喋るか先に決めろ。 それからでいいが、ギアス能力はどんな種類があるんだ? 条件とかはあるのか?」

 

 マオは一瞬どうしようか迷った。

 

お前(スヴェン)はもう知っているんだろ? 何でボクに言わせるのさ?』、と思いながら。

 

 だがここでとある仮説を彼女は組み立てた。

 

「(もしかしたら、ボクを仲間のこいつら(毒島達)に認めさせたいのか? 何のために……って理由なんてそれほどないか。 『ボクを生かす理由』としては弱いから、『CC細胞の中和』に関わっているのか? それとも、もしかしてこいつボクを協力者に? どっちにしろ恩人だし、ここは素直に話すか。 それに上手くいけば、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の皆だけじゃなくてギアス嚮団も────)────これはボクの元上司の受け売りなのだけれど、『ギアスの発現の仕方は人によって異なる』らしい。 発現する能力は千変万化で制約や発動や効果の条件も一人一人で違う。 双子で似た能力も出れば全く違う系統の能力を出した奴もいたっけ。」

 

「弱点は?」

 

「それも相手によって違うけれど……強いて言うのなら、ボクみたいな人工ギアスユーザーは『力を行使すれば使うほど命を削る』ってことぐらいが共通するかな?」

 

 それを15,6歳の少女があっけらかんと言ったことに、毒島達は複雑な気分になる。

 

「今はもう、ボクに適用されないけれど。」

 

「「「え?」」」

 

「ね、()()()()♪」

 

 まるで狙っていたかのようにマオ(女)ははにかみながらスヴェンを悪戯っぽい笑顔で見る。

 

「(これぐらいは言ってもバチは無いじゃないんかな? これで君の株も上がるしお互いにWinWinじゃん。)」

 

「(こ、こここここいつぅぅぅぅ! いらんことををををををぉぉぉぉ?!) まぁな。 未だに試行錯誤中だが。」

 

 マオ(女)は善意で話題を振っていたがスヴェンは仮面の下で更に焦って『それらしい』っぽいことを言った。

 

「そ、それはどう言う意味よ?」

 

「うーんとね、ドリル(縦ロール)のお姉さん────」

 「────ど、ドリル────?!」

「────さっきボクは力を使えば“命を削る”って言ったけれど、実際は“埋め込まれたガンのような細胞に侵食される”んだ。 で、お兄さん(スヴェン)は抑制剤のようにその“ガン細胞を止める”んじゃなくて“ガンを中和” したんだ。 

 信じられないかもしれないけれど、ちょっと前までボクの手足は酷い発疹でさぁ? まるで酷いやけどを負ったような感じだったのが今では元通りなんだ。」

 

「(ほぉ? 能力が云々以前に、文武両道だな(スヴェン)は。)」

 

 毒島は感心した。

 

「(さすが神様です! まさか前もって罪のない子供たちを救う手立てを既に準備していたとは!)」

 

 マーヤはとんでもない類推解釈をしながら感心した。

 

「ねぇ、なんでさっきからそいつの事を“お兄さん”って呼んでいるの?」

 

 ブスッとしたアンジュリーゼは些細なことに気付き、不服そうな問いをマオに投げた。

 

「え? だってボクたちってば似ていない?」

 

 マオは席から立ってそれをアピールするかのように自分の顎をスヴェンの頭の上に乗せる。

 

「ね?♪」

 

勝手に人の頭に顎をつけるな。

 

 白い髪とほんのりと赤みがかかった目のマオが楽しそうに銀髪で同じく赤のかかった目のスヴェンの視線を返す。

 

 スヴェンはその間もマオ(女)の事も、毒島達の事も、マオ(男)の事やこれからの事に対して考えると胃がキリキリと痛みだしていた。

 

 

 

 


 

 

 

 (スバル)は特殊メイクを付けなおし、同じビルにある隠れアパートに入ると中で充満した良い匂いが鼻を刺激する。

 

「この匂いは……料理?」

 

「あ。 おかえりなさい、スバルさん。」

 

「あ、ああ……()()()()()()()。」

 

 中のキッチンからひょっこりと頭を出したのは記憶喪失をしたヴィレッタ(エプロン着用)。

 

 そしてまたも思わず彼女の『おかえりなさい』に『ただいま』と反射的に返してしまう。

 

 ちなみに『ベルマ』とは俺が付けた、ヴィレッタの仮の名だ。

 

 最初は原作で扇が名付けた『千草』も考えたがちょっと……いや、かなり抵抗があって考え抜いた末に『ベルマ』となった。

 

 …………別に安直な理由とかじゃないぞ?

 

 決して“千草”と呼んだら原作での扇みたいになるから『ヴィレッタ・ヌゥ』からの『ヌゥ』で『ν(ニュー)ガンダム』からすぐに女性として思い浮かべた『チェー〇・アギ』だと東洋系の名前でかぶってしまうからそれを没にして『せや、“()()トーチカ・イル()”をもじって“ベルマ”はどないかな?』とかじゃないぞ?

 

 ……思い付きでした、ハイ。

 

「また勝手に置いてあるモノを使わせて頂きました────」

「────構わない。 置いているだけの俺よりはマシだ。」

 

「ふぅ~ん?」

 

「あの……その子は誰ですか?」

 

 このやり取りを見てニヤニヤしたマオ(女+眼帯+普通の私服着用)を見てベルマ(ヴィレッタ)がハテナマークを出す。

 

「お兄さん、()()()()()持っているんだ?」

 

「何を思い浮かべているの知らんが違うと言っておく。」

 

「“お兄さん”? お二人は兄妹なのですか?」

 

「うん────!」

 ────違う

 

「?????」

 

「こいつは『とある経歴』で当分の間、預かることになった『マオ』だ。」

 

「よろしくね~、褐色のお姉さん!♪」

 

「ベルマだ、次はちゃんと名で呼べ。」

 

「ええ、よろしくお願いしますマオちゃん。」

 

「わは?! ちゃ、“ちゃん付け”……」

 

「(マオお前……こんなキャラだったのか? 或いはCC細胞で絶望を感じていたからとげとげしい態度だったのか?)」

 

「おお~~~! 美味しそう!」

 

「そう言ってもらうと嬉しいわ。 あ! それと洗濯ものも終わって畳んでおきましたし、明日の弁当分は既に取ってあります。」

 

「(う~ん、この手際の良さ! ベルマ(ヴィレッタ)って女子力が高いな。) なんだ? 何か言いたげだな、マオ?」

 

「別に~?」

 

 ちなみにこうやって何故マオを連れて来たかというと、彼女も協力的だったが監視対象だからだ。

 

 通常ならば監視対象は個別にするものだが人手が足りない。

 と言うのもベルマ(ヴィレッタ)は記憶が戻るまではともかく、マオが(本人の言葉を信じるのなら)『恩人を裏切る理由がない』と口にするだけでなくちょっと引くほど協力的だったこともあって()()()隙を作ってどう出るか伺うことにした。

 

 なのでマオにはベルマ(ヴィレッタ)が大けがを負って記憶に混乱が生じているという事は伝えている。

 

「(あと単純に人手が足りないことはもう言ったか? 言ったか……) マオは少し普通の社会とは無縁だったから失礼をするかもしれないが大目に見てくれ。」

 

「え~?! そんな言い草ないでしょ?!」

 

「それとマオ、ベルマがおっとりしているからって()()()()をするなよ?」

 

「……は~い。」

 

 ピリリ! ピリリ!

 

「(ん? この番号……) すまん、急用がまた出来てしまった。 出かける。」

 

「あ、その前に軽食はいかがかしら?」

 

「もらおう。」

 

「(ニヤニヤニヤニヤニヤニヤ。)」

 

 このやり取りにマオが何故かニヤケ顔をするが昴はそれを無視して外へと出る。

 

「(あとは毒島たちで彼女たちを見張られるだろう。 それに、もしマオ(女)の仮説があっているのならマオ(男)のギアスは────)────もしもし?」

 

『私だ。』

 

「お前だったのか。」

 

『そうだ、私だ。』

 

「『……………………………………………………」』

 

「それで?」

 

『いや、お前が突然なにか妙なことを言い出したから乗っただけだ。』

 

「(さいですか。 流石長生きしているだけあってノリがいいのか?)」

 

 スバルの携帯に連絡をしたのはCCだった。

 

「何故連絡してきた?」

 

『以前、お前の事を黙っている代わりに私の頼みを聞くと言ったな? なら私を手伝え。』

 

「何を?」

 

『……私に付いて来て欲しい。』

 

「分かった。」

 

『……何も聞かないのか?』

 

「聞いてお前が答えるのか?」

 

『それもそうか。』

 

「どこに行けばいい?」

 

『クロヴィスランドとか言う遊園地の近くで落ち合おう。』

 

「……分かった。」

 

 良し、これでステージ(イベント)が発生したのを確認できた。

 

 マオ……今度こそ、死んでもらう。




ちょっと休憩しにリフトブレイカーをプレイしてきます。 (´゚ω゚`)ノ


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第45話 CCとマオと……

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 時間はマオ(男)の手が撃たれた後、ナリタ連山の山頂からルルーシュがCCの借り(強奪し)たバイクで麓まで降りてそこから租界へと戻るモノレールに二人は乗っていた。

 

「(マオ……まさか『あれ』から生きていただなんて……)」

 

 CCが思いに耽りながら、自分を『母親/愛人/世界』と無邪気に称えていたマオを思い出す。

 

 最初は彼を引き取って契約をしたのも気まぐれ……と最初は思っていたが、後になって考えると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったことにCCは気付いてしまった。

 

 それを思うと遠い過去に彼女の中で捨てた筈の『罪悪感』と『後ろめたさ』は日々膨らみ、CCはついに少年になったばかりのマオからひっそりと姿を消した。

 

『私はお前の事が嫌いだ。 それにお前を利用しただけ。 だからお別れだ』と書いた手紙と、少々のお金まで置いて彼のもとを去った。

 

 その時のマオは既にギアスの使い過ぎで能力を遮断できずに苦しんでいたことから、CCはマオが『自ら死を選ぶ(自殺する)か、人里から離れて隠居するだろう』と思い込んでいた。

 

 だが実際には、マオは諦めることなくCCをがむしゃらながらに忌み嫌っていた筈のギアスをフルに使い、追い求め続けていた。

 

 11年間、ずっと。

 

「(マオは()()()()()。 私の置手紙の意味すら理解できていなかったというのか? ならば、私の────)」

 

「────オイ、貴様。」

 

 仏頂面のルルーシュが黙り込んで()()()()()CCに声をかけると彼女の意識は『今』へと戻った。

 

「『マオという男は他人の考えを読み取るギアスを持っている』、それで合っていると考えて良いんだな?」

 

「ああ。」

 

「お前との契約で得たのか? いつだ? 規模は? 発動条件は? 弱点は?」

 

「11年前、奴がまだ6歳の時に……あれから変わっていなければ、最大500メートル範囲内の思考を読む事ができて集中すれば深層意識まで読み取れる。 お前のように頭で考えるタイプの天敵だ。

 発動条件と弱点……と言えば良いのか分からないが、あいつのギアスは常時オン……四六時中、他人の声を聞いてしまうタイプだ。」

 

「は! 俺の大先輩と言う訳か! (俺の思考を読んだという事は、俺がゼロだという事も、ナナリーの事も全てバレていると見ていい。)」

 

 本来のCCならば機関銃のように質問を次々と飛ばすルルーシュを無視してもおかしくはなかったが、彼女もルルーシュも久しく感じていない『動揺』に失念していた。

 

「そうだな。 お前の先輩だよ。」

 

 そこから二人の間に会話は特になく、二人はアッシュフォードのクラブハウスへと戻った。

 

 ルルーシュはナナリーを護るため更にクラブハウスにカメラや盗聴器などを設置して独自に要塞化し、CCは悶々と一人で(手作り親子チーズ君を抱きながら)考え込むようになっていた。

 

 久しぶりに自分に構ってくれるルルーシュに戸惑いながらも嬉しく思うナナリーだが、彼の声とは裏腹に兄が何か緊張感を秘めているのを感じ取ったのを知ってか、ワザと場を和ませるような言動を取っていた。

 

(仮初とは言え)兄妹二人が久しぶりにゆっくりとした時間を過ごせるように、ミレイは生徒会の皆の世話を見ていた反面、CCは凍結していた筈の心がざわついていた。

 

「(ここはギアスが私に効かないことを逆手に取って、私一人で対応するか……坊や(ルルーシュ)にとって、相手と分が悪すぎる。)」

 

 そう思ったCCはクラブハウスを抜け出して租界でマオのいそうな場所を片っ端から朝昼夜、時間帯を問わずに散策していたが手掛かりなしの状態だった。

 

 ピザ~! ピザ~! ピーザーならば~……ハッ! ハッ!! ハッ!!!

 

 そんな時、CCの携帯から変な()()()()な着メロが流れる。

 

「(このタイミングで『アンノーンナンバー(不明番号)』……恐らくマオか。) もしもし?」

 

『CC! ああ、やっぱり電話越しでも新鮮な君の言葉と声は────!』

 「────何の用だ、マオ?」

 

 表面上、いつもと違う様子のCCだったがマオのきゃぴきゃぴとした態度が癇に障り一気に燻っていた彼女をイラつかせていていた。

 

『話が早くていいね! 僕も早く会いたいから思わず遊園地を一つ丸ごと()()()()にしちゃったよ!』

 

「なんだと? ……マオ、お前まさか────?!」

『────大丈夫! 大丈夫だってば! CCと約束した通り、ちゃ~んと()()()()()()だから! 不倫の事を口にしたら潔く“遊園地アトラクションのメンテナンス”という事にしてくれたよぉ~! あ、別にルルーシュを連れてきても良いよ? 僕の敵じゃないしね! じゃあねぇ~!』

 

「(マオ……)」

 

 CCの気持ちは更に暗くなった。

 以前のマオはここまで過激ではなかったこともだが、未だに自分がマオに約束させたことを彼が律義にも続けていたことに対してだった。

 

 以前、CCはマオと一緒に中華連邦を旅していた時にその時まで身に着けていた経験を使って極力『荒事と関わらなかった』というスタンスでいたが、アクシデントは起こった。

 

 ある日彼女とマオは通り雨を凌ぐために近くの小屋で身を潜んでいたところ、その小屋に男が数人隠し通路から二人と出くわした。

 

 その小屋が実は麻薬の密売場所と知らなかった二人を男たちは殺そうと動いたところ、マオは獣のように自分を襲う男の指を噛み千切って男が放したナイフを無理やり奪って刺して、CCと取っ組み合いをしていた男たちもめった刺しにした。

 

 その後、CCの後悔は一気に上昇した。

 

 それは相手を殺したからではなく、『大丈夫だよ! これで静かになった!』と返り血を顔と体中に付けながら無邪気に自分に笑顔を向けるマオを見たからだ。

 

 その日を機に、CCはマオに色々と約束をさせた。

 そして自分が彼の元を去ったからにはてっきり彼はそれらを無視すると思っていたのだ。

 

 だが明らかに彼はそれら(CCとの約束)守りながらも自分(CC)を追うためだけに大陸と海を渡ってまでエリア11(日本)に来ていた。

 

「(……どうする? いや、『会う事を拒む』選択はない。 そんなことをすればマオがルルーシュたちに何かを仕掛けそうだ……それに、マオが未だに私との約束を守っているのなら、話せば分かるかもしれない。)」

 

 ここで長年生きてきたCCの『勘』が頭の隅で警報を鳴らしていた。

 

「(だが、もし奴が私の言葉に耳を傾けなかった場合……『そうなる』と決まった訳ではないが、私に奴を止める術(撃つ覚悟)はあるのか?)」

 

 CCはずっしりと重みを懐に感じさせる拳銃に思わず手を添えると、未だに包帯を巻いた手で『とある男』を思い出す。

 

「(……そう言えば、丁度()()()がいたな。)」

 

 CCはそう思った矢先に()()()番号に電話を掛けると不愛想な声が出る。

 

『もしもし?』

 

「私だ。」

 

 

 

 


 

 

 

「遅かったな。」

 

 俺が指定されたクロヴィスランドの近くにある横道に着くと、CCの開口一番がそれだった。

 

 原作で見た、キャップに黒ストッキングとスカート私服姿のCCが。

 

「一応、すぐに電話を切って来たつもりだ。 俺は付いていけば良いだけなのか?」

 

「……ああ。 ()()()()()()()()()()。 拳銃は持っているか? 持っていなかったら私の持っている奴を使うといい。」

 

 CCは懐から拳銃を出す。

 

「……必要なのか?」

 

()()の為に、必要になるかも知れないだけだ。 要らないのならいい。」

 

『自衛』って、お前(CC)はマオを撃つ気だろ?

 明確な『拒絶』を示して、彼を突き飛ばす為に。

 

「いや、持っている。 ()()()()()()()()()()からな。」

 

「そうか……ならそのままついてこい。」

 

 そう短く言うCCは回れ右をしてそのままズカズカと『アトラクションメンテナンスの為一時休止』のサインを出しているクロヴィスランドの中へと歩く。

 

「「……………………」」

 

 俺と彼女の間に会話が無いまま数分、彼女が急に立ち止まる。

 

「やっぱり、お前はここまででいい。 今から会う奴と私は話をするつもりだ。 だがもし、異変を感じたら()()()()()()()()()()。」

 

「分かった。」

 

 そう答えると、CCは先へと暗い遊園地の奥へと進んでいく。

 

 やはり、最後までマオとの対話を試みるのかCC?

 やっぱり冷たいようで、根は()()()ままだな……

 

 もっとも、俺はマオを()()つもりだがな。

 このままいくと原作で見た『ルルーシュの呼んだ警察が来て、マオを撃つ』イベントになるが……

 

 そうなる前に、俺は奴を撃つ。

 

 CCの背中姿を見送り、マオが遊園地を指定したことに皮肉を感じた。

 まるっきり前世で、『大人になりたいことを拒絶して奪われた子供時代を取り戻そうとするどこぞの有名人に似ている』と。

 

 ♪~。

 

 急に遊園地の電源が入り、人気が無い遊園地が虚しい活気に満たされていく。

 

 さて、今頃マオは安らぎを感じる為に目の前のCCにギアスを全集中している頃だな。

 

 ……俺も動くか。

 

 そう思い、マーヤがマオに付けた発信機の元へと俺は足を動かしながら銃の軽い点検をする。

 

 そして嗅ぎ慣れた()()()()()が風に乗って、俺の鼻をくすぐる。

 

 

 

 


 

 

 

 周りの動き出すアトラクションやスピーカーから音楽が流れる様を、CCは平然としながら見渡すとメリーゴーラウンドに乗ったマオを見る。

 

「CC~! やっぱり君は最高だよ~! これだけ集中しても、君の心だけは静かだよ~! アハハ! それにしても技術の進歩ってすごいねぇ~! 先日手を撃たれたけれど、この通りだよ! アハハハハ!」

 

 マオの言動は、久しぶりに親と再会してははしゃぐ子供そのモノだった。

 

 CCは逆に気が重くなっていたが。

 

「マオ……」

 

「あ~~~!! 本当に素晴らしい! やっぱり君の言われた通りにすれば、全部うまくいくよ! やっぱり君だけは特別なんだよ~!」

 

「マオ、前にも書いたが敢えて口にしてやろう。 私は────!」

「────分かっている! 分かっているよCC~! 何か用事があったから離れたんだよねぇ~?! でもどれだけ待っても連絡が無かったからこうして僕が会いに来たよ~!」

 

 マオは褒められるのを期待するような、純粋な目でCCを見た。

『よくやったな、マオ』と言う褒め言葉といつか自分に向けた微笑みを期待して。

 

 だが────

 

 カチャ。

 

「ッ?! C、CC?」

 

 ────CCは懐から拳銃を抜き取って歯をギリッと噛み締めながら、銃口をマオに向けていた。

 

「最初から……こうしておくべきだったんだ!」

 

 彼女はスヴェンの思っていたように、致命傷にならない傷をマオに負わせて彼を追い払うつもりで引き金にかけた指に力を入れる。

 

 だが入れた瞬間、泣きじゃくるマオをあやした記憶が蘇って指が無意識的に動きを止めてしまう。

 

 バシュ!

 

 乾いた銃声と共に、一瞬躊躇したCCの肩が躊躇を知らないマオが出した拳銃によって撃たれ、その拍子にCCは尻餅をついてしまう。

 

「うぁ?!」

 

「やっぱりCCに僕は撃てないんだよ! 僕の事が好きだからね! アハハハハ!」

 

「ち、違う! 私はお前────!」

 

 バシュ!

 

「────ああぁぁぁぁぁ?!」

 

 CCの言葉を遮るようにマオがCCの足を撃つ。

 

「く、くぅぅぅ……(アイツが……アイツがこの騒動に気付いてくれれば────!)」

「ダメだよCC~。 前に僕と約束したじゃないか、『嘘はつかない』って────」

 

 ドン!

 

「────な、なんだ今の?!」

 

 マオが初めて笑顔ではない表情を浮かべて今まで()()()()()()()()音に身体を跳ねさせてその場で固まって自分へ見たことの無い銃を構えるスヴェンを見た。

 

「(()()()が動いてくれたのか……だが、今のはなんだ? まるで、一昔前のマスケット銃のような……)」

 

 スヴェンは物陰から地面に向けて撃った銃を、今度は予想通りに自分の方を見るマオへと向ける。

 

 なぜ彼がマオをすぐに撃たなかったと言えば、この先にもしマオ(女)やマオ(男)のような能力を持った正式なギアスや人造ギアスユーザーが現れても彼の持つ『原作知識』や『前世の情報』を読み取られないかどうかも含めての『検証』の為である。

 

「(それだけじゃないが……もしこれでマオ(男)も異常が出たら少なくとも『精神系のギアス』は俺に通用しないことが分かるだけでも大きなアドバンテージになる。 

 さぁ、マオ(女)と同じように俺の頭の中を覗け。 覗いてリアクションを見(確認をし)てからお前の脳天に────)」

 

 ガシャン!

 

 スヴェンの予想通り、マオの手から銃が地面へと滑り落ちる。

 

 だがここで彼がマオ(女)のように苦しみだしたり気を失ったりなどせず、予想外にこれまで以上の()()を浮かべていた。

 

「(え? なんで笑っているだけなの?! もしかして俺の頭の中を覗いているのかそれとももしかして俺の見当違いなのねぇどういうことなのそこでぼ~っと立っていないでなんか別のリアクション起こしてよおい聞いているのかマオ早くしないと俺引き金引いちゃうゾ?)」

 

 スヴェンは何分とも思えるような内心『気まずい』を通り越して胃がキリキリと痛むほどの『緊張』を数秒間耐えているとマオ(男)がやっとリアクションを取る。

 

 完全に彼やCCにとっても、予想外なものだが。

 

 「パパ!」

 

「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」

 

 長~く感じる沈黙をCC、キラキラした目でスヴェンを見るマオ、そしてスヴェン本人の間で表面的にも内側にも流れる。

 

 否、一人だけ盛大に心の中で声を上げていた。

 

 「(なんでやねん?)」

 

 スヴェンであった。

 

 

 

「ンフフフフフ♡ 思っていた通り♪」

 

 クロヴィスランドから少し離れたビルの屋上で眼帯をしたマオ(女)が狙撃銃用のスコープ越しにスヴェンたちの様子を見ていた。

 

「どういうことだ、マオ?」

 

 そして彼女の近くにいたのはアンジュリーゼと毒島の二人がいた。

 

「やっぱり『あっちのマオは派手過ぎた』と思っただけ。 今()()()()()()()を見たからさ♪」

 

「「?!」」

 

「ね、電話を貸してくれるかな?」

 

 マオ(女)が先ほどチラッと見えたのは、全身黒ずくめの服を着た小柄な人物が拳銃を持って一時休止されている筈なのに電気が点いたクロヴィスランドに駆け込む姿だった。



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第46話 女で騎士と言えば?

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

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楽しんでいただければ幸いです!


 俺の目の前には無垢な子供のように目をキラキラさせながら俺を見るマオ(男)。

 

 そして多分(ヘルメットの下からでも)俺同様にポカンとしているCC。

 

 何で『パパ』やねんワレ。

 

「俺はお前のような子を持った覚えはない。」

 

「あれぇ? でもさ、CCが『ママ』ならそうならない?」

 

 何でそうなる?

 

「だそうだぞ、()よ?」

 

 何でやねん?

 マオの悪ふざけに便乗するなCC。

 

「夫と呼ぶな。」

 

「なんだと?! CCのどこが悪いんだ?!」

 

(見た目はともかく)捻くれた性格だよ。

 

「それに娶った覚えもない。」

 

「当たり前だ! CCは僕のだ!」

 

 どないせぇ言うてんねんお前。 CCもクスクスと面白がって笑うなよ。

 

「知っていたかスバル? 『親』って奴は子供が出来たらなるモノじゃないんだ。 自分を親として慕う者と共になっていくものさ。」*1

 

 CC。 お前、なんか『それっぽい』言葉で場を完結させようとしているけれど要するにこいつ(マオ)を俺に押し付けようとしているな?

 

「とりあえず父親呼ばわりはよしてくれ。 俺はそんな歳でもない。」

 

「じゃあ、兄さんで!」

 

 お前もかッッ?! マオはやっぱりマオという事か?!

 

 ヴヴヴヴ。 ヴヴヴヴ。

 

 一気に毒気が抜けたマオ(男)の言っていることに、どう抗議しようかと思っている所に携帯が震える。

 

「ん……俺だ。」

 

 前回アンジュリーゼが租界に出ていった時の教訓から、ヘルメットをちょっと改造して携帯のスピーカーとマイクを内蔵させた。

 

 前世で言う、『ブルートゥース』の応用だ。

 

『君だったんだね?』

 

 こいつ、俺の真似をさっそくしてきやがった。

 

『ボクだよボク、マオだよお兄さん♪』

 

「御託はいい、用を言え。」

 

『ちょっと忙しいところ申し訳ないんだけれど、そっちに名誉外人部隊(イレギュラーズ)っぽい奴が入るのを見たから一言いれようと思って♪』

 

なんやておまん(Da f〇ck you sai)?」

 

 どうゆうことやねん。

 

『あは♪ 今の何、コックニー方言って奴? でも多分知っている奴だから手っ取り早く相手の情報を伝えるよ。 さっき見た感じでは“速さ”が取り柄の奴でさぁ────』

 

 ────なにっぬ?

 

 

 

 


 

 

 

『それ』はブリタニア軍特殊部隊専用の体のラインをできるだけ圧迫して滑らかにする黒ずくめのスーツに足、腰、肩に銃やナイフのホルスターを身にまといながら、クロヴィスランドを明らかに人の速度を超えたスピードで駆け抜けていた。

 

 負傷したわけでもないが、肩と太股からジクジクと来る鈍痛を出来るだけ無視しながら『それ』は焦っていた。

 

 視界を確保させるために唯一あらわになったその赤い目はジワリと流れ出る汗が目に入りそうになり、反射的に瞬きをする。

 

「(クッ……早く終わらせないと!)」

 

 その人物こそ、この頃アッシュフォード学園を休みがちにしている準生徒会員のアリスで、今は名誉外人部隊(イレギュラーズ)の一員として動いていた。

 

 事の発端は元々、マオ(女)が脱走した数年前から始まった。

 マッド大佐は貴重な『読心術系統』のサンプル(実験体)を回収するべく、度々ギアスが使われたような痕跡を元にマオ(女)を追跡していたが、彼女が放浪していた中華連邦の管理がずぼらで広さ自体が尋常でないことから難しかった。

 

 マッド大佐以外の者たちは『どうせ抑制剤が切れたら死ぬだろう』と思っていたからか、彼女の確保に本腰を入れていなかったことも関係していただろう。

 

 そこで突然『エリア11に彼女らしき人物が目撃された』との情報が入り、名誉外人部隊(イレギュラーズ)の実行部隊が丁度エリア11に移動していたことからマッド大佐にもその情報は伝わった。

 

 マオ(女)を探ろうとしたサンチアとルクレティアにそれらしい気配は感じ取られたものの、近くに『空白の気配』と『場所がぼやけて特定できない』という事から『マオ(女)が以前に港で交戦した敵のチームと接触を図っている』と思ったマッド大佐から、一番現場に近いアリスに声がかかった。

 

 命令は至極単純で、『脱走兵のマオと奴と接触していると思われるアンノウンを処理しろ』。

 

 成功報酬は一日に送られる一回の抑制剤が、二回に増やされること。

 

 以前マオが脱走した際に保管庫から大量の抑制剤を強奪した時から隊員に『生命活動が可能なギリギリ最低ライン』の抑制剤が直接配給されるようになった今ではアリスだけでなく、名誉外人部隊(イレギュラーズ)の隊員ならば誰もが死んでも成功させたいほど破格の報酬だった。

 

 アリスは起きていても寝ていてもいついかなる時でも自分を襲う痛みを無視してでも、全力と自分が持ちうるベストの装備で任務に就いた。

 

 まさにぶら下がったニンジンを追う餓死寸前の馬そのものだったが、同時に彼女は違和感を持っていた。

 

「(なぜだ。 なぜさらに監視が厳しいブリタニア占領区に来た?)」

 

 突入要員であるアリスと、暗殺・尋問要員のマオは軍の職業柄、それほど接点はない筈だった。

 

 ()()()()()()()()

 

 名誉外人部隊(イレギュラーズ)はその結成員たちの事情ゆえに基本、少数精鋭。

 接点が無いはずの者同士でも、自ずと互いのことを多少は知ることとなる。

 

 そしてアリスが知っているマオは、『自由』を誰よりも望んでいた。

 

 絶望的で狂うほどまでに、そして誰もその時まで考えなかった『GX01ではない量産型のナイトメアを使ってまで強硬手段を取らせる』までに。

 

「(そんな貴方が、このエリア11にリスクを冒してまで『自由になれる』と思うものがあるというの?)」

 

『そこから先は私の“ジ・オド”とルクレティアの“ジ・ランド”でも何も見えん、用心しろアリス。 我々も移動中だが時間がかかる。』

 

「うん。」

 

 アリスは耳にかけた携帯から、場所が離れているサンチアたちからの交信に短く答える。

 

 そのままギアスを上乗せして走る。クロヴィスランドの広場らしき場所に出ると、遊園地には場違いなほどのフルフェイスヘルメットにライダースーツを着た人物らしきものが立っているのが見えた。

 

「(こいつが、敵ギアスチームの一味!)」

 

 アリスは素早く拳銃とナイフを取り出して、さらにギアスの出力を────

 

「グァ?!」

 

「動くな。」

 

 ────上げようとしたところで、アリスはいつの間にかライダースーツの(声から察して)男に片腕を掴まれて前のめりに地面へと倒れそうになっていたところで持っていたナイフの握り方を変える。

 

「(こいつ、やはりナリタでの奴か?! ギアスは私のような超高速移動型? いや、あるいは別の……)」

 

「俺はお前が────」

「(────どっちでもいい! こいつは『脅威』!)」

 

 カシュ!

 

「ぬ?!」

 

 アリスは握っていたナイフの向きを変えてボタンを押すと、強力なバネによって刀身が射出されてそれがライダースーツの男────スバルの顔へと飛び出る。

 

「(これは、『スペツナズ・ナイフ』?!)」

 

『スペツナズ・ナイフ』とはソビエト連邦の特殊任務部隊『スペツナズ』が使用していたことが名前の由来で、上記のように軍用ナイフでありながら刀身の射出が可能となっている。

 

 スヴェンは思わずもう片方で持っていた拳銃にそれが当たって手を放してしまい、体を仰け反らせる。

 

「(まさか、コードギアスでもあっただなんて!)」

 

「(本能が叫んでいる! 『こいつは危険』と! なら、ここで()る!)」

 

 アリスは重心がわずかに変わった隙を使い、スヴェンの拘束から身を脱して柄しか残らなかったナイフだったものを捨てて、新たに予備の拳銃とナイフを出してスヴェンに襲い掛かる。

 

 小柄な体格とギアスとさらに体術まで使って彼女はヒット&アウェイを繰り返し、スヴェンは『 “時間”に意味は無い(Time Has No Meaning)』を小刻みに行使して拳銃でナイフの軌跡を受け流しながらこの状況に関して考える。

 

「(こいつ! 『高速移動』じゃない! この反応の仕方、『未来予測』の類か?!)」

 

「(この蹴りの癖! やはりマオの言っていた通り『アリス』か!)」

 

 二人の間に会話はなくただただ鉄と鉄、そして体術が空を切る音だけがクロヴィスランドの愉快な音楽に混じる。

 

「(どうする? アリスを『殺す』のは嫌だ。 だが相手は俺を殺そうとしているのがまるわかりだ。 どうする?!)」

 

「(こいつの体術、軍のものじゃない。 護身術の類? ……どちらにせよこれ以上、時間をかけたらCC細胞の浸食がいつ支障になるかわからない!)」

 

「「(どちらにせよ、接近戦では()有利(不利)!)」」

 

 アリスは距離とって拳銃を乱射し、スヴェンも同じく撃ってアリスの弾丸の軌道を自分の弾丸でそらす。

 

「(こいつ、やはり『予知』か!)」

 

「(あっぶねぇ! まさか俺が『トレイ〇芸当』をしなくちゃならない日が来るとは! あれ? 今考えたら避ければ?────)」

「(────だが相手は私と違ってマオと話しに来ただけ! ならば予備のマガジン(弾倉)も持ち合わせていないはず────!)」

「────う?! (こいつ、俺の弾切れを狙っているのか?!)」

 

 アリスはそのまま撃ち続けながらナイフをホルスターに戻して予備の拳銃を抜いたそれを使い、スヴェンも応戦しながら感心する。

 

「(さすがは訓練されている兵士、今までのゴロツキとか二軍とは一味違う……やっぱり『アレ』、やるか!)」

 

 スヴェンは銃の残弾がゼロに近くなっていき、ついに覚悟を決める。

 

 アリスが固まっていた身体をリラックスさせるような、相手(スヴェン)の体が少しだらりとするような動作を警戒し、今まで以上に神経を集中する。

 

 それこそ先ほどから肩や太ももの鈍痛が身を潜めていたことをずっと疑問に思わないほどに。

 

「(おかしい、奴の空気が変わった? 何かを仕掛ける気か! だがこの距離ならば、私の『ザ・スピード』で十分対応できる!)」

 

 アリスの自信には『0.2秒の理』が関係していた。

 これは戦い、特に銃撃戦でかなり大事な意味を持つ。

 

 0.2秒とは『最速で脳から信号が送られて筋肉が反応して動作を始める』という、『物理的な壁』を意味する。

 

 どんな達人でも、()()()()()()()()()()どれだけ頑張ってもこの数値以上の速度は出せる筈がない。

 

 しかし、アリスの『ザ・スピード』ならそれを短縮することは可能だった。

 そしてアリスとスヴェンの間には10メートルほどの距離があった。

 

 つまり、いかに『予知能力』があるとはいえこの距離ではアリスが圧倒的に有利なはず。

 

 通常ならば。

 

 ドッ!

 

「がっ?! (ば、バカな?!)」

 

 アリスは目を見開いて、背中と後頭部を強打したことからと思われる痛みで視界に星が散る。

 

 彼女が見た景色は不可解なもので、およそ目の錯覚としか思えなかった。

 

 ()()

 たった瞬きの()()でライダースーツ男は自分(アリス)との距離、10メートルを詰んでマウントを取っていた。

 

 両腕はライダースーツの肘に抑えられ、喉の上には左腕。

 

 そして体中が軽くなった違和感で彼女は身に着けていた武装が外されたのだと直感で感じ取る。

 

「(そんな! ここで、終わるの?! やっと……やっと()()()を守れると思ったのに?!)」

 

 どこからどう見ても不利な状況にアリスは困惑しながら脳裏で様々なことを考える。

 

 思い浮かべていたのは足と目が不自由になったナナリー……ではなく、彼女の面影が似ていた同じような状態になった妹のことだった。

 

「もうやめろ、()()()!」

 

「ッ。」

 

 アリスはハッとして、自分の頭を覆っていたスーツの覆面部分が剥ぎ取られていたことに気付く。

 

 そして目の前には同じようにフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨てて、顔中が拷問跡のある男の素顔。

 

 これを見たアリスは一瞬だけ、目の前の男が名誉外人部隊(イレギュラーズ)のような部隊に所属していたことを悟って口を開ける。

 

「クッ、殺せ!」

 

「……え?」

 

「は?」

 

 

 

 


 

 

 

 まさかリアルで『クッ殺!』を言われるとは思わなかった。

 

 え? なんで? 

 なんでそうなるの?

 なんで悔しそうな顔をしながら『クッ殺!』を言われるの?

 

 お前はどこぞの女騎士か?

 

 あ、『NoN(ナイトメア・オブ・ナナリー)』では騎士になっていたような気がするけどノーカンね?

 

 ええ~っと、思い返してみよう。

 まずは俺の銃の弾丸が尽きそうだっただろ?

 んで『“時間”に意味は無い』の『充電(リチャージ)』した分を全部使うような覚悟で時間を止めてから、アリスの近くまで移動して着けていた武装を解除しただろ?

 それから覆面とって『あ、やっぱりアリスやんけ』と思いながらソ~っとできるだけ優しく地面に倒して拘束(マウント)

 そして俺の素顔も見えるようにヘルメットを取ったと。

 

 ……うん。 どこにも『クッ殺!』を言われる流れはないな。

 

 あ、CCとマオ(男)にはマオ(女)から電話を受け取ってほかのだれかがクロヴィスランドに侵入したと聞いた時点ですぐに隠れるように言っといたゾ。

 

「どうせ貴様も、私たちと同じなんだろ?!」

 

 ええええぇぇぇぇぇぇ?

 ちょっと心外でござる。

 自慢になるかもしれないけれどこの世界での俺、結構イケメンサイドだと思うのだけれど?

 

「お前の背後組織に情報を読み取られるぐらいなら、舌を噛み千切って────」

 

 あ、やべ。

 

「────やガボボ?!」

 

 大きく口を開けてこれ見よがしに自分の舌を本気で噛もうとしたアリスの口に俺は思わず手を突っ込む────

 

 ガブッ!

 

 ────あいでででででででで?!

 

 ここここここいつ、噛んだぞ?!

 ち、チワワに噛まれたぁぁぁぁぁぁ?!

 いよぉ~!

 

「うわぁ……痛そう。」

 

 痛いに決まっているだろうがアンジュリーゼ。

 

「……後で包帯を巻いてやろう。」

 

 ありがとう、毒島の姉御。

 

「お兄さんってば凄いね~!♪」

 

 「何を思って言っているのか知らんが『違う』とだけ言うぞマオ。」

 

 マオの顔は完全に悪戯っぽいものになっていたとだけ足そう。

 

()はも(マオ)?! せんはいはひおはんへほほ(先輩たちも何でここ)に?!」

 

 あー、うん。

 ソウナルネ。

 

 って、ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!

 

「なんでお前たちがここにいる?」

 

「あ、ボク(マオ(女))がちょっとアリスに用事があってね~? 走ったらお姉さんたちも付いて来ちゃった♪」

 

 “付いて来ちゃった♪”じゃねぇよテメェ。

 

 誰か……誰か俺を助けてくれ。

 

 胃薬が切れて……胃がそろそろ限界でござる。

*1
ありがとうございます規律式足さん!




…………………………(;・_・)

じ、次話を書いてきます! =(;・∀・)ノ

追記:
アリスの通信機/携帯電話はインカムみたいなやつです。 こう、ボタンを押し続けないと声が送信されないタイプです。 (汗


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第47話 言い方

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


 夜の租界には珍しい、大型トレーラーを引っ張っていた軍用装甲車が道を走っていた。

 

 その中でマッド大佐はイライラからか、貧乏ゆすりをしていた。

 

 というのも、マオ(女)のような『記憶を嘘偽りなく読み取る』タイプのギアスの発現は稀なのだ。

 

 ほかの者たちは『ギアス』と一括りとしているが実際には何種類かの系統にギアスは別れる。

『身体能力系』、『感知系』、『外部干渉系』をマッドは見飽きるほど見てきたが、『精神干渉系』は稀な上にまだまだ根が深く、能力の便利さから手元に残るサンプルも少なかった。

 

「「…………………………」」

 

 対する運転手であるサンチアと助手席に座っていたルクレティアは黙ってダッシュボードに取り付けていた携帯からアリスの定時報告を待っていた。

 

『こちらアリス。 聞こえますか?』

 

「そのままでいい、どうした?」

 

『勘付かれたようで対象たちは逃亡した。 ギアスを使い、追って交戦したがやはり推測通りに読心術の類と思われる。 有効範囲はおよそ半径200から300メートルほどの予測。』

 

「(やはりか……でなければこうも上手く立ち回れるなど無理だ。 『未来予測』ならば可能性はあるが、アリスの『ザ・スピード』で圧倒される……) 分かった、証拠隠滅を徹底しろ。 成功しなかったとは言え、今回はもう一回分の抑制剤を送ってやる。」

 

『つかぬ事をお聞きしますが、()()()()()()()()()()()()?』

 

「ぬ?」

 

「……ああ、()()()()()()ぞ。」

 

 アリスからの意味不明な通信にマッドは眉間にシワを寄せるが、サンチアが代わりに出る。

 

『そう。 これから()()()()()()()から。』

 

()()()()。 大佐、どうされますか? アリスを回収しにこのまま向かいますか?」

 

「(さっきのは何かの隠語か? ふん、どちらにせよマオがエリア11にいることは分かった。) ああ、このまま回収に迎え。 私はGX01を先に基地に戻す。」

 

 サンチアとアリスの通信を聞いたマッドの推測は当たっていた。

 

 だが彼が数の少ない(しかも『本部』の外では唯一の)抑制剤の製造方法を知る者である限り、その身は否が応でも特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)に保証されているのも同然なのだ。

 

 故に、彼は特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の反乱など特に恐れていない。 

 実行部隊が保有する抑制剤の数は限られている。

 

 それに運良く反乱が成功して、基地で保有されている抑制剤が強奪されれば今度こそ『本部』はすぐさま対応として、彼らの持つ『本部用実行部隊』を動員してサンプルの回収(実行部隊の抹殺)の為に動くかもしれない。

 

 皮肉にも、上記の対策はマオが以前脱走したせいの『教訓の一部』なワケだが。

 

「(だがエリア11が島国ということが幸いした。 この間の敵チームも『本部』に知られなければチャンスはいくらでもある……焦りは禁物だが、()()()()()より先に回収せねばならん! 奴らの手にかかれば灰も残されないかもしれん!)」

 

 

 

「……これでいい?」

 

 電気が次々と落とされるクロヴィスランドの中でムスッとしたアリスが携帯電話を切りながら、思わずスヴェンの手を噛んだ時ににじみ出た血を飲み込んでから口を開ける。

 

「うん、バッチリ♪ でもまさかボクが冗談交じりに決めた隠語をアリスだけじゃなくてサンチアも覚えていてくれてボクは嬉しいなぁ~♪」

 

 先ほどの通信にはマオ(女)の言った通り、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)にまだ所属していた彼女が冗談半分で決めた隠語が含まれていた。

 

 単純化させると、アリスは『自由になれる兆しを見つけた、それを追って忙しくなる』。

 そしてサンチアはその旨を『承諾』した。

 

「……って何その顔? ウケる~♪」

 

 アリスは何とも言えない顔で、ルンルン気分のマオを見ていた。

 

「いや、貴方なんか……覚えているのと全然違うから。 (それもやっぱり『CC細胞の中和』とやらが関係しているの? ならば、こっちが『素のマオ』というわけ?)」

 

「まぁねぇ~♪ ()()にはなったかな~♪」

 

 アリスが見たのは手をヒラヒラとさせて露出したマオの腕。

 

 そこには目を凝らすとうっすらとだけ、『大昔に肌の色が変質していた』としか思えない痕跡があった。

 

「(やっぱり、見間違いじゃない……どっちでもいい。 本当に『CC細胞の中和』なんて方法を見つけたのなら、このチャンスをふいにすることは出来ない。)」

 

 スバルに拘束されたあの後、困惑するアリス(と内心痛みで叫ぶスヴェン)に駆け寄ったマオ(女)が『CC細胞の中和方法を見つけた』と伝えながら以前までいびつに変質していた自分の手足が元に戻りつつあることを見せ、毒島たちは『それがスヴェンのおかげ』と言ったところで彼は自分がまだ『森乃モード』*1であることに気付いてやっと特殊メイクの仮面を脱ぐとアリスは固まってただただポカンとする。

 

 余談だがこの時のアンジュリーゼのわざとらしい咳で、スヴェンはやっと(絵面的にやばいことに気付いて)アリスの上から身を動かしてから彼女に痛まない方の手を貸していた。

 

 そしてそこでボ~ッとするアリスに、何故かスヴェンの胃がキリキリするような内容がマオ(女)たちからアリスに告げられた。

 

『見ての通り君の病も治すことができるが、せめて私たちの話を聞いてもらえないだろうか?』、と。

 

 そしてスヴェンは『別用がある』とその場を立ち去って胃薬を液体胃薬で飲みほしながら『(いやいやいやいやいやどうしてこうなった?)』と疑問に思いながらもアリスに噛まれた手の手袋を外して消毒し、思考を回転させるが答えは出なかった。

 

 彼にとって唯一の救いは、この隙にCCに連絡を取って彼女とマオ(男)の二人にクロヴィスランドから離れるように言えたことぐらいだった。

 

 後何故かマオ(男)が背景でCCの傷のことに騒いでいたな。

 コード保持者だから、あいつの自然治癒スピードが速くなかったっけ?

 ルルーシュが原作のナリタ洞窟でそう言っていた気がする、『この女、人間じゃない』とかで。

 

 そして帰ってくると何故かアリスがどこか(マッドたち)と通信を終えたところに戻って、冒頭から今へと繋がっていく。

 

「事情はおおむね理解できたわ、信じがたいけれど……返事をする前に聞くわ。 肝心の『CC細胞の中和』方法は何?」

 

 アリスがいまだに半信半疑のジト目で素顔になったスヴェンを見る。

 

「(いや、俺に聞いても検証がまだ終わってへんがな。 強いて言うのなら『マオが俺に精神干渉系のギアスを使って共に気を失った』けど、アリスは『ナイトメア・オブ・ナナリー』通りに身体能力強化型だから────)」

「────それが単純なんだよねぇ~。」

 

「え?」

「(え?)」

 

 スヴェンが(内心で)アリス同様にキョトンとする。

 

「ちょっと僕の方でも試したのだけど、どうやらお兄さんとの距離が大きな要因みたいなんだよね~?」

 

「は?」

「(は?)」

 

「ほらほら、アリスもその包帯取ってみなよ? 痛いのも引いているはずさ。」

 

 実は彼女は彼女なりに色々と独自に検証していたのだ。

 

 そこで判明したのはスヴェンとの物理的距離によってCC細胞の活性化、停滞、退化が異なること。

 現に彼女とベルマ(ヴィレッタ)のいるアパートから離れていくとマオ(女)は嬉しくもない見覚えのある痛みを感じ始め、距離が近ければ近いほどその痛みが引いていたことで自分の憶測に自信を持った。

 

 アリスがハッとしたような表情を浮かべ、ピッチリした黒ずくめの潜入スーツのジッパーを開けて彼女の白い肌が露わにn────

 

「「────(スヴェン)、見ちゃダメ(だ)!」」

 

 ブスッ!

 ガバッ!

 ムニュン♪

 

 毒島がスヴェンに目つぶしを食らわせ、アンジュリーゼがとびかかって目を覆うと自然と彼女の胸がスヴェンの首に押し付けられる。

 

「(アンギェェェェェェェェェ?! 目が?! 首の感覚がぁぁぁぁぁ?! これぞまさしく『ヘル・アンド・ヘブン』ッッッ?! ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ~、吾輩の目が痛いよぉ~。)」

 

「………………………………」

 

 アリスが見たのは今まで必死に隠そうとした肌の荒れ……と呼ぶには生温いような変質した腕ではなく、以前と変わらない様子の『普通の腕』だった。

 

「………………………………」

 

 珍しくアリスは上半身をはだけさせたままただジッと自分の元通りになっている腕を見て固まっている間、マオ(女)も内心では驚愕していた。

 

「(おかしい……こいつ(アリス)とお兄さんが距離を縮めていたのは以前のボクなんかよりはるかに短い。 だというのに包帯を巻くほど酷かった筈の症状が見る影も無いだと? 一体彼女とボクとのケースで、何が違う?)」

 

「あー、アンジュリーゼ? アリスはまだ上半身を出したままか? そうでないのならそろそろ右手の手当てをしたいのだが?」

 

 スヴェンの言葉にマオ(女)に閃きのようなアイデアが浮かぶ。

 

「(そうか……もしかして────)────お兄さん!」

 

「なんだマオ?」

 

 「噛んでもいいかな?!」

 

 「ダメに決まっているだろうが。」

 

 「ちょっとだけでいいんだ!」

 

 「ダメだ。」

 

 「(腕を)出してよ?! ねぇ、早く出して!」

 

 「(言い方ぁぁぁぁぁぁ!)」

 

ぐす……ひっく……

 

 そしてアリスが声を殺してすすり泣きをしだしたことで、場は更なるカオスへと陥った。

 

 アンジュリーゼはどうしたものかと思い、毒島を見る。

 

「コホン! と、取り敢えずここから移動しよう。 いくら何でも休業中の遊園地にいてはマズイ。」

 

 彼女も経験からか、それらしく振る舞って時間を稼ぐ。

 

 

 

「ねぇCC~? どこまで歩くの~? それに血が止まっていないみたいだよ~?」

 

「もう少しだ、マオ。 それに私が死なないのはお前が知っているだろう?」

 

 クロヴィスランドから横道や裏道を使って移動していたマオが駄々っ子半分、心配半分の言葉をCCにかけるが彼女はズンズンと『とあるアパート』を目指しながら歩いていた。

 

「(だが確かに妙だ。 先日と今回といい、ケガの治り具合が遅くなっているのは気のせい……ではないようだ。)」

 

 それと同時に、いまだに撃たれて痛む肩と足に気を向けながら。

 

 

 

 


 

 

 

 あれからアリスをなだめながら(スヴェン)特殊メイク(森乃モード)を取った素顔を隠すためにヘルメットを再び着用し、自分の手の手当てをしながらできるだけ人が少ない道の租界を先行している毒島の後を歩いていた。

 

「気は済んだか?」

 

「……」

 

 そして隣では目も鼻も真っ赤に晴れ上がったアリス(毒島のスペア上着を着用)が黙ったままただただ歩く。

 

 う~ん……これでも俺なりに優しく接したが如何せん、泣いている奴のあやし方は苦手だ。

 

 昔、日本侵略後によくイジメられてビービー泣いたカレンもそうだったし……

 あれ? よく考えたら泣く奴をあやしたのって、カレンぐらいか?

 

 あいつはあいつでクッキーとか甘菓子を作ったらコロッと機嫌を直すし……

 

 うむむむむむむ……そうだ!

 

 森羅万象、イケメンキャラにしかできないあやし方があるではないか!

 

 (一応)イケメンに部類される今の俺ならば可能なはずだ!

 

 ポン。

 

「……?」

 

 ナデナデナデナデナデナデ。

 

 秘儀、『頭をさりげなくかつ優しくポンポンナデナデ』のじゅ────

 

「ッ!」

 

 ドシッ!

 

 ────ごぉへがぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 横腹にグーパンナンデ?

 

「バカ! 急になにすんのよこのバカ!」

 

 に、二回言わなくても良いじゃんもんもん……

 キレイに入った。 い、痛い……

 涙が出そう……グスン。

 

 「……がと。」

 

「??? 何か言ったか、アリス?」

 

 「何でもない!」

 

「アンジュ、私がいつも言っているのはああいう事だぞ?」

 

「うぐ……た、確かにあれじゃあ伝わらないわよね……」

 

 これを聞いていた毒島が何かアンジュリーゼに言ってアンジュリーゼがタジタジし、アリスが彼女たちのいるところへと走る。

 

『伝わる』って何を意味するのか知らんが今日は散々だったよも~。

 

 マオを殺すつもりがマオに会ってギアスが効かなかったのに何故かマオに懐かれてCCからマオの連絡を受け取って今度こそマオを殺そうと思ったのに予想外にもパパ呼ばわりされるしアリスが乱入するしで使うのが怖い特典の充電(リチャージ)を予定外に使っちゃうしそこにマオたちが来て『CC細胞の中和』がなんか俺との物理的距離に反応するとかどういうこっちゃ状態の中でマオが噛ませてとか言い方がどこからどう見ても悪くてトンチキなことを言ってアリスが泣き始めちゃうしで安心させようとイケメンにしか許されない『頭ポンポン』しても殴られるし……

 

 あと手持ちの胃薬が結構やばい。

 

「────スバルもそれでいいか?」

 

「はい?」

 

 突然俺の名前が呼ばれたような気がして思わず聞き返す。

 

「そうか、君ならそういうと信じていたよ!」

 

 「……バカ。」

 

「…………む~……」

 

 毒島が満足そうに微笑んでいたし、アリスはどうやらさっきのが恥ずかしかったのか耳がほんのりと赤くなってそっぽを向いているし、アンジュリーゼは面白くなさそうなジト目を俺に向ける。

 

 ………………………………なんで?

 

 

 

「お帰り、兄さん!」

 

 特に会話がないまま近くのアパートに帰るとマオがいた。

 

 ……なんで?

 

 ピコーン♪

 

『マオは任せた。』

 

 ナンデ?

*1
ありがとうございます心は永遠の中学二年生さん!




転生、(自称)神様特典、スヴェンと昴、租界、コードギアス。

それぞれが糸をぬり、運命によって手繰り寄せられる。
『世界』というタペストリーに描かれる壮大な『ストーリー』。

それらが示す文様は何だ?

その時ふとスヴェンは思った、『俺、生き残れるのか?』と今更ながら。

次回予告:
『キャスティング完了であってほちぃ』

スヴェン。 済まないがその願いは叶えられそうにない。



久しぶりに次回予告です。 
マッド大佐は逃げる段取りをしても良いかもしれません。 (汗


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第48話 『キャスティング完了であってほちぃ』 (願望)

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです!


「………………」

 

 ブリタニアの紋章がデカデカと書かれている政庁の中で、ユーフェミアは書類と睨めっこをしていた。

 

 軍、財政、税政、商政とあらゆる部門に関するそれらを見て、彼女は自分が惹かれるものを探そうとしていた。

 

『副総督に就いたとはいえ、殆んど何もできなかった自分でも何かしないと』と言う焦りと、少々の自己嫌悪を感じながら。

 

 それは別に今に始まったことではない。

 

 着任直前、『オレンジ事件』によって失墜した純血派たちの内部粛清もその場に居合わせて偶然会ったスザクに時間稼ぎをしてもらって自分が皇族であることを明かして停戦させたものの、後にコーネリアを補佐するはずの副総督の座になっても出来ることと言えば書類の見直しや場の静観だけで口を挟んだり、詳細を聞いても除け者扱い。

 

 数少ない頼れる人物といえばダールトン将軍かギルフォードなのだが、彼らはもともとコーネリアの部下と騎士。

 

 よって彼女は元総督であり今は(名目上だけでの)副総督補佐官のクロヴィスに話を聞こうとしたところ、コーネリアには『あの人参役者(クロヴィス)は放っておけよ、ユフィ?!』と言われていた。

 

 だがユーフェミアもコーネリアに似てちょくちょく『お見舞い』と称し、彼の元で総督時にどのようなことをしていたり、どんな問題を抱え込むなど自分が分からないことを素直に質問しに行っていた。

 

 クロヴィスは最初、ユーフェミアがコーネリアの差し金で動いていたと思って警戒はしていた。 本来ならこのような行動は皇族ならば控えるが、ユーフェミアはコーネリアでさえも(決して自分と似ているなどと言えない)強情さで彼の元へ頻繁に通っていた。

 

 次第にクロヴィスも彼女をあしらう事に疲れたのか、彼女の質問などをできるだけ彼なりに(バトレーや部下などから過去に言われていた)モノを喋っていくと────

 

『あれ~? お兄様、ライラってお邪魔でしたか~? (ニヨニヨニヨ。)』

『へ? “お兄様” って────?』

 『────ぬああああああああ?!』

 

 ────何を思ったのか、偶然同じくお見舞いに来たライラがニヨニヨして勘違いされそうになったと思ったクロヴィスは今までユーフェミアの前で維持していた『元総督の箔』が見事なまでに崩れるまでライラの誤解を必死に(車椅子の上からあたふたと彼らしくない言動をしながら)解こうとした。

 

 無論、クロヴィス以外の皇族御用達しのSPたちがいたことでライラはユーフェミアが皇族で異母姉妹の者だと知っていたが、クロヴィスはあまりのテンパりからそれに気付くことはなかった。

 

 この時からユーフェミアはそれまで隠蔽されていたライラ(クロヴィスの妹)の事と、クロヴィスも実はそれほど『完璧』ではないことも知る。

 

 どこか昔仲良くしていた兄妹(ルルーシュとナナリー)に似ていた二人のやり取りのおかげか、ユーフェミアも緊張を感じさせないリラックスした空気になって笑みを浮かべて意外な一面が知られたことで笑われていると勘違いしたクロヴィスは意趣返しに、どれだけコーネリアがユーフェミアを溺愛しているかを暴露するが当の本人のユーフェミアは気抜けするほどそれらを認めるだけでなく、自分もどれだけコーネリアが好きなのかを披露することでクロヴィスが使った時間を二倍で返した。

 

 そしてクロヴィスはコーネリアの()()()()()()()を知ることとなるが、それはまた別の話となる。

 

 最初こそ(クロヴィスの所為で)同じ皇族でありながらほとんど初対面同然でギクシャクしていたが次第にユーフェミアとライラは仲良くなっていき、その過程でユーフェミアはライラがどれだけ兄であるクロヴィスの事を想った為に皇族としてはありえない『下働き』や『世話係』がするようなことを学習していたことを知った。

 

 それが後に河口湖では何もできずに人質が連れていかれるのを見ているしかなかったことで、ユーフェミア自身がする悔しい思いを原作以上に加速させた。

 

『あの時、強引にでも護衛の腕を振り切ってでも自分が名乗り出れば時間が稼げたではないのか?』というのもあるが、自分とさほど歳が離れていなさそうな少年が自分の代わりに『日本語』と言うエリア11以外では用途が殆ど無いどマイナーな言語を巧みに使ってテロリスト(日本解放戦線)相手に何か交渉するような大胆さを見せたことも。

 

 それに続いてエリア11で蔓延し始めたリフレインもコーネリアに頼まれて警察の巡回ルートを増やすことが出来たが、黒の騎士団の活動でそれも大幅に減り、彼らに報道された証拠付きの情報によるとまさかの警察(の一部)もリフレインの拡散に関与していたことも明らかになった。

 

 そしてナリタ。

 土砂崩れが起きてもユーフェミアは何もできず、ただただコーネリアに頼まれたことをこなして野戦病院と化したG1ベースを動かさず、『特派(ロイド)の突然な通信がくるまで存在をすっかり忘れてスザクの頼みでやっと彼らを動かすことができると気づいたのがもう少し遅くなっていたら、コーネリアは黒の騎士団によって捕獲されていただろう』ということも後になってユーフェミアは偶然聞いた。

 

『お飾りの副総督ユーフェミア』、とも。

 

 それがいつしか、エリア11の士官や代官たちの間で囁かれていたユーフェミアに対してのあだ名だった。

 

「(私にも、何か出来る筈。 たとえそれが『文武両道』で名高いお姉様(コーネリア)の下だとしても……)」

 

 不意に、河口湖で見たあの勇敢な少年を思い出してはとある考えに至る。

 

「(そう言えば、あの人……私にウィンクを向けていましたね? あれは、私を『皇女』と知って私が名乗り出ようとしたことからの行動? でも、どうして……)」

 

 どれだけ悩んでも答えが出なかった彼女は覚えている限り少年の特徴をメモに記入して後日、クロヴィスに頼んで彼の似顔絵を頼むこととなる。

 

 後にこれが、大きな嵐を呼ぶこととなると知らずに……

 

 

 

 


 

 

 

「ねぇ、すb────スヴェン。 この頃付き合い、悪くない?」

 

「そうか?」

 

 アッシュフォード学園、俺は珍しく登校してきたカレンと共に屋上へ昼ご飯を一緒に食べていると唐突にそう言われる。

 

「そうだよ。 いくら“呼び出されていない”からって来ないのは……ちょっとね?」

 

 “ちょっとね”ってなんだよ?

 まさか寂しいのか、こいつ?

 ゼロ(ルルーシュ)がいるのに?

 

 ……いや、カレンに限ってそれは無いだろ。

 

 多分、アレだ。

(スバル)が顔見せていないから古惨の者たち以外に知られていないから新人たちや新しく入団した幹部たちに舐められる』とかだろ。

 でも俺、元々黒の騎士団に入ったのも扇グループからの流れなんだよな~。

 

 それに何だかゼロ(ルルーシュ)も俺が開発したパイルバンカーの実用性がカレンみたいに『近接戦闘能力が抜群』であることが前提条件と分かってからは興ざめらしいし……

 

 俺だって暇じゃないんだが、カレン(熱血ヒロイン)のこんなしょぼーんとした顔はあまり見たくないな。

 

 どうしたものか……

 

 カパッ。

 

 そう思いながらカレンと一緒に弁当箱を開けるとタコさん型ウィーナーが────

 

「────あ。」

 

「“タコさん”って……スヴェンも気が利くところあるじゃん♪」

 

「いや、これは……まぁ……その……なんだ……」

 

 ウキウキしながらはにかむカレンに、俺は言い淀んでしまう。

 

 さっき言ったように俺は暇じゃない。

 うん。 もう察しているかもしれないが、これは俺じゃなくてベルマ(ヴィレッタ)特製の弁当だ。

 

 この頃『黒の騎士団お助けサークル』の為に備品入手にはマオーズ(マオとマオ)と毒島(あるいはマーヤ)を付き添いにつけて、活動自体は毒島を部隊長としてメインにアンジュリーゼ(またも都合が合えばマーヤ)に回ってもらっている。

 

 俺自身はこれらの装備の点検や整備、そしてベルマの前では『スバルとしての活動』。

 

 そしてアリスたちのような人造ギアスユーザーたちの為に『CC細胞の中和』解明に時間を殆んど費やしている。

 

 でないとこっちが危ないからな。

 なにせアリスたち特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)とはいわゆる『冷戦状態』に近い関係だ。

 

 何時アリスや彼女のチームとの関係が壊れるか分からないし、もし俺たちの事が上司(マッド)に知られればすぐに俺たちに牙を向けかねないし……

 

 ちなみにマオ(男)には手伝ってもらっているご褒美として、CCと会わせているかつマオ(女)にぐっすり眠れるように面倒を見てもらっている。

 

 嫌がるCC? 

 ごっそさんどすえ!

 と言うのも、口ではあいつ(CC)も“いやいや”言っているけれど『マオ(男)の事が嫌い』ってわけじゃないぞ?

 

 ちゃんと面倒をしっかり見ていれば良いだけなんだ、マオ(男)は。

 ただし彼はなぁなぁでものを済ませようとすると暴走しがちと言うだけで、後から知ったことだがマオ(男)は原作アニメではほとんど寝不足状態だったらしいからカリカリしていたけれど適度にガス抜k────“休憩”さえすれば割とマトモだぞ?

 

 過激気味なのは認めるけれど。

 

 だからサボろうとするなよCC。

 

 ミレイもかつて言った、『死にゃばもろとも♪』と。*1

 

「ふ~ん……ま、()が裏で何かやっているのは前からの事だし~? 私はそれほど気にしていないし~?」

 

「カレン、日本名が出ているぞ。」

 

「あ。 ご、ごめん……わ?! もうこんな時間?!」

 

「別に構わないが、そうモリモリと食っていいのか? 女の子だろ、一応?」

 

いひょうはほへい(一応は余計)よ! へふにいいひゃん(別に良いじゃん)?!」

 

「ちゃんと食ってから喋れよ、『おしとやかな病弱お嬢様設定』。 それと胡座を掻くなよ。 今のお前、ミニスカなんだぞ?」

 

 そう言うとカレンはすぐに立ち上がり、(ほほを食物で膨らませた)鬼の形相を浮かべながらフォークで俺を刺そうと────おいバカやめろギャアァァァァス?!

 

 ガチャ。

 

 「スヴェンせんぱ~い! 一緒に食べますですよ~!」

 

「あ、あのライブラちゃん? 屋上へは出てはダメかと思いましたが────?」

「────たまにはいいんじゃないナナリー?」

「アリスちゃんの言う通りです~! ……あれ? カレン先輩もいるのですか────?」

 「────むぐぉふぁごほぉ?!」

 

 屋上へ通じるドアが開いて、活発そうな少女の声が響き渡ってそれに続く声たちを聞いて一気に弁当を頬張ってたカレンが思わずビックリしてそれらを飲み込もうとし、むせてしまう。

 

「やぁライブラさんにナナリーにアリス。」

 

「来ちゃいました~♪ あ、聞いてくださいます?! この間、お兄様だけじゃなくてお姉さまにも料理を振る舞ったら二人とも感動してくれたですよ~!」

 

「へぇ、それは幸いですね。」

 

 咳をし続けるカレンに缶ジュースを渡しながらそれとなく『優男風(仮面)』で対応する。

 

 あれ? ブリエッラ家にライブラとお兄さん以外にいなかったような?

 

 今の会話から察するに『お()兄様』は多分ブリエッラ家と仲良くしている他家の養子だとすると、『お()姉さま』もそんなところだろう。

 

 多分。

 

 「なんかスッゴイ違和感ある……」

 

 お前にだけは言われたかねぇよ、アリス。 

 それと一々反応に困るな。

『感じるな。 慣れろ。』 byどこぞのリー。

 

 マイペースなライブラとどんな状況でも平然とするナナリーを少しでも見習え。

 

「ええと……僕もお邪魔して良いのかな?」

 

 そこで彼女たちの後にスザクが────

 ────なんでおめがこごさ(お前がここに)いるのスザクゥゥゥゥゥ?!?!

 

 そう思ってアリスを見ると、彼女がフイっとそっぽを向く。

 

 ……あー、だから気まずい顔をしていたのか?

 

「えっと、ライブラちゃんが屋上に行くと言っていたのでちょうどお邪魔していたスザクさんも付き添う形になって────」

 

 あー、うん。

 ありがとうナナリー、大体わかったよ。

 

「おおお! 何か変な形のソーセージです~!」

 

「……たこさん?」

 

「「「“たこさん”???」」」

 

 んげ。

 

 スザクの言ったことにナナリー、ライブラ、アリスの三人がコテンと首をかしげて俺は冷や汗を出す。

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ?

 

「ああ。 これはイレヴンのメイドさんが作ってくれて……」

 

 ナイスサポート(フォロー)やカレンちゃん!

 

「なるほど、だからだね? ああ、ナナリーたちは初めて見るのかな?」

 

「あ~、確かにこれタコだわ。」

 

「あの十本足の?」

 

「「「それはイカ。」」」

 

 俺、スザク、カレンの声がハモッってはナナリーが笑みを浮かべる。

 

 めっちゃええわ~。

 和む~。

 

 グリーンティー(お茶)がうめぇ~。

 

「あ! そうです! 今度新しく追加された『グランドリゾート』の落成式に招待されたので生徒会の皆さんと行くのです~!」

 

「ああ、それって確か()()()()()()()()にできた施設ですね?」

 

 「ブフ?!」

 「おごっ?!」

 

 

 スヴェンは思わずお茶を吹き出してしまい、アリスは食べていた弁当をのどに詰まらせてしまう。

 

 表側の理由としては『お茶が苦かった』、『苦手なピーマンがサプライズで入っていた』ということでスザクが日本のお茶と野菜に関して天然で喋りだし、内心でスヴェンは『なんでやねん?! もう勘弁してよ、キャスティング完了であって欲しいわ~』と願っていた。

 

 ちなみにアリスは『なんでよりにもよってこいつ(スヴェン)と殺しあったところなのよ?!』とも。

 

 ライブラはのほほ~んと、『そういえばこの間、水着をお兄様がデザインしてですね~』とリラックス(ホワ~ンと)した表情を浮かべてそんなことを思い出していた。

 

 そしてカレンは────

 

 「(生徒会の皆って……私も? やった!)」

 

 ────表面と内側同様にウキウキしていた。

 

 『この時は』、とだけここで追記しておこう。

*1
原作アニメ9話より




青い空。
海や川をイメージした人工的な構造。
あふれる肉体美と健康美に白い肌。
そしてそれらを照らす陽光。

かつてここでは血が(少しだけ)流された遊園地(の一部)。
ここにはその爪跡が上手く隠され今では当人たちしか知らない。

だがここでまた血が流されそうになり、かつて敵対していた者たちが手を組むこととなる。

次回予告:
『修羅場(意味深)を全力で回避』

スヴェン、胃の調子は大丈夫か?





……えええっと……次回は『あの』エピソードの予定です。 (;´ω`)


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第49話 修羅場(意味深)を全力で回避

少々長めの次話です。

誤字報告、誠にありがとうございます! お手数をお掛けになっております。 (シ_ _)シ

楽しんでいただければ幸いです!


「と言う訳で、今度の休日は皆でお出かけよ♡」

 

「です!」

 

 ミレイとライブラが生徒会でそう言うと明らかにリヴァルが反応する。

 

「あの……何で私まで?」

「ええっと……正式な生徒会員のカレン先輩はともかく、私も。」

 

「ごめんねカレンにアリス? ミレイちゃん、こういう時は止まらないから……」

 

「「(あ。 なんか納得しちゃう。)」」

 

 そして準生徒会員を含めた生徒会の女性陣もそこに招かれていた。

 

「まぁまぁ! 前回の親睦会がちょ~っとトラブったから今回は問題ないのに招待されたのよ! なんと、『地元の名士』ってことでクロヴィスランド内に新しくできたグランドリゾートへ招待されたのよ!」

 

「(あー、なるほど。)」

「(それでねぇ~。)」

 

 カレンとアリスの二人が見たのは『むふ~』とミレイの真似をするライブラ。

 

「あ。 それとルルーシュとスザク君とスヴェンは今度の休日、予定あるのかしら? なかったら一緒にどう?」

 

「ミレイ会長……(名を省くなんて……むごい。 むごすぎる。)」

 

 スヴェンは更に項垂れるリヴァルを見る。

 

「ああ、一応生徒会の皆が入れるようにしたからね?」

 

 これを聞いた瞬間リヴァルは神を拝めるようなポーズをとって、スヴェンは狂信者(マーヤ)を連想して顔色を若干悪くさせる。

 

「今度の休日ですか……僕は、ちょうど軍の事が……」

 

「またですか、スザクさん?」

 

「うん、ごめんねナナリー。」

 

「(『グランドリゾート』、ウォーターリゾートか。 聞き覚えはないが、たまには良いかもな……それに目の保養を期待できるだろうしな♡。)」

 

 スヴェンは建前後に思わず本音でにやけそうになるのを、『優男の仮面』で塗りつぶす。

 

「それだとナナリーが一人になって、それに俺は────」

「────あ、そうそう。 さっきナナちゃんに聞いたけれど彼女も咲世子さんがオーケーを出したわよ?」

 

 「なら俺もオーケーです。」

 

「(なんという手のひら返し即答……流石ルルーシュだな。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「く!」

 

 上記とは別の場所でコーネリアはゼロ(ルルーシュ)に追い詰められた時より険しい表情を浮かべていた。

 

 彼女の前には屈強な男……ではなく実の妹であるユーフェミアがいた。

 

「そ、それだけはダメだ!」

 

「これは前総督が例となった義務の一つですよ?」

 

「ダメだ! そ、それだけは!」

 

「さぁさぁお選びください、総督♡」

 

「楽しんでいるだろうユフィ?!」

 

「まさか♡ 後“公の場所ではきっちり”するんじゃなかったんですか?」

 

 ユーフェミアがニッコリとして手に持っていたものをコーネリアに近付かせるとコーネリアはニンニクから逃げる吸血鬼のように、身を壁にできるだけよじらせる。

 

 ユーフェミアの手には女性用水着が二着。

 

 そして両方、布地がかなり少なめのものだった。

 

「ど、どうしてもか?! 軍服ではダメなのか?!」

 

「はい♡ あ、それと他にもクロヴィスお兄様のデザインした水着が────」

「────見せろ────!」

「────ありますが、これらより更に派手ですよ? これらが()()()()なものです♪」

 

「(あの人参役者めぇぇぇぇ! なぜこうも露出度が高いものをデザインするのだ?!  人参ならずウサギか貴様は?! ウサギなのだな?!)」

 

 あまりの展開にコーネリアはテンパり、その様子はどことなく焦るルルーシュ(ゼロ)に似ていた。

 

 ほぼ同時刻、隣の着替え室ではクロヴィスに薦められた()()に対してライラの開口一番が『ヤダ』だとか。

 

「なぜだライラ?! これならば安全が保証されているのも同然ではないか?!」

 

 彼が勧めたのは一昔前に使われていた鎧のように全身を覆うダイバースーツ。

 ライラサイズにカスタム化されたバイオでショックなものである(ドリル付き)。

 

「だって動きにくいですお兄様!」

 

 ………………それで良いのですか、お嬢様?

 

「あ、私これにしますです! 可愛いです♡」

 

「ああああああああ?! (そそそそそそれはぁぁぁぁ! なぜだ?! なぜ私はあえて露出度の高いものだけを設計したのだッッ?! 対コーネリアへの嫌がらせがこうも裏目に出てしまうとは不覚ぅぅぅぅぅ!!!)」

 

 それは彼にとって、まるでシンジュク事変の再来だった。

 

 これらのやり取りで、腐っても()妹なのは明らかである。

 

 尚その後、外で警備をしていたギルフォードとダールトンを見たユーフェミアが顔を赤くして気を失いそうだったのは別の話であるのだが……

 

「ひゃわぁぁぁぁぁ?!」

 

「どうしたユフィ?! ダ、ダールトン?! なななななななんだ、()()は?!」

 

「“それ”と申されましても護衛の立場上、武器を携帯するのは必然としか────」

 「────銃を水着の下に仕込む奴がいるか?! もう少し考えろ!」

 

「ありがとうございます姫様。 私も将軍に注意はしたのですが────」

「────暴発したらどうする?! そのためのホルスターであろう?!」

 

「ハ! 考えが至らず申し訳ございません姫様!」

 

 「お二人とも? それは少々無理がございます。」

 

「お兄様~、何も見えないです~!」

 

 ライラの目はクロヴィスが覆ったのでセーフ(?)。

 

 ギルフォードはまたも胃を痛めながらコーネリアとダールトンにやんわりと注意をすることに成功はしたかと思われる。

 

 この説得により、コーネリアはサーベル型の銃を腰から下げること()()に渋々断念した。

 

 ギルフォードは泣いていい。

 

 だからコーネリアが水着を試着してその凛々しい姿への嬉し泣きはもういい。

 

 気持ちは分からなくもないが。

 

「ん? これはなんでしょう?」

 

 コーネリアとクロヴィスがいつの間にか仲良くなったユーフェミアとライラがきゃぴきゃぴしながら水着を個室で試着している間、ギルフォードの目に留まったのは以前コーネリアがユーフェミアに渡した、『騎士候補』の本……からはみ出ていた紙。

 それを手に取ると、彼が見たのは彼女がクロヴィスに描かせてもらった似顔絵だった。

 

「……少年の似顔絵?」

 

「ああ、それですか。 いやはや姉さんの妹も『年相応の少女だった』ということだけですよ。」

 

「なに?! 貸せ、ギルフォード!」

 

 クロヴィスがからかい目的100%純度の声を出してコーネリアが慌てる。

 

「ほぉ、まさか……もうすでに騎士をユーフェミア皇女殿下は決めていたとは行動的……やはり姫様の妹だけはあるようですな?」

 

 それをギルフォードの手から取ったコーネリアの手はワナワナと震え始め、クロヴィスの言葉を真に受けたダールトンの言葉が火に油を注いだ。

 

「こんな……こんなどこの馬の骨とも知らない奴を……ユフィが騎士にさせたがる……だと?! 認めん! 断じて認めんぞ!

 

「認めないって何がさ、コーネリア。」

 

「なに?! 誰だ! 不敬で────あ、貴方は?! なぜここに?!」

 

 突然女性の声がコーネリアを呼び捨てにしたことでギルフォードが思わず怒鳴りそうになるが相手を見た途端、口をつぐんで驚愕する。

 

「~~~~~~~~~~~~」

 

 クロヴィスは声にならない叫びを、息を吸い続けることで誤魔化した。

 

「や、コーネリアにクロヴィス。 視察とお見舞いで来ちゃったよ♪」

 

「お姉様、どうし────あ?!」

 

「や、ユフィも久しぶり♪ なんかすごい格好だけど海にでも行くのかい? 私も連れてって欲しいな……なんてね♪」

 

「卿がいれば百人力です!」

 

 「ギルフォードは相変わらず堅すぎ!」

 

「???? お兄様、この人誰ですか?」

 

「わお! クロヴィスにこ~んな可愛い妹が居ただなんて!」

 

 なおクロヴィスもこの人は()()知っている。

 そしてどちらかというとコーネリア以上に苦手意識のある人だった。

 なにせ自分をぼこぼこにしたコーネリアにより効率よく指南していたのは()()だったのだから無理もない。

 

 

 

 


 

 

 

「いい天気だよね、ルルーシュ~?」

 

「……………………」

 

「ルルーシュ、どうしたのですか?」

 

「あ、ああ。 すまないリヴァルにスヴェン。 少し疲れていてボーっとしていた。」

 

 黒のブリーフにシャツのような上着を羽織っていたルルーシュが、サーフパンツのリヴァルと青いサーフパンツに白のフード付きシャツを羽織ったスヴェンに答える。

 

 彼は生徒会の皆と一緒に、クロヴィスランド敷地内にある『グランドリゾート』へと来て今はスヴェンたちと一緒に場所取りをしていた。

 

「(なぜ、こうなった。 いや、理由は分かっている。 わかってはいるのだがなぜあの時俺は会長の誘いに即答した? 何かの考えがあったはず……いや、そうだ。 これは護衛だ! 飢えた男どもが獲物を求めて徘徊している場所にナナリーを一人にできるか! 咲世子さんも逆効果的になってしまいがちだからな!)」

 

 本来なら彼は勢いが付き始めた黒騎士団の為に色々と動いているのだが、()()()にも活動がスムーズに進んでいたことで最近独りにさせがちになっていたナナリーの側にいることを正論化しようとしていた。

 

「(それにまさかナリタ以降行方不明だった藤堂と四聖剣が黒の騎士団に来るとは思わぬ幸運だった。 伺った様子と報告によればあちらはあちらで別の目的があるみたいだが奴らの能力は本物だ。 それに利害が一致しているらしいし、これで黒の騎士団の軍方面はほぼ完成したとも言える。 だからこれは敵情視察を兼ねたナナリーのケアだ。 そうだ、そうに違い────)」

 「────おっまたせ~!♪」

 

「ん?」

「おおおお?!」

「(ニコニコニコ。)」

 

 シャーリーの元気のいい声にリヴァルは感動するような声を出し、男性陣は彼女の声がした方向へと視線を移す。

 

 まずは水浅葱色のタンキニを着たシャーリー。

 

「おお~……さすが水泳部!」

「そうだな、似合っているよ。」

 

「う、うん……あ、ありがと……ルル……(カァァァァァァ)」

 

「(出た! ルルーシュの天然コメント! シャーリーにどストラァァァァイク!)」

 

 黄緑色のキャミソール型タンキニと麦わら帽子のニーナ。

 

「あぅぅぅぅ……(モジモジ)」

 

「「なんで麦わら帽子?」」

 

 リヴァルとルルーシュの言葉にニーナはさらに気まずくしてミレイの後ろに隠れる。

 

「紫外線対策ですよね、ニーナさん?」

 

「は、あひ(はい)! さ、さ、さすがスヴェン君です!」

 

 ニーナがパァッと嬉しそうになる反面、体がさらに強張った。

 

「??? (なんでそこで更にカチコチに? まだ男性が苦手なのか……)」

 

 そのニーナの前に立っていたのは赤いホルタービキニのミレイ。

 

「ウホ♡」

「リヴァル、だらしないぞ。」

「よくお似合いですね。 (ムホホホホ♡。 眼福よのぉ~。)」

 

 口にするリヴァルと違い、スヴェンは上手く隠せていた。

 

 さらに色違いのチューブトップのアリス、ライブラ、ナナリーの三人は全員ツインテ仕様で咲世子は髪の毛を上げながら緑色のワンピースを着てナナリーの車いすを押していた。

 

「あれ? お嬢様は一緒では?」

 

 既に鼻の下を伸ばしていたリヴァルはミレイの姿を脳内に焼き付け、カレンがいないことにスヴェンが気付く。

 

「こ、ここにいるけどスヴェン……」

 

 カレンはおずおずと気まずく上着をギュッと両手で自分を覆い、一番後ろにいた咲世子の後ろで立っていた。

 

 これを見たミレイはシャーリーとのアイコンタクトを取り、その直後に行動へと二人は出る。

 

「てぇ~い!」

「ごめんカレン!」

 

「うひゃぁぁぁぁぁ?!」

 

 二人はカレンのガードを左右から挟み撃ちにし、彼女の上着をはぎ取ると()のバンドゥビキニを着ていることが判明する。

 

「あ、カレンは赤じゃないんだ?」

 

「なんで赤って決め付けるのよ、リヴァル……」

 

「ん~、髪の毛とのお揃いで?」

 

「そうだな。 あるいは()か。 居眠り中に『黒』を叫ぶぐらいだしな。」

 

 リヴァルとニヤニヤするルルーシュのコメントにカレンはジト目(睨み)を返す。

 

「(そうだな、赤か黒が似合うのに青とは……でもこれはこれでなんかイイネ!)」

 

「むぅ~……先輩たち、ライブラたちはどうなのです~?!」

 

 ぴょん、たゆん。

 ぴょん、たゆん。

 

 ライブラが自分たちにコメントが無いことを不服そうにぷっくりと頬を膨らませてぴょんぴょん跳ねると、彼女の胸部装甲()も時間差で彼女の動きに付いていく。

 

「あ、あ~……勿論似合っているよ? な、ルルーシュ。」

「あ、ああ……」

 

「なんでリヴァル先輩とルルーシュ先輩はそっぽを向くのですか~?!」

 

 ライブラがプンスコと怒りながら身体を前のめりにするとさらに目立つ。

 

「なんか不服……」

「気持ちはわかっちゃうよアリス……」

 

「(う~ん……やっぱり見間違いとかじゃなくて、単純に身長に対して大きめだな。 アリスもなんかあっちで『の』の字を書いているし……え? 何でニーナまで? 二人とも平凡だぞ?)」

 

「スヴェン先輩はどうなんです?!」

 

「え? 可愛いと率直に申し上げますが?」

 

 そこでライブラの矛先がスヴェンへと向けられて彼は本心からの言葉で即答する。

 

「……………………………………ぅえへへへ~♪」

 

 ライブラは即答されたことに呆気に取られた次の瞬間、ツインテールを両手でパタパタさせながら体をくねくねさせる。

 

「(う~ん、安定の健気な反応!)」

 

「ふ~ん? じゃあ他の皆は?」

 

「(なんだミレイ? 褒め言葉が欲しいのならくれてやるでぇ!)」

 

「勿論、今の皆さんに見惚れない人はいませんよ。 ニーナやカレンお嬢様は咲いた花となっていますしシャーリーさんやミレイ会長にアリスは健康美そのモノです。 ライブラさんやナナリーは今にでも咲く花のようで似合いつつ愛らしいですよ。 (ニコッ&歯がキラッ)」

 

「「「「「「「……………………………………」」」」」」」

 

「(フハハハハハ! 『優男』に『従者見習い』のダブルパーンチ!)」

 

「さ、さ、さぁてアトラクションを見に行こうかしら────!」

「────そ、そ、そうね!」

 

「わ、私は荷物を見ておくから────」

「────私が僭越ながら荷物を見ておきますので、お嬢様(ナナリー)もご友人やルルーシュ様とお時間をお過ごしに────」

「────そうだなナナリー、久しぶりに泳ごうか────!」

「────あ、じゃあ私も!」

「────私もです!」

「────……………………」 ←唸りに似た言語化できない声を喉から出すジト目カレン

 

「(あっるぇぇぇぇぇぇぇ? 俺の言葉にノー反応? なんかちょっと寂しいな。 あとなんかルルーシュとカレンの視線が痛いのは気のせいか?)」

 

 

 

 同じ『グランドリゾート』内で、別の場所では特別派遣嚮導技術部の二人がいた。

 一人は緊張感を保っているものの、困惑しながら正反対の空気でだらけていたもう一人に声をかける。

 

「あの~、セシルさん?」

 

「なぁに、スザク君?」

 

 青いサーフパンツのスザクが近くのビーチチェアで上半身がきわどい白モノキニビキニを着て横になりながらサングラスをかけたセシルに声をかける。

 

「僕たち……警護任務中なんですよね?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「なんだか……凄く気が緩いような……」

 

「それは仕方ないでしょ? まさか前総督(クロヴィス)の事があってからも、総督自らが落成式を行うなんて誰も思わないでしょ?」

 

「……なんかセシルさん、不貞腐れていません?」

 

気の所為よ。 強いて言うのなら、この頃ストレスが溜まり込んでいただけね。 あのマッド()()────じゃなかった、()()が見た『ランスロットモドキ』とやらのおかげでこっち(特派)は根掘り葉掘り聞かれて内部を探られるし、活動や備品管理の証明もしなくなってから開発スピードがグンと下がっていたから。」

 

「あ! その所為でロイドさん、今日来れなくなったからセシルさんは不貞腐れているんですね!」

 

 「す、スザク君?! それは違うから! これは清々しているのよ?!」

 

「それはそうと、水着似合っていますよセシルさん。 (ニコッ)」

 

「も、もう! 大人をからかうモノじゃありませんよ?!」

 

「では、僕はその辺を巡回してきます。」

 

 スザクは怒っているのか照れているのか分からないセシルを後にして歩き出す。

 

「はぁ~。 (ロイドさんもあのくぎ打ち武器(パイルバンカー)に執着すぎだわ。 黒の騎士団の輻射波動を使う赤い機体がラクシャータさんのデザインと分かってから暴走気味になるし……)」

 

「長い溜息は君に似合わないぞ、セシル。」

 

「え?! うひゃぁ?!」

 

 くつろいでいたセシルに女性の声がかけられ、彼女は慌ててビーチチェアから転げ落ちてしまう。

 

「フハハハハハ! そこまで慌てるのはセシルぐらいだよ! 相変わらず変わっていないな!」

 

 ケタケタと笑うのはセシルにも負けず劣らず派手な水着を着た女性にセシルは目を見開く。

 

「なななななな?! え、え、え、エニアグラム卿?!」

 

「お前もか?! “ノネットさんでいい”と昔から言っているだろう!」

 

 

 

 その時ちょうどスザクも誰かに声をかけられていた。

 

「あら、この足音……スザクさん?」

 

「な、ナナリーにルルーシュ?! ど、どうしてここに?!」

 

「スザク!? それはこっちのセリフだ! 今日は軍のことがあるって────」

「う、うん。 そうなんだけど? 警護中なんだ。」

 

「……全然そうは見えないのだが?」

 

「だ、だよね……あ、でも先にあったのが僕だったのがいいかも。 実は今日────」

 

 スザクはルルーシュたちと出会い、ルルーシュの指摘に苦笑いを浮かべる。

 

 そして彼の言ったことにルルーシュが一瞬無表情になったのは誰も気づかなかった。

 

 

 

 更に別の場所でスヴェンは一人で歩きながら愛想よい笑いを維持し、癒しを味わっていた。

 

「(ウヒョヒョヒョヒョヒョ~♪ ええのぉ~。 やっぱりコードギアス!♡ 美人美女が基本で────)」

 

 ドン。

 

「────きゃ?!」

「────うお?!」

 

 スヴェンが横を見て癒しを堪能していると誰かとぶつかってしまい、彼は反射的に謝る。

 

「あ、すみませんでした。 前方不注意d────い゛?!」

「いえいえ、こちらこ────そ?! な、何でここに?」

 

 スヴェンとアンジュリーゼは互いにびっくりして固まる。

 

「(あ。 『クロスアンジュ』で見た赤い紐ビキニ姿だぁ~。)」

 

「どうしたアンジュ? そっちに────おや?」

「あれ? お兄さんが何でここに?」

 

 更に現れた紫色のレイヤードビキニを着た毒島と桃色のボーイレッグスタイルのマオの姿にスヴェンは────

 

 「(ウォホホホ! 毒島の姉貴ごっつあんですぅぅぅぅ!)」

 

 ────盛大に色気を出して周り(男女双方)の視線を集めていた彼女の姿に思考が一気に別方向へと逃避した。

 

「さすがスヴェンだな。 今日来るとはやはり『特別ゲスト』と関係しているからか?」

 

「(はぇ?) どういうことだ?」

 

「??? だって今日は────」

 

 

 

「はぁ~……プールなんて久しぶり~。」

「です~。」

 

 アリスとライブラはふにゃりとした表情を浮かべ、川をモチーフにした流れるプールを借りた浮き輪で漂っていた。

 

 そして少し距離が離れたところでは同じくリラックスしていたミレイとニーナの姿があった。

 

「(はぁ~、“兄のルルーシュと一緒に過ごしたい”って言ったから譲ったけれど……これで監査と護衛対象も────)────ふぼぁぁぁ?!」

 

 アリスが何気なく視線を感じて見てみると思わず水を飲み込んで変な声を出しては固まる。

 

「「………………………………………………」」

 

 彼女のように固まって視線を返したのは黒のクロスホルタービキニを着たサンチアと、花柄フレアビキニ姿のルクレティアだった。




ノネットの姉御、参上です。 (; ̄ー ̄川


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第50話 修羅場(意味深)を全力で回避 2

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ありがたく活力剤にしております!

楽しんでいただければ幸いです!


『今日は、わが弟クロヴィスが設立した“クロヴィスランド”が無事────』

 

 紫色のクリスクロスビキニ(+サーベル型銃を腰に)を身にまとったコーネリアが凛々しく気取るも頬を紅潮させながら落成式の演説を行っていた。

 

 クロヴィスの暗殺未遂もあり、誰もがまさか『ブリタニアの魔女』と呼ばれている彼女本人が来るとは思わず、目を疑いながらも照れるその姿に注目していた。

 

 彼女の横にはニコニコとし、照れる姉を『可愛らしい』と思いながらと同じく布地が少なめのバンドゥビキニの上に薄透明なエプロンドレスを身にまとっていたユーフェミアの姿も関係していたかもしれない。

 

 なにせ彼女もコーネリアの姉妹だけあってかなり整っているのだ。 いろいろと。

 

 そしてコーネリアを挟んで反対側には、仏頂面をした赤と黄色が混ざったサーフパンツを着たギルフォードと赤いブーメランのダールトン。

 この二人の肉体美に、独身である貴族の女性たちが注目したのは言うまでもない。

 

 男女双方に注目をひく『美』で本来はそれほど愛国心が高くない者たちでもコーネリアたちがいるステージに大半の者は見入る。

 

 数名の例外を除いて。

 

 「(コーネリアッッ!)」

 

 その一人はもちろん、コードギアスの主人公であるルルーシュ。

 

 彼やナナリーはミレイの気配りでコーネリアたちから生徒会の皆と一緒に少し離れた場所にギリギリ目視できるところまで下がっていた。

 

 可能性は低いとはいえ、皇族同士で彼の正体がバレる可能性があったからだ。

 

「(まさかクロヴィスが撃たれ、黒の騎士団の活動が活性化しているのに白昼堂々と演説を軽装備(水着)で(招待制とはいえ)民衆の前で行うとはな! 思っていたよりかなりの自信家だな、コーネリア!)」

 

 ルルーシュのいつになく真剣な空気と気迫に、シャーリーが近くにいるミレイに話しかける。

 

「ね、ねぇ会長? ルルがなんか、今にでも襲いそうな感じで総督を見ているのだけれど────?」

「────ま、まぁ……あんなにご立派なスタイルを、堂々と見せつけられちゃね~?」

 

 なお余談だがミレイが生徒会の────否、アッシュフォード学園の学生の中でも群を抜いてかなりの良いプロポーション持ちなのだが、その彼女でさえ『総督(コーネリア)に勝てる気がしなかった』とだけここに付け足そう。

 

「そ、それでスザクはどうなの? 一男子として?」

 

「へ?! ボ、僕?! えっと……そう、ですね?」

 

 ミレイが近くにいたスザクに声をかけると彼が気まずそうに濁した答えをする。

 

「そんなにコーネリア様はご立派なのですか、アリスちゃん?」

 

「バインバインのボインボインですよナナリー!」

 

 更にナナリーは近くにいたはずのアリスに話しかけると、代わりにライブラの声が返ってきたことでハテナマークを浮かべる。

 

「あれ、ライブラさん? アリスちゃんは?」

 

「さっきまで居ましたけれど、なんか“急用が出来た”って────あ、()()()()()()()今帰ってきたです!」

 

「スヴェンさんと?」

 

「うん……あれ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「何故かアリスがスヴェン先輩の上着を羽織っているです。」

 

「前から言い争うほど、仲が良かったお二人ですし……何かあったのでしょうか?」

 

 そんなことを言っているナナリーにライブラは『ムムム』とし、ルルーシュは悶々とありとあらゆる作戦と戦術のシミュレーションを脳内で行う。

 

「(ここにはカレンがいる────いやダメだ、コーネリアならナイトメアを近くに待機させてもおかしくない! なにせ水着にサーベル銃を身に着けるほどだ! 

 黒の騎士団に連絡を取って外部から攻め込んで────それもだめだ! 『正義』の大義名分が疑われるし、何よりここにはナナリーがいる! 巻き込まれる可能性がある以上ダメだ! 

 ええい、クソ! 事前に情報があれば────そうだ! ここにはスヴェンがいる! 奴にゼロとして連絡を取って金を積めば、陽動ぐらい受け持つはずだ!)」

 

 肝心のスヴェンだが、毒島たちと会って『クロヴィスランドで総督と副総督自ら演説を行う』という情報を聞いてからルルーシュたちを探し、フルパワーの『ザ・スピード』で動いていたアリスに近くの茂みに(無理やり)連れ込まれて焦っている彼女から『名誉外人部隊(イレギュラーズ)が警護任務として来ている!』ことも伝わっていた。

 

 それはつまりマッド大佐(クソハゲ)も来ているということで、『アリス(人造ギアスユーザー)現状(外見)を見れば異常事態(CC細胞の中和)に気付いてしまう』恐れがある。

 

 ゆえにスヴェンは彼女に上着を貸していた。

 

 そこに他意はなく、純粋に『彼女のことがバレる』ということは己の危機(停戦条約違反)に直結するということで今度はスヴェンがマオ(女)(元イレギュラーズ)含む毒島たちもウォーターパークに来ていることをアリスに伝えた。

 

 「なんでやねん。」

 「奇遇だな、俺もそう思っていた。」

 

 普段の(『学生』でも『兵士』としての)アリスからは想像もつかない言葉にスヴェンは即時に同意を口にした。

 

「だけどこれは好都合ね。 上手く連携すれば、この事態を円滑に何事もなく乗り越えられる。」

 

「ああ。 毒島たちの連絡先を教えよう。」

 

 意外なところで二人の意見は一致し、それを互いに口にしたのだが二人ともそんなことに気付く余裕もなかった。

 

 そして色々と重なってしまえば一気にカオス(戦場)へとなりかねないこの場を乗り切る為、二人(+毒島たち)は力を合わせることとなった。

 

「(このままじゃ『ライブラが実はライラ・ラ・ブリタニア』ということがバレてしまう可能性が! 

 いやそれ以前にやっとCC細胞の呪縛から解放される活路がこんな偶然で無くなるなんてナンセンスよ! サンチアやルクレティアなら協力してくれるし非常にありがたいけれどダルクは……こういうのは『戦力外』と思っていいわね。 あの子、素直すぎだし。 

 それに私のことを黙ってくれているけれどあのクソハゲ(マッド)に見られたらマズイ! どうしてナナリーとお揃いのこんな水着にしちゃったのよ私ぃぃぃぃぃ?!

 あーもー! やっぱりこいつ(スヴェン)と居るとロクなことが起きないしイライラするわ!)」

 

 アリスはどうやってこの様々な勢力が集結してしまった『闇鍋一触即発パーティ』を乗り切るか頭をフル回転で動かし、ルルーシュの出していた半端ない殺気がサンチアの『ジ・オド』に引っ掛かったことでハンドサインが送られていたことに気付く。

 

『その男、並々ならぬ殺気。 排除対象か?』

『排除ダメ、絶対! 私の任務対象の友人で最悪潜入がバレるからNO(ノー)!』

 

「アリス、どうしたですか?」

 

「へぁ?! あ、あははははは! は、は、蜂がいたような! ウァハハハハハハ!」

 

 アリスが必死にサンチアにハンドサインしていたのを誤魔化す為に、彼女はライブラを見ながら適当に手を振る。

 だがそれをハンドサインと思っていたサンチアは()()()()()()に行動を起こす。

 

「(毒島たちのコーネリアたちにアリスのチームたちにスザクたちにルルーシュたち……

 ウワァ。 オレ、ココニイタクナイナァ。 癒しを求めたのに何このごった煮カオス闇鍋パーティ? 

 危うし俺の胃ダレカタシケテ。 タダイマ土壇場ライブ中に超ピンチでゴザルヨ。)」

 

 対するスヴェンは思考放棄気味になりながら、せめてもの思い出作りの為に原作では拝められなかったコーネリアやユーフェミアの水着姿を焼き付けようとした。

 

「(ウォッホ♡ 大胆な水着に美女はええ文明よのぉ~♪ ミレイさんもいいけれど────のああああいででででででで?!)」

 

 そこに何故か近くに立っていたカレンがスヴェンの脇腹を思いっきりつまんだ。

 

 「な、なんですかお嬢様? 痛いのですが────?」

 「────アンタ、なんか変なことを考えていたでしょ?」

 

 ギクッ。

 

 「……いえそのようなことは決してございません。 どうしてそう思いになられたのですか?」

 

 「勘。」

 

「(勘?! 勘……だと? 野生の勘か! マジでゴリラかよ?! いや、さすが熱血ヒロイン(カレン)ってか?!)」

 

 皆が抜群のプロポーションを誇るコーネリア(たち)に釘付けられたまま、次第に演説は終わりを告げると各々の者たちが行動に出た。

 

「なななナナリーにライブラさん! あっちの人工波付きのプールに行かない?!(あれだけの人混みならば多少の目くらましにはなる! はず!)」

 

 ツインテールから普段はしないサイドテールにヘアスタイルを変え、未だにスヴェンの上着を羽織るアリスが隠れる場所のない流れるプールから人の多い場所へと誘導を試みる。

 

「波付きですか……」

 

「私とライブラがナナリーのそばにいるから! ね? ね?!」

 

「なんだか面白そうです~!」

 

「では、お言葉に甘えて────」

「(────ホッ、これで何とか────)」

「────じゃあ俺もナナリーの傍にいようかな?」

 

「あ、お兄様!」

 

「(ぬぅわにぃぃぃぃぃぃぃぃ?!)」

 

「こうした所は久しぶりだからね。 いいかな?(心配なんだ。)

 

 アリスがホッとしたのも束の間、思わぬ伏兵(ルルーシュ)が同行しようとしたことに焦る。

 

「(冗談じゃないわよ! ルルーシュ先輩は目立ち過ぎで逆効果!) ええっと……私とライブラがついていますから、ルルーシュ先輩はシャーリー先輩と一緒にいた方がいいのでは?」

 

「??? なんで?」

 

 「(ウワァ……)」

 

 ルルーシュのキョトンとした表情と無数に頭上に浮かべるハテナマークにアリスが思わずシャーリーに同情してしまう。

 

「(そんなことをしていたら、ナナリーが運悪く彼女を知っているブリタニアの者に見つかっていたら何もできない!)」

 

 なおアリスはルルーシュやナナリーがライブラと同じ皇族、しかも『死亡扱いされている』ということは知らなかった。

 

 知っていれば彼女(アリス)(ルルーシュ)もお互いを『妨害ではない』と理解した上で立ち回れていたかも知れないが、今はスヴェンの方を見てみようと思う。

 

 

 

 


 

 

 

「じゃああっち側まで競争ねカレン!」

 

「その勝負、受けて立つわシャーリー!」

 

 ええのぉ~♡。

 

 俺は(とても病弱とは思えない)カレンの泳ぎでシャーリーの対抗心に火がついた二人をプールサイドから見て楽しんでいた。

 

「す、すごいわねカレンって……」

 

「う、うん……本当にあれで病弱なの、スヴェン?」

 

 流れるプールから帰ってきたミレイとニーナが水泳部のシャーリーといい勝負をするカレンから視線を俺に移す。

 

「ええ。 水の中であれば効率的な泳ぎ方次第で、誰もが速くなれる上体への負担も比較的に軽いので病弱であるお嬢様には前から泳ぎを教えています。」

 

 オープニングの初日だし、知り合いは他にいないからこれでいいだろ。

 逆に留美さん(カレンママ)が居たら天然で『そうなのよ~、子供のカレンったら川を見たら服を脱いで“泳ぐ!”って言っていたものねぇ~』とか言いそうだけれど。

 

「ほっほぅ~? それって『()()()()()()』とかかしら?」

 

 な~んか言い方が……

 ま、いっか。

 

「ええ、まぁ……『世話係』も兼ねているので、そうなりますね。」

 

 実際は同い年でいい競争相手が他にいなかっただけなんだけれど。

 

Wow(わお)♡」

 

 「手取り足取り……はわわわわ……」

 

 ???

 なんで二人とも赤くなるの?

 

 ……あ、もしかしていやらしいことを────

 

 パゴン!

 

「────ブッ?!」

 

「「きゃ?!」」

 

 突然俺の横顔を何かが猛烈なスピードであたり、思わず星が散る視界が暗くなりながら必死に気を失わないように意識を気合で引き留める。

 

 な、なんだったんだ? 今のは?

 

 『私の勝ちー!』

 

 『……ハ?! し、しまった?! 勝負中だった!』

 

「ボール?」

 

「えっと、水球用のみたいだけれど……一体どこから?」

 

 イテテテテ。 ジンジンする。

 マジ痛い。

 

「うわ~……スヴェン、ナースステーション行く?」

 

「頬っぺた、赤くなっているよ?」

 

「あ、アハハハハハハ。 そうですね、氷か何かをもらってきます。」

 

 あと荷物の預けた所に寄るか。

 胃薬のほかに持って来て良かったよ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥ~。」

 

 そう思いながら氷を入手して歩いていると視線を感じる。

 

「???」

 

 そっち方面を見るとさっきコーネリアが演説していたステージの上で見た顔に傷をつけたゴツイ奴と目が合う。

 

 ええっと……確か『アンドレアス・ダールトン』だよな?

 多くの戦災孤児を養子にして鍛えて二期で活躍した『グラストンナイツ』の?

 あとブリタニア人とは思えないほど凄く良い人の?

 

「よぉ、少年!」

 

 え? ナンデ?

 

 貴方は同じく顔に傷跡付けたどこぞの『砂漠のトラ』の親戚か?

 

 あとなんでモーゼスのように自然と人が道を開けてくれる奴が俺の肩に手をポンポンと置くんだ?!

 

 俺、何かしたっけ?

 

「いやぁ~、こうしてみると鍛えているのがわかるな少年よ! それに周囲への視線の察知もかなり鋭いと来た! ……うん! 別の状況下と場所であるのならば良かったが……ああすまんな! 私は『アンドレアス・ダールトン』だ! 一応ブリタニアの将軍だが、気楽にしてくれ!」

 

 知っています……とは言えない。

 

「ええっと、初めまして? 私は────」

「────あと悪いな、少年。 俺個人としては応援してやりたいのだが、これでも命令されている身でな?」

 

 え。 何を?

 このキラキラまぶしいまでの笑顔でナニヲ?

 ナニヲ?

 

 そう思っているとダールトンが耳にかけた通信機に指を添える。

 

「こちらダールトン。 『例の奴』らしき少年を見かけた。」

 

 「なんで?!」

 

 

 

 


 

 別の場所ではコーネリアは耳に付けていた通信機に、独自の部隊である周波数からダールトンの言葉を聞いてゆっくりと立ち上がってサーベル型の銃を再び装着する。

 

「でかしたぞダールトン。 ユフィここにいてくれ。 ギルフォードは私と来い、害虫駆除だ。

 

「えっと? お姉様? それならば相応の者を呼べば良いのでは?」

 

 ユーフェミアがパチクリと瞬きをしてコーネリアがVIP用の休憩所から出ようとするのを見ていると、彼女から自分に渡された『騎士候補』の本に挟まれていた紙が出ていたことに気付く。

 

「(あれ? この似顔絵……折りたたんでいましたよね、私? それにこの跡、まるで誰かが強く握ったような────)────はわぁ?! お姉様、これは違いますぅぅぅぅ!!!」

 

 ユーフェミアも慌ててコーネリアの後を追おうとするが、時すでに遅し。

 

 姿は見えず、彼女はがむしゃらにただ歩き出す。

 

「(どうしましょう! このままでは、お姉様にあの少年に似た者、あるいは本人が危険です!)」

 

「あ、ゆf────ユーフェミア皇女殿下。 どうかなされたのですか?」

 

「枢木スザク准尉! 副総督としてお願いしたいことがあるのです! この者を保護して、私の所に連れてきてください!」

 

 そこに巡回中のスザクと会った彼女はこれ幸いにと似顔絵を彼に見せる。

 

「あれ? これってスヴェン君じゃ────」

 「────知り合いですか?! 今彼の身に危険が迫っているのです!」

 

「き、危険?! どういうことですか────?!」

 

 ────スザクは自分の手を握ってパァッっと笑顔になるユーフェミアに戸惑いながらも、ユーフェミアの憶測ではあるがコーネリアが本気だという気迫だったことからすぐに行動へと移った。




スヴェン、生死を掛けた鬼ごっこスタートです。 (;´ω`)φ..イジイジ

余談ですが本当はもっと長くなっていたのをちょっと前倒しにしました。

でないとストーリーが蛇足になって進まない気がしたので。 (;´・_・`)

あ、水着回はこれだけではないですとだけ言っておきます! (´・ω・。)

その時はキャスティングが更に多くなっていると思います。 (;´∀`)


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第51話 修羅場(意味深)を全力で回避 3

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます!  m(_ _)m

全て、ありがたく活力剤にして頑張っております!

楽しんでいただければ幸いです!


「…………………………」

 

 スヴェンの居場所がダールトンによりコーネリアへと通報されている間、人工波付きプールは様々な人たちが出始めた波にキャーキャーと楽しむ声を出していた。

 

 今日は初日オープンという事で、殆んどの者たちは貴族や有力者のみ。

 

 よって、彼ら彼女らには庶民的な刺激は新鮮であった。

 

「きゃ~!♪」

 

 ライブラもその一人で、初めての波に合わせてジャンプしたりしていた。

 

「楽しいですお兄様!」

 

「そうか、それは良かったよナナリー。」

 

 ナナリーと、彼女の為に借りたフローターを支えたルルーシュもひと時の平穏をかみしめて笑顔になっていた。

 

「………………………………………………」

 

 そして波に身を委ねたままのアリスの目は死んでいた。

 

「きゃ~♪」

 

 たゆん。

 

『波付きプールに行こう』と言い出した本人だが、波が来るその度にダメージを負っていった。

 

「きゃーきゃー♪」

 

 たゆん。 たゆん。

 

 「理不尽。」

 

 原因は身長的にアリス(155㎝)と同じである筈のライブラの胸部装甲による精神的ダメージ。

 

「え? 何がですかー?」

 

「(し、しまった! 声に出していた?!) あ?! う、ううん! その……“ライブラは肩が凝らないのかなぁ~”なんて……ウァハハハハ。」

 

「ん~?」

 

 ライブラはアリスの視線を辿っていく。

 

「あー、()()ですか~? 実は困っているのですよ~。 あ、でもでも()()()()()()()()()など着ていれば楽になりますですよ!」

 

 グサッ!

 

 グ。

 

 ライブラのあっけらかんとした、悪気のない答えで更にダメージを負うアリスであった。

 

「や、アリス!」

 

 え゛。

 

 そんな彼女は完全に失念していた。

 

 監査対象であるミレイが次から次へと言い寄ってくる男たちをあしらう様子ではなく、先ほど自分がハンドサインをサンチアにしていたのをライブラに見つかっていもしない蜂を追い払う際に腕を振っていたのを。

 

「あれ? アリスの知り合いですか?」

 

『ギギギ』と錆びついた人形のようにアリスが首を回すと 全身ウェットスーツを来たダルクがニカニカしながら立っていた。

 

「や! 頼まれたように来たよ!」

 

「(なななななななんで?!)」

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 別の場所では、スヴェンはあの後嫌な予感がしたからかすぐにダールトンから逃げた。

 ダールトンも本気ではないのか、楽しんでいるのか笑いながらゆっくりと歩いていたことで彼を見失ったところでコーネリアがその場に到着していた。

 

 コーネリアは動揺を隠すように、凛としたままズカズカとグランドリゾート内を徘徊していた。

 

 まさか、『ユーフェミアが持っていた“似顔絵の少年”が実在していたのか』と未だに疑いながら。

 

「どうだ、奴は見つかったか?」

 

 彼女は自分が目立つことを利用し、スヴェンをダールトンやギルフォードに探させていた。

 

「(ダールトンめ、わざわざ逃がすとは……お前は楽しんでいるかもしれんが……もし。 もしこれでユフィが────)」

 

 ホワホワホワ~ン♪

 

 そこでコーネリアの頭上には少女漫画風に描かれたモヤモヤ妄想バブルで、中では(何故か白いウェディングドレス姿の)ユーフェミアが似顔絵の(そして口に何故かタキシードでキラキラしながらバラを咥えた)少年に寄り添っていた。

 

『お姉様! 私、この人を騎士にします! そして生涯も共にします! もう、決めたことです!』

 

『Ha,ha,ha。 今日からは、ボクも義姉さんと呼b────』

 

 「(────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)」

 

 コーネリアは立ち止まり、盛大に悶えそうになることを必死に軍で鍛えた精神で覆い隠す。

 

「(だ、ダメだ! ダメだぞそんなのは! 夢見がちで無垢なユフィが、どこの誰とも知らない少年の毒牙にかかって、あ~んなことやこ~んなことをヲヲををヲを?! 

 断じて! 断じて私が許さんッッ!!! ユフィの側に居られるのは私が認めた奴だけだ!)」

 

 イライラ(動揺)しながら彼女は再び歩き出す。

 

「(それに私と違って昔からモテるのは今更だが、先にウェディングドレスを着ての式など羨まs────けしからん! 言語道断だ!)」

 

 実はコーネリア、自分が『きつい見た目&性格』をしているのをそこで気にしてしまうほど動揺していたのが幸いし、近くの茂みの形が偏っていたのを見落とす。

 

「……どうだ?」

 

「距離は20メートルとどんどん離れていくようですね。」

 

「よし、総督の気配が遠ざかっていく今の内に移動するぞ。 あくまで一般の客として振る舞うぞ。」

 

 スヴェンは茂みの中から反対側の方へ、サンチアとルクレティアの二人と一緒に出ては歩き出す。

 

 彼は『(ナンデココニイルの?』とは聞けなかったが、さっきのダルクと同じでアリスの『援軍非常時求める』の()()()()()()で動いていた。

 

 それを知らずにスヴェンは助けられたことで『あ、これアリスが関与しているな』と思いながらアドリブで彼女たちと行動を取り敢えず合わせる。

 

「あ、スヴェン……って誰です、その子たちは?」

 

 ギクッ。

 

 スヴェンに声をかけたのは────

 

「ま、マーヤ。 ど、どうしてここに? 招待状は?」

 

 ────彼の事が心配になり、毒島に了承を取らずに独断行動に出たマーヤだった。

 

「どうしてって……冴子(毒島)の祖父が『冴ちゃんの友達ならオーケーじゃい!』って言って招待状をくれたの。」

 

「(あのぬらりひょん爺か!*1)」

 

「それでその……冴子から聞いたのだけれど……(コーネリアを)()るの?」

 

「(“()る”?! 何を?! ナニを?! ってアホか俺は?!) それは無い。」

 

「え?」

 

「そうだな。 流石にそうなると我々にも正式な招集がかかる。」

 

 一瞬キョトンとするマーヤにサンチアが静かにそう伝える。

 

「「………………………………」」

 

「(え? なに二人とも互いを見ているの? 俺にも分かるように教えてヨン。)」

 

「(この子たちの身のこなし方と足運び……神様とマオちゃんが言っていた特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)ね。)」

 

「(この値踏みされているような視線……なるほどこの女、アリスが言っていたこいつ(スヴェン)の一味か。)」

 

「「…………………………」」

 

 マーヤとサンチアの間に気まずい空気が流れて数秒間後、二人は同じ方向へと同時に歩き出す。

 

「まずは総督と彼女の腹心たちが諦めるまで移動する。」

 

「その姿で使っても大丈夫なの?」

 

「ああ。 感知系は表面()に出にくいし、近くにいれば問題だろう。」

 

「なるほどね。 流石は“裏部隊”ってところね。 情報を取り入れるのが早い。」

 

「逆に軍属でもないお前には感心しているぞ?」

 

「(何この会話? 二人の間で一体何があったの?)」

 

 何が起こったのかを知らずにスヴェンはそのままついていくとスイスイ泳ぐかのように自分を探しているコーネリアと会わずにグランドリゾートの出口の方へと移動していた。

 

 サンチアとルクレティアの連携&能力は勿論の事、マーヤも人のあしらい方や人混みの中をどう移動すれば隠れやすいのかが幸いした。

 

「(なんか……(スヴェン)、いらなくね────)────う?!」

 

 完全にアウェイ感覚のスヴェンがそう思っていた頃にマーヤが突然彼を横へと押し、サンチアとルクレティアの二人も彼を物陰の中へと引きずった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ! き、君! ここらへんで銀髪の少年を見なかったかい?!」

 

「(す、スザクまで?!)」

「(奴は確か、特派の……)」

「(速かった……本当に人間?)」

 

 そこに現れたのは息を切らし気味のスザクだった。

 

「(枢木スザク……元日本の首相の子でありながら、名誉ブリタニア人になって軍に入った奴! そして耳にはコーネリアたちと同じく軍用通信機をしている!) ああ、私が見かけたのは確か────」

「────頼む! 彼を最後に見かけた場所まで案内してくれ!」

 

「へ?! あ、はい?!」

 

 スザクに腕を掴まれたマーヤがスヴェンたちのいる場所を見る。

 

「(後は頼みましたよ!)」

 

 マーヤがスザクに連れ去られて数分後、サンチアとルクレティアが物陰から出る。

 

「………………………………行ったようね。 さ、私たちも────」

 「────おおお! そこにいるのはマッド野郎の部隊の?!」

 

「(ぐぇ。 ま、また……)」

 

 スヴェンも出ようとしたところでまたも狭い物陰に押し戻され、サンチアたちに陽気なダールトンが近づく。

 

「久しぶりだな、サンチア中尉!」

 

「(クッ! 『緊張感』と『警戒』に察知を限定したのが裏目に出た!) お久しぶりです、ダールトン将軍。」

 

「ここらへんで少年を見なかったかね? 銀髪と赤みがかかった目の? いや、総督が探していてな? 見ていないのならそれはそれで君たちに捜索願を出したい!」

 

「……分かりました。」

 

 サンチアがルクレティアと目を合わせてからダールトンに答える。

 

「(ここで彼の頼みをむげにしたら不信感が出る可能性が……それに出口までそう遠くない。)」

 

「(私たちで時間を稼いで、ダールトン将軍を上手く利用すればコーネリア殿下たちの動きも操作できるかもしれない。)」

 

 そう思った少女二人は愉快なダールトンと一緒にその場を離れる。

 

「……フン!!!」

 

 辺りに人気がない事で、スヴェンは無理やり押し込まれた物陰から出ようとするが当初と違って変な体勢でねじ込まれたことで上手く抜け出せられなくなっていた。

 

「(ま、マズイ。 今の俺に携帯もないし、こんな人気のないところまで来ていたら最悪────)」

「────ん~? どうしたんだい、少年?」

 

「(また少年呼び────いやそれより見つかったぁぁぁぁぁ?! ってあれ? この人……)」

 

 スヴェンはギョッとしながら首を回して自分を見つけた、上着を羽織ってコーネリアとは同じデザインで色違いの水着を身に着けていた女性の方を見る。

 

「(『どこか』で見ている? アニメの一期じゃない、『ナイトメア・オブ・ナナリー』でもない……確か────)────おわ?!」

 

 彼女はスヴェンの腕を掴んで無理やり狭い物陰の中から引きずり出す。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ。 は、はい。 おかげさまで。 (ち、力強かった! ええええっと? あれ? さっきまで喉を出かけていたのに……)」

 

「へぇ~? 若いのにちゃんとしているな! 何か訓練でもしているのか?」

 

「ま、まぁ……体術を少々嗜んでおります……」

 

「あとナイトメアの操縦はどこで?」

 

 ギクッ。

 

「(は、はぁぁぁ?! どうして?! なんで?!) な、ナイトメアなんて……自分は騎士では────」

「────君の身のこなしに筋肉の付き方だよ。 ()()()()()()でそれは身に付けられないものだよ。」

 

「ッ。 (こいつ……)」

 

「ま、今の私は良い気分で丁度出口を目指していたんだ。 一緒に来るかい?」

 

「…………………………ええ、ではお願いします。 (ニコッ)」

 

 スヴェンは『優男』の仮面をかぶりなおして後を歩きながら、どうにかしてこの女性から逃げられるかを考えていた。

 

「(見ただけ相手の事を見抜く洞察力にナイトメア操縦で付く筋肉を熟知している……十中八九軍人だが────)」

「────君は、河口湖にいた一人だね?」

 

「(え?)」

 

 そんなスヴェンの考えを、美人軍人の声が遮る。

 

「あの時、私の親友の親族が居たんだ。 礼を言う、ありがとう。」

 

 

 

 


 

 

 

 ええええええええ?!

 

 なんで あたま さげるの?!

 

 たわわな胸がががががががががががががががが!

 

「あ、いえ! その! 軍人さん?! あ、あ、あたまを! というかなんでしょうか?!」

 

 

 尚あまりの急展開にスヴェンは思わず今まで誰にも見せたことの無い、内心にだけとどめていた素の口調を一瞬だけとはいえ口に出していた。

 

 

「そうか。 なら一つだけ聞いても良いか?」

 

「あ、はい。 一介の市民である自分に、質問とは光栄至極です。 (ニコッ)」

 

「君は、ブリタニア人なのに何故『日本語』を喋るんだい?」

 

 ……そう来たか。

 

『何故日本語を喋れる』……単純な質問のようで、実際は違う目的があると見えるな。

 

 どう答えようか……

 

「私は、『世界を変えたい』……とまで言いません。 ですが、『出来るだけの人を救いたい』という願いを持って様々な分野に手を出しています。 何がどこで、役に立つか分かりませんから。」

 

「へぇ~? でも確か『日本語』でもこういうのがあるらしいじゃないか? “二兎を追う者は一兎をも得ず”って奴さ。」

 

「……別に一つの分野をマスターしなくとも、自分に足りないものを補ってくれる同士が居れば────ッ。」

 

 

 その時、スヴェンの中で何かがちくりとして彼は一瞬言葉を失う。

 

 

「ん?どうした?」

 

「い、いえ……自分に足りないものを補ってくれる者たちが居れば、何とかなる……かと。」

 

 なんだ、今のは?

 

 何で、カレンや毒島達が?

 

 

 

 


 

 

 

 あの後、スヴェンは出口を出てから彼が逃げやすいようにコーネリアたちの妨害をしていた毒島達に連絡を取って荷物を持ってくるようにお願いしていた頃、彼と話をしていた軍人────『ノネット・エニアグラム』がルンルン気分でユーフェミアのいる車へと戻っていた。

 

「(“別に一つの分野をマスターしなくとも、自分に足りないものを補ってくれる同士が居れば何とかなる” 、か。)」

 

「どうしたんです、エニアグラムさん?」

 

「だーかーら! 昔みたいに『ノ(ネぇ)さん』と呼んでくれよ、ユーフェミア! それと、お前! 意外にコーネリアと違って『人となり』の見る目があるな!」

 

「え、えとでも……え? ありがとう、ございます?」

 

「君の探していた少年と会ってきたよ。」

 

「えええええええ?! か、彼は無事なのですか?!」

 

「うん、無事だよ。 そこで面白いことを聞いてね……ユフィ。 お前、好きなんだろ? あの『クルルギ・スザク』って奴の事を。 もう騎士にしちゃいな。」

 

 「はぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 なお原作のように学校を中退して副総督の任に就く前にユーフェミアは政庁を抜け出してはスザクと出会い、その日から彼の事が気になっているのをノネットはコーネリアの愚痴によって聞かされていた。

 

「そこがアンタとコーちゃん(コーネリア)の違いなんだよ。 心の中ではもうほぼ決まっているのに、アンタは一歩下がってコーちゃんや他人の気持ちを伺って考え直す(ウジウジする)癖。 いい加減、どうどうと宣言しちゃいなよ、そうしたらいくらコーちゃんでも止められないさ。」

 

 ノネットはこれ以上ないほど清々した笑顔を浮かべていた。

 

「アンタは優しいよ、ユフィ。 でもね? これはアンタの問題なんだ。 『騎士』というのは“矛”であり“盾”であり“剣”。 確かにコーちゃんの選んだ人たちの中に知恵者や武人や確かな家柄がいたけれどね? 

それらじゃ『騎士』は務まらない。 一番大切なのは『心の底から互いを信じられる』ような関係を結べることかどうかなんだ。」

 

「『心の底から信じられる』……」

 

「例えどんなことがこれからあろうとも、世界が敵になろうとも、コーちゃんでも嫌がろうとも、私はユフィの血の繋がっていない『姉』としてサポートはするつもりだよ。」

 

 この言葉により、さっきまで迷っていたユーフェミアの表情は強固なモノへと変わった。

 

 


 

 別の薄暗い、明らかに地上ではない場所では透き通るような白い肌に煌びやかなブロンドヘアー、左右に髪留めをつけながらおでこを晒している子供が暇そうに地面をゴロゴロしていた。

 

「……暇だ。 何か起きないかなぁ~」

 

 ボソリと言葉が子供から発されるとタイミングを見計らったかのように近くで立っていた黒いフードをした人物が彼の元に歩く。

 

嚮主(きょうしゅ)様、少しお耳に入れたいことが────」

 

 黒いフードのボソリといった何かに、さっきまでつまらなさそうな表情をした子供────“嚮主(きょうしゅ)”が興味深そうな笑みを浮かべる。

 

「へぇ? その検索、どこが元なの?」

 

「エリア11、と聞いています。」

*1
ありがとうございますムロンさん!




『コードギアス』という思惑がうずめく海に見え隠れする『陰謀』という氷塊。
どうやら水面下の根はスヴェンの思っていたより深くて重い。 

運命とは個人の選択である程度操作できるも結局は先が見えない双六、『あがり』まではサイコロの目次第で鬼と出るか蛇と出るかわからない。

次回予告:
『虐殺の皇女に向けて準備する』

スヴェン、火中の栗を拾って火傷する覚悟はあるだろうか?




ノネットさん、マジ尊敬できるような男前性格していて書きやすかったです。


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第52話 虐殺の皇女に向けて準備する

お読みいただき、誠にありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです!


「……………………」

 

 クロヴィスランドに行ってから数日後、アッシュフォード学園のクラブハウスでいつになくルルーシュは考え込んでいた。

 

 黒の騎士団の活動が軌道に乗って日に日に勢力を増していく中、一つの小国が持つ『軍』に近づくにつれて業務は増えていくばかり。

 

「(やはり、俺が『ゼロ』として活躍している間の『騎士』が必要になるか。)」

 

 彼がそう思いながら見たのは最近、傍を離れがちになっていたナナリーだった。

 

「(このまま行けば、俺がナナリーを護れなくなる時がいずれ来る。 いざというときに身を犠牲に出来、彼女を護れる存在が必要になる。)」

 

 その際、彼の脳裏に浮かぶ候補たちを次々と思い浮かべては様々な来るべき状況や条件にはめては落としていく。

 

 最後に残ったのは()()

 

「(やはり、この二人になるか。 だが最後の条件……『その人間にとってナナリー一人が生きる目的に成り得る』となると……やはりスザクに軍配が上がるか。) ナナリー、少し聞いていいかい?」

 

「はい? 何でしょうお兄様?」

 

「ナナリーは、“共にいたい”と思っている人物は今いるかい?」

 

「唐突ですねお兄様。 でもそれは昔から変わっておりません。 お兄様以上の人です♪」

 

「……そ、そうか。 そうだったな。 でも、俺以外とだったら誰かいるかい? 例えばその、スザクとか?」

 

「スザクさん? 好きですよ? でもやはりお兄様の方が好きです。」

 

「……そうか。」

 

「変なお兄様♪」

 

「(やはり、一刻も早くナナリーが幸せになれる世界を作らねば! だが、『保険』は必要だ。)」

 

 その後彼は携帯でスザクへメールを送る。

『今度大事な話がある』、と。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 別の場所で、黒の騎士団アジトの一つであるビルの地下駐車場でルルーシュはゼロとしてインド軍区からの来訪者たちを迎えていた。

 

「ふぅ~ん、あんたがゼロね? よろしく。」

 

 キセルを持ち、白衣を身に着けた女性があまり興味なさそうでルーズな口調で喋りかける。

 

「こちらこそ、ラクシャータ。 君のことは()()からよくネットで拝見していたよ。」

 

「以前?」

 

「医療サイバネティック関係の記事を、すこし。」

 

 実はというと不自由な体になったナナリーの為に、ルルーシュが治療法などを漁っている時にラクシャータの事を知ることとなったが、まさか彼女がナイトメアの開発に転じていたとは思っていなかった。

 

「君の教授の事は残念だったが。」

 

「ああ、マッド教授ね。 アイツなら『自殺』なんて絶対してないわよ。」

 

「なに?」

 

『マッド・カニングハム』、通称『マッド教授』。

 その昔、ロイドやラクシャータにセシルの先生ともいえる存在で教授をやりながら科学者と技術者でも『天才』と言われていた。

 

 そしてその頭脳を買われ、当時で様々な『最先端技術』とされていた物の開発に加わっていた。

 

『ガニメデ』もその一つだった。

 

 学会でも見境なく実験や課題を出しては『変人』として有名だったが、すでに金食い虫であるアッシュフォード家のガニメデに新たな技術をアインシュタイン博士と共に発表したことでついに笑われ者に。

 

 即ち、『サクラダイトを胚性幹細胞(はいせいかんさいぼう)化して人型機動兵器(ガニメデ)に転用する』といったモノだった。

 

「あれだけ笑われても、各国の上層部を無視したり反対したりで開発予算を削減されても、周りから腫物扱いされても、頭を撃たれても諦めなかったんですもの。 案外、どこかでしぶとく生きて研究続けているんじゃない? ゴキブリのように?」

 

「そ、そうか……(まぁ、未だに『行方不明』でなければスカウトはしていたのだが……先生相手でも『ゴキブリ』呼びか。)」

 

「あ! それよりさぁ! アンタがこの間送った血液サンプルの結果なんだけど? 一つは平凡なブリタニア人の血液だったわよ。 あとで結果を送るわね。」

 

「ほぅ……(これであの現場にいたのがブリタニア軍、それもスザクが俺の正体を知らなかったことで正規軍とは違う系統のモノだと絞れた。)」

 

「んでその……もう一つなんだけどさぁ……『ノーマッチ(適合者無し)』と返って来たんだわ。」

 

「……は?」

 

 ルルーシュが呆気に取られ、それを思わず口に出してしまう。

 ラクシャータは元々医療に携わっていたことで、そっち方面のコネもかなり手広い。

 よって以前、ゼロの仮面が取られて素顔が見られた日に採取したサンプルを彼女に送って検索結果を待っていた。

 

 そしてその結果の一つが『ノーマッチ(適合者無し)』と返ってくるのは現代で『不可能』、『意味不明』、『ほぼあり得ない』ことだった。

 

 特に科学技術が飛躍的に進歩したこの世界では。

 

「まぁ、それは別として私個人でまた血液のデータを見たんだけれど、()()()()()()()こと見つけたからアンタにも渡すわ。 あ! そんなことより私の子供に変なパーツを取り付けた奴はどこ?!」

 

「は?」

 

 本日二回目の呆気に取られたゼロの声が出てしまう。

 

「(『私の子供』? 何を言っているんだ、この女は?)」

 

 

 


 

 

 俺が珍しくゼロから呼び出されて『整備班のスバル』として来ると、紅蓮弐式の追加パーツとキョウトによって新しく開発されたナイトメアフレームがあった。

 

「(第7世代……に近い第6世代KMF、『月下(げっか)』か。 やはり来たのか、ラクシャータ。)」

 

 通りで毒島達にキョウト(桐原)が無頼改を月下並みにスペックアップするパーツを送ったわけだ。

 

 Type-03、通称『月下』。

 ラクシャータがキョウトに依頼されて開発した、コードギアス一期の時点で『黒の騎士団側のグロースター』と言っても過言ではない性能を持つ量産を視野に入れた機体だ。

 

「ね、ねぇスバル?」

 

 そして近くではアニメで見たことのあるカレンの姿があった。

 

「この、キョウトから送られた新しいパイロット用スーツの事なんだけれど……」

 

 正式にゼロの親衛隊とも呼べる『ゼロ番隊』になってからよく見るようになったカレンの姿がそこにあり、思わず『おおう……』と息を吐きだそうになる。

 

 アニメで見たが、生で見るとカレンの赤いボディー(ぴちぴち)スーツは破壊力抜群だ。

 いやはや出るとこは出て引き締まっている所はさらに引き締まってクッキリとボディラインが出て……

 

 ウホホホホホホホホ♡

 ポーカーフェイスに感謝!

 

「どうした? 何か不具合でもあるか? さっきからモジモジしながら殴りかかろうとしていないか?」

 

「あ、いやその……『ちょっと恥ずかしいな~』と思って。」

 

 ご尤も。

 俺もアニメを客観的に見ていたときは『おお、スゲェ!』とファンサービスに興奮していた(と思う)が、いざリアルとなると正直目のやり場に困る。

 

 だが取扱書を読んだら、このデザインにはちゃんとした理由があった。

 前世で見た設定資料にもなかったっぽいから感心はしたので、それをカレンにも分かって欲しいところだ。

 

「……“慣れろ”、と他に言いようが無い。 さっきも見たがかなりの性能を誇っているスーツだ。」

 

「え? そ、そうなの?」

 

「ああ。 そのスーツには光ファイバーを使った電気紡績技術が使われている。 スーツ内には各種センサーも埋め込まれて、各部位の損傷や出血量に反応して痛み止めと止血の性能も備わっている。 体にフィット感気味になっているのはそれだけではなく、体内の各臓器を圧迫して機能促進と保護も図っている。」

 

「ほぇぇぇぇぇぇ……」

 

 カレンが口をポカンと開けて感心の息を吐き出す。

 

 俺もびっくりだよ。

『流石ロイドと同じレベルのラクシャータ』てか?

 

 「今スバルが何を言ったか分かんないけれど、要するに『凄い!』ってことは分かったよ!」

 

 おい。

 

 この熱血(脳筋)ヒロインが!

 

「アンタかい? ウチの子に手を出した奴は?」

 

「「は?」」

 

 俺とカレンが同時に声を出してみたのはこめかみをピクピクさせていたラクシャータだった。

 

 うっわ。

 リアルだとスッゲェ露出と恰好。

 

「こっちに来な!」

 

「へ?! ちょ、ちょっと?!」

 

 うごごごごご?!

 何ラクシャータさん?!

 なんで俺の襟をつかんで────って力強い?! 声が出せない?!

 

「待て。」

 

「ん? 誰だいアンタ?」

 

 ええええええええええ?

 と、藤堂鏡志朗?!

 な、なんで黒の騎士団にいるの?!

 確か原作だと、四聖剣を逃がす為に捕まったんじゃなかったの?!

 ユーフェミアの『私の騎士は枢木スザク准尉です!』宣言の後に合流していたでしょアンタ?!

 

 

 ここで短く説明すると、スヴェンの行動によってナリタで大打撃を受ける筈だった日本解放戦線は余力を残したことで、一部が無事に海外へと脱出しもう一部が藤堂たちを支援するために大多数の希望者が残った。

 これにより藤堂たちはブリタニアから逃げられたものの、彼ら五人の為にエリア11に残った日本解放戦線は全滅してしまった。

 

 

「君が技術者のラクシャータ殿だな。 月下、感謝する。 だが君同様に私もその者に用が────」

「────あっそ。 じゃあアポ取りなツンツン剃り込み頭の軍人さん。」

 

「「……………………」」

 

 な、何で藤堂とラクシャータが睨む羽目にッ?!

 

「あ、あの! ラクシャータさん!」

 

「あん? あんたは確か……紅蓮ちゃんのパイロット?」

 

「あ、はい! ちょっと紅蓮の輻射波動で詳しいことを聞きたいのですけれど……」

 

「お! いいねぇ~! そんなパイロットだったなんて、気に入ったよ!」

 

 ラクシャータが俺を話してルンルン気分でカレンの方へと歩きだし、カレンと(ヘルメットのバイザー越しの)俺がアイ(視線)コンタクトを取る。

 

『すまん、カレン。』

『いいってことよ。』

 

「……さて。 『スバル』だな。 少し君と話したいことがある。」

 

 あ、今度は藤堂が。

 

 カレン様、コッチモおたすけぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 

 俺が藤堂と四聖剣に連れてこられたのは黒の騎士団アジト……の外でも人気のない倉庫だった。

 

 なんかヤな予感。

 

「仙波、千葉、朝比奈、卜部。 お前たちはここまででいい、人払いを。 近辺の警戒に当たってくれ。」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

 滅茶苦茶ヤな予感。

 

 それでも藤堂の後をついていくしかない俺が更に倉庫の中へ入っていく────

 

 シュラン!

 

「フゥゥン!」

 

 ────と藤堂が抜刀して突きを繰り出したもう勘弁してイヤやぁぁぁぁぁ!!!

 

 ギンギンギン!

 

 藤堂の三段突きを俺は整備中の為に未だに持っていたレンチで受け流してから距離を取る。

 

 毒島の時にこれを見ていなかったら確実に────ふぉぉぉぉぉ?!

 

 う、腕がジンジン痺れるぅぅぅぅぅ?!?!?!

 レンチも滅茶苦茶にぃぃぃぃ?!

 

≪……フ。 腕を上げたようだな、()。≫

 

 あ゛。

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!

 

≪日本侵略後、君のような者が死んだとは思えなかったが……まさかこのような形でまた再び出会えるとは思わなかったよ……って頭と腹を抱えてどうした?≫

 

 んくくククく……

 

 久しぶりの日本語で俺に喋ってくる藤堂だが……俺は思わずパブロフ(対毒島)反応してしまった自分に腹が立つと同時に胃が痛みだした。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

≪落ち着いたか?≫

 

≪は、はい。≫

 

 あの後、心配する藤堂に背中を擦ってもらって落ち着いた。

 

『見た目とのギャップ感のあるキャラ、意外とコードギアスに多いな~』と思いながら藤堂に今の俺の状況を(お助けサークルやギアス関連以外)サラサラ~っと日本語で説明した。

 

≪なるほど……しかしよく英語と日本語の使い分け方を思いついたな? まさかと思っていたが、あの『昴』を『スバル』と使い分けるとは。≫

 

『前世のゲームとかからです!』とは言えないので、ここは安定のある答えにしよう。

 

≪結果的にそうなっただけです。≫

 

≪ふむ、そうか。≫

 

≪……詳しく聞かないのですか?≫

 

≪君が話したい時で良いさ。 しかし、まさかナオトくんが……惜しい人を……≫

 

 うん……そうなるね。

 

≪道理で君は整備士に徹しようとしているわけだ。 優しいな。≫

 

 ……どゆこと?

 

≪……私は、そんな大した者じゃないですよ。≫

 

≪ゼロとは違う道を歩もうとしているのにか?≫

 

≪それは……え?≫

 

≪桐原殿から聞いたぞ、君は『保険』を設立しているそうじゃないか。≫

 

 桐原のじっちゃ!

 なに言いふらしていんの?

 毒島に『無視しろ』言うぞ?!

 

≪それに君のおかげで、片瀬少将が逃げおおせたと言っても過言ではない、礼を言う。≫

 

 ……………………………………んあ(なん)やて?

 

≪そこでだ。 私に何かできることは無いか?≫

 

 まさかの藤堂自ら申し出?!

 しかも片瀬が生きている?

 え?

 これ、夢?

 現実?

 

 ほっぺつねってもらっていい?

 

≪それはそうと、そのヘルメットを取ったらどうだ? 暑苦しいだろう?≫

 

≪あ、いえ、これはえっと……ビックリしないでくださいよ?≫

 

 俺がヘルメットを取ると藤堂の目が冷たい怒りに満ちていく。

 

≪……………………そうか。 それが君とカレン君の戦う────≫

≪────違います。 これは一応……()()()()()()()()だけです。≫

 

≪ほぉ、これは中々……実際に尋問を受けていなければ到底再現できないものを?≫

 

『漫画で見ました』とは言えない。

 そもそもこの世界、『NARUT〇』ないし。

 話をそらそう。

 

≪えっと……藤堂さんの申し出は大変ありがたいのですが、()()ゼロの指揮下で動いてください。≫

 

≪そうか?≫

 

≪ええ、こちらはこちらで()()()()()ので……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。≫

 

≪フ、そこまで成長していたとは……9年前の種が芽を出したか。≫

 

 なんかしみじみとしながら微笑する藤堂かっけぇ……

 こう、『男の中の男』的な。

 

 

 ちなみにこの後ヘルメットをかぶり直して戻った俺に、カレンが助けを求めてラクシャータにパイルバンカーの事を根掘り葉掘り聞かれた。

 

「火薬ぅぅぅ?! そんな時代遅れの骨頂品であのプリンのMVSやブレイズルミナスを破ったですって?! アッハッハッハ! こりゃ傑作だよぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ラクシャータ殿、露出いっぱいの乙πが吾輩の首にむ二むにむニむニむ二むにむニ。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ど、どう? 何か分かった?」

 

 あれから更に数日後、俺は更に『CC細胞の検証』をしている所にアリスがそう声をかける。

 

「そうだな。 俺との物理的距離でも効果はあるが、やはり接種が一番効果的のようだな。」

 

「せ、せ、せ、接種って……」

 

 ちなみにユーフェミアが美術館のオープニングセレモニーで来ていた記者たちの前で『枢木スザクを騎士に任命します』と宣言した時近くにいたクロヴィスは顔を真っ青にして愛想よい笑みを浮かべながら気を失っていたな。

 

 あとスザクの叙任式は無事に終わったらしい。

 な~んか厳し~い睨みをした、いかにも『自分はここに居たくない!』空気を出すコーネリアがいつ暴走するのかハラハラしながらテレビを見ていたと生徒会の皆が言っていたけれど。

 

 一階ではスザクの叙任式をアッシュフォードで祝っている声が聞こえてくる。

 それにミレイの婚約者、ロイド・アスプルンドも来てリヴァルが真っ白に燃え尽きたのを見て即座に個室へと戻った。

 その時ルルーシュは放心していたな。

 多分、アレだ。

『ナナリーの騎士にさせる筈のスザクがユーフェミアの騎士になってしまった』から何かだろ。

 

 それは別に置いておくとして、今は特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)だ。

 大至急、彼女らを『虐殺の皇女』誕生前にどうにかしないと今考えつつある大まかな作戦に支障をきたす。

 

 だが見れば見る程、やはり近くにいることでCC細胞の活動はどうやら『停滞』、あるいは『中和』されるがその速度は遅い。

 

 マオ(女)の例からすると『距離』で(ギアス)を使ってもCC細胞の活性化(痛み)はないし、浸食もない。

 だが最終的に『完治』までは程遠い。

 

『ほぼ完治』になりつつあるアリスの場合、『接種』は『距離』の数倍は効果があったが近くに居なければ(ギアス)を使うとCC細胞の活性化(痛み)と浸食も再開する。

 

 この二つの例からやはり、一番は『距離』と『接種』両方が手っ取り早いか。

 

 ちなみに変な妄想はしないでくれ。

『接種』といえば、俺の血を元に作った輸血用パックに詰めた試作品のことだぞ?

 しかもリンゴ味。

 

「やはり……アレしかないか。 アリス。」

 

 名前を呼ぶと何故か彼女が気まずそうにびくりと身体を強張せる。

 

「頼みがある。」

 

「な、なによ?」

 

()()()()()()()()?」




鉄の機械が走る、手に持つ兵器が吠える。
機銃がう唸り声をあげ、ミサイルが弾け、鉄の腕が吹き飛ぶ。

戦火の向こうに待ち受けるゆらめく影は何だ?
今こそのろしを上げる陰の部隊。

次回予告:
『神の島』

ついに、牙城を撃つか?



と言う訳で式根島です……カオスです…… (;・∀・)


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第53話 神の島

キーボードが止まらなかったです……

お気に入り登録や感想、誠にありがとうございます! (シ_ _)シ

全て活力剤と励みとしてありがたくいただいております!

少々長めの次話となりましたが、楽しんでいただければ幸いです!

*注*最後の方で少々残酷な描写が出ます。


『式根島』。

 ここは数ある東南アジアの島の中でもさほど重要な拠点ではなく、更には戦略拠点でも何でもないので重要度が低い。

 

 だというのに『“中継地点にする”という事で皇帝シャルルがシュナイゼルに命じてまでブリタニアの基地を設置させていた』以外は何の変哲もない島である。

 

 取り柄があるとすれば同じような島としては珍しくもない蒼い空に浮かぶ白い雲、地平線まで続く青くて透き通った海、そして純白を思わせるほど真っ白な砂浜。

 

 噂では『皇帝シャルルが何時か隠居なさる時に取っておいた個人海水浴場所』とかがもっぱらの噂なほど『人の手が付けられていないような島』。

 

「(海水浴で訪れていたなら、どれだけ良かっただろうなぁ~。)」

 

 スバルはそんなことを考え、遠い目をしながら海岸沿いを座りながら眺めていた。

 

 遠い目をしている理由は、別に己が言葉足りずのままアリスに『死ぬ覚悟はあるか?』と言って即座に『お前が死ね!』と返されたり飛び蹴りを食らったことでも、その際に『あ、テンプレのシマパンだ』と考えてしまった自分でもなかった。

 

「(なんで『アマルガメーションユニオン』で『ディーナ・シー』なの?)」

 

 スバルはインド軍区のマハラジャから黒の騎士団が入手した潜水艦で来た……のではなかった。

 

「(いや、ドストレートに『アマルガム』とか『トゥアハ・〇・ダナーン』とかじゃないだけマシだけれどさぁ~? あれ? やっぱ『アマルガメーションユニオン』の略が『アマルガム』になるよね?)」

 

 そう思いながら彼が再び見るのは彼方まで続く海の、また向こう側で水中深くに待機していると思われる、彼の『黒の騎士団お助けサークル用』としてキョウト(桐原)が提供した潜水艦だった。

 

 そのことを毒島から聞いたスバルは『なんでやねん?!』と叫びそうになったが、その同じ日に黒の騎士団でミラクル八極拳使いブリタニア人のディートハルトの情報で『式根島イベント超忘れていたぁぁぁぁぁ!』とセルフツッコミを入れながら、結局ありがたくその潜水艦を使わせてもらう事にした。

 

 乗組員たちに関しては、完全に『毒島』のSP(というか門下生? 『ヤ』の付く怖い人? 取り敢えず忠義がカンストしている者)たちで埋まっていた。

 

『『『『お嬢のためならば腹をかっさばいても良いです!』』』』らしい。

 

「(いや、もう……あまりにも日本令嬢っぽい毒島との違和感が無さ過ぎで受け入れたよ。)」

 

 なお『冴ちゃん(ラブ)』という登録名を潜水艦のデータベースから消して名前を再入力する事からことは始まった……

 

 

 


 

 

「そう言えばおじい……()()殿()が聞いてきたぞ? 『組織名はなんだ?』って。」

 

「(あ。 あー、考えていなかった。 『黒の騎士団お助けサークル』……は流石にダメだよな?) お前たちには、何か案があるか?」

 

 まるでスヴェンが聞くのを待っていたかのようにアンジュリーゼが元気いっぱいに自己アピール答えた。

 

「あ、『ダイヤモンド騎士団』なんてのはどうかしら?! ほら、強そうじゃない!」

 

却下。 (アンジュリーゼお前、中身は高城沙耶(サリア)か何かなの?)」

 

 しょぼーんとしながら『の』の字を書き始めるアンジュリーゼの次に口を開けたのは毒島だった。

 

「『ブリタニア絶対壊()隊』はどうだ?」

 

「……却下。 (お前、レディース願望もっているの? 確かに特攻服が滅茶苦茶似合いそうだけれど……あとで提案してみるかな?)」

 

 却下された毒島は昴に知られず、そのままアンジュリーゼの隣で同じく『の』の字を書く。

 

「『滅却師団』なd────?」

 「────アウト。 (ぶっちゃけ過ぎ! 本当に転生者じゃないの君ィィ?!)」

 

 マーヤもアンジュリーゼたちに加わるどころか『“〇刀乙』状態となり、今度はマオーズ(マオ(女)&マオ(男))たちへと選手交代。

 

「『ムラクモ部隊』はどうかな、お兄さん?」

 

「…………………………………………………………………………」

 

「え? な、なんで何も言わないのお兄さん?」

 

 「(お前はどこぞの『ユニット完成体』かッ?! 三つ編みポニテを決めてから出直して来いやぁぁぁぁ?!)」

 

 なんとも言えない表情のまま、スバルは今まで一番のツッコミを内心入れながら静かに眼帯白髪少女(マオ(女))からマオ(男)に視線を移す。

 

「ここはもう、『CC────』!」

「────一番危ない名前を付けるつもりはない。

 

「ええええぇぇぇぇ?」

 

「(“ええぇ”、じゃねぇよマ()。)」

 

「じゃあ兄さんは何を提案するのさ?」

 

「(う、うーん。 やっぱり『ミス〇ル』はダメだよな?) ……アマルガメーションとかユニオン?

 

 この何気ない上辺の独り言で毒島達全員が反応して、一人一人が頷く。

 

「なるほど、『様々な金属の溶け合い(アマルガメーション)』か……」

 

「『ユニオン』は人種も出身もバラバラな私たちにうってつけだな。」

 

「それにブリタニア人の蔑称、『ブリキ』と『帝国』を皮肉に取るとは……流石です!」

 

「(なんか盛り上がっている。)………………………………俺は“モミアゲを生やす気はない”とだけ言うぞ?」

 

「「「「モミアゲ?」」」」

 

 スバルの言葉にアンジュリーゼ、マーヤ、マオーズたちが首をかしげ、毒島が話を進める。

 

「……こ、今度はこの潜水艦にも名前を付けなくてはならないな?」

 

「『ディーナ(Daoine)シー(Sidhe)』なんてはどうだ? (『トゥアハ・〇・ダナーン』繋がりで。 もうどうにでもなれ。)」

 

「……『アイルランドの英雄妖精』、のことですわね?」

 

「確か『イタズラを行う、自然を操る、他者を治療する、妖精にしては珍しく人間と集団生活などを行う』などの……」

 

「(アンジュリーゼ、マーヤ……今のお前たちがちょっと怖いヨ。)」

 

 まさかのまさかでスバルは自分の思い付きの元ネタを二人が知っているとは思わなかった。

 

 無論『潜水艦(ディーナ・シー)』と『秘密結社(アマルガメーションユニオン)』(通称『アマルガム』)だけでなく、新しい装備や機体も送られてきたが、あとに詳細を記入するとしよう。

 

 現在、スバルはゼロからエリア11での待機をこれ幸いにと黒の騎士団とは別行動を取っていた。

 

「(やっぱり、ラクシャータという生粋の技術者と彼女と一緒に来た整備班が来たからには、俺のような意味不明な奴(不穏分子)遠くに(左遷)したいのだろう。)」

 

(ジャン)、小型無人機に反応。 読み通りに来たぞ。』

 

「了。 (早速『象棋(シャンチー)』にちなんだコードネームを使うのか、毒島は。)」

 

 スバルは立ち上がり、自分の新たに送られた機体へとため息をしながら乗り込む。

 

「はぁ~……(さて、任務開始(ミッションスタート)だ。)」

 

 スヴェンはこれから式根島を襲撃するはずの黒の騎士団の攻撃に便乗し、()()()()()()()()()()()()()をすることに胃を既に痛めていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ロイドさん、どうして式根島なんですか? トウキョウ租界の方が安全なのに……」

 

「私も教えて欲しいのですけれど?」

 

 スヴェンのいた場所から離れた式根島駐屯地の軍港で立っていたスザクとセシルがニマニマするロイドに上記の質問を投げる。

 

「ん~? ンフフ、奇遇だね二人とも! 僕も知らな~い♪」

 

「は?」

 

「ただ『迎えに来い』とだけ送られたからねぇ~。」

 

「それにしてはうかつ過ぎませんか? 今日の行動予定がネットに上がっているみたいですし……」

 

「まぁいいんじゃない? 僕だってこのあいだ面白い子がアッシュフォードに居たんで、ついサービスしちゃったように────?♪」

「────それがなぜ悪いアイデアだったかもう一度教えて差し上げましょうか? (ニッコリッ。)」

 

「エンリョシマス。」

 

「フ、相変わらずだな二人とも。」

 

 セシルとロイドのやり取りをマッドがニヤニヤしながら口を開ける。

 

「あは♪ まぁ~ね? なんたって、あの頃から大事な後輩だから────♪」

「────ぅえ?! ロ、ロ、ロイドさん? それって────?」

「────何せ文句言わずにボクのフォローをするからね♪」

 

「………………………………アプォ。」 ←何とも言えない表情のセシル&裏声

 

「んで~? 教授がな~んでここにいるのかな~?」

 

「今日出迎える方が、直々に指名されたのでな?」

 

「ん~! 僕たちもだよ♪」

 

「ハァ~……」

 

 セシルがため息を付きながらも、マッドとロイドの間はピリピリとする。

 

「皆さん、司令部の休憩室でお待ちになられますか?」

 

「ここに入港するそうなので、私はここで待とうかと思います。」

 

 ブリタニアの士官らしき男の言葉に、ユーフェミアが答えると遠くから爆発音が響き渡る。

 

「……な、なんだこれは。 司令部! ……ジャミングだと?! それに、これは?!」

 

「え────?」

「────ご安心ください。 ユーフェミア様の事は自分が守ります。」

 

「……いえ、あなたは司令部へ向かい援護してください。」

 

「(……なるほど、功績を積み重ねて僕の名をあげるのか。)」

 

 急展開にあっけにとられたユーフェミアにスザクは間髪入れずにそう申し出ると意外な返答が返ってくるが、彼女の言葉の裏をスザクは察する。

 

「んじゃ、私も参戦していいかね副総督?」

 

「エニアグラム卿……お願いします!」

 

「よっしゃ! ロイド、『アレ』をこのまま使わせてもらうぞ?」

 

「あは♪ エニちゃんなら良いデータが取れそうだね♪」

 

「ロイドさん?!」

 

「はっはっは! 私なら構わないさセシル!」

 

「ユーフェミア皇女殿下。 どうか、私の特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)にも参戦許可を。」

 

「ではマッド大佐もお願いします。」

 

「イエス、ユアハイネス! (ククク。 ロイド、じっくりと貴様の作品を解析させてもらうぞ。)」

 

 これにより原作での特派のスザクに加え、ノネット・エニアグラム卿とマッドの名誉外人部隊(イレギュラーズ)も参戦することとなった。

 

 スザクはランスロットに搭乗し、攻撃を受けていた司令部へと直行する。

 

 マッドの部隊戦力であるGX01タイプもパイロットたちは中で待機していたのかすでに動き出す。

 

「さぁて! いくか!」

 

 ノネットは高らかにそう宣言しながら今までで見た機体の中でも特にランスロット似の機体に付いたランドスピナーを走らせ、迂回するようなルートで司令部へと森の中を進む。

 

『……行くぞ。 ルクレティア、ダルク、アリス。』

 

『『『了解。』』』

 

 まるでノネットの機体を追うかのように四機のGX01が森の中を移動しその後ろからマッドは装甲車を強引に走らせる。

 

「(寄せ集めのパーツで作った『クラブ』とやらか。)」

 

 ノネットが操縦しているランスロット似の機体、『ランスロット・クラブ』。

 

 見た目が殆んどがランスロットと同じだが、パッと見て変わっているところといえば金色の部分は青になっていて頭部の角が一本になっているところか?

 

 これはコードギアスのゲームである『ロストカラーズ』で登場したオリジナル機体で、サザーランドをベースにランスロットの予備パーツや試作部品をロイドが無理やり付けて組み上げた機体だが、その性能は元祖ランスロットにも引けを全くとらないほどである。

 

 始め、敵のチームに『ランスロットモドキ』があったのをマッドは『クラブ用のパーツが横流しされた』という疑惑を持ってロイドの特派に抗議したことも、ランスロット・クラブが関係していた。

 

 何せその機体は『試作機』ということでロイドはほったらかし死蔵させていたモノ。

 マッドが欲しくなくないワケがなかった。

 だがまさかラウンズであるノネットが自分用の機体として乗り回していたのは誤算だった。

 

「(ともあれ、データはこちらとしても活用できる。)」

 

 そう思いながらマッドは装甲車を走らせていると、前方で爆発が起きるのを見る。

 

「む!」

 

 ノネットは遠距離からの狙撃を躱しながらも突撃する。

 

 緊張で速くなる胸の鼓動とは裏腹に、より一段と冴えわたる知覚に身を委ねて。

 

「ほぉ! これがマッド大佐の言っていた『ランスロットモドキ』共か!」

 

 マッドが見たのは以前のような『ランスロットモドキ』が数機、そしてノネットの突進に合わせるかのように前進してくる一体の()()()()()()()機体だった。

 

 

 


 

 

 マズイ。

 

「全機! あの青兜は俺が相手をする!」

 

『『『(ジャン)?!』』』

 

 あれはマズイ。 俺の中の警報(本能)がそう直球に伝えてくる。

 

『こちら(毒島)、了解した! ここは(スバル)に任せ、我々は作戦を続行する!』

 

『こちら(マーヤ)、了解した! GX01シリーズを引きはがします!』

 

(アンジュリーゼ)。 (スバル)援護は?』

 

「必要ない! 手出し無用! 出したら死ぬと思え! 他の奴らは(毒島)の指示に従え!」

 

 アレが『ランスロット・クラブ』と分かってから、俺は思わず相手を引き受けた。

 

 いや、()()()()()()()()()()()()といった方が正しい。

 

 もし中の奴が俺の()っている通りの奴なら、よく見積もっても『()()()使()()()()()()()()()』といったところ……かもな。

 

「『試作型蒼天』の機動に持ってくれよ、俺の身体!」

 

『試作型蒼天』。

 キョウト経由で月下や『ディーナ・シー(潜水艦)』と共に送られた一機の機体で、赤ではなく青い紅蓮と月下の中間の姿をした機体の正式名でそれにスバルは乗っていた。

 

 これは以前、スバルはランスロットのデータを売った際に少なからず自分の操縦データも送ってしまったことでラクシャータの技術者魂に火がついてしまい、紅蓮弐式の開発と並行に『デタラメ機動をする(命懸けでランスロットから逃げた)パイロット』の操縦データを元に急遽作られた機体……の試作機らしい。

 

『以前ランスロットのデータ送ったお返しだよん♪ 神虎(シェンフー)のパーツとかを応用しだけの急造だから、生きていたら感想を聞かせてネ♡ -byラクシャータ』というメッセージを見たスヴェンはキリキリ胃を痛めながらも『試作型蒼天』の最終調整を急ピッチで()()()()()()()()()()使()()()()に抑えられた。

 

神虎(シェンフー)ってスペックだけを追求したモンスターマシンだろうがぁぁぁぁ?!』と愚痴を(内心で)零しながら。

 

 余談だが、『神虎(シェンフー)』とはラクシャータのチームが作り上げた『現在で追及できる極地のナイトメア』の名称で実に17名のテストパイロットを過激なまでの機動力で発生されるGで殺し、並の人間では制御さえ不可能な代物である。

 

サシ(一対一)かい……いいねぇ~! その度胸、気に入ったよ!

 

 ノネットは殆んど後先を考えていないような速度で、一気にスバルとの距離を詰める。

 

 さて、『ノネット・エニアグラム』。

 彼女は昔コーネリアの指南役や士官学校時代の先輩でもあり、神聖ブリタニア帝国皇帝直属の護衛騎士『ナイト・オブ・ラウンズ』の『ナイト・オブ・ナイン』でもあり、その肩書きに負けない実力者でもある。

 

 ランスロット・クラブはそのピーキーなまでの性能のおかげで、出来る限りエナジーを消耗しないように、遠距離武器を極力搭載していない。 あるとすれば実弾を使う対空機関銃と、今はまだ完成していない用途が切り替え可能な可変型のライフル。

 

 だがノネットはそもそも接近戦を得意とし、彼女はあまり好きではないが『閃光の再来』という二つ名と密かに裏口で呼ばれている。

 

 これは勿論、かつても今も『最強』と謳われている『閃光のマリアンヌ』にちなんだ名だった。

 

 だが────

 

「早い?!」

 

カッ?! 殺人的な、加速だッ?!」

 

 ────スバルには試作型蒼天に加え、(自称)神様からもらった特典もある。

 

 彼はぶっつけ本番で『“時間”に意味はない』と理論上の調整をした試作型蒼天を同時に使ってみたが、想像以上の負担が彼を襲って思わず吐き出して空っぽになった肺に酸素を無理やり戻すために意図して息を吸い込む。

 

 今までの機体を彼は特典使用中に全力で動かしても、後の反動はそれほど酷くなかったが試作型蒼天は違った。

 

 そして彼は思わず、どこぞの中の人が『不可能を可能にする男』から『仮面をした男』にクラスチェンジした時の名言と同じことを言ってしまう。

 

 それもそう、試作型蒼天は元となっていた神虎(シェンフー)と同じように開発当時の最先端技術で『実現可能な最高性能を目指す』をコンセプトに設計されており、搭乗するパイロットにかかる負荷やその命を守る為の対策が全く考慮されていなかった。

 

 カレンたちに支給されたパイロットスーツも、実はこれ等の教訓からラクシャータたちが(渋々)勅命を受けて医療時代の知識を使って作られた『パイロットの生存率を上げる』ものだった。

 

「(ライダースーツじゃなきゃ、内臓をぶちまけていたぞ?!)」

 

 なお、余談だが何故スバルが今までライダースーツを着込んでいたのかもここで少しだけ触れよう。

 

 ライダースーツは基本『汚れにくい』、『耐久性もよい』、条件付きで『それほど目立たない』。

 そして後に来るであろう過激な操縦の際に起こる機動の反動や臓器が揺れ動いて起こすヘルニアの防止なども視野に入れていた。

 

「(こんなことなら、ちゃんとしたパイロットスーツに着替えていればよかった!)」

 

 そう思いながら、スバルにとって『ナイトメアを使って生死を賭けた鬼ごっこ』第三段が始まった。

 

「アッハッハッハ! ここまで逃げれるのはちょいと意外だけれどこれはこれで────!」

「────グッ! グガ、グィィィィ?! シィィィ!!! (やはり俺が相手をして正解だった。 『特典アリ』でもう既に、対処を?!)」

 

 スバルは自分の体を力ませて無理やり崩れそうになる(骨格)を維持させるためにがっちりとかみしめた口から思わず息を吐きだしては息を無理やり素早く呑む。

 

 ノネットのランスロット・クラブは、スバルの試作型蒼天といい勝負……というよりは若干優勢だった。

 

 戦闘経験が豊富にある彼女は故意か無意識にか、スバルの機体が移動の際に出す予備動作で彼の次にいる場所を予測し、そこに攻撃を入れてスバルを追い詰めていった。

 

「(流石は! スザクを負かした奴だ!)」

 

 そう。 スバルが焦る理由の大部分は『それ』だった。

 コードギアスの『ロストカラーズ』でランスロット・クラブの操縦者は公式チート人間でもあるスザクに勝っているのだ。

 

 ()()()()(苦戦はしたが)生身でも、ナイトメア戦でも。

 

 ビィィ!

 

「チッ!」

 

 だが焦っていたのはノネットも同じだった。

 

 ランスロット・クラブはランスロットのパーツを使った機体だが()()()()()()を基にしてある。

 

 つまり上記でも言ったようにエナジー消耗が激しく、通常のランスロットの約15倍ほどエナジーを使う。

 

「「(このままじゃ! 負ける?!)」」

 

 そう思うスバルとノネットだった。

 

 スバルは自分の見誤りと調整のし終えていない新品同然で慣らしが終わっていない機体とぶっつけ本番に特典。

 ノネットはいまだに試作機同然で実戦向けにチューンされていないピーキーなマシンで最初の数分でカタをつける予定が狂っていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(ぬぅ……おかしい。)」

 

 マッドは()()()を覚えながら双眼鏡越しに見ていた。

 

 見ていたのは肝心のランスロット・クラブ……ではなく己の特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)と彼女たちが相対していた『ランスロットもどき』を操る敵ギアス(仮)チームだった。

 

 二つのチームはぎりぎりの末にせめぎ合いを続けていた。

 はたから見ると両者のどちらでも優勢になっていなかった様に見えていた。

 

 だがそれ故の()()()だった。

 

「(……以前より敵のチームの連携が上がっている? それともこちらに()()が付き始めているのか? ……ならば────)────GX01a(アリス機)GX01d(ダルク機)GX01s(サンチア機)GX01l(ルクレティア機)。 CC細胞抑制剤の中和使用を許────」

 

 ドゥン!

 バリン!

 

「────かフェェェ?!

 

 おなかに来るような重い小規模な爆発音とともにマッドがいた装甲車の分厚いガラスを何かが貫通し、そのままマッドの顎をほとんど吹き飛ばす。

 

「? ??? ????? (な、なんだ今のは?! 特殊加工ガラスを貫通しただと?! ロケット弾でやっと穴が開く程度の?!)」

 

 ドゥン!

 

 何とかだらりとする顎()()()()()と舌を両手で押さえてマッドは目を白黒させながら思わず立ち上がるとまたも弾丸が彼を襲って腕が吹き飛ばされる勢いで彼は車内で倒れる。

 

カヒュ?!

 

 ギュィィィィィン!

 ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!

 

 そのまま装甲車の外でチェーンソーのような音がしてやっとマッドは気付く。

 さっきまで近くの激しかった戦闘音が止んでいることに。

 

 ガァン!

 

「はぁ~い、マッド()()♪ 久しぶり~♡」

 

 装甲車のドアが重い音をして外れ、中に入ってきたのはコードギアスの世界で初となる『デザートイーグル』の弾倉交換をしながらこれ以上ない笑顔をしたマオ(女)。

 

「元気~? と聞いても無駄なだけだよねぇ~?」

 

「は、()お!? (ば、バカな! なぜ生きている?! CC細胞の────!)」

 

 ドゥ! ドゥ! ドゥ! ドゥ! ドゥン!

 

「────アグゥラァァァァァ?!

 

 マッドの四肢や体のいたるところにマオ(女)は火薬式の弾丸を次々と、薬莢が地面に落ちきる前に打ち込む。

 

「ハァ~……お兄さんが作ったこの『デザートイーグル』ってス・テ・キ♡」

 

 マオ(女)は彼女のような少女が絶対にしちゃイケナイうっとりとした表情をしながら持っていた銃を頬ずる。

 

「ねぇねぇマオ。 コンパクトにする? しないの?」

 

「(クソ! サンチアたちは何を────いやそれよりも!) ほ、ほふせいはい(抑制剤)────!」

「────ん? 僕たちは『中和剤』を見つけたんだからソレ(抑制剤)いーらない♪ マオ兄さん、やーっておしまいなさい!♪」

 

「は~い!」

 

 ギュィィィィィィィィィィィィィン!

 

 さっきよりもけたたましいチェーンソー音に、その場で他の音はかき消されていく。




カオスで申し訳ございません。 m(;_ _ )m

そして『ランスロット・クラブ(試作段階)』とオリジナル機体の『蒼天(試作型)』をやっと出せました。 (汗

あとがきにて追記ですが、スヴェンの秘密結社名などが決まったのでここにもう一度:

組織『アマルガメーションユニオン』、通称『アマルガム』:
ブリタニア人の『ブリキ』と『帝国』を皮肉取った意味でも様々な人種などにちなんだ組織名。 (なおスヴェンはモミアゲを生やす予定は毛頭ありませんとのこと。)

アジト『ディーナ・シー』:
キョウト(というより孫の愛の為になんでもする桐原)が全身全力と財産に物を言わせて毒島達の為に破棄寸前だったものを買い取って改良に改良を重ねて出来た強襲揚陸潜水艦。 完成すれば戦力的に『戦艦』を優に超えるが、現在は未完成で武器も搭載が完了していない状態。

主人公機『試作型蒼天』:
紅蓮弐式が開発完了間近になってランスロットのデータを丸ごと買ったラクシャータに立体機動などをしたスヴェンの断片的な操縦データのもとに独断で開発。 予算も独断。 『神虎』のパーツも独断。
インド軍区は泣いていい。
ただし開発時間が短かったことで『パイロット生存』という概念が排除されたまま送られた。
しかも試作と呼ぶにも生温い状態のままなので稼働時間、武装、その他諸々の調整もされていないまま。
スヴェンは思わずこれと備え付けられたメッセージを見て一番の『無表情ナニコレ』を毒島たちと一緒に決めてしまった。


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第54話 神の島2

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます! <(_"_)>

ガツガツと活力剤にして全て頂いております!

またも少々長めの次話となりましたが、楽しんでいただければ幸いです!

*少々カオスかもしれません、申し訳ございません。*


「「「………………」」」

 

『はぁ~い! マオマオから入電だよ~! 皆お疲れ様~!』

 

 GX01と『ランスロットモドキ』がにらみ合う中、以前と全く変わらないダルクの能天気(?)な言葉に緊張感がゆっくりと静まっていく。

 

『ふぅ~、中々に肩が凝るなこれは。』

 

『でもサンチアっていうほど胸が大きくないでしょ?』

 

 ビキッ。

 

『ダルク、決めたぞ。 破棄する機体はお前のに変更だ。

 

『えええええええ?!』

 

 黙れ。 決定事項だ。

 

『……フフ! 仲がいいのだな、お前たちは?』

 

 サンチアがダルクの余計な一言を通信越しで聞いていた毒島が思わずほほえましいやり取りに口を開ける。

 

『アリスちゃんから聞いたかもしれないけれど、私たち特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)は占領区難民からCC細胞の適正でのみ選ばれて、抑制剤という薬でブリタニアの奴隷兵として生きてきたから。』

 

『でも心までブリタニアに、クソハゲマッドに売り飛ばした覚えはないわ。』

 

『我々は皆、親も兄弟も友人……戦友たちも失った。 だから今では姉妹同然なのだ。』

 

 ルクレティアの言葉にアリス、そしてダルクとの口論から冷静(?)に戻ったサンチアがそう静かに互いの言葉を足して告げる。

 

 もう察している方々もいるかも知れないが、マッドの感じていた違和感とは『殺気の有無』だった。

 

 戦場特有の緊張感やギリギリの一線などあったが、戦うものなら自ずと出すはずの『殺気』が特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)とアマルガムの間にはほとんど無く、()()()()()()だった。

 

 通信の周波数があっているのもアリスが関係している。

 

『“姉妹同然”……良い響きね。 それで、神さ────(スバル)は?』

 

 シュボゥ!

 

 マーヤの通信と同時に、少し距離の離れたマオーズやマッドがいるはずの方向からコードギアスの者なら聞きなれないかつ聞きたくない爆発音がしてその場にいた毒島達やサンチアたち全員がそっちを向く。

 

『なんだ────?!』

『────今のはまさか、サクラダイトの爆発────?!』

『────おい、(毒島)! ハゲが自爆しやがった!』

 

『何?!』

『え? ハゲが自爆?』

『ハァ~?!』

 

 毒島やダルクたちが『マッドが自爆した』との情報にリアクションを起こす間、長年マッドの下で特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)として在籍していたサンチアでさえもそのことを知らなかったことに舌打ちをする。

 

「チッ。 (流石ハゲの大佐、用意周到だな。 まさか自身を改造する際にもこのような事態を想定し、自分の体に爆弾を設置するとはな……)」

 

『今僕を押した馬2(マオ(女))の通信機を借りているが、こいつがやばい! 早く“ディーナ・シー”に送ってくれ!』

 

『わかった。 馬1(マオ(男))はその場で待機、馬2(マオ(女))を持ちこたえさせてくれ。 (マーヤ)、残弾数は?』

 

『……少し心もとないわ。』

 

『なら私と一緒に来い。 (アンジュリーゼ)(スバル)のところに向かって作戦の続行。 ()()()でも協力願えるか?』

 

『無論だ。 ア号(アリス)の速度とル号(ルクレティア)の探知を使ってくれ。 ダ号、機体を頼めるか? (“中和剤”……まさかこれほどまでの効果とは思わなかったぞ。)』

 

 サンチアはいつも自分を朝昼晩問わず襲う頭痛が数年ぶりに感じていなかったことに、ホッとして多少の余裕を取り戻していた。

 

『『了解。』』

 

『えええええ?! さっちん、アレってば冗談じゃなかったの?!』

 

 『誰がさっちんだコラ。』

 

 とはいえ、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の中でも最年長者である彼女が苦労するのは変わらなかった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(何とか! 対応できるようになれた! 今度は────)」

「────もらったよ!」

 

 ランスロット・クラブが右腕で操るMVSランスを躱し慣れたと思ったスバルを、今度はフリーの左腕から錐体状の光が展開されて見事彼の不意打ちをつく。

 

「(『とんが〇コーン』?! じゃなかった、『ルミナスコーン』だとぉぉぉぉ?!)ぉぉぐ、がぁぁぁぁぁ?! シハァァァァ?!

 

 スバルはまたも軋む体と腹筋に鞭を打ちながら無理やり試作型蒼天を回避運動へと移行させるが、片腕が損傷してしまい転倒していく。

 

『ルミナスコーン』。 ブレイズルミナスをフル稼動することによって、前方に巨大な錐体状のシールドを展開するこれは本来コードギアス二期で初登場する筈の兵器。

 

 だがスバルのパイルバンカーでMVSや、紅蓮の活躍によってブレイズルミナスが敗れたので対抗心が限界突破したロイドは文字通り寝る暇も惜しんで密かに開発を進めた。

 

 無論、本来はランスロットに付ける筈なのだが激しい監視のため、ある程度の独立権が利くノネット(ラウンズ)()()()()()()()()ランスロット・クラブに搭載することに。

 それこそ、本来スポンサーである筈のシュナイゼルにも内緒で。

 

 尚この時のロイドとエニちゃん(ノネット)の顔がいたずら計画中の子供のようだったことにため息をしながらも微笑ましくセシルは静観したそうな。

 

「(とはいえ、さすがにエナジー消耗が激しい。 さっきの一瞬だけでクラブの全エナジー分の10%を消費するとは……さっきので最後だな。)」

 

 ドドドドドドドドド!

 

「何?!」

 

 スバルはすぐに機体を倒れていく方向に後退させながらの背中につけていた大型ライフルをフルオートで()()()撃ち、機体が転倒するのを防いでそのままライフルをランスロット・クラブに向ける。

 

「グッ?! (こいつ、武器の反動を応用してあの体勢から立て直すだけでなく、反撃をするだと?! どんな頭をしてやがる?!)」

 

「こなクソがぁぁぁぁぁぁ!」

 

 スバルはそのまま後退して森の地形や木々を利用しながら今ある火力を撃ち、ノネットはそれらを躱して致命傷になりかねないものはブレイズルミナスを限定的に展開して防ぐ。

 

「(こいつの動き、ビスマルクとどこか似てやがる! クラブじゃなければ話にもなっていなかった!)」

 

 今の彼女は相手が『危険』や『異常』と感じながらも、久しく感じていない生の充足感に浸りながら笑みを浮かべていた。

 

 「くぇrちゅいおpがふぉtね~~~~~~!!!」

 

 対するスバルはコックピット内でアラームが鳴る中、(特典含めて)全身全霊でランスロット・クラブが現れて想像以上の動きをしていたことに言語化できないほど焦りながらまたも全力の極致状態に立たされていた。

 

 さて。 『前置き(なげ)ぇよ!』と思っているかもしれないが、なぜ彼がここに来ていたかと(簡潔に)いうと、彼は式根島にシュナイゼルが来るらしき情報を掴み、原作同様に起きると思われる『未完成ハドロン砲拡散ドカ~ン♪』を利用しようと思っていた。

 

 正確には『シュナイゼルが来る』という情報そのものではなくディートハルトによって『特派と名誉外人部隊(イレギュラーズ)に連絡がかかって急遽双方が式根島に召集された』というメディア情報と、ネットで堂々と二つの部隊の情報が出ていたからだった。

 

 前話でも記入した通り、式根島はさほど重要拠点ではないのにオーバーキル気味の戦力が急に集められる理由はそれほど多くはない。

 

『帝国宰相が来る』となれば、何もおかしくはないが。

 

 これを原作知識で知っていたスバルは、シュナイゼルが目論むであろう『枢木スザクに対してゼロの足止めを命じてゼロ共々ミサイルで殺せなかったから直接未完成ハドロン砲拡散ドカ~ン♪』を利用して『名誉外人部隊(イレギュラーズ)はマッド含めて全滅してしまった、チャララ~♪』という事にしたかった。

 

 そうすれば、自然と名誉外人部隊(イレギュラーズ)はブリタニア軍からは死亡扱いされて彼女たちはスヴェンの『協力者』……とまではいかなくとも、『脅威』ではなくなる。

 

 そしてアリスを通して()()()()、式根島の司令部から少し離れた場所で名誉外人部隊(イレギュラーズ)スヴェン(スバル)のアマルガムと激しく衝突。

 

 と、見せかけた『茶番劇』の予定だったのだが、ここで予定とは違う戦力が加わってしまったことによりスバルは本気で戦うこととなっていた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『イレブン風情が────!』

「────イレブンじゃない! 日本人だ!」

 

 カレンは島の防衛部隊用サザーランドが撃つアサルトライフルの軌道が当たらないことを本能で悟りつつ紅蓮で急接近してからの輻射波動……ではなく、左腕のパイルバンカーで撃墜してから流れるように今度は右腕の輻射波動で二機目を素早く爆散させる。

 

「へぇー? あの子、本当にやるじゃないの。」

 

「流石は紅蓮弐式をキョウトが回すだけはあった……という事か。」

 

「それだけじゃないね、仙波さん。 あのくぎ打ち機、現実離れな武器そのままで使いにくいけれど彼女のようなセンスがあれば脅威だよ。 アレを使われたら僕たちの知っている重戦車の装甲も貫通するんじゃないかな?」

 

「かもな。」

 

『ターゲットを確認した! 全機、後退だ!』

 

 近くで月下に乗っていた朝比奈と仙波がカレンの紅蓮と装着していた輻射波動とパイルバンカーの連携に感心していると、藤堂の指示が黒の騎士団のチャンネルで出る。

 

「(やはり出たな、白兜。 貴様が見せた今までの行動パターンは徹底的に解析してある。 何をどうすればどう反応するのか手に取るように分かるぞ。 誘導することなど最早『出来レース』も良いところだ。)」

 

 これを近くの崖から見下ろしていたルルーシュはそのまま無頼でランスロットを一見何もない砂浜に誘い込むとゲフィオンディスターバが作動して勝利を確信しながら無頼の中から出る。

 

「そこの白いナイトメアのパイロット! 出てきて話をしないか? 捕虜の扱いについては国際法に則る! (クックック、ナイトメア越しではなく直視さえすればこっちのもの。 俺のギアスの前では────んな?!)」

 

 ルルーシュ(ゼロ)はランスロットの中から出てきた人物に固まり、息をするのも忘れる。

 

「(な、なぜだ?! なぜ貴様が、その機体に?!)」

 

「ば、ばかな?! あれは?!」

 

「え、えええええええ?!」

 

 ゼロや藤堂やカレンのように、驚愕の声や動揺をそれぞれその場にいた黒の騎士団の全員がコックピット内でする。

 

 ゼロの声に応じ、ランスロットの中から出てきたのはほかでもない第三皇女ユーフェミアに騎士と任命され、元日本首相の息子であり名誉ブリタニア人の、枢木スザクだった。

 

 そしてルルーシュが心の底から、未だに『親友』と信じて慕っている数少ない人物だった。

 

「スザク君……なのか?」

 

「そ、そん……ゼロ! (ゼロは、『自らが敵パイロットを説得させる』といったけれど……これが理由なの?!)」

 

 ルルーシュ(ゼロ)は固まって、頭が真っ白になるのを必死に思考を動かして踏み止まっていた。

 

 スヴェンがスバルとして、以前介入したナリタの結果がまたもここに出ていた。

 

 原作での日本解放戦は壊滅寸前に追いやられ、藤堂は四聖剣と共に海外脱出を図ろうとするがブリタニアに藤堂は捕まり、ゼロは彼を救い出す作戦に乗り出すと結果的にその場に現れたランスロットの排除を試みた。

 

 丁度この時、スザクは単体で黒の騎士団側の藤堂、四聖剣、カレン、そしてゼロの七名を広地で相手をするだけでなく退かせることに成功した彼をクロヴィス美術館オープニングセレモニーでユーフェミアが『スザクを騎士に任命します』という宣言をしていた。

 

 実際は藤堂の三段突きであらわになったランスロットのコックピット内に、自分の妹ナナリーの守りを任せようとしたスザクが黒の騎士団にとって一番目の上のたん瘤である白兜(ランスロット)のパイロットだったという衝撃に頭が空っぽになりかけたルルーシュが全軍撤退を命じたのだが。

 

 だが藤堂は捕まることはなく黒の騎士団と合流、そしてノネットの後押しもあってユーフェミアはスザクを騎士に任命していた。

 

 ルルーシュはスザクが騎士になったことで原作ほどでなくとも落胆はしたが、『逆にこれをどうにか利用できないか?』と考えを巡らせていた。

 

「(スザク……お前が……どうして……どうしてそこに?! お前は……お前に俺は、ギアスを使え────!)」

『────ゼロ!』

 

「は?!」

 

『ゲフィオンディスターバは長く持たん!』

 

 藤堂の声にルルーシュ(ゼロ)がハッとして頭をすぐに切り替える。

 

「スザク……なんで……」

 

 カレンは目の前の出来事を未だに疑っていた。

 

 これまでスザクとはアッシュフォードでの生徒会で何度か会って会話したものの、ルルーシュや彼の言い分では『ブリタニアの技術部』に属していると聞いていた。

 

 それは嘘ではないのだが、まさか彼が実戦でデータを入手する特派に所属しているとカレンは知る由もなくただ距離もあって聞き取れない二人の会話が終わるのを待っていた。

 

 今回の作戦は『白兜(ランスロット)の捕獲、およびパイロットの()()』。

 

 そしてゼロは今まで何らかの手でブリタニア軍の一部でさえも()()()()()篭絡している。

 

 だが、『果たして枢木スザクにそれが通用するだろうか?』と思いながらも、彼女は希望を持ちながら息をするのも忘れてしまう。

 

『もし、スザクが黒の騎士団に入団すれば更に日本人は支援するだろう』、『大義名分』と『ゼロ以上に旗揚げの適応者になれる』、と。

 

 しかし、一瞬の内にゼロは銃を奪われ腕をスザクに拘束される。

 

「ぁ────!」

『────全員動くな! 動けばゲフィオンディスターバの影響を受ける!』

 

 藤堂の制止で黒の騎士団が跳び込むのをやっとの所で全員が止まる。

 

 一気に一触即発の状況に陥ったところで、周りを警戒することに徹していた四聖剣の千葉が通信を出す。

 

『藤堂さん! ミサイル群がこちらに向かってきています!』

 

『なんだと?!』

 

 藤堂がファクトスフィアを展開してレーダーを見るとその数は10や20という比ではなかった。

 

 優に50は超えていただろうその数に彼は鳥肌を立たせながら指示を出す。

 

『全機、とにかくミサイルを撃ち落とせ! ゼロたちを護るのだ!』

 

 黒の騎士団で動ける機体がすべて用いる遠距離攻撃手段を空中に撃つ間、スザクはゼロを動かないランスロットの中へと押して拳銃を突き付ける。

 

「止めろスザク! このままでは貴様も死ぬぞ────!」

「────軍人は命令に従うものだ────!」

「────貴様、それでも良いのか────?!」

「────僕の! ()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「(なん……だと?) ……まさか?! スザクお前は自分の父親を?!」

 

 ここでも原作とは違うタイミングで、ルルーシュはスザクの罪を知ることとなる。

 

 以前、覚えているだろうか? 『スザクは罰されたい願望を持っている。 それこそ、“その為ならば死んでもいい”』と。*1

 

「そうだ! 僕は! 俺は父さんを事故で殺してしまった! 『戦争が続いたら日本はめちゃくちゃになる』と思って! だから俺は! 俺にはその罪を償わなければいけないんだ!」

 

「死んでもか、貴様?!」

 

「俺の命で誰かを救うことができるのなら────!」

『────枢木スザク!』

 

 そこに『ミサイルがスザクもろともゼロを葬る』という情報を聞いたユーフェミアが無理やり奪取したポートマン(水陸両用KMF)で近づくのをスザクが目視する。

 

「────ユ、ユフィ?! 何で、ここに────?!」

「(────ゆ、ユフィだとぉぉぉぉぉ────?!)」

「────私がここに来れば、ミサイル攻撃も止む筈です!」

 

 「こ、この! 大バカ野郎共がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ルルーシュは彼らしくもゼロらしくもない叫びをするが、幸い撃ち漏らしたミサイルの着弾などでそれはかき消される。

 

 その時、以前カレンにスバルが渡した古い型の特殊な携帯に通信が入ってくる。

 

『カレン! そこから離れろ、()()()()()が来るぞ────!』

「────え?! これは、以前スバルに貰った携帯?! ゲフィオンディスターバが作動しているのにどうして────?!」

『────そんなことはどうでも良い! お前だけでも逃げろ! 早く!』

 

 そしてミサイル攻撃が止んだと思えば今度は誰もが自分たちを覆う大きな影を見上げて言葉を失くしたまま、『空飛ぶ戦艦』がぴったりとハマるようなSF染みた『それ』のハッチが開くのに魅入ってしまう。

 

(アンジュリーゼ)! 電力から火薬に変更! 仮帽付被帽付徹甲(APCBC)弾の使用も許可する!』

 

『え、えええぇぇぇ!? で、でもあれはまだ────!』

『────最大火力であの戦艦のどてっぱらを撃て! でないと死ぬぞ!』

 

 今度はスバルの携帯から彼の声と、焦る女性の声がカレンの耳に届く。

 

 ドゥ!

 

 後部ハッチから赤い目玉のようなエネルギーが目に焼き付けられると黒の騎士団や藤堂にスザクまで聞いたことのない、重い爆発音とともに近くの森から一つの砲弾と思われる物体が浮く戦艦(アヴァロン)が展開したブレイズルミナスにほかの撃たれた弾丸同様に止められる────

 

 ガァン!

 

 ────と思いきや、ブレイズルミナスに被弾した弾丸は分裂してそのまま開いた後部ハッチの中へと続く。

 

『め、命中?!』

 

『これで止まってくれ────!』

 

 だがスバルの声を否定するかのように赤い散弾のようなエネルギー砲弾が後部ハッチから発射される。

 

『────駄目だよやっぱり!』

 

『私の機体に詰めれば何とか逃げられるか?!』

 

「(誰? 誰の声? スバルとあと三人……一人は聞いたことがある?)」

 

 カレンが思わずそう考え、ランスロットの中でルルーシュは彼らしくもなくやけくそになった。

 

 カシュン!

 

 たった数名だけを除いて誰もが死を覚悟したその時に、ゼロの仮面の一部がスライドして彼の左目とスザクの視線が合う。

 

「な?! か、仮面が開いた────?!」

 「────『生きろ』!」

 

 

 

 


 

 

 

【『『貴方()に死なれては困る()。』』】

*1
25話より




青い空。 白い砂。 大自然が広がる島。
それらはかつて流されたおびただしいほどの血を悟らせないほど美しかった。

ここには『神に最も近い』とされる存在たちのするどい爪跡が刻まれている。

次回予告:
『大自然の神根島』

かつてここには、『神に最も近い』存在たちを崇拝した悪魔たちがうごめいていた。




はい、久しぶりに次回予告でした。 ダークっぽかったですが次話は原作同様にサービス回(?)も含む予定です。 (汗
あと後半でなぜスバルがノネットの相手をしていながら指示を出せていたか次話で書く予定です。 では次話で会いましょう!


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第55話 大自然の神根島

遅くなりました申し訳ございません、次話です!

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


 ザザァ……ザザァ……

 

 リズミカルな波の音で意識が覚醒し始める。

 

 ゆっくり……ゆっくりとしつつも力強く浜辺に打ち寄せるそれは子守唄のように()の意識を眠りへと再び誘う。

 

 波と同じように目を開けると、うつ伏せになっていることに気が付く。

 日光は背中と足の裏をマッサージするかのように心地よく、足元がひんやりとしていることから水に浸かっていることが伺える。

 

 このまま横になって、もう一度眠たい。

 

「ッ……」

 

 

 スバルがいつも反ブリタニア活動で来ているライダースーツと同じ物を着ていたアンジュリーゼは声にならない息を出して体を起こし、浜辺から離れてヘルメットを取ってから長い金色の髪をなびかせてやっとホッとする。

 

「フゥー……(流石スヴェン……『スバル』の選んだ物だけあって凄い性能ね。)」

 

 そう思いながらしみじみと打ち身はあるモノの切り傷や塩水がスーツの中にあるのは感じられなかった。

 

 前方はリゾート地のように青い海。

 後方には人の手が入った様子のない森。

 

『これで使用人と一緒に来ていたら』とふと思うと、なぜ自分がここにいるのか不思議に思って記憶を彼女は呼び起こす。

 

 確か、『帝国宰相が新兵器のテストで黒の騎士団を一掃しようとするらしい』という事で、その計画に便乗して『イレギュラーズ』という少年兵たちを死んだことにして解放しつつ司令官を生け捕り、尋問……

 でもいざ相対するとランスロットと殆んど瓜二つの『青兜』をすv────『スバル』が相手をすることになって、その間にマオとマオが敵の司令官を取り押さえるまで私たちはそのまま作戦続行。

 

 そしてマオとマオ────もう面倒くさいから“マオーズ” ────が司令官を確保したと聞いて何故かその司令官が自爆して女のマオの手当てのために私とイレギュラーズの二人以外が戦線離脱。

 

 冴子に言われて私がスヴェン────『スバル』の援護に向かうと彼の機体はすでにボロボロで相手が戦線離脱したとのことで、冴子たちに『スバル』の機体回収を終えると今度は大多数のミサイルが接近しているということで『スバル』は私の機体に乗ったままその場に急行するよう命令。

 

 尋常ではない焦りぶりから冴子も渋々『イレギュラーズ』二人を付けてもらってやっと納得して、今度は空飛ぶ戦艦に度肝を抜かれて『スバル』の言うとおりに新型の弾丸を撃って、それから………

 

 ……………………それからが全然、思い出s────

 

「────ッ。」

 

 

 アンジュリーゼが思い出そうとするとズキリと頭が痛むと同時に視界が眩さが増す。

 

 ズキズキとする頭痛から彼女は目を瞑って深呼吸をすると次第に頭の痛みと、それから伴う耳鳴りも引いていく。

 

「……太陽が高い間にまずは自分の状態と、手持ちのものと、周辺を見ることね。」

 

 アンジュリーゼは声に出しながら、一通りに『もしも孤立した場合』でマーヤから教わったことを口に出して自分を冷静にさせながら行動に出る。

 

「(手足と関節にナイトメア操縦からくる負担以外は感じられないわね。 骨も……一応折れてはいないと思う。)」

 

 彼女は腰につけていたポーチ、ホルスターの中に入っていた拳銃とナイフを確認する。

 

「(うん、ポーチの中身は全部あるみたいね。 耳のインカムはドサクサの時に外れたのかしら? 拳銃も……『スバル』の言う通りなら塩水に浸かっていたとしても撃つことが出来る……筈。)」

 

 彼女は一瞬試し撃ちをするかしないか考えるが、もしここが式根島だったとしたら不用意に自分の位置をブリタニアの勢力圏内で明かすことになってしまう。

 

「(『さぷれっさー』というヤツを付けているけれど“音が完全に消えることはないから用心しろ”、か……こういうことなら一度撃って見ればよかったわ。 それにしても……)」

 

 アンジュリーゼは動く度にパキパキと音を出して塩などが落ちるライダースーツで嫌でも自分が海水に浸かっていたことを意識される。

 

「近くにシャワー室は……無いっぽいから川か滝があればいいのだけれど……よいっしょと。」

 

 勢いをつけて彼女は立ち上がって森沿いに探索を始めると滝特有の『ドドドドド!』という音が聞こえる。

 

「滝? やったわ!」

 

 アンジュリーゼは笑顔になりながら外したヘルメットを片手で持ちながらルンルン気分で小走りになる。

 

「やったー!」

 

 彼女が辿り着いたのは予想通り、大きな音を出す滝だった。

 彼女が試しに小指を水につけ、味見をすると真水だったことに彼女は次々とライダースーツや下に着込んでいたプロテクターなどを脱ぎ捨てて生まれた姿(すっぽんぽん)のまま勢いよく水の中へと飛び込む。

 

 ザパァ!

 

 「ブハァァァ! 気持ち良い~!」

 

 アンジュリーゼは身体がさっぱりしたことで大きな声を出し、ふいに視線を感じては目を開けながら振り返る。

 

「隠れ巨乳……」

 

 どこか悔しそうなアリスと────

 

「……ええっと?」

 

 ────ルクレティアの二人がぐったりとした様子のスバルを担いでいた。

 

 いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 自分の裸を出来るだけ手と腕で覆うとする涙目のアンジュリーゼの叫び声の所為で近くの鳥や動物は驚いてその場から去っていく。

 

 

 

 


 

 

 

「……ここは?」

 

 スザクは気が付くと、砂浜に倒れていた。

 

「……インカムが無い……それに、この感じは式根島なのか?」

 

 そしてどれだけ考えても、最後に思い出せるのはゼロに対して『父親を事故で殺してしまった』という『懺悔』にも似た『告白(叫び)』だった。

 

 

 彼が思い出すのは7年前、実の父で首相である枢木ゲンブは徹底抗戦を表では唱えながらも裏では保身に走っていた。 

 当時子供でありガキ大将だったスザクは今ほど周りのことに対して詳しいことは知らず、ただ父親が『夜な夜などこかに出かけては数日後にゲッソリ、またはイライラしながら帰ってくる』を以前より頻繁になったことを『首相ってやっぱ大変だなぁ~』と軽く考えていた。

 

 夜遅くに目が覚め、トイレからの帰り際に父親の様子を密かに見ようと思って部屋の近くに忍び寄ったときに『総選挙後の婚約を発表』を()()聞いていなければ。

 そして『父親が再婚する』ことにスザクが興味を持ってその場に留まり、()()『ナナリー』と『政治』という単語が聞こえていなければ。

 さらに彼がこのことをルルーシュに『そういえばこれってどういう意味?』と思い付きで()()相談していなければ。

 

 あの日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その日は熱い真夏、皇歴2010年の7月。

 ルルーシュとナナリーがいる筈の土蔵にスザクが何時もより早く(藤堂の道場へ通うのをその日はサボって)行くと中は明らかに争った跡があった。

 そこで見つけたのはルルーシュからのメッセージ、彼とスザクそしてナナリーしか知らない子供の遊びの過程で作られた隠語。

 

『危険』、『ナナリー』、『父親』。

 

 これらのキーワードでスザクは藤堂に怒鳴られる覚悟でその日、ゲンブがいる筈の場所を聞きだして振り向かずにその場へと走り出すと毒島が彼の慌てようから急遽自分専用のSPに命令し、車を出させた。

 

 ゲンブがいると思われる場所につくと彼のSPたちが問答無用に毒島の車に発砲したことでただ事ではないと悟った毒島のSPが応戦、スザクと毒島そしてSP数名が建物内部の地下壕へと突入。

 

 ブリタニアの官僚たちとの密会予定だったからか辺鄙かつ護衛が少なかったことで侵入は成功し、スザクはようやく父親のいるはずの部屋へと入ると目に見えたのは

 

 ────こめかみに青筋を浮かべ、拳の皮を痛めた手で掴んでいた電話に叫ぶ父親。

 ────抵抗したからか、体中に殴られた跡を残しながら気を失ったかのようなルルーシュ。

 ────怪我がないが、周りがうるさいのに全く反応しないナナリーの姿。

 

親父(おやじ)! これは一体どういうことだ────?!』

『────スザク! 外の騒動は貴様の所為か!』

 

『そんなことはどうだっていい! 何でルルーシュとナナリーが────?!』

『────日本は負けるのだ! だからこれは日本が生き残るために必要なことだ! そして貴様の所為で、先ほど交渉が────!』

『────こ、子供を殴ってまですることなのかよ────?!』

『────黙れ! 貴様に何がわかるというのだ?! ブリタニアに上手く取り入れれば────!』

『────日本の為に戦っている皆はどうするんだ?! アンタの“徹底抗戦宣言”で、戦っている連中は今でもアンタの為に死んでいっているんだぞ?!』

 

『どちらにせよこの国が負けるのは必然なのだ! ならば今のうちにウミ(不穏分子)を排除し、次の時代に備えるのがベストだ!』

 

『なんだよそれ?! なんなんだよ────?!』

『────政治は綺麗ごとでは済まされんのだ────!』

『────そんなことはどうでもいい! ルルーシュたちを────!』

 『邪魔をするのなら貴様は銃殺刑だ!』

 

『ッ?! うあぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ゲンブが拳銃を手にして引き金を引いたとき、スザクは既に走り出していた。

 

 今まで『毒島(遠慮無し)』という肝が冷えるような相手を嫌というほどしてきたスザクは、威嚇の銃弾に怯むことなくゲンブの歳で弱った膝を蹴って無理やり彼を転倒させてから銃を取り上げようとする。

 

 だが所詮は子供と成人男性、体格にも筋力やリーチといった様々な要因にも『取っ組み合い』はスザクにとって絶望的だった。

 

カッ?! カカッ?!

 

 上をとったゲンブに本気で首を絞められながら頭を床に押し付けられたスザクはミシミシと自分の頚椎(けいつい)が音を鳴らすのを早くなる心拍音とともに耳朶で聞きながら、生存本能から息を必死にしようと暴れる。

 

『貴様の所為だ! 貴様! 貴様が! ()()()()()()()()()ぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 その時、スザクの手にガッチリと吸い込まれるように冷たい鉄の感触がして彼は無意識にそれを握る。

 

 バスッ!

 

『かッ?! ……ば……バカ者、が……』

 

 乾いた音ともにゲンブの目が見開き、彼の表情は驚愕へと変わるとそのままスザクを覆うように彼の体から力が抜けて倒れていき、スザクは咳をしながらズルズルとゲンブの下から体を抜け出す。

 

ゲハッ! ゴホッ、ゴホッ!

 

『わ、私が死ねば……日本は……日、本は……貴様、ごときに……』

 

 譫言のように、スザクを恨めしそうに見ていたゲンブはそう言い続ける。

 時折、喉に液体が絡むような音を出しても。

 彼の上半身の周りに血がゆっくりと広がっても。

 息を引き取り、ゲンブの目が虚ろになる最後の瞬間まで。

 

 彼はずっと、スザクを────

 

『────無事かスザ────これは?!』

 

 その時ようやく、返り血の浴びた毒島が部屋に入ると見たことに足を止めて息を素早く飲む。

 

 彼女が見た放心したようなスザクが、己の父親をボーっと見ていたから……ではない。

 ボコボコにされた様子のルルーシュでもない。

 気を失ったナナリーでもない。

 

 毒島の目に入ったのは返り血でべっとりとしていたスザクの手に握られていた拳銃と、撃たれた様子のゲンブだった遺体。

 

『す、スザク……お前、まさか────?』

 

 毒島の声でスザクはハッとしたような顔をして拳銃を手放し、自分の震えだす手を見てから毒島を正気の失いかけた涙目で口を開ける。

 

 『────ち、ち、違う! 俺じゃ! 俺じゃない! 俺の! 俺の所為じゃない! でないと俺が! 俺たちが死んでいたんだ! 日本が! めちゃくちゃになっていたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!』

 

『………………』

 

 毒島は何も言わずに目一杯叫んだことで喉を枯れさせ、荒い息をしながら泣くスザクへ歩いて自らの頭を抱える彼の肩に手を乗せると、スザクが怯えたようにびくりと体を跳ねさせる。

 

『そうか、()()()()()()()()()()()のだな? ご立派な判断だ。』

 

 そのまま彼女はハンカチを出して拳銃から返り血と指紋をふき取ってから倒れたゲンブにそれを握らせると彼女のSPが入ってくる。

 

『お嬢! ご無事で────な?! こ、これは────?!』

『────枢木首相は責任を感じ、ブリタニアの客人たち(皇子と皇女)を道連れに自決をなされた! 首相の護衛たちは彼の出る行動に内部分裂を起こした!  おじいちゃん(桐原泰三)に今すぐ連絡を取ってそれ等を全て伝えろ! 良いな?!』

 

『で、ですが────』

 

 SPたちは未だにガタガタ震え、手が鮮血で汚れていたスザクをチラッと見る。

 

『────貴様ら! このまま日本を混乱に落とす気か?! 下手をすれば内部分裂か内乱でブリタニア帝国への反抗どころではなくなるのだぞ! わかったのならスザクとあそこの子供たちを今すぐこの場から連れ出して出来るだけ離れさせろ!』

 

『『『『『は、ハッ!』』』』』

 

 数名のSPたちがスザク、ルルーシュ、ナナリーたちを連れ出している間に毒島はさっきから初めて剣術ではないことにフル回転で動かしていた思考でおじいちゃん(桐原泰三)の(ゲッソリとするほどの)孫バカムーヴをしながら自慢話を例にし、確認をしていく。

 

『(指紋は消した。 動機も現場も今いる奴らにも一応徹底させた、加害者を被害者に転じさせた。 おじいちゃんにも連絡をした。 あとは────)』

 

 

 

 揺れる車内でスザクは目を開け、これに気付いた日本軍の者が口を開ける。

 

『大丈夫ですか?』

 

『……る、ルルーシュたちは?!』

 

『お友達ならば隣で寝ているよ?』

 

 スザクはスゥスゥと寝息をするルルーシュとナナリーにホッとするが、車を運転していた兵士の言葉に緊張する。

 

『あの、自分は何も聞かされていないのですが何かあったのでしょうか? “枢木首相が居なくなった”と騒いでいるのですが……』

 

『……死んだ。』

 

『え?!』

 

『親父は……自決した……』

 

 

 


 

 

「(思えば、あの時慌てながら起きたルルーシュに“交渉に失敗した親父(ゲンブ)は自決した”と僕が言ったんだっけ……うん、事故だったんだあれは……

 いや、頭を切り替えよう。 今は現状の事だ。 今まで歩いてここが式根島ではない事が分かった。 ならば、水を確保してビバークする準備をしよう。)」

 

 そう思い、スザクは森の中へと進んでいく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……」

 

 別の場所では、毒島が重い瞼を開けて完全に覚醒していない思考のままディーナ・シー(潜水艦)の個室の中でベッドに寝転びながら腕を胸と額に乗せて天井を見上げる。

 

 ドアからベッドのある場所までは脱ぎ捨てたと思われるライダースーツに内側のプロテクター。

 

 そして紫のブラ。

 

 毒島は所謂『パンイチ』状態でベッドの上にいた。

 

「(久しぶりに『枢木ゲンブ事件』の夢を見たな。 思えばあの時から私は『子供扱い』されなくなったな。)」

 

 何を隠そう、幼い毒島が見せた機転と手腕で桐原がいつも自慢げに言う『ワシの冴ちゃんは世界イチィィィィィィィィィ!』に実が伴ったからかその日から彼女への接し方がガラリと変わった。

 

 あの日から彼女は『お嬢』から『令嬢』の待遇になり、必死にその期待を裏切らない為頑張ってきた。

 

 そしてそれが更なる過大評価を呼び寄せ、終わりのない『イタチごっこ』となり始めていた。

 

「(だが、彼との再会は思わぬ幸運だった。)」

 

 そこで気が張り詰めそうになり、夜な夜な租界へ出てのストレス発散が過激になりそうなところで毒島は(スヴェン)と幸運にも再び出会った。

 

 そこからは『精神的に成長した毒島』を披露しつつ、昔のように接してくれる彼によって『ストレス発散』が大きな事件になる前で踏み止められただけでなく、本格的な反ブリタニア活動へと繋がった。

 

「(本当に、彼は凄い男だ。)」

 

 ピピッ♪ ピピッ♪

 

 近くの通信機器から音が鳴り、彼女がボタンを押すとマーヤの声が出てくる。

 

『冴子、マオちゃんが目を覚ましたわ。』

 

「そうか。 あとで船医に礼を言おう。」

 

『ええ、酷い出血だったけれど何とかなりそう。 でもすごいわ、あとも残らないなんて。』

 

「桐原殿は(特に私のこととなると)遠慮を知らないからな。」

 

『それと、ブリタニア軍の警戒網の穴を数か所見つけてスバルたちが居ると思われる島を絞り込めたと思う。』

 

「了解した、サンチアたちにも協力してもらうと伝えてくれ。」

 

 さっきまでヌボ~っとした暗い雰囲気は陰も見せないほどキリリと気を引き締めた毒島がそう返す。

 

「(しかし、昴はどこまで未来を見渡しているのだ? 潜水艦に手持ち散策用のレーダーや赤外線とサーモゴーグルに音とシルエットが低いモーター付き小型船……()()()()()()()()()()()()()()()()()()……私はちゃんと奴の助けになっているのだろうか? ……少しでも頼りになれるよう、精進しないとな。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 スザクはどんどんと滝の音の方向へと歩いていくと次第に『ソレ』が見えてくる。

 

「こ、小屋?」

 

 彼が見たのは着替え室のような『小屋』と、滝が落ちる場所を囲うような枝を使った『しきり』だった。

 

「(ここは、どこかの私有地なのか? 少なくとも、無人島ではない。 ならば通信機器を使わせてもらえば……いや、そもそも社会から隠遁している人たちなのかも────ん?!)」

 

 小屋の簡易的な扉が開くとスザクは思わず身を隠す。

 

「ハァ~、さっぱりした!」

 

 扉から出てきたのは黒の騎士団の上着を羽織った、満足げで髪を下したカレンだった。

 

「え、カレン?!」

 

「うぃえ?! だ、誰?!」

 

「あ。 ぼ、僕だよ! スz────って黒の騎士団の制服?!」

 

「スザク?!」

 

 カレンとスザクは互いの事にビックリし、カレンは一気に距離を詰めてポーチの仕込みナイフでスザクを攻撃する。

 

「はぁぁぁぁ────ぐあ?!」

 

 が、スザクはそれを一本背負いの応用で彼女の身体ごと飛ばし、彼女は近くの岩に背中を打ってしまい、羽織っていた上着が近くの茂みに落ちる。

 

 スザクは一気にこの隙にマウントを取り、カレンに質問を投げる。

 

「カレン・シュタットフェルト! 何で君が────?!」

「────その名前で呼ぶな、裏切り者が! 私は紅月カレン、日本人よ!」

 

「ッ……じゃあ、本当に黒の騎士団────」

「────そうよ! 今更隠すつもりは無いわ!」

 

「なら答えろ! この島は以前から黒の騎士団の活動に使われていたのか?!」

 

「ハァ~? あんたが尻尾を振るブリタニアが前から居たんでしょうが?!」

 

「「………………………………………………え?」」

 

 カレンとスザクがお互い持っていた疑惑の言葉に呆気に取られるが、スザクがいち早く復活する。

 

「では紅月カレン、君を拘束する。 容疑はブリタニアへの反逆罪だ。」

 

「ハン! 言ってな裏切り者! 私の仲間が来れば、捕虜になるのはアンタの方よ!」

 

「……ウワァ……枢木()()って、見た目と違って肉食派?」

 

 「「え?!」」

 

 カレンとスザクが第三者の声に更に驚いてみるとそこには明らかに今まで見たパイロットスーツとは違うスーツを来た色白の少女────アリスがスザクを軽蔑するような目で見ていた。

 

「は、はぁ?! ちちち違う! これは────!」

「────ぬおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 カレンはスザクの重心が一瞬揺らいだ隙をついて抜け出し、スザクを『少佐』と呼んだことで直感的にアリスがブリタニア軍に関わりがあるという考えから、彼女(アリス)を人質にしようと行動に出た。

 

「え────ぐぇ?!」

 

 だがアリスが消えたと思えば握られていたはずの仕込みナイフは手から払い落とされ、強烈な痛みがさっき打った腰に誕生したことから『強打された』と本能的に理解しながら前のめりに倒れて思わず手を痛む腰に添えて声にならない息を出しながら涙目になる。

 

「~~~~~?!」

 

「あ。 ごめんカレン先輩。 大丈夫……そうじゃないわね。」

 

「アリス……なのかい? それに、僕の事を『少佐』って────?」

「────あー、うん。 言葉の綾。」

 

 パサッ。

 

「それには無理があるぞ。」

 

「いちいちウッサイわね。」

 

「……あぇ? (スバル)?」

 

 そこにヘルメットとライダースーツを来たスバルの声にカレンが見上げると、もう一人同じ服装とヘルメットをした(ボディラインから察するに)女性に黒の騎士団制服をカレンに羽織らせる。

 

「(『昴』、だって? 昔、あの毒島を泣かせた???)」

 

 スザクが遠い過去、珍しく藤堂に泣きついていた幼い毒島を思い出す。

 もし、彼がさっき『枢木ゲンブ』の事を思い出していなければ、たどり着くことは無かっただろう。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 静かに黒塗りされたバイザー越しに猛烈な睨みを利かせたジト目(と思われる)視線を向けられたカレンがタジタジになりながら黒の騎士団の上着で自分を出来るだけ覆いながら更に慌てる。

 

「あぁぁぁぁぁ!? ごごごごごごごご、ごめん!」

 

 「“ごめん”で済むのなら治安当局なぞ要らん。」

 

「えっと………………これってどういうこと、かな?」

 

「「「………………………………………………」」」

 

(天然を発揮した)スザクの純粋な質問にその場にいた誰もが黙ってしまう。




次話にて何故小屋とかが出来ているのか明かすつもりです。 (汗


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第56話 大自然の神根島2

お読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

視点が所々変わります、ご了くださいますようお願い申し上げます。 m(;_ _ )m

8/12/2022 9:05
豚には野良と農園のものでは別次元ですのでちょこっとだけ修正いたしました!


「えっと………………これってどういうこと、かな?」

 

 俺が知りたいよスザク。

 

 誰か俺に教えてくれちょ。

 

 何せ俺が目を覚ましたらアリスとルクレティアがいるわ、アンジュリーゼがいつの間にか『アンジュ』っぽくなっていたわ、()()()()()()()()()()()()()()()わで天手古舞だったよ。

 

 

 

 


 

 

 

 スバルは知る由もなかったが、彼は『未完成ハドロン砲拡散ドカ~ン♪』後はアンジュリーゼのようにいつの間にか気を失いながらも同じ島の周辺に来ていたが、彼は彼女と違ってそのまま海の中にいた。

 

 幸いにもアリスとルクレティアが近くの砂浜で気が付き、海の中を漂う彼をすぐに海から担ぎ出してさほど大きな問題には至らなかったが。

 

「おっもい!」

 

「まぁ、大人の男の人ですから。」

 

 海を潜ってベタつくパイロットスーツや髪の毛にイライラするアリスと違い、ルクレティアはどこかホクホクしていた。

 

「……アンタ、どこか嬉しくなっていない?」

 

「気の所為ですよアリスちゃん。 (ニコニコニコニコ。)」

 

「そ、そう? ……でも、参ったわね。 ここはまだ式根島、ルクレティア?」

 

 ルクレティアが目を閉じて、額にギアスの紋章が数秒間程浮かび上がっては消える。

 

「……地形が似ているけれど、ここは違う島みたい。 少なくとも、私が感知できる範囲内にブリタニアの基地らしきものが無かったわ。 でも、ビバークできそうな滝があった。」

 

「よし。 ならそこを目指しながら私が周囲の警戒するから、ルクレティアは周辺地形の把握をお願いね。 そこから生活基盤を築かなければいけなくなるかも知れないから────っと?! ほんっとこいつ(スバル)重いわね! ……てか生きているの?」

 

「はい、ちゃんと息はしているみたいですよ?」

 

 そこからアリスはルクレティアと共に気を失ったスバルを担ぎながら滝のある場所へと着くと前話で裸体になったアンジュリーゼが水の中から勢いよく出るのを目撃することに。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ちゃぷ。

 

 ルクレティアが滝の落ちている場所の水を手ですくい上げて目を凝らす。

 

「そのまま飲めそうなほど透き通って綺麗ですけれど……」

 

「ダメよ。 こんな状況下で軽率な行動をとって、お腹を下すような状態に陥ったらすぐに脱水症状になるのは分かるでしょ?」

 

 グサッ。

 

「ええ。 まずはろ過するか蒸留するかしないと、とても口にする勇気はないですね。」

 

 グサグサッ。

 

「それに私たちのように着の身着のままのスーツだけでもそれぐらいわかるわよね。」

 

 グサグサグサッ。

 

「ええ。 ましてやサバイバルキットを一通り持っているのなら惜しみなく安全と効率を選ぶでしょう♪」

 

 グサグサグサグサグサグサグサッ。

 

「グッ……」

 

 アリスとルクレティアがテキパキとビバークの用意をする中、無数のメタ矢(刺々しいコメント)がどんどんと小さくなっていくアンジュリーゼに容赦なく突き刺さっていく。

 

 彼女が裸を見られて叫び終え、落ち着いてから互いに持っているものを見せ合う……といっても、アリスたちは文字通りパイロットスーツ以外何も持っていなかったのだが。

 

「??? でもパイロットだって拳銃ぐらい持つでしょ?」

 

「貴族のボンボンらしい答えね。 私たちは奴隷兵よ? ナイトメアに乗るのに個人用の武器なんて持たせるわけないじゃない。」

 

「あ……」

 

「まぁ、今ではそれも“元”ですけれどね。」

 

 アリスのムスッとした顔と、ルクレティアの苦笑いにアンジュリーゼは軽率な言葉を出したことに気まずくなる。

 

 彼女が持っていたポーチ、拳銃、ナイフを見せてこれから更に気まずくなるが。

 

「ちょっと?! 何よこのポーチの中身?!」

 

「浄水タブレット、石鹸、消毒液、裁縫セットは勿論の事、ファイヤースターターにナイフと拳銃まで?!」

 

「サバイバルに一通り必要なものが揃っているじゃない?!」

 

「あら? でもこれは見たことの無いタイプの拳銃ですね?」

 

「あと重い……」

 

「こ、これはスヴェン特製の『コルトガバメント』って呼ぶらしいわ。 例え水の中でも火の中でも泥水や海水に浸っていても撃てる代物よ。」

 

「「はぁぁぁぁぁ?!」」

 

 アリスとルクレティアは『そんなバカな?!』と言いたそうな顔と素っ頓狂な声を出す。

 

 忘れがちだがコードギアスの世界は電気技術が発達している世界。

 故に液体に装備が浸るのは例外的なモノを除いて極力避けるのが当たり前の世界であり、その中でも銃のような精密機械も含まれている。

 

 海中用や軍用ならばある程度対策が施されているとはいえ、本来の銃ならば海水に浸ることなど致命的であり、ちゃんと手入れを済ませていない状態で使おうものならば内蔵されたサクラダイトの暴発も十分あり得る。

 

 そんな世界観の軍人に『どんな過酷な状況でも点検や装備の変換無しで撃てる銃』など、眉唾物以外なんでもない。

 

「(……こいつじゃなければ“ふざけんな!”って言っている所なのよねぇ~。)」

 

 アリスが(ヘルメットを取ってからも)いまだに気を失って静かに息をするスバル(森乃モード)を見る。

 

「これが素顔……逞しいお顔♪

 

「(ルクレティアが何か言った様子だけれど話を進めよう。) それで、アンジュリーゼ先輩にサバイバル経験は?」

 

「あ、あるわけないでしょ?!」

 

「でしょうね。」

 

「そういうアンタたちはあるの?!」

 

「ええ、あるけど?」

 

「え。 あ。」

 

 またも自分が軽率なことを言い返し気味に言ったことに、アンジュリーゼは口を噤む。

 彼女でも想像できるように、アリスたち特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)は過酷な状況下の作戦が多かった。

 

「でも意外とカラスって美味しいのよね。」

 

「あと犬も絶品でした♪」

 

「ぅえ。」

 

 しみじみとしながら頷くアリスとルクレティアの言ったことに、アンジュリーゼは思わず『ウゲェ』とした表情とともに舌を出す。

 

「それはそうと、仮の拠点にうってつけでかなりいい場所ねここは。 拳銃、一応借りるわよ。」

 

「え?」

 

「では私は焚火の木々やむしろ(マット)用の葉や木の実など探してきます。」

 

「え? え? え?」

 

「というわけで先輩はそいつ(スバル)を看ていて。」

 

「…………………………」

 

 まるで慣れている動作と行動にアンジュリーゼは理解がやっと追いつくとアリスとルクレティアの二人は既に滝から少しだけ離れたその場にいなかった。

 

「あ……えっと……スヴェンの体を拭こうかな────?」

 

 パキッ。

 

「────ヒッ?!」

 

 そう言いながら彼女がハンカチを出していると近くで枝が折れる音の彼女がビクリとする。

 

「な、なによ貴方たち? 声ぐらい────」

「────ギュイ。」

 

 アンジュリーゼはてっきりアリスかルクレティアが引き返したと思い、声を出しながらが振り返ってみたのは小さめのイノシシだった。

 

「え。」

 

「フゴッ?」

 

 もし少しでも考えていれば、この状況で声をかけずに近寄ってくるのは野良の動物か敵かの二択なのだが……

 

 軍人でもない、少々戦いに一般人より覚えのあるだけの彼女に『そのような判断を瞬時に下せ』というのは酷だろう。

 

「うひゃああああああ?! ぶ、豚ぁぁぁぁぁ?!」

 

 さて、野良の動物相手に彼女(アンジュリーゼ)のように手をバタバタさせながら大声を出して慌てふためくのは『一応怯ませる効果はある』と記入しよう。

 

「あ、あっち行ってなさいよ!」

 

()()()()()()()()()()()()()』、だが。

 

「グゴ?! ブギィィィィィィィ!!!」

 

 アンジュリーゼは近くの石をイノシシに投げつけるとイノシシは明らかな敵対心をむき出しにしながら吠え、アンジュリーゼめがけて突進するため体勢を低くする。

 

「いやぁぁぁぁ! じゅ、銃────は?! あ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 腰にあると思った拳銃に手を伸ばすと先ほどアリスが借りていったのを思い出してできるだけ叫んで彼女かルクレティアが気付くのに希望を持つ。

 

 だがイノシシは彼女の叫びを威嚇と勘違いし、突進を始める。

 

「ぎゃああああ?! キキキキキタァァァァ?! スヴェン、起きて! 起きてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

 

 彼女は未だに気を失っているスヴェンに呼びかけながら彼の頬をぺちぺちと叩くが効果はなく、彼の体を引っ張ろうとする。

 

 ドッ!

 

「グハッ?!」

 

 スヴェンを何とか突進の直線状から押し出して自分も直撃は免れたものの、イノシシの突進はアンジュリーゼをかすり、彼女は押し倒されて地面を転がりながら脇腹を抑えて悶える。

 

「(いっっっっっっっったぁぁぁぁぁい!)」

 

 小さくともイノシシは農園などで家畜化された豚などと違い、その身のほとんどが強靭な筋肉であり、かすっただけでもかなりのダメージとなる。

 

 ボタボタッ。

 

「ぁ……」

 

 さらに落ちた時に頭を強く打ったのか鼻と顔から血が出てそれらが地面へと落ちるのを彼女はグワングワンする視界で現実味のないままボーっと見ては思わず手でそれを受け止め、生暖かい感触が手から伝わる。

 

「(あ、これ、私、血が出てる? え? さっきの突進直接当たっていないのに痛くて血が出る。 止まらない────)」

 

 「グギィィィィィ!!!」

 

 ドシッ!

 

「────ッ?!」

 

 アンジュリーゼが呆けている間、イノシシはUターンして彼女が立ち上がろうとしたのを見て再度突進をし直し、今度は直撃してしまい彼女の肺から無理やり息を吐きだされる。

 

「(あ。 これ。 死ぬ? え? ここで?)」

 

 だが距離も最初のものとは段違いだったのと、アンジュリーゼが防護性抜群のライダースーツを着ていたおかげで牙は貫通せずかつアンジュリーゼは無意識にイノシシに押されていく形のまま。

 

「(何もまだしていなくて出来ずにこんな知らない島でまだまだこれから────)」

 

 ────プッツン。

 

 グサッ。

 

 何かが切れたような気がしてと思えば、彼女はナイフでイノシシの耳の後ろを思いっきり刺していた。

 

 「グギィィィィィ?!」

 

 普通ならナイフ程度の刃物はイノシシの分厚い皮膚を貫通したとしても、硬い筋肉か骨にあたって致命傷に至らないだろう。

 

 だがいま彼女が刺したところはちょうど頭蓋骨の隙間かつバランスを保つ、三半規管だった。

 

 「……ね────」

 

 グサッ、グサッ、グサッ、グサッ、グサッ────

 

 「────ギ、ギィィィィィ────?!」

 

 「────死ね! 死ね! 死ね! ────」

 

 ────グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ────!

 

「────死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

 イノシシは三半規管の機能が失われたことと今まで感じたことのない頭部へのダメージで前足をもつれさせるがアンジュリーゼはただただ怒りの籠った叫びを繰り返して動かないイノシシを滅多刺しにしていく。

 

 この、クソ豚が────!」

 

 ────ザク────!

 

 「────死ね────!」

 

 ────ザク!

 

 「────死ねぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ────ザク!

 

「あの、もう死んでいると思いますけれど?」

 

 息を荒くしていたアンジュリーゼが声をかけられてハッとする。

 

 金のような髪だけでなく彼女の体の至る所はべっとりと血で赤くなり、握っていたナイフも刃こぼれしていた。

 

 そして肝心のイノシシは完全にスプラッター映画の死体ごときのように原型を留めていないほど変わり果てた姿。

 

 アンジュリーゼの叫びで急いで拠点に戻ってきて声をかけたルクレティアはニコニコしていたが、彼女の後ろでアリスは顔色を悪くさせながら引いていた。

 

「……あ、うん。 そうね。」

 

 が、アンジュリーゼにはどうでもよかったらしく簡潔に返事しながら絶命したイノシシから下半身を出して立ち上がる。

 

「それと返り血でその……髪の毛がすごいことに……」

 

 アンジュリーゼがルクレティアの指摘に見て自分の酷い有様を見る。

 

「(洗うのが大変そう……)」

 

 そしてどれだけ今まで体験した状況でも、『かつて貴族令嬢だった』という名残から今でもケアを欠かせない気品のあった立派なロングヘアーをアンジュリーゼは────

 

 あああああ、もう()()()()()

 

「え?」

「は?」

 

 ザクザクザクザクザクザクザク!

 

 ────呆気に取られるルクレティアとアリスの前で後ろ髪を束ねてから持っていたナイフでおおざっぱに切り落とす。

 

あああああ、さっぱりしたぁぁぁぁぁ! ……って、何よ二人とも?」

 

「……あ、ああ。 いえその……何か吹っ切れたようで何よりです?」

 

 ルクレティアは急にしおらしい態度から今の態度に変わったことにさほど違和感が覚えられず、ただ単に腫物が落ちたかのようなアンジュリーゼに当たり障りのない言葉をかける。

 

「(ええええぇぇぇ?)」

 

 逆にアリスはアッシュフォード学園の中等部でも、アンジュリーゼの噂は聞いていたので今の彼女とのギャップ感に戸惑っていた。

 

『高飛車』、『傲慢』、『人付き合いが悪い』、『貴族気取り』。

 などなど。

 

「あ、でもべったりするからこのまま水の端っこに入るね?」

 

「その前に死体の処理をしないと────」

「────あ、さっきのファイヤースターターで焚き火を────!」

 

 以前の態度が嘘だったかのようなアンジュリーゼがアリスたちと協力的になったことで作業などがかなり捗る様になり、そこでようやくスバルが目を覚まし、彼の助言や活躍などで簡易的な住居(小屋)が滝の近くに出来上がる。

 

「いやぁ~、これだけで様になるわよねぇ~。 ありがと、アリス!」

 

「あ、ううん……アンジュリーゼ先輩────」

「────もうアンジュで良いわよ! あ、ルクレティアもスバルもだよ?」

 

「(え? 何で『ほぼショートカット』で『アンジュ』なの? 流れで太陽が沈む前に急ピッチで小屋っぽいものを作ったけれどナンデ? 誰か教えてプリーズ。)」

 

 スバルはヘルメットと(CC遭遇との教訓で特殊メイクから変えた)『森乃モード』の仮面を外したポーカーフェイスでそう疑問に思うとそこでアンジュリーゼ────アンジュのお腹から音が出る。

 

 ぐりゅるるるるる~。

 

「う。 安心したらお腹が……」

 

「(まぁ、うん。 こういうところはアンジュリーゼだな。) 日暮れが近い、手っ取り早くキノコを探そう。」

 

「ま、そうなるわね。」

 

「なんだアリス。 経験あるのか?」

 

「ちょっとね。 ちなみにダルクは毒キノコ食べた。」

 

「(あー、なんかコミックでも『アホの子』ぽかったような気が……)」

 

「では私とアンジュは火の番でしょうか?」

 

「それと近くで木の実があるか見てくれ、感知系のギアス持ちならば簡単なはずだ。」

 

「え。」

 

「(ん?)」

 

 ルクレティアがポカンとして固まったことにスバルは仮面とヘルメットをかぶり直す。

 

「ね、ねぇアンタ……どうしてルクレティアのギアス(ジ・ランド)が『感知系』ってわかったのよ?」

 

 「(あ。)」

 

(ルクレティア)、一度も言っていないような気が……」

 

「奇遇ね、(アリス)もよ。」

 

 ここでスバルは自分のミスに気付いて焦りだす。

 

 彼が何故、ルクレティアのギアスが『地形の精密把握』かと分かったのは勿論『ナイトメア・オブ・ナナリー』からなのだが当然“原作知識”とは言えない。

 

「……何度か戦ったからそう思っただけだ。」

 

「ふぅ~ん? どうしてそう思ったのかしら?」

 

 アリスは未だにアンジュから借りた拳銃を握る手に力を少しだけ入れる。

 

「以前のナリタとヨコスカ()での動きだ。 それとクロヴィスランドでアリスのギアスが速度に関連するのは分かった。 そこで以前見せた『力のギアス』、そして精密な射撃だ。 あれほどの射撃は幾らギアスが使えるとはいえ、普通はスポッター(狙撃のフォロー役)が居なければ乱戦中は無理だ。 

 つまりアリスから『今の特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)が四人』といった時点で自ずと『速度のアリス』、『パワー系のギアス』、そして『狙撃手(スナイパー)』と『スポッター(狙撃のフォロー役)』の四人で丁度。

 (ルクレティア)がアリスと俺とアンジュリーゼと合流したところを見ると、『速度のアリスと周辺の地形の感知役』を組ませて上手く式根島を立ち回らせようとしたのだろう。」

 

「「「………………………………………………………………」」」

 

「違うか? (“違う”と言わないでくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!)」

 

 スバルは『それっぽい』ことを言った筈なのだが────

 

「(────うわスゴ。 やっぱりスヴェン(スバル)は凄い……)」

「(────あれだけの少ない情報からその結論へ至るとは……これで何故アリスちゃんが対峙した時に『脅威』と感じたのかがちょっと分かったような気がする。 敵じゃなくて良かった……)」

「(────うわぁ。 アッシュフォードでも思っていたけれどこいつ、やっぱただものじゃないわね……)」

 

 アンジュ、ルクレティア、アリスがそれぞれスバルの言ったことに自分なり評価をしていた。

 

「(ウッ?! なんか腹がキリキリする?!)」

 

 そしてスバルの胃は痛みだした。

 

 これがスバルたちのいる式根島にスザクやカレンたちが飛ばされる2()4()()()()の一連の出来事であった。

 

 

 

 


 

 

 

「よっと!」

 

「上手いですね!」

 

「昔の知り合いで、こんな釣り方で競う子が居てね。 そのとき身に付けたスキルさ。」

 

 今、私の目の前で先日ブリタニア第三皇女のユーフェミアに騎士任命された初の名誉ブリタニア人で元日本首相の息子で白兜のパイロットの枢木スザクがズボンを膝まで、袖を肘まで捲くってこれまたブリタニアのパイロットスーツっぽいもの(スク水のデザイン?)を着た白に近い銀髪の少女────ルクなんちゃら(レティア)と協力して魚を狩っている。

 

 ……いや、海辺の岩場で足元を海水に付けながらジンジンと未だに痛む腰から気を逸らして休んでいる(カレン)が言うのもなんだけれど訳が分からない。

 

「カレンせんぱ~い!」

 

「カニが獲れたぞ。」

 

 そしてこっちにはブリタニアのパイロットスーツっぽいもの(もう完全にスク水が元になっているわよね、あれ?)を着たアッシュフォード学園の後輩で準生徒会員のアリスと暑苦しそうで趣味の悪そうなライダースーツ+フルフェイスヘルメットを着て私と同じ黒の騎士団所属で幼馴染の(スバル)がシャカシャカと足を動かすカニを両手に獲っていた。

 

「……………………」

 

 そして近くには濡らした布を交換して腰が痛む私の世話をするライダースーツとヘルメット着用の女性(多分)。

 

 ブリタニアの騎士に軍人に黒の騎士団にライダースーツ。

 

 ナニコレ? なんなの?

 

 なんていう『ギリガ〇君SOS』の再放送なのこれ?

 

 そこ『歳クセェ』言った奴ウッサイよ!

 お母さん(留美)がそういうのが好きだったからよ?!

 

 隣のライダー女性が腰の布を変え────あッ♡

 ヒンヤリする~♡

 

「フハァ~……」

 

 

 カレンはこの頃最近、切羽詰まった出来事や黒の騎士団としての活動を立て続けに参加していた為、ホッとしながらやっと一息つくような感じで和んでいた。

 

 そして彼女を看病していたアンジュは内心冷や汗を流しながら声を出さないことに専念していた。

 

『どうしてこうなった?!』と思いながら。




と言う訳で『アンジュ』誕生でした。 (汗


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第57話 大自然の神根島3

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「いや~アッハッハッハ! ごめんよロイ(ロイド)、ボロボロにさせちゃったよ♪」

 

 「僕のクラブもぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ブリタニア軍の浮遊航空艦、『アヴァロン』の中でロイドの悲痛に満ちた叫びが格納庫で()()()鼓動する。

 

 彼のランスロットがデバイサー(スザク)無しで帰ってきたことに落胆していたが、前回や前々回のような傷などを負っていなかったことに彼はホッとした。

 

 なお満面の笑顔のセシルが『人情を教えて差し上げましょうか?』で今度は『アヴァロン』の動力源に支障が出来ていたと聞いた彼は頭を抱えながら発狂しそうな勢いで『ブレイズルミナスを遠距離武器が貫通ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!』と顔をゆがませながら頭を抱えて叫んだそうな。

 

 セシルと急遽修理のために着陸したアヴァロンに収納されたランスロット・クラブから降りたノネットはちゃっかりロイドの顔芸(?)を写真に収めたとか。

 

 そしてやっと動力源の修理が終わったとロイドが思えばノネットの『あ、実は』で今度はスバルの『試作型蒼天』と対峙し、エナジー切れ寸前で戦線離脱をするしかなかったランスロット・クラブが今までのランスロット以上にボロボロの状態で帰ってきたことにロイドはまたも発狂しそうだった。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?!?!」

 

「そ、それじゃ! 私はちょいと他の野暮用も出来たからあとはセシルよろしく!」

 

「エニアグラム卿?!」

 

「ぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああああぁぁ……」

 

 今度は脱力しそうなロイドからノネットはすぐに離れ、あの後に移動して別の島に着陸したアヴァロンから出ては洞窟のような穴の近くにある岩場で、ロイドを待っている様子のシュナイゼルと彼らの側近がいるところまで歩く。

 

「おや? エニアグラム卿、ロイドは?」

 

「中で()()()()()()()()()。」

 

 涼しげな笑みを浮かべるシュナイゼルの前でノネットは片膝をついて頭を下げる。

 

 確かにラウンズは皇帝直属であるが、シュナイゼルは帝国第二皇子であると共に帝国宰相。 実際にブリタニアを動かしている男だった。

 

「それはまた……手酷くやられたようだね?」

 

「相手も同等のダメージかそれ以上を与えられました。 ですが次はございません。」

 

 ノネットはチラッと横目で見ると洞窟内部の様子を伺う。

 

 壁に彫られた紋章や天井を支える柱はどこか『神殿』を思わせるような作りの遺跡らしく、本来なら照明や記録媒体が置かれてもおかしくはないのだがその場には似つかわしくないモノがノネットの注意をさらに引き付けた。

 

「(デカいな……新型のナイトメアか?)」

 

 彼女が見たのは従来のナイトメアより1.5倍ほどの大きさである黒ずくめのナイトメアがあまたのケーブルに接続されて電子機器に繋がっていた状態だった。

 

「貴方ってやっぱり周りのこれ(遺跡)より真っ先に()()に興味を持っちゃうのよね?」

 

 シュナイゼルの近くにいた中性的で整った顔立ちをした美男子────カノン・マルディーニが女性語でノネットに喋りかける。

 

「相変わらずの武術ぶりね……社交の方はどうかしら?」

 特別翻訳:相変わらずの脳筋ぶり……だから行き遅れるのよ、旦那は見つかったの?

 

「(昔は全然違ったのに……やっぱり慣れねぇ~。)」

 

 ちなみに彼とノネットは昔馴染みであり、まるで女子力に無頓着なノネットの分も補うかのようにカノンは美容に気を遣って化粧も(嫌がる)ノネットなどに勧める光景は珍しくもない。

 

「これでも騎士なんだ、職業病と思ってくれ。 そっちこそ毎日美容品をチェックしているのか?」

 特別翻訳:それが騎士なんだほっとけ。 そっちこそ相変わらず淑女みたいなことを欠かしていないのだろう?

 

「あら、私のこれもあなたの言う“職業病”よ? ああ、あなたの場合は “趣味”の言い間違いかしら??」

 特別翻訳: これは趣味の範囲よ。 でもアンタの場合は度を越えている。

 

「おほほほほほ。」

「ハッハッハッハ。」

 特別翻訳(双方):ぐぬぬぬぬぬ!

 

「やはりエニアグラム卿も気になりますか?」

 

 二人のやり取り(闘争)を悟ったのか、シュナイゼルが口を開けて話題を変える。

 

「“気にならない”と言えば嘘になります、シュナイゼル殿下。」

 

「あれは『ガウェイン』と言う新型のナイトメアフレームだ。 まだ開発中なのだが『とある機能』を頼りに私が無理を言って取り寄せた。 そして最終調整をロイドにさせるために持ってきたのはいいのだが……」

 

 そこでシュナイゼルの近くにいた元クロヴィス付きのガマガエルおじさんバトレー将軍がイラつきを露にしながら口を開ける。

 

「だというのになんなのだあの技術者は?! 我が君が遠路はるばる来ているというのに“先に自分の子を診るぅぅぅぅ!”などとほざきおって!」

 

 バトレーはクロヴィス暗殺未遂の責任を問われ、本国で処罰を受けそうになったがシュナイゼルによって復権し、彼の指揮下で働いていた。

 

「良いんだ、バトレー。 ロイドのアレは今に始まったことではないからね。」

 

「(アレで済ませるのはどうかと思うのだけれど……口にしても意味が無いわね。)」

 

 カノンは内心でため息をしながらユーフェミアの捜索チームからの吉報を待つ。

 

『(もしコーちゃん(コーネリア)がユフィのことを知ったら!)』とハラハラしながら。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「よし。 思ったより土器がちゃんと出来ているな。」

 

 俺は先日の内に作っておいた土器に水を入れて漏れや粘土が崩れないか見てから満足そうに言ってポカンとするスザクとカレンへ振り返る。

 

「「どうやって作った/のよ?!」」

 

「??? どうって、簡単だぞ?」

 

 所謂あれだ。 縄文式土器だ。

 1、 粘土の形を整える

 2、 焚き火で乾かしながら表面を焼いていく

 3、 炭を中に入れて燻る灰の中に埋める

 4、 上手に焼けました~♪

 

 それだけ。 マジで。

 一人だったら無理だがこっちは四人、交替すればかなり効率よく動ける。

 

「ね、言ったでしょルクレティア?」

 

 なんだそのジト目かつドヤ顔はチワワ(アリス)よ?

 器用なことをするな、お前は。

 

「……アリスちゃんの言っていた意味がちゃんと分かったような気がします。」

 

 あとマルチーズ(ルクレティア)、なぜ笑顔を引きつらせる?

 

 食器は流石に無理だが、皿や丼ぐらいは簡単だぞ?

『耐久性に難アリ』が多いけどさ?

 

 特にチワワ(アリス)、アッシュフォード学園でも粘土細工の部活がちゃんとあるだろうが。

 

 

 余談であるがスヴェンは生き残るため、一時は『無人島に逃げて一人でコードギアスをやり過ごす』ことを視野に入れて様々なものに手を出していた。

 結局、ナオトにずるずると反ブリタニアレジスタンスへ堂々と引きずりこまれてその計画は断念しつつあったが。

 

 

「(あの時が懐かしいなぁ~。 んでナオトさんに手先が器用なことを知られてそのまま整備などさせられたけれど……)」

 

 そう思いながらチクチクとする胸を可能な限り無視し、皿の上に焼いたキノコや魚の身に果物をジャム状にしたものを和えて丼にはカニと魚と先日獲って煮込んだ海藻と(海水を蒸発した)塩の味付けスープを皆に分けていく。

 

 とてもサバイバルの状況下とは思えない御馳走の前に、スザクとカレンが喉をゴクリと鳴らす。

 気持ちはとても分かるとも。

 

 ライダースーツにヘルメットをしたアンジュが土器を受け取り、皆がいる輪から少し離れた茂みに行き、俺もヘルメットを取って(森乃モード仮面越しにだが)新鮮な空気を吸い込む。

 

「ふぅ……」

 

「ッ。」

 

 俺とアンジュリーゼの様子を見ていたスザクが気まずく視線を外す。

 

 まぁ……俺のこれ(森乃モード)とアンジュが理由で、ブリタニアの騎士であるスザクが大人しいわけなのだが。

 

 あの天然で言った『これってどういうことかな?』の後、アリスとのアドリブで以下のような流れに出来た:

 • アリスとルクレティアは見ての通りブリタニアの徴兵部隊で、先の戦いで恐らく『死亡』か『反逆罪』で記録を抹消されている。 願望は『静かに暮らすこと』で軍に戻る気はない(これはあながち嘘では無い)

 • 俺は確かに毒島と昔藤堂の道場で出会った『噂の昴』で、俺とアンジュリーゼは黒の騎士団の裏方役を()()()()()()務めているとも

 

『理由? それは────?』

『────こう言うことだ。』

 

 そう言いながら勢いよくヘルメットを取り、対ゼロ(ルルーシュ)対策の『森乃モード』を見せるとスザクは目を見開かせ、カレンは見たことの無い真っ青な顔になって────え? ウルウル涙目ナンデカレン?

 

 俺、前に言ったよね確か? 

『特殊メイクだ*1』って?

 まぁ……取り敢えずスザクが動揺している間に畳みかける!

 

『見ての通り、日本侵略後にブリタニアの駐屯兵たちの面白半分の冗談でこうなった。 彼女(アンジュ)の方はさらに酷い。 不作法とは思うが、ヘルメット着用と()()()()()()のは大目に見てやってくれ。』

 

 スザクは頷く。 

『それに緊急時だから』と言葉を足すが、流石にこれで俺やアンジュの周りを嗅ぎまわることはしない筈だ。

 

 あとこの休戦状態も維持してくれるだろう。

 

 ん? 『日本侵略をスザクに使ったのは卑怯』、だと?

 

 知るか! 生身で機関銃付きカメラを通路の天井からけり落とすようなチート人間(スザク)相手に、今の状況で穏便に勝て(拘束す)る自信ねぇよ!

 

 それに大怪我でもさせたらルルーシュに俺が雑巾に使われるか狩られてから抹殺されるわ!

 

 あとはと言えば、何故かこっそりと一人になった俺についてきたカレンが目をウルウルさせたまま『手を俺の顔に近付かせては離れる』という行動を繰り返したことか?

 

 だからこれって本当の傷跡じゃなくて『特殊メイクだ』って言ったよね、俺?

 

 それを思い出させるために『特殊(メイク)だと言ったのをもう忘れたのかお前?』と言ったらハッとして思い出したのか、今度は俯いた彼女からカレン(鳩尾)パンチをお見舞いされた。

 

 超痛かった。

 あと“なんでやねん” “腰を痛めたのなら何でフルパワーパンチをする?” と言いたかった。

 

 そのあとのカレンはやっぱり出したパンチの反動が腰に響いたのか、『グォォォ……』って唸りながら腰を押さえて四つん這いになるし。

 

 ……………………………………よし、やるか。

 

 

 

 


 

 

 

 その夜、焚き火の番を交代してむしろ(編みマット)の上でうたたねと睡眠の狭間にいたスザクはその日のうちに知ったことに関して考えを巡らせていたことで眠りがどうしても浅くなっていた。

 

「(『日本侵略後』、か。)」

 

 彼が思い浮かぶのは昼間、拷問や拷問にも似た仕打ちをブリタニア軍にされた昴のことだった。

 

 勿論、彼がカレンに言ったようにあれは特殊メイク(仮面)なのだがあまりにも現実味があり過ぎて頭から離れなかった。

 

「(僕は……俺は────ん?)」

 

 そのとき、付近に声がしてくると思った彼は頭上から来るそれ等に集中する。

 

 声の持ち主は今日の昼、散々『裏切り者』と呼ばれた紅月カレンだとすぐに分かった。

 

「ちょ、ちょっと?! やめなさいよ!」

 

「俺は止まらない。」

 

 そしてもう一人はつい先ほど思い浮かべていた、カレンに『昴』と呼ばれた男性だった。

 

「こ、この! こっちが動けないからって────!」

「────暴れるな。

 

 そこで昼間、スザクは自分に披露した本気で怒鳴っているカレンの声色がまた聞こえてきたことから嫌な予感がするのだが、『まさか』と疑いながらも更に神経を集中するとカレンと昴、そしてもう一人が彼女のそばにいることを直感的に感じる。

 

「(ま、まさか────?)」

 「────押さえろ────」

「────ちょ、ちょっとやめてよ────ぐぁ?!」

 

『ドシ』っと、体が地面のむしろ(マット)に無理やり倒される音がする。

 

「よし、そのままだ────」

「────放して────!」

「────始めるぞ────」

「────あ、ちょっと待っ────あッ♡」

 

 このやり取りでバッチリとスザクの目は覚め、瞼を『バチッ!』と開けると目の前には顔を赤くさせて同じように目が覚めたらしい様子のアリスがいた。

 

「や、止め────くっ?!」

 

「声を出すな。」

 

「む、無理────ん?!♡」

 

「フム。 ここか────?」

「────ぅぅんんんん────?!♡」

「────それともここか────」

「────はぁん────?!♡」

 

 「「────何をしている/のよ?!」」

 

 会話の声やトーンから想像していた状況で同時に顔が赤くなって叫ぶスザクとアリスが勢い良く立つ勢いで座り上がり、その光景を見て一気に気が抜けていく。

 

「「……………………ごめん、本当に何をしている/のかしら?」」

 

 二人が見たのはライダースーツのアンジュ(ヘルメットの代わりにミイラ女のように包帯を目以外にグルグル巻き)がうつ伏せに転がされたカレンの腕を押さえ、昴がカレンの背中に乗りながら彼女の腰を指先で押している場面。

 

「“何をしている”って……見ての通りマッサージだが?」

 

 余談だがカレンの顔は糸目になりながら絶対に人前でしてはいけない(ふにゃりとしたトロけ)顔だったとだけここに追記しておこう。

 

『昴の位置からは彼女の様子は見えなかった』、のが救い(?)だった。

 

「ま、マッサージ────?」

「────ああ、うん。 そうみたい、ね? てっきり……その────」

「──── “てっきり”、なんだアリス?」

 

「な、なんでもないわ! ね、ね?! 少佐?!」

 

「お、俺に振るのか?!」

 

 「合わせなさいよ天然!」

 

「いや、リヴァルもそう言っていたけれど俺って……天然なの?」

 

「どちらにせよ、なぜお前たち()()の顔が赤い────?」

「「────気のせいだ/よ!」」

 

(ルクレティア)はちょっぴり残念でしたけれど────」

 「「「────え。」」」

 

「あ、いえ。 何でもないわ。」

 

 ルクレティアの言葉に昴、スザク、アリスが彼女を見て彼女は『オホホ』笑いをしながら濁す。

 

 追記となるが、復活したカレンは昴が身体の上から退くとまたも彼の鳩尾に昼間より威力が増加したキッツイパンチを入れて調子が戻ったことに満足したとか。

 

 アンジュの(無言の)気遣いが昴にとってトドメになりそうだったとか。

 

 そんな静かに悶える昴と彼を無言で慰めるアンジュを横に、カレンがアリスたち三人に開き直る。

 

 大きな青筋をこめかみに上げながらの笑顔を。

 

「ところでぇ~? 聞いた?」

 

「「ううん! 全然────!」」

「────聞いたって何を?」

 

 「「少佐のバカ!」」

 

「え?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 忘れなさい! 忘れろ! 今すぐに忘れさせる!

 

 ガシッ。

 

「どうぞ、先輩(カレン)♪」

 

「あ、アリス?!」

 

 ガシッ。

 

「ごめんなさい少佐。 貴方の犠牲、忘れません。」

 

「ルクレティアく────ゴハァァァァ?!」

 

 腕を左右がっちり少女に掴まれたスザクの顔をカレンがフルパワーで殴り、気を失った彼をす巻きにする。

 

 合掌。

 

 

 

 


 

 

 

 

 以前に髪の長い『嚮主』と呼ばれた子供がごろごろしていた場所……と違うような、似たところに聳え立つ建物の中でチューブなどにつながった動かぬ人型のなにかが乗っている台の上へと場は移る。

 

…………………………コォー。 19目が、死んだか。

 

 まるでストローを勢いよく通した、不思議な息の吸い方をした『ソレ』から言葉が発される。

 

 声はまるでデジタル化された、あるいは長らく使っていない声帯が久しぶりに喋るたどたどしいものだった。

 

コヒュー……『アレ』の調整を早めろ。

 

 近くにいた何かが『ソレ』の言葉を了承するように頷き、ずるずると部屋から出ていく。

*1
18話より



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第58話 まさかのカムバック

お読みいただき誠にありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです!


「「「「…………………………」」」」

 

 潜水艦の中で誰もが息を潜めていた。

 

『敵戦艦、空域を通過しました。』

 

「「「「ッブハァァァ~……」」」」

 

 そして艦内放送に言葉でダルク、マーヤ、マオーズ(マ男とマオ(女))が止めていた息を出す。

 

「お前たち、そこまで徹底することは無いぞ。 敵が潜水艦をあぶり出す方法は大まかに三つ。

 ソノブイの水中聴音、または反響定位で探知。

 大雑把に爆雷で面の攻撃をし、被弾の音を辿る。

 最後はポートマンと先の二つを混ぜた作戦だ……それを知っての上で黙っている毒島も人が悪いな。」

 

「フフフ! 息をひそめるのが鬼ごっこをする子供そのままだったようで面白いからな♪」

 

「え~~~~?! そりゃないよぶっちゃん!」

 

「「「ブフッ?!」」」

 

 ダルクが何気なく付けたあだ名に数名が飲んでいたコーヒーやジュースを吹き出しそうになり、毒島本人に至っては顔が引きつっていた。

 

「(我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢! 私は面倒見のいい『お姉さん』、『サブリーダー』、『昴の代役』! 年下相手にムキになることは────落ち着け~、お・ち・つ・く・の・だ~♪)」

 

「しかし……少々心配だな。」

 

「ん? 何がだ、サンチア? 確か、お前の隊はサバイバル経験があるのだろう?」

 

「猫美味しかったね!」

 

 ダルクの言葉に何故かマオ(男)が若干引き、ギプスと包帯が服の一部のようなマオ(女)がピンとくる。

 

「あー、ルクレティアね。」

 

「ああ。 アイツの眠りは深いし、何より寝癖がな……」

 

「うん……最悪……」

 

 さっきまで元気いっぱいだったダルクがボディランゲージも表情も『シュン』としたことで、彼女(ルクレティア)の寝癖の酷さを想像させるには十分だった。

 

「……そ、それよりお前の……『じ・おど』、を使って捜索を続けよう。 昴の作り置きの『中和剤』もあるからな。」

 

「こんなことになるのならルクレティアの代わりにダルクを行かせればよかった……」

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「捜索隊すら出せない状況……やはりこれ以上、この海域に留まるのは組織全体が危険に晒される。」

 

「ああ。」

 

「いえ、ここは留まってゼロを捜すべきです! 彼あってこその組織!」

 

「確かに……」

 

 別の黒の騎士団の潜水艦では藤堂と同等で参謀を務める主要メンバーとして新しく加わったブリタニア人で元エリア11トウキョウ租界支局報道局の敏腕プロデューサーだったディートハルト・リートがそれぞれの主張と正論を混ぜた方針を言い出す。

 

 藤堂は『組織全体の生存』。

 ディートハルトは『ゼロあってこその黒の騎士団』。

 そして副リーダーである扇は双方にそれなりの裏付けがあったことでどうにかできないか考えた末に『ブリタニアの警戒網ギリギリ外から時間制限付きの捜索隊を出す』という案で一応その場はまとまった。

 

「(なるほど……これが桐原殿の言っていたことか。 この組織(黒の騎士団)、いかにもブリタニアのように一人の者に()()がかかっている。 それをこのブリタニア人(ディートハルト)、それを意識してからか『ゼロ』という『象徴(シンボル)』さえあれば他はどうでも良い様に物を言っている。 私たちや、自分自身でさえも『替えの効く人手』としか見ていない……

 だから昴君は別に動いているのか? だとしたら、()()からだ? ()()からこの状況を予想していた? もしやナオト君のレジスタンス時からずっと、『整備(裏方役)』に徹していたのはこの為か? ……だとしたら末恐ろしいな。)」

 

 格納庫ではラクシャータがボーっとしながらゲフィオンディスターバを見ながら昨日見たフロートシステムとブレイズルミナスを搭載したアヴァロン、そのアヴァロンの後部ハッチから撃たれた赤いエネルギーの散弾。

 

 そしてそのアヴァロンの防御を貫通し、唯一ダメージを与えた最後の一発が彼女の頭をくるくると回っていた。

 

「なぁ、主任がずっと考え込んでいるんだけれど?」

「まぁ……ライバルのフロートシステムをあれだけ白昼堂々と見せられ付けられたからな。」

「無理もないか。」

 

 

 


 

 

 朝日の陽光が空を照らし始め、森の動物たちがその日を生きる為に覚醒し始める。

 

 無論、その中には()も含まれている。

 

 むしろ(マット)だから寝心地は悪くない筈だが()()()お腹が重く感じられる。

 

 いや……その『何故か』は先日から予想していたがボケていたようだ。

 

 目を開けその重みの正体を見ると案の定、寝息だしながら両手両足でガッチリと俺に抱きつき、頭を胸板に乗せたルクレティアがいた。

 

 ちなみにどれだけ『ガッチリ』かというと、プロレスラーの顔が真っ青なほど。

 

 先日、アリスがこれの餌食になって彼女はルクレティアが自然に起きるまで身動きが取れなかったほど強固なものだった。

 とうとうアリスが『お花を摘み(トイレ)に行きたい』という事から俺とアンジュが力ずくでルクレティアの腕を引きはがそうとした騒動でやっと起き始めたほどマルチーズ(ルクレティア)は意外と力が強い。

 

 さて、どうしたものか?

 

「ふぁぁぁぁぁぁ~。」

 

 今の起き方はカレンか。

 多分、日の明かりで起きてしまったな。

 丁度いい。

 

「カレン、助けてくれ。」

 

「んあぁぁぁ~?」

 

 身体を起こした彼女が俺を見るとギョッとする。

 

「ちょ、ちょっと?! 何よそれ?」

 

「見ての通りだ。」

 

「み、み、見ての通りって────?!」

「────いいから引きはがしてくれ。

 

「ん……ええと? これは……一体どういう事かな?」

 

 スザク、お前もか。

 って、お前は簀巻きにされたままだったな。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 あの後コードギアスで人間離れした二人の(ちなみにスザクを簀巻きにした縄は切る他なかった)おかげでいとも容易くルクレティアは起こされ、島の散策を彼女メインに再開していた。

 

「えっと────」

「────ふぁ~。」

 

「朝から欠伸か、アリス?」

 

「あの────」

「────誰の所為だと思ってんのよ。」

 

「誰のだ?」

 

「いや、昴さん以外の誰でもないでしょうに……」

 

「ほら、少佐もこう言っているじゃない。」

 

 何でじゃいお前ら。

 

「そ、そろそろ降ろしてくれるかな?」

 

 俺が背中に背負っていたカレンがとうとう声に出してそう頼む。

 

「ほら、腰の痛みはだいぶ引いたし────」

「────ダメだ。 痛み止めはあるが根本的な治療にはなっていない。」

 

「だ、だからって『おんぶ』は無いでしょう?!」

 

「じゃあ横抱きにするか?」

 

「よ、横抱き……(カァァァァ。)」

 

 ん?

 カレンの顔が赤く……熱でもあるのか?

 

「……………………………………」

 

 そしてアンジュ、バイザー越しにでもわかる睨みは止めろ。

 お前のおんぶ時の足取りは『えっちらおっちら』していて、見るからに危な(不安定)すぎる。

 

「横抱きなら……その……いい────

 

「────きゃ?!」

 

 次第に小さくなっていくカレンの声がルクレティアがビックリする声を出しながら転びそうになる。

 

「だ、大丈夫?! ってあれ? こいつ……確か────?」

 

 ────アリスがルクレティアの足をもつらせた『ソレ』が茂みの中へと続いたのを見て茂みをかき分けると全身黒ずくめで明らかな中二病全開にしたマントと仮面────

 

 「「「「────ゼロ?!」」」」

 

 …………………………………………NANDE(何で) KOKONI(ここに) ZEROGAGAGAGAGAGA(ゼロがガガガがが)? ←語彙力低下により変換失敗

 

 ……………………うわぁぁぁぁぁぁぁ!

 え?! なんで?! マジに?!

 

 ユーフェミアと一緒の筈じゃ?!

 えええええええ?

 マジか?

 

 明らかに黙り込む俺たち。

 

 これ、絶対に『ゼロの正体』に関して考え込んでいるヤツだよね?

 どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ────

 

「────衰弱しているようだな。 履いている靴の状態から見て恐らく彷徨っていたのだろう。 カレン、済まないが降りてくれ。 彼を代わりに背負ってベースキャンプに連れ戻す────」

「────ぁ。」

 

 そっとカレンを背中から降ろして、ぐったりとしたゼロ(ルルーシュ)を今度は担ぐ。

 

「昴さん、ゼロの仮面────」

「────枢木スザク。 もし彼が俺たちのような物だった場合、責任を取れるのか?」

 

「……………………」

 

「アリスたちは……そうだな、身を隠せ。 ゼロならばお前たちをスカウトしようとするかも知れない。 ()()()()()()()?」

 

「……そうね。」

 

「カレンとスザクも彼女たちの事を内密に頼む。」

 

「え、ええ。」

「……分かった。」

 

 よし。

 俺の『森乃モード』がこんな風に役立つとは思わなかったが好都合だ。

 それにアリスたちが隠れていれば────

 

「────ん……俺は────」

「────気が付いたか、ゼロ。」

 

 流石に衰弱しても担がれれば目を覚ますか。

 というかかなり弱っているな、『(ゼロ一人称)』じゃなくて『(ルルーシュ一人称)』をするぐらい。

 

「お前は……スバル……か?」

 

「喋るな。 ひとまず拠点に戻る。 あそこに食物の用意はできているからな。」

 

「……………………」

 

 お?

 なんか大人しくなったぞ?

 

 

 


 

 

 ルルーシュはここにいない筈のスバルに背負われたまま弱った体を休ませながら思考をフルに回転させるためにウオーミングアップ(記憶の読み返し)をする。

 

 まず、ラクシャータが合流したことで白兜の行動パターンを完全に把握できたことで白兜をパイロットごと仲間()にする為の作戦はほぼ読み通りに行われた。

 

 式根島にいるブリタニアの駐屯部隊を攻撃し、自分の無頼を囮にしてゲフィオンディスターバの設置場所に誘導。

 

 サクラダイトに干渉された白兜は停止し、パイロットをコックピットから出させることに成功。

 

 あとはギアスで従わせることだったがそこで大きく、とてつもない事実が待っていた。

 

 パイロットは自分がナナリーの騎士にさせようと、自分が心から信じていた唯一の友であるスザクだった。

 

 内心動揺するも、どうにかして口で説得を試みている隙を突かれてスザクに捕らえられ、大量のミサイルが雨のように落ちる直前、スザクに交信が入る。

 

『命を賭してでもゼロをその場に拘束しろ』と実質上の『死ね』という命令だった。

 

 更にスザクの命を蔑ろにする行動を論議していくと更なる事実が判明する。

 

『スザクは前日本首相である枢木ゲンブを殺した』という事実が。

 

 確かに、あの日ナナリーがゲンブの者たちに無理やり連れ去られそうな日の出来事は不可解なことが多かったが……それを考えると腑に落ち、あの日の前は自分勝手なスザクの急変化や今の行動原理などが辻褄が合う。

 

 そんな中、更にユフィがその場に出てしまったことにも驚いたが、あの空を飛ぶ戦艦に新兵器が襲ったことで『絶対に使わない』と思っていた彼にギアスを使ってしまっていた。

 

『生きろ』、と。

 

 そして気が付けば、この島に流れ着いていた。

 

「朝食の残りモノだが────」

「────いや、ありがたく頂こう。」

 

 昨日から何も食べておらず、容赦のない湿気と日光に当たられながらも島を彷徨い、高い位置にある木の実を取ろうとして失敗し、今度は落とし穴を掘ろうとして体力を消耗してしまい、朦朧として意識を失った。

 

 そしてどういう訳か、エリア11に置いてきたはずのイレギュラー()が居た。

 

 ちゃっかりこの島に小屋やむしろなどを構えているどころか、『朝食の残り』と言われて渡されたのは土器に入った具沢山のスープ。

 

『何故ここにいる』。

『何故仮面を取って素性を知ろうとしない』。

『何故カレンとスザクとお前がいる?』。

 

 

 それ等の『何故』は茂みの中へと入って渡された具沢山のスープと魚の燻製を次々と頬張るルルーシュはどれだけ考えても答えは出なかった。

 

 だが一つだけ確かなのは、このままブリタニアに捕まれば今までの全てが水の泡と化すことだった。

 素性もバレ、ナナリーの存在が知られれば外交の道具にされてしまうのは明らか。

 

 ならば隙を見て、逃げ出すしかない。

 

 それにここには丁度、囮にできる人材がいる。

 

 

 


 

 

 そう思ったゼロが食べ終わり、他の者たちが居る場所に戻るとまたとないほどの好条件が出てくる。

 

「ゼロ、実はというとあの方向に人工的な照明らしき光を見た。 疲れているところ済まないが、一緒に見に行かないか? 無論、スザクも一緒にだ。」

 

「(良し、いい機会だ。 こいつ(スバル)にギアスを使えばこちらのもの。 あとはどうやってヘルメットを取らせるかだが、ここにはカレンがいる。) 良いだろう。 黒の騎士団ならば私が出る。 ブリタニアならば枢木スザクが出ると言ったところなのだろう?」

 

「話が早くて助かる。」

 

 内心ほくそ笑むルルーシュは隙をみて、カレンに自分たちをひっそりと尾行するように言うと彼女がポカンとした表情を浮かべる。

 

「どうした、その顔は?」

 

「あ、ううん! 分かったわ! (うわぁ。 昴の言う通りになっちゃったよ、コレ。)」

 

 ゼロとカレンが離れている間、出かける準備をする昴にアリスたちが小声で話し終えたのかアンジュと共に離れていく。

 

「よし、では行くか。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「………………………………」」」

 

 森の中を歩くスバル()、ゼロ、スザクの間に会話なく三人はただ足を動かしていたところにゼロが口を開ける。

 

「スバル、なぜこの島にいる?」

 

「(やっぱり来たか。) ここにいるのはネットで情報が出ていたからだ。」

 

「独断でか? 勝手な行動は本来許されんが……まぁ良いだろう。 (それに彼が居なければ最悪、カレンと出会う前にスザクに捕まっていたのかも知れんしな。)」

 

「(タイミングとしては今しかない。) ゼロ。 一つだけ先人として言っていいか?」

 

「ん? なんだ?」

 

「お前は以前言ったな? 『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』と────」

「────無論、覚えているとも────」

「────ならこれも覚えていてくれ。」

 

 スバルは立ち止まり、ヘルメットを取って『森乃モード』のまま仮面越しにあるルルーシュの目を見る。

 

「『真実には2種類ある。 一つは道を照らしだすもの、もう一つは心を温めるもの。

 前者は科学、後者は芸術。

 芸術なき科学は、配管屋に手術用の鉗子を持たせるかのごとく使い道がないもの。

 科学なき芸術は、民俗と感情的ペテンの粗野な混乱だ。』 (『byレイモンド・チャンドラー』、だ。)」

 

「ッ。」

 

 その言葉はルルーシュにとってある意味ショックにも似たもので、彼がヘルメットの下にある『森乃モード』の姿と共に胸の奥深くに刺さり、思わず(初対面と思っている)ルルーシュにギアスの発動を忘れさせるほどだった。

 

「……先を行こう────」

「────待て! 今のはどう言う意味だ?」

 

「……あの新しく入って来たディートハルトとお前のやり取りで思い出した戯言だ。 別に聞き流してもいい。」

 

 スバルはヘルメットをかぶり直し、歩き出すと彼は原作で見た、開けた場所に地面が一枚の岩で出来たような場所にたどり着く。

 

「ここ辺りだったと思うのだが。 (さて、開けた場所にタイミング的にはそろそろ────)」

「────枢木スザク! それに……ゼロ?!」

 

 そこにユーフェミアの声と本人自身が向こう側から姿を現したことにスバルは内心ガッツポーズをする。

 

「(よっしゃー!)」

 

「ッ! カレン!」

 

 ゼロが彼女の名を呼ぶとカレンは近くの茂みからユーフェミアを背後から拘束する。

 

「な?! は、放しなさい! 私を誰だと────!」

「────うるさいよ、お飾り姫!」

 

「(わお。 生の『お飾り姫』。)」

 

「んな?! 私は────!」

「────ユフィ?! ゼロ、君は────!」

「────さぁ枢木スザク! 私たちと来てもらおうか! スバル! 枢木スザクを拘束────」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「────な、なんだ?」

 

「地震?」

 

 突然足元が赤く輝きだしながら揺れる。

 スバルたちの乗っていた岩盤がゆったりと下がり始めるが途中で支えていた柱は崩れて一気に下の空洞へと落ちていく。

 

「うひゃあぁぁぁ?! ってク、枢木少佐?! それにゼロ?!」

 

 ゼロたちが声の方を見るとロイドとバトレーがすぐに目についた。

 

「(おおおおお。 生ロイドだ。 ヒョロヒョロしてんなぁ~。)」

 

 そうのほほんと考えていたスバルが次に見るのは────

 

「(────シュナイゼル・エル・ブリタニア。 ここでアンタを────)────うぅぅ?!」

 

 シュナイゼルを見たスバルは腰のホルスターからコルトガバメントを出しかけると強烈な頭痛と共に意味不明なビジョンが次々と彼を襲う。

 

「(な、んだ?! こ、れは?!)」

 

 キャッキャと公園で遊ぶ子供たちと彼ら彼女らを微笑ましく見る大人たち。

 廃墟となった公園に散らばる無数の白骨体。

 泣き叫ぶ赤子の鳴き声。

 血塗られた両手。

 千羽の鶴が飾られた病室。

 燃える建物の中。

 笑いながらビルから飛び降りる光景。

 

 などなどなどが次々と、まるで様々な映画のリールからフレームを数枚だけ切り取って無理やり繋げたようなモノらが昴の前を過ぎ通る。

 

「スバル────?!」

「────カレン、あのナイトメアを使う! スバルは援護しろ!」

 

 ゼロは近くにあったガウェインへ走り、カレンはよろよろとするスバルの様子を見てユーフェミアがいることで即発砲をするのでは無く接近して生け捕りにしようとするブリタニアの歩兵部隊を相手にセンサーに効果抜群な閃光を出す小道具を使ってマシンガンを奪い取って威嚇射撃をし始める。

 

 「スバル!」

 

「ッ……もう大丈夫だ!」

 

 スバルはコルトをホルスターに戻し、カレンの近くで気絶していた歩兵部隊からマシンガンを取って彼女と共に応戦する。

 

『よし、二人とも乗れ!』

 

 ゼロの声でカレンはすぐにガウェインの首横に乗り、スバルを援護する。

 

「出口にサザーランドが────!」

「────問題ない! 消えろ!」

 

 ガウェインが出口にたどり着く寸前に両肩が開いて未完成のハドロン砲が放たれ、散弾のように撃ち出されたエネルギーが洞窟の出口付近に砂煙や岩石を飛ばす。

 

「うわぁ?!」

「カレン!」

 

 突然真横から高熱を感じたカレンをスバルは彼女の腰に腕を回してギュッと引き寄せた。

 

「掴まっていろ!」

「う、うん!」

 

「(何だこの機体は?! 未完成品か?! だがまぁいい……もう一つの機能があれば十分条件はクリアしている。)」

 

「ゼロ! 追手が────!」

『────問題ない。』

 

 そうゼロが言うとガウェインの背中に緑色の翼のような物を発現させ、足は陸から離れる。

 

「と、飛んだ?! 私たち飛んでいる?!」

 

 カレンはドキドキしながらキョロキョロと周りを見る。

 

「その様だな。 (ヒィィィ! 怖いぃぃぃぃぃ!)」

 

 スバルはポーカーフェイスを維持しながら内心ビビった。

 

「フハァハッハッハ! 何という収穫だ!」

 

 ゼロは急展開に興奮していた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「枢木スザク少佐。 第2級軍規違反の容疑で逮捕する!」

 

「え?!」

 

「貴方たち、何を────?!」

「────待ちたまえ君たち。 ユフィに枢木少佐、君たちにも見せよう。 バトレー、ロイドを引きずってでもアヴァロンに連れ戻してくれ。」

 

 シュナイゼルがそう言いながら見たのはガウェインの飛んでいった方向を明らかに運動不足のロイドが慣れていない走り方をする光景だった。

 

 

 

 この数日後、キュウシュウブロックの関門大橋が破壊されると同時に、玄界灘から強襲揚陸艇が多数侵入しフクオカ基地を占拠。

 

『我々は ここに正当なる独立主権国家、“日本”の再興を宣言する!』、とフクオカ基地の通信機能を使って大々的にオープンと軍用チャンネル双方に宣言が行われた。

 

 通信画像には第二次枢木政権の官房長官を務めていた澤崎敦(さわさきあつし)の姿。

 

 そして隣には日本解放戦線の片瀬少将も立っていた。




リアルの仕事が忙しくなってその他諸々で休憩にグランド・セフト・オートV少しプレイしてきます。 (。´・ω・`。)


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第59話 キュウシユウ戦役

お待たせいたしました、少々長めの次話です。

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


『我々はここに正当なる独立主権国家日本の再興を宣言する!』

 

 テレビに映ったのはピシッとスーツを着た細身の中年男性がそう高らかと宣言する姿だった。

 

 グシャ。

 

「ちゅ、中佐……」

 

 黒の騎士団アジトの中で藤堂は珍しく怒りを露わにしながら手に取っていた文を思わず力強く握り、近くの千葉がびっくりして彼を呼んでしまう。

 

「ッ……」

 

 藤堂は何も言わずにクシャクシャになりかけた紙を仙波に渡す。

 

「……ムゥ。」

 

 そして彼から意外な声が出て、テレビのリモコンを手に取って映像を先ほどの独立宣言時に巻き戻し、その映像を再度見る。

 

「……藤堂中佐、本当にこれは少将で間違いないでしょうか?」

 

「だと見ていい。」

 

 彼と仙波が読んだ文には片瀬直々が書いた『今こそ日本の再興に合流せよ』という旨が藤堂宛に書かれていた。

 

「ふぅ~ん……どうします、中佐?」

 

「お前たちはどうなのだ?」

 

「『中佐の居る場所に我アリ』、ですよ。 ね、千葉さん?」

 

「当たり前のことを言うな朝比奈!」

 

「そんなにムキにな()ることないでしょ……」

 

「仙波は?」

 

「勿論、ここにいる二人と同じ考えです中佐。」

 

「そうか。」

 

 藤堂がもう一度見るのは再生される映像の中のスーツ男……

 の横に立っている片瀬少将……

 の背後に聳え立つ数々のナイトメアたちだった。

 

 無頼改が2割、無頼が2割。

 そして中華連邦の鋼髏(がんるぅ)が残りの6割ほどで隊列は作られていた。

 

鋼髏(がんるぅ)』。 それは中華連邦が運用しているナイトメアフレーム……のモドキである。

 技術力がお世辞にも高いと呼べない中華連邦が通常兵器を運用していた日本が第二次太平洋戦線にてブリタニア蹂躙されるのを見て急遽作ったKMF(ナイトメアフレーム)モドキ。

 コックピット自体が機体の6割ほど構築する卵型で短い『手』には折りたたみ式機関銃と両腰に固定兵器のキャノン砲、二足歩行ではなく三輪車のように前足二つに尻尾のランドスピナーで移動する。

 それに加え、脱出システムは搭載されていないどころかコックピットのハッチは前方に開く。

 

 完全に『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』を、中華連邦を牛耳る者たちの考え風に作られた機体だった。

 

下手な(数だけ多い)人口(貧民)壊れて(死んで)もすぐに替えが効く(代わりがある)』。

 

 そんな国をバックに、『日本独立』の宣言がされていた。

 

「キョウトに連絡を。 彼らを通し、返答をする。」

 

 

 


 

 

「ねぇ、学園祭のチェックリスト誰かお願~い。」

 

「あ! じゃあ私がやるですー!」

 

「お、やる気満々だな?」

 

「ムフフ~♪」

 

「各部活の出し物は~────」

「────あ、私が先日チェックを入れておきました。」

 

「さっすがアリスちゃん!」

 

 リヴァルの声にライブラが答え、シャーリーの独り言にアリスがテキパキと動く。

 

「こうやって皆で何かするのも久しぶりな感じがしますね、スヴェンさん?」

 

 そしてブライユ式に文字をプリントした用紙を確認するナナリー。

 

「ええ、そうですねナナリー。」

 

 本当に久しぶりだなぁ~。

 あの神根島イベント後、俺はそのまま黒の騎士団の潜水艦へと合流した。

 

 皆からは驚きの言葉……というか嵐だったけれど、一部は不安しかなかったよ。

 

 カレンの『胸張ったどや顔』。

 井上の『あらあら微笑ましい♪顔』

 藤堂の『意味深スマイルに“フッ”』。

 ミラクル八極拳使い情報部ディートハルトの『無表情ながらもムッとする顔』。

 扇の『“訳が分からないよ?”顔』。

 そしてCCの『“なんでお前がいる”ジト目』。

 

 そんな奴らにどう答えるかは決まっている。

 

 成り行きです。

 

 ……とは言えないので、濁すことに。

 後はゼロが機転を利かせてくれて『保険として近くの島に待機させていた』というのが効いた。

 

 あと別ルートで事前に備えさせた装備でアンジュやアリスたちはディーナ・シーに帰還していた。

 

 そんな時、生徒会室に浮かない表情をするミレイが入ってくる。

 

「おかえりなさいで~す! ……何かあったです、ミレイ先輩?」

 

「あー、そのー……テレビ点けてくれるかしらスヴェン?」

 

「ええ、勿論。」

 

 ポチッとな♪

 

『────テログループの中心人物、澤崎敦は戦後に中華連邦へと亡命していましたが黒の騎士団と名乗るテロ活動に伴う昨今の内情不安につけ込み行動を起こしたもの────』

 

 ────あ゛。

 

 テレビのテロップには『旧日本亡命政権残党、フクオカ基地を占拠し独立国家を宣言』。

 

「え? えぇぇぇぇぇ?!」

「これって、戦争?!」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!

 

『キュウシュウ戦役』! もう来ちゃったの?! 早すぎない?!

 

 ピリリ♪ ピリリ♪

 

「? ……ンンソンン?!」

 

 途端に俺の携帯が鳴り、連絡してきた相手を見ると思わずくぐもった悲鳴を上げそうになる。

 

「どうしたのですかスヴェンさん?」

 

「あ。 えー……少々席を外します、シュタットフェルト家に関連することですので。」

 

 

 

 俺は生徒会室を後にして屋上へと上がっていきながら『優男』の仮面を取り、屋上にいる毒島が振り返る。

 

「よく来たな、スヴェン。 ニュースは見たな?」

 

「ああ。 (ついさっきな。) 爺さん(桐原)は何と言っている?」

 

 毒島が喉を整えてデコ頭を作ってから桐原風にしゃべり始める。

 

「コホン……“一方的にサクラダイトの採掘権だけ通告してきおって、何様じゃ! 寝耳に水じゃい! 澤崎のハゲ気味小僧が、中華連邦に毒されおって!”……だとさ。」

 

 なるほど、原作同様に澤崎は中華連邦の傀儡国家のトップになるつもりか。

 

 というか何気に似とる。

 言ったら言ったらで、半殺しにされそうだが。

『どっちに』って??

 

 もちろん両方。

 

「そうか。」

 

「おじい様によると、キュウシュウブロックと周辺にいたレジスタンスの殆んどが日本解放戦線の片瀬少将の呼び掛けに応じ、“日本”に次々と殺到している。 我々はどうするのだ?」

 

 片瀬?

 どういうこっちゃ?

 ヨコスカ港『な、何事だぁぁぁぁ?!』で死んでなかったんかワレ。

 

「片瀬少将が?」

 

「ああ。 ヨコスカ港区から脱出し、中華連邦に亡命していた旧枢木政権に合流した後に流体サクラダイトを交渉に使って“日本”の司令塔の一部に組み込まれている。」

 

 ええええええええ、うそーん。

 なんでやねん。

 

 

 余談だがスヴェンもまさかタンカーが原作とは違い、余力を残した日本解放戦線が三つの船にそれぞれ流体サクラダイト、無頼改、無頼が積み込まれていたとは知らないだろう。

 

 

「そこでおじいちゃ────おじい様たちにも声がかかり、決を採ったらしい。 支援するか否かを。」

 

 Oh……それは意外。

 

「結果は?」

 

 原作のように『静観』でいてくれ!

 

「“保留”だそうだ。 神楽耶様はちなみにカンカンだったぞ、“ゼロ様を通さずに何勝手なことをしているのですあの金魚頭は! プンプン!”とも。」

 

『プンプン!』って、頬をぷっくりさせながらだろうか?

 

 だとしたらそのお餅を指で突いて割ってみたい。

 いや、そこはゼロにさせたい。

 

「そうか……これから俺にも(黒の騎士団の)召集がかかると思うが、『合流すべきではない』と思う。」

 

 毒島が眉毛を片方だけ上げる。

 

「それはまた……考えを聞いても良いか?」

 

「独立宣言時の映像を携帯で再生できないか?」

 

「……あ、ああ。 再生するぞ。」

 

 毒島が動画サイトにアクセスし、独立宣言を再生していくと俺は確認するかのように原作知識を加えた解析アレンジを口にする。

 

「……澤崎と片瀬少将をメインに画像が取られているが、後方には中華連邦の者らしき人物が立っている。 身なりからしてそこそこの地位を持った高官だ。 それに無頼や無頼改も映っているが、数は中華連邦の鋼髏(ガンルゥ)の方が多い。 だからもし、独立を成功させたとしても“名だけ日本”になるのがオチだろう。」

 

「傀儡国家、か。 それならば利用するにしろ、合流するにしろ、あまりメリットはないな。」

 

「いや、()()()出来る。」

 

「なに? どういうことだ?」

 

「そうだな……こいつらを仮に“日本”とこのまま定義しよう。 エリア11のブリタニア(コーネリア)軍と“日本”が衝突すれば、勝敗に関わらず消耗はする。 恐らく、カラス(ゼロ)はその機に何かしでかしてもおかしくはない。」

 

 余談だが『黒の騎士団』や『ゼロ』の言葉を口にするのはタブーで、ゼロの事は『カラス』と呼ぶようにしている。

 

 後、何故かそれを通信越しでディーナ・シーに伝えるとアリスのお腹から『ぐぅ~』とする音が鳴ったな。

 

 ……カラス、食べたことあるのお前?

 というかお腹を鳴らすほど美味しいの? *注*ちゃんと下ごしらえと調理し実際に食べるとカモに似ています。

 

「確かにな……(ナリタ)での件もあるぐらいだし、おかしくない……」

 

「取り敢えず、いつでも動けるようにしてくれ。 これから忙しくなるが、新しいあいつら(サンチア)たちはどうだ?」

 

その手の者(元軍人)だけあって、かなり見込みがある。 それに意外と話せるから私を含めて楽しいぞ? ……疲れるが。」

 

 あ~、なんか分かる。

 

 姉妹というか、兄妹というか、なんというか。

 

 コミックやアニメなどの原作知識でいくと、こうなるか?

 

 毒島とサンチアが『しっかり者の長女』。

 マーヤとマオ(女)が『要領の良い次女』。

 アンジュ(予定)とルクレティアとアリスが『苦労性の三女』。

 マ()とダルクが『元気な末っ子』。

 

 後に残った俺は?

 

 俺は……どうなんだろうな?

 

「……そうだな。 取り敢えず、いつでも動けるように。」

 

「了解だ。」

 

「いつも助かっている。」

 

……サラッと卑怯だぞ。

 

 そして小声で毒島が何かボソリと言う。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「あ?! いや、その! ほら! あれだ! ルクレティアの抱き枕用に作った、ぬいぐるみの事だ!」

 

 あー、あれね。

 

『すくす〇白沢モドキ』ね。

 ルクレティアは寝る時、何かに抱き着かなければ寝られないらしい習性なのでせっかくだから巨大なオルカを編んでみたら女性陣に『私にも!』とせがまれた。

 

 まぁ、その気持ちは分からなくもない。

 ふっくらボディに小さなフリッパーっぽいおてて、つぶらな瞳はいろんな奴らに刺さるからな。

 

 そこから俺はぬいぐるみ製造機の如く、皆の為に編んだら唯一頼んでこなかった毒島がチラチラ見ていたので、渾身の出来である『すくす〇白沢』(抱けるサイズ)をプレゼントしたら一瞬無邪気な少女のようなふんわりとした笑顔を向けられてドキッとした。

 

 こう……なんていうの?

 ギャップ感でグッと来た。

 

 次の瞬間、何時もの毒島に戻って感謝されたが。

 

「あとアンジュがボヤいていたぞ、“なんで私のだけ違う”って。」

 

 そういや、アイツには『ペロリーナ』を編んだな。

 クロスアンジュでペロリーナだし。

 

 「まぁ、あれはあれでダルクのイルカとの交換は嫌がっていたが……」

 

 毒島が何か言っているようだが、どうしよう?

 

 原作より“日本”……“傀儡国家の日本”は軍事方面でパワーアップしてしまっている。

 原作のように単騎突貫するランスロット、下手したら……いや、スザクが乗っている限りゼロが何とかするだろうが……

 

 さて……どう出ようか……出ないか……

 

 

 

 

 


 

 

 

「ハァ~。」

 

「ん? ため息なんて、コーネリア自慢のユーフェミアらしくないね? もしかして私がいることは迷惑だったかな?」

 

 ユーフェミアは政庁にてため息を出し、近くで副総督補佐(に正式な任命されたわけではないのだがシュナイゼルが何も言っていないので)書類の手伝いをするクロヴィスがそう声をかけてくる。

 

「え? あ! そ、そんなことは無いです! クロヴィスお兄様が手伝ってくれるのはその……凄く助かっています。」

 

 実はというと以前からクロヴィスにユーフェミアが相談していたことからある日、政庁のコーネリアにクロヴィスから連絡が届いた。

 

『副総督補佐官ぐらいはやって見せる』、と。

 

 本来のコーネリアならば即却下していただろうが、ユーフェミアの補佐につけていたダールトンもギルフォードも活性化したエリア11暴動鎮圧と“日本”の対応に駆り出された上に、シュナイゼル(絶対に借りを作りたくない相手)もその時はいた。

 

 それに仮にも総督をやっていたクロヴィスをそばに居させることで、『監視』の意味もあった。

 最近何かと必死に副総督の任を頑張るユフィが、未だに租界に出ようと危ういので『ユフィに何かあったら今度は上半身を潰す』という脅し文句の名をした脅迫付け加えた上でクロヴィスに副総督補佐官(仮)のようなものをさせていた。

 

 普通なら現在皇族が三人(身元がバレていない様子のライブラを入れると四人)がこうもテロや反ブリタニア活動が続くエリアに留まるのは良くないのだが独立宣言やナリタで多くの士官などを失ったことでさらに護送が危なくなり、政庁は人手不足になっていた。

 

 かくいうノネットもランスロット・クラブの修理を待っている……という大義名分でユーフェミアの側にいた。

 

 ちなみに『書類仕事? そう言うのは無理無理無理! キッ』とクロヴィスを睨んだそうな。

 

「そうかい? それにしては尋常ではないため息だったよ? もしかして、あのイレ────名誉ブリタニア人のことかい?」

 

 クロヴィスの脳裏に蘇るのは『イレヴンを騎士に任命するなど』といつもの調子で言ってしまい、コーネリアに劣るとも言えない圧力を先日放ったユーフェミア(と後ろでタジタジになったクロヴィスを笑いそうになるノネット)の姿。

 

 ギクッ。

 

 だが今回、形勢は逆転とばかり痛いようにユーフェミアが動揺したことでクロヴィスは言葉を続けた。

 

「それとも……自分の力量に悩んでいる、とかかい?」

 

 ギクギクゥ!

 バサバサバサバサバサバサ。

 

「あわわわわ?!」

 

「「おっと。」」

 

 ユーフェミアが連続で動揺した弾みでとうとう束になっていた紙が崩れそうになり、彼女とクロヴィス、そしてノネットがそれらを抑えて机の上に戻す。

 

「そ、そ、そ、そんなことは────ない……とも……

 

 原作……というよりは以前とはどこか違う様子のクロヴィスに戸惑いながらもユーフェミアは否定しようとしてスベリながら声がどんどん小さくなっていく。

 

 それは神根島で、スザクが命令違反を起こしてトウキョウ租界にある政庁にやっと戻ったと思えば、今度は彼から騎士の証を返されたのだ。

 

『事故とはいえ、自分は父親を手にかけました。 それに、自分には資格がございません』とだけ言い残しながら。

 

 スザクは詳しく話してくれなかったが、親しい人を────特に父親を殺したならばどんな事情があっても後悔の念は相当なものだろうとユーフェミアは感じていた。

 

 どんなに幼く世間知らずとも────いや。 ()()()()()()、その傷跡は深層深くまで刻まれているのだろう。

 

『うるさいよ、このお飾り姫が!』

 

 そしてこの間、自分とあまり歳が離れていなさそうな少女、黒の騎士団員の言葉はユーフェミアに刺さった。

 

 キュウシュウの対応にコーネリア、ダールトン、ギルフォード。

 中華連邦がこれ以上、『人道支援』を名義に介入しない対処のために動いているシュナイゼル。

 

 そしてコーネリアとシュナイゼルからは(言い方は違ったが)『外に出るな、何もするな』と。

 

「……私のことをどう思う、ユフィ?」

 

「え?」

 

 ユーフェミアが珍しくノネットから自分に対しての意見を聞く声がかかり、目が点になっていた。

 

「えっと……エニアグラム卿────」

「────かゆ! だからノ姉ちゃ────ノネット姉さんで良いって!」

 

「……“ノ姉ちゃん”?」

 

「え?! あ、その、そのえええええええっと────」

 

 ユーフェミアはクロヴィスがノネットの言いかけた言葉でさらに慌ててしまい、両手が宙をバタバタとする仕草がどこか慣れていないまま自分の世話をしだしたてのライラをクロヴィスに思い出させてしまう。

 

 そしてノネットにそれは幼い頃に慌てるコーネリアを連想させていた。

 

「────少し意地悪をしてしまったようだね。 私が言いたいのは、人の身である限り誰も完璧じゃないってことさ。 人参────じゃなかったクロヴィス殿下も考古学や芸術、保養施設などの分野においては非常に優れている。」

 

「なんだ、エニアグラム卿も姉上と違ってよく見ているじゃないか。」 ←ナルシスト風ドヤァ

 

「でもその反面統治能力は高くないね。 ま、ぶっちゃけると『総督と戦ごと以外なら優秀』ってわけさ。」

 

 グサッ。

 

「ングッ。」

 

 クロヴィスのどや顔に影とセットした髪の毛が落ちる。

 

「私だってそうさ。 『女なのに美容に気にかけなさい』とか『男見つけなさい』ってオカノン(カノン)が毎度言ってくるし……あとここだけの話、モニカ(ナイト・オブ・トゥエルブ)はちょっと羨ましい。 あの見た目に文武両道の腕だからね。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ヘキチッ! ………………誰か私のことを話している。 このクシャミの仕方はエニアグラム卿辺りね。 多分。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(あと彼女(モニカ)の方が若い。)」

 

 クロヴィスがそう考えると何故か凄い形相のノネットの錯覚を見てしまい、笑みを隠す。

 

「そ、そんな! ノネットさんは全然綺麗ですし、美容に気を使っていなくとも可愛いです!」

 

「アッハッハッハ! 嬉しいことを言うね副総督は! でもそんな言葉をアンタから聞くと人に寄っちゃ嫌味に聞こえるよ?」

 

「そんな……だって私の取り得なんて……何も────」

「────だとさ、クロヴィス殿下?」

 

 ノネットが突然話題を自分に振ったことに眉間にクロヴィスはシワを寄せながらも紅茶に口を付ける。

 

「ん? どういうことです?」

 

(ライラ)ちゃんから聞いたよ? アンタ、コーちゃん(コーネリア)に毎回ボコボコにやられたことで(ライラ)ちゃんに良いところ見せようと武術方面を頑張ったけれど全然ダメという事でコーちゃんの苦手な分野────」

「────ブフッ?! そ、それは少々の誤差が────」

「────ま、と言う訳で周りの『持つ者たち』に対して、『持たざる者の苦悩』ってのは大小の違いで誰でもあるのさ。 それがどれだけ深刻で、どうやって向き合うかで変わる────」

「────聞いているのかエニアグラム卿────?!」

 

『帝国最強』のラウンズであるノネットの言葉と、『元総督』だったクロヴィスの慌てようにユーフェミアはキョトンとしていたが、何かがはまる様にノネットやクロヴィスも自分に対してのコンプレックスを持っているという考えに至る。

 

「……ぁ。 (では、あの時の『自分に資格はない』って……もしかして────?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 フクオカ基地の管制室で、澤崎が様々なデータ映像などが集結するスクリーンを眺めて笑みを浮かべる。

 

「流石ですな、(ツァオ)将軍。」

 

「いえいえ、ここまで上手くいったのも日本解放戦線の合流もあったからこそ。 優秀な部下を持っていますな、片瀬少将は。」

 

 澤崎が横を見ると元中華連邦第七機甲師団の曹将軍が()()への指示を出しながら答える。

 

 以前、河口湖でも触ったがコードギアスの世界は化石燃料が発達していない代わりにサクラダイトを利用した電気技術が発達し、世界のサクラダイトのほとんどがエリア11(日本)から輸入している。

 

 無論、ブリタニアだけでなくほかの国もサクラダイトに依存していると言っても過言ではなく、中華連邦もその一つだった。

 

「一つ誤算だったのはまさかこうも早くブリタニアが中華連邦に圧力をかけることですな。 その所為でこれ以上の援軍は見込めない。」

 

「帝国の宰相か……だが日本のレジスタンスのおかげで人員は補充できる、それに片瀬少将と一緒についてきた日本解放戦線もいる。」

 

 コン、コン。 ガチャ。

 

「ただいま戻りました。」

 

「おお、噂をすればなんとやら。 どうでしたか、片瀬少将?」

 

 ドアをノックしてから入ってきたのは中華連邦にタンカーに日本解放戦線の残存兵力を乗せて逃げた片瀬少将。

 

 彼について来た日本解放戦線、無頼、無頼改、そして流体サクラダイトは中華連邦にとって喉から手が出る程に欲しかったものばかりだった。

 

「藤堂は、『我、賛成しかねる』とだけ────」

「────なに!?」

 

「むぅ……」

 

 澤崎がびっくりし、曹将軍が考え込む。

 

「藤堂は深い考えを持つ。 もしかすると、黒の騎士団とやらで何かあったのかと。」

 

「どちらにせよ、“日本”が勢力を拡大すれば黒の騎士団とやらも合流するだろう。 そうなれば我々の同士になるも同然。 この勢いで“日本”の領土を取り返せば勝ちますよ。」

 

 澤崎(政治家)は笑みを浮かべ、スクリーンに出ている勢力図にほくそ笑む。

 

「(もし、万が一藤堂とやらが合流しないのが黒の騎士団の総意となれば……この騒動を利用し、今後敵対もあり得る。 ならばその時、どうやって元日本軍を御しようか……)」

 

 曹将軍は難しい顔をしながら如何にして “日本”を早く世界に認めさせ、中華連邦の()()()におけるか考えていた。

 

「(藤堂……お前なら“日本再興”に名を貸すぐらいならすると思ったぞ……)」

 

 そして片瀬はどうやって取った領土の守りを、今の兵力と装備で盤石に出来るかを考えていた。



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第60話 キュウシユウ戦役2

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます! m(_ _)m

全て活力剤と励みとしてありがたくいただいております!

そして長めの次話です!

楽しんでいただければ幸いです!


「あーあ! こ~んなに頑張って準備しているのに中止になるのかな、学園祭?」

 

「だって実質、中華連邦のバックが付いている“日本”とエリア11を通してブリタニア帝国の代理戦争だぜ、これ?」

 

 朝日が差し込む生徒会室でシャーリーがボヤき、リヴァルが言葉を付け足す。

 

「「「…………………………」」」

 

 ミレイ、シャーリー、ニーナの三人が黙り込む。

 

「ねぇニーナ、美術館から借りる予定の屋外ブースは?」

 

 その気まずい沈黙を破ったのはミレイだった。

 

「あ、それならもう手続き終わっているよ。 あ、でも出来れば科学庁に寄ってもいいかな?」

 

「科学庁……ってあの人の贈り物?」

 

「うん。」

 

「あの人?」

 

「「ロイド先生/伯爵。」」

 

「あの女たらしめぇぇぇぇぇ! こちとら複数人の作業をしていて会長というモノがありながら────!」

「────いやいや、そんなんじゃないから。 全然、ね……」

 

「???」

 

 ミレイにしてはかなり珍しい、俯きながらのアンニュイな顔にリヴァルがハテナマークを出す。

 

「それにしても、一気にガラーンとなっちゃったわよね。 ルルはひらりと消えちゃってスザクは軍、カレンは病院、スヴェンはカレンの付き添い、アリスとライブラは家の用事……」

 

「ミィ。」

 

「あ、もちろんアーサーもいるのは分かっているよ?」

 

 シャーリーの言葉にアーサーが鳴き声を出して彼女は思わず人語でしゃべりかける間、ミレイは窓の外を見て先日スヴェンと話した内容を思い出す。

 

 

 

 アッシュフォード家は現状、かなり曖昧な立場に立たされている。

 昔のコネを使ってアッシュフォード学園の管理と経営を行い、かなり成功させているもののかつての大貴族だった頃の栄光とは比べ物にならない。

 よってミレイの両親は『ミレイ・アッシュフォード』というカードを使って再興する為の政略結婚のお見合いを度々セッティングしている。

 

 貴族の社会で、特に成人前で何の功績もない女性に発言権や決定権はほぼ無いに等しく、立場あるようで実際は無く、肩身はかなり窮屈なもの。

 

 事実上、『貴族政略の駒』でしかない。

 特に弱小(没落)貴族ともなれば。

 

 貴族で純愛結婚など童話、夢物語(フェアリーテイル)に出てくる稀なもので。 婚儀のほとんどがビジネスに似た『家同士のギブアンドテイク関係』が普通である。

 よってミレイはそれ等お見合いをそれとなくぶっ壊して破談にしてきた。

 

 今までの相手は年上や()()()な相手が多かったが、アッシュフォード家より認識は上だが所詮は数ある低級貴族階級。

 破談になっても『あ、やっぱり駄目か~』な感じに周りの貴族たちから見られてもしょうがなかった。

 

 だがロイドとなると、話の次元が今までのお見合い相手とは完全に違ってくる。

 

 帝国の第二皇子シュナイゼルと繋がりを持ち、彼自身も伯爵の爵位を持つ上位貴族。

 そんな彼が、ダメもとでアッシュフォード家が送った手紙に『お見合いイイヨ♪』の一言で即オーケーの返事を返してきたのだ。

 

 本来貴族は長ったらしい文面や何回かのやり取りで時間を稼ぎながら相手の素性を探ったり、家の情報などを集めて『品定め』をしてから『イエス』か『ノー』の返事をするものだがロイドは即返事をしたことでミレイの両親は大喜びですぐにミレイに相談せず準備を進めていた。

 

 今度の相手は『破談』とするには難しすぎる事情も事情ゆえに、色々と問題があった。

 

 祖父である理事長のルーベンはあまり気乗りしていなかったが、元々アッシュフォード家の没落する原因を作った本人であるので強く言えなかった。

 

 そんな時ミレイはどうしたらいいかルルーシュに相談しようかと思ったが、殆んどお手上げ状態。

 

 そんな時、彼女は時々底が知れないような言動を見せる『シュタットフェルト家の従者見習い』に相談することを決めた。

 

 他家の従者とは言え彼は有能で口も堅く、(少なくとも学園では)人当たりが良かった。

 

「と言う訳で、どうしたらいいかなスヴェン?」

 

「ミレイ会長の“と言う訳”に私は若干トラウマを覚えつつありますが? (ニッコリっ)」

 

「う。 ゴ、ゴメンってば────」

「────というのはこれぐらいにして、ミレイ会長が悩んでいるのは何のことでしょうか?」

 

「えっと……スヴェンはアスプルンド家の事を知っているかしら?」

 

「ええ、まぁ……一言で言うと“今の帝国宰相(シュナイゼル)の後ろ盾として知られている人間性に問題アリの変人”ですね。」

 

 スヴェンの笑顔に反し、ミレイの顔は自然と引きつってしまう。

 

「そ、それが一言なんだ? ……ねぇ、もう聞いているかもしれないけれど私……今度のお見合いがその“変人”なんだけれど────」

「────おめでとうございます。 (ニコッ)」

 

「……全然おめでたくないのだけれどありがと。 で、どうやったらうまく破談に出来るかな?」

 

「“最初から”、は無理ですね。」

 

「…………………………やっぱり?」

 

「『人柄』や価値観はともかく、貴族は『体面』と『地位』を重視しますから。 ので逆に今度こそ破談すると、ミレイ会長がプ────ロイドさん以上の『変人』の認定やレッテルを貼られかねませんから。」

 

「(あれ? 相手は伯爵なのに、名前でさん付けで呼ぶなんてスヴェンにしちゃ珍しいわね? 会ったことあるのかしら?)」

 

 

 余談だがこの時スヴェンは思わず『プリン』と言いそうだったのをセシルの『ロイドさん』に変えただけである。

 

 

「ですので、ここは彼にこそギブアンドテイク(ビジネス)の関係を結んだらどうでしょうか? 彼の事を考えるのなら、恐らくオーケーした理由はガニメデやイオ()()ですから。」

 

「あの、貴方がよく倉庫に行って整備している基本フレームの? 何体かあるけれど、ちゃんと動くのは()()()()()()()()よ?」

 

「あれは今のサザーランド……いえ、下手したらグロースター並みの機動力を理論上は出せますから。」

 

「え、嘘?!」

 

「理論上です。 それに興味を引かれたロイドさんはミレイ会長とのお見合いにオーケーを出したのでしょう。 彼は研究に対する探究心の塊で、それ以外のほとんどに興味を持ち合わせていませんから。 ですので、『ガニメデの観察や基本データなどを代わりに婚約者ごっこを続ける』というものを逆にこっちから話を持ち掛けるのです。」

 

「……スヴェン。 貴方、ウチの専属にならない? カレンに話は通すからさ。」

 

「私はカレンお嬢様ではなく、シュタットフェルト家当主に雇われている身ですので。」

 

「……それとさっきの相談、ありがとう。」

 

「いえいえ。 ミレイ会長には色々と借りがございますので……あ。 最後に一つだけ忠告がございます。 ロイドさんが嫌うのは────」

 

 

 そしてスヴェンの言葉もあってか、初っ端からの破談をミレイは諦めた。

 面会すれば指定された場所は特派専用のトレーラー内。

 しかも初めて会うのに『時間の無駄、結婚しよう』である。

 

 思わず淑女の猫かぶりをミレイが破って『はやっ?!』と言いながら『(すぐにスヴェンの言っていた『時間の無駄遣いが嫌い』が出た?!)』と思うほど。

 

 そこからは流されるまま『結婚はまだ早い』ということで『取り敢えず婚約、結婚は保留』という話になっていた。

 

 ロイドの『あは♪ バレていたの? 君も賢いね?』のお墨付きで。

 

「(やっぱりロイド伯爵の狙いはアッシュフォード家に残っているガニメデとイオに関するデータだった。 こっちからそれとなく話を振ったら、一気に主導権をこっちに譲るなんて正直、驚いたわ。 それに、ニーナの趣味にも乗り気だったし……でも────)」

 

『────所詮は時間稼ぎ。』

 

 その事実がミレイの脳裏に小さな針のようにチクチクとくっついて離れなかった。

 

 いずれミレイは貴族でも社会でも学園から卒業すれば『成人した女性(大人)』と見られる。

 

『モラトリアムが出来る内は楽しむべき!』、と本人は言っていたが根本的に状況が改善されるわけではない。

 

「(……………………『ジョナサン・シュタットフェルト様』宛てに書いて、ブリタニア本国に送れば届くわよね?) ねぇ皆? 『理事長の孫』って社会的ステータスでどのぐらいだと思う?」

 

「「微妙?」」

 

「ングッ。 び、“微妙”……」

 

 ニーナとシャーリーが首をかしげながらそう言うと明らかにミレイが(精神的)ダメージを受ける。

 

「お、俺は良いと思うぜ会長────!」

「────皆さんお久しぶりです~。」

 

 いつもの元気いっぱいの様子ではないライブラがフラフラ~と入って来てリヴァルの言葉を遮る。

 

「どうしちゃったのライブラちゃん?」

 

「お兄様の苦手な人が本国から来ているのです~……そして何故か私を見ると抱きしめてなかなか放してくれないのですよ~……学園祭、もしかして中止ですか?」

 

「う~ん、どうなんだろうね? でも最悪、私たちだけでも巨大ピザを作ろうかな?」

 

「そうですか~……(ライブラ)は噂の『()()()』に会ってみたいです!」

 

「「「う゛。」」」

 

「……(ポッ。)」

 

 ライブラの言ったことでシャーリー、リヴァル、ミレイの三人が気まずくなり、ニーナが頬を静かに赤らませる。

 

「ラ、ライブラちゃんはどこでそのことを知ったのかしら?」

 

「中等部の皆ですー! 私が学園祭の事を周りに聞いたら『お姉さまに会いたい!』って言う子がいっぱい居たので聞いたら高等部では『女王様』と呼ばれているって分かりましたです! なぜかアリスは遠い目をしましたですけど……」

 

「「(無理もねぇ/ないよ。)」」

 

 リヴァルとシャーリーがそう思う後ろでキラリと何かの閃き(ニュータイ〇フラッシュ)がミレイの頭を駆ける。

 

「そうね! 復活させてもいいかも、『女王様』!」

 

「え?! かかかか会長?! 本気ですか?!」

 

「ええ! と言う訳で金庫開けてカツラを取り出しておくから。」

 

「うわぁ……また性癖を拗らせる奴がわんさか出るのかよ。」

 

 「性癖……(ポッ)」

 

 シャーリーが明らかにドン引きしながら慌て、リヴァルが青ざめ、ニーナがさらに赤くなる。

 

「んっふっふー! では学園祭が決行できた暁には、我が生徒会の出し物は────!」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「我々は澤崎とは合流しない。」

 

 黒の騎士団の本拠点になりつつ潜水艦の中でゼロがそう宣言する。

 

「えっと……あっちは“日本”って名乗っているけど────?」

「────あれはただの傀儡政府だ、中華連邦のな。 主君と名前が変わるだけで現在と何も変わらない。」

 

「それくらいわからんのか、役立たずが。」

 

 玉城の言葉にゼロが答え、CCがこの間『ゼロの愛人』呼ばわりされたことの意趣返しをする。

 

「んな?! それくらい分かってらぁ!」

 

「ゼロ、ここは明確に組織としての目的を言うべきではないでしょうか?」

 

 ディートハルトが一瞬だけ部屋の端にいるスバルを見てそう言う。

 

「そうだな。 我々はトウキョウに独立国を作る。」

 

「はぁ?!」

「独立?!」

「なんだって?!」

「く、国を作るのか?!」

「ッ! ゼロ、やはり貴方は!

 

 ゼロの宣言に黒の騎士団のだれもが動揺や感動を示す。

 

「(これにも動揺しないか、心が死んでいるとしか思えん……拷問の後遺症か? それともすでに予測していたのか?)」

 

 ゼロが見ていた、一人だけを除いて。

 

「待ってくれ! いくら黒の騎士団が大きくなったと言っても、相手はブリタニアだぞ?!」

 

「世界の三分の一を牛耳る大国を相手に、黒の騎士団だけで?」

 

「ならば問おう! 我々以外の誰かが、ブリタニアを倒してくれると思っているのか?」

 

 藤堂は一瞬だけスバルを脳内で思い浮かべる。

 

「“誰かが自分の代わりにやってくれる”? “待っていれば いつかはチャンスが来る”?

 否! 自らが動かない限り、そんなチャンスは絶対に来ない! 扇、我々黒の騎士団は何だ?」

 

「え?! え、えっと……正義の味方?」

 

「そうだ! そしてこの澤崎が自称している“日本”は、不当に値する力で動いているにすぎない! その力は彼自ら得たものではなく、中華連邦の助力によるものが大きい! 澤崎は知らずのまま“日本”を中華連邦に売り渡す呼び水になっていると気付かぬふりをしている悪党にすぎん!」

 

「だ、だけどあの映像には日本解放戦線の少将も────」

「────ならばなおさら質が悪い! それならばせめて送る映像に中華連邦の将軍やナイトメアを見せないなり工夫すればよかったものを、おそらくは交渉に負けたのだろう! 無知は罪であるが、彼のやっていることは加担と同様である!」

 

「ではゼロ、これから黒の騎士団はどう動く?」

 

「澤崎、そして彼の操っている中華連邦を叩く。 これにより、我々の存在を世界にアピールし、支援者を増やし、その流れをトウキョウ独立に使うつもりだ。 この作戦には黒の騎士団で“傀儡国家日本”が展開している部隊を各個撃破する。」

 

 それからゼロは次々に指示を出すが、やはりスバルは動揺せずにただそれらを聞いて頷き、作戦室が解散される。

 

「あ、スバル!」

 

 カレンがゆっくりと歩くスバルに追いついて彼の肩に手を置く。

 

「今回は一緒の部隊だね! 背中は任せたよ!」

 

「……ああ。」

 

 スバルはそう短く、くぐもった声でそっけなく答えるとカレンは小さな違和感を覚える。

 

「??? (なんか……なんだろう、これ? ()()()()()()()?)」

 

 

 ほぼ同時刻では、世界で初の浮遊戦艦アヴァロンがキュウシュウブロックの上空へと向かっていた。

 目的とともに、ブリタニアの作戦は単純だった。

 

『中華連邦によって“日本”の旗印になった澤崎敦の捕縛。』

 

 アヴァロンといえどもブレイズルミナスは全方位式ではなく、一隻だけでこれは不可能である。

 

 ランスロットの突破力ならではの特攻作戦だった。

 

「………………」

 

 ランスロットのパイロットであるスザクは静かに格納庫の中で枢木ゲンブの形見である────否。 自分の戒めとして持ち歩いていた懐中時計を見ていた。

 

 針はスザクが父を撃ったあの時で止まり、本体は今では懐かしいと感じ取れる『シンジュク事変』で友であるルルーシュをクロヴィスの親衛隊から庇って撃たれたときに壊れてしまった。

 

 それでも尚スザクはそれを持ち歩いて、今度はバックパックを搭載したようなランスロットを見上げる。

 

『ランスロット・エアキャヴァルリー』。 アヴァロンやガウェインで十分データが取れたフロートシステムを外部パーツとして搭載され、飛行能力を得たランスロットの新しい名だった。

 

 ただし、毎度のことながらその新装備は未調整で急ごしらえのこともあってかエナジー供給はランスロット本体からされている。 これによって既にエナジー消費が激しいランスロットの稼働時間はかなり短くなってしまった。

 

 ロイドやセシルの計算だとどれだけ見積もっても『作戦の成功率は6割』とかなりよく聞こえるがそれはあくまで『作戦の全体成功率』であって『パイロットの生存率』ではない。

 

「それでも、俺はやるしかないんだ。」

 

『作戦地域に近づいています、枢木スザク少佐はランスロット・エアキャヴァルリーに騎乗してください。』

 

 艦内放送を耳にしたスザクはランスロットに乗り込んでシステムを作動させる。

 

 コックピット内からでも聞こえる爆発音とアラームにセシルの通信が届く。

 

『弾幕を張りますか、枢木少佐?』

 

「必要ありません、アヴァロンの防衛に使ってください。」

 

『では作戦概要の確認を行います────』

 

 セシルの声を聞きながら、スザクは別のことを考えていた。

 

「(できるだけ敵の本拠地であるフクオカ基地を強襲し、混乱させてコーネリア様たちが率いる別動隊が防衛線を突破する隙を作る。 それだけに僕は集中すればいい。)」

 

 スザクやロイド達は元から『澤崎敦の捕縛』は諦めていた。

 どれだけ性能が良くても、ランスロットはたった一機で稼働時間も危うい。

 

 セシルは最後まで反対したが、当の本人であるスザクはこの作戦を承諾したことで決行された。

 

『ランスロット、発艦!』

 

「発艦します!」

 

 スザクはランスロットがカタパルトを一気に最高速度で移動を開始したことで自分の体に圧し掛かるGに耐え、ランスロットのフローターユニットが展開今まで感じたことのない浮遊感に感動しそうな自分の一部を押し殺してそのままフクオカ基地へと突貫していく。

 

 ミサイルに戦闘ヘリをできるだけエナジー消費の少ない機動とスラッシュハーケンでできるだけパイロットの乗っている機体に致命傷を避けた攻撃で宙を舞う。

 

「(いいぞ、このままいけば基地での稼働時間が────)」

『────私は澤崎敦だ。 こちらに向かって来る君は、枢木ゲンブの息子かね?』

 

 そこにオープンチャンネルでスザクに映像付きの通信を送ってきたのは澤崎本人だった。

 

「ッ。」

 

 スザクは父親の名を聞いて思わず動揺から黙り込んでランスロットの操縦に専念する。

 

『そうか、こんな子供に育ったのか────』

「────自分は戦いを終わらせに来ました、降伏さえしていただければ────」

『────そうして“日本独立”の夢を奪う気かね? 日本は蹂躙されたままでいいと?』

 

「ですが、こんな手段は間違っています! 正しい手段で叶えるべきです!」

 

『そうして君は自分の我儘を虐げられている日本人に強いるのかね?』

 

「ッ! ち、違います! それは────ノッ?!」

 

 ランスロットがフクオカ基地に降り立つと鋼髏(がんるぅ)が文字通り周りからの建物などから次々と出てきては一気に発砲してランスロットが持っていたVARIS(ヴァリス)が被弾して誘爆する前に捨てられる。

 

「クッ!」

 

「(ふふ、会話に集中しすぎて周辺警戒が疎かになるとはまだまだ青いな。)」

 

 澤崎はMVSを出して応戦を試みるランスロットを愉悦に浸りながら画像を見る。

 

 アリのように次々出てくる鋼髏(がんるぅ)の一機一機がランスロットはおろか、サザーランドに遠く及ばないものの多勢に無勢。

 

 かつて『ホホホ、アリが恐竜に勝てると思うのか?』と言った悪役がいたが、もしそのアリの数が数億などで一匹一匹が毒を持っていれば話は違うだろう。

 

「フロートシステムが?!」

 

 それと同じように、ランスロットは苦戦を強いられていた。

 

 右腕のMVSで鋼髏(がんるぅ)を、左腕のブレイズルミナスで射撃を、とランスロットが応戦するが────

 

「あれは、無頼改?!」

 

 ────今度は日本解放戦線の機体たちとかち合ってしまい、攻撃を受ける。

 

 前方に無頼に無頼改、後方に鋼髏(がんるぅ)

 

 今まで軽い被弾だけで済んでいたランスロットが直撃を受けて所々が火花と露出した電流を出し始める。

 

『スザク君、エナジーを戦闘と通信に絞り込んで!』

 

「了解です!」

 

 展開中だったランスロットのファクトスフィアがボディに戻り、あらゆるデータが無くなりスザクはモニター越しで肉眼で得た情報を身体能力で補う。

 

『投降したまえ、悪いようにはせん。 枢木首相の遺児として────』

「────お断りします!」

 

『全く、その強情さは父親譲りだね。』

 

「ここで父の名を使ったらそれこそ、自分は自分を許せなくなってしまいます! (それも、この先長くはないけれど……)」

 

 スザクが見るのはさっき消したアラームの一つで、分数に迫っていた合計稼働時間だった。

 

『枢木スザク────!』

「────え?! ゆ、ユーフェミア様?!」

 

 そこで澤崎のオープンチャンネルに割り込むようにユーフェミアがモニターを塗り替える。

 

『あの、私は……えーと……』

 

 だがさっきまでの勢いはどこに行ったのか、ユーフェミアがまごまごしだす。

 

「あの、今は作戦中────」

『────く、枢木スザク! 私を好きになりなさい!』

 

「はい────え?」

 

 スザクは器用にユーフェミアの通信と包囲を試みる敵の機体たちから逃げることを平行に行い、通りざまに無頼の腕を切って落とすアサルトライフルを手に取ってランスロットのOSソフトウェアドライバーがインストールするとそれを撃ち出す。

 

「(ユフィは、今なんて?)」

 

 それでも、彼は思わずユーフェミアの言葉を聞いた自分の耳を疑ってしまう。

 

『どうしよう?』と思っているスザクにユーフェミアは今まで出したことの無い、真剣で熱意のこもった言葉を口にする。

 

『その代わり、私が貴方の事をその分よりもっと好きになります!』

 

「(聞き間違いじゃ、なかったんだ。)……ええっと────?」

『────私は貴方の頑固なところも優しいところも時折悲しくて寂しい瞳も不器用なところも猫にかまれるところも全部好きです!』

 

 そこでスザクにはピンと来てしまう。

 

「(ああ……僕の行動が逆に心配させたのか。) いきなりですね?」

 

 さっきから紅く点滅するアラームを無視してスザクが思い出すのはユーフェミアが政庁のビルから飛び降りて文字通り空から降って来たとき。

 

 純血派の内部抗争の場に飛び出て迷わず皇女を名乗り上げたとき。

 

『学校に行けるのなら通うべきです!』と聞く耳持たずにアッシュフォードへの入学を進めたとき。

 

 名誉ブリタニア人とはいえ、ナンバーズである自分を『皇族付きの騎士』と任命した時。

 

『そうです! いきなりなんです! いきなり気付いちゃったんです!』

 

「そうやって僕や周りを困らせているけど、その“いきなり”のおかげで僕は数々の扉を開けられた気がする。」

 

 彼女のおかげでルルーシュやナナリーに再び出会えた。

 色々あるけれど、学園に通う事も出来た。

 

『軍人』としてではなく、『枢木スザク』という一人の人間として。

 

「ありがとう、感謝している。」

 

 そんな感動の真っ只中、スザクは稼働時間を見ると感動と同等な悲しみが彼の胸を襲う。

 

「(ああ、俺はこれからこんな人を悲しませてしまうのか。) ()()()、お願いがあります。」

 

 フクオカ基地の司令部まであと少しというところで、ランスロットがエナジー切れを起こし始める。

 

『さ、最後って?』

 

 展開中だったブレイズルミナスは消え、さっき奪ったアサルトライフルも弾切れを起こし、MVSもただのナイトメアサイズの剣となり、ランドスピナーの動きも緩やかな速度に落ちていく。

 

「これから僕に何かあっても、決して自分を嫌いにならないでください。 でも『枢木スザク』という人がいたことは消してください。」

 

 スザクは残った緊急用エナジーを通信から全て駆動部に切り替える準備をしておく。

 

「あ、あと学園の皆には内緒に。 僕は転校したことにでもしてください。」

 

『スザク?! まさか────』

「────ありがとうユフィ。 僕は……俺は、君のおかげで────」

 『────だめぇぇぇぇ! スザク死なないでぇぇぇぇ! 生きてぇぇぇぇ!』

 

 ユーフェミアの悲痛に満ちた声……というよりは『生きて』と叫ぶ声にスザクは一瞬意識を失いそうになるが目の前にいた敵の機体たちは空から降る赤い閃光に包まれ、熔解し始めると爆発したことで視界が戻る。

 

「ッ……僕は────」

『────枢木よ、動けるか?』




ちゃんと後半シーンを表現できたか不安です。

何度見ても胸にグッときて泣けるこの名シーンのおかげで長くなりましたが、後悔はないです。 ( つω;`)ウッ


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第61話 キュウシユウ戦役3

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます! 活力剤としてありがたく頂いております! (シ_ _)シ

急展開で上手く表現できたか心配ですがお読み、そして楽しんでいただければ幸いです!


 突然活発な動きを止めたランスロットの窮地にガウェインが現れたことで、アヴァロンのブリッジにいた技術者たちにどよめきが走る。

 

「あれは、盗まれたガウェイン?!」

「しかもさっきのハドロン砲?!」

「バカな! まだ調整は終わっていないはず!」

「誰かが完成させた────ハッ?!」

 

 全員が後ろにいるセシルを思わず見てしまう。

 

「「「「……」」」」

 

 否。

 実質彼ら彼女らが視線を移したのは彼女の近くにいるはずのロイド。

 

「────」

 

 そんな彼は黙り込んだまま、頭を両手で抱えて並みの人間では出せない表情に歪ませながら固まっていた。

 

 そしてセシルといえば、ダラダラと汗をかきながら顔を覆っていた。

 

「「「「うわぁ……」」」」

 

『カオス』。

 

 特派は『ロイドが主任』という事実でいつもそう(カオス)なのだが、今の現場は今まで特派のメンバーたちが見てもそう表現するしかなかった場面だった。

 

「(僕の……僕のハドロン砲が……こんなことをできるのはやはりゲフィオンディスターバの理論をあげながら完成させてその技術の応用でハドロン砲の集結力をアップからあqswでrftぎゅじこllp~)」

 

 ロイドの視界は真っ白になった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『枢木よ、動けるか?』

 

 空からフロートシステムを展開していたガウェインがランスロットの側に着陸し、オープンチャンネルで堂々と音信のみの通信が出る。

 

「ぜ、ゼロ?!」

 

『“動けない”というのならこのエナジーフィラーを受け取って下がれ。 私はこれから敵の司令部を叩く。』

 

 降りたガウェインを操縦していると思われるゼロの言葉は、いつも通りの『上から目線』なものだったが、ガウェインの行動はそれと似合わない行動だった。

 

 まるで目線を合わせるかのように片膝をつき、片手に乗せたエナジーフィラーを差し出すそれはまるで、『戦友』に対する動きだった。

 

 そう思ってしまったスザクは『ああ、ゼロってどこか素直じゃない(捻くれている)んだな』とも思いながら笑みを浮かべてしまう。

 

「残念だけど、それはないな。 お前より、僕が先に叩かせてもらうよ。」

 

『そうか。 ならば競争というわけか、受けて立とう。』

 

『ゼ、ゼロ! お前は! お前たち黒の騎士団は日本を憂いる同志ではないのか?!』

 

 フクオカ基地の司令部にいた澤崎は混乱していた。

 やっと『枢木ゲンブの遺児』という政治カード(ボーナス)を手に入れるところで、上空から現れた漆黒のナイトメアの所為でがらりと理不尽にも形勢が変わった。

 

 しかもその新たに現れたナイトメアに乗っているのは、ほかでもないゼロのようだった。

 

『同士? 我ら黒の騎士団は“不当な暴力をふるう者”の敵だと宣言したはずだが?』

 

「フ、不当?! 私は────!」

「────オオイタに展開中の片瀬少将も攻撃を受けているとの入電!」

 

「なに?!」

 

「敵はブリタニア軍か?!」

 

 澤崎が驚き、ツァオ将軍が詳細を通信兵に求める。

 

「い、いえ! 敵は、黒の騎士団と思われます!」

 

「なに?! し、しかし奴らは反ブリタニア組織のひとつの筈!」

 

「(ブリタニアの包囲網をすり抜け、ここまで広い範囲で展開できるというのか奴らは?! これではまるで一国の『軍隊』ではないか!)」

 

 澤崎は聞いていた黒の騎士団の評価と現実がかけ離れていることに焦り、ツァオ将軍はゾッとしながら本国の選択ミスを呪い始めていた。

 

「……澤崎殿、ここは────」

「────何をしている! 敵はたった二機! 奴らを攻撃しろ!」

 

 ツァオ将軍は内心舌打ちをしながら、この局面でどう動けば体勢をキープしつつ生き残れるかを考え、空路(ヘリ)海路()の手配を静かに中華連邦の兵士にさせる。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ゼロのガウェインがフクオカ基地を襲撃する少し前に、黒の騎士団はキュウシュウブロックの包囲網を担っていたブリタニア海軍と海中騎士団を素通りしていた。

 

 ()()()()()

 

 黒の騎士団が皆、『ゼロはどんな手品を使ったんだろう?』や『ここまで見通して根回しができるのか?』と思っているが、そのほとんどは、その疑問が二つともある意味的を射ていたことを思わないだろう。

 

 いつかのカレン等が思っていた疑問を覚えているだろうか?

 

『ゼロは今まで何らかの手で、ブリタニア軍の一部でさえも口先だけで篭絡している』と。*1

 

 もう察しているかもしれないが、上記での『何らかの手』とは、事前に相手の弱みや背景情報を前もって準備していただけではない。

 

 無論これらにはルルーシュのギアス、『絶対遵守』が大きく関係していた。

 軍の部隊長や指揮官クラスともなると、単なる『情報による脅し』では限界がある。

 

 元々この活動は来る『トウキョウ独立』の下準備として進めていた陽動計画の一部だったが、今回の作戦で得られるものが大きかった為一部が転用された。

 

 そこで、レジスタンスの日本人などしか知らない抜け道などを使って、オオイタ付近の各地に黒の騎士団は潜入し、待機していた。

 

 静かに息をひそめ、『合図』を待つ者たちの中の一人であるカレンが、開いていた紅蓮のコックピットハッチの中からスバルの乗っている無頼を見る。

 

 他の者がどこからどう見ても言動はスバル。

 これはゼロや藤堂、昔から知り合いである扇や情報を武器としているディートハルトから見ても『スバル』だった。

 

 なのだが────

 

「(やっぱり、()()。)」

 

 ────カレンは潜水艦内から持っていた違和感で、よく『スバル』を見ているとごく僅かにだが()が違った。

 

 と言ってもそれらは微々たるもので、ほかにそれに気付ける者がいるとすれば、母親代わりに世話を見ていた留美(カレンママ)だけだろう。

 

「(……ま。 大方、裏で何かしているんでしょう。 ほんッッッッッとうににアイツは昔から目立つのが嫌いなくせに大胆なことを上手くやるから、責めたくとも結果的オーライになるし……)」

 

「(ハァァァァァァァァァァァァ。)」

 

『スバル』は長~いため息を内心出していた。

 

 「(()()()の頼みじゃなければこんなうるさい場所から逃げ出したい。)」

 

『スバル』になりきっていたマ()がイライラしながらも、ヘルメットに内蔵されていたブルートゥーススピーカーから新しく録音されたCCの言葉に集中していた。

 

 オオイタ基地に活気が急に生まれ、蜂の巣を突いたように忙しくなる。

 

『総員、合図だ!』

 

 藤堂の通信に、黒の騎士団がそれぞれナイトメアに乗り込む。

 

 カレンたちの目的は、日本解放戦線の生き残りのほとんどが片瀬に付いて来たオオイタ基地を強襲し、事前に中華連邦で旧日本軍から聞かされていた偽の情報を正すこと。

 

 ()()の登場と言葉によって、揺さぶりをかけて『聡い(自己判断できる)者』とそうでない『古い時代(頭でっかち)の者』をふるいにかけて。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「な、何事だぁぁぁぁ?!」

 

 片瀬は突然の爆発音にそう叫んでいた。 *注*足元でサクラダイトが誘爆された訳ではありません

 

「基地の外壁の数か所が爆破された模様です! 目下、中華連邦より借りた兵とわれら日本軍の数人ずつ向かわせました!」

 

 実戦経験も練度もお世辞にも『高い』とは呼べない中華連邦の兵士と機体だが、数はそれだけで脅威になる。

 

 一時の時間稼ぎになるだろうと片瀬は思い、少しだけ安心した。

 

「敵は誰だ?! ブリタニアの特殊部隊か?!」

 

「そ、それが────!」

 『────日本解放戦線の者たち! 私は旧日本軍の藤堂鏡志朗中佐だ! 今は黒の騎士団所属の軍事総責任者に就いている!』

 

 そこにオープンチャンネルで藤堂の声が響き渡ったことで、日本解放戦線のだれもが耳を疑い、動きを止めてしまう。

 

「(な、なにぃぃぃぃぃぃ?!)」

 

 片瀬は内心で叫んだ。

 

『何を聞かされこの作戦に参加しているのかは知らんが、果たして君たちが今戦っているのが“真の日本独立”だろうか?! 少なくとも私はそう思えん!』

 

「藤堂中佐?」

「『厳島の奇跡』……」

「どういうことだ?」

「だが────」

『────投降する者たちは武器を捨てろ! 今ならばまだ間に合う! 我々黒の騎士団は少なくとも、ブリタニアのように捕虜虐殺などはせん!』

 

 管制室にいた日本解放戦線の者たちが困惑する間、片瀬の決して多くない髪の毛が数本ハラハラと抜け落ちて宙を舞う。

 

「(な、なぜだ藤堂?! ()()()()()()()()()()()()()()?!)」

 

 彼が最も得意とするのは組織や部隊の立ち上げで役職に見合った人材を選ぶこと。

 

『指揮官』にはあまり重視されないものだった。

 片瀬は藤堂のような指揮官としての才覚はない。

 それは彼自身重々承知している。

 

 だからこそ、それなりの実力や能力を持つが階級の低かった者たちを昇進させたりなどのやりくりと、『藤堂は今作戦に賛同できない状態である』という完全な嘘ではない情報(デマ)を流して何とかここまでやってこられた。

 

「片瀬少将、ご采配を!」

「「「「片瀬少将────!」」」」

「────む、むぅ……」

 

 だがあくまで最高責任者は片瀬である。

 特に『古い時代』に頭が囚われ、責任を持ちたくない者たちにとっては。

 

 管制室にいた参謀たちや兵士のほとんどが(さらに髪が抜けていく)片瀬に指示を請う。

 

「フクオカ基地はどうなっておる?!」

 

「いまだに音信不通! 返答なしです!」

 

「(まさか、フクオカが陥落したというのか?!)」

 

『俺は降伏する!』

『貴様、裏切るのか────?!』

『────俺は中華連邦ではなく、日本に忠誠を誓った! こんなの、ただ中華連邦に利用されるだけじゃないか?!』

 

 “日本”の周波数で次々と藤堂の言葉で勇気づけられた脱走兵が、不満などを声に出し始める。

 

『────敵前逃亡に軍法会議はいらん! 脱走は反逆罪だ!』

 

 日本解放戦線の部隊長か指揮官らしき通信で脱走兵らしきものたちに銃が向けられ、藤堂の声が響き渡る。

 

『黒の騎士団、突撃! 投降の意思あるものは武器を捨てて身を隠せ!』

 

「えええい! 誰か車とヘリ、そして船の用意をしろ! 撤退だ! 遺憾ながらここを放棄し、一時撤退する!」

 

「て、撤退ってどこ────?」

「────合流地点はクマモト! 中華連邦の兵に弾幕を張らせろ! 澤崎と連絡が取れん以上、フクオカは襲撃されていると見ていい! 護衛にワシの無頼改部隊をつけろ!」

 

 藤堂は黒の騎士団用チャンネルで、今度は別の指示を出す。

 

『紅月くん、スバルとともに街道へ先回りしてくれ。 予想が当たっているのなら少将ならば撤退を試みるだろう。』

 

『ぶ、部下を置いてですか?』

 

『……ただの予想だ。 ここは私たちで十分のはずだ。』

 

『了解です。』

 

『……わかった。』

 

 

 

 片瀬と困惑しながらも彼に未だに従う古い時代の(状況に流される)者たちの動きは意外と速かった。

 

 囮用のヘリと船を同時に出し、本命の車は片瀬や参謀たちを乗せて指揮系統が混沌化するオオイタ基地から、片瀬と昔から彼にだけ忠義を誓った者たちだけでの部隊が夜道を強引に走る。

 

「(なぜだ?! なぜ黒の騎士団がこうも簡単に?! ……まさか、ブリタニアと手を組んだ? いや、あり得ん。 藤堂がブリタニアとだと? ……ならば────)」

 

 ドドドドドドドドド!

 

「────ヒィ?!」

 

 後方からくる銃撃に片瀬は素っ頓狂な声を出し、周りの無頼改が数機反転して、撃ってきた黒の騎士団の無頼を迎撃するたために動く。

 

『気をつけろ────!』

『────問題ない。 お前こそ気をつけろ。』

 

『スバル』として無頼に乗っていたマオは、街道に乗ったまま敵の無頼改の攻撃を次々と躱しては、クロスカウンター気味にナックルガードで最初に襲ってきた無頼改の肘を殴って廻転刃刀を奪い、それとアサルトライフルを使う。

 

「(早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ────)」

『────フレー、フレー、マ・オ~────(棒読み)』

「(────うん分かったよCC!)」

 

「ば、バカな?! 本当にあれは無頼なのか?!」

 

 片瀬はグラスゴーにマイナーな改造されただけの実質グラスゴーであるはずの無頼が、グロースターと同等の性能を持つ無頼改を翻弄する光景を『悪夢』として、現実味のない気持ちで見るしかなかった。

 

「(やっぱりスバルじゃない。 操縦は上手いけれど、どこか荒々しい。)」

 

 カレンは自分の違和感が『疑惑』から『確信』になりつつあり、無頼改との戦闘に入る。

 

「(面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい。)」

 

 マオは戦闘をただの作業として『処理』していた。

 

 カァン!

 

 そんなマオとカレンを襲う無頼改の一機の頭部(ファクトスフィア)が撃ち抜かれる。

 

「こ、今度は何だ?!」

「狙、狙撃?!」

 

 片瀬たちが狙撃に周りを見る間、次々とピンポイントの狙撃が続く。

 

 藤堂の出現、黒の騎士団の襲撃、そして無頼改がリスクの高い行動をとってファクトスフィアを展開しても、敵のナイトメアがセンサー範囲外とだけ判明させて撃たれる。

 

「こんな、こんな筈では……なぜこんなことに?」

 

 片瀬の髪は真っ白に変わりながらハラハラと抜け落ちていき、彼が世迷言みたいに繰り返す問いに答える者はいなかった。

 

 

 


 

 

 

「(片瀬、あんたがここにいるのは俺のせいだ。)」

 

 青い機体が片足を地面に着かせ、アンジュの機体が使っていた狙撃銃を森の中から撃っていた。

 カレンの紅蓮や、影武者の役を担っているマオの無頼に当たらないよう狙いながら。

 

「(なら、俺がアンタの対処をする。)」

 

 そして撃つごとに巨大な薬莢がライフルから排出され、重い音をしながら地面に落ちていく。

 

「(カレンとマオがここにいるのは意外だが、こっちは通常のファクトスフィアでとらえられる範囲外にいる。 それにあいつがいつもの『勘』で最悪こっちに近づいてくるとしても『“時間”に意味はない』を使って戦線離脱、作戦通りに黒の騎士団に任せよう。)」

 

 そう昴は思っていたが、カレンの紅蓮は狙撃を警戒するどころか、まるでそれを友軍からの援護射撃のように()()()昴が敵を撃ちやすいように動き始める。

 

「(あれ? ナンデ? え?)」

 

 そのまま昴はハテナマークを飛ばすが、狙撃を続行するといずれ無頼改たちは沈黙化する。

 

「え。」

 

 そこで紅蓮が何故か左腕で、ちょうど昴がいる場所にサムズアップをし、昴は冷や汗をかいてしまう。

 

「…………………………………………………………と、とにかく今のうちに離脱だ! 薬莢も集めて、痕跡を処分だ!」

 

 昴は少々焦りながらも現場にいた痕跡を消してから、待機しているディーナ・シーへ帰還していく。

 

 ディーナ・シーも潜水艦だが、黒の騎士団のステルスに勝る一部がある。

 もう自重しなくても良い、ランスロットのファクトスフィア真っ青の性能である広範囲センサー(サンチアとルクレティア)たちのおかげでブリタニアの包囲網や“日本”の警戒網を潜り抜けていた。

 

「(ハァ~……相変わらずアンタの狙撃はいいもんだね。)」

 

『どうしたカレン?』

 

「うんにゃ、何でもないよ。 お疲れ様。 (スバルの影武者さん♪)」

 

「(……兄さん(スヴェン)。 こいつ、もうボクのことに気付いているけれど本当に普通の人間? ギアス能力者じゃないの? それはそうと早くCCに会ってほっぺをぷにぷにしたい。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ

 

 澤崎とツァオ将軍を追い込んだガウェインの中にいたCCが急に(一瞬だけ)震えた。

 

「ん? どうしたCC? もしかして高いところが苦手なのか?」

 

「ッ。バカ言うな坊や。」

 

「それともトイ────?」

 「────バレルロールするぞ貴様。」

 

『ゼロ、片瀬少将も捕縛できた。』

 

「ご苦労、Q1(カレン)。 そっちに異変はなかったか?」

 

『いえ、特には。』

 

「それでR1(スバル)はどうだった?」

 

『“可もなく不可もなく”って言ったところだね。』

 

「そうか、ではポイント3Eのルートに片瀬を連れてこい。」

 

 ルルーシュはCCをからかうことを止めると、上記の通信が入って彼は(シートベルトを着用しながら)さらにワクワクする。

 

「(これでクーデターが成功すれば、後は雪崩式に黒の騎士団への賛同者が膨れ上がる。今度の作戦で得た日本解放戦線の残党と、そいつらを上手く誘導すれば、寄せ集めとはいえ立派な『義勇軍』としてブリタニア軍本体との防壁ぐらいにはなるだろう。 膠着状態を長引かせれば周辺国……いや、ユーロピア共和国連合や中華連邦が、自然とブリタニアに圧力をかけながら俺たちを取り入れようとするだろう。 

 それにしても、今度の作戦に新型や謎の集団は出てこなかったな……ブリタニアの包囲網や澤崎の“日本”の見張り(パトロール)を突破できなかったのか? 

 あるいは、この結果こそが奴らの狙っていたものか?

 ……ディートハルトにもう一度、ナリタでスバルが遭遇した新型機等を探らせるのも一つの手か。 その前に────)────……さて、どうしたものか。」

 

 ルルーシュは携帯を出して、ミレイから送られてきたメッセージを見て思わずため息交じりの言葉を出してしまう。

 

「どうした坊や? 深いため息なんて、年寄りになってからするものだぞ?」

 

「いや、少し面白くないものを思い出しただけだ。」

 

「ほう? 興味が出るな? なんだ?」

 

「お前には関係のないことだ。」

 

 ルルーシュが見たメッセージは以下の通りであった:

 

 

 

 

 

『ねぇルルーシュ? ドレスの採寸は一年生の時と同じで良いかしら?♪ -from Milly(ミレイ)

 

「(ミレイ会長……まさかとは思うが、()()を復活させるつもりではないだろうな?)」

 

 ルルーシュは知る由もないが、正に思っていた『アレ』であった。

*1
54話より




故国を守るため戦に身を投じた戦士たちの、ここは安らぎの場。

『戦士達にひと時の休息を』という思いで開かれたそこに、カリギュラ達は仮想のコロッセオに引かれるのは職業病かあるいは本能か?

次回予告:
学園祭

熱い視線がまたも『とある者たち』に突き刺さることとなる……



というわけで学園祭です。 (汗汗汗
あと余談ですがマオはナイトメアでもかなり激つよです。
知っている人は知っていますよね? 彼の『悪魔のグラスゴー』を……


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第62話 学園祭

次話です!

誤字報告誠にありがとうございます! お手数かけております!

今回は基本的に第三者視点です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 先の澤崎による“日本独立宣言”、そしてそれを鎮圧したとされる第三皇女ユーフェミアの騎士の上に名誉ブリタニア人である枢木スザクの報道された活躍と、口コミでの黒の騎士団の助力の情報によってイレヴン(日本人)たちの意見は見事に『恭順派』と『反抗派』に分かれていた。

 

 世間が未だにこのイベントで揺るがされる中、アッシュフォード学園は毎年恒例の学園祭をブリタニア人、名誉ブリタニア人、そして異例としてイレヴンにさえもオープンしていた。

 

『お待たせ致しました! これよりアッシュフォード学園の学園祭をこの掛け声から始めま~す!』

 

 

『にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

『『『『おおおおおお!!!』』』』

 

 ミレイ、そしてアーサーの鳴き声(をまたも真似るナナリー)に学生(特に男子)たちが歓喜の声を出す。

 

「平和だな。」

 

 黒髪をロングストレートにし、タンクトップにジーンズを着た私服姿のサンチアが未だに真面目そうでキリっとした表情をしながら周りを(警戒す)る。

 

「でも、それが一番ですわサンチア。」

 

「……そうだな。」

 

 白に近い銀髪でベルト付きワンピースにキャップをしたルクレティアはふんわりとニコニコしながらサンチアにそう声をかける。

 

「そうだねぇ~! モグモグモグモグモグ。」

 

 見た目相応に明るくて活発な褐色のダルクはへそを出したタンクトップにジーンズジャケットにジーンズ短パンなラフな姿で、明らかに動きやすさを重点とした服装をしていた。

 

「ちょっとダルク……何それ?」

 

 マオ(女)は完全にインパクトのある巨大人造人間が怪獣映画のように出てくる怪物を撃退しなくてはいけない宿命を負ったどこぞの中学校制服(女性版)を身に付け、ギアスを発動していないので特に意味はない眼帯を左目に着用していた。

 

 余談だがこの制服姿を見た昴は『あ、やっぱり(胸のある)カヲルだ』と思ったそうな。

 

「ゴックン! これは右から順にねぇ~? 『タコ焼き』、『イカ焼き』、『焼きそば』、『たい焼き』って言うんだって~! だよね、アリス?」

 

「ウン。 ソウダネ。」

 

 そしてアッシュフォード学園の制服を着た、既に疲れていそうなアリスが返事をする。

 

「アリスちゃんのお友達、皆違って変です!」

 

 そしてチェック模様の入ったシャツにスカートニーソとジャケットを羽織ったライブラの何気ない一言が、メタな矢となってサンチアたちを射抜く。

 

 グサッ!

 

「「「「ングッ。」」」」

 

 クロヴィスランドのグランドリゾートでライブラとナナリーが(アリスのハンドサインと間違えた)『助っ人』として現れたダルクと会ってしまい、アリスは苦し紛れに『私の友達です!』と言ったことからライブラはあの日、サンチアたちと出会った。

 

 そして歳が近いこともあってか、今では普通に友人として付き合う間柄になっていた。

 

 幸いにもその性質上、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)が全滅したという情報はクロヴィスも含め、殆どの者に伝わっていなかった。

 

「わ、私たちはそんな変か?」

 

『変』と呼ばれたことでかなりダメージを負ったのか、先にショックから復活したサンチアがそう尋ねる。

 

「そうです! あ、でもでも~? 私はそんな皆が大好きです!」

 

「「ライブラちゃんッッッ!」」

 

 ガバッ!

 

「ぐぇ。 嬉しいけど苦しいです~。」

 

 ヒマワリのようなキラキラとした笑顔を向けるライブラを、ダルクとマオ(女)が左右から思わず抱きしめてしまう。

 

「あら、随分と早いわね貴方たち────?」

「────ん? なんだ、マーヤか。」

 

 そこに何時もの制服や私服姿……ではなく、協会のシスターのような服装を着たマーヤがライブラたちを出迎えるように学園の奥から出てくる。

 

「そう? いつもの“マーヤ姉さん”でもいいのよ?」

 

「う゛。」

 

 彼女も元名誉外人部隊(イレギュラーズ)のサンチアたちが『アマルガム』と合流した後、何かと彼女たちの世話をしたがるのだ。

 

『姉』として。

 

「うわ! 凄くカッコイイ人ですー!」

 

「あら、貴方はええっと……中等部のブリエッラさんですね? 初めまして、私はマーヤ・ガーフィールドです。」

 

「よろしくです、先輩!」

 

「あの……何着ているの?」

 

「ああ、これは生徒会の出し物の一環よ♪」

 

「ではよろしく頼む。」

 

「マーヤ姉ちゃん、あれは?」

 

「ああダルク、あれは────」

 

 マーヤがルンルン気分になり、ライブラとサンチア達にとって初となる学園祭を案内していた。

 

 皇族でしかも『箱入り』だったライブラと、『普通』とはかけ離れた人生を過ごしたサンチアたちにとって学園と学園祭の見るもの感じるもの全てが新しい刺激的だった。

 

 サンチアは表情を変えず、内心ホクホクしながら『警戒』という名義で周りを見ていた。

 

 ルクレティアとライブラはイチゴチョコクレープを頬張って新しい甘味にハートマークを出していた。

 

『いくぞ悪党! とぉ!』

 

『俺の右腕に耐えられるのか、ランスロットー?!』

 

『さぁ皆さん彼を応援しましょう! がんばれー、ランスロットー!』

 

「「「「がんばれー、ランスロットー!」」」」

 

「「「ブフッ。」」」

 

『ぐわぁ!』

 

『この世に悪が栄えたためしはない! 皆、応援ありがとう!』

 

 そしてアリス、マオ(女)、ダルクが特撮ヒーロー系の着ぐるみ化されたランスロットスーツが赤鬼紅蓮スーツと対峙するステージとヒーロー(ランスロット)を応援する子供たちを見て思わず吹き出した。

 

「……………………」

 

 マーヤはニコニコしながらも、どこか彼女の周りだけの気温が下がったような感じが一瞬だけする。

 

 やがてグループが()()()()()の前へときた。

 

「ん? なにこれ?」

 

「『コスプレ教室(控室)』って何です~?」

 

 マオ(女)とライブラがそう口にするとマーヤが何故か誇らしく答える。

 

「ここでの一環が、今の私の服装の理由なの。 この扉をくぐって、コスプレをすると『その衣装に見合った言動をすれば何でもオーケー』ということになっているの。」

 

 マーヤが扉を開けるとサンチアたちが唖然とする。

 

「あら、いらっしゃい♡」

 

 立派なプロポーションをさらに強調する、ボディラインにフィットしたナース服を着ながらどこか色気を出す仕草をするミレイ。

 

「あ、ライブラちゃんにアリスちゃんもいらっしゃーい!」

 

 バニーガール衣装でピョンピョンその場ではねて平常通りの言動をするシャーリー。

 

「ああ、いらっしゃい!」

 

 どこかチア部を思わせるようなJK風制服にツインテに髪形をセットしたスザク。

 

「アリスちゃんにライブラちゃんいらっしゃい。」

 

 どこかのワンダーランド的な童話で出てくる少女のような、青のフリフリドレスを着たナナリーがニッコリとする。

 

「うーん……親父みたいで癪だけれど、ドクター服に衣装を変えようかな……」

 

 執事服に身を包つみながらも白衣を手にして悩むリヴァル。

 

「……………………………………………………」

 

 肩や胸元を露出したウェディングドレスに身を包み、黒髪ロングストレートのカツラをして恥じらいから顔を赤くさせた()()

 

「…………もしかしてルルーシュ先輩です?」

 

 「言わないでくれッッッ!」

 

 「「「「え?」」」」

 

 ライブラがコテンと首を横に倒し、そう自信なさげに聞くと声以外全く普段とは様子の違うルルーシュの声が花嫁から発され、サンチアたちが目を見開きながら気の抜けた声を出してしまう。

 

 そして────

 

「あ~らミセス・ルル? 花嫁姿の淑女がそう小鹿のように震えるものではなくってよ? 淑女ならば『いつ如何なる時も優雅たれ』、ですわ。」

 

 「クッ……殺せ!」

 

 ────白に近いロングの銀髪で見事な縦ロール(ドリル)をして貴族っぽいドレスを身に着けた誰かはルルーシュに向いていたことからサンチアたちに背中を見せ、高らかな()()()()に恥じらうルルーシュが反応してしまう。

 

「ノンノン、ミセス・ルル。 そんなはしたないお言葉、思ってはいても決して口にしてはいけませんわ────」

 「────ああ、女神さま!」

 

 マーヤが手を合わせながらそう言うと、銀髪縦ロールの()()が振り向く。

 

「「「「「ファ……」」」」」

 

「(『女神』?)」

 

 アリス以外のルクレティア、ダルク、ライブラ、マオ(女)たちが思わず息を飲み、サンチアがふと思ったことを『まさかな』と思い、内心で否定する。

 

 彼女たちが見たのは『絶世の美女』と呼んでもおかしくない整った顔と組んだ腕によってさらに強調されるボディ()をした、まるで本などでしか出てこないような『優雅な令嬢』だった。

 

「あら? おかえりなさいませ、ガーフィールドさん。 (わたくし)を『女神』に例えるなど、お気持ちはよくわかりますが恐れ多いですわ。」

 

 ()()の動作、表情、視線でさえも一つ一つが洗練されたもので少女たちであるサンチア達でさえも魅入ってしまう。

 

「そしてシェロ(カルデモンド)? そこまでお悩みになるのでしたら工夫すればよいのです。 何も一つだけに拘る必要はございませんわ。 例えば……『貴族の専属医師』設定などは、いかが?」

 

「おおおおお! その手があったか! サンキュ、()()()()!」

 

 「「「「ゑ?!」」」」

 

 さっきのルルーシュよりさらに驚愕するサンチアたち。

 

「ノンノンシェロ(カルデモンド)。 去年も言いましたが、今の(わたくし)は『シュゼット』とお呼びなさい。」

 

「てかさぁ? なんで俺のことを『シェロ』、と呼ぶんだ?」

 

「あら? シェロ(カルデモンド)はどこにいてもシェロ(士郎)ですわよ?」

 

「相変わらず意味が分かんねぇ回答、ありがとうよ!」

 

「どういたしまして、ですわ! オーッホッホッホッホッホッホ!」

 

 声も含めて、どこからどう見ても『女性』としか思えない『スヴェン』と呼ばれた縦ロールが皮肉な答えをするリヴァルに対して愉快な『悪役令嬢っぽい笑い』を披露する。

 

「え?」

「まさか、本当に?」

「おぅふ?」

「……はぇ。」

 

 サンチアたちが見るのは遠くかつハイライトの死んだ目をしたアリス。

 

「うん、本当。 『アレ』がスヴェンよ。 どう? ルルーシュ先輩だけでもかなり堪えるのに、『アレ』も追加されたら自信を失くさな────?」

 「────綺麗です!」

 

 アリスの言葉を目からまるで星を出す、キラキラしたライブラが遮る。

 

「あ~らミス・ブリエッラご機嫌麗しゅう! ようこそいらっしゃいましわ! 素直な誉め言葉、感謝いたします。 特別に名を呼ばない『お姉さま』、と(わたくし)を呼んで良くってよ?」

 

「はい! 綺麗なお姉さまです!」

 

「あらあら~? 素直にならないミス・アリスと違って十分な素質がございますわね貴方────?」

 「────あんたに言われたきゃないわよぉぉぉぉぉ!」

 

「あら? あらあらあらあらあら。」

 

 その言葉がアリスの気に障ったのか、アリスがシュゼット(スヴェン)に飛び掛かるがシュゼット(スヴェン)は彼女の手と絡めて互いが互いを押し合うような形に落ち着かせる。

 

「ぐぬぬぬぬぬ!」

 

 しかもアリスは上手く力を活かせないような体勢をシュゼット(スヴェン)に強いられていた。

 

「エークセレントな腕力ですわ、ミス・アリス! ですが相手の体格も配慮しませんとほらこの通り、意味はございませんわ!」

 

「綺麗で強いお姉さまですー!」

 

「やはり見どころがありますわ、ミス・ブリエッラ!」

 

 ライブラと(アリスをいなしながら)シュゼット(スヴェン)が貴族令嬢トークに突入し、ニコニコするマーヤにマオ(女)が近づく。

 

「ねぇ? あれ何? どういうわけ?」

 

「あ、実は僕も気になっていた。」

 

 マオ(女)の質問にスザクも便乗する。

 

「う~ん、私も噂程度しか聞いていないけれど────」

「────あ~、これはね? 実は去年の()()()()()()から始まったの。」

 

 彼女たちの会話が聞こえてきたミレイが横から口をはさむ。

 

「あの時、実は生徒会で『男女逆装』と言うものをしてみてね? 私が言ったの、“どうせやるなら全力でそれぞれ着た服装と性別を演じよう”って。」

 

「で、皆で面白がってルルにドレスを着せて会長(ミレイ)が悪ふざけをしていたところにスヴェンが入ってきたら彼、なんか人が変わったような感じで静かに化粧とかし始めたの。」

 

「あれは(ミレイ)も驚いたわ~。 ルルーシュもだけれど、まさかスヴェンまで……しかも本人の振舞い、『女性』そのものだったし。」

 

「しかも会長、ルルにやっていた(を口説いていた)ことをスヴェンにやられて珍しくタジタジ(弱気)になっていましたしね。」

 

 

 余談だがその時、『シュゼット』を見た瞬間にどこか胸の高鳴りと共に己の中で何かが変わり(壊れ)そうだったことに恐怖を覚えたリヴァルは生徒会室から全速力で逃げたそうな。

 

 

「グッ……そ、そこは別に言わなくてもいい部分よシャーリー? で、でもまぁ、そこでね? 演劇部の部員が突然来たの。 彼らは『Cendrillon(シンデレラ)』をする予定だったのだけれどどうしてもキャストをする人が急に足りなくなっちゃって、前に手伝いとして来ていたスヴェンを頼りに来て……」

 

「そこからスヴェンが『シュゼット』としてシンデレラの義姉役をしたの。 あまりにも『女性』として完璧に演じちゃったものだから問い合わせが殺到しちゃって……」

 

「あー、あの後は大変だったぜ? 一応『アッシュフォード学園にボランティアとしてきた匿名の女優の卵』ってことで外部の噂はやり過ごせたけれど、演劇部と劇を見た何人かはマジで惚れたり、『シュゼット』が『スヴェン()』だったとわかっても性癖を拗らせちゃうし、とんだ学園祭になったよ。 ハァ~。」

 

 リヴァルがその時を思い出したのか、重いため息を出す。

 

 「「オーッホッホッホッホッホッホ!」」

 

 銀髪(シュゼット)金髪(ライブラ)縦ロールがともに同じ仕草(ポーズ)で扇を持ちながら悪役令嬢っぽい笑いをする。

 

「それであの状態のスヴェンについたあだ名が高等部では『女王様』。 中等部が『お姉様』と言う訳。」

 

 サンチアたちがミレイ、シャーリー、リヴァルから生き生きとした『シュゼット』と(すっかり妹分になって楽しそうな)ライブラに視線を移す。

 

「……ねぇ? 一つ気がかりなんだけれど、『声』はどうしているのかな?」

 

「「「「「…………………………………………………………ハッ?!」」」」」

 

 ダルクの純粋な質問に、誰もが余りにも自然過ぎて見落としていた『ソレ』に気付かされて令嬢を続ける『シュゼット』を見る。

 

「もう一度行きますわよ、ミス・ブリエッラ!」

 

「はい、お姉様!」

 

 「「オーッホッホッホッホッホッホ!」」

 

 

 サンチアたちは知る由もないが、スヴェンは別に自分の声帯を()()弄ったわけではない。

 

 とある大怪盗映画や名探偵アニメで見た、『喉に張り付けるボイスチャンジャー』をインスピレーションの元に、サクラダイト等を精密に使ったチョーカーで声を変えていたのである。

 

 全く持って『趣味』の範囲を優に超えているのだが、実はいつか必要になるかもしれない自分の影武者を引きたてる為に作った変装グッズの副産物だった。

 

 薄い涙袋はメイクで潤んだ瞳に見させ、オレンジのコンシーラーを使って青クマなどを隠し、カツラをセットする(のり)、適度な胸の再現の為の詰め物、テーピングなどで顔や喉仏を整える。

 

 等々と、手が込んでいた。

 

 スヴェンが何故『シュゼット』を完璧に演じているかって?

 

 ………………………………実はというと、彼の理由は単純だった。

 

「(最初はミレイをからかう為にしていたのにどうしてこうなった?! 

 周りは周りでスゲェ楽しそうに来るしヨイショするし! 

 もうやけくそじゃい! 

 別に『ナナリーと一日一緒に居られる』とか『ナナリーが楽しそうになる』とか『ナナリーが親しく“お姉様♡”呼びする』とか全然殆んど関係ないでござるからね?!)」

 

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。

 

 スヴェンが高笑いをやめると電子のシャッター音が扉から来ているのを見るとサンチアたち+α(他の生徒)が携帯のカメラアプリで写真を撮っていた。

 

お待ちなさい貴方たち(おい待てお前ら)! こちらは控室でしてよ?(ここで撮るな!)

 

 スヴェンは『シュゼット』として言動の『優雅(エレガント)変換』をやめなかった。

 

 幸か不幸か、昔から『ポーカーフェイス』と『優男』の仮面などから来る教訓で演技が自然と徹底してしまっていた。

 

 

 

 上記のライブラ達とは別の場所ではワンピースに淵の大きい帽子をかぶったベルマ(ヴィレッタ)が『スバル』と歩いていた。

 

「学園祭?」

 

「みたいだな。」

 

 原作で彼女は外に出るのを怖がってはいたのだが、滞在している場所がゲットーではなく租界だったので時折こうしてスヴェンは『スバル』としてなるべく彼女の要望に応えて出かけていた。

 

 決して影武者を務めるマ()は今日がアッシュフォード学園で学園祭が行われることを知ってどう~~~~~~~~しても学園にいるCCと共に時間を過ごしたかった為に来ていたわけではない。

 

「……入るか?」

 

「え?! その……人が多いのに良いのでしょうか?」

 

 ベルマが遠慮する理由としては、彼女が『スバル』が決して表の世界に出せないようなことを仕事にしているのを理解していた。

 

 住居としてるアパートは生活するには一通りのモノが揃っていたがあまり使われた形跡はなく、時々明らかに見た目相応ではない人物も訪れている。

 

 極めつけはこの間、大掃除をしている時に見つけた隠し棚に置いてあり、自衛の次元を超えた数々の銃や手榴弾などの殺傷能力が高い武器。

 

 あれをベルマが見つけたのは全くの偶然だが、あえて何も自分に言わなかったのは『自分は何も知らなかったかつ巻き込まない為』と彼の行動を取っていた。

 

 記憶喪失とはいえ中らずと雖も遠からずだったのが、いかに独自でベルマがヴィレッタとしてゼロ=学生と関係ある=ルルーシュにまでたどり着けたかを容易に想像させれるだろう。

 

「(さぁ~て。 兄さんがこいつ(ベルマ)の好意に気付いていないみたいだから発破をかけるか! ついでに! 僕もCCに会えてしまうかも!)」 ←後半が本音

 

「いらっしゃーい!」

「ほらほら、立っていないで────!」

「────え、あ、ちょっと────」

「────今日は誰でも入っていい学園祭だよー! あ、でもヘルメットは取って────」

「────あ、 待ってください────!」

 

 アッシュフォードの学生たちが門の前で立っていたベルマと『スバル』を強引に引っ張り、独りが『スバル』のヘルメットを取ろうとしてところでベルマが待ったをかけようとするが遅かった。

 

「「「────ッ。」」」

 

 ヘルメットが半分取られた状態でその下にあった『森乃モード(仮面)』を見た学生たちは動きが止まっては青ざめ、女子生徒は口を手で覆う。

 

「……これを一つ貰っておこう。 (あー、メンドクセェ。)」

 

『スバル』は学生の一人が持っていたランスロットヘルメット(別売り)を手に取ってそれを装着してから中に入っていく。

 

「(CC! 今から会いに行くからね! 一緒に楽しい楽しい学園祭という奴を楽しもうよ!)」

 

 彼とベルマが通りかかったのは特例として敷地内に入ることを許された特派のトレーラー。

 その中でセシルとロイドたちがあくせくと『アッシュフォード学園に入る交渉条件』を満たそうと動いていた。

 

「ロイドさん、コックピットの再調整終わりました!」

 

「こっちも終わったよセシル君! これならば誤動作で本体が動くことは無い筈!」

 

「ふむ……しかし『(ラウンズ)が仮想空間の相手役として出ろ』を条件にされるとは思わなかったな!」

 

 そしてノネットがカラカラと笑う。

 

「いや、それでいいんですか エニアグラ────ノネットさん? いくら昔に知り合った仲でも────」

「────私としては全然かまわないさ! むしろ面白そうじゃないか! (それに、ユフィも後で来るだろうしな。)」




余談ですが、来る日曜日、月曜日、火曜日辺りの投稿が遅れるかも知れません。
大変申し訳ございません。 m(;_ _ )m

追記:
ちなみに『シュゼット』の得意技はバックドロップです。 (;^_^A アセアセ・・・


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第63話 塗り壁風のカレン墓標

第三者視点続きます。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


「では行きましょうか、ミス・ナナリー?」

 

「はい、お姉さま♡」

 

「(ナナリーマジ天使。)」

 

「んな?! ま、待て! そんなこと、俺が────!」

「────は~い! ルル子は花嫁らしくないので罰ゲ~~~~ム!」

 

「『シュゼット』様がお通りになりま~す!」

 

『シュゼット』は控室からナナリーと出ると、外で待っていた(中等部の女生徒が中心の)取り巻きたちが『シュゼット』の出歩きに付き添う。

 

 「ナナリィィィィー!」

 

「「「「「お姉さま~~~~~!」」」」」

 

「御機嫌よう皆さま♪」

 

 「ナナリィィィィー! は、放せお前たちぃぃぃぃぃ?!」

 

「(ルルーシュの声が聞こえたけれど無視かつニッコリ笑顔。)」

 

「「「「「きゃ~~~~~!♡」」」」」

 

 そして今度は高等部も交えた男女たちからの声に『シュゼット』がニッコリしながら答えると黄色い声がそこかしこから返ってくる。

 

「クスクス、去年も思いましたけれど凄いですね?」

 

「この『シュゼット』、いついかなる時も全力ですわ。」

 

「でも、本当に私たちも一緒にいていいのか?」

 

「勿論ですわ、ミス・サンチア。 それとも何かご不満でも?」

 

『シュゼット』付近の輪の中にはナナリーだけでなく、サンチアたちもいた。

 

「いや、その……」

 

「もしかして恥ずかしい?」

 

「そ、そんなことは……」

 

 マーヤの問いにサンチアは言葉とは裏腹に視線を外し、これに気付いた『シュゼット』が扇を広げて口元を隠す。

 

「女性として良い素質がございますのに、勿体ないですわ。」

 

「え? (『女性として良い素質』って……初めて言われた。)」

 

「無論、ミス・サンチアだけでなくここにいる皆も少々の磨きで輝く宝石になる可能性をお持ちでしてよ? もしご迷惑でなければ、(わたくし)自らがご教授してもよろしくてよ?」

 

「あ、じゃあボク(マオ(女))お願いしようかな!」

 

「ちょっと! 抜け駆けは無しですわよ新入り────!」

「────ミス・エカテリーナ? この場合、声は荒げるものではなくてよ?」

 

「あ……ご、ごめんなさいお姉さま。」

 

 あと何故か前にナナリーに絡んできた少女+彼女の取り巻き(ナイトメア・オブ・ナナリーキャラ)たちの姿もあった。

 

「(『何で?』って聞かれても、俺が知りたいよ。 気が付いたらいつの間にかシレっと輪の中にいて『お姉さま!』って慕われているし、たまに『スヴェン』としての時でも質問をしにくるし。)」

 

 

 ちなみにその時のエカテリーナだが、『か、勘違いされては困るわ! これはあくまで時期スファルツァ家の長女として必要な振る舞いでしてよ! 決して貴方に会うための口実などお考えになさらないで!』と、あまりにもテンプレ過ぎたものをリアルで見てしまったスヴェンはその日の家庭科で天ぷらを作った。

 

 

「ふ、復活した?」

「……え? 夢じゃない?」

「あの後『もう学園に来ません』って言われていたのに?」

「あ。 やっぱ俺、いいかも……」

「なんか楽しそう……僕もやろうかな?」

「「え゛。」」

「だってほら? あの人、『ちゃんと頼み込めばちゃんとした助言する』らしいさ?」

「……もしかしてガチなのか、スヴェンって?」

 

「(失礼な! )」

 

 上記の男子生徒の会話を『シュゼット』は無視しながら『令嬢振る舞い』を続ける。

 

「(俺も全力でやる気を出したのは『カレンお嬢様の世話係役アピール』がことの始めだったんだよ! でもまさか演劇部が急に手伝いいることになって行ったらマジ受けされて弟子入りしに来る生徒たちが出るなんて思わなかったんだよ!

 ……断ったら断ったらで学園で通している『優男設定』が崩れてしまうし……)」

 

 余談だが、上記のことに加えて『本気で自分を磨きたい』という者たち(男女両方)の真摯な願いを無視できなかったスヴェンの気持ちも少なからずあり、彼も全力で応えた結果だった。

 

 そのおかげで中には性癖が歪んでしまった者たちもいるのだが……

 

 スヴェンは流れに身を任せること(原因の与り知らぬふり)を徹底した。

 

「(あと今思えば、()()()アンジュリーゼがあれから時々この間みたいに『アンジュ』っぽくなっていたんだよなぁ~。)」

 

 スヴェンは『シュゼット』として校内を軽~く自然と出来上がる取り巻きたちと回り始めた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥ……」

 

 ルルーシュは何とか『コスプレ教室(控室)』から逃げ、いつもの制服に着替えて一人で屋上に出てはため息を出していた。

 

「平和だな。」

 

 彼はワイワイとする学園祭を見下ろす。

 

 ブリタニア人、名誉ブリタニア人、そしてイレヴン。

 

 その誰もが(少数を除いて)普通に互いと接している光景に、彼は以前に依頼した血液検査の結果やデータのことをふと思い出してしまう。

 

「(遺伝子が『ブリタニア本国由来』、そして『皇家と似ている』……か。)」

 

 それがラクシャータの、以前ヨコスカ港区でルルーシュが採取した血液データに対しての個人的な意見だった。

 

 とある局面で、医療にも長けているラクシャータは『血液は情報の宝庫』といったがそれは正しい。

 

「(以前に彼女の伝手を頼ったときは『ノーマッチ(該当者なし)』という結果が返ってきたが、『遺伝子レベルの違いや欠損してしまった部分を除いて今では“皇神楽耶”以外は途絶えてしまっている血筋を持つ人間』がラクシャータの個人的調査の末の意見……

 そしてあの港の現場にいたそいつは俺の、『ゼロの素顔』を知っている……もしや俺と接触するのは『ゼロ』ではなく『ルルーシュ』としてか? それとも『トウキョウ独立』に便乗して名乗り出るつもりか? あまりにも証拠不足だが────)」

「────ルルーシュ~!」

 

「ゲッ?! 会長?!」

 

 ルルーシュは後ろからミレイの声がして焦りだした。

 

『まさかまた女装を強制されるんじゃ?!』と思ったが杞憂だったらしく、彼女は『巨大ピザ』を作る際に呼んだマスコミが早く到着してしまったためにスケジュールが前倒しになってしまい、ナイトメア(ガニメデ)操縦者を探していた。

 

 本来ならばスヴェンが担当するはずだったのだが、先の『日本独立』のこともあって初の名誉ブリタニア人でありながら騎士になったスザクが通っている学園を早く取材するため予想より早く来たことで、スケジュール調整が間に合わなくなっていた。

 

 よって次の候補でありながら学園祭の仕切り役を担っていた副会長であるルルーシュに声がかかった。

 

 

 


 

 

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタ。

 

 機械真っ青の正確さでスザクはひっそりと目立たない物置場をキッチンエリアに転換した場所で巨大ピザに使われる玉ねぎを切る音と遠くのガヤガヤする背景音以外、何も聞こえなかった。

 

「良かった、もう来ないと思っていたよ。」

 

 突然スザクはまるで誰かに喋るような言葉を出す。

 

「ッ………………どうして、私の正体を言いふらさないの?」

 

 物置場の扉からそっとカレンが姿を現せる。

 

 仕込みナイフ入りポーチを手にしながら。

 

「僕は、学校ではそういうのとはあまり関わりたくないんだ。」

 

「何よ? 皮肉のつもりかしら? 第三皇女の騎士様なんだから、私みたいに隠れず胸を張れるから?」

 

「違うよ。 ここは戦場じゃない、だから僕は暴力も脅迫するような手は使いたくない。 せいぜい言葉で、君が黒の騎士団に手を貸すのを止めてほしいと伝えるだけだよ。」

 

「流石ね。 騎士道らしく、情けをかけているつもりかしら?」

 

「今、僕の前にいる君は『カレン・シュタットフェルト』であって『紅月カレン』じゃない。 そして僕はただの『スザク・クルルギ』だよ。」

 

「……………………アンタ、なんか変わった?」

 

「ハハ。 今度は君が驚く番だね?」

 

 プシュ。

 

 物置場の扉がまた開くと、インカムをしたルルーシュが入ってくる。

 

「スザク、生地のトラックが着いたが玉ねぎはどう────カレン?!」

 

 ルルーシュはカレンが学校に来たことだけでなく、ひそかにスザクと会っていた様子にも驚いていた。

 

「(なぜ、学校に来ている?! しかもスザクと密会……いや、よく見れば仕込みナイフを持っている、まさか暗殺か? ディートハルトか? いやここはまず二人を────)────カレン、来ていたんだ? スヴェンは『体調が悪い』って言っていたけれど?」

 

「あ……う、うん。 ちょっとぐらいなら出てもいいって、医師が……」

 

「なら丁度よかった。 クラスの手伝いを少しだけ頼んでもいいかな?」

 

「……いいよ。」

 

 

 ……

 …

 

 

 ってこれのどこが『少しだけ』なんじゃあああああああ?!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ?!」

「うわぁぁぁぁ?!」

 

 墓標を模範した怪物の着ぐるみを着て化粧をしたカレンが怒り満杯の叫びを出してその気迫にビビるカップルはその場から逆走する。

 

「ルルーシュの野郎めぇ~、わざと猫かぶっている(病弱設定の)私を『お化け屋敷』の驚かせ役にしたなぁ~?」

 

 カレンはスタンバイ状態に戻ってセンサー付きのモニター画面を憂鬱なため息を出す。

 

「はぁ~……まさかスザクが律儀に秘密を守っているとは想定外だよ。 言っていることも甘々の甘ちゃん野郎の言葉だし……こんなことなら、堂々とスヴェンを『従者見習い』として学園祭を回りたかったヨホホのホホヨ……(それにしても、あの『CC』って奴やたらと『スバル』と親しくしていたわね? 嫌がっていた様子だけれどほっぺをぷにぷにして……何なの一体? それに本当にスバルな時もCCって女が良く周りにいるし。 この間もCCが手を切ったらしくてスバルは包帯なんか巻いちゃっていたしブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)」

 

 カレンがブツブツしだすと彼女の独り言で周りより一層リアルな緊張感を生んだ。

 

 

 ……

 …

 

 

『さぁ~見てらっしゃい、見てらっしゃい! 特別派遣嚮導技術部のあの“ランスロット”のパイロットになりきるのはいかが~?』

 

 「(ちょいまちなんでやねん?!)」

 

 シュゼット(スヴェン)たちが体育館内で見たのは特派のトレーラーからメガホンで声を強調しながら引き込みをするロイド。

 

 そして彼の背後にランスロットと(あろうことに)ランスロット・クラブの実物があった。

 

 あれだけ大勢いたシュゼットの取り巻き(?)たちも、学園祭を回っている間に徐々に数も減って今では数人程度しか残っていなかった。

 

『今日だけお得の“ランスロット体験”ができま~す! しかも相手はなんと! あのブリタニア最強の一角を担うラウンズのナイトオブナイン、エニちゃ────じゃなくて、エニアグラム卿~!』

 

 ロイドはどす黒い空気を放ったセシルのおかげで『エニちゃん』呼びを公衆の前で何とかやめる。

 

 シュゼット(スヴェン)が見るとどうやら二機のナイトメアのコックピットを模範したシミュレーターで『仮想訓練』を『立体式アーケードゲーム』のように体験できる様子だった。

 

 しかもご丁寧に対ノネットだけでなく、今までランスロットが世間的に堂々と出撃した数々のミッションもプレイ(体験)できるモードもあった。

 

「(うーん、ある意味カレンがいなくてよかった……かも?)」

 

「あ、面白そうです~! 行ってみましょうお姉さま!」

 

 ライブラが物珍しそうにシュゼットの手を強引に引っ張る。

 

「あ、あの、えっと────(どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ)。」

 

 内心、興味津々だったのだが相手が特派だけに気まずかった。

 

 たとえ()装していても。

 

「(えっと、えっと、えっと、えっと、ええと、エ~トセト~ラ~────)────よ、よくってよ?!」

 

「では、私たちはここで画面を見ていますから。」

 

「(な、ナナリ~~~~~~~!!!)」

 

 焦った彼は思わず『後輩や妹想いの令嬢』としての返答をグルグルした目で出してしまい、離れていくナナリーの名を叫びそうになりながら開いていた。

 

「一人お願いしますで~す!」

 

「ん? おお! 姉妹(設定)かい? 仲いいな!」

 

「そうですよー!」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございますですわ。 (危うし胃の調子助けて、ただいま予期せぬ土壇場ライブで物凄いピンチ。)」

 

 ライブラに手を引かれ、ブースの近くにいたノネットがニカッとした笑顔を向ける。

 

「私のとこに来たということは対戦をお望みということかな?」

 

「はいです! お姉さまと一緒に対戦です!」

 

「(え、何この流れ。)」

 

「いや~、よかったよかった! どうした訳かギャラリーが私のことを避けていて、正直暇を持て余していたんだ! さぁ乗ろう!」

 

「いくですよー!」

 

「(…………………………もうどうにでもな~れ。)」

 

 

 

 ……

 …

 

「あー! 負けたですー!」

 

 ライブラの対戦はほんの数分で終わり、不服そうな彼女がシミュレーターから出てきて大型スクリーンを覗く。

 

「おお!」

「あのネェチャン、ラウンズ相手に粘っている!」

「どうせ手加減されているんだろ?」

「けどよ……噂ではあの子、男らしいぜ?」

「「え?!」」

「あんな可愛い男がこの世にいるわけがッッッッ!!!」

 

 シュゼット(スヴェン)対ノネットは意外にも予想以上に長引いていた。

 

 というのもノネットは上記の観戦者の一人が言ったように、手加減()していた。

 

「(フゥ~ン……上手く隠していたけれど、やっぱりナイトメアの操縦経験アリだね。)」

 

 ナイトメアの基本OSはほとんど操縦経験のない者たちでもすぐに戦力になれるよう優秀に組み込まれている。

 原作でもルルーシュが各レジスタンスを駒として使っていた時でもそのような描写はされていた。

 

 だがどれだけ優秀だとしても、本人にその素質がなければ新米の新兵程度の動きしかできない。

 

 ほぼノータッチと、小道具のみでチューンした自動車位の絶妙な差だが、ノネットは手加減と立ち回りをしてそれを見極めることが出来るほどの腕前を持っている。

 

 結果、ライブラはその時に撃墜されてシュゼット(スヴェン)は生き延びていた。

 

 と言っても────

 

「ああああ!」

「良い一発を受けた!」

「やっぱダメか……」

 

「負けてしまいましたわ……」

 

 ────シュゼット(スヴェン)も全力を出す気はなかったので撃墜されたが。

 

「いや~! 良い腕しているね君! どこかの貴族?」

 

「いえ、ただの庶民でございますわ。」

 

「そっかそっかー!」

 

 カラカラとしたノネットがバシバシとシュゼットの肩をたたいてから口を耳に寄せる。

 

 「……もしかして、少年の趣味かい?」

 

「ッ?! い、いえ。 これには理由が…… (え、ちょっとマっ?! え?!)」

 

 シュゼットがぎょっと目を見開いて内心テンパるも、何とか『演技』を続ける。

 

「そうか? いや何、私の知り合いでそういう野郎が一人いるからね。 毎度毎度毎度毎度毎度毎度会うとネチネチネチネチと小言を言いながらやれ『女子力』だのやれ『ファッション』だのやれ『トリートメント』だの────」

「(────あ。 これ長くなる奴や。)」

 

 ……

 …

 

 

「ッコン!」

 

「ん? クシャミかいカノン? 珍しいこともあるんだね。」

 

「失礼いたしました殿下。 おそらく女子の『じ』も皆無な騎士が私のことを口にしたのでしょう。」

 

 ハンカチを出したカノンがそうシュナイゼルに答え、近くの者たちは『あれがクシャミ?』という思いを胸の奥にしまった。

 

 ……

 …

 

 

 あれからくどくど文句をノネットに言われ、『大丈夫さ、私は口が堅いからね♪』でほとんど気休めにしかならなかったもののそれ以上考えることをシュゼット(スヴェン)はやめて校内散策を再開し、追加で頼んだクレープを入れた袋を持っていた。

 

「(あああ、学園祭楽しいなぁ────)」

 

「────きゃぁぁぁぁぁ!」

「────うわぁぁぁぁ!」

 

「あら?」

 

『シュゼット』が男女の叫びに気が付くと、いつの間にかお化け屋敷と変わった教室の近くにいた。

 

「どうかしましたですか~?」

 

「『ホラーハウス(お化け屋敷)』~?」

 

「なんだか面白そうだね────ェグエ?!」

 

 そばに残ったライブラとアリスがそう言うとダルクが入っていこうとしてサンチアとルクレティアに止められる。

 

「やめろ。 お前、驚くと相手を張り倒す癖があるだろう?」

 

「ダルクちゃんだとシャレにならないわよ?」

 

「えええ~~~~~?! そ、そんなこと……ないもん。」

 

「(あ、確かに。)」

 

 ダルクが目をそらして気まずく抗議するが、シュゼット(スヴェン)は容易に想像してしまった。

 

 彼女が驚かせ役に思わず手を出してしまい、『ホラーハウス』が『スプラッターハウス』に変わる様を。

 

「なんだか面白そうです、行きましょうお姉さま!」

「では行きますです~!」

 

「(え。)」

 

「あ、あら?」

 

「ちょちょっと?! 先に行ってるわサンチア!」

 

 ナナリーとライブラが、シュゼット(スヴェン)とマーヤの二人をお化け屋敷の中へと連れ込み、アリスが慌てて後を追う。

 

 中に入ったナナリーとライブラが早くも最初の仕掛けにハマる。

 

「ひゃ?! なんだかヌメっとしたものが?!」

「ななななななんですこれぇぇぇぇぇ?!」

 

「(おー。 ベタだけど、まさかブリタニアがこんにゃくを使うとは。)」

「こんにゃくって……」

 

「あれ? これって確か、『こんにゃく』ですよねスヴェ────『シュゼット』お姉さま?」

 

「そうですわね。 あとダイエットにも的確でして────」

「────こらぁぁぁ! 食べ物を粗末にするなですぅぅぅ!!!」

 

「(うんうん、ごもっともなことを言うね。)」

 

 ナナリーとライブラがこんにゃくの感触に慌てて反応し、シュゼット(スヴェン)が親(姉?)目線でほっこりし、アリスが呆れる。

 

「同感です、女神様。」

 

「あらやですわ。 (わたくし)、今のお考えを声に出してしまいましたか?」

 

「いいえ? 啓示を受けただけですが? (ニッコリ。)」

 

 「(余はお主が怖いぞシスターよ。)」

 

 「なんだかマーヤが一番怖い────」

「────何か言いました、アリス? (ニコッ)」

 

 「なんでもないです────!」

 

 グループが角を曲がると、ちょうど墓標のオブジェが急に動き出して殺気に似た気迫の入った叫びがその場を揺るがす。

 

 「────はよ来んかぁぁぁぁぁぁぁい?!」

 

「「「「きゃあああああああああああああ?!」」」」

 

 希薄に涙目になったライブラ、ナナリー、アリスが近くにいたシュゼット(スヴェン)を抱きしめる。

 

 フニュン♪

 

「(ウォッホ♡ ライブラちゃん、クロヴィスランドで見たときに予想したとおりの乙πでござるね♡ あと数年したら化けるの確定♪)」

 

 ムニュウ。

 

「(……無乳(むにゅう)?)」 ←語彙力低下によるダジャレ

 

「あ、あれ? へ? ……え?」

 

 墓標オブジェから出てきたカレンはシュゼット(スヴェン)に抱き着いて顔を埋めるライブラ達……そして上記で叫んだ四人目のベルマが抱き着いた『ランスロット仮面スバル(森乃モード)』を互いに見合わせてさらにハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「……(スヴェンが)二人?」

 

『スバル』はランスロット仮面の下かつ内心で舌打ちをした。

 

「(チッ。 『CCのことを考えている奴』と『何も聞こえない』ところに来たら兄さん(スヴェン)の方かよ。)」

 

 シュゼット(スヴェン)は口の端をヒクヒクさせながら優雅(?)に冷や汗をダラダラと掻く。

 

「(O-Oh fu〇k(し、しまった)! というかなんでカレンは“二人”なんてテててテテテて?! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!)」

 

ピコーン。

 

 シュゼット(スヴェン)の頭の上にメタな電球が光り、手に持っていたクレープ袋を差し出す。

 

「クレープはいかがかしら?」

 

「あ。 うん。 ありがとう。」

 

「では、(わたくし)これにて────」

「────アンタたちにはまだ話があるから♪ (ニッコリ)」

 

「ア、ハイ。」

 

シュゼット(スヴェン)の『食べ物で気をそらす作戦』の効果はいまひとつのようだ!

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「……ハッ?!」

 

 別の場所で『もぐら叩き』ならぬ『学生叩き』で使っていたピコピコハンマーを買い取ったアンジュが校舎の方を見ると、ランスロットのお面をした毒島が同じ方向を見る。

 

「どうしたアンジュ?」

 

「なんだかスヴェンが助けを求める声が聞こえたような気がした。」

 

「……行くか、アンジュ? あいつの……なんというのだ? 『シュなんとか』が苦手で距離を意図的に取っていなかったか? 確か、『昔の自分を見ているような』────」

「────ゴフッ?!」

 

 毒島の他意のない言葉にアンジュは(精神的)ダメージを負って立ち尽くすと誰かとぶつかってしまい、毒島が二人を支える。

 

「「きゃ?!」」

 

「おっと、大丈夫か?」

 

「あ、ええ。 ありがとう冴子。」

 

「わ、私も大丈夫です。」

 

「ちょっとそこのあなた! そこの者を放しなさい!」

 

 アンジュとぶつかった少女の付き添いと思われる、きつい表情をした男女のペアが来てはぶつかってきた少女をさっさとその場から連れ去る。

 

「何よあいつら?! “ごめん”の一つも言えないのかしら?!」

 

「(正論だというのに、アンジュが言うとどうも違和感を感じるな。 それはそうと、さっきの奴は確か……グランドリゾートでコーネリアの隣にいた奴か? 見た目と噂に違ってかなり行動が活発だな)」

 

 毒島の脳内に浮かべるのは最近ではお転婆な性格が出ないことでかなり不安を感じるとある黒髪と緑色の目をした少女だった。

 

「(………………流石にここ(学園)に来てないよな?)」




“クックック。 未だにライブラが誰なのか知らないスヴェン、哀れよのぉ?” byどこぞの魔王


それとは別に、前話でも申した通りに明日明後日は投稿できない可能性大です。 申し訳ございません。 (汗


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第64話 皇女たち、集う(+1名)

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

時間が空いている時間に携帯で少しずつ書いたものですが、楽しんでいただければ幸いです!


「もしもし? 演劇部? 機材の件に関しては映研に話しを通していますから。 機材と配置は……違った、これはこうだな。 はい? ピザは前倒しになりましたが午後からです。 (そして各トウキョウエリアの報道局やソーラーパネルとバッテリー、そして対テロ時対策は……流石ディートハルトだ、情報ではスヴェンもかなりの手腕だがやはりキャリアと得意分野が若干違うな────)」

 

 ルルーシュは三つの携帯を操作しながら、タブレット端末をすべて焦る気持ちで操作していた。

 

 一つは個人の携帯。

 二つ目とタブレットは副会長としての学園のモノ。

 三つめは、今まさに軍事力の国家転覆────『トウキョウ独立』の為のクーデターを企む黒の騎士団用のモノだった。

 

 ルルーシュは普通、三人必要な作業を黙々と一人で器用に機器を使い分けながら行っていた。

 

「(ったく、ブリタニアが平和ボケしているおかげで助かってはいたことが、こうも俺を手こずらせるとはな────)」

「────ねぇねぇ! さっきの見た?! ラウンズの人!」

 

「(ん?! ラウンズがここにいるだと?! ブリタニアの技術部隊が来るとは聞いていたが、まさか会長の言っていた“スペシャルゲスト”がラウンズだったとは────!)」

「────うん見た見た! 化粧も何もしていないのに綺麗だし、性格もさっぱりしていていいわねぇ~! ラウンズってば“堅物の塊”のイメージがあったけれど、なんか普通だったし────!」

「(────ほぉ? イメージアップを兼ねた演出とは……道理で先ほどの『ゼロ肯定否定議論』が切羽詰まった拮抗状態だったわけだ。 若い連中などは『正義の味方』に魅かれやすいと思っていたが、スザクの件とそれもあった所為か。)」

 

 ルルーシュは束の間の休憩がてらにラウンズの話題が出てきたことで仮想の戦術などを冗談半ばで組み立てる。

 

「それと去年の『女王様』さん! まさかまた拝めるなんて思っていなかった!」

 

「うん、ラッキーだった! 本当に綺麗だよねぇ。 それでいて、噂では『男』なんだから……なんだかなぁ~。」

 

「(スヴェン、凄い反響だな。)」

 

 ルルーシュが横に置いてあった野菜ジュースを飲み、糖分とビタミンの補充をする。

 

「あ、それなんだけれどさぁ~? さっきラウンズの人が頬にキスしてびっくりする事件があったらしいよ?」

 

「「ええええぇぇぇぇぇぇ?!」」

 

 ブフォ?! ゲェホゲホ、ゲホ!?!」

 

 そしてキャピキャピしていた女生徒の中でぱっとしない子が言ったことに、周りの学生たちは驚愕の声を出し、ルルーシュはジュースでむせてしまう。

 

「知らなかった? なんか学校の裏サイトでそれっぽい写真がアップされているのだけれど……」

 

「どこどこどこ?!」

「見せて!」

 

 ルルーシュも思わず近くにいた生徒たちのように携帯を出し、書き込みサイトを検索すると、距離があってか少しピントが合っていない、ぼやけたそれっぽいこと(頬にキス)ラウンズ(ノネット)がしてびっくりする『シュゼット』の写真が出てくる。

 

「「「……イイ。」」」

 

「(スヴェン……お前……何をしているんだ?)」

 

 そう思いながらもルルーシュは『シュゼット』のとばっちりで『花嫁』にされたことを宜しく思っていなかったので内心嬉しかったとか。

 

「(だがいい気味だ、クックック。)」

 

 「あ、ルルーシュがなんか凄い顔している!」

 「なんか……イイかも♡」

 「「分かる。」」

 「うん、なんか虐められたいよね♡」

え。

「ちょっとここでカミングアウトしないでよ……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「これが変装の衣装なのか?」

 

「そうよ。 文句あるの?」

 

「ない。 だがなぜ私まで変装しなければいけない?」

 

「アンタそれでも(黒の騎士団の)一員でしょうが?! 不用心すぎるわよ! というか貴方なんでここにいるわけ?! その制服は何?!」

 

「『世界で一番大きいピザがある』と聞いたから来ただけだが?」

 

「答えになっていないわよ……」

 

「(どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ────)」

 

 あの後カレンは『病弱』を理由にし、さっさとシュゼットの手を(強引に)引きながら無人になった『コスプレ教室(控室)』に向かっていくと────

 

『おい、世界一のピザはどこだ?』

『えっと、午後からだと思うけれど……新入生? 見かけない顔ね?』

『私は学生ではn────ムギュ。』

 

 ────何故かCCがうろうろしながら右から左の人に『世界記録ピザ』のことを訪ねていた場に出くわし、スヴェンとカレンはギョッとしては彼女を無理やり保護に変装をさせる為に控室へと一緒に連行移動し、今はマーヤが部屋の外で見張りを受けていた。

 

 なおホラーハウスのライブラとナナリーは、アリスによって外でダルクを止めていたサンチアとルクレティアに預け頼み、『スバル』とベルマの二人もその場から別ルートで離れて行った。

 

「(────どうしよどうしよどうしよ? 何でここにCCが? それにカレンもカレンでCCとの接点持っちゃったしいやこれはこれでいいのか? 二人は原作ではもうすでに黒の騎士団再編成で面識あるしこれでルルーシュが扇ポジをとった俺こと『スバル』とヴィレッタ(ベルマ)が一緒にいることを見ていないから、というかなんで『スバル』たちがここに? 誰か教えてくれプリーズ。)」

 

 そして『シュゼット』からスヴェンに着替え終わった彼は、焦ってどう次に動くのか考えていた。

 

 シャ。

 

 仕切り用のカーテンの音がしてスヴェンが思わず横目で見る。

 

「ちょちょちょちょっと────?!」

「────おいお前、どれがいいと思う────?」

「────スヴェン見ちゃダメだよ────?!」

 「────まず前を隠してください────」

「────なんだ、つまらん男だな────」

「────何考えているのよ貴方(CC)────?!」

「────下着姿ぐらい減るものでもあるまいし、それにお前(カレン)こそ派手な下着を見せ────」

 「────いいから前を隠して仕切りを閉めろお前。

 

 スヴェンもテンパっていたのか、『優男』仮面から『ポーカーフェイス』へとすぐに変えて、どこか面白くない表情をするCCに、犬を追い払うような『シッ、シッ』という動作をする。

 

「……だからどれが────」

「────(もうええがな!) 『クロス監察官』とラベルが付いている奴はどうだ? 髪の毛も三つ編みアップにして赤いフレームの眼鏡もつければ存外、気付かれにくいかもしれんぞ?」

 

「そうか。」

 

 「なんで二人ともそんなに冷静なのよ……」

 

 シャ。

 

 スヴェンは仕切りが閉まる音にため息を(静かに)出す。

 

 が、彼がホッとしたのも一瞬だけだった。

 

『ほぉ? これは中々の衣装だな……着てみるかお前?』

『え────ブフォ?! ななななな何よその衣装?!』

『“クロスパイロット制服”、という奴らしいぞ?』

『ナニソレ。』

『着てみろ。』

『えええぇぇぇぇぇ?! そ、そんな派手なヤツ────』

『────お前たちの着るパイロットスーツよりはマシだろ────?』

 『────グホォア?!』

 

「(あ゛。 そういや『アレ』も作っていたんだった────)」

 「────逃げないでよスヴェン。」

 

 スヴェンは嫌な予感がし、そろりと出口の方へ動き出すと、カレンが察知したのか釘を刺される。

 

「……ただ足を伸ばしていただけだ。」

 

「ならいいけど。」

 

 シャ。

 

「かなり良いな、これ。」

 

「動きやすいけど……なんか変な気分。 落ち着くというか、庇護欲というか、なんというか……」

 

 再び仕切りが開かれ、立っていたスヴェンが向こう側を見る。

 

「(クロスアンジュの『エマ』と『ヒルダっぽいエルシャ』キタァァァァ!)」

 

 ツカ、ツカツカ!

 

「(てあれれれ?)」

 

 ドン!

 

 カレンがつかつかと歩いて、彼女の気迫にスヴェンは自然と壁に追い込まれ、カレンは力任せに手を彼の顔の横をニアミスして、そのまま壁を叩く。

 

「さぁ、話してもらうわよ? あれは一体どういうことなの? あのもう一人のライダースーツは何?」

 

「(リアル壁ドン?!) “あれ”と言われてもな────」

 

 ────ドン!

 

 カレンがもう一つ手で、空いていた反対側の退路を防ぐ。

 

 ダブル壁ドンである。

 

 「とぼけないでね♪」

 

「(あ、アカン。 なぜか超怒っとる。 完全に『ヒルダ』じゃん。)」

 

 スヴェンが『エマ・ブ〇ンソン』コスをしていたCCを見る。

 

 まるで『私は何も喋らないぞ? 約束だからな♪』と言うかのように、CCはそっぽを向きながらクイッと眼鏡を掛けなおす。

 

「(G〇DDAMIT(ガッデミット)! やっぱ気ままな猫だわこいつ!) ……わかった、話そう。 あの『スバル』は影武者だ。」

 

「そこは分かっているわよ────」

「(────わかっちゃうの? いや、ナンデよ────?)」

「────私が聞きたいのは別の『アレ』よ。」

 

「(……“別のアレ”? ああ、なるほど────)────『シュゼット』のことなら去年も話しただろう? お前────」

「────違うわよ! だから! ……だから……」

 

「(ん? 目が泳ぎ始めたぞ?)」

 

「だから……話してもいいじゃんよ?」

 

 カレンが弱気な表情を浮かべ、さっきまで荒げていた声もだんだんと小さくなっていく。

 

「(ッ……そうだな。 カレンに、『アマルガム』のことを話しても────)」

「────アンタとCCって、何?」

 

 そっちか。

 

「まったく……面白そうだから付き合ってきたのに、ただの痴話喧嘩とはな。 興覚めだよ。」

 

「違うぞ。 俺たちはただ────」

「────約束を交わした間柄だ……な?」

 

「へ?」

 

 妖艶意味深な笑みを浮かべるCCの言葉に、カレンがポカンとし、スヴェンがムッとする。

 

「言い方が────」

「────“言い方”? ()()()()()()()だろう?」

 

「(クッ……この……)」

 

 スヴェンは控室の扉を開けて、マーヤ以外に誰も付近にいないことを確認してから部屋の中に戻り、小声でカレンに話す。

 

「カレン、一応言っておくがこいつ(CC)には俺の『スバル』としての正体がバレているだけだからな。」

 

「……はぇ?」

 

「なんだ、もうバラすなんて面白みのないことを……」

 

「そして俺はこいつの頼みを聞いてやっているだけだ。 それとCC、ワザと怪我をして『スバル』としての俺に近づくのはやめろ。」

 

「さぁ? 私はお前の言っていることがわからんな。」

 

「な? こういう奴だ、こいつ(CC)は。 だから一々真に受けるな。」

 

「…………………………あ、アハハハハハハ! そそそうだよね! ウァハハハハハ! なーんだそういうことかぁー! ああ、笑った笑ったー!」

 

「(よし。 これでヴィレッタのことは濁せた……と思う。 ウッ。 奴らのことを考えると胃が、荒れる……)」

 

 

 

 ……

 …

 

 

 

「(何やっているんだろ、僕。)」

 

 スヴェンがホッとしている間、別の場所までベルマと移動していたランスロット仮面の『スバル』役を担っていたマオが冷静に考え始める。

 

 愛し(?)のCCとニアミスだったことを知らずに。

 

「おい、大丈夫か? (とりあえずはこの女だ。 兄さんも兄さんで、変なところで抜けているな。 それとも意図的にか?

『仲間にできるかもしれない』と言っておきながら、マオ(女)のギアスで記憶を掘り起こすなり、ほかの搦め手はあるのに一向にそんなそぶりを見せない。)」

 

『スバル』が息を切らしそうにしているベルマに声をかけると、彼女は汗を掻きながらもにっこりした笑みを返す。

 

「ええ! 大丈夫です! 以前の私もこういうのが好きだったのかどうかわかりませんが、体を動かして汗を掻くのは楽しく感じてしまいます!」

 

「(ま、僕にはCCさえいればどうでも良いよ。 頼まれたのは『兄さん(スヴェン)らしく』だけだし。) そうか、それは……()()()()。」

 

「ッ。 もしかして、私の身を案じてくれているのですか?」

 

「(……ハッ?! しまった!)」

 

 指摘されてマオは仮面の下で慌てる。

 

 今までの『スバル』は『不愛想ながらもちゃんと礼をし、移住食とある程度の頼みを聞き、何不自由ない日常』を『ベルマ』となったヴィレッタに提供していた。

 

 それは原作での扇との生活に似ていたが、彼と根本的に違うところは『男女の関係』に発展しないように、スヴェンは『スバル』として最低限の接触しかベルマとしていなかった。

 

 だが、これが逆に彼女の興味を引きたてていた。

 

自分(ベルマ)に危険が及びそうな裏の事情に巻き込まれないよう、敢えて(スバル)は距離をとっているのだ』、という仮説を立たせるには、十分な現場証拠があり過ぎた。

 

 そしていつもはしない我儘、『一緒に出掛けませんか?』にスバルが同意したことと、先ほどの放った言葉がまるでそれらの疑惑を裏付けていた。

 

「(まぁ、いっか。) ……だとしたら、どうなんだ?」

 

 だがそろそろ何重生活に支障をきたす最近、『スバル』の影武者を頼まれたマオにそれらは関係なかった。

 

「スバルさんは、ブリタニア人じゃないですよね?」

 

「……エリア11を出て、ブリタニア本国に戻るか?」

 

 どちらかというとこの頃スヴェンが『スバル』として活動していると、わざと絡んでくるようなCCが面白くなかったということも関係がなかった……と言えないかもしれない。

 

「私……残ってもいいですよ? エリア11に。」

 

 そして幸か不幸か彼女たちがいた場所は人気がなく、そよ風が吹く木の傍だった。

 

「(兄さん。 謝る気はないから、“頑張って”とだけ言うよ?)」

 

 

 ……

 …

 

 

 上記のマオとは離れた場所では、人気が未だに散る様子ない場所にライブラ、ナナリーそしてうつむきながらギュッとスカートの裾を掴むアリスが並んで学園祭を歩いていた。

 

「あああ、面白かったですー!」

 

「え、ええ……そう、ですね。 ね、アリス?」

 

「……うん。」

 

 彼女たちの後ろにはニヤニヤするダルクとルクレティア、そして意外そうな表情を浮かべたサンチアが互いにしか聞こえない小声で話をしていた。

 

「でもまっさかなぁ~。」

「アリスも怖くなるんですね、ちょっと驚きです。」

「(……それよりも驚いたのは『スヴェンに抱き着いた』というところだな。 あいつは、誰にも頼るようなことがなかった筈だ……)」

 

「あら~? あらあらあら~?」

 

 のほほ~んと、気の抜けた声がしてナナリーは呆気に取られるような顔をする。

 

「ッ。 この、声は────?」

「────あ、()()()お姉さまの方です~!」

 

「あら、やっぱり()()()ちゃんだ! それに、もしかして……あなたは────」

「────()()()……ちゃん?」

 

 様々な要因や巡り会わせのおかげか、原作ではユーフェミアとナナリーの再会に、死んでいないクロヴィスの妹である『ライラ・ラ・ブリタニア』までもがこの場に加わることとなった。




何気にアンジュ見て『クロスアンジュ』のコスを作ったスヴェンでした。 (汗

明日も投稿が遅れる可能性が出ていますが頑張ります! (;´д`)ゞ


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第65話 皇女たち、集う(+1名)2

遅くなりましたが次話です!

前回同様に時間が空いている間に携帯で少しずつ書いたものです。

お気に入り登録や感想に誤字報告、全て活力剤としてありがたく頂いております! m(_ _)m

楽しんでいただければ幸いです!


「じゃあ私が紅茶を淹れるですから、お二人は姉妹水入らずの会話をするです!」

 

「それならば、ライブラ……えっと、ライラちゃんが戻るのを私は待ちます。」

 

「ナナリーの言う通りですよ、ライラ? 姉妹水入らずとなるのなら、貴方も含まれますよ?」

 

「あ。 そういえばそうでしたですねぇ~!」

 

 クラブハウスへと場は移り、本来は給士のやることを慣れた手際でライブラ────否、ライラが気を遣ってかユーフェミアとナナリーに上記の言葉をかけるが、逆に気を使わせてしまっていた様子にライラはケタケタと無邪気に笑う。

 

「でも、驚きました。 まさかライブラ……ライラちゃんが、()()クロヴィスお兄様の実妹だなんて。 ガブリエッラ(ライラママ)様は、お母様(マリアンヌ)()()()仲が宜しくなかったと記憶にあるだけですので。」

 

 ナナリーが紅茶の入ったティーカップから出る匂いを楽しみながら驚きを言葉で示す。

 

 実は『あまり』どころか、事あるごとにガブリエッラはマリアンヌをあの手この手で陥れようとしていたが。

 

「私もです~! 最初に会ったとき、『もしかして』*1と一瞬思ったですけれど、確証と自信がなかったです!」

 

「面識がないのは、ちょっと意外だったけれど……ガブリエッラ(ライラママ)様やほかの義母上などのことを考えると、私やナナリーみたいに姉妹や兄妹外の皇族が親しくなるのは難しい環境ですから。」

 

「あれ? じゃあもしかして、ルルーシュ先輩も()()ルルーシュですか?」

 

「そうよライラ。 彼もマリアンヌ様の息子で、貴方のお兄ちゃんに当たるわ……それよりもちょっと妬けちゃうな、ライラったらこんなにもルルーシュやナナリーと近くで接していただなんて。」

 

「えへへ、役得です~♪ ……あれ? でもマリアンヌ様たちって確か────ぁ……」

 

 ライラが気まずい顔をしてナナリーを見る。

 

「あの……お二人にお願いがあるのです。 私たちのことは黙っていただけませんか? もちろんコーネリアお姉さまやクロヴィスお兄様だけでなく、ほかの皆さんにもです。」

 

 ナナリーのお願いに、ユーフェミアは困惑する。

 

「え? で、でもこのままじゃあ────」

「────は~い! ライラは了解しましたです~!」

 

 あっけらかんとするライラの答えにユーフェミアが眉間にしわを寄せる。

 

「そ、即答ですか?! ライラ、『このまま黙る』ということはお二人(ルルーシュとナナリー)は死亡認定されたままなのですよ?!」

 

「私は……このままひっそりと、学園でお兄様たちと一緒に居られればいいのです……」

 

「ナナリー……」

 

「う~ん……でもでも~? 私は何となくわかるです。 皇族としての暮らしは窮屈ですし、ギスギスしていますですし、お母様もお兄様やお姉さまたちもギラギラしていますし全然楽しくないモノです。」

 

「(クロヴィスお兄様が聞いたら、卒倒しちゃいそうです……)」

 

「逆にナナリーやルルーシュ先輩は生き生きしていますですし、ナナリーもこうやってお願いするには理由があるはずです!」

 

「ありがとう、ライラ。」

 

「今の私はライブラです!」

 

「(クスッ。) そうでしたね? ごめんなさいね、ライブラちゃん?」

 

「ナナリーだから特別に許しちゃうのです! ムッフッフ~ン!」

 

 ライラの言葉にナナリーはホッとしながらも、いつもの笑みを向けて感謝の言葉をあげ、ユーフェミアは素直な二人のやり取りを見てナナリーのお願いする理由がわかってしまうような気持になる。

 

「でもでも……私がいつまでアッシュフォード学園に通えるか分からないです。 今はお兄様(クロヴィス)のおかげで『学園に通う』という我儘を聞いてもらっていますですけれど……」

 

「あら、クロヴィスお兄様もお兄様(ルルーシュ)と似ているんですね?」

 

「あ、やっぱりですか?! 私もそう思ったのです────!」

「「────特に素直じゃないところ!」」

 

 ライラとナナリーの声がハモリ、二人は笑顔と笑いを向けあうとユーフェミアが覚悟を決めたような顔をする。

 

「……実は、私がここに来たのも関係しているの。 聞いてくれるかしら?」

 

「え?」

「はいです?」

 

「私が、『皆が身分や人種も関係なく暮らせる場所がある』って言ったら……どう思う?」

 

 ユーフェミアの言葉にライラが首を傾げながら考えごとをする。

 

「う~~~ん……それって、『国を作る』ということですかユフィお姉さま?」

 

「え?! やっぱりそうなんですか?! でも……」

 

「ちょっと違うけれど……そっか。 やっぱり二人もそう思うのよね。 ねぇ、ナナリー? ルルーシュがどこにいるか、わかるかしら? 少し、話をしたいの。」

 

 部屋の外に立っていた咲世子とユーフェミアのSPたちが気まずい緊張感が漂う空気の中に、アリスの姿はなかった。

 

「ううぅぅぅぅ、さっぶ! (やっぱ制服だけじゃ寒い!)」

 

 彼女はクラブハウスの屋根の上にいた。

 

 冷たい秋風にさらされ震えながら、屋根裏の電線をむき出しにし、タブレット端末にそれらを繋げて以前にルルーシュが『対マオ』用に設置した警備用カメラや盗聴器で中の様子をうかがっていた。

 

「(でもまさか、ナナリーがブリタニア帝国の皇女だっただなんて……それに『母がマリアンヌ』だとすると、よりにもよってあの『閃光のマリアンヌ』の子供……そして彼女の後ろ盾をしていたアッシュフォード家の庇護を受けていた……)」

 

 アリスは偶然にもこの情報を軍用端末と、中の話からたどり着いていた結論中にふと思った。

 

「(まさか、あいつ(スヴェン)はこのことを知っていてずっと接触していた? だとすると()()から? いつ、ナナリーが『ランペルージ』じゃなくて『ヴィ・ブリタニア』と知った?)」

 

「あ! (そう言えばスザクが知っていたという事は、もしかして……)」

 

 ユーフェミアがそう思いながら腰に付けたポーチの中を漁り、折りたたんでいた紙を出してそれを広げながら書かれた(表面に絵具で凸凹付きの)似顔絵をライラとナナリーに見せる。

 

「そう言えば、お二人に聞きたいことがあるの! この人を見かけたことあるかしら!」

 

「ん~?」

「えっと……」

 

 ナナリーが紙の浮き出た感触を指でそっとトレースし、ライラが似顔絵を横から見ると二人は頭上にハテナマークを浮かばせる。

 

「「これ、スヴェンさんですか?/先輩ですね?」」

 

「あ、やっぱり知っているの?! “先輩”という事は、やっぱりここの生徒なのね! ね、どこにいるか分かるかしら?!」

 

 


 

「ブフェェェェ?」

 

 これを屋根の上から聞いていたアリスが意外(?)な人物の名が出てきたことで思わず噴き出してしまう。

 

「(アイツ、何やっているのよ?!)」

 

 


 

 

 クラブハウスの室内でユーフェミアが突然食い気味に体と顔を近寄せたことに、彼女はライラとナナリーがキョトンとしていたことに気付く。

 

「あ、そんなに大事なことじゃないのですけれど……その……河口湖での件でお礼を言いたくて。」

 

「ユフィお姉様、あの時にあそこにいたのです?! 全然気づかなかったです。」

 

 

『ハァァァァァァァァァァァァァ?!』

 

「「???」」

 

 外からふと聞こえた少女の声にユーフェミアやライラ、部屋の外に立っていた咲世子やSPたちも『ん?』と思いながら首をかしげるが持ち場を離れなかった。

 

「ア、アハハハハハ……スヴェンさんならついさっきまで一緒にいましたけれど────」

「────あ! いたです!」

 

 そしてナナリーが乾いた笑いを出して話を戻し、彼女の言葉をライラが遮りながら窓の外に指を差す。

 

 

 

 


 

 

 

 あああ、ドキドキした。

 

 カレンに壁ドンされてそれとなく嘘は言ってい(全てでは)ないことを言って濁した後、変装したカレンに変装したCCを頼んだ。

 

 スッッッッッッッッゲェ嫌な顔されたけど、こうでもしないとCCは頑なに自分なりに『世界一ピザ』をいの一番に入手しようとするからな。

 

 俺はというと、キリキリ痛む胃を鎮めさせるために胃薬を服用してから、ライブラたちのフォローをするために後を追っていた。

 

 止む無く事情とはいえ、仮にも彼女たちと学園祭を回っていたのに中断してしまったからな。

 

 サンチアたちとはすぐに連絡が取れて会うことはできたが、どうやら『客人』とやらにライブラとナナリーはクラブハウスに連れていかれた様子で今向かっていた。

 

「スヴェンさん。」

 

 くぇrちゅいおp~~~~~~~?!

 

「な、なんでしょうか咲世子さん?」

 

 急に背後から来た女性の声に大声を出しそうなのを無理やり『優男仮面』で凌ぐ。

 

「お時間よろしいでしょうか? (ニッコリ)」

 

 あ。

 これ、有無を言わずの『ニッコリ』や。

 

 後何気に『ついて来なさいやオラ』のオーラが……

 

 オラオラオラオラオラオラオーラ。

 

 

 ……

 …

 

 

「やっと見つけました!」

 

 ぎゃああああああ! この声はわははははのはは?!

 

「初めまして……になるので正式な自己紹介です! 私、第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアと言います!」

 

「私はスヴェン・ハンセンと申します。 ()()()()()()()()()()。」

 

「『只の学生であるスヴェンさん』、貴方の事を探しておりました!」

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 そう思いながらも礼儀作法に乗っ取って畏まると同時にありのまま起こったことを話すぜよ?!

 咲世子さんにクラブハウス内に連行案内されたと思ったらギスギスギラギラするSPたちの視線から逃げるように早歩きで咲世子さんの後を追ったらお茶していたユーフェミアとナナリーとライブラが居た。

 

 お、俺も何が何だか……

 

 というかユーフェミアとナナリーがいることは原作でも見たから分かるが何でライブラもここに?

 

 俺のように、『ナナリーの友達枠』で連れて来られたのか?

 

「すみません、スヴェンさん。」

 

 ナナリーよ、そこまで悪いことをしたような顔をしないでくだせぇ。

 

「あの時はありがとうございます!」

 

『あの時』?

 って、河口湖の時か。

 

「いえいえ、私は特に何もしておりませんよ。 (わぁぁぁぁぁ! 生ユフィの笑顔くそかわぇぇぇぇぇ!)」

 

「そんなことないです、貴方があの時立ち上がらなければ私が名乗り出ていました。 並大抵の者では、ああも立ち上がれませんでした。」

 

「私もそう思うです~!」

 

 そういや今考えれば、その流れもあったな。

 ライブラって忘れがちだけれど『ブリエッラ侯爵家』の娘でかなりのステータス持ちなんだよな。

 

 下手していたら原作のように『ニーナが名乗り出た強い少女(ライブラ)に惚れていたかも知れない』という事か?

 

 ……それってどんなウ=ス異本?

 

「過大評価ですよ。 私はただ、我慢ならなかっただけで“何とかできないか”という賭けに情で出ただけの若輩者です。 (ニコッ)」

 

 ユーフェミアがキョトンとして、ライブラが『おぉ~』と感動する声を出す。

 

「やっぱり、スヴェンさんは凄いですね。」

 

「買いかぶり過ぎですよ、ナナリー。」

 

「ねぇ貴方? 少し、聞いていいかしら?」

 

「何でしょう、殿下?」

 

「貴方は、河口湖で私が『皇女』と知っての行動でしたよね? ()()()()、ですか?」

 

 確かにそれとなくウィンクしたけれど、まさかこうも彼女に俺を訪ねさせる(?)程の事になるとはさすがに思わなかった。

 

 でも『どうして』、か。

 

未来(原作)の悲劇を変えたかった。』

『フレイヤが生まれるのを止めたかった。』

『ニーナの依存症をどうにかしたかった。』

 

 上記で出したこれらを言うのは簡単だが、意味もないしただ不審がられるだけだろう。

 

「……無礼と不敬罪を承知での発言をしてもよろしいでしょうか、皇女殿下?」

 

「構いません、今ここにいるのはただの『ユーフェミア・リ・ブリタニア』という個人ですから。」

 

 本当に、優しいな。

 これで歌とか歌ったら『歌姫』になれるんじゃね?

 

 冗談は別として────

 

「────理由は、『皇女殿下』という肩書きで不用意に名乗り出ようとしたことですね。」

 

「え?」

 

 少しきついかもしれないが……夢見がちなユーフェミアに今言わないと、ダメなような気がする。

 

「『皇女殿下』という肩書にはかなりの重みがあります。 今の世の中で安易にそれを使ってしまえば、本人が望む形になろうが否が応にも周りは過激なほどに動きだしてしまいます。 

 ですから、肩書などを出す時は慎重にかつ自分の技量に沿った状況下でないと、大抵の場合は望んでいる結果とは違う流れになる可能性が出てしまいます。」

 

「「「………………」」」

 

 三人とも黙ってしまった。

 少し言い過ぎたか?

 

「無論『相手を試す』という振るいに賭ける時でも有効ですよ? 先ほど申し上げた通り、周りは過激なほどに動きだしてしまいますから。」

 

 一応、俺の本音を混ぜた言葉を言ったつもりだ。

 

「「「………………」」」

 

 つもりだったが、気まずくなってしまった。

 

「そ、それではもうよろしいでしょうか皇女殿下?」

 

「ぁ……え、ええ。 ありがとう、ございます。」

 

 どうにかして逃げ口を見つけた俺は立ち上がると、空になった茶菓子のお皿を見て思わず追加の言葉を言ってしまう。

 

「それと、もしよろしければ作り置きのマドレーヌがございますが────」

 「「────マドレーヌ?!」」

 

 ライブラはまだしも、ユーフェミアの食い気味接近が半端ねぇ!

*1
17話より



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第66話 動き出す事態

お気に入り登録や感想に誤字報告、全て活力剤としてありがたく頂いております! <(_"_)>

少々長めになりましたが、楽しんでいただければ幸いです!


 エリア11のトウキョウ租界に聳え立つ政庁の近くにある空港で、珍しい光景があった。

 

 ずらりと並んでいたナイトメアの一部に指揮官クラスのグロースターで、どれもがザッテルヴァッフェという特殊ミサイルランチャーを装備していたこともある。

 

 だがそれよりもそれらのパイロットが全員バイザータイプのサングラスをした『グラストンナイツ』という、ある意味『皇族でもないダールトン将軍の親衛隊』であることかもしれない。

 

 以前にも記入したが、一人一人は身寄りのない戦争孤児で将軍自らが引き取って父親同然に育てた者たちである。

 

 その、絆、想いは本物の家族以上で、連携も絶対的な信頼がなければできない猛者の集まりである。

 

 彼らの前に立っていたのはコーネリアで、宰相であるシュナイゼルを見送るかのように整列していた。

 

「流石コーネリアだよ、これだけの短期間でキュウシュウ騒動を鎮圧化させるなんて。」

 

「とんでもない、これは迅速に中華連邦に圧力をかけた兄上と自ら回してくれた本国からの正規軍、それに待機中だったグラストンナイツも呼び寄せてくれた今では以前より強固な軍へと戻りました。」

 

「私にも落ち度はあるからね。……流石に業務中に部屋を飛び出て実弾を装填した銃剣を持ちながら食堂に飛び込むほどのストレスを、コーネリアが抱えていただなんて……宰相として申し訳が立たないよ。」

 

「ウグッ……」

 

 余談であるが、ユーフェミアのストレス発散は『夜中に人知れずお菓子を食べること』である。

 彼女が副総督になってからもこれは続いた────否、勢いと食べる量が以前より増した。

 

 これのせいで、彼女の着るドレスがきつくなっていたが()()()()()()()程度だったので運動を増やしたのだが先日のグランドリゾートオープンでユーフェミアの腰が(数ミリ単位)で大きくなったことでコーネリアが政庁の食堂に『糖質制限ダイエット』を徹底させた。

 

 このおかげでデザート類の品数が劇的に減ったことを知ったユーフェミアは固まり、今まで見せたことのない顔をした。

 

 これをノネットが面白半分で写真を撮ってコーネリアに送ると、どう頑張っても5分はかかる総督室から食堂の道をわずか一分で(しかも建物内で取り回しが難しい)銃剣を持ちながら突貫してきたそうな。

 

 その勢いのまま食堂のシェフたちを問い詰めようとするコーネリア。

 シェフたちもシェフたちで『閣下のご命令通りにしただけですー!』と叫べばすぐに撃たれる気迫のコーネリアの前でノネットは責任を感じてか彼女を(物理的に)なだめた。

 

 余談だが賭けが生じ、オッズは6対4でノネットが若干有利だったところまで昔のようで、二人の学生時代を知っていたダールトンは『姫様、全く変わっていませんな』とほろりと涙腺に涙が出てきたそうな。

 

「あ、あれは……一時的なもの……です。 それに思いのほか、人参────クロヴィスたちの手伝いもあってキュウシュウの被害からくる修理費用に民間施設への補修費用の捻出などを担当してもらっているというのに……」

 

 コーネリアが気まずく人参役者クロヴィスを珍しく認めるような言葉を出しながら視線を逸らし、シュナイゼルは愛想笑いを向ける。

 

「そうだね。 あれは私も意外だったよ。」

 

 その『意外』とはクロヴィスのことだった。

 以前総督としての彼の手腕はお世辞にも『良い』とは呼べず、最低の合格ラインを保っていたにすぎなかった。

 軍事方面にも、政治にも。

 

 だが最近の彼はいまだに軍部のことはからっきしだが、まるで憑き物が落ちたように内政面で大いに開花したような働きぶりを見せてコーネリアとシュナイゼルを驚かせていた。

 

「それに普段の君が今ここにいるからこそ、私は安心してエリア11を頼める。 ああ、それとバトレーが管理している件だけどくれぐれも内密に。」

 

「……『アレ』にそれほどの価値があるのでしょうか?」

 

「上手くいけばね。」

 

「兄上らしくないですね。 ひょっとしてユフィが見送りに来ていないからですか?」

 

「ああ、彼女とは昨夜話したから大丈夫だと思う。 それに……」

 

 ここで初めて、コーネリアはシュナイゼルから『不安』のようなものを直感的に感じた。

 

 数多の戦場の空気を読み取ってその流れを感じ取って有利に戦術を組みなおせる彼女だからこそ、感じ取れた『違和感』程度のものだった。

 

「……兄上? どうかされましたか?」

 

「ああ、何でもないよコーネリア。 少し考え事をしてね? じゃあ、行ってくるよ。」

 

「よい旅路を、兄上。」

 

 シュナイゼルが敬礼するコーネリアたちに背を向けて待機している飛行機に向かうが、足を一瞬だけ止めてコーネリアに振り向いた。

 

「言い忘れるところだった。 コーネリア、少し耳を貸してもらえないかい?」

 

「??? は、はぁ……」

 

 珍しくコーネリアがハテナマークを頭上に浮かべたことにギルフォードとダールトンがカメラを出すのを我慢する。

 

 「これから何があっても、君は第一に『エリア11の総督』であることを忘れないでくれ。」

 

「??? はぁ、勿論のことですが……どうしてそのようなことを────?」

「────いや、いい。 気にしないでくれ。」

 

 これを最後に、シュナイゼルは飛行機に乗って政庁を後にする。

 

「……カノン、あれを出してくれないか?」

 

「はい。」

 

 そして彼はカノンから手渡された書類を再び見直す。

 

 ユーフェミアの直筆で、『行政特区日本』と題名に書かれた書類を。

 

「(念には念を入れるか。) カノン、アッシュフォード学園にHiTVなどのテレビ局と連絡を入れてくれないか? 『政庁から何やら重大な発表が近々にある』と、匿名付きでね。」

 

 

 

 


 

 

 

『さぁさぁ、皆さんお待ちかねのピザタイムがやってまいりました~!』

 

「(まったく、スヴェンの奴はまだ来られないのか……)」

 

 ルルーシュはこのイベントの為だけに作られた巨大オーブンの制御室で、外の様子とアナウンサー役をするリヴァルの声を聞きながら愚痴っていた。

 

「(本来なら奴がここにいる筈で、俺はクーデターの準備に取り掛かっているのだが……これはこれでいいかもしれん。 俺の司令ミスで、誰一人として死なないからな。 ちょっとした『休憩』としてみれば気楽になる……のか?

 ここのところ、黒の騎士団にほとんど身を入れすぎて、出席数がサボり魔(マーヤ)レベルに達しているらしいからな。)」

 

「さすがルルーシュね。 一時はどうなるかと思ったけれど、何とかなりそうね。」

 

「ええ……ですが皆よく能天気でいられますね? ついこの間、キュウシュウのいざこざがあったというのに。」

 

 ルルーシュが見るのはステージに群がる人たちの姿だった。

 

「だからよ……人間、誰でも休息は必要でしょ? パァッとして、一時にでも世界のことや身の回りのことを忘れてさ?」

 

「……」

 

 つい先ほど正に自分が考えたことを言葉にするミレイに、ルルーシュは黙り込んでしまう。

 

 コン、コン。

 

「あのぅ……少しよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

 ミレイが開けたままのドアから来た声に振り向き、それにつられてルルーシュも顔を向けながら注意する言葉を出す。

 

「ここは関係者以外、立ち入り禁止だよ────ぉ↑ほぅ↓ぉ~~~~~?!」

 

 ルルーシュがそちらを見ると急に裏返った声を、空気を吸い込むことで相殺させようとして結果、素っ頓狂な声で言語化できない音が彼の喉から発されていた。

 

 それは無理もない。

 扉ではサングラスに帽子という簡単な変装(?)をしたユーフェミアが居たからだ。

 

「(なぜここにユフィが?! それよりも誰かの差し金か?! だがコーネリアなわけがない────)」

「────えっと、ここにルルーシュがいると聞いたのですけれど────」

「────ルルーシュの知り合い────?」

「────かかかか会長! 俺は少し席を外しまーす!」

 

「え?」

 

「何かあったら連絡ください!」

 

 ルルーシュはミレイの横を風のように横通ってはそのままの流れでユーフェミアの手を取ってその場から戦術的撤退をす(早歩きで逃げ)る。

 

 ……

 …

 

 管制室から少し離れ、オーブンのあるステージに注目が行っていることで人気がなくなった段差のある丘の上まで退避(逃げた)ルルーシュが小声でユーフェミアに怒鳴るという器用なことをしていた。

 

「何で君がここにいるんだ?! (マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ。)」

 

「実はスザクに話したいことがあって来たのだけれど、さっきナナリーと偶然会っちゃって! そしたらスザクは少し忙しそうだから、貴方と話しに来たの!」

 

「そそそそそうか。 いいいいいきなりだな? (バレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたバレた。)」

 

 ルルーシュは内心では猛烈に焦りながらどうやってユーフェミアに対処しようか頭をフル回転で巡らせる。

 

 その平行思考の数、実に20を超えていた。

 原作での『対マオ』以上である。

 

 

 

 


 

 

 

「(ハァ~……)」

 

 スヴェンはあの後、巨大オーブンとピザを作るガニメデの最終チェックとエナジー供給配線のためにシャーリーから呼ばれ、会場の裏にいた。

 

 どうにか『身分の高い女性たち(ユーフェミア、ナナリー、ライブラ)からの質問攻め』から免れたものの、マ()や毒島から来ていたメッセージなどにため息を内心で出していた。

 

 マ()は『ベルマ』ことヴィレッタのことと、毒島は()()()()()()として破棄される筈のガニメデの買い取り、輸送、そして()()の進み具合に関して。

 

 前者と後者双方は彼を悩ませるも、後者は嬉しい知らせだった。

 

 今は詳細を伏せておくが、これでかなりの戦力アップが見込まれるからだ。

 

「(それより問題なのはヴィレッタの方なんだよなぁ~……『残ってもいいですよ、エリア11に』なんて言って……フラグ立っちゃっているっぽいよね、これ?)」

 

「それにしても驚きました。 スヴェンさんが河口湖でしたこと。」

「です!」

 

「アハハハ、お恥ずかしい限りですよナナリーにライブラさん。」

 

 スヴェンは自分のやることをすべて終えて座っているとナナリーの車いすを『キャハハー!♪』とさっきまで乗り物扱いしながら押していたライブラが近くまで来る。

 

『それでは紹介しましょう! こちらはアッシュフォード家のガニメデ! もう十分クラシックですがまだまだ現役で動くナイトメアです!』

 

「おお~! いつもスヴェン先輩がいじっている、ヘンテコなナイトメアの登場です~!」

 

 ライブラはキラキラとした、まさに『ロボットアニメに魅入られる少年』のような仕草でステージの上でスザクに操られるガニメデを見る。

 

「見に行ったらどうでしょう? ここからではほとんど見えませんし、私はここにいますから。」

 

「わは~い! トライダーナナ号、出撃で~す!」

 

「リミッター解除、行きま~す。」

 

「ングブッ?!」

 

『ヴィーン』としたモーター音とともにナナリーの車いすが普段出さない速度でスヴェンから離れ、彼は思わずゴチャ混ぜになったロボットアニメの連想でくぐもった笑いを押し殺す。

 

「ねぇ。」

 

 ちょうどナナリーたちが離れたと思うと、今度はいつの間にかそばに立っていたアリスが声をスヴェンにかける。

 

「(いつの間に……いや、ギアスか。)」

 

「……スヴェン先輩? 一つ聞いていいですか?」

 

「なんでしょう、アリス?」

 

()()()()ですか?」

 

「???」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ。」

 

 アリスの質問にスヴェンの胸はドキリと脈を打ち、アリスはいつでもスカートの下に携帯している小型銃を手に取れる心構えをする。

 

「(いつだ? いつアリスは知った? それとも『ナイトメア・オブ・ナナリー』と同じで学園のデータベースにハッキングしたのか? いや、それよりも以前戦った時と同じ緊張感を感じる……どうする、俺?)」

 

「(確かに恩はあるし、今の生活だって悪くない。 でも……もしそれらが全部計算されているのなら……全部が私たちやナナリーやルルーシュ先輩を利用するため策だとしたら、今ここではっきりさせないとなんだか手遅れという気がする。)」

 

「「………………」」

 

 活気があふれる表のステージの反対側にいる二人の間に会話はなく、周りに人気もなかったことでガヤガヤする背景音だけが程よい雑音として流れる。

 

「……()()()()()。」

 

 二人の間にあった静寂な空気を破ったのはポーカーフェイスになったスヴェンだった。

 

「(『最初から』、ですって────?)」

「────お前も分かっているように、俺は『従者見習い』をしている。 その昔、『帝国後宮でテロ』なんて事件を知らないわけがない。 その時、生き残った子供たちの特徴がルルーシュとナナリーに合っていたのでただの疑惑だったがな。」

 

「日本侵略時に『死亡』と正式発表されていたのに?」

 

「あくまで『可能性の一つ』としてだ。 確信に変わったのは、ついさっきでのクラブハウス。」

 

「それを知ったあなたは、どうする気? (返答次第では────)」

「────別に、何も。」

 

「……は?」

 

「何もしない。」

 

「いやいやいやいやいや。 相手が相手だよ? 知ったら……というかなんであの時あの子を助けたのよ?!」

 

「??? 困っている人を助けるのは当然のことではないのか? (嘘は言っていない生き残るための布石で会って相手にもマイナス点はないし恩着せがましく動いてもいないからバレませんように!)」

 

「(え? じゃあ、こいつ……え? ()()()人助けしているとでもいうの?)」

 

「(嘘は言っていない嘘は言っていない嘘は言っていない嘘は言っていない嘘は言っていない。)」

 

 アリスが思い起こすのはスヴェン、そして 彼の『スバル』としての活躍だった。

 

「おい。」

 

「(……………………え? マジなのこいつ?)」

 

 そして結論としてアリスがたどり着いた結論は彼の言ったことと今までの行動に矛盾がないことだった。

 

「おい。」

 

「(え? ちょっ、待っ、え? マジでこんなことあるの?!)」

 

「おい。」

 

「(こんなにお人よしな不愛想人間がリアルでいるの?! どこの漫画に出てくるキャラよ?!)」

 

「聞いているのか────?」

「────うひゃう?!」

 

 悶々と考え込むアリスが固まっていたことでスヴェンが何度声をかけても動かない様子にびっくりする。

 

「話はそれだけでしょうか?」

 

「あ、うん……」

 

「では私は会場の表に行ってきます。」

 

 スヴェンが『優男』としての設定に戻り、アリスは一人でステージ裏に残される。

 

 

 

 


 

 

 ビビっっっっっったぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 何?! 何なの今日は?!

 厄日か何かなのか?!

 

 う……お腹が……

 この様子じゃいつか穴ができちまうよ~。

 助けてドラ〇も~~~~~~~ん!!!

 

「あれ? この足音……スヴェンさん、大丈夫ですか?」

 

 すると人だかりの外側にいたナナリーが急に話しかけてくる。

 

「えっと……ライブラさんは? それに大丈夫とはどういうことでしょう、ナナリー?」

 

「ライr────ライブラちゃんなら“もっと近くでガニガニ(メデ)見るです~”と言っていたので、ステージ近くに行かせましたけど?」

 

『ガニガニ』って、体操でもするのか?

 …………………………教えてもいいかもしれない。

 

「スヴェンさん、スザクさんの操縦はどうですか?」

 

「立派なものです。 ピッツアの生地はもうすでに去年の2メートル超え、グングンと伸びています。 目視で4、5メートルはありますね、さすがは本職といったところです。」

 

「それは凄いですね。」

 

 う~ん。

 ナナリーマジ天使。

 

 お? あそこにいるのはプリン伯爵ことロイドとミレイ?

 あれか?

 

『第三世代ナイトメア、ガニメデ。 閃光のマリアンヌ様も使っていた機体だね?』

『基本フレームのみですよ。 イベント用のお人形です……やっぱり結婚の目的はあれでしたか。』

 

 と言った流れのシーンのところか。

 と、いうことは?

 

 おお、いたいた。

 

 階段のところにルルーシュと変装とも呼べないような変装をしたユーフェミアだ。

 

『すばらしい! どこまで大きくするつもりなのかぁぁぁ! スザク君、期待していますよぉぉぉ?!』

 

「……凄いですね、スザクさん。」

 

「そうですね。 ()()()の『希望の星』になれそうです。」

 

 そう軽く口にしながら俺はシャーリーの姿を探し────お。 ちゃんとご不満にもルルーシュたちを見てムスッとしているな。

 

「スヴェンさん……」

 

 っと、そろそろ風が吹いてユーフェミアの帽子が飛ばされるところか。

 ナナリーとの移動準備をするか。

 

 ヒュウゥゥゥ!

 

 立ち上がるとほぼ同時に一際強い風が案の定、ユーフェミアの帽子を吹き飛ばす。

 

 「ユーフェミア様?!」

 

 彼女の名前をシャーリーが呼んでしまうと、明らかにステージの周りにいた人たちにどよめきが走る。

 

「ここから移動しますよナナリー────」

「────え────?」

「────ユーフェミア殿下がマスコミや他の人たちの注目を浴び始めています。」

 

 ナナリーの車いすを押して人がいなくなった屋台の中へ逃げ込む。

 

「ッ。 お、お兄様は?!」

 

「大丈夫です。 別の屋台に身を隠していま────あ。」

 

「こ、今度はどうしたのですか?」

 

「えっと……スザクが気を取られてピッツアの生地が木のデコレーションになりました。」

 

 うわぁ……CC、絶対ショック受けているよなぁ~。

 画面越しでは実感ないけれど、スッゴイ勿体ない────

 

 ────パパパパーン!!!

 

 「ヒッ?!」

 

 ギュ。

 

 乾いた銃声がするとナナリーは目端に涙を浮かばせながら腰に抱き着いてくる。

 

 ナデナデナデナデ。

 

「大丈夫ですナナリー。 今のは威嚇のものです。」

 

 そう言いながら震えるナナリーを抱きしめてあやしながら頭を優しく撫で、首を回して屋台の中から様子をうかがう。

 

 ナデナデナデナデ。

 

 原作通りなら、今のはユーフェミアの周りにSPたちの代わりに割って入った特派だよな?

 

『いい加減にしなさい貴方たち! 相手は副総督にして第三皇女殿下ですよ?!』

 

 お、セシル発見。

 

 ナデナデナデナデ。

 

 そしてユーフェミアのSPとスザクも発見。

 

 ナデナデナデナデ。

 

「あの……スヴェンさん……」

 

 あ。

 しまった、抱きついて撫でていたままだった。

 

「ああ、これは申し訳ございませんでしたナナリー────」

 

 というわけで、ハグ解除!

 

「────ぁ……えっと……ユフィお姉さまやライr────ライブラちゃんは?」

 

「ユーフェミア様なら今、スザクがガニメデで向かっています。 ライブラは……ジタバタしながらアリスに引きずられていますね。」

 

 何やってんだか……

 

「そう、ですか……お似合いですね、ユフィお姉さまとスザク……」

 

「……………………」

 

 気まずい。

 何も言えない。

 原作知識が合っているなら、『ナナリーの初恋相手はスザクだった』という描写があったはずだ。

 

 無理もないか。

 スザクは子供時代も今も、根は良くも悪くも『真っ直ぐすぎる』もんな。

 

 あと超人だし。

 もやしっ子であるルルーシュとはいろいろ違うし。

 

「手を、握ってくれるでしょうか? 少々寒くて。」

 

 さっきの銃声で体が冷えたのかな?

 

「勿論いいですとも。」

 

 ナナリーの手をそっと包み込むように俺は手に取ると、確かに少し冷えていた。

 

「あのお兄様といた方が実は、私とお兄様とは異母の親族だと言ったらどう思いますか?」

 

「(??? なんだ、急に? さっき一緒にいたところに会ったからか?) 別に何も思いませんが? それでルルーシュやナナリー本人が変わるわけでもないでしょう?」

 

「ッ……」

 

「(……全く話の先が分からん。)」

 

 ナナリーは人気が周りにいないまま言葉を続ける。

 

「……ではどうか、お兄様のことを頼んでもいいですかスヴェンさん? お兄様は、やはり何か危ないことをしているから最近帰ってこないのでしょう? 

 ()()と違って、今の私では……何も、できませんから。」

 

「ッ。 (そこまで思い詰めていていたのか、ナナリー。)」

 

 

 果たしてそれは原作でも彼女が持っていた気持ちだったのかスヴェンには分からなかったが、少なくともユーフェミアとの出会いで何かを感じていたようだった。

 

 

「この間、私は“独りは嫌”*1と言いましたが……私はお兄様が幸せでいられるならば、それだけで良いのです。 ですから、スヴェンさんにはお兄様の助けになってください……と頼んでもいいでしょうか?」

 

「………………少々語弊があるようですね、ナナリー。」

 

「え?」

 

「そこは『私たち兄妹の助けになってください』、でいいのではないでしょうか?」

 

「でも……私のわがままで、そこまで頼んでも……いいのでしょうか?」

 

 ……ここは少し変えてみるか。

 

 俺は膝を地面につけて、胸に手を置く。

 

 俗にいう、『騎士の誓い』ポーズだ。

 

 ナナリーに見えなくとも、誠意の気持ちは伝わるだろう。

 

「……スヴェンさん?」

 

「ならば私に命令(オーダー)をしてくれればいいのです。」

 

「そんな! だって私……私は……だってスヴェンさんは、日本人なのでしょう?」

 

「……」

 

「咲世子さんも言っていました。 “折り紙をあれほど知っているのはおかしい”と。 日本の和食の作り方や、ユフィお姉さまに聞いたあなたは河口湖で日本語でテロリストたちの注意を引いたとも────」

「────それでも、私の体にはブリタニアの血も流れています。 それとも、私ではご不満でしょうか?」

 

「そんなこと絶対にありえません! でも……でも────」

「────では、頼んでください。」

 

「…………………………スヴェンさん……()()()()()でいいですので私たち兄妹の助けに、なってはくれませんでしょうか?」

 

()()()()()()()()()。 その頼み、しかと承りました。」

 

 俺は頭を深く俯いては、地面を見る。

 

「……ッ……ッッ……」

 

 ……ナナリーに前もってハンカチを渡せばよかったかな。

 

『Hiテレビです! 近々発表されることがあるとのことですが、一言コメントお願いできませんでしょうかユーフェミア様?!』

 

『ッ……その話を、どこで?』

 

『“とある者”としか!』

 

『……この映像、エリア全域に繋がれていますでしょうか?』

 

『勿論です!』

 

 ああ。

 やはり……現実を言っただけでは止まらないか。

 

『スゥー、ハァー…………………………皆さん! 大事な発表があります!』

 

 俺たちのいる場所からでも、ユーフェミアが深呼吸してから口を開ける。

 

『神聖ブリタニア帝国、エリア11副総督の第三皇女のユーフェミアです! 私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは……………………フジサン周辺に、“行政特区日本”を設立する事を宣言致します!』

 

 

 


 

 

 ガシャァン!!!

 

 トウキョウ租界の政庁の総督室から、ガラスが割れる音がする。

 

 WHAT THE F〇CK IS THIS SHIT?!

 特別通訳:どういうことだこれはぁぁぁぁぁぁ?!

 

 こめかみに青筋どころか怒りのあまりに無数の血管を浮かばせたコーネリアが、拳でテーブルを叩いた弾みにテーブルの一角が割れてしまい、その拍子に彼女の手袋が破けていて手もところどころガラスの破片が突き刺さっていた。

 

 

 

 

 ひょほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 政庁でも別の部屋にいたクロヴィスは彼らしくもない巣頓狂な声をあげながら顔を歪ませ、あまりの動揺に車いすから転げ落ちてしまっていた。

 

 

 


 

 

『この行政特区日本では、イレヴンは“日本人”と名乗ることが許されます! 彼らへの規制、ならびにブリタニア人の特権は“特区日本”には存在しません! つまりはブリタニア人もイレヴンも平等な場所になります!』

 

 電動式ジェットエンジンの音の上からでも聞こえるユーフェミアの宣言を聞きながら、シュナイゼルはついさっきカノンに入れてもらったワイングラスをあげた。

 

「流石殿下ですね。 これでエリア11の掃除ははかどり、前に出なくとも利しかない状況です。」

 

「買いかぶりすぎだよ、カノン。 私は可愛い妹の頼みを聞いてやっただけだよ。」

 

『聞こえていますか、ゼロ?! 貴方の素性も事情も何一つ、私は問いません! ですから、貴方も特区日本に参加して下さい!』

 

「フ……フフ……フフフフフフフフフフフフフフ。」

 

 カノンは片手で数えるほどしか聞いたことのない、シュナイゼルの静かな笑い声に背筋が凍るような感覚に浸りながら、自分の主が血のように赤いワインを静かに飲み干すのを見届けた。

 

 

 


 

「アッハハハハハハ!」

 

 シュナイゼルとは別のジェット機では、以前に見た背丈より長い金髪を持った子供が無邪気に面白おかしくお腹を押さえながら足をバタつかせながら笑っていた。

 

「ああ、笑った笑った! 傑作だよシャルル! 君の子供の中でも、一際斜め上の発想ができる子がいるんだね!」

 

「どうしたの、パパ?」

 

「何でもないよ……人生、何が起きるかわからないね♪」

 

 彼が浮かべていた笑顔は決して彼のような見た目をした子供がしてはダメなモノだった。

*1
38話より




やっといつもの時間に投稿できました!

余談:
コードギアスのサントラ、いいですね。
聞きながら書くと、脳内でアニメを見ている気になれます♪

特に“Alone”や“With you”などのコーラス付きは好きです。


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第67話 タイムカプセル、学園編

お待たせいたしました、次話です!

予約投稿が違う日付になっていました、申し訳ございませんでした!

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ユーフェミアの『行政特区日本』宣言により、アッシュフォード学園の学園祭は中断となった。

 

「はぁ~。 去年より凄い学園祭になりそうだったのに、別の意味で凄いことになっちゃったわね。」

 

「仕方ないよ会長。 確かに今まで以上にオープンな学園祭でしたけれど、まさか『ユーフェミア様がお忍びで来ている』なんて誰も思わなかっただろうし。」

 

「しかもマスコミが血を嗅ぎつけたサメのように群がったしな。」

 

「…………………………」

 

「大丈夫かライブラ?」

 

「あ、()()()先輩────」

「────いや、俺、リヴァルだからね?」

 

「は、はい! 大丈夫ですリヴァル先輩!」

 

「そうか~?」

 

「ハイです!」

 

 生徒会の誰もが中断された学園祭に対してそれぞれの思いやりを口などにしながら、後始末業務に励んでいた。

 

「(なんということだ……最悪のケースだ!)」

 

 ルルーシュは内心、それどころではなかったが。

 

『行政特区日本』。

 ユーフェミアの提案したこれは、エリア11で反ブリタニア運動を未だに続ける組織たちに取っては致命的なまでの一撃だった。

 

 限定された地区とはいえ『日本』、そして『日本人』としての在り方が存在を許され、(口先とはいえ)『ブリタニアと同等の扱いをされる』。

 

 つまり(一般人からすれば)全くリスクも危険もないまま、『日本』が誕生されようとしていた。

 

「(これでは、今の日本で大多数の戦っている反対運動は存在意義と大義を失ったも同然だ! このまま反対を続ければ『悪』となってしまい、最大の強みである『民衆の支持』が本格的に瓦解する! しかも質の悪いことに言葉とは裏腹に、その『日本』はブリタニアの監視下だ!

 ユフィは……アイツはそれを知っていて、これを提案したのか?!)」

 

『この行政特区日本では、イレヴンは“日本人”と名乗ることが許されます! 彼らへの規制、ならびにブリタニア人の特権は“特区日本”には存在しません! つまりはブリタニア人もイレヴンも平等な場所になります!』

 

 ユーフェミアのこの言葉が脳内をよぎり、ルルーシュはガシガシと頭を乱暴に掻く。

 

「(違うぞユフィ! 俺も一時はそう考えていたがそんなものは所詮、夢物語だ! 『平等』を嫌うあの男の下でそんなことはありえん! 絶対にだ! それともまさか、『皇帝』になるつもりか? いや、ユフィに限ってそれはない! ならば誰かがバックボーンに────)」

 

 ────ヴヴヴヴヴ。 ヴヴヴヴヴ

 

 ルルーシュの携帯はあの宣言からひっきりなしにずっと鳴っていたことから、マナーモードに切り替えていた。

 相手は勿論、黒の騎士団やキョウトの桐原などである。

 

「(まさか、こんな簡単に裏をかかれるとは! しかもよりによってユフィに! 

 ……昔は『夢見がち』と思っていたが、それが今もなお続いていたとは盲点だった!

 この宣言が完全なる善意からきているとしたら、君は本当に何も見えていない! 聞こえていない! 『()()()()()()()ッ!!!)」

 

 ルルーシュは明らかにイライラしていた。

 

「なぁ、スヴェン? ルルーシュ、いつも以上にカリカリしていないか?」

 

「多分、ピザが台無しになったことではないでしょうか?」

 

「いや、そこまで怒ることは……って、あいつがほとんど仕切ったイベントだからなんとも言えないところなんだよなぁ~。」

 

「お兄様……」

 

 ナナリーはどう言葉をかけたら良いのか迷っていた。

 

 イライラする原因は恐らく昼間の『ユーフェミアの行政特区日本宣言』と、『兄が行っている危ないこと』が関係していると彼女は踏んでいた。

 

 そしてその昼、スヴェンに相談した時の言葉を思い出す。

 

 

 ………

 ……

 …

 

『スヴェンさん、今すぐお兄様のところに行って話をしましょう!』

『ナナリー、何を話すと?』

『え? ですから────』

『────貴方の兄、ルルーシュは自分のしていることを打ち明けていません。 恐らくそれは、“貴方を守る”為です。 前に言いましたね? ルルーシュのすることすべてはあなたの為だと。 彼がここまで徹底させるということは普通の精神ではできません。

 全てとは言えない、事実の一部だけを知った私たちがとるべき行動は“秘密の共有”ではなく、“秘密の厳守”です。

 ルルーシュは優れすぎて、更なる漏洩を警戒して今より孤立することになると思います。』

 

『……では、どうしたらいいのでしょうか?』

 

『……ルルーシュはその優秀さゆえに、“協力者”は求めても“仲間”は必要ないと思うかもしれません。 私たちにできることはそんな彼を見守り、言葉を交わさず真に理解できるようになることです。』

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「それにしてもユーフェミア様の宣言は驚いたよなぁ~……スザクは何も聞いていなかったの?」

 

「まさか! 僕だって今も驚いているぐらいだよ!」

 

「……………………」

 

 あの後のどさくさに紛れてCCを逃がせたものの、自分自身が逃げるタイミングを見誤ったカレンは無言で『本当か、こいつ?』を含んだジト目でスザクを見る。

 

「お嬢様、お疲れですか?」

 

「うぃ? う、うんそうかも……今日は医師がオーケー出したから張り切っちゃって……」

 

 スザクはスヴェンとカレンのやり取りを一瞬だけ横目で見て、作業に戻る。

 

「(そう言えば、カレンは黒の騎士団……という事は、スヴェンも黒の騎士団の一員なのか? そうでなくとも、彼ら(黒の騎士団)の活動内部を知っている可能性が高い。 昼間、ああカレンに言ったけれど……正直に答えるとは思えないけれど、あとで直接聞くしかないか。)」

 

「……ねぇ皆?」

 

 ミレイがどこか昼間から不穏な空気を感じていたのか、いつもとは違うよそよそしい口調で切り出す。

 

「どうしたですミレイ先輩?」

「珍しいですね、『会長が遠慮がち』というのは。」

「癪ですけれどルルーシュ先輩に同意ね。」

「まぁ、確かにそうだけれど口にする必要ないじゃん。」

「「ミレイちゃん/会長、何か頼み事?/ですか?」」

 

 最初のライブラ以外、どこか辛辣なルルーシュとアリス、リヴァル、そしてニーナとシャーリーにミレイが気まずい顔を浮かべる。

 

「い、いやただの提案なんだけれどね? これからこの先、どうなるか分からないじゃん? だから……『アレ』を作ろうと思って。」

 

「「「「「「『アレ』?」」」」」」

 

「……あ。」

 

 他の皆がハテナマークを出すが、ナナリーがミレイの言わんとすることに考えが行き着いたのかハッとする。

 

「ミレイさん、もしかして『タイムカプセル』ですか?」

 

「ピンポーン! 流石ナナリー! 誰かと違って覚えていたのね!」

 

「ええ、まぁ……」

 

「……ああ、そう言えば昔にそんなものを埋めましたね。」

 

「そそ。 でもあの時は私とルルーシュとナナリーだけだから~……今度はここにいる皆で作りましょうよ!」

 

「(そんなもの、原作にあったっけ?)」

 

 スヴェンだけは愛想笑いをしながら内心に少しワクワクしながらも、ハテナマークを浮かべる。

 

 

 

 


 

 

 

 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ガキン!

 

 アッシュフォード学園の外れにある森の中、スザクが穴を掘って金属と金属が当たる音が出る。

 

「あ、これかいルルーシュ?」

 

「ああ、引き上げてくれ。」

 

 スザクが軽々と古ぼけたトランクを土の中から引きずり出す。

 

 俺か?

 

 俺はリヴァルの次に一時間ちょっとぐらいかけて、周りを掘ったぞ?

 

 ミレイたちが埋めたこの辺りはアッシュフォード学園の新校舎が出来る前だったらしく、タイムカプセルの場所が工事の下準備の所為で動いていた。

 

 ちなみに初めの挑戦者であるリヴァルは15分でギブアップしたが……バイク乗っているのに体力なさすぎじゃね?

 

 そして流石は公式化け物スザクというか、二時間ぶっ通しで穴を掘っても全然息が乱れていなかった。

 

「うわぁ~、懐かしい~。」

 

「先輩たちやナナリーに質問ですー! 『たいむかぷせる』とは何です?」

 

「ん~、今じゃ他愛のないモノや思い出のモノをとにかく詰め込んで埋めたモノ。」

 

「……それ、何か意味があるです?」

 

「子供のすることだからねぇ~、案外“ああ、そう言えばそんなことあったな~”程度でいいのよ。」

 

 ライブラの質問にミレイが答えている間、ルルーシュがカギを開けてシャーリーやアリスが中のものを取り出していく。

 

「ええっと? 古い新聞の記事に、古い玩具────」

「────あと何これ? 『未来の自分へ』?」

 

「あああ! 確かにあったわ、そういうの! 未来の自分たちに向けてのメッセージ(手紙)! “元気にしていますか~?”とか、“何しているかな~?”みたいなものとか! ハァ~……あの頃は子供らしくて、夢があったなぁ~……」

 

「「「「………………」」」」

 

 シャーリー、アリス、ライブラ、リヴァルが何とも言えない顔して、うっとりするミレイを見る。

 

 皆、恐らく同じことを思っているんだろうな。

『(それに対して)何をどうコメントしろと?』とか、『やっぱりおっさんクセェ』とか。

 

「あの、ミレイちゃん……コメントしづらいよ。」

 

 おおおお?!

 珍しくニーナが意見を出した?!

 よっし!

 

 俺の『事前にニー()と接して、他人と話しやすくさせる橋係作戦』のおかげと思いたい!

 

「あら? そう、ニーナ?」

 

「う、うん……」

 

「あ。 “ナナリーのメッセージ” ────?」

「────しかもそれルルーシュの自筆じゃない!」

 

「えっと……これ、なんて書いてありますです?」

 

 ライブラが一か所だけ、日本語で書かれた単語を指さす。

 

「ああ、これは……『ようちえん』?」

 

 これを聞いたナナリーはハッとしてあたふたする。

 

「あ。 み、皆さん! 読まないでください!」

 

 これはぜひとも知りたくなるがな。

 

「ふむふむ……コホン、“ナナリーはおおきくなったらようちえんのせんせいになりたいです。”」

 

 おお、ミレイの『ナナリー物真似』完成度が高い!

 

「「「きゃあああ! 可愛い!」」」

 

 シャーリー、ライブラ、アリスの三人が声を出してナナリーは頬を赤らめさせる。

 

「ナナリーらしいね。」

「同感です、スザク。」

 

 全力で同感やで、スザク。

 

 容易に想像できてしまうな。

 幼稚園教諭のナナリー。

 

 あ、あかん。

 

 ほっこり過ぎて昇天しそう。

 

「あぅぅぅ……恥ずかしいです……」

 

 昇天しちゃうぅぅぅぅ!!!

 

「あ! 今度のはルルーシュのよ! ええと、“ボクの大切なナ”────」

 「────フン!」

 

 バシ! バリバリバリバリ! グシャ! グシャ! グシャ!

 

 目にも止まらぬ速さでルルーシュが手紙をミレイの手から引ったくり、そのまま粉々に破ってから紙がボロボロになるまですり潰していく。

 

「ちょっと、ルルーシュ────?!」

「────野暮ですよ、会長♪」

 

 何が書いてあったんだ?

『大切なナ』、って書いてあったからナナリー関連なのは間違いないが……

 

 地味に続きが気になるな。

 

「そんなのルルーシュに言われたくないわね~。」

 

「あ。 私分かったです! ミレイ会長の言っていたことって、今度は私たちが何か入れるってことです?」

 

「ピンポーン! 正解よライブラ! でもモノを入れるより、手紙を書きましょうよ、未来の自分たちに向けて! あ、でもここら辺って拡張工事する予定があるから場所は移してね!」

 

 あ、そう言うことならいい場所があるぞ。

 

「……なら、森の中が良いのではないでしょうか? 以前、私が勝手にエントリーされた馬術部との対戦場所です。 (ニッコリ)」

 

「う゛……スヴェン、まだあれを根に持っているの?」

 

「ハッハッハ、まさか。 (ニッコリ)」

 

 俺たちが歩くこと数分に目的の森へと到着した。

 

「未来の自分かぁ~。」

 

「それなんだけれど、次はいつ皆で掘り起こそうか?」

 

「う~ん……10年後とか? どうかな?」

 

 ミレイさん、それなんてMSチームを結成するつもりですか?

 

 テン(10) イアーズ(YEARS) アフター(AFTER)~♪

 10年後の~♪ 貴方を~♪ 見つめていたい~♪

 

「丁度いいかもしれませんね! ナナちゃんやライブラちゃんやアリスちゃんも含めて皆、大人になっているわけですし!」

 

 でも10年後か……

 

 その頃には『コードギアス』も終わって、生き残っていたとしたら俺は原作とは縁のないモブ子と結婚してイチャイチャライフを送っているんだろうか?

 

 それと10年後だと……皇帝の息子であるルルーシュが髪の毛を伸ばしたままなら、()()が出来そう。

 

イガラッパッパ(クルクルヘアー銃器)ー!』とか。

 

「お? どうしたルルーシュ? 顔色が悪いぞ?」

 

「い、いや……何故か頭痛と寒気と悪寒と汗が……」

 

「じゃあ、まずはナナリーから書きましょう!」

 

「え? わ、私ですかミレイさん?」

 

「そうだよなぁ~。 幼稚園の先生なんだろ?」

 

「今は、違います。」

 

「「「「「「え?」」」」」」」

 

「今の私は『10年後も、ここにいる皆と一緒でありますように』ですから。」

 

「「「「「「……………………」」」」」」」

 

 意外なことに、誰もが感心の息を出してしまう。

 

「ナナリー……」

 

 ナナリー。

 マジ。

 天使!

 

 ほろりとする。

 泣きそう……

 

「「ナナリィィィィ!」」

 

「きゃあ?!」

 

 アリスとライブラが涙目になりながらナナリーを左右から抱きしめる。

 

「ずっと一緒だからねナナリー!」

「そうです! 例えどんなことがあってもです!」

 

「だよな! な、スヴェン?」

 

「無論、そのつもりです。」

 

 意外としんみりとなった空気を変えるためにミレイは眼を泳がせる。

 

「う、う~ん……次は、カレンにしようかしら!」

 

「えぇぇ?! わ、私?! えっと……」

 

 おお。

 あのカレンがモジモジと恥ずかしそうにしとる。

 

 完全に(病弱部分はともかく)『おしとやかな令嬢』を演じているぞぉ。

 

「ええと……私は……私が、元気になったらお母さんたちと一緒に世界中の温泉巡りをすること……かな?」

 

 温泉巡りか~。

 意外だけどそれもアリかも。

 

 うん?

 なんで俺をチラッと見た?

 

「で、10年後だからあっつ~いお湯に浸かりながら地酒を入れたお銚子をお湯に浮かばせてまずは一杯をグイ~っとしてから湯上りにはキンキンに冷えたジョッキで生ビールを次々と一気飲みして────!」

 

 あかん。

 なんか変なスイッチ入って早口になってウッキウキになっとる。

 止めなあかん奴や。

 

「────お嬢様。 失礼ですがお湯に浸かりながらのアルコールは非常に危険ですのでお勧めできません。」

 

「それ以前に、ただのおっさんじゃん!」

 

 ナイス援護射撃だ、リヴァル!

 

「え? でも、私の周りはそんな感じですけれど……」

 

 おおおおおおい?!

 

「名門の……シュタットフェルト家が?」

 

「スヴェン……どうなの?」

 

 俺を見るな皆!

 見ないでくれ!

 ジョナサン様(シュタットフェルト家当主)や俺じゃない!

 

 扇、玉城、杉山、吉田ぁぁぁぁぁ!

 テメェらは後で(藤堂さんに頼んで)シメる!

 

「……ま、まぁ良いじゃないか。 次は誰が行く?」

 

 ナイスフォローやルルーシュちゃん! ←関西風ボイス

 

「あ、じゃあ次は私────!」

「────シャーリー。 『お嫁さん』や『結婚』ワードは無しで頼むよ?」

 

「うぃえ?!」

 

 リヴァルの指摘にシャーリーが固まる。

 図星か。

 

「『お嫁さん』に『結婚』? リヴァル、どういう────?」

「────なななななんでもないのよ、ルル?! ええと、ええと……ええええええええと……」

 

 シャーリーが滅茶苦茶悩む顔ゲットだぜぇぇぇ!

 

「そう! 世界の水泳大会に優勝してその後は芸能界デビューしてアイドルになって人気絶頂時には学生時代のクラスメイトとの電撃結婚をして『新婚アイドル』として名を広がせた後は『子持ちアイドル』で活躍して芸能界に君臨して────」

 

 あー。

 なんか目が狂信者の目になっている。

 グルグル目だ。

 リアルでグルグル目をしとる。

 どこの血筋だ?

 というか出てくる作品が違うぞシャーリー、ニンニン♪

 

「……会長はどうなんです?」

 

 未だに何か早口で(何人目かの子供の話を)喋るシャーリーを余所に、リヴァルが話を進める。

 

「私? 私は……今の婚約を続けて頃合いを見てから婚約破棄からキャリアウーマンになってアッシュフォード家を再興している! そしてアッシュフォード学園を世界規模に広がせる!」

 

「会長なら、できそうですよ。」

 

「確かに想像できてしまいますねルルーシュ。」

 

「??? なに呑気に他人事のように言ってんのよ、二人とも? 勿論貴方たちも一緒よ? ニーナもよかったらね!」

 

 「ちょっと待った会長! その話、俺が乗ります!」

 

「でもリヴァル、貴方ゴリゴリの安定思考でビジネス向けじゃないじゃん。」

 

「大丈夫です会長! 俺、実は冒険者体質ですから!」

 

「冒険者って……世紀末の暴走族?」

 

「何でそうなるスザク?」

 

「そして会長はレディースの特攻服かな?」

 

「な、なんで私まで?」

 

「え?」

 

 流石スザクの天然ぶり。

 これで『ユリアァァァ!』って叫びながら胸に北斗七星っぽい傷跡の男が加わったら完璧じゃね?

 

 あとこの世界でもあるのね、そういう作品……*1

 

「そういうスザクはどうなんだよ?」

 

 リヴァル、逃げたな。

 

「僕? 僕は、名誉ブリタニア人として着実に名誉を立てて、出世するかな。」

 

「うわ、意外と堅実。」

 

 ミレイに同感。

 

「まずはナイトオブラウンズに加わり、いずれはナイトオブワンになるかと。」

 

「ぜ、前言撤回。」

 

 ミレイに同感。 (二回目)

 

「それから、ナイトオブワンからは政治家になってブリタニアを変えていこうと思います。 より多くの人が幸せになれるように。」

 

「おおお~! じゃあ私もそれにするです!」

 

「ライブラ……ラウンズになるの?」

 

「違いますです! そんなの無理無理です! より多くの人が幸せになれることです! 世話するです!」

 

 ライブラが『むっふー!』としながらどや顔を披露する。

 

「スヴェン先輩のおかげで私、いつもは作り笑いをするお兄様の世話をして久しぶりにお兄様が心からの笑顔をするのを見たです!」

 

「あ、なるほど。 『介護人』ね。」

 

「ハイです! ミレイ先輩がお昼着ていたナース服着るです!」

 

 今のライブラにあれ(エロコス)はちょっと早い気がするでやんす。

 

「…………………………あ、アリスちゃんはどう?!」

 

 ナイス話題チェンジだ、ニーナ!

 

「わ、私? 私は……」

 

 アリスが少し困ったような顔をして目を逸らす。

 

 あ。

 

 人選ミスだ、ニーナ!

 

「私は正直、考えたこともなかったから迷うな……」

 

「では彼女が考えている間にルルーシュはどうなんでしょう? 彼ならばこの中で、一番現実的な『10年後』が思い浮かべられるのではないでしょうか?」

 

「俺か?」

 

 俺の言葉にルルーシュも困ったような顔になる。

 

「俺は……っと、そんなことよりお前自身はどうなんだスヴェン?」

 

 ウッ。

 見事なクロスカウンターだ、ルルーシュ!

 

「私? 私のは、()()()()ですから────」

「────それは興味深いね。」

「あ、私もそう思うです!」

 

 ぎゃあああああ?!

 思わぬ伏兵(ライブラ)がルルーシュに射撃援護スキル発動?!

 

「私も……興味あるかも。」

 

 ニーナ、お前もかッ?!

 彼女たちの言葉で視線が俺に集まる。

 

 この集中砲火はイヤン♪

 

『10年後はモブ子とイチャイチャしたいです』とか『生き残りたいです!』のどちらも言えないからなぁ~……

 

 ここは────

 

「────私は……『ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように』、ですね。 (ニコッ)」

 

「「「「「「……………………」」」」」」

 

 これは本心だ。

 原作を知っているからこそ、ここにいる皆には幸せになって欲しい。

 だから『留美さん(カレンママ)のリフレイン』と『カレンとのすれ違い』も。

 前世の知識を使って作った『火薬式武器』も。

『シャーリーフラグ』も、それに類するマ()も。

 ルルーシュやスザクがいないときにナナリーのそばにいたことも。

 ミレイにどうやればプリン伯爵(ロイド)を扱えるかも。

 ニーナの『フレイヤ開発フラグ』も。

『ナイトメア・オブ・ナナリー』のアリス達やマオも。

 

 全部が全部、その為だ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 何気に逃げたルルーシュの『10年後』は聞かずじまいのままあれから少しギクシャクした空気が流れつつ、俺たちはそれぞれ別の手紙を書いて埋めた。

 

「スヴェン。」

 

 で、帰り際にスザクが俺と話したがっていたのかカレンと俺だけになったところで声をかけてくる。

 

 多分、『あれ』だろ。

 

『君も、黒の騎士団なのかい?』とか。

 

「………………いや。 やっぱりなんでもないよ。」

 

 けど肝心のスザクの言葉は待っても続かなかった。

 

 ………………………………なんで?

*1
一例として『マッドマックス』など




『物質Aパート』は次話の予定です!


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第68話 『もしもの為』に

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

楽しんでいただければ幸いです!


 ユーフェミアの宣言から、黒の騎士団は文字通りハチの巣が突かれたように騒がしかった。

 アジトである潜水艦の中では、幹部たちが『行政特区日本』に関して議論を続けていた。

 

「事態は深刻です、支持者や団員の中からも“特区に参加すべき”という者たちが出ています。 今はまだ末端の者たちや入団して日の浅い者たちしか出ていませんが、このままではいずれスタンピードの法則で広がる可能性が出ます。」

 

 ディートハルトは彼独自の調査の結果、ため息交じりに上記の結論を出した。

 

「黒の騎士団と違って『特区日本』に参加するにはリスクがほとんどない上、得る()()が大きいですからね。 “ナンバーズ制度も適用されない”とか……」

 

 扇も同じ書類の『参加した方が良いと思う理由』の欄を見ながら、パラパラとディートハルトの用意した資料のページをめくる。

 

「それにあっちに実績はほぼ無しだけれど『由緒正しいお姫様』のお墨付き。 こっちは実績の数々はあるけれど『正体不明の仮面男』。 誰からどう見ても、あっちの方がよさげだしねぇ~?」

 

 ラクシャータが他人事のようにキセルを咥えながら、緩~い口調でそう横から口を出す。

 

「それだけではないぞ諸君。 キョウトも、『向こうに協力する』という流れになっているらしい。」

 

「ハァ?! なんじゃそりゃ?!」

 

 藤堂の言葉に玉城が本音を出す。

 

「とはいえキョウトも決めかねており、口論を続けている。 我々も早く手を打たねば二の舞になるかもしれん。」

 

「それって……内部分裂……」

 

 人の集まりが大きくなればなるほど統制は聞きにくくなり、どのような選択の局面でも『反対派』と『賛成派』が出てくる。

 

 普段なら『反対派』が少数ならば組織は運営続行可能なのだが、このような事態のままだと『反対派』が膨れ上がり、それに対応せねば、扇の言ったように組織は内部分裂をしてしまう。

 

「扇君、ゼロとの連絡は?」

 

「未だに取れません藤堂さん……」

 

 この頃のゼロ(ルルーシュ)は『組織』云々よりも私情と戦っていて、黒の騎士団どころではなかった。

 

「そうか。 早急に対応を決めないと、組織が半壊してしまうというのに……」

 

「「「「「………………」」」」」

 

「ここの者たちでやれることはやっておこう。 『参加する』と『しない』、双方のメリットデメリットを上げていこう。 まずは参加するという方面を────」

 

 藤堂の言葉に黒の騎士団が今まで以上に暗~い空気に変わり、扇は空気を変えようとして話題をゼロから切り替えて話をする横で、藤堂は腕を組みながら天井を見上げていた。

 

「(昴君……君ならばこの局面、どうするのだ? 君は今どこで、何をしている?)」

 

 

 

 


 

 

 

「……よし、書けた。」

 

 俺は満足げにペンを机の上に置いてから、最後の一通を折りたたんで封蝋を施し、それらを懐にしまう。

 

 あのユーフェミアの宣言、そしてナナリーの頼みごとと『タイムカプセル時』から俺は考えた。

 

『どうやって虐殺皇女イベントを阻止するか』を。

 

 原作でのユーフェミアとしては、『特区日本宣言』はただ単に『ナンバーズとして区別するのではなく、認め合うか仲良くするなど現実的には無理な理想論を実現化した』つもりでいたのだろう。

 

 だからこそ、俺はそれとなく幸運にも彼女と事前に会うことが出来たときに、それがどれだけ違うのか伝えたのだが……多少の戸惑いはあったものの、宣言はそのままされた。

 

 これで、元々『日本の独立』や『日本を認めさせる』ことを大義としていた反ブリタニア組織などは、嫌でも参加を強いられる。

 

 もし参加しないのなら組織が内部から瓦解し、完全に壊れなくとも力は大きくそぎ落とされて、今まで積み上げてきた様々なものは失われたままだろう。

 

 それに今回、全部が原作のようにいかないかもしれない。

 

 学園祭にはロスカラのオリジナルキャラであるノネットがいた。

 ということは、スザクとルルーシュのいい部分だけを取った、彼ら以上のチートキャラである『ライ』もいる可能性が高い。

 そう思って、あの日からミレイに頼んで学園の監視カメラ映像の記録などを観覧したが……

 

 得られたのはミレイのナイスな双山の感覚だった。

 

 もしやと思って去年やその前の年の録画を見ても、ライらしき少年の映像はどこにも見当たらなかったし、画像や記録が偽造された痕跡もなかった。

 

 というか、今になって考えるとアニメ含めてナイトオブラウンズの描写は(極数名を除いて)極端に少なかったから、単に俺がノネットの登場した場面や描写を覚えていない可能性があるし。

 

 うん、多分そっちだろう。

 そう思いたい。

 思わせてくれ。

 

『原作』、『ナイトメア・オブ・ナナリー』、『ロスカラ』なんてどんなごった煮パーティだよ?

 胃が崩れるわ!

 

 俺はそう思いながら屋敷の中を歩いて、とある部屋のドアにノックをする。

 

 コン、コン。

 

 シュタットフェルト家の召使いや給士の者たちは、それぞれ個室や敷地内での生活をしている。

 

 ざっと200人ほどだ。

 びっくりだろ?

 

 原作でも描写は少なかったので、俺も最初は度肝を抜かれたけれど詳細を聞いて納得した。

 

 住居の屋敷以外に、広い敷地をセットで『シュタットフェルト邸』は成り立っているわけで、使用人なども自然と『内側班』と『外側班』に分かれる。

 

 屋敷の中は掃除、洗濯、料理、執事、教師、服飾、美容師などなど。

 外は庭師、小さな畑と牧場に厩舎の世話係にあらゆる職人たち。

 そして、時と場合によっては上記の人たちの家族までもが住みこんでいる。

 

『家』というより『小さな町』だな。

 

 流石貴族といったところで、ノックした部屋の中から返事がようやく来る。

 

 さて、現実逃避はここまでにしよう。

 

『……はい、どなたですか?』

 

「私です、スヴェンです。」

 

『す、スヴェン君?! 待ってね、今開けるから!』

 

 ガチャリと音を立てて留美さんが自分の個室のドアを開ける。

 

「いらっしゃい! 何もないところだけれど────」

「────いえいえ、留美さんがいるだけで充分です。」

 

 原作ではリフレイン中毒者になるまで追い詰められていた彼女だが、俺の根回しでそれほど悪くない環境をキープ出来たので、今眼前にいる彼女にその面影はない。

 

 くそビッチ(シュタットフェルト婦人)も未だに自業自得で燻ぶる火の鎮圧化のために、ジョナサン様と同じで家を留守にするようになったから、差別意識の高い奴らを次々と排除できたし。

 

『排除の意味は何だ』って? ご想像にお任せするよ。

 

「め、珍しいわね? スヴェン君が私の部屋を訪ねるなんて?」

 

 それでも留美さんに宛がわれた個室はこぢんまりとした一室で(今でこそほとんど消えかかっているが)壁には彼女へ向けた罵詈雑言の落書き跡が見える。

 

 あれは骨が折れたな。

 誰だよ、工業用のマジックペン使ったの?

 誰でもいいか。

『排除後』に落書きの追加はなくなったし、今となってはどうでもいい。

 

「ええ。 実は()()を留美さんに渡したくて。」

 

「……封蝋付きの手紙?」

 

 しかも外は紙ではなく、サクラダイトを縫い込んだ布地に近い特殊なものだ。

 無理に手順を踏まずに開けようとすると爆発するタイプ。

 皇族や高等貴族でやっと使える代物で、その性質上、一家が持てる数は限られている。

 

 いやはやジョナサン様に感謝しかないよ。

 本当に『良いブリタニア人』の部類に入る。

 

「ええ。 ()()()()()()を想定したものです。 書かれた事態の場合にのみ、封を切って読んでください。」

 

 俺の言葉に留美さんがギョッとして、手紙に()()()()書かれた()()()()()()()()()()()()()()()項目等に目を移す。

 

「それって……でも、どうして私に?」

 

「もし(スヴェン)がいなかった場合の緊急時、ここで信頼できる人が常にいるのは貴方だけですから。 用はこれだけでしたので、失礼します。」

 

 そう笑顔で留美さんに言い、部屋を出てから今度はカレンの部屋を目指して前に立つ。

 

 コン、コン。

 カリカリカリカリカリカリカリ。

 

 今日は珍しく帰ってきているカレンの部屋に()()()()ノックをし、小指の爪でドアの表面を引っ掻くと、眠たそうな声が出てくる。

 

『……………………むぁぁぁぁい?』

 

「私です、スヴェンです。 入ってもよろしいでしょうか?」

 

むぃ(いい)よぉ~。』

 

「では失礼します、お嬢様。」

 

 入るとうつぶせになった桃色の桃が────

 

「────って服ぐらい着ろよ。」

 

 またかよ。

 

「ん~、別にいいじゃん……あっち(アジト)だとギスギスのし過ぎの緊張感で眠たくても眠れないし、扇さんたちは私を避けるようになったし……」

 

 藤堂さんにシメられた成果がもう出たのか。

 

 まぁ、いいか。

 

≪カレン、この封筒を『奇跡』に渡してくれるか?≫

 

 俺が日本語で喋るとカレンがピクリと反応し、首を回して俺を見る。

 

 だから服着ろよ。

 

≪別に構わないけれど────≫

≪────それと、お前にも封筒だ。 絶対に書かれたとき以外は開けるなよ?≫

 

≪え? それって────?≫

≪────要件はそれだけだ、じゃあな。≫

 

 ポカンとしてベッドの上で座る下着姿のカレンの部屋を後にする。

 

 学園でも、できるだけの根回しをするか。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥー。」

 

 学園で、毒島とアンジュがいつもいるはずの体育館の前で息を吐き出す。

 この頃、ほぼ起きている時間は活動しているからか、俺も疲れがたまっているな。

 それももう少しの辛抱。

 そう思いながら体育館のドアをくぐると────

 

 ドッ!

 

「ホぅ────?!」

「────スヴェン! 良かった!!」

 

 ────なぜかアンジュが俺にアメフトタックルをし、思わず『優男の仮面』が外れそうになる。

 

 いかん。 『優男』だ。

 今は優男の仮面を維持せねば。

 

「“良かった”はこちらのセリフです。 丁度貴方に渡す────」

「────()()、どうしようスヴェン?!」

 

 タックルの勢いで俺の上に馬乗りしたアンジュが、そう言ながら顔面にまで近づけたのは封蝋が切られた手紙だった。

 

 ……俺のは懐に入れたままだったよね?

 

 いや待てよ? よく見たら封蝋は俺のじゃないぞ?

 

Eka・rüga(イカ・ルガ)家』?

 ってアンジュの実家じゃん!

 

 今まで(アンジュによると)シカトというか、絶縁気味だったのにどういう風の吹き回しだ?

 

 ユーフェミアの『特区日本宣言』で感化されたのか?

 

「それはよかったですね、アンj────」

 「────よくないわよぉぉぉぉぉ?!」

 

 ガクガクガクガクガクガクガクガク

 

 ウゲゲゲゲゲゲ。

 どうでもいいが俺を力任せに揺すらないでくれ。

 

 ……ウップ。 

 吐きそう……

 

「このままじゃ私、婚約させられちゃうのよぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 What the f〇ck(なんでやねん)?!

 

「取り敢えず、場所を変えませんでしょうか? そして私の上から退いてくれ。

 

 そろそろ周りの視線が痛いでござる。

 

「ってなんで貴方が地面に倒れているのよ?!」

 

 おまんがタックル(押し倒)して来たんじゃろうがよ?

 

 毒島も意味ありげなニヨニヨするのをやめろ。

 

 じいさん(桐原)に似ているって言うぞコラ。

 

 言ったら言ったで、真剣を出すかも知れないが。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「なるほど、事態は概ね理解した。」

 

 あの後、体育館からなぜか悔しそうな顔を浮かべる生徒たち(男女両方)から、逃げるようにいつものテラスへと出ては、落ち着きを取り戻したアンジュから大まかな事情を聴きながら手紙を拝見し、使用人用裏サイトなどを携帯で漁った。

 

「で、どう思う?」

 

最悪だな。 お前は今まで何をしていたんだ?」

 

「ウッ。」

 

 俺の容赦ない言葉にアンジュは畏まる。

 

「そ、そんな風に言わなくても────?」

 「────ここまで事が悪化するまで放置させるなど、正気とは思えん。」

 

 アンジュがさらにシュンと小さくなる。

 

 掻い摘んで記すと、アンジュは今まで『実家は何も言ってこなかった』と俺に言っていたが、実際はかなり違った。

 

 今まで実家が送ってきた手紙はすべて『お見合い』に関してだったらしく、彼女はそれらをことごとく無視し続けていた。

 

 まぁ大方、『余裕がなかった』とか『面倒くさかった』とかだろうけれど……『無視』は駄目でしょうが。

 

 で、話を続けると、少し前から送り主の名前がある日を境に父親であるジュライ(アンジュパパ)から兄のジュリオに変わったけれど、手紙の内容は変わらなかったらしいから無視し続けていたと。

 

 だから『無視』は駄目でしょうが。

 

 そして今度はちゃんと封蝋された手紙を開けてみるとあら不思議。

 いつの間にか寝たきり状態になっていたジュライに代わってジュリオが当主になっていて、()()()()アンジュはザッド伯爵の息子であるヨハンソンが慈悲で婚約し、ザッド家をバックにEka・rüga(イカ・ルガ)家は安泰になると。

 

 そして婚姻の発表&場所はアンジュの実家だと。

 

「……………………………………………………………………」

 

「うぅぅぅぅ~~~……」

 

 アンジュがさらに今すぐにでも穴を掘って潜りたい様子で気まずくなりながら、『アンジューリーゼ』だった名残のドリル(縦ロール)を指でいじりだす。

 

「ちなみに一応聞いておくが、この悪評の数々は少しでも本当か────?」

「────ほ、本当のワケがないじゃない! 失礼ね!」

 

「だな。」

 

「はぇ?」

 

「しかし噂か……」

 

 「なんで即答で断言しちゃうのよ……」

 

 流石に俺でも本人確認したくなるような内容ばかりだ。

『落ちぶれた実家から逃げ出した。』

『極東の島国で男遊びに家族は嘆いていた。』

(ジュリオ)は落ちぶれた家を建て直すために奮闘しているのに、長女は何をやっている?』

 

 などなど。

 

 完全にくそビッチ(シュタットフェルト夫人)を悪役令嬢枠に詰め込んだような内容だ。

 

 そしてヨハンソン・ザッドは、世間的には『体格が大きく年の割には紳士的な振る舞い』&予想通りに『影の噂では女癖が悪い』か。

 

 ここまでくれば王道テンプレ『無理やりな婚約を無理強いされる元悪役令嬢!』の題名が付きそうだな。

 

 ってザッド伯爵の息子と言えば、昔アンジュに絡んできたあの豚野郎じゃねぇか?!*1

 

 まさかまだ懲りていないとは、ある意味凄い執着心だな……

 

 全然感心できないけれど。

 

「そ、それで……何かいい案は無いかな?」

 

「うん? どういうことだアンジュ?」

 

「だってほら、ミレイの相談にも乗っていたから。」

 

 何でお前がそれを知っているの?

 

「しかしそうだな……状況的にあまりよろしくない。 お前の立場が危ういからな、色々と。」

 

「そ、そうよね……」

 

「だが対策が考えられないわけではない。」

 

「ほ、本当?!」

 

 顔が近い。

 何この最近見たようなキラキラ目は?

 目からビームでも出る予兆か?

 

 頼むから『空裂眼なんちゃら』ではありませんように。

 

「あ、ああ。 とはいえ、少し気になることがある……お前の妹、シルヴィアはどうした?」

 

「そ、それが()()()()()の。 コールや手紙は出していたけれど、全然返事とかが無いから……」

 

 ……まずいな。

 

『世界のベースがクロスアンジュではないから』とてっきり思っていたが、確か『クロスアンジュ』でのシルヴィアは、自分を餌にしてアンジュを罠にはめてなぶり殺しにしようとしたはずだ。

 

 もしこの世界でもその設定が適応されるのなら、アンジュが実家に着いて婚姻がそのままされたら、アンジュがその後に酷い目に合うだろう。

 

 よりにもよって『家族』から。 それは絶対にダメだ。

 

 それでなくとも、ヨハンソンでも同じだろうが。

 

 ……いや待てよ?

 

「アンジュ。 兄であるジュリオはどんな奴だ?」

 

「…………………………」

 

 アンジュが浮かない顔をして目を逸らす。

 

「アンジュ?」

 

「私が純血じゃないことを知った瞬間、“人が変わった”としか言いようがないわ。 それに今回の婚姻も、彼が当主になって勝手に決めたことだし……お父様が倒れてからのタイミングが怪しすぎるわ。」

 

 ……なるほど。

『クロスアンジュ』でも(ジュリオ)が見せた選民意識は健在……と見ていいか。

 

 なら一番確実な方法がある。

 

「アンジュ。 俺に一応考えはあるが、この案はお前の家族との関係に問題が生じるかも知れない。」

 

 あるが……かなり過酷で強引な方法だ。

 

「何せ世間的に見れば、お前の家には利しかない。 お前がこれ(婚姻)を蹴ることは、ある意味お前が自分で実家の家名に泥を塗るような感じだ。」

 

「それでも……私は………………」

 

 どうにも反応が悪いな。

 

「ならばこうしよう。 一度()()()実家に行こう。」

 

「え?」

 

「一応、正式に招待されているわけだからな。 付き添いが必要だろう?」

 

「そ、それって────?!」

「────今更実家に戻っても、お前の味方がまだいるとも限らないからな。 保険だ。」

 

「………………あ、ありg────!」

「────それにお前、身の周りのことが未だにできていないだろう? 女子から聞くぞ? お前がたまに洗剤の量を入れすぎて、洗濯室が泡だらk────ごふッ?!」

 

 アンジュが頭突きを俺の顔に食らわせて、一瞬星が視界の中で散っていく。

 

「ま、まぁ今のは言いすぎた。 少し連絡を取るから待ってくれ。」

 

 暗号化機器をつけてスピードダイヤルをポチっとな。

 

『ふぁぁぁぁぁ……もしもし?』

 

「俺だ。」

 

『あんたか。』

 

「そうだ。」

 

 またこのくだりか?

 カレン、お前はCCにでも習ったのか?

 って、俺も原因の一部ではあるか。

 

()()()()()()()()()、留美さんにもそう伝えてくれるか?」

 

『また裏で何かするの?』

 

 何このサイレントジト目感?

 

「そんなところだ。」

 

『オーケー、伝えとくよ。』

 

「いつもすまないな。」

 

 よし、これでアンジュの実家に────

 

「────今の誰? 女の感じがするわね。」

 

 ジト目で『女の感じがするわね』って、お前はどこぞの噂好きのおばさんか?

 

「忘れたのか? 俺は『シュタットフェルト家の従者見習い』だぞ?」

 

ふぅ~ん? そうだったわよねぇ~。」

 

「どうしたアンジュ? お前、なんか不機嫌になっていないか?」

 

べっつに~?

 

 さ~て、アンジュの実家では鬼が出るのか蛇が出るのか。

 

 どちらにしても、『準備(装備)』は必要だな。

 

 ……『特区日本』の会場オープンまでに間に合うかな?

 

 

 


 

 

「あれはどういうことですの、お兄様?」

 

 スヴェンがアンジュの悩み事を聞いている間、トウキョウ租界の政庁では、ユーフェミアが珍しく声を上げていた。

 

『“どう”……とは? 私は何もした覚えはないよ、ユフィ。』

 

 通信先の相手は、帝国宰相として中華連邦に釘を刺しに出払っているシュナイゼルだった。

 

「先日、マスコミの方から『近々大きな発表がある』と聞かされました。 私の『特区日本』を誰よりも先に見たのはシュナイゼルお兄様だけなのです。」

 

『そうか。 なら私は謝るべきだね、あれはマスコミに身構えをさせる為、事前に報道局の上層部に知らせただけで、まさか末端のレポータにまでリークするとは思わなかった。 すまない、この件は私が()()すると約束しよう。』

 

「……シュナイゼルお兄様、聞いても良いでしょうか?」

 

『なんだい、ユフィ?』

 

「私は……私の提案したこの『特区日本』は、()()()のでしょうか?」

 

 シュナイゼルのいつもの笑顔が、一瞬だけピクリと不安になるユーフェミアに対して反応する。

 

『“正しい”、か。 なんとも言えない、あやふやな定義を聞くね?』

 

「“あやふや”、ですか?」

 

『そうだね。 “正しい”のは“行動”と、“その行動がもたらした結果”と私は思う。 だからもし、ユフィが自分の提案が正しくないと感じるのなら、正しい結果にする努力をすればいい。 私も微弱ながら手伝うよ。』

 

「……ありがとう、ございます……」

 

 ユーフェミアは言葉とは裏腹に胸がモヤモヤした気分のまま通信を切って、自分の企画の段取りの準備に戻る。

 

 あの宣言からほぼ毎日の起きている時間は、このことなどに彼女は費やしていた。

 

 何せブリタニア帝国全土でも初となる発想と企画だ。

 

 最初は戸惑っていたが、発表してしまったのならもう突き進むしかない。

 

 最初は渋っていた周りも最近では仕方なく手伝っている様子なので、二回、三回の見直しは欠かしていない。

 

 ()()()()()()()()()のだから。

*1
5話より




頑張りますが、投稿スピードがこれからもちょっと遅くなるかも知れません。

ご了承くださいますようお願い申し上げます。 m(_ _)m


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第69話 Goodbye, Rotten Pigs

大変お待たせいたしました、かなり長めの次話です!

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます! 全てありがたく活力剤に頂いております! m(_ _)m

勢いのまま書きましたが楽しんで頂ければ幸いです! (;^ω^)

*注意事項*残酷な描写などが出ます、ご了くださいますようお願い申し上げます。 <(_"_)>ペコッ


 あれから俺と彼女は特急便の飛行機で彼女の実家に来ていた。

 勿論、一般用ではなく貴族用。

 

 そしてアンジュと俺を見た周りの奴らのヒソヒソ話が時折耳に届いてくる。

 

『見て、あそこにいるの。』

()()? という事は、イレヴン?』

『あらやだ、イレヴンを従者として引き連れているじゃない。』

『物好きねぇ……』

『そうやって堂々と隣に居させるなんて、もしかして貞操観念が緩いのかしら?』

『それは、どう言う意味かしら?』

『だって、彼女は────』

 

 うん、こうなるよね。

 予想していたけれど、人のネチネチとした『言葉』と『態度』の暴力はきついな。

 

 それに、アンジュも気丈に振る舞っているが、元々はこういう環境から娘を護るために、ジュライ(アンジュパパ)は多分エリア11に彼女を送ったんじゃないかな?

 

 ちなみにもう察しているかもしれないが、今の俺は『昴』として供をしているのにも理由はある。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「「「「おかえりなさいませ、アンジュリーゼ様。」」」」

 

「皆……」

 

 立派な門の前にいたのは、ずらりと並ぶ使用人たちで、アンジュを見て挨拶をする。

 

 その間俺は使用人の中で大きなリボン、もしくは濃いパープルの髪が特徴的な少女が居ないか見渡すが……

 

「ご無事で何よりで、アンジュリーゼ様。」

 

「サリィまで……皆、出迎えありがとう。」

 

 そしてその中でも一人の侍女を見て、アンジュは少しだけ嬉しそうに名を呼んで礼を言う。

 やはりこの世界に、『モモカ』はいないのか。

 

「やぁアンジュ、お帰り。 髪を切ったんだね?」

 

 出た。

『クロスアンジュ』でも見た金髪ゆるふわ男が畏まるアンジュに愛想笑いを向ける。

 

「ジュ、ジュリオお兄様……お手を煩わせて────」

「────そこまで硬くならないでくれ。 僕たちは家族じゃないか……それはそうと、()()はなんだ?」

 

 ジュリオが俺を見て一瞬、汚物を見るような眼を笑みで隠す。

 

「私の名は昴と言います、しがない名誉ブリタニア人でアンジュリーゼ様のお供をしている身です。」

 

「……そうか。 さて、長旅で疲れただろう? まずは中に入ろうじゃないか。」

 

 シュタットフェルト家にも劣らない、広い敷地内にある屋敷の中の客間へと、ジュリオのあとを歩いて、アンジュはやっと一息してソファに座る。

 

 俺は勿論、背後で立ったままで、俺の持っていた荷物を使用人が武器や凶器が無いか中身のチェックをしていた。

 

「ん? 何だね、これは?」

 

 使用人が出したのは小さな平べったい、ハンドル付きの()()()のようなモノだった。

 

「ああ、これはアンジュリーゼ様の予備の化粧品などを入れたものでして。 左側のラッチを開けると分かると思いますが。」

 

 そう俺が言うと使用人が開けると、確かにコンシーラーなどの化粧品が入っていた。

 

「……なるほど。」

 

 ホッ。

 良かった。

 

 チェックが終わった後に数人だけの使用人が残り、衛兵が部屋を出ていく。

 

「すまないね。 この頃エリア11は物騒だからさ、チェックはしなくてはならなくなったんだ。 (ニコッ)」

 

「いえいえ。 当然の事かと。 (ニコッ)」

 

 ジュリオの作り笑いに俺も自分の作り笑いを投げ返す。

 

「さて、落ち着いたところでアンジュの好きな茶菓子も出させ────」

「────ジュリオお兄様、単刀直入に聞きますがこの婚姻はどういうことですか?」

 

「“どう”って、前の事があって君は肩の狭い思いをしたじゃないか? 『少しでも心身ともの拠り所を用意したい』というのと、我が家の格を保つ行動だよ? ()()()()()()()()。」

 

 アンジュのドストレートな質問に、ジュリオは戸惑う事なくそう答えてから、使用人に指示を出していく。

 

「それで、お父さまの容態は?」

 

「『極めて深刻だ』、としか言いようがない。 心臓発作の後遺症で殆んど身動きが取れない上に、言葉も理解できないのか、喋られない状態だ。」

 

「後で、訪問しても?」

 

「無論いいとも。 アンジュの姿を見て父上も喜ぶだろう。 そこの君も勿論、立ち会っても良いよ?」

 

「ありがとうございます、ジュリオ様。」

 

 ……やっぱりか。

 

『相手がどのような身分でも優しく振る舞う』。

『マナー、所作、勉学、どの方面でも優秀』。

 等々。

 

 事前情報で得たそれ等と違わない言動だけ見れば、『良い兄じゃないか』と思えなくもない。

 

 ないが、色々と違うがこの世界でも『クロスアンジュ』の設定が多少活きていることは分かった。

 

 何せ妹であるシルヴィアの足が不自由になったのも、アンジュリーゼと一緒の馬に乗っていたところを落馬したという、同じ原因だったからな。

 

 あの時のアンジュの顔と言葉を写真に撮りたかったぜ。

 

 でも『流石スヴェンだわ』はどう言う意味だ?

 

 そしてジュリオは『クロスアンジュ』の原作で言うと、『クズ野郎』だった。

 

 彼は『クロスアンジュ』内で、アンジュリーゼの秘密を民衆全員に中継中だったところで暴露しただけでなく、自分の父親も陥れてその地位をもぎ取った。

 

 そして後で自分の顔を傷つけたアンジュへの復讐を隠すために、『社会に害ある存在の浄化』を大義名分に、軍を引いて彼女のいる場所もろとも虐殺行為を行った末に、ポックリと返り討ちに殺された。

 

『ザ・クズ野郎』である。

 クズ中の中でもクズの中のクズ、クズ野郎である。

 

 ただ、この世界でもその設定は無いのかもしれない。

 アンジュリーゼの母親は『クロスアンジュ』内で娘を護るために殺されたのに対して、この世界での彼女は発狂して夫を殺そうとして自害した。

 

 それに知らずとはいえ、ジュリオの復讐に利用されたアンジュの専属侍女である『モモカ』もこの場にはいない。

 

 とてもじゃないが状況は全然似ていないし、設定も色々とかけ離れている。

 

 だからアンジュの為にも()()()()()()()()()()()()、そして同時に『どう動くのか』の確証が必要だ。

 

「ああ、部屋なのだがアンジュの部屋は当時のままにしておいたよ。 勿論、手入れも欠かせていないからいつでも使用できる。 ただ連れがいるとは知らなかったから、そっちは少しだけ時間がかかるけれど……」

 

「では、お父様を見に行くわ。」

 

「そうか……あまりお勧めはしないが……期待はしない方が良い。」

 

 

 

 


 

 

 

 場は変わり、屋敷の中でも一際大きな部屋の中では、様々な医療器具が、ベッドに寝た切りになっていた屋敷の元主であるジュライに繋がっていた。

 

「お父様……」

 

「……………………」

 

 アンジュの呼び掛けにジュライは反応せず、半開きになっていた目でただ天井を見続けていた。

 

「では、私は色々と準備があるので失礼するよ。 何か必要になったら外にいる使用人たちに声をかけてくれ。」

 

「お父様、私です。 アンジュリーゼです────!」

 

 アンジュが寄り添い、彼のやせ細ってしまった手を握って呼びかけ続ける間に、少し離れていたジュリオたちは部屋を出ていく。

 

 その間、スヴェンはドアに耳を当てて外の様子を伺ってから、ジュライとアンジュの居るところまで戻る。

 

「どうだ?」

 

「グスッ……全然ダメ……スヴェンの言ったように目や口にも注意したけれど、私に反応した様子が無い。」

 

「(ならば本当に発作かどうかも怪しいな。 もしかすると薬か何かを盛られたのか、あるいはこの医療機器に細工がされているのか────)」

 

 カリッ……カリッ……

 

「────ん?」

 

 スヴェンの耳に届いたのはリズミカルで小さな、極少量の力で布を爪で擦るような音だった。

 

 それこそ彼がカレンの部屋に入る時、ドアをノックした後に小指で引っ掻くのを合図としているからこそ聞き取れたようなものだった。

 

「……アンジュ、手だ。」

 

「……手?」

 

 スヴェンの言葉と彼の指がさすところを見ると、(ジュライ)の左手の人差し指が僅かに震えていた。

 

「まs────むぎゅ?!」

 

 アンジュが喜びながら声を上げる前に、スヴェンが無理やり彼女の口を手で覆う。

 

「落ち着け。 外には人がまだいるのを忘れたか?」

 

「ッ……ご、ごめん。」

 

「取り敢えず、何をどうするかは覚えているな?」

 

「え、ええ────」

「────よし、なら外の奴らは俺が注意を引き付けておく。 その間にアンジュは父親との()()を済ませてくれ。」

 

 そう言ったスヴェンは部屋の外に出ると今度はアンジュがドアに耳を当てる。

 

『ん? お前はアンジュリーゼ様に付き添ったイレヴン?』

『ええ。 明日の為に、屋敷の簡単な案内を頼んでもよろしいでしょうか?』

『……ああ、ついて来い。』

 

 スヴェンを含めて数名の足音が聞こえなくなって、100を数えたアンジュは父親の部屋に置かれたままだった呼び出しベルを手に取って、ジュライの左手の人差し指の下に置く。

 

「……お父様、アンジュリーゼです。 私の言っていることが分かりますか? 『はい』なら一回、ベルを押してください。」

 

 チン♪

 

「指以外、どこか動かせますか? 『いいえ』なら二回、お願いします。」

 

 チン、チン♪

 

「(ちゃんと反応できている?! まさか、本当にこんな方法で意思疎通が出来るなんて?!)」

 

 これも彼らが貴族用の便に乗った理由でもある。

 一般客用のモノだと座る場所が共用スペースでプライバシーは無いに等しく、密会などは無理だ。

 

 逆に貴族用は流石に個人や家で持つ飛行機とは使い勝手が違うが、個室が付いていて密談などが可能だった。

 

 実はというとスヴェンが懸念、そして想定していた数々のシナリオを片っ端からアンジュと話し、今回の状況はその一つに酷似していた。

 

「(スヴェンが気を引いている内に、お父様から今の事を聞きだす!) 先ほどの要領で良いですので、答えてくれますか?」

 

 チン♪

 

「……お父様が今に置かれている状態、お兄様が関与していますでしょうか? ……もし『分からない』のであればベルを三回、押してください。」

 

 チン♪

 

「……ッ。 そう、ですか。」

 

 アンジュは質問後、数秒間待ってもジュライから来た返事は『はい』だったことに手を胸の前でギュッとし、苦しそうな表情を浮かべる。

 

「(信じたくなかった。 例えスヴェンの『もしも』だったとしても……) もしかして、お母様の件にもお兄様は関与していますか?」

 

 チン、チン、チン♪

 

「(分からない、か。) お兄様の狙いは、当主の座でしょうか?」

 

 チン♪

 

「シルヴィアの事は、何か分かりますか?」

 

 チン、チン、チン♪

 

「(そう、か……) では────」

 

 アンジュはその後、ジュリオに更に質問を簡潔にして情報を集め、最後に────

 

「────私をエリア11に送ったことと、今の状況は関係していますか?」

 

 チン♪

 

「……やはり我が家に伝わる『永遠語りの歌』も、関係しているのでしょうか?」

 

「…………………………………………」

 

「憶測でも良いです。」

 

 チン♪

 

 アンジュの付け足した言葉にジュリオが答えると、彼女は頭痛によるため息を出しそうな気分をグッとこらえる為か、額を指で押さえる。

 

「(まさか、本当にここまでスヴェンの想定の一つに沿って行くとは思わなかったわ……こうも実際見せられると、マーヤや冴子の評価のように認識を改める必要があるわね。) ここからシルヴィアやお父様を連れ出────」

 ────チン、チン♪

 

 ここで初めてジュライの『いいえ』がアンジュの言葉を遮るかのように出た。

 

「………………ま、まさか『連れ出すな』と────?」

 ────チン♪

 

「で、でも────!」

 ────チン、チン♪

 

 またもジュライの遮る『いいえ』が出る。

 

「でも、このままじゃ……このままじゃお父様も、シルヴィアも! 私のこれからしようとすることに巻き込まれる! このままじゃ、私は私だけの為に行動に────!」

 

 ────チン♪

 

 ジュライの『はい』────否、『肯定』が返ってくる。

 

 

 


 

 

「ケッ、イレヴンが!」

 

 ドッ!

 

 そう言い放った使用人の一人が俺の上げた腕を蹴る。

 

「今のは頭を狙っていたでしょう?!」

「けどこいつ、笑っているぜ?」

「『顔は無し』って言っているでしょうが?!」

「見ているだけでムカつくんだよ!」

 

 いってぇぇぇぇ。

 

 今のはヒビが入らなくても、アザぐらいにはなっているだろうな。

 

 日本が降伏した後を思い出すぜ。

 

「フン。 どうやってお嬢様がアンタのような奴を取り入れたかは知りませんが、余計なことはしないで頂きたいですね。」

 

 ちなみにアンジュが『サリィ』と呼んだ侍女もここにいた。

 というか案内された先に居て、他の奴らに『(俺の)目立たないところを中心に痛めつけろ』って言いだしたし首謀者の一人か。

 

『クロスアンジュ』でも差別意識が強かったから『多分環境の影響でアンジュも感化されたかな~?』と思って、使用人たちにハッパかけたら案の定全員『黒』だったよ。

 

「興覚めだよ……全然反撃してこないし。」

「もういいぜ、明日の用意をするぞ。」

 

 シュタットフェルト家にジョナサン様がいたからまだマシだったけれど、どこの家もこんなんじゃ、何でブリタニアのほとんど(特に貴族階級)が差別意識を持っているか分かってしまうよ。

 

 ある意味『鬱憤が晴らしやすい』からだ。

 金も時間もさほどいらない。

 必要なのは『自分(加害者)がブリタニア人で相手(被害者)が非ブリタニア人』という()()だけだ。

 

 奴らが去った後、俺は痛む身体を起こし、立ち上がってから土を払い落とす。

 確かに頭のような目立つところ()()強打されていないが、見事に腕にアザが出来初めていた。

 

 これで────

 

「────スv────昴……」

 

 おっと、アンジュか。

 

「早かったですね、アンジュr────」

 「────貴方の……思っていた通りだった。」

 

 アンジュは顔を俯かせて逸らしたまま、そう静かに伝える。

 

「……『どれ』、でしょうか?」

 

()()、方よ……」

 

「それで、妹のシルヴィアは……」

 

「使用人たちに断られたわ。 私と……()()会いたくないそうよ。」

 

 俺の問いに、彼女は自分の腕を掴んでいた手に力を入れたことで、ある程度の予想が出来ていたが……

 

 酷いな。

 

「なら……どうする?」

 

「貴方の提案した方法で良いわ。」

 

「もう、戻ることは無いと思うぞ?」

 

「うん。」

 

「恐らく、ここにいる者たちにもう会うこともないぞ?」

 

 「………………うん。」

 

「そうか……では、参りましょうかアンジュリーゼ様?」

 

 

 


 

 

 上記とは別の場所らしき、暗い部屋の中で少女の震える声だけが響く。

 

アイツだアイツが来たアイツがみんな全部全部悪いんだ────」

 

 ガチャ。

 

「────ヒィ?!」

 

 ノックもなしに少女の部屋のドアが開けられ、通路から漏れた光が室内の惨状を露にする。

 

 少し前まではさぞ豪華な部屋だったらしきそこは、狂気に触れた者、あるいは獣のように破壊の本能に身を完全に委ねたような場所だった。

 

「やぁ、僕だよ────」

「────ヒィィィ?! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

 

 さっきまでの声が嘘だったかのように、少女の声は恐怖に染まっていた。

 

「大丈夫だ、()()何もしないよ。 何せ彼女が来たんだ。 これできっと、元通りになるさ。」

 

「ほ、本当?」

 

「ああ。 でも……一匹()()()が付いてきちゃった。 だから僕、()()()()しているんだ。」

 

「ヒッ?! ででででででも、“今は何もしない”って────?!」

「────相変わらずバカだよなぁ()()()()。 それは“さっき”の話だろ?」

 

「いや! やめて! 来ないで! ジュリオお兄さm────!」

 

 ────バタン。

 

 ドアが閉まる、乾いた音から室内の音はそれっきり外に漏れることは無くなった。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 婚姻の当日、Eka・rüga(イカ・ルガ)家にはぞろぞろとジュリオが親しくなりつつあった(または成り上がろうとして)他の家の者たちが集まり始まっていた。

 

 玄関では彼ら彼女らを満面の笑みで迎えるジュリオがいた。

 

「お嬢様、本当にお美しゅうございます。」

 

「ありがとう、サリィ。」

 

 元専属侍女のサリィに褒められたアンジュはかつて淑女(貴族)としてのドレスに再び袖を通し、その姿は確かに綺麗なものだった。

 

「ただ、以前の御髪(おぐし)が多少短くなってしまいましたが……」

 

 サリィがそう言いながらちらりと少々襟が高い執事服を着た昴の方を見る。

 

「そう、ね…… (白と青。 代々Eka・rüga(イカ・ルガ)家……ううん、イカルガ家を象徴してきた色。)」

 

 アンジュは姿見の鏡で自分の姿を見てからサリィたちを向く。

 

「では、行きましょう。」

 

「「イエス、マイレディ。」」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 アンジュはそのままメインホールに出て、来た者たちの顔に見覚えがあることに気付くがそれを気にするよりもシルヴィアを探す。

 

『まぁ、お美しい……』

『流石は落ちぶれても名門の出という事か。』

『ザッドの者が羨ましいよ。』

 

「(今日もシルヴィアはいない。 出来れば、会って……話をしたい。 今日、私は────)」

「────やぁアンジュ。 思った通り、そのドレスは良く似合っているよ。」

 

「ッ……ありがとうございます、お兄様。 (ごめんなさい、お父様。 ジュリオお兄様。 シルヴィア……)」

 

「久しぶりですな、Eka・rüga(イカ・ルガ)嬢。」

 

 そして以前よりは多少腰の広さを改善したヨハンソンもジュリオの近くにいた。

 

「お久しぶりです、ヨハンソン様。」

 

「どうだい? 私とファーストダンスを────?」

「────そうがっつくな、ヨハン。 彼女は貴族の世界から休みを取って長い。 まずは僕からダンスをして馴染めばいいんじゃないかな?」

 

「ありがとうございますお兄様。」

 

 アンジュは礼をしながら、震えそうになる気持ちを無理やり押し込んで、胸の中で何度も自分に言い聞かせる。

 

「(どれだけ相手を傷つけても、逆に傷つけられても……自由を今日、手に入れる。 だからどうか、私に勇気を。 どうか、最後までやり通せますように……)」

 

 やがてダンスの音楽が流れ始め、宣言通りにジュリオとアンジュが躍り始める。

 

「相変わらず君の運動神経は抜群だ。 ダンスと相性がいい。」

 

「ありがとうございます。 お兄様も、お変わりなく。」

 

 二人はお互いにしか聞こえない会話をし、アンジュの言葉にピクリとジュリオが反応する。

 

「(お兄様のダンスやうわさに聞く勉学や交渉術は天与(てんよ)の才ではない。 ありとあらゆる面で自分をよりよくさせる為に地道な努力を惜しまず、どれだけの時間がかかっても父上や母上に認められる為に頑張った。 私は、そういうところが────)」

「────疲れていないかい?」

 

「いえちっとも。 久しぶりにゆっくり出来て楽しいですわ。」

 

「でも本当に夜会などとは無縁の生活を最近までしていたとは思えないよアンジュ。」

 

「ジュリオお兄様もお上手ですわ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「ッ。」

 

 またもジュリオは反応し、僅かにステップを外すだけでアンジュと同じく笑顔のままでいた。

 

「どういう、意味だい?」

 

「言葉通りの意味ですわ、お兄様。 ああ、きっと父上もお身体が不自由でなければ褒めていたでしょうね。 『よくやったジュリオ、さすがは私の長男だ』と。」

 

 徐々にジュリオのステップが外れかけ、彼の笑顔も消えかけていた。

 

「アンジュ、お前────」

「────お兄様もさぞ複雑だったでしょうね。 ご自分が長男だというのに、父上と母上は私ばかりを見ていた。 お兄様は、お勉強も乗馬も剣術も、人との関わり合い方も()()()()()()()()()私に及ばなくて、歯がゆい思いをしたのでは?」

 

「アン、ジュ……」

 

 ジュリオの顔は無表情になっていたが、こみ上げる怒りで血管が浮き出ていた。

 

「でも、母上の死と私の血筋が明らかになったことから、父上が護るためにエリア11に私を送ったことで、チャンスがお兄様にも回ってきた。」

 

「き……きききき……貴様……」

 

 アンジュはスヴェン経由で使用人用の裏サイトで見た、ジュリオに対して数々のコラムを見たことを思い浮かべる。

 

『惜しいことだな、Eka・rüga(イカ・ルガ)家のジュリオ。』

『資質は女である長女のアンジュリーゼがはるかに優れているなんて笑った。』

『仕方ない、生まれながらの天才に凡人は勝てない。』

『それな。 女の力にすがって当主やるなんて情けない。』

『一生頭が上がらないだろうよ!』

 

 それはジュリオを非難する陰口で、彼を少しずつ追い詰めるには十分すぎる書き込みだった。

 

「(一応スヴェンの話では、(アンジュ)を支持する連中だったらしい。

 周りの大人たちの言葉や悪意に晒され続けていたお兄様の目には、何も知らずにただただ毎日を楽しく過ごしていた私はどう映っていたのだろう?

 ……それでも、私は彼じゃない。 彼の事は彼自身にしか変えようがない。 だから、私は自分の道を選ぶ。) それにしても私、知らなかったわ。」

 

「え? な、なんだ……って?」

 

 ジュリオを非難するような言葉から一転したアンジュに、彼はポカンとする。

 

「私、“()()()()()()()()()()()()()()()”、と仰いましたが?」

 

 彼女の言ったことの意味に、ジュリオの目が見開いていく。

 

「あ、アンジュ……君は、まさか────?!」

「────お兄様も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうか?」

 

 ニッコリとしたままのアンジュに、ジュリオの顔色はどんどんと悪くなっていき、彼はヨハンソン、そして昴をチラッと横目で見る。

 

「お前……お前はまさか、もう────?!」

「────ええ。 私は既に()()()を捧げましたが、何か問題でも?」

 

 この言葉にジュリオは焦った。

 ヨハンソン────否、ザッド家から『話が違う』と言われて、交渉のカードを与えることになりかねないからだ。

 

「アンジュ、お前────!」

「────ああ、昴から頼まれましたの。 “最初のダンスの相手は兄にしろ”って。 “可哀想な兄と仲良くしてやってくれ”って。 “優しくしてやってくれ”って。 どうですか? ママが恋しいですか? ()()()()()()()()()()()────?」

 

 ────バチッ! ドタッ!

 

 ジュリオがアンジュの顔を殴って彼女が倒れる。

 

 この場に似合わない音と行動に、ホール全体の音全てが静まり返る中で息を荒くしたジュリオはハッとし、ヨロヨロと弱々しく地面に倒れた身体を起こすアンジュを見る。

 

「申し訳、ありません……お兄様。 (痛い……でも驚いてはダメ。 フリをしなくちゃ。 ()()()()()()()()()()()と。)」

 

「ぁ……こ、こr────」

 「────本当に……申し訳ございません、お兄様! (痛い……)」

 

 上半身を起こしたアンジュは顔を真っ青にして周りを見るジュリオの言葉を遮るように土下座をするような勢いで頭を下げ、上記の言葉を叫ぶとホールがザワめく。

 

「あ、いや、これは、ぼぼぼ僕は────」

 「────アンジュリーゼ様!」

 

 またもジュリオの声を横切るかのように、昴が上着を脱いでアンジュに羽織らせると、露わになった彼の半そでのシャツの下から無数のあざが浮き出たことで、ホールの者たちの視線を集めていく。

 

「申し訳ございませんアンジュリーゼ様────!」

「────いえ、いいの。 私が悪いんです────」

「────ですがそれでも! ()()()女性を殴るのは────」

「────良いのです。 いつも、私がお兄様を怒らせるから……」

 

 ジュリオの顔色は白を通り越して土色になっていき、ざわめきがどよめきに変わっていく。

 

『見たか、今の?』

『今、ジュリオ様が本当に?』

『自分の妹を殴ったぞ。』

『嘘……』

 

「(情けない……)」

 

 アンジュはこれらを聞きながら、スヴェンの提案した作戦を思い出す。

 

「(『悪評があるのなら、だれの目にも明らかな原因(理由)を備え付ける。』)」

 

『まさか、今までアンジュリーゼが社交界に顔を出さなかったのって、ジュリオ様の所為じゃ?』

『確かに、顔が腫れているまま参加したら問題だよなぁ。』

『それに他家の男の家に行っていたのも、こういうのから逃げる為なんじゃないか?』

 

「(本当に、情けない。 『短気な暴君』で『優しい紳士』のイメージを塗り替えただけで、こんな効果が出るなんて。)」

 

「ヨハンソン様! ご友人であれば、ジュリオ様を止めるべきでは?!」

 

「へ?! お、俺?!」

 

 昴の言葉で呆気に取られていたヨハンソンに注目が行き、彼はドキメキしていた。

 

「もしや、貴方も普段から見ていたのですか?」

 

『そういや、アイツにも噂があったな。』

『ああ、確かに。』

『じゃあまさか、ジュリオ様が行う“女性への暴力”は、ヨハンソン様から習ったものなのかしら?』

 

「あ、う……お、俺は知らん! 帰る!」

 

 ドスドスとする足取りで、ヨハンソンはホールから姿を消す。

 

『あの慌てよう……まさか本当に?』

『信じられないわ。』

『でも目の前でああいうのを見せられた後じゃ……それにアイツの使用人のあざ、新しいものばかりだぞ?』

『じゃあヨハンソン様の噂を、ジュリオ様がご自分の悪癖を隠す為に消していたのかしら?』

『そう考えればつじつまが合う。』

 

「(これが、貴方(お兄様)が恐らくやっていたこと。 『分かりやすい人物像を演じて、無能な烏合の衆(豚ども)を扇動する』……なんて、なんて他愛のないことなの?)」

 

「行きましょう、アンジュリーゼ様。」

 

「ええ────痛ッ!」

 

 アンジュが立ち上がろうとして、足首に力が入った瞬間ズキッとした鋭い痛みに上がりかかった身体を昴に預ける。

 

「足も捻ってしまいましたか。 あとで()()()処置しておきます。」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝らないでください、()()()()()()()()()。 失礼しますアンジュリーゼ様────」

 

 昴はアンジュの腰、そして肘裏に手を回して彼女を持ち上げるその姿は『横抱き』、あるいは『お姫様抱っこ』とも呼ぶものだった。

 

「────ご安心ください。 私は、理不尽な理由で女性を殴ったりしませんから。」

 

 そんな昴から、アンジュは腫れあがる頬で固まったジュリオに目を向ける。

 

「あ……」

 

「(さようなら、お兄様……)」

 

「あ、アン……ジュ……」

 

『なんて痛そうなのかしら。』

『いくらアンジュリーゼとはいえ、あれはやり過ぎだよな。』

『そもそも、彼女の噂はジュリオ様に問題があるんじゃ?』

『普段から暴力振るっているからな。』

『実は俺、ジュリオ様やヨハンソン様の事なんか胡散臭いと思っていたんだよなぁ。』

『わかる! 最近出来過ぎでわざとらしくってさぁ。』

 

 どんどんとアンジュではなくジュリオを非難する声が聞こえ始めたとき、一人の女性が震える声でとあることを口にした。

 

『じゃ、じゃあまさか……シルヴィア様の噂も?』

 

 

 

 Eka・rüga(イカ・ルガ)家の門へと続く夜道を昴は静かに歩き、アンジュは玄関の外に前もって隠した最低限の荷物から携帯を出して、タクシーを呼び終わったころに口を静かに開ける。

 

「……あれが、私の生きていた世界……」

 

「……」

 

 彼女の独り言のような言葉に昴は何も言わなかった。

 

 『お姉様―!』

 

「ッ?! し、シルヴィ────!」

 

 ────パァン!

 

 背後から来た少女の言葉に昴が身体ごと振り返ってアンジュがホッとしたような言葉を乾いた銃声が中断させる。

 

 ファサ。

 

 アンジュの撃ち抜かれた、貴族の名残であるドリル(縦ロール)が地面へと落ちる。

 

「シル、ヴィア……なの?」

 

「(これは……酷い。)」

 

 アンジュ、そして昴までもが呆然とするような状態のシルヴィアらしい少女が、明らかに使い慣れていない猟銃を手にしていた。

 

 かつて美少女に類される彼女は変わり果てていた。

 明らかに手入れのされていない髪は、所々抜けていたのかもぎ取られた様子で、残っていた髪もボサボサ。

 服も綺麗で上品なものだが、所々がぶかぶかでサイズが合わないモノ。

 

 そして何よりも顔や手足には、殴られた跡が絶えずそこかしこにあった。

 

「馴れ馴れしく呼ばないで! 貴方なんて、生まれてこなければよかったのよ! そしたら、お父様もお母様もお兄様も(わたくし)も皆……皆、幸せのままだった! お母様も生きていた!」

 

「シル────」

 「────お父様とお母さまと以前のお兄様を返しなさい、この穢れ者が! 返せないというのなら、私の手で殺してやるぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「行きます、アンジュリーゼ様。」

 

「え────?」

 「────逃げるなぁぁぁ!」

 

 パァン!

 

 シルヴィアの制止を昴は無視し、そのまま歩いている彼の背中に狙いを定めたシルヴィアが銃を撃つ。

 

「なんで?! 何で死なないのよぉぉぉぉぉ?!」

 

 だがどういう訳か、あるいは奇跡的に放たれた散弾は昴に当たることは無かった。

 

 これを見たシルヴィアが狂ったように銃の引き金を引くが、既に弾切れだった銃を装填しなかったことで次弾を撃つことは無かった。

 

 そのまま昴とアンジュは門の外で待機していた無人タクシーに乗り込むとあらかじめセットされた空港へと走る。

 

「「…………………………」」

 

 向かいの席に座った昴とアンジュに言葉はなく、アンジュに至っては窓の外を見ていた。

 

「(さようなら、腐った家畜ども。 さようなら、汚くなったお兄様。 さようなら、醜くなったシルヴィア。)」

 

「最後まで、よく頑張りましたね、アンジュリーゼ様?」

 

「……ねぇスヴェン?」

 

「何でしょう、アンジュリーゼ様? それと私は昴ですよ?」

 

「私ね? あの家での暮らしが好きだったの。 お父様も、お母様も、お兄様も、シルヴィアも、使用人の皆が好きで楽しくてたまらなかったの。」

 

 アンジュは昴の訂正を無視するかのように、ポツポツと喋り出すと体が震えだし、彼女は無くなった縦ロールのあった場所に思わず手を上げるが、縦ロールが無くなったことに気付いて更に体は震えだす。

 

「本当に……本当にみんなが、大好きだったのよ……うっ……ううぅぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 アンジュの目から大粒の涙がポロポロと浮き出て頬を伝い、彼女は顔を両手で覆って泣き出す。

 

「……」

 

 昴は一瞬戸惑い、彼女の頭をアザの浮き出た手で撫でると、アンジュが彼に抱きついて顔を胸に埋めて更に声を出して泣く。




長くなって申し訳ございません、どうしてもキリの良いところまで書きたかったのがいつの間にか夢中で一万文字数を超えてしまいました。 (((( ;゚д゚))))アワワワワ

次話の投稿は、未来の自分にバトンタッチしますので、遅れたらご了承くださいますようお願い申し上げます。 (;´д`)トホホ


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第70話 行政特区日本

キリの良いところで短めの次話です。

感想、お気に入り登録、誤字報告、誠にありがとうございます! お手数をお掛けになっております。 (シ_ _)シ

楽しんでいただければ幸いです!


 トウキョウ租界の政庁でクロヴィスが起き、いつものように足のリハビリ体操を終えていると通路が何やら騒がしく、彼は車椅子を動かしてドアを開けて外に待機していたSPに話しかける。

 

「何事だ、騒がしい。」

 

「申し訳ございません、殿下。 殿下に会いたいとの軍人がございまして────」

「────何だと? 今日は誰ともアポを取っていない筈だが────」

 『────でででで殿下ぁぁぁぁぁ!』

 

 クロヴィスが少し前まで聞き慣れた声にギョッとしながら通路へと出ると案の定、ゲコゲコと大声を出したガマガエルオジサンのバトレーがSPたちに取り押さえられていた。

 

「ば、バトレー?! お前たち、その者を放せ!」

 

「で、ですが────!」

 「────クロヴィス・ラ・ブリタニアが命じる! 即刻我が()から手を放せ!」

 

 SPたちが手を放すと歳なのか涙もろいのかバトレーは涙を浮かべていた。

 

 追記となるがクロヴィスが暗殺未遂にあってバトレーが責任を問われるために更迭された後、クロヴィスの側近たちは全員まるっきり代わっていたので誰もバトレーの事を知らなかった。

 

「で、で、殿下ぁぁぁぁ……グスッ、お久しぶりでございます。」

 

 ハンカチを出すこのバトレーを見てクロヴィスはどう接して良いのか困ったような顔をする。

 

「あ、ああ。 久しいな、バトレー。 今は兄上の元にいるのでは?」

 

「シュナイゼル殿下から『エリア11の政庁を手伝え』と申しつけられ、先ほどダリル(ダールトン)ネズミ共の掃除が終わったところです。 これでようやく、クロヴィス殿下に償える……とは思いませんが、吉報を知らせたく……」

 

 かつてエリア11の総督だったクロヴィスの内政はお世辞にも良いとは言えなく、物資の横流しや横領が絶えなかった。

 

 というのも、以前の彼はどれだけルルーシュとナナリーを間接的に死に追いやった原因であるイレヴン(日本人)をどれだけ苦しめるかに行動を重視しすぎていた。

 

「“ダリル”? もしかして、ダールトンの事かい?」

 

「う……今のは忘れてくださると……」

 

 そんな彼の腹心であったバトレーも軍属なので軍部ならともかく、内政は上手く回せなかったがようやく、先日ユーフェミアの『特区日本宣言』によりキョウトとの繋がりや保身に自分の肥やしを蓄える獅子身中の虫が慌てだしたことで(苦々しくも)ライバルのダールトン将軍と一緒に一掃できたのだ。

 

「まだ彼をそう呼ぶんだね、バトレーは……ん? どうした?」

 

「い、いえ……クロヴィス殿下がその……以前より、やんわりしたというか……妹君に近付いたというか……」

 

 クロヴィスとバトレー、そしてSPたちの頭上に『です!♪ です!♪』というデフォルメ化したライラのすぐ後ろで同じく『です!♪ です!♪』と同じ動作&デフォルメ化したクロヴィスが浮かび上がる。

 

「「「「……………………」」」」

 

 笑いを内心にだけとどめるSPたちと、顔色を悪くさせながら車椅子の上にいるクロヴィスを見るバトレー。

 

「そうか。 私もライラに似てきた……か。 それはそれで嬉しいものだね。」

 

 

 ……

 …

 

 

 総督室の皇族用回線でコーネリアは北京のブリタニア大使館にいるシュナイゼルに連絡を取っていた。

 

「兄上、何故ユフィの後押しを?」

 

『後押し? 私は彼女に頼まれて書類の見直しをしただけだよ。 でも珍しいね、君がこのことに反対するのは。 このプランが決行されればエリア11のテロ組織は民衆の支持を失い瓦解し、治安も安定する。 長らく手こずっていたエリア11も平定し、ようやく衛星エリアに昇格できる目途もつく。』

 

「個人的には反対です。」

 

『だからこれが成功するように、君も渋々手を貸しているのだろう? ユフィの()()()()()。』

 

「……」

 

 シュナイゼルの言葉にコーネリアが口をつぐむ。

 

 

 ……

 …

 

 

 

 カコーン。

 

 上記の出来事とほぼ同時刻かつ別の場所ではししおどしが涼しい音を出し、キョウトの桐原泰三、刑部辰紀、公方院秀信、宗像唐斎、吉野ヒロシの五人が議論を続けていた。

 

「公言された『特区日本』が真なら、悪い話ではない────」

「────だが所詮は与えられた日本。 果たして価値がありましょうか?」

 

「(ゼロ……いやルルーシュよ、どう動く?)」

 

「生きるだけならば意味はないが、それを軸に経済的に勢力を広げれば────」

「────だがそもそも『特区日本』をブリタニア本国は許すのだろうか?」

 

「(それにもし仮にも冴ちゃんが言うように昴がこの事態を予測し、秘密裏に『日本独立』を大義にしておらぬ組織を作り上げたというのなら────)」

「────桐原候。 先ほどから黙っているお主はどう思う?」

 

「ん……」

 

「そう言えば貴方は『サクラダイトの採掘に絡んで、特区での地位を約束されている』との噂を聞きましたが?」

 

「それは無い。 ワシにも式典参加の要請が送られてきただけだ。 (こ奴らめ、急に引け腰になりおって────)」

「────ゼロは……黒の騎士団はどう動く?」

 

「「「「………………」」」」

 

 ここで老人たちとは違う、少女の声に桐原以外の者たちが黙り込む。

 

「返答はまだございません、皇殿。」

 

「そうですか……彼らも理解しているのでしょう、『特区日本』に参加するか否かで事態が……世界が大きく揺れることを。」

 

 カコーン。

 

 ししおどしが少女────(すめらぎ)神楽耶(かぐや)を肯定するかのような音を出す。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『ユーフェミア様の行政特区日本の宣言以来、大多数のイレヴンが参加の為に急遽立ち上げられた査証発行庁では毎日約一万人を超え────』

 

「(────クソ! こんな、こんな筈では!)」

 

 ルルーシュはリヴァルのバイクのサイドカーからビルに付いた大きなモニター画面とスピーカーから流れるニュースにイライラし、目を細める。

 

 ヘルメットが無ければ彼の睨みにも似た形相に知人たちはびっくりしていただろう。

 

「なぁ、ルルーシュ? あの後シャーリーとはどうなんだよ?」

 

「……リヴァル、“どう”とは何のことだ?」

 

 リヴァルがバイクを止めてヘルメットを取って買い出し用のメモに目を通す。

 

「だからさ、キスとかした?」

 

「……………………………………は?」

 

 さっきまでのイライラが嘘のようにルルーシュは固まり、気の抜けた声を出すと道の少し先から怒鳴り声と、誰かが強打される音が聞こえてくる。

 

「何が行政特区だ! 援助だ! “署名をお願いします”だ?! もう平等になった気か、イレヴン風情が?!」

 

 ルルーシュたちが視線をそっちに移すと名誉ブリタニア人と思われる少年を、見た目からして貴族と思われる男性が(護衛と思われるいかつい男を背後に)持っていた杖でひたすら殴っていた。

 

「あらら、こんなところでも貴族はお構いなしなんだな────」

「────そうか。 それがやはり副総督の博愛か?」

 

「ん?」

 

「お、おいルルーシュ?!」

 

 ルルーシュは思わず前に出て貴族らしい男性を挑発していた。

 

「なんだねお前は?」

 

「さぞかしいい気分なんだろうな。 相手を見下すのは────」

「────学生は下がって帰っていろ────」

「────『お前こそ帰った方が良い』んじゃないのか?」

 

「……そうだな。 私はこれで失礼する。」

 

「はぁ?! お、おい待て!」

 

 ルルーシュの言葉(命令)にいかつい護衛は心境変化があったのか、護衛対象である貴族男性を無視しながらその場から離れていく。

 

「へぇー、ルルーシュでもムカつくときが────って、大丈夫か?」

 

 リヴァルが感心しながら未だに貴族の言葉を無視する護衛を見送り、ルルーシュを見ると彼は左目を押さえていた。

 

「あ、ああ……少しゴミが入ったようだ。」

 

「ルル~! お待たせ~!」

 

 道の反対側では、制服姿のシャーリーが腕を振りながら走って来ていた。

 

「おっと、んじゃ俺はここまでにしとくよ。 帰りの時間になったら連絡をしてくれ。」

 

「分かった。 ありがとうリヴァル。」

 

「ごめんルル! 待たせちゃった?」

 

「いや、俺もついさっき来たばかりだから────」

「────あ、あの! ありがとうございます!」

 

「ルル……何かしたの?」

 

 先ほどの貴族に殴られていた少年がルルーシュに礼を言い、ルルーシュは半笑いを浮かべる。

 

「ああ。 その子がちょっと貴族に絡まれていただけさ。 話してみたら、意外にも帰ってくれたよ。」

 

「フゥ~ン……なんかルルっぽい!」

 

「え? どう言う意味だ?」

 

「んふふ~、教えなーい!」

 

「???」

 

 シャーリーの言葉にハテナマークをルルーシュは浮かべていた。

 

 そして原作でのシャーリーが(ルルーシュ)を見下ろして行動に疑問を抱いていた場所に、携帯電話に耳を当てていたマ()の姿があった。

 

「やぁ、僕だよ兄さん……うん、『左目が痛い』って思っていたよ。 やっぱりすごいねぇ~……え? また出たよ、兄さんの“そう思っただけだ”が!」

 

 

 ……

 …

 

 

 ピ♪

 

 学園にいたスヴェンは携帯を切って、屋上からアッシュフォード学園の校内を見下ろす。

 

「(やはりルルーシュのギアスが暴走する寸前か……万が一の為に作っておいて良かった。)」

 

 彼は手に持っていた小さな箱を見る。

 それは宝石店などでよく見る箱に似ていたが、彼は別に誰かにプロポーズをする予定はなかった。

 

「(俺は……)」

 

 彼は箱を持つ手に力を入れそうになり、それをポケットの中に戻してアッシュフォード学園ののどかな景色を焼き付けるかのように校内を見渡した後、暗号化機器を付けたままの携帯で番号を入れてから耳に付ける。

 

『……もしもし?』

 

「俺だ、毒島。 特区日本の事で話がある。 メンバーを全員、例の場所に集合させてくれ。」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 あれから日付と場所は富士山の付近へと変わりドーム型のスタジアム、行政特区日本開設記念式典会場にはびっしりと日本人(イレヴン)で溢れかえっていた。

 

 式典会場壇上に、並べられた椅子に腰掛けていたのは政庁でユーフェミアの企画に賛成したブリタニア人やエリア11で代表的な役割を持った者たちにユーフェミア本人がいた。

 

「(ゼロ……)」

 

 彼女は隣の空席に横目を移し、耳に付けたインカムからニュースを聞いていた。

 

『こちら 行政特区日本、開設記念式典会場です! 会場内は既にたくさんの“日本人”で埋め尽くされています! 入場できなかった大勢の日本人が会場の外にも集まりつつあり────あ、あれは?!』

 

 まるで聞いていたニュースと連動していたかのようにスタジアムにさっきまでのざわめきがどよめきへと変わる。

 

 ユーフェミアたちが上を見上げると奪取された筈のガウェインがゆっくりと近づいていた。

 

「ゼロ! 来てくれたのですね!」

 

 同じく空を見上げていた桐原が杖を握っている指に力を入れる。

 

「(ゼロ、こんなところで負けを認めるのか? ……やはり、まだ公私混同するところは子供の頃のままだな。 だがどうするつもりだ? お前が皇子と知られれば、この行政特区は終わりを告げるだろう。)」

 

 ガウェインがゆっくりと壇上に近づく。

 

「ようこそ、ゼロ! 行政特区日本へ!」

 

「まずはお招きいただき、ありがとうございますユーフェミア・リ・ブリタニア。 折り入って、貴方とお話したいことがあります。 二人っきりで。」

 

「私と、ですか?」

 

 ユーフェミアが目を見開いていたダールトンを見る。

 

「ッ……ゼロ! まずはG1ベースに着陸し、検査をする!」

 

「良いだろう。」

 

 ガウェインが指示通りにG1ベースのある場所に着陸するとゼロは乗っていた肩から、ユーフェミアが立ち上がったままダールトンを連れて裏へと歩きだす。

 

 近くの警備の者がゼロに同意を得てから金属探知機で凶器の類がないかどうかを調べられてから、ユーフェミアとゼロが互いに接近する。

 

「ユーフェミア様、やはりその男と二人きりになるのは反対です。」

 

「大丈夫だと思いますスザクさん。 ではゼロ、こちらへ。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 会場から離れた山の森の中、黒の騎士団でも精鋭である者たちが息を潜んでいた。

 

『なぁ? 俺達いつまでここにいりゃあ良いんだよ?』

 

『玉城君、君は無線封鎖の意味を知らないのかね? もう一度指導が必要か?』

 

『すみませんでしたぁぁぁぁ!』

 

 藤堂の言葉にピリピリしていた黒の騎士団たちは苦笑いを浮かべ、緊張が少しほぐれた。

 

「(“真相を確かめる”とゼロは言っていたものの、四方に黒の騎士団を待機させるだけでなくディートハルトとラクシャータを近くに配置した……恐らく、ゼロはユーフェミアの暗殺、もしくは挑発を狙っているのだろう。)」

 

 藤堂はカレンから渡された封蝋付きの手紙を入れた懐に手を置く。

 

「(スバル……)」

 

 紅蓮の中のカレンは周りを見て、スバルが『待機命令』を出されていないことに少し不安を感じた。

 

 否。 それとは別に、胸がざわついていた。

 

「(何だろう、これ? まるであの時みたいだ。 日本が降伏したあと、お兄ちゃんをボコボコにして片っ端から金目のものを盗んだブリタニアの奴らを昴が追って、次の日にそれらを持って帰ってきたときの……)」

 

 カレンはポケットの中から先日スバルに渡された手紙を出して、日本語で書かれた文字を読む。

 

「(“もしもゼロが行政特区日本に行って、式典会場の様子がおかしくなったら開けろ”、か。)」

 

 

 

 

 

 ガウェインがG1ベースに着陸するのを会場に入れずに遠目で見ていた日本人たちの中に、ギターケースを背負ったフルフェイスヘルメットとライダースーツの者がするりと人混みの中を移動していく。

 

 普通なら不審者極まりないその姿を、誰も不思議に思わなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言った共通の認識から。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ユーフェミアとゼロはG1ベースのコンダクションフロアに入ると、ゼロは扉にロックをかけて次々と録音機材や機器をチェックしていく。

 

「用心深いのですね。」

 

「私は世間的にテロリストと呼ばれているからな。」

 

 最後には電源を切って、非常用電源に切り替わった薄暗い照明が()()を照らす。

 

「さて。」

 

 ゼロはマントの内側から変な形の銃を取り出してそれをユーフェミアに向ける。

 

「これはセラミックと竹を使用した、“ニードルガン”という。 検知器では見つからない暗器だ。」

 

「でも……どうして?」

 

 ユーフェミアの質問にゼロは仮面を手で掴んで、それを取る動作に入る。

 

「“どうして”? その答えは単純に、君がブリタニア皇族……あの男の子供だからだ。」

 

「それは……どういう関係があるというのです?」

 

 ゼロの仮面のギミックが作動し、彼が仮面を取ろうとしたところで()()()なことが起きる。

 

「その質問の答えも簡単なものだ、ユーフェミア・リ・ブリタニア。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()だからだ。」

 

「え?!」

「ッ?! 貴様、いつの間にそこに?!」

 

 ルルーシュたちが見たのはさっきまで誰もいなかった筈の壁に背中を預けて両手を上げていたスバルだった。

 

「“いつ”、と問われれば“()()()()”だ。」

 

「貴様────!」

「────今から仮面を取る。 いいか?」

 

 ゼロはニードルガンをスバルに向けたまま、ちらりとユーフェミアの方を見てからこくりと頷く。

 

「ッ?!」

 

 フルフェイスヘルメットを取ると、『森乃モード』の顔にユーフェミアは青ざめる。

 

「それで? なぜここにいる、スバル?」

 

「待ってくれ。 ()()()()()()()()()()()()()。」

 

「何? ……………………バ、バカな?!」

 

 スバルはフルフェイスヘルメットを床に置いてゆっくりと襟の中に手を入れて『森乃モード』の仮面さえも外すと『スヴェン』の素顔が露わになり、ゼロは驚愕の声を出した。

 

「(うおおおおおおおおお!!! 胃薬たんまり服用してて良かったぁぁぁぁぁ! 足がすくみそうぅぅぅぅぅぉぉぉぉ!)」

 

 尚スヴェンは内心叫んで冷静さ(の見た目)を保とうと必死だった。




今のスヴェンのようにドキドキ不安ですがこのまま時間がある時に携帯で次話を書き上げに行ってまいります! (;⌒_⌒)ノ


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第71話 ささやかな願いと芽生えた希望と計画と火を吹く銃口のセット

今回もキリの良いところまでですが、少々長めの次話です!

割と携帯でも書けた自分にビックリです。 (;´∀`)

何気に久しぶりのスヴェン視点です! 
少なくとも前半は。 (;・ω・)

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m

そしてタイトルが長くて申し訳ございません。 ┏(;_ _ )┓

8/31/2022 00:43
少々表現の文章不足のコメントを受けましたので冒頭に少しだけ加えました。
ストーリーや流れに変わりはございません、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。


 おおお~。 狼狽えている、狼狽えている。

 

 薄暗くなったG1ベースの中で俺は手に取る様に、ヨロヨロになりそうなゼロ(ルルーシュ)の持っていたニードルガンが震えたのを見て俺自身の足がすくむのを気力で何とか抑える。

 

『まさに対岸の火事』って奴かね?

 俺の方も『火事』が起きているが。

 

 主に胃の中で。 ←*注*焦りとテンパりその他諸々が一周回って無自覚に精神は一時的に冷静になっているだけです。

 

「ああああああ?! 貴方は、学園とあの時の?!」

 

 そして流石は凄い順応性だ、生ユーフェミア。

本家歌姫(ラ〇ス・ク〇イン)』じゃないけれど、その順応性はピンクヘアー由来なのか?

 

 取り敢えず『優男の仮面』で行くか。

 

「お久しぶり……とこの場合は言えないのでしょうか、ユーフェミア様?」

 

「う~ん、どうなのでしょう? でも貴方が言ったことからすると……やっぱりルルーシュ、なんですよね? 昔からかっこつけたがる癖もあったし。」

 

「うッ?!」

 

 ユーフェミアが自信なさげに問いを投げるとゼロは明らかにギクリと動揺し、よろけながら後ろへと倒れそうになるのを何とか踏ん張る。

 

 やっぱり原作同様、どこかで薄々感じていたのかユーフェミア。

『いつ』? 『どこから』? 『なんで』?

 原作知識だから俺は知っていたけれど……そんな俺でも真っ青な直感的な洞察力をお持ちですよ、生ユーフェミアは。

 

 そしてゼロの方は、『あと一押し』ってところか?

 

「もういい、ルルーシュ。 俺も仮面を外した。 お互い……いや、お前は仮面を外さない方が良いかもしれない。」

 

「そそそそそその“ルルー()()”が誰かは存じ上げませぬが何故に私は仮面を取らない方が良いと申すのだ?」

 

 語彙力が滅茶苦茶な上に噛んだ。

 しかも“ルルーチュ”ってなんやねん?

 〇ッキーマウスかお前は、ハハ! ←最後は〇ッキーマウス風笑い

 

「お前のギアスは暴走していてオンオフが出来なくなっている……と思う。 信じられないのなら鏡か何かで左目を見てみろ、常時浮き上がっている筈だ。」

 

「何?! 本当か?! い、いやそれよりもなぜ貴様がギアス↑ををヲヲ↑↑ををヲヲヲ?!」

 

 うわ、予想以上にルルーシュが壊れていく。

 最後の方、完全に一年前の男女逆装パーティの時に本気で出したルル子(裏声)だし。

 

「ギアス……とは何でしょうかスヴェンさん?」

 

「一言で言えば『超能力』ですねユーフェミア様。 それと……不敬を承知の上で尋ねますが、皇位継承権を返上されましたよね?」

 

「えええぇぇぇ?! な、な、何故それを知って?! 本国からの発表もまだなのに────?!」

 「────↑↑↑フォッハァァァァ?!」

 

 どうやらゼロは仮面のスライドパネルを作動して本当に自分のギアスが発揮していることを確認したと同時に俺がユーフェミアに答えながら原作と同様の状態なのか確認をすると、ゼロがさらに変な声を出してしまう。

 

「ルルーシュ、今からポケットの中から箱を出す。 中にはコンタクトレンズが入っていて、お前のギアスをある程度は緩和できるはずだ。」

 

 これはコードギアスR2で、CCがギアスの暴走したまま日常生活を送れるように作ったもの……のアイデアを元に、俺がマオ(女)と一緒に共同開発したものだ。

 

 俺の知り合いの中で、ルルーシュのギアスに本質が一番近いのは彼女だからな。

 というか、悪ふざけで作った『綾〇レイ』の制服コスを気に入ったのは意外だった。

 

「あ、ああ? あり、がとう? って、吾輩は()()ーシュではない!

 

 もういい加減諦めろよ、ルルーシュ。

 “リリーシュ”以前に“吾輩”ってなんだよ?

 

 そう俺が思っていると、ユーフェミアがズカズカと後ずさりをするゼロに近づく。

 

 「ルルーシュ?! 他人が助けようとしているのに何ですかその態度は?!」

 

 そう注意するユーフェミアの前にゼロがタジタジする。

 あ。 これって『母ちゃんに叱られる子供図』そのまんまだ。

 

「え? いや、だから、その、えっと────」

「────てい────♪」

 「────↓ほぁぁぁぁはぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ユーフェミアが急にゼロの仮面を手に取って外すと大粒の汗を掻いたルルーシュの素顔が露わになる。

 

「ああ……やっぱり! ルルーシュ!

 

「むぎゅ?! まままままてユフィ! ここここコンタクトレンズをつけさせいやその前にスバヴェンの話────!」

「────ふぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

 “スバヴェン”って……呂律も上手く回ってないじゃん。

 

「……う、うむ。 ものは考えようだな。 こう君が近ければ俺のギアスにかかることもないし、スヴェンにはすでに使ったからな。 条件は全てクリアしている。」

 

 ルルーシュの顔を見たユーフェミアが涙目になりながら彼を深く抱きしめると彼が変な声を出して気まずい顔で天井を見上げながら頬を指で掻く。

 

 やっぱり身内には甘々だな、ルルーシュは。

 

 これなら、俺の考えていた提案を受けてくれるかもしれない。

 

 俺はユーフェミアの宣言が原作のようにされたことで迷って、どうすればいいのか悩んだ。

 別に『介入する』か『しないか』ではなく、元からユーフェミアの『虐殺です!』は止めるつもりだった。

 

 ユーフェミアの命を救えるが、原作からはさらにかけ離れて俺の持っている知識もとうとう役に立たなくなる。

 

 ルルーシュが原作同様に皇帝シャルルの計画を止められるかも怪しくなるし、最悪皇帝シャルルが計画を強行する可能性も出る。

 

 俺が生き残ることを考えれば、原作の流れから身を遠く置いて保身に走ればいいだろう。

 

 だが、考えると俺もいろいろとやらかしたから原作通りの流れになるのかわからない。

 それ以前に、俺はルルーシュたちには幸せになってほしい。

 

 それに形だけとはいえ、『お願い』をされたからな。

 

 だから俺はルルーシュにすべてを話し、行政特区日本に形だけでも黒の騎士団を参加させて形式上の『解体』をさせつつ本体と、俺の作った黒の騎士団や日本独立から完全に独立しているアマルガムも使って手を貸そう。

 

 全て、そして俺が今まで調べられた範囲と原作知識でマリアンヌに関しての真実を打ち明ければルルーシュは協力してくれると思いたい。

 

 少なくとも俺やシャーリーの為でなくとも、ナナリーの為に。

 

 さらに上手くやれば中華連邦との繋がりで、前もって星刻(シンクー)のクーデターを成功させて早く味方につければたとえ皇帝シャルルが計画……『ラグナレクの接続』を強行しようとしても何とかなる……と思いたい。

 

『ラグナレクの接続』。

 それは『全人類の思考を強制的に統一化させる』ことだ。

 つまり『誰もが他人の奥底まで観られることになって嘘をつけなくなる』、『嘘が無くなった世界』の誕生だ。

 

 ある意味、エヴァの『個体である事を捨てて一つになった人類(人類補完計画)』計画に似ている。

 

 さらにぶっちゃけると皆がマ()のようになって、周りの善意と悪意の本性を知ることとなる。

 

 え? 『なんで皇帝のシャルルがそんなおぞましいことをするのか』って?

 

 実はというとシャルル、とっくの昔に『嘘偽りばかりの世界』に絶望しているのだ。

 彼自身、皇族のいざこざや汚い大人の世界をさんざんと見せられた上、目の前で実の母親が陰謀で馬車の下敷きになって、彼女の首から上だけがLCL化したような『パシャ状態』を子供の頃に見たし。

 

 トラウマ確定イベント満載の人生を皇帝シャルルは味わったワケだ。

 

 だから実質ブリタニア帝国をシャルルは宰相のシュナイゼルに任せっきりでほとんど世捨て人状態気味に政治とかに関わっていないし、『人はいつの日か革新して解り合える日が来る』という夢想を現実に変えようと全力を注いでいるから滅多なことでは表舞台には出てこなかった。

 

 とまぁ、現実逃避しているうちにコンタクトレンズを付けて自分のギアスが発動していないことを確認した後、簡単な説明でユーフェミアに自分の『絶対遵守』を説明し終わったルルーシュとユーフェミアが俺を見る。

 

「……そ、その……ユフィはともかく、スヴェンはいつ気付いた? それよりも、なぜおまえがギアスを知っている? まさかとは思うが────」

「────俺が違和感を持ったのは、シンジュクゲットーで『スバル』としてお前の声を無線機越しに聞いた時からだな。」

 

「カレンと同じか。」

 

「そうだな。 次に河口湖で吐きそうになった俺に『おい、大丈夫か』と慌てて声をかけた時から徐々に確信に変わっていった。 テロリストのリーダー格がただの学生である俺に気遣う理由もないし、何より口調がルルーシュだったからな。 それからはゼロの活動でルルーシュがナナリーのそばにいなかったことがこうも続けば、自ずとたどり着く。」

 

「そ、そんなに早くから疑われてその答えにたどり着くとは……しかし、流石といえば流石でブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 

『原作知識です!』とも言えないので、それっぽいことを言うとルルーシュが納得してしまうような声をしみじみと出してしまう。

 

 いや、だから原作知識だよ?

 ちょっとは疑うような言葉や素振りをしろよ、ルルーシュ?

 頭脳面で言えば世界で最高率の一人だろ?

 

「それよりスバル……いや、スヴェンか? お前はなぜギアスのことを?」

 

「どっちでもいい。 それになぜ俺がギアスのことを知っているかというと……それに類する能力を持っているからだ。」

 

「そうか……それで? このことを俺やユフィに打ち明けてどうしたいのだ? 何かそれなりの理由があるのだろう?」

 

「ルルーシュ、何もそんな言い方────」

「────ユフィは黙っていろ。 どうなんだ、()()()?」

 

 ルルーシュがユーフェミアをかばうように前に出てニードルガンを俺に向ける。

 

 うううぅぅぅ、お腹がキリキリするよぉぉぉ~。

 不安でいっぱいだよぉぉぉぉ~。

 

 深呼吸。 深呼吸だ。

 ここまで来たらもう引き返せない。

 

「ルルーシュ、体面的にでもこの特区日本に参加してくれ。 そして、そのあとのことで話を聞いて、協力して欲しいことがある。」

 

「“体面的”……つまりは末端のメンバーを参加させて“黒の騎士団は解体した”という虚無の事実を作るのだな?」

 

 流石ルルーシュ、頭の回転のお陰で1から100まで類推するのが早い。

 

「ああ。」

 

「聞いてほしい話と、協力内容は何だ?」

 

「両方とも、お互いに関係しているからな……」

 

 さぁ俺は言うぞぉぉぉぉ!

 言ってやるぅぅぅ!

 フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

 コール、コール! コールコールコール────じゃなかった。

 ええい、ままよ!

 

 緊張でお腹もキリキリしている上に、今度は喉が苦しくなり、口の中もカラカラになっていく。

 

「………………『マリアンヌ様の死の真相』。」

 

「「ッ?!」」

 

 ルルーシュ、そしてユーフェミアまでもが息を素早く飲み込み、二人がごくりと喉を鳴らす。

 

 当然だろう。 マリアンヌの死は二人にとって大きな意味合いを持つ。

 彼女の息子であるルルーシュはもちろんのこと、彼女を慕っていたコーネリアと仲良くしていたユーフェミアもだ。

 

「俺は知っている。 俺なりに調べたことで多少の仮説も入るがこれで間違いないと思えるほど断言できる。 信じるか信じないかはどっちでもいいし、調べるために協力も必要だ。 もし間違っていたら、俺をゼロに仕立てて公開処刑でも、濡れ衣を着せてもいい。」

 

「そこまで……まさか、本当に?」

 

「貴方が皇位継承権を返上したように、俺も黒の騎士団に発表してもいい。」

 

 ユーフェミアは隣の腕を組むルルーシュを見る。

 

「……………………少し考えさせてくれ、ユフィ。」

 

 恐らくは数々のシミュレーションを行っているのだろう。

『乗る』か『乗らないか』のメリットデメリット、そして元々ここにゼロとして来た理由も含めて、ユーフェミアが皇位継承権を返上したことも。

 

 原作でのルルーシュはギアスを使い、ユーフェミアに自分を撃たせてエリア11にいる日本人全員にブリタニアへの反抗する殉教者&旗印&大義名分を与えようとしていた筈だ。

 

 ここまで来てふと思ってしまう。

 

『もし、ルルーシュがゼロに見立てた俺を撃ってユーフェミアにギアスを使ったら?』、と。

 

 ブワリと、いやな汗が体中から噴き出す。

 

 俺のバカ。

 なんでこの可能性を、今になって考え付いた?

 

「……………………わかった。 ユフィの特区日本に参加してから話を聞こう、()()()()。」

 

 ホ?

 

「おい何だ、その皿のように見開いた目は? ここまで晒しだしたお前(スヴェン)の頼みを無下にすると思ったのか?」

 

「いや、少し意外だっただけだ。」

 

それに、お前には大きな借りが幾つもあるんだこの唐変木が。

 

 えええっと?

 どういうことだってばよ?

 誰か教えてプリーズヘルプミー。

 もしかして────

 

 ────カッカッカッカッカッカ。

 

 固まっている俺の耳に、上記のような音が届く。

 

 まぁ、電源を消してもG1ベースは精密機械満載の動く要塞だ。

 非常用電源中でも動く機械はあるだろうさ。

 

 ただし、俺やルルーシュたちがいるコンダクションフロアの()()()()()()()()聞こえてきたそれはまるで軍用ブーツで速足の忍び足で、鉄製の床を優しく踏んでいるような音だったことを除けば。

 

「それで? 母さ────母上の真相について────」

「────シッ。」

 

 ルルーシュの言葉を俺は遮りながら『静かに』という合図をしてから『森乃モード』の仮面とフルフェイスヘルメットをかぶり直して扉のほうを指さす。

 

 カチカチカチ、ビィー。

 

「ッ! スヴェン、これを。 ユフィ、俺たちは隠れよう。」

 

「助かる。」

 

 今度はハッキリとルルーシュたちにも聞こえるカチャカチャした音と電子音にルルーシュはゼロの仮面をかぶり直してニードルガンを俺に手渡し、ユーフェミアを連れてコンダクションフロアにおいてある司令席の後ろに身を隠す。

 

 俺はニードルガンをしっかりと握りながら音のするドアの付近に立つと、急に扉が開いて全身に見たこともない防護服をした人影が突入してすぐに隠れていた筈の俺に銃口を向け────あ。

 

 やばい。

 

 散弾銃。

 

 トリガー。

 

 眼前。

 

 引かれた。

 

 

 

 () () () () () ()

 

 

 

 ド────

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アッシュフォード学園のクラブハウスの一室で、ナナリーとライブラは咲世子がどこからか借りてきた旧式のラジオで放送を聞いていた。

 

「あ、チャンネルを合わせられましたよお嬢様。」

 

「ありがとうございます、咲世子さん。」

 

「作り置きのスヴェン先輩の特製茶菓子も持ってきたでーす!」

 

「ありがとう、ライブラちゃん。」

 

『行政特区日本の会場にゼロが現れました! そしてユーフェミア皇女殿下と話があると宣言して30分が経過しました! 未だに会談中の様子ですが、この交渉に成功すればブリタニアの植民地体制に風穴を開け、新たな歴史の幕上げとなりえる瞬間に我々は立ち会っているのです!』

 

「おお~。 ドキドキするですね~!」

 

「(ユフィお姉様……)」

 

 ナナリーが手に持っていたのは、半分に割れたお皿のようなものだった。

 

 だが半分に割られても尚、それが食事用ではなく明らかに高価なものだとわかる装飾と途切れているが掘られていた文字ははっきりと以下のことが書かれていた:

 

 “98th Emperor, Charles di Britannia”。

『第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア』と書かれていた。

 

 そのお皿の話はとある幼い日に、お忍びでナナリーとルルーシュがユーフェミアの部屋にお泊りした夜の事だった。

 

 勿論、“お忍び”といっても実際はマリアンヌが付いて行こうとしたSPたちに『目をつむっていてね♡』とニッコリした(プレッシャー)付きの笑顔でお願いされていたのでバレバレだったのだが。

 

 あの頃のナナリーは今のように体が不自由な様子はなく、かなりの腕白者お転婆()()()()()()()()()()()で年相応な我儘な面がまだまだあった。

 

 他人(特にユーフェミア)の部屋にお泊りすることが初めてだったナナリーは部屋の隅々を夜遅くまで走り回ってはルルーシュを困らせ、ユーフェミアも(コーちゃん以外で)初めてのお泊り会で興奮していたのか、ベッドの上で(皇族である以前に)淑女としてはしたなくゴロゴロしながらナナリーたちの様子を見て面白がっていた。

 

 既にこの時点でそろえる以外に切っていないユーフェミアの髪は長く、ケアをする侍女などは苦労していた。

 

 ある日、彼女が美容師の係員に『コーちゃんがキレイって言ったから伸ばす~♪』は大いに()()、関係ないだろう。

 

 これを聞いて顔を両手で覆いながら地面の上で足をバタつかせて悶えていたコーネリアから『ン゛ンンン゛ンンン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!』と意味不明な音が出たことで『あ、やっぱり人間っぽい部分はあるんだ』と思った周りの者たちとも関係は無いだろう。

 

 取り敢えずお泊り会の夜に話を戻すと、子供の頃から体力の少ないルルーシュがナナリーに追いつけるわけもなく、息を切らした彼がやっと追いつけたと思えばナナリーがユーフェミアの部屋に飾ってあった綺麗なお皿に目を釘付けにされたからである。

 

 そのお皿とは、ナナリーたちの母マリアンヌの騎士叙任記念の物でコーネリアが愛しいユフィの甘々なおねだりに骨抜きにされて折れて譲ったモノだった。

 

 余談であるが、本来ならマリアンヌがこれを誰に持たせるか決めるはずなのだが彼女は『皿なんか欲しけりゃ誰にでもくれてやるわよ。 それより張り合いのある相手が欲しいわ! どうかしらコーネリアかノネット?! 相手するならそれ貴方たちにあげちゃうわよ!』と興奮しながら言ってその日のコーネリアとノネットは珍しくボロボロに帰って来たとか。

 

 なお勿論、模擬戦の結果はマリアンヌの圧勝である。

 

 仕来りの形式上、『叙任した本人やその家族は叙任に関するものを持たない』のが常識なのだがナナリーがどうしても自分の母が描かれたお皿が欲しくなり、ユーフェミアにおねだりして珍しく彼女を困らせていた。

 

 これを今のルルーシュならば、やんわりとナナリーに説明して理解してもらっていたかもしれないが彼も幼く短気で、お皿の取り合いと発展してしまった。

 

『これはユフィのモノだよナナリー! は~な~し~な~さ~い~!』

『ず~る~い~! おにいさまはいつもユフィおねえさまにだけやさしい!』

『そそそそそそんなことはない! だからお皿を放しなさい!』

『じゃあいますぐこたえを聞かせて! わたしとユフィおねえさま、どっちをおよめさんにするの?!』

『そそそそそれとこれは話がちがう!』

『ちがわないもん────!』

 

 ツルン。

 バキッ。

 

『『────あ。』』

 

 そして装飾用でコーティングされていたことが災いし、二人が全力で引っ張り合って手が滑った結果、お皿は見事真っ二つに割れてしまった。

 

 流石のナナリーも、自分がしたことに泣きながらユーフェミアにただひたすら謝った。

 二人はユーフェミアが怒ったり、泣いたり、荒れるのを覚悟したが────

 

『────よかったぁ~♪』

『はぁ?! “よかった”?! 割れてしまってはもう価値はないんだぞ、ユフィ?!』

『そんなことないわルルーシュ。 これで私とナナちゃんは半分ずつ持てるもの! それに壊れているから“叙任品”には当てはまらないし、仕来りを破ったことにならない筈だわ!』

 

 そうしてユーフェミアの突拍子もない斜め上の発想から来た解決策を目にしたルルーシュは感心しつつ、彼女にありがたく思った。

 

 

 

 ナナリーは過去のエピソードを思い出しながら持っていたお皿の感触を堪能していた。

 

「(あれが、私とお兄様が『優しい世界の中の子供』として最後に過ごした時間だった……やっぱり、昔も今も、ユフィお姉様は凄いです。)」

 

『ん? 何────会場がざわついていますね? もしかして会談が────ったのでは?!』

 

「もう! このポンコツラジオ、聞こえないですー!」

 

「(ユフィお姉様……貴方は、あの頃の思いをまだ信じているのですね? 『優しい世界は可能なはずだ』と、自ら創り上げようとしているのですね?)」

 

 ライブラがバシバシとラジオを叩いてナナリーは聞き耳を立てるが、ラジオからのノイズがさらに酷くなっていく一方だった。

 

『えっと? なにやら────たちが────ぎ出し────あ────兵士たちが銃を────?!』

 

「え? い、今のは? 会場では、どうしたのでしょうか?」

 

「えぇぇえぇぇぇぇ? このタイミングで途切れますですー?! 何か『嫌な予感』の感じがプンプンするです!」

 

 ライブラがプンプンと怒る横で、ナナリーも原因が分からない不安に駆られて思わず残ったお皿をギュッと抱きしめる。

 

「(ユフィお姉様……お兄様……スヴェン、さん……)」

 

 静かに祈る様に、三人の名を彼女は胸の中で繰り返し、ノイズだけになったラジオを咲世子が慌てていじる。

 

『きゃあ────ああ?!』

『わぁぁぁぁ────?!』

『だ、誰か────!』

 

 何とかラジオの調整を終えるが今度聞こえてくるのはノイズに混じった人の悲鳴だった。

 

「人の叫ぶ声────?」

 

 ────バキッ! ガラン!

 

「ぁ……」

 

 ナナリーが続きを聞こうとラジオのボリュームを上げようとして手を出すと、お皿が急にひび割れて床へと落ちていく。



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第72話 『コンパクトにしてあげるよ!♪』リターンズ

まずまたも携帯投稿で短い次話で申し訳ございません。 
予想していたより、リアルが立て込んでしまい殆んどこちらに時間がさけませんでした。 ┏(;_ _ )┓

そして感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます! 
誤字報告もお手数をお掛けになっております! <(_ _)>ペコッ

全て活力剤として、頂いております!

楽しんでいただければ幸いです!


 …………………………………………………………んあ?

 

 なんか ぐら ぐら する。

 

 ねていたいの に ねれない。

 

 ……よった みたいだ。

 

 みせいねんだけど。

 

 「ルルーシュ!」

 

 ボンヤリしながら目を開けると、景色は意識のようにぼやけたままだった。

 

 それに、誰かがひっきりなしにベルを『ジリリリ』と鳴らしているのか?

 

 いや、実感が湧かないが人の声が聞こえた……ような気がした。

 

 これは耳鳴りが鳴っているのか?

 

 意識がウヨウヨする。

 

 「ク! 何度もパスコードを変えているのに、それを数分足らずに解除するとは?! 相手はどんな手品を使っているのだ?!」

 

 何度も瞬きをすると徐々に視界がクリアになっていく。

 

 電源の落ちた天井を、見上げていた。

 

 知らない天井だ。

 ……一度は言ってみたかったんだね、これ。

 

 「ユフィ! そいつの事はいい! 何か使えるものがあるか部屋を探してくれ!」

 

 ってああ、これってG1ベースのコンダクションフロアの天井じゃないか。

 ということは? 今の俺は仰向け?

 

 遠くから聞き覚えのある声に、身体を起こし────つぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 イッッッッッッテェェェェェェェェ!

 

 背中と胸が痛い!

 特に胸!

 

 折れているんじゃね、これ?!

 

 なんで?!

 

 いや。 待てよ、思い出してきた。

 

 「ルルーシュ! この人(スヴェン)のギターケースっぽいのを見つけたわ!」

 

 「それをこっちに寄こして君は今すぐ逃げろ、ユフィ!」

 

 「でも────!」

 「────チィ! 言っている傍から扉のパスコードをまた?! 早くいけ!」

 

 襲ってくる激痛で、さっきまでふわふわしていた意識がはっきりとしてきた。

 

 確かルルーシュとユーフェミアに俺が知っていること話して託そうとしたときに、人払いを済ませた筈のG1ベース内部から変なリズミカルな……いや、足音が聞こえてきて?

 

 それでニードルガンをルルーシュから渡されて変な電子音が聞こえてきたドアで待ち構えた瞬間、ロックが解除されてみたことの無い防護服来た野郎(奴?)がいきなり散弾銃(ショットガン)を向けてきたんだよな?

 

 取り敢えずヘルメットはしていないから『頭はマズい』(ヘルメットをしててもマズい)と思って、無理やりバレル(銃身)をフリーだった右手で向きを変えながら『“時間” に意味はない』を作動して左手のニードルガンで相手の頭を撃ったよな?

 だが相手の散弾をモロに受けた胸が、まるでハンマーでぶん殴られたような衝撃で倒れながら相手のバレル(銃身)から手を放して思わずドアパネルを使って再びロックし直したんだった。

 

 それから記憶が途切れている。

 

 多分、()()()を至近距離で撃たれた拍子にインパクト(衝撃)で倒れながら、激痛から生じたショックで気を失ったんだろう。

 

 特典使って弾丸の軌道が途中までだけだった上に、マジでライダースーツを特注品(防弾着)にしておいて良かった。

 

 でなきゃ、今頃は風穴を開けた死体として転がっていただろう。

 

 でもなんか苦しい。

 視界も段々と黒い点々が浮き出ているし、耳鳴りも酷くなっている。

 

「……」

 

 あ。 息していなかった、俺?

 

「スゥ────カハッ?!

 

 息を吸おうと口を開けて空気を含んだ瞬間、むせて咳をし始める。

 

 カハッ?! ハッ?! ゴホ?! ゴホ、ゴホ!

 

 今更ながら、口の中が錆びた鉄の味がしていたのに気付いて、『あ。 これ、血だ。』と思って俺は『俺自身、冷静だなぁ~』と思った。

 

 いや、ただ単に理解が現状に追い付いていなかっただけか。

 

「スヴェン! 気が付いたか!」

 

ガハ、ハッ?!

 

 ルルーシュの声に返事しようとするが、俺は咳をしてその都度に激痛が胸に走る。

 

「……ウッ。」

 

 ようやく咳も収まり、息が出来るようになってからわずかに首を上げて胸辺りのライダースーツがボロボロになっているのを見えた。

 

 こりゃ肋骨、折れているかヒビが入っているな。

 最悪、散弾の何割かが体に抉りこんでいるかもしれない。

 

「……俺のギターケース……カードキーがついた小型パソコンを……ルルーシュ……」

 

「これか!」

 

 ルルーシュに道具の特徴を伝えるとやはり予想通りに使い方を彼は理解し、ドアのパネルにそれを接続してコマンドを入力すると、ドアのパスコードが自動で数秒おきにランダムなモノへと強制的に変わっていく。

 

 その間に俺は何とか這いつくばって、ギターケースから無針注射器を手に取ってすぐにそれを頸動脈に打つ。

 

「……ッ。」

 

 流石はブリタニアの医学、鎮痛剤がもう効いてきた。

 

『ム〇』みたいな爽やか感覚が首から広がって痛みが抑えられていく。

 

「フゥー……パスコードスクランブラーとは用意周到だな、スヴェン。」

 

「本来はパスコードを解除するものだが……こういう使い方もある。」

 

 痛みを薬で誤魔化した俺が身体を起こし上げるとルルーシュが俺の撃った奴のヘルメットを取り始める。

 

「こいつらは一体何者だ────ウッ?!」

 

 ヘルメットがズルリと外れるとルルーシュがびっくりする。

 

「なんだ、こいつは?」

 

 それは俺もだが。

 

 サンキュー、ポーカーフェイス。

 

 俺たちが見たのは人間……のような形をした『なにか』。

 

 どちらというと『肉のついたガイコツと皮膚の代わりに鉄をかぶった人造人間』がしっくりくるか?

 

 なんじゃいこいつら? マジで。

 バイオ〇ザードっぽいな────ってジャンルが違うやんけ?!

 

「取り敢えず、少し時間は稼げたが────ん?」

 

 俺がこれからどうするか迷っていたところ、外から何やら銃声や爆発音が響いてくる。

 

「これは?!」

「銃声?! それに、爆発音だと?!」

 

 ちょっと待て?!

 俺は確かに『虐殺皇女』のフラグは折ったはずだぞ?!

 筈だよな?!

 

「ルルーシュ、ユーフェミア様は?!」

「先に総督用脱出経路で出た筈だ!」

 

 ま、まさか?

 ()()()()()()()()()()

 

 どじて(どうして)

 

 ルルーシュが散弾銃を拾い上げ、同じ部屋の近くにある階段を上がって放送室の電源を戻し、外の状況を見ると彼のびっくりする声が聞こえてくる。

 

「これは?! 会場の警備配置が変わっている?! これではまるで包囲網……まさか?! ブリタニアの兵士は会場の外にいる日本人まで殺す気か?! どうにかして、黒の騎士団に連絡を取らないと! いやユフィの安否を────!」

 

 ────キュィィィン!

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!

 

 チェーンソーのようなけたたましい音がし、ドアが外から削られる音がする。

 

「ルルーシュ! さっきの出口に敵はいないな?!」

 

 俺はそう叫びながら、喉を迫り上げようとする感覚を無理やり飲み込みなおし、ギターケースの中から分解したライフルを組み立てる。

 

「ああ! 見たところまだ大丈夫だ!」

 

「ならそれを使って、ここから外に出ろ!」

 

「お前はどうする?!」

 

「……」

 

 俺は何も言わずに慌てて組みたてたライフルを装填し、今度はスライドを引いて初弾を装填した拳銃を彼にも手渡す。

 

「使え。 セーフティー(安全)レバーを動かせばすぐにでも発砲可能だ。 従来のものとは違って反動がかなり大きい。 」

 

 渡した後、フルフェイスヘルメットをかぶって火薬使用型対KMFライフルをいつでも使えるようにする。

 

「お前……」

 

「死ぬ気はない。 トウキョウ租界で落ち合おう────!」

 

 ────プシュ!

 

 ドゥン

 

 「うお?!」

 

 ロックが切られたドアが開くと同時に俺はライフルを撃ち、サプレッサーの装着段階を省いたため、大きな爆発音にルルーシュが仮面を手で押さえる。

 

 「行けぇ!」

 

「クッ! 待っているぞ、スヴェン!」

 

 そう俺は叫ぶとルルーシュが動く気配から、全神経をドアの向こう側に集中して部屋に突入してくる人影に次々と風穴を開けていく(弾を撃つ)

 

『本当にここで死ぬ気は毛頭ない』、とだけ言っておくぞ?

 

 せっかくフラグを折ったのにユーフェミアがここで『さよならバイバイ』させるのはもちろんのこと、ルルーシュを逃がすことがメインの理由だ。

 

 途中までしか内容が伝えていないから、頃合いを見て『“時間” に意味はない』で逃げる。

 

 この流れだと恐らくだが、原作での『合衆国日本』と『トウキョウ租界を落とす』ことになるだろう。

 

 ならば上手く逃げて、黒の騎士団がここを抑えるのを待てばいい。

 

 けどさっきから撃てども撃てども敵が来るこの光景、まるでモグラたたきだ────

 

 ────カチン。

 

 あ────

 しま────

 初歩ミス────

 残弾数数えて────

 マガジン────

「────ゴハァ?!

 

 次の弾倉を装填するために腕を伸ばすと一際大きな咳を出してしまい、ヘルメットのバイザー(の内側)に赤い粒粒した液体が付着して俺は背中を階段近くの壁に当たったところでハッと意識が戻って気付いてしまう。

 

『ああ、しまった。』

『また凡ミスった』、と。

 

 今の俺は鎮痛剤で痛みは誤魔化してはいるが、身体はボロボロのままだ。

 それなのに、こんな大きな(対KMF用)ライフルを撃てばその反動で更に体はボロボロになるっていうのに。

 

「はい、『全員撃ち方止め』。」

 

 クソッ。 誰だ、今の声は?

 子供?

 それ以前に撃たれているじゃねぇか、俺。

 更にダメージが……

 これじゃあ『立っているのもやっと』……ってところか?

 

 額からドロリとした感覚と共に右目に何かが入り、右目を閉じて思わず左目の視界が細くなる。

 

 知っているか? 目を瞑る寸前にまで閉じかけると視力が上がるんだぞ?

 

 俺は知らなかった。

 

 けど今は実証している場合じゃない。

 

「ふぅ~ん? 変わった銃を持っているね? それにこの匂い……火薬かい? 随分と古いものを知っているね?」

 

 俺の視力が上がった左目で見えたのは10人ほど、さっきの突入してきた野郎のような防護服を着た者たちと、床まで垂れる金色の長髪────

 

 「────VV……?」

 

 思わずその名を口にすると、見た目相応の子供みたいに(VV)が拍手をする。

 

「アッハハハ! スゴイや! 僕の事を知っているという事は()()()()君なんだね!」

 

 “やっぱり君”? どういうことだ?

 それになぜ、二期で出てくるはずのお前(キャラ)がここにいる?

 中華連邦のギアス嚮団に引き篭もっているんじゃなかったのか?

 

 分からない。

 

 「な……ぜ?」

 

「ん? ()()()()()()()()()()()かって? 教える義理はないけれど……敢えて言うのなら“棚から牡丹餅”って言うのだったかな? ここのエリア風に。」

 

 俺の質問ににっこりと笑いながら余裕たっぷりのVVが答える。

 

 それより“棚から牡丹餅”だと?

 答えになっていねぇよ、クソガキショタニートジジイが。

 

 待てよ?

 そう言えば『ラグナレクの接続』には、CCのコードも必要だったよな確か?

 

 まさかCCを探している途中で、俺に目を付けたのか?

 何故だ?

 理由は?

 俺は黒の騎士団以前の活動では、あまり目立たないようにしてきた筈だ。

 目立つようなときは、極力痕跡も残さなかった……筈。

 

 どこでミスをした?

 クソ、胃もたれもだが不安になるぜ。

 

「う~ん……そのヘルメットは邪魔だけど“取って”って命令しても、素直に聞くような気がしないね。 だからまずは君の四肢を切断してゆっくりと時間をかけてお仕置きするよ。 『1から4()、奴の四肢を切断して捕獲』。 『5から10()は奴が妙な動きをしたら即座に撃て。』」

 

 VVがそう言うと奴の後ろにいた奴らがぞろぞろと動き出す。

 

 ギュィィィィン

 

 うっわ。

 まさかここでマ()の『コンパクトにしてあげるよ!♡』フラグが蘇るのかよ?

 

 嫌だなぁ~。

 

 あ、まずい。

 

 意識が朦朧としている。

 血を流し過ぎたか?

 それとも疲れか?

 ルルーシュたちは上手く逃げたのだろうか?

 意識を保っていないと……死ぬ────

 

 ────ドッ!

 

 カッ?!

 『死ぬ』と思った瞬間、にッ?!

 胸が……苦しい!

 視界が……赤く?!

 周りが!

 『死ぬ』?

 音が!

 誰が?

 意識が!

 ○○が?

 遠のく?!

 

 「おっと、すっかり忘れていたよ。 ……もしもしクララ? アッシュフォード学園に一足先に行ってくれる? ……うん、例の子を話した通りに────」

 

 ────い、ヤダ。

 

 お、れ、は────

 

 

 

 


 

 

 

 

 スヴェンの意識が遠のいて今にも落ちそうなところでG1ベースの、詳しくは彼とVVたちが居たコンダクションフロアの壁が外から壊される。

 

 そのはずみでVVと彼の周りの者たちは吹き飛ばされ、壁に強く当たってはぐちゃぐちゃになる。

 

『うわ、やり過ぎた?! アイツ、もしかしてミンチに────』

『────いえ、あそこに倒れています!』

 

 大きく空いた穴の向こう側には見えていたのはGX01に似たナイトメアの姿が見え、スヴェンを見ては彼をそっとコックピットブロック近くまですくい上げるとコックピットが開いて、パイロットスーツを着たアリスとユーフェミアが彼を中に引きずり込む。

 

「う~~ん! お、重~い!」

「が、頑張って! 私も~! 頑張る~!」

 

「「ういっしょ!」」

 

 力任せにコックピットの中に引きずられた拍子で、意識を失っていたのかスヴェンが弱々しい声をここで出す。

 

「う……ア……リスか?」

 

「他に誰がいるのよ?! 寝ぼけているんじゃないわよ! それにどういう事よ、これ?! アンタ(スヴェン)の言ったように『会場のブリタニア軍に異常があれば動け』は実行したけれど、()()()()誰も聞いていないわよ! 多分!」

 

 アリスはコックピットを再び閉じて中から周りを見渡したのは、原作でも行われた『ブリタニア軍による日本人の虐殺』の景色だった。




降り注ぐ戦火。
舞い下りる敵と味方。
希望と絶望を持った街が燃える。

圧倒的、ひたすら圧倒的な波が蹂躪という津波で陸を襲い始める。

ささやかな望み、芽生えた友情と野心、破壊と創造。

老若男女も、彼ら彼女ら思いも、希望でさえも飲み込んで走る炎と暴徒の混沌の中であらゆるモノがかき混ぜられる。

次回予告:
『ブラックリベリオン』

革命の行方は、果たしていずこへ?


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第73話 ブラックリベリオン1

投稿遅くなって申し訳ございません。

主に三人称視点でキリの良いところまで書きたかったのがいつの間にかカオスに……

それでも楽しんでいただければ幸いです! お読み頂き、誠にありがとうございます!


 時間は少し戻り、外の世界で起きた一連の出来事を書きたいと思う。

 

 


 

「大丈夫でしょうか?」

「ゼロと2人きりなんて……」

「それに、神根島の噂もあるし……」

「だが実際、『二人は同じ島にいた』という事だけだろう? 接触はなかったそうじゃないか。」

「とはいえ、ゼロの事だ。 油断はできん。」

「今までのことを考えれば、特に。」

「確かに。」

 

「………………」

 

 無人になったG1ベースの中へと消えていったユーフェミアの安否を話しあう(議論)SPの者たちが小声で話し、もしもの時の為に、アヴァロンへの非常用直通インカムはユーフェミアにでさえ秘密裏に隠し持っていた騎士の正装に身を包んだスザクはジッとG1ベースを見ながら立っていた。

 

 今回、彼はあくまで『初の元日本人(名誉ブリタニア人)の騎士』の体で『行政特区日本』に参加していた。

 

 コーネリアの命令(というよりはシュナイゼルの“助言”)から、ランスロットもアヴァロンに乗せたままでそのアヴァロンもギリギリ富士山の制空権外に待機していた。

 

『ランスロットがいればゼロは100%来ないだろうね』、らしい。

 

「心配かね、クルルギ(枢木)よ?」

 

「ッ。 ダールトン将軍────」

「────そんな堅い言い方をするな! ここにはマスコミも、俺より上でうるさい貴族もいない! こんな時ぐらい気を抜け!」

 

 バシッ! バシッ!

 

「グッ?! ごほ?!」

 

 ダールトンは固まったスザクの背中をバシバシと叩きながら笑い、スザクは思わず同じような動作をよくする豪快なノネットを連想しながらむせてしまう。

 

「で、ですが自分は少佐で────」

「────その前にお前はユーフェミア様の騎士だろうが?! 少しはギルみたいになれ! あれはあれで堅物だが、案外面白い男だぞぉ?」

 

「(……………………あのギルフォード卿が()()()?)」

 

 スザクが内心思っていたことが顔に出ていたのか、ダールトンが言葉を続ける。

 

「そうだぞ? 意外だろ?」

 

 ふわふわとスザクの頭上に浮かんだのは、漫才のツッコミ役をするギルフォード。

 流石に『なんでやねん?!』と言ってはいないが。

 そしてボケ役はダールトン、またはノネット。

 

 逆にダールトンが思い浮かべるのは公務から外れて一緒にコーネリアの昔話やグラストンナイツ、そして今までのお見合いの申し込みを断り続けるギルフォードをからかいながらワインを共に味わう時間だった。

 

「あ~、自然と(漫才が)思い浮かべられます。」

 

「だろう! 今度、お前も一緒にどうだ?」

 

「えっと……自分では()不足かと……」

 

「え? さっきのは“一緒に飲まないか?”という質問だったが……」

 

「えっと……僕、未成年ですけれど?」

 

「じゃあ、ジュースでもどうだ?」

 

 ドゥ!

 

 そんな時突然、何かの音がG1ベースの内部から聞こえたような気がスザクにはした。

 

「??? ダールトン将軍、今の音聞こえましたか?」

 

「音? どんな音だ?」

 

「何かG1ベースの中から……」

 

 スザクの言葉にダールトンは目を細め、インカムの周波数をG1ベースの周りを警備している者たちに変えて通信を繋げる。

 

「おい、警備班。 何かG1ベースの中から聞こえたか?」

 

『…………………………』

 

「おい! 誰か返事をしろ!」

 

 だがダールトンの通信に答えは返ってこず、代わりにナイトメア特有のランドスピナーが動く音が会場内と外、両方から聞こえてきたことでダールトンはナイトメア部隊に周波数を変えて怒鳴る。

 

「誰だ勝手にナイトメアを動か────?!」

 

 会場内からけたたましい銃声が聞こえ、人の悲鳴声が聞こえてくる。

 

「な、なんだ?! 何が起こっているんだ?!」

 

 スザクは会場からくる人の叫びとブリタニア軍のアサルトライフル、ナイトメアの対人機銃の音に誘われるかのように走り出してしまう。

 

「まて、クルルギ!」

 

 不幸にもスザクの身体能力が高いことが裏目に出たのかダールトンの制止の声より会場内からくる音が勝っていた。

 

 

 ……

 …

 

 上記での騒動が始まる前のフジサン付近にあるスルガ湾……ではなく、反対側にあるシモダから少し離れた海の中でアマルガムのディーナ・シーは待機していた。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

『ねぇダルク? どう思う?』

 

 そのアマルガムの一員であるアリスがパイロットスーツを着てGX01よりさらに広いコックピット内で野菜ジュースを飲みながら、同じスーツを身にまとってパイロット席を逆様の体勢で座りながら漫画を読むダルクに声をかける。

 

『どう思うって……私たちに出された指示?』

 

 実はというとスヴェンは先日の間、カレンや藤堂、留美さんたちのように毒島達に『もしもの時の為』の指示を書き残した封筒を渡していた。

 

『うん。 私がもらった封筒は大まかに“ゼロかユーフェミア殿下を保護して離脱しろ”と言ったものだったわ。』

 

『あ、そう~? あたしとぶっちゃん(毒島)とサンチアとルクレティアは同じようなモノが書かれていたけれど?』

 

『え? じゃあ、まさかアイツ(スヴェン)はやっぱり一人一人に見合った共通した奴や別々の指示を書き残したっていうこと?』

 

『みたいだねぇ~♪』

 

『……なんか妙にウキウキしていない、ダルク?』

 

『気のせい、気のせい♪』

 

 アリスの言ったようにスヴェンが書き残して渡した封筒は一人一人に渡されていたが共通の内容が書かれたものがあれば、『ディーナ・シー』に今はいない人物たちのように別行動をする指示もあった。

 

『……それでダルク自身、()()に対してどう思う?』

 

『ん~?』

 

『私たちの機体になった()()。』

 

 アリスのようにダルクは自分たちが騎乗したナイトメアを内側から見渡す。

 

『新型って言っても、()()()()()()()()でしょ?』

 

『でもこの場合、やっぱり“新型”になるんじゃない?』

 

 確かにダルクが言ったように、彼女たちが乗っているソレは『新型』とも呼べるものだろう。

 

 何せフレーム(骨格)はアッシュフォード学園に残されたガニメデを応用していたが、外側(筋肉)にはGX01以上のサクラダイト合成繊維が取り付けられていた。

 

 以前、スヴェンはGX01のことを『エヴァ』と呼んだが今の姿はさらに人型へと一気に近づいていたものとなっていた。

 上記で『新型』と定義されているが、実は『すでに開発途中だったプラン』を元に仕上げただけに過ぎなかった。

 

 強いて名づけるのなら、『ガニメデ・コンセプトMk.I』となるだろう。

 

 ビィー。

 

『よし、富士山に異常発生した。 これから私たちも動く、アリス機はカタパルトの()()()()()()に乗ってくれ。』

 

『了解。 (しっかし凄く操縦しやすいわね。)』

 

 アリスがガニメデ・コンセプトMk.Iを移動させてカタパルトに移動すると固まる。

 

『……何これサンチア?』

 

()()()()()()だ。』

 

『これのどこが輸送システムよ?! ただの超大型魚雷じゃない?!』

 

『だから()()()()()()だ。 早く入────じゃなくて乗れ。』

 

『“入れ”って今言いそうだったわよね、サンチア?! ちょっと待って! スッッッッッゴイいやな予感がするのだけれど私────?!』

『────よし、ダルクやれ。』

 

『は~い♪ “ザ・パワー”発動!』

 

『ちょっとダルク?! 待って?! 待って待って待って待って待って待ってぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

 アリス機がバタつくが力ではダルク機に勝てるわけもなく無理やり超大型魚雷輸送システムに入れ(乗せ)られる。

 

上部デッキ(カタパルト)のハッチオープン、角度と方角に気をつけろよダルク。』

 

『はぁ~い! え~っと────?』

『────貴方たち覚えていなさいよ────?!』

『────よし! “ザ・パワー・()()()()()()()()()()”!』

 

 ダルク自身の額にあるギアス紋章と機体についていたサクラダイト合成繊維はさらに赤く輝くとアリス機の()った超大型魚雷輸送システムを掴んで軽々と持ち上げてしまう。

 

 ダルクの言った『オーバーホエルミング』とは遠慮のいらない、ギアスユーザー自身で決めたリミッターを解除した状態で、特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の時とは段違いな能力の解放名称である。

 

 余談であるが、命名者はまたもやスヴェンである。

『スタク〇のコマンド的な?』、という彼の独り言を聞いたマーヤのおかげ(?)だった。

 

『うわ、本当に軽く感じるや────』

『────これで(アリス)が死んだら────!』

『────無駄口は叩くなダルク、さっさとしろ────』

 『────化けて出てきて────!』

『────オッケー!“タオパ〇〇イ輸送システム(スヴェン命名)”、いっけぇぇぇぇ────!』

 『────皆に“足の小指を家具の角に当たる”様に呪ってやるぅぅぅ!』

 

 ダルク機の足部分が固定するとアリス機ごと輸送システム(超大型魚雷)を投げると反動で『ディーナ・シー』が逆走する。

 

いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 ……

 …

 

 

 スザクが見た会場では掲げられた日の丸の旗はボロボロになっており、そこかしこには遺体が転がっていた。

 

 若い男性が隣の老人をかばうかのような位置にいた。

 老人は席の背もたれに背中を預け、頭は鼻から上が失くなっていた。

 地面に横たわる成人女性は背中から撃たれ、彼女が手放しそうな赤子は足を吹き飛ばされ、すでに青くなっていて息をしていない様子だった。

 逃げ惑う日本人たちを、まるで狩りをするかのようにワザとナイトメアが外して前方に先回りしたブリタニアの兵士が容赦なく発砲する。

 

 親や親族の返り血を浴び、周りの状況が理解できないままただ泣く赤子に幼い子供の姿。

 

 それらはスザクが目にした惨状の一部でしかなく、彼に7年前の日本(無法地帯)を連想させた。

 

「なんだ……何を……お前たちは?! 何を?! やっているんだぁぁぁぁぁ?!」

 

『“日本人は全員始末しろ”との命令だ。 皇族のな。』

 

 スザクは近くのグロースターに叫ぶと、上記の答えにスザクは言葉を一瞬失ってしまう。

 

「……な、何を────」

『────そう言えば貴方も日本人でしたね?』

 

 スザクがハッとしてグロースターの対人機銃の銃撃を避けて近くの会場の建物内に逃げ込むとひどい頭痛が彼を襲う。

 

「うっ?!」

 

 次々と一枚画のようなイメージが彼の理解が追い付くよりも早く脳内を駆け巡る。

 

「(こ、れは……神根島、の?!)」

 

 前にも似たようなことを経験したと思うスザクはそのまま気を失ってしまう。

 

 

 ……

 …

 

 

 ガウェインの中で乗り出そうとしていたCCも同じ現象が起きていた。

 だがスザクと違い、CCは頭痛を我慢するかのように涙目になりがらも片目を開けたままG1ベースを見る。

 

「これ、は?! まさか、ここに、来ているのか?! アイツが?!」

 

 

 ……

 …

 

 

「……グァ?!」

 

 スヴェンのいた部屋から四つん這いになってG1ベースの脱出経路(通気口)を移動していたゼロもCCと同じく激しい痛みに思わず動きを止めてしまう。

 

「な、んだ?! こ、れは?!」

 

 ゼロはすぐにでも外に出ないといけないことを承知しながらも、脳の芯から来る酷い痛みに悶える。

 

 

 ……

 …

 

 

「こちらエリア11幕僚長のアンドレアス・ダールトンだ! 全フジサン付近のブリタニア軍は発砲を即刻止めよ!」

 

 上記のスザクたちとほぼ時間を同じくして、ダールトンは命令を出すが一向に銃声がやむ気配はなかった。

 

「チッ! お前たちも来い! 俺たちはユーフェミア様のところへ行く!」

 

「ま、まさかこれもゼロの仕業────?」

「────知らん! だがユーフェミア様の安全を確保する!」

 

 ダールトンがSPの者たちと一緒にG1ベースへと走りながら考える。

 

「(どうなっている?! 一部の兵士が暴走したのか? いや違う! この規模はそんな小さなものではない!)」

 

『きゃああああ?!』

 

 前方から少女の悲鳴がして、ダールトンが見ると警備兵らしきものたちが嫌がるユーフェミアを引っ張っている場を見る。

 

「ユーフェミア様────!」

「────ダールトン将軍、危ない!」

 

 さっきまでユーフェミアの安否で互いに意見を出し合っていたSPの者たちのうち一人がダールトンに体当たりをする直後、ダールトンたちに気付いた警備兵が銃を構える。

 

 パパパパーン!

 

 さっきから応答していなかった、G1ベースの周りを固めていた兵士が警護の者たちに銃口を向けて躊躇なく発砲し、ダールトンは反射的に伏せながら腰に手を伸ばしていつも携帯している筈の拳銃を今回は持っていなかったことに彼はハッとする。

 

「しまっ────!」

 

 

 ────ヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルベシャアァァァァァァ!!!

 

 大きな音を立てて空から降ってきた何かが近くに落ちてきたことで、警備兵たちの注意が逸れた隙にダールトンが落ちていた銃でユーフェミアを連れ去ろうとしていた者たちを撃ってから彼女の側に駆け寄る。

 

「ユーフェミア様! ご無事ですか?!」

 

「ダールト────危ない!」

 

 ユーフェミアはダールトンを見てホッとしたのも束の間、彼の後ろで見たこともないナイトメアを見たことで叫ぶ。

 

「何?! 黒の騎士団か?!」

 

『違うわよ!』

 

「ぬ? この声……特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の────?」

『────ええそうよ! 今は“元”が付くけれどね! 乗って、ユーフェミア様! ここから離脱するわ!』

 

「やはり黒の騎士団か?!」

 

『だから違うわよ! でも貴方だけじゃその人を護りながら抜けられると思うの?!』

 

「待ってください! 中にはまだゼロたちがいます! それにスザクも────!」

「────おい! 大丈夫なのか?」

 

 ガニメデ・コンセプトのコックピットが開き、アリスが身体ごと乗り出す。

 

「私の命にかけてもユーフェミア様は守ると誓うわ、ダールトン将軍。 (元々アイツに頼まれたから、そのつもりだったしね。)」

 

「……」

 

「そこの者に問おう、貴様は誰の指示で動いている?」

 

「「ゼロ?!」」

「る────ゼロ!」

 

 G1ベースから出てきた人物にアリスとダールトンがビックリする声を出し、ユーフェミアは嬉しそうになり、アリスはさっさとコックピットの中へと戻る。

 

「ゼロ! スヴェンさんはまだ中にいるのですか!?」

 

「なに? まだ出ていないのか?!」

 

「(ああ、もう!) それと私の指示した人と同一人物よ!」

 

「なるほど……」

 

「ゼロ! これはどういうことだ?!」

 

 考える仕草をするゼロにダールトンが当然の問いをしながら銃を構える。

 今までで彼が動いていたのは軍人、そしてコーネリアに頼まれたからだが当然未だに何が起きているのかはわからない。

 

『ならばゼロに聞けばいい』、と言う訳でもないのだが『彼ならば何か知っているかもしれない』というのもあった。

 

 無論、ゼロが素直に答えると彼は思って────

 

「────これは私の推測だが、何者かが『行政特区日本』を利用して騒動を起こそうとしている線が最も高い。 無論、我が黒の騎士団に見せかけたものだ。」

 

「何?」

 

「アンドレアス・ダールトン、これから私は黒の騎士団を率いてこの場の混乱を収める。 そこで貴方に頼みたいことがある。」

 

「頼みたいことだと? テロリスト風情が────!」

「────(チィ! やはり根は堅物の軍人か?! ええい、時間などないというのに────!)」

 

 ゼロの仮面がスライドし、彼が手袋を取った手でコンタクトレンズを取る。

 

「────『コーネリアにありのままここでの出来事、そして“ゼロがトウキョウ租界に現れたら話をしたいので周波数を140.15に切り替えろ”と伝えろ!』」

 

 冷静かつ気丈に振る舞おうとしながらも内心焦るゼロの左目に浮かび上がったままの紋章がダールトンの目に写り込む。

 

「……分かった、そうしよう。」

 

 ダールトンがそう答えるとその場から走り出し、ゼロはコンタクトレンズをはめ直してユーフェミアを見上げる。

 

「ぜ、ゼロ……今のは、何?」

 

『(なるほど。 あれがゼロのギアス……マオの言っていた『クララ』とかいう奴に似ているわね。) ユーフェミア様、早く中に乗ってください!』

 

「でも────!」

『────スヴェンを助けたい!』

 

 ユーフェミアがゼロの方を見る。

 

「行け、ユーフェミア! (俺の考えている通りなら、目の前のこいつ(ガニメデ・コンセプト)もスヴェンの仲間だ……全く、何手先まで考えているのだ?)」

 *注*原作知識です。

 

「(落ち着いたらチェスの対戦を頼もう。)」

 *注*原作知識です。

 

『ゼロ!』

 

 ユーフェミアがガニメデ・コンセプトの乗り込み、アリスがG1ベースを殴ってライダースーツを着た誰かを、アリスとユーフェミアがガニメデ・コンセプトに乗せているとその場に新たな声が通信越しにして来て、ゼロが見ると紅蓮が近づいて来ていた。

 

「(カレン? だが俺はまだ、指示を────!)」

『────?! 敵────?!』

「────違う! と、取り敢えず敵ではない!」

 

 その間にさっきまで着陸の姿勢のままだったガウェインがやっと動き出してゼロが乗り込む。

 

「待たせたな、坊や。」

 

 CCはいつもの態度を装うが、泣いた跡を見てルルーシュが冗談交じりに小言を言う。

 

「なんだ、お前泣いていたのか?」

 

「ああ、あまりにも痛かったからな。 お前が。

 

「相変わらず口の減らないピザ女────!」

『────ゼロ! これはどうなっている?! 取り敢えず黒の騎士団を出撃させて日本人を護ってはいるが────!』

「(────藤堂まで来ているだと?! どういう────ええい! この流れを使わない手はない!) 黒の騎士団、総員に告げる! 行政特区日本は、我々をおびき出すブリタニアの罠だったのだ! 式典会場に突入し、日本人を救い出すのだ! カレンは私に続け!」

 

『了解!』

 

 ルルーシュは先ほどまであったガニメデ・コンセプトのいた場所を見るが、何の手品か既に消えていた。

 

「(さっきの奴がG1ベースの中から引きずり出していたのはスヴェン……と思う。 “トウキョウ租界で落ち合おう”、か。 瞬時に状況を把握し、そこまで読むとはな……この背中に寒気がするのはシュナイゼル以来だ。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……フゥー、痛いのはどうしようもないかな?」

 

 G1ベースのコンダクションフロアの中で、ようやく回復したVVが盾&クッション代わりにした、微動だにしない防護服たちで出来た山の中から這い出てくる。

 

「……携帯もダメか。 ならインカムを借りて……もしもし? ボクだよボク。 君も『()()』を始めて良いよ……生死? 出来れば生きていた方が良いけれど、面倒なら亡骸でも良いよ。」

 

 VVが通信を切り、防護服に装着されているヒモを引いてその場からルンルン気分で歩きだすと瞬く間に防護服たちの遺体が炎に包まれていく。




尚何故アリスが投げられたのかは彼女のギアス、『ザ・スピード』が『加重力の操作』というのが主な理由です。

彼女も『オーバーホエルミング』も使えますがリミッターという『遠慮なし』でギアス使うのでCC細胞が激ヤバなレベルで活性化してしまうので『ロケットの第一段階噴射』をダルクが肩代わりしたような感じです。

勿論、アリスがこんなことに同意するとは思っていないのでワザと彼女には伝われていなかった様子です。


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第74話 ブラックリベリオン2

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます! m(_ _)m
全て活力剤&励みとして、ありがたくいただいております!

未だに暑い日が続いていますが共に頑張りましょう!

尚勢いのまま書きましたので少々カオスかも知れません。
ブラックリベリオン自体がカオスですけれど。 (汗

楽しんでいただければ幸いです!


 カレンは会場の周りを包囲しているサザーランドが発砲し始めた時点で紅蓮を突撃させ、真っ先にG1ベースへと移動する際に出来るだけの敵機を再装填の長い輻射波動ではなく、すぐに使えてかつ無駄な損害なくピンポイントで敵を撃破できるパイルバンカーを駆使してゼロと合流した。

 

「どおりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 そのまま彼女は会場内へと突入し、対人機銃を逃げ惑う日本人たちに撃つグロースターを防御のために腕で持ち上げた腕とランスごと高出力の輻射波動で粉砕する。

 

「ブリタニア……ブリタニアッッ!!! よくも!」

 

『日本人か、貴様?!』

『日本人は抹殺対象だ!』

 

 新たに自分の紅蓮に気付いたサザーランド二機にパイルバンカーそして輻射波動を同時に使って同時に撃破する。

 

 『なんで“日本人”ってだけで殺さなきゃいけないのよ?!』

 

 会場の酷い惨状と理不尽な理由にカレンは歯を食いしばり、緩み始めた涙腺を引き締めながら昴が先日渡してきた封蝋付きの手紙の内容を思い出す。

 

カレン、“会場に異常があった”という事は恐らくブリタニア軍が何かしらの動きをし始めたのだろう。 直ぐに突撃し、ブリタニアの皇室専用陸戦艇(G1ベース)へ直行してゼロがいればすぐに指示に従って出来るだけ騒動を早く終わらせる為に援護。 追伸、もし藤堂さんが止めようとするのなら(スバル)の名前を出して構わない。

 

「(まさかこれが、昴の止めたかった事態なの?!)」

 

 カレンが見た悲惨な光景に、理不尽さから来る怒りと悲しみがマグマのように心の奥を沸かすのに十分すぎた。

 

「た、助け────!」

「(────やばい?! あの子が!)」 

 

 だが仮にも数々の修羅場を潜った猛者であることに変わりはなく、今度はおぼつかない足取りで自分の方向に逃げようとする少女に照準を合わせるサザーランドを見て急速に対処を脳内で巡らせる。

 

「(輻射波動────は駄目。 グレネードランチャーも同様、子供が巻き込まれる!

 呂号乙型特斬刀────はリーチが短すぎる。

 飛燕爪牙────は可能性はあるけれどスラッシュハーケンとは違うから絶対的じゃない。

 なら────!)」

 

 カレンは左の操縦桿でパイルバンカーの狙いを済ませてボタンを連続で二回押すとパイルバンカーの釘部分がそのまま射出してサザーランドの右腕を貫く。

 

「可動部に────?!」

 

 紅蓮の飛燕爪牙が今度はサザーランドの左肩に引っ付き、少女を迂回するように動いていた紅蓮に引っ張られて倒れたところを呂号乙型特斬刀でサザーランドにとどめを刺す。

 

 『────来い、ブリタニア! “日本人”ってだけで殺したいのなら、私が相手になってやる! 私は日本人! 日本人なんだ! 日本人はここにいるぞ、ブリタニアァァァァ!』

 

 出来るだけ敵のナイトメアを目立つ紅いカラーリングをした自分に注意を引かせようと、カレンはオープンチャンネルと外部スピーカーを使う。

 

 そんな『(あか)』を、血の『(あか)』の中から救われた少女は呆然として奮闘する紅蓮に魅入られていた。

 

『もし、紅蓮が先行していなければ。』

『もし、カレンが原作より取り乱していたら。』

『もし、“パイルバンカー”という非現実的な(ロマン)武器を搭載していなかったら。』

 

 それぞれの『もし(if)』がその日に重ねりあった結果、原作では大勢亡くなるはずの者たちは命を取り留めた。

 

 上記でカレンに救われた少女────『朱城ベニオ』もその内の一人である。

 

 

 ……

 …

 

 

 藤堂の操る月下・指揮官機が峰部分にブースター噴射機を付けた制動刃吶喊衝角刀(せいどうやいばとっかんしょうかくとう)を使って『行政特区日本』を四方から突貫する黒の騎士団でも(先導したカレンを除けば)一番前に出ていた。

 

『各機、小隊ずつに散開! 出来るだけブリタニアを我々、黒の騎士団に注目させて各個撃破! 出来るだけ多くの日本人を救うのだ! 紅蓮に続け!』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 藤堂の指示に従って黒の騎士団が浅くかつ広い布陣へと変わり、藤堂本人の前に出ていたグロースターが振り返ざまにランスを構えようとする。

 

『日本人を名乗るイレヴンは抹殺対象だ!』

 

「(やはりそれが本音か────)────ブリタニアァァァァァァ!」

 

 藤堂の制動刃吶喊衝角刀が突撃する機体の勢い、ブースターから生じる遠心力、そして廻転刃刀より質のあるそれはグロースターを肩から腰まで両断させるには十分だった。

 

『流石藤堂さん!』

『半端ねぇ……』

 

『作戦中だ、私語は慎め! 一番隊は私に続け!』

 

 彼にしてはかなり荒い剣術だったが彼も怒りを覚えていた。

 理不尽なことはブリタニアに取って日常茶飯事だが、噂では他の皇族と違って真にエリア11のブリタニア人と原住民(日本人)双方の為に精を出していたユーフェミアには彼でさえも少なからず期待していた。

 

 日本が破れて7年、藤堂は『奇跡』の重荷に苦しんでいた。

 一見すると彼の二つ名は名誉だが、『厳島の奇跡』では瀕死に陥った仲間数人を利用して彼らの介護に来たブリタニア軍の後方支援部隊と海上部隊を一気に彼らブリタニア自身が持ち込んだ装備のサクラダイトに誘爆させ、大打撃を与える。

 その混乱に乗じて電撃作戦で攻め込んできたブリタニアを持ちうる火力と機動力で一掃するというモノがかなり省略化した内容だった。

 

 僅か数人の犠牲で初めて日本はブリタニアに勝利を収めていたが、この作戦によって如何にたとえ少量でもサクラダイトが『自爆玉で誘爆させる』として有用か日本人に日本政府が知らしめてしまった。

 

 結果、猛攻を続けるブリタニアに対して民間人でさえもサクラダイトを使った自爆攻撃をするようになった。

 しかも彼ら彼女らが口にするのは『藤堂に続け』、『神風を呼び起こせ』、『ブリタニアに思い知らせろ』など。

 

 年代は多種多様で老婆もいれば十代の学生もいて、決して小さくはない『戦果』を戦時と戦後でも挙げていた。

 

 ブリタニア正規軍の部隊や拠点、そして駐屯地や駐屯兵を丸ごと誘爆させるなどが絶えなかった。

 

 喜ぶ人はいたかもしれないが、藤堂には苦痛でしかなかった。

 

 だが彼という『旗』があったからこそ『希望』を人々が持って生き続けられたたことも、その『希望』が更に人を死なせるとしても同時に生きる『希望』でもあったことにも。

 

 この二律背反がある意味、藤堂の言動を今まで縛っていた。

 

 だがもし、『行政特区日本という別の希望が出ればあるいは……』とも考えていた矢先にブリタニアが一方的にほぼ民間人で結成されていた日本人を虐殺し始めたことに、彼は久しぶりに何とも言えない怒りと失望を感じていた。

 

 

 ……

 …

 

 

「ウワッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 黒の騎士団の後方部隊用に変えたキャンピングカー型アジト内で情報部のディートハルトは愉悦に浸りながら笑っていた。

 

「思っていた以上の、ドデカいネタだねぇ~?」

 

 ラクシャータはディートハルトと数名の者たちがアジト内部に設置してある機材で、会場内の報道設備の主導権をジャックし、惨状をあらゆるメディアやアングラサイトなどに流していた。

 

「素晴らしい! どうやったかは知らんが、やはり(ゼロ)は最高の素材だ! (彼はこの世界に波乱を導く存在! カオス! 私が追い求めていた存在そのものの誕生に私はいま立ち会っている!)」

 

 

 ……

 …

 

 スザクは気が付くと、銃身から煙を放つ銃を持ちながら会場の中で立っていた。

 

「……僕は……俺は……何を────う?!」

 

 そして彼が自分のいた通路を振り返ると()()()()絶命した無数のブリタニア兵士の遺体が横たわっていた。

 

「まさか……僕が、これを? (だ、だが……僕は何も覚えて────)」

 『────生きろ!』

 

 一瞬だけスザクの脳内を、上記の言葉がおぼろげに浮かんでくるが視界はまるでノイズが混じった上に色も赤く塗りつぶされていたようなものだった。

 

 『枢木少佐! スザク君! お願い、応答して!』

 

 スザクは胸ポケットに隠し持っていたインカムから聞こえてくるセシルの声に気付き、それを耳につける。

 

「セシルさん!」

 

『スザク君! 良かった────』

「────会場は……ユーフェミア様は今どこにいますか?!」

 

『わからないの! 少し前からブリタニア軍は“皇族命令だ”の一点張りでここに集まったイレヴンたちを襲っていて、聞く耳を持たないの! さっきから近くにいるダールトン将軍にも繋がらないし、長距離通信が上手く出来ない状態なの!』

 

「ランスロットは出撃できますか?!」

 

『今アヴァロンに貴方が安全に乗れる空域に移動するからそこまで来て!』

 

「了解です、セシルさん! (さっきのことはとりあえず後回しだ! まずは、ユフィの安全を!)」

 

 スザクはそう思いながら、いまだに銃声の続く会場を走る。

 

 

 ……

 …

 

 

 上空から攻撃できるガウェインは次々と指先を射出するスラッシュハーケンを使ってブリタニア軍を駆逐していく。

 

 本来、ナイトメアは一人乗りなのだがガウェインは複座型だった。

 

 これはガウェインが試作機であると同時に特殊なシステムを搭載していることから一人が機体の操縦、もう一人がドルイド(特殊な)システムの制御と武装管理をするものだが同時に機体を操縦することは可能である。

 

 ゆえにルルーシュがスラッシュハーケン()を使う間、CCがハドロン砲()移動()の操縦をしていた。

 

「(クソが! 誰だか知らんが、この俺の邪魔をしやがって!)」

 

 この役割分担は自然とルルーシュの怒りを表現するかのような、ガウェインは圧倒的な速度で周りを単騎で制圧していた。

 

「おい! あれを!」

 

 CCの声と見ている方向を見るとアヴァロンが会場の近くまで来ていた。

 

「やはり待機させていたか! (相手はやはりシュナイゼルか?!)」

 

「どうする? 撃ち落とすか?」

 

 CCの問いに、ルルーシュは思考を加速させる。

 

「(そうしたいのは山々だ。 だが恐らくはランスロットもあるだろう。 ここで鹵獲できるのならこれ以上ないのだが黒の騎士団は陣を広げすぎた。 多大な犠牲が出るだろう。 ならば今はこの事態を収束させつつユフィたちとトウキョウ租界で────)────んな?! ば、バカな?!」

 

 ルルーシュがふと見て、思わずガウェインのカメラズームを使って画像を拡大化する。

 画面の中には、()()()()()()()()()()()()だった。

 

「(ユフィ……だと?)」

 

 しかもあろうことか、少女は銃を手に持っていて日本人を撃って────

 

 「────やめろぉぉぉぉぉ!」

 

 ルルーシュは算段も何もなく、ただただ私情に身を任せてガウェインの操縦権を乗っ取ってガウェインを急降下させて少女の近くに荒い着陸をする。

 

「クッ?! ルルーシュ?! 待て────!」

「────やめろ! やめるんだユーフェミア!」

 

 ルルーシュがゼロとしてガウェインの中から飛び降りながらそう叫ぶと()()()()()()がガウェインの着陸した際に巻き上げた土煙から覆っていた顔で彼を見る。

 

「あら? 来てくれたのですね、ゼロ!」

 

 ここでゼロはルルーシュとして小さな違和感を抱く。

 

 見た目も声も、全てがユーフェミア。

 

「(だが()()()()()。)」

 

 そうゼロは感じた瞬間に、彼はスヴェンに手渡されて懐にしまい込んだ拳銃に手を伸ばす。

 

「ユーフェミア。 私が誰だかお判りでしょうか?」

 

「もちろんです! ゼロですよね?!」

 

 拳銃を握る手にゼロは思わず力を入れた。

 

「あ、不躾で申し訳ないのですが仮面を取ってもらえませんでしょうか? 日本人であれば虐殺しなければいけないのです!」

 

「(やはり、違う!)」

 

 ここでユーフェミア────否。 ()()()()()()()()()()()の声、姿、動作、仕草、その一つ一つの全てがルルーシュの癇に障った。

 

 彼は腹が煮えくり返るような感情が一気に彼を支配する一方で、冷静な一部が自分に語り掛けた。

 

「(やはり、違う。 こいつはユーフェミアではない。 今思うと、彼女はスヴェンと彼の仲間に保護されている筈だ。 それに本物ならば、ユフィはゼロがルルーシュだと言うことも、日本人ではないことも知っている……ならば目の前にいる奴は別人だ。 それも巧妙な完成度の『ユーフェミア』。) CC。 ギアスの中に、『他人に成り済ます』類のものは存在するのか?」

 

 ゼロは仮面についた通信機能で背後のガウェインにいるCCに上記の質問を投げかける。

 

『……先に言っておくが、発現する能力は人によって違う。 お前の聞いているようなもの、それとお前と似た能力が他にあっても不思議じゃない。 ついでに言うと、私はそのような奴に心当たりはいない。』

 

「そうか。 (つくづく強力であると同時に面倒な能力だな、ギアスは)────」

 

 ────カチャ。

 

 ゼロはスヴェンから譲られた拳銃、『コルトガバメント』を明らかにびっくりする()()()()()()()()()()に向ける。

 

「無礼な! 私はユーフェミア・リ・ブリタニア────」

 「────貴様ごときがその口で! 彼女の名を語るな、下郎が! 誰だ貴様は?! 目的は何だ?!」

 

 ゼロはいまだに自分を『ユーフェミア』と主張する少女から情報を取り引き出そうとする。

 

「ですから私は第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアです! そして何があろうと日本人は抹殺しなければいけないのです!」

 

「……そうか。 ならば、もういい。 (このやり取りから、こいつは俺のようなギアスを持つ奴に恐らく『ユーフェミアになりきれ』と、『日本人を名乗るものは殺せ』と命じられているのだろう……哀れだが、見逃すわけにもいかない。)」

 

 バァン!

 

 ゼロの撃った弾は正確にユーフェミアの心臓を貫き、銃を撃ったゼロ本人は反動と音にびっくりしそうになる。

 

 コルトガバメントは45口径とかなりの大き目で、音量は銃や同じ口径でも弾丸の種類によって違ってくるが、(『普通』を外国で一般の者が手に入れられるものと定義して)約110~140dbである。

 

 自動車などで『五月蠅い』部類のクラクションで約110dbなのでどれほど火薬式のコルトガバメントが出せる音量が理解できるだろうか?

 

「(反動のことは聞いていたが、なんとうるさい銃なのだ────!)」

 『────ゼロ!』

 

 CCの声とハドロン砲が上空に撃たれたことでゼロが上空を見るとランスロットが急接近していた。

 

「スザク?! (ええい! なんで毎度のことながら最悪のタイミングに来るのだ、お前は?!)」

 

 

 ……

 …

 

 

「も、戻らなくていいのですか?」

 

『特区日本』現場から、アリスのガニメデ・コンセプトの中にいたユーフェミアがはるか遠くになった会場の方向を見る。

 

「今あの現場は混沌としていて貴方の安全が保障できない。 それに、あそこには安心して使える医療器具とかあるなんてわからないわ。」

 

「医療器具?」

 

「そいつに死なれちゃ困るからね。」

 

 アリスが“そいつ”と呼んだスヴェンは息を浅くしながらパイロット席に前かがみに寄りかかっていた。

 

「だから今は近くのアジト────ッ?! もう追手が?! ユーフェミア様! 次いでにアンタ(スヴェン)も! しっかり掴まっていなさい!」

 

 アリスが後ろにいたユーフェミアに振り返っていたおかげで自分たちを追う黒い機体たちに気付き、彼女は一気に機体の速度を上げる。

 

「(これでもついてくる? 速度を更に上げる? そうするとエナジーが心許ない。 “ザ・スピード・オーバーホエルミング”なら確実だけれど、反動でこいつが更に傷が深くなる。 多少の応急処置の知識はあるけれど、専門じゃないし。 なら、弱めの“ザ・スピード”で何とかする!)」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「…………………………」

 

 スザクは頭を抱えながらアヴァロンの中の医務室でこう思っていた。

 

『なぜもっと早く駆けつけられなかった?』

『なぜ彼女を一人にした?』

『なぜゼロをあそこまで信用した?』

 

 等々と言った疑問がグルグルと彼の荒れ狂う、火のような気持ちに油を注ぐ。

 

「……あなた、は。」

 

「ッ! き、気が付いたんだねユフィ!」

 

「……みえない。」

 

 その光景は原作に近いものだが、スザクの前で開いた医療ポッドの中に横になっていた少女────ユーフェミア(偽?)にゼロが使ったのはコードギアスの銃では無かったことから原作より早く死の淵にいた。

 

「ぼ、僕はここにいるよ、ユフィ!」

 

 スザクは冷たくなっていく彼女の手を両手で握る。

 

「ちが……ちが……」

 

「うん、大丈夫! 出血は医者が止めてくれたよ!」

 

「ちが……ちが……わた……わた……」

 

「だから……だから!」

 

「(ちがう、の……わたしは……わたしは……)……わた、しは……」

 

「僕を独りにしないでくれ! ユフィ!」

 

「わた、し……は………………………………ゆ────(ーフェミアなんかじゃ……ない。)」

 

 惜しくも死の間際に少女は伝えようとした言葉はスザクに届かず、ただ心拍音が停止した電子音にスザクが泣き出す。

 

 

 この光景を、医務室に取り付けられたカメラ越しに頬杖をしながらつまらなさそうなVVが別の部屋で見ていた。

 

「(……うーん、連れ去られるのが阻止された時は少し慌てたけれど、前倒しにしたプランBは及第点だね。 こうも死にそうになっただけ解けちゃうなんて、やっぱりあの子のギアスはちょっと甘いかな。)」

 

 彼は椅子から立ち上がり、医師や看護婦たちが待機している部屋の中に入る。

 

「んじゃあ『皆、普通通りに動いていいよ』。」

 

 そうVVが掛け声をかけると、一斉に部屋の中の者たちが動き出す。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

『ここ、行政特区日本で起きたことがブリタニア偽善の象徴そのものである!』

 

 騒動が収まったフジサン付近では、ゼロが演説を行いながら今後の事を考える。

 

「(奴は確かに言った……“トウキョウ租界で落ち合おう”と。 ならば俺に出来る事とは黒の騎士団をトウキョウ租界に動かし、彼とユフィに合流してコーネリアに接触する! 彼女ならばユフィ、そして母さん(マリアンヌ)の死の真相の為ならば手を貸してくれるはずだろう!) 我らが作る新しい国は、あらゆる人種、歴史、主義などを受け入れる広さと、強者が弱者を虐げない矜持を持つ国だ! その名も、『合衆国日本』だ!」

 

 元行政特区日本の会場、そしてゼロの報道を見ていた日本人たちが黒の騎士団含めて拍手と歓迎の声を上げていた。

 

「(ならば! 『合衆国日本』という隠れ蓑とナナリーでも住める世界の原点とし、真相をコーネリアたちと共に秘密裏で追い求めるまでだ!)」

 

 

 このことに関し、ラジオとニュース報道局などに緘口令が敷かれるが既に映像などが流れた時点で遅かった。

 

 結果、エリア11で今まで見たこともない比の反ブリタニア暴動がエリア11全土で一斉蜂起することとなり、名誉ブリタニア人までもがこれに加勢するという前代未聞の事件が多発する。

 

 この一大事に対処すべく、エリア11の総督であるコーネリアは無理やりにでも暴動の中心地となったフジサン付近に専用機ですぐに出撃しようとし、自分を止めようとするギルフォードを殴り倒し、車いすに乗ったクロヴィスを殴ってやっと自分のしようとしていることに気付き顔色を悪くしながらも、一つの命令を下す。

 

『全軍、()()()()()()()()()()』。

 

 コーネリアはそれだけを言い残し、生きた屍のような足取りで彼女は政庁でユーフェミアが使っていた部屋に籠りながら、何度も何度もユーフェミアに連絡を取ろうとするが一向に繋がる様子はなかった。

 

 後にこれが、『ブラックリベリオン』と世間で呼ばれる事件と長い()の始まりであった。



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第75話 ブラックリベリオン3

お待たせいたしました、次話です!

ブラックリベリオンのカオスが続きます。 (;>Д<)

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 行政特区日本────否。 『元行政特区日本』での会場に残されたG1ベースの“掃除”と“再利用”の為の修理が施されている間、一つの客室ではルルーシュがCCにスヴェンからもらった箱を見せていた。

 

「これを、あいつがお前にか?」

 

「そうだ。 奴は知っていた、俺のギアスの事を。 奴がこの俺と……ゼロとの接点は黒の騎士団。 そして黒の騎士団にはお前がいる。」

 

「私はあいつにギアスのことは喋っていないぞ。」

 

「ほぅ? だがお前と奴が一緒にいる事はよく耳にするぞ?」

 

「嫉妬か?」

 

「バカ言え。 質問に答えたくないのならば良いが、お前との契約を遂行するにはある程度の答えが必要になってきただけだ。 お前と奴の……スヴェンとの関係はなんだ? 俺と同じ契約をしたのか?」

 

 CCはいつもの仏頂面を維持するが、内心では舌打ちをする。

 

「(チッ。 何でこいつがあの若造の事を? 若造が喋ったのか? だがこれぐらいなら────)────そうだな、ある意味()()()()()()()()()()()()ような間柄だ。」

 

「……俺よりもか?」

 

「少なくとも、奴は私の個人的事情にむやみやたらと首を突っ込もうとはしない。」

 

「「……」」

 

 二人の間に会話はなく、外からはエリア11全土が一斉蜂起したことやその結果で武装集団が黒の騎士団との合流したがっていることや、暴動が起きているブロックの現状のアナウンスが壁越しにぼんやりと聞こえてくる。

 

「(まさか……奴が(ヨコスカ)(ルルーシュ)がゼロだと知った奴か?! だがそう考えればG1ベースでの出来事をある程度の説明はつくが、ギアスはどこから知った? まさか、(スヴェン)の情報網か?)」

 *注*原作知識です。

 

「それで? これからどうするのだ、ルルーシュ? お前のことだ、もうすでにある程度の考えはあるのだろう?」

 

 窓から入ってくる夕焼けの光から目を逸らし、部屋の中にあるソファーに腰を掛けながら外したコンタクトレンズがすっぽりと入る箱を見るルルーシュにそうCCは問う。

 

「……トウキョウ租界に向かう。」

 

「コーネリアと……いや、帝国(ブリタニア)ともう戦争をする気か?」

 

「いや。 上手くいけばコーネリアもこちら側に引き抜ける打算……“チャンス”がある。」

 

「なんだと? 妹を撃ったのにか?」

 

 ここでCCが意外そうな表情を浮かべる。

 いつもはニマニマした笑みや、澄まし顔の彼女にしては滅多に見せない顔だがルルーシュは気付かないまま口を開ける。

 

「俺の撃ったあのユーフェミアに似た奴は……偽物だ。」

 

「なぜそう断言できる?」

 

「本物のユフィには俺の……ゼロの素性を話している。 だから再会した奴が俺が日本人かどうかの確認なんてするはずがない。 そこが『コーネリアの説得のカギ』と、俺は感じている。」

 

「“感じている”? 曖昧過ぎてお前らしくもないな。 ある意味子供らしくて可愛いぞ?」

 

「言ってろ、ピザ女……しかし、まさか俺のギアスがこのタイミングでオンオフができなくなるとは……」

 

 ルルーシュの独り言にCCがピクリと反応する。

 

「……それでそのコンタクトレンズか……良かったな?」

 

「何がだ? スヴェンともユフィとも連絡ができない、準備も何もかも中途半端なまま黒の騎士団を旗印にエリア11の住民どもが一斉蜂起……状況は想定以上に悪い!」

 

 CCの悪戯っぽい笑みに、ルルーシュはイラつきから辛辣な言葉を返す。

 

「だがお前個人としては、『まだ人里に住める』じゃないか。 それは良くないのか?」

 

 CCに指摘され、さっきまでカッとなっていたルルーシュはハッとして冷静になり、箱を見る。

 

「(そう言えばよく見るとこの箱、宝石店などで見る物に似ているが外側だけで中は完全なカスタムメイドだ……

 スヴェンはいつからギアスを────いや、このこと(暴走状態)を予測していた? 

 それに、こんなことをしても自分に直接得があるわけでもない。 せいぜいが、俺に恩を売ることぐらいしか……

 あいつはいつもそうだ。 

 昔から自分の得にならないような物事を率先して行っている……と思えば、時には俺以上の第三者視点から損得からくる計算で動いているような行動を取る……一体どちらが本当のアイツだ?)」

 

 珍しく感傷的になるルルーシュを見ていたCCは内心、複雑な気持ちを持っていた。

 

「(あの若造……私だけではなく、ルルーシュのことまで知っているとは何者だ? ギアス能力者かコード保持者……ではないな。 

 ()()()()()()()()。 それは今までの接触で確認できているが……だとすると……奴は何だ?)」

 

 ピリリ♪ ピリリ♪

 

 ルルーシュの携帯が鳴り、着信相手が『ナナリー』と見てはすぐに電話に出る。

 

「ナナリー? どうしたんだい?」

 

『あ、お兄様? ユフィお姉様とお話できるかどうかと思いまして。』

 

「ッ……あ、ああ。 そうだな、今は難しいんじゃないか?」

 

『ほら、この間の学園祭は中断になってしまいましたから、次の学園祭に誘えるかどうか。 今度はお兄様と私とユフィお姉様に、アリスちゃんやライブラちゃんやスヴェンさんたちに、他の皆さんと回るのはどうかな、と。』

 

「ナナリー……ニュースやラジオとかで、何か“ユフィ”や“行政特区日本”のことで聞いていないか?」

 

『いいえ。 “行政特区日本” に関しては途中までしかなくて、ユフィお姉さまに関しては何も。 今では“活性化した暴動などの事に対して警戒せよ”という事しか……』

 

「そう、か……分かった、ありがとう。 しっかり戸締りをするようにと、咲世子さんに伝えてくれるかな? 俺も遠出しているから、近くのホテルか何かで泊っていくよ。 だから、学園に戻るのは少し遅れそうになる。」

 

『分かりました。 お兄様も、お気をつけて。』

 

「うん、ナナリーも気を付けてね。 ユフィと話ができるときにナナリーの頼みを伝えておくよ。 もちろん、できればスザクにも。」

 

『ありがとう、お兄様!』

 

「じゃあ、またあとでねナナリー。」

 

『はい、お兄様。 またあとで。』

 

 ルルーシュは電話を切り、ソファーから立ち上がる。

 

「(そうだ。 この事態の“流れに逆らう”のではなく“受け流して利用”するんだ! このままでは暴徒化したままではいらぬ損害と軋轢が出来てしまう!

 そうなればエリア11は今まで以上に監視が厳しくなる────いや、最悪の場合は今度こそ、原住民(日本人)のいるゲットーが根絶やしにされる可能性も……

 そうなる前に母さんのこと、そしてユフィの事をコーネリアに話して交渉のテーブルに強引にでもつかして俺の考えも、『合衆国日本』にもついて話す。 ユフィも、ナナリーたちの為にも! それに万が一、奴が応じなかった事態でも黒の騎士団と立ち上がった日本人たちを誘導して何とかするだけだ!)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「アイツ、しつこい!」

 

 アリスのガニメデ・コンセプトはヨコスカ租界……の一歩手前にあるフジサワにある隠れ家の一つに向かいながら森の中を“ザ・スピード”を発動させながら移動していた。

 

 本来ならトウキョウ租界へと向かっている筈のディーナ・シーやアマルガムと合流するために移動するのだがスヴェンの容態が芳しくない上に謎のナイトメアに追われていたことから街道などを迂回していた。

 

「だ、大丈夫なのですか────?」

「────分かんないけどそいつ(スヴェン)だけはちゃんと支えといて!」

 

 さっきから激しく揺れるガニメデの内部で、ユーフェミアは眠っているかのように目を閉じていたスヴェンの体を支えていた。

 

「(いけね。 意識を失っていたか……)……………………う。」

 

「気が付いたのですね!」

 

「状況、は……?」

 

「丁度いいわ。 今は迂回してフジサワを目指している、あそこの隠れ家ならあんたの治療もできると思うけれど……今、追われている状態よ。」

 

「機体……?」

 

アンノウン(識別不明機)。 けど、私の“ザ・スピード(弱)”でも振り切れない。」

 

「そう、か……(胸が痛い。 吐きたい。 胃がデロンデロンと変な感じがする。 “(弱)ってなんやねん”ってツッコミたい……けど……)」

 

 スヴェンはよろよろとアリスの握る操縦桿に手を付ける。

 

「はひゃ?! ちょ、ちょっと何を────?!」

「(────『“時間”に意味はない』。)」

 

 スヴェンは止まった世界の中を移動するために握っていた操縦桿を────

 

「────な、なにこれ?」

 

 アリスがびっくりしながら違和感ありまくりの周りを見渡す。

 

「(え。)」

 

「えっと……なんだか周りが止まった感じがしますね?」

 

 ユーフェミアが困ったような顔で感想を出す。

 

「(ええええぇぇぇぇぇぇ。 うそ~ん?)」

 

 思わず時間が無くなった世界にビックリするアリスたちにビックリしながら気が抜けそうなスヴェンは眠気が絶えない頭を気力で無理やり切り替える。

 

「と、取り敢えず動けるのなら今のうちにフジサワへ移動してくれ。 何時まで()()か分からないが、動けるのなら好都合だ。」

 

「……了解。」

 

「(ほ。 取り敢えず、今はユーフェミアの安全と俺の治療だ。 これに関してどう説明すればはわk────)」

「────後で教えてよ()()()()? 全部が落ち着いてからでいいからさ?

 

 なおスヴェンの角度から見えなかったが、アリスは神妙な顔をしていた。

 

「(まさかこいつ……私たちとは別の機関だけで、同じ境遇持ちだったの?)」

 

 アリスが思い浮かべたのは以前、河口湖の出来事後にミレイがある日スヴェンの過去がそれほど良くなかったような話だった。*1

 

 彼女たちは止まった世界を不思議に思いながらもフジサワにある隠れ家の“入り口”につくとアリスは急いで近くのパネルにコマンドを入力していくと地面が地下へと降りていく。

 

「よし、こんな世界でも電源もモーターもちゃんと動いているわね。」

 

「こ、これは────?」

「────エリア11は地震で有名な土地だけれど、租界では感じられない細工の正体がこれ、地震対策用の階層構造よ。 エリア11の所々にこういう場所を所持しているらしいわ。」

 

 ガニメデ・コンセプトのコックピットから外の様子を見ていたユーフェミアに答える。

 

「“らしい”?」

 

「……私も全部把握しているわけじゃないから。 (“組織に入って日が浅い”なんて言えないわ。)」

 

 彼女たちが乗っていた巨大パネルが動き地中を移動すると、まるでその移動を隠すかのように他の巨大パネルが動いて空いた穴を埋めるその様子はまるで人体の“皮膚”が再生するような様だった。

 

 やがてパネルの移動が済むと、開けた場所にユーフェミアが見たのは一昔前のデザインをしたシェルターだった。

 

「こんな場所が租界の下にあるなんて……」

 

「ま、スヴェンの説明では租界が今のような要塞化された時より以前の代物らしいわよ? 知っているのはよほどの物好きとかじゃないかしら?」

 

 二人は苦労しながらもスヴェンをシェルターの中から担架を出し、彼を乗せて古いデザインの医務室の中にある医療ポッドに入れる前にヘルメットを取り、ライダースーツを慎重にはがしていく。

 

「ウッ。」

 

「ユーフェミア様は見ない方が良いと思うわ。」

 

 胸は青を通り越して紫色に変質し、スヴェンの見たて通りに散弾が数粒ほど防弾着(ケブラー)の網をすり抜けて肌を抉っていた。

 

 見るからに痛々しいそれをアリスは黙々とハサミを使って取ってから医療ポッドを取り敢えずは自動(オート)で作動させる。

 

「(……これで何か異常事態が出て来たときのアラーム設定をして……あとは容態が悪化しなければいいんだけれど……こればかりは『運次第』か。) はぁ~。 疲れt────」

 

 一息つける状況にやっとなったことでアリスは大きい溜息を吐き出してふと不思議に思った。

 

「(────あれ? そう言えば()()()()()()? 喉も乾いていないし“ザ・スピード”の副作用から来る痛み(CC細胞の浸食)もない? なんで?)」

 

 アリスはそれ等の疑問を不気味に感じ取りながら念のために中和剤パックをガニメデ・コンセプトのコックピット内にある小物入れから出して飲みながらユーフェミアを探す。

 

「(あれ? どこ行ったかな、お花畑姫。)」

 

 アリスがシェルターの管制室、居住区、倉庫を“ザ・スピード”の無駄遣いで見て回るが、結局ユーフェミアがいた場所はスヴェンが治療を受けている医務室だった。

 

「(この人、ここまでになっても………………)」

 

 そう思いながらユーフェミアは医療ポッドが次々と作業を進めていくのを見る。

 

「(すれ違ったのか。) お花────じゃなかった。 ユーフェミア様────ッ?!」

 

 アリスが声をかけようとしたとき、一気に体中が痛みだすと共に急に乗り物酔いをしたかのように視界がぐらぐらとして彼女はこみ上げる吐き気を我慢するために素早く空気を飲んで息を止め、近くの壁に寄りかかる。

 

「(ウッ……オエ……なに、これ?)」

 

「う、うう……」

 

『ガフッ?!』

 

 ピィーピィーピィー!

 

 近くの医務室からユーフェミアもうめき声を出し、医療ポッドが電子音を出して中にいるスヴェンが咳をする。

 

 それ等はまるで、一気に事態が進展する予兆の様だった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 アリスを追っていた黒い機体たちはファクトスフィアを展開しながらゆっくりと、物音を立てずにランドスピナーで森の中を前進する。

 

『………………ターゲット、ロスト。』

『ここからは“猟犬”の出番だ。』

『それでVV様はなんと?』

『トウキョウ租界への移動、輸送護衛だそうだ。 スケジュールの邪魔になるモノはイレヴン、ブリタニア人でも射殺許可が出ている。 各機、エナジーフィラーの残量で作戦続行可能か?』

『『『『問題なし。』』』』

『よし、ならばこのまま続ける。 遅れれば機体は破棄せずにその場で自爆レバーを引け。』

『『『『了解。』』』』

 

 成人した女性と男性の声がお互いに感情のこもっていない言葉で通信を飛ばしあう。

 言っている内容も物騒なものだが声は冷静そのものだった。

 

 まるでその者たちに取って、日常的な会話であるかのように。

 

『聞いたな、“猟犬”?』

 

『……………………了解です。』

 

 謎の黒い機体部隊のリーダらしき男性が確認を取ると今度は中性的な若い声が返ってくる。

 

 黒い機体たちは一機だけを残し、それ以来何も言葉を交わさずその場を去る。

 

 残った黒い機体はそのまま速度を上げてランドスピナーを展開し、真っ直ぐフジサワへと向かう。

 

「(……………………あれだけ大きいフレームをしたナイトメア、倉庫ではなく隠すのなら地下断層あたりか。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 トウキョウ租界の政庁はかつてないほど騒がしかった。

 

 数時間前まで、ブリタニア帝国全土でも初の(一部の地域だけとはいえ)『ナンバーズを認める』特区の設立で反ブリタニア勢力とつながっていた貴族や代官たち、そして汚職で甘い汁を吸っていた者たちはダールトンとバトレーの働きで一掃された。

 

 これだけでもかなりの人手が減ったというのに、シュナイゼルの助言もあってか今度はコーネリア直々が『ユーフェミアを全力でバックアップせよと』の命令だった。

 

 彼女が宣言したのは『小さな地域限定ですが、ブリタニア人とナンバーズは平等です。』

 

 言葉にするのは簡単だが実際問題、根本的な問題が山積みだった。

 

 “差別意識が正義”という“ブリタニア社会の常識(普通)”を覆すようなそれはユーフェミアの政策を現段階では“副総督として平等にナンバーズを扱ってください”と口だけで言っ(お願いし)ているようなモノだった。

 

 確かに賛成する者はいるだろうが、逆も然り。

 どちらかというと否定派の方が多いのが現状のブリタニアである。

 

 よってそれをより現実的にさせる為に政庁の中でも差別意識が薄く、有能な者たちがユーフェミアのサポートに出払っていた。

 

 だがユーフェミアの政策は『大失敗で暴発』どころか、『近くで眠っていた火薬庫に引火』させてしまった。

 

 報告によれば、一部のナイトメアと兵士が独断で発砲し始めその混乱の際に兵士達は『皇族の命令である』と言っていたとのこと。

 

 真相は定かではないが、ブリタニア軍が『行政特区日本』に発砲したのは事実で、()()()()()()()()()()()

 

「各地で暴動が発生しています!」

「黒の騎士団は一般民衆を吸収しつつ、このトウキョウ租界を目指して進軍中とのことです!」

「敵の勢力には名誉ブリタニア人も加わり、その数は既に数万を超えて今なお膨れ上がっていきます!」

「他のブロックは既に暴動の鎮圧から防戦に方針を変えており、援軍は望めません!」

 

 ブリタニアの官僚や将校たちの報告が政庁の会議室で飛び交い、いかにパニック寸前なのかを表していた。

 

「狼狽えるな!」

 

 そんな彼らをギルフォードが叫んで黙らせる。

 

 そんな彼でさえも内心、混乱しているがコーネリアがこの場に出てこない以上は彼女の代わりに出来る範囲で何とかするしかない。

 

 しかし厄介極まりない事態だったのも事実。

 

 何せ中華連邦も『この間に』と言わんばかりに艦隊を海上に展開し、“模擬演習”とやらを行っていたとの報告も海兵騎士団から入っていた。

 

 よってトウキョウ租界は正しく、『陸内の孤島』状態になっていた。

 

 とはいえ、仮にも植民地エリアの要だけあって籠城すれば強固な要塞と化す。

 

 例え中華連邦が黒の騎士団の進行に便乗しても、本国からの援軍が到着するまで理論上には持ちこたえられる……筈。

 

 多大な物理的損害と、人口的被害が出てしまうのは避けられないが。

 

 しかしギルフォードはあくまでもエリア11総督の騎士であり、総督補佐などではない。

 

 ほかの者たちが動きたくとも、そのような彼の指示に従っても後から彼に責任は問われない。

 肝心のコーネリアは少し前から部屋の中に籠っているので、その場合は副総督が出るはずのだが……その副総督が()()()

 

「(マズイ。 姫様が『全ての攻撃を中止せよ』と命令を出したことで兵は混乱し、後手に回っている……)」

 

 ガチャ。

 

「遅れてすまない。 状況の確認をお願いできないだろうか?」

 

「あ、貴方は?!」

 

 ギルフォードが焦りながらどうすればいいのか迷っているときに会議室のドアが開いて、誰もが予想していなかった人物が車いすに乗って入ってくる。

 

「「「クロヴィス殿下?!」」」

 

「よい、座ったままでいい。 ギルフォード卿、情報が欲しい。 まとめて私の部屋に持って来てくれないか────?」

「────で、殿下……お言葉ですが、貴方は────」

「────元総督であるのは承知の上だ。 だが姉上が動けない以上、私が何とかするしかないだろう? それとも、ここにいる誰かが代わりをすると前に出ると発言するのか?」

 

「「「「……………………」」」」

 

「ならばエリア11の総督に代わりこの私、第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアが一時的にエリア11の防衛指揮を執る! 異のあるものは今、この場で申せ!」

 

 クロヴィスにしてはかなり正論を通した言葉に誰も何も言えず、退室するクロヴィスを見送る。

 

「(あの状態の姉上は見たことがない。 このままではエリア11は黒の騎士団やイレヴンどもに蹂躙される! そんなことはあってはならん! ライラがいる学園は安全と思いたいがイレヴンは野蛮だ。 トウキョウ租界の政庁から注意が逸れれば……)」

 

 クロヴィスが想像してしまったことに手は震えだし、彼は手を強く握りしめて再び自分の部屋へと戻る。。

 

「(駄目だ! やはりテロリストどもを政庁にだけ釘付けにする必要がある!)」

 

『クロヴィス殿下、ギルフォードです。』

 

「入れ。」

 

 すぐに後を追ったのか、ギルフォードがクロヴィスがユーフェミアの『副総督補佐っぽい仕事』に使っていた部屋をノックして部屋に入る。

 

「殿下────」

「────いい。 卿の言いたいことはわかる。 私では不安なのだろう?」

 

「………………いえ。 ですが────」

「────分かっているさ。 私は軍事に関しては姉上とは比較もできない。 それに姉上の命令は『攻撃を中止せよ』であって、『迎撃の用意はするな』ではない。」

 

「それ、は……」

 

 クロヴィスの提案はいわゆる『命令の捉え方(屁理屈)』と、『代理』であった。

 

 無論、既にエリア11のことから立場が危ういクロヴィスの名を借りるということは、万が一にも何かがあっても責められるのはギルフォードではなくクロヴィスということになる。

 

「だがそんな私にも、守りたいものがここにあるのだ。 ()()()()()()()()()()使()()、ギルバート・G・P・ギルフォード卿。」

 

 クロヴィスが今まで見せたことない真剣な目と言葉にギルフォードは思わず自分の主君で凛としたコーネリアを連想してしまう。

 

「(やはり半分だけとはいえ、血は繋がっているということか。) ……イエス、ユアハイネス。」

 

 ギルフォード卿はこの後、『総督(コーネリア)の騎士』でありながら『第3皇子の支持』を得たことでトウキョウ租界の防衛配置などに指示を出し始めた。

 

『『せめて、姫様(姉上)が回復するまで』』と思いながらギルフォードとクロヴィスは動いた。

*1
30話より




次話の投稿が遅れる、または次の日などになることがあるかもしれません。 (汗
ご了承くださいますようお願い申し上げます。 <(_"_)>


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第76話 ブラックリベリオン4

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 大きな地鳴りを鳴らしながら、ブリタニアの紋章を赤い塗料で塗りつぶしたG1ベースが、かつてエリア11がまだ『日本』と呼ばれていた時代の名残である廃墟にある街道を走っていた。

 

 周りには多く鹵獲し、急遽黄色いカラーリングを施した大量の元ブリタニア軍のサザーランド、戦車、装甲車などが次々と合流しつつあった。

 

 戦車や装甲車の看板には、トウキョウ租界へ向かうG1ベースの侵攻に便乗する多くの志願兵が中に入れずに座る姿もあった。

 

 この光景を、G1ベースのバルコニーから元ナオトグループの幹部たちが見下ろす。

 

「次々と数が膨れ上がるわね……整備班の皆も頑張ってくれているわ。」

 

「ヤマナシグループと、サムライの血の生き残りも向かっているらしいぜ。」

 

「数だけでも数万はもう超えている……ちゃんと統率が取れるのかな?」

 

「『藤堂さんの指導を受けた幹部(俺たち)次第』……ってところか。」

 

「って、なんでそこで俺を見るんだよ?!」

 

「「「「別に?」」」」

 

 後方支援部隊のまとめ役である井上に続き、玉城、吉田、そして南が続けて上記の言葉を発し、全員が玉城に同じタイミングで視線を向ける。

 

 原作での彼ら彼女らはこの圧倒する景色に舞い上がっていたが、『カレンのおっさん化』にブチ切れ怒ったスヴェンの頼みで幹部たち(主に男性(おっさん)たち)は軍で行われる訓練(指導)(の名を借りたブートキャンプ)を経験した。

 

 そのような荒治療の効果からか、彼らはただ浮かれるだけでなく、少しだけ現実的にものを見れていた様子だった。

 

 そんな傍でカレンは携帯電話をチェックしていた。

 

「(まだ『未読』、か……)」

 

 彼女が見たのはスヴェン宛に送ったメッセージ。

 内容は彼が今どこで何をしているのかと、機密である筈の“アッシュフォード学園占拠”の作戦についてだった。

 

「(スヴェンの事だから、何か手は打っていてもおかしくない……生徒会の皆、ちゃんと避難しているかな? お母さん……大丈夫かな?)」

 

『ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように。』

 

 そんなスヴェンが先日言った言葉がカレンの脳裏を過ぎり、彼女は複雑な気持ちになる。

 

 

 

 ……

 …

 

 

 

『そこの機体、止まれ。』

 

 トウキョウ租界と、ゲットーよりさらに外の無法地帯の境界線付近にて、防衛に配置されたと思われるサザーランドたちが近づくグロースターを音声のみの通信で呼び止める。

 

『ここはトウキョウ租界、アツギ防衛戦だ。 所属と名を名乗れ。』

 

 サザーランドの呼び掛けにグロースターが通信を開くと、ダールトンが乗っていたことが判明する。

 

『私はダールトン将軍だ。 大至急、コーネリア総督の元に行かねばならない! そこを通せ!』

 

『よくご無事で、将軍。 どうぞ。』

 

 そう黒い機体が答えると道を開け、ダールトンがそのまま通ろうとすると背後からの動きに思わず反射神経で向かってきたランスを自分のランスで弾く。

 

『ッ! 貴様ら、どういうつもりだ?! いや、それよりどこの所属だ?!』

 

 ダールトンが見たのは紫のカラーリングをしたサザーランドに加え、黒い見知らぬ機体たちが答えずに建物の陰から出てくる場面だった。

 

 

 ……

 …

 

 

『反乱軍の接近によりゲットーの治安が悪化しています。市民の皆さんはシェルター、または家から出ないようにお願いします────』

 

 アッシュフォード学園のクラブハウスでナナリー、シャーリー、リヴァルの寮生活者たちはテレビのニュースを見ていた。

 

「学園も……巻き込まれるのでしょうか?」

 

「「……………………」」

 

 ナナリーの言葉にシャーリーとリヴァルは互いを見る。

 

「あー……ないない! ここ、ただの学園だよ? 占拠なんかしたら『正義の味方像』が崩れるじゃん?」

 

「そうだよ、戦場になるのならもっと政庁の方や中央寄りの所になるだろ普通?」

 

「……そう、ですよね。」

 

 

 ……

 …

 

 

「ええ。 ええ。 承知しております、殿下。」

 

 学園の理事長室ではルーベンが電話を受け取りながら汗を拭きとっていた。

 

「勿論、私としても生徒の安否が最優先であることは承知しております。 ですが、ナイトメアを敷地内に待機させることで学園が反乱軍の攻撃目標に……ええ、ですので敷地外で……学園を『非戦闘地帯』にですか? 確かに、反乱軍の中核を担う黒の騎士団が了承すれば……」

 

 そんな理事長室の中に、椅子に座って足をプラプラさせるライブラの姿があった。

 

「(お兄様……そこまで……)」

 

 

 ……

 …

 

 

「ニーナ! クラブハウスに避難しましょう!」

 

 学園内の倉庫でミレイは油やグリスまみれになるニーナに声をかけ、残ったガニメデを見上げていた。

 

「ミレイちゃん、先に行っていて。」

 

「で、でも────」

「────大勢の野蛮なイレヴンが来るんでしょ? なら私はスヴェン君の代わりに、これの最終チェックとエナジーフィラーを取り付ける。」

 

「そんなの、彼は望んでなんかいないわ────!」

「────だったら……なんで彼はいつでもこれを動けるようにしておくような整備をしていたの?」

 

「そ、それは……」

 

「非常時の時に、いつでも使えるようにでしょ? 今が非常時じゃないのならいつなの?」

 

 珍しく、意思がいつも以上に強いニーナ……以前の頑固なニーナが出てきたことにミレイは戸惑うが、ニーナは自分の作業に没頭する。

 

「(そう。 きっと、そうよ。 こんな日の為にスヴェン君はガニメデの整備を怠らなかったのよ。)」

 

 ニーナが横目で見たのは、ぼんやりとピンク色の光を放つシリンダーだった。

 

「(ウランの事もきっと同じ。 でも今、彼はここにはいない……だったら、私が代わりにやらなくちゃ!)」

 

 

 ……

 …

 

 

 

『おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為かかり────』

 

 ────ピッ♪

 

 トウキョウ租界のアパートにいたベルマは何度目になるのか分からないメッセージを聞いて電話を再び切る。

 

「(あの人、大丈夫かしら。)」

 

 ベルマは窓の外からブリタニアの警察などが騒がしくなったゲットーへ出動する光景を見る。

 

「(租界だけれど、ここはゲットーにも近い……)」

 

 彼女が見るのはテーブルの上の封蝋が開けられた手紙だった。

 それに書かれた“開ける状況下”とは“トウキョウ租界付近に暴動が起きるような気配”。

 そして内容はシンプルだった。

 

If you feel you’re in danger use anything(身の危険を感じたら何でも使ってもいい)

I won’t blame you nor will I let anyone else(君を責めないし責めさせない)。 

So don’t worry about me(だから俺の事は心配するな)。』

 

「(“何でも使ってもいい”って……)」

 

 ベルマが見るのは先日、アパートの掃除をしていた時に見つけた銃などの軍用装備だった。

 

 だが彼女は不安を感じ、何とかスバルに連絡を取りたかった。

 

 記憶を失っているとはいえ、軍人である彼女は無意識的に『誰かの肯定』を欲しかったのかもしれない。

 

 あるいは────

 

 ────ドォォォン!!!

 

「(爆発? それに距離が近い?!)」

 

 爆発音がし、アパートの壁などが震えてベルマが窓をまた見ると地下水道から租界内へとなだれ込む人たちの姿を見る。

 

「まさか、ゲットーに警察が出動したのを待っていた?」

 

 そのなだれ込む人たちが手あたり次第のビルを傷つけたりや閉まったドアを蹴破ってから中へと入っていくのを見たベルマは、アパートのドアのカギを全て閉めて電気を消す。

 

 予測通り、他の階や周りからドアなどが破られる音や住民の叫びが聞こえてベルマは震える。

 

 ドン!!!

 

「きゃ?!」

 

『やっぱり誰か中にいる!』

『ドアを破れ!』

『ブリタニア人はリンチだ!』

『積年の恨み、ここで晴らしてやる!』

 

 ついに自分のいたアパートのドアが荒々しく叩かれ、ベルマが思わず出した声に外の者たちがさらに騒ぎ出す。

 

「(す、スバルさん!)」

 

『身の危険を感じたら何でも使ってもいい。』

 

 ベルマは先ほどテーブルの上に置いた拳銃を見る。

 

『君を責めないし責めさせない。 だから俺の事は心配するな。』

 

「(そうよ。 私は、ここを護る。 あの人が、帰って来られるように。)」

 

 気が付けば、彼女は拳銃を手にするとその重みに()()()()とも呼べる感じを不思議に思いながらもそれをドアの方へと構える。

 

「(一発……一発だけ。 怖がらせれば────)」

 

 ────バキバキバキバキバキバキ!

 

 バァン!

 

 ようやく先ほどから重いモノで軋む音から壊れる音と共にドアの蝶番が壁から外れ、乾いた銃声が租界に響く。

 

 

 

 租界の様子に気付き、引き返したブリタニアの警察がその場に駆け着くまでに、元暴徒と思われる者たちが撃たれ、絶命していた遺体の道があった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 黒の騎士団を中心に、トウキョウ租界へと進行していた反乱軍は防衛配置されたブリタニア軍との小競り合いを続けていた。

 

 否。

 

『消極的な小競り合いをしては撤退する』行動をブリタニア軍は続けていた。

 

「(おかしい……なんだこの手ごたえの無さは?)」

 

 外で実際に戦っている反乱軍とは別に、G1ベースの中からこの戦況を見たゼロはこのことを不気味に思っていた。

 

「(ブリタニアらしくない、消極的な行動……コーネリアならばもっと上手く誘い込むなり、虚を突こうと奇襲をかける筈だ……それにこの時間だ。 ダールトンがコーネリアと会って会場での出来事と周波数を伝えている筈。 まさか彼、もしくは彼らに何かあったのか────?)」

「────ゼロ。」

 

 そこにG1ベースのブリッジにいたディートハルトが声をかける。

 

「どうした、ディートハルト?」

 

「ブリタニアから、『アッシュフォード学園を非戦闘地帯の承認、及び双方側の野戦病院にしたい』との申し出が来ました。 いかがいたしましょうか?」

 

「(アッシュフォード学園を? 何故だ? 何故そこを指名────いや、これはチャンスだ。 ブリタニア軍も恐らくいるが、合法的に黒の騎士団を送り込んでナナリーの警護に回せる。 それにもうここまでくれば、あとはコーネリアと俺が上手く接触するだけだ。) 

 分かった。 『その申し出を条件付きで承諾しよう、詳細は追って話す』と返せ。 ディートハルトはこのままG1ベースに残り、前線は藤堂に任せろ。 全軍は極力ブリタニア軍との交戦は控え、十分な余力を()()()()()()()との方針を再度通達しろ!」

 

「分かりました。」

 

 ゼロが立ち上がってG1ベースのブリッジからガウェインの待機している後方に出ようとしたところでドアが開く。

 

「ん? 桐原に、皇────?」

「────む、ゼロか────」

「────よかったぁ! 間に合いましたぁ────!」

「────皇の、今は────」

「────私、貴方のデビュー時からずっとファンだったんですよ────?!」

「────ですから今は────」

「──── “ようやくちゃんとお話が出来る”と思ったのに私を置いて今度もさっさと出陣しちゃうなんてひどいなぁ────」

「────えっと────」

「────背、意外と高いんですね────!」

「────あの────」

「────あ、でもご心配なく! きっとすぐに追いつきますから!」

 

「…………………………………………」

「(ニコニコニコニコニコニコニコッ。)」

 

 神楽耶のマシンガントークにゼロが一言も入れられずに圧倒されて黙ってしまうと、まるで彼のその様子を『面白い』(もしくは『微笑ましい』)と感じたのを表現するかのようなニコニコ顔を神楽耶はしていた。

 

「(……なんなんだこいつ? まるでライラの身体に会長(ミレイ)を入れたような……)」

 

 ようやくゼロがそう考えだすと『何事か』と思ったディートハルトは桐原、そして神楽耶がいたことがギョッとする。

 

「こ、これは?! キョウトの方々はフジサンに残ったはずでは?!」

 

「むふ~ん! 追いかけて来ちゃいました!」

 

 ゼロ、CC、ディートハルトが桐原を見ると彼は気まずくそっぽを向く。

 

「何ゆえそのようなことを、皇の────?」

「────それは勿論、()の戦いぶりを見る為にです────!」

「────夫────?」

「────ですから私の事は気軽に“神楽耶”とお呼びください、()()()!」

「…………………………………………………………は? (お戯れを。)」

 

 ゼロの問い&言葉をまたも遮った神楽耶の言ったことに一瞬思考がフリーズし、思わず彼の内心と発するはずの言葉が逆になってしまう。

 

「だってこの戦いに勝利で終わった後は、いずれ伴侶()が必要になりますでしょう? 旦那様がお素顔を見せられない身ならば、体面的にでもそれを補う者がいるとは思いませんか?」

 

「……………………ふむ?」

 

 彼女の言葉に、ゼロは考えるような仕草をする。

 

「(第一印象とは違い、こいつはご尤もな提案をする。 確かにこの状況が終われば“ゼロの素顔”に関して疑問に思う者たちが出るだろう。

 それに扇たちには既に“ゼロが日本人ではない”と宣言して桐原が肯定したからな……ならばキョウトの当主である皇が“ゼロの伴侶”として傍にいれば、日本人たちに対しての“自国の象徴”になる。

 それを理解しての提案ならばこの娘、俺の外交補佐などをさせても問題ないだろう。 それに背の差はさほど問題にはならん……筈だ。 うむ。 これは思わぬ収穫、活用しない理由は…………)」

 

 その時、ゼロ(ルルーシュ)の脳裏をシャーリーが過ぎる。

 

「(何故ここでシャーリーが出てくるのだ? 意味が分からん。 分からんが────)────あなたは『勝てる』と思いますか?」

 

「それが例え『物理的勝利』でなくとも、『交渉の勝利』は勝利ですから!」

 

「(やはりこの娘、本人自身の戦闘能力は恐らく無いものの、頭の回転はかなり速いし戦術の読みも悪くない。 恐らくだが、俺が今まで出した指示が『何らかの布石』と薄々感じているような言葉だ。 しかも今までの言葉と動作を考えれば……) なるほど。 貴方の提案、あとで詳しく相談しましょう。」

 

「お待ちしております、旦那様!」

 

「ゼロで良い。」

 

「分かりました、ゼロ様!」

 

 ゼロがガウェインの待機している格納庫へと速足で歩く。

 なぜなら彼は気付いてしまったのだ。

 

「なるほど。 だからあんな服ばかりを持っていたのか。」

 

 CCがいたことに。

 

「今は黙れ────」

「────お前の周りにいる奴らが知ったらどんな反応をするだろうな────?」

「────だから今は────」

「────なぁ? ろr────」

「────あくまで政略かつ政治的な体面を考えている。

 

「そういうことにしておくよ。 童貞ぼ・う・や♪」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『聞くがよい、ブリタニアよ! 我が名はゼロ! 力なき者に対する弾圧者に反逆する者である!』

 

 トウキョウ租界の外延部に聳え立つ砲台や部隊などの有効射程距離外にガウェインをCCが動かした後、ゼロの仮面を取ったルルーシュがそう高らかにオープンチャンネルで音声のみの宣言をする。

 

『(出たか、ゼロ!) エリア11の総督としての最終通告だ! いますぐ武装解除し、降伏せよ! さすれば正式な“捕虜”として丁重に扱おう! だが開戦後、条件が同じだと思うな!』

 

 ショックから来た悲しみを怒りに変えたコーネリアがまるでゼロへの意趣返しにオープンチャンネルの通信を送る。

 

『(コーネリア……やはり前線に出たか。 だがおかしい……) いかにもブリタニアらしく、他者を見下した一方的な条件だ! してコーネリア、ダールトンから何か聞いていないかね?』

 

『貴様……安い挑発には乗らん。』

 

「(やはり、何かのアクシデントがあったか。)」

 

 ゼロの言葉に、コーネリアがカッとなりそう声を無理やり冷たいものへと変えたことにルルーシュは上記の結論へと至る。

 

『(もしダールトンがかけられたギアス通りに動いていれば彼女の返答や行動は違う筈だ。 マズイ、このままでは奴と俺の軍の全面衝突になりかねん……どうにかして双方の軍にとって不自然ではない方法で時間を稼がなければ────)────零時だ。 零時まで待とう、我が軍門に下れ! これが私の最終通告である!』

 

 ルルーシュはガウェインの画面に映る時間を見て少々焦ると同時に140.23の周波数に一つの回線を繋げたままにする。

 

 コーネリア、もしくはスヴェン側からの接触が無かった場合を想定して顔色を悪くさせながら周波数を別動隊に切り替える。

 

『ゼロ番隊と特務隊、今の内に学園へと移動し“非戦闘地帯”の真偽を確かめいつでも占拠できるように下準備をせよ。 偵察隊はトウキョウ租界の外延部から距離を取りつつ敵の配置を各隊に送信し、ダールトン将軍と思わしき人物を発見し次第、私に報告せよ! 決して奴を攻撃してはならん!』

 

「いいのか? “ダールトンは協力者”って言わなくても?」

 

 そこで通信を切ったルルーシュに、CCがそう彼に問う。

 

「そうすれば、“コーネリアの腹心の男をどうやって懐柔したのか”という疑問が浮かび上がってしまう可能性が出る。」

 

「アッシュフォード学園は?」

 

「“非戦闘地帯”で不当な扱いをしていれば、後々いい対ブリタニアプロパガンダの元となる。」

 

「フフ。 お前のその指示が“妹の安全の為”と知ったら、あいつらはどんな顔をするだろうな?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『非戦闘地帯』と指定されたアッシュフォード学園の学生たちは寮へと戻され、校内グラウンドには野戦病院のテントなどが立っていた。

 

「お、おいビデオ撮っているか?」

「当たり前だ、誰がこんなことを信じる?」

 

 それだけでも奇妙な景色……とミレイの学園祭などを考えればそれほど珍しくはないのだが『奇妙』となる原因は学園の敷地内にはブリタニア軍、そして黒の騎士団のテリトリー(縄張り)のような物が出来上がっていた。

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

 双方の勢力の境界線ではにらみ合うナイトメア、そして兵士たちが息を潜んでお互いを見張っていた。

 

 そんな一触即発の中、ミレイたちはクラブハウスが黒の騎士団らしき者たちの持ち込んだ機材などによって彼女たちが今いるのが『黒の騎士団側』と知る。

 

 その機材は『医療用』と書かれていたが明らかに違うモノばかりにミレイたちは戸惑っていた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! あんたたち、ここをどうする気だ?!」

 

「あ? ウッセェな、ブリキ野郎。 ここは黒の騎士団が陣取ったんだよ、好きにするさ。 あ! そいつは違う場所だ!」

 

 リヴァルの問いに玉城が面倒くさそうに答え、指示を再開する。

 

「すまない、少しだけ辛抱してくれ。 “ブリタニアがここを利用しない”という保証がない以上、俺たち黒の騎士団は関係なかったと証言する機材だ。」

 

 そこで玉城のように配置された扇が申し訳なさそうにリヴァルに説明する。

 

「うわっとと!」

 

「おっと! 君、大丈夫かい?」

 

 そこに真っ白のショットカットをした少女が機材を持ちながら転びそうになるのを扇はとっさに手を貸す。

 

「あ、はい! ありがとうございます!」

 

「ん? 新入りかい?」

 

「あ、はいそうです!」

 

「そうか。 ここにいるという事は優秀なんだね? 名前は?」

 

「マ、マーシャです!」

 

 そこには黒の騎士団の制服を身に付け、『マーシャ』と名乗るマオ(女)がいた。

 

 

 ……

 …

 

 

「フゥー。 (なんでこんなガキどもの面倒を……)」

 

 アッシュフォード学園の敷地外にまで巡回(パトロール)しに来ていた一人のブリタニアの兵士が、他の者たちから離れてタバコに火を点け、一服していた。

 

「(それに黒の騎士団も何故かいるし、上は何を考えて────)」

「────あ、兵隊さんの人?」

 

「ッ! 誰だ!」

 

 兵士が照明付きの銃を構えると少々大きめで茶色い帽子に腰まで伸びた長い薄めのピンクの髪をしたアッシュフォードの学生と思われる少女がいた。

 

「ここの学生か?」

 

「うん♪ ちょっと租界に出ていたけれど“学園に”っていうメッセージがあったから来たけれど正門は凄いバチバチ火花を飛ばしていた人たちがいたから『裏口から入ろう』と思ったの。」

 

「そうか。 ここは危ないから早く帰った方が良い。」

 

「え~? 私、ここに用事があるのに……」

 

「俺が取ってき────」

 

 ビュッ!

 スパッ!

 

「────ぇへ?」

 

 兵士が右手を出すと、親指を残して他の指が中手指節関節の先から切り落とされ、少女のスカートは鋭利なナイフを取る際にひらりと上がったことを気にせず流れる動作で兵士を仰向けに倒し、マウント取(馬乗りにな)って持っていたナイフの矛先を彼の心臓真上に構える。

 

「ねぇ、優しい兵隊さん? 死にたくなかったらお名前、クララに教えて欲しいな♪ (ニッコリッ)」

 

『クララ』と名乗った少女は笑っていたが、兵士にとって彼女の笑みは悪魔との契約時にするようなものに見えた。

 

『あながち、間違いではない』と彼に答える者はその場にいなかったが。



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第77話 ブラックカオティックリベリオン

遅くなりました、次話です!

時間が空いている合間に、携帯で少しずつ書いたものです。

お気に入り登録や感想、全て活力剤としてありがたく頂いております! 
誤字報告、お手数をお掛けしております! m(_ _)m

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


『目を覚ましたら地獄だった。』

 

 そんな表現を人がするのを、メディアや映画などでするのを聞いたことはあるが、まさか(スヴェン)がそれを使うとは思わなかった。

 

 俺が目覚めたのは、今まで感じたことの無い痛みと、二日酔いに似たような悪寒と、吐き気と頭痛とグラつく視界が一度に俺を襲ったからだ。

 

 叫ぼうとしてもすでに叫んでいたことで、肺は空気を欲するのに痛みで声にならない叫びをしていた。

 吐きたいのに吐くことが出来ない。

 周りを見たいのに、鎮痛剤の副作用からか上手く身体が動かせない。

 

 ようやく落ち着くと、俺がいたのは医療ポッドの中だと気付く。

 

「あ、起きた?」

 

 そしてガラス越しに何やらゲッソリしたアリスがいた。

 

「ここはどこだ? 何があった? ユーフェミア様は? 外の状況は?」

 

「アンタってば相変わらずブレないわね?」

 

 ちゃうねん、色々予期せぬことがあって必死なだけやねん。

 

「ここはフジサワ。 本当ならアンタの指示通りにトウキョウ租界に直行していたけれど、変な機体たちに追跡されていた。 アンタのギアス(?)で振り切ったけれど、あまりにも重症っぽかったから独断でここの隠れ家の医療ポッドに入れた。 ユーフェミア様なら目を回し過ぎて隣の部屋で横になっている……私もアンタのギアス(?)の反動で結構参っていたけれど、彼女よりは慣れていたわ。」

 

「そうか。」

 

 へぇ~?

 元々アリスが優秀だったのは知っていたけれど、上出来だ。

 

「それにしても、『()()()()()()』なんて大層な能力ね? あとから一気に押し寄せてくる反動とかは別としてさ?」

 

「前にも言ったが、俺のは『ギアスに類する能力』だ。 本当にギアスかどうかわからん。」

 

 それよりも俺、言っちゃっていいかな?

 言っていいよね?

 

 なんという事だぁ! よりにもよってぇ、『時間が意味を無くした世界』にぃ! 入門してくるとはぁぁぁぁ!

 

 ……なんか違う気がするけど、まぁいっか。

 

「状況を出来るだけ教えてくれ。」

 

「ニュースとか通信傍受でも良い?」

 

 なんでもええがな。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 オーマイガッ(Oh my God)?!

 

 なんという事だ?!

『ユーフェミア生存』しているのに殆んどマイナーな詳細が違うだけで、大まかに『原作ブラックリベリオン』の始まりじゃねぇか?!

 

 しかもなんだよルルーシュ?! 『最終通告』で『我が軍門に下れ』って?!

 

 まさかギアスをかけたダールトンに何かあったのか?

 

 それとも俺たちがユーフェミアをトウキョウ租界に送っていないから、何かあったのか?

 

 こいつはクセェ!

 VVの匂いがするぜ!

 プンプンしやがるぜ!

 辛気臭~い匂いがプンプンするぜぇぇぇ!

 

 ならこっちも出来るだけのカードを切っておくか。

 

 不安しかないけど。

 

「よし。 大体の治療は終わった。 医療ポッドを開けて。アリスはユーフェミア様を連れて、一足先にトウキョウ租界に向かって毒島達と合流しろ。 彼女にはもう『もしもの場合』を前もって伝えている。」

 

「“一足先に”って……アンタは?」

 

「準備が出来次第、ここに置いてあるナイトメアで後を追う。 俺がいない方がお前は自由に動ける(気にかける必要もない)し、俺もかく乱やフォローもしやすくなる。 俺に構わず“ザ・スピード・オーバーホエルミング”で先行してくれ。」

 

「……分かった。 ユーフェミア様にはどう説明する?」

 

「アリスの判断でいい。」

 

「そ。」

 

 アリスが医療ポッドのハッチを開けてから部屋を出る前に、もう一度俺の方へと顔を向く。

 

「……じゃあ、トウキョウ租界で。」

 

「またな。」

 

 空気圧独自の音で扉が閉まり、俺は100を数えてから医療ポッドから出ようとする。

 

「グッ!」

 

 だが、痛覚マヒの薬物のおかげで身体の神経の反応は鈍く、足がもたれて倒れそうになるのを壁に肩を預ける。

 

 先ほど言ったように痛覚がマヒしていたが、身体が自然と震え、視界にはチカチカと星が散るが、何とか自分のカルテを見る。

 

 割創、杙創に内部出血。

 

 怪我のオンパレードだが、幸いまだ動ける。

 

 医療室から出て、シェルターの管制室でここに俺たちが居た痕跡を消して……いや、まずは個人の武装だ。

 

 アリスには『ここに置いてあるナイトメアを使う』と言ったが、実戦で使えるかどうかは微妙な上に、少し離れている場所に保管してある。

 

 さっさと警備室から武装を持ってきて、トウキョウ租界に向かおう。

 

 

 


 

 

 スヴェンがいる場所から、アリスのガニメデ・コンセプトで、アリスと即席用で取り付けるタイプの席に座っていたユーフェミアが、階層構造で身を隠しながら移動し、隠れ家から少し離れたフジサワから離れたところで移動を開始する。

 

「(あそこか。)」

 

 そしてこれを見ていた黒い機体がすぐさま元に戻ろうとする構造の中へ躊躇なく飛び込み、中で蠢くパネルを素早く移動する。

 

 

 


 

 

 ん? アラート音?

 

 管制室に初期化のコマンドを時間差で発動するにセットし、警備室で置いてある武装を拝借していた(スヴェン)の耳に電子音が届く。

 

 ズルズルと足を引きずり、監視カメラを見ると、全身真っ黒でバイザーをした誰かを見たような気がした。

 

 え? 誰こいつ?

 

 見たことない制服?

 なんかダールトンのグラストンナイツみたいなバイザー?

 

 どっちにしろ、味方じゃないのは確実だ。

 

 ……不味いな、怪我は一応処置されたがこれ以上の失血は危ない。

 

 ここはトラップを張って時間稼ぎ、そしてスタコラサッサするに限る。

 

 まずは手榴弾と閃光弾たちの安全ピンにワイヤーを接続して、固定とかくれんぼレッツゴー。

 

 ……思っていたより不味い、完全に無意識に遊び気分になっている。

 集中、集中。

 

 焦っていても、ワイヤーや手榴弾等の隠し方に固定をちゃんとしないと、ただ無駄に労力と時間を消費するだけだからな。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 持ってくれよ、俺の身体。 

 たった5分ほど動いただけじゃねぇか、もう息を上がらせるのはだらしないぞ~?

 

 いや、10分ぐらい経っているか?

 分からん。

 

 視界がダブって見えるが、あの侵入者が通過すると思われる通路とドアに仕掛けは終えた。

 主に俺との間だけだが、これで数分稼げるだろう。

 

 あとはナイトメアのある場所に────

 

 ドゴォン!

 

 ────引っ掛かった?! ()()?!

 早すぎる!

 

 ドゴォン!

 ドゴォン!

 バァン!

 

 いや違う! 段々と近づいてきている!

 こいつ、急ごしらえとはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()だと?!

 

 正気じゃねぇ!

 ()()()()だ!

 

 このことに気付いた俺の心臓は脈を強くかつ早く打ち始め、寝ぼけていた頭と体に血液を循環させて、無理やり闘争本能を覚醒させる。

 

 普段なら焦るが、ありがたい。

 意識が幾分かハッキリとした俺はサブマシンガンを片手でドアに構え、もう片手で脇腹を抱えるように置く。

 

 ドゴォン!

 

 直ぐ近くで、ついさっき仕掛け終えた手榴弾の爆発がドアの向こう側から聞こえて、俺は手に力を入れる。

 

 プシュ。

 

 空気圧で開いたドアの向こう側から黙々と煙が俺のいる部屋の中に侵入し、まるでショーのように先ほど見た人物らしき奴が迷いのない足取りで入ってくる。

 

 身長は俺やルルーシュとあまり変わらない……いや、僅かに低いか?

 腰には拳銃のホルスター、いつでも抜けるように固定ベルトを外している。

 そして肩まで伸びた髪は灰色より銀髪に近かった。

 

「返事は期待していない。 が、“断れば亡骸でも良い”との事だ。」

 

 透き通った、中性的な声が返ってくる。

 あ、しまった。

 

 こいつ、バイザーをいつの間にか取りやがった。

 外すタイミングで撃てばよかった。

 

 バイザーを外した目の前の、整った顔立ちをした奴の碧眼が赤のかかった目の色に変わって()()()()()()が浮かび上がる────ってオイちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇい?!

 

 待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇい!

 

 こいつ、()()()があるぞ!

 ()()()()()()ぞ?!

 というかノネット見た後に俺、こいつのことを探していたぞ?!

 

 髪の毛を切っていないのか、髪の毛が若干伸びてはいるがよく二次原作やサンプルの攻略本でスタッフが書いた素顔だ。

 

「『ライ』、か?」

 

 そう思った俺は思わず、()()()()()()()()()()()()()を口にしていた。

 

『ライ』。 コードギアスのゲームである『ロストカラーズ』の主人公で、アッシュフォード学園内に倒れていたところをミレイとルルーシュに保護されたところから始まるアドベンチャーゲーム(AVG)で、様々なルートがある。

 

 そしてゲームの主人公だけあって、超が付くほどの公式認定のドチャクソチートキャラ。

 とあるルートではチェスのルールをルルーシュに教わって彼と4戦し、2勝2敗のほぼ互角。

 とあるルートではロイドお墨付きの『スザク君並みの身体能力と操縦技術がもう一人♪ 良いデヴァイサーに当たったねぇ♪』。

 

 しかもナイトメアの操縦技術に至っては『バケモノ』と呼ぶしかない。

 ナイトメアの操縦桿を使って精密な動きなどを行えるが、ライは一秒間で約12個のコマンド入力が出来る。

 

 確かスザクでも無理な芸当だった……筈。

 

 しかもルートによってはあのダールトンでさえも指揮官としての才能に魅入られ、しかもルルーシュの上位互換版ギアスを持っている。

 

『ザ・コードギアスチートキャラ』と言えばこいつ(ライ)である。

 

「……『ボクに従ってもらおうか』。」

 

 俺の名呼びに、特に反応を示さず俺にギアスをかけようとする。

 だがな、ライ(多分)? そこがお前に無い、俺だけのアドバンテージなのよ。

 ルルーシュ、そしてマオ(両方)で検証済み────

 

 従え。

 

 ────ウッ?!

 

 なん、だ?

 ライ(多分)のギアス、『絶対遵守』に感化されたのか、とてつもない衝動に俺の意識が刈られそうになる。

 

 従え。

 

 こ、れは?!

 まさか、ライ(多分)のギアスは効くのか?!

 

 したがえ。

 

 ヤバい。

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

 

 したがえ。

 

 これは予想外。 想定外。 ヤバい。

 

 そう思った俺は左手を一気に引っ張って、奥の手を使い、瞼を閉じても眩しぎるほどの閃光と鼓膜が破れたかのような爆発音が腰からする中、俺は記憶の通りに走る。

 

 

 


 

 

 ボ────!

 

 スヴェンの腰にあった閃光弾がさく裂すると同時に、彼は部屋から半ば本能で記憶に頼りながら身体を動かして逃げていた。

 

 対してスヴェンが『ライ』と呼んだ者は、まさかあれほどの距離で閃光弾が玉砕覚悟で使われるとは思っていなかった様で、とっさに目を瞑って腕でスヴェンを掴もうとしたが、スヴェンは既にその場に居なかったことで腕は空振りをし、閃光弾の効果で星が視界を散っていた。

 

「(“ライ、か”? ()()()()()()?)」

 

 

 


 

 

 やべぇ。 胃が荒れてきた。

 

 最悪のタイミングもヘッタクレもないが、俺はそう考えながら元々純血派のサザーランドだった『ソレ』に乗り込む前に、パネルにコマンド入力を終えてからナイトメアを起動させていた。

 

 酷使する体のそこかしこから嫌な汗が出ては吐き気もした……ような気がする。

 

 頭痛と胃が圧迫されているような感覚は確かだ。

 

 それと『元々純血派のサザーランドだった』と言ったが、今ではその影も形もほとんどない。

 

 両腕は太くかつ長く、フレームも一回り大きくなっていて、足はランドスピナーを含めてごつくなっていた。

 

 これの設計図(デザインプラン)を始めて見られた時は『ゴリラ?』と聞かれたな、毒島とアンジュに。

 

 まさかのまさかで、()()()()()()()を実戦で使う羽目になるとは思わなかったよ。

 

 しかもライ(多分)相手に。

 

 ……さて。 起動準備も終わったし、()()()()()()だ!

 

 そう覚悟を決めた瞬間、機体が酷く揺れ始める。

 

「ドワァ?!」

 

 センサーとアラーム音で機体の腕をボクシングポーズのように上げながら方向転換すると、階層構造の壁に亀裂が走って黒い機体が向こう側で武器を構えるのを見た。

 

 「↑キャァァァァァァァァァァァァ?! ↑↑キキキキキキキタァァァァァァァァァァァァァ?!」

 

 

 

 

 命を懸けた地獄の鬼ごっこ、ラウンド3の開催合図になりつつあるスヴェンの悲鳴(裏声)が彼の口から出ていた。

 

 

 


 

 

『コーネリア様! 負傷していたダールトン将軍を保護いたしました!』

 

「何ィィ?!」

 

 トウキョウ租界の外延部に兵を展開し、彼らの配置と反乱軍の位置を確認していたコーネリアのグロースターに上記の通達がされる。

 

『奴は無事か?!』

 

『は、はい────』

『────その通信機を貸せ────!』

『────しょ、将軍何を────?!』

『────姫様! 大至急お伝えしたいことが────ゴホッ、ゴホッ!

 

『いけません将軍! 今の貴方は重症なのですよ?!』

 

『ダールトン、どうした?! 何があったのだ?!』

 

『姫様! 通信のチャンネルを()()()()()()に変えてください!』

 

 コーネリアがいる外延部とは違う場所で、酷い負傷をしたダールトンが彼を保護しようとしたグラストンナイツのグロースターに乗り、彼女のいる場所へと急行しながら通信の周波数をコーネリア、ダールトン、ギルフォードの三人だけになった時のものに変える。

 

『ダールトン! 重症と聞いたが────!』

『────姫様! ユーフェミア様は生きておられます!』

 

『なっ……』

 

 コーネリアは腹心であるダールトンの言葉に頭が真っ白になり、言葉を失う。

 

 無理もない、彼女は少し前までユーフェミアの死をアヴァロンの医師から聞いたギルフォードの連絡に、酷く揺さぶられて放心していたのだから。

 

 そしてようやく心が一旦感情の整理をし終えたと思えば、今度はダールトンの『ユーフェミアが生きている宣言』が来た。

 

『で、デタラメを言うな! ダールトン、お前らしくないぞ! それよりも治療を────!』

『────今、話します! “行政特区日本” で、何があったのかを! 私の治療はその後でいい!』

 

 

 ……

 …

 

 

「…………………………」

 

 ルルーシュはガウェインの中で貧乏ゆすりに、CCの椅子は小刻みに震えていた。

 

 時刻は彼が宣言した零時まであと少しを切ったというのに、コーネリアからの通信が入ってくる様子はなかった。

 

 ピリリリ♪ ピリリリ♪ ピリリリ♪

 

 ルルーシュは通信ではなく、携帯から来る着信音で思わず身体を跳ねさせてしまい、CCの方向を見ないようにする。

 

「(『着信相手不明』だと? 誰だ、こんなタイミングで? だが……)」

 

 彼は何個かの想定を思い浮かべては声の変換器と暗号化部品を携帯に付けてから無言で出る。

 

『…………も、もしもし? ゼロ……えっと、ルルーシュですか?』

 

「ユフィ────?!」

 

 ゴン!

 

 携帯から来る相手の声がユーフェミアだったことに、彼は思わず立ち上がってしまい、思いっきり頭をガウェインのカメラに接続したモニターにぶつけてしまう。

 

「────グホォァ?!」

 

『きゃ?! い、今のは何?』

 

「~~~~~~~~~~!!!」

 

『ル、ルルーシュ? 大丈夫?』

 

 ルルーシュは頭を抱えながら深呼吸をして言語化できない叫びを堪えようとする間、CCはそんな彼を見る。

 

 まるで、『なにやってんだか』と言いたいようなジト目で。

 

「も、問題ない。 少し驚いていただけだ。」

 

「盛大に頭をぶつけてな。」

 

 いじわるそうな顔をしたCCにルルーシュはキッとした視線を送る。

 

『えっと……今のは女の子の声?』

 

「あ、ああ。」

 

『もしかしてルルーシュの彼女?!』

 

違う。 違うから話をさせてくれ。 今ユフィはどこで何をしている?」

 

『今、私たちはトウキョウ租界に向かっている途中。 そっちは、お姉様からの連絡は?』

 

「まだだ。 一応時間稼ぎはしたが、それも零時までだけだ。」

 

『もう時間が────』

 

 “もう時間”が無いとユーフェミアが言い終える前に、新たな声がガウェインの中で響く。

 

『こちら、エリア11の総督であるコーネリア・リ・ブリタニアだ……この周波数であっているか?』

 

 それはルルーシュが待ち望んでいた声だった。

 

『お姉様!』

「やっとか! ユフィ、まずは俺に話しをさせてくれ。」

『分かった!』

 

 ルルーシュは息を深く吸っては吐き出し、気持ちを切り替えてからコーネリアの通信に音声だけの通信を繋げる。

 

「こちら、ゼロだ。 よくぞこの通信に出てくれた、コーネリア。」

 

『ダールトンから大まかな一連は聞いた。 まさか、兵の一部の暴走が、瞬く間に広がるとは……だがそれを信じる信じないかは、お前の出方次第だ、ゼロ。』

 

「無論、私もそれを承知している。 ですから、まずは妹君との会話などどうでしょうか?」

 

『何?! ゼロ、それは────!』

『────お姉様! 良かったぁ~。』

 

『ユフィ!? 無事だったのか?!』

 

 ルルーシュは携帯をガウェインのシステムに繋げると、コーネリアはユーフェミアの声に心底ビックリしたのか総督ではなく、素の態度が出ていた。

 

『ええ、ゼロと私の知り合いのおかげで何とか!』

 

『待て! その……本当にユーフェミアかどうか────!』

『────お姉様が小さい頃、後宮の庭に迷い込んだ子猫にニャーニャーと()()で────』

 『────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』

 

 ユーフェミアの思い出を恥ずかしがったコーネリアは、彼女の声をかき消すかのような素っ頓狂な叫びをあげ、ルルーシュはそのシーンを思い浮かべて『コーネリアが猫の物真似……だと?』と困惑したそうな。

 

 余談ではあるが、原作でのユーフェミアが野良猫と思ったアーサーにニャーニャーと語りかけたのもコーネリアの真似……であってのかもしれないとだけここに記入しよう。

 

 

 

 時刻は丁度23:59で、あと何秒間か過ぎれば予告の零時となるところだった。

 

 

 

 

 ……

 …

 

 

 トウキョウ租界、それも政庁のバルコニーらしきテラスで座っていた誰かが、静かに5段のトランプタワーに最後のカードを置く。誰かは冷静に、一触即発のブリタニア軍と、黒の騎士団率いる反乱軍を見下ろしていた。

 

 テーブルの上に置いていた懐中時計は、スザクが持っていた枢木ゲンブの形見に似ていたが、こちらは正常に動いていたし壊れた様子もなかった。

 

 針はカチカチと一刻一刻を刻んでいき、とうとう零時を指すと、トランプタワーを作った本人が最下段のトランプを指で突く。

 

 トランプタワーがグラグラとバランスが危うくなると同時に、重い地鳴りがトウキョウ租界全体に響く。

 

 租界の外延部、そして反乱軍が陣取っていた再開発地区の階層構造までもが一気に崩れ始め、トランプタワーがバラバラと崩れていく。




更にカオスの予定です。 (;´ω`)φ

そして次話の投稿が少し遅れる、または日が開くかもしれません。 
申し訳ございません。 m(;_ _ )m


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第78話 崩れるステージと希望の芽

前回同様に携帯で少しずつ書いたものです。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

『な、なんだ?!』

『まさか、エリア11でよくある“アレ”か?!』

 

 大きな地鳴りとともにブリタニアの正規軍の者たちが焦る声を出す。

 

 元々日本は地震が多発する国で日本人なら誰もが慣れている現象だが、外国のものからすれば不自然極まりない日常だった。

 当時、日本を植民地に変えようとしたブリタニアは()()()()()と軽く考えていたがあまりにも地震が頻繁で強度もピンからキリまであることに植民地化が大幅に遅れ、急遽ブリタニア人の住居となる租界の地盤デザインを階層構造に変えた。

 

 そしてこれら『人工的な地盤』となった階層構造を監視、そして調整する部署がひっそりと存在する。

 

 つまりその部署にある端末を使えば、意図的に階層構造を緊急パージしてすることが出来る。

 だがそんな事をすれば操作した部署も勿論、巻き添えを食らう。

 

 操作した者自らが命を捨てる覚悟、あるいは何らかの強制がなければ出来ないことなのだ。

 

「いやだ! いやだぁぁぁぁぁぁ! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないぃぃぃぃぃ

 

 人工地盤調整部の管制室にいる誰もが上記と似たような命乞いを口にし、涙と鼻水を流しながら彼ら彼女らは人工地盤の操作を終えた後、腰から拳銃を抜いてそれを自らのこめかみに当てては引き金を引く。

 

 ……

 …

 

 

「スゲェ。 やっぱゼロはスゲェよ!」

 

 目の前で陣取っていたブリタニア軍が文字通り足場とともに崩れていくこのありさまを見ていた玉城がその光景に魅入られていた。

 

 ……

 …

 

 

『偵察部隊、退避せよ! 先行したお前たちもだ! 死にたいのか?! (まさか、人工地盤を強制パージするとは……恐れ入ったよ、ゼロ。)』

 

 崩れるブリタニア軍、そしてこれを見て先走って移動していた反乱軍もいたフロア階層がパージするのを見た藤堂は上記の命令を出す。

 

 ……

 …

 

 

「うわぁ~♪ まさかこれもゼロ様が?」

 

 G1ベースにいた神楽耶がニヤリとしていたディートハルトに問う。

 

「後々、我々が必要とされる施設もありますから一部だけかと思います。 (しかし流石ゼロ、どうやって人工地盤調整部たちを……いや、ヴィレッタやジェレミアの推測通りに考えればなにも不思議ではない。 聞いていたより被害範囲は広いがさほど問題ではない。 やはりゼロは素晴らしい!)」

 

 ディートハルトは近くのコンソールに歩き、通信を情報部に繋げる。

 

「お前たち、ちゃんと録画しているな?! さっきの映像と政庁の陥落した映像を世界に放送すれば黒の騎士団……いや、『合衆国日本』の始まりとなる!」

 

 ……

 …

 

 

 コーネリアは地面がパージされて、騎乗していたグロ-スターが自由落下し始めると近くの建築物にスラッシュハーケンを撃ち出して無事な部分に着地し、彼女の行動で同じように行動をする者たちがほかの出遅れた機体たちが瓦礫と化した地面に押し潰されるか破損する場を見る。

 

『全軍、政庁まで撤退せよ! このありさま……謀ったな、ゼロ?!』

 

「地震対策の為の階層構造を利用するとはな。 さすがだ、ゼロ。」

 

 ガウェインの中にさっきまでユーフェミアと会話したことでホッとしていたコーネリアの怒鳴り声と、CCが感心するような言葉を出す。

 コーネリアとの通信が繋がったままからか、ここで彼女が『ルルーシュ』ではなく『ゼロ』と呼ぶ。

 

 だがルルーシュは顔色を青くさせて驚愕していた。

 

「ち、違う! ()じゃない!」

 

『何?!』

「なんだと?」

 

 ルルーシュの言葉にコーネリアとCCが反応し、素になったルルーシュはショックからか口を開ける。

 

「確かにこのようなプランを、俺は練ってはいたがユーフェミアを確保できたことで断念していた! これは俺じゃなく、別の誰かが────!」

『────言い訳のつもりか、ゼロ?! 私の注意を逸らしてぬけぬけと────!』

『────きゃああああ?!』

 

「『ユフィ?!』」

 

 ユーフェミアの悲鳴がスピーカーから流れ、コーネリアとルルーシュが彼女を愛称で同時に呼ぶ。

 

『ユーフェミア様、しっかり掴まっていてください!』

 

「(この声、アリスか?!)」

 

『ゼロ、このまま私たちは政庁を目指────きゃあああ?!』

 

「お、おい! どうした?! 応答しろ!」

 

 そこでアリスからの通信が途切れたことにルルーシュが焦る。

 

『ゼロ! 反乱軍を退かせろ────!』

「────コーネリアも軍を退け! このままでは全面衝突どころか────!」

 

 コーネリアたちの通信をよぎるかのように反乱軍、そしてブリタニア軍が砲撃を開始する。

 

『「誰だ?! ()の命令なしで攻撃した奴は?!」』

 

死ねぇ、ブリキ野郎どもぉぉぉ!

イレヴン風情がぁぁぁぁ!

七年前の恨み、ここで晴らせてもらうぞぉぉぉぉ!

大人しくしていれば死ぬことはなかったんだ、この原住民どもがぁぁぁ!

 

 コーネリア、そしてルルーシュたちに返ってくる通信は今までの鬱憤を今この場で晴らすかのような者たちの咆哮だった。

 

 そのどれもが生々しく、人間の誰もが胸の中に秘めた『嫌悪』や『憎悪』からくるものだった。

 

『ゼロ、まずは体勢を立て直すのが先決だ! このままでは泥沼化するぞ!』

「分かっている!」

 

 コーネリア、そしてルルーシュが引火(暴走)した火薬庫(暴動)を鎮圧するために動きだす。

 

「(そう言えばゼロの奴……“ユフィ”と言ったな。 いや、今は必要以上の損害を出さないことに集中しなくては!)」

 

 ふとそう思ったコーネリアだが、やはり根は武人ですぐに頭を切り替えた。

 

『ゼロ! こちらは学園組の扇だ! さっきの地震は何だ?!』

 

「以前に私が提案し、断念したプランを誰かが強行したことでブリタニア軍と反乱軍が衝突しだ────!」

『────扇さん! ブリタニアの奴らが────!』

 

 ドォン

 

『────うわぁぁぁ?!』

 

 ルルーシュがゼロとして扇に状況を伝えようとしたところ、扇側の誰かが慌てた声が爆発音に消されそうになり、悲鳴の途中で通信がぶっつりと切れる。

 

「扇? 扇! クソ! 藤堂、応答しろ!」

 

『ゼロか? まさかとは思ったが、人工地盤を利用するとは────』

「────さっきのは私ではない! 何者かが我々とコーネリアの軍を衝突させるよう仕向けられた可能性がある!」

 

『なんだと?! では、これは……』

 

「(この慌てようと切り替え、藤堂ではないな。 それに奴ならば、俺に一声をかけるはずだ。 なら誰だ? ディートハルトはありえなくもないが、奴にそこまでのカリスマがあるとは思えん。) 藤堂、お前は黒の騎士団を中心に撤退命令を聞かない反乱軍の統一化に回れ! G1ベースには前線から離脱するように伝えろ!」

 

 ルルーシュは地図にファクトスフィアから得た情報を重ねた画面を見るとガウェインの進路転換をする。

 

「CC! 学園に行くぞ! あちらのナイトメアの動きがおかしい!」

 

「ここにいなくて良いのか、ルルーシュ?」

 

「ここは藤堂と黒の騎士団に任せればいい! (ナナリー! 生徒会の皆! シャーリー! 無事でいてくれ!)」

 

 

 ……

 …

 

 

 少し時間は遡り、トウキョウ租界の外延部のパネルなどが落ちていく衝動がアッシュフォード学園にまで届いていた頃。

 

「きゃあああ!」

「わぁぁぁぁ?!」

 

「落ち着け!」

「建物の壁の近くまで移動すれば大丈夫だ!」

「落ちるものから頭を守れ!」

 

 中でもブリタニア人の学生や兵士たちは慣れない地面の揺れにビックリするが、ほとんどが日本人で構成された黒の騎士団がてきぱきと指示を的確に出す。

 

 流石に日本人だけあって、多少の地震には強かった。

 

 ドォン、ドドン! ドォン!

 

「な、なんだ?!」

 

 だが無い筈の爆発音が次々とブリタニア側から聞こえ、黒の騎士団たちが戸惑う。

 

「う……うぅぅぅ……」

 

 そんなところに、ブリタニアの兵士が数人ほど胸を抱えて黒の騎士団のテリトリーにフラフラとうなり声をあげながら入ってくる。

 

「負傷者か? なにg────?」

 ────ボン!

 

 ブリタニアの兵士たちは叫びながら次の瞬間、文字通りに空気を入れすぎた風船のように破裂しては周りに凶器の破片と化した骨や肉片が飛び散って周りの黒の騎士団員を襲う。

 

「うぎゃああああああああ?!」

「目が! 目がぁぁぁぁぁ!」

「あつ! アチチチチチチチチ!」

 

「お、おい! ブリキ野郎どもが────」

『────卑怯なイレヴン共がぁぁぁぁ────!!!』

「────うわぁ?!」

 

 生々しい匂いに戸惑っていた彼らだが、今度はブリタニア軍が発砲してきたことで彼らも応戦せざるを得なかった。

 

 上記でブリタニアの兵士が爆発したように、先ほどブリタニアのテリトリーでも黒の騎士団の数人が自爆して何人かの兵士を道連れにしたのだった。

 

 幸いにも殆どの生徒たちは寮の中にいたので彼ら彼女らに被害はなかったがアッシュフォード学園は瞬く間に戦場と化した。

 

「な、なんだ?!」

「ブリタニアだ! ブリタニアの奴らが発砲しだしたぞ!」

「ッ! そこの者、止まれぇぇぇ!」

 

 そんなアッシュフォード学園の外れにあるクラブハウスへ続き道を一人の少女が血の付いた制服のまま走っていたことに気付いた黒の騎士団員三人のうち一人がそう叫ぶ。

 

「いや! 怖い! た、助けて!」

 

「が、学生────?」

 

 バズッ。

 

 少女に気付いて彼女の着ていた学生服に油断した一人目は喉をナイフで切られ────

 

「────こ、この────!」

 

 スパッ。

 

「────イデェェェ?!」

 

 二人目が一人目に何が起きたかに気付いて銃を構える前に、少女が出した二つ目のナイフで手首の筋まで深い切り傷を負わせ────

 

「────うるぁぁぁぁ────!」

 ドスッ、ドスッ。

「────がボォ?!

 

 銃の引き金を引く直前に三人目の喉に少女は一つもナイフを投擲で貫き、手首を深く切られて利き手ではない手でまごまごと拳銃を取り出そうとしていたところに二つのナイフを彼の心臓を振り向きざまに刺す。

 

 流れるように銃を発砲させずに三人を葬る少女の制服は更に所々が血を浴びてしまうが、彼女は気にするどころか平然としてナイフを回収し、スカートと腰にそれらを戻してから再度クラブハウスへ歩きだす。

 

「(よっわ♪ こいつら絶対に修羅場の経験全然ない♪ あ。 ダメだ。 なんか楽しくなってきちゃった♡) 楽しくなっちゃったのよ♡ キャハハ♪ 楽しく~なっちゃったのよ~ん♬ キャハ~ハハ♫」

 

 ルンルン気分を表現するかのように、スキップしながらどこか古臭い(?)歌のテンポをなぞりながら上記の言葉を口にするクララ(少女)がクラブハウス前に立つとドアを開ける。

 

 本来ならカギはかけているのだがさっきの三人を見張りに置き、扇たちは騒ぎ出した本校へと向かったままの状態でカギは開いていた。

 

 ドンドンドンドン!

 

 ドアが少し開いた瞬間に中から重い銃声がして、クララはすぐに壁へと移動する。

 

「あっれ~? (誰だろう? 黒のアホ団は校舎の打ち合いに夢中になっているのに?)」

 

「やっぱり君だね、クララ。」

 

 中から来た声にクララの顔は一瞬無表情になるが、すぐに薄笑いを浮かべる。

 

「ふぅ~ん? その声、もしかして特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)のマオ? 久しぶりね? 生きていたの?」

 

 クララとマオ(女)の二人は別の組織に身を置いているが、立ち位置が少し似ていた。

 二人は主に『潜入』、『工作』、『尋問』のスペシャリストとして良く比べられていた。

 

 所謂『ライバル』的な位置につけられていたが、本人たちにとっては大きな迷惑に過ぎなかった。

 

「そうだね。 君にも同じことが言えるよ。 『自称スニーキング(隠密行動)が一番のクララ』。」

 

「まぁね。 お兄ちゃんに会うまでクララは死ねないよ♡ 『自称吐かせの博士(天才)さん』♪」

 

 クララは帽子の中から手鏡を出し、ポケットから出したガムを噛み始める。

 

「それよりもマオ~? ここにいて、『私に発砲する』っていう事は裏切ったのかな~?」

 

「裏切る? 『裏切り』は元々お互いを信頼した関係から来るものさ。 ボクは一度も信頼したことは無かったよ。」

 

 クララはガムをナイフに付けて更に手鏡を付けるとドアの隙間にそれをゆっくりと、ゆっくりと出す。

 

「奇遇ね。 私も貴方たちの事を信頼したことが無かったから、貴方が“特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)を抜けた”と聞いたときはデマかと思ったけれど……違うみたいね。」

 

 クララが手鏡の中から黒の騎士団が設置した機材から銃を構えている様子を見て笑みが邪悪なものに変わる。

 

「という事で『マオ・舜生(シェンシュン):私との敵対行動をやめて前に出なさい』。」

 

 クララの目にギアスの紋章が浮かび上がり、それは手鏡に反射してクラブハウスの中にいたマオ(女)の目にキャッチされ、彼女は隠れていた場所から出ては出口の方へと歩きだす。

 

 この様子を見たクララはマオ(女)の横を素通り────

 

 ────ギィン!

 

 けたたましい金属と金属が互いを弾く音がクラブハウス内に鼓動する。

 

「チィ! (コンタクトレンズを使った奇襲はやっぱり効かなかったか! 勘だけは良いもんな!)」

 

 マオ(女)はクララのような『目を直視して発動させるギアス』への対策として、スヴェンと共に開発したコンタクトレンズを目に付けていた。

 

「アハ! やっぱり演技力はダメダメね────!」

「────それは君もでしょ、クララ! それに元々ボクたちは────」

「────私たちは────」

 「「────好戦的ッ!!!」」

 

 マオ(女)、そしてクララがお互いに愉快な(歪んだ)笑みを向けながら相手の得物を自分のナイフ(もしくは銃)ではじく音が激しくクラブハウス内に響く。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 トウキョウ租界の外延部でもコーネリアの軍や反乱軍のいた場所から離れた場所でアリスは崩れていくパネルから次のパネルに飛び移り、政庁へ近づこうとする。

 

「ここを! 何とか切り抜けられれば!」

 

 アリスが最後に大きく飛ぶとトウキョウ租界の内部へと着く。

 その懐かしい街並み(と言っても再開発地区)にアリスがホッとしてしまうが、すぐに横から来るアラート音にガニメデ・コンセプトを避けさせる。

 

「あの時追っていた黒い機体たち?!」

 

 

 ……

 …

 

 反乱軍が集結した背後のG1ベース……の更に後方では半壊した建物が次々と戦闘に巻き添えになり、倒れていく。

 

「(サンチアたちの感知に引っ掛からず、マ()の能力もワンテンポ遅い。)」

 

 毒島達はスヴェンの書いていた指示通りに動いていたが急に襲撃を受け、応戦していた。

 

「(ここに素早いアリスもいれば……いや、無いものねだりをしても仕方がない────何?!)」

 

 毒島が建物と建物の間を潜り抜けようとすると、敵の機体らしきものが同じように角を曲がろうとしていたところに出くわす。

 

「ヌゥン!」

 

 毒島は乗っていた無頼改の廻転刃刀で身に染みさせた動作で三段突きを繰り出す。

 

 一つ、二つ、三つ目の突きが正確に敵の機体のコックピットブロックと思われる胸を貫く。

 

 普通の敵ならばこれで戦いは終了していた。

 

 ()()()()()()()

 

 敵の機体がランスを繰り出し、毒島が距離を取りながら見ていると破損したはずの敵が自己修復していく。

 

「チッ! こいつもか!」

 

 毒島の言ったように、彼女たちが対峙していた敵はそれぞれが何かの能力を持っていたことで、かなりの苦戦を強いられていた。



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第79話 『他人の為に』

大変長らくお待たせいたしました、次話です。 _:(´ཀ`」 ∠):_ …

お気に入り登録や感想に誤字報告、誠にありがとうございます。 すべてありがたく、活力剤と励みと気力剤として頂いております。 m(_"_)m

携帯でコツコツと書いたものですが、楽しんで頂ければ幸いです。 _(X3」∠)_バタンキュー


 黒の騎士団、彼らに便乗した反乱軍もとい暴徒たち、暴徒たちに応戦するブリタニアの駐屯兵、コーネリアの親衛隊や知人の者と本国から呼び寄せたグラストンナイツたち、そしてゼロ。

 

 各々が独自の目的のため、混沌化したトウキョウ租界を駆ける。

 

 ナイトメア戦で放たれた弾丸や機体の爆発などであらゆる場所が爆発に巻き込まれ、怒りや憎悪からくる怨嗟で一般市民も武器を手に取り、警察などの保安機関が上手く動けないのを良いことに『自衛』を名分に自警団を組んで暴れていた。

 

『自警団』は聞こえがいいものの、実際の行動は己の定義によって行動する『暴力団』に近かったが。

 

 そんな騒がしいトウキョウ租界の再開発地区……のさらに距離を置いたゲットーでは、鉄パイプにハンマーや火炎瓶など、身近で武器になりそうなものを手に持って租界へと向かっている住民たちの姿があった。

 

 キュイィィィィィ! バキ、ガシン! キュイィィィィィ!

 

 そんな廃墟に、場違いなナイトメアのランドスピナーが展開するような音などが響く。

 

 その場所自体はフジサンに面する方向であって、既に反乱軍の(即席ではあるが)ローラー作戦式にブリタニア軍を押し返していた地域だった。

 そして殆どのナイトメア戦が起きているのはトウキョウ租界の筈。

 断じてこのような辺境で再度聞くようなものではなく、毒島達やアリスのいた場所とは違う。

 

 聞くはずのない機動音にざわめきながら戸惑うゲットーの住民たちが、さらに大きくなりながら建物を反響する音の方向を見ると、機体が一回りごついサザーランド(?)がスラッシュハーケン(のようなもの?)を戻しながら、角を過激なスピードで曲がってくる。

 

 街道を歩いていたゲットーの者たちはこの突然現れた機体により、蜘蛛の子を散らしたようにバラバラの方向に、『我先に』と逃げ始める。

 

 そんな彼ら彼女らを避けるかのように、サザーランド(?)は両手を地面に向け、先ほどのスラッシューハーケン(のようなもの)を別の建物に撃ち出して文字通り宙を舞う。

 

 器用に腕や建物につけたランドスピナーを使い、空中でのバランスを取りながら腰のスラッシュハーケンを打ち出してそのまま角を曲がる。

 

 この光景を見た者たちは『ナイトメアが、空を飛んだ?』と思っている中、後を追うかのように真っ黒な機体が今度は街道をそのまま突っ切る。

 

「(流石はコードギアスの別作品の主人公だ!)」

 

 宙を舞うのは改造と呼ぶには生々しすぎる元純血派のサザーランド────『サザーランド・ザ・ビッグ』に乗っていたスヴェンは、通常のスラッシュハーケンとは異なるデザインと強度をした『アンカーハーケン』を使って、サザーランド・ザ・ビッグ(略して『サザビ』)で以前対ランスロットよりさらに過激な立体機動を行って、追ってくる黒い機体を振り切ろうとしていた。

 

 角を曲がる度に急激な方向転換でGがスヴェンの体を襲う。

 体はシートベルトを着用していたが、暴れ馬のようにいつ()()をしてもおかしくはなかった。

 シートベルトに臓器が締め付けられるだけでなく、医療ポッドに入れられた際に処置された骨はミシミシと音を立ててまたもひびが入る。

 前回の『殺人的な加速』から得た教訓から、スヴェンはほとんど呼吸をせずに息を止め、体を無理やり膨らませた状態で体の形を維持していた。

 

 医療ポッドから投与された痛覚麻痺の薬物で鈍い体に鞭を打って無理やり動かし、意識はやる気と共に『今すぐにでも眠りたい』といった脱力感に覆われながら次第に色があやふやになっていく景色の中、彼はただただトウキョウ租界を目指す。

 

「(だがネタ武器搭載機とはいえ、よく持ちこたえてくれている! 元ネタの機体に出来るだけ近づかせた俺に感謝だ! 遠距離武装、殆んど無いけど!)」

 

 本来のナイトメアでは、いま彼が立て続けに行っている某蜘蛛のスーパーヒーローのような立体起動は不可能に近い。

 それこそ四つのスラッシュハーケンを持ち、さらに『MEブ-スト』という機体のフレームとスラッシュハーケンのワイヤー内を走るサクラダイト繊維を利用した『マッスルフレーミング』。

 

 これらを兼ね揃えた、『軽量かつ高機動戦が可能なランスロット』でなければ今スヴェンがしている移動方法は空想上の理論止まりだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()を持っ(に囚われ)ていれば』、の話に限るが。

 

 そこにランスロット────否、現在のナイトメアが当時からでも開発され続けられたコンセプトに、真っ向から喧嘩を売るようで殆どが正反対の方針(元ネタ)で作られたのがサザビだった。

 

 重装備……いや、機体自体が『重型KMF』とも呼べる新しい機種のサザビは従来の『圧倒的な機動力で勝負』を主に行うナイトメアとは違い、『厚い装甲と強度を増した白兵戦と長距離砲撃武装』を元に、鹵獲した純血派のサザーランドは魔改造されていた。

 

 勿論、これだけの機体ならば自然と鈍足になる……筈なのだがスヴェン、そしてマーヤが繰り出せる『変態(立体)機動』である程度の対策はできるとも言えた。

 

 現アマルガムの中でも、サザビをまともに扱えるのはこの二人だけなのだが。

 

 何せ立体起動で出した速度は、加速し続けなければサザビ(サザーランド・ザ・ビッグ)の勢いは振り出しの、元の鈍足なものへと戻ってしまう。

 

 そんな雪だるま式に加速を続けると次第に機体を襲う負担より、搭乗者への限界が来てしまうので()()()()()()()()()()()()()()()のが今までの現状だった。

 

カハッ! (つってもヘルモードを通り越して改造マリ〇のステージ並みに無理ゲー! ここが()()か!)」

 

 スヴェンはこみ上げる感覚に気付けば吐血し、サザビ(サザーランド・ザ・ビッグ)が重い音と共に地面に着地し、腕を構える。

 

 ドッ!

 

 追っていた黒い機体が角を曲がり、すぐそこまで来ると同時にサザビ(サザーランド・ザ・ビッグ)はスラッシュアンカーを撃ち出しては異様な腕から伸びていた肘がそのまま打ち出されるか如く動き、圧縮された空気を吐き出して同時にスラッシュアンカーが巻き戻されてサザビ(サザーランド・ザ・ビッグ)はまたも半円を描くように飛び、加速し直す。

 

「(まだだ! 後ろから追ってくるライ(恐らく?)に追いつかれる前に、学園に行かないと!)」

 

 スヴェンは先ほどアッシュフォード学園に万が一の為に潜入を頼んだマオ(女)からのメッセージを思い出す。

 

『アッシュフォード学園が非戦闘地帯と指定された。 

 ブリタニアと共同活動する黒の騎士団として入ったよ♪

 by∩(=^・ω・^=)』

 

 ここまでならばいい。

 最初こそ“非戦闘地帯??? 何のこっちゃ??? 聞いてへんぞ?”と思っていたスヴェンだが、次に彼女からのメッセージで彼は当初に目指していた政庁からアッシュフォード学園へと移動する方向を変えた。

 

『黒の騎士団、ブリタニア双方にイザコザ発生&乱射音。

 昔に見たことある嫌な知り合い発見。

 ()()()

 by (=^˃ᆺ˂^=)』

 

 マオ(女)が最後に打ってきた、何の変哲もない上記のメッセージ。

 これがスヴェンに違和感を与えていた。

 

 何せ、彼女は自ら危ない仕事などを今まで志願して引き受けていた。

 根回しや物資の受け取りに交渉、等々。

 特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)を引き抜くために『マッドの確保』でさえも志願し、重傷を得た後でもそれは変わらなかった。

 

 その度に『面倒』、『時間がかかる』、『出来たらね♪』などと言っては結局頼まれたことを達成させてしまう。

 

 だが一度も『任せて』とは言わなかった。

 始めてマオ(女)と会ってから協力的になっても、今までもずっと。

 

 それが何故かスヴェンに猛烈なまでの違和感を抱かせ、とある結論へと至らせる。

 

『もしかして()()()()()()とは、ギアス能力者でかなり分が悪い強者か?』

 

 そこから彼の『違和感』が『悪い予感』へと転じさせた要因はほかにもあったが、とにかく彼はアッシュフォード学園を目指していた。

 

 フジサワでライダースーツがべったりと彼の身体に引っ付き、サザビ(サザーランド・ザ・ビッグ)に騎乗する前にかぶり直したフルフェイスヘルメットの中はむわッと蒸していた。

 

 それらが果たして上がっていた体温からかストレスからか、大量の汗を掻いていた所為か。

 はたまたはスヴェンが無意識に息を荒くしていたからかは定かではなかった。

 

 

 ……

 …

 

 

 エリア11で得られると想定していたデータ収集量を達成したアヴァロンは、戦闘空域となったトウキョウ租界から離れようとしていた移動を少し前から中断していた。

 

「イタタタタタ────」

「────大丈夫……な様子ではないですねロイドさん。」

 

 アヴァロンのハンガーの中では、殴られた頬を赤く腫れあがらせ、いつもかけている眼鏡も外したロイドを、セシルが傷の消毒をしてから瞬間冷却パックを当てていた。

 

 実は先ほど、スザクが今まで見せたことの無い形相でランスロットの作動キーを珍しく正論を言うロイドから無理やり奪って出撃したのだった。

 

 彼の残した言葉、『ゼロは必ず俺が相打ちにしても殺す』と言い残して。

 

「ロイドさん……どうしますか?」

 

「どうしますって、君……こういう時に限って、僕を上司扱いしていない?」

 

「一応、このアヴァロンで一番位の高い者と言えば伯爵で特派主任のロイドさんですよ?」

 

「はぁ~……どうすると思う? データは保存してあるけれど、肝心のランスロットが無いまま本国に戻ってごらん? 無関心なクルクルちゃんならともかく、スポンサー殿下ならニコニコしたまま予算を次のランスロットを作る分に回すかもよ? 別の特派を作ってから……あーあ! こんなことになるのなら、エニちゃん(ノネット)も一緒に来てもらえばよかったなぁ~……」

 

「と言っても、トウキョウ租界も大変ですけれどね……」

 

 

 ……

 …

 

 ギィン! ギギィン、ガァン

 

 人気のないクラブハウスの中で金属と金属が激しくぶつかっては流され、時たま銃声の音が鼓動する。

 

「「アハハハハハハ!」」

 

 そんな物騒な音とは裏腹に、二人の少女が愉快そうに笑う声が混ざる。

 

「(ヤバい。)」

 

 マオ(女)は笑って焦りを隠していたが。

 

 彼女の色白だった肌は擦り傷から出た血で赤く滲んでいるのに対してクララに殆んど傷らしい傷は出来ておらず、せいぜい服が少し破れている程度。

 

 どちらが優勢なのかは一目瞭然だった。

 

「(やっぱり対人戦のブランクは大きいなぁ~。 それだけじゃない、ナイフの扱い方からクララは明らかに『殺し』特化。 『拷問』のボクとは大違いだ。 その上、最後に会ってから数年は経っている。 マ()と放浪している間にも、クララは恐らく研鑽をさせられていた。)」

 

 思考を走らせながらもマオ(女)は応戦していたが、徐々に傾く天秤の勢いが増していくように彼女の怪我は増えていく。

 

「(それでも、()()()()んだよね!)」

 

「どうしたのマオ~? 全然よわよわじゃん♪ ま、いっか。 クララは早くこれを終わらして、お兄ちゃんを探すんだから♪」

 

「奇遇だね。 ()()()お兄さんを見つけたんだ。」

 

 マオ(女)の言葉にクララがピクリと、ごくわずかに初めての『動揺』を見せ始める。

 

「ふぅ~ん? “自由”が好きな貴方がねぇ~? あ、違った。 “()()()()()()な貴方が~?」

 

「うん、そうだよ♪」

 

 彼女の本音を書けば『始めは利用するつもりだったけれど♪』と言った続きがあったかもしれない。

 

 彼女の『ザ・リフレイン』はかなり戦闘力に直結したギアスユーザーを生み出していた特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)にすれば、当初は『ハズレ』の扱いをされていた。

 

 だが彼女の能力の副産物である、『対象の記憶を()()読み取れる』という性質は魅力的で、本人のマオもある程度は自信を持っていた。

 

 だがスヴェンにギアスは()()()()()()()

 

 否。

 より正確に例えるのなら()()()()()()()()()というべきか。

 最初はそんな異常でデタラメな存在をマオはどう使えばいいのか迷ったが、さすがにCC細胞を抑制剤無しに退化させることも出来るのは想定外だった。

 

 今までの『諦め』と『絶望』などだけの気持ちが混ざった暗い自分の胸に、初めて『希望』が出来た。

 

 しかも相手側はそれに気付いた様子も、利用するような仕草も見せずに『ただ一人の人間(ヒト)』として接していた。

 

 スヴェン然り、毒島然り、アンジュ然り、マーヤ然り。

 

 マオは生まれて初めて『友人』や『同僚』や『上司』などではなく、『家族』と出会った。

 心根がまっすぐで。

 互いを『仲間』と信頼して。

 他人の幸せを願え、寄り添える人たち。

 

 グサッ!

 

「ウッ?! (痛い!)」

 

「きゃは! とったー!♪」

 

 クララがわざと落としたナイフに気が逸れ、隠し持っていた二つ目のナイフがマオの腹に刺さり、マオの体はくの字になりそうになりながら弾倉が空になった銃を落とす。

 

「(()()()()!)」

 

「ッ! お前────!」

 

 クララはすぐにナイフを引き抜こうとするが、マオが腹筋に力を無理やり入れたことでそうすることでようやくそれ(刺されたこと)がワザとだったことにクララが気が付いた頃、マオはコンタクトレンズを目から外して発動していたギアスを向けていた。

 

 「────ボクと共に永遠の眠りにつけ、クララ・ランフランク!」

 

 初めて『他人を守りたい』という感情が『自由ファースト』の彼女に芽生え、それに気付いたマオが出た行動だった。

 

 

 ……

 …

 

 

「(これほどまでに、怨嗟は人を変えるというのか!)」

 

 藤堂の黒い月下は暴徒化した反乱軍、およびブリタニア軍をなるべく死者を出さないように切ろうとしていた。

 

 だがすぐに動けないナイトメアを群がるように市民が中からパイロットを引きずり出しては暴行を加える。

 

 何とか黒の騎士団組の歩兵と連携し、パイロットたちを保護していくが限界があった。

 

 元々黒の騎士団は『トウキョウ租界を落とす』という前提の装備や編成をしていたもので、『敵兵の捕獲』または『救助』などに不慣れな者たちもいた。

 

 そんなところに、慌てた様子の通信が藤堂に届く。

 

『と、藤堂さん! 白兜です!』

 

「なに?! (ランスロットか?! だがあの航空戦艦は離脱した筈────!)」

 

『────うわぁぁぁぁ────!』

『────は、早────!』

『────た、助け────ぎゃあああああ?!』

 

 次々と黒の騎士団や反乱軍の断末魔などが届いたことが、藤堂の予想を確信に変えさせて彼はすぐに対応をしだす。

 

「全機! ランスロットが戦場に出た! カレン君以外は()()()()()()()()()()()()! 奴の予測経路にいる雷光たちからは脱出し、前線から離脱し始めろ!」

 

『え?!』

『お、俺らならまだ戦えます!』

『そうです! それに────!』

 

 「────これは命令だ!」

 

『『『りょ、了解です!』』』

 

 藤堂は懐にしまっていた封蝋に思わず手を添えながら、いつも以上に気合の入った口調で念を押す。

 

 封蝋されていた手紙には、『もしも黒の騎士団がトウキョウ租界を攻めることがあり、ランスロットが現れるようなことがあれば奴の前から総員退避させてくれ。 でないと()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

「(ランスロット……いや、スザク君はなるべく黒の騎士団を……『日本人』を殺さないように今までは動いていた。 最初は余裕からかと思っていたが、パイロットがスザク君ならある意味理解できた。

『殺しは極力したくない』、と。

 何か、心構えを変えさせた理由があるのか? どちらにしても、スバル君にこんなことを書かせるのなら相当な変化だ。)」

 

 ……

 …

 

『な、なんなんだよこいつはぁぁぁぁぁぁ?!』

 

 反乱軍のサザーランドがどれだけアサルトライフルを撃っても、()()は銃弾を躱しながらただただ彼らを躊躇なく突っ込んできては確実に相手を殺すようにMVSで切り伏せていく。

 

 『お前たちにかまっている時間などない!』

 

 スザクは今まで胸の奥深くに長年、仕舞い込んでいた『怒り』を糧に全力でランスロット・エアキャヴァルリーを────否。 ナイトメア(ランスロット)に初めて騎乗して以来、機体を酷使していた。

 

 今までスザクは必要なとき以外、ランスロットの性能を100%出していなかった。

 

 というのも、ロイドの理論上からの『通常のデヴァイサー(肉体)なら崩壊しかねないからね☆』だとか。

 

「ゼロは! ゼロはどこにいる?!」

 

 ピィー♪ ピィー♪ ピィー♪

 

「うるさい、黙れ!」

 

 そんなスザクはロイドが(渋々)ランスロットのOSに組み込ませた、機体の予想されている性能が耐えられる負担オーバーを知らせるアラームを強引に切り、ファクトスフィアを展開すると学園の方に盗まれたガウェインが移動────

 

 「───見つけた! ゼロォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

 スザクはフロートシステムを全開にし、空を飛ぶ。

 

 

 ……

 …

 

 

「どっせぇぇぇぇい!」

 

 ノネットはトウキョウ租界でMVS(ランスタイプ)を活用し、大暴れしていた。

 彼女はクロヴィスのお願いによりダールトンがいない今、防衛線を張るギルフォードの副官……のようなものをし、できるだけコーネリアの調子が戻るまで時間と兵力を温存させていた。

 ほかの誰が何と言おうと、何も『臆病風に吹かれた』というわけはなく、これは立派な戦術の一つであった。

 

 『侵略軍に対して現状が不利ならば、意図的に戦力を分散させて数を減らす。』

 つまりはわざと侵略する軍に制圧させる範囲を広がせて、兵を広範に展開させる。

 

 今でこそブリタニア軍は不利であるが上記の戦略を取ればブリタニア軍が各個撃破されることはない上に戦力の密度は上がりよりよく防衛をすることができる。

 

 少なくとも、本国からの援軍が到着するまでは。

 

 人工地盤の(文字通りの)どんでん返しがなければ。

 

 「次ィィィィ!」

 

 人工地盤が崩れ、せっかく温存した戦力が減ったことで、ノネットはやっとギルフォードに自分が直接前線に出なければ行けなくなったかの説得に成功した。

 

 彼女の姿は某長寿ゲームで言うところの『無双』に近く、反乱軍が鹵獲したサザーランドや戦車を薙ぎ払い、一騎当千の活躍に味方のブリタニア軍の士気は高まる一方だった。

 

 装備していたのはいつもの大型ランスではなく、ランスタイプのMVS、そして背中にエナジーフィラーを携帯していた。

 

 危険極まりないが、『敵に背後を見せなければいいだけだ』とのことだった。

 

「(これであらかた政庁の側面に展開した、奴らの戦力はズタズタにできた。 後は────)」

 

 ノネットはランスロット・クラブのエナジーフィラーを素早く交換し直してファクトスフィアを展開すると、通常の速度をはるかに超えたナイトメアらしき反応に身構える。

 

「(────なんなんだこれは?! 味方の識別信号を出していないから敵なのは確かだが、この速度と動き……まるで障害物を突っ切る戦車のようだ!)」

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 ノネットが思っていたように、()()が近くの建物を異様な形をした腕をあげながら突き破ってくる。

 

「(あれはサザーランド?! 反乱軍色じゃない……味方? いや、肩が純血派特有の赤い塗料がされている! 純血派はジェレミアの事件で解散された────つまりは敵か?!)」



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第80話 オレンジとQLと暗躍者たち

お待たせいたしました、長めの次話です!

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ノネットが見上げていたサザビは所々破損したような箇所があり、今ならば()()()()()を機体に強要していることが分かる。

 

「(それでもまだ、こいつはまだ()()()()()()()()。)」

 

 だがノネットが連想するのは弱っている敵などではなく、満身創痍になりながらも()()()()敵だった。

 

 身震いをするほどに。

 

『私はノネット! ノネット・エニアグラム! 神聖ブリタニア帝国のナイトオブラウンズが一人、ナイトオブナイン! いざ、勝負!』

 

 そして思わず、戦闘中に名乗りを上げる程に。

 

 

 


 

 

 吐きたい。

 お腹も変な気持ちがするし視界がぐらぐらするし灰色だしもう正直クソ怠くて寝むたい。

 

 取り敢えずこのイライラを目の前の建物にイラつきをぶつけよう。

 

 ハイホー、シルバー。

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 機体が酷く揺れるが、胸の中は一瞬だけ清々しく感じた。

 だが建物の向こう側で待ちうけていた光景を見ては喉を何かがせりあがってくる感じがまたもしてくる。

 

『私はノネット! ノネット・エニアグラム! 神聖ブリタニア帝国のナイトオブラウンズが一人、ナイトオブナイン! いざ、勝負!』

 

 何だか前にうるさいのが出た。

 

『アポを取れ。』

 

 “どうでも良いが、構っている暇はない”が何故か上記のような言葉で、外部スピーカーを通して俺の口から出てしまう。

 

『その声……何時ぞやの少年か?!』

 

 いや、これは別に“吐きそうになるから長い言葉を続けなかった”というからじゃないぞ?

 

 ただ自然と簡略化して口を開けたらそうなっただけだ。

『開き直り』?

 そうとも言うな。

 

 しかしどうする、俺?

 

『こんな形で君と()り合えるなんて……今日で一番の出来事だ!』

 

 前門の(ノネット)、後門の(ライ(仮))────いや。

 この場合『前門の狂戦士(ノネット)、後門の(ライ(仮))』か?

 

 どこのスペイン人の小説で出てくる主人公のシチュエーションなの()()

 

 ()()()()()()()()

 敵の右腕から来るMVSランスの突きに、俺はサザビのごつい腕でそれを受け流す(横に殴る)

 

『馬鹿な?! ランスタイプとはいえ、MVSを?!』

 

 MVSの由来は『メーザーバイブレーションソード』。 日本語に直訳すると『電磁波振動剣』。

 

 もう名前は察しているかもしれないが所謂『高周波振動ブレード』だ。

 確かにその刃は鉄をも簡単に両断してしまう、恐ろしい斬撃兵装だ。

 その()は、な。

 

 だからそのどてっぱら(剣身)ならば、ある程度の()()を持ったサザビの腕で薙ぎ払える。

 

 腕はサザーランドとは違うのだよ。 サザーランドとはなぁ。

 

『ならば、これはどうだい?!』

 

 今度は左腕のとんがり(ルミナス)コーンか。

 

 前にカレンが見せてくれたデータ通りならばいける筈だ。

 右腕のパイル、充填。

 

 ドッ!

 ビリビリビリビリビリ!

 

 クラブの武器とサザビの腕が衝突し合い、衝撃波が分厚い装甲越しに肌で感じられ、サザビの右手にヒビが入り、破損し始める。

 

 ここだ、『ストライクパイルモドキ』展開!

 

 右腕の肘についたパイルで圧縮された空気が一気にクラブの螺旋状に展開されたエネルギー場と衝突し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『なに?!』

 

 とか思っているのだろう?

 実際問題、とんがり(ルミナス)コーンも厄介だが思い出してほしい。

 元々はブレイズルミナスの応用で作られた超圧縮空間されたエネルギー装甲システムが、螺旋状に展開されたのがとんがり(ルミナス)コーンだ。

 

 イメージにすると、ラウンドシールドを無理やりバネ状に引き延ばした感じだ。

 

 つまりは理論上、()()()()()()()()()()()()

 

 さてここで問題です。

 衝撃同士が真っ向からぶつかり合うと、どうなるのでしょう?

 ズバリ、物理的に多い方がニュートン法で相殺されなかった分が勝つでしょう! 

 

 ……何故にさっきまで〇尾君ボイスだったのだ、俺は?

 クロヴィスがこの世界にいるからか。

 

 どうでも良いが、今の衝撃でクラブがよろけている隙に右腕の外付けパーツをパージする。

 かなりの物量だから、当分は時間を稼げるだろう。

 

『貴様! 逃げるのか?!』

 

 あーもうー。

 うるさいなぁ。

 

『お前に構っている時間がない。』

 

 外部スピーカーでちょっときつい言葉を言いながら、今度は背後から追って来ている筈の黒ずくめであるナイトメアに機体(サザビ)を振り向かせようとして衝撃が来る。

 

 ブツン。

 

 それと同時にコックピット内が暗くなる────いや、これはカメラ(頭部)がやられたか。

 

 ()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 バシュ!

 

『な、生身で出てきただと?!』

 

 狂戦士(ノネット)が何か言っている気がするが、なんてことはない。

 ナイトメアはありとあらゆるセンサーなどをカメラ含めて頭部に集中させている。

 だから頭部がやられたら、コックピットの中にある画面に外の映像は映らない。

 

 だがそれだけで、ナイトメアが()()()()という事はないのだ。

 

 非常用キューポラハッチに、シートごと上昇させて上半身を外に露出させれば()()()()()()()()()()()()

 

 流石のライ(仮)も予想していなかったのか、一瞬奴の乗っていたナイトメアの動きが止まる。

 

 その隙に、俺は振り向きざに上げていたサザビの左腕を振るうがライ(仮)はこれを避ける。

 

 これも想定内だ。

 

 以前*1に使う機会が無かった予備の腕をフリーになったサザビの右腕に装着した()()が飛び出し、金属音を出しながら()()()ライ(仮)の機体の頭部を掴む。

 

 口が満足に動かせる状態なら『ばあああああああああくぬぇつぅ!』と掛け声をしているだろうが、今は余裕がない。

 

 と言う訳で簡易型輻射波動の甲壱型腕ゴー。

 

 ポチッとな。

 

 右腕から出てくる熱量に周りに空気が歪む始め、コンソールからアラートが出てき始める。

 

『甲壱型腕』はコードギアスR2で出てきた、有り合わせのパーツで作られた輻射波動の撃てる腕だ。

 

 出力も威力も本家(紅蓮弐式)には到底敵わないし、あっちと違って連発もできないし、エネルギー源も一発一発がマニュアル装填の必要なカートリッジ式だ。

 

『巨大電子レンジ式単発ショットガン』とでも思ってくれればいい。

 

 それを俺は紅蓮の整備でパーツをちょろまk────拝借して、取り外しのできる輻射波動の簡易版をキョウトのじっちゃんに頼んで作ってもらった。

 

 完全に趣味のネタ武器だったので、サザビの負担は大きいが。

 

 ボン!

 

 しっかし熱いな、やっぱり。

 ヒート、エンド。

 

 頭部はこれで壊したし、オートで脱出機能も作動し────

 

 ────ボン

 

「グフッ?!」

 

 眼前で爆発したライ(仮)機から来る衝撃と驚きに思わず噛み締めた口から息を漏れ出しながら機体を転倒。

 

 脱出装置の作動後に自爆とは考えていなかった。

 

 カン!

 

「ッ?!」

 

 右から聞こえた()()に視線を移すとナイフを持ったライ(仮)の姿ガガガがガガガががががぁぁぁぁ?!

 

 とでも思うたかぁぁぁぁ?!

 俺にはとっておきがあるんだよぉぉぉ!

 取り敢えずサザビを無理やり360度回転させて振り払う!

 

 ……オエ。 更に気持ち悪くなったけどそんでもって────

 

「────ゴホッガフッガハァ!(逃げるんだよぉぉぉぉぉ!)

 

 今の咳で出した空気を、息を短くして補充。

 目が回るが取り敢えず、今の俺は俺自身が自分に任せた作戦だ。

 

 政庁にはアリスがユーフェミアをコーネリアの元へ連れて行くだろう。

 ユーフェミアはかなり『いきなり』だからな、多分『お姉様が心配です!』とか言い出すだろう。

 

 そして黒の騎士団の退路とフォローを毒島達に。

 まさかのまさかで、阻止できたはずの『特区日本での日本人虐殺イベント』がそのまま続行になるなんて思わなかったが、彼女たちに頼んどいて良かった。

 

 それよりも学園だ。

 あそこにはナナリーやマオ(女)がいる。

 胸騒ぎがする。

 

 ライ(仮)とノネットとエナジーフィラーの残量は……考えないようにしよう。

 

 無視だ。

 虫、虫、蒸し()パン買ってこ~い♪

 

 ……そろそろヤバいな、俺も。

 

『ま、待てお前!』

 

 後ろからうるさい声がくるがどうでも良い。

 さっきのやり取りで遠距離武器が無いのは分かったからな。

 

(俺に)付いて来られるか?

 

 

 


 

 

 電源が落ちたクラブハウスの一角では、生徒会室の中でナナリーとライブラ、そしてミレイとリヴァルにシャーリーもが息を潜んで隠れていた。

 

「外の音、止んだみたいですよナナリー。」

 

「……………………」

 

 ついさっきまでクラブハウスのホールから聞こえていた音が止み、そう震えるナナリーをライブラがそっと声をかける。すると、ドアの外からコツコツとした足取りが聞こえてきたことで、中の者たちは身構えて物陰の中へと隠れる。

 

 ガチャ。

 パチ、パチ。

 

 誰かが部屋の中へ入って来ては照明のスイッチを何回か押す。

 

「あれぇ~? ここもかぁ~……ま、いいか。 誰かいませんか~? 外の人たち居なくなりましたよ~?」

 

「え?」

 

 聞こえてきたのはリヴァルたちと同じ歳ほどの少女の声だったことに、シャーリーが思わず声を出してしまう。

 

 カツカツと足音が大きくなって、生徒会の者たちが隠れていた物置部屋のドアが開く。

 

「み~つけ~た♪」

 

 ドアの向こう側には、茶色の帽子と返り血を浴びたままの制服を着ていた少女(クララ)だった。

 

 

 ……

 …

 

 

「お待たせ~♪」

 

 クララはナナリーの車椅子を強引に押しながらクラブハウスのホールに戻り、ホール仰向けに横たわりながら血を流すマオ(女)に……ではなく、彼女の近くにいた少年に声をかける。

 

「待ってください! 誰ですか貴方は?! 生徒会の皆やライブラたちに何をしたのです?!」

 

「何って? ()()()()()()()()()()だけど? それより自分の心配より他人の心配とはねぇ────?」

「────そんな貴方()()こそなんですか?! どうして、私の事を?!」

 

「……“たち”? 目、見えているの?」

 

「私は目が見えない代わりに音には敏感なんです!」

 

「あ、そっかぁ~。 それよりもさぁ、さっきも言ったように私はお姫様を迎えに来ただけ♪ ね、パパ?」

 

 クララが“パパ”と呼び、新たに表れた気配にナナリーは眉間にシワを寄せる。

 

「この感じ……CCさんですか?」

 

「違うよ、ナナリー。 君を迎えに来たよ、ここは危ないからね。」

 

 その場にいた少年に、クララが“パパ”と呼んだVVが目配せをすると、彼はマオ(女)の近くから離れてクラブハウスの外へと出ていく。

 

「パパ~、この子はどうする~? 『グサッ』と行っちゃう?」

 

 クララがナナリーの車椅子の電源を切ってからマオ(女)を見る。

 

「教団の玩具が居たのはちょっと予定外だったけれど、概ね問題ないよ。 君は先に行っていて良いよ。」

 

「ハイハ~イ!♪」

 

「(不覚……まさか、()()()まで呼んでいただなんて……もしお兄さんが知っていたら、僕でもちょっと荷が重いと言っていたな……)」

 

 マオ(女)はボ~っとする頭のまま、出来るだけの情報を集めようと意識だけでも何とか留めていた。

 

 

 ……

 …

 

 

「なんだ、これは……なんなのだ、これはぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ルルーシュはブリタニア、そして黒の騎士団がアッシュフォード学園の敷地内外で争う光景に絶叫していた。

 

 校内グラウンドはナイトメアのランドスピナーが通ったことで抉られ、テニスコートはひび割れていた。

 

 市内とは思えない緑が豊かな森などでは歩兵同士が撃ち合い、ゲリラ戦を行っていた。

 

 本校は外的ダメージが見当たらないが、電源の切られた建物の内部が時々銃声によって光り、銃撃戦が行われているのを伝えていた。

 

「扇! 玉城! 誰でも良い、応答しろ!」

 

『ゼ……ゼロか?』

 

 ルルーシュの呼び掛けに返事をしたのは息を切らした様子の扇だった。

 

「扇?! どうした! ここで、一体何があった?!」

 

『わ、分からない。 ブリタニアの兵士たちが突然、発砲してきたんだ。 “黒の騎士団が騙し討ちをした”って……俺も、その過程で撃たれた。』

 

「なん……だと? ハ?! せ、生徒会────クラブハウスの奴らはどうした?!」

 

『す、すまん……分からない。 俺も銃声が聞こえて、様子を見に本校に来たら襲われた────』

「────何だと?! 持ち場を────い、いや! く、車いすの少女はどうし────?!」

「────危ない!」

 

 ナナリーの事を聞くルルーシュへと振り返っていたCCは目を見開き、ガウェインを動かすと銃弾が装甲を掠って租界の彼方へと弾道を続けていく。

 

『ゼロ! やっと見つけた! 正々堂々、僕と戦え────!』

「────スザクか?! えええい、こんな時に────!」

 

「────つくづく最悪のタイミングで現れるな、あの男(スザク)は。」

 

 今度は現れたランスロットに、CCがため息交じりそう言っている間にルルーシュがガウェインをクラブハウスの近くに移動させてランスロットの構えるVARISの射線上に、クラブハウスをルルーシュはガウェインを置く。

 

「(クソ! 取り敢えず、スザクにアッシュフォード学園(クラブハウス)は撃てない筈だ!)」

 

『ゼロ、貴様には死んでもらう!』

 

「枢木スザク、落ち着け! 何故(なにゆえ)私を殺そうとする?!」

 

『とぼけるのか?! お前はそうやって“知らぬ存ぜぬ” を最後まで演じる気か?! ユーフェミアを……ユフィの夢を捻じ曲げたお前が────!』

 

「────捻じ曲げる? 何の話だ?! 特区日本に、私は何も────!」

『────うわぁぁぁぁぁ!!!』

 

 ランスロットがVARISからMVSに攻撃手段を変えて距離をガウェインに詰め、ガウェインは回避運動を全力で行う。

 

「ええええい! 相変わらずのイノシシ頭が! 人の話をき────!」

「────ッ! ルルーシュ、ナナリーが連れていかれた! 神根島に向かっている!」

 

「貴様! こんな時に冗談を言っている場合か?!」

 

 そこに突然何か素っ頓狂なことを言うCCに、ルルーシュが煮えくり返るイラつきと怒りのこもった怒鳴り声を彼女にぶつける。

 

「冗談じゃない、本気だ! 式根島と同じだ!」

 

「んな?! な、なぜ貴様がそれを知って────?」

「────理由はどうでも良いだろ!? おまえにとって、あの子が生きる理由なのだろう?!」

 

『ゼロ、覚悟!』

 

 ランスロットの猛攻をガウェインのフロートシステムについているリミッターを解除し、全速力でその空域から離脱し始める。

 

『逃げるのか、ゼロ?!』

 

『今は貴様に構っている暇はないのだ、このバカ野郎が!』

 

 ルルーシュが通信機を藤堂に繋げる。

 

「藤堂! 以降の作戦は全てお前に任せる! 負傷した扇の仕事はディートハルトに仕切らせろ! 私は他にやらなければならない事が出来てしまった!」

 

『ゼロか?! それは一体どういう事だ?!』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ!」

 

 そう言って残りエナジーをまるで気にしないかのような飛行中のガウェインに、急激に追いついてくる物体がレーダーに浮かぶ。

 

 『オハヨウゴザイマシタァァァァァァァァァァ!!!』

 

 オレンジ色の球体が背後からガウェイン目掛けて飛んでくる。

 

「な、なんだあれは?!」

 

「大きい! ナイトメアか、あれは?!」

 

 ガウェインがとっさに回避をすると、空中で止まった球体の機体────あとに『ナイトギガフォートレス』と呼ばれる新たな非人型の大型強襲兵器の初号機となる『ジークフリート』の外部スピーカーから新たに声が発される。

 

 さっきのり、見ましたよ?! あなた様はゼロですね?! 何たる僥倖! 幸運かッ?!

 

「この声……まさかオレンジ(ジェレミア)か貴様?!」

 

 オ゛?! オ゛オオ゛オ゛オオオネガイ! です?! 死んでくれませんか?』

 

「しつこい奴め────!」

 『────オールハイルブリタァァァァァァニアァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 

 ……

 …

 

 

 トウキョウ租界、激戦区となりつつある場所で、毒島達は何度も自己修復するサザーランドなどを相手にしていた。

 

 いや、『しようとしていた』がより正確になるだろう。

 

『各機体、状況はどうだ?!』

 

『こちらアンジュ! 残りの弾数がヤバいわ、冴子!』

 

『こちらサンチア、彼女と同じだ!』

 

 元々彼女たちは『異能』などを相手にする予定はなく、もしもの時の為に『黒の騎士団の退路の確保』を前提に動いていた。

 

 だが彼女たちに待っていたのはどれだけ攻撃を加えても、目の前でビデオが逆再生するかのように修復されていくサザーランド達。

 

 実質、『知性あるゾンビの軍団』を相手にしているかのようで、本来の作戦を実行する場合ではなかった。

 

「食らいなさい!」

 

 マーヤがパイルバンカーを敵のコックピット……ではなく、脚を狙って文字通り『釘付け』にする。

 

 「“ザ・パワー”からのぉぉぉぉぉ! どっせぇぇぇぇい!」

 

 ズンッ。

 

 今までの攻撃方法の中で、彼女の機体に取り付けられたパイルバンカーとダルクの物理的ぺしゃんこゴリ押しが一番効果的だった。

 

 そんな中、毒島は舌打ちをしながら何時もの『突き』より『薙ぎ払い』をして敵の足や腕などを切断していく。

 

「(こんな時、アリスがいれば!)」

 

 彼女がそう思ったのは、アリスのガニメデ・コンセプトに搭載された試作の兵装が理由だった。

 

 そんなことを考えながら見ていると、別の敵が切断された部位を拾い上げてはそれを失った機体に投げ、相手側が受け取るとそれが吸収されては欠損した部分が修復していき────

 

『伏せて、先輩!』

 

 ────そんなサザーランドを、アリス機がほんのりと紅い光を放つ剣で上空から突き刺す。

 

『食らいなさい!』

 

 ボコボコボコボコボコボコ!

 

 アリス機の持っていた剣がさらに赤く輝き、サザーランドが()()()()()()()()()()()()

 

 かつて、ヨコスカ港区でカレンの紅蓮がパイルバンカーでランスロットのMVSを貫いたことを覚えているだろうか? *2

 

 その時のMVSの破片を毒島たちは回収した。 

 さすがに再現までは至らなかったものの、得た技術の応用で疑似的な『マイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステムを内蔵した刃』の剣が出来あがった。

 

 余談ではあるが、『バスターソード』と命名されている。

 

 決してスヴェンがアンジュの天元突破したドリル(アホ毛)を見て思わず言った『バスターコレd────じゃなく、“バスターソード”なんてのはどうだ?』は(あまり)関係ないだろう。

 

「(来てくれた?! だがなぜだ?!) アリス! 助かるが、そっちはどうした?!」

 

 アリス機がバスターソードを引き抜いて移動すると異様な形で膨れ上がったサザーランドが爆散する。

 

『政庁への単独突破は無理! ブリタニア軍と反乱軍がいない場所は別動隊がわんさかいる!』

 

『ですから、私の名前を出せば────!』

「────いえ、それは悪手ですユーフェミア様。」

 

 アリス機から来た通信越しに聞こえるユーフェミアの声を、毒島が遮った。

 

「失礼を承知の上で申し上げますが、不安定な状況下において名乗り出ては、相手の出方が予想できません。 平時や統率の取れた場合ならば話は違いますが、現在のような場合ですと、名乗り出た相手の度量に左右されてしまいます。 恐らくそれを承知し、アリスは私たちと合流したのでしょう。 ですので、彼女を責めないでいただきたい。」

 

『えっと……誰ですか?』

 

「毒島冴子と申します、以後お見知りおきをユーフェミア様。」

 

 毒島はニッコリとするが、逆にユーフェミアは身構える。

 

『……私をどうする気ですか?』

 

「何も。 少なくとも、この騒動が終わるまで貴方を護ります。」

 

『えっと……久しぶりになるのかな、ユフィ?』

 

 『ええええええええええええ?! その声、アンジュリーゼさんですか?!』

 

『う……』

 

 ユーフェミアの驚愕する顔と声に、アンジュは冷や汗を流す。

 

 かつて、ユーフェミアがまだ学生でアンジュが令嬢だった頃にこの二人は出会っている。

 と言っても、ラクロス部の活動を通じて、何度か互いの学校の『交流会』という名の練習試合をした時などだけなのだが。

 

『積もる話があるとは思うし不安かも知らないけれど、少なくとも私を信じて!』

 

『なんだか、人が変わっていませんアンジュリーゼさん?』

 

『悪かったわね! こっちが素よ!』

 

『まぁ! やっぱり生き生きとしていますね! ラクロス時も時々“死ねゴラァァ!”と────』

 「────興味深い話だが私語は慎めお前たち。

 

『『あ、ハイ。』』

 

 思い出話に盛り上がるユーフェミアたちを、毒島がドスの効いた声で黙らせる。

 

「(なんで他の皆が冴子の事を“姉御”と呼ぶか分かるような気がする。)」

 

『おおおおお! イレヴンが! イレヴンがまだまだここにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

 

 少し他の者たちから距離を置いていたマーヤは、上空から来る新たな声に上を見上げるとジークフリートに似た球体の機体が空を飛んでいた。

 だが外には大型スラッシュハーケンはなく、ジークフリートとは違ってオレンジ色ではなく濁った銀色であり、あちらよりさらに球体を思わせる形だった。

 

『空を飛ぶ真珠』、そう呼ぶとイメージしやすいだろうか?

 

 そしてそれはあながち間違いではなく、こちらの機体は試作機ゆえに外部の武装はない代わりにジークフリートよりさらに強固な電磁装甲とブレイズルミナスを兼ね添えている『ジークフリート(試作型)』だった。

 

イィぃィぃレヴンッッッッッッがガガガがががが!!!

 

 この新しい機体から来る狂気に満ちた声に、マーヤがハッとする。

 

「この声……あの時のゴミか?!*3

 

ゴ?! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴごめんなさい、負けたわけではございますまい。 貴方を殺せばノー問題でした。』

 

「……こっちにこい、このゴミが!」

 

 マーヤの機体がその場からジークフリート(試作型)を引きはがす為、さらに距離を取る。

 

 

 

 ……

 …

 

 

「なに?! ゼロの機体が離脱して行くだと?!」

 

 ジークフリートに襲われる少し前、ガウェインが前線から離脱して行ったことを知ったコーネリアが報告されたことを復唱する。

 

『は、はい! 何故だかゼロはアッシュフォード学園に立ち寄ってから南へと移動した模様です! 恐らくは、我が軍と交戦中である黒の騎士団に指示を出したのかと────』

「────待て! 学園は確か、『非戦闘地帯』と指定されたはずではないのか?!」

 

『そ、それがどうやら黒の騎士団の襲撃を受けたという事で、我が軍がやむを得ず応戦を……』

 

「(どういうことだ?! 何故だ! まさかゼロがそんなことを……いや、理由がない。対ブリタニアへのプロパガンダの理由を作ろうにも、奴ならばもっと上手く出来ている筈だ。 それにダールトンの証言によると、『特区日本』でのことも────)────ギルフォード! ここはお前に任せる!」

 

 コーネリアはなぜだか悪い予感がして、その場で機体を反転させては政庁へと戻る。

 

『コーネリア様?! どこへ?!』

 

「ダールトンが危ないかもしれん! いいか?! 相手は黒の騎士団ではない! 反乱軍だ!」

 

『コーネリア様?! それは一体どういう────?!』

 

 コーネリアはグロースターの通信機の周波数を、自分の親衛隊から政庁のモノへと変えて何度も呼び掛けをする。

 

「誰かいるか?! いるのなら応答しろ! クロヴィスでもいい!」

 

 だが返ってくるのは雑音だけで、『悪い予感』が更に高まる。

 

 ドゴォン!

 

 コーネリアが政庁へ近づくと、中から壁を突き破って飛び出てきたオレンジ色の機体に、思わず移動を一瞬止めてしまう。

 

「あ、あれは?! 兄上のプロジェクトか?!」

 

 コーネリアは近づく反乱軍に固定砲台や機銃などを展開して、政庁の裏に回って中へと入っていく。

 

「(杞憂で終わればいいが、どうにもこの気持ちが晴れん────)────何者だ貴様ら?! どこの所属だ?!」

 

 コーネリアが政庁の中で見たのは、識別反応どころかレーダーに一切の反応がなかった黒い機体が、政庁の守備部隊を制圧していた光景だった。

 

 黒い機体はコーネリアを見た瞬間、持っていたランスなどで彼女に襲い掛かる。

 

「貴様ら、誰に刃を向けていると思っている?! 私はエリア11の総督にして神聖ブリタニア帝国第2皇女、コーネリア・リ・ブリタニアだ!」

 

 だがコーネリアの警告を聞かないどころか、彼女の正体を知ったことで殺気が更に鋭くなったのをコーネリアは肌で感じた。

 

「(こいつら、まさか?!)」

 

 以前、コーネリアは皇族の身でありながらルルーシュの母、マリアンヌの警護担当を務めていた。

 マリアンヌが後宮にて、テロに襲われて命を落とした日まで。

 たかがテロリストが独自で後宮に侵入できるわけはないのだが、その日は何故かマリアンヌが直々にコーネリアに言ったのだ。

 

『その日の警護は最小限だけでいい』、と。

 

 それはまるで、その日の襲撃を知りながらも来る被害を抑えようとするような行為だった。

 

 事件が起きてルルーシュたちが日本に人質として送られ、コーネリアは独自にその事件の真相を追った。

 

 だが出てくるのはレッドへリングで、()()()()が隠蔽された情報だけだった。

 

 唯一、コーネリアが得た情報が一つの単語だった。

 それが果たして誰かの名前なのか、組織の名前か作戦名なのかも分からない。

 

 ただ『プルートーン』、とだけ。

*1
34話、ナリタより

*2
39話より

*3
35話より




余談ですが『少し休もう』と思い、一息ついたら体調を思っていた以上に崩していました。 (汗

『自分の疲れなどを無視する』スキル発動中でした……というのですかね? (;・ω・)

何よりも投稿が遅くなり、申し訳ございませんでした。 m(;_ _ )m


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第81話 一番暗いのは夜明け前

お待たせいたしました、長めの次話です!

お気に入り登録にご感想、活力剤としてありがたく頂いております! 
誤字報告、お手数をお掛けしております! (シ_ _)シ

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 トウキョウ租界より南にあるヨコハマの上空に向かって『ソレ』は飛んでいた。

 

 それは夕焼け前の太陽染みたオレンジだったが、明らかに自らの意思で飛び、黒い何かにぶつかろうとしていた。

 

 『私は帝国臣民の敵を排除せよ! そして貴方様はゼロ! ゆえにオールハイル、ブリタァァァァァァニアァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 無論、それはゼロのガウェインを落とそうとするジークフリート(オレンジ)の姿だった。

 

 そんなガウェインが急に低空飛行に移り、反乱軍と区別するために新しくされた黒の騎士団の識別反応を出す部隊を通る。

 

「三番隊! 敵の飛行型だ! 対空砲火の一斉射で撃ち落せ!」

 

『『『了解!』』』

 

 無頼たちは手持ちのロケットランチャーやアサルトライフルを向けて撃ち込むと、ジークフリートは高速回転をし始めてビリヤードのブレイクショットのように無頼たちを文字通りにバラバラにする。

 

「出鱈目過ぎるぞ、あいつ────!」

「────次のコーナーを右に進んだ後、もう一度右に出ろ!」

 

 CCがガウェインの操縦をしている間、ルルーシュはこのあたりの地形や地図を重ねたデータを見て次の指示を出す。

 

「正気か?! アイツ(ジークフリート)なら建物を貫通して追って────!」

「────俺を信じろ! 契約者だろう?!」

 

 CCは口をつぐみ、言われた行動をし始めるとルルーシュが外部スピーカーを繋げる。

 

「思っていたより元気で良かったですよ? オレンジ君?」

 

 オールハイル、ブリタァァァァァァニアァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 ガウェインが一つの建物をぐるりと回るとジークフリートは一つの思考に囚われたかのように後を追う。

 

「よし! 急上昇する、歯を食いしばれCC!」

 

 ルルーシュが操縦の主導権を変えると、頭から血が無理やり下半身へと動かすほどの速度でガウェインを上空へと上がらせる。

 

 シュドン!

 

 「卑怯?! 後ろをバックだと?!」

 

 そんな時、ジークフリートが背後から撃たれ、初めて装甲にダメージがまともに通る。

 

「チ、()()()!」

 

 それはガウェインの行動を読み、先回りをしたランスロットがVARISを全力で撃った弾丸だった。

 

 ルルーシュは間髪入れずに、ガウェインのハドロン砲を建物に撃ち、その崩れる建物にジークフリートを下敷きにして神根島方面に再度向かう。

 

 『ゼロよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

「そこを墓標にして眠れ!」

 

 ズズゥゥゥゥン。

 

「ルルーシュ、お前……」

 

「(スザクの行動パターン解析がまさかこのような形で活躍するとは。 だが奴の銃弾を食らってやっとダメージが通るとはかなり厚い装甲をしているという証拠。 ならばやはり『動きを止める』ことが最善。 

 それに俺の……ゼロのことを本気で殺そうとするスザクならば、エナジーの充填を必要なほどの攻撃を加えるのは誤算だったが、今はナナリーだ。)」

 

 ルルーシュが見たのは、フロートユニットからエナジーをVARISに回して近くの高層ビルに着地していたランスロットだった。

 

『逃げるな、ゼロ!』

 

「貴様との決着は後だ!」

 

 ルルーシュは今までの行動で消耗したエナジーを気にせず、ガウェインをそのまま神根島へと向かわせる。

 

「(ナナリー、無事でいてくれ!)」

 

 彼はそのことで頭がいっぱいになり、行動していた。

 

 そこには戦術も戦略も打算もへったくれも何もない、ただただ妹の安否を心配する兄の姿(一人の人間)だった。

 

 

 ……

 …

 

 

 トウキョウ湾付近のゲットーで次々と建物がドミノのように倒れ、それらから逃げるように一体のナイトメアがスラッシュハーケンを器用に使ってビルや瓦礫などを逆に利用し、熟練のパルクール選手のように廃墟の障害物内で減速どころか加速しながら背後から追ってくる『空飛ぶ真珠』から逃げていた。

 

『待て! 待ちなさい! 我が家の名に待つのであぁぁぁぁぁぁる!』

 

「……」

 

 マーヤは何も言わずにただなるべく背後から追ってくるキューエルに出来るだけ障害物を自分の間に置けるようにナイトメアを走らせながら、周りの地形を表す地図を画面に出して確認していた。

 

「(ここ!)」

 

 彼女は先ほどから同じ地区をグルグルと回りながら、ケイオス爆雷を次々とセットしながら今度はかつて日本を侵略した時からの爆撃か何かでぽっかりと開いた穴を通ってウォータートンネル内へとギリギリのところで入り込む。

 

「ネズミの巣、突貫します!」

 

 明らかにキューエルのジークフリート(試作型)が入り込めないような入り口を、彼は機体を無理やり押し込ませながらウォータートンネルの中を飛ぶ。

 

 マーヤ機を追うジークフリート(試作型)は正しく一昔前に流行った『何某ジョーンズが巨大な球体の岩に追われる』そのものだった。

 

「フハハハハハ! 早く逃げなさい! そして散ってください!」

 

 マーヤ機は見向きもせずにアサルトライフルを乱射するがジークフリート(試作型)はブレイズルミナスを展開することなく、それらをすべて装甲で受け止めて角を曲がるマーヤ機を見て減速する。

 

 ドガァン

 

「卑怯?! 見えないカーブを?!」

 

 マーヤ機はジークフリート(試作型)が減速しながら角を曲がる際に出来た死角からパイルバンカーを食らわせるが、表面が小さく欠けた様子以外は殆んどダメージが与えられているとは思えなかった。

 

「だが無駄にてございます!」

 

「まだ!」

 

 マーヤ機はそれでも逆走しながらパイルバンカーのカートリッジを再装填させながら次の周り角で全く同じことを仕掛けようとして、それを予想していたジークフリート(試作型)はスピードをずらして躱すとパイルバンカーはウォータートンネルの壁に当たる。

 

 そんなマーヤ機をジークフリート(試作型)が体当たりを食らわせようとして、マーヤはパイルバンカーの釘を壁に打ち込んだまま強制的に外して予備の釘を次のカートリッジと共に装填する。

 

「(あと少し……)」

 

 マーヤはそのままナイトメアを走らせながら、横に置いてあるギターケースに目を移して確認した後に上記のパイルバンカーでの奇襲を何度かフェイントも入れて再度試す。

 

 だがこんな状態でもキューエルは学習したのか角を曲がるタイミングをずらしたり、あるいはブレイズルミナスを展開しながら回転してマーヤの一撃に、狙いを定めさせないなどを続ける。

 

「(これで()は設置できた。 それにエナジーも残り僅か……仕掛ける!)」

 

『私は! 私はこんな土地で終わるわけには! 君に死のギフトを与えるのです!』

 

 キューエルはそのまま角を曲がるマーヤ機の奇襲を警戒しながら後を追い続ける。

 

 するとマーヤ機は逃げることを諦めたのかアサルトライフルを右手で構え、左手のパイルバンカーをいつでも打ち出せる用意を通路先でしていた。

 

 普通ならば警戒をするが、その先が袋小路だったからかキューエルはジークフリート(試作型)をベーゴマのように回転させながらブレイズルミナスを展開し『転がる』を使った体当たりの軌道に入った。

 

「オールハイル、ブリタァァァァァァァァァニアァァァァァァァァァ!!!」

 

 マーヤ機の撃つ銃弾はことごとく弾かれ、ジークフリート(試作型)がぶつかると同時にパイルバンカーで攻撃────するのではなく、体当たりをされた拍子に狙いが狂ったのか、近くの壁に当てる。

 

「パン! ケーキ、が上手に焼けました!」

 

 キューエルはそのままジークフリート(試作型)を飛ばし、マーヤ機を袋小路の行き止まりまで勢いのまま押しつぶす。

 

「……???」

 

 その際にマーヤ機のコックピットの中から血か肉片が出るのを予想していたが、そんなことは無かったことに彼はハテナマークを出す。

 

「生き埋めになりなさい、ブリタニアの犬畜生が。」

 

 トンネルの天井にぽつぽつとあるメンテナンス用に地上へと続くハシゴは到底、普通の方法ではたどり着けない、それこそクレーンなどといった道具がなければ。

 

 だが以前スヴェンが使った火薬使用型対KMFライフルに外付けされたワイヤーを使ったようすのマーヤはその一つのハシゴにしがみ付きながらトンネルの中で反響するキューエルの声を合図に、手に持っていたナイトメアの遠隔操作用の操縦桿のボタンを押す。

 

 するとトンネルの中でマーヤがパイルバンカーで打ち込んだ()たちが────否、それ等を落ち着いてよく見れば形状がわずかに違っていた。

 

 かつて黒の騎士団がナリタ連山で使った貫通電極の部分などを内蔵していたそれらが共鳴し合い、トンネルの壁が崩壊し始めると今度は地上でマーヤがキューエルを()()して意図的に崩したビルの重さに耐えかねず、トンネルは上から押しつぶされていく。

 

 「イレヴン如きにぃぃぃ────?!」

 「────イレヴンじゃない! 日本人だ、ブリタニアのクズがぁぁぁぁ!!!」

 

『ドドド』と重苦しい土砂崩れの音を背景に、マーヤは対KMF用ライフルを背中に背負いながらそう叫び捨てながらハシゴを必死に駆け上がっていく。

 

 長らく使われていないハシゴの踏ざんは所々錆びていて下で崩壊するトンネルで起きる地震、あるいは命がけのハシゴ登りでマーヤの力強く掴んで引っ張る手の所為で次々と外れていく。

 

 次第に周りがミシミシと音を立て始め、彼女は手足を使って踏ざんを飛びこせそうな名を駆け上がり、マンホールまでたどり着く。

 

 グッ。

 

「あ、あかない?!」

 

 マーヤが力を入れてマンホールを動かそうとするが、蓋はびくともしなかった。

 

 蓋の向こう側が瓦礫などに埋もれている可能性は否定できないが、埋もれていなくともマンホール自体が約40キロの重さを持っている。

 

 体勢のやりくりや、工具アリならば開けられるかもしれないが今のマーヤは不利な内側、それも不安定な姿勢で長らく開けていなかったことでさび付いていたマンホールを開けようとしていた。

 

 先ほどより地鳴りがどんどんと大きくなっていきマーヤが下を見ると、少し前まで自分が通った場所が徐々に埋もれていくのを見る。

 

「(もうここまで?! 念には念を入れたけれど、早すぎる!)」

 

 マーヤはキューエルから逃げながらの行動方針と大雑把な作戦を練っていたため、この旧トウキョウの地下を巡るウォータートンネルの老朽化などを正確に配慮しないまま、勢いよく()()作業を進めていた。

 

「……やるしかない!」

 

 ドガァン、ドガァン、ドガァン、ドガァン!

 

 彼女は対KMFライフルでマンホールの外側を撃ち、出来るだけさび付いた部分を減らしてからライフルを斜めにし、ストックを壁に付けながらパイルバンカーのバレルをマンホールに付けて撃つ。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 トウキョウ租界の上空にランスロットのエナジー交換要請に戻ってきたアヴァロンが、スザクの頼みでアッシュフォード学園の近くまで来ていた。

 

 頼まれたことは、『学生たちの避難』だった。

 

「あは~、もう何が何だか!」

 

 ロイドはあまり乗り気ではなかったものの、コーネリアから指揮を任されたギルフォードの頼みもあってか渋々と学園の様子をレーダーで見るともはや『紛争地帯』と呼んでもおかしくはないほどブリタニア軍と黒の騎士団たちが混雑していた。

 

「ねぇセシル君? これ、いくら何でも無理なんじゃないかな?」

 

 双方とも指揮系統がぐちゃぐちゃになっていたのかトウキョウ租界と同じように泥沼化していた戦況へ突入する準備を壁越しにしていたセシルにそう声をかける。

 

「それでも、スザク君があれだけ弱々しそうになりながらも頼みごとをするのは滅多にないことです。 それに、私だって一時はデヴァイサー(テストパイロット)を務めていましたし、何よりランスロットとクラブの予備パーツ、そしてテストパーツで作り上げた機体も理論上は騎乗可能です。」

 

「んー、僕が言ったのはこの状況下じゃなくて()()()()()()なんだけれど?」

 

 セシルといえば、いつもの来ているタイツスカート風特派の制服からパイロットスーツへと着替えていたのをロイドの言葉でぴたりと一瞬動きを止める。

 

「それは────」

「────まだ緊張しているんじゃないの? ()()と離れながらの『同時デヴァイサー行動』は?」

 

「………………へ、変なところで人間関係の洞察力が鋭くなるんですね?」

 

「これでも君の先輩であると同時に、上司だからね♪ それに何度目かになるかわからないけれど、あの()()は決して君の所為じゃないよ。 あらゆるデータがそれを証明している。 不運と不幸が重なった()()なんだよ、あれは。」

 

「……………………」

 

 セシルからの返答はなく、二人にしては珍しい静寂な時間がただ過ぎていく。

 

『まもなくアッシュフォード学園の上空に着きます!』

 

 ただアヴァロンのブリッジにいた特派のアナウンスにセシルはロイドを通り越しに口を開ける。

 

「もし私の様子が変になったら、アヴァロンで援護してください。」

 

「アヴァロンに搭載されたルミナスブレイズは全方位じゃないからね?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『ちくしょー!せめてここだけでも!!』

『死ねぇぇぇ、ブリキ野郎どもぉぉぉぉ!』

 

 混沌化したアッシュフォード学園ではブリタニア軍、そして黒の騎士団の部隊が各々の判断で応戦したり、退却、または弾薬などの物資が底をついて降伏したりなどのカオスだった。

 

「まったく、来るんじゃなかったよ。」

 

「まさかブリタニアと黒の騎士団、双方に暴走するような者たちが鉢合わせするとはゼロにも予想できなかったのでしょう。」

 

 そんな学園の中、『非戦闘地帯』での情報収集やプロパガンダ特集などをするためにラクシャータとディートハルトがいた。

 

 そして今の事態の発端を得た情報などから、自分なりの憶測を出したディートハルトはある意味『中らずと雖も遠からず』だった。

 

「(やはりジェレミアとヴィレッタの推測通りの超能力を考えると、ゼロだけではなかったのか。 あるいはこれも彼の布石か?)」

 

 ディートハルトの憶測の発端はかつて、『オレンジ事件』にて失態を犯したジェレミアやヴィレッタをはじめにした純血派だけに留まらず、『オレンジ事件』の報道をしていた者たちにも及んでいたことから始まった。

 

 殆どの責任をディートハルトは負わされ、左遷されていたところをジェレミアとヴィレッタがゼロのことに関して情報共有して事件の真相を追っていた時に浮かんだ一つの仮設が『超能力説』だった。

 

『ゼロには人と人の記憶を操る能力がある』、とジェレミアはある日の時に提案していた。

 

 酒の席で。

 

 無論、こんな非現実的な推論を言った本人は本気にしていなく、かなり酔いが回っていた様子だったが一度ギアスにかかっていたヴィレッタは思うところがあり、そんな彼女の様子を見たディートハルトも最初は否定気味だった。

 

 だが時が過ぎていき、ゼロの黒の騎士団と行動を共にしてみるとジェレミアの説が段々と現実味を帯びた。

 

 否、そうでなければ説明できない事案が次々と情報部のディートハルトに入ってきたのだ。

 

 極めつけは『行政特区日本』での出来事で、逆に『超能力』を配慮しなければ説明や理屈が通らないことがあり過ぎた。

 

 ディートハルト本人からすれば、『それも世界という舞台を盛り上げるスパイス(要素)』でしかなかったが。

 

 彼は自分の情報部の護衛をしていた部隊を使い、自分とラクシャータの部門だけでもアッシュフォード学園から避難させようとしていた。

 

「せりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 ドン!

 

 彼らの部隊近くに、紅蓮は二次災害が少ないパイルバンカーで的確にブリタニア軍のナイトメアを駆逐する。

 

 原作と違い、カレンはアッシュフォード学園が『非戦闘地帯』と指定されたときに紅蓮で一介の『見張り役』として来ていた。

 

 そんな彼女が丁度紅蓮から降りて、扇たちが拠点としていたクラブハウスの様子を徒歩で見に行こうとしたとき、ブリタニア軍と黒の騎士団が急に互いを攻撃し始めた。

 

 そこから彼女は当初、ブリタニア軍のように自分の所属側を抑えるために動いていたが学園は緊張(一触即発)状態から暴発する感情の勢いのまま、『弔い合戦』へと移行してしまった。

 

「これで、八機目!」

 

 カレンはパイルバンカーでなるべくアッシュフォード学園に被害が及ばないように戦っていたからか、いつもより疲労しながら大粒の汗を流していた。

 

 例えるならば、ガラステーブルの上に置かれた木材に大型ハンマーで小さな杭を打つような緊張感の中に彼女はいた。

 

 その時、上空からの識別コードを発していない機体のアラート音がコックピット内で響いて彼女は身構える。

 

「まさか、スザク?!」

 

 彼女が見上げて見たのは確かにランスロットのフロートユニットだったが、それが取り付けられていたのはランスロットではなくサザーランド……のような機体だった。

 

『こんばんは~!』

『は? ッ?! は、はや────!』

 

 上空のアヴァロンからくるロイドの緊張感もへったくれもない声に気を取られていた黒の騎士団の無頼等は、見るからにそれはツギハギのカラーリングをしたパーツを取り付けたサザーランドが腕などをMVSで切っていく。

 

「こいつ! 白兜もどきか────?!」

「あれは、ラクシャータさんの輻射波動を搭載した────?!」

「「────地下から新たな熱源反応?!」」

 

 カレンとセシルが互いを見てびっくりするのも束の間、アッシュフォード学園の倉庫と繋がっていた構内にある人工の池が割れ、双方に()()()()()()()()が上がってくる。

 

「「ガニメデ?」」

 

 カレンとセシル、そして新たに表れたガニメデに周りの者たちが呆気に取られる。

 呆気に取られたのは一昔前のデザインをしたままの機体ではなく、その胸部からピンク色の光を放つ筒だった。

 

「なんだありゃ────?」

「ナイトメア────?」

「見たことの無い機体だ────」

「コックピットが丸出しじゃねぇか────?」

「乗っているのは学生か────?」

 

 『いけない! 双方全軍攻撃を中止! 中止! ブリタニアも黒の騎士団もだよ!』

 

 そんなガニメデ、そして乗っていたのが学生だからか軽率なことを言う者たちとは別にロイドの焦る声がオープンチャンネルと外部スピーカーから出る。

 

「黒の騎士団、技術部門のラクシャータだよ! お前たち、攻撃を中止しなさい! あのチキン(臆病な)プリン伯爵が前線に出てくるだけも珍しいのに、アイツが慌てるのは確実にヤバい時だけだよ!」

 

 ロイド、そしてラクシャータの声に静まり返るアッシュフォード学園を見下ろしていたロイドは青ざめながらカメラ越しにガニメデに乗っていたニーナを見る。

 

 「出ていけ! お前たち、全員! 黒の騎士団も、軍も! 出ていけぇぇぇぇぇ!」

 

 普段物静かで大人しいニーナからは想像もできないほどの肺活量で上記を叫びながら、これ見よがしに起爆スイッチのようなモノを前に出す。

 

『ニーナ君……もしかして、完成させちゃった?』

 

 そんなガニメデに、ロイドからの通信が繋がる。

 

「一応、理論上にはですけれど……」

 

『…………………………………………君の言っていた“共同開発者”とやらは、僕には恐ろしいよニーナ。』

 

 ここでロイドが言う“共同開発者”とはスヴェンの事で、彼は極力なほどに自分がそのような研究に携わっていたことが広まるのを嫌がっていたために名前は伏せられていた。

 

 以前の学園祭でもロイドとニーナは原作通りに会い、彼女の研究に興味を持ったロイドは使い道のないウランを分けていた。

 

 そして恐ろしいことに原作より完成度の高い、コードギアスで初となる『フレイヤ(核爆弾)』が出来上がってしまっていた。

 

「ロイド先生……ブリタニアの人たちにも、黒の騎士団にも学園から出ていくようにしてください────!」

『────へ! なんだそりゃあ?! 脅しのつもりか────?!』

「────ひ────?!」

 「────お止めなさい、そこのバカが!」

 

『んな?! ば、バカ?!』

 

 玉城の無頼がアサルトライフルを構えるとラクシャータがいつものふわふわした口調から、子供を叱るようなモノへと変わっていたことに玉城が思わず躊躇して引き金を引き損じ、彼の怒鳴り声と無頼の行動を見てさっきまで気丈に振る舞っていたニーナは震え始める。

 

 それは、彼女の点火ボタンを持っていた手も含まれている。

 

『彼女の言うとおりだ、そこの君。 理論上、彼女が今握っているのは毒ガス以上の兵器のボタンだ。 トウキョウ租界そのものが死滅してもおかしくない代物だ。』

 

「ロイドさん……貴方、まさか……」

 

「に、ニーナ……う、嘘でしょう?」

 

 黒の騎士団、そしてブリタニア軍も半信半疑だったがセシルとカレンは別の意味でショックを受けていた。

 

 コードギアスの世界で『死滅』の単語が結びつく兵器は毒ガスで、その効果範囲もせいぜい風や地形などを利用して半径数十キロメートルほどである。

 

 「言ったことが分からないの?! 出ていけと言ったのよ! 出ないと私……私ぃぃ!」

 

 ニーナの震えは更に酷くなり、さっきは勢いに任せて表に出ていたが今になって怖気づいてしまいそうな自分を無理やりその場に留めるように叫ぶ。

 

 ドッ!

 

 『止めろ!』

 

「ひゃう?!」

 

 『止めるんだ!』

 

 新たに空……というよりは降ってきたナイトメア(?)の外部スピーカーを通して来る声にニーナが思わず固まる。

 

「あれは……純血派のサザーランド?」

 

「ブリタニアの援軍……にしては酷い有様。 それにこの声……まさか?!」

 

 セシル、そしてカレンが見たのは今稼働しているのがおかしいほど至る所で激しく損傷していた元サザーランド(サザビ)で、無くなった頭部(センサー)の代わりにキュポーラから上半身を出していたフルフェイスヘルメットにライダースーツの者だった。




余談ですがニーナがなぜボタンを押さずに固まったかというとパブロフ理論で本能的に声がスヴェンのものだったからです。

あとセシルの過去に付いては独自解釈です。 (汗


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第82話 一番暗いのは夜明け前2

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

上手く表現できたかの不安&カオス&独自設定&独自解釈などが続きます。 申し訳ございません。 m(;_"_ )m


 今の(スヴェン)の状況を、ありのままに言うぞ。

 

クラブ(ノネット)と隠れながら生身で追いついてくるライ(仮)から逃げて学園のほうに向かっていたら、地面の下から強い熱源反応が上がってきて“まさか”と思っていたらガニメデがあったので、勢いのままアッシュフォード学園のグラウンドにサザビの腕がもげてしまうほどの圧縮空気式パイルバンカーを使って飛来したら、原作通りにニーナが“フレイヤ”という名の実質核爆弾の起爆スイッチを持っていた。』

 

 “何を言っているんだ?”と思っているかも知れないが、言葉通りだ。

 

 ここまで来るのに黒の騎士団やら黄色い反乱軍やらブリタニア軍の銃弾や、追って来るノネットが拾い上げて投げるランスなどを躱す為に酷使した機体の損傷具合は二足歩行だけでもミシミシという音が響く程で、スラッシュアンカーも何本かは千切れている様子だった。

 

 かなり無茶をしてごめんよ、ネタ搭載機(サザビ)

 

 え? “なんで謝る?”って?

 そりゃあ、観賞用というかロマンというか……

 “元々『実戦』を想定していなかった機体なのによく頑張った”……とか?

 

 「ニーナ────?!」

 「────下がっていて。 危ないわ。」

 

 上半身を外に乗り出した俺の耳にぼやけた声が届く。

 

 カレンと………………この場は原作から言ってセシルだろうか?

 

 いや、待てよ。

 何でここにカレンがいる?

 いや、そんなことはどうでも良い。

 

 今はニーナだ。

 

 クソ、まさか原子力発電を目指して作った原子炉のテストモデルを放射性物質散布装置(ほうしゃせいぶっしつさんぷそうち)に転換し、『即席フレイヤ』に仕上げるとは……

 

 ニーナの凄さには純粋に恐れ入るぜ。

 

 問題は、彼女をどう止めるかだ。

 

 考えろ考えろ考えろ考えろ、考えるんだ俺。

 

 答えを出さないと原作のように不発……とは違うかも知れないのでスイッチを押されたら最後、『ゲームオーバー』になる可能性『大』だ。

 

 今の彼女は既になけなしの勇気を出し、起爆スイッチを両手で握っている。

 緊張状態で『手を放したくても放せない状態』って奴みたいだ。

 

 さて、脳が『動け』と命じて指先に電気信号が伝わるまで約0.2秒……

 確か、脳幹だったよな?

 鼻と口の間を撃てば起爆スイッチを押せる前に処理できる。

 それに今後も────

 

 ────って何を考えているんだ俺は?! ダメだ! せっかくここまで来たんだ!

 そいつ(殺し)は最悪の最悪中の最終手段だ!

 

『理解』は出来ても……『許容』はできない。

 

 それにアッシュフォード学園に来てからだけとはいえ、ニーナの過去を知った今では彼女のことも何とかしてやりたい。

 

 以前、俺は彼女の昔話をした*1と思う。

 強盗が入って、扼殺を試みた犯人をニーナがステーキナイフで刺したと言ったな?

 実はその時、一部だけの詳細を省いた。

 

 悪いな、けどあの時は『言うべきではなかった』と思ったからけど……今さらながら言うから許して欲しい。

 

 実はニーナ、まだ子供だったその時に首絞められながら強姦されかけたんだわ。

 

 な? ダークだろ?

 俺も実際、そのことを隠蔽というか警察の報告書ではっきりと書かれていなかったけれど『精神カウンセリング』に『DNAの鑑定、必要なし』などの強姦後の対策を見たら思わず『ゑ?』ってマヌケ声を出したし、『コードギアスでこれはアカンやろ?!』と思ったさ。

 

 これで何故ニーナが原作でも日本人……イレヴンを嫌い、暗がりを怖がり、『男性恐怖症』っぽい描写があったのか理解出来た。

 

 彼女がなぜコードギアス(原作)で、過激なまでに『イレヴンは皆死ねばいいのよ!』ウーマンになったか不思議ではないだろう。

 

『虐殺皇女』云々以前にこんなことを経験して、ヒステリック気味の暴走を蓋していた感情が爆発したのが、原作での『ユーフェミア様の仇(ゼロ)はどこなのよ!』シーンだと思う。

 

 さてさて。

 なんでこんなことを今になって言っているかというと、現在の俺が取っている行動から俺自身の気を逸らす為である。

 

「ヒ?! こ、来ないでぇぇぇぇ!」

 

 ゆっくり、ゆっくりとサザビをガニメデに近付かせていた俺に、ようやくニーナがそのように声を上げて叫ぶ。

 

 オープン式コックピットに座るニーナは俺を見て震えながら両手が真っ青になるほど力強く起爆スイッチを握っていた。

 

 そんな彼女が叫ぶと同時にサザビの前進を止める。

 もう互いを直接目視できるような距離まで来られた。

 

 ここからは言葉一つ、僅かな動作一つを間違えれば状況が一転してもおかしくはない。

『カチ!』、『ボッ!』、『あ゛?!』からの『さよならバイバイ(消滅)』もあり得る。

 

 ゆっくりと、降伏するかのように手を上げる流れでヘルメットのバイザーを開け、俺の(目とその周りだけ)が露出する。

 

「な、何を────?」

「────止めろ。 そのスイッチを……発明をそんな風に使ってはダメだ。」

 

 頼む。

 押さないでくれ、ニーナ。

 

 周りは耳鳴りが鳴るほどの静寂に包まれ、如何に皆が緊張しているかを思い知らせる。

 

 先ほど言葉を出したことで、ごくりと生唾と一緒にせり上がってきた鉄の味のするモノを飲み込む。

 

 するとニーナがハッとする。

 

「な……何で、貴方が……そこに?」

 

 少しだけ安堵したいが、まだだ。

 

 まだ何も終わっていない。

 

 まだ始まったばかりだ。

 

「何故、それ(原子炉モデル)を出した?」

 

 俺の質問に、ニーナの目が少し泳ぐ。

 

「だって……だって、こうしないと……嫌だから……イレヴンに、皆が……ここ(学園)が……

 

()()()()()()()()()。』

 

 そう、俺でもほとんど聞き取れなかったほど消え入りそうな声で言うニーナの言葉と、その続きが聞こえたような気がした。

 

「そうか……」

 

 「ごめんね……こんな風に使うことぐらいしか、思い浮かばなかったから……だから、ミレイちゃんや皆を避難させて! ここから皆と一緒に、貴方もッ! 離したくても手が、離せないのッ! だから……だから────!」

「────分かった。」

 

 俺はいつものニーナに戻りつつ────と言うか子供のように涙目になっていく彼女のガニメデのオープンコックピット前に、俺がふわりと飛び移る。

 

 “子供のように”と言ったが、実際に思春期真っ最中の子供か。

 

「え? えええぇぇぇ?!」

 

 眼前には予想通りに狼狽えて、完全に手のことから意識が移るニーナ。

 

「どどどどどどうして────?!」

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 やっぱり『押し』に弱いな。

 グラつく白と黒と灰色の視界の中俺は踏ん張りながら、何かそれっぽいことをがんがんとする頭痛の中で言ったような気がするがこのまま何か喋ろう。

 

 効いているみたいだしな。

 

「で、で、で、でも! 私は! 貴方の事を巻き込みたくないの! このままじゃ、スイッチを押せない────!」

「────ああ。 だから先ほど“分かった” と言っただろう?」

 

 心臓がバクバクと脈を打ち、耳朶が『ドッ、ドッ、ドッ!』とうるさくなり、頭痛がさらに酷くなっていく。

 

「私は……()はお前にスイッチを押させたくない。 これの開発を始める時に、俺の言ったことを覚えているか?」

 

「『ウランを使った新しい可能性』……だよね?」

 

「ああ。 装置を転換したお前ならばもう予想はついていると思うが、ガニメデに付けたそれは本来『新しい電力』として開発していた。 何故だか分かるか?」

 

 吐きたいけど我慢だ、俺。

 今までで一番ひどい状態かも、俺。

『俺』を『コレ』に変えたらどこぞ丸だな、コレ。

 

「……?」

 

 よし、ニーナの科学的好奇心をくすぐった。

 キョトンとしているぞ、コレ。

 なんか初めて雨に濡れた子犬みたいだ、コレ。

 徐々に興奮状態から覚めつつあるな、コレ。

 

「何故日本が……エリア11が世界に重要視されているか分かるか? サクラダイトだ。 この世界の電力はごく少数の例外を除き、全てがサクラダイトに依存している。 

 つまり、『世界はサクラダイト中毒』ともいえる。 

 そこで質問だ、ニーナ。 もしウランの使った電力などを流通させれば……この現状はどうなると思う?」

 

「…………………………………………………………あ!」

 

 メタな電球がピカッと光ったような顔のするニーナ。

 流石ニーナ、頭の回転が速い。

 俺はもう一度ごくりとせり上がる、鉄の味をする()()を唾と一緒に飲み込む。

 

 喉が燃えるような、熱が籠ったような感じがする。

 

「理解、したか?」

 

「もしこれが広がれば、サクラダイトに頼っている今を────!」

「────そう、だ。」

 

 俺はゆっくりと、ニーナの起爆スイッチを握る両手を包むように自分の手で覆う。

 

「誰、も傷つけず……法的にも、道を踏み外さず……日本人に……仕返しが出来、る。」

 

 そう言いながらさっきのゆっくりとした動作で、俺はニーナの指を解いていき、やがて起爆スイッチが俺の手へとすっぽりと移る。

 

「……ぁ────」

「────っと。」

 

 起爆スイッチを手放したことで、緊張感から解放されたニーナから力が抜けて彼女が倒れそうになるが、やっとの所で彼女を支える。

 

 腕が思ったように動かない。

 重い。

 鉛が血の代わりに詰められたようだ。

 

 おかげで背中じゃなくて、腰で支えちまったじゃねぇか。

 これで“きゃー! 変態ー!”からの『顔面平手バチン』されたらただの阿保じゃん。

 

 ……今更か。

 

「あ……あり、がとう。」

 

 俺は何も言わず、ただニコリと『優男』の仮面の笑みをニーナに返す。

 

 目を凝らすのも億劫になってきた俺は起爆スイッチをとりあえず外し、ポケットにそれを入れてからサザビに戻っていく。

 

 別に『何も言いたくないから』とかじゃないぞ?

 

 ただこれ以上、口を開けたら思わずむせてしまいそうだったからだ。

 それにナナリーたちのいるところに向かわせたマオ(女)が────

 

『────スバル?』

 

「カレン、か。」

 

 バイザーを閉めなおしたヘルメットのブルートゥースに接続した携帯から、カレンの声が聞こえてくる。

 

『大丈夫。 以前、貴方にもらった携帯を使っている奴だから安心して。』

 

 俺が前にシンジュク事変の前に渡した、旧式の携帯の形をしたスペシャルのヤツか。*2

 俺でさえ忘れていた物をまだ持っていたのか。

 

 俺はハテナマークを出す元気もなく、ただ流れに身を任せてマオ(女)がいる筈のクラブハウスへと、ボロボロのサザビをゆっくりと動かす。

 

『大丈夫?』

 

「何故、お前(カレン)ここ(学園)に?」

 

『その……学園が本当に“非戦闘地帯”かどうかを確かめるために……ねぇ? 私、()()()()()()()?』

 

 どう言う意味だ?

 

 質問の意味が解らん。

 

 俺が黙っている理由を察したのか、カレンが次に言ったことで俺の頭から(さらに)血の気がサァーっと引いていくような気がした。

 

『ゼロが、居なくなったの。 他の人たちの話によると、スザクに追われ────』

 

 ゼロがスザクに追われている……だと?

 

 なんで?!

 なぜ?!

 どうして?!

 なんでやねん?!

 

 カレンは未だに何か言ってきているが、上記の質問等が俺のグラグラする頭の中をグルグルと回る。

 

 が、そんなことより今はルルーシュ(ゼロ)とナナリーだ。

 

 さっきまで白黒&灰色だった視界に色が少しだけ戻り、朦朧としていた意識がはっきりとする。

 正直、火事場の馬鹿力でもありがたい。

 

「カレン、フロートユニットはあるか?!」

 

 原作のように“ある”と言ってほしい。

 

『え? う、うん。 鹵獲した奴が────』

「────今直ぐにそれを紅蓮に取り付けて、神根島に向かってくれ! ゼロを……()()()()()をスザクから守ってくれ!」

 

『え?! ゼロ?! っていうか、何でそこでルルーシュが────?』

「────あとで話す! 頼んだぞ!」

 

 俺は漠々と早くなる心拍音と焦る気持ちでサザビをクラブハウスの方向に走らせると、衛生兵らしき者たちがさっきの停戦状態を利用して生命維持活動を再開していたらしく、一組の者たちが持っていた担架の上に点滴を打たれていたマオ(女)がいた。

 

「俺の連れだ────!」

「────ちょっと、君?! 安定したとはいえ、絶対安静の患者だぞ────!」

 

 そんな軍医を無視して俺は担架と繋げられた点滴ごとサザビの手ですくい上げて、シートを上昇したことで空洞になったコックピットブロックの中に彼女を寝かす。

 

 マオ(女)がKOされたということは、やはりナナリーは攫われていたのか。

 そしてルルーシュ(ゼロ)は原作のようにCCの“ナナリーが攫われた!”で追ったと。

 

 俺はサザビをアッシュフォード学園の敷地を、開かれた正門から出てトウキョウ租界へと再び出る。

 

『“時間”に意味はない』、発動。

 これで時間を稼ぐ。

 

 まずは全体の戦況把握が必要だ。

 サンチアとルクレティアが居ればよかったが、無いものねだりはできない。

 

 サザビのファクトスフィア代わりに~、ブリタニア軍の~、撃破中の機体からデータ拝借~♪

 

 なるほどなるほど。

 

 原作よりヤバいじゃん、黒の騎士団&反乱軍組。

 

旗印(ゼロ)がいない。』

『統率が取れていない。』

 

 これだけでこうも数十万もいた暴徒は既に各個撃破されて、ナイトメアだけでも数はすでに半数以上が『LOST(撃破)』となっている。

 

『さすがはブリタニア軍』……いや、『コーネリア軍』と『グラストンナイツ』と言ったところか。

 

 毒島たちらしき者たちは……()()()()()()()()

 ブリタニアに発見されていないということはやはり何かのアクシデントが起きたのか。

 

 こっちは飛来する『UNKNOWN(識別反応なし)』の機体情報?

 オレンジ(ジークフリート)に乗ったオレンジ(ジェレミア)といったところか?

 

 コーネリアは……って、総大将のコーネリアの反応はどこだ?

 ギルフォードの位置は前線にあるのにコーネリアのが無い……だと?

『ルルーシュはスザクに追われている』+『ナナリーがアッシュフォード学園にいない』+『オレンジの追跡』となると……

 

 政庁での『ようこそ、ゼロ! ダンスはお得意かなぁ?!』のブチ切れコーネリアと、ルルーシュの『スペックではガウェインが圧倒しているのに?!』という流れの一騎打ち後になるのか?

 ああ耳鳴りがする。

 いや、それは無い筈だ。

 その『すれ違いフラグ』を折る仕込みの一環として『マリアンヌ暗殺事件の真相』を俺が出したのだから、ルルーシュくらいならリスクを冒してまでコーネリアと敵対するのは最終手段のはずだ。

 原作より酷い反乱軍も何かの手違い……だと思いたい。

 吐き気が半端ない。

 ならばなぜ総督であるコーネリアがここ(戦場)にいない?

 まさかこちらも何かあったのか?

 それに断層構造を利用した『どんでん返し』も何故????

 わからないことが多すぎる。

 頭がぐるぐるする。

『“時間”に意味はない』が作動しているうちに、メッセージだ。

 まだだ、まだ寝ちゃだめだ。

 届くかどうかは知らんが、しないよりはマシな筈だ。

 ……良し、送れた。

 これで毒島たち────

 いや、藤堂たちが────

 そもそもアリスとユーフェミアのこともまだ、俺は────

 このままじゃブラックリベリオンのなg────

 

 

 

 

 

 

 ────ブツン。

 

 そう考えていると、視界が電源を消したテレビのように突然真っ暗になる。

 

 

 

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園はアヴァロンとセシルの寄せ集めパーツのサザーランド、カレンの紅蓮、ニーナのガニメデ&フレイヤ、そしてスヴェンのボロボロのサザビという突然の登場で静まり返っていた。

 

 あっけにとられている間に黒の騎士団とブリタニア軍の人命救助活動は再開し、学園から学生を避難させるためにもアヴァロンは着地していた。

 

「全員銃を捨てろ!」

「冗談じゃねぇ、ブリキ野郎どもが! 誰が大人しく捕まるか!」

「死ぬのなら道連れにしてやる!」

「なんだと、イレヴンのくせに!」

 

 だがそれは一時的なものの様子で学園はまたも緊張感が高まっていき、またも一触即発の状況に戻りつつあった。

 

「あー、こりゃ私たちもトンズラしたほうが良いんじゃない?」

 

 上記の場面では人命救助をしていた軽装の黒の騎士団を、ブリタニア軍が好機と見たのか『隙あらば包囲し、捕縛』などをしていく様子にラクシャータが学園の屋上からディートハルトと共に見ていた。

 

「で? どうするの、()()()?」

 

 ディートハルトはビデオカメラを肩に乗せ、ニヤニヤしながら学園の様子を撮っていた。

 主に場の混乱を利用するブリタニア軍を。

 

「どうするも何も、我々は元々ブリタニアの非道さ等をプロパガンダ利用するためにゼロが派遣した身。 ならば最後の最後までそれを全うするのが────ん?」

 

「あ? ありゃま。」

 

 ディートハルトの生き生きとしていた表情が初めて曇ったことに、ラクシャータが彼の見ていた方向に視線を移すと彼女もびっくりする。

 

『私はノネット・エニアグラム! 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝にてナイトオブナインの座を預かっているノネット・エニアグラムだ!』

 

 現れたのはスヴェンを追っていたクラブ(ノネット)だった。

 

『双方、戦闘行為を直ちに止めよ! いかなる理由があれど、ここは“非戦闘地域”と定められている!

 戦闘行為を続けるのなら私がそいつをぶっ飛ばす!

 これに不満がある奴はブリタニアでも黒の騎士団でも良い、名乗り出ろ! 私が相手になってやる!』

 

『エニちゃん……それって要するに、“気に入らない奴はぶっ飛ばす”って言っているんじゃないの?』

 

 ノネットにアヴァロンにいるロイドの通信が届く。

 

「なんだ、ちゃんといたのかロイ。」

 

『残念でした~! ちゃんといるよ~ん。 それにしても、最初だけとはいえ騎士らしく振舞うなんて珍しいね?』

 

「……まぁね。」

 

『あり?』

 

 てっきり自分の言葉に何らかの反応を示すと思ったロイドがポカンとする。

 

「(ま、無理もないか。 でも、少年の行動を見ちゃったらなぁ~……『学び舎(学園)で戦闘』なんてバカバカしく思えちゃうよ。)」

 

 

 

 ……

 …

 

 

 

 さっきからトウキョウ租界でも再開発エリアの一つの中、倒れていく建物と共に響く地鳴りがやっと止む。

 

 重苦しいそれは、明らかに『人工的な地震』と呼んでもおかしくはない規模で、わずかにそこに居着いていた者たちでさえも、酔いやリフレインで浸っていた記憶や眠りから元日本人たちを覚ますほどだった。

 

 やがて土煙などが巻き起こったそんな地域の中、瓦礫などが混ざった土の山へと場面が移る。

 

 地震は終わったはずなのに、もぞもぞと動き出す土と瓦礫の山を。

 

 ズボッ!

 

 次の瞬間、土まみれのままの手がその出来上がった山の中から勢いよく、某ゾンビ映画のクライマックスのワンシーンのように出てくる。

 

ブハァ! ゲホゲホ!」

 

 全身が土まみれのまま咳をした誰かは、それでもポケットの中から何かを出す。

 

「神様からのお告げ! ……へ?」

 

 生き埋め状態から生還したマーヤは、取り出した携帯のメッセージを見て固まってしまう。

*1
26話より

*2
18話より



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第83話 一番暗いのは夜明け前3

お待たせいたしました、長めの次話です!

少々リアルで立て込んでいました。 <(_"_)>

お読みいただき誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


「(……う、私……は……)」

 

 ダールトンが目を覚ますと、()()()()天井を見上げていた。

 

 いや、『見知らぬ』というよりは『()()()()()()』の方が合うだろう。

 

「(ここは……)」

 

 ダールトンが半分寝ぼけたままの意識で周りを見渡すと医療器具や自分の腕に繋がった点滴などが目に入る。

 

「(どこかの医務室か? 何故だ? 私は確か、ユーフェミア様の補佐として『行政特区』に……)」

 

 ダールトンは血が通い始めたのか、徐々に覚醒する意識のまま横になっていたベッドから起き上がって体中が痛むことにハテナマークを出す。

 

「(何故こうも体が痛む? まるで戦闘行為を……そうだ! 『行政特区』でユーフェミア様とゼロが二人だけで会い、そこから……そこから兵士が暴走をし始めたのだった!)」

 

 ダールトンの意識が『行政特区日本』での出来事に追いつき、完全に覚醒した彼の心臓は力強く脈を打ち更に血を体中に行き渡らせる。

 

「(そして……ダメだ、そこから先が思い出せん。 まるで()がかかった様だ。)」

 

 そう思いながら彼はすぐ横で折りたたまれていた制服を、包帯などが巻かれた身体の上に着ながら医務室を出る。

 

「(『警護の者がいない』、だと? 医務室の設備を見て、てっきりブリタニアの施設と思ったが……)」

 

 ダールトンは出来るだけ警戒しながら通路を進んでいくと、建物内の構造から見て、自分がいるのは政庁の中だとあたりをつける。

 

「(トウキョウ租界、だと? 私は()()ここに戻ってきたのだ? いや、それよりも今は現状把握だ。)」

 

 彼はナリタで多くの負傷した兵士たちの見舞いなどでおぼろげに覚えているメディカルフロアにある、警備室を目指して移動すると建物内に響く音が耳に届く。

 

 ()()()()()()()()()()が。

 

「(トウキョウ租界の政庁が攻撃を受けているだと? 一体どういうことだ? ギル(ギルフォード)は何を────いやその前に、姫様に頼まれたユーフェミア様は? 姫様ご本人は────?!)」

 

 ────ガチャ!

 

「ッ?! どうなっている?!」

 

 早歩きになったダールトンが勢いのまま警備室のドアを開けると誰もいないこと彼は困惑しながらもロッカーの中から拳銃を取り出し、何時でも撃てるように弾倉を入れてモニターの映像へと視線を移す。

 

 そこには政庁の自動機銃砲座が展開し、ブリタニア軍の正式カラーであるサザーランドや良く見知ったグラストンナイツのグロースターの援護射撃をしている様子と、黄色に塗料が塗り替えられたサザーランドや無頼に雷光等がモグラ叩きゲームのように次から次へと現れては政庁を襲う光景が映し出されていた。

 

「これは……トウキョウ租界が攻め込まれている? いったい何が────むっ?!」

 

 もっと情報が欲しかったダールトンはモニターが移しているカメラの視点を変えているとブリタニア兵士らしき者たちが発砲し、それに応戦する()()()()()を見る。

 

「(なんだ、これは?)」

 

 彼はさらに困惑しながらも、警備室の一角を見てはしゃがみ込む。

 

 

 ……

 …

 

 

 

「(弾は……残り僅か、か。)」

 

 コーネリアは銃の薬室に再装填をしながら、そう思っていた。

 

 彼女が愛用するサーベル型銃は、今ではかなり珍しい『ダブルアクション』かつ『回転式弾倉』といったリボルバーの特徴を使用し、これにより弾丸一つ一つに工夫が施されて通常より高い威力を保持させていた。

『普通の防弾スーツならば容易く貫通できる』、『通常の(コードギアス世界の)銃より有効射程が長い』などの、スヴェンが使う『火薬式銃』とかなり利点が似ていた。

 

 だがその反面、『装弾数が少ない』、『銃身が長くて取り扱いにくい』、『専用のスピードローダー(装填器具)を使わなければ弾薬の再装填に時間が掛る』などと言った欠点もあった。

 

 無論コーネリアも自分の銃の特徴などを把握しており、単発より一回り荷物になるスピードローダーを使って『弾薬の再装填に時間が掛る』デメリットを消していたが。

 

「ッ!」

 

 彼女は銃の装填をし終えたと思った瞬間、ブルパップ式アサルトライフルを構えていたブリタニア兵士が二人ほど角を曲がってくる。

 

 彼らはコーネリアが銃の再装填中に襲えると思っていたのか、彼女が既に装填し終わっていたことに一瞬だけ動きに迷いが生じたように固まった。

 

「なめるな!」

 

 だが彼女の持つのは『サーベル型銃』。

 

 銃身(サーベル)が長いことで接近戦では()()()()()()()()という事は明らかだが、コーネリアのような『武人』が敵の隙を見逃すわけがなく、彼女は自らの武器の刃部分を()()

 

 ガチャ!

 ザシュ! ドドドドン!

 

 左手でそれを一人の胸に刺し、右手で掴んでいたリボルバー部分でもう一人の敵に何発も密着状態から撃ち込む。

 

 本来は手入れ(メンテ)などの為の『銃』と『刃』の分解を、彼女はそれぞれの部品を『武器』として無理やり使っていた。

 

「(銃が最新の中折れ式(トップブレイク)ではなく、振出式(スイングアウト)型で良かった。)」

 

 勿論本来の用途とは違う使い方をしたことでリボルバーのむき出しになった薬室に撃った際に飛び散った肉片が絡まって回転は途中で止まった様子で手動の修正が必要な様子で、コーネリアの左手は敵を刺した時に生じた摩擦で手袋と手が斬れていた。

 

「(新手か?!)」

 

 それでも彼女はそれ等を手放すことなどは考えていなかったが、新たな足音に彼女はリボルバーを力一杯に振って、薬室に絡まった()()を強引にとる。

 

 ガシャ!

 

 コーネリアの足元で重苦しい金属音がして、彼女が視線とリボルバーを向けてその先にいる人物を見ては目を見開いてしまう。

 

「ダ、ダールトン?!」

 

「姫様、こちらです!」

 

「無事だったか!」

 

 彼女が見たのは政庁の空気を常に新鮮な空気と循環させる通気口を開けたダールトンだった。

 

「姫様、一体全体、どうなっているのですか────?!」

「────後で話す! まずは政庁から()()する、前方を頼めるか?」

 

「もちろんですとも。」

 

 コーネリアは人間一人が身をかがめてようやく通れる通気口に躊躇なく入ってから取り外した通気口のカバーを戻し、ダールトンの後を歩く。

 

 ダールトンはコーネリアに色々と聞きたかった様子で、コーネリアも彼に言いたかったが流石は数々の修羅場を乗り越えた二人でまずは()()()()()()()を最優先に動いていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「チ、やはりここもか。」

 

 政庁の内部からトウキョウ租界へと通じる総督用のヘリポートには政庁の警備隊ではなく、先ほどのような兵士がいたことにコーネリアが舌打ちをして今度は別の移動手段である海路へと向かうとさすがにそこまで手が回らなかったのか、人気がなかった。

 

 そのまま二人は近くのクルーザーに乗り込んで出発前の準備と軽い点検を行ってからすぐに出発をする。

 

「姫様、何が起きているのかご説明を願えないでしょうか?」

 

「ダールトン、先に聞かせてくれ。 ゼロとは何だ?」

 

「ゼロはブリタニアの敵ですが、何か?」

 

「……(嘘は言っていないようだな。)」

 

 クルーザーを操縦していたダールトンが即答したことと、昔から彼を見てきたことで彼が嘘を言っていない(というか言うときの仕草がなかった)ことで一安心する。

 

「それよりも姫様、これは一体どういうことでしょうか? 私はなぜ政庁に?」

 

「なんだと?」

 

 いや、()()()()

 

「ダールトン、お前は私に『行政特区日本』でのことを伝えると同時に黒の騎士団の────いや、ゼロとの直通回線を教える為に戻ったのではないのか?」

 

「私が……でありますか?」

 

 ダールトンはハテナマークを出しながら困惑する表情を浮かべると、コーネリアが以前に同じような仕草を画面越しにした者たちを連想させる。

 

『知らないのです! ()()()()()()()()()()()、私はクロヴィス殿下のおそばを離れていたのです!』

『私は、純血派を率いるものとして誓います! 決してそのような、()()()()()()()命令を下してはいません!』

 

 最初はクロヴィスの警護と腹心であったバトレー、そして身の潔白を必死に訴えようとしたジェレミア。

 

 二人の周りの兵士たちなどなどの証言。

 

「(まさか、兄上(シュナイゼル)とクロヴィスが言っていた『CODE:R』とやらか? まさか、ゼロが今まで起こした奇跡もそれ由来か? だとしても、奴の慌てようと政庁の様子から見て第三の勢力が明らかに絡んでいる。 それも私やユフィの、『死』を狙った……) ダールトン、私は調べたいことがある。 付いて来いとは────」

「────何を今更。 姫様のそばが、私の居場所です。」

 

「それが例え、()()()()()()()であってもか?」

 

「……………………」

 

 コーネリアの問いに、ダールトンが黙る。

 

 そしてそれは無理もなかった。

 何せコーネリアの意味合いは『ブリタニア帝国の裏世界を探る』というもの。

 

 大国であればあるほど、その業と闇は深い。

 

「姫様。 ギルはどうしますか?」

 

「は?」

 

 だがそんな彼女の問いに、ダールトンはギルフォードの事を逆に訪ねていた。

 

「いや、奴にも内密にするような事柄でしょうか? あとで私が『姫様のお供をした』と知れば、奴のことです。 確実に拗ねますぞ?」

 

「ダールトン……お前は────」

「────なぁに。 私は除け者扱いされていたところを拾われた恩があります。 姫様が必要あらば、地位や体面などまったく構いませんぞ?」

 

「…………………………ありがとう。」

 

「しかしユーフェミア様や、クロヴィス様たちは如何なさいますか?」

 

「ユフィならゼロの知り合いが匿っているだろうさ。 奴ほどの策略家ならば私に対しての切り札だとしても、ほかの理由があろうとも私が生きている間はユフィも無事だろう。 そしてクロヴィスならばしぶとく生き残れるはずだ。 何せライラもいるし相手の標的はどうも、私やゼロらしいしな。」

 

「姫様、やはり先ほどの兵士は第三の勢力でしょうか?」

 

「そう考えれば全て辻褄が合う。 『行政特区』やトウキョウ租界、そして政庁の状況。 最初は私の失脚や、今までで一番勢いのある反ブリタニア勢力という“ウミ”の一掃なども考えられるが……どうもそれだけではないと思ってしまう。 特にゼロからマリアンヌ様の真相に関して話すところで、このようなことが立て続けにあってはな。 偶然にしては出来過ぎている。」

 

「マリアンヌ様の?! ……なるほど、それで本国も信用が出来ないと。」

 

『マリアンヌ暗殺事件』はかなり前の出来事だったが、いまだに爪痕を残すソレはいかなる理由があっても『これ以上の何人たりとも詮索無用』と、珍しく政に口を挟まない皇帝(シャルル)によって禁句とされていた。

 

「ああ。 それにギルには悪いが、奴はあまりこういう(隠密)行動には向かないからな。 奴を巻き込むわけにはいかん。 ()()、な。」

 

「ですな……」

 

 二人が思い浮かべるのは数々の戦場でギルフォードが如何に堅物であるかの様なハプニングや、奇襲寸前での名乗り上げだった。

 

 結果的には敵の注意(ヘイト)を稼いで戦果は上げられるものの、ギルフォードは良くも悪くも『古くからの騎士道精神の塊』のような男で『姑息な手段』や『背後からの攻撃』を嫌い、『戦なら正々堂々と!』などなど。

 

 これをギルフォードが知ったら泣くどころかダールトンの言ったようにいじけていただろう。

 

『で、ですがすべては殿下のために!』と言いながら。

 

 ………

 ……

 …

 

 トウキョウから神根島への直線コースの相模湾から太平洋へと出たところでフロートユニットを取り付けた紅蓮とランスロットが戦っていた。

 

『スザク、ゼロはやらせないわ!』

 

『カレンか?!』

 

 最初こそ空を飛びながら戦うことにカレンは不慣れだったが、持ち前の操縦スキルで徐々に、恐ろしいほどまでに順応していった。

 

 逆にランスロットに乗りスザクは空中戦の経験はあるものの、何が何でもゼロを追う為に機体を酷使していたのがここで裏目に出て、二機はほぼ互角の戦闘を行っていた。

 

『邪魔するな! お前は! お前たちは全員、アイツに騙されているんだ!』

 

『裏切り者であるアンタの言葉を聞く気にはならないね!』

 

 スザクはカレンに応戦しながらも神根島へと向かい、どうやって紅蓮の撃退────

 

「(残りのエナジーが、あまり心もとない!)」

 

 ────が無理であれば、どうやって一時的にでも紅蓮の追跡を止められるか考えていた。

 

 そしてスザクが待っていたそのチャンスが到来した。

 

『食らいな────!』

「────いまだ! VARIS、フルパワー!」

 

 彼はヒット&アウェイを繰り返していた紅蓮の接近攻撃(輻射波動)を、出力を最大まで上げたVARISで零距離で撃つ。

 

 ランスロットのVARISを持っていた左腕は輻射波動をまともに受けたライフルと一緒に膨れ上がり、爆発する前にスザクは腕を肩の付け根ごとパージする。

 

『うわぁ?!』

 

 逆に紅蓮の輻射波動は物理的な攻撃ならば防げるが、機体への負担がなくなることは無い。

 最大出力のVARISが撃ち出した弾丸は輻射波動の発生させるバリアー(マイクロ波の膜)にぶつかってはその反動で紅蓮の右腕が吹き飛び、この勢いで紅蓮は空中をくるくると回りながら海へと落下していく。

 

「(お、落ちる?! やられる!)」

 

 ここで追撃されれば幾らカレンでも分が悪かったが、回る景色の中で彼女が見たのは神根島へと移動するランスロットの姿だった。

 

「“(カレン)のことは眼中にない”って言いたいのか!」

 

 カレンはフロートユニットに紅蓮を順応させたラクシャータの即席仮想OSの出す『失速(ストール)脱出(イジェクト)を推薦』アラームを無視して紅蓮の左腕に付いていたパイルバンカーを撃ち出し、その噴射と反動で回転を無理やり減少させてからスザクの後を追う。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 当の神根島では、ガウェインが何時かのルルーシュが衰弱して遭難した島にある入江の洞窟に近づいていた。

 

「CC、お前はここに来たことがあるのか?」

 

()()()知らない。」

 

「逆に『他にある』という事か。 それに学園や今での言葉を察するに、お前はギアスが使えない代わりに精神への干渉などと言った能力が使える……といったところか? どうなんだ?」

 

「……………………」

 

「ここにきてだんまりか。 まあいい、ナナリーを攫った奴はギアス能力者か?」

 

「そこまでは……だが傍に待機させているかも知れん。」

 

「つまり、相手はお前のような────何?!」

 

 ルルーシュは視界の端で何かを見たと思えば反射的にガウェインを動かして巨大なスラッシュハーケンを躱す。

 

 「ゼロ! ここで会ったがさっきぶり! 懺悔の時間到来でございましたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「ええい、しつこい! たかがオレンジ如きが────!

「────ルルーシュ! ここは私に任せて、お前はナナリーの場所へ行け!」

 

「……頼む!」

 

 ルルーシュ、そして彼から操縦を代わったCCが見たのは残り少ないエナジー残量とジークフリートの破損具合だった。

 

 原作とは少し違う形だったが、二人はある程度ならば互いを理解(信頼)するまでの関係だった。

 

 少なくとも『必死になったルルーシュを全力でCCは手助けする』。

 そして『ゼロではなく、ルルーシュとして一度交わした()()は絶対に守る』、とお互いが本能的に理解するほどには。

 

 ガウェインは弱めのハドロン砲を海に撃ち、蒸発した海水で煙幕が張られている間にCCはルルーシュを神根島へと降ろす。

 

「死ぬなよ、ルルーシュ。」

 

「お前こそ……と言いたいところだが、お前は殺されても死なない女だ。 いうだけ無駄だろう。」

 

「こういう時は嘘でも言うものだぞ?」

 

「お前は冗談が嫌いだっただろう? 約束は守る。」

 

「期待しないで待っているよ。」

 

 それを最後にルルーシュは神根島の洞窟の中へと走り、CCはガウェインにまだゼロが乗っていると思い込むジェレミアのジークフリートを出来るだけ神根島から引き離していく。

 

「(ナナリーを攫ったのは、やはり俺が狙いだからか? それともCCか? どちらにしても、敵は俺がゼロだということを知っている可能性が高い。 あるいは……ナナリーの正体を知っていて『皇子のルルーシュ』を誘い出すためか……それとも────)」

 

 持ち前の情報と照らして数ある可能性を考えながらもルルーシュは器用に暗い洞窟の中を慎重に歩いていくと、次第に前方が明るくなっていく。

 

 そこは以前、彼が神根島に来たときにガウェインを奪取した洞窟内の通路の行き止まりだった。

 

「(あれからさほど時間がたっていない筈なのに、()()()()感じる。)」

 

 ルルーシュが洞窟の中の『神殿』らしき場所の祭壇にある門を力一杯に押す。

 

「フンンンンン!」

 

 ズ……ズズズズ。

 

 パラパラと長らく開けられていない門はこびりついた土や石を落としていく。

 

 パンパンパンパァン!

 

「ッ!」

 

「こちらを向け、ゆっくりと。」

 

 背後から来る銃弾が門に当たると同時にスザクの声がすると、ゼロは門を押すのをやめて言われたとおりに振り返るとスザクがいた。

 

「枢木スザクよ、私を撃たないのか?」

 

「撃って欲しいのか?」

 

 ルルーシュはバクバクと荒ぶる心拍音を無理やり無視しながらゼロらしく『冷静沈着』と『余裕』を装いながらスザクに喋りかける。

 

「枢木よ、心して聞け。 私が撃ったのはユーフェミアでは────」

「────『ギアス』って、凄いんだね。」

 

「(………………………………………………)」

 

 スザクの言葉にゼロは今まで動かしていた思考が止まって真っ白になり、身体が思わず固まる。

 

「それがゼロの秘密だよ、カレン。」

 

「ッ。」

 

 近くの物陰に身を潜めていたカレンが息を素早く飲み込み、拳銃をスザクに向けながら口を開ける。

 

「気付いていたの? なら私をさっさと撃てば良かったのよ────」

「────君にもゼロがどういう奴か知らせたかったのさ。 君には……いや。 君だからこそ、その権利がある。 仮面を取れ、ゼロ。」

 

「断る。」

 

 パァン!

 

 スザクがゼロの仮面を躊躇なく撃つ。

 

 すると元々は素顔を隠したり、声を変えたり、ギアスを使うためのスライドパネルなどのギミックの多い(強度が脆い)仮面は割れて地面へと落ちる。

 

 露わになったルルーシュの額は仮面が弾丸を弾いた際に出来た傷から血が流れ出て、さすがの彼もスザクがノータイムで打つとは思わなかったのか()()()仏頂面だった。

 

「これが、ゼロの正体だよカレン。」

 

 カレンは思わず拳銃を握る手に力を入れる。

 

 スヴェンから聞いて『ゼロを……ルルーシュを頼む』と言われてからは想像をしていたが、実際に見るショックは原作のように放心させるまでは至らなかった。

 

 決して動揺は小さくはなかったが。

 

「知っていたのか、スザク。」

 

「確信はなかった。 それに信じたくはなかった。 君を信じたかったから。」

 

「スザク、俺は────」

「────でも便利だよね、ギアスって。 それさえあれば、相手が誰だろうと思うがままに出来るんだっけ?

 相手の信念や思いや志さえも無理やり捻じ曲げさせて自意識のないまま、文字通りの操り人形に。」

 

「……え?」

 

 ここでカレンに初めて『迷い』が生じ、彼女の拳銃がわずかに震え出す。

 

「その能力で、君はいったいどれだけの人間を自分の都合の良い駒や、考え方を無理やり備え付けさせて仲間にしたんだい?」

 

「……(ここまでギアスの事を……誰だ。 誰がスザクに伝えた?! 何故────?)」

「────否定はしないんだね。」

 

 突然の出来事にルルーシュはテンパり、彼の沈黙を肯定とスザクは受け取った。

 

「君はいつもそうだ。 都合が悪い時はだんまり、責任は間接的な他人を巻き込んで和らげる……今のように。

 そんな君を放置するのは、危険すぎる。 投降しろ、ルルーシュ。」

 

「(クソ! スザクに嘘を吹き込んだ奴の推測は後だ! 今は目の前のバカだ!) なら俺を撃ってみろ! 俺には、やらねばならないことがあるのだ!」

 

 ルルーシュは自分の懐から拳銃を出して、それをスザクに向けながら背中で門を押し始める。

 

Q1(カレン)、スザクを撃て!」

 

 考えに追いつかない口の所為で言葉足らずのまま、ナナリー以外の他人から意図的に距離を取っていた不器用なルルーシュ。

 

「カレン、こいつは君も皆同様に操っているだけの男だ! 聞くことはない!」

 

 自分のやったことで大勢の人が死ぬより酷い末路を遂げた結果を見て、他人の為に自分を押し殺すスザク。

 

「(そんな……じゃあ、私は? 私や扇さんや藤堂さんたちは? 昴、私は……どうしたら────?!)」

 

 そして『ギアス』という超能力で自分のやってきたことや、他の者たちの行動原理に疑問を感じ始めたカレン。

 

 ────パパァァァァァン!

 

 二つの乾いた銃声が洞窟内でほぼ時間差なしに響いた。



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第84話 一番暗いのは夜明け前4

次話です。

感想やお気に入り登録に誤字報告など、誠にありがとうございます!
全て活力剤&励みとして頂いております。

お手数をお掛けになっております。 <(_"_)>

携帯での投稿&書き上げですが、楽しんでいただければ幸いです。


『藤堂さん! 報道局がブリタニアに奪還されました!』

 

「時間稼ぎはもういい、部隊を引きあげろ!」

 

『了解です!』

 

 ゼロから急に『この場を任せる』と言われた藤堂は頑張ってはいたが、全ての戦線の把握をしていなかった彼は出来るだけ黒の騎士団の被害を抑える為に動いていた。

 

 被害は決して小さくはなかったが。

 

 元々はゼロの元に集まっただけの反乱軍が先走って暴徒化し、その鎮圧に黒の騎士団は広く展開していたのが裏目に出てしまった。

 

 彼らは孤立してしまい反乱軍の攻撃、そして途中からブリタニア軍からの反撃を受けてしまった。

 

 小さな部隊は殆んどが独断で動くようになり、途中で乱入したランスロットからの被害もスヴェンの書置きによって被害は少なかったが、とても『黒の騎士団』として後退出来る状況ではなかった。

 

『中佐! 学園エリアからのディートハルトからです! “現れたラウンズによって非戦闘地帯に戻りつつあり、現在は技術部門と脱出中。 負傷した者たちの捕虜化は免れず”とのことで、残存戦力を率いてG1ベースに移動中!』

 

「そうか……(ラウンズにも、まさかそのようなものがいたとはな……)」

 

 藤堂は少しだけブリタニアのラウンズに感心をすると肩への重みが少しだけ楽になる。

 学園に取り残された者たちは捕虜になるが、殺されることがないのもあった。

 

『お久しぶりです、()()。』

 

 そんな時、藤堂が全く予想だにしなかった通信から来る声に彼はギョッとする。

 

 数ある門下生でも、自分の事を『師匠』呼ばわりするのは例外を除いてごくわずか。

 

 殆んどは『中佐』や『先生』で────

 

『────私です、毒島です。』

 

「やはりそうか! 何故、君がこの通信周波数を知っている?」

 

おじい様(桐原)に聞きました。 師匠、今から戦況把握のリアルタイムデータを送信します。 トウキョウ租界から退却の指揮をお願いします。』

 

「なに? それは────」

 

『────どういうことだ?』と藤堂が言う前に膨大かつ的確な量のデータが彼の月下に届く。

 

「これは────」

『────スバルに頼まれていたものです。』

 

「……なるほど、助かる!」

 

 思わず藤堂は納得しつつも、送られた情報をもとに素早くかつ現実的な撤退ルートなどを割り出していく。

 

 これは彼にとってどうという事はなく、皮肉にも『撤退時と方法を見極めなければブリタニア相手に要らぬ犠牲を出すか全滅させられる』という豊富な経験を活かしただけだった。

 

 そして()()()()()ことに、自分のいる場所に敵のリーダーらしき機体が近づいていた。

 

「仙波、卜部、朝比奈、千葉。 お前たちは今送ったルートを使って撤退時の援護に回れ。」

 

『中佐はどうなされるのですか?』

 

「私は敵の大将の注意を引く。」

 

『待ってください中佐!』

 

『そうですよ! 藤堂さんが居る所が僕の居場所────!』

「────ならん! ここで希望を……反抗の意思を絶やさぬために、私は一騎打ちを仕掛ける!」

 

 藤堂はそのまま物陰から出て彼の月下に応戦しようと試みたサザーランドを容赦なく真っ二つにしながら政庁へと向かう。

 

「敵が私の思っている通りの人間ならば、これに応じないわけがない! ブリタニア軍の大半は奴の指揮一つに頼っている! ならば、奴さえ抑えれば生きてまた戦える同士が多くなるはずだ! それに敵が私だと分かれば、ブリタニアは捕縛を狙う筈! 生きていれば、希望はあるのだ!」

 

 藤堂の月下がロケットランチャーを搭載した部隊、そして以前のナリタで相対したグロースターを見ては外部スピーカーを繋げる。

 

「私は『奇跡の藤堂』! 藤堂鏡志朗だ! 問おう! ブリタニアは一騎打ちにも応じない、腰抜けばかりの集まりか?!」

 

『聞き捨てならんな、“日本の亡霊”如きが! 私はギルバート・G・P・ギルフォード! エリア11の総督にして第2皇女殿下の騎士にして親衛隊隊長! いざ、参る!』

 

 藤堂の狙い通り、ナリタで相対したグロースター(ギルフォード)は彼の挑発に乗ってMVSで斬りかかって月下の制動刀とぶつかり、火花が飛び散る。

 

 

 ………

 ……

 …

 

『全軍、突撃! 反乱軍を一挙に粉砕する!』

 

 黒の騎士団……と呼ぶよりは『暴走化した反ブリタニア陣営』は断層構造のハプニング(奇襲)を利用した勢いで猛攻を仕掛けたものの、所詮は武器を手に取った素人同然の烏合の衆がほとんどだった。

 

 現状で指揮をとれるのは正規の訓練を受けた者たちだが、手が現在で比較的に空いているのは寝返った名誉ブリタニア人の兵士や黒の騎士団が数十人程度。

 

 とてもではないが、ブリタニア軍のように体勢を立て直して正規軍を相手に持ちこたえるわけがなく、最初の奇襲攻撃で決定打を打てなかった時点で敗北は必須であった。

 

「押し切れない!」

 

「井上、もう無理だ! 撤退しよう、このままじゃ俺たちもやられちまう!」

 

 後方部隊をまとめて退却時に出来るだけの被害を少なくしようとする井上、そして陽動のために広く展開した彼女の部隊のフォローを自分の部隊でしていた杉山の無頼たちが、ほかの者たちと比べて比較的トウキョウ租界の外延部近くで活動をしていた。

 

「早くしないと、敵の進軍と援軍で挟み撃ちになる!」

 

 井上の無頼は周り角を曲がるために無頼を道の中心に移動させる。

 

『気をつけろ、その先にはブリタニア軍が既に待ち受けている。』

 

 

 黒の騎士団幹部専用の周波数で来る、機械音声の音声通信に井上と杉山が思わず立ち止まって周りを警戒する。

 

曲がり角の高層ビルの屋上、11時と9時の方向だ。

 

「だ、誰?!」

 

味方でも敵でもない。

 

「なぜこのチャンネルを知っている?!」

 

頼まれたからだ。

 

「誰にだ?!」

 

“お前たちに死んで欲しくない”、とのことだ。

 

 少し離れたビルの屋上に、対KMFライフルに取り付けていたスコープを単眼鏡代わりに使って服装が土まみれのマーヤがその場から撤退する井上と杉山を見ては通信機を切り、自分も移動しながら黒の騎士団の幹部たちに上記のような助言を含めた通信を送っていく。

 

 

 ……

 …

 

 

「歩兵を下がらせ、建物の中からゲリラ戦をかけさせろ! 相手がナイトメアでは分が悪すぎる! G1ベースの機銃をすべて使え!」

 

 今や否が応にも反乱軍の象徴になってしまったG1ベースに、撤退をし始める反乱軍を追って進軍するブリタニア軍が目視できるほどまでに近づいていた。

 さっきまでの静けさが嘘だったかのように、G1ベースの機銃がすべて唸りを上げて弾幕を張って出来るだけ敵を近づけないようにしていた。

 

「ゼロ様……本当に居なくなってしまわれたのですか?」

 

 そんなG1ベースにあるブリッジで戦況が徐々に不利なっていく様子の中、桐原がため息を出す。

 

「皇、ここはワシに任せてお主は今すぐに逃げよ。」

 

「桐原殿?! 何を急に言い出すのです?!」

 

「状況から察するに、ゼロはこのような展開を望んではいない。 それに長年ワシが生きながらえた感が伝えておる、“これは負け戦”だと。 それに、NACとワシの関係はブリタニアに見破られておる。 ワシが見つかれば、ある程度はお主の生存から目を引き付けられるだろう。」

 

 今までとは違う、連続で起こる爆発音でG1ベースは揺れる。

 

 ザッテルヴァッフェ(特殊ミサイルランチャー)を全弾打ち出しながら特攻を仕掛けたグロースターが二機ほどG1ベースに張り付いてランスを構える。

 

『『覚悟────!』』

 『────覚悟するのはお前たちだぁぁぁぁぁぁ────!』

 

 ギュィィィィィィィィィ!!

 

 まるで投げられたかのように突然G1ベースの横から文字通り飛んできた無頼改が、持っていた廻転刃刀でグロースターたちを過ぎ通りざまに切る。

 

 ボキン。

 

 『────あぁぁぁぁぁぁ止まらなぁぁぁぁぁい?!?!』

 

 ドゴォン!

 

 廻転刃刀は無茶な切り方をし過ぎたのかそこで折れてしまい、無頼改はそのまま止まることなく飛んできた勢いのまま廃墟となった建物に突っ込んでしまう。

 

「「…………………………冴子/冴ちゃん? え?」」

 

 目を点にさせながら神楽耶と桐原が同時に相手の声から連想した人物の名前(愛称)を口にすると互いの意外な面を垣間見たような気がした。

 

「(いつもどんな席でも堅物で通っている桐原殿が『冴ちゃん』……ですって?)」

 

 神楽耶が思わず思い浮かべたのは決して誰にも見せないオフタイムの桐原が『冴ちゃ~ん』と呼びながら目からハイライトが消えた毒島を甘えさせようとする光景。

 

「(お転婆であっても時と場合はわきまえるあの皇が、素直に名前で呼べるほど冴ちゃんと親しくなっておるとは意外……ちょっと寂しいのぉ。)」

 

 桐原が思い浮かべるのは昔から毒島という玩具護衛をどこにもでもほぼ引きずりまわす神楽耶に疲れながらも付き合う毒島だった。

 

 建物がガラガラと音を出しながら突っ込んでいった無頼改が中から姿を現し、中にいた毒島は目を回していた。

 

「(ぐぉぉぉぉぉ……まさか『タオパ〇〇イ輸送システム』がこれほどとは……よくアリスは無事でいられたな……)」

 

 実は毒島、サンチアとルクレティア経由で攻められているG1ベースの中に神楽耶と桐原がいたことに血相を変えながらダルクに無茶を言って『お願い』という名の命令をし、機体を投げてもらった。

 

「それよりも二人は?!」

 

 無頼改が接触回線をG1ベースと直接繋げ、ブリッジの中に彼女の声が響く。

 

『神楽耶様、おじい様! ご無事ですか?!』

 

「「いやそれ私/ワシたちのセリフ。」」

 

 二人が言ったように、毒島の機体はひどい損傷具合だった。

 

 頭部から後方に伸びる触覚型の通信アンテナはぽっきりと折れてファクトスフィアを覆う頭部の装甲が一部欠けており、スラッシュハーケンの一つは先端が千切れ、もう一つはワイヤーが完全に巻き戻されていない状態で『プラ~ン』と機体からぶら下がっており、右腕は先ほどの無茶で手が手首の先から無くなっていた。

 

『二人とも乗ってくれ、ここから脱出する!』

 

「だが敵があれだけ────」

『────こっちにはファクトスフィア以上の()()()()()()()()が付いている。』

 

 毒島はそう言いながら機体とは別の周波数に合わせているインカムを耳につけて無頼改の左手に桐原と神楽耶を乗せる。

 

『冴子? アンジュよ。 こっちは無事にチャウラー博士(ラクシャータ)メイド(咲世子)胡散臭いポニテおっさん(ディートハルト)を回収。 どうする? このままディーナ・シーに連れ戻す?』

 

『いや、私たち二人は黒の騎士団が既に用意してある脱出経路まで送る。 ゼロのことだ、私たちが回収した誰かにもしもの時の逃走経路は用意させてあるだろう。 それに“姫”の件もあるしな。 いや、お前(アンジュ)からすれば“学友”か?』

 

『“友人”ってほどじゃないわ。 せいぜい前の学校で、大会とか交流会で顔を合わせたぐらいよ。』

 

『少なくともお前の素の “死ねゴラァ!”を暴露させるほどには仲が良かったのだろう?』

 

『あ、あれはついカッとなって相手をラクロスステッキでボコるときに気迫を付ける為の叫びよ!』

 

『もういいか二人とも? これからは一時的にだが私が指揮を執る。 後で落ち合おう。』

 

『『了解。』』

 

 そしてアンジュ、自分なりの言い訳が全く言い訳になっていないことに気付かないまま毒島とともにサンチアの指示に従い、胡散臭いポニテおじさんディートハルトが用意した逃走手段へと直行していく。

 

 もちろん普段ならディートハルトが正直にそのような機密情報を言う筈がないのだが、毒島の無頼改の手に乗っていた神楽耶と桐原がいたことが幸いした。

 

『少なくとも二人が身を任せるほどのものならば利用はできる』、と警戒をしながら。

 あとは彼が個人的に雇っていた『篠崎咲世子』という()()()も傍にいたことが決定打だった。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「……う。」

 

 後に『ブラックリベリオン』と呼ばれる長かった夜に、太陽が水平線より上がり始めたことでボロボロのトウキョウ租界が朝日に照らされ始める中、マオ(女)は激しく揺らされながら目を覚ます。

 

 彼女は背中に薄いマットレスのようなものを感じながら、自分がナイトメアのコックピット内だと気付くのに時間はあまりかからなかった。

 

 彼女が見上げていたのは、限界まで上昇させたパイロット席の裏側だったからだ。

 

「(画面が消えている……メインカメラがやられたからって、非常用キューポラから乗り出して生身で操縦するなんて、命知らずだな────)」

 

 ────パタタ。

 

 そんな見上げていたパイロット席から赤い液体が滴り、マオ(女)の顔に落ちてくる。

 

「……血?」

 

 体中の関節が悲鳴を上げながらもマオ(女)は起き上がると、ようやくパイロットを見てはギョッと目を見開く。

 

 シートベルトのおかげで辛うじてパイロット席の中でぐったりとした、ライダースーツ&ヘルメットの者を。

 

「お兄さん?!」

 

 マオ(女)は外からガリガリとする音を背景に、スバルのいる席まで上がるとここでようやく自分たちの乗っていたナイトメアが制御を失ったまま前進し、近くの建物にぶつかりながら進んでいたことに気付く。

 

 彼女は前進している方向を見ると、自分たちがT字路の行き止まりに進んでいたのを理解し、操縦桿を握る。

 

「と、止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 !!!

 

 酷く破損したサザビを止めようとしては金属と金属が擦りあう、直接耳に来る不愉快な音があたりに響いてはナイトメアの移動がやっとの所で止まる。

 

 ライダースーツとヘルメットの中から血が出ていることですでに重症なのは明らかだが、彼を移動させるにも操縦席に座らせたままの方が危なく感じたマオ(女)はスバルの具合を見る為に、シートベルトの金具に手を伸ばす。

 

 カチャ。

 

「手を上げろ。 ゆっくりとこっちに振り向け。」

 

 背後から来た、銃が向けられる際に生じる金属音に()()()()()()にマオ(女)は手を上げてゆっくりと振り向く。

 

「ええっと……お久しぶりだね、()()()()()()。」

 

「私の名はヴィレッタ・ヌゥ、ブリタニアの騎士候だ。」

 

 そこにはいつかのヨコスカ港で撃たれたときの(そして裁縫で修理済みの)服装を身に纏い、銃を近くの瓦礫の山から構えていた()()()()()がいた。

 

「(あーらら、記憶が戻っちゃっているの? う~ん、どう切り抜けようかなぁ。)」




カオスがやっと一段落できそうな目途が立ちましたが、次話が少々遅れるかもしれません。 申し訳ございません。 _(X3」∠)_


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第85話 『日本』という『夢』からの目覚め

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

そして久しぶりの(殆んど)スヴェン視点です!

短めで申し訳ございません。 (汗

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ………………………………………………どこだ、ここは?

 

 気が付くと、俺の周りは一面の暗闇だった。

 

 どこを見渡しても『黒』で、別にこれは『瞼を閉めている』とも『微睡で意識がない』などとは違うような気がする。

 強いて表すのならば、まるで()()()()()()だ。

 

 あの『自称神様』曰くの、『魂だけの状態』。

 

 やはり前世の記憶がぼんやりとしているからか、あの時を思いだすと『懐かしい』と感じてしまう。

 

 この状態になっているということは……死んだのか、俺?

 

 あの『自称神様』が現れるような気配がすれば、取り敢えずは罵倒をするか。

 

『いや、それはただの八つ当たりだろ?』、だって?

『俺が確認しなかった所為でもある』、だと?

『コードギアスの世界を堪能しているだろ?』、か?

 

 否定もしないし正論だが、まさか『ファンタジー(RPG)だと思ったら実はアドベンチャー(ADV)で選択肢を間違えたらデッドエンドが無数に設置してある突入(転生)先』とは思わないだろうが?

 

 文句の一つぐらい言わせろ。

 

『それにしては好き勝手やっていた様子じゃね?!』の声も聞こえそうでそれもそうだが……

 

 目の前で『タイミングやすれ違いといった不運からの悲運が待ち受けていると知ったらどうにかしたい』とは思わないか?

 

 勿論、自分へのリスクを極力無しで。

 

 ……それがどうしてこうなった?

 

 そう思っていると、次第にふわりと意識が上がっていくような気がしては瞼越しに明かりが見えてきそうになったところで、急に体が重みを増してガクリと浮上するのが止まる。

 

 不意に下を見ると、上の光によって照らされた手の形をした『黒』が俺の足先、足首、膝、太股などが掴まれていて、嫌な汗が身体中から出て不安が胸を埋め尽くし、俺はむやみやたらとただ無我夢中に暴れようとする。

 

 鉛の鋳型に体が埋め込まれているようなダルさを文字通り肌で感じながら、目を開けると白い蛍光灯の光と変哲もない室内の天井を見上げていた。

 

「………………………………ぃ天じょう、だ。」

 

 言ってみたかったセリフの“知らない天井だ”が乾いた喉から変なイントネーション付きで出る。

 ちょっと残念。

 

「起きてからの開口一番が“天井だ”とはマイペースね。」

 

 横から来た声の元を見るとふてぶてしい表情をしたアリスがいた。

 

「ここはどこだ。」

 

ディーナ・シー(潜水艦)の医務室。」

 

「なぜ俺は動けない? そして体に違和感がありまくりなのは何故だ?」

 

「痛覚麻痺の薬物を使って、アンタ無理したでしょ? 胸だけで割創4、杙創3に骨格筋の損傷、大腿骨にヒビ、内部出血と内臓破裂、その他もろもろ。 生きているのが奇跡に近い瀕死状態だったわ。」

 

 ナニソレ。

 思っていたよりヤヴァイ状態やったんか。

 

「そうか……」

 

「聞かないの?」

 

 アリスにしては珍しい、おずおずとした様子でその問いが来る。

 何を?

 

 逆に質問がありすぎてどこから始めたらいいのかわからん。

 

「トウキョウ租界のことか? それとも黒の騎士団か? もしくはユーフェミア様やコーネリア様かゼロのことか? それともあれからどれぐらいの時間がたったとかか? なら全部だ。 全部、教えてくれ。」

 

「……そ。 長くなるわよ?」

 

「俺が動ける状態に見えるか?」

 

 さっきから何度も身体を起き上がらせようと思って試みたが、ビクともしなかった。

 まるっきりアレだ。

 

『体の動きが鈍いぞ』じゃなくて『動けん! まったく体が動かんぞ?!』状態だ。

 

「……そういやアンタってばこういう奴だったわよね。」

 

 ここでアリスが某高校生とは思えないガタイ男性のように『限界はそこまでの様だな』とか言ったら『な、何ぃぃぃぃぃ?!』と田〇信夫氏ボイス風に内心で叫んでいただろう。

 

 うん、ポーカーフェイスとは違い、内心はかなりテンパっている。

 

「なら俺の看病をしていたことに感謝をしたほうがよかったか?」

 

 上記の様にちょっと嫌な言い回しを思わずしてしまうほどだ。

 

 別に俺は彼女の横にはいつか編んでやったぬいぐるみ(ペンギン)がおかれている椅子を横目で見たからじゃないぞ?

 

「それはそれで変な感じだからパス。」

 

「だろ? 話を続けてくれ。」

 

「アンタってば三日間丸々寝ていたからね、長くなるわよ?」

 

 「先にそれを言え。」

 

 というか『三日間、寝ていた』ってどれだけだよ?!

 

 あれ?

 そうすると、俺の身体ってもっとべたべたしてなくないか? 寝汗とかで。

 

 いや、そもそも下の世話は?!

 

 「いいから話を続けるわよ?」

 

 おい?!

 まるで俺が思い当たったことに気付いたようなタイミングで言いだすなよお前ぇぇぇぇ(アリスゥゥゥゥ)?!

 

 

 


 

 

 世界の三大国の一つである神聖ブリタニア帝国で初となる、『行政特区日本』。

 

 イレヴンが夢にまで見ていた『日本人』として名乗れる夢。

 

 その『夢』が『日本人の虐殺』という悪夢を発端に、今までかつてないほどの大規模な反乱がエリア11全土に及ぶまで時間はかからず、その同じ日に『行政特区日本』で活躍した黒の騎士団を旗印に様々な者たちが行動を起こす、あるいは集まった。

 

 反ブリタニア勢力の残党、不平不満を持つ名誉ブリタニア人、そして手頃な道具を武器として手に取ったナンバーズ(一般市民)たちは数でブリタニア軍をはるかに凌駕した。

 

 奇襲にも似た急展開と、実質敵地のど真ん中で孤立したブリタニア軍を初期での猛攻で圧倒的に押していたが、第三皇子の名の元にクロヴィスは一時的にエリア11の指揮権限を取った。

 

 これも『行政特区』にて()()()()()()()()()()()()()()ことで()()()()()()()()()()()()が復活するまでの処置と周りを納得させ、コーネリアの騎士であるギルフォードと共にトウキョウ租界の全面衝突まで余力を残すためにブリタニア軍を防衛部隊として集結させた。

 

 トウキョウ租界で、ゼロは最終通告を出すもののこれに応じなかったブリタニア軍に対して外延部の一部を崩壊させた。

 

 ほぼ同時に『非戦闘地域』と指定されたアッシュフォード学園で、黒の騎士団とブリタニア軍の過激派同士から始まった小競り合いが学園を戦場へと変えた。

 

 戦況はまたもブリタニア軍が不利になり彼らは政庁付近まで撤退して立て籠もり、反乱軍は優勢になりつつあったがゼロが突然戦線離脱。

 

 これを機にコーネリア軍は一気に攻勢に転じ、指揮系統がなくなった反乱軍の孤立した部隊を包囲殲滅し始めた。

 

 皇女殿下が騎士であるギルフォードに、精鋭部隊のグラストンナイツの活躍で反乱軍の敗北はもはや時間の問題で、報道エリアも奪還された。

 

 アッシュフォード学園も、予期せぬラウンズ(ノネット)の登場によって学園での戦闘行為は止まった。

 

 拠点としたエリアを奪還され、戦線は崩壊、そしてゼロの不在で黒の騎士団を含めた反乱軍は独断行動が目立つようになった。

 

 ある者は退散、そしてその殿を務めてブリタニア軍の将との一騎打ち。

 ある者は保身に走って投降。

 ある者は徹底抗戦を告げて命と弾薬がある限りに戦った。

 

 かつての日本が占領された直後の光景へと状況が再び蘇り、この戦いで反ブリタニア勢力と戦力は一気に壊滅、または大幅な弱体化を余儀なくされた上に、黒の騎士団の幹部らしき者たちもブリタニアの捕虜となった。

 

 その例として『厳島の奇跡』こと藤堂鏡志朗、彼を救い出そうと決闘が終わった後に突貫した四聖剣の一人である千葉凪沙、『黒の騎士団副指令』である扇要と彼がなだめていた玉城真一郎、反ブリタニア勢力の支援組織であるキョウトのトップである6名中の4()名、などなど。

 

 

 黒の騎士団のリーダーでもあり象徴でもあるゼロを追って神根島に向かった枢木スザクがゼロを捕縛し、本国のシャルル・ジ・ブリタニアの元に連行されて非公開での処刑命令が下され、これにより黒の騎士団という組織の支柱がごっそり捕虜となり、もしくは亡くなった。

 

 その一連の出来事はまさに『夢』のように一夜にして潰えた。

 

 そして枢木スザクは()()でゼロを生かしたままの捕縛の功績を買われ、皇帝シャルルは帝国最強の十二騎士、『ナイトオブラウンズ』の中で空席だったナイトオブセブンの地位に任命した。

 

 エリア11に滞在していたブリタニア軍は大きな戦果を挙げると共に、大きな代償を支払った。

 

 人的損失は全土で暴徒化した名誉ブリタニア人にイレヴンのおかげで口にせずとも想像はできるだろうが、行政特区日本の暴動でユーフェミア・リ・ブリタニアはゼロに討たれ、政庁に黒の騎士団の特殊部隊が侵入した形跡もあり総督であったコーネリア・リ・ブリタニアとアンドレアス・ダールトン将軍の二人は生死共に分からず行方不明。

 

 辛うじてクロヴィスとギルフォードは無事だったものの、行方不明者を含めれば皇族二人を失ったことと、エリア11で汚職に手を染めていた者たちの繋がりがブリタニア本国にまで届いていたことで本国はハチの巣を突いたどころか、フルスイングしたバットで巣が粉々にされたように騒然としていた。

 

 ブリタニア本国からの援軍がエリア11に到着すれば各地の暴動が鎮圧されるのはもはや時間の問題だった。

 

 

 


 

 

「というのがニュースで流れているわね、未だに。 んで、私たちサイドの情報も入れると明らかに別の誰かが関与していたわ────」

 

 ────そこからアリスは大まかに、自分たちが経験した状況などを掻い摘んで話す。

 

『ゾンビのような黒い機体』。

『クララ・ランフランク』。

『反乱軍と暴徒たちの被害が拡大化するような誘導』。

『ブリタニアに指名手配されている黒の騎士団たち』。

『毒島とアンジュは黒の騎士団の幹部たちの脱出ルートに手を貸してから合流する』。

『ユーフェミア様は今、ディーナ・シー内で客人として扱い、匿っている』。

 

 などなど。

 

「……そうか。」

 

「んじゃ、私はちょっとその辺を歩くから何かあったら叫んで。 ドアのすぐ外に誰かはいるから。」

 

 そう言ってアリスは『うーん!』と背伸びに固まった手足を伸ばせながら部屋を出る。

 

「………………………………」

 

 静寂な部屋の中で、俺は悶々と考え込む。

 

 コードギアスの『原作(アニメ)』×『ロストカラーズ(ライ(仮))』×『ナイトメア・オブ・ナナリー(特殊名誉外人部隊)』×『双貌のオズ(クララ)』って……

 

 なんという『ごった煮闇鍋パーティ』だよ。

 どないすればええねん、コレ?

 

 ただ生き残りたい、と思っていたのに。

 自分へのリスクを少なくしながら少し手を加えてみた。

 

 そんなことを思っていたら、いつの間にか俺が『原作介入』をしようとした途端にこれ(現状)だ。

 

『原作知識があれば』と思っていたが……

 

 四つの作品が混じり合っているなんて聞いてへんぞワレェェェェェェ?!

 

 あの『自称神様』めぇぇぇぇぇ!!!

 

 今度会ったら殴る。

 

 ……いや、違うな。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。

 

 俺はてっきり、この世界がコードギアスのアニメを基準にしていたとてっきり思い込んでしまい、その考えを基準に行動してきた。

 

 そこで『ナイトメア・オブ・ナナリー』のアリスたちを、毒島やアンジュのような『異例の要因(ファクター)』と思い違いをした。

 

 何せ全裸ナナリー『ネモ』がいなかったし、ルルーシュも無事にちゃんとCCと出会い、シンジュクゲットーは『ナイトメア・オブ・ナナリー』とは違う結末だったことでどこか安心してしまった。

 

 その結果が、今の体たらくだ。

 

 ()()()()()()()()()

 

 「クソ。」

 

 思わず動かない手を握ろうとして、それさえもできないフラストレーションがたまってはそんな言葉が口から出てしまう。

 

 アリスの言ったことを踏まえると、『アニメ』だけじゃなくて『コミック』や『ゲーム』などが混ざりこんでいる世界だろう。

 

 ……多分。

 

 いや、そうとしか考えられない。

 

 という事は、俺の持つ『原作知識』はもうそろそろ頼れなくなる。

 

「クソ。」

 

 そう言いながら今後の事を考えることしか、今の俺は出来なかった。

 

 これが俺の思っている通り……というかR2の描写から察するに、カレンと四聖剣の残りは逃亡中だな。

 

 ……井上さんや吉田は大丈夫かな?

 一期でかなり呆気ない亡くなり方をしたから一応マーヤにメッセージを送ったし、今のところ『死亡者リスト』に出ていない。

 

 キョウトの生き残りである神楽耶、ラクシャータ、ディートハルト、それ以外にも桐原は多分中華連邦に逃げているだろう。

 

 毒島が何故これを手助けしてから戻ってくる気持ちは分かる。

 何せ最後の肉親とも呼べる爺さん(桐原)がいるんだ、助けたくない訳がない。

 

 それに原作と違って『ユーフェミアはゼロに討たれた』という放送はされているが彼女は生きている。

 

 もう完全にラクス・クライ〇シチュだよ、コンチクショウめ。

 

 あとはギアスにかけられて、『ありがとう、ダールトン』からのハドロン砲で死んだはずのダールトンが、コーネリアと一緒に『行方不明』となったことか?

 

 多分、これから二人でギアス響団を探るんだろうな。

 と言うか、して欲しくはある。

 

 それに……一番気がかりなのはカレンだ。

 原作で神根島までスザクを追った彼女は、ゼロがルルーシュであることと彼のギアスに操られていることで、その場から逃げ出してしまった。

 

 流石に時間が無かったから『ゼロ=ルルーシュ』とそれとなくド直球で伝えたが……

 

 そう思ったら、敗戦後によく泣くカレンを思い出してしまう。

 

 あの時はなだめるのに、俺もナオトさんも苦労したな。

 泣いてなければ良いが……

 

「クソ。」

 

 今の俺は、動けない状態が凄くもどかしく感じる。

 

 良くわからない、モヤっとした感じが俺の中でグルグルと循環していた。



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コードギアスR1.5、“空白”の期間
第86話 R2に向けて


お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 アリスがスヴェン(アイツ)のいる医務室を後にすると、ドアの向こう側には彼女の見知った者たちがいた。

 

「で、どうだアリス?」

 

「重症の割に意識はハッキリしていて変わらなかったわ。 ()()()ほど意識不明だったのが不思議なくらい。」

 

「兄ちゃんってばタフだねぇ~。」

 

「「「……“兄ちゃん”?」」」

 

 ダルクがのほほんとしながら言った単語にサンチア、ルクレティア、アリスが思わずダルクを見る。

 

「あぇ? 違うの?」

 

アイツ(スヴェン)が兄な訳ないでしょ。 バケモノよ、バケモノ。」

 

「まぁ……怪我を無視した無茶な機動で内臓のダメージが酷く、肋骨にひびが入っていたからな。」

 

「そうねぇ、『非常識の塊』みたいな人だけれど……そもそも私たちがそんなことを言────」

 『────クソ。』

 

 医務室の中から小さくとも確かな声が四人に聞こえ、彼女たちは一瞬で黙り込んでしまう。

 

 『クソ。』

 

 今度はさっきより少しだけ音量が高く、弱々しいながらも確かに悔しさを交えたスヴェンの声に四人は何とも言えない気持ちになる。

 

「………………奴も『人間』だという事か。」

 

「ちょっとホッとした。」

 

「ねぇ~? だから“兄ちゃん”なんだよ!」

 

「“兄ちゃん”じゃないわよ。 ただの“お人好し”よ、アイツは……って何よ、その温かい目は?」

 

「いや~、“アリスが学園でも兄ちゃんと仲良しなことは本当なんだなぁ~”って思っているんじゃない?」

 

 「んなッ?!」

 

 余談ではあるが、クロヴィスランド内のグランドリゾートでナナリー&ルルーシュとダルクが会ったあの日*1から、彼女たちはスヴェンがコーネリア、ダールトン、ギルフォードに追われている間にナナリーとライブラと会話などをして歳が近かったからか、すぐに仲良くなった。

 

 ナナリーが語ったのは身の周りの人たちで主にルルーシュやアリスとスヴェン、生徒会の者たちやアッシューフォード学園の事で、そこでは想像もしていなかったアリスの溶け込み具合に最初は面食らいながらもサンチアたちはボカした自分たちのことを話していった。

 

 このことを思い出しながら、『それは言わない約束』という目を自分に向けるサンチアとルクレティアの視線を無視してダルクはケタケタ笑い、アリスはただただ否定し続けながらディーナ・シーの中を歩く。

 

「やぁ、お疲れさん。 兄さんはどうだい?」

 

 彼女の行先にはマ()がドアの前で立っていた。

 

「どうもこうも、元気だったわよ。 そっちこそ別任務からお帰り&お疲れ様……例の人は部屋の中?」

 

「ああ。 今船医に診てもらっているよ。 それで? もう一人の客人はどうするのさ?」

 

「……今更エリア11に連れて帰るのも無理ね。 黒の騎士団の残党狩りが続いているし、何より正式には『死亡』扱いされている。 下手したら偽物扱いされてもみ消されるわ。 こればっかりはアイツ(スヴェン)か、ぶっちゃ────毒島さんに聞くしかないわ。」

 

「政治って面倒臭いんだねぇ~。」

 

 アリスは何も言わずにただディーナ・シーの食堂へと入る。

 

 すると数々のスイーツを前に陰った表情をしたユーフェミアがテレビに表示されていたニュースを焼き付けるかのように固まっていた。

 

 片手でプディングをすくい上げたスプーンは彼女の持ち上げる手の体温によって既に暖かくなっており、冷えていたプディングは温くなっていた。

 

「……」

 

 彼女の近くにいたマーヤの視線をアリスが辿ると、消音されたテレビに移して画面に映し出されているテロップを見るとここ連日流されていたニュースばかりだった。

 

 エリア11でかつてないほどの内乱。

 ゼロに討たれたユーフェミア。

 行方不明のコーネリアとダールトン。

 そして、ゼロの非公開処刑。

 

「ユーフェミア様、テレビのチャンネルを変える────?」

「────夢じゃないのですね。」

 

 アリスの声に、ユーフェミアはやっと視線をテレビから外して温くなったプディングを口に含む。

 

「……ごめん、この際だから()()言っていいかしら?」

 

「あ、はい。 どうぞ、ええっと────」

「────マーヤで良いわ、ややこしいから。」

 

「(あ。 この流れはマズイ!) ちょっとマーヤさん────」

「────アリスちゃんは黙っていて。 私は目の前にいる、()()な人に話があるの。」

 

「私が『盲目』、ですか?」

 

「貴方の『行政特区日本』……貴方は理解していないようですね、現実を。 あれは“対等です”というよりは“対等に扱ってやる”。 つまりは“相手(ブリタニア人)自分(日本人)のことを対等ということにしている”という事から成立している関係性だという事を、貴方は理解しているのかしら?

 それこそ、“相手(ブリタニア人)自分(日本人)を対等と扱うことを辞める”瞬間にその関係もなかったことになる。 要するに“平等に扱ってください”という口約束程度のものなのよ。」

 

「わ、私はそんなつもりじゃ────」

「────じゃあ更に聞くけれど、法的に“平等に扱わない” ことを罰する法律は存在しない世界で仮に行政特区内部だけにその法律が存在すると仮定しましょう。 それを取り締まるのは誰かしら? 間違いなくブリタニアの者よね?」

 

「……………………」

 

「他にもいろいろあると思うけれど、私はあの方ほど優しくは出来ないわ。」

 

「『あの方』?」

 

 「スヴェンの事。」

 

 ユーフェミアの頭上にハテナマークが出るとアリスが小声で彼女に答え、マーヤが言葉を続けた。

 

「ええ。 あの方が出した指示や、下準備を見れば『行政特区』が失敗する前提要素が多かったから、想像するのは簡単。 理由は私が言ったようなものに似ているでしょうね。 あの方が貴方を助けたのは恐らく10割中9割が失敗したとしても、残りの1割に賭けたかったからじゃないのかしら?」

 

 尚、もしスヴェンがこの場に居たらポカンとしながら『あ、うん。 ソウデスネ』と目を点にしながら頷いていただろう。

 

「(容赦ないねぇ~。)」

 

 これをマオ(女)は部屋の端から見ながらパンケーキを口にしていた。

 

「(にしても……お兄さんの行動や接し方が“ベルマ”────じゃなかった、“ヴィレッタ”との鉢合わせを穏便に済ませるとはねぇ~……」

 

 彼女が思い浮かべたのは『ゼロの正体に関して、トウキョウ租界の政庁へと急いでいるのでお前たちに構っている暇はない』と言って、その場から消えたベルマことヴィレッタだった。

 

「(『仲間に成り得るかも知れない』って、お兄さんの言葉の意味が分かったような気がするよ……)」

 

パクッ。

 

「ンブフォォォォ?! あ、甘いぃぃぃぃ?!」

 

 そう考えながらシロップをかけていたマオ(女)のプレートは、見事にシロップ漬けになったパンケーキをそのまま考えずに味わってしまったとか。

 

 

 

 


 

 

 

 

 さて、どうするか。

 

 一旦冷静になった(スヴェン)はこれからの行動について考えたが……やはり現状では色々な無理があったのは痛感した。

 

 組織(アマルガム)も優秀な人材はいるが、俺がいなければ上手く立ち回れなかった。

 

 そもそも『情報不足』以前に、組織(アマルガム)は人材不足だ。

 俺を含めて殆んどが『武人』であって、戦術顧問……上手く活用化できる『将』がいない。

 

 今までやって来られたのも、『原作知識』があったからだが……もう殆んどそれだけを頼りにするのは危険だ。

 

 今回のように足元をすくわれかねない。

 さて、おさらいをしよう。 俺が生き残る……は当たり前として:

 

 1. カレンたち黒の騎士団逃亡の手助け

 2. CC、およびガウェインの回収

 3. アマルガムの戦力強化

 4. VVとマリアンヌに関しての再確認

 

 一期とR2の空白期間で一番初めにするべきことは『4』だが、その為には手っ取り早いのは『2』でCCを回収して直接腹を割って話すことだろう。

 

 もし『ラグナレクの接続』だとすると、『3』に直接繋がるからな。

 

『1』は……個人的な理由だが、R2に向けて黒の騎士団をアマルガムに組み込むことが出来れば大幅な即戦力アップと人材の入手が同時に出来る。

 

 まぁ、要するに全部必要だ。

 

 その中でも『1』と『2』すぐにでもしなくちゃいけない。

 

「誰か、いるか?」

 

 俺は出来るだけ声を医務室のドアに向けて出す。

 

「今後の方針で話しがある。 全員に声をかけてくれ。」

 

 

 


 

 

 

 私はまた夢を見ている。

 

 見知らぬはずの学園を私は見知らぬはずの制服を身に纏って、手に持った木刀で次々と目が虚ろの者たちを押し返しながら走っている。

 

 周りの教室の中では目が虚ろの者たちが見知らぬはずの制服を着た男女や教師に襲い掛かった拍子で出る断末魔しか聞こえなかった筈が、何故かぼやけた様子で私の耳に届く。

 

 見知らぬはずばかりだというのに、『()()()()()()()()』という結果だけが頭に残る。

 

 知らない筈の街を、人を、日本(にほん)を『知っている』。

 

 何とも奇妙な夢だと思えば景色は変わり、今度は久しく見ていない筈の『桜の代紋』をしたビルの中へと突入。

 

 だから 銃はあまり好かんと言っているだろう?

 

 いや、なんだこれは?

 私は知らない。

 

 知らない。 知らない。 知らない。

 

 だから

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ハッ?!」

 

 暗い部屋の中で毒島は目をバッチリと開け、ベッドから起き上がっては周りを見る為に明かりを点けると自分が居るのが黒の騎士団の潜水艦の中だと思考が追いつく。

 

 彼女の息は荒く、大粒の汗が額から頬を伝って落ちる。

 

「……夢?」

 

 体中がベタベタしていることに彼女は気付き、肌着を脱いでから個室のシャワー室に入る。

 

「(まただ。 またあの不可解な夢だ。)」

 

 先ほどまで彼女が見ていた夢は時折、子供の頃から見ていたものだったがブラックリベリオン時のトウキョウ租界で何度も蘇る黒い機体を相手にしてから今まで『朧げな夢』の中身がより鮮明なイメージとなった。

 

 未だにバクバクと唸る心拍音と体に引っ付いた汗を流すように彼女はただシャワーから出るお湯に身を任せる。

 

 ブラックリベリオンの夜から、彼女はアンジュと共にG1ベースにいた黒の騎士団の幹部たちを潜水艦のアジトまで連れてきていた。

 

 スバルの指示とはちょっと違った形だが、今の弱った黒の騎士団なら組織(アマルガム)との合併、あるいは吸収できるだろうと踏んだからだ。

 

 特に毒島の祖父である桐原は既にこのことに気付き、既にそのようなことをそれとなくほのめかしていた。

 

 ディートハルトは断固拒否していたが。

 

「(それより、昴君が心配だ。)」

 

 毒島は頭上から流れるお湯に当たり、冷えた身体を温めて一息を着くと今度は昏睡状態の(スヴェン)が気にかかった。

 

 黒の騎士団の潜水艦に乗った後、密かにディーナ・シーに連絡を取って現状把握と情報交換をした際に彼の事も聞いていた。

 

 彼女がシャワー室から出て、タオルで濡れた髪を拭いていると以前に(スヴェン)が編んでくれたすくすく〇澤を抱く。

 

 「目が覚めなかったらどうしよう、『おはぎちゃん』?」

 

 いつも凛として実際の歳より大人ぶった彼女が少女らしい声で出した質問に、『おはぎちゃん(すくすく〇澤)』はただつぶらな瞳で静かに見返す。

 

 只のぬいぐるみなので当たり前と言えば当たり前で、逆に返事が来たら大問題なのだが。

 

『冴子、起きている?』

 

「どうした、アンジュ?」

 

 その時アンジュから来た通信に毒島は気を引き縮めて答える。

 

『二つニュースがあるわ。 一つ目はスヴェンが起きた。』

 

「そうか。 (良かった……)」

 

『二つ目は、彼の()()ね。』

 

「……フム?」

 

『北に移動した黒の騎士団の、()()()()よ。』

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ほぼ同時刻、ブリタニアの本国での宮殿では数多くの貴族や名家の兵士たちが召集されていた。

 

 台座には珍しく、人の前に姿を現してどっしりと構えていていた皇帝シャルルと自分の前に膝を着けてラウンズの正装に身を包んだスザクの姿があった。

 

「枢木スザク。 貴様を、ナイトオブセブンに任命する。」

 

「……イエス、ユアマジェスティ。」

 

 一瞬の戸惑い後にスザクはそれを受け入れ、シンと静まり返った者たちに振り返る。

 

 本来なら人生の中で見るか見ないかの新たなラウンズの任命に感動や拍手は普通なのだが────

 

 「ナンバーズ如きが。」

 「ラウンズに……しかもナイトオブセブンにだと?」

 「ふざけるなよ。」

 「たかがテロリストを生け捕りにしたからって……」

 

 ────その場にいた誰もがギリギリ不敬罪未満の不服を口にしていた。

 

 「だが聞いたか?」

 「何をだ?」

 「あのナンバーズ、実は本人がラウンズ入りを名乗らなかっただとか。」

 「……それはそれで腹が立つな。 だが実際、任命されているではないか。」

 「それがどうも宰相閣下がラウンズに推薦したようなのだ。」

 「シュナイゼル殿下が?」

 「何でも奴の活躍とナイトメアの操縦技術を買って提案したのだとか。 特派も、正式に部隊として再編成が行われているらしい。」

 「では、殿下はこれを見越して特派を作ったというのか?! 何と恐ろしい……」

 「それだけでなく、もっぱらの噂があのゼロとか言うテロリストに対抗する為の旗印にされたとか。」

 

「……………………」

 

 「ワシの決めたことに、異を唱えるか?」

 

 上記のヒソヒソ話にスザクは聞こえないフリをしているとビリビリとした殺意のような圧力が籠ったシャルルの声にピタリとすべての音が止み、あるものは呼吸をすることさえも忘れてしまう。

 

「よい。 今回だけ、特別に許そうではないか。 ナイトオブセブンの座と称号に異を唱える者よ! こ奴との決闘で勝てば、それらをその者に拝命しようではないか!」

 

 シャルルの言ったことにさっきとは違いどよめきが走る。

 

 無理もない、シャルルの言ったことはブリタニアの貴族などからすれば破格の条件だった。

 

 何せ()()()ナンバーズ一人と決闘で勝てばラウンズ入りが確定するのだから。

 

「争いと競いが常にブリタニアの進化を続けておる…………枢木スザク、よもや異論はないだろうな?」

 

「……全くございません。」

 

 ちなみにこのことを聞いたシュナイゼルはため息交じりに、『フゥ……父上には困ったものだ』と言いながらブリタニア本国でも一際大きいコロシアムを決闘場としてカノンに用意させたとか。

 

 決闘希望者は数々の武勲で有名な者たちが殺到した結果、数は数十人にまで膨れ上がった。

 

 決闘を寄りシンプルにするため『武器は一つ』、『先に相手に有効打を与えれば勝利』という二つのルールのみに絞られた。

 

 最初こそ一対一だったが次々と挑戦者たちは秒で倒されていった。

 

「ほぉ……最小限の動きでか。」

 

 左目を過去に負傷したのか、縫い目のような金具で閉じた大柄な男性の『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』。

 

「ま、当然の結果じゃね?」

 

 後ろ髪を細く三本に編んだ独特のヘアスタイルをし、見た目のまま活発そうな『ジノ・ヴァインベルグ』。

 

「皇帝陛下、そして宰相閣下たち自らが見込んだ方ですからね。」

 

 ロングストレートの金髪に前髪ぱっつん、そして際どいスリット入りのラウンズでは珍しい(というか唯一の)スカートを履いた『モニカ・クルシェフスキー』。

 

 ドッ!

 

 ドアが開けられて一瞬中にいた者たちが身構えるが、ドアを開けたのがノネットだと知ると殆んどの者たちが再び視線をスザクのいる方向に向ける。

 

「いやぁ~、アイスを買っていたら遅くなったよ! ジノはミント味で────」

「────おお! サンキュ!」

 

「で、ええっと? イチゴ味がアーニャだっけ?」

 

 ジノにアイスクリームを手渡して今度は長いフワフワピンク色の髪を一つ結びにした小柄な少女────『アーニャ・アールストレイム』にアイスを手渡そうとする。

 

「オレンジペコ。」

 

 ヒョイ。

 

「イチゴは私だ。」

 

 横からノネットがアーニャに手渡そうとしたアイスを取ったのは黒髪を団子に上げた褐色の『ドロテア・エルンスト』。

 

「あれ? ドロシー(ドロテア)の好物ってチョコじゃなかったっけ?」

 

「ノネット……お前、相変わらず覚えろよ。」

 

「アッハッハッハ! いいじゃん別に!」

 

「それよりもベアトリスはどうした? ミケーレはEUの件があるとして、ここにはモニカもノネットもいるというのに……」

 

「あ。 あ~、彼女はなんか用事があるって言っていたような。」

 

 ドロテアの言ったことにノネットは目を泳がせながら残った自分のアイスを食べながらまたも相手を瞬殺するスザクを見る。

 

 ちなみにドロテアの言ったベアトリスとは『ベアトリス・ファランクス』の事で元ナイトオブツー。

 現在は軍事以外の手腕を買われ、帝国特務局の総監であると同時に皇帝の主席秘書を務めている。

 

 ミケーレとは『ミケーレ・マンフレディ』の事であり、ナイトオブツーに選出されていたがユーロ・ブリタニアに異動し、『聖ミカエル騎士団団長』を務めてEUとの戦争に介入していた。

 

『シュナイゼル殿下。』

 

 10人目を倒したところで、スザクがコロシアムの決闘を仕切っていたシュナイゼルに向けて外部スピ-カーで声を出す。

 

『一対一では時間がかかり過ぎます。 残りの者たち全員、まとめてかかって来てもらえませんでしょうか?』

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 スザクの提案に残った20人ほどの決闘希望者と共に、コロシアムが静かになる。

 

 ラウンズの観戦している部屋は違ったが。

 

「「ヒュ~♪」」

 

 ジノとノネットは口笛を出し────

 

「あそこのバカたちをバカにしている?」

 

「せめて“愚鈍”と言いなさい、アーニャ。」

 

「バカばっかなのに?」

 

「それでも、よ。」

 

 ────アーニャは考えていたことをドストレートに口にするとモニカがあまり違いのない言い直しを提案する。

 

「……ケッ! 終わったら誰か起こしてくれ。」

 

 ここでずっと黙っていた世紀末ヒャッハーっぽいかなり派手な見た目をした男────『ルキアーノ・ブラッドリー』が面白くなさそうな表情を浮かべながらソファーで横になる。

 

 別名『ブリタニアの吸血鬼』、そして自称『殺人の天才』の彼は日ごろからかなり問題を起こしているからか、仕方なく本国への召集に応じていた。

 

 もうすでに察している者もいるかも知れないが、上記の者たちはブリタニア帝国最強と謳われている『ナイトオブラウンズ』の者たちばかりで、いつもは別行動をしている彼ら彼女らがこうも一か所に集まるのは殆んど例がない。

 

 欠番以外の、実質上ラウンズ全員がその場にいた。

 

 ある者はスザクを見極めに。

 

 ある者は彼自身ではなく、自分たちの専用機体の基礎となるランスロットを見に。

 

 そしてある者は彼を、『眼中にない』と既に決めて。

*1
50話




次話から一期とR2の間の空白期間突入ですぐに亡国のアキト編への突入か、そこまでの経路(カレンたちや中華連邦)を少しでも入れるか正直迷っています。

そのことに関して、アンケートを出しております。
アンケート期間は早くて明後日までを予定しております。
お手数をおかけしますが、何卒ご協力をお願い申し上げます。 <(_ _)>

ちなみに基本的な流れとしては亡国のアキト→時間差でオズ、白の騎士紅の夜叉と同時並行しながら→R2(?)な感じを予想(予定?)しております。


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第87話 アオモリ

お気に入り登録、感想、誤字報告等、誠にありがとうございます。
お手数をお掛けしております。 m(_ _)m

アンケートへのご協力した投票数に感動しました。 誠に、ありがとうございます。 m(_"_)m

では、気を取り直して次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 ゼロの(非公開ではあるが)処刑、それは様々な者たちに様々なショックを与えた。

 

 絶望や失望はもちろんのこと、(一方的な)期待を寄せながらもそれを裏切られたことで湧き上がる怒りや憎悪といった負の感情も含む。

 

 だがそれらを向ける相手であるはずのゼロは処刑され、()()()()()()()()

 

 あの大反乱の夜────『ブラックリベリオン』後のブリタニアはさらに目を光らせて以前よりさらに監視体制を強化したことよって人々はブリタニアではなく、ゼロが象徴していた黒の騎士団にそれらの感情を矛先としていた。

 

 日頃の鬱憤などを晴らすために、黒の騎士団と繋がりを持った者たちは魔女狩りのような目に合い、逆に未だ黒の騎士団に希望を寄せた支援者たちはほとぼりが冷めるまで今までより互いとの連携と団結をしていた。

 

 皮肉にも、極限状態によって以前より『敵か味方』の見分け方がより単純になったとも言える上に大きくなりすぎた黒の騎士団は以前より動きやすくなったともいえよう。

 

 捕まれば『逮捕』どころか見せしめに『公開処刑』と、リスクはかつてないほどまでに高くなっていたが。

 

「ハァァァァァァァァ~。」

 

 そんなことを考えていたカレンはタオルを頭に乗せ、豪快なほどの長~いため息を出しながら、浸かっていた温泉の中から夜空を見上げていた。

 

 その言動はおっさんそのもので彼女の見た目より人生経験の濃い者がするモノだった。

 

「どうした? らしくないぞ。」

 

 今度は近くから彼女の動作を中身BBAだが見た目相応の体勢でチョコンと、大人しく座っていた髪の毛を団子にしてタオルを巻いたCCが声をかける。

 

「ほっといてよ、ピザ女……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 カレンが近くの桶に湯を入れ、それに冷えだしたタオルを入れては頭に乗せなおして豪快な声を出す。

 

「(う~ん……やっぱりこれって扇達の所為よねぇ?)」

 

 そしてニコニコとほほえましく、対照的なカレンとCCを見ていた井上もその場にいた。

 

 彼女たちは黒の騎士団声明のほぼ直後に、昔からキョウト経由で深い繋がりを持ちながら未だに黒の騎士団を支持する、とある山頂にある旅館に潜伏していた。

 

「それで肩の傷はどう、カレン?」

 

 井上はなるべく血の循環が行き渡るように、時々左手で包帯と防水ビニールで覆われた右肩をリハビリするように動かすカレンを見る。

 

「まぁ、痛いけれど……井上さんが言ったように、奇麗に貫通したのが幸いしたかな?」

 

「そうね。 骨や神経、関節を弾丸が損傷しなかったのが奇跡的ね。」

 

「それで? 未だに思い出せないのか、自分の撃った奴のことを?」

 

「う、うん。」

 

 CCはお得意のジト目で見ると、カレンが珍しく気まずい表情を浮かべて目を泳がせる。

 

「全く。 使えない奴だな、お前は────」

 「────太平洋でド座衛門になりかけたアンタに言われたくないわよ。」

 

「……ちょっと泳いでいただけだ。」

 

 「海のど真ん中でプカプカ浮いていたのどこが『ちょっと泳いでいた』なのよ?」

 

 ブラックリベリオンの終わり頃、カレンはスヴェンに頼まれてゼロ(ルルーシュ)を追っている途中でランスロットと遭遇し、一時は後れを取ったものの神根島に追いつくとスザクからゼロの持つ『人を操る(ギアス)能力』を聞かされて以下のような出来事を思い浮かべた。

 

 ブリタニア人の軍人や士官などの調略。

 ブリタニア内部でも機密情報に値するものを元にした作戦。

 元は敵対していたはずの者たちが、急に心変わりをしたかのような流れ。

 などなど。

 

 今までゼロが見せた奇跡やそれに類するものにギアスを照合するとすんなりと辻褄が合うような気がしてしまい、『躊躇』が生じた。

 

 無論、何割かでは確かにルルーシュはギアスを使って状況を打破してはいたが、ほとんどは彼自身が得た情報などを使って類推し、用意周到な二手、三手、四手ほどの先を見積もって出た行動が成した神業ではあるのだが、カレンの知っている『ルルーシュ』はゼロからほど遠い人物像だったのが悪い方向に影響してしまった。

 

 以前、リフレインがトウキョウ租界に蔓延した頃のルルーシュは『ことなかれ』のように、周りの流れに身を任せていたことをカレンは見たことがある。

 

 イレヴン(日本人)がブリタニアの青年たちに暴行を加えられていたのを静かに見つめ、いざカレンが何かしようとしたときにルルーシュが()()()()青年たちを追い払ったのだ。

 

 そしてカレンの『頭がいいあなたなら、なぜもっと早く何かしなかった』に対し、ルルーシュはただ『頭が良いから何もしなかった、ここで助けても得がないから』と冷酷に答えた。

 

 そんなルルーシュを知っているカレンからすれば、彼がゼロと知ったら『今までの奇跡などと呼べる数々の所業を成したのには何か裏がある』と思ってしまうのは無理がないだろう。

 

 さて。 脱線しかけた話を戻すが、カレンは神根島でルルーシュとスザクが銃を向けあう中でどうすればいいのか迷っている間、スザクは躊躇してしまったルルーシュの銃を撃ち、彼は素顔を出したゼロ(ルルーシュ)を拘束した。

 

 上記での発砲とほぼ同時に、カレンは背後から銃を持っていた右肩を撃ち抜かれ、首を強打されて一気に意識が朦朧として何とか倒れても眠ることに抗ったが次に気が付いた頃に自分は紅蓮の中にいて、救難信号を出していたド座衛門中のCCが居た周辺まで来ていた。

 

 同時にガウェインも回収したかったが、いつブリタニアやスザクが追って来るかもしれない状況下だったので、カレンは素早くその場にラクシャータ特製の発信機を海に打ち込んでからさっさとトウキョウ租界へと戻る途中、コウベ租界を目指していた井上、吉田、杉山が率いていた黒の騎士団グループと合流した。

 

 そこから本来ならばコウベ租界の港から以前から根回しをして確保した、キュウシュウを迂回した中華連邦への逃走経路を使う手筈だったが、コウベ租界の潜伏先にブリタニアへの内通があったことで、急遽行き先をアオモリに変えた。

 

 元々アオモリに行く予定はなく、現地での協力者たちも急な到来でも潔く彼女たちを保護した。

 

 そして脱出ルートの用意をするまでの間、やっとの思いで一息ついたというのがカレンたちが味わった荒々しい一週間の一連の出来事だった。

 

「(あのベニオって子には悪いことをしちゃったかなぁ~。)」

 

 ちなみにコウベ租界での潜伏先でカレンたちは間一髪のところでブリタニアの包囲網を抜け出せたのは以前、カレンが(スヴェンの手紙に従い)先走って出撃した『行政特区日本』で命を救った朱城ベニオ*1が、潜伏先の宿でアルバイト中だったからである。

 

 何とも奇妙な巡り合わせで、倉庫で見た紅蓮で『カレンたち=黒の騎士団』と知った彼女は自分の雇用主を裏切った。

 

 ベニオは黒の騎士団との同行を願ったが、今の彼らにそんな余裕はなかったので『ベニオはテロリスト(黒の騎士団)に脅されて情報を引き出された』という体のまま、でコウベ租界から即座に脱出した。

 

 余談ではあるが、この時カレンに縛られて『なんだかこれ(縛られるの)、ワクワクしますね!』と余裕満々だったベニオに対し、カレンは思わず何か言いそうになるのを引きつらせた顔のままグッと堪えたのだとか。

 

 そんなカレンはベニオのことで少し気持ちがモヤモヤしていたのもあるが、実は自分の経験した一連の出来事に関し、井上や杉山に吉田たち黒の騎士団幹部やCCにでさえ言っていない情報が主な原因だった。

 

「(どう昴に聞こうか……それとも聞かないほうが良いのかな?)」

 

「ねぇカレン? その携帯電話って防水仕様なの?」

 

「んぇ?」

 

 井上の声と視線をカレンが辿ると近くの桶の中に入っていた、スヴェンに渡された一昔前の型をした携帯電話を見る。

 

「スバル特製だから。」

 

「あら、なら大丈夫ね。」

 

「(お前たちではそれでいいのか? あの若造(スバル)……どれだけのことをしてきたのだ?) なぁ?」

 

 カレンの『スバル特製』という単語を言った本人と井上が納得するところを見たCCが内心でツッコミながらそのまま言葉を続け、カレンと井上の注意を引き付けた。

 

「ん?」

「何?」

 

「さっきから携帯がピカピカ光っているぞ。」

 

 カレンと井上が桶の中を見るとマナーモードのままだった携帯に着信が来ていた。

 

「キキキキキキタ?! どうしよう、井上さん?!」

 

「取り敢えず出てみたらどうかしら?」

 

「あ。 うん。 そそそそうね!」

 

 井上はほっこりとしたまま、年相応に慌てるカレンにそういいなだめる。

 

 ピッ♪

 

「も、もしもし?」

 

『俺だ。』

 

「す、昴……」

 

 カレンは先ほどまで言うかどうか迷っていた案件がすっぽりと抜け落ちて様々な質問が浮かび上がってしまい、彼女はどこからどう話をすればいいのか迷ってしまった。

 

『無事か、カレン?』

 

「う、うん。 撃たれたけれど────」

『────なんだと?

 

 カレンは思わず、今まで聞いたことのない(スヴェン)の声に少し戸惑い無意識に慌て始める。

 

「あ、えっと、肩を貫通しただけだから! ちょっと痛いだけ!」

 

 その様子は、『良いことをする為に悪いことをしたが親にバレた子供』の動作に似ていた。

 

『…………無理はするな。』

 

「う、うん。」

 

『今、どこにいる?』

 

「えっと、アオモリだけれど────」

『────そこは旅館か何かか?』

 

「ふぇぇぇ?! な、なんで分かるの────?!」

『────すぐにそこから脱出する準備をしろ。 もしかすると────』

 「────旅館内にいる黒の騎士団、およびその協力者たちに告げる! 君たちは完全に包囲されている! 今すぐ武装解除し、投降しろ! 5分待つ! これは最初で最後の通告である」

 

 スヴェンが言っている傍から、スピーカー越しにブリタニア軍の警告らしき声が旅館の周りから聞こえて女性陣は全員思わず立ち上がってしま────

 

「────あイタタタタタタタタタ────?!」

『────カレン、旅館へ通じる橋を落とすように協力者に今すぐ伝えろ。』

 

 カレンは立ち上がった際に動かした右腕からの激痛で涙目になるのを堪えているとスヴェンからさらに声が来る。

 

「ちょ、ちょっと?! 昴はどうやって────?!」

『────時間がない。 とりあえずはブリタニア軍が雪崩れ込むのを阻止するのが先決だ。』

 

 

 


 

 

 取り敢えず、寝たきり状態で身動きができない(スヴェン)から言わせてくれ。

 

 まさかのまさかでアオモリだったとは。

 

 動けたら顔を手で覆っていただろう。

 

 何せアオモリに来たのもこれからどうするか考えていたところで『そういえばR2で“アオモリ”がどうのこうのと言っていたなぁ~』と思って合流した黒の騎士団の潜水艦に乗って生存していた桐原に毒島が聞いたら豆鉄砲を受けた鳩のように爺さんが『なぜ、お主がそこを? ……いや、今更であるか。』

 

 いやいやいやいや。 “今更”も何もねぇよ、何一人で満足げに頷いているんだよ?

 もし『黙示録』の通りだとしたらとてもそう(Dカップ)とは思えない毒島の胸を張りながらのドヤァもだ。

 

 目の保養にはなったが。

 

 よし、よくわからない現実逃避はもうやめにしよう。

 

「出来たぞ。」

 

「ありがとう。」

 

 体が動かせない俺の代わりにサンチアとルクレティアのギアスで照らし合わせた地図をダルクが持ち上げる。

 

 う~ん、見事に包囲されているな!

 

 どないしよ。

 

「これはどういう顔なんだ?」

「さぁ……」

「アタシには何も変わっていない様子だけれど?」

「何か困っている顔ねこれは。」

「「え。」」

「アリスにはわかるんだ?」

「た、たまたまよ! たまたま!」

 

 何か使える策とかネタはないかな。

 

 R2での『中華連邦大使館』は構造が違うから駄目だな。

 

 今考えられる単語や要因を思い浮かべてみるか。

 

『距離』、『山頂』、『旅館』、『温泉』、『饅頭』、『腹減った』────おっと、脱線。

 

 え~っと。 気を取り直して『アオモリ』、『包囲』、『無頼』、『紅蓮』、『輻射波動』────あ。

 

「あ、これは何か閃いた顔ね。 って何その顔は?!」

「別に?」

「そうそう、あまりにもアリスが可愛くて♡」

「ねぇー、どうやってお兄さんの顔を見分けているの~?」

 

 って、こいつら(元イレギュラーズ)は何でここにまだいる?

 

 今は好都合だが。

 

「サンチア、旅館の地形データを3Dモデル化できないか? 大雑把にでもいい、重要なのは────」

 

 

 

 


 

 

「(チッ、イレヴン共になぜこうまでへこへこせねばならんのだ。)」

 

 アオモリにある山の一つを包囲したブリタニア軍の司令官らしき男が、全くイラつきを隠せずに愚痴りながら装甲戦闘車両内の画面に映し出されている包囲網の陣を確認していた。

 

「(いや分かっている。 あの日から世間に対する体面が更に厳しくなったのは分かっているのだが……自分たちのいる場所に続く橋を落とすとは。 相手はたかがテロリストの敗残兵で、籠城戦でも試みるつもりか?)」

 

 実は『ブラックリベリオン』での一連は報道局エリアを占拠した際に、ディートハルトが()()()()偏った映像などを流していた。

 

 直ぐにエリア11からの放送受け入れをカットした本国での影響はあまりなかったが、これによって他のエリアなどに中華連邦とEUが()()しようと政治的な圧力をかけていた。

 

「(だが籠城戦ならそれはそれでいい。 この周辺の反乱分子も援軍として駆け付けたところを潰せば────)」

『────少佐、猶予の5分を切りました。』

 

「よし! 全軍突撃! 相手は弱ったテロリスト共とその協力者だけ! 容赦は無用である!」

 

『『『『『イエス、マイロード!』』』』』

 

「(それに噂によれば、ここに逃げてきたのは思えに黒の騎士団でも後方支援部隊と聞く……奴らを始末、あるいは生け捕りにすれば私の地位向上にも繋がる可能性がある。 最初はこの極東の島国に左遷されて絶望したが、ブリタニアの軍人であれば意外と()()()()()()()。)」

 

 ブリタニアの司令官は思わずニヤ突くのをやめると、装甲戦闘車両が僅かに震えているのに気付く。

 

「??? なんだ────?」

『────少佐!』

『────何だこれは?!』

『────や、山が! 山がぁぁぁぁ?!』

 

 次々と通信機越しに部下の恐怖と困惑に満ちた叫びだけが聞こえてくる。

 

「な、なんだ?! 何がどうなっている?!」

 

 彼が車両の外を見ると────

 

「な、んだ? これ、は?」

 

 ────圧倒的質量を持った土砂が津波のように視界すべてを覆うほどに押し寄せ、それが車両とぶつかった時の衝撃ととてつもない痛みが彼の最後の記憶となった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「で、出来ちゃった。」

 

 山の山頂近くに、紅蓮の中にいたカレンが目を疑っていた。

 

『凄いじゃない、カレン!』

 

「う、うん。」

 

 近くの無頼に乗っていたと思われる井上の声にカレンはどこか『心ここにあらず』のまま返事をする。

 

「なるほど、ナリタ連山でのアレか。」

 

 そして紅蓮のコックピットにはCCの姿もあり、彼女は紅蓮の右手が置かれた旧式の貫通電極を見ていた。

 

 その昔にまだアオモリが『日本の青森』だった頃で温泉を掘り、観光地にしようとした時代の代物である。

 

「う、うん……」

 

「(それにしても、短期間であれを再現するとはあの若造……何者だ? 下手をすれば坊主と同等の……あるいは……)」

 

 ()()()余談ではあるが、カレンが先ほどから気弱っぽく振る舞っているのはほぼ全裸の状態でナイトメアに騎乗したからである。

 それはCCや井上、他の温泉を堪能していた騎士団員もでなるべく同性の者たちがナイトメアに騎乗していた。

 

 特にカレンの場合は『コックピットが狭い』+『バイク型のシート』なので、自然とCCとは『二人乗り状態』になっていた。

 

「なんだお前? もしかして『ほぼ全裸でナイトメアに乗っている』ことがそれほど気まずいのか?」

 

≪そそそそそんなんとちゃうわい! それにタオルも巻いておるやん!≫

 

「何を言っているのだお前は?」

 

≪もう知らんし、いくで!≫

 

「だから何を言っているのだ???」

 

 余りのテンパりぶりにカレンは思わず日本語(方言付き)で反論してしまい、ハテナマークを浮かべるCCを無視して山頂を他の者たちと共に降りていき、土砂崩れで緩くなった地面を利用してさらに加速を続けながら、ナイトメアたちは軽トラックなどから無理やりもぎ取った荷台などに人を乗せて避難させていた。

 

 ここまで来ると『下山』と呼ぶよりは、『ギリギリコントロールが何とか効いている疑似的スノボー』の姿だった。

 

「……なぁ杉山────?」

「────言うなよ吉田────」

「────なんか、虚しくならねぇか────?」

 「────だから言うなよ吉田テメェ。」

 

 尚、温泉を堪能していたのは極少数の者たちだけだったのが幸いしたが何もそれは女性だけではない……とだけここに記入しよう。

 

 詳しくは描写できずに────否。 コードギアスでならばの『敢えてしない』で行こうと思う。

 

 吉田に杉山、ドンマイ。

 

 そして合掌。

*1
74話より




このような感じで行こうと思います♪

『はよ!』と『そこまでの経路も欲しい!』が現状で37%対61%と想像以上に近かったので、なるべく両方を取り込みたいと思っています。


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第88話 テンパりのカオス

携帯投稿でカオスかも知れませんが次話です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


「ふぅ~ん? これって私の輻射波動の理論を理解した上で、貫通電極に当てて地下水脈内で人工的な水蒸気爆発を起こしたのね。 (こいつ、ゼロみたいに面白いわね♪)」

 

 ディーナ・シーとは違う潜水艦の中にいたラクシャータが、アオモリの状況をほぼリアルタイムで表示する画面を愉快そうに見ていた。

 

「(ぬぅぅぅぅ……まさかとは思ったがやはり(スヴェン)ゼロ(ルルーシュ)ほどの所業をこの短期間でやってのけるとは。 これはやはり────)」

「(────これは、ゼロ様がナリタで見せた作戦?)」

 

 近くで考え込む桐原の横で、恐らくはその場にいた大半の者たちが脳裏で連想していたことを神楽耶が思い浮かべる。

 

『ナリタ連山での奇跡』を。

 

「(これは由々しき事だ。 このようなことを見せつけられれば、ゼロの為にある筈の黒の騎士団は……それにあの血の件もある。 これは早急に奴の正体を解明し、もしもの時としての対策を考えねば。)」

 

 無論、ディートハルトもその一人であったがほかの者たちのようないい意味での『関心』ではなく『警戒』をしていた。

 

 そんな様々な思惑を黒の騎士団関係者に与えていたスヴェン本人はこう考えていたそうな。

 

 

 

 


 

 

 俺には口が(身動きが取れ)ない、それでも俺は叫ぶ(悶える)

 

 や、やってしもたぁぁぁぁぁぁぁぁああ゛ああああ゛あ゛あ゛あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああ゛!!!

 

 静かにアオモリの様子をディーナ・シーの中にある作戦室にある巨大画面(スクリーン)越しに見ながら、俺はかつてないほどに内心で悶えていた。

 

 いや、『やりすぎた』感はあるよ?

 でもほかに方法が思い浮かばなかったんだよぉぉぉぉぉぉ!

 

 こちとらナリタでシャーリーパパの死亡フラグを折るため確率論も視野に入れてニーナに教えてもらった時からの計算式と地形がちょうど地下水脈(源泉)で山頂なんだからぱっと思い浮かべたのが原作での『ふーん、予想以上の破壊力だな(ナリタ連山の奇跡)』だったんだよぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 おえっぷ。

 

 あかん。

 皆そう()けた顔やキラキラした(マーヤ)顔とか向けないで。

 (プレッシャー)で余の胃が荒れるでゴザル。

 

「よし。 このままカレンたちは黒の騎士団の者たちと一緒に小舟に乗り換えて、潜水艦のアジトに合流してくれ。」

 

『うん、わかった。』

『帰ったらお前と話がある。』

 

 ……なんでCCの声が紅蓮からするの?

 

『って、なんだお前。 音信だけにしていたのか────』

『────うきゃぁぁぁぁぁ?! 何勝手に画像も繋げようとしているのよ?!』

 

 あ。

 

『減るものでもないし、相手はあの若造のことだから個室か何かだろう?』

 

 ………………………………『煩悩の犬は追えども去らず』とはこういうことか。

 俺は思わず原作で数々のサービス回を思い浮かべてしまっては生の情報と掛け合わせて想像する。

 

『“新宿のことは誰にも言うな”からのシャワーシーン(カレン)』とか『ワイシャツ着用オンリー(CC)』とか『“危な~い!”で空から降ってくる女子』とか『ルルーシュの私服から拘束衣に着替えなおすシーン(CC)』とか(ちょっと早いが)二期(R2)の『バニーカレン』とか。

 

 とかとかとか、エ~トセ~トラ~♪

 

「今だから言っておくが、俺が今いる場所にほかの者たちもいるぞ。」

 

『ん? そうなのか?』

 

「ああ、そうだ。」

 

『そうか。』

 

 よし、これでCCもむやみやたらと勝手に映像通信に切り替えないはずだ。

 

 『何この“通じ合っている感”は……』

 

「『何か言ったか?』」

 

『な、なんでもない! というかスバルはどうなの、大丈夫なの?!』

 

 CCと俺の声がハモり、カレンが今更もっともな質問を聞いてくる。

 

「ああ。 概ね大丈b────」

『────それ嘘だよねスバル?』

 

 何故分かった?!

 

『怒らないからちゃんと言って。』

 

「……まぁ、確かにケガはしているが────」

 『────次に嘘ついたら怒るよ?』

 

 だから何でわかるのお前?!

 エスパーか?!

 いや、もしかしてもしかするとギアスとかか?!

 

『で、どうなの?』

 

「体が動かない────」

『────え────?!』

「────多分、痛覚麻痺の薬物投与で神経に支障をきたしているのだろう────」

『────えええええ?!』

 

 怒るか驚くかのどちらかにしろよカレン。

 

『忙しい奴だなお前。』

 『アンタだけに言われたかないわよCC。』

 

 むぅ。

 CCと気が合ってしまうのは何か不思議な気分だな。

 

「「「「………………………………………………………………」」」」

 

 ハッ?!

 

 そういえば今ここにいるのは元とはいえイレギュラーズ。

 本人の意思とは無関係にCC細胞を埋め込まれて疑似的にギアスに目覚めた奴ら。

 

 そんな者たちがCC細胞の元である、CCを見れば────

 

 「────ねぇアリスは何か言わないの?」

 「何のこと、ダルク?」

 「私もよくわからんが、さっきからジト目になっていたから私もてっきり何か言うのかと思ったぞ。」

 「そ、そんなこと全然ちょっとだけしか思っていないわよ?」

 「「ちょっとか~/だけ?」」

 

「…………………………ハッ?! しまった?!」

 

 あれ?

 テリア(ダルク)は『なは~♪』とした笑顔に、シェパード(サンチア)はあんまりいつもと変わらないぞ?

 思っていたよりほんわかとした、良い感じの空気だが……お前らはさっきから何の話をしている?

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ。)」

 

 そしてマルチーズ(ルクレティア)、その『言葉なしの笑顔』はなんだか不穏な気持ちになるのでやめてほちぃのだが?

 

『そう言えばお前、さっき“体が動かない”と言っていたがどこから私たちのことを見ている?』

『え?! 見えているの?!』

 

「見えているわけがないだろう。 俺が今いるのは別の場所だ。」

 

『別の場所? ……それでいつ黒の騎士団に戻るの?』

 

 よし、ここで少しだけメリットとデメリットを考えよう。

 今の俺……というよりは『アマルガム』という組織を作り上げた俺としてだ。

 黒の騎士団と合流して情報交換などをする前提として、大きく分けると:

 1. 黒の騎士団との『合併』

 2. 黒の騎士団とは別々の組織のまま『同盟』

 3. 黒の騎士団とは別々のまま、あくまで距離を置いた組織同士の『協力関係』

 

 “1”は正直、現状では気があまり進まない。

 俺は少しだけ『原作知識』と『特典』と『身体能力が少し上位』の取柄があるだけの男だ。

『個人としての武力』としては有能の部類に入るかもしれないが、所詮は『一人』だし『組織のトップ』としてはいろいろと役不足だ。

 

 正直今すぐにでもトンズラのコマンド入力をしたい。

 前ならともかく、今頃になってそれを実行しようとしたら“だが逃げられない!”と返ってくるだろうけどもさ。

 

 それに、あっちには昔からの(スバル)を知っている奴がいるけれども今では知らない奴が圧倒的に多い。

 あとここで逃げたら何気に目をギラギラさせた怖い人たちが追ってくる想像がガガガががガがガガ。

 

 それに、丁度良いかもしれない

 

「カレン、この通信は俺が前にあげた携帯電話を通しているな?」

 

『あ、うん。 そうだけど?』

 

「なら話は早い。 CC、『()()()()()()』に聞き覚えはないか?」

 

『ッ。』

『“アーカーシャ”……って何それ?』

 

 よし、CCの(僅かな吐息から)気まずい時や迷う時の『目をそらす癖』をゲット。

 つまりはほぼ確実に、この世界でも『ラグナレクの接続』がシャルル皇帝やVVの目的っぽい確信を得た。

 

 となると、やはり表立って活躍しすぎるのは得策じゃない。

 現に、VVの所為で『行政特区イベント』が起きてしまった。

 だがあいつはどこで俺のことを知った?

 いや、そもそも目的はゼロ(ルルーシュ)とユーフェミアだったのか?

 

 ……わからなさすぎのところが多くて、今考えても無駄だな。

 というわけで“1”の“黒の騎士団との合併”はアウト。

 そもそも俺にゼロの代わりはいろいろと荷が重いし考えただけでも胃に穴が開きそうだ

 

 あとは“2”の同盟もある意味目立ちすぎるし、黒の騎士団からすればアマルガムなんてよくて『ぽっと出の組織と同盟~?www』で終わる可能性もある。

 

 あっちには爺さん(桐原)たちがいるが、“1”のような状態で毒島の話しによると四聖剣の卜部、仙波、朝比奈がいる。

 

 黒の騎士団として活躍したカレンならともかく、“幽霊部員”ならぬ“幽霊団員のスバル”じゃあ説得力もへったくれもないし、不安要素しかないだろう。

 

 というかこっちにユーフェミアがいるので、グダグダになるのが目に見えている。

 だけどある意味、ちょっと意外なところで戦力発見だ。

 何せR2では卜部以外はほとんどが捕虜になっていた。

 

 結構、というかかなり筋の通った人で黒の騎士団がR2まで生き延びられたのも確か卜部のおかげが大きかった……と思う。

 

 いや、マジでもう色々と原作のマイナー詳細が上手く思い出せなくなっている。

『今度書き残そうかな?』とも前に思ったが、もし万が一にもそれが見つかれば色々とヤバイ。

 

 というわけで“3”の協力関係で行けばユーフェミアの保護をしつつ、アマルガムの組織としての戦力増加ができる。

 

『あ、もしかして“アーカーシャ”って中華連邦の言葉か何かなの?!』

 

 っと、ここでカレンの声で意識が現在へと引き戻される。

 

「カレン、そのまま黒の騎士団の奴らとともに中華連邦へ逃げ込め。 俺も用事が終わってから合流する」

 

『……今度は何を企んでいるの?』

 

 おい。

 なんでそこでまるで『またか』といいたそうな視線を送るのだ元イレギュラーズたちよ?

 

「まぁ、その……なんだ。 未来に向けての“投資”のようなものだ。」

 

 「うわ、意外。 人間らしいところがある!」

 「なんだか変な気分だな。」

 「でしょ? クロヴィスランドでの次の日なんてあれより歯痒い、いつも学園で見るあいつを見た私の気持ちがわかる?」

 「あれだけ愚痴をこぼしていれば容易に想像がつきますわ。」

 

 声が聞こえているぞお前ら。

 あとアリス、後でマルチーズ(ルクレティア)にその愚痴とやらを聞くから覚悟しろよ。

 

『“未来の投資”? ……お前、当てはあるのか?』

 

 おお、意外とCCから────って、彼女の十八番である『話題の切り替え』か。

 

「一応、あるにはある。」

 

 さてと。

 これから一期とR2の間にある空白期間内のスピンオフや外伝に突入するか。

 

 それにはまず空路……は無理だな。

 あまりにもリスクがあるし、万が一空港から飛びだっても降りた先でブリタニア軍が待ち受けている以前に空中で戦闘機に囲まれて基地にドナドナされたらそれこそ『ドナドナ~(処刑)♪』案件だ。

 

 となると、陸路と水路になるがこのまま中華連邦を横断するのが無難か……

 

 いやいやいや。 西遊記とかじゃあるまいし、悠長にしていられない。

 ブラックリベリオン後の何時、スピンオフや外伝が始まるとか定かじゃないが少なくともR2前の筈。

 

 うん。

 

 ならば中華連邦を最大限に利用させてもらおうじゃないか。

 

「そうだな……この後、黒の騎士団で残った幹部たちと話そうと思う。」

 

 名目上は“顔合わせ”だが、本命はラクシャータに現状の俺を診てもらうことだ。

 

 動けない俺に代わって誰かに頼んで代理で行動させても良いが、どれだけ俺の知識が適用されるか分からないし、不安だし……正直に言って、それを元にした所為で俺の知っている誰かが亡くなるのは断固回避したい。

 

 なら、俺の代わりに誰か介入するとすれば()()()()()()()()()()()()()()との接触だな。

 

 それに、これからの戦いなどを考えるとやはり必然的にフロートユニットとシステムの開発は確実に外せない要素だ。

 

 となると────

 

「────誰でも良い。 ウィルバー・ミルビル博士と、彼の家族の安否を確かめてくれないか?」

 

「ウィルバー・ミルビル……もしや、“ミルビル卿”か?」

 

 おお?

 やっぱり『双貌のオズ』だけに知っている?

 でもなんでサンチアが?

 

「知っているのか?」

 

「以前、ハゲ大佐の元にいた奴の一人だからな。 一度だけ、見かけたことがあるが────」

「────なら話が早い。 彼はまだ『天空騎士団』を提唱しているか?」

 

 「なるほど、これがマーヤのいう事か。」

 

 え。

 ちょっと待って、なんでそこで納得したように頷くの?

 

 ちょっと怖い。

 

 ……ま、まぁいいや。

 

「危険だが、もし無事ならば彼と彼の妻の()()を頼みたい。」

 

「保護、だと?」

 

エリア11(日本)での出来事で、恐らく世界中のテロ活動が刺激されて活性化するはずだ。 そしてその波はブリタニア本国まで届くだろう。」

 

「……その根拠は?」

 

 ご尤もで冷静な指摘だ。

 やっぱりサンチアは軍人でもちゃんと意見を出せる有能な方だな、頼りがいがある。

 

「ブリタニア本国でも未だに皇帝派と貴族派の派閥争いは続いている。 エリア11(日本)のニュースに便乗して貴族派がテロを装った物理的攻撃を皇帝派にしてもおかしくない状態で、大国故に新しい物事に対して動きが遅く、対テロ対策もそれに当てはまるだろう。

 ()()()()()()()()のなら、ミルビル卿は皇帝派でも『KMF研究』という『軍事』に直結していることで襲撃を受ける。」

 

「わざと“対テロ対策”の能力を低下させるようなことをするのか?」

 

「恐らく単純に、“皇帝派を削って貴族派の者を中枢に置く”といった、短慮な考えだ。」

 

「……つまり“本国に潜入してミルビル卿と彼の家族を守ってブリタニアから引き抜け”と? 無理難題だな。」

 

「承知の上だが、頼みたい。」

 

「しかもミルビル卿は昔からの皇帝派だ。 大人しく引き抜かれるとは思えん。」

 

 デスヨネェ~。

 ウィルバー・ミルビルは『双貌のオズ』の中でも、ゴリゴリの皇帝派でブリタニアのKMF開発の中核に近いポジションを持っている描写が()()()からな。

 

 そう、過去形だ。

 

「ミルビル卿を引き抜くのは襲撃の()だ。」

 

「『後』……だと?」

 

 実はウィルバー・ミルビル、『双貌のオズ』でも少し触っているが妻をテロで亡くすんだよな。

 んでシャルルに謁見を求めてテロへの対策として、軍のフロートユニットとシステムの充実化を求めるけれど『瑣末なことだ』とシャルルに一刀両断されるんだよな。

 

『ラグナレクの接続』を目標にしているシャルルからすれば本当に瑣末なことかも知れないが、この謁見でウィルバー・ミルビルの見解が180度変わるんだよな~。

 

『皇族は国民を蔑ろにしている』って。

 

 本当は世捨て人気味のシャルルがそうだけであって他は…………………………ま、まぁ今は良いや。

 

「テロから守った後で、ミルビル卿は恐らく皇帝シャルルにテロ事件を自分の提案がどれだけ重要か訴えると思うが……恐らくその提案は通らないだろう。 そこを狙えば行けるはずだ。」

 

 ウィルバー・ミルビルの人物像が『双貌のオズ』のままならば、研究者の中でも彼は人情を持ちながら軍事にもかなり精通している。

 

 少しえげつないかもしれないが、そこを突く。

 

 さ~て、初の『俺が直接しない根回しタイム』だ!

 

 ……それはそうと誰か胃薬持ってきて。

 

「はい。」

 

 そこでアリスが胃薬の錠剤を持ち上げる。

 

「何故わかった、アリス?」

 

「じ~っと一点だけ見ていれば、そこに何か意味があるのは分かるでしょ? ほい。」

 

 俺が口を開けるとアリスが胃薬を放り込む。

 

 って水かなんか持って来んかい?!




久しぶりにほぼスヴェン視点の話でした。 (汗

これからもぐんぐんと突き進むと思います。 (汗汗汗


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第89話 テンパりのカオス2

まだカオスが続いていますが、なるべく話を進めようと思っています。 (汗

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 カレンたちが黒の騎士団の幹部たちが乗る潜水艦(アジト)と合流し、アマルガムのディーナ・シーと並行しながら海の中を移動している間に『顔合わせ』は行われていた。

 

 俺も寝たきり状態のまま、患者が着るような服に着替えさせらr────()()()、会議室の画面越しで黒の騎士団の残った幹部たちと向き合っていた。

 

 クワシクキカナイデクレルトタスカル。

 

 さて、画面に向こうの潜水艦に乗っている奴らが映し出される。

 ナオトさんグループの時代から知っている吉田、井上、杉山、カレン。

 黒の騎士団が日本解放戦線の残存兵を吸収した際に藤堂についてきた卜部、仙波、朝比奈。

 紅蓮と月下の整備&技術部としてインド軍区からきたラクシャータ。

 アマルガムの支援を個人でし続けてくれた桐原と、アマルガムでも小隊長としてこれまで俺をサポートしてくれた毒島にアンジュ。

 どうしてもどこぞのマジカル八極拳使いの西洋神父を連想させるイケボのディートハルト。

 そして黒の騎士団でも所属が曖昧で、俺の『スヴェン=スバル』と正体が知られてしまってからは個人的な『同盟者』となったCC。

 

「さて。 俺のことを知っている、あるいは知らない者たちに自己紹介をしておきたいと思う。 俺は黒の騎士団の整備班の『スバル()』であると同時に、個人的に()()()をしていた『スヴェン』だ。 もうすでに察しているかもしれないが、現状はかなりマズイ。

 今のエリア11は紛争地帯となりかけ、ブリタニアの勢力圏はより過激な方針に偏り始め、黒の騎士団のナイトメア部隊はほぼ喪失。 歩兵もほとんどが戦死、あるいは捕虜となって今残っているのは後方や外部支援が主な工作員に衛生兵に技術部と情報部。 この認識で間違いないか?」

 

『うむ。 概ねにお主の言う通りじゃ。』

『桐原殿、あまり軽率な────』

『────なんじゃ? こ奴の事ならば以前から世話になっておるが?』

『『『『『……………………』』』』』

 

『ちなみにもうお前たちにもこのアジトに搭乗した際に言ったと思うが、(毒島)もアンジュも(スバル)に頼まれた者だ。』

『『『『『……………………』』』』』

 

 う~ん、毒島の一言でギョッとした奴が何人かいたな。

 はて? 何か忘れているような気が……

 

 まぁ、いっか。

 

「桐原殿、中華連邦とのパイプ作りは順調でしたか?」

 

『今までゼロの指示で計画と接触の仕方を練り直し、十分な貢物などを送っておる。 少しの間だけなら、大宦官どもは黒の騎士団を“使える駒”としてワシ等を匿ってくれるだろう。』

 

「そうか……大宦官は黒の騎士団の規模は知っているのか?」

 

『“規模”といっても、奴らの想像は大軍などではないだろう。 せいぜいが数十……あるいは百人程度。 もし必要とあらばお主たちも一旦、“黒の騎士団”と称していれば入れるだろう。』

 

「それは好都合だ。 実は────」

『『『『『────ちょっと待った。』』』』』

 

 そこに今まで黙っていた者たちが一斉に声を出す。

 

 まぁ、無理もないか。

 

「少し驚いているかもしれないが、大まかな状況は一応把握────」

 『『『『『────違う。 そうじゃない。』』』』』

 

 なんだよお前たち。

 あ、潜水艦のことか?

 

「この潜水艦は正式に桐原殿の援助があったからこそ買えた────」

 『『『『『────ソレジャナイ。』』』』』

 

 ならなんだよ、そのジト目は?

 

『はぁ~……ねぇ井上さん、吉田さん、杉山さん?』

 

 お、カレン?

 こういう場面で黙っているのが印象的なだけに意外。

 

『敢えて聞くけれど、今更感を感じない?』

 

 どういう意味?

 

スバルなんだしさ?』

 

 ちょっと待て。

 

『……まぁ、確かに。』

 

 いや。 ちょ、待って。

 

『スバルが裏で何かやっているのは昔からのことだし……』

 

 え?

 

『あー、なんか井上やナオトの言っていたことが今初めて実感したような気がする。』

 

 ……そういうことでええんかいオマンら?

 

 桐原も毒島も井上もため息出すカレンや納得している杉山と吉田を見ながら頷いているし、神楽耶も『ホケー』としながらその様子を見ているし、ディートハルトはムスッと無表情を貫いて怖いし、CCなんて『お前は何をしてきた?』のジト目をしてくるし、四聖剣の仙波と卜部と朝比奈なんてどうコメントしたらいいのか分からないような表情をするし────ああああああああああああああ、もうなんかヤダ吐きそう。

 

「話を進めていいか?」

 

 次だ、次。

 

『初めまして、スヴェン様。 私、皇神楽耶と申します────』

 

 あなたに(ティファ)力を(アディー〇)』じゃん。

 

 いや久しぶりに聞いたけれど、自己紹介で生の声を聞いていたら今ピンと来たよ。

 なんかキャラのイメージが全然違うけれど合うな。

 

『────そこでお聞きしたいのですが、スヴェン様は黒の騎士団の一員であると同時にご自分で情報屋をしているのですね?』

 

「様付けはしなくて良いです神楽耶様。 それと、そうですが?」

 

『でしたら、ゼロ様がナリタ連山で見せた御業の事もご存じでして?』

 

 あ~、これはアレだな。

 “さっきのアオモリでの出来事は自作自演じゃないか?”という感じで疑っているな、多分。

 

『皇神楽耶』。 キョウト六家の盟主である皇家の現当主、14歳。

 原作では子供っぽい言動なども多く見せるが、それは表向きの振る舞いだけで実際は周りや相手を油断させる高等な交渉術を持って侮れない相手だ。

 彼女は強い信念を持ち合わせている上に、ちゃんと自身の立場なども理解していて判断力や洞察力にも優れていていざとなれば(非戦闘場面で)ゼロとほぼ同等のカリスマ性も発揮できるスーパー(非戦闘員)少女。

 

 あと何気にスザクとは従兄妹同士&元婚約者で重い服は嫌いで、『(自称)ゼロの妻』&『(自称)勝利の女神』だっけ?

 

 ……ここはある程度、正直に話すか。

 

「以前のナリタ連山の事を知り、どこで何が為になるのか分からないので独自に追求した知識を早急に応用しただけです。」

 

『それにしては凄い手際でしたね?』

 

 これはアレか?

 毒島達の事か?

 

「地形や状況が似ていたのが幸いした偶然です。」

 

『黒の騎士団をどうするつもりなのです?』

 

「?????? 戦友(知人)が危機に陥っているのならば、助けたいと思うのに理由は必要でしょうか?」

 

 俺が本心からの言葉を言うと、何か思ったのかそれぞれが別々の反応を示す。

 

 ナオトさんグループ時代の皆と神楽耶はポカンとしているし桐原と毒島とアンジュは誇らしいどや顔だしディートハルトは未だにスンとした無表情で怖いしラクシャータは笑いを堪えているし四聖剣の三人は何か納得した空気を出しているし会議室に居ながらカメラに映らない角度にいる奴らは『またかよこいつ』と言いたそうなジト目をするし……

 

 意味が分からない。

 

 胃が……吐きそうかつ気が遠くなる……

 

 早く身体が動けるようにしないと。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「取り敢えず診る前に尋ねるけれど、前にランスロットのデータを寄こしたのはアンタかい?」

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜよ?!

 

 俺は双方の組織の体面を保つために『顔合わせ』をアマルガムの一員として黒の騎士団とやっていたらなぜかすんなりとナオトさんグループと桐原(爺さん)が納得してしまいラクシャータなんかは笑いをこらえようとしてディートハルト無表情は怖いし毒島たちを黒の騎士団の船から回収する際に『黒の騎士団にディーナ・シーの見学』という体で招待してラクシャータに俺の動かない体を診てもらおうと思ったら上記の質問が開口一番で出てきた。

 

 な、何を言っているのか分からんと思っているだろうが俺もだ。

 頭がどうにかなりそうだ。

 ルルーシュとかの類推とかならともかく、ラクシャータの質問はそんなんじゃない。

 ちょっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だぜ。

 

 あ、ユーフェミアはアンジュたちに頼んで黒の騎士団と接触がない様にしてあるゾ。

 会わせるのは会わせるが今はその時ジャナイゾ。

 

「ちゃんと自分の操縦データを消せたと思っていたようだけれど、ちょっと甘かったよ?」

 

 そんな俺が無言で(内心)ダラダラと汗をかいていたので察したのか、あるいは警護として部屋の中にいたマーヤの静かな殺気からかラクシャータが事を続ける。

 

「確かに消されていたけれど、相手がプリン伯爵の作品なんだから当然自機の活動もある程度はランスロットからフィードバックされるわよ? それに自分を情報屋として自己紹介したから、“もしかして”と思ってカマをかけたけれど……これは“ビンゴ”って言うのかしら?」

 

 あ。

 初歩的なミスゥゥゥゥ?!

 

「まぁ、後は手に入れたデータを元に逆算して、『蒼天試作型』の開発をしてそれが活躍すれば今度は持っていた『疑惑』が『確信』に変わっただけという話さ。」

 

 うわぁ。

 こいつ(ラクシャータ)、ロイド並みの変人天才だぁ。

 

『ランスロットから相手のデータ逆算した』って簡単にいうけれど、俺とランスロットの対峙した時間はそう長くないから“逆算した”といっても、残ったデータはごくわずかの筈だ。

 それこそ1MB(メガバイト)のデータ内の1(バイト)未満のデータをかき集めて色々な憶測をつけ足した推理モノじゃん。

 

 お前はどこのスパコン持ち科学捜査班なんだ?

 ジャンルが違う。 あっちへカエルのだ、ケロケロケロ。

 

「……話したくないのなら、詮索はしないけど?」

 

 やばい、あまりにも焦って語彙力と思考がガガガが。

 いや、これはある意味『好機』か?

 

「……いや、認めよう。 確かに俺はランスロットと対峙し、そのデータを売った。 『蒼天』に関しては礼を言おう。」

 

「『蒼天試作型』ね。 あれが完成品だなんて、私自身が認めないわよ。」

 

 シビアだな、オイ。

 

()()()はもっともっと強くなれるわ。」

 

「奇遇だな。 実は俺もそう思っていた。」

 

 よ、よし!

 とっかかりはともかく、空白期間とR2に向けて(ラクシャータに)準備してもらうぞぉぉぉぉ!

 

「ふ~ん? それが交換条件かしら?」

 

「『個人情報保護法』のな。 俺の事は許可なしでは他言無用だ。」

 

「良いわよそれぐらい、アタシだって医者の端くれだったんだしそこはちゃんとするわよ? 美味しいデータ元を横取りされてたまるか────

「────何か言ったか?」

 

「別に?」

 

「後は変なことはしないだろうな? 俺が頼みたいのは『なぜ身体が動けないか』の原因の検証だけだ。」

 

「怖~い守護竜ちゃんもいるわけだし、別にしないわよ。」

 

『守護竜』?

 

 ああ。 インドでは確か『竜』って、主に『悪』のイメージなんだっけ?

『ヴリトラ』とか。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「う~ん、『流石』というか……なんというか。」

 

 医務室の器具から得たデータが記入されたプリントアウトなどを見ながらそう口にするラクシャータは正直、(露出度は半端ないが)白衣もあるからか(一応)医者に見えるな。

 

 現状では『医者』の前に『元』も『闇』も付くし、つい先ほど口にした言葉の所為でちょっとだけ出た結果が怖いけども。

 

 まぁ……マーヤには検査の結果が出たときに部屋を退室してもらったので、ここには今ラクシャータと俺だけしかいないが俺か彼女が叫べばすぐに突入するだろう。

 

「何かあるのか?」

 

 それでもこのまま唸るだけのラクシャータに尋ねた。

 ただの勘だが、下手したら何時間も唸るだけの時間が過ぎるのを容易に想像できてしまう。

 

「あるわよ? いや、()()()と言った方が正確かしら? アンタの神経はズタズタ()()()し、筋肉や関節もかなり摩耗()()()()よ。 正直、話で聞いた『一週間だけ寝込んでいた』ことが疑わしいぐらいな状態で普通なら全治何か月かかるものだらけですもの。」

 

 そうか、一週間────なにっぬ?

 一週間……だと?

 俺は一週間も寝込んでいたのか?!

 

「………………」

 

 ポーカーフェイス~♪ お助けを~♪

 何がどうなっているの~?♪

 どうしたの~?♪

 

 ん? ちょい待ち。

 さっきラクシャータは過去形で全部言わなかったか?

 

「さっき、俺の状態に関して過去形で言わなかったか?」

 

 と言う訳でクイズタイム。

 

「言ったけれど、詮索して欲しくないのならしないけど?」

 

 ラクシャータがチラチラと俺を見る。

 これは多分、さっきのように『取引の一環』なんだろう。

 背に腹は代えられないし、個人情報を護るのならいいか。

 

 ……『ルルーシュのギアス』? 勿論その対策も一応考えているに決まっている。

 

「何が欲しい?」

 

「話が早くて助かるわぁ。 『蒼天試作型』と、さっき見たガニメデのデータよ♪」

 

「……『蒼天試作型』の方はいいだろう。 だがガニメデとなると、お前の見た結果と内容次第だ。」

 

チッ……アンタの体、『恐ろしく治りが早い』なんてレベルじゃないわ。 まるでちょっと前に流行ったベータマックスのリワインド機能(巻き戻し)の跡を見ていたような感じがしたわ。」

 

 ……なんだと?

 

「ダメージされた細胞の再生と焼き千切れた神経の修復跡を見せつけられちゃ、『元サイバネティックスに携わっていた医者』として腹が立つってモノよ。」

 

 “お前は本当に公式の26歳なの?”と尋ねるより、別のものが俺の興味が引く。

 

『細胞再生』って、コードギアスでもスゲェ高いし、高度で使用可能の条件もあるが結構流通している技術だ。

 

 問題はもう一つの、『神経の修復』だ。

 こっちは前世でもコードギアスでも()()()()()とされている。

 

 ニューロンやシナプス小胞は普通の細胞とは()()()ワケが違う。

 一度でも負傷すれば、『現状維持することは可能』な線を辿って(かなり省略しているが)『ほかの神経で補わせる』というのが一般的な()()とされている筈だ。

 

 とどのつまりは『根本的な治療』ではなく、『症状の緩和が関の山』ということを意味する。

 

 もしそんなことが現状で可能とされるのならば、ラクシャータのような医療サイバネティックの人たちの努力やそれの研究に没頭した時間が『無駄』の一言で終わってしまうだろう。

 

 ……………………これのどこが“普通より高性能”なんだ、自称神様?*1

 

 やっぱり次に会ったら『罵倒』に『グーパン』の追加だな、うん。

 あれ?

 じゃあなんで俺は動けないんだ?

 

「つまり俺は“動ける筈だ”と言いたいのか?」

 

「いいや? 細胞再生は自然治療に入るだろうけど、神経の修復なんて未知のモノにアンタが追いついていないだけ。 う~ん……ナイトメアを例にして言うと、『ボディは修復されたけれどOSがその状態にまだ対応していない』と言ったところかしらね? 軽~く見たところは何も異状は無いから、そのうち動けるようになるわよ。」

 

「今すぐにでも動けるように出来ないか?」

 

「それだったら気合いで治すしかないわね。 リハビリよ、リハビリ。」

 

 ここにきて地味な治療方法だなオイ?!

 しかも『気合い』って技術者にあるまじき言葉を平然と言いやがったぞ。

 

「そうか、感謝する。 あとでガニメデのデータを送ろう。」

 

「いーえ♪ と言う訳で、アタシは隣の部屋でチェックされておくから。」

 

 ラクシャータが隣の部屋にいるマーヤに俺に関する物理的なデータなどを勝手に持ち出していない検査を受ける為に出ていくと、今度は入れ替わりにカレンが入って来ては近くの椅子に座る。

 

「カレン、無事でよかった。」

 

 俺の視線はすぐに彼女の包帯が巻かれた肩に移る。

 

「昴もね……で、身体の方はどうなの?」

 

「ラクシャータ曰く、あとはリハビリすればいいと。」

 

 「地味ね?!」

 

 「俺もそう思う。」

 

「てっきり注射か何かの治療するのかと思った。」

 

「同感だ。」

 

 う~ん、この空気は久しぶりだな。

 

「……ニヒ♪ なんか久しぶりだね、こういうの?」

 

「まぁな。」

 

「………………お母さんたち、大丈夫かな?」

 

 留美さんたちか。

 

「行政特区の前に“保険”は一応したが……どうだろうな。」

 

「昴の暗躍があったのなら大丈夫そうだね♪」

 

暗躍じゃない。 保険だ。」

 

「はいはい♪」

 

 むぅ。

 カレンの『そういうことにしてあげるね?』の顔は珍しいな。

 

「……ねぇ、昴?」

 

「なんだ?」

 

「ちょっと見たところ、この潜水艦って前からあったんだよね?」

 

「……ああ。」

 

「それで情報屋もしていたんだよね?」

 

「そうだが?」

 

 ドムッ!

 

 ぐほえはぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 カカカカカカカカレンのグーパンがモロ腹に直接?!

 NANDE(ナンデ)?!

 

「私言ったよね? “次に嘘を言ったら怒るよ”って?」

 

 あ。 あかん。

 カレンマジギレしとるがな。

 

 そ、それよりも呼吸が乱れる!

 こ、呼吸だ! 呼吸を整えるのじゃぁぁぁぁぁ!

 コーホー。

 

「それで、昴?」

 

 『ゴゴゴのカレン』だとぉぉぉぉぉ?!

 

 かかかか髪がユラユラ動いていらっしゃるぅぅぅぅ?!

 

 スーパー戦闘民族状態じゃねぇぇかぁぁぁぁぁ?!

 

 誰の所為だ?! 俺のだよ!

 

 もしかして“オラオラ”ですかぁぁぁぁ?! 自分、変なヒゲ生やしていないし『横に立つ者』持っていないしゲーマーじゃないけれどさぁぁぁ?!

 

何でここにアンジュリーゼさんや毒島さんにアリスちゃんとかがいるのかな~?

 

Oh my god(オーマイゴッド)

*1
1話より




(;゜_゜)


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第90話 いざ、新天地……と思いきやイケボと遭遇

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

もう少しカオス気味展開等々が続きます。 ご了承くださいますようお願い申し上げます。 m( _ _;)m


 ブリタニア本国の首都、ペンドラゴン。

 その中にある皇族の敷地内をスザクは高位貴族などが移動の際に使う馬車で、『とある場所』へと向かっていた。

 

「……」

 

 本来なら帝国の軍組織内で大公爵以上、皇族未満で事実上の『ほぼ最高位』にあるラウンズともなると、それ相応の待遇が特権として与えられる。

 

 専用のナイトメア、専属の整備士、研究、開発チームに『親衛隊』や『直属の騎士団』という名をした個人の部隊を持てる権限。

 

 その気になれば、自分専用の御者と馬車をペンドラゴンのどこにでも使える。

 

 ほかの貴族からすれば一般の上級階級よりさらに上の身分扱いで皇族の者でないにしろ、ほぼ同じとも思えるこの待遇は『帝国騎士の最終目標』と呼んでも過言ではなかった。

 

 その地位に任命されたスザクは(あまりそのような類の話の数は多くなかったが)、ことごとく自分に来るオファーなどは全て断り、馬車には御者以外ではスザク一人だけが乗っていた。

 

 今時“珍しい”とも言える馬の蹄が整備された道をカッポカッポと鳴らす音を背景にし、彼は馬車の外ではなく、自分の手に持っていたモノを見ながら何とも言えない気持ちに浸っていた。

 

 今日まで誘いや人員の提供や採用オファーなどを適当な理由で断っていたが、今向かっている移動先はそれらなどよりさらに高い優先度を持っていたことで、下手な言い訳より効果はあった。

 

 スザクからでも、あまり()()()()()()人物なので気はあまり乗らなかったが。

 

「枢木卿、到着いたしました。」

 

「ありがとう。」

 

 スザクは手に持っていた騎士証を胸ポケットに入れて馬車を出ると首都ペンドラゴンでも上位に食い込む()殿()へと足を踏み入れる。

 

 ……

 …

 

「枢木スザク、参りました。」

 

「先日からまたも早々呼び出して悪いね、枢木卿。」

 

 穏やかな笑みを浮かべながらスザクを見るのはブリタニアの第2皇子にして帝国宰相である、シュナイゼルだった。

 

「楽にしていい。 ラウンズになって、何か不満などを持っていないかな?」

 

「いえ、任命されただけでも自分の身には余る光栄です。」

 

「そうかい? 近頃、少し君の話を聞いてね? 君はあらゆる手を振り払っている、と聞いているけど?」

 

「……それは────」

「────君は元ナンバーズとはいえ、今はラウンズの一員だ。 世間への体面的にも、体勢的にもある程度の人員は所持していた方が良い。 ロイド達特派を、正式な部隊にするにはまだ少し時間がかかりそうだからね。」

 

「発言、よろしいでしょうか殿下?」

 

「相変わらずだね……いいとも、何かなスザク君?」

 

「お言葉ですが……自身をラウンズに推薦したのは宰相閣下の望みだったからです。 ですから自分としては最低限、ナイトメアと整備班がいれば十分です。」

 

「確かに、そう君は前に言ったけどね? その時にも私は言った筈だよ、“この世界、何をするにも力が必要”だとも。 無論、()()()()()()()()()のなら尚更だ。」

 

 シュナイゼルは座っていたデスクの上に肘を着けて両手の指を絡ませながら、スザクを見る。

 

「一人でやれることには限界がある……ユフィやコーネリアだって、あの時(行政特区)は私や数々の者たちに協力を仰いだ。 その私でも、カノンを始めに文官たちや士官たちのサポートがあって初めてブリタニアの宰相としてことを動かせるのだよ?」

 

「……」

 

「“それでも”、と思うのなら強制はしない。 しないが、いずれは“部下”を持つことは覚悟してほしい。 これは志を共にする者としての意見だ。」

 

「ありがとうございます、殿下。」

 

「それと、()()()()の件だが今のところ主な収穫はない……申し訳ないよ。」

 

「いえ、殿下が協力してくれているだけで心強いです。」

 

 スザクはシュナイゼルの言葉を聞きながら、神根島の遺跡でゼロ(ルルーシュ)とカレンを撃った()()()を思い浮かべる。

 

 

 

 

 神根島でのあの時、実はスザクは構えていた拳銃を撃っていなかった。

 

 いや、撃てなかったか。

 

 相手は世界を混沌化していたテロリストのゼロで、その正体はスザクの持つ数少ない親友であるルルーシュだった。

 

 互いに銃を構え、背後にはカレン。

 

 そんな緊張状態の中、スザクはどうしようか迷っていたところに銃声が連続で二回鳴り、彼は思わず撃たれて拳銃を手放したルルーシュを拘束してカレンの方を見ると、薄暗いトンネルの中で痛みに埋めくカレンの上に人影がいた。

 

「ッ?! やめろ!」

 

 人影は彼女の頭に拳銃を向けていてところでスザクが叫ぶとその人影は次に何かをカレンに言い終えると、おぼつかない足取りをし出したカレンと共に遺跡の出口へと向かっては消えていった。

 

 

 

「(あれは……本当に君だったのか? だとしたら、何故……)」

 

 常人ならば見えなかったであろう人影を、ぼんやりと暗闇の中でスザクは見た。

 

 コードギアスでも割と珍しい、()()()()()()を。

 

 ラウンズへの任命を受ける代わりの一つとして、スザクがシュナイゼルに頼んだ。

 

『神根島に黒の騎士団でもブリタニアでもない、第三者の検索』を。

 

 彼がその検索を頼んだのは、何も“見覚えのある銀髪を見たような気がしたから”という理由だけではなかった。

 

「(カレンが生きているのは、コウベ租界からの報告で確認できている。 そして彼女は黒の騎士団だ。 ならば、彼女の世話係をしているスヴェンも同じであってもおかしくない。 それに、シュタットフェルト家からの返信によると、『カレンはテロ事件で行方不明。 スヴェンは怪我をし今は安静にしている』という返し……杞憂で終わるならばそれでいい。 けれど、もしスヴェンも黒の騎士団でルルーシュのように何らかのギアスを持っているのなら、神根島での出来事にも説明がついてしまう……そうなったら、僕は……)」

 

『私(の願い)は……“ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように”、ですね』。*1

 

 そんなスザクの脳裏を、スヴェンが言った言葉が過ぎると、彼は思わず胸ポケットにしまった騎士証に手を伸ばそうとしてしまう。

 

「(僕は……俺は……)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「おお、スゲェ。」

「本当にあのガニメデだ。」

「でも、なんか変な形だな。」

「肩がごついけれど、結構人間っぽいよな。」

「今のナイトメアとは違う技術系統を使っているとさ。」

「「「へぇ~。」」」

 

『ディーナ・シー見学ツアー』の一環として黒の騎士団が数人、小さな一室の格納庫に置いてあるガニメデ・コンセプト(汎用型)を見上げながらのほほんとしていた。

 

「(ほぉ……この機体を直で目にする時が来るとはのぅ。)」

 

 桐原はそんな者たちとは違う心境でガニメデ・コンセプトを見ると過去に一度だけ、()()()でしか見ていない光景を連想する。

 

 それは過去の『人工筋肉と皮膚(サクラダイト合成繊維)でナイトメアフレームを覆う』などと言った、当時まだ日本が世界中のサクラダイトの分配を厳しく牛耳っていた頃では途方もない、夢物語のような企画だった。

 

「(それを知ってか知らずか、再現するとは……流石は冴ちゃんが見込んだ男よ……孫はまだかのぉ~?)」

 

「桐原殿、どうしたのですか?」

 

「ん……神楽耶か? 少々考えごとをしていたの。 スヴェンと会うのはいいのか?」

 

「それが、“先約がいるから”と冴子が言って……」

 

「先約? (はて……誰だ?)」

 

 

 


 

 

 俺は『スヴェン・ハンセン』。 または『半瀬(はんせ)昴』で通っている(肉体年齢)17歳。

 

「ほわぁ……やっぱりスゴイや……」

「だろ? まだまだあるぞ────」

「────え? 嘘?! まだあるの────?!」

「────そうそう、例えば私の場合なんかは────」

 

 ただいま目の前で何故か毒島とアンジュが意気投合して今まで俺のやって来た一連の事を(美化しつつ一部をぼやかしながら)カレンに説明しちょる。

 

 どうしてこうなった(なんでやねん)

 

 いや、別に不穏な空気を感じて突入したマーヤがカレンと鉄拳対決しそうになってその騒動を聞いた毒島が無理やりバトルを引き分けで強制終了させたところまでは良い。

 

『良くない!』と言う抗議は俺も大いに同意するが、なぜそこから毒島の『全部話すからマーヤはアンジュを呼んでくれ』から今の状況になっているのか俺は知りたい。

 

 しかも俺の『何故アンジュを呼ぶ?』といった質問に『マーヤは妄信的なところがあるからな』と答える毒島の横にウンウンと頷くアンジュがいたのに、何で二人は俺の事を美化してカレンに話すの?

 

 正直、()ずか()ぬのだが?

 

 そう俺は言いたいけれど、さっきから訂正や相槌を打っているだけでさっきまで感じていた『ゴゴゴのカレン』は見る影もないところまで収まっているのでここは敢えて必要な時以外口を挟まないほうが良いだろう。

 

 漫画とかなら今の俺の目は完全にハイライトを失くしている描写だな、これは。

 

「ふぅ~ん……昴らしいっちゃ、らしいけれど

 

 “()らしい”とはどういう事でしょうか、カレンさんや?

 

「……でも、それだとアリスがいることが分からないんだけれど? もしかして彼女もハーフだとか?」

 

 おおっと、ここで『横目とジト目カレン』カードが発動。

 というか、なぜにジト目なんだ?

 

「そこは……」

 

 そして今度は毒島も困ったような顔をしながら俺を見る。

 滅多に見せないぶっちゃん(毒島)の困り顔、あざっす!

 

 っと冗談はさておき、俺も腹をくくって話に加わるか。

 

「カレン、お前は『ギアス』という単語を知っているか?」

 

「ぁ……えっと……」

 

 そこでカレンの目が泳ぎ始め、撃たれた肩に手を置いてソワソワし出す。

 

 うん。

 この気まずさならばやっぱり神根島の『ルルーシュゥゥゥゥ! スザクゥゥゥゥ!』イベントで、彼女はルルーシュのギアスの事をスザクから聞いているっぽいな。

 

「カレン。 ギアスの事ならば、アリスと……いや、アリスたちにも関係がある。 詳しいことは省くが彼女たちは、ブリタニアが行った人体実験の被害者たちだ────」

「────へ────」

「────『超能力(ギアス)を無理やり備え付ける』という奴のな。」

 

「……………………」

 

 そこでカレンはただ固まり、俺を見る。

 ……嘘は言っていないぞ?

 だからグーパンはやめてくれよ?

 

「それと────」

『────おい、その中にスバルやスヴェンとやたら名前を変える奴がいるのか────?』

『────え? えっと────』

『────入るぞ────』

『────それは見過ごせないわね────』

 

 そこでCCの声が部屋の外からナンデ?

 お前、タイミング良すぎだろ。

 

「マーヤ、中に入れてやってくれ。」

 

 そう俺が声をかけ、ガチャリとドアが開くとCCがアイス(ビッグモナカ)を食べながら入ってくる────って俺のビッグモナカァァァァァァァ?!

 

「ん? カレンに…………」

 

 こいつ(CC)、毒島とアンジュの名前を忘れやがったな。

 

「それより入ってくれ。 これからのことを話そう。」

 

「一応、神楽耶様とおじい様も呼んでくるか?」

 

 ああ、うん。

 そう言えば待たせていたよね。

 

 ………

 ……

 …

 

「このような姿でのご挨拶と待たせて申し訳ない、スヴェン・ハンセンだ。」

 

 毒島が呼びに行った二人、ディートハルトや扇達と並んで実質上、政治方面で黒の騎士団のトップ二人に出来るだけ申し訳なさそうな空気を作る。

 

 自分で言うのもなんだが、これでも不愛想に聞こえる。

 俺のポーカーフェイスがちょっと憎い。

 

「こうして会うのは久しぶりだな、お若いの。」

 

 安定(いつも通り)の爺さんでほっこり。

 

「先ほどぶりですね。 皇神楽耶と申します。」

 

 そして実質、顔と顔(フェイストゥフェイス)では初の神楽耶とご対面~。

 う~ん、さすがは名門家の出。

 ブリタニアの貴族とは違うけれど、上流階級オーラが半端ない。

 

「お体は大事無いでしょうか? それとアオモリでの手腕、見事でした。」

 

「話すぐらいなら問題ない。 それと先ほど通信で申した通り、アオモリは幸運な要因が重なっただけだ。 たとえ俺が居なくとも、カレンたちならばどうにかしていただろう。」

 

 「クヒ。」

 

 何か意味不明な音がカレンから聞こえたような気が────

 

「────謙虚なのですね?」

 

 それよりも神楽耶の服、正装とはいえ重そうだな。

 

「それで先ほどは“黒の騎士団に対して何もしない”というのは、どういう意味でしょうか?」

 

「??? 先ほど答えた通りだが?」

 

 まだ疑っていんのかよ。

 

「……つまり、お主の組織である……えーっと────」

「────『アマルガム』です、おじい様────」

「────あ! 冴子がおじいちゃん呼びを────?!」

 「────違います。」

 

 あー、グダグダなりそう。

 

「『アマルガム』がどうかしたか、桐原殿?」

 

(器用に空気だけ)ショボショボし始めた桐原に声をかけて話を進ませよう。

 

「ん? ああ、すまんの。 で、その『アマルガム』とやらでお主はこれからどうするつもりじゃ?」

 

 そして桐原の一言で、一気に部屋が緊張感に満たされて行く。

 やっぱり原作でも見たように、一癖も二癖もある奴だな。

 だがまだ想定内だ。

 

「当面は、中華連邦が黒の騎士団を匿うまで全面的にサポートをする。 無論、それを受けるかどうかはそちらで相談してからでいい。」

 

「……なんだと?」

 

 う~む、さすがに『主導権はそっちのままでいいヨ♪』は怪しまれるか。

 

「黒の騎士団が安全圏に入れば、今度はこちらの頼みを聞いてほしい。」

 

「……その頼みとは?」

 

「いずれゼロが帰還するだろう。 その時の為に、アマルガムはアマルガムで別行動をとる。」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 黒の騎士団と行動を共にし始めて一週間とちょい、桐原と神楽耶をメインに中華連邦への入国を果たした。

 

 ウィルバー・ミルベルと彼の家族を保護する為に、上手く立ち回れるサンチアとルクレティア、マオ(女)の三人はすでに中華連邦を陸路で横断し始めている。

 

 そしてマオ(女)の元気よい『お土産、楽しみにしてねお兄さん!♡』で再びジト目カレンが復活(アリスたちの時のように事情を伝えるとすぐに納得したが)。

 

 偽名や身分証明書にパスポートを桐原が頼んだ同じ日に用意できたとは爺さん仕事と根回し早すぎ。

 

 一応仲間でも恐怖でしかない。

 

『黒の騎士団やほかに誰もいなくなったところで“褒めてちょ冴ちゃん♪ v (´ω`v) ”と毒島に向けた言動を除けば』、だが。

 

 それとリハビリは一応順調……と言えるのか?

 

 以前に初めてランスロットと相対した時の筋肉痛レベルを軽く超えているとだけ言おう。

 

 地味に痛いが、『ゆっくり歩くだけぐらいならばなんとか』というところまでは回復した。

 

 マジに周りの奴らに感謝しかない。

 

 あと『痛い』って俺は言ったっけ?

 

『あ、もういいです』か、ソウデスカ。

 

 ン? 『誰が介護したか』って?

 

 言わせないでくれ。

 

 『ジャンケン』と『当番制』で察してくれ、頼むから。

 

 俺のMP(メンタルポイント)はゴリゴリに削られ、もう余裕はジェ()ロ状態よ。

 

 そしてそれがどうしてこうなった。

 

 毒島に呼び出されたと思ったら、桐原もいて俺は着替えをさせられてここまでドナドナされた。

 

 俺の前にはキリッとして、昨日とさっきあれだけ行動したのに全然疲れを見せない桐原(老人詐欺者)といまだに重そうな正装姿の神楽耶。

 その二人の後ろには毒島と、彼女の横に俺。

 

 ここにディートハルトやラクシャータの姿はない。

 ラクシャータは潜水艦でガウェインの回収に回っているし、ディートハルトは恐らくこの国での情報や根回しをしているのだろう。

 

 ちなみに『ここ』とは中華連邦の首都にある『朱禁城』アルヨ。

 

 誰かタシケテワヒャヒャヒャヒャ。

 

 「いいか。 いかに客人とはいえ、妙な動きをすれば即座に付き人と主ともども拘束する。」

 

 さらに俺たちの後ろでドナドナしている長い黒髪の軍人がなぜか歩みを遅くさせてから、俺たちがギリギリ聞こえる音量で別作品の『お前を殺す』が代表的なイケボで上記の言葉が来るアルヨ。

 

 こら毒島ソワソワするな。

 頼むから堪えてくれ。

 

 あと一つだけ言わせてくれ。

 イケボの身長、高いなオイ。

 

 俺もルルーシュぐらいの身長だから178cmぐらいでかなり高いほうなのに、隣のこの人はそれ以上の190cmぐらいはあるアルヨ。

 

 もう半分常時現実逃避している俺は自動(オート)で『優男』の仮面を維持し、必死に皇コンツェルンご一行の付き人……の役割(ロール)になりきろう。

 

 心を入れ替えよう。

*1
67話より




余談ですがスヴェンが以前から何度も激ヤバ筋肉痛を経験したことと、(何重生活をしなくてもいいことで)ちゃんと睡眠時間を確保できていることが幸いしています。 (汗

精神的には疲労困憊を通り越して麻痺しつつあるだけです。

慣れって恐ろしいですね。 (汗汗汗

スヴェン&作者: _(꒪ཀ꒪」∠)_


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第91話 『リアル天子』ッパネェ

長らくお待たせいたしました、寝込んでいますが出来る時に携帯に書き込んでいたものを投稿しました。

短くて申し訳ございません、楽しんでいただければ幸いです。


『中華連邦』。

 

 コードギアスの世界でブリタニアとユーロピア共和国連合(EU)と並ぶ三大勢力の一つ。

 

 その首都である洛陽の中でも、共産主義を掲げながら政治の中枢となっている朱禁城には国家の象徴である『天子』と補佐である『大宦官』の君主制度で中華連邦は動いている。

 

 というのはとっくの昔の話で、実際は制度としては既に崩壊しているどころか大宦官と軍人達が己の欲望のままに国を動かしている。

 

 そのおかげで『天子』は実際の権力を持たない『お飾り』であり、人民は貧困に喘いでいる。

 

『良くブリタニアに乗っ取られずに済んでいるな?!』と思うかもしれないが、実は上記のおかげで中華連邦は一枚岩ではなくなっていることが原因だ。

 

 あとバカにならないほど人口が多く、第二次世界大戦中のソビエト連邦の『Ни шагу назад(オーダー227)!』を連想してしまうほど皆が『天子の為ならば!』と強く思いながら戦う志を持っている。

 

 とまぁ……謁見の間から挨拶が交わされてから応接間での会食(の名を飾った腹の探り合い)で未だに続く大宦官と神楽耶&桐原(黒の騎士団)の会話を横に現実逃避はここまでにしてハッキリ(内心で)言おう。

 

 椅子にちょこんと座るリアル蒋・麗華(チェン・リーファ)小っさ!

 髪の毛と肌が白粉より白い!

 

 あと余りにも気配(存在感)無さ()すぎて、本当にそこにいるのか疑ってしまう。

 

 え? 『蒋・麗華(チェン・リーファ)って誰だよ?』だって?

『天子』の本名に決まっているだろうが……と言ってもあまりピンとこないかもしれない。

 俺だって設定資料で見たときの『名前あったんや?!』ショックで覚えているだけだし。

 

 多分。

 

 ここで大宦官が神楽耶&桐原の誰かが言ったことに『ホホホホ♪』と愉快に笑い、天子は目の前の会話に付いて来られていないのか純白の髪を揺らし、小さな眉を困ったような時にする『ハの字』に曲げながら赤い目で互いを見る。

 

 少し前まで仲良く神楽耶と話していたのに、急に政治の話が出てきたことで、『小動物がポワ~ンとしながらコトンと頭を横に倒して周りを見る』仕草が披露される。

 

 目の前で神楽耶&桐原が大宦官の笑いに笑みを返すが、多分内心は表情ほど穏やかではないだろう。

 

 日本人ではないとはいえ、圧政を敷きながらただただ我欲のままに貪りそれをさほど隠そうともしない連中の機嫌を伺いながら、表&裏の品を渡さなければいけないのだから。

 

 ソワソワソワソワソワソワ。

 

 おい、毒島ステイ。

 明らかにハテナマークを浮かべる天子に何かしてやりたいのは大いに同意するし気持ちも分かるが、俺たちはあくまで『付き人』だ。

 

 興味を失くしたのか、天子が足をテーブルの下でプラプラし始める不安や寂しさが彼女から漂う。

 

 ……うん。

 

 守ってやりたくなるがな。

 

「ぁ。」

 

 俺の視線に気づいたのか視線が合ってしまい、サッと俺は視線を外す。

 

『付き人』である俺が、お飾りとはいえ国のトップをジッと見るのはマナー違反というか下手したら大宦官に付け入る大義を与えかねない。

 

「ふむ、その話でしたら……天子様、少々同胞と共に席を外してくれませぬか? 報告は後でします故。」

 

 ん?

 

 桐原が『裏の世界』の話を切り出すと、大宦官が天子に言いながら反対側の大宦官に目配せをするのを見て俺は立てていた憶測の確信を得る。

 

 なるほど。

 汚い世界の話をこうやって天子から遠ざけ、『世間知らず』のまま育てていたのか。

 

 しかも少し離れた場所で待機されている長い黒髪のイケボ武人────黎星刻(リーシンクー)の険しい表情を見るからに、大宦官たちは天子自身が逆にこれを嬉しがるように誘導していると見られる。

 

 やっぱり桐原と(特に)神楽耶は良い感情は持っていないだろうなぁ~。

 

 俺もだが。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「お魚が宙を舞うのですか────?」

「────そうですね。 ただかつての日本での『コイノボリ』は本物の魚ではなく、『魚の形をした凧』で────」

「────タコ()?」

 

「タコでも『空に浮かぶ紙飛行機』の類です天子様。」

 

 それがなぜか今の俺と毒島が天子と普通に会話しとる。

 

 ……『ナンデ?』って?

 

 え? 『聞いていない』?

 いや聞いてくれよ。

 

 距離を置いて歩く大宦官からなぜか一人寂しく、テクテクと中庭を歩いている彼女に毒島は自分が桐原の孫だということを天子の隣にいた星刻と大宦官に挨拶を交わすとそのまま話しかけ、俺も巻き込まれて今では主に日本が健在だった頃の話をしている。

 

 つまり、彼女がかなりグイグイと来るような話題を毒島が話し出して俺はうまく逃げられないのだ。

 

 まぁ……ついさっきまでつまらなさそう&寂しそうな彼女が赤い目をキラキラ輝かせがら児童番組(なぜなに)風に“なんで?”、“どうして?”、“なぜ?”が来てちゃんと順を追って説明すると理解した天子も毒島も満足そうに笑みを浮かべたりして、俺は見ているだけで楽しいし癒されるけれども。

 

 あとは俺たちを止めるべき大宦官は内容が中華連邦や政治や世間などに直結していない上に毒島の渡した賄賂もあってか邪魔する気がないのかそっぽを向いているし。

 

「ん? どうやらお時間のようです、天子様。」

 

 っと、桐原たちが席を立ったか。

 

「ぁ……これからも、お話をお願いしても? いいですか?」

 

 「「いいですとも。」」

 

 毒島と俺が立つと、申し訳なさそう&後ろめたく天子がそう聞くと俺と毒島は即答する。

 

 いや、もう……こんな頼み方されて『放って置け』なんて選択はあり得ないじゃん?

 俺も毒島も、正式には『黒の騎士団』ではないし立ち位置も微妙だけれどものだけれど……

 

「では……お友達になってくれますか?」

 

 ンンン゛ン゛ン゛ンンン゛ンンン?!

 

 天子(てんこ)ちゃんのうるうる上目遣いぃぃあぁぁぁぁぁ?!

 

 純粋無垢な笑顔の破壊力で、思わず今まで磨いてきたポーカーフェイスの表情筋ががががガガががガ。

 

 一言だけで締めくくろう。

 

 尊い。

 

 尊すぎて『ポケットの中のモンスター』並みに目の前が真っ白になってその時のことをよく覚えていない。

 

 「何をしている少年。」

 

 そして俺の耳元でささやく『お前を殺す』が代表的なイケボが来るアルヨ────え、ナンデ?!

 

 「今すぐ天子様から離れろ。」

 

 え。

 

 「……えっと……」

 

 よく見たら(というか気が付いたら)俺は天子ちゃんの前に目線を合わせるようにしゃがんで────ええええええええええええ?!

 

 俺、何やってんの。

 

 ↑なにやってん↑のぉぉぉぉぉ?!

 

「ッ。 も、申し訳ございません天子様────」

「────あ、えと、その────」

「────ではまたの機会に。」

 

 天子ちゃんから離れて内心長押しBボタンのダァァァァァァァッシュ(早歩きぃぃぃぃぃぃぃ)!!!

 

 「次に許可なく近づけば、鼻を切り落とす。」

 

 ヒィィィィィィィィ?! ロユゥゥゥゥゥイ?!

 

 俺はレッドスカ〇になるにはまだ早いと言うか嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!

 

 

 


 

 

 皇コンツェルン(黒の騎士団)の一行が朱禁城の中庭を後にし、手を振ってお別れを示す天子はそのあげていた手をアンニュイな気持ちで見る。

 

「天子様、如何なされましたか?」

 

「ぁ……な、何でもない。」

 

 そんな彼女に大宦官が声をかけると、彼女は条件反射的にビクリと肩を跳ねらせてからテクテクと歩き出す。

 

 昔から同じ場所で過ごしている朱禁城の中は彼女からすれば、多少の考え事をしながらも自動(オート)で目的地にまで歩けるほど知り尽くしている上に、仮にも天子。

 

 そもそも彼女が自由に行動できる範囲はかなり限られている。

 

 そんな彼女はいつも何も変わらない環境に慣れてしまい、移動するときも考えることをやめていたが今日はエリア11から来た『皇コンツェルン』に、自分とあまり年が離れていない少女がいたことで少しだけ興味が出ていざ話してみると自分(天子)とはかなり違い活発さと強い芯を持った神楽耶に少しだけ天子は憧れ、できるだけ(不器用にも)仲よくしようとした。

 

 歳が近い(?)神楽耶とはすぐに打ち解けそうになったが、やはりいつも通りに込み入った会話に入ってしまった為に天子は手持ち無沙汰になっていたところで、彼女は自分に向けられた視線に気付く。

 

 今まで『天子』として生きてきた彼女(麗華)は実権がないとはいえ、表側には『主君』として他国や自国の武官や文官は彼女に注目するのは最初だけで、後は大宦官との会談に移行する。

 

 そして仮にも『主君(天子)』である彼女に無礼がないよう(というよりは大宦官に隙を与えないために)極力なまでに彼女を見ないようにしている。

 

 否、今回に限っては『していた』と過去形になるだろう。

 

「(()()?)」

 

 いつもは会談が終わるまでボ~っとしている視界の焦点(ピント)を天子がふと合わせてみれば、自分と同じような髪と目の色をした者と一瞬だけ目が合った。

 

 ここで彼女が次に見たのは更にいつもの付き人らしくない、ソワソワとする毒島だった。

 

 その『いつもと違う』ことに気付き、興味を持った彼女がいつものように席を外(除け者扱い)されるとさっきの『付き人らしくない』二人と話すチャンスが到来した。

 

 更に『いつもと違う』ことで興奮した彼女は主に黒髪の女性(毒島)と話をしていき、とうとうお別れの時が来てしまうと思わず“いかないで”と口にしそうになってしまうのを、何とか別の頼みで誤魔化した。

 

 そこで彼女と同じ髪と目の色をした青年がしゃがんだと思えば流れるように一回り体格の小さい天子と目線を合わせ────

 

()()()()()()()()()()()()()。』

 

 ────そうしっかりと、青年は天子を『象徴』や『主君』などではなく『個人』としてみるような目をしながら言ったことに、天子の事となると人一倍にも敏感となるあの星刻でさえも呆気に取られてしまった。

 

「(あ。 お名前……後で聞こう。)」

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 当の本人であるスヴェンは帰りの車の中に搭乗するまで、ポーカーフェイス(無表情)のまま無心になっていた。

 

 幸運にも彼はセカンドシートから遮断されている助手席に座っており、運転をしていた毒島の隣にいた。

 

『無免許運転……だと?』というのは野暮であり、中華連邦内で偽装した身分証明書の前では意味をなさないだろう。

 

「(う~む、『画面越し』と『生で見る』のは迫力が違うとカレンとかで実感していたと思っていたけれど……甘かった────)」

「────(スヴェン)? 聞いていいか?」

 

「??? なんだ、毒島?」

 

「……いや、ただ“流石だな”と思っただけだ。」

 

 “どういうことやねん?”と言いた(ツッコミた)かった衝動をスヴェンはただグッと堪えながら自分を襲う体中の筋肉痛の中でポーカーフェイスを維持していると、ふと思い出したように口を開ける。

 

「(そう言えば、『元箱入り』だった経歴を考えてユーフェミアをアンジュに任せたけれど……大丈夫かな?)」

 

 彼は知る余地もないが、ディーナ・シー(アマルガムの潜水艦)中から黒の騎士団員たちは自分たちの船に乗り移って海の中からガウェインの回収や、横流しされた無頼の確保などをしているため出払っていたことと、アマルガムの人員たちが外出しなかったことが良い方向に働いてくれていた。




もうちょっとしたらアキト編に突入できるかと思います。 (;´ω`)φ..イジイジ


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第92話 今度こそ、新天地! ……の下準備

大変長らくお待たせいたしました、次話です。

数々の感想やお気に入り登録に誤字報告、誠にありがとうございます。
全て励みとして有難く頂いております。 (シ_ _)シ

楽しんでいただければ幸いです。


 今眼前で見ている光景をありのままで言っていいか?

『聞いてねぇよ』の返答はただいま受け付けておりませぬ。

 よし、行くぞ。

 

 “俺と毒島が桐原たちを中華連邦での仮住まい場所に降ろして何故か俺を見て不満そうな神楽耶に何か小声で言われて珍しくアタフタする毒島に桐原(と内心で俺)がほっこりした後タンカーに偽装されたディーナ・シーの停泊している港に帰ってくる道にフワフワと泡が大量に宙を舞っていてディーナ・シーのタンカーに近づくと案の定タンカーの機関室からポカポカと出ている煙の代わりにポワポワと泡が出ていた。”

 

 NANDE(ナンデ)

 

「「………………」」

 

 いや、呆気に取られた顔の毒島となんとかポーカーフェイスを維持する(内心では彼女以上に慌てている)俺が同時に互いを見たからには見当はついてはいるんだ。

 

 この様な光景、実は俺たち二人にとっては()()()なんだ。

 

 一度目は箱入りだったアンジュが初めて家事をしようとして、洗濯機に()()()洗剤の量をぶち込んだ時だ。

 

 ちなみにここで言う“適当”とは洗剤入れコップに洗剤の表面張力いっぱいまで。

 

 寮の洗濯機から見事なほどの泡が漏れ出し始めてアンジュが慌てて停止ボタンを押そうとしたら、今度は彼女の目に洗剤が入って悶えていたら地面に出ていた泡を更に活性化させて見事な洗剤羊の出来上がり具合だった。

 

 サンタクロースも顔真っ青なほどの白泡まみれでアンジュに申し訳なかったが思わず笑ってしまいそうだったのを堪えながらその場を何とか毒島と収束させたな。

 

 そんな毒島も片付けている間に、頭上に鶏みたいな泡の塊がくっ付いて学園の裏サイトで一時的に流行ったな。

 

『毒島先輩、鶏を頭に乗せる!』とか。

『クール系女子、白髪になる』とか。

 

 あと保健室行きの生徒が増えたのはキットグウゼンダソウニチガイナイ。

 

 お?

 

 あっちの泡の山からライトグリーンニーソ美脚が生えている。

 

 ズルズルズルズルズル。

 

 「ブクブクブクブク……」

 

 グルグル目のアンジュ発見。

 

「おい、起きろ。」

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp~。」

 

 ユッサ、ユッサ、ユッサ、ユッサ。

 

 何か意味不明な言語を口から出すアンジュを揺する。

 

 「起きろ。」

 

「……………………ハ?!」

 

 起きたか────

 ────ゴリッ────

 ────痛ぁぁぁぁぁぁ?!

 

 起き上がったアンジュの石頭がモロにぃぃぃぃぃ?!

 

「箱ごと入れちゃダメェェェェェ!!!」

 

 オイちょっと待てアンジュ、今なんて言ったお前?

 

「ってあれ? 私────ってスヴェンお帰り。」

 

「ただいま。“アレ”の中に客人がいるのか?」

 

「“アレ” ────でぇぇぇぇぇぇ?!

 

 俺の視線をアンジュが辿ると素っ頓狂な声を出す。

 

 まぁ、無理もない。

 船の機関室(偽装タンカー)がまるで雲の中にいるような光景だからな。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「えっと……悪気はなかったのです。」

 

『グレイグー』ならぬ『無限の泡』の増殖を何とか止めてディーナ・シーの洗濯室からそう遠くはない部屋に避難していたユーフェミアを救出し、ジャージ姿になったアンジュと彼女の向かい側に俺と毒島は座っていた。

 

 ディーナ・シーの乗組員たちは何とかバリケードを張り、泡の被害が広がらないようにしたのが逆効果だったのか、ディーナ・シーを覆う偽装タンカーを満杯にさせるまで泡が放出していた。

 

「悪気はなかったねぇ……」

 

「ええと、アンジュリーゼさんも“適当でいいわよ”って……」

 

「ええええ?! 私は“箱に書いてある通り”って言ったわよ?!」

 

 ユーフェミアが横目でチラチラとアンジュを見ていると、アンジュのアホ毛がギザギザになってが抗議する。

 

「ええ、ですから“適度な量”と書いてあったし……私は聞きましたよ? “洗剤もいっぱい入れたほうが服も綺麗になりません?”って。 それでアンジュリーゼさんは手をひらひらしながら“いいわよ、ドンと行っちゃいな”って────」

「────ギクッ。」

 

 ユーフェミアの言葉にアンジュの目が泳ぐところ(とアホ毛がピンとするところ)を見ると図星のようだな。

 俺がポーカーフェイス+ジト目で彼女を見ていると次第にそわそわしだした彼女(とアホ毛)がようやく体を乗り出してくる。

 

 「良い教訓になったから良しとしようよ?!」

 

 「周りに迷惑が掛かったからアウトだ。 そもそも箱ごと入れても止めない奴がいるか。」

 

 俺の正論の(メタ)矢がグサリとアンジュを射り、彼女はアホ毛のようにヘニャリと項垂れていく。

 

 ……………………どうやってアホ毛を動かしているのお前?

 アホ毛保有者特有のアンテナか何かなのか?

 取り敢えずそれは良いや────って何ニヤニヤしているの毒島?

 

「何かおかしいのか、毒島?」

 

「ああ、いや。 君はあの日(行政特区)以来、どこか張りつめていた様子だからな。 “皆と相談しながらリハビリを兼ねた気分転換に連れ出して良かった”と思っただけだ。」

 

 ……なんだと?

 

「まぁ、流石にアンジュたちのやらかしは予定に入っていなかったがな!」

 

「「だから悪気はなかったのよ/です!」」

 

「はっはっはっは!」

 

 箱入り(ユーフェミア)元箱入り(アンジュ)の言葉がハモり、毒島がとうとう笑いだす。

 

 ……なるほど。

『(俺が)張りつめていた様子』、か。

 確かに『虐殺です!♡』フラグを折ったことと、ルルーシュにすべて話して託そうとしたところを見事なまでに暴発どころか今までになかったほどのしっぺ返しを食らってショックだったからな。

 

 ん?

 

 そう言えば俺、ずっとポーカーフェイスを維持していた筈だよな?

 どこで……いや、どうやって俺が『張りつめていた』ことを知った?

 

 いや、それはどうでもいい。

 

「……心配を、かけたな。」

 

 大事なのは気遣いをかけてしまった事実だ。

 

「「へ。」」

 

 俺の言葉に、アンジュと毒島のポカンとする声が出てはユーフェミアがニッコリとする。

 

 それはそうと、彼女にも声をかけるか。

 

「ユーフェミア様。 その……心中お察し申し上げますが────」

「────さっきの口調のままでいいですよ? それに……あれからのニュースや皆の話を聞いていると、今のまま私が名乗り出れば……()()()のは分かっていますから。」

 

 うわぁ……

 

 ユーフェミアは皇籍抹消の上、『独断に走ったことで処刑された』と公式には記録されている。

 だから『危うい』どころじゃないというのに。

 

 生ユフィ、健気。

 

「それで……これからどうするのです? 私を黒の騎士団に引き渡すのですか?」

 

「それはない。 結果的にユーフェミア様を助けたのですから貴方の身の危険が去るまで、または信頼のおける者に保護されるまでは守る予定だ。」

 

「え?」

 

「もし貴方(ユーフェミア)が“何かをしたい”または“何か習いたい”など申し出れば、できる限りそれに答えようと俺は思っている。」

 

 原作でも、ユーフェミアはコーネリアに付き添う形で箱入り状態から急に世間へと出てきてしまった。

 学園も中退した彼女は必死に『自分のできること』を探そうとして、スザクと出会って彼と同じ境遇の者たちを思って『行政特区』なんて突拍子もないモノを立ち上げようとした。

 

 未だにおぼろげな考えだけだが、彼女にも一応考えはあり、コーネリアと姉妹なだけにその行動力も思い切りもスゴイ。

 

 つまり彼女に『自分のできること』を教えていけば先走ったりせずに、『未来への投資』の一環としてアマルガムで保護していればいい。

 

 キョトンとするユーフェミアの隣では復活したアンジュが腕を組みながらウンウンと頷き、俺の隣にいる毒島は────

 

「────な? 言っただろ? こいつ(スヴェン)はそういう奴なのだ。」

 

 どういうことぶっちゃん(毒島)

 

「それはそうとスヴェン……いや、スバルか────?」

「────()()だけの時ならもう“スヴェン”でいい。」

 

「……そうか。」

 

 何、今の間は?

 あと何気にユーフェミアの“ニッコリ”が微笑ましいモノを見るかのような感じがするのだが?

 

「マーヤたちを一足先に送ったとして、これから私たちはどうする?」

 

「そうだな……EUに行こうと思う。」

 

「「EU……」」

 

『EU』。 正式には『ユーロピア共和国連合』の略で、中華連邦とブリタニアと並んで三大国の一つで、前世で言う『ヨーロッパ』と『アフリカ』の領土に持っていて、国力は『ブリタニアよりやや下』というある意味スゴイ()()()を秘めている。

 

 なぜここで『可能性』かというと、ブリタニアより地理的には大きいにもかかわらずその強みを活かせていないからだ。

 

 その理由は単純に『設立当時から続いている連邦式の統治』が、『衆愚政治化』しているからだ。

 

 中華連邦とは少し違う『頑張りま(しょう)』案件だ。

 だがここが俺たちの付け入るチャンスでもある。

 

「えっと……私はここにいてもいいのでしょうか?」

 

 おっとユーフェミア選手、ここでおずおずと手を挙げたぁぁぁぁ!

 

「??? ユーフェミア様はここに居たくないのか?」

 

 そもそもユーフェミアがここに居たとして、アマルガム(俺たち)に大きなマイナスは見当たらない。

 

「あ! いえ! その! なんだか機密的な会話になりそうだったもので────!」

「────ならば尚更聞いていかないのか? それに機密だったとしても、ユーフェミア様が言いふらさなければいいだけでは?」

 

 暴れようとしても知れているしそうする理由が彼女にはないし、何より彼女を『皇女』や『コーネリアの妹』ではなく『ユーフェミア個人』として見られる貴重な環境の筈だしな。

 

 「出た、いつもの奴。」

 

 ちょっと待てアンジュ、どういう意味だそれは?

 

 「これも何かの考え故か?」

 

 いや? ただおぼろげな計画というか方針の『もしもの時の為』だけどぶっちゃん(毒島)

 

『用はもう無いからバイバイポイ捨て』なんて後味が最高に悪いじゃん?

 それに……いざとなったらスザクへの切り札になるかも知れない。

 

 これからナイトメア戦は『陸』ではなく『空』を中心に繰り広げられ、ランスロットを元にラウンズ専用のナイトメアがわんさかと出てくる。

 

 全部もちろん、空陸両用式だ。

 

 だからマーヤたちにウィルバー・ミルビル博士の保護&調略を頼んだ。

 彼はコードギアス一期とR2の間に行われる『OZ(オズ)』の時空で『タレイランの翼』というコードギアスの世界で初の『ナイトメアを使った空軍部隊』を作り上げて反逆を企てていた。

 

 技術者としても、将としてもかなりの有能な奴で今のアマルガムには必要な人材の一人だ。

 

「だがEUと言っても、広大だぞ? どこを目指す?」

 

「そうだな……その為に、まずはマ()を呼んできてくれ。 彼に()()()()()を探し出してもらって接触する。」

 

「そうか、ならばそれは私がしておこう。」

 

「私は?」

 

 毒島が席を立つと、今度はアホ毛がピンと立ったアンジュがそう聞いてくる。

 

「アンジュは、ユーフェミア様の────」

「────あの。」

 

「ん?」

 

 ユーフェミアが他人の言葉を遮るとは珍しいな。

 

「今の私は皇女ではないので、“ユーフェミア”でいいですよ? あと、やっぱりアンジュリーゼさんは“アンジュ”のほうが良いのでしょうか?」

 

「そうだな……アンジュ。 マ()が連れてきてくれた()()を見ていた船医に面会のオーケーをもらっているか?」

 

「……うん。」

 

「なら迷惑でなければ、()()を見つつユーフェミアも見てくれないか?」

 

「アンタは?」

 

「俺は……少し調べものがある。 それに無理をしなければ動き回れるぐらいは回復している……………………………………なんだ、その眼は?」

 

「「アンタ(スヴェン)が“無理をしない”と言ったのがちょっと引っ掛かって。」」

 

 コントはええから。

 

「毒島。 マ()に探してもらうキーワードは『ズィー・ディエン』、『ゼッド・ザ・タイガー』、『ミス・エックス』、『オルフェウス』……ああ、ラクシャータが帰ってきていれば“少し話がしたい”と言ってくれ。」

 

 ラクシャータには“ガナバティと連絡を取れるか?”と聞いて、R2以前にこれからのことで話すことがある。

 

 主にナイトメア開発関連だ。

 

 これは保険だが、しないよりはマシだろう。

 

 さてと、俺は俺で『OZ』でブリタニア側の主要人物である『マリーベル・メル・ブリタニア』と『オルドリン・ジヴォン』を調べるか。

 

 

 

 


 

 

 

「アンジュさん、大丈夫ですか?」

 

 気が重いままスヴェンと別れたアンジュの後ろにいたユーフェミアが心配する声をかける。

 

「ああ、うん……ちょっと気が重いかな?」

 

「やはり……お家騒動のことですか?」

 

 昔も最近も活発&男勝りなアンジュが苦笑いを上げたことにユーフェミアは少し気が引けたが、聞かれずにいられなかった。

 

「う~ん? そうとも言えるし、そうと言えないのかな?」

 

 ジャージ姿の二人が来たのはディーナ・シーにある一つの個室で、アンジュがノックもせずに入ると白衣を着た船医が寝たきり状態のままであるジュライ(アンジュパパ)がいた。

 

 実はスヴェン、『行政特区事件』の前で気丈に振舞おうとしていたアンジュが、どこか張りつめていたことから『恐らく家族がらみだろう』ということでマ()にジュライの保護を頼んでいたのだ。

 

 単純に自分も関わったことから責任を感じていたことと、どこかでアンジュがミスをしないようにという配慮だったそれは毒島がスヴェンを気分転換に連れ出した行動に似ていた。

 

「お父様の容態はどう、ドクター?」

 

「ラクシャータ先生が言ったように、療養を……」

 

 船医の視線がアンジュから、彼女の後ろにいるユーフェミアに移る。

 

「いいわよドクター。 彼女は学園時代の友人だし、スヴェンからもお墨付きよ。」

 

「そうですか。 先ほど言いかけたように、療養しても容態が回復する望みは薄いですね。」

 

「でも悪化はしないのでしょう?」

 

「ええ、まぁ……ですがそれならば私たち乗組員たちだけでも────」

 「────駄目よ。」

 

 アンジュがいつになくキリッと真剣な顔になったことで、船医が思わず気圧されそうになる。

 

「彼が居なければ、今の私はいなかった。 それにどんなに変わっても、私の父親ですもの。 私も介護に参加するわ。」

 

 ユーフェミアは少し戸惑いながら、死んでいるかのようなジュライがわずかにだけ息をしていることと以前に噂話程度で聞いたアンジュの実家の出来事で大体のことを察していたが……こうも実物を見るとどう表現すればいいのか分からない複雑な気持ちに陥り、どう声をかければいいのか分からなくなった。




というわけで『亡国のアキト編』に突入する……と思います。 (汗

少なくともEU入りはする予定です。 (汗汗汗

独自解釈に独自設定等々がさらに続きますが、温かい目で見ていただけると幸いです。

あと『キャラが多い』という感じもしてきましたので、軽~く今まで出てきた『主な登場人物の紹介』のようなものを次話で出すかも知れません。


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亡国のアキト+双貌のオズ
第93話 幻術使いのオズとワイバーンたち


大変長らくお待たせいたしました、本調子とまではいきませんがかなり休まった状態でコツコツと書き上げた次話です。

やっと亡国のアキト編突入で更に独自設定や解釈に急展開が続きますが、楽しんでいただければ幸いです。


『コードギアス』の世界にある三大国のブリタニア帝国、中華連邦、そしてユーロピア共和国連合(EU)

 

 この三つだけで世界の大半を表すことは可能だがここで面白いことに『ユーロ・ブリタニア』と言った国も存在し、大国であるEUと長年敵対している。

 

 それを可能としている理由は名前から察せる様に、ユーロ・ブリタニアはかつてEUで起こった市民革命から逃れるためにブリタニアに亡命した貴族の末裔の『先祖の地奪還と独立国家の再現』を夢見る者たちで結成された小国で、ブリタニアからの支援もあるからだ。

 

 ブリタニアはユーロ・ブリタニアを今でいう、『代理戦争の駒』にしようとブリタニア製のナイトメアや物資を授け大国の一つであるEUと互角に戦えるように調整していた。

 

 過去形である。

 

 そこで元ナイトオブツーであったミケーレ・マンフレディが関わってくる。

 

 彼はラウンズの座を返上し、彼は自身と自分が立ち上げた聖ミカエル騎士団を、正式に新しく立ち上げられたユーロ・ブリタニアへ移籍したことで、ブリタニアはユーロ・ブリタニアを危険視し始めた。

 

 当初、ブリタニアはユーロ・ブリタニアを使って疲弊したEUを取り込む、あるいは有利な和平条約を結ばせようとしていたのだ。

 つまりブリタニアにとって、ユーロ・ブリタニアの悲願である『先祖の地奪還および独立国家』の目標は邪魔でしかない。

 

 現に、ミケーレ・マンフレディと聖ミカエル騎士団が投入された戦線でユーロ・ブリタニアはEUと互角どころか、大国のEUを押し返していた。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 近くには荷物を入れたスーツケースを横に、一人の金髪青年が公園かどこか緑豊か場所にある木に背中を預けて今時珍しい紙の新聞を広げる。

 

『聖ミカエル騎士団のシャイング卿、またも勝利をもたらす!』

 

 上記の文字がデカデカと書かれていた記事を読むフリを青年がしながら周りを見ていると、不自然なほどにリズムカルなチカチカとする光が目に止まる。

 

 彼はそのまま新聞を折りたたんで脇の下に挟み、スーツケースを持って公園を出る。

 徒歩で十分ほど歩いてとある飲食店に入り、『荷物があるから』とテーブルを指名するとサンドイッチとテイクアウト用のコーヒーに紅茶を一つずつ注文する。

 

 注文したそれらが来くると青年はサンドイッチを頬張り、コーヒーで流し込んでいると飲食店の者が『他の旅行者との相席でもいいですか?』と聞いてくると青年はふんわりと優男風の笑顔のままそれを了承する。

 

「すまんな、こちらも荷物がある身なので。」

 

 すると冴えない、目の下にクマをした中年男性が反対側に座り込みながら青年のようにテーブルの下にスーツケースを置いて紅茶を店に者に頼む。

 

「いや、こちらこそすまない。 貴方が()()でしょうか?」

 

 青年は優男風のまま、ナプキンで口を拭くフリをしながら小声でそう言を並べると中年男性────『オズ』と呼ばれた男がハンカチを口に当てて咳き込みながら頭を縦に振り、テーブルに置かれた紅茶を口に含む。

 

「……アンタがガレス・ベクトルか。 聞いていたより若いな。」

 

「お互い、対策はして当然ではないだろうか?」

 

「それもそうか……では前置きは無しにしよう。 ガナバティを通じての依頼されたブツの確認を。」

 

 青年が会計を頼むと自分のスーツケースではなく、『オズ』の持ってきたスーツケースを開けて中身を確認する。

 

「確かに。 そちらも────」

「────確認は後でする。 なければアンタの為に用意したそれをブリタニアにバラすだけだ。 それで? “口頭でお伝えしたいモノ”とははなんだ?」

 

「『プルートーン』。」

 

 ビキ。

 

 青年がその言葉を口にした瞬間、中年男性が持っていたコップからヒビが入るような音がする。

 

「自分が依頼をしたいのは、彼らを見つけたときに連絡を入れて欲しい。 その分、追加は────」

「────俺のほうから伝えておこう。」

 

 青年はコーヒーを飲み干し、『オズ』が持ってきたスーツケースをテーブルの下から出して立ち上がろうとする。

 

「聞かれていないが、“自分も借りがあるから”とだけ言うよ────」

「────よく(オズ)が紅茶好きだったのを知っていたな。」

 

『オズ』の言葉が僅かに冷たくなっていたことで、青年は緩んでいた靴の紐を直すかのようにしゃがむ。

 

「『プルートーン』。 そして俺の容姿に関する言葉……ギアス饗団の者か?」

 

「貴方と同じく、『饗団に目を付けられている者』だ。」

 

「俺はアンタが信用できない。」

 

「手元のナプキンを見てくれ。」

 

『オズ』が思わず青年の言われたように手元を見ると()()()()()()()()()()のナプキンがそこにあり、連絡先が書かれていた。

 

「これが饗団に目を付けられている理由だ。 信用できなくとも、『オズ』の敵じゃない。」

 

「……スーツケースの一部は二重になっている。 そこに携帯電話が入っている。 こちらの連絡先を表示するには0451を送信すればいい。」

 

『オズ』は立ち上がった青年を、そのまま飲食店の外に出てもなお視界から出るまで目で追いながらテーブルの下に残されたスーツケースの中身を確認してから会計を済ませ、外の人混みの中に紛れると中年男性から青髪の少年に姿がするりと変わりながら付いているかも知れない尾行を巻くための動きに入る。

 

「(アイツ……時間や体感操作をするギアス能力者か? だとすれば俺のようにギアス饗団から逃げ出した? あるいは俺たちピースマークを探るために接触した手先? どちらにしても、俺の前で能力を使った理由はなんだ? まさか、本当に『敵ではない』と示したいだけではないだろう。 黒の騎士団に送られたラクシャータを経由してガナバティを通しての『依頼』がヒントか?)」

 

『オズ』は尾行者が居るかどうか確認するために上がった建物の屋上から、とある方角を見る。

 

 未だに戦火の炎が絶えない、EUの方角を。

 

 

 

 


 

 

 ぬああああああああああ!

 失敗してしもたぁぁぁぁぁ!

 

 俺は『優男風』のまま、頭を抱えたい衝動を抑えながらあみだくじのように角を曲がったりしながら都市の辺境まで歩いたり、タクシーを呼んであっちらほっちらと向かう。

 

 説明しよう! (俺なりのアレボイス。)

 

『オズ』────本名を『オルフェウス・ジヴォン』と言い、『双貌のオズ』の男性主人公である彼は、VVのギアス饗団の元ギアス能力者で同じ饗団員のエウリアという子と相思相愛になり共に饗団を脱走した。

 

 が、それを良く思わなかったギアス饗団……いや、VVはブリタニアの裏部隊を彼と彼女が静かに暮らしていた小さな村に送って村人ごと虐殺。

 

 その裏部隊が『プルートーン』で、唯一の生き残りだったオルフェウスは彼らとVVを憎んでいる。

 

 さて。

 なんで俺がこのプルートーンの事をオルフェウスに頼んだかだが、何も彼との接触を図っただけではない。

 

 実はブラックリベリオン時の事を聞いている内に、トウキョウ租界で毒島達を足止めしていた機体がプルートーン仕様と一致していたからだ。

 

 それに『ゾンビのように再生する機体』なんて、『ナイトメア・オブ・ナナリー』のギアスユーザー能力にあった筈だ。

 

 つまり、俺たちアマルガムとまた衝突する可能性が出てくる。

 

 ならばこの際と思い、オルフェウスの所属する反ブリタニア支援組織の『ピースマーク』と接触したが……

 

『そういやオルフェウスって紅茶好きだったよな?』の考えが、逆に彼の警戒心を引き立ててしまった。

 

 ちくせう。

 

 え? 『そりゃ突拍子もなく、自分の好物を知られているムーブをすれば誰でも警戒するがな』、だと?

 

 ……………………俺だって今考えたらそれがどれほどのNG行為か理解するが、俺だって緊張していたんだよ。

 

『何で』かって?

 オルフェウスのギアスは『完全変化』といい、『周りの認識を操って錯覚を見せる』奴で声だけでなく服装や持ち物も変化させて騙せる。

 

 まぁ、単純に『幻術』だな。

 

 それをオルフェウスは多分発動していたのだろうが、俺からすれば()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 

 つまり、オルフェウスがギアスで変装したであろう老若男女の仕草や動作をしていてもうなんか彼に『一人漫才お疲れさん』と言いたかった。

 

「お客さん、最終地点だよ。 降りないのかい?」

 

 俺の意識は、眠たそうなバスの運転手によって戻される。

 

 うん、現実逃避を兼ねた居眠りは止めよう。

 もう起きたことは起きたのだから心を入れ替えて胃薬を服用、っと。

 

 俺はバスから降りて、これから忙しくなるであろう日々を考えただけで憂鬱な気持ちになりそうになるが、深呼吸してそれを消し去りながらペテルブルグの街並みを見上げる。

 

『情報屋のスヴェン』として、根回し開始だ。

 

 

 


 

 

 

 三大国の一つであるEU、正式名を『ユーロピア共和国連合』という国の発端は現在で言うところのフランス革命期から始まる。

 

 当時の市民革命は欧州諸国にまで広がり、首都をパリに成立した共和制新政府の統合体がユーロピア共和国連合となり、その規模とそれに伴う資源はブリタニアと互角でありその証拠にブリタニアとは昔から小競り合いを続けている。

 

 互角である筈なのだが、何故ぽっと出の小国である筈のユーロ・ブリタニアをすぐに制圧して攻勢に出ていないとなると、単に『コードギアスの世界でナポレオンは軍事独裁政権を作れずギロチンに処されているから』。

 

 つまり軍事力の収束や扱い方に関しては『お粗末』と呼んでもまだまだ甘く、EUを実際に動かしている政治家たちにとって戦はあくまで『外交手段』である。

 

 約二百年と少しほど維持されている共和制の政治家や、古い考えを持った武官たちの9割が、いずれも『無責任主義』、『利己主義』、『拝金主義』のうちの一つに入ってしまう。

 

 よって正規軍の兵士たちの士気は皆無に等しく、大義()よりも己の命(独断)が勝り、実戦でも銃火器を撃つのは威嚇と同等の『数を撃てばいずれ当たる』等々の失態が絶えない。

 

 中華連邦が『無い技術を人口に補わせて物を言わせる国』なら、EUは『そこそこの人口と技術を巧みに組み合わせて物を言わせている国』である。

 

 そんな頽廃と官僚主義が蠢く中、とある特殊部隊がEUでもかなり有能なジィーン・スマイラス将軍の元で編成されたことで今まで優勢だったユーロ・ブリタニアの進行が止まっていた。

 

 その特殊部隊とはコードギアスの世界でも珍しく、部隊のほとんどが元日本人────イレヴンで結成されていた。

 

 部隊の名は『独立遊撃部隊』通称『wZERO』で、指揮系統は他の部隊と比べてかなり単純化されており作戦実行するまで時間がさほどかからないのが特徴の一つである。

 

 そんな部隊が、包囲されたEU軍を救出するため突撃作戦を開始していた。

 

『て、敵襲! 敵襲です!』

 

 作戦地域はEUの正規軍が包囲されたナルヴァの町から少し離れた森。

 

『なんだと?! ファクトスフィアの探知に引っ掛からなかったぞ?!』

 

 比較的に前線から離れたここで、ユーロ・ブリタニアの後方支援部隊は潜伏していたがまるで()()のように突然出てきた『敵』と思われる者たちから攻撃を受けていた。

 

『まさか、噂に聞く“亡霊”たちか?!』

 

 ドォン!

 

 つい先ほどまで静寂だった森に爆発音が響き渡り、一気に銃撃音が続いては騒がしくなっていく。

 

 森の中をユーロ・ブリタニアのサザーランドがランドスピナーを展開させる独自の音と共にアサルトライフルを乱射し、クモを思わせる四足歩行でガシャガシャと木の根などごちゃごちゃした地面を物ともいわさず対応した機体が背中に取り付けていた機関銃で応戦する。

 

 ドォン!

 

 そんな中、クモたちはサザーランドが密集したところに飛び込むと爆発して敵もろとも道連れにする。

 

『味方機も3機同時に信号途絶!』

『まさか、自爆か?!』

『EUの腰抜けどもがか?! ありえん!』

 

 そんな光景を間近で見ていたサザーランド達がクモの様な機体たちから距離を取り戸惑う。

 

 上記でも言及したようにEUは戦を良しとせず、市民からの追求を受けることを極端に恐れている。

 

 何せ『選挙(権力)』に響くからだ。

 

 その為、『wZERO』のナイトメア実行部隊である『ワイバーン隊』は『正式に自国民の数に含まれない人種(元日本人)』で結成された部隊だった。

 

『戦死したパイロットの家族にはEUの市民権が与えられ、十分な保障が約束されている』という条件を元に志願した数はおよそ百人の元日本人の少年や青年たち。

 

 ここ(EU)でもブリタニアとは同じく差別は激しく、違う意味や名称で『名誉ユーロピア人制度』のようなモノで結成された部隊がEUで作られていた。

 

 ………

 ……

 …

 

「4号機、信号消失!」

「これで残りのアレクサンダは11機です!」

 

 明らかに前線から離れた別の司令室のようにずらりとモニターや機器が並ぶ場所の中で、EUの軍服を着た黒髪ロングで眼鏡をした少女────ヒルダ・フェイガンが蜘蛛のような機体────アレクサンダの信号消失を告げると、彼女の隣にいたオレンジ色でふんわりしてそうな髪と見た目をした少女────クロエ・ウィンケルが残存兵力の報告をしていく。

 

 ビビィ、ビビィ!

 

「ユーロ・ブリタニアのナイトメア、更に作戦エリアに侵入!」

 

 モニターに新たな敵影と思われる反応にそばかすで金髪のピグテールをしたオリビア・ロウエルがヒルダとクロエに続く。

 

「8号機の自爆確認! 敵ナイトメア2機が消滅!」

 

「たった2機だけだと?! ええい、もっとイレヴン共に前進させろ! さっさと敵が多い場所を捕捉させて自爆させろ!」

 

 佐官のバッジが付いたEUの制服を身に纏い、短く刈り揃えられた灰色の髪に伸ばした顎鬚をした男────ピエル・アノウ中佐が次々と自爆する友軍の後押しをしていた。

 

『132連隊撤退支援作戦』。

 それがペテルブルグ奪還作戦に失敗したEU軍撤退の支援作戦名であり、wZERO部隊が今まで実行してきた作戦の中で一番大規模なものだった。

 

 当初の作戦は大量の戦力を一気に導入し、短時間の奇襲作戦で包囲網の一角を担う聖ラファエル騎士団を退かせる予定だった。

 

 だが、wZERO部隊の指揮官であるアノウ中佐は正規軍の戦力増加要請をするどころか『自分の用事を済ませてきた』とだけ言い、作戦開始直前にアレクサンダに自爆装置を取り付けて作戦を自爆特攻に変更させていた。

 

 今まで小さな作戦ばかりとはいえ、散々使い潰されたワイバーン隊は今や数十人規模まで減っていた。

 

『クッソォォォォォォ!』

『死にたくない……でも、あんなところ(ゲットー)に戻されるよりはマシだ!』

『やるしかないんだ!』

 

「パニックの症状がおさまらない! ジョウ・ワイズ、ステロイドの投入はまだ?!」

 

 ワイバーン隊に残った物たちは悲観的になりながらも特攻を仕掛ける声が通信越しに聞こえ、白衣を着た赤髪の女性、ソフィ・ランドルが小太りで飴を咥えた汗っかきのジョウ・ワイズに確認を取る。

 

「さっきから投入はしているんですが、限界値を超えて────」

「────レイラ・マルカル参謀!」

 

 ジョウ・ワイズが気弱そうに上記の言葉を上げると、イラつきを隠せていないアノウ中佐が司令室でひっそりと立っていた腰まで長い金髪ツインテールの少女────レイラ・マルカルに開き直る。

 

「これは一体どういうことかね?! 君の予測より、敵が多いのはなぜだ?!」

 

「奇襲とはいえ少数の戦力の上に敵地の勢力圏内で作戦が開始してから一時間も経過すれば、必然的な結果と思われますが?」

 

 血管を浮き出させる程に怒りを表すアノウに反し、レイラの声は冷酷なものだった。

 

「言い訳はいらん! そもそも貴様の提案した作戦に欠陥があるんじゃないのかね?!」

 

「当日直前に、作戦に手を最後に加えたのはワインボトルを手にしたままのアノウ司令ですが?」

 

「う……そ、それは関係ないだろう!」

 

 怒鳴り散らすアノウに、レイラの正論が刺さったのか彼の目は泳ぐ。

 

「お言葉ですが、意図的に戦力を消耗させる作戦はメリットが────」

「────貴様は自爆システムをアレクサンダに加えたのがそれほど不服か?! 相手はイレヴンなんだ! 奴らの事を知っているだろう?! イレヴン共は昔から『セップク』とか『カミカゼ』や訳の分からん、『トウドウに続け』など言いながら敵を道連れにする特攻や自爆などが大好きな民族なんだぞ?!」

 

「アノウ司令。 このまま『ワイバーン隊』が全滅し、ユーロ・ブリタニアがナルヴァから撤退する正規軍を壊滅させれば彼らの脱出路を確保するはずだった我々wZERO部隊に責任が問われます。 その過程で、今までの事も明るみに出るかも知れませんでしょう。」

 

 レイラの指摘に、アノウはようやく自分のやった事の重大さの実感が湧いてきたのか大粒の汗を流し始める。

 

「………………き…………貴様の所為だ!」

 

 アノウ中佐は腰の拳銃を抜いてレイラの額へと向ける。

 

「貴様の所為で! 貴様の立てた作戦の所為だ!」

 

「貴方にその引き金を引くことは無理です。」

 

「ッ。」

 

「昨夜、よほどの量を飲まれたと思われます。 目の焦点と、銃の狙いが定まっていません────」

 「────うるさぁぁぁぁい!」

 

 パァン!

 

 アノウ中佐が引き金を引いた際ガク引きが起こり、銃弾は司令室の壁に撃ち込まれ、発砲音で警報が鳴ってオスカー・ハメル少佐率いる警備隊が部屋になだれ込むまでのわずかな時間内に、レイラは合気道でアノウ中佐を地面にねじ伏せていた。

 

「こ、これは────?」

「────ハメル少佐、警報を止めてください! クラウス中佐、緊急事例三〇五号────!」

「────へいへ~い。 『クラウス副司令、司令官の交代を承認』、っと。」

 

 ハメル少佐の部下が警報を止めている間にレイラが副司令の席に座っていた未だにやる気ゼロを見せる中年の男────クラウス・ウォリック中佐に声をかけ、気を失わせたアノウ中佐をハメル少佐の部下に引き渡す。

 

「なぁ、マルカル司令官殿? 焦る気持ちは分かるが、何もあそこまで挑発することは無かったんじゃないの────?」

「────クレマン大尉、作戦変更! アレクサンダの自爆ユニットを解除────!」

「────新たなナイトメアが作戦エリアに侵入……い、いえ! 出現しました?! こ、これは?!」

 

 レイラの事をオリビア・ロウエルが驚きの声を上げて思わず遮ってしまう。

 

「どうしたの、オリビア?!」

 

「新たに現れたナイトメア、識別反応がE()U()とだけ返ってきています!」

 

『wZERO部隊』やEUだけでなく、コードギアスの正規軍ならば識別信号はどこの国であるかと、どこの部隊かの二つの情報を映し出すようになっている。

 

 このように、国だけの信号は明らかにイレギュラーであり本来はありえない。

 

『こちら傭兵のスバルだ。 アノウ司令、契約通り作戦エリアに来た。』

 

「「「「「……………………は?」」」」」

 

『EU』とだけモニターに映る機体からアノウ中佐へと、司令室の中にいる皆の視線が移る。

 

 「ブクブクブクブクブクブク……」

 

 レイラに無理やり気を刈られ、白目を剥きながら口から泡がブクブクと出るアノウ中佐を。

 

『これより、残ったワイバーン隊の援護に回る。』

 


 

闇と破壊される街の中を走り、動乱の絶望にまみれて見たあの光。

キラリと光る糸は、果たして希望か悪魔の餌か。

灰色の雪が舞うEUに、幕が開く。

 

次回予告:

世界平和を望む日本人たち

 

整備士(黒子)と違って傭兵(表役)に必要なのは、理由と少々の見返りである。

 

 

 

 

 

 

久しぶりに次回予告ができました。 (;´ω`)φ..イジイジ



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第94話 世界平和を望む日本人たち

急展開の続く次話です。

あと視点が所々変わりますが、楽しんでいただければ幸いです。


「これより、残ったワイバーン隊の援護に回る。」

 

 そう俺は昨夜酔い潰れさせ────ゲフン、ゲフン────()()高い酒を奢って()()()なったアホウアノウ中佐と契約を交わした際にもらったワイバーン(wZERO実行部)隊の周波数に通信を送りながら、秘かに願った。

 

 “アノウ、頼むから通信を返さないでくれ” 、と。

 

 あのア()ウ、“滅多に飲めない高級なワインだから”ってガブガブと飲んだ挙句にどこぞの他作品エジプト(俺は世界一の指揮官)人みたいなセリフ(なんだぁぁぁキャッキャッ)を言いふらし始めて、フォローが大変だった。

 

 そのおかげであの量に酔いっぷりで、多分記憶が飛んでいるな。

 

 というか飛んでいてくれ。

 

 どっちにしても、ちゃんと契約書があるからア()ウが認めたくなくとも────

 

『こちら、マルカル司令です。 アノウ中佐は先ほど退室されました。 先ほどご自分を“傭兵”と自己紹介を成されましたが────』

 

 ────なんで声が『ゼロ距離射程でどデカい戦艦をミスるマリア』なの?

 

 それともEU(フランス人)だからこの場合、『脳筋旗振り目潰し聖女』になるのか?

 “リュミノジテ・エテなんちゃらかんちゃら~”ってか?

 

 いや、それ(他作品ネタ)は今どうでもいいか。

 集中するんだ、俺。

 予定(原作)通りで逆に安心するんだ。

 

「俺はスバル、先ほど言ったように傭兵で()Z()E()R()O()()()()()()()()身だ。 これより契約通り、ワイバーン隊の援護に入る。 契約書の電子版を送るが、もし契約違反事項に当たるか質問などがあれば聞いて来てくれ。」

 

 答えるかどうかは、俺の現状次第だけれどネ?☆

 

 そう言いながら俺は前にマ()を探し出すために開発した小型無人機(ドローン)*1から得たデータを地図に表示させながら、動きだす。

 

 しっかし、森の中だけあって地面が凸凹してやがるな。

 

 今の俺にとっては、とっても好都合なんだけれども。

 

 よーしよしよし。

 小型無人機(ドローン)からくる情報は精密かつリアルタイムで入ってきているぞぉ~。

 改良したからファクトスフィア……の一歩手前ぐらいの情報量だ♪

 

 さて、作戦開始(ミッションスタート)

 

「全機、そのままインセクトモードで西の森林地帯に急展開しろ。 7号機と9号機は威嚇射撃しつつ後退────」

『────誰だ、あんた────?!』

「────誰でもいい、生きたければ俺の声に従え。」

 

『そもそも援護ってなんだよ────?!』

「────トラップ()を仕掛けたところに敵を誘導するのが、俺の言う援護だ。」

 

 もう察しているかもしれないが、俺が今行っているのは『原作ルルーシュが第二話でやった真似』をオマージュしたものだ。

 

 ちなみにこれらのトラップの大半は小型無人機(ドローン)から信号(シグナル)を送って発動するタイプもあれば、原始的なワイヤーと対KMF兵装を使ったブービートラップもある。

 

『それ、ワイバーン隊にも被害が出るじゃねぇか!』だと?

 

 そこは配慮して、()()()()()()()()()()()()()()()タイプにしてある。

 どうしているかは『企業秘密』とだけ言っておこう。

 

 強いていうのならば、『ぺらっぺらの服を着ても全く風邪を引かないマッドサイエンティスト』だ。

 

 

 


 

「ぶえっくしゅ!」

 

「珍しいですね博士、もしや風邪ですか?」

 

「「「「(ずっとどこに行ってもへそ丸出しで“珍しい”……だと?)」」」」

 

「バカ言うんじゃないよ、ただの風邪ならいつも飲んでいる特製の栄養剤で抑えられるよ。」

 

「「「「(症状を抑えているだけなんだ?!)」」」」

 

「こりゃどこかで誰かが回りくどい感謝をアタシにしているやつだね。」

 

「あー、かつての同僚(伯爵)とk────?」

 「────次にバカなことを言ったらその口をホッチキスで縫うわよ?」

 

 耳鳴りがなるほどの『沈黙空間』が黒の騎士団の潜水艦内で発生したそうな。

 

 主に不機嫌な、苦虫を噛みつぶしたような不機嫌オーラマシマシなラクシャータの周りで。

 

 

 


 

 

 場所は森の辺境へと変わるとそこにはでブリタニアではなく、ユーロ・ブリタニアのエンブレムが刻まれたG1ベース内の指令室へと移る。

 

「これは……敵の動きが変わりました!」

 

 中の士官がそういうとウェーブのかかったシルバーブロンドの男────聖ラファエル騎士団の総帥であるアンドレア・ファルネーゼが座っていたアームレストについたコンソールを操り、出した画面に目を移す。

 

「(……今まで我が騎士団が密集している場所に猪突猛進の勢いで来ていた敵が身を隠し始めた? 戦力を温存するためか? それとも今更だが、何か別の……)」

 

「えっと……担当地区を敵に食い込まれた部隊の何割かが前進と追撃の許可を申請しております。」

 

 士官が振り向いてみたのはアンドレア・ファルネーゼより年を取ったナイスミドル&髭をした参謀らしき男性だった。

 

「ファルネーゼ卿、これは────」

「────今まで愚鈍な指揮をしていた者が交代されたのだろう。 が、敵は市民兵に変わりはない。 全軍に通達せよ、“敵の新たな動向に注意されたし”、と。 本隊が包囲したEUを殲滅するまで戦線を維持するのが我ら────」

「────第2、第5小隊の信号が消滅しました! 爆発が森の各地で続いています! 他の小隊も敵の攻撃に合い、上手く機動を活かせないとのことです!」

 

「ッ!」

 

 アンドレア・ファルネーゼは先ほどコンソールに出した図面を拡大化していくとハッとする。

 

「(しまった! 我が騎士団たちと今まで衝突し自爆していた機体たちの所為で森の地形が変わっている?! まさか今までの動きは────)」

「────それと、敵は歩兵用の対ナイトメア兵装などを巧みに使用しているとのことです!」

 

 アンドレア・ファルネーゼや他の士官たちが見ている前で聖ラファエル騎士団のサザーランドが主に次々と『信号消滅(シグナルロスト)』、あるいは『大破』と出てくるのを見て思わざるを得なかった。

 

「やはり、これは────」

「────ファルネーゼ卿、援軍の要請をお出し下さい! このままでは本体の包囲網に維持するための戦力が保てません!」

 

「参謀……敵の全容も定かではないまま、これ以上友軍を本体から引き離せば包囲網が崩れてもおかしくはない。 撤退だ。」

 

「……は?」

 

「恐らくだが、今までの自爆は我々の目と注意を敵のナイトメアにだけさせる巧妙かつ冷酷な戦術。 本命は恐らく自爆で変わった地形と森であることを利用し、ありとあらゆる場所に対ナイトメア武装を設置した罠だろう。 罠が周りにあるかも知れないと疑惑が生まれれば迂闊には動けなくなり、戸惑いを更に生む。 さらに地形が変わってしまってはランドスピナーを使ったナイトメアなど、ただ鈍足な砲台()と変わらん。」

 

「で、ですがファルネーゼ卿……敵はいつの間にそのような罠を設置していたというのです? 敵はナイトメア────」

「────そこが恐ろしいところだ、参謀。 恐らくは()()()()だろう。」

 

 参謀がギョッとし、ユーロ・ブリタニアとEUのナイトメアらしき反応しか出ていないモニターを見る。

 

「この騒動の中で、歩兵部隊ですと?! 正気の沙汰では────」

「────だから私は言ったのだ。 “巧妙かつ冷酷な戦術”だと。 本来、自身の戦力をワザと削ぎ落とすことは邪道だが敵兵に……いや。 敵味方に関係なく、人間であれば“恐怖”や“戸惑い”に“困惑”などの心理的脅威を無意識的にでも芽生えさせるには十分だ。

 そこに実体のある脅威を“罠”や“反撃”として付け加えれば、余程の練度や修羅場をくぐった猛者でなければ感情が邪魔をし、戦力はさらに低下するだろう。」

 

 アンドレア・ファルネーゼは指でこめかみを押さえ、撤退命令に従いながらもEUの追撃に合う聖ラファエル騎士団員たちの信号を見る。

 

「(これではまるで、ブリタニアのエリア11を騒がせた『黒の騎士団』ではないか……) せめて、戦いにて倒れた者たちの弔いは丁重に行わなければな。」

 

「ファルネーゼ卿……」

 

「フゥ……(まさか我ら聖ラファエル騎士団が、E()U()()()()()()()()()()()()()()()()の相手をするとはな……迂闊であった。)」

 

 ファルネーゼ卿がため息交じりに思っていたことはあながち、間違っていなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 上手くいって良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ア()ウの奴と接触してからペテルブルグに先回りしていたのが時間の無駄に終わらなくてよかったぜ……

 

 マジで。

 

 一応、『亡国のアキト』の原作オープニング開幕エピソードが『ペテルブルグの途中のナルヴァ近くの森』で『沼地もある』ってだけの描写(ヒント)だったから何とか作戦エリアっぽいところを絞り込めたけれど……

 

 マジ広範囲過ぎて全体の1割未満にしか設置できなかったよトホホギス。

 

 設置に時間と労働力を費やしていたからどこぞのコマンドーアー〇ルドみたいにビバーク(潜伏)していたら案の定開戦してしまって、俺がいた場所が『132連隊のナルヴァ包囲網』の一部だったわけで、無事に『亡国のアキト』に介入出来た。

 

 まぁ……『無事』と呼べるかどうかは正直、曖昧なところだが。

 

 そう思いながら俺はナルヴァの包囲網が薄まっていたエリアになだれ込むEUの援軍らしき動きの方向に歩きだしながら、背負っているギターケースのストラップをし直す。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ブロロロロロロロロロ。

 

 俺が大道路(と言っても『少し整備された土道路』)に出るとEUとユーロ・ブリタニアとの小競り合いが既に終わったころでEUの132連隊が援軍と共にナルヴァから撤退している場面に出くわし、先ほど賄賂を渡して譲ってもらった荷台にトラックシート付きのトラックを運転していた。

 

 IDチェックは偽造済みというか、さすが高い金を払っただけあるかというか、ピースマークというか……

 

 横にはトロトロとゆっくり走るトラックからEUの正規軍等の話し声が、EUのナイトメア()()()であるパンツァー・フンメルのズシンズシンとした重苦しい足音越しに聞こえてくる。

 

「やっっっっと帰れるぜ!」

「ああ! 相変わらず援軍が来るのが遅かったな?!」

「多分あれじゃね? いつもの“戦況を見極めていた”とか?」

「多分な。 でもたまには良いんじゃね? キャンプと思えばさ?」

「言えてる言えてる! これで基地のレディたちに『無事に死地から生還した戦士』って名乗れるな!」

「「「ハハハハハ!!!」」」

 

 最後の兵士の言葉でゲラゲラとした笑いが風に乗って俺の耳から消えるころには、目当ての白い機体たちが道の先で何体か座り込んでいる様子があった。

 

 あれらは第七世代辺りに相当するヨーロピア共和国連合(EU)の試作機、型式番号『W0(wZERO)X』。 

 

 通称『アレクサンダ』で技術系統は通常のナイトメアと違うからか細い四肢をしたそれは、EUの現主力機である『パンツァー・フンメル』とはあらゆる面で違う。

 

 アレクサンダはランドスピナーも付いているが、特徴的なのは脱出システムがないことと、機体を虫のような形状に変形させる『インセクトモード』。

 あともう一つあるが、今は置いておくとしよう。

 

 さっきも言ったが、パンツァー・フンメルはナイトメア()()()

 見た目だけならば戦車に無理やり足を取り付けたような『二足歩行重戦車』だ。

 マニピュレーターもなく、スラッシュハーケンも『近距離まで来たヘリを何とか落とせる』オマケ程度の威力しかなく、完全に砲撃戦のみを想定したデザインだ。

 

 本来ならナイトメアと部類されないこれを、EUは『自国のナイトメア』と称している。

 いや、“称しなければ自国民に示しがつかない”と言い換えよう。

 

 あまりにも『二足歩行重戦車』と聞いて俺が連想した(メタル)歯車(ギア)兵器をバカにしたようなこれらを、俺はナイトメアと思っていない。

 

 せいぜいが『自走型砲台』だ。

 

「チッ、よりによってイレヴン共かよ。」

 

 おっと、(プチ)現実逃避はここまでのようだ。

 

 アレクサンダのパイロットらしき少年たちの中でも満足に動ける奴らが自分のIDを、EUのトラックを運転している兵士に見せると兵士が舌打ちしながら明らかに嫌そうな顔をしてID等を投げ返す。

 

「ナイトメアと一緒に後ろの荷台になら乗っけてやるよ。」

 

 明らかの足元を見たEU兵士の言葉に、立つのがやっとなほどの元日本人の少年たちは、互いを見てから後ろにある様々な状態の同胞やアレクサンダたちを見る。

 

 トラックの荷台に、少年たち全員ぐらいは乗れるだろう。

 

 だがアレクサンダは機体をインセクトモードで折りたためたとしても、せいぜい一機だけ。

 

 破損はしているが、一応EUの機体をこんなところ(敵地)置いていく(独断破棄)なんてしたら絶対に上層部にいちゃもんを付けられ、約束されたEUの市民権なんて貰えないだろう。

 

 それに、EUの隊列に他の荷台が空っぽのトラックもあるが……目の前の運転手と違い、止まる様子はないな。

 

 ……よし、やるか。

 

「すまん、少し良いか?」

 

「あ? 誰だテメェ?」

 

 近づいて横から割り込んで来た俺をEUの兵士が睨むが、俺は平然としながらごそごそと横のバッグから封筒を出してそれを開けて中身を見せると一気にEU兵士の目の色が変わる。

 

「少し礼儀が足りなかったな。 一台の代はこれで良いか?」

 

 ちなみに封筒の中身は今時コードギアスでも珍しい札束だ。

 勿論、EUのモノで本物である。

 

 その証拠にEUの兵士が渡した一部のすかしなどをチェックしていくとニヤニヤした笑顔が大きくなっていき、漫画だと目の中に“金”という文字が浮かび上がっていただろう。

 

「へ、へへ……いいぜ。 特別に────って()()だと?」

「────この機体たちのエナジーが心許ないらしいのでな。 他の奴らに声をかけて了承してくれればその分、お前自身への支払いも追加しよう。」

 

「……お前、ひょっとしてどこかの御曹司か何かか?」

 

アンタ(金の亡者)にとってはどっちでも良いだろ?」

 

「……違いねぇや。」

 

「アンタ、通信の奴か。」

 

 EUの兵士がほかの荷台が空っぽのまま走っているトラックに携帯で声をかけていくと今まで黙っていた元日本人の少年の中でも珍しい、青のかかった長い髪を三つ編みポニテにしている少年が口を開ける。

 

「そうだ。 俺はお前たちの援護(世話)を頼まれた傭兵だ。」

 

「俺たちは何も聞いていない。」

 

「直前に作戦の変更があったらしいからな。 聞いていないのも無理はない。」

 

「……そうだな。」

 

 この感情を余り表に出さずに淡々とだけ喋るクールっぽい少年こそ『亡国のアキト』の主人公、『日向アキト』だ。

 

 そして俺がここ(EU)に来た理由の一部でもある。

 

「一応コピーだが、契約書を見るか?」

 

「ああ、見よう。」

 

 うし。 やっぱりアキトは原作通り、任務や約束の類には忠実な性格っぽいぞ。

 

 そのまま契約書をアキトに渡すとほかのワイバーン隊の奴らと一緒に読み始め、俺は立つことができなくて横になっていたほかのワイバーン隊の応急処置をし始める。

 

 やっぱりア()ウの奴、使い捨てるつもりで訓練も『ナイトメアを動かす』だけしか施さなかったか。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 あとで()に釣られてきたトラックたちの相手をし、金を渡して残ったアレクサンダとそのパイロットたちを乗せたトラックたちと一緒にドライブ中。

 

「お前、日本人か。」

 

「そうだ、悪いか?」

 

 そしてさっき渡した契約書のコピーが背後からヌッと出てくる────って、寄りにもよってアキトが乗ってくるのかよ。

 

 今は疲れているから正直、接触は後にしたい。

 

「別に悪いとは言っていない……後ろのアレはアンタの機体か?」

 

「そうだ。」

 

「そうか。」

 

「「………………………………」」

 

 話を続けようとも思っていなかったのは俺だけではなく、ただ静かな時間が俺とアキトの間に続いた。

 

 つーか甘いものが無性に食べたい。

 ビッグモナカ……は寒いからパス。

 そもそもEU内に売っていないっぽかったから、ペテルブルグから来る途中でセールしていたジェリービーンズを────

 

「────ジー。」

 

 ……セ、セールしていたジェリービーンズを────

 

 「────ジー。」

 

 ……………………………………ジェリービーンズを────

 

 「────ジー。」

 

「…………………………………………食うか?」

 

「頂こう。」

 

 さっきから(プレッシャー)をかけてくる押しの強い沙慈・ク〇スロードアキトに未開封のジェリービーンズパックを見せて聞くと彼は即答する。

 

 俺たち二人は新しいパックを一つずつ開けて、静かにそれらを食べることで再び静かな時間が流れる。

 

 あ。 ちゃんと他の元日本人たちの少年にも投げ渡して分けたぞ?

 

『飯』?

 意外と旨いレーションを『そぉい!』っと。

 

『チョ〇ボール』?

 無茶言うなよ。 俺は青いネコ型ロボットじゃないんだ、〇び太くん。

*1
42話より




ゲオルク・ファウストは悪魔メフィストフェレスに魂を天秤にかけて欲望を満たした。

疑心暗鬼なマクベスは魔女たちの予告を間違って読み取り、賭けに負けた。

ここ、EUでは賭けに必要なのは、少々の金と危険と『運』という名の『コネ』。

スヴェンは『傭兵のスバル』として己と大金を賭けたが、果たしてその見返りとは?

次回予告:
世界平和を望む日本人たち2

日本人とは……『民族』とは何だ?



余談ですが『亡国のアキト』のアヤノが15歳と知った時、『これで15?!』と驚いた記憶があります。 (汗


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第95話 世界平和を望む日本人たち2

お待たせいたしました、かなり長めの次話です。

『キリの良いところまで』とコツコツ書いていたらいつの間にか文字数がガガガがががが。 (汗汗汗汗

…………………………お、お読み頂きありがとうございます。 色々不安ですが楽しんでいただければ幸いです。 (;´-`)


 先ほどのナルヴァ辺境らしきところから、場所は再び古城の外にある滑走路へと変わる。

 

 大気の風は肌寒く、待機しているジェット機のエンジンの上は陽炎のようにユラユラと空気が揺れる光景があるにもかかわらず、レイラは軍服の正装に上着だけ羽織ってじっとジェット機へ上がる階段手前で立っていた。

 

「マルカル少佐~。」

 

 そこで未だにやる気ゼロとボサボサ茶髪に無精髭を気にしていないクラウスが明らかに軍のものより私服の分厚い上着を着ながら小走りでレイラに近づいてからもう一つの手で持っていたマニラ色のフォルダーを手渡す。

 

「それでどうなのですか、クラウス中佐?」

 

 レイラの質問にクラウスは苦笑いを浮かべる。

 

「いやぁハハハ……やってくれちゃいましたよ、アノウ中佐。 結ばれた契約書は本物でした。 あ、コピーは入れています。」

 

「それと、()のことは?」

 

 ここでクラウスは目が泳ぎそうになるのを、頭をボリボリと掻いて誤魔化しながら頭痛を感じているかのように目を瞑る。

 

「ん~、一応俺のほうで調べられるところまで調べてみたんですが……にわかには信じがたい内容ですね。」

 

「それほどですか?」

 

「だってどう考えても、体の良いプロパガンダ(デマ)でしかないでしょう? それはそうと、時間大丈夫ですか? スマイラス将軍の招集に遅れちゃいますよ?」

 

「急な調査依頼を受諾してありがとうございます、クラウス中佐。」

 

「いやいやいや、俺なんて大したことをしていないっすよ。 んじゃ、お偉いさんたちにもよろしく。」

 

 それを最後にレイラはジェット機に乗り、通常の飛行機道に入って精神的過労から目的地に着くまでの束の間、寝落ちするまでクラウスから渡された資料などを読んでいた。

 

 中身は大まかにまとめると、132連隊の撤退作戦後の報告だった。

 

 レイラとあまり年が離れていないワイバーン隊の生き残り。

 残ったアレクサンダたちの状態

『傭兵のスバル』と名乗り出た者のこと。

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に関する資料だった。

 

 それらを彼女は今まで蓄えた知識などを使って当時、黒の騎士団が保有していたと思われる戦力や装備などを予想していた。

 

 未だ()()()()()()()()()()()()()()()()等と言った内容を信じられずに。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 EUの首都で中枢であるパリは一見すると、ブリタニア本国のペンドラゴン(首都)と同等────否、開発具合からしてさらに緑が少ない分、『ペンドラゴンより発達し(栄え)ている』とも言えた。

 

「132連隊の撤退を確保したα作戦の功績を認め、レイラ・マルカル少佐を中佐に昇進し正式にwZERO部隊の司令官に任命する。」

 

 そんなパリの軍事の中枢を担っている基地内でも豪華な執務室で、レイラは緑色に灰色が混じった見事な髭をした将軍────ジィーン・スマイラスが現状のEUを動かしている『国防40人委員会』から送られてきた資料を読み上げながら勲章を付ける。

 

「おめでとう、レイラ。」

 

「レイラ・マルカル、拝命致します。」

 

 さっきとは違う、雰囲気がやんわりとなったスマイラスとは対照的にレイラは未だにキビキビとした振る舞いを続けていた。

 

「ん? どうした、やっと自分の発案した部隊の司令になった割に嬉しそうではないな?」

 

「スマイラス将軍。 私の提案した作戦は敵地に侵入し、敵陣背後に我が部隊が奇襲攻撃をかけるモノです。 そして事前情報で包囲網を敷いているのが、ユーロ・ブリタニアが所有する最大戦力の一つである四大騎士団の聖ラファエル騎士団と知りながら“正規軍投入の余地なし”と────」

 

 スマイラスは手を上げ、静かにレイラの言葉を制止する。

 

「────レイラ。 君の言いたいことは分かるが、今のEUは戦争で()()()()()()が死ぬことを良しとしていないのだよ────」

「────それで“()()()()()()()()イレヴンなら幾ら死んでも構わない”と仰りたいのですか?」

 

 レイラは余りにも露骨で保守的な行動方針に対し、ワナワナと震えそうになる手で拳を力強く作る。

 

「……物事の全てを『白か黒』の色のように、『明確にしよう』とするのは愚鈍な思考だ。 それに君がそう見えていると思っていても、『人間』は正論だけで納得させるには難しい生き物なのだよ。 現に、“wZERO部隊は傭兵を雇った”と耳にしているが?」

 

「彼は、違います。 それに、契約は前司令の独断────」

「────そうだ。 確かにアノウ中佐がしたことだが契約は正式なもので、契約は『個人』ではなく『部隊』にされているそうだね? もしこの世界が君の『理想な世界』ならば、彼のような存在は『白』と『黒』のどちら側になるのだ? そして、彼の処遇はどうするのかね?」

 

 本来、金などの見返りに尻尾を振る傭兵などはレイラからすれば『勝ち馬に乗るだけ乗って簡単に乗り換える我が身大事な金の亡者』にしか見えないのだが、彼はそんな『予想した傭兵像』とはかけ離れた活躍をしていた。

 

 彼の事を様々な角度から調査した結果、彼の事の裏付けが取れていた。

 

『傭兵のスバル』。

 かつて日本と呼ばれたエリア11で今まで誰も見せたことの無い反ブリタニア活動を行っていた黒の騎士団が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 調べられた情報から抜けている個所に憶測も多少入っているが、その予測されている活躍により黒の騎士団は『組織として整いつつあった』ともされていた。

 

 さらに『亡国のアキト』原作で、ナルヴァ作戦からの生還者はアキト一人と彼のアレクサンダのみだったが、スバルの介入により(重症の負傷者を含めて)日系の少年たち数名が生き永らえていただけでなく、曖昧だった契約期間にも関わらず生き残った者たちの為に兵士の誰もが受ける筈である、基礎訓練のスケジュールも組み立てていたことが上記の情報源等の説得力を上昇させていた。

 

 その働きはEUでは珍しく、wZERO部隊はこのことを(受け入れる)不幸(警戒する)か決めるには、未だに迷っていたが。

 

「まぁ……アノウ中佐のやったことには私も個人的には呆れているがね。 まさか、イレヴンの少年たちとその家族に市民権は与える手配をしたは良いが、まさかその者たちに約束された保障が着服されていたとはね。」

 

 さっきまでスマイラスの周りにあった、やんわりとしていた空気が重くなる。

 

 アノウ中佐が『元日本人の少年たちが死んだ場合』として約束したEUの市民権と生活の保障は、彼が部隊の大半を失ってからの調査にてその実務が判明した。

 確かにEUの市民権は手配されてはいたが、生活の保障に使われる為の費用は偽造された口座や空想の会社などを経由されていて殆んどがそれ用の口座にたどり着く前に消えていた。

 

 このようなことはある程度、EUの上層部を知れば全く驚かない内容なのだが法律的に追おうにも被害対象は『EU市民権を得た元イレヴン』。

 

 傭兵と同じ金の亡者である弁護士が見返りのない訴えの依頼を受けるわけがなく、政府の内部調査員も利益が無いので動く気配も無かった。

 

「……その所為で、中佐はワルシャワの補給部隊へ左遷────おっと失礼、()()となったそうだ。」

 

「転属……ですか。」

 

 表情がさらに曇るレイラに、スマイラスは苦笑いを浮かべる。

 

「私も手ぬるいとは思うが……あそこはEUとユーロ・ブリタニアとの中地点間近で補給部隊は現状、24時間活動しなければいけない。 過労で倒れたり、寿命が短くなる後遺症が一番多いと聞いている……君にすれば、気休め程度にしかならないかもしれないが。」

 

 レイラにとって納得のいかないことだが、既に本部の警備隊がアノウに転属(左遷)命令書を送り届けていて彼はもう既に新しい転属先に移送中であった。

 

 それ(転送)に関しても一悶着あってかレイラは更に納得がいかず、スマイラスも頭を痛めていたのだが。

 

「……さて、明日も40人委員会の会議がある────」

「────明日()でありますか? ここのところ、毎日ありますね……」

 

「会議をすることで、彼らは自身と民を安心させるのだよ。 どうやって無駄に時間を過ごしつつ体面を保つかを、彼らは『会議』という抜け道にしがみついているに過ぎない……君もいつか見学すればこの国のことがもっと分かるだろう。 この後、レイラは何か予定はあるのかね?」

 

「ナルヴァ作戦帰還祝賀パーティに招待されています。」

 

 ピクリとスマイラスの眉毛が反応し、彼はため息をする。

 

「……そうか、君もその目で見ると言い。 下がってよい。」

 

「??? 失礼します。」

 

 スマイラスの言ったことにレイラはハテナマークを浮かべながら部屋を退室するとピリピリした通路へと出る。

 

「皆さん、お待たせしました。」

 

 レイラがそう言った先には軽傷から包帯をEUの軍服に下に巻いたワイバーン隊の生き残りたちと、EUとは違うデザインをした軍服っぽい服装を着たスバルがいた。

 

 原作ではワイバーン隊のアキト一人だけが生き残ったことで、レイラの部下が実質彼一人となった。

 よって原作では彼一人にパリでレイラの身辺警護の全てを任されていたが、生き残りがいたことと先ほど記入した『アノウ中佐との一悶着』の所為でアキトの姿はなかった。

 

 その一悶着とはアノウ中佐の転属で、既に中央司令部が了承を済ませた事柄に転属先の補給部隊の指揮を執っている方面軍司令部が認めていなかった。

 

 というのも、アノウ中佐が指揮していたwZEROのワイバーン隊の損耗率が遂行した作戦の数と比例して激しかったことから『wZERO部隊はEUの軍法廷に従って解体されてしかるはずであり、移送は受け入れない』などと言い訳をしてきたのだ。

 

 要するに、地方の方面軍司令部が『そんな厄介物件俺らに押し付けんじゃねぇこのダァホども! 移送するんだったらそっちで勝手にしろ!』と()()()()()に責任転換をしたのだった。

 

 アノウ中佐は今までのやったことと彼の転属理由になった自爆作戦などからwZERO部隊とワイバーン隊の全員から軽蔑&嫌悪されており、当時のスバルは部外者同然だったことから仮にも『正規軍中佐』の移送を単身で任せるわけにもいかなかった。

 

 よってアノウ中佐の移送は何の感情も見せないままオーケーをしたアキトが行うこととなり、彼は後にwZERO部隊がいるパリと合流する手筈になっていた。

 

 ちなみにこのことを聞いたスバルは内心の片隅で『あっるぇぇぇぇぇぇ? なんか俺の知っている亡国のアキトと微妙にちゃうねんけど……』と思っていたらしいが、そもそも『亡国のアキト』の描写が少なかったことから『そんなもんか』と納得したそうな。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時は夜へと変わり、パリ市内にある立派な会場でナルヴァ帰還祝賀パーティが開かれていた。

 

 パーティからは軍とは程遠い、優雅な『ホホホ』や『ハハハ』として笑い声に『投機』や『投資』などののほほんとした空気があった。

 

「あの絵、先日いい値が付きましたのよ。」

「やはり今の時代、投機は金でなく芸術品ですなぁ。」

「いやいや、戦時国債も投資としては有望ですよ?」

「そうですな。 何せブリタニアはユーロ・ブリタニアと違って戦の拡大をよしとしていないみたいですしね。」

「そうそう。 にらみ合っている今こそ平和より儲け時ですよ。」

 

 そしてその会場ホールから聞こえてくる会話の内容は軍や戦とは無縁の、資産家などがする話題しかなかった。

 

「では、連れを待たせていますので私はこれにて。 ああそこの君、ノンアルコールモノはあるかね?」

 

「フレッシュジュースがございますが。」

 

「では一つもらおう。 (ムホホホホ♡ ええ食い込み具合と谷間やのぉ~♡ 眼福眼福~♡)」

 

 そんな中、場に合わせてスーツを着たスバルが『優男』の仮面をつけたまま残念そうにする夫人などを含めた女性陣の輪から抜け出して近くのバニーガール衣装を着た者を見かけてはノンアルコールドリンク(ジュース)を手に取り、ホールで明らかに『浮いている空間』の空気が漂う先へと歩きだすと次第に周りからひそひそとして小声が聞こえてくる。

 

「見てあの人たち、軍服をしているわ。」

「ここで軍服なんて、無粋ね。」

「あの少女は確か……マルカル家の?」

「ああ、イレヴン共があんなに……汚らわしい。 香水を余分に持ってくるべきだったわ。」

 

 ホールの片隅でポツンといたレイラは興味が無くなったのか背中を壁に預けながら戦術論の本を読み、周りの元日本人の少年兵たちはそれぞれ違う反応をしていた。

 

 ある者はキラキラとした周りに魅入られ、ある者は周りから来る嫌味に沸々とイラつきを抑え、またある者はあまりのギャップに放心しかけていた。

 

「どうしたタカシ? ポケ~として?」

 

 スバルは最後の放心しかけていた一人の少年────竹林タカシに声をかける。

 

「あ、スバルさん────」

「────さん付けはよせ。 歳はそう変わらないだろう?」

 

「スバルさん、これってナルヴァ作戦の成功を祝してのパーティなんですよね? 何で軍人が僕たちだけなんですか?」

 

 イライラとしていた気持ちを抑えながらそう話しかけたのは藤原イサムで、イラつきはとうとう声が震えるまでこみ上げていた。

 

「……それは────」

「────()だからでしょう。」

 

 スバルは一瞬だけレイラをチラッと見ただけだが、彼女はそれに気付いて察したのか口をあける。

 

「それによく、スーツをお持ちでしたね? それも傭兵業絡みですか?」

 

「暴力を使わなくても戦場は戦場。 そして情報は何よりも大事だ。 最新の武器や装備、訓練に人員がいても情報が無ければ無駄が多くなるし、生き残れない。 森での活躍でも、その一端を見せたと思うが?」

 

 ここでスバルが言ったのは小型無人機の事で、彼を調べている途中でこのことを知ったとある技術士官は大いに興味を引いたそうな。

 

「……それでスーツを着ながら情報収集ですか。」

 

「そうだ。 司令やお前たちは、飲み物を……いや、俺が持って来よう。」

 

 スバルは自分と違い、軍服を着た皆を見ては目と心の保養のバニーガール目当てに飲み物などを持ち歩いている者へと向かう。

 

「おー! レイラじゃないか!」

 

 すると丁度入れ替わるかのように、周りと大差がない裕福そうな二人組の男性がレイラの名前を呼びながら、まるで腫物から距離を取るかのように自然と開いた空間の中に入ってくる。

 

「レイラ! パリに来ているのなら、なぜ連絡をしてくれないんだ!」

 

「そうだぞ! 一年ぶりではないか!」

 

 この二人組はダニエル、そしてステファン・()()()()

 レイラの義兄たちでありダニエルはパリで銀行を、ステファンは工場を経営している。

 

「お久しぶりです。 ダニエルお義兄様、ステファンお義兄様。」

 

 嬉しそうに話しかけてくる義兄とは違い、スンとした素っ気ない口調でレイラは挨拶を返す。

 

「レイラ、せっかくのパーティにその格好はどうかと思うぞ。」

 

「そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ダニエルはレイラやイレヴンの少年兵の軍服をチラチラと見て、ステファンは横目で一瞬だけスバルに視線を送る。

 

「これが私にとっての正装です。」

 

「その堅い口調も相変わらずだね────」

 「────おやおや~? そこにいるのはレイラかねぇ~?」

 

 そこに女性を両腕に侍らせ、ウェーブのかかったチンピラっぽいチャラ男男性の声が遮るとレイラの依然とした表情が苦いものになる。

 

「ヨアン、お義兄様……」

 

 ヨアンは侍らせていた女性たちを自分から押し、今までとは明らかに違う表情をするレイラやおろおろとするダニエルたちに近づきながら少年兵たちを見る。

 

「フゥ~ン……これが噂に聞くイレヴンたちか。」

 

「こちら私の部下である竹林、藤原、そして春川で────」

 

 ヨアンはレイラの言葉に耳を貸すどころか無視しているかのようにツカツカと近づいて一人一人を値踏みするかのように見ながらレイラを遮る。

 

「────俺はマルカル家の三男、ヨアン・マルカルだ。 お見知りおきを……それとこれも言っておくよ、彼女は僕のフィアンセでもあるんだ。」

 

「ヨ、ヨアン────」

「────こいつはさ、マルカル家の養女なんだよ! 親父の大のお気に入りでね、俺との結婚も親父が決めたことさ!」

 

 タジタジするステファンをヨアンは声を上げて無理やり黙らせ、高らか宣言するかのような音量へと上がっていく。

 

 同じくレイラの『イラつきボルテージ』も上がっていき、今にでも家内の事情を言いふらすヨアンを黙らせる為にどのような手を打とうか考えていた。

 

「失礼、もしやヨアン・マルカル氏ではないしょうか?」

 

「ん?」

 

 ピリピリとし始めたその場にスバルの『優男』の声で、ハの字になっていた眉毛をさらに曇らしたヨアンの注目はニコニコとした彼へと移る。

 

「ああ、これは失礼いたしました。 私、スバル・半瀬と言います。」

 

「……まさか、混ざりモノ(雑種)でしかもイレヴンとはな……何用だ?」

 

「先ほど紹介をされたのでその返しをしただけですが……“郷に入っては郷に従え”という事ですし。」

 

「……フン。 生意気にもスーツを……」

 

 一気にヨアンはこの場を遠目に見ていた者たちの中で、何か面白いものを目にしたのか目の端が僅かに上がり、彼は近くのテーブルへと歩き出す。

 

「だが良い心がけだ。 そういう事なら────」

 

 ヨアンは目当てのワインのボトルを手に取り、流れるようにそのままスバルのいる場所へと戻りながらボトルを開ける。

 

「────一緒に挨拶の乾杯をしようではないか。 これは俺からの奢りだよ、イレヴン。」

 

 彼はそのまま封の開けたワインをニコニコとしていたスバルの頭上で逆さますると周りにいた誰もがその迷いのない行動に目を疑った。

 

 ワインのボトルからドボドボと落ちる液体はそのまま予想通りにスバルの頭や肩などへと落ちていき、ワイン特有の匂いが辺りに充満していく。

 

 「ヒャァ……」

 「勿体ない……」

 「ウワァ……」

 「気持ちは分かるけれど……」

 「フン、あのマルカル家の小僧……思っていたより度胸があるな。」

 

 流石に今まで見て見ぬふりをしていた者たちでもこれによって思っていたことを口にし始め、会場はヒソヒソ話で満ちていく。

 

 wZERO部隊の皆からは、抑えようともしない怒りが爆発待ったなしの臨界状態まで達していたが。

 

「ありがとうございます。」

 

「……あ?」

 

 だがスバルは怒る所か、未だにニコニコとしたままだった。

 

「いえ。 私、実はワインに興味がございまして。 特にこの地域特有のワインの匂いと味には前から気になっていたのですが今の状況から手に入りにくく、迷っていましたが……」

 

 ニッコリ。

 

「お陰様で、迷いの一つを今解消できました。」

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 スバルの平然とした返しに、周りの者たちは呆気に取られていた。

 

 が、この行為は中心人物のヨアンの気に障ったらしかったようで彼の見下すような顔がどんどんと赤くなっていく。

 

 「この……」

 

 ヨアンは空になったボトルをスバルに投げつけ、スバルはこれをキャッチすると拳を突きだしたヨアンを躱す。

 

「この! サルが!」

 

 ヨアンは更に赤くなっていき、ニコニコするスバルを殴ろうとするがそれらはことごとく躱されていき次第に彼は息を肩でし始める。

 

「少々酔いが回っている様子ですが、大丈夫ですか?」

 

 スバルはそう言いながらダニエルとステファンを見る。

 

「ヨ、ヨアン────」

「そ、そうだね。 もうここらで私たちは失礼させてもらうよ────」

「────だ、ダニエル! ステファン! 放せ、俺はまだ────!」

 

 二人は息を切らしながら顔を真っ赤にしたヨアンをそのまま会場から連れ出すと、スバルはハンカチを出して顔などを拭き始める。

 

「いやはや会場の皆さま、お騒がせいたしました。 私も夜風に当たってきます。」

 

 

 


 

 

 あのモジャモジャ頭のクソチャラ男。 次はケツの穴に腕を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやらぁ。

 

 (スバルは)はそのまま煮え繰り返すような思いを『優男』の仮面の奥にしまい込みながら会場を後にしてバルコニーに出ると、ヒンヤリとした風が染みつき始めたワインの匂いを一瞬だけかき消す。

 

 ああ、クソ。

 

 原作ではあの場で絡まれて妾呼びされたレイラをアキトが無理やりヨアンを黙らせたが、まさかアキトがいなくともタカシ(ワイバーン隊)たちが居ただけでヨアンがあんな風に来るとは……

 

『ヨアン・マルカル』。

 レイラを養女として受け入れたマルカル家の三男で、他のダニエルやステファンと違って自分の企業は倒産させてしまっている。

 よって彼は成功した兄たちも立派な家も嫌い、今度は自分より年下で出世したレイラの事を聞いては絡んできた……というのが俺の見解だ。

 

 

 実はというと、スバルは知らないがこの見解は当たっていた。

 ヨアンはマルカル家でも特にこれといった社会に認められるような才能を持っていなかったことから除け者扱いされていて、そんな彼に唯一優しく接していたのが養女のレイラだった。

 だが時が経つにつれてレイラは飛び級で学校を卒業したり、軍事学校を首席で卒業する、歳を考えると異例の少佐から中佐への昇進などがヨアンの純粋だった好意を嫉妬へと変えてしまった。

 

 そんな裏設定を知らないスバルはただ『穏便に済ませたは良いがこのスーツのクリーニングどうしよ』と思っていたところに足音が近づいたことで振り返るとレイラや他のワイバーン隊員たちを見る。

 

 

「あの後、大丈夫だったか?」

 

「それはこちらのセリフです……何故……どうしてあのようなことを?」

 

 う~ん、やっぱりコードギアスだけあって軍服でもレイラは様になるな……

 どう答えよう?

 “アキトがいないから”なんて言えるわけないし……

 

 あ。 キタ。

 

「職業柄、ああいう輩にも出くわすがああいう手合いは怒るとどんなことをし出すか分かりませんから注目を自分へ向けて対処しただけです。」

 

「ええっと、スバルさん────」

 

 だから『さん付け』やめろイサム。

 

「────いつも通りにしないの? 凄い違和感があるんだが。」

 

 あ。

 あー、うん。 そういや今までポーカーフェイスでwZERO部隊の奴らに接してきていたな。

 

「ならいつも通りにしよう。 まぁアレだ。 俺は雇われているからそれに従って動いただけだ。」

 

 うん、これで良いだろう。

 契約の内容には確かに『wZERO部隊の手助け』みたいな項目もあったから嘘ではない。

 

 それはそうと、何だかジッと俺を見る視線が痒いのだが?

 

 おお、こっち(EU)でも結構星が見えるもんだな。

 

 …………………………アイツの方は無事に済んだのだろうか?

 

 

 


 

 

 

 都市などの人間という動物が密集すればするほどに、そして『()』が目立つ分、より根強くかつ酷い『()』も存在する。

 

 現状の社会の形状では切っても切れない『光在る所に闇在り』はここパリも例外ではなく、『表裏は互いに極力干渉しない』のが暗黙の了解も健在()()()

 

 その闇、アンダーグラウンドでは激しい抗争が二つのグループの間に行われてそれらが表沙汰になりつつあった。

 

 一方は昔から窃盗、強盗、殺人、暗殺、汚名の偽造に麻薬の取引などなんでもする『パリの闇の一角』とまで称されているマフィア一歩手前の組織。

 

 もう一つは『ブリタニアに占領された国の出』ということからスパイ容疑、『先祖の血が流れている』ということから蛮族と思われ嫌われ、それらが『敵国の奴隷』とまで歪んだ認識のおかげで強制収容された、日本人や日系人である。

 

 さて、エリア11での『リフレイン』を覚えているだろうか?

 

 EU国民としての権利や人権などがはく奪され、財産なども没収された者たちの末裔たちが身を寄せ合っていたグループたちにもリフレインが蔓延していた。

 

 無論、『金になるから』とリフレインを無差別に売っては人の臓器などを支払いの『利子』などとかこつけて売買していたことが()()()()()()の逆鱗に触れたことでこの抗争は始まった。

 

 リフレインを売っていたギャングは当初油断していたが大きく古い組織であった為に小回りと対処が後手になり、多大な犠牲を生んでいた。

 

 その反面、もともと強制収容所から脱走した日系人たちの数も少なくギャングよりさらに立場が悪かったため通常では考えられない過激な作戦や(コードギアスの闇の世界でも)非人道的な行いを全く気にせず遂行していた。

 

「チ、もう替えるか……」

 

 リフレインをEUにいるイレヴンなどに売りつけてはすべてを搾り取る組織の一員らしき者がぐったりと目を虚ろにしたまま、リフレインが入っていて空になった小瓶などと共に地面に横たわる裸の女性を後にしながら男性は舌打ちをする。

 

「んじゃ、こいつは()()でいいんすか?」

 

「おう。 物好きな奴らがいるからな。 出来るだけ綺麗に────」

 

 ザシュ!

 

「────ケブレェ?!

 

 舌打ちをした男性の首に一線の光が走ると頭が胴体から離れ、言語とも呼べない意味不明な音が出るともう一人の男性が振り返る。

 

「フゥム……切れ味が良すぎるのも考えモノだな。 手ごたえが無さ過ぎる。」

 

 その場に似合わない、ゆったりとした女性の声に男は拳銃を出しては構える。

 

「だ、誰だテメェ! お、俺らを組織の者と────」

 

 スパッ。

 

「────ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

 

 またも光が走ると今度は拳銃を握っていた手の親指が付け根辺りから切られ、パニックになりそうな男は叫びながら関節を切られて酷く出血する手を押さえるだけ押さえる。

 

「さて……先ほど“組織”と言ったが、ここら辺で日本人と抗争している者の一人か?」

 

「は、ハヒィィィィ!」

 

 パニックを起こした男性はコクコクと頷く。

 

「(末端ではなく、やっと仲介人にたどり着けたか。 やはり()()とは少し文化の違いもあってかたどり着くのが遅くなったが……彼ならばこれでさえも計算済みで、私に経験させたかったのかもしれんな。)」

 

「俺の手ぇぇぇぇ! い、医者を────!」

「────私の質問に答えたらすぐにでも呼ぼう。 さて、お前たちのボス……『ドクター』とやらはどこだ?」

 

 その場に現れた少女は地面に横になっていた女性の亡骸の目を閉じさせながら、ひんやりとした声で上記の問いを恐怖する男性に投げる。




長くなって申し訳ございません。 m(;_ _ )m

あと、ワイバーン隊の生き残った少年兵たちの名前は独自設定です。 (汗



余談の追伸:
リスなどの小動物は見た目が可愛くてもネズミ。 まさかのまさかで、光回線を食い千切るのが好きだとは最近まで知らなかった。 というか知りたくなかった……


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第96話 世界平和を望む日本人たち3

次話です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

*注*いまだに独自設定&その他が続きます。 (汗


 パリのスラムに近い再開発地区では、リフレインの売買をしたことが発端で続いた二つのアンダーグラウンドグループの抗争がここのところ一番の衝突が起きた後をまるで象徴するかのように夜が明けようとしていた。

 

 グループ双方から出た死者数は合計で100名を超え、組織には87名の死亡者。

 

 古くから活動しているため正規の病院とのコネを使っても約37名が集中治療室(ICU)でいまだに組織の者たちは生死を彷徨っている状態である。

 

 それに反して日系人たちのグループからは重傷者は出なかったものの、死者は組織と違って()()()18名である。

 

 上記でも書いたようにこのようないざこざは前代未聞であり、組織のトップをしている元医師の『ドクター』は早々にケリ(決着)、あるいは()()()()をつけようとしていた。

 

「何ぃ? フレッドたちから音沙汰がないだと? もう一度かけなおせ! どうせまたリフレインでラリッっているイレヴンの女でも抱きすぎて寝ているんだろうが!」

 

 だがいざ抗争とは別に動いていた幹部たちに連絡をし、手配しようとしたところで連絡がつかなかった。

 

「(くそ、このイザって時に……) ほかに()()()()()を隠した場所を知っている奴らにかけろ!」

 

 ドクターの作戦は単純な、“シンプルイズベスト”なものだった。

 

 組織の(ほとんどが下っ端だったとはいえ)半数以上の人員をなくした今、抗争を続ければさらに勢力を保持する力は弱っていくのは必須。

 

 漁夫の利を狙ったほかのグループに全滅されかねない。

 

 ならば逆に『ナイトメア』という餌を垂らして、日系人たちを一時的にでも組織に抱き込んで後でゆっくりと処理すればいい。

 ちなみになぜナイトメアを保有しているのに今まで使っていないかというと、単に『未確認で識別反応のないナイトメアが出現した』ともなればEUの軍が出動してしまうからだ。

 

 EUの保安局は確かに『表』としての体面を保ってか『裏』の活動が明るみにさえ出てこなければ沈黙を通せるが、流石に未登録のナイトメア(特に一世代前とはいえブリタニアの機体)が出てきては軍への報告義務を無視するわけにもいかなくなる。

 

 よって武装や外部装甲に出力も強制的に低下させられて基本フレームのみとされた民間や工事用のナイトメアが流通する今もなお、EU国内では意外と『横流し品』で『保持品』としても『ナイトメア』はアンダーグラウンドでは不人気だった。

 

 だがその価値が失われたわけではなく、EUではナイトメアを持っていることだけで一種のステータスとなる。

 

 そんな虎の子(諸刃の剣)を、ドクターは日系人グループとの交渉材料として使おうとしていたがそんな危険物の扱いを任せられる手足となる者たちと連絡が取れなかった。

 

「(これで一旦時間を稼いで、体制を整えて潰してやる。 確か明日も国防40人委員会は同じ時間に終わるはずだ。 選挙の票を欲しがっている若い奴に話をつけて、まだ真っ白なブタ(警察)を────)」

 

 夜が明ける前のまだ暗いパリの闇夜の中で、ポジション故にドクターは転々と仮の拠点を移動していて昨夜の荒事から最も遠くかつ賄賂を警察に渡し、たとえ他のアンダーグラウンドが攻め込もうともすぐに知らせが行くような、()()()()にドクターは手下たちとともにいた。

 

 『────おい女、ここはあんたのような奴が来るところじゃ────いやそもそも、どうやっ────てぷぇ。

「(────ん?)」

 

 そんな安全な場所の最奥で、次の対策を練っていたドクターがドアの外に配置していた手下の一人の声が遮られたことで、考えから(現在)へと意識が引き戻されては普段連絡用に使う携帯をビル内に設置された監視カメラへと繋ぐ。

 

 『────おい、なんだ今のこ────ぇ゛。

 

 様子を見ようとしている間に、今度はさっきより近い様子の声がくぐもったことでドクターは近くの引き出しから銃器を出してドアに向けて構える。

 

 一分、二分、五分と時間が静かに過ぎていき冷や汗が彼の額から頬へと伝い、彼は携帯のスクリーンを再度見るとカメラから入ってくる映像には肩の先から腕が無くなって呻く者たちや、首が胴体から離れている者たちが映っている惨状だった。

 

「(なんだ?! 何が……誰だ?! あのイレヴンどもか?! いや、そもそもどこでここを突き止め────)」

 

 バリィン!

 

 今度はドクターが今まで注目していたドアやモニターではなく、横の窓ガラスが割れる音に彼が反射的にそちらへ視線を動かせると彼の目に映ったのは黒髪をなびかせる女性で、宙を切る一線を最後に彼の意識は途絶えた。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ザク、ザク。

 

 昔、パリがブリタニアと張り合うためにまだ再開発に全力を注いでいた名残で完全に封鎖したと思われる地下納骨堂(カタコンベ)に新たな墓標たちを一人の少年が地面に刺していく。

 

 墓標といっても、木の棒や鉄のパイプに名前を彫り、布を巻いたりした簡単なものばかりだが。

 

「っと、これで最後か……」

 

 かなりの長身で茶色の髪をしたこの日系人の少年────『佐山リョウ』こそドクターの組織と抗争を続けている日系人たちのグループのリーダーである。

 

「これで、ここら辺で活動しているのは私たち()()だけになっちゃったね……」

 

 ため息交じりに身長的(&その他もろもろ)ではカレンやレイラに全く引けを取らないショートの黒髪で童顔の少女────『香坂アヤノ』がまるで自分自身を抱擁するかのように腕を回しながら、沈んだ顔で墓標たちを見る。

 

「どうする、リョウ? この人数だと、もうパリの市内には居辛くなるよ?」

 

 中性的な顔で茶髪に携帯を手袋をした左手でいじる少年────『成瀬ユキヤ』はアヤノやその場の空気とは違って薄笑いを浮かべていた。

 

「んなぁこたぁわかっている、ユキヤ……そろそろ、マジで()()を出るか。

 

 リョウのボソリとした独り言にアヤノとユキヤがそれぞれ対照的な表情を浮かべる。

 

「それって……」

 

「アハハ! 丁度いいや!」

 

 アヤノは不安そうな顔になり、ユキヤは逆にキラキラと面白さから目を光らせていた。

 

「だが、まずはアイツのことだ。 あのクソドクターがいる居場所は突き止められたか、ユキヤ?」

 

「う~ん、それなんだけれどね? やっと調べ上げたんだけど、なんか先を越されたみたい。」

 

「「は?」」

 

 リョウとアヤノがさっきから全く表情を変えていないユキヤの携帯スクリーンを横から見ると、そこには上記でドクターが見ていた監視カメラの映像があり、その中でも一つの映像内の壁に特殊なフィルターを付けてやっと見える()()()()書かれた文字に注目した。

 

「あ? なんて書いてんだ、これ?」

 

「形からして日本語みたいだけれど、通訳ソフトを適用した結果がこれなんだよね。」

 

 スクリーンには出てきた自動通訳された文章は意味不明なカタコトとしていて、言語かどうかも怪しいものだった。

 

「全然通訳されていねぇじゃねぇか。」

 

「そうなんだよ。 エラーの原因を突き止めたらさ? 日本語でも昔の文章形式っぽいんだよね────」

「────え? これは要するに、“再開発地区にあるパリの旧メトロ(地下鉄)ステーションで待つ”ってことじゃない?」

 

「「え?」」

 

 リョウとアヤノが目を見開き、同時にキョトンとしながらアヤノを見る。

 

「お前……昔の日本語が読めるのか?」

 

「あ、うん、一応? おじいちゃんの話で出てきて詳しいことを聞いたら、ウキウキと教えてくれたけど?」

 

 実はEUでイレヴンと呼ばれている日系人のほとんどがEU内で生まれ育っており、日本国籍どころかエリア11 の生まれでもない。

 

 つまりブリタニアと違って『日本人の見た目だけ』でありながらほとんどの年若い者たちは強制収容所に隔離されている。

 

「うわぁ……まさかここで『おじいちゃん&日本が大好き』っ子が役に立つとはね……アヤノにしては珍しくグッジョブだy────」

 

 バチン!

 

 「────うっさいわよユキヤ、張り倒すよ?

 

 そうアヤノは口にしたが、ジンワリとした痛みがするほどすでに力強く彼女はユキヤの背中を叩いていた。

 

「イタタタ……それにしてもまさか、僕たちが古巣にしていた旧メトロを指定するとは……なんか楽しいかも♪」

 

「やめてよユキヤ。 あんたの“楽しいかも♪”はたいてい、ロクな結果にならないじゃない────」

「────けど、今の俺たちにとっては好都合だ。 あそこなら、昔の()()()が活きているかもしれねぇ。」

 

「リョウの好きな言い方をすると、“ホーム(地の利)”という奴だね。」

 

「おうよ。 それに、今時クソドマイナーな日本語まで使ってこうも俺たちを誘っているんだ。 行くしかねぇだろ。」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 半分廃墟と化した旧メトロの奥へと警戒しながらリョウとアヤノが地下へと続く階段を下りていくと、()()のコツンコツンとした足音が反響する。

 

 やがてメトロのホーム内に近づいていくと入り口からうっすらと入ってくる光に目が次第に慣れると────

 

「遅かったな。」

 

 ────文字通り、まるでリョウたちを待ち受けているかのようにコンテナを動かしたと思われるフォークリフトのバランスウェイト(後ろ)に座っていた女性の声がホームの中で響き渡る。

 

「誰だアンタ?」

 

「そういう君は?」

 

「俺は佐山リョウ、ここら辺のイレヴンたちのリーダーをやっている。 こいつは幼馴染のアヤノだ。 で? 俺たちをここに呼んだのはアンタで間違いないか?」

 

「そうだとも。」

 

「へぇ~? で? アンタは誰なんだ?」

 

「日本のキョウト六家が一つ、桐原家の桐原泰三の孫、毒島冴子だ。」

 

 そう口にしながら毒島はヒョイとフォークリフトから降り、リョウが口笛を出す。

 

「ヒュ~♪ “キョウト”っていや、確かエリア11中の反ブリタニア活動を支援していた大物じゃねぇか……“全員公開処刑された”ってニュースで大々的にやっていたぜ?」

 

「フフ、生憎とおじい様たちや私はこの通りピンピンしている。 俗に呼ぶ、ブリタニアの“プロパガンダ”という奴だな。 それとここに呼んだのは……まぁ、コンテナの中身は手土産と話を聞く対価として先に受け取ってくれ。」

 

 毒島が言を並べながらコンテナを開けると、中にはユーロ・ブリタニア仕様の黄色い塗料が施されたグラスゴーと機体の装備一式があった。

 

 成人した男性が一人分すっぽり入るようで中身が入った布袋と共に。

 

「これ、ブリタニアのナイトメア? しかも軍用の……」

 

「く……ハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 アヤノはグラスゴーを見上げ、リョウは布袋の中身を見ては笑い出す。

 

 中にいたのは満身創痍で眠っていた(気絶させられた)ドクターだった。

 

「ん……ごご(ここ)は────()()メェは?!?」

 

 そしてアゴが外れているのか、あるいは歯が抜け落ちていた所為か、それとも声帯がうまく機能していないのかガラガラとした声でドクターはリョウの笑い声で気がついてはギョッとする。

 

「よぉ。 先日ぶりだな、おっさん?」

 

 ドッ!

 

ゴッ?!

 

 ドクターは顔を蹴られ、目を白黒している間にもリョウは彼に話しかける。

 

「気分はどうだ? え? アンタ、こいつの手下はどうしたんだ?」

 

「ん? まぁ、大半は()()したが?」

 

「へぇ……アンタ、綺麗な顔してえげつないな。」

 

「誉め言葉として受け取るよ。」

 

 リョウは横目で平然とする毒島に問うと、彼女も平然とした返しに彼は純粋な関心を示す。

 

()()すけ────」

「────いいぜおっさん。」

 

 ドクターの、藁にでもすがるような言葉をリョウがあっさりと了承したことに彼は安心する。

 

 が、リョウが次に言うことで固まる。

 

「で、いくら払える?」

 

「……は?」

 

 唖然とするドクターの顔を見てはハイエナのような笑みをリョウが浮かべる。

 

「今お前を助けるのに、“いくら払う”って聞いてんだよ。」

 

「ぁ……ぇ……は?」

 

「マリコ。 リョウマ。 アキ────」

 

 そこにリョウは、次々と日系の名前をすらすらと語り始める。

 

「────セイ。 ハヤト。 シンジ。 マキ。 ヒロ。 アンタとアンタの下っ端どもが(ヤク)を売りさばいて食い物にされた奴らと、アンタらを止める為に今まで戦って死んだダチの名前だ。 で? アンタはいくら────!」

 ドッ!

「────ギッ────?!

「────俺らに────!」

 ゴリッ!

「────()────?!

 「────払えるか────!」

 ゴキッ!

「────ゴヒュ────」

 「────って聞いてんだよぉ?!」

 

 ボリッ!

 ベシャ!

 グチャ!

 

 リョウはそのままドクターの頭を蹴ったり、踏みつぶしながら怒りをあらわにしていく。

 

「リョウ────」

 「────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁ!? んだよアヤノォォ?!」

 

「そいつ、もう死んでいるよ。」

 

 リョウはアヤノにそう言われて気が付けば、自分が踏んでいたのは『人間の頭』と呼ぶよりは『マネキン状になった頭蓋骨』……を通り越して、『砕かれた骨が混ざった人肉(ミンチ)』だった。

 

「……思ったより人間って脆いんだね。」

 

 本来、彼女やリョウのような年頃ならばこのような『明確に詳細を記入すれば確実にR18G指定モノ』を見れば吐き気や気分を悪くするのだが彼らはすでにこの生々しい惨状以上や、間近の者たちが同じようなことにされているのを見てしまったりしている。

 

「それで、毒島(ブスジマ)って言ったか? さっき、こいつらと(KMFとドクターの)引き換えに話を聞けって言っていたよな?」

 

「ああ。 “お前たちと接触して()()()()()”、と頼まれていてな?」

 

 毒島の『説得させろ』という言葉に、初めてリョウの表情が曇る。

 

「俺たちを“説得させろ”、ねぇ……アヤノ────────!」

「────うわぁ?!」

 

 リョウがチラリと毒島から一瞬視線を外すと、まるで何かを予想していたかのように近くにいるアヤノの腕を掴んでは強引にナイトメアの陰へと隠れる。

 

「せっかくの機転で悪いが、爆弾は起爆させる信管がなければ爆発できないぞ?」

 

 毒島はそう冷静にいいながら、少し距離の空いたところで潜んでいたユキヤがいる場所を見ると案の定、ユキヤがひょっこりと肩を上げながら姿を現す。

 

「ふぅ~ん……凄いね。 正真正銘、()()毒島冴子なんだ。」

 

 ここでユキヤが()()といったのは、先ほど毒島が自己紹介した際にネット(裏と表双方)で検索した結果を読んだからである。

 

 ほとんどが噂やあることないことのホラ話の類だが、ユキヤほどの手腕ともなるとどれが事実に基づいているか想像させるには情報源として十分だった。

 

「いや、私なんか()に比べたらまだまだヒヨッコだ……それに、ここで凄いのは君と君の仲間たちだよ。 私は()()()()()()()()とはいえ、君たちの活躍には目を見張るものがあったし、なにより“我流でよくここまでの技量を身に着けたものだ”と感心している。」

 

「チッ、お見通しかよ……って、“事前に聞いていた”だと?」

 

「そうだ。 さっきも言ったが、私は君たちのことを聞かされていた。 そこで私は“どうせ日本のアンダーグラウンド(裏社会)と同じだろう”と……いや、それは今は良い。 君たちは、これから居場所を見つけようとするのかね?」

 

 毒島の言葉に、いつもは澄まし顔をキープしているユキヤを含めた三人は度肝を抜かれて驚愕からくる表情を浮かべた。

 

 

 

 


 

 

 

 さて。

 (スヴェン)はここで『レイラ・マルカル』という少女に関してもう少し詳しい詳細を記入しようと思う。

 

『え? ヨアンって兄なのに妹と結婚できるの?』と思っているかもしれないが、彼女は今でこそ裕福かつ庶民の“マルカル”という姓を名乗っているが血筋はブリタニア本国から再度亡命した貴族の出で、両親を幼く亡くしたレイラはマルカル家の養女となり、三男のヨアンとの婚約を予定されている。

 

 そんな家に嫌気がさしたのかレイラは軍学校へ通える年になるとすぐに通い、なるべくマルカル家とは関わらないように努力した結果、戦術の才能が開花し異例の若さで昇進していった。

 

 その反面、ヨアンは三男であり家を継ぐことは難しい立場な上に兄二人と違って商才が全くない。

 現に、マルカル家の当主からの援助&おさがりの会社を倒産させている。

 

 彼の周りは優秀すぎて、ヨアンは劣等感から人脈を広げて初めてそっち方面の才能を開花させたがいざ見ると自分と同じように社会の苦~い汁を飲まされていた筈のレイラは昇進。

 

 そのイライラもあって天邪鬼になり、レイラも優等生過ぎてさらに険悪な方向に物事をとってしまいがちになっている。

 

 それとレイラの両親についてだが、前にも言ったようにブリタニアから再亡命をした貴族で父親は政治家として活動し始めて当時のEUを根底からひっくり返すような、民衆の自立を訴えてグングンと人気が右肩上がり具合だった。

 

 が、12年前の演説中に暗殺された。

 表向きは『帰属を狙った過激派の爆破テロ』となっているが、その実────

 

 ガタン。

 

 ────俺が乗っている装甲車が道の凸凹で跳ね上がって、まどろみながらの現実逃避に走っていた意識を(現在)へと引き戻す。

 

『相変わらずイレヴンのジジババたちは元気だよな~。』

『後ろのイレヴンにも見せてやりたいぜ!』

 

『『ハハハハハハハ!』』

 

 うん。

 やっぱEUの兵士の大半は胸糞悪くなる精神持ちだな。

 

 今は『亡国のアキト』でいうと、スマイラスとレイラの二人が国防40人委員会の会議が予定されている会場へと向かっている。

 

 おそらく原作でも、“レイラは一度見学すればいい”といったスマイラスの誘いの続きだろう。

 

 先頭にEUの装甲車両二台、そのあとにスマイラスのクラシックカー風自動車、そのあとに装甲車両二台とEUの警護用機動兵器の『ガルドメア』が二機ずつ積まれているトレーラーが二台。

 

 そのガルドメアに、俺は乗っている。

 

 最初は『なんでやねん?! アキトの席やないか?!』と思ったが、まぁワイバーン隊の生き残りがいたこととちょうどア()ウ中佐の輸送から帰ってきたアキトがいたことで微妙に配置が変わっている。

 

 ま……こういうことも見越して、毒島にフラグ折りを頼んだわけだが。

 

 原作では、多くの仲間を失い、とうとうパリに居辛くなって『自分たちの居場所を探す』という動機を元にアンダーグラウンドで活動していた日本人を先祖に持った日系人たち三人が、スマイラス将軍を誘拐して国外逃亡を図るといったある意味『自殺行為』とも呼べる事件を起こそうとしていた。

 

 この流れで、スマイラスの警護についた奴らが多く死んでしまう。

 

 ぶっちゃけ、俺に関係がない奴らだったら別にそれでもかまわないが……生憎、人手不足と流れでワイバーン隊の生き残りも数人いる。

 

 ならば先に日系人たちに前もって接触し、説得すればいいだけのことだ。

 

 毒島のことだから問題ないだろうし、何よりEUのゲットーと呼んでも大差ない強制収容所にいる元日本人たちとの接触も上手くいくだろう。

 

 面倒くさいから原作と違って生き残った桐原のじいさんにそいつらの世話は丸投げするけれど。

 

 そう思いながら、俺はガルドメアのモニターを外へと繋げると予想通りに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見え────えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!

 

 なんでやねん?!

 

 何でカーナビ(GPS)にハッキングかけられて、()()()走った高速道路の上を走っているの?!

 

 ドォォォォォォン!!!

 

 トレーラーに乗せられたガルドメアの装甲越しに聞こえる爆発音に俺の胃がキリキリしだし、反射神経で胃薬を服用しながらアキトやワイバーン隊が乗っている装甲車に通信を繋げながらこう思った。

 

 危うし(俺の)(胃の壁)助けて、只今ドタキャン出来たと思ったライブ真っ最中でアタフタのピンチでゴザル。




以前の『ブスジマバットマ〇フラグ』が蘇りました。 (´・ω・;`)


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第97話 高速道路のプチバトル

少々遅くなりましたが次話です。

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 m(_ _)m


 突然だがここで刻をほんの少しだけ、スマイラス将軍たちを乗せた自動車が元々ブリタニアからの侵略を防ぐために要塞化したパリの軍務地域から、委員会の会議が開かれる中心部に向かっている途中まで巻き戻したいと思う。

 

「ブリタニアを恐れ、尾ひれに尾ひれがついた噂を信じ込んだ市民たちと委員会はEUに住んでいたイレヴンたちをこのように隔離収容してしまったのも、長く続き過ぎた『共和制』が生んだ臆病さの結果だ。」

 

 時は丁度、スマイラス将軍たちが7年前の戦争で『日本』という国籍を失ってからEUの保護を求めたイレヴン(元日本人)たちが、逆に財産と人権もはく奪されて隔離された強制収容所を通りながら、スマイラスがレイラに彼らのことを話していた。

 

「当時も今でも、抵抗と呼べる事をしないイレヴンも情けないがな────」

 

 そんなスマイラスの話を聞きながら、レイラは数々の貧しい者たちが自分たちに今では無くなった母国の言葉(日本語)で恐らくEU市民である自分たちに旧日本の旗を模した日の丸などが描かれたメッセージボードを向ける姿を見て胸の奥がチクチクと痛んだ。

 

 彼女は今まで勉学に励み、軍学校に通っていた時つい最近まで『世間』というモノに目を向ける時間もなかった。

 

 否。 『意識を向けることも考えていなかった』、とこの場合は言った方が正しいだろうか?

 

 EUではそれが当たり前で、群れを成す人間は周りでの『当たり前』を無意識に刷り込まれやすい生き物である。

 

 昨夜のパーティと遠過ぎる者たちの境遇とピカピカの都心部に、再開発のために取り壊されるゲットーとのズレもレイラの中で感じていた『ギャップ感』をさらに引き出していた。

 

 黙り込んで、思惑通りの反応を示すレイラにスマイラス将軍は内心嬉しく思っていた。

 

「標的がエリアに入ってきた。 予定通りだ……言われなくても分かっていたけれど。」

 

 そんな彼らを、ユキヤがハッキングをかけた交通機関のカメラ越しに見ていた。

 携帯の画面には地区の地図と、スマイラスたちが乗っている自動車たちの反応が映し出されていた。

 

「警備の規模も、少し多いけれど予想内だね……()の仕業かな?」

 

『恐らくはな。』

 

 ユキヤの独り言に、インカム越しに毒島の声が聞こえてくる。

 

『そいつがいるとしたら、どこに居やがる?』

 

『ことが始まれば、自ずと出てくるだろうが……強いて言うのなら、()()()()()()()()()()()()()()()だ。』

 

「余程自信があるんだね?」

 

『見ればお前たちも分かる。』

 

「……じゃあ、始めようか。」

 

 リョウの質問に毒島が答えると、ユキヤはスマイラスたちの自動車が走っている高速道路を支えている柱たちに設置した、今ではほとんど用途が無くなりかけている対戦車手榴弾に信号を送る。

 

 ユキヤの見ていたスクリーンにノイズが混じると同時に爆発音が再開発地区に響き渡り、彼は双眼鏡を覗く。

 

「ビンゴ♪」

 

 すると高速道路の一部はみるみると崩れ、先導していたEUの装甲車たちはブレーキが間に合わないまま瓦礫と化した高速道路と共に転落していく。

 

 スマイラスとレイラを乗せた古風な自動車は辛うじてブレーキが間に合い、殿のトレーラーや装甲車たちも急ブレーキをかけて止まったところで事態は動きだす。

 

『よっしゃ、行くぜ!』

 

 リョウの掛け声と共に、先日見たユーロ・ブリタニア仕様のグラスゴーが近くの工事現場から飛び出してはスマイラスたちのいた高速道路の上に乗って来てはランドスピナーを展開する。

 

「は、早く出ろ!」

「隊列を組め!」

「ガルドメアを出撃させろ! 早く!」

 

 呆けたEUの兵士たちはこの襲撃に戸惑い、次々と装甲車やトレーラーの中から出ては機関銃や機関銃に装着されたグレネードランチャーをがむしゃらに撃つ用意をする。

 

「お、おい装甲車の中に戻れ────!」

「────うるせぇ、イレヴンのお守りなんぞやってられるか!」

 

 その反面、幸か不幸かワイバーン隊はEUの者たちと違って動揺はしていたものの、ナルヴァの森まで経験したこととスバルの訓練もあってからか若干冷静だった。

 

「なら俺たちはこのまま初撃をやり過ごす。」

 

 イサムは外に出ようとしたEUの運転手を止めようとしては手を振り払われ、アキトは装甲車のドアを閉めては空席になった運転席に移る。

 

「けどよ日向(アキト)! 外は遮蔽物が無いんだぞ?! このままナイトメアの前に────って“初撃”ってなんのことだよ?!」

 

あいつら(EUの兵士)は正規の訓練は受けている。 なら余所者の俺たちがどうこう口を挟むべきじゃない。 それに、こういう襲撃は大抵────」

 

 バババババババババババン!!!

 

 アキトの言葉を、今度は道の両端に設置されたクレイモア(指向性対人)地雷が次々と作動しては反射的に自動車の中から出たEUの兵士たちに飛び出たボールベアリングが文字通り、彼らを一瞬にしてミンチに変える。

 

「────誘き出された敵に更なる被害を出す為、波状攻撃がセオリーだ。」

 

 原作では、リョウたちはドクターと彼の組織に残った実行員たちとの交渉場となったかつての古巣だったパリの旧地下鉄ホームの仕掛けを使い、ドクターたちを一掃した。

 

 だがそれをするのが不要となった今、設置されていた地雷はホームから外されて今回の襲撃に再利用をされ、今作では遮蔽物のない場所にのこのこと出てきたEUの兵士たちを一掃していた。

 

 無論、地雷は無差別に高速道路の上にいた全てを襲い掛かるのでグラスゴーも攻撃を受ける対象なのだが……

 

『ハッハッハッハ! 流石はナイトメア! 旧式でも対人地雷じゃビクともしねぇぜ!』

 

 リョウの言ったように、旧式とはいえグラスゴーは軍用のナイトメア。

 その装甲は並大抵の歩兵武装では話にもならない。

 

『コードギアス内の歩兵武装では』と、話の前提は変わるが。

 

『オラオラオラァ!』

 

 リョウはグラスゴーのアサルトライフルを構え、クレイモア地雷の攻撃に恐怖を感じて恐る恐るとトレーラーから出てくるガルドメア二機の内一機を撃ち、左手ではブリタニア仕様からユーロ・ブリタニア仕様に変えた際に変更された接近戦用武装を手に取る。

 

 本来、今では型落ちになりつつある第4世代のグラスゴーに搭載されている固定武器はスラッシュハーケンと、両腕部に装着されているスタントンファだけである。

 

 だがユーロ・ブリタニアは対ナイトメア武装としては申し訳程度の効果しかないスタントンファを取り外し、敵の装甲を貫通しつつグラスゴーでも取り扱いのできる白兵戦用武器に変えられた。

 

 グサッ!

 

 身も蓋もない言い方をす(ぶっちゃけ)ると、巨大化したピッケルである。

 

『雑魚はどきやがれ!』

 

 ガルドメアはナイトメアが戦場の主流機になる前の警備用機体であり、グラスゴーを相手にする事を全く想定していない。

 

 アサルトライフルの弾丸は一機をみるみるとハチの巣状態に変えてやがて内蔵されたサクラダイトに引火して爆発し、もう一つはコックピットを巨大ピッケルで潰される。

 

 この様をスマイラスとレイラは並み大抵の攻撃に耐えられる古風な自動車に見せかけた窓から覗う。

 

「ナイトメア────?!」

「────実物を見るのは初めてですが、恐らく────」

 

 ゴン、ゴン。

 

 レイラは後ろから何かが窓をノックするような音を見ると、のっぺりとした白いフルフェイスヘルメットに真っ白の服装を着た誰かが刀の柄頭で注意を引き、レイラが見るとその人物が今度は反対側を指で刺す。

 

「レイラ、対戦車地雷だ! 走るぞ!」

 

 レイラとは反対側を見ていたスマイラスは、今度はフードをした誰かが対戦車地雷をこれ見よがしに見せつけていた。

 

 ドゴン!

 

『あ? もう一機、まだ生きていたのか!』

 

 その時、今まで煙を出して沈黙化していたガルドメアを乗せたトレーラーのハッチが吹き飛んでは予想通りにガルドメアが飛び出る。

 

 手に内蔵された機関銃を撃ちながらグラスゴーに接近し、これに対してグラスゴーはランドスピナーを展開してそれらを避ける。

 

『もしかして、こいつか!』

 

 グラスゴーは避けながらアサルトライフルを撃ち返すが、まるでそれを予想していたかのようにガルドメアは少しだけユラユラと、まるでボクサーのように横へ横へと動きながら接近する速度を増す。

 

『(こいつの動き、なんだ? ふざけてんのか?)』

 

 グラスゴーはアサルトライフルを構えると、かすかにガルドメアの背後にスマイラスたちを乗せた自動車の近くにいたアヤノの後姿がをちらりと画面に映る。

 

『(ッ! こいつ、ワザとアヤノたちが射線上にいるように動いて────?!)────なめんじゃねぇ!』

 

 グラスゴーは怖気づくどころか、ピッケルを構えて撃ってくるガルドメアに自ら接近しながらランドスピナーを酷使して攻撃を凌ぎながら横に動き、射線上からアヤノたちを離れさせてアサルトライフルを再び撃つ。

 

「(良し、大詰めだ。)」

 

 ガルドメアの中にいたスバルはコンソールに自動前進のプログラムを打つと、横に置いていた釘付きライフルらしきモノを手に取りながら後方にあるコックピットのハッチを開けてそれを構える。

 

 グラスゴーの攻撃はガルドメアの装甲を次々と削っていき、ダメージでガルドメアが転倒する直前に飛び出ながらライフルに外付けされていたワイヤーを射出してそれがグラスゴーの胸に引っ付くと、電動リールが巻き取っていきライダースーツにヘルメットをしたスバルは急速に接近していく。

 

『そうか! こいつが噂のスバルって野郎か!』

 

 これを画面越しに見たリョウの笑みは深くなり、グラスゴーは握っていたピッケルを構えてそれを振り下ろす。

 

 無論、距離的にも武装的にもピッケルはスバルに届くどころか対人用の想定はされていない。

 

『ブッ千切れろ!』

 

 だがリョウもそれは承知の上で、ピッケルはグラスゴーと昴を繋いでいたワイヤーを狙っていた。

 

 カチン────

 ────グサッ!

 

 だがピッケルが振り下ろされる前にワイヤーは外れ、ピッケルは空振りをして高速道路に刺さり、スバルはさっきまでの勢いを利用し地面をスライドしながらライフルを構えていた。

 

『(こいつ、本気(マジ)か?! 本気(マジ)でナイトメアを生身で倒す気か?!)』

 

 その全く動揺のないまま向かってくる姿にゾクリとした寒気のようなモノがリョウの背中を走り、彼はアサルトライフルの角度を調整して撃つ。

 

 元々戦車や自動車相手に使うアサルトライフルでも弾丸がかすっただけで腕が吹き飛ばされてもおかしくない中、スバルはワイヤーを再度射出する。

 

『(こいつ、また機体に張り付く気か?! ()()()()()()()()()()()()()!)』

 

 グラスゴーはスバルのワイヤーを懸念してか横に移動するとワイヤーは逸れたまま通り過ぎる。

 

 またも何かに定着したワイヤーは自動的に引き戻されていき、減速していたスバルは再び急速に動き出す。

 

 彼が移動する方向はグラスゴーとの直線ではなく、わずかに逸れていたが接近していたことでグラスゴーはアサルトライフルを構えるが一直線に動いていたスバルが急に横へと急転換する。

 

『ん?』

 

 画面でリョウが見たのは、スバルが急に横へ巻き戻されるワイヤーのまま高速道路のガードレールを飛び越えて視界から消える姿だった。

 

『……は? (アイツ、ポカしちまったのか────ハッ?!)』

 

 一瞬だけリョウは呆気に取られているがあることに気付いたことで動きが止まってしまう。

 

『(この道は柱で支え上げられて、下は空洞! という事は────!)────マジかよ?!』

 

 グラスゴーは高速道路の反対側を見ると案の定、橋状になっていた高速道路の下を周って最初に横へと避けたグラスゴーのすぐ近くにまで接近していた。

 

 グラスゴーはアサルトライフルを構えるが、今度は横から来る爆発に狙いが定まらないままスバルの接近を許してしまう。

 

『(こ、こいつ……まさか、アヤノたちが標的を車から出す為に使う対戦車地雷の爆発まで────?!)』

 

 スバルの持っていたライフルが火を吹くとグラスゴーの頭部、右腕、右足を次々と撃ち抜くとグラスゴーは倒れてしまう。

 

『ま、マジかぁぁぁぁぁ?!』

 

 リョウはただ驚愕にそう叫びながらノイズが走る画面を見る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 何とかなって良かったぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 俺は対KMF用ライフルを黄色いグラスゴーのコックピットブロックに向けながらバクバクと脈を打つ心臓を感じてクラクラしそうになる意識を引き留める。

 

 一応言っておくが、今までの動きは完全に予想外だったよ?

 何せあのグラスゴー、俺の出したワイヤーを切ろうとしていたし?

 そもそも、ワイヤーを取り付けられて『せや、ぶち切ってやろう』なんてすぐに思いつけるわけがないじゃん?

 

 思いつかれた訳だけどさ?

 

 んで今度はワイヤーを打ったら動揺しちゃったからか狙いは外すわ、ショックで固まってそのまま橋から落ちそうになるわ、ターザ〇やスパイダーマ〇が頭を過ぎって何とか道の反対側に戻ってこられたけど(多分)リョウが乗っているグラスゴーがいるわで反射的に撃ってしまうわで、もう完全にてんてこまいだった。

 

 ウッ。 ちょっと緊張が解いたら、今更ながら胃がキリキリと痛み出す。

 

 けど何でリョウたちがここに?

 毒島、もしかして説得に間に────

 

 ヒュン!

 

 ────うおぉぉぉぉぉぉぉぉ?!

 

 刃が! 今横からキラリと刃が光って俺を切ろうとした?!

 

 なんで?!

 

 反射で避けたけれど何で?!

 

 というか真っ白のお前誰やねん?!

 

「誰だ?」

 

 “誰やねん”叫びをしたかったのに、俺のこの口下手さが憎いでござる。

 

 あと反射的に拳銃とナイフを出したのは許して?

 

『敵でも味方でもない。』

 

 なんでじゃい?!

 

 いやいやいや、声も体型も誤魔化しているけどさっきの切り方と気配の消し方は毒島だろお前?

 

 え? どういうことなのこ()ぇぇぇぇぇぇぇ?




久しぶりに前半と後半で視点が第三者とスバルに変わる話でした。 (´・ω・`;)


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第98話 高速道路のプチバトル2

誤字報告、お手数をお掛けになっております! <(_ _)>ペコッ

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全てありがたく活力剤として頂いております!

楽しんでいただければ幸いです!


 バァン! チッ! カァン

 

 乾いた銃声が空間の大気を震わせ、銃弾は的を掠ってはそのまま奥へと進み、角度のついた鉄板に弾かれて強制的に地面へと落ちる。

 

 そこはディーナ・シー内部に設置してあるシューティングレンジで、現在の()()が自由に歩き回れる場所の一つだった。

 

 バァン! バスッ! カァン

 

「あ、当たった!」

 

 ついこの間まではいつもドレスしか着ていなかったがディーナ・シーに来てからは“目立ちすぎる”と言われ、今ではアンジュから無難な服装を借りて銃用耳栓をしたユーフェミアが構えていた拳銃の後ろからパァっとした笑顔になる。

 

『行政特区事変』から前に進もうと彼女は今までやりたかったこと、あるいは興味があったが皇族故に遠ざかれていたことに次々と試し、以前の洗濯(家事)アワアワ事件もその一環だった。

 

 その教訓から、ディーナ・シーの乗組員たちも(以前同じ境遇に陥った)アンジュも加わってか今のユーフェミアは“人並みに家事と身の回りのことができる”ようになった。

 

『私、射撃をやってみたい!』と、彼女のイメージからほど遠い宣言にはさすがにアンジュ+乗組員の何人かがハラハラドキドキしながら近くで何が起きても動けるように待機付き添ったが。

 

「う、うーん……“当たった”と言えばそうなんだけれど……」

 

 ちなみに上記ではユーフェミアは嬉しがっていたが、アンジュが見たのは中心から大きく外れて枠の外に穴が開いた的だった。

 

「ね、もう一度銃を構えてみて?」

 

「???」

 

 ハテナマークを出しながらも、ユーフェミアはかつて皇族でわずかに護身用として触れた構えを取るため拳銃を持つ利き腕側の足を後ろに引いて身体が半身だけが見える────俗に“ウィーバースタンス”と呼ばれる構えを取る。

 

「的に狙いを定めて。」

 

「えっと……はい。」

 

「リア、フロント、的がちゃんと一直線になっているまま目をつぶってから、ゆっくりと拳銃を下ろしてからもう一度構えを取ってから目を開けて。」

 

「あ、あれ?!」

 

 ユーフェミアは言われた通りにすると、いつの間にか銃身が右に逸れていてフロントサイトは下がっていた。

 

「え?! わ、私ちゃんと腕を下げてから上げただけなのに、なんで???」

 

 アンジュはユーフェミアの肩に顎を乗せてできるだけ彼女の見ていた光景に近づけようと体を動かす。

 

「あー、右に逸れているなら足が前に出すぎ。 銃口が下がっているなら握る手の薬と小指あたりが強く握りすぎているということよ。 小指は“握る”じゃなくて“抱える”だけ。 薬指はオーバーラップじゃなくて絡めて────」

 

 今度はアンジュがユーフェミアを後ろから彼女の手に自分の手を添えて構えを調整していきながら何をしているのかを口にし始める。

 

 なお美少女二人のうち一人が背中越しに体を重ねたこの場に暇人居合わせた者たちの関心は『銃を撃つお姫様』から別なモノに変わったそうな。

 

 無理もないが。

 

「────構えはいろいろあって “一般”や“初心者向け”とされているものもあるけれど、結局は“体格”という個人差が出てくるから一人一人、“自分だけに合う構え”というものがあるわ。」

 

「な、なるほど?」

 

「身長、体重、筋肉の付き方に目の良さも要因だけど、一番大事なのは骨格ね。 それだけは大掛かりなケガや手術をしていなければ変わらないし、まさに“個人差”の大部分ね。 だから何度も構えを少しずつ直してから追求すれば────」

「────あ! 今度は照準がちゃんと合いました!」

 

 アンジュはユーフェミアから離れ、一歩下がる。

 

「んじゃ、そのまま撃ってみて。」

 

 バァン! バスッ! カァン

 

「「「おおお。」」」

 

 パチパチパチパチ。

 

「あぅぅぅぅ……」

 

 ユーフェミアが撃った的の中心に穴が開くと、見ていた者たちが純粋な気持ちで拍手をすると彼女は気まずそうに照れて銃を握ったまま頬っぺたを覆おうとする。

 

「あ、あと銃は絶対に顔に近づけないこと。 めちゃくちゃ危ないからね。」

 

「え? で、でも映画とかでは、よく壁際について────」

「────そうやって構えたままドアップで撮ったら緊張感が高まって見栄えがいいだけよ。 暴発したり、間違って撃っちゃったりしたら凄く危ないでしょ? あと普通に自分の視界を遮っちゃうし。 あ、あと屋内で壁際に近すぎるのも危険。 跳弾の危険もだけど、近すぎて曲がり角を曲がったときに相手と遭遇して銃を摘まれたら最悪のケースよ。 打ちたくとも自分の顔の近くに持っていたわけだし。」

 

「ほわぁ……アンジュってばすごい!」

 

「ンフフフ~♪」

 

 目をきらきらとさせながら自分を褒めるユーフェミアにアンジュは胸を張ってヘリコプターのようにアホ毛がグルグルと回転し、得意げなどや顔を披露する。

 

「あれ? でもアンジュってなんでこんなに銃のことに詳しいの?」

 

 またも余談だがこの二人、似た者同士&以前からの顔見知りからかすぐに仲良くなっている。

 

「う……そ、それは……まぁ……受け売り……だから……」

 

 ここでアンジュは気まずく指と体をもじもじさせながら小声になって答える様子に、ユーフェミアは思わずシュンと畏まる子犬を連想してしまう。

 

「受け売り? って、毒島さんですか?」

 

「あー、冴子(毒島)は銃ってあんまり好きじゃないわ。 スヴェンの受け売りよ。 あ。 それで思い出したけれど、相手も至近距離で拳銃を使っていたら横に逃げるのよ。」

 

「よ、横に?! 距離を取るのは────」

「────それなら時と場合によるけれどもっと危険ね。 銃撃戦って、距離が至近距離だと脳から手の筋肉に信号が伝達するまで時間差があって、至近距離だと“相手を撃つ”って信号が送られる前に横に動いていたら結構外れるみたいよ。」

 

「は、はぁ……要するに、反射神経の関係で“手でつかみ合う距離でない場合は横に逃げるとひとまず当たらない”ということですよね?」

 

「ぶっちゃけるとね。 でも、相手が機関銃や散弾銃に刃物を使っている場合は無効ね。 最初の二つはもう想像できると思うけど、刃物は銃と違って動作一つ(ワンアクション)で行動が済むから。」

 

「では、もし相手が刃物を使った場合はどうすればいいのですが?」

 

「え?! え、えええっと……えええええええええええっと……」

 

 アンジュが考え込むと同時にさっきまでくるくる回っていたアホ毛が今度はピンと立っては車のワイパーのようにユサユサと横にまるで電波を受信しようと動く。

 

「……と、取り敢えずそんな時の為に常時持っている自分のナイフか何かで初撃をやり過ごして距離を取る?」

 

「なんで疑問形なのですか?」

 

「だって……接近戦といえば冴子で、私……冴子に勝ったことがないんだもん。」

 

「冴子……桐原泰三の孫の、毒島冴子さんですね? いつも刀を持ち歩いている? やっぱり日本人って、刃物の達人が多いのですね?」

 

「冴子は“達人”どころじゃないわよ。 何せこっちが引き金を引くと同時に銃口から弾道を予測して避けながら急接近するなんて反則級よ、反則。」

 

 ユーフェミアの頭上には以前、コーネリアが見せたような少女漫画風の妄想が浮かび上がる。

 妄想の中での毒島はどこぞのハクメンアクションヒーローっぽい動きをしていた。

 

「……興味本位で聞きますけれど、彼女に勝てる人物となるとやはり桐原さんでしょうか?」

 

「ん~……爺さんと、彼女に剣術を教えた藤堂さん……あとはスヴェン辺りかな?」

 

「……すごいのですね、あの人(スヴェンさん)は……」

 

「まぁねぇ~!♪」

 

 アンジュのアホ毛がまたも得意げなドヤァとして顔をする。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 ディーナ・シーとは明らかに変わった景色のEUへと戻る。

 時はちょうどアヤノがスマイラスとレイラを車から対戦車手榴弾を使って誘き出し、爆発の余波に紛れて彼女がスマイラスの背後を取って彼を人質にしていた。

 

 生き残って近くにいたワイバーン隊はこれを見過ごすはずもなく、乗っていた装甲車内にあった火器を手に取ってフードを深くかぶったアヤノに向けていた。

 

「グッ────」

「────下手な動きをすると、こいつ(スマイラス)の首に風穴が開くよ?」

 

 とはいえ、ワイバーン隊も銃の扱いには不慣れだった。

 スバルの施していた『基礎訓練』とは文字通り基礎中の基礎で、主に『体力の底上げ』や『筋力作り』だった。

 

 ナイトメアを十分に操縦するにも生き延びるにも、この二つは必要不可欠である。

 特に脱出装置が搭載されていないアレクサンダを使うワイバーン隊は機体から脱出後、生身で戦場から退去しなくてはならなくなるからだ。

 

 一応彼らにも銃火器の扱いは理解してはいるが、構えや狙い方は新兵同然でとても人質を取られた相手だけを撃つ自信など持っていない。

 

 ドォドォドォドォン!!

 

 この一触即発の状態ががらりと変わったのは、スバルがグラスゴー相手に『生身』かつ『橋』という地形を利用しながら虚を突いた頃だった。

 

 原作でのアヤノはグラスゴーをアキトが撃墜させたことで動揺し、スマイラスを無力化してレイラも人質にしようとしたところを逆に反撃されていた。

 

「ッ。」

 

 だがアヤノはチラッとグラスゴー────否。 グラスゴーの近くに視線を一瞬だけ移し、またも自分に銃を向けるワイバーン隊に戻してからじりじりと橋から降りる階段の方へと、人質(スマイラス)と一緒によじっていた。

 

 バァン! ギィン

 

 銃声と、耳に来る金属が弾き合う音にワイバーン隊の注意が行きそうになった瞬間をアヤノは利用し一気にスマイラスとともに────

 

「ぬん────!」

「────え────きゃ?!」

 

 ────駆けようとしたところに息を潜めながらアヤノの背後に回っていたアキトが彼女をスマイラスから引き離し、小太刀を持っていた腕を後ろで組まれたまま地面に組み伏せた状態になる。

 

「くっ────!」

「────これ以上動けば、腕を折る。」

 

 この時、アヤノがアキトを見ようと首を回した拍子にフードが少しめくれて彼女がアキトを恨めしそうに見る。

 

「アンタも、日本人なのに!」

 

「??? お前は────」

 

 ボッ!

 

 その場にいた皆の視界の一面を真っ白に無理やり書き換えるような閃光が爆発音とともに発生し、アキトは自分が掴んでいた腕の感覚が無くなるのと同時に平衡感覚と痛みで自分が打撃を食らったことを理解する。

 

「…………撤退したか。」

 

 やがて視覚と聴覚が回復していくと、アヤノやスバルと対峙していた白い仮面と服装をした者の姿がいなくなっていたことにスバルは静かに告げた。

 

 さっきまで激しい攻防をしていたことを証明するかのように、視界を遮るヘルメットを脱ぎ捨てた顔や首には擦り傷や切られた肌から血が出て、ライダースーツはボロボロだった。

 

「……テロリストにしては、気持ちがいいぐらいの手際だったな。」

 

「ああ。」

 

 アキトはそんな状態でも平然とするスバルを見ながら違和感を持った。

 

 見た目や軽い自己紹介ではおそらく自分と同じか近い歳の筈。

 だというのに、スバルの行いや振る舞いはどこか自分(アキト)と似ているが“なにかが違う”。

 

 そんな違和感が、アキトの脳裏でチリチリと燻っていた。

 

 ……

 …

 

 

『ナイトメアはナイトメアで対抗するのが必須。』

 それはコードギアスの世界では7年前にブリタニアがグラスゴーを実践導入したことで一般常識化した認知であり、一種の『当たり前』となっていた。

 

 勿論、理論的に歩兵部隊でもナイトメアを倒すことはできるがそれらは極稀かつ様々な要因や『手持ちロケットで奇襲』に『騎乗される前の強襲』や『地雷原に誘い込む』といった、回りくどい戦い方などが前提となる。

『真っ向から単身でナイトメアに挑む』など、死地に飛び込む行為と等しい。

 

 それに、現状で兵士が個人で持てる兵装で()()()()()()()()()()

 

 だというのにスバルは見たこともない武器を使い、見たこともない戦い方をしてグラスゴー(ナイトメア)に勝ち、不意打ちをかけた明らかに接近戦を得意とする者に対応して生き永らえていた。

 

「パイロットは……脱出しているな。」

 

 しかも『それが普通だ』というかのように放心したり、成し遂げた偉業から感慨に浸ることなく、空中で騒ぎに駆け付けた空軍の戦闘機がグルグルと回り始めていた今でも平然としながらユーロ・ブリタニア仕様のグラスゴーを調べていた。

 

 そんな彼は、周りの者たちに様々な思惑や感情を脳内や胸に生ませる。

 

『畏怖』、『関心』、『放心』、等々。

 

「(もしかして、私は新たな戦い方を目撃していたのでしょうか?)」

 

 レイラもその中の一人だった。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上記のスバルたちがいる橋の地中、パリの地中を迷宮のように張り巡らされたカタコンベの中では場違いなカラカラとした笑いが響く。

 

「いやぁ~! 負けた負けた!」

 

「「「…………………………」」」

 

 カラカラと満足そうに笑う毒島と違い、リョウたちは神妙な気持ちに浸ったまま静かに歩いていた。

 

 毒島より三人の振る舞いこそ、『お通夜状態』と呼べるだろう。

 

「(アイツ……本物(マジ)か?)」

 

 リョウは未だにグラスゴーに見知らぬ武器で挑んだスバルの動きなどを分かっても理解しづらいモノだったようで、まるで夢を見ていた気持ちだった。

 

「(鵜呑みにしないとしても……生身でナイトメアを相手するなんて相当の修羅場をくぐっている……ネットの噂はデマじゃなかったということかな? それとも単純にイカレているかだね♪)」

 

 ユキヤはいつもの笑みを浮かべながらルンルン気分のまま足を運ばせていた。

 

「(アイツら……日本人のくせに、EUの軍人なんかになって……特にあの三つ編み野郎はなんかムカつく!)」

 

 そして直情的なアヤノは珍しく、静かに怒りを覚えていた。

 

「(ウム。 思った通り、スバルの活躍を間近で見たことで少なくともリョウの興味は引かれ、私の言ったことが出鱈目ではないと分かったな……それにしても、不意打ちを仕掛けても反応するとは。)」

 

 毒島は自分が仕掛けた初撃へのカウンター気味に出された蹴りを食らって、未だにジクジクと痛む脇腹に手を添えた。

 

「これで少なくとも、スバルの戦闘力のことは信じてもらえただろうか?」

 

「……本当に俺たちが断っても、いいんだな?」

 

「ああ、いいとも。 性格上、彼はそれでも戦うだろうさ。 ただその場合、君たちは彼の成し遂げることを横から見ているだけになり、“思っていたのと違う”と言えない立場になるな。 何せ、()()()()()()()のだから。 それと気付いていないかもしれんから言うが、あのままだとEUの空軍から攻撃を受けていたぞ? 何せ人質に取ろうとしたスマイラス将軍は日和ったEUではあまり人気がないらしいからな。 “テロに巻き込まれ、死んだ”となれば好都合と思う連中もいただろう。」

 

「……アンタの話の続き、聞くだけ聞こうか?」

 

「分かった。 (この感じだと、恐らく誘われていることを懸念しても来るだろうな。 さて……今度は頃合いを見て、こいつらをスバルの元に連れていくか……一体全体、彼にはどこまで視えているのやら。)」

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所はさらに変わり、今度はトウキョウ租界やブリタニアが占領したエリアの大都会内でよく見る巨大ソーラーパネルや蓄電所などの隣に旧古代ローマ風の建物などが聳え立つ街並みへと移る。

 

「ペテルブルグ……でありますか?」

 

 ここはユーロ・ブリタニア、かつて市民革命からブリタニアへと亡命した貴族の末裔が立ち上げた独立国家でも首都と大差ない都市の一つだった。

 

 その中でも一際豪快な建物の中で、とあるやんわりとしながらも芯がしっかりとしていそうな男────『ミケーレ・マンフレディ』が台座に座っていた。

 

 ここに滞在しているのはユーロ・ブリタニアが保有する騎士団でも、元ナイトオブツーだったマンフレディ卿が率いる『ユーロ・ブリタニアの騎士団内でも最強』とうたわれている聖ミカエル騎士団が配置されている。

 

 実質上、ユーロ・ブリタニアのトップである宗主の『オーガスタ・ヘンリ・ハイランド(ヴェランス大公)』が直接、立場が違うようになってもマンフレディ卿に直接声をかけるほどにその存在は大きい。

 

「そうだ。 先日、ペテルブルグの西方のナルヴァ近辺でラファエル騎士団が壊滅したことでヴェランス大公からそのような勅命を聞いた。」

 

「ラファエル騎士団が……壊滅ですか?」

 

 マンフレディ卿の前に立っていたのは青い長髪をまとめたポニーテールをした美青年────聖ミカエル騎士団の副官である『シン・ヒュウガ・シャイング』。

 

「ああ。 生き残った者たちからの報告によると、“敵は包囲陣の中に突如出現した”となっている。 ナイトメアらしき残影とともに、()()()()の痕跡もな。」

 

「“突如”に、“歩兵部隊”……まるで、古代ローマ帝国を襲った“ハンニバル将軍”と特徴が酷似していますね。」

 

「ハンニバル、か……ではさしずめ、『ハンニバルの亡霊』とでも呼ぶか? シンにも、ユーモアがあるのだな?」

 

「恐れ入ります、マンフレディ卿。」

 

「そこは義兄上と呼ぶのではないか?」

 

 シンはマンフレディ卿の言ったように東洋人だが、浮浪児として生きていた彼はユーロ・ブリタニアの騎士を剣術で負かしたところをマンフレディ卿が目撃してからユーロ・ブリタニア軍に入団させた。

 するとシンは数々の武功を成し遂げていき、今ではマンフレディの後押しを受けてシャイング家の養子になり正当な後継者の地位にまで上り詰めていた。

 

「いえ、私はマンフレディ卿に比べればまだまだです。」

 

「ハッハッハ! 未だにお前の謙遜する態度は変わらんか! だが、真に“亡霊”と呼ぶべきはEUだ。 やつらは300年前の革命がもたらした夢にすがり付くばかりの亡霊で、己の利益しか目に映らぬ愚民どもの集まりでしかない。

 シン。 お前には東洋の武人(もののふ)の血が流れているが、私はお前以上にユーロ・ブリタニアに貢献した者を片手でしか知らん。 正統なる貴族団に加わる日も近いだろう。 ()()()()よ、その時お前は何を望む?」

 

「……義弟……ですか……」

 

「うむ。 私はお前を()()()()()()()以上に思っているぞ!」

 

 シンは顎に手を添えると、あっけらかんと以下の言葉を口にする。

 

「ではマンフレディ卿、ミカエル騎士団を()()()頂きたい。」

 

「………………ハーハッハッハ!」

 

 シンの言葉に、マンフレディはポカンとするがすぐに笑い出す。

 

 シンの冗談と思いながら。

 

「シン! お前の真顔で冗談を言うのは新鮮────!」

「────ですので『マンフレディ卿、私の為に死んで』ください。」

 

 マンフレディはぴたりと笑うことを止めると、腰から剣を抜いてそれを自らの首に真剣な顔で添える。

 

「ああ。 お前の為ならば、喜んで死のう。」

 

 ザシュ!

 

 ザァァァァァ!

 

 肉が素早く切られる音と、血が噴き出す音が室内に響き渡ると頭が胴体から離れたマンフレディの亡骸が地面へと落ちる様を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()シンは汚物を見るような目で涼しく見下ろしていた。

 

「さようなら、ミケーレ・マンフレディ。 私は貴方を愛していましたよ? “兄弟”、としてではありませんが。」

 

 自分にかかった返り血を全く気にせず、まるで子供のようににっこりとした笑みをしたまま上記の言葉を口にするシンの様子はあまりにもチグハグだった。




投稿時間がずれてしまい、申し訳ありませんでした。 m( _ _;)m


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第99話 精神(そして胃壁)的に優しい(?)ひと時

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

リアルが目まぐるしく&予定以上にバタバタし、さらに久しく使っていない筋肉からの筋肉痛でダウンしていました。 (汗


 広大な土地を誇るEU内にある緑がまだ豊かな森の中でも一際目立つ山中の、更に奥でひっそり見える古城、その名も『ヴァイスボルフ城』、はかつての革命以前から聳え立っている元貴族の城である。

 

 人を寄せ付けない気配と圧迫感を持ったこここそがwZERO部隊の本拠地であり、以前にレイラがパリへの招集に応じて旅立ったヘリポートが設置されているところでもある。

 

 完全に中世そのものの見た目と違い、wZERO部隊を立ち上げた際に完全なリフォームを施された城の内部はパリ市内の軍部地区とも引けを取らないほど要塞化していた。

 

 物理的にも、電子的にも。

 

「(おお~。 これがヴァイスボルフ城……の、外壁か。)」

 

 そんな景色をスバルは自動車の中から見上げながら内心、感動していた。

 

 ちなみに日本の名所や旧跡と呼べる数々は殆んどが『無くなっている』、あるいは『一般人立入禁止』となっていることが多い。

 

 トウキョウタワーはブリタニアの侵略時に壊されたまま中身がくりぬかれて博物館化され、フジサンも半分がサクラダイトの輸出の為に採掘場&駐屯地に改造。 キョウトやナラの寺は爆撃の際に焼かれて再開発。

 

 等々。

 

 転生先が『コードギアス』と知ってから、自分の見覚えのある(または無い)モノをリアルに見られることに彼は感動していたが、古風で巨大な城を間近で見るのは今回が初めてである。

 

「(間近で見るとスゲェ迫力だなぁ~……やっと、ここに来られた────)」

 

 その感動を味わえる時間も、束の間だけだったが。

 

「────貴様が“スバル”とやらか。」

 

 ヴァイスボルフ城に着いて自動車を降りると同時に、ハメル少佐と警備隊の何人かが彼に声をかける。

 

「ああ、そうだが? (で、確かこいつが警備隊のハメルだよな? 俺、何かやったか?)」

 

「……一応客人なので、君のご同行を願おうか? 拒否するならば一旦、身柄を拘束してもらう────」

「────え、ハメル中佐────?」

「────マルカル中佐は黙っていてください、これは()()の問題です。」

 

「……いいだろう。 (いや俺マジで何かやっちゃった? 機体は前もってここに送られて調べ上げられている筈だし、対KMFライフルも拳銃もちゃんと預けているし……なんだろう?)」

 

 その答えを、スバルはすぐに分かることとなる。

 

 

 


 

 

 どうなってんのこれ?

 

「よぉ! ()()()()だな!」

 

 い、今目の前で起こっていることをそのまま話すぜ────って、え?

『前置きは良いからとっとと話せ』だって?

 

「ここに来るのに僕たち、結構苦労しちゃったよ♪」

 

 んじゃ言うぞ?

 

『ヴァイスボルフ城に着いたら警備のハメルに付いていっ(連行されてい)たらリョウたち三人が我が物顔で寛いでいて俺と馴れ馴れしい言動をしてきた。』

 

「…………………………」

 

 ああいや、リョウとユキヤの二人だ。

 アヤノは窓際で不貞腐れながら窓の外を見ていて視線も合わせないようにしている。

 

 よって短パンから出た生足(美脚)と立派なお胸がフードパーカー越しに見える♡

 

 というか肌寒くないの? その服装で?

 

「それでスバル、詳しいことを聞こうか────?」

 

 なんの?

 

「────この場所(ヴァイスボルフ城)()()()()()()した理由を。」

 

 え゛。

 

「人が理由もなく来るはずのない森に入ってから何日もかけ、城の近辺にまで来てこれ見よがしに焚火をして────」

 

 あ、だんだんと話が見えてきたぞ。

 

 主にハメルがワナワナと呆れながら眼鏡をかけなおして怒る様子で『な・る・へ・ろ・そ~』なアレだ。

 

『部外者のリョウたち三人がEUの機密を凝縮したようなこの城に来て警備隊が撤去か接触した際に俺の名前を出した』といったところか。

 

 あ、アカン。

 この状況、絶対ハメルの逆鱗に触れているっぽい。

 

 なんでこうなった?

 

「……」

 

 まぁ、無理もないか。

 警備の担当を任されている彼からすれば、『渡り鳥』的な傭兵なんて信用できない存在だし?

 

「何か、申し開きはないのかね?」

 

 ほらぁ~。

 “申し開きはないのかね”とか言っちゃっているし。

 

 ぴえん。

 

「ん? アンタたち、もしかして僕たちがこの人からここの場所を言われたと勘違いしている?」

 

 あれ、ユキヤの薄笑いが人をバカにするようなものに変わったぞ?

 意外……でもないのか?

 

「どういう意味だね?」

 

「その人から誘われているのは本当だよ? でも彼もここに連れて来るのは初めてなんでしょ?」

 

 おお?

 なんかハメル対ユキヤの図面に変わった?

 

「……まさかとは思うが、“自力でヴァイスボルフ城”にたどり着いたとでも言いたいのかね?」

 

「そのまさかだよ、軍人さん。 “この城は自給自足で孤立している”と思っているみたいだけど……見つけるのは“不可能”じゃなくて“難しい”だけだよ? 城自体がでかいし、“廃墟”じゃないのは手入れもされている上に夜になれば明かりは点くし、何より公にされていない。 これじゃあ“何か隠しています”って言っているようなもんだよ。」

 

 おおおおおぉぉぉ?!

『饒舌なユキヤ』も珍しいっちゃ珍しいが、まさかのまさかで正論を混ぜた指摘で“ありえなくもない”状況を作りやがった?!

 

「でしょ、スバルさん?」

 

 って、そこで俺に振るんかーい?!

 

「“情報はすべて”、だっけ?」

 

 ちょっと待てオイこら。

 なんで俺の考えていた言い訳を────ゲフンゲフン

 

 いや落ち着け俺。

 まだ焦るときじゃない。

 

 考えろ。 考えるんだ。

 他人が自分を見て待っていることを忘れずに考え────あ、キタ。

 

「ああ、その通りだ。 『情報』は如何なる状況でも適応できる『万物の基盤』だ。 俺が今までやってこられたのも、そのおかげだ。」

 

 う~む、“それっぽいことを言う”のが俺にもついてきたな。

 

 あとは前もって、この城に輸送された俺の機体が調べ上げられていることを────

 

 「────なるほど……だからクレマンたちがあれほど騒いでいたのか────」

 

 っしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ハメルのぼそっとした独り言が耳に届くと、俺は内心でガッツポーズをとる。

 実はというと、今回の機体は『亡国のアキト』に関わることを前提にした奴だ。

 

 通常ならファクトスフィアを展開して得る情報源の代理に以前、『マオ対策用』として使った小型無人機を使ったスペシャルラクシャータ製だ。

 

 EUではファクトスフィアはおろか、ちゃんとした『ナイトメア』もない。

 “ならどうやってちゃんとしたナイトメアを保有しているブリタニアをバックにつけているユーロ・ブリタニア相手に立ち回れているか”、という疑問が出てくる。

 答えはシンプル。

 

『気球』だ。

 

 EUは『空』に、高々度観測気球を展開させて戦場のデータを得ている。

 

『さすがコードギアスの世界』とでもいうのか時間差(タイムラグ)は生じないものの、雲や悪天候にめっぽう弱い。

 だがそれのおかげでEUはブリタニアたちにいい勝負ができていて、ワイバーン隊はEU全土でもこのアドバンテージをフルに活かせている部隊だ。

 

 つまり、『無い戦力をリアルタイムの情報戦で補っている』。

 

「それで、お前たち三人はどうしてここにいる?」

 

 っと、ハメルの声で現在へと戻る。

 また現実逃避(意識の脱線)の癖が出ていたか。

 

「ユキヤが調べ上げたところ、ここは日本人を雇っているんだろ?」

 

 なにっぬ?!

 

「お前たち……まさか志願しに来たとでもいうのか?」

 

 ……志願……だと?

 

「な~に、俺たちの実力はそこのスバルが知っているさ。」

 

 俺か?!

 そこでまた俺なのか?!

 

「ほぉ?」

 

 ほらぁ~、ハメルも怪しがっている目になってそれを俺に向けているじゃないの~。

 

「そこまでなのか? どうなのだ?」

 

 本日二回目のぴえん……って胃が滅茶苦茶痛い!

 

 もうどうでもええわ!

 

「そうだな。 佐山(リョウ)は身体能力も反射神経もかなりのものな上に手先が器用ということから操縦センスがあるとみていい。 成瀬(ユキヤ)は頭の回転も速い上に()()に長けている。 香坂(アヤノ)は────って、彼女の小太刀はどうした?」

 

 もうどうでもええわーい!

 

「……危険物をそのままにする訳がないだろう。 もちろん没収した。」

 

 うーん、『これでもか!』ってぐらいのメガネ(ハメル)ジト目正論返しだ。

 

「……後で返してやってくれないか? ()()()()()らしいからな。」

 

「………………貴様の処遇と契約とまとめて話し合う必要があるな。」

 

 まぁそうだよねぇ~。

 俺との契約書は『金銭をもらう代わりにwZERO隊の助っ人をする』なんだけれど……

 

 まさかあのア()ウも、ワイバーン隊の親族たちに配られるはずの金が横取りされているなんて思っていなかっただろうな、もとから関心もなかったし。

 

 どこぞの光のように“計画通り”だが。

 

「ああ、それと俺の商売道具の一つである機体の状態を聞いてもいいか?」

 

「……」

 

 そう言いながらハメルを見ると、彼は気まずそうに視線をそらした。

 

「……お前の機体は……()()調()()()だ。」

 

 あ。 これって多分、『分解されたまま』と取っていいのか?

 

「使える状態であれば別に構わん。」

 

「…………………………」

 

 ちょっとハメルさんや?

 なぜに目をそらしたまま汗を出すのでしょうか?

 もしかしてもしかすると『取り調べ中に技術班が興味から分解しすぎてどうやって組みなおしたらいいかわからない』状態ですか?

 

「……………………あ、あとでそれも含めて話そうか?」

 

 うん、これは『分解しすぎちゃったよん、てへぺろ☆』的なシチュエーション辺りかな?

 

 

 


 

 

 ザクッ。 ザクッ。 ザクッ。 

 

 ヴァイスボルフ城の敷地内にある森の中で、シャベルが土を掘り起こす音だけが場の静寂さを過る。

 

 景色が変わるとそこには原作とは違って生き残ったアキト一人ではなく、ワイバーン隊の少年たち数人の姿もあった。

 

「重いから気をつけろよ。」

 

「ああ。」

 

 地面を掘っていたり、リヤカーを引いたりしていた彼らは静かに、必要最低限の言葉しか口にしなかった。

 

『亡国のアキト』で、ワイバーン隊に志願したイレヴンたちは“生き残った家族に迷惑をかけまい”とのことで一つの約束を交わしていた。

 

『生き残った者が戦いで死んだ者たちの墓を掘る』、と。

 

 エリア11は元々日本だけあって、イレヴン(元日本人)はまだ名誉ブリタニア人となって『人間らしい生活』を送ることができる。

 

 だがEUでは収容所の外では住所や職はおろか、墓でさえも提供されない。

 提供されたとしてもよほどのこと(莫大な金)がない限り無理であり、ほとんどが詐欺同然である。

 

 よって小さな場所ながらヴァイスボルフ城の森の一部を譲ってもらい、そこを共同墓地としていた。

 

「アンタも物好きだな。」

 

 アキトは自分のように墓石を埋め込む地面を隣で掘っていたスバルにそう声をかける。

 

「……まぁな。」

 

 当初、ワイバーン隊の生き残りは城に帰ってきてから()()()()()()()墓を作ろうと動き出すとちょうど城の士官たちと話が終わったスバルが動き出す彼らを見るなり“手伝うぞ”との一言でスルリと作業に加わった。

 

『なぜ知っている?』という疑問……というよりは戸惑う視線にスバルはただ黙って手慣れたような振る舞いにそれぞれが似たような思惑を持った。

 

『傭兵ならば、人の生き死にを自分たちのように見たのではないか?』、と。

 

 この思惑が案外、“当たらずとも遠からず”だったことをスバル本人を含めて誰も知らないが。

 

「(はぁぁぁ。 胃がキリキリしなくてラ・ク・チ・ン。 それに想定外の過程で、思っていた結果になったのもよかったよ。)」

 

 そんなスバルはしんみりとした空気とは裏腹に自分の胃壁に優しい空間を噛みしめながら、レイラたちとの話し合いを脳裏で考えていた。

 

 省略するが、契約をしたアノウが居なくなってもスバルの契約は無事(?)wZERO部隊に引き継がれる形となった。

 

 そして今では残り少なくなり、本来殉職(じゅんしょく)した者たちの親族たちに贈られるEUの市民権と保障は何とか確保できた。

 

 というのも原作より死亡者が少なかったことと、スバルが()()()()()()()()()のが大きかった。

 

「(ま、『諦めた』というより『はなっから期待してはいなかった』がな。)」

 

 金銭をもらえない理由は単純であり、単に()()()()()()()()()()()()

 元々存在しない部隊として活動するため、すぐに足が付く電子マネーの運用を避けていることが大きかった。

 

 ()()()()

 

「(だけど機体の反応が予想以上に大きくてビックリしたな。)」

 

 そして案の定、スバルの機体は予想通りにアンナ・クレマン率いる技術部に解体されて隅々まで調べられている途中だった。

 

 無理もないが。

 

 何せ冒頭でも触れたようにスバルの機体はマオ対策用小型無人機のセンサーなどから返ってくるデータを基に情報を得て索敵、電子戦、レーダーを一機で担うような仕様だった。

 

 それは『EUやワイバーン隊が使う高々度観測気球を、コストダウンさせつつもより良くする』という概念を現実化させたようなモノで、そのせいで、元々ボロボロになった機体一機をほぼ一から作り直す過程で上半身────もとい頭部が大きくなり、平べったいパンケーキ状に収まった。

 

 そんな奇妙な形をした頭だけで、wZERO部隊の技術部に興味を引くには十分すぎたが……

 

「(まさか小型無人機をトンボやチョウチョ風に仕上げなおしただけで、アンナに“キャー! 可愛い~♡”と黄色い声をひっきりなしに出させ、俺を見た瞬間にズンカズンカと近づいては俺の肩を掴みながら息を荒くしたソフィに“あれってニッポンの『ドゥヤキィ(どらやき)』という奴でしょう?!”って迫ってくるし……ポーカーフェイスを維持するのに結構苦労したよ。)」

 

 実はスバル、wZERO部隊の『プチ裏設定』的なものを思い浮かべながら機体に組み込み、それが思っていた以上の効果があったことを胸の奥に仕舞いなおし、墓づくりに戻る。

 

 スバルが額に出てくる汗を袖で拭い、静かな周りと数々の墓石を見てから自分の手を見る。

 

「(やっぱり、万が一のためにフランス(EUの標準)語を習ってよかったと思うが……やっぱり不思議なものだな。 俺自身の体なのに、これのどこが“普通よりちょっと良い”んだ? あの自称神様、やっぱり会うことがあったら一発殴ろう……っと、また現実逃避しそうだった。)」

 

 スバルはシャベルを手にしてから掘り始める。

 

「(ちょっとほんわかとした空気で和んだけど……肝心なのはこれからだし、気を引き締めておこう。 何せ『亡国のアキト』は描写が少ない上に映し出された展開はほぼRTA真っ青の急展開ばかりだった上に、俺の覚えている内容通りにいくのかも怪しいし……でも全部が全部、悪い知らせじゃない。 『亡国のアキト』はルルーシュ側の『コードギアス本編』と直接絡むわけではないから、未来の『キャッキャウフフ対象(彼女)』探しに本腰を入れるか。)」

 

 なお、スバルはまだ知らない。

 上記の『プチ裏設定』や原作知識をもとに、行動し始めることで起こす数々のことを。

 

 だがそれは後にて、お話に出てくるであろう。




余談ですが、スバルの持ち込んだ機体はイメージ的に『アレ』が近いです。 

『D-3』に。 (汗汗

…………時間があるときに次話を書きます、短くて申し訳ございませんでした。 (汗汗汗汗汗


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第100話 日常に過ぎていく時間

久しぶりの連続投稿です!

昨日からの勢いのまま書いた次話でした。 (汗

誤字報告や感想、誠にありがとうございます! お手数をおかけしています!

最後にお読み頂きありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです!


 ブィィィィィィィ。

 

 ディーナ・シーの内部の一角で、掃除機特有の音が響く。

 

「♪~」

 

 そして意外にも、鼻歌交じりに手慣れた様子で掃除をしていたのはユーフェミアだった。

 その姿はいつもの豪華そうなドレスではなく実用重視の服装(割烹着)で、腰以上に伸ばしたピンクの髪は動きや掃除の邪魔にならないようシニヨンにしていた。

 

『普通』からはかけ離れているが、少し前の彼女と比べれば相当マシになった方である。

 

「(時間が過ぎるのは早いですねぇ~。)」

 

 しみじみとしながら彼女はほぼ居候の身である為『せめて自分の周りは』と思い、家事を(何とか)無事に(一人で)出来るようになった。

 

 皇族というステータスから『箱入り』でもこれ以上ないほどの上位に食い込む彼女(とアンジュ+ほかの者たち)は当初苦労した。

 

 スバルや毒島が目撃したように『不慣れ』というよりは『良かれ』と思ってしたことが逆効果だったことを、ユーフェミアは一つ一つ思い出す。

 

 洗濯の『無限の泡事件』は勿論のこと、他の家事も例外ではなかった。

 

 例えば掃除によく使う掃除機だが────

 

 ……

 …

 

『ユ、ユフィ? なにそれ? エプロン? ポニーテール?』

『何って、これから掃除するのですよねアンジュ?』

『なんで料理時に使うエプロンなの?』

『可愛いじゃないですか!』

『……ポニーテールは?』

『掃除の邪魔にならないようにです! 私でもこれぐらいは考えられますから!』

『……………………』

『なんですアンジュ、うずまくって?』

『いや、なんか……ちょっと前にあったことを思い出して……』

『???』

 

 ……

 …

 

 ────そして案の定、一般用の掃除機(の音)にビビったユーフェミアは掃除機を落としそうになり、エプロンごと(スカート)が吸い込まれそうになってはさらに『アワワ』と慌て、今度は髪の毛(ポニーテール)が吸い込まれてはバタバタと暴れた。

 

 何とか無事(?)に落ち着いた後に、今度はテーブルや棚を拭くときなどに彼女のポニーテールは床についてしまって汚れが引っ付いたりなど、慣れるまで時間はかかった。

 

 次の例えは料理────

 

 ……

 …

 

『ユフィ……』

『??? なんですアンジュ?』

『私、“お米を洗って”て頼んだわよね?』

『はい、洗いました!♪』

『なんで洗剤の匂いがするの?』

『え? だってただのお水を使うよりはいいと思って────』

『────ア、ウン。』

『あ、アンジュ? どうしたの? 頭、痛いの?』

 『ブツブツブツブツブツそういや私もそうだった忘れていたどれだけ箱入りだったの私ブツブツブツブツブツ。』

 

 ……

 …

 

 ────とまぁ……アンジュは数々の黒歴史()()()を頑張るユーフェミアによって掘り起こされ、フラッシュバックする記憶からくる頭痛に襲われていた。

 

 主に自分に教えていた者たちに対し、自分が取っていた態度に。

 

 ユーフェミアはのほほんと“ああ、アンジュにも思い当たる節があるのですねぇ~”と考えていたが、そこは根の違いからか口にも態度に出さず、懸命に家事を覚えようとして無事にそれらを会得した。

 

 チラッ。

 

 掃除機を止めたそんな彼女が見たのは壁に貼ってあるカレンダー。

 より詳しくは今日の日付、『10月11日』を見て去年のことを思い出していた。

 

 ……

 …

 

『ユフィの為に新しいラクロスラケットを特注品で頼んだぞ! しかし面白くないな、グレーゾーンではあるが“妨害”と称して相手プレイヤーを叩くスポーツなど……ユフィ、そんな奴が現れたら私に言えよ? 抹さts────()()するからな。』

 

 ……

 …

 

 「…………………………お姉さま。」

 

 自分の口から出た一言にユーフェミアははっとして、思わず目尻に溜まった涙を袖で拭う。

 

「(お姉さまならきっと大丈夫。 スヴェンさんたちによると、ダールトン将軍も一緒にいるみたいですし……きっとどこかで元気にしている筈。 私も切り替えて頑張らないと!)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「遅ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!」

 

 「ピャァァァァァァァァ?!」

 

 ユーフェミアは身支度を済ませて着替え終わると小腹が空いたのか、食堂に入るとアンジュの大声に思わず目を白黒させながら驚きの声を上げてしまう。

 

「いててて……耳鳴りが……」

「いや~、ようやく来たと思ったら、こいつ(アンジュ)が見た目以上の肺活量で叫ぶとは思わなかった。」

「叫ぶなよ! 姫ちゃん超ビビっているだろうが?!」

「「「「そうだそうだー!」」」」

 

「ングッ……わ、悪かったわよ。」

 

 近くにいた乗組員たちの正論(愚痴)などがアンジュの耳に入ると、彼女は気まずそうな顔をする。

 

 そんなアットホームな雰囲気に、いまだに心臓がバクバクと脈を打つユーフェミアは落ち着き始めると、食堂の変わり様にようやく気が付く。

 

 まず目に入るのはテーブルに置かれた西洋、和風、中華にインド系と思われる数々の料理。

 

 キッチンへと通じる棚にはキラキラした包装に包まれた箱たち。

 

 食堂の中にいたアンジュを含める者たちが頭にかぶっているカラフルなパーティハットで、余談だがアンジュのアホ毛はパーティハットを貫い(天元突破し)ていた。

 

 そして天井近くに吊るされた『Happy Birthday(お誕生日おめでとう) Euphemia(ユーフェミア)!』と書かれたメッセージボード。

 

「……」

 

「ほらほら、座って座って!」

 

 見ている景色を理解できていないのか、アンジュは固まったままのユーフェミアの手を引き、椅子に座らせている間に周りから乗組員たちがバースデーソングを歌いだす。

 

「……」

 

「え、ええっと……ほら! ここにいないスヴェンからも贈り物があるよ!」

 

 体のように思考も固まったのかユーフェミアはただポケーっとしていて、そんな彼女を見たアンジュはなぜか焦ってスヴェンがEUへ旅立つ前に置いて行った、小さな箱を渡す。

 

「……」

 

「……ピンクのボール?」

 

 手渡された箱をユーフェミアが開けると、中に入っていたのはアンジュの言ったような球体だった。

 

 その『ボール』に顔らしいモノがあると彼女たちが気付いたのは、目らしきモノがチカチカと点滅し始めた頃────

 

ハロー、ユーフェミア!

 

 ────そして耳(?)のようなカバーがパタパタと動き出し、機械的な音声が出た頃である。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 さっきまでバースデーソングを歌っていた者たちも、ガヤガヤとしていた音も静かになったと思った瞬間────

 

 「「「「「喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」

 

 ────ユーフェミア以外の誰もが驚愕の声を上げた。

 

 なんてことはない、上記の球体はコードギアスとは違うメディアに出たマスコットを基にスバルが作ったもので、『マオ検索用』に組み上げた顔認証プログラムに簡易的な人工知能+音声を組み込んだだけの()()である。

 

「………………………………」

 

「あ。」

「アンジュが泣かした。」

「「「「あーあ。 泣―かした泣かした~。」」」」

 

「えええええ?! わ、私は何もしていないわよ?!」

 

 アンジュのアホ毛がギザギザとなっては抗議をして、周りを逆切れ気味ににらみつけてからポロポロと涙を流すユーフェミアへと振り返る。

 

「ご、ごめんねユフィ?! ややややややややっぱりサプライズはダメだった?! プレゼントとかもし過ぎだった?! (だぁぁぁぁぁぁぁぁ?! やっぱりスヴェンじゃなきゃ駄目だぁぁぁぁぁぁ!)」

 

 アホ毛が“どないしよどないしよ”と言いたいかのように暴れまわり、アンジュは焦りながらアタフタしながらテンパっていた。

 

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うーん、軍隊って思っていたより大変だよねヒルダ軍曹?」

「“公務員だから人生楽勝”かと思ったんだけどねぇ、クロエ軍曹?」

「でもボスって一旦張り切り始めると、納得するまで全力出しちゃうからねぇ~。」

「ねぇ~? 特にあの傭兵さんの小型無人機がツボに入っちゃったし~。」

 

 「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

 クロエとヒルダは自分たちの会話をまったく気にしなかった様子のまま、ブツブツと独り言を続けながら、試作型アレクサンダのバーチャルシミュレーションを出していたコンソールの前にいるアンナ(ボス)を見ていた。

 

 ヴァイスボルフ城を拠点にしているwZERO部隊が保有するアレクサンダはEUが開発したナイトメアではなく、ここに滞在している技術部がアンナ・クレマンという『天才』の下で独自に作った機体である。

 

 実はアンナ・クレマン、レイラと年が近い上に同じく『勉学に励む仲間』として昔からの付き合いである。

 だがそれだけで『天才』と呼ぶには少々足りないし、本職は『ナイトメアの技術者』ではなく『昆虫学者』である。

 

 ではなぜ『天才』と呼ばれ、ナイトメアの開発に携わっているかというと、彼女は『クレマン・インダストリー』とEUではそれなりの規模の令嬢であり、わずか12歳でグラスゴーを自分で解体して使われた技術を解析し、そのデータが現在EUで使われているパンツァー・フンメルに応用されたからである。

 

 これにてクレマン・インダストリーはさらに繁栄し、そんなアンナは技術士官となり、現在親友であるレイラが発案した部隊に身を置いている。

 

 バーチャルシミュレーションと連動していたアレクサンダが四足歩行から二足歩行に変形し、背中の小型無人機が部屋の中で展開する。

 

「やった! クロエ、ヒルダ! 今のタイムは?!」

 

「えっと……7秒です!」

 

「記録更新しました、ボス!」

 

「「「やったー!」」」

 

 アンナ、クロエ、ヒルダの三人が近づいてハイタッチを交わしながらキャピキャピとし始める。

 

 その姿は年相応の少女たちであった。

 

「確かに凄いが、タスクプロセスを平行にすればもっと早くなるのではないか?」

 

 「「「きゃああああああああああああああ?!」」」

 

 そんなアンナたち技術部以外、あまり人が来ないヴァイスボルフ城の地下研究所に全く予想していなかったスバルの平然とした声が割り込み、三人は互いを抱きしめながらまるで幽霊を見たかのように叫ぶ。

 

「どうした? なぜ怖がる?」

 

「あ────」

「いや、だって────」

「その────」

「────(スバル)の機体をバラ(解体)した代わりに、『ここ(研究所)へのアクセスと代わりの機体を開発し、提供する』も更新した契約書の一部だったと思うが?」

 

「「「う……」」」

 

 アンナたち(スバルの機体を解体した)三人は気まずくなり、目をそらす姿をスバルは内心複雑な気分になる。

 

「(う~ん、“興味を引く”まではよかったが……まさか個別のパーツにまで分解されるとは予想外だった。 しかもそのパーツにまで一気に解体したおかげで元通りにするのが難しくなったのは……まぁ、仕方ないとして、この三人は三人で頑張っているし。)」

 

 いまだ静かにするアンナたちを前に、スバルは咳をして口を開ける。

 

「言っておくが責めているわけでもないし、お前たちのやったことが悪いとは思っていない。 だからこうして俺も来ている。」

 

「「「……はい。」」」

 

「(何この絵図? まるで俺が悪者じゃん。)」

 

 スバルに対するアンナたちの反応は無理もなかった。

 何せヴァイスボルフ城に戻り、やっと設備の整った場所にいることで、ワイバーン隊は基本的な体力作りから本格的な訓練へとさらにハードルは上がった。

 

 警備隊で訓練に興味を持った者たちも加わったことがあるが、数日以内でギブアップをする者たちが出るほどで、ぶっちゃけると『傭兵のスバル』=『鬼教官』という認識があった。

 

「(……よし。 久しぶりに『アレ』をやるか。) 少し休憩しないか、お前たち? それと甘いものは大丈夫か?」

 

「「「……へ?」」」

 

 スバルの言葉に、アンナたちのポカンとした様子に彼がハテナマークを出す。

 

「どうした?」

 

「「あー、いや~────」」

 「────まさかスバルさんから“休憩”なんて言葉が出るなんて────」

 「「────ボスゥゥゥ?!」」

 

「え?! な、なに?! もしかして私、口にしていた?!」

 

 「「思いっきりしていたぁぁぁぁ!」」

 

 アンナのポロっと零した言葉に、ヒルダとクロエは汗をかく。

 

「……なるほど。」

 

「「ヒィィ?!」」

 

 そしてスバルの仏頂面と言葉に、二人+アンナの三人の顔から血の気が引いていく。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 パリでの一件から時は過ぎ、wZERO部隊の新たな司令官となったレイラは、両親を亡くした幼いころから続けている日記に書き込んでいた。

 

「ミィ?」

 

 猫の鳴き声が机の下からするとレイラは鳴き声の主────エリザベスを抱きかかえては、カチコチと音を出す時計が示す時間を見ては席を立つ。

 

「少し歩かない、エリザ?」

 

「ミィ♪」

 

 ご機嫌なエリザベスとともにレイラは静寂な城の中を歩いて食堂を目指すと、近づくにつれて次第に甘い匂いが鼻をくすぐり始める。

 

「(これは────?)」

 「「「「「────美味しい~♡」」」」」

 

 通路から食堂へと通じるところにレイラが着くと、丁度技術部の三人に加えて科学部のジョウやオリビアが、メレンゲクッキーにチョコブラウニーやマフィン等をお皿に取ってから口にし、和んでいる場面に出会う。

 

「「「「「うめぇ~。」」」」」

 

 その隣のテーブルでは、同じように菓子を食べては和んでいたワイバーン隊の少年たちの輪に、リョウも混ざっていた。

 

「それで日本人って全員、刃物や料理の達人なんですか?!」

 

「違う。 お前たちと何ら変わり……ああ、“家庭科”ならあったか。」

 

「「「「家庭科?」」」」

 

「料理に使う調理具などの使い方や、簡単なレシピを学校で習う。」

 

「あ~、料理教室みたいな?」

 

「そんな専門的なモノではなく、一般の義務教育だ。」

 

「「「「一般の学校で習うの?!」」」」

 

「ああ。」

 

 そしてソフィ、ケイト、フェリッリなどを始めとする『日本マニア』が、様々なお菓子を乗せたトレイから減っていく品を補充するエプロン姿のスバルに話しかけていた。

 

「……」

 

「どうしたんです、マルカル司令?」

 

「…………………………えっと……これはどういうことかしら?」

 

「見てわからない? EU風に言う、“お茶会”って奴らしいよ?」

 

 近くでひっそりと静かにエンジョイしていたアキトがレイラに気付き、彼女の質問にユキヤが答える。

 

「ちなみに前もって言っておきますが、今食べているのはスバルの手作りらしいですよ司令。」

 

「……………………………………手作り……………………ですって?」

 

 呆けたレイラからエリザベスは、するりと抜け出してはスバルの近くまでトテトテと歩く。

 

「ミィ。」

 

「ん? ああ、猫か────」

 ────ガブッ!

 

 そして近づいた瞬間、エリザベスはスバルに戸惑う事なく噛み付く。

 

「うわ! ボス(アンナ)以外で問答無用にエリザが誰かに噛み付くの、初めて見た!」

 

 「ううぅぅ……気にしているのに……」

 

「ど、ドンマイよボス……」

 

 ガジガジガジガジガジガジ。

 

「ちょちょちょちょっと大丈夫スバルさん?! 更にエリザベス噛み付いていない?!」

「トレイを落とさないでぇぇぇ!」

「エリザベス、ストップ! ストップー!」

 

 周りの者たちが慌てる中、スバルは平然としたまま口を開けては、以下の短い言葉を口にする。

 

「………………泣けてきた。」

 

 「「「「「「「「いやいやいや泣いてないじゃん。」」」」」」」」

 

 そして食堂にいた殆どの者たちが未だに表情を変えないスバルにツッコミを入れた。

 

「…………フフ。」

 

「??? 何かあったか、マルカル司令?」

 

「ああ、いえ。 貴方に意外な面があった、と思っただけです。 それも、『傭兵業の一環』でしょうか?」

 

「基本的に自給自足が基本だからな。 菓子も料理も自分で作れば材料費だけで安くつく。」

 

 ガジガジガジガジガジガジ。

 

「それと司令……そろそろ猫を止めてくれないか? このままだと動けず、オーブンやトースターに入れた次の菓子が焦げてしまう────」

「────うわぁぁぁぁ! ぼぼぼぼ僕ちょっと見てきまーす!」

 

 「甘味の為ならどれだけ俊敏になるのよ、ジョウ……」

 

 超甘党のジョウが、慌てて立ち上がった勢いでバランスを崩しそうになるのを、無理やり踏ん張るどころかそれを利用してキッチンの方へと走り、上司のソフィがため息交じりに上記の言葉を漏らして、周りの者たちがそれに対して苦笑いを浮かべる。

 

 その場には、つい最近までギクシャク空気は嘘みたいに消えていた。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ご子息のご栄達、おめでとうございます。 シャイング家もこれで安泰ですな。」

「ありがとうございます、オルレアン伯爵。 全ては亡きマンフレディ卿のおかげです────」

 

 明らかにヴァイスボルフ城とは違う城の様な屋敷ではパーティーが開かれ、ミケーレ・マンフレディの妻────マリア・シャイングが数々のユーロ・ブリタニアの貴族たちに対応していた。

 

 その夜間パーティーは、新しく聖ミカエル騎士団の総帥となったシン・ヒュウガ・シャイングを祝福するものだった。

 

「して、パーティーの主役の彼は何処へ?」

 

「あら、先ほどから見当たりませんねぇ……」

 

 マリアたちが居るホールから、屋外の噴水のある場所に景色が移ると、そこにはつまらなそうに噴水の淵に腰を掛けて足をプラプラ冴える金髪の少女────アリス・シャイングがいた。

 

 「ハァ……」

 

 彼女はこのような宴会モノはあまり好きではなく、どちらかというと顔見知りが集まるようなものが好ましかった。

 

 何せ『貴族の宴会』は暴力こそないものの、『政治』や『値踏み』に『体面』などを賭けた戦場となる。

 

「……ハァ……」

 

『言葉や仕草に動作一つ一つに意味がある』、あるいは『意味があると思われる』など、子供のアリス・シャイングからすればこの上なく窮屈な環境でしかなく、彼女がため息を出すのは無理もなかった。

 

 足をブラブラさせるのにも飽きたのか、噴水の淵から降りようとしたところでバランスを崩して後ろへと落ちていく。

 

「あ────?!」

 

 ポスッ。

 

「────っと。 大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 噴水に身体が落ちる寸前に、プラチナブロンドの女性がアリス・シャイングを引き留める。

 

「え、えっと……ご、ご迷惑をおかけしました……ええと?」

 

 アリス・シャイングは自分を助けた女性を見て困惑する。

 

 彼女はこういった貴族の夜会が嫌いだが、貴族のたしなみとして少なくとも顔と名前は覚えようとしている。

 

 だが目の前の女性はどれだけ記憶を掘り起こしても()()()()()()

 

「ん? ああ、私の事は気にするな。 訳あってお忍びで来ているのでな? 取り敢えずは────」

「────どうしたんだい、アリス?」

 

「あ、義兄様! えっと……あ、あれ?」

 

 そこにシンが現れ、アリスは満面の笑みになるが自分の髪が濡れていることを隠そうとするとさっきまで近くにいた女性の姿はなかった。

 

「ん? 髪が濡れているねアリス?」

 

「こ、これは……その……落ちそうになって……さっきの人が助けてくれたの!」

 

「さっきの人……ああ、あの女性か。」

 

「義兄様、あの人は誰だかご存じですか?」

 

「……いや。 見慣れない方だったけれど、マリアなら知っているんじゃないかな?」

 

「そうね! 招待状を送ったお母さまなら誰だか知っているはずね!」

 

 シンはアリスの頭をなでながら、プラチナブロンドの女性が消えていった方向を見る。

 

「(私の事に気付いた時の歩き方と対応……何らかの武術を嗜んでいるな。 EUの諜報員……はないな。 ならばブリタニアか? それとも……)」




展開を早めようと頑張りますので、次話が遅くなるかも知れません。 m( _ _;)m


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第101話 非日常に戻るための日々

お読み頂きありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


 以前、wZERO部隊のアレクサンダは、従来のナイトメアとは違って人型の二足歩行から四足歩行形態への変形機構を備えているといったが、特徴はそれだけではない。

 

「ジョウ・ワイズ、ニューロデバイスからのデータ転送は順調かしら?」

 

 アンナたちとは違う地下研究所に、ソフィと彼女の部下であるジョウは薄暗い室内でコンソールと向き合っていた。

 

「あの志願してきた子たちでしたら、意外なことに順調ですよ~。」

 

 実はアレクサンダには他のどのナイトメアにもない、特殊な機能が備わっている。

 その名も『BRS』────通称『ブレインレイド(脳波同調)システム』。

 理論上のそれは簡単に言葉にすると、『パイロットの脳波を増幅し、ダイレクトに受信できるモノたち(機械とパイロット)に同調させる』といった、コードギアスの世界でもSF染みた理論に基づいた技術で、アレクサンダの機動性をさらに上昇させる。

 

 それこそ、最先端技術を使ったランスロットのような機動性を可能させるほどに。

 

 ただこのシステムを組み込むために、ブリタニアのナイトメアにあるような脱出装置は省かれているが。

 

「そうなの?」

 

「適性は3人共、アキト以来のトリプルAです。 しかもそのアキトとの相性もいいです。」

 

「……その四人で、BRSの成功確率はどのくらいなの?」

 

「シミュレーション上では、ビックリの8割ほどですよランドル博士────」

「────兄弟でも何でもないのに?!」

 

 ソフィは『8割』と聞いては思わず目を見開いてしまう。

 

 上記でもいったようにBRSは脳波を増幅し、同調させる。

 例え話も入れると、人は一昔前の低出力なラジオのように常時脳波を出していて、例えばラジオのように様々な周波数でそれらを発している。

 親族ならば、ある程度一緒にいた年月の関係で周波数はある程度近くなり、ある程度の干渉も可能となる。

 

 俗にいう、『虫の知らせ』や親しいものに対しての『勘』も、これに由来されていると脳科学者たちは仮説を立てている。

 

 そして上記での『BRSの成功確率』とは『どのぐらいの確率でアキトたちは互いと同調できるのか』で、8割は『ほぼ成功できる』と言っていい数字だった。

 

「そうなんですよねぇ~。 あの元日本人のアイデアはかなりいいと思います。」

 

 ちなみにBRSのことを、スバルは勿論知っていた。

 

 というか、『亡国のアキト』に介入した理由の一つがBRSだったのは、彼以外に誰も知らないだろうが。

 

 原作ではスマイラス将軍の誘拐未遂のおかげで、ほとんど徴兵制度のようにwZERO部隊にリョウたちは入隊された。

 しかし今作ではそれがなかった為、三人はアレクサンダに搭載されたBRSに必要なニューロデバイスの埋め込みを頑なに断っていた。

 

 ちなみに三人のリアクションは以下のとおりである。

 

『あ゛?! 脳ミソをいじるようなものはお断りだ!』

『そうだよ! それなら頑張って操縦したほうがマシ!』

『リョウたちの考えていることを知れるという可能性は面白そうだけれどね♪』

『『え。』』

 

 そこでスバルが提案したのはニューロデバイスを『埋め込む』のではなく『かぶる』といったアイデアだった。

 

 無論、直接脳からの信号を受け取っていない為に当初は『出来ない』と判断されていたのだが、そこでさらにスバルはこう言った。

 

『使用者の脳波をサンプリングし、それに特化した検知機に変えればいいのでは?』、と。

 

 本来、ソフィのBRSに投資したのが軍だったことと、最初は何十人といたワイバーン隊一人一人にオーダーメイドのBRSを作れるわけもなく、『万人の使用』を前提に開発は進んでいた。

 

 だが、多くの死者が出て少数となった今では話が違ったことに気付かされたソフィたちには、まさに『目から鱗』が落ちたような状態だった。

 

 まさか彼女たちも、スバルが呑気に『強化人間っぽく埋め込むんじゃなくて、外部型のモノに変えればええやん。 え? 電波が届かない? ならその周波数用にすれば済むことなんじゃね?』からの軽~い一言とは夢にも思ってもいないだろうが。

 

「それにしても、あの元日本人自身の適性が()()ではねぇ~……」

 

 飴をしゃぶりながら遠い目をするジョウを、ソフィが複雑な気持ちになりながらアキトたち四人のBRSシミュレーションを見る。

 

「(タケル……もしもこの『脳波のサンプリング』をしていれば、貴方のこと(現状)も違っていたのかしら?)」

 

 ソフィは神妙な心になりながらも、ジョウとともに深夜まで作業を進めた。

 

 次に必ず来たる戦いに備え、頼まれた生存率の上昇を間に合わせられるように。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時を同じくして、場はどこかの執務室へと変わる。

 

 部屋の中には書類や教本に報告などが散らかっており、壁には執務室には数々のきわどいポーズをしたグラビアモデルのポスターが貼られていた。

 

「イレヴン────いや、あの旧日本人たちをこのままにしておいて良いのでしょうか中佐?」

 

「ん~……何か問題でもあるの、ハメル少佐? マルカル司令が“採用したい”って言ったし、本人たちの能力も検査の結果、かなり良いんでしょ? コーヒー、飲む?」

 

 部屋の中では難しそうな顔をしたハメルの向かいに、部屋の主らしきクラウスが黙々と湯気を出すブラックコーヒーの中に、フラスクに入れていたウィスキーをたんまりと混ぜながら、のほほんとハメルに答えながらマグカップを差し出す。

 

「いえ、勤務中ですので。」

 

「相変わらず固いねぇ~……で? 問題でもあるの?」

 

「もし、彼らが敵対行動を起こした場合────」

「────まさかハメル少佐、ご自分の警備隊に自信がないのかい────?」

「────私が危険視しているのはあの傭兵です。」

 

 クラウスのコーヒーの入ったマグカップを握る手がピクリと反応する。

 

「彼の行いは、あまりにも『傭兵』の枠からかけ離れています! それに、誰もが彼があくまで『部外者』だという認識を持ち合わせていないような振る舞いに────」

「────なるほどねぇ~。 つまり、『シュバール(スバル)が周りから慕われていることが気にいらない』ということかい?」

 

 余談だがEUの標準語のなまりからか、『スバル』のことをたまに『シュバール』と間違えて呼ぶときもある。

 最初こそこれを避けるためにスバルのことを『彼』、『傭兵』、『雇われた奴』など称していたが、あとから気になったスバルがその呼び方の理由を聞いて『別段気にしていない』といったことから、スバルに新たなあだ名が出来ていた。*1

 

 それもあってか、警備長のハメルが気にするほどスバル(部外者)は親しくなっていった。

 

「……」

 

「ま、少佐の懸念する理由は大方想像できますよ。 “部外者で新参者のクセ、余りにも馴染みすぎて怖い”ってところでしょう?」

 

「クラウス中佐もわかっているのなら────!」

「────でも彼、傭兵なんでしょ? ここにはうってつけじゃない? 『居なくなっても誰からも苦情が出ない人間』に変わりはないんだし。」

 

「……………………………………」

 

 ぐびぐびとウィスキー入りコーヒーをお預け状態だったクラウスは飲み、ハメルは気まずく目をそらす。

 

 ここ、ヴァイスボルフ城にいる殆どの者たちは、クラウスの言ったように『世間から嫌われている者たちの留場』であり、半ばEUの『厄介者払い』の終着点と化していた。

 

 部屋にいる二人を例に挙げると、クラウスは借金まみれの片足アル中軍人で、見せしめに職務放棄を脅されてwZERO部隊へと転属。

 法律や決め事に厳しいハメルは腐敗緩~い雰囲気に浸っていたEU軍からは堅物と印を押され、彼のように『ちゃんとし過ぎる軍人たち』とともに名だけの『警備隊』に組み込まれ、ヴァイスボルフ城へと左遷されていた。

 

 そもそも部隊名から、いかにEUがヴァイスボルフ城に居る彼らのことをどう思っているのかが明け透けすぎる。

 

 wZERO部隊の『w』はワイバーンの頭文字。

『ZERO』は『正規軍ではない』ことを意味していた。

 

「あ。 もしかして、アンナちゃんたちと馴れ馴れしいから彼のことが嫌いなの、少佐?」

 

 ギクッ。

 

 「ソソソソンナコトハ無いゾ?」

 

「おたくも案外、分かりやすくていいねぇ~♪」

 

 ピピー♪

 

 クラウスはクツクツと笑いながら明らかに動揺するハメルから視線を外し、空になったマグカップに今度はウィスキーとお湯をミックスしていると電子音がする。

 

「ん? ……ウゲッ、マジか。」

 

 パソコンを操作して電子音の原因であるメールの内容をクラウスは読んでいるうちに嫌そうな顔をする。

 

「どうしたのです、クラウス中佐?」

 

「ん~、次の作戦が本部から来たんだけれど……いつも以上にえげつないヤツだからねぇ~。 っと、マルカル司令に連絡するか。」

 

 クラウスは机の上に散らばった酒瓶などをどけて、電話を手に取ってボタンを押す。

 

「司令、夜分恐れ入ります。 もうお休みになられるところでしたか?」

 

『いいえ、大丈夫です。 ちょうど夜食を取りに食堂から帰ってきましたから。』

 

「そうですか……ちなみに今回の夜食はなんでしたか?」

 

『スパゲティを旧日本風にした“ナポリタン”か“ウードン(うどん)”でした。』

 

「おお、麺類なら期待できそうだ! っとと、脱線してしまいました。 つい先ほど、統合本部から作戦命令書が届きました。 今からそちらにお持ちします。」

 

 クラウスはハメルの眼鏡越しのジト目を、出来るだけ無視しようとしたそうな。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「…………………………」

 

 レイラの執務室では、部屋の主である少女は頭痛がしていたのか頭を抱えていた。

 

「んまぁ、いつものことですよねぇ~。 ()()も。」

 

 彼女の向かいに座っていたクラウスは逆に愉快そうな態度のまま、ため息交じりに作戦命令書に目を移す。

 

「自分的に、ここが一番好きですよ。 『wZERO部隊の能力を見込んでの決死の判断の末に────』」

 

 ────ダン!

 

「だからと言って、人員の補充もなくまた“前線から孤立した敵地の中に降下しろ”と?!」

 

 クラウスは悔しそうに怒りで震えるレイラに片目をよこしてから、フラスクから一口飲んでから口を開ける。

 

「おそらくこの前の世論調査の結果で焦っているんじゃないですかね、政府のお偉いさん方は?  市民の関心が外部へと向いている間はとりあえず、安心できますからね。 彼らに取っちゃ、市民もただの数字ですよ。」

 

「人を……なんだと思っているんですか?!」

 

「ま、イレヴンたちはその数字ですらないですからね。 捨石ですよ、捨石────ッ。」

 

 レイラの人をも射殺せるような睨みにクラウスは黙り込む。

 

「クラウス中佐、本部に“ワイバーン隊は、作戦実行に必要な人員を────”」

「────ん~、ぶっちゃけて申し上げてもいいですか司令? 正論で命令拒否はできないんじゃないですかね? 逆に『叛逆の意志あり』とかなんかで、新たに上官が送られてきちゃいますよ?」

 

「……クラウス中佐は、何か考えはありますか?」

 

 レイラの問いに、クラウスはニヒルな半笑いを返しながら肩をすかす。

 

「さぁ? あのイレヴンたちを生還させる方法を考えるのが、『司令』のお役目じゃないですかねぇ?」

 

 レイラはさっき熱のこもった反論するときに乗り出しそうだった身を椅子に戻し、考え込み始める。

 

『今のwZERO部隊に、作戦を実行させる人員が足りない。 ならば、どうやってそれを補うか』を。

 

「……クラウス中佐。 明日、アンナは別に何も予定は入っていなかったわよね?」

 

「ん~……自分は彼女の休暇や外出の申請を受けていないですね。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次の日、以前からのプロジェクトの(はかど)り具合を聞きに、レイラは朝一でアンナを訪ねていた。

 

「アンナ、ナイトメアのドローン化はどの程度進んでいる?」

 

 その『以前からのプロジェクト』とは、『ナイトメアの無人機化』だった。

 

「あ、実はそのことでレイラに言いたかったことがあるの。 この間、シュバールの機体を解体しちゃったでしょ? その時の小型無人機からのデータを応用してかなり進んだわ!」

 

 ネガティブ思考に落ちやすいアンナにして珍しく、ウキウキしていた彼女と一緒にレイラは歩き出す。

 

「なら、ドローンは実戦投入可能かしら?」

 

「うーん……あと一年……ううん。 実戦データも入れれば、半年ぐらいで────」

「────一週間以内は、無理かしら?」

 

 レイラの質問にアンナの目が点になり、次第に状況を理解し始めたのか申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「確かに……危険性の高い作戦に使う兵器は、無人の方がいいと思うわ。 だけど、ネックなのは人工知能のほうよ。」

 

「人工知能……AIのことね。」

 

「うん。 今ある人工知能じゃ簡単な作業や判断はできても、対象や状況に応じて即座に反応できないとダメなのでしょ?」

 

「ええ……」

 

「えっと……レイラ、大丈夫?」

 

 アンナの言葉に同意したレイラはいつも以上に暗い空気を発していたのか、いつもとは違うレイラをアンナが気遣るような声をかける。

 

「今度の作戦……かなりやばいの。」

 

「レイラ……それって、前回よりも酷いの?」

 

「ええ。」

 

 レイラの即答に、アンナは口に指をつけて考えるそぶりをした。

 

「………………………………ねぇレイラ? 貴方、ナイトメアの操縦を習っていたわよね?」

 

「ええ。 士官になるとき、一通りの訓練スケジュールに含まれたクラス以来だけれど。」

 

「少なくとも、私よりは上手でしょ?」

 

「「…………………………………………」」

 

 黙り込む二人の頭上に浮かび上がるのは、アンナが一歩前に進もうとしてナイトメアの足を上げた瞬間、バランスを崩して後ろに転倒しては、慌てたアンナのおかげで訓練用ナイトメアが暴れだした事件だった。

 

「……ええ、まぁ……()()。」

 

 グサッ。

 

「ウっ。」

 

 レイラは知らない。 彼女の気遣う言葉と空いた間が逆にアンナの心をえぐったことを。

 

「……………………………………そ、そこでレイラに提案があるのだけれど────」

 

 

 


 

 

 はぁ~。

 

 (スバル)は内心に留めたため息をしながら、ジッとオーブンの中でこんがりと焼け始めるミートローフを見つめていた。

 

 まぁ……ミートローフなんて元々はフランスのリエットやパテから発祥したアメリカの料理だし、EUの者たちからすればゲテモノでしかないが味はいいし、何より大量に作れる。

 

 はぁ~。

 

 と、そんなことに現実逃避しかけていた俺はまた内心でのため息をした。

 

 え? 『なんでため息しているんだ?』って?

 

 元々俺がEUに来たのは『亡国のアキト』への介入と、マーヤたちに頼んだ『ミルベル博士の保護』が万一にも失敗したら、地理的に近くいられるからだ。

 

 後はうろ覚えだけど『OZ』にも介入する……と思う。

 

 はぁ~。

 

 あ、脱線したか? すまん。

 話を戻すとwZERO部隊にはアマルガムに必要な人材がいるからだ。

 

 タイトルに入っているアキトなんて『スザクといい勝負しそう』って話題に挙げられるほどの腕前をしているし、どのナイトメアの技術系統に入らないアレクサンダやその開発者であるアンナも優秀。

 

 そして、最後にはルルーシュや『亡国のアキト』のラスボス的なシンでさえも関心を持つほどの戦術家であるレイラ。

 

 とまぁ、宝の洞窟てんてこもりの部隊なんですわ。

 

 ……うん、もうぶっちゃけよう。

 俺が一番期待していたのは、wZERO部隊を代表するアレクサンダに搭載されたBRSだったんだ。

 

 だって世界が違っても、『脳波で機体を制御する』なんて要するに『サ〇コミュシステム』なんだぜ?!

 

 地味に憧れるじゃん?!

 

 夢に見るじゃん?!

 

 “行け、ファ〇ネル!”とかさぁ?!

 

 この際だからドラグー〇システムでもいい! いくら『大気圏内だから浮遊できない』でも!

 

 はぁ~。

 

 でも過去形の言葉から察せるだろう?

 

 ウハウハ色気と胸抜群白衣のお姉さん(ソフィ)曰く、“何度システムを作動しても測定不能(エラー)が返ってくるから無理なんじゃない?”らしい。

 

 俺だって、『ガ〇ダムが僕の動きについていけないのか?!』ってしてみたかったよパト〇ッシュゥゥゥゥゥ!

 

 はぁ~。

 何(内心で)言っているんだろ、俺。

 

 ジリリリリリリリリ!

 

「っと。」

 

 タイマーのベルが音を鳴らし、俺は無理やり現実逃避から引かれてオーブンミトンを両手につけてミートローフを出す────

 

 ────ガブッ!

 

 いでぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?

 

 ま、また! まただ!

 また足のすそをすり抜けて小さな牙がガガガガガガがががぁぁぁぁぁぁ?!

 

「あ、エリザ!」

 

 お、その声は『ゼロ距離射程で戦艦をミスるマリア』だ────ゲフンゲフン。 エンディングで紐パン着用を披露したレイラだ。

 

「ここまでくると、同じくエリザに嫌われているとしても同情するしか……」

 

 そして、今度はかなり性格が違うけど、どこかネガティブ思考が似ている初期の『ミコ〇』だぁ~。

 

  “私たち、出来っこない同士だ♪”とか、言ってくれないかなぁ~。

 

 ……………………あかん。

 自分で何を言っているのかわからないほどショックを受けているっぽいぞ。

 

「どうしてマルカル司令に()()()がここに────?」

「────ッ────?!」

「────ああ、それは────」

 

 あれ? レイラがビックリしている?

 ちょっと失礼だけどアンナの言っている言葉より、『宇宙の真理を見た猫』っぽく固まったレイラのほうに目が行ってしまう。

 

「────それでどうかな、シュバールさん?」

 

 ゲッ。

 

 全然アンナの話を聞いていなかった。

 

 どないしよ。

 

「??? 何か駄目でしょうか?」

 

 今更『ごめん、宇宙を漂う猫っぽいレイラに注目していて話を聞いていなかったから、もう一度説明してくれ』なんて言えん。

 

 えーと。

 ええええええーと。

 えーとーせーとーら~♪

 

 昭和っぽいのは放っといてくれ。

 

 とりあえずアンナの問だ。

 さきほどの言葉から、『イエス』か『ノー』の二択質問だろう。

 

 それに相手がアンナだと考えると、おのずと答えは出てくる。

 

「ああ、別に構わないぞ。」

 

「え?」

 

 あれ? 今度のレイラは『銀河を漂う猫』みたいに、目が点になったぞ?

 

「よかった~! 実はもうその方向で開発していたの! もし“嫌だ”とか言っていたら、一から組みなおさないといけなかったから助かるわ~!」

 

 “組みなおす”?

 何を?

 

「じゃあレイラ、試作機をクロエとヒルダたちと一緒に急ピッチで仕上げるから待っていてね?!」

 

 それを最後にアンナはルンルン気分で食堂を後にする。

 って、お腹空いていないんかい。

 

 どこか『夢中になったら周りと自分が見えないカレン』と一緒だな。

 

 そして朝ごはんを食べないまま家を飛び出て、ザリガニを取ってきたら急に『お腹空いたよ~!』って喚き出しては留美さん(カレンママ)も困った顔しながらも予想してか、作り置きのおにぎりで対応して。

 

 子供の頃が懐かしいなぁ~。

 

 っていかんいかん、なんか思考がネガティブか現実逃避方面に行きがちだ。

 

 よっぽどBRSの件から大打撃を受けたな。

 

 ……あとでヒルダたちにチョコクッキーを持っていくついでに、弁当をアンナ用に持っていこう。

*1
誠にありがとうございます、ちゅうんさん! (*ゝω・*)ノ




どこぞのピエロ:そろそろ次に行くか♠

作者:カエレ。 ( ;゚皿゚)ノ


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第102話 おいでませ、EU式花火へ♪

お待たせいたしました、次話です!

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 世界の三分の一を武力で牛耳りながらもずば抜けた戦闘力を保有するブリタニア帝国の本土ブリタニア帝国皇帝陛下直属のナイトオブラウンズ────通称『ラウンズ』。

 

 12の(ポジション)こそ空いてはいるが、常時全てが埋まっているわけではなく皇帝直々の任命がなければ埋まることはない。

 

 なぜならば事実上、皇族の身ではないものが『宰相ギリギリ未満』という地位と名誉があるから……っと以前にも記入したと思うが、簡潔な説明はここまでにするとしよう。

 

 日本最後の首相である枢木ゲンブの実子。

 今までも最大の反ブリタニア蜂起と呼ばれている『ブラックリベリオン』時に黒の騎士団のリーダー、自らを『ゼロ』と名乗っていた者の捕縛。

 この二つ以外にも、単機での活動なども重なってかラウンズの第七席のナイトオブセブンにはブリタニアの長い歴史でも異例になる、名誉ブリタニア人が任命されていた。

 

 だが表の体面とは違い、ナイトオブセブンである枢木スザク本人はこの地位や待遇を望んでいなかった。

 

 元々、ブラックリベリオンの発端となった『行政特区』の式典会場に集まった日本人の虐殺を止める為に────否。 『自分を嫌わないで』と、始めて裏表なく自分を人間として接してくれたユーフェミアを騎士として守るためにスザクは行動を起こした。

 

 だがあろうことか彼女は()()()()ゼロに撃たれた挙句、彼女の行動に反感が爆発したイレヴンたちが一斉蜂起を企ててブリタニア人にイレヴン双方の血が沢山流れた。

 

 そんなことが起きている間、スザクはアヴァロンの中でただただ泣き続けた。

 

 そんなところに『VV』と名乗る少年が現れ、スザクに『ギアス』という超能力的な力と、今回の事件にギアスを使えるものが関わっていることを教えた。

 

『ゼロ』がそれを使って今までの『奇跡』や『人が変わった』と呼ぶしかない現象を起こしていたことも。

 

 自分(スザク)には、そのような現象に心当たりがあったからだ。

 

 皮肉にも、『生きろ』というギアスをかけられて『人が変わった』様な振る舞いをした自分だった。

 

 更に、VVは聞き捨てならないことを口にした。

 

 “ゼロの件にはルルーシュも深く関わっている”、と。

 

 ギアスだけでも突拍子もないかつ疑う要素満載な話なのに、ここで『ルルーシュはゼロと関係がある』など聞いてしまったスザクは、弱った心のまま確かめるためにゼロを追うことを決めた。

 

 完全に『ゼロを問い詰める』ことに専念していた為、自分が何をどうしたのかスザクはよく覚えていなく、はっきりと出来事を思い出せたのは神根島の遺跡に入ってゼロに拳銃を構えてやっと一息を付けたときだった。

 

 いや……正確には『とある考え』が浮かんできたから、彼は考えないようにしたかもしれなかった。

 

『ゼロ=ルルーシュなのでは?』、という可能性を。

 

 そうすると様々な辻褄が合ってしまう。

 子供の頃からあれほど弱愛していた妹から長い間、離れるなどありえない。

 

 それこそ()()()()()()()()()()()事情があるのなら、ルルーシュは躊躇うことなくするだろう。

 

 そして、ゼロはギアスという単語に動揺を隠せずに反応した隙に、ゼロの仮面を撃ってそれが外れるとその下にはルルーシュがいた。

 

 信じたくはなかった事実が現実になったことで、色んな感情が互いを相殺したのかスザクの思考は冷静な怒りを覚え、点と点を自分なりに繋げては疑問をルルーシュに問うと彼は『困った時や図星の時にする』特有の『だんまり』をしたことで確信に変わった。

 

 しかも、その場に居合わせたカレンに命令してまで()()()()としていた。

 

 戸惑うカレンを見てルルーシュは拳銃を構え、彼と一触即発の状態となってもスザクは引き金を引くことはできなかった。

 

 心の中で、未だに迷う自分を余所に第三者がカレンとルルーシュを撃ったからだ。

 

『撃たれたルルーシュを捕縛すれば助かる』と思い、スザクは彼を連行した。

 

 するとどこからかその話を聞いたシュナイゼルが皇帝陛下(シャルル)の下まで護送する手筈を整え、ナンバーズの身分でありながら皇帝に謁見する機会を与え、流れるようにスザクはラウンズ入りをさせられていた。

 

 最初は断っていたが、『ラウンズの頂点とされているナイトオブワンになれば皇帝陛下より領地(エリア)をもらえる』という話と、『神根島で見たと思われる第三者の捜索』を受け入れたことでスザクはシュナイゼルの話を了承した。

 

 勿論、予想していた反発もあったが……それ以前に、スザクのとある記憶が『夢』として再現されては彼の精神を蝕んでいた。

 

『スザク、信じてくれ! 俺じゃない! 俺はユフィにギアスを使ってはいない!』

 

 皇帝の宮殿に命じられるがまま、拘束衣に身体の自由を奪われたルルーシュが口の拘束を必死な足掻きの末に解いて出た叫びは自分(スザク)や皇帝を罵倒するような言葉ではなく、上記の言葉だった。

 

 それだけならば、『ゼロとして他人の弱みに付け込もうとした』と無理やり屁理屈を言えたかもしれないが……それとは別の夢で見る光景がスザクを苦しめていた。

 

 その夢とは────

 

「────ユフィ!」

 

 スザクは暗い室内の中で天井へと伸ばしていた自分の腕を見ては自分が()()夢を見ていたことに気付いた。

 

 ジワリと汗で濡れたシーツから逃げるように、彼はガバッと起き上がって部屋のカーテンを開けてゴトンゴトンと微かな音と共に過ぎ去る北欧の景色を見ながら、先ほどの夢について考える。

 

「(ユフィ……君が生きていたら、夢のように泣いているのだろうか……)」

 

 スザクはシュナイゼルではなく、皇帝の命令に従ってユーロ・ブリタニアの、ペテルブルグへと移動していた。

 

 命令の内容はいたってシンプルなもので、『ユーロ・ブリタニアに派遣するブリタニア帝国、屈指の軍師の護衛』というモノだった。

 

「(屈指の軍師って、いったい誰なんだろう?)」

 

 そうスザクが思っているとシャルルは察したのか、“委任権の象徴であるインペリアル・セプターを託している者だ”と追記したことで、その人物がシャルルにとってシュナイゼル以上(あるいは同等)の信頼を寄せているとのことで、その場での追求をやめた。

 

 スザクはただ過ぎ去る景色の上で輝く星が散りばめく夜空を、北欧の鉄道を走る皇族専用列車の中から見上げていた。

 

 胸ポケットにある、ラウンズとなった今では必要のない『騎士の証』に手を添えながら。

 

 

 


 

 

 (スバル)の周りからコンソールを操作する電子音や、耳に来る機械的なピッチ音が聞こえる。

 

「Aの26のみに回線を変えると、制御系に障害が────」

「────ならば平行にRAMに前もってプログラムを────」

「────そうすると今使っているタイプ26の部品では処理が追いつけなくなるわ────」

「────その為のRAMなのにか────?」

「────ならGAUにサブプロセスを────」

 

 う~む。

 やっぱりヴァイスボルフ城の技術部だけあって、クロエとヒルダは伊達にアンナの助手じゃないな。

 

『亡国のアキト』での描写は少ないけれど二人とも優秀だ。

 

 クロエは『カチューシャふんわり小型動物系』でヒルダは『眼鏡黒髪ロングパンスト委員長系』で見栄えもいいし♡

 

 声が『鈴鹿〇前』と『メル〇リリス』だったのは流石に予想し(覚え)ていなかったから思わず“坂〇田村麻呂とか、人形とかに何か引かれないか?”と聞いてしまっては両者から“なにそれ?”って無数のハテナマーク浮かべながら聞き返されてようやく自分が思っていたのを口にしたことに気付いてかなり慌てていたのは内緒だ。

 

 ポーカーフェイスにか・ん・しゃ・だ・ze☆。

 

 ……うん、かなり焦っていたのはこれでわかるだろう。

 

 あと名残惜しいけれど、今では差し入れとお茶会(という名の交友会&休憩)でしか会えなくなった、脳科学の研究しているソフィの部下であるケイトとフェリッリなんて、『ポニテ超ミニ短パンサイハイソックス活発学者系』に『ボンヤリショートカットショートスカート不思議ちゃん系』で実にイイネ♪

 

 目(と心)の保養にええわぁ~♡

 

 あとは皆、日本にスゲェ興味持っているから話を聞きに来るから堂々と話せるし。

 

 ただ凄い『偏見』というか『ステレオタイピング』を持っていたよ。

 “お寿司が普通”、“皆が何かしら武術の達人”、“室内では靴を履かない”、等々。

 

 まぁ素直に訂正しながら話して一番面白かったのは屋台のおでん屋とか串カツだったな。

 

 “道でそのまま食べるの?!”ってビックリされたけどそれがまた美味しいねん

 

 特にちょっと肌寒い時に注文して食べながら熱燗を飲むなんていいと思うね────ってカレンか俺は?!

 

 ぶっちゃけると、こういった『のんびりな時間』や『亡国のアキト』の設定資料とかでも追及されていない部分まで知ることが純粋にスゲェ癒しになる。

 

 例えばオペレーター役をしている『紫の髪&褐色超ミニ軍服』のサラなんてイメージ的にちょっと堅いけれど、周りへの気遣いができる姉御肌持ちとか。

『金髪の三つ編みお下げそばかす』のオリビアはサラと同じく元々軍人で、ちゃんと訓練を受けている数少ない人員だとか。

 

 あとはハメルたち警備隊もEUでは珍しく、軍務に忠実なモノの集まりだったのもちょっとびっくりしたな。

 EUって、『中華連邦以上にロクな奴がいない』という酷い描写がコードギアスでも印象的だったし。

 

 それにしてもプログラミングと機械いじりって、やっぱりハマるとた・の・し・い~♪

 一度始めたら没頭して食事をとるのを忘れちゃうなんて無理はないからなぁ~♪

 

 あれと同じだ。

『一話だけ観ようと思っていたらいつの間にか全話マラソンして二日の休日が潰れた』的なあれだ。

 

 え? 『そんなことはない』、だと?

 

 ……ほっとけ。

 

 今の話に戻るが、仮想空間のシミュレーションじゃなくて実際のアレクサンダタイプ02試作機に反映されるから改良した結果がすぐに分かるし~♪

 

「でも意外ですね。 傭兵なのにこんなことが出来るなんて、まるで技術者か()()()みたい!」

 

 ギクッ。

 

 クロエの一言に思わず心臓がドキリとしてしまう。

 

「一人で色々なことが出来るから“便利屋”とか!」

 

 ヒルダのその話、乗ったぁぁぁぁぁ!

 

「そうだな。 “傭兵”と名乗ると聞こえが悪いから、たまに“何でも屋”と名乗ったこともあるな。」

 

「“何でも屋”かぁ~……」

「納得♪」

「それでお菓子────料理もできるんですねぇ~。」

 

 うむ。

 二人ともチラチラと空になりそうなチョコクッキー袋を見るのは良いが、隣の包装を見るな。

 

 明らかに期待しているのがバレちゃうぞ☆

 

 「ブツブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

 そして別の場所では俺たち以上に没頭しながら独り言&徹夜を続けているアンナが別のナイトメアの開発を続けていた。

 

 彼女の操作するコンソールと繋がっていたのは俺の持ってきた機体とここのアレクサンダをくっつけたような代物だ。

 

 頭部以外は殆んどよく見る人型だが、頭部は円盤状になっている。

 元々はファクトスフィアに頼らない索敵や電子戦システムなどを追求したことで『なんちゃってD-3』的な機体が出来上がった。

 

 ちょっ~~~~と時空的に早いが、コードギアスの『オズO2』で出てくる『サザーランド・アイ』っぽい機体だ。

 

 ファクトスフィアは通常の物から小型無人機から得たデータ処理特化で、サザーランド・アイと違ってVARISはないが。

 

 そしてアンナはこの『アレクサンダ・スカイアイ』にここのところ連日の時間を費やしている。

 

 恐らくだが、原作の『亡国のアキト』時空的に次の作戦に間に合わせる為だろう。

 

 それは『ガンマ作戦』と呼ばれ、『ワルシャワ駐屯軍が進軍するタイミングに合わせ、ユーロ・ブリタニアの後方に降りて撹乱する』と言った、EUにとってどのような結果になっても痛くも痒くもない無理難題作戦だ。

 

 コードギアスファンなら、『スロニムのバトル』あるいは『レイラ、初の出撃』と言えば分かるだろうか?

 

 しかし原作とは違って俺の機体の影響もあってか、アンナはレイラ専用機のアレクサンダタイプ02に『ドローン操作システム』だけでなくコックピットを複座機に改良している。

 

 他人思いのアンナの事だから恐らく、数少ない親友であるレイラの生還率を高めるためだろう。

『複座機にしてレイラがドローン化したアレクサンダを操り、もう一人が本機の操作をする役割分担』と言ったところか。

 

 そう考えると、やはり原作カップリング的に『レイラ+アキト』になるのだろうか?

 

 それはそうとして、()()()アレクサンダも今こうしてクロエとヒルダに手伝ってもらって作り上げている所だが。

 

『後に俺の予想は当たっていたが、外れていた』とだけ言おう。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「今回のγ(ガンマ)作戦は────」

 

 数日後にワイバーン隊全員が作戦室に召集され、クラウスがやはりやる気なしな態度のまま俺の予想していた作戦を語り始める。

 

 作戦とは『ワルシャワに駐屯しているEU軍本隊の援護』。

 

 そして『ワイバーン隊が敵後方に()()し奇襲攻撃をする』。

 

「敵のど真ん中に降下しろってか?」

()()()()を使った作戦だけはあるね。」

「ちょ、ちょっとユキヤ……」

 

 リョウとユキヤは皮肉たっぷり入った口調と言葉が視線を集め、アヤノがタジタジになる。

 

「そんなに悲観することはないぞ新入りたち。 ワイバーン隊が錯乱中、進撃してくるEU軍と合流できればその時点で作戦終了な訳だ。」

 

「で? 僕たちの何割が死ぬんだい?」

 

 ユキヤお前、空気読めよ……せっかくクラウスが彼なりの気遣いをしていたのに。

 

「成瀬准尉、奇襲作戦で最も重要なことはなんだと思いますか?」

 

 お? レイラがここで口を開けた?

 

「ん~……タイミング?」

 

「それもそうですが奇襲作戦は必要な兵力を投入しなければ大した効果もなく、生還率も低くなります。 よって、この作戦では無人機化したナイトメア────ドローンも実戦導入します。」

 

「……なるほどねぇ。」

 

 おいユキヤ、なんでそこで俺を見る?

 普通に嫌な寒気が背中を走るのだが?

 

「ですが現在の開発具合からドローンにはオペレーターが必要という事で、私も共に出撃します。」

 

 アンナたち技術部やクラウス+俺以外の者たちにどよめきが走る。

 

 無理もないか。

 いきなり新兵同然のレイラが『一緒に戦いますよ~』的な宣言をしたからな。

 

「私はもうこれ以上、誰も死なせません。」

 

 画面越しとは違い、ちょっとしんみりするシーンだなぁ~。

 

 だけどレイラの言ったことに、俺も同意しよう。

 

 その為に俺はEUに来たのだから。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 さて。

 ワイバーン隊がどうやって出撃するか、その都度どうやって敵陣の背後に現れているかネタバレをしよう。

 

 その方法とは恐らく、コードギアスの世界でも唯一稼働している大気圏離脱式超長距離輸送機────通称『アポロンの馬車』がそのトリックの種である。

 

 地表から発射したロケットの内部に折りたたまれたナイトメアを収納し、多段式ロケットで大気圏を突破。

 地球をぐるりと一周してナイトメアが搭載されたカプセルを再度大気圏に突入させる。

 

 要するにリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームなどで『マップの場所を指定すればあら不思議、援軍が空から降ってきたヨ♪』のアレだ。

 

 元々は、広大になり過ぎたEUの土地でも辺境の植民地に物資を送り届ける輸送システムだったのだがコストパフォーマンスがあまりにも予算(横領)的に悪くて放置されていたのを『せや、どうせ使い捨ての部隊に使わせようやキャッキャッ』という経緯で現在、wZERO部隊が使うようになっている。

 

 これが『突如としてどこにでも現れるワイバーン隊』の秘密であり、なぜアレクサンダに複雑+コストがかさばる変形機能を備えているかの理由である。

 

『打ち上げ8分前になりました。』

 

『全システム、正常です』

 

 通信越しにオペレーターであるサラとオリビアの声を聞きながら、(スバル)は目を瞑ったまま考えに没頭していた。

 

 今の俺はいつものライダースーツではなく、ワイバーン隊のパイロットスーツを着込んでいる。

 

 というのも、今回使用する『アポロンの馬車』はさすがにライダースーツでは『性能不足だ』という事で着替えざるを得なかった。

 

『全システム、電源外部から内部へと切り換えました。』

 

 忘れがちだが、コードギアスのパイロットスーツほぼ例外なく反応性や動き易さにパイロットの生存を考えて肌に密着するタイプである。

 

 全裸の上からスーツを着るのが男女の性別関係なく基本で上記で察せる様に、ボディラインがはっきりとするタイプである。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、“正直目のやり場に困るがな”という事だ。

 

 確かにワイバーン隊のスーツは身体のラインがほとんど見えてしまうが……ブリタニアの物よりはるかにましだということを思うと胃が痛くなる。

 

 ワイバーン隊のは手足や手首まで覆っているが、『オズ』なんて女性用のスーツは露出度が半端なく高い。

 

 肩より先の布はないで肩は丸出しだわ、下半身は滅茶苦茶食い込み具合のハイレグっぽい謎のデザインだわ、上半身はぴっちり水着みたいだわで────

 

『打ち上げ1分前です。』

 

 ────サラの通信に、俺の背後で()()()深呼吸をする吐息が密閉されたコックピット内の空気を僅かに騒がせる。

 

 「スゥー……ハァー……大丈夫。 シミュレーションも十分したし、理論上には問題はない筈……」

 

 ……………………うん。

 もうぶっちゃけよう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんでこうなった。




指がトリッガーを引き、弾倉が回り、撃鉄の音が続く。

撃針が薬室を撃ち、予想していたより虚しい音を立てると皮肉にも『生』の充足が心身ともに震わせ、安堵が息として外部に溢れ出す。

まさに命運を天秤にかけた危険な遊戯、ロシアンルーレット。

果たして、これ以上の『命運を賭けた運試し』はあるのだろうか?

“弾倉が回れば、リスクが上がるのは当たり前。”
ならばリスクを下げる方法はあるという事か?

次回予告:
『逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪』


『運は天にあり』というのなら、その天とやらに近づけばいいのではないのだろうか?



久しぶりに次回予告ができました。 (汗
次話では『あの人(?)』が登場する予定です。 (汗汗汗
あと何気にスザク登場しました。 (汗汗汗汗汗


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第103話 逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです! <(_"_)>ペコッ


 原作とはちょっと違うレイラ機の複座式アレクサンダに(スバル)が何故か乗っている。

 

 大事なことだからもう一度言ったぞイエイ☆

 

 ………………深呼吸だ、俺。

 大きく息をゆっっっっっっくりと(口で)吸って~。

 スゥゥゥゥー。

 

 ゆっっっっっっくりと(鼻から)吐くのだ~。

 ハァァァァー。

 

 よし、幾分かマシな気分になった。

 

 ロケット打ち上げに同行するのはまだいい。

 

 γ(ガンマ)作戦への参加も、『傭兵』としてここ(wZERO部隊)にいるから納得はしているしある程度は覚悟していた。

 

 だが寄りにもよってレイラの乗る複座機アレクサンダに同席するのはワケガワカラナイヨ。

 

 ングッ?!

 さっきもこのやりとりしてなくね、俺?!

 

 何だか混乱のスパイラルにハマっている感じがしてきたぞ~。

 

 落ち着け俺。

 落ち着くんだ。

 まだだ。

 まだ慌てる時間じゃ────

 

「スゥー……ハァ~。」

 

 ────って後ろにいるレイラが深呼吸した際に出た吐息がガガガガガガがががが。

 

 慌てる時間じゃあああぁぁぁぁぁぁぁ

 

 目を開けるな俺!

 

 目を開けたら電源を落としたスクリーン(ガラス)に背後のパイロットスーツ姿のツインテレイラガガガががががガガガ

 

 こんなことなら(多分)前世で『亡国のアキト』初回入場者特典の生コマフィルムのオークションになんて関わりたくなかったぜ!

 買っちまった(と思う)よコンチクショウめ!

 

 でないとなぜ目をつぶっていても明確な妄想が出来るのか説明がつかぬぜよ。

 

「シュバールさん、起きていますか?」

 

「なんだ?」

 

 ってナチュラルに返答した俺のバカぁぁぁぁぁ!

 

 狸寝入りしていればよかったが……返答した今ではもう遅い。

 

「随分と余裕があるのですね。」

 

 余裕なんてないねんデイ()()()~ンニング~♪

 

「そうでもない。」

 

「ですが『アポロンの馬車(ナイトメア搭載型多段式ロケット)』の事を聞いてから、今までも平然としている様子ですよね?」

 

 ああ、それね。

 まぁロケットの事は『亡国のアキト(原作)』を見て前もって知っていたからな。

 

 差し入れ用のジンジャー入りハチミツレモンティーで何とか落ち着かせたが、流石にリョウと乗り物酔いしやすいアヤノはビビっていたな。

 

 二人ともロケットを見上げながら足をガクガク震わせていたし。

 

 年相応の少年少女がやる『フー、フー』には何か胸の中にグッと来たなぁ~。

 

「そうだな……『アポロンの馬車』にはどちらかというと“感動”を感じたな。」

 

 あと『生で宇宙飛行士っぽい経験ができるなんてなんかカッケェし楽しそうじゃん♪』と思ったのも秘密だ。

 

「“感動”……ですか。」

 

 え? 何その受け答え方は?

 もしかしてレイラの質問で何か外したか、俺?

 ……むぅ~。

 

「それに……今は『どう次に動くか』、または『どうすればいいかの方針』を事前に得た情報と照らし合わせて考えている。」

 

 真っ赤な嘘だがそれっぽい事を言っておけばいいだろう。

 

「例えば、どんなことですか?」

 

 ウゲッ?!

 まさかの追求……だと?

 墓穴を掘ったぁぁぁぁぁ?!

 

 ヤバいヤバいヤバい、どないしよ?

 

 ええい、ままよ!

 

「そうだな。 例えば……ロケットから大気圏突入の際、カプセルから射出された後とかだな。」

 

『アポロンの馬車』は地球を一周して大気圏突入用カプセルのまま、作戦エリアに着陸するわけではない。

 

 実は超高空で、カプセルは分解してワイバーン隊はアレクサンダに搭載されたグライダーウィングを展開して作戦エリアに忍び込む。

 

『噴射機を使用しない』や『戦闘機などよりは緩やかな速度』でレーダーに引っ掛からない、『常識からかけ離れた高度からの侵入』。

 

 そして文字通り『鬼気迫る勢いで戦う』。

 

 まぁ、そこは『命懸け』だからな。

 

 これらがあってワイバーン隊は『ワイバーン(飛龍)』とEUに例えられ、ユーロ・ブリタニアからは『ハンニバルの亡霊』と呼ばれている由来だ。

 

「“カプセルからの射出後”? どういうことですか?」

 

 ぐぬぅ……レイラにはまだ足りないのか?

 彼女ならそれ以来のことがわからないでもないはずなのに……

 

 これ以上の『話しかけるなオーラ』は目をつぶったまま出せないぞ?

 

「正確には“射出後の着陸”だな。 奇襲とはいえ、敵の勢力圏内に違いは無い。 それに通常のレーダー探知に引っ掛かりにくいとはいえ、感知される危険が0パーセントと言う訳ではない。 それに機体が消えるわけではないから肉眼や双眼鏡にカメラなどで発見される危険もある。」

 

 うん、今ので良いと思う。

 

「では感知されたらどうするべきだと思いますか?」

 

 まだ続けるんかい?!

 

 よろしい。 なら今まで相手を黙らせた『饒舌になったスバル』を披露しようではないか!

 

「もし俺が敵なら着地点らしき場所を爆撃、あるいは遠距離からの砲撃をくまなくするな。 それも視野に入れて着陸後はなるべくすぐに移動体制に移行し、目標に近い市街地か障害物の多い場所に身を隠せば、何とかやり過ごせるかと。 そこからは、臨機応変に対応するしかないな。」

 

「……かなりおおざっぱですね。 それに、臨機応変とは────」

「────『敵との接触後の想定』など、要因が多すぎる。 予想するのならば『方針』だけに絞り込めばいい。 “やりたいことよりまずやれること”だ。」

 

 「“やりたいことより“……”やれること”……」

 

『亡国のアキト』でも、リョウたちが気に入らないレイラを殺そうとして着陸直後に襲っていてその騒ぎでユーロ・ブリタニアが『なんかうるさいなぁ~。 せや、味方機な訳ないから砲撃しよキャッキャッ』って長距離砲撃して────って俺やべぇじゃん。

 

 もしかしてこのままリョウたちに俺(とレイラ)が乗っている機体が襲撃されるんじゃ……

 いや待て、ただ『その可能性がある』ということだ。

 何せそのために毒島をまえもって潜入させたのだからな。

 

 だけど『スマイラス将軍襲撃事件』は原作通りに起きたし……ないとは言い切れ────

 

 キリキリキリキリ。

 

 ────胃薬を飲んだのになぜか胃が痛いでゴザルヨ?

 

 ちくせうぅぅぅ。

 

 これが俺専用に仕上げていた機体ならまだしも、『ドローン制御』と『本体』の立ち回りに特化した『複座式アレクサンダ・スカイアイ』だと流石に分が悪いぞ。

 

 一応、アレクサンダだから悪くない性能だが、武装はごく平凡な対KMFトンファとリニアアサルトライフル。 

 

 ドローンも一応『兵装』にカウントされるか?

 制御しているのは俺じゃなくてレイラだけど。

 

 それでもタイプ02に乗っているリョウたち三人を相手に、分が悪いのは変わりない。

 

 そして何より、俺専用に仕上げていた機体をアキトが使っていることが何よりも解せぬ。

 

 解せぬが……もうどうしようもない。

 

 キリキリキリキリ。

 

 打ち上げまでに時間もあることだし、(手探りで)栄養剤で胃薬を今の内に飲み干しておくか。

 

 うーん……俺特製のラムネ胃薬(炭酸少なめ)、最高!

 

 

 


 

 

『傭兵のスバル』は、ネットでの裏サイトやブリタニアのエリア11に潜入させていた諜報員からの報告では、黒の騎士団にとって表に出ることはないが、重鎮になりえるような人物像だった。

 

 ハメルが注意しつつ申し出たように、彼は『傭兵』の枠を優に超え、瞬く間にwZERO部隊に溶け込んだ。

 

 まるで砂漠になりかけていた地面を潤す雨のように。

 

 スバルは知らないが、実はwZERO部隊の皆が、EUにとって『腫物扱いの溜まり場』されていたのは相当心身ともに堪えていた。

 

 物資や装備に、『極秘部隊』ということで外部との接触は必要最低限のみで、しかもそれは『民間人の協力者』として派遣されているソフィやジョウのみ。

 人員の確保もEUの軍本部に許可を取らなければならず、料理や洗濯の家事も交代制で、手の空いていた者たちが片手間で不器用ながらもやっていた。

 

 まったくの余談だが、食べ物や飲み物も、大抵は(一部の例外を除いて)加工品や裏取引で得たモノである。

 

 そんなままならない状態だったのを、前司令であるアノウが()()()()交渉して()()()()()()都合のいい人員を確保できるように手配した。

 

 その人員とは旧日本の志願者たちであり、EUの上層部にとっては体のいい『ユーロ・ブリタニアに対しての捨て石』だった。

 

 それに日常的に強く振舞っていても、wZERO部隊の大半は10代の者たち。

 

 そんな環境で家族のだんらんの振る舞い(カラ元気)をし続けていなければ、心は折れてしまうだろう。

 

 そう思いながら、レイラは前の席に座りながら余裕からかゆっくりと深呼吸をするスバルを見ていた。

 

「(不思議な人。 私たちとそう歳は変わらないのに、私たち以上に『孤独』に慣れている様子。 それに、部隊全体の強化や気遣いは、彼のメリットどころかデメリットになりえるのに躊躇しないところなど……それに先ほどの受け答えなどを配慮すれば、どう考えても『傭兵』には似つかわしくない。)」

 

『駆動用電池、起動します。 メインエンジン、スタート!』

 

 オペレーターのサラの通信と同時に、さっきまで静寂なロケットは静けさが嘘だったように震えながら轟音を発し、上空へと動き出す。

 

 その振動と急加速で発生したGは、中に搭載されているナイトメア、果てはアキトたちにも伝わる。

 

「(このまま上がってくれよ!)」

 

 自分の体に押し寄せる重力に耐えながらスバルはそう強く思っていた。

 

 コードギアスの世界では化石燃料類の進歩は遅れている。

『ならロケットはどうやって打ち上げている?』という疑問を彼は持っていて、先日作戦の説明後に聞くと割と単純な答えが返ってきた。

 

 答えは『サクラダイトの意図的な引火』であったことに、スバルは密かに『爆発したらせめて“何事だぁぁぁ!”のセリフを回収しよう』と思ったそうな。

 

 すでに片瀬少将本人によって、セリフが回収されているとは知らずに。*1

 

 ジェットコースターのGをはるかに超える圧を初めて体験するレイラたちは、思わず息を吐き出しそうになるのをグッとこらえる。

 

 すでに経験したことのあるワイバーン隊のイサムたちや、神虎(シェンフー)の試作パーツなどを使ったトンデモ機体に乗っていたスバルは平然としていたが。

 

 ……

 …

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 上記と同じ時期のヴァイスボルフ城の司令室は、無言の緊張感に満ちていた。

 

 実はロケットの打ち上げで一番危険な時間は『大気圏突破時』ではなく、『大気圏突破まで』である。

 

 小さなミスや誤差、突き抜ける雲の密度でさえもが、噴射中のロケットを瞬く間に『巨大な爆弾』と変えてしまう要因になりえる。

 

 いつもは怠け具合のクラウスさえも、今回はレイラが出撃しているからか、フラスクに手を添えているだけで中身の酒を飲まず、汗を出しながら画面上に映し出されたロケットの映像をガン見していた。

 

「3分が経過しました。 センサーによるエンジンの燃焼、制御系 飛行経路も正常を示しています。」

 

「『アポロンの馬車』、順調に飛行を続けている模様です。」

 

 そんな静まり返った司令室の中で、数少ない生粋の軍人であるオリビアとサラが、私情を切り離した口調でただ延々と報告を口にする。

 

「第1エンジン燃焼終了。 これより分離します。」

 

「………………分離成功、第2エンジン燃焼を開始。」

 

 さらに数分すぎてからオリビアの報告に、緊張感がどっと和らぐ。

 

「慣性飛行は順調です。」

 

「「「「「ハァァァァ……」」」」」

 

 息を止めていた者たちが一気に息を吐き出し、クラウスはハンカチを出して額の大玉となった汗を拭き取っていく。

 

「これからが本番だが……第一段階はクリアしたな。」

 

 クラウスはキリキリと痛み出す胃を鎮めるため、フラスクではなく未開封だった市販の胃薬を取り出す。

 

 だがふと思ったことで、服用するために封を開けた胃薬をじっと見る。

 

「(そういやアイツ……なんで俺に胃薬なんかを? もしかしてあいつも胃が痛くなるのか? ……まぁいいや。)」

 

 クラウスは胃薬を口に含んでから、近くの水筒に入っていた水で胃へと流し込む。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 慣性飛行中のロケットはすでに地球の重力圏から離れ、初めて乗る者たちは全土でも経験した者は数えるほどしかない浮遊感に戸惑っていた。

 

「高度255キロメートル。 秒速5.6キロメートル……」

 

 レイラはナイトメアが示す情報で気を紛らわし────

 

『アヤノ、眠ってていいぜ。 どうせ今はすることなんて何もねぇからな。』

 

『そうだよ。 眠っていれば、死ぬ時も怖くないし♪』

 

 ────リョウとユキヤはアヤノを気遣った。

 

「…………そうだね。」

 

 暗いコックピットの中、アヤノは隊内通信に短く答えてから深呼吸をし、席の横に固定された小太刀に手を添えて落ち着く。

 

 今ではその小太刀とポケットに入る小さなぬいぐるみだけが、血縁者(家族)との繋がりの証拠だったこともあるが……

 スタイル抜群(レイラとどっこいどっこい)&アキトたちとほぼ変わらない身長(164cm)からはとても想像できないが、wZERO部隊ではもっとも年少者の15歳である。

 

 ナナリーやアリス達よりは一歳上で、サンチアと同年代である。

 

 15歳である。

 

 原作での彼女とリョウたちは、『スマイラス将軍を誘拐しようとした極悪人』として、危険物と判断されたものをすべて没収されていたが、今作では少し違う流れとスバルとレイラの口添えで、『アヤノの護身用』として携帯を(渋々)警備隊のハメルが許可した。

 

 アヤノにとってその小太刀は亡くなった祖父の形見の意味だけでなく、EU生まれでEU育ちの彼女にとっては、子供の頃に家族からの話で少し聞いた『日本』という遠い国を具現化したものだった。

 

 これの所為か日本にはかなり強い憧れがあり、スバルがエリア11になる前の日本で育った日本人と知っては、ほかの日本マニアとともに彼を尋問に数々の質問をした。

 

 ちなみに余談だが、アヤノがどれだけの憧れ(というか『日本人としての矜持と誇り』)を持っているかというと、自分用にチューンされた接近戦特化型アレクサンダタイプ02が装備した大型ブレードを、『ビーショップ・ロングレイ』と胸を張りながらドヤ顔で名付けるほど。*2

 

『お前たち、ナイトメアのモニターを作動して外を見ろ。』

 

 うたた寝しそうだったアヤノやリョウとユキヤは、スバルの通信を聞くと、特に何もすることがなかったからか、ナイトメアの画面を作動すると、ロケットの外部センサーから入ってくる映像に魅入られる。

 

 真っ黒の宇宙をバックに青い海の地球が映し出され、夜だからか人工の光がわずかに大陸をライトアップする景色が広がっていた。

 

『ふわぁ……綺麗……』

「こりゃいいな。」

 

 アヤノは口をポカンと開き、リョウは内心ドキドキしながらもニヤニヤした笑みを浮かべ、この二人のリアクションにワイバーンタイの少年たちはウンウンと共感する。

 

『死ぬ前の景色と思うと、悪くないね♪』

 

 だがユキヤの言葉で一気に空気が変わ────

 

『勝手に決めつけるな、成瀬(ユキヤ)。』

 

 ────ろうとする前に、スバルのムッとしたような言葉が遮った。

 

『だってシミュレーション上では生存率が低かったんでしょ? だからイレヴンの僕たちを兵士として採用しているわけだし。』

 

『命のやり取りに“100パーセントの生存率”はない。それに、ある程度は仕方のない要因も絡むのは事実だ。 だが、生存率の上昇は可能だ。』

 

『ふぅ~ん……じゃあさ、シュバールは“運”でさえも操作できるっていうのかな? 準備も訓練も出来ているけれど、“運”次第でコロッと死んじゃう奴もいるしさ。』

 

『……前もっての準備と用意、周到な下調べ次第で“運”の要素を限りなく低くはできる。』

 

『じゃあさ、賭けをしないシュバール(スバル)?』

 

『賭けだと?』

 

『アヤノかリョウが死んだら自害してよ。』

 

『いいだろう。』

 

『『『『ッ。』』』』

 

 ユキヤがサラッと言った言葉と、それに即答するスバルのやり取りで、ワイバーン隊の皆が息を素早く飲み込む。

 

『ヒュ~♪ 即答とはよほど自信ありなんだね?』

 

『俺は誰も死なせるつもりはない。』

 

『だってさ♪ よかったねリョウ、アヤノ♪ リスク取りまくりだよ♪』

 

 「ぜんぜん嬉しくないよユキヤ! 縁起でもないこと言わないでよ!」

 

 アヤノの容赦ない叫びに通信を聞いていた(予想していたリョウを除く)ワイバーン隊たちの耳がキーンとした所為で、ユキヤのケラケラした笑いを聞き逃したそうな。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あー、つまんねぇ~。」

 

 ワイバーン隊たちが大気圏をすれすれに飛行している間、スロニム近くの駐屯基地で、シンの部下が心の奥底からくる気持ちのまま上記の言葉を発する。

 

 オレンジ色をした、見た目がワイルドそうな少年の名は『アシュレイ・アシュラ』。

 

 少々()()な過去を持ち────

 

「よし。 ロシアンルーレットでもするか!」

 

 ────特殊な持論も持つ。

 

「「「「「「えええええええええええ?!」」」」」」

 

 アシュレイがリボルバー式で鮮やかな模様をした拳銃を出すと、彼の部隊────『アシュラ隊の七剣士』たちが慌てだす。

 

「お、お待ちくださいアシュラさま────!」

「────あ? なんでだよ?」

 

 金髪の騎士らしい男性────ヨハネ・ファビウスが慌てるが、アシュレイは不機嫌そうな問いを返す。

 

「そ、そうです! いくら暇つぶしとはいえ────!」

「────暇だからやるんだよ!」

 

 今度は中性的な顔立ちをしているシモン・メリクールの正論が続く前に、アシュレイが逆切れ気味に叫ぶ。

 

「しゅ、狩猟などはいかがですか────?!」

「────シャイング卿の『駐屯地で待機』の命令に背くことになるだろうがぁぁぁ?!」

 

 禿頭に刺青をした、一見アシュレイのようなワイルドっぽいクザン・モントバンに、アシュレイのイラつきによる矛先が向けられた。

 

「で、ではダーツなどは────?」

「────よし、いいぞ。」

 

 メカクレのアラン・ネッケルの提案に乗ったアシュレイに、アシュラ隊の七人はほっと胸をなでおろす。

 

「だからお前ら、()()()()()ここに戻って来い。」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

「“え?”、じゃねぇよ。 ダーツには『的』がいるだろうが。」

 

「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」」」」」

 

 前言撤回。

 

「よし、準備オッケーっと────」

「「「「「「「────アシュレイさま?!」」」」」」」

 

 アシュレイは一発だけ実弾が装てんされたリボルバーの銃口を自らのこめかみに当て、アシュラ隊の皆から血の気が引いていく。

 

「いいかお前ら? 戦で一番大事なのは“運”だ。」

 

 カチリッ。

 

 アシュレイが撃鉄を躊躇なく引くと、室内の緊張感が高まっていく。

 

「ほかの奴らは『実力』とか、『練度』がどうとか言っていやがる野郎もいるが……そいつらは『戦いの生き死に(勝ち負け)』の境目を根本から理解していねぇ奴らばかりだ。 どれだけ自分(ソイツ)が努力しようが、“運”次第で死ぬときは誰でも死ぬんだ────」

 

 ────カチン!

 

 アシュレイの持つリバルバーから撃鉄がからの薬室をたたくむなしい音が響くと、アシュラ隊全員が止めていた息を吐きだす。

 

「な! よし、次はだ・れ・に・し・よ・う・か・な────」

「────え?! ちょっと待ってくださいアシュレイさま! さっきので終わりじゃ────?」

 「────馬鹿野郎! 俺は暇なんだよ!」

 

 「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」」」」」

 

『アシュラ隊』。

 このようなアットホーム的な空気を出すほどに隊員たちの仲がいいのは、ひとえにアシュレイのさっぱりした裏表のない性格から来るのだが……

 

 アシュレイがたまに凶行に走ることで、彼の部下たちもかなり振り回されることに慣れていた。

 

「相変わらずバカだな、お前は。」

 

 そんな空気をぶち壊すかのように、アシュレイとは正反対で毅然とした立ち振る舞いをする真の参謀とも呼べる女性────『ジャン・ロウ』が、呆れた目でアシュレイを物理的に抑えようとする者たちとアシュレイを見る。

 

「お! ジャンじゃねぇか! お前も暇つぶしに付き合えよ!」

 

断る。 お前と違って私は忙しい身なんだ。 それに、シャイング卿からの命令を持ってきたぞ────」

 「────よっしゃあぁぁぁぁぁぁ! アシュラ隊の出撃だぜ!」

 

 アシュレイは今までで一番いい笑顔になり、思わずリボルバーを天井に向けて景気付けに引き金を嬉しさから引く。

 

 パァン!

 

「「「「「「「……え。」」」」」」」

 

 パラパラパラパラ……

 

 アシュラ隊たちが天井にできた穴からぱらぱらと落ちる砂をギョッとした目で見ていると────

 

「おおお?! ハハハハハ! わりぃ、わりぃ! 思わず引き金を引いちまったぜ!☆」

 

 ────アシュレイはカラカラとただ無邪気に笑った。

*1
61話より

*2
小太刀の銘、『蜂屋長光』を日本語から直訳したもので、スバルは吹き出しそうになりました。




飛竜を直訳した『ワイバーン』、あるいかつて巨大なローマ帝国を翻弄したものにちなんで『ハンニバルの亡霊』と呼ばれる部隊。

そこに一人の『傭兵』という名の激薬剤が投入されたことで何が変わるのか?

エリア11のフジサン、ナリタ、フクシマと数々の戦場を駆けた戦士が亡霊として出る。

その者、『貸し』というこの世で最も高価な爆弾を売りながら舞台へと上がる。


次回予告:
逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪2

生き残りたいという願いから死地に身を投げるのは戦う者の性か本能か。


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第104話 逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪2

誤字報告や感想、誠にありがとうございます!
お手数をおかけしております! m(_ _)m

お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

11/21/2022 00:15
大気圏突入時の事象を修正いたしました! <(_"_)>


『アポロンの馬車』が慣性飛行に移行して数時間ほどが経ち、ようやくあと少しで作戦エリアに到着するまでとなるまでスバルは衛星軌道上から地球を見下ろしていた。

 

「(うーん……画像越しとはいえ、地球を見下ろすのは変な気分だ。)」

 

 「分離まで、あと少し……」

 

どうしてみんなひどいことするの?!

だいじょうぶ……だいじょうぶだから。

 

 緊張のせいかレイラの消え入りそうな声がスバルの耳に届くと、彼は幼少期の出来事を思い出しては無性に慰める衝動に駆られ、そのまま口を開ける。

 

「司令。」

 

「な、なんですか?!」

 

意見具申(いけんぐしん)。」

 

「ッ。 ゆ、許します。」

 

 スバルから意外な、そして『傭兵』からかけ離れた言葉遣いにレイラは一瞬目を点にさせるが仮にもご令嬢として育てられた彼女はすぐに答える。

 

「緊張して身構えるのはいいが、仮にも現場での指揮官となるお前がガチガチでは指揮に支障が出る。 “リラックスしろ”とは言わん。 だが────」

 

 スバルはアレクサンダに乗って以来、初めてレイラへと後ろに振り返えてから言葉を続ける。

 

「────先ほど言った宣言の対象に、君も入っている。」

 

「(“先ほどの宣言”……)」

 

 レイラはキョトンとして思い返すと────

 

(スバル)は誰も死なせるつもりはない。』

 

 ────とユキヤに対していうスバルの声が脳裏に浮かぶ。

 

「……ありがとうございます、シュバールさん。」

 

「そういう契約だからな。」

 

 「……よかったね、アンナ。」

 

「どういう意味だ?」

 

 いつもの平然(冷静)としたスバルに戻ったことで、レイラがこぼした上記の言葉もスバルに届いてしまい、彼女はバツが悪そうな顔を浮かべる。

 

「……その……シュバールさんは()()()()()()()()()()()仲がいいみたいですから。」

 

「(ああ、なるほど。)」

 

 スバルはレイラの言い方で大体のことを察した。

『亡国のアキト』でもレイラは当初、昔からの知り合いであるアンナ以外からは『マルカル司令』と呼ばれながら一線を引かれ、常時『蚊帳の外扱い』をされていると感じて『自分は無力』ということから自ら出撃している。

 

 そしてレイラの言った“名前で呼び合う”とはおそらく、新参者であるスバルがアンナを“アンナ”と、そしてレイラを“マルカル司令”と呼んだ先日の会話のことだろうとスバルは当たりを付けた。*1

 

「(う~ん、確かに他人行儀だったが……レイラはア()ウの野郎から引き継ぎもない状態からのスタートだったからフリーの時間なんて最近までなかったし、あとはハメルの野郎が目を光らせて近づけられなかったし、他のやつらと違って接点(会う口実)がなかったからなぁ~。 ここは黙っていても彼女の真面目な性格とハプニングを考えると多分、原作通りか近いような信頼関係をほかの皆と築けると思うが────)────なら、隊とは別の契約をするか、()()()中佐?」

 

「え?」

 

「口頭での契約になるが、筆が使えるときにでもなれば正式に書き写してもいい。 (レイラのことだから、無理難題的な内容にはならんだろう。)」

 

「……………………なら────」

 

 ────ガコン。

 

 周りの物質を伝って、鈍い金属音とともにコックピットが震えると、モニターの画像が強制的に一時カットされて、分離したロケットのパーツが宇宙へと広がる光景が広がる。

 

「続きは、作戦後になりそうだな。」

 

「……ええ。 総員、大気圏突入に備えるように通信を出すわ。 その間の確認をお願いできるかしら?」

 

「無論だ……カプセル分離とともに、全機のシステム起動を確認。 現状、異常なしだ。」

 

 スバルの言葉から数秒後、推進力を失ったカプセルたちは外付けされたスラスターノズルで突入角度と位置の最終調整に入りながら、地球へと吸い寄せられる。

 

 「(“魂を重力に引かれる”、とはこういうことか!)」

 

 ハラハラドキドキしながらも、スバルはワクワクしながら内心で『とあるサングラスにタンクトップ軍服男』風なセリフを思い浮かべた。

 

 ジェットコースター(絶叫マシーン)以上の浮遊感で、胃潰瘍のような吐き気や胸やけを無視するために。

 

 カプセルは大気圏に突入する速度で空間の断熱圧縮からくる急激な高温上昇で真っ赤になり、アレクサンダのモニターたちはノイズへと変わり、コックピットはガタガタと音を鳴らして震える。

 

「ウィングの展開まで20秒!」

 

 300キロメートルからのフリーフォールといえども重力の加速で瞬く間にカプセルたちは指定された高度でさらに分解してアレクサンダ達は折りたたまれた翼を展開しては滑空をし始める。

 

「ほかの皆は?!」

 

 レイラは気体のプラズマ化におけるノイズが徐々に消えてクリアになっていくモニターを切り替え、ほかのアレクサンダたちの様子を目視しながら通信を送る。

 

『こちら藤原(イサム)准尉、異常なしです!』

竹林(タカシ)准尉、イサムと同じく!』

『こちら日向中尉、問題ない。』

 

 大気圏突入が初めてではないワイバーン隊たちがレイラに返答を送り返す。

 

『このぐらい! ワケねぇよ!』

『い、一瞬だけ翼が開かなかったから叫びそうだったよ……』

『大丈夫だよアヤノ。 この高度から落ちたら多分、痛みも感じないくらいの速度でミンチに変わるよ♪』

 

 新人たちであるリョウたちも無事だったことに、レイラは明らかに『フゥ~』と息を吐きだしながらドローンたちの制御に取り掛かる。

 

「(吐息がぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 そんな中、スバルはポーカーフェイスを維持しながら気を紛らわすため人生初の滑空飛行に専念し、森の開けた場所を着地点として狙うが、急なサーマル(上昇気流)の変化で生じる変動に流されることを察した。

 

「司令、口を閉じていてくれ! ウィングをマニュアル(手動)で切り離す!」

 

『亡国のアキト』で、レイラは部隊の把握にドローンと自分の機体制御とかなり一人でいろいろとやりこなそうとしていた。

 これは別に自信の表れなどではなく、単純に人手不足と上記のそれらを任せられる人員がいなかった為であり、ほぼ不時着気味に降り立っていたが……

 

 ガガガガガガ!

 

 スバルたちの乗っているアレクサンダ・スカイアイはウィングを切り離してインセクトモード(四足歩行)で森の木々を無理やり伝って何とか地面へと荒い着地で降り立つ。

 

 ドォン

 

「(グッ……綺麗なランディングじゃなかったが、無事にできた。) 司令、舌を噛んでいないか?」

 

「私は大丈夫です。」

 

「では指示を頼む。」

 

「このまま森の中を抜けながら、敵地にできるだけ近づいて襲撃します。」

 

 そんなレイラたちの機体を、ユキヤ機はスナイパーライフルのスコープ越しに狙っていた。

 

『ねぇリョウ~? どうする? ここでもう()っちゃう~?』

 

『今やるなら、私の周りにいる三人(アキトたち)を足止めできるわよ?』

 

『………………』

 

 ユキヤによって繋げられた直通(プライベート)通信に、リョウは黙り込みながら前を歩くレイラ機を見る。

 

『もしもユキヤの狙撃が上手くいかなくとも、リョウの機体にはアサルトライフルにミサイルポッド、そして近距離用の斧でさらなる追撃を行う』という手もあるのだが……

 

 実はリョウたちも、『鬼教官』と化したスバルの拷問訓練をほかのwZERO部隊の皆と受けていた。

 

 というか賭けに負けて受けさせられていた。

 

 最初、リョウたちは『軍のパターン化訓練』をバカにして断っていた。

 なにせ彼らは数年間、自力でアンダーグラウンドと生半可な戦場より過酷な環境を生き残ったのだ、今更『訓練を受けろ』と言われて『ハイそうですか』と素直に受けるタイプではないのだが、リョウの『そいつらが俺とサシで勝負して勝ったらいいぜ』の一言で事は起きた。

 

 スマイラス襲撃時のアヤノの話と毒島にスバルのことを事前に聞いたことから、アキトとスバルを相手にするには分が悪いと思ってリョウが指定したのはワイバーン隊の生き残りで、リョウは汚い手を使う気満々だった。

 

 いかに軍の訓練が実戦で役に立たないことを証明するために。

 

 そして、そのリョウはよりにもよって自分が考えていた『勝てばいいんだよ!』精神で、生き残りに負かされた。

 

 リョウの『て、テメェら! 砂や石を使うなんて汚ねェぞ!』負け惜しみに対し、ワイバーン隊の中でも一番ヒョロヒョロしていそうなタカシは『方法など別に決めつけられていないかったじゃん』と言われ、『グゥ』の声も出せなかった。

 

 実際に出た声は『ングゥ』である。

 

『『リョウ?』』

 

 ユキヤとアヤノの声でリョウはハッとして、頭をガシガシとする。

 

『いや……不意打ちなんて男らしくねぇよ。 するなら正々堂々で、鼻っ柱をぶっ壊してぇ。』

 

『あ、そ。 リョウがそう言うなら、またの機会にするよ♪』

 

「……了解。」

 

 アヤノはどうでもよさそうなユキヤの返事に、不満そうな答えを送ってから自分も移動をし始める。

 

 ピピィー♪

 

 そんなアヤノの機体に、ユキヤとは違う相手から通信が入ってくる。

 

「(また直通通信? ……今度の相手は、アイツ(アキト)?)」

 

 アヤノは予期していなかった通信とその相手に困惑しながらも、通信を受ける。

 

「なによ? これから移動するところだったんだけど────?」

『────香坂准尉、単刀直入に聞こう。 先日スマイラス将軍を襲ったのは君たちか?』

 

「ッ。」

 

 アキトの確信めいた言葉に、アヤノは眼を見開いて言葉をなくす。

 

 忘れがちだが15歳のアヤノはその年からか感情的になりやすく、すぐ顔に出てしまう性格をしていた。

 

 そして彼女の訓練相手をレイラがする予定だったのだが、上記でも記入したように彼女にはとてもそのような時間はなく、代わりにアキトが自分から立候補した。

 

 一戦交えた後に、全く容赦のないアキトに腕と腰を痛めたアヤノの相手は、元々軍人であるサラやオリビアが交代制でするようになったが。

 

 余談だがそんなアキトに『なんで加減しなかった?』という問いに、彼は『戦場で男女とかは関係ないから』と当然のように答えていた。

 

 正論ではあるのだが、あまりにも彼の事実を淡々と述べる態度に、ケガ人であるアヤノはその日からさらに突っかかったとか。

 

『その反応を見ると、図星のようだな。』

 

「だ……だったら何よ?! 私たちを脅して、自分が助かるための捨て駒にでもするつもり?!」

 

『いや? 死ぬまでEUの軍に追われるようなことをした理由を知りたかっただけだ。 喋りたくなければ別に構わないし、これからの活動に支障がでなければ追及するつもりもない。』

 

「……いつ、気付いたの?」

 

『君との模擬戦の時から違和感はあった。 襲撃した奴と同じ動きをしたから、()()()()()()()だけだ。』*2

 

「な?! だ、騙したわね?!」

 

『人聞きが悪いな。 カマをかけただけだ。』

 

「同じじゃん?!」

 

『そうキリキリするな。 カマキリだけに。』

 

 「意味が分からないよ?!」

 

『知らないのか? カマキリの前足はカマのような形をしている。 それと勘違いしやすいがカマキリは鳴き声が────』

 「────そうじゃない!」

 

『そうカッカしていると疲れるぞ────?』

「────だ・れ・の・せ・い、と思っているのよ? ああ、もうー!」

 

 それを最後にアヤノは通信を切ってプリプリしながら森の中を移動していくと────

 

 ヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルヒュル~。

 

 ────笛のような音が頭上からしてきたことに、リョウたちやレイラはハテナマークを浮かべる。

 

「司令、シートハーネスを付けなおしてくれ────」

「────シュバールさん────?」

「────砲撃が来る。」

 

 ドォドォドォドォドォドォドォドォドォォォォォン

 

 数々の爆発が周りで起き始め、森は地震が起きているかのような振動と共に木々がさく裂していく。

 

 

 ……

 …

 

「え? え? え?」

 

 ヴァイスボルフ城の作戦室に映し出されているモニターに赤い色が点滅し始め、クラウスは訳の分からない表情を浮かべる。

 

「ワイバーン隊の近くに熱源多数!」

 

「ちょちょちょちょっとサラちゃ~ん? 何が起こっているの~?」

 

「恐らく、敵の砲撃です!」

 

「うぇ?! ……マジで?」

 

「マジです!」

 

「どこから撃って来ているの? 逆算できない? というか、早すぎるじゃん。」

 

「高々度観測気球が雲に入りましたが、リアルタイムデータ消失前の情報を使います! 場所は……東北東500キロ?!」

 

「「「ハァァァァ?!」」」

 

 オリビアの驚く声にクラウスたちが呆気に取られる声を同時に出してしまう。

 

「オ、オ、オリビアちゃ~ん? さすがに計算間違いじゃないの~?」

 

「い、いいえ! 爆発の規模などから推測するに、敵は超長距離砲を使っていると思われます!」

 

「……敵さんは、本気を出したっていう訳ね……(なんでよりにもよって姫さん(レイラ)が出るときなんだよ。)」

 

 クラウスはキリキリと痛み出した胃を鎮めるために、今度はハチミツジンジャーティーで胃に流し込む。

 

 「あ、うめぇ。」

 

 

 ……

 …

 

 

 スバルたちは砲撃の着弾範囲から逃れる為、北西にあるユーロ・ブリタニア勢力圏内にあるスロニムへと向かっていた。

 

 ワイバーン隊は移動中、待ち伏せていたかのようなユーロ・ブリタニアのナイトメア部隊に襲撃される中でアキトはそう思いながら、アレクサンダタイプ01()で敵の二足歩行戦車のリバプールを次々とリニアアサルトライフルで撃っていきながら単身で前進していく。

 

「(この機体、やはり制御が難しいな。)」

 

『亡国のアキト』で、アキトは改良型があるにもかかわらず初期型のアレクサンダを使っていたが、上記でも触れているように彼の機体は()()手を加えられていた。

 

 アンナたち技術部はナルヴァ作戦で彼の実戦データを解析した結果、アキトが()()()()()()という趣向に合わせて、直前までスバルが余っていたアレクサンダのパーツを使って開発していた機体をアキト用に調整したのがアレクサンダタイプ01改であった。

 

 その結果、『昆虫』をコンセプトにアンナのおかげで元々高い出力毎重量を持っていたアレクサンダは、更に高い追随性を発揮できるように関節部の強化や駆動部に細工をして、運動性を向上させられていた。

 

 常人からすれば『ピーキー』どころか『敏感過ぎる』レベルまで達しており、御し難いモノと変わっていた。

 

 パイロットとしてそれに乗ったアキトでさえも、最初は制御に苦労していた。

 

「(これをスバルは操縦するつもりだったのか。 兵士としてだけでなく、パイロットとしての腕もかなりいい……となると、元は軍属だったのか? だが司令(レイラ)によると奴の歳は俺たちと変わらなかった筈だ……)」

 

 アキトは考えながら人型とインセクトモードを器用に切り替えながら敵のリバプールを撃墜していくと、今度はサザーランドが出てくる。

 

 が、前回のナルヴァ作戦でいとも容易くサザーランドを翻弄していたアキトに、今は強化&チューンされたアレクサンダタイプ01改の前では足止めにならなかった。

 

 一機のサザーランドをライフルで足のランドスピナーを撃ち抜きながらアキトは対KMFトンファを左手で装備し、左腕に近接用ブレード「ウルナエッジ」の代わりに装着された兵装で膝を着いたサザーランドのコックピットに()()を当てて()()抜く。

 

 ドォン!

 

 その隙を狙ってか二機目のサザーランドがアキトの背後に森の中から飛び出るが、アキト機は振り向きざには持っていたトンファを投げる。

 トンファの尖った部分がサザーランドの軽金装甲を貫き、そのままコックピットへと到達する。

 

 アキト機が最初のサザーランドを打ち抜いたソレ(装備)が敵機から抜かれると、巨大な薬莢が腕から射出される。

 

「(この『パイルバンカー』という兵装も扱いにくいが……気に入った。) フ、フフ……フフフフフフフ。」

 

 アキトの口からは、普段の彼とは程遠い不気味な笑いが出る。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ワイバーン隊たちは遠距離からの砲撃から逃れるために近くのユーロ・ブリタニア領、スロニムへと()()()()()入っていく。

 

 一昔前のデザインで見栄えの良い西洋建築に、急遽増える移住者に対応するための集合住宅団地と、所々が現代化のおかげでちぐはぐだったそこは不気味だった。

 

「(おかしい……これだけの規模ならば、避難を開戦初期から始めてもまだ住人や敵がいてもおかしくない筈。)」

 

 その不気味な印象を与える原因とは、人影が一つもなかったこと。

 

 ブリタニアのバックアップがあるからか、有能な者たちが指揮を執っているからか、ユーロ・ブリタニアの戦線は強固で、wZERO部隊が発案されるまではジリジリと日々進軍しては領地を拡大化していき、それによりスロニムは最前線から離れている。

 

 ユーロ・ブリタニアの勢力圏内で、例えwZERO部隊が来たとしても単純に外の森や草原で立ち向かえばいいだけで、一般人を都市から完全に退去させるほどではない。

 

「……小型無人機を出します。」

 

 レイラ機のバックパックから、スバルの機体から拝借無断で借りた小型無人機たちが『ブゥーン』とかすかな音を出しながら上空へと飛び立っていく。

 

 先ほどの砲撃と襲撃時より高まる緊張感の中、スバルは汗をかき始める。

 

「(さて、と。 ここまでは大体『原作(亡国のアキト)』通りだが……いつアシュラ隊の襲撃は始まる?)」

 

 スバルがここで思い浮かべるのはユーロ・ブリタニアの聖騎士団と引けを取らない、一騎当千の精鋭部隊の『アシュラ隊』。

 

 部隊長(と呼ぶよりは切り込み特攻隊長)のアシュレイ・アシュラは接近戦を好み、それを反映してか部隊の全員がグロースターの二刀流カスタム機────『グロースター・ソードマン』を乗り回している。

 

 基本的に、この時期のコードギアスで一般的に流通しているナイトメアは射撃戦などを想定されて設計されている。

 たとえカスタム機といえども、軽金装甲が少しだけ厚くなった気休め程度というのに接近戦を行うのは、命知らずか相当腕や技量に自信のある者たちだけである。

 

 つまり、レイラ機やユキヤ機のように遠隔からの操作や攻撃手段を持つ機体たちとは、遮蔽物も多く近距離や中距離戦になりやすい市街戦も踏まえると、武装的に相性が悪い。

 

 それに、実はというとwZERO部隊の作戦は()()()によってユーロ・ブリタニアのシンにバレている。

 

「(先日ヴァイスボルフ城に着いてから色々と回っている時に見て見ぬふりをして念のために傍受装置の設置をしたが、やはり原作通りだったことで安心した────)」

 

 ────バババババ!

 ボォン!

 

 遠くから建物などに反響した銃声と爆発でスバルたちは身構える。

 

「ドローンがやられた! まさか、待ち伏せ?!」

 

「(始まったか!)」

 

 スロニム各地でアシュラ隊のグロースター・ソードマンが先ほどの音を開戦の合図と取り、一気に先行していたドローンたちを強襲する。

 

 無論、ドローンたちは近づかせないために銃を撃つが、アシュラ隊は怯むどころかさらに加速し、剣で次々と撃破していく。

 

 最初は20機以上いたワイバーン隊も先の砲撃でドローンを何機か消失しているが、アシュラ隊の8機に対して交戦開始から数分足らずで9機にまで減らされた。

 

「ドローンは、あと数機だけ?!」

 

「……」

 

 スバルの耳にレイラの声はすでに雑音化しており、全身全霊で自分を襲うアシュラ隊員からできるだけ中距離戦の維持の為、『交戦』より『回避』に専念していた。

 

 ここでアレクサンダに付け足したい情報が一つだけある。

 

 それは────

 

 

 


 

 

 ────毒島並の腕前をした相手に立体機動に使えるスラッシュハーケンがないなんて、どれだけテンパっていたんだ過去の俺ぇぇぇぇ?!

 

 相手のグロースター・ソードマン(もう長いからこれからはソードマンに略)ってばマジ気迫が怖いし半端ないし、まるで猛獣を相手にしている気分でもうヤダ吐きそう

 

『シュバールさん?!』

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 何イサムたちのところに逃げているんだ俺のバカァァァァァァ?!

 もっと敵がいるんやんけぇぇぇぇ?!

 

『スゲェ!』

『狭い横道を使っている?!』

 

 緒方氏声風にマイハートは“破滅じゃぁぁ”叫びがぁぁぁぁぁぁ!

 ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!

 

『時間に意味はない』を使えだと?

 ごもっともな指摘をありがとうyo!

 

 もしこれが俺だけならバレない程度に使っているだってばヨヨヨ~!

 

「赤いナイトメア?! それに、あれは日向中尉?!」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?!?!

 

 今度はアキトVSアシュレイの激しい攻防の現場ばばババばば?!

 誰かタシケテぇぇぇぇぇぇl!

 

『フフ、フフフフフフ────!』

「────これは、日向中尉からの通信────?」

 

 死ね

 

 ────な、なんだ今のは?

 まるで、頭に声が直接────

 

『────さぁ、殺せ! 殺せよ! さもなくば────!』

 

 ────死ね

 

 う?!

 

 “────目の前には地面に横たわる、無数の亡骸────”

 

 ナンダ、今ノハ?

 

 “────わが子を抱いてせめて見ないようにと、全身丸焦げになった母が丸焦げの子供の目を覆う────”

 

 ナンダ?

 ダレダ?

 

 “────両手を大きく広げてただただ笑い(叫び)ながら飛び降りる────”

 

 ダレナンダ、コレは?

 

 死、死、死、死、死、死、

 

 コレはオレジャナイ────

 

 ────死ね。

 

 俺は────

 

 

 オレは────

 

 

 ────プッツン。

 

 「オレは! 死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 そうじゅうかんを にぎるてに ちからを いれた。

*1
101話より

*2
98話より



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第105話 『亡霊』、ユーロにて参上

次話です!

上手く表現できているか不安ですがお読み頂きありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです!


 スロニムのとある集合住宅団地の屋上で、ユーロ・ブリタニアが独自で開発した騎手風のナイトメア────グラックスの外で、ジャンがスロニムを双眼鏡で見下ろしていた。

 

 グラックスの隣には、まさに半獣人のケンタウルスを模した、亡くなったマンフレディがまだラウンズだった頃に開発されたナイトメアの『サグラモール』────否、マンフレディがユーロ・ブリタニアにはせ参じた際に『ヴェルキンゲトリクス』と名前を変えた機体へと、ジャンは声をかける。

 

「ヒュウガ様、アシュラ隊が敵と交戦を始め────」

「────この感じ、まさか生きていたのか……ッ。」

 

「ヒュウガ様?」

 

 シンが急に黙り込んだことで、ジャンはヴェルキンゲトリクスの外に立っている彼を見ると、シンは自分の左目を手で覆い、痛みを感じているのか眉間にシワを寄せていた。

 

 「なんなんだ……この不愉快さは────」

「────ヒュウガ様? どうかなされましたか?」

 

「ジャン、私は先に行く。」

 

「え?」

 

 キョトンとするジャンを無視して、シンはヴェルキンゲトリクスに乗り込んで、集合住宅団地の屋上から飛び降りてスロニムを駆ける。

 

「ヒュ、ヒュウガ様!」

 

 ジャンは慌てて双眼鏡を投げ捨てながらグラックスに乗り込んで、シンの後を追おうとして機体を起動させる。

 

 ドスドスドスドスドスドスドスドス。

 

 機体が完全に作動する間に何かリズミカルな音と振動が、建物から機体の装甲を伝って中にいるジャンの耳に届いてくる。

 

「なんだ、この音は────なッ?!」

 

 グラックスのモニター画面に電源が入った次の瞬間、ジャンが思わず驚きから息を素早く吸い込んでしまう光景を目にする。

 

「敵のナイトメアだと?! 何故ここに?!」

 

 彼女は困惑しながらも、現れたアレクサンダ・スカイアイに応戦するため身構える。

 

 ここまで事が進展するまでの一連を見せるため、少しだけ時間を戻したいと思う。

 

 ………

 ……

 …

 

 

「こいつ、なんだ? 雰囲気が────?」

 「────俺を殺せないのなら! 死ねぇぇぇ!

 

 半分『本能』で動いているアシュレイの背中に寒気が走ると同時に、アキトは愉快そうに笑みを浮かべながら叫ぶ。

 

 ここで、何故アキトのことをスバルが高く評価していたかの理由を簡単に記したい。

 

 原作のコードギアスと今作でも、自殺願望者かつ公式の身体能力チート人間スザクは、皮肉にも危機状態に陥って焦ったルルーシュに『生きろ』という呪い(ギアス)をかけられた。

 

「さぁ! 早く俺を殺せよ! さもなければ死ぬぞ!」

 

「なんなんだ、こいつはぁぁぁぁ?!」

 

 逆にアキトは『死ね』というギアスを子供のころにかけられている。

 だが、当時のアキトは幼すぎて精神が『死ね』という概念を上手く理解できず、ギアスは不発に終わった。

 

 だが完璧にギアスが無効化されたわけでなく、アキトの精神が成長するにつれ、徐々に『死ね』というギアスは催眠のように彼の思考をゆっくりと変えていった。

 

 これにより、名誉ブリタニア人の兵士となって『生きるために全力を出す』スザクとは違い、イレヴンでありながらもほぼ主席でEUの軍属となったアキトは、『死ぬ為に自ら死地へと全力で突っ込む』という活躍をしてきた。

 

 そして数多くの極限状態を生き残ったおかげで、アキトは常人では考えられない戦闘能力を身に付けた。

 

 スザクが『潜在的な能力のチート人間』ならば、アキトは『努力の末に限界を突破した人間』となるだろう。

 

「本当に『亡霊』か?! いや、『悪霊』かよ?!」

 

『アシュレイさま!』

 

「来るなテメェら! この死神野郎はヤバイ!」

 

 アシュレイと彼の援護に来たアシュラ隊を、アキトがアレクサンダの機体性能を100%出して、圧倒的な機動性を用いた格闘戦で押し始めたその時から、スロニムの戦いは一気に激化した。

 

「「「死ねぇぇぇぇぇ!」」」

 

 そしてリョウ、ユキヤ、アヤノのアレクサンダに搭載されたBRSがアキトの強い()いで強制的に作動し、彼と同調したことによって、自分たちを襲っていたアシュラ隊に対し、自らの命を捨てるような無茶ぶり&乱暴な動きで、さっきまでとは比べ物にならないほど上昇した技量で反撃をし始める。

 

 この急変ぶりに、BRSの適性が低い(あるいはニューロデバイスがない)レイラやイサムたちは戸惑った。

 

『これは、一体────?』

 

 「────オレは! 死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 そしてスバルの乗っていた機体も、動きを変えた。

 

「え────ウッ?!」

 

 タカシの通信を無視するかのように、さっきまで仏頂面で黙り込んだまま、敵の攻撃をまるで息をするかのように平然と躱していた様子とは違うスバルが叫んだ言葉にレイラはびっくりし、自分を襲うGに、大気圏突破時の訓練通りに息を吸って身構える。

 

『す、スゲぇ?! 建物の横を弾いて?!』

『それに早い!』

 

 スバル(そしてレイラ)の乗っていたアレクサンダが二足形態から四足、また二足に四足と変形をしながら、ハエトリグモのように動いてはスロニムの洋風建築を利用し、素早く移動していた。

 

「グッ……くぅぅぅ?!」

 

 幸運にも森に着地した時からシートハーネスを外していなかったことで、何とかレイラは荒ぶるコックピット内と自分を襲うGから思わず吐き出したい衝動を無理やりおさえながら、浮遊感につむっていた眼を開ける。

 

「らぁぁぁぁぁぁ────!」

「────敵のナイトメアだと?! 何故ここに?!」

 

 この時ちょうど、シンのヴェルキンゲトリクスがスロニムを駆けていた頃で、冒頭のジャンとの遭遇へと繋がる。

 

「(未確認のナイトメアに、戦場を見渡せるこの位置……まさか、シュバールは敵の指揮官を?!)」

 

 レイラは息を荒くしながら機体を攻撃態勢に入らせるスバルの後ろ姿に視線を一瞬だけ移し、数少ないドローンの精密制御を試みる。

 

「(なら私にできることは、ほかの皆が生きて帰れるようにドローンを使うこと!)」

 

 ジャン機は背中のレイピア状の剣を二つとも抜いては機体を逆走させ、スバル機の振りかざしたトンファを避ける。

 

「EUの腰抜けが────!」

 

 ドッ!

 

 トンファは重い音を出しながらビルの屋上に叩きつけてはすぐに構えなおされ、ジャン機が突き出していたレイピアの()()を払い除けながら、アサルトライフルの引き金が引かれる。

 

「────ッ。 (こいつは、違う!)」

 

 ジャンのグラックスは、ブリタニアでも最先端技術で開発されたヴェルキンゲトリクスから取り入れた、蹄風のデザインをした足とランドスピナーから来る瞬発力を使い、屋上から飛び降りながらスラッシュハーケンを次の建物に打ち込んで器用に機体を襲う遠心力を使い、逆走しながら地面に降り立つと背中の折りたたまれていた大型キャノン砲を展開し、スバル機がまだいると思われる建物ごと躊躇なく撃ち抜く。

 

 グラックスの攻撃に民間の(それも団地)住居が耐えられるわけもなく、ガラガラと音をたてながら崩れていく。

 

「(“さっきの奴は違う”と本能が叫んでいる! それに私を発見した瞬間に迷いもなく攻撃するとは……)」

 

 そんなジャンは崩れる建物から飛び出すと思われるスバル機に対し、キャノン砲は既に威嚇用に構えているだけで、剣をいつでも引けるように身構えていた。

 

「…………………………ハッ?!」

 

 だがいくら(と言っても数秒足らずだが)待っても追撃が無いことに、ジャンは困惑から瞬時に頭を切り替えて移動をし始める。

 

「(まさか、奴の狙いは────!)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「やべぇ……やべぇよ!」

 

 先ほどから通信越しに来る部下たちの困惑と怒りの声によって、どれだけ『ハンニバルの亡霊』たち相手に苦戦を強いられているかは容易に想像できていた。

 言葉とは裏腹に、アシュレイはゾクゾクと襲ってくる寒気に対して笑顔になっていた。

 

 彼はこのような極限状態を、ロシアンルーレット以外で『最高の運試し』として『恐怖』を『楽しみ』に塗り替えていた。

 

「やっぱりテメェは亡霊なんかじゃねえ! 悪魔か、死神だ!」

 

 アキト機は更にアシュレイをスロニムの広場へとほぼ一方的に追い詰め、その荒々しい動きによってアシュレイの剣を弾き飛ばした動きを利用し、回転する機体の左腕を突き出す。

 

『アシュレイ様!』

 

 丁度その場に居合わせたのかあるいはリョウたちに吹き飛ばされたのか、アシュラ隊のヨハネが横から飛び出てはアシュレイの機体にタックルを噛ます。

 

「ヨハネ?!」

 

 ドォン!

 

 アシュレイと場所を入れ替わったヨハネ機のコックピットブロックに、横からアキト機のパイルバンカーが爆音を立てながら炸裂し、いとも容易く装甲を貫く。

 

グァァァァァァ?!

 

「ヨハネ?! テメェ────!」

『────部下を連れて下がれ、アシュレイ。』

 

 ヨハネの明らかに痛みから来る叫びを聞いたアシュレイは、さっきまでの恐怖と快感が一気に怒りへと変わるが、そこにシンの涼しい声で我に返る。

 

「ッ。 この、感じ────」

 

 通信を傍受して聞いた訳でもないアキトは、ザワザワした()()()()感覚で一気に冷静になり、同時にBRSで彼と同調していたリョウたちも普段通り(冷静)に戻る。

 

 何とか残ったアシュラ隊が、この変化で生じる隙を好機と見て、一気にリョウたちの機体を大破させる。

 

 ガラッポ、ガラッポ、ガラッポ!

 

 馬が地面を蹴って踏み鳴らすような独自の音と共に、広場へとヴェルキンゲトリクスが現れて、立ち呆けになっていたアキト機に、歯車を幾つも取り付けたようなハルバードで襲い掛かる。

 

 冷静になったアキトも勿論これに応戦するが、さっきまで酷使した機体と自らの身体が思うように動かせないまま、彼のアレクサンダは両腕と両足を失う。

 

『シャイング卿────!』

『────退け、と私は言った筈だぞ。アシュレイ・アシュラ。』

 

ウ、ウゥゥゥゥ……』

 

『……イエス、マイロード。』

 

 アシュレイ機がヨハネ機を背負い、撤退を開始すると、シンがヴェルキンゲトリクスの中から出てくる。

 

 腰には剣はあるが、それを抜く動作も構える様子もない景色は、たとえ相手が四肢を失ったナイトメアと言えど異様である。

 

「これならば、お前にも私を殺せるだろう? アキト……」

 

 今度はシンと同じように、アキトが大破したアレクサンダ内から出てくる。

 

()()()……」

 

「兄さん?!」

「アキトの兄貴だと?!」

「へぇ?」

 

 この様子を丁度、機体を大破させられて、事前に打ち合わせをした合流ポイントに指定された広場に来たアヤノ、リョウ、ユキヤが、それぞれ別の場所から伺っていた。

 

 もう察しているかもしれないが、シン・日向・シャイングと日向アキトは血を分けた()()である。

 

「これを人は“僥倖”と……呼ぶべきなのだろうか?」

 

「兄さん……俺は────」

「────アキト、お前は私の為に死んで────」

 

 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

「────ん?」

 

 シンの言葉を遮るかのように、ワチャワチャとした()()が近づいてくる音にシンとアキトたちが振り返ると────

 

「何?!」

 

 ────スバル機が猪突猛進にヴェルキンゲトリクスを目掛け、広場に突入してくる。

 

 かなり無茶をしたのか、スバル機は排熱する為フェイスカバーなど装甲のあらゆる箇所が開かれているが、それでもなお発熱量が冷却を上回っているのか、全身から蜃気楼現象と湯気を発生させながらも、あらゆる各部から摩擦を緩和するためのオイルなどの液体が外部へと漏れていた。

 

 その痛々しい姿と鬼気迫る気迫をその場にいた全員に『悪寒』として伝わり、その感覚を感じたシンは素早くヴェルキンゲトリクスに乗り込む。

 

「弟との再会を邪魔するとは、無粋な仲間を持ったな、アキト!」

 

『ヒュウガ様! そいつは危険です!』

 

「ジャン────ッ?!」

 

 スバル機はインセクトモードから人型に変わりながら、トンファをヴェルキンゲトリクスへと()()()

 

「下郎が! 功を焦って武器を投げるとは愚策!」

 

 これをヴェルキンゲトリクスは馬のように駆けだしながら、スバル機へとハルバードを横なぎに振るう。

 

 

 


 

 いた。

『ヴェルキンゲトリクス』、ミケーレ・マンフレディの機体だった、黄金のケンタウロスみたいなナイトメア。

 

 感覚が更に研ぎ澄まされていく。

 さっきまで聞こえていたアラーム音もぼやけている。

 

 「ウッ!」

 

 確かヴェルキンゲトリクスはコードギアスのゲームで出てくる、双子皇子の機体をベースにしているんだっけ?

 

 「カハァ?!」

 

 どうでもいい

 

 アッチ(エクウス)とは違ってビーム兵器もなければ、持っている銃も猟銃ライフルのように、一発撃つごとに再装填しなければいけない。

 

 よって注意すべきところは機体性能と、ハルバード。

 ()()()()()

 

 だが、ハルバードのような長物は『突きさす』、『薙ぎ払う』、『叩き割る』の三つの役割を基本的に持つ()()()()()()()()

 

 「ハ、ハルバードを足場代わりに?!」

 

 つまり『横なぎ』か『唐竹割り』、あるいは『突き』の動作に攻撃手段が限られるという事だ。

 

 三つだけなのだから至極単純に()()()()()し、()()()()()()()()()

 

 ハルバードの兵装部分に当たらなければ

 

 おっとここで馬上槍の突進(突き刺す)か。

 

 確か()()に限れば、ヴェルキンゲトリクスは140キロぐらい動けるのだっけ?

 ならこの動きは俺への『反撃』より、『牽制して距離を取る』といったところか。

 

 「機体を飛び上がらせた?!」

 

 それを利用する。

 

 アレクサンダを飛び上がらせながら、残った右手でもう一つのトンファを大振りで下ろす動作に入る。

 

 シンに『下策』と思わせることが出来るのなら上々。

 さらに『攻撃の軌道は固定されている』という概念に囚われていれば、更にいい。

 

 ゴッ!

 

 そして()()のトンファが、ヴェルキンゲトリクスの胴体を死角の側面から襲い、その反動で空中にいたアレクサンダの位置が、ハルバードの矛先から(ギリギリだが)ズレさせる。

 

 「まさか……攻撃を当てて、軽量なアレクサンダの位置修正に利用した?!」

 

 これがグラスゴーやサザーランドなら無理だっただろうさ。

 変形機能を持ったアレクサンダだからこそ────いや、腕が異様に長いガニメデでもしようとすれば出来るだろうさ。

 

 下策を奇策に変えるのはマジックショーと同じで、意外とトリックは簡単だ。

 

『飛躍中に機体のバックで(相手の死角から)武器の持ち手を替えた』だけ。

 

 だが不自然な体勢からの打撃で威力はそれほどないが、さっきでも言ったようにヴェルキンゲトリクスはケンタウロス。

 つまり側面からの攻撃には()()────

 

 ゴォン

 

 ────いけね。

 

 ビィー、ビィー、ビィービィー!

 

 ヴェルキンゲトリクスシンの苦し紛れなカウンターを機体がモロに受けてしまい、次第にぼやけ(無視し)ていたアラーム音がはっきりと聞こえてくるのに対して、機体が限界を超えた人形のように地面へと転倒する景色を最後に電力がブツリと切れる。

 

 

 

 


 

 

 

『鬼』、あるいは『妖怪』。

 まるで変幻自在な動きをするスバル機はナイトメア(機械仕掛け)とはかけ離れていたが、とても『人間』をベースにした人型とも思えなかった。

 

 関節などの可動部が『変形』を前提にしたアレクサンダだからこそもあるが、『変形』は元々輸送(移動)用として備えられている。

 

 その機能を『敵との格闘戦』に使うなど正気の沙汰ではないというのに、スロニムでの広場ではそれを利用したアレクサンダがヴェルキンゲトリクスと戦闘を行っていた。

 

 だがやはり機体はそのような過激な動きを想定されていない為、所どころからオイルなどが激しい動きの際に飛び散り、機体のフレームはキィキィとまるで悲鳴のような耳に来る音を上げる。

 

 だがそれに構わず機体が動き続けるその姿を見た者は、こんな感想を抱くだろう。

 

『まるで未練がましい亡霊に取り憑かれているみたいだ』、と。

 

『ヒュウガ様────!』

『────ジャンか────』

『──── EUの連合軍の進軍開始と同時に、第2方面軍がこちらに増援を無断で向かわせたようです────!』

『────そうか。 このまま我々は撤退する、ついてこい。』

 

 それを最後に、シンは突進の勢いを使ってスバル機に受けた打撃でバランスを崩すことなく、そのままスロニムをジャンと共に撤退していく。

 

 スバルの機体が倒れたことを(スバルからすれば)幸運にも知らずに。

 

 彼を含むワイバーン隊はこの後、スロニムに到着したEUの連合軍によって生存確認された。

 

 彼ら彼女らが心身共に疲れたままワルシャワ駐屯地に着くと、『世間話(ゴシップ)』として基地中に広がっていた話題に呆気に取られて、更に精神的な過労が襲う。

 

『スロニムをユーロ・ブリタニアにわずか1時間で奪還された』、と。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「初めまして、クルルギ卿。 ヴェランス大公の名代としてお出迎えに参りました、ミヒャエル・アウグストゥスです。」

 

 ほぼ同時刻、ペテルブルグで明らかに歓迎などしていない空気を出すミヒャエル・アウグストゥスと彼の護衛たちを前に、スザクは気にしていなかった。

 

「枢木です。」

 

 というか彼はもう爪弾き者扱いには慣れていて、ミヒャエルの形だけの握手も気に留めていなかった。

 

「お話には聞いていましたが、ナイトオブラウンズの騎士が護衛に来るとは、連れて来られた方はたいそう皇帝陛下の覚えめでたき人物のようですな? しかも装甲列車までつけているとは……」

 

 ミヒャエルが目線を送ったのは、スザクが乗っていた列車の後に付いて来ていた別の列車だった。

 

「(ここでやっと、誰なのか見られる。)」

 

『身辺警護の機密上』という名目で、普段は装飾品が派手な皇族専用列車だけでなく、軍用の装甲列車も付けられ、『緊急事態以外の接触は無用』という皇帝直々の命令から、ラウンズであるスザクでさえも、護衛対象が誰なのかをペテルブルグに着くまで知らなかった。

 

 コツ、コツ、コツ。

 

 モクモクと、火照った機関ブロックにそそがれる冷却水によって生じる煙から、わざとらしい、もったいぶった足音が響き、煙の中から()()()声が出る。

 

「何だ……迎えはたったこれだけか?」

 

「ッ。」

 

 スザクは喉が詰まりそうな感覚の中で、息をするのも忘れてしまうほどに固まった。

 

「しかし……私が帰還するまでにペテルブルグの街は勝利に歓喜し、我が名を連呼する住民たちが埋め尽くすことになるだろう!」

 

「(そ、んな。 この声は……まさか……)」

 

 何故ならその声は、子供のころとアッシュフォード学園でよく聞いていたから。

 

 そして次に出る言葉で、思わずよろけそうになる足に力を無理やり入れて、倒れることを何とか防ぐが、クラクラと貧血になりそうなほどに血の気が引いていった。

 

()()()()のご命令により、この時点よりユーロピア戦線の作戦はこの私! ()()()()()()()()()()()()、ジュリアス・キングスレイが執り行う!」

 

 煙から出てきたのは、左目を眼帯で覆いながら派手な装飾が付いた服装に身を包んで、インペリアルセプターを手にしたルルーシュだった。



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第106話 ジュリアスとスザクとアシュラ隊とその他の一時

お読みいただきありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです!


「シャイング卿、スロニムでの一件は読ませてもらいましたよ。」

 

 コツン。

 

「貴公自慢のアシュラ隊は手酷くやられましたね?」

 

 ニタニタしながら、ジュリアスがスロニムのことを細かく書かれている報告書から視線をシンに向け、そう告げる。

 

「彼らは相手を少々侮りすぎただけです。」

 

 シンは涼しい顔のままジュリアスの皮肉めいた言葉を受け流し、その端で立っていたスザクは片耳だけを話に向けては先日のことを考えていた。

 

 初めて護衛対象であるジュリアスと対面してから、それまで彼を護衛していた者たちから正式な紹介をされた。

 

『ジュリアス・キングスレイ』。

 神聖ブリタニア帝国の皇帝シャルルより委任権の象徴であるインペリアル・セプターを授けられたことで、ユーロ・ブリタニアのヴェランス大公以上の発言力を持ち、皇帝が本国から派遣した軍師。

 

 年が若い故か自分に絶対的な自信を持ちながら、歴戦の指揮官のような冷徹な判断を下し、その判断力に見合う頭脳を持つ将来有望なブリタニアの少年。

 

 それがシャルルの()()した『ジュリアス・キングスレイ』という者である。

 

「“少々”? 卿は見かけによらず、ユーモアも持ち合わせているのだな?」

 

「……」

 

 ジュリアスの浮かべる歪んだ笑みを見て、スザクは再び何とも言えない心境になっていた。

 ブリタニアに『ジュリアス・キングスレイ』の戸籍は最近出来たもので、よほどのことがない限り疑う余地もない完成度を誇る、偽造されたものである。

 

 スザクの隣にいるのは、ルルーシュ・ランペルージ。 本名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという、実の父親の持つギアス────『記憶改竄』によって身分を忘れさせられ、『ジュリアス・キングスレイ』という架空の人物の言動をなぞっているに過ぎない。

 

「ああ、これは失敬……聖ラファエル騎士団の戦力を壊滅寸前まで追い込んだ『ハンニバルの亡霊』相手に、“10機未満の戦力でよくやった”というべきか。」

 

「恐れ入ります。」

 

「だが……やはりというか、想像以上にユーロ・ブリタニアもEUも惰弱で脆弱なのだな?

 ヴェランス大公は市民を巻き込まんと考えるあまりに攻めあぐね、先の聖ラファエル騎士団を率いるファルネーゼ卿は騎士道精神を重んじるばかりに多くの騎士を失った。

 そしてEUは酷いありさまだ。 ユーロ・ブリタニアの地域を奪還したものの、勢いだけで前に出すぎた結果、戦線維持をできなくなる部隊が個別に動くという烏合の衆と化し、せっかく奪い返した土地を再び占領されるこの体たらく……ここまでくれば、おのずとこの場で何が必要なのか、シャイング卿ほどの者なら理解できるだろう?」

 

「……戦況を劇的に変える要因(ファクター)ですね。」

 

「いかにも。 それこそ、スロニムで己の安全を案ずるどころか、躊躇なく卿を幾度となく攻撃してきた者のようにな。」

 

 スザクはテーブルの上に散らばった資料の中に、ナイトメアの記録画像から描写された絵を見る。

 一機の明らかに機体が限界を超え、機体のフレームにひびが入り、排熱の為か顔の部分が割れてオイルなどが表面に染み出ては蒸発した、痛々しい状態のアレクサンダを。

 

 直接対峙したシンの側近であるジャンによると、その者は明らかに指揮官がいるであろう場所へ一直線に来ては、躊躇なく攻撃のモーションに入っていた。

 

 まるで短期決戦を仕掛けるかのように。

 

 当初はハンニバルの亡霊の中でも好戦的ではなく、傍観しようとしていた様子から『情報収集』か、スロニムを奪還した際に回収されたナイトメア型のドローンを制御する『ドローン司令』の機体と思われていた。

 

 だがとある時期に、ハンニバルの亡霊たちの戦闘能力が今までの比と比べられないほど上昇したところから、()()()()()()()()()()()()かのように動きが急変した。

 

「してシャイング卿……『亡霊』どもと相対して、貴公はどのような印象を受けた?」

 

「……何とも奇妙な感じでしたよ。 まるで怨念を身に宿した戦い方で、特に私と戦った『アレ』は、まるで私の意思(敵意)を感知しているかのような動きをし、先回りをされている印象でした。」

 

「ん?」

 

「つまりは『攻撃を当てる』と思った頃には、敵はすでにそれを避けるために動いていた……ということですよ、キングスレイ卿。」

 

「ふん……私は霊などといった『目で観えないもの』などは信じぬ。 だがこいつらを『ハンニバルの亡霊』と呼び続けるのなら、卿に幾度となく挑戦したこいつは、さぞや『幽鬼(レヴナント)』とでも呼称するか。*1

 

「ええ。 “霊にとり憑かれている”といっても、何ら違和感はないですね。」

 

『とり憑かれている』。

 この言葉はスザクの興味を引くには十分だった。

 なにせ隣にいるルルーシュも、『ジュリアス』という架空の人物像にとり憑かれているからだ。

 

 あとは、式根島で彼自身も記憶にない────

 

「────ああ、それとスロニムで思い出しましたが……キングスレイ卿の護衛たち以外に、騎士などをユーロ・ブリタニアに連れて入られましたか?」

 

「うん? それはどういうことだ?」

 

「いえ、大したことではないかと……ただ、スロニムから部下とともに撤退していた途中の森で、()()サザーランド達に襲われただけのことです。」

 

「下手なカマかけはよせ、シャイング卿。 それは私の知らないことだ。 が、卿のことだ。 誰かの恨みでも買っているのではないのか?」

 

 ジュリアスの問いにシンは何も言わず、先ほどからの薄笑いを変えないまま視線を返していた。

 

「……とはいえ、卿のことならば、捕縛して既にその者たちの素性を割らしても驚かぬが?」

 

「捕縛した機体は例外なく、おそらくは機密保持の為か全て自爆しました。 DNA鑑定を行っていますが、かなり込み入った自爆の仕方で、サンプルはほとんど残っておりませんでした。」

 

「フム……こちらでも調べてみよう。 私は()()()()()()()()()()だからな。」

 

「奇遇ですね、キングスレイ卿。 私もです。」

 

 ここで初めて意見が合ったことに、ジュリアスとシンはニッコリと涼しげな笑みをお互いへ向ける。

 

 どこからどう見ても、部屋の気温と背筋が凍りつくような『腹黒な者同士が探る時にする愛想笑い』だったが。

 

『スザク、信じてくれ!』

 

 士官としても、文官としても名高いマンフレディ卿が認めていたシンと対峙する様子のジュリアス────いや、ルルーシュを見たスザクの脳内に、上記の言葉を必死に自分へ訴えたルルーシュの声が流れて、その時スザクは迷う心境のまま、新たな決心をした。

 

『害をなそうとするのなら相手が誰であろうと、何があってもルルーシュだけは、力の及ぶ限り守ろう』、と。

 

 たとえユーフェミアが亡くなって以来ほどに、迷う自分の心が痛むとしても。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「スザク!」

 

 ほぼ時を同じくしてディーナ・シー内で、ユーフェミアは思わずスザクの名前を口にしながら飛び起きていた。

 

ユーフェミア、どうした?

 

 彼女が時折、『幼いスザクのような子供が迷子のように、一人寂しく泣きじゃくる』夢を見ていること知っているのは、恐らく彼女自身と、先日の誕生日プレゼントでもらった喋る球体の『ピンクちゃん(ユーフェミア命名)』だけだろう。

 

「あ……ううん……なんでも、ないの。」

 

 ユーフェミアは静かに頬に残る涙を洗い流すために、ゴソゴソとベッドから出る。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 以前の薄暗い地下都市らしい場所にある室内らしきところで、人影らしきものが部屋の中に入ると、デジタル化されたたどたどしい口調がスピーカー越しに聞こえてくる。

 

56目からの景色が途絶えたか。 老害の犬どもに気が付かれたか……

 

 バシュ!

 

 部屋の端にあるカプセルの中と外の気圧の違いから鋭い音ともにカプセルが開くと、中から体がなまっているのか、肩や首を回し人物が出てくる。

 

「フム……今作の調子はいい。 だがやはり、何度しても慣れんな……老害に対して丁度良い目くらましにはなったが。」

 

 喋っていた人物は、近くの人影が持ってきたローブのような物を羽織ってから、裸足のまま歩き出す。

 

「(やはり、EUにも『鍵』を保有するモノがいたか────)────ぬ。」

 

 足先を躓かせて倒れそうになり、その人物は崩れたバランスを正して何とか持ちこたえる。

 

「(やはり、間に合わせの体では限界があるか。 早急に、ことが行われる前に『神』へと至らなければ……それには、『アレ』が必要だ。 『死んでいる』、ということは絶対にありえんが……万が一、間に合わない可能性もある。)」

 

 ローブを羽織った人物は格納庫のような場所については、巨大な機械を見上げる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「派遣された部隊は全滅したの?」

 

 先ほどとデザインが微妙に違う地下都市では、VVがローブを着た者からの報告を聞き、つまらなさそうな表情を浮かべていた。

 

「その……“指揮官は生きている”と聞いています。」

 

「……ふぅーん?」

 

「いかがなさいますか? 近くの彼に────」

「────多分いろいろと無理だね。 これ以上するとシャルルにも気付かれるよ。 そうなると、僕やCC以外のコード保持者を探すところじゃなくなっちゃう。」

 

 VVが思い浮かべるのはルルーシュのことだった。

 

 せっかくギアス嚮団でも貴重な()()を急遽仕上げ、CCをおびき出す囮に使う予定だったルルーシュをスザクに捕獲させたものの、シャルルがルルーシュを『ギアスによる洗脳の研究対象』として、手が届きにくいユーロ・ブリタニアへとスザクとともに送られた。

 

 そこでVVはどうにかユーロ・ブリタニアに部隊を送る口実はないものかと思い、過去にCCが訪れた場所の中でEUが出てきたことを思い出した。

 それは覚えていた理由としては、わずか10年前とかなり最近だったことと、ちょうどその同じ時期頃にとある一族が集団自殺を行ったからだ。

 

 当時、EUのメディアはその事件を『オカルト集団による心中』などと言いたい放題だったが、大事なところはそれではなかった。

 

 大事なのは、事件現場を無断で侵入したアングラジャーナリストたちなどが撮って、裏サイトなどにアップした一枚の写真だった。

 

 天使のように純白の翼を生やした女性が、別の女性にドクロを渡している場面が描かれた絵。

 これだけならば『ただ悪趣味な芸術品』という認識で済まされていただろう。

 

 ギアス関連の────コードの紋章らしき模様が刻まれているドクロでなければ。

 

 そこから糸を手繰るような調査の結果、一見何の関係もない不審な点と点が出てき始める。

 

 上記の一族の関係者らしき男が殺されたと騒がられ、その少し後に、同じ凶器と思わせる痕跡で当主は集団自殺前に首を切り取られていた。

 

 そしてその同じ日に、一族の集団自殺が行われた。

 

『もしや』と思い、さらに調査を重ねると、集団自殺を免れた者たちが数人いることが判明した。

 

 丁度その日を休んでいた、あるいは遠出をしていた数人の使用人たちと、当主の息子兄弟の二人。

 

 調べていくうちに事件の後、生き残った使用人たちは何者かによって殺害されていき、弟の日向アキトと執事の行方は『とある時期』を境にプツリと消えた。

 

 だが兄の日向シンは割と簡単だった。

 

 日系人────それもイレヴンでありながら、聖ミカエル騎士団の総帥、ミケーレ・マンフレディの目に留まり騎士団へと入団させられ、その数年後にはシャイング家の養子としてユーロ・ブリタニアの貴族階級に受け入れられていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 世間は『自殺』と断定していたが、『恐らくはギアスが絡んでいるだろう』と思ったVVは、監視のためプルートーンを送った。

 

 だが部隊は見事発見され、返り討ちにあってしまった。

 

 何故シンを監視しようとVVが思った流れをざっくり説明すると、彼が『コード保持者』とは考えにくいが、状況による結果などを見れば彼が『ギアス能力者』という線があり、ここで一つの疑問が自然と浮かび上がる。

 

『シンにギアスを与えたのは誰だ?』、という疑問が。

 

 一応CCはその地域にいたが、ギアス嚮団の記録によると、その一族と接触していない。

 

 そしてその頃、VVは別の場所にいた。

 

 となると────

 

「────ねぇ? 送った部隊からの報告に出た、シンと戦っていた奴の監視はできないかな?」

 

「……どうでしょう? 奴一人では難しいかと思います。」

 

「だよね。 ロロをすでに向かわせているけれど、もともと別件だし……トトはオルドリンにつけちゃってクララはエリア11の掃除に送ったままだし……これ以上となると、あの二人かなぁ~?」

 

 VVが最後に言った言葉に、周りの者たちが明らかに動揺する。

 

「ま、まだ最終調整を済ませてない状態ですぞ?!」

「担当したバトレーたちは、いまだに宰相様が目を光らせているので引き抜きはまだです!」

 

「そっかぁ~……でも意思疎通ができるぐらいには整っているでしょ? それにいざとなれば意図的に暴れてもらってあぶり出すのも────」

 

 VVの周りの者たちの顔から血の気が引いていく。

 

「────あ。 でもやっぱりだめだ。 シャルルもだけど、()()()のこともあるし……もしもの時の為に取って置いとこう。」

 

 自由気ままなVVに振り回されていた者たちからは明らかに安心しきった息が吐き出され、秩序は()()()何とか保たれた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「……………………」

 

 アシュラ隊が現在待機している駐屯地近くに流れる川を見下ろせる木の上に、ここ数日間アシュレイは登ってはボ~っと風景を見ていた。

 

 そんなアシュレイを、スロニムの戦いを軽傷だけで済んだ彼の部下たちが見ていた。

 

 民族風の髪型をしたルネ・ロラン、半透明のサングラスをしたヤン・マーネス、そして巨躯で豪快な性格を感じさせるフランツ・ヴァッロ。

 

 7人の内、この三人だけはリョウたちの猛攻を最後まで耐えていた。

 

「アシュレイ様、かなりショックを受けた様子ですね。」

 

「まぁ……無理もないだろう。」

 

「毎日お一人であそこに上っては……」

 

「クザン、アラン、シモンの三人は重症。 怪我が完治すれば、再び騎士として活動ができる。」

 

「だが……」

 

「ああ、アシュレイ様を庇ったヨハネは……」

 

「「「………………………………」」」

 

「クゥ~ン?」

 

 三人は頭を傾げるヨハネの犬を見て、軍医たちの話を聞いて珍しく狼狽えるアシュレイの姿を思い出す。

 

 

『左腕の損傷が酷く、時間が経ちすぎています。 本国(ブリタニア)のサイバネティックス技術の義手で補えるでしょう。 ですが、目の方は何とも言えません。 上手く治療できたとしても、視力低下……“騎士”としての活動を続けるのは難しいかと……』

 

 

『亡国のアキト』で、ヨハネはアシュレイを狂戦士化したアキトから庇って命を落とし、アシュレイを文字通りに“阿修羅をも凌駕する復讐鬼”と変えさせていた。

 

 今作では幸運にも、アキトの使い慣れた仕込みナイフではなく、新兵器のパイルバンカーの使用と横から庇ったため打ちどころがズレ、ヨハネは一命を取り留めていた。

 

 だが上記で軍医言ったように、間違いなくアシュラ隊の中で一番の重傷者のヨハネは左腕を失くしただけでなく、パイルバンカーが撃ち込まれた拍子に目も浅くはない傷を負い、騎士としての活動も傷が癒えた後でも続けられるかどうか怪しい状態だった。

 

「だが、この戦で命を落とす者たちも多い。」

 

「死者が出なかっただけでも奇跡だろう。」

 

「仲間を失っていないと考えると、そうだな。」

 

「だが、それでも……」

 

「「「…………………………」」」

 

 三人の間に重苦しい空気が漂う時間が過ぎていき、フランツが口を開けてその静けさを払う。

 

「我々の中からも、いつか“ゆきてかえらず”の者も出るのだろうか?」

 

「それが、死地へ赴く騎士の宿命だ。」

 

「「「…………………………」」」

 

 さっきよりどんよりとした空気が流れ、またもフランツが喋る。

 

「俺は死など恐れん! 騎士になった時から、覚悟は出来ている!」

 

「 “眠りにつくときには死ねなかったことを悔い、起きれば死を再び覚悟する”! それが栄えあるユーロ・ブリタニアの騎士道だ!」

 

「そ、そうだ! 死を恐れてどうする! 友の亡骸を超え、我々は前に進む────!」

「────元気ねぇなテメェら!」

 

「「「え?」」」

 

 アシュレイが木の上から、三人の前に飛び降りる。

 

 腰に手を伸ばしながら。

 

「そんじゃま、いっちょ()()()でもやろうぜ!」

 

 ルネ、ヤン、フランツの三人からどっと汗が吹き出し、彼らは焦りだしてはお互いに小声で話す。

 

 「どどどどどうしよう!? きっとロシアンルーレットだよ────?!」

 「────ききき危険すぎる────!」

 「────“騎士たる者、常に死を覚悟せよ”とはいうが、あれで命を落とすのはいくらなんでも────!」

「────ア、ア、ア、ア、アシュレイ様! テニスなどはどうでしょうか?!」

 

「んじゃあ、テメェら三人対俺な。」

 

「「「ホッ。」」」

 

「で、負けた方がロシアンルーレット。」

 

 「「ええええええ?!」」

 

 ルネとヤンの顔から更に血の気が引いていき、二人は青ざめる。

 

 「やぶ蛇だ! 他のゲームにしろお前らッ!」

 

「クリケットは────?!」

「────だめだ。 やっぱロシアン────」

 「────チェスでも良いですよ────?!」

 「────チマチマしていてつまんねぇよ!」

 

 アシュレイが腰からリボルバーを抜く。

 

「やっぱ、ロシアンルーレット一択だよな?」

 

 「どうしよう?! このままじゃロシアンルーレットに────!」

 「────フランツ! お前も何か提案しろ────!」

 「────え、俺?! ええええっと────!」

「────あ? どうしたフランツ?」

 

 フランツは焦りながら目を泳がせ、近くの流れる川が目に入る。

 

 「い、い、い、い、息止め合戦などはいかがですか?! 誰が一番長く息を止められるか競うのです!」

 

「……………………………………………………」

 

 「あちゃ~……」

 「もうこれ絶対にロシアンルーレットだよ~。」

 

 グルグル目をしたフランツの前に、何とも言えない顔をしていたアシュレイを見てルネとヤンが諦める声を出す。

 

 「なんか面白そうだな、それ!」

 

 「「「ええええええええ?!」」」

 

 目をキラキラさせながら乗り気になったアシュレイを見たルネたちは驚愕の声を上げる。

 

 「そんなんで良いの?」

 「隊長の基準が全く分からない────」

「────なんだお前ら、不服そうだな? やっぱ行くか、ロシアンルーレ────?」

 「────息止め合戦やります!!」

 「────わぁぁぁ!! 楽しそうー!」

 「────騎士道に乗っ取っています!」

 

 フランツとルネが言ったことはともかく、最後のヤンは意味不明なことを焦りから口にしていたが、誰も彼を指摘する余裕はなかった。

 

 

「よーし! せーの────!」

「────ちょ、ちょっとタンマです隊長!」

 

「今度はなんだよ?!」

 

 アシュレイがイライラした口調でフランツに聞き返す。

 

「隊長は、一緒にやらないんですか? それに、何でここにヨハネたちを連れてきたんですか?」

 

 フランツが見るのは、川から離れた坂にアシュレイが(無理やり)引っ張り出したアシュラ隊の(目と腕の付け根に包帯を巻いたヨハネ含む)ケガ人たちと、明らかに息止め合戦に参加する気のないアシュレイだった。

 

「あ? 何で俺が参加しなきゃならないんだよ? 俺とこいつらは審判だ。」

 

 後半はともかく、アシュレイは一度も『自分が参加する』とは言っていないので前半はご尤もであるが……流石のルネたちも不服であった。

 

「そんな?! ずるいですよアシュレイ様────!」

 「────文句あんのかテメェら? だったらロシアン────」

 「「「────息止め合戦、やらせていただきまーす! せーの────!」」」

 

 ────ザブン!

 

「「「(うわぁ……)」」」

 

 ルネたちが必死になって頭だけを川にダイブさせる姿を、グッタリとしながらケガ人であるシモン、アラン、クザンは哀れみがこもった視線を送る。

 

「(うーん、見られないのが残念。)」

 

 ヨハネは少しだけ悔しがっていたが。

 

 ブクブクブクブクブク。

 

『本気でやらなければロシアンルーレットをさせられる!』、と思ったルネたちは必死に息を止めていた。

 

 三人の顔はいつもの様子からは想像もできないほど変顔に代わり、息を止めたからか頭を真っ赤にさせていた。

 

「ほ~れ、見てみろよワン公? お兄さんたちがみ~んな変な顔をしているぞぉ~?」

 

「ワン!♪」

 

「ブハァ!」

「ゲホッ!」

 

 ヤン、そしてルネが早くもギブアップしてしまう。

 

「よぉーしフランツ! 俺が“良い”って言うまで息を止められなかったら丁度ここにいるヨハネたち六人相手に一発ずつ、ロシアンルーレットな?」

 

 「「「「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛?!」」」」」

 

 余りにも理不尽な展開+けが人である自分たちまで強制参加させられた者たちがルネとヤンたちと共に声を上げる。

 

 ブクブクブクブクブク!

「頑張れフランツ!」

 

 ブクブクブクブクブク!

「まだいける! いけるぞ!」

「私たちの為に頑張るんだ!」

 

 ブクブクブクブクブク!

「いけるいけるいける!」

「僕たちのために頑張ってよフランツ?!」

 

 さっきまでぐったりとしていた(あるいは眠たそうにしていた)仲間たちの必死な応援(叫び)にフランツは頑張った。

 

 真っ赤だった顔は次第に青くなっていき、白へと変わった頃にその時は来た。

 

 ガボガボガボガボガボ……

 

 バタッ。

 

「「「「「フランツゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」」」」」

 

 フランツは頭を川にダイブさせたまま力尽き、気を失ってしまう。

 

 ………

 ……

 …

 

「おいフランツ、大丈夫か?!」

 

「な、なんだか……お花畑と、川と、死んだお祖母ちゃんを見たような気がする。」

 

 窒息死寸前だったフランツは、無事に蘇生させられた後の開口一番が上記の言葉であり、アシュラ隊はとうとう不満をアシュレイにぶつけていた。

 

「酷いですよアシュレイ様!」

「そうですよ!」

「いくら何でも意識を失うまでなんて酷い────!」

「────で? お前らは『ロシアンルーレットをさせられる』と思って、自分以外の誰かを考えられたか?」

 

 だが彼らに対してアシュレイは平然と言い返し、彼の言葉でアシュラ隊がハッとする。

 

「所詮、悲しみや憂いなんてそんなモノなんだよ。 誰も彼もが死を前にすると、自分の事だけでいっぱいになる。 だから軽く『覚悟はした』とか他人の心配なんてするなよ、気分が無用にダウンするだけだ。

 良いか? 俺たちが目指すのは『騎士』なんかじゃねぇ、『狼』だ。

 そして『狼』は常に群れを意識して行動する。 狩りや寝るのもいつも一緒で、誰かが怪我をしたら互いに治し合いながら明日を共に目指すんだ。」

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

「ま、例外はあるがな。」

 

「「「「「「????」」」」」」

 

 アシュレイの言ったことでアシュラ隊の皆がハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「群れのトップが単身で行動する時だよ。 それは、トップ以外の群れに『子供』しかいない時だ。」

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 この少年は狼に育てられ、浮浪児として幼い頃を過ごしながらも、哲学者みたいなことを言うのが『アシュレイ・アシュラ』である。

*1
誠にありがとうございます剣BLADEさん! アイデアを採用させていただきました!




書いていたらなんだか長い開幕っぽい話ができてしまいました。 (汗


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第107話 オバタリアンズの恐怖、スタート

感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!
誤字報告、お手数をおかけしております!

そしてお待たせいたしました、少々長めの次話です!

楽しんでいただければ幸いです!


 オッス、おらスバル!

 もしくはEU風にシュバール!

 ブリタニア風だとスヴェン!

 で、日本名は昴!

 

 なんかややこしくなってきてるけど堪忍なぁ~。

 

 「どうなってんのよ、これ────?!」

 

 ちなみにだが今の俺は、かつての河口湖ホテルジャック後のアッシュフォード陣営から同じ仕打ちを食らって……はいなかった。

 

「────落ち着けってアヤノ────」

 

 最初はワイバーン隊から若干避けられていたが、ワイバーン隊の華というか15歳のアヤノが歳に似つかわしくない身体つきの所為で、酔ったEUの士官たちからのキャットコーリングを受け、彼女は勿論だがアヤノを妹のように思っているリョウたちは爆発寸前だったところを、俺が相手のメンツも物理的にも合法的に潰した。

 

『どうやってか』って?

 どこの軍基地でもある、『アングラボクシングアリーナ』でだよ。

 

 何せ見た目でいえばブリタニア人だからな、俺。

 しかもイケメンの部類に入るし、俺の顔を殴りたい野郎はいるだろうし、挑発したらすんなりと喧嘩を売ってきたヨ?

 

 「────もう一か月()()もここに足止めされているのよ?!」

 

 それもあってか、ワイバーン隊の皆と()()()ワルシャワ駐屯地にて足止めを食らっているが。

 

「お? 見ろよ、噂のイレヴンたちだぜ~?」

「最前線で俺たちの代わりに死んじゃってよねぇ~?」

「活躍して死ねば、イレヴンも記事に取り上げられるかもしれねえぜぇ~?」

 

 そしてネチネチとした、下っ端を使った嫌がらせを受けている。

 

 ゲラゲラと笑う正規軍の投げた空き缶を(こめかみに血管を浮かばせた)アヤノが空中でキャッチしては投げ返す。

 

 ストラ~イク! バッターアウトォォォ!!!

 

 う~む、そしてアヤノさん?

 立派なお餅をお持ちですな!♡

 

 ムホホホホ~♡ 揺れる揺れる、どこぞの種アニメのオープニングのように揺・れ・る~♪*1

 

 スロニムでの一件後、ワイバーン隊は進軍したEUの連合軍と合流……というか、前線に行きたくない士官たちが『ワイバーン隊の護送』を口実に、ワルシャワ駐屯地まで一緒に護送された。

 

 そして連合軍は『亡国のアキト』通りに呆気なく、ユーロ・ブリタニアに敗北。

 

 もう本当に使えねぇな、EUは。

 EUオワタね。

 

「アンタは怒らないんだな?」

 

「まぁな。 ある程度は予想していた。」

 

「そうか。」

 

 そして、隣のアキトがほかのよそよそしくする連中と違って以前と変わらず接しながら(俺の真似で支給品に手を加えた)ハンバーグを頬張る。

 

『あの後のレイラはどうした』かって?

 

 アレクサンダ・スカイアイが倒れて、すぐにコックピットから出ては、土色に顔を変えたまま近くの住居に飛び込みましたが?

 

 多分、以前ナリタでアンジュが見せた『口からキラキラ虹色オロロロ~』*2だろう。

 

 あっち(アンジュ)と違って我慢強かったのは褒めたいが、あの後の俺も彼女も(毎度の)筋肉痛の上に内臓へのダメージで一昨日までずっとダウンしていた。

 

 医者たち曰く、『その特殊な(ワイバーン隊の)パイロットスーツがなければソーセージ(中だけミンチ)になっていてもおかしくなかった』らしい。

 

 怖ッ!

 誰のせいだよ!

 

 ……俺のですか、そうですか。

 

 ちなみにレイラにはもうこれ以上ない程なまでに謝ったぞ?

 

『どうやって』かって?

 あれだよ、あれ。

 

 床に跪いて掌と額を地に付ける、いわゆるDO・GE・ZA(土・下・座)でひたすら謝った。

 

 体中の関節痛と筋肉痛と頭痛を無視して、人生で数少ない土下座をしたとき周りはレイラも含めて慌てていたな。

 

 まぁ、内部出血で皮膚の色が青くなったら慌てるか。

 

 あれからボ~っと医務室で寝たまま、コードギアスでもモブが十分可愛く見えるミニスカナース服を横目で追って癒し成分を補充しながら、スロニムでのことを思い返した。

 

 いや、()()()()()としたと呼べばいいのか?

 

 ハッキリと覚えていないというか……こう、まるで『自分の体が行うことを第三者のような気持ちで見ている』気分といえば通じるかな?

 

 多分だが……あれは『亡国のアキト』でのBRSによるモノか、その影響だろう。

 変だな、ソフィには『測定不能』って調査結果が返ってきたのに……

 

 だが『影響される』ということは、逆も然り……の筈だ。

 

 ヴァイスボルフ城に戻ったら、そっち方面で新機体を開発だぜヒャッホウ~!

 

 っとその前に先日、連絡があったな。

 

 よりにもよってオルフェウスから。

 

『プルートーンがシャイング卿と接触した模様』って……どういうことやねん?

 

「香坂。」

 

 ここでアキトが口を開けてアヤノの名前を呼ぶ。

 お? 始まるか? 始まるのか?

 

「な、なによ?」

 

「毎日怒る度に言うが、バタバタしても何も変わらないぞ。」

 

「あんたは今の状況が良いの?!」

 

「お前の()()が零れて()()出されるより前に、サラシを巻けばどうだ?」

 

 余談だが、“アヤノはパイロットスーツを大開きにしている”と追記しよう。

 そして『パイロットスーツの補助効果を最大限生かせるためにその下は全裸』とも。

 

 そして日課の『アヤノを天然で弄るアキトのダジャレ漫才からの追いかけっこ』、はーじまーるよ~♪

 

 そういや、『ワルシャワ』で何か忘れているような気が……

 ああ、ジプシーである老婆たちの事じゃなくて別の何かだぞ?

 なんだろう?

 いや、それよりも今はレイラ&ワイバーン隊の関係だな。

 ………………タイミング的には()()()のはずだし。

 

 

 


 

 

 なお、のほほんと癒し成分を補充していたスバルは知らない。

 レイラを危険から遠ざけるために、最も生還する確率が高い者が機体の操縦ができるように、わざわざアレクサンダ・スカイアイを複座式にしたのに、彼の活躍の所為でレイラが重傷の身になったことを報告で聞いたアンナが、泡を吹きながら気絶したことを。

 しかも目覚めた後に送られたデータを見ると、アキト並の機動性をアレクサンダ・スカイアイで出していたことに、またも気絶したとか。

 

 そしてオルフェウスの連絡は確かにスバルが頼んだ類であるが……過去からそのプルートーンと因縁がある彼がただの報告で済ませるわけがなく、スバルが前もって考えていた『オルフェウスと接触の口実』が早くも功を奏しこととなる。

 

 それ等によって引き起こされる事件は、また(少し)後での話となる。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「……………………………………(また、『前線の部隊の優先』からの『承諾待ち』。)」

 

 先日退院したレイラは、今日も通信経由でワイバーン隊の帰還用移動手段の確認をしてから、今度は『重要度:高』を示す()()()()()()()()()()()()を出してからベッドで横になり、完全に痛みが引いていない体を休ませていた。

 

 この頃の彼女は初めて出撃した時を思い返しながら、次の作戦時の為に反省点などを探しては対策などを考えていた。

 

「(『アポロンの馬車』から着陸してそれほど時間が経たずに敵の砲撃が起きたということは、何らかの対策を取っている……ということは、相手もワイバーン隊を意識するようになったのですね。 そして今考えれば砲撃も私たちをスロニムに誘導するためのものと仮定し、待ち伏せされていたことにも辻褄が合う────)」

 

 『────オレは! 死ぬわけにはいかないんだ!』

 

 そう考えているうちに、先日シュバール(スバル)が急に叫んだ言葉が彼女の脳内に蘇る。

 

 いつも冷静沈着なシュバール(スバル)が叫んだことにびっくりしたことだけが印象に残ったが、そこでとある考えがレイラの中で浮かび上がった。

 

『今思うと、あれはもしかしてワイバーン隊の危機から叫んでいた言葉なのではないのだろうか?』、と。

 

 確かにワイバーン隊は襲撃された当時、ドローンなどから得た情報を基にすると少数の敵に圧されていた。

 

 データを見る限り、ユーロ・ブリタニアの『騎士団規模未満の精鋭部隊』なのだろうが、急にアキト、リョウ、ユキヤ、アヤノたち四人による、()()()()()()()()()()()()活躍で一気に攻守逆転の状況になりつつあった。

 

 なりつつではあったが────

 

「(────もしそれが一時の、『極限状態によるハイ(火事場のバカ力)』から来るものだったとすれば?)」

 

 それを思ったレイラはゾクリと、背筋を冷たい何かが伝ったかのように身震いしてしまう。

 

 戦場で最も危惧すべきなのは『敗北』ではなく、『油断』や『勢い任せ』に『戦場の読み間違い』などである。

『敗北』ならば、生存本能から来る『敗走』で生き残る確率は上がるし所詮は『結果』。

 

 だが『調子付いた』、あるいは『油断したまま敵を深追い』などすれば、引き返せない状況に陥りそのまま『壊滅』や『全滅』ということもあり得る。

 現にワルシャワ駐屯軍は上記と同じ原理でユーロ・ブリタニアに先日敗北をし、スロニムを再奪還されてしている。

 

 それにシュバール(スバル)はレイラたちと歳が近いとは言え、『傭兵』として様々な状況を経験している(筈)。

 

「(ならそれに伴う認識力や直感力から部隊状況を感じ、『敵の首領を討つ』という短期決戦の手段を取ったのでしょうか?)」

 

 そう考えると喉の奥に何かが引っかかったような感覚がスッと消えるように、違和感が無くなってしてしまう。

 

「(ソフィたちから聞いた、日本で深い謝罪を表する『ドゲェザ(土下座)』と“すまなかった、あの時はああせねばならなかった”等の言葉……それに、あの金色のナイトメアに乗った青年……)」

 

 スバルが無理な体勢(土下座)をしたせいで、内部出血をしてしまって軍医たちが無理やり彼を退室させた後、見舞いに来たアキトに話を聞くと敵の指揮官らしき青年の名は『シン・ヒュウガ・シャイング』。

 

 ここの“ヒュウガ”とアキトの“日向”が同じだったことをレイラが追及すると、シンがアキトの実の兄であると説明した。

 

『敵国の幹部格がアキトの兄』、シュバール(スバル)の異質な急変ぶり、そしてワルシャワ駐屯地で明らかに除け者扱いをされているワイバーン隊のフラストレーションは高まっていた。

 

 どれほどかというと────

 

「マルカル司令、少しいいですか?」

 

「??? シュバールさん? どうぞ。」

 

「ワルシャワ市に買い出しに出るのですが、何か不足していると感じているものはないか?」

 

 ────おそらくワイバーン隊で一番レイラと顔が合わせにくいスバルが尋ねるほどである。

 

「へ?」

 

「支給品を工夫して抑えていたが、そろそろ部隊のフラストレーションが限界にくる。」

 

「……シュバールさんはいいですね。」

 

「??? どういう意味だ?」

 

「そうやって、隊の皆と名前で呼び合えることが。」

 

「……」

 

「アンナたちにだって、気軽に────」

「────言葉を遮るようですまないが一つ、いいか?」

 

「何でしょう?」

 

「スロニムでは言いかけていたが、別に名前呼びでいいのならするが……この際、部隊の皆と仲良くなる方法を提案していいか?」

 

「“皆と仲良くなる方法”?」

 

「さっき俺は“買い出しに行く”と言ったが……それを司令の提案として繰り出し、その上で会計の肩代わりも申し出るのです。」

 

「ですが、それではただ私が施しをしたと思うかも────」

「────そこは俺がフォローするし、会計も俺の口座から引いてくれて構わない。 その……なんだ。 迷惑をかけたからな。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 さて、スバルの『何か忘れている』の正体を明かそう。

 

「補給用のトレーラーの手配はまだ────」

「集計表はコピーできていますが────」

「予算を超過していますよ、もう一度見直しをしてから新たに申請を────」

「司令官のサインが抜けていますので承諾しかねます────」

 

 場所を、慌ただしいワルシャワ支局の補給部隊へと移そう。

 誰もが眠気覚ましにコーヒーや紅茶に栄養剤を片手に事務作業を行う。

 

『巨大なコールセンター』と呼べばそれで済むのだが、最前線に近いここは片足を戦場に浸かっていると言っても過言ではなかった。

 

 「この申請書、“書式が違う”と言っただろうが! 同じコピーを申請するとは良い度胸だ!」

 

 その補給部隊の中でもかなりの大声で電話の相手に怒鳴る、指揮官らしき男がいた。

 

「細かいなぁ、あの中佐……適当で良いじゃん────」

「────シ! 聞こえるって! 仕事を押し付けられるぞ!」

 

 そしてその男は、明らかに部下である筈の補給部隊に煙たがられていた。

 

 「貴様はバカなのかぁ!? マニュアルを読み直せこのバカが! あ? 私の名前か? いいとも、教えてやる……私は103補給部隊の司令官、ピエル・アノウ中佐だぁぁぁぁ!!!」

 

 ガチャン!

 

 目の下にはクマが出来ており、見た目は以前よりやせ細り、白髪もかなり据えていたが、その男は確かにwZERO部隊の前指揮官だった、ピエル・アノウだった。

 

 「おい、お前ら! 何をボーっと見ている?! トロトロやってんじゃない、残業させられたいのか?!」

 

 怒りからかストレスからか、アノウの血走った眼は自分を嫌う部下たちを睨んでいた。

 

「全くどいつもこいつも……ゴクゴクゴ────グブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

 彼は空になりそうだった何本か目の栄養剤を飲み干しながら、次の『重要度:高』とラベルされている申請を見ては吹き出してしまう。

 

 申請書には『wZERO部隊』、そしての差出人の人物欄には『レイラ・マルカル中佐』の筆記とサイン。

 

「フ………………フフフ………………………………フヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 アノウが()()()ことに周りの者たちが驚愕し、思わず固まりながら彼を見た。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!! (まさかこいつとこんなところで巡り合うとは! そうだ! 今の状況も、待遇も、禁酒の定期的調査もぜんッッッッッッッッッッッッッぶ、こいつが悪い!)」

 

 アノウは都合よく自分が傭兵を雇ったことを棚に上げ、自分の『不幸』を全て年若い(プラス)女であるレイラに転換してぶつけていた。

 

 「フヒ! フヒヒ! フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 「やば~い!♡」

 

 ワルシャワの駐屯地外にあるバザーの一角に、アヤノの年相応なきゃぴきゃぴとした声が響き渡る。

 

 「やばいやばいやばいやばい! やばすぎるよ~!♡」

 

 彼女が目をキラキラ光らせて手に取っていたのは、ドレスなどの女性用の服だった。

 

 ()()()もそう思わない?!」

 

「あ、えっと、あの……はい?」

 

 「そうだよね!♪」

 

「……」

 

「ねぇ()()()司令~? このぬいぐるみ買ってくんな~い?」

 

成瀬(ユキヤ)准尉……()()、なんです?」

 

「ん? 『ゆるキャラ』って奴だよ?」

 

「は、はぁ……」

 

「よぉ()()()! このブサイクそうな小人っぽい像、あのバカでかい庭になんか合いそうだろ?!」

 

「あ、はい?」

 

「だな! というわけでオヤジ! 大量に買うから安くしてくれ!」

 

 レイラは上記のように、アヤノたちの態度の急変ぶりに目を点にして、どう接すればいいのか困惑するほどショックを受け、思わず頭を抱えながら呻くことを我慢していた。

 

「私が悩んでいたことが……こうもあっさりと……」

 

「「ドンマイです、司令。」」

 

「hy────アキトに、シュバールさん……ってなんですその手に持ったものは?」

 

「「旗。」」

 

「見、見ればわかります……ですが、大きすぎません? よくそんなものがバザーに置いてありましたね?」

 

「ビルの外に飾ってあった奴を────」

 「────今すぐ戻してきなさい、日向中尉。」

 

「俺は単純にバザーで売っていた旗にポールを繋げただけだ。 レイラ中佐がこれを持ちながら敵を────ああいや、なんでもない。」

 

 余りにもことがトントン拍子に進んだことに、スバルは思わず他作品(脳筋聖女)ネタを持ち込みそうになり、いつもは真面目そうな彼までもが浮かれているのは明らかだった。

 

「ハァ……なんだか私が悩んでいたのがバカみたい。

 

「そうでもない。 レイラ中佐の悩みは年相応の、ごく普通なモノだ。 むしろいつもとは違って、かw────ング。

 

 スバルは自分が浮かれ、思わず思っていたことを言葉に出してしまいそうになり口をつぐんだ。

 

「“むしろ”……なんです?」

 

「(やべ。 口が滑った。)」

 

「司令はむしろを知らないんですか? 昔のマットレスの事ですよ。」

 

「(流石はKYアキト!) その通りだ、さすがだな。」

 

「ドヤァ~。」

 

「そこは何も言わなくていいぞ?」

 

「そうか。」

 

「そうだ。」

 

炭酸(ソーダ)ならあっちで見かけた。」

 

「後で買おう。」

 

「…………………………なんだかはぐらかされたような────」

「────気の────」

「────所為────」

「「────だ。」」

 

 バシン!

 

「……………………」

 

「うわ、またあのノリをやってるよあの二人。」

 

「司令、気にしないでください。 僕たちもからかわれていますから────」

「「────特にアヤノ。」」

 

 アキトとスバルがポーカーフェイスのまま、ハイタッチを交わす姿をレイラは複雑な心境をし、それを察したイサムとタカシが慰めの言葉をかける。

 

 

 そしてその時は来た。

 

 

 バザーでめぼしいものを集めてから会計しようと、店のレジにクレジット機能の付いたIDをスキャンすると────

 

 ビィー!

Refuse(拒否)authentification(認証に) échouée(失敗)。』

 

 ────の文字が浮かび上がる。

 

 バザーの人も何度かレイラ、そしてスバルのIDをかざしても同じ結果が出て店の物から冷やかしと思われて叩きだされ、今度は駐屯地に入ろうとすると同じようなことが起きて入場できずにいた。

 

「あの野郎! 道であったらぶん殴ってやるぜ!」

 

 リョウは近くのゴミ箱……ではなく、その横にある壁を蹴った。

 

 結局ワイバーン隊は駐屯地に戻られず、仕方なくバザーの近くにあるビルの階段にて路頭に迷っていた。

 

「暴力はいけません、佐山准尉────」

「────俺はテメェらの分まで頭に来てんだよ! なんだよあの型に入った対応はよぉ?!」

 

「(あ~、そういやア()ウの野郎が左遷させられたのってここ(ワルシャワ)だわ。 あまりにも小物感過ぎて忘れていた。)」

 

 ちなみにこの時のスバルはこのような場面を原作(亡国のアキト)で見たのを思い出し、原因と思われるアノウを思い浮かべていた。

 

「しょうがないですよ。 軍は、規律を順守するモノですから……」

 

「せっかくのムードが台無しだよ。」

「まぁ……初めてじゃないけどな、こういう扱い。」

「ハァ~……こんな服(パイロットスーツ)からおさらばできると思ったのになぁ~。」

「ぬいぐるみ、事故を装って燃やせばよかった。」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 ワイバーン隊が愚痴を次々と出す都度に、レイラは肩身が狭くなる思いをした。

 確かにきっかけはスバルだが、あの提案にレイラは『全額を自分が持つ』と宣言していた。

 

 何せ彼女は仮にも令嬢で軍の中佐、口座には全く手を付けていない100万ブルゥゾフ*3が眠っていて、使いどころをようやく見つけたと思っていた。

 

 そしてその自信満々なレイラは、自分のIDが通用しないことにかなりのショックを受けていた。

 

 その気持ちは分からないでもないが。*4

 

「……少しここで待っていろ。」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 レイラたちは、スバルが上記の言葉を口にしながら立ち上がっては、歩き出して角を曲がる姿を見送った。

 

 

 


 

 

 やべぇ。 スゲェ悪いことをしちまった感じで罪悪感が半端ねぇ。

 

 いや、今更かもしれないがアノウの事はすっかり割とマジで忘れていたよ?

 このことを予期して持っていた現金は、駐屯地内にあるアレクサンダの中にあるし……

 

 それに予定というか想定より早い。

 

 アヤノが原作で叫んだのは『もう一ヶ月もここに足止めされているんだよ?!』だったから、てっきり“あと一週間か何日間かの猶予はあるだろ”と思ってしまったよ。

 

 どないしよ────?

 

 ドシッ!

 

 ────んあ?

 なんだ────?

 

 「────ぎゃああああああああ?! 痛いよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 誰かにぶつかったらと思ったら、相手は自ら盛大に転びながら叫んだ。

 

「大婆様ぁぁぁぁ!」

「足が擦りむけちまってるじゃないか! アンタどうしちゃくれるんだね?!」

 

 えええええええ? うそ~ん。

 

「おい、どうした────ってスバル! テメェ、婆相手に何をした?!」

 

 しかも叫び声にリョウたちも駆けつけてきた。

 このタイミングで来るか、普通?

 

「大丈夫ですか────?」

「────ヒィィィ! 痛いよぉぉぉ! 痛いよぉぉぉ!」

 

 レイラ、なぜ来た?!

 

「アンタの知り合いがぶつかってきたのさ!」

 

「え────?」

「────この擦り傷が元で死んでしまったらどう責任をとるんだね────?!

「────貧乏なアタシたちじゃ、医者になんかとても連れていけないよ!」

 

 しかも今度はターゲットを俺から世間知らずっぽいレイラへと即座に変えやがった?!

 この老婆ども、やりおる!

 

「せめて薬が買えるくらいのお金があればねえ────」

 

 ────チラッ。

 

 露、露骨すぎる……

 

「なんだ、ただのタカリかよ。」

 

 リョウ、火に油を注ぐな────

 

「────あああああ! なんて言いぐさだ!」

「────年を取るって悲しいねぇ!」

「────若いのにあんまりだぁ!」

「────乱暴されて泥棒扱い!」

 

 おい。 言い方。

 

 「ああああああああ! もう死んじゃうよ! 死んじまうんだねぇぇぇぇ?!?!?!」

 

 “死ぬ死ぬ”と言っている割にくそ元気な叫び声だなオイ。

 

「あの……その、本当に申し訳ありません……」

 

 なぜそこで申し訳なさそうに俺を見る?

 

 いや、『幼いころに両親をテロで亡くしてマルカル家の養女として育てられて生真面目で心優しく、差別的な事柄を嫌って理想論と正論を先走らせたりする性格』なレイラのことだ。

 

 多分『俺がぶつかって老婆を怪我をさせてしまい、老婆たちが本気で悲しんでいる』と思って罪の意識を感じていてもおかしくはない。

 

「レイラ、お前は勘違いをしているぞ、俺は加害者ではなく被害者だぞ────?」

 「────あんまりだぁぁぁぁ!」

 「────か弱い私たちを悪く言うなんて────!」

 「────そのうえ年寄りを労わる気持ちがないなんて────!」

 「────あぁぁぁんまぁぁぁりだぁぁぁぁ!」

 

 お前らはどこぞの壁の男かよ?!

 というかすごい音量の叫び声だ、耳鳴りがする……

 

「必死なところ悪いけど、アタシたち一文無しだよ?」

 

 アヤノの言葉にぴたりと老婆たちの叫びもなく演技も止まる。

 

「そうそ、今夜寝るところも迷っているんだよ?」

 

「「「「「「何だってえー!?」」」」」

 

 化けの皮がはがれたな。

 

「なんてこったい!」

「スカンピンだなんて……」

「しゃあねぇ……分かっているんだろうなお前さんたち?!」

 

 いやわかんねぇよ。

 

 ガシッ!

 

 老婆たちが俺たちを取り囲んでは腕をつかみ、連れ去れていく。

 

 ドナ~、ドナ~────

 

 ムニ。

 

 ────うひぃぃぃぃぃ?!

 

 「見た目通り、たくましい腹筋と尻だねぇ~♡」

 

 ま、まさかの俺ぇぇぇぇぇぇ?!

 ちょっと待ってぇや?! なんで俺やねん?!

 これ(セクハラ)の担当はリョウやんけぇぇぇぇぇ?!

*1
プチ余談ですがオープニングキャラはピンクちゃんの声も担当していました

*2
34話より

*3
独自設定です。 元ネタはフランスコミックの『レス・ヌルズ』からの架空通貨です

*4
余談、外国で現金を持たずカード支払いしようとしてカードが受けつけないような最悪な感じです(汗)




自分をマクシミリアンと呼ぶ死神:いつから“自分はセクハラの対象外”と錯覚した?

作者:ええから『白黒世界』に帰れや。


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第108話 ジプシーライフ(仮)

次話です、お読みいただきありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです! m(_ _)m


 スバルたちは川が流れる近くの森へと、老婆達が生活している大型の馬車を停めているところまで連れられてきた。

 

「ちょっと待て婆! 俺たちは一人で着替えられる────!」

「────そんなに照れると余計に気まずいよ、リョウ────」

「────ユキヤはなぜ平然としていられる?」

 

「え?」

 

「「「“え”、じゃねぇよ。」」」

 

「「ええのぉ~♡」」

 

 キョトンとするユキヤにリョウ、タカシ、イサムのツッコミがハモり、このやり取りを見ていた老婆たちがほっこりしながら素直な感想を口から出す。

 

「外に出て行ってもらえるか?」

 

 そんな老婆たちに、スバルの言葉によって彼女たちの態度は急変する。

 

「なんじゃいおぬしら?! 減るもんじゃあるまいし、とっとと着替えな! 日が暮れちまうよ?!」

 

「「「ええ~~~~~。」」」

 

 老婆二人が激しい抗議(?)をしたことでリョウ、タカシ、イサムへと注目が行っている内に、ユキヤとアキトは素早く着替えていった。

 

 そして────

 

 

『や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 ────隣の馬車から、アヤノの(珍しく乙女な)叫び声に男性陣が全員ピタリと動きを止めては耳を澄ませる。

 

『いいじゃないか! そぉ~れい!』

 

 

『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

 男性陣はさらに聴覚を研ぎ澄ませるため瞼を閉じる。

 

『ほれ! 下()脱ぐんだ、よっと!』

 

 

『キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ?!』

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

『おおお! こりゃ流石に普通サイズだったら窮屈そうだね!』

『私の踊り子時代の服なら何とか合うと思うかね?』

『ギリギリなんじゃね? ほれ! その立派なモノを腕で隠すな────!』

 

『────ひゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん?!』

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

『こりゃあ驚いた……入るかな?』

『布を巻けば何とかいけるんじゃな~い?』

 

 

『ヤダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

 リョウたちは『聞かなかったことにしよう』とアイコンタクトをお互いに送っては全員が頷く。

 

 一人の()()()()()()着替え終えた例外を除いて。

 

「(なんというウス=異本風の叫び……ムォホホホホホホホホホホホホ♡ ええもん聞いたのぉ~♡)」

 

 

 

 ワイバーン隊はあからさまに元気100%になっている老婆達の様子から、さすがのレイラも気付いたが、『働けば衣食住は確保できる』という事で取り敢えず世話になることに異存はなかった。

 

 ワイバーン隊の皆は肌にピチピチしたパイロットスーツから、民族衣装のような服に着替えさせられていた。

 アキトやイサムにタカシはボタンを外したままにした、深緑のシャツに灰色のズボンということでまだマシなほうだった。

 

「お前、やっぱり腹筋が割れているんだな?」

 

「……ああ。」

 

「どうやったらそうなるんだ?」

 

必死(生き残る為)の筋トレ。」

 

「「(“必死の筋トレ”でそうなる、普通?)」」

 

 リョウ、スバル、タカシ、イサムの四人は、ゆったりとしたぶかぶかの半ズボンに上は袖なしのベストで、前を止めるものがないのでほとんど裸同然の状態だったので、余っていたベルトやヒモで無理やり前を閉めていた。

 

「ふぅ~ん? スースーするけれど、これはこれでスッキリするね♪」

 

 ユキヤは袖なしボレロチョリにスカートと、明らかに女性が着るものだったが意外と気にしている様子はなかった。

 

「……なんか露出度が一番高いような気がする。」

 

 アヤノはユキヤと似たボレロチョリ(半袖タイプ)に二重スカート……といえばそれまでなのだが、どういうわけか彼女のボレロチョリは腰やへそに胸元が出ていた。

 

『踊り子の服』らしいので、当然と言えば当然なのだが。

 

「えっと……これで合っているのでしょうか?」

 

 そしてレイラはチューブトップにボディス、踝近くまで伸びているスカートをはいていた。

 

 アヤノほどではないが肩や鎖骨を露出させたそのコーデが、彼女の長い金髪とボディラインを強調させていたのは“見事”としか言いようが無かった。

 

「さぁて! アンタたちには()()やってもらうよ!」

 

「「「「「「グフフフフフフフフフフ……」」」」」」

 

 余談であるが、その言葉を聞いたスバルは『身のキケーン?! 身のキケーン?! 身のキケーン?!』とどこぞの大男のような言葉を思い浮かべたそうな。

 

 

 

 


 

 

 

 いや~、数年前からほぼ自給自足をしていたリョウたちにアキトたちが、様々な家事を手分けして行うのは予想内だな。

 

「おや? アンタ、えらく手馴れているじゃないか。」

 

「ええ、まぁ……」

 

 従者見習い設定がここでも活かせれるとは、自分でもちょっとびっくりだよ。

 あとセクハラを避けるのは戦闘するよりマジ疲れる。

 

「……………………」

 

 (スバル)と老婆がチラッと見たのは、今にでもキノコが生えそうなほど座り込んで落ち込むレイラだった。

 

 それは無理もないだろうさ。

 レイラにとって体験したことはおろか、過程を想像でさえもしたことがないものばかリで明らかに不慣れな様子だった。

 

『ニンジンを皮ごと&サイズがバラバラのまま切る。』

『お皿をいっぺんに持ち運ぼうとしては落ちそうになったお皿をキャッチし、他をすべて落としてしまう。』

『ワインの入っている箱を勢い良く持ち上げ、重さにびっくりして思わず箱ごと転倒してしまう。』

『薪割りをしようと斧をへっぴり腰のまま振るうと、斧の重さに後ろへと倒れる。』

 

 などなどと、他の者たちはギョッとしていたが、素直なアヤノは『うぇ?!』と意味不明な言語を出しながらドン引きしていた。

 

 そうして周りからは『何かほかに出来る事を探してくれ』と、遠慮がち(遠回り)に言われていた彼女だが……

 

 う~む、アンジュやユーフェミアレベルだな。

 

 「根はいい子なんだろうけれどねぇ。」

 

 「それは俺も同感だ……」

 

 シュバ!

 

 老婆の忍び寄る魔の手を躱す。

 

「チッ!」

 

 フハハハハハ! 当たらんよ、この婆!

 

 俺はセクハラを避けてから憂鬱になっていたレイラに近づく。

 が、彼女は一向に見上げる様子はなかった。

 

「レイラ中佐、イスや食器の設置を手伝ってくれないか?」

 

「ぇ……あ……はい。」

 

 名前を呼ばれて頼みごとをされてから、ようやく彼女が近づいた俺を見る。

 うーむ、これはかなり堪えているな?

 

 ここの老婆たちは(セクハラ以外)、根は悪くない人たちだけどさ?

 

 “ぶつかってきた慰謝料として働いてもらうよ! その代わり寝るところと食べもの(とセクハラからの癒し)ぐらいは手伝ってもらうよ!”なんて要するに、“困っているアンタたちに衣食住(とセクハラ)を提供する代わりに働いてもらうよ”という意味だし。

 

 あと(セクハラ以外)、俺たちを孫や姪などと接するような感じだし。

 

(セクハラ以外は)留美さん(カレンママ)と似たような温かさを感じられると言っても過言ではない。

 

 セクハラ以外。

 

「ナイフやフォークを並べてくれ。 ペアずつでいい、一度にすべて持ってこようとするな。」

 

『シュバール~、シチューはどれぐらいまで煮込む~?』

 

 他の奴らと違っていまだにさん付けしないのな、ユキヤ。

 今更どうでもいいが。

 

「ニンジンが柔らかくなるまででいい。」

 

『はいよー。』

 

『シュバールさーん、ムニエルはー?』

 

 今度はアヤノか。

 

「こんがりと出来たらそっと裏返せ、跳ねる油に注意しろよ?」

 

『へいへーい。』

 

「……傭兵の割に、なんだか人を使うのに慣れている様子ですね?」

 

「ん? ああ、()()()従者見習いをしていたからな。」

 

「え?」

 

 嘘じゃないぞ?

『従者見習い』は休業中なだけだ。

 

 うーん……『留美さんやジョナサン様はどうしているのだろう?』と思って、ワルシャワで足止めされているときにサラッと使用人用の裏サイトをチェックしたが、(EUに流れる噂伝手だが)無事な様子でホッとした。

 

 ブラックリベリオン時に、留美さんが前もって渡した手紙通りに行動してくれたおかげ……と思いたい。

 

 「従者……見習い?」

 

 ん?

 レイラが何か言ったような気がする。

 

 

 

 


 

 なおスバルは知る余地も知らないが、原作でのシュタットフェルト家の使用人たちの大半は夫人が雇った者たちで、ブラックリベリオンでは屋敷を燃やされ、カレンが黒の騎士団の一員と発覚して以降は、彼女の実父はライバルにその地位をはく奪されて、あらぬ疑い&容疑で投獄された。

 

 だが留美の『リフレイン依存フラグ』をできる限り折るために、夫人の牽制や彼女の使用人たちの排除等を行ったことで、今作でのシュタットフェルト家は原作とはかなり違う立ち回りをしていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ワルシャワ市に夜が来ると、老婆たちは夜を飲み明かすことなく、そのまま就寝の時間になる。

 

 口では『歳をとると冷え性が~』などと言っているが、実際は慣れないことに疲れた様子のワイバーン隊を気遣っての事だった。

 

「……?」

 

 ワルシャワから来る人工の光も徐々に少なくなった頃に、レイラは急に自分を抱きしめるアヤノの行動に思わず目が覚めてしまう。

 

 「お姉……ちゃん……」

 

「……」

 

 wZERO部隊に志願する時や自分の事を話す時にぼかしているが、アヤノには『ビーショップ(蜂屋)ロングレイ(長光)』や日本を彼女に話した祖父以外に、二つ上の姉が()()

 

 過去形であるから察せる様に、姉は既に故人。

 

 そして彼女が何故、着替えさせられる時に着ていた服装を無理やり剥ぎ取られることに、過激なまでのリアクションを取ったかにも関係している。

 

 アヤノの姉は彼女と違い、家事全般がダメであった上にアヤノより小柄な体格の持ち主だった。

 故に二人はよく『家事が上手い(アヤノ)とどんくさい()』と間違われていた。

 

 だが、それでも姉は強制収容所でも何とか幼いアヤノを養うために、()()()稼業に手を出した。

 

 その稼業とは『娼婦』。

 

 そして流石アヤノと姉妹とのことで、()()()系の趣味を持つ者たちに受けが良く、かなり稼いでいた。

 だがそのことから、他の日系人たちには妬みや嫉みを買い『裏切り者』と陰口をたたかれ、ついには()()()使()()()()()()()と思わせる為に()()()()()な嬲り殺し方をされる。アヤノはこの犯行をEUの者の所為と未だに思っていた。

 

 このことはレイラは勿論のことだが、出会う前の一連の出来事なので、長く一緒にいるリョウやユキヤでさえも知らない。

 

 そして人に甘えるのをやめたアヤノは恐らく、不器用なレイラの様子に自分の姉を重ねたのだろう。

 

 立派に見えても15歳な彼女(アヤノ)、時々人肌が恋しくなってもおかしくはない。

 

 「んふぅ……」

 

 現にレイラがアヤノの頭をなでると、彼女は満足そうな息を出しては安心したかのように寝息を出し続けた。

 

 

 目が覚めてしまったレイラは、ブランケットをアヤノにかけ直してからショール(肩掛け)を借りて寝床にしている馬車の外へと出る。

 

「「眠れないのか/ませんか?」」

 

「あら……」

 

 寝静まった夜に、意外な二人が目を覚ましていたことにレイラはびっくりした。

 

「そういう貴方たちこそ。」

 

 レイラがそう言いながら足を運ばせたのは、近くの川でナイトフィッシングをしていたスバルとアキトだった。

 

「……? シュバールさん、何だか元気ない様子ですが?」

 

「老婆の者たちが添い寝しようとしたので逃げていました。」

 

 尚スバルに逃げられたせいで、添い寝の標的は原作通りに(寝ながら訳が分からないまま苦しむ)リョウとなってしまっていた。

 

「中尉は?」

 

「俺は……目が覚めてしまった。」

 

 そういうアキトは殆んど毎晩、自分の兄の事を夢に見ていた。

 

 一族の集団自殺を生き残った自分に、『死ね』と宣言される夢を。

 

「座っていいですか?」

 

「「どうぞ/好きにしろ。」」

 

 スバルとアキトがいる川沿いの近くに、レイラがちょこんと座る。

 

「……私、こんなにも『何もできない』なんて知らなかった。」

 

「……………………」

 

あいつら(リョウたち)俺たち(ワイバーン隊)は育ちが悪いから、身に付けるしかなかっただけです。」

 

「それって……もしかして『慰め』のつもりですか?」

 

「いいえ、俺は中佐に事実を言っただけです。」

 

 アキトの、なんの捻りもない+ドライな返しにレイラは更にショボーンとする。

 

「……アキト、言葉が足りなすぎるぞ。」

 

「え?」

 

 そこに、まるでアキトの弁解をするかのようにスバルが口を開けた。

 

「そうか?」

 

「ああ。 せめて“今まで必要が無かったからしょうがない”、と言え。」

 

「少し考えれば、誰でもそれぐらい分かるだろう?」

 

「分からない奴もいるかも知れない。 だが分かっていたら、レイラ中佐は落ち込むことなどしない。」

 

「……それでも、やらなくて良いのならそれに越したことは無い。」

 

「(う~む、さすが『KYアキト』。 いや、『不器用でKYなアキト』か。)」

 

「司令、竿を持ってくれませんか? 俺は少し席を外します。」

 

中尉(アキト)は、どこに?」

 

「少々、ウォータークローゼット(WC)へ。」

 

「へ? あ。」

 

 レイラはアキトの言い回しの意味を知って赤くなり、手渡された竿に集中する。

 

「「………………………………………………」」

 

 川が流れる音以外、特に何もない静かな時間が流れる。

 

「……なにも釣れませんね。」

 

「もとより“釣れればラッキー”程度に始めたからな。 (本命はセクハラから逃げる為だが。)」

 

「………………………………………………」

 

「さっきの話だが……“何も出来ない”と言っていたが、それに気付いた時点で既に上出来だ。」

 

「?」

 

「人は、『自分が不足していること』を認めたがらない生き物だ。 ならば、あとは向上心のみだ。」

 

「それは誰からの言葉ですか?」

 

「俺だ。」

 

「……立派なんですね。 私たちとあまり変わらないのに、いろいろできて────」

「────()()()()()、そうするしかなかったからな。」

 

「え?」

 

「(そういや話していなかったっけ、日本でのプチサバイバル経験。) あの後は治安も悪く、インフラも何も────」

「────シュバールさんは、生まれが日本なのですか?」

 

「(そこからか。) いや、生まれは別だが育ったのは日本だ。」

 

 「道理で────」

 

 バシャバシャバシャ!

 

「────うわ?!」

 

 川からバシャバシャと水が跳ねる音がして、レイラの竿がグンと引かれて彼女は反射的に竿を上げようとする。

 

「ッ! そのままを維持しろ!」

 

「は、はい!」

 

「魚が疲れ始めたところで一気に引きあげる! …………今だ!」

 

 スバルの掛け声にレイラが竿を上げると予想通りに魚が釣り上げられては川岸でビチビチと跳ねる。

 

「……釣れました。」

 

「俺とは大違いだ。」

 

 スバルが見るのはウンともスンとも反応のない竿だった。

 

「レイラ中佐に出来て、俺に出来ないことがあったな? (『釣り』じゃなければ魚を獲れるが、さすがに今川に入るのはいやだ。)」

 

「……それでも、私は一人で生きていく力が欲しいです。」

 

「ならば今の状況はうってつけだったという事か。」

 

「そう、なりますか?」

 

「ここの人たちに頼めばいい、“自分も何かしたい” と。 口は荒いが、良い人たちだからな。 セクハラ以外。

 

「え、最後は何て言いましたか? 上手く聞きとれ────」

「────こっちの話だ。 魚は俺がさばいておくから、レイラ中佐は明日に備えてくれ。」

 

「あの!」

 

「ん?」

 

「えっと……おやすみなさい、シュバールさん。」

 

「レイラ中佐もな。」

 

 レイラがその場を去るとスバルは魚を────

 

「────何でここにお前がいる?」

 

「(エ。)」

 

 ここで聞くはずのない声に、スバルが振り返るとオルフェウスがいた。

 

≪何でここにオマンおるねん?≫

 

「何を言っているんだお前は?」

 

 日本語で話しかけたスバルに、オルフェウスは困惑するような表情をした。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夜が訪れたユーロ・ブリタニア領内にあるシャイング家の屋敷では、シンは昼から着たままの純白スーツのままでワイングラスを持ち、バルコニーで静寂な夜空を見上げながら、その昼を思い出していた。

 

『この生地、ステキ~!♪ お義兄様はどちらがいい?』

 

 シンといずれ結婚するときの為に仕立屋を呼んで、ドレスの生地に悩みながらも幸せに満ちた笑顔でキラキラした義妹のアリス・シャイングと、彼女とシンのやり取りを温かく見守る義母のマリア・シャイングを。

 

「ッ。」

 

 彼が思い出しながら暖かいものを胸に感じて微笑むと同時に、頭痛が走ったかのように眉間にシワを寄せて、昔の事がフラッシュバックする。

 

 シンは確かにアキトの兄である。

 

 ()()()

 

 実はアキトの父親はシンとは違う父親であり、それを知った父は一族の当主である特権で、『粛清』を名目に母の前で浮気相手を処刑すると彼女に宣言した。

 

 するとどうだろう? アキトとシンの母親は『自分は騙された』と簡単に浮気相手を売り出し、浮気相手は『弱いところを見せられて誘惑された』と互いに擦り付けあいを始めた。

 

 浮気相手が処刑されてから、母親は何もなかったかのように振る舞った。

 

 ()()()()

 

 そこからシンは、両親が互いを苦しめ合う行為や様子を幾度となく見せられていくうちに、その時に感じた絶望を世界の所為と考えるようになった。

 

『このような歪な世界は苦しみしかない』、と。

 

 彼はある日、自分の父親に問いをした。

 

『愛している者を、何故ああも苦しめることが出来るのか』、と。

 

 すると父親は豹変したかのように、シンに襲い掛かり、シンは逆に彼を斬首した。

 その時どこからともなく()()()()()()()がささやいた。

 

『この世界は歪で不完全で、生きている者たちに苦しみしか与えない。 ならば、どうするべきか自ずと分かるだろう?』

 

 シンはその時から『愛している者たちを救う』という行為を行動に移した。

 

「(そうだ。 その為にも『馬車』は必要だ。)」

 

 コン、コン。

 

「入れ。」

 

「失礼します、ヒュウガ様。」

 

 部屋のドアをノックしてから入ってきたのは、ジャンだった。

 

「キングスレイ卿から、“アシュレイ・アシュラを貸してほしい”という要請が────」

「────“貸してほしい”と来たか。 私を試しているのかな?」

 

「如何なさいますか?」

 

「“承諾した”と返事を返せ。 それと、“『アフラマズダ』も貸す”と。」

 

「ヒュウガ様、あれは────」

「────恐らく、キングスレイ卿は()()()()にアシュレイを使う筈だ。 そしてそれに対応できるのは『ハンニバルの亡霊』どもしかいない。 『アフラマズダ』ならいい程度に時間稼ぎができるだろう。」

 

「……」

 

「どうした、ジャン?」

 

「いえ。 それとは別に、この屋敷を嗅ぎまわるネズミの件ですが────」

「────放っておけ。 そちらは()()()()()()。」

 

「では、失礼します。」

 

 ジャンは退室するとシンはワインを飲み干し、別室で眠っている家族同然の二人を思う。

 

「(そうだ、この気持ちなど一時だけの気休めだ。 だが救済すれば永遠のモノとなる。 ネズミの狙いは義妹(アリス)義母(マリア)だろうが、何を企んでいようが関係ない。) フ、フフ……フフフ……」




勢いのまま次話を書いてきます!

感想やお気に入り登録、誤字報告誠にありがとうございます!
全てありがたく、エネルギー源として頂いでおります!


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第109話 アイ・エム・ア・ジプシー(仮)

勢いで書いた次話です!
楽しんで頂ければ幸いです!


 レイラたちのIDがアノウの管理者権限によって逆恨みからいじられて、数日間が過ぎた頃のヴァイスボルフ城では日課になりつつあったお茶会はいつもと少し違っていた。

 

 紅茶は以前から口にしていた配給品に戻り、出された茶菓子のラインアップの大半が手作りから市販の物へと戻っていた。

 

 この時点での亡国のアキト(原作)では、レイラからの定期連絡がなかったことからネガティブ思考に陥りやすいアンナは『何かあったに違いない!』と嘆いて、それに感化されてかwZERO部隊のムードは落ち込み気味だった。

 

「────う?!」

「────甘い?!」

「味が濃いような気が────」

「────なーんか違う……」

「苦い? なんだろう?」

「「紅茶ってこんなものだったっけ?」」

 

 上記のことをケイト、フェリッリ、オリビア、そしてクロエとヒルダたちが口にすると、ジョウはもぐもぐと口を動かしながらはてなマークを頭上に浮かべる。

 

「そぉ~? 僕にとって、こっち(糖分マシマシ)のほうが甘くて好きだけれど……体重もこの頃減っていたし!♪」

 

 だが彼女たち+(ジョウ)は、別のことで悩んでいた。

 

「それにしても、こんな風に考えられるのって……なんか贅沢ね。」

 

「うん。」

「それにもし転送されたデータが本当のことだったら────」

「「「────説教モノ。」」」

 

「アレクサンダの変形機能は機体の小型化と軽量化の目的であって、土壇場の戦闘場面で使うものじゃない。」

「無茶にもほどがある。」

「それに自分一人だけならまだしも、マルカル司令を乗せた状態で行うなんて────あ。

 

 珍しくも、技術部と脳科学部の者たちの意見が合うその空気に和み過ぎたのか、クロエは口を滑らせた。

 彼女はハッとして口をつぐむが『時すでに遅し』であった。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 ニコニコとしながら、メタ的な憤怒の形相をした阿修羅のイメージを背後に浮かばせたアンナを、その場にいた者たちが恐る恐る見る。

 

 「ウフフフフフフ。 それはどういう意味かしらね、クロエ♪」

 

「ヒッ?! ななななな何でもないです、ボス!」

 

 アンナはニコニコしたままお皿に乗せていたケーキをフォークで刺す。

 

「ウフフフフフフ。 そうね────」

 ────ザクッ────

「────私もまさかシュバールさんが日向中尉より非常識で────」

 ────ザクッ────

「────自分の指揮官である筈のレイラを────」

 ────ザクッ────

「────危険に晒すだなんて────」

 ────ザクッ────

 「────思いもしなかったわ♡」

 

 “ウフフフ”と笑うアンナの皿に、『ケーキだったナニカ』の残骸を彼女がフォークで刺し続ける。

 

 そしてその場にいた皆(『モグモグのほほ~ん』と菓子を食べるジョウ以外)は青ざめ、震えるのを必死に我慢したそうな。

 

 尚クロエは『あばばばばばばばば?!』と意味不明な言葉を発したながらヒルダに抱き着いていたそうな。

 

 何時も気弱で引っ込み思案なアンナがこのように感情的なるのはすこぶる珍しく、昆虫関連かレイラの事絡みのみである。

 

 まぁ……レイラの事を考えて作戦の直前に、『ナルヴァの森でアキトが見せた滅茶苦茶な操縦に振り回されるよりは、スバルの消極的な行動と傭兵業で生還率が高そうだから』とアレクサンダ・スカイアイにアキトではなくスバルを乗せたことが裏目に出たわけだが。

 

 さらに余談だが、久しぶりに酒を口にしようと思ったクラウスはいつも飲んでいた安酒を口に含んだ瞬間、あまりの不味さに吹き出してしまったそうな。

 

「……しゃあねぇ。 まだいるか知らねぇが、ワルシャワの飲み仲間に連絡ぐらいしておくか。」

 

 クラウスがチラッと横目で見たのは、彼の妻と思われる女性の顔部分はマジックで塗り替えられ、机の上に置いてある彼の家族写真らしきもの。

 

 そして机の下に隠している、EUの特殊部隊などが暗号通信などに使う個人用の通信機だった。

 

「(なーにやってんだか、俺は……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ほら もっと腰を入れて!」

「はい!」

 

 ペシ。

 

 次の日、レイラは洗濯物を手や小道具などを使って洗おうと、老婆の一人とスバルの下で学んでいた。

 

「もっと強くしな!」

「はい!」

 ペシン。

 

「もっと力を込めて!」

「は、はい!」

 

 ペシン!

 

「もっと強くしな────!」

「────レイラ中佐、必要なら嫌いな奴を思い出せ────」

 「────えい!」

 

 バシン

 

「そうそう、その調子だ……よ!」

 

 シュバ! スカッ。

 

「くッ!」

 

「(当たらんよ!)」

 

「お二人とも、ご指導ありがとうございます!」

 

「……ちょっと何あれ?」

 

 これを見たアヤノは目を点にさせていた。

 

「見ての通り、洗濯だ。」

 

 そして近くのアキトが答える。

 

「見ればわかるよ……けど何で急に?」

 

「さぁ? 司令も自分の出来る()()肢を広げようとしているんじゃないか?」

 

「…………」

 

「……洗濯だけに。」

 

「……………………」

 

「…………洗濯、だけに────」

 「────一回目で聞こえたわよ!」

 

「アヤノは朝からパワフルだねぇ。」

 

「「「フワァ~。」」」

 

「すごい欠伸だね、三人とも。」

 

「「「まぁな/ね。」」」

 

 欠伸を出すリョウ、イサム、タカシはユキヤに生返事を送り返し、再び一日が始まる。

 

「…………」

 

 その様子を(殴ろうとしたアヤノから無事に逃げて)薪集めをしに、森にこれから入ろうとしたアキトは静かに見ていた。

 

『これも悪くない』、という思いが彼の脳裏を過りそうになると、ふと声を掛けられる。

 

「おや、君も薪拾いかい?」

 

「そういうオウルこそ。」

 

 アキトに声をかけたのは近くの民家に最近長旅から帰ってきた中年男性『オウル』……という設定をした男に変装した、オルフェウスだった。

 

『プルートーン』らしき動きを聞いてEUにいたオルフェウスは、『大規模な作戦がある』と噂されたスロニムの近くに移動していた。

 

 そして幸運にも『プルートーン』を発見したはいいが、オルフェウスのせいでシンが『プルートーン』の存在に気付くきっかけとなってしまった。

 

 そこから『プルートーン』の生き残りを探すためにワルシャワまで追って、機体の損傷や長旅からの整備不良悪化を防ぐために急遽EUに『オウル』の隠れ家に戻り、ガナバティに連絡を入れてから()()()()()()()()()()()()()()()()()に声をかけようとした。

 

 そう思った彼が川の近くにまで来ると、()()()()()()()()()()を見て驚愕の声を出しそうになったが。

 

 オルフェウスはギアスなしでも、『変装』に事関してはかなりの自信を持っている。

 たかが髪の色や態度を変えただけで、ユーロ・ブリタニアで見たスバルを見違うわけがない。

 

『偶然にしては出来過ぎている』という疑惑から、彼は様子を見ることにしたが、あまりにも自然に周りに馴染みこんでいたことからその疑惑は薄れていったが、()()()釣りをしていたスバルを見ては思わず声をかけられずにはいかなかった。

 

『何でここにお前がいる?』、と()()()()()()()()()()

 

 初対面ならば誰でも身構えるはずの場面を、スバルは平然と()()()()()()()()()()()()()()『ただの偶然だ』と態度を変えずに答えてきた。

 

 

「(やはり奴もギアス能力者、あるいは噂のギアスユーザーか? だとすれば納得がいくが、系統を絞るには情報が必要だ。)」

 

 オルフェウスはその次の日から、『オウル』となったまま老婆たちやワイバーン隊の皆に『近所のおっさん風』に自己紹介をした。

 

「オウルさん?」

 

「(そのためにも、独りになりやすいこいつ(アキト)からそれとなく聞き出すか。)」

 

 

 そんなことを露知らず、スバルは内心で目の前の場面でほっこりしていた。

 人種、年齢、経歴、その他に関係なく、てんやわんやしながらも笑顔であふれた一時を。

 

 シュバババ! スカッ!

 

「馬鹿な?! 今のは完全な不意打ちだったはず!」

「(小石のある場所でジャリジャリした足音を消すことは不可能なのだよ!)」

 

「頭の後ろに目をつけているとでもいうのかい?!」

「(俺はヤム〇ャではない。)」

 

「私の足を足場に!」

「(いやしていないから。 お前たちはどこぞの三連星か?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その夜は前日よりさらに活気付いたものだった。

 

「「私たちを癒しておくれ~。」」

「ベタベタ触んな!」

 

「いいじゃないか、別に減るものじゃあるまいし~。 ほれ、こっちの皿にまだまだあるぞい?」

「お、サンキュ!」

 

「いい食べっぷりだねぇ~。」

「だから触んな婆!」

 

「「「(完全に餌付けされている。)」」」

 

 口ではいやいや言いながらも、目の前に次々と置かれる料理にがっつくリョウや彼にセクハラの照準を変えた老婆たちを見たスバルたちは、内心そう思いながらも黙々と食べていった。

 

「どうだいレイラ、自分の作ったシチューは?」

 

「美味しいです!」

 

「そうだろう、そうだろう♪」

 

「うまぁぁぁい! ほら、アキト! レイラの釣った魚のムニエル食ってみなよ!」

 

「うっ。」

 

 ここでアキトが今まで維持していたポーカーフェイスが初めて崩れ、明らかに嫌なものを見る表情へと変わり、アヤノがキョトンとする。

 

「え? アキト、もしかして魚嫌い?」

 

「……」

 

「でもムニエルだよ?」

 

「好き好んで生臭い物を食べる奴の気が知れない。」

 

「レモン、絞る?」

 

「……………………………………………………」

 

「……(ニヤ)」

 

 アキトのだんだんと崩れていく仏頂面に、アヤノが小悪魔的な悪戯っ子の顔をして、これを見たリョウとタカシが察してアキトの腕を左右から掴んで拘束する。

 

「な?! 離せ────!」

「────おらアヤノ、今だ! 積年の恨みを晴らせ────!」

「────タカシ、お前もか────?!」

「────許せアキト────!」

「────おりゃあああああああ! その口に直行便────!」

「────やぁぁぁめぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

「(あ、沙慈クロス〇ードだ。)」

 

 思わずピンと来たことにスバルは思わず笑みを浮かべて、それまで皆と一緒に笑っていたレイラは胸がドキンとしたそうな。

 

 またまた余談だが、この頃何かとソワソワしていたカレンが急に動いたり立ち上がったりなどして、撃たれた肩の傷の完治は遅くなっていたそうな。

 

 

 


 

 

 ワルシャワの老婆たちとワイバーン隊の皆と『オウル』(というおっさんに変装したオルフェウス)の前で(スバル)は今ギターを弾きながらアニソンを歌っている。

 

 なんでこうなった。

 

 いや、事の始まりは昨日と違ってレイラが足を引っ張らないように立ち回らせて、家事とか料理の仕込みを早く終えたから老婆たちが夜を飲み明かす準備に入りギターを出して、あまりにも調整不良だったから直したら『何か弾いてくれ』って頼まれて、周りのみんなが期待するような目で見たから仕方なくアニソンを歌いだしたら、ますます期待されるまなざしを向けられてというかなんというか。コードギアスでアニソンなんてどういわけやねん誰かタスケテ

 

 いや落ち着け、今は歌だ。

 歌に集中するんだ。

 かつての歌手は言った。

 “良い音楽というのは老若男女も関係なく、皆がノリノリになれる良い物だ”と! *1

 

 というわけで俺の(知っている)歌を聞きやがれぇぇぇぇ!*2

 

 あ、もちろん場の雰囲気に合ったやつだけだぞ?

 俺は空気が読めるからな♪

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それからさらに時間は過ぎていき、一番歳を食っている大婆(レイラ命名)が酔ったのかレイラをその場から連れ去り、自然とその夜の飲み会(俺含め未成年組はぶどうジュース)はお開きになっていく。

 

 この流れは多分、原作で見せたあのシーンだろ。

 

 レイラの両親は昔死んだと以前に言ったと思うが、実際は暗殺されている。

 レイラはマルカル家の養子になる前の本名は『レイラ・フォン・ブライスガウ』といい、父はEUにしてはかなり珍しく、民衆の自立を訴えていた政治家の『ブラドー・フォン・ブライスガウ』。

 

 それだからかグングンと彼の人気は鰻登りに増していき、演説中に爆破テロに────いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

 確か……彼はレイラの父ブラドーに嫉妬していて、暗殺の目的の次いでにレイラの母も自分の妻として狙っていたと思う。

 

 これだけでもクズ中のクズの部類に入るが、スマイラスのテロがきっかけでほかの暗殺者が勢い余ってレイラの母も殺すんだっけ?

 

 とまぁ、この話の本命はここからだ。

 大婆はレイラのことを占って、『森の魔女に会って呪いをかけられた』と当てる。

 ここで出る『森の魔女』とはCCのことで、『呪い』はギアスということでぶっちゃけるとレイラにもギアスはある。

 

 一応。

 

 どういうわけかEUの森をギアス嚮団の者たちとともに移動していたCCは、冬の湖を逃げるために誤って渡ろうとした瀕死のレイラを助け、レイラが死にかけだった子供だからか気まぐれだったのか、CCは『契約』ではなく『仮契約』を交わす。

 

 無論、子供のころの出来事である上に瀕死状態だったので、レイラはこのことを『夢』とずっと処理していたから、大婆に言われるまで殆ど忘れていた記憶だった筈。

 

「シュバールとやら。」

 

 と、そんなことを考えながら食器洗いやワイン(&熟成前のジュース)ボトルを片付けている間に、大婆が俺に声をかける。

 

「どうした? 添い寝の件なら断るが────」

「────少し話がしたい。 私の馬車にまで送ってくれるかい?」

 

 え? どゆこと?

 

「……ああ。」

 

『話って何だろう?』と思いながらも夜がすっかり訪れ、おぼつかない足取りをする彼女の手を取って馬車にまで一歩ずつ気を付けて歩く。

 

 転ばせたり、足もたれなんかさせたら『体勢を整える』と名だけのセクハラ攻撃が来るからな。

 

 馬車の中に入ると案の定、絨毯の上に原作でも見た羊皮紙がおいてあって文字で星の形が描かれていた。

 

「そこに座りなさい。」

 

 いつもの様子とは明らかに違う大婆に戸惑いながらも、『ナニコレ?』と思いながら座ると、大婆は模様の彫られた石を手にとっては呪文のようなものを唱え始める。

 

“クレーントゥ、プレィテリア、フトゥルゥム……クレーントゥ、プレィテリア、フトゥルゥム”……」

 

 サイコロのように彼女の手の中にある石が振られ、カラカラコロコロとして音がいつの間にか静まり返った馬車の中で響く。

 

 う~む、こう見るとやっぱ画面(スクリーン)越し以上に幻想的だ。

 そう思いながら、模様の彫られた石が羊皮紙の上で転がせてから、真剣な表情をした大婆は口を開ける。

 

「シュバール……アンタ、()()()()呪いを受けているね?」

 

 Oh……やっぱりか。

 

 原作でも描写はあるが、大婆は『特殊能力』とか『サクラダイト』という不思議物質とかがあるコードギアスでもかなり異質な存在として現れている。

 

 今まで見てきたが、大婆は普通の人間だ。

 だというのに、占いだけで相手の過去や潜在的な何かを言い当てられる。

 レイラの場合はCCとの出会いと、仮契約のギアス(呪い)

 そして原作と流れは違うから起きなかったが、アキトがギアス(呪い)をかけられていることも一目で見抜いている。

 

「それに出自も異質だね。」 

 

 そこまでかよ?!

 

「そうか?」

 

 ここは取り敢えず当り障りのない返事を────

 

「ああ。 加えてアンタはこの世界のことを()()()()()。」

 

 ────ファ?!

 

 NANDE(なんで)DEDEDEDEDEDE(デでデデデで)?!

 SOKOMADE(そこまで)BARETERU(バレてる)NANDE(なんで)?!

 

「別に言いふらしはしないさね。 “秘密にしたい”という強い()()は、さっき見たからね。」

 

 黙り込む俺の心境を悟ってか、大婆が口を開く。

 

「ただね、“年寄りの好奇心”とでも呼ぼうか? 初めてアンタとぶつかったあの日、アンタのことを初めてちゃんと見た瞬間に、何とも言えないことを見たんだよ。」

 

 はえ?

 

「今まで何人もの事を占ってみたけれど、誰もが『光と闇』、『白と黒』、『裏と表』のような二面を持っておるがお前さんはそうさね……強いて言うのなら“()()()()()()()”と呼ぶべきかの? 何とも言えぬ、()()()()()()()()じゃよ。」

 

 大婆の言葉で、ザラザラとした感じが体中を駆け巡る。

 

「それは……どういう意味だ?」

 

「そうさね……まるで、元々────っ。」

 

 大婆が急に口を閉じる。

 

「……何か?」

 

「これ以上は……私が口にすべきじゃない事さね。」

 

「…………………………」

 

「言えることと言えば、アンタは自分で思っているより根は優しい。 他人の運命を、自分より優先しちまっている。 現に、アンタの周りにいるヤツらの運命は変わっているよ。」

 

「…………………………」

 

「先短い私からの頼みは、これからどんなことがあっても……アンタがそのままでいてくれることだよ。 そうすれば、己の運命を切り開けるかもしれない。」

 

「…………………………占い、ありがとう。」

 

 ガンガンと、まるで頭を殴られたかのような居心地のまま、立ち眩みしたような足取りで大婆の馬車を後にし、自分の寝床へ戻ってくると彼女の言葉が再び頭を過る。

 

『強いて言うのなら“()()()()()()()”と呼ぶべきかの? 何とも言えぬ、()()()()()()()()じゃよ。』

 

 それはどういう意味だ?

 コードギアスでも『色』をモチーフにした作品は、ロストカラーズのようにいくつかあったと思うが……『灰色』なんて聞いたことがないし、なぜそれに俺が当てはまる?

 

『アンタは自分で思っているより、根は優しいからね。』

 

 「“優しい”、か……」

 

 打算ありまくりで、胃を痛めながら周りの顔色を窺うような俺がか?

 

『他人の運命を、自分より優先しちまっている。 現に、アンタの周りにいるヤツらの運命は変わっているよ。』

 

 「冗談は、よしてくれ。 必死なだけだ。」

 

 『周りの運命』なんて、“次いでに”の気持ちぐらいで問題は山積みで……俺自身は────ん?

 

 誰かこっちを見ている気がする……

 

 って、全員寝ているであろう時間に盗み聞きをするのは多分オルフェウスぐらいだろう。

 

 いつもなら確認しに行くが……なんだかドッと疲れた気分だから寝る他にやる気が出ねぇ。

 

 もう無視だ(無視)

 ミーン、ミーン、ミ~ン。

 

 今は秋だが。

 

 ……無性にビッグモナカでなくとも、甘いものが食いてぇな。

 柿とかリンゴとか……オレンジとか。

 

 え? 『なんで最後は躊躇した』かって?

 なんだか口にしたら出てきそうで怖いから。

*1
*注*コードギアスの世界に来て時間が経っているのでスバルはうろ覚え

*2
*注*コードギアスの世界に来て時間が(以下略



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第110話 火の元注意

前半に『残酷な描写』、『独自設定』タグが発動します。
ご了承くださいますようお願い申し上げます。


 ブリタニアの本国、別の世界線では『グレートブリテン』と呼ばれている小さな島国にはいくつかの都市がある。

 

 ペンドラゴンは首都らしく重要人物が数多く滞在しているが、勿論その一つだけではなく、原作では描写少ないが、他にも都市や町なども、それぞれ何かの産業などの役割を中心に存在する。

 

 例えばウルリッチ、アルトン、パッドストゥ、スタンポート、ヘメマー等々。

 

 その中でも、軍事で栄えたシャフベリーの郊外では銃声が鳴り響いていた。

 

 この場所の特徴(というか地域)では別段珍しくもない、それ(銃声)に住民たちは『ああ、また何かのテスト中か』と思ってか外出を控えていた。

 

 そして治安機関にもやはり、『とある技術機関が軍からの要請で急遽武器の試験中』という書類も提出されている。

 

 ()()()

 

 もちろんその書類とやらは存在しないし、“軍からの要請”もその日はなかったが、よくあることだったので(数人を除いて)誰もが納得していた。住人も正当防衛が行使できる程度の武器を所持しているので、リスクは承知の上でそこに住んでいる者たちばかり。

 

 

 さて。

 音とは奇妙なもので、反響具合で聞こえてくる方向が実際の発現場所と違うこともある。

 例えば、山などに囲まれている(物理的な境目の中にある)シャフベリー。

 

「うわ?!」

「うーん、仲間にバレたっぽいね。」

「殺意を持った者が……10名ぐらいか。」

「うーむ……驚いているのか、正面だけから来ているのが幸いですわね?」

「だけどまさか仲間を常に囲っていたのはちょっと意外だったわ。」

 

 シャフベリーに近い山村の一角にある家の中、私服姿の元イレギュラーズのダルク、かなりド派手な娼婦っぽいヒラヒラ服装のマオ(女)、サンチア、ルクレティアたちにマーヤがいた。

 

 さて、簡単に話をすると彼女たちは今の今までブリタニア本国(といっても辺境)に潜入し、スヴェン(スバル)に頼まれた『ウィルバー・ミルビルと彼の家族の保護』を遂行していた。*1

 

 しかし『保護の頼みなのになんで銃撃戦になっているの?』、という疑問を持っているのはごもっともである。

 

 実はスヴェンがその時口にした、“ミルビル卿を引き抜くのは襲撃の後だ”が原因だった。

 

『襲撃の後』、すなわち彼の言っていた『テロに見せかけた活動』は組織的な行動を示していることで、ミルビル博士たちを狙うのは『何らかの組織』となる。

 

 さすがに彼女たち一人一人が優秀でも、『動かせる人手』の違いで戦力差が出てしまう可能性はある。

 そしてディーナ・シーの乗組員のほとんどは日系人で、潜入するには無理があり、黒の騎士団で潜入できそうな者たちは、自分たちに中華連邦、ブラックリベリオン後のエリア11に取り残された団員たちや協力者などのことで精一杯。

 

 他のアマルガムのメンバーたちはスバル(スヴェン)の頼まれ事で出払っているか、あるいは客人(ユーフェミア)のことでゴタゴタが起きないように上手い立ち回りを(させ)ている。

 

 ならば上記での戦力差(の可能性)を縮めるにはどうすれば良いのか?

 

 答えは単純に『徹底した情報収集』。

 

 敵がどれだけ数をそろえようが、手の内がバレていればうまく立ち回る事が可能となり、相手の動きや行動も予想できる。

 

 つまりある程度の()()()()を可能とさせ、それは敵との遭遇時に戦闘を有利に進められる。

 

 ただ一つの誤算だったのは、スバルの言った『テロを装う貴族派の者たち』が、用心のためにグループの全体を把握していなかったこと。

『皇帝派の重鎮たちを狙う』ということから、それだけに用心するのも無理はないが。

 

 これにより彼女たちは、別々の役割を担ったグループの一部を確実に特定してから接触せざるを得ず、調査の進み具合が予定より大幅に長引いていた。

 

 これもあり、元イレギュラーズはギアスの使用を控えていた。

 

 何せこの段階での彼女たちの作戦はまだ『遂行前』であり、『本番』ではないからだ。

 

 余談だがその情報収集活動はマオ(女)の服装に類するものばかりではなく、ただ今回のターゲットが()()()()()()以外では絶対に他人(部外者)を住居に招き入れないだけだった。

 

 まさかその標的の近所が標的の仲間で固められていたとは予想外な上に、今まで得た情報からその者たちの動きなどが『行動間近』をにおわせていたので焦っていたのもあるが。

 

「う~ん……どうするサンチア?」

「どうもこうも、荷物を抱えながら撃退するのは長引く可能性がある。」

「そうなれば、密入国者たちの私たちが不利になりますわね。」

「そっか~。 今のアタシたちも軽武装だもんねぇ~。」

 

「……」

 

「??? マオちゃん?」

 

 ダルクたちの軽~い受け答えを静かに聞いていたマオ(女)が、荷物の中から丈の長い雨合羽を出し、着ていたヒラヒラランジュリー的な服装の上から羽織ってジッパーを閉める行動を見たマーヤが声をかける。

 

「本当は()()()()()()()落ち着いた場所でしたかったけれど、()()()()()()()ね♬」

 

「「「「「え。」」」」」

 

 元イレギュラーズの四人に縛り上げられた標的がそう声を上げ、マオ(女)が彼をズルズルと住居でも奥にあるバスルームの中へと引きずっていく。

 

「へ?! あ、ちょ、ちょっと────?!」

「────だからマーヤ姉ちゃんたち、ボクを守ってて♪ あ! それとこういう状況下だから『心理戦アリ』だよ。 だから覗き見とか絶対しないでね?

 

 

 

 

 でないとお姉ちゃんたちが吐いちゃうかもしれないから♡」

 

 バタン!

 

 そのままマオ(女)はバスルームに入ってから、男をバスタブに放り込むと鏡を壁から取り外し、レバーがあったことににっこりと笑う。

 

「お。 やっぱりあったった♪」

 

「ん?! なぜわかった?!」

 

「んー、君みたいな変態だとパターンは幾つかあるんだよねぇ~。 あ、バスルームも防音仕様なんだ、ラッキー♪」

 

「だ、だが────」

 

「────君、自分の噂をもみ消しているつもりかもしれないけどね? ホームレスに孤児をなめちゃっているよね? 『彼らの情報は噂程度』と思うかもしれないけれど、ギブアンドテイクで嘘を言うメリットはないし、現にボクのことを()()()()()()()攫って着替えまでさせているから。 ま、予定内だったからいいんだけれど♪」

 

 マオ(女)がレバーを引くとバスルームの壁の一角が開き、中はかなり()()()()()な設備や()()などが整っている部屋だった。

 

「あ、酸を使っているんだ♪ ()()()()()()()()()()()()わけだ。」

 

 マオ(女)が鼻歌交じりに淡々と隠し部屋の道具や自前のものを取り出していくと、標的の男性が口を開ける。

 

「へ、へへ。 一目でわかるか。 お前も()()()()なんだろ? 俺は口が堅いぞ────」

「────()()ボクはどっちかというと、()()()()()()()かな?」

 

「へ?」

 

「あ! 『束縛する』のは誰でもいいけれど、『されても構わない』相手もいるって意味だから♪ あ、それと勘違いしている様子だから言っておくね?」

 

 マオ(女)は笑顔のままアイスピックと隠し部屋から拝借したハンマーを手にしながら、標的が放り込まれたバスタブに近寄る。

 

「君は『拷問』を受けたことがないでしょ? 『一流の拷問者』はね? 体験者がすればより効果的なんだよ? それに君のは『快楽のための行動』であって、今からボクがするのは『仕事』さ。 両方なのは認めるけど♡」

 

 

 

「お、おい! そんなに撃つなよ!」

「人に当たるような角度に撃っちゃいねぇよ。」

「しかし寄りにもよって()()()とはな……」

「どうするんだよ? 時間をかけ過ぎると厄介になるぜ?」

 

 マーヤたちが立てこもっている場所に駆けてきた者たちは、どうしようか迷っていた。

 迷っていたのは『どうやって中の者たちを始末するか』ではなく、『どうやって中の仲間を救出するか』だった。

 

 何せ彼らに『貴族派の上層部』から来た指示を出していたのは、不幸にも今マオの手にかかっている男性が出していたからだ。

 それがなければ、住居ごと()()していただろう。

 

 彼らの最終目的は『ブリタニアの重鎮ポストを貴族派の者と入れ替える』ことで、こんなところでそれがバレたら貴族派から『トカゲの尻尾切り』に全員が合うだろう。

 

「と、とにかく騒がれる前に奪還するんだ! 携帯を持って来い、時間稼ぎと注意を引くんだ! 車を遮蔽物代わりにするんだ!」

 

 

 

 

 ピロピロピロリン♪ ピロピロピロリン♪

 

 マーヤたちがいる部屋の中に、ターゲットの携帯電話が鳴る。

 

「あ、電話────」

 『────痛ててててててでぎゃァアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

 

 ここで防音にも関わらず、悲鳴がバスルームから聞こえてくる。

 

 ピロピロピロリン♪ ピロピロピロリン♪

 

「誰が出る?」

 『や……ヤメ……やメてててて痛々ギエァあああああアアアアア!!!』

「じゃ、じゃあアタシが出るねぇ!」

 

 隣からくる生々しい悲鳴にダルクが志願し、携帯電話をスピーカーモードにする。

 

「もしもし~?」

 

『こ、子供?! なんで────?!』

 

 ……

 …

 

 電話をかけた男は驚愕した。

 何せてっきり相手はどこかの諜報員、少なくとも大人を想定していたのに電話に出たのは年若い子供の声だった。

 

『────えっと、お兄さんって今撃ってきた人たちの一人?』

 

 しかもその声がどことなく、久しく会っていない姪と似ていた。

 

「は?! え?! えっと、そうダケド……」

 

『いきなり撃ってお友達に当たっても構わないんだ~?』

 

「そ、そんなことはない────」

 「────おい、何を呑気に喋っている。 中の様子はどうなんだ?」

 

「あ、いやその子供が────」

 

 ────パァン!

 

「は?!」

「え?!」

 

 周りのおどおどとしている者たちとは明らかに違う振る舞いをし、同士を撃った奴は周りからギョッとされているにもかかわらず、平然と携帯電話をミュートしてから口を開ける。

 

「おいお前ら、火炎瓶の作り方知っているか? 知っているなら何個か作っておけ。」

 

 ……

 …

 

「えっと……今のは何?」

 

『交渉相手が変わった音だよ、嬢ちゃん。 大方、友達か知り合いの復讐かなんかだろうが、俺には関係ねぇ。』

 

「(この男……()()()()()。)」

 

 乾いた銃声がスピーカーから出るとダルクがそう尋ね、さっきまでとは違う声と態度が返ってくるとサンチアは舌打ちをしそうになる。

 

『いいか? 俺はさっきの奴と違って、相手が子供だろうが何だろうが、こっちの要求をのまねぇと焼き殺すのに躊躇はしない。』

 

 上記を聞いたマーヤは、拳銃のマガジンを変えながら、外がよりよく見える二階の窓から様子を伺うと、ちょうどタプタプと液体が入った瓶が夜空の光でキラリと光るのを目にする。

 

 キャップの代わりに布が無造作に詰め込まれる場と一緒に。

 

「(あれは……)」

 

 

 

『要求とは何?』

 

 急にダルクの喋り方が変わったことで、外で携帯電話でしゃべっている男性は確信を得た。

 

「(やっぱな。 相手も()()()()()()()してやがるな? 面倒くせぇ。) そこにいる仲間を皆殺しにすれば、嬢ちゃんだけは助けてやってもいい。 断るなら皆殺しだ。」

 

 男は仲間が火炎瓶に火をつけようと、ライターを着火させる姿を横目で見る。

 

「どうだ? 悪くない話だろう? (出た瞬間、捕まえて売るが。)」

 

 ……

 …

 

 マーヤはヘアースプレーを窓の枠にかけ、十分に油が溜まってからそっと窓を開けてから上着を脱いでTシャツ姿になる。

 

 肌寒い秋の風を気にすることなく、彼女はそれを窓枠に詰めて急増の『土台』を作ってから両手で握った拳銃で狙いを定め始める。

 

「スゥ~……ハァ~……(あの方(スバル)が言ったように、“深呼吸してから固定できる姿勢をとって────”)」

 

 マーヤがフロントサイト越しに見ている先で、停めていた車に背中を預けて火炎瓶に火をつけようとする男の後頭部があった。

 

「(────“心臓を止めて『当たる』と思ったら迷いなく撃つ!”)」

 

 ドン!

 

 マーヤの撃ちだした弾丸は狙っていた男の後頭部を見事に当たるだけでなく、そのまま男の持っていたライターに着弾し、さらに火炎瓶を撃ち抜く。

 

 着火したままのライターが空中に飛び散る火炎瓶の中身に引火し、瞬く間に周りの者たちに火が燃え移る。

 

「ブハァ!」

 

 遠すぎて叫んでいるであろう者たちがパニックに陥る様子からくる満足感に浸ることなく、パニックする者たちを無視してマーヤは次の標的に狙いを定めようとする。

 

「(二階に火薬式(スヴェン特製)拳銃とはいえ、この距離で当てられるか、普通?)」

 

 外の様子を鏡越しに見ていたサンチアが、感心なのか畏怖なのかわからない心境でそう思う。

 

「(とても()()()学生とは思えん……って、今更か。)」

 

『おい! 何しやがった?!』

 

 いまだにスピーカーにしている携帯電話から、悲鳴とともにさっきから威圧的だった怒鳴り声がくると、サンチアが喋りだす。

 

「こちらも交代しただけだが?」

 

 ガチャ。

 

 バスルームのドアが開くと、鼻にツンと来る汚臭とともに、雨合羽の隙間に飛び散ったと思われる返り血と肉片を顔からふき取りながら、サムズアップとニコニコした笑顔を向けるマオ(女)が出てくる。

 

「どうする? このまま引き下がればこちらも同じにするが? それとも今ここで死ぬか?」

 

 サンチアはハンドサインをアリスたちに送りながら、今度は()()()時間稼ぎをする。

 

「(さて、ここでの長居は無用だな。 あとはここに駆け付けた敵を()()()殲滅すればいいだけだ。)」

 

 この瞬間、サンチアたちは『防衛』から『殲滅』へと()()()()()()作業へと移る。

 

 元々イレギュラーズは『強襲』や『暗殺』などの類を主に行ってきた。

 相手にする者たちにも元軍人などもいるだろうが、所詮は半端者やチンピラ同然。

 

 行動を読むのは簡単である。

 

「うわ、クサ!」

「当たり前じゃんダルク、溶かしちゃったんだから♪」

「最悪……ってちょっと待ってよ! そんなバスタブの中に入るの?!」

「大丈夫だよアリス! ちゃ~んと掃除はしてあるから、最悪髪の毛が痛んじゃうくらいかな?」

「う~ん……困りますわね。」

「あ、ルーちゃん(ルクレティア)はこのシャワーキャップ使いなよ────」

「────あるならとっとと出しなさいよ!」

「うわぁ、“とっとと出せ”なんて……アリスのへんた~い♪」

 「そんなんええからシャワーキャップ貸せやゴラ。」

 

 アリスたちの話し声がバスルームから出て、二階にいると思われるマーヤにサンチアが叫ぶ。

 

「マーヤ! 罠を逆に利用するからバスルームに戻れ!」

 

 ……

 …

 

「状態はどうだ?」

 

 外で自然とリーダー的になった男が、先ほど火炎瓶の暴発(?)に巻き込まれた者たちのことを聞く。

 

「撃たれた奴と、周りにいた二人が……」

 

「(これで俺含めて7人か……) よし。 もうこの際だ、一気に攻め込む。」

 

「け、ケドよぉ────?」

「────これで中の野郎が死んだら、それまでだったってことだ。 逆にこのまま“情報を得たかもしれない中の奴らを見逃した”なんて、上の奴らが聞いたら確実に口封じがくるぜ。」

 

「「「………………」」」

 

「それに、口ぶりからすると中の奴はもう死んでいてもおかしくはない。 だったらここで襲撃者を皆殺しにして、組織から連絡を待つって選択もある。 行くぞ。」

 

 男はそのまま拳銃を握りながら駆け出し、ほかの者たちも戸惑いながら一緒に駆け出す。

 

「(ん? さっきの狙撃が来ない?)」

 

 そう思いながら、男はほかの者たちとともに、ドアを使わずに窓を割って入ると、すぐに敵を探すために────

 

 ドッ!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夜が明け始め、山村の端にある家が吹き飛んだ後の瓦礫がガサゴソと音を立てては崩れる。

 

 「ふんにゃらせぇぇぇぇぇ!」

 

 ダルクのおっさんくさい力む声と共に。

 

「皆、無事?」

 

 バスタブの上に落ちた瓦礫を『ザ・パワー』で退かせるダルクの横に、アリスたちをかばうように身を張っていたマーヤが身を起き上がらせながらそう声をかける。

 

「ぐえ! ぺっ、ぺっ! 口の中が砂だらけ……」

「早くシャワーが浴びたい気分だな……」

「……爆発物の腕が落ちていなくてよかったですわ。」

「うーん、流石ルーちゃんの『ザ・ランド』! 応用が効いて良いなぁ~。」

 

「でも()()()()()()()の気転もすごいわ。 まさか証拠隠滅のための爆弾設置を、焦らせた敵の一網打尽に使うなんて。」

 

「だよねぇ~。」

「まるでお兄さん(スヴェン)みたい♪」

 

「ウッ……そう、だな。」

 

 マーヤに『ちゃん付け』やダルクにマオ(女)に褒められた(?)サンチアは気まずいままバスタブから出て、山の影から出てくる朝日を見る。

 

「(…………彼もどこかで頑張っている。 それに毒島の推測通りだと、彼の行動すべてが繋がってくるが、あまりにも大きい目的だ……いや、今は頼まれた『ミルビル博士の保護』に集中しよう。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ン……」

 

 別の場所、現在のドーバー海峡の向こう側では、EUの標準(フランス)語のなまりで『シュバール』と呼ばれるスバル(スヴェン)は、(久しぶりに)胃がキリキリとし始めたことで皿洗いの途中に顔をしかめる。

 

「どうかしましたか、シュバールさん?」

 

 そんな彼の隣で食器を拭いていくレイラの心配するような声がかかる。

 

「ああ、いや……何でもない。 (なんだ? この頃治まっていた胃痛が……)」

 

 そんな場所から少し離れた森の中、アヤノは大きな木に背中を預けながら自慢の小太刀に定期的な簡易メンテナンス作業を行っていた。

 

「♪~」

 

 バサッ!

 

「綺麗だな────」

 「────ぎゃああああああああ?!」

 

 そんなアヤノを頭上(の木の枝と思われる場所)からアキトが『ヌッ!』と顔出すと彼女は叫んだ。

 

「け、け、気配殺さないで普通に声をかけてよ?!」

 

「『気を隠すなら森の中』というやつだ。」

 

 「意味が分からないよ?! それに……────」

「────風邪かアヤノ? 赤くなっているぞ。」

 

「だ、だって……き、き、“綺麗”だなんて────」

「────俺はその小太刀のことを話しているんだが────」

 「────いっぺん死ね。

 

「それはもう間に合っている。」

 

「……はぇ?」

 

 アヤノが“どういう意味?”と聞ける前に、アキトがさらに言葉を発して遮る。

 

「その小太刀に名前はあるのか?」

 

「ぁ……うん、『ビーショップ・ロングレイ』────」

「────全然かっこよくないな。」

 

「……」

 

「なんだその顔は?」

 

「……おじいちゃんは『蜂屋長光(はちやながみつ)』って呼んでいた。」

 

「変な名前。」

 

「んぐ。 (おじいちゃんもこんな気持ちだったのか。)」

 

 アヤノは思わず、アキトが昔の自分が祖父に対してかけた全く同じ言葉にダメージを受けた。

 

「アヤノのご先祖は侍だったのか?」

 

「あ。 うん、そうみたいだよ。 何せ────あ。」

 

「???」

 

 アヤノはハッとするかのように急に口をつぐみ、アキトははてなマークを出しながらサボっていた木の上から降りてくる。

 

「どうした?」

 

「あ、ううん! 何でもないヨー。」

 

 明らかに動揺するアヤノは眼を泳がせ、とある目にモザイクがかかって、アヤノの小太刀の銘が『蜂屋長光』&手入れをしていないと聞いては人が変わったような形相────

 

 ────ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

「アヤノ、体も震えているぞ? やっぱり風邪か?」

 

ななななななななななんでもないヨー。」

 

「そうか。」

 

 明らかに棒読みだったアヤノだが、そこまで無神経ではないアキトは深入りしなかった。

 

「そういえばさ、アキトってよく独りになりがちだよね?」

 

「……そんなことないゾ?」

 

「さっきも、なんだか凄い言葉を真剣に返していたしさ────?」

「────そんなことない────」

「────いいや、あるね────」

「────お前────」

「────あれってどういう意味なのさ?」

 

「……俺は、子供のころに一度死んでいるんだ。」

 

 そして先ほどアキトがアヤノの『いっぺん死ね』に対して言った『もう間に合っている』に、ド直球な性格をしたアヤノが誰にも知られずに踏み入っていったそうな。

*1
88話




久しぶりにマーヤたちを出せました。
そしてマオはやっぱりやべぇ奴。 (汗


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第111話 老婆たちのジェットストリームア〇ック

お読みいただきありがとうございます! 楽しんで頂ければ幸いです!


 コードギアスで『新大陸』と呼ばれる大地は現在の『北アメリカ大陸』の事を指し、本来は『アメリカ独立戦争』が起きてアメリカ合衆国が出来ている。

 

 筈だった。

 

 コードギアスの世界ではブリタニアとの軋轢(衝突)と市民の更なる反感(不満)を恐れ、当時のフランス国王であるルイ16世は援助を渋った結果アメリカ大陸軍は敗北し、『助けを求めた者たちを見殺しにした、次は民である我々だ』という言葉でフランス革命は結局起きた。

 

 13植民地政府を掌握しようとした革命派は後に処刑され、この世界での歴史書ではこの事件を『ワシントンの反乱』と記入されている。

 

 今までの植民地の中でも地理、物資、気候、その他諸々の要素が豊かであるその新大陸をブリタニアはすぐに開拓していき、急激な近代化と今まで見たことのない程の移住をし始めた。

 

 それから年月が経った今では大きく拡大化した帝国の『第二の本国』と呼ばれるほどで、実質上『帝国政府の中心地』となっていった。

 

 グレートブリテン島のペンドラゴンが『歴史的な首都』と例えるのなら、新大陸のニューロンドン*1は『政治の首都』である。

 

 そのおかげでニューロンドン付近の空域は厳しく管理されており、よほどのことが無い限り飛行の許可は出ない。

 

「ふむ……」

 

 例外があるとすれば、“近くにあるノーフォーク軍基地に帝国のナンバーツーである宰相が新たな浮遊航空艦の試験飛行の要請をいれた”……とかになるだろうか?

 

 帝国の腹黒ナンバーツーであるシュナイゼルはフクオカ基地の事変、そしてブラックリベリオン時でもアヴァロンの戦略的価値を感じてアヴァロンより一回り大きい(ログレス級)浮遊航空艦の試験飛行に、スクリーンの外から広大な新大陸の土地を見下ろしていて上記の感心するような息を出していた。

 

「如何なされました、殿下?」

 

 そんな()()()()()()()()()()()をした彼に、後ろで立っていたカノンが声をかける。

 

「ああ、なんでもないよ。 ところで、()に関して何か分かったことはあるかな?」

 

「それが……内密に調査を進めておりますが、『()()()()()()()』の情報は表面上のモノしかまだめぼしいものは発見されておりません。」

 

 そう言いながら、カノンは薄いフォルダーをシュナイゼルに渡し、彼は少ない資料を漁る。

 

『ジュリアス・キングスレイ』。

 シャルル皇帝陛下が直々に軍師としてユーロ・ブリタニアに派遣しラウンズであるスザクを護衛として付けた人物。

 

 経歴等をパッと見れば非の打ち所がないありきたりな者だが、全体で見ると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そもそもその者が通った、あるいは住んでいた場所にそれとなく探りを入れればある者は『ボンヤリと知っている』と話し、ある者は『()それ?』という違いがある上に、写真などの肖像画が無い時点で不自然だったが『そういう者がいてもおかしくはないか』程度。

 

 だが極めつけは『シャルル皇帝直属の軍師』という肩書だった。

 

「(宰相である自分も耳にしたこともなく、帝国のデータベースでも見つからない、そして皇帝にしか知らない……これではコーネリアにマリアンヌ様の件に関して過去に調べて出てきた『プルートーン』とやらに似ている気配がする……) カノン、これ以上の調査は止めておこう。」

 

「よろしいのですか?」

 

「これ以上深入りするのは危険と判断したまでだよ。 あまりにもメリットがデメリットに見合わない可能性が出てきたからね。」

 

「畏まりました、中止を伝えておきます。 それと別の事ですが、マリーベル皇女殿下の騎士団とユーロ・ブリタニアの件で進展があったと聞いています。」

 

「分かった、あとで見ておこう。」

 

「……あの……」

 

 ここで珍しくカノンが言い淀む。

 

「ん? 何かね?」

 

「本当に、マリーベル皇女殿下の『グリンダ騎士団(ナイツ)』を()()()()()()()()()()送るのですか?」

 

「ユーロ・ブリタニアはEUと小競り合いをし続けているからね、観艦式を終えたばかりの彼らにとってはまたとない肩慣らし(準備運動)になるだろう。 それは勿論、愛しい妹のマリーベルにとってもね。」

 

 シュナイゼルは愛想笑いを浮かべるが、カノンは本能で悟っては唾をゴクリと飲み込む。

 

殿下(シュナイゼル)は新兵同然のグリンダ騎士団も利用する気だ』と。

 

 

 ……

 …

 

 さて、少しだけ『双貌のオズ』で登場する主要組織の『グリンダ騎士団』に関して補足したいと思う。

 

『グリンダ騎士団』、それはコードギアスでは初となる『対テロリストKMF部隊』で皇位継承権第88位のマリーベル・メル・ブリタニアが創設者であり、現場の指揮官でもある。

 

 これだけでも驚くべきことなのだが実はこのマリーベル、皇帝のシャルルに対して激昂から剣を抜いたことがあり、反逆罪とみなされて皇位継承権を剥奪されていた。

 

 これは当時、彼女がまだ10歳の時にシャルル以外で唯一家族である母と妹をテロ事件により亡くし、その犯人を見つけるようにシャルルに悲願したが拒否されたからである。

 

 それは少し(と言うかかなり)ルルーシュと似ているが彼と違い、皇位継承権の剥奪後にマリーベルは5年後に軍学校を卒業している。

 

 そして彼女の才覚の一片を見たシュナイゼルの補助を受けて皇位継承権を返還されてその2年後にグリンダ騎士団を創設した。

 

 同い年の17歳で似たような過去を経験しても、ルルーシュとマリーベルは異なる道を歩んだ。

 

 ルルーシュはテロではなく、事件の扱い方で『父』を恨んだ。

 マリーベルは父親の行動を恨むのではなく、『テロ』そのものを憎むようになった。

 

『グリンダ騎士団』に関してや詳細は今はここまでとするが、彼らや彼女たちの出番はもう少し先となる。

 

 ……

 …

 

「(それにしても、『ハンニバルの亡霊』に『幽鬼(レヴナント)』か。 つくづく、この世界は……それにこの『幽鬼(レヴナント)』の報告は実に興味深い。)」

 

 シュナイゼルはユーロ・ブリタニアから取り寄せた資料を見ながらそう思い、とある文章が目を引いた。

 

「(“先回りされているような対応”、か。)」

 

 それはシュナイゼルにとって、どこかユーフェミアの『行政特区』を思い出させていたが、そこで彼はチラッと別の資料に目を移す。

 

「それと、彼女はどうしている?」

 

「そうね……チーム内でもオドオドとした性格は変わらないらしいわ。 とても例の『アレ』の開発のきっかけになる子とは思えないほどに。」

 

「そうか。」

 

 シュナイゼルの視線先には『チーム・インヴォーク』と書かれている書類。

 

 そこには図面などが描かれた横には誰かの筆跡と思われる書類の写しと、ブラックリベリオン時にアッシュフォード学園から没収した一機のガニメデを映し出していた写真があった。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 EUでは、ユキヤは消されたレイラやスバルのIDデータを軍のサーバーにハッキングをして復活させて無事に戻れる目途がついていた。

 

「な?! 離せリョウ!」

 

 そんな中、スバルは焦る声を出していた。

 

 きっかけは『彼ら彼女らが無事に戻れる』と聞き、老婆たちが別れを嘆いた時にリョウが貰い泣きをして返した言動だった。

 

「なんだって!?」

「帰っちまうって言うのかい!?」

「皆、いなくなるのかい?!」

「「「うわぁ~ん!」」」

 

 「グスッ……婆ちゃんたち、ボケて俺らのことを! グスッ……忘れんじゃねえぞぉぉぉ!」

 

 老婆たちより豪快に泣いていたリョウがスバルを背後から羽交い締めにする。

 

「な、ちょ、おま────」

 「────好きなだけ()()()()()や俺を触っておけ、このクソ婆ども!」

 

「「「「「「グェヘヘヘヘヘヘヘヘ。」」」」」」

 

 「待てリョウ冷静になれ今生の別かれでもないのだからこんなサービスはいらんというかお前ひとりだけでやれ────あ゛────」

 

 そこから老婆たちが繰り出すジェットストリームアタック奇妙な笑いと手をワキワキさせる動作にスバルがキョドリながらも必死な(物理を含む)抗議から数時間後に、『別れる前の夜祭』が開かれることとなった。

 

 ちなみにスバルがリョウによって動きを封じられている間の大婆は愉快そうに『ヒョッヒョッヒョ』と笑い、彼女の飼っていた白猫はいつになくスバルの足首に噛り付いていたそうな。

 

 ……

 …

 

「いや、その……すまん。」

 

 夜祭での老婆たちは様々な楽器を使い、殆どの者たちが老若男女に関わらず踊っている中でリョウは正座を強いられていた。

 

 ゲッソリとしたスバルに。

 

「………………………………………………なら皆の相手を代わりにしろ。 俺は疲れた。

 

 ゲッソリしていても力強いスバルの言葉にリョウは青ざめてはコクコクと頷く。

 

「よ、よし来た! おう、婆ども! 俺と踊れ!」

 

 スバルは焦りながらもホッとするリョウを見送り、近くの椅子に腰かけてため息を出しながら周りを見る。

 

「アンタもここを離れちまうのかい、オウル?」

 

 すると丁度『オウル(オルフェウス)』が老婆たちに別れを告げる場を目撃する。

 

「ええ、急な出張が入って来てね。」

 

「そうかい……寂しくなるねぇ~。」

 

「(オルフェウスも多分、『オズ』の初めになるアルジェリア辺りにでも行くのかな?)」

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「(ん?)」

 

 スバルは声をかけられ、見上げるとさっきまで老婆たちと一緒に踊っていたレイラを見てはキョトンとする。

 

「貴方が“疲れた”というのを始めて聞いたので。」

 

「まぁ……少し、な。 (あれ? もしかしてアキト、まだ離れていないのか?)」

 

「…………」

 

 スバルがさっきアキトを探していたように、アヤノも彼を探していた。

 理由はその日の朝、彼が言った言葉だった。

 

(アキト)は、子供のころに一度死んでいるんだ。』

 

 アヤノは最初、アキトがたまに口走る『変な言葉(ダジャレ)』の類かと思ったがその時の彼からはいつもとは違う雰囲気に思わず何を言うか迷ってしまい、気まずいままの空気でアキトは何事もなかったように日課をこなしていった。

 

「ねぇユキヤ? アキトがどこに行ったのか知らない?」

 

「ん? ん~……なんかあったの?」

 

「ううん、何も。」

 

「……そっか。 あっちに行ったっぽいよ? 」

 

「サンキュ!」

 

 そのままアヤノはユキヤの指さした方向へと駆け出し始める。

 

「(あれれれ~? アヤノがアキトの方向に?)」

 

 それを聞いていたスバルがポーカーフェイスを維持しながら、内心でハテナマークを出す。

 

 実はアキト、子供の頃に経験した集団自殺がトラウマでこのようなどんちゃん騒ぎや人との関わり合いを極端に避けていた。

 

 集団自殺時も本来は年に一回の『一族全員が集まるパーティ』の日で、いつもはデザートに出される日本の菓子(饅頭)の代わりにシアン化物の錠剤が配られ、子供たちは親にそれを飲まされた。

 

 これはアキトも例外ではなく、彼は母親に飲まされたが幸運にも当時のアキトは一番幼く、異物に敏感だった子供で昏睡状態のまま拒否反応が出てすぐに吐き出して難を逃れた。

 

 次に彼の意識が戻り、周りを見るとさっきまで元気いっぱいだった彼の見知った親族や従妹たちに、母親の遺体だらけ。

 

 生き残った彼はその後、兄であるシンに“なぜ生きている”という問いを掛けられてから『死ね』とギアスで命じられた。 幼過ぎて『死』の概念をよくわからなかった当時はどう思えばいいのか分からなかったのだが、アキトは成長するにつれて理解が深まると、楽しい事をアキトは心のどこかで集団自殺の夜を思い出してしまうようになった。

 

「(それを確かアキトはレイラにぶちまけて、そこからアキトの『あの時に死ねばよかった』に対してレイラが、『生きているから私たちは出会った』って返すんだよな確か。) レイラ中佐、アキトを知らないか?」

 

「日向中尉ですか? ……そう言えば見当たり────」

「────探してくれないか? 少し話たいことがある。」

 

「シュバールさんが?」

 

「込み入った話ではないから、忙しそうだったら別に良い。」

 

「……分かりました。」

 

「(ええ子やのぉ~。)」

 

「シュバールや、もっと触らせて────」

 

 ──── シュバッ!

 

 だが断る。

 

 スバルは頼まれたことを深く追求せずに離れるレイラを見送り、近づく老婆のの手を避ける。

 

 

 ……

 …

 

 レイラはどんちゃん騒ぎが聞こえないほどの森林を歩きながらキョロキョロと見る。

 

「(確か、こちらの方向に香坂准尉を見たような気が────)」

 『────悪いことが起きるような気がするんだ。 あの時のように。』

 

 そこに、微かにだがアキトの声をレイラが聞き取っては思わず耳を澄ませてしまう。

 

『“あの時”って……今日の朝に言っていた、子供の頃?』

 

「(この声は香坂准尉?)」

 

 

 

 森の中心に近い場所ではアキトとアヤノが座り込んでいた。

 

「ああ……あの時も月の光が綺麗な夜で、父さんも母さんも従妹たちもおじさんやおばさんたちも……兄さん以外の皆が笑っていたんだ。」

 

「兄さんって……あの偉そうにしてた、陰険ポニテ野郎?」

 

 普段のアキトならここで何かツッコミを入れているだろうが、今の彼はまるでアヤノの言葉の内容に耳を傾けることなくただただ言を並べていった。

 

「そして皆死んだ。 死んだんだ。 死んでいたんだ、俺も。

 でも、俺だけどういうワケか生き返って……

 それを見た兄さんは冷たい、怒ったような目で……

 俺を……俺に……俺に“死ね”と言った。

 そんな兄さんは見たくなかった。

 知りたくなかった。

 俺の中の兄さんは優しくて、天才で、面倒見が良くていつでも頼れる存在だったんだ。

 だから俺は、死ぬべきだったんだ。

 

「「………………………………………………」」

 

 次第にどんどんと小さくなって消えていくようなアキトの苦しいような声に、アヤノも近くの木の陰で聞いていたレイラも黙りむ。

 

「…………………………………………せない。 許せなぁぁぁぁぁい!

 

 そんな重苦しい空気の中、アヤノのボソッとした声が出てと思えば彼女は勢いよく立ち上がりながら叫んでいた。

 

「え?」

 

 「あの陰険野郎、今度会ったら鼻をへし折ってやる!」

 

 今にでも『ガルルルル!』と、威嚇の唸り声を上げそうなアヤノは元気(怒り)いっぱいのまま叫ぶ。

 

 「アキトとアイツは兄弟なんでしょ?! どんな理由があっても、喧嘩しても、兄が弟に“何で生きている?”なんて問い、どう考えてもおかしいでしょうがぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「お、お、落ち着けアヤノ────」

「────だって……グスン……だってこの世の中で、血の繋がった家族でしょうが……ヒグッ────」

「────え? は? アヤノお前、なぜ泣いて────?」

 「────そんなの悲しいよぉぉぉぉぉ~! うわぁぁぁ~~~~ん!」

 

 とうとう泣き出してしまうアヤノを前に、アキトはオロオロとしていた。

 

「な、なぜお前が泣くんだ?」

 

 彼の問いに(15歳の)アヤノは答えることなく、ただただピーピーと泣いてやっと落ち着いた頃の彼女は見事なまでに目と鼻を腫れ上がらせていた。

 

 漫画風で言うと『目が3のマーク』である。

 

「………………」

 

 そんなアヤノとアキトのやり取りを、レイラが隠れて聞いていたとは知らずに。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ヒュゴォォォォ!!!

 

 ユーロ・ブリタニア領のグリーンランドでは猛吹雪が絶えずにふぶいていた場所に、()()はのそりのそりと二足歩行で、極地装備を身に付けて歩いていた中年男性の後を追っていた。

 

 白い毛皮に黒い目のそれは、どこからどう見てもホッキョクグマである。

 

 「ブエックショイィィィィィ!」

 

 そしてそのホッキョクグマ……の毛皮で身を包んだアシュレイは、盛大なくしゃみを出す。

 

 「ううううううう! さみぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「そう思うのなら黙って歩け! でなければ、肺に氷が入るぞ!」

 

 「このクソ寒いのはなぜだ?! 吹雪もだ! さっきまで太陽ピカピカだったじゃねぇか?!」

 

「お主が“ホッキョクグマを狩りたい”なんぞ言ったからじゃよ! その上“こいつの血肉を無駄にしたくない、毛皮を着たい”なんぞ言ったから出発するタイミングが予定よりずれただけじゃわい。」

 

 この奇妙なコンビが歩き、やっとの思いでたどり着いたのはサクラダイト採掘基地跡の一角だった。

 

 硬く、錆びついた扉に電源が入り重苦しい音と共にアシュレイが命令されて確保しに来た()()にスポットライトが当たる。

 

「おいおいおいおい! こいつ、動くのかよ?!」

 

「喋っておらんで起動を手伝わんか、このワンパク小僧が!」

 

「うるせぇよこの爺が! 聖ミカエル騎士団の俺様にそんな口を────!」

「────そんな口を聞くんだったらワシは帰らせてもらおうかのぉ~?」

 

「ごめんなさい冗談ですマジ勘弁してください手伝わせてください。」

 

 アシュレイはその昔、グリーンランドが日本に匹敵する量のサクラダイトの採掘ができていた時代の名残である、古ぼけたサクラダイト輸送用巨大飛行船から視線を外してコンソールに電源を入れる。

 

 

 


 

 

 アイテテテテテテテ。

 無茶な正座の仕方をされて足がびりびりしてやがる。

 (スバル)も少しは覚悟していたが、まさかヴァイスボルフ城に戻って早々にアンナとソフィたち脳科学部とハメルに説教されるとは思っていなかったぜ。

 

 あの後、無事に輸送機が用意されてヴァイスボルフ城に戻ったらもこもこジャケットを着たアンナやソフィたちがいて俺を止めて無理やり正座の姿勢を取らせられた。

 

 しかも滑走路の上で&明らかに正座の慣れていない人の姿勢に。

 

 冬になり始めて雪が降ってもおかしくない季節に長時間の正座は堪えるよ、パトラッシュ……

 

 あの老婆たちと別れる前の夜、狙い通りにレイラにアキトの後を追わせたら一緒に戻ってきたのは良いが、アヤノもいたのはちょっと意外だったな。

 

 原作ではリョウやユキヤが察してアヤノを止めていたし……けどそれも結果オーライかな?

 

 さて……俺は俺で、次の難関に向けて準備をするか。

 

 滅茶苦茶忙しくなる。

 何せ『亡国のアキト』クライマックスパートだからな、激戦になる。

 アキト達ワイバーン隊も、ヴァイスボルフ城も。

 

 だがこんなところで死者を出すわけにはいかないし、何よりここで死なせたらここに来た意味も無くなってしまう。

 それに、『保険』も一応毒島に頼んでいるがアキトが死んだらそれも意味がない。

 

 その為にも、賄賂(スイーツ)を大量に用意してからアンナたちと(話しづらいが)警備隊長のハメルにも話を付けて────

 

「あの、シュバールさん?」

 

 ────って、レイラが何故か申し訳なさそうにこっちを見て声をかけた……だと?

 

「アンナの事を、嫌いにならないでください。 普段は控えめな子なんですけれど、私のこととなると人が変わったようになるので────」

「────アンナを嫌いになる事はないな。」

 

『身体が意思とは関係なく勝手に動いた』と言っても誰も信じないだろうし、今回は俺が悪いんだし。

 

「そうですか、それは良かったです。」

 

 うーん、この健気な笑みはいつ見てもい・や・さ・れ・る~♪

 

 これで俺が覚えている限り、『亡国のアキト』の半分ぐらいは経過したか?

 

「あの、そこでシュバールさんに相談があります。」

 

『頼み』ではなく、『相談』?

 なんだろう?

 

「先のスロニムでの出来事を考えていたのですが────」

*1
現在のコロンビア特別区辺り




スバルの胃痛が悪化するまでのカウントダウン、スタート。


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第112話 『大人』たちの思惑によるカオス

今回はほぼユーロ・ブリタニアと少々のEUサイドです。 (汗


 小国規模になったユーロ・ブリタニアの首都とも呼べる、ペテルブルグの一地区に立つカエサル大宮殿の作戦指令室にユーロ・ブリタニア上層部の大部分を担う重鎮が召集されていた。

 

 聖ミカエル騎士団のシン・ヒュウガ・シャイング。

 マンフレディ卿の親友であり、壊滅寸前だったものの回復の目途が立った聖ラファエル騎士団のアンドレア・ファルネーゼ。

 毛深いもみ上げや眉毛が独特の印象を与える聖ガブリエル騎士団のゴドフロア・ド・ヴィヨン。

 ユーロ・ブリタニアの四大騎士団総帥の中でも明らかに高齢でありながら現役の聖ウリエル騎士団のレーモンド・ド・サン・ジル。

 

 四大騎士団総帥の他に、その大きなオペラ座のような作りをした部屋に軍の士官たちに内府の文官などの姿もあった。

 

 最前線の席に待ちかねているのか、ふんぞり返ったジュリアスに近くで立っている護衛のスザクを誰もが注目していた。

 

「皇帝の飼い犬風情が……」

「いくら皇帝陛下の信頼を得ているとしても、日も経っていない内に大公閣下を呼びつけるとは……」

「やはり若くて政には疎いのか?」

「すぐにボロが出るさ。」

 

 悪い意味で。

 

 カァン、カァン!

 

「ヴェランス大公閣下、ご着座!」

 

 木づちの音と共に警備兵がユーロ・ブリタニアの宗主であるヴェランス大公(オーガスタ)の入室を宣言すると、ジュリアス以外の全員が席から立ち上がって敬礼を向けて敬意を表する。

 

 その反面、ジュリアスは面白いもの(道化)を見るかのような目線で座ったままヴェランス大公が座るまで見続ける。

 

「キングスレイ卿、始めてもらおうか?」

 

 ブリタニアから送られ一度も挨拶に来なかったジュリアスをヴェランス大公は威圧を上乗せしながら上記を言い放つ。

 

「そう焦らずとも良いでしょう? 貴方方とは違い、結果はすぐに出せますよ?」

 

 が、ジュリアスは余裕満々ながらいつもの視線を返し嫌味たっぷりに答える。

 

 ユーロ・ブリタニアの士官、文官、貴族に関係なく誰もがジュリアスの言葉に表情を険しくさせる。

 

 シン一人だけは内心、ほくそえんでいたが。

 

「これより惰弱ゆえに衝突を避けて引きこもるだけの脳しかないEUを、『戦場』という『処刑場』へ引き出してご覧に入れよう!」

 

 何せシンはジュリアスがこれから行う作戦の内容をおおよそ予想し、事前に自らの()()()()()()()に組み込んでいたからだ。

 

「さあ、舞台の開演だ! 諸君、楽しんでいただこう!」

 

 “自身に失敗はあり得ない”とでもいうような態度のまま、ジュリアスは高らかにそう宣言する。

 

 一番の協力者であるシンに利用されていると知らずに。

 

 ジュリアスの宣言に、巨大スクリーンにはいまだに猛吹雪に襲われる場所────グリーンランドにあるサクラダイト採掘基地跡が映し出された。

 

 かつて日本と並ぶほどのサクラダイトが採掘されていたここは、場所が場所だけにほぼ破棄同然となった巨大輸送船に急ピッチでフロートシステムをジュリアスは取り付けるように命令した。

 

 サイズだけで言えばシュナイゼルが現在試験飛行中のログレス級より大きい超大型飛行船────『ガリア・グランデ』は外部に設置された砲台や対空機銃こそアヴァロンより重装備に見えるが……そのすべてが張りぼてか破棄された武装である。

 

 しかも内部はほとんどスカスカで、防衛には無人機化させたサザーランドが大半である。

『戦力』としては期待できないが、EUに飛行能力を持ったナイトメアはない。

 

 よって、EUの()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその『限られた対処』を迎え撃つのが無人機化されたサザーランドだけでは少し心許ないのでジュリアスはシンを試すと同時にアシュレイを()()()

 

 シンは渋るどころか、アシュレイとともに『拠点防衛用』の建前でユーロ・ブリタニアが()()()に開発していたアフラマズダを貸し与えた。

 

 このやり取りでジュリアスとシン双方は相手の真意をある程度『理解』した上で、『互いを利用しあう関係』となっていた。

 

 少なくとも、ジュリアスにとっては。

 

「キングスレイ卿、説明を。」

 

 ここでようやくヴェランス大公が愉快そうに劇を見ているかのようなジュリアスに問いかけた。

 本来なら大公である彼に事前の説明がされているのが道理だが、今作戦はすべてジュリアスが秘密裏に進めたためにヴェランス大公を含むほとんどの者はこれから何が起きるのかわからなかった。

 

「画面に映し出されているのは巨大浮遊船の『ガリア・グランデ』。 これから行う作戦の要であり象徴……今舞台の『主役』、と言ったところでしょうか?」

 

「まさか、あれでEUに爆撃を行うのではあるまいな?」

 

「ほぉ……さすがはヴェランス大公────」

「────キングスレイ卿!」

 

 ヴェランス大公は思わず席を立ちそうになるが、ジュリアスの近くにいたスザクがわずかに身構えるのを見てからやっとの思いで踏みとどまる。

 

「ハハハハ! ヴェランス大公、あなたが危惧していることを私の作戦と比べないでくれたまえ。 第一段階では、EUに潜入させた破壊工作員が大都市を停電に陥れる────」

「────EU軍の施設ではなく、都市だと?」

 

「町を停電させるだけであれば造作もない。 さて────」

 

 ジュリアスがまるでタイミングを見計らったかのように振り返ると、巨大スクリーンに映し出されていたガリア・グランデから、ライトと見たこともない旗をバックにしてぼんやりとした人影へと変わる。

 

『EUの全市民に告げる。 我らは()()()()()()……“箱舟の船団”だ。 我々はつい先ほど北海の洋上発電所を爆破した────』

 

 その人影と声はジュリアスの者であり、画面に映っていた彼の言動はまさに()()()()()()()()()()で、次の映像ではガリア・グランデから一つの爆弾が海上に建てられた洋上発電所を爆撃した。

 

「うろたえるな、ただの合成映像だ。」

 

 これを見て作戦指令室はざわめき始めると上記の言葉でジュリアスが見下すような補足をする。

 

 『────もうすぐこの“滅びの星”がパリを襲うだろう! 悔い改めよ! それが生き延びるための、ただ一つの手段だ!』

 

 それを最後に、ジュリアスの映像は切れると同時に席に座っていたジュリアスが立ち上がってヴェランス大公を見る。

 

「さて、今頃EUは混乱の真っ只中だろう。 そして愚鈍なEUでは対処できず、権力者や有力者は国外への脱出を準備し、これを見た市民は抱えていた恐怖を怒りへと転換させ暴動を起こす。 さらにこの暴動をテロの犯行と思った市民はパニックを起こし、この不安と恐怖と怒りの暴動は瞬く間にEU全土に広がるでしょう。」

 

 “ククク”と笑いそうになりジュリアスの姿は、どこぞのドラマなどで登場する『悪役』そのものだった。

 

「果たして、そう上手く事が運ぶだろうか?」

 

 パチン。

 

 ジュリアスが指を鳴らすと、巨大スクリーンには複数のSNSやニュースサイトに無数の書き込みが次々と最新され、そのどれもがジュリアスの先ほど言ったことを裏付けていた。

 

「人を支配するには『恐怖』だ。 それも正体や実体が見えないものほど、人を圧するものはない。」

 

 すべてはジュリアスが巧みに現状のEUの統治を逆手に取った心理作戦だった。

 実際、彼がやったことと言えば合成映像で存在しないテロ組織を名乗って『洋上発電所を破壊した』というデマを流し、パリを含む大きな都市を停電に陥れただけ。

 

 あとはEUの者たちが勝手に騒いだり、国外脱出を目論んだりして、勝手に自爆しているだけだった。

 

「私はEUという巨大な爆弾に点火しただだけ。 さぁヴェランス大公()()、全軍に進軍命令を────」

「────今攻め込めば、大勢の無辜の民が戦に巻き込まれてしまうではないか?!」

 

「ほぉ? この状況でも『市民の犠牲』を気にするのですか? フン、そんなものを気にしているから貴方たちのもとにに私が送られたのだよ! それにお忘れでしょうか? 私は皇帝陛下より、ユーロ・ブリタニアの全権を委任されている。 二度目は言いませんよ? 命令を出せ、ヴェランス大公()()。」

 

「ぐ……ぬぅぅぅ……」

 

 そこに一人の通信兵がスザクに近寄り、資料らしきものを渡すとスザクはそれを流し見てからジュリアスに渡す。

 

「その命令は……聞けぬ。」

 

「ほほぉ? ヴェランス大公閣下、今なんと?」

 

「その命令は聞けぬと言ったのだ! このような非道な……まるでコソ泥のような────!」

「────よくぞ言った、ヴェランス大公閣下!」

 

 ここでジュリアスは心の底から嬉しそうな声でヴェランス大公を褒める。

 

「さすがは閣下! 自らコソコソとしていらっしゃるだけにコソ泥の気持ちを理解しておられる! 今しがた私が受け取った資料でEUの40人委員会に、EU軍の上層部から()()()の通信を傍受したとの報告が入った! どうやら、“頃合いを見てEUと手を組む計画を今すぐ行ってほしい”とは……」

 

 ジュリアスの言葉に、その部屋にいたユーロ・ブリタニアの者たちが目を見開いて驚愕する。

 

「な────?」

 

 驚愕する者たちの中には、ヴェランス大公も入っていた。

 

 「────ヴェランス大公閣下! 敵と通じていた貴公を、皇帝反逆罪で幽閉する!」

 

「(ルルーシュ、君はやはり────)」

 

 ────ガタッ!

 

 ジュリアスを複雑な気持ちで見ていたスザクは席を立ちこめかみに血管を浮き出させていたゴドフロアを見て即座に行動に移った。

 

「貴様ぁぁぁ! 我が大公閣下に向かって無礼な────!」

 

 ゴキッ!

 

 「────ぐあああ?!」

 

 今にもジュリアスに殴ろうとしていたゴドフロアの顔面に、超人的なスピードと脚力で急接近したスザクの回し蹴りがめり込んで鼻の骨が折れたような音がする。

 

「……キングスレイ卿に歯向かうは、皇帝陛下への反逆と同等であると忘れるな。」

 

 スザクの見せた業と落ち着きにどよめきが走る中、シンは感心するような気持ちを持ちながら席をたち、ヴェランス大公を見る。

 

「(さて、頃合いか。) この場は、キングスレイ卿の命令に従うが大公閣下の為と思われます。」

 

「……グ……」

 

 ヴェランス大公は渋るような声を出し、退出していった。

 

「全軍に通達! 『進軍せよ』と!」

 

 四大騎士団の聖ミカエル騎士団総帥シンの言葉に命令が下されていく。

 彼とジュリアスが繋がっているとは知らずに。

 

 ただ一人、アンドレア・ファルネーゼを除いて。

 

「(『ハンニバルの亡霊』、ミケーレの急死、シンの昇進、そしてキングスレイ卿……あまりにも出来すぎている。 まさかとは思うが……)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ユーロ・ブリタニアと対峙している東部方面軍の前線部隊が撤退しているとの報告が上がっております!」

「テロを言い訳に、戦線を離脱するとは!」

「やはり彼らは烏合の衆!」

 

 EUのパリにある、スマイラス将軍の執務室では若手の士官三人がそれぞれ入ってくる報告や情報に関して表情を険しくさせていた。

 

「さらに40人委員会には臨時閣議の指示が出ていますが、議員たち数十人ほどすでにパリから

 逃げ出したとの情報が……唾棄(だき)すべき奴らです!」

 

 そんな中、スマイラスは憂いているような顔をして三人の言うことを耳にしていた。

 

「この騒乱は我らにとって、好機ではありませんか将軍?!」

「民衆は政府の惰弱を今度こそはハッキリと認識したはずです!」

「今こそ将軍の理想を、現実とする時です! 強欲な資本家が新たな貴族となり、民衆を搾取するこのEUの矛盾を改めるために我らが立つ時が来たのです、将軍!」

 

「ご決断を! スマイラス将軍!」

「「スマイラス将軍!」」

 

「……………………」

 

 士官の三人は思想に走る、熱い眼差しを憂いているスマイラスに向ける。

 

「(まったく、これだから若者たちは……)」

 

 スマイラスは憂いている()()をしながらそう思い、思わずにやけそうになる顔を引き締めた。

 

 さて、以前にレイラの父親をスマイラスがテロに見せかけて葬ったことを覚えているだろうか?

 

 スマイラスは静かで冷徹な野心家である。

 何せ、彼は自分で『親友』と宣言していたブラドー(レイラパパ)をライバル出現の疑惑と嫉妬から殺害し、周りの者たちを良いように利用できるよう物事を進めてきた。

 

 時には友軍に間違った情報を与えたり、時にはユーロ・ブリタニアに情報を売ったりなど、自分のためならば何でもするのはスマイラスにとって日常茶飯事である。

 

 例えば、“皆にとって『子供』と『大人』の区別は?”という問いをしたとしよう。

 どのような答えが返ってくるだろうか?

 

『国に決められた成人年齢』。

『飲酒、タバコ、保護者がいなくても自分で判断できる歳。』

『社会に、貢献出来ているかどうか。』

 

 そのような考え方を、スマイラスはしていない。

 

 彼にとって区別の仕方は『認識』である。

 スマイラスの返答はこうなるだろう。

 

『若者は純粋な正義感に燃えたり、世論を理解せずに分不相応な未来を思い浮かべたり、論理も理屈も関係なく矛盾だらけの理想を抱いた者達のこと。

 大人とは世間や環境と自身の限界をありのままで受け入れ、現実に対応する者たちで若者たちの能力を最大限に活かす立場にある』、と。

 

「(現実を理解していないからこそ、利用しやすい。 そしてそのことに気付けば今度は次の世代をその者たちが利用する。)」

 

 現在のスマイラスは何度も夢に描いたシナリオが来たことに、愉悦を感じていた。

 EU連合軍の大半は無能さを晒し、政府の上層部は保身からすぐさま市民を見捨て、民衆は怯えと混乱から目を背けるために暴走している。

 

 状況はまるで、フランス革命の再来である。

 

 確実に違うことは、EUが弱ったこの機会に便乗してユーロ・ブリタニアが攻め込むことだろう。

 

「(ならばをそれを利用するまでだ。 信用を失った者たちを押しのけても反論はでてくるまい。 不安がる市民を強い確固たる理念の下で一致団結させ、強大な敵に一致団結して果敢に挑めばいい。 かつての『ジャンヌ・ダルク』のように。)」

 

 スマイラスは緩まる表情筋に力を入れ、覚悟を決めたような眼差しを部屋にいる士官たちに向ける。

 

「諸君らがEUの未来を案じ、憂い想う気持ちしかと心得た。」

 

「「「おおおお!」」」

 

 スマイラスは立ち上がり、机の上に置いてある英雄譚の本からはみ出したブライスガウの家族写真を見る。

 

「(レイラ、私が今まで面倒を見てやった借りをここで返してもらうぞ。)」

 

 スマイラスは自身を、かのナポレオンになった気持ちで素早く行動に出た。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ヴェランス大公が幽閉され、ユーロ・ブリタニアの議会は皇帝から全権を委任されたジュリアス・キングスレイに全権を正式に委ねるしかなかった。

 

 でなければ、今度こそブリタニアはユーロ・ブリタニアに『反乱の気配あり』と断定してしまうだろう。

 

「(この男……)」

 

 そんなジュリアスは、シンとチェスを興じながらシンの分析をしていた。

 

「(この男は強い、認めよう。 だが自身のクイーンを守るために勝機を見過ごすとは甘い。 甘いな────)」

「────それでヴェランス大公閣下はどうなされるのですか、キングスレイ卿?」

 

「知れたこと。 いずれは皇帝陛下の御前で首を刎ねるだけの男だ。」

 

「よろしいので? ほかの四大騎士団や大貴族が────」

「────奴らに本国と戦う気概がある筈がない。 ユーロ・ブリタニアはこれから私が導いていく。 これまでのように、これからも卿にはそれを手伝ってもらうぞ?」

 

 カン!

 

 ジュリアスが力強く、まるでとどめを刺すかのように駒を置く。

 

「チェックメイトだ。」

 

「……お見事です。」

 

 少しの間だけ悩む仕草をシンはしたが、どこからどう見ても完全な負けなのは明らかだった。

 

「今の間、君は一瞬このゲームを現実に重ね合わせたのではないかね?」

 

「……」

 

 シンの表情は変わらなかったが、一瞬だけ彼の纏った空気がゆがんだことでジュリアスは笑みを深めた。

 

「君はクイーンを見捨てられず、私に敗北した。 『君には見捨てられない者がいる』、違うか?」

 

「…………」

 

「人には、誰しもその類の弱みはある。 親、兄弟、友人、恋人……だが私は違う。 私が守るべき────」

 

 ズキッ。

 

「────我が命を賭けて守るべきは────」

 

 ズキッ。

 

「────皇帝陛下、ただ、一人────ウッ?!」

 

 先ほどから自分を襲う頭痛のようなものをジュリアスは無視していたが、とうとうこらえきれなくなって顔をしかめると自分ではない自分の声が脳に叩きつけられる。

 

 『“皇帝陛下”?! “守るべき存在”?! 奴に忠義など感じる必要などない!』

 

「がっ────」

 

 ────ガラガラガラガラ!

 

 ジュリアスは一向に強くなっていく頭痛を物理的に抑え込むように頭を両手で抱え、頭痛薬を飲もうとして勢いよく立ち上がった拍子にチェス盤の乗ったテーブルに足をぶつける。

 

「私は────()は?!」

 

「r────キングスレイ卿! シャイング卿、彼は気分が────」

 

 明らかに動きがギクシャクとなっていくジュリアスにスザクが友へと駆け寄ってシンに退室するように言いかける。

 

「────クルルギ卿。 私は『箱舟の船団作戦』を聞いたときに使われる組織、『世界解放戦線』でとある組織を連想した。 エリア11にも、似たような名前の組織がありましたね?」

 

 シンは席から立ち上がり、敵意がないかを示すように両手を挙げながらジリジリとスザクたちから距離をとっていく。

 

「そして確か、エリア11には『黒の騎士団』と……『ゼロ』と名乗るものがいましたね────?」

「────グっ?! ゼ、ゼロ────」

「────シャイング卿────!」

「────そういえばクルルギ卿がラウンズに任命されたのも、その『ゼロ』を捕縛したからですよね? “処刑された”、と聞いていますが────」

 「────グゥオアァァァァァァぁ?!」

 

 明らかにシンの言葉に苦しむジュリアスを見て、スザクは拳銃を抜いて躊躇無くシンへと構えて引き金を引く。

 

 だがこのようなことを予想してジュリアスたちが『箱舟の船団作戦』を進めている間に建物の壁を偽装させて待機していた聖ミカエル騎士団所属のサザーランドと、ジャンのグラックスが出てきてシンをスザクの撃った弾丸から守る。

 

 サザーランドたちはスザクを殺しにかかるが、彼は超人的な身体能力で攻撃をかわしながらランスロットの作動キーのスイッチを押す。

 

 すると待機させていたランスロットが簡易自動操縦モードへと移行し、室内へと壁を突き破って入ってくる。

 

 そしてスザクに近寄ると、ランスロットのコックピットブロックが開いてスザクは周りが驚いている間に素早く乗り込む。

 

「(まさか、ロイドさんが僕の悪ふざけを真に受けていたのがいい方向に転じるとは……)」

 

 実はランスロットの『簡易自動操縦モード』、以前から頭の悪そうな武器や発想(パイルバンカーや火薬式ライフルや立体機動)に対抗心を燃やし、ブラックリベリオンからずっと悶々と部屋に籠っていたロイドがスザクに『どんなにばかげたアイデアでもいいからスザクは何か思いつかないかい?!』と血走った目で迫ったのがきっかけだった。

 

 ロイドの問いに、スザクが焦りながら思わず口にしたのは『スイッチを押したらどこからともなくナイトメアが駆け付けるとか?』であった。

 

 そのアイデアはスザクが子供のころに見た『戦隊ヒーローモノから来ている』とは、ロイドはおそらく想像すらできないだろうが。

 

「相手はナイトオブラウンズだが恐れることはない! ランスロットを討ち取り、家名を上げよ!」

 

 グラックスのジャンは驚きからくる硬直をねじ伏せるように上記の通信を出す。

 

「(ロイドさん、僕のアイデアを採用してくれてありがとう!)」

 

 そして無茶苦茶なアイデアを真に受けて(ある程度)実現化させたロイドに内心感謝をスザクはする。六対一でしかも室内であることを忘れさせるほどの機動戦をランスロットで繰り広げさせる。

 

「キングスレイ卿を狙え!」

 

 そんな部屋に歩兵部隊が入ってきてはシンの指示に従って痛みに悶えるジュリアスを狙って撃つが、ランスロットはいち早く壁となってブレイズルミナスでジュリアスを守る。

 

「(ルルーシュ! 君は! 君だけは絶対に守ってみせる、今度こそ────!)」

「────誰だお前は……俺は……これは……子供のころのスザク────?」

「(────これが、本国のラウンズ!) 敵はたった一機だ────なに?!」

 

 MVSの基本装備だけですでに三機ほどのサザーランドを斬ったランスロットを前に、たじたじになるサザーランドたちをジャンは奮闘させるような通信を出そうとして、ランスロットはスラッシュハーケンを使った立体機動で素早く襲い掛かる。

 

「(あの時の指揮官機のように戦えば!*1────)」

「(────くそ、この動き! ……まさか、こいつが『幽鬼(レヴナント)』か?!)」

 

 戦闘音を聞いたのか、さらに聖ミカエル騎士団のサザーランドが来てはランスロットが応戦する。

 

 そんな激戦の中、ジュリアスには覚えのない懐かしい記憶が走馬灯のように再生する。

 

 広い寝床でばたばたとはしゃぐ〇〇〇〇と困りながら楽しい笑いを出す□□□□□□。

 暑い夏の中、向日葵畑を幼い自分とスザクがともに走る。

 〇〇〇〇が無理やり連れていかれそうになり、止めようと気を失う。

 森が。

 町が。

 人が焼けている。

 

 母が殺され、自分たちは捨てられ、やっとなじんできた平穏な日々をまたも■■■■に奪われ────

「(────誰だ、こいつは────うぅぅ?!)」

 ジュリアスは黒塗りされたような■■■■を思い浮かべようとしてさらなる頭痛に襲われ────

 ────“主義者か?”と問われ────

「(────これは、私じゃない────そう俺だ────誰だ、私は────俺、は────!)」

 ────ブ■タニ■を壊すと誓っても、どこか一歩踏み出させずにいたせいで誰かのシナリオに────

 ────困ったように友人の■■■■がはにかみながら“ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように”と────

 ────そして忠誠を誓った皇帝陛下の“貴様に新たな記憶を授けよう。 これから貴様は────”

 

 ────バチン!

 

 「俺は……俺は……ここは……ど、どこに……どこにいるんだ……ナナリー……みん、な……

 

 固いスイッチが無理やり切り替えられるような音で『ジュリアス』という殻から、生まれたてのヒナのように弱弱しいルルーシュは助けを求めるような声を出す。

 

 

 そんなルルーシュの近くにいたシンは亡くなった歩兵から通信機をとりそのまま耳にかけ、いまだに腕の伸びるギミックなどを搭載したグラックスを駆使するジャンに対してまるで物理法則を無視したような戦闘を繰り広げるランスロットに、プライベート通信を繋げる。

 

「クルルギ。 ジュリアスを────いや、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』を殺されたくなければ投降しろ。」

*1
20話のスバルより



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第113話 久しぶり(?)の暗躍と胃痛

お忙しい中、時間を割いてお読みいただき誠にありがとうございます。 <(_ _)>

もう12月とは………
今年も時間がたつのが早かったような気がするのは自分だけでしょうか………


『箱舟の船団』と名乗る合成された映像とキングスレイの策略で、EUの上層部が我先にと逃げ出したことで市民たちはパニックに陥り、それがさらに暴動へと波及していった。

 

 逃げ出す前に上層部が出した『臨機応変に応じよ』は命令系統が無いに等しく、それぞれの連合軍の部隊は好き勝手に動き出した。

 

『テロ鎮圧』の名目で敵前逃亡の保身。

『防衛拠点の設立』という名目で街を独自の判断で占拠&略奪。

『前線維持』の命令を出して自分たちも逃亡を図る士官たち。

 等々。

 

「どうだい、サラちゃんにオリビアちゃん?」

 

「どのチャンネルも塞がっています。」

「議会員たちのほうは、先ほどから応答なしか通信が落とされます。」

 

「でしょうねぇ~。 多分、トンズラこいてんじゃないのかねお偉いさんたちは?」

 

 wZERO部隊の作戦室に至急召集されたサラとオリビアがクラウスに返事をし、彼は『やれやれ』といった態度のままレイラへと振り返る。

 

「ね、司令?」

 

「では、次は保安局部にかけて下さい。」

 

 そんな混沌化したEUの中でも、ジュリアスの奇策が発動された直後のヴァイスボルフ城では、孤立した(させられていた)wZERO部隊は客観的にこの騒動を見てユーロ・ブリタニアの仕掛けた心理戦と見抜き、レイラはどうにかしてそれを各EUの大都市に伝えようと頑張っていた。

 

「で、傭兵さんの見立てではどうなんです? 司令の今やろうとしていることは?」

 

 クラウスは副司令官のコンソールから、作戦室の端で静かに立っていたスバルへと近づいては飄々とした態度で問いを投げる。

 

彼女(レイラ)でも家族から連絡があって初めて行動に出られたことが、何よりの証拠だが?」

 

 最初こそ、wZERO部隊も犯行声明と思われしき映像と次から次へとSNSの書き込みに、今では放送中断となってから復旧しないメディアで流されていた暴動でテロ攻撃を真に受けそうになっていたが、とある男からの必至な説得でレイラは“すべてがブラフ”という確信を得た。

 

 その男とは、レイラの許嫁であると同時に義兄のヨアンだった。

 最初は彼も映像を信じていたが、実際に洋上発電所で働いていた知人が人づてに映像のことを聞き、大至急ヨアンに連絡を送ったことで、やっとヨアンもこれがユーロ・ブリタニアの策略と気付いた。

 

 マルカル家は工場や銀行が暴徒に襲われていて自分たちの事でいっぱいだったのに、ヨアンは純粋な『家族としての心配』からレイラに連絡を取ったのが幸運だった。

 

 余談だが、彼がレイラを『政略結婚で得た政治の道具』ではなく『家族』として見始めたきっかけは些細なモノだった。

 三男のヨアンは優秀な結果を既に出している兄たち、ダニエルとステファンといつも比べられている所為で不貞腐れていたが、そんな彼をレイラは養女として引き取られて間もない時はヨアンにだけ懐いていた。

 

『懐いていた』、と言っても距離を取りながら彼の後を追う程度だが。

 

 最初はそんなレイラを何とも思っていないどころか『ウザイ』とまで評価していたのだが、『新生(貴族の)マルカル家の家族写真』を未来のため撮る時に無表情のレイラが、ヨアンの指をギュッと握ったところから彼はレイラが『自分のように家族愛に飢えている』と感じた。

 

 そこからのヨアンは、再びやる気を出しては任された会社や商談に力を入れたが次々と失敗していき、次第に成功ばかりして自分と比較されるレイラに拗らせた嫉妬を感じるようになってしまったが。

 

「(ま、いわゆる『歪んでしまった愛』って奴だな。 原作を見ている限りは。) おそらくだが、どこに伝えようともよくて“半信半疑”だろうな。」

 

「そんなおたくは司令を止めようとしなかったの?」

 

「……言って彼女が止まると思うか?」

 

「んー……それもそっか!」

 

「(う~、胃がもう痛みだす……)」

 

 これからのことをスバルは思い浮かべ、キリキリとしながら荒れ始める胃に手を置く。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「パリやEUの大都市で起きている大停電の原因は流された映像による、洋上発電所の爆破ではありません。 北海の発電所は今も無傷で存在します。」

 

 場所は変わり、ワイバーン隊やwZERO部隊全員が作戦室に召集されていた。

 

「SNSや、掲示板に書き込みがあるのは?」

 

「デマなんじゃない? 人間って生き物は不幸な事に強い拒否反応をするから事実を確かめもせずに『自分だけが変じゃない』って理由だけで噂を広げて周りの反応を見たがるし。」

 

「それにネットやマスメディアなどの類は本来、大衆の情報統制やコントロールする為に作られている。」

 

「つまりは一種の『洗脳』ってことだよ、アヤノ……それに気付くなんて、やっぱアンタは面白いね♪」

 

「(う……腹がさらに……)」

 

 アヤノの問いにユキヤが答え、更にスバルが言を付け足すとユキヤのニタニタした笑みが深まる。

 

「えっと? つまりあの流れた映像は────?」

「────巧妙に手が加えられた、偽の動画です。 これは恐らく、民衆の恐怖や不安を駆り立てて国を混乱に陥れる作戦と思われます。」

 

「じゃあ、あの『箱舟』も存在しないってことか?」

 

「いいえ。 『箱舟』は存在している筈です。」

 

 結局殆んど通信が繋げられないまま、wZERO部隊は独自で敵が行うと思われる作戦の第二段階を阻止することを決めていた。

 

 “箱舟は存在する”と言われたアヤノたちの『どゆこと?』視線にレイラが説明するのは、この状況の中で、もし未確認の飛行物体がEUの上空に現れれば一気に状況は悪化し、EU全土が取り返しのつかないほどの無法地帯へと化してしまうこと。

 そして暴動を終結させるには『箱舟』の正体を明らかにさせ、『脅威は排除された』と示すことも。

 

 もし空軍に連絡がつければ話は簡単なのだが、指揮系統は乱れたままで頼りに出来ない。

 よって、『アポロンの馬車』を使ったワイバーン隊が降下し、敵の飛行船にとりつくこととなる。

 

「そして、このような作戦を考えるような敵は多分……私たちのような部隊を予測していない筈がありません。 それに海上を飛行中ですので、危険は────」

「────俺は当然いくぜ────」

「────俺が一人で行く。」

 

 リョウが勢いよく志願すると、アキトが珍しく彼の言葉を遮った。

 

「あ?」

 

「聞こえなかったか? “俺が一人で行く”と言った。 お前たちじゃ、足手まt────」

 

 ────バキッ!

 

「格好つけていんじゃねぇよ、このキザ野郎! せめて本当の理由を言えよ!」

 

 自分を殴ったリョウをアキトは見て口を開けそうになるが、アヤノの方を見る。

 

「……言ったらそれでも殴るのか────?」

 「────当たり前だろうが?!」

 

 すると案の定、彼女は目を泳がせてそっぽを向き、何かを悟ったかのようにため息を出す。

 

「ハァー……好きにしろ。」

 

 「はなっからそのつもりだ!」

 

 リョウの言葉にアキトは振り向かず、ただ退室する。

 

「(ん? なんか思っていたのと違う? ここで殴り合いにならないの?)」

 

「それで? シュバールも来るんでしょ?」

 

 未だに他の者たちと違って、さん付けをしないユキヤの質問にスバルは頭を横に振る。

 

「いや、今回の俺は留守番だ。」

 

「「「え?!」」」

 

「あ?! どういうことだテメェ?!」

 

「どうもこうも……“別件で留守番をする”と言っているのだが?」

 

 

 


 

 

 いや、なんで(スバル)が『一緒に行かない』ってだけでビックリするんだよ?

 元々俺はワイバーン隊じゃないのをすっかり忘れているな、これは。

 

「忘れたか? 俺は元々傭兵だ。 初期の依頼内容は『ワイバーン隊が自立行動できるまでのサポート』だぞ?」

 

 原作と違って元祖ワイバーン隊の二人もいるし、原作通りで行くと相手は無人機型のサザーランドとアフラマズダとか言う機体の筈だ。

 

 それにアフラマズダは確かユキヤが射撃で牽制して、アキトが機動戦で翻弄するだろう。

 各専用機のアレクサンダもプチパワーアップさせたし、大丈夫なはずだ。

 

 大丈夫じゃないのは、ヴァイスボルフ城の方だ。

 ワイバーン隊が全員出払うと、実質上ここの守りがハメルの警備隊のみになる。

 それに……いや、今は迂闊な言動は控えよう。

 

「「「「………………」」」」

 

 いや、そんな『捨てられて雨に濡れる子犬のような顔』をされても困るがな。

 

「お前たちは十分『部隊』として機能出来ている、まだ気付いていないだけだ。」

 

 それを最後に、俺は作戦室を後にする。

 

 少しきつい言い方かもしれなかったが……実はこのwZERO部隊には『内通者』がいる。

 そしてその内通者から得た情報をもとにヴァイスボルフ城が手薄になったところを、聖ミカエル騎士団を率いたシンが総攻撃をかけるのだ。

 

 しかも悪いことに、この時に()()が出る。

 

 今までwZERO部隊に死者を出さなかったんだ、ようやくここまで来て誰かに死なれては困る。

 

 というわけで俺は今日も肥料、硫黄、四塩化炭素(プラスその他)を混ぜよう。

『なんで』かって? 無論、火薬製造のためにだ。

 

 ヴァイスボルフ城に来てから『パイルバンカーのカートリッジ用』という建前で火薬を作ってもらって(くすねている)いるが、俺の考えている作戦内容ではいくらあっても足りない。

 なので生産量を増加してから俺自身も作って、内通者に疑われない程度に前回使ったものとは違う抜け道で城外に出てから────

 

「────シュバール────」

 ────ドキーン

 

 ポツンとした通路の影の中からアキトがジャジャジャジャーン?!

 

 ドロー! ポーカーフェイスカード、発動!

 

「なんだアキト?」

 

 ドキドキドキドキドキドキ。

 

 静まれい、マイハートォォォォォ!

 

「お前が同行しない()()()()()はなんだ?」

 

 ドキッ。

 

 Oh(おぅ)

 流石『亡国のアキト』の主人公、聡いな。

 けどアキトになら良いか。

 

「前回の作戦、妙と思ったことは何か無いか?」

 

「森に着地して間もなく敵に砲撃されたことか?」

 

 その通りだけどちょっと怖い────って、アキトは天然で結構鋭かった設定だったなそういや。

 

(ほぼ)無口なだけで。

 というかこいつ、CCに似て『大切なモノは遠ざける』タイプだった。

 

「ああ。 俺の勘だが……敵はワイバーン隊の移動手段を予測している可能性がある────」

「────なるほど、守りの為に残るのか。 もしかして契約の更新を司令としたのか?」

 

 1を言って10の内8割をすぐに理解するアキトが怖いでござる。

 

「悪い予感がするからな。 杞憂に終わればいいが……もしそうでなかった場合、お前たちの帰る場所が危ない。 だからアキト────」

 

 ポスン。

 

「────あいつらの事を頼む。」

 

 俺は両手をアキトの肩に乗せながら、彼の目を真っ直ぐ見ながらそう頼むと一瞬だけ彼が迷うような素振りを見せる。

 

 まぁ無理もないわな、『自分だけが生き残る』っていうサバイバーズギルトから今まで他人に頼ることも頼られることもアキトは極力避けてきたわけだし。

 

「俺は、そんな────」

「────お前……いや、お前たちならできる。」

 

 ここは少し強引にでも背中を押すか。

 

「いいか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()。 それに()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「??? それは、いったい────?」

「────早く行って戻って来いよ、アキト。」

 

 俺はさっきからドキドキとうるさい鼓動が震えとなって身体に出てくる前にその場を後にする。

 

 正念場だ、やることは文字通りに山ほどある。

 

 俺も。

 アキト達も。

 そしてプラン通りに動いてくれているのなら、毒島()も。

 

 

 


 

 

 

『シュバールから預かった言葉がある。 “動きまわっていれば当たることは無い。” それと“当たってもすぐにやられることは無い”……だとさ。』

 

『ええと?』

『なんだそれ?』

『つまりはどういうことだ?』

 

『アポロンの馬車』に乗って待機しているワイバーン隊の隊内通信でアキトがそう告げると、リョウたちやイサムたちがハテナマークを浮かべるような声や返答(?)を出す。

 

『んー、僕の勘では機体の装甲に関係しているんじゃないかな? ほら、前に乗った時となんとな~く違うでしょ?』

 

『『『そうか?/かな?』』』

 

 ユキヤの言う『違い』を殆どの者たちは見落としていた、あるいは気が付かなかったがその通りだった。

 

 通常のナイトメアだと機動戦を前提にした軽金()装甲なのだが、今回相手をすると(原作知識で)想定したサザーランドや特にアフラマズダに対しては心許ない。

 

 アフラマズダは以前に記入したように、『拠点防衛』の名目でユーロ・ブリタニアが秘密裏に開発していた機体で、両腕に連結している三連装大型ガトリングガンと、従来のナイトメアより優れた『シュロッター鋼』と呼ばれる装甲に、ガトリングガンの短所である弾切れを消すほど大型なバックパックに詰め込まれた予備の弾数。

 

 スバルからすれば『どこのオペレーション・メテオ発動直前に本来のパイロットを殺害して名前を借りた少年兵の機動兵器だよ』と思わず口にしてツッコミたい衝動を押さえ、彼はwZERO部隊が保有しているエレメント(3D)プリンターを最大限に使ってほぼカスタムメイドの複合装甲で出撃するアレクサンダたちを覆った。

 

 最初は『チョバ〇アーマーでいけるかな? アレクサンダ(アレッ〇ス)だけに』と思っていたのだが、流石にデコボコの装甲形状だと落下時の慣性飛行に支障が出る為、重量や慣性飛行機能をほぼ変えずに強化できる複合装甲へとフレームを転換していった。

 

 その様子を見ていた技術部は、元々機体専門なので彼のやろうとしていたことを理解はできて手伝ったが、その発想に感心したそうな。

 

 何せコードギアスでの陸戦主流兵器は現代とは違い、戦車からナイトメア(人型強襲)へと変わり、戦闘の前提も『いかに相手の機動力(ナイトメア)に対処するか』となっている。

 

 技術部含めて、改良されたアレクサンダに乗っているアキト達もこのことを知る余地もないので、後にこの複合装甲がどれだけ革新的か肌で感じることになる。

 

「ハーックショイ!」

 

 そんな彼は、肌寒くなる冬一歩手前の森の中で盛大にくしゃみをして、思わず手に持っていた筒のように加工したボール紙を落としそうになるが、やっとのところで持ち直してから曇り始める空に突っ込んでいく『アポロンの馬車(ロケット)』を見上げる。

 

「(あー、これは雪が降るなやっぱり。 積もる前に仕掛けを終わらせないと……そしてちょうどスマイラスの野郎がわざとらしく連絡を入れてくるはずだ。)」

 

 スバルの胃痛が増す要因がプラスされる一連、スタートである。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ワイバーン隊が以前のスロニムより荒く、ほぼゴリ押しの最短かつ最速ルートで打ち上げられた『アポロンの馬車』から見る宇宙や世界を堪能する時間もなく『箱舟』の『ガリア・グランデ』に降下している間、その内部でアフラマズダに乗っていたアシュレイは待ちかねていた。

 

 飛行船を阻止するために、来るはずの『ハンニバルの亡霊』たちを。

 

 否、正確にはアシュレイが待っていたのはスロニㇺで彼を追い込んでいた『死神』だった。

 

 原作と違い、部下であるヨハネは死ななかったのでアシュレイは復讐に走る筈はないと思うかもしれない。

 だが、ヨハネは長い年月と苦労をしたことで、彼やこの世界の基準ではかなり名誉のある『騎士』にやっとの思いで就いていたが……

 その職を、ヨハネが続けられるかどうか怪しい状態になったのはある意味、死ぬことよりも酷い結末だった。

 

 そんな彼のアフラマズダのモニターに、『ガリア・グランデ』に取り付けられた外部カメラから降下してくるアレクサンダ達のイメージが入ってくる。

 

「やっとか。 待ってたぜ、死神どもが。」

 

『運こそ戦場で絶対』と思っているアシュレイでもそれなりに自分の腕や洞察力に自信は持っていたし、敵が来る前の運試し(ロシアンルーレット)にも機体にも不調はなかった。

 

 それなのに負けただけでなく、仲間(ヨハネ)は重傷を自分の所為で受けてしまった。

 

 アシュレイがモニター越しで見ていると、敵のアレクサンダ達は一気に『ガリア・グランデ』の内部に侵入して無人機となったサザーランドたちと戦闘を開始する。

 

 この前のスロニㇺをEUから再奪還した際に確保して本国に送った数機以外の敵のナイトメア(アレクサンダのドローン)を解析し、技術の応用で作られたサザーランドたちは有人と大差ない動きをしていた。

 

 スロニㇺの作戦でwZERO部隊の作戦の前に、AIの最適化されたのがここで今度はワイバーン隊を襲うが────

 

「────そうだよなぁ! テメェには通用しねぇよなぁ!」

 

 アシュレイはゾクゾクしながら注目していた一機のアレクサンダは銃撃の中を、まるでものともしないまますべてを避けるのを見て、アフラマズダの武装を起動させてはガトリングガンを撃つ。

 

 ガトリングガンの攻撃をアキトのアレクサンダはかわすが、射線上にいたサザーランドの回避は間に合わずダメージに耐えかねて爆発する。

 

 アシュレイは元々、無人のサザーランドに期待していたのは()()()()だけだった。

 

「吹き飛べぇぇぇ!」

 

 アフラマズダは本来『集中砲火』を設定にデザインされていたが、アシュレイはジャンのグラックスに使われたアームギミックを取り入れて各ガトリングガンがAIを使用した独立で狙いを定められるようにマイナーチェンジを施していた。

 

 これにより、二点しか狙えられない武装を見事に六点に増やされて張りぼてである『ガリア・グランデ』の内部を上手く利用していたアキトのアレクサンダに何発か当たってしまう。

 

「どうだ────ってほぼ無傷かよ?!」

 

 だがアフラマズダの弾が当たった個所は壊れず、強いて言うのなら表面が焦げたような跡を残しただけにアシュレイは自分を襲う『焦り』を『期待』に変えていた。

 

「(なるほど。 ユキヤの言っていたように、機体の装甲にシュバールが何か手を加えたのか。)」

 

「ウロチョロしやがって! いい加減にくたばりやがれ!」

 

 そんなアキトも内心感謝していると、アフラマズダは足場としている鉄骨などを崩落させて行動範囲の制限を試みる。

 

「(だが『完璧な装甲』などはない。 それに奴の照準が皆に移るとも限らない、早く終わらせないと……)」

 

 対してアキトは無人機たちに応戦するリョウたちにアフラマズダの注意が変わらない間に短期決戦を狙うため、アフラマズダと並びながら走って激しい攻防を続けた。




時間が見つかったときに携帯で入れた文の投稿が続くかもしれません、申し訳ございません。 (汗


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第114話 エンドレスじゃないワルツ

お忙しいところの感想、お気に入り登録、誤字報告、誠にありがとうございます!
お手数をお掛けになっております! m(_ _)m

相変わらずの携帯投稿ですが楽しんでいただければ幸いです!


『ガリア・グランデ』内部でワイバーン隊がアフラマズダと無人機のサザーランドと交戦していくうちに、足場は次々と無くなっていき『ガリア・グランデ』も少なくはないダメージを受ける。

 

 だが止まらない。

 

 アフラマズダが撃つ銃弾が雨霰のようにアキトたちのアレクサンダを襲い、彼らはそれに応戦する。

 

 アレクサンダのリニアライフルが直撃しても、アフラマズダの装甲はシュロッター鋼を使っている為せいぜい目くらまし。

 狙撃担当のユキヤ機が遠距離かつ最も貫通力の高いライフルを使っても、アフラマズダがよろける程度。

 だが接近さえ、白兵戦に持ち込めば勝機はある。

 

 半面、アフラマズダの弾丸を『数発程度』受けてもアキトたちの乗る機体に大したダメージは与えられないが、『数発以上』さえ当てれば致命傷となる。

 

 この微妙な均衡状態が崩れたのは────

 

 ガァン

 

「ぅ?! (野郎! 右腕のガトリングガンを?!)」

 

 ────サザーランドたちの数がほかでもないアシュレイの手で減らされ、余裕ができたリョウたちはシュロッター鋼が使われていない部位を狙い始めたところから始まった。

 

 そして、アフラマズダはガトリングガンの短所である『弾切れ』を拡幅するため、予備のマガジンを背負っているが『有限』であることに変わりはなく、このことを勝機と見たアキトは単騎で直進していく。

 

 アフラマズダはただの鉄の塊となったガトリングガンを捨て、腰から予備の二連装大型リボルバーを両手に持っては撃ち始める。

 

 ガトリングガンより口径が大きいそれらは、今度はこれまでのダメージを蓄積していたアキト機の装甲を破り始めていく。

 

死ね。

 

「ウッ?!」

 

 アキトの脳内に、シンから受けた呪い(ギアス)が身に迫る危険に乗じて発現すると、アキト機は装甲をはがされていく中で突撃するスピードが加速する。

 

「なんなんだよ、テメェは?!」

 

『死兵。』

 

 そうアシュレイは口にしたが、目の前のアキト機の様子からぴったりな単語が浮かび上がると嫌な汗が増して、敵のトンファを大型リボルバーで受け止め、重量と出力で勝るアフラマズダでアレクサンダをつかんで一気に足場から共に飛び降りる。

 

 いくら装甲の性能が良くても、もしアレクサンダがアフラマズダの下敷きなどになれば、質量の差で平気ではすまない。

 

「アキト!」

 

 アヤノは先ほどアフラマズダの注意を引くために少々無理をしてほかの者たちより接近していたため、この様子を見て思わず彼の名を口にする。

 

 死ね。

 

「ッ……今のは────?」

 

 

 ドガァン!

 

 アフラマズダの重量と機動力のなさは予想を超えていたのか、途中で『ガリア・グランデ』の内部に数ある鉄骨に衝突してしまい、アキト機とアフラマズダは強制的に互いから引きはがされる。

 

 アシュレイは無理やり取り付けた剣を抜いて応戦するが、アフラマズダは元々火力特化させた動く砲台でアレクサンダの動きについていけるわけがなく、どんどんと追い込まれていく。

 

 剣を振るうより早く頭部(メインセンサー)を蹴られて損傷し、トンファで胴体を叩かれ、機体が誇るパワーを上手く活かせないままアシュレイは追い込まれていく。

 

 精神的にも、物理的にも。

 

 ようやくアフラマズダはサクラダイトを輸送するためのコンパートメントブロックに落ちてしまい、背中を壁に預けるように立ち上がったところでアキト機が襲う。

 

 ジワジワと、まるで抵抗する獲物をいたぶるかのようにアフラマズダの武器を破壊してから、手首、肘、腕とアキト機が引き千切っていく。

 

 各部に異常を報告するアラームはアフラマズダだけでなく、無茶な機動を描いていたアキト機でも鳴っていた。

 

「さぁ、俺を早く殺せよ────!」

 『────死ね。────』

「────でないと、テメェが死ぬんだぞぉぉぉぉ?!」

 

「ヤッッッロウゥゥゥゥゥ!」

 

 まさに背水の陣という状況でもアシュレイは諦めず、気迫からくるがむしゃらな抗いで頭突きをアキト機に食らわせてフェイスカバーを砕かせる。

 

「そうだ! 俺を殺せ! 殺せよ!」

 

 だがアキトの胸は逆に高ぶった。

 

 ()()()()()()()()()()()()という興奮から。

 

「フ、フフ……フフフフフフフフフフフフフフフ!」

 

 コックピットを開けてから、アキトは殺す(死ぬ)ため得意な(死にやすい)接近戦を挑むのか、トンファと備え付けられたパイルバンカーでアフラマズダを襲う。

 

 パイルバンカーを以前に見たことがあるのでアシュレイはそれを警戒して躱し、トンファも無理やり弾く。

 

「死ねぇ────!」

「────機体のハッチを開いただと?! (違うそうじゃねぇだろ俺! 腕からの仕込みナイフが────!)」

 

 だがトンファが弾かれた腕から伸びたウルナエッジ(手首の仕込みナイフ)は原作と違って初見のため、躱すどころか一瞬の戸惑いからくる硬直でアキト機を見ていた。

 

『『『『アキトォォォォォ!』』』』

 

 リョウ、アヤノ、そしてほかのワイバーン隊からくる通信越しの叫びとBRSを経由した本心からの感情(思いやり)がアキトの中に流れ込んでくると、アシュレイのいるコックピットブロックを狙った刃は軌道を変えて当たる。

 

「ぐぁ?!」

 

 限界を超えたアフラマズダが倒れた拍子に、シートハーネスを着用していなかったアシュレイは、開かれた空き缶のようなコックピットから外へと放り出される。

 

「グ……この……テメェの所為で、ヨハネは────!」

 

 死ななかったものの、重症のまま彼は立ち上がってはリボルバーを構えては何発も撃つ。

 

 ケガと衝動的な行動ゆえに、ハッチを開いたままにしていたアキトに当たらず、アレクサンダの装甲に弾かれていく。

 

 アシュレイはようやくこのことに気付いたのか、リボルバーに内蔵されたレーザーサイトにスイッチを入れて、今度はアレクサンダ内から露出したアキトの頭を狙ってから引き金を引く。

 

 カチン!

 

 引き金を引いたリボルバーから、撃鉄が空の薬室を打つ音が辺りに響くと、アシュレイの維持していた緊張感は一気に薄れていく。

 

『戦で一番大事なのは“運”』と思うアシュレイは、アキトに対して『運』でも負けてしまったことに、その場でよろけそうになった体で座り込む。

 

「……ついていなかったのは、俺か。」

 

 操縦技術、機体、そして運でも負けたことに、アシュレイはいっそう清々しいまでの心境を感じていた。

 

 そんな時、アフラマズダから発される信号がなくなったことで『ガリア・グランデ』の各部で仕掛けられていた爆弾が一斉に爆発した。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 時間を少し巻き戻そう。

 

「司令! 軍統合本部から緊急通信です!」

 

 ちょうど、ワイバーン隊が『ガリア・グランデ』に降下し始めた時にまで。

 そして、スバルが『自分の機体の様子を見てくる』と言って退室したタイミングで、wZERO部隊にやっと軍の上層部から連絡が来たことに、ヴァイスボルフ城の作戦室はざわめいた。

 

「統合本部? いったい誰からですか?」

 

「スマイラス将軍から直接回線です!」

 

 「え────」

 「ウソ────」

 「誰かまだいたんだ────!」

 「よかったぁ~────」

「────ッ。 メインスクリーンへ!」

 

 室内のそこかしこから聞こえてくる、安心するような子声にレイラも同意しそうになるが『自分は指揮官』ということを思い出して職務に見合う言動を続けた。

 

 高々度観測気球からほぼリアルタイムで送られてくるワイバーン隊と『ガリア・グランデ』を映し出していた作戦室の巨大スクリーンが、疲れた様子のスマイラスを映し出す。

 

「ご無事でしたか、スマイラス将軍。」

 

『私はな。 だがもはや政府も軍も機能していなく、パリでさえも騒乱状態だ……だが私は逃げない。』

 

 さっき安心し始めた皆はスマイラスの言ったことに、冷たい何かが胸に入ってくるような感覚を感じ始めたのを悟ったのかスマイラスの言葉にホッとする。

 

「将軍、今回の騒乱の原因となった映像などは、恐らくユーロ・ブリタニアが仕組んだ謀略です。」

 

『証拠はあるのかね?』

 

「未確認の飛行物体に現在、ワイバーン隊が突入作戦を実行中です。 敵ナイトメアも確認していますが、飛行物体自体に戦力や脅威は確認されていません。 このことを、市民に伝えれば────」

『────レイラ。 人は常に不満を吐き出すきっかけを待つ生き物、人の性だ。 いまさら事実を伝えても聞き入れてもらえるかどうか……』

 

「ですが、可能性はまだ残されているはずです! 諦めては変わるものも変わりません!」

 

 スマイラスは目を閉じて、考えに耽りながら腕を組みこと数秒間後に彼は口を再び開けた。

 

『…………………………君ならば可能かもしれない。 いや、()()()()()()可能だ。』

 

「「「「「え?」」」」」

 

 レイラ本人も、作戦室にいたwZERO部隊の者たちもキョトンとする。

 

『私の親友、そして君の父であるブラドー・フォン・ブライスガウは、亡くなって10年経った今なおも人々から慕われている。』

 

 驚愕するような事実がポロっと暴露されたことで、作戦中だというのに、wZERO部隊の者たちはコンソールから視線をレイラへと移す。

 

「しょ、将軍────」

『────“レイラ・マルカル中佐”ではなく、“レイラ・フォン・ブライスガウ”としての言葉なら……人々に届くはずだ。』

 

 ……

 …

 

 世界でも、ブリタニアの古き首都ペンドラゴンより近代化してなお同等の美しさを誇るパリは、暴動で地獄絵図と変わっていた。

 

 暴徒化した市民や公安はそれぞれ好き勝手に、各々の欲望や願望のまま振舞っていた。

 

 そんなパリの各地で設置されていた公共広告用の巨大スクリーンは『政府からの報道をお待ちください』からレイラへと変わる。

 

『ユーロピアの市民の方々に、お伝えしたいことがあります。 ユーロ・ブリタニアの情報操作に乗って、騒乱を行うことの愚かしさに気付いて下さい。

 私たちは秘密裏にユーロ・ブリタニアと戦っている特殊部隊です。』

 

 最初はこの変わりように暴徒たちは興味を示さなかったが、彼女の容姿と画像が次第に公共広告用の巨大スクリーンだけでなく、携帯や無線機にラジオなどの機器を通してEU全域に広がっていったことで注目を浴び始める。

 

『しかも、兵士として最前線で戦っているのは私たちがイレヴンと呼んで強制的に隔離している日本人たちなのです────』

 

 レイラの放送に耳を傾けながらも暴走を続けたい者たちは、日系人たちがいるはずの強制収容所を思い出してそこを目指し始める。

 

『────私たちは、仮想敵であるブリタニアに対する恐怖から自らの意思で日本人の自由を奪っています。 ブリタニアは同じ恐怖で市民を支配し、混乱に便乗して軍事侵攻占領しようとしているのです────』

 

 暴徒たちはようやく日系人たちがいるはずの収容所()にたどり着き、頑丈に絞められた扉を無理やりこじ開けようと重工器具を使い始める。

 

『────映像で見た飛行兵器は存在しません。 それどころか、洋上発電所は無事です。 この混乱の元凶である映像は巧妙に捏造されたものです。 なぜこんなことで傷つけ合うのですか? 人間とは、こんなにも悲しいものなのでしょうか?』

 

 ……

 …

 

「そうだよ。 人間とはどうしようもなく、愚かしき生き物なのだよ。レイラ・フォン・ブライスガウ。」

 

 そんなレイラの心からくる真摯な演説を、比較的に被害や遺体が少ないパリのチュイルリー公園の中で立ちながら見ていたとある男が、ナルシズム満載の口調で会話をしているかのように独り言を言い放つ。

 

「心優しき乙女である君は私の花嫁とは違うが、やはり見目は良いものだな。」

 

 ……

 …

 

『憎しみに支配されてはいけません、私たちは何ものからも“自由”であるべきです。 ですが責任が伴うのも忘れてはいけません。 “人”が“人らしくある為”に、この世界をより良きものにする為に。

 それが、EUの掲げる“自由”だと、私の父、ブラドー・フォン・ブライスガウは信じて皆様に伝えていました。』

 

「ブライスガウ議員の娘が────」

「────生きている────?」

「────あんなに大きくなって────」

「────本当に?」

 

 ここでようやくレイラが誰なのかを(ほの)めかしたことで、ほとんどの市民たちの注目が一気に『願望』や『欲望』などから離れていき、近くの通信機器に魅入られる。

 

『今こそ────いいえ、今だからこそ“真の自由を”私たちは手にしなければならないのです! 私は諦めも逃げもしません! 

 私の名は、レイラ・ブライスガウです!

 私は、皆さんと共にあります! ですから────!』

 

 ────ブツン。

 

 急にレイラの放送が途切れてノイズに代わると、彼女の言葉に耳を傾けて落ち着きを取り戻しつつあった市民たちに動揺が走る。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「私の名は、レイラ・ブライスガウです!  私は、皆さんと共にあります! ですから、諦めないでください! 恐怖や不安などから逃げるために、自由を手放さないでください!」

 

『ありがとう、レイラ。』

 

「……ふぅー。」

 

 スマイラスとの通信が切られると同時にEUへの通信が終わる合図となり、レイラは人生で初めて大衆に向けた演説から精神的疲労がたまったのか、思わず長いため息を吐き出す。

 

「敵ナイトメア部隊、沈黙!」

 

「あとは『箱舟』を────」

 

 ────ビィー!

 

 やっと一息ついたと思えば、今度はアラート音が響いてワイバーン隊のアレクサンダとパイロットスーツからの反応と生命反応が消える。

 

「え?!」

「シグナル消えました!」

「『箱舟』も同時に消えた模様! 再スキャンします!」

「ま、まさか……自爆?」

 

 サラたちが狼狽えながらも職務に励んでいると、気弱のジョウ・ワイズが脳裏をよぎった考えを口に出しそうになる。

 

 ある者は必死にキーボードを打ち続け何度も生存の確認を行い、ある者は死んだと思い悲しみ涙し、ある者は手を止めて現状を見つめる。

 

「チッ。」

 

 そんな中、クラウスは舌打ちをした。

 

 彼は元々『やる気ゼロ、関心ゼロ、常にある程度の酔いに浸っている』というわけもあって左遷先がwZERO部隊だったが、アキトたちとの付き合いも長くなった上に酒を『不味い』と感じた彼は情が移っていた。

 

 あまり頻繁にかかわろうとしなかった為に『友』と呼べないほどにしろ、『知り合い』という程度だが。

 

 作戦室の入り口で、いつでも動けるように待機していたハメルでさえも『信じられない』という表情を浮かべながら固まっていた。

 

 誰が見ても、堅物である彼が少なからず仲間意識をリョウたちにも持っていたことが伺えた。

 

 レイラの足が諤々として力が抜けそうになるが────

 

『────司令、こちら森の中にいるシュバールだ。 敵のナイトメアが一直線にそちらへ向かっている────』

 

 ────そして、シュバール(スバル)の通信から数秒後に先ほど消したアラーム音が再びなると同時に、作戦室のモニターはヴァイスボルス城周辺の森を映し出す。

 

「ぁ────警戒ラインを突破した識別不明機が────!」

「────こっちに向かってくるのか?!」

 

 オリビアの焦る声にクラウスが思わず()()()()()反応してしまう。

 

「は、はい! 恐らく、ブリタニアの偵察かと────!」

『────こちらシュバールだ。 見えている敵ナイトメアは二機。 一機はスロニ厶で見た四脚の奴と、もう一つは大型キャノン砲らしい武装をしている。』

 

「ぁ……ぇ────」

 「────何ボサっとしてんだマルカル司令?! 敵が来た、指示を出せ! あんたにはその責任があるだろうが?!」

 

 本来司令が反応できない状態に陥れば副官が代わりに指示を出すものだが、クラウスはレイラと自分では雲泥の────否、月と亀ほどの差があるのは否が応でも理解している。

 

 クラウスはタジタジとするレイラを睨んで叫ぶと、彼女はハッとして固まっ(フリーズし)ていた思考を巡らせる。

 

「て、敵は二機ですか?! 距離と位置は?!」

 

「センサーでとらえられているのはやはり二機だけです!」

「位置は北東、時速140キロでなおも森を通っています!」

 

「(もしシュバールさんの目撃情報を配慮すると、敵の指揮官が自ら強襲偵察……いえ、ここに到達すれば全滅も十分あり得る!) 防御システムを起動! 敵の侵入を全力で死守します! シュバールさん、ヴァイスボルス城にすぐ戻ってください!」

 

『ああ、今最後の仕掛けをし終えたところだ。 俺のことは構わず、全防衛システムを作動して()()()()をしてくれ。』

 

 この“時間稼ぎ”という単語に、ほとんどの者たちは気にせず自分たちのできることを実行に移していた。

 

「ッ。」

 

 数少ない例外のクラウスは、のどに小骨が引っ掛かったように眉毛をピクリと反応させて、偶然これを見たハメルはハテナマークを出す。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ヴァイスボルフ城の周辺に広がる森林地帯は地形的に地上兵器の侵入を拒むように大きな木々があり、そこかしこにはEUのナイトメアもどきとなる前のパンツァー・フンメルが自動砲撃台となっており、二段の備えである地雷原のセンサーと共にすべてが作動する。

 

 自動砲撃台のパンツァー・フンメルが砲撃を予想通りに開始する。

 

「自動砲の起動と射撃を確認しましたが……直撃なし?!」

「そんな馬鹿な?!」

「敵の速度が速すぎて自動照準が追い付いていません!」

「それどころか、次々と自動砲台が撃破されています!」

 

「うっそだろぉ~?」

 

 クラウスは驚愕が一周回って冷静に『おかしい』とまで感じながらも笑みをこぼしてしまう。

 

 敵は森林地帯で『ランダム』が売りである筈の自然が生やした木々をすり抜けるだけでなく、長距離砲撃を躱すだけでなく反撃までしていた。

 

 とても人間業とは思えない芸当に、クラウスは笑った。

 

「敵の速度落ちません!」

「地雷原の接近を確認!」

「敵の減速、いまだに見られません!」

 

「まさか、地雷が爆発するより早く移動をしている────?」

「────おいおいおいおいおいおい?! 完璧に化け物じゃねぇか?!」

 

「隔壁の展開時間まではあとどのぐらいかしら?! それと、シュバールさんの位置は?!」

 

「防御壁起動まであと180秒です!」

「シュバールさん、こちら作戦室です! ヴァイスボルフ城の敷地内まであとどのぐらいですか?!」

 

 先ほどシュバールが使ったチャンネルにサラが送り返すと、返信に彼の声と共にランドスピナーが展開されている音が聞こえてくる。

 

『こちらシュバール、今すぐにでも向かえばノータイムでは入れるが……それは敵も同じだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「へ?」

 

 シュバール(スバル)に隔壁のことを聞き返されて、サラはぽかんとして同じくびっくりしているハメルを見るが無理はなかった。

 

 何せそこにいる者たち含めてwZERO部隊には忘れがちだが、彼は『傭兵』で『契約している部外者』。

 ヴァイスボルフ城の設備は基本的に誰でも知っていいものばかりで、機密関係のものには触れさせていない。

 

 なお技術部はスバルの機体を勝手に分解してパーツや武装などをアレクサンダに応用したことで、やむなくある程度の公開はしていたし、脳科学部にはミーハー日本マニアの主任であるソフィがほぼ無理やり日本の話を聞くためにドナドナ連行されている。

 

 それにヴァイスボルフ城を自由に動き回れるようになったのも、ア()ウの嫌がらせによって結果的にジプシー老婆たちの世話になった後から帰ってきた後である。

 

 それも、新たな契約をしたのはごく最近であって、とてもではないが彼に隔壁などの特徴を説明する暇もないほど。

 

『……誤解がないように前もって言っておくが、これは俺が独自に調査した憶測で言っているだけだからな、誰の所為でも情報が漏洩したわけでもない。 だがその戸惑う様子を伺うと、展開まで少し時間があるようだな? レイラ中佐────』

「────え?! あ、ハイ?! なんでしょう────?!」

『────少し敵ナイトメアの足止めをする。 防壁展開のカウントダウン表示を送ってくれ。』




スバルの胃痛は次話でさらに増す予定です。 (汗

なお自分も近づいてくる年末に向けて胃薬服用しながら頑張ります。 (;´ω`)φイジイジ


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第115話 『魔女の森』にドナ~ドナ~♪

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

*注*後半に残酷&ダークな描写が出ます。 m(;_ _ )m


 EU全域に流された放送で、『混乱を収めるために民衆の希望となりえた導く存在(指導者)の忘れ形見である少女が名乗り出た』ということで、市民たちはパリやジュネーブなどを始めに混乱は早くも収まっていった。

 

「「「「レイラ・ブライスガウ!

 レイラ・ブライスガウ!

 レイラ・ブライスガウ!」」」」

 

『一目でもみたい!』というどこぞのブームに乗る野次馬的な衝動から、ブラドー・フォン・ブライスガウ議員が以前に務めていたパリの大統領官邸である『エリゼ宮殿』に市民たちは集まっていた。

 

「ブライスガウに会わせてくれよ!」

「我々のレイラ・ブライスガウー!」

「兵隊さん! この花を、お渡し下さい!」

 

 その様子は『新たなアイドル』、または自分勝手な『希望』や『期待』を押し付けた存在を応援する群衆だった。

 

 ここにいないのは、余程先の暴動がトラウマになったものや、急に忽然と収容所から姿を消した旧日本人たちの捜索に出ている者たちである。

 

 ピンポンパーン♪

 

『これより、緊急放送が始まります。 市民の皆様に臨時政府より、重要なお知らせがあります。』

 

 ピンポンポ~ン♪

 

 さっきまで騒がしかった者たちは一気に口をつぐんでは、巨大スクリーンをボーっと見る。

 

 これで動乱などの『普通』からかけ離れた状況下で、『政府』という中枢(安全ネット)を失った民衆という名の『群れ』が、如何に自分たち以外の何かにすがるよう飼育されていることが、第三者からすれば一目でわかるだろう。

 

 いつかのアンジュ風に言うと、それはまさしく自分で考えることを無意識のうちに放棄し、周りや世間の流れのまま身を任す『家畜』であった。

 

 巨大スクリーンに出たのは、数ある軍人の中でも世間では『良い人』と通っているスマイラス将軍だった。

 

『市民の皆様に、私は悲しいお知らせを伝えなければならない。』

 

 彼の重苦しい言い方と気まずい様子に、どよめきが民衆(群れ)の中に走る。

 

『我々に、勇気と希望の炎を灯してくれたレイラ・ブライスガウが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ。』

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ダダン! ダダン! ダダン! ダダン! ダダン!

 

 ほぼ同時刻、ヴァイスボルフ城の森から一直線にレイラたちのいる場所にヴェルキンゲトリクスは全速でかけ走り、ジャンはグラックスのランドスピナーを限界ぎりぎりにまで走らせていた。

 

『ヒュウガ様! 前に出すぎです! (いつになく焦ってらっしゃる?)』

 

『ジャン、援護射撃。 座標を送る。』

 

 ジャンはシンの様子に違和感を感じつつも送られてきた座標を指示通りに撃ちこむと、彼はちょうど崖のような場所を跳躍する。

 

 グラックスの援護射撃にヴェルキンゲトリクスが走ると思われる直線状の地雷を誘爆させ、ヴァイスボルフ城にある正門の一つにダメージを与える。

 

「(腑抜けたEU本体とは違うと評価したが、やはり設備の技術でワンテンポ遅いな────)」

『────ヒュウガ様、右です!』

 

 崖を跳躍したヴェルキンゲトリクスの道が文字通り開け、今からヴァイスボルフ城に突撃するといったところで、ジャンの通信にシンは思わず回避運動をとる。

 

 ッ────ドゥゥゥ! ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 すると、ぎりぎりモニターで捉えられる速度の何かが一瞬の遅れの後に起きるソニックブームのような音と共に地面すれすれに飛来してきて、地形をえぐりながら急ブレーキをかけては装甲中から湯気が一気に放出されて、軽い霧のような現象が起きる。

 

「ほぉ……これはなかなか……」

 

 見た目的にはアレクサンダより人型に近く、かつガニメデのように所々に装甲が厚く設計され、腰から伸びる筒状に、背中はバックパックのような箱と肩部に武装を乗せたソレは、今までのナイトメアからかけ離れたデザインをしていた。

 

 簡潔に例えるのなら、『様々な兵装を現地で持ち替えて使う事ができる一昔前の歩兵』だった。

 

「先ほどの言葉、撤回しよう。 やはり今度の相手は狩りがいがある。 ジャン、私にかまわず援護射撃を続けろ────」

『────ヒュウガ様?! それでは────!』

「────でなければ、目の前の『幽鬼(レヴナント)』に時間をかけすぎてしまうだろう。」

 

幽鬼(レヴナント)……こいつが、あの時の?!』

 

 シンは胸の高ぶりを感じながら、操縦かんを握るこぶしに力を入れる。

 

『いい余興だ』と思いながら。

 

 

 


 

 

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

「グッ?!」

 

 シンが乗っていると思われるヴェルキンゲトリクスを狙った突進を止めるため、足と腰に取り付けたスラスターを反対方向に噴射させると自分を襲うGに息を止めて耐え────。

 

「────ガハァ?! ヒュー!

 

 一瞬だけ視界が暗くなって意識が飛びそうになるが、シートハーネスが体に食い込む痛みと止めていたはずの息が無理やり吐きだされたことで無理やり引き戻され、空っぽになりそうな肺に空気を補充する。

 

 やはり、ワイバーン隊(大気圏離脱)のパイロットスーツでもダメか。

 

 本格的にラクシャータか(もし確保できたのなら)ミルベル博士あたりに、急激なGに耐えられるものと耐衝撃機能などを含んだモノを追求させよう。

 

 今俺が乗っているのはラクシャータから送られてきた『試作型蒼天』の技術と、ガニメデコンセプトのフレームをベースにして、アンナとソフィの共同作業でヴァイスボルフ城にあるエレメントプリンターと反応速度を底上げする為にBRSなどの応用で俺が作り上げた、()()()()()ナイトメアだ。

 

『オリジナル』と言っても、所詮はコードギアスには無い機体のデザインだからそう個人的に呼称しているだけだが。

 

 そう思いながらさっきの出来事とは別にドキドキする心臓を落ち着かせようと、次の手を考え────

 

 ガショ、ドン!

 

 ────ているうちに、ヴェルキンゲトリクスが人型に変形してはレバーアクション型ショットガンを撃ってきて、俺は機体の脚部などにスラスターの噴射を使って弾丸を斜め前に出ながらかわし、肩に数ある長刀を手に取っては抜刀術のように切り込む。

 

 すると予想通りにシンは持っていた巨大な大斧でそれを受けては無数のギアが回転して長刀を飲み込んでいくが、()()()()

 

 俺は機体のサブアームを展開させると同時に長刀からメインアームを手放して次の切り込みを試みる。

 

 だが『さすがはシン』と言ったところで、近距離から俺の機体を目掛けてショットガンを撃つ。

 

 機体のスラスターノズルやブースターをフル活動させてはまたもGに意識が飛び散りそうになりながら、機体のモニター端に出ている防壁作動までのカウントダウンを横目で見る。

 

 普通なら作戦室からの報告や通信を聞いているところだが、生憎初手から続けている機動戦で両耳はほとんど聞こえなくなっている。

 

 あれだ。

『突発性難聴』というやつに似ている。

 いや、そもそもそれ自体になっているのかこの場合は?

 

『意外に冷静だなオイ』だって?

 一周回って、感覚がマヒして意外と頭がクリアになっているだけだ。

 

 防壁展開まであと90秒、か。

 

 空からも砲撃が来て、俺は『敏感過ぎる』と以前に評価した機体の性能を使って横に避け続けながらヴェルキンゲトリクスと相対し続ける。

 

 前回のことを覚えているのか、大斧のギアは回りっぱなしで足場としては使えない。

 今回は逆に、地面をスライドするかのように動き回る。

 こうすれば奴は大斧で薙ぎ払うしかない、でなければ大きな隙を出してしまう。

 

 だが、(多分)ジャンのグラックスの援護射撃は精密で厄介だ。

 だがとある青い人は言った。

『精密ゆえに予測しやすい』、と。

 

 そしてその通りだ。

 最初の数発後に機体のOSに入力し続けるとようやく着弾地点が機体の動きに対して予測される表示が次々とモニターに出てきて、俺はその爆風などを逆に利用することにする。

 

 すぐに対処されるかもしれないが、さほど問題はない。

 あと60秒だからな。

 

 クソ長いなオイ。

 

 それに元ラウンズ仕様が前提だけあってヴェルキンゲトリクス、ランスロット以上に『不可能』より『意味不』な機体性能を持っているな。

 

 あっちはこっちの機動戦に対して、機体の変形機能を使い分けながら薙ぎ払いをし、俺はカウンターを入れるが長刀が折れ、次の長刀を使う用意をする。

 

 50秒。

 

 ショットガンをよけて、カウンターを入れるところでジャンの援護射撃が来る。

 かわして巻き起こる土煙を目くらましに利用し、移動。

 

 40秒。

 

 ヴェルキンゲトリクスの突きをよけたと思えば、グラックスの援護射撃がデンジャークロース気味の至近距離に食い込んできて機体のバランスが完全に崩れる前に、俺は機体のノズル方向を変えて噴射させ、緊急回避と足のスパイクなどを使ってバランスを保つ。

 

 シートハーネスが軋む音と、自分の骨がミシミシと音を立てるのを耳朶へ直に響いて聞き取れる。

 視界周りが少し暗くなるがあと30秒。

 

 シンのショットガンにデンジャークロースの援護射撃、そして薙ぎ払いを避けると更に視界から色が吸われていく。

 

『“時間”に意味はない』を使いたくとも、ブラックリベリオン時のことを考えれば反動で行動不能に陥ってもおかしくはないから『ああこりゃ死んだな』とかの状況以外はパス。

 というかあの時にコツコツとリチャージしていた分を全部使い切ったと思うから、これから来ると思われる展開などで使う予定だったところを考えると使いたくはないし20秒を切った、よし撤退だ。

 

 機体の腰、肩、そして肘のノズルをすべて噴射させて一気にヴァイスボルフ城の敷地内へと退避すると、ようやく地面が盛り上げられて巨大な壁が出現する。

 

 緊急時の防壁だけあり、壁ですぐさまヴェルキンゲトリクスの姿はもう見えなくなる。

 

 と思えば、壁同士の間でかすかに見えたのはヴェルキンゲトリクスが跳躍して飛び越えようとする姿。

 

 身構えたがヴェルキンゲトリクスが壁の上から現れる様子はなく、壁の隙間もコネクター接続によって塞がれていく。

 

「ぶh────ハゴェガァ?!

 

 身体の形と緊張感を保つために肺の中で止めていた空気を新鮮なものに変えようとすると、唾と唇を切ったのか血が混ざった咳きをして飛び散り、突発性難聴の耳鳴りがバクバクと心臓の脈が撃つ音に書き換えられ、灰色の視界には黒い星が散っていく。

 

 あー、だるいし気持ち悪いし胃はむかむかするし、予想以上にシンが俺に対応してくるしどうしてこうなった?

 

 『防御壁展開完了、確認!』

 

 俺がwZERO部隊と接触したからですか、そうですか。

 

 『お、お疲れ様ですシュバールさん!』

 

 今のは……

 

 えーと。

 

 声、誰のだっけ?

 

 ま、いいや。

 

 「ああ、ありがとう。」

 

 あかん、俺自身の声もぼやけて聞こえるから、上手く言えたかどうか正直不安だ。

 

 それよりも呼吸を整えるんじゃぁぁぁぁ!

 体中の汗でひんやりすることは無視!

 

「スゥー……ハァー……」

 

 それよりも、やっぱりヴァイスボルフ城に残ってよかった。

 まさかシンたちの強襲が原作より早くなっているのは予想していなかった。

 もし俺がいなかったらと思うと、ゾクリとするぜ。

 

 ……よし。

 咳き込むのも落ち着いてきたし、やっと世界に色が戻ってきた。

 体の震えも収まったし、機体を帰還させよう。

 お疲れ様、ありあわせで作ったナイトメアなのか戦術機なのかガンダムなのかわからない『なんちゃって蒼天(仮)』。

 

 ……ネーミングセンスが悪いのはわかってらぁ。

 けどアンナの『バルカ』も、ソフィの『雷光』はなんだか縁起が悪いし。

 というか雷光はもうすでにあるし。

 

 何よりこいつは()()改良途中だ、正式名称は『できる限りの完全体後』でもいいだろ。

 ソフィたち(日本マニア組)は大喜びしそうだが、さすがにサイズも武装もなにもかもがイメージで作った『人型戦車兵器』からほど遠い。

 

『よぉ、傭兵さん。』

 

 そこにクラウスの通信が入ってくる。

 

『あんたも今のうちに休んどけ。』

 

 ああ、これはあれか?

 レイラの“このまま最上級警戒、24時間待機”の宣言後か?

 

「ああ、わかった。 ウォリック中佐は?」

 

『俺ぁ、サラちゃんとオリビアちゃんで警戒態勢中さ。 これでも長時間作戦訓練を受けているからな。』

 

 やっぱりな。

 よし、()()()()だ。

 

「ああ、わかった。 ワイバーン隊は?」

 

『あー、それのことだが……箱舟が爆発してから識別信号は消えたままなんだ。 けど、司令の指示によってコール(通信)は続行中だ。』

 

「そうか。」

 

 よっしゃ!

 防壁とは違って、こっちは『原作通り』っぽいな!

 

『なぁシュバール? ……あいつら(ワイバーン隊)、生きていると思うか?』

 

「当たり前だ。 あんなことでくたばるような奴らではない。」

 

『……だよな。』

 

 これで『ワイバーン隊は本当に死んだ』なんて────ウッ?!

 か、考えただけで胃がむかむかしやがる……

 

 さ、さ~て頭を切り替えよう!

 

 ヴァイスボルフ城に移動中の聖ミカエル騎士団相手に、(スバル)式の歓迎がどこまで通用するかだな!

 

 ……個人的な恨みもないし同情もするが、ズタズタになって挫かれていてくれ。

 

 

 

 


 

 

 その頃、先走ったシン(と彼を追ったジャン)に追いつこうとしていた聖ミカエル騎士団の先遣隊は、森に突入してから予定より大幅に遅い進軍を強いられていた。

 

 普通なら空軍の輸送機を使うところなのだが、その方面でユーロ・ブリタニアを危惧していた本国からは『敵は隣国なので陸路で済ませられるだろう』という理由から厳しい制限を強いられていたこともあり、急な作戦実行可能な空軍はユーロ・ブリタニアの規模に比べれば必要最低限以下だった。

 

 緊急に空軍を他の騎士団から要求する時間も大義名分も聞かされていない聖ミカエル騎士団は空軍への要請が通るまで、後に空路でついてくる予定の後続隊のために簡易滑走路と陣を張るためにシンと共に来ていた。

 

 そのシンは地形などを無視して直進でヴァイスボルフ城を目指したので、()()()()先遣隊と彼らはすぐに別れることとなったが。

 

 シュボォォン

 

「ぎゃあああああ?!」

「あつ?! 熱い! 熱い熱い熱い熱い熱熱熱熱熱ぃあああ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛ああああ?!

「水だ! 水をかけるからジッと────ぎゃあああああああああ?!

「な、なんだ?!」

「水をかぶせた瞬間、火が強まって広がったぞ────ってそっちは予備のエナジーフィラーだぞ?! やめ────!」

 

 ────ドォォォォォォン!!!

 

「「「あ゛がぁぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!」」」」

 

「なんでこんなにトラップがあるんだ?!」

「先行したナイトメア部隊が見つけられなかったとはどういうことだよ?!」

 

 忘れがちだが、ブリタニアのナイトメアに搭載されているファクトスフィアは恐ろしく精密で、その正確さが特徴的である。

 

 よって、このような大部隊が移動する際にはエナジー消費が激しくともファクトスフィアを常時展開させたままのナイトメアが先行し、危険物などの脅威を察知してから侵攻を開始するのが鉄則。

 

 そして確かに地雷原は撤去され、シンとジャンによって森の中に設置されたパンツァー・フンメルの砲台は無力化され、天候も肌寒いがそれほど低くはなく、伏兵の危険も見当たらず、絶好の進軍環境────。

 

「なんなんだ、この森は?!」

 

 ────だったはずなのだが、どういうわけかファクトスフィアに察知されない数々の罠に先遣隊は翻弄されていた。

 

 さて、ファクトスフィアは確かに高性能であらゆるセンサーが凝縮された優れた探知機である。

 

 だが逆に言えば、()()()()()

 

 ゆえに調整しなければ、地面内にあるミネラルや森の中に住む動物たちも拾ってしまい、状況把握どころか膨大すぎるデータで探知機もオーバーヒートしてしまう。

 

 スバルはこれらを逆手にとって、前世で思い出せるありとあらゆる罠をコツコツと、ヴァイスボルフ城に来てから『散歩』や『野営訓練』と称して設置していった。

 

 無論、サクラダイトは一切使っていない。

 それどころか鉄製も極力使っていない。

 せいぜいが、ワイヤーや火薬に含まれている微々たる程度。

 

 他はすべて、()などの非鉄製物資で代用されている。

 

 例えば、ボール紙を筒状にして詰め込む火薬の量を調整した後に、手榴弾やロケットの弾頭を詰め込めば(飛ばす距離によっては一発限りもあるが)立派なグレネードorロケットランチャーが出来上がる。

 

 もう一例は、サクラダイトによって電気文明社会となったコードギアスの世界には存在しない(あるいは発想がない)化学兵器の一種である、『油脂焼夷弾』や『白燐弾(はくりんだん)』、『催涙ガス』に『硫酸』や『塩酸』を周辺に吹き飛ばす木製の地雷など。

 

 より言いやすくすると、現代では『非人道的兵器』と呼ばれているもののオンパレードである。

 

 さて、進軍する歩兵部隊などにとって一番の脅威は何か?

 

 敵の攻撃は当然であり、死ぬことも然り。

 輜重部隊を失うことも長期の作戦に支障が出るだろう。

 病人、あるいは怪我人が出ることは部隊の士気に影響を与える。

 行軍する間、怪我人たちの護衛や介護に割かなければいけない人員のおかげで進軍の速度にも影響は出る。

 

 つまり軍隊にとって、『けが人』や『病人』は『口のきけない死人』などより格段に厄介な凶器である。

 

 なら。

 

 それらすべてが重なり合うようなトラップだらけの状況は、何になるだろうか?

 

アぎぃぃエェェェェェ!!!

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

ア゛ついア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

「ゲッホゲホゴホオブグェェェェェ?!

「息を吸い込むな、そこから退避だ!!! 退h────」

 ────シュボォン────!

「────ぎゃああああ?! き、きえない火がまたぁぁぁぁぁ?!

「奴らを備品に近づかせるな! 必要ならば撃ち殺せ!」

 

 静寂なヴァイスボルフ城付近の森は、瞬く間に聖ミカエル騎士団にとって地獄と化した。

 

 ある者の体は地獄の業火のように消えない火に焼かれ、ある者の皮膚は変色しては、ふやけたままずるりと溶けるように肉体からこぼれおちて、筋肉や骨などが露出する。

 またある者は目や鼻や吐血などからくる強烈な痛みからの救いを求めて、仲間たちに駆け寄っては被害を拡大化させた。

 

『チックショウ────!』

『────おいバカやめろ!』

 

 一機のサザーランドが森の中をを翔ろうとしてランドスピナーを展開し、仲間の制止する声を無視して進もうとすると、今度は森の内部に巡らせられていたワイヤーに引っかかって二段、三段構えのロケットや落とし穴を使った罠にはまって、身動きがとれずに機能損失するようなダメージを負ってしまう。

 

 さらには────

 

「────ウッ?!」

「────ゲェェェェェ?!」

 

 やっとの思いで周辺に遮蔽物がない森の中にある湖に行軍して、一息しようとしたところで野営のための焚火に近くの木を(用心から)ナイトメアで伐採し、それらに火を灯すとモクモクと広がる煙に歩兵の者たちは呼吸困難になり、嘔吐や息切れなどをし始める。

 

『ば、馬鹿な?!』

『まさか木にまで細工をしたというのか?!』

 

 自然は皆が思っているより生命力が高い。

 例えば人間が死ぬような致死量の薬物を木に打ち込んだとしても、せいぜい一時的に枯れる程度で来年にはピンピンしているのもザラである。

 

 しかも、その薬物を保有して免疫を得たままの状態で。

 

『……クソ! 今夜はここで野営をする!』

 

 ナイトメア部隊にも損害は出ているが、歩兵たちは比べられることができないほどの被害が出ていたことに、部隊長の一人は怒りと焦りを感じながらも野営を命じた。

 

 予定されていたより遅い進行だったために陣地の構築場所まで程遠いが、夜にこの森を進むのは危険すぎるという判断を彼は下していた。

 

『その……焚火などはどうしますか? それに、食料も────』

『────部隊で持ってきたものだけで極力済ませろ! 一時的に水と食料の配給量を半分にする! 後方部隊への連絡は?!』

『も、森に入ってから通信機器の調子がやはり────』

『────ならば部隊を編成してさらなる要請を出せ! 負傷者も多数いることもな!』

 

 とっくに夜になったことで、近くの木々を使うことは精密な調査ができる明日まで仕方なく断念し、寒さが堪える夜で焚火の代わりには、携帯用コンロや稼働していたナイトメアや輸送機の排熱や温かいモーターなどを利用して寒さを絶えしのぐこととなった。

 

 う……ウゥゥゥ……

 目が……俺の目がぁ……

あ゛ア゛ァァァァァァ……

 母さん……かあさ~ん……

イダ、イダイダ、イダイダイィィィィアアア゛ア゛ア゛アアアァァァァァァ……

 

 すでに泣き叫んでいたことで体力も限界だった怪我人たちのうめき声をなるべく無視しようとしたが、数が数だけに、いざというときに駆け付けられる距離の隔離も無駄な行為だった。

 

 そこに『誇り高い騎士団』の姿はなく、ただただ心身ともに疲労し、仲間のうめき声を傍らで『見てはならない』、『聞いてはならない』と思いながら耳を塞ぐ部隊だった。

 

 何であれ、『敵』と戦って戦死するのならまだ心の切り替えが効く。

 何故なら騎士や兵士にとって、戦死は死に対する誇りと尊厳があるのだから。

 

 だが、いまだ見えない敵と戦うことなく死んでいく仲間の亡骸や、怪我人の涙に吹き飛んできた手足の血肉や糞尿を横にただただ進軍するのは、騎士道精神を中心にされたブリタニア(そしてユーロ・ブリタニア)の軍にはかなり堪えた。

 

 ヴァイスボルフ城の籠城戦が始まって、まだ日が浅いかつ一連を簡潔に記入した出来事ではあるが……

 後にこの名もない森を、彼らは童話などにちなんで『魔女の森』と部隊内で呼称し始めるまでそう時間はかからなかった。




“戦に赴かう『部隊』は言うなれば『運命共同体』。
互いに頼り、庇い合い、助け合うのが条理。
一が全の為に、全が一の目的の為に。
だからこそ、戦場で生きられるのだ。”

所詮は『気休めの言葉』。
所詮は『理想』。
戦争は非情である。
『地獄』を体験していないからこそ、口にできる甘い『嘘』である。

では極限状態の中でなお、他人のために行動し、信じられることを何と呼ぶ?

『盲目』?
『評価』?
『狂信』?
『世間知らず』?

それとも、これが『愛』と呼ばれるものだろうか?

次回予告:
『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』

果たしてスバルはバタフライエフェクトによる後のブーメランに、どう対応するのだろうか?

とりあえずは生き残ろうとするだろうが。



……久しぶりの次回予告&長いネーミング、堪えられませんでした。 (´・ω・;)ドキドキ
そして本拠地攻防戦、スタート。 (((゙◇゙)))カタカタカタカタカタカタカタカタ


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第116話 『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』1

お忙しい中、時間を割いてお読みいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです!


 少しだけ時間を巻き戻したいと思う。

 

 聖ミカエル騎士団が阿鼻叫喚の地獄を味わっている間、ユーロ・ブリタニアの政治を司る大貴族会議に、大小と問わない規模の貴族たちが()()招集されていた。

 

 このような招集は異例であり、さらに召集をかけたのはよりにもよってヴェランス大公の幽閉を『閣下のため』と進言したシン・ヒュウガ・シャイングであり、ジュリアスの『箱舟作戦』が発動して、そんな彼とシンがチェスの対戦をし終えた直後だった。

 

「名家とはいえ、シャイング卿自身は養子ではないか……」

「自分がイレブンということを忘れている様子で……」

「我々をこのような状況で招集するなど……」

「不遜極まりない!」

「で、あるな。」

 

 最初は“皇帝が派遣したジュリアスと手を組み、ヴェランス大公に代わるユーロ・ブリタニアの宗主になり替わろうと目論んでいる若輩のイレブン”と噂していたが……

 

 その予想は見事なまでに、シンが次に言う事で覆されることとなる。

 

「大貴族議員の方々にお伝えしなければなりません……神聖ブリタニア帝国の軍師、『ジュリアス・キングスレイ卿』を語る男が、エリア11で『ゼロ』と名乗っていた賊であると判明しました!」

 

 このような宣言に、議会はざわついた。

 

「なんと?!」

「ゼロ?」

「エリア11で暴れていたテロリストという事か!?」

「しかし……処刑されたはずでは!?」

 

 貴族たちが騒ぎ出し、まるで上記の言葉を待っていたかのようにシンがの口を再度開く。

 

「全てはキングスレイと皇帝陛下が企てた偽り! 奴は最初から本国と繋がっていたのです────!」

 

 ここでシンの表情は、薄笑いへと変化する。

 

「────であるので……私が処刑いたしました。」

 

 「「「「「ッ?!」」」」」

 

「待てシャイング卿! 本国への確認もしないでか────?!」

「────その本国に、貴方がたは不満を抱いていたのではないのですか?」

 

 シンの言葉に、召集された貴族たちが全員黙り込む。

 

 何せ本当の事であって、つい先週も定期的な議会では、如何にブリタニアの中核を担う皇帝派の者たちを貴族派にすり替えるかどうかを議論していた。

 

「こ、こ、皇帝に表立って刃向かえば本国との戦争になるぞ! 分かっているのかシャイング卿?!」

 

 だがそんな彼らも、真っ向からブリタニア本国に喧嘩を売るなど考えてはいなかった。

 

「貴方がたは、自分たちが何を仰っているのかご理解しているのでしょうか? 西にはEU! 東にはブリタニア帝国! そしてそんな帝国は我々を陥れようとしたのです! 我々ユーロ・ブリタニアが国として生き残るためには、もはや戦うしかないのです!」

 

 議会の中はまた静まりかえり、誰もが息を潜めていた。

 

「大公は……ヴェランス大公のご意見は?」

 

 ようやく誰かがしゃべったものは、か細い小声に近かった。

 

「……皆様方、もう戦いは既に始まっているのです。 ご覚悟なされるがいい。」

 

 「それが四大騎士団の総意か────?!」

 

 貴族たちはシンの明らかに挑発するような笑みと言葉遣いに煽られ、不安を怒りに変えて彼を罵倒し始めたところに、近くに待機していたジャンがお皿に乗った袋をシンに手渡す。

 

「────残念ながら、私以外の騎士団総帥たちは────」

 

 サッ。

 

「────な────?!」

「────戦いを恐れたのか、はたまた大公閣下のように敵と通じていたのか逃亡を図りました。」

 

 シンが袋を開けると、そこに乗っていたのは老人の────聖ウリエル騎士団の総帥だったレーモンドの生首。

 

「サ、サン・ジル卿……」

 

 貴族たちはそれで悟った。

 

『自分たちに発言権はない』、と。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 『ヒュウガ様?』

 

 側近のジャンが心配するような声が通信越しに聞こえ、ヴァイスボルフ城に出撃する前の記憶に耽っていたシンの意識は現在へと引き戻される。

 

『……………………ああ。 少し、これからのことを考えていた。』

 

『それは……失礼いたしました。』

 

『いや、いい。 ジャン、ガブリエル騎士団とラファエル騎士団はどうなっている?』

 

 シンはヴェルキンゲトリクスを身に沁みついた操縦技術で半ばオート(自動)で走らせながら、ユーロ・ブリタニアで掌握した大量のリバプール強襲でウリエル騎士団とガブリエル騎士団を壊滅させている間、行方をくらませたゴドフロア(毛深いもみ上げ&眉毛)ファルネーゼ(声がフラガ)の捜索状況を尋ねていた。

 

 

 実はここで原作と少しだけ違う流れができていた。

 如何にどうやってジュリアスや本国の目を盗みヴェランス大公を救出するか、シンを除いた四大騎士団の総帥たちは密会をひらいていた。

 

 ここまでは原作通りである。

 

 ファルネーゼの騎士団は『ほぼ壊滅状態から回復中』という事で、その密会にウリエル騎士団とガブリエル騎士団を使っていたのだが、まさかガブリエル騎士団が保有するリバプールが一斉に暴れだすとはだれも想像していなかった。

 

 騎士団に所属する者たちは強い、それは事実である。

 が、それは作動したナイトメアに乗っていなければせいぜいが『ベテランの歩兵』であり、友軍でしかも(無人機とはいえ)ナイトメアであるリバプールと無人機化されたサザーランドの強襲に対して後手に回った。

 

 聖ウリエル騎士団員や、総帥のレーモンド以外。

 

 彼と彼の部下たちは無人機に頼りすぎになっているユーロ・ブリタニア軍を見て、危機感を感じていた。

 “もしこれらが万が一敵によって無効化などされれば”といった可能性から、ウリエル騎士団はユーロ・ブリタニア内では珍しく『無人機を一切使わない騎士団』となった。

 

 または『硬い頭をした古い時代の老人(ロートル)たち』と陰で呼ばれることも。

 

 だが今回の騒動ではそれが良い方向に転じ、彼らは自分たちの長くない命を費やしてゴドフロアとファルネーゼに後を託して最後の一兵まで戦い、散った。

 

 

『未だに捜索中ですが、時間の問題かと。 ヴィヨン卿とファルネーゼ卿は確かに脅威ですが、騎士団を持たぬ彼らは所詮一人。 我々が掌握したリバプールの数で、無理やりねじ伏せることは可能の筈です。』

 

『そうか……(やはり世界は狂っている。 待っていてくれ皆。 私は、必ず────)────ん?』

 

 シンは森の木々からようやく開けた湖の場所に出てきたが、ここで落ち合う筈の先遣隊がいないことに表情を曇らせていた。

 

『……ジャン、先遣隊との合流地点はここではなかったか?』

 

『確かに、地図では間違いないのですが……少々お待ちください!』

 

 グラックスの頭部が開き、ジャン機が周りを確認するとここでようやく先遣隊が大幅に遅れていることが判明する。

 

『なんだこの遅さは?! ヒュウガ様の指示を────!』

『────ジャン。』

 

 シンのどこか愉快そうでありながら冷たい口調に、ジャンは背筋に氷が入るような錯覚をして口をつぐんだ。

 

『案内してくれ。』

 

『……はい。』

 

 

 ……

 …

 

「なんだ、これは?」

 

 シンとジャンは先遣隊と()()()()部隊の野営地に来ていた。

 

 さて。

 先遣隊とはその呼び名の通り本隊の先を行き、大掛かりな作戦が展開しやすいように土台を用意したり、脅威になるようなものの露払いや調査をする斥候の意味合いも含まれている。

 

 だが現在、シンたちが目にしたのは『先遣隊』と呼ぶより『本隊』だった。

 

 指定されたポイントより離れた場所の地面を平にして急増の滑走路が作られ、ユーロ・ブリタニアでは貴重な輸送機でサザーランドやリバプール、精鋭用のグロースター・ソードマンまで来ていた。

 

 驚愕しつつもジャンが様子を聞きに行くと、マンフレディ時代からの幹部たちである『三剣豪』が先遣隊の被害や状況を聞き、独断で野営地付近を拠点にして本体やナイトメアに破城兵装といった必要物資を送り、動かせる負傷者をペテルブルグに戻していた。

 

「シャイング卿!」

「この辺境にある基地を、なぜ越境までして落とす必要があるのか今一度聞きたい!」

 

『三剣豪』。

 それは、聖ミカエル騎士団前総帥のマンフレディの側近と正式に認定されている強者たち三人のことで、いまだに絶大な人望を有し、唯一シンに異を唱えてもお咎めがなかった者たちである。

 

「……」

 

 三剣豪の罵倒直前ぎりぎりの問い詰めに、シンは先ほどジャンから聞いた、森の中の人間や最先端の技術の裏や盲点などをかいた罠に関して考えていた。

 

 そのどれもが、とても昨日や今日の数日間に備えられるものや、設置できるとは思えない数々の罠や細工を。

 

「(敵の指揮官……にしては感じが違うな。 確かに城の防衛を見る限り優秀だが、この仕掛けは明らかに人間の負の感情を利用する心理への攻撃も含まれている。 まるで────)」

 

 不意に、シンの脳裏をよぎったのはジュリアス────否、『ゼロ』の面影だった。

 

「(いや、それはない。 奴は今クルルギと共に幽閉され、精神状態が不安定のままだ。 今回のようなことを計画したとするならば、『シュバルツバルトのモグラ』(内通者)から事前に動きの報告は来ているはずだ。

 他に候補がいるとすればシュナイゼルだが、奴は例のマリーベルと『グリンダ騎士団』を手駒にしようと注意をそちらに向けていたはず。

 あとはいまだに『行方不明』とされているコーネリアといった可能性もあるが低いだろう……

 となれば────)────フ。」

 

 思わずシンが出した、鼻で笑いようなことに三剣豪が出す空気はさらにピリピリした。

 

 確かにシンは聖ミカエル騎士団のトップと正式に任命されたが、彼らの忠義はあくまでマンフレディとヴェランス大公を対象にしていた。

 

 シンに『部下』として付き合っているのも、聖ミカエル騎士団の体面とマンフレディの遺言を考えたからこその行動である。

 あとは、“いつシンがボロを出すのかが伺いやすいから”という理由もあった。

 

「ああ、すまない。 今のは私の配慮が足りませんでした。 だがこのような惨状を見聞きしてもなお、敵を狙う理由がまだわからないと少々面白おかしく思ってしまいました。」

 

「「「ぬ。」」」

 

「敵はこのような、騎士道を侮辱するような仕掛けを平然とするような輩です。 そのような者たちが、我々ユーロ・ブリタニアが総攻撃をかけているEUの前面に出ていれば被害はさらに広がっているでしょう。 そのような者を即刻排除するために、私はミカエル騎士団を動かしたわけです。」

 

「「「………………」」」

 

 

「「あ?! シャ、シャイング卿!」」

 

 シンは呆気にとられた三剣豪と『さすがヒュウガ様!』とでも言いたいジャンを後にして、重症や怪我の容態が移動によって悪化する危険がある者たちのテントに来ては、ストレスからが目の下にクマと急激に痩せた様子の見張りがびっくりする。

 

 彼らは『見張り』と呼ばれているが、実際は怪我人たちの要望や介護をする者たちの使いッ走りポジションであり、現在『絶対にやりたくない貧乏くじナンバーワン』の任務だった。

 

 四六時中、中から聞こえるうめき声や親しい者の名を弱弱しく口にしながら死んでいく様を聞かされるので無理もないが。

 

「お前たちは下がれ、私だけで充分だ────」

「「────え? あ!」」

 

 そういいながらテントの中に入るとシンが見たのは『怪我人のいる病棟』ではなく『死屍累々』のほうが合っていただろう。

 

う、うぅぅ……

痛い……イタイ……

シャイン、グ卿……

ヒュー……ヒュー……

 

「……ああ、安心してくれ皆────」

 

 どこを見ても、今すぐにでもちゃんとした設備と医師に見せれば『一命を留められるかもしれない』数々の()()たちを前に、シンは腰の剣を抜いた。

 

「────今、助ける。」

 

 

 

 数分ほどが後に、シンは病棟の裏口から出てはそのまま拠点の外にある森の中に一人で歩いていた。

 

 未だに出した剣、白をモチーフにした服装、そして顔には赤い液体(返り血)がべっとりと張り付いていた。

 

『『『『『シン……シン……』』』』』

 

 そんな彼の名を呼ぶ声たちがどこからともなく風に乗って届き、彼の目に赤いギアスの印が独りでに浮かぶ。

 

「消えろ、亡霊ども。 (やはりこの世界は残酷だ。 生者には苦痛しか与えられない……)」

 

 シンは地面からゾンビのように這い出るガイコツや、自分が()()()として使い捨てたり利用した知人たちを、いまだに血が付いた剣で斬り伏せていく。

 

『シン……』

 

 女性の声でシンは今までの歩みを止めて振り返ると、毒殺して肌が青色に変色した亡き母の幻影がいた。

 

『ああ、私のシン────』

「────消えろ、女。 貴様が母親など、認めない。」

 

『ええ、それでも私の代わりにアキトを守ってやって────』

「────父上を裏切って産んだ子をか?」

 

『口ではそういうけれど、いまだに気にかけているのは────』

 「────くどいぞ女!」

 

 シンは自分の足に抱き着いて懇願する母親の幻影を切り裂く。

 

『シン……』

 

 そこで新たに表れたのは、自分の落ちそうな首を片手で支えるマンフレディだった。

 

『シン……我が義弟よ、()()シン……』

 

「マンフレディ卿……」

 

『まだなのか?』

 

「ご心配なさらず、マンフレディ卿。 私は必ずや、約束通りに、この世界からすべての不幸を取り払って見せます。」

 

 シンはもう誰にも見られていないにもかかわらず、薄笑いを浮かべながら夜空を見ていた。

 

 正確には、満月になった月を。

 

「それに、すぐに義母上や義妹はまもなく貴方のもとへ辿り着くでしょう。 フフ……フフフフフフフフフフフフフフ……」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 同じ夜の景色を、アリス・シャイングは屋敷の庭園から見上げていた。

 

 その一点の曇りもない眼に映っていたのは満天の星でも空に浮かぶ月でもなく、両手で持ち上げていた装飾を施された短剣であった。

 

 それも綺麗な装飾をされている玩具などではなく、人を傷つけられるようなちゃんとした刃がついたそれを、アリス・シャイングはうっとりとした喜びの表情を浮かべながら見ていた。

 

 そしてそんなアリスに、ヒールが独自に出す『カツン、カツン』とした足音が近づくと今度は彼女の実母である、マリア・シャイングが姿を現す。

 

「さぁ……一緒に参りましょう、アリス。」

 

 アリスと同じような短剣を持ちながら。

 

「はい、お母様。」

 

 “貴族の母子が、刃のついた短剣を持ちながら喜んでいる”など、こんな場面を使用人が見れば卒倒するような悪夢でしかない。

 だがどういう訳か使用人の姿が一人も見当たらない。 それどころか、貴族の女性に必ず付き人として居る筈の侍女や警護の者たちでさえもおらず、いつも以上に屋敷の門や出入り口、窓のカギなどがすべて閉まっていて、人気のない屋敷は『陸の孤島』状態になっていた。

 

 明らかにどこからどう見てもおかしい現状に、マリアとアリス・シャイングはまるで気にする様子もなく、アリスは席を立ってから自分と同じ笑みを浮かべていた母を見上げる。

 

 まぁ、これが画面越しだと二人の目には明らかにギアスにかかった者にしか表現できない『赤』で滲んでいるので『視聴者』からは一目瞭然なのだが……『他人』から見れば、狂気の沙汰としか見えない。

 

 母子は向かい合わせに立ちながら、手にした短剣をお互いの心の臓に目掛けて一心不乱に力の限り振るう。

 

 如何に力のない貴族夫人や非力な子供と言えど、迷いのないその動作は鎧も何もガードがされていない皮膚と肉の向こう側にある心臓を貫くには十分すぎた。

 

 狙いを定められた短剣は迷いなく深く刺さったことにより、大量の流血と共にマリアとアリス・シャイングは最後を笑顔で迎えながら倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドドッ!

 

 その様な幻覚(ヴィジョン)を、マリアとアリス本人たちが見たと勘違いするほどまでお互いの流れるような動作以上に、とある者がどこからか現れては鋭くかつ正確な打撃を当てて、二人を昏倒させながらどや顔────

 

「ふお?! や、柔らかすぎて崩れるるるるるぅぅ?!」

 

 ────否、勝ち誇った『フ、決まった』のどや顔から『ぬぁにぃぃぃ?!』と叫びそうな驚愕の表情に変えて良い胸部装甲のスタイル抜群であるマリアと年相応より発育が良いアリスたちの身体を一人で支えようとしては足取りが不安定になる。

 

 あと地味にだが、背骨に負担をかなりかけていた。

 

「おい! 貴様も手伝わぬか?!」

 

「断る。」

 

 そんなCCは『ニョキ♪』と、どこぞの古いゲームの効果音を出しそうに庭園の床から頭の頭上と目だけを露出させながら彼女のトレードマークとも呼べるジト目で、気を失ったマリアとアリス・シャイングを苦労して支えようとする毒島をどこ吹く風とばかりに見ていた。

 

「そもそも私が若造と交わしたのは『不干渉』寄りの『同盟』であって、『契約』などではない。 ここまで案内したのも、桐原の提案の次いでだ。」

 

「そ、そ、それにしては! よくカタコンベや、城の秘密通路を把握していたな?!」

 

 毒島が『気合だぁぁぁ!』と苦労してようやく気を失ったマリアとアリス・シャイングの体を肩で支えられる体勢になってからCCのいる秘密通路へ振り向くと、彼女が珍しくアンニュイな表情を浮かべていたことに、毒島は何とも言えない違和感が浮かぶ。

 

「……()()、ちょっとな。」

 

「(“昔”とは?) そ、そうか……ではせめて、おじい様の使いで保護した日本人たちはマーヤたちや皆と合流するまでお前と一緒だということだな────」

「────おい、若造のことを忘れているぞ。 というかそもそもお前はどう────ってなんだ、その癇に障る笑みは?」

 

「……いや? 何も? それに彼のことならば、私は心配などしていないさ。」

 

「奴を信頼しているのだな?」

 

「私やおじい様が見込んだ男だからな────!」

「────秘密通路を閉めるぞ────」

 「────私が来るまで待てよお前────?!」

「────ならさっさと来い────」

 「────人を担いでいるのだぞ────?!」

「────そんなこと、私には関係ない。」

 

「……この二人の世話を私と共に見ないのか?」

 

ハァ? なんで私がそんな面倒くs────」

「────スバルに貸しが作れるぞ?」

 

「………………マーヤたちが来るまでなら考えなくもない。」

 

「(まるで素直じゃない猫だな。)」

 

 そう考えながらも口にせず、そのまま毒島はぐったりと気を失ったマリアとアリス・シャイングを抱えてCCの後を追う。




作者:まだまだ続きます。 (汗

スバル:(なんだかoオラの胃がいつも以上にキリキリすっぞ……)


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第117話 『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』2

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 シンの強襲、ミカエル騎士団が国境を越えてまで行軍、そしてスバルが設置した数々の罠によって森が『魔女の森』と呼ばれる間のヴァイスボルフ城は、原作より切羽詰まった状況ではなくなっていた。

 

 原作通りにシンの強襲後は外との連絡や情報が入ってこないままだが、どんどんとレーダー上、目に見えて進軍する敵に対してただただ指を咥えながら待つような、じれったい状況ではなかったのは大きい。

 

 だがそれは『危険が去った』というわけでなく、『危険がジリジリと迫っている』ということで、臨戦態勢は解かれないまま日々は過ぎていく。

 

『……ワイバーン隊の皆、聞こえているのなら返事をして。』

 

 そんな状況下で一時間ごとに送る日課になりつつある上記の通信は、ヴァイスボルフ城の作戦室にいるサラがワイバーン隊に送っていたものだった。

 

 最初こそ彼女は軍属らしく、規律の順守をした言い方をしていたが、日が経つつれてとどんどんと言い方が砕けていった。

 

 『……本当に、みんな生きているのかな?』

 

 だがさすがに呼びかけに何の返答もなく、ただただ空しい時間が過ぎていくのと(交代制とはいえ)24時間待機にサラは滅入っていく。

 

『サラ、お疲れ様────』

『────あ、司令……』

 

『信じましょう、彼らが生きているのを。』

 

『……うん。』

 

『そうだぞ────』

『────あ、シュバールさんもお疲れ様でs────』

『────差し入れのタルトタタンだ────』

『────わぁやったラッキ~♡────じゃなくて! コ、コホン! お、お疲れ様です!』

 

『俺は傭兵だから別に構わないと言っているのに……』 

 

『まぁ……ハメル少佐なんていまだ、シュバールさんが絡むとムスッとするよね。』

 

『アンナが三徹して気絶したからな。』

 

『あー……それはハメル少佐もよろしく思わないわね。』

 

『??? それってどういうことなのサラ?』

 

『え。 し、司令……本気ですか?』

 

『??????』

 

『そ、それで……今日も応答はないのか?』

 

『……うん……タルトタタンいただきます。』

 

 通信から恥ずかしがってからまた気落ちするサラの声に代わるように、レイラが喋り始める。

 

『ワイバーン隊の皆さん、レイラです。 この通信が皆さんに届いていると、私たちは信じています。 今日も、城にいる皆は元気です。 それにクラウス中佐は急に頼もしくなりました────』

『────あ、それなんだけれどさ? たまに二枚目気取りな上にキリっとした表情をしたりするんだよ? 信じられないよねぇ~?』

 

『指摘すると“言うなよ! 恥ずかしい!”とひろし風に言うがな。』

 

『『ヒロシ────?』』

『────こっちの話だ忘れてくれ。 それとようやくハメル少佐達が、ナイトメアの訓練をし出したと(スバル)から言いたい。』

 

『まぁ……こんな状況だから嫌とは言えないんだろうけどもさ~?』

 

『それでも、シュバールさんが事前から基礎を教えていたことで上達するのが早いです。』

 

 『俺も無口(マイルド)にしたハート○ン軍曹式訓練がまさか────』

『────え────?』

『────ああいや、独り言だ。 忘れてくれ。』

 

『ああ、それとワイバーン隊の皆? シュバールさんってば大活躍なんだよ?! なにせ敵ナイトメアの電撃特攻を阻止しただけじゃなくて森中に罠とか────!』

『────俺の場合、運とタイミングと保険をかけたのが吉として出ただけだ。 感謝するなら、来るはずの襲撃に備えて無茶ぶりの機体修理と改良に関わっているアンナやソフィさんたちにしてくれ。』

 

『そう言ってシュバールさんも二徹しているでしょ?』

 

『……慣れているから大丈夫だ。』

 

『そういえば初日のアンナ、泣きそうになっていましたね? “どうしたら機体の装甲だけじゃなくて関節部も溶けるの~”と。』

 

『…………』

 

『なるほどねぇ~……たまに脳科学部にも顔を出したらシュバールさん?』

 

『そういうサラも最近避けていると聞いているが?』

 

『ソフィさんの所にはジョウ・ワイズがいるからパス。 “甘さが足りないよ~!”って泣きながら迫ってくるし、人の差し入れ横取りしようとするし────』

 『────よし、更に糖分を減らしてやろう。』

 

『でも彼、実はやせたんですよ? ビックリですよね?』

 

『本当にねぇ~。』

 

『“やせた”と言っても、たかだか1キロ程度だがな。 あの脂肪率は不健康すぎる。』

 

『その1キロがデカいんですよ、シュバールさん。』

 

『それよりも銃の点検はもういいのか?』

 

『ああ、そう言えばワイバーン隊の皆に言ってなかったよね? 城にいる皆に、オリー(オリビア)と一緒に、銃の扱い方を交代制で皆に教えているんだ。』

 

『これは、ワイバーン隊の帰る場所を守る為にやっていることです。』

 

『その辺は俺も頑張るつもりだが、何が起きるか分からないからな。 やれることはやっておいて損は無い。』

 

『サラ~、交代時間────って、司令にシュバールさんも? 二人とも大丈夫?』

 

『この通信を終えたら一息つきます。』

 

『ああ、それとワイバーン隊の機体にはもしもの時の為に物資を入れておいたから遠慮なく使え。 それと……もし繋がっているとしたら、()()()()()()()()()()()()。』

 

『では、時間を見つけてまた連絡します……』

 

 レイラたちの定期的通信が終わる。

 

 

 

「「「「………………………………」」」」

 

「なるほど、通りでアレクサンダにたんまりと非常食や汗拭きシートなどが搭載されていたワケだ。」

 

「それに最後のアレ……多分僕宛だよね? な~んか怖いよね?」

 

「そこはユキヤにも同意するが……姐御の話を聞いたのと実物をこの目で見た後じゃ、納得するしかねぇ────」

「────“姉御”って誰だ?」

 

「ああ、こっちの話だよ────」

「────ね、ねぇ? もういい加減に返事を送り返そうよ?!」

 

 wZERO部隊の高々度観測気球が引っ張る、フロートユニットで浮かぶ『ガリア・グランデ』の残骸にいるアヤノが、リョウたちに心配する声を出しながらそう訴える。

 

 ワイバーン隊は原作通りに生き残っていた。

 

 描写が少なかったのでスバルも詳細は知らないが、あらゆる場所に設置された爆弾の事を、ユキヤはアフラマズダと交戦を控えて出来るだけデータを集めていたイサムやタカシから聞き、それ等の配置から意味を悟った彼はハッキングをかけていった。

 

 軍人ならば『解体』をするかもしれないだろうが、ユキヤは逆に『利用』することにした。

 

 よって自爆はしたものの、爆発のタイミングが微妙に調節されたことで『ガリア・グランデ』の外装などだけが吹っ飛び、残ったフロートユニットと本体を浮遊させかつユーロ・ブリタニアには『自爆した』と思わせることに成功した。

 

 今度はシンたちが攻めたことで『ガリア・グランデ』から注目が外れた隙に、高々度観測気球のコントロールをヴァイスボルフ城のwZERO部隊から取り、『ガリア・グランデ』に連結して推進機関の代わりとして、ワイバーン隊は自分たちの死を偽装しながらヴァイスボルフ城に帰還していた。

 

「城の皆、心配して毎日こっちに呼び掛けているんだよ?! レイラやサラだって明るく振る舞っているけれど、気落ちしているのが丸分かりだよ!」

 

「ダメだ。」

 

「なんでよ?!」

 

「アヤノ、アキトの言う通りだ。」

 

「リョウまで────!」

「────この作戦は、バレたら終わりなんだよアヤノ。」

 

「ユキヤ……で、でも……」

 

 本当は今すぐにでも、彼らはヴァイスボルフ城の皆に通信を返したい。

 

「アヤノは()()を聞いても、“レイラに通信を送った方が良い”と思うの?」

 

 ユキヤは高々度観測気球の通信機経由で、EU全域のニュース局から報道されていた動画に切り替える。

 

『市民の皆様に、私は悲しいお知らせを伝えなければならない。 我々に、勇気と希望の炎を灯してくれたレイラ・ブライスガウが死んだ。

 彼女がいたヴァイスボルフ城が、ユーロ・ブリタニアの奇襲に遭い全滅したことが確認された。

 城は敵との国境から1,000キロ以上も離れた場所であったが、奴らは国境線を越えて襲ってきた。

 私、ジィーン・スマイラスはレイラ・ブライスガウの想いを引き継ぐ!

 彼女を! レイラを殺したユーロ・ブリタニアを、私は決して許さない!』

 

 それは『レイラ・ブライスガウが死んだ』という事を自らの演説に利用する、スマイラスの姿だった。

 

 冒頭でも記入したように、ヴァイスボルフ城の通信機器は外の世界から切り離されている。

 

 よってレイラたちはまだこの報道を知らないが、城の皆と違ってワイバーン隊は何が起きているのか理解してしまった。

 

 何せ上記の演説は、丁度シンがヴァイスボルフ城を目指して城の防衛システムが作動している間に流された報道だったからだ。

 

 つまりレイラは、他ならぬスマイラスに『箱舟作戦』で不安がるEUの市民たちを誘導する『殉教者』として利用され、敵に居場所を売られて見捨てられたのだ。

 

「……だ、だったら皆にだけ分かるような暗号を送るとかさ────?」

「────例えば?」

 

「う……ア、アキトたちこそ何かないの?!」

 

「“のろし”とかどうだ?」

 

「真面目にやってよ! っていうか、アンタは捕虜でしょうが?!」

 

 そんな、アキトたちの近くで頭や腕などに包帯を巻きながらニヤニヤして立っていたアシュレイの茶化すような言葉に、アヤノは食いついた。

 

「あー……そういやそうだった。」

 

「しっかりしてよねリョウ?!」

 

 実はワイバーン隊が死を偽装した際に、アシュレイも同じ場所にいたことで生き残った。

 

 最初は若干のキャラ被りによって性格が似たリョウと反発し合っていたが、次第に似た者同士という事で一気に意気投合していた。

 

「いや、だってよ? 面を見ればどれだけお互いに苦労したか分かるだろ?」

 

「ま、お前らも相当な修羅場をくぐったのは匂いで分かるぜ?」

 

「ハ! お前に比べりゃ、大した事ねぇよ!」

 

 「「はっはっはっはっは!」」

 

 ちなみにアシュレイが浮浪児だったことは話し合う途中でワイバーン隊は知り、アシュレイはワイバーン隊が忌み嫌われるイレヴン(日系人)だけで結成された部隊とも知った。

 

「ほんっっっっっっっとに和んでいる所に悪いと思うけれど、そいつ(アシュレイ)は敵なんだからね?!」

 

「おう、知ってる。」

 

「干し肉、食うか?」

 

「おう、サンキュなタカシ! お?! ベーコンじゃねぇか?!」

 

「機嫌悪いねアヤノ? 小腹が空いているの? カルシウム不足?」

 

 明らかにからかうユキヤの質問に、アヤノはジト目を返す。

 

「なに怒ってんだよ、アヤノ?」

 

「多分、オレ(アシュレイ)の事だろ?」

 

「当たり前でしょ?! 何普通に話し合っているのよ?!」

 

「アヤノはプリプリ怒っているな……プリプリなだk────」

 「────アキト、()るよ?」

 

「あ、分かった。 多分、飯の取り分が減るからだろ?」

 

 「ハ、ハァァァァァ?!

 

「うわぁ、アヤノってば食いしん坊さん────」

「────そんなに食っていたら太るぞ、オレ(アシュレイ)は太らねぇけどよ────?」

「────ぽっちゃりとグラマーの境目はアヤノの場合、どこになるのだろう────?」

 「────だから違うっての────!」

「────分かった! 心惜しいが、オレ(アシュレイ)のを少し分けてやるぜ────!」

 「────元々アンタのモノじゃないでしょうが?! 捕虜の認識あるの?!」

 

「おうよ。」

 

 アシュレイは緩~い返しをしながら(ワイバーン隊の)レーションをモグモグと頬張る。

 

「こ……こんの……イ・ラ・つ・くぅぅぅぅぅぅぅぅ────!

「────アヤノ────」

 「────大体さぁ?! アキトはこれで良いわけ?! アンタ、こいつに殺されかけたのよ?! 分かっているの?!」

 

()()()()()()()。」

 

 「「「「上手い────!」」」」

 「────上手くないよ?! 今のどこがシャレになっているの?!」

 

 アキトのモノトーンに近い返しに、アシュレイ以外その場にいた者たちが感心の言葉を出し、アヤノはツッコミを入れた。

 

「戦闘開始後、俺はこいつ(アシュレイ)()んで()りながら激しい攻防を繰り広げた。*1 並んで走ることを、『並走(へいそう)』と呼ぶ。 つまり“へーぃ、そう”とh────」

 

 ────バシッ!────

 

「────ブッ。」

 

 そんなポーカーフェイスをしたまま丁重な説明をするアキトに、無数のあおすじを浮かべたアヤノは包みに入った汗拭きウェットシートの箱を彼の顔に叩きつける。

 

「アヤノ、“人に物を投げるな”と教わらなかったのか────?」

 「────もう! 知らない!

 

 ぷっくり激おこ饅頭顔のまま、アヤノはアレクサンダたちに詰め込まれていた非常用グッズの一つである汗拭きウェットシート箱を一つ手にしながら、ワイバーン隊のいる場所から離れていく。

 

 ……

 …

 

『ガリア・グランデ』は元々巨大サクラダイト輸送機だっただけに、乗組員の住居スペース(の跡)はあるが、勿論自爆を前提にされた作戦だった為に、仮眠室やシャワーなどはついているが水や食料などは補充されていない。

 

 「ブツブツブツみんな緊張感無さ過ぎブツブツブツ意味わかんないブツブツブツ────」

 

 そんな内部にある一つの個室でアヤノはブツブツと独り言をしながら、一時しのぎとしてパイロットスーツのチャックを全開にして開け、股から上の身体中の汗などをウェットシートで拭きとっていた。

 

 ────ガチャ────

 

 そして彼女がいた個室の扉が、ノックもされずに躊躇なく開かれる。

 

 モグモグと非常食を頬張るアシュレイによって。

 

「────よぉ────」

 「────キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ?!」

 

 アヤノは(ほぼ)生まれた姿のままである自分の胸とパイロットスーツから出ていた股間を手で覆いながらアシュレイに背を向けながら首を回し、一気にゆでだこ状態になる。

 

 「ななななななな何を堂々と見ているのよ?!」

 

「見るって……何を?」

 

「~~~~~!!! “何を”って……なんでもない!

 

 ハテナマークを頭上に出しながら食べ物を口にする純粋ショボーンなアシュレイを回した首越しに見たアヤノは、そそくさとパイロットスーツを再び着込む。

 

「おい、ちゃんと綺麗にしないと汗疹が出来るぞ────?」

 「────うるさい! もう何なのよぉぉぉぉぉ?! もうヤダァァァ……────

「────なぁ、包帯巻き直してくれよ────」

 「────自分でやれ。 というか男子に聞け。

 

「もう聞いたよ。 んでお前の包帯の巻き方がきつすぎて誰も解けなかった。」

 

う。

 

 

 説明しよう!

 アヤノは半ばヤケクソに、捕虜であるアシュレイの包帯を力一杯に巻いたのだ!

 ……つまりは自業自得である。

 

 

「や、やるよ! やればいいんでしょうが?!」

 

 アヤノはイラつきを晴らす為に、ワザときつく巻いた包帯がまさかこのようにブーメランするとは思っていなかった。

 

「きつくギュッとしてくれよ? 緩んでくるから────」

 「────フンヌ────!」

 

 ギュゥゥゥゥ!

 

 いイ゛イイ゛いいイ゛イい゛イ゛?!」

 

 明らかに前回よりもさらにきつい巻き方をするアヤノに対し、アシュレイは涙目になりながらも歯を食いしばりくぐもった悲鳴を出すだけだった。

 

 「イッッッッッッッッッッテェェェェェェェェ?!」

 

 否。

 正直な彼は盛大に悲鳴を上げた。

 

「生きているだけマシでしょ?!」

 

「負けん気に強気って、お前は黒髪版ジャンかよ?!」

 

「はぁ? 誰それ?」

 

「お前みたいなじゃじゃ馬で仲間だよ。 んで、俺のようにシャイング卿に拾われた。」

 

「……シャイング卿って……アキトのお兄さん?!」

 

「らしいな! リョウたちから聞いたときはぶったまげたぜ! はっはっは! ま、おかげで俺もアイツも人間らしく生きられるようになったがな!」

 

「ふーん……アキトのお兄さん、アキトみたいに不器用で優しいところもあるんだ────」

「────どうだか。 使える『手駒』が欲しかっただけなんじゃね? 何せオレを裏切ったんだしな。 けどジャン、マジで惚れちまっているんだよなぁ~……バカで良い奴なんだけどな。」

 

「ふぅ~ん。」

 

 アヤノは包帯を巻き終えるところで、アシュレイの神妙な表情と言葉で思うところがあるのか動きが止まってしまい、そんな彼女をアシュレイは顔を向けて真剣な表情をする。

 

「なぁ?」

 

「何?」

 

「黒髪に染めたら、俺もモテると思うか?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

「だってお前、アキトに惚れているだろ?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………へ?!」

 

 アヤノの身体はさらに固まってから、時間差で声を出す。

 

 まるで、石化の状態異常からようやくセービングスローで自由を勝ち取った様子である。

 

「あんな“何を考えているのか分からなさそうでおっさん臭いシャレをする男”のどこがいいわけ────?」

 「────あ、ちょ、ま?! ちちちち違うよ! だから────!!!」

「────否定しても、ジャンのようにまる分かりだぜお前! それにアキトもまんざらじゃない様子だしな。」

 

 「はへぽぇ~?」

 

 さっきまでの威勢はどこに行ったのか、アヤノは一気に空気が抜けていく風船のように不気味な声変な息を出す。

 

「つかもういい加減、“交尾したいです”って言っちまいn────」

 ────バシィィィィィィィィィン!!!

 

 

 後にアヤノだけが他の者たちがいる場所に戻り、立派な手形の紅葉の跡が残っているアシュレイの発見者であるアキトの『……ただのバカのしかばねのようだ』に、アシュレイは『まだ死んでねぇよ!』と起き上がりながらツッコんだそうな。

*1
113話、後半最後の文章




今回はほぼ開幕回となりました。 (汗


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第118話 『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』3

次話です!

相変わらず独自設定&解釈が出ますが、楽しんでいただければ幸いです!


 ヴァイスボルフ城の技術部は、ブラック会社によくある阿鼻叫喚一歩手前な感じになっていた。

 

 そんな場所にしてしまった責任(の大部分)は(スバル)にあるのだが。

 

「ふぅ……」

 

「ふぇぁ~。 シュふぁ()ールさんも欠伸しゅごい~。」

 

 そして隣にはうつらうつらと、今にでも倒れそうな小動物系なのに意外と根気と体力のあるクロエ。

 

「クロエもヒルダたちのように寝て良いぞ。 あとは俺で、何とか仕上がりにまで持っていく。」

 

「うんにゃ~、そうするかも~。」

 

 クロエが変な欠伸をまた出しながら、フラフラ~っと仮眠室へとトテトテと歩きd────

 

 ────ゴン!

 

「ぶぇ。」

 

 おお、余程寝ぼけているな。

 盛大なほど壁に顔をぶつけてから、おぼつかない足取りのまま出ていった。

 リアルで初めて────いや、寝不足の留美さんやカレンもやっていたから初めて見たわけではないか。

 

 そう思いながら、ズラリと格納庫内に並ぶドローンから有人機に変えたハメル含む警備隊員たち用のアレクサンダたち……いやこの場合は“戻した”というべきか。

 さらには俺の我儘で仕上げた、数機の最早『ナイトメアと書いて悪夢』のような機体たち、武装、そして()()

 

 ちなみにここで言った兵器は、手間と費用がかかり過ぎて完全に『保険』と呼ぶより『賭け』だし、数機は何とか(というかアンナたちが悪鬼迫る感じで張り切り過ぎて)組み立てたが時間は有限だ。

 

 同じ労力と時間と資材を使うのなら、確実なモノに使いたい。

 

 データはもちろん、取ってあるが。

 

 そこで城に残っている機体たちのパワーアップと、先日半壊しかけた俺の機体の修理&改良に、いずれ生還するはずのアキト達用の装備だ。

 

 アンナたちはこのことを、『帰ってくるときのために』と取っていたが。

 

 それは無理もなく、今のwZERO部隊は見た目だけならば安定しているが、それも『スマイラス将軍が連絡をいれたから』というのも大きいだろう。

 

 何せ彼はレイラたちには『いい顔』をしてきたからな。

 

 だがヴァイスボルフ城に来てから『亡国のアキト』で描写のあった内通者の裏取りをしていたら、案の定原作通りだった。

 そして原作と同様の流れならば────

 

 ────バァン!

 

 格納庫の扉が荒々しく開かれる音に顔を向けるとあら不思議。

 

 さっき出たクロエを抱えたアンナがおる。

 

 正確に言うと『亡国のアキト』で噂されていた『エンディングではレイラが紐パン』ということを確認するために、いつもは映画が終わるとエンディングテーマが流れる前に映画館を出るのを我慢して、やっとこそ見た描写とあまり大差ないほどかなり際どいひらひら薄着パジャマ姿のアンナがががががががガガガガガガがががががが?!

 

 一気に目が覚めましたありがとうございました。

 

 ありがとうございました。

 

 『色は』、だと?

 

 丈の短いスカートがひらりとしたときに一瞬だけ見れたけど紫でした。

 

「シュバールさん! 来てください! た、た、た、た、大変なんです!」

 

 あー、ハイハイ。 今からいきますヨ~ホホホ。

 とその前に何か着ましょうね?

 

「アンナ、さすがに風邪をひくぞ。」

 

 徹夜と寝不足な俺としちゃ『眼福ウハウハヤッホー!』のご褒美でしかないけれどな♪

 

「え? ……ピャアアアアアアアァァァァァァ?!

 

 おかげで目が覚めたし、慌ててもクロエを落とそうとしないのは、流石他人思いのアンナと言いようしかない。

 

 「ウェヒヒヒ……マカロンいっぱ~い……」

 

 そしてクロエ、見た目に反してこんな状況でも寝ていられるのは、さすがというか図太い神経というか疲れているのか。

 

 多分、全部だろうな。

 

 ………

 ……

 …

 

 

 今、俺はレイラの執務室内にいる。

 

 他には部屋の主であるレイラはもちろんのこと、()()()()()クラウスもいる。

 

「「「………………………………」」」

 

 そして立派なお通夜ムードマシマシの雰囲気が室内を漂っている。

 

 先ほど、クラウスがスマイラスの『レイラは死んだ! 許すまじ!』動画を彼なりの()()で入手したものを見せた直後。

 

「……見ての通り、スマイラス将軍がEUの軍事政権を掌握し始めたようです。 司令の『死』を利用してね。」

 

 そう言いながら、クラウスは長らく飲んでいない酒を口にして、苦虫をかみしめたような表情をする。

 

「へへ、やっぱ不味いやこれ。」

 

「意外と、掌握が早いのですね?」

 

「将軍は何年も前から段取りを用意し、企画していた様子ですからねぇ~。 それに、ブリタニアと繋がっているので、そっち方面は対して気にすることもありません。 用心するのは当面の間、ユーロ・ブリタニアだけでしょうね。」

 

「そ、それは……」

 

 クラウスのいった事に、レイラが言い淀む。

 

 無理もないか。

 以前に『()()()()()()()()()()()()()()()』と言ったが、実は前回でのスロニム作戦時に()()()()は情報をシンに売っている。

 

 ()()()はお察しの通り、スマイラス将軍だ。

 

 彼は野心の為に『利用し合う』ビジネスライクな関係を、ユーロ・ブリタニア────詳しく言えば聖ミカエル騎士団のシンと築いている。

 

 と思う。

 そこの描写はふんわりとしていて、詳細に関しては記憶もおぼろげになりつつあるからな。

 

 もっとも、シンもスマイラスの考えより一枚上というか、斜め上の発想で彼の野心でさえも利用しているのははっきりと覚えている。

 

 それは今おいて、さっきも言ったように内通者は複数いる。

 

 二人目は────

 

「スマイラス将軍が、本当に司令の為を想っているのなら……俺なんかをここの副司令に配置していないでしょうよ。 何せ、ここの情報を流したのはオレですから。」

 

 ────目の前にいるクラウスだ。

 

 実は彼、元々スマイラスの根回しで、『お目付け役』としてwZERO部隊に配置されている。

 

 だが、彼なりに『そういうことをする』動機はある。

 原作知識で俺は勿論の事、城にいたレイラも()()()()()が。

 

「……」

 

 俺がレイラを見ると、彼女と目が合うが────いやいやいや。

 

 その『どうしましょう?』っぽい目を向け返してもオイラは困るぜよ。

 

 今度は『貴方から話していただけませんか?』だと?

 う~む……よし。

 

「……ノエル・ウォリック。」

 

「ブフッ?!」

 

 俺がその名を口にすると、クラウスが飲んでいる酒にむせて、睨みを向ける。

 そんな目で見ちゃいやん♪

 というかされるのならCCにされたい。

 あ、今だから言うが俺はMじゃないぞ?

 

 ただ、画面越しより生で見たほうが迫力あるだけだ。

 

「て、テメェ……何で俺の娘の名を────?」

「────お嬢(ノエル)さんの、医療費の為ですよね?」

 

 今度はレイラに視線を送ると、俺の意を察したのかレイラが上記の言葉を発し、クラウスは諦めるかのようにため息を出す。

 

「……そうかい。 もう既におたくらは知っていたという事ですかい……ならなおさら分かんねぇな! そこまで知っておいて、何で俺を泳がせていた?!」

 

「……」

 

 ここでレイラはこういう!

『人は変われます』、と!

 

「……」

 

 ……いや、言ってよレイラちゃん?

 俺をジッと見ていたら照れちゃうゾ?☆

 

「……」

 

 ………………………………………………………………え?

 マジで俺の言葉待ちなの?

 う~むむむ。

 こういう場合の『ポーカーフェイス維持しながらの説得』は、流石にあまりやったことないぞ?

 

 どうしよう……と思うより気まずい沈黙を払う!

 ええいままよ!

 レイラ、原作で言った言葉を借りるぞ!

 

「“人は変われる” ────」

 

 ────ダァン!

 

 俺(というか原作のレイラ)の言葉に、まるで虫唾から来る怒りをぶつけるように近くのテーブルをクラウスが殴る。

 

 「変われはしない!」

 

 やっぱダメだったか?

 

「どれだけ経っても! やる気があっても! ゴミクズはゴミクズのままなんだよ! いいか?! 将軍の様な野郎は絶対に死なない! なぜだか分かるか?! 他の野郎どもが屍になろうと踏み台にして、高き所の果実をつかみ取るような奴らに限ってのし上がれるように、この世界は成り立っているんだよ!」

 

 


 

 ここで余談だが、レイラやスバルでさえも知らないことがある。

 というか知る筈もない。

 実はクラウスはその昔、ハメルたち警備隊のように責務を忠実にしようとしていた時期があり、愛した女性と生まれた娘の前ではいつか『カッコいい軍人だった』という見栄を張るために、『クールガイがする仏頂面』を維持しながら強い正義感に満ちたまま不正を正そうとしたことを。

 

 だが彼は世界の腐敗を、『故郷(EU)』という身近な例で直に体験していった。

 

 軍内部での『予算の横領』や『物資の横流し』に、『軍とは職であって命を張るモノではない』というなまけ者たちが次々と昇格していき、正義感や思想高い者たちは次々と最前戦(処刑場)に送られる。

 

 EUの加盟国は次々とユーロ・ブリタニアの領土へと変えられる中、資産家や政府の者達はいつもと変わらず交流会を重ねたパーティーを毎日開く。

 

 政治家や武官達は保身の為、意味を成さない『権力アピール』に固執しては国内の不満先を日系人(イレヴン)に向くように仕向け、楽になるために思考放棄をした市民たちは、言われるがまま用意された『ブーム』の波に乗っては、日系人たちを『社会の悪』として平然と見下した。

 

 そんな中でも、決定的にクラウスを変えたのは家族である娘と妻だった。

 

 妻にはクラウスが仕事に没頭することで『家族に関心が無い』と思われ、口論する日々は過ぎていき、ストレスから酒に逃げるクラウスを娘は嫌うようになっていった。

 

 元々妻と娘に見栄を張る為仕事に専念していたが、そんな中で娘のノエルは病に陥った。

 幸運にも病の治療は可能であるのだが……長期に渡っての支払いが必要で、額はクラウスにとっては大金だった。

 

 とても一人の軍人が払える額ではないので、どうやってその金を得るか迷っていたクラウスは仕方なく周りに頭を下げたが、過去の行いから相手にされるどころか『虫が良すぎる』などと言われてバカにされた。

 

 クラウスの心は折れ、スマイラス風に言うと、その時に彼はやっと『子供』から『大人』になった瞬間だった。

 

 自分ほど頑張っていない者たちは昇進や緩やかな職場に移っていたり、正そうとした悪事は隠されるどころか上層部は黙認していた。

 等々。

 

 

 そんなクラウスは『昔の自分』をレイラやスバルに面影を見てしまった上に、先ほどの二人は自分が内通者であることも、その理由も承知の上で泳がされていたことが、如何に自分が『醜い大人』かを思い知らされたかのような気分がして、思わず激昂してしまったのだった。

 

 


 

「……チッ!」

 

 クラウスはガシガシと乱暴にケアをしていない髪を片手で掻きむしりながら、舌打ちをイラつきからする。

 

 やっぱ酒を抜かせてもこういうところは変わらなかったか、さっきも酒を飲んでいたし。

 

「……ユーロ・ブリタニアの狙いは『アポロンの馬車』だ。 それ以外、興味はねぇらしいから、そいつを渡しちまえばここにいる皆を見逃せ────」

「「────それは無理ですね/だな。」」

 

 クラウスの提案に、レイラと(スバル)の返事が同時にハモっては、クラウスとレイラが俺を見る。

 

 思わず口を出してしまった俺を殴りたい。

 

「あ、すみませんでしたシュバールさん。 どうぞ。」

 

 いやいやいや、俺はでしゃばる気はないしここは普通に司令の考えを見せるときだろ?

 

「いや、レイラ中佐が────」

「────いえいえシュバールさん────」

「────だから────」

 

 まるでキャッチボールというか譲り合う的コントやんかこれ。

 

「────痴話喧嘩は良いから “無理”と言った理由を聞いていいかい?」

 

 痴話喧嘩ちゃうけどその横からくるウェーブ、利用するでクラウス!

 

「と言う訳だ、レイラ中佐。 どうぞ。

 

 これで往生しやがれぇぇぇぇぇい!

 

「………………わかりました。」

 

 勝った。

 

 え? なんで嬉しそうに笑っているのレイラさんや?

 そう俺が内心でハテナマークを浮かべていると予想通りに、原作の言葉がレイラから出る。

 

「超長距離輸送機をユーロ・ブリタニアが手に入れれば、彼らは世界のどこにでも部隊を展開できます。 つまり、戦火が世界に広がってしまいます。」

 

 こんな場面に来ても、彼女は自分より大きな局面を考えるんだよな。

『夢見がち』というか、『思想家』というか……『純粋』というか。

 

 「……命懸けで戦ったって……なんになるってんだよ……」

 

「ミィ♪」

 

「……あ、エリザ────」

 

 ────トテテテテテガブッ。

 

 イデェェェェェェェェェェェェ?!

 

 ま、またや!

 また猫に噛まれた!

 しかも一直線に俺を狙って同じ足首ぃぃぃぃぃ!

 

「ああ?! エ、エリザ?!」

 

 イデデデデデデデデデ!

 

 グググ……

 

 う、動かん!

(猫が)全く動かんぞ?!

 

 いい加減に離せこの猫!

 

 ヒョイ。

 

 レイラがクソネコ(エリザ)を両手ですくい上げると、ようやくクソネコ(エリザ)が俺の足首から牙を離す。

 

「大丈夫ですか────?!」

「────ああ、すこし痛むだけだ。」

 

 ぶっちゃけジンジンする。

 

 何で毎回猫に噛まれるの、俺?

 俺ってば前世で猫に対して何かしたか?

 身に覚えが全くないのだが……

 

「……ハァー、全く……どうしたもんかねぇ……」

 

 さっきまでの怒りはどこに行ったのか、いつもの飄々とした態度に戻ったクラウスがため息交じりに肩をすくめてから俺たちに開き直る。

 

「実は珍しく、先方から連絡が入ってですね?」

 

 “先方から連絡が入った”って……

 

 まさか、シンからか?

 

 

 


 

 

 上記のやり取りより少しだけ時間は遡ったところ、聖ミカエル騎士団が陣を張っている場所で、シンはペテルブルグからの増援がようやく全て届いたところで、損害状況と残存戦力が書かれた報告書を横に、ジャンと共に如何にヴァイスボルフ城を攻めるかの戦術を練っていた。

 

 とはいえ、予想していなかったブービートラップや二次災害によって生じた損害は、決して小さくはなかった。

 

 先遣隊の歩兵部隊は戦力を大きく削られ、彼らの惨状を見た本部隊は士気を大きく低下するだけでなく、彼らから聞いた罠の類を知っては慎重に慎重を重ねた警戒を常時している所為で、緊張感や疲労は高まるばかり。

 

 それどころか、三剣豪に至っては未だにシンに対して不満感を露にしている上、ユーロ・ブリタニアを動かす権力を掌握したは良いが政治や内府はそっちのけで、武官たちには先日ヴェランス大公の代わりに『全軍EUに攻め込め』という命令を下しただけ。

 

 短期決戦が望ましいが、『城を囲んだ防壁を突破して“アポロンの馬車”の制圧と城の占拠はギリギリ』と言った戦力である。

 

 例え、ユーロ・ブリタニアから出来る限りの『カンタベリー』を無理やり持ってきたことを配慮しても。

 

 ここでの『カンタベリー』とは、勿論イギリス南東部の地名の事ではなく、大型機動兵器の事を示している。

 見た目と四脚自走砲である点では、河口湖のホテルジャックの日本解放戦線やブラックリベリオンで黒の騎士団に使われた『雷光』と共通点はあるが、実は『カンタベリー』をモデルにして造られたものが『雷光』である。

 

 その為『カンタベリー』は『雷光』とは比較にならないほど完成された兵器であり、脚もグラスゴーではなく専用のモノが使われ、砲台もちゃんとした超大型の超電磁砲で様々な弾を発射することが可能であり、必要とあらば砲台だけでなく対空砲としての性能も発揮できる。

 

 ただ、カンタベリーは雷光のように鈍足で、単機では敵に迎撃されやすいので、護衛として専用のタワーシールドを持ったサザーランドが付いている。

 

 だが────

 

「(────“歩兵部隊が足りない”……か。)」

 

 シンは薄笑いを浮かべたまま、報告書を見ながらジャンの言っていることより自分の考えに浸りながら笑みを浮かべる。

 

 何故なら今までの考えは『通常の戦術ならば』、という前提からくるものだからだ。

 

「……ジャン。 三剣豪たちは確か、“停戦するべき”という考えだったな────?」

「────あ、はい────」

「────三剣豪に伝えろ、“使者を出す”と。」

 

「ヒュ、ヒュウガ様……はい、ただちに! (よかった……)」

 

 ジャンは一瞬ホッとするような顔をするが、すぐにそれをいつもの仏頂面に戻してテントを出る。

 

 実は彼女、先日シンに迫っていた三剣豪をやんわりと物理と『マンフレディ卿の遺言に示された後継者(シン)のご指示には従うのが騎士道』と()()()()後に、シンの姿が見当たらなかったことで陣の中を探し回って、病棟の見張りが配置から動いていたことに注意しようとして“中に総帥(シン)が入っていった”ことを知り、病棟内に入ると────

 

「────ッ。」

 

 ジャンは足を思わず止めて、シンが行ったと思われる『介錯』に、昔スラムで育った幼いころに見た惨状を連想してしまう。

 

「(最近のヒュウガ様は明らかにおかしかったが……ようやく調子が戻って何よりだ。)」

 

 長年シンを彼の義父であるマンフレディ含めて誰よりも近くで見てきた(と思っている)ジャンが安心しているころ、シンは最近ズキズキと鈍痛のような感覚が日々増していく左目を手で覆いながら()の考え直しをしていた。

 

 

「(今まで見た兵の説明や現状と、スロニムでの戦いかたから察するに、罠を張ったものと城の指揮官は別の者だな。 城の指揮官は有能だが、()()()()()()()()()()だ。 そう危惧することはないだろうが、問題は罠を張った方だ。 設置場所と罠の類などを見ても、相手は恐らくは……) ……フ、フフ……フフフフフフフフフフフフ。」

 

 シンとアキトがやはり血が繋がっているからか、はたまたアキトがシンに似たのか分からないがシンは静かに笑いを漏らした。

 

 

 


 

 

 

「レイラ、気をつけてね?」

 

 ヴァイスボルフ城の隠し水路に泊めてあるクルーザーに、白衣を軍服の上にはおらせたアンナが心配そうに、船に乗るレイラを見送りに来ている。

 

「心配しないでアンナ。 ほら、寝ぐせが残っていますよ?」

 

「はぅ。」

 

 う~ん、美少女のじゃれあいは和むのぉ~♡

 

「────コホン! 司令の護衛は当然として────!」

 

 キッ!

 

 ハメルよ、()むのなら(スバル)じゃなくて(シン)に向けてくれ。

 

 キリキリしだす前に、胃薬を飲んでおくとしよう。

 

「────なぜウォリック中佐がお供をしているんですか?!」

 

「いやぁ~、アハハハハハ。」

 

 あー、うん。

 “停戦を申し出たユーロ・ブリタニアとの橋役だからな、内通者のクラウスは”とは言えない。

 

「大体司令も副司令が両方とも城を開けたら、万が一誰が指揮をとるのです?!」

 

 そこで俺を見るなよお前ら。

 

 いや、これは口にする必要があるな。

 

「そこで俺を見るな。」

 

「「え?」」

 

 おお、珍しくクラウスとハメルがハモったぞ。

 というか俺が『傭兵』ってことを忘れてないかハメル?

 

 まぁそこは今、どうでもいい。

 

 どうでもよくないのは()()()()()()()()()()()()ことだ。

『亡国のアキト』では勿論こんなことは起きなかったから、完全に俺の所為だな。

 

 最初は『アキトたちが帰ってくるまで』の時間稼ぎと『聖ミカエル騎士団への打撃』などを考えてし始めたことだが、まさかの『停戦』とは……

 

 多分だが、ミカエル騎士団でシンをよく想っていない奴らのおかげだろ。

 

 その狙いも視野に入れていたが、正直期待はしていなかった……

 

 何せ現状、俺を入れても聖ミカエル騎士団とヴァイスボルフ城が保有する戦力差は結構開けている筈だ。

 

 もし運よく歩兵部隊を撃退しているとしても、ミカエル騎士団はシンのヴェルキンゲトリクスにジャンのグラックスは当然として、サザーランド、リバプール、『三銃士』だが『三ナントカ』のグロースター・ソードマンとカンタベリーを入れたら100機近くある。

 

 対して現在のwZERO部隊は、ドローンやハメル達用のアレクサンダに、俺が前から開発していた機体たちを全部入れても20機。

 

 しかも20機内でも()()()のは17,8機だけで、籠城戦では大体『守り側の3倍の戦力は必要』という計算をしても、ミカエル騎士団はその倍近くのナイトメアを保有している。

 

 前世で設定資料を見た時も『うわぁ、これは降伏するわぁ』とのほほ~んと考えていた(と思う)が、いざ俺にとってのリアルとなるとどうにかしてこの差を縮めたかった。

 

 うん?

『なんでそこまでするの?』だって?

 

 そういや明確に言っていなかったな、なんで俺がEUに来たのか。

 ブリタニア本国にミルベル博士の確保を頼んだマーヤたちを迎えることもあるが……

 まず、wZERO部隊はEUにとって『変人の集まり』だけあって、優秀&有能な奴らばかりだ。

 以前に言ったが、レイラは『箱入り』や『人情』などを除けば戦術や策略はルルーシュ一歩手前か同等ぐらいの頭脳を持っているので、アマルガムにぜひほしい人材候補だ。

 

『亡国のアキト』後のアキトもスザクに一対一では負けるかもしれないが、スザク(超人一匹狼)と違って連携プレー(他人と協力)もできる分『部隊』には向いている。

 

 リョウたちワイバーン隊は実戦や修羅場くぐっている分、アキトよりは劣るが上と同じく。

 

 今のアマルガムは黒の騎士団に身を置いているラクシャータの手を借りているだけで『技術部』と呼べる部署はないにも等しい。

 

 それ以前に、いつの間にか『黒の騎士団お助けサークル』が『自立部隊』の段を飛び越えて『組織』に格上げされているし。

 

 とまぁ、現アマルガムの欠点はミルベル博士で多少は埋められるが、『どうせならwZERO部隊も』と思ったのがきっかけで、『亡国のアキト』の介入をしたわけだが。

 

 そこからさらに『そういや“双貌のオズ”も同じ時期ぐらいに活動あったなぁ~』と考えて、半分ダメもとでラクシャータに聞いたらポカンとされて『アンタなんであのクソダメオヤジ知っているのよ?』って聞き返されてちょ~っと大変だったよ。

 

 おっと、いつもの現実逃避の脱線癖が出てしまった。

 

 いつの間にかクルーザーは出払っているし、ハメルはアンナと一緒に城内に移動しているし────

 ────ヒュゥゥゥゥ────

 ────吹く冬の風さっぶ?!

 

 ヘックション!」

 

 さて。

 

 ブラックリベリオン時以来の一仕事だ。




久しぶりにスバル視点中心の話が出てくる予定です。


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第119話 『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』4

前半第三者、後半スバル視点の次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。


 ヴァイスボルフ城周辺にある森────最近では『魔女の森』と呼称されている中を横断するように流れる川につながっている一つの湖の『停戦協定』を結ぶ場所と指定された場所に、レイラとクラウスを乗せたクルーザーが停泊する。

 

 原作では明らかに劣勢であったwZERO部隊の者たちを助けるために降伏を勧める場所だった。

 

 普通なら司令と副司令と言った『部隊のトップ』だけでこの場所に来るはずもないのだが……皮肉にも『相手が騎士道を重んじる騎士団』、『相手からの停戦の提案』、そして『指定場所はwZERO部隊側に任せる』という要因も重なり、正直なレイラは敬意を表するために必要最低限の人員で応じることを決めていた。

 

 彼女の知る『聖ミカエル騎士団』はマンフレディがまだ総帥だった頃の古い情報だったが、“()()()()()()()()としても『保険』は一応掛けてある”とレイラは思っていた。

 

 といっても、第三者からすれば彼女がいかに『世の中を知らない』ことが伺えるだろうか。

 

 そんなことを知らないレイラとクラウスの頭上から、ポツポツと真っ白な雪が静かに降ってくる。

 

「うぅ~、道理で寒いわけだ! こりゃ積もるかな?」

 

「……」

 

 レイラはただ灰色に変わった空から舞い降りてくる雪を見上げ、とある雪が目の前を落ちるのを思わず手袋をした手で受け止める。

 

「(そういえば……彼が来てからわずか数か月だけ経ったのでしたね。)」

 

「司令? どうかしたか?」

 

「ああ、いえ。 行きましょうウォリック中佐。」

 

 レイラはクラウスに声をかけられて彼の後を歩くと、ローマ帝国時代の遺跡がちらほらと周りに見えるようになり、いずれ開けた場所にシンとジャン、そして『黒』、『青』、『白』を思わせる装身具を軍服に付けた聖ミカエル騎士団員と思われる非武装の者たちが待ち受けていた。

 

「こちら停戦文書案だ。」

 

「では確認します。」

 

 副官であるジャンとクラウスが上記のやり取りをしている間、シンはレイラに近づきながら互いの分析をしていた。

 

「(ふむ……『敵の指揮官は世間知らず』と思っていたが、まさかアキトとそう変わらない歳の少女とはな。 だがいろいろと合点がいく、()()()()()()()()。)」

 

「(なるほど……前の方────アキトの兄は騎士団のトップになってからそう時間はたっていない、あるいはあまり馴染んでいない様子ですね。 周りの者の緊張感や態度はおそらく、シュバールの策略だけからではなく新しくトップになった彼に対してからくるものも含まれていますね……つまり、この停戦は恐らくトップではなく部下からの提案。)」

 

「「……」」

 

 敵対する組織の実質上のトップは互いを見つめあい、なんの言葉も交わさずただただ二人の間に静かな時間が過ぎる。

 

 わずか数秒間だけが過ぎ、そこでレイラが口を開ける前にシンが言を発して、二人の間にあった沈黙が崩れる。

 

「古代ローマの遺跡を指定するとは……貴方は趣味がいい、さすがは『ハンニバルの亡霊』の作戦を立案するだけはある。 あなたのような少女だったとは意外でしたが。」

 

「それを言えば、この停戦にあなたは前向きではないようですね? シン・()()()()・シャイング卿。」

 

 シンの軽い()()()に、レイラのズバッとした言葉が返ってきて彼の笑みはごくわずかに深まる。

 

「アキトから聞いたのか。」

 

「(やはり、この人が……)」

 

「ああ、そう身構えないでくれたまえ。 私は貴方に恨みなどを持つどころか感謝をしているのです。」

 

「???」

 

 ここで初めてレイラの力んでいた表情が崩れたことにシンは愉快な笑顔を向ける。

 

「あなたのおかげで、時代遅れの思想を未だに掲げるEUとユーロ・ブリタニアの愚民どもに『恐怖』という刺激を与えられただけでなく、想定より早くユーロ・ブリタニアを手中に収めることが出来ました。」

 

 ここでスマイラスだけでなく、シンにまで国の掌握に利用されたことをダイレクトに言われたことで、レイラは動揺しそうになる。

 

 まさか目の前の者が騎士団のトップでありながら、敵国のトップであるとはさすがに予想外だった。

 

「ユ、ユーロ・ブリタニアを────?」

「────ああ、勘違いしないでいただきたい。 貴方たちがいなくともやるつもりでしたから、純粋に計画を前倒しに出来たことを感謝しているのです。」

 

 シンがにっこりと、今までしていた仮面のようなものではなく心からくる笑みをレイラに向けて彼女は困惑するが、彼の次に言った言葉にハッとする。

 

「して、『魔女の森』に仕掛けを施した者はどこだ? まさかあの職務怠慢が服を着ているようなモグラや君ではないだろう?」

 

「(『魔女の森』と呼ばれているのですか。) ……私ですが────?」

「────嘘を言うな女。」

 

 さっきまでの空気から一転し、笑みが獰猛な獣がするようなものに変わったシンからは、明らかに彼が不愉快だと宣言するような雰囲気が漂い、彼はレイラに迫る。

 

「あのような類の物を、お前ごときが使うはずがない。 あれは()()()()ような者がするものだ。 決してお前のような、まるで温室で育った夢見がちの者が考え得る芸当ではない────」

「────あなたと彼は違います。

 

 ここで初めてレイラがムッとし、思っていることを声に出す。

 

「いいや、違わない。 私とは────」

「────彼と貴方は違います。 貴方のことは、アキトが話していました。 彼はいまだに貴方のことを『兄』と慕いながら話す。『シン・ヒュウガ』は確かに素晴らしい人のようですが、今のあなたが同じ人とは思えません。 それに()も貴方のように『仮面』はしていても、彼の他人に対する思いは本物で信用するに値します! それに反して貴方の笑いはまるで中身のない抜け殻で────」

「────黙れ────」

「────まるで、周りを()()と恐れる子供のような────」

 「────黙れ貴様!」

 

 シンは蓋をしていた感情を抑え込むのをやめたのか、怒りを露わにすると、まるで感情の高ぶりに同調するように彼の左目にギアスの印が浮かび上がり、彼は腰の剣を手に取る。

 

「お、おいおいおいおいおい────?!」

「「────シャイング卿────?!」」

「動くな────!」

「────ジャン殿、何を────?!」

「────ウッ?!」

 

 シンの行動を見たクラウスとミカエル騎士団の使者たちは焦りだし、ジャンはまるでこのことを想定していたかのように、躊躇なく腰の拳銃をクラウスより早く抜いては向ける。

 

「お前に私の何がわかる、小娘?!」

 

「………………」

 

 レイラはいつの間にか抜かれて剣先が自分に向けられたシンの剣に目を向けずに、ただジッとシンを見る。

 

 この観察されるような目を向けられていることに気付いたシンは、無理やり怒りを抑え込んで冷静を表面的に装う。

 

「……なぜだ? 貴様は周りから裏切られているのだぞ? 口先では恩人と名乗り出ていたスマイラスにも利用されて。 なぁ、そこの冴えないモグラよ?」

 

「……ケッ! “冴えない”は余計だ!」

 

「だというのになぜだ。 なぜ貴様は信じられることが出来る? その眼差しは不愉快だ。 実に不愉快だ、反吐が出る。」

 

 「……可哀そうな人。」

 

「ッ?!」

 

 レイラのボソリと小声で零した言葉にシンは固まり、彼の笑みは引きつる。

 

 「私は貴方のことをアキトほど詳しくは知りません。 ですが、彼が貴方と話したいと思う気持ちはわかったような気がします。 あなたは……()()()()()()()()()()。」

 

 ビキッ。

 

 長年に渡る『仮面』を維持し続けていたシンのこめかみに、珍しく血管が浮く。

 

「“見えていない”のは貴様だ。 人間は醜い生き物で、誰もが自分の幸せのためならばどれだけ他人が不幸になろうが構わない。 

 それどころか、他人を不幸に落とし込めば落とし込むほど、『自分ではなかった、ああよかった』と幸せを確認するような浅ましい生き物だ!」

 

 シンは深く息をしては、天を仰ぎながら剣を握っていない手で目を覆う。

 

 「……ふぅー……もういい。」

 

 カチャ。

 

 シンは懐からE()U()()の拳銃を出し、レイラに向ける。

 

 パパパァン!

 

「「……え?」」

 

 そしてシンが引き金を引いたと思うと、彼は銃口をミカエル騎士団の使者たちに向けて発砲していた。

 

 発砲音が響き渡る中、シンは銃をレイラに向けて彼女の眼を見る。

 

「これで我が騎士団の使者はEUの者に撃たれた。 『停戦』などと笑わせてくれる────!」

「────ヒュウガ様────?!」

「────どうせここで貴様は『死ぬ』のだからな────!」

「────ヒュウガ様、彼らにはまだ利用価値が────!」

 

 ────シンが叫ぶと、常時ギアスの印が浮かび上がるようになっていた彼の眼から発された光はレイラの眼を通るが────

 

 ────バチッ

 

「ウッ────?!」

「────グオァァァァ?!

 

 レイラはまるで静電気のような感覚が直接脳に響き、シンは意識して発動していなかったはずのギアスが弾かれた反動から、自分を襲う頭痛に苛まれて思わず銃を手放し、左目から涙のように出てくる血と痛みを抑え込もうとしながらレイラから距離をとる。

 

「ヒュウガ様────!」

「司令────!」

 

 ────キィィィン!

 

 ジャンとクラウスがそれぞれシンとレイラに駆け寄りと、僅かにだが遠くからランドスピナーが独自に出す音が聞こえてくる。

 

「フ……フフ……もう止まらない。 ()()は止まらない。 ファクトスフィアは優秀な精密機械だ、銃声などすぐに探知できる。 それに多くの仲間を失っている────」

「────ヒュウガ様、まさかそのために────?」

「────シン・ヒュウガ・シャイング! 貴方は、『アポロンの馬車』を手に入れて何をするつもりですか?!」

 

 レイラは近づくナイトメアが到着する前に退避させようとするクラウスに寄りかかりながら、痛みに耐えたため涙目ながらも片目を開けて、自分より苦しんでいるシンを見て問うた。

 

 するとシンは今まで浮かべていたものとは違う、邪悪な笑みが彼の顔に広がっていく。

 

「ペンドラゴンかニューロンドン、どちらを()()するかはまだ決めかねているので、その時になってからコインを投げる予定だ。」

 

「「「ッ?!」」」

 

 シンの言葉にクラウスとレイラ、そして側近であるジャンまでもがヒュッと息を素早く飲み込んでしまう。

 

「ってちょっと待て! そんなことをすれば────?!」

「────そうだ。 戦火は瞬く間に世界中に広がって、たくさんの死人が出るだろう。」

 

 思考がフリーズしてからいち早く回復したクラウスの礼儀もへったくれもない言葉に、シンは狂った、愉悦感マシマシの笑みをしながら言葉を続ける。

 

「そうだ。 『人間』という愚かしい()()はもっともっと死ねばいい……醜くて醜くて醜くて醜くて醜くて醜くて耐えられんッ!

 

 まるでシンの高らかな宣言とタイミングがかぶるように、ローマ帝国の遺跡を無視してシンたちがいる場所へ駆け付けるかのように、聖ミカエル騎士団仕様のサザーランドが姿を現す。

 

 クラウスは現れた敵のナイトメアを見上げては『せめて司令だけでも!』、あるいは心の奥底に埋めた年長者としての本能を刺激されたのか、レイラを守るべく動く。

 

『やはりさっきの銃声は魔女か!』

『仲間たちの仇!』

『死ねぇぇぇぇぇ!!!』

 

「司令────!」

 「────大丈夫です。」

 

 ドドドッ!

 

 距離的に対人用機銃よりアサルトライフルを使ったほうがいいと構えたサザーランドたちが、次々と撃ち抜かれる。

 

「なに────?」

「────ヒュウガ様!」

 

 爆発の余波から、今度はジャンがシンを遠ざけるために庇い、クラウスはレイラの見上げている先に視線を移す。

 

「(んんん~?)」

 

 その先には、灰色の雲から除きだす陽光に当てられて、きらりと光る流れ星のような輝きが円を描くように近づいて、自分たちにのいる場所へと落ちていく。

 

「大丈夫です、ウォリック中佐。 彼は言いました、“必ず守る”と。 だから大丈夫です。」

 

 

 


 

 

 あっっっっっっっっぶねぇぇぇぇぇ!!!

 

 まさかのまさかで原作ではなかった停戦もだが、『もしワイバーン隊の登場タイミングがズレたら~』という懸念で、少し距離を開けたところからライフルスコープを覗きこみながら待機していたら:

 

 1、 (ちょっとその場にいる人物構成は違ったけれど)亡国のアキト通りにシンとレイラが話し合い始めたと思ったら、シンが何か怒った様子のすぐ後にレイラもムッと怒るような様子になったと思ったら、シンが帯剣していた剣を抜いた

 2、 まったく原作にない動作で、シンが今度は拳銃を懐から出してレイラに向けた

 3、 『マジか?!』と焦りながらナイトメアを本格的に起動させている間に銃声をセンサーがキャッチして、もう一度現場を見たらあら不思議、騎士団の奴らが撃たれているやないの

 4、 『ほぇ~(ポカーン)』としていると現場に近づく土煙(この場合は雪煙になるのか?)を見て、機体のスコープ越しにこれまた物騒なサザーランドたちが森の中を通ってレイラたちのいる場所に出てくる

 5、 『うわ、やべ』と焦って上空をパッと見ても『ガリア・グランデ』の残骸が見える様子もないので、急いで精神統一してから“狙い撃つぜ!”よりは“狙い撃つぜぇ!”気味に撃っては銃口が火を吹く。 さすがにこの距離だとファクトスフィアで探知されるかもしれないから、コードギアス世界での通常弾には無理な距離で待機していた故に。

 6、 技術部の協力を得て最新した機体の推進機を使ったら予想より性能いいモノだったから、一気に雲の下スレスレにまで上がっては大気圏突入も真っ青なほどの『エントリィィィィィィィィ!*1』を現在体験中で、多分俺の顔はオープントップ車で初めて高速をかっ飛ばして走る時の表情だろう。

 

 あとは……

 うん、事前にトイレ行っておいてよかった。

 結論から言って待機しててよかったけどマジにビビっているよ。

 

 前回の大気圏突入?

 あれは予想していたから別ですが何か?

 それとも『ちょっとこの際だから調整したスラスター使っちゃおう♪』から『ナニコレ雲の下スレスレやんけキャアアア?!』と思わせるほどの急加速とGにビビるなとでも?

 

 初見のオイラには無理ぜよ。

 

 っと、地面が(というか機体が落ちて)急接近してきたから、逆噴射&新機能の作動用意!

 

 それと対G備えの息止めるも忘れずに────

 

 ヴオォォォォォォォォ!!!

 

「────グッ?! ギギギギギギギギギギ!」

 

 機体の装甲越しでも聞こえる腰のスラスター噴射の音を横に、俺は歯を食いしばって体を力ませる。

 

 急な反動で頭部から血液が動いて視界が少し暗くなるが、まぁここまで何度も経験すればと自然と慣れてくる。

 

 頭が貧血気味にクラクラするのは相変わらず気持ち悪いが。

 

 っととと、思わずレイラたちのいる場所をこの機体────元ネタ機からほど遠いので『試作型蒼天型・村正一式、武蔵タイプ(仮)』。

 

 ……まぁ、なんか長々しくなったなぁ~と感じるのは俺もなので、個人的には当初目指していた『撃震(げきしん)』と呼んでいる。

 

 ソフィたち(日本マニア)は『ムサシ?! ニンジャァァァァァァ!』と騒いだので『侍だ』と訂正したら、余計に『Foooooooo!』って寝不足か過労のハイ気味になって、ちょっぴり怖かったのは内緒だ。

 

『なんちゃってハロを作ったんだからもうアーバレ〇トにしちゃいなよ』だって?

 魔法ドライバは無いんだからつけないよ?

 

 後、さすがにチューリングテストを論破できるAIを、初めのゼロ地点から急遽実戦用に作れるわけがないだわさよ?

 ユーフェミアのプレゼントは、アッシュフォード学園に入学するちょっと前から時間の合間を見て様々な状況パターンなどを入れた機械知能(MI)であって、厳密には人工知能(AI)ではないからね? ハードルとスタート地点がそもそも違うのよ。

 

 それにしても亡国のアキトでは出てこなかったサザーランドを撃墜したはいいが……覚えている内容だとレイラとクラウスがクルーザーに戻る前に、シンが近くに待機させたヴェルキンゲトリクスをワイバーン隊が空から攻撃するはずだ。

 

 タイミングはズレているっぽいから、ライフルを畳んで仕舞っているこの隙を彼はおそらく────来た!

 

 近くの森から飛び出てはローマ帝国の遺跡を軽々と粉砕する流れのまま、シンがコックピットに騎乗したヴェルキンゲトリクスがそのまま俺めがけてハルバードを構えて突進してくる。

 

 さすが140キロの速度、すごい気迫だが前回とは(俺の機体は)一味違うぞ。

 

 ヴェルキンゲトリクスの突進力を付け足されたハルバードを、銃を仕舞った俺はそれをかわすのではなく肩から長刀を両手で掴む。

 

 もちろん二刀流だが両方を同時に使うのではなく、一つはヴェルキンゲトリクスの突きを受け流す。

 

 ガガガガガガガ!

 

 そしてもう一つは逆に突進を利用した薙ぎ払いだ!

 

 ガキィン

 

 馬上からの突進は脅威だが、こう何度も見せつけられれば対策の一つや二つ思い浮かぶ────って硬いなオイ?!

 

 ヴェルキンゲトリクスに傷を付けられた&急増だから使い捨て前提とはいえ、俺の長刀が欠けたぞ?!

 しかも今見ると『傷』と呼んでもいいかどうか怪しいぐらい浅い!

 

 やっぱシュロッター鋼に、おぼろげにちらっと(黒の騎士団で整備のために)見たことある設計図のチェーンソーを取り付けた『なんちゃって廻転刃刀』には無理があったか。

 

 ビィー!

 

 よし、来た。

 

 思わず緊張と切迫感とその他もろもろで現実逃避脱線しそうだった俺の意識を、コックピット内でアラーム音が鳴り響いて俺は反射的にシンのヴェルキンゲトリクスから距離をとる。

 

 するとほぼ同時に、超長距離誘導式ライフル弾が()()()()その場に着弾する。

 

『よし、奴らがやっと来た』と瞬時にほぼ本能で悟った、俺はヴェルキンゲトリクスの状態を見ずにその場から飛ぶ。

 

 いや、今だから言わせてくれ。

 

 『飛翔!』と。

 

 ……『古い』とか言わないでくれ、マイハートが傷つきそうだから。

 

 まぁともかく俺が飛翔すると、案の定取り付けた翼を使って慣性飛行で降りてくるアレクサンダと、アレクサンダの肩に乗ったアシュレイ(多分?)が見えてくる。

 

「アキト、ここは任せた。」

 

 ワイバーン隊の周波数に合わせてそう静かに通信を送ると『グッ!』サムズアップが返ってくる。

 

 う~ん、やっぱりアキトとは気が合うな。

 

 慌てるアシュレイもなんか新鮮だ。

*1
ありがとうございます朽ち果てた古の鉄アレイさん!




仮とはいえ、機体名はかなり迷いました。 (汗

お気に入り、誤字報告、感想など全てありがたく日々の活力剤として頂いております。 本当にありがとうございます。 m(_ _)m


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第120話 我、『援護』という名の『暗躍』に入る

少々遅いメリークリスマス!

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 時間は、アキトが機体の肩にアシュレイを乗せたまま停戦を結ぶ場所に降り立つ少し前まで遡る。

 

『あ。 リョウ? 城からボートが出たみたいだよ?』

『ありゃボートじゃなくて“クルーザー”って呼ぶんじゃないのか?』

『うわぁ……リョウがリョウらしくないこと口にしている。 もしかして偽物? 悪いものでも食べた? トイレ行った?』

『ユキヤてめぇ、いい度胸だなコラ?』

『イサムからちょっと習ったからね♪』

『ちょっと待て?! 俺は先日のパーティの話をしただけだぞ?!』

『ああ……シュバールが司令(レイラ)義兄(ヨアン)に恥をかかせた夜のか?』

『ああ。』

『傑作だった。』

 

 ワイバーン隊の狙撃手役を担うユキヤは、機体のライフルに取り付けられたセンサー越しに、ヴァイスボルフ城の様子を『ガリア・グランデ』の残骸に乗った他の機体たちに送っていた。

 

『クルーザーの行き先は?』

『うーん……この進路だと、ちょっと離れたところにある遺跡っぽいね。』

『あれ? もう誰かいるみたいだけれど?』

『そうだね。 もうちょっと映像を拡大してみる。』

 『ッ……兄さん……』

 

 ユキヤから送られたぼやけた映像の中に長身の青年っぽい人物を見ると、アキトが思わず言葉を漏らす。

 

『と、いうことはユーロ・ブリタニアの人間たち? でもなぜだ?』

『うーん……“防衛側の城が使者を出す”って基本、あれじゃない? “降伏案”って奴。』

『ハァァァ?! なんでよ?!』

『さぁ?』

『理由はどうあれ、あそこに兄さんがいるということは“何らかの会談がある”と ────』

『────ん? ちょっとごめん皆、映像の描写先を変えるね?』

 

 ユキヤがライフルをまた動かすとまたヴァイスボルフ城が映し出される。

 

 今度は本来、輸送機や新型ナイトメアの訓練場や試行運用などの用途をもつ平らな場所には一機のナイトメア()()()モノが映し出される。

 

『らしき』と付け足された理由としては、その姿が今まで見たユーロを含めたブリタニアやEUのナイトメアとは違ったからだ。

 

 青と白をモチーフにしたようなシンプルなカラーリングと違って、機体自体の見た目は複雑そうな構造をしていた。

 

 機体は『人型』とぎりぎり呼べるほどの装甲の所為で一回り大きく見え、足には“ナイトメアの特徴”とも呼べるランドスピナーらしきものは見当たらず、腰には筒状のものにアサルトライフル。

 背中にはリュックサックのような物を背負い、肩には長刀と思われる武装が付けられ、腕にはユキヤ機とは違う形状のスナイパーライフルが握られていた。

 

『なんだありゃ?』

『さぁ……』

『データベースに照らし合わせたけれど、“アンノウン”と返ってきたぞ?』

 

 突然その機体の周りに土煙が撒き上がったと思えば────

 

『『『────はやい────?!』』』

 

 ────機体はすでにヴァイスボルフ城の一番高い塔(作戦室)の上に跳躍し、ライフルを構えていた。

 

『え? ちょっと今の何?!』

『飛んだ? いま飛んだよね?!』

『今のが見えたのかアヤノ?!』

『え? う、うん。』

『どんだけの動体視力だよ……』

『さすがはビーショップ(蜂屋)ロングレイ(長光)の保持者だ。』

 

 ワイバーン隊がこの謎の(多分)友軍機を見ていると、今度は所持していたライフルを構える。

 

『ッ! リョウ、さっきの遺跡に敵影だ!』

 

 するとライフルはみるみると形状が変わり、ユキヤのライフルと似通った長物になると銃口が文字通り()を吹く。

 

『あの距離から直撃させた?!』

 『……僕にもできるけどなぁ~。』

『(ユキヤが珍しくぼやいている?)』

 

 ワイバーン隊の今いる高度で音は聞こえなかったが、謎の機体が撃った先にいたブリタニアの機体と思われる残影が爆発していき、機体がまたも跳躍────否。 今度は文字通りに宙へと『飛翔』した。

 

 そして今度はアヤノだけでなくワイバーン隊の皆が、謎の機体がほぼ一瞬にして上空高く飛翔する姿を目にする。

 

『『『『『『本当に飛んだぁぁぁぁぁ?!』』』』』』

 

 さすがに彼らのいる『ガリア・グランデ』の残骸がある高度までは届いてはいない様子だが、通常は『陸戦用』として作られているナイトメアにしては異例の動きである。

 

 謎の機体はそのまま重力に引かれるように円を描いている状態からライフルを撃ち、遺跡に近づくブリタニアらしき機体を撃っていく。

 その姿と無茶ぶりを見たワイバーン隊の頭上に、もやもやと『とある無口気味な仏頂面の傭兵』が浮かぶ。

 

『なぁ、あれって────』

『────多分────』

『────というか間違いないんじゃない────?』

『────間違いだったらそれはそれで面白そうだけどね────』

 「────ぶぇぇぇぇっくしょい! どうでもいいけどよ、シャイング卿がいるんだろ?! 早く行こうぜ!」

 

 そんな時、唯一自分の機体がないアシュレイが、盛大なほどのくしゃみを出して愚痴をこぼしながらアキトの機体に乗る。

 

『“行こうぜ”って、お前(アシュレイ)も来るのか?』

「当たり前だ!」

『なぜだ?』

「俺ごと船を勝手に自爆させようとしたんだ! 文句を言うぐらい良いだろうが!」

『コックピットは無理だな……機体の肩にでも乗るか?』

 

 『『『『『え。』』』』』

 

 アキトの安全ロープ無し巨大トランポリンのような(ほぼ)命がけの提案に、ワイバーン隊が呆気に取られたような声を出す。

 

「おう!」

 

 『『『『『え。』』』』』

 

 そしてウキウキとアキト機に自らヒョイと乗っては肩にしがみつくスリル大好きアシュレイに心底困惑するようなハテナマークを出しながら、ほかのワイバーン隊がまたも声を(さらに)出す。

 

 そのままアキト機は飛び降り、リョウたちも降下準備を急遽進めている間にユキヤがスナイパーライフルを撃つ。

 

『……うわぁ、シュバールって本当に人間かな?』

『ユキヤの言いたいことはわかるが、さすがにそれは言い過ぎなんじゃね?』

『いや~……今彼が乗っていると思われる機体が敵とやりあっている最中に、後ろから撃ったんだけれどね? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですけれど~?』

ちょっと待て! おま……マジか?』

『うん♪ だってリョウ、いつまで待ってもな~んにもアクションを起こさないからさ、*1魔が差しちゃってつい♪』

『……不意打ちでも当たられないって、どれだけだよ? しかも“利用”って────』

『────うん、はっきり言って化け物だね♪』

『ああ……化け物だ。』

『道理で毒島があんな風に彼のことを持ち上げるわけだね。』

 

 

 なお余談だが、もしスバルがこの二人の会話を耳にしていれば『ちゃうんすよ! 原作知識やねん!』と(内心で)ツッコんでいただろう。

 

 内心なので意味はないが。

 

 

 そんなユキヤの言葉に反論しそうだったリョウでさえも半ば呆れたような声を出し、先に降下した者たちの後を追うと、ユキヤは高々度観測気球の通信機器を通して通信をwZERO部隊に出しながら、ブロックしていたアレクサンダたちのビーコンとパイロットの生命反応を戻す。

 

「もしもし~? 城の皆、聞こえている~?」

 

『え、この声……ユキヤ君?!』

 

「あ、サラ()。 久しぶり~。」

 

『も、もう! こんな時にアキトレベルのダジャレをしないでよ! 皆心配していたんだからね!』

 

「あははは、ごめんごめ~ん。 でも言うでしょ? “敵をだますにはまず味方から~”って。」

 

『ひどいよ……グスン。』

 

 ユキヤは自分のマイペースな声に、サラが安堵した声と嬉し泣きの予兆の音を出したことに胸がチクリと痛んだことに一瞬困惑するが────

 

「(────ああそうか……僕はリョウたちだけじゃなくて、いつの間にか城の皆も仲間と認めていたのか。)」

 

 ユキヤは自己問答の答えにたどり着くと一人で納得し、認識が合うことで『困惑』を『心地よいモノ』と変わっていくのを実感する。

 

『ユキヤ君、司令たちが────』

「────ああ、うん。 なんか半島にボートで向かったよね? さっきアキトたちが行ったよ。」

 

『そうなんだ!』

 

「それとさ? さっき見慣れない機体がいたんだけれど、あれってもしかしてシュバールかな?」

 

『うん、“何かあった時のために~”って張り切ったアンナ達と一緒に作ったヤツだと思う。 実際に動いているところは今日見たけれど。』

 

「(ふぅ~ん……やっぱりあの言葉、僕宛だったのか。)」

 

 ユキヤが思い出すのは先日、スバルが定期通信で言っていた“最初の爆弾後に飛び降りろ”という言葉だった。

 

『ユキヤ君? どうしたの?』

 

「ううん、何でもない。 僕ももう少ししたら行くよ。」

 

『それってどういう────?』

「────“ちょっとやることが出来た”っていう意味。」

 

 ユキヤは通信を切り、高々度観測気球から入ってくる敵軍の情報を見る。

 そこには先ほどの狙撃に反応してか、あるいは『交渉決裂』が伝えられていたのか、聖ミカエル騎士団の百機近いナイトメアと歩兵の混成軍団が隊列を組んで進軍を開始していた。

 

「う~ん……しょうがないよね────」

 

 そう彼は言いながら、機体の横に置いてあるシリンダー状の物をアレクサンダの手に持ち、それを落とす。

 

 平たく言うと、『ガリア・グランデ』の内部で屑鉄のように残された質の悪いサクラダイトをユキヤが上手く利用してデザインされた爆弾だった。

 

「────戦争なんだから。」

 

 地面近くまで落ちたそれ(爆弾)は、デザイン的に最大の効果を発揮する高度にまで落ちると巨大な爆発を起こし、『魔女の森』の様々な脅威を味わって密集した隊列を組みながら森の中を進んでいた20機ほどのナイトメアと、それらと一緒に隊列を組んでいた歩兵が目を焼き尽くすような光とともに消滅する。

 

「バーン♪」

 

 爆発の余波で吹き飛ばされたナイトメアに潰される歩兵や、ダメージに耐えかねて内蔵されたサクラダイトが誘爆し、比較的無事だった歩兵を火達磨へ変えるなどの二次被害がミカエル騎士団を襲う。

 

「ん?」

 

 本来の流れでは、ユキヤの攻撃でミカエル騎士団は受けたことのない攻撃に狼狽えながらパニック寸前にまで陥っているのだが、幸か不幸かスバルの施した数々の悪質な罠を味わった彼らは早くも対応するための動きに入っていた。

 

「え? 何これ? あ、やばいかも────」

 

 さすがのユキヤもこのような反応を予測していなかったのか、彼は焦りからかいつもの半笑いが引きつらせて、人生で数々のハプニングでも走馬灯が初めて脳裏に浮かぶ。

 

 

 ……

 …

 

 そこはアムステルダムの『日本人居住地区』と呼ばれていた場所。

 

 実質には『居住地区』という名だけの『()()()()』だったが。

 

 だがそこはエリア11のような元からあった旧日本街がゲットーに変わったのではなく、EU市民たちが日系人に対して感じた不満や恐怖を収めるために新しく作られた施設だった。

 

 窮屈で肩身の狭いそこは様々な要因でストレスが高まっていき、最終的には『同居人を憎む』ように設計されていた。

 

 EU市民が日系人に危害を加えるのは罪にならないよう人権と市民権をはく奪するのは簡単だが、それを行った後でも逆の事が起きれば世間的に(EU政府に対して)悪いイメージと『護民義務を行使せざるを得ない』状況になってしまう。

 

 ならばどうするか?

 

『そんな面倒くさい手段は当人(日系人)たちに()()させればいい』、というのが当時のEUで採用された政策だった。

 

 そんなところで育った日系人の子供たちに、両親や親戚の大人たちが持っていた劣等感や不満が伝染するのは時間の問題だった。

 

 大人や子供に関係なく、自分より立場や物理的に『弱い』ものを見つけては負の感情のはけ口にされていった。

 

 何せ実質ゲットーは無法地帯なのだ、何が起きようが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 過失傷害どころか強盗、殺人、暴行、強姦、堕胎などのありとあらゆる、『社会が良しとしない悪道』は日常茶飯事。

 

 かくいうユキヤも被害者であることを免れず、背中は無数の傷跡は残っているが、一番ひどいのはほぼ縦半分に切断された左手である。

 

 運よく神経への損傷はなかったが、いまだに季節や天候の変わり目に痛むほどの深い傷はユキヤの心にも傷を刻み、彼の精神は壊れた。

 

 彼は確かに物理的な暴力沙汰では『弱い』。

 

 よって彼はその頭脳を使って、彼に傷を負わせた者たちが潜む学校を丸ごと爆破し、皆殺しにした。

 

 ゲットー内では放置しがちなEUも、さすがに動かざるを得ない状況を作ったユキヤはお尋ね者になり、逃亡していた際にリョウ率いるアンダーグラウンドのグループと出会った。

 

 リョウたちこそユキヤを次第に認め、互いが互いを『仲間(家族)』と思いあうまでそう時間はかからなかった。

 

 ……

 …

 

 これらの記憶がユキヤの目の前から消え、彼ははっとして『ガリア・グランデ』から飛び降りようとすると高高度観測気球のセンサーに『友軍』を示す識別信号がとてつもない速度でブリタニア軍に接近するのを見て、彼の頬が思わず弛んでしまう。

 

「うわぁ……本当に人間?

 

 

 

 

 

 

 ねぇ? シュバール()()?」

 

 

 

 


 

 

 

撃震(試作型蒼天型・村正一式、武蔵タイプ(仮))』の機動によってGと浮遊感が交差する中で俺は『ま・に・あ・えぇぇぇぇぇぇぇ!』と思いながら、ユキヤの爆撃に追撃のために対空砲撃の態勢に入るミカエル騎士団のカンタベリーたちめがけて、作業を行うかのように可変式ライフルで撃っていく。

 

 ダダダダ!

 

 一機に誤差や()()を想定して数発ずつ撃つと、爆発が見えては機体が着地しすぐに飛翔させる。

 

 作業と思えば、俺のこの体を襲う負担や胃の痛みも()()と思いながら無視して思考に没頭できる。*2

 

 ビィー!

 

 これを繰り返しているうちに、アラーム音が鳴って画面に『Avertissement(警告)! Balles restantes(残弾数):0』という文字がモニターに表示される。

 

 予測していたが、さすがに火薬を生産させてもコードギアスの世界では技術的に未発達な方面だからか、あまり量は作れなかった。

 

 普通に危険物だし。

 

 だから、ここからは()()()()()()()()()()()()()()()()()の出番だ。

 

 俺は可変式ライフルの()()を取り外してサブアームを使って仕舞い込むと同時に、別の銃身を取り出しながら、ライフル本体に備え付けられたケーブルを機体に接続する。

 

 そしてライフルの弾倉も取り換えると事前にインストールした兵装ドライバー(ソフトウェア)が適用されて画面の表示も変わり、『Recharger(再充電)』という文字が加わる。

 

 それを確認すると機体の跳躍で武器の射程距離に入るまで一気に近づき、着地した森の中で膝立ちをしてライフルを構える。

 

 バチバチバチ!

 

 先ほどの『乱射可能』な兵装と違い、今度のは一発一発の間に時間があるが────。

 

 ドゥ!

 

 ────その分、()()

 

 発射された銃弾は木々の隙間を抜けながら近くの枝などが風圧で弾け、スコープ先のカンタベリーの脚を被弾させる。

 

 攻撃ルートが逆算され、位置が特定された。

 ブリタニアのサザーランドが俺の場所めがけてランドスピナーを展開し、リバプールは残った三脚で態勢を立て直そうとする。

 

 周りの木々が銃撃や砲撃に当てられて(おそらく)バキバキと音を立てて爆散したり倒れたりするが、カンタベリーは対空砲撃から俺に銃口を向けようとしている。

 

Recharger(再充電)』という文字の横に『Completion(完了)』が浮かび、引き金を引くと銃弾は『銃身』という密閉空間内にある導電性のレールを伝って急速に撃ち出される。

 

『レールガンじゃねぇか』、だと?

 そうとも言うが、敢えて呼びなおしてほしい。

 

 『これぞ電磁砲だ!』と。

 

 ん? 『そもそもなんでこんなことをしているか』って?

 

 ごもっとな質問ありがとうよ。

 

『レイラたちの護衛。』

『敵の戦力を削ぐ。』

『ワイバーン隊の帰還援護。』

 

 とまぁ、理由の数はいろいろあるが、俺としては出来ればワイバーン隊が乗っている『ガリア・グランデ』……の残骸に取り付けられているフロートシステムとユニットも目当てかな?

 

 何せ『張りぼて』と言っても、『ガリア・グランデ』のように巨大な船体を浮かばせるフロートシステム&ユニットなんて、技術的でもロマンでも魅力あるじゃん?

 

 おっと敵の銃弾が届く位置に入ってしまった。

 

 というわけで俺は()()を繰り返す。

 

 位置を変えて撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

 

 位置が特定されてはまた変えて撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 

 ビィー!

 

 ついに『Recharger(再充電)』の表示が『Surchauffer(オーバーヒート)』に変わったことで、俺は機体を飛翔させながらゆらゆらと蜃気楼並みに寒い冬の大気を揺るがせながらモクモクと煙を出す銃身を破棄して、新しいモノを再装填させる。

 

 まだか?

 

 アキトたちが城に着けば、戦力終結のために出るはずの『退却命令』はまだなのか?

*1
104話より

*2
ありがとうございちゅうんさん! 採用、遅くなりました(汗)




徐々に『仕事スイッチ』をスバルは使いこなそうとしている模様です。 (汗


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第121話 言いたいけれど怖すぎるセリフを言ってしまった

少々短めで急展開な次話です。

お忙しい中時間を割いてお読みいただきありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


 唐突だが、舞台を世界規模に少々戻したいと思う。

 

 ブラックリベリオンは黒の騎士団、引いては『合衆国日本』の敗北で終わった。

 ブリタニア帝国はエリア11の鎮圧とともに、権益の維持をして戦争特需によって繁栄の黄金期に入りつつあった。

 

 だが同時に、そのブリタニアに見事なまで『反抗』を見せたブラックリベリオンによって、ブリタニアを仮想敵国としていた大国や被支配下の小国をバックにした『反ブリタニアテロ』の活動は一気に世界中に広がっていた。

 

 ブリタニアは保有する圧倒的軍事力でこれらを今まで通りにねじ伏せているが、かの怪物である『ヒュドラー』のように、次々とテロ組織が生まれては活発化するだけだった。

 

 これに対し、初めて『対テロリスト組織』が第88皇女のマリーベルの発案で結成された『グリンダ騎士団』だ。

 

 一部隊であるが、その組織はテロの中核を担う相手を少数精鋭で遊撃的に排除するため、特別に『軽アヴァロン級』と呼ばれているカールレオン級浮遊航空艦のマリーベル個人での所有をシュナイゼルから許されている。

 

 一度は実の父親である皇帝シャルルに剣を向けたマリーベルが。

 

 これは彼女がテロに対して思う感情(憎悪)と、『彼女の才能(手腕)を活かせるため』とシュナイゼルが無理やり反対派である貴族たちを黙らせた結果だった。

 

 そんなグリンダ騎士団は、シュナイゼルの頼みで暴走気味になっているユーロ・ブリタニアへ『本国に協力的な者たちの保護』という名分で送られていた。

 

 その件とは別に、ブリタニア本国でもテロは小規模ながら()()()()()()()()()

 

 無論、本国であるために頑丈かつ周到なほど国境の警備体制は厳重。

 

『人の流れはある程度どうしようもないが、使う物資(道具)がなければ大規模なテロ活動は不可能。』

 そのような体のまま、ブリタニアの本国は長らく平穏の時を過ごしていた。

 

 実際、本国とEU領地はほぼ隣同士であるというのに、EUが古くからの首都ペンドラゴンに攻め込もうとしたのは、この世界での『第二次世界大戦』ならぬ『EU東西戦争』のどさくさの中で東と西の思惑が動いたときである。

 

 東側は『領地の拡大』と『西側に力の誇示』を目的とした『アシカ作戦』。

 西側は『物資の強奪』と『東側の偽装で悪評を広める』名目で繰り広げられた『海岸戦線』。

 

 二つとも結果的に失敗に終わったが両軍とも撃退されたのは海であり、陸にまで到達していない。

 

 よって()()()()()()をブリタニア本国は味わってもいないし、対処の想定やマニュアルも当時()のままだった。

 

 ドォォォン!!!

 

『て、敵襲!』

『テロか?!』

『ナイトメアだ!』

『どこから出てきた?!』

『目撃者によると空から降ってきたらしい!』

『こちらもナイトポリスを出せ! 早く!』

 

 よって、『本土に敵性ナイトメアの出現』などといった状況は全くの予想外である。

 

 そして寄りにもよって、グラスゴーに少し改良を施された警備用のナイトポリスが相手しようとしていたのは紅蓮弐式……に似た()()()()に統率された無頼や()()()たちだった。

 

 少し前にエリア11で起きた『フクオカの事変』により、中華連邦の手に無頼と無頼改が渡ったことで解析され、金に糸目さえつけなければ手に入るようになっていた。

 

 息を潜めながら計画を発動する機会を待っていた貴族派は大量に中華連邦から購入し、EUでジュリアスが行った『箱舟の船団』宣言に便乗してようやく決起した。

 

 もちろん上記でブリタニア本土内に暴れている無頼以外の『無頼改』や『紅蓮壱式』は張りぼてであるが、『空から降って本土、しかも貴族街を攻撃している』というインパクトの前には些細な問題だった。

 

 元がグラスゴーといえど軍用だった機体の事実は変わらず、保安用に改良されたナイトポリスでは歯が立たなかった。

 

 そんな街中でとある男性が車を走らせ、ビルの角から無頼改が出てくる。

 

「ウィルバー!」

 

 助手席に座っていた女性がそう叫ぶと運転手の褐色男────ウィルバーがハンドルを切って車の車輪をスライドさせて、無理やり目の前に出てきた無頼を回って走行し、無頼改はアサルトライフルを撃ちながらランドスピナーを使って車を無視しながら進んでいく。

 

「サリア、周りを見るな!」

 

「え────ウッ?!?」

 

 ウィルバーが叫んだ時には時遅く、サリアと呼ばれた褐色美人が車の窓から見た景色は逃げ遅れた者たちや警察官の無残な亡骸たちだった。

 

 それはあまりにも現実から離れた姿形で、いっそ『災害をテーマにした映画のシーン』と言っても納得してしまうほどの惨状だった。

 

 察しているかもしれないが、この二人はミルベル夫婦であり、皇族派でも正式に博士号を所有するほどのナイトメア技術者たちでもあり、貴族でもある。

 

 よって、このようにウィルバーが自動車を自ら運転するなど異例の光景なのだが、先ほど勤め先であるシュタイナー・コンツェルンの夜会パーティから帰宅する途中で、護衛たちは突然のテロによって壊滅し、ウィルバーたちの乗っていた車も走行不可能な状態になった。

 

 彼は運転手が近くに見当たらない、乗り捨てられた車を拝借して兎にも角にも安全圏(と思われる)シェルターのある地区に向かおうとしていた。

 

 だが────

 

「────シェルターが、燃えている?!」

 

 さっきのナイトメアが来た方角に向かっていたので『その考え』に至っていないわけではないのだが、二人が見たのは頑丈そうなドアが無理やりこじ開けられて中から燃え盛る炎が見えるほどの景色だった。

 

「そ、そんな……」

 

「……ほかの場所を探すぞ!」

 

 サリアが唖然としているとウィルバーは車を出し、道を走っていると銃撃音がして、彼らが乗っていた車のリアガラスがバリバリと音を立てて割れる。

 

「キャ?!」

 

 ウィルバーがバックミラーを見ると、今度は別の機体の無頼が対人機銃を使って追ってきていた。

 

「ウィルバー────!」

「────何かに掴まっていろサリア!」

 

 サリアの恐怖する声にウィルバーは気丈に振舞いながらも、このままで自分か(サリア)、あるいは二人ともケガをするのは時間の問題と理解していた。

 

 一応技術者でありながら、ウィルバーは生粋の軍人にも引けを取らないほどの指揮能力を持っている。

 

 ゴッ!

 

「「え?」」

 

 故に現状の把握などは彼にとって容易いことだったが、さすがに自分たちを追う無頼が横から飛んできた鉄骨に当たるとは思わなかっただろう。

 

「こっちだ!」

 

 そんなウィルバーは大通りの横道から手を振っていたブリタニアの軍服を身にまとった少女たちの声とジェスチャーの誘導のまま、大通りから少し外れた自然いっぱいで人影のない庭園に車をちょうどすっぽりと覆うような大きい茂みへと入り、ここでようやくウィルバーとサリアの二人に『とある事態』が浮かぶ。

 

「ウィ、ウィルバー……」

 

「だ、大丈夫だサリア。 何があっても君は守る!」

 

「ウィルバー……」

 

「えっと……おアツイ中を失礼ながらもお久しぶりと言ってよろしいでしょうか、ミルベル卿?」

 

 ぽっかりと開いたリアガラスから、どこかよそよそしいまでにへりくだった声にウィルバーたちはハッとして、声の主である軍服を着て気まずい様子の少女────サンチアを見る。

 

「…………………………ええっと……そういう君は確か、マッド教授の?」

 

「え、ええ。 覚えてくださり光栄です────ん?」

 

 サンチアは耳に付けたインカムに何か別の連絡が入ったのか、手を添える。

 

「……あー、ミルベル卿。 ここにラビエ博士たちも匿ってはいけないだろうか?」

 

 本来、スバルがサンチアたちに頼んだのはウィルバー・ミルベルと彼の妻の保護であり、『テロ』と呼ぶにしても小規模なこの出来事は早くも鎮圧され、貴族派は思惑通りに中枢に自分の息がかかった者たちを置くのだが……

 

 ここにきて、スバルでも予想していないモノも得てしまったことを知るのは、もう少し先の話である。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 ヴァイスボルフ城の森の中にある半島にアキト機が降り立つと、アシュレイがプンプンと明らかに怒っている様子で飛び降りながら叫ぶ。

 

 「シャイング卿! テメェ、よくもオレがいるのに『方舟』を爆破させやがったな?! どんな言い訳を────?!」

 

 パパパパパァン!

 

「────おわっととととと?! 何しやがる、ジャン?!」

 

 アシュレイがアキト機から飛び降りると、ポカンとしていたジャンが手に持っていたリボルバーを躊躇なくアシュレイに向けて発砲し、アシュレイはそそくさと遺跡の壁に隠れてから抗議の声を上げる。

 

「黙れ、裏切り者!」

 

 「ふざけんなこの野郎! 先に裏切ったのはシャイング卿だ!」

 

「せめて騎士らしく潔く散れアシュレイ・アシュラ!」

 

 パパパパパァン!

 

「チッ! いつになく強気だなジャン?!」

 

 ジャンは素早くリボルバーの弾をスピードローダーで再装填してから攻撃している間、アシュレイはぐるりと遠回りにクラウスが様子を見るために残った場所に辿り着いては、クラウスを無理やり自分へと振り向かせる。

 

「ちょ?! おま?! 誰だよ?! ていうかさっきまであそこにいたんじゃ────?!」

「────おいおっさん────!」

「────()()30代だ! おっさんじゃねぇ────!」

「────十分おっさんだろうが?! それよりアキトの野郎どもに頼まれた! ずらかるぞおっさん────!」

「────だから誰だよお前ぇぇぇぇああああああああああ?!」

 

 アシュレイはクラウスをつかんだまま無理やり引きずっていき、半島に停泊させているクルーザーへと連れていく。

 

 ジャンがいる場所近くでは、ユキヤの弾丸を受けて視界が巻き起こった土煙によってさえぎられていたヴェルキンゲトリクスがハルバードで煙を振り払い、アキト機を見る。

 

『兄さん────』

『────やはり生きていたか、アキト。 さすがだな────』

『────兄さん、目を覚ましてくれ! 何が貴方をそこまで変えたんだ?! 昔は、あんなに────!』

『────それを知らないというのなら、お前は世界のことを知らなさすぎるぞ、アキト。』

 

『少なくとも、兄さんよりは知っているつもりだ!』

 

『……ならアキトならどうする?』

 

 ここで初めてシンがアキトに問いをしたことに、アキトは戸惑いを隠せずにいた。

 

『兄さん────?』

『────世界は決して優しくはない。 そしてこの世界の在り方は支配者どもに思考を放棄した大衆が支持している限り、世間は誰が何をどうしても変わらない。 この世界は歪で不完全で、生きている者たちに苦しみしか与えない。 アキトならば、どうすべきだと思う?』

 

『……………………わからない。』

 

 長い沈黙の末にアキトの出した答えに、シンが笑みを浮かべる。

 

『だろう? だったら答えは簡単だ。 世界を維持している支配者と大衆を根こそぎ消せばいいだけの話だ。』

 

『……俺は兄さんたちのように賢くはない。 だけど、その方法はダメだと思う。 兄さんほどの人なら、他の────』

『────他の道など、腐った世界を維持する家畜どもに何を期待すればいいというのだ? 見ろ。 EUは偽造された映像と停電というチャチな手品だけで崩壊寸前になり、ユーロ・ブリタニアは力を誇示しただけであっという間にいいなりだ────』

 

 そこでアキト機のコックピットが開き、アキト本人が出てきてはシンも機体から出てくる。

 以前のスロニムのような場面が出来上がっていた。

 

「────それでも、俺は()と一緒に別の方法を探す!」

 

「愚かなアキト、お前は幼子のままだ。 あの時()()()()()()()()のか不思議で仕方がないが────」

 

 ドグン!

 

「────ウッ?!」

 

 シンの言葉にアキトは子供の頃を思い出し、その連想に彼の心臓は強く脈を打つ。

 

 視界はぼやけ、『今すぐにでも思い浮かべていることを行動に移したい』と『それはやってはダメだ』という二律背反の考えがアキトの中でぶつかり合う。

 

「……今のお前に構っている暇はない。」

 

 シンはヴェルキンゲトリクスに乗り込みながら、自らのこめかみに拳銃を向けるアキトから興味が失せたような独り言を言い放つ。

 

 

 


 

 

 ガコォン!

 

 これで最後の銃身の替え。

 弾丸も残りわずか。

 電磁砲の為に、機体から直接エナジーをライフルに送っているから残量も心許ない。

 

 あれから30分ほど時間が経った。

 もうそろそろワイバーン隊とレイラたちがヴァイスボルフ城に戻っていてもいい頃だ。

 

 だというのに一向に通信が入ってこないし、送っても応答がない。

 

 どういうことだ?

 

『シュバールさん!』

 

 おおっと、やっとレイラの声か。

 

「どうした?」

 

 そのまま“戻ってきてください”とか言うのかn────

 

『────まだ戦えますか?!』

 

 え。

 

 返ってきたのはレイラの切羽詰まったような声?

 ナンデ?

 

「どうした? ワイバーン隊に何があった?」

 

『ワイバーン隊は無事ですが、敵の別動隊が別方向から城に迫っています!』

 

 どういうことやねん。

 

『今城に着いた皆の機体の整備や補充に修理などをしていますが────』

 

 ────ああなるほどね。

 

「つまり、俺に“時間稼ぎをしてくれ”と?」

 

『……………………平たく言えば、そうなります。』

 

 まぁ、無理もないか。

 今満足に動けるナイトメアは俺と城の警備隊たちにドローンだが……

 

 警備隊は『治安目的』の組織であって『戦争』をするためのモノじゃない。

 

 ドローンはレイラが扱えば何とか戦力になるが、『城の防衛と敵の追撃』の為に取っておきたいんだろう。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 う、腹が……

 

『その……申し訳ないのですが────』

「────了解した。」

 

 ああ、全然似合わないからそんな悲しそうな声を出さないでくれレイラ。

 

 まるで元気のないカレンより胸がチリチリ痛む。

 

『え────?』

「────それがお前の望みなら、契約に従うまでだ。 だが────」

 

 あー、もうどうにでもな~れ!

 “人生で言いたいセリフ”、ゴー!

 

「────時間稼ぎは良いが、別に殲滅してしまっても構わないか?」

 

 ギュウゥゥゥゥゥ!

 

 上記のセリフを口にした瞬間、胃が絞られ過ぎてブチぶちと布が千切れるふきんのようなかつてないほどの痛みが襲った。




仕事の合間での携帯書き上げ&投稿がまだ続くと思います、申し訳ございません。 (´;ω;)


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第122話 『子供』と『大人』、『騎士道』と『野心』

お忙しい中、お読み頂きありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。


 現在のヴァイスボルフ城の戦力は『城の防衛システム以外はほぼナイトメア』と言っても過言ではない。

 

 元々スマイラスはいつかレイラごとwZERO部隊を切り捨てるつもりだった。城の設備の大半が最先端技術を使った自動化された兵器類が多いのもその理由が関係していて、城には最小限の人員しか配置していなかった。

 

 だが幸運にもwZERO部隊はEUから孤立していたからこそ、本来ならEUが目くじらを立てるような技術の開発などに励むことが出来たのが唯一の誤算だったかもしれない。

 

 原作でのアンナはこの時点で、すでにブリタニアの最先端技術である筈のブレイズルミナスだけでなくフロートシステムの解析を独自に終えているだけでなく、鹵獲したアシュレイのアフラマズダのデータを元にシュロッター鋼の装甲をアレクサンダたちの改良に使っていた。

 

 その上『亡国のアキト編』でのクライマックス時に使用されているナイトメアでも汎用型である『アレクサンダ・ヴァリアント』は、今まで使っていたアレクサンダタイプ02をさらに強化したモノで、リョウたちのデータを応用してアキト専用機として開発していたアレクサンダタイプ02の亜種とも呼べる『アレクサンダ・レッドオーガ』。

 

 最後に『箱舟作戦』から機体と共に生還したアキトの機体を現段階で出来るだけの強化を施した『アレクサンダ・リベルテ』はコードギアスの作品中でも目を見張るものがあった。

 

 上記のブレイズルミナスを使った盾、コックピットブロックや背中に取り付けられた噴射機での機動力アップ、そしてハリネズミ風にありとあらゆる武装の追加。

 

 余談だがスバルが前世で見た(と思われる)とある某アニメ風に『アレクサンダ・リベルテ』を呼称すると『フルアーマーアレクサンダ』がしっくりくるだろう。

 

 さて。

 

 そんな『亡国のアキト』と違って、現在の聖ミカエル騎士団の大半は血を求める獣のように(いき)り立っていた。

 

『魔女の森』で地獄絵図を身近に経験した彼らは本来、シンの指示に従って陣を組んで号令を待つはず……だったのだが、EU(の銃)が発砲されたことで、『相手が先に手を出した』という思い込みが彼らを独断で行軍させるきっかけとなっていた。

 

 さすがの三剣豪も、心身共々に疲労していることを『怒り』と『憎悪』で動いているような本隊の者たちを止めようとは思わず、逆にそれらの矛先を敵に向くように誘導していた。

 

 これが明確に原作とは違う流れを作り、今すぐにでもヴァイスボルフ城の防衛戦がいつ始まってもおかしくない結果となっていた。

 

 そしてヴァイスボルフ城のマシーンがどれだけ優秀でも、それ等を満足に扱えるワイバーン隊たちは帰還したばかり。

 

 もしレイラが“応戦してください”と言えば恐らく、消耗した体力や精神的疲労を無視してでも渋々彼らはベストを尽くすだろう。

 

 だが怪我、あるいは最悪の場合は命を落としてしまう。

 

 その反面、最近まで体力を温存しながら()()()()()()()()()()()()()()かのように準備を進めていた者が、丁度ヴァイスボルフ城の外で活躍している。

 

 だがかの者は『傭兵』であり、最終的にwZERO部隊(EU)とは違う枠の『部外者』である。

 

 疲労困憊であるワイバーン隊たちに『追撃せよ』と命令するか。

 あるいはまるで遊撃を想定して出撃した一人に『時間を稼げ』と命令するか。

 

 公私混同をせず、非情になり切れる指揮官ならばどちらが合理的で有効な判断かは明らかであるだろう。

 

 だがそんな選択肢を迫られ、歳の若い(スマイラス風に言う)子供なら頭で理解はしても、心は反対している中でどうするか迷うだろう。

 

 それでも、()()を考えるのなら────

 

「────シュバールさん。」

 

 そう思いながらレイラは感情を押し殺そうとしながら、今満足に展開できる戦力に通信を繋げる。

 

 ヴァイスボルフ城周辺の様子を教える探知機が正確であり、作戦室内にいるサラからの通信によれば、敵のブリタニア軍は二方面から進軍している。

 

 普通に攻城戦をかけるのならば戦力を集めて一部だけに攻撃を集中し、守りを突破するというのが最もメジャーなやり方だが、森での仕掛けやユキヤが行ったような攻撃などを想定したからか、相手は戦力を分散させている。

 

 波状攻撃を行えば、いくら『強者』が相手だとしても『少数の相手』には最も効果的な戦術ではある。

 

『どうした?』

 

 

 

 このような状況下でも、いつもと変わらないシュバール(スバル)の平然とした物言いに少しだけ安心を覚えそうになる。

 

 だが次に言う言葉を思い浮かべるだけで、レイラは自分の胸が締め付けられるような感覚を感じ、思わず手を添える。

 

「まだ戦えますか?!」

 

『どうした? ワイバーン隊に何があった?』

 

 間髪入れずに返ってくる、いつも通りの口調で適切な言葉でさらに胸を締め付ける。

 “ああ、やはり彼も予想はしていたのですね”とレイラは考えてしまう。

 

 ならば────

 

「ワイバーン隊は無事ですが、敵の別動隊が別方向から城に迫っています!」

 

 ────今自分(レイラ)に出来ることは簡潔に現状を知らせた上で『頼みを入れる』ことだけだ。

 

「今城に着いた皆の機体の整備や補充に修理などをしていますが────」

『────つまり、俺に“時間稼ぎをしてくれ”と?』

 

 日頃の行いから想像しにくいがやはり彼は『傭兵』と称しているだけあって、戦に慣れている。

 こちらの意図を、指示として出す前にすでに読み取っている節があったが今のやり取りで確信へと変わった。

 

「……………………平たく言えば、そうなります。」

 

 出来れば『今』、そうなって欲しくはなかったが。

 

 ()()()()()()()

 

 それは『傭兵』としてはもちろんのこと、『人間』としても。

 

 いや、『優しい』を通り越してある種の『自己犠牲』まで感じてしまうほどに、彼は自分をないがしろにして周りの気遣いをしてしまいがちだ。

 

「……」

 

 さらに胸が締め付けられる中で、レイラは口を開ける。

 

 “今この時だけは普段の傭兵像になって欲しい。”

 “抗議(文句)を上げてくれ。”

 

 そんなささやかな、指揮官にあるまじき願いをひそかに抱きながら。

 

「その……申し訳ないのですが────」

『────了解した。』

 

「え────?」

『────それがお前の望みなら、契約に従うまでだ。 だが時間稼ぎは良いが、別に殲滅してしまっても構わないか?』

 

 自分(レイラ)だけでなく、おそらくは通信を聞いた作戦室の者たちも同じ気持ちになっているだろう。

 

「…………………………」

 

 クルーザーを運転していたクラウスがチラッと横にいるレイラを見る。

 

 謎の少年(アシュレイ)が面白そうに笑みを浮かべる。

 

 圧倒的戦力差を相手に、“殲滅してもいいか?”などという通信に。

 

「……お願い、します。」

 

 思わず涙が出そうな気持ちのまま、上記の言葉を返して今更ながら自分の声が震えているのを自覚してしまい、情けない気持ちが増す。

 

 

 

「司令、アキトの機体を乗せるためにクルーザーを岸近くに寄せます────!」

「────やるじゃねぇかおっさん────!」

「────だからおっさんじゃねぇっつーの!」

 

 そんな漫才のようなやり取りをするクラウスとアシュレイの声はレイラに聞こえていなかった。

 

 

 ……

 …

 

 

「今のはどういう意味だゴラァ?!」

 

「アバババババババババ────?!」

 

 一足先に隠された地下通路でヴァイスボルフ城へと戻ったリョウが整備班(を兼ねている技術部)に鬼のような形相で言い(叫び)寄りながら、両肩を掴まれた人見知り&気弱なクロエが涙目になりながらタジタジとしているとリョウの腕をヒルダがレンチで叩く。

 

 ────ガイィィィィン!

 

「んぎっ?! イッテぇな! 何すんだよ?!」

 

「私たちだって知るわけがないでしょうが! だからあたるのはやめて、クロエが泣きそうになっているじゃない! そんな時間と元気があるのなら、パイロットの勤めを果たして(さっさと休んで)!」

 

「あああああ?!」

 

「何よ?!」

 

「二人ともケンカはやめてよ~────!」

「────通信を聞いて頂けたのなら、ヒルダ軍曹の言う通りに休んでくださいリョウ。」

 

 今にでも取っ組み合いになりそうなリョウとヒルダをクロエが何とかなだめようとすると、レイラがその場にきていた。

 

「あ?! 外にはシュバールを置いて、俺たちだけ“ノコノコ寝てろ”ってか────?!」

「────今の彼は、先ほどまで出撃していた貴方たちがちゃんと戦力として復帰するために戦っています────!」

「────だがそれを命令したのはアンタだろうが?!」

 

 疲労かイラつきか、あるいは寝不足からかリョウはレイラに手を上げた。

 

 ヒュパ、ドッ!

 

「どわ?!」

 

 否、上げようとしてはレイラにいとも容易くあしられては足がもたつきそうになる。

 

「今のあなたたちは気力だけで動いているようなものです。 いかに『箱舟で休めた』としても、十分な休息なしでは能力は衰えます────」

「────だからって────!」

「────もし“まだ何かをしたい”と思っているのなら、それこそ来るべき激戦に備えて体を休めてください。 敵の本隊が、城に取り付けば否が応でも戦いが始まります────」

 

 レイラはいつもの気合の入った顔でなく、年相応の申し訳なさそうな顔のまま()()()()()

 

「────彼の、シュバールさんの決意を無駄にしないでください。」

 

 周りにいるリョウたちだけでなく、ヒルダたちも動揺を隠せずに目を見開いて驚愕する。

 

『頭を下げる』ということは確かにコードギアスの世界でもあるし、その意味も理解されているが、それは日本が国として亡くなった今では日系人の間だけで伝わっている程度のものであり『猛省』や『真摯な気持ち』、『誠意』を込めた実例を見るのは稀である。

 

 日系人以外で特に『プライドが高い』ということで有名であるEUの者がするのは前代未聞である。

 

 レイラも実際に見たのはスバルの土下座が初めてで、その意味を日本マニアであるソフィたちに聞いてやっと行為の意味が分かったくらいだが。*1

 

「れ、レイラ……」

 

「……チッ! しゃあねぇ、お前ら! 何かとっとと食って寝てから手伝うぞ!」

 

「「「「(リョウってばこんな時でも正直じゃないんだから。)」」」」

 

 頭を下げたレイラの前に、リョウは毒気が一気に抜かれて言うとおりにしながら出すセリフに、ジト目のユキヤたちは内心そう思ったそうな。

 

 ……

 …

 

 

 聖ミカエル騎士団の三剣豪は深夜ジャンが直接命令を出す本体とは別に、それぞれ騎士団の旗色にちなんだ『黒』、『青』、『白』の部隊を率いている。

 

『ケガ人は駐屯地まで搬送しろ! 各隊のナイトメアの状況を確認し、修理不可能と判断されたナイトメアはその場に廃棄だ!』

 

 三剣豪の一人である『ブロンデッロ』は、急遽他の破棄する機体から無傷のパーツ交換を終えたソードマンの中から、ユキヤの爆弾とスバルの被害にあった『黒の団』と『青の団』に指示を出していた。

 

『ブロンデッロ卿、我が隊のナイトメアは半数以上失われた……』

 

 そこに近くの『ドレ』がそう直通通信をブロンデッロに出す。

 

『確かに損害は大きい……私やお前の機体損傷もかなりのモノだった。』

 

『部下が身を挺していなければ、私たちも無事では済まなかっただろう。』

 

『ショルツ殿の部隊の半数以上は無傷なようですね。』

 

 そういいながらドレが見るのは、殿を務め、ほとんど無傷だったことで救護班となりかけた自分の『白の団』だった。

 

『まさか、殿を務めている部隊が最も被害が小さいとは……世の中、何が────』

『────何をしている?! シャイング卿からは撤退の命令は出ていないぞ!』

 

 そこにジャンのグラックスが本軍から離れ、三剣豪たちに近づく。

 

『我々の部隊の合計半数以上がやられている! 態勢を立て直す時間が必要だ!』

 

『三剣豪ともあろう方々が、敵の奇襲に臆されましたか────?』

『────騎士たるもの、誇りなき戦いを部下たちには強制しない!』

 

『貴様や、総帥のような成り上がりたちには分からないだろうがな!』

 

『……………………フン。』

 

 ジャンの挑発(馬鹿に)するような言葉に、三剣豪は彼らなりの騎士道精神をもとにした『正論』を言い返すと、ジャンは明らかに彼らの言い分を鼻で笑う。

 

『何がおかしい!』

 

『貴方たちの目や耳は節穴ですか? それとも、()()たちが血に飢えているのがお分かりになられていないのでしょうか?』

 

 ジャンがそう言いながら通信を部隊のオープンチャンネルに接続すると、とても『騎士』と思えない数々の独り言が聞こえてくる。

 

『EUの腰抜けどもはぶっ殺してやる!』

『仲間の仇の一人は森に出ているそうだ!』

『外にいるそいつをぶっ壊して、城の中の奴らも引きずり出してグチャグチャにしてやる!』

『そうだ! 何が“撤退”だ! ふざけるな!』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 俺の左目を奪った奴ともども全員ぶっ殺してやる!』

 

『これを聞いても、あなたたち三人は彼らに“撤退しろ”と言えるのですか────?』

『────ジャン。』

 

 そこにシンの通信がジャンに入る。

 

『ヒュウガ様────』

『────話は聞いた。 三剣豪の部隊に退きたい者たちがいれば一旦退かせてもいい。』

 

『……よろしいのですか?』

 

『彼らには存分に“騎士”としての働きを見せてもらう予定がある。 今は“幽鬼(レヴナント)”を追うため暴走した奴らに指示を出し、“幽鬼(レヴナント)”を疲弊させろ。 恐らくだが、奴が敵の要らしいからな。』

 

 そういいながら、シンは明らかにヴェルキンゲトリクスを意識して距離をとる『幽鬼(レヴナント)』を、どうにかして自分の前に引きずり出そうか考えを巡らせた。

 

 そして『ズタボロにされた“幽鬼(レヴナント)”を敵の指揮官(レイラ)の前に出せばどんな顔をするのか? 』と想像をした彼の笑みは深まった。

 

 

 ……

 …

 

 

 ほぼ同時刻、今まで見たことのないほど統率と熟練度を持ったEUのパンツアー・フンメル、軽戦車、重装甲車、陸戦艇、そしてヘリやVTOL(垂直離着陸機)の連合軍がワルシャワ駐屯地から数百メートルほど離れた東の高原を横断しながら、次々とユーロ・ブリタニア軍を蹴散らしながら防衛ラインを突破していた。

 

「(クックック……脆い。 脆すぎるぞ、ブリタニア。 今までの “EUは腰抜けばかり”という『事実』が、まさか『わざとそう仕向けられた』とは予想もしていなかっただろう?)」

 

 その中でもひときわ大きな陸戦艇の中でふんぞり返っていたスマイラスが内心ほくそ笑む。

 

 彼は今まで『将軍』の座と軍統合本部にいたことを利用し、文字通りに軍のごくつぶしやはみ出し者の割合を()()()()して『EUは弱くて防衛戦しかできない』と印象付けていた。

 

 そして、今の彼は密かに自分へ絶対の忠義を向ける者たちや温存していた部下たちの戦力を、まさに『一発逆転の賭け』のために、全軍を出撃させてユーロ・ブリタニアに攻め込んでいた。

 

 かのナポレオンのような『英雄』となるために。

 

 結果、当初優勢だったユーロ・ブリタニアは予想だにしなかった反撃とその規模を前に敗戦に敗戦を続けていた。

 

「(さて、考えに耽るのはここまでにしておこうか。) 我が軍は、どうしている?」

 

「ハッ! ほとんどの部隊は『損傷軽微、進軍続行中』と返ってきております!」

 

「(計画通りだ。) ふむ……おかしい。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか思えんな。」

 

「さ、さすが将軍です! つい先ほど捕虜から“ユーロ・ブリタニアの全権はシャイング卿が把握した”との報告が多数上がっております!」

 

 艦内の部下たちは『おおお』と、感心と尊敬の眼差しをスマイラスに向ける。

 

「その目はよせ君たち。 今のは単なる偶然だ。 (クックック、これだから若者たちは。)」

 

 そして誰も思っていないだろう、『これがスマイラスとシンによって用意された出来レース』だということを。

 

「(そういえば────)────シャイング卿は確か()()()()だったな?」

 

 ここでスマイラスようやく、わざわざ言い方を変えず()()()()()()()()に戻った。

 

「はい、そのように聞いております!」

 

「やはりか……ならば、パリなどの大都市から姿を消したイレヴンも奴の仕業かもしれんな。」

 

 ここでスマイラスが口にするのは『箱舟の船団』宣言直後に、忽然とEU中の強制隔離所や収容所などから姿を消した日系人たちのことだった。

 

「将軍……もしや彼らはやはり────」

「────今のは憶測でしかないが、事が事だけに国内の保安局どもに再度通達をしておけ。 『旧日本人は発見次第に射殺せよ』、と。」

 

 心がずっと躍っているスマイラスは笑みがこぼれ出すのを我慢できず、手を顔の前で組んで隠す。

 

「何せイレヴンは油断ならない生き物どもだからな。 ()()()()の芽はどれほど小さくとも、摘む必要はある。」

 

 そこにはレイラの知っている『物わかりの良いスマイラス将軍』の姿はなく、代わりに本性を現し始めた『親友を殺してもなんとも思わない野心家のスマイラス』がいた。

*1
107話より



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第123話 『盲目』と『忠義』

2023年初の次話投稿。
昨年はお世話になりました。
今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。 m(_ _)m


 やぁ、俺スバル。

 

 唐突だが敵の部隊相手に今度は森の中で命がけの鬼ごっこ中でござる。

 

『いたぞ!』

『囲め!』

 

 ヒィィィィ?!

 

『ええいちょこまかと!』

『観念しろ!』

 

 ヤダァァァァァァ

 

 電磁砲(レールガン)の弾も銃身の替えもゼロ!

 火薬式ライフルの残弾数はとっくの前にゼロ!

 ついでに言うとレールガンに直接補給していた分エナジーが少なっている一方で俺の余裕もなくなっていっていて胃薬もゼロ!

 

 ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ誰かお助けてああああああああああ!

 

『こいつ、森の中を逆走しながら────?!』

『────ケイオス爆雷が来るぞ! 散開────!』

『────うわ?! お、落とし穴がここにも?!』

 

 ええええええええええ?!

 そんな見え見えの誘導に引っかかるでござるか普通?!

 どうでもいいが命び・ろ・い────

 

『────よくも仲間を!』

 

 キャアアアアア?!

 ()()()より()()が増して事態悪化?!

 

 あ。

 

 今のはなんかいいダジャレ()()()、亡国のアキトの『()()()』だけに。

 

 でも本名は確か『ジャンヌ』じゃなかったっけ────

 

『────覚悟しろ“幽鬼(レヴナント)” ────!』

 

 って、わぁぁぁぁぁぁ?!

 

 そう思っているうちに、Fateジャンヌじゃなくてクロスアンジュならぬクロスジャンヌ(ミスティ)キタァァァァァ?!

 

『スロニムでの借り、今ここで返すぞ!』

 

 その借りはただいま受けとうないというか俺じゃないねん体が勝手に生理現象的に反応しちゃったから勘弁してくれぇぇぇぇぇ!

 

『こいつ、森の木を使って?! サルか────?!』

『────なら獣らしく撃て! 撃ち殺せ!』

 

 ウキキキキキキキキキキキィィィィ!

 今のオイラはモンキッキー!

 そんな豆鉄砲、オイラにあt────オエ

 

 やべ、気持ち悪くなってきた。

 

 死ね。

 

 それにナンダカ視界があかく なって    いく。

 

『なんだ?!』

『急に動きが止まったぞ?』

『まさか罠か?!』

『誰かファクトスフィアを展開してくれ!』

『総員、今のうちに取り囲め! 罠の類への警戒を怠るな!』

 

 死ね。

 

 なんか   きもち   わるい。

 

 いぜん  にも  かんじた。

 

『臆するな! ()()!』

 

 コ ロ ス?

 

 死ね

 

 ダれヲ?

 

 あ    これ   いぜんにも……

 

『今のうちに奴を撃て────!』

『────ジャン────』

 

 おれ は。

 

『────ヒュウガ様?! その、先ほどの件は────?』

 

 死ね

 

『────奴よりは“幽鬼(レヴナント)”だ。 奴に借りがあるのはお前たちだけではない。 ジャンは城に戻れ、ここからは私が引き継ぐ────』

『────わかり、ました……ヒュウガ様────』

『────早くいけジャン────』

『────承知……』

 

 わた しは。

 

 死ね

 

『皆の者、私に続け────』

 

 ぼ     く     は。

 

 ────ブチ。

 

『な────?!』

『きえ────?』

『左だ────!』

 

 あたまが  ぼんやり  しそうになる。

 

 しゅう   ちゅう   だ。

 

 たと  えるなら  まるで  おれ   じゃない   おれが   しんとう   する   ような。

 

 『BRS改、発動します。』

 

 そんな   ひょうじ  をみたような   きがして    くちが     かってに    ひらいて じょじょ に いしき  がふじょう  する。

 

『────フハハハハハ! そうだ! その動きだ! さぁ殺し合いを始めようではないか!』

 

 

 …………………………………………………………………………………………………………お?

 

 なんか聞こえるぞ?

 

 なんか霧の中にいるっぽい感じだから中途半端だけど、成功した?

 

 ブォォォォ!

 

 おお、エナジー残量少ないのに噴射器を使って上昇とは……

 ずいぶん思い切った行動だ。

 

 センサーが敵の位置をキャッチし、それらの機体が画面に反映される。

 

『飛んだ?!』

『バカめ! 落下時点は割り出せる!』

『その予測地点を送る、総員はそこを狙って一斉射撃を開始しろ。』

 

 前列を突撃させては後退、そして後列が突撃。

 これを繰り返されると、相手はいつか隙を作らせられる。

 まったく、着いたばかりだというのに、シンは状況の把握をしてからの即時判断と微調整が早い。

 

 単純だが連携と練度があって初めて成立する『波状攻撃』とは、さすがシンと言ったところか。

 俺を追いかけて焦らされた兵の指揮を執るにしても『無理やり命令する』のではなく、『感情の流れ』を操作してやがる。

 

 陣地にこもった奴らや単騎で脅威の強者相手に特化した戦術だが────

 

 ブゥン!

 

 ────俺なら、やっぱり『虚を突く』しかないな。

 

 例えば、『落下直前にスラスターを横に噴射させながら距離を詰める』とか────

 

 「────うるさい!」

 

 ………………………………え。

 

 

 

 


 

 

 

 雪がとうとう本気で降り始める夜、ヴァイスボルフ城内にあるレイラの執務室内には以前と似た顔がそろっていた。

 

 レイラ、クラウス、そして今度はスバルの代わりに(サンドイッチをもぐもぐと頬張る)アシュレイとついさっき帰還したアキトがいた。

 

 最初は戻ってきたばかりのアキトにも“リョウたちのように休め”と言っていたが、頑なに『頼まれたから参加する*1』の一点張りで、説得される気ゼロの彼もその場にとどまった。

 

 自分のこめかみに拳銃を構えたアキトは引き金を引くことに抵抗している間、突然“死ぬな!”と言われたような気がすると、撃ちだされた銃弾を直前にかわしていた。

 

「(それにあの時、自分を撃ちそうになった時に聞こえた声は────)」

「────先ほど、城外の森に設置してある探知機からの通信は途絶えました。」

 

 そんな悶々と何時ものの様に一人で考えこみそうになるアキトの耳に、レイラの声が入ってくる。

 

「(いや、今は部隊の皆と現状のことだ。) つまり俺たちは“外の状況を肉眼で観測するしかなくなった”、ということか。」

 

「いやいやいや、あの若いのが高々度観測気球のコントロールをもとに戻したんでしょ? それを使えばいいんじゃね?」

 

「クラウス中佐の言うように、ユキヤが箱舟の残骸の推進機として使った高々度観測気球をもう一度出すことは可能ですが、今度こそ敵に落とされてしまう可能性があります。 箱舟の残骸とともに無事収納できたのは、単に敵の注意が逸れていたことと、できるだけ迂回するルートが測定できたからです。」

 

「あー……つまり下手したら、“気球が城内に落とされて逆にこっちがダメージを負うかも”ってわけか。」

 

「極端に言えば、そうなります。」

 

「ングングング……使えねぇな、おっさん。」

 

「グッ! だから! 俺はおっさんじゃ────!」

「────司令、話を続けるが────」

 「────アキトからも認定されたな────」

 「────いうなよテメェ────」

「────ユキヤとシュバールのおかげで、敵は半数以上の戦力を失っているのは本当か?」

 

「ええ。 そして最後の探知機が落とされる直前まで、シュバール機と思われる機がまだ敵と交戦していたことも確認できました……」

 

「「……………………」」

 

 上記を口にしたレイラ本人だけでなく、クラウスもアキトも重々しい雰囲気になる。

 

「“シュバール機”ってぇと、もしかして『幽鬼(レヴナント)』って騒がられている野郎か?」

 

 だがアシュレイは気が付いていないのか、あるいは『知ったこっちゃねぇ』という風に三人に問いをかける。

 

「「「『幽鬼(レヴナント)』?」」」

 

「おう、スロニムでシャイング卿に突っかかった奴が、あまりにも異常すぎてそう呼んでいる。」

 

 クラウスはアキトを見て、アキトはレイラを見て、レイラは『え? 私ですか?』という顔をしてハテナマークを頭上に浮かべると、クラウスとアキトがウンウンと頭を縦に振って頷く。

 

「……あ、はい。 恐らくはその『幽鬼(レヴナント)』で間違いないかと。」

 

「へぇ~?」

 

 アシュレイは笑みを浮かべ、サンドイッチを再び頬張り始めるとアキトが話題を戻す。

 

「だがそれが本当なら妙な話だ……通常時、部隊の3分の1がなくなれば『壊滅寸前』と判断して兵を引くのが普通だ……兄さんは、何をそんなに────?」

「────彼の狙いは、『アポロンの馬車』でブリタニアのニューロンドンかペンドラゴンの攻撃と、本人が言っていました。」

 

「?!」

 

 ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

 レイラの言葉にアキトとアシュレイはギョッと目を見開き、騎士服をクリーニングに出してEUの軍服を着こんでいたアシュレイに至っては、食べかけのサンドイッチを吹きだしていた。

 

 「どぅわ?!」

 

 クラウスの方向を向きながら。

 

「きったねぇなオイ! 何しやがる小僧テメェェェ?!」

 

「ウォリック中佐のことは良いとして────」

「────よかねぇよアキトテメェ! ドライクリーニングは面倒くさいんだぞクッソ~────?!」

「────司令、我々と敵の戦力差はいまだに開きすぎています。 何か考えがあるのか?」

 

 クラウスはハンカチを出そうとまごまごしているところを、レイラが自分のものを彼に貸しながらアキトに答える。

 

「ハメル少佐の警備隊たちは、先日からナイトメアの操縦訓練を自発的にしていましたので、アレクサンダに搭乗してもらいます。 アンナ達技術班によればドローンも数機ほどなら用意できるとのことです。 ですが、今回の私はドローンの操作だけでなく、全体の指揮を執るので半自動(セミオート)で動かせます。」

 

「ようするに、“サポート役”って奴ですかね────?」

「────やっとまともな意見を出したなおっさん────」

「────だから────」

「────なぁ? オレの乗る機体はねぇか?」

 

 アシュレイがここで初めて食物から手を放し、手についたツナマヨなどを舌で舐めとりながら助っ人をレイラに申し出る。

 

「お前、それでいいのかよ?」

 

「オレが一緒に戦えば強いぜ。 少なくともそこのおっさんよりはな!」

 

「だから……はぁ~。」

 

 ついにアシュレイの『おっさん』呼ばわりにツッコむ気が失せたのか、クラウスはため息を出す。

 

「その……相手は聖ミカエル騎士団、つまり貴方が元居た部隊ですよ?」

 

「シャイング卿はオレを殺そうとしたし、アキトには借りもある。 それに、あんた達にはおっかねぇ『幽鬼(レヴナント)』も付いているからな────っと、おっさんもらうぜ!」

 

 ヒョイ、パク。

 

 「俺が取っておいたクァツ(カツ)サンドがぁぁぁぁぁぁぁ────?!」

 「────うっめぇぇぇぇぇぇ! なんだこれ?! なんだよこれ?! 肉なのにバリバリしてて、甘酸っぱいソースが────」

 「────あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「ミィ。」

「君は司令の猫のエリザ? ……おいで。」

「ニャーゴ♪」

 

 骨を咥えたオオカミのようにキラキラと目を光らせるアシュレイに、頭を両手で抱えながら涙目になって心底悔しがるクラウスのやり取りと、エリザの鳴き声に注意先を映したアキトのドタバタ状態で、その場に漂っていた淀んだ(いやな)空気は一気に消し飛んだそうな。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 聖ミカエル騎士団の本体でも感情にのまれなかった者たちや、三剣豪直属の部下たちはヴァイスボルフ城近くに仮の陣を張っていた。

 

「こいつの肘は駄目だ! 予備はあるか────?」

「────スクラップ機から取り出せ────!」

「────やっぱ補給がないのはきついな────」

「────しょうがねぇよ! 今やれることをやるしかないんだ、俺たちは!」

 

 そこにはユキヤやスバルにやられた機体や怪我人を命がけで回収した場面が広がっており、ようやく森に張り巡らせられた悪質な(西暦をベースにした)罠の対応などに、ある程度慣れた者たちしか残っていなかった。

 

 上記で整備に取り掛かる者たちが言いあうように、聖ミカエル騎士団は補給もないまま進軍を続けていたことで、倒れ(亡くなっ)た仲間たちの装備や備品を再利用するほどに状況は悪化していた。

 

 現代社会での戦争なら『普通』の行動なのだが、『騎士道』を重んじる者たちがそんな『追剥行為』のようなことをするのは、恐らく、ユーロ・ブリタニアでは初となるだろう。

 

 誇れることではないが、そうするしかないのが現状である。

 

 幸い目的地()が近いことと、雪が降り始めたので『新鮮な水分の補給の目途が立っている』ということで、水と食料の配給量は通常どころか倍以上に戻され、騎士団の士気は回復しつつあった。

 

 人間、意外とお腹一杯になれば、(一時的にだが)どんな状況下でも気分が向上する単純な生き物である。

 

 シャアァァァァァ。

 

「(それでも、戦力低下と状況はかなり悪いことに変わりはない。)」

 

 数日ぶりに熱いシャワーを浴びることが出来たジャンは、体だけでなく心も洗われるような気分の中でも副官として思考をやめなかった。

 

「(これはヒュウガ様もお気づきになられている筈。 それに────)」

 

 “ペンドラゴンかニューロンドン、どちらを壊滅するかはまだ決めかねているので、その時になってからコインを投げる予定だ。”

 

 ジャンの脳裏をよぎったのは、シンがレイラたちに答えた言葉だった。

 

「(────い、いや。 あれはきっと敵を動揺させるための話術のはずだ。)」

 

 ジャンは『明らかにおかしいヒュウガ様(シン)』という考えを胸奥に埋めるための自己問答を開始し、それに没頭した。

 

 カタン。

 

「(……ん?)」

 

 ゴソゴソゴソゴソゴソ。

 

 だからか、シャワー室のすぐ外で物音がしても即座に反応できず、耳をすませると今度は何かか物漁りをする音が聞こえたので、ジャンは近くの拳銃を手に取ってすぐに(全裸のまま)それを外の部屋で物音がする方向に構える。

 

「動くn────」

「────よぉジャン! 遅かったな、考え事か? ングングングング────」

「────んな?!」

 

 ジャンが構えた銃のサイト先にいたのは、のんびり配給品の入った箱を漁って見つけた食物を口にしていたアシュレイだった。

 

「ングング……う~ん、シケた食べ物しか出てねぇなこっちは。」

 

 しかもいまだにwZERO部隊の軍服のままで。

 

 普通の乙女なら『きゃああ!』とか、あるいは『生きていたのか?!』とか、もしくは『外の警備の奴らはどうした?!』などの類を言うのだが、ジャンが口にしたのはそのどれでもなかった。

 

「何だ貴様その軍服は!? やはり裏切────!」

「────待った待った待った! ここに来たのはちょうどシャイング卿がいないのと、『同期』で『馴染み』のお前に言っておきたいことがあったからだ!」

 

 ジャンはシャワーを出てふき取ることもしなかった水が濡れた髪を滴って、彼女はそれが目に入っても必死に瞬きをするのを我慢していた。

 何せ飄々としているが、アシュレイは何度か生身の模擬戦で(しかも接近戦で)三剣豪に勝つほどの身体能力を持つ。

 そんな彼が昼間にジャンが撃った銃弾をかわしたのも、それを表した一環でしかない。

 

 つまり今ジャンがアシュレイに銃を構えて牽制していなければ、彼女が負ける可能性は高い。

 

『もしアシュレイの気が変わることがあれば』、との前提だが。

 

「話だと? …………せめてもの腐れ縁だ、聞いてやろう。」

 

 よってジャンは『警備の者が気付くまでの時間稼ぎ』の選択をとった。

 

「ジャン。 俺より賢いお前のことだから、もう気付いているんじゃねぇか? “()()()()()()()()()()()”と。」

 

 言葉の代わりに、ジャンは拳銃を握る手をわずかに力ませる。

 

「どう言ったら良いのか分からねぇが、シャイング卿はまるで良くない()()()()()()()()()()()みたいだ。 そんなシャイング卿を、“兄さん”と呼ぶ俺の仲間が“助けたい”と言っている────」

「────『アキト・ヒュウガ』とやらか。」

 

「おう、やっぱ知っていたかジャン。 いや……『ジャンヌ』だったっけ?」

 

 ここでアシュレイはジャンを本名で呼びながら、パーカーを羽織ってからフードをかける。

 

「俺たちに手を貸したほうがいいぜ。 今のシャイング卿を助けられるとすれば、おそらく城の奴らだけだからな。」

 

「…………………………」

 

「俺やお前では無理だ。」

 

 今までアシュレイが見せたことのない真摯かつ真剣な言葉に、ジャン────いや、ジャンヌは衝撃を受けて、部屋を出るアシュレイの後を追うことさえも忘れてしまう。

 

「(私は……私はどうすれば……)」

*1
113話のスバルより




(´・ω・`; )


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第124話 『盲目』と『忠義』2

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


 あれからどのぐらい時間が経ったのだろう?

 

 時計が見られないことがもどかしく感じる。

 

『この、化け物がぁぁぁぁぁ!』

 

 それでも前回(スロニム)の時と違って今回は(おぼろげに)『外』の状況が見えるし、聞こえるのが『幸い』というべきか?

 

「うらぁ!」

 

 両手に握っている操縦桿に備え付けられたボタンやトラックホイールを、俺自身が力みながらまるでピアニストのように指で操り、機体(激震)は持っていた長刀を前に投げて一番前のサザーランドを怯ませると、もう片手で持っていた得物で通りざまにコックピットブロックを背後から切り伏せて器用にパイロット()()を殺しながらダメージによる誘爆を防ぐ。

 

 そのまま沈黙したサザーランドの背後に回っては、力ずくでエナジーカバーを開けて残量が少なくなった自機のエナジーフィラーと交換し、先ほど投げた長刀を回収してから動かなくなったサザーランドの手に握られたアサルトライフルを空いた手に取り、追手が発砲する中でその場を離脱していく。

 

 う~ん、我ながら凄いな────

 

「────うるさい────!」

 

 ────いや、ツッコみをいれてどうすんのさ?!

 

 ああ、今の状況をありのままに説明しようか?

 

 というか頼むからさせてくれちょ。

 

『スロニㇺでの現象がまた起きたけれど、あれからある程度予想していたというか危惧していたから、ソフィたち脳科学部にBRS用のニューロデバイス(装着型)の改良型を作ってもらって装着していたら、案の定こうやってまるでテレビゲームに電源入れっぱなしにしてしまった時にたまに流れるデモシーンを見るような感覚で、体が勝手に行動している。』

 

 そこで君はこう言う!

『今の説明クソ長げぇよ!』、と!

 

「今の説明クソ長げぇよ!」

 

 ハイ~、そこで俺(この場合は“オレ”と呼称したほうが良いのか?)のツッコみ来ました~。

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………うん、ちょっと落ち着こうか俺?

 

 とあるバスケのフォワードは言ったではないか、“まだ慌てるような時間じゃない”と。

 

 そこで敵の別部隊に遭遇したオレは降り積もる雪の中をまるでアイススケートのアスリート並みに滑るよう動き、さっきぶん取ったアサルトライフルを乱射しながら距離を詰めては『悪・即・斬!』のリズムで突いては新しい得物を肩から出しては突いては新しい得物を出しては突いてまた出して計3本を使って突く。

 

 きゃあ~、何この動き?!

 反則すぎだ~!

 “まだ慌てるような時間じゃない”かぁ~。

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや普通に無理やんこんなん?

 

 だって考えてもみろよ?!

 (俺がいうのもなんだが)意識はこんな風に現実逃避しているのに体が勝手に動くなんてどこのスナッチャー風の映画だよ?!

 普通にホラーでしかねぇよ!

 そこ、“スナッチャー元ネタ古いw w w”とかいうな!

 泣くぞこら!

 

 俺が。

 

 それにもう一つ懸念する理由はある。

 いや、すごいゾ?

 

 見事に聖ミカエル騎士団のサザーランドとかをチマチマしたゲリラ攻撃&物資の略奪をしながら、シンのヴェルキンゲトリクスから距離をとっているなんて普通にスゲェで?

 

 でもさっきから体中が()()()()()し正直に言うと気持ち悪いのだよ諸君。

 

 分かるか?

 俺の気持ちというか心境が?

『体が勝手に動いているのに、それの痛みとだるさ感じる』というこの恐怖が?

 

 ホラーだよ。

 

 さっき言ったが、大事だから二回言ったぞ。

 

 大事だから二回言ったぞゴラァァァ?!

 

 ついでだから最初はテンパっていてこうやって自己問答気味の愚痴を言っているだけでも『うるさい!』だの『黙れ!』だの『死ぬか!』とか言うものだから今はロンリーボーイ並みに黙っている(努力はしている)のさぁ~♪

 

 うーん、この状況は俺的には良いのか悪いのか……

 

 いや、『生き残る』って意味ではこれ以上ないほどいいぞ?

 

 いくら相手が単に『ナイトメアを乗り回すのが上手くて素直で血生臭い戦闘に向いていない』と言ってもさ?

 

 けど今はいわゆる、『止まらない暴走ダンプカー』の状態に近い……かな?

 

 今は周りが敵だらけだから別にいいが、どうにかして『オレ』のコントロールか誘導か手綱(?)を握っておかないと危なっかしくて────

 

「────さっきからうるさい!」

 

 ハイハイハイ、さようですか。

 じゃあアナウンサーっぽい自己解説に戻るとするよ。

 

 その方が返ってくるツッコミの頻度が少ない趣向だからな。

 

 おおっと! ここで時間稼ぎのパイルバンカーを出したぁぁぁ!

 狙いは相手の各駆動部に電気を送る配線が集まった場所へのピンポイントへの攻撃ィィィ!

 そしてすかさず身動きが取れないサザーランドを盾にとっては、弾薬の無断拝借から反撃ィィィ!

 

 うーん、ナイトメアを実際の手足のように扱うこの流れるような動作は惚れ惚れするネ♪

 

 あ、今のくだり最後に音符じゃなくてスペードが出ていれば『変態ピエロ』っぽくね?

 

 それは別にしてちゃんと今の動きを目に焼き付けて、万が一またもこんな状況が起きたら()()()()でも行えるようにしよう。

 

 こんな博打のような事ははっきり言ってノーサンキューだ。

 

 そもそもこうなれることに俺は半信半疑だった、が、スロニムのケースと今回も見て、おそらくこの状態の発動条件は『BRS』、『切羽詰まった生死をかけた状況』、そして『()()()』だな。

 

 最後の要因が果たしてシンの『愛する人たち死ね死ねギアス』なのか、シンがアキトに再度かける『死ね!』のギアス影響なのか、はたまた両方かわからないが。

 

 何せ前回も今回もこのような状態に陥ったのは、タイミング的に原作でシンとアキトが直接対面した時に限っている。

 

 ともかくだ。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 レイラ早くアキトたちを出撃させてプリーズゥゥゥゥゥ!

 

 っておいおいおいおいおいおいおい?!

 今チラッと別スクリーンに出た地図を見たけれど、オレ逃げてるよね?!

 このままだと戦域から出ちゃうよおい?!

 

「黙れ! 俺は死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 えええええええええぇぇぇぇ?!

 もしかしての確信犯?!

 いやいやいやいやいやいや、逃げるのはダメっしょ?!

 せめて城に戻って補給するとかあるだろうが?!

 

「今の状況、飛んだら狙い撃ちにされる!」

 

 ああ、うん。

 今エナジーの残量ってば結構少ないよネ?

 

 敵もかなり疲弊しているのか意図的なのか、エナジーフィラーも大体『作戦続行可能がギリギリ』ぐらいしか残っていないものばかりだし。

 

 ……いやそれはいま別に良いが、現状の『逃走』は良くない。

 

 ここまで来て『wZERO部隊は全滅した』とか、『〇〇は死んでいた』は嫌だぞ!

 

 だが今の俺は見ていることしかできない、『第二者視点』だ。

 何か出来ないだろうか?

 

 あ、せや。

 なぁなぁそこのアンちゃん、話しちょいと聞いてくんないかな?

 ここは城に戻って────

「────さっきからごちゃごちゃとうるさい!」

 

 人の話を少し聞けよ────?!

 「────いやだ!」

 

 いや、ちょっと “いやだ”って────

「────オレは死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 そのセリフはもう聞き飽きたよ。

 …………………………………………どうするべぇや。

 

 あ。

 でもかなりヤバい状況なのに変わりはないか。

 

「……………………」

 

 このままだとシンに追いつかれて死ぬわけだし?

 

 何せヴェルキンゲトリクスは『元』とはいえラウンズ専用機だったんだ。 その気になれば逃げるだけの奴なんて容易に追いつけるさ。

 

 そこからはもう純粋な機体の性能差とエナジー残量や装備と、それらを使いこなせるパイロットの技量勝負になる。

 

「……………………」

 

 ま、そんなシンにも対抗する術は考えているんだけどな。

 

「……………………だ。

 

 ( ̄ー ̄)ニヤリッ

 *注*上記はスバルの心境の表れです

 

 何、簡単なことサ♪

 

 今はシンが命令している奴らをいなして逃げているだろ?

 それは続けるが、()()()()()()()()()()のさ()

 

 

 

 


 

 

 

 ピィー!

 

 仮眠のために設定したアラームを合図に、アキトは目を覚ます。

 わずか数時間だけだが、彼は清々しいまでの目覚めに驚いていた。

 

「(久しぶりに、()を見なかった……)」

 

 アキトは初めて兄であるシンに『死ね』と宣言される夢*1を見なかったことに戸惑いながらも、時計のアラームを消して着替えてから部屋を出ると、窓から外の様子を窺う。

 

 そこには夜空からいまだに振り続ける雪に灰色になった雲を透き通って反射した日光が外だけでなく、城内の通路に灰色のグラデーションを付け足す。

 

「(これは、何かの予兆だろうか? だとしたら────)」

「────ふわぁ、ア()トおふわぁ()よ。」

 

 そこに『黒』が混じるが、決して『恐怖』や『恐れ』を誘う類のものではなかった。

 

『それ』は隣の仮眠室で寝ていたらしいアヤノで、軍服をはだけさせた彼女はアキトからの視線を感じると自分も視線を返す。

 

「…………ジィー。」

 

「な、なによ?」

 

 アヤノは彼の視線を感じて反射的にパッと胸を隠してから、ようやく彼の視線が自分の腰に向けられていることに気付く。

 

「アヤノ────」

「────な、なに────?」

「────『それ』を貸してくれないか?」

 

 アキトがそう言いながら指をさした先には、アヤノがほとんど肌身離さず腰に差している『蜂屋長光』だった。

 

「??? 別にいいけど、何を────?」

 

 ────シャッ!

 

「アキト?!」

 

 ザクッ!

 

 アキトが『蜂屋長光』を抜いてアヤノが声を出すとほぼ同時に、アキトは自分の三つ編みにしていたポニーテールを切り落として、それを借りていた『蜂屋長光』と共にアヤノへ手渡そうとする。

 

「アヤノ。 これを持っていてくれないか────?」

「────へ? あ、ちょ────」

「────もし、何かあったら俺の代わりにこれを埋めてくれ。」

 

 アキトの『()の代わりに(髪を)埋めてくれ』は、日本という国がなくなった今では、コードギアスの世界にいる殆どの者からすれば奇怪で意味不明な行動である。

 

 だが、祖父から昔ながらの日本のことを子供のころから聞かされていたアヤノは、すぐにこの行為の意味を察し、彼の言った言葉でそれが確信へと変わる。

 

『遺髪』。 それは日本だったころでも一昔前の慣例で、それが行われる意味は様々あるが────

 

「────じゃあ、アキトが()()を代わりに持っていてよ。」

 

 アヤノは切り落とされた髪だけを受け取り、アキトは珍しく目を点にさせながら手に残った小太刀から視線を上げて彼女を見る。

 

「……いいのか? 大切な形見なんだろ?」

 

い、いいの! 後で絶対にアンタから返してもらう予定だから! ね?! だから! だから………………だから………………」

 

 アヤノの声と雰囲気双方とともに次第に小さくなっていく様子をアキトは見ていると、無性に『彼女を安心させたい』という衝動に駆られて、思わず口を開けてしまう。

 

「……じゃあ、この戦いが終わったら互いに返そうか?」

 

「ほへ?」

 

 アヤノの年相応である、純粋でキョトンとする顔を前にアキトは思わず目をそらす。

 

「「………………………………………………………………………………………………」」

 

 城外で降り積もる雪は続き、耳鳴りがしそうなほどまでの静寂な景色を背景に、二人の間にはただ静かな時間が過ぎ去っていく。

 

 余談だが、この二人のやり取りを盗み聞きしていたとはいえ、前に出てくるタイミングを逃して気まずくなったリョウたちは複雑な気分になったとか。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ジャン、そして三剣豪の命令の下で攻城戦の隊列を組んでいた聖ミカエル騎士団の誰もが降り積もる雪に見惚れることなく、ただただ各自のモニターに表示されるカウントダウンを見る。

 

 ピィー!

 

『全軍進撃開始!』

 

 カウントダウンがゼロになり、ジャンの通信を合図にミカエル騎士団が統率の取れた動きで動き出し、カンタベリーはヴァイスボルフ城の防壁が射程距離に入ると次々と砲撃を開始していく。

 

『ダメです! 距離が開きすぎて、貫通できません!』

 

『ならばカンタベリーをさらに前進させて撃て!』

 

 電磁砲の着弾で傷一もついていない防壁を見た三剣豪のブロンデッロが上記を命じると、周りのサザーランドたちは巨大なタワーシールドを展開させてカンタベリーの急所である脚を守りながら、ゆっくりと前に進んでいく。

 

 一応、シンが別動隊に行く前に『提案』というか『策』は言い残してはいる。

 そしてそれは防壁に大打撃を与えられるのは確実なのだが、騎士にとってはあまりにも邪道で使いたくはない『決死の奥の手』だった。

 

 

 

「まだ映像出ないのか────?!」

「────出ました! 8時の方向、距離250────!」

「────自動迎撃を開始します!」

 

 展開された防壁に取り付けられたパッシブレーダーだけでなく、監視カメラに映し出される距離にミカエル騎士団が接近したところで、サラは事前の作戦方針に従って防壁に内蔵された機銃を作動させる。

 

 たちまち防壁の表面上は、ハリネズミのように数多の機銃が出現しては一斉射撃を行う。

 

 

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 ヴァイスボルフ城の防衛システムは最新だが、使われている機材などはほとんど軍のおさがりが多かった。

 その例として、防壁の機銃はまだ時代的に『戦車が陸戦の最強兵器』とうたわれていた時の『対重戦車機銃』の代物だった。基本的に軽金装甲であるナイトメア相手には、十分すぎる効果を間違いなく発揮するが。

 

 カンタベリーの近くに身一つを隠せる盾を持ったサザーランドたちは、自分たちを襲う一撃一撃を、持っているタワーシールドごと機体を後退りさせるほどの猛攻を前にその場でとどまり、何とか攻撃をやり過ごそうとする。

 

 だが盾のない機体たちは森の木に身を潜めて足止めをされるか、この反撃に脚部などをやれて身動きが一瞬止まった隙に、集中砲火を浴びてどんどんと大破していく。

 

『チッ、しっかりしろ! 引くぞ!』

『ブ、ブロンデッロ卿────』

「(────やはり正面突破には無茶がある! もしや、ヒュウガ様はそのために『あの策』を────?)」

 

 ────ガァン

 

 ブロンデッロが行動不能になった部下のサザーランドを自分が身を潜めている場所に引っ張りながら後退する様子をジャンが見ていると、サザーランドは正面の防壁からではなく()()から撃たれる。

 

『後退の命令は出されていないぞ?』

 

『『シャイング卿!/ヒュウガ様?!』』

 

 ブロンデッロとジャンが後ろを見ると、本体から独断行動で『幽鬼(レヴナント)』を追っていた者たちの指揮を執って離れていたはずのヴェルキンゲトリクスと、寒い季節の所為か湯気が銃口から出ているレバーアクション型ショットガンを構えている姿があった。

 

『き、貴様ぁ────!』

 

 何が起こったのかは一目瞭然であり、さすがのブロンデッロも荒い口調となっていた。

 無理もないが。

 

『────“騎士の誇り”とやらはどうした、ブロンデッロ卿?』

 

『ヒュウガ様、“幽鬼(レヴナント)”を狩りに行ったのでは────?!』

『────常に私から距離を取っていれば、目的が単なる“時間稼ぎ”など火を見るより明らかだ。 興覚めだよ。 それに城を落とせば、奴も駆けつけるしかないだろう。 フフフフフフフフ……』

 

 ジャンが先日アシュレイに言われたことを思い出しては青くなりながらも、次々と入ってくる恐怖と不安が混じった通信に耳を傾けていた。

 

『距離を詰めろ! 離れるな!』

『カンタベリーを守れ!』

『アルファ小隊、前へ! 退くな、撃たれるぞ!』

 

 ドドドドォォォォ!

 バチバチバチバチバチバチ

 

 犠牲を払いながらも、カンタベリーたちが集中砲火を浴びさせていた防壁に亀裂が入ると同時に電気系統へトラブルが発生したのか、火花が飛び出て一部の機銃の砲撃が止む。

 

『今だ!』

『取りつくんだ! 早く!』

 

 これを見たサザーランドたちは一気に防壁への距離を詰めて、スラッシュハーケンを使って登り始めて、待機していたリバプールたちも前進してから遠距離砲撃を開始し始める。

 

 

 

「Aの23ブロックに破断が発生────!」

「────クライミングするナイトメアと敵の砲撃、来ます!」

 

 ヴァイスボルフ城の作戦室にいるサラとオリビアが報告すると、分厚い壁越しからでもお腹に来る重い音が響いては、天井から埃や壁の小さな欠片がパラパラと落ちてくる。

 

「クライミングされている防壁をパージ!」

 

「パージ開始します!」

 

 

 

 ボボボォォン!

 

『『『うわぁぁぁぁぁ?!』』』

 

 防壁を登り始めていたサザーランドたちは、足元代わりにしていた壁が爆破され、スラッシュハーケンのワイヤーが切れると落下していき、地面にたたき落されて辛うじて大破を免れた機体も落ちてくる瓦礫の下敷きになってしまう。

 

「城内につく頃には、全滅しているかもな。」

 

 上記の惨状と、先ほどからカンタベリーたちを『最大の脅威』と見做した自動機銃たちの絶えない集中砲火を見たブロンデッロがそうボソリと独り言をこぼす。

 

『ブロンデッロ! ドレ!』

 

 そんなブロンデッロたちに『卿』をつけずそのまま呼び、通信を入れたのは三剣豪の三人目であるショルツだった。

 

『ショルツ、その姿は?!』

 

 ブロンデッロが振り返ってみると、ショルツのソードマンは大量のサクラダイト爆弾を背負い、両手にはいつもの剣ではなくタワーシールドを持ち、機体の両側にいた『白の団』のサザーランドも盾を手にしていた。

 

『俺たちが突破口を開く、あとはお前たちに任せたぞ!』

 

 その姿と装備で、ブロンデッロたちは悟った。

 “(ショルツ)はシンの策を実行するつもりだ” と。

 

『ええ、マンフレディ卿と共に待っていて下さい。』

『向こうで再会できるのを、楽しみにしているぞ!』

 

『さらば!』

 

 ショルツはブロンデッロとドレにそう言い返すと、彼と彼の側近たちが盾を前に持ったまま止まない銃撃の中を前進する。

 

 ショルツ機たちが接近する都度に、カンタベリー以上の『脅威対象』とみなされて次々と彼らを討とうとする自動機銃の数が飛躍していく。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 側近たちの機体が大破し、ついに雄叫びを上げるショルツだけになったところで、彼の機体は防壁にとりつくと同時に自爆をすると、背負っていた爆弾が誘爆する。

 

 ボォォォォォォン

 

 何の因果か(あるいは皮肉を含めた意趣返しか)、シンの提案した『策』はナルヴァの森でワイバーン隊が前司令に強いられた自爆作戦に酷似していた。

 

 

 

「じ、自爆────?!」

「────A23ブロックで爆破確認! 防御壁の状況は……防御壁が倒壊しています!」

 

 作戦室にいたwZERO部隊の者たちは監視カメラが最後に送った映像に驚愕していた。

 敵が自爆したこともだが、壁が突破されたことにも。

 

 長い一日の始まりを示すかのように、雲は相変わらずの灰色だった。

*1
108話より




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第125話 長くかつ、待ちわび(られ)た一日

少々長め&急展開な次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


尚、アンケートを実施しております。
期間は『次話投稿時まで』と予定しております。
お手数をおかけしますが、何卒ご協力をお願い申し上げます。 m(_ _)m


 自爆による大きな爆発の音はヴァイスボルフ城周辺にいた誰の耳にも届き、近くの木に積もった雪が落ちていく。

 

 城の防御壁の配線が連結していたのか、一部が真っ二つに割れてから自動機銃は沈黙化して、辺りが静けさが戻っている間に、ミカエル騎士団のナイトメアたちが次々と身を潜めていた場所から出ては城内に乗り込もうと姿を現す。

 

 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!

 

『な────?!』

『これは────?!』

『リバプールが────!』

 

 まるでそのタイミングを見計らっていたかのように、リバプールたちの銃口や機銃が、標的先を今まさに身を乗り出そうとしたミカエル騎士団のナイトメアや歩兵部隊に変えたのだった。

 

 

 

「う~ん、ネットバンクから金をかすめ取るよりはハードルが高かったけれど……やろうと思えばなんてことなかったね。」

 

 上記の様子を、ユキヤは城外にいると思われるリバプールたちの視点から平然と見ながらそう言った。

 

 原作でのユキヤは大怪我をして機体を大破させたことによって参戦はかなり後となっていたのだが、少々の介入によりスバルが持ち込んだ電子戦技術を施された『アレクサンダタイプ02』に改良と強化を施した『アレクサンダ・ヴァリアント・イーグルアイタイプ』のモニターを介して、無人機であるリバプールたちが通信機器の効果範囲に入ったことで、事前にプログラムされていた『敵味方識別』の標的を入れ替えた。

 

 つまりリバプールたちの『友軍』であったミカエル騎士団が、今は『敵』として認定されていた。

 

 言葉にすれば単純だが、ユキヤが長年に渡って磨き続けていたハッキングスキルと、スバルがwZERO部隊に『傭兵』として就いて初期に持ち込んだ『スカイアイ』の技術の応用で初めて成せた神業であった。

 

「うわ、エグイなユキヤ。」

「まだまだだね。 こういうのよりも、もっとスゴイのを今プログラム中だから期待していてよリョウ。」

「お喋りはそこまでだ、そろそろ出撃されてもおかしくはない。」

 「ブツブツブツブツ急に真剣になってブツブツブツブツブツ」

 

 

 

「チィ! あの女か!」

 

 シンはヴェルキンゲトリクスを使って、後方からミカエル騎士団を撃っていたリバプールを切り伏せていく。

 

『後方に構うな! 総員、乗り込め!』

 

 これを見たジャンは更なる命令を出し、彼女自身もヴァイスボルフ城の壁だった残骸を他の者たちと一緒に乗り超えていく。

 

 ボボボォォン!

 

 ヴァイスボルフ城内の道をランドスピナーで高速移動していると、次々と城内グラウンドに散りばめられた地雷が爆発して、ミカエル騎士団のサザーランド達の足などを吹き飛ばしていく。

 

『城内に地雷原だと?!』

『正気か?!』

 

 

 

 

「敵の動きが旧門周りで止まりました!」

 

「第二の地雷原をマニュアルで起動! ハメル少佐とワイバーン隊に出撃の通信を入れてください!」

 

 作戦室内にいるオリビアは、ミカエル騎士団が移動を止めたあたりの建物や壁に埋められた地雷を爆発させる。

 

 

 

『クソ!』

『このまま進むしかない!』

『立ち止まるな!』

 

 第一と第二の地雷を生き残ったミカエル騎士団のサザーランドたちが移動すると、地面から数々の釘状の柱がサザーランドを串刺してからワイヤーを互いに連結させる。

 

 見た目だけで言うと、旧日本の『罪人を追い込んで苦しめる地獄』に存在するとされている『針の山』のようだった。

 

 あるいは場所がEU(ヨーロッパ)であることから、強大な敵に心理的な恐怖を刷り込ませるためルーマニアのヴラド三世が有名になった所以の『串刺しの刑』が適切だろうか?

 

『通路がふさがれた?!』

 

『狼狽えるな! ワイヤーを切って進め! 我らの目的は敵の司令塔のみだ!』

 

 次々へと発動される悪質な『通せんぼ』のような出来事を前に部下たちと同じように戸惑いを見せそうになるものの、ジャンの掛け声にミカエル騎士団のサザーランドたちが背負っていた対KMF用斧を展開させてワイヤーを切っていく。

 

『いまだ! 撃てぇぇぇぇ!』

 

 ドンドドンドンドン

 

 ちょうどミカエル騎士団が『針の山』通路を半分進んだところで、ハメルたち警備隊のアレクサンダが、スバルが『電磁砲ライフル』を作るために試行錯誤で出てきた副産物を再利用した銃をビルの屋上から撃っては身を隠す。

 

 ハメルたちが撃った銃からは散弾のようにフレシェット弾が飛び出ては、サザーランドの装甲がカバーしていない関節部やランドスピナー、運の悪い場合は『装甲をすり抜けて直接パイロットに突き刺さる』こともあった。

 

 結局どれだけ訓練をしたといっても、今まで『警備隊』として一度も実戦を経験していない彼らは、比較的にハードルが低い『ヒット&アウェイ』を中心にしたゲリラ戦に徹していた。

 

 そして武装も『狙い撃つ』というよりは『大体これで合っているだろ?』や二次効果のあるモノを主に使っていた。

 

 例えば上記のフレシェット弾なら、外しても地面に刺さっている間は撒菱(まきびし)のように、ナイトメアのランドスピナー対策としても効果は継続する。

 

 なお余談だが、もしこの場でカレンの兄であるナオトがいれば『まるで俺たち(ナオトグループ)の戦い方じゃねぇか?!』と言いながらも、誇らしく笑っていただろう。

 

 その間、まるでミカエル騎士団の前から姿を消すハメルたちと入れ替わるようにワイバーン隊の個性に合わせた専用機に、もともとアキト機になる予定だった『アレクサンダ・レッドオーガ』に乗ったアシュレイたちが左右の建物の陰から出てくる。

 

 姿形と時代と技術は違えど、その景色はまさしく中世で行われていた攻城戦そのものだった。

 

『よっしゃー! 行くぜ野郎ども!』

『なんでお前が仕切るんだよ?!』

『どうでもいい、どちらにせよ敵の殲滅に変わりはない。』

『アキトも言うようになったね。』

『それは……お前が……』

『え? ごめん、なんて?』

『いや、これが終わったら言い直す。』

 

 “上記の通信がなければ”、という前提付きだが。

 

「(これが実戦を味わった者たちの余裕なのか?!)」

 

 そうハメルが内心で思うのも仕方がなかったほどまでに、ワイバーン隊は奮闘していた。

 

 急ピッチとはいえ、彼ら彼女らがアレクサンダタイプ02の改良型である『ヴァリアント』に乗っていて、しかもそれぞれ一つ一つが専用機に仕立て上げられていることは承知していても、警備隊たちの眼前で行われている機動戦はとても『ナイトメア』とは思えないほど目まぐるしいものだった。

 

 元々の原作でも『鬼に金棒』ならず『鬼に斬艦〇』であり、その上接近戦を得意とする者たちは、スバル機のように取り付けられた噴射機でブーストをかけて一騎当千の働きをしていた。

 

 特にアシュレイとアキト機はランドスピナーを急加速の第一段階としてだけ使い、脚の代わりに噴射機を移動手段に使ってはその勢いのまま敵を武器ごと切断していく。

 

 アシュレイは器用にソードマン時と同じ二刀流式の戦い方で。

 アキトは日本刀状の大型ブレードに、ブリタニア製のナイトメア以外では初となるブレイズルミナスの盾から繰り出すシールドバッシュなどを巧みに使った。

 

『待ち伏せだ!』

『シールドを持った奴が前に出ろ!』

『撃て! 撃ちまくれ!』

 

 だが伊達に騎士団を名乗っている上に『魔女の森』を生き残ったわけでもなく、サザーランドの対応は素早かった。

 

 元々カンタベリーの護衛の為に持っていたタワーシールドを手にした機体たちがペアを組み、二体で一機の動きをし始めたその時にシンのヴェルキンゲトリクスが乱入し────

 

『────シャイング卿────!』

『────邪魔だぞ、アシュレイ────』

『────この、ふざけんな!』

 

 ────アシュレイのレッドオーガを()()あしらってアキトを襲う。

 

『兄さん────!』

『────そう言えば雰囲気が変わったな、アキト。 貴様も“幽鬼(レヴナント)”に毒されたのか?』

 

 ヴェルキンゲトリクスのハルバードを、アキト機であるアレクサンダ・リベルテの日本刀が()()()()

 

『兄さん、もうやめてくれ! ()()()()()()()!』

 

 バチバチと火花が飛び合う中、アキトはそんな声をかける。

 実は先日のアシュレイから聞いていた生い立ちの中で出てくる『シン・ヒュウガ・シャイング』に、時々『昔の兄』の言動が見え隠れしていたことに一種の希望を見出していた。

 

 それが例え、数年前に『次期聖ミカエル騎士団総帥候補』となってから、急激に人柄がガラリと現在の別人のようなモノに変わったとしても。

 

『こんな戦いをして、世界を滅茶苦茶にして何になる?!』

 

『貴様なら分かるだろう? 私たちのような人間はこの世界に相応しくない。』

 

『だからといって、全部壊すのはダメなんだ! それなら、俺が! 俺たちが、兄さんを止める!』

 

 そんなアキトに応えるかのように、アシュレイ、リョウ、そして()()()機がシンのヴェルキンゲトリクスを四方から襲い掛かる。

 

『そうだ、貴様らの亡骸を幽鬼(レヴナント)に見せれば動揺を誘えるか?』

 

 だがさすがというべきか、シンは普通のナイトメアより一回り大きいヴェルキンゲトリクスで彼ら四人の猛攻を受け流したり、躱しながらも飄々とした態度のまま会話をする余裕を持っていた。

 

『フフフ……フフフフフフフフフフフフフフフ。』

 

 否。

 シンは“余裕を持っている”のではなく、まるでこの戦いに“()()()()()()()()()()”かの様な笑いをこぼす。

 

 

 

「23区での戦闘、未だに続行中です!」

 

 オリビアの報告に、レイラはヒルダを見る。

 

「アキト、リョウ、アシュレイ、アヤノ機共にフルパワーね……このままだといつ限界を超えるか分からないわ!」

 

 確かにアレクサンダはEUだけでなくコードギアスの世界でも、EUという大国が『特殊作戦用ナイトメア』を目的に(極秘の為も含めて一部だけとはいえ)全力で開発された異例の機体である。

 

 それに追加装備や改良がされても機体ベースはアレクサンダのままであるのは変わらず、内蔵されているジェネレータや機体のフレームはそのまま。

 

 例えるのなら『パッと見だけは見栄えしないどこぞのハチロクに搭載されたモンスターエンジンを別のマシーンに移植した』……になるのか?

 

 どちらにせよ、アキト達が乗っている機体は基本的に短期決戦を目的として作られているのは原作でも変わらないが、そこに『追加装備(の負担)』となると機体の状態チェックは欠かせなくなる。

 

 何せ『チェックしていなかったせいで機体が強制冷却の為にシャットダウンして撃墜されたヨ♪』など、馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

『多段弾頭に砲弾を変えろ!』

『カンタベリーの再装填、完了!』

 

『ぶっ放せぇ!』

 

 静かになった防御壁の外から、先ほどリバプールカンタベリーたちが砲撃をし始め、放たれた砲弾は円を描くように壁を乗り越えて、ヴァイスボルフ城の至る所にまるで爆撃のように着弾していく。

 

 余談だが、次々と爆発が起きて被害に合うのは()()()()()()()()()()()()ばかりで、とある卑猥なポスターばかり壁に貼ってあるユーロ・ブリタニア製の暗号通信機器があった部屋も含まれていた。

 

「25区周辺に敵の砲撃です!」

 

「敵部隊、13区に侵入してきます!」

 

 ザザ……るかザザ……

 

「え?」

 

「ランドル博士、()()信号(シグナル)が復活しました!」

 

 作戦室のスピーカーから酷いノイズが混じった通信にサラが反応し、ジョウ・ワイズがソフィのいる方を向く。

 

「オリビア、みんなも!」

 

 軍属のサラやオリビアにクラウスはサブマシンガンを机の下から取り出す、ほかの者たちは防弾ベストを服の上から着こみ始める。

 

『軍属ではない』といっても、この場が戦場の一部である限り『敵に撃たれない』という確証はなかった。

 

 それでも────

 

「────例の武器を発動! それからドローンたちの制御を私の方に回してください!」

 

 

 

 レイラの命令に、以前に彼女がスロニムで扱ったドローン操作画面が浮き出ると、同時に防御壁を別方向から乗り越えようとしたサザーランドたちの反対側に、固定砲台にレーダー板のようなモノを無理やり取り付けた別の何かが地面から飛び出て、風もないのに爆風のようなものが大気を震わせる。

 

『な、なんだ────?!』

『機体が動か────?!』

 

 クライミングしていたサザーランドたちのスクリーンにノイズが走った瞬間すべての電気機器がショートし、電力が落ちたサザーランドたちは動きを止めるどころか急な止まり方で次々とクライミングの支えにしていたスラッシュハーケンが抜け、後から壁を登り始めた歩兵たち数人と共に地面へと落ちていく。

 

 

 

「小型電磁パルスジェネレータ、充電まで140秒────!」

「────城内の固定砲台をすべて起動! ドローンとともに、私も時間を稼ぎます!」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 地上で激しい攻防戦が行われている間、『アポロンの馬車』がある地下の発射場には似つかわしくない大量の爆弾とともに半開きのグラックスがあり、ジャンが近くのコンソールを手探りで操作していた。

 

「ヒュウガ様、輸送機の発射場です。 プログラムの書き換えに少々時間がかかりそうです。」

 

『そうか。 準備ができ次第、距離の近いペンドラゴンに座標を合わせて発射しろ。 確認をとる必要はない。』

 

「……………………」

 

『さぁ、“幽鬼(レヴナント)”にアキトはどんな顔をするのだろうか、どんな声を出すだろうか。 フフフフフフ……』

 

 シンの平然とした態度と狂気に満ちた声にジャンの手が止まり、戦場だというのにもやもやとする感情の誘惑のまま、珍しく考えに耽ってしまう。

 

「(これで……本当にいいのだろうか? ヒュウガ様は……ヒュウガ様は────)」

『────はーい、そこ動かなーい。』

 

「ッ?! (しまった!)」

 

 ジャンは横からくる、陽気なユキヤの声に固まる。

 ユキヤは他の者たちと違って乱戦にあまり向いていないため、城の地下においてある『スカイアイ』に機体を繋げて“ECM妨害(いやがらせ)”をミカエル騎士団の機体にしていた。

 

 だが地下にジャンのグラックスが単騎で、しかも遅いスピードで侵入したことに警戒し、彼女が『アポロンの馬車』を狙っていたところに駆けつけていた。

 

『動けばコクピットを狙って撃つからね~? まずは手を頭の上に乗せてナイトメアから出てもらおっか?』

 

 ジャンは頭を動かさず、横目でチラッといまだに搭載していない爆弾を見てから口を開ける。

 

「別に撃っても構わないが、お前の銃弾の威力は知っている。 果たして、私だけを狙って撃てるかな? 誘爆すれば、お前も死ぬぞ?」

 

『アッハハハハ! 本当にアシュレイの言ったとおりだね、君……でもね? それは些細なことなんだよ、アキトのお兄さんである“シン・ヒュウガ・シャイング”に比べるとね? 彼は色々とやばいよ。 見せようか?』

 

 ユキヤは通信の続きといわんばかりに、ジャンの機体に様々な情報や映像を無理やり送る。

 

 その一つ一つがどれだけシンがEUとブリタニア、そして中華連邦の三大国だけなく周辺の小国まで内通していた様子を見せ、聡いジャンはシンの思惑を予想はできたが許容することはなかった。

 

 ジャンは怒りか、拒否からかユキヤ機を向いて睨む。

 

「貴様に何がわかる────!」

 

 バシュゥ!

 

「────わかっちゃうんだよねぇ~、そ・れ・が。」

 

 ユキヤは手に遠隔操作用のレバーを握りながら、コックピットを開けるとジャンは好機とみて拳銃を手に取って構えるが────

 

「────貴様?! それは────?!」

「────ハンドメイドだけど立派な威力を持った小型爆弾たちさ♪ 僕を撃ったら爆発して、君がご丁寧に持ってきた爆弾に引火しちゃうかもね♪」

 

「……それではお前も死ぬぞ────!」

「────僕は他の皆と違って“イレヴン”だとか“ユーロ・ブリタニア”とか“EU”とかどうでもいいんだよ。 僕からすれば“同じ穴の(むじな)”さ。 でもね、家族や仲間が守れるのならどうだっていいし()()()()()

 

 君が、()()()()()()()()()()()()()ようにね。」

 

「呼び捨てるのか?!」

 

 ユキヤは一瞬だけジャンが動揺するのを見逃さず、アシュレイから聞いた『ジャン』とやらが自分の想像していたように『根はアヤノに似ている』とほぼ確信した。

 

「確か、彼は世界を壊したいんだよね? でもそんな壊れた世界で、果たして彼は幸せになれるのかな?」

 

「そ、それは────」

「────それとも、そんな世界で本当に君は彼と幸せになれると思うの?」

 

「…………………………………………」

 

 地下である為、静寂な数秒間がジャンとユキヤの間にただ流れていく。

 

 

『な、なんだ────?!』

『────後方から、別動隊が戻っt────?』

『────うわぁ────?!』

『────背後からの攻撃だと────?!』

『────()だ! ()が来やがった!』

 

 ジャンが思わず戦域の地図を映し出している画面を見ると、ヴァイスボルフ城に近づくカンタベリー部隊のシグナルが『LOST(消失)』と表示されていく。

 

「それに、僕たちには怖~い()()()が味方としてついているんだ。 彼のもとに戻った方が、賢い選択なんじゃない?」

 

 

 

 


 

 

 

 「死ねるか……死ねるか……」

 

『オレ』はそうブツブツと独り言のように言いながら、城の外にいるカンタベリーたちを背後から接近し、スピードを落とさないかつカンタベリーの下を通る為、雪の上で横に倒れてスライディングしながらカンタベリーの腹にアレクサンダ用のリニアライフルをありったけ撃ち込む。

 

 ビィー!

 バキン!

 

 カンタベリーの下をすり抜けざまに『残弾数:ゼロ』のアラートと同時にボロボロの機体を起き上がらせると、大きなヒビが入っていた右の画面から表示が消え、パネルから液体が漏れ出しては、敵の弾丸が貫通した穴の中へと吸われていく。

 

 機体の複合装甲は『強力』だが、『無敵』ではない。

 機体に無茶をさせたり、何発も攻撃が当たればヒビも入るし脆くなる。

 

 敵の攻撃にコックピット内を飛んだ機体やガラスの破片で俺の体は至るところに傷ができているが、空気が乾燥している所為か血が凍り、体を動かせば完璧に塞がれていない傷からまた血が流れだす。

 

 今着ている黒いワイバーン隊のパイロットスーツをよく見れば多分、赤が滲んでいると思うがそんなものは二の次だ。

 

 そのまま城内へと地面を走り、ミカエル騎士団のサザーランドと思われる機体の隊列をできるだけ撹乱して中央へと向かう。

 

 それよりも、何とか『オレ』を説得(誘導)してみたはものの、原作とはあまり流れが────いやちょっと違うな。

 

 ハメルたちはゲリラ戦に徹しているし、アヤノ機がいる。

 

 ということは、誰がジャンの説得を────それは今いい。

 

 もっと大事なのは────いた。

 

「敵の指揮官!」

 

 司令塔の近くにあるビルの上に、ヴェルキンゲトリクスの特徴である金色の装甲が光を反射しながらアキトと対峙するのを、ノイズがさっきから走るモニターで何とか捉える。

 

 あ、そのモニターも死んだ。

 

 次々と長時間酷使した機体が文字通りに壊れていき、バチバチとスパークが周りで飛ぶ様をヒヤヒヤしながら────いや、待てよ。

 

 司令塔を見ると、敵兵っぽい奴らがが昇って────ってまずい!

 

 このままだと作戦室の皆が殺されてしまう!

 

 おい、『オレ』────!

「────殺気の元はあいつか!」

 

 頼むから今は無視するな! このままじゃレイラたちが────

 「────知るか!」

 

 どうにか、どうにか体を俺が動かせないか?!

 ……………………だめだ!

 “暖簾(のれん)に腕押し”っぽい感覚だ!

 

 頼む!

 原作通りに事が進めばいいが────

 「────自業自得だ!」

 

 なぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 独り相撲をしている場合じゃないんだ! 頼むから────!

 「────お前の言うことはすべて嘘だ!」

 

 こ、こ、こ、このイノシシ頭がぁぁぁぁぁぁ!

 

『オレ』の言ったことに、今まで抑え込んでいた怒りが一気に爆発したような感覚が広がる。

 

 すると何故だか“今ならいける”という感じのまま、両手を動かそうと全身全霊の念を送る。

 

 まるで周りがスローモーションになったように、徐々にだがその念が届いたのか機体はシンとアキトがいるビルの屋上ではなく、司令塔に向けてスラスターを噴射させて跳躍する。

 

 ボロボロだった機体の左足と右腕がもげ、ついに負担が許容を超えたのかメインとサブカメラ両方がイカれてコックピット内のモニターが死んで暗くなる。

 

 すかさずハッチを開けると冬の冷たい空気が肌に当たり、ヒリヒリとした感触が体中を広がる。

 

 見えた。

 やはり敵の歩兵が作戦室に突入して────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ん?

 

『周りが暗い』と認識したのは、ちょうど『体が痛くない?』と思った後だった。

 

 次に感じたのは、不思議な浮遊感だった。

 

 まるで『三半規管がついに逝ったか?』と思わせるほどに、『ここ』は上下左右が認識できなかった。

 

 それだけでなく、さっきまでの荒ぶるような気持ちが嘘だったかのように薄れていく────

 

【やぁ、()()()()……とでも言うのかな?】

 

 誰だ、お前?

 

【もう私たちを忘れたの? 案外と短期記憶持ちなのね。】

 

 いや、待てよ。

 口があるかどうかは別として、俺はさっきの考えを口にしていない。

 それにこの中性的な声、聞き覚えがある。

 

「お前は────ん?」

 

 気が付くと、自分の声が耳に届く。

 そして水面のような場所に()()()()()

 頭上にはゆっくりと流れる雲。

 

 一言で表現するのなら『静』そのもの。

 気持ちがさらに薄れていく。

 

「体がある。 いや、水の上? それに空が────」

「────この方が、君にとっては話しやすいかなと思ってね。」

 

 横からくる声に向くと、一瞬だけCCと見違えるほど似ている顔を持った者がいた。

 だがCCと違い、髪はまるで一時的に紫色に染めたものが地毛の黒に入れ替わるようなショートカットに、服装は黒ずくめでネックが緩めの長袖シャツにズボンだった。

 

「お前は、まさか────」

 

 ──── 『時空の管理者』。

 

 皇帝シャルルが『ラグナレクの接続』に使うモノとは、正反対的な存在。

 確か、『意識の集合体』だったな。

 

 そう思うと、彼女が笑みを浮かべる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 このデジャヴ感が強まっていくと様々な情報がまるで散りばめられたパズルのピースがきっかけを得たかのように、カチカチとハマり合う。

 

 ……なるほど。

 

「考えはようやくまとまったかい?」

 

 ああ。

 だが、なぜこの局面で出てきた?

 

「ん? それはもちろん、ここまで到達した君への()()()の為さ。」

 

 ご褒美?

 

「と・い・う・わ・け・で、私たちが話す前に何でも質問する権利を与えようと思うんだ。」

 

 ……それのどこが『ご褒美』になるんだ?

 

「君は“質問が無い”と言いたいのかい? ああ、でもそれだと面白みがないから……そうだね。 『()()()()()()()()()()は一つ』に絞ろうか?」

 

 なんだこの流れ?

 

 ……質問は何でもいいのか?

 

「そうだよ。」

 

 行動や行為も含まれるのか?

 

「“なんでも”、って言ったよね?」

 

 そうか。




アンケートに票を入れたい選択肢がない場合、メッセージも参考として受け付けております。 (;´ω`)ゞ

“感想欄ではハーメルンの規約違反に当たるかもしれません”ということで。 (;・ω・) ←前回指摘されるまで知らなかった作者


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第126話 『宇宙』のかたわらで語られる

大変長らくお待たせいたしました、コロナ中ですが病状がかなりマシになっているのでコツコツと書き上げた次話です。

アンケートへのご協力してくださった皆様に、心の奥から再度感謝の言葉を送りたいと思います。
誠に、ありがとうございます。 m(_"_)m

楽しんでいただければ幸いです。


 ここで時間をほんの少しだけ遡らせたいと思う。

 

『き、来ました!』

『慌てるな! 訓練の通りに撃ってから身を隠せ!』

『我々で、ここを死守するんだ!』

 

 具体的には、ユーロ・ブリタニアのナイトメアと歩兵混成部隊が別方向から防御壁を登ろうとして、電磁パルスに当てられた直後。

 

 ハメルたち警備隊は、城の中心近くにまで侵入したシンのヴェルキンゲトリクスの相手をしているアキト達に代わって、城の防衛戦に回っていた。

 

 生粋の軍人ではなく警備隊の彼らにすれば、荷は重いが取った行動は及第点である。

 

 だが彼らが予想だにしていなかったのは、彼らが対処している部隊も『成功すれば御の字』といえるような大きな作戦の一部だけであり、複数の混成部隊が一度にタイミングを合わせてヴァイスボルフ城の防壁を超えてくることだった。

 

「敵部隊、北西の城壁も乗り越えてきます!」

 

「ここにまで来て(やっこ)さんたち、部隊を広く展開したのかよ!? 正気か?!」

 

 とある混成部隊はかつてスバルとアキト達がともに汗を流して掘った墓地の上を走り、とある歩兵部隊は『ハー〇マン軍曹式虐待訓練』が行われたグラウンドを駆け抜け、とあるナイトメアはかつてレイラがスマイラスに呼ばれてパリに旅立った滑走路をランドスピナーで移動する。

 

「(本来ならそうでしょうが、相手があのシャイング卿ならやるでしょう! ですがそのために城内の戦力を残していたのです!)」

 

 雪で覆われた城内の固定砲台がすべて起動し、地面から出現したドローンたちはレイラの操作もあってか、アキト達から離れてハメルたちの元へと向かっていたタカシとイサムたちとともに見事なまでの連携で、ユーロ・ブリタニアのナイトメアとの拮抗状態を維持できていた。

 

 だが流石の彼ら彼女たちでも『固定観念』という敵に縛られてか、敵の歩兵部隊を『ナイトメアへの脅威』として見ていなかったことが仇となる。

 

 それまで『敵のナイトメアの進軍阻止』に専念していたドローンや固定砲台たちが、敵の投げたボーラ状の対戦車手榴弾に爆破されたり、肉弾戦のような至近距離のロケットランチャーや元々()()()多めに輸送されていた爆薬を靴下に詰め込んでナイトメアの関節の可動摩擦面に使うようなグリスや油を表面に塗りたくった『即席粘着手榴弾』で大破させていく。

 

 皮肉にも、それらは彼ら聖ミカエル騎士団が『魔女の森』での()()からの、ぶっつけ本番リベンジのような戦法だった。

 

『マズイよイサム! 敵の歩兵もこっちのナイトメアを────うわぁ?!』

 

 イサム機がタカシ機を見れば、ちょうど腕と足が敵のソードマンによって切り落とされるところであり、彼は咄嗟にリニアライフルを撃つ。

 

『タカシ! こなクソォォォ!』

 

 ソードマンは標的を戦闘不能になったタカシ機から、自分を撃つイサム機に注意を向けて距離を詰める。

 

 タカシは内心の焦りが表面化しつつも、素早くアレクサンダを自立行動(オートモード)にしてからコックピットを飛び降りる。

 

 

 

『ブロンデッロ卿!』

 

 ソードマンが一心不乱にライフルを撃つイサム機(厳密にはドローン化したイサム機)を切り伏せると、部下の焦る声にブロンデッロが横目で見たのは背筋をゾッとさせる“光”だった。

 

 彼は考えるより先にソードマンのエマージェンシーレバーを引くと、その閃光の正体────MPA砲が彼のソードマンと向こう側にあった防壁ごと撃ち抜く。

 

「なんという威力! だが、司令塔を押さえれば────!」

 

 ブロンデッロは思わず感心しながらも、コックピット内から出ては歩兵部隊とともに、敵の指揮官たちがいるはずの塔へと駆け寄る。

 

 

 

 作戦室にいたレイラは、さっきまで外の状況をリアルタイムで送り返していたドローンたちの信号途絶に戸惑っていた。

 

「全機のドローンからの信号(シグナル)が────?」

「────敵さん、ひょっとして『対ナイトメア戦』を()()()()から習ったんですかねぇ?!」

 

 クラウスは皮肉っぽい嫌味を口にして自分を安心させながら、護身用の拳銃のセーフティを解除する。

 

 あながち、彼が口にしたことは間違っていないのは彼自身も知る由もないが。

 

「ジョウ・ワイズ! ちゃんとデータ取れている────?!」

「────それどころじゃないっすよ博士! シュバールさんだけじゃなく今度はアキト達まで────!」

「────わかっている! けれどこんなにはっきりとしたアノマリー(計測不能)の事態なんて、滅多に居合わせられないわ!」

 

 レイラは思わず『こんな時でもランドル博士は研究第一ね』と思ったところで、サラが次の言葉を口にしたことで、作戦室の中にいた皆が思わず呆気に取られてしまう。

 

「アキト機たちの信号座標がエラーを返しています! こ、これではまるで消えたみたいです! 」

 

「「「「「……は?」」」」」

 

「まさか、特異点現象?! こうもはっきりと目に見える効果まで?! ああ、その場にいないことが惜しいわ────!」

「────どういうことです、ランドル博士?」

 

 その中でもソフィはブツブツと独り言のように言を並べていたことで、レイラは平然を装いながらもそう彼女に問いかける。

 

「“世界は観測者が観測することで初めて確定する”。 つまり、私たちが『認知している世界』は脳が観測することで創造されて、脳は世界によって創られる。」

 

「それは……」

 

 “卵か鶏か”。

 そのような哲学的な因果性のジレンマの例えが、レイラの脳内に浮かび上がる。

 

 スケールも話の次元も何もかもが根本から違うが、純粋な探求心をレイラはくすがれて問わずにはいられなかった。

 

「では今のアキト達に起きた現象が、“観測が現実世界にまで干渉している”と言いたいのですか?」

 

 レイラの質問に、苦笑いを隠せないソフィは大粒の汗がにじみ出る額に引っ付いた髪を後ろへと流す。

 

「少なくとも、BRSを使って複数の人間の脳を同調させれば、『より強い観測が一時的にできる』ということは理論上可能だった……けれど今まで実証されたことも、記録されたことはないし、一番近い『例』はスロニムでノイズが混じって上手くレコードが出来なかった────」

 

 ────ビィー! ビィー! ビィー!

 

 作戦室内にけたたましいアラーム音が発生し、サラとオリビアはサブマシンガンの最終チェックをしながらコンソールを操作すると、司令塔になだれ込む敵の歩兵部隊を見る。

 

「侵入者が最終警戒ラインを突破しています!」

 

 レイラはハッとして自身のコンソールを外の通路にあるカメラに表示を移すと、ユーロ・ブリタニアの歩兵がすぐ作戦室外に集まっているのを見る。

 

 否、見てしまう。

 

 壁を壊すための爆弾設置が終えた瞬間を。

 

 ここでレイラは二つの選択が瞬時に浮かび上がる。

 

 一つ、(例え『本能』が『絶対に間に合わない』と叫んでいても)隣の指揮所に作戦室の皆を退避させること。

 

 もう一つは、一番距離的に近い自分が指揮所に駆け込むこと。

 そうすれば自分だけでも助かり、外のハメルたちと連絡を取れば城の制御を担う作戦室を奪還できる。

 

『理性』が決して後者の選択を許さないので、実質選択肢は一つだけだった。

 

「総員、指揮所へ────!」

 

 ────ボン!

 

 よってレイラは一瞬の戸惑いの後に口を開けるが次の瞬間、作戦室の壁が爆破されてから彼女は周りがまるでスローモーションに流れるかのように次の景色が流れる。

 

 爆破された壁のすぐ横にいたクロエを庇うように抱き着いたヒルダが共に倒れ、地面へ落ちる前に銃弾まみれになっていく。

 

 これを見たサラとオリビアがサブマシンガンで応戦しようと動きながら逆に撃たれ、倒れながら引き金を引くが虚しく銃弾は作戦室の天井へと撃ち出される。

 

 ジョウ・ワイズは恐れから拳銃を手放したケイトとフェリッリの(文字通り)肉壁()となろうとして、撃ち抜かれて守ろうとした彼女たちのように倒れていく。

 

 ソフィは『敵意はない』と見せたかったのか、手を挙げて何か言おうとして口を開けるが無慈悲にも敵に撃たれ、近くにいたアンナは自分の顔に飛び散った血肉の感触に固まっていたが、同様に撃たれる。

 

 そして────

 

 「司令!」

 

 ────予想外にも、クラウスはレイラを庇っては銃弾を代わりに受けて、地面に落ちるまでに彼の眼からハイライト(生気)はすでに消えつつあった。

 

 ダダダダ!

 

「ぁ……ぇ……」

 

 レイラは目の前で起きた惨状の『理解』を『拒否』しようとして目を白黒させていると、先ほどの爆破が原因か、周りの音が耳鳴りとともにぼんやりと聞こえる。

 

 「ま、待て! 相手はほとんどが女子供だ! 撃つな────!」

 「────知るか! 仲間が何人殺されたと思う?!」

 「────死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!」

 「────このぉぉぉぉぉ!!!」

 

 さっきまで、会話をしていた者たちが怒りと憎しみに身を任せた敵兵によって何も言わ(息をし)ない()()へと変り果てるまでほんの一瞬だった。

 

 否、何人かの敵兵は息をしているかいないかにも関わらず、ただ倒れた体に追い打ちをかけるように銃弾を撃ち続けていた。

 

 眼前の景色が10年前の出来事と重なると走馬灯のように、父のブラドーごと演説舞台が爆破テロで木っ端みじんになるところから、最終的に餓死状態のまま『森の魔女』と会うところまでが映り出し、レイラに様々な情報と感情が自分の中へと流れ込み始める。

 

『兄さん!』

『アキト!』

 

 シンとアキト達は、どこともわからない空間のような場所(?)で未だに攻防を続けていた。

 

 それは流れる動作で、その場にいた者たちが内に秘める荒々しい怒りや悲しみなどの感情とは裏腹に、まるで芸術的な『踊り』をしているかのようだった。

 

 そしてようやくアキトにもシンの脳が同調し始めたのか、アキトは兄からの視点での『人生』内で大きな影響を与えた記憶(思い出)を見始めた。

 

 幼くから周りの大人たちと同等に(あるいはそれ以上)聡いシンが『アキトは異父兄弟』と実父同様に見抜き、『愛している』と口では言いながらも裏では互いを苦しめ合う両親を見て理解できなかった。

 

 その理由を聞こうとして、自分を殺そうとした父を逆にシンが殺めた。

 

 どこからか男の声がして『()()()()()()()()に自害を強制できる力』を得て、ふとした出来心から一族に自害を命じたシン。

 

 自虐的になっていたシンをマンフレディ卿が拾い、名門のシャイング家に養子として引き取られてから、久しく感じていなかった穏やかな時間を許嫁であるアリス・シャイングと過ごす日々。

 

 普通なら『日系人』とだけで見下される社会で、シャイング家は逆に日本の文化を聞きたがったことに戸惑いながらも、昔得意だった名残である折り紙に草笛や笹船などのはっぱを使った遊びを前に、アリスは年相応の少女のようにキャッキャッと心から楽しむ様子。

 

 これ等を見て、困った顔と苦笑いだけをするマンフレディにマリアとあまりにも笹船がかわいい&斬新なもので夢中に冷たい水によって冷たくなったアリスの手を、紳士の象徴とも言える手袋を外したシンが両手で直に温める。

 

 その中でのシンは、昔アキトに見せていた『兄』としての気遣いと優しい顔に、()()()()()()を噛み締めていた。

 

『兄さん! やっぱり今の兄さんはどこか変だ!』

 

『貴様! 人の記憶に土足で踏み込むな!』

 

『思い出してくれ!』

 

『思い出すことなどない!』

 

 アキトは純粋に『昔の(シン)』を追い求めていて、命の危険から本気を出しそうになる気持ちを抑えてシンを殺そうとしてはいなかった。

 それらをBRS経由で感じたリョウ、アヤノ、アシュレイたちはわざと決定打を控えていた。

 

 その反面シンは邪魔であるアキトを『殺そう』としながらも、正体不明で小さな声がひっきりなしに『生かせ』と自身に訴える矛盾をシンは抱きかかえながら対峙していた。

 

「……………………」

 

 双方の思いやりや思惑をレイラは直に感じ取ると、やがて途方もないほどの悲しみが自分の中で広がっていくのを感じた。

 

 カチリ。

 

「……は?」

 

 レイラは何かのスイッチ、あるいはパズルのピースがはまりあうかのような音が耳朶に来ると同時に、周りの景色ががらりと変わったことに戸惑いを隠せずにいられなかった。

 

「え?!」

 

 先ほどまでいた作戦室とも、アキト達とシンのいた『空間』とも違う、水面のような一面の上にレイラは立っていた。

 

 そして上を見ると、風がないのにはるか彼方では雲が星空を背景にして緩やかに流れていく。

 

 見た目だけで判断すれば幻想的な絵面で、思わずそのまま魅入られてしまいたい衝動に襲われながらも、理論的に不可解である展開だったことに好奇心と同等の畏怖を覚えた。

 

「ここは、一体────?」

 

【────“人間は知能と本能のバランスが悪くて、判断などを鈍らせる。” レイラも、そう思うでしょ?】

 

 中性的な声の元をレイラが見ると、見慣れない女性が面白おかしく自分を見ていた。

 

「あなたは、誰?」

 

【人間にとっては“在る”と同時に“無い”存在。 でも見える者には見えるし、聞こえる者には聞こえる。】

 

 そう言われてレイラの脳裏をよぎるのは、ワルシャワの大婆の“占い”で『幼い子供が餓死状態で見た夢』ではなく『朦朧とした意識下での記憶』として出会った『森の魔女(CC)』だった。

 

「……彼女と、同じ?」

 

 このようなハプニングを前に、レイラは自分がどれだけ意外と冷静だったかに気付くことなく質問をすると、見慣れない女性が笑いを殺しながらも明らかに楽しんでいるような表情をする。

 

【彼女はまだ貴方と同じく人間よ。】

 

「???」

 

【そうね……こう言えば理解しやすいかな? 私たちは“意識の集合体”。  ああ。 それとも、“時空の管理者”と言えばしっくりくるかな?】

 

「まるで古代ギリシアの『アイオーン』ですね。」

 

 レイラに言われた自分の例え方に、“意識の集合体”は目をさらに細める。

 

【ふぅ~ん? ……やっぱり面白いね。 君も、あの子も。】

 

「“あの子”?」

 

【あの子と言え────バハァァァ?!】

 

『意識の集合体』(または『時空の管理者』)と自称した色白の女性は、我慢していたからか頭が赤から青へと変わると歯を食いしばり、目をむき出しにして口を両手で覆うとさらに青から土色に変色して、その場でプルプルと小刻みに震えながら(うずまく)る。

 

「(“まるで信号みたいですね”と言わないほうがいい空気ね。) あの……大丈夫ですか?」

 

【……モ……モ……………………モン…………………………ダイ……ナイヨー。】

 

 サスサスサスサスサス。

 

 “問題ない”と口にしながらも今にも吐きそうな様子の『意識の集合体』の背中を、レイラがしゃがみながら優しく擦る。

 

「は、はぁ……(とてもそうは思えないけれど。)」

 

 サスサスサスサスサス。

 

【ヒトの優しさが染みる……………………………………】

 

 このような状況下でも、他者(?)への気遣いを忘れないレイラだった。

 

 

 


 

 

 

 行動や行為も含まれるのか?

 

「“なんでも”、って言ったよね?」

 

 そうか。

 ならば………………………………………………うん。

 

 とりあえずアレだな。

 

【ん? なんだ、君でもそんな風にニッコリとした良い笑顔が出来るじゃ────】

 

 ────ドゥンッ!

 

 (スバル)は考えるよりも先に『時空の管理者』の肩を掴み、カレン直伝の『鳩尾グーパン』をお見舞いさせる。

 

 さすがに本家(カレン)ほどではなく、目に見えての衝撃波で生じる『大気の震え』は無いが。

 それとどうやら気が付いていなかったが、俺は笑顔になっていた……らしい。

 

 どうでもいいが。

 

ゴハヲァァァァァァァァァァァァァァァ?!

 

 だが笑顔になっていたのならば、理由はある。

 

 多分。

 

 直感だが、俺をこの世界に転生させたのはこいつだ。

 

 多分。

 

 “さっきから憶測ばかりじゃねぇか”、だと?

 放っておけ、色々とフラストレーション(意味深)が溜まっているんだよ。

 

 それに何度か自分に言い聞かせていたことができてもうスッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッキリした! *1

 

 最高にハイな気分に近い。

 

カヒュ、ヒュゥゥゥ?!

 

『時空の管理者』は虫の息のまま謎の声を出し、鳩尾を抱えるよう両手で覆いながらその場でゴロゴロしながら両足をバタつかせる。

 

 どうよ、え? 肩と腰と脚力でブーストをかけた鳩尾パンチは効くだろう~?

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

【まったく……酷いな君は! さっきのは何だったのさ?! せっかく転生させてやったというのに?!】

 

 黙れ。 というかやっぱりお前だったか。

 

【殴る必要ある?! 私たち、何も悪いことしていないじゃん?!】

 

 ……正気か?

 

【そもそも私たちに“狂気”という概念すらないのだけれど正気だよ?! ……いや、あるのかな? まぁそれはいいや。 生命の欲求の根源は存在し続けることであって、君たちはすでに存在が終えたのだし、転生先が君の大好きなコードギアスの世界で良かったじゃん────】

 

 ────確かにコードギアスは好きだぞ。

 

 多分。

 

【“多分”って────】

 

 ────そもそも前世の、特に詳しい身の回りの詳細に関しての記憶があやふやなのは知っているだろう?

 

【ええええっと? ねぇ、なんでさっきから一言も喋らないの?】

 

 以前のお前は言った。

 “考えたことを読み取るのは意外と簡単”と。

 “ならば”とプロセスを省いているだけだ。

 

【で、でもほら? やっぱり好きなコードギアスなんだから、別に何も問題ナッシング────】

 

 ────それは『創作された話』を閲覧しているから楽しめるモノだ。 だが『当事者』になると全く笑えん。

 

 しかも本編アニメの『コードギアス』だけでなく、俺が確認できているだけでも『ナイトメア・オブ・ナナリー』、『双貌のオズ』に『ロストカラーズ』も混存している世界なんて、下手したら『死亡への片道超特急切符売り場の地雷原』以外の何物でもない。

 

【……いや、だからその埋め合わせとして特典が────】

 

 ────それももし、行き先が『コードギアス』と知っていれば()()()()()()()に決めていた。

 

【そ、そ、それに体も────】

 

 ────確かに身体能力は高い。

 だが『コードギアスのスザク』に『ロストカラーズのライ』の足元にも及ばない。

 そもそもラウンズ相手でも厳しいし、ナイトメア戦で俺は使()()()()()()()()()

 

【それでも、いろいろと動いている様子だけど?】

 

 ……確かに俺は、それと“来るはずの出来事”に対して、なるべく多くの被害が出ないように立ち回ったが、それでも人は死んだ。

 死んだんだ。

 彼らの名前や素性は知らない。

 でも彼らは確かにこの世界にいて、亡くなった。

 それが果たして俺の所為なのか、()()()()()()()()()()かは二の次だ。

 

 

 そう思うと、まるで今まで蓋をしていたモノがどんどんと勢いを増しながら流れ出す行水のようにあふれ出て、手はただただ思いを浮かべていく。

 

 

【…………………………】

 

 今だから聞くがなぜ『俺』なんだ?

 そもそも『俺』とは一体なんなのだ?

『特典をくれた』と言うが、それの使用対価が分からない間は怖くて頻繁に使う気になれない。

 それに『大好きなコードギアスの世界への転生』ならば、なぜコードギアスに全く関係のない『HOTD』の毒島や『クロスアンジュ』のアンジュがいるのはなぜだ?

 

 分からない。

 まったくもって分からないことだらけだ。

 

【……………………………………………………】

 

 思わず佇んでいた俺の思っていることと気持ちが伝わったのか、『時空の管理者』────もう『自称神様』でいいか────が何とも言えないような顔をしながら、佇んでいた俺を真正面から見る。

 

【この世界にいるのは、彼女たち()被害者だから。】

 

 ん?

 

【それと、特典の対価についてだけど……君が欲しかった特典が何だったか、覚えているかな?】

 

 ああ、覚えているとも。

 

『事象の無効化』────

 

【────は私たちが却下したでしょ?】

 

 ああ。

 だからその代わりに『認識出来る現象の無効化』にして、お前はそれを承諾しただろう?

 

【そうだね。 確かに承諾して、君がそれをすぐに“自身への時無効化”に応用したときは正直少し寒心(かんしん)したよ。】

 

 関心(かんしん)、か。

 世辞はいい。

 

【それと『なぜ君』についてだけれど……君はギアスのことをどう思う?】

 

 これは『アレ』か、“人は生命としてはあまり優秀ではなくギアスは過ぎた力だ”のくだりか。

 

【そうだね、概ねそれだよ。 現に、ギアスを得た者たちは欲望のまま行動して『個人』ではありえない刺激を与えている。】

 

 だがそれは『ギアス』が有能な道具だから拡散されているだけであって、使う本人たちが原因だ。

 

 “道具の善悪も使い方次第”、ということだ。

 

【本当に面白いね、あの子たちと同様に……そろそろ時間ね。】

 

『時空の管理者』の水平線(のような)方向を見るしぐさに連れて俺も顔を向けると、光が増していた。

 

【ああ、それと最後にサービス。 ()()()()()()()()()()()()()()()。 少女の方を連れてね。】

 

「そうか、ありがとう。」

 

『時空の管理者』の言い回しで頭にピンときた俺が礼を口にした次の瞬間、半壊しつつ中を跳躍する『試作型蒼天型・村正一式、武蔵タイプ(仮)(撃震)』に戻っていた。

 

 

 


 

 

【…………………………“ありがとう”、か。】

 

『時空の管理者』と自称した少女は複雑そうな笑みを浮かべて水面上に立っていると、背後から新たな女性の声が聞こえてくる。

 

「はぐらかされたのにわざわざ礼を口にするなんて、やっぱり貴方と違って根は良い子じゃない。 とても同じエデンバイタルの────」

【────うるさいなぁ、ほぼ居候の身のクセに今出てきてさぁ。】

 

「彼が見たらびっくりするでしょ?」

 

【それで? どう思う?】

 

「彼なら、やれるんじゃないかしら?」

 

【そうだね。 だから気長に待っていようよ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()。】

*1
85話、及び99話より




( ゚д゚ )


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第127話 異母兄弟

少々短めの次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


「敵兵が司令塔に接近────!」

「────司令塔の基部で爆発確認!」

 

 レイラがサブマシンガンの軽い点検をしながら報告をするサラとオリビアの声でハッとし、周りを見る。

 

「(さっきまでの、あれは夢?)」

 

 彼女はつい先ほど見ていた景色と、『意識の集合体』と自称する摩訶不思議な少女と、『人間のあり方』や『ギアス』などの、哲学や聞いたことのない超現象に関する問答を思い出す。

 

「(それとも、あるいは現実味の強い逃避────?)」

 

 ────ビィー! ビィー! ビィー!

 

「侵入者が最終警戒ラインを突破しています────!」

 

 レイラの考え事を遮るような、けたたましいアラーム音とサラの慌てる声が彼女の耳に届く。

 

「────隔壁内に防爆ジェルを噴射!」

 

「了解!」

 

 レイラの命令にオリビアがコンソールを操作すると、二重構造によって壁の中に出来ていた真空部分を、衝撃などの影響を大幅に緩和しながら空気に触れると固くなるジェル状の液体が満たす。

 

 

 

 ボォン!!!

 

 ミカエル騎士団の設置したブリーチングチャージが爆発した壁と扉を確認すると、壁はひび割れていたが崩れる様子はまるでなかった。

 

「ブロンデッロ卿、ドアが!」

 

「爆破対策を張られたか……」

 

 ブロンデッロがそう言いながら見るのは、ヒビなどから湧き出て大気に接触したことで硬化した防爆ジェルだった。

 

『防爆ジェル』とはコードギアスの世界でも知れ渡っている代物で、()()()や軍の武器弾薬保管庫などにも使われている。

 

 ただコードギアスの作中であまり出番がないのには、それなりの理由がある。

 

「時間さえ、あればな……」

 

 防爆ジェルは時間がたてば効力は薄まっていき、急激に脆くなる上に保存の条件がシビアで、ベストを尽くして全く使用しなくとも、長くて数か月ごとにジェルのコンテナを丸ごと交換しなければいけない。

 

 つまり費用も維持費もバカにならない額であり、その上防爆ジェル自体も購入するにあたって決して安くはない。

 

 要するに金食い虫なので、絶対に必要な設備以外では殆ど使用されていない。

 

 余談だが上記での避難所も、『上流貴族用や大富豪の個人用避難所』などを指している。

 

 ただヴァイスボルフ城の作戦室が特例だけである。

 

「それにしても、爆発があって隊の緊張がほぐれた様子だな。」

 

 ブロンデッロが視線で見渡すのはさっきまでピリピリと殺気を明らかにしていた歩兵たちが、大半がかつて『魔女の森』に突入する前まで見せていた『余裕の空気』をまとっていた者たちだった。

 

 それはまるで、()()()()()()()()()かのような豹変ぶりで、ブロンデッロはそれを不気味に思いながらも最近では数少ない吉報として受け取っていた。

 

 彼がなぜ敵の指揮官確保に動いた部隊の先頭にいるかというと、彼らの様子が『騎士』ではなく、下手をすればまるで血を求めるため()()()()()()()()()()()()()()ような『暴走寸前の猛獣』だったからだ。

 

 今ではその様子は()()見当たらず、ブロンデッロでも心は不思議と腫物が取り除かれたような清々しいものに変わっていたのを実感する。

 

 一部の者たちを除いて。

 

「くそ!」

「行くぞお前ら!」

 

「お、おい! お前たち待て! 勝手な────!」

「「────知るか!」」

 

 そんな『一部の者たち』がイラつきや殺気を隠そうともせずに、ブロンデッロの言葉を無視して、独断で作戦室に司令塔の別の場所から侵入を試みようと、角を曲がって走り去っていく。

 

「(やばいな、あの者たちはシャイング卿が率いた別動隊のような感じがまだする! もしこのまま野放しにしていると、何をしですかわからん!)」

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

 ブロンデッロが危惧していた彼らが何らかのアクションを取る前に、次の瞬間耳をつんざくかつ低い、何かをゴリゴリと削るような音とともに司令塔が揺れる。

 

「うわぁぁぁ?!」

「な、なんだ?!」

「じ、『ジシン(地震)』というやつか?!」

「落ち着け! この振動は塔の横、外から来ている!」

 

 狼狽える歩兵たちをブロンデッロが自信満々の言葉で制する。

 

 

 

 作戦室の中にいるレイラたちも揺れる塔の中を、近くの固定具などに掴まって凌ぐ。

 

「今のは────?」

「────敵部隊は通路にいます!」

 

「(では彼らとは違う────?)」

「────今の揺れは、塔の外壁が攻撃を受けた様子────え?! シュ、シュバール(スバル)機です! シュバール(スバル)機が塔に衝突したようです!」

 

 レイラが攻撃された塔の箇所に設置されていた監視カメラの録画された映像を巻き戻すと、敵兵と思われる者たちが塔の外に出ようとしたところを、ナイトメアサイズのノコギリ状の刃が連動する長刀が外壁を突き抜けて、外に出ようとした敵兵たちを薙ぎ払ってから別の場所へと飛ぶ瞬間を見る。

 

 まるで、()()()()()()()()()()を狙ったかのような攻撃を。

 

「(これは……)」

 

「司令、ガスを通路内に出して敵を攻撃しますか?」

 

「いえ……外の指揮官に警告をします。」

 

「あ~、司令────?」

「────ウォリック中佐、この城と……『アポロンの馬車』を放棄する準備を。」

 

 「え。」

 

 クラウスはレイラの命令にどこぞの漫画キャラのように目を点にさせながら、気の抜けた中年オヤジっぽい声を出してしまう。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 ヴァイスボルフ城の通信機器などが集結している塔の上に、風もないのに雪が光の因子のように吹き荒れると、どこからともなく、まるで最初からいたかのように数機の交戦中のナイトメアが姿を現しながら、金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

 シンのヴェルキンゲトリクスはアキトのリベルテ、アシュレイのレッドオーガ、リョウとアヤノのヴァリアントたちをいまだに一機で凌いでいた。

 

『アキト、よもやお前の周りにこんな者たちが集うとはな!』

 

 シンの挑発的な“売り言葉”に、誰もそれを“買う”余裕などなかった。

 

 同じ人間同士、そして数では4対1という圧倒的有利な状況。

 だというのにアキトに釣られて皆がシンを“あと一歩”というところで攻撃を控えていた。

 

『兄さん!』

 

 アキトは先程のよくわからない白昼夢のような幻影を見た時から、ヴェルキンゲトリクスの周りまとわりつく()の向こう側にいる(シン)に呼びかける。

 

『アキト! やはりお前は死ね!』

 

 アキトは機体についていたスラスターと刀を使い、シンのハルバードを受け流す。

 

 シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

『何?!』

『あれは?!』

 

 アキトのスラスターに似た噴射音にシンやアキトたちが思わず見ると、至る所がひび割れている装甲の下から排熱が追い付かなくて焼けたオイルなどが漏れ出し、左足と右腕に頭部の半分がもげたスバル機が、司令塔から一直線にヴェルキンゲトリクスを目掛けて飛んできていた。

 

 ドッ、ガバキィ!

 

『レ、幽鬼(レヴナント)────?!』

 『────殺気の源はお前かぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』

 

 スバル機がそのまま衝突し、自分ごとヴェルキンゲトリクスを通信機器塔から宙へと押し出す。

 

『き、さまぁぁぁぁ!』

 

 シンは左手首に内蔵されたスラッシュハーケンを塔の壁に打ち出して落下を阻止しようとするが、スバル機は残った左腕とサブーアームたちでガッチリとヴェルキンゲトリクスに密着したまま噴射を増加させ、スラッシュハーケンのワイヤーを無理やり引き千切らせると二機ともヴァイスボルフ城敷地内のグラウンドに隕石のように強く落ちていく。

 

 搭載された機体にしてはオーバーなほど高出力のスラスターに押されるまま、ヴェルキンゲトリクスはスバル機とともに地面をゴリゴリと削りながら進んでいく。

 

 『鬱陶しい!』

 

 シンはヴェルキンゲトリクスの形態を四脚から二足に戻し、集中させた馬力でスバル機を蹴って無理やり引きはがしてからその場に踏みとどまる。

 

 スバル機は蹴り飛ばされた先で、ミカエル騎士団に大破させられたドローンの手に握られたリニアライフルを転がりながら自分の手に取って姿勢を正す。

 

 スバルは機体の外の様子を、コックピットのボロボロになったガラスやショートした電子機器を蹴ったり手袋のついたワイバーン隊のスーツで押しのけて周りの様子を肉眼で確保し、射撃統制システムの補助なしでライフルを撃つ。

 

 ヴェルキンゲトリクスは“そのお返しに”と、レバーアクションのショットガンを撃つ。

 

 スバルの弾丸はショットガンを撃ち抜き、シンのスラッグ弾はリニアライフルを持つ左腕を掠る。

 普通、どれだけ高性能なカメラでも、映像キャッチからそれを映し出すまで僅かなタイムラグが生じるため、銃火器を扱うナイトメアや機械は射撃統制システムがその差を埋めるのだが、いくらパソコンが良くなっても『人間の脳』という、世界で恐らく一番高性能な精密機械には負けるだろう。

 

 それを扱う身体能力があることが前提で、シンの攻撃をかわしたスバルの場合は特例に入るが。

 

『チィ! (やはり奴はこちらの動きを読んで────!)』

『────お前さえ、いなければ!』

 

 シュバール機はそのままリニアライフルを()()()()()為に撃つ。

 

『兄さん────!』

『────アキト────?!』

『────シュバールさん────!』

『────どけぇぇぇぇぇ!』

 

 アキトはスバルの殺気をBRSで感じ取ったのか、スバルとシンの間に入ると何とも奇妙な三つ巴のような現場が出来上がっていた。

 

 シンとスバルは互いを殺す為に動き、アキトはどうにかしてシンの中に眠っている『昔のシン』を呼び起こす為に呼びかけながら来る攻撃を凌ぎ、同時にシンを狙うスバルの攻撃を致命打にならないよう逸らす。

 

 ハルバードに取り付けられたギアたちは回りながら宙を切り、刀や長刀とぶつかりあっては火花を出して弾かれ、リベルテのブレイズルミナスを発生させる盾は切り続けられて無理やり腕から剥がされ、残弾数がなくなったリニアライフルはこん棒のようにヴェルキンゲトリクスの右腕を捉えるが接近したスバル機はヴェルキンゲトリクスの足に蹴飛ばされてしまう。

 

 打撃を受けたヴェルキンゲトリクスの右腕からは不吉なミシミシとした音が出る、とコックピット内にいたシンにアラーム音が鳴り、シンはハルバードを手放してそれを四脚形態だったヴェルキンゲトリクスの前足でリベルテ目掛けて蹴る。

 

 無論、アキトはこれを躱すがハルバードは後を追ってきた本命のリョウ機に直撃してしまい、上半身半分を失った彼の機体はグラウンドの上で転倒して過激なダメージに機能停止してしまう。

 

『クソがぁ────!』

『────リョウ!』

 

 ヴェルキンゲトリクスは腰から柄と鍔だけの剣を抜くと、ルミナスコーンを応用した緑色の刀身が鍔から出現して、それを新たな武器として使い始める。

 

 その姿と効果音はほかのメカ作品でいうところの『ビー〇サーベル』だが、見た目で言えばどこぞの〇レイヤーズに登場する天然剣士が保有する伝説級の武具とされている『光〇剣』そのものであり、容易にシュロッター鋼で出来たアキト機の左腕をゴリゴリと削ってから切り落とす。

 

 返す刃でアキト機を狙うシンの刃を横から襲ってきたレッドオーガの剣に弾かれるが、流石に根本からの能力差が悪かったのか、レッドオーガの使った剣にヒビが一気に入っていく。

 

『アシュレイ────!』

『────やっぱ強ぇな、シャイング卿────!』

『────この、駄犬がぁぁぁぁ!』

 

 ヴェルキンゲトリクスはさらに踏み込みに力を入れ、レッドオーガのガードを剣ごと壊すとそのままレッドオーガの頭部を鷲掴みにして、圧倒的な出力でそのままアシュレイ機を持ち上げては喉輪(のどわ)落としをお見舞いさせる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 アシュレイはひび割れていくモニターとコックピット内を見て操縦レバーを操作するが、機体の電気系統がイカれたのかさらなる追撃は免れたものの、機体の反応がワンテンポ遅くなったことに声を出しながら、シンの攻撃をほぼ本能に頼った動きで避けながら焦り始める。

 

『この隙に────!』

『────シュバールさん、兄さんは何かに憑りつかれているだけなんだ! 殺さないでくれ────!』

『────()()()()()()────!』

『────え────?』

『────借りるぞ!』

 

 リベルテがヨロヨロと立ち上がるスバル機にそう呼びかけると、意外な返答にアキトはびっくりし、スバル機はほとんどなくなった右腕を腕の付け根から強制排除(パージ)し、リベルテがスペアのサブウェポンとして背負っていたパイルバンカーアームを無理やり装着してから、その場から地面すれすれのまま飛来する。

 

『飼い主の手を噛む駄犬には躾が必要だ────!』

『────やっぱ無理か!』

 

 両腕を切り落とされたレッドオーガの胴体をレイピア状の刃に変形させたヴェルキンゲトリクスの剣が狙うと、横からくるアラームにシンはちらりと見ると、ボロボロのスバル機が突進してくる姿を見て迎撃態勢に入る。

 

『その殺気の源を────!』

『────死にぞこないが!』

 

 シンのレイピア状の刀身はリーチの関係もあり、人体で『肩甲骨』と呼ばれるスバル機の部分を先に貫く。

 

 スバルはシートハーネスを外しながら素早く操縦桿にコマンド入力し、座席の後ろに置いてあった()()に手を出して後部ハッチを開ける。

 

「ふざけるな! 貴様ごときが!」

 

 スバル機はシュロッター鋼ではなく、ただ物理的な防御力を追求した複合装甲なので、シンが刀身をそのまま横へと動かすと、缶切(あるいはハチさえも真っ二つに切る誰かさんの手刀)のようにスバル機を切り裂いていく。

 

「(中に、誰もいないだと?!)」

 

 完全に胸から上が離れたスバル機のコックピット席が空だったことに、シンは戸惑う。

 

「(いや、今までの動きからして無人機であるはずがない! 遠隔操作ならタイムラグが生じて即座の対応は出来ないはず! となると────)」

 

 ────カン! ビィィィィィィィ!!!

 

 シンがモニターのカメラを回すと、何かが機体にあたってワイヤーが引き戻されるような音を聞くと同時に、満身創痍であるスバルが大きな槍がついたライフルからヴェルキンゲトリクスへと伸びたワイヤーに引かれるのを見る。

 

「ナイトメア相手に、()()()だとぉぉぉぉ?!」

 

 無論、『魔女の森』の仕掛け人が恐らく『幽鬼(レヴナント)』だろうとシンは思っていたが、まさかそんな彼が、機体を囮にしてほぼ身一つで向かってくるのは予想外だった。

 

 「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 シンはワイヤーを逆に力強く引っ張るとスバルの体が宙を舞う。が、彼はこれを逆手にとって、ワイヤーが巻き戻されるモーターがオーバーヒートするほどさらに速く設定して、一気にヴェルキンゲトリクスの胴体に取り付くと槍────パイルバンカーを作動させる。

 

 ドゴォォォン

 

 スバルの鼻を焼けた火薬の乾いた匂いが襲い、射出された釘はヴェルキンゲトリクスの装甲を完全に貫通しなかったが、中の砕けた部品やガラス破片などがシンの首や頭へと襲い掛かかる。

 

 グシャ

 

グワァァァァァ?!」

 

 シンは破片などが飛び散って擦り傷や切り傷を負い、左の眼球からくる激痛に顔を両手で抑えながら叫んでいた。

 

 

 

「ゼハァ……ゼェハァァァ……ま、まだだ……弱まったが、殺気の源はまだ────!」

 

 ────ドドドドドドドドドォォォォン!!!

 

 「グワァ?!」

 

 息を切らしたスバルが何かを言いかけるが、ヴァイスボルフ城の至る所が爆発を起こし、スバルたちがいたグラウンドも爆発すると、彼は吹き飛ぶヴェルキンゲトリクスから無理やり引きはがされ、その場へ駆けつこうとしたリベルテも運悪く地面からの爆発が直撃してしまう。

 

「チィ! 動け! 動けこのポンコツ!」

 

 今の衝撃で自分がまだ戦闘中だったことを思い出して、痛みを無視したシンは舌打ちを出してから剣を手に取って、機能停止したヴェルキンゲトリクスから出る。

 

「動け! 動いてくれ!」

 

 シン同様にアキトは自分の機体を動かそうとするが、うんともすんともしない機体を彼は諦めて、アヤノから預かった小太刀(蜂屋長光)を手に取ってコックピットハッチを開けて飛び出た。




余談ですが嗅覚と頭痛は続いていますが味覚は戻りました。

『味が分かる』って最高。


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第128話 『希望』という『可能性』

投降遅くなって申し訳ございません、次話です。

誤字報告、誠にありがとうございます。
お手数をおかけしております。 m(_ _)m

急展開ですが、楽しんでいただければ幸いです。


 実は先ほどの爆発は、レイラが出した『城の放棄命令』と関係していた。

 

 ほんの少しだけ時間を戻すと『このままでは泥沼化してしまう』と悟った彼女は城の放棄を決断し、ほかの者たちを避難させてクラウスとともに自爆コードを入力していた。

 

 最終チェックと自爆スイッチの確認をしたレイラが外に出ると、気まずそうに髪を掻き毟りながらwZERO部隊をまとめていたクラウスを見る。

 

「どうしたのですか、ウォリック中佐?」

 

「あー、すぐ外にブリタニアの兵士たちがいてね? オレたち出るに出れないんすよ。 そんなブリタニアも、塔の壁の向こう側で繰り広げられているナイトメア戦で足止めされててね? 結局誰も無事に出られる感じじゃないんすよ。 どうしたものかねぇ~……」

 

 クラウスは笑いを浮かべるが、事態は深刻だった。

 

 何せこのままだと、自爆して半壊した塔は自分たちやブリタニアの兵士たちも巻き添えにしてしまうかもしれない。

 

「……『アポロンの馬車』────」

「────は時間がないっすから無理ですよ────」

「────いいえ。 城の地下中を張り巡らせている輸送システムを使い、『箱舟』と気球を使えば()()()()無事に避難させることができます。」

 

「あー、そういえば────って“双方全員”?」

 

「ブリタニアの者たちにも、声を掛けます。」

 

「え。 司令、マジですか?」

 

本気(マジ)です。」

 

 クラウスは真剣な表情をするレイラを見てはポケットを漁り、白いハンカチを見つけて取り出す。

 

「んじゃま……ちょっくら行ってくるわ────」

「────ウォリック中佐、下手したら撃たれますよ?」

 

「う~ん……」

 

 クラウスは周りを見る。

 ここにいる男性陣は彼とジョウだけで、残りは全員女性(しかもほとんどが十代後半や二十代前半)。

 防弾ベストや拳銃で武装はしているものの、ちゃんとした訓練を受けたのは実戦経験がないサラとオリビアのみで、元はと言えば“クラウスが情報を流したから今の状況がある”と言っても過言ではないことを、クラウスは思い浮かべていた。

 

「ま、たまにはオレにカッコぐらいつけさせてくださいよ。」

 

 ヒラヒラとハンカチを先に出し、ブリタニアの注意を引いてからクラウスがそろりそろりと入り口の陰から出てくる。

 

「敵?!」

「一人か!」

「待て!」

 

 どよめきの走る歩兵たちに、ブロンデッロが静止の声を出す。

 

「私は聖ミカエル騎士団、赤の団の隊長のフロンデッロである。 貴官はEUの者か?」

 

「ま、見ての通りEUの連合特殊部隊の副司令官。 名と階級はクラウス・ウォリック、中佐。 ウチの姫さんはやたらと人を死なせるのが嫌なんでね、アンタらにも生き残って欲しいそうで提案があるんだが……乗るかい?」

 

「提案だと? 先に使者たちを撃ったお前たちが、何を────」

「────オレの別名は『シュバルツバルトのモグラ』って言って、今までブリタニアに情報を売っていた身で仲裁のために出たんだが────」

「────なに────?」

「────あの場で、使者たちを撃ったのはシャイング卿だ。 EU製の銃を使ってな。」

 

「何────?!」

 

 明らかに動揺をするブロンデッロ達に、手ごたえを見たクラウスは少しだけ安心しそうになるが、いかに今の自分が綱渡り状態かを再確認して気を引き締めた。

 

「────この城にある設備を使ってシャイング卿はこの世界を壊したいんだとさ、“だから停戦などあり得ない”とさ。 あの場にいた……えっと、『ジャン』つったっけ? そいつもスゴク動揺していた。

 ま……オレが真実を言ったところで、それを信じる信じないはあんた達の問題だが、このままだとあんた達もオレたちもヤバいってだけ言いたい。」

 

「……これ以上、部下を死なせたくはない。 詳しい話を聞こう。」

 

「(ホッ。)」

 

 ユーロ・ブリタニア、wZERO部隊双方が心身共に疲労していることもあった上に、最初からシンが総帥になったことを良く思っていなかった三剣豪とその部下たちだったから良かったものの、もしここにまだ()()()()の兵士がいれば対応は違っていただろうし、とてもシンの目的が『世界の混沌化』とは信じられなかっただろう。

 

 まさに幸運が重なった結果だった。

 

 ………

 ……

 …

 

 ギィン! ギギィン!

 

 ヴァイスボルフ城の広い墓地に、耳に来る金属音が鳴り響く。

 

「兄さん、もうやめよう!」

 

 金属音の元である一人は、小太刀を手に持ったアキト。

 

「まだだ! 私は、まだ────!」

 

 もう一人はサーベルの柄に刀身が日本刀になっていた奇妙な剣を使い、負傷して瞼が開けられなくなった左目を無視するシンだった。

 

「────もう終わっているんだ、兄さん!」

 

 原作でのアキトは自分に斬りかかってくるシンの猛攻を受けるので精一杯だったが、今作では様々な要因が違ったことでほぼ同等の攻防を繰り広げていた。

 

 シンの視覚や距離感がダウンしたこともあるが、アヤノが(短い間ながらも)誰かから小太刀を用いた本格的な格闘戦を学び、よくアヤノの模擬戦相手になったアキトにもその技術は少なからず伝わっていた。

 

「『兄より優秀な弟』とまるで言いたいかのようだな────!」

「────俺は一度も兄さんよりも優秀なんて思ったことはない!」

 

 小太刀を武器ではなく『体の一部』として使うアキトがほぼゼロ距離での体術をメインとした戦い方なのに対し、『西洋のサーベルの柄に和風の刀身』を手にしていたシンは、近距離で刀身のほとんどが使えない状態で、アキトの小太刀を金属部分である鍔や金属の頭などを器用に使って弾いていた。

 

 これだけ見れば、シンが押されていると思えるがアキトは善戦していなかった。

 

 元からの体格や膂力の違い、加えてアキトには『ヴェルキンゲトリクスに纏わりついていた何か』が今度はシンの体に纏わりついてその体を無理やり動かしているように見えており、致命的な攻撃を行うのを避けた結果、至る所に切り傷などを作っていた。

 

「昔に戻って! 思い出して! 兄さんは昔、母さんたちのために泣いていたじゃないか!」

 

「ッ。」

 

 アキトが叫んだのは、一族全員に『自害せよ』と命令した後に気を失い、次に起きた時にはシンが親族の遺体だらけの部屋を見て、笑いながら涙を流した光景だった。

 

「(そうだ、オレはあの時……確かに泣いた。 だがあれは愛している者たちを救ったと悲しんで────“()()()()”?)」

 

 そこでシンは感じた違和感に動きを止める。

 

「(待て、ならば何故、私はあの時に起き上がったアキトを見て、安堵しながらも“死ね”と命じた? なぜ、オレはアリスやマリアたちを悲しく思いながら愛しく────)────ウッ?!」

 

 シンは自分の動機と心境の食い違いを今更ながら思い出して戸惑っていると、無事だった右目から激痛が生じて声を出してしまう。

 

「(いや違う、私は殺さねばならんのだ。 『この残酷な世界を生きることは苦痛でしかない』、それは悲しいことだ。 ならば……ならば……ならば私は皆を殺して神の国に送り……何故、オレは母さんたちの死を悲しんだ?)」

 

 シンは思わず立ち眩みしそうなまま後ろへとよろけ出すが、先日のことが脳裏をよぎって彼は笑い出す。

 

「フ、フフフフフフ……もう、遅いんだよアキト。」

 

「兄さん────?」

「────さっきの爆発で幽鬼(レヴナント)は死んでいなくとも、死に至るケガを負っているだろう。 それに私が今止まっても、もうこの世で私が愛している者はお前だけとなったのだ! もう、遅い……」

 

 シンは自分の中で曇り始めていた決意を再確認するかのように叫ぶ。

 

「そうだ! アキト、お前で()()なのだ! そうすれば、私ごとこの世界を神の国に送るだけなのだ!」

 

「兄さん────?」

 「────だから、私のために死ね────!」

 

 『────お義兄様!』

 

 両手を広げて今にも嬉し(泣き)そうにするシンの声をスピーカー越しに聞こえる少女の声が遮り、シンは固まって胸が冷たくなる感覚の中で、音のした方向へと首を回す。

 

「…………………………………………………………………………………………は?」

 

 

 

 ヴァイスボルフ城の敷地にある森から、まるでパンケーキ状のレーダードームを頭部の代わりに取り付けた『アレクサンダ・スカイアイ』ならぬ『サザーランド・スカイアイ』が、手には白い旗を握りながら、MPA砲やミカエル騎士団の特攻などで穴の開いた防御壁の一部から内部へとランドスピナーを走らせていた。

 

 『お義兄様!』

 

 そんなサザーランド・スカイアイは傷だらけになりながらも対峙するアキトとシンを見かけると、搭乗者の一人が思わず外部スピーカーをオンにし、()()()と呼びかける。

 

 すると案の定、シンの動きが止まって、少女は安堵しながら震える息を吐きだす。

 

「怖くはないか?」

 

 震える少女に別の落ち着いた女性の声が呼びかけると、少女はキリッとした表情に変わりながら、両手を胸の前で重ね合わせて震えを止める。

 

「いいえ、これでも由緒正しきシャイング家の長女ですから! それにお義兄さまが私のことを案じて自棄になっているのなら、それを止める義務があります!」

 

「そうか。 なら私は頼まれた通り、シャイング家の君を守る『見届け人』となろう。」

 

「では、ハッチを開いてください。」

 

 少女────アリスは開かれたサザーランド・スカイアイの非常用キュポラから身を乗り出して、シンと思われる人物に手を振る。

 

「お義兄様ぁぁぁ~!」

 

 

 

「う……ぁ……」

 

 シンは遠くから聞こえるアリスの声に、安堵するどころか()()()()を感じ、心境はぐちゃぐちゃになっていた。

 

 愛する者を殺せ。

 

 その一言が、シンの脳をハンマーのように叩く。

 

取りこぼしがある。 殺せ。

 

 次第に声とともにシンの周りにある地面から、黒い影のような這い上がってズルズルと生きるコールタールのように彼の足元へ集まってくる。

 

自分たちが死んでいるのに。

あそこに生き残りがある。

お前の確認不足だ。

 

「や、やめろ……消えろこの亡者どもが!」

 

 シンはすでに、アキトや近づいてくるナイトメアから自分の周りに群がってくる影を、持っていた剣で切りつける。

 

「クソ! クソ!」

 

 シンはただただ剣を振るうが、いつもとは違って影は消えていくどころか量が増していく。

 

契約違反。

 契約違反。

 契約違反。

 

「来るなぁぁぁぁぁ!」

 

「兄さん────ウ゛ッ?!!」

 

 シンはただただ自分に纏わりつき始める恐怖に足をもたつかせ、様子がおかしくなったシンに駆け寄って支えると、毎晩自分が見る悪夢を見────否。

 

 朝昼晩と時間を問わずに()()()()()()()を経験してしまう。

 

 アキトは幼少にかけられたギアスで悪夢を見ていた。

 

 だがもしそれが彼だけでなく、しかも度合いがさらに悪化していたら?

 

「(これが、兄さんに憑りついていたモノか────)────グワァァァァァ?!」

 

 シンの体を支えていたアキトの体に、まるで新しい獲物を感知したアメーバのように『コールタールの影』が乗り移っていくと、アキトの脳を数百人以上と思われる『阿鼻叫喚の声』が襲う。

 

 「兄さぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 そんな痛みを含めたアキトの叫びに、シンはかつての灰色になりかけていた記憶が蘇る。

 

 

 

 それは、かつてアキトという『新たに幼く扱いやすそうな次期当主候補』が生まれてから、『誰を次の日向家の当主にするのか』といううずめく陰謀でギスギスし始めた日向家をよく留守にしがちだったシンを、(子供の体力任せに)やっと探し出せたアキト。

 

『おにいちゃん────』

『────来るな!』

 

 それまでどうしたら良いのか分からないシンは“泣く姿を見せたくない”という子供っぽい意地からアキトから距離を取ろうとするも、アキトはやっと見つけた兄をトテトテとした足取りで追う。

 

『おにいちゃん、もうかえろう?』

 

 どれだけ聡くて、その所為で周りの者たちから大人のように扱われても、当時のシンはぎりぎり十代。

 その時のアキトよりは賢くとも、まだまだ子供である。

 

『うるさい!』

 

 そんなシンは自分の足にしがみつくアキトを無視して歩き出すと、足幅も体格も違う幼いアキトは倒れて顔を地面に打ってしまう。

 

『………………………………ふぇ。 ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!』

 

 理不尽な(というか理解できない)痛みにアキトはすぐに泣きだしてしまい、シンは自分が八つ当たりをしたことにハッとする。

 

『な、泣くなよ────』

『────わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!!』

────泣くな! ……ほら、乗れ。』

 

 シンの命令にも聞こえる声にアキトはピタリと泣くのをやめたことに、シンは戸惑いながら顔だけでなく足にも擦り傷があるアキトをおんぶする。

 

 するとアキトは泣き止んだだけでなく、嬉しそうにシンの背中に額をぐりぐりと擦り付ける。

 

『えへへへへ~。 おにいちゃん、だいすき。』

 

 そんな一途に自分を慕うアキトを『憎みの対象』から『守る対象』と認識して、その時まで気を張り詰めていたシンは久しぶりに安らぎを感じたそうな。

 

 その少し後に『兄』として、当時の当主である父に『愛していると口にしているのになぜわざと苦しめ合うの?』という問いをかけることとなる。

 

『自分とアキトが向き合えるのなら、なぜもっと賢いはずの大人は出来ないのだろう』という考えから。

 

 そして全てが狂いだした瞬間でもある。

 

 

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

 

「ッ……」

 

 自分に命令するような声によって現在へと引き戻されたシンは息を吐きだして、目の前で苦しむアキトを見ては()()()ことに気付いてはすぐに行動へと移る。

 

 「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!!」

「────兄さん?!」

 

 シンはこともあろうか、自分の痛む()()()に手を突っ込む。

 

ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ

 

 「黙れぇぇぇぇぇ!!!」

 

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ────

 「────い、やだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 シンは拒否の言葉を叫びながら自らの目を抉り出すと、視界を失うと同時にさっきまで聞こえていた声も、自分の体を蝕むような重圧も感じなくなる。

 

「………………………………は、ははは。」

 

 キィィィィン!

 

『お兄様!』

 

 ザッザッザッザッザッザッザ!

 

「ヒュウガ様!」

 

 シンは久しぶりの静寂さに痛みも忘れて無邪気な笑いを出していると、近づくナイトメアのランドスピナー音に自分を呼ぶアリス、そして降り積もる雪の上を走るジャンの声を()()()()()聞こえたことに清々しい思いをした。

 

 

 

 


 

 

 

『痛い。』

 

 気が付いた(スバル)が最初に思ったのはその一言だった。

 

 まるでただそれだけが体と周りの大気を構成しているかのように錯覚させてしまうほどに、鈍痛が脳を支配する。

 

 何せこうやって思考が動かせることと痛みを感じられることから、『生きている』ということは考えられるがクソ痛い

 

 もう目をつむったまま、意識を手放したいが……どうも体が温かい。

 

 流血しているのなら、外はもう雪が降るぐらいの季節だから冷たい筈だ。

 

「ッ。」

 

 目を開けようとしてようやく、瞼越しでも眩しい光に思わず腕を上げて腕で遮る。

 

「起きたか。」

 

 そこに横から女性の声が────毒島の声がして脳を回転させる。

 

「毒島か。 間に合ったか?」

 

「その“間に合った”は何に対してだ?」

 

「全部だ。」

 

「私の考えの基準でいいのか?」

 

「ああ。」

 

 というか結構しんどいからどうでもいい。

 

「『間に合った』と私が思えることは、主に三つだな。 『旧日本人の避難』、『だぶるぜろ部隊』とやらの安全確保、そして『シン・日向・シャイングの捕縛』だ。」

 

「誰も死んでいないか?」

 

「重傷者はいるが、死人が出たのは主にユーロ・ブリタニア側だけだと聞いている。」

 

「そうか。」

 

 あああああ、良かったぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 一言だけを口にする裏で、俺は内心でかつてないほど安堵した。

 今まではルルーシュとかバケモノ級の奴らが味方サイドにいたからある程度の補正はあったけれど、今回は基本的に俺がメインで動き回ったからな。

 

 ブラックリベリオン時のブイブイ(VV)*1みたいなイレギュラーがなくてよかったよ本当に。

 

 あれ?

 そういえば────

 

「────ここは、どこだ?」

 

「城の、無事だった居住区だ。 幸い電力も医療機器もあるからな、“出発する前に皆で休もう”という意見でまだここに居座っている。」

 

 ……“出発する前?”

 ああ、避難させた日本人たちの警護に戻る前の話か。

 

 それにしてもクソ眠い。

 

「助かった。」

 

「これぐらい、君のやってきた事に比べれば何でもないさ。」

 

「少し寝る。」

 

「ああ、ゆっくりと休んでくれたまえ。」

 

 毒島が出した了解の声をタイミングに、俺は『寝ろ』と自分に訴えてくる欲求のまま意識を手放した。

 

 

 

 


 

 

 

「ああ、ゆっくりと休んでくれたまえ。」

 

 そう毒島が口にした直後、スバルの強張っていた体がリラックスしていくと同時に、筋肉で引き締めていた傷口からの流血で包帯などがジワリと赤くなる。

 

 幸い、スバルが挙げた腕は鎮痛剤やビタミンを含めていた点滴が撃たれた方とは違う腕だったが、急に動いたことに毒島は肝を冷やした。

 

 スバルの活躍などをリョウたちから聞いて、すでに冷えていたが。

 

「では、彼を頼む。」

 

 そんな毒島はナース服に着替えていたケイトと交代してから病室を出て、通路の中を歩いてから会議室のような部屋の中に入ると、レイラたちがそこにいた。

 

 スバルが気を失っている間、明らかに場慣れをした言動で彼女はその場を収めて、円滑に物事を進めるための手配などをした。

 

「それで、貴方がシュバールさんの知人とリョウたちの知り合いなのは理解しましたが……えっと────」

「────『毒島』でも『冴子』でもいい。 私はどちらでも構わないし、私に聞きたいのはそんなことではないだろう?」

 

 毒島が横目で見るのは、明らかに『心ここにあらず』のようなものたち数人。

 

「聞きたいのは、彼の────スバルの目標だろ?」

 

 それは無理もないだろう。

 

 何せ一通りスバルの活躍などを聞けば、『一介の傭兵』の枠を優に超えてしまって『奇怪』のレベルにまで達していて、『納得』は出来てしまうが『信じられる』ようなものではない。

 

「まぁ……私やおじい様の憶測も入っているので、果たしてどこまで彼の真意を捉えているかも怪しいがな。」

 

「おじい様?」

 

「ああ、そういえば言っていなかったな。 『桐原泰三』だ。」

 

「「「ふぁ?!」」」

 

『元』が付くとはいえ、ここでエリア11が『日本』だったころからの重鎮の名が出て、wZERO部隊の何人かは奇妙な声を出してしまう。

 

「そこは別に大したことではないから話を進めるが────」

「「「「(────“そこは大したことない”って、どれだけ────?)」」」」

「────恐らくだが、スバルの最終的な目標は────」

 

 言わずとも毒島の推測を聞いた者たちは唖然とし、各々がそれぞれの反応を示す様子に毒島はウキウキとした。

 

 スバルが彼女の言ったことを聞いていれば、『なんでじゃい?!』と素っ頓狂な声を出して全否定をしていたかもしれないが、当の本人はスヤスヤと久方ぶりに熟睡していただけである。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 別の廃墟と化してから長らく人が出入りしていないような場所で、一人の青年らしき者が『とあるドクロ』を手にしながら芝居がかった声を出す。

 

「“生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ”、か。 ん? ああ、お帰り。」

 

 青年が床から出てズルズルと這い上がる『影』にまるで古い友にかけるような声をかけると、『影』はスゥっと消えていく。

 

「さて、あの男にも声をかけるか。」

 

 次の瞬間、ドクロは『ガタン!』と音を出しながら廃墟の地面に落ちては転がる。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「トーチカよりナイトメア隊が出撃!」

 

 電撃作戦でユーロ・ブリタニアの奥地へと侵入したスマイラスの軍は、頑なに話を聞かない頑固な部隊に足止めされていた。

 

「降伏より死を選んだようです。」

 

 先頭を走っていたスマイラス個人の巨大陸上戦艦の中で部下の報告を傍らに、スマイラスはカメラの拡大を最大にして、トーチカの上で風に揺れる、ボロボロになっていたユーロ・ブリタニアの旗を見る。

 

「そのようだな。 全軍に強行────ん?!」

 

 余裕満々だったスマイラスが急に血相を変えながら驚きの声を出したのは、周りの風景や人が急に止まったからである。

 

 それはまるで時間が止まったかのような景色で、スマイラスは過去に一度だけこれを体験したことがあった。

 

「やぁ、ジーン・スマイラス。」

 

 スマイラスが記憶をたどっていると、過去に聞いた声に内心冷や冷やしながらスマイラスは声がした方向を見る。

 

「君か……」

 

 そこに立っていたのは長い金髪のまごうことなき美青年なのだが、スマイラスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「うたかたの夢はどうだったかな────?」

「────ま、待て! ()()()()()()()()()()()()!」

 

 美青年の言葉に、スマイラスは顔を青ざめながら席から立ち上がって抗議する。

 

「そうだね、()()()()()けれど……すまないね、君には『この先』が無いのだよ。」

 

「……………………………………………………は?」

 

「敵の砲撃が向かっています!」

 

 スマイラスは呆気に取られていると次の瞬間、部下の青年将校の焦る声に気が付く。

 

「どこからだ────?!」

「────ブリタニアの超長距離砲だ────!」

「────まさかそのために我々を奥地にまで誘っていた────?!」

「────回避を────!」

「────もう間に合いません────!」

「────砲撃、きます────!」

「────総員、衝撃に備えろ!」

 

 巨大陸戦艦のブリッジにいたスマイラスは次々と自分の軍を襲う爆音と直撃を最後に、体が爆散する感覚とともに意識が拡散する。

*1
遅れながらも採用しました、ありがとうございますオールハイルさん!




『目は魂の窓である。』

ーレオナルド・ダ・ヴィンチ


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第129話 『希望』という『可能性』2

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


『ジィーン・スマイラスが討たれた』というニュースは地方を駆け巡り、それまで即時撤退を繰り返して戦力を温存していたユーロ・ブリタニアの部隊は総戦力での反撃を開始した。

 

 スマイラスという先導者と、戦力の要であるジャイアント(大型)級とリバイアサン(超大型)級の陸上戦艦の大半を失くしたEU軍は脆く、すぐに元々維持していた戦線にまで押し返されて、長年維持していた塹壕や防衛設備を使ってユーロ・ブリタニアの進行を阻止した。

 

 表舞台は一見すると『元に戻った』と見えるが、このわずかな時間で裏や内部事情はガラリと変わっていた。

 

 ユーロ・ブリタニアが誇る『四大騎士団』は一つだけ除いて壊滅し、残った一つも以前に『ハンニバルの亡霊』によって壊滅に陥りそうだった状態から回復していただけで、中身は殆どが新兵同然。

 

 EUはスマイラスの本隊がブリタニアの超長距離砲で情け容赦なく一網打尽にされ、独裁政治になりかけだった政府は急遽、元の共和制へと戻った。

 

 とはいえ、原作よりかなり事情は異なっていた。

 

 準ラウンズ並みの実力を持つ四大騎士団の総帥がファルネーゼ以外にゴドフロアが生きていた効果は大きく、彼らはシンが留守にしている間に幽閉されていたヴェランス大公を救出したことでブリタニアに恩を売らずに済み、『宗主不在のユーロ・ブリタニアの傀儡化』を防ぐことが出来た。

 

 EUは国外へ逃げることを拒否した若者たちが舵を取ることとなり、長年抱えていた国内問題である『汚職』に『イレヴン(旧日本人)の問題』は元凶ごと居なくなったことで、真っ新なEUのスタートに皆が奮闘し、その中にはEU市民の『ミーハーブーム精神』を変えるために『市民の関心向上』の運動も含まれていた。

 

 そんな中で、明らかに『勝者』と周りから思われている人物がいた。

 

 ……

 …

 

 時間は少しだけ遡り、ペテンブルグにあるカエサル大宮殿の中にいたヴェランス大公と側近であるミヒャエル・アウグストゥス、四大騎士団の総帥であるファルネーゼとゴドフロアが、とある人物相手に内心で冷や汗を掻いているのを誤魔化す為に、表情や空気を強張らせていた。

 

 そんな強者揃いたちからの『威嚇』と対面していたというのに、顔色一つ変えないままでいたのは神聖ブリタニア帝国宰相のシュナイゼルと彼の右腕であるカノンだった。

 

『相手がシュナイゼル』だけでも警戒するのは当然だが、ジュリアス・キングスレイによって『ユーロ・ブリタニアは独立を狙っている』という最終的な目的を看破され、幽閉されたヴェランス大公に代わってシンが本国(ブリタニア)の軍師ジュリアスを殺害。

 

 それを考えればユーロ・ブリタニアは内外双方ボロボロで、ヴェランス大公たちは『これからどうなるのだろう?』という不安に駆られていた。

 

「(さて、どうしたものか。)」

 

 そんなユーロ・ブリタニア側の内情を悟ったシュナイゼルは笑いを内心に浮かべる。

 

「(当初はユーロ・ブリタニアのヴェランス大公を救出し、それを交渉のカードにする予定が外れたのはまだいい。

『シン・ヒュウガ・シャイングを含めたシャイング家とジャン・ロウが行方不明』も、予定外だが許容範囲内。

 だがまさかブリタニアが貸し出した超長距離砲を模範するだけでなく、大型フロートシステムや無人機(ドローン)にシュロッター鋼など、独自の改良を成し得ていたのは嬉しい誤算だった。

 その技術は是非に欲しい。 『これからの時代は空』だというのはグリンダ騎士団の活躍でも実証された。)」

 

 シュナイゼルはユーロ・ブリタニアへ移動中に、マリーベルのグリンダ騎士団がアルジェリア方面で長らくテロ活動を続けていた『サハラの牙』を、わずか数時間で鎮圧させた事を思い出す。

 

「(そういえば、帝国のベジャイア基地も『一機のナイトメアに陥落させられた』という報告もあったが……『幽鬼(レヴナント)』とは別人か? それとも────?)」

「────本国はどうされるおつもりかお聞かせいただけますか、宰相閣下?」

 

 考え込むシュナイゼルの意識はヴェランス大公の問いによって引き戻される。

 

「ええ、もちろんですヴェランス大公。 本国としては、ユーロ・ブリタニアとの()()()()()()()()()()()と思っています。」

 

「……???」

 

「それと、この『箱舟作戦』とやらに使われたフロートシステムに『シュロッター鋼』、そして『ドローン』というものは()()()()()()()()()()()ですね。」

 

「ッ……」

 

「これからも、このような開発などを報告してくれればこの上なく頼もしいことはありません。 何せ本国は皇帝陛下の意もあって、常に進化するための新しい技術をお探しになられていますから。」

 

 上記でのシュナイゼルの言い回しに複数の意味が含まれていたが、要するに『ユーロ・ブリタニアとジュリアス・キングスレイに関しては何もなかったことにしてやるから、こういう新技術はすぐに献上しろ』ということだった。

 

「ああ、それと本国からも戦力の補充に援軍や復興の人員を呼び寄せているので、それも受け入れてほしい。 勿論、使う物資や人事費用はこちらが全額持ちましょう。」

 

 そしてちゃっかりとブリタニアの(駐留)軍と、『復興』を大義名分にユーロ・ブリタニアのインフラへの直接介入をするシュナイゼル(腹黒宰相)だった。

 

 ヴェランス大公側は思っていたよりもかなり良い提案を受けていたことにほっとしながらも、実質上本国の監視の増加に今にも頭を抱えたかったが、ここで口を開けてさらに都合の悪い条件を出されては、それに反論する大義も反抗する戦力も足りない。

 

「寛大な処分、感謝します。」

 

 ヴェランス大公は心にもない感謝の言葉を口にするしかなかった。

 

「いえいえ。 これからも神聖ブリタニア帝国は、ユーロ・ブリタニアとの良好な関係を続けたいと思っています。」

 

 シュナイゼルのニッコリとした愛想笑いに対して、ヴェランス大公は内心でさらに溜息を出してしまう。

 

『完全な傀儡』という最悪の事態は避けられたものの、ユーロ・ブリタニアの貴族たちが欲する『独立国家』はさらに遠ざかった。

 

 この騒動で本国の介入を拡大化させたシンやジャンに責任を取らせてブリタニアに譲歩させようにも、生き残ったミカエル騎士団の三剣豪であるブロンデッロとドレからは『二人を含めて騎士団の大半は殉死した』と報告が返ってきていた。

 

 なので仕方なく、彼が当主となる予定だったシャイング家の領土と資産はブリタニアへ献上しているが、あまり効果は無かったように見えた……

 

 が、それのおかげで予想していたよりもブリタニアから突き立てられた要求は好条件になっていたとは、ヴェランス大公たちは知らないだろう。

 

 

 ……

 …

 

 

「……………………」

 

 カエサル大宮殿の中を歩くシュナイゼルは、先日調査されたシャイング家のことを考えていた。

 

「(状況や現場の証言からして、シン・ヒュウガ・シャイングが()()()()()()()を患っていたことを配慮すれば、彼の言動にすべて説明がつく。

 それを『シャイング家のマリアは気付いていて、子と共に秘密通路を使って雲隠れした』と思えば腑に落ちるが……なぜ家に仕えている者たちに何も言わないで、かつ侍女を連れて行かなかった? どこかに隠居する宛があったのか? それとも……)」

 

 シュナイゼルの脳裏になぜかチラつくのは、ブラックリベリオン時にニーナの凶行を止めた『フルフェイスヘルメットにライダースーツ』という奇妙な服装をした者の姿だった。

 

「(いや、なぜ今このタイミングでそいつが浮かび上がる? 『フレイヤの開発が難航している』のと『ニーナが頑なにウランの兵器化に反対している』に、『行方不明のシャイング家』と何の関係が────?)」

「────殿下?」

 

「ん? ああ、少し考え事をしていた。 なんだいカノン?」

 

「グリンダ騎士団を、このまま当初の予定通りにペテルブルグに直行させますか?」

 

 カノンはシュナイゼルに報告書を渡し、彼はパラパラとページをめくる。

 

 実はグリンダ騎士団はこの間、予期せぬ初陣を果たしたばかりだった。

 

 グリンダ騎士団は数少ない浮遊航空艦の長時間飛行テストも兼ねて、太平洋を渡ってユーロ・ブリタニアを目指していた。

 だが、運航の途中でナイト・オブ・トゥエルブであるモニカ・クルシェフスキーがラウンズの権限を行使し、ブリタニアのベジャイア基地からの援軍要請に応えさせた。

 

 普通ならラウンズにその連絡が付けばラウンズが対応するのだが、モニカのいるサンミゲルからはどう早く出発しても半日以上はかかるので、彼女は合理的な判断をしただけである。

 

 なお余談だが、その時のモニカが決して、『え? やっと休暇取れて新大陸の“知る人のみぞ知る休養地のサンミゲル”に着いたばかりなのに? 近くにいるラウンズはブラッドリー卿(ルキアーノ)とかヤバい奴だけだから? え?』とかはちょっとだけしか思っていなかったそうな。

 

 そのままグリンダ騎士団はテロ組織の『サハラの牙』を空挺強襲し、(新型機のランスロット・グレイルも一機含めているが)たった四機で見事に制圧したみせた。

 

 上記の『ランスロット・グレイル』とは、特派(今では組織が再編成されて『研究開発組織キャメロット』)がシュナイゼルから承った『ランスロット量産化計画』の過程で現在流通しているパーツなどで代用できる『ランスロット・トライアル』を、マリーベル皇女の筆頭騎士用にチューンされたオンリーワンの特注の機体である。

 

 スペックだけで言えば本家ランスロットに劣るものの、現在の情報では黒の騎士団に所属したラクシャータが手ずから開発した『紅蓮』以上……と、ランスロット・グレイルの開発に直接携わっていたロイドが高らかに宣言していた。

 

 その宣言は伊達ではなく、ベジャイア基地の陥落を聞いてすぐにテロリストの新型と思われる機体に応戦したランスロット・グレイルは、敵の携帯した『小型ゲフィオンディスターバー』を受けるまで善戦していた。

 

 この活躍はブリタニアのプロパガンダと情報操作により、ユーロ・ブリタニアのいざこざやEUの出来事、ペンドラゴン周辺などで起きたテロ活動などのニュースを有耶無耶にさせるため『英雄』として仕立て上げられていた。

 

 とはいえ、グリンダ騎士団の予期せぬ初陣に連戦の代償は高かった。

 

 この間まで仮想訓練しかしていなかったグリンダ騎士団に大規模なテロ鎮圧に新型の対応は荷が重く、一人はCSR(戦闘ストレス反応)まで起こし、ほか数名は重症を負ってとてもではないが戦える状態ではなかった。

 

「……そう言えば、『競技KMFリーグ』というものがあったね?」

 

「あ、はい?」

 

「グリンダ騎士団の活躍を祝したイベントとして開催すれば、良いガス抜きになるんじゃないかな?」

 

 何時もの突拍子もないシュナイゼルの話題の振り方にカノンはハテナマークを出しながらも答えると、これまた突拍子もない提案をシュナイゼルがする。

 

「では、そのようにマリーベル皇女殿下たちに伝えておきます。」

 

「頼むよ、カノン。 (これで、()()が動かない筈がない。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ハァ~。」

 

 帝都ペンドラゴン近くに停泊中の浮遊航空艦『グランベリー』の中で、白い髭を生やしたいかにも威厳がありそうな男がまとめられた報告書などを見ながら溜息を出す。

 

「あら、すごい溜息ねシュバルツァー将軍。」

 

「姫様……」

 

 中年の男────シュバルツァー将軍と呼ばれた者の座るテーブルの向かい側に、第88皇女のマリーベル・メル・ブリタニアが座りながらそう声をかける。

 

 シュバルツァー将軍が見ていたのはグリンダ騎士団が参加した、『ベジャイア基地援軍要請』の事後報告だった。

 

「誰も死ななかったとはいえ、この体たらくを見れば誰でも溜息を出すでしょう。 シュナイゼル殿下には“姫様の騎士となる者には最精鋭を”と申請したのだが……」

 

「あら、否定的な見解は視野を狭めるだけですわ将軍。」

 

 そう言いながらマリーベルは、それぞれのパイロットたちのプロフィールが書かれた資料を見ていく。

 

「ソキアは元競技KMFリーグのスタープレイヤーとして活躍した分、チーム全体に目を配ってサポートする能力は操縦技術も含めて随一。

 元皇立KMF技研のテストパイロットだったティンクは、機体の限界などを配慮しながら性能を常に100%引き出せています。

 レオンハルトは確かに決め手に欠けますが、彼の柔軟性には目を見張るものがあるかと。

 そしてオルドリンは、私が最も信頼を置ける騎士でそれに応えてくれています♡」

 

 マリーベルのにっこりとした笑みとふわふわした説明に、シュバルツァー将軍の頭は痛くなった。

 

「(確かに可能性を秘めておる者たちばかりだが……)」

 

 そう彼が思うのは無理もなかった。

 

 元競技KMFリーグ所属だったソキアは作戦開始とともに意味不明な“ファーストエントリィィィィ!”と吶喊しながら敵陣に突入したあげく、機体を中破させた。

 技術系貴族の出身であるレオンハルト・シュタイナーは安定した動きを見せるが、ここ一番の踏ん張りどころでどうして良いのか分からず迷ってしまっては隙を見せてしまい、機体は大破し彼自身も重症の身となった。

 ティンク・ロックハートは元皇立KMF技研のテストパイロットだけあって良い動きと立ち回りで敵のナイトメアを撃破していったが『基地の陥落』といった、時間がモノを言う状況下になってもマイペースのまま戦場を駆けた。 結果として、機体とパイロットの損傷は軽微なのが幸いだった。

 マリーベルの騎士であるオルドリン・シヴォンは勝負を焦るあまりに連携が全く取れていない、孤立した状態で敵の新型と交戦。

 

 そしてやむなく現役を引退したはずのシュバルツァー将軍自身がサザーランド・スナイパーと試作機である小型ハドロン砲で援護しなくてはいけない状況になったことで、幸運にもグリンダ騎士団側に死者は出なかった。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 そんなことを考えているシュバルツァー将軍の胃と、古傷を負った膝は痛み出したそうな。

 

「(やはり、戦略顧問であるオレがしっかりとせねばならん! 最悪、姫様(マリーベル)だけでも守らねば、オレの首が危ない!)」

 

 彼の頭上に浮かび上がるのは、表情筋だけ器用に使って笑っているシュナイゼルの姿だった。

 

『シュバルツァー将軍、引退した身であるあなたに少々頼みたいことがあってね? 妹であるマリーベルの()()()()を頼めないかな?』

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 シュバルツァー将軍を悩ませていた最大の理由は、単純にグリンダ騎士団が『皇女の騎士団』と呼ぶにはあまりにも人員も装備も数が少なかったこともあった。

 

 カールレオン級浮遊航空艦の『グランベリー』、ランスロット・グレイル一機(現在補給&整備中)、グリンダ仕様グロースター一機(大破)、グリンダ仕様サザーランド三機(二機大破)、サザーランド・スナイパーが一機にVTOLが五機。

 

 そして乗組員は(充足時)約315名。

 

『個人』の運用としてはかなり大きな部隊だが、とても『皇女用』とは思えなかった数にシュバルツァー将軍はずっと悩み続けた。

 

 そこに将軍は、以前から出していた人員と機体の補充要請の報告を見て若干胃痛が和らいだ。

 

「(この『ブラッドフォード』とやらは性能を見ればグレイルとの相性が良い。 あとは()()家の出だが、噂では士官学校主席の『マリーカ・ソレイシィ』が常人であることを祈ろう。)」

 

 ……

 …

 

 悩むシュバルツァー将軍からそう遠くはない距離で、グリンダ騎士団のケガ人たちはアルジェリアから比較的に近い帝都ペンドラゴンにある中央軍病院内で休養中だった。

 

 バァン!

 

 「やーやー! スーパースターのソキアさんが見舞いに来たよ~!」

 

 グリンダ騎士団のソキア・シェルパが重症のレオンハルトと軽傷のティンクがいる個室のドアを荒々しく開けては高らかな声を二人にかける。

 

「ちょ、おま、ここは病院だぞ?!」

 

「ハハハ、ソキアは相変わらず元気いっぱいだね。」

 

「うにゃはははははは! 気にしない気にしない! ってあれ? オルドリンもにゃんでここに?」

 

 ソキアはレオンハルトの正論に対してただ笑い、部屋の中で『これで君もムキムキマッチョなマッスルに!』のコマーシャルに出てくるような運動用の棒らしきものを両手で掴んでビョンビョンさせているオルドリンを見る。

 

「う~ん、私って別にどこもケガしていないのに“休め”って言われて暇だったから。」

 

「それで“他人の病室が広いから”って入ってくるのもどうかと思うけどな。」

 

「まぁ、レオンの正論は別において────」

「────おい────」

「────オルドリンのグレイル機が受けた攻撃は多分、『ゲフィオンディスターバー』の近縁だと聞いた。 あれはナイトメアを動かすエナジーの元であるサクラダイトに干渉するモノだけれど、最近までは理論上だけのモノだったから人体にどんな影響をするか分からないからね。一応“休め”って言われたんだと思うよ。」

 

「やっぱり機体が動かなかったのは、その『ゲヒなんとか』のせいなのね!」

 

「『ゲフィオンディスターバー』だよ────」

「────『ゲヒタバー』さえなければ、私のランスロット・グレイルがあの白い紅蓮っぽい機体に負けるワケがないわ!」

 

「「「(ゲヒタバーって。)」」」

 

 オルドリンがゲフィオンディスターバーを略化した言葉に、ソキア、レオンハルト、ティンクの三人はただ内心でツッコミを入れた。

 

「お嬢様、どうどう。 今フルーツを切りますからね?」

 

「う゛~……ありがとう、トト~。」

 

 そんな興奮するオルドリンを、褐色のシヴォン家のメイド────『トト・トンプソン』がなだめながら部屋の中に置いてあるボウルに入った果物の皮を慣れた動作でむいていく。

 

「あ! トトトトトトトト、トトさん!」

 

 トトを見た瞬間、さっきまでソキアにイラついていたレオンハルトはご機嫌になりながら声をかける。

 

「は~い?」

 

「で、で、で、出来ればフルーツを食べさせてくれませんか?! 俺、両手が使えない状態なんで!」

 

 レオンハルトは上記の主張を裏付けるように、両腕がギプス状態であることを見せつける。

 

「はい、フォーク。」

 

「え。」

 

 だがギプスから出ているレオンハルトの手に、トトはフォークを握らせてからフルーツの盛り合わせを出す。

 

「はい、どうぞ♡」

 

「やったぁぁぁぁぁ! モグモグモグモグモグモグモグ……って何、ソキア?」

 

 オルドリンは運動棒を手放し、フルーツを食べているとニヤニヤしているソキアに気が付く。

 

「いや~、実はメインストリートで今月の『月刊少女あすかちゃん』で、面白いコミックを発見してね~?」

 

 そう言いながらソキアがしおりをつけた雑誌のページを開けると、魔法少女漫画風に描かれた『貴族学生オルドリンちゃん♪』を見せる。

 

 「ナニ、コレ?」

 

 本人(オルドリン)はこれを見て何とも言えない複雑な心境と表情を浮かべると、意外にもティンクが言葉を蔦した。

 

「グリンダ騎士団は人気が出ているからね。 帝国民の戦意高揚を狙ったプロパガンダだよ。 こっちの『ヤングトップ』も読んでみるかい?」

 

 ティンクの渡したコミックにはランスロット・グレイル風の仮面をした『オルドリンマスク』が、宿敵の『デスパレットードー(藤堂)』にブリタニア(ジャーマ)ンスープレックスをお見舞いするコマがデカデカと描かれていた。

 

 余談だがタイトルは『戦え! オルドリンマスク!』で、内容のノリは完全にシリアス風ギャグ漫画だった。

 

 「……………………ナニ……………………コレ?」

 

 オルドリンのハイライトの消えた目と無表情な顔に、レオンハルトはゲラゲラと笑っては傷口が開いてしまい、グリンダ騎士団の面々はドクターやナースたちに叱られたそうな。

 

 叱られたことで『ショボーン』とするグリンダ騎士団のパイロットたちに、『競技KMFリーグに、デモンストレーションとして出てくる気はない?』という悪魔のシュナイゼルの誘い提案が届けられるのは少し後の話である。




('、3_ヽ)_スヤァ ←久しぶりに爆睡するスバル





と言うわけでストックはゼロになりましたが、『OZ』のグリンダ騎士団たちの軽~い紹介でした。 (汗

コロナからの頭痛と関節痛がぶり返したことで、仕事が終わったらすぐ休みます。


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第130話 『マリエル』という『セシル』……だと?

お待たせしました、次話です。

誤字報告、誠にありがとうございます。
お手数をおかけしております。 <(_ _)>

楽しんで頂ければ幸いです。


「フム……君が“スヴェン・ハンセン”という子かい?」

 

 ミルベル博士が見ている。

 

 い、いや落ち着け(スバル)

 俺の前になぜミルベル博士+その他が居るかは別にするんだ。

 落ち着いて素数を数えるんだ。

 素数は孤独な数字で、思考を別のことに専念させるに丁度よくて、時とともに落ち着きを戻せる。

 

 2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、喜べ少年!

 

 ってイケボ(ディート)ハルト、お前はお呼びではないのどぅわぁぁぁぁぁ

 

 渇かず飢えず無に還れやぁぁぁぁぁぁ!

 

 ……………………ふぅ。

 良し。

 内心で叫んだことで自分の気持ちにリセットを(多分)掛けられたぞ。

 順を追って思い出そうぜよ、俺よ。

 

 1、 毒島から話を聞いて安心しながら寝た

 2、 (恐らく)爆睡中

 3、 起きたら何日間か経っていた

 4、 “食い物を持ってきてくれ”でひたすら食べる

 5、 『避難した旧日本人たちとマーヤたちが到着した』と聞いて窒息死未遂になる

 6、 予備のワイバーン隊の軍服に着替えると、何故かwZERO部隊の何人かが俺を見るなり赤面してそっぽ向く

 7、 そのまま会議室に入ると、元イレギュラーズのマオ(女)にタックルを食らう

 8、 叫ぶのをポーカーフェイスの維持と腹筋を引き締めることで何とか乗り越えると、ニコニコしているマーヤをマオ(女)が見て、部屋からの退却時にほかの元イレギュラーズをチラッと見る

 9、 会議室にはwZERO部隊の面々に、ミルベル博士と彼の妻らしき人と後見知らぬ二人(男女の親子で一人は車いす)がいて、冒頭の場面へと繋がる

 10、 完

 

 

 

 

 

 

 いやここで終わらせるわけにはいかない。

 

 と言うわけで、久しぶりに『優男仮面』を着用!

 

「ウィルバー・ミルベル博士ですね。 噂はかねがね伺っております。」

 

「そうか……まずは私と、私の妻の保護の為に人を派遣してくれたことに感謝を。 ありがとう。」

 

 “ありがとう”言いながらも値踏みヤメテ。

 

「いえいえ、私は()()()動けなかったので、礼ならば彼女たちにしてください。」

 

「………………………………」

 

 うん?

 

 なんだろう? さっきからミルベルだけじゃなく、車椅子の男に値踏みされているような気がするし、隣の俺やマーヤと同い年ぐらいのふんわりっぽい髪の毛をした女性も────

 

「────ねぇねぇ? えっと、スヴェン君だっけ?」

 

 その女性が話すと、なぜだか一瞬『セシル・クルーミー』と『仮面ライ〇ー』を連想してしまったぞ?

 Why(何故に)

 

 というか『君付け』なんて、何気に懐かしいな。

 

 そしてこの猛烈な『嫌な予感』と『どこかで見たことあるぞ!』がごちゃ混ぜになる心境は、以前に『ナイトメア・オブ・ナナリー』の発覚以来だな。

 

 ……取り敢えず生返事だけ返そう。

 

「あ、はい?」

 

「マーヤちゃんたちから聞いたんだけれど……私たちのこと、知っている?」

 

 聞いたってなにがじゃい。

 全く知らんがな。

 

 とは言えないので、さっきの『見たことあるぞ!』の感覚を思い出すんだ俺!

 ヒントはある筈だ!

 思い出して神経を集中させて、脳裏で連想したものをもう一度思い浮かべろ!

 

 確か……『セシル・クルーミー』と『仮面ライ〇ー』だっけ?

 あと『ナイトメア・オブ・ナナリー発覚時に似た嫌な予感』と、彼女の隣にいる車椅子に座った髭と眼鏡の男だ。

 

 彼の使っている車椅子は、ナナリーや足が不自由な人たちなどが使うタイプだ……ということは、下半身が動かない?

『下半身麻痺者』ということか?

 でもそんな奴、俺は知ら────ちょいまち。

 

『セシル・クルーミー』。

『仮面ライ〇ー』。

『下半身麻痺者』。

 そしてマーヤたちに頼んだ『ミルベルの家族の保護』と、『同い年に見えるマーヤに“ちゃん付け”が出来る姉っぽい女性』。

 

 それらの点が一つの大きなモノへと結びつくような感覚の中、俺は()()()()()()()()()()()()を思い出してしまい、ポーカーフェイスが今にも崩れそうになって震える声になる前に、俺は『頼むから外れていてくれ!』と願いを込めながら口を開ける。

 

 “外していても最悪俺だけが恥をかくだけ”、という覚悟もしていたが、首から上の肌から無理やり嫌な汗が噴き出すのを気合で止めて。

 

()()()()()()()も、ご無事で何よりです。」

 

 このどこか原作セシルに似ている女性の言葉に俺がポーカーフェイスを維持しながら上記で答えると、マーヤと毒島を除いたミルベルたちがギョッとする。

 

 そしてその行動が、『俺の願い』というか『期待』が外れたことを肯定してしまう。

 

 いやまだだ!

 まだ終わらんよ!

 

 「すご~い! 本当に私たちのことも知っていたんだ?!」

 

 次のことは特に外れてほしい。

 

「ええ。 “体の不自由を補う装備”という思想には、私も共感できますから。」

 

「ですから言ったでしょう、マリエルさん?」

 

「もう! “エルで良い”って言っているじゃん! さん付けするには歳もそんなに離れていないでしょ?!」

 

 そこにマーヤ&マリエルの会話がトドメになりそうで、俺は貧血になったかのように目の前が真っ白になっていく。

 

 えるしっているか

 にんげんってきゃぱおーばーすると『めのまえがまっしろ』になるんだぜ*1

 

「まさか、マーヤ君の言った通りとは────」

「う~ん、こうやって見事に初見で言われると────」

「────ですから言った筈ですよ皆さん? “私などが考え得ることなど彼の想定内でしかない” と。」

「ああ、“私たちが彼と同等”など特にだ。」

 

 最後のどういう意味、マーヤンにぶっちゃん(毒島)

 

 勝手に話を進めている彼ら彼女らのことはいい。

 

 それよりもこのおニューな二人、『ラビエ博士親子たち』のことだ。

 

 俺の記憶が間違っていなければ、確かラビエ親子は『反攻のスザク』という漫画で出てきているオリキャラの筈だ。

 

 しかも『反攻のスザク』は全二巻しかなく、五巻しかなかった『ナイトメア・オブ・ナナリー』以上に短い(マイナーな?)漫画だった……筈。

 

 しかも『人型機械兵器』、つまり『ナイトメアというロボットが無いコードギアス』だ。

 

 そしてタイトルから察せるように、メインキャラはルルーシュではなくスザク。

 作中の特派では『セシル・クルーミー』の代わりに目の前の女性────『マリエル・ラビエ』が登場している。

 

 彼女は年若いが大学をすでに卒業していて、ちゃんとした『博士号』を既に持つほどの天才。

 

 とすると、彼女の隣にいる車椅子の男は、恐らく彼女の父親である『レナルド・ラビエ』か。

 

 彼も『反攻のスザク』では、下半身麻痺者になる前までは『特派ではロイドの上司』として活躍していた……と思う。

 

 つまり、俺が何を言いたいかというと『コードギアス本編』に『ナイトメア・オブ・ナナリー』に『ロストカラーズ』に『双貌のOZ』に『反攻のスザク』ってもうどうすればええねんダレカタスケテクレメンス。

 

 これだけのコードギアス作品が絡むなんて、どういう『コード・オブ・闇鍋ギアス』?

 ナニソレ、おいしいの?

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 ウ゛?!

 か、考えただけでまた胃がはち切れそうだ!

 

 なお毒島の『HOTD(学園黙示録)』やアンジュの『クロスアンジュ』は、彼女たち本人以外のネタを察知できていないので、別件として扱っているのでノーカンとしているが……

 

 マジでどうしよう?

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ

 

 素数、素数は……

 無理だ、そこまで深く考えれる余裕がない!

 あれだ!

 あれしかない!

 秘儀、『今考えられる単語や要因を思い浮かべてみる』!

 

『wZERO部隊』、『ほぼ軍事施設が半壊したヴァイスボルフ城』、『BRS』、『脳科学で日本マニアたち』、『コードギアス5作とか聞いていない助けて』、『ミルベル博士』、『フロートシステム』、『胃が痛い』、『マリエル・ラビエ』、『なんちゃって戦術機』、『ゲロ吐きそう』、『反攻のスザク』、『ランスロット仮面』、『毒島冴子』、『武家』────あ!

 

 せや! ランスロット型強化スーツとかBRSの応用した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作れるんじゃね?!

 

 そしてそれをマーヤや毒島たちなどに着させるのだ!

 フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 あ、勿論着せた暁には、ちょっとだけ彼女たちの見た目を整えるゾ?

 そして男性用とイレギュラーズ分も含めて別デザインにする。

 

 今まで彼女たちはブリタニア軍時代からの『全身旧スク水っぽいデザイン』のヤツで我慢してくれているが……流石にそのままだと(特に(公式幼女趣味)辺りから)ヤバい気だけしかしない。

 

『マーヤたちだけ不公平』、だと?

 

 (こま)けぇことはいんだよコンチクショウメ!

 

 ワイは癒しが欲しいんじゃい!

 

 というかマーヤなら平然と(というか喜んで)着るところが容易に想像できてしまう。

HOTD(学園黙示録)』の事を考えたら毒島もドヤ顔するかもな。

 

 アンジュ?

 あいつには『クロスアンジュ』で出てくる『手足はちゃんとカバーされるのに胴体だけはビキニパイロットスーツ』を既に試作────ああ。

 

 そういえばアッシュフォード学園に置いてきたままだったな。

 今度はちゃんとパイロットスーツ機能つけたものを新しく作らせるか。

 

 そう考えるとラビエ博士親子たちの事は、『空中戦を熟知しているミルベル博士の確保で意外な方面でのオマケも付いてきた』とも思えるな。

 

 それにミルベル博士は確か、『双貌のOZ』の設定で可変型ナイトメア開発の主任だったはずだから、いざとなれば俺の考えている『パイロットスーツデザインの変化』は機体の所為に出来る……

 

 よし、そう思うと少しだけ気が楽になったぞ。

 

 ………………ムフ♪

 

『双貌のOZ 』で出てくるグリンダ騎士団の『アームカバーとサイハイブーツにエグイ食い込みハイレグレオタード』も大変見た目はディ・モールト(非常に)ベネだ(良い)が………………………………

 

 グフグフグフグフグフフフフフフフフフ♡

 *注*上記のこれは『とある白兵戦用機体』の事ではなくただスバルが内心で笑っているだけです

 

 

 


 

 

 今までかつてないほどのストレス上昇速度に現実逃避とエロい純度100%の思春期な妄想に全力で走った結果、スバルの顔は微妙なニヤケ顔を浮かべていた。

 その様子に、ほとんどの者たちは気付かないままそれぞれが別々の話などで盛り上がるが────

 

「(────やはりラビエ親子のことも既に把握していたとは! やはり冴子の言っていたことの信憑性が……ああ、神はどれだけ()を考えておられるのでしょう!)」

 

 マーヤはそう思いながら胸の中で高まる高揚感に浸っていたが、次のことでその場にいた者たちも似たような高揚感に包まれていくこととなる。

 

「ところでミルベル博士────」

「────ん? なんだねハンセン(スバル)君?」

 

「陸と空を自由に行き来できる可変型ナイトメア(ブラッドフォートやトリスタン)良いもの(ロマン)ですね。」

 

 カッ!

 

 「素晴らしい考えを持っているな、ハンセン君! いや、スヴェン君!」

 

 スバルの言葉でウィルバーの目が見開かれては子供のようにキラキラし出し、彼の妻であるサリアが困ったような笑みをしては、昔から付き合いのあるラビエ親子が個人的な意見を付け足す。

 

「あらあら、ウィルの童心に火がついちゃったわね♡」

 

「だがそんなところにサリア君は惹かれたのだろう?」

 

「ウィルバーおじさん、見た目はいかついから余計にそのギャップ感がねぇ~。」

 

「可変ナイトメアの実用化を模索するには相当苦労したでしょう、博士────」

「────“苦労”なんてものではなかったぞ。 試作機を何機ダメにしてしまったか数えられない上に、当時まだ発展途上だったシュタイナー・コンツェルンも一時は経済難に陥った────」

「────やはり最初は簡易型の『可変機構』でスタートされたのですか? それともフロートシステムの補助を────?」

「────フロートシステムは確かに面白いものだが、未だによく理解されていない力場に頼りきった代物などより、昔から実績のある『翼』を活用しないのは馬鹿馬鹿しすぎる! そう何度もロイド君にも助言したが“あー! あー! マッド教授の説教みたいに僕聞こえなーい!”などと子供のようにいじけるのだ!」

 

 既に誰も『なんでスバルが軍事機密(可変型KMF)をピンポイントで知っていたの?』という疑問を浮かべず、ただ彼とウィルバーが話し合う流れを見ていた。

 

 ちなみにその時のスバルは『あー、そういうところ(フロートシステム対可変型)でミルベル博士とロイドの絡みがあったのか~』と、内心でのほほんと考えていたそうな。

 

「あれ? フロートシステムの『よく知らない力場』って、『サクラダイトによるヒッグス場の限定的中和』のことですよね?」

 

「なにっぬ?!」

 

「ひゃ?!」

 

 そこに意外な人物が口を挟んだことで、ウィルバーが首をグリンと回し、声の主であったアンナの体がびくりと跳ねてしまう。

 

 「君……もしかしてフロートシステムの原理を理解しているのかね?!」

 

「あ……えっと、その────」

「────それだけではないぞミルベル博士。 そこのアンナはフロートシステムとブレイズルミナスを理解し、独自に実用化もさせている────」

「────なに────?!」

「────はぇあ?! シュ、シュ、シュバールさん────?!」

「────あと確か12歳でグラスゴーを解体したこともあるな。“なんか面白そうだから”とか言って────」

 「────何でシュバールさんがそのことを知っているんですかぁぁぁぁ~~~~?!」

 

「…………………………フ。」

 *注*“コードギアスの設定資料からです”とは言えないスバル

 

「え? アンナちゃんのその噂、本当だったの?」

 

「まぁこの際だからぶっちゃけると、ボス(アンナ)って超天才なのよ!」

 

「うんうん! これで『兵器は好きじゃない』だから、すごいよね!」

 

「ク、クロエにヒルダ~?!」

 

 人見知りなアンナが涙目になり、部下たちの自慢話がトドメになってしまったのか、恥ずかしい気持ちから、赤面した顔を両手で覆ってしまう。

 

「あー、なんか分かるかも。 私もお父さんと一緒に作っているスーツも、元々は体が不自由な人たちのために作っていたからな~。 軍は“コストダウンと一般兵士用のモノを作れ!”ってガミガミ一方的にうるさいだけだしねぇ~。」

 

「え? 貴方たちも???」

 

「そうそ♪ 私もお父さんも元々民間企業でね────?」

「────あら、そこは私たち脳科学部と同じなのね────?」

「────やはり君があのランドル博士だったのか。 君が過去に出した研究資料は私たちのスーツ開発に応用して────」

「────あら、それはそれで照れるわね────」

「────まぁ技術者たちの間では『旧日本マニア』として有名だったのだが────」

「────え?!」

 

 ついにミルベル博士やラビエ親子たちだけでなく、とうとう話の輪にアンナやソフィを始め、ワイバーン隊も加わって話が盛り上がるまでそう時間は長くかからなかった。

 

 やはり『共通の話題や役職や境遇』から来るコミュ力上昇(ブースト)は偉大である。

 

 あと、『近い歳同士』ということもあった。

 

「(まさかサエコ(冴子)の言ったように、こうも即時の対応が出来るなんて……

 シュバールさんのは“臨機応変”なんて生易しいものじゃないわ。 しかもこの戸惑いや不安を抱えることなく、むしろ楽しんでいるかのような態度……

 これで本当にシュバールほどの人を、タイゾウ・キリハラ(桐原泰三)などの人物がサポートしているならば、私程度なんて……)」

 

 レイラはどこか複雑な心境を持ったが、(一応)貴族令嬢としての愛想(作り)笑いなどでその場を誤魔化した。

 

「(う~む、スバルがマリエル(ラビエ親子)たちのことを知っていたのは素直に驚いたが……彼の偉大さを肌で感じさせるためのセッティングは少しやりすぎたか?)」

 

 毒島はそんなレイラの様子を見ては、彼女の内心出かけている気持ちを看破し、若干罪悪感を覚えた。

 

「(……どうしたものか。)」

 

 毒島は悩んだ。

 

 何せ珍しくスバルが単身で動き、これほどまでに『一つの勢力に肩入れする』など、黒の騎士団────否、より正確には『行政特区日本』の時以来。

 何か理由があるに違いないと考えた彼女は、『理由は恐らく指揮官のレイラ、ブリタニアの技術を独自で解析したアンナと、そしてアヤノから聞いたアキトだろう』と当たりを付けていた。

 

 最悪アマルガムへの勧誘が出来なくとも、協力的な関係であれば事足りるかも知れないが────

 

「(────本人(レイラ)に自信が無いのでは、難しいな。)」

 

 だが毒島は知らない。

 

 彼女の悩みが解消されるまで、あと数時間という僅かな時であることを。

*1
アイデア、誠にありがとうございますもけぴろ2号さん!




一気に高まった緊張感や注目などでストレスがマッハ上昇し、久しぶりに壊れかけたスバルでした。 (;´∀`)


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第131話 『言い方』、重要。 ついでに『見方』も。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

スバルがやらかしてしまいます。 ご了承くださいますようお願い申しあげます。 (;´д`)ゞ


「フゥ~。」

 

 俺はヴァイスボルフ城のほぼ無事だった居住区の二階から、窓の向こう側に広がる夜空を見上げながらため息を出す。

 

 ちょっと俺疲れちゃったよ、パトラッシュ。

 いや、原作風にすると確か“俺、疲れたよ。 なんだかとても眠いんだ” 、だっけ?

 

 眠気がないから使えないけど取り敢えず、いったん考えを整理しようか。

 

 ミルベル博士たちはブリタニア帝国に愛想を尽かして隠居生活するところを、マーヤたちが上手くスカウトできたのは僥倖だ。

 

 そのままだとテロリストになる線が強いからな、特にミルベル博士の場合。

 彼の憎悪に満ちた顔と、“ブリタニアは喉元に刃を立てられなければ身の危険が理解できない!”は印象的だったから、そこはよく覚えている。

 

 それもそうだろうな。

 ブリタニアは『貴族社会』と『実力主義』という、普段は反発しあう思想を上手く混入させているが、やはり帝国を実際に動かしている上級貴族たちは、戦など報告や数字でしか知らない。

 

 その上、帝国のトップである皇帝シャルルは政治に無関心。

 シュナイゼルやコーネリアは異例だ。

 

 というか今更感マシマシなのだが、どうやってマーヤは彼らを説得したの?

 聞きたいけれどあの『絶対何か裏があるニコニコ顔』はマジ怖い。

 

 今度マオ(女)辺りに聞くか────っと、脱線しかけた。

 

 何を考えていたんだっけ……

 

 ああ、ミルベルたちの引き抜き云々だった。

 思っていた以上にイレギュラーズも奮闘してくれたのは嬉しいが……

 未だに表舞台に出たがらないのはやはりずっと裏部隊として活動していたからか、必要以上に人の目を気にする。

 

 歳を考えれば、無理もないけどな。

 これが俺の知っている日本なら、一番年上のサンチアでさえ高一でほかは中学生だ。

 その所為でマーヤは彼女たちの面倒を見たがっている感じけどな。

 

 それとヴァイスボルフ城にある機体だが、ハメルたちとリョウたちのアレクサンダ達に損傷はあるが、動けるから日系人たちの避難の『護衛』として使うだろう。

 

 アシュレイはいつの間にか“ウチの奴ら呼んでくる!”って置き手紙をしていつの間にか姿を消していて、彼のレッドオーガは使える状態じゃない。

 

 俺の『試作型蒼天型・村正一式、武蔵タイプ(仮)』?

 

 …………………………………………フ。

 マイサンはこれ以上ないほど見事な戦死を遂げたよ。

 

 技術者たち全員が“修理するよりバラ(溶か)して一から仕上げ(リサイクルす)る方が早い”と言う意見が一致したので(ウキウキしたミルベル夫婦を先頭に)解体中でゴザル。

 

 えっと……

 あとは毒島か?

 

 彼女は避難させた日系人たちとリョウたちの引率をして、そんな彼らの為に『ガリア・グランデ』の改良と解析もミルベルたちがやってくれている。

 

 軍事施設はレイラが自爆させたから少し作業は遅れているが。

 

 あと、ユーロ・ブリタニアもブリタニア帝国もEUも、最近の事でまだ存在自体が秘匿されていたヴァイスボルフ城にまだ注目を向けていないが、ミカエル騎士団の生き残りを帰した以上は長くここに居座ることはできない。

 

 それとシンだが何故か盲目になっていた。

 どうやら自分の目を抉り出したらしいが、普通に怖いよ?!

『柱の〇』じゃないんだからさ?

 

『自分の目ブスリ』はかなり度胸がいるが、そのおかげか『自害せよギアス』も『皆死ねばいいんじゃい!』の精神も無くなって、比較的に穏やかな青年になって今は協力的だ。

 

 多分、義妹のアリスや義母のマリアが生きていたことも大きいだろうな。

『亡国のアキト』の描写だと、シンは彼女たちのことを本当に愛していたっぽいし。

 

 ちなみに一か八かだったが、アリスとマリアの二人にかけられたギアスは、どうやら『お互いに生きている姿を見る』事が『互いを殺せ』のトリガーだったらしい。

 

 正直、自信はなかったが原作『亡国のアキト』でもアリスとマリア・シャイングがマンフレディのような『自害』じゃなくて、『互いを殺し合う』という描写だったから『ワンチャン行けるか?』と思ったが……

 

 まぁ、結果的にオーライだったから良しとしよう。

 

 それと流石にダメージが大きかったからシンとはアキトと一緒に少ししか話せてないが、一瞬『誰やねんワレ?!』と叫びそうだった。

 

 『亡国のアキト時のシン』と、『現在のシン』が余りにもギャップあり過ぎ。

 

 何? 何なのあれ?

 詐欺?

 命名するのなら、『人格詐欺』という奴か?

 

 アキトは(静かに)泣いて懐かしがっていたが……

 余りにも『まとも』過ぎて、俺はドン引きしたよ。

 

 それと、俺がふと思っていた『シンはどこからギアスを手に入れた?』という疑問についてだが、思っていた以上に情報は得られなかった。

 

 そもそも本人(シン)曰く、“自分だけが聞こえる声が起きている間も眠っている間もずっと語りかけていた”、“気付いたら『自分の愛する者たちに自害の命令ができる』という不思議な納得感があった”……らしい。

 

 無理して識別するなら、『怨念系の呪いギアス』になるのか?

『亡国のアキト』の作中でも、シンのギアス会得は稀なケースみたいだったし。

 

 まぁ、今いくら考えても答えが出るわけがないから『保留』だ。

 

 あとラビエ親子博士たちが持ってきた試作段階のスーツ1つを、ソフィたち脳科学部とBRSを応用させて着用してみたが……

 

 完全にパワードスーツっぽい仕上げになったからかなり興奮した。

 

 ダルクの『ザ・パワー』には敵わないが、成人した大人ぐらいは動き回れるから現在筋肉&関節痛に苛まれる俺にとってはまたとない装備だ。

 

 ああ、そういやもう一件あったな。

 

『箱舟作戦』が行われたことで、ユーロ・ブリタニアに派遣されたと思われるスザクと洗脳されたルルーシュのことだが……俺は関わろうとしていない。

 

 原作通りだと、コードギアスの作品内でもかなり厄介かつ(状況にもよるが)俺の特典とも相性が悪いギアス能力者が二人を迎えに来ている筈だからな。

 

 そして俺以外の者を送っても、現時点でそいつは『任務に忠実なキリングマシーン』だから、侵入者や不審者が見つかり次第『即刻排除(死刑)』は間違いない。

 

 残念だが、初めから『原作の流れならばルルーシュの救出はR2時』と決めて────

 

 ────コン、コン。

 

 ん? ドアにノック?

 この時間に誰だろう?

 

『あの、夜遅くに申し訳ありません。 私です。 レイラです。』

 

 レイラ?

 なんだろう?

 

「ああ、鍵は開いているから入ってもいい。」

 

『では。』

 

 ドアを開かれると案の定、レイラがどこか複雑な顔をしながら入ってくる。

 

 ちなみにドアに鍵をかけていないのは、これから食堂に行って大人数分の炊き出しの下準備をする予定だったからだ。

 

 流石に日系人たちを桐原のじいさんに押し付けるとしても、今はここにいる。

 なら、俺に出来ることといえば彼らの腹を満たすことだ。

 人間である限り腹は減るし、その分だけ気も滅入る。

 

『不満を抑えるには腹と精神を満たせ』byナポレオンだっけ?

 

「変わった寝間着ですね?」

 

 俺のツナギを見たレイラの開口一番がそれかよ。

 って、奇麗好きなEUでは技術部でもツナギを使っていなかったな。

 エレメントプリンターとかで部品や備品をそのまま作らせて、機械が組みたてていたし。

 

「これは作業服だ。 旧日本人たちに非常食などを分配しているが、それでも腹を空かせている筈だからな。 これから食堂に行って、少ない食材で大勢を満足させるモノの準備をするところだった。」

 

「……どういうものを考えているか、聞いても?」

 

「作るとすれば、鍋だな。 寒い季節にはうってつけだ。」

 

 前に森の散歩(暗躍)がてらに釣りをした時に作った出汁を、こんな風に使うとは想像もしていなかったが。

 

「……流石に(現在)その先(未来)への計画を、常に()()()立てているだけ慣れていますね。」

 

「“昔から”?」

 

「ええ。 少し失礼だったかもしれませんが、貴方が今まで成した実績をサエコ(冴子)たちから聞きました。」

 

 毒島、俺の個人情報をむやみやたらと話すのはやめてくれないかな?

 

 それに実際の俺は結構、『方針だけは決めてほぼ行き当たりばったり』だと思うのだが……

 

 どちらにしても、やることは一つ。

 

 秘儀、『それっぽいことを言って凌ぐ』!

 

「……結果的にそうなっただけだ。」

 

「やはりそうですか……」

 

 そこでシュンとするレイラはツインテールのこともあって、なんだか叱られたネコみたいだな。

 もしくは『ショボーンネコ』。

 

「その様子ですと、果たして私が必要になるのか……」

 

 ……………………………………あー、うん。

 なるほど。

 ようやくレイラが何でここに来たのか、分かったような気がする。

 

 EUからwZERO部隊は『存在しない部隊』として扱われていて、原作通りならEUの政権を握ったスマイラスは謎の死を既に遂げている筈。

 

 だからwZERO部隊の皆に、俺は『近いうちにヴァイスボルフ城を出て組織に戻るが、行き先が無いのなら旧日本人たちと一緒に来るか?』という提案をしている。

 

 一応俺もEUに潜入した際に独自に調べたが、ヴァイスボルフ城に配置された人員のプロフィールなどは、見事にEUのデータベースから抹消されていた。

 

 例外は脳科学部だが、それも表向きは『EUの機密事項に携わっている』という理由で閲覧が実質不可能となっていた。

 

 実質上、ヴァイスボルフ城の皆はEU(の軍部)にとっては『存在しない者たち』。

 

 だからEUに戻ったとしても、軍属の者たちは後ろ盾も職も失くなっていて、完全に『ただの民間人』として扱われるだろう。

 

 なので家族持ちのクラウスや、クレメン・インダストリーの御令嬢であるアンナや、レイラに雇われただけの脳科学部のソフィたちはEUに残ると思っていたのだが……

 

 何故かwZERO部隊がそのまんま『アマルガム』への合流することに。

 

 予想以上の反応だったから嬉しいことなのだが、俺は毒島やマーヤが何を言って彼ら彼女らを説得させたのかがちょっと怖い。

 

 クラウスなんて最初は猛反対していたが、毒島と話した後にギャン泣きしながら握手をしてへこへこと頭を下げていたし。

 

 ここで追加するが、嬉しいと思う同じぐらいの気持ちで『なんでじゃい?!』とツッコミを入れたかった。

 

 何せ今のアマルガムに必要な人員が勢ぞろいいるからな、wZERO部隊には。

 俺がEUに来たのも『オルフェウスと接点を持つ次いでに何人か調略出来ないカナ~』という考えからだったし。

 

 でもその『EUに来た理由の一つ』の中核であるレイラが、『自分が果たして必要なのか?』と言ってくるのはかなり心外だ。

 

「何故、そう思う?」

 

 そう俺が問うと、レイラは目を逸らして自分の腕をギュッと掴む。

 

「私は、wZERO部隊の発案者ですが……あまりにも実力が無さ過ぎると、何度も痛感されました。」

 

 ……うん?

 

「私はナルヴァ作戦で前司令(アノウ)の暴走を止めることは愚か、多くの犠牲が出てやっと司令になれました。」

 

 いや、それはレイラが気にするものじゃない。

 EUが全面的に悪い。

 

「スロニムでは“出撃して現場の指揮を執る”と言いながら、大した戦果も命令も出せませんでした。」

 

 あれは内通者に作戦が筒抜けだったから、相手が精鋭部隊と戦場を事前に準備させたからであって初の出撃にしては上々だったぞ?

 

「ユーロ・ブリタニアの『箱舟の船団』も、真の目的を見破りましたがユキヤの機転が無ければワイバーン隊は全滅していてもおかしくはなく、ヴァイスボルフ城の防衛も貴方の活躍によるものでした。」

 

 ……………………………………あー。

 そのままだと被害がでかくなる可能性を潰していただけだが、確かにそう考えるとやり過ぎたかもしれない。

 

「私は飛び級で大学を出てから間もないまま『EUの歴史で最年少の中佐』とチヤホヤされ、『wZERO部隊の発案』で良い気になっていたただの世間知らずです。 私では……ほかの皆さんの足手まといになるだけかと……ですから……」

 

 Oh……

 自分の腕をギュッと掴んで悔しそうな弱気マックスの、見たことの無い儚げなレイラがおる。

 

「ですから……私が貴方たちと一緒に居る資格など────」

 

 アカン。

 

「────少し、良いか?」

 

 アカンヤツの流れだコレ。

 このままだと『さよならバイバイビー』される気がする!

 

「……」

 

 返事もしないぐらい、気がダウンしとる?!

 何か……何か言わないと!

 

 俺の『戦力を充実化させて端役に戻ってゆっくり出来るライフ』が遠ざかってしまう!

 

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 脳を! フル、回・転!

 考えるな、感じるんだ!

 

「“マルカル司令が足手まとい”かどうかを決めるのは、司令自身ではない。」

 

「え────?」

「────それを判断するのは、周りの者たちだ。 価値や資格を、勝手に自分で決めつけるな。」

 

 何せ、俺は知っているからな。

 

 原作でも今もレイラは実戦経験が浅いが、その割に軍事力などでは圧倒的すぎる敵や、実戦経験豊かなシンやジュリアス(ルルーシュ)などという『強者』から警戒されるほどの能力を持っているのを。

 

 だから化ける可能性と素質は、充分あるのだ。

 

「で、でも────」

「────司令には、司令しかできないことがある。」

 

 まとめるとレイラはカリスマ性と求心力、優れた戦術眼を生かした戦術指揮能力を持っているし、真面目過ぎるがちゃんとした文官としての才もある。

 

 全部まとめて、今のアマルガムに超が付くほど必要な人材だ。

 

 だから────

 

「────()()()、(アマルガムには)()()()。」

 

 「……へ。」

 

 レイラがポカンとする。

 

 もしかして聞こえなかったか?

 

 ()()()、(アマルガムには)()()()。」

 

 俺の安寧────ゲフンゲフン、()()()()()()()に!

 

「ッ……」

 

 アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ?!

 なんでそこでポロポロと静かに泣きだす↑のぉひょほぉぉぉぉぉぉ?!

 ナンデ?!

 

 やっぱり俺って『説得』とか、『励まし』とか下手くそすぎるのか?!

 口下手か俺は?!

 口下手でしたちくせう!

 

 もうどうしたら……

 ええいままよ、食らえ!

 イケメンにだけ許された秘儀、『頭をさりげなくかつ優しくポンポンナデナデ』!

 前回*1は物騒なアリス相手だっただけれど、レイラなら効果は────!

 

 ────ポン。

 ナデナデナデナデナデナデ。

 

「ッ……ッッ……ッ……」

 

 口を両手で覆って肩を震わせて更に事態が悪化。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 「お、お見苦しいところを見せました……」

 

「落ち着いたか?」

 

 「は、はい……」

 

 あれからどのぐらいの時間が経ったかわからないが、たぶん数分程度だろう。

 

 その間にレイラはただただ子供のようにしゃくりあげ、先ほどやっと恥ずかしい醜態を晒したことに気付いたのか、さっきからそっぽを向いて顔を上げていない。

 

 まぁ……無理もないわな。

 何時もの落ち着いた言動から想像しにくいが、現代だと高二でまだまだ17歳なのによくやっている。

 ただ環境から『大人として考えて振る舞え』と強いられているだけで、『子供』の枠にまだ充分入る。

 

 てか目が漫画などでよく見る『3』になるような腫れ具合か心配だな。

 

 涙の跡が残ったまま俺の部屋から出るレイラを見たら、最悪の場合勘違いされかねない。

 

「目────」

 「────しししし失礼しまっしゅ!」

 

 ドタドタドタドタドタ!

 ガチャ、バタン!

 

 俺が声をかけながら手を出すと、レイラはそっぽを向いたまま逃げるかのように立ち上がって、目にも止まらない速度で退室する。

 

 今は『Bダッシュ』どころか、『パタパ〇の羽根』を使った並みのスタートダッシュ必要無しの速さだったぞオイ。

 

 と言うか今のレイラ、何気に噛んだよね最後の方?

 

 ………………………………まぁ、なんか元気になったぽいから良いか!

 

 炊き出しの準備をして、帝都関連のメッセージが来るまでゆっくりしよう。

 

 時空的に、今から『R2』の間に描写されている作品と言えば『双貌のオズ』の競技KMFリーグイベントの筈だ。

 

 そこで、出来ればグリンダ騎士団の団員と接点を作りたい。

 

 このままだとグリンダ騎士団は、『ギアス嚮団の手先』というか『ブイブイ(VV)の私兵』に成り下がってしまう。

 

 しかもグリンダ騎士団は当初は『対テロ騎士団』だったのが、ブイブイ(VV)の口車にマリーベルが乗ってしまっては、『原作ブラックリベリオン時のスザク』みたいな『テロリストになるかもしれない危険分子は全て老若男女の例外なく全員排除』の凶行に出てしまう。

 

 しかもマリーベルはルルーシュ並みの頭脳の持ち主で、彼女自身も操縦技術はいい方だ。

 

 黒の騎士団が『正義の味方』で『民衆の希望』ならば、後のグリンダ騎士団は『反ブリタニア分子は魅奈檎露死(みなごろし)』を成して『恐怖政治』を強いることとなる。

 

 っと、胃がキリキリしだす前に胃薬服用だ。

 それにそこまでの未来を考えても仕方がない。

 何せ、色々と変わっているかもしれないからな。

 

 

 

 


 

 

 

 

 パタパタパタパタパタパタパタ。

 

 レイラは夜のヴァイスボルフ城の居住区内を息の続く限り走って、ようやく息切れを起こす寸前で立ち止まってから、息を整えて走る以前から力強く脈を打つ心臓を鎮めようと試みる。

 

「スゥ……ハァァァァ……」

 

『レイラ、必要だ。』

 

 カァァァァァ。

 

「~~~~~~。」

 

 レイラの脳裏に、先程スバルの言葉が蘇っては赤くなった頬を両手で覆いながら歩く。

 

「(あの言葉は……『wZERO部隊のレイラ』や『EUのレイラ中佐』、『貴族のレイラ・フォン・ブライスガウ』に向けられたものではなく……明確に、私……『個人のレイラ』のことを指したn────)」

 

 ────ゴッ!

 

 レイラは思わず曲がり角の壁に衝突すると視界中を星が散っていき、考え事は無理やり中断されて頬に置いていた手をヒリヒリと痛む額に当てる。

 

「……………………」

 

「よかったな────」

「────ひゃ?!」

 

 毒島の声が曲がり角の向こう側から来ると、レイラは猫背になりながらその場でジャンプをして体の向きを変える。

 

「(驚かされるネコそのものだな。)」

 

「さ、さ、さ、サエコさん?!」

 

「すまない、驚かすつもりはなかったのだ。 それに同い歳だからそう畏まることはない。」

 

「え?! 言動からてっきり年上かと……

 

 グサッ!

 

 レイラの小声に『年上』と書かれたメタな矢が毒島の胸を射抜き、彼女の笑みが引きつってしまう。

 

「んぐ……こ、今度のは天然からの発言か────」

「────え? なんです────?」

「────ま、まぁ良いではないか。 それにしても、初めてだぞ?」

 

「え? あ、えと? 何が“初めて”なんですか?」

 

「スバルは確かに才能がある。他の誰にも無いものがな。 そんな彼はとてつもない夢が……目標がある。」

 

 毒島はそう口にしながら、通路の窓に手を置いて外の景色を見る。

 

「だが、彼の瞳はたまに遥か遠くにある彼方を目指すあまり、自分の足元が見えていない時がある。 だから私やマーヤたちは、彼の意を出来るだけ読み取り、彼の手助けになれるよう行動している。」

 

 毒島は窓の外からレイラへと視線を移す。

 

「その過程の中で私たちは『感謝』や『評価』に『頼り』にされど……一度も“必要だ”と口にしたことは、私の知る限り今まで無かった。 そんな彼に、君はそこまで言わせたのだ。 その意味を、君は理解できるだろう?」

 

「……意味────?」

「────先ほど言ったようにスバルには才能がある。 その一つに、人の見る目に関してはあのおじい様(桐原)が舌を巻くほどなモノだ。 それに今だから言うが、私に“リョウたちを説得してくれ”と頼んだのも彼だ。」

 

「……え?」

 

 レイラは目を見開いてはパチクリとする。

 

「彼らはもともとスマイラス将軍を誘拐し、あわよくば『国外への脱出』。 または『EU軍に射殺される』覚悟で行動に出ようとしていた。 要するに自殺願望者だったのだよ、彼らは。 (まぁ、恐らくは『蜂屋長光』を所有するアヤノ君が目的だったと思うが。)」

 

「そんな……ことが────」

「────そこで不安がっている君に、彼が“必要だ”と言ったのならば、余程のことだと思う。 だから、君は自分をもっと評価すべきだ。」

 

「……それ、は……」

 

「スバルの歩もうとしている道は、異常なほどの困難に満ちている。 『茨の道』、と呼べばいいのか分からない程にな。」

 

「…………」

 

「それに、彼の目標は君の夢にも繋がっているのではないか?」

 

「え?! な、なぜそれを────?!」

「────単純なことだ。 私たちがスバルの意を読み取るように、彼という男は私たちの目標……『夢』を読み取っては叶えようとする節がある。 なら君にも、『その類の夢があっても不思議ではない』という考えだけさ。」

 

「「……………………………………」」

 

 夜の中で二人の間に静寂な時間だけが過ぎる。

 

「……そういえば、流暢なEU(フランス)語を喋るのですね?」

 

「うん? ああ、()()()()()()()()()()からな。 ()()()()()()()。」

 

「…………フフ。 ()()()()()()?」

 

「ああ。 ()()()()()()()()()()ぞ?」

 

 レイラと毒島は久しぶりに、笑顔(上部の笑み)を互いに浮かべていた。

 

 「ちょっとなにあれ怖い。」

 「絶対零度。 アブソリュートゼロ……楽器のリュート────ぐぇ。」

 「ちょっと黙ろうか、アキト?」

 

 曲がり角のさらに死角になる部分で、毒島とレイラに鉢合わせになりそうになってとっさに寄り掛かった壁が偶然にもへこんで、『亡国のアキト』の原作でリョウたちが徴兵されてヴァイスボルフ城から脱走するために使った隠し通路の入り口で、レイラたちのやり取りをアヤノとアキトがビビッて出るタイミングを完全に見失って見守っていた。

 

 余談ではあるが、『なんちゃって水炊き』に、日系人たちだけでなく城にいた皆が感心したそうな。

 

「……………………………………豆腐とマ〇ニーがない。」

 

「(だから俺はネコ型ロボットじゃない。)」

*1
47話より




( ゚д゚ ) (二回目


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第132話 『オズ』に『魔法使い』が会いに行く

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!

今度はスバル以外がやらかしてしまいます。 ご了承くださいますようお願い申しあげます。  (:.;゚;Д;゚;.:)ゞ


 帝都ペンドラゴンにある宮殿を朝日が照らす中で、シュナイゼルはカノンに渡された書類に目を通していた。

 

「(さて、そろそろか。)」

 

 コン、コン。

 

『自分です。』

 

「入りたまえ。」

 

 ガチャ。

 

「枢木スザク、参りました。」

 

 部屋のドアがノックされて向こう側からの声にシュナイゼルが応えると、ジュリアスの護衛任務の責任を皇帝の勅命で問われなかったスザクが入室する。

 

 すると、彼は部屋の端で立っていた少年二人にチラリと横眼を向けてから、シュナイゼルに視線を戻し、背筋を伸ばす。

 

「帰国早々呼びつけて悪いね、枢木卿。 楽にしてくれ……といっても、聞かないだろうね君は。」

 

「ええ、自分はこのままで充分です。」

 

「疲れているだろうに……例の、軍師殿のことは残念だったね?」

 

『皇帝直属の軍師』だっただけに、宰相のシュナイゼルでさえジュリアスの詳細を聞くことは、“皇帝の使い”と称する者に『追及するのは禁止』などを言い渡されていた。

 

「……少々、自分()()の思うようにはいきませんでした。」

 

 シュナイゼルはスザクとのわずかなやり取りと、彼の反応の仕方や仕草で『ジュリアス』という人物のことを推類していた。

 

「(なるほど……ジュリアス殿とやらは『リスクと使う“モノ”は最小に抑えて最大の効果を発揮させる』。 そして『イレギュラーな事態に対して脆い部分があった』、か。 惜しいな、私の臣下にならなくとも良い刺激(暇つぶし)になっていた筈だ。) 今日、君をわざわざ呼んだ理由は二つ。 一つ目はこの二人、『レド・オフェン』と『シュネー・ヘクセン』だ。」

 

 シュナイゼルが手でジェスチャーすると、先ほどの少年たち────一人はスザク以上の長身で、中性的な顔をして髪を伸ばした褐色のレド・オフェン。そしてもう一人はスザクと同じ身長で、金髪碧眼色白の『シュネー・ヘクセン』────が胸に手を置いて敬礼する。

 

「今まで引き延ばしていたが、貴族の議員たちがそろそろ痺れを切らすところだったので、彼らを君の直属の騎士として付けた。」

 

「……」

 

「二人ともは若いが、実力も人柄も確かだ。 親衛隊としての素質は充分あると私が保証しよう。」

 

 一見すると『スザクの為に』と言う体だが────

 

「(首に鈴……だろうね。)」

 

 ────スザクは内心、嬉しくはなかった。

 

 何せいくら鈍感な彼でも、こう何度もシュナイゼルとやり取りを続けていれば、彼からは『嫌な予感』しか出てこないことに気付く。

 

 そして、彼の『嫌な予感』は大抵の場合、当たってしまう。

 

 皇帝のシャルルでさえ、スザクには『宰相、アレ(シュナイゼル)の周りにいるときは気を付けろ』などのことを口にしている。

 

「これで一応、君の────『ラウンズの親衛隊』という形が出来上がる。 名称は好きにつけるといい。」

 

「イエス、ユアハイネス。」

 

「さて、二つ目のことだが……現在のEUの国はともかく、軍部が内部分裂を起こすかもしれないという情報が入っている。 もしもの場合に備えて、君たち三人にはベラルーシに向かってほしい。」

 

 「軍部が内部分裂────?」

「────枢木卿、EUのジィーン・スマイラス将軍に何かあったのですか?」

 

 ハテナマークを頭上に出すシュネーの独り言に、隣のレドがスザクに問いかける。

 

「……ジィーン・スマイラス将軍が戦死した。」

 

「なるほど……ありがとうございます。」

 

「???」

 

 更にハテナマークを出すシュネーの疑問を失くすためにか、シュナイゼルが口を開ける。

 

「要するに、『徹底抗戦すべき』と『和平交渉すべき』という勢力に、EU軍が分かれる確率が高いということだ。 そして前者を叩けば、EUへの交渉カードになるとともに力を削げる。 そしてベラルーシでは、スマイラス将軍に代わる強硬派の支柱になる人物が、残存軍の再編成を行っている。 今まで彼らとやりあったユーロ・ブリタニアの情報通りだと、守りに関しては一流だ。 勿論、ユーロ・ブリタニアに送った正規兵で足りればそれに越したことはない。 だが万が一のことを考え、ラウンズの投入も視野に入れている。 分ったかい?」

 

「「「イエス、ユアハイネス!」」」

 

「では下がっていいよ。 こちらからまた連絡する。」

 

 スザクたちが退室し、彼ら三人のブーツが通路内に響く音だけが続く。

 

 言葉はなく、ただ静かな時間が過ぎると、スザクは自分をチラチラと盗み見るシュネーのことに気付く。

 

「どうした、シュネー?」

 

「へぁ?! あ、いえ! その……」

 

 戸惑うシュネーはまさか、初っ端から名前で呼ばれるとは思っていなかった。

 

 実は、彼は新大陸の(地方ではあるが)アイダホ地区内のヘクセン領の、ヘクセン家次期当主であり貴族である。

 

 しかも、相手はラウンズとはいえ()()()()()()()()()()

 

「シュネーは恐らく、闘技場での活躍を思い出しただけでしょう。 あの立ち回りは見事なモノでしたから。」

 

「ああ、あの就任式のイザコザ時に二人もいたのかい?」

 

「ええ、枢木卿。 一応、中央から離れた場所でしたが。」

 

「そうか……それと、君たちの歳は幾つだい?」

 

「私は今年で17です。」

 

「オレはあと数か月で18になります。」

 

「そうか……じゃあ、何か食べに行かないか?」

 

「「…………………………はい?」」

 

「実は朝ごはん、まだなんだ。」

 

 さっきまできびきびとした空気はどこに行ったのか、スザクの緩くなった雰囲気と突拍子もない提案(?)にポカンとする。

 

「ああ、ごめん。 まさか『コノエ(近衛)ナイツ(騎士団)』として初めて行動するのが『朝ごはんを食べる』なんて────」

「「────コノエナイツ????」」

 

 頭をかしげたシュネーとレドに対し、スザクは子供っぽい照れ顔をして頬を指で掻く。

 

「君たち親衛隊の名称だよ。」

 

「「ハァ……」」

 

 よく分からないまま、新しく上司となったスザクにシュネーとレドはそのまま付き添ったそうな。

 

 そしてシュナイゼルの予想通りに、EUの強硬派が唱える『自治を守るための徹底抗戦』の大義名分のもとに、多くのEU軍が馳せ参じることとなったことをスザクたちが聞くのは次の日だった。

 

 ………

 ……

 …

 

『ベラルーシ戦線』と呼ばれている戦場に、シュナイゼルやスザクを乗せたG1ベースがユーロ・ブリタニア軍と合流して、共に『氷雪の荒鷹』の二つ名を持つロメロ・バルクライ将軍率いるEU軍がいると思われる場所に進軍していた。

 

「なぁレド? 枢木卿のことをどう思う?」

 

 ナイトメア内での待機命令を出されて、自分たちにチューンした機体に乗り込むシュネーに不安そうなレドに問う。

 

「“どう”って?」

 

「茶化すな。 “あんな奴の部下になって、私たちは大丈夫なのか?”と私は聞いているんだ。 あいつはイレヴンだぞ?」

 

「確かに、枢木卿はイレヴンだが実力は本物だ。 それはもう就任式の決闘で見ただろう? それに宰相閣下が期待しているほどの────って、誰かに何か言われたのか?」

 

 「『誰か』なんてものじゃないよレド! お父様や母様に親戚たちが全員、口をそろえて“ナンバーズの部下になるなんて一族の恥だ!”みたいな言い草だ!」

 

「ハァ……そんなことを言えば、オレなんて平民だぞシュネー?」

 

 自分の行ったことにシュネーはギョッとして慌てる。

 

「あ、いやでも……君は()()()ブリタニア人だろう────?!」

「────そんなオレでも、周りからいつも噂されているんだ。 “どうやって騎士に出世した。平民のくせに”って。」

 

「………………いや、私は────」

「────陰口を言う奴らは、実力がない連中ばかりだ────」

「────私は違う! 私はこんな話を君としたいわけじゃ────!」

「────分かっているよ。」

 

 レドがニヒルな笑みを浮かべ、シュネーはからかわれていたことに複雑な顔を上げる。

 

「だ、だから茶化すな────!」

「────ハイハイ。」

 

 実はこの二人、騎士学校からの同期である。

 

 シュネーは貴族では珍しく、良い意味でも悪い意味でも『裏表が持てない程に不器用ながら、貴族の対面を気にせず周りと接して友情を人として重んじる』タイプである。

 

 ナンバーズへの偏見や『平民は貴族の為に存在する精神』も彼自身の考えではなく、両親やブリタニアの社会の教えから由来していて彼自身は実際どうでもいい(というか面倒くさい)。

 

 レドはブリタニア人だが平民で、ある意味スザクのように()()()()で騎士となった。

 勿論、基本的に貴族のみが入学する騎士学校では白い目で見られたり、苛めも受けていたが、シュネーの『ノブレス・オブリージュ(位高ければ徳高きを要す)精神』で助けられてから友情が芽生えた。

 

 シュネーは淡いグレーのサザーランドにモヤモヤしながら乗りこむ。

 

 彼が騎乗したのは『サザーランド・スナイパー(先行型)』で、本体はサザーランドのままだが右腕にもつリニアライフルと連結する独自のファクトスフィアで、後方支援からの射撃精度を上げている。

 

 レドも乗り込むのは深いグレーのサザーランドであり、こちらは検証実験中のブレイズルミナスのシールドを左腕に付け、武器はランスロット・クラブの開発過程で生まれた銃剣付きの可変アサルトライフルを装備している。

 

 尚『なんで銃剣?』という問いに、ロイドは『僕だって頭の悪そうで非現実的かつ効果的な武器を作れることを証明するんだぁぁぁぁぁ!』と、意味不明なことを叫びながら泣いていたそうな。

 

 ドドォン……ドォン……

 

 G1ベースの装甲越しでも聞こえてくる爆音が艦隊特有の砲撃戦の始まりを示し、レドとシュネーは出撃命令を受けてG1ベースを出て、スザクのランスロット・エアキャヴァルリーを先頭に敵陣に向かう。

 

『先行して敵の攪乱をします。』

 

 それだけを言い残し、ランスロットはフロートユニットを噴射させて森林地帯を一気に出ては、敵のパンツアー・フンメルが陣を張っている丘を、敵の砲撃を避けながら突貫する。

 

『(流石ランスロット、いやラウンズか?! あれだけの敵陣を突破する機動力と実力……なんと────)────ハ?! お、後れを取るな! 我々も続くぞ!』

 

 一瞬スザクの単騎特攻に呆気に取られていたシュネーは、移動しながらライフルで敵の機体を撃破していき────

 

 ガキィン

 

『────油断するなよシュネー。』

 

 レドの機体がブレイズルミナスを展開してシュネーへの砲撃を防いで、アサルトライフルで弾幕を張る。

 

『油断ではない! 余裕だ! お前がいるからn────』

『────盾が展開型なのは少し、冷や冷やするな────』

『────人が話しているのに無視するな!』

 

 シュネーとレドの部隊内通信を聞いていたスザクは苦笑いを浮かべるが、先ほどから感じる『嫌な予感』に悩まされていた。

 

「(おかしい。 敵陣への侵入が簡単すぎる。 これじゃあ、まるで────)」

『────うわぁぁぁぁ?!』

 

 考え中のスザクに、友軍の慌てる通信とマップ画面に後方から次々と敵影らしき識別信号が出てくる。

 

『どうした?!』

『じ、地面の中から────!』

『────伏兵だ! 反転────!』

『────食らえ、ブリタニアァァァ!!!』

 

 地面から数々のパンツアー・フンメルが出ては、背後を見せていたブリタニア軍に発砲し始めると、今では数少ないEUのリヴァイアサン級陸上戦艦の砲撃が雨霰のように降り注ぐ。

 

 無論このような強襲をかけた友軍が敵と近ければ艦砲射撃をしないのが道理だが、ロメロ・バルクライ将軍と彼の部下たちはそれを承知の上で死兵となり、『無敵とうたわれるラウンズを殺す』という所業を成すためだけに作戦を行っていた。

 

 よってパンツアー・フンメルは例外なく機能停止するまで戦い、いざとなれば接近してきたブリタニア軍に接近戦が不利なことを逆手にとって特攻をかけ、ブリタニア軍を躊躇させた。

 

『これはヤバいなレド!』

 

『こいつら、初めから死ぬ気で戦っている!』

 

『大丈夫かシュネー、レド!』

 

 ドォン!!!

 

『『枢木卿?!』』

 

 シュネーやレドは『コノエナイツ』としての初陣だが持ちこたえ、さっきまで敵陣の中心にいたスザクは引き返して瞬く間に二人にしがみついていたパンツアー・フンメルを無力化したが、敵の砲撃が近くで着弾する。

 

『ラウンズだ!』

『殺せぇぇぇぇぇ!』

『撃って撃って撃ちまくれぇぇぇ!』

 

「くッ! (このままじゃ、俺だけじゃなく皆が死────)」

 【────生きろ!】

 

 周りのEU軍すべてがスザクのランスロットを目視すると、全員が彼だけに集中攻撃を浴びさせた瞬間、死を覚悟したスザクはどこか懐かしい声を聞いたと思った矢先に意識がブツリと切れる。

 

 「俺は、生きる!」

 

 

 

 この日、ロメロ・バルクライ将軍率いるEU軍の大隊はシュナイゼルの一個小隊に完全敗北することとなる。

 

 確かにシュナイゼルはラウンズであるジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイム、そしてルキアーノ・ブラッドリーを連れていたので、戦力的にブリタニアは有利だった。

 

 だが彼らラウンズが投入された時点では敵は大方討伐され、将軍もルキアーノがあと一歩といったところで横からランスロットが沈黙化させていた。

 

 このことに関して、ルキアーノは激怒して思わずランスロットに決闘を申し込むが、ジノの話術で『スザクの手柄』から『ラウンズの勝利』という風になだめられ、事は収まった。

 

「(……フム。)」

 

 その様子を、シュナイゼルは鑑賞していた。

 

「(やはり枢木卿は、島の一件以来から時たま目覚ましい活躍をするようになった。 もしこれがゲフィオンディスターバーの副産物なら、マリーベルの筆頭騎士にも変化が出ているかもしれない……前回の調査では『異常無し』と返ってきたが、もう一度検査してもらおう。)」

 

「(あら、閣下が珍しくワクワクしているわ。 スザク君が無事だったからホッとしているのかしら?)」

 

 そう思うカノンに『そんなことはないのである』と、彼の考えを察したものならばそうツッコむだろう。

 

 ……

 …

 

 シュナイゼルが珍しくウキウキしているほぼ同時刻のヴァイスボルフ城では『ガリア・グランデ』の改装が終わり、城を出立する際のスバルの目からハイライトが消えていた

 

 「私が来たからには大船に乗ったつもりでいなさい!」

 

 彼の前には『フフン!』と高らかなアホ毛がアーチを作ってハートマークにどや顔をして、持ってきた物資などを地面に置いてから腕を組むアンジュがいた。

 

 「(その船が泥船の予感しかないのだが。)」

 

「安心してください、私も今回はご一緒しますから。」

 

 そこにマーヤがニッコリとするが────

 

「(不安しかねぇぇぇぇぇぇ!!!)」

 

 ────スバルはポーカーフェイスを維持しながら内心焦り、とあることに気が付く。

 

「ちょっと待てアンジュ。 『客人』はどうした?」

 

「んぇ? ああ、あの子ならもう大丈夫っしょ! 仮にも英才教育と私たちから『常識』を習っているし、桐原さんもいるし!!」

 

「・ ・ ・」

 

 スバルは静かに手を痛み出す腹の上に添えた。

 

「あの……」

 

 そこにEU語から標準()語に言語を変えたレイラがおずおずと声をかける。

 

()()()()()さんは────」

 「────ブフ?! しゅ、『シュバール』って────」

「────これから帰還するのではないのですか?」

 

 スバルのあだ名(というか間違った発音)を聞いたアンジュは、思わずくぐもった笑いを出しそうになる。

 

「……ああ、しない。 これからブリタニア本国に潜入する。」

 

 「「「「「ファ?!」」」」」

 

 スバルの言葉を聞いた者たち(主にwZERO部隊)が、素っ頓狂な声を出す。

 

「うわぁ……やっぱ彼、面白いね♪」

 

「流石兄貴だ────」

「────“兄貴”?」

 

「オレだ。」

兄さん(シン)だったのか。」

「そうだぞアキト。」

「なるほど。」

 

 ベシ!

 

 アヤノはアキトの頭を叩き、包帯をしたシンの腕をギュッとアリス・シャイングは力を入れて掴む。

 

「ヒュウガ様が何かジョークを言ったような気がする。」

 

「あら、久しぶりね。 あの子、たまに老け────コホン。 見た目にそぐわないことを言いますからね。」

 

 そして別の場所でほかの者たちと一緒にいたジャンがそういうと、マリア・シャイングが懐かしく一言を出す。

 

 ……

 …

 

 ドドン、ドドン、ドドン、ドドン、ドドン!

 

 エリア11を脱出した黒の騎士団の主な幹部たちが隠れ蓑としている、中華連邦の辺境にある一部で、今日もリズミカルな『誰かがサンドバッグを殴る』という日課をこなしていた。

 

 ひっそりとした場所で、よく支援部隊の隊長として活躍していた井上が救護班のように端でスタンバイしていた。

 

 箒と塵取りを壁にかけたすぐ横で。

 

 彼女が見ている先では、汗が頬や特徴的な赤い髪を伝わせながら、一定間の時間差でボロボロのサンドバッグを殴るカレンがいた。

 

「フッ! フッ! フッ! フッ!」

 

 肩を綺麗に撃ち抜かれていたとはいえ重症だった彼女は、ようやく数か月間感じていたイラつきを、最近ではリハビリ(という名のストレス発散)でぶつけていた。

 

「しっかし彼女、かなりスタミナありますねぇ~。」

 

「下手したら年の近いお前よりもありそうだぞ、朝比奈。」

 

「それはそれでちょっと傷つくかなぁ~……んで? 卜部さんからどうなの?」

 

 そんなカレンを四聖剣の朝比奈と仙波は壁に背を預けながら、目覚ましのコーヒーを持って近づいてくる卜部に問いかける。

 

 原作とは違い、藤堂が自ら囮になったことでブラックリベリオン時に四聖剣の四人の内三人が無事に脱出できていた。

 

「彼女はすごい人材だ。」

 

「だな。 ナイトメアの操縦技術に対人訓練……斬新な武術を仕込まれている感じで、卜部が『本気を出しても勝てるかどうか』と言わせるぐらいだからな。」

 

「へぇ~、そりゃまた……彼女がもう少し早く生まれていて、日本帝国軍にいたらね……って卜部さん、何しているの?」

 

「ん? 俺好みに味の調整だが?」

 

 朝比奈が見たのはコーヒーのコップを片手に砂糖ではなく、()()()スプーンですくいあげてそのままモクモクと湯気を出す熱いコーヒーに入れてかき混ぜる卜部だった。

 

「いやいやいやいや! それはないだろう卜部?! おわっとととと! ええい、これでは“らて”と呼ばれるものではないか! ……胃が荒れないだろうか。」

 

 ギョッとした仙波は、ミルクを入れる途中でツッコミをして思わず想定していた量以上に入れてしまったことに苦い顔をする。

 

「そうそう! 仙波さんの言う通りですよ! コーヒーに味噌なんて、邪道ですよ!」

 

 仙波がウンウンと頷くきながら、新しいコーヒーをポットから入れなおす。

 

 「コーヒーには醤油が基本でしょう?!」

 

 「それも違────どわっちちちちちちちちちちちちち?!

 

 マイ醤油入れを出す朝比奈に仙波ツッコミを入れると、今度はポットのコーヒーが自分の手にかかってしまい、慌てだす。

 

 ドン! バチン!

 

 今まで以上に重い音に続いて布が破裂する音がピリピリとした大気に響く。

 

 朝比奈、仙波、卜部は思わず音がした方向を見ると、ギラギラと血走った眼をしてサンドバッグに片手を埋め込ませたカレンに睨まれていることに気付き、三人の血の気が引いていく。

 

 「ごめん。 ちょっと気が散るから黙っていてください。」

 

「「「ア、ハイ。」」」

 

 「井上さん、次のサンドバッグを用意してくる。」

 

 サァァァァァァァァァァァァァァァァァ。

 

 カレンはサンドバッグカバーを貫通した拳を引くと、中から砂が滝のように出て床に落ちていき、四聖剣の三人はそそくさとその場を去る。

 

「うん、やはり味噌はいいな。 どんな日本人でも安らぎを感じる味だ。」

「いやいや、醤油でしょう。」

「(うぇ。)」

 

 卜部は味噌、そして朝比奈は醤油がたっぷり入ったコーヒーを飲み、それを見た仙波は何とも言えない表情を浮かべ、井上は塵取りで拾い上げた砂を捨てに外へと出ていく。

 

「(なんだろう……スッゴイモヤモヤする。 CCもアンジュさんもなんか居なくなっているし、EUとブリタニア本国ではテロが起きるし……昴は、大丈夫だよね? ケガ……はしているかもしれないけれど……)」

 

 胸にちくりとする痛みを息が乱れた所為にしながら、カレンは次のサンドバッグを設置してから、またもジャブをリハビリを再開するところで横から声がかかる。

 

「あの、水分補給をしなくてもいいんですか?」

 

「んぁ?」

 

 カレンが横を見ると、そこには見慣れないピンクの髪を団子に上げ、サングラスと帽子をした少女がタオルと水を持っている姿が────

 

「(────あれ? 私この子を見たことあるような……) ああ、ありがとう。 お水だけ頂くよ。」

 

 カレンは水の入ったペットボトルを受け取り、ジッと『見たことがあるような少女』を見る。

 

「え、えっと……何か────?」

 

 ────コロコロコロコロコロコロコロ。

 

 そこにピンク色をした球体の何かが地面を転がって二人に近づいては音声を出す。

 

ハロー!

 

「あらピンクちゃん、ここまで追ってきたの?」

 

「(“ピンクちゃん”って、よくわからないネーミングセンスね。)」 ←ラッコのぬいぐるみを『タバタッチ』と命名した人

 

 帽子とサングラスをした少女が球体をすくいあげると、球体は耳のようなものをパタパタさせる。

 

「……! 貴方は島の?!」

 

「(“島”?)」

 

「髪型が違うので気が付きませんでした!」

 

()()()()()()! ハロー!

 

 「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

 カレンは盛大に口に含んでいた水をふき出し、見事な霧で小さな虹を発生させた。

 

 ……

 …

 

 別の場所では、ぎっくり腰になって身動きが取れなくなった桐原が見つかって、黒の騎士団員は慌てていたそうな。

 

「(あの娘……やりおる!)」

 

 そう桐原は思っていたが、『ギックリ腰の理由は単純に歳である』とここに記入したい。




次話から本格的に『オズ編(?)』のスタートを予定しております。 (汗


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第133話 愉快なオズたちに新たな仲間。 別件で魔女。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。

誤字報告、誠にありがとうございます。
お手数をおかけしております。 m(_ _)m


 帝都ペンドラゴンは晴天のもと今日も輝いていた。

 

 その中でナイトメアと人員不足だったグリンダ騎士団のグランベリーが停泊中の滑走路に、新たな機体が降り立つ。

 

 この様子をマリーベル、そしてグリンダ騎士団の『パトロン』となっているシュナイゼルが見る。

 

「あれが────」

「────そう、『ブラッドフォード』だよ。 シュタイナー・コンツェルンで、今では辞めてしまったミルベル博士が主任として開発を行っていた可変機能を備えた実験機体。」

 

 型式番号RZX-3F7、第六世代KMFの『ブラッドフォード』はシュナイゼルが上記で口にしたように、ブリタニアでは初となる可変型のナイトメアで、ロイドの開発したフロートシステムに頼らず、効率的かつ小型化された電力駆動プラズマ推力モーターによって飛行を可能とさせている機体だった。

 

 ブラッドフォードがグランベリーの近くで止まり、推力モーターの電源が落ちるとコックピットからショートカットで割と小柄な少女が下りてくる。

 

「そして彼女が新たな騎士であるマリーカ・ソレイシィ卿だ。 元はコーネリアの従士かつ訓練生であり、その後は士官学校主席の操縦技術を買われてシュタイナー・コンツェルンのテストパイロットを務めていた。」

 

「『マリーカ・ソレイシィ』? ……まさか、レオンハルトの許嫁の?」

 

「ああ、それと彼女の兄上は純血派のキューエル卿だ。 彼はエリア11で重傷を負って精神に支障をきたし、療養所から姿を消して行方不明のままだ。」

 

「エリア11……もしや────?」

「────ああ。 彼女はテロリストと思われる者により兄を実質上亡くし、許嫁は重傷を負った。 この転属は、彼女の意思から来ているものだよ。」

 

「(テロリストに、家族を……)」

 

「それと、今週末に届く予定だけれど『ゼットランド』も来るよ。」

 

 型式番号RZX-6DD、『ブラッドフォード』と同じく第六世代KMFの『ゼットランド』。

 

 後にラウンズのアーニャ・アールストレイム用のモルドレッドの土台となる試作機であり、シルエットや武装などすべて含めてモルドレッドの下位互換版である。

 

 だが、モルドレッドは『一騎当千』を前提に設計し直されたことで『ラウンズオンリー』の強化などをほどかされている代わりにゼットランドに備えられている『他機との連結機能』などを失っている。

 『モルドレッドの前段階』である通常のゼットランドならばやはりコストは高いが、量産は一応可能となっている。

 

「どんどんと軍備が整えられていますね。」

 

「そうだね。 だから期待しているよマリーベル。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『クゥ~ン。』

 

『こらこら君たち、僕はお母さんじゃないよ。』

 

「「かっわいい~~~~!!♡」」

 

 帝都ペンドラゴンの中央軍病院では、休んでいたグリンダ騎士団のソキアとトトがテレビ放送を見ながら年相応の少女のようにキャピキャピとしていた。

 

 顔文字で表すとソキアは『(๑♡▽♡๑)』の顔を。

 そしてトトは独自の犬耳系の髪型もあって『。:゚૮ ˶> ﻌ <˶ ა ゚:。』である。

 

 二人が魅入られていたテレビには、サンディエゴで新しく出来たサファリの視察に来ていた、髭を生やして人懐っこそうな男性がヒョウの子供とじゃれている場面が映し出されていた。

 

 さて、忘れがちになりそうかもしれないが、ブリタニア帝国の宰相であるシュナイゼル・エル・ブリタニアは()()()()である。

 

 注目すべきポイントは、『ブリタニアのナンバー2が第二皇子であって第一皇子ではない』こと。

 

 次に自然と浮かぶであろう質問はこうだろう。

 

 “宰相が第二皇子なら第一皇子、つまり『皇位継承権第一位』は誰だ?”、と。

 

 何を隠そう、ソキアとトトが見ているテレビの中で映し出されている人のよさそうでのほほんとした男性こそが、第1皇子かつ皇位継承権第1位の『オデュッセウス・ウ・ブリタニア』である。

 

 それでも大抵の者は“だから誰?”と思うのは仕方のない事だろう、何せ彼は原作コードギアスの一期に出てきているものの、パッとしない登場である上に目立った言動は何もなく、ただオロオロと狼狽えるだけだった。

 

 逆にこう言えばやっと思い出せる程度だろうか?

 

『コードギアスR2で天子の婚約者となったブリタニアのおっさんパッとしない青年』、と。

 

 脱線しかけたが、そんな彼を見たソキアやトトが興奮する横では、イラつきをほぼ隠され切れずにいたオルドリンが運動棒を今日もビョンビョンさせていた。

 

「もうなんなのよもう! 『もう一度検査するから』と朝に言われてまさか夜まで続くなんて! 一日が潰れて最・悪!」

 

「お前ら……ここが俺とティンクの病室だと忘れていないか?」

 

 我が物顔で部屋にいたオルドリン、トト、ソキアにそうレオンハルトは声をかけるが、彼の言葉は耳に入った様子はなかった。

 

 「ブツブツブツブツブツブツ……」

「可愛い~♡」

「にゃー♡」

 

 レオンハルトのイラつきを抑えようと、ニコニコしていたティンクは読んでいた『ヤングトップ』から目を離して口を開ける。

 

「まぁまぁ。 オズ(オルドリン)も大変だったろうけれど、理由はあるんだ。 知り合いに聞いたのだけれど、前にゲフィオンディスターバーを受けた騎士が時々()()()()()()ようになったらしいんだ。」

 

「『凶暴性が増す』って……何ウェアウルフ(狼男)よ、それ?」

 

「満月とかは関係ないよオズ。 でも真面目な話、その騎士は上官の命令を無視したり、独断行動や味方の陣形を無視して、単機で敵陣に特攻を仕掛けたりするようになったみたいなんだ。」

 

「なんだ。 今のオズと変わらないじゃん────」

 「────ギプス叩くわよレオンハルト。」

 

「前にも言ったけれど、ゲフィオンディスターバーがどのような影響を人体に与えるか分からないから『入院しろ』という命令が下ったんだと思うよ?」

 

「それはそうとトトにソキア。 テレビに映ったオデュッセウス殿下を見て“可愛い”なんて、下手したら不敬罪で訴えられるわよ?」

 

「(出た、指摘されたら話題を変えるオズの癖。)」

 

 オルドリンの声、にソキアとトトが抗議(?)をする。

 

「だって可愛いじゃない!」

「そうです!」

 「毛がもっふもふ!」

 「そうです、毛! 殿()()かわいいです!」

 

 「「「……………………………………………………え?」」」

 

 オルドリン、レオンハルト、ソキアの注目に気付いたトトは、先ほどの『フンス!』と興奮した顔をスンとしたものに変えて、何事もなかったように振舞う。

 

「大丈夫だよ。 『第一皇子殿下に癒され隊』という大規模なファンクラブが女性士官や貴族を中心にあるほどだし、ブリタニアの女性なら誰でも加入できるらしいからサポートを得られるよ? 非公式だけれど。」

 

「ティンク……何でそんなことを知っているの?」

 

「ハッハッハ。」

 

 「ティンクさん! その話、もっとぜひ詳しく!」

 

「……俺も髭、生やそうかな?」

 

 オルドリンの質問にティンクは笑いだけで答えると、ジヴォン家メイドのトトは興味津々になる姿を見て、レオンハルトは髭を生やした自分を想像しようとする。

 

「レオン、前から言っているけれど君にはもう既に相手が────」

「────憧れてもその辺は理解しています。 親が決めたとはいえ、許嫁は許嫁ですから────」

 

 ────コン、コン。

 

「「「「はい?」」」」

 

 病室のドアがノックされてオルドリンたちが声を出すと、ブリタニアの軍服に着替えたマリーカが余所余所しく部屋に入ってくる。

 

「あ、えっと……ここにレオンハルトが居ると聞いて────」

「────あれ? マリーカさん? なんでここに? ブラッドフォードのテストパイロットを────?」

「────レオンは聞いていなかったのかい? 彼女、今日から正式なグリンダ騎士団の一員だよ?」

 

「だから何でティンクはそんなことを知っているの?」

 

「ハッハッハ。」

 

 マリーカは弁当箱を手に持ちながら部屋に入り、ぺこりと頭を下げる。

 

「あ、えっと初めまして。 レオンハルトの許嫁であり、今日からグリンダ騎士団に配属されたマリーカ・ソレイシィです。 彼がいつもお世話になっています。」

 

「「「許嫁?」」」

 

 オルドリンたち女性陣はレオンハルトを見るが、彼はどこか複雑そうな顔をしていた。

 

「あ、ああ。 家同士が決めたんだ────」

「────マリーカちゃんってば可愛いにゃ~! 何歳?」

 

「ええと、14歳です。」

 

「ほっほ~? わっかいねぇ~。」

 

 余談だが、そう言いながらニヤニヤした顔をレオンハルトに向けるソキアは16歳である。

 

「ソキア、何を考えているか分からないが、親が決めたことだからな?」

 

 またまた余談だが、レオンハルトはこの時点で18歳だと記入したい。

 

「マリーカたん、その手に持っているものは何かにゃ~?」

 

「「「「(『マリーカたん』。)」」」」

 

「あ、差し入れのミートパイです。 少し多めに作ったので、皆さんも食べますか?」

 

「お、良いのかい?」

 

「わは~い! 味気ない病人食から解放だにゃ~!」

 

 マリーカはにっこりと愛想笑いをして持っているものを上げると、ティンクとソキアが嬉しがるが、レオンハルトは『恥ずかしさ』や『緊張』などとは別の『嫌な汗』が身体中から出す。

 

「あ、あの……皆────」

「────良い匂いね! 私も貰おうかしら!」

 

 レオンハルトは何か言いたそうになっていたが、キラキラした笑顔のオルドリンがミートパイをもらったことが決め手となって口をつぐんだ。

 

「「パクッ! モグモ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」

 

 オルドリンとソキアがホカホカのミートパイに噛り付いてモグモグと噛みだすと、ほぼ次の瞬間、全身が固まる。

 

「あー、皆? 我慢すればするほど、酷くなるよ?」

 

 レオンハルトがそう(助言)を出した瞬間、マリーカのミートパイを口にしたソキアとオルドリンの顔が赤くなっては涙目になり、口を両手で覆いながらプルプルとただ震える。

 

「へぇー。 刺激的な辛さだね。」

 

 一人だけ平然としていたティンクはいつも浮かべている笑みを崩さず、ただミートパイを称賛する。

 

「あー、ティンク?」

 

「なんだい、レオン?」

 

「美味しい……よね?」

 

「うん? そうだね、()()()()ピリピリする辛さだけど美味しいよ? 正直レオンが羨ましいぐらいだよ。」

 

「こちらがレオンハルトの分です。」

 

 レオンハルトの視線の先では、マリーカが特大サイズのミートパイを乗せたトレイを彼の前に置いた。

 

「…………………………………………………………………………」

 

「マリーカ嬢がグリンダ騎士団に来たのは、やはりレオンが理由かい?」

 

 ダラダラと嫌な汗を流すレオンハルトの横でティンクが助け舟を出す。

 

「ミルベル主任が居なくなった今では、試作機のブラッドフォードを扱えるのは私かレオンハルトだけですので、自然とそうなりました。 それに……」

 

 マリーカはソキアの方を見る。

 

「うんにゃ? ああ、これは恥ずかしいにゃー。 私がブルっちゃったから代わりとして来た?」

 

「ソキアさんは競技KMFリーグでも有数の選手と聞きました。 それに、大手メーカーなどの専属モデルとしても活躍していたと。 なぜ、ブリタニア軍に志願したのですか?」

 

「「「(そう言えば……)」」」

 

 マリーカが質問したことで、オルドリンたちは今更ながらに気が付く。

 

 オルドリンたちは全員少なからず『軍』と何らかの関わり合いがあるが、ソキアは貴族であるが元々民間人であり、衣住食やお金に困ってはいない背景を持つ。

 

 その所為で、彼女はCSR(戦闘ストレス反応)を示して、今では『コックピット恐怖症』に似た症状を見せていた。

 

「う~ん、そうは言うけれどねマリーカたん? エリア11で多くのブリタニア人が皇族含めて犠牲になったり行方不明になってから、競技KMFリーグを楽しめる空気じゃなくなっちゃったんだ。 だから『全エリア平定』の為にブリタニアの剣になったのさ。」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 何時もおちゃらけている様子が印象的なソキアから、意外と真剣な答えと表情が出てきたことにオルドリンたちはポカンとする。

 

 「まぁ今ではこの有様なんだけれどにゃー!」

 

 「「いまので台無しだよ!」」

 

 オルドリンとレオンハルトが『にゃはー! (=>ω<=)』と照れるソキアにツッコミを入れる。

 

 グリンダ騎士団は新たな騎士を加えながら、今日もゆっくりと和んでいたところに『開催される女子KMFリーグの特別プログラムのジョスト&フォーメーション』へのデモンストレーションへの招待が決まったことを、マリーベル直々にオルドリンたちに伝える。

 

『ジョスト&フォーメーション』とは、対峙するように競技場のコースを『クイーン』と呼ばれる司令塔(リーダー)を守りつつ先に8週したチームが勝つといった、コードギアスではナイトメアを利用したポピュラーな競技の一つである。

 

 「よっしゃー!」

 

 ベシ

 

「落ち着きなさいソキア!」

 

「へぇ、女子KMFリーグかぁ。 レオン、今度こそ僕たちはゆっくりできるみたいだね?」

 

「だと良いのだけれどね……」

 

「え? え? え?」

 

 皇女殿下の御前だというのに、はしゃぐソキアやそんな彼女を諫めるオルドリンに、のほほんとしたティンクの態度にマリーカは目を点にさせる。

 

「この人気プレイヤーソキア様が居ることで優勝は確実だー! でもでも、もっと確実にさせる為に所属していた『ファイヤーボールズ』にも召集を────!」

「────それは無理ですソキア。 デモンストレーションの相手は今季優勝チームですから。」

 

 マリーベルの言葉に、ソキアが銅像のように固まる。

 

「え?」

 

「ですから、グリンダ騎士団の相手はソキアの所属していた『ファイヤーボールズ』です。」

 

 「にゃああああああああ?! そんにゃあああああああああ?!」

 

 ソキアは頭を抱えてジタバタと悶える。

 

「あー……ソキアでも気落ちするんだ────」

 「────チームの人数が足りないにゃ!」

 

「「「そこなの?!」」」

 

「五人は必要にゃ! 私とオルドリンとトトとマリーカたんを入れても、あと一人足りないにゃ!」

 

「人数の件なら問題ないわソキア。」

 

「なるほどその手がありましたか! レオンハルトに女装をさせるんですね?!」

 

「無茶を言うなソキア! するか!」

 

「イケると思うのだけれどにゃー……」

 

 「女装したレオンハルト……お姉様……(ポッ)」

 

 さっきまで宇宙を漂うような表情をしていたマリーカは、女装したレオンハルトを想像して思わず頬をほんのりと紅に染める。

 

「私が、クイーン(司令塔)を務めますから。」

 

 マリーベルがそう言い放つと、その部屋の中にいた全員が唖然とする。

 

「だから私を守ってね、オルドリン♡」

 

 グリンダ騎士団の騎士は新人のマリーカ含めて、全員宇宙を漂うネコのような顔をニコニコとするマリーベルの前でしたそうな。

 

 

 


 

 

 ヴァイスボルフ城を旅立ってから少しだけ時間が過ぎ、(スヴェン)は今帝都ペンドラゴンのメインストリートに夢を見ているような感覚のまま立っていた。

 

 一つの理由としては、でかでかとしたスポーツ用品の大手メーカー『DURANDAL(デュランダル)』の広告だった。

 

 その広告には少女がDURANDALロゴの入ったマウンテンバイクにまたがりながら、背後を向きながらウィンクしていた。

 

『もしかして?』と思い、彼女の履いていたDURANDALロゴ入りホットパンツ越しでも分かる立派で程よい形をした臀部のすぐ横にでかでかと書かれていた文章で、少女の正体が確信へと変わる。

 

『“ザ・クラッシャー”が乗っても履いても壊れない! 安心、安全のDURANDALクオリティ!』

 

 競技KMFリーグに『ザ・ヒート』の異名を持つ選手が居たりして。

 

 ……負けな~いぜ♪ 負けな~いぜ♪ 負けな~いぜ~♪

 

 ……………………………………うん。

 落ち着こうか、俺?

 一瞬ワケも理由も元手も分からない、暑苦しいような歌詞を思い浮かべたが────

 

「────ふぅ~ん? スヴ────()()()はああいうのが好きなんだ?」

 

 そして隣から来るアンジュの声に、俺はハッとして『仮面』を付けなおす。

 

「いやだなぁ~、新しく設立されたグリンダ騎士団の一員が載っていたからだよんアンネ(アンジュ)ちゃん♪ (キラッ」

 

 「ブフ!」

 

 笑うな。

 

 俺だって『チャラ男の仮面』は初めてだ。

 正直ムズムズする。

 

「まぁまぁ。 兄さんも()()()の前で、ジッと女性を写した広告を見るのは止めた方が良いと思うわ。」

 

「ヘイヘイ、()ーヤの言うとおりにするとしよう。」

 

 とまぁ、察せる通り俺とアンジュにマーヤは偽名+変装をしている。

 

 俺とマーヤはブリタニア人としてはありきたりな金髪に髪の色を変え、俺は目の色をマーヤに合わせた青のコンタクトレンズをしている。

 

 設定としては『俺と病弱だった妹の為に、婚約者であるアンジュがコネを使って特別に開かれるKMFリーグのチケットを得て、久しぶりに帝都へ戻ってきた留学生たち』だ。

 

 と、これだけで現実逃避や癒しを求める俺ではないぞ?

 

 俺がソキアの広告を見たのは、単純にヴァイスボルフ城を出る時に、()()()()()()()()()()()()()()にかかってきた電話を思い出し、頭痛がし始めて空を仰ごうとしたら広告があっただけだ。*1

 

 誰がソキアのポーズを決めたから知らんがナイスなチョイスだ。

 

 また脱線した、すまない。

 

 俺も最初は聞き慣れていなかった着信音だったから『誰の電話だ?』と思っていたが、音が俺の荷物から出ていたことを毒島が言ってくれて、『なんでこの時期にオルフェウスは電話して来たのだろう?』と思って出たらコーネリアだった。

 

 もう一度言うぞ?

 

 オルフェウスから渡された携帯に出たらコーネリアだった。

 

 いや……俺も何が何だか……

 

 そもそも俺の記憶が間違っていなければ、コーネリアは『オズO2』でオルフェウスと出会っている筈だ。

 

 いやマジなんで?

 

 イミガワカラナイノダガ?

 


 

野生(?)の コーネリア があらわれた!

*1
93話より



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第134話 魔女とオズと陰謀と目の保養

『キリがいいところまで』と思いながら書き出してみると、予想より長めの次話となりました。 ( ;・・)

楽しんで頂ければ幸いです。 <(_ _)>


 少しだけ時間はさかのぼり、スヴェンがヴァイスボルフ城を旅立つ当日へと戻る。

 

 その時のオルフェウスは先日、()()()男女と出会って最初こそ一触即発の雰囲気だったが、片割れの男性とズィーのおかげで交戦に至らず、言葉を交わすとお互いの目的が一致していることを知った。

 

 そんなオルフェウスは()()()事を聞き、使い捨て用に改造した携帯でとある番号にかけていた。

 

 ピリリ、ピリリ、ピリリ!

 

『もしもし、オズか?』

 

 コール音が数回続いてから相手が電話に出て、背景音がガヤガヤしていたが辛うじてガレス(スヴェン)*1の声は拾えた。

 

「ああ。 忙しそうだな、今話して大丈夫か?」

 

『少し待て、場所を変える…………どうした? プルートーンが動いたのか?』

 

()()()()()()の事もあったが、“お前と話したい”という奴が居る。」

 

 そう言いながらオルフェウスは電話をスピーカーにして、先日出会った女性に電話を渡す。

 

 先ほど『プルートーン』と聞いて拳に力を入れた『長髪を隠す為に帽子とサングラス』という下手簡素な変装をした、()()()()()()()()()に。

 

『俺と話したい────?』

「────お前が『ガレス』とやらか?」

 

『…………………………………………その、声は────』

「────よぉ、()()! 久しぶりだな!」

 

 男女の片割れである額に大きな傷が特徴的な男が、会話に元気よくかつニコニコしながら相手に対して親しく割り込んでくる。

 

「(“少年”? ……まさか────?)」

『────その声はダールトン将軍────?』

「────今は“アンドリュー”と名乗っている!」

 

 『…………()()かよ。』

 

 『ガレス』が小声で言った言葉に、オルフェウスの眉毛がピクリと反応する。

 

 今オルフェウスたちがいるのはユーロ・ブリタニアでも、砂漠の近く位置している場所だったからだ。

 

「ほぉ! 良く知っていたな、流石は少年────!」

「────“アンドリュー”は少し黙っていてくれ────」

「────あ────」

「────私は『ネリス』と称している者だ。」

 

『ネリス』と名乗ったコーネリアは会話の主導権をダールトンからもぎ取り、ダールトンは少しショボンとしながらズィーの居る場所へと歩く。

 

()()()()()()()()()()()()()()とオルf────『オズ』から聞いているが?」

 

『………………………………』

 

 実はコーネリア、スヴェンの思っていた通りに『オズO2』の原作で登場してユーフェミアの死因である『ギアス』を一人で追い求めている内に、ギアス饗団を探すオルフェウスと出会って共闘している。

 

 だが幸か不幸か、今作ではスヴェンが『行政特区日本』でやらかしたことで流れは大きく変わってしまっていた。

 

『コードギアス本編』ではルルーシュに操られて死亡するはずだったダールトンは生き残り、コーネリアも(通信越しで)ユーフェミアが生きていたことを知ったことで、復讐に狂う事がなかった。

 この二人が一緒に放浪したことで行動も範囲も原作より広まり、交渉とコミュ力が高いダールトンのおかげで二人は自然と都会の民衆に溶け込み、コーネリアの武人としての腕っぷしで裏社会の情報収集は捗り、いち早く『ギアス』へとたどり着いた。

 

 その結果、コーネリアとダールトンはオルフェウスとズィーたちに『オズ』の一期中に出会った。

 

 そしてその二人が次の隠れ家を探している内に偶然にも入り込んだ薄暗い建物の中で、オルフェウスの機体である白炎を紅蓮と間違えて身構えてしまい、今にも互いを攻撃しそうになっていたじゃじゃ馬のオルフェウスとコーネリアをズィーとダールトンがなだめた。

 

 そこからお互い話して見ると、双方が追い求めているものが最終的にギアス饗団であると分かったことで協力関係を結んだ。

 

 その会話で『ガレス(スヴェン)』のような人物がコーネリア側からも出たことで、『もしかして』と思ってオルフェウスは電話をかけ、コーネリアに話をさせていた。

 

 なお余談だがスヴェンの内心は完全『宇宙猫』と『どないしよ』がコンクリートミキサーにぶちまけられた様子だった。

 

『……ああ。』

 

「(やはりそうか。)」

 

「どこまで知っている?  それに先ほど口にした『プルートーン』……どのような関係だ? もしや貴様、その一員ではあるまいな────?」

 『────断じて違う。』

 

「そうやすやすと信じられるか────!」

『────“ユフィ”に誓って、違う。』

 

 スヴェンの言葉を聞いた瞬間、ミシミシと嫌な音がコーネリアの持っていた携帯から発せられる。

 

 「貴様……その名を軽々しく出すな────!」

『────後宮に迷い込んだネコではしゃぐユーフェミアを見てから、有り合わせの物で猫耳を────』

 「────ウッ?!」

 

 コーネリアは固まり、顔を真っ赤にさせる。

 

 「貴様どこで……いや何故それを────?!」

「────()()()から聞いた……と言えばわかるか?」

 

 ここでコーネリアの中でスヴェンが言った『当事者』、先ほどダールトンが『少年』と相手を呼んだことと、ユーフェミアが通信越しに言った『知り合い』*2といった、バラバラだった点が全てコーネリアの中で繋がり始める。

 

「まさか……お前が────?」

『────ああ。 それと、“彼女は元気にしている”と仲間から聞いている。』

 

「……そう、か……」

 

 コーネリアは胸が締め付けられるような感覚と安堵から思わず涙腺が緩みそうになるが、彼女はそれ等を気力で無理やり押し戻す。

 

「礼を、言おう。 だが……さっきの質問に答えてもらおうか?」

 

『“どこまで知っている”となれば、“超人的な現象を起こすギアスと呼ばれる能力を備え付ける人体実験が、帝国の一部で黙認されているだけでなく、金や物資に人員も横流しされて行われていること”と、“それを行っている組織の傘下にプルートーンという実行部隊がいること”だな。 “関係”なら、間違いなく“敵対関係”だ。 ()()()()()()()からな────』

「────探してどうする?」

 

『無論、人体実験の被害者を救出し組織を壊滅させる。』

 

「その組織とやらの拠点は、どこにあるか分かるか?」

 

『……………………ただの憶測だが、ブリタニア本国は、余計なリスクや発覚する恐れがあるとふんでいる。 新大陸は広大な土地で可能性はあるが、まだまだ開拓される余地はあるので、隠すとすれば都市の中に組み込まれるだろうが……“人体実験”だけにこちらも可能性は低い。 あとはEUとユーロ・ブリタニアだが、こちらで探ったそれらしい場所は、既にもぬけの殻だった。』

 

「(なるほど、(オルフェウス)と同じか。)」

 

 ここでオルフェウスが思い浮かべたのは彼自身がEUに来た理由である、過去にとある噂されていた一族が住んでいた屋敷だった。

 

 その噂とは『悪魔と契約して超人的な力を得た』ものと、『行けば帰らぬ人となる』閉鎖的なモノの二つで、『それ等がもしギアス饗団の事なら』と思ったオルフェウスは屋敷を訪れたが、()()()()火が放たれたような跡地となっていて、殆んど何も残っていなかった。

 

「そうなると……中華連邦が匂おうな。」

 

『……そうだな。 中華連邦ならば、大宦官や自治を許されている軍人に賄賂を渡すだけで事が済む。 だが新大陸以上に広大で、まだまだ未開拓地特有の危険がある────』

 

「────お前は何故、ギアスを追う? 動機はなんだ?」

 

『何人かの被害者と遭遇し、理不尽な悲劇を知った。 それだけだ。』

 

「(何だと?)」

 

 オルフェウスは一瞬、自分の耳を疑った。

 何せ彼が今まで見てきた人間は、表面上でニコニコして隣人同士に親切ながらも、魔がさせば平気で売り渡すような生き物だ。

 

 現にギアス饗団の『調整』が完成する前にオルフェウスは恋人と脱走し、ひっそりとハンガリーにある小さな村で暮らしていたところを、隣人のおばあさんが二人を追っていたプルートーンに金貨を交換条件に売り飛ばしていた。

 

 結局その村は丸ごとプルートーンに焼かれて元居た住民全員は殺されたが、その所為でオルフェウスは『最愛の人』と『第二の故郷』を同時に()くした。

 

「(それだけの為に……他人の為に、こいつは────)」

『────すまない、時間だ。』

 

 これを聞いたオルフェウスは思わず口を開ける。

 

「お前は、()()味方か? 敵か? それとも────?」

『────()()、だな。』

 

 それを最後に、スヴェン側から連絡が切れる。

 

「「……………………」」

 

「おーい! 移動するぞー!」

 

 オルフェウスとコーネリアはそれぞれ複雑な心境のまま携帯を見ていると、ズィーの声がかかって二人は心を入れ替える。

 

「……どうやらギアス饗団の拠点が中華連邦にいる線が強まったな。」

 

「ああ。 広いが、さほど問題ではない。」

 

「当てがあるのか、ネリス?」

 

「単純な話だ。 お前から聞いたギアス饗団はそれなりのサイズの組織。 強大であると同時に、規模が大きくなればなるほどならば自ずと痕跡は必ず残してしまうモノだ。 物資の流通に、電力の供給、通信記録などの流れをパターン化させれば、索敵範囲はかなり絞り込められるだろう。」

 

「流石は『魔女』と呼ばれるだけあるな。」

 

 コーネリアはオルフェウスが自分の事を魔女と呼んだことに一瞬ギョッとするが、それも数秒間の間だけで納得したような顔になる。

 

「なるほど、聡いな。 流石ブリタニア帝国に喧嘩を売るだけはある。」

 

「お前とお前の部隊の所為で、何度も死にかけたがな。」

 

「それはお互い様だ。 お前たちピースマークの所為で、各エリアを平定するのにどれだけ苦労したか。」

 

 不思議な因果の引き合いで、原作より早く『ブリタニアの魔女』は『幻術使いのオズ』と出会い、行動を共にすることとなる。

 

「今日も平和だねぇ~。」

「お前も苦労しているな、『アンダーグラウンドの虎』。」

「随分前に引退したはずなんだがねぇ……久しぶりにその名を聞いたよ?」

「オレも一時期は『アンダーグラウンドファイター』だったからな。」

「へぇー? おたくの顔の傷はそれの名残かい?」

「ああ。」

 

 そしてここに会う事もなく、本来はあり得ることの無い二人(の苦労人)が意気投合し、『オズ』だけに四人は中華連邦方面へと旅立つ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ただいま、ニーナ。」

 

「久しぶりだね。」

 

 場所は帝都ペンドラゴン……ではなく、『チーム・インヴォーク』が拠点にしている新大陸のダラス研究所に、カノンとシュナイゼルは訪れていた。

 

「カ、カノンさんにシュナイゼル殿下?!」

 

 そして声をかけられて事前の連絡もなかった、白衣を着て“作業の邪魔になるから”と前髪をヘアバンドで上げたニーナが慌てる。

 

「ニーナ、何そのそれ?」

 

「あ、えっとこれはその────!」

「────禿げちゃうわよ?」

 

「ひぅ?!」

 

「それよりも、例の……『アトミックパワー(原子力発電)』と呼んでいるモノだけれど、進歩はどうだい?」

 

「最初の試作段階の小さなものから、スケールを大きくすればするほどに難航していましたが、最近は安定した電力を供給できるような段階になりつつあります。 まだ小規模な町ほどだけですが……」

 

「なるほど、それは凄いね。 今の太陽光発電システムも、そろそろ『時代遅れ』になるのかもしれないね。 ところでニーナ君、やはりこれをナイトメアに搭載────」

「────ごめんなさい……」

 

 先ほどまでウキウキしていたニーナの表情が曇り、彼女は申し訳なさそうに目を逸らす。

 

「手を差し伸べてくれて評価してくださるシュナイゼル殿下に恩はありますが……『ウランの兵器化』だけはダメです。」

 

「そうか、それは残念だ。これが兵器として運用化されれば世界は確実に変わる……ッ。」

 

 ここで珍しく、ニーナは意志の強い視線をシュナイゼルに向ける。

 

「そうなれば、私は辞任します。 私が『アトミックパワー(原子力発電)』を開発しているのは、誰も傷つけず、かつ法的にも道を踏み外さずに仕返しが出来るからです。 いくらシュナイゼル殿下でも、このスタンスは譲れません。」

 

 ……

 …

 

「フゥー……」

 

 シュナイゼルは窓の外の景色を見てため息を出す。

 

「意外ね、殿下でも気圧される時もあるのね。 てっきり何時もの笑みを浮かべてやり過ごすのかと思ったわ。」

 

「私も最初はそうするつもりだったのだがね……彼女の精神的な成長にビックリしただけだよ。」

 

「そうね……彼女、強くなったわね……」

 

 シュナイゼルは報告書や、以前のニーナを知っている者たちの証言を思い出す。

 

『人見知り』、『男性恐怖症』、『引っ込み思案』、などなど。

 

「(それが今ではどうだ? 『アトミックパワー(原子力発電)』の兵器化に関してだけだが、ブリタニア宰相の私や、他の研究者に正面切って意見を言えるようになっている……『何』が彼女をそこまで変えた? そして、私も『それ』と相対すれば果たして…………………………)」

 

「それにしても、殿下も人が悪いわね。 あの子があれだけ嫌がっているのに、あの……『ガニメデ』? についていたものを別チームで開発を進ませているんだもの────」

「────心外だね。 私は『可能性のあるモノ』をこの目で見て、無視できるほど慢心してはいないよ? それが例え人であろうと、技術であろうとね。 理論上だけれど、『アレ』の開発が終われば()()()()()()だろうさ。」

 

 ……

 …

 

「スゲェ……」

「いつもはオドオド感があるのに……」

「流石主任(チーフ)……」

 

『チーム・インヴォーク』のメンバーたちはひそひそと、先ほどのニーナのことを話す。

 

 シュナイゼルたちに対して強気になっていたのも『ウランの兵器化』が絡んでいただけで、本来の彼女は『何時ものニーナ』に近かった。

 

 ただ、原子力発電の実用化が近づくにつれて『自信』を持ち合わせ始めたのは確かである。

 

「フゥ~……私は少し、仮眠を取ってきます。」

 

 そう言ってニーナはフラフラ~と退室し、広大な研究所内を走るリニアカーに乗って自分用の住区へと着くと、そのまま自室へ上がり、白衣と上着を脱ぎ捨ててベッドの中へ滑るように潜り込む。

 

「…………………………」

 

 彼女はベッドに寝転がって、窓から入ってくる日光を遮るために手を顔の前にかざすと、腕が震えていることにここで初めて気が付く。

 

「(……やっぱり、まだ怖い……でも……頑張る。)」

 

 彼女はそう自分に言い聞かせながら、アッシュフォード学園を────否。 ()()()()()()思い浮かべる。

 

「…………………………………………………………………………………………ん♡

 

 ニーナは目をつむり毛布の中でもぞもぞしながらくぐもった声を出すと、頬が次第にと紅潮していく。

 

 

 


 

 

 ブリタニア帝国が世界に誇れるほどの大規模な闘技場セントラル・ハレー・スタジアムでは、かつてのローマ帝国で流行った『戦車競走』ならぬ、ナイトメアを使った『ジョスト&フォーメーション』の練習などが本イベント前に行われていた。

 

 ドガッ! バキ! ガシャァァァァン

 

「「「きゃあああ?!」」」

「「「おおおおお!!!」」」

「「「やっぱりクラッシュ(大破)は最高だぜ!」」」

 

 対峙するチームの競技用ナイトメアの『プライウェン』が激しくお互いを攻撃した末に、一機が大破して盛大な音を立てながら倒れてしまうと、観客がそれぞれの反応を示す。

 

 ある者は中のパイロットの安否を心配し、ある者は興奮し、ある者は行われる破壊行動に感心を示す。

 

「そこだぁぁぁぁぁ! 行けぇぇぇ! ぶっ殺せぇぇぇぇぇ!」

 

 そして(スバル)の隣では、完全に場の雰囲気の所為でネコかぶりをやめて素が出ているアンジュがいる。

 

 いやもう……気持ちは分からなくもないが、偵察作戦だと忘れていないかこいつ?

 

 RPI-13/G『プライウェン』、払い下げのグラスゴーを競技用に改修した機体で、出力は本来の4割程度。

 とはいえ、完全に民間の運搬用に改造された『MR-1』と違って元軍用の名残は残してある。

 マグネットハーケンに電磁ブレード、電磁ナックルガードや競技用の武器類など。

 

 だが競技KMFリーグで俺自身が一番見たいのは────お、噂をすれば大破したプライウェンから女性パイロットが出てきて、無事だということを証明するために手を大きく振る。

 

 ……………………フム。

 

 今回のチームユニフォームは、サイハイブーツにマイクロビキニタイプか。

 

 ムヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!

 ええのぉぉぉぉぉ~~~♡

 

 スタイル抜群の双山が、彼女の手を振る動作につられて左右にユッサユッサユッサ~♪

 

 ちなみに『偵察』と俺は言ったが、胸の中は久しぶりの癒しとミルベル博士を引き抜いたことで、かなり穏やかな気持ちで堪能している。

 

 まぁコーネリアのこととかは、モラトリアムだが考えないようにしよう。

 

 ウン、ソウシヨウ。

 

 ん? 『なんでここでミルベル博士が出てくる?』かだって?

 

 ブリタニアに幻滅したミルベルはテロと起こすと前に言ったが、『オズ』の一部をぶっちゃけると、ブリタニアの現政府などに不満を持った軍人や、元からいた反ブリタニアのテログループをまとめた()()()()()()テログループは反旗を翻す。

 

 これにグリンダ騎士団は武力的鎮圧を命じられて、ミルベルたちと対峙した際に、前線に出ていたミルベルは『皇帝シャルルは世界への関心が皆無』と訴える。

 

 コードギアスの世界である意味『かなり最後まで秘匿された真実』を、ミルベルは皇帝との謁見で直感的に感じ取れたが、訴えた相手はマリーベルの『テロは断固として粛清対象』の元に設立されたグリンダ騎士団。

 

 聞く耳を持たない彼らによって、ミルベル博士の訴えはむなしく、他の誰にも聞かれないまま消えた。

 

 と思いきや、ミルベル博士の志を引き継いだテログループの残党はこの『グリンダ騎士団デモンストレーションイベント』を利用して、グリンダ騎士団に一矢報いようとする。

 

 だがさっきも言ったようにミルベル博士がテロリストになる前に俺が手を打った。

 テロ組織はいずれ結成されるかもしれないが、『ウィルバー・ミルベル』という指揮官としても組織のまとめ役としても技術者としても有能なオールラウンダーのトップがいないから、タイミングはズレる筈だろう。

 

 という訳で、イベント会場のスタジアムはテロ攻撃があっても無くとも構造は変わらないから偵察は超有能なマーヤに任して、現在の俺は癒しを求めて目の保養成分を充・電・中♡

 

 アンジュもカモフラージュとして連れてきたが、意外とのめり────ムォホホホホホホホホホホホ♡

 

 控えめなボディにローファーとニーソにVワイヤー・バンドゥタイプとは……やりおりますなぁ~♡

 

 

 


 

 

「……………………」

 

「団長、確認が取れました。 やはり三名だけ当日に来ます。」

 

「三名、か。 宰相閣下は?」

 

「“当日は外せない別件にとりかかっている”とのことです。」

 

 セントラル・ハレー・スタジアムで行われる、グリンダ騎士団をメインとしたスペシャルイベントには、エリア11以来皇族が公式に集まることとなっている。

 

 一人はグリンダ騎士団の発案者であるマリーベル。

 二人目は『シュナイゼルの代行』としてオデュッセウス。

 そして三人目はホンコン租界を統括している一方で、セントラル・ハレー・スタジアムなどのペンドラゴンでの娯楽施設の運営も任されている、第5皇女であるカリーヌ・ネ・ブリタニア。

 

「そうか、報告ご苦労。 (シュナイゼル、最後の最後で予定変更とは……)」

 

 帝都ペンドラゴンの要人警備騎士団団長であるアレクセイ・アーザル・アルハヌスは、アンニュイな心境でスタジアム内の様子を警護室から見ていた。

 

「(もしや、勘付かれたか? だとしても、決行することに変わりはない。 幸い、『帝都防衛強化』の為に、バミューダ軍事要塞島から正式な手続きで同志たちを呼び寄せることが出来た。 それにシュタイナー・コンツェルンにいた仲間たちによって航空戦力も確保できた。 やるなら今しか────)」

 

 ────コン、コン。

 

「ん────?」

「────失礼します団長。」

「当日搬入されるランスロットタイプの許可署名、お願いしまーす!」

 

 アルハヌスは横からの団員とスタジアムのスタッフらしき声に、ため息を出しそうになる。

 

「(全く……のほほんとオデュッセウス様のような御仁も面倒だが、カリーヌ様のような人使いの荒い────────ん? 見ない顔だな?)」

 

 アルハヌスが声の方を見ると、騎士団員の左右に見慣れない少女たちが二人いたことに戸惑う。

 

「『アレクセイ・アーザル・アルハヌス────』」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「………………………………」

 

『金色の光に照らされた空間』と呼ぶしかない、階段や祭壇のような場所が浮遊する場所に皇帝シャルルは静かに立っていた。

 

「ふんふふふ~ん♪ やぁシャルル、不機嫌そうだね♪」

 

 いかついシャルルの背後からVVが親しく話しかけると、シャルルはのっそりとした動作で振り返る。

 

「兄上……“ユーロ・ブリタニアに使者を送った”という話は真ですかな?」

 

「うん? そりゃあね。 『ルルーシュというCCを釣る最大の餌が手元にある』と思ったら、いつの間にかユーロ・ブリタニアに送られているんだもの。 シャルルこそルルーシュをユーロ・ブリタニアに送るなんて、意地悪だな。」

 

「私のギアスの『どこまでの改竄が限界か』の試行錯誤です。」

 

「あれだけエリア11の子たちにバンバン使ったのに?」

 

「単純な使用だけで、立場上私が自身のギアスを理解できずに使いすぎるのも厄介でしょう。 そこに丁度『ルルーシュ』が転がりこんで来ただけのことです。 結果はもうすでに知っているかと思いますが。」

 

「ふぅ~ん? ……それなら良いけど。 じゃあ結果を知っているわけだし、僕の方でルルーシュを預かって餌にして良いかな?」

 

「元より、私より兄さんの方がこういう事柄について詳しいので、聞く必要はないでしょうに……さっきの仕返しですかな?」

 

「そうだよ。 だって僕たち約束したじゃない、『嘘をつかない』って。 なら前もって確認を取らなきゃね。」

 

「そうですな。」

 

「ああ、それとシャルル?」

 

「なんでしょう、兄さん?」

 

「シャルルだから言うけれど、()()()()()ね? ()()()()()()。」

 

「分かりました。 兄さんの忠告、肝に銘じておきましょう。」

 

 シャルルはVVを見送り、彼の姿と気配が消えたことを確認してから再び正面を向く。

 

「(やはり『暗躍』に関して上手か……大丈夫だ。 これも許容範囲ではあるが、やはり国政には関心を示さない態度は痛かったな……困ったものだ。 なぁ? 

 

 

 

 

 

 

 

 ()よ?)」

*1
ユーロ・ブリタニアでオルフェウスと会った時にスヴェンが使った偽名

*2
77話より




○○ニーナ、降臨。 (;- -)


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第135話 体の不調と騎士と怪しい瞳

投稿時間が遅れて申し訳ございません、次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


「フゥ~。」

 

 その日の試合が終わり、スタジアムから俺はアンジュと合流したマーヤと一緒に出口に向かう。

 

「ウキウキしていますね?」

 

「すっっっっっっっっごく面白かったから! こう……“バーン!” “ドカーン!”って!」

 

「それは良かったですね。」

 

「……なーんか刺々しい言い方ね?」

 

「そうかしら?」

 

「う。」

 

 そして完全に偵察の事を忘れたアンジュはマーヤの静かな『お前なにやってんねん』の空気に当てられてどんどんとタジタジになる。

 

 ここに来たのは『グリンダ騎士団との接触』と言ったがイベントの中心にある彼らにそう易々と一般の者たちが会えるわけがないので今は本当に目の保y────ゴホン! 本当に会場の偵察に来ている。

 

 原作通りだと当日は多分、皇族がマリーベル以外に何人か来ている筈だから彼らの周りは封鎖されて偵察どころではないだろうし。

 

 戦いとか襲う予定は無いが、一応念のためだ。

 

 そう思いながら、俺たちはスタジアムの駅のリニアカーに乗り込む。

 ……やっぱりピークタイムだけあって、ちょっと人が多いな。

 

「少し混んでいるわね。」

「アン(ジュ)さん、もう少し寄れます────?」

「────ちょちょちょっと押さないで?!」

 

「おっと。」

 

 予期せぬ込み具合にアンジュが倒れそうになり、自動(反射神経)で彼女の身体を支える。

 

「あ、ちょ……」

 

 さて、『オズ』についておさらいをしようか。

 何せ今ではほぼうろ覚えだからな……

 

 まずは反ブリタニアテロ支援組織の『ピースマーク』。

『テロ組織』とブリタニアに認定されているが、正式には『民間の傭兵部隊』。

 

 ただ依頼が『反ブリタニア』のモノばかりに偏っているだけだ(主にオルフェウスの所為で)。

 

 で、大雑把にだがこのピースマークはブリタニアと何らかの関係を持っている人物たちが所属している。

 

 まずオルフェウスだが、ギアスの事から察せる様に元はギアス嚮団で同じ実験体だった 少女と恋に落ち、恋人と逃げたがVVが差し向けたプルートーンによって恋人や彼らを匿った村を丸ごと焼かれている経歴から、『ブリタニアへの復讐鬼』となっている。

 

 「あの……手がまだ背中に……」

 

 次に『ズィー・ディエン』はよくオルフェウスと一緒に組む、『相棒』とも呼べる中華連邦人だ。

 確か裏社会のKMFファイトで無敗のチャンピオンをやっていて、路銀が無くなったオルフェウスと対峙してブリタニアの保安局が試合に乱入したんだっけ?

 

 おっとリニアカーがカーブを曲がっている。

 

 「ひゃ?! ちょちょちょちょちょちょっと……」

 

 で、『インド出身の銭ゲバ』という事で覚えていた『ガナバティ』はまさに、『金さえあれば修理から解体に完全整備までなんでも請け負います』的な技術屋兼商人。

 

 地味にラクシャータが彼を知っていたのはびっくりにしたが、そう驚くこともないか。『オズ』でも彼を通して依頼される描写はあったし。

 

 そして最後で、俺の予測(というか疑惑)が間違っていなければ一番描写が少ない割に、かなり重要な『ミス・エックス』だ。

 

 ピースマークが受けた依頼をオルフェウスに伝える仲介人(ブローカー)兼エージェントで医師免許を持ったり、潜入や変装はプロ並みだというのに(彼女が『オズ』の原作で言っていたことを真に受けるのなら)オルフェウスやオルドリンより年下。

 

 ちなみに、俺の予測(疑惑)は────

 

 ────グイイィィィィ!

 

 ふおぉぉぉぉ?!

 

「神────兄さん? 駅を乗り過ごすところでしたよ? アン(ジュ)さんも呆けてないでちゃんとしていてください。

 

「……………………ひゃい。」

 

「ああ、すm────ワリィ、ちょいと考え事しててさぁ。」

 

「ププ……」

 

 俺は(自分で考えた)設定が憎いでゴザル。

 

 ともかく、(偽名で)借りているホテル近くの駅ならここから殆んど一直線だ。

 

 ええええっと? どこまでおさらいをしたっけ?

 オルフェウスのいるピースマークは終わったような気がするから、グリンダ騎士団か。

 

 まずは発案者の『マリーベル』。

 確か……子供の頃にテロで母と妹を失ってシャルルに犯人を探すように訴えたけど聞き入れられなくて乱心して、剣で切りかかったんだっけ?

 で、皇位継承権をはく奪されて幼馴染のオルドリン・ジヴォンの家の世話になって百r────レz────ええええええっと……『マリーベル持病の同性愛に近い依存症』になって自力で実力をシュナイゼルに目を付けられて皇位継承権が(第87位であるナナリーより後の第88位だから実質的には名前だけ)戻されて『皇族個人の部隊の運用』という抜け穴を使って『グリンダ騎士団』が誕生した……と思う。

 

『対テロ組織』で『試作機のモルモット部隊』……『試作機の整備と補給』……

 

『一体どれだけ?』と聞きたいが、スポンサーはあのシュナイゼルだからなぁ……

 

 ま、まぁそれは別に置いて。

 

 次に『レオンハルト・シュタイナー』。

 確かラウンズのジノの実家、ヴァインベルグ家に仕える騎士家系の出身だからかジノからは『弟』と扱われている。

 ただ、本来なら『ヴァインベルグ家を守る』側の家系なのにレオンハルトは周りから期待されていた『騎士』とは違い、『学者』の要職を望んで反発した。

 だが第二の子に恵まれなかったシュタイナー家は無理やり『騎士としての修行』をレオンハルトにさせただが、彼の身体能力はもやし(ルルーシュ)と同等ぐらいで守る筈のジノの相手にもならなかった。 そのおかげで、『シュタイナー家は名前だけのお飾り騎士家』とバカにされ、『シュタイナー・コンツェルン』として生まれ変わって『癖が強いが実力は確か』と有名なソレイシィ家との繋がりを持つためにマリーカ・ソレイシィが許嫁になった。

 

 ちょっと長くなった、すまん。

 

 えええと、『ティンク・ロックハート』か?

 大柄な体格をした男で、テストパイロットとしての後遺症から身体の3割ぐらいがサイバネティック化されているんだっけ?

 

 性格は飄々としているから『アイルビーバック』の可能性はないが、サングラスをかけたら似合いそう。

 

 で、臀部が立派で広告に出ていた『ソキア・シェルパ』。

 孤児だったからか非常に明るいムードメーカーで、元KMFリーグのスタープレイヤーだからか状況分析能力が高い。

 そして『相手の機体も、自機もクラッシュ(大破)させる』から付いたあだ名が『ザ・クラッシャー』だとか。

 

 ………………………………何で修理代と整備の必要性が100%ハネ上がるような奴をグリンダ騎士団に?

 あ、そう言えばソキアって志願したんだっけ?

 

 最後に、『オズ』ではもう一人のキーパーソンである『オルドリン・ジヴォン』。

 マリーベルの幼馴染で、筆頭騎士で、百r────『マリーベル持病の同性愛に近い依存症』の()()担当。

 名門家であるジヴォン家の出だけに『騎士道』に乗っ取った気高さの元に、『力を持たない民衆を守る剣』の誓いで『理不尽な暴力を振るうテロ』を毛嫌いするマリーベルに忠義を誓っている。

 

 ただ『オズ』の物語が進んでいく都度に、マリーベルがテロに対して感じる憎悪と憎しみは暴走して拡大化し、やがては『反ブリタニアの芽は全て容赦なく断罪されるべき悪』と歪んで…………………………………………………………

 

 望みは薄いが、やっぱり何かしたい。

 

 でないとおr────じゃなかった────『アマルガム』が危ない。

 

 だが『オズ』による悲劇が始まるのはマリーベルの暴走の加速と、オルドリンとオルフェウスが互いを嫌う本能的な衝動、そして()()()()()絡みだ。

 

『マリーベルの暴走』だけは別問題で確かにハードルは高いが、二つ目と三つ目は直結していてさらに複雑化している。

 

 実はグリンダ騎士団の中枢近くに、監視役のギアス能力者が長年────

 

 ────プアァァァァァ

 

 ぐい!

 

「グェ。」

 

 横から自動車のクラクションと同時に、俺の腰に誰かが腕を回して背後へと力任せに引かれると目の前を自動車がハイスピードで通り過ぎる。

 

 おぅふ。

 

 ボーっとしながら歩くのは要注意事項。

 当たり前田のクラッカーだが。

 

考え事はホテルに戻ってからの方がよろしいのでは、兄さん?

 

 『マーヤが怒っている。』

 というようなテロップが見えそうな感じで、俺を無理やり引いて顔を引きつらせたマーヤがいた。

 

 どうやら、EUでの活躍からずっと引きずっていた疲労がKMFリーグの興奮から来るカラ元気が今更ながらに上回ったようだ。

 

「ああ、すまんな()ーヤ。」

 

()ーヤです。 (ニッコリ)」

 

 マーヤが超怒っていらっしゃる。

 

「ねぇ、いつまで抱き着いているの?」

 

「いやですね、これは支えているのです義姉さん(アンジュ)。 だって兄さん(スヴェン)、フラフラじゃないですか。」

 

 ……………………なるほど?

 どうやら気づいていないうちに俺はフラフラしていたのか。

 

 確かにそう考えると、確かに身体の動きが鈍いな。

 

 あと吐き気。

 

 頭痛も。

 

 あ、あかんヤツや。

 

「すまん、ちょっと休めるところはないか?」

 

「「え?」」

 

「気分が悪い……うっぷ。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 幸い、ホテル近くの公園にいたことで急遽ベンチに俺を座らせてから、アンジュたちは飲み物と薬を取りに行った。

 

 と言う訳で、ロンリーボーイ状態の俺はボーっと天を仰いでいる。

 

 しかし参ったな、『亡国のアキト』エンド時から時間がたっているのにまだ回復していないなんて想定外だ。

 

 以前の『対スザク』でも『対ノネット』に『ブラックリベリオン時』でも、同じぐらいの時間経過では普通に歩き回れるぐらいは出来たのに……

 

『何か違いがあるのか?』と考えだしても、要因がありまくりで何がどう関与しているのか分からんから『変だなぁ~』というところで思考を止めている。

 

 やっぱ、あの時の一発だけじゃ足りなかったな。

 

 また『時空の調停者』に会えるかどうかは分からんが、今度は100発ぐらい入れてやろうと思う。

 

 あれだ、『左の拳か右の拳か当ててみろや』のヤツだがオレの場合は、問答無用の『叫びながら殴る』だ。

 

 ああ~、やっぱ何か調子が悪い。 脈が全くない現実逃避と脱線をしすぎている。

 

 ピトッ。

 

 「↑ふうおぉぉぉ?!」

 

 空を仰いでいるいる俺のあごに、冷たい何かが当てられてな素っ頓狂な声が俺の口から出てしまう。

 

 「アッハッハッハ! なんだいその声は?」

 

 この声とズケズケとした物言いはもしかしてもしかすると────

 

「ん? なんだい少年?」

 

 ────もしかした。

 

 メノマエニ(目の前に)サギョウフクスガタノ(作業服姿の)ノネットガイタ(が居た)

 

 …………………………………………………………………………なんでじゃい?!

 

『オズ』になんでいるの?!

 

「しかし、こんなところで会うなんて奇遇だね!」

 

 おい待て。 俺は今、変装中だ。

 髪の毛も金髪だし、目の色も変えている。

 

 どうやって確信した?!

 

「い、いや~。 人違いじゃないっすか────?」

 「────何だ、その鳥肌が立つ気持ちの悪い喋り方は?」

 

 そしてドン引きするノネット。

 

 俺が知りてぇよ!

 潜入時の設定を考えていたら『せや今までやったことのない奴にしよう!』ってなって『チャラ男』がポンとキタんだよ!

 

「正直、私的に少年のもう一つの趣味(女装)の方が────」

 「────ですから違います。」

 

 おっと『ポーカーフェイス』から学園で使っていた『優男』の仮面にチェンジだ。

 

「お! やっと戻ったな! どうだい、炭酸はイケるかい? 疲れた体に効くよ?」

 

「もらっておきます。」

 

 渡された炭酸水を飲んでいくと独自のシュワっとする喉越しとレモンの匂いが前世のスプラ〇トを思い出させる。

 

「それで? 少年はバカンスかい?」

 

「そんなところです。 エニアグラム卿は?」

 

「ん~……『卿』はいいかな? 今の私はただの『運び屋』さ。」

 

 運び屋?

 はて…………………………あ!

 

 ランスロットの量産試作機の『ランスロット・トライアル』か?

 

「新型のナイトメアが展示されるのですか?」

 

 俺の言葉にノネットが一瞬目を見開からせて細める。

 

「……ふぅ~ん? どうしてそう思うんだい?」

 

 原作知識です。

 

「卿の様な身分の方がお忍びのような服装でここにいるということは余程の極秘事項に関連するものでしかなく、その上開催が予定されているイベント関係することから『ある程度操縦技術を要求する新型ナイトメアの展示品』とカマをかけただけです。」

 

「はぁ……たいしたもんだよ……ますます本気を見たくなったよ。

 

 だから原作知識です。 と言うかガチでやったら俺死にます。

 

『兄さ~ん!』

 

「おっと、じゃあ私は失礼するよ。 くれぐれも、秘密にな?」

 

「ええ。 卿も。」

 

 そこにマーヤの声が聞こえてくるとノネットは帽子をかぶり直して去ると丁度マーヤとアンジュが戻って来る。

 

「さっきの人は────?」

「────イベントの作業員の一人だ。 さて……少し回復した。 ホテルに戻って薬を飲んで俺は寝る。 夕食はテイクアウトか何かを自分で用意する。」

 

 さっきの炭酸で10SP(気力)回復した気になった俺はベンチから勢いよく立ち上がるが、結局フラついたのでマーヤたちに支えられながらホテルに戻った。

 

 言っておくが、部屋は男女別々だぞ?

 

 一応『婚約者の設定』だが、『輿入れ前の婚約者設定』だからな。

 

 

 

 


 

 

「どう思う?」

「少し危なっかしいわね。」

 

 スバルが自身の部屋に入ってベッドにもぐりこんだのを見届けたマーヤとアンジュは部屋の中で彼のことで話していた。

 

 尚部屋に設置されていた盗聴器は既に撤去済み&現在ジャミング中である。

 

「そうね……近くで見ていたから余計わかるけれど、今のスヴェンは殆ど気合で動いているような感じね。」

 

「あら? 試合に魅入られていただけとてっきり思っていたわ。 ちゃんと周りを見ていたのね?」

 

「フフン! このぐらい、夜会パーティなどで嫌と言うほど鍛えられたからね! ……でも本気で彼、いつ倒れてもおかしくないから私たちで何とかしなくちゃいけないわね。」

 

「そうね……今ここに来れてなおかつ発見されてもリスクが少ないのが私たちだけだし……」

 

あの子たち(イレギュラーズ)は……やっぱり無理ね。 チケットが人数分用意できなかったのが痛いわ。」

 

「それでも、元貴族であるコネは使えたわ。 ありがとうアンジュ。」

 

「……あなたも成長したわね。」

 

「は?」

 

「私の呼び方。 『雌犬』って────」

「────そうね。 『そう思っていても言うべきではない』と神様に学びましたから────」

 「────ちょっとコラテメェ表出ろや。」

 

 グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。

 

「「………………………………………………」」

 

 空腹を示す音に二人は黙り込み、静かにただルームサービスを呼んだ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お嬢様、ただいま戻りました。」

 

「あらトト、お帰り。」

 

 別の場所では、やっと退院できたオルドリンはジヴォン家の別荘で珍しく『傍を一時離れたい』と申し出た専属メイドであるトトを自室で迎えていた。

 

「すぐお嬢様のおぐしを────」

「────それで家族のみんなは元気だった?」

 

 オルドリンの言葉に、背を向けていたトトの体がピタリと止まる。

 

「久しぶりに連絡が来て会ったんでしょ?」

 

「……………………そうですね、『ちょっと元気過ぎる』様子でした。」

 

「確か会ったのは……()()()なんだっけ?」

 

「……ええ、まぁ。」

 

「いいなぁー! ()()()()()()だから…………………………あれ?」

 

 オルドリンの言葉に、トトはニッコリと笑顔を浮かべながら眼鏡を外す。

 

「あれ……私……一人っ子……え? だって、マリー(マリーベル)と一緒に庭の墓に、オルフェウスって名前が────」

「────お嬢様? こちらを見てもらいますか?」

 

 オルドリンがトトの方を見ると、彼女の左目が異様な色を浮かべていた。

 

「トト、その目……私、以前にも────」

「────私、トト・トンプソンは願います。 『オルフェウス・()()()()と庭の墓標は忘れて眠りなさい。』」




短くて申し訳ございません、予期せぬ徹夜をしていました。 (汗

破棄したいパソコンを、『動画で見たから』と言うだけで水につけるだけでいいと思うのはおかしいです…… 〇刀乙

実際、壊れたのはパソコンだけでハードディスク内にあるデータは保存されたままなのに…………………… ( ;∀;)

追伸:
上記の『パソコン水没事件』は、自分が勤めている会社にサポート依頼してくる『一昔前のままの会社』のことでした。

文章不足で申し訳ございませんでした。 (汗


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第136話 右に暴走ダンプカー、左に暴走列車

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 突然だが朝食を食べに食堂に出たらいつの間にか左右にアンジュとマーヤがいる。

 

「ほら、こっちのベーコンもカリカリよ?」

 

 そして何故か俺の前に次から次へと食物が乗っているお皿が置かれていく。

 

「朝から脂っこいものですか? まずはヨーグルトとフルーツのほうが健康的ですよ? あ、兄さん(スバル)はもちろんブルーベリー混ぜますよね?」

 

 何故わかったマーヤ。

 

「でもそれだけだと力が付かないじゃん。 目玉焼きも取り寄せたわよ、イージーオーバー(両面焼き)。」

 

「……」

 

 俺やっぱりこの二人が怖い。

 

「でも義姉さん(アンジュ)、それだけだと栄養が偏ってしまうのでは? 兄さん(スバル)は病み上がりなわけですし。」

 

 「チッ。」

 「若いのに彼女とブラコン持ちかよ。」

 「リア充爆発しろ。」

 

 アンジュとマーヤが“あーだこーだ”と言っていると微かにそのような文句が周りから恨めしそうな視線とともに漂う。

 

 実際はこの二人が『その設定』を徹底的なまでに沿っているだけなのだが、確かに周りから見れば『リア充』なんだろうな。

 

 アンジュは長髪をバッサリ切ったとは言え胸も尻も割とでかくてラクロスをやっていたから引き締めるところは引き締められてルックスだけならA級上位に食い込むだろうし、その気になれば演技(という名の猫かぶり)をずっとしていたからそれなりの『お嬢様』にしか見えない。

 

 短気でたまに後先考えずだが。

 

 それに対してマーヤは太ももまで長い(今は金髪に染めているが)黒髪とおっとりしてそうな顔で清楚な印象を与えながら(アンジュほどではないが)それなりのスタイル保持者。

 

 そして私服でガーターベルトは良いものだ。

 私服でガーターベルトは良いものだ。

 

 大事だから二回言ったぞ?

 

 とまぁ……見た目だけなら完全にドストライクなのだがいかんせん、彼女は『どこか危なっかしい』と呼ぶにはあまりにも生々しいほどの『独断行動に走ったら止まらない暴走列車』のような危うさを時折感じる。

 

 以前の港*1でも『ブリタニア軍は問答無用で悪・即・斬』気味に片っ端から攻撃していた。

 今では『以前に俺に危害が及んだ』ということから、暴走はかなりナリを潜めたように見えるがいつまたどこでその側面が浮上するかわからない。

 

 つまり俺が何を言いたいかというと、俺の左右に座ってなんだか互いに設定にのめりこみ過ぎて競う『婚約者とブラコン』は今の俺には正直に言うと爆発の機会を待っていて荷が重すぎる特大級の地雷がいると言う事だ。

 

 ふとテーブルを見ると選り取り見取りの朝食類の皿がずらりと並べられて胃が最近とは別の意味でキリキリし出したのを感じ取っては、とある一言だけが脳裏に浮かぶ。

 

『チェンジ』、と。

 

 ……

 …

 

 何とか完食してやったぜよ。

 

う……

 

 それでも少し無茶しすぎて変なゲップが出そうになるのを無理やり抑え込みながら。

 

「「ごめんなさい。」」

 

「謝らなくっていいさ。」

 

 俺の様子を見ながら隣を歩きながら申し訳なさそうな声と『ドヨ~ン』としたアンジュたちが謝るが、『チャラ男』の仮面をつけたまま愛想笑いをする俺が声をかけると、二人は顔を向けてくる。

 

「多分、俺のことを()()()の行動だろ? 感謝することはあれど、憎むことはないさ♪」

 

「……」

 

 マーヤの『ポカン顔』、ゲットだぜぇぇぇぇ!

 

 「かゆ?! 鳥肌立つ!」

 

 おい。

 

「はっはっは。」

 

 思わずアンジュの頭を叩きそうになるのをこらえ、笑いで誤魔化しながらセントラル・ハレー・スタジアムで行われる模範試合の予定時間より早く到着し、付近をぶらついていた。

 

 さすがに『歴史的な首都』と呼ばれているペンドラゴンだけあり、イベント前だというのにスタジアムにはすでに俺たちのようにコネを使ってチケットを事前に入手して会場周りのお店などでショッピングなどをして財力や力の誇示をする者たちで混み始めていた。

 

 先日マーヤがいろいろと回ってくれたおかげでスタジアムの構造は大まかに把握でき、当日の準備のために警備体制を強化する設備なども見えたことから『行政特区日本』のような持ち物チェック行われることは把握済み。

 

 つまり今日は割と本気で『自由時間』に近いと言う事だ。

 

「ふぅ~ん……これが最近の流行(ファッション)なのね……

 

 さすがは『元良い所のお嬢様』のアンジュ、ちゃっかりとドレスなどが着飾られている店のウィンドウショッピングをしていらっしゃる。

 

 「最新型の道具入れ……」

 

 そしてこっち(マーヤ)はドレスや装飾品の反対側に上手い具合に設計されたメカニックやDIYモノを売っている店舗を横目で見ている。

 

 そういや今思うとマーヤって割とチグハグだな。

 見た目が『清楚な少女』なのに、洗濯や料理などの家事はダメダメ()()()

 “らしい”というのは、ほかの奴らの話をちょっと聞いていたら“洗濯は全部まとめて入れて洗剤を足してボタンを押すレベル”ということから想像した。

 

 バイクとかは寄せ集め中古品で作れるのに、折り紙が全然ダメな見た目清楚な女性とかどういう様なギャップ萌え相手狙いなの?

 

 いや、それより(現実逃避)も『ノネット』だ。

 

 何故ナイトオブラウンズがセントラル・ハレー・スタジアムに?

 ラウンズは皇帝直属の騎士であり精鋭部隊の筈、いくら新型の『ランスロット・トライアル』を展示品にするためとはいえ、わざわざそんな人材を『運び屋』として使うなんて……

 

 ブルッ!

 

 一瞬だけ『物腰は柔らかく穏やかな性格持ちで人心や正当性を重視しているのは外の皮だけで実際は自らを大国の舵を動かす装置と化した腹黒虚無男』が脳内に浮かび上がりそうになり、思わず身震いをしてしまう。

 

 ミルベル博士の妻は生きているし博士自身もアマルガムに引き抜いたから、『タレイランウィング』のテロ組織は結成されるとしても、遅くはなっているはず。

 

 ………………………………考えすぎか?

 

「あら、なんか可愛いロケットね。」

 

 アンジュよ、なぜドンピシャで『R2』のボロ雑巾君に渡されたハート型ロケットに気が付くのだ?

 

「あら意外ですね。 てっきりパンク系のドクロに目が行くと思っていたのに────」

「────なんか言った()ーヤ?

「いいえ?」

「そういう貴方こそ、さっきから陰k────()()のようなものばかり見ているじゃない。」

「フフフ♪」

「オホホホ♪」

 

 なにこれどういうワケか知らんが助けて────お?

 

「う~ん……迷うにゃ~。」

 

 あそこにおわすのは何やら店の窓をのぞき込んで難しい顔をして立派な臀部持ちのソキアじゃん。

 

「あの……これって視察ですよね?」

「うん、そうだにゃ。」

 

 そして隣にはグリンダ騎士団の新人(の筈)であるマリーカ。

 

 フム……見事な体つきよの~?

 画面や立ち絵よりええのぉ~♡

 あれでナナリーたちより年下の14歳なのだからビックリ────でもないか。

 アヤノも15歳でレイラ(17歳)レベルの破壊力持ちだし。

 

 それとは別に、『何故周りの誰も彼女たちに気が付かない?』という疑問に対して相変わらずというか私服にサングラスに帽子という、名ばかりだけの変装をしているからと追記しよう。

 

 いや……もう……なんというか……

クラーク(眼鏡)ケ〇ト(かけるだけ)』レベルの変装でマリーカはともかく、元KMFリーグスターであるソキアまで誰も気づかないってどれだけだよ。

 

 そしてそんな世界で俺の変装を見破るノネットって……

 

「現場視察というよりは、完全に『散歩』になりかけている気がするのですが────?」

「────マリーたんはキビキビしすぎだにゃー。 それだと持たないよ?」

 

『マリーたん』って……

 いや、いい。 ポジティブに捉えよう。

 予想していた相手とはちょっと違うが、ソキアなら丁度いい。

 

「あの────」

「「────ん?」」

 

 ジーっとブランド装飾店やモデル売り場を見るアンジュとマーヤから離れた俺が声をソキアたちに声をかけると二人はこちらを見てキョトンとした顔を向け、俺は()()()()()を懐から出す。

 

「つかぬ事ですが、もしや“クラッシャー”でしょうか?」

 

「んぇ?!」

 

「“クラッシャー”???」

 

 ソキアは頬から汗を出しながら『何故わかったにゃ?!』と言いたそうな顔を向けてから周りを見まわして、マリーカは無数のハテナマークを頭上から出す。

 

「ええ。 試合に出ては毎回盛大なほどに機体を別の方法で大破させるので。」

 

「え。」

 

 マリーカは目が点になり、更に汗を出すソキアを見る。

 

(今度は)マリーカの『ポカン顔』、ゲットだぜぇぇぇぇ!

 

「とはいえ、ほかの大破する者たちと違って毎度ケガも無く機体から出てくるのは最早『天才』と呼ぶより『芸術』ですね。 (ニコッ)」

 

「う……うにゃはははは! そこまでファンに言われると照れるにゃ~。」

 

「いえいえ。 『引退なされて騎士になる』と発表を聞いたときは不安でしたが、無事な様子で何よりです。 あの、サインを貰えないでしょうか?」

 

「あ、マネージャー……はもうモデルでも選手でもないから必要にゃいか!」

 

 ソキアは俺の出したサイン帳を見てハッとしながら、サイン帳とペンを手に取る。

 よっしゃ、ちゃんと『不審人物』から『一人のファン』という認識に変えられた。

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 予期していた『もしや』の出合いの一つで、ソキアに対する第一印象(ファーストインプレッション)はすこぶる良い傾向の様子だな。

 

 「グリンダ騎士団って皇族直属ですよね、アイドルグループなどではなく……」

 

 で、隣のマリーカはブツブツと何か独り言を言っている。

 

 その気持ちはわかるぞ、俺だって初めの方の『オズ』の印象は“映画版オズの魔法使いのノリじゃん”と思ったからな。

 

「「……」」

 

 そして無言の視線が背後からララララらららら

 

「「兄さん/ガレス? その子たちは誰/でしょうか?」」

 

 違うのだ、妹設定のマーヤに婚約者設定のアンジュであるベイベーたちよ。

 

 誤解でござるしこの子たちはグリンダ騎士団の一員で『人間』としてはマシな方でとっつきやすいだけなのだよ。

 

 かなり焦っているので正論を内心で言っているのだよチミタチ。

 

 

 


 

 

 ユーロ・ブリタニア領内にあるベラルーシ最大の都市ミンスクでは、ブリタニアへの徹底抗戦を謳うEU軍鎮圧の任をシュナイゼルに与えられたスザクが一人でG1ベース内のランスロットの隣で報告書を見ていた。

 

「(連日に渡っての追撃で士気の低下は予想以上に酷い。 ユーロ・ブリタニア軍にブリタニア軍のような行軍は荷が重いか。 僕がランスロットで────)」

 

 そんなスザクの背後から、コーヒーが含まれた紙コップを掴んだ手がニュッと出てくる。

 

「レドか────」

「────さすが枢木卿ですね────」

「────ありがとう、頂くよ。」

 

 スザクは『スロップバックス』のロゴが入ったコーヒー(砂糖とミルクありあり)を口に含んで微量のカフェインを摂取するが、レドのジッと自分をまるで値踏みする視線に気まずくなる。

 

 スザクはユーロ・ブリタニアの者たちの前でラウンズに相応しいほどの凄まじい戦果を挙げているが、『イレヴン』ということで孤立していた。

 

 唯一の例外は配下となった『コノエナイツ』なのだが、レドはどこかつかみどころのない印象を与えていた。

 

「……何か、話があるのかな?」

 

「では……今までの戦闘で、枢木卿はナイトオブラウンズとはいえ、絶望的なまでに不利な状況下や戦力差のある戦場を単独で切り抜けています。 ハッキリ言って、『常人なら死んで当たり前』の。 でも、貴方は生き延びています────」

「────それだと、“(スザク)が死んだほうが良かった”みたいに聞こえるけど?」

 

「ッ! す、すみません! そんなつもりでは────!」

「────ごめん、悪質な冗談だったね。」

 

 スザクは報告書から、ずっと酷使しているランスロットを見る。

 

「確かに、ナイトメアに『性能差』があっても『数の戦力差』はそれに勝る。」

 

「それは、ナイトメアのデザインが機動性を重視している為ですよね?」

 

「そう。 だから装甲は歩兵程度の銃器ならば耐えられるが、同じナイトメアや戦車の砲撃は一撃だけでも致命傷になりかねない。 たとえ、ブレイズルミナスがあったとしてもね。」

 

「ですが、枢木卿のように敵機に取り囲まれるような戦い方をするのは────」

「────そうだね、褒められた行動ではない。 でも、僕には……()()()には()()()()()なんだ。」

 

「??? 枢木卿、それは一体────?」

「────枢木卿! シュナイゼル殿下が通信でお呼びです!」

 

「さてと。 今度は、どこになるのかな?」

 

 レドが何か言いかけるが、ナイトメアの格納庫にきたシュネーの声によって遮られてスザクは格納庫を後にする。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 スザク、シュネー、レドたちは各々の機体に乗りナイトメア輸送用VTOLによって、ポーランド近郊に駐屯していたブリタニア軍が『ナイトメアの集団から襲撃を受けている』という報告された場所へと向かっていた。

 

 シュナイゼルの命は単純で、ナイトメア集団の無力化だった。

 

「……」

 

 そんな中、シュネーはあまり浮かない顔をしていた。

 理由としては先日だけでなく、何度か窮地をスザクに救われたことだった。

 

『シュネー、まだ拗ねているのか?』

 

 そこにレドから個人の通信が入って、図星だったことにイラつきを覚える。

 

『枢木卿がいなければ、お前は何回か死んでいるぞ? 命があっただけでもいいじゃないか。』

 

『……命よりも大切なモノだってある。』

 

『“名誉”、か。 オレには理解できないな。 無様でも命あってのものじゃないか、なんで貴族は格好をつけて死────?』

『────理解されなくて結構。 これは私個人の問題なんだ────』

『────ならなおさら気持ちを入れ替えたほうがいい。 問題の考え中に死ぬぞ。』

 

『………………祖国のために死ねるのなら本望だ。』

 

 上記でシュネーとレドが話している間、スザクのランスロットはファクトスフィアを展開して前方で戦闘が起きている場所の情報を得ていた。

 

『シュネー、レド。 敵はユーロ・ブリタニアのナイトメアだ。』

『はぁ?!』

『……』

 

『自分はランスロットで敵の側面を襲い、攪乱する。 二人は敵陣に空いた穴へ突入し、友軍のブリタニア軍が撤退する隙を作ってくれ。 (シンとは違う、ブリタニアから独立を目論んでいた一派か?)』

 

『イエス、マイロード。』

『……(相手は同じブリタニア人……だと?! 私は同胞に刃を向けるというのか?!)』

『シュネー?』

『イエス……マイロード。 (祖国に……ブリタニアに仇為すモノは敵。 敵だ。)』

 

 シュネーはそのまま戦場に突貫していくランスロットを見送り、『好機』と思った瞬間にレド機とともに戦場へと落ちて思考を自動(オート)化する。

 

「(考えるな。 彼らは同胞ではない。 ブリタニアに弓を引いた瞬間、彼らはブリタニア人ではない。 犯罪者(テロリスト)だ!)」

 

 シュネー機はユーロ・ブリタニアのサザーランドを近接用に装備したランスで貫き、流れるように残骸を利用して次の敵を死角から襲うと、オープンチャンネルから通信が入ってくる。

 

『シュネー・へクセンか。』

 

 ガァン!

 

 シュネー機のランスを、別のランスが弾く。

 

『何故私の名を知っている?!』

 

『へクセン家の次期当主が、ナイトオブセブン直属の部下となった話はユーロ・ブリタニアでも有名だ。 それに、君の槍術は()()()()()()()()()()────』

『────昔だと────?』

『────私だ、ヘンリックだ。 ヘンリック・ゲーラーだよ。 新大陸でヘクセン家が開いた夜会パーティ以来だね。』

 

『ヘンリック・ゲーラー』。 ユーロ・ブリタニアの貴族で民衆を第一に考える高潔な考えの家の出で過去にシュネーと会い、祖国の将来を憂えていたヘンリックの話はシュネーに『ブリタニアの貴族』としての自覚を結果的に芽生えさせた。

 

『ヘンリック……何故だ! 貴方は言ったではないか! “国家とは民衆あってのもの”だと! なぜあれほど民衆を思っていたあなたが────!』

『────思っているからこその行動だよ。 武力にものを言わせて戦禍を拡大化する本国のやり方は間違っている。 だからこそ我々は立ち上がった、善人の君にはわからないだろうがこの世界は君の思っているほど綺麗ではない。』

 

 シュネーとヘンリックの、互いを狙うランスの突きやガードからのカウンターは武術大会などで見るようなモノだった。

 

『ヘンリック、投降してください────!』

『────シュネー、何をしている! 機体性能ではお前のほうが上の筈だ────!』

『────本当に、善人過ぎるよ君は。』

 

 シュネーは投降を訴え、レドは決着を付けろと叫び、ヘンリックは残念がるような声を出して()()()()使()()()()()()()()()()アサルトライフルでシュネー機の足を払うと、周りにいつの間にか駆け付けたユーロ・ブリタニア機がシュネーを攻撃する。

 

「う、おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 命の危機を悟ったシュネーは機体のランスで薙ぎ払うと軽金装甲のサザーランドたちはバラバラになっていく。

 

 とはいえ無茶な動作と負担でランスとシュネー機の両腕は異様な方向に曲がっていた。

 

『さらば、シュネー・へクセン────』

「────しまった?!」

 

 そう背後から冷たく言いかけたヘンリックは、アサルトライフルをシュネー機のコックピットブロックに狙いを定めると、彼の機体がランスロットのMVSによって真っ二つに切り裂かれる。

 

 文字通りに半分に割られたヘンリック機は沈黙化し、シュネーは思わず止めていた息を吐きだして呼吸を再開する。

 

『大丈夫か、シュネー?!』

『……』

『危なかったけれど、君のおかげで別部隊を制圧できた。』

『…………はい…………すみません、枢木卿………………』

 

 シュネーはなるべく割られたヘンリック機のコックピットを見ないようにメインカメラ(頭部)を操作した。

 

「(シュナイゼル殿下は、敢えて敵がユーロ・ブリタニアの機体だと言わなかったんだろうか?)」

 

『踏み絵かな? どうするぅ~? 試されているよぉ~?』

 

 そんなシュネー機の様子を見ていたスザクの脳裏に、以前のヨコスカ港でエリア11を脱出する日本解放戦線の壊滅作戦前のロイドに言われた言葉が浮かび上がった。

 

「(“試されている”、か……ルルーシュ、待っていてくれ。 僕がラウンズのままでいれば、君を……)」

*1
40話




展開を加速させるため頑張ります。 (;´ω`)


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第137話 狂信者とストーカー

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

やっぱりこの頃のグリンダ騎士団は平和……


 スペシャルイベント開催当日のセントラル・ハレー・スタジアムはかつて以上の活気に潤っていた。

 

 ブリタニア帝国の長い歴史でも『ワシントンの反乱』以上の反乱────エリア11の『ブラックリベリオン』と今では世間が呼んでいるモノとその余波で多々起きたテロの所為で、このように大人数の人々が密集するのは久々である。

 

「ムフフフフフフ♪ そうそうそう、集まってペンドラゴンの経済に貢ぎなさいな♪」

 

 大勢の男女に子連れの家族たちを赤髪のツインテール少女、『カリーヌ・ネ・ブリタニア』がウォークウェイ越しに見ながら、目が『$』マークに変わったような錯覚をさせるほどの笑顔を浮かべる。

 

「ウシシシシシシ。 今までの維持費が原因の赤字を、今日で挽回できれば旧式化した設備の最新化を────」

「────相変わらず元気そうでよかったよカリーヌ。 ここ最近はブツブツとした独り言が多くなっていたと聞いていたからね。」

 

 そんな彼女の隣にいたのはニコニコとしてやんわりとした空気を発するオデュッセウス・ウ・ブリタニアが声をかけるとカリーヌはクワっとした表情に変えて彼を見る。

 

「兄様は理解していないかも知れませんけれど、エリア11とユーロ・ブリタニアへの出兵で経済にヒビが入りましたからね?!」

 

「う~ん、そういうものはシュナイゼルとかが何とかしてくれるだろうさ。 アッハッハッハ。」

 

 のほほんと笑うオデュッセウスに対し、カリーヌはハイライトが消えていくジト目をする。

 

 「フ。 そのシュナイゼル兄様が宰相としてエリア統治を任されている総督たちなどに“搾取を強められないかな?(ニコッ)”と言い渡したのですけれどね────」

「────うん? 何か言ったかいカリーヌ────?」

「────なんでもございません! クロヴィスお兄様が来られなかったのが残念なだけです!」

 

「うーん、確かにそれはそれで残念だけれど()()()()の……………………………………名前はぴんと来ないけれど、昨日到着したと聞いているけれど? ああ、そういえばカリーヌはイベントのホストとして出迎えに行っていたね。 どんな子だったんだい?」

 

 オデュッセウスの問いに、カリーヌがさっきよりも更にゲッソリした様子になる。

 

「うん、まぁ、そうなのですけれど……あの子が私の覚えているモノより全然違うと言うか、まったく品のない庶民に染められていたというか────ッ!」

 

 そこでカリーヌは通路先に、皇族でも珍しい羽根のようなものをドレスに付けた女性を見て一気にご機嫌になる。

 

「あ~ら、巷談(こうだん)枚挙(まいきょ)(いとま)がない英雄皇女様じゃないですか~? ああ、『皇帝陛下に見捨てられたかわいそうなお姫様』と呼んだほうがいいかしら?」

 

 カリーヌの声に、通路先にいたマリーベルとオルドリンの二人がカリーヌたちを向く。

 

「あら、オデュッセウスお兄様御機嫌よう────」

「────やぁマリーベル、久し────」

 

 明らかに自分を無視するマリーベルに、カリーヌはこめかみに血管が浮かび上がりそうになる。

 というかぶっちゃけると、マリーベルはちゃんと挨拶をしただけなのだがどうやらそれが気に入らなかったらしい。

 

「よくものうのうと表舞台に戻るなんて……厚顔無恥甚(こうがんむちはなは)だしいわ♪」

 

「そのようなご挨拶を言うために、足をわざわざ運んでくださったのかしら? 第5皇女様ともあろう方が?」

 

 挑発するカリーヌに対して平然としたマリーベルがまるで意趣返しをすると、カリーヌはさらにニヤニヤし始める。

 

「ふふん、“ショービズなどへの篤志も皇族・貴族の務め”の一環ですわ。 最も────」

 

 ここでカリーヌはさっきから気まずく目を泳がせていたオルドリンを横目で見る。

 

「────貴方(マリーベル)は身売りでもしなきゃ、その役目を満足に果たせないのでしょうけど? ジヴォン家やシュナイゼル兄さまのように。 ああ、そう考えると『家なし皇女』がお似合いですわね! 第8()8()皇女様?」

 

 マリーベルが一度、皇位継承権を剥奪されたことを強調したカリーヌの言い方でその場の空気は一気にピリピリとし始める。

 

「カリーヌ、それは言いすぎだと思うよ? マリーベルが元気で良しとしようじゃないか。」

 

 そんなピリピリした空間を、いまだにのほほんとしたオデュッセウスの声によって毒気が抜かれてしまったのか、マリーベルたちはスタジアムの指定席へと向かう。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ほぼ同時刻、スタジアムの選手控室があると思われる周辺のまた向こう側では、歩いていたソキア、マリーカ、トトの三人がいた。

 

 余談だがさっきから彼女たちは『ずんかずんか』とゴーイングマイウェイのソキアを先頭にこの場所をすでに5回ほど通っている。

 

「あの、ソキアさん?」

「う~ん……」

 

 トトの問いに先頭を歩いていたソキアが唸り声に似た音を出す。

 

「シェルパ卿、さっきからぐるぐると同じような場所を歩いているような気がしますが……こっちで合っているのですよね?」

 

 マリーカの言葉にようやく、ソキアはぴたりと立ち止まってマリーカとトトの二人に振りかえってはサムズアップする。

 

 「大丈夫! 見事に迷ったみたい、メンゴ!」

 

「“メンゴ”って何ですか、“メンゴ”って?! 試合があと少しで始まっちゃうんですよ?! ゲストである私たちが遅れるなんて……」

 

「うにゃは~、固いなぁソレイシィ卿は────」

『────今年は神聖ブリタニア帝国にとって失うもの大きい年と────』

「────ほら、皇女殿下のスピーチがもう始まったじゃないですか?!」

 

「う~ん……多分大丈夫っしょ────」

 「────そのシェルパ卿の自信はどこから来ているのか私にはわかりません。」

 

『それに付随する問題があまた表面化したことも周知の通り────』

「────もうこのままだと私たち、遅刻ですよ?!」

 

「私も軍学校はよく遅刻していたにゃ~────」

 「────褒めていませんから。」

 

「あら?」

 

 そんな三人に、意外な人物の声がかかる。

 

「うにゃ?! その声はミーヤたん?!」

 

 ソキアたちに声をかけたのは、スーツケースのようなモノを持ったアンジュと()()()を着たマーヤとの()()だった。

 

 実は先日出会った際に、ソキアは二人のことをたいそう気に入っては一気に仲良くなっていた。

 

「はい。 良い日ですねソキアさん、ミーヤたんです。」

 

「それにアンたんも────!」

「(────相変わらずなんだか無性に『ダイフク』とやらを食べたくなるようなあだ名ね。)」

 

 特にアンジュが『元暴力違反ギリギリ猛獣ラクロス選手』と聞いてからと追記する。

 

「うん? 彼は?」

 

「えっと……」

 

「彼ならば先に席で待っています。 えっと、グリンダ騎士団である二人は今日出るはずだったのでは────?」

「────うん、何を隠そう迷子なのだ!」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 高らかに宣言しながらどや顔をするソキアを前に、マーヤはニコニコ顔のまま固まった。

 

「……あー、二人は選手────」

「────あ、三人です。 自己紹介申し遅れました、『トト・トンプソン』と言います────」

「────あら、そう? 選手の控室はこっちだったと思うけど?」

 

「……………………………………………………(ジトー。)」

「うにゃはははは~……」

 

 アンジュが指をさした方向は先ほどソキアが歩いていた通路の隣にある階段であり、マリーカが何度も『こっちに行きましょう』と言ってはソキアが『違うと思う! こっちだよ!』とずんかずんかと歩いていっていた。

 

「ありがとうございます、では行きましょうか?」

 

 トトの声でソキアとマリーカはハッとして階段を駆け上っていくとマリーベルの演説がより一層クリアに聞こえてくる。

 

『私たちが抱える問題は、人間が作り出したものです。 よって人間の手によって解決できます。 人間の運命に関する問題すべては人間の力の範囲外ではないのですから。 本日のような催しもそういった兆しを示す動きの最たるモノと私は信じています────』

「────よっしゃ! やっと会場内にゃ────!」

『────我がグリンダ騎士団は帝国のより大きな剣となりましょう。 オールハイルブリタニア。』

 

「「「「「「オールハイルブリタニア!」」」」」」

 

 席を立った観客たちは敬礼をし、ソキアたちは少々(?)不敬ながらも敬礼しながら歩いていた。

 

「はぁ~、やっぱり第1皇子殿下は和むにゃー。」

「ソキアさんもオデュッセウス殿下の良さが分かってきたようですね────?」

「────お二人とも、気を付けてください! そのように俗なほめそやしは不敬ですよ?!」

 

「まぁまぁ、あれを見たらどうソレイシィ卿?」

 

 やっと会場内に入れたところでオデュッセウスのアップ姿を映すスクリーンに、ソキアが指を指すとグリンダ騎士団の団服を着た少女たちが可愛い装甲に包まれた民間用のナイトメアであるMR-1に乗りながら競技場近くのステージに出てきていた。

 

『MR-1』とは払い下げグラスゴーを競技用にプライウェン以上に装甲を取り外されたフレームのみで出力は可動に必要最低限なものに固定され、スラッシュハーケンを後付けでつけることも一応可能とされているが使うだけで機体がよろけるなど、完全に民間用としてのナイトメアである。

 

『さぁ、特設ステージでは久々の登場、PDR13(ペンドラサーティン)のエリシアちゃんの今日限定の復帰ライブです!』

 

『みんな~、来てくれてありがとうなの~♡ エリシアちゃん、超嬉しいぃぃぃ~♡』

 

 金髪ツインテのエリシアが手を振ると『エリシアコール』が連呼され、可愛く着飾ったMR-1たちはスピーカーから流される歌に沿いながら、ダンスなどの芸をし始める。

 

「……ナンデスカ、コレ?」

 

 この様を見ていたマリーカは呆けそうになるのを、ソキアに尋ねることで気をそらそうとした。

 

「うにゅ? あれはさっき私が言った『多分大丈夫』の時間稼ぎだにゃ。」

 

「…………………………………………………………」

 

 ついにマリーカは呆けてしまったのか目の焦点が合わないままの表情で固まっていた。

 

「おーい、マリーカた~ん────」

 「────あんなポヨポヨで頭悪そうなアイドルに団服を汚されてシェルパ卿は何とも思わないのですか?!」

 

「ソレイシィ卿、あの子はグランベリーのオペレーターですよ?」

 

「……………………………………………………………………………………はぁ?!」

 

 横から来たトトの言葉にマリーカは先ほどのマーヤのように一瞬固まってから、淑女(笑)にあるまじき素っ頓狂な声を出す。

 

 「冗談ですよね?! グランベリーって皇族御乗艦ですよね────?!」

「────心配しなくても大丈夫ですよソレイシィ卿、レオンハルトさんはそんなにミーハーじゃないですよ────?」

 

 「────トトさん何ですその“レオンのことは全部わかっていますよ♪”的なセリフの自信は?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「アッハッハッハ! 賑やかでいいじゃないか、『グリンダ騎士団』!」

 

 上記の様子を別のスクリーンで展示品であるランスロット・トライアルの近くから見ていたノネットは笑いを出す。

 

 今度は作業服などではなくラウンズの正装を着て、以前にロイドの策略趣味で参加した学園祭の催し*1が楽しかったのか、来客の挨拶や『これで君もランスロットに!』と書かれた等身大で顔の部分がくり貫かれたラウンズパネルの隣にいて写真を撮るなどをしていた。

 

 「あれが皇帝陛下直属の騎士団『ナイトオブラウンズ』のナイトオブナイン、ノネットエニアグラム卿か。」

 

「……」

 

 ケラケラと愉快に笑うノネットから少し離れた場所で彼女の『案内役』として待機していたティンクがレオンハルトに小声で話しかけるが、返答がなかった。

 

 「レオン────?」

「────困りました。 資料などで見た画像より美人です。 (ポッ)」

 

「(うーん、ここにきてからこの調子であるレオン……マリーカ君がここにいなくて良かった。)」

 

 「あ! 見てください! さらに美人と可愛い女性たちが来ましたよティンク────!」

「────はぁ……(レオン、君にはマリーカ君がいるだろう?)」

 

「「およ?」」

 

 そこにノネットとアンジュが互いを見て、アンジュの隣にいたマーヤがギョッと目を見開く。

 

「う~ん? 君たち、どこかで見たような気が────」

「────うは、うははは! 場所間違えましたー!」

 

 ガシッ。

 

 アンジュがぎごちない笑いを出しながら回れ右をするが、ノネットに腕を掴まれる。

 

「待ちな。 アンタ、アッシュフォードの学生だったよね?」

 

「ギクッ。 か、勘違いじゃ────?」

「────私の視力を甘く見ちゃダメだね。 それに……」

 

「そ、“それに”?」

 

「……いや、何でもない。 ここに来たのは、バカンスか? (少年が変装をしていたとなると、迂闊に“昨日は少年に出会ったからな!”とも言えないか。 部外者(ティンクやレオンハルト)もいる前だしな。)」

 

「は、はぁ……似たようなモノですけど。」

 

「よく両親や家が許したな?」

 

「ギクギク────!」

「────家が『放任主義』かつ自己責任ですので。」

 

 ノネットのそれとなく出したカマにアンジュの目が泳ぎ出し、マーヤが口をはさむとノネットはわずかに目を面白そうに細める。

 

「ふぅ~ん……ま、皇帝陛下が()()を────おっと、()()()()を通して出したお触れは────」

「「「「(────今宰相閣下(シュナイゼル)を『坊や呼び』したぁぁ────?!)」」」」

「────あくまで“エリア11が平定されるまで外出は控えるように”だからね。 ま、そこまで信頼されているところを見ると()()()()逞しいんだね?」

 

 サッ!

 

「って違う違う! そっちじゃないよ! 筋肉だよ! 護身術か何かしらの武術をしているんだろ?」

 

 アンジュがさっと自分の体を隠したことにノネットは苦笑いをし、そんな彼女をマーヤは警戒した。

 

「(この人……伊達にラウンズではないという事ね。 あの時(学園祭)でも遠目で観察していたけれど、隙が無い。 とてもではないけれど、戦うことになれば『暗殺』か『不意打ち』が最良の手段みたいね────)」

「(────後ろの金髪の子(変装中マーヤ)の視線……あの時(学園祭)、時々私を遠くから見ていたモノと似ていると思っていたけれど、近くで感じた感覚では恐らく同じ人物だろうな────)」

「(────この眼差しの変わり方、まさか気付かれたというの?! なんという洞察力……いや、以前に私が見過ぎた疑惑が確信になった────?!)」

「(────おっと、この雰囲気は……この子もやるね。 まったく、少年の周りにはいつも面白い子たちばかりがいるよ。)」

 

「「……………………フフフフフフフフフフフフフ。」」

 

 上記での二人がした一秒未満のやり取り(?)の末、マーヤとノネットは互いに『悟られた?』という気配を濁すかのような笑いを出す。

 

 ブルルッ!

 

「ティンク、なんだか急に寒くなりませんでしたか?」

「ん? そうかな? 空調が効きすぎているのかな?」

 

 突然お互いを見て笑い出したノネットとマーヤを見たレオンハルトは思わず身震いをし、ティンクはボケたのほほんと答えた。

 

「(あれ、トイレかな?)」

 

 ちなみにアンジュも寒気は感じていたが、考えは全く見当違いなモノだった。

 

「(それでも、(スバル)様の情報通りにランスロットに似た新型が展示されていることが確認できたのは大きい。 けれどラウンズがいるとはいえ、神様が『ここに来た』ということなら方法はある筈。

 それとも今日のゲストたちである皇族が目的? このように数人が一か所で集まるのはエリア11以来……

 あるいは『グリンダ騎士団』でしょうか? 『ブリタニアの対テロ特化騎士団』という彼らが本格的に活動を開始すれば、アマルガムと衝突するのは必須。)」

 

 マーヤは視線を動かさず、視界の端で見えるランスロット・トライアルを見ながら内心で不安を感じながらも()()()()()()()()()()()などをなるべく胸奥深くで考え、思考を巡らせた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「(ムホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ♡)」

 

 スタジアム内のステージ上でPDR13は巧みにMR-1を使って繰り広げるダンスを、観客席でスバルはチャラ男フェースになりながら楽しんでいた。

 

 「(コードギアスの女子アイドル、めっちゃええわぁ~♡ っととと、和んでいる場合じゃなかった。)」

 

 かなり久しぶりに羽目を外せたことで、心地よい感覚に浸っていたスバルは席を立ってスタジアムのホール部分へと戻っていく。

 

「(『オズ』通りなら、確かマリーベルとオルドリンは皇室専用フロアから選手控室に向かっているh────)」

『────わわわわどいてぇぇぇ────!』

「────ん────?」

 

 ────ドスン!

 

「「グェ。」」

 

 ホールを歩いていたスバルの横から少女の声がしたと思えば、盛大な衝撃とともにスバルと彼にぶつかった少女が変な声を出して倒れてしまう。

 

「いたたたた……まるで筋肉の壁────」

「(────ピンク……の髪の毛? だがマリーベルじゃない────)」

「────じゃなかった! 歩いている間にボーっとしないでよ────!」

「────ぶつかってきたのはそっち────」

「────ああ、もうー! 遅れちゃう~!」

 

 少女は勢い良く立ち上がっては風のように走っていき、それをスバルは見送りながらふと考えたそうな。

 

 「(髪と同じピンク。)」

 

 割としょうもなかったことであり、内心にとどめたのがせめてもの救いだった。

*1
63話より




次話で展開を加速させます。 (;´ω`)


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第138話 『デス』リターンズ(意味深)

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

誤字報告誠にありがとうございます。 お手数をお掛けしております。 m(_ _)m


「うーん、賑やかでいいね。」

 

 アイドルグループであるPDR13(ペンドラサーティーン)を、皇族専用席から見下ろしていたオデュッセウスがニコニコしながら口にする。

 

「です♪ モグモグモグ。」

 

 そんな彼の隣ではちょこんと座り、兄の代理として皇族に相応しいドレス……

 

 ではなく、(コードギアスの)女性としては珍しく、カリーヌのような活動的な(短パン)タイプの服装を身に纏ったライブラ・ブリエッラ────否、『ライラ・ラ・ブリタニア皇女殿下』が楽しそうにコーンドッグを頬張っていた。

 

「ああ、もう! 手に食物を持ちながら食べて喋るなんてはしたないわ!」

「うみゅ~。」

 

「もっと皇族としての意識を────」

「────えええ────?」

「────言葉使い! ああ……何がどうしたら人見知りでビクビクする小柄なライラがこんなことに……」

 

 そしてそんなライラは手にハンカチを持ったカリーヌに説教と共に世話をされていた。

 絵面的に見れば完全に『姉妹』である。

 

「はっはっは。 逆に私は好感が持てるね。」

「オデュッセウスお兄様もコーンドッグ食べますです?」

「う~ん、ヒゲに引っ付きそうだから代わりにシュワッとした炭酸飲料を────」

 「────シュナイゼル兄さまに言いつけますわよ────?」

 「────やっぱりやめておこうかな! はっはっは!」

 

 ライラに感化されそうになったオデュッセウスは小声で話しかけたカリーヌの言葉に嫌な汗を掻きながら笑って断る。

 

「それにしても“アイドルグループに時間を稼がせる” なんて、格式にかけますわ。 さすがはマリーベルね。」

 

「こらこら、彼女は年齢的に姉だよ?」

 

「彼女は皇位継承権を一度剥奪された身で、今では最下位ですわ。」

 

 「……………………モモモ。」

 

 注意されたからか、今度はホットドッグ(ケチャップやサワークラウト無し)を手で千切ってカリーヌが見ていないうちに口へと運び、気まずい空気の中で静かに食べる。

 

「………………私はこういう行事は好きだね! こう、元気を分け与えられるような────!」

「────オデュッセウス兄様? KMFリーグは元来、硬派な真剣勝負の世界ですのよ? シュナイゼル兄様がいればきっと────」

 「────居なくて良かったです、なんか怖いです────」

「「「「「────ブフ?!」」」」」

 

 ライラのボソッとした言葉に、周りの者たちはオデュッセウスたち含めて一斉に吹き出し、唯一苦笑いをしていたオデュッセウスは気まずい空気を消そうとした。

 

「う、う~ん……シュナイゼルはこの前の『ダモクレス城』のことで、軍略家やカンボジアの者たちと会議中と聞いているよ。」

 

「『ダモクレス城』ってなんです?」

 

「うん? 確か、『城を浮島にする機密計画』だと────」

 「────オ・デュッ・セ・ウ・ス・兄・様?」

 

 軍事機密をのほほんとした態度のまま喋り出すオデュッセウスは笑顔が引きつっていくカリーヌの静かな(プレッシャー)を察して口を噤んだ。

 

「ほぇ~。 それって要するに『ラピュ〇』です?!」

 

「『ラ〇ュタ』……って何???? 」

 

 逆にライラの顔はキラキラしだし、聞き慣れない単語に対してカリーヌはオウム返し気味に聞き返す。

 

「……あああ! よく知っているねライラ! 確かスウィフト氏の『ガリヴァー旅行記』からだね?! 懐かしいな~、私もよく読んでは旅を妄s────想像していたよ。」

 

 そしてまたもライラに感化されるようにオデュッセウスもキラキラしだし、幼い頃を懐かみしんでは顔が緩んでいく。

 

「え? 違いますですよ? 『()〇リ』って、()()()言っていたですよ?」

 

「????? なんだいそれは?」

 

「(“先輩”??? 誰かしら……この際、誰でもいいか。) 多分『()ブ〇』のことですわオデュッセウス兄様。 確か、『サハラ砂漠に吹く熱風』のことですわよねライラ?」

 

「そうなんです???」

 

「え? 違うのかしら?」

 

「です~?」

 

「う~ん、何か噛み合っていないような気が……」

 

 ハテナマークだけを純粋な疑問から出すライラ、カリーヌ、そしてオデュッセウスの様子に皇族の護衛SPたちは久方ぶりに和んだ空気に当てられて気が緩みそうになった。

 

 そしてさらに余談だが、女性SPたちはこの景色にハートを見事にブレイクされ、顔を覆いながら地面の上でゴロゴロしながら悶えたい衝動を、全力で自重していたと追加で記入しよう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「なんで皇室専用フロアに一般人が来るのよ。 警備の人たちちゃんと仕事しているのかしら? それともカリーヌ様の『コスパ計画』の一環で人手を減らした影響────?」

「────思うだけにしなさい、オズ。」

 

 選手控室に向かっている間に何人か迷い込んだと思われる一般人たちにサインやら握手を求められたオルドリンが愚痴をこぼしていると、平然としたマリーベルは着替えながら彼女をなだめる。

 

「は~い……ってそういえばなんで私のこと知っているのかしら?」

 

「あら、オズはきっちり有名人よ? ポスターとか作ったもの────」

 「────え?! じゃ、じゃあまさか雑誌のアレ(オルドリンマスク)も?!」

 

「あれを読ませていただいて、インスピレーションが湧いてポスターなどの広告を作っちゃいました♪」

 

「マ、マリー……」

 

「あとマジカルオルドリンも可愛かったですよ?♡」

 

 紐パンのオルドリンは着替え中、更にドヨ~ンとし彼女の隣ではかなりきわどい派手な下着を穿いていたマリーベルはニコニコしながらグリンダ騎士団のパイロットスーツに袖を通していった。

 

 バァン

 

 「ごっめ~ん! ソキア・シェルパと他二名、迷子になっていましたにゃぁぁぁぁぁ────!」

 

 選手控室のドアが丁度その時開かれ、『ヾ(@^▽^@)ノニャハー☆』の勢いで入ってきては固まる。

 

「すみません、遅くなり────」

 

 ソキアの後を追うかのようなマリーカも頭を申し訳なさそうに下げながら入ってくると固まる。

 

「まぁ……()()()凄いですわね。 (ポッ)」

 

 トトもマリーカと同じく入っては来たが、慣れているのか慌てずにそのまま頬を赤くさせてはコメントするだけだった。

 

 ちなみに三人の視線はマリーベルの穿いていたオープンクロッチ風のスケスケパンツに向けられていた。

 

「にゃああああ?! 凄い下着にゃ?!」

「こ、こ、こ、皇女殿下の下着姿……」

 

 ソキアはワクワクし目を星マークに変えさせ、マリーカの目からハイライトが消えると同時に口からエキトプラズム的な何か()を出しながら立ちすくんだ。

 

 ……

 …

 

『さぁさぁ皆様お待たせいたしました! 本日のメインイベント、英雄皇女率いるグリンダ騎士団と今期もリーグトップを独走するファイヤーボールズのジョスト&フォーメーション!』

 

 アナウンサーの元気のいい声がスピーカーを通してスタジアム中に響き渡り、観客たちはワァワァと騒ぐ。

 

『先に入場するのはファイヤーボールズ!

 荒ぶる狩猟民族のDNA持ちの褐色美人、マトアカ・グレインジャー通称“ハンター”!

 ニュービー時代からも続くKMFプロレスリングの覇者、“プレデター”のジェイミー・ホーガン!

 “クラッシャー”が抜けた穴を埋める天才ルーキーの“子猫”ステファニー・アイバーソン! 

 チームの司令塔でありながら一度もクラッシュ(大破)したことのない“無傷のクイーン”リリー・エルトマン!

 そして悪名高きマフィア、ドロスファミリーの血を引く大女傑! “チャンピオン”、“ブレードギャング”! アレッサンドラ・ドロースゥゥゥゥ!』

 

『『『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』』』

 

 入場してくるファイヤーボールズは皆、グリンダ騎士団のパイロットスーツに引けを取らない制服を着て誰もが見目麗しかったが、それぞれの持つ特徴が上手い具合に違っていたからか観客(特に男性陣)からの受けが良かった。

 

 ちなみに連れの女性にわき腹をつねられて静かな断末魔叫びを出した男性は数知れないまま、グリンダ騎士団の()()が入場してくる。

 

『ファイヤーボールズに対するは女子KMFリーグに本日限りの殴り込み、遊撃機甲部隊のグリンダ騎士団! おっとぉぉぉ?! 選手が一人足りませーん?! まさかのまさかでこの懐かしいパターンは会場の皆様にもお馴染みの演出! チームの入場すらぶち壊す────!』

 

 ドォォォォン!

 パパパパーン

 

 まるでアナウンサーのノリを利用するかのように、グリンダ騎士団とファイヤーボールズがいる場所とは全く違う場所で盛大に上がる花火たちをバックグラウンドにポーズを取ったプライウェンと人影に注目が行く。

 

 『────“ザ・クラッシャー”ソキアァァァァァァァ!!!』

 

『『『『ソーキーア! ソーキーア! ソーキーア!』』』』

 

 カメラがどや顔をするソキアを拡大化し、姿を巨大スクリーンに映すと観客の騒ぐ熱のボルテージが一層より高まってはソキアコールが連呼し、スタジアムを震わせる。

 

『我々は君を待っていたぁぁぁぁ!』

 『いつものビキニとブーツ姿じゃないんだ……』

『今回も派手なクラッシュ、期待しているぜぇぇぇぇ!』

『ヒャッハー! ぶっ壊れろぉぉぉぉ!』

 

 もしスバルがこの場面を見ていれば、『チャラ男』の仮面を思わず脱ぎ捨てて“完全にノリがWW〇じゃねぇかぁぁぁぁぁ?! 特に最後の奴は世紀末的なサン〇ードームじゃねぇかぁぁぁぁぁ?!”と全力でツッコミを叫んでいただろう。

 

 それでも観客の発する熱気と応援の声に飲み込まれてしまいそうで、“付近の者たち以外に果たして聞こえるかどうかは微妙”と言ったところだが。

 

 ……

 …

 

「あーあ、私もエニアグラム卿のようにペンドラゴンへ行きたかったなぁ~。」

 

 上記のスタジアムの様子を、ナイトオブスリーであるジノが中継放送を見てぼやいていた。

 

「ジノにランスロット・トライアルの操縦は問題あり。 歩き出そうとして倒れて整備班に怒られてレンチで殴られそうだった。」

 

 彼の隣では携帯をいじるナイトオブシックスのアーニャが辛辣なツッコミ(正論)を入れる。

 

「おう! あの駆けっこ、面白かったぞ!」

 

「半分だけ記録できた。」

 

「ま、ここは噂以上にでかかったからなぁ~……」

 

 ジノが『ここ』と示す場所は新大陸の西海岸にある、キャリフォルニア機甲軍需工場のロンゴミニアドファクトリーだった。

 

 ここに来たのは上記でアーニャの言ったように二人の専用機となる機体が開発されていて、機体のOSをカスタマイズするためにシミュレーターでジノとアーニャの“クセ”を把握して機体の仕上げに取り掛かるため呼ばれていた。

 

 これはベラルーシでラウンズ用にチューンされたグロースターとスザクのランスロット・エアキャヴァルリーの性能差をブリタニアの兵士たちが目にしたことと、ほぼ未熟なパイロットで結成されたグリンダ騎士団の活躍がブリタニア中に広まったことで、シュナイゼルはラウンズ用の機体開発を『ランスロット量産計画』と共に並行させていた。

 

 ジノ専用機のRZA-3F9『トリスタン』。 ミルベル博士がシュタイナー・コンツェルンの主任として書き残した設計図とレオンハルトの騎乗するブラッドフォードを基に作られているが、ブラッドフォードと違ってロイドのフロートシステムも搭載されている。

 コードギアスの世界では陸と空戦兵器としてはかなり『現時点で陸空両用ナイトメアの理想形を追求された機体』で、ブラッドフォードのように今までの技術系統とは一味違う可変型ナイトメアである。

 

 そしてアーニャの専用機として予定されているRZA-6DG『モルドレッド』は、ティンクの乗るゼットランドをベースにし、さらに砲撃性能と防御力を追及させたデザインでナイトメアとしては珍しくスラッシュハーケンを搭載される予定のない、完全に『単独で行動できる動く超高出力の砲台』として設計されている。

 

 それだけだと鈍重そうなのだが大幅に改良されたユグドラシルドライブの出力はランスロットも凌駕する特注品で、機動力はグロースターと同等かそれ以上。

 余談だが、先ほど『スラッシュハーケンを搭載される予定のない』と記入したがモルドレッドの手は容易にグロースターの頭部を握りつぶせるほどで、『アイアンクロー』ならぬ『アイアンデッドクロー』である。

 

「プライウェン……知らない機体。 記録。」

 

 そしてアーニャはどこ吹く風のようにジノの言葉を無視して画面に映るプライウェンの写真を撮り、ジノはカラカラと笑う。

 

「いつも以上にキツイ態度だな、アールストレイム卿! でもすごい装飾品を付けているな、プライウェンは! 俺も何か『トリスタン』に付けてみようかな……今のモヒカン状の奴を角にするとか。」

 

「……『モードレッド』には二角帽(バイコーン)?」

 

 かくしてジノとアーニャの追加注文にてロンゴミニアドファクトリーの作業員たちは怒りから血の涙を流してブラック会社真っ青の残業を強いられたそうだが……

 

 なお後になって、シュナイゼルから『ラウンズ専用の機体、早められないかな? この期限以内に』、と言い渡されたロンゴミニアドの作業員+アヴァロンの技術者たちはあのロイド含めて発狂寸前に追い込まれるのは少し先の話である。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ファイヤーボールズは、全員アレッサンドラの祖父が最後の頭となったドロスファミリーがスポンサーをしていた孤児院で育った故に互いの癖や長所に短所などを把握し、そのおかげKMFリーグでは常に勝ち進んでいた。

 

 対するグリンダ騎士団はナイトメアを使った競技は野戦を経験しているが初めてのこともあり、機体も同じプライウェン。

 

『良い勝負になる』と誰もが当初は思っていたが、『まずは小手調べ』どころか最初の接触でエースと名高いオルドリン機を一気にリタイアさせようと速攻をかけた。

 

 だがオルドリンはこれに対して躱したり、退却することなくそのままファイヤーボールズのアレッサンドラに見事カウンターを入れ、両者は機体へのダメージ修理の為ピットインするしかなかった。

 

 この一触で、オルドリンはなぜソキアがCSR(戦闘ストレス反応)に陥ったのか、考えながら攻撃されたときにぶつけた頭に氷の入った袋を当てる。

 

「(グラスゴーより敏感で、軍用とは違い軽装甲。 この機体は文字通り『人機(じんき)一体』が要求される……だからソキアはサザーランドを、『自分の体の一部』として外界を感じ取れていたんだわ。 その感性も踏まえると、観客たちが感じていた不安に気付いて騎士に志願したのね。 それに対して────)」

 

 ────ガシャーン!

 

『おっとぉぉぉ?! 例にもれずクラッシャー、これで100試合連続クラッシュ達成したぁぁぁぁぁ!』

 

『キリがいいにゃ~。』

 

「……………………深く考え過ぎかしら?」

 

 オルドリンはアナウンサーとソキアの声に思わず滑りそうになり、自分に対して疑惑を持つ。

 

 

 

「おお! 凄い盛り上がりだね! 見て見てカリーヌ、マリーベルも頑張っているよ!」

 

「あのくらい私にもできます────(────じゃなくて!)」

 

 激しい攻防を見事に交わすグリンダ騎士団とファイヤーボールズにオデュッセウスはワクワクする横で、面白くなさそうにしていたカリーヌが不貞腐れながらずっと感じている違和感に対して思考を再度巡らせる。

 

「うーん、やっぱり炭酸飲料はやめておいてよかった。 でなければ今頃ライラのように席を外しているかもしれなかった。 ありがとうカリーヌ。」

 

「……いえ。 (それよりもやっぱり『今回の祭典には何かある』と直感が言ってきているわ。 皇族である私たちがこうも集められるなんて反ブリタニア勢力に対して絶好のタイミング。 もちろん、辺境部分とはいえ帝都。 テロが起きる可能性が低いとしても……この事態のためにランスロットの量産機とラウンズであるエニアグラム卿を、無理言って取り寄せたというのにシュナイゼル兄さまは平然と承知した……やっぱり、何かがあるとしか────)」

 

 ────ブツ。

 

 突然さっきまでのアナウンサーの声がブッツリ切れ、スタジアム内にいる観客と選手たちは巨大スクリーンに映った見慣れぬ男性に注目を向ける。

 

『諸君、私は“タレイランの翼”という組織を率いるアレクセイ・アーザル・アルハヌスだ。 すまないが、当スタジアムは我々が占拠した。 祭典中に申し訳ないが、このようなものはしょせん虚栄が生む幻想にしか過ぎないとここにいる皆に知ってもらいたい────』

 

 アレクセイに気を取られている間、治安用のナイトポリスや軍用のサザーランドたちが一気にスタジアム中に設置されたコンテナから出て一気に防衛ラインを内と外側両方、そしてスタジアムが設置されているビルの周りにも陣を張っていきながら制圧するその統制力と機動力の手腕は“見事”と言う他なかった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『────なぜ“虚栄の繁栄”と呼んでいるか。 ご存じだろうか? 検閲と制限を設け、要求するのは常に権力者。 貧者のストレス発散と注意を背けるためにナイトメアを使った茶番劇が行われると同時に、その同じナイトメアによる軍拡に対して世論の反発を抑止するための一環でしかない────』

 

 スタジアムの放送は帝都ペンドラゴンのどのチャンネルからも流れ、これを見ていた市民たちは勿論ざわつき始める。

 

 ある者は立ち尽くし、ある者はこの出来事を信じられず、またある者はスタジアムにいる知人たちに連絡を取ろうとしていた。

 

 その中でグリンダ騎士団のグランベリーが停泊している港で、乗り込んでいた()()()()()()は上半身から血の気が引きながらも、両手に持っていた荷物を落としてそのまま目と口を大きく見開きながら頭を力いっぱいに抱え出した。

 

 「(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!)」




『タレイランの翼事変』と共にスバルの苦労が始まります。 (汗

息抜きのため久しぶりにサイバーパンク遊んできます。

余談のうんちく:

タレイランの翼の元となった『シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール』、リアルの忠実ではフランスの『フランス革命』から、『第一帝政』、『復古王政』、『七月王政ま』での政治家で外交官を務め、ナポレオンも(渋々と)認めた天才の一人。

コードギアスの世界では『裏切りの天才』、または大きな時代の流れを直前に感じ取ってはうまい立ち回りや亡命をすることで『変節の政治家』として知られている。


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第139話 『ソレ』は飛来する、星のように

お待たせしました、次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


 えらいこっちゃ。

 えらいこっちゃ。

 えらいこっちゃ。

 えらいこっちゃ。

 えらいこっちゃ。

 

 え? 『今絶対に原作ニーナの顔芸になっているだろw』だと?

 

 知らんがな。

 

 だって、ちょっと、え?

 待って待って待って超待って。

『オズ』の『タレイランの翼』(“さっきの放送を聞いて思い出したんか草”とか言わないでくれ)ってミルベル博士を首謀者に立ち上げられたはずだ。

 

 だからこれからは『当事者としてではなく、友軍の充実化を行って徐々に任せていく』の一環としてミルベル博士と彼の妻を調略したら何故かラビエ親子という思いがけないオマケも『おいでませアマルガム♪』になったワケだけど……

 

 ()()()()()()()()()()()()なの?

 

 どう考えてもおかしいよね、これ?!

 

 いくら反ブリタニアや反シャルルの理念を持ったグループが居たとしてもマリーベルとカリーヌとオデュッセウスの皇族三名が集まって対テロ組織が通常のナイトメアじゃなくて競技用のチューンダウンされた機体に乗っているとして────あ゛

 

 冷静にそう考えたら、理由がジャンジャンあるな。

 

 でも原作ではタレイランの翼の残存兵たちがこのテロ活動を行っているわけだからそう長くは続かないだろうさ。

 

 何せミルベル博士との衝突が無かったからグランベリーや搭載機の状態は万全の筈だし……

 なんと言っても、ペンドラゴンの近くだ。

 

 よし、そう考えると少し前向きになれる。

 

 さて、そうと決まればこの騒動を利用して────

 

『────なぁ聞いたか? “グランベリーは発進するな”って話の理由?』

 

 ん?

 “胃の中がムカムカする”を通り越して荒れ狂う胃痛が無くなっていく俺の耳に、さっきの放送を聞いた整備士たちの話し声が聞こえてくる。

 

『なんか海の方はヤベェって聞いたが……』

『噂だが、どうやら警備騎士団が帝都の警備強化のためにバミューダ軍事要塞島から呼び寄せた航空部隊がクーデターを起こす為、周辺の海軍を壊滅させて大半の防衛部隊はそっちに気を取られているみたいだ。』

『それが何で俺らのグランベリーに────?』

『────これは緘口令が敷かれる前の知人に送られた情報なんだが、敵は飛行型のKMFを中心にしているらしい。』

『ちょっと待て、それだと通常艦隊の海軍は────?!』

『────多分、負けているだろうな。 だからグランベリーはさっきのタレイランの翼とクーデター部隊に対しての切り札にしておきたいらしい。』

 

 なんですと?

 

 い、いや何で増加戦力がタレイランの翼に……………………………………

 

 もしかしてもしかしたらもしかするのか?

『ミルベル博士が反旗を翻さなかったから、その分の戦力も今この時に便乗した』とか?

 

 えええええええええ。

 うそ~ん。

 

 う?!

 さっき収まりかけた胃がまた……

 はやく胃薬────って持ってきてねぇ?!

 

 どうしょうどうしょうどうしょうどうしょうどうしょうどうしょう。

 

 いやな汗が身体中噴き出てはべっとりと変装した肌に密着させ、頬を汗が伝う俺の目に()()()()()が目に入って心臓がドキッとする。

 

 俺が見たのはランスロット……によく似ていて同じ第七世代KMFとカウントされているRPI-212、『ヴィンセント』だった。

 

『ランスロット量産計画』の過程でデータを集める為にランスロットをコストダウン化させて作られたランスロット・トライアルが余りにもピーキー過ぎて今スタジアムで展示品とされている一機や、パイロットスキルが(マークスマンシップ(射撃)以外)オールA+のオルドリン用の機体に改良されている……筈。

 

 そこで『一般兵士でも扱えるものにしろ!』と言われて更にコストダウンさせられて新たに作られてのが『ヴィンセント』だ。

 

 そして初めてのお披露目は『R2』のバベルタワーだった、少なくとも原作アニメでは。

 ()()配備されていたのか? てっきり『オズO2』からだと思っていたヨ?

 

 

 

 少々ここで種明かしをすると、原作『オズ』ではウィルバー・ミルベルと『タレイランの翼』のテロ活動によりオルドリンの近接戦闘特化型ランスロット・グレイルが他のグリンダ騎士団の機体同様に中破してしまった為、元々データ取集の為に設立から間もなく人材も機体不足だったグリンダ騎士団に送られてきたヴィンセントを解体し、パーツをグレイルに使って修理していた。

 

 無論、元々の用途から途方もなく外れた使い方をされて良いワケが無いのだが……原作のマリーベルの活動で有耶無耶になっていたと記入したい。

 

 つまり今スバルが目にしているのは『原作で中破したグレイルの生贄パーツとして使われたヴィンセント』である。

 

 

 

「おい! そこの若いの! 呆けている時じゃないぞ! 機体がいつでも出せるように手伝え!」

 

 う~む。

 

 『棚から牡丹餅』ならぬ『触らぬ神に祟りなし』。

 

 と、言いたいところだがどうやら原作以上に『タレイラン・チルドレン』ならぬ『タレイランの翼』はパワーアップしているらしいしスタジアムにはマーヤもアンジュもいるだろうし何よりここで()()()()居る筈の皇族たちの内二人に何かあったら寝覚めが悪い。

 

 ナナリーに対してクソガキムーヴをしたカリーヌはどうでも良いとして、マリーベルは実力で生き残れるが、特に気掛かりなのは『髭のおっさん〇リコン疑惑持ち』のオデュッセウス。

 

 原作アニメしか見ていない場合だと『パッと冴えなくてウジウジして場に流されるおっさん』の側面やシュナイゼルに頼り切る場面しか見えないが、外伝などで彼は彼なりに結構活躍している。

 

 例えば前世で『更生保護』に値するシステムを、彼はブリタニアの領地内で実行させようとしている。

 そのシステムを取り入れるかどうかはエリアの総督や領主に一任されているが、実際にそれを取り込んでいるエリアは比較的治安が良く、帝国へのスタンスも協力的でどれもが『平定エリア』、『部外者でも受け入れられる観光地』と認知されている。

 

 それだけでも『実はすごいんじゃね?』と疑惑を与えるのに彼は本編でも外伝などでも見ない、『皇族が国民や名誉ブリタニア人と分け隔てなく触れ合うアピール』などをしている。

 多分……というか十中八九、『世間に対してのプロパガンダ』だろう。

 

 だがこの世界に転生して放送や生中継を見ていると本人はいつでもニコニコしているし、周りも最初こそ『コウゾクキタビクビク』と余所余所しい態度を見せているが時間が流れるにつれて愛想笑いなどではなく自然な笑顔を周りは浮かべている。

 

 実際に会ったことは無いが、俺も『優男』などの仮面を維持しているからなんとか分かる程度の変化だが、これは大きい変化だ。

 

 20世紀未満時代で世界が主に『開発途上国支配主義者』だらけの状態であるコードギアスの皇族(というか殆んどの貴族)としては『異端』として嘲笑われるが、俺の前世からすればかなりの人材だ。

 

 どれほどかというと、ファンの間で『オデュッセウスが皇帝になっていればいずれブリタニアは良い方向に変われたんじゃね?』という説が上がってもなんら不思議でもないほど。

 

 そんな人が後に、『フレイヤ』という無差別の核攻撃に巻き込まれて大勢の人と一緒に呆気なく死ぬ。

 

 つまり何が言いたいかというと、『オデュッセウスは完全に生まれる時代と国家を間違えた不運な人』だ。

 

 俺は『転生ヤッタちょっと待ってブリタニア貴族やんけフレイヤヤダァァァァァ!』と考えて行動したからフレイヤの開発フラグをバンバンへし折ったからまぁ……大丈夫だとは思いたいが……

 

 キリキリキリキリキリキリキリ!

 

 胃、胃がとてつもない悲鳴を上げているでゴザル。

 

 だが、もしこれが色々と俺が変えた所為で成り立った事柄ならば『キュウシュウ戦役で生き残った片瀬少将』と何ら変わりはない。

 

 …………………………よし。

 

 

 


 

 

 

 スタジアム内に突然現れたナイトポリスに警備用のグラスゴーなどの出現によって試合は中断され、観客たちはこの展開と先ほどの宣言に『相手を刺激しまい』という危機感や恐怖、あるいは思考がフリーズしたことによりどよめきながらも席から動かずに座ったまま周りの出来事を静観していた。

 

 特等席にいたオデュッセウスに彼のSPは別ルートで避難を試みたが、既にアルハヌスの部下たちと遭遇しては銃撃戦を行っていた。

 

 カリーヌは『異変が起きた』と察知しては一足先に席を立って既に()()()展示品にされている機体へと向かっていた。

 展示品の作動キーをポケットから取り出して。

 

 ……

 …

 

 ランスロット・トライアルが展示されているホールでは『来客へのアピールの為にラウンズとグリンダ騎士団の騎士たちが居る』という事前情報によって『ラウンズに失礼があってはならん』という体から警備のグラスゴーと、警備の騎士たちが近くに待機されていた。

 

「そのまま手を頭上に乗せろ!」

「急な動きをすれば引き金を引くぞ!」

「(う~ん、参ったねこりゃ。 まさかその警備騎士団が丸ごと敵になるとはねぇ~。)」

 

 ノネットはそう思いながら手を上げたティンクやレオンを横目で見る。

 

「(小僧たちだけならば、まだしもやりようは幾らかあるけれど────)」

 

 そこで彼女は反対側にいる()()()を装っているアンジュとマーヤに視線を移してアイコンタクトを取る。

 

「(────ここでアンタたちが行動を先に起こせば、根が生真面目なレオンハルトの事だから報告されちゃうよ? だからきっかけがあるまで()()行動は起こさないでくれよ?)」

 

「(ええ、分かっているわ。 行動は『貴方の後で』という事で……)」

 

「(え? 何でこっちを見るの?)」

 

 ドォオン!!!

 

 ノネットのアイコンタクトにマーヤは小さくうなずき、アンジュはハテナマークを出したその時に、会場内部の競技場から爆発音が響いては警備騎士団員たちの注意がそちらに一瞬だけ向けられる。

 

「な、なんd────?」

 

 ────ヒュッ!

 ゴキッ!

 

 ノネットは注意が逸れた近くの警備員の首に蹴りを入れると、まるで太いセロリが無理やり折られるような音がする。

 

 ザクッ!

 

 ほぼ同時と思うほどのタイミングで、マーヤは丈の長いドレスの下の立派なガーターストッキングで覆われた美脚と太股の上に装着された暗器を投げては数人の警備員のこめかみや額にそれらが命中し────

 

 ガチャ、ガコン。

 ダダダダダダダダダ!

 

 ────その隣にいたアンジュは持っていたスーツケースのハンドルを強く握ると、バネ式のビックリ箱のようにサブマシンガンへと変えたソレを彼女は構えてマーヤが攻撃しなかった警備騎士団を撃っていく。

 

 このスーツケースは、以前にスバルがアンジュの家騒動で『万が一の為』と用意したハンドル付きの工具箱の開発で作られた副産物だった。*1

 あの時に使用はされなかったが、いわゆる『折りたたみ式の銃』に部類される暗器であり、コードギアスの世界でも所持品のチェックは行われる。

 

 だがこの世界での銃は主に『電力式』であるため、手荷物検査時には『金属』や『サクラダイト』などが引っ掛かる。

 

 よって『非金属』であるセラミックに強化プラスチックや、『電力式』ではない火薬など感知されない。

 

 勿論のことだが、先ほどの爆発音より近くの発砲音に警備のグラスゴーは注意を瞬時に戻して対人機銃を作動する。

 

『と、とま────!』

 

 ────ドォン!

 

 マーヤがスカートの内側に分散して取り付けたボーラ状の爆弾がグラスゴーの片足に引っ付き、それをアンジュが撃つと爆発してグラスゴーは転倒し、ノネットは警備騎士団が反旗を翻す直前に装備した手榴弾を死体から拝借してはピンを外してからコックピットブロックに投げる。

 

 ドォン!

 

 コードギアスではまだまだなじみが無い火薬やプラスチック爆薬の発する硝煙の匂いが爆風に乗って辺りに吹き荒れる。

 

「いやぁ~、流石というか何というかアッハッハッハ────」

 「────ティンクは何でそんなに呑気でいられるのですか?! そもそも何故一般人の筈である彼女たちがエニアグラム卿並みの────?!」

 

「────あー、それは彼女たちは私が()()()()()()()()()()だからさシュタイナー卿。」

 

 そこにノネットの言葉にレオンが固まる。

 

「……はい────?」

「────けどどうしたものかね。」

 

 ノネットは複雑そうな顔をしながらレオンハルトの追及を濁し、ランスロット・トライアルを見上げる。

 

「その様子ですと、エニアグラム卿は作動キーをお持ちになっていないのですか?」

 

「(相変わらずマーヤの『アドリブ』を凌駕する『思考機転』は凄いわね。 どういうカラクリなのかしら? さも当然のように『以前からの知り合い感』も出しているし。)」

 

「うん? まぁね、表向きの私は『来客の挨拶』だったから作動キーは……ま、別の人が預かっているさ。」

 

「(なるほど……)」

 

 ノネットの洞察力に警戒するマーヤは表向きに態度や表情を変えず、元々スバルに頼まれた『展示品の観察とデータ収集』を思い浮かべる。

 

「(では上手くやれば、私たちにも強奪のチャンスがあるという事ね。)」

 

 そしてマーヤは彼の頼みをそれ以上の意味合いを見出す。

 

 

 ……

 …

 

 

 セントラル・ハレー・スタジアムが設置されている高層ビルの周りをブリタニアの駐留軍は包囲陣を組み『タレイランの翼』のナイトメアと交戦していた。

 

「主義者共にスタジアムと、ビルの周辺を占拠されている。 敵の哨戒部隊から抵抗を受けているが、幸い敵は好戦的ではない。 だが追撃に送ったナイトメアと歩兵部隊は前進しすぎたところを狙われている為、こちらの被害も大きくなっています。」

 

 駐留軍の指揮官たちらしき者たちが急遽指令所と変えた装甲車近くのスクリーンのついたテーブルの周りに座り、事態の把握を行っていた。

 

「うーむ……スタジアムには皇族の方々がいる。 一気に追い込めば主義者共を刺激しかねん────」

「────だがそんな悠長にしていてはそれこそ主義者共に付け上がらせるだけだ! ここはやはり空挺部隊に────」

「────彼らは今、バミューダ要塞島から来たクーデター派の鎮圧に向かっている。 とてもではないがこちらに援軍が来るとは思えん────」

「────ならば皇女殿下のグランベリーはどうか? 確か停泊していると────」

「────なら卿は『皇女殿下直属の船を無断で指揮下に入れた』という責任を負えると?」

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

 最後の部隊長の言った言葉に誰もが黙り込む。

 

『こんな非常時に!』と思うかもしれないが実際問題、一度皇位継承権をはく奪されて末端とはいえマリーベルは皇女でグランベリーは彼女の私物。

 

 そんなグランベリーを動かせるのは同じ皇族か、あるいはラウンズでなければ首が飛んでも何ら不思議が無いのが現状のブリタニア帝国である。

 

『隊長、グランベリーから急速接近する信号が────は、早い?!』

 

 そこに包囲陣内へ一般人やマスコミなどを入れさせないため駐留軍が展開させた哨戒部隊から通信が入ってから一分未満ほど、部隊長たちの上空を紫と白が混じった物体が通り過ぎてはスラッシュハーケンらしきものをスタジアムが立つビルの側面に射出させ、脚と肩の先端部に仕込まれたランドスピナーを使ってきた勢いを崩さずに高層ビルを登っていく。

 

「「「…………………………」」」

 

「い、今のはなんだ?」

 

「『グランベリーから来た』という事は────」

「────諸卿(しょきょう)、狼狽えるな! 忘れたか、皇族の姫様の(つるぎ)がいるのだ! 冷静に事態に対処せよ!」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

 先ほどの見慣れない機体を『グリンダ騎士団のモノ』と知って希望が出てきた部隊長たちは苦戦を強いられながらも、高層ビル内に潜入していた『タレイランの翼』の大部分を釘付けにすることとなる。

 

『新たな機体がビルを登っている……だと?』

『識別反応なし! 我々の機体(タレイランの翼)ではありません!』

 

 逆に高層ビルの上空を飛び、近づくブリタニア駐留軍のヘリや戦闘機を落として制空権確保をしていた可変型グラスゴー・エア・プロトタイプ機はこの機体を見ては迎撃に向かう。

 

『可変型グラスゴー・エア・プロトタイプ』とはその名から察せる通り、可変型のグラスゴーでありシュタイナー・コンツェルンのブラッドーフォードからアイデアを取り、一般化させるプロジェクトの過程で比較的にメンテナンスもコストも抑えられるグラスゴーに飛行機能を取り付けたモノだった。

 

 ただしフロートユニットやフロートシステムなどは搭載されておらず、通常のエンジンと翼で飛ぶため離陸時に滑走路やそのたぐいの地形は必要であるので、『それならば通常の戦闘機の方がコスパ的に良い』という理由で新たな機体製造は止まっているが。

 

 グラスゴー・エア・プロトタイプたちはビルの横をすべるように上る紫色の機体に手の代わりに装備されたライフルを撃つが────

 

『────は?』

『き、機体が消えた?!』

『いや違う、上だ! 更に加速しやがったのか?!』

『バ、バカな?! 翼もエンジンもないナイトメアが、飛────?!』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 競技場でプライウェンに騎乗していたファイヤーボールズはタレイランの翼の機体達の脆い関節部を狙い、グリンダ騎士団はトト含めて敵のアサルトライフルを奪っては非対応ドライバーの警告とインストールを無理やり無視してマニュアル操作を行っていた。

 

『見事な手腕です、ソレイシィ卿!』

『トトさんも! 殿下とジヴォン卿はまだでしょうか?!』

『お嬢s────ジヴォン卿たちならば包囲網を突破してグランベリーを動かせるはずです!』

『ならば、出来るだけ相手の注意を────え?!』

 

 マリーカは新たなアラート音を聞き、競技場の端を見ると今度は軍用のサザーランドも出てきたことに目を見開く。

 

『軍のサザーランド?!』

『ですがあのマーキングは、テロの────?!』

 

『────我らタレイランの翼の狙いはあくまで皇族であり、一般人に危害を加えるつもりは無い。 第88皇女マリーベル・メル・ブリタニア、その身を差し出さなければここにいる君の騎士団を手始めに粛清する────ん?』

 

 巨大スクリーンに映ったアルハヌスの注意が何かに取られ、スタジアムの開いたままである天蓋から飛来する何かが四つの強化されたスラッシュハーケンで競技場に出たタレイランの翼の機体たちを攻撃して地面に降り立つ。

 

『あれは……』

『ジヴォン卿のランスロット・グレイル……ではないですね?』

 

 スタジアム内に空から降り立ったのは、紫と白のカラーリングが施されたヴィンセント一機だった。

*1
69話より




余談ですが、今話を書いている間に聞いていたイメソンはロスカラ版の『Previous Notice』でした。 (*ゝω・*)ノ-☆


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第140話 アイ・キャン・フラーイ(笑)

キリのいいところまでと思いながら書いた少々長めの次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 m(_ _)m


『なに────?』

「────お?! 少し遅かったね!」

 

 トトとマリーカが身体を張って、競技場から逃がしたマリーベルとオルドリンは展示品のあるホールへと着くとそこで息絶えていた警備騎士団や大破したナイトポリスを見て、近くにいたノネット達を見る。

 

『レオンにティンクも、無事でよかったわ。』

 

「やはり外のゴタゴタはテロでしたか。」

 

『ええ、警備騎士団が丸ごとテロに加担しているみたい。 やっぱり、これは────??』

「────ええ、エニアグラム卿のおかげで怪我をせずに済みました。 ねぇレオン?」

 

「あ、ああ……」

 

「( “流石はラウンズ”、と言ったところかしら。)」

 

 ティンクはニコニコしながら、歯切れの悪いレオンへと話題を振るい、マリーベルはナイトポリス(払い下げグラスゴー)とはいえ生身でそれを大破させたノネットを横目で見る。

 

「エニアグラム卿、ランスロット・トライアルの作動キーをお持ちですか?」

 

「いんや? 私がここにいるのはあくまで『来客へのアピール』だったからね、警備が良い顔をしなかったのさ。 結局、カリーヌ皇女殿下に預けて何とかその場をやり過ごしたけれど今考えると私を始末するか見せしめにするハラだったんだろが────」

 

 ノネットの笑みが少々深めのモノに変わり、彼女の表情を見た者たちは一瞬だけ『猛獣と同一』とという感想を連想させた。

 

「────殺す気があるんなら、当然殺される気もあるってことを経験しただけさ。 代償は自らの命だけれどね。」

 

「グ、グリンダ騎士団?」

 

 そこに息を切らしながら作動キーを手にしながら、現れたのはカリーヌだった。

 

「カリーヌ……それ(作動キー)をどうするつもり?」

 

「それは勿論、事態の終息の為にエニアグラム卿に────」

「────皇女殿下、私を高く評価しているのは光栄ですがそれだと一般人に被害が出ないとも言えませんよ────?」

「────それに、彼らが名指ししたのは(マリーベル)です、カリーヌ────」

 「────それじゃアンタは確実に殺されるだけじゃない?! そんなのは嫌よ!」

 

 カリーヌがいつものマセたお嬢様口調ではなく、荒々しいものに変わって放たれた言葉に誰もが自己の耳を疑った

 

「カリーヌ、貴方まさか────」

 「────勘違いしないでよ! “英雄皇女”が討たれたら、反乱分子が一気に勢いづいて経済が傾くからよ! そうなったら私やギネヴィア姉さまの努力が水の泡なんて御免だからよ?!」

 

「「「「…………………………」」」」

 

 カリーヌの照れ隠しにも似た叫びに、黙り込む中でノネットは気まずそうに苦笑いを浮かべる。

 

「あー、もしかしてカリーヌ皇女殿下は知らないかな?」

 

「……何をです、エニアグラム卿?」

 

「シミュレーター上のマリーベル皇女殿下は、オールA+だってことを。」

 

 「「「「え。」」」」

 

 皆が固まる中でマリーベルはカリーヌの手から作動キーに手を伸ばす。

 

「テロリスト共が名指しをした私が出れば、勿論彼らの狙いは私に定められるでしょう。」

 

 ググググ。

 

「……実戦経験はおありで?」

 

「貴方と一緒で無いわ。」

 

 ググググ。

 

「死ぬわ。 被害も出るわ。」

 

「エニアグラム卿が出ても“そうではない”、とも限らないでしょう?」

 

「……何で?」

 

「だって、ここには腹違いとはいえ兄妹が居るんですもの。」

 

「はえ?」

 

 ここでようやく唖然とするカリーヌの手に合った作動キーをマリーベルは掴み取ったそうな。

 

 

 ……

 …

 

『ランスロットだ!』

『でもなんだか形が違くないか?』

『新型だ! そうに違いない!』

 

 競技場内に、新たに姿を表せた紫と白のカラーリングをしたヴィンセントの登場と手首と腰に備えられているスラッシュハーケンで警備騎士団の機体を撃破していく活躍に、虚脱状態だった会場の観客たちの胸は高鳴り初め、彼らはその出現した機体(きたい)期待(きたい)を寄せた。*1

 

『あれは、グランベリーにデータ収集の為に配属されたヴィンセント? という事は味方でしょうか?』

『識別反応は確かに“友軍”と出ていますが、いったい誰が────?』

『────もしかして、ジヴォン卿────?』

『────いえ、お嬢様(オルドリン)はあんなに上手くハーケンを使えません!』

 

 ヴィンセントの活躍に注目が行ったことで、マリーカとトトのプライウェンは態勢を整える為に盾と銃器を広い物陰に潜むながらドライバーインストールを試みていた。

 

「もしや……噂の“英雄皇女”か?」

 

 ヴィンセントの現れ方と、行動にアルハヌスは騎乗者をマリーベルと思い込んだ。

 それは単純に、マリーベルは皇族が一度は受けるナイトメアの訓練を受ける前に皇位継承権をはく奪されて、軍学校のシミュレーターでマリーベルが叩き出した前代未聞の操縦評価(オールA+)が所以である。

 

 少なくとも、マリーベルは『オールS』の化け物スザクに記録を更新されるまでは公式トップランカーだった。

 

「(だがおかしい。 マリーベル皇女ほどの者ならば、声明を出して注目を引かせてから……何かの策か? それとももしやと思うが、交渉の為にまず我々にプレッシャーを与えるつもりか?)」

 

 ヴィンセントは巧みに四つのスラッシュハーケンを使うだけでなく、ナイトポリスや警備用のグラスゴーのランスや銃撃を避けながら地面の競技用の武器などを拾って、投擲して応戦していた。

 

「(やむを得まい────)────エコー隊、ファイヤーボールズと共に捕獲したグリンダ騎士団を────」

『────こ、こちらエコー隊! ブリタニアの潜入部隊と思われる者たちに襲撃を受けている! 人質を再度────』

「────(早いな、ブリタニア?!) ならばベータ、デルタ隊と共にコソコソするプライウェンを人質に取れ! チャーリー隊、エコー隊の援護に回れ! この際ファイヤーボールズなどどうでもいい!」

 

 そうアルハルヌスが通信を送ると、マリーカとトトが居る場所にタレイランの翼機が一気に猛攻を繰り出していく。

 

 別の場所ではマリーベルたちが展示品ホールに到着する前にその場から“独断行動”を装って競技場の状況を見に来たアンジュとマーヤを見たソキアとファイヤーボールズたちが拘束されていない足で警備騎士団に痛い一撃(金的攻撃)を食らわせてアンジュたちの方向に走りながら『助けてにゃー! (^≧▽≦^)』と叫んだ。

 

 世間はそれを『完全なとばっちり』とも呼ぶ。

 

 ダダダダダダダダダダ!

 

「にゃはー! アンたん凄いにゃー!」

 

「叫ばない! 気が散る!」

 

「はい、拘束切れましたよ皆さん。」

 

「サンキュー、綺麗な金色の姉ちゃん!」

 

 アンジュが折り畳み式サブマシンガンで警備騎士団と応戦し、マーヤがナイフでソキアやファイヤーボールズの拘束具を切っていきながらヴィンセントを横目で見ていた。

 

「(この動き方……やはり神様ですね。 私たちが“新型機を強奪できるかな?”と悩んでいたのに、既にそれをなされているとは……流石です!)」

 

「(うっわ……あの変態的な機動、見ただけでまたゲロ吐きそう……)」

 

 そして弾倉を交換するアンジュはヴィンセントの動きに嫌と叫ぶほど見覚えがあることに、少々青ざめながら競技場から他の者たちを会場内へと保護しながらマーヤと共に移動していく。

 

 その間、当のヴィンセントに騎乗していた『とある少年』は────

 

 「何か覚えている原作より敵機がクッソ多いな、オイ?!」

 

 ────前世で(と思われる)『オズ』のSIDE:オルドリンを読んだ際に描写された状況よりはるかに敵が多いことに、愚痴を叫びながらも不思議な高揚感に浸っていた。

 

 

 


 

 

 基本装備だけでも敵を圧倒できるこの反応速度に機動力。

 量産化の先行試作機だが、腐ってもランスロットと言う事か?

 道理で原作アニメの冒頭で、ルルーシュたちが勝てなかった訳だよ、想像以上だ。

 

 まるで乗り慣れた自転車気分のようなまま俺はヴィンセントを操り、銃撃を躱す勢いのまま地面に落ちていた競技用の剣を蹴ると予想通りにそれが敵をくし刺しにする。

 

 こんな物(ヴィンセント)の本家ランスロットから、よく逃げきれたな俺────?

 

『────そこまでだ、新型。 グリンダ騎士団の者たちを見殺しにしたく無ければ、ナイトメアから降りたまえ。』

 

 スタジアムのスピーカーからアルハヌスの声が出るとスバルは周りを見渡し、これ見よがしにナイトメアのランスに即死一歩手前の攻撃を加えられたグリンダ騎士団用のプライウェンが目に入る。

 

 あ。

 そういや『オズ』で褐色犬耳眼鏡っ子メイドの属性盛り合わせ少女(トト)の貴重な『団服が電磁ランスの所為で殆んど破れて無くなる』からの『エロい人質シーン』だったわ。

 

 忘れてたよ、F〇ck(クソッタレが)

 

『どうした、()()()()()? ナイトメアから降りるのか? 降りないのか?』

 

 え? 俺もしかして『テロは三親等ならぬ全員抹消すべき皇女』と間違われている?

 

 『答えは否である、アレクセイ・アーザル・アルハヌス!』

 

 少女の声がすると、人質に取られていたプライウェンの周りにいた警備用グラスゴーが上空から来たスラッシュハーケンによって撃破され、今度は赤いランスロットが競技場に降り立って誇らしいポーズを決める。

 

『なぜならば、私たちグリンダ騎士団はテロに対する剣であり! 如何なる犠牲を払おうともテロをこの世から駆逐するために存在しているからです! さぁ懺悔の時間ですよ、テロリストども!』

 

 マリーベルの演説に観客から燻っていた応援と期待が波のように押し寄せ、会場内が彼らの声に満たされる。

 

 俺はと言うと、何故だか『オズ』にアニメはない筈なのにマリーベルの声を聞いていたら『少し成長した天真爛漫で純粋とナニカな二重人格を持つゾルディッ〇』を思い出すと言いたい。*2

 

『ヴィンセントに乗っているのは誰ですか? 将軍……ではないですね? それとも新たな団員────?』

 

 ────マリーベルが直通通信を繋ぎ、画像と共に送る。

 

 どうしよう。

 

 それ以外、何を言えと?

 幸いなのは俺のほうはカメラにテープを貼ったからこっち側は彼女に見えない────ムオッホッホッホッホッホッホォォォォォォォォォォ?!♡

 

 マリーベルの団服はプライウェン搭乗時に攻撃を受けたからかボロボロで、そのおかげでたわわな胸がポロリと零れそう零れそう♡────って違うだろうが、俺?!

 

『『『『英雄皇女、覚悟────!』』』』

『『『『新型機でも、畳みかければ────!』』』』

 

 ────グシャ!

 

 ランスロット・トライアルを四方から攻撃しようとしたタレイランの翼機をヴィンセントのスラッシュハーケンで撃墜するとほぼ同時にランスロット・トライアルもスラッシュハーケンで上空からダイブしてきた可変型のグラスゴーを撃破する。

 

 いかん、思わず機体を動かしてしまった

 

『────やはり、まずはテロの鎮圧が先ですね! 新しい団員は良い志をお持ちのようですね!』

 

 いや、俺は団員じゃないだけど……

 

 まぁ良いか!

 

 

 ……

 …

 

「そんな……そんな馬鹿な?!」

「外の部隊は何をしている?!」

「ペンドラゴンの駐留軍と未だに交戦中です!」

こちら(スタジアム)に戦力を呼び寄せすぎたか!」

()()()()()なんだぞ?! たった二機に……たった二機に!」

 

 管制室にいたタレイランの翼の団員たちはヴィンセントとランスロット・トライアルによって次々と味方が撃破されるのを見て慌て、アルハヌスは放心しそうになりながら背後へと体をよろけさせる。

 

「……(我々は何を見せられているのだ?)」

 

 ランスロット・トライアルがランスで前方の敵を薙ぎ払い、その隙に後方から突撃する機体をヴィンセントが拾い上げたコイルガンで撃ち、そのヴィンセントの背後に忍び寄った警備用グラスゴーをランスロット・トライアルがランスを投げて撃破し、ヴィンセントがコイルガンを投げ渡して二機は弾倉が空になるまで撃っては次の武装や戦術に移る。

 

『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』

 

 競技場の二機はお互いの死角を補うように動き、地面に散らばった警備と競技用の武装や残骸を使って警備用グラスゴーやナイトポリスの識別信号が『LOST』となり次々と沈黙していくその様は、一種の『芸術』と呼べるもので観客たちは目の前で行われる実戦に興奮を感じていた。

 

 アルハヌスたち(タレイランの翼)にとっては悪夢でしかなかったが。

 

「だ、脱出だ! 作戦は失敗だ! 競技場から撤退だ! 隔壁を使って観衆たちを閉じ込め、我々の時間稼ぎに使う! 外部の部隊にも連絡を付けろ! 生き延びれば再戦のチャンスはあるのだ!」

 

 こうしてタレイランの翼は、目論んだ『英雄皇女の抹殺』を諦め、事前に確保していた逃走ルートを使ってスタジアムから脱出しようと準備を始める。

 

 これにより、スタジアムのビル周りに陣を張っていたタレイランの翼機が攻勢に出てオルドリンはプライウェンを限界まで使った後に管制室に一人で突入するが、既にもぬけの殻だったことに一瞬驚きながらも首謀者(アルハヌス)たちが使ったと思われる通路を“首謀者どもを見逃すわけにはいかない”と考えながらそのまま駆け出す。

 

 競技場では『流石ランスロットの技術系統の機体』とも言えるような、目まぐるしい動きと活躍でタレイランの翼機は一掃されその場が終息し始めたときに観客たちは違和感に気付き、どよめきが走る。

 

『あれ?』

『え?』

『あの機体は?』

 

 その違和感とは、マリーベル皇女殿下のフォローをしていたもう一つの機体が()()()()()()姿()()()()()()()ことだった。

 

 『……………………もしかして、“リーグ選手の()()だった”……とか?』

 

 この最後の言葉を誰かがボヤいたことで、後に『マリーベル皇女殿下には幽霊でさえも味方する』という噂が流れることとなるが、それは少し後の話である。

 

 ………

 ……

 …

 

 「あれ? この通路の構造が────?」

 「────おそらく隔壁が下ろされたのだろう────」

 「────第一皇子殿下のチームも襲撃に────」

「────どうしたです~?」

 

 スタジアムがタレイランの翼に占拠される前に席を外したライラに付いたSPたちはインカムを通して他グループの様子を聞きながら皇族であるライラを避難させようとして、会場の隔壁が下ろされたことで構造が変わったことに戸惑い、そこに(態度がとても)皇族らしくないライラがキョトンとした顔で尋ねる。

 

「いえ、少々予期せぬ事態がおきまして────」

「────もしかして迷ったです?」

 

「いえ、ただ隔壁が下ろされて構造が変わっているだけです。」

 

 「じゃあやっぱり迷ったです!」

 

「「「……」」」

 

 不安どころか楽しそうなライラを見てSPたちは何とも言えない心境に────

 

『────あれは?!』

『VIP護衛用のSPだ!』

『撃て、撃て!』

 

「姫様────」

「────うぴゃ。」

 

 脱出するタレイランの翼の者たちにSPたちが発見されると、一人はライラの肩をつかんで無理やり伏せさせると同時に発砲音が次々と周りから響く。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 パァン!

 

「グワァ?!」

 

 パァン!

 

 タレイランの翼の一味らしき警備騎士の肩が撃ち抜かれ、隠れていた壁際から身を乗り出すとすかさず二発目が彼の脳天に当たり、中身が頭蓋骨の破片と共に飛び散る。

 

「……クリア。」

「次の角に行くわよ。」

 

「うぷ……アンたんたち、平気過g────むぎゅ。」

「叫ばない、位置がバレる。」

「ええ、もうそろそろ会場の外に出てもおかしくない距離よ。」

 

 この場面を平然と銃を構えながら移動するアンジュとマーヤに青ざめていたソキアが叫びそうになる前に、二人がソキアの口を塞ぐ。

 

「うわぁ、ソキアが手玉に取られている。」

「珍しい景色だぜ。」

「これはこれで新鮮だな。」

 

 流れ的にソキアたちに付いて行くしかなかったファイヤーボールズがこの様子を見て、ヒソヒソと話しているときに少し離れた場所から荒々しい声が聞こえてくる。

 

『近づくなぁぁぁぁ! 近づけば撃つぞぉぉぉ!』

 

 ……

 …

 

 「はーなーすーでーすー!」

 

 ビチビチビチビチビチビチビチ!!!

 

 スタジアムの外側にあるレストランのオープンテラスに、SPに追い込まれたからかボロボロで流血しながら今にも倒れそうな警備騎士団員が陸に釣り上げられた魚のようにジタバタと暴れるライラの胴体に腕を回し、彼女を人質に取っていた。

 

「もう逃げ場はない!」

「銃を捨てて、大人しく子供を放せ────!」

 「────放した瞬間、貴様らに銃殺されるだろうがぁぁぁぁぁ?!

 

「「「ッ。」」」

 

 「あんにゃろ、子供を────!」

 「ゲスだな────」

 「「────ファ────?!」」

「「「「────え?」」」」

 

 近くの物陰に映ってその場を目撃したソキアやファイヤーボールズのジェイミーが怒りをあらわにすると、ライラを見たアンジュとマーヤから今までの活躍から想像ができない素っ頓狂な大声を出して注目を集める。

 

 「バグッ!」

 

 勿論この中には追い込まれた警備騎士団員も含まれ、このことを見たライラは自分を掴んでいた者の腕を力いっぱいに噛み付いた。

 

 イダァァァァ?!」

 

 パパパパーン!!!

 

 警備騎士団員はライラを本能的に振りほどき、二人の体が離れると彼は即座にハチの巣にされた。

 

「ぁ────」

 

 振りほどかれたライラの体は宙を舞い、そのままオープンテラスのレールの外に投げ出されていた。

 

 その場に近かったSPたちが動き出すより先に、長い金色の髪をなびかせた誰かがすでに落ちていくライラの元へと走っていた。

 

 その者は一心不乱に全力で走ったため履いていたパンプスは無理やり脱ぎ捨てられ────

 

だぁぁぁぁぁ?! もおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ────そして二人目が上記を叫びながら動き出し、持っていたモノから釣り糸のようなモノを出す。

 

 

 

 マーヤは気づけば、すでに落ちていくライラへと走っていた。

 

 彼女はもしかすると落ちていくライラを救えるかもしれないことと、シンジュクゲットーでかつて偽善から養っていた孤児たちを無残にも亡くしたことをどこかで連想したのかもしれない。

 あるいは、『SPが付くほどのブリタニア人』ということから動いたのかもしれない。

 

 ただ一つだけ言えることは最近の彼女にしては珍しく、考えもないまま行動に出たと言う事である。

 

 ライラへと手を伸ばしたものの『届かない』と悟った彼女は躊躇せずに後を追い、ライラの体に左腕を回して右腕で飛び越えたレールを掴み取ろうとして振り返ったところで気付く。

 

『このままでは二人とも助からない』、と。

 

 地球でも、コードギアスの世界でも物体の落下速度────いわゆる『重力加速度』は自然の力の中ではかなり強固で『物体はすべて惑星の中心に引かれる』と言われる世の理の一つである。

 

 ガシッ!

 

「キャァァァァァァッチ!」

 

 ギリギリギリギリッ!

 

 落ちるマーヤ(と彼女の掴んだライラ)の腕をガッシリとアンジュは右手で掴み、左手のスーツケースから伸びていたワイヤーアタッチメントは、オープンテラスに固定設置された一つのテーブル脚に回され軋む音を出していた。

 

 「重! 二人ともおっも!」

 

 体の筋肉を力ませ、アンジュの顔は赤くなりながらも上記の言葉を出し────

 

「失礼ね、これでもダイエット管理しているのよ?」

 

 ────マーヤはマイペースに返しをして────

 

「はぇ~……」

 

 ブチ。

 

 ────ライラが目を点にさせながら自分が陥っていた宙ぶらりん状態に気が抜けるような息を出すと不穏な音が出て三人は落下を再開する。

 

「ぴゃああああああああああ?!」

 

 ライラは叫んだ。

 

「きゃああああああああああ?!」

 

 マーヤも叫んだ。

 

うぎゃああああああああああああああああああ?! (ってあれ? 落下はそれほど怖くないわね? ……怖いのはマーヤたちの安否? それに今のは海? なんで????)」

 

 アンジュはほかの二人とは少々違う叫びをし、一周回って冷静である部分がその時に感じた小さな違和感にハテナマークを浮かべて、一瞬だけ目の前に広がる海の景色に更なるハテナマークを出す。

 

 ガシャーン!!!

 

 高層ビルの巨大な窓ガラスが割れて中からヴィンセントが落ちる三人を両手でキャッチし、機体の操縦者であるスバルは目を見開いて思わず叫んだ。

 

なんでここにライブラがおんねん?! ウッ?! 胃、胃が…………』、と。

*1
アキト:上手いな。

*2
注:ドラマCDから中の人繋がりです




(;´・ω・`) ←何故かサブタイトル元ネタの中の人が、クレヨンしんちゃんのとあるエピソードで超ドマイナーな役で出てきたことを思い出した作者の心境


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第141話 無慈悲な現実ショック

お待たせいたしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


 セントラル・ハレー・スタジアムの管制室から伸びていた数あるタレイランの翼が確保したと思われた脱出ルートは、ヴィンセントの突然の突破に防衛の陣が乱された隙を狙った一部のブリタニアの歩兵部隊がルートを逆算するように走っていた。

 

「自分に続けぇぇぇ!」

 

 その先で彼らはアルハヌスを追っていたオルドリンと合流し、逃げるアルハヌスを含めた幹部たちの後方に食らいつく事が出来た。

 

「筆頭騎士だ!」

「自分たちが殿を務めます!」

「すまない!」

 

 一部が玉砕覚悟で残り、銃を撃つが────

 

 スバッ!

 

 ────両手にロングソードを一本ずつ持ったオルドリンは銃撃に怯むどころか更に移動を加速させてタレイランの翼の殿たちを切り伏せた。

 

「つ、強い!」

「あれが、ジヴォン家?!」

「臆するな!」

「ここが我らの分水嶺! 討ち取れ!」

 

 スバ、スバッ!

 

 オルドリンは次々とタレイランの翼の者たちを無力化し、ようやくアルハヌスたちを追い詰めた。

 

 実は彼女の実家であるジヴォン家、ナイトメアが戦場の主流になるまでブリタニア全土でも『ラウンズ含めて白兵戦の間合いにて右に出る者無し』と言わしめる程の名門家であり、昔からブリタニア皇族に重宝され貴族内でも一目置かれている。

 

 それは銃器の時代でも、ナイトメアが戦場の基準となっても、ジヴォン家の現当主が『初めて男性』だったとしても、現代にいたるまで変わらなかった。

 

「状況は解っていよう! 武装を解除し、法の裁きを受けなさい!」

 

「その法を司る皇族に妄信する卿には分かるまい!」

「そうだ! 皇族は危機が迫って初めて目を向ける!」

「我々は人知れること無く消されるだけだ────!」

 

 「────大人しく武装解除し、降伏すればそのようなことは私がさせぬ!」

 

 ザクッ!

 

 未だに銃を自分に向ける者に対し、オルドリンはそう高らかに宣言しながら持っていた剣を床に突き刺して丸腰になる。

 

「ジ、ジヴォン卿────!」

「────構わん、武器を降ろせ。 貴方たちの言葉の裏に、信念があるのは理解できる。 私たちグリンダ騎士団も同じだ。 だが、いかなる理由があれ、民を危険に巻き込むやり方は間違っている。」

 

 何時もは年相応の少女の態度をするオルドリンが今浮かべている凛とした立ち振る舞いは風格含めて『騎士』そのものだった。

 

 まだ十代とは思えない彼女の言葉に、ブリタニアの兵士たちは構えていた武器をゆっくりと降ろす。

 

「……貴卿(きけい)は、曇りのない剣だな────」

「「「────だ、団長!」」」

 

 タレイランの翼のアルハヌスが前に出て、そうオルドリンを見ながら呆れたように言を並べる。

 

 彼女と同じく、丸腰のまま。

 

貴卿(きけい)のその自信、どこから来る?」

 

「私は……力無き者の笑顔を守るために力を振るい、マリーベル皇女殿下もそれに賛同している。 その為に、グリンダ騎士団をあの方は立ち上げたのだ。」

 

「……我々が降伏し、正当な法の下に裁かれる保証はないだろう?」

 

「グリンダ騎士団の……いえ、ジヴォン家の者として保証は私がします。」

 

「……………………分かった。 諸君、武器を降ろせ。」

 

「「「だ、団長────?!」」」

「────ただしジヴォン卿、この行動をとる様に焚き付けたのはあくまで私の所為だ。」

 

「恩赦を取り計らうよう、マリーベル皇女殿下に……引いては、そのさらに上の者(シュナイゼル)にも言います。」

 

「…………………………分かった、卿を信じてみよう────」

「────ジヴォン卿!」

「────お嬢様、ご無事でしたか?!」

 

 そこに競技場にいたマリーカとトト、そしてマリーベルもブリタニアの兵士を連れてたどり着く。

 

「マr────皇女殿下も、ご無事でしたか。」

 

「ええ、オルドリンもお疲れ様です。」

 

 オルドリンとマリーベルは互いに微笑み、アルハヌスは沸々と妙な違和感を覚え始めていた。

 

「(なんだ、これは?)」

 

 それはまるで、ノイズが混じったビデオを見るかのように脳内で再生される。

 

 その()()の中で、アルハヌスは部下に引きつられてきたスタジアムのスタッフ────否。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『────“アレクセイ・アーザル・アルハヌス。 グリンダ騎士団に負けを認めれば────

 

 

 

 

 

 

 

 ────自害せよ。”』

 

「(そうだ、丁度あの褐色少女のような────)」

「「「────団長?!」」」

 

 カチャリ。

 

 アルハヌスは近くの部下の声にハッとすると、彼の身体は護身用の拳銃を自らのこめかみに向けて引き金を既に引いていた。

 

「え?────は?────だめだ、私は────俺はまだ────嫌だ、死────

「────ま、待っ────!」

 ────パァン

 

 アルハヌスの行動にビックリしたオルドリンは彼から銃を取り上げる為に走るが、あと一歩の距離でアルハヌスは自らの頭を吹き飛ばし、彼の肉片や血がオルドリンの顔と髪に飛び散る。

 

 オルドリンは純白だった両手のグローブを上げ、血が付着したそれらと()()()()()()()()モノを呆然とした様子で見る。

 

「……な……ん、で?」

 

 明らかにショックを受けたのはオルドリンだけでなく、拘束の途中だったタレイランの翼の残党、彼らを拘束していたブリタニアの兵士、手で口を覆うマリーカと視線を静かに外すトトもそうであったように見えた。

 

「(結局、テロリストの根は臆病者ばかりなのね。)」

 

 マリーベルはただ一人、冷めた視線をアルハヌスだった亡骸を見下ろしながら平然とそう思いながら表情をスンとさせていたが。

 

 反旗を翻し、テロリストと化した警備騎士団団長のアレクセイ・アーザル・アルハヌスの自決とそのニュースによってその時点まで追い込められながらも抵抗していた者たちは戦う気力を失い、徐々に降伏していくこととなる。

 

 ……

 …

 

 上記のオルドリンたちのいるスタジアムよりずっと下の階では無事だったライラが発見され、落ちた際に受けた擦り傷などの治療を受けていた。

 

 「ライラァァァァァァァァァァ────!」

「────あ、カリーヌお────」

 

 ────ドシ!

 

「────グェ────」

「────ああああ、よかったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 カリーヌの猛烈なハグ(というよりタックル)にライラは明らかに青ざめた。

 

「貴方が落ちたと聞いて失神しそうだったけれど、無事だった報告を聞いてすぐに来たのよ?!」

 

くるしゅうでふ(苦しいです)おねしゃま(お姉さま)。」

 

 段々と青ざめるライラの声(そして奇怪なモノを見るような視線に)にカリーヌはハッとしては、ライラをハグから名誉惜しそうに手放す。

 

「あ、うん。 ハイ……ではなく! あなたに手を挙げた下郎はどこなのです?!」

 

 「カリーヌ皇女殿下、先ほど息絶えました────」

 「────チッ。」

 

 近くのSPがカリーヌの耳だけに届くように小声で答えると誰にでも聞こえるあからさまな舌打ちをカリーヌは打つ。

 

 「生かしたままだったら、この気持ちをぶつけて私自身の手で下衆の汚らわしい手足を引き裂いてやったものを────!」

「────ハイです────?」

「────オホホホ。 何でもないのよ、ライラ? そういえばライラを助けたのはどなたかしら? 感謝の気持ちを伝えなくては────」

「────バビューンと空を飛んだです!」

 

「……………………………………はい?」

 

 爪を噛みながらブツブツと物騒なことを独り言のように言うカリーヌに対し、ライラが首をかしげるとカリーヌが誤魔化すためか短い笑いを出してふと思った疑問を問いかけると突拍子もない答えが返ってきたことに目が点になり、カリーヌは思わず生返事を返した。

 

「あ。 えっと……“次の戦場に備えて帰還する”です!」

 

「“次の戦場” ────?」

 「────実は、大西洋方面からクーデター派が来ていたのでこちらの対応が────」

「────何ですって?」

 

 カリーヌはSPの話に半分耳を傾けながら、自らの考えに没頭していた。

 

「(このタイミングで二面からの攻撃に、イベントのゲストにグリンダ騎士団……あまりにも出来過ぎていてまるで映画の様で……まさか、シュナイゼル兄さまが?)」

 

 そう悶々と考えているカリーヌの横で、ライラも考え事をしていた。

 

 時間はちょうど高層ビルのガラスを割ったヴィンセントが彼女とアンジュ、マーヤの三名をキャッチしたところまで少しだけ遡る……

 

 

 


 

 

 「フンガァァァァァァァァァァ!!!」

 

 もうありのままに叫びながら、ありのままに物事を言うぞ?

 

『思わずマリーベルが乗っていた(と思われる)ランスロット・トライアルと一緒に原作以上のタレイランの翼機の大半を撃退してスタコラサッサと注意がランスロット・トライアルに向いている間に久方ぶりに“時間に意味はない”を小刻みに使い、競技場を抜けて高層ビルをコソコソと降りていると窓の外に何か“人影を見えた”と思ったらまたまた思わず窓ガラスをヴィンセントで割ってビルの外を落ちていたマーヤとアンジュと何故かここにいるライブラを機体で受け取って腰のスラッシュハーケンがなかったらそのまま落ちていたことを今考えたら誰か説明してヨホホホホホホホホホホ。』

 

 ……最後のは、無視してくれて結構カッコウコッコウ。

 

 そう思いながら俺は三人を高層ビル内のフロアに降ろしてからコックピットを出る。

 

「無事か────?」

「────やっぱり先輩だったです!」

 

 あ。

 ライブラがなんか確信を────ってそりゃそうか。

 

 “変装している”とはいえ、整形とかした訳ではないからな。

 

「あまり時間はないが、そういうライブラもなぜここにいる?」

 

 俺の質問にアンジュとマーヤがそれぞれウンウンと頷くとライブラがピョンと立ち上がると雰囲気が一瞬で変わる。

 

 こう……言葉で伝えづらいのだが風格が────

 

「────神聖ブリタニア帝国皇女が一人、()()()・ラ・ブリタニアが感謝を申し上げますわ。」

 

 彼女は前に出した足を膝で軽く曲げ、後ろに出した足はまっすぐ伸ばしたまま、短パンの端を指で摘まみ、優雅にカーテシーを、を、ヲ、を、を、ヲ、ヲヲヲヲをををおおおおおおおおおおお?!

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

「ぅえええええええ?!」

 

 アンジュが変顔になり叫びを出し────

 

「は?」

 

 ────マーヤは鳩が豆鉄砲を食ったような、キョトンとした呆気にとられた顔をする。

 

 “あ、なんだか二人のその顔は新鮮だな”と思いながらも俺自身、彼女たちの心境はよくわかっているつもりだ。

 

 何せ俺もマジ焦っているというか今考えたらいろいろと合点がいく。

 

『ライラ・ラ・ブリタニア』なんて名に聞き覚えはないが、アニメや外伝でもブリタニアの皇族の家系図は合計の少数しか描写されていない。

 

 マリーベルが『第88皇女』となると、少なくとも皇女だけで88人の娘がシャルルにいるとなる。

 皇妃だけでも100人以上いるからな、息子が娘の半数がいると想定するだけでも100人は超えると言う事だ。

 

 それをすべて踏まえたうえで、以前彼女が『ブリエッラ侯爵のご息女』と紹介した時に感じた違和感も、当時イレギュラーズだったアリスが何故彼女のそばに常時いた理由も恐らく護衛兼監視の役割を担っていたのだろう。

 

 それに『お兄様』もおs────ちょっと待て。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 彼女はさっき、なんて自己紹介をした?

 

『ライラ・()・ブリタニア』。

 

 俺の知る限り、ブリタニアの皇族でミドルネームが共通すると言う事は母親が同じ。

 そしてエリア11のカミーy────じゃなくて前総督の、コーネリアの更に前のクロヴィスのフルネームは『クロヴィス・ラ・ブリタニア』。

 

 と、言う事は?

 

「……ライラの兄はクロヴィス殿下だったのか。」

 

 ギリギリギリギリギリギリギリギリ!

 

 俺の言葉と推測よ! 外れていてくれ!

 

「あ、はいです! 先輩のおかげでお兄様は何か文句を言いながらも元気よくカレーを食べているですよ!」

 

「そうか。」

 

 あかんかった。

 

「ケガは、ないか?」

 

「大丈夫なのです!」

 

「そうか。」

 

「と言うかスヴェン先輩、なんか性格が変わっていないです?」

 

「俺は………………………………………………………………ゴフッ!

 

 「「スヴェン!/神様!」」

 

 先ほどから酷い胃痛のように脳内をぐるぐると意味のない思考が回りと連動するかのように耳鳴りのような圧迫感が頭に押し寄せ、“何かが喉を上がってくる”と思った頃に深呼吸をしようとした俺の口内が鉄の味でいっぱいになり、視界が暗闇に閉ざされる直前にアンジュたちの声がこの時の記憶の最後だった。

 

 皮肉にも『あ、やべ。 胃薬全然飲んでいなかった』と思っていたのもあるが。

 

 

 


 

 

「(あれから慌てたですが……色々と考えると納得するです。)」

 

 そして現在、ライラは簡潔にだがマーヤたちから『自分たちが帝国や、黒の騎士団とは違う』ことも聞きアンジュからは『保険』と称されたものも渡されて二人はヴィンセントに気を失ったスバルを乗せて何処へと立体(変態)機動をしながらいまだにナイトメア戦が続く都市方面へと消えていった。

 

 

 

 

「アンジュ、彼らと連絡を取って! やはり、無理をしていたのよ!」

 

 スバルが突然吐血したことで慌てたアンジュたちは市街戦がいまだに続く中をヴィンセントで駆け出していた。

 

 狭いコックピットにはマーヤたち三人が乗り、アンジュは暗号化器具を取り付けた使い捨ての携帯でとある番号に通信をかけていた。

 

『はいもしもしこちら修理、解体、なんでも請け負うサービスのピースマークで────』

「────こちら、依頼人Sの一味です。 大至急お願いしたいことが────!」

 

 

 ……

 …

 

 

「もしもし、パパ? うん、()()()()()()()()()()()よ?」

 

 アルハヌスが自害した事実が徐々に広がっていき、それを知らない残党が未だ抵抗を続ける会場の中で一人の帽子をかぶった少女がスタジアムの予備の管制室内で、愉快そうに物騒な言葉を携帯に喋り込んでいた。

 

「でもすごいね! まさか私と彼女のギアスをこんな風に使うなんて、パパってば天才! ……え? “僕じゃない”って? ……ふーん。 じゃあその人を知っているパパは凄いね! うん? あの子? うん、あの子もすごいね! 銃を持った相手に突進して、バッタバッタと斬っていくんだもの!」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 スタジアムの観客たちの前で今までに無かった大規模なテロをねじ伏せたことにより、グリンダ騎士団とそれを率いるマリーベルの名声は一層高まり、デモンストレーションとしてはこれ以上のないほどまでの結果だった。

 

「殿下、さすがですね。」

 

「何のことだい、カノン?」

 

「いえ、何も。」

 

 浮遊航空艦の中にある執務室でカノンはグリンダ騎士団の報告書に前もって目を通し、それをシュナイゼルに渡すカノンの言葉にシュナイゼルは平然と答える。

 

「それにしても、ランスロット・トライアルとヴィンセントが思いのほか活躍したのは嬉しい()()だ。 トライアルほどではないにしろ、あれもクセがかなり強い機体だからね。 見られなかったのが残念だよ。」

 

「そう思いまして、勝手ながらスタジアムの観客が撮ったものを取り寄せています。」

 

「流石だね。」

 

「恐縮です。 ですが内容は私もまだ拝見しておりませんので、質のほうは荒々しいかと。」

 

 カノンが部下に合図をすると部屋の明かりが低下し、近くのスクリーンに競技場の様子が映像として出される。

 

 事前にカットなどはされているモノの時間がなかったからかやはり素人が撮った映像とスタジアム内に設置されたカメラの画像は落差が激しく、一緒に見ていたカノンでさえも編集を行った者たちを後でしばく叱ることを決めていた。

 

 その時────

 

「フ……フフフフ……」

 

 ────シュナイゼルが、滅多にしない()()をし始めた。

 

「(殿下が……笑っている?!)」

 

「(よもや……よもやここで君をまた見るとはやはり、どうやら嵐の目の中でその姿を現してはこうも私の興味を引くが……いや、あるいはそれが狙いか? もしくは、『時代の潮流だ』とも言いたいのかな?) フフフ……」

 

 シュナイゼルは以前にユーロ・ブリタニアから報告されたデータで見たアレクサンダと似た機動戦をするヴィンセントを見ては、思わず笑いをこぼしながら長年も何も感じることがなかった心地よい感覚に浸った。




胃潰瘍、またも発生。 (;´д`)ゞ


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第142話 怪我と痛みの先に

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。


 セントラル・ハレー・スタジアムとその周辺、そして大西洋からペンドラゴンを襲おうとしていたクーデター派(タレイランの翼)の闘争心はアルハヌスの自決のニュースが広がるにつれて失われ、徐々に組織は空中分解していった。

 

『最後まで抵抗すべし』と考えた者たちの犯行に彼らは文字通り死兵となり、ブリタニアの駐留軍と海軍の戦力は組織の長い歴史内でも大きな損害を出してしまった。

 

 それは悲しくも、アルハヌスやタレイランの翼が求めていた結果とは裏腹にペンドラゴンの市民は肌で危機を感じてしまい、身の安全という名目で後日提案された更なる軍の拡大化と強化を支持した。

 

「(“すべてはお兄様(シュナイゼル)の掌の上”……か。)」

 

 先のスタジアム騒動でプライウェン騎乗時に負った怪我の所為でマリーベルはこの様子を報告書や新聞にメディア報道などを通して得た情報の元に黒幕をピンポイントで言い当てていた。

 

「(所詮、私も『駒』の一つだものね。)」

 

 だがマリーベルは『テロリズムを駆逐できるのならば』と己の中で納得し、それでもいいと考えていた。

 

「(それより気掛かりなのは、ヴィンセントのパイロットね。)」

 

 彼女は窓の外で行われていると思われる復旧工事の音を背景音に、競技場での出来事を思い出す。

 それは母と妹を亡くし、彼女たちを軽視したシャルルに斬りかかろうとして一度皇位継承権をはく奪された後、幼馴染で親友であるオルドリンのジヴォン家の世話になって『一般人』どころか『皇帝暗殺未遂』の汚名を負ったまま軍学校が全てだったマリーベルにとっては『社交界のダンス』と似た出来事だった。

 

「(それにライラの言い分ですと、“次の戦場に備えて帰還する”と言い残したものの移動したのはグランベリーではなく、市内の方向。 だとすると、続くテロの鎮圧に向かったと見ていいでしょう。 そして未だに“帰還した”と言う報告を聞いていないとすると、恐らくはお兄様(シュナイゼル)が何か────)」

「────マリー?」

 

 ビョンビョンビョンビョンビョン。

 

 さっきから目を閉じて難しい考えに浸っていたマリーベルの要請で、未だに運動棒をビョンビョンさせて同じ病室にいたオルドリンが声をかける。

 

「あら、ごめんなさいオズ。 何かしら?」

 

「何考えていたの? もしかして例のヴィンセント?」

 

「ええ。 新しく配属されたヴィンセントをああも使いこなすのは正規の訓練を受けていたとしても至難の業。 グリンダ騎士団にとって、大きな戦力となりますわ。」

 

「将軍や当時グランベリーの発進に備えて準備をしていた者たちから誰が騎乗していたのか分からないのもあるけれど……そうね。」

 

 ビョンビョンビョンビョンビョン。

 

「え?」

 

「あれ? マリー聞いていない? あのヴィンセント、整備は終わっていたけれど()調()()で、いつの間にか発艦していたらしいよ?」

 

 ビョンビョンビョンビョンビョン。

 

「最初は『慣らし』と思っていたみたいだけれど、そのままスタジアムに向かったからてっきりマリーが事前に……って、その顔は違うみたいね。」

 

「「………………………………………………」」

 

 固まったマリーベルを見て、オルドリンも気まずくなり静かな時間が過ぎていく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『────このように、ブラックリベリオンを契機とするテロの活性化を絶つべく神聖ブリタニア帝国の正義をグリンダ騎士団が証明したことで帝国市民の支持率は────』

 

 ピッ。

 

『裏町』とは呼べないながらもどこか人気を寄せ付けない雰囲気を纏った場所にある『隠れ家』ならぬ『隠れ倉庫』のようなところでマーヤはテレビの電源を落とす。

 

「ハァ~……」

 

「長いため息だな、嬢ちゃん。」

 

 そこに倉庫の中でトレーラーの上に乗せていたヴィンセントの装甲を外して整備をしていた、身体中に古傷が目立つ褐色の男────ガナバティがレンチを持ったまま声をかける。

 

 実はスバルが吐血した後にマーヤがヴィンセントの操縦を代わっていた間、アンジュが連絡を取ったのはピースマークだった。

 

 一つは、『ブリタニアの新型の密輸と整備』の依頼。

 

「ガナバティさん……やっぱり『女の子が裁縫できない』って、おかしいですか?」

 

「あん? なに言ってやがる、嬢ちゃんの整備の腕と機械知識は俺からすりゃ、大したもんだ。 そこに女とか男とかは関係ねぇな。」

 

 苗字不明(というか本人は名乗りたがらない)『ガナバティ』は中華連邦のインド軍区出身の技術屋兼商人。 本人はピースマークに所属していないにも関わらずかなり近い距離の関係を保ち、金額や見返りがあればいかなる場所や状況下でも武装やナイトメアの調達に整備を受け持つ凄腕の人物である。

 

「(そう神様(スバル)が仰っていたけれど、彼と比べたら私なんてまだまだアマチュアね。 初めて見るこの機体の構造に電気系統や配線を理解して直しながら調整していくんだもの。)」

 

 ガチャ。

 

「フゥ~、終わったわよ~。」

 

 マーヤとガナバティのいる倉庫部分に繋がるドアが開かれ、中から羽織っている白衣とは似つかわしくないバラの柄が入ったストッキングにヒール、スーツの上着の下には丈の短いボタンラインリブワンピースという大人っぽい服装にウェーブのかかった濃い銀色で長髪の美女が出てくる。

 

「アンジュもお疲れ♪」

 

 そんな美女(身長的に少女?)の後から来たアンジュは少しゲッソリしていた。

 

「まさか刺繍の裁縫技術を、手術に使うとは思わなかったわ。」

 

「でも応用は出来たでしょ────?」

「────あの、ミス・エックス? 彼の容態は?」

 

 白衣を羽織った美女(少女?)────『ミス・エックス』にマーヤが話しかける。

 

『ミス・エックス』。 ピースマーク本体に依頼された仕事を各地に散らばったエージェントたちに伝える仲介人的な役割────いわゆる『ケースオフィサー』の一人。

 だが異例的に国籍、本名、年齢、あらゆる素性や情報がピースマーク内でも一切不明の人物で本来ならば警戒されるのだが、彼女の持つあらゆる工作に変装技術や医師としての資格も買われてか、深く詮索する者はいない。

 

 ピースマークへ連絡した際に二つ目に依頼したのは、『重症人の検査』。

 

 まさか正規の病院にスバルを連れて駆け込むワケにもいかず、ピースマークに二つの依頼をダメ元でしてみれば『どちらも受け持つ』という意外な返事が来たことでガナバティとミス・エックスが居る場所にアンジュたちは案内されていた。

 

 ちなみにミス・エックスが軽くスバルの検査をしたが、顔色を変えながら『手術の必要がある』と言い、マーヤとアンジュに医術の心得があるか聞き、この時にマーヤは『裁縫が出来ない』、『メカ関連以外では手先が破滅的に不器用』、『煮沸消毒の為にお湯を沸かすと何故か水に異変』などの現象が起きたことで、彼女はガナバティと共にヴィンセントの整備にかかっていた。

 

「彼の容態は────」

「────ジー。」

 

「えっと、何かしらアンジュ?」

 

「ねぇ、どこかで私たち会ったことないかしら?」

 

「うふふふ。」

 

 アンジュはというと、初めて見る筈のミス・エックスを『どこかで見た』と言った漠然とした違和感からミス・エックスに問わずにいられなかったが、ただ妖艶な笑いが返ってくる。

 

「話を戻すと、彼の容態はとりあえず安定化させたわ。 吐血の理由は胃潰瘍……と思っていたのだけれど、()()()()()()()()()()彼の身体はかなり弱っていたみたいね。」

 

「「え?」」

 

『スバルが手術を受けていた』というニュースは、スバル自身も知らなかったのでアンジュたちに取って完全に“寝耳に水”だった。

 

 実は彼がヴァイスボルフ城の防衛時に活躍し、終結直前にヴァイスボルフ城の軍事施設の自爆時*1に受けた傷は決して浅くはなく、重症の状態で発見された彼は直ぐにソフィが知り合いの外科医に連絡を取ってリモート手術を受けた。

 

 原作『亡国のアキト』で、ユキヤはガリア・グランデからの爆撃を行った直後にユーロ・ブリタニアのカンタベリーの対空砲火によって生死を彷徨わせるほどの重傷を受けた際に受けたリモート手術が、今作ではスバルに適用されていた。

 

 本来ならこのことをスバルに伝える筈が、毒島の登場や日系人の往来などの騒動で()()()()忘れられていた。

 

「最近の手術に身体を酷使した痕跡、それに疲労と過労。 古典的だけれど、絶対に安静にするべきね。 でないと彼、このままだと確実に壊れるわよ?」

 

 

 


 

 

 「知らない天井だ。」

 

 はいそこ、久しぶりに本当に知らない天井だ案件だから『またか』とか言わない。

 

 だって目を覚ましたら、オフィスビルとかの部屋を急遽手術室に変えた野戦病院並みの景色が目に入ったんだもん。

 

 それに起きたばかりだと言うのに、まだめっさ眠いし身体は怠いから鼻にツンとくる薬品の匂いがする中でも瞼をこのまま閉めたい。

 

 ガチャ。

 

「あら、もう起きたの?」

 

 俺が微睡みの中でボーっとしていると、部屋のドアが開かれて妖艶少女(白衣付き)が入室して珍しそうに起きている俺を見る。

 

 フーム。

 

 この見た目は十中八九、『双貌のオズ』のミス・エックスだろう。

 と言っても、初対面な訳だしここはそういう風に対応しよう。

 

「君は?」

 

「ピースマークの仲介人、『ミス・エックス』よ。 今回は医師としてきているけれどね。」

 

「医師?」

 

「貴方の心配をした彼女たちの依頼よ。 身体が予想以上にボロボロだったからビックリしたわ。 ちなみに、身体がだるく感じるのは手術した時に使った麻酔よ。」

 

 …………………………なんですと?

 手術?

 え?

 

「手術?」

 

「そ、手術。 あ、それと傷口が綺麗に縫われているのは金髪赤目の子のおかげだから────」

 

 ミス・エックスが何か言っているが、俺の脳内は『シュジュツナンデ?』で埋め尽くされていた。

 

 いや、冷静に考えると俺が最後に覚えているのは『口内に鉄の味』だ。

 多分、ゲロったか吐血したことを仮定すると……ブリタニア本国内でアンジュたちは闇医者を知らないだろうからピースマークに依頼をマーヤかアンジュがして、外科医資格を持っているミス・エックスが呼ばれて来たんだろう。

 

 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン♪

 

「ミス・エックス、世話をかけた。」

 

「仕事ですから。」

 

 

 しかし以前のように体があまり動かないのは問題だな、タイミング的に。

 どうする?

 アンジュかマーヤに────

 

「────あ、神様────!」

 

 お、噂をすればなんとやら。

 

 「────“神様”って────」

 「────愛称の類よ────」

「────え。」

 

 ああ、うん。

 知っている人でもそうなるよね。

 大丈夫、ミス・エックスが変じゃないから。

 何故か納得させようとするアンジュが変だから。

 

「ああ、マーヤにアンジュすまないな。 それとここはどこだ? ブリタニア本国か?」

 

「本国内にある、貴重なピースマークの隠れ家の一つよ。」

 

「通信機器はあるか?」

 

 そう俺が口にした瞬間、マーヤとアンジュは互いを見る。

 

 なんか嫌な予感。

 

「それを聞いてどうするのです?」

「スヴェンは休んだら?」

 

「いや、ここから中華連邦────」

 

「────手術後ですしゆっくりすればいいじゃないですか。」

「そうそ、マーヤの言う通りよ。」

 

 何このタッグチームっぽいやり取り?

 いや、でも……タイミング的に今すぐにでも連絡をしないといけない。

 

「すまん、二人の言いたいことは分からんでもないがこの連絡だけはさせてくれ。 ()()()()()危険が迫っているかもしれない。」

 

「「え?」」

 

 なんかミス・エックスの目が細くなったような気がするが、今は無視だ。

 

 「ほう、これがブリタニアの新型か。」

 

 彼女たちが入ってきたドアの後ろでなんかマントと仮面を付けた『タキシー○仮面』ならぬ『自称魔法使い(ウィザード)』がガナバティと話している今は無視!

 

 というか何でここにいるの、ピースマークの『ウィザード』?

 いや、割とマジでなに平然といるの?

 アンタの出番、まだまだ先の筈でしょうが?

 

 「『ヴィンセント』、という機体らしいぜ旦那。」

 「ほう……このデザイン、ランスロットと似ている。」

 

 って、『ヴィンセント』が目当てかい。

 

 胃が痛く……なっていないが多分感じられないだけだろう。

 

 

 


 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~……」

 

 中華連邦にいたカレンは盛大で長いため息を吐き出していた。

 

 それは先日、カレンが『お飾り姫』と神根島で呼んだユーフェミア本人が実は生きていてアマルガムに保護されたことを後から追いついた桐原泰三に聞かされて“誰にも言うではないぞ?!”と脅迫されたことは関係ない…………と言えばウソになる。

 

 では、その後に桐原と神楽耶が中華連邦と交渉して()()()()()()()()()()()事だろうか?

 

 それもそれでかなりのイベントだが、もっと重大なハプニングの所為である。

 

「リョウ~、こっちの畑もお願い~。」

「自分でやれユキヤ!」

「え~? やだよ、僕はスプリンクラーとか、電力の管制システムとか任されているから~。」

「あれ? ユキヤって確か昨日、全部終わらせていなかったっけ?」

「アヤノ、それは言っちゃいけない約束。」

「ユキヤのサボりがアヤノにサボタージュされた……サボサボ。」

 

 カレンが見ていたのは畑を耕し、種をまくリョウたちだった。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()、見たことも無いナイトメアに黒の騎士団総員が迎撃態勢を取って桐原さんが“ああ、実はワシたちの知り合い~”なんて言うから出迎えたら毒島と一緒にEUから逃げてきた旧日本人とか軍人とか出てきて黒の騎士団の皆は唖然とするしこの人工島に人が住めるように開拓にほぼ毎日このやり取り。 特にあの『アキト』って子のギャグは寒いしもうナニコレ?)」

 

 カレンはあまりの情報に脳がオーバーフローを起こしそうになり、一瞬クラリとする。

 

「あら、上手いですねレイラさん。」

 

「あ、その、はい……頑張りました。」

 

 カレンのクラリとして振り返った先には変装(笑)をしたユーフェミアがレイラと一緒に大量の食物の準備をする景色と、その二人をピンク色の『ピンクちゃん(ユーフェミア命名)』がコロコロと回っていた。

 

「皇女殿下が……」

「不敬罪になってもいい。」

「うん、エプロン姿似合う。」

「ほら、気を取り直してください隊長────」

「────なんで俺が皮むきなんかしなくちゃいけないんだ?!」

「だって……全部皇女殿下にやらせるつもりですか?」

 

 なお余談だがアシュラ隊も『ガリア・グランデ』に合流し、この人工島に来ていた。

 そしてどういう訳かアシュレイはユーフェミアとばったり会ってしまい、『なんだこのぽわぽわした女は? 本当にシュバール(スバル)の野郎の仲間か?』と言ってしまった。

 

 後ろにいたアシュラ隊の皆はほぼすぐにユーフェミアに気付いて思わず跪き、アシュレイの態度に顔を真っ青にしたが。

 

「(こっちはこっちで騒がしいのか賑やかなのかもう本当になんなのこれ?) ハァァァァァ……」

 

 カレンは頭を抱え、ため息を出しながらまたも意識が遠くなりそうになる。

 

「長い溜息だな、紅月。」

 

「あ、毒島さん────」

「────同い年なんだ、『さん付け』はいらんだろう?」

 

「あ、うんごめん。 なんだか毒島が()()に思えて。」

 

「ング……君もか。

 

「え?」

 

「ま、まぁいい。 君と私に、スバルから連絡が来ている。」

 

 「スバルから?!」

 

「ふぉ?!」

 

 明らかにさっきまでどんよりとした空気が浄化されていき、顔が明るくなるカレンを前に毒島の髪の毛は身体につられて思わず跳ねてしまう。

 

「え? なに?」

 

「い、いや。 なんでもないぞ? (何時もの彼女に戻った……)」

 

 

 


 

 

「久しぶりだな、カr────」

 『────その前に言う事があるんじゃないかな?』

 

 スクリーン越しでもカレンの圧力が凄いのだが?

 それに“いうこと”って?

 

「??? ああ、少し無理をしてな────」

 『────その前だよ。 “お飾り姫”の事よ。』

 

 お飾りh────あ゛

 

 俺がアンジュの方を見ると案の定、彼女も察したのか汗をダラダラと流していた。

 いやちょっと待て、どうしたらどうなった?

 何故カレンと────

 

『────それとEUの人たちのお客さんがいーっぱい来てね? 凄く大変だったよ? 特に桐原さんたちが。』

 

 あ、良かった。 レイラたち、ちゃんと着いたんだ。

 じゃなくて。

 

「その……彼女(ユーフェミア)の事は────」

『────理由があったんでしょ? だからいいよ。 でも……言って欲しかったかも……

 

「すまん、今なんて?」

 

『なんにもない。』

 

「そうか?」

 

 カレン、そのぷっくり饅頭顔しながら言っても説得力ないぞ?

 だがそれよりも頼みごとの方だ。

 

「そこに毒島もいるか?」

 

『ああ、いるぞ? 今度はなんだ? ああ、それと()()()()()()()調()()()()()()()。』

 

 よっしゃ! 桐原のじいさんに難民たちを押し付けられた!

 

「そうか、()()()。」

 

 毒島のニッコリとした笑顔に俺は内心、ホクホクした気持ちになる。

 

 っと、その前に要件を手っ取り早く伝えよう。

 下手したらアッシュフォード学園に居るミレイとかが危険に晒されてしまうかもしれない。

 

 

 


 

 

「エリア11……」

 

「ああ、ブラックリベリオンで現地のブリタニアが受けた被害は甚大だ。 物理的にも、心理的にも。」

 

 マリーベルは呼ばれ、テーブルを挟んでシュナイゼルと相対していた。

 

「黒の騎士団の活動はほぼ停止したし、幹部の半数は逮捕されたが未だにその爪痕が残って矯正教育エリアに格下げせざるを得なかった。 それにクロヴィスに不幸が訪れ、ユーフェミアは命を失くし、コーネリアと彼女の側近のダールトン将軍も行方不明。 これ以上皇族を総督に任命するのは問題と貴族たちに騒がれて、エリア総督に非皇族の者を任命するのは異例中の異例だ。」

 

「例の、カラレス将軍ですね? それとお兄様? ナナリーとルルーシュを忘れてますわよ?」

 

「ああ……そうだったね。」

 

「それでも、テロの巣窟をグリンダ騎士団が素通りするわけにはいきません。」

 

「……なら、中華連邦で会おうマリー。 『視察』と言っても、()()()()()()()()()。」

 

「ええ。 お兄様も(はかりごと)()()()()()♪」

 

 急に温度が低下したことに周りのSPやカノンは身体が震えそうになる。

 

 マリーベルがカノンと共に退室し、彼女はカノンの何か言いたそうな顔を見る。

 

「……何?」

 

「皇女殿下。 恐れ多くも、先のスタジアムの件は後の災いを絶たんが為の選択。 どうか、シュナイゼル殿下をお恨みになり────」

「────大丈夫よ、私もお兄様からすれば駒でしかないもの────」

「────それと皇女殿下、御髪がかなり傷んでいます。」

 

 カノンの言葉にマリーベルは彫像のように固まる、油が差されていないブリキのようにマリーベルは『ギギギ』と首を回す。

 

「……………………………………………………………………………………………………だだだだだだだって砂漠にいったりしてその後も大忙しでずっと連戦して手入れする時間なんてなかったの────!」

「────皇女殿下、ストレスや食生活に寝不足も原因かもしれませんよ────?」

「────やっぱりコイルガンのパルスもやっぱり考えものよねぇぇぇ────?!」

「────お化粧品を紹介するから泣かないで皇女殿下!」

 

 カノンと涙目になりながら気弱になりながら『アワワ』と慌てるマリーベルのこのやり取りに、憲兵たちは全員同じことを思ったそうな。

 

 ただ『忘れよう』、と。

*1
127話より




展開を加速させていますです、ハイ…… (;´д`)ゞ

あとスバルは未だに痛覚麻痺の薬の影響下にございます。 (;´ω`)


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第143話 『保険』と『準備』、(スバル無しで)スタート

誤字報告、誠にありがとうございます! お手数をお掛けになっております! (シ_ _)シ

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


『それで? 話って何よ?』

 

 さて、どこまで話せばいいのだろうか。

 

 別にふくれっ面のカレンにニヨニヨする毒島や、回りのアンジュたちだけならば全部そのまま喋っていいかもしれないが、今(スバル)がいるのはピースマークの隠れ家。

 

 ガナバティもいるが、彼は整備魂が燃えて今はヴィンセントに取り掛かっている。

 

 問題は、他の二人だ。

 

 さっき見た『ツバの長いトップハットに長髪の銀髪とうさん臭さ100%の白黒マントと一体化したスーツに怪○ゾロ風の仮面』の『自称魔法使い(ウィザード)』と、ミス・エックスだ。

 

 こいつらがいて、これはこれで嬉しいし俺が考えていた説の線も更に強まったのだが、果たして()()話していいのか少し迷ってしまう。

 

 と言っても、隠し事をすればカレンの怒りのボルテージが上がるのは火を見るより明らかだから……よし。

 

『EUから』という事はオミット(除外)して、『アキトたちと別れた後』という話しから初めて、ペンドラゴンへの潜入は『新しく設立された対テロ(グリンダ)騎士団の偵察』と、『可能な限りブリタニアの新型に関してのデータ収集』の体で話すか。

 

 ………

 ……

 …

 

『フゥ~ン……それでその“タラなんちゃらの翼”が起こした騒動を利用して、新型を強奪したワケねぇ~? フゥ~ン。』

 

 “タレイランの翼”な、カレン。

 

 あとなんか知らんが余計に不機嫌になったぞおい。

 

 そう思いながらスクリーン越しに頬杖をしながらジト目になっていたカレンを見ていると、彼女の後ろにいた毒島が口だけをパクパクと動かしていた。

 

 いや、俺……読唇術(どくしんじゅつ)はあまり得意じゃないというか、知らんのだが……

 

 ええっと……………………ダメだ、何言っているか分からん。

 

 お? 今度はジェスチャーし始めたぞ。

 これは……『包帯を巻く』動作か?

 あ、そっか。

 

「ああ。 その時に、()()無理をしてな。 見ての通り今の俺は動けない────」

 『────だったら尚更私に声をかけてもいいじゃん────』

「────なんか言ったか?」

 

 『な・ん・で・も・な・い!』

 

 更にボルテージが上がったような……

 

「……ゴフッ?!

 

『え?! ちょ、ちょっとスバル?!』

 

 あー、痛みはなくともちゃんと響いているなこれは。

 俺は先ほど吐血しそうになった血を無理やり飲み込んでから、口を再度開ける。

 

「ん……手短に、頼みごとをしたい────」

『────そんなことより大丈夫なの?!』

 

「ん? ああ、安静にしていれば大丈夫だそうだ────」

『────ぜんぜん大丈夫そうじゃないよ?! いつも以上に真っ白じゃん!』

「先に言っておくが、化粧はしていないぞ。」

『だったらなおさらだよ!』

「それより、()()の皆に危険が迫るかもしれない。」

『へ。』

「だから、()()()()()に動いてくれるか? ()()()()()、頼めないんだ。」

 『え。』

「それに……()()()()()のこともある。」

『……………………』

 

 なんだその顔は?

 撃たれた鳩じゃあるまいし。

 

 あと毒島のどや顔と誇らしい『ムッフー!』につられて動く胸、ごっつあんどすえ!

 本当にDでござるか?

 

 でもどうにかカレンの注意と興味を引くことが出来た。

 感情的になると、猪突するからな。

 イノシシのように。

 

 この間に、『オズ』で起きた『アッシュフォード学園騒動』をカレンに伝えてそろそろR2に向けた準備もさせよう。

 

 原作ではエリア11から脱出することが出来ずのまま、カレンとCCは卜部と黒の騎士団員数人にしか頼れなかった状況だったが……今のメンバー構成ならば何とかなるだろ。

 

 だけど毒島にも頼んでユキヤには少し()()を用意させて……

 

 よし、方針は決まった。

 

『俺無し保険(暗躍)』の時間だ。

 

 

 


 

 

「(この少年は……何者だ?)」

 

 そう、一人の男性はドア越しにスバルたちの様子を立ち聞きしていた。

 

 ピースマークを金銭的にもブリタニアの内部情報などを提供し、サポートする『魔法使い』、通称『ウィザード』という男は別に『ブリタニアの新型(ヴィンセント)を奪った少年』に興味はなかった。

 

 何せ、彼はヴィンセントの事を()()()()()()()()からだ。

 

 ()()ペンドラゴンに居たことと、移動するミス・エックスに同行する体面として使ったに過ぎなかった。

 

 同行する理由を今は伏せておくが、『ウィザード』のネタバレはしておこうと思う。

 

 ウィザードの本名は『オイアグロ・ジヴォン』と言い、オルドリンの実家である

 ジヴォン家の現当主。

 

 ジヴォン家は元々一子相伝の女系貴族であったが、先代の当主だったオリヴィア・ジヴォンが双子を産んだ。

 

 双子など珍しくもないのだが、『ジヴォン家次期当主が双子の男女』とくれば事態は別問題となる。

 前代未聞の問題の処理は至ってシンプル。

『男の方は平民の家に捨て、女の方を次期当主として英才教育を受けさせる。』

 

 さて。

 なぜこの話をしているかというと、この時の男が『オルフェウス』だからである。

 現在、ピースマークに所属しているオルフェウスはギアスの素質を見出されて嚮団に売られ、後に被験体となって暗殺術を教え込まれる。

 

 女は勿論オルドリンの事であり、貴族武人としても健やかに育っていく。

 だがまるでオルフェウスの不幸につられるかのように、幼馴染であるマリーベルは()()()()()()()()()()()()()()()()テロに遭ってしまい、家族を失わせてしまう。

 

 オルフェウスは後に恋人と脱走するが恋人と自分を受け入れた村をギアス嚮団の嚮主、V.V.の命を受けて()()()()()オイアグロが引きつれていたプルートーン部隊によって失うも、あとにウィザードという謎の男によってピースマークに身を置く。

 そしてまたも時間差でジヴォン家当主のオリヴィアは自らの弟のオイアグロに討たれ、オルドリンは母を殺されてしまい、『次は自分』と思ったが叔父はどういう訳か様々な面でオルドリンとマリーベルの援助を現在に至るまで続けている。

 

 少し長くなったが、これでようやく裏の世界で『ウィザード』と名乗る『オイアグロ・ジヴォン』という男へと繋がる。

 

 オイアグロは姪と甥に憎悪の対象になりながらも、彼らを裏から全面的にサポートしている。

 

 それは『善意』などではなく純粋な『後悔』から行っており、彼のような立場にいるものなら常に危険な橋を渡っている状態。

 

『情報』と『表と裏の仮面』の使い道を一歩間違えれば命を落としてもおかしくない。

 

 そんなオイアグロ(ウィザード)は他の反ブリタニア組織などの情報にも通じており、『黒の騎士団』経由でスバルの事も噂程度には聞いていた。

 

 スタジアムでマリーベルの隣で活躍したヴィンセントのパイロットがやはり彼だという事はここに来てから偶然に知ったことであり、まさか彼が独自に黒の騎士団員を動かせるとは思わなかった。

 

「(それに、()()の事も知っているとなると……嚮団の者、あるいは関係者か? それとも、オルフェウスのような過去を持っているのか?)」

 

 オイアグロはそう思いながら、スヴェンの話を聞いてからドアから離れる。

 

「(それにしては、オルフェウスは(スヴェン)の事を警戒するようなそぶりと言動をしていたが……もしや、()()の方か?)」

 

 

 


 

 

 ん?

 ドア越しの誰かが離れていったか。

 ウィザードかな?

 

 ともあれ一通りのことはカレンたちに伝えることができたし、良しとするか。

 

「カレンには、辛い事を頼んでいるのは承知の上だ。」

 

『……ねぇ、スバル?』

 

「なんだ?」

 

『やっぱり、会わないといけないかな?』

 

「……仮にも親だ、会って損はないだろう。 昔から言っていることだが、お前の事を本当に心配しているのは保証する。 それと次はいつ会えるかどうか分からないのなら、会った方が良いと()()()()。 ほかに、質問はあるか?」

 

『……ううん、ないよ。』

 

「そうか。 動けるようになったら、俺もそっちに向かう。」

 

『うん、じゃあ。』

 

「ああ。」

 

「『…………………………………………………………」』

 

 俺とカレンの間に、ただ静かな時間が流れていく。

 

「『…………………………………………………………」』

 

 ……えっと?

 何この気まずい空気?

 通信を切るのは脳で分かっていることなのだが、()()()()()()()()()()()

 カレンも、同じの様子だが。

 

『ねぇ、スバル?』

 

「なんだ?」

 

 お?

 カレンから喋ってきたぞ?

 

『私さ、学園にいつか戻れるのかな────?』

「────なぜ戻れないと思う?」

 

『だって……正体がバレているじゃない、アイツ(スザク)に……だからきっと、戻ったら────』

「────戻れる。

 

 なんかカレンが弱々しく見えて、無性に彼女の言葉を遮りたくなった。

 

「いや、すぐにとは言えないが……()()()()()()()()()()()()()。」

 

『あいつには、普通の人生を歩ませたい。 あいつに戦いとは無縁な人生を送らせてくれ。』*1

 

 自然と湧き上がってくるナオトさんの頼みに従って、それとなく口を開けて伝えるとスクリーン越しのカレンがドギマギする。

 

『あ。 え……』

「だから、安心しろ。」

『その……ちょっと……』

『フフ、紅月もそんな側面があるのだな?』

『ぴゃ?! ぶ、毒島?! ももももももう切るね()?! そそそそそれ! じゃ! また!』

 

「あ────」

 

 ────ピッ♪

 

 相手側が通信を切ったことで暗くなった通信スクリーンを、俺は見続ける。

 

 なんだか最後の方のカレン、赤くなっていたな。

 

 ……また微熱でも出したのかな?

 

 アイツ、冬なのに人目を盗んでは制服のままでしかも手袋なしに雪だるまを作ったり、不意打ちスタートから俺との雪合戦を無理やり開始させていたからなぁ────

 

「────ねぇ、スヴェン?」

 

「ん? なんだ、アンジュ?」

 

「アンタ、分かっていてやっているのかしら?」

 

「何をだ???」

 

「……何でもないわ。」

 

 変なアンジュだな。

 

 だが、これで一通り頼み事は終わった。

 そう思うと、肩の荷が軽くなった……ような気がする。

 

 あとは頼んだみんなの力量を信じて休むだけだ。

 

 さてさて、本来は原作『オズ』内でオルフェウスはこの時期はピースマークからの依頼をされている……いや、『されていた』となっているだろう。

 

 いくつかあったような気がするが……一つだけ確実なのはラクシャータの『エリア11で新型爆弾調査』だった筈だ。

 

 依頼が過去形になっている理由は、その『新型爆弾』が『フレイヤ』の事だからで、ブラックリベリオン時に学園内で突然現れたニーナにロイドが凄く慌てたことからラクシャータは『フレイヤ』に興味を持ち、ピースマークに調査依頼をする……のだが、今の彼女がその依頼をする理由が無いと言ってもいい。

 

 何せ、ニーナと一緒に(というか彼女メインで)開発していた論文やデータをラクシャータに既に渡し、『原動力としての活用』を模索させているからだ。

 

 それにオルフェウスは『オズO2』で会う筈のコーネリアと一緒に行動をして、ギアス嚮団を探しているみたいだから嚮団関連ではない依頼を受ける可能性は低い。

 

 と言う訳で、彼がエリア11でその新型爆弾が初めて目撃された場所────つまりエリア11に行く理由が無く、引いてはアッシュフォード学園にも寄る理由が皆無。

 

 それだと()()()()()()()()()

 

 それ以前に、()()()()()()()()()

 何せ彼女はこのままだとエリア11の視察に行って、黒の騎士団の下っ端たちに狙われて攫われて────

「────なにその難しそうな顔? もしかしてトイレ? 肩、貸そうか?」

 

違う。 それにトイレだとしても、一人で歩けるぞアンジュ────」

「────は、どうだか。 さっきもカレンとの通信中に、何度か意識を失いそうだったじゃん。」

 

 ジト目アンジュ、あざっす。

 それと思った以上に鋭いな、お前。

 

「ジー。」

 

「と、とりあえず! スヴェンにはドクターストップがかかっているんだからね?! 必要あらば、縛り付けるわよ?!」

 

 リバース()タスクか。」

 

「え? “リバースタスク”って、何?」

 

 あ、やべ。

 

「いや、何でもない。 今のは忘れてくれ、アンジュ。」

 

 やべぇやべぇ、思わず『クロスアンジュ』のネタを口にしてしまったよ。

 

「言葉に甘えて、俺は休むとする……それはそうと、俺がいつ動けるかミス・エックスに聞いてくれるか?」

 

 「“ドクターストップ”が何か理解できていないわけ?!」

 

 アンジュの肺活量、半端ねぇなオイ?!

 

『禁断○レジスタンス』を歌わせるぞコラァァァ?!

 

 ……うん。

 何だかよくわからないことを考えて出し始めているな、俺。

 休もう。

 

 

 

 


 

 

 カレンたちとの通信を終えたスバルは『いつ動ける』と尋ね、その答えをミス・エックスから聞いた後にすぐ、眠りについた。

 

「……本当に寝ているだけよね?」

「胸が微かに上下しているから、息はしていると思うけど……」

 

「フフフ。」

 

 眠りについたスバルはまるで死人のような気配をしており、思わずアンジュの独り言にマーヤが口を開けるとミス・エックスがクスクスとした笑いを出す。

 

「余程彼の事が心配なのね? もしかして、彼氏かしら?」

 

「え?! い、いや~アッハッハッハ。」

「え? そんな、恐れ多いわ。」

 

 ミス・エックスの質問にアンジュは固まってから乾いた笑いを出し、マーヤはキョトンとしてからふんわりと答える。

 

「そうかしら? 貴方たちの慌てる様がそれらしかったから。」

 

「う、う~ん……『恩人』?」

「やはりですよね。」

 

「……ふぅーん。」

 

 ミス・エックスはアンジュの言葉に頷くマーヤを見て、視線をスバルへと移す。

 

「(後から軽く調べたけれど、何か裏があると思っていたのに……それとも徹底しすぎているだけかしら?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ブラックリベリオン時のダメージが嘘だったかのように、ブリタニア本国からの援助などもあってか復興工事を終えたアッシュフォード学園は新築同然のような見た目をしていた。

 

 「リーヴァール! こんなところで何油を売っているの?!」

 

 そんな中で、ミレイは今日も人を引っ掻き回し元気にしていた。

 

「いや俺、バイクに油差しているんだけど────?」

「────口答えしなーい! “実家に帰りたくない”ってダダをこねていたからおじいちゃん(理事長)に掛け合ったのに! ちょっとは手伝いなさい!」

 

 リヴァルはバイクのチューニングをして油が付着した手を布で拭きながら呆れ顔でミレイを見る。

 

「それは感謝しているんだけれどさぁ会長? 半数以上の生徒が黒の騎士団テロでいないんですよ? 生徒会も開店休業でしょ────?」

「────その生徒たちが気持ちよく帰ってこれるように、学園を維持することも生徒会の役割じゃない!」

 

「……そういいながら、結局は理事長に押し付けられただけなんでしょ?」

 

「グッ……し、仕方ないじゃない?! おじいちゃんって色々と忙しいんだから! さぁ、行くわよ!」

 

 ミレイは腕をリヴァルの首に回して彼を引きずっていき、自然と彼女の胸部装甲が彼の頬に押し付けられる。

 

 ムニュ。

 

 「う、嬉ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「へ?」

 

 「じゃなくて苦しいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 そのあとミレイはリヴァルを放してしょぼんとする彼と共にクラブハウスの中へ入ると、多くの箱を積み重ねてせっせと運ぶシャーリーの姿があった。

 

「ほら、シャーリーを見習いなさい! 率先して力仕事をしているのよ?!」

 

 「それ以外したら、“掃除”じゃなくて“工事”になるのを本人も自覚────」

「────うひゃあああああ?!」

 

 ガラガラガラガラガラ!

 

 だがやはりキャパオーバーだったのか、重ねていた箱と共にシャーリーが崩れて倒れる。

 

「いたたたた……会長~! なんで()()ちゃんの部屋って物置っぽくなっているんですか~?!」

 

「お?」

 

 リヴァルの視線と声に、シャーリーはハッとして赤くなりながらスカートでできるだけ隠す。

 

「リヴァル、どこ見ているの!?」

 

「いや、これ。」

 

 リヴァルは視線先にあったアルバムを、シャーリーの横から拾い上げて開くとルルーシュや彼の妹などが写っている写真を見る。

 

「はぁ~……ルルーシュも早く帰ってこないかな~? あいつってば()()()()()()()()()のに別れの言葉もないまま最初の便で帰って────」

「────そうよ! ルルったら先にララちゃんだけ帰ってこさせるなんて、何考えているのよ!」

 

「ま、まぁ……最近()()()()()()()()()から、本人が我儘を言ったんじゃないかな? ルルーシュは()()()の押しに弱いんだし……で? そのクララちゃんは?」

 

「あれ? クラブハウスの整理を始める前まではいたけれど???」

 

「急にいなくなるところは、兄に似るのよねぇ~……」

 

 リヴァルとシャーリーはハテナマークを頭上に浮かべ、ミレイはアンニュイな気持ちのまま天井を見上げる。

 

「(そういうスヴェンも、シュタットフェルト家から連絡で『行方不明のカレンを探しに行ったきり』のままだし……ニーナはブリタニアの機関に引き取られるし……) ハァ~……」

 

「あれ、会長どうしたんですか? 珍しくため息を────」

 「────と言うわけで! 今日からお祭りを開催するわよ! 名付けて、日夕お祭り大作戦!」

 

「「なんで?!」」

 

 ミレイは今日も(表側は)絶好調であった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ブリタニア帝国の長い歴史の中で、エリア11は他に類を見なかった大規模な反旗────徐々に世間では『ブラックリベリオン』と呼ばれている日からいまだにテロ活動は突発的に起きていた。

 

 それらは偶発的(あるいは衝動的)に起きる小規模なモノの、ブリタニア人に警戒やこのまま駐在することを戸惑わせるには十分だった。

 

 何せクロヴィス、ユーフェミア、コーネリアと立て続けに、皇族でさえもひどい目にあっているエリアで一般人が不安にならないわけがない。

 実際、エリア11から移住して出ていくブリタニア人や会社の数は決して少なくはなかった。

 

 これにより、エリア11の総督に任命されたのは皇族とは何の由縁もないカラレス将軍だった。

 彼は軍人でもありながら公爵と言う地位と、『原住民と衝突することなく自己の領地を穏便に治める』という手腕を買われ、第二皇子のシュナイゼルと第一皇女ギネヴィアによって派遣された。

 

『皇族に期待を寄せられている』と誇らしく思ったカラレスは見事に今までクロヴィスやコーネリアとは違う『融和政策』を行い、それは(徐々にだが)功を奏していた。

 

 ほぼ万年ギリギリ黒字だった生産量は上昇し、治安も『ダークゾーン』と呼ばれる元ゲットーを隔離した部分以外はブラックリベリオン前のものと数字は変わらなくなり、軍の要請がなくとも保安局だけで片付けられる案件ばかりにも落ち着いては来ていた。

 

「ふぅー……」

 

 そんなカラレス将軍は日々の苦労に薄くなっていく(と思っている)髪を気にしているのか本国から取り寄せた薬用育毛トニックで頭皮をマッサージしていた。

 

 その手慣れた作業は彼が以前からしていたことを語り、彼は()()()()()()()()()ことを思い出しては苦笑いを浮かべる。

 

「(まさか、このような名誉挽回の機会を与えてくださるとは……)」

 

 実はカラレス、ブラックリベリオン後に将軍として現役復帰されてテロリストの拠点と思われる、アフリカの辺境にある町の()()を命じられた。

 

 だが占拠などの強硬手段に出ては、テロリストだけでなく町に元からいる民からも反感を買ってしまう。

 

 よってカラレスは戦場になる前に町の周りに検問所を作り、住民に避難するようにメッセージを持った使者を送った。

 

 だがまさか、送った使者がばったりとテロリストの首謀者と遭遇してしまい、カラレスの部下たちが独断で動き出したことで泥沼な戦になるとは誰も予想していなかっただろう。

 

「(町の者たちには悪いことをしてしまった……)」

 

 とはいえ、最高責任者であるカラレスの『監督不足』と言うことで彼は『大量虐殺』や『暴虐』などの汚名を着せられるようになったところを、シュナイゼルとギネヴィアに目を付けられた。

 

「(言いなりとして使われているのは承知の上。 だが、家に汚名が届くことを止めて下さったのもまた事実。 ならば、報いなければ────!)」

 

 カラレスは苦い思いのまま机の書類に目を付けては固まってしまう。

 

 書類のタイトルには『グリンダ騎士団とマリーベル皇女殿下によるエリア11の視察』と書かれていた。

 

 「……………………………………なにぃぃぃぃぃぃぃ?!」

 

 カラレスは思わず政庁の中で素っ頓狂な叫びをし、髪の毛が頭部からハラハラと床に落ちていったことに気付いては意味不明な叫びを再開した。

 

 ノォォォォォォォォォォ?!』

 

「……なんだ、今のは?」

 

「おそらくはカラレス将軍でしょう。 この頃、色々なことに苛まれていると耳にしていますから。」

 

「そうか……」

 

「ええ……」

 

「「ハァァァァァァァァ~……」」

 

 政庁内でカラレスの叫びが聞こえてきたクロヴィスの問いに、ギルフォードがそう答えると二人はため息を同時に出し、いまだにブラックリベリオン後の爪痕が残る産業などが書かれている書類に目線を戻す。

 

 後に『ライラのいるハレー・スタジアムがテロにあった』と聞いたクロヴィスも素っ頓狂な叫びと顔芸を披露しながら車いす姿のまま空港に向かおうとする彼を止めるために苦労するギルフォードの大きなカブ的なやり取りは、また別の話である。

*1
14話より



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第144話 久しきエリア11に女武士

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです!


『エリア11』と呼ばれている旧日本は、現在でこそブラックリベリオン後の大きな損害を伴う組織的なテロ活動は沈静化したものの、数か月前までの治安は『帝国領内でもどん底』と呼べるほど悪化していた。

 

 それは原住民のイレヴンだけでなく多くの名誉ブリタニア人(元ナンバーズ)も反逆した所為で、対策のためにエリア11内の人員の見直しや日和見した者たちの粛清を行う必要があってブリタニアが動かせる軍事力と人員が一時的に大きく低下した為である。

 

「おー、なんかすごいにゃー。」

 

「それもクロヴィス殿下とギルフォード卿がいたから、租界エリアの人員の見直しなどの事務作業は短縮できたし被害も抑えられたけどね。」

 

「えっへんです!」

 

 冒頭の話を軍港へ着陸するまで聞いたソキアとティンクは上記のやり取りをし、横で歩いていたライラが胸を張る。

 

「お兄様はすごいのです!」

 

 事務作業以外でも活躍したギルフォードは泣いていい。

 

 グリンダ騎士団は『皇女(ライラ)の護衛』を兼ねた『視察』の為、補給と整備に新型の機体の受領が終わり次第、グランベリーでエリア11まで移動していた。

 

「あり? でもだったらなんでカラレス将軍が総督をやっているにゃ?」

 

「クロヴィス殿下とギルフォード卿はあくまで、『元総督』と『前総督の筆頭騎士』。 ですので、エリア統治者としては“部外者”となっています。 そしてカラレス将軍が総督として任命された時を期にエリアの平定活動は本格的に進められました。 (無論、政治的なこともあるのでしょうけど。)」

 

 ソキアの後ろにいたレオンハルトは自分自身、違和感を持ちながらソキアの質問に当たり障りのない世間的な回答をした。

 

「「……む?!」」

 

 ライラ、そしてソキアの鼻に食堂の匂いが届くと目が光り、ライラはソキアに肩車をさせ、ソキアはティンクに肩車をさせた。

 

「黒の騎士団出てこ~い! このソキアとグリンダ騎士団が相手になるぞ~!」

「です~!」

「ハハハ。」

 

「ティンク隊員! あそこの軽食屋が怪しい! 私の感がそう告げている!」

「お蕎麦屋さんです! ワサビが辛くて鼻がツンとするです!」

「じゃあ『さびぬき』と店員に言わないとね。 デザートに『団子』も買おうか。」

「「おおおー!」」

 

「「…………………………………………………………」」

 

 ライラ、ソキア、ティンクの流れるようなやり取りにオルドリンとレオンハルトは呆れながらも彼ら自身、民族色豊かな空港の食堂の魅力に惹かれていた。

 

 「……ウォッホン! 遠路遥々の警護、ご苦労であったグリンダ騎士団の諸君!」

 

 ドキーン

 

 マリーベル皇女殿下とシュバルツァー将軍に挨拶を終えていたカラレス将軍がティンクたちののほほんとした態度にようやく『これ以上はダメだ』と感じたのか声を大きくして注意を引く。

 

 「お・ま・え・た・ち!」

 

「うふふふふ♪」

 

 シュバルツァー将軍はこめかみに血管を浮かべてとうとう堪え切れなくなり、マリーベルは微笑ましく笑い、カラレス将軍は必死に頭を抱えるのを我慢した。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「なかなかに……()()()な団員の方々ですね、マリーベル殿下。」

 

「モグモグモグモグモグ。」

「ズズズズズー。」

 

 カラレス将軍は堂々と整列したサザーランドを横断しながらも、横で頭をシュバルツァー将軍に叩かれてからも団子を食べるティンクと音を出しながらそばを食べるソキアを横目で見る。

 

「お褒めに預かり、光栄ですわ。」

 

「ソキア、音を出して食べるなんてはしたないですよ?」

 

「んー? ライラ皇女殿下がこうやって食べるものって言っていたけれど?」

 

「え?! そうなんですか?!」

 

 そしてオルドリンは命じられて捕獲保護した子供のように手を繋いだライラを見る。

 

「そうです! 旧日本では『音を出さない』方が礼儀に欠けるです!」

 

「ね、オズズズズズズズズズズズ────」

「────人のあだ名で遊ばないでくださいソキア!」

 

「……コホン! ともあれ、グランベリーは責任を持って預かります。 ただし、『視察』とはいえダーk────いえ。 『ゲットー』への出入りは細心の注意をお願いしたい!」

 

「ええ、もちろんですともカラレス将軍。」

 

 カラレス将軍、そしてマリーベルのやり取りの背後でレオンハルトが小声でティンクに話しかける。

 

「やはり、ゲットーの治安は悪いみたいですね……ここまで恭順を良しとしないエリアなんて珍しいですね?」

 

 ティンクは口に含んでいた団子を食べ終えてから、珍しく真剣な顔をする。

 

「イレヴンの忍耐力には秘密があると言われている。 それは彼らの伝統精神に由来し、『個人の幸福などはかないものだ』と言ったものさ。 それはむしろ、幸福であることを否定するような……少なくとも『現世的で世俗的で利己的な幸福を捨てた先に真の幸せがある』、と。」

 

「……立派な精神、と思えますが────」

「たとえそうでも、恒星が死んだ太陽系のようにその末路は悲惨さ。 」

 

「……」

 

 ティンクは次の団子を口にし、レオンハルトは黙り込んで租界とゲットーを隔離する防壁を見る。

 

「難しい話はもうおしまいにゃ! 早く町へくり出そうぜいベイベー!」

「ベイベーです!」

「……」

 

「あら、ライラを送ってからは謹慎よ?」

 

 ウキウキしながらポーズを取るソキアとライラ(そして無言のティンク)にマリーベルの無慈悲な言葉が刺さる。

 

「「「なんで?/です?」」」

 

「元々私たちがここに来たのはライラをクロヴィスお兄様の元に送り届けるためよ?」

 

「で、でもでもでも! なんで『謹慎』にゃ────?!」

 「────当たり前だこの馬鹿どもが!」

 

 さっきからイライラしていたシュバルツァー将軍の叫びに、近くにいたオルドリンとライラは思わずギョッとする。

 

「スタジアムで恥をかかせおって! 姫様(マリーベル)と……姫様が活躍したからいいものの、団員であるお前たちは腑抜けている!」

 

 シュバルツァー将軍は思わず『姫様と知らない誰か』と言いそうになるのをやっとのところで訂正する。

 

『ヴィンセントにグリンダ騎士団ではない者が騎乗していた』と判明した後、ブリタニアの駐留軍にも探りを入れたが誰も知らなかったことで『ヴィンセントが強奪された』と気付いたグリンダ騎士団員たち(と言うよりシュバルツァー将軍)は猛烈な胃痛に苦しみながらも捜索をしたが見つけられず、エリア11の視察に行く前のマリーベルはヴィンセントの話題を出して興味を持っていたシュナイゼルに丸投げ任せていた。

 

「しかも新型の訓練もろくにせずライラ皇女殿下の戯れに付き添いおって────!」

「────だって、この子ってば面白いからにゃ────」

────だ・ま・れ! シェルパ卿! それ以上は不敬に当たる!」

 

 ここでシュバルツァー将軍がにやりとした()()になる。

 

「せっかくの謹慎だ。 みっちり貴様たち全員をしごいてやる!」

 

「アワワワワワ!?」

「……………………」

……老けた現役鬼教官────ヒッ?!」

 

 シュバルツァー将軍が視線を送ったソキアは血の気が引き、ティンクはニコニコしながらもだらだらと汗を流し、レオンハルトはグリンダ騎士団内でシュバルツァー将軍に付けられた二つ名を口にして睨まれる。

 

 ……

 …

 

『エリア11のダークゾーン』と呼ばれている中でも、一目置かれているシンジュクゲットー内で元黒の騎士団と思われる者たちが騒いでいた。

 

「おい、見たか?」

「ああ、軍港に派手な艦が入った。」

「誰か情報部と連絡できたか?」

「いや、いまだに何もない。」

「だが浮遊航空艦となればかなり位の高い貴族であることは確かだ。」

「これは好機かもしれん! 我ら今一度、鬼と成らん!」

「「「「「応!」」」」」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ほらオズ、これ可愛いじゃない♡」

「うーん、でもマリーには少し派手ね。」

「あら、お嬢様にはちょうどいいと存じ上げますが?」

「ですね、トトさん♪」

「あ、見て見て! プラスチックモデルよ!」

「これは……サザーランド?」

「お二人とも! こっちにはデフォルメした『グロースターぬいぐるみ』がありますよ!」

「「可愛いい~~~~~♡」」

 

 ライラを政庁で待っていたクロヴィスに送り届け、何故か息を切らしてゲッソリしたギルフォードと別れた後、マリーベル、オルドリン、そしてトトは租界に私服姿で()()を行っていた。

 

 誰が見てもその行動は俗に言う『ウィンドウショッピング』そのものだが。

 

 三人は年相応の少女たちのようにキャピキャピしながら、次から次へと店内へと入っていき、次第にマリーベルたちは『ダークゾーン』と呼ばれている地区の境界線近くまで来ていた。

 

 そこは同じ租界内だというのに空気はドンヨリと廃れ、風に乗ってさびた鉄の匂いが充満していた。

 

「………………………………」

 

 マリーベルは急に静かになり、手すりの上に手を置きながら防壁の向こう側にあるゲットーを見る。

 

「(マリーの、テロへの憎悪が伝わってくる……)」

 

 オルドリンは顔だけ笑っているマリーベルを見て、何とも言えない不安を感じる。

 

「(『無慈悲な暴力から民衆を守るためにテロと戦う』。 そういう思いで戦ってきたけれど……)」

 

 オルドリンの脳裏をよぎるのは、『自決を嫌がる』チグハグな言動をしたアルハヌスの記憶だった。

 

「(あの違和感は何だったんだろう?) ねぇ、マr────?」

 

 ────ドッ!

 

「────きゃ?!」

 

 マリーベルにオルドリンが声をかけようとした瞬間、周りを行き来していた者たちが波のように押し寄せてオルドリンたち三人はよろけて互いから離れてしまう。

 

「ッ────マリー?!」

 

 オルドリンは特に力が入った押しによってマリーベルの体が手すりを越えて上から落ちていき、地面近くで待機していた男たちが彼女を受け取ったと思えば、彼らによってマリーベルは強引に近くの軽自動車に引きずられていく。

 

「こ、この! お前たち道を開けろ! なぜ道を妨げる?! ()()()()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

 マリーベルの後を追おうとオルドリンは手すりを乗り越えて進もうとするがことごとく通行人に邪魔をされ、マリーベルを載せた軽自動車がガタガタと租界からゲットーの方向へと進んでいくのを見てオルドリンは口を開ける。

 

「なんとも上から見下した、横柄な物言い。」

「立派なブリタニア人ですね。」

「敢えて問答させていただくと、『我々は日本人だから』でしょう。」

 

「ッ。 (これ、は……)」

 

 オルドリンは周りの誰とも知らない者たちからの言葉と視線につられ、次第に自分へ集中していく感情をより身近に感じ取って戸惑ってしまう。

 

 なぜならば、それらは先ほどマリーベルが『ダークゾーン(テロの巣窟)』へ向けていたモノ(憎悪)と同一だったからだ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「や、やったぜ!」

「ゼロがいなくても出来たぞ!」

「今すぐ殺して、報道するか?」

「バカかお前ら?! まだまだこれからだ!」

 

(この行動! 複数犯に確信犯か?! オズ……オズは?!)

 

 軽自動車は迷宮のようなゲットー内を走り、その中でも入り組んだ場所で停車した際に口をふさいでいた手が離れたタイミングでマリーベルは叫ぶ。

 

「わ、私を放しなさいこの下郎────!」

 ≪────うっせぇよ!≫

 

「まて! まずは反ブリタニア勢力への示威に────!」

 ≪────焦れったいな、クソ────!≫

 

 ────ビリビリビリビリビリビリ!!!

 

 きゃああぁぁぁぁ?!」

 

 男の一人がマリーベルの私服を掴んで無理やり引きちぎっていく、彼女のあられもない下着姿に興奮と背徳感が混ざる。

 

 ≪先に、こいつで日頃の恨みを晴らしてやる!≫

 

 一人の男はマリーベルの服を次々と荒々しく剥ぎ取り、一人は暴行を与え、一人は今目の前で行われようとされている行為に呆然としていた。

 

「う?! い、いや! (オズ! だ、誰か!)」

 

 

「うわぁ♡ 獣みたーい♡」

 

 この様子を、帽子をかぶったアッシュフォードの女学生と思われる人物が陰から見て興奮していた。

 

「(『黒の騎士団の拠点になりそうな地区のリスト作りなんて地味』って思っていたけれど、こういう場面が見れるからいいカモ♡。 でなきゃ釣り合わないよ! クララがパパの言うとおりに機密情報局の力になってあげているのに、その機密情報局が『あ、実は現地はまだ準備中』だなんて失礼しちゃう!!)」

 

 

『機密情報局』。

 コードギアスのR2を見た者たちならばわかると思うが後に『ただの一般市民であるルルーシュ・ランペルージ』の監視を任された、皇帝直轄の組織でブリタニア各地に広く根を張った諜報機関で、情報収集を中心に超法規的措置をはじめあらゆる活動を秘密裏に実行する暗部……と、一握りの上層部以外には組織内でも()()の認識である。

 

 その実態と実際の設立された理由は、『プルートーンと言う更なる暗部の隠れ蓑となる組織』である。

 

 

「(あーあ、退屈ったらありゃ……お?)」

 

 キィィィィィーン。

 

 アッシュフォードの女学生────を装っていたクララが内心で愚痴をこぼしていると、マリーベルのいる場所から耳鳴りに近い、何かが大気を斬るような音が耳に届く。

 

 ブシュウゥゥゥゥぅ!

 

ぎゃあああああ?!

腕?! 腕が?! 腕がぁぁぁぁぁ?!

「え?! え?! え?!

 

 衣類がほとんど剥ぎ取られたマリーベルは眼前で宙を舞う鮮血……ではなく刀を持った、のっぺりとした白いフルフェイスヘルメットに真っ白の服装を着た誰かを見上げる。

 

「え? オズ────?」

 「────かつての志も失くしたか、醜いな────」

「(────ではない……女? 男?)」

 

「わわわわ?!」

「に、日本刀?!」

「ふざけんなぁぁぁぁ!」

 

 この新しい人物の出現に元黒の騎士団の残党……とも呼べない、その日限りに用があれば雇われていたテロ組織の元構成員はほとんどが狼狽えていたが、手を斬られた一人は拳銃を出して構える。

 

無駄だ、失せろ────

 

 ────パァン! ギィン

 

「「「……………………は?」」」

 

「た、弾を弾k────」

 

 ────日本刀を持った者が動いたと思うと、いつの間にか男たちに峰打ちをして気を失わせ、既に日本刀を鞘の中へ戻す動作に入っていた。

 

バカなことを────

「────あの……」

 

ん?

 

『何かを言いたい』と言う衝動のまま、マリーベルは思わず声をかけてしまう。

 

「……もしや、イレヴンですか?」

 

さぁ、どうだと思う?

 

「……何故、彼らを? 同じイレヴンでしょう────?」

────彼らが悪事を為そうとした。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ! ブリタニア人とナンバーズは────!」

────ならば先の『タレイランの翼』はどうだ? 彼らもテロリズムに走った。 ()()()()()()()()()()()()()()()。 君のグリンダ騎士団が本当にテロリズムを根絶させたいのならば、()()()()()()()()()()()()()

 

「な……」

 

 白仮面の言葉は、マリーベルを芯から震わせるような多大なるショックを与えていた。

 

『マァァァァリィィィィ!』

 

 マリーベル本人はショックの()()()()()に見当が付かないまま、自分の名前を呼ぶオルドリンの声にハッとする。

 

「マリー、大丈夫?!」

 

 ドシッ!

 

「ひゃ?! お、オズ────?!」

 

 まるでそのままダイブするかのように涙目のオルドリンはマリーベルにタックル染みたハグをし、自分の上着を羽織らせてようやくオルドリンが引き連れてきた警官たちが(息を切らしながら)その場に到着してテロリストの元構成員たちを逮捕していく。

 

「────マリー、怪我は?! 酷いことされていない?!」

 

「わ、私は大丈夫です。 あの方が────あ、あれ? いない?」

 

 マリーベルはあたりを見回してさっきの白仮面を見つけようとしている間、一連を静観していたクララはスキップ交じりに大通りを歩いていた。

 

「ウ~ララ、ウララ♪ ウラ、ウラで~♪ ウ~ララ、ウララ────♪」

 

 またも古臭い一昔前の歌を歌いながら。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 先ほどの白仮面は租界のそこら中に張り巡らされている旧地下鉄の中を走り続け、ようやくほんのりと緑色の光を放つ発光塗料の目印を見つけて地上へと出る梯子の元で仮面が同化したヘルメットごと取り、ロングの黒髪がばさりと音を立てて出てくる。

 

「……フゥ~……(上手く()のように振舞えただろうか?)」

 

 白仮面のヘルメットを脱いだ毒島は額と首に浮き出ていた汗を拭きとってから、上着のジッパーを下ろしていく。

 

「(紅月の方は……彼が手を回しているだろうから大丈夫か。 むしろ問題なのは私の方だな、仮にもおじい様(桐原泰三)の孫なのだからな。)」

 

 肌に密着していた白いライダースーツを毒島は落ち着きながら脱いでいき、考えを続ける。

 

「(それにしても、日本に残った黒の騎士団はもう駄目だな。 ちゃんとした正団員は逮捕されたか、あるいは殺されている。 協力者たちもできるだけ波風を立てずにやり過ごしている……おじいさま達や私たちが日本を脱出出来たのは大きい。 あのまま居座っていたら、今日(こんにち)ほど力の回復と温存は無理だっただろうな……昔と違い、彼にはもう敵う気がしない。)」

 

 髪を上げて帽子をかぶり、着替え終えた毒島はボストンバッグのストラップを肩にかけてから梯子を上って()()()()()()()()()()のすぐ外へと出て目をまぶしさに細める。

 

「(さて、中は一体どうなっていることやら……)」




(;´∀`)


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第145話 嵐の前の静けさを。スバル無しで

お待たせしました、表現に不安アリアリの次話です! (;´ω`)ゞ

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


『マリーベル皇女誘拐未遂事件』が発覚したトウキョウ租界の政庁でニュースを聞き、血の気が引いて身体が冷えていくのを感じながら意識を失いそうになっていたカラレスに、更なる悪いニュースが届く。

 

「将軍……第一皇女殿下が、お呼びです……」

 

「……分かった。」

 

 そんなカラレスはギロチン台に自ら進んでいくような重い足取りで連絡室へと向かい、部屋に入ると既に通信が開かれていたことで跪く。

 

『……不始末ですね、カラレス将軍。』

 

 カラレスを目で見下ろし、たわわで零れそうな胸にバラの入れ墨をした女性が冷たい言葉を彼にかける。

 

「……」

 

 この女性こそ滅多なこと以外では政に関わらないものの、帝国宰相のシュナイゼルに次ぐ権力者である第一皇女の『ギネヴィア・ド・ブリタニア』である。

 

『ブリタニアの宝であり、我が妹マリーベルが無事だったのは幸運によらしむところが大きい。』

 

「返す言葉も、ありません。」

 

『卿が以前からの政策を(おもんぱか)り、強攻策を控える姿勢は見事ですが……時に、将軍はこの愚行を行ったイレヴンの事をどう思いに?』

 

「そ、それは……無論、協力者共には帝国の恩寵を差し伸べて────」

『────相手は自らの死をも厭わぬイレヴン、好戦的で危険な人種……いえ。 帝国の寵愛を未だに拒み、あまつさえ“ゼロ”という詐欺師に踊らされることを良しとしながら自決や退化の道を自ら選ぶ()()()()()です────』

 「────は、はぁ────」

『────イレヴンとの交渉など、成立するとは思わないことです。 現に、愚行を犯した者たちは誘拐したのがあの“英雄皇女”だと知らないと耳にしています。』

 

「……イエス、ユアハイネス。」

 

『暴虐の罪を着せられ、左遷されかけた将軍を“エリアの総督”に据えた含意……推して知り計らいなさい。』

 

「……イエス、ユアハイネス────」

 

 ────プシュ。

 

『マリー……』

 

「ギネヴィアお姉様、お久しぶりです。」

 

『ええ、本当に……』

 

「「(え? 誰?)」」

 

 空気が重くなり、肩身が狭くなっていくカラレスのいる通信室にアッシュフォード学園の制服を着たマリーベルが入ってくると、ギネヴィアの表情が柔らかくなったことにマリーベルの後から入ってきたオルドリンとレオンハルトがギョッとする。

 

『大事なくて、安心しましたよマリー。』

 

 原作コードギアスでの描写は少なく、『かなりキツい性格』と『金使いが荒い』という噂を持つギネヴィアだが、実はこれには理由がある。

 

 コードギアスでは『開発途上国支配』の時代が現代にまで続いている世界、つまりは15、6世紀辺りの社会構造のままであり、『男女平等』など無い。

 

 女性は貴族であればあるほどに才が無ければ『政治抗争の道具』、有っても『才能ある道具』という認識が強くなり、それは皇族でも変わらないので周りから与えられるストレスは半端が無く、人格がこじれないのは余程の強靭な精神を持った者か、あるいはそれに気付かない鈍感夢見がちな者である。

 

 しかもギネヴィアは第一皇女の上に経済面での才能があった為、『シュナイゼル』と言った強敵(天才)とよく比較対照にされることもしばしばあり、カリーヌのように公の場で()()きつい性格になるのは幾分仕方がない事。

 その上『金使いが荒い』のもブリタニア帝国の金ができるだけ流れるように、帝国中の夫人たちが模範とするようギネヴィアがわざとそう行動しているに過ぎなかった。

 

『マリー、貴方は昔から────』

「────ギネヴィアお姉様、今回は私の不手際で将軍に非は全くございません。」

 

 カラレスの胸にマリーベルの言葉が沁み、彼の涙腺は思わず緩んでしまう。

 

「ですが、私は身をもって知りました。 やはりブリタニア人とイレヴンは差別……いいえ、()()は区別すべきだと。」

 

「「ぇ?」」

 

「(区別をしなければ、誰が帝国市民に……いえ、保護対象に誰が相応しいかどうか分からなくなる。)」

 

 マリーベルの内心を知らずに、オルドリンとカラレス将軍が彼女の言葉に目を見開く。

 

『よく言いましたマリー。 聞きましたか将軍? 今の彼女の言葉は貴方に言っているモノですよ?』

 

「い、イエスユアハイネス!」

 

『肝に銘じておくように……それはそうとマリー、貴方に学生服はとても似合っていますね。』

 

「ありがとうございます、ギネヴィアお姉様。」

 

『事情があったとはいえ、皇女が軍学校など……軍服もあれはあれで似合っているのですがやはり本来はこうあるべきなのです────』

 

 ギネヴィアの注意がマリーベルへと完全に移って饒舌になったことに、マリーベルたちは非常に嫌な予感がした。

 

「────あの、お姉様? 学園への手配ありがとうございますがそろそろ私たちはお暇────」

『────アッシュフォード家には貸しがありましたからお気にせず。 それにマリーは昔からコーネリアのようにもっと皇女としての自覚をもって気高く────』

「「「(────うわぁ、始まったよ。)」」」

 

 マリーベル、オルドリン、そしてレオンハルトはネチネチクドクドと喋り出すギネヴィアを前に、気が重くなって数時間は潰される覚悟をした。

 

 余談であるが、昔から期待を寄せられて人一倍頑張った末に『大人』となったギネヴィアからすれば、実の母親たちより会う時間も回数も多い皇族の兄妹の面倒を見ようとした。

 

 その時からギネヴィアに付いたあだ名は『説教のギネヴィア』であり、第一皇子のオデュッセウスが『ブリタニア皇族の器ではない』と言われるのは面白くないので、彼に対して特に強く当たってはいた。

 

 更に余談であるが、この所為でよく『もっと長男としての自覚を~』と説教をされてきたオデュッセウスはギネヴィアが大の苦手であり、よく彼女のいる本国に居たがらないのも理由の一つだった。

 

 なお本日のオデュッセウスは新大陸にサプライズとして、大規模なトウモロコシ狩りに農民姿(麦わら帽子にTシャツとオーバーオール)で参加していることを朝一で知ったギネヴィアは、『何やっとんじゃい』と思ってイライラしたままマリーベルの事を聞いては、イラつきをそのままにカラレス将軍に連絡を取ったのが冒頭のやり取りである。

 

「(私の膝が……)」

 

 堅い床に跪いたままのカラレスは、今度ばかりは完全にとばっちりなので(内心)泣いていい。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「………………………………」

 

 カレンはボーっと、夢を見ているような気持ちのまま数か月ぶりの()()で目を覚ましては天井を見上げていた。

 

 実は彼女、昨日の内に租界のシュタットフェルト家の近くに忍び込んで様子を見ようとしたところを、()()()ニコニコしながら待機していた母親の留美に見つかり、そのまま屋敷の裏口へとドナドナされて、以前からシュタットフェルト夫人と彼女に雇用された使用人たちがいないことと、まるで何もなかったように家の者たちはカレンを迎えたことに戸惑うまま一夜を過ごした。

 

「ほうほう、それで君は────」

「────とはいえ、私もまだまだなモノでして────」

「────モグモグモグモグ────」

「────そうはいっても、スヴェンたちとも歳はそう離れていないだろう────?」

「────同い年です────」

「────ああ、これは失礼を────」

 

 カレンは歯ブラシや着替え等の支度を終えてからそのまま食堂に入ると、そこにはシュタットフェルト家現当主のジョナサンと一緒に平然と朝食を食べる毒島の姿を前に、ただボーっとしたままトーストをかじり────

 

 「────ってちょっと待って。」

 

「「ん?」」

 

 「何これ?」

 

「「……………………朝食────?」」

 「────そういうのは良いから。」

 

「「??????」」

 

 カレンの言葉にジョナサンと毒島はハテナマークを頭上に浮かばせた表情のまま彼女を見ると、立ち上がったカレンは頭を抱えて座り直す。

 

「“アットホーム”な空気に当てられて、流されるままここまで来ちゃったというか、使用人がガラリと変わっているわ、屋敷も大きくなっているわ、平然と数か月間姿を見せなかった私を迎えるわ、指名手配されている人の孫の毒島を客人扱いするわ、いつも家を開けがちの人もいるわでもうなんなのナニコレ? 誰か説明プリーズ。

 

「……フ~ム……」

 

 ジョナサンは顎に手を添えて考えるようなそぶりを見せ、毒島とカレンは彼へ視線を移す。

 

 「素のカレンも可愛い────」

 ≪────もうそんなんええから。≫

 

 カレンは思わず気の動転からか日本語でツッコミを入れると、ジョナサンは毒島……ではなく、部屋の隅でニコニコしていた留美をキラキラした目で見る。

 

「今のが『つっこぉーみ』、いや『マンザイ』とやらか?!」

 

「(ニコニコニコニコ。)」

 

「そろそろk────カレンにも説明して良いか?」

 

「いやここは私がやろう。 ろくに面倒も何もしてやれなかったが、せめてそれはやらせてくれ────」

「────あら。 流石にそれは悲観的過ぎかと旦那様。 スバル君や私の為に出来るだけ配慮していたじゃない?」

 

「……()()()()、昔みたいに『ジョン』と────」

「────公私混同になりますのでご容赦を。」

 

「……pぉきじゅhygtfrですぁq~。」

 

 見事に銀河を目撃する猫のように固まったカレンの口からは、言語化不可能な声(?)が出る。

 

「(う~む、紅月くんは実に根が素直で表情豊かだな。)」

 

 ………

 ……

 …

 

 そこからジョナサンはシュタットフェルト家の話と、カレンが分からなさそうな部分を毒島が付け足すと以下の通りである:

 

 1、 ブラックリベリオン前の『行政特区日本の宣言当日』まで、シュタットフェルト家は私兵や警備用のナイトメアをジョナサンの名で総動員し、親族と共に邸の敷地内にて待機。

 2、 本人も一早くシュタットフェルト家に戻った直後に『フジサン事変(虐殺)』の噂がエリア中をアングラニュースやSNSで駆け巡り、租界に戒厳令が敷かれ、使用人の半数ほどがシュタットフェルト夫人と共にエリア外に脱出を目論んで租界を出ようとする

 3、 ゲットーからの暴徒化した原住民(旧日本人)や名誉ブリタニア人から逃げる一般人や、政府に軽視されて逃げ遅れた下流階級貴族たちをシュタットフェルト家の敷地内で保護

 4、 ブラックリベリオン時、あくまで防衛と避難所としての機能に徹した籠城戦を行った功績と手腕を買われ、更にエリア11の人材が少なくなったことでシュタットフェルト家が重宝されるようになった

 5、 シュタットフェルト夫人の不倫がようやく発覚し、証拠を提出し()()

 a. 尚、『非は完全に元シュタットフェルト夫人のアレクサンドラにあり』というお墨付きであり、正式な離婚ではなく『シュタットフェルト家とは何の関係もない』と言う認識の『暗黙の了解』

 6、 少なくなった人員補充の為、()()()使()()()が事前に調べていた、確かな者たちの面接と採用を行う

 a. 追記で()()()などを持っている家族や、『ブリタニア貴族として異端(良識)過ぎる』と認定されて政治抗争により『社交界の弾き者』がほとんどであり、働くのであれば働きに見合った給金と敷地内へ家族ごと住み込みオーケー

 7、 女主人が居なくなったことと同時に、他の家などでは聞かない『使用人の区分撤廃』にてメイドや厨房に庭師の中で『階級』が無くなる代わりに、元からいた者たちは新人たちの教育係となり給金が上がった

 a. 6aと繋がって技能を身に付けて独立や他家に移る際、シュタットフェルト家の推薦書やサポートもやぶさかではないとのこと────

 

 

「────と、かなり簡単な説明だが……大丈夫か?」

 

「……ちょっと過剰情報、整理中……です……ハイ……」

 

 ジョナサンはカレンに心配するような声をかけ、素と演技が混じったカレンはただテーブルに肘をつかせながら頭を抱えて俯いていた。

 

 漫画や他メディアだと、『頭と耳から煙がプスプス出ている』状態だった。

 

「……やはり、後日に話しを続けるか────?」

「────シュタットフェルト卿、すまないがそれは出来ない。」

 

 ジョナサンの申し出を、すっぱりと毒島は断わりを入れる。

 

「本当ならば、顔を出すだけの予定だった。 それに、今も尚カレンやスバル君たちの居場所の偽装をしている上、ここで我々も匿うのは極力控えた方が良いのでは?」

 

「……え?」

 

 毒島の言ったことに、カレンはポカンとしながら渋い顔をするジョナサンを見上げる。

 

「これはこれは……流石に鋭いですな────」

「────なんの。 ()に比べれば────」

「────ああ。 なるほど……彼は()()()聡く、大人びていたからね。」

「ええ、()()()。」

「……ハハハハハ。」

「フフフ♪」

 

 毒島の言葉で誰の事か察したジョナサンは納得した顔のまま頷く。

 

「して……」

 

 さっきまで和やかな雰囲気が一転し、大気がピリピリしていく中でジョナサンは留美に人払いをさせ、人気が居なくなってから毒島は再度口を開く。

 

「シュタットフェルト卿も、()()()()とこれから考えてよろしいですかな?」

 

「(あ、もしかして……()()()()意味?)」

 

 今までの話をようやく理解したのか、カレンはおずおずと真剣かつ疲れたような表情をするジョナサンに視線を移す。

 

「……私は中立を望んでいるが、それが叶わぬ時は()()()()()()()()()()()()()だろうな。 だが、貴族としての筋を考えるのであれば正直難しい。」

 

「(……これだからブリタニアは……)」

 

 ジョナサンの渋い顔と言葉を聞いたカレンは一気に不機嫌になり、内心で今や口癖となりかけているセリフを吐く。

 

「確かに、たった200年でここまで強固な国家を築いた帝国は大したものだ。 だが、最近の帝国は()()()()()()()()とも言いかえられる。」

 

「……ほう? 外交官であった私にそう言うとは、何か根拠があるのかね?」

 

「仮想敵国だったEUは、クーデターによって今や内部分裂。 政治の腐敗が既に世間に知れ渡り始めているほど、中華連邦は現時点の政府を丸ごと入れ替えなければ死を待つ身となっている。 これによって、ブリタニアに『当面の敵国はいない』という認識があるが……シャルル皇帝が皇位に就いてから急激に拡大化した。 それも、帝国財政の許容できる範囲を優に超えて。」

 

「……」

 

 ジョナサンはただ静かに、紅茶の入ったコップに手を伸ばしては取っ手を指でなぞる。

 

「占領下に置いたエリアが平定さえすれば良いが、戦火がこうも拡大すれば国家財政とそれを支える経済に負担が掛かり、『優秀な人材が軍事方面に偏り過ぎている』という問題も抱えている。 このままでは数年後には社会構造にガタつきが生じて帝国の分裂……あるいは何らかの形で内紛が起きるのも、想像できてしまう。 違うでしょうか、シュタットフェルト卿?」

 

 ジョナサンはコップの取っ手を指でなぞるのを止め、紅茶を飲む。

 

「……見事な見解だな、一人の学生とは思えないほどに……“流石は桐原泰三の孫”、と称賛するべきなのだろうか?」

 

「いいえ、これは彼の補佐をするには“当然の見識”かと。 (それに半分ほどは彼の言動から察したことだ。)」

 

「……うーむ……」

 

 ピリピリとした空気が消え、ジョナサンは腕を組んで悩むような声を出す。

 

 そしてカレンと言えば────

 

 「(なんだかよく知らないけれど凄い話をしているのは分かる。)」

 

 ────無理に全て理解しようとする努力をやめて、出された茶菓子を口にして場をやり過ごそうとしていた。

 

 「それに比べると……」

 

 ジョナサンの視線先が一瞬だけカレンに向けられ、上記の言葉が彼の口から出るとカレンはムッとする。

 

 ピキッ。

 

 「それ、どう言う意味かしら。」

 

『ようやくカレンが口を開いた』と思った矢先に強気な素の彼女が出てきたことに、留美は目を見開く。

 

「ああ、いや────」

「────何よ? 今さら父親も何もないでしょ? お母さんがあれだけ苦しんでいたのに、結局は仕事に没頭して、みて見ぬふりを────」

 「────カレン?」

 

 今まさに十年間ほど貯めていた文句をカレンが話し出そうとしたその時、室内の温度が一気に下がったような錯覚がカレンたちを襲う。

 

 原因はさっきまでニコニコしていた留美から今まで感じたことの無い────否。

 

 実はカレン、一度だけ体験したことがある。

 

 それは────

 

「(────ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイこれ絶対『山に行ってくるって言って森の中を遭難して(スバル)と何とか二日間やり過ごして救助の人たちに見つかった後』の時と同じ、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム状態のお母さんだ!)」

 

 ちなみに状態の命名者はスバルである。

 

 カレンは嫌な汗をダラダラと流し、ただ静かな圧力(プレッシャー)を放つ留美の前で畏まる。

 

「(まるで威嚇される子猫だな。) カレン、そろそろ行くか────?」

「────あ、ああ。 引き留めてすまない、最後に一つだけいいか?」

 

 この様子を見た毒島は助け船を出しながら席を立つと、ジョナサンがカレンを見ながら口を開ける。

 

「……なに?」

 

 先ほど『病弱令嬢』の演技もなにもない姿を見せたことで、カレンは少々投げやりになっていた。

 

「さっきも言いかけたように、私は何もしてやれなかった。 『他家の目』や『世間体』に『貴族社会』など言っても結局は言い訳にしか聞こえないだろうが……私が愛しているのは今も昔も()()()()一人だ。 ああ、ちなみに『ルーミー』とは留学中に大学で────」

「────いや、そういうのは良いから何? 正体を隠してくれているのはありがたいけれど、指名手配されている桐原さんの孫と一緒なのだけれど?」

 

「ああ、うん。 家の事やルーミーの心配はしなくてもいい。 アレクサンドラのクソばb────コホン。 アレクサンドラが居なくなった今、私が全身全霊で守って見せる。

 だからそういう心配をせずに、お前は思うようにやりなさい。

 どんな結果になろうとも、世界が敵になろうとも、何があっても私たちは味方だよ。 困ったときや疲れたときは私とルーミーにいつでも頼りに来なさい。」

 

「……………………………………」

 

 カレンは今度こそジョナサンの言ったことを理解し、言葉を失くす。

 

「…………………………………………………………うん。」

 

 やっと沈黙を破ったカレンからはただ上記の一言が漏れ、彼女は毒島の後を追って退室する直前に振り返る。

 

「じゃあその……………………行ってくるね。」

 

「うむ。 行ってらっしゃい。」

 

「カレン────」

「────お母さん?」

 

 留美はツカツカとカレンの側に来ては、彼女の手を取って耳打ちをする。

 

 「あの毒島って子、かなりの強敵だから頑張りなさいよ、カレン!」

 

 「いや、まぁ……頑張っているけど白兵戦は難しい感じかな────?」

「────もう! そう言う意味じゃないわよ────!」

『────カレン、まだか────?』

「────あ。 じゃあ行ってきます、お母さん────」

「────ちょっとカレン! ……もう!」

 

 留美はそそくさとその場を後にするカレンに呆れと同時に誇らしい気持ちのまま、彼女を見送った。

 

「今まですまんな、ルーミー。」

 

「……ううん。 ()()()が不器用なのは、あの子(カレン)を見ていれば分かるから。」

 

「ハハハハハ、本当にね……それと公私混同はしないんじゃなかったのか?」

 

「良いじゃない。 今は二人きりだから♡」

 

 尚ここで追記するが、ジョナサンの説明は大雑把で簡単なモノであり、彼がカレンに説明したようなトントン拍子に物事が全て上手く進んだわけでは決してない。

 

 問題は未だに山積みだが、単にジョナサンが改革と留美とカレンへの申し訳なさから来る覚悟と粉骨砕身の努力、そして事前に改革の基盤が準備されていたことが大きい。

 

「ねぇ、ジョン?」

 

「なんだいルーミー?」

 

「愛しているわ♡」

 

「……私もだよ♡。 本当に……『彼が居なかったら』と思うと、ゾッとするよ。」

 

「ええ、本当に……」



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第146話 いざアッシュフォード学園へ。スバル無しで

相変わらず独自解釈&設定などが続きますが、キリのいいところまでの次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


『説教のギネヴィア』に、“流石にお時間が”と断りを入れてカラレス将軍を生贄代理に置いてきたマリーベルたちご一行は車に乗りながら、流れる外の景色を見ていた。

 

 その景色はまるでブラックリベリオンが起きたことが嘘のように、大体の復興工事を終えたが人影も活気も明らかに以前より少なかった。

 

「それにしても……視察先をアッシュフォード学園にする理由があるのでしょうか、皇女殿下?」

 

「ええレオン。 ブラックリベリオン時に『非戦闘地帯』と黒の騎士団と当時の政庁が定めたにもかかわらず、激戦区と変わったので未来ある生徒たちに心理的なショックの後遺症がないか調査をしたいのです。」

 

「なるほど、確かにそれならば視察の理由になりますね。」

 

「そういえばレオンハルト? なんでソキアたちのようにグランベリーで待機していないの?」

 

 レオンハルトの目は遠くなり、どんよりとした空気が車内に充満していく。

 

「ああ、それはマリーカさんがシュバルツァー将軍に具申したんですよ。 『ブラッドフォードの調整はまだ終わっていない』って。 ですので、今の状態を基にしたデータで仮想訓練をしても意味はないそうです……アッシュフォード学園から戻れば僕用の『特別訓練』があるそうですが。」

 

「えっと……ご苦労様です?」

 

「マリー……」

 

「ん? 何です、オズ?」

 

 レオンハルトに同情しつつもニコニコするマリーベルに、オルドリンは彼女が政庁で口にした『区別』の意味を問いただそうか一瞬だけ迷った。

 

「……ううん、何でもない。 ただ“ライラ皇女殿下のことは残念でしたね”、と。」

 

「ウフフ。 ギネヴィアお姉さまとクロヴィスお兄様も気になっていたようですし、ちょうどよいかと。」

 

 尚ライラの姿は車内にはなく、現在は政庁で一瞬たりとも離れたくないクロヴィスに常時付きまとわれるだけどころかハレースタジアムのテロ騒動もあり、ギネヴィアに『租界内が平定するまで政庁から出ることを禁じる』と念を押された。

 

 ライラは皇女らしくもなく、盛大に断固反対の意思を示したのだがギネヴィアが全力で出したジト目の前で沈黙し、オズオズとソキアやティンクたちのいるところへ遊びに見学しに行った。

 

「今頃は、シュバルツァー将軍もライラを巻き込んでいるかもしれないわ♪」

 

 余談だがライラは訓練で疲れたソキアたちや事務作業で疲れたクロヴィスたちにチョコチップマフィンを焼いて難を逃れていたとは知る由もないだろう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「アッシュフォード学園、一日体験イベント兼日夕お祭り大作戦へようこそ~!」

 

 パパパパーン!

 

「「「イェ~イ!」」」

 

 そんな彼女たちがアッシュフォード学園の門を潜り抜けた直後、ミレイが歓迎の声をかけて背後にいるシャーリーとリヴァル、そしてクララが元気よくクラッカーの紐を引く。

 

「……手際よく何から何まで手配していただいてありがとうございます、ミレイ・アッシュフォード。」

 

 オルドリンは一瞬だけキョトンとするが、すぐにいつもの愛想良い微笑みに戻ってから感謝の言葉をミレイに送る。

 

「いえいえ、皇女殿下も庶民の学び舎に触れれば気分転換になると思いまして。」

 

 「ねぇ? 庶民の学校ってこういうモノなの、レオン?」

 「さ、さぁ……自分もオズと同じく士官学校だったし、それ以前は家庭教師でしたので……トトさんは?」

 「へ?! えっと……すみません、私もお嬢様と同じでして良くは……」

 「ではやっぱり、これが庶民の『学校の基準』と言う事ですか……」

 「軍学校と違い、賑やかですよね……」

 

 

 オルドリンたちはアッシュフォード学園の祭り騒ぎを『普通』と認定したが……

 かのキートン氏風に表現すると“そんなワケは全くない。ただ生徒会長であるミレイ・アッシュフォードが自身の悩みごとから逃避する為せっせと周りを巻き込んで行っている活動である”となるだろう。

 

 

 「ロイド伯爵と婚約しているから、会長だって伯爵夫人で貴族のくせに~。」

 「ブーブー。」

 

「(ああ……)」

「(あの……)」

 

 ぶう垂れるシャーリーの言葉にクララは便乗し、リヴァルは静かに歯を食いしばり、オルドリンたちは以前に新型の受け渡し時のポヤポヤした『アッハー♪』のロイドを思い浮かべる。

 

 そのロイドは現時点で、シュナイゼルに期限付きの無理難題(ラウンズ専用機)を押し付けられてロンゴミニアドファクトリーの作業員たちと共に、まさに地獄を体験していてそれどころ(おちゃらけている場合)ではないのだが。

 

「……あら? 貴方は?」

 

 マリーベルはクララを見て、ようやくハレースタジアムの皇族用フロアでぶつかった少女と気付く。

 

「クララです♪ 先日、()()()とハレースタジアムでお会いして以来ですね♪」

 

「……え? (そうだったかしら?)」

 

 オルドリンは自分を見るクララにハテナマークを頭上に浮かべて困惑し、クララは僅かに口角を上げる。

 

「ええ、覚えているわ。 よそ見して走っては駄目よ?」

「は~い♪」

「(マリーまで? だとしたら、()()()()()()()()のかしら?)」

「あら。 オルドリン、()()()いないの? 貴方が転ぶ彼女を受け止めたのですよ?」

「う、う~ん……そう……言われてみれば……ぼんやりと、見たような……見たことがないような?」

 

 ゾクッ!

 

 クララはその場に似つかわしくない、背筋が冷たくなるほど鋭い殺気を向けられて思わず身震いをして殺気の出元である人物に視線を移しながら、悪戯が成功した子供のようなニヤケ顔を浮かべる。

 

「ふぅ~ん……そうですか。 ()()()いませんか♪」

 

「あ、ちなみにこちらはクララ! この間まで車椅子だったのだけれど、本国で手術をしてきたの!」

 

「私はシャーリー・フェネット! よろしくね~!」

 

「俺はリヴァル!」

 

 ミレイがクララの紹介をフランク気味にすると、それに釣られて他の者たちも続いて自己紹介をする。

 

「って、こんなに気安くていいのかな────?」

「────気にしない、気にしなーい! うちの学生服に袖を通したからにはみ~んな、兄弟姉妹! ()()同然よ!」

 

 「家族……という事はルルとも家族になるのかな~……ふへひひひひ♡」

 

「(ハ……“家族”、ねぇ。)」

 

「トトさん? 大丈夫ですか?」

 

「……はい、お気遣いなく。」

 

「(何時ものトトさんだ……気のせいだったかな?) では、先に行きますね。」

 

「ええ。」

 

 シャーリーは自分の妄想に赤面し、クララは内心で冷めた感想を内心浮かべ、レオンハルトはトトから感じた異変に声をかけてからミレイたちにドナドナされていくマリーベルたちの後を追う。

 

「…………………………………………その殺気と怖い目、ちょっとは我慢できないかな~?  おかげで周りの人たちは遠ざかったけどさ~? あ! でもでも~? 今のですぐ分かったよ♪ 彼女たちが、今の貴方の『居場所』ってわけね?」

 

 取り残されたクララは帽子が風に吹き飛ばされないよう手で押さえながら、取り残されたトトに振り返る。

 

「よかったね! 『居場所』を────ううん。 『主人』をゲット出来て?!」

 

「クララだって、さっきの学生たちともそういう関係を築ける筈よ。」

 

『トト・トンプソン』。

 彼女は代々ジヴォン家に仕える家系のメイドで、幼い頃からオルドリンの侍女として共に育った何の変哲もないメイド────

 

 

 

「例え()()であったとしても。」

 

 

 

 ────というのは仮の姿。

 

 彼女は『オルドリンの監視役』としてギアス饗団から派遣されているギアス能力者の一人で、彼女と相対しているクララ────フルネームを『クララ・ランフランク』と言い、彼女もトトと同じ出自で、ギアス能力者でもある。

 

「だって私たちはそういう風に脳を調()()されているもんね♪ 良かったね、トト(子犬)ちゃん♪」

 

 クララの言葉から察せる様に、何故『ギアス』という超能力を持つ者たちが(割と)大人しくギアス饗団に従っているかは何もV.V.やブリタニア帝国を恐れているわけでなく、()()()()()()()()()()()()()からである。

 

 特に、反抗的だったり饗団への危険性を危惧されている者たちであればあるほどに課せられる呪縛は重く、そして内容の異常性や複雑化は増していく。

 

 それ等の条件を満たさなければ、理性を失って発狂してしまうほどに。

 

 例えば、今この場にいるクララとトトを例に挙げると彼女たちは脳を医学的に弄られ、わざと『欲求』の一部分を増加されている。

 

 トトは『主従心』を。

 

 クララは『家族愛』を。

 

「そう言うクララは、『妹役』を予定されているのでしょう? 良かったじゃn────?」

 「────よくない。 全然、全く、良くないよ。

 

 クララは今まで出したことの無い、ドスの効いた声でズイィィィッとトトに顔を急接近させながら狂気の宿る目をトトと合わせる。

 

パパの命令だからそれ以外の人を『お兄ちゃん』と呼ばないといけないけれど、クララのお兄ちゃんはオルフェウスお兄ちゃんだけなんだもん。

 昔からも。

 今も。

 これからも、ずっとずぅぅぅぅぅぅっとね♡」

 

「………………(『処置(調整)』を何度も受けて、限界(理性崩壊)の一歩手前で()()ですか。)」

 

 トトは静かに向けられている視線を返していると、次第にまるで何事もなかったような振舞いにクララは戻っていく。

 

「“関係を築ける筈”、ねぇ~……よく言うよ! トトだってその『絆を築けた人たち』にもギアスをかけているんでしょう?! それを世間では『偽善』って呼ぶんだっけ? アハハハハハハ!

 

 ビキッ。

 

『怒り』の一文字では到底足りない形相になったトトは、力強く握りしめた拳を解いては眼鏡を取り外し、彼女の右目が赤く光り出す。

 

「おおおおっとと!」

 

 クララはかぶっていた帽子を仮面のように、自分の眼前にかざして視線を遮る。

 

「ごめんごめ~ん♡ 嘘だよ~ん♪ ここで争う気はないよ~♪ トトとはギアスも身体能力も相性が最悪だもん♪」

 

『ト~ト~!』

 

 トトが居ないことに気付いたオルドリンが彼女を呼びながら走ってくる姿に、トトとクララの周りに漂っていた緊張感はふっと消える。

 

「ほら、二人とも行きましょう────!」

「────あ、でもお嬢様────」

「────トト、珍しく他人と話していたけれど……どうしたの?」

 

 オルドリンはかなり驚いていたことを隠しながら、平然な振る舞いをできるだけ装う。

 なぜなら()()()()()()()()()()()()()事を配慮しても、トトはグリンダ騎士団以外の者たちに話しをすることなんて片手で数えるほどの回数だった。

 

「そうなんです! もう仲良くなりました~♡」

 

「…………………………そうね。 仲良くしましょう♪」

 

 トトがにっこりとしながら握手の為か、手を差し出すとクララも場の雰囲気と流れのまま手を────

 

 ボキッ。

 

「────ッ?!」

 

 クララの手からくぐもった、重い音が響いて彼女の笑顔が一瞬崩れそうになる。

 

「ごめ~ん! クララ、ちょっと用事を思い出したから先に行ってて~♪」

 

 クララは右手を左手で隠し、学園の本校内へ走っていく。

 

「……どうしたんです、お嬢様?」

 

「ううん。 なんだかトトとクララさんって、昔からの知り合いに見えて……」

 

「そうでしょうか? 初対面ですよ?」

 

 トトはニコニコと晴れやかな顔をオルドリンに向け、屋台が並ぶアッシュフォード学園を満喫していった。

 

 ……

 …

 

「ふ……ぐ……フゥー……」

 

 ガランとした本校の教室内で、クララは知らない誰かの机から出した鉛筆を口に含んでは深呼吸をして、変な角度に曲がっていた薬指と小指をもう一つの手で掴む。

 

「フゥー……ふん!」

 

 ボキッ!

 

「グ?! ……ぺ!」

 

 クララは折られた指を戻す際にかみ砕いた鉛筆を吐き捨てて、応急処置を施しながら再びミレイたちのいる所へと走っていく。

 

「あーあ、早くお兄ちゃんに会いたいな~、イライラするな~……一人ぐらい、殺しちゃダメかな~?」

 

 クララが戻ると当然手のことを聞かれるが“さっきこけてぶつけちゃった♪”とだけ答え、彼女をそれ以上言及する者はいなかった。

 

 ……

 …

 

「オルドリ~ン!」

 

「どうしたのマリー?」

 

「フェンシング部との勝負で買った回数だけ、無料のカフェ券がもらえるんですって!♪」

 

「え?! どこどこ?!」

 

「ほら、こっちこっち! 早くいらっしゃいな! レオンは負けてしまったから弔い合戦ですよ!」

 

 全力で楽しむマリーベルの後を、オルドリンがトコトコと後を追う姿はどう見ても────

 

「────クスクスクス……な~に、アレ? まるで主人と()ね♪」

 

 クララはステージの周りにできていた人の輪から少し外れたところで、スンとしたトトの隣でわざとらしく言を並べる。

 

「お嬢様は殿下の騎士であり、剣です。 ()()()()()()。」

 

「へぇ~? それで戦に出て人を殺すんだから、ギアスより呪われた力かもね♪」

 

「クララ、言葉には気を付けなさい。 殺しますよ?

 

「は~い♪」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『ブラックリベリオン後、戦いの場となってしまったアッシュフォード学園は改築工事を終えた』と記述したことを覚えているだろうか?

 

 それはもちろん原作コードギアスの二期、いわゆる『R2』でルルーシュ(ゼロ)の監視と共にCCの捕獲を受け持つ機密情報局の拠点となる地下室の建設も含まれていた。

 

 だがクララが愚痴っていたように、ブラックリベリオンのゴタゴタの所為で人員不足だったことで施設は出来上がっていたがまだ誰も配置されていなかった。

 

「♪~」

 

 そんな施設内に、一人の学生が鼻歌交じりにコンソールへ繋げられていたパソコンを見ていた。

 

「えええええええっと……成瀬くん、だっけ────?」

「────ユキヤでいいよ、カレンさん。 仮にも年上でしょ?」

 

「……何その言い方?」

 

「それにしても……平和な学園の下に、こ~んな秘密基地みたいなところが作られているなんて意外だな~。」

 

「ちょっと、話を変えないでよ……私も同感だけどさ。」

 

 学生服を着たユキヤのほかに、黒ずくめの服に帽子、サングラスとマスクをした『不審者です感純度100%』のカレンの二人は作戦室らしき場所にいた。

 

「学園内のいたるところを監視できるモニターと秘密カメラ、対人防御システムに、いざとなれば学園内の電子ロックとシャッターをここで遠隔操作できるシステムと、色々なモノが揃っているよ。 (これらを予想していたシュバール(スバル)さんも相変わらずだけれど……絶対に何か大きなことがあるよね?)」

 

「その言い方だと、まるで()()()みたいね。」

 

「良い例え方でしょ? 特にこの、『クラブハウス』ってところは隠れる場所が一つもないよ? 覗き見放題だね♪」

 

「……………………………………ハッ?!」

 

「うん? カレンさん、もしかして何か心当たりでもあるの? (う~ん、アヤノと似ていてわかりやすいね♪ だとすると自然と一つの質問が浮かび上がってくるね。 『ここは()()()()の監獄なんだろう』と言うヤツが。)」

 

 ユキヤはニヨニヨしながらカレンの反応を楽しみ、内心ではある程度の予測などをし出す。

 

「い、いやその……アハ、アハハハハハ…… (もしかして、私たちの為の罠? ううん……“ルルーシュのこともある”ってスバルが言ったからには多分……『ルルーシュ(ゼロ)用の檻』と言う可能性────あ?! だからこの時期に私たちを日本に潜入させて、下準備を頼んだのか────!)」

「────あれ? ……ねぇカレンさん? 僕たちって……えっと……あの『グラスゴーの丸パクリKMF』を使う予定なんてあったっけ?」

 

「は? そんなの……………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

「(うっわ、アヤノ以上の肺活量。 耳がキーンってする。)」

 

 カレンはユキヤが指で示していたモニターを見ると、そこには学園の周りに停泊していたトレーラーの中から無頼や武器を持った者たちが飛び出て、慌てる学生たちをクラブハウスへと囲い込む画像を見て呆気に取られて叫ぶ。

 

「あれ? 知らないの? あの人たちがかぶっている帽子やジャケットって、黒の騎士団の制服でしょ?」

 

こんなん知らんがな?! なんでじゃい?!

 

「あー、カレンさん? 残念だけれど、僕の生まれも育ちもEUだから何言っているかわからないよ? それよりも、シュバールさんに言われていたでしょ? 着替えなくてもいいの?」

 

「あ。 そうだった!」

 

 カレンは上着を脱ぐと、それまで窮屈で浮き出るような胸が解放されては揺れる。

 

「(うっっっっわ。 アヤノより少し大きい感じかな────?」

 ≪────ってあっち向かんかいこのボケェェェェェ────?!≫

 「────どわぁぁぁぁ?!」

 

 視線に気付いたカレンは座っていた椅子を片手でユキヤへと投げつけ、ユキヤは彼女の気迫に奥底から沸き上がってきた恐怖から今まで出したことのない大声で叫んだ。




EXTRAの追記:

玉城:あれ? あのガキどもはどこ行った? と言うか他の皆は?!
EU避難民A:聞いていませんか? 何やらエリア11に行きましたよ?
玉城:俺無しでか?!
EU避難民B:えっと……『玉城のおっさんには畑仕事を任せる』と────
玉城:────ハァァァァァァ?!
EU避難民C:『第二段階に重要な役割を任せるから』って。
玉城:なぁ~んだ、そう言う事かよ!


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第147話 学園への武力介入

少々短めな次話で申し訳ございません、リアルがバタバタしていました。

お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 <(_"_)>


『よし!』

『上手くいったな!』

『ブラックリベリオン後の混乱がまだ続いているからな。 コーネリアや純血派が仕切っていた頃と比べりゃ、要所の警備体制なんて無いようなモノさ!』

『ああ。 それに、団服を着ながら“元黒の騎士団”って言えば人手はいくらでも集まるし、協力や融通もして貰えるからな! “黒の騎士団様万々歳”だぜ!』

『全くだ!』

 

『『『『『ハハハハハ!』』』』』

 

 無頼に乗っていた者たちは()()()()()()()()()()()()内で、場違いなほど愉快な笑いを出す。

 

 彼らは先日のような、そこらにいた黒の騎士団の末端………………でも何でもない、ブラックリベリオン時に政庁へと黒の騎士団が進軍した時に『協力者』として合流して騒ぎに便乗したただの野次馬たちだった。

 

 彼らはゼロがいなくなり、連合軍の統率が乱れた際に反撃をしてきたブリタニア軍の手からほかの者たちのように制服を脱ぎ捨てる間もないままほかの者たちを犠牲にして逃れ、『機を窺っている』と称している『元黒の騎士団』を小間使いのように使っては好き放題していた。

 

 そんな彼らが今回のように大きく出たのは『兵装が隠された隠れ家』を見つけ、それらをどう活用するか悩んで手をこまねいている内に先日の『ブリタニア貴族(マリーベル皇女殿下)の誘拐未遂』に感化されて気が大きくなっていた。

 

 それだけ、彼らからすれば『ナイトメア』というモノは脅威にも()()を与える兵装だった。

 

 たとえその『勇気』が実のところ、『蛮勇』だったとしても。

 

『隊長!』

『おい、お前だ! 呼ばれているぞ!』

『ん? おお、そうだったな。 チャンネルを変えて……どうした?』

『手筈通りに、生徒どもを生徒会室に閉じ込めました!』

『よし! お前たちは見張れ!』

『了解です!』

 

『しっかし、新しい総督の“カレーライス”だが“カラス”だが知らねぇが……保安局に重装備させるのを避けてくれてありがてぇが早いとこ、身代金なり頂いて軍が出てくる前にずらかろうぜ!』

 

『『『『おう!』』』』

 

 ………

 ……

 …

 

「チッ!」

 

 クラブハウス(生徒会室)の中で今回の一味で恐らく唯一、黒の騎士団として活動をしたことのある者が通信で聞いた話に対して舌打ちをする。

 

 彼は『黒の騎士団が大きな作戦の為に人員を募集している』と聞いてはリスクを承知の上で合流し、今では懐かしく感じる無頼と本物の団服を着た者たちを見たときに一瞬安心したのだが────

 

「(────まさか末端以下の、ブラックリベリオン時に急遽できた『連合軍』の生き残りだったとは! しかも先日の奴らが起こした事件の所為で、何とかなだめようとしていたのがパァになった! 勝手に知らない奴らにも声をかけて事を大きくしてしまい、もう後に引けなくなった!) ええい! お前ら、気合入れてしっかり見張れよ?!」

 

「「「「応!」」」」

 

 ギリッ。

 

 この様子を見ていたレオンハルトは歯を噛み締める。

 

「だめですよ、レオン。」

 

 今にも飛び出そうなそんな彼を、マリーベルが念を押す。

 

「わかっています! 生徒を盾に取っていなければ────!」

「────マリー、政庁はどう動くと思う?」

 

「……余裕がないわ。 でも、動くのは『今』ではないです。」

 

 もしこれがまだカラレス将軍が以前から続けていた政策ならば、『交渉』も可能だっただろう。

 

 だがそれは今朝、マリーベルたちが見聞きしたギネヴィアとカラレス将軍のやり取りで()()()────否。

 

 政庁にとって『交渉』は()()()()()()となった。

 

「(先だって、カラレス将軍は強硬路線をギネヴィアお姉さまに念を押されたばかり……よって『交渉』と言うカードは実質上、封印されている。 『要求に応じない』とテロリストどもが知れば、どんな行動を起こすかわからない! 最悪、ホテルジャック時のように……どうすれば……)」

 

 ……

 …

 

 トウキョウの政庁内ではG1ベースとサザーランド、そしてグリンダ騎士団の新型機が隊列を組んで()()されていた。

 

『もぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! なんでうちの騎士団長のピンチかもしれないのに“待機”なんだにゃー?!』

 

 ソキアは専用機となったパンケーキ型頭部のアレクサンダ・スカイアイ……によく似た、『サザーランド・アイ』の中で団服に着替えたまま胡坐をかき、盛大な愚痴をこぼしていた。

 

『サザーランド・アイ』とは電子戦、索敵、指揮機能の向上などを図った実験機であり、『コストダウンされた準ドルイドシステム』────正式名を『ウァテスシステム』と呼ばれる新たな機能と量産試作型VARISを搭載した、『後方支援用のナイトメア』である。

 

『狼狽えるなシェルパ卿、みっともない!』

 

『ゲッ。 通信、もしかしてオンだったにゃ?』

 

『当たり前じゃい! いつでも出撃できるようにな!』

 

『と言ってもエリア11での軍団運用指揮権がグリンダ騎士団にはないうえに、この地で機密情報満載の機体を迂闊に動かすわけにもいかないですよソキア。』

 

 ゼットランドに乗りながら巨大サイズのおにぎり(昆布入り)を頬張りながらティンクが正論を並べる。

 

『そんなのわかっているにゃー! 私が言いたいのは、“なんで政庁の対応が遅いのかにゃー”! だ!』

 

「(確かに、シェルパ卿の言う通りだ。 カラレス、一体どうしたというのだ?!)」

 

 サザーランド・スナイパー内で待機していたシュバルツァー将軍は表面上、冷静に見えていたが内心ではかなり焦っていた。

 

 マリーベルたちの身の安全も理由の一つだが、実はシュバルツァー将軍はカラレス将軍のことを以前から知っていた。

 

 と言っても、噂される、“皇族への忠義も厚い軍人でありながらブリタニアの市民だけでなく原住民の一般人たちの損害も配慮した作戦を早急にくり出す”、近年では『意外な軍人』としてのカラレス将軍だが。

 

 

「(何故だ? 何故このタイミングで……私は、一体どうすれば……)」

 

 そしてそのカラレス将軍は今朝の説教で傷んだ膝のままヨロヨロと、頭を抱えるのを必死に我慢しながらギネヴィアとの通信を開いていた。

 

『帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが常々、アッシュフォード学園内での軍事行動を避けよと黙示している。』

 

「で、ですがマリーベル皇女殿下が────」

『────マリーのことを伝えても、その方針は変わらないそうだ。』

 

「(しかも、お血筋(マリーベル殿下)よりも最優先とは……いったい何があるというのだ? あの学園で?)」

 

『カラレス将軍、気を遣わずとも良い。 恐らく、“この世は所詮、弱肉強食”と言う事なのでしょう。 ですがあくまでも“避けよ”と言う事。 いざとなれば大兵力を持って包囲殲滅すれば良いだけのことです。』

 

「(そう簡単であれば、苦労は……)」

 

 カラレスは頭痛をできるだけ無視しながら、悶々と思考を張り巡らせた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ハァァァァァァ……」

 

 黒の騎士団(仮)の一人、が窮屈で元となったグラスゴーの『居住性に難あり』を受け継いだ無頼から出ては一服していた。

 

「思ったより暇だな~……ブリタニア貴族の学校から金取るって聞いたのに────」

「────お~い!」

 

「ん?! 誰だ?! ……ってなんだ、仲間かよ。」

 

 無頼のパイロットは突然聞こえてきた声に煙草を吐き捨てて、サブマシンガンを構えた先にいた黒の騎士団の団服を着た少女が歩いてきていたのを見てはホッとする。

 

「交替の時間です。 今のうちに用を────」

「(────うお?! デケェ!)」

 

 少女は言葉を続けるが、無頼のパイロットはそれらに耳を貸すどころか団服の下からでも存在を主張する立派な双丘に集中していた。

 

「(あれ? こんなやつ、居たっけ────?)」

「────あの? 大丈夫ですか?」

 

「う……あ、ああ。」

 

 少女の心配そうにする仕草と上目遣いに、黒の騎士団(仮)は戸惑いながら生返事を返す。

 

「それと、起動キーのパスはまだ“11922960”でしょうか?」

 

「あ、ああそうだ。 まだイイクニツクロー(11922960)のままだ……それと用なら、この作戦が終わった後どうだ? ナリタ戦で俺の勇士の話を聞き────?」

 「────うん。 やっぱ無理────」

「────え────?」

 ゴッ!

「────ガッ────?!」

 ドッ!

「────おひぃ────?!」

 ────ヒュン、ドスン

 

 黒の騎士団(仮)のパイロットは表情が視線と同じ、下品なモノへと変わるとさっきまでよそよそしくしていた少女が纏う雰囲気が一気に『イラつき』と『激怒』へと変わり、彼女はアッパー気味の掌打を食らわせてパイロットを仰け反りにさせてから股間を力一杯に蹴り上げ、パイロットの体がくの字になる勢いを利用した一本背負いをする。

 

「ブクブクブクブクブクブクブク……」

 

 頭部と股間への刺激、そして力の入った投げで地面に叩きつけられたパイロットは白目をむきながら意識を失う。

 

「聞こえていないだろうけど……命があるだけマシと思いな、このゲス野郎。」

 

 意識だけでなく、()()()()()()()()パイロットを少女────カレンは軽蔑するような顔で睨み、近くの茂みにあるボストンバッグからインカムを出して耳に付けてから無人となった無頼に乗り込んでは再び別の服装に着替えなおす。

 

「ユキヤ、聞こえている? クラブハウスの様子は?」

 

『フゥ~ン? カレンさんって、他の皆なんかよりそっちを優先するんだ?』

 

「茶化さないで。 スバルが認めている皆なら、心配なんて不要でしょ? 特にこんな雑な相手なんかに。」

 

『アハハハハハ! そうだね! いや~、一本取られたね。 それとクラブハウスは、金髪で“会長”って呼ばれた人が相手の一人と言い合いをしているよ?』

 

「(うわぁ……それって絶対────)」

 

 ……

 …

 

 「────言っておくけどね?! うちってあまりお金ないからね────?!」

 「────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?! 嘘をつくなよ!」

 「嘘でこんなことを言うワケないでしょうが?!」

 

 クラブハウスでは、何を要求すべきか揉めていた黒の騎士団(仮)の声を聞いたミレイが逆ギレ気味に叫び、彼らの注目を集めながら言い合い議論をしていた。

 

「ちょっと会長────?!」

「────男は座れ────!」

「────わぁぁぁ?!」

 

 リヴァルはおっかなビックリなまま立ち上がるが、黒の騎士団(仮)が向けた銃口の前に尻もちをついてしまう。

 

「マリー、まだなの? このままだと────」

「────ダメです、オルドリン。 現状は極めて不利です。 無為に無関係な者たちを危険にさらすわけにはいきません。」

 

 その隙を狙い、マリーベルたちはひそひそ話で作戦を立て始める。

 

「ですが、カワグチ湖では『犠牲者が出た』と────」

「────いよいよとなれば、私が皇女と名乗り出て陽動を行います。 その隙に、レオンとオズが付け込めばまだやりようはありますわ。」

 

 そしてその作戦とは、皮肉にも原作でユーフェミアがホテルジャック事件で取った行動と酷似していた。

 

「やめてよ! マリー(指揮官)が陽動なんてナンセンス(無茶)よ────!」

「────ですが、外的干渉なしに現状を打開するには多少の無茶(ナンセンス)が必要になる……それにミレイ生徒会長が時間稼ぎと注意を引いてくれていますが、あまり長く続かないでしょう。」

 

「────“あまり金がない”ってどういうことだよ────?!」

「────そのまんまの意味よ────!」

 「────ブリタニアの貴族だろうが────?!」

 「────だったら何よ────?!」

 「────だったらもっとこう……なんかあるだろ────?!」

 「────うちはね! “フルカワニミズタエズ(古川に水絶えず)”で何とかやりくりをしているのが現状なの!」

 

「………………………………………………ふ、古?」

 

 そんな中、ミレイは黒の騎士団(仮)に負けない態度と肺活量でどんどんとヒートアップしていく言い合いをしてはとうとう勝ってしまう。

 

「(よっし! 時々生徒会の手伝いに来たスヴェンに学園がらみの書類を見て愚痴っていた『コトワザ』ってヤツが効いているみたいね♪」」

 

 ミレイは内心ドキドキしながらもガッツポーズを決めそうになる。

 

 「って、なんだそれ?」

 「さぁ?」

 「誰か知っているか?」

 「暗号か、合言葉か?」

 「さ、さぁ……」

 

「(狼狽えなさい、狼狽えなさい♡ ムフフフ────♡)」

 「────ええええい! 御託はもういい!」

 

 ガシャコ!

 

「もとはと言えば、その口で貴様らブリタニアは、富士の裾野(すその)に多くの日本人の血を流させただろうが?!」

 

 一人の黒の騎士団(仮)が銃を構えてミレイに向けると生徒たちの間にどよめきが走るだけでなく、様々な叫びが出る。

 

「きゃああああ?!」

「かかかか会長ぉぉぉぉぉ?!」

「スザクはなんでこんな時にいないんだよぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 ヒュ! スタ。

 

「な────?!」

「上から────?」

「────流石にそれは見過ごせんな。」

 

 カチャ。

 

「う────?!」

「────何かをするために、武器を手に取るのは結構だが……武器を向ける相手をはき違えるな。」

 

 ミレイへ銃を構えていた黒の騎士団(仮)の背後に、天井にあるシャンデリアから飛び降りてきた女子学生は手に持っていた日本刀の柄頭を押し付ける。

 

「討たれる覚悟が無いのなら、銃を下ろせ。」

 

「だ────!」

 ────ズバッ!

 

 銃を構えたまま振り返る黒の騎士団(仮)は視界の端で見た動きを本能的に追うと、肘から先が亡くなった己の腕を見る。

 

「……は────?」

 ────グッ! ブシャァァァァ────

「────うぎゃぁぁぁぁぁぁ?!

 

 黒の騎士団(仮)は胸倉を強引に引かれてミレイから遠ざけられると、まるで止まった時間が再び動き出したかのように転ぶ彼の腕から新血が出る。

 

「な、何をすr────?!」

「────何を? 忘れたか? 確か“撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ”だったな────?」

「────ぶっ殺す────!」

「────『黒の騎士団』の看板はお前たち荷が重すぎる。 より大きなモノの威光を使い、個人では何もできない……どこにでもいるテロリスト────いや、“俗物”だな。」

 

 黒の騎士団(仮)────テロリストたちは泣き叫ぶ仲間を無視して女子学生に銃を向ける。

 

「「「「「え?! ええええええええ?!」」」」」

「「「「なんで?! なんで?! なんで?!」」」」

 

 アッシュフォードの生徒たちが示した反応にテロリストたちの注意が逸れそうになるが、やはり()()()を持ち明らかに容姿から『日本人』と分かる女子学生を警戒する。

 

「て、テメェ誰だ?!」

 

「『毒島冴子』だ。」

 

「は?」

「誰?」

「いや、どっかで聞いたような……」

「あれじゃね? “見かけたら保安局まで”の?」

 

「(やはり知らないか。) 『桐原泰三の孫』、と言い換えればわかるか?」

 

 刀を持った女子学生────毒島の言葉に今度はテロリストたちに動揺が走る。

 

「え?!」

「『あの』?!」

「生きていたのか?!」

()()()()()()()()()()()てか────?!」

「(──── “本当に黒の騎士団”ですって? それはどう────いえ、今は気を取られているすきに生徒たちの安全を────!)」

「(────なるほど。 よく見ればユーフェミアとどことなく似ているな。) 私は()()()()()()()()()()来ただけだ────」

「「「「────『とある人物』────?」」」」

「────ああ……“正義の味方を騙る賊の排除”、をな────」

 

 ────ドォォォォン

 

 以前に『クラブハウスは小型要塞化されている』*1とスヴェンは言ったが、流石にナイトメア相手は想定されていない横壁はショルダータックルで割り込んで強引に入ってくる無頼の前で脆く崩れていく。

 

「な、ナイトm────?!」

 

 テロリストたちは呆気にとられ、何人かは先ほどのリヴァルのように腰を抜かす。

 

 ドガガガガガガガ!

 

 無頼に取り付けられた対人機銃が火を噴き、テロリストたちの体が爆散していく。

 

「さて、狩りの……いや、『作戦開始(ミッションスタート)』というヤツだな。」

 

 毒島はこの光景を前に、上記の言葉を涼しく口にしながら耳に取り付けていたインカムから入ってくる通信を聞きながら行動に出る。

*1
24話より




カリ ノ ジカンダ。


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第148話 学園への武力介入2

お待たせいたしました、少々長めの次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


 クラブハウスの周りとアッシュフォード学園にいた、『黒の騎士団と名乗る賊(スバル命名)』は大混乱に陥った。

 

『容易く占拠を出来た』と安心しきった彼らは今までの政策(カラレスの性格)からして、エリア11のブリタニア軍がまさか降伏宣言も無しに襲ってこないと思っていた。

 

『て、敵襲だぁぁぁぁ!』

『無頼を何機か相手に乗っ取られている!』

『ブリタニアか?!』

『宣言も何も無かったぞチクショウ!』

『話が違う!』

『まさか、俺たちを一網打尽にする罠だったのか?!』

 

『お前たちなぁ……ふざけてんのか?』

 

 敵はブリタニア軍どころか、ブリタニアの特殊部隊でも何でもないのを彼らは聞き慣れない、批判する声を通信越しに聞いてすぐ知ることとなるが。

 

 無頼の一つに乗っていたリョウはこめかみに青筋を浮かべながら言葉を続ける。

 

『“自分は不幸だ”、“抑圧されている”っていうけどよぉ……テメェらは一度でも、 “寝たら目を覚まさないかもしれない”と感じながら空腹と脱力感に負けて瞼を閉じたことはあるのか?

 “目を覚ましたら同居人に臓器を抜き取られているかもしれない”と思いながらボロボロの廃ビルで寂しく震えながら身一つで過ごしたことは────?』

 

 リョウの無頼に取り付けられた対人機銃と、装備されたアサルトライフルが狼狽えるテロリストたちに向けられる。

 

 『────強姦されて願ってもない妊娠をしちまった友人に、“殺してくれ”と言われたことはぁぁぁぁぁぁぁぁ?! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

 

 ドドドドドドドドド!!!

 

 『一昨日きやがれこのクソ野郎どもがぁぁぁぁ!』

 

『うん、同感だねリョウ。 あ、右の角から無頼が二機来るよ。』

 

 作戦室のような場所にいたユキヤはいつもの平然とした態度を表面上だけでも装いながら、敵の位置などを知らせる。

 

『例の、クラブハウスってところはどうだユキヤ?!』

 

『あー、()()()が既に突入した。』

 

『アヤノは?』

 

『アヤノはアキトと一緒に、生身のままKMFとかを相手にしている。』

 

『……マジか。』

 

()()()()もうほぼ完全に例の装備を使っているよ? 囮役と仕留め役を交代で。』

 

 ユキヤの言葉にリョウが思い浮かべるのは、かつて自分がグラスゴーでスマイラス将軍たちを橋の上で襲った自分相手に、パルクールに似た動作をするスバルの光景だった。

 

『(いや、アヤノもアヤノだが……アキトまでかよ。) ん? ユキヤお前、今“アキトは”って言わなかったか?』

 

『まぁね。 アヤノなら主に銃とか刀を持った相手に切り込み隊長やっているよ?』

 

『……………………』

 

『サエコのように化け物だね♪』

 

『お前……本人にそれ、絶対に言うなよ?』

 

『大丈夫だって! カレンさんより恐ろしい訳がないからさ!』

 

『(……毒島の姉御にあれだけ“絶対に怒らせるな”と言われたのに……ユキヤは勇者だな。)』

 

 ユキヤはただ“アヤノのように弄りがいあるかな?”と当時は軽~く思っていただけ、とここで追記したい。

 

 ……

 …

 

「ひ、人質を取れ!」

 

 リョウたちが外で暴れている間、クラブハウスに毒島や突入してきたグラスゴーとは反対側にいた生徒たちの背後のテロリストたちは保身に走り、手を近くの生徒たちへと伸ばす。

 

 ガシッ! ドッ!

 

ゴェ?!

 

 男子生徒────レオンハルトは自分へと自ら近づいた者の銃身を引き寄せて喉笛を殴っては、テロリストのアサルトライフルと腰のベルトに挟んでいた拳銃を手に取って参戦する。

 

「お嬢様!」

 

 トトは近くの本棚の影に立て掛けられていたモップをオルドリンに投げ渡し、オルドリンは流れるような棒術で気を取られていたテロリストたちの意識を刈っていく。

 

「皆さん、こちらへ!」

「あれ?! クララは?!」

「さっきまで居たのに……」

 

「(ああ、あの可愛いピンクロングの子か。)」

 

 殿を務めているレオンハルトは背後から聞こえるミレイたちの言葉が耳に届くと、そう思ったそうな。

 

「(なるほど、仮にも騎士団長。 余り実戦経験はないにしても、『冷静に大局を見る』という点では師匠やゼロと似ている……それに────)」

 

 その間にトトとマリーベルはアッシュフォードの学生たちを隣の部屋へと誘導していると毒島は横目で彼女たちの活躍を見て感心する。

 

『────冴子さん、ここは私に任せて()()()()()。』

 

 その毒島に、無頼を使って暴れているカレンの言葉がインカムから入ってくる。

 

『ん? 良いのか?』

 

『ここに会長たちがいなくなった時点で()()()()()()だから、巻き添えにしたくない。』

 

『(これで彼女は“暴れていない”とでもいうのか?)』

 

 毒島が視線を送る先では、カレンが乗っていると思われる無頼が両手のアサルトライフル、二つのスラッシュハーケン、そして対人機銃を全て使って黒の騎士団(仮)の無頼や統一性が皆無になったテロリストたちを撃退していく姿があった。

 

『……分かった、君も無理をせずに。』

 

『分かっている。』

 

 カレンは無頼のスクリーン越しに、毒島が避難するマリーベルたちとは違う方向へ駆け出すのを見てから操縦桿を握る手に、さらに力を入れる。

 

「分かっているよ……分かっているけど、()()()()()よ……」

 

 カレンの顔を俯かせ、操縦桿がミシミシと嫌な音を出すと彼女の身体がワナワナと震えだし、彼女が見上げると表情は怒りに満ちていた。

 

 「『正義の味方(黒の騎士団)』を名乗るんなら、他の使い道を考えろ!関係ねぇ、無抵抗の奴らをビビらせて何が楽しいんだゴラァァァァ?!」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ハァァァァァァ……」

 

 クララは本校舎から少し離れた、現在の地球と比べれば割と小さめの礼拝堂のような建物の中で長い溜息を出していた。

 

 コードギアスの世界は化学(特に電気中心)の文明が発達した為、オカルトや『宗教』は未だに存在するが『不可思議な力』などに関する考えなどはかなり衰退していて逆に『精神的な支え』と『同じ考えを持つ他人との連帯感』を増幅させるためだけに存在している。

 それでも地域によって崇拝などはかなり度合いと格差が違うだけでなくなったわけではなく、そんな生徒や教員などの為に宗教的なスペース(礼拝堂)は建ててある。

 

 利用者はやはり少ないが。

 

 そんなスペースに、今まで見たことの無いほどの()()が中に入っていた。

 

「ハァァァァァァ……(黒の騎士団って本当にウザイなぁ、偽物は特に。 こ~んな()()()女の子一人に何人も寄って集ってさぁ~。)」

 

 クララは祭壇の前に座りながら、先ほど礼拝堂に逃げ込んで彼女を人質にしようとした黒の騎士団(仮)たちの亡骸をボーっと見る。

 

「オルフェウスお兄ちゃんにはずっと会えていないし、トトに指折られるし、オルフェウスお兄ちゃんには会えないし、エリア11の視察を丸投げされるしでクララは働き損だよ~……(ミレイ・アッシュフォードたちとの時間も面倒くさいしあの夜(ブラックリベリオン)のこと*1を身体で覚えているのかたまにビクビクするし────)」

 

 ────バン!

 

 礼拝堂への扉が開かれ、考えに耽っていたクララは身体をビクリとさせながら身構える。

 

「ん、君は……クララだな?」

 

「(あ、な~んだ……そうだ!)」

 

 クララは相手が毒島と知り、内心ほくそ笑みながら立ち上がってはスキップする。

 

「(パパの観察対象どころか、『手を出しちゃいけない人リスト』に載っていないし、黒の騎士団スポンサーの孫で私のこと(クララ・ランペルージ)も知らないからこーろーしーちゃーお♪) 【毒島冴子────】」

「────ん────?」

「【────自害せよ。】」

 

 クララの右目が赤く光り、毒島は歩みを止め────

 

 ドッ!

 

 ────ることなく、そのまま駆け出してクララのお腹に峰打ちを食らわせて彼女は目を白黒させる。

 

「グェ────?!」

「────すまんが、それを聞くことはできんな。 (なるほど、()()の為の『保険』か。)」

 

 毒島がここで『保険』と呼ぶものはかつて、スバルが『虐殺皇女』を阻止するために本来はコードギアスR2に開発される筈の特殊コンタクトレンズだった。

 

 ブラックリベリオン時にナナリーの確保を頼まれてクララと相対し、瀕死の身となったマオ(女)のおかげで『クララやマオ(女)のようなギアスにも対応可能』と知られてからアマルガムではコンタクトレンズを常時携帯するようになっていた。

 

「ッ。」

 

 ガキン!

 

 毒島は一瞬、『何か動いた』と思ったその時には体がすでにクララのナイフを防いでいた。

 

急に殴るなんて乱暴な先輩!

 

「(さっきので気を失わない?! ならば!)」

 

 ドド!

 

グボェ?! ガハ?!

 

 ヒュン!

 

 毒島は今度、お腹だけでなく首にも衝撃を与えるがクララはお構いなしに反撃を続ける。

 

「(うーむ、彼が私に頼んだことである程度の予測はしていたが……果たしてどうするべきか。)」

 

 毒島はクララのナイフを受け流したり、拳銃の攻撃を躱したりしながら考えを続ける。

 

「(その上、“()()()()()()()”と言ったからには何らかの目的があるとみると……恐らくはギアスとやらと関係していることだな。 或いはこ奴自身に用がある。 いや、そのどちらでもある可能性も……あ、なるほど。)」

 

 ド、ド、ド!

 

グ?! ゴエ?! ギ?!

 

 毒島はすんなりと自分が納得する(深)読みをしたことでクララへの非致命的反撃は過激さを増す。

 

「(私も『試されている』という線もあり得るか。)」

 

 ガクッ。

 

「あ?」

 

 クララは自分の足から力が抜けていくことに困惑するような声を出しては、次第に視界がグラつく。

 

「な、んで────?」

「────君は打たれ強いが、人体の構造が人間であり急所へのダメージを短時間で蓄積すれば精神がまだまだでも体の方はガタが来るさ。」

 

 毒島は手に持っていた刀を再度振るう。

 

 ………

 ……

 …

 

『皆~、軍がとうとう動き出したよ~。』

『そうか。 ならば予定通りに動き、例の場所で落ち合おう。』

『それで、毒島の方は?』

『例の場所に火をつけた。』

 

 ユキヤの通信に毒島が答え、カレンの質問にあたかも当然のように答える。

 

『そっか……』

『一応内部だけが燃えるようにしたが……火をつけるのだから────』

『────ううん。 彼に頼まれたことならいいよ、何か考えがあるだろうから。』

『(そう言い切れる紅月も大した信頼……いや、自信か。) では皆、再会するまでな。』

 

 

 

 アッシュフォード学園を制圧した黒の騎士団(仮)の内輪揉め(弱体化)を見た政庁の動きは早く、ブリタニア軍は逆包囲で大勢を掌握し事態は急速に収束した。

 

 幸いにも生徒に死者は出なかったものの、()()()()()が出たことでブリタニアは調査の範囲を広げた。

 

 表向きには。

 

 ブリタニアの機密情報局はすでに火を放たれた礼拝堂内で、数ある焼死体の中からルルーシュの妹役をするはずの『クララ・ランペルージ』が発見されていたので、『ルルーシュの()()は行方不明』という体で再度シャルルが演説中にギアスをアッシュフォード学園の者たちにかけなおし、ギアス嚮団は急遽別の者を用意する作業に入った。

 

「(焼死体……か。)」

 

 この報告書を褐色銀髪の美女────ヴィレッタ・ヌゥは飛行機内で読みながら席についていたテレビのスクリーンに目を移す。

 

『諸君! 我々の行動はブリタニアの人民全ての安寧の為にある! よって、これは正義である!』

 

 スクリーンに映っていたのはどこか以前とは違う空気をまといながら、『黒の騎士団残党容疑』で処刑された者たちの亡骸の前で、演説を行うカラレス将軍の姿だった。

 

 絞首刑にさらされた者たちの頭は黒の騎士団のシンボルが描かれた袋が覆い、纏っていた衣類には『I am a filthy dissident(私は秩序を乱す分子)』などのメッセージが堂々と書かれていた。

 

 演説を行っていたカラレスの顔色はすこぶるよく、晴れ晴れしく輝いていた。

 というのも、今までの(ブリタニアの世間からすれば)回りくどい政策を諦めたことでエリア11の平定は急激に加速しただけでなく、ブリタニアの企業などが戻ってきたのだ。

 

 この事件をきっかけに、『黒の騎士団残党狩り』の名目でエリア11中の政策は苛烈さを増しながらも生産力は上昇し、輸出も治安も黒字を保ったことでカラレス将軍の総督としての権力基盤は急速に盤石化していくこととなる。

 

 その栄光が無数の『反乱分子(黒の騎士団)かもしれない』という疑惑だけで処刑された原住民たちの屍の山上だったとしても、コードギアスの世界では『当たり前』だったこともあり政府の要人などは数多くが黙認した。

 

「(だがこれでは、余りにも無差別すぎる……)」

 

 ヴィレッタは報告書を読み終えて目頭を押さえる。

 

 彼女は『ゼロ捕縛』の功績を認められ、念願の『ブリタニア貴族』の仲間入りをしただけでなく謎が多くも名誉のある『機密情報局』の一員として昇格していた。

 

 その嬉しさに彼女は久しぶりに本国で養っている5人の弟や妹たちがいる実家に戻って緩やかな時間を過ごし、機密情報局の一員として呼ばれて現在は移動しながら現地の書類を読んでいた。

 

 男爵位は貴族社会でも末端に当たるのだが、少なくとも以前の一代限りの名誉貴族(騎士爵)で『オレンジ事件』後では落ち目だった純血派に身を置いていた彼女からすれば、嬉しいことだらけの筈なのだが────

 

「(────これから私は何もできずに大勢のイレヴンが無実の罪を着せられて殺されるのを黙って見ているしかない。 あまり力もなく、後ろ盾もない男爵なので何かをできるわけでもないので仕方がない……仕方がないことだが……)」

 

 ヴィレッタは憂鬱な気分のまま、飛行機の窓の外に広がる景色を見渡す。

 

「(どうか……どうかその中に、スバルさんがいないように……どうか……)」

 

 彼女は大勢の者のように宗教には疎かったがその時だけは手を握り合いながら、いるかどうかもわからない神に静かな祈りを捧げていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「もう行っちゃうです~?!」

 

 トウキョウ租界にある政庁の軍港には、皇女にあるまじき行動をする(ブー垂れる)ライラがグリンダ騎士団をクロヴィスやカラレスと共に見送っていた。

 

「ええ、何時までもグランベリーをエリア11に停泊させるわけにはいきませんから。」

 

ヤ! です!

 

「そう落ち込むなってライラ皇女殿下! 次は『ダイフクビュッフェ』を制覇しに行こうにゃ~!」

 

「ソキア……さすがに太りますよ?」

 

「まぁまぁ、レオンもそう目くじらを立てない。 次回はマリーカさんと一緒に出掛ければいいじゃないか。」

 

「(レオンと一緒だったレオンと一緒だったレオンと一緒だったレオンと一緒だったレオンと一緒だった♡)」

 

 尚みっちりとシュバルツァー将軍の元でマリーカと共にブラッドフォードの調整を連日行っていたレオンハルトをなだめるティンクの横でマリーカは(シュバルツァー将軍の訓練で)マンツーマンでいられたことに赤面していたと追記しよう。

 

「ではカラレス将軍、エリア11をお願いします。」

 

「イエス、ユアハイネス! イレヴンどもは、私にお任せください! (私の目を覚ましてくれた御恩も、必ずや平定したその時に!)」

 

「クロヴィス兄様もお元気で。」

 

「マリーに言われるまでもない。 まぁ、私は私なりに頑張るさ。」

 

「それとライラ、クララさんが見つかると良いわね。 仲が良かったのでしょう?」

 

「………………あ、はいです。」

 

 マリーベルたちがグランベリーに乗り込み、エリア11を出立するのをカラレスたちは見送ってからクロヴィスはライラに話しかける。

 

「残念だね、ライラ。」

 

「??? 何がです?」

 

「ようやく足が治ったクラスメイトのことだよ。 別に私は興味もないが、彼女の治療は私に適応できないかどうか見たかったのだがね……」

 

 カラレスとクロヴィスが政庁へと歩きだし、ライラも後を追いながら移動するグランベリーへと視線を送る。

 

「(…………………………皆、何かおかしいです。 ()()()()()()()()?)」

 

 遮蔽物のない軍港を透き通るように吹く風が、ハテナマークを浮かべる彼女の髪と服を揺れさせる。

 

「(珍しくお父様(シャルル)が学園で演説を行ってからお兄様と共に私たちを呼んで、話していましたが、()()()()()()()()()()()()()でしたです。)」

 

 喉に魚の小骨が刺さったような違和感を持ったまま、ライラは政庁へと戻っていく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 サングラスに茶髪のウィッグと化粧をした、まさに『どこにでもいる成人女性』と見える様な変装をした毒島は大きなスーツケースをゴロゴロと引きずりながら、彼女は一つのアパート内へと入ってはとある部屋の前に立ち尽くす。

 

 ガチャ。

 

 毒島が何らかのアクションをせずとも、彼女が立っていたドアは開かれる。

 

「入れ、周りに感知できる人はいない。」

 

「こちらにも、異常な反応はないわ。」

 

 ドアの向こう側にいたのは私服姿に拳銃を手に持ったサンチアとルクレティアだった。

 

「ああ。 アジトの確保、ご苦労だったな。」

 

「やはり四聖剣などの、黒の騎士団の幹部たちを連れてきたのが大きかった。」

 

「そうか────ッ……………………ナンダコレ。

 

 毒島は短くそう返し、部屋の中に入って角を曲がると動きを止めて固まる。

 

「あー……その……」

「自由人……と言う他には……」

 

 ドアを閉めて鍵をかけたサンチアが気まずくなり、ルクレティアは苦笑いで誤魔化そうとする。

 

 毒島が見たのは床の上に脱ぎ捨てられた数々の上着やインナーに下着などの衣類。

 ダース単位で無造作に置かれた宅配ピザの空箱。

 部屋の隅にはダンベルやバーベル、サンドバッグなどの筋トレグッズと空の2リットルボトルがまたもダース単位。

 

 一言で敢えて示すと『汚部屋』がしっくり来てしまう、『阿鼻叫喚状態』に散らかされた部屋だった。

 

「おい、呆れられているぞ────」

「────アンタにでしょうが、ゴミくらい出しなさいよ────」

「────こいつ、CCに向かって────!」

「────あー、マオ。 片づけてくれないか────?」

「────わかったよ! 燃やせばいいんだね────?!」

「────近所迷惑になるでしょうが────?!」

「────そういうお前も燃やそうか?!」

 

 不毛な言い合いをするカレン、マ()、CCを見て毒島はただ冷た~い絶対零度の睨みを三人に送る。

 

「片付けろ。」

 

「「あ、ハイ。」」

 

「ああ、だからマオに────」

「「────どっち────?」」

「────両方────」

 「────お前もだ。 “宅配禁止”にするぞ?」

 

 「わかったよ。 わかったからそうカリカリしていると余計に老けるぞ?」

 

 ガタガタガタガタ!

 

 CCの声に反応してかあるいは彼女と毒島が放つピリピリとした緊張感か、横にあったスーツケースがガタガタと震える。

 

「ん? ……あー、だから兄さんは僕もここに来させたのか。」

 

 マ()はスーツケースを見ては納得した表情を浮かべる。

 

「というワケですばしっこい君に片付け任せるね────?」

 「────Go f〇ck youself(オトトイ来やがれ)イカレモヤシ野郎。」

 

 仕方なくカレンの片づけを手伝っていたアリスは自分のピザの箱を持たせようとするマ()に遠慮のない答えを返す。

 

「え~? 良いのかな~? 僕にそんなこと言っちゃって~? 兄さんの頼んでいた情報、さっきので分かったんだけどねぇ~?」

 

「「「「「仕事するのが早い?!」」」」」

 

「……君たちがどう僕のことを思っているのか今のでよ~く分かったけれど、敢えて言うよ? 兄さんの頼みで僕は見えないところで動いていたからね? 何も毎日、『食っちゃ寝グウタラ』していないからね?」

 

「う。」

 

 マオは後の言葉を言いながらカレンを見る。

 

「それでそいつ、どうするのぶっちゃん? バラしちゃう(解体する)?」

 

「いや。 彼は“生け捕りにしろ”と言ったからには、『更に何かある』と考えたほうが妥当だろう。」

 

 「ええええええええええええええええええ? 絶対に面倒くさいよ~?」

 

「こ奴を知っている君にそこまで言わせるとはね、マオ……」

 

「いやだって……殺されかけたし?」

 

「彼も動いている頃だ……今はどこで何をしているのやら……」

 

 毒島の言葉を聞いたカレンの目は点になる。

 

「(あれ? じゃああいつ、私にだけ伝えているってこと?)」

 

 カレンが思い浮かべるのは『毒ガス強奪事件』時に渡されてからずっと持ち歩いている、一昔前の携帯電話で、思わずフワフワした感じの気持ちがそのまま表情として浮き出そうになる。

*1
80話より




追伸EXTRA:
カレン:ムェヒヒヒ……
アリス:怪しい……
ダルク:CCが~? いつものことじゃん。
サンチア:ギアスがなくともすぐ分かるのに……
ルクレティア:ダルクちゃんですから♪
毒島:(まるで姉妹だな……だとすると、私は“お姉ちゃん♡”と呼ばれたいな。)


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第149話 おいでませ中華連邦へ、グリンダ騎士団♪

お読みいただきありがとうございます!

相変わらず独自設定に解釈などが続きますが、楽しんでいただければ幸いです!


 少しだけ話を変わるが、以前に中華連邦の事を話した内容を覚えているだろうか?

 

 簡潔に言うと、天子とその配下である大宦官が補佐するという形で中華連邦の君主制度は本来動いている。

 が、現在の治世は大宦官のみによって行われていて天子はただの傀儡と化している。

 これが長らく続き、政府だけでなく腐敗は民の統治を任されている軍部にも広く渡って国体は既に寄生虫に内部を食い荒らされた空洞の大樹のごとき脆さに達していた。

 

 このことを前から悟っていたシュナイゼルは()()()()()、代理などを通して大宦官たちと密談を続けていた。

 

 大宦官たちはより旨味のある強大な国で権勢欲を満たす為に。

 シュナイゼルは政治的に浸透をして中華連邦を取り込む為に。

 

 それも一時は『キュウシュウ戦役』というハプニングもあったが、『中華連邦(大宦官たち)の意思とは違う者たちの暴走』として片付けられていた。

 

 それさえもシュナイゼルは織り込み済みで内府管理を怠った大宦官たちへの圧力として盛大に利用し、トウモロコシ狩りに関してギネヴィアの説教から逃げたかった次の視察(遠足)先を決めかねていたオデュッセウスをアヴァロンに乗せていた。

 

 その時、()()()()()の為に中華連邦の威海衛に立ち寄った隙に、シュナイゼルは暇つぶしにと『今後の外交姿勢(がいこうしせい)』というテーマを元にオデュッセウスの興味を中華連邦へと誘導した。

 

 書類などや中華連邦が宣伝に使っている映像では活気と人混みに溢れた大通り、屋台やフリーマーケットなどで潤っているような雰囲気が出ていたが、それ等を写されている大通りを秘密裏に原住民として装ったブリタニアの潜入捜査官が隠し撮りをした映像でイメージはガラリと変わった。

 

 市場などが密集している一歩大通りを外れると『スラム』と呼ぶよりは、『一世紀前の時代にタイムスリップをした』が的確な景色が広がっていた。

 

 それは劣悪な環境を強いられて低下した国内生産を何とか観光などの目的で訪れる者たちの外貨で辛うじて『生きている』という事実を見たオデュッセウスはボソリと一言だけ漏らしたことから始まった。

 

「……これでは民が可哀想だよ。 何か、私たちで出来ないかな?」

 

「そうですね……敢えて言うのなら、軋轢などが産まれないように出来ることと言えば観光がしやすくなるよう、ツアーやブリタニアの企業に関心などを高める商業的な組織や運営に援助することですね。 それも一時しのぎで根本的な解決になっていませんし、何より中華連邦の治安の事もある。」

 

 そう説明するシュナイゼルに対し、オデュッセウスは明らかに納得がいかない表情を浮かべながら腕を組んで、アヴァロンの窓に広がる景色を見る。

 

 「……やっぱりこうやって上から見ているだけじゃダメか。 それに内府干渉になってしまう……大義名分は、どうにかならないかな?」

 

 オデュッセウスが独り言のように発した言葉はシュナイゼルの耳に届き、彼は薄笑いを浮かべる。

 

 その顔は微々たる変化だがいつも『仮面』を付けているシュナイゼルにしては珍しく、某マンガで言うところの『計画通り』の表情にカノンは冷や汗を掻いた。

 

「兄上……」

 

「ん? ああ、独り言を聞かれてしまったか。 これは恥ずかしいな。」

 

「一つ、私に考えがないことも無いですが兄上の協力が必要になります。」

 

「私の協力?」

 

「ええ。 私は以前から“どうにかできないか”と思い、天子様を通して大宦官たちと密かに進めている話があるのです────」

 

 二人の会話から僅か数時間後、グリンダ騎士団はエリア11から呼び寄せられることとなる。

 

 護衛として。

 

 だが呼び寄せられたグランベリーはこのまま中華連邦の首都に進まず、アヴァロンが停泊している同じ威海衛に降りていた。

 

「良いか? アヴァロンとグランベリーの入港が中華連邦の手続きが終わるまで威海衛に寄港しておる。 よって、しばしだが半舷休息の時間になる……のだが────」

 「────“羽目を外し過ぎずブリタニア軍人としての基本にのっとった行動をすること”! 耳にイカにゃ~!」

 

 「良く分かっておるようだなシェルパ卿。」

 

「ソキア、そこは“タコ”ですよ。」

 

 「お前にも言っておるのだぞ、ティンク・ロックハート。」

 

「え?」

 

 「“え”、ではないわ! どこに皇女殿下を肩車する騎士がおる?!」

 

「そこにですが?」

 

 ティンクがソキアを指さし、ソキアは『てへぺろ☆』気味に正論を口にする。

 

「だって頼まれちゃ断るわけにもいかないにゃー。」

 

 「せめてTPOをわきまえぬか?」

 

「「??????」」

 

 ピキッ。

 

 そこにショボーンとしながら頭を横に傾けながらハテナマークを頭上に浮かべるソキアとティンクに対し、シュバルツァー将軍の血圧は更に上昇した。

 

「………………」

 

 グランベリーのブリッジにシュバルツァー将軍が呼んだグリンダ騎士団たちがいつも通りの、のほほんとしたやり取りを横に、オルドリンは浮かない表情をしていた。

 

 「ジヴォン卿、なんだかブルーですね?」

 

 「ッ。 そ、それは────」

「────まぁエリア11でテロとか色々あった上に、知人が()()()()となっては仕方のないことでしょう。」

 

 そこにマリーカが小声で横にいたレオンハルトに話しかけると、彼の言葉をティンクが遮る。

 

「そんなことが……」

 

「(多分、それだけではないでしょうけれど。)」

 

 レオンハルトはいつも静かに立ちながらグリンダ騎士団のやり取りを見守るマリーベルがいないブリッジを見渡し、代わりにいたシュナイゼルとカノンと目が合ってしまう。

 

「エリア11のゴタゴタから呼び寄せてすまないね、シュバルツァー将軍。」

 

「いえ、殿下の頼みとあらば我々は喜んで馳せ参じます……して、姫様のご様子はいかがでしたでしょうか?

 

 ピクッ。

 

「艦長室で少し話せたけれど何か悩んでいるみたいだったよ。」

 

 ピクピク。

 

「もう一度、窺ったらどうかしら?」

 

 シュバルツァー将軍とシュナイゼルのヒソヒソ話にオルドリンは聞き耳を立て、この様子にカノンは気が付いて声をかける。

 

「マルディーニ卿────」

「────大事なのは、“御傍に仕える”という心構えよ?」

 

「……ありがとうございます!」

 

 オルドリンは悩みから吹っ切れたような表情を浮かべてその場から離れ、カノンは彼女の姿に感慨深く感じた。

 

「(何か心当たりがありそうだけれど、殿下(シュナイゼル)に相談させれば悪化しそうね。)」

 

「ねぇ?」

 

「ん? 何かしら、シェルパ卿?」

 

「カノンたんはどこのファンデーション使ってるの?」

 

「これは自社ブランドなの! 皇族御用達でもあって────」

 

 ……

 …

 

 薄暗い艦長室の中にいたマリーベルは、スクリーンに映し出されたハレースタジアムの動画を見ていた。

 

 それは『タレイランの翼騒動』のモノで一般公開されていない部分も含まれた手の付けられていない映像で、その隣のスクリーンに映っていたのは────

 

「(やはり。)」

 

 ────『スロニム映像:ジャン機』、そして隣に『シャイング機』とテロップが書かれた映像が流れていた。

 

 それぞれのスクリーンが映写されていたのは強奪されたと思われるヴィンセントと、サザーランド・アイに似た『アレクサンダ』と名称されているEUのナイトメアだった。

 

「(やはり、荒々しい画像ですがこうして見ると似ていますわね。)」

 

 先日のアッシュフォード学園から戻ってきた、どこか気が浮かないマリーベルのことを気にかけていたシュバルツァー将軍がシュナイゼルに彼の悩みを聞いてマリーベルのいる部屋に訪問し、具合を聞かれたマリーベルは『テロを間近に感じたので気分がすぐれない』という()をついた。

 

 正確には、完全なウソではないのだがマリーベルが悩んでいたのは先日のアッシュフォード学園でのことだった。

 

「(あれがNACの……後に反ブリタニア支援組織の『キョウト』と呼ばれていた中心人物の一人で旧日本を裏で牛耳っていたとされる『タイゾウ・キリハラ』の孫、『サエコ・ブスジマ』……)」

 

『何かをするために武器を手に取るのは結構だが、武器を向ける相手をはき違えるな。』

 

 それは毒島がテロリストたちに言った言葉が、どうしても自分(マリーベル)に向けられたようにしか感じられなかったのだ。

 

 それが妙に引っ掛かり、アッシュフォード学園のテロ騒動が終わってもマリーベルの脳裏にこびりついていた。

 

 そして先日、シュナイゼルがマリーベルの様子を見に来たことで上記の『テロを間近に感じたので気分がすぐれない』という小さな嘘をマリーベルはついた。

 

 マリーベルの答えに違和感を覚えたシュナイゼルは、きっかけとしてヴィンセントの動きが以前から目を付けていた者と酷似していた話題とデータを示すと見事にマリーベルの興味を引くことができた。

 

 ただ誤算だったのはマリーベルがどこか新しい技術などを見つけたロイドの様に没頭してしまい、自分の世界に入ったことだったかもしれない。

 

 マリーベルも毒島の言葉を脳内から追いやろうとしてワザとスタジアムでのヴィンセントとサザーランド・アイに似たアレクサンダのデータに没頭したこともあるだろうが。

 

 毒島の言葉、そしてユーロ・ブリタニアでは『幽鬼(レヴナント)』と呼称されて恐怖の対象となっている者が強奪したと思われるヴィンセントでブリタニア皇族であることが明らかなマリーベルを手助けしたことが、ぐるぐるとマリーベルの中で答えのない謎解きのように────

 

 ────コンコン。

 

『マリー? 大丈夫?』

 

「オズ? (もうこんな時間……団長として示しが付かないわね。)」

 

 マリーベルはドアのノックによって考えが遮られ、オルドリンの声を聞きながら時計に視線を移してシュナイゼルとあってからすでに数時間も経っていることにびっくりしながらため息をしてスクリーンの電源を切り、室内の照明を明るくさせてからドアを開ける。

 

「あ、マリー……ごめん、何かしている途中だった?」

 

「いいえ、少し考え事をしていまして。 どうかなさいました、オズ?」

 

「あ、うん。 これからソキアと威海衛の市場に出掛けるのだけれど……マリーもどうかな?」

 

「…………………………」

 

 マリーベルは頬に手を添え、考え込むような動作をしたことにオルドリンはドキドキとする。

 大抵の場合、彼女(マリーベル)がこのような動きをするのは『悩んでいる時』ではなく『己のスケジュールを組みなおそうかどうか悩んでいる』時だった。

 

「(それでも、マリーが“誰かに気遣いされている” と分かっただけでも────)」

「────そうね。 では言葉に甘えて、出かけましょうか?」

 

「え?」

 

 オルドリンはニコニコとするマリーベルの前で、『ぽぇ?』と言いたそうな子犬のような顔をしてしまう。

 

「ですが、先日のこともあるので護衛は少し多めに頼みましょうか?」

 

「あ。 う、うんそうね!」

 

 オルドリンはマリーベルの言葉にハテナマークを無数に出しながらも、内心嬉しがっていた。

 

「(もう、オズったら分かりやすいわ♡)」

 

 マリーベルはパァっと明るくなるオルドリンにほっこりしながらも、未だに毒島の言葉に感じる違和感の正体を見出せないまま出かける準備をした。

 

 ……

 …

 

オーズ(おおオズ)! やっと来た────って、え?

 

 中華連邦人の少女に肩車をしていたソキアが近づくオズを見つけて隣にいるマリーベルを見ては固まる。

 

「ソキア……エリア11でも言ったけれど人のあだ名で遊ばないで……」

 

「ソキアさん、その子は?」

 

「んぇ? さっきそこで仲良くなった子だにゃ~。」

 

「「(さすが孤児院育ち、社交性が────)」」

────ムホホホホホホ♡ 幼女のモッチモチでスッベスベ太もも……良えのぉ~♡ スリスリスリスリ────おっと、ヨダレが。」

 

「おねえちゃん、くいしんぼう!」

 

「(社交性、よね?)」

「(オズに肩車……………………はさすがに無理かしら?)」

 

 頭をはさむ太ももに頬ずりをするソキアと、彼女が小声で口にした独り言にオルドリンは複雑な気持ちになり、マリーベルは自分がオルドリンに肩車をする想像を浮かばせる。

 

「あ。 そういえばオズ、ティンクたちは?」

 

「あー、彼ならレオンにマリーカと一緒に出掛けるよう押していたわ。 あとは“後組になって夜の街をエンジョイする”って。」

 

「あらそうなの? (ソレイシィ卿がいるから、()()()()夜の街ではないと思うけれど……………………ティンクですし。)」

 

「おねーちゃん! あっちでおいしい小籠包たべられるよ!」

 

 「よし来た! 早く行こうぜい! 可愛い現地ガイドのご案内にゃ~────!」

「────あ?! ちょっとソキア────?!」

「────あらあらあらあら♪」

 

 ソキアはオルドリンとマリーベルの手を取っては無理やり二人を引っ張っていく。

 

 尚『中華連邦の小籠包は出来立てで中に含まれているスープが激熱だった』とソキアたちはヒリヒリする舌で痛感し、現地ガイド(中華連邦少女)から『まずは皮を少し食い破って中のスープを飲んでからパクリと一気に食べる』方法を知ることとなる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……例の『浮遊航空艦が政庁の軍港から発艦された』、か……」

 

 エリア11内で、隠れ家にいた卜部は通信機器が受けた信号を解読器に通して読めるようになったメッセージに目を通しながら味噌入り玄米茶(卜部特製)をすする。

 

「うん……やっぱりお茶に味噌だな。」

 

「(うぇ。)」

 

 そんな卜部をチラチラと見ながら地図に情報の書き込みをしていた吉田は、内心複雑な気持ちになる。

 

「(味噌は俺も結構好きだが……普通、お茶に混ぜるか? ん……新しい入電だ。)」

 

 卜部は日本解放戦線の情報網、吉田は黒の騎士団の情報網を通してエリア11に残っている余剰戦力や兵装などをカラレス総督に発見されて潰される前にかき集めていた。

 

 別の場所では仙波と朝比奈、そして井上と杉山は黒の騎士団とかかわりを持っていた組織や協力者などに連絡を付けてブリタニアから身を潜めるのに協力していた。

 

 全ては、『生きているゼロが帰還する日』の為に。

 

「(それにしても、中佐たちが無事でよかった。)」

 

 卜部は味噌入り玄米茶を飲み干しながら、未だにエリア11では『Captured(捕獲)』と大々的に書かれている藤堂たちの指名手配書のニュースが映っているテレビを横目で見る。

 

「ん? なんだ吉田? 飲むか────?」

「────飲みません。」

 

「そうか? 遠慮しなくていいぞ────?」

 「────まったく遠慮していませんのでどうぞ。」

 

「そうか。」

 

 吉田は更に玄米味噌茶を卜部が作ったことでその匂いが充満する部屋の中で、『次こそは杉山にじゃんけんで勝とう』と心に決めたそうな。

 

 その杉山も当初は『ついでに可愛い子がいたら声かけよう』と思っていたのだが井上が目を光らせていた上に彼女目当てに声をかけてくる男性の防波堤になっては心身ともに苦労し、『次こそは吉田にじゃんけんで負けてやろう』と決めていたのを、味噌チョコバターパンを頬張る卜部を見て青くなる吉田は知る由はないだろうが。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「軍港に、ブリタニアの浮遊航空艦が入ってきたのを見たか?」

「ああ、宰相がいるんだろう?」

「もう片方には、あのグリンダ騎士団がいると────」

 

 威海衛の近くにある済南軍区では、中華連邦の兵士たちがアヴァロンとグランベリーが入港したことにざわついていた。

 

「噂は本当だったのか?」

「ああ、朱禁城の奴らから大宦官が密約をブリタニアとする準備を進めているらしい。」

「自らの保身のために、国まで売るとは!」

「しかも星刻(シンクー)様をエリア11に遣わされたのも、この為だったとは!」

「大宦官、許すまじ!」

「そうだ!」

「この時の為、星刻(シンクー)様は我ら『()()紅巾党』の目を覚ましたに違いない! 現に、()()についていった紅巾党は敗北した!」

 

 

 さて。

 ここで何故『真の紅巾党』や『ハゲ気味デメキンの澤崎』の名が出てくるのか簡単に説明すると実は中華連邦の兵士たちが口にした澤崎は『澤崎幸麿(ゆきまろ)』であって、『キュウシュウ戦役』の中心にいた『澤崎敦』ではない。

 

 名字から察せるように幸麿は敦の息子であり、キュウシュウ戦役時には中華連邦に残って難を逃れていた。

 

 そんな彼は曹将軍の後ろ盾となって、顔見知りだった大宦官の一人に取り入っては中華連邦の南部で日本亡命政権を築いていた。

 だが彼は同時にブリタニアと通じ、中華連邦を弱体化するためにクーデターを起こすため『紅巾党』という武装勢力を『大宦官を討つ』という名目で組織した。

 

 父親が敦(父親)なら、子の幸麿はブリタニアの傀儡国家を作る駒として動かされていた。

 

 エリア11にいた星刻(シンクー)はこのことを知り、急遽()()()()()に依頼をすることとなる。

 

 その組織とは『ピースマーク』で、依頼を受けたオルフェウスは白炎で星刻(シンクー)の策略と事前の知らせによって大部分の有能な者たちを削がれた澤崎幸麿に与した紅巾党の一掃、星刻(シンクー)は己の目的のための兵を入手することを双方は成功した。

 

 

「よし……今すぐ動ける者は武器を取れ! 我等『真の紅巾党』がブリタニアとの密約を阻止し、大宦官の専横をくじく!」

 

 とはいえ、もともと『大宦官を討つ』ということで紅巾党は結成されたので、有能とはいえかなり感情的な者たちが大部分を占めていたのに違いはなく、統率できる星刻(シンクー)が近くにいないとなるとこのように暴走するのは仕方がないと言えるかもしれない。

 

 かくして、『戦乱』という時代が中華連邦に広がっていくきっかけが紅巾党によって始まる。

 

『これもどこかの宰相の予定通り』とも知らずに。




後書きEXTRA:
アンジュ:だーかーら! 休んでいなさいって!
スバル:日本に帰っているだけだが?
マーヤ:そうですよ? 何を騒いでいるのです?
アンジュ:『トレーラー』が問題でしょうが?!
ミス・エックス:野宿ばかりじゃないでしょう?
アンジュ:なんでみんなそんなに慣れているの?
ガナバティ:肌のことが気になるのなら日焼け止めか、ミス・エックスのように傘をかざすのをお勧めする。
スバル:(これで“少し寄り道する”なんて言ったら殴られるな。)
マーヤ:(神様に思惑があることに気付かないなんて……やはり雌犬ね。)
アンジュ:(トレーラーだと汗とかの匂いが気になるじゃない!)


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第150話 『黄巾』ならぬ『紅巾』の乱

キリが良いところまで書いた次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!

誤字報告、誠にありがとうございます! お手数をおかけになっております! m(_ _)m


 場所は港市である威海衛から中華連邦の西に広がる森や川や湖などの周辺の町がある場所よりさらに西にある広大な大地へと場は移る。

 

 ここまで来ると地形は平坦なモノから多くの山に砂漠などが混じり、元々治安が行き届いていない上に山賊やならず者などが多数はびこり、軍人たちはそんな彼らを討伐するどころか『使い捨ての不正規兵』として雇い、彼らは住む土地を小さな領地のように扱っては我が物顔で好き放題していた。

 

 ドッ!

 

「グホォア?!」

 

「んー、まだ話す気にならない?」

 

 そんな大きく、元々大宦官から見放され気味である土地の中で捕獲した盗賊のボスを、ピースマークのズィーが尋問していた。

 

 ドッ!

 

「ゴェ?!」

 

 縛られた盗賊をズィーが殴り、彼の顔に痛みが走る。

 

「いててて……」

 

「おー。 今のは痛そうだな……変わるか?」

 

「ああ、ちょいと腹に何か詰め込んでくる。」

 

 盗賊の顔を変な角度で殴り、痛めた手をズィーが振るいながら部屋を出る。

 するとダールトンは部屋の端に立てかけられていた椅子とジェリカンを持ってきて震える息をする盗賊の前に座る。

 

「で? 売った奴らをどこに輸送した?」

 

 「しらな……相手が勝手に……金だけ受け────」

「────おいおい、別に“知らない”ってことは無いだろう? アンタの部下たち────ああ。 ()()()()()()()()から聞くには、アンタが直接輸送したそうじゃないか?」

 

「し、知らない! 途中で品を降ろせと────!」

「────ならその『途中』がどこか思い出すんだな────」

「────ヒッ?! も、もうやm────!」

 ────ドッ! ドスン! ベシャ!

 

「よっと。」

 

 ダールトンは盗賊を縛られた椅子ごと後ろへと倒すと盗賊の顔を濡れたタオルで覆うと、平然と近くにあるジェリカンを手に取って水を暴れようとする盗賊の頭上で注ぐ。

 

 ジャボボボボボボボボボボボ~。

 

 体勢の関係で水はタオルに沁み込んでは盗賊の顔を覆うタオルが水浸しになり、咽頭反射で肺から空気が放出されて代わりに水が入ってくる。

 

グムオエ゛エ゛エ゛え゛エ゛エ゛ホ、ゴボ、ゴボァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 タオルの下から溺水状態の盗賊がくぐもった悲鳴を上げる。

 現在で言うところの、『水責め尋問』をダールトンは彼に行っていた。

 

 本来、ブリタニア人とは思えないほど良識な彼がこのようなことをするのは余程の事が無い限りなのだが────

 

()()()()()()の事を喋る気になったらやめてやるよ……多分な。」

 

 ────ダールトンにとっては『余程の事』に、彼らは『ギアス』を追っている間に遭遇していた。

 

 

 

 

『ちょっとオズ?! “依頼却下”ってどう言う意味よ?!』

 

 ダールトンに水攻めされている盗賊やズィーたちのいる建物の外で、オルフェウスが手に持っていた無線機のような物からミス・エックスの声が辺りに響く。

 

「言葉通りの意味だ、今の俺は()()()動いている。」

 

『あのね! エリア11(ラクシャータ)(依頼)がキャンセルされたからって、中華連邦の方はピースマークにとって優先度が高いの!』

 

「確かに、シュナイゼルがブリタニアの勢力圏の外で公務を行うのは稀だ。 ブリタニアの力を削ぐのにも、異存はない────」

『────だったら────!』

「────だが()()()()()()()()()()。」

 

 ピッ。

 

「フゥー……」

 

 オルフェウスは無線機の電源を切ってから使い捨ての暗号キーを機械から取り出して潰すと、周りの廃墟寸前の街を見渡すと魔法瓶とコップが視界に入る。

 

 オルフェウスはそれ等を持ってきた人物を見上げると、ほぼすっぴん状態のコーネリアが立っていた。

 

ネリス(コーネリア)か。 紅茶か?」

 

「ああ。 と言っても、これも連中が扱っていた密輸品だがな。」

 

「そうか。」

 

 オルフェウスは魔法瓶から紅茶を自分のコップに注ぎ、一般人とは違う動作で紅茶の匂いを味わってから音もなく口にする。

 

「……ユーロのブレンドか、珍しいな。」

 

「紅茶の知識もあるのか。 オズは博識だな。」

 

ネリス(コーネリア)ほどではない。 まさか、文字通りに()()()()で『ギアス』の手がかりをこうも掴めるなんて思いもしなかった。」

 

「君から伺った話と……以前に『ギアスを使う奴ら(イレギュラーズ)』と何度か会ったから、『人体実験』はしているだろうと踏んでいただけさ。 そして行方不明者が大勢いても文句が出ないとなれば、自ずと中華連邦の辺境が怪しくなる……と言っても、私もまさかこうも早く尻尾を掴めるとは思わなかったし、()()()()()()をターゲットにしているとは思わなかったが。」

 

「未成年の子供は洗脳しやすく、自我がまだ弱いからな。」

 

「なるほど……無知な子供を、『優秀で超人的な力を持つ幼い精神の言いなり』に仕立て上げるのか……通りでアンドリュー(ダールトン)が『尋問』の志願をした訳だ。」

 

「(それだけではないが……今、脳手術などのことを付け足せばネリスもアンドリュー(ダールトン)のように感情的になるのが想像できてしまう。)」

 

 オルフェウスはそう言いながら空を見上げる。

 

「(プルートーンもまだ片付けていないが、ギアス嚮団と彼らは繋がっている。 それはハンガリーとEUで経験済みだ。 なら、直接嚮団の後をたどれば自ずとプルートーンとぶつかる……エウリア、もう少しだ。 もう少し待っていてくれ。)」

 

「(あまり自分のことを話したがらないし、お互い詮索もしていないがオズが先ほど見せた仕草、言葉遣いや身だしなみもどこか貴族を思わせる。 どこかの下級貴族の出か? それに時折見せる戦い方は暗殺術……となると、『元ギアスの者』で目的は復讐……と言ったところ。 別に問題はないな。)」

 

 オルフェウスは普段から身に着けている髪紐を無意識に手で触りながら明らかにソワソワする彼の素性を、コーネリアは推測しては結果的に利害が一致していることに納得し、空を見上げる。

 

「(ユフィ……元気でいるだろうか?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あああああああ、もうううううう!」

 

 場所は欧州……の北にあるバレンツ海を移動する船の上で、通信を相手側から切られた無線機を力強く握りしめながらイライラするミス・エックスへと変わる。

 

「なんなのよ?! 私に対するオズの態度、あまりにも冷たすぎるわよ!」

 

「(……その気持ち、少し分からないでもないけど……寒くないのかしら?)」

 

 同じ船の上には丈の長いもこもこジャケットにもこもこ帽子で冷たい風から身体を守っていたアンジュがいつものビジネスタイツスカートスーツのミス・エックスを不思議そうに見ては寒くないのかと思っていたそうな。

 

「ウィザードもいつの間にか居なくなるし、ガナバティもアレ(ヴィンセント)に付きっきりだし、船の中は臭いし、追加報酬付きとはいえ病人の無茶な護送でも実はオズに会いに行けるからちょっと嬉しくても本人が冷たすぎ!」

 

 もうすでに察しているかもしれないが、アンジュたちはブリタニア島を脱出する手段をミス・エックス(ピースマーク)に依頼していた。

 

 アンジュとマーヤは知らないが、スバルが潜入時に準備していた脱出手段はナイトメア(ヴィンセント)を想定していないものだったので、彼の為にピースマークへ二人が出した緊急依頼は正に彼らにすれば『渡りに船』だった。

 

 その『船』がブリタニア本国()とユーロ・ブリタニアを整備や清掃もほぼ最低限のこと以外、手付かずのまま往来している数々の船団の一つだとしても。

 

 尚ここでミス・エックスが『臭い』と称したのはタンカーのことだけでなく、アンジュたちがハレースタジアムで散々使った火薬などをスバルがマーヤ(そして興味を盛大に引かれたガナバティ)と共にせっせと整備や生産するための物資の匂いが元からあった船の汚臭に混ざり、とうとう耐えられずにアンジュとミス・エックスは船の中から出て、ピースマークから受けた依頼をミス・エックスがオルフェウスに伝える冒頭へと繋がる。

 

「あー……話ぐらいなら聞くわよ────?」

 「────じゃあ聞いてよ────!」

「(────あ。 なんかやばい予感。)」

 

 さっきからどこかむしゃくしゃするミス・エックスの姿が他人事とは思えないアンジュの声に、ギラギラしたミス・エックスの様子にアンジュは不安を感じながら彼女の愚痴に付き合った。

 

 

「しかし“火薬”なんて古いモノを良く知っているな?」

 

 アンジュたちが甲板で(一方的な)ガールズトークをしている間、船内ではスバルたちの作業を手伝っていたガナバティが珍しく関心の入った声で話しかける。

 

「まぁな……」

 

「彼ですから♪」

 

「そう言うモノかね?」

 

「そういうモノです、ガナバティさん。」

 

「……………………………………(『どうやったらカレン達原作組の生存とついでにナオトグループの被害を小さく出来るかな?』という考えから始まったとは言えねぇ……)」

 

 スバルはそう思いながら黙々と作業を続け、ポーカーフェイスを維持しながら考えを移す。

 

「(さて……オズO2でオルフェウスと合流するはずのコーネリアがいたのはマジビビって色々と変わってはいるが、大まかには『オズ編』とみて良い……筈。 となると、今グリンダ騎士団は中華連邦にいるシュナイゼルに呼ばれ────)」

 

 ────バタン!

 

 スバルの考えを遮るように外から船内に続く扉が開かれては、ミス・エックスとアンジュがそそくさと室内暖房の隣へと移動して表情がふにゃりと崩れる。

 

「「暖か~い。」」

 

「もう匂いは良いのか?」

 

「それどころじゃないわよガナバティ!」

「そうよ! 外がどのぐらい寒いか知っている?!」

 

「ミス・エックスは仕方ないとして、そんな分厚い上着を着ている嬢ちゃん(アンジュ)が言うとどうもな……」

 

「(せや、聞いてみよう────)────ミス・エックス、グリンダ騎士団の動きは把握しているか?」

 

「え? ええ、彼らの浮遊航空艦(グランベリー)はエリア11を立ったわ。」

 

「行先は、中華連邦方面か?」

 

「……ええ、そうよ。」

 

「そうか。 (よっしゃ! だとすると、腹黒皇子(シュナイゼル)が現在いるのが中華連邦でほぼ間違いないな! だとすると『オズ』の『妖術アリの黄巾』────じゃなかった、『紅巾党の乱』か…………………………ゲームでは“我が妖術を見よ”云々と言っていた割に、自滅するようなことをしていたな。 最後に“魂は生き続ける~”とか言うし、謎の結果だったけど……)」

 

「(ドンピシャで当たらせるなんて、やはりね。 ヴィンセントの強奪も考えると、ただの黒の騎士団ではないわね……噂の『零番隊』かしら?)」

 

「(こうもあっさりとしている上にミス・エックスのように情報通、そして工作に向いた知識……どこかの国の、元エージェントか何かか? 金さえあれば、何でもいいと思っていたがこいつは少し面白いな。)」

 

 そうのほほんと考えるスバルの横で、ピースマークのミス・エックスとガナバティがそれぞれどこか『普通』とは思えない言動に考えを走らせていた。

 

 その普通も、『コードギアスの住人にとっては』の基準だが。

 

「(やはり行先はエリア11ではなく、中華連邦。 だとすると、『何かある』と考えていいわね。 ()が満足に動けない今、私たちが頑張らないと。)」

 

 マーヤがそう考えながら視線をアンジュに移す。

 

「のぇぇぇぇ~、あったけぇ……紅茶飲みてぇ~。」

 

「(……私が頑張らないと!)」

 

 フニャフニャな表情のまま、室内暖房で暖まるアンジュを見てマーヤは決心を改めたそうな。

 

 ブルッ!

 

「(なんだか寒気が……さっきアンジュたちがドアを開けたからか?)」

 

「あ。 それとエリア11から貴方宛てに通信が来ているわよ? 暗号化はそのままでいいのね?」

 

「ああ、すまん。」

 

 スバルは思わず身震いをし、ミス・エックスが手渡してきたプリントに目を通す。

 

「(……よぉしよしよし♪ 毒島たちに頼んでおいて良かったな。 『もしかすると』と思ってヤンデレお兄ちゃんっ子(クララ・ランフランク)の生け捕りを頼んだが、大当たりだ。 『ヤンデレお母さんっ子(マ男)』が生きていることがまたプラスに動いたのが大きいが……“あの時に殺さなくて良かった”と心底思うよ。 『CCとマオ(女)(飴と飴)』が必要条件だが。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「じゃ~ね~おねえちゃんたち~! ごちそうしてくれてありがとう~!」

 

 中華連邦の威海衛では、現地ガイドが自分の両親が経営しているレストランから手を振り、マリーベルたちを見送る。

 

「ううぅぅぅ……太ももが~。」

「しゃっきりしなさいソキア! マリーもいるのよ!」

「あ、そうだった。」

「貴方ねぇ……」

「あら? 私は気にしていないわよ、オズ?」

「「え?」」

 

 残念がりながらしょんぼりとするソキアをオルドリンが叱り、マリーベルが意外なことを口にする。

 

「だって今の私は『グリンダ騎士団長のマリーベル』ではなく、『友人たちと一緒に観光するマリー』ですもの♪」

 

 「……オズ、何かあったにゃ?」

 「さ、さぁ? アツアツの本番小籠包を食べて舌がヒリヒリしすぎて脳への副作用があったとか?」

 「要するに、何か悪いものを食ったというヤツ? だとしても、マリーベル様がすっっっっっごく晴れ晴れしくウキウキしていることに説明がつかないにゃ────」

 「────二人とも、さっきからずっと聞こえていましてよ?」

 

「「う。」」

 

 先ほどまで表情と同じくウキウキしていたマリーベルの笑顔が冷たいものに変わり、オルドリンとソキアは嫌な汗を掻く。

 

 キュイィィィィィィィィィィィ。

 

「「「???」」」

 

 マリーベルたち三人の耳に、耳鳴りに似た音が届くと彼女たちは周りを見渡す。

 

「なんの音かしら?」

「む~、なんか嫌な音にゃ~。」

「これは────?」

 

 ────ゴゥ

 

 マリーベルたちの視界が真っ白になり、鼓膜が破れそうになるほどの轟音が同時に響き渡っては威海衛にいる中華連邦人がブリタニア人たちと同様に悲鳴を上げるが、更に襲ってくる超長距離砲からの砲撃によってそれらはかき消される。

 

 ダメージと爆風に建物や建造物が揺れては崩れていき、逃げ惑う人は吹き飛ばされる。

 

「……………………う。」

「ま、マリー……」

 

 そんな中で気を失っていたマリーベルが瞼を開けると、心配そうなオルドリンが同じように目を開けているのを見る。

 

「いちちちち……」

 

「「ソキア?!」」

 

 オルドリンとマリーベルが見上げると、二人をできるだけ覆うかのような体勢をしていたソキアがいた。

 

 砲撃の着弾と爆発の寸前にある僅かな刹那に、ソキアはKMFリーグで鍛えられた本能と身体能力でマリーベルとオルドリンを近くの爆風から庇っていたからか彼女の上半身を覆っていた団服とサイドテールに結んでいたヘアゴムは吹き飛ばされていた。

 

「これはさすがに……マルディーニ社のファンデーションを箱買いしなきゃね────」

「────下手に動かないで! 火傷が────!」

 

 ────キュイィィィィィィィィィィィ。

 

「二人とも、次の砲撃が来るわ!」

 

 またも先ほどの耳鳴りに似た音にマリーベルが叫ぶと、彼女の太刀の頭上で独特な赤色をしたビームのようなものが落ちてくる砲弾を払い落とすかのように動き、彼女たちの頭上を大型戦闘機のようなモノが飛ぶ。

 

「あれは────」

「────飛行形態のブラッドフォート! シュタイナー卿ですね!」

 

 ナイト・オブ・スリーの専用機となるトリスタンの試作品であるブラッドフォートの武装に、トリスタンと同様の『ハドロンスピアー』というモノがある。

 

 これは『メギドハーケン』という、通常のスラッシュハーケンを巨大にすると同時に連結させてハドロン砲の発射ユニットの役割を担わせた武装の一つである。

 

『ブラッドフォードの様子はどうですか、レオン!』

 

『問題ない! マリーカさんの調整で、ハドロンスピアーを()()()()()()()()()!』

 

 本来のハドロンスピアーはハドロン砲のように真っ直ぐ飛ぶモノなのだが、レオンハルトはメギドハーケンの特徴を使ってビームを曲げていた。

 

 それはどこぞの『巨大なビーム砲と思ったら実は巨大なビームサーベルだった』、あるいは『メ〇粒子砲』を思わせる攻撃方法である。

 

『いえ……そもそも“メギドハーケンを射出させながらハドロンスピアーを撃とう”と思うのは、恐らくレオンだけです……』

 

 ブラッドフォードの調整をまるで我が子のように面倒を見ていたマリーカからすれば、レオンハルトの扱い方は本来の使用方法からかけ離れていることに複雑な気持ちを隠しきれなかったが。

 

 ブラッドフォードはそのまま威海衛に攻め込む鋼髏(ガンルゥ)をハドロンスピアーで撃墜、あるいは地面をえぐって鋼髏(ガンルゥ)の進行先を誘導する。

 

『うーん、さすがはレオンだね。 器用に敵の特徴を逆手に取っている。 (自分も行きたいけれど、機体の兵装は一点より面への攻撃に特化しているからなぁ。)』

 

 アヴァロンと共に軍港から発進したグランベリーの甲板の上に載っていたゼットランドから状況を見たティンクは感心していた。

 

『こちらブラッドフォード! 皇女殿下たちを発見、グランベリーに連れていきます! シェルパ卿がケガをしているので医療班を用意してください!』

 

『こちらマリーベルです。 中華連邦政府はなんと仰っているのです?』

 

『かなり混乱しているようで、声が高くてキモくて真っ白な顔の人たちがペコペコ平謝りしていて正直気持ちが悪いエリシアちゃんなの~!』

 

 オペレーターのエリシアが開かれた通信のモニターを見てはドン引きする横では、黒髪ぱっつんストレートヘアーのエリス・クシェシスカヤがジト目で見ながらも中華連邦のデータベースのハッキングを行っていた。

 

『はい、データーバンクへの侵入が完了しました。 機紋(きもん)照合すると敵は済南軍区の砲兵旅団の機体です。 状況から言いますと、一部隊の暴走かと思われます。』

 

『シュナイゼルお兄様は?』

 

『シュナイゼルなら、マルディーニ卿と共に秘密会談場所だよ。』

 

『『『『『『………………………………え?』』』』』』

 

 アヴァロンからの通信に、意外な人物の声が出てグリンダ騎士団は呆けてしまう。

 

『オデュッセウスお兄様?! なななななななんでアヴァロンに────?!』

『────ああ、その……シュナイゼルに付いて来て、シュナイゼルもマルディーニ卿もいないから今はアヴァロンの艦長代理をやっている。』

 

 ブラッドフォードのおかげでグランベリーに戻ったマリーベルはこれらの情報を聞き、瞼を閉じて思考を素早く張り巡らせる。

 

「(このタイミングでの暴走……いえ、『攻撃』と解釈すれば敵の狙いは恐らく秘密会談の阻止。 そして次にシュナイゼルお兄様の身柄確保、あるいは殺害となるでしょう。 優先順位としては、グリンダ騎士団でシュナイゼルお兄様の守りで鎮圧させるのは中華連邦軍に任せるのが無難────!)」

「────マリー! 人民の救出の命令を出して!」

 

 横にいたオルドリンの声にマリーベルはハッとして、悔しそうな彼女の顔を見る。

 

「オズ────?」

「────私たちを案内してくれたあの子の家が燃えていたの! ううん、彼女だけじゃない! このままだと無関係の人が巻き込まれて二次被害で亡くなってしまう!」

 

 マリーベルは脳裏に浮かぶ、ついさっきまで元気よく手を振っていた少女とその両親の姿を振り払うように頭を横にふるう。

 

「……………………その気持ちはわかるわオズ、でもここは中華連邦。 私たちが迂闊に行動を起こせば内府干渉、『国際問題』として見られかねない────」

「────な、何を言っているのマリー?! 確かに中華連邦だけれど、同じ人間でしょ?! そんな民衆を守るための貴族であり騎士でしょ?! ま、まさかマリー……」

 

 オルドリンがここで何かに気付いたような顔をして、信じられないような目でマリーベルを見る。

 

「オズ────?」

「────エリア11で言っていた『区別』って……『()()()()()()()()』という意味だったの────?」

「────オズ、今はそれどころでは────」

「────“それどころ”?! 今もこうしている間に、一方的に罪のない人たちが苦しみながら死んでいっているのよ?! それらを止めるためのグリンダ騎士団じゃないの?!」

 

「……()()()()()、確かに人民は大切だけれど民衆の指導者である皇族が────」

 「────もういい────!」

「────オルドリン・ジヴォン!」

 

 悲しい顔のまま走り去るオルドリンに、マリーベルは声をかけるがオルドリンは一向に止まる様子はなかった。

 

「(オズ────)」

 

 “────一方的に罪のない人たちが苦しみながら死んでいっているのよ?! それらを止めるためのグリンダ騎士団じゃないの?!”

 

「(私は……私は……)」

 

 つい先ほどオルドリンが口にした、真摯な思いと表情に言葉がマリーベルの脳内で鉛のように重くのしかかり、マリーベルは久しぶりの『迷い』が思考を覆い尽くし、どんどんとループしていった。

 

 


 

後書きEXTRA:

マオ(女):よーそーろー! 船の調子は?

ダルク:うーん、オーケーみたい!

ルクレティア:いい風ですわね♪

サンチア:(潮風で髪が……)

毒島:♪~。

アリス:聞いたことのない鼻歌ね?

毒島:ん? ああ、これはマーヤの作成した軍歌だ。

アリス:…………………………え?

赤髪の密航者:(軍歌??????)

サンチア:(……害意はないな、放置でいいか。)




木村さん…… ( ;_;)


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第151話 (ちょっと)変わった威海衛イベント

お読みいただきありがとうございます! 楽しんで頂ければ幸いです!

追記:
距離的な問題が今話にあったのでマイナーな修正をしました。 m(_ _)m
話の流れなどに変わりはございません。


『紅巾党の乱』が始まる少し前、丁度マリーベルたちが威海衛を楽しんでいる時に戻る。

 

 その間に大宦官たちは天子のご下命(への命令)後、何人かはシュナイゼルと会いに出てその他は夜会の準備を進めていた。

 

「……」

 

 用事が済んだ(というか()()()()())天子は、暇を見つけては休憩室の椅子から足をプラプラさせながら、日課になりつつある作業をただ黙々と続ける。

 

 「おい、そこな者よ。 天子様がなされているあれは何なのだ?」

 

 貧乏くじを引いた大宦官(監視)が近くの侍女に話しかける。

 

 「あ、はい。 どうやらスメラギ・コンツェルンの方々から聞いた『折方(折り紙)』を、天子様は気に入ったようで。」

 

「(『スメラギ・コンツェルン』……ああ、あの貢物の小娘や老人(黒の騎士団)共か。)」

 

 もうすでに察しているかもしれないが、大宦官たちは既にエリア11から亡命してきた黒の騎士団をブリタニアに引き渡して、より良い好条件を自分たちが得られる『手札』として差し出していたので有名な重鎮たちは目が届く人工島に隔離していた。

 

 と言っても、大宦官たちの下にいる軍人たちはそれぞれ自分たちの思惑があるので大宦官たちの出したお触れに障らなければ『知らぬ存ぜぬ』を通せるので神楽耶や桐原、ディートハルトにラクシャータなどの顔つき指名手配されている以外の団員たちは割と動き回れるが。

 

「(それにしてもあれはなんだ? 鳥か?)」

 

 大宦官が暇つぶしに見るのは数々の折り紙が並べられているテーブルで、それまで折った折り鶴も手元に残すように言ったのか一角はブサイクな、折り慣れていない物が置かれていたが明らかに上手になる過程が見られるようになっていた。

 

 ガチャ。

 

「(フム、やっとかえ────)」

 

 休憩室のドアがノックもなしに開かれて、大宦官は交代の者が来たと安堵する。

 

 次の瞬間に聞いたことで、真っ白な顔色は更に悪くなるのだが。

 

 ……

 …

 

 「なんたることよ!」

 

 訳も分からず休憩室から急遽再び玉座に呼び戻された天子は血相を変えながら焦っていた大宦官たちを前に、出来るだけ身を小さくさせる。

 

 ()()()が来ないように祈りながら、それが無駄だという事も。

 

「ブリタニアの客人たちに矛を向けるなど!」

「許されざる行為! どこの部隊だ!」

「すぐにこれが中華連邦の意思ではないことを伝えねば!」

「か、か、か、かくなる上は────!」

 

 大宦官たちが一斉に天子の方を向き、注目を浴びた彼女はびくりと身構えてしまう。

 

「────天子様! 正規軍を派遣し、不忠者たちの鎮圧を!」

「そうです! このままでは()()どころではなくなります!」

 

「(……“密談”?)」

 

 自分やお互い声を高くして叫ぶ大宦官たちの一人が口にした単語に天子は興味を持つが、次から次へとくる言葉に圧倒される。

 

「ブリタニアの宰相殿に何かあっては我々に明日はない!」

「さぁさぁ天子様! 軍へのご下命を!」

 

「で、ですが……それでは町が戦場に……それだと民衆が……」

 

 ボソボソとだが、天子はありったけの勇気を出して彼女なりの正論を出す。

 

「もはや手遅れです、町は戦場になっておりまする。」

「それに先に戦端を開いたのは賊共。」

「そして()()()()()大事なものがございますぞ、天子様?」

 

「え? み、民衆よりも?」

 

 天子が出した疑問に、大宦官たちは皆()()()微笑む。

 

「ええ、そうです天子様。」

「『国あっての民』。 ならばこそ、『我らあっての国』なのです。」

 「そしてこのままでは我らは賊によってブリタニアの怒りを買い、報復で滅されてしまいます。 さぁ、ご下命を!」

 「「「「ご下命を、天子様!」」」」

 

 大宦官たちが出す、威圧感マシマシの注目を浴びる天子は瞼をただ力強く閉じて泣くのを我慢する。

 

 泣けばそれを理由に()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、天子はそれに気付いた時点からよくこのように『泣く我慢の仕方』を幼いながらも覚えた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 マリーベルの前から去ったオルドリンはグランベリーの格納庫に走り、パイロットスーツに着替えながらランスロット・グレイルを見上げる。

 

「(町の被害が広がる前に、『ブリタニアのKMF』と知られているランスロットタイプ(・グレイル)で注目を集めれば────)────ってソキア?!」

 

 オルドリン機がグランベリーから発艦する準備をしていると、ソキア機のサザーランド・アイも準備していたことにビックリする。

 

『貴方、火傷は────?!』

『────レオンとティンクも出ているのに自分だけ寝ているなんてできにゃい! 人手不足になりそうだから鎮痛剤と薬塗ってもらった! ミイラ女状態だけれど……』

『助かるわ! まず────』

 

 オルドリンは何か予期せぬことがあった場合の為に、マリーベルと同等レベルの『現場指揮権』を行使する通信を飛ばすが最後まで言い終える前に彼女の通信が無理やり遮られる。

 

『────命じます。 ()()()()()()()()への被害を最小限に抑えるよう各機体は敵戦力を確実に撃破し、牽制しつつ動いてください────』

「(────マリー────!)」

『────敵が密集すると予測されるポジションはグランベリーと、アヴァロンがリアルタイムで送ります。』

 

 

 グランベリーのブリッジへ歩きながらマリーベルは部下のインカムを借りながら上記の指令を出し、たどり着くとシュバルツァー将軍が場所を彼女と代わる。

 

「姫様。 宰相閣下は、どうなさるので────?」

「────我々グリンダ騎士団に目がいくようにテロリスト共に『脅威』と認めさせ、早急に被害が広がることを阻止すれば結果的にシュナイゼルお兄様の身柄の安全と中華連邦との交渉材料となります。」

 

「ブリタニアの軍人として、まずは宰相閣下の身の安全を先に確保するべきでは?」

 

「確かにそうですが、私も皇族の端くれ。 ならば、大局を常に見て行動しなければいけません。 シュナイゼルお兄様の事ですから、護衛も緊急用の脱出経路も用意されている筈です。」

 

「ですが、万が一の場合などもあり得ますぞ?」

 

「そのように命を簡単に落とす方であれば、帝国の宰相など到底務まりませんわ。」

 

「フム……確かに。」

 

 シュバルツァー将軍の言葉に、ただ平然と顔色を変えずに答えるマリーベルに僅かに笑みを浮かべる。

 

「(そうです、これはあくまでこれからの中華連邦との交渉材料を得る行為。 ()()()()()()()になる行為……)」

 

 マリーベルはズキズキと自分の脳を襲う小さな頭痛を出来るだけ無視しながら、自分に言い聞かせていた。

 

「シュバルツァー将軍、私がここの指揮を執ります。 機体に騎乗していただけませんか?」

 

「援護射撃ですな。 承知いたしました。」

 

 

 マリーベルが出した方針に、オルドリンはホッとしながら深呼吸をして荒ぶっていた心を落ち着かせる。

 

「(良かった。 マリーも『罪のない人に格差や優劣はない』と分かってくれたのね……) 総員! 全力で街を守り、民衆への脅威を排除!」

 

「「「イエス、マイロード!」」」

 

 グランベリーからランスロット・グレイルを発艦させたオルドリンの号令にグリンダ騎士団のソキア、ティンク、そしてレオンハルトが応えながら戦火の灯火が上がり始める町の紅巾党機を撃退していく。

 

 ブラッドフォードのハドロンスピアーが鋼髏(ガンルゥ)を切り裂きながら足止めをしていき、サザーランド・アイがウァテスシステムで足を止めた敵機の座標をグランベリーとの管制システムと連携し、その情報を元にゼットランドは迎撃型ミサイルの『オールレンジボマー』を展開して確実な精密射撃を行う。

 

『よぉーし! (サザーランド)アイたんの試作量産型VARISも火を吹くぜベイベー!』

 

 ゼットランドが討ち漏らした、あるいは迎撃ミサイル(オールレンジボマー)が一斉砲撃出来る数以上の敵をサザーランド・アイが撃っていく。

 

『ソキア! 敵の超長距離砲の次弾前に位置を逆算して!』

 

『オーキードーキー! (サザーランド)アイたんカモーン! ……キタキタキター! 南南西、距離270キロ! 滅茶苦茶遠い! 予測で超大型の列車砲のようだにゃ!』

 

『ティンクさん、ゼットランドとの連結いけますか?!』

 

『システムオーライですオズ! いけます!』

 

 ゼットランドの持っていた巨大な砲門から伸びるパーツが背後に繋がれて固定し、コックピットブロックの左右にある取っ手の様なでっぱりをランスロット・グレイルが手に取る。

 

 更にゼットランドの足に付いていた、そりのようなものを足場にしながらランスロット・グレイルがゼットランドの動力源に自身の動力源へと繋げる。

 

ユグドラシルドライブ(動力源)のダイレクトコネクション、オーケー!』

 

『撃ってティンクさん! ランスロット・グレイル・チャリオットのお披露目を派手にするわ!』

 

『了解ですオズ! 射線上に味方機無し……撃ちます!』

 

 ドゥ!

 

 ゼットランドのメガ・ハドロンランチャーから戦艦並みの砲撃が繰り出され、一直線に紅巾党の列車砲へ進んでいきながら余波で射線上の鋼髏(ガンルゥ)をいとも容易く風圧のみで玩具のように吹き飛ばしていく。

 

 この攻撃はゼットランドのハドロン砲を最大出力でフル活用した『メガハドロンランチャー・フルブラスト』と設計上は呼ばれ、現時点ではランスロットの最大出力VARIS以上の破壊力を持っている。

 

 理論上では。

 

 実は莫大なエネルギーを消費するためゼットランドとランチャーだけだと一発しか行えず、しかも撃った後のエナジー切れが致命的で今までは『空論上の携帯兵器』として最近までお手上げ状態だったものをグランベリーの整備班がとある考えのもとで工夫を施した。

 

 その考えとは『ゼットランドとランチャーだけでエナジー不足ならエナジー補給をすればいいんじゃね?』で、工夫は単純な『外部から供給可能の改造』だった。

 

 これにより、メガハドロンランチャー・フルブラストを数発ほど撃てるようになった。

 

 理論上では。

 

 つまるところ、『ロマン砲』である。

 スバル風に敢えて呼ぶならば、『メガ・バ○ーカ・ラ○チャー』とも。

 

 機体の塗料はグリンダ騎士団特有の赤をメインにしてあり、金色の対ビー○コーティングはないが。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 メガハドロンランチャー・フルブラストで紅巾党が頼みの綱にしていた列車砲は撃破され、鋼髏(ガンルゥ)も殿となって死兵となった数機を残して紅巾党は素早く威海衛周辺から西へと撤退していき、中華連邦の正規軍が彼らを追撃する準備をしていた。

 

 それとは別の班が威海衛の住民や観光客の救助を行い、アヴァロンが(オデュッセウスの意向で)手伝っていた。

 

 「このバッッッッカ者共がぁぁぁぁ!」

 

 そしてシュバルツァー将軍はグランベリーの格納庫で正座をしているティンクとオルドリンを叱っていた。

 

 余談だが二人の頭上にはたんこぶが出来ていたとここで追記しよう。

 

 「騎士団の────いや、軍のA級機密兵器を承諾もなしに独断で使いおって!」

 

「う。」

「ですが将軍、あのままオレたちが撃たなければ敵の次弾が────」

 「────シュタイナー卿のブラッドフォードが一点突破を図れば済む話だろうが!」

 

「(う、うーん……これは確かにティンクたちが悪いかな?)」

 

 すぐそばでブラッドフォードをマリーカと共に整備を行っていたレオンハルトは他人事のように考えようとしていた。

 

 “触らぬ将軍神に祟りなし”である。

 

『シュバルツァー将軍、これは悪くない展開だ。』

 

 その時、インカムを通してシュナイゼルの通信が入る。

 

『過程はどうあれ、帝国の軍事力の証左となった。 威海衛の建築物への損害や人的被害も少なく済み、相手に恩が売れた。 これで大宦官との交渉はさらに有利になったよ。』

 

「……イエス、ユアハイネス。 (この柔軟な対応と発想……姫様(マリーベル)の思うように、恐ろしい方だ。)」

 

「オ~ズ~!」

 

 無茶をして出撃したソキアが医務室方面から走って来てはオルドリンに携帯の画面を見せると、ソキアが肩車中に太股を堪能した現地ガイド少女の写っていた写真を見せる。

 

「この子、ちょっと怪我をしているけれど両親も無事だってオズ!」

 

 「医務室に戻りなさいソキア・シェルパ卿。それとも今説教を仲良く一緒にされるか?

 

「じゃ、あとでね二人とも(ティンクとオルドリン)~!」

 

「(良かった……私たち、守れたんだ。 私たち、グリンダ騎士団が!)」

 

 ソキアはそそくさと嵐のように来ては去る背中をオルドリンは見続け、心の中で温かいものを感じて涙腺が緩み始める。

 

「(ム。 ち、ちと力加減を間違えたか? 何せティンクはテストパイロット時からのケガなどで身体がほぼサイバネティック化しておるからの……普通に叩いてもこっちが痛むだけで────)」

 

 表情に出さなかったが、シュバルツァー将軍はオルドリンの様子に内心オロオロして説教を中断してしまった。

 

 オルドリンの所為だけではなかったが。

 

「(姫様(マリーベル)は、無事だろうか?)」

 

 シュバルツァー将軍は、グランベリーとは別の浮遊航空艦であるアヴァロンへ視線を移す。

 

 

 ……

 …

 

「やぁ、マリー。」

 

 アヴァロンへ帰還したシュナイゼルが自らはせ参じたマリーベルへと振り返る。

 シュナイゼルがニコニコしているのに対し、マリーベルの表情は硬いものだった。 何せ彼女は『対テロ組織』の存在意義とも言える『テロにより失われるかもしれない人命の救助』を行ったが、ブリタニア帝国ではありえない『皇族よりも優先した』という事実が残っている。

 

 最悪、罪を問われてグリンダ騎士団が解散あるいはマリーベルが義務放棄の罪に問われて団長の座をはく奪されてもおかしくはない。

 

「お兄様、私────」

「────()()だよ、マリー。」

 

 マリーベルの申し訳なさそうな出だしを、シュナイゼルは予想外の言葉を口にしたことで彼女はポカンとしそうになった。

 

「無論、帝国のスタンスを考えれば苦渋の決断だっただろうけれど……如何に皇族とはいえ、所詮数ある命の中でも私は一人だけでしかない。 それにあのままグランベリーが退いていたら威海衛の市場は丸ごと焼かれ、グリンダ騎士団の名誉に『敵前逃亡』という泥が付いていたかもしれなかった。 あの時点で()()()()()()最良な現場指揮権の行使だったよ。」

 

「お兄様……」

 

 シュナイゼルとマリーベルのやり取りを見ていたカノンは、内心ハラハラしていたが今では感服していた。

 

「(流石は殿下。 そのように説明すれば誰の面目も潰れず、非も互いにあるとも聞こえる……)」

 

「グランベリーの皆にも伝えてくれないかい? “お疲れ様”、と。」

 

 マリーベルは頭を下げ、アヴァロンを後にするとシュナイゼルは目頭を押さえる。

 

「フゥー……いけない、少々酔いそうだ。」

 

「……そこまで強いワインを出した覚えは────?」

「────()()、だよカノン。」

 

「……え?」

 

「第七世代KMF(ナイトメア)の戦力と威圧感は素晴らしい。 『ランスロットは枢木卿がいるから』と世間では言われているが、グリンダ騎士団で徐々にその認識も改めつつある。 やはりキャメロット(ロイドたち)とロンゴミニアドファクトリーに()()()良かったよ。」

 

「(“その所為でロイドが泣いていた”とは言わない方が良いわよね、これは……)」

 

 ちなみにロイドたちがその頃、ジノの『トリスタンの頭に角を付けてくれ!』とアーニャの『二角帽子(バイコーン)、絶対必要』の出した追加注文の所為で、血反吐を吐く覚悟で連日徹夜をしていたとは、まだこの時点で知らない。

 

「さて……私は私で、準備をしておくとしよう。」

 

「準備……ですか、殿下?」

 

「勿論だよカノン。 今回を機に、帝国と中華連邦の相互発展の為の外交。 所謂『武力無き戦い』だからね。」

 

「そうだね、私も争いごとは苦手だからね……何かいいことでもあったのかい、シュナイゼル?」

 

 シュナイゼルはそう言いながら、先ほどのマリーベルが取った言動に若干浮かれながらアヴァロンのスクリーンに広がる中華連邦を見ていると傍にいたオデュッセウスが声をかける。

 

「いや、“マリーも成長したな”と思っただけです兄上。 (以前は抜き身の刃物のような何時か、何か危ういことをし出しそうな雰囲気だったが……いや、何が『彼女を変えた』かより今は『彼女がより御しやすくなった』ことを素直に喜ぼう。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 威海衛で『紅巾党の乱』が起きた数日後、グランベリーとアヴァロンの手続きが終わってシュナイゼルと彼の護衛としてマリーベルたちグリンダ騎士団は大宦官たちとの交渉の場に来ていた。

 

 大宦官たちは先の戦いで、グリンダ騎士団が猛者ばかりでたった数機で鋼髏(ガンルゥ)をバッタバッタと短時間で数十機を無力化したという報告を受けてからか、顔色はいつも以上に悪かった。

 

「ま、まずはオデュッセウス殿下、シュナイゼル殿下、そしてマリーベル殿下にお越しいただいたことを心から感謝申し上げます。」

 

「確かに、()()()()歓迎でしたね。」

 

 シュナイゼルがニコニコしながら上記の言葉を口にすると大宦官たちがギョッとする。

 

「い、威海衛の事は我々の与り知らぬこと────!」

「────『紅巾党』と名乗る賊の仕業かと────!」

「────とはいえ、ご迷惑をおかけしたのは事実……心より我ら一同、心よりお詫び申し上げまする……」

 

「シュナイゼル、そこまでにしてあげないか?」

 

「勿論、威海衛でのことは中華連邦の総意ではないのは承知しているとも。 それ等の駆除を我々が手伝う事もやぶさかではないことを大宦官の皆に伝えたかっただけですよ、兄上。」

 

「ああ、なるほど……」

 

「今回の密談はより良く、平和的な外交手段で道を進めるのが最優先……それでは、婚姻の話を始めましょうか?」

 

「……」

 

「「「「????????」」」」

 

 シュナイゼルの言葉にマリーベルは何かを察したような表情を静かに浮かべ、オルドリンたちグリンダ騎士団はショボンぬ顔にハテナマークを無数に頭上に浮かばせた。

 

「勿論ですとも。 中華連邦としても、()()()()()()()殿()()()()()()()()()は相互の国の発展に────」

 「────え゛────ムゴゴゴ?!」

 

 素っ頓狂な声を出しそうになったソキアの口を、横にいたティンクとレオンハルトが無理やり塞いだことで密談は()便()()続いた。




シュナイゼルぅ…… (;´д`)


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第152話 『双貌のオズ』の由来

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


 朱禁城の迎賓館は連日で夜会を開いていたが今夜はブリタニアの貴族もその場に混ざっており、彼らに向けられた()()()()()夜会が開かれていた。

 

 先ほど『ささやか』と言ったが、夜会の食材だけで小さな町一つを一週間ほどだが死者が出ないように養える費用が吹き飛んでいると追記しよう。

 

 それに今夜の夜会の名目はいつものと違って『他国との友好祝い』の元で開かれているが、一部の者たちは裏にある『ブリタニアの第一皇子と天子様の婚約祝い』と分かっていた。

 

 「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ。」

 

 夜会の関係者控室の中で、夜会が何のために開かれているか分かったソキアは盛大なため息を出しながらグダグダしながら床の上をゴロゴロしていた。

 

「ハァ~、ショック~ 。オデュッセウス殿下もついに皇后さまを迎えるのかぁ~。」

 

「だらしないですよ、ソキア! 騎士は主の鏡! 規範に則り────!」

 「────レオン、静かにして! 私って事務作業は集中しないと出来ない質なんだから!」

 

 始末書を終えていたソキアを同じく始末書を書き終えていたレオンハルトが叱ると倍以上の始末書を黙々と処理していたオルドリンがイラついた声でレオンハルトを黙らせる。

 

「(うーん、EUで言うところの“デジャヴ”という奴だね。) あれ? そう言えば何故かオズだけいつも報告書や始末書を最後までやっているよね?」

 

ウ゛。 し、仕方ないでしょティンク! グレイルのソードブレイザー(腕付きシュロッター鋼ソード)ソードハーケン(有線式射出武器)は使用損失前提の試作品(プロトタイプ)なのよ! テストパイロットだったティンクならこの大変さが分かるでしょ?!」

 

「まぁ……“数回使ったら破損す(折れ)る武器”なんて、とても実戦向きとは言えないね。 でもキャメロットが中心になって、上位互換装備の開発を計画()()()()らしいよ?」

 

配備はいつ?! って、“していた”???」

 

 ティンクの『神のお告げ』の様な効果のある言葉にオルドリンは目を光らせたが、それが過去形だったことにハテナマークを浮かばせながら問う。

 

「あー、“新型の開発を宰相閣下に優先されたから机上の計画書に戻った”ってこと。」

 

 ガクッ。

 

 ティンクの言葉を聞き、オルドリンは項垂れては恨めしそうにだらだらするソキアを見る。

 

「そう言えばソキア、毎回機体を破損させている割には事務作業を一番早く終わらせているわね?」

 

「んー? ソキアは出来る子だからにゃ~。」

 

「まぁまぁオズ、そう邪険になることも無いでしょう? ソキアは飛び級で帝立大学の電子情報工学修士(でんしじょうほうこうがくしゅうし)号をもらっていますし。」

 

「それで元KMFリーグプレイヤーだったなんて……って、なんでティンクがそれを知っているのよ?」

 

「はっはっは。」

 

「(なるほど……貴族でもないのにナイトメアや新型(ウァテス)システムを使いこなせる理由はそれか。)」

 

 レオンハルトはそう思いながら、オルドリンに同情する。

 何せ彼もミルベル博士の元でテストパイロットを務めていた時期もあり、『試作機の最大の敵が整備性だ』ということを理解している。

 

「(それにブラッドフォードのハドロンスピアーも、本来の使用用途から外れた使い方をしてしばらくの再使用は無理ですし……でもマリーカさんのおかげで機体自体は使える。 感謝しないと────)────ん?」

 

 レオンハルトが書類の整理をしていると、ブリタニアに公開されている天子の情報が載った紙(写真付き)を見る。

 

「へぇ~、この方が天子様か~。 可愛らしい方だな~。 これは数年後、絶世の美女になりますね~。」

 

 ピク。

 

 レオンハルトが出した独り言にソキアは立ち上がり、ズカズカと怒ったような表情でレオンハルトに詰め寄る。

 

「え? ソキア────?」

「────レオンハルトってばさ~? マリーカたんの事をどう思っているのさ?」

 

「ん? 許嫁ですけれど……何か────?」

「────それにしてはちょっっっっっっと浮気っぽいですねぇ~? トトにゃんとかノネットにゃんとかとかとかとかとかとかとか~!!!」

 

 ヒョイ。

 

 徐々に怒りのボルテージが声と共に上がっていくソキアをティンクは暴れ出しそうな猫のように背後から持ち上げる。

 

「どうどうどうどう。 レオンはオレたちと違って純然たる貴族だから……ね、オズ?」

 

「そこで私に振るの?!」

 

「他に貴族、ここにいます?」

 

「う……ま、まぁ確かに?」

 

「「「ウンウン。」」」

 

「シュタイナー家は多くの民の生活を担保にしていたり、責任ある立場の貴族は血筋を守ることで権威を裏付けたり?」

 

「「「ウンウン。」」」

 

「あともしもの場合の為に……しょ、庶子を持つことは義務化されているし? だからレオンが浮気っぽいのもそこまで変じゃないわ────」

 「────ちょっと待ってオズ!いつの間にか僕が浮気者になっていない────?!」

 「────納得出来にゃーい! アレコレ()()()()()したいからって権力で肯定化するなんて~!不純! 不公平! 私にも分けろてやんでい────!」

「────おやおや、思っていた以上に賑やかだね? 今のはもしかして、()()()()()かな?」

 

 ピシ。

 

 暴れる猫のようにソキアの背後から、いつの間にか開かれたドアの向こう側にいたシュナイゼルの声に室内の温度は急激に冷えていった。

 

 グリンダ騎士団は全員冷や汗を流し、ニコニコするシュナイゼルへ視線を移す。

 

「いや、子供のころは毎年どころか数か月ごとに兄弟や姉妹が増えていったのには驚いたよ。 はっはっは。」

 

 「流石は皇帝陛下。 豪快に()を御播きに────」

「「────ティンク!」」

 

「お父様はいささか、撒き過ぎだけどね。」

 

 ティンクのぼそりとした独り言にオルドリンとレオンハルトは目を見開いては彼を黙らせようとするが、ばっちりと聞こえていたシュナイゼルの返しに二人の顔色は大宦官と同等の白へと変わっていく。

 

「いや~、良い()ばかりで羨まs────」

 「「────ティ・ン・クッッッ!────」」

 

 ガイィン

 

 「「────イッッッッッッッタァァァァ?!」」

 

 オルドリンとレオンハルトがティンクの腹を殴ると金属音が返ってきては、ティンクを殴った二人は痛む拳に悶えた。

 

「うーん、やはり賑やかなのも良いねマリー。」

 

「ア、アハ……アハハハハハハ。」

 

 シュナイゼルが話題を振り、マリーベルは乾いた笑いを返す。

 

「とはいえ、君たちも招かれている。 夜会を共に楽しもうではないか?」

 

「ハイ、ではホールにてお待ちくださいシュナイゼルお兄様。」

 

 マリーベルはシュナイゼルがその場から遠ざかっていくのを見届けてから、控室のドアをそっと閉めてからグリンダ騎士団たちに礼儀の何たるかを念押しする。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ふぅー……」

 

 見た目もよく、グリンダ騎士団のランスロットグレイルのパイロットであるオルドリンはシュナイゼルとマリーベルに次いで注目の的となっていて久しぶりに『貴族の社交会スキル』を全力で使ってバルコニーにまで涼みに逃げていた。

 

 尚レオンハルトも貴族だったのでマナーは良かったのだが、見目麗しい中華連邦の民族衣装(チャイナドレス)を着ていた者たちにティンクと一緒に声を片っ端からかけに行き、ソキアは『スゲー! 上手い! 何これ辛くて甘いの?!』と新鮮なリアクションで周りから微笑ましい(あるいは呆れられた)目で見られていた。

 

「(……うん、考えないようにしよう。)」

 

 オルドリンがバルコニーによりかかると、すぐそこには中華連邦の軍事力を誇示するためか、鋼髏(ガンルゥ)がずらりと並んでいた。

 

「(あれ?)」

 

 そこに一機だけ、仮面を模した頭部をした人型のナイトメアがあったことにオルドリンはキョトンとする。

 

「あれは────」

「────型式番号XT-409、名称は『神虎(シェンフー)』と言うそうだよ?」

 

 オルドリンは背後から来た男性の声に聞き覚えがあったことに目を見開かせながら思わずいつもは帯剣している腰に手を伸ばしながら振り返る。

 

 「オ、オイアグロ・()()()()?!」

 

 そこに立っていたのは、どことなく顔がオルドリンと似ていなくもないブリタニアの成人男性で彼女の叔父だった。

 

『オイアグロ・ジヴォン』と彼女が叫んだことから、この男こそジヴォン家前当主でありオルドリンの実母の『オリヴィア・ジヴォン』の実弟であり、その経済的手腕を買われてジヴォン家の資産管理や軍需の投機などで利権の獲得をしてはジヴォン家の経済面を盤石な物へと数年以内に変えていた。

 

 オリヴィアがジヴォン家の『武の象徴』ならば、オイアグロは『経済面の騎士』である。

 

 だがジヴォン家は代々女系の一子相伝の家であるのは変わらず、古い伝統などを未だに継続させる体制をよく思っていなかった彼は実質上の『内部クーデター』を起こし、オリヴィアを含めたジヴォン家の多くがオイアグロの手によって殺された。

 

 オルドリン一人を残して、完膚なきまでの『ジヴォン家の粛清』だった。

 

 尚、オイアグロはオリヴィアに正当な手順を踏んでからの決闘に勝ち、その結果オリヴィアが殺されたことで逆上したジヴォン家の者たちを、オイアグロは正当防衛で返り討ちにしたことが証明されたことで彼は罪には問われなかった。

 

「オイアグロ……何故、中華連邦に────?」

「────中華連邦がようやくまともに開発したナイトメアを見られる機会に私がいることがそんなに珍しいかね? 」

 

「ええ、()()()()。」

 

 ただ『当主の座の簒奪者』という汚名は残っている為、彼は夜会などの舞台に出ることは非常に稀である。

 

「それに私が出資する、『大型KMF』の売り込みもある。 ()()()()のRZA-1A『ギャラハッド』の、な。」

 

「……当てつけのつもりかしら?」

 

「君がモルモットとして乗り回しているようなランスロットタイプは直に御役目御免になる日が近いかもしれないよ? ……ああ、()()()()()()()()()()()のか。」

 

 ギリリッ。

 

 オイアグロの挑発するような言葉と表情にオルドリンは奥歯を噛み締め、殺気が彼女から漏れ出す。

 

 オルドリンにとって『オイアグロ』と言う男は幼い頃から唯一、彼女に優しく接した家族だった。

 来る日々の鍛錬に訓練に折れそうになっても、いつもニコニコと優しく語りかけては甘いものや可愛いものをプレゼントしていた。

 

 何時何時も騎士を象徴するように凛とした母親(オリヴィア)と、家の者たちを油断させて一挙に殺すために。

 

「(そう、オズは私のことを思っているのがわかるな。 やはり彼女に『戦』は不似合いだ……彼女の母親や家族を殺したのは複雑な事情故に、下手なことは言えない。)」

 

 そうオイアグロは内心で憂いながら、ニタニタと二流の小悪党のような笑みを怒りの形相を自分に向けるオルドリンにしていた。

 

 “オルドリンの母親と家族を殺した。”

 これは事実であるが『全体の事実』ではなく、ジヴォン家の『()』としての役割が絡んでくる。

 

 その闇は深く、罪深く、帝国を裏から支えてきた『影』そのものである。

 

 またの名を、『()()()()()()』。

 

「(だが伝え……いや、誰にも悟られるわけにはいかない。)」

 

 オイアグロ・ジヴォン────否、『現プルートーン団長』はそう思いながら自分を監視する視線をできるだけ気づいていないフリを続ける。

 

 さて、本来の『オズ』ならばここでオルフェウスがシュナイゼルの暗殺を試みるイベントに突入するのだが────

 

「おや……では失礼するよ、オルドリン。 私はシュナイゼル殿下に挨拶をしてくるよ。」

 

 ────オルフェウスが依頼を却下したことで流れは大きく変わってしまい、オイアグロはシュナイゼルとカノンがいる輪へと歩きだす。

 

 原作ではオルフェウスがシュナイゼルの暗殺に成功しようが失敗しようが、彼の起こす騒動に依頼主である紅巾党は便乗して一斉蜂起を起こしていた。

 

 だが『シュナイゼルの暗殺』が無かったことで、夜会は何事もなく進んだ。

 

「……ふん。 (何よ。 貴方だって皇族に媚びを売ろうとしているじゃない。)」

 

 オルドリンは夜会に背を向けて、人工の照明が少ないおかげで星が多く見える夜空を見上げてモヤモヤとする気持ちを落ち着かせようとする。

 

「(やはりオズ同士、仕草も似ているな。)」

 

 そんなオルドリンの後ろ姿をオイアグロはワインを飲む傍らでチラリとみては、オルフェウスを思い出す。

 

 オルフェウス・()()()()を。

 

()ルドリン・()()ォン』、そして『()ルフェウス・()()ォン』。

 

 これが原作の題名、『双貌のオズ』の由来である。

 

 もう既に知っている、あるいは察しているかも知れないが二人の『オズ』は幼い頃に生き別れた双子であり、ブリタニアだけでなくこの世界(コードギアス)で双子は『忌み子』とされてなんらかの方法で()()されている。

 

 それが果たして『妊娠中絶』か、片方を『売る』のか『捨てる』のか、方法は多種多様にあるが。

 

 

 それを本人(オルドリン)やほとんどの者たちが知らないまま夜会は続き、翌日にグリンダ騎士団は中華連邦の正規軍の大規模な『紅巾党狩り』に遊撃隊として参加することとなる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 オルフェウスたちはガナバティの知人にぼったくられたから譲り受けたKMF輸送用トレーラーで中華連邦を横断していた。

 

「しっかし、まさかこんなところで新品同然のナイトメアを入手できるとは思わなかったぞ。」

 

 ズィーは先頭の車両を運転していると横にいたダールトンは感心半分、驚き半分で独り言のような言葉を出す。

 

「“蛇の道は蛇”ってな。 見返り()さえありゃ、大抵のモノは何とでもなるのさ。」

 

「なんだそれは? 中華連邦の言葉か?」

 

「いんや、エリア11。 それに生まれは中華連邦だが、俺は生まれてすぐに国外に出ているから言葉も文字も良く分からねぇよ。」

 

「そうか。 その……すまん。」

 

「別に? 俺のような奴なんてゴロゴロいるさ。」

 

 

「「………………………………」」

 

 ズィーたちのトレーラーの後を追うかのように、二台目のトレーラーの中では無言のコーネリアが運転をしていた。

 

「(ガナバティの仲間からKMFとトレーラーを入手してからネリスは静かになったな……無理もないか。)」

 

 オルフェウスは隣のコーネリアからトレーラー内にある紅蓮壱式をオルフェウス専用機に改造された『白炎(びゃくえん)』と、グロースター・()()()()()を見る。

 

 当初、オルフェウスたちはギアス嚮団を追う際に身軽のまま中華連邦を探索していたが先日の盗賊が錯乱したまま叫んだ(ゲロった)一言を元に、ナイトメアを調達することにした。

 

「(ソードマンタイプのグロースターを入手できたのも驚いたが、あの賊が言ったことを考えると必要になるかもしれない。)」

 

 拷問と空気不足で錯乱していた盗賊が叫んだのは途中で降ろされた場所だけでなく、『黒ずくめの巨人たちに囲まれていた』ことだった。

 

「(奴が叫んでいた『巨人』を『ナイトメア』と仮定すると、敵は少なくとも四機……敵組織の規模からして、一個小隊だと思っても良いかもしれん。)」

 

 コーネリアが嚮団の持つと思われる戦力を危惧する横で、オルフェウスは盗賊の叫んだ『黒ずくめの巨人』という()()()()()()に引っ掛かっていた。

 

「(『黒ずくめの巨人』……巨人がナイトメアと考えると、『黒ずくめ』は塗料。 それだと相手は恐らくプルートーンの筈だが……なんだこの違和感は? まるで全部がいい方向に行き過ぎているような……考えすぎか?)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「♪~」

 

 どこかの巨大地下空洞にある都市らしき場所でいつもは暇そうにしていたV.V.はウキウキしていた。

 

「嚮主様────」

「────ん~?」

 

 そんな彼に、フードをした誰かが近寄っては話しかける。

 

「よろしいので? これでは確実に────」

「────うん。 ()()()()()♪」

 

 V.V.の言葉に周りの者たちに動揺が走り、V.V.の笑みは邪悪なモノに変わる。

 

「最大戦力が出ている今が好機。 あちら側も今までは僕たちにとってプラスに動いてくれていたから黙認していたけれど……最近は勝手が過ぎるし、色々とどうも怪しいんだよね……何より()()()()()()()()()()と言うのもある。」

 

「は、はぁ……」

 

「それに……」

 

 V.V.が珍しく歯切れ悪く、何かを言いかけるがそれ以上の言葉を発さなかった。

 

「(ま、こいつらに言っても仕方がないか────)────ッ。」

 

 V.V.の目の色が変わり、視線を動かしてジッとしているとほかの者たちも釣られて同じ方向を見る。

 

 視線の先には、いつの間にか金色の長髪男が椅子に腰かけてテーブルの上に5段のトランプタワーに最後のカードたちを置くのを見た。

 

「……出来た。 どう思うかね────?」

「────ど、どこから?!」

「────貴様、何者?!」

 

 ピクッ。

 

 V.V.の近くにいた一人のフード男の言葉に、長髪の男性は反応するとフード男の様子がおかしくなる。

 

「……んバハッ?! ん?! ~~~~?!」

 

 フード男の唇が文字通りに次第に消えて────否、()()()()()()()()()ドロドロになった次の瞬間に一体化する。

 

「へぇ~? そんなこともできるんだ?」

 

 口が顔から無くなり、焦るフード男やほかの者たちのように動じることなくV.V.は平然と長髪男に話しかける。

 

「ああ、()()()()()()()()()。」

 

「……本当に興味深いね、君?」

 

「そういう君こそ。 ()のおかげでもあるが。」

 

「……“彼”?」

 

「君に助言した時と同じ『彼』だよ。」

 

「ああ、あの顔中傷男の。」

 

「“顔中傷男”? ……なるほど。」

 

 長髪男はウンウンと一人納得するように腕を組みながら頷く。

 

「それとヴィk────V().()V().()。 このタイミングで彼らを切り捨てるつもりかい?」

 

「ん? もしかして迷惑だった? 知り合いだもんね、一応?」

 

「『迷惑』? むしろ感謝したいさ。 私が動いたら、色々と君にも不都合だろ?」

 

 V.V.は何も言わずに笑顔を返すが、内心では薄い笑みを浮かべながら懐中時計の確認をする長髪男に対して沸々と湧いてくる静かな怒りを抑えていた。

 

「(この……今に見ていろ。 さっきの()()を見せて牽制したつもりだろうけれど、今の君ではあれ以上のことはできないという裏付けが取れた。 もし本当に君の言う『本調子』ならさっきの部下は消されている筈だから逆効果だよ────)」

 

「(────と、()()()()()なら考えるだろうね。)」

 

 パチン。

 

「(本当にどうしようもない。 『不死』の一部を手に入れても所詮、人間は愚かなままか。)」

 

 長髪男はチクタクと動く懐中時計を閉じては、感傷深い笑みで洞窟の天井を見る。




ティンクゥゥゥゥ…… (;´□`)

あと、次話かその次にスバル出す予定です。 少々遅い進み具合が続き、申し訳ございません。 (;´ω`)ゞ


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第153話 おいでませ、胃痛案件

……次話です。  (;´ω`||)ハラハラ

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!

誤字報告、誠にありがとうございます、お手数をお掛けしております! m(_ _)m


 (スバル)たちはミス・エックス等と共に、旅商人の運び屋と偽装した大型トレーラー式トラックに乗ってユーロ・ブリタニアを横断していた。

 

「すまん、もう一度お願いできるか?」

 

 今、俺は聞き間違いをしたのだろうか?

 そう思いながら、もこもこジャケットと帽子を着込んだ姿が様になっていたミス・エックスにもう一度問いかける。

 

 尚なぜ彼女の横にいるかと言うと、何故か最初は余所余所しく一定の距離を取っていたミス・エックスがエンドレスな(終わりのない)愚痴をアンジュにした所為でもある。

 

 内容としては主にオルフェウスがどれだけ彼女に冷たい態度をとるとかなんとかで、アンジュはゲッソリしているが。

 

「グリンダ騎士団は朱禁城から西へと『紅巾党狩り』に出撃したわ。」

 

「その前だ。」

 

「ああ。 だから、ブリタニアと中華連邦の密談は終わってアヴァロンはそのまま太平洋を横断しているわ。」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

 ……え? どゆこと?

『オズ』でこのタイミングでのグリンダ騎士団の任務は『腹黒虚無感宰相の護衛』だったはず。

 つまりオルフェウスの『“シュナイゼル・エル・ブリタニアァァァァ!”』からオルドリンの“ピースマークのオズ!”で始まった『シュナイゼル暗殺未遂』が未遂に終わったと言う事か?

 

「ミス・エックス、オズ(オルフェウス)と連絡が取れるか?」

 

「なんで? 今はあの冷徹男に通信を送りたくないのだけれど? そもそも“依頼却下なんて”どういう神経しているのよ……私とネーハの扱いなんて雲泥の差ブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。

 

 ええええええええ。うそーん。

 何でオルフェウスが『シュナイゼルの暗殺依頼の却下』をするのでゴザル?

 まさかネリス(コーネリア)ちゃん様が一枚絡んでおられる?

 

 ……いや、考えろ。

 

 オルフェウスは本来、R2で会う筈の彼女と今会っている。

 しかもアニメ一期で死亡したはずのダールトン付きで。

 ダールトン生存は別にして、コーネリアと彼はかなり優秀だ。 何せコーネリアなんかは、単独でギアス嚮団の本拠地にたどり着いてV.V.と出会っている。

 

 時間はかかったが。

 

 そんな彼女が、恋人のエウリアを殺されたオルフェウスと出会っているとすると……

 

 もしかしてもしかするとオルフェウスは『シュナイゼル暗殺』なんてハイリスクな依頼なんかより、もっと確実で長年探している復讐相手を優先したのか?

 

「ミス・エックス、()()()()()()()()()()()?」

 

「………………アヴァロンに乗って太平洋を渡っているから、ニューロンドンに帰るんじゃないかしら?」

 

 もしかしていたよコンチクショウめ。

 

 と言うことは?

 原作の『オズ』と違って紅巾党はまだいて? グリンダ騎士団が“狩りの時間だze!”な感じで中華連邦を動いていると?

 

 なんでじゃい。

 

 うわぁぁぁぁぁぁ、これはマズい。 超マズい。

 下手したらアマルガムとグリンダ騎士団が鉢合わせてしまうかもしれん。

 誰のせいだよ?! 俺だよチクショウ!

 だってまさか、オルフェウスがピースマークエージェントとしての依頼を蹴って復讐を優先するなんて思わないじゃん?! そしてまさか毒島たちに『クララを生け捕りにしてギアス嚮団の場所をマオに入手してもらって、レイラに指揮執って貰って嚮団の場所の索敵と確認をしておいてくれ』と言った矢先にこんな状況。なんていうのこれ美味しいの、ダレカヘルプミープリーズ。

 

 「あの宰相の動きまで……流石です。」

 「いやここまで来ると普通に不気味なんだけれど……」

 

 後ろの席にいるマーヤとアンジュが何か言ったような気がするが気の所為だ。 気のせいにしてそれよりもまずはアマルガムの皆だ。

 

「マーヤ、アンジュ。 レイラたちとの連絡手段は持っているか?」

 

「え?」

 

「一応ありますが────?」

「────索敵の件で連絡したい。」

 

 ミス・エックスたち(部外者)やマーヤもいるが、悠長なことは言っていられない。

 人手不足である筈のグリンダ騎士団は何とかなるかもしれないが、()()()()の試運転とレイラが相手をするにはあまりにも急すぎるし、想定外の筈だ。

 

 どうか、グランベリーと彼女たちが会いませんようにッ!

 

 

 


 

 

 中華連邦の広大な大地は何もすべてが無人と言うわけではなく、川や湖を中心に村などがぽつぽつと存在する。

 

 ただこれらは規模が小さいのか、あるいは関心が向けられていないため中華連邦の国内地図には載っておらず、人口の把握もされていない。

 

 そこに住む人たちも別に不便に思っているわけでもなく、互いに自分たちで交易をして細々と昔から暮らしているのが殆どだった。

 

 だが中華連邦の経済の傾きと大宦官のいい加減な政治、そして軍人が領主のような振舞いをし始めた途端にまるでタガが外れた暴君のごとき圧政のせいで『地図に載っていない集落』は徐々に数が増えていった。

 

 そんな遊牧民族のように大地を横断する一族の牛や馬などの、今でこそ『財産』とも言い換えられる家畜が突然一斉に騒ぎ出し、一族の子供たちは妙な耳鳴りに顔をしかめる。

 

 騒ぐ家畜たちが逃げ出さない様に手綱を取ったり、泣き出す子供たちをなだめるなどの騒動の中で、一人の青年は空を見上げては困惑するような表情をしながら口が半開きになっていた。

 

 何故なら丁度頭上の大気がまるで水溜まりのようにごく僅かに()()()()()ような、あるいは空を泳ぐ何か(あるいは現象)が動いていたからだ。

 

 

「おー! やっぱり見えていないみたいだね!」

「スッゲェな、おい! 見ろよお前ら! 人が小さく見えっぞ!」

「「「「「た、隊長……」」」」」」

「わかる。 わかるぞお前ら……けどアレの方がアシュレイらしくね?」

「「「「「アンタが言うな!」」」」」

 

 マオ(女)は遊牧民風の者たちを上空から映していたスクリーンを見ては興奮し、彼女と同じようにキラキラしていたアシュレイとリョウがアシュラ隊にツッコミを入れられる。

 

「それでもやはり動物や、幼い子供などには聞こえてしまうみたいですね────」

「────こんなの、想定内よ────」

「────まるで君が全てを作ったような言い方は良くないな、ラクシャータ。」

「はいはい、“ウィルバーもいたから~”……これで満足かしら?」

「「………………………………」」

 

 より後方で立っていたレイラは艦長用のコンソールで画像の拡大化をしながら詳細を見て、彼女の独り言に近くの台に寄りかかっていたラクシャータの言葉にウィルバーがカチンと来ては(メタな)火花が飛び散る。

 

「アワワワワワ────」

「────あー、皇女殿下様? あれって割と普通だから大丈夫ですよ?」

 

「あ、そうなんですね。」

「「「「「(順応が早い! ……さすがは皇女殿下様?)」」」」」

「オマエモナー。」

 

 この様子をハラハラと見ていたユーフェミアに、マリエルが気休め(?)の言葉を投げかけると、すぐにホッとするユーフェミアの豹変ぶりにアシュラ隊はビックリしながらも感心(?)する横でピンクちゃんがコロコロと転がる。

 

 レイラたちが今いるのはアマルガムが初めて……否、恐らくブリタニアと言う大国以外での一組織が保有するのは世界初かつ()()()()()()浮遊航空艦である。

 

「う~ん、急造だから仕方がないけれど……このアイデア、地味に凄いわね~。」

 

「それは私もラクシャータに賛成だな。 まさかあの子がこのような発想()していたとは……」

 

「ウィルと……ラクシャータさんが……」

「ウィルおじさんとラクシャータさん、成長したねぇ~。」

 

 ウィルバーの妻サリアとマリエル・ラビエは今さっき見聞きしたことに、ゆるくなった涙腺にハンカチを添える。

 

 全長230メートルと、190.9メートルのグランベリーより一回り大きかったがラクシャータ、ミルベル夫婦博士、ラビエ親子にアンナ・クレマンと言う人材たちは、ラクシャータにスバルが言い残した『発想(アイデア)』に技術者魂に火がついて、『ガリア・グランデ』の残骸と巨大フロートシステムに高々度観測気球を分解したパーツをくっ付けた急造艦を更にスバルの発想で魔改造された『オーパーツの塊(浮遊航空艦)』が予定より早く出来あがってしまった。

 

 スバルがこのことを聞いたとき、彼のポーカーフェイスは崩れそうだった。

 

『浮遊航空艦』だけでもびっくりモノだが、さすがに可視光線や赤外線を含む電磁波などの探知だけでなく、肉眼に対しても『ほぼ不可視』になるような光学迷彩が出来あがってしまっては仕方がないだろう。

 

 尚、この事を聞かされたスバルの内心は『なにその電磁〇彩シス〇ムだかミラー〇ュ・コ〇イドだか良く分からんものは?』、というような疑問でいっぱいだった。

 

「アリス、サエコ(毒島)は?」

 

 ブリッジにいそうで居なかった毒島の居所を。レイラはソワソワしてスクリーンの方角をチラチラと見るアリスに尋ねる。

 

「サエコなら、まだ気分が悪いみたい。 回転性めまい用の薬を飲んで寝込んでいるわ。」

 

「そうですか……(まさかサエコが『アレ』で気分を悪くするなんて、意外でした……)」

 

「………………」

 

「どうしたの、サンチア?」

 

 お祭りムード気味のブリッジの様子を静かに真剣な表情をしながら端から見ていたサンチアに、ルクレティアが声をかける。

 

「ん? ああ。 少し、考えごとをな……“もしあの時アリスの提案に乗っていなかったらこのような光景は見ていないだろう”、と思っただけだ。」

 

「確かに……私たちがイレギュラーズから抜け出せたのもあれがきっかけでしたわね。」

 

 サンチアの言葉にルクレティアが思い浮かべるのは、今でははるか昔のように感じ取れる記憶。

 昔『自由』を求めてマオ(女)が悪ふざけ半分で作った隠語を使ったアリスから、スバルとの接触とC.C.細胞の(ほぼ)解決に死の偽装。

 そして────

 

「────抜け出したのもそうだが……そんな私たちがこのような出来事の一部になるとはな。」

 

「小さな一歩に見えるかもしれませんが、現在ではブリタニア以外の勢力では初の浮遊航空艦、『リア・ファル』ですものね。」

 

『リア・ファル』。 レイラたちアマルガムが搭乗している船の名前だった。

『ディーナ・シー』と元ネタを共通しているその名前は、ケルト神話内のダーナ神族にとって『エリンの四秘宝』と呼ばれているアイテムの一つ。

 

 別名『運命の石』、『聖なる石』、『フォールの聖石』と呼ばれてもいる。

 

 或いは、『()()()』とも────

 

 ────ビー!

 

「えっと……レーダーに反応?」

 

 リア・ファルのブリッジにアラート音が鳴り、ピリピリとした緊張感が響き渡ると、さっきまでマオ(女)たちの言動に振り回されていたユーフェミアが近くのコンソールに表示された情報を見る。

 

「ッ! 総員、戦闘配備! ラクシャータさんにミルベルさん、迷彩の出力は?」

 

「ん~? 安定して……いない?」

「この数値は……何か異物のようなモノが接触している?」

「つまり、甲板に何かが付着して迷彩の邪魔をしている?!」

「だが砂嵐も雨も何もない晴天だぞ?!」

「だったらこのデータは何なのさ?!」

「知っていたら聞いていないだろうが、この露出狂!」

「現実主義者ロマンチスト!」

 

 レイラの問いにラクシャータとウィルバーは次第に焦りがヒートアップしていくと、ブリッジのドアが開いてはホクホクする満足げのダルクが入室する。

 

 「ああああ、良い日向ぼっこ日和だねぇ────!」

 

 「「────お前(アンタ)かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!」」

 

「え?! え?! え?! な、なになになになになになになになになに?!」

 

 鬼の形相で攻めよるラクシャータとウィルバーに、いつもは出来事に動じずマイペースでお茶らける(アホの子っぽい)ことが売りのダルクもさすがにタジタジになりながら思わず一歩引いた。

 

「ダルクゥゥゥゥ……」

「これはさすがに駄目だな。」

「『甲板で日向ぼっこ』って……」

「フライパン?! “飛んで火に入る夏の虫”?!」

 

 アリスの呆れ顔、目頭を手で押さえるサンチア、引きつる笑顔のルクレティアに楽しそうなマオ(女)に、レイラたちは複雑な気持ちになった。

 

「総員、準備を。 戦闘は避けて見ますが、いざとなればいつでも出撃できるようにしてください。」

 

 「やっぱここに来て正解だろお前ら!」

 

 レイラの言葉にキラキラするアシュレイの呑気な声に、冷や汗を流すアシュラ隊は今日も振り回されて苦労していた。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 グリンダ騎士団のグランベリーは、先日のシュナイゼルが提案した『紅巾党狩り』のために中華連邦の空を横断していた。

 

「両舷全速前進ヨーソーロー! キャプテン代理のソキア様のお通りだー!」

 

 そして先日、あれだけ落ち込んでいたソキアは夜会の珍味(というか主に人参やポテトで鳥や動物の形をしたデコレーション)に舌鼓を打ちつつ周りの者たちが珍獣のようにソキアにアレよコレよとちやほやされてご機嫌のまま、翌日は夜会で(ソキアの所為で)疲れたマリーベルやシュバルツァー将軍の代わりにグランベリーのブリッジに立っていた。

 

 艦長の帽子の形をしたタオルをかぶって。

 

「な、なんでソキアさんが艦長代理を? シュバルツァー将軍にお嬢様(マリーベル)や、レオンさんやティンクさんの筈じゃ────?」

「────一応『戦略指揮官』の位ではシュバルツァー将軍と殿下(マリーベル)の次はシェルパ卿なの……」

「そしてそのシュバルツァー将軍は頭痛で医務室。 殿下は仮眠中です。」

 

 苦笑いをするトトが同じく苦笑いをしていたエリシアの問いかけに、何とも単純な理由がハイライトの消えたジト目のエリスから返ってくる。

 

「くぉぉぉら、そこぉぉぉ! 聞こえているぞー!」

 

『機関部より通信! “ザ・クラッシャーソキア”は浮遊航空艦もクラッシュ(大破)させるおつもりで?! そうなら一応機関部の皆はパラシュートをすでに着用していますのでご安心を、オーバー!』

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ?! 前回で私のアイたん(機体)、右半身()()大破させていないでしょうが?! オーバー!」

 

 『こちら整備班! 頼みますから“新記録の為にゃー”とか()()言い出さないでくださいよ、オーバー?!』

 

 バイシクル(自転車)の時はスポンサーが“わざとぶっ壊してみろ”って挑戦を振ってきたにゃー! ソキアはそれを買っただけにゃー!」

 

「それで“DURANDAL(スポンサー)のギャンブルのおかげでシェルパ卿は多額の富を得た”という噂が出たのですか……」

 

「「ハァ……」」

 

 グランベリーのブリッジにいた者たちはソキアに振り回されることにため息を出す。

 

 ピッ♪

 

 すると、『レーダーに残影の反応アリ』のアラート音がスピーカーから出る。

 

「うん? エリシアたん、今の何? もしかして旅客機にゃ?」

 

「えっと……いま確認中なの……」

 

「旅客機はないと思いますシェルパ卿。 そのような行き違いがない様に、我々の活動範囲は民間の旅客機が通らない空域の筈です。」

 

「むむむ! と言うことは敵?!」

 

「あ、反応消えました。」

 

「レーダーの機能不良かしら?」

 

「グランベリーのレーダーも、今日の朝からずっと“アクティブで探信音を発射にゃー”で疲れているんでしょう……元々戦闘の間だけに使用する高出力な代物なのに────」

 「────総員、戦闘配備に付いて警戒レベルを上げていつでも戦闘に入れる準備をするにゃ!」

 

「「「え。」」」

 

 ソキアの力強く、かつハッキリとした命令にトト、エリシア、エリスの三人がポカンとする。

 

「あ、はい! 伝達します────!」

「────シェルパ卿、一応確認ですが戦闘の警戒ですね────?!」

「────そうよ────!」

「────一応報告の為に、先ほどの反応が根拠でしょうか────?!」

 「────それと“何かある”と感じる! 私のウァテスシステムがそう告げている!」

 

「……つまりは“勘”と言う事ですよね?」

 

 「そうとも言うね、トトちゃん! 文句があるのなら『モフモフの刑』に処するよ?!」

 

 「それで将軍と殿下に迷惑をかけるなんて……」

 「まぁ責任はシェルパ卿が取ってくれるでしょう。」

 

 これにより、グランベリーは艦長代理のソキアの『ウァテスシステム(本能による勘)』を根拠に出した発令によって戦闘レベルを上げることとなる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ブリタニア島のハレースタジアムは『タレイランの翼』のテロとブラックリベリオン前から少々不人気気味になったとは言え、ペンドラゴンの良い金ヅル娯楽施設なので早急な復旧作業が続き、その作業もほとんど終わっていた。

 

 スタジアムの近くにある駐屯地から、仮装パーティなどで見るような仮面とマント(ケープ?)のようなものを付けたとある男が満足げに出ては歩いていた。

 

 そんな少々(?)不気味な男を基地の兵士が奇怪なモノを見るような目で見送るのを、横の兵士が気付いては小声で話しかける。

 

 「おい、そんなにジロジロ見るなよ。 目が合ったらどうする?」

 「どこの神話怪物ですか、それ?」

 「『機密情報局』というヤツだ。」

「あ、あれが?! ……なんだか思っていたのと違う。

 「同感だ。」

 

「……ふん。」

 

 兵士たちの小声は仮装パーティ男の耳に届いていたが、鼻で笑いながら気に留めずただ歩く。

 

「(凡骨どもが。 他人の見た目がどうこう言う前に、その形式の見回りやずぼらな警備体制を見直したらどうだ? まさか帝都近くのここにテロが起きるとは……やはり()()()()どもは駆除すべきだな────)────ん?」

 

 仮装パーティ男は自分に向けられる数多の視線の中で、『監視』に似た感じに立ち止まる。

 

「(この視線、時折EUとユーロ・ブリタニアで感じた同じもの……やはり教団か。 だがまぁいい。 貴様と違って、私の標的抹殺の任はブリタニア帝国から了承を得ているモノだ。 コソコソと、せいぜい犬のように嗅ぎまわっているがいい。 そしてこの私の活躍をせいぜい報告しろ! この、キューエル・ソレイシィの!)」

 

 仮装パーティ男────キューエルはほくそ笑みながら、港方面へと再び歩きだす。

 

「……」

 

 そんなキューエルの様子を、遠くから双眼鏡で見ていたのは肩まで伸ばした銀髪の()()だった。

 

『“ライ”、か?』*1

 

「(……あれはもしかして、ボクのことか? いや、今は任務に専念しなくては。)」

*1
77話より




((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

尚余談ですが『ここすき機能』があることに今更ながら気付いた作者でした。 (;´ω`)


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第154話 我、敵部隊ト交戦ス

お待たせしました、勢いで書いた次話です!

描写に少々の不安を感じていますが、楽しんで頂ければ幸いです!


「んお? 選手交た────」

「────状況は?」

 

 頭痛を無理やり薬で抑えたシュバルツァー将軍が、早歩きでグランベリーのブリッジに到着して開口一番でソキアの言葉を遮る。

 

「先ほど、レーダーに反応がありました。」

「その反応はすぐ消えましたけど、艦長代理のシェルパ卿が戦闘配置の命を出しました。」

 

「ちょちょちょちょ~?!」

 

 エリス、そしてトトの無慈悲な事実の宣言にソキアは冷や汗を掻くが、シュバルツァー将軍はそれどころではなかった。

 

「……………… (『紅巾党狩り』とはいえ、中華連邦は我々を本気で宛てにはしておらんだろうし、何より我々が功績を上げたらブリタニアに更なる借りを作ることになる。 よって『紅巾党』とやらとは違う場所に送っている筈……こんな辺鄙な場所に反応があるという事は────)」

「────戦闘準備、撤回します────?」

「────いや、このまま続行だ。 シェルパ卿もサザーランド・アイに騎乗し、ウァテスシステムを作動しろ。」

 

「???? りょ、了解です?!」

 

 てっきり叱られると思っていたソキアはこの場から離れられることに安堵しながらマリーベルが出てきたエレベーターに駆け込み、格納庫のボタンを扉が閉まるまで連打する。

 

「……将軍────」

「────姫様、お休みのところ申し訳ございません。 ですが────」

「────『敵』、なのですね?」

 

 マリーベルはスクリーン内に広がる、その景色だけからはとても『敵』が居るとは思えない広大で、人の手が殆んど手が付けられていないような荒野の自然を見渡す。

 

「ハッ、その可能性が高いかと。」

 

「ソキアは────?」

「────既にサザーランド・アイに騎乗し、作動するように言い渡しております。 やはり姫様の思惑通り、シェルパ卿は人一倍敏感な感性をお持ちですな。」

 

「でしょう? そのおかげで、一時期は怯えていましたが……反応が出たのはどこです?」

 

「反応が最後に出た座標を、スクリーンに出します。」

 

 スクリーンに情報が重ねられると────

 

 「────()()()()()、だと?」

 

 シュバルツァー将軍がボソリと言ったように、ぼんやりとしたレーダーの反応は地面から離れていた。

 

 これを見たマリーベルは黙り込んだまま考えを巡らせる。

 

「(これで考えられる可能性は────)」

 

 ……

 …

 

 

「────総員、対ショック用意を。」

 

 リア・ファルの中にいたレイラが静かにそう告げながら席に座り込んでシートベルトを着用すると、ブリッジに残った者たちも近くの席に座って同じくシートベルトをする。

 

「敵は恐らく違和感(反応)のあった場所に偵察機、あるいは艦砲射撃を行うでしょう……ミルベル博士はどう思います?」

 

「……私も敵なら、そうするだろうな。」

 

 さっきまでダルクに正座を強いては『自分はダメな子です』と書かれたプラカードを無理やり手渡していたウィルバーは、レイラに話しを振られると真剣な表情になってレイラに同意する。

 

「何せこのような開けた場所だ。 皮肉な話だが、人的被害もほぼなく自分たちにリスクが少ないのなら躊躇なく撃てる。 最悪『何もない』か、『何か出る』かだからな。」

 

 原作で彼は『タレイランの翼』を結成するだけでなく、用意周到な『打倒シャルル計画』に殆どの者たちが気付かなかった戦略を練ったのは伊達ではなく、戦略家と指揮官としての能力もそこそこある。

 

「ラクシャータさん、リア・ファルの推進力はこれ以上出ませんか?」

 

「んー、出せないことは無いけれど、キャパオーバーになるからメイク(迷彩)を落とす必要があるわよ?」

 

露出狂(ラクシャータ)がスヴェン君の提出した『原子力』の開発を進めていれば────」

「────感動しつつも、想定された破壊力に気圧されて慎重になった中途半端野郎(現実主義ロマンチスト)に言われたかないわね。」

 

「「…………………………」」

 

「ではサラ、迷彩を維持しつつ高度を()()()ください」

 

 ピリピリとした空気がウィルバーとラクシャータの間から発せられてブリッジの者たちは冷や冷やするが、レイラは無視して次の指示を出してはユーフェミアがハテナマークを出す。

 

「高度を下げて潜むのではなく、上げるのですか?」

 

「ええ。 何故なら────」

 

 ……

 …

 

「────この荒野では身を潜めるところが他に無いからです。 ですので、私が敵であればグランベリーより高い場所に移動したいと思っているでしょうね。」

 

「ですが姫様(マリーベル)、敵が浮遊航空艦と決まった訳では……」

 

 グランベリーに乗っていたマリーベルの早まったような言葉に、シュバルツァー将軍が議論の言を並べる。

 

「それに他国が真似をするにもいささか早すぎる気がします────」

「────いいえ。 グリンダ騎士団より以前に、お兄様がエリア11でアヴァロンの脅威を『フクオカの乱』で大々的に披露しています。 それに、『可能性が低い』だけであり『不可能』ではないと想定して動くべきでしょう。 

 ですので、『見えない』のであらば『見える』ようにすればいいだけのこと。 グランベリーの単装砲とティンクのゼットランドで反応が出た場所を広範囲に、一斉砲火の準備が出来次第、至急撃ってください。」

 

 ……

 …

 

「ラクシャータさん、本艦のブレイズルミナスは迷彩を上げたままどの程度の攻撃が防げますか?」

 

「そうねぇ……アンタ(EU)のところで使っている、高射砲(対空砲火用パンツァー・フンメル)の直撃が数発あっても何ともないわね。 流石に受け続けるとヤバいけれどね。」

 

「敵艦より動きあり! 砲撃、7時の方向へ飛来! 来ます!」

 

「ッ。 総員、ショックに備えよ!」

 

 ドッ

 

 グランベリーとゼットランドの迎撃ミサイルの幅広い砲撃が着弾して、荒野の地面を深く抉っては爆風で土煙が巻き上がっては嵐のように荒れ、上昇中だったレイラたちの船内を震わせる。

 

「ひゃあ?!」

 

「資料よりかなり威力が増している、流石は皇女用の航空艦と言う訳か?!」

 

 ユーフェミアは思わず揺れるブリッジに声を上げては手放したピンクちゃんがコロコロと転がり、ウィルバーは妻のサリアの身体を支える。

 

「けど直撃は無いんだから、問題はないわ。」

 

 ラクシャータは平常運転気味の軽~い感じのまま、迷彩とブレイズルミナスの状態を表示するコンソールを涼しく見ていた。

 

「……ラクシャータさん、ブレイズルミナスへの出力を最大まで上げてください!」

 

 だが逆にレイラは何かに気付いたかのように、ハッとして血相を変えながら上記を叫ぶ。

 

 ……

 …

 

「砲撃完了しました。」

 

「カメラを拡大化しつつ、第二斉射の準備を。」

 

 グランベリーのブリッジに立っていたシュバルツァー将軍の報告にマリーベルは満足することなく、次の指示を出す。

 

「こ、これは?!」

「うおぉぉぉ。」

「なるほど、流石は殿下です。」

 

 シュバルツァー将軍だけでなく、エリシアやトトたちは感心するような声を出しながらスクリーンを見る。

 そこに映っていたのは先ほどの砲撃で巻き上がった土煙が『見えない何か』に防がれたのか、あるいは付着した『形をした何か』だった。

 

「グランベリーの砲とゼットランドの照準を敵に合わせ次第、砲撃開始。」

 

「敵に、所属の通信は────?」

「────私たちの攻撃から未だに身を潜めているからには、ブリタニアの船ではないことは明らか。 もしそうであったとしても、何か後ろめたい目的で動いている時点で敵です。 総員、戦闘準備を。」

 

 ……

 …

 

「敵の次弾、来ます! 今度は直撃コースです!」

「各機体の発艦準備はまだか?!」

「船の副砲で弾幕を上げ、通信をナイトメア部隊に繋げてください!」

 

 襲う砲撃の振動に耐えながらオリビアは報告を続け、ウィルバーはナイトメアの出撃具合を聞き、レイラは反撃の指示を出す。

 

「ちょっと~?! どうしてこっちの場所がわかるのよ?!」

 

 そして先の者たちと違い、ラクシャータは疑問を上げる。

 

「えっと、さっきの砲撃の所為ではないかしら?」

 

「あ? どう言う意味よ皇女殿下サマ(ユーフェミア)?」

 

「ラクシャータさん、確かに先の砲撃は『私たちをあぶりだす』ためです。 迷彩を無効化する為に。」

 

「直撃は無かったじゃないの────!」

「────恐らく、土やほこりなどの付着具合から、リア・ファルの形を予測して狙いを付けているのでしょう!」

 

「う~ん……そりゃマズイね。 この船、急造艦だから未完成なんだけれど────」

「────策はあります。」

 

「……アンタ、ゼロに似ているわね?」

 

「いいえ。 私はただ敵との接触後の想定は、要因が多すぎるので方針だけを絞り込み、やれることをしているにすぎません。」*1

 

 レイラはコンソールのボタン押し、ナイトメア部隊に繋げる。

 

「ダルクに、名誉挽回の機会を与えます────」

 

 ……

 …

 

「────おかしい……」

 

「姫様? どうしたのです?」

 

 グランベリーにいたマリーベルの独り言に、シュバルツァー将軍が彼女の方を見る。

 

「反撃に、違和感が────」

「────敵は恐らく、『フロートシステム』と『姿を隠す』技術に重点を置いて、武装はその次なのでしょう。 このまま敵を疲労させ、ナイトメア部隊に制圧し────」

 

 ────ドッ

 ビィィィィィィィィィィ

 

「ぬお────?!」

「きゃ────?!」

「なの────?!」

 

 重い音と共にグランベリーのブリッジが酷い揺れに襲われ、転びそうになるマリーベルをシュバルツァー将軍が手を取って支えて、被弾を知らせるアラーム音が響き渡る。

 

「(グッ、古傷()が!) 状況報告!」

 

「グランベリーの機関部に被弾、火災発生!」

 

「ミサイルか?! なぜ事前に感知出来なかった?!」

 

「……ミサイルではありません! 第一報告によると、敵はどうやら銛状の物体を()()した模様です!」

 

「「「「………………………………は?」」」」

 

 シュバルツァー将軍はエリス達オペレーターに怒鳴ると、グランベリー内に突き刺さったオブジェを目撃した乗組員からの通信を伝えるエリスの言葉に呆気に取られる。

 

 まさか敵が推進装置のついていない武装を使うなど思ってもいないので、無理はないだろう。

 

「ッ。 ブレイズルミナスを展開し、ブラッドフォードとグレイルを連結させたグレイル・エアキャヴァルリーで敵艦の背後へ回し、注意を逸らしてください!」

 

 ……

 …

 

「敵は恐らく、(ブレイズルミナス)を起動させながら、高速移動できるユニットでこちらの側面を襲って来ると思われます。」

 

「そうか、ならば恐らくブラッドフォードが出てくるだろう。 こちらも迎撃にナイトメアを出すと……いや、私自身も出よう。」

 

「ブラッドフォード……確かアンタがシュタイナー・コンツェルンで設計していたヤツだね?」

 

「え?! だ、大丈夫なのですか?」

 

 レイラとウィルバーが着々と反撃の戦略を語り合う横で、ラクシャータの言ったことにユーフェミアが反応する。

 

「心配ない。 いくら私が去った後に開発と調整を独自に続けようとも、基本はそう簡単に変えられない。」

 

「では、ミルベル博士に頼めますか?」

 

「ナイトメア部隊の指揮を一時預かる。 方針はやはり、()()で当たっているのだろうか?」

 

「ええ、こちらも博士の動きに合わせます。」

 

「ではサリア、行ってくる。」

 

「ダルク、そしてナイトメア部隊の皆さん……これからはミルベル博士の指示に従ってください。」

 

 ……

 …

 

 グランベリーから発艦したフォートレスモードのブラッドフォードに背後をドッキングさせたグレイル────『グレイル・エアキャヴァルリー』が、展開されたブレイズルミナスの死角から、ぼんやりと姿を現したリア・ファルへと向かう。

 

『大きい……』

『グランベリーとほぼ変わらない大きさの浮遊航空艦とは……どこの国が作ったのでしょう?』

『レオン、それよりも今はマリーたちに被害が及ばないように派手に行くわ!』

『了解です、オズ! ハドロンスピアーが使えなくとも、それだけがブラッドフォードではありません!』

『ッ……ファクトスフィアに反応、敵は……一機?!』

『こちらも捉え……早い?!』

 

 オルドリンとレオンハルトの画面に、リア・ファルがいると思われる空域からでてくる反応に目を見開く。

 

 グレイル・エアキャヴァルリーはその状態から高出力の音速機動戦を行えるのが特徴であるが、彼らが捉えた敵の反応もそれに負けないほどの速度で攻め寄っていた。

 

「やはり、ブラッドフォード! 最終調整を行えるとなると、相手はマリーカ君かレオンハルト君か……」

 

『貴方の元でテストパイロットをやっていた人? ……戦えるの?』

 

「心配ご無用だアリス君。 “殺せ”というのなら無理だろうが、“時間稼ぎ”ならばどうとでもなる。 私の『翼』を信じろ。」

 

『私が信じるのは、アンタを信じる彼よ。』

 

「ならその信頼に応えてみせよう、『イカロス』で!」

 

『イカロス』、それは原作の『オズ』でミルベル博士が掲げた『天空騎士団構想』を元に開発されたナイトギガフォートレスの名称である。

 

 正式な形式と名称はFFB-02『サザーランド・イカロス』と呼ばれ、単機でブリタニアのペンドラゴンに奇襲をかけても計画が成功させる自信をウィルバーに持たせるほどの、高機動と重火力を両立させた機体で()()()

 

 過去形である。

 

 今作では、ミルベル博士がタレイランの翼に関わっていないことと、アマルガムという組織と人材に巡り合ったことで、サザーランド・イカロスは別の形で姿を現し、『オズ』では死闘と奇襲の末に撃沈されたグレイル・エアキャヴァルリーと五分以上の激しいドッグファイトを繰り広げていた。

 

『レオン!』

 

 オルドリンは先ほどから激しく揺れながらエラー音を出す各アラームにハラハラドキドキしながら、今のグレイル・エアキャヴァルリーの命運を握っているレオンハルトの名を呼ぶ。

 

『────口を閉じてくださいオズ、舌を噛みますよ! (このスプリットSからのシャンデルターンは────!)』

『(────私のシャンデルターンに対して、スライスバックからローヨーヨーのマニューバ────!)』

『『────ウィルバー主任/レオンハルト君か!』』

 

 数度の攻防でレオンハルトとウィルバーは互いの正体に気付いてからも、血の流れが逆流する寸前ギリギリの空中戦闘機動を続けながら、()()()周波数に個人の直通回線に繋げていく。

 

『ウィルバー主任ですね!』

 

『やはりレオンハルト君か!』

 

『何故シュタイナー・コンツェルンを辞任された貴方が、ここにいるのです?!』

 

『今のブリタニア帝国は一部の者が支配して民衆に意思を押し付け、他者を平然と弾圧することで反感を買いすぎている! 君たちグリンダ騎士団は、そんな帝国の火種を消火しているだけだ! 私はそれとは違う道を歩もうとしているだけだ!』

 

『僕たちグリンダ騎士団はその反感の被害が、無関係な民衆に向けられた場合にのみ鎮圧をしています! だったら────!』

『────ならば過ちを犯す前に、その“力の行使後”を見極めてから振るいたまえ! 今の君たちは、“事後処理”を押し付けられているだけに過ぎない!』

 

『武装組織に鞍替えした主任のそれは詭弁だ! “テロだ”、“レジスタンスだ”と騒ぐ者たちと何ら変わりはない!』

 

『今の帝国が示す方針では、君たちグリンダ騎士団の行動で救った命よりいずれは殺す命の数が多くなり、いずれ限界が来る! そして帝国内は、敷かれたレールに乗ったままでは変えられないのだ!』

 

 レオンハルトとウィルバーの議論と攻防が続く中で、グレイルも決して『只のエナジー補給コンテナ化』はしていなかった。

 

『レオン、行きます!』

 

 グレイルは機を見てから連結を切り離しては()()()()になっていたサザーランド・イカロスの背中にとりついて、腕部に装備されたソードブレイザーを────

 

 ────ガイィィン

 

『させないわよ!』

『敵?!』

 

 グレイルのソードブレイザーを、サザーランド・イカロスの両舷に付いていたコンテナ内部からビックリ箱のように出てきたガニメデ・コンセプト(アリス機)バスター(マイクロ波誘導加熱システム)ソードが弾く。

 

 アリスのガニメデ・コンセプトとオルドリンのグレイルは荒ぶるイカロスの背中の上で、肉眼がギリギリ追える速度の白兵戦を行う。

 

「(この剣術、“流石はジヴォン家”と言ったところかしら!)」

「(このスピード、まるでエニアグラム卿を相手にしているようだわ!)」

 

 グレイルのシュロッター鋼製の剣とガニメデ・コンセプトのバスターソードにヒビが入ると、両者はそれを投げつけ、新たな得物を取り出す。

 

 ウィルバーの急激な機動戦でグレイルは振り落とされても自分を追うガニメデ・コンセプトを空中でいなし、お互いの機体はイカロスとブラッドフォードの背中に乗ってはまたも攻防を繰り返す。

 

 千日手の攻防が続き、これらをリア・ファルとグランベリーの中から見ていたオペレーターたちは、息をすることも忘れてしまうほどの空中戦に魅入られていた。

 

「……頃合いですわね。」

「そうですな。」

 

 そんなとき、マリーベルの残念そうな声と彼女に同意するシュバルツァー将軍の言葉に、グランベリーの者たちはハテナマークを頭上に浮かばせる。

 

「トト、レオンたちに帰還の命令を出してください。」

 

「え? あ、はい!」

 

「私としたことが……まさか大局を見失うとは、情けない……」

 

「いいえ。 私でさえ知らずの内に乗せられていましたので、今回ばかりは“敵が一枚上手だった”という事でしょう。」

 

 ……

 …

 

「敵は恐らく、ナイトメアを退かせるでしょう。」

 

 リア・ファルに居たレイラの言葉に、ユーフェミアが他の皆の疑問を代理するように思わず口を開ける。

 

「ど、どうしてそう言えるのです?」

 

「彼らは優秀です、とても。 ですが優秀故に、()()()()()()()()をここで自らに課せることなどしないでしょう。」

 

「“目的のない消耗戦”?」

 

「ええ。 彼らグリンダ騎士団がここにいるのは『紅巾党狩り』、及びブリタニアの軍事力の誇示とアピールの為です。」

 

「だったら尚更、私たちの様な所属不明艦を殲滅するんじゃないの?」

 

「それです、ラクシャータさん。 『紅巾党』の大部分は、不平不満を中華連邦に持った駐留軍。 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()のを前提に、彼らは中華連邦内の遠征を帝国宰相が認めています。」

 

「……あ?! じゃあ、さっきのダルクちゃんに一本だけ投げさせたのは────?!」

「────ええ。 ユーフェミアさんの思っているように“我々も貴方たちに打撃を与えられます”とアピールしつつ、我々が危険空域から離れられるまでミルベル博士たちに注意が行くように仕向けました。

 我々の勝利条件は『敵艦に勝つ』ことではなく『逃げる』ことです。 対して相手のグリンダ騎士団は『無事に紅巾党狩りを手助けした』事実です。

 こんなに早く、特に『正体不明の敵』相手に消耗しては、スポンサーである帝国宰相に対して格好がつかなくなります。 その為に機動力が一番高い、博士とアリスを迎撃に向かわせました。」

 

 レイラの説明にある者は感心の目を向け、ある者は納得し、またとあるモノは『ほへー』と呆けていた。

 

「(フゥー……やはり疲れますね。)」

 

 レイラ本人は、急遽自分の考えた戦略が上手く行ったことに安堵しながらも、ドッと出た疲れから椅子の背もたれに体を預け、ヴァイスボルフ城で頬張った茶菓子が無性に食べたくなっていた。

 

 ()が淹れた紅茶と共に。

 

「(……もしや、これもシュバールさんの思惑通りなのかしら?)」

 

 そんなことは全くないのである。

 そしてスバルからの連絡が届いたのは、無事に敵から離脱したイカロスとアリスのガニメデ・コンセプトが遠くへ逃げたリア・ファルと合流した後とも、ここで追記しておこう。

*1
103話より




余談ですが、『艦隊戦』と『進出ス!』+他を聞きながら書いたものでした。 (;´ω`)

後書きのプチメモ:

『サザーランド・イカロス』。 航空系軍事企業シュタイナーコンツェルンで開発された空戦用機で、サザーランドをコアユニットとして起動する準KGF。
あとにデザインはR2のサザーランド・ジークに応用された、とも。
原作の『オズ』では単独行動可能な爆撃機として出ているが、今作では大幅な魔改造が施されている。

ウィルバー:魔改造? 『改良』と呼びたまえ。
作者:『イカロスとブラッドーフォードが可変型高機動機体のようだ』? Ha,ha,ha、気のせいだよジョージィ。
スバル:ドーナツの可変型MSだよ♪


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第155話 我、敵部隊ト交戦ス2

少し長めで急展開の次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! (シ_ _)シ


 グランベリーとの思わぬ接触をしてしまったアマルガムの船リア・ファルは離脱し終えてから迷彩を再び展開し、ウィルバーとアリスの機体を回収したのちに高度を上げながら移動を再開していた。

 

『甲板の異物除外』を(今度こそ)徹底させて。

 

「……」

 

 艦長室内にいたレイラは静かに先ほどの()()接触に関して思うところがあるのか、事が収まってからはラクシャータたちの起こす(プチ)勝利祝いには参加せずただ先の戦闘に関するデータの見直しをしていた。

 

「(『痛み分け』……と呼べないほどの損害や消耗が出なかったものの、これは明らかな不注意による『思わぬ接触』からの『遭遇戦』……ここまでは良いかもしれませんが、我々の事を明かしたことが痛恨のミスですね。)」

 

 レイラは曲がりなりにも正規軍、それも『ブリタニアの最新精鋭』を相手にしたことを考えればかなり最善の結果を出したと言っても過言ではないのだが、彼女は自省していた。

 

「(そもそも『光学迷彩』などという大掛かりな技術を搭載した艦に、『敵拠点の索敵』を頼んだ時点で気付くべきでした……)」

 

 レイラは椅子の背もたれに身を預けながら天井を見上げ、以前にヴァイスボルフ城で毒島との会話を思い出す。*1

 

「私もまだまだ、ですね。」

 

 ピピッ♪

 

 机上にあるコンソールに通信が入り、レイラが了承すると技術者の忍耐力なのか(あるいは流石と言うべきか)先ほどナイトメアで高機動戦をしてもレイラの代わりに艦長代理を務めているウィルバーの顔が映る。

 

『レイラ君、疲れているところ申し訳ないが良いかね?』

 

「大丈夫です。 博士の方が負担も大きいでしょうに……」

 

『なに、先ほどの戦闘は軽いジョスト(小競り合い)の様なものだし……艦長としては初陣だったのだろう? 見事な手腕だったよ。』

 

「……」

 

『それと、スヴェン君から通信が君宛に来ているのだが繋げても良いかい?』

 

「……お願いします。」

 

 ……

 …

 

「フゥ。」

 

 勝利祝いに大多数の者たちが参加、あるいは無理やり引きずられて人気が無くなったブリッジにポツンと立っているウィルバーは小さくため息を出す。

 

「(早速グリンダ騎士団と一戦交えて堪えているか。 彼我の、背景にいる戦力差を考えれば上等なものだが……相手がレオンハルト君だったことで私も()()熱くなってしまったのもあるし────)」

「────ッ。」

 

 ウィルバーは先ほどから自分に視線を送る人物に振り返ると、何かがサッと身を隠すのを辛うじて捉える。

 

「(となると、私とサリアを保護した目的にも『年長者』としての役割も含まれているのだろうな。) そろそろ出てきたらどうだね、アリス君?」

 

 ギクッ。

 

「……………………に、ニャ~────」

「────レイラ君のエリザ()が出す鳴き声は“ミィー”だ。」

 

「「………………………………………………」」

 

 物陰から、気まずい様子のアリスがトボトボとした足取りで姿を現す。

 

「いつから気付いていたの?」

 

「ん? 艦に戻ってからの君の様子が変だったのと、姿が見えないのに視線を感じていた時からかな? 大丈夫、私は誰にも言っていないしあの通信は機体同士の直通回線だったから外部に漏れることは無いよ?」

 

「う。」

 

 ウィルバーのニコニコとする顔に、アリスはタジタジしながら思い出してしまう。

 ウィルバーの知り合いが敵にいると知って、彼に様子を窺ったキャッチボールの様なやり取りの中で思わず口にしたことを。

 

 ウィルバーの『私の翼を信じろ』に対し、アリスの『私が信じるのは、アンタ(ウィルバー)を信じる────』

 

 ────カァァァァァァァァァ。

 

「(うわ?! うわ?! うわぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

 アリスの顔は一瞬で赤くなるのを肌で感じては思わず顔を覆いながら今にでも穴を掘って埋まりたいような勢いでしゃがみ込んで頭を膝の間に隠し、これを見たウィルバーは微笑ましい笑みを浮かべた。

 

「(若いな~。)」

 

 余談だがウィルバー自身、まだ(ギリギリ)20代なので若いと言えば若いのだがアリスのこの初々しい反応に年上の者としての心構えをくすぐられた。

 

「(なんで私はあんなことをヲヲををヲヲをおぉぉぉぉぉぉぉ?!)」

 

 アリスと言えばそんなウィルバーを気にしていられる余裕はなく、一人で悶えていたそうな。

 

「(そもそもアイツはああああ゛あ゛あああ゛あ゛あ?!)」

 

「(う~ん、サリア()と私に娘が出来たらこんな感じなのかな?)」

 

 ようやくジタバタし始めるアリスをウィルバーは見て、内心ホクホクしたそうな。

 

 

 


 

 

 (スバル)は中華連邦のぽつぽつとした村などを、『旅商人』を装って立ち寄りながら大地を横断するトレーラーに乗っている。

 

『またか?』と思うかもしれないが敢えて前振りをさせてくれ。

 

「それでグリンダ騎士団のグランベリーと遭遇し、交戦したと?」

 

『ハイ。』

 

 キリキリキリキリキリキリキリ。

 

 無線機からレイラの無意識で無慈悲な返事に最近は落ち着いていた胃から痛みが走る。

 

 というか何でこのタイミングで出会うの?!

 

「なるほど……それで、どうだった?」

 

 一戦交えて、被害とかがどうかありませんように!!!

 

『そうですね……今回は実戦経験が少ないことと、彼らが置かれている状況を逆手に取って注意を逸らしながら無事に離脱出来ましたが……相手は優秀です、同じ策はもう一度使えないかと。』

 

「……………………」

 

 それで被害は?! 損害は?!

 誰も捕獲されていない?!

 続きは?!

 

「そうか……無事か?」

 

 今にも叫びたい、様々な疑問が浮かび上がるが口下手な俺からは短い言葉が発せられる。

 ちくせう。

 

『はい、皆さん無事です。 サエコは未だに気分がすぐれないようですが……』

 

 “気分がすぐれない”? あの毒島が?

 どゆこと?

 

『少々意外ですが、彼女の空への順応が低く────』

 

 ちょっと待て“空への順応が”ってどう言う意味?

 ナニソレ?

 

「……」

 

 俺は静かに目頭を押さえたい衝動を抑えながら────いや、もうぶっちゃけよう。

 

 “俺は呆けていた”、と。

 

『申し訳ないです……せっかくの隠密行動の方針の頼みを、こうも早く発見されてしまうだけでなく情報も────』

「────いや、それは問題ではない。」

 

『え?』

 

「そもそも情報などはいずれ漏れてしまう、特にそれが大きければ大きいほど隠蔽は困難を極める。 むしろ損害と被害がほとんどないことは称賛に値する。 よくやった、()()()。」

 

『ッ……ありがとうございます。』

 

 いや、何その『キョトンとしてからの頬を赤らませた+誇らしい微笑』は?

 

 超可愛いというか抜群の破壊力でマイハートがブレイクしそうだけれどさ。

 

 俺ってば当たり前のことしか言っていないからねレイラ?

 

 何せ、ブリタニアの最新鋭の技術満載であるグリンダ騎士団に、ルルーシュレベルの頭脳を持っているマリーベル、最新艦のグランベリーと『オズ』ではグレイル・エアキャヴァルリー(レオンハルトたち)に負けたミルベル博士が辛勝しただなんて……割と『凄いぞ、スゲェぜ』だぜ?

 

 正直このようなことの為にレイラとwZERO部隊を調略した俺だが……

 初の成果が凄すぎてどう反応したらいいのか単純にわからんぜよ。

 

こういう時でも動じないのがちょっと逞しいというか、不気味というか……頼もしいというか……

 

 「スバル様ですから。」

 

 「……ふーん。」

 

 裏でアンジュたちが何か言って、ミス・エックスなんかからは値踏みする視線が送られているが今はどうでも良い。

 

 問題は先ほどの“空への順応が~”という言葉だ。

 

 それってつまり……『アレ』だよな?

 俺が以前にラクシャータに頼んでおいたフロートシステム&ユニットの事だよな?

 

 ……………………え?

 もしかして、なんだ?

 毒島はフロートシステム(ユニット?)を搭載した機体(のシミュレーター?)か何かで『気分が悪くなった』とか言いたいのか?

 

 え?

 え?

 

『それにしてもこのような事態の報告を聞いても動じない姿を見ると、シュバールさんはこれも見越していたのですね……光学迷彩を搭載させた艦など、とても想像が……

 

 ……………………………………………………………………………………はい?

 イマ、ナントイッタ?

 ナントセイケン?

 ナントスイチョウケン?

 ()()()スフィール?

 

 いや、それはミレイ(中の人繋がり)の方だろう。

 

 せや! 『レイ』と『ミレイ』で日向兄弟(ダジャレ)が出来るじゃないか!

 ワイ天才! ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

 

 ……………………うん、ちょっと落ち着こうか俺?

 

 “原作知識”と言うか俺も想定外の連続だよこれは?

 連続の『オーマイガッ?!』で放心しつつも長年維持してきたポーカーフェイスをかぶっているだけだからね?

 

『それで、シュバールさんたちも私たちのいる場所に向かっているのでしょうか?』

 

「それが……」

 

 ビクッ。

 

 俺が振り返ると、ガタイのいいガナバディの後ろに身を潜める褐色インド少女が『キルロイ参上』のごとく俺の視線にタジタジと見返す。

 

「こちらはピースマークの『ある者の護送の次いで』として共に旅をしている身だ。」

 

 チラッ。

 ビクッ。

 

 俺がまた視線を移すと褐色インド少女がビクつきながら、身を隠してこちらの様子をかの『キルロイ参上』のように窺う。

 

 この褐色インド風少女、名を『ネーハ・シャンカール』と言って元々は飛び級でEUの総合工科大学に入学しては『次世代KMFのOS』の論文を出し、EUとブリタニアの双方から評価されたことが災いしてどちらの国からも()()()な誘いを受けていた。

 

 彼女自身にはなんの後ろ盾もない一般人なので『誘拐&軟禁』、あるいは『幽閉』からの『搾取』とも呼べる()()の類だが。

 

 それ等から逃げる為に、彼女はピースマークにラクシャータの居る場所への護送を頼んでいる。

 

 ここで『意外な接点だなぁ』、あるいは『ああ、インド繋がりかぁ』と思うかもしれないが実はそうでもない。

 

 以前、ルルーシュがゼロとしてラクシャータと会う時の“医療サイバネティック関係の記事を~*2”と言っていたのを覚えているだろうか?

 

 それこそ、このネーハの事である。

 

 幼少の頃にネーハは戦争の所為で両足を失ってしまい、まだほぼ無名の医者であったラクシャータのおかげでコードギアスの世界では初となる、『人工と自然神経の縫合の成功例』としたサクセスストーリーの対象だった。

 

 多分、ルルーシュはナナリーの状況(不自由)が『これで改善されるのではないか?』と興味を持ったのだろうが……ネーハの状態とナナリーの状態はかなり違うので、断念したのだろう。

 

 とまぁ……その経歴もあってかネーハはラクシャータに憧れ、今では医療やサイバネティクスに没頭しては身柄を狙われてどこにいるのかわからなくなったラクシャータを頼るためにピースマークに依頼をした。

 つまり元々中華連邦にいるとされる黒の騎士団の亡命先に移動するところに、俺やアンジュたちは『次いで』として同行している形だ。

 

 何ともまぁ、『渡りに船』というか……『めぐり合い』というか……『繋がり』というか────

 

『────あら? アンタは確か────』

「────あ、ラクシャータ先生!」

 

 ラクシャータがレイラの横からのぞき込んでいる。

 NANDESOKONIIRUNO(何でそこにいるの)ラクちゃん*3

 *注*予想外の連続ハプニングによって語彙(変換)力低下

 

 ラクシャータの姿を見たことで、ネーハは咲く花のように一気に明るくなってはとても義足とは思えない早歩きでスクリーンに駆け寄っては俺の横に座る。

 

 さっきまでの『小鹿のように足プルプル人見知り感MAX』の様子が嘘のようでゴザル。

 

「ご無沙汰しております先生!」

 

『あー、思い出したわ! ネーハね! 久しぶりだねぇ~、元気だったかい? 足の調子はどうだい?』

 

「はい、おかげさまで今日も歩いています!」

 

 ネーハってこんなにパワフルな子だっけ?

 イメージと『オズ』のSIDE:オルフェウス描写からかけ離れているのだが?

 

「先生は今、どこに────?」

『────そこの面白いの(スバル)が以前から頼んでいた()()艦にいるけど?』

 

 NANNDESUTO(なんですと)

 

「「「………………………………………………」」」

 

 俺に突き刺さる、周りの視線、ゲロ吐きそう。

 

 ってちょっと待ってぇぇぇぇぇい!

 今『浮遊艦』って言わなかったか、こいつ(ラクシャータ)?!

 

 え?

『艦』ってさっきレイラが言ったからてっきり『亡国のアキト』や『R2』や『アニメ一期』で見た陸上戦艦だと思っていたのだが?

 

 ゑ?

 

『まぁ、試運転にしちゃ結構いいんじゃないかしら?』

 

 そんな『浮遊航空艦の試運転でギアス嚮団のアジトを探していたらグリンダ騎士団と一戦しちゃったよてへぺろ☆』みたいに言われても……

 

 いや、ポジティブに考えよう。

 

 でないとマジ吐く。

 

 さて、ここにラクシャータに保護を求めているネーハがいます。

 そしてラクシャータは何故か浮遊k────

 ────キリキリキリキリキリ────

 ────レイラたちといる。

 

 つまりは『1+1=2』だ。

 

「ミス・エックス────」

「────はいはい、彼女をラクシャータ博士の元に送り届けるのがピースマークの受けた依頼だからね。 それにこれで見極m────

 『────ハロー、スバル────!』

『────あ、ピンクちゃん邪魔しちゃダメです────!』

 ────ドキーン

 

 ミス・エックスに『どうせならこのまま合流しちゃおうze☆』と俺が言い終える前に、向こう側(レイラサイド)から聞こえてきた声に心臓が跳ねる。

 

『浮遊航空艦』と『ラクちゃん』と『我グリンダ騎士団ト遭遇ス』だけでもハートアタック(心臓発作)モノなのに『ポヤポヤ天然ピンクヘアー皇女(ユーフェミア)』もいると?

 

 そろそろ吐いていいガネ?

 

 「ゑ。」

 

 ん?

 隣から変な声が出たような────

 

「────何でしょうか?」

 

 違和感を持ちながらも、声がしたと思った方角を見るとニコニコしているいつものミス・エックスがいた。

 気のせい……じゃないよな?

 

 それならますます早くレイラたちと合流してギアス嚮団の根城も探してR2に向けて準備をしてその前にグリンダ騎士団が本格的に動き出す前に『ギアス嚮団の手先』というか『ブイブイの超能力の誘惑』に乗って『原作ブラックリベリオン時のスザク』並みの猪突猛進的に騎士団のトップであるマリーベルがならないように────ってなんでいつの間にかこんなに忙しくなっているの?!

 

 これを免れるために毒島とかレイラとかに頼みごとをしたのに……

 

 早く裏方に戻りたい! 隠居したい!

 

 そういやオルフェウスとコーネリアは……無事だろうな、多分。

 何せギアス嚮団自体にはナイトメアの戦力はV.V.のジークフリートだけの筈だし、プルートーンがいたとしても原作と違ってコーネリアたちにはダールトンも一緒にいる。

 

 それだけで大分違うはずだし、いざとなったら逃げきれる筈だ。

 

 うんうん、そう考えればなんだか気が楽になったぞ!

 ワハハハハハハハハハハ!

 

 

 


 

 

『何なんだこいつは?!』

 

 思わずそんなことを口にしながら、コーネリアのソードマンがヒートソードで敵機と思われるナイトメアを切り伏せる姿を見ながらもオルフェウスも思わずそう叫びたかった。

 

『ギアス饗団自体にナイトメアに敵対できる戦力はない』とスバルが思っているように、かつて饗団に身を置いていたオルフェウスも同じ見解だった。

 

 何故ならギアス饗団は昔ながらの『あくまで研究機関』という体からか、最小限の対人防衛機能と『存在の秘匿』だけを持っていた。

 

 しかも対人防衛機能は『外敵から守る』ものではなく、『内部の鎮圧』が主な目的とされている。

 

 よって『現在のプルートーン』の在り方や、コードギアスR2で姿を見せたジークフリートなどはV.V.がギアス饗団の現嚮主になってから、彼が独自の目的や物欲しさで秘密裏で集めた戦力などである。

 

「(饗団にあるナイトメアとすると、『プルートーン』の筈だ! )」

 

 オルフェウスの白炎はランドスピナーで地面を巧妙にスライドしながらバズーカを敵機に打ち込む。

 

「(だとしたら、()()()()()()()?!)」

 

 オルフェウスの見ている前で()()()()()()()()()()()()()()()がオルフェウスの攻撃の直撃をものともせず、イノシシのように一直線に走ってくる姿に彼は焦った。

 

 どうすればこのような状況になるのか簡単に説明すると少しだけ時間を遡ることとなる。

 この頃日課のようにオルフェウスたちはギアス饗団らしき組織の動きを逆算して移動していたところを突然攻撃され、応戦するために各々がナイトメアに騎乗し素早く起動させて転倒するトレーラーから飛び出ると数機の人型のナイトメアが地面を走って近づいてくるのを見ては即座に白炎とダールトンのグロースターはバズーカで攻撃をしたが、相手はそれらをとてもナイトメアとは思えない躱し方で持っていたアサルトライフルで応戦した。

 

 ここでコーネリアのソードマンとズィーの新型、黒の騎士団の月下を反ブリタニア組織用に量産化を目的とした『月下・望型』をベースにしたズィー用に改造された『月下紫電』が一気に距離を詰めて接近戦で畳みかけていた。

 

 ソードマンのヒートソードと、月下紫電の熱斬竜刀は熱を持ったナイフがバターを斬るように敵機を斬っていった……のだが────

 

『おいぃぃぃぃ?! 何時からこの世界に“ゾンビ”属性が追加されたんだぁぁぁぁ?!』

 

 ────ズィーが叫んだように、切り裂かれた敵の人型ナイトメアは目の前でまるで巻き戻る動画を見ているかのように切られた部分が引っ付いていく。

 

『姫様────!』

『────なるほど、これがイレギュラーズの秘密か!』

 

 これを見てオルフェウスはすぐに、それが何らかのギアス能力と当たりを付けていた時にダールトンとコーネリアの会話に意識が引き戻される。

 

「(『イレギュラーズ』?)」

 

 オルフェウスの耳に届いたその単語は、どこかで聞いたようなモノだったことに考えを巡らせながらもナイトメアの操縦を続けていた。

 

『どわぁぁぁぁぁぁ?! タンマタンマタンマタンマタンマタンマタンマァァァァ?!』

 

『ぼやくんじゃねぇ! (タイガー)の根性を見せろ!』

 

『ダールトン、攻撃の手を決して緩めるな!』

 

 普通、『切り裂かれても無限に再生する敵』を前にすれば上記のズィーのように取り乱すものだがコーネリアとダールトンは襲ってくる人型ナイトメア────GX01を昔に何度か戦場で味方として見ていること、『イレギュラーズの任務成功率100%』、そしてオルフェウスと共に旅をして『ギアス』を知っていたことで、四機のうち三機が奇襲と超現象の動揺からすぐに立ち直ったのが幸運だった。

 

 さもなければ、とてもナイトメアと思えない機動をするGX01たちの行動に『後手』に回っていたのかもしれない。

 

 それでも現在の状況はかなり悪いことに変わりはないが。

 

『ネリス、こいつらをさっきイレギュラーズと呼んでいたが知っているのか?!』

 

『ああ! あの機体は過去に何度か味方機として見た! カニングハム教授────マッド大佐が率いていた特殊部隊『イレギュラーズ』のモノだ────!』

「(────そうか、こいつらは!)」

 

 オルフェウスの中でコーネリアの放った言葉で漠然とした違和感と点と点が結び付き始め、彼はクララともう()()を思い出す。

 

「こいつら、エデンバイタル()()の者たちか!」

 

『エデンバイタル教団』とオルフェウスは口にしたが、彼も名前と()()()()()()()()()()()()()としか分からなかった。

 

 それも、過去にクララやトトのような脳手術(処置)を施す為に見慣れない(部外者の)男性が白髪の少女を連れてきたていたのが印象に残っていたのでそれとなく嚮団でかなりギリギリまでの調べをしてようやく手に入れた情報が、『エデンバイタル教団』という組織名だった。

*1
131話より

*2
53話より

*3
呼び名、ありがとうございますちゅうんさん!




(;゜○゜)アワワワワ


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第156話 まどろみのひとときを

…………次、次話です。 (°_°;)ハラハラ

た、楽しんで頂ければ幸いです。 (;´ω`)


 場所と時間は静寂な夜の森林の中にとある工場とコオロギが歌う景色に移ろう。

 

「…………………………皆、所定の場所で待機中よ。」

 

 そんな森の中で、黒の騎士団の団服を着たカレンが珍しくやる気を出しているような雰囲気のC.C.に話しかける。

 

「そうか。」

 

 気怠そうな声と、眠たそうな目はいつもの(平常運転)だが。

 

「作戦開始まで……まだ少し時間があるな────」

「────ねぇ? 本当にこんなところが『旧黒の騎士団員の強制労働工場』なの? 静かすぎるのだけれど────?」

「────卜部の調べが確かなら、そうだが?」

 

「卜部さんか……なら救出しないと……これだからブリタニアは! 」

 

 カレンはそう吐き捨てながらも、武器の点検をもう一度する。

 

「そうだな、そしてここにある資材を奪って黒の騎士団の運用資金に変えつつも水面下で存在をアピールする二段構え……悪くないだろ?」

 

「そうだね……武者震いする程度には。」

 

「「…………………………………………………………」」

 

 周りからコオロギの鳴き声しか聞こえない二人の間に言葉は無くなり、ただ静かな時間が過ぎ────

 

「おい、カレン。 (私は)退屈だ、何か話をしろ。」

 

 ────なかった。

 

「はぁぁぁぁぁ? 何で、私が────?」

「────悲壮感を浮かばせているお前の顔は辛気臭すぎる────」

────実際そうなんだから仕方がないでしょうが? 沢山いた仲間や協力者も、残ったのがこれだけの数となるとさぁ……憂鬱にもなるっての────」

「────不景気な女だな────」

 「────アンタこれ絶対にわざとやっているでしょ?」

 

「ツーン。」

 

 C.C.はそっぽを向き、彼女がまったく答える気が無いと察したカレンは自分の手を見る。

 

「もう、アンタのそれ(ちょっかい)が無くてもこちとら肌がカサカサとしているんだから────」

「────そんなことを言う意外なお前は可愛いな────♡」

────こっちは真剣に悩んでいるのだけれど? そう言うアンタこそ同じの筈よ……毎日ピザを食べてはゴロゴログぅすか……よく同じものを毎日食べていられるわね?」

 

「バカかお前は。 タバスコをかけたりしているぞ────?」

「────元がピザなのは変わらないでしょうが?」

 

「それに肌荒れなど、私とは無縁だ。」

 

「それって要するに、『のほほんとしている(苦労していない)』だけでしょうが?! アンタの肌、荒い紙やすりでゴシゴシしてやるわよ?!」

 

「フハハハハハ、私の肌がサンドペーパー(紙やすり)ごときで傷が出来ると思うてか?」

 

 「アンタの肌は軍用プラスチックか、ダイヤモンドで出来ていると言いたいのかしら────?」

「────そこまでせがむのなら仕方がない────」

 「────人の話を────」

「────お前にも私の肌の秘訣を教えてやろう、このゆで卵の様なツルツル美肌は────」

 「────どうせピザがどうこう言うんでしょうが────」

 「────何故わかった貴様────?!」

「────そこで反応するんかい────?!」

「────時間だ、行くぞ────」

 「────だから人の話を聞けぇぇぇぇ!」

 

 ドゴォォォォォォン!!!

 

 工場の周りに建ててある外壁が爆破され、辺りで眠っていた鳥などの動物が一目散に逃げだす中、カレンとC.C.は工場内へと乗り込む。

 

 ババババババババババ!

 

 「動くな! 全員床にうつ伏せになれ!」

 

 カレンはサブマシンガンを天井目掛けて発砲し、C.C.はどよめく警備員たちに冷たい視線で威嚇してから周りを満足げに見渡す。

 

「抵抗しなければ、痛くしないでやる────」

 「────ってちょっと待ったぁぁぁぁぁ!ここ、()()()工場じゃない────?!」

 「────ここの化粧水はすべて頂く! トレーラーとナイトメア突入────!」

 「────↑うぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 C.C.が今まで見せたことの無い手腕でテキパキと指示を出していき、瞬く間に工場内の出荷待ちだった品が入ったコンテナが黒の騎士団の無頼によってトレーラーなどに乗せられ、C.C.は呆けたカレンの腕を無理やり引っ張ってその場から一気に撤収する。

 

「「「「………………………………………………………………え?」」」」

 

 うつ伏せになっていた警備員たちは嵐のように過ぎ去る一連の出来事をポカンとしながら呆気ない声をしてしまう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 翌日、とある高速道路の防壁の外側にカレンとC.C.は居た。

 

「皆、所定の場所に就いたって……」

 

「そうか。 作戦開始までまだ少し時間があるな……」

 

 先日のやり取りに似た所為か、カレンはジト目でC.C.を見ていた。

 

「“黒の騎士団の団員や協力者が護送される”ってのは、合っているのよね?」

 

「卜部の調査結果からの推測だ。」

 

「卜部のオッサンの調査ねぇ……先日の工場は強制労働なんてデマだったじゃない?! 化粧水も高級すぎて売り先が困ってまだ全部売れていないし────!」

「────我々の肌が潤ったではないか?」

 

「いや、まぁ……それはそうなんだけれどさ……」

 

「女はいついかなる時も『優雅』であるべきだ……フフ、フフフフフフフフフ……」

 

「(ゼロだ。 この笑みと声、悪質な女版ゼロじゃん?!) って、アンタもしかして私利私欲で作戦を立案していない────?!」

「────この防壁の向こう側に、目標(ターゲット)が使う高速道路がある────」

「────スルーするなやお前────」

「────それが通るタイミングを見計らって壁を爆破し護送車を襲い、そのまま離脱する。」

 

「「………………………………」」

 

『言うだけ無駄』と悟ったカレンは黙り込み、またも二人の間に無言の時間が────

 

「おい。 (私が)退屈だ、何か話せ。」

 

 ────またも過ぎなかった。

 

「こ……この……自分勝手すぎる────!」

「────褒めても私の笑いが出るだけだぞ? ハハハハハ────」

 「────フンガァァァァァァァ!!!」

 

 カレンは怒りの籠った叫びを出してから項垂れる。

 

「ハァァァァァァ……マジ疲れる……この間なんて体重計に乗ったら5キロ痩せていたし────」

「────迂闊だな。 その分、体力もスタミナも落ちるぞ────?」

「────その分体形を維持しやすくなるからノー問題よ────!」

「────その痩せた分、紅蓮弐式のコックピットが広くなって良かったな────?」

────そこまで太っていなかったし! というか、あれだけ毎日ピザを食べていながらどうやってその体形を維持できているの?!」

 

「フン、小麦粉とトマトソースとチーズを兼ねそろえたピザ以上の健康食品がこの世にあるとでも────?」

「────そう言う割にちょっっっっっっっとお尻がデカくなったよね? この高飛車女────」

「────バカを言うな。 『高飛車だ』とか、『上から目線』とか、『横柄だ』とか、『人当たりが強すぎだ』とかはともかく────」

「(────自覚しているじゃん────?!)」

「────『尻がでかい』とかは聞き捨てならん。 この数百年の間に、私の体形がそこまで変わったことは無い!」

 

「……………………………………………………“数百年”────?」

「────時間だ。」

 

 ドォォン!

 

 防壁に設置された爆薬が音を上げ、人一人がようやく通れるような穴が出来る。

 

「よ……っと!」

 

 カレンはどうにかして、強引に開いた穴をギリギリ潜り抜ける。

 

 グニュン。

 

「む?」

 

 カレンの後を追おうとしたC.C.は()()()が穴につっかえたのか、身体が半分だけ穴を通過したことに困惑の表情をする。

 

 グググググググググ。

 

「ムムムムムム?」

 

 グニュゥゥゥゥゥ。

 

 「あっるえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」

 

 そんなC.C.が徐々に汗が額に出ては腕に力を入れ、無理やり穴を通ろうとする姿にカレンは気が付くとわざとらしい声を出す。

 

「あっるえぇぇぇぇれれれれれえ~?」

 

「ッ……ちょっと、問題……が────」

 「────どうちたんでしゅか、C.C.さ~~~~ん────?」

「────やむをえまい、以後の作戦はお前が単身で続行しろ────!」

 「────おかしいでしゅね、C.C.さ~~~~ん?」

 

 カレンは愉悦からニヨニヨとした、人を馬鹿にするような笑顔をC.C.に向けていた。

 

 カレンのニタニタした顔をC.C.が見ては無数の汗を浮かべ、いつもの態度からはとても想像できない慌てた顔を浮かべる。

 

「ちょ……ちょ……ちょっと問題が発生しただけだ────!」

 「────なんで上半身だけしかこちら側に来ていないんですk────?」

『────そこのお前たち、何をしている?!』

 

 愉悦感に浸ってカレンと久しぶりに本気で慌てるC.C.の二人にメガホン越しの声が耳に届いて視線を移すと爆発で通報されたのか、ブリタニアのパトカーが数台止まっていた。

 

「げぇぇぇぇぇぇぇ?! け、警察────?!」

 「────本作戦は中止! 撤収だ────!」

 「────良いから早く穴を戻ってよぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 グググググググググニュウゥゥゥゥゥ。

 

 C.C.は下半身をバタつかせたり、脚を防壁に付かせて力を入れるが動く気配はなかった。

 

「………………………………」

 

 「C.C.、早く!」

 

 発煙弾を投げながら慌てるカレンは、次第に顔が青くなっていき引きつる笑みと共に汗をダラダラと顔中に出すC.C.を見る。

 

 「……れん。」

 

「え? 今なんて? って、何その顔色────?」

 「────戻れん。」

 

 「うええええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

『敵はテロリストの黒の騎士団と思われる! 総員、発砲を許可する!』

 

 ぎええええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 ババババババババババババババババ!

 

 カレンは雨霰のように自分たちを襲って来る銃弾に慌てながらも、C.C.を押し出そうと力を入れる。

 

 C.()~~~~~~~~~~C.()~~~~~~~~~~!!!」

 

 「明日からはMサイズを三つしか頼まないから頑張れカレン!」

 

「Sサイズにしろやぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「わかったから頼む!」

 

 「ファイ! トォォォォォォ!!!」

 

 スポッ。

 

 カレンのゴリラ並みの怪力でC.C.は穴を抜け、その勢いのままカレンも防壁を潜り抜けてはその場を逃げる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『高速道路騒動』から数日後、カレンとC.C.はとある変電所近くに潜んでいた。

 

「…………………」

 

「皆、所定の場所に就いたか。」

 

「…………………………………………」

 

「作戦開始までまだ少し時間があるな……」

 

「ハァァァァ……」

 

 ずっと無言だったカレンは長~いため息を出す。

 

「ん? どうした?」

 

「この変電所を爆破して混乱している間にナイトメアとかを都内に移動させるのは分かるけどさ~……例によってこの作戦の下調べって────

「────卜部だ。」

 

 C.C.の答えにカレンは更にどんよりとした、憂鬱な空気を出す。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ……卜部()()()()、ちゃんとしてよもぅぅぅぅぅ……この間の護送車も、高級ブランドものドレスを乗せたモノだったし────」

「────さて、(私は)退屈だ────」

「────人の話……ってもういいや。」

 

「良かったな? と言うわけで何か話せ、カレン────」

「────私からの話題はございません!」

 

 カレンはふくれっ面をしながらそっぽを向き、C.C.の言葉を跳ね除ける。

 

「フム……なら何故かここにある手頃な話題を書いたサイコロを振るうとしようか。」

 

 「なんでやねん────?!」

「────何が出るかな♪ 何が出るかな~♪」

 

 コロコロコロコロコロ。

 

 C.C.は一昔前のバラエティ番組などで見たような少々大きめのサイコロを適当に転がしては、『好きな食べ物』が上に出てカレンは鼻で笑う。

 

 余談だが、そのほかの一面に『ビンタ』や『蹴り』と書かれてあったのはキノセイダロウ。

 

 ウン、ソウニチガイナイ。

 

「は。 アンタにとっては超簡単な話題よね? ピザじゃん────」

 「────バカを言うな。 そんな訳はない────」

「────え?! 違うの────?!」

 「────『好き』という小さな枠に入りきる訳がない!」

 

「あー、ハイハイ……」

 

 さっきまでの食いつき具合からまったく興味が無さそうにするカレンの態度が気に食わなかったのか、C.C.の目が細められる。

 

「そう言うお前の好きな食べ物はなんだ?」

 

「ん? ん~~~~……ハンバーグ!

 

「子供か貴様は?!」

 

 ビキッ。

 

「い、良いじゃんハンバーグ! カレーの中に入れて~、上に半熟の目玉焼きを乗せて~、更にウスターソースをかけて~────」

 

 C.C.の言葉にカレンはイライラする気持ちが刺激されてムキになるどころかそのまま言葉を続け、C.C.の目は更に見開いていく。

 

 「────目玉焼きにウスターソースだと?! カレーがあるのにか?!」

 

 珍しく声を荒げるC.C.に、カレンはキョトンとしながらも言葉を返す。

 

「え? そりゃ、カレーにはウスターソースでしょ────?」

 「────バカかお前は?! そんなものをかけたらせっかくの卵がダメになるではないか?! 食物への冒涜だ────!」

「────普通じゃん────!」

「────どこがだ?! 信じられん! ダメにした食物たちに謝れ! 今すぐ謝れ!」

 

 ビキビキビキッ。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?! なら証明してやるわよ!」

 

 流石にカチンときたのか、カレンは更なる青筋を浮かばせながらゴソゴソと無線機を出す。

 

「おいバカやめろ、無線封鎖中だぞ────?!」

「────卜部さん?! 卜部さ~ん?!

 

『ん? カレン、どうかしたのか?! 何かあったのか────?!』

 「────卜部さんの家では目玉焼きに何をかけているの?!」

 

 カレンの手に持っていた無線機から卜部の慌てたような声が返ってきて、彼女は間髪入れずに上記の問いを叫びこむ。

 

『……………………………………………………………………は?』

 

 「だ・か・ら! 卜部さんの家では! 目玉焼きに何をかけてい・る・の?! ちなみに私はウスターソース!」

 

『ウスターソースって、お前────』

「────“下町の味”がするじゃない────!」

『────まぁ、俺の家では普通に()()()()()()()()を────』

「────ハァァァァァァ?! アンタそれでも日本人なの────?!」

『────それは家の味付けで、俺自身は()()を普通に塗────』

 

 ────ガチャ。

 

 カレンは無線機を切っては頭を抱えだす。

 

「作戦の時間だ。」

 

 ドォォン!

 

 変電所への防壁が爆破されると向こう側に隊列を組んでいたブリタニア軍の姿があり、指揮官と思われる男がニヤリと笑顔を浮かべる。

 

「そこまでだ、黒のき────」

 

 ドゴッ!

 

「────ぶぇ?!

 

 指揮官の男をイラつきMAXだったカレンが顔面を殴っては、C.C.と共に周りの兵士たちを顔や腹へのグーパンやヤクザキック()()()()体術でバッタバッタと制圧していく。

 

「たった二人に……立った二人に歩兵部隊、一個小隊が────?!」

「「────目玉焼きには何をかけている?!」」

 

 目を白黒させながら驚愕する指揮官に、カレンとC.C.が上記の問いを投げつけると男はハテナマークを浮かべる。

 

「……は? え────?」

「────塩コショウか────?」

「────それともケチャップ────?!」

「────マヨネーズか────?!」

「────それとも醤油?! 勿論ウスターソースよね────?!」

「────もしくはメープルシロップ?!」

 

「…………………………いや、私は────」

 

 男が呆けながら答えだすとC.C.が彼の言葉を遮る。

 

「────それとも、私のように麻婆風マンゴソースか?」

 

 

 


 

 

 『麻婆風マンゴソース』ってなんやねん?!

 

 そう俺は強くツッコみたい心を持つと共に目を覚ますと“夢か” 、と言う呆気ない気持ちと連動するように早まっていた心拍数が徐々に落ち着きだす。

 

 ビクッ。

 

 そして、横では何故か目を覚ました俺にビクつく仏頂面のマーヤ。

 

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!

 

 ナリタで初めて出会った時から未だにちょっと苦手意識と言うか時たま何を考えているのかというか何をしでかすかわからない彼女の反応に早速収まりつつあった心拍数が高まる。

 

「どうした?」

 

 とはいえ、このまま放置するのもなんだか気が悪いので声だけはかけておこう。

 

「いえ、その……」

 

 え? 何でそんなにしおらしいの?

 正直、グッとくるのだが?

 見た目だけで言うのならかなり俺の好みドストライクなんだからそういうのをやられると『良いかも♡』とか本気で考え初めちゃうぞ?☆

 

 俺の知っているアニメや外伝とかで見た覚えはないからモブ子だとは思うがどう考えてもハイスペック過ぎてとても『ただのモブ子』とは思えないけどな。

 

 やっぱコードギアスの世界には至る所化け物だらけだな。

 

「そろそろオズたちと合流する場所に着くから起こしに行ったんじゃない?」

 

 トレーラーの助手席に座っていたミス・エックスが振り返りざまにそう俺に話しかけると思考がようやく状況に追いつく。

 

 なるほど、ネーハの護送にオズたちと合流している間に仮眠を取っていた俺を起こしにマーヤは近づいていたのか。

 

「そうか。」

 

 短くそう言いながらいまだに重い体を俺は起こし、腕を伸ばして体をほぐす。

 

 さて。 これでコーネリアがミス・エックス、あるいはミス・エックスがコーネリアを見て何か変化があれば俺の推測が当たっていると言う事になるな。

 

 そうなれば……いや、まずは合流してから考えよう。

 

 最悪、グリンダ騎士団との接触を別方法でしないといけないからな。

 

 

 


 

 グッと腕や体を平然としながらほぐすスバルの様子は、さっきまでうなされていたとはとても思えないものだった。

 

「(何が、御身をあれほどまでに騒がせたのでしょうか……いえ、今までほぼ身一つで為されたことと期間を考えれば不調の所為でうなされるのも不思議ではないわ。)」

 

 マーヤはそう考えながら頭を切り替える。

 

「(だからこそ、今回の『ギアス嚮団の場所の索敵と確認』はおそらくかつての『天誅』も含まれているのでしょう……*1)」

 

 マーヤが思うような行動をする気はスバルにないのだがそんな可能性を彼女は考えず、ただ『敵の本拠地、あるいは敵部隊と遭遇すればどう動こうか』と言ったモノだけだった。

 

 スバルたちを乗せたトレーラーが事前にオルフェウスと連絡を取っていたミス・エックスとの指定された場所についてもオルフェウスたちは着いた様子はなかった。

『遅れているかもしれない』ということを考え、スバルたちはその場に潜んで日が暮れるまで待ったが一向にオルフェウスたちが姿を現す気配はなかった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 明らかに別の場所である、地下都市の中でも高い高層ビルのようなところで一人の人物が街(?)並みを見下ろしていた。

 

「フム……それで、ギアス伝導回路搭載型ヴィンセント改の調子はどうだ?」

 

 人物が────機械化した両目にスキンヘッドのマッド・カニングハムがガラスに向いたままそう背後にいる者へ問いかける。

 

「アレはすこぶる良いものです。 今までのGX01以上に、私が力を更に発揮しても素直に応えてくれる良い機体ですよ。」

 

「元がロイドの趣味全開の機体だったからな。 そこに私の技術を更に組み込めばあのランスロット以上の戦力は確実にある。 しかし、相手がまさかコーネリアとギアス嚮団の者だったとはな……お前の機体が間に合ったことが幸運だった────」

「────ギアス嚮団の者は“元”らしいですが……この際なので、父上に連絡を入れますか?」

 

 マッドは背後の人物が出した提案を一瞬だけ考慮したのちに首を横に振る。

 

「……いや。 元とはいえギアス嚮団の関係者がこうも直接絡んでいるとなると恐らく、V.V.が裏で糸を引いているのだろうが……もしや…………………………」

 

 マッドはいつもの高圧的な態度が嘘のような態度のまま黙り込んでから再び口を開ける。

 

「厄介なことになったかもしれん、また慣れない機体での出撃になるが────」

「────私の前ではどんな相手も蟻を潰すようなモノ、他愛もないことです。 それと、捕らえた者たちは如何なさいますか?」

 

「コーネリア皇女殿下とは言え、この場所を知ったからには口封じしかあるまい────」

「────ならば、会ってきますよ。 よろしいですかな?」

 

「……好きにしろ。」

 

 マッドから遠ざかる足音がドアを潜り抜けてから、マッドは地下都市を再び見下ろす。

 

「(クソ! 『()の下準備がこれから整う』と言った、このタイミングで!)」

 

 マッドはただ握る手に力を入れて、忌々しく外の景色を見る。

 

「(ここまで来たのだ! 『諦めなさい』と挑発されて引き下がれるか!)」

*1
44話より




卜部の“ちゃん呼び”、参上。 (汗

余談の追伸:
今年の花粉はヤバイ。
急な温度変化もあって現在ダブル特攻、ギャ〇ドスに〇ンダー。


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第157話 どうでも良いMEブーストの略

お待たせしました、次話です!

お読み頂きありがとうございます! m(_ _)m
楽しんで頂ければ幸いです!


「もう何なのよオズったら……『打ち合わせの場所を指定したのに来ない』なんてらしくないわ。」

 

「紅茶、飲むか?」

 

「いただくわ────あら、氷を入れるなんて紅茶に対しての冒涜では?」

 

「ならホットを入れるか?」

 

「これで良いわ……あ、美味しい。

 

 フハハハハ、(現在休業中の)『従者見習い』を舐めるなよ。

 

 迷彩天幕の下でぷんすかと怒るミス・エックスに新たなアイスティー(紅茶)(スバル)が入れると、彼女はそれを一気に飲み干してからブツブツと独り言を言い出す。

 

 うーん……この仕草を見ると、何時も見せる『妖艶な大人の女性』ムーヴが嘘のように思える。

 

 多分、『仮面()』なんだろうけども────

 

「────オズらしくないな。」

 

「そうなんですか?」

 

 そこに腕を組んで一息ついていたガナバティが珍しく意見を出し、彼の隣にいたネーハ(右足の整備中)が相槌を打つ。

 

「ああ。 アイツ(オズ)は一見不愛想だが、実はかなりの他人思い……と、オレも思っていたんだがな。 なんだか最近は『らしくない』。」

 

「はぁ……」

 

 あれ? この時期のネーハって、オズ(オルフェウス)とまだそれほど知り合っていないのか?

『オズ』だと確か、香港のブリタニア軍駐留軍基地を強襲してから、ネーハやガナバティたちと合流してからエリア11の爆弾調査をしていなかったっけ?

 

 後方の件は依頼主(ラクシャータ)がキャンセルしている様子だが、香港の方はそのまま受けて……あれ?

 

 どこかごちゃごちゃしていない?

 

 

 

 尚、スバルが上記で思っているように原作の『オズ』でオルフェウスはピースマークからの依頼を受けている途中でネーハと会い、ブリタニアに追われている彼女の保護と護衛をした時期がある。

 

 それは変わらなかったが、相方のズィーを巻き込んで逃亡中にコーネリアたちとの出会いによって流れはかなり変わっていた。

 確かにネーハとオルフェウスは出会ったが、一足早く復讐相手の手がかりと協力者と出会ったことにオルフェウスは『復讐鬼』と化し、彼は香港の依頼を却下していた。

 

『依頼はさほど重要ではない』とのことから、ミス・エックスは依頼を別のものに頼んだ。

 

 だが『滅多にブリタニアの勢力外に出てこないブリタニア宰相(シュナイゼル)の暗殺』という絶好のチャンスとこれ以上とない重要度の依頼を却下するとなると、如何にオルフェウスが変わっているか分かるだろう。

 

 そもそもオルフェウスが受ける任務は確かに反ブリタニアの物が多いが、彼は何も『ブリタニアを憎んでいる』と言う訳ではない。

 

『民が“恩恵者(現状)”よりも“破壊者(変わりの風)”に対して称賛を惜しまない限り、戦争は野心家の副産物として生じてしまう物事』と理解していた彼だからこそ、反ブリタニアの任務を受けていた。

 

 だがそんな『ビジネス精神』を持つ彼でもスバルの依頼で長年蓋をしていた気持ちが蘇ったこととコーネリアたちとのより早い合流の所為で『復讐の機会』という甘味を前に、我慢は出来なかった様子である。

 

 スバルは知る由もないが。

 

 

 

「オズはどこか前から危なっかしかったが……最近のヤツは異常、まるで東洋の『鬼』だ。」

 

 う~ん……ガナバティにここまで言わせるとなると、いよいよ『オズ』の流れが崩壊していると考えた方が良いか。

 

「『鬼』、ねぇ……まるでユーロ・ブリタニアを騒がせていた『幽鬼(レヴナント)』みたいね。」

 

 ちょっと待てミス・エックス。

 『幽鬼』とはなんぞや?

 俺はそんな奴知らんぞ? *1

 ……ちょっと聞いてみようか。

 

「『ハンニバルの亡霊』の事か?」

 

「あら、ユーロ・ブリタニアでも一部しか知らない事をよく知っているわね?」

 

 まぁ……『ハンニバルの亡霊』はwZERO部隊の事だからな。

 

「ああ、情報網には()()()()()()()。」

 

 “原作知識です”とは言えないのでこれで濁そう。

 

「……フゥ~ン?」

 

 今の間はなんだミス・エックス?

 ちょっち怖いでヤンス。

 

「う~ん……まぁ、いいか。 『幽鬼』ってのは噂じゃ『まるで怨念にとり憑かれているような戦い方』をするナイトメアの事よ。」

 

 ……ええっと?

 つまりはどういうことだってばよ?

 俺の気持ちを察したのか、ミス・エックスは言葉を続けた。

 

「それだけじゃ漠然としかわからないだろうけれど、『幽鬼』の話には続きがあってね? 『敵意を感知しているかのようには動いて先回りする』という尾ひれも付いているの。」

 

 なにその新人類的(ニュー〇イプ)な話?

 世界が違うやんけ。

 

「そうか、情報ありがとう。 その、『幽鬼』とはブリタニアの兵士の事か?」

 

 もしかしてスザクかな?

白い悪魔(ランスロット)』だけに。

 

「どうかな? この噂の出所、ユーロ・ブリタニアの騎士団の間で流れているから……」

 

 という事は四大騎士団?

 だがそのうち三つは壊滅していて、ムウ────じゃなかった、ロア────じゃないや、ファルネーゼの聖ラファエル騎士団だけがまとまった戦力を残している筈だ。

 

 もしかして、『ナルヴァ作戦』で原作でも大活躍したアキトの事か?

 

 アイツが『幽鬼』って……まぁ、確かにシンの『ギアス』にかかっていたから『何かにとり憑かれている』わな。

 

 全く違和感が無い訳じゃないが、やっぱりコードギアスの住人からもアキトはバケモノか。

 

 くわばらくわばら。

 

「あ、スバル────」

「────戻ったか。」

 

 そう思っていると、周りの見張りをしていたアンジュが天幕の中に入って来ては羽織っていたフードを取り、神根島の頃からも伸ばす気なのか肩までのセミロングの乱れていた髪を手で整える。

 

『やっぱロングが似合うな』と思えるほどに俺は少々余裕が出てきたっぽい。

 

「ええ、それでその……見つけたのだけれど」

 

 アンジュは少々気まずくなりながらもボソリと何かを言いながら目を逸らす。

 

「見つけた? 何を?」

 

「その……ナイトメアの戦闘後の様な痕跡を。」

 

 前言撤回。

 余裕がゴリゴリと削られていくでゴザル。

 

「それで……」

 

 こっち見んなアンジュ。

 猛烈に嫌な予感がするぜよ。

 

「パーツの中に……G()X()0()1()っぽいのがあって……

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ

 

 次第に小さくなっていくアンジュの声音は裏腹に、俺の胃の痛みが増していくのを直に感じる。

 

 

 


 

 

 グリンダ騎士団のグランベリーは先日、リア・ファルとの遭遇時に被弾した機関部の応急処置を行う為に着陸してその間、周りの警戒をブラッドフォードとサザーランド・アイにさせていた。

 

「姫様、いま……なんと?」

 

 グランベリーの会議室内にいたシュバルツァー将軍はそう言いながら、驚愕の顔をしながらテーブルの向かいに座っていたマリーベルを見る。

 

「ええ。 ですから『()()()()()()()()()()』、と。」

 

 マリーベルの言葉に、シュバルツァー将軍は肝を冷やした。

 何せ彼女が言ったことはグリンダ騎士団のスポンサー、ブリタニア帝国宰相のシュナイゼルに先日の所属不明艦の報告を控える────つまりは『情報の共有を遅らせる』と口にした。

 

 マリーベルは確かに皇女だがそれはあくまで体制であり、現に彼女の皇位継承権は皇女内では最下位の88番目。

 

「姫様……よろしいのですか?」

 

「ええ。 お兄様は多忙の筈ですので、()()()()()をさせるのもどうかと。」

 

「そう姫様は仰りますが……」

 

「あら? 私のお目付け役である将軍がそう具申するという事は『こちら側』と考えても良いのでしょうか?」

 

「……」

 

 マリーベルの愛想笑いと上記の言葉を前に、シュバルツァー将軍は口をつぐむ。

 

「最初から分かっていることですよ、将軍? マルディーニ卿にも言いましたが、お兄様にとって私も駒の一つ……とはいえ、わざわざ弱みになるようなことを報告すれば騎士団の立場も下がります。 それは、将軍にとっても都合が悪いのでは?」

 

「(まさか……姫様の人材はわざと?!)」

 

 彼は確かに監視と報告をさせる為にシュナイゼルが送り込んだ人材であるが、こうも長く共にしていると多少は情が移る。

 

 彼は怪我の所為で一時現役から身を退いたが妻との間に子供は恵まれず、かといって他の家のように妾を取る気もなかったのでグリンダ騎士団の騎士は彼にとって『世間知らずで世話のかかる孫たち』の様な感じだった。

 

「紅巾党など、所詮は中華連邦に対して軍事力を見せつけるネタと恩を売る行為。 ですのであの艦の所属を明らかにしてからでも遅くはないでしょう? 我々の功績にも繋がりますし、何よりその艦が万が一中華連邦、あるいはEUのものだとすれば今後のお兄様の為────引いては判断材料として十分になりますかと……それに……」

 

「(ん?)」

 

 シュバルツァー将軍は、マリーベルの雰囲気が少々変わったことに違和感を持つが声を出さずにただマリーベルが言を並べ終えるのを待つ。

 

「あの艦の装備はテロ活動などをするにはうってつけのモノ、それにシュタイナー卿(レオンハルト)の言ったこともあります。 “相手は元シュタイナー・コンツェルンの主任だった”と────ッ。」

 

 マリーベルは言葉を続けていると、ズキズキとする鈍痛を頭に感じては目頭を押さえたい衝動を我慢する。

 

「あれがブリタニアの脅威となりえるのならば我々グリンダ騎士団は鋼鉄の箒でそれを薙ぎ払い、あるいは芽を根絶やしにするだけです。 先の戦闘では後れを取りましたが、同じ手は通用しません。 よろしいですね、将軍?」

 

「……イエス、ユアハイネス。」

 

 レオンハルト経由でミルベル博士の言った言葉を考えようとしていたマリーベルは頭痛が収まるまで愛想笑いを維持した。

 

 

 

「……」

 

 その間、オルドリンはグランベリーの食堂でボーっとしてスクリーンに広がる中華連邦の土地を見ながらレオンハルトから聞いたミルベル博士の言葉を思い返しては自分の考えを整理していった。

 

『今のブリタニア帝国は一部の者が支配している民衆に意思を押し付け、他者を平然と弾圧することで反感を買いすぎている。』

 

「(確かに帝国は一部の人が動かしているし、軍事にも力を入れている。 だけどそれは一時の処置であって、エリアが平定さえすれば問題はない。 問題なのはテロの様なやり方で訴えようとする過激派よ。)」

 

『グリンダ騎士団は、そんな帝国の火種を消火しているだけだ。』

 

「(だとしても、さっきの一時だけ。 いずれはその火種も消えるわ。)」

 

『過ちを犯す前に、その“力の行動後”を見極めてから振るいたまえ。 今の帝国が示す方針では、君たちグリンダ騎士団の行動で救った命よりいずれは殺す命の数が多くなり、いずれ限界が来る。 そして帝国内は、敷かれたレールに乗ったままでは変えられない。』

 

「…………………………」

 

 ミルベル博士のこの言葉にだけ、オルドリンは答えが出せなかった。

 

 何故なら彼の言い方だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と聞こえるからだ。

 

「(いいえ、それ以前に “力の使い方を間違える前に考えろ”なんて……まるで民衆にいつかその力が向けられるみたいじゃない。)」

 

 上記の考えはオルドリンだけでなく、ミルベル博士から聞いたレオンハルト本人やソキアたちも似たようなモノを思い浮かべていた。

 

 

 ……

 …

 

 

 コーネリアはむしゃくしゃしながら独房の天井をベッドの上から見上げていた。

 

 もう察しているかもしれないが、コーネリアたちはエデンバイタル教団との戦闘に敗れて()()()()にされていた。

 

 本来ならマッドが言ったように秘密保持の為、部外者は例外なく口封じをされるはずなのだがコーネリアたちがGX01に対して善戦したこともあったのか戦闘は膠着状態となっていた。

 

 最終的には()()()が。

 

「(なんだったのだ、あれは!)」

 

 否。

『敵の援軍らしき残影がセンサーに映ったと思ったら()()()()()()()()()()()()()()()』などという状況を、果たして『敗れた』と呼ぶべきだろうか?

 

「(ふざけるな! 馬鹿げている! あれでは『戦略』も『戦術』も意味を成さないではないか!)」

 

 そう思いながらコーネリアは不貞腐れ、イラつきが増していく。

 

「(あれがもし、ギアスとやらの類ならばこれ以上厄介な事ない。 それを受け入れれば『常識』を覆され────ん?)」

 

 ここにコーネリアはハッとしたような顔をして、座り上がる。

 

「(『常識を覆す』……もしや……いやまさかな────)」

『────気分はどうですか? コーネリア・リ・ブリタニア皇女殿下?』

 

「お茶の一つも貰えないので最悪だな。」

 

 独房のスピーカーから少年の声が出るとコーネリアはすかさず嫌味をほぼ条件反射的に言い放つ。

 

「“生かした敵に食物を与えず極限状態を待つ”様な尋問とは、かなり古風なやり方だと思うがな。」

 

『尋問? 人聞きが悪いな、私のおかげで今の貴方は生きているようなものだ────』

「────ならば姿を見せたらどうだ? そうすれば礼を言ってやらないこともないぞ?」

 

 コーネリアはベッドから立ち上がっては毅然とした態度で独房の一角にあるマジックミラーの、更に向こう側にいると思われる声の持ち主がいると思われる者の前に立つ。

 

「…………………………(せめて敵の顔ぐらい見なければ気がすまない。 それに、今は少しでも情報が欲しいところだ。)」

 

『フム……そう貴方が強く申すのなら、そうしようか────』

 

 ────ヴン。

 

 コーネリアが予測していたように耳に来るようなデジタル音と共に、マジックミラーだった壁がガラスのように透き通っていく

 

「………………………………は?」

 

 次第にコーネリアの表情は仏頂面から困惑、更に疑心から呆気へと変わっていくと彼女は思わずガラスから後ずさる。

 

 「バカ、な────」

『────どうしましたか、皇女殿下?』

 

 「そんな、ことが……」

 

 コーネリアがガラスの向こう側に見たのは────

 

『おや? どうかなさいましたか、皇女殿下? いえ……この場合は敢えてお呼びしたほうがよろしいでしょうか? ()()と。』

 

 ────幼いころに、人質としてエリア11と呼ばれる前の旧日本に送られた兄妹の片割れであるルルーシュに似た少年が立っていた。

 

「ルルーシュ……なのか?」

 

『……フム。 そこまで私と()()は似ていますかね?』

 

 ルルーシュに似た少年は顎に手を付いてはそう答える。

 

「“兄上”、だと────?」

『────いかにも。 驚くことは何もない、双子など太古から忌み嫌われる存在だ。 特に帝国内でしかも皇子ともくれば“不吉な存在”とされている。 本来の教えなら片方は殺されているが実際、私は出家させられているだけでなく()()()()()もあるがこうやって生きている。』

 

「……饒舌だな。 私を殺すつもりなのか?」

 

『上はそのつもりのようだが、私自身の本意は別にある。』

 

「???」

 

『む?』

 

 ルルーシュに似た少年はポケットから無線機の様なものを出して、耳を預ける。

 

『時間が来たようだ。 事が終わった後に、もう一度来るとしよう────』

「────私の名を知っていたようだが、自らは名乗らずに行くのか?」

 

 少年はにっこりとした笑顔をコーネリアに向けてから踵を返すところで、彼女がそう声をかける。

 

『これは失敬。 あまりの事で失念していた、私は────』

 

 

 


 

 

「ガナバティ、どうかしら?」

 

「う~む……見たこともある既製品もあれば、全く見当のつかないパーツもある。」

 

 どうしてこうなった。

 

『戦闘跡』、そして『GX01のパーツ』と聞いた(スバル)非常に逃げたかったその場を離れたかったが『オルフェウスの痕跡が~』と騒ぐミス・エックスにガナバティたちにドナドナ気味に連れてこられてしまった。

 

「白炎に使われている物もある────」

「────ならオズがここで襲撃に会った可能性はグンと上がるわね。 『彼が負けた』だなんて考えにくいけれど────」

「────そこまでの操縦の腕なの? その『オズ』っての?」

 

 トレーラーの中から出ては歩いている俺の耳にアンジュの問いが届く。

 

「当然! グラスゴーでサザーランドを数機相手にして勝っているのだから! ね、ネーハ?」

 

「え、ええ……」

 

 そしてミス・エックスに話題を振られて同意をするネーハ。

 そういやSIDE:オルフェウスでそんなこともあったような気が……

 

 うわ、本当に記憶がどんどんと曖昧になってきたぞ。

 もう殆んど頼りに出来ないな────え? 『何のほほんとしているんだ』だって?

 

 現実逃避ぐらいさせてくれ!

 出ないと胃が────

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 ────ウッ。

 

 深呼吸! 呼吸を整えるのじゃぁぁぁぁぁ!

 コーホー。 コーホー。

 ダースベ〇ダーならぬ波〇の呼吸方法で気を紛らす~♪

 

 ん? なんか光ったような気が────

 

 ザザ、ザザー。

 

『────スヴェンさん、聞こえますか?!』

 

 おおおっと、無線機からユーフェミアの声が────え。 ナンデ?

 

 いや、理由はどうでも良いが、焦っているのは確かだ。

 

「どうした? 何があった────?」

『────よかった、近くにいるんですね! 今、攻撃を受けています!』

 

 ぬぅわにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!

 

『レイラさんたちは今手が離せなくて、私が連絡を────』

「────敵は────?」

『────アリスちゃんたちが“GX01だ”と伝えてって────』

 

 オーマイガッ。

 

「────情報を送ってくれ。 今ナイトメアに接続する。」

 

 俺は冷静さを装いながらそう言い、トレーラー内のヴィンセントに騎乗し起動させると接続した無線機を通して艦の情報が送られてくる。

 

 傍受される可能性が無い訳でもないが、悠長にしている時間がない可能性もある。

 

『仲間が襲われている、行ってくる。』

 

 起動したヴィンセントでトレーラーの偽装カバーを無理やり突き破ってはびっくりしているミス・エックスたちに上記の言葉を外部スピーカーに通して告げてから『あの』ポーズをする。

 

『ランスロット出撃ポーズ』と言っても過言ではないアレだ。

 

ME(マグネトーエンジン)ブースト、点火。」

 

 意味はないがアニメで見聞きしたスザクのセリフをそのまま口にし、操縦桿のボタンを操作するとランスロットタイプのヴィンセント内にあるサクラダイトが干渉されてヴィンセントが一気に前進する。

 

 ちなみに俺もヴィンセントを強奪無断拝借をしてから調べるまで知らなかったが『MEブースト』はどうやら『()グネトー()ンジンブースト』の略でサクラダイトに物理的な干渉をし、高電圧の交流電気を発電させて通常以上の爆発的な内燃機関に近い出力を生み出すものらしい。

 

 身も蓋もない言い方と仕組みだと『ナイトラス・オキサイド・システム(NOS)』だ。

 

 MEブーストをかけたことで一気に加速した機体内で、『アポロンの馬車』に乗った時と同じようにGが身体を襲い、席に体が押し付けられると同時に鋭い痛みが走っては思わず機体の加速を止めたくなる衝動が生まれる。

 

 だが止まる訳にはいかない。

 

『相手がGX01』となると、恐らくはイレギュラーズ……あるいはその部隊が傘下になっている組織自体が絡んでいるかもしれない可能性が出てくる。

 

 コードギアスの作品の中でも敵対したらかなり厄介な組織に部類する、『ナイトメア・オブ・ナナリー』の世界では『ギアス嚮団』に相当する組織の『エデンバイタル教団』かも知れない。

 

 そんな思いに至った俺の背筋を冷たい氷柱の様な感覚が伝い、緊張によって生み出された力強い心拍音が耳朶に来た。

*1
*注*一度シンがスバルをそう呼んでいますがスバルはテンパっていたので全く身に覚えが無いです。




『何故』と問えれば『故に』と答えられる。
人が言の葉を得た有史以来、問いに見合う答えなぞ千変万化。
理解がされずとも己の答えを信じて突き進む者同士がぶつかる時こそ『戦』と人は呼ぶ。

次回予告:
『エデンバイタル教団』

果てしない鉄と鉄の弾きあいに散る火花。
現れる刹那の影にこそ真実が潜むのか?
これも立派な『問い』である。





次回予告、久しぶりに出ました。 (;´▽`)ゞ

それと気の抜けたサブタイトルで『騙された!』と思った人は果たして何人いただろうか…… (; ̄ー ̄川 アセアセ


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第158話 アイスワールド

……………… (;´∀`)

相変わらず急展開が続く次話です!
お読みいただきありがとうございます! 楽しんで頂ければ幸いです! (;゚∀゚)=3ハァハァ


 中華連邦のとある平原で、リア・ファルは迷彩を落としてブレイズルミナスを展開しつつ周りの敵に副砲で応戦していた。

 

 ブリッジには平常運転のラクシャータや平然とするレイラ、そしてアワワと慌てるのを我慢するユーフェミアなどの姿があった。

 

「ラクシャータさん、迷彩は必要ないので盾の出力維持に専念してください。 各副砲は弾幕を張りつつ味方の援護を優先するように。」

 

「そんなことより、主砲で“バーン”と撃った方が早いんじゃないの────?」

「────ダメです。 この距離でそんなことをすれば余波で味方機が巻き添えを食いますし、何より敵はナイトメア……主砲を撃っても当たるとは限りませんし、撃った後の隙に艦に取り付かれれば私たちの敗北です。」

 

「ま、私は中途半端野郎(ウィルバー)と違って軍事はからっきしだからね。 言ってみたかっただけよ。」

 

「ユーフェミアさん、シュバールさんは何と言っていました?」

 

「“位置情報を”、とだけ。」

 

「(ならばこちらに向かっていると見ていい……)」

 

 レイラはそう思いながら、コンソール画面に映し出される戦場の情報を見る。

 

 リア・ファルの周辺には毒島たちの味方機、そしてウィルバーのイカロスが周辺の所属不明(アンノウン)機に対して応戦をしていた。

 

 が、敵機の反応が『LOST(信号消息)』となっても時が経てば再び『ENEMY(敵機)』と表示が戻っては動き出す。

 

「(敵はまさか『不死身』……いえ、そんなことは無いはず。 ならばアリスたちの様な『ギアスユーザー』と仮定すればいずれ限界が来る。 逆に『ギアス能力者』だとすると、このままでは……いえ、“シュバールさんがこちらに来ている”となると勝算をお持ちになっている。 だとすると我々がするべきことは敵の情報を集め疲労させること────)」

『────アリス機とブスジマ機は各個撃破を優先し、他の者たちは彼女たちの援護をしろ! 敵が“攻撃を避ける”という事は有効打に成り得るという事だ────!』

「────ミルベル博士、シュバールさんがこちらに向かっています。 今は出来る限り被害が少ない戦いをした方が宜しいかと思います。」

 

『そうか、彼が……では彼の機体の準備をさせた方が良いかもな。』

 

「あ、それは大丈夫。 もう既にさせていて、あとは彼が乗り込むだけよ。」

 

「仕事が早いですね、ラクシャータさん。」

 

「まぁねぇ~……これでヴィンセントタイプも手に……ムフフフフフフ……

 

 

 

「三機目!」

 

 アリス機のバスターソード(マイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム)が敵機のGX01を貫き、システムが作動すると敵の機体が膨れ上がり爆散する。

 

「これじゃあブラックリベリオンの時と同じよ!」

 

 アリスはイライラしながらガニメデ・コンセプトを動かすと、背後の残骸に潜んでいたGX01が飛び掛かってくるが更に背後から攻撃を受けて爆散する。

 

『いいや、それは違うぞアリス君。 少なくともこれは“初見”ではないし、我々には頼りになる仲間がいる。』

 

「先輩の調子は?」

 

『薬で抑えている。 薬の効果が切れたあとで誰か介護してくれると助かる。』

 

「んじゃ、体力バカのダルク辺りに頼むわ────ん?」

 

 アリスたちが見ていると、敵のGX01が段々と戦場から離脱して行く様子に困惑する。

 

「これは────」

『────敵が引いていく……となると理由は限られてくる。 サンチアたちは何か分かるか?』

 

『私の能力範囲以内には、何も。 あのGX01機に“心を持った何か”が乗っているのは確実だが未だにボンヤリとしたモノしか感じ取れない。』

 

『地形にも、変化無し。』

 

『……博士、上空から何か分からないか?』

 

 毒島が上空で援護射撃をしていたイカロスに通信を送り、ウィルバーはありのままの感想を伝える。

 

『いや、妙だ。 私から見ても()()退()()()()()()()。』

 

『となると、砲撃か何かが来るのか?』

 

『今、ファクトスフィアを展開して────ん?』

 

『どうした?』

 

『いや、高度と速度を落とすのが少々速すぎたらしい。 スクリーンが霜漬けになっ────』

 

 ────ブツ!

 

 ボォン!

 

 ウィルバーからの通信が突然切れると爆発音がして、皆がその方角を見ると火を吹きながら高度が下がっていくイカロスが映る。

 

『あれはまさか、イカロス────?!』

『────“イカロス”か。 なんとも皮肉な名前だな。』

 

 オープンチャンネルの通信が入り、アリスたちの機体は身構えて通信元と思われるイカロスからそう遠くはない丘の上を見るとランスロットに似た機体が立っていた。

 

『先の戦いを見ていたよ、イレギュラーズ────ああ。 今では『元』が付くか。』

 

『ちょっと横から失礼するよ────』

 

 謎のランスロット似の機体からの通信を、部隊内用周波数からラクシャータの声が遮る。

 

『────お前たち気をつけな。 少し形が違うけれど、あれはあの若い(スバル)のが寄こした“ヴィンセント”に近いと見ていい。』

 

『束の間の自由、ご苦労だった────』

 

 ランスロットに似た機体────ヴィンセントの表面上が赤くなるとフッと消える。

 

『────そしてさようなら、諸君。』

 

 パキパキパキパキパキパキ。

 

 否、『ヴィンセントがいつの間にか急接近した』と思えば今度は毒島とダルクの機体はいつの間にか急激に冷え込んでいて、体の表面がみるみると凍っていく。

 

『うぉ?!』

『うぎゃあああ、寒い?!』

 

『二人から離れろ!』

 

 ハッとしたアリスは『ザ・スピード・オーバーホエルミング』で機体の限界値ギリギリの速度でヴィンセントに近づきながら、持っていた剣を投げる。

 

『剣が?!』

 

 だが投げた剣はマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステムが起動していたにも関わらず、氷漬けになっては地面へと落ちる。

 

『私の力の前では無駄だ、死ね。』

 

 そうヴィンセントからの通信が告げるとその場にいた誰もが急激な温度変化に戸惑いながら、手足の感覚がなくなっていくことに驚く。

 

『き、機体が!』

『このままでは凍死か────かっ?!

『(それ以前に、肺が!)』

 

 

 ガクッ!

 

「きゃ?!」

 

「今のはなんですか?!」

 

 地面で戦っていたナイトメア部隊の援護をするため高度を通常より落としていたリア・ファルも突然傾いたことにユーフェミアとレイラも声を出す。

 

「出力が下がっている……サクラダイトに何かが干渉している?!」

 

 ラクシャータも何時もの気怠そうな調子から想像しにくいウキウキ慌てた様子でコンソールを両手でがっしりと掴み、自分が転倒するのを防いでいた。

 

『弾が当たらない?!』

『それでも撃ち続けるしかない!』

 

 何とか距離を取って難を逃れていたアキトたちワイバーン隊、そしてアシュレイ隊のアレクサンダたちは遠距離から現れたヴィンセントに銃などを向けて撃つが弾丸は距離を詰めれば詰むほどにつれて氷漬けになっては落ちていく。

 

 キィン!

 

『む。』

 

 その中で、一つの弾丸はヴィンセントに弾かれる。

 

『お! 流石ユキヤだな!』

 

『んー、と言っても効果は……あれ、アキトは?』

 

 ユキヤ機がライフルの再装填をしているとアキト機がいなくなっていることに気付く。

 

『ならこれはどうだ。』

 

 いつの間にか騒動とほぼ効果のない弾丸の中をカモフラージュにヴィンセントとの距離を一気に詰めて近づいたアキトのリベルテ機は背中の噴射機を使って敵の真上からライフルを撃ち出して再び噴射機で距離を取る。

 

『もう弾は届かせん。』

 

 だが弾丸は大気中に現れた氷に弾かれ、これと言った効果はなかった上にアキト機のいたるところのセンサーからエラー表示が出ていた。

 

『野郎、どうなっていやがる?!』

『う~ん、これだとあれじゃない? “カイジュウ映画”って奴。』

『ユキヤ、何のんきにしているの?! このままだと皆が死んじゃうよ?!』

『どうだろうね? だって彼、着いたよ?』

 

 ユキヤ機がそう言いながらセンサーが()()捉えていた反応がようやく視界に入ってくると────

 

『────敵の援軍?!』

『いやぁ、あれってどうもシュバールさんらしいんだ。』

 

『(うん? なんだ、これは?)』

 

 機体がほんのりと赤く光っていたヴィンセントの中にいた、ルルーシュ似の少年はそう思いながら新たに現れたヴィンセントに向きながら胸奥がざわざわとするような違和感を持った。

 

「間に合って、くれたか……」

 

 スクリーンのほとんどが氷に覆われながらもこの対面を、毒島はそう言いながら機体の出力を全て暖房に回していた。

 

 

 


 

 

 駆けつけたのは良いが、どうしよう?

 

 これが最初に思ったことだった。

 ……いや、それ以外に何を(スバル)に言えと?

 

 だって『皆がGX01に襲われている』と聞いたから全力で向かったものの、いざ到着してみればリア・ファルとガニメデ・コンセプトたちが半分氷漬けにされているわ、GX01はどこにも見当たらないわ、代わりに別の形のヴィンセントがいるわで、驚きの連続で胃がキリキリする上に内心スゲェ焦っている。

 

 理由はごく単純に、この場にいるヴィンセントと周りが氷漬けにされているという事実についてだ。

 

 だってこれってまるっきり『ナイトメア・オブ・ナナリー』で見たことのあるシーンだからね。

 最悪だよ。

 

 え? 何で?

 何でギアス嚮団を追っている筈なのにいつの間にかGX01が相手になっているし、眼前には『周りを氷漬けにするヴィンセント』。

 

 マジ最悪、ゲロ吐きたい。

 

 だって考えてみてくれよ?

『ヴィンセント』、『氷漬け』、『GX01』と、こうも条件がそろえばあの機体は『ナイトメア・オブ・ナナリー』のアレしか思い浮かばない。

 

『ジ・アイス』の()()・ヴィ・ブリタニア枢機卿。

 

 あ。 知らなかったら『ロロ』という名前だけで、見た目がルルーシュなんだぞ?

 そして『枢機卿』から察せるように『ナイトメア・オブ・ナナリー』の作品でギアス嚮団の代わりとしてエデンバイタル教団の────ちょい待ち。

 

 もしかして、この世界にも『エデンバイタル教団』も別にあるという事か?

 うわぁぁぁぁぁぁぁ……だ・い・しっ・た・い。

 

 マッドやアリスたちがいる時点で予想出来ていた筈なのに、てっきりクソガキブイブイ(V.V.)がいたからギアス嚮団と同一化したと思っていたよコンチクショウ!

 

 おおおっと、戦闘中に意識が脱線して別の方に偏りそうだった。

 

 え? 言っていなかったっけ?

 俺って今操縦しながら考えているんだ。

 やれば出来る子だろ?

 

 と言っても基本、今まで留めていた『充電(リチャージ)』分を使わないで小刻みに特典を使いながらヒット&アウェイのゲリラ戦法をして、敵を見極めようとしているのだけれど。

 

 で、結果から判断するとやっぱり『ジ・アイス』っぽい。

 

 何が言いたいかと言うと、『ナイトメア・オブ・ナナリー』の中でも出てくるこの(多分)ロロ枢機卿の能力『ジ・アイス』は原作中でも最強に近いギアス能力で、俺の特典を使っても()()()()()という事。

 

『ジ・アイス』は平たく説明すると()()()()()()()力だ。

 それが例え物理的なものでも、()()でも。

 

 つまり、ロロ枢機卿は『時間を凍らせることが出来る』。

 

 で、ここで自己問答タ~イム!

 

『果たして俺はこいつに勝てるのか?』というモノだが、ハッキリ言ってわからん。

 

 何せ俺の『時間に意味はない』で時間自体は止められても、俺が今乗っているヴィンセントはそのままの性能だ。

 

『どういうことだってばよ』に答えると、俺の能力がギアスと仮定しても俺の機体にはギアス伝導回路が無いので、俺自身は動くことは出来ても俺の機体は影響をそのまま受ける。

 

 まぁ、つまり搭乗者の俺は無事でも機体は温度変化をモロに受けているし、相手の姿が消えた瞬間に俺も特典を使ってヘイト稼いで何とか皆から離れるように誘導し(逃げ)ているが……正直、打てる手が思い浮かばない。

 

 手詰まり状態……というか、このままだと俺の機体の方が先にダメになって詰む。

 

 ……う~ん、どうしよう?

 

 時間が過ぎていく間、俺の機体はやはりというか消耗していく。

 エラーメッセージやアラーム音が鳴っては無理やりそれを消して無いとわかっていても何とか攻略法を探し続ける。

 

 激しい方向転換と特典の反動で身体中も軋むどころか『痛み』だけで細胞が組成されているように痛覚が悲鳴を上げている。

 

 ……いや、今チラッと見たが手首の肌が少し変色している。

 内部出血か今までの無茶な操縦、あるいは相手の『ジ・アイス』の温度急変化で霜焼けか?

 

 分からないし、ここにいる皆が危険に晒されているのは俺の所為という事もあるし、『今はどうにか攻略法を探さないと』という考えにだけ精神を集中しよう。

 

 と言っても、未だに『勝ち』への道筋は見えていない。

 

 さっきから瞬きをするのも忘れて、目がかすむ。

 

 だが焦るどころか、俺の気持ちは……心は不思議と落ち着いている。

 

 いや、研ぎ澄まされていくみたいだ。 さっきまで敵のヴィンセントの動きを追うのでやっとだったが、今では奴が消えるとほぼ同時に『時間に意味はない』を使って迎撃出来ている。

 

 言葉にするのは難しいが、まるでアイツから漂って来る『敵意』が感じ取れるような……不思議な気持ちだ。

 

 チッ。 代償も副作用も分からない特典をここまで使うつもりは無かったし、使うとしてもR2で『とある局面』を目指して充電(リチャージ)するつもりだったがまぁ良いだろう。

 

 『敵と互角?!』

 『スゴイ……まるでスロニムで見た幽鬼だ!』

 『シュバールさん、頑張れ!』

 

 通信機から何か聞こえてくるような気がしたが上手く聞き取れない。

 変わりにいつの間にか俺の心拍音しか耳に入ってこない。

 

 クソ、視界もあやふやになってきた。

 色がまるで、一昔前の映画フィルムの様な白と黒に灰色のミックス。

 

 戦い(というかゲリラ戦)が始まって、どれぐらいの時間が経ったのだろう?

 感覚がマヒしていてよくわからない。

 

 『この私が、一機ごときに!』

 

 ここでGX01も参戦するからには相手も焦っている……となるとあれが近いかな?

『ナイトメア・オブ・ナナリー』の設定通りなら、ロロ枢機卿もイレギュラーズのようにC.C.細胞で自滅────待てよ?

 

 俺の思考は以前の仮説にたどり着いて、敵の『ジ・アイス』とは無関係に体は芯から指や足先まで一気に冷えていく。

 

 以前、C.C.細胞の事を試行錯誤で試していた時に俺は何という考えに落ち着いた?

 

『マオ(女)の例からすると距離で(ギアス)を使ってもC.C.細胞の活性化(痛み)はないし、浸食もない。』*1

 

 『距離で(ギアス)を使ってもC.C.細胞の活性化(痛み)はないし、浸食もない。』←内心でのエコー

 

 『距離でC.C.細胞の活性化(痛み)はないし、浸食もない。』←また内心のエコー

 

 『距離でC.C.細胞の浸食もない。』←またまた内心エコー

 

 ……………………………………………………………………もしかして相手の『自滅エンド』って無い事になる?

 

 事態悪化?

 

 ()()()()()

 

 ()()()

 

ゴベェ?!

 

 そんな考えをした瞬間、一気に俺の喉をせり上がった液体にむせてはそれを吐き出してしまう。

 

 

 


 

 

「(これは一体どういう事だ。)」

 

 先ほどからスバルと相対しているギアス伝導回路搭載型のヴィンセントを通して状況を見ていたマッドは困惑していた。

 

 ヴィンセント同士、機体の性能はさほど違わない……と言うとウソになる。

 

 スバル機は元々軍用だったものが展示品用にされていたこともあり、整備もしっかりとされたが所詮は初期型。

 

 対してギアス伝導回路搭載型の機体はヴィンセントにマッドが手を入れて(設計上)本家のランスロットと性能差が無いほどのチューニングが施されている上に、騎乗しているルルーシュ似の少年────『ロロ・ヴィ・ブリタニア』のギアスは時間も止められる()()()()

 

 そうして考えると初期型のヴィンセントを倒すことなど容易いはず。

 

 だが実際、戦況は拮抗している。

 それどころか、初期型ヴィンセントをしとめるのは難しいとロロは判断したのかGX01を呼び戻していた。

 

 それに────

 

「(────先ほどからロロは『ジ・アイス』を今までに見せたことの無い範囲で使っている……にもかかわらず体調が崩れる様子はない。 と来れば────)」

 

 マッドは目を見開かせながら、義眼の映像情報を元の設定に戻しつつも椅子から立ち上がっては汗が額に噴きだす。

 

 「────もしや、()()か?!」

 

 ……

 …

 

 リア・ファルの格納庫内は、先ほど艦が傾いて地面に衝突しはずみで出来た被害を抑える為に乗組員たちはダメージコントロール作業を続けていた。

 

「早く火を消火しろ!」

「このままいつでもナイトメアが避難できるようにしろ!」

「にしても、あの新型凄いな!」

「ああ、お嬢(毒島)たちのナイトメアが急に氷漬けになった時は肝を冷やしたが────」

 

 格納庫に続くハッチは半開きになっており、『ジ・アイス』による凍り付くような寒い風も出入りし放題だった。

 

 故に艦のクルーたちは分厚い上着や帽子などを着込んでおり、そこに艦内部から出て()()増えたところで気に掛ける人はいない。

 

 何せ艦内部から来たならば今までずっとリア・ファルに人員が出入りしていないので、アマルガムの一員……の筈。

 

「(────うわぁぁぁ、()()()からせっかく出てきてもまだ寒いぃぃぃぃぃ!!!)」

 

 そんな『一人』は顔を覆うほど大きなフード付きの上着の下から、僅かにだが動きに誤差が出てき始めたスバル機に違和感を持ち、じっと見る。

 

「(何か、違うような気が……もしかして無理して────)」

「「「「────あ。」」」」

 

 コソコソと外の様子を見ていたクルーはスバルの機体がワンテンポ遅れて片足が凍ったことで機動力が落ちた一瞬を、アキトたちの迎撃をすり抜けて狙ったGX01の攻撃が掠り、声を出す。

 

「あ、おい?! そいつは一般用にデチューンされていない、ヤバい方だぞ?!」

 

 フードの『一人』は待機させてあった機体へと流れるように乗り込み、これを見た整備士が慌てる。

 

「というかお嬢が気にかけている奴専用のKMFじゃね?!」

「え?! あの頭おかしい色気プンプンのインド軍区女史が趣味全開で作った?!」

 「悪いことは言わねぇ! そいつから降りて一般用の制御を────」

 「────そんなこと言っていられないでしょうが?!」

 

 が、騎乗した者は気にせずただ機体の起動をさせてからフードが鬱陶しくなったのか剥ぎ取り、機体の中から上記の言葉を叫び返す。

 

「え? あれ?!」

「あんな嬢ちゃん、アマルガムにいたっけ?」

「あ! チラッと見たことある! アイツは確か黒の騎士団の────?!」

『────どいて! ハッチ開かないのなら無理やり壊して出るからね?!』

 

 そう言いながら、フードを剥ぎ取った赤髪の密航者────カレンは自分が乗り慣れている紅蓮二式に近い形状だった()()()()を立ち上がらせる。

 

「(『試作型蒼天MKII』……これって、もしかして昴の専用機? ううん、そんなことはどうでも良い!)」

 

 起動したスクリーンに出た機体名を読みながら、赤い悪魔(カレン)は試作型蒼天MKIIを動かす。

 

 ある種の確信と悔しさを胸に抱いて。

 

「(あの動き方、絶対に本調子じゃないよ! それなのに……それなのに!)」

*1
53話より




“誰もがひとりじゃないから~♪” ♪(o´ω`o)♪
と、当初は思っていたのにいつの間にかポケ戦の『架空の空』風に変わっちゃいました。 (;´ω`)ゞ 

後書きEXTRA(かつての日々):
作者:後リアルの日付でカレンへハッピーバースデー!
子供スバル:ハンバーグ付きシチューだ。
子供カレン:わぁぁぁ! ありがとう♡ +。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚:.。+゚
作者+スバル:ふぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。 ←子供カレンの屈託のない笑みに悶える


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第159話 『カレン、ッパネェ』

………………(; ̄_ ̄)

不安ながらも次話です!

お、お読みいただきありがとうございます! 楽しんで頂ければ幸いです! <(_"_)>


「ふぅぅぅぅ?! (うわ?!)」

 

 カレンは騎乗した試作型蒼天MKIIをいつも乗っている紅蓮の感じで前進させると予想だにしていない負担と体に圧し掛かるGによって肺から息が無理やり吐き出され、視界も一瞬真っ白になりながら星が散っていく。

 

 『おわぁぁぁ?!』

 『アブね!』

 『おい、ぶつかるぞぉぉぉぉ?!』

 

 視界と物音もぼやけ、それ等と共に薄れていく意識をカレンはコックピットに入ってくる外部の慌てるような声に集中して無理やりパチパチと瞬きをし、ようやく視界が戻ってきたと思えば格納庫内の壁に衝突しそうだった。

 

「ふ、う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! (うわわわわ?!)」

 

 身体を力ませると声なのか息なのかよくわからないものがカレンの口から吐き出され、彼女は操縦桿を操って進路を変更させ、半開きのままだった外部へと繋がるハッチの隙間を縫うように機体をジャンプさせる。

 

「っは! すぅぅぅぅぅ! (これ、どんな設定されているのよ?!)」

 

 ジャンプした際の浮遊感でようやく一息ついたカレンは空気を欲していた肺の要求のまま息を吸い込み、イラつきが増していく。

 

 以前に彼女は初めて黒の騎士団が紅蓮をキョウトから受け取り、ゼロに紅蓮を託されたあとに試運転として軽~く乗るつもりが何故か『機体の制御』に逆戻りしていた。

 

 その時、カレンが持った第一印象は『じゃじゃ馬』に加え、『()()()そう仕向けられていた』とも。

 

 何せ乗る前にOSの設定チェックを済ませてから乗ったというのに、『少しスピードを上げようかな?』と思って機体を動かすと通常時のOSが別の物に切り替わり、『機体性能』に偏り過ぎたままの設定に入ると紅蓮は一気に豹変して大変だった。

 

 余談だが『騎乗センスが無くて下手な奴だったら死んでいるな』とスバルに言わせるまでに危ないOSだった。

 

 そしてその時以上に過激な動きをする機体に乗っていたカレンはムカムカしながら状況の把握をする。

 

 見えるのはところどころ凍り付いた大地とレーダーには『ALLY(味方)』と識別反応を出すガニメデ・コンセプトたちに、今尚『UNKNOWN(識別不明機)』と交戦を続ける人型……と呼ぶよりどこかワチャワチャした形から『昆虫』を思わせる味方機たち、そして────

 

「(見えた!)」

 

 ────カレンが見渡した先には、似た金色の機体たちが相対する戦場だった。

 

 だが『似ている』と言うだけで『完全に一緒』ではない上に()()()()()()()()()()()()()

 

 さて。

 ここまでカレンは『敵味方の位置』、『地形』、『現状の進行具合』などを含めた『戦場の把握』をハッチから機体をジャンプさせてから要した時間はコンマ0.5秒にも満たっていない。

 

 そのことを考えると機体性能を別にしても、どれだけカレン自身の身体能力が高いか再確認できるだろうか?

 少なくともスバルが見ていたのなら『ッパネェ~』と素直に呆けながら感心していただろう。

 

 そんな彼自身も大概だが。

 

「(さっき、操縦桿を動かした時に見た項目(メニュー)の中に────)」

 

 カレンは操縦桿のボタンなどを操ってスクリーンに先ほどジャンプするときに映ったと思う項目を探し、『機動補助』というモノにカーソルを合わせる。

 

 ビィィィィィィ!

 

ドライバー(ソフトウェア)設定がされていません、初期設定が終えるまでお待ちください。』

 

 「────はぁぁぁぁぁ?!」

 

 耳障りなブザー音と、無慈悲な文字が浮かび上がりカレンは素っ頓狂な声を出してイラつきがマッハで上昇していく。

 

 何もこのようなことは初めてではないのだが*1、以前よりも切羽詰まった状況の上に────

 

 「うりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ガァン

 

 テテーン♪

 

 ────まるで『そんなこと知るかボケェェェ!』と続きがあるような音量でカレンは叫びながらコンソールを蹴るとまだまだ空きがあった筈の『機動補助』のインストール時間が一気に短縮されて『完了』が気弱な小さな音と共に表示される。

 

 その姿と一連の動作は、昭和譲りの修理(物理)方法で暴れ馬の躾(物理)のごとく所業であった。

 

 ちなみにリア・ファル内から飛び出てここまで要した時間はわずか数秒未満である。

 

 ッパネェ。

 

 

 ……

 …

 

 

「(やべぇ。)」

 

 スバルはヴィンセントで自分に襲い掛かる敵ヴィンセントや、たまにアキトたちが奮闘して敷いた陣を抜けてくるGX01の攻撃を躱しながらそう短くかつ簡単な事を思い浮かべた。

 

 先ほど『相手がナイトメア・オブ・ナナリーのロロ枢機卿かもしれない』という仮説をしてから連想した『原作で見せた自滅が無いかもしれない』からさらに『どうにかしてここにいる皆を逃がせないか?』と言う考えから行動を変えていた。

 

 そんなところに僅かにだけとはいえ吐血した際に反応が若干遅くなり、敵のギアスの効果範囲内に数秒間居たことでスバル機の左足の調子は明らかに悪くなっていた。

 

 関節を曲げるたびにビキビキと不安になりそうな音が響き、ランドスピナーも展開から実際に動き出すまでのタイムラグが出来ていた。

 

 何より────

 

「(────この機体もだが、俺自身もそろそろヤバいかもしれない。)」

 

 コックピット内にいたスバルはじわじわと感覚が麻痺していく自分の左半身に力を入れようとして、動きが鈍くなっていたことに不思議と落ち着いたままそう思う。

 

 「『身体が冷えると感情も冷める』って本当の事だったんだな。」

 

 もう『勝ち筋が見えない』どころではなく、明らかに『ジリ貧』と脳が分かっていてもまるで他人事のように取れるスバルは前世、あるいは今世で聞いたのかよく分からない事をぼそりと口にして息は白い煙のように出てくる。

 

「(あー、まさかこんな風に『詰む』とは思わなかったな。 やっぱり俺もまだまだってことか……お~い、『死にそう』だぞ~……………………………………あれ? 本気でヤバいな。)」

 

 

 ……

 …

 

 

「(どういうことだ、これは?)」

 

 スバル機と相対していたギアス伝導回路搭載型ヴィンセント改の中にいたルルーシュ似の少年────『ナイトメア・オブ・ナナリー』ではロロ・ヴィ・ブリタニアと名乗ったのでそう呼称することにする────は疑問を持ちながらも事務的に一般の軍用ヴィンセントを追い込もうとしていた。

 

『絶妙な距離と立ち回りで概念含め、全ての動きを止まらせることができるギアスである“ジ・アイス”の有効範囲内になかなか入ってこない。』

『だが無視できるほどの距離も空けていないため追撃をせざるを得ない。』

 

 以上のことなどがロロを悩ましているのは建前上だった。

 

 本当の理由は、ここまで能力を展開し続けることと広範囲に使うのは初めてなのに、未だに頭痛や吐き気などを感じていないことだった。

 

「(本来、ギアスなどは強力になればなるほど反動が強いはずだ。 それはギアス能力(契約)者でも、ギアスユーザー(C.C.細胞)でも変わらない。 不気味だが、このまま排除して後でじっくりと────)」

 

 ────ドゴッ

 

「ぐぉ?!」

 

 ロロの機体が衝突音とともにひどく揺れては頭を打ち、変な声を出して思わず視線を敵から外してみると────

 

 「────この私を、足蹴にするだとぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 

 


 

 

 お、オイラはありのままの話をするぜよ?!

 

『掻い摘んでくれ』?

 む・り。

 

『ユーフェミアから皆がGX01に襲われていると聞いてヴィンセントで飛び出てきてみたら別のヴィンセントが周りを氷漬けにしていて“あ、これ、やべぇ”と思いながら応戦したら案の定“ナイトメア・オブ・ナナリー”の漫画でみた“真の魔王である私~”のロロ枢機卿の感じの奴で某奇妙な冒険パート3の聖騎士団(クルセイダーズ)の後編決戦みたいな感じの小競り合いと言うかガチのキャット&マウス(鬼ごっこ)をしていると体温と共に思考が冷め始めた頃に“あれもしかして相手が設定のままでジ・アイスの奴だったら俺が来たことで余計にパワーアップしているんじゃね?”と考えたら血を吐いて思わず敵の攻撃をちょっと受けてしまって“あこれ無理ゲーっぽいな”と考えたところでリア・ファルから出た機体が敵ヴィンセントに空からのキックをお見舞いしたことで目が覚めたような感じのままモノローグしている。』

 

 と言うか見事なラ〇ダーと言うかイナズ〇キックが炸裂したぞオイ。

 

 ちなみに敵ヴィンセントに両足蹴り(キック)を入れた機体は一見するとマジでバスター〇シンのような色と形をしているので『ラ〇ダーキック』だとR〇かカ〇ザ?

 

 いやいやいや、ちょっと脱線しすぎじゃないか?

 

 ……うん。

 見た目がちょっとごつい蒼天だ。

 

 紅蓮型の半身バランスが悪いところを補うためにデザインを変えたのか、上半身はそれほど変えずに下半身だけ強化したような感じだ。

 

 ぶっちゃけていいか?

 

 なんだかアー〇ードコ〇でレッグパーツを細いヤツのLN-502からLNKS1B46Jに変えた感じ。

 

『うりゃああああああああ!!!』

 

 しかも通信機からはここにいない筈のカレンの声ががガガががががガが?!

 

 いや、考えろ俺。

 

『両足蹴り』に『試作型蒼天(のパワーアップ版?)』と決め手は『カレンの声』……

 

 そこから導かれる考えは一つだけ!

 

 『どういう経路か知らんがカレンが試作型蒼天に乗って飛び蹴りを敵ヴィンセントに食らわせている』と言う事だ!

 *注*現在のスバルは色々なことが心身ともにあり思考力低下中だったのを驚きから無理やり気張っています

 

『スバル大丈夫ああああああああああああ?!

 

 そして見事なキックで敵ヴィンセントが吹っ飛び、入れ替わるように着地した試作型蒼天が凍った地面にズコーと昭和風ギャグみたいに滑って慌てる声がする。

 

 うん、カレンだ。

 昔から『猪突猛進的で勢いは良いけれどそのままどこか引き締まらない』のは変わらないな。

 

 正直見ていて和むし、俺が助かっているのは本人に黙っているが。

 言ったらグーパンが出そうだし。

 

「ああ、大丈夫かどうかで基準すると()()()()()()()な。」

 

『……あ、うん。』

 

 あれ? 今の間は何ぞや?

 

 ドゴォン! 

 

 『私を足蹴にするなど万死に値する! そこの紅蓮型、楽に死ねると思うなよ?!』

 

『うわぁ、なんか中ボスっぽいセリフ……』

 

 ロロ(仮)機がオープンチャンネルでそう叫ぶとカレンが俺の心境で思っていたことを代弁する。

 

 いや、そんなことよりも────

 

『カレン、こいつに有効打を与えるのはお前に任せる。』

『わかったよ。 動きはどうする?』

『お前に合わせる。』

 

 ────好機だ。 俺一人と言うか初期装備ヴィンセントでは『天地がひっくり返る』でもなければ勝てない。

 幸い、装備は以前の試作型蒼天のモノも揃っている上に俺がwZERO部隊で開発した装備も追加されている。

 

 こうやって見るとマジに『武蔵』って感じがするな~。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『うおりゃぁぁぁぁぁ!』

 

 試作型蒼天(強化版?)のパイルバンカー……の予備の杭を投擲すると、質量を持ったそれは弾丸のように大気の氷に弾かれることなくそのままロロ(仮)機へと一直線に飛来する。

 

 見え見えの攻撃なのでロロ(仮)機はそれを躱すが、想定内だったので杭の飛ぶ方向に動いた俺の機体はそれを手に取り、遠心力も追加して投げると敵の機体を掠る。

 

 そしてその杭を避けたタイミングで、カレンの機体は新たな杭を投げては最初のモノを取って俺のように投げ返す。

 

 いわゆる『ひでぶ』とかが代表的な作品でサ〇ザーの部下で噛ませ犬役だった“ハイハイハイ”のナイフ投げの双子がしたような『ハメ技』だ。

 

 これなら一定の距離を保ちながら攻撃もできるし、杭を投げているわけだから凍っても質量が増すだけであまり支障はない。

 

 う~ん、やっぱりコードギアスの『熱血ヒロイン代表』だけあってカレンは凄いな。

 まるで俺のやりたいことが伝わっているような動きをするし。

 

 『ふざけるな!』

 

 キィィィン。

 ガガ!

 

 ロロ(仮)機から怒りのこもった叫びと共に、耳鳴りのような音が機体の装甲越しに耳朶を震わせると地面の砂がのっぺりとガラス張りのような光を反射し、大気の水分によって洞窟内で見るような鍾乳石のように凍り付いた空中で飛んでいた杭をガッチリと掴む。

 

『大地が……氷漬けに?!』

『カレン、輻射波動を使え!』

『出力は?!』

マックス(最大)!』

 

 カレンは見ている間にもドンドンと広がる()にびっくりするが、スバルに言われたとおりに輻射波動を打つ操作を入れる。

 

 すると試作型蒼天は右腕の形態を変える……のではなく、背中に背負われていた紅蓮より大きなクローアームの形状をしたスペアアーム()が右腕を覆い、それが大気を高周波で震わせながらロロ(仮)機を襲う。

 

 見た目的には、完全にR2で見た『甲壱型腕』と『徹甲砲撃右腕部』の中間っぽいのはカンガエナイヨウニシヨウ。

 

 ウン、ソノホウガイイネ。

 

 さて、ここで問題です。

 

 大気と地面は冷気によって氷が出来ている。

 そして輻射波動は高周波で膨大な熱量を一気に発生させる。

 この二つが衝突するとどうなるか?

 

 バキバキバキバキバキバキバキ!!!

 

 答えは『粉塵爆発』だと思っただろうか?

 

『何────?』

『地面が────!』

 

 ────残念、ただ脆くなった地面が崩れてぽっかりと開いていく大穴の闇に機体が飲み込ま

 ────のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 俺はヴィンセントのスラッシュハーケンを崩れていない地面めがけて打ち出し、何とか機体の制御────

 

『お、お、落ちる?!』

 

 ────は諦めて、ヴィンセントの足で壁を蹴って焦るカレンが騎乗している試作型蒼天が落ちている方へと機体を動かす。

 

『スバル────?!』

『────喋るな、舌を噛むぞ。』

 

 “我ながら口下手が憎い”と思いながらも、スラッシュハーケンをまた打ち出して崩れていない壁────

 

 ガラガラガラガラガラ。

 

 ────あ。

 

 崩れていない壁が崩れ、浮遊感が体を襲ったと思えば落下が徐々にスピードアップしていくことに実感が追いつく。

 

 ほぎゃああああああああああああああ?!』

 

 ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ?!」

 

 目の前が真っ白になって気を失いそうになるがカレンの叫び声で何とか意識を繋ぎとめるも、俺自身も叫んだ。

 

 

 


 

 

「…………………………」

 

 場は移ろい、ブリタニアの本国から来た者たちの拠点としてユーロ・ブリタニアが提供している場所の一つでスザクは一人でいつものように彼用にあてがわれた執務室で事後報告や事務作業を続けていた。

 

 未だにEUの断固抗戦を口にする強硬派の手綱は講和を求めている者たちに握られず、小競り合いは日々続いていた。

 

「(それだけならいいが……)」

 

 それは別にスザクや、シュナイゼルが半ば彼に押し付けたコノエナイツのレドやシュネーにとっては重荷ではなく、むしろ有用性を示すにはいい機会と思いながら鎮圧に励んでいた。

 

「ふぅー。 (問題は……)」

 

 ため息を出しながら窓の外を見るスザクは先日、ユーロ・ブリタニアの元軍部の鎮圧から様子が明らかに変わったシュネーだった。

 

「(後から知ったけれど……あの時シュネーが上手く反撃できなかった男、ヘンリックは彼の友人と聞いた……)」

 

 レドから話を聞いたスザクはそれとなく気にかけたのだが、日にちが過ぎていくほどにユーロ・ブリタニア軍の『暴徒鎮圧』の命は増えていき、シュネーは戦場であるにも関わらず放心状態が目立つようになって来ていた。

 

「(シュネーは良くも悪くも生粋の『貴族精神』を持っている。 今までは何とか後衛にいたから支障は出ていないが最悪、動きがこれ以上鈍くなる状態にでもなれば命を落としかねない。)」

 

 ピピー♪

 

 スザクは電子音の下端末を見ると、またも出撃要請が来ていた。

 

 題名は『()()の暴徒鎮圧』。 つまり────

 

「(────相手はまたユーロ・ブリタニアか。) ……よし。」

 

 彼は依頼の受信を承諾してから机から立ち上がり、少し前にカノンに頼んで作成した紙を棚から取り出す。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「た、待機でございますか?」

 

「そうだ。」

 

 G1ベースの格納庫で出撃用意をしていたシュネーに、スザクは先ほど手に持った紙を手渡す。

 

「シュネー、君はここで待機するんだ。 シュナイゼル殿下の了承も得ている────」

「────そ、そんな! 私は大丈夫です! お願いです、参戦させてください────!」

「────今の君は危うい状態だ、許可できないよ。」

 

 スザクの言葉に困惑するシュネーを見ているとかつての自分を連想してしまう。

 今では『キュウシュウ戦役』と呼ばれる戦場で、自分で自分を嫌いだったことを気付かせてくれた人を思い出す。*2

 

「(そうだよね。 こういうモノは意外と本人はわからないことだよな。) シュネー。 君は気付いていないかもしれないけれど最近は戦闘中に、考え事に没頭しているようなことがある。 それと同時に、さっきみたいに焦るのは君らしくもない。 何がそうさせている?」

 

「……………………」

 

「前に戦った“ヘンリック・ゲーラー”と言う者と相対して、上手く攻撃できなかったことと関係しているのかい?」

 

 シュネーはスザクの問いに黙り込みながら目を泳がすが、スザクの口にした名前でハッとして目を合わせてしまう。

 

「話に聞いたところ、君と彼は知人だったそうだね?」

 

「……ええ、そうです。 私はあの時、何度もヘンリックを撃墜できるチャンスがあったのに出来なかったのです……だって、相手は同じ主君を持つ仲間の筈なのですよ?! それに、“自国民を守るという信念は同じ同胞の筈なのにどうして戦う必要がある”と思うと……枢木卿は、どうして黒の騎士団と戦えるのです?」

 

 シュネーは最後に口にしたことを自分でも信じられないのか、その場にいたレドのように血の気が顔から引いていくのを感じた。

 

 逆に『不敬罪』にも取れるようなシュネーの『どうして黒の騎士団(日本人)と戦えるのです?』の問いを投げられたスザクは怒る様子も、不機嫌な雰囲気にもなっていなかった。

 

「(『どうして戦える』、か。 まさか『ユフィの所為』と口が裂けても言えないかな?)」

 

 スザクは一瞬考えてから落ち着いたまま、再び口を開ける。

 

「戦っていられるのは、『願い』があるからだよ。」

 

「『願い』、ですか?」

 

「うん。 僕は、“その為に割り切れ”と自分に言い聞かせている。」

 

「その……枢木卿の願いとは?」

 

「……」

 

『ここにいる皆がその時でも笑顔でいられますように』

 

 一瞬、今では懐かしいとも思えるアッシュフォード学園で友人の一人がタイムカプセルを埋めるときに言った言葉が脳内をよぎり、スザクは思わず微笑を浮かべる。

 

「もう少ししたら、賢いシュネーの事だからたどり着くんじゃないかな?」

 

 そうスザクは言いながらはぐらかしてランスロットへ騎乗し、シュネーは更にハテナマークを浮かべているとレドがシュネーに近づく。

 

「要するに、『甘ったれないで自分で考えて理由を見つけて納得しろ』だと思うよ?」

 

 レドの言い方はその通りなのだが、少々辛辣味が増していたのでシュネーは彼に馬鹿にされたと思ったそうな。

*1
18話より

*2
60話より




丁重な誤字報告、誠にありがとうございます。 お手数をお掛けになっております。 m(_ _)m


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第160話 アンダーグラウンドでナイトメアの散歩(デート?)

次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 ガラガラと脆くなって崩れ、大地にぽっかりと開いた穴に落ちそうになったロロ(仮)機は、『ジ・アイス』によって崩れそうにない壁の部分に足場を急遽作って落下を防ぐ。そしてドキドキと高い心拍数のままヴィンセントと紅蓮型(試作型蒼天)が落ちていった穴の奥を睨んだ。

 

何もかも滅茶苦茶すぎる! 一機だ! たった一機だぞ?! いきなり私を足蹴にし、その勢いのまま機体制御をできずに転んだかと思えば今度は暴れて周りの味方機(GX01)たちを滑りながら蹴散らす! なんなのだ?! 理不尽にも程が過ぎる!

 

 彼はイラつきと共に思わず口にした上記の言葉は皮肉にも、ランスロットと初めて相対したルルーシュのモノと似ていた。

 

「(機体慣らし(遊び)はもう十分だ! 殺す!)」

 

 違いがあるとすれば、彼は『自分が持っている操縦技術と己のギアスで敵を撃退できる』と言う自信があったことだろうか?

 

 ピッ♪

 

「ん? マッドからの通信? ……は? 『氷漬けにしてでもヴィンセントの騎乗者を生け捕りにしろ』だと? ハードルが高いわ、この戯けが! (とはいえ、確かに興味が出ているのは私もか。)」

 

 小腹が空いたのか、非常食の高カロリーゼリーを片手で飲みながら彼はぶつくさ言いながらも『ジ・アイス』を器用に使って氷の滑り台のようなモノを作成し、穴の中を降りていく。

 

 見た目で言うのなら完全に某銀色サーファー、あるいは緑色のランタンヒーローである。

 

 

 ……

 …

 

 

「シュバールさんが穴の中────?! コホン、いえ。 穴はどれぐらいの深さでしょうか?」

 

『ああ、こちらもエナジーをすべて暖房に回していたので目視でだがかなりの深さだ。』

 

 氷漬けになっていたリア・ファルとガニメデ・コンセプトたちはロロ(仮)機がいなくなったことで徐々に機器の状態が戻りつつある中で、毒島の通信にレイラは焦るような声を出しては注目を集めていることに気付き平常心を取り繕う。

 

 毒島は溶けていく氷から生み出された水滴が滴るコックピットの中から機体状態のチェックをしながらスクリーンから入ってくる穴の画像を拡大化する。

 

「(日光があっても穴の底が見えない……彼の事だからどうにかしていると思うが、蒼天は少々機体に不慣れな感じが……いや、今は私たちの方だ。 ここはまだ仮にも『敵地』、早々に決着を付けて────)」

『────ねぇアリスは機体が動けるようになったら穴の中に入るんでしょ?』

 

 不意に上記の言葉を発するマオ(女)の声が通信から入ってくる。

 

『は? 入らないわよ?』

 

『え? なんで?』

 

『なんでって────』

『────アリスなんだから穴にダイブしてこそだと思うんだ~♪』

 

 『どこの童話よマオ?!』

 

『だってアリスの“ザ・スピード”って加重力を使っているんでしょ?』

 

『………………………………あ、うん。 そうね。』

 

『今の間は何────?』

『────機体チェック終わったら行くわね────』

『────もしかして以前に体重計誤魔化すために使った時を思い出したとか────?』

 『────なんでマオがそれ知っているのよ────?!』

『────ダルクから聞いた。 ピザの食べ過ぎ────』

『────“ピッツェッタ”ね。*1

 

『ええええええええ? 細かくない、アリス? 昔はおおざっぱだったでしょ?』

気のせいよ。 レイラさん、彼らを追うのはいいかしら?』

 

 アリスは割とどうでもいい風にして、言い訳の原因を考えないようにした。

 

 穴に落ちた一人が張本人なので結局は無駄に終わるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 


 

 

 

 ガシャァン!

 

 何かが背後で割れるような音が聞こえる。

 

『────!』

『────!』

 

 横からは何かを怒鳴る声。

 

 そして目の前には────

 

『確認しました白兜を基にした量産機かと。』

『そうか、破壊しろ────』

『────消えた?! うわ?!』

 

『消えた? 消えただと?! ふざけるな! スザクじゃあるまいし、“()略”が“戦()”に潰されてたまるものか!』

 

 ────画面に映っていたルルーシュが学生服のままナイトメアの中から懐かしい一連を連想させる言葉を叫び、突如として現れた金色のヴィンセントを前に焦っていた。

 

『近接戦闘なら────!』

『────こちらが上だ』

 

 そこにカレンの紅蓮と卜部の月下がヴィンセントに襲い掛かって攻撃が当たる直前にヴィンセントはいつの間にか二機の間を通り過ぎていた。

 

 ああ、なるほど。 これってR2の2話で出た『バベルタワー事変』か。

 

 バリィン!

 

『────!』

『────!』

 

 ここまで来てようやく俺はぼんやりとそう思いながら、眼前の画面に集中して外野の叫びをシャットアウトし、そのまま見入った。

 

『消えた?!』

『神速のごとき!』

『(あり得ん! 物理的なものではない、だとすれば何か別の────)────は?!』

 

 思考を張り巡らせるルルーシュが気付けばヴィンセントはすぐそこまで来ていた。

 ルルーシュの指揮官用無頼はアサルトライフルを撃ちながら距離を取ろうとしてランドスピナーを展開するがお世辞にも反応速度が速いというわけでもなく、ヴィンセントがランスタイプのMVSで切りかかる。

 

『ルルーシュ!』

 

 そこに()()がルルーシュ機を押しのけながら割って入ってきて、ヴィンセントの攻撃を受け止める。

 

 え?

 

『カレン────!』

 

 あれ?

 

『────ゼロ! アンタの正体が誰であろうと、関係ない! でもね────!』

 

 え?

 

 『────“やってやる”って言ったからには、最後までやり遂げなぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 そう叫びながらカレンは甲壱型腕装備のリミッターを外しながら────

 

 『────日本、万歳!』

 

 

 


 

 

 ガタッ!

 

 「カレン! ウッ、ゴホ?!

 

 身体を起き上がらせながら目を開けても真っ暗だった。

 

ゴホ、ゴホ、ゴホ!

 

 そう思えるほどに周りは暗く、突然声を出したことでむせながらも反響具合で自分が密閉空間の中にいることは察せた。

 

 ポケットの中に入れておいた携帯を取り出して手探りで懐中電灯の設定を押すと電源が切れたコックピットを目にして、徐々にロロ(仮)機と相対した事を思い出す。

 

 確か……

 相手の『ジ・アイス』に対抗するためヤケクソで試作型蒼天の輻射波動をカレンに撃てと言ってから大穴が空いて?

 落ちそうになったカレンを見てヴィンセントで衝撃を和らげるためにかなりスパイダー〇ンと言うか荒いスぺランキング(洞窟探検)気味にスラッシュハーケンをところどころ打ち出して?

 

 で、気付いたら電源が付かないコックピットの今に至ると。

 

 気を失っていたところを見ると、スラッシュハーケンが千切れて落下したんだろうか?

 とりあえず、ハッチは開くかな?

 

 電源が落ちているので、手動で空気圧ポンプ用のレバーを────

 

 ズキ!

 

「────ッ。」

 

 左腕を上げようとして鋭い痛みに顔を思わずしかめ、右腕でレバーを何度か動かしてから非常用のハッチ開閉ボタンを押す。

 

 プシュー、ボン!

 

 空気が抜けるような音の次に小さな爆音が響き、湿った空気の匂いでハッチが開いたことを知りながらも懐中電灯モードの携帯を向ける。

 

 そういや、気を失っている間に何か夢を見ていたような気が────って俺の左腕が変な方向に曲がっておるがな。

 

 道理で動かそうとしたら痛いわけだ。

 

 ハァ……気が重くなるが、“このままは流石にダメだよな?”と思いながらも変な方向に関節が曲がった左腕を右手で掴んでは一気に方向を正す。

 

 ゴキッ!

 

 「カッ?!」

 

 予想通りの痛みに“イデェェェ!!!”と思う反面、心の中の一部で“おお、暗くても星は散るもんだな”と考える俺はまだ余裕があるのか? あるいはまだ意識がそこまで覚醒していないのか……

 

 多分、後者だな。

 

 でも今でも続く鈍痛でじわじわと雲がかかったような微睡を引きずっていた頭がしゃっきりした!

 ……ような気がする。

 

 何はともあれハッチから出ると、騎乗していたヴィンセントはボロボロだった。

 

 「うわぁ……」

 

 上記の他に言う事が出ないほどの損傷具合だった。

 手に持っていた携帯が照らしたコレ、もう『ボロボロ』じゃなくて『ボロ雑巾』だよね?

 

 金メッキが剥がれているどころか装甲がめくれて関節部とか頭部のメインカメラはむき出し。

 腰に備え付けられたスラッシュハーケンが両方とも無理やり剥ぎ取られたのに釣られて腰部の装甲は無くなっている……と言うか左足は膝から下がごっそり無くなっているし、良く見たら両腕も肘から先が無くなっている。

 

 …………………………良く生きていたな、俺?!

 

 あ、脚部と両肩のランドスピナーも無いや。

 もしかしてそれ使って減速したとか?

 

 ……それでも良く生きていたな、俺────?!

 

 「────昴!」

 

 後ろからカレンの声────

 

 ────ドッ!

 

 ごぶぇ?!

 

 背後からバック?!

 

「カレン、無事だったか。」

 

 それでも相変わらずの平常運転の口下手運行中。

 

「大丈夫?!」

 

 いや、普通に貴方(カレン)の所為で気を失いそうでござるが?

 後は左腕が折れそうでした。

 多分。

 

 とも言えないので、ここは当り障りのない返事をしよう。

 

「まぁ……そうだな────」

「────腕は?」

 

 何故わかったカレン。

 

「いや、だって立ち方が────」

 

 ────ちょっと待て、俺さっきのことを声に出していないよね?

 

「………………なんとなく?」

 

 野生の勘、恐るべし。

 

 っと、良く見たら後ろに試作型蒼天があるではないか!

 しかも擦り傷(?)と言うか塗料とか外装以外は割と平気っぽいぞ?

 

『兵器』だけに。

 

「ねぇ? これって昴用の機体なの?」

 

 そう言いながらカレンは試作型蒼天を見上げる。

 

「そうだが?」

 

「…………ふぅーん。 そっかそっか♪」

 

 お? なんだか知らないがカレンがちょっとご機嫌になった?

 

「で、腕はどうなの?」

 

「折れかけていた。」

 

 ここはやっぱり素直に言うか。

 

 あ。

 カレンのその呆れ顔、久しぶりに見るな。

 

「ア・ン・タ・ね?! ちゃんとアームスリング(腕つり)ぐらいしなさいよ!」

 

 なんか逆に怒られた。

 

 カレンはぶつくさ言いながら自分の羽織っていたフードを破って簡易的な────

 

「────ちょっと待て。 カレン、お前どうやってここまで来た?」

 

 ビクッ。

 

 そう問いかけるとカレンの体は跳ね、目が逸れると言うか泳ぎ出す。

 明らかな『動揺』だな。

 

 思わず見落としそうなっていたが、さっきまでの言動もこの事実から俺の注意を逸らすためだろう。

 

「あー、いやー、そのー────」

「────もしかして『密航』とかか?」

「────ギクッ。」

 

 図星か。

 お前は『ベルファストのミ〇ル』か?!

 

 いや、縁起的に悪いから別の密航者キャラを────

 

 「────だって、心配だったから……」

 

 ん?

 今、ボソリと何か言ったような気が……

 

「何か言ったか────?」

「────そ、それよりさ! 動くかどうか早く見ようじゃん!」

 

「そうだな。」

 

 御尤もな意見に俺とカレンは手分けして試作型蒼天の簡易点検をし始める。

 

 確かにこの転落で俺たちが無事ならば、ロロ(仮)機も十分無事な可能性があるし何よりこの空洞……とてもじゃないが自然に出来たとは思えない。

 

 何せ『GX01やギアス電動回路搭載型の機体が出た』と言う事は、近くに()()()()()がある可能性が高い。

 

 それが果たして『エデンバイタル()()』か『ギアス()()』かは未知数だが。

 

 あるいは『()()()()()』だけに、二つの組織があったりして。

 

 そうなったらもうマジで闇鍋状態だなこの世界。

 

 ………………………………俺の知らない作品が出てきたらどうしよう?

 

 

 


 

「ハックチ!」

 

「マーヤってば寒がり? 帽子、借りる?」

 

 地上のスバル機が乗せられていたトレーラーがところどころ未だに凍っている地面を避けながら移動している中にいたマーヤがくしゃみを出すともこもこジャケットを羽織っていたアンジュがかぶっていた帽子を渡そうとする。

 

「ううん、大丈夫よ。 多分、彼が私のことを口にしただけだから。」

 

何その自信ありげな笑顔?

 

「そう? 気のせいじゃない?」

 

「あら、そうかしら?」

 

「そうよ。」

 

「オホホホ。」

 

「ウフフフフ。」

 

 「ハワワワワワワワワワ……」

 

「(これはこれで面白いわね。)」

 

 何故かピリピリしだすマーヤとアンジュにネーハはオロオロとしだすのを見て、ミス・エックスはこの状況を楽しんでいた。

 

 

 


 

 

「この空洞……トンネル? かなり続いているわね?」

 

「………………」

 

「でも昴が手に入れたあの新型は残念ね……」

 

「………………」

 

「後で回収するにしても……ってファクトスフィアは使わないの?」

 

「………………」

 

 軽い整備チェックを終えた試作型蒼天のエナジーをできるだけ抑えた移動中のコックピット内にいるカレンが顔を俺に向ける為に振り返ると、彼女のハネッ毛が鼻をくすぐる。

 

『こいつ、シャワー時にリンス使っていない上にタオルでガシガシと乾かしていやがるな』と思ってしまうのは従者見習い兼世話係をやっていた時代の性か。

 

「……………………」

 

 カレンの吐息が顔にダイレクトあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!

 

 落ち着け俺、まだハーフタイムで慌てる時間じゃない!

 いや、そもそもハーフタイムってなんやねん?!

 

 まぁ……うん。

 落ち着こう。

 

 落ち着いて何故俺とカレンが『バイクの二人乗り』っぽく、移動中の試作型蒼天内に乗るまでに続く一連を簡単に思い出そうぜよ。

 

 1、 試作型蒼天のチェック終わった。

 2、 ヴィンセント見事に大破で身動き取れず

 3、 エナジーフィラーをヴィンセントから試作型蒼天にチェンジ

 4、 空洞の中を把握するためファクトスフィア展開

 5、 長~い洞窟の様に続いていること判明

 6、 湿気もあって肌寒いからナイトメアの手に一人が乗っての移動は危険

 7、 俺が手に乗ると言ってもカレン聞く耳もたないまま“いいじゃんいいじゃん”でカモーン

 8、 カレンの潰れるほどの胸を背中に押し付けられてワイぎこちなくなる

 9、 場所変わって貰ってカレンと俺は前後ポジション交代

 

 で、現在へと至るのだが密着状態なのは変わらないのでカレンの髪の匂いとかやわらかい体の感触とかうなじとかに注意が逸れて『あ、やっぱりおにゃのこだ』と思わせる特徴とかがダイレクトに伝わってきて息をなるべく浅くしているし視線もモニターに集中させているが人より高性能な肉体の所為か色々と感じ取れてやっぱり昇天しそうですダレカタスケテマジ鼻血デソウ。

 

「……………………」

 

「……ねぇ、()()言ったら?」

 

「何か。」

 

「クス、何それ?」

 

「聞かれたから言っただけだ。」

 

「「……………………」」

 

 またこの沈黙ぅ……

 

「聞いて、良いかな?」

 

「なんだ?」

 

「アリスたちの事は以前の時に聞いたから*2なんとな~く分かるんだけれどさ……ブリタニアの独壇場と思っていた『空飛ぶ船』は何?」

 

 ああ、浮遊航空艦のことか。

 

「知らん。 俺もさっき初めて見て驚いた。」

 

「じゃあ、ラクシャータさんたちとかの独断?」

 

「多分な。 少なくとも俺は頼んではいなかった。」

 

 うん、嘘は言っていないぞ。

 だから何故か気落ちするのはやめてくれ。

 

「それとさ……遠目で見たことしかないけれど、綺麗な人だったね……」

 

 うん?

 

「あの、えっと……金髪ツインテの人。」

 

 あ、もしかしてレイラのことか?

『遠目で見た』と言うことは密航中……の時だろ、多分。

 まぁ確かに綺麗だよな。

 出るところは(ボン、)出て引き締まるところ(キュ、)は引き締まって実に良い(ボン)

 

「まぁな。 あれでも貴族令嬢だ。」

 

「“あれでも”?」

 

「ああ。 レイラ・マルカル、本名は『レイラ・フォン・ブライスガウ』と言う。」

 

「そっか……そうだよね。 良いよね、あんな如何にも絵本とかで見るような“お姫様~”な感じの女の子……

 」

 

 あれれ? 更に気落ちしてブツブツ言いだしたぞ?

 

「カレン。 何を思っているのか知らないが、彼女の戦略家としての腕は相当なモノで、EUでは優秀過ぎて除け者にされていた部隊の指揮官の一人だ────」

「────え────?」

「────その部隊なんだが、EUのスマイラス将軍を知っているか?」

 

「えっと……EUでクーデター未遂の?」

 

「ああ。 奴は彼女の部隊ごと生贄にクーデターのきっかけとした。 優秀過ぎて除け者扱いされる部隊を見過ごすワケにはいかないからEUに俺は潜入して丸ごと引き抜いて来た。 彼女はその部隊の発案者で指揮官だった。」

 

「……………………」

 

 嘘は言っていないからな?

 だからその『ぽぇ?』っとした顔は向けなくて良いぞ?

 

「じゃ、じゃあさ?! じゃあさ?! じゃあさ?! あの船の乗組員たちはどういうことなの?!」

 

「どう言う事も何も、大半は毒島と桐原の部下だぞ?」

 

「それになんか女性が多いよね?! お飾り姫(ユーフェミア)とかアンジュさんとかガーフィールドさんとか毒島さんとかとか?!

 

『ガーフィールドさん』って……ああ、マーヤのことか。

 

「ユーフェミア皇女殿下は行政特区と並列で起きていたブリタニア内部のゴタゴタから保護した流れのままで、身を現在の黒の騎士団に預けるのは得策ではないと思ったから。 アンジュは……まぁ、ブリタニア貴族の政治抗争のゴタゴタもあって頼られたこととミレイ会長の頼みから始まったな。 マーヤ・ガーフィールドは、色々あって黒の騎士団にいた俺に弟子入りしたかった感じだ。 毒島は桐原のこともあって、今までの奴らも身を隠す場所を作るのに協力してもらっている。」

 

 うん、嘘はないな。

 

「…………………………ほぇ?」

 

「それと、少し遅くなったが……さっきはヤバかった、来てくれてありがとう。」

 

「あ、うん。」

 

 な~んか未だに反応が薄いな?

 

 たいていの場合、情報の呑み込みが余り宜しくないときにカレンがする仕草だ。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「え? えっと……久しぶりで聞きたかったことがいっぱいあった筈なんだけど……もういいや。」

 

 そのはにかんだ笑顔は『聞いたら迷惑かな?』の時にする奴だろうが。

 

 幼馴染なめんなと言うか地味に罪悪感が上昇中。

 

 …………………………よし。

 

「なら簡単に話をするが、良いか────?」

 

 と言うわけで試作型蒼天、ただいま洞窟内をランドスピナーでゴロゴロヨーソーローしながら久しぶりにカレンと会話中~。

 

 『会話』と言っても『報告』……『旅の語り』みたいな感じだが。

*1
8話より

*2
90話より




スバルゥ……………… (;´ρ`)

尚左側の操縦桿はスバルの代わりにカレンが捜査しています、とここで追記しておきます。 ( ・д-☆

あと悩んでいる内容について読者の皆様のお考えを参考にしたく、アンケートを実地中です。
お手数をおかけしますが、何卒ご協力をお願い申し上げます。 m(;_ _ )m


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第161話 R2の前倒し?に胃痛リターンズ

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます! まだ少し期間は続きます!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


「♪~」

 

 はるか天井に石盤があることでどこかの地下都市とわかる場所の中でご機嫌なV.V.はドミノピースを並べていた。

 

「嚮主様、このままでよろしいのですか?」

 

「うん? う~ん……」

 

 フードを付けた一人がそんなV.V.に話しかけると、V.V.は珍しく困る(あるいは悩んでいる)ような声と表情になって動きを止める。

 

「……『よろしく』はないね。 特に()()()が絡んでいるとなると。」

 

「その……ではなぜ────?」

「────『僕の思惑とは違うから』、かな? それとは別に、興味が出たから。」

 

「『興味』、ですか?」

 

「うん。 『()』とやらにね♪」

 

 V.V.は最後のドミノピースを置いてからそれを弾くとパタパタとドミノが倒れていく音が響く。

 

「(()()()が気に掛けるぐらいだから、どんな顔をするだろうね♪)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「妙な空域の反応、ですか?」

 

 機関部のダメージの処置を終えたグランベリーのブリッジに呼ばれたマリーベルは、先ほどシュバルツァー将軍に言われたことを復唱しながらも内心では彼の意図を読み取って考えを巡らせた。

 

「ええ。 ここから南西の方角から温度が急激に下がるような波数に似た現象を、シェルパ卿のサザーランド・アイが感知したのですが……恐らく────」

「────『例の艦と繋がっているかもしれない』、と言う事ですね?」

 

「ええ。 姫様の意を予想していますが────」

「────ソキアのサザーランド・アイを待機させている時点で『予想』ではなく、『下準備』でしてよ将軍?」

 

「……一応、確認の為に呼んだのですが、その様子だとやはり追うのですね?」

 

「ええ。 先の遭遇は偶発的なモノですが、今度は私たちが追う番かと。」

 

「……何かの策がおありですかな?」

 

 シュバルツァー将軍の問いに、マリーベルはにっこりとした愉快そうな笑顔を向ける。

 

「ええ♪ 実は────」

 

 ……

 …

 

 グランベリーの格納庫内で、レオンハルトはブラッドフォードの整備をしていたのかいつもの団服ではなくつなぎの様なオーバーオールを身に着けて手にはレンチが握られていた。

 

 彼の顔にはグリスが付いており、服装から露出した肌はところどころ黒い油で染みついていた。

 

 普通なら彼のような貴族男子が『こんな下々のやることが出来るか!』とさじを投げていてもおかしくはないのだが、シュタイナー・コンツェルンが経済難に陥った際に一時的に経費削減策の一環として整備のお手伝いをしていたのでそれほど苦にしていなかった。

 

 そして何より、今は許嫁であるマリーカがブラッドフォードのOS調整をしているので、『ただ見ているだけ』など許嫁としてのプライドが許さなかった────

 

「(ウィルバー主任……)」

 

 ────と言う考えは建前で、実のところイカロスと対峙した際にウィルバーとした会話の内容が頭を離れなかった。

 故にレオンハルトは何かに没頭して頭を空っぽにしたかったのが本音で、昔の杵柄にしていた整備をしていた。

 

「(“事後処理を押し付けられているに過ぎない”、か。)」

 

 だがある種の核心を貫いたようなウィルバーの言葉は頭から離れないまま、レオンハルトはほぼ自動で整備をこなしていた。

 

『レオンハルト!』

 

 そんな彼の頭上から、開放されたコックピットブロックのハッチからひょっこりと団服姿のマリーカが楽しそうな声で呼びかけたことでレオンハルトの脳内からウィルバーの言葉は綺麗さっぱりと消えた。

 

「マリーカさん、どうですか?」

 

「出力とコアルミナスの同調(シンクロ)タイミングの修正が出来ました!」

 

 マリーカのショートの髪が顔の額や頬にべっとりと引っ付くほど汗ばんではいたが、それとは裏腹に彼女は成し遂げたような晴れ晴れしい表情を浮かばせ、レオンハルトまでも嬉しく感じてしまう。

 

「(やっぱり、彼女は僕なんかには勿体無いな。)」

 

 自己嫌悪と共に。

 

 キューエルを見ると信じがたいがソレイシィ家はその昔、ブリタニア共和国を継ぐはずの者たちが次々と謎の死を告げたせいで『内乱』と言う空中分解の危機に瀕した際にブリタニアの大部分をまとめ上げながら外()からの干渉を防ぎ、幼いながらも正統な皇位継承者のクレア・リ・ブリタニアが名乗り上げた際にも補佐を務めて『割れかけていた共和国を強固な帝国への統一化』に助力した英雄など、数々の有能な人材を輩出させている名門だった。

 

 同じ時期で決して小さくはない名声を挙げた英雄、アルト・ヴァインベルグの分家とはいえシュタイナー家などは歴史が短くかつ浅い上に、レオンハルトの所為で『騎士の家』としては落ち目気味だったのを『兵器開発』に力を入れて何とか威厳を保っている綱渡り状態。

 

 そう考えれば、どこぞの公式で作中バストサイズナンバーワン没落貴族の家が置かれている状態と似ていなくもない。

 

「これで、ハドロンスピアーの調整はなんとか行けそうです!」

 

「(皇女殿下が望んでいた結果をこうもあっさりと出すなんて……さすがはかの英雄、ロレンツォ・イル・ソレイシィ卿の子孫ですね。) 技術師長もシュタイナー・コンツェルンからの返事を待つぐらい、コアと直結している武装やそれに類するソフトウェアは非常にデリケートで難儀していたのに……やはりこいつ(ブラッドフォード)()()()()()だけありますね!」

 

 レオンハルトの何気ない言葉にマリーカはハッとして徐々に顔を赤くさせながらも、それを隠すかのように俯きながらそそくさと機体を降りていく。

 

「し、し、し、し、し、『躾けている』だなんて! ……そそそそそその言い方だと、まるでブラッドフォードが私たちの子────!」

 

 彼女が降りている途中でソキアのサザーランド・アイとグランベリーのセンサーの範囲を上げると同時に船が感知される可能性を低くするため、いつもより飛行する高度を上げていたグランベリーの船体は強い流れの気流に当たって揺れるとマリーカはバランスを崩し、ブラッドフォードから落ちてしまう。

 

 「────きゃ?!」

 「────()()()()!」

 

 レオンハルトは落ちるマリーカを見てはかつてないほどに焦り、落ちる彼女を受け止めるためにギュッと両手を体に回す。

 

 落ちる体勢の所為で左手は背中に、右手は臀部近くの太ももに。

 逆にマリーカは自分のお腹を、レオンハルトの頭上に押し付けるように。

 

 つまり彼の顔はへそより更に下の部分に埋められ、マリーカはレオンハルトの頭部を抱くような姿だった。

 

「(今『さん付け』されていなかった! 『さん付け』されていなかった! 『さん付け』されていなかった! 『さん』ついていなかった!)」

 

「(あ、やわらかいしなんだか良い匂いがする~。)」

 

「「…………………………………………………………」」

 

 カァァァァァァァァァァァァ。

 

 こんな『ムハムハ♡』なラッキースケベ展開ならば思春期真っ最中の少年少女のおかげで内心の思考がピンク色に染まっていてもおかしくはないのだが、当の本人たちは別の純粋な色で染まりながら固まった。

 

「レオンハルト・シュタイナー────」

「────なんですマリーカ・ソレイシィ?」

 

「………………………………輿入れ前です。」

 

 急にフルネーム(と言うか敬語)でマリーカが話し出すとレオンハルトはぎくしゃくと彼女を下ろし、お互いは無表情のまま再び固まる。

 

「い、いやその! 危険で危ないと思ったらとっさに体が動いていて決してやましい気持ちがあったわけではな無いのです決して────!」

 

 レオンハルトの思考はようやく自分のした事と受け止めた時の体勢を思い出したのか苦し紛れ気味の言葉をずらずらと並べていった。

 

「(やった! レオンが初めて私を『女性』として見てくれた! ……ような気がする! やった────!)」

 

 対するマリーカは平然とする表情からは想像もできないほど、内心ではガッツポーズなどを決めまくっていた。

 

 格納庫内でこれらの一連を見守っていた者たちは『若いのぉ~♡』やら『けッ!』やら『リア充爆発しろ!』やら『レオン、うらやまけしからんッ!』などの様々なことを思い浮かべていた。

 

「(やれやれ、全然動きがないから冷や冷やしていたけれどようやくか~。)」

 

 ちなみにゼットランドのメガハドロンランチャーの調整をしていたティンクは、和みながらのほほんと上記を思っていたそうな。

 

「(それにさっきグランベリーの機関部が少しだけ出力を上げたと言う事は、例の『所属不明艦』の手がかりを見つけたと思われるし……これからどうなるんだろうね。)」

 

 

 ……

 …

 

 

「……………………」

 

 どこか薄暗い部屋の中から人気のない地下都市を見下ろしていたマッドはいつもの愉快そうな表情とは違い、真剣そうな顔になっていた。

 

「(やはり『狼』は間に合わんか。 そして『アイス』は善戦できているが……あの新型、以前に見たラクシャータの紅蓮タイプと動きが似ている。厄介だな。 『屍』の残機も心許ない。) …………よし。」

 

 マッドは何かを決心したかのように椅子に座ると、彼の体は力が抜けたかのようにダランとなって椅子のクッションに身を預ける。

 

 すると周囲の風景が一転し、その姿は地下都市内にあった。

 

 


 

 

「へぇ~!」

 

 う~ん、このキラキラするカレンの笑顔はいつ見ても素晴らしいですな!

 

 っと、試作型蒼天の進行進路に石発見。

 ゆるゆると回避~。

 

「で、その次は?」

 

「ああ、今度はブリタニア本国の島の潜入なんだが────」

「────ブリタニア島の潜入?! なにそれ面白そう!

 

 俺にとって面白いのはブラックリベリオン後のEUとか、wZERO部隊とか、ヴァイスボルフ城の防衛とかの話に無邪気な子供のようにキラキラウキウキするお前だよ、カレン。

 

 ちなみに色々と省いた、掻い摘んだ話を続けながら暗~い空洞内を移動中。

 

 省いた話の内容?

 主にアレだ。

 俺の危機とか身の危険とかデンジャー(危険)とか。

 

 たまにジト目を向けられるが、追及されていない上に不機嫌オーラが出ていないから大丈夫だろ。

 多分。

 

 う~ん、それにしてもこの洞窟はどこまで続いているんだろう?

 

 ………………………………闇鍋世界だから、このまま『地球空洞説』に繋がっていたりして?

 

 恐れるな、俺のこ~こ~ろ~♪

 悲しむな、俺の闘志~♪

 

 ()()の元がデカい虫の抜け殻とかだから、昆虫好きのアンナは大喜びするだろうけれども、本気(マジ)で地球空洞説にでも遭遇したら俺は全力で逃げるぞ?

 

「(ん?)」

 

『そういやショ〇の中の人、ト〇ワ(偽)だったな~』とか俺が考えていると、ナイトメアのライトで照らされた前方に崖と崖の下からぼんやりとした明かりが見えて来た。

 

「あ、トンネルが────」

「────明かりを消すぞ。」

 

 カレンを横にポチッとな。

 

 試作型蒼天のライトを消し、暗闇になる前に残った景色と画面に表示される速度を頼りに崖に近づいて底を見ると────

 

「────地下に町がある?!」

 

 崖の底を見るとカレンが言ったように街並み……と言うか『都市』のような景色が広がっていた。

 

 少し扉を~♪ ひらくだけで~す、バ〇スト~ン〇ェ~ル♪

 覗けます~♪

 

 古いかもしれないが歌わせてくれよ、コンチクショウめ!

 

 この様な場面と似たものをコードギアスR2で俺は見たよ?!

 まるっきりギアス嚮団の本拠地じゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ?!

 

 「あ。 珍しく驚いている。」

 

 叫びたい&頭を抱えたい衝動をグッと俺は抑えながらポーカーフェイスを維持していると横からカレンが何かを言ったような気がするが正直、今の俺はそれどころではない。

 

 一旦ここで止めて説明しよう!

 コードギアスR2の中編辺りで、シャーリーは『ルルーシュ=ゼロ』を思い出してしまい、原作では父親をナリタ連山の騒動で殺されていることから『ルルーシュ=ゼロ=父親の死因の元凶』を連想し、錯乱中にすれ違いがあったものの最終的には想い人であるルルーシュを信じて彼を全力でサポートすることを選ぶ……のだが、ここで『ロロ雑巾』兼『兄の全てを独り占めしたいヤンデレ少年』と鉢合わせてしまう。

 

 で、『シャーリーが兄の正体(ルルーシュ=ゼロ)を知っている』ことの口封じと『ルルーシュと相思相愛で好意を寄せている』ことからくるジェラシー(嫉妬)でシャーリーが殺される。

 

 その怒りをルルーシュは当初『ギアス嚮団をまるごと奪う』と決めて練っていた計画を、『ギアス嚮団をまるごと粛清(殲滅)する』ことに即時転換して行動に移し、その時に描写されたギアス嚮団の本拠地が巨大な地下都市だった。

 

『えーと? つまりはどういう事だってばよ?』と聞いている諸君、喜べ!

 

 俺はもしかするともしかして半年ぐらいの前倒しでR2のハプニングにばったりと遭遇したのかもしれない。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 おえ。

 

 考え出したら胃から来る、逆流する何かっぽい嘔吐したい感覚が……それでなくとも、胃はムカムカしているのに。

 

 ……あ。 そういやマーヤにここが知れたら────

 ────キリキリキリキリキリキリキリキリ────!

 ────う゛……

 

「ス、昴……ここって、一体どこなんだろう?」

 

 だ、だが考えようによっては好都合だ! うん!

 ギアス嚮団と言う組織自体にナイトメアに対抗できる戦力はなかった筈だからな!

 それにジークフリートが出てきても『逃げ』に徹していれば、なんとかなるなる!

 

 後はマーヤ相手にどうやってここを放置する言い逃れ────

 ゴホン! もとい、どうやってなだめるかだが────

 

 ────ピィィィ!

 

「昴!」

 

『敵影発見』を知らせる電子音とカレンの声────うおおおおおおお?!

 

 猛烈な機動の加重力による圧迫感と乗り物酔いに似た感覚でようやく『試作型蒼天がカレンによって動かされた』と理解し、グワングワンとする頭で画面を見ると崖を這いあがってきたと思われるGX01っぽい『何か』たちが手に持っていた剣とかランスとかを見て『あ、攻撃をかわしたのか流石カレン』と思うと、ビルの陰から曳光弾が来るとカレンはまたもすかさず機体を動かしてこれを躱す。

 

 うおぉぉぉぉぉ

 平衡感覚が『アポロンの馬車』用の訓練以上に試されるぅぅぅぅぅ?!

 

 おえ。

 

 いや吐いちゃダメだ吐いたら恥ずかしいとかじゃなくて前にいるカレンにかかってブチ切れそうで怖いとかじゃなくて今のこの状況どうしたら切り抜けるかどうかわからない全く持って流れがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛誰か助けて精神的に死にそう。

 

 

 


 

 

 静かに待ち構えていた敵にいち早く気付いたカレンは試作型蒼天に搭載された噴射機を巧みに使い、自分たちが来たトンネルとは違う方向に飛来しながら攻撃を躱す。

 

「(来た場所はほとんど袋小路状態でさっきの奴が来る可能性があるのなら、退却じゃなくて横に進んでこことは別の出口を────)」

 「────う?!」

 

 移動時の急激な加重力なのか、いつもは物静かな昴が苦しそうな息を吐きだしたことをカレンは見逃さなかった。

 

「(やっぱり、昴は本調子じゃないんだ! だったら最小限の動きで、私が────!)」

 

 カレンはいく道を阻む敵をカウンター気味の攻撃のみで蹴散らしながら、昴から今までの旅路の話に聞いた、流れるような動きのまま人気のない地下都市を駆け巡った。

 

「(────今度は、私が────って、この匂いは!)」

 

 カレンの鼻に、さびた鉄に似た匂いが届くと彼女はハッとして後ろにいる昴をチラッと見ると、いつもより青白い顔色の彼は瞼を閉じながら僅かにだけ苦しそうに顔を歪ませていた。

 

 そして口端には先ほどの匂いの元と思われる、赤い液体がうっすらと見えた。

 

「(もう! これ、絶対に無茶をして体がガタついているよね?! やっぱり『ここがどこ』とかは後回し! ここから脱出するのが最優先!)」

 

 先ほど噴射機を使って地下都市内部に飛来した際に見た、うろ覚えの街並みを頼りにカレンは逃走を続ける。

 

「(こんなに大きい都市だし、ナイトメアっぽいヤツまで居たんだ! それ用や物資搬入の出入り口がある筈!)」

 

 ここでカレンが『ナイトメアっぽいヤツ』と呼んだのは先ほど昴が『GX01っぽい何か』と呼称した人型のモノだった。

 

 大きさは従来のナイトメアより一回り小さく、作りもゴテゴテしい『メカ』と呼ぶよりは『巨人』と言った方がしっくりとイメージ出来るだろうか。

 

『巨人』と言うが、見た目は『人型』であって『人』そのものではないが。

 

「(ああああ、もうイライラする! 何なの、こののっぺらぼうたちは?! 気味が悪いし、関節の可動範囲は軽業師より化け物染みているし、レーダーに映らないから目視で反応するしかないし!)」

 

 カレンは内心愚痴りながらも、ナイトメアサイズの刀で武器を掴んだ腕ごと切り落としてから大きなパイルバンカーを『のっぺらぼうの巨人』の胴体に打ち込み、そのままランドスピナーとスラッシュハーケンの代わりにより立体機動を想定され、強化を施された飛燕爪牙を使って出来るだけ機体(そして昴)にかかる負担を軽減させながら移動を続ける。

 

 だが────

 

「────こ、こいつら?! なんなのこれ?!」

 

 まるでダメージを負っていないかのように、先ほどカレンが打ち出した杭を残したまま脚部で襲い掛かる。

 

「キモい! (と言うか間に合わない!)」

 

 そう思った矢先に、横から試作型蒼天とは違う両手剣が『のっぺらぼうの巨人』を貫き、輻射波動と似た波動で機体が震え『のっぺらぼうの巨人』が膨れ上がって爆散すると、パーツなどの部品や肉片らしきものが辺りに飛び散る。

 

『うわ?! キモ!』

 

「その声、やっぱりアリス────?!」

『────ってカレン先輩?! (うわぁ、アイツ(スバル)の変態機動にしては控えめと思っていたけれどやっぱり先輩だった。)』

 

 ガニメデ・コンセプトに乗ったアリスはビックリしながらも、今まで試作型蒼天が見せていた動きに自然と納得しながらもその場に駆け付けた『のっぺらぼうの巨人』たちをカレンと共に撃退していった。




(;´д`)ゞ


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第162話 ……だんご〇兄弟?

アンケートへのご協力、ありがとうございます! <(_"_)>

ドキドキしながらも次話の投稿です! (;´-`)ゞ

お読みいただき、ありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 アリス機のガニメデ・コンセプトは敵と思われる『のっぺらぼうの巨人(?)』が爆散して今度こそ沈黙化したのを確認してから、背負っていたものを試作型蒼天に手渡す。

 

『はい、輻射波動用のカートリッジ。 私の武器もマイクロ波誘導加熱システムだから、それでこいつらを黙らせられる筈よ。』

 

『あ、うん。 ありがとう?』

 

『……で? アイツは?』

 

『は?』

 

 『アイツよ、アイツ! どうでもいいけれどアイツよ! 本当にどうでもいいけど!』

 

『気を失っているみたい。 まぁ、血を吐いていた様子だから────』

 『────はぁぁぁぁ?! ()()────?!』

 『────ちょっと待って“また”って何────?!』

『────じゃあこいつら蹴散らして早く出るわよ────!』

『────それには大・賛・成!

 

 アリスは『ザ・スピード・オーバーホエルミング』を使っては敵の手足などを通常の剣で切り落とし、カレンは心許なかった輻射波動用のカートリッジを再装填しながら動きが鈍くなった敵機(?)にとどめを刺し、その隙を狙った敵にアリス機は手持ちのバスターソード(マイクロ波誘導加熱システム)で刺す。

 

 じゃじゃ馬(娘)とじゃじゃ馬(KMF)、そしてじゃじゃ馬(娘)とじゃじゃ馬(KMF)の動きが合わさり、とても『初めて共闘した』とは思えないようなタッグチームが出来た。

 

 ……

 …

 

「(あの謎の機体……今思い返すとアイツと似ている。)」

 

 独房で特にやることもなかったので、横になりながらオルフェウスは先日ネリス(コーネリア)たちと共に相対した謎の機体(ヴィンセント)のことを思い返しながら、とある少年を思い浮かべていた。

 

 ギアス嚮団の中の実験体でも年長者であり面倒見が良かったオルフェウスにその少年は仏頂面のまま、他のトトやクララ達同様に懐いていた。

 

 ただ、少年は発症したギアス能力の所為で嚮団の者たちにかなり気に入られた所為で他の実験体から煙たがられていた。

 

「(思えばエウリアのおかげで知ったんだよな、アイツの『絶対停止』。 それに似ているのなら、対処方法も────)」

 

 ────ズズゥゥゥン……

 

「(……爆発?)」

 

 僅かに壁を通り抜けて聞こえてくる音と振動により瞼を開けて耳を床に付ける。

 

「(この音とパターンは戦闘音……ここが嚮団とは別のギアス研究機関(エデンバイタル教団)だと仮定すると……『中華連邦』、『ギアスを知って利用しようとする者』、あるいは俺の推測が正しければ『行方不明であるネリスを探しに来た』と大まかに三つの可能性が出てくるな。 ここから出られなければ、どれだけ考えても────)」

 

 ガラガラガラガラガラガラッ!

 バリバリバリバリバリバリッ!

 

「うお?!」

 

 オルフェウスの諦め気味だった思考を、コンクリートが崩れるような音と実際に崩れていく壁と割れるガラスが遮る。

 

 

 ……

 …

 

「(これは……)」

 

 マッドは冷や汗を掻きながら地下都市をリアルタイムで表しているような図面を見下ろしていた。

 実際に掻いてはいないのだが、彼の内心状態がそうなので敢えて方便上そう呼ぶとしよう。

 

「(操縦の仕方に攻めてくる機体の動き……黒の騎士団に身を置いているラクシャータと、イレギュラーズか。 それに『アイス』とのことも配慮すると……)」

 

 アリスが加わったことで先ほどまで消極的な戦闘しかしていなかった試作型蒼天も攻撃に本腰を入れ、図面上の『ALLY(味方機)』の信号が徐々に『LOST(信号途絶)』に変わっていくのを見ていたマッドは部屋を退室するために踵を返す。

 

「(()()()だが、ここは放棄せざるを得ないか。 出来損ない共や、処置中の実験()たちも破棄するプログラムを作動させてから────)」

 

 ────ヴゥン。

 

 マッドが背を向けていた図面から電子音が発すると同時に、表示しているモノが変わって通信用のスクリーンになる。

 

『やぁマッド()()、元気?』

 

「ッ。 これはこれは嚮主様、私は元気ですとも。 如何なされましたか?」

 

 通信の向こう側にはV.V.、そしてマッドがいるような部屋とほぼ瓜二つの様な空間が広がっていた。

 

 内装だけでなく家具の位置や窓から見える街並みに、壁の柄まで似ていたのでもしV.V.がいなければ表示されているスクリーンを『鏡』と間違えてもおかしくはないほどに背景は一致していた。

 

 ただし明確に違ったのはマッドの背景音に爆音などが混じっているに対してV.V.側からは音はなく、耳鳴りがするほどの静寂さだけだった。

 

『ううん、ただ長い間こうやって君と話すことがなかったから連絡をと思っただけだけれど……()()()はなんだか騒がしそうだね?』

 

「ええ、まぁ……ネズミどもが迷い込んで来たらしいので、駆除を図っている途中です。」

 

『フゥ~ン。 ネズミねぇ……教授? ()()()()とはいえ、“ネズミ”はないんじゃないかな?』

 

 マッドの眉毛がピクリと反応し、V.V.の笑みは明かりの位置も関係してか徐々に邪悪なものへと変わっていく。

 

『君かシャルルか……あるいはシャルルにさえ独断だったのかは知らないけれど、随分と好き勝手やっていたみたいだね?』

 

「なんの、ことでしょうか?」

 

『君の今居るエデンバイタル教団は、何のためにあるのかな?』

 

「それはもちろん、嚮主様のギアス嚮団の補佐に必要とあらば補充を────」

『────そう、“補佐”だよ。 僕のギアス嚮団用の実験体選別や、出来損ないのリサイクル(再利用)に新たな技術の開発に実戦テスト……これらはまぁ、“補佐”や“補充”の準備とも言えなくはないし結果的に助かっていたから黙認していた。 けどね? 流石に()()()は良くないと思うんだ。』

 

「……“横取り”? 私には聞き覚えが無いのですが、その疑惑を晴らしてみましょう────」

『────別にいいよ、もう。 こっちの出した餌に食いついたのもあるし、独自に()()()()確認しているから。』

 

「“餌”? “両方”? (……まさか、あの改造人間────?!)」

『────だからせめて“元部下”のよしみで、君自身の“作品”などをぶつけることにしたよ。 “目には目を歯には歯を”、ってヤツさ。』

 

「……V.V.────」

 

 V.V.の言葉に静かだったマッドは呼び方を明らかに変える。

 

「────貴様は間違いを犯している。 待っていろ、いずれ貴様も気付くころにはもう手遅れになっているだろう。」

 

『じゃあ期待しないで待っているよ♪』

 

 プツン。

 

 通信が途切れ、マッドはコンソールをいじって今度は完全にシステムを独立化させる。

 

「(これでエデンバイタル教団は、正式に切り離されたか。 いや、『敵』と認定された……“いずれはこうなる”と分かっていても、早すぎる。 主に元ギアス嚮団だった場所は『置き土産』などを考えれば危険すぎる。 拠点を移すにも、設備なども考えると……)」

 

「教授、これは何事ですか?!」

 

 マッドは着々と考えを進めながら通路の中を歩き、白衣をまとった研究員らしき者は彼を見るとこの騒動を問う。

 

「敵襲だ。」

 

「敵襲?! 噂の紅巾党とやらですか?!」

 

「いや、ここの場所が()()()()()()によってバレたらしい。 よって、()()()()()()()()()を命じた。」

 

「“内通者”?!」

「“破棄” ?!」

 

「そして御戯れにか、あるいは別の要因で()()()()伝えるのを今まで忘れていたらしい……やはりお身体は不老不死でも、脳は違うということが判明したな。」

 

「では────」

「────うむ。 実験台もすべて破棄、データの保存を確保した後に脱出せよ。 合流場所は追って知らせる。」

 

 マッドは焦りながらもその場から離れる者たちの背中が消えるまで立ちすくんでいた。

 

「(だが誤算が一つだけあったな、V.V. まさか今ここを襲っている敵の中に、『器』があるとは思っていないだろう。 ギアスや今のナイトメアの形など、『器』に比べれば……そうと来れば、もう手の内を隠すような必要もないか。)」

 

 マッドはそう言いながら目を閉じる。

 

「(残った『FAILURE(出来損ない)部隊』にリンク(接続)。 『リミッター』の解除後、敵の識別設定は『ブリタニア正規軍以外の全て』、インプット(入力)を送信……さて、『アイス』と『屍』にも伝えなければ。 それと、一応()()も用意しておこう。)」

 

 厳重そうな扉が設置されてある部屋の前へとマッドは通路を歩き続け、その前に立ち止まると様々な機械音がさび付いた音と共に聞こえ、扉は解錠されてから開いていくと暗い部屋の中には巨大な人型を模した何かが通路から入ってくる光に照らされる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 アリスが戦闘に入る前に送った映像などを見ていたリア・ファルの中で、マオ(女)が突然ハッとしては口を開けた。

 

「あ。 ここは()()かも。」

 

「「「「へ?」」」」

 

 マオ(女)の周りにいた(手持ち無沙汰の)者たちは彼女を見ながら同時に呆気ない息を吐きだす。

 

「それは、どういう意味でしょうか?」

 

「んーっとね? この街並み、確かにギアス嚮団の拠点()()()場所よ? でもボクに見覚えがあると言う事はクソハゲマッドがいる場所と言う事。 つまりは『ギアス嚮団』じゃなくて『エデンバイタル教団』の方にたどり着いたかも知れないってことさ、ユー姉ちゃん(ユーフェミア)。」

 

「は、はぁ……」

 

「あれ? でも両方とも『ギアス研究機関』だよね? あ、『ギアス』って言うのは……忘れてくれるとアタシは助かるカナ~?」

 

 ユーちゃんユーフェミアは良く分かっていなさそうな生返事を返し、氷を無理やり力ずく(ギアス)で内側から破って機体を損傷させたダルクは思わず“ギアス”と言う単語を迂闊にユーフェミアの前で出したことに、気まずい顔を浮かべる。

 

「ん~……ボクとしてはお兄さんがいるから『今更感』が半端ないんだけれど、要するに『ギアス』は超能力的な力の呼称だよ。 で、ダルクの質問に対してだけれど元イレギュラーズなのだから……って、ああ。 そういえばボクの代で()()()がガラリと変わったんだっけ? なら割と新人のダルクが知らなくても当然だよね。」

 

「「扱い方?」」

 

「平たく言うとさ、ギアス嚮団ではギアス能力者を『実験()』として扱っているらしいけれど……エデンバイタル教団では『実験()()』だった。」

 

「「???」」

 

 マオ(女)は自分が付け足した説明に対してハテナマークを頭上に浮かばせたユーフェミアとダルクを見ては肩をすくめる。

 

「で、それでも伝わらないのか~……じゃあさ、()()()()()()()()()()()()と言えば流石にわかるかな?」

 

「「………………………………………………え?」」

 

「あ、ちなみにサンチアとボクは『同期』って言えばそうなんだけれど当時のボクは今以上にかなりの問題児だったからほぼ『出来損ない』扱いされていたから知っているだけだよ? う~ん、思い出したくもないのにあの辛~い日々が蘇ってきそうで死にたい……でも変だな? C.C.と一緒にエリア11に残ったマ()が、クララの記憶を読み取った場所の筈だから、間違いない────あ?!

 

 突然饒舌になったマオ(女)は何か考えたのか、目を見開きながら立ち上がっては自分の髪の毛を悔しそうにガシガシとかく。

 

「してやられたかも! そうだよ! 『ギアス』があるんだから、重要な手がかりを手の届かないところに残すワケがないじゃんか! 特にクララなんてボクぐらいの問題児だったんだから……うわぁぁぁぁ、こんな重大な盲点に気付くのが今だなんて不覚! ……いやでも、お兄さん(スバル)でさえも騙されていたから無理もないのかな? ……ごめんユー姉ちゃん、レイラさんたちに今ボクが言ったことをそのまま伝えてくれるかな?」

 

「あ、はい。 ()()()()でいいんですよね?」

 

「??? うん、そうだけど?」

 

「そう言うマオはどうするのさ?」

 

「今更かもしれないけれど、一応お兄さんたち宛てにボクの推測を送っておく。 届くかどうかはわからないけれど、こんな手を打ってきたのなら相手もある程度の備えがあるかも知れない。」

 

 マオ(女)はすぐにユーフェミアの近くにあった通信用のコンソールに、スバルやアリスたち宛てのメッセージを書きだす。

 

「届くかどうかわからないけれど……やってみて損はないと思う。」

 

 

 


 

 

ギィィィィ!

 

 周りから聞こえてくる、耳をつんざくような音で(スバル)は目を開けると頭がカレンの背中に押し付けられていたので『あ、気を失っていた』と自覚する。

 

「う……」

 

 ぼんやりとする視界を鮮明にさせるため瞬きを何度かする。

 そして眼前のモニターに映し出された場面を見てはもう一度瞬きをする。

 

 うん。

 やっぱりエ〇ァ量産機みたいな敵機が画面に映っていた。

 

 いや、『機』と言えばいいのか『巨人』と言えばいいのか……

 え、俺もしかしてまだ寝ぼけてQを見たときのトラウマを連想している?

 

「あいつら、逃げていく────?」

『────カレン先輩、今のうちにここから出ましょう!』

 

 で、何故かスピーカーからアリスの声がする。

 ……何で?

 

「あ。 昴、起きた?」

 

「すまん、重たかったか?」

 

「ううん、気にしてない。 それより相手の様子がおかしい、急に逃げていく────」

 

 ────ププー♪

 

 ん? 何かの通信か?

 

 相手は、『ฅ(=・ω・=)ฅだよ♡』?

 

「ねぇ昴? これって誰かな?」

 

「……マオと言うよく悪ふざけをするヤツだ。」

 

 「ふーん。」

 

 なんだ、その『あっそ』的な顔は?

 っと、ポーカーフェイスを維持しながら~なになに~……ンンンンソンンンン?!

 

「ねぇスバル、この『えでんばいたる教団』って何? 『ギアス嚮団』はなんとなく、アリスたちのことで想像がつく────」

 

 『ギアス嚮団じゃなくてエデンバイタル教団だったメンゴ♪』だとォォォォォォォォ?!

 

「────えええっと……昴、大丈夫? ものすごい量の汗が────」

 

 嘘やろぉぉぉぉぉンンンンソンンンン?!?!?!

 

 まさか!

 ま・さ・かぁぁぁぁぁぁ?!

 この世界では『ギアス嚮団』と『エデンバイタル教団』は別々の組織として存在し、活動している?!

 

 あ、アカン。

 なんだか気が遠くなりそう。

 耳の中もキィーンとしているし喉はカラカラだし鼻の奥にさびた鉄の匂いもするしでトホホホホだオホホホホ。

 

 「────ちょっと?!」

 

 うわぁ~……

 

 じゃあなんだ? 『C.C.細胞持ちのギアスユーザー』と『契約からのギアス能力者』もV.V.とマッドと言った別々の管轄下?

 二つで別の組織?

 

 で、今いるのが『ナイトメア・オブ・ナナリー』作に出てくる『エデンバイタル教団』と……

 

 なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁぁい?!

 

『ギアス嚮団の場所をR2時に向けて探しておこう』という軽~い頼みごとがなんでこんなことに!?

 誰の所為だ?!

 クララの記憶を読み取ったマオか?!

 クソショタ腹黒ジジイのV.V.か?!

 それとも軽~い感じで頼みをした俺かッッッ?!?!

 

 ……まさかオレオレでしたかぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 「顔色がまるで信号みたいに変わっていくんだけど?!」

 

 おっと、カレンが真っ青になりながら俺を見ているポーカーフェイスの維持はまだ続いているヨシここは何気ない返しをしよう。

 

「大丈夫だ、少し頭がくらくらするだけだ。」

 

 嘘は言っていないゾ☆。

 実際にさっきのことでショック受けて、まるで頭をハンマーで殴られたようにグワングワンとするからな♪

 

 キリキリキリキリキリキリ。

 

 どうにかしてポジティブに考えよう。

『ナイトメア・オブ・ナナリー』の『エデンバイタル教団』は描写少ないが、あっちの世界ではギアス嚮団の代わりの役割を担っていたはずだから────ってほとんど変わりないやんけ?!

 

 むしろこっちのほうが厄介だよ!

 

 え? 『ギアスだから厄介なのは同じだろジョージィ?』だと?

 ぜんっっっっっっっっっぜん違う代物やがな!

 

 いいか? アニメを見ていても『ギアス嚮団』はV.V.やC.C.と言った『コード保持者』を経由して『契約』と言う形でギアスを得ている。

 

 発現するギアスは人それぞれだが、全ての能力には共通点がある。

 それは『契約で得たギアスは全て生物の精神に作用する』ことだ。

 

 ぶっちゃっけルルーシュの『絶対遵守』もマ()の『読心術』もシャルルの『記憶改竄』もオルフェウスの『変装』もシンのギアス(愛の救済)もアニメでも対人ではかなり無敵に近い雑巾(ロロ)の『ザ・〇ールド』も全部が全部、精神干渉に基づいている。

 

 対して『ナイトメア・オブ・ナナリー』は『後天的に備え付けられたギアスユーザー』が出てきて、(また)ぶっちゃけると描写されている能力は全て『実戦向き』と言うか『敵を殺す』ことに特化している。

 

(またまた)ぶっちゃけるとアニメのギアス能力者たちと『ナイトメア・オブ・ナナリー』のギアスユーザーがガチバトルロイヤルとかしたら三人……いや、四人の超々々々々~例外を除いてアニメ組が全滅してもおかしくないほどに、二作の『ギアス』は根本から方向性が違う。

 

 ちなみにここで俺が『例外』と思い浮かべているのはギアスの作用をなかったことにできる『ギアスキャンセラー』持ちのオレンジと、『予知』が出来るワンのおっさん(ビスマルク)、ギアスの効果が出る前に相手を瞬殺できる(と思われる)ルルーシュママこと閃光のマリアンヌ……と、ワンチャンで未だに効果が良く分からないレイラ。

 

 特に三番目に例として出したマリアンヌ、実はギアスを使ったワンのおっさん(ビスマルク)でも歯が立たないと言った正真正銘『ただの人間なのにスザク以上の化け物』と公式や外伝では語り継がれている。

 

 作中で二番目に立派な胸部装甲持ちデカいのに戦力はナンバーワンとか……

 

 そりゃあ、そんな人が当時でもガニメデに乗って他の反逆した貴族やラウンズを瞬殺すればガニメデがバカ受けするわけだわな。

 

 あ、『ばか〇け』をバリボリしながらがつがつと食いたくなってきた。

 

 神よ、ワイは癒しが欲しいダスヨ!

 

『カレン先輩、前方の黒いサザーランドに気を付けて!』

 

「ッ! 昴、捕まっていて。」

 

 ほいな。

 

 フニュン。

 

 「ふあ?!」

 

 あ、思わず手を回したらナンカヤワラカイモノヲワシズカミニッテコレハモシカシテ────

 ────バキ────!

「────プァ────?!」

「────あ?!」

 

 カレンの裏拳が俺の鼻にダイレクトヒットでファーストインパクトのショック中に星が桜のように散る。

 

「ご、ごめん!」

 

 グォォォォ……星が散りっぱなしで鉄の匂いが強くなってまた気を失いそう……

 

 「思わず手が出ちゃったのはし、仕方ないよね?」

 

 ここは謝ろう、うん。

 正直どこを触ったのか覚えていないが宇宙を見せるような裏拳だったから謝ろう。

 

「すまん、別に気にしなくていい。」

 

 それよりもこの黒いサザーランド、『プルートーン仕様』の奴だよね?

 

 なんで『ナイトメア・オブ・ナナリー』のように再生しているの?

 

 完全に漫画の最後の方でネタバレされた皇帝シャルルの持つ『ザ・デッドライズ』だよねコレ?

 

 え? どゆこと?

『皇帝シャルルは死んでいたけど死んでいなかった』?

 でも『亡国のアキト』ではちゃんと『皇帝陛下ぁぁぁぁ!(洗脳されたルルーシュ)』が原作で提案した箱舟作戦とか報道があったよな?

 

 それかギアス嚮団とエデンバイタル教団のように、シャルルとV.V.は『双子』じゃなくて『三つ子』だった?

 

 え?

 

 オラの()タマ、ゴルディオンの結び目級にこんがらがって来たゾ?




誤字報告、誠にありがとうございます。
皆様にはお手数をお掛けになっており、感謝をここで再度申し上げたいと思います。 m(_ _)m


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第163話 セキュリティ(生存本能)はキ・ホ・ン♪

「なんですって?!」

 

 ブリッジでレイラが素っ頓狂な声を出したことで、物理的に凍っていたリア・ファルの復旧作業に励んでいた者たちはピタリと動きを止めて何事かと彼女の方を見る。

 

 なお半分ほどは先ほどブリッジに入ってきたユーフェミアのフレンチクルーラー風のヘアスタイルを見て、思わず出来立てほやほやのドーナツが食べたくなったのは余談である。

 

「ッ。 コホン。 すみません、()()取り乱してしまいした。」

 

 自分に注目が集中していくことにレイラは咳払いをしてから心を落ち着かせ、平常心を装いながらも先日出来上がった『リア・ファル』の初出航をする際の『誰が艦長を務めるのか』での短い()()を思い出す。

 

 ………

 ……

 …

 

 当時、アマルガムが桐原泰三のおかげで人工島を中華連邦から借り受けては中華連邦の目を盗みながら開拓に民間施設、及び軍用設備を水面下で充実させていったが流石に限度があった。

 

 何せ『借り受けた』と言っても島は元々『潮力発電用の人工物』として築き上げられたので人が住めるような設計では無い。

 よって『島』というよりは、更に一段階前の『大地の基盤』からのスタートで『土』や『開拓道具』なども輸入するしかなかった。

 

 その『道具』にナイトメアや民間から軍用に転換できるもの等が混じっていても少々の賄賂さえ渡せば問題はないが、流石に正規のモノには劣る。

 

 そんなところに、まるでそれを予期していたかのように元ガリア・グランデと言う『巨大フロートシステム』と『EU軍の高々度観測気球』、『wZERO部隊のアレクサンダ』に『ユーロ・ブリタニアのグロースター・ソードマン』等々の軍用物資が届けられただけでなく、人材も一気に充実した。

 

 正に『渡りに船(物理)』である。

 

 そこで元からラクシャータとウィルバー・ミルベル博士は因縁があるのか『いがみ合い』兼『嫌味』兼『子供のマウントの取り合い』などの火花(イザコザ)が飛んだりするのだが、更にラビエ親子と『オズ』では既に他界していたミルベル夫人(サリア)が潤滑油として上手い具合に事を抑えながらも作業効率は上昇し、原作より早く『一組織が浮遊航空艦を所有する』という事に至った。

 

 潜水艦が『ディーナ・シー』という事から、神話繋がりで『リア・ファル』と名付けられた浮遊航空艦の試運転に、スバルの『ギアス嚮団の拠点探し』に使用することで問題が発生した。

 

 それは別に未だに抱えている技術や代用品を使った不具合でもなく、単純に『誰が艦長を務めるのか』。

 つまり()()()()()()()────否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という問題に直面した。

 

 今までは皆が平等の立場になるような役割分担でアマルガムは動いていた。

 少数人の組織や集団ならば『方針』と目的さえ決め、『そこ』へと至るために各々が行動しても大きな問題は無いのだがある程度の規模を超えると(特に人員の中に癖が強い者がいるほどに)そうもいかなくなってしまうのが道理────

 

「そこは経験が浅いとはいえ、集団行動の司令を行ったこともあるこのレイラが艦長で良いのでは?」

 

 ────()()()()()

 

 やっとご対面しなければいけなくなった、『指揮系統』に直面し高まる緊張感の中で毒島が言った言葉で呆気なく物事は進んでいった。

 

「フム……“経験が浅い”のなら、私は補佐に回ろうか?」

 

「あら、意外ねウィルバー? 私はてっきり年長者であるアンタが威張り出ると思ったわ。」

 *略*マウント取らなくて良いのかよ年寄り?

 

「年長者だからこそ、導くべきだと思っただけだよ?」

 *略*子供の世話を見るのは大人の責任だけれど?

 

 バチバチバチバチバチ!

 

 「あ゛?」

 「お゛?」

 

 そんな喧嘩腰になった何時ものウィルバーとゲストのラクシャータの横では、皆は『またか』と思いながらもレイラと毒島に注目を向ける。

 

「あの、よろしいですかサエコさん? 貴方の方が、ここに居て長いのでは?」

 

「ん? ああ、私は駄目だな。 確かにある程度をこなせる自信はあるが、どちらかというと『裏方』より『現場』の方が向いている。」

 

「……ですが、私以外にも────」

「────それに“私自身が君の実力を見たい”というのもある。」

 

『何せ彼に“必要だ”と言わせるほどだからな』、との続きをレイラは聞いたような気がするままリア・ファルの艦長をすることとなった。

 

 尚余談だが、この後にフロートシステムやユニットを搭載した機体などの適性テストで毒島は気分が悪くなりテストを途中で断念したとかは関係ない……かも知れない。

 

 ………

 ……

 …

 

 レイラは深呼吸を静かに行って、ユーフェミアが伝えたマオ(女)の言葉について考えを走らせる。

 

「(“意図的に残された手がかりの可能性が出ている”、と……つまり我々が取っている行動自体が想定されている範囲内かも知れないという事かしら? 『何故』に対して考えられることは『私たちの実力を試す』、『逃げる為の時間稼ぎ』、あるいは────)」

「────司令、10時の方向に反応です────!」

「(────やはり来ましたか────!)────ラクシャータさん、艦の移動は可能ですか?」

 

「ん? 可能かどうかで言うのなら『可能』よ? さっきの意味不明な氷で出力のこともあるから、迷彩をしたまま移動するのはお勧めしないわね。」

 

「なら迷彩分のエナジーを主砲に回してください。 さっきの反応は恐らく、『グリンダ騎士団』のモノでしょう。 ナイトメア部隊の作業はどうなっています?」

 

「え、あ……負傷した者たちは無事に艦に戻っています。 敵ナイトメアはアキト達が現在交戦中で、動けない機体たちはドローンのアレクサンダが回収を行っています。」

 

 復旧作業中にレーダーで周りを監視していたオリビアの声にどよめきが走り始めるが、レイラが平然としたままテキパキと事を進めたことで動揺は流されていき、普段通りの空気に戻っていく。

 

「主砲で撃ち落とすのかい?」

 

「いいえ、主砲には別の役割をさせます。 ユキヤに連絡を取ってください、彼に頼みたいことがあります。」

 

 

 ……

 …

 

 

 グリンダ騎士団のグランベリー内は地形の異変を追い、謎の艦(リア・ファル)らしき反応が出たことで慌ただしく出撃準備を終えた騎士たちはいつでも出られるようにそれぞれの機体の中で待機していた。

 

 ティンクはモグモグと携帯食を頬張りながら静かに待ち、ソキアは艦長代理の功績でずっと張り続けていた緊張によって疲れを感じながらもソワソワしていた。

 

 レオンハルトといえば────

 

『そう言えばレオン?』

『なんです、オズ?』

『聞いたわよ~? マリーカと良い感じになってきたんですって?』

『ふぁ?!』

 

 ────格納庫内でのハプニングの噂を聞いたオルドリンに弄られていた。

 

『え?! ちょっとどういう事にゃ?!』

 

『ああ、何やらレオンとソレイシィ卿が抱きあったとか?』

 

『誤解を生むような言葉は止めてください! ブラッドフォードから落ちてきた彼女を受け止めただけです!』

 

『それにしては“マリーカ”と呼ぶのは良い進展だと思うよ?』

 

『何で知っているんですかティンク?!』

 

『はっはっは。』

 

 オルドリンとティンクの言い出したことでその場にいた者たちはほっこりしながらも、チクチクと彼を経由して聞いたウィルバーの言葉は彼ら彼女らの脳裏から離れなかったが、『艦内待機からいざ出撃とくればそのような考えをする暇もないだろう』と思っていたので、四人ともそれなりに出撃を待ちわびていた。

 

 だが命じられてから数分後、スクリーンに表示される『待機』が『出撃』に変わることは無かった。

 

「「「「(…………出撃命令が全然でない?)」」」」

 

 コンコン!

 

「んにゃ? 将軍?!」

 

『コックピットを開けろ、シェルパ卿。』

 

 サザーランド・アイの外から機体をノックするような音にソキアはシュバルツァー将軍がいたことにビックリしながらも、言われた通りにハッチを開けるとシュバルツァー将軍は乗り込む勢いでクシャクシャの紙を手渡す。

 

「え? (『大至急サザーランド・アイをグランベリーのメインフレームに接続して侵入者に対応しろ』?)」

 

 ……

 …

 

「ん?」

 

 少しだけ時間を巻き戻すと、グランベリーのブリッジにいたオペレーターのエリスが何かに違和感を覚えたのか眉毛をハの字にさせ、隣のエリシアが彼女の珍しい仕草に気付いて声をかける。

 

「どうしたの、エリス────?」

「────少し黙ってエリシア。 ()()()()()()()()。」

 

 エリスの指は熟練のピアニストのように、座っていたコンソールのキーボードを正確かつ早急に入力を叩いていく。

 

 彼女は『攻撃』と言ったが、それは物理的なモノではない。

 

「将軍、皇女殿下。 何者かがグランベリーに電子妨害を図ろうとしている動きがあります。」

 

「遠隔で電子妨害────?」

「────恐らく前回遭遇した際に我々が探している間に、敵も準備をしていたのでしょう。 エリス、頼んでいた電子対抗手段で事足りますか?」

 

「相手もかなりのやり手で変則的に手段やアルゴリズムを変えて、こちらも即時対応を強いられています。 既に皇女殿下に頼まれて作ったモノは破られました。」

 

「ではエリスはそちらに専念してください。 我々で物理的に攻めれば────」

 

 ────ザ、ザザ。 ザー、プッ。

 

 カタカタとエリスがキーボード入力をする音とは別に、ブリッジ内のスピーカーから何か接続されるノイズが走ってはマリーベルとシュバルツァー将軍の近くにあるモニターが黒くなり、白い文字がスラスラと浮かび上がる。

 

ω・`)ノ ヤァ

 

「これは────」

「────エリス、エリシア。 通信を切れ────!」

「────ダメなの~! グランベリーの重要機関への攻撃を防ぐのでエリスは手一杯みたいなの────!」

「────エリシア、手伝って! 相手はスパコン並みの処理スピード────!」

「────ひぇぇぇぇぇぇなの~!」

 

マリーベル皇女殿下、ゲームをしようよ。 ( ^∇^) 

 

「……ゲーム? ふざけていますわね────?」

────ふざけてなんかいないさ。 そっちのハッカーもかなりやるけれど、操作方法が型通り過ぎだからチャンスをあげたいんだ♪ ( ゚∀゚)

 

「(こちらの音声に反応するという事は、少なくともエリスが対応できるより早く電子攻撃が仕掛けられるほどの腕……ならば艦内の監視カメラにもアクセスされてもおかしくはない。)」

 

 マリーベルはそう思いながら、いつも持ち歩いている手帳を出しては何かを書き込んでからページを静かに切り取ってそれをシュバルツァー将軍に手渡す。

 

 将軍は手渡された紙を受け取りながらそれを読むと頷いてからブリッジから早歩きで出る。

 

「(まさか急造艦だったおかげでブリッジに監視カメラが設置されていないことに感謝する日が来るなんて……皮肉ね。) それで、ゲームとは?」

 

簡単だよ。 『だるまさんが転んだ』だよ! ("⌒∇⌒")

 

「……『だるまさんが転んだ』? 」

 

あ、ブリタニア風に言うと『おばあさんの足取り』だっけ?

 

「(“ブリタニア風”……敵はやはりブリタニア人ではない────)」

────勿論、こっちが鬼で君たちが参加者。 合図は────

 

 ビィィィィィィィ!

 

 レーダーに急上昇するエナジー反応を知らせるアラーム音がグランベリーのブリッジに鳴る。

 

────僕たちが君たちに向けている()()()()()の主砲さ♪ (*ゝω・*)ノ

 

「高エナジー反応! これは……ランスロット・グレイル・チャリオットと似ています!」

 

 エリスの補佐に入ったエリシアの代わりにトトが焦るような声を出すと、冷や汗がマリーベルの頬を静かに伝う。

 

「(まさか、こうも簡単に主導権を取られるとは! 先手を取った筈が、後手に?!)」

 

 ……

 …

 

「フィ~……」

 

 リア・ファルの中に避難したユキヤは、ため息を出しながらゆるキャラマスコットの形をしたAIがスクリーンを慌ただしくあたふたするのを眺める。

 

「(まさかシュバールさんの頼みで作っておいたプログラムがここでも役立つとは……いや、即座にこんなことを考え上げたレイラがそれだけ有能という事なんだろうね。)」

 

 近づいてくるグランベリーに対してリア・ファルに避難したユキヤに『電子妨害』をレイラは頼んだ。

 

 実は以前の遭遇時に、特にやることも無かったユキヤはマリーベルの考えたように次の為に情報収集を行って、以前スバルに頼まれた『対機密情報局用』のプログラムを応用した『対グランベリー用』を作った。

 

 こんなことをしても対象の環境などがガラリと変わっているので本来は役に立たないのだが、幸運にもブリタニアの基礎OSやソフトウェアのメンテやデバッグのやりやすさの為に統一化されていたことが裏目に出たのだった。

 

「(まぁ、『侵入して堕とせ』じゃないから『妨害』に全力を入れられるんだけれどね。) それでも、どこまでこの状態が維持できるかな?♪」

 

「ユキヤ君、楽しそうだね?」

 

 ユキヤの何気なくウキウキした口調の独り言に、彼の補佐に入ったクロエが話しかける。

 

「ん? そりゃそうでしょ? だってレイラは()()()()()()()()()のに、敵に『こっちは銃を向けているぞ~』という脅しでこんな状況(膠着状態)を作ったんだから♪  アレだよアレ、“こっちには銃があるぞ”ってバナナをシャツの下に隠すアレ♪」

 

「そりゃ仕方ないわよ。 だってシミュレーション上だけのデータでも、()()はヤバいよ……」

 

「うん……迂闊には撃てない────」

「──── “迂闊には撃てない”? だって相手は空にいるんだよ?」

 

「レイラの事だから、墜落時も考えているのよきっと。」

 

「ふぅ~ん……そんなこと一々考えていたら戦いなんてできないじゃん────あ。」

 

 アンナの言葉に、ユキヤは面白くなさそうな返事を出してはハッとする。

 

「あー、なるほど~……だからシュバールさんは……」

 

「???」

 

「へぇ~、最初は『頭おかしいじゃね?』と思っていたけれどそういう事か~。」

 

「どういうこと?」

 

「ん? んー……主砲の引き金さ────♪」

 

 ぴぃぃ~。

 

 そんなユキヤを遮るかのように、スクリーンのゆるキャラたちは涙目になりながら更に慌てるような音を出す。

 

「────おおっと! 相手も本腰を入れてきたってレイラに伝えといて!」

 

 ……

 …

 

「……ふぅー。」

 

 レイラはリア・ファルのブリッジ内から、イメージを拡大化して動きを止めたことを確認できたグランベリーを見て止めていた息を吐き出してもドキドキし続ける胸を落ち着かせようとし、思わず泳いでいた目が主砲の引き金を見ては止まる。

 

「(最初は何故主砲の発射スイッチが拳銃の形をしているのか謎でしたが、こういう意味もあったのですね。)」

 

「敵艦、未だに動く気配はありません。」

 

「エナジー反応も安定しています。」

 

「ラクシャータさん、主砲の維持はどの程度続けられますか?」

 

「う~ん……実際にこういう風に動かす前提をしていないし、エナジー源も従来のものだからね~……ま、そこは中途半端野郎とサリアたちに相談して頑張ってみさせるわ……で、発射しないの?」

 

「撃たずに済めば、それに越したことは無いです。」

 

「あ、そ────」

「────新たなエナジー反応、出ました!」

 

 ラクシャータのキラキラし出した目はレイラの答えによってスンと落ち着き、いつものダラケぶりなモノに戻ろうとした時にサラの声でその場に緊張感が走る。

 

「方角は?!」

 

「方角は……え────?!」

「────サラ、これって────」

「────ほ、方角は()()からです!」

 

 ボォン!

 

 サラの言った言葉を脳が理解する前に、外部から地面を無理やり突き抜けるような爆音が響いたことでリア・ファルの乗組員たちがそちらを見ると、青白くて巨大な腕の様なものが試作型蒼天に掌底打ちを打ち出していた。

 

「「「「なにあれ。」」」」

 

 ご尤もである。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 とある少女は夢を見ていた。

 

 否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()数えられないほどの夜と、迎える朝、死とその後に来る再生を幾度となく経験する夢を見ている。

 少女は文字通り何百年も生きたことで、それ等を『現実』と捉えてしまえば頭がどうにかなりそうで、少女は『夢』と考えることで正気を保った。

 

 既に正気ではないかもしれないが、彼女はとりあえず『自信はまだ正気』と悲観しながらも捉えられるので幾分かは正気なのだろう。

 

 そんな長い歴史で彼女は様々な人物と会っては別れを告げ、また新しい者たちに会った。

 

 その中でも同じコード保持者……になれなかった中途半端の者は本来とは少し違う形の呪い(ギアス)を周りに広めた結果で、彼女のように『人外の呪いを受けた』と言いようしかない者たちにも出会った。

 

 とある男はあらゆる水分を操作。

 とある者は大気の操作。

 とある者は他人との視覚の共有。

 とある者は理性と知性の代わりに際限なく再生する強靭な肉体と巨体。

 とある少年はエネルギーの補給は義手を経由し他者から奪い取ることでしか生き永えられない『人外』へ。

 

 その反面、少女は────

 

 

「────C.C.! ピザ持ってきたよ!」

 

「……………………………………(なんだ、夢か。)」

 

 自分を呼ぶ声に瞼を開けたC.C.は久しぶりに見る、走馬灯のような夢から目覚めては黒の騎士団のアジト(仮)内の個室から出てウキウキとするマ()の持ってきたピザを手に取る。

 

「よくやったな、マオ。」

 

「────。」

 

 自分の言葉に嬉しそうに悶えるマ()をC.C.は無視し、ピザを頬張りながら近くの報告書などに目を通す。

 

「(しかし、何故今になって『蓮夜』たちの夢を見る? ルルーシュに似ている……ああ、いや逆か。 『ダッシュ』に似ているルルーシュと考えてももっと前に見てもおかしくはない筈……)」

 

 スラスラと簡単に書かれた報告書にはルルーシュがゼロだった頃よりはるかに作業速度が劣るとはいえ、黒の騎士団が着々と力を取り戻しているようなものが書かれていた。

 

「(まぁ、日向ぼっこしながらまた寝るか。)」

 

 エリア11のC.C.は、今日ものんびりし(夢を見)ていた。




簡単なまとめを次話に組み込むか、R2直前のおさらいみたいなものにするか決めかねています。
現在は後者を考えていますが、それだと今の展開後になる予想です。 m(;_ _ )m

余談で後書きEXTRAです、

『蓮夜』:
皇暦1800半ばを舞台にする『漆黒の連夜』の主人公。 『頴明の里』と呼ばれ、滅んだ国や家の者たちの留置場兼隠れ里で暮らしていたスザク似の少年。 術や学問は苦手というか破滅的だが実戦で本領を発揮するタイプ。 ギアスの契約に失敗し左腕の義手は『生命力を吸い取る』という異形のモノに変わった。

『ダッシュ』:
上記と同じく『漆黒の連夜』の黒幕っぽい人物……というか髪を伸ばしたルルーシュの姿でコード保持者になり切れなかった少年。 『契約』はCCのように執行できるが彼女の『ギアス』とは違う形の、『異形の力』(または『妖術』)として表現する。


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第164話 (ガラガラ声の)オォォル! ハイル! ブリタァァァニアァァァ!

……次話です。 (;´∀`)ゞ

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!  (;・∀・)


 やぁ皆、俺昴ことスバルことスヴェンことシュバール。

 

 ただいま巨大な腕に試作型蒼天ごと張り手食らい中でゴザル。

 

 え? 『それ張り手やのうて突っ張りや!』だって?

 

 そうともいうネ! ナイスなツッコミdaze!☆

 

「「ガッ?!」」

 

 それはそうと俺とカレン、同時に肺から無理やり息を吐き出しちゃうコンビネーションいやん♪

 

 いやもう……皆さんの『どうしてこうなった?』の声が聞こえるから思い返してみたい。

 意識も正直フラフラだし丁度いいよね?

 

 と言うわけで(一時の)ねむねむ~。

 

 ………

 ……

 …

 

 ドォン!

 

 黒いサザーランドをカレンがパイルバンカーでコックピットブロックごと撃ち抜いて、近くの壁に固定する音で目が覚めると敵は被弾しながらもこちらを攻撃しようとアサルトライフルを構えて撃つ。

 

「うっわ、ゾンビじゃん。 サザーランドじゃないじゃん……ゾンビーランド?」

 

 いやまぁ、再生するから『ヒュドラ』じゃね?

 

 「『ヒュドラサザーランド』……なんだか某パークっぽい響きだな。」

 

 あれから何度目かの轟音で目を覚ました俺にカレンはチラリと横目で見ては無言で再び試作型蒼天を地下都市内にアリス機と共に走らせる。

 

 う~ん、こりゃ怒っているかな?

 ……怒っていても、しょうがないか。

 何せ半年以上も会っていない上に、色々とやってきたからな。

 で、会ったら会ったで俺の危機に颯爽と来てくれるなんてマジにいい子。

 

 あれ。 そう考えると俺の中でとてつもないほどの罪悪感が湧いてくるぞ?

 

 この黒いサザーランドたちみたいに。

 

 って、そういや『リジェ〇するサザーランド』ってやっぱ『ナイトメア・オブ・ナナリー』の『ザ・デッドライズ』っぽいな?

 

 となると? この地下都市は『ギアス嚮団』じゃなくて『エデンバイタル教団』の物?

 

 『カレン先輩、敵はこちら側を避けているみたい────』

 「────十中八九そこに何かあるだろうけれど、闇雲に動き続けるのはマズいね……」

 

 だがそうなると、クララから『ギアス嚮団の場所』に関する記憶を読み取ったマ()がポカをやらかしたと言う事か?

 

 ふわぁ……眠たい────いやそうじゃない。

 

『マ()がヘマをおかした』なんてのはあり得ない。

 

 マ()は子供過ぎるが、それゆえに『純粋』で頼まれたことはする奴だ。

 純粋過ぎて、『タガ』と言うか『遠慮』が無いことは別問題としよう。

 と言うことは、『問題はクララの方にあった』と見ていいだろうか?

 

 ギィィィィ────!』

 『────うわ、さっきの────』

 「────どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ふわぁぁぁぁ……クッソ眠い。

 っとと、何を考えていたんだっけ? ああ、ここの場所を知ったクララだっけ。

 彼女のギアスは『相手の名を呼んで操作する』……の筈。

 

 色々と闇鍋っぽいこの世界だとどこまで通じるか分からないが、今のところ()()()()()()()()()()()()()()沿()()()()()からそうと思いたい。

 

 コードギアスの大まかな流れ(特に闇部分)は行政特区の時から『あまり当てにできない』と分かってはいるが、少なくとも人物の能力や『背景歴史』などはまだ活かせるはずだ。

 

 現に今までの奴らは────いや待てよ?

 そうだとするとアニメシャルルの『記憶改竄』と、今まさに目の前で見ている外伝シャルルの『ザ・デッドライズ』はどうなる?

 

 もしかして、『ダブルミーニングギアス』とか?

 

 えーと、『記憶改竄』は『眼を見た相手の記憶を書き換える』。

 で、『ザ・デッドライズ』は『生物を蘇らせて不滅にし、意のままに操る力』。

 

 うん。

 どう考えてもミックスす(混ぜ)ることは無理だな!

 

 

 『カレン先輩、アイツの様子は────?』

 「────さっきから寝たり起きたりを繰り返している────」

 『────やばいわね────』

 「────うん、だから少しだけでも休める場所があるところを────」

 

 ────と言うことはやはり『三つ子説』が濃くなるか?

 だとすると、今後のことも────くわぁ……

 またあくびが出そうだ。

 眠気が半端ない……

 

 身体が鉛のように重い。

 

 『カレン先輩、あの大きな倉庫みたいなところ────』

 「────扉が頑丈そうだし、何より敵も避けている場所の中心っぽいね。」

 

 あ、そろそろヤバい意識がなんか落ちるような気が────

 

 ────ブツン。

 

 

 


 

 

「ッ! 一気に行くわよアリス! 輻射波動を撃つ────!」

『────え、ちょ、輻射波動って接近用────!』

 「────うりゃああああああ!!!」

 

 今度は気を失うだけでなく、体を体重ごと預けたスバルに内心焦るカレンは試作型蒼天の右腕を覆うパーツの出力を最大にし、凝縮された上に方向性を絞られた輻射波動が疑似的な荷電粒子砲のように打ち出される。

 

 襲ってくる熱源に対して人型の敵は本能で避けるような動きを見せては一気に散り、逆にサザーランドたちはまるでワザと当たっていくかのように移動して文字通り溶け始めては急上昇する熱にサクラダイトが引火して爆発する。

 

「(今の奴ら、わざと────?)」

『────先輩────!』

「(────考えるのは後!)」

 

 アリスたちは倉庫のような建物に入ってから反転し、開いていた頑丈そうな扉を左右から押す。

 

 アリスは『ザ・スピード』の加重力、カレンは使い慣れていないブースター(噴射機)を使って扉のメカニズムを無視して無理やり閉めていく。

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガコォォォン

 

 金属が無理やり曲げられる際に出す特有のものと重くかつ低い音と共に、スライディングドア式の扉は締まるとアリスはマイクロ波誘導加熱システムを搭載したバスターソードをはんだごてのように使って扉同士をくっ付け、ようやく一息つく。

 

『……ねぇアリス?』

 

『何です先輩?』

 

 

『この状況って、ホラー映g────』

 『────不穏な事を言わないでください先輩。』

 

 緊張感をほぐそうとして話しかけたカレンにアリスは内心ヒヤッとしながらいやそうな声で答える。

 

……………………確かにそうだけれども────

『────で、定番だと逃げ込んだ先が更にヤバイところと……………………』

 

『先輩?』

 

 カレンからの通信が開いたまま突然黙り込んだのか沈黙が続いたことでアリスはガニメデのメインカメラ(頭部)を使ってカレンの試作型蒼天が背後を見ていることで、ドキドキと心拍数が高鳴りながらも釣られて一緒に後ろを見ると────

 

 『『────ほぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ?!』』

 

 二人は青くなりながら素っ頓狂な叫び声を出す。

 

 

 

 


 

 

 

『一つだけ、贖罪する方法がある。』

『え?』

 

 場所は式根島の、とある砂浜に近い場所でゲフィオンディスターバーによって動きを止められたランスロットから出たスザクと、彼と相対するかのように動きを止めた指揮官用無頼から出たゼロ。

 

『君の身勝手な行動で、降伏を選ぶしかなくなった日本人の代わりに身を持って提示する事だ。 “ブリタニアと戦う”旗印として。』

 

『またそれか────!』

『────君が無理やり押し付けた平和を、多くの人々に押しつけるつもりか? エゴというモノだよ、枢木スザク。』

 

 ここでようやく、俺は眼前で起きている出来事が夢と妙な浮遊感の中で感じ取る。

 

 アニメコードギアス一期の後編辺りか?

 

 ゼロとスザクの議論は短くも続き、夢見がちなスザクの言葉をゼロは無慈悲な正論で論破していく。

 

 今思えば、この二人は違うベクトルで似ているな。

 動機は全く違っても、二人とも『こうであるべきだ!』と決めたことにはとことん行動をし続ける。

 

『こちらはブリタニア軍、式根島基地司令だ! 枢木少佐は何があってもその場にゼロを足止めせよ!』

 

 その一言でスザクはいとも簡単にモヤシっ子のルルーシュ(ゼロ)の身柄を拘束する。

 

『なっ! 部下に死を命じるのか────?!』

『────君のやり方には賛同できない! だから────!』

 

『接近するミサイルを確認────!』

『────ええい────!』

『────ゼロ! 今助けに────!』

『────やめろ紅月くん、巻き込まれるぞ!』

 

 おおっと、ここで腹黒虚無男宰相の『ミサイルのシャワーである♪』攻撃が来てカレンの……紅蓮弐式か、あれ?

 

 形状が覚えているモノよりちょっと違うぞ?

 

『全機動部隊! 飛来するミサイルに対して全弾撃ち尽くすつもりで弾幕を張れ!』

『『『『『了解!』』』』』

 

 あれれれれ?

 ここで俺が注目を変えて見たのは月下……に似ていたが一回り大きい機体たちは背負っていた機銃を両手に取っては雨のように降ってくるミサイルに対して射撃を開始し、撃退していく。

 

 な~んか覚えているモノやアニメと場面が若干……というか色々とデザインが違うぞ?

 

『このままではお前も死ぬ! それでいいのか────?!』

『────軍人は、命令に従うモノだ────!』

 

 色々と違うことにハテナマークを浮かべている間も、スザクの説得をゼロが続ける。

 まぁ『続ける』と言うよりはイレギュラーが起きて焦っていることもあってか、『子供の言い合い』に近いか。

 

『────そうやって貴様は責任から身を遠ざけるつもりか────?!』

『────違う! これは俺自身で決めた意思だ────!』

『────スザク! ゼロを放して! 私は……私は生徒会のカレン・シュタットフェルトだ!』

 

 あ。 ここでカレンが全弾を撃ち終えた紅蓮(みたいな機体?)から飛び降りてランスロットの方へと走る。

 

 やっぱりカレンの紅蓮、遠距離攻撃手段がなさ過ぎて、使いどころがピーキーだな。

 

『カレン────?!』

『────なぜ出てきた?! いやそれよりもこのままでは本当に死ぬぞ、スザク────!』

『────だったら降伏しろ、ゼロ────!』

『────もう間に合わない、この阿呆が────!』

『────な、なぜ?! あ────』

 

 ゼロの仮面の一部がスライドし、ギアスの印を浮かばせたルルーシュ(ゼロ)の目が露出する。

 

 ふ~む。

 いつ見ても式根島のエピソードはかなりのラッシュ展開オンパレードだな。

 

 ここでルルーシュが、『意思を尊重したい』という思いから『絶対にギアスを使わないと決めた親友』に使っちゃうんだよな~。

 

『何かを成し遂げながら死にたい』スザクに、『死なないギアス』を。

 

 「■■な!!!」

 

 ……あれ?

 ルルーシュ(ゼロ)の今言った言葉、ノイズが走ってよく聞こえられなかったけれど……()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「ッ。」

 

 何故かドキドキとし続ける胸に無理やり起こされ、目を開けるとひんやりとした空間の天井を見上げていた。

 

「あ、起きた?」

 

 で、横からカレンの声がするので首を回すと案の定カレンがいて彼女の後ろになんだかさっきののっぺらぼうより大きくてブリタニアの旗みたいな仮面のような被り物をした巨人が一部だけ露出して他は全体的に氷漬けの景色が?!

 

 完全に絵面が『エヴァの某液体が硬質化した箱の中のリ〇ス』なんですけれどどどどどドドドドドドドドドドドドドド?!

 

「あ、やっぱりびっくりしている。」

 

 ジョジ〇の効果音を出したいぐらい俺はビックリしているよカレン?!

 と言うかポーカーフェイスのままなのによく知って……もうぶっちゃけよう。

 

「なんだ、氷漬けのアレは?」

 

「さぁ……アリスが近くの端末を弄って気分が悪くなるまで見たけれど、アレって元は人だったみたい。」

 

 それにしてはかなり冷静ですねカレンさん?

 

「“気分が悪くなった”? アリスが?」

 

「あ、うん。 なんだか体中がゾワゾワするって。」

 

「……冷静だな、カレン?」

 

「いやまぁ……私もアリスもビックリしすぎて一周回って冷静になっているというか、ショックで感覚がマヒしているというか……」

 

「“元人”だと? あれが?」

 

「うん。」

 

「氷なのに寒くないのはなぜだ?」

 

「う~ん……なんだか調子悪くなって端っこで、えずく前にアリスが“断熱ポリマーと超ベリチェフィルムが~”って言っていたような気がする。」

 

 それってR2の海氷船のヤツじゃねぇか?!

 ……随分と記憶が曖昧になっているけれど、多分。

 

 それより『いつも元気100%です!』の印象があるアリスの具合が悪くなるなんて、珍しいな?

 

 元気が余りあり過ぎて、たまに俺に蹴りを入れようとするけれど。

 

「……あれが、『元は人』という根拠は何だ?」

 

「あー。 最初は私も『なんの冗談?』と思っていたのだけれど、人だった頃の名前をアリスが資料で見つけてさ────」

「────名前────?」

「────うん、『()()()()()()()()()()()()()()』。」

 

 ……………………………………………………NANNDESUTO(なんですと)

 

「あ、今度は珍しくポカンとしている。」

 

『クリストファー・チェンバレン』と言う名と、氷漬けにされている巨体でモノクルヒゲ爺が“クリストファァァァァァ!!!”とどこぞの怪獣を呼ぶみたいに叫ぶイメージを連想したところで思考がフリーズしそうになるが、ありのままのことを言うぜ?!

 

 別に『あ、漆黒の連夜キャラだ』とか、『なにこれエ〇ァのパクリ?』とか、『そういえば漆黒の連夜でアリスの先祖っぽいキャラの胸デカかったな、それを言えば今の神楽耶は漆黒の連夜の皇双葉(ふたば)よりちょっとと言うかかなりHINNYUUだな』とか、断じてそのようなチャチなモノを考えたわけではない!

 

 …………………………ハイ、考えていました。

 

 考えていたけれど大事なポイントはそこじゃないやい!

 

 ああすまん、まずは『漆黒の連夜はなんぞや?』だったな。

 

 コードギアスの外伝……ではなく、珍しく『オズ』や『亡国のアキト』と同じ世界を共有しているどころか『正史』とされている『()()()()()()()()()()』とされている漫画だ。

 

『ナイトメア・オブ・ナナリー』と同じで7巻だけの短さだが『正史』だけあってかなり面白くてインパクトがあるし、何よりアニメでも“数百年生きた”と言うCCが出ているので『過去の彼女』が登場していて、今(と言うよりアニメ)で見るよりもまだまだ若々しい。

 

 ……見た目が若いのはそうだが、俺が言いたいのは『比べると精神がかなり若い』と言うところだ。

 

 ぶっちゃけその方が俺の好み────って違う、脱線した。

 

 簡潔にまとめると、『漆黒の連夜』は江戸時代辺りなので今ほど技術は発達していない世界で、『ブリタニア共和国が帝国に生まれ変わるきっかけ』を描写したストーリーを背景にした、ギアスの様な異能や加速装置が付いた剣や人が扱えるように小型化した大砲を使いこなす人間同士のガチバトルが入った作品。

 

 そしてその裏ではルルーシュに似た少年が黒幕の一人として、主人公側のスザクに似たヒーローの『連夜』を狙っている。

 

 ちなみに今思い出したけれど、ヒロインでありブリタニアの旗印となる少女は『クレア・リ・ブリタニア』。

 

 想像から察するに、ユーちゃん&コーちゃんの先祖かも?

 

 


 

 

「「へっくち?!」」

 

 この時リア・ファル内のユーフェミアがくしゃみを出し、同時にオルフェウスによって独房から脱走できたコーネリアもくしゃみを出したそうな。

 

 

 


 

 

 すまん、またまた脱線した。

 

 つまり、俺が敢えて言いたいポイントは『漆黒の連夜』で出てくる、元ナイト・オブ・ワンの『クリストファー・チェンバレン』。

 

 彼は嫉妬から血の繋がった弟に嵌められてギアスモドキの能力を使われ、異形の巨体となって異能を持つ代わりに理性を失った。

 そして先ほどの『アリスの具合が悪い』。

 

 この二つを聞いて、俺は思わず以下の通りを思い浮かべてしまった。

 

『クリストファー・チェンバレン』をローマ字に変えると『Christopher Chamberlain』。

 

 そう、『C()hristopher C()hamberlain』だ。

 その頭文字をとると『CC』。

 

 つまりだ。

 

『もしかしてアリスたちイレギュラーズが言っていた“CC細胞”は“CC(セラ)”のではなく、“()リストファー・()ェンバレン”のモノではないか?』と言う仮説だ。

 

 そうくれば、色々と考えたくないけれど考えてしまうモノが腑に落ちてしまうことがあり過ぎる。

 

 例えば『何故アニメでのギアス描写は精神干渉系がメインなのに、なんでナイトメア・オブ・ナナリーでは殆ど物理現象系なんだ?』の疑問とか。

 

 そりゃあ、異能や純粋な技術バトルメインだった『漆黒の連夜』から異能細胞を持った異形の細胞を埋め込めれば異能を発症できるわな。

 

 しかも文字通りの細胞の移植だから拒絶反応が出て当然だし……

 

 え? じゃあ人工的な使〇なのイレギュラーズって?

 悪ふざけで作った制服だったけれどマジでマオ(女)は綾〇レイなの?

 

 ええええええええ。

 もう色々な情報量が多くて、ワイの頭がパンクしそうでゴザル……

 

 ギョロ。

 

 あ。

 

『この修羅場を抜けたら、簡単なメモでいいから一旦情報の整理をしよう』と思っていた矢先にクリストファー・チェンバレン(と思われる)巨体の顔に目が出て俺を見────

 

 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ

 

 ────ホアチャアァァァァァァァァァァァァァァァ?!

 

 何だこの『身体中の肌に蜘蛛が走り回っている感覚』はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 すっげー気持ち悪い!

 

 バキッ!!

 

 そして巨体の周りにある氷にヒビが。

 

「わ?! わ?! わ?! わ?! 昴どうしよう?!」

 

 ムニュン。

 

 ムォッホ♡ 青ざめながら横になっている俺の頭を抱くカレンの3位が♡

 

「カレン、取り敢えずナイトメアに戻って────」

 

 ────バキバキバキバキバキバキバキッ!!

 

 ブルアアァァァァァァ!!!

 

 “どこの吸血伯爵だよ?!”と、ツッコミを入れられる前に意識が失うようなスピードでカレンが俺を引きずりながら試作型蒼天に乗ると機体がクリストファー(多分?)の繰り出す突っ張りにてナイトメアごと地上に出る。

 

 これが(現在)に至る一連となるのさ。

 

 ………………………………寝な(気を失いな)がらでも久しぶりに言っていいか?

 

 どうしてこうなった。




余談ですが『登場時で比べるとヴィクトリアはアリスより一回り大きい(意味深)』らしいです。 (笑&汗

スバル:……………………『アレ』で78㎝か……
アリス:〇刀乙 ←現在吐きたい気分に襲われていてツッコミどころではない


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第165話 『幽鬼』、降臨

描写と展開に不安を感じながらも次話の投稿です! (;´_`)ゞ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


「「「「なにあれ────」」」」

 「────動力を通常浮遊時のモノに移行! 主砲の新たな目標方向、謎の巨体 ────!」

「────ッ! 艦の動力を通常のものに切り替えて方向転換を行います!」

 

「主砲の状態は?!」

「主砲のエナジー充填率、時間稼ぎの為に最小限の設定のままです!」

 

 巨大な手によって地上に無理やり押しのけられた試作型蒼天を見て、呆気に取られていたリア・ファルのブリッジにレイラの声が響き渡ると軍の訓練故かサラとオリビアがほぼ本能的に応え、地面から手の後に人型ながらも異形の巨体の上半身が続いて現れる。

 

「ラクシャータさん、この充填率でも主砲は撃てますか────?」

 「────どうせ撃つのなら発電機を限界まで臨界し────」

 「────射線上の確認をしてください! オリビア、総員に対ショック準備をするよう告げて!」

 

 丁度スバルが『どうしてこうなった』と思っている頃にリア・ファルは船体ごと地中から飛び出るかのように出現した謎の巨体────アリスが資料で見た『クリストファー・チェンバレン』にスクリーン上の照準が合わせられ、レイラは横の拳銃型スイッチを手に取る。

 

「ラクシャータさん!」

 

「な~んにもないわよ。 位置関係から上空に行くようだし、位置もさっきの航空浮遊艦とは別方向────」

「────主砲、発射します!」

 

 カチンッ。

 

 レイラが引き金を引くとまるで玩具が出すような軽~い金属音が発されるが、リア・ファルの内部では複雑化してしまったメカニズムに電力が走ってはコンマの秒単位で様々なモノが展開していく。

 

 ……

 …

 

「(敵艦が向きを変えた────?」」

「────な、謎の所属艦の出力が高まります────!」

「────艦を下がらせなさい! 総員、対ショック!」

 

 グランベリーの中にいたマリーベルはトトの報告に思わず背筋がゾクリとして、嫌な予感と共に命令を出して近くの手すりを握る。

 

 

 ドッ!

 

 鼓膜が破れるような爆音と共に、敵艦(リア・ファル)謎の巨体(『クリストファー』)の位置関係から打ち出された弾頭(と思われる何か)はその速度と質量で巨体の右半身をほとんど無理やり剥ぎ取っては上空へと続き、射線上にあった雲を貫き飛来し続ける

 

 ビリビリビリビリビリビリッ!

 

 先ほど撃ち出された何かの所為で大気中の空気が移動し、グランベリーの装甲を伝った震えを乗組員全員が感じ取り、固定されていない家具や食器や工具などがテーブルやレンジラックから落ちそうになったり、カチャカチャと小刻みに音を出す。

 

「(なんですの、今のは────?!)」

「────衝撃波、来ま────!」

 

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ

 

「「「キャアアアアアアア?!」」」

「「「おわぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」

 

 次にグランベリーを時間差で襲うのは『先ほどの余波の本命』と言わざるを得ない、まさに『衝撃波』だった。

 

 先ほどの比ではないそれは今度こそ固定化されていない物の位置を動かすどころか『浮遊艦内仕様』より『デザインや見た目重視』のガラスや華奢な磁器製品が居住区や食堂内で次々と割れていく。

 

 格納庫内でも揺れは酷く、ナイトメアのメンテナンス用の台座や以前セントラルハレースタジアムでエリシア率いたPDR13(アイドルグループ)たちが時間稼ぎに使ったMR-1たちが転倒したり、クレーンアームなどもブラブラしては格納庫の壁にめり込む。

 

「きゃあああああ────?!」

『────マリーカさん!』

 

 何事かと思って格納庫の待機室から更に船の内部に行こうと思っていたマリーカは二度目の揺れで足を踏み外し、ガードレールを超えてしまうが落ちる前にバランサーの性能が抜群なブラッドフォードが受け止める。

 

 エリスとエリシア二人係でようやく敵艦(リア・ファル)からのハッキングを防いだところにソキアとサザーランド・アイの処理力が加わったことで逆に攻めることが出来ていた。

 

「うにゃあああああああああああああああ?! 目~が~回る~!!!」

 

 そして楽しい鬩ぎあいハッキングに専念していたソキアは揺れを肌で感じていち早く作業を断念し、必死に死に物狂いで操縦をするも目を回す。

 

 浮いているのに地震のような揺れでパニックに陥ってもおかしくはないその出来事は、地震に慣れている者でも恐怖でしかない。

 

「総員、被害を抑えつつケガ人の避難を優先!」

 

 だが『さすがは腐っても軍の訓練を受けた者たち』とでもいうべきか、グランベリーはシュバルツァー将軍の号令ですぐにダメージコントロール作業に入る。

 

 ……

 …

 

「「「「うあぁぁぁぁぁぁ?!」」」」

 

 グランベリーと同様に、リア・ファルでも衝撃波からの揺れや実際の攻撃を撃った反動などで艦内は酷い揺れと電力の急低下で明かりが点灯したり、急な電気の復旧で電球などがストレスに耐えかねてガラスの割れる音を立てていく。

 

「こ、これは想像以上だね!」

 

 珍しく目を輝かせてウキウキしながらも高揚感と同時に畏怖の感情を胸に抱きしめたラクシャータだった。

 

「(ラクシャータさんでも目を見開くほどの?! いいえ、それよりも今すべきことは────)────被害状況は後回しでいいです! 整備班と軍医班に連絡を取り、修復とけが人の保護をしてください!」

 

 レイラはそう言いながら自分の座っていたシートの横にあるコンソールで、艦の損害状況を確認できる欄を────

 

『────各ブロックから電力と揺れの被害は出ていますが、運用の続行は可能です!』

 

「ッ。 ありがとうございます、ユーフェミアさん。」

 

 そんなレイラ宛にユーフェミアの通信が入ってきたことに彼女は内心驚きながらも次にすべきことを考える。

 

 試作型蒼天を攻撃していたので敵と見ていいのだが、見た目がナイトメアのように『機械』ならともかく先ほど目にしたのは『異形の巨体』。

 

 ドドォォォォォン!!!

 

 それはリア・ファルの主砲で剥ぎ取られて体が半分ほど無くなり、地面へと落ちていく巨体のむき出しになった表皮(ひょうひ)真皮(しんぴ)や筋肉がある皮下組織(ひかそしき)と呼ぶようなモノや、更に深い骨が見えたことで『巨大な()()』だったことは一目瞭然だった。

 

「敵の沈黙化、を………………」

 

「……………………………………え?」

 

 サラが動きを止めた巨体が動かなくなったことを報告しようとして言いよどみ、隣のオリビアやブリッジにいた者たちは固まった彼女の視線を辿ると巨体を映していた極大化された画面を見て言葉をなくす。

 

 画面に映し出されたのは地面に横たわりながらも痙攣し、未だにどす黒い出血が続く部分が膨れ上がっては互いに引っ付いていく様子だった。

 

 その様は一昔前のビデオデッキの巻き戻しボタンを視聴者が押したかのような、あるいは『動画の逆再生』の場面だった。

 

「あらまぁ。」

 

 ようやくラクシャータが開けたままの口から気の抜けた言葉を出すと、それが合図だったかのように地面から一回り小さい異形の巨体が出てはリア・ファルのブリッジは騒がしくなる。

 

「じ、地面の穴から更に敵個体と思われる物体が増加!」

 

「後部砲塔は各個の判断で攻撃を! 手の空いたナイトメア部隊はシュバール機の援護に────!」

『────レイラ! 嬢ちゃんたちの様子が変だ! さっきのデカい奴が倒れた瞬間、気絶しやがった!』

 

 ……

 …

 

 ブリッジにこれまた珍しく焦るような通信をアシュレイが入れながら、彼とアシュラ隊がさっきから動きを止めたガニメデ・コンセプトたちを保護するために動いていた。

 

「う……うぅぅぅぅ……」

「あ……が……」

「痛い……痛い……痛い痛い痛い痛い!」

 

 機体の中で元イレギュラーズの皆は痛みに涙を流し、それぞれ別々の表情をしていた。

 サンチアは酷い頭痛に襲われているかのように頭を抱え、ルクレティアは失神一歩手前で何とか意識を気力で繋ぎとめながら空を仰ぎ、ダルクはまるで体が引き裂かれるのを防ぐかのように体を丸めて自分の膝を両手で抱いていた。

 

『おい、大丈夫か?』

 

「あ、アキトか……わ……私はまだ────」

『────きついのならあまり喋るな、ここからまず退くぞ。 アヤノ、他の二人を頼む。』

 

『任せなさい!』

 

 ……

 …

 

「(嬢ちゃんたち……サンチアたちのことですね? これは……厄介ですね。)」

 

 リア・ファルのブリッジにいたレイラは現状と地形を表示する画面を見て少し(と言うかかなり)期待していた者たちの大半があまり動ける状態ではないことに焦る。

 

 さっきから『人型機体(GX01)の襲撃』に最大戦力を出撃させては『機体と地形が氷漬けにされる』という不可思議な状況で不意を突かれて先の毒島やウィルバーなどが負傷し何とか場が収まろうとしたときにグリンダ騎士団の浮遊航空艦の出現。

 

 なんとかそれらを乗り切るための時間稼ぎをすると今度は巨体が地面から出てきて何かの影響を与えたのか、さっきまで負傷していなかった者たちに異変が起きた。

 

「あー、これちょっとヤバいかも。」

 

「わかっていますラクシャータさん。 ですからどうにかしてシュバールさんたちを保護して────」

「────あー、そっちじゃないわ。 スクリーンを見て見な。」

 

 ラクシャータがいつも持っているキセルで指す方向を見ると、青ざめて目をそらしていたオリビアのコンソールに巨体が一回り小さい人型の者たちを掴んでは口に運んでモグモグと食し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なん……ですか……あれ────?」

「────いや、どう見ても()()でしょ。」

 

 青ざめるレイラを横にラクシャータはオブラートもへったくれもない、いつもの軽~い調子で淡々と言葉を口にした。

 

「ま、カッコつけたきゃ『()()』かしら? えええっと……EU風に言えば『タルタルステーキ』かしら?」

 

 本当にオブラートもへったくれもないことに先ほどから青ざめていたブリッジの者たち数人の顔色は更に悪くなり、口を覆ってしまう。

 

 ……

 …

 

「グッ………………」

 

 アラーム音が続く試作型蒼天の中にいたカレンは自分の体を襲うGに耐えるために息を止めていた。

 

「ググ………………ぶはぁぁぁ?! (明るい?! 地上に出れた?! アリスは?! 昴の容態は?!)」

 

 だが血液が背中から前に充満して眼球が飛び出るような感覚から思わず目をつぶってしまうほどの移動に結局は息を吐きださざるを得なくなり、モニターが明るくなったことで地上に出たこととアリスのこと、そして自分の背中越しに感じる昴のことも気にかけていた。

 

「(機体の損傷は……思ったより軽い?)」

 

 なんとか涙目になりながらも片目を開けて、試作型蒼天の状態をスクリーンに表示させて見たカレンはビックリする。

 

 実は試作型蒼天、wZERO部隊が回収したアキトのアレクサンダ・リベルテのシュロッター鋼と以前スバルが『傭兵のシュバール』として開発した複合装甲を同時に搭載した機体だった。

 

『亡国のアキト』編ではさすがに時間がなく、この二つを融合した装備は作れなかったがそこは中途半端野郎現実主義でありながらロマンを追及するウィルバーと、リアリズムや限界なんてクソ食らえ趣味と理想を同時に追求させるラクシャータがいたことでクリアしてしまったした。

 

 最初は油と水みたいに意見が合わず『あーなるべきだ、こーするべきだ』と、二人の歳や元いた立場や背景などを配慮すればかなり子供らしい 低レベル どつきあい …………………………()()()()()()()()()()を繰り広げていた。

 

 最後はヒートアップしていく会話にとうとう息を切らせた二人の横で、二つの技術を使ったことのある参考人ことアンナのオドオドとしながら何気ない『何とか同時に成立できないかしら?』で早くも共同作(と言う名の開発競争)が開始された。

 

 カレンは知る由もないが、奇しくもその試作品が文字通り『試作型』蒼天に搭載されたことで機体は彼女の思っていたほどダメージを受けてはいなかった。

 

「ウッ?! ゴホ!」

 

 だが機体はともかく、騎乗者へのダメージはそのままなのでカレンは咳き込んでからさっきから要求していた肺にやっと空気を補充すると視界に星が現れては散っていく。

 

「う……カ、レン────?」

「────昴、起きた────?!」

「────眠い────」

「────寝ちゃダメ! 何が何でも起きといて────!」

 『────ガァァァァァァァ!

 

『クリストファー』の叫びが響き渡り、カレンと意識が朦朧としていた(スバル)がモニター越しに見ると彼────『クリストファー』が男性かどうかは置いて『彼』と方便上今は呼称する────が下半身を穴の中から引きずり出して大地に立つ。

 

「あ、船が二隻────?」

「────()()()()()()()()()────」

「────攻撃されても?」

 

「ああ。」

 

「でも、あれってブリタニアの船でしょ?」

 

「……ああ。」

 

「本気?」

 

 「………………すまん……」

 

あー! もうー!

 

 いつものポーカーフェイスなどからは想像もできないほど弱弱しい昴の様子や様々なことでイラついたカレンは複雑な心境のまま、『クリストファー』と相対しながら機体の状態と兵装のチェックを済ませながらランドスピナーを使って横に移動しながらEUのリニアアサルトライフルなどを撃つ。

 

 

 ……

 …

 

 

 リア・ファルの主砲の余波から回復しつつ戦場から距離を取ったグランベリーは戦場の急変化を前に迷っていた。

 

 それは何も『ズキズキと自分を襲う頭痛をマリーベルができるだけ無視した所為だ』とか、『敵からのハッキングがぱったりと止まった』所為でもなく、『先ほどの酷い揺れが艦の設計時に想定されていない事柄』でもなかった。

 

「皇女殿下……地中からブリタニアの救命信号が出て……います?」

 

 上記のそれを受けたエリスでさえも半信半疑で、思わず報告が疑問形になってしまうような内容だった。

 

「救命信号、ですって?」

 

「は、はい。 ()()()()()のモノです。」

 

「「「「…………………………」」」」

 

 ブリッジにいた皆はシュバルツァー将軍……はいないので、その場の最高責任者であるマリーベルを思わず見てしまう。

 

「…………………………」

 

 そのマリーベル本人も(決して顔に出さずに内心だけになんとか踏みとどまっていたが)宇宙を見てしまった猫のように呆けていたが。

 

 

 


 

 

 目がかすむ。

 

「この!」

 

 だが『寝るな』と言われたからには応えよう。

 

「何時から怪獣映画の一部になったのよ!」

 

 あるいは『天使』……じゃなくて『騎士』繋がりかもしれんぞカレン。

『相手が元ナイト・オブ・ワン』と言う仮定だが。

 

「こっちにも怪獣か化け物をよこしてさぁ?! 怪獣対怪獣とかにして!」

 

『クリストファー』が伸びる腕や手で襲い掛かるのをカレンがランドスピナーとブースター(噴射機)を使って避ける。

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおお。

 揺れる揺れる揺れる揺れる~。

 

 揺れるのは『身体』だけで『思い』とかじゃない~♪

 

 と言うか流石は『KMF操縦技術なら作中最強(マリアンヌ級)かも?』説を持つカレン、既にコードギアスにはないブースターを使っていらっしゃる。

 

「何で私たちばかり狙うのよ! 化け物ならあっちも狙いなさいよ!」

 

 グランベリーは流石に無理なんじゃないか?

 ターザ〇の『アーアーア~』するときの蔦の代わりになる物もないし。

 

 頭がボーっとする。

 

 EUの時以来だ。

 

 ……どうして『せや、どうせオズの流れ変えてしまったから学園のハプニングと黒の騎士団強化に利用するテロ事件時にクララの捕獲かつブイブイのいる拠点探し出そう』がこうなった?

 

 いや。

 これってホイホイとオルフェウス(SIDE)でも、オルドリン(SIDE)でも『メンヘラ精神不安定なクララでも記憶をマオのギアスで読み取れば100%当たる』と言うことに過信していた俺が悪いのか。

 

「くッ! とりあえず、昴だけでもどうにか艦に!」

 

 カレンが悔しそうな、あるいは()()()()()()()()()()()()()を出す。

 

 ズキっ。

 

 ……………………やっぱり、()が悪いのか。

 

 ズキっ。

 

 そう思うと胸に別の痛みが走り、鉛がすとんと腹の中で落ちていくような感覚が出てくる。

 

 やっぱり『楽しよう』と思っていた、()()()()()なのか。

 

 ズキっ。

 

 あああ、そう思うと『意識を手放せ』とささやく睡魔が……

 

 寝たら死ぬよね、多分?

 だからカレンも『寝るな』って言っていたと……思うし。

 

 だったら怖いな。

 

 

 

 でも……

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

 一回り大きく、そして俊敏さも増していく『クリストファー』の止まらない猛攻に試作型蒼天は動きの負担から機体のところどころに、おかしい違和感が返ってくるのをカレンは肌で感じたことで焦っていた。

 

『OSの調整をした』とはいえ、それを施したところで機体性能が落ちるわけではないので焼け石にかける水を少量にしただけで根本的な問題は残り続けていた。

 

「(せめて、時間があったら────!)」

「────カレン、代われ。」

 

 後ろからさっきまで弱弱しく瞼を閉じていたとは思えないほどしっかりした昴の声にカレンはビックリする。

 

「え?! ちょっと昴────?!」

 

 カレンの背後から腕を回した昴は、操縦桿を握る。

 

「────()()()()()。」

 

「え────うわ?!」

 

 昴の指は高速で動き、操縦桿のレバーと操作ボタンを押していくと試作型蒼天はOSの調整前に見せた動きをしだす。

 

「口を閉じていろ、舌を噛むぞ。」

 

「~~~~!」

 

 カレンは絶叫マシン以上の加重力に耐えながらただコクコクと首を縦に振るい、彼女のツンツンヘアーはギリギリの距離で昴の鼻をくすぐ……らなかった。

 

 余談だが『この状況で彼がくしゃみをしていれば、少々の血も飛び散っていたのかもしれない』とだけ記入しておこう。

 


 

???:クリストファー……君の感じたことは正しかったけれど、行動は間違っていた。





・ ・ ・ ・ ・(;´Д`)


それとは別にR2の直前とR2時には癒しタイムを予定しております。 (;゚∀゚)


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第166話 カオスのそよ風は爆弾

お読み頂き、誠にありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!

サブタイ通り、展開続きます。 m(;_ _ )mアセアセ


「────。」

 

『クリストファー』の右から来る手を避けるために機体を後方に避けさせてすかさずブースターで前進する前に俺とカレンは息を止めて体の形を保つ。

 

 ドゥ!

 

ゴアァァァァァ!!!

 

 飛び越えざまにパイルバンカーの杭を奴の腕に打ち込み、昆虫標本などで見るような固定化を試みるが『クリストファー』の肉が厚すぎて貫通までには至らなかったようで空中にいる俺たちに『ずつき』────じゃなくて『丸かじり』を食らわせようとしてきて、奴の頭がドアップされていく。

 

 野郎のドアップはノーサンキューだ。

 と言う訳で『でんこうせっか』で避けるとしよう。

 

 スラスターを作動すると胸部にある開閉式のカバーが開いて中にあったバーニアが噴射し、機体がまたも方向転換する際にGが身体を襲う。

 

「グッ?!」

 

 喉と鼻の奥から来る何かを俺は無意識に飲み込み、次の一手────『腕がダメなら手の固定』に動き出す。

 

『安直なネーミングやな?!』の類は、ただいま受け取っておりませんのでご了承。

 

 さて。

 何故このデカい奴の固定を狙っているかと言うと『クリストファー・チェンバレン』が『漆黒の連夜』通りの設定だと仮定すると、奴は確かナイト・オブ・ワンになったことでずっと比べられて嫉妬した弟により、無理やり今の様な『理性を失った異形の巨人』となった上に『()()()()()()()()()()』を発現した。

 

 どこぞの『オバケ』や『怪物』や『天使』と俺も思わないことも無いが、今はどうでも良い。

 

 俺が言いたいのは、『目の前のこいつは不死身ではない』という事だ。

 ただ、チマチマとダメージを与えても効果は無いどころかこっちが消耗するだけで、現にさっきの杭もいつの間にかクリストファーの腕から抜かれて落ちている。

 

『漆黒の連夜』でも、『理性を失った』と言われている割に本能は健在の様子で『クリストファー』は主人公(というかタイトルネーム)である連夜が繰り出す攻撃────『生命力の操作』を警戒して、連夜や彼の仲間のリーチ外から巨体を生かした攻撃を続けていた。

 

 結局最後は『撃墜』ではなく、『忠誠心に訴えた説得』という形でクリストファーとの対面は収まった……ような気がする。

 

 つまり勝敗は決まらなかったが、それはあくまで『KMFが無い時代』────兵器の発達がまだ個人レベルだった頃の話だ。

 

 輻射波動なら、クリストファーを原子レベルで崩壊させることが出来るがロングレンジでは表面上にしか届かない恐れがあるし、警戒されかねない。

 

 警戒されてこの場所から逃がしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ならば動きを封じて、C.C.細胞の素という事ならそれ等の無力化が出来る俺がここぞとばかりのデカいカウンターを至近距離で入れるまで……

 

 という考えの元で動いている。

 

『クリストファー』が近くの岩を手に取っては機体目掛けて投げ、俺はそれを避けては地中で見た、目(が合った場所)をリニアライフルで撃つ。

 

 このようなやり取りをし始めて数分と感じられる時間の中で、奴の動きに慣れてきたのか段々と『クリストファー』の繰り出す攻撃の軌道が幻覚のようにブレて、前もって見えるような気がする。

 

 これはきっとあれだ。

 訓練したアスリートや武闘家、命の危機に瀕する事故に合う直前の人などの脳が活性化する『極限状態』というヤツだ。

 

 俺の身体はさも当然かのように(あるいは自然に)、目に見えているそれ等(幻覚)を元に『クリストファー』の攻撃の軌道を読み取っては避けていく。

 

 相変わらず先ほどから身体中をクモがはい回るような感覚はあるが、機体と相手の動きにさえ集中すれば問題はない。

 

 ただ、決め手を食らわせる()()()()が無い。

 

 輻射波動の悪い点だな、『リーチの限界』ってのは。

 

 それだから一期でも右腕が少し伸びるギミックが内蔵されていたわけだし────そうだ!

 

 同じ紅蓮型なら、アレもある筈だ!

 

 シュボ!

 

 操縦桿を操作して、俺はそれらしき項目を見つけては作動すると試作型蒼天の各部から煙が────チャフスモークがモクモクと出てきて辺り一面が青い霧に包まれていく中でメインカメラを通常の物から変えると、さっきまでノイズが混じっていたモニターにクッキリと地形と『クリストファー』が浮かび上がる。

 

 これで奴の視覚をある程度封じられるだろう。

 

 あるかどうかは分からないが、やって損はない────

 

 ブゥゥゥン!

 

 ────おおっと。

 

 やっぱり駄目だった。

 

 というか急に周りの岩を砕いて散弾のように投げているから更に事態悪化。

 

 と言う訳で明後日の方向に飛ぶものは無視。

 

 逆に周りに迷惑を掛けそうなヤツは撃ち落としてクリストファーに偽の位置をわざと教えつつ被害が拡大するのを防ぐ。

 

 ここは俺とお前だけの問題だろう?

 

 他人を巻き込むな。

 

 

 


 

 

 「(なに。 これ。)」

 

 カレンは息をすることを忘れてただ身体に力を入れて維持をし、スバルの変態的な変則的な機動に目を回しそうになりながら瞼を何とか開けながら上記の言葉を内心では思っていた。

 

 上や下、左右に前後の方角に動く感覚が抜けないまま次々と重力の反動と吐き気がカレンを襲う。

 

 それほどまでにスバルの操縦は()()()()……のもあるが────

 

「(この動きに……何これ? ()()()()()()()()()()んだけど?! これ、私じゃなきゃ絶対に吐いているわよね?!)」

 

 ────極度の方向転換で血の循環が悪くなったのか、あるいは本当に目を回しながらも『見よう』と無理をした限界の所為か、カレンには巨体(クリストファー)を含めた景色がぼやけて何重にも見えていた。

 

「(でもこれだけ動き回っているのって、要するに『スバルにも余裕がない』ってことだよね?!)」

 

 

 ……

 …

 

 

 クリストファー、そして試作型蒼天の周りがチャフスモークで包まれていく間、リア・ファルはレーダーでギリギリ捉えられるグランベリーを警戒しながらも部隊のKMFの回収と、()()を進めていた。

 

「逃げるの?」

 

「逃げるにしても、戦うにしても……艦の状態が不十分であればどちらも行えません。」

 

 レイラは現状、迷っていた。

 

 グリンダ騎士団、そしてギアス嚮団……と想定していた場所に別の組織。

 

 片方だけならばグリンダ騎士団と比べて実行部隊と人員に欠けるアマルガム側にもまだやりようはあったが、同時に対応するのは流石に困難である。

 

 元々『ギアス嚮団の拠点索敵』だった筈が、こうも入り組んだ状況に進展するとは思わなかった上にまさかその別組織が保有していた戦力の反撃でアマルガム側のナイトメア部隊の半数ほどが戦闘続行不可能な状態に陥るとは予測もしていなかった。

 

「主砲が再度撃てるまで、どのぐらいかかりますかラクシャータさん?」

 

「んー……アンタにも軽~くMHD(磁気流体力学)の原理を中途半端ロマン野郎(ウィルバー)と一緒に説明したと思うけれど、問題は弾頭(水銀)じゃなくてエナジーの方ね。 『撃てる』っちゃあ撃てるけれど、出力不足でさっきより格段に弱いわよ?」

 

「(それではあの巨体を倒すことは……このままでは、『逃げる』にしても『戦う』ことにしても犠牲が出てしまう。 どうすれば────?)」

『────よぉ、レイラ! ここで“アンタ(レイラ)に会いたい”って言っている連中がいるんだが────』

「────アシュレイさん?」

 

 レイラのコンソール画面に、リア・ファル内に戻ってきて元気いっぱいのアシュレイが映る。

 

「私に会いたい? (このような場所で────?)」

『────おう────!』

『────ちょっと代わりなさい────』

『────おわ?! お前いつの間に────?!』

『────どうだっていいでしょうが────!』

「────あ。」

 

 アシュレイ側がゴソゴソとして画面内に無理やり姿を現したのはアンジュだったことに、レイラは『何故?』と一瞬思ってからハッとする。

 

「(そう言えば、アンジュさんたちはシュバールさんと共に行動を────)」

『────もしもし?! あのデカい怪物は何?! スヴェンはあの紅蓮っぽいのに乗っているの?! なんで急に寒くなったりするわけ?! この人たちユーロ・ブリタニアの騎士服着ているけれど何がどうなっているの?!

 

 アンジュの凄まじい肺活量にアシュレイは耳鳴りに苦しみながら、『なんでフランツたちはこんなうるさい女を乗せたトレーラーを保護したんだ?』と思っていたそうな。

 

 勿論、『(ユーロ・ブリタニアの)騎士であるからには人を助けるのに理由はいらない!』と返ってくる答えが安易に想像できるとしても。

 

「えっと……敵です、それとあの紅蓮タイプの中には動きからして恐らくシュバールさん────」

『────ならさっきの“バーン”としたヤツでもう一回“ドカン”と撃ちなさいよ! 当てれば一発でしょ?!』

 

「…………えっと……再度発射するためのエナジーの再充填に時間がかかります。」

 

 “語彙力ゥ”と密かに思いながらもレイラは思わず思っていたことをそのまま口にする。

 

『再充填?』

 

「ええ、本艦の主砲は少々特別でして────」

『────そういう難しいことはよく分からないから遮るようでゴメンだけれど、要するに動力源不足ってことよね?』

 

「まぁ……そうなります。」

 

『その船の機関室って、()()()()()()()使()()()()()?』

 

「???」

 

「あー、そうだけれど? なんでかしら?」

 

 コードギアスの世界では『動力=サクラダイト』と言った常識をアンジュに問われたレイラは思わずハテナマークを頭上に浮かばせて言葉を失くし、彼女の代わりにラクシャータが疑問形で答えては逆に問い返しをする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()ってことね、分かったわ。』

 

 ガサガサガサガサ。

 

オイちょっと待てこら女ぁぁ! おいレイラ、アイツ誰だよ?!』

 

「えっと……シュバールさんの知り合いです?」

 

『あー、納得。』

 

 敢えて『どこが?』と聞き返さないレイラだった。

 

 

 ……

 …

 

 

 カッ、カッ、カッ、カッ!

 

 リア・ファルの中へとほぼ無理やりトレーラーごと避難(され)ていたアンジュはアシュレイのアレクサンダから飛び降りては格納庫から元気よく走っていた。

 

 「だぁぁぁぁ! 暑い!」

 

『さっきまで凍っていた』、『冷気がまだとどまっている』とは言え全力疾走していたアンジュの体温は上がっていき、彼女は羽織っていたジャケットを脱ぎ捨てる。

 

「何か考えがあるのですか?」

 

「……………………かもね。」

 

 そんなアンジュをほぼ同じ速度で後を追いながらも汗一つ浮かばせていないマーヤが平然としたまま聞くが、アンジュは苦虫を噛み潰したような気まずい顔を浮かべて濁した返事をする。

 

 

 ……

 …

 

 

「(元とはいえ、『ナイト・オブ・ワンは伊達じゃない』という事か。)」

 

 スバルはあれから何度も手を替えては接近を試みていたがことごとく『クリストファー』はその一つ一つに対して即座に対策し、まるで勘を取り戻したかのように徐々に動きにキレが増していく。

 

 それとは別に、とある時期を境に彼は自分の身体中を何かがはい回るような感覚の正体に目星をつけていた。

 

 それは『常識』や『理性』から来るものではなく、生物としてもっと根本的な本能から来ていると呼ぶことしかできない『()()()()()()()()()』。

 

「(ああ、なるほど。)」

 

 この考えに至ったスバルは不思議な納得に一つの疑問が消えて、少しだけ心がスッキリした。

 

「(だから原作で『オズたち』は────)」

 

 ────ドゴッ!

 

 そうスバルが考えている内にクリストファーの足元の地面が急に緩み、地面の中からまるで氷を装甲のように纏ったヴィンセントとガニメデ・コンセプトに白炎……をメインに、月下やサザーランドにグロースター・ソードマンなどのパーツや兵装を無理やりくっつけたような機体たちが出てくる。

 

「(あのガニメデはアリス? それに白炎っぽいのはオルフェウスか? という事は、地下都市で俺らが地上に打ち出された後にロロ(仮)機とアリス機が遭遇したところで、オルフェウスが脱走した……ってところか?)」

 

 ……

 …

 

 少しだけ時間を巻き戻すと、一連の流れはスバルの思っていたようなモノだった。

 

 更に付け加えると、気分が悪くなったアリスは『クリストファー』が動き出したことでガニメデ・コンセプトに乗り込んだところで天井に開いた穴から轟音が鳴ったと思えば今度は身体中に激痛が走り、そのまま気を失った。

 

 普通なら『敵地』の中でそんなことをすればかなり悪い展開にしか発展しないのが相場なのだが、幸運にも独房から脱走を試みて、見張りがいないどころか人気の代わりに様子のおかしいナイトメアや、3メートル弱の『人型巨人』としか思えない生物が地上を目指してる様子などという混乱した状況の中でオルフェウス、ズィー、コーネリア、ダールトンは二手二組に分かれ、アリスはコーネリアとダールトンに発見されていた。

 

 もし彼女を見つけたのがオルフェウス組だったら色々とこじれていたのかもしれないが、コーネリアたちだったのでナイトメアの無断拝借保護だけで済み、オルフェウスたちは大破した自分たちの機体を無断拝借見つけたガニメデ・コンセプトでパーツの移植を行い、地下都市から脱出を試みた。

 

 そんな矢先に様子がおかしかったサザーランド達はオルフェウスたちの機体を見つけては鬼気迫る様子で攻撃してくるようになり、脱出をメインの目標としていた彼らは戦闘を避けながらも地上を目指していく。その過程でアリスは目を覚まして状況をダールトンから聞いてはロロ(仮)機のヴィンセントと遭遇したことで、まだ痛みが走るにもかかわらず『ザ・スピード』を展開した。

 

 ロロ(仮)の能力とヴィンセントが脅威な上に切羽詰まった状況下で、アリスは正常な判断を下せる状態では無かったこともあってヤケクソ気味で対応していたのを、コーネリアはルルーシュ(ゼロ)でも狼狽えるほどの持ち前の理解力と順応力を生かしてロロ(仮)機の攻撃をいなしながらオルフェウスと共に地上へと出てきた。

 

 かなり掻い摘んだ先の話が、スバルがクリストファーの突っ張りを食らって地上に出た後に、地下都市で起こった一連の出来事だった。

 

 ……

 …

 

 ゴアアアアアァァァァァ!

 

 試作型蒼天、闇鍋白炎、闇鍋兵装のガニメデ・コンセプトの三機が加わったことで『クリストファー』は追い詰められる……

 

 ()()()()

 

「く……あぁぁぁ! (あのバケモノ(クリストファー)を見た瞬間に、『敵を殺せ』という衝動が止まらん! 体が……いう事を聞かん!)」

 

 ここにロロ(仮)機や地中から出てきた黒いサザーランド達が()()()()()()()()に加わったことで状況はスバル側にさらに悪化させた。

 

 ロロ(仮)は自分の身体の自由が奪われることに恐怖を持ったが、それ以上に()()調()()()()()()()()()()だったことが恐ろしかった。

 

「(先ほどの不適合者たちの姿がない事はどうでも良いが、なんだこの訳の分からない高揚感は?! もしや、先ほどマッドが言っていた『捕獲せよ』と関係があるのか?!)」

 

 混沌化したこの局面は、更なるカオス化することとなる。

 

 

 ……

 …

 

 

『どういうことなのマリー?!』

 

 グランベリーの中で、オルドリンは珍しく怒鳴り声の一歩手前まで声を荒げさせながら通信モニターの向こう側にいるマリーベルに言葉を返していた。

 

『言った通りよオズ。 私たちは救難信号の元であると思われるブリタニアの施設の援護に回ります────』

『────だからってあの怪物を無視する訳にはいかないでしょう?! あれをあのまま野放しにしたら────!』

『────見たところ、あの謎の艦とは敵対関係。 ならばこの隙にブリタニアの者たちの保護をし、双方が弱ったところをまとめて鎮圧すれば私たちの犠牲を最小限に抑えられます。 それに……』

 

 マリーベルは一瞬迷うような仕草を見せた。

 

 救難信号に含まれた情報で、()()()()()()()()()()()()()()()()という事を騎士のオルドリンたちに示すかどうかを。

 

『……マリー────?』

『────いいえ、なんでもありません。 ここはやはりブリタニアの救難信号元の施設に取り残されている者たちの保護に向かってください。』

 

 だが()()を考えれば、やはり漁夫の利を生かした作戦をマリーベルは選んだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……マリー。』

 

『何かしら、オズ?』

 

『さっきの怪物がグランベリーに向けて攻撃をしてきたの、あの紅蓮タイプが撃ち落としてくれたのを覚えている?』

 

『ええ。』

 

『それと気のせいだけれどあの紅蓮タイプの動き……マリーと共闘したヴィンセントに似ていると思わないかしら?』

 

『それが?』

 

『……マリー。 私から見れば“怪物は暴走していて、あの敵艦と称されている者たちと紅蓮タイプに乗っている者たちは怪物の被害を抑え込もうと行動している”としか見えないわ。』

 

『ブリタニアの者たちの安否が────』

『────あのまま見殺しにするの? 命は命なのよ、マリー! そこに格差なんて無いはずよ!』

 

 オルドリンの言葉を聞き、マリーベルはずっと無視しようとしていた頭痛の痛みが増していくのを感じて思わず瞬きをする。

 

『……私たちが……いえ、私たちが取るべき行動は────』

『────私にとって、命に格差は……優劣はない。 それに私たちには恩がある筈。 ならば! それを返した後で正々堂々と挑めばいいだけの事ではないの?! 弱ったところを狙うような、卑怯な手を使わないほどにマリーは私たちの実力が信頼できないの────?!』

『────ッ! オルドリン・ジヴォン────!』

『────筆頭騎士(ナイト・オブ・ナイツ)、オルドリン・ジヴォンが命じます! 各機、あの怪物を速やかに討伐せよ! 私に続け!』

 

『『『イエス、マイロード!』』』

 

「あやつら! 姫様の方針を無視しおって!」

 

 グランベリーからランスロット・グレイル、ゼットランド、ブラッドフォード、サザーランド・アイの四機が発艦する景色にブリッジに戻ったシュバルツァー将軍は諦め染みた怒りを露わにした。

 

「訳の分からぬ状況に感情を優先して、身を投じるなど! 軍規違反どころでは────!」

「────う?!」

 

 とうとう頭痛が酷くなったマリーベルは思わずよろけてしまい、身を近くの手すりに預けると大粒の汗が額から噴き出す。

 

「姫様?!」

 

 シュバルツァー将軍はそんなマリーベルのうめき声と様子を見て焦り、まるで風邪を引いたかのように熱を持ったマリーベルの身体を支える。

 

オルドリン、どうして……どうしてブリタニアの方針を蔑ろに……ブリタニアの……ブリタニアは……ブリタニアが……

 

「???」

 

 ブツブツと何かをつぶやくマリーベルにシュバルツァー将軍は声をかけるが、彼に気付いた様子もなくマリーベルは突然立ち上がってはブリッジから出ていく。

 

「姫様、どこへ────?」

「────私はランスロット・トライアルで出撃し、救難信号の元へ行きます。 将軍は艦の直掩にあたりなさい! (こんな時こそ、秩序が必要なのに! 許さない……許さない!)」

 

「し、しかし────!」

「────これは皇族としての命令です、将軍! (勝手に力を使わせる為に、貴方を筆頭騎士にさせたわけじゃない! 何故私の言うとおりにしないの、オズ!?)」

 

 そんなマリーベルを、オペレーターのトトは横目で静かに追っていた。




後書きEXTRA-

VV:かくして役者はそろった。
???:観えないというのに、かなりの自信だね?
VV:どの様な展開になっても、僕に繋がる訳じゃないしね。
???:……


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第167話 童話の裏は真っ暗な暗黒

お待たせしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


 「■■■■■■■!!!」

 

 消極的な戦闘とはいえ、試作型蒼天を駆使してもクリストファーに押され気味だった戦場に白炎(闇鍋パーツ)、ガニメデ・コンセプト(闇鍋兵装)の二機と更にランスロット・グレイル、ゼットランド、ブラッドフォード、サザーランド・アイが()()()()に加わったことで形勢は一気に逆転した。

 

 「■■■■■■■!!!」

 

 いかに理性を失っているとはいえ、『元ナイト・オブ・ワン』でもさすがに多勢に無勢だということを理解しているのかさっきから雄叫びの様なものを上げている。

 

 いかに『超復元力』があるとはいえ、こうも周りを固められては為す術もない。

 

 一機、二機、三機に対応できているのはすごいが、その隙に他の四機から攻撃がされては破損部位(ケガ)が治っていき、ヴィンセントが応戦するところを俺が担当する。

 

 さてさて、言っちゃっていい?

 

 どうしてこうなった?!

 

 白炎モドキはまだいい、オルフェウスだから多分『脱出した際にロロ(仮)機と遭遇してそのまま戦闘に入った』とかだろう。

 ガニメデも同じような理由……と言うか何気に動きのキレが増しているな?

 

 もしかしてアリス、C.C.細胞関連でパワーアップしたとか?

 ロロ(仮)機も早速シル〇ーサー〇ァー並みの波乗り風に能力を使っては時間を凍らせているのかグリンダ騎士団たち四機相手に善戦しているで、もうヤダダレカナニカシテクレショウジキイマニデモトンズラシタイ────

 

 「────ウッ。」

 

 目の前(と言うか前)にいるカレンがえずくような音(声?)を出し、彼女を見ると健康的な肌の色が気のせいか若干青くなっているというか瞼を閉じて目尻に涙を浮かばせていた姿を見て胸の奥がチクリとする。

 

 ……何をやっているんだ、俺は?

 

『ここにいるはずのない』と思い違いをしていたエデンバイタル教団の可能性にグリンダ騎士団やグランベリーにオルフェウスたちなどを色々気にして、躊躇し戸惑い続けてカレンにこんな表情をさせるなんて本末転倒だ。

 

 俺の知っているカレンは、

 

 もっと堂々としていて、

 

 周りがダウンしても元気づけるようにワザと気丈な態度をして、

 

 何が『死なせない』だ?

 

 そんなのは当たり前のことだ。

 

 もっと大事なのは子供の頃、日本侵略後に約束した()()()()()()()()()()()()()()()だろう?

 

 幸い、試作型蒼天は俺が騎乗することを前提とされている機体。

 そのおかげで、()()()もある。

 

「カレン。」

 

 それに────

 

「うぐ……な、何?」

 

 ────こういう時の為に特典がある筈だ。

 

()()()()()()────」

「────え────?」

 

 ────今まで『充電(リチャージ)』していた分はR2に向けて色々と使う場面とかを予定していたが……

現在()』を乗り越えないでどうする?

 

『時間に意味はない』を発動。

 

「え、何これ?」

 

 ぴたりと()()が止まった世界の中で、カレンが何か言ったような気がするが今は試作型蒼天を走らせることに集中。

 

 飛来している弾丸や攻撃の軌道、それらが着弾した際に飛び散っている地形の石やクリストファーの血肉を避けながらできるだけクリストファーに接近する。

 

 時間が止まっている間もそれ等は止まっているわけだが、元々の慣性エネルギーや軌道は『活きている』。

 つまり特典の解除後、負担や摩擦熱などの二次効果が一気に押し寄せてくる。

 

 正直このまま早く特攻して、ゼロ距離輻射波動をクリストファーに食らわせて終わらせたいが今はカレンがいる。

 

 いっそ、このまま彼女を降ろしても────いややっぱりダメだ。

 

 ならばこのまま慎重に────

 

 ゾク!

 ドゴッ!

 

「「────うわ?!」」

 

 急に寒気がして咄嗟に動かした機体が激しく震え、予想外の揺れに俺とカレンは声を出してしまう。

 

『まさか止まった時間の中で動けるはずが?!』と思いながらも、機体への損傷具合を表示するモニター画面を外部のカメラに繋げて見ると案の定、ロロ(仮)機が前腕部に取り付けられていたニードルブレイザーを展開していた。

 

『そう言えばナイトメア・オブ・ナナリーでもロロ枢機卿は確か一定時間だけ対象を凍結させるとか書いてあったから俺と似ているのか』と思ってしまうのは仕方がないので、この際許してほしい。

 

 上記の思いとほぼ同時に『絶対領域(テリトリー)とかもあった筈だ』とかは今は置いておく。

 

 とりあえず、今は時間が止まった世界の中で動いているロロ(仮)機だ。

 さっきの攻撃で試作型蒼天にかなりの負担(ダメージ)が加えられてしまった。

 

 このまま野放しにしてクリストファーを撃退したとしても、もう一度ニードルブレイザーを食らったら今度こそ致命傷になりかねない。

 

 時間が止まった世界の中で極限状態に入ったのか、機体だけでなく周りがスローモーションのように流れるこの時間で考えるんだ、俺。

 

 どれだけ『充電(リチャージ)したか』とか『この後からくるダメージ』とかなんて考えるな。

 

 ナイトメア・オブ・ナナリーではロロ枢機卿が時間を凍らせた中で『無限の加速』に目覚めたアリスに不意を突かれて撃退されたが、今の状況はその正反対。

 

 しかも俺がいることで相手に『反作用』という『自滅ルート』が無いことで俺は更に不利。

 

 …………………………先に()るしかないか、ロロ枢機卿(仮)を。

 

 

 


 

 

 ピ!

 

「え?」

 

 リア・ファル内にいたレイラは画面上の信号に異変が起きたことに思わず声を出し、他に周りで気付いた人がいないかを見てしまう。

 

 周りの者たちはグリンダ騎士団の介入に、グランベリーから飛び出てきた新たな機体の反応に謎の機体(ロロ(仮)機)が再び出てきたことに対しての対策などでそれどころではなかった。

 

 リア・ファルのオペレーターたち以外。

 

「ねぇ、サラ……これって────」

「────多分、あの人だよね?」

 

「(……ホッ。)」

 

 ピ! ピ! ピ!

 

 レイラ、サラ、オリビアは画面上の『ALLY(友軍機)』と表示されている一つの信号の位置が飛躍しているのを見て、彼女たちはスロニムやヴァイスボルフ城の森を思い出す。

 

「(後でもう一度念を押す必要はありますが、以前にも見たことのあるこのお二人なら大丈夫そうですね────)」

 「────ちょっと、機関室の奴ら何やっているのよ?!」

 

「どうしたのです、ラクシャータさん?」

 

 そんな中で珍しく焦るようなラクシャータの声が出て、そばにいたレイラが問いかける。

 

「いや、さっきから機関室の出力が上がっているのよ!」

 

「??? それはいいことではないのですか────?」

「────この上がり方が異常なの!」

 

 ラクシャータは柄にもなく声を荒げてモニターを再度見ると、リア・ファル全体に電力を提供している機関室の発電量の表示は()()()()()()()ぐんぐんと異例の速さで上昇していった。

 

 忘れがちだが、コードギアスの世界での技術は現代と比べてかなり発達している。

 以前にも書いたがそれ等は基本的にサクラダイトと言った、“常温で超伝導させるレアメタル、衝撃などのショックを与えると爆発する”謎の資源が与える恩恵のおかげ。

 その代わり、化石燃料やそれを利用した内燃機関など()()()()出力を出すものは未発達であり、『急激なエネルギー(電力)の上昇』は大抵の場合、『爆発の直前』と言う危険の前兆を意味する。

 

 これが実験室や戦線から距離の置かれた後方ならば、ラクシャータもウキウキしながらデータを取っているところなのだが自分の乗っている艦だとするとシャレにならない。

 

 「それって……」

 「要するに私たちが乗っている艦が爆発する……ってこと?」

 

『レイラ司令────』

 

 サラとオリビアは小声で話すとお互いの顔から血の気が引いていくが、そこにマーヤからの艦内通信が入ってくる。

 

「────あ、はい?!」

 

『メ────アンジュさんからエナジー不足だったのは聞いていますので、()()()()何とかします。』

 

 「今の“メ”って、何を言いかけていたんだろう?」

 「さぁ……」

 

「いやいやいやいやいや! 機器にはコアルミナスとかに変化が見られないのに“超が付くような現象が~”なんて今更かもしれないけれど私はそういう納得のいかないことは嫌い────!」

「────わかりました。 ラクシャータさん、第二射の準備を────」

「────こうもエナジーの充填がされちゃやらないワケにはいかないでしょ?!」

 

 ……

 …

 

 ブリッジでは珍しく周りに振り回されているラクシャータの声を通信越しに聞いていたマーヤは人気のない機関室の方を見る。

 

『人気がない』というのも別に必要な人員削減の為に艦のいたるところが自動(オート)化した所為でもなく、人払いを必死に()()()()マーヤのおかげなのだが。

 

「(それにしても、まさか土下座までして人払いを頼んだ理由が『コレ』だったとは……)」

 

 『♪~』

 

 マーヤは機関室の方角から、大気に乗ってかすかに聞こえてくる音に集中して()()の様なメロディーに耳を預ける。

 

「(何かしら……この切なくなるような、()()()()感じてしまうようなモノは……)」

 

 何とも言えない、胸が締め付けられるような心境にマーヤは思わず機関室から聞こえてくる真摯な気持ちが籠った()に耳を貸す。

 

 ……

 …

 

 バリィン

 

 砂漠と平原が混ぜられた様な大地で、パラソルが開かれた場所から何かが割れる音がする。

 

 音の場所に景色が移ろうとパラソルの下には地面に落ちて割れたと思われるティーカップを無視して立ち上がっていた人物がいた。

 

 パラソルと日光の角度から顔は隠れていたモノの、白に近いブロンドヘアーはその人物の腰まで伸びていた。

 

「……フ……フハハ……ハハハハハハ!」

 

 人物────声と体のつくりから恐らく成人男性────はくぐもった笑いを出し始めると次第にそれは『愉快』から『愉悦』、そして『狂気』と思われる感情が加わっていく。

 

 ハハハハハハハハハハ!

 

 男性は割れたティーカップや、ギラギラと辺りを照らす日光を気にかけることなくパラソルの下から眩い光の下へと出て、雲がない青空を見上げてはただ両手を広げて笑い続けた。

 

 

 ……

 …

 

 

「ッ。 (やはり、()()なのでしょうか?)」

 

 先ほど遠くから見た紅蓮タイプ動きがセントラルハレースタジアムで共闘したヴィンセントを連想させた時点からズキズキとした頭痛の痛みがじわじわと鈍痛に変わっていく感覚をマリーベルは我慢して、ランスロット・トライアルで救難信号の元である地中へとスラッシュハーケンを使った立体起動で穴を降りて行った。

 

「(いえ、()()()()()()()()今はブリタニアの方を優先しなくては。)」

 

 マリーベルは()()()ことを胸の奥に仕舞い、優先順位を自分に言い聞かせる。

 

「地面の中に、都市? (この街並み……()()()()()()()()()?)」

 

 そう彼女は思わず声に出しながら一番高いビルの上へと降り立って戸惑いながらもファクトスフィアを展開する。

 

「(『友軍機』の反応? ですが動く気配が……いえそれ以前に何故ブリタニアの機体がこんな地中の中に?)」

 

 ガシャン!

 

『おお!』

 

 そうマリーベルが考えていると外部から鉄製のドアが開かれる音と人のホッとするような声が聞こえてくる。

 

『救助の機体がランスロットタイプ!』

『ブリタニアの機体だ!』

『た、助かった……』

 

 建物の中からぞろぞろと白衣を着た研究員らしき者たちはマリーベルの機体を見ては明らかに安堵し、嬉しがっていた。

 

「(ここは見るからに何らかの研究機関だったのは予想が出来ますが……どこの機関かしら?) ブリタニアの者たちですね? 自分はグリンダ騎士団の皇位継承権第88位のマリーベル・メル・ブリタニアです。 救難信号を出したのは貴方たちですか?」

 

『おお!』

『グリンダ騎士団!』

『あの噂の……』

『こ、皇女殿下?!』

『寄りにもよって、なんでここに……』

 

 マリーベルが自己紹介をすると物珍しさや嬉しがる者がいたが、逆に動揺する者たちもいたことに彼女は違和感を持つが、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う思いから、周りをもう一度ファクトスフィアで敵機やそれらしき動きがないことを確認してからマリーベルは機体から出てくる。

 

「ッ。」

 

 機体の外から彼らを目視で見ると、さっきまで収まっていた頭痛と違和感が蘇る。

 

「え、ええ。 救難信号は確かに────」

「────ここはどういったところで、貴方たちは何を?」

 

 研究員たちはお互いを見ては気まずい様子を見せるが、彼らの中でも年上そうでメガネをかけた一人が答える。

 

「ここは医療研究施設です、皇女殿下。 我々は住み込みで医学の発展を目的としてここで四六時中研究をしていました。」

 

「先ほど、ブリタニアのナイトメアを()()()()が?」

 

「『医療』と言ってもサイバネティクスに頼らない為の、()()()()()()()です。 有り体にいうと()()()です。」

 

「地上のアレは何ですか?」

 

「研究の過程で培養された物で、アレが救難信号を出した原因です。 失礼を承知で申し上げますが、詳しくはここからの避難を終えてからにしてもらえませんでしょうか────?」

「────IDを確認してから、地上へとお送りいたします。 他に人はいませんか?」

 

「い、いない……とは思う。」

「それにいても、多分逃げ遅れて────」

「──── “思う”や“多分”だけでは判断しかねますね。 (それにファクトスフィアによれば、()()()()()()()()()()は出ていました────)」

『────姫様!』

 

 そう考えながらブリタニア所属を証明するIDカードを確認していたマリーベルは、耳にセットしていたインカムからシュバルツァー将軍の焦る声が入ってくる。

 

「将軍、地下都市の様な場所にブリタニアの研究員らしき者たちを確認しました。 グランベリーに搭載してあるVTOLを寄こしてください、それらを使って避難させます。」

 

『姫様、単独行動など危険です────!』

「────現場指揮権はオルドリンも持っています。 そのオルドリンが私の方針を無視するというのなら現状で動かせるものを活用すべきです。」

 

『……イエス、ユアハイネス。』

 

 コォォォ。

 

 マリーベルが通信を切ると、天井の空いた穴からタービン音がしてその場にいた者たちが見るとグリンダ騎士団の魔女のシンボルが尾翼に描かれたVTOL機が下りて来て、グリンダ騎士団の歩兵部隊(というよりシュバルツァー将軍が『念のため』と無理やり募集した艦内警備員たち)が数名出てくる。

 

「これで助かる────」

 

『今度こそ助かった』と思った研究員たちの注目が自分からそれた隙に、マリーベルは彼らの背後にあるドアを通って建物の中へと入る。

 

 かなり無防備で、本来はありえない彼女の行動は頭痛と共に浮かび上がった違和感────『ここは見覚えがある』と言った不可解なモノに釣られた『好奇心』……と呼んでいいのかよく分からないものと、先ほどファクトスフィアで見た反応で取り残された人命の元へと向かった。

 

 彼女は建物の奥深くへと歩き続けると頭痛は更に酷くなるが、マリーベルはこれを先の『思い通りに言う事を聞かないオルドリン』の所為にして歩みを続けた。

 

 静寂で電球が切れているのか、暗い建物内部は人気を寄せ付かせない────というよりは『拒む』感じを出すがマリーベルはイラつきと怒り任せに突き進んだ。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 さて、突然だが『オズの魔法使い』の話を簡単に記入したいと思う。

 

 作品は『小説』、『ミュージカル』、『映画』と多様にあるが本筋はおおむね同じである。

 

『ある日、何の変哲もない田舎に住んでいた無知な少女は飼い犬と共に竜巻によってオズ王国に飛ばされてしまう。』

『原住民たちの小人(マンチキン)に圧政を敷いていた悪い魔女は家ごと飛ばされてきたドロシーたちによって圧死させられてしまう。』

小人(マンチキン)たちは喜びを分かち合い、悪い魔女の力の源だった靴を少女に授けるが彼女は帰る為にはどうしたらいいのか迷っている所に“北の良い魔女”が現れ“魔法使いなら何とか出来るかも知れない”と伝える。』

『黄色いレンガの道を進めばいずれ辿りつくという言葉を信じ、少女は子犬と共に旅に出て愉快な仲間と出会い、願いを叶えるために全員魔法使いの元へと旅をする。』

『旅は困難を極めたが魔法使いにようやく会うと、“我に謁見するのは一人ずつ”と言われて少女、カカシ、木こり、獅子は言うとおりに会った。』

『皆の願いを聞いたあと、一行は“魔女の中でも強大な力を持つ西の悪い魔女の死を条件に皆の願いを叶えよう”と告げられる。』

『自分を殺しに来る者たちが近づくことを感知した西の悪い魔女は様々な手下や動物に虫などで妨害を図るが失敗に終わる。』

『今度は巧みな話術で魔女は少女に“力を持つ靴の代わりに今すぐ故郷に送り返す”という取引を提示し、毎晩悲しみで泣くほどホームシックだった少女はこれを承諾した。』

『だが西の悪い魔女が靴の片方を受け取ると魔女の嘘が少女に流れ込み、騙されそうになって怒った少女は“死ね”と内心命じながら西の魔女に水のバケツを掛けると魔女は断末魔を上げながらみるみるうちに溶けていった。』

『西の悪い魔女が死んだことで彼女の元部下たちは喜び、少女たち一行を魔法使いの元へと送る代わりに猛者であるブリキの木こりに次の王になってくれるよう願い、木こりはそれを受けた。』

『ようやく“魔法使い”の場所に戻ってきた一行だが少女と会うときにアクシデントが起こり、彼が実は少女のように外の世界から流れ込んだ指名手配犯の詐欺師であることが分かった。』

『何とか言い逃れをしようと“魔法使い(詐欺師)”は少女一行の夢をかなえるアイテムを渡していく。』

『脳が欲しいと願ったカカシには糠と針を詰めた頭を。』*1

『心が欲しいと言ったブリキの木こりにはゴミがつめられた絹の袋(ハート型)を。』

『勇気が欲しいと言った獅子には“勇気が出る薬(緑色だけの水)”が入った豪華なガラス瓶を。』

『カカシ、木こり、獅子は彼が詐欺師と知らないので大喜び! だが彼は彼の正体を知っている少女を警戒して“分かった、信じないのなら来たときの気球に一緒に乗って外の世界に戻ろう”と交渉する。』

『だがこのままでは詐欺師である彼は逮捕されてしまう。 そう恐れた詐欺師は子猫を使って少女の子犬を惑わせて少女が子犬を連れ戻したころにはもう手遅れ、詐欺師は既に旅立ってカカシに今後を託していたのだった。』

『路頭に迷った少女の帰りたい気持ちは膨れ上がるばかりのところに、“もしかしたら南の良い魔女なら故郷に帰らせてくるかもしれない”という噂を信じ、少女は獅子と木こりと共に再び旅に出た。』

『旅の途中で通った森の動物たちの助けを今度こそしたいと思った獅子は“勇気の出る薬”を飲むがただの水だったことに困惑しながらも無我夢中で巨大なクモを殺した。』

『波乱万丈だった旅の末、少女たちはやっと南の良い魔女────グリンダの元へ着くと“あら、帰りたいのなら靴のかかとを合わせながら願えればすぐに戻れるわよ? 誰も言わなかった?”と告げられる。』

『少女は仲間たちに別れを告げ、子犬を抱きながら靴を言われた通り三回合わせて願うと空中に浮かび、故郷へと飛んでいき彼女を探していた叔母と出会い、“また家に帰ることができて良かった”と言を並べた。』

『めでたしめでたし』……になるのは童話だけ。

 

 マリーベルが今歩いているレンガの道の末にはエメラルドの都ではなく、コードギアスの地下都市である。

*1
糠は英語で“ブラン(bran)”、つまりは“ブラン(ド)ニューブレイン()




展開、更に早めて申し訳ございません。 m(;_ _ )m

あと余談ですが、『童話の原作本って怖いな?!』と思ったきっかけが『魔法使いのオズ』の小説版でした。 (;´Д`)ゞ

普通に考えるとホラーです。

TRPGのGMが『秩序・善だからって良いキャラじゃないヨ~♪』と言ったことを再度痛感しました。 (汗


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第168話 『パンドラの箱に自ら残ったのも災厄だった』説

…………………………(;´ω`)

お読み頂きありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです! (;・ω・)


 ランスロット・トライアルで見た生体反応のあった場所に近づくにつれ、マリーベルの心拍数は上がっていった。

 

 原因は分からなくとも『()()()()()()()()()()()()』という衝動に駆られたままマリーベルが通路を歩いていると、半開きになっていたドアの中から明かりの光が漏れていたのを見て彼女は中に入ると手術室の様な部屋を目にする。

 

 ズキ、ズキ、ズキ。

 

 ようやくマリーベルは『このような光景を見たことがある』という結論に至ると彼女の頭痛は再び鋭さを増していき、思わず頭を抱えそうになる。

 

「皇女殿k────」

 

 ────ヒュ!

 

 ガキィン

 

 背後から男性の声がすると、マリーベルは考えるよりも先に腰の剣を抜くと同時に振りかえりながら後ろにいた者を()()()()切りつけると金属同士がぶつかる音が響く。

 

「え?! (私、何故────いえそれよりも金属音とは?)」

 

「なるほど、これが()()という事か。」

 

 困惑しながらもマリーベルが見たのは切り付けられたことより彼女の取った行動に対して興味深いような感想を漏らしていたマッドと、切られた皮膚下から露出する血肉ではない鉄製の身体だった。

 

「あ、貴方は────」

「────マッド・カニングハム。 学会では元教授で、今はここの責任者です皇女殿下。 ああ、傷の事なら大丈夫です。 私の身体は御覧の通り()()サイバネティクス化されております……ところで我慢なされているのでは?」

 

「なんの、ことでしょうか?」

 

 マリーベルは平然を装いながらも目の前にいるマッドを『もう一度斬らなければ』という衝動に駆られ、手に持っていた剣は僅かに震えていた。

 

「いえ、先ほどの剣さばきと今の様子だとどうも『マッドを斬らなければいけないと思っているのでは?』と……【コード、MMB────】」

 

 ────ザクッ!

 

 マッドの言葉を遮るかの様にマリーベルの身体は動き、気が付いた頃にはマッドの開けた口から喉奥を剣で突き、切っ先はマッドの頭部と胴体の間にある脳幹を貫いていた。

 

「あああ?! (ま、また────?!)」

『────気に病むことは無い、皇女殿下。』

 

 手術室内に設置されているスピーカーから、マッドの声が出てきてマリーベルは周りを見渡す。

 

『“人間の脳は動物と比べて発達している”。 これは事実ではあるがその発達した部分を管理しつつ対応の“プログラム”を備えつけるのは原始的な動物と大差なく、時には“衝動”として現れる。 それを他の誰かが利用して君に植え付けただけに過ぎない、()()()()()()。』

 

「マッド・カニングハム────」

『────例えばだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 ドッ!

 

 マッドの問いに、マリーベルは自分の心臓が胸から今すぐにでも飛び出そうなほど強く脈を打つのを感じると同時に、とある感情が氷のように彼女の身体を急激に冷やしていくと脚から力が抜けそうになる。

 

 『恐怖』。

 

 ただ『それ(恐怖)』だけが次第にマリーベルの脳内を埋め尽くし、彼女は放心しそうになりながらもマッドの言葉がグルグルと脳内の思考をループする。

 

『本当にオルドリン・ジヴォンの所為なのか?』

 

 この問いは過去の事件、それも皇族の者や貴族でも階級の高い家でなければ知れない事柄であり、今尚10年経っても筆記はおろか口にするだけでも詰みになるような事件────それは『過去にオルドリン・ジヴォンが、“フローラ様(マリーベルママ)に届け物がある”と言った少年を確認せずにそのまま後宮に通してしまい、少年の持ち込んだプレゼント(爆弾)でマリーベルは妹のユーリアと母のフローラを失ったというテロ事件』だった。

 

「あ、あれはオルドリンが────」

『────そうかね? “()()()()()”という名に聞き覚えはないかね?』

 

「それは、あの時の少年が名乗った────え?」

 

 マリーベルは自分の口から出た言葉にビックリし、口を覆うがその代わりに幼い頃の記憶と感情が断片的に蘇る。

 

 かつて皇族としての住まいにしていた後宮。

 母のフローラは長女である自分ではなく、妹のユーリアに構いがちになったフラストレーション。

 親友のオルドリンに愚痴を聞いてもらうために呼んで後宮の正門前で────

 ザザ!

 ────かのじょと────が遅く来た────

 ザザザザザザ!

 ────いっしょに────オルドリンより先に────

 ザザザザザザザザザザザザ!

 ────きたしょうねんが────テロリスト

 

「あ……あああ……」

 

 マリーベルは頭を抱え、膝が地面に付くと幼い自分の声が脳裏によみがえった。

 

『さいきんおかあさまはいもうとばかり。』

 

「ち、違う。」

 

『どうやってこまらせようかしら。 あらおかあさまにとどけもの?』

 

「これは、オズが……」

 

『とくべつに と お し て あげる! あっちのつうようぐちなら へいがいない わ。

 

 

 

 

 寂しくなんてないわ、

 

 

 

 だって

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

『マリーはどうして皇族に戻りたいの?』

『全ての人々を暴力の象徴であるテロから守り、平和に生きられる世界の為です。』

 

 幼い自分の声の後に、自分がオルドリンに伝えたグリンダ騎士団設立の理由が直接脳に衝撃を与えたようなショックに放心したマリーベルはヨロヨロと立ち、過剰なストレスからか出る鼻血を気にすることなくぐちゃぐちゃな思考でもその場からがむしゃらに逃げ出したい気持ちに従って、走りながら涙を流す。

 

「オズ……オズ! たすけて! 私! わたしは!

 

 ……

 …

 

「……チッ。」

 

 この様子を建物内部に設置された監視カメラの映していたデータを、別の部屋で見ていたマッドは舌打ちをする。

 

「(やはり『プログラミング』だけでなく、『依存症』などを色々と弄っていたかV.V.……だがこれでグリンダ騎士団も混乱し、動きやすくなる。 クリストファーの活性化と暴走は予想外だが近くに『器』があることを証明した。 ならそれを強奪────)」

 

 ────ドッ!

 

 ガラガラガラガラガラガラガラ

 

 頭上からさっき聞こえた轟音よりさらに大きなものが地下都市全体に響き渡り、この直後に天井がさらに崩れていく。

 

 グランベリーのVTOLやそれ等に乗って脱出しようとしていた研究員たちは慌てながら落ちてくる岩石や土砂崩れを避けるために動き、落ちてくるオブジェ────『クリストファー』を見上げる。

 

 クリストファーは人間でいうところの首から下の上半身を左肩と腕以外のほとんどと皮膚や筋肉、そして下半身の右半分が丸ごと無くなった状態で地下都市へと落ちてきていた。

 

 そしてそのオブジェ(クリストファー)を追うかのように、試作型蒼天の姿もあった。

 

 

 


 

 

 

 うん。 カオスだな。

 

 イケボでの“喜べ少年!”が好きそうな、まごうことなき混沌(カオス)だ。

 

 俺とカレンの乗った試作型蒼天、凸凹闇鍋白炎にソードマン装備のガニメデ、グリンダ騎士団のランスロット・グレイルとブラッドフォードとゼットランドと良い臀部ソキアたんの乗るD-3サザーランド・アイ。

 

 そしてそれに対するクリストファーに『ナイトメア・オブ・ナナリー』仕様のヴィンセント。

 

 しっちゃかめっちゃかでどうすれば良いのだろう?

 そう(スバル)が思うしかないのは仕方のないことだろう。

 

 ピッ!

 

 そんな時に文字だけの通信が試作型蒼天に────いや、()()()()()()()()()でアマルガムの船から伸びる、『予測された危険宙域』が表示される。

 

 いやこれ、『各機、メ〇・バズー〇・ランチャーの射線上から退け』の意味合いだよね?

 

 つまりはさっきアマルガムの艦が出した高出力攻撃が来る!

 

「カレン、掴まっ────」

 

 また喉をせりあがってくる感覚に俺は口を閉じて、試作型蒼天のブースターを展開し、他の機体たちも送られてきた情報を見てどれだけ危険かを本能で悟ったのか同じように表示された射線上から出る。

 

 ドッ

 

 さっきの攻撃時よりまばゆい光と、ナイトメアの中だというのに鼓膜が破れるかのような音が辺り一面を埋め尽くしてモニターには異常を示すアラートなどが浮かび上がる。

 

 そんな中、俺はしっかりと攻撃直前にクリストファーの取った行動とさっきまで見ていた地形を頼りに画面が回復する前に機体を動かしていた。

 

「昴────?!」

「────このまま逃げだやつを殺ず!」

 

 さっき喉をせりあがったモノを何度も飲み込んだせいか、声はガラガラだった。

 

 だがさっきも宣言したように、クリストファーは本能で危険を感知したのか攻撃の直前に上げていた左腕で地面をたたき割って、地中へと逃げ込んでいた。

 

 記憶と感覚を頼りにクリストファーがいた場所に試作型蒼天が着くと案の定体は浮遊感に襲われて、画面が復活するとナイトメアは落ちていた。

 

 その先には体のほとんどを失くしたクリストファーが目を開けてこちらを見て、背後にはエデンバイタル教団(多分)の地下都市が広がっていた。

 

 ボツ!

 

 重力と機体の噴射機で加速は増していき、浮遊感は幾分かマシになりつつも試作型蒼天の左腕のパイルバンカーの装填と、右腕に後付けられた輻射波動の出力を最大値まで上げてクリストファーの頭部にようやくたどり着く。

 

 奴の残った左腕が上がってくるが、もう遅い。

 

 ドン!

 ボキボキボキボキボキ!

 

 左腕のパイルバンカーをクリストファーの脳天に打ち込むと残った血肉が弾け、頭蓋骨が崩れるような音が杭を伝ってコックピットにまで響いてくる。

 

 すかさず杭をパイルバンカー本体から外し、埋め込んだままの杭に右腕を覆った輻射波動装備を付ける。

 

 シチュエーション的には『(プチ)貫通電極』だが、敢えて口にして言わせてもらおう。

 

渇かず! 飢えず! 無に還れ!

 

 ポチッと輻射波動展開でガラガラ声を誤魔化そう。

 

 インパクト!

 

 あ。

 これじゃあ『ベイン』の方じゃなくて『空島の玉』じゃん。

 ホッホホ~♪

 

 輻射波動がパイルバンカーで打ち込んだ杭を伝達し、クリストファーの頭部はみるみると内部からブクブクと膨れ上がっていく。

 

 見た目もやっていることもグロいがどうでもいい。

 今ここで、クリストファーは殺す。

 

 やがて限界を超えたのか、クリストファーの体は次第に膨れ上がった頭部から爆さ────

 

 

 ……

 …

 

 

 ……ん?

 気が付けば、立っていた。

 

 周りを見渡すと真っ白な空間が広がっていた景色に思わず『あ、これってギアス契約とかで見る謎空間に似ている』という考えが浮かび上がる。

 

 ここには俺以外、誰も────いや、違う。

 

 ブリタニアの騎士服を着た成人男性が、さっきまで何もなかった筈の空間で立ちながら俺を見ていた。

 

 互いの目が合うと、するするとまるでカレンとのアイコンタクトを取るかのように相手の言いたいことがゆっくりと文字化された『感情』が脳内に浮かぶが、急に『()はここにいるべきではない』なんて言われてもな。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「昴!」

 

 カレンの焦るような声で、俺はハッと目を覚ます。

 

 何時の間にか気を失っていたようだ────ってなんで闇鍋白炎とグレイルがドンパチを繰り広げてグリンダ騎士団とアマルガム側がにらみ合いをしているの?!

 

 ああ、いや。

『オズ』で起こった『ベジャイア基地襲撃』はこの世界でもチラッとニュースでやっていたから、『オルフェウス(オズ)オルドリン(オズ)』があっても……

 

 とりあえずカオスだが、ここまで来てオズが潰しあうのはマズい!

 

 どっちも有能な人たちだしね!

 

 

 


 

 

「一本角! 今度こそ決着を────!」

「ベジャイア基地で戦ったランスロットタイプか────!」

 

 オルフェウスとオルドリン、二人はジヴォン家の双子でありながらまるで正反対な環境と生活をしてきながらも似た歩みをしていた。

 

 一人は平民の家に捨てられて、ギアス嚮団に売られては『ギアス』を発症し暗殺者として訓練され、恋人と脱走したが恋人は殺された。

 もう一人は、貴族の家のしきたりに従って騎士として訓練を積んでは家族を叔父に皆殺しにされた。

 

 その上、お互いはベジャイア基地で初めて相対した時から、『お互いの存在が許せない』という謎の衝動によって闘争本能が無理やり引き出されていた。

 

 大局的に見ると、それはまるで運命そのものが『二人で一人分だけの幸せを互いから奪い取れ』と仄めかして似て非なる人生を送った二人がワザと争うように仕向けているかのようだった。

 

 

 

「(そうだ……ただ『双子としてジヴォン家に生まれた』というだけで、運命は二人がともに微笑むことを拒む。)」

 

 オルドリンの叔父、オイアグロ・ジヴォンはそう考えながらガウェインと似てなくもない上に同じく通常より一回り大きいナイトメアの中で着ていた服をブリタニアのモノから仮装パーティーなどで見るような少々派手なマントと帽子に仮面をつけて、フロートユニットの出力を上げて空を飛んでいた。

 

 ナイトメアは“ウィザード(オイアグロ)”のように仮面を付けたような頭部、大きな肩装甲とマントに真っ黒な装甲などと、かなり独自な見た目をしたそのナイトメアは型式番号IFX-4DW1、通称『アグラヴェイン』と呼ばれたカスタム機であり、後にR2で登場するRPI-V4Lの砲撃戦用KMF『ガレス』の原型である。

 

「(だがまさか、オズとグリンダ騎士団がまたこうも早い段階に衝突することが……)」

 

 オイアグロは焦りながら、操縦桿を握っていた拳に力を入れているとレーダーに反応が出て、それらの所属を見てはできるだけ映像を拡大化する。

 

「(二人のオズが?!)」

 

 ……

 …

 

『共通の脅威』であるクリストファーがいなくなったことで白炎とランスロット・グレイルはかつてベジャイアで有耶無耶に終わった攻防の続きを繰り広げた。

 

 普通ならきっかけのない戦闘はないのだが白炎は『一本角のテロリスト(ピースマーク)機』と認定され、グレイルは『対テロ組織の所属(グリンダ騎士団)』という背後関係を持つ。

 

 互いは互いがいつ攻撃をするのか、あるいは今の状態を好機と見たのか攻撃はほぼ同時に行われたが闇鍋状態の白炎とほとんど独断で出撃したグレイルはともに本調子からほど遠く、さらにはクリストファー相手にエナジーを消耗しすぎたのか激しい攻防を開始してから数分後に二機に不具合が出始めてオルドリンとオルフェウスの操縦入力から応える時間の差はどんどんと空いていった。

 

「「チィ!」」

 

 次第にイラつきはピークに達し、以前のように両者は己の機体から出ては白兵戦を交え始める。

 

 オルフェウスは使っていたナイフのリーチが長いことを逆手に取り、逆にオルドリンの使う剣が脅威になりにくい密着状態に入り込もうとする。

 

 対するオルドリンの動きは一つ一つの動作が長い分、パワーもカバーできる範囲もあって彼女の技術も重なってまともにカウンターを当てれば決定打をオルフェウスに与えられるモノだった。

 

 だが時間が経つにつれて互角に見えた二人の間に差が徐々に表れていき、()()()()()()はそれを見逃さず攻撃の手を緩めるどころか更に攻勢に出た。

 

 ギィィン!

 

「う────?!」

「────迷いを持ったまま、俺をかみ砕けると思うなブリタニア!」

 

 ここでオルフェウスはオルドリンの剣を無理やりナイフで弾き、隙ができたオルドリンに返す刃で────

 

 ザクッ!

 

「────やめろ!」

 

「あ、あんたは()()()────いや、シュバールか?!」

 

 ナイフはいつの間にかオルフェウスとオルドリンの間に現れたスバルの右手に掴まれ、オルフェウスは彼とユーロ・ブリタニアで出会った際に名乗られた偽名とEUで再会した時の名を口にする。

 

「ッ! 貰った────!」

 

 グッ! ゴキッ!

 

「────アンタもだ、オルドリン・ジヴォン!」

 

 オルフェウスの攻撃が来なかったことで反射的に反撃しようとしたオルドリンの腕をスバルは左手で掴むと不穏な音が彼の腕から発されて彼女は彼と、近くに来た紅蓮タイプ(試作型蒼天)に気付く。

 

「(こいつ、まさか紅蓮タイプに乗っていたヤツ? なら、セントラルハレースタジアムでヴィンセントもこいつが────)」

「────二人に、()()()()()()()()()────」

「────戦う理由ならあるわ。 『テロ』という行為で混乱と破壊を────」

「────そんなことを言う前に国の在り方をどうにかすればどうだ? 民が国の『恩恵者』よりも『破壊者』に称賛を惜しまないと言う事は国に問題があると言うのは自明の理だ────」

「────それでも『被害を拡大化していい』というわけには────!」

 

 スバルの言葉にオルドリンはイラっと来たのかすぐに反論し、今度はオルフェウスが正論で反発すると戦闘は止まっているのにヒートアップしていく。

 

「オズたちよ────!」

 

「────ウィザード?!」

「────黒いKMF!」

 

 そこに急降下して辺りに砂塵をまき散らす真っ黒なKMF────アグラヴェインのコックピットから身を乗り出したウィザード(オイアグロ)の声にオルフェウスとオルドリンがそれぞれビックリした声を出す。

 

 「お前もだ! ナイトメアから降りて来い、()()()()()()()()()!」

 

「え?!」

「は?!」

 

 オズたちは目を点にしながら素っ頓狂な声を出し、ウィザード(オイアグロ)は思わずアグラヴェインから滑り落ちそうになる。

 

「いいいいいいいいいや、私はウィザードだ。 そのオイアグロは誰だか存ぜぬ────」

 「────そんなことはどうでもいい。 お前もオリヴィア・ジヴォンと同罪で言葉足らずだ、()()()()()()()()()。」

 

 ツルン!

 

「ほわ?!」

 

 ガシッ!

 

 ついにこけた滑ったウィザードは変な声を出して必死にアグラヴェインの装甲を掴んでナイトメアから落ちるのを防いだ。

 

 ……

 …

 

「バ……カな。」

 

 地下都市の監視カメラを経由してスバルたちのやり取りとアグラヴェインの登場を見たマッドは明らかに動揺していた。

 

「こんなことはありえん……いや、()()()だ……」

 

 彼は動揺しながらも、そのまま座っていた席のコンソールに入力をすると彼は地下都市のどこかにあるモノレールの車両に乗っていたことが判明する。

 

「ありえん……何故だ……何故……は?!」

 

 グサッ!

 

 ブツブツと何か独り言を言っていると、何かに気付いたのか振りかえろうとした彼のうなじを貫く。

 

「V.V.様より伝言、“面白かった────”」

 

 身体から力が抜けていき、声も出せないマッドはうなじから喉ごと貫いたものを見ると針の様なものがきらりと光っていた。

 

「“────だから君も再利用する”とのことだ。」

 

 仮装パーティー男のキューエルはそう言いながら針をシュッと袖の中に戻してからぐったりとするマッドを見下ろしていた。




(゚д゚ )

( ゚д゚)

( ゚д゚ )




余談でようやく簡単なキャラ紹介出来そうな目途が立ちました。

……カモ。 (汗


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第169話 『オズ』作最大の地雷解除の為……のカギ

お待たせしました、ちょっと(?)バタバタした次話です!
お読み頂き、ありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 あれから俺はおずおずとアグラヴェインから下りて来ても“ウィザード”のふりをするオイアグロから────

 

「あ?! ちょっと待て! 待ってくれ! 待て待て待て待て待て────!」

 「────知らん────」

「「────オイアグロ────?!」」

 「────お前らも座れ────」

「「────ア、ハイ。」」

 

 ────仮面をほぼ無理やり剥ぎ取って何故かおずおずと座り込んだオルフェウスとオルドリン(オズオズ)たちとの会話に参加させて色々と話した。

 

「よっと────」

「────あ、カレン────」

 「────私もここにいて良いでしょ?」

 

 あ、これは断ったらパイルドライバーされる。

 

「……長くなるぞ?」

 

「うん。 その間に腕巻いとくけれど?」

 

 試作型蒼天から降りて来たカレンは笑っていたが、目が笑ってはいなかった。

 

 ……正直怖いがこの際だ、カレンがいても話そう。

 

 まぁ……『話す』というよりは『暴露』に近いか?

 

 何せ順序良く話していったのはオズのSIDE:オルフェウスとオルドリン、そして設定集に他キャラの回想場面などからの情報。

 

 ぶっちゃける(アンド)並べると『ジヴォン家が一子相伝の武家である上にブリタニアを闇から支えている組織の一家』、『オズオズは在ってはならない双子』、『ジヴォン家は代々プルートーンの団長を務めていた』、『オルフェウスが嚮団に売られたのは偶然ではない』。

 

 等々。

 

 ギュっ!

 

 「い゛────?!」

「────あ! ゴ、ゴメン……」

 

 力任せに折れていた腕を戻すなや……めっさ痛い……

 

 けどおかげで目が冴えた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 話の信憑はオイアグロもいたこともあり、オズオズたち三人は話を聞いている間に青、赤、黄色と信号のように顔色が変わっていったので『あ、やっぱりジヴォン家なんだな~』と思ったのは内緒だ。

 

 特にオルドリンは『マリーベル事件の真相を知っていたことで、プルートーン団長であるオリヴィアはオルドリンを殺すように命令されていた』と話してからオイアグロもポツポツと話に交わってから(スバル)も知らなかった側面が露わになっていく。

 

 例えばオルフェウスにとってトラウマである『ハンガリーの村襲撃&焼き払い』はわざとオイアグロに伝達されずにプルートーンが行い、オイアグロが気付いて駆けつけたころにはもうほとんど終わっていてオルフェウスだけが生かせられた状況だったとか。

 

 その代わり、プルートーンに命令を下した(V.V.)にオルドリンの身を盾に脅されて公に動けなくなり、ピースマークのスポンサーと “ウィザード”としてオルフェウスを支援したことも。

 

 そうやって話していくオイアグロの目は時々遠くなって憂鬱な感じに加え、顔色が一瞬老けて見えるなどしたので彼なりにかなり苦労をしていた様子が伺えた。

 

「「………………………………」」

 

 最初は俺とオイアグロの話が信じられず、ちょくちょくと反論していたり否定していたオズオズたちも次第に思い当たることや腑に落ちたのか言葉を失くし、今ではショック状態なのか黙り込んでいた。

 

 ああ、そう言えば近くにカレンが居た筈だが全く何もなかった────

 

「………ッ………ッ………」

 

 ────なんかカレンが静かにポロポロ涙を流して泣いとるがな。

 

 アイエエエエエエエエエエエ?! ナンデ?!

 

「お、おい────」

 

 ガバッ!

 

「────そんなの、悲しすぎるよ!」

 

「え?! あ、あの?!」

 

 カレンがオズ&オズを泣きながら両腕で抱きしめると唖然としていたオルドリンもオドオドとし始める。

 

「そんなのって、ないよ────!」

「────そこで何で無関係のお前が泣く必要が────?」

 「────だって一人だけの家族同士を殺し合わせるなんて、ひどいよ! しかもそれを止めようとしたおじさんも雁字搦めにされるし! 悲しすぎる!」

 

 「お、おじさん……まだ30代前半……ブツブツブツ……」

 

 そこにショック受けて頭抱えるオイアグロって……

 

「あ、あの……泣かないで────」

 「────アンタたちが泣かないから、私が代わりに泣いているんだよ────!」

「────意味が分からないぞ────?!」

 「────私もだよ! うわぁぁぁ~~~ん!」

 

 それにしてもカレン、優しいな。

 

 原作の彼女ってもっとサバサバしていた感じなんだが……

 いや、それはアニメで描写された部分だけを見ていた所為だろう。

 

 現にリアルの彼女と子供のころから接して、俺も設定集とかに乗せられていないものを初めて分かったこともあるしな。

 

 さてと、オズたちに関することを話したところで、エデンバイタル教団の事も動いておこうか。

 

「……っと。」

 

 そう思いながら立ち上がると、気が抜けそうになってふらつく足に力を入れようとして視界がグワングワンと揺れて意識がフワフワした。

 

「ちょっと君、大丈夫かい?」

 

「……っ。」

 

 気まずいオイアグロが声をかけてきて『大丈夫だ』と答えたい俺の口からは言葉が出るよりも、吐き気が出そうになって俺は口を閉じたまま首を縦にゆっくりと振る。

 

 明らかに体の調子がおかしいが、まだやらなければいけないことがある。

 

 ここがギアス嚮団の代わりに『ナイトメア・オブ・ナナリー』で出てきたエデンバイタル教団ならば、他にイレギュラーズ未満の人たちがいるかも知れない。

 

 それに、短い漫画の描写だがマオ(女)より一歳上のサンチアがイレギュラーズのリーダーポジションをキープしていた。

 

 彼女たちが『元々軍属』っぽいのを配慮したとしても、きっと他にいる筈だ。

 

 吐き気や頭痛、眩暈、脱力感、胃の調子がおかしい体に鞭を入れてさっさとアマルガムの奴らにエデンバイタル教団にいる(かも知れない)ギアスユーザーたちを保護して、それから『グリンダ騎士団の良識と志の元』であるオルドリンを中心に何とか俺たちの事をブリタニア帝国の虚無感腹黒宰相皇子に黙ってもらって────ってどうしてこうなった?!

 

『せや、グリンダ騎士団がズブズブV.V.色に染め上げられる前にどうせならセントラルハレースタジアムで会おうと思ったら潰したタレイランの翼の襲撃があって今度はギアス嚮団の場所をR2に向けて確保する為クララをアッシュフォード学園で誘拐してどうせならオルフェウスフラグも回収』の筈がガッツリ『エデンバイタル教団とロロ枢機卿と“ついでに漆黒の連夜も御代りにどうぞ♡”』的な展開に……………………

 

『オズ、聞こえますか────?』

「────あ、え、レオン?」

 

 ひょんなところにオルフェウスとの戦闘中にオルドリンの耳から外されたインカムから男性の────レオンハルトの焦る声が?

 

『良かった、無事だったんですね! すぐにグランベリーへ戻ってきて────ください!』

「────ちょ、ちょっと待ってレオン────」

『────皇女殿下が────』

「────皇女殿下? (ってマリーベルか────?)」

『────ッ。 と、とにかく艦に戻ってきてください!』

 

 俺の声が聞こえたのか、レオンハルト(多分)は詳細を濁して通信を切る。

 

「……すみません、少し急用が────」

「────いや、良い。」

 

 そしてぺこりと頭を下げてタッタッタと走り出すオルドリン。

 

 ……………………グリンダ騎士団のパイスー(パイロットスーツ)エッロイのぉぉぉぉぉ♡。

 特に下半身が燕尾服っぽくてほぼ丸出し♡

 

「ねぇスバル?」

 

 ゾゾゾゾ!

 

 そういやカレンもいたな。

 

「オルフェウス────」

 

 と言う訳で注目の切り替え作戦GO!

 

「────ミス・エックスを呼んでくれないか?」

 

「何故だ?」

 

()()確認したいことがある。 いやならオイアグロに呼んでもらう。」

 

 ギクッ。

 

「?????? 何故オイアグロ……“ウィザード”に呼んでもらえば出てくる? あの女は神出鬼没で連絡を取りたくとも────」

「────お前が呼べばすぐにでも出てくるだろう? 頼む、落合場所は()()()()艦でどうだ?」

 

「……面倒な……」

 

「助かる。」

 

 良し。 オルフェウスをアマルガムの艦で釣れて、()()()ミス・エックスも連れてくれる目途が立った。

 

 後は────

 

 

 

 

 

 コーネリアとダールトンは気を失ったアリスの代わりに無断で有効活用していたガニメデを使って『ALLIED SHIP(友軍艦)』と識別反応を出していたリア・ファルの陰に隠れてグランベリーとのにらみ合いをやり過ごしていた。

 

 だが急に『Unknown(所属不明)』と反応が出ていた機体がその場に乱入するどころか、そのまま一心不乱にグランベリーの内部へと駆け込んだほぼ直後、急にグランベリーとグリンダ騎士団のナイトメアたちの様子が慌ただしくなってはリア・ファルから注意が逸れて()()へと向けられていた。

 

『どうしたものか』と迷っている間、気が付いたアリスは困惑したが見た目に反して脳筋ではない口上手なダールトンがいたおかげで敵意がない事は伝わった。

 

「…………………………なるほど、事情は分かった────」

「────おお! 流石は少年だな────!」

「────だがそれがどうしてお前たちがここにいることに?」

 

「はっはっは。」

 

 アマルガム艦に戻っていた途中の俺は、目を泳がせるダールトンの後ろでただただ無言でお互いをハグするユー(アンド)コーちゃんズをチラ見する。

 

『何故チラ見なんだ?』って? そのまま見ていると────

 

「グスッ……良かったねぇ~ユフィ~……」

「まぁ、一年近くお互いと会っていないからな。 人前でも泣くことは誰にでもあるさ。」

 

 ────意識しないようにしていたのにアンジュと包帯巻き巻きされた毒島の所為で台無しだよ。

 

 あああああ、もう何このほんわかしつつも『強気な女性が静かに涙流してジ~ンと来る』空間は?!

 泣ける! 泣けちまう!

 泣きたいけれど泣いたらなんだか『負けな気がする』というかそのまま泣きつかれて寝てしまう気がしないでもない!

 

 しかもR2時の『ほぼすっぴん美人コーネリア』だからかグッと更にくる。

 

「まさかコーネリアに……………………こんな一面があるなんて……」

 

「まぁ、姫様は人前で見せようとしないからな。」

 

 そして隣にいるカレンとダールトンの言葉には俺も同意する。

 

『男女平等』なんてないこのご時世、『女性』というだけでかなりハンデを負うシビアな社会だ。

 

 特に才能────『武』の方面が強ければ強いほど『強く自分を見せること』を強いられる。

 

 ……“良かった” とは思う。

 本当に、心の奥底から。

 原作でコーネリアはギアスの所為で妹に『虐殺皇女』という不名誉を着せられただけでなく、腹心のダールトンも失った。そんな二人の為に『復讐鬼』になってギアス嚮団を見つけ出したのは凄い。

 

 しかも初見であるV.V.を本能的に『危険』と察して即死攻撃を繰り出すところもすごい。

 

 取り敢えず、『ブリタニア皇族の中で文武両道だけでなく色々な意味で一番マトモなのは?』と言う質問で浮かび上がる答えはコーネリアだからな。

 

()()()()打算は無かった』と言えばウソになるが、本当にコーネリアが『行政特区後』にまたユーフェミアと会えて良かったと、今なら思う。

 

 色々と考えていたがやっぱりこうやって自然な再会をした方が良いし、ゆっくりとさせて俺はエデンバイタル教団を────

 

「────ねぇねぇお兄さん?」

 

「……マオ?」

 

 なんだか眼帯と包帯をした『レ〇風マオ(女)』がおる。

 

 え? なんで? 確かにGX01って小型化した覚醒〇ヴァだけれどS〇機関とか『神殺しの槍』とかはないし、『使〇』……っぽいのはさっきの『クリストファー』があったかも知れないけれどこれコードギアスだよ?

 

 ……『コードギアス』だよね?

 

『インパクト』の要素あったら、いくら何でも残酷過ぎない?

 

 俺は神話になりたくないヨ?

 

「お兄さんってさ、あの大穴がもしかして()()だかわかっているんじゃない?」

 

「……知っていたらどうなんだ?」

 

「ん? いや、別に~? ただお兄さんが疲れていそうだから『代わりに僕が動こうかな~』って思っているだけ。」

 

 “代わりに動く”って────

 

「────だってお兄さんの事だから“助けよう”とか“捕獲”とか人助けっぽいことを考えているでしょ?」

 

 まぁ、確かに。

 

 ここがエデンバイタル教団の拠点だとすると他にイレギュラーズかそれ系のギアスユーザーがいるかも知れないからな。

 

 黒いサザーランドもいたし、流石にあれの全部が無人機ってことは無いだろう。

 

「だからあそこで一人縛っているんだけれどね♪」

 

 マオ(女)が愉快そうに指を差したのは物理的に雁字搦めになっているロロ(仮)機ィィィィィ?!?!?!?!

 

 ポポポポポーカーフェイス! ポーカーフェイスのイイイイイイイジジジジジジジ!

 

 呼吸! 呼吸が! 呼吸が乱れて波紋が────じゃなくて!

 

 コォーホォー……………………

 

「で、どう?」

 

「……では任せよう。」

 

「やった♪」

 

 もうどうにでもな~れ♪

 

 「やっぱりとてもじゃないけれど、他のまともな頭した人が行ったら『色々マズイ』のを知っているか。」

 

 ん? なんか今マオ(女)が言ったような……

 ま、いっか。

 

「ありがとう、マオ。」

 

「~~~~♡」

 

 ん? なんか顔が変な表情になったぞ?

 後なんか震えているみたいだし……

 

「大丈夫か────?」

 「────頑張っちゃうよ!」

 

 …………やっぱりマオ(女)はよく分かんねぇが、自分から進んでやってくれるのなら俺は俺で別の事に取り組める。

 

 さ~て、正直吐きたい気分のままだがコードギアスの外伝作でもとびっきり一際大きい地雷と会うか。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ふ~ん?」

 

 グランベリーの近くでソキアが見ている。

 

 いや、順序良くかつ簡単に考えろ。

 

 セントラルハレーでの金髪変装をしているし、俺を見たオルドリンはこの姿を知らない筈。

 グランベリーにリア・ファル(名前を聞いてどっかの神話で聞いたことがあるような気がするが今は良い)が主砲を撃った時の不調が悟られないように急ピッチで修復されつつ目隠しの『講和』の一環として俺と────

 

「ちょっとオズ?! 私の扱い雑じゃない?!」

「うるさいな、お前を連れてこいと言われたままだったんだ。」

「だからって肩に担ぐのは無いでしょうが?! それに貴方が私に話があるっていうから────!」

「────うるさい女だな。」

「は~な~し~な~さ~い~!!!」

「いつも俺に来るときは迷惑ばかりを掛けるんだ、このぐらい我慢しろ。」

「レディ扱いがなっていないわよ?!」

「……ハ。」

「キィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 バタバタバタバタバタバタバタバタ!

 

「ほう……これがアヴァロンに続く最新鋭機か……せっかくユフィとの時間を潰したと思えば全くつり合いは取れていないがブツブツブツブツブツブツ。

「まぁまぁ、きっとユーフェミア殿下も姫様のように名誉惜しく時間を思っていることでしょう。」

 

 ────あとオルフェウスにコーネリアとダールトン他数名が一緒にグランベリー近くにまで来ている。

 

 対するのは団服を着たレオンハルト、ティンク、ソキアの騎士たちと……見た目からしてシュバルツァー将軍?

 

 カレンは(渋々と)リア・ファルで待機……の筈なんだが視線を感じるので恐らく双眼鏡か何かで俺を遠くから見ているのだろう。

 

 それにしても、オルドリンとマリーベルが来ていないのは意外だな。

 

「んー? ん~? んんんんんん~???」

 

 そんな俺の視線に気付いたのかソキアがジロジロと俺を見て冒頭の『ソキアが見ている』へと繋がる。

 

 しかも今度はグルグルと俺を周りを歩き始めたぞ?

 

 何この猫な感じ?

 

「んー……あ! なるほど! セントラルハレーで変態機動した人にゃ!」

 

「「「ブフッ?!」」」

 

 え? ちょっと、え?

 

「シェ、シェルパ卿?! な、何を────?!」

「────ん~、だって体の筋肉の付き方が通常のKMF乗りに似ているけれどもうちょっと発達しているからさ?」

 

 お前はプチノネットか。

 

「おお! やはり分かるか────!」

「────相変わらずマニアックな────」

「────ヨハンも物好きじゃないか! 『若い者の世話は見きれぬ』とか言っていた割にグリンダ騎士団の────」

「────そこは何も言わないのがマナーであろう! それにワシにも事情が────!」

「────あー、大方無理やり現役復帰させられた割に楽しそうだったからな────」

「────どこがじゃ────?!」

「────眉間のしわが増えているから────」

 「────これは“気苦労が絶えない”証拠だ────!」

「────まぁまぁ。 シュバルツァー将軍もそうカッカせずに────」

「────ロックハート(ティンク)はもうちょっと緊張感を────!」

 

 うわぁ……一気に『コント』というか『ギャグ』が始まったよ。

 

 思春期真っ最中の『初期オズ』だ。

 ダールトンとシュバルツァー将軍が知り合いっぽいのは気になるけれど和む♪

 

「うわぁ~、始まったよ────およ?」

 

 俺とソキアはほぼ同時に『しょぼーん』を通り越して『ドンヨリ』として顔色が真っ青になっていたオルドリンがトボトボと歩いてきたことに気付く。

 

「オ~ズ~────」

「────どうしようソキア……マリーが……マリーが引き篭もっちゃった。」

 

 顔色が真っ青から真っ白になっていったオルドリンの口から不穏な言が並べられてシュバルツァー将軍は顔を覆う。

 

 「ショックなのは同感だが何もこの場で言う事では!」

 

「えっと、どういう事オズ────?」

「────マリーが、()()()()()()()()。」

 

 ぬわにっぬ?

 

「“思い出した”って、何────?」

「────引きこもっていて、私はどうすれば────?」

「────オズ────」

「「────なんだ/なにかしら?」」

 

 ああ、そういや両方とも『オズ』なワケでこうなるか。

 

「すまん、()()()*1の方だ。 ミス・エックスを借りるぞ────」

「────私はモノじゃ────」

「────いいぞ────」

「────(かる)?!」

 

 同感だが、今それは割とどうでも良い。

 

 肝心なのはオルドリンの言った『マリーが思い出した』というキーワード。

 

 オルフェウスの肩から降ろされて彼にぶーたれるミス・エックスに近づくと明らかに俺を警戒してか緊張が彼女の身体に広がっていく。

 

「な、なによ?」

 

「少しあそこで話そう。」

 

「……私一人で?」

 

 他の者たちから離れた場所を示す俺に対して明らかに嫌そうな顔を浮かべる。

 

 まぁ、彼女からすれば俺なんて怪しさ満点だからな。

 多分。

 

 ならば、ここは()()()()()()()()()

 

「ならピースマークのウィザード()呼べば良いだろう。」

 

「ッ……そう?」

 

 一瞬だが『ウィザード(オイアグロ)も同行させれば?』でミス・エックスが纏っていた緊張感が揺らぎ、俺の予測が若干現実味を増す。

 

 ……

 …

 

「それで、話って何かしら?」

 

 仮面仮想パーティ(ウィザード)の変装に戻ったオイアグロをオルフェウスが呼び、少し離れて岩の影になっていた所に俺はミス・エックスたちと対峙するかのように立っていた。

 

「オズ────オルドリンの言ったことは聞いたか?」

 

「ええ、何やら『マリーが思い出した』とかかしら?」

 

 オルフェウスとギャーギャー騒いでいたのに抜け目がないな。

 だが好都合だ。

 

「彼女が『マリー』と呼んだのはマリーベル皇女だ。」

 

「ふ~ん?」

 

 態度も空気も瞬き一つも変えない、飄々としたミス・エックスとウィザード(オイアグロ)は『流石』と言いようしかないが……いや、こんなやり取りがあったから原作の『オズ』ではすれ違いなどが起きたんだ。

 

 ここはもうぶっちゃけよう。

 

「マリーベル皇女は、『幼い頃に親友のオルドリンがテロの少年を通した所為で家族を失った』という記憶違いをしている。 だが、先ほどオルドリン・ジヴォンは『彼女(マリー)が引き篭もっている』と言った。 つまり『マリーベル自身がテロリストを招き入れた所為で家族を失った』という記憶が戻って、今は自分の記憶の混乱と今まで生きてきた理由の食い違いに苦しんでいるだろう。」

 

「あら、それは大変……いえ、大スクープね────?」

「────そんなマリーベルを真に救う事は()()()()()()()()()。  そうだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()?」

*1
EUでオルフェウスが使った変装時の偽名




(;´д`)ゞ

後書き余談:
ロロ(仮)は現在、何らかの理由でダウン中。


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第170話 『もしも』と言う"What If"

お読み頂きありがとうございます!
少々長めですが、楽しんで頂ければ幸いです!


「……………………」

 

『ユーリア・メル・ブリタニア』、そう俺が呼んだミス・エックスは身動ぎせずにただ俺を平然と見返していた。

 

「何の事かしら?」

 

 困惑しながらも、ミス・エックスは言を並べる。

 

 傍からすれば彼女の表情やボディランゲージに口調や声のトーン、その全てや仕草の一つ一つが自然なモノで()()()()()

 

 否、()()()()()()()というべきだろう。

 

 俺も長年ポーカーフェイスや演技を徹底しているからこそ感じ取れた極僅かな『違和感』がなければ、見逃していただろう。

 

 前にも言ったと思うが、『ミス・エックス』は原作オズでも身元も年齢も経歴も不明の反ブリタニア組織ピースマークの仲介屋でしかもピースマークに所属する理由も分からない完全なエニグマ()

 

 前世でも『ミス・エックス=ユーリア説』があったが、『彼女がマリーベルの妹であるユーリア・メル・ブリタニアだ』と仮定すると全てのつじつまが上手い具合に合ってしまうのだ。

 

 原作では、そういったモノが仄めかされている。

 

 例えばオズO2で記憶喪失になっていたオルドリンが『ミス・エックスの容姿が誰かに似ている』と言いながらぼんやりと思い浮かべたマリーベルの面影。

 

 そんなオルドリンの『なんで下級生の制服で潜入しているの?』に対してミス・エックスが暴露した『私はオルドリン(たち)よりも年下だから』。

 これは『ミス・エックスの嘘』とも言えなくもないが、この時点でオルドリンは完全に記憶喪失で年相応の少女の様な情報しかなく、ミス・エックスがその場限りの嘘をつく必要性が全くない。

 

 次は部分的にカットされて明確にされてはいないが、ゼロレクイエムの共犯者となったマリーベルに勝負を挑むため死地へと赴くオルフェウスに、ミス・エックスは自分の想いと正体を打ち明けた直後にオルフェウスは無言ながらも悲しそうな表情を浮かべていた。

 この時のオルフェウスはオルドリンを失ったグリンダ騎士団の代わりでマリーベルの筆頭騎士を務めた時期があり、暴走していた彼のギアスは文字通り『マリーベルの癒し』に使われていたのでマリーベルの事情もある程度は把握していた。

 

 それと最後に……オズO2のエピローグ────つまりはゼロレクイエム後の世界でルルーシュに東部の『圧政』と『ラスボス役』を任されて亡くなったマリーベルの墓らしきモニュメントの前でミス・エックスは喪服に身を包みながら佇んでいた描写があった。

 

 確かに『遺体が見つからず、同じく行方不明者でありミス・エックスの想い人オルフェウスの墓でもあったから』という説もあるが……それにしても()()()()()()まで、わざわざそんなことをするだろうか?

 

 もし彼女に、『人目に付かれてはいけない理由がある』とすれば?

 

 確かにここまで並べた全ては状況証拠であって、確証のあるモノではないのは認めよう。

 

 だがこの世界に転生し、直に見てきたこともあるし、何より前世で俺個人が『え~? その説、本当か~?』と思ってやったことも関係ある。

 

 髪色は全く違うしスタイルも『メカクレ』なのでミス・エックスの雰囲気はマリーベルと全く違うのだが、悪ふざけで設定集の中に描かれている二人の横顔ラフスケッチを合わせたら見事に一致したのがかなりのショックだった……のは()()()()()

 

 何より、ピースマーク内で彼女の立ち位置とウィザードが常に彼女の居場所を把握していたり、近くにいたことが更に俺の仮説の信憑性に裏付けをしてくれた。

 

 ウィザードはオイアグロで、オイアグロはジヴォン家の当主であると同時に『プルートーンの団長』。

 

『団長』と言っても、明らかにV.V.からは信用されていないしプルートーン内でも浮いていた存在……だが、少なくともオイアグロには『団長の才能か素質があった』という事になってV.V.が目に付ける場所に置く理由があるほど。

 

 そして彼は、ジヴォン家内では母親のオリヴィアに次いでオルドリンと非常に仲が良かった。

 

 なら彼女の親友であるマリーベルを知っていてもおかしくはないし、(また飛躍するが)社交会などでマリーベルの妹と母親のことを知っていても全くおかしくはなくなる。

 

 さて……今までの事柄を全てかみ合わせての『もしも』ばかりだが……

 

『もしも』何らかの理由でマリーベル、母のフローラ、そして妹のユーリアがテロ(プルートーン)の少年に狙われたとオイアグロが知っていたら、彼はどうするだろうか?

 

 優しくて不器用なオイアグロの事だと勿論、マリーベルたちを助けようとして動くだろう。

 

 だが『もしも』彼が到着した頃には爆発が既に起きて、『もしも』何らかの理由でユーリアしか救えなかったとしたら?

 

 それに明確な描写はされていないがルルーシュの時を考えると、マリーベルがシャルルと謁見したのはテロ事件の直ぐ後の筈で、幼い彼女がシャルルに斬りかかろうとしてシャルルのギアスを掛けられたのも同じ日の描写もあった。

 

 ならオイアグロは重症、あるいはすぐに動かせないユーリアをマリーベルに会わせる機会がないまま、『テロ事件はオルドリンの所為』と記憶が変わったマリーベルと再会して困惑しながらも『ああ、幼いマリーベルは自己防衛の為にそう思いこむことをしたのだな』と自己納得してもおかしくない。

 

 そしてその後すぐに彼はプルートーンの『オルドリン抹消』を知ってオルドリンを守るために、実の姉であるオリヴィアとジヴォン家の虐殺を行ってV.V.と『オルドリンの安否』を取引にプルートーン団長として座を承った。

 

 色々省いているが、それでもここで問題は生じただろう。

 

『これでオルドリンの無事はプルートーンとして動くことで確保できたが、死んだはずのユーリアはどうやって守れる?』、と。

 

 答えは割と簡単だ。

 

 このまま『個人』で守れないのなら『組織』を作ればいい。

 オイアグロは投資家でもあるし、顔は広い。

 そんな彼が組織にとって必要不可欠である『スポンサー』をしてなおかつその組織が『反ブリタニア趣向持ち』ならばより好都合だ。

 

『木を森に隠す』という奴で、これならば『ミス・エックス』という存在に色々と説明が付く。

 

 今にして思えば、髪の色も『テロ事件の後遺症』かも知れない────そうだ!

 

 ()()()()()()()()

 

 未だに俺を見るミス・エックスに対し、俺は両手を上げてまるでカメラマンが構図の確認をするかのように指でカメラフレームの枠を作る。

 

「骨格は変えていないようですね、()()殿()()()? それと、()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ。」

 

 俺の言葉にミス・エックスは今度こそ反応して目を一瞬だけ逸らしたことで、俺は手応えを感じた。

 

『髪色はテロ事件で変わった』と思えば、確かにそうかもしれない。

 

 だがここで、もう一つ『もしも』を思い浮かべてしまった。

 

『もしも母フローラが長女であるマリーベルではなくユーリアの事を構っていた理由が“病弱” だったとしたら?』、という『もしも』だ。

 

 当時のマリーベルは10歳で、割と自己中心的な我儘なガキ子供だ。

『妹は病弱だ』なんて説明、されていても理解出来ないのは火を見るより明らかだしそれ以前に『母の注意を引くための嘘』という風に感じて『納得』はしないだろう。

 

 マリーベルたちは皇族、この世界では皇帝の次に身分が高くて『期待』や『妬み』や『蹴落とすべきライバル』などのあらゆる感情や打算と陰謀の対象だ。

 よって皇位継承権が高い最長年者の子供に、母親は全身全霊でブリタニア貴族の弱肉強食に勝ち進んで皇帝になる様に育て上げるのがセオリー。

 

 それはコーネリアとユーフェミア、少し違うがルルーシュとナナリー、またも違うがキャスタールとパラックスたちの扱われ方と育ちを見ても結構明白だ。

 

 ならマリーベルの母フローラは、何故長女に『全然かまってもらえない』とまで思わせるほど彼女と接していなかった?

 

 確かにマリーベルはかなり才能がある。

 頭脳はルルーシュの考えに追いつけるほどで、KMF操縦技術はスザクと同じ『オールS』という異例。

『ブリタニア版シ~ンク~』だが当時は10歳、とてもだが放置自立させられるような歳ではない。

 

 さぁここで今までの情報と事情と仮説をよ~くコネてコネてコネまくって練りこむと、つまりはこうだ:

 

 1、 生まれたときから(あるいは後天的か知らないが)ユーリアは病弱

 2、 このことが周りや他の皇族に極力知れ渡らないようにフローラが極秘に付きっきりの看病をしだす

 3、 マリーベルが嫉妬して、とある日に見知らぬ少年を離宮に通してテロ事件が起きる

 4、 フローラは死亡し、ユーリアは重症ながらもオイアグロに保護されて更なる追撃から守るために表向きはフローラと同様に死亡(扱い)

 5、 『マリーベル、シャルルと謁見して乱心事件』と並行してオイアグロが『オルドリン抹消』を知り、阻止するために止む無くジヴォン家をほぼ根絶やしにするがオルドリンに事後を見られて憎悪の対象となる

 6、 上記の流れのまま、マリーベルの記憶が改竄されている事を知ったオイアグロは彼女とオルドリンが住める場所を秘密裏に確保すると同時に、ユーリアの身の安全も確保できるようにピースマークのスポンサーとなって居場所を作る

 7、 ユーリアはこの事態を理解しながら自分の病弱体質を克服するため医学を勉強し、医師免許を持つまでに成長する

 8、 プルートーン由来で平民の家に捨てられた筈のオルフェウス・ジヴォンがギアス嚮団にいたことをオイアグロは知り、彼とエウリアの逃亡先がバレてプルートーンはオイアグロ以外動員される

 9、 オイアグロはオルフェウスを助けるためにも駆けつけるが時すでに遅し

 10、 放心し、廃人一歩手前のオルフェウスを救う為かつ反ブリタニアの組織(ピースマーク)に所属する理由を作るためにオルフェウスを煽りながら『ピースマークのウィザード』として活動をして三重生活を送る:

 a. ジヴォン家頭領の座を決闘で簒奪し、我が物とした『オイアグロ・ジヴォン』

 b. プルートーン団長としてブリタニア帝国を闇から支える『オイアグロ』

 c. 反ブリタニア組織のスポンサーにして幹部の『ウィザード』

 

 それに、もしこの仮説が正しいのなら『何故オイアグロはオズO2でマリーベルに全てをぶっちゃけなかった?』となるが……

 実はその時、マリーベルの方から『母の愛を横取りしたユーリアを疎んでいた』と先に暴露されてしまっている筈だ。

 

 そんなマリーベルに『実はユーリア生きているよ~てへぺろ~☆』ってオイアグロは言えないし、何よりその時のマリーベルは調子が悪いのを無理やり抑え込んだままで精神と心は狂乱の一歩手前だった。

 

 そんな彼女に『追い打ち』に似た言葉を掛ければどうなるか分からなかっただろうから、敢えて何も告げずに協力したのだろうな。

 

 ……こう考えると、オイアグロは相当苦労したんだな~。

 

 ………………本当に不器用だな、ジヴォン家は!

 

『開き直り』? そうともいうが、取り敢えずミス・エックスが動揺したのならここで一気に畳みかける!

 

 久しぶりの『優男』と『従者見習い』の仮面!

 装・着!

 

「貴方たちは覚えていないかもしれません。 ですが()()な貴方をフローラ様が面倒を一人で見るとしても、最小限の人手は必要です。 何せ場所は人里から離れた離宮、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「貴方………まさか………」

 

 ミス・エックス────いや、『ユーリア(多分)』の顔が俺の言葉にハッとするかのようになり、徐々に目は見開いていく。

 

 多分、彼女はこう思っているだろうよ。

 

『まさかお前、離宮の見習いか何かだったのか?』、と。

 

 計画通り。

 

「覚えがなくとも、無理はございません。 当時は今よりはるかに幼かった上に数ある者たちの中の一人でしたから。 それに、あの事件当時は別用で離宮を離れていたので難を逃れましたが訳も分からないまま日本に身一つで送られてそれっきりでしたので実質的な『島流し』……いえ、あの後に第二次太平洋戦争(日本侵略)が起きたので、今に思えば『計画的な口封じ』という打算もあったのでしょう。」

 

「「……………………」」

 

 フハハハハハ!

 どうだ、この演技力ぅぅぅ?!

 そしてぇぇぇぇ!

 『幼いころに身一つで日本に送られてきた』という真実はぁぁぁぁぁ?!

 

 ハーハッハッハッハッハッハッ!!!

 

 ……『なんだか急にDI〇っぽいな』だと?

 

 大きな嘘をつくときはそれなりに真実も入れればより現実味が重なるんだよ!

 

 っと、まだまだこのままいくぞぉ~?

 

「そしてマリーベル様は現在、貴方とフローラ様の身に起きたことを『ご自分の所為だ』と思い出したらしく、塞ぎ込んでいます。 このままでは危うい状態になるかも知れません。 ですのでユーリア様、どうか……どうかマリーベル様の元へ行ってはくれませんでしょうか?」

 

 はいここで頭を~、下~げ~る~。

 

 “炎をあ~げよ”────じゃなかった。 “頭をさ~げよう~”♪

 “ファイブ〇ン”♪

 

「「…………………………」」

 

『これで俺の仮説が間違っていて盛大に滑っていたら』なんて思わないように、ただ『合っていてくれ!』と願いながら俺は頭を下げてただ静かな時間が過ぎ去っていくのを感じる。

 

「「…………………………」」

 

 オイアグロでもユーリア(多分)でも良いからどっちかアクション起こす、か何か言ってくれ。

 気まずい無言の沈黙時間は堪える。

 

「………………ウィザード、何か言う事はないかしら?」

 

「強いて言うのならば、“こ奴は私の正体を知っていました”とだけ。」

 

「ハァ~……よりにもよって、こういう巡り合わせで()()()()()()()()に出会うとはねぇ……」

 

「その……心中お察しします────」

「────何せオイアグロにあそこまで動揺させるなんて、通常じゃ考えられないわ────」

「────ング────」

「────えっと、()()()だっけ? それとも『スヴェン』? 頭を上げて頂戴。」

 

 いよっしゃー!

 

 俺は自分の仮説が通ったことに内心、ルンルン気分になりながら頭を上げると観念したかのようなミス・エックス────ユーリアと項垂れながら仮面を外したオイアグロを見る。

 

「貴方、やるわね?」

 

「殿下ほどではないです。」

 

「ミス・エックスよ……私の事、他の誰かに言った?」

 

「いいえ。」

 

「……………………あと、いつから気付いたの?」

 

「ふと思ったのは、ガナバディと共に会った時からですが……確信に変わったのはつい先ほどの仕草です。」

 

 ユーリアは腕を組みながら『してやられた!』と、まるで苦虫を噛みつぶしたような顔で空を見上げる。

 

「あー……一本取られたわね。 良いわ、()()()()()()()()()()貴方に免じてマリーお姉様に会ってあげる。」

 

「ありがとうございます────」

「────だけど私、今のピースマークのエージェントとしての生活を気に入っているから皇族には戻らないしこのまま死んだままになるわよ?」

 

「私も現在の(反ブリタニア)生活を大層気に入っております。」

 

 俺は本心を口にしながらルンルン気分のまま、平然として振る舞いの演技を維持する。

 

 う~ん、今にでも歌って踊りたい気分だ♪

 最高にハイってヤツだぁぁぁぁぁフハハハハハ!

 

「そ。 オイアグロ、『ウィザード』として付いて来てくださる?」

 

「勿論です。」

 

「んじゃ。」

 

「ええ、またあとで。」

 

「また会う機会があったらね。」

 

 通り様にユーリアはひらひらと手を振り、ウィザード(オイアグロ)と共にグランベリーへと向かって行────

 

「────ああ、それとコーネリアお姉様に言ってくれる? “変装のつもりなら化粧を取った上に髪型も変えた方が良い”って?」

 

 ん?

 今のコーネリアはR2時で見るような『ほぼドすっぴん状態』だぞ?

 

 …………………………あ゛。

 

 そう言えばコーネリアって確か今、『正式には喪に服して表舞台から身を引いているが噂では行方不明』だったんだ!

 

 リア・ファルに向けてBボタンダーッシュ!

 

 シャカシャカシャカシャカシャカ、ビョイーン。

 

 リアルでもストックアイテムの『パ〇〇タの羽根』が在ったらいいのにな~……って、なんだか前にも言ったような気がする。

 

 ま、このままリア・ファルに向かう……と見せかけてグルっと遠回りにグランベリーに乗り込む。

 

 何故かと言うと、思い出したがあっちには()()()()()()()どころか()()()()()()がいる。

 

 そして予測通りなら、『ユーリアとマリーベル』の接触で動くはずだ。

 

 

 


 

 

『マリー? オズよ、ドアを開けて話をしましょう?』

 

 グランベリーの中でマリーベル用の個室のドアは中からロックをかけられ誰も入ることが出来ない様にされ、暗い部屋の中はかなり荒れていた。

 

 家具は壊れ、花瓶や壺に鏡などは割れていた。

 

「……」

 

 部屋を荒らした張本人と思われるマリーベルは毛布にくるまってただ震えながら、自分の精神を蝕む怨念や亡霊たちに怯えていた。

 

『オルドリンではなく、自分の我儘の所為で家族を失った』というショックは大きく、最初はオルドリンに助けを求めようとグランベリーに駆け込んだが、今までずっと家族を失った原因をそのオルドリンにした罪悪感からマリーベルはランスロット・トライアルから降りては自室に籠って悶々と様々な感情に苛まれていた。

 

 今までずっとテロを憎み、()()()()()『オルドリン』と言う自分の思い通りに動きを示してくれていた親友(人形)に依存していたことで気付かないふりをして抑えていたモノが一気にマリーベルを襲っていた。

 

 そんな彼女の中をもしマオが読み取ったとすれば、原作でシャーリーが『父親の仇ゼロ=想い人のルルーシュ』と知ったような、『うわ、この女の頭の中ぐちゃぐちゃだ!』と言っていただろう。

 

 ただし、今のマリーベルは高い思考能力が悪い形で無意識を通し、自分自身を責めていた。

 

『オルドリンに頼りたい、けれど今まで何でも受け入れていたオルドリンに甘えて数々の仕打ちや試練などを背負わせていた』、等々。

 

『ねぇ、そこどいてくれる?』

『あ、貴方は誰────?!』

『────ユキヤ。 邪魔だからそこどいてよ……うわ、このOSって穴だらけ♪』

 

 ピピ♪ プシュー。

 

 ドアの外から聞こえてくる声にマリーベルは反応せず、ただ熱を出しながら荒い息をして汗まみれのままドアの方向を見ると、ロックが解除される電子音と共に開くドアを目撃してビックリする。

 

「ふぅ~ん……アンタ、もしかしてアッチの艦にいたハッカー? 思ったよりやるわね?」

 

「そういう君はこっちのだよね? 思っていたより拍子抜けだったよ♪」

 

「おおお、似た者同士なの~♪」

 

「「どこが────?」」

「────ありがとう、ちょっと話してくるわね?」

 

 グランベリーのエリス、そしてリア・ファルのユキヤの間に走る火花を無視したエリシアの言葉に、即座にツッコミを入れる二人を通って部屋にミス・エックスが入る。

 

「んじゃあ、リョウ達と一緒に人払いをしようねぇ~────」

「────ちょちょちょちょちょっと?! わたしはマリーの筆頭騎士よ?! どこの誰ともわからない、見知らぬ人物と二人きりにさせるなんて────」

「────はいはいはいはい、シュバールさんが来れなくなった代わりのボクたちに反論しな~い────」

「────ちょっと押さないで────?!」

 

 ────プシュー、ガチャ。

 

「「……………………………………………………」」

 

 ドアが閉まると部屋の中では、入ってきたミス・エックスとマリーベルがお互いを見て無言のままの静かな時間が続く。

 

「………………カーテン、開けていいかしら?」

 

 先に沈黙を破ったのはミス・エックスで、彼女はマリーベルの答えを聞かずに日光を遮断していたカーテンを開くと薄暗い部屋の中に光が入り込み、ミス・エックスとベッドの上で無気力気味だったマリーベルを包む。

 

「………………………………ぇ?」

 

 ミス・エックスの様子をよりよく見られるようになると、少し前まで錯乱(というか乱心)しながら叫んでカラカラになっていたマリーベルの喉からは呆気ない息が出る。

 

 マリーベルはヨロヨロと、錯乱中に酷使した所為でギシギシとくる痛みや筋肉痛で訴える身体を無理やり動かしてミス・エックスに近付く。

 

「………………少し、話をしませ────?」

 

 ────ドッ!

 

「……ッ……ッ……ッ……ごめ……さい……ご……んなさ……ごめん……い……

 

「うん……うん……マリーお姉さま…………」

 

 ミス・エックスに近寄っていた勢いをそのままに、マリーベルはただ彼女を抱擁して顔をミス・エックスの肩に埋めながら涙を流し、次第にただただひたすらに謝る言葉を出してミス・エックスは子供をあやすかのようにマリーベルの背中を撫でて優しい声をかけ、彼女自身も涙を流す。

 

 暗くて荒れた部屋の中に、窓から入り込む優しい日光が泣く少女二人を静かに照らしたのだった。




後書きEXTRA:

???:この時の……『スバル』? は知らないだろう。 巨大なフラグ(地雷)を自ら踏んだことを。 『エデンバイタル教団の闇』? そう言えばそんなモノもあったね。


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第171話 『深淵に覗きこめば、逆も然り』

作者:注意事項、アンケートへのご協力頂き、誠にありがとうございます。 結果にて後半辺りから残忍and/or残酷な描写が出てきます。 ご了承下さいますようお願い申し上げます。 m(_ _)m

マオ(女):つまりは注意事項その2! 飛ばす選択を取った皆の為に次話は『教えて、マオ先生コーナー』がで~る~よ~♪

スバル:内容が物騒なのに何この『なぜなに』っぽい流れは?


 少しだけ時間を遡らせて話をしたいと思う。

 

 それはまだオルドリンの母オリヴィアが健在だった頃。

 

 ジヴォン家にとある()()()()()()()()を頼った一人の褐色少女────トト・トンプソンが新人のハウスメイドとして雇われた。

 

 ()()()()であるオルドリンは年の近いトトとは直ぐに打ち解け、血の繋がっていないどころか名誉ブリタニア人だったトトとブリタニアの貴族令嬢であるオルドリンはまるで本当の姉妹のように共に育っていき、それはオルドリンの親友であるマリーベルが家族を()()()()によって失っても、オイアグロがジヴォン家を簒奪した後でも変わらなかった。

 

 それから月日は過ぎていく中トトはオルドリンの期待に応え、オルドリンはマリーベルの期待に応え、それがグリンダ騎士団へと繋がって『これからの冒険へ旅立つめでたしめでたし』へ……

 

 

 それだけならば当たり障りのない話になるのだが、オルドリンにとって『家族』となったハウスメイドは()()()()()()()()()()()()()()()()()として教育を受けたギアス嚮団のギアス能力者兼エージェント。

 

 理由は至極単純にギアス嚮団とはプルートーン経由で繋がりを持つジヴォン家で『無知』であるオルドリンの監視による嚮団の隠蔽。

 

 プルートーンの団長や精鋭が一緒に住んでいるとはいえ、彼ら彼女らも人間で年も一回り離れているので()は必ずどこかで生じてしまう。

 よってギアス嚮団の嚮主V.V.はオルドリンの側にトトを置いた。

 

 トトを選んだのは、当時のギアス嚮団で育っていた者たちの中で彼女が最適だったから。

『反抗心が薄くて従順』、『大人しい性格』、『歳が対象と近い』、『発現したギアス能力も適任』等々。

 

「(……私は、どうすれば……)」

 

 そんなトトは迷いながらもグランベリーの中を歩いていた。

 

 本来、ギアス嚮団は極秘の研究機関という事と研究の内容も相まって外部から極力意図的に切り離されているいわば『陸内の孤島』。

 

 そんなところで育ったギアス能力者の子供はとてもではないが普通に育てられることはなく、いざ外の世界に出ても上手く馴染めずに必要以上に目立ってしまう。

 

 それも昔ながらの風習で万が一にもギアス能力者が脱走してもすぐに見つけられるようにする為に意図的な環境だったのだが、これでは研究は捗らない上にコミュニケーション方法や技術が加速化していく世界では情報漏洩の危険が段々と増していった。実際に未遂による事故は多発したので『現状維持』とは言っていられなくなった。

 

 そんな時にV.V.の指示によって外部から連れて来られた少年────()()()()()()()()()()()()()()()オルフェウスは渡りに船だった。

 

 現に彼と仲が良くなったギアス能力者たちは全員、外部で活動できる実行員(エージェント)として必要な常識や作法を手に入れた。

 

 ただし、その浸透が速すぎて諸刃の剣になるとギアス嚮団が気付いた頃には、オルフェウスは恋人のエウリアと共に脱走した後だった。

 

 これを教訓に実行員(エージェント)になれる可能性を持った者たちに対して、嚮団は『教育』と同時に支援組織のエデンバイタル教団の成果から得た『呪縛(処置)』が施されるようになった。

 

 V.V.の命令でトトは生き別れた『オルフェウスの代わり』としてオルドリンに付け込んで彼女がオルフェウス、あるいはギアス嚮団の事を知ればその都度にギアスを使ってオルドリンの『記憶の管理』をギアスで────文字通り対象の神経(シナプス)を弄ることで記憶障害を故意に起こす『忘却のギアス』で行ってきた。

 

 その為にトトは今までかなりの事をやってきた。

 

 ふとしたことでオルドリンが『自分は一人っ子ではない』と感付かれそうになるとトトは『忘却のギアス』でオルドリンの記憶を消したり、あるいは(一例として)日々明け暮れる訓練に関して癇癪を起していたオルドリンを見てジヴォン家の使用人が『母親(オリヴィア)は人を殺すことで家を繁栄させているボンボンのくせに』と愚痴の様な嫌味を漏らしてしまった時には後日その使用人を()()()()()()()()()()()()()などもした。

 

 これだけ見れば、トトは原作アニメのロロに似てなくもないが……彼と違うところは年月が過ぎていく間に監視対象であるオルドリンに情が移ったこと。

 

 よって、アニメのロロと違ってトトは自分に与えられて未だに続く任務は『オルドリンからオルフェウスの記憶を消すこと』と『ギアス嚮団に関する情報の隠蔽』の遂行をしながらも反逆スレスレの行為で、オルドリンから身に降りかかる危険と嚮団を遠ざけていた。

 

 オルドリンとオルフェウスは出会ってしまったが、グランベリーもずっとこの場に滞在するわけが無いのでタイミングを見計らってからグリンダ騎士団の皆にギアスを使えば何とかなる。

 だが、そうするとグランベリーの集めたデータもどうにかしなければいけなくなる。

 

 トトもオペレーターとしての心得を持っているので操作はできるが、本業のエリスほどではないのでどうしてもデータに不自然さが出るだろう。

 そして発見されれば芋づる式に改竄が発覚する可能性があるので、今度はオルドリンに加え本格的な隠ぺいが出来るまでエリスも監視対象となってしまう。更に、主人であるオルドリンと違ってエリスとは『只のオペレーター同士』。

 

 常に傍にいる理由や接点が少なすぎる。

 

 それにもしどうにか出来たとしても、更に問題なのは────

 

「────トト・トンプソンだな?」

 

 トトは背後から来た声にピタリと歩みを止め、いつもの笑顔を顔に出しながらメガネを外して汚れを拭くふりをしながら振り返ると彼女が懸念していた金髪の少年がいた。

 

 セントラルハレースタジアムに現れたヴィンセントの強奪者と思われる疑いにオルフェウスとオルドリンを会わせる等、今までの出来事からの憶測ではあるが『ギアス』のことを知っているだけでなく深くかかわっている人物なのは確か。

 

「はい、どなたでしょう────?」

「────芝居はいい。 俺はただ、言いに来ただけだ。 ()()()()()()()()。」

 

「ッ。」

 

 トトは上記の言葉を聞いただけでそれが何を意味するか察したのか固まってしまう。

 

 普段はポワポワとした子犬系少女メイドを装っている彼女だが、素はかなり聡くて頭の回転が速く比較的に優秀である。

 

 よって、()()()()()()()()傾向があり空回りしやすい。

 

 故に、『最適』であった。

 

 

 

 


 

 

 

 というのを、『双貌のオズ』の設定集で読んだことあるな~。

 

 俺は外側で見せていた見栄とは裏腹に、内心ドキドキしっぱなしでオズの隠れ死亡フラグ────『トト・トンプソン』と対峙している。

 

 彼女はクララと同じでギアス嚮団の実行員であると同時に『良心』でV.V.からオルドリンを守るために動いて代わりに死んだ。

 

 だが原作雑巾(ロロ)のことを考えれば『ギアス嚮団には逆らえない』という考えを何らかの方法で刷り込まれている……と思う。

 

 なら、ルルーシュがやったようにこちら側に引き込める可能性はある。

 

 それ故にさっきの“知っている”のセリフだ。

 

 実はトト、オルドリンの性格を把握したV.V.によって送り込まれて監視対象と仲良くなり過ぎることも利用されて『オルドリンを裏切っている』という事でV.V.に脅されている。

 

 いや……それだけじゃなかったな。

 

 トトはオルフェウスとエウリアの逃亡先の探索にも関わっていて、その所為でエウリアは殺されてオルフェウスはピースマークに所属することになって、オルドリンとオルフェウスは争うことになった。

 

 全ては、V.V.の掌の上(陰謀)

 

 なら、俺は真正面の正攻法でぶちのめすだけだ。

 

「ぁ……ぇ?」

 

 おっと、考えすぎて無言の威圧でトトがヨロヨロし出した。

 

「オルフェウスとオルドリン、双方は“トトの所為じゃない”と“トトは(オルドリン)の家族だから許す” が開口一番だったぞ?」

 

「………………………………え。」

 

「二人はお前の思っているように似ていて、不器用ながらも優しいという事だ。」

 

「あ────」

「────っと。」

 

 機を張り詰めていたトトは脱力したのか、ホッとしすぎたのか足から力が抜けて倒れそうなところを支える。

 

 ……軽いな。

 

「大丈夫か────?」

「────そんな……私……なんで……どうして……え────」

「────二人にとって、お前はそれほど大事な存在で許しているという事だ。」

 

 トトは顔を俺に向けて、泣きそうな彼女の目と俺の目が合う。

 

 う~ん、褐色銀髪赤目少女と幼さを残す童顔に反して大きくて素晴らしい餅をお持ちですな♪

 

 実はさっき、オズオズとオイアグロたちに色々と暴露した時にギアス嚮団とトトのことも話したが、意外にもオルフェウスとオルドリンは怒るどころかトトも同じ被害者として憐れんでいた。

 

 オイアグロは“オズ(オルドリン)の近くに刺客がいたとは……”とブツブツ言ってショックを受けていたが。

 

 それにしても、コードギアスの闇ってマジに8割ぐらいがクソショタジジイのモノだな。

 陰謀は6割ぐらいか?

 

 どっちにしても高いがなコンチクショウめ。

 

「それと、俺にギアスは効かん────」

「────ッ。」

 

 やっぱり俺をじ~ッと見ているのはギアスか。

 

「信じないのなら、使い続けるといい。 ただ、これから主人とオルフェウスと隠し事なしで話して辻褄を合わせて、今まで通りの『異常無し』と報告をしていればいい。」

 

 トトを通路の壁に寄りかけさせてから、俺は歩き出す────

 

「────嚮団の人ですか?」

 

 そして声を掛けられた。

 

 う~ん、『違う』って言ったらうさん臭さが100%ぐらい増すな。

 ……よし。

 

「……お前やオルフェウス……いや、どちらかというと()()()()()()()()だ。」

 

 それを最後にトトに()()()()()()()歩きだす。

 

 半分、賭けだ。

 

 もしここでトトに背後から襲われるのなら、彼女は『任務』を優先することになる。

 余程のことがない限り……あれ? でもトトってブリタニアの名誉騎士証を持つぐらい優秀だったような……

 

 それに『半分賭け』って、普段の俺ならばこんなことをしないのに……思っていたよりかなり疲れているのかもしれない。

 

 どちらにせよ、とっととエデンバイタル教団方面の事を片付けてからコーネリアたちとも話をして、グリンダ騎士団とも交渉の場を────ああああ面倒クセェ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あ、お兄さんヤッホー♪」

 

 で、リア・ファルの方に向かったら何故か嬉しそうなマオ(女)が出てきた。

 

 そしてそんな彼女の来た場所からはどう見てもお通夜状態のように顔色を悪くした毒島の手下部下がいた。

 

「聞いてよ! 1()0()()()()()()()()()()よ! やったね♪」

 

 ???

 

 ハテナマークだけが内心を埋め尽くす俺の様子にマオ(女)はキョトンとしてはニヤニヤし始める。

 

「……あれれれ~? もしかしてお兄さんでも知らないことなのかな~?」

 

「どういう意味だ、マオ?」

 

「そっかそっか~♪ じゃあさ、一緒に見ようよ♪」

 

 そう言われてマオ(女)に腕を掴まれて半ば無理やり引きずられて、思ったよりヘロヘロだったのか何度か足を踏み外す。

 

「お兄さん大丈夫? 肩貸すよ────?」

「────それよりも俺をどこに連れていく?」

 

 俺はそのままマオ(女)に連れられたのはリア・ファルの空き部屋の一つだった。

 

 え。

 

 ガチャ

 

 そしてカギがかけられる音────え。

 

「ンフフフフフフフ♪ ボク、頑張ったと思うんだよねぇ~?」

 

 ナニコレ。

 

「ちょっと待てマオ────」

「────そこでこれの出番だよ!」

 

 そこで俺の顔の前に出されたのは少し汚れた()()だっt────え?

 

「あ、ごめんごめん! これじゃ分からないよね!」

 

 マオ(女)が『てへぺろ☆』とともに目玉を弄り────え゛。

 

「えーっと……開け方は……」

 

 パカッ。

 

 ってなんだ、義眼か。

 

 見た目が本物っぽい上に絵面がグロくてビックリしたぞおい。

 

「これ、()()()()()()()()()()♪」

 

 ンンンンンンンソンンンンンンンンンンンンンンンン????

 

 ワケモワカラナイヨ?

 

 

 


 

 

 

 少しだけ、エデンバイタル教団に関して書きたいと思う。

 

『宗教に興味はない』、あるいは『何だその怪しさ満点なグループ名は?』などと思うかもしれないが……付き合って欲しい。

 

 コードギアスの外伝、『ナイトメア・オブ・ナナリー』ではV.V.とギアス嚮団はなく、代わりにエデンバイタル教団がギアスの研究機関として在ったことは以前にも話したと思う。

 

 ここから先は、とある平凡な研究員の話となる。

 

『平凡』と言うが、その研究員は戦が絶えない世界の中で『人助け』に繋げられる医療とその過程で携わっていた遺伝学が他の同期たちよりも少々出来る程度だったが、論文など地道な功績がとある者の目に留まったことで、彼はスカウトされてブリタニア内の医療機器業界でもかなり名の知れた会社に勤めることが出来た。

 

 だが数年後、彼は身に覚えのない様々な疑惑や冤罪を着せられて職を失う。

『少々才能のある若手が調子に乗って独断先行』という事に利用するために期待の新人を雇う話はなんてことはなく、世界のどこにでもよくある話。

 

 ただここから違ってくるのは、極秘裏にブリタニア皇族直属の部下と称する者からコンタクトと提案が来ることだろうか。

 

『研究を続ける気はないか?』、と。

 

 まだ若いのに仕事を失くし、事件の汚名で行く当ても居場所もなく彷徨っていた彼にとっては喉から手が出るほどの案件だった。

 

 普通、胡散臭さが滲んで出るようなものだがヤケクソ気味になっていた男は過度のアルコール摂取に睡眠不足と白い目で見られるストレスから思考は鈍っていて既に承諾しながら機密保持契約書への同意するサインを求められていて、気が付いたころにはトントン拍子に()()()()へと旅立つ用意の途中だった。

 

 すでになけなしの金などを使った後なので、男はそのまま空路から陸路のバスに乗り、中華連邦内にある都市と町と村を転々と言伝頼りに旅をしていると、とうとう徒歩で数日後とある洞窟へと案内をされた。

 

 彼は迷宮の様な洞窟を進んでようやく着いた先には見たことも聞いたことも無い規模の、『地下都市』と呼ぶしかない場所を見てビックリしながらも期待が膨らんだ。

 

『これだけ大きな研究施設、きっとすごいことをしているのだろう』と。

 

 勿論、これだけ『機密』に固執するので大っぴらにできないこともしているのだろうという事は後になって想像できたが……ここにたどり着いた時点で『時すでに遅し』である。

 

 

 

 あれから研究員は聞いたことも無い、『エデンバイタル教団』とまるでドマイナーな宗教を元にしたふざけたネーミングセンスをした組織の一員となって半年後。

 

 施設で新人だった彼はその間に全く理解が及ばない細胞データの処理などの雑用をしていたがある日ようやく彼は中央施設の『予備員』として呼ばれ、身体検査とフル装備の術衣を強いられてからある部屋に入っては固まって困惑していた。

 

 彼は目の前の出来事が信じられず、ただ立ち尽くしながら己に問い続けていた。

 

 部屋の中は手術室らしき場所で、物々しい機器がずらりと設置されており中央の台の上には年端もいかない子供らしき()()がベルトの固定具で拘束されていた。

 

 ()()が辛うじて瞼を開いていた右目は死んだ魚のような視線で天井をボーっと見ており、左目は()()どころか頭の左半分はまるで硬質化した皮膚に無理やり穴をあけられ、機器から伸びたチューブが繋げてられていた。

 

 先ほど『固定』と記入したが左腕は肩から無い代わりに義腕を付けていたような跡があり、右腕は肘から先は無く、足の股から下の義肢は取り外されていたので実質()()で固定されているのは胴体と首だけだった。

 

 これだけならば『ああ、何かの事情で四肢が無いんだな』と思うだけなのだが……入室して棒立ちしていた研究員の男にとっておぞましかったのは()()の胸辺りがぽっかりと開いた()があったことと、周りの機器から数々のチューブや配線などがその()の中にまで伸びていたことだろう。

 

 時々弱々しく頭部が痙攣するかのように震える()()の動作と半開きだった口から息の様な音が吐きだされる音が、()()が辛うじて生かされていたことを悟らせてくれていた。

 

 ぽっかりと開いた穴から何かの塊のようなものを周りの者たちが出してようやくぐちゃぐちゃとした音のほかに人の声が混じる。

 

「よし、出てきたぞ。」

「C.C.細胞の中核、これで摘出完了か。」

「状態は?」

「損傷無し、NC-205号からの影響は軽度に見えます。」

「よし、208号への置換は予定通りに行うと中央に伝えてあとは次の班に任せる……おい!」

 

「ッ?! は、はい?!」

 

 棒立ちしていた研究員は声にビクつきながらも、生返事を返す。

 

()()()()を頼む。」

 

「処分────?」

「────簡単だ。 ()()をダストシュートに入れてスイッチを押すだけだ。 あとはシステムが勝手に()()してくれる。」

 

「………………………………は?」

 

()()()()()()だよ、やったことがないのか?」

 

 新人も医療に携わっている過程で、『有害物の処理』はしたことがあるがさすがに『人体』の経験はなかった。

 

「ハァ~……取り敢えず、早く処理することをお勧めするぞ。 生命維持を切るから排泄物が漏れ出してくるぞ? でないと、お前が大変なんだからな?」

 

 その間にも他の者たちはゾロゾロと動き出し、通りざまに他愛のない会話が研究員の耳に届く。

 

「いや~、疲れた!」

「けど今日のは早い方だったぞ?」

「手足を失くしても、酷い時は胴体だけでも動くからな。」

「首だけで噛み付くとか?」

「思い出させるなよ!」

「どうでも良いが、早く帰りたいよ。」

「まだ朝なのにハッスルしすぎだぞ、お前……ほかにどこにも行けないから気持ちは分からなくもないけどさ。」

 

「ああ、新人。 コレの処理が終わったら着替えて隣の部屋に入れ。 今度は元気なヤツへの移植だから長引くぞ~?」

 

「………………………………え?」

 

 新人研究員はただ唖然としていたが、声をまたもかけられて無理やり注意が引かれる。

 

「ま、せいぜい早く失神することを祈りな。 キーキーうるさくて耳鳴りがするけど、最初だけだ……直にお前も慣れるさ。」

 

「………………………………は?」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それから研究員はどっぷりと知りたくもなかった『闇』へとズルズル引きずられていき、徐々に感じていた戸惑いは『超現象』と呼ぶほかに無い、良く分からない『ギアス』という物にも触れて次第に麻痺していった。

 

『夢だ』と、そう考えるほかになかった。

 

 例え『ガン以上に増殖能力の長けた細胞』や『研究が進んでいくうちに物言わぬオブジェ』と変わっていく子供や『姿形がとても元は人間とは思えない不適合者』や、『それ等の溶解した成分は氷漬けにされた謎の巨人(クリストファー)とやらに補給されては肉片を切り取って研究に使われている』などの出来事に研究員は徐々に驚くことに疲れていった。

 

 周りの者たちは慣れているどころか理由を聞いても『世界を救うためだ』と訳の分からないことを口にし、どこかに通報しようにも文字通り場所は陸の孤島(監獄)だった。

 

 故に『夢だ』と思えば幾分か楽になり、現実感のない毎日が繰り返されていった。

 

 やがて悪魔のささやきが彼にも届く。

 

 ……

 …

 

 

『幸い』と言ったらいいのか、彼が初めて()()することとなったのは気弱な少女だった。

 

 ただ『不幸』だったのはCC細胞の移植が上手く身体に馴染まなかったことだろう。

 

「また失敗か……」

 

「……いえ、僕の技術不足です。」

 

「次の監査日までに移植と能力の発症が出来なかったら溶解するか、あるいは解体か……いや、コレの場合は再利用が平等か……」

 

「見た目は良い方ですからね、栄養不足気味ですけれど。」

 

「ま、CC細胞自体にも相性がある。 気にすることは無い。」

 

 同僚たちの諦めるような言葉に対して、研究員は当り障りのない生返事を返して慰めの様な言葉を最後に同僚たちはどんどんと退室していく。

 

 最後にぐったりとベッドに横たわる少女と研究員だけが残ると、少女はぼんやりとしたまま口を開ける。

 

「……ねぇ。」

 

 この場所に運び込まれる以前から()()()()()()()()()()()()ことが幸いし、少女の声帯は取り除かれていなかったので音声での意思疎通は可能だった。

 

「“ようかい”や“りさいくる”って、なぁに?」

 

「ッ。」

 

 少女の純粋な質問に、研究員はどう答えたらいいのか迷った。

 ここ最近、彼の感覚が麻痺してきたと言っても目の前の少女は他の()()()()()()と違って『性格』や『知能』に『諦め気味の態度』などの様々な要因から『人工ギアスユーザー』として能力を開花しても『脅威度は低い』と判断され、無気力でも『言葉が出せる』という点で比較的に『人間味』が濃かった。

 

「えっと……その……()()()()()()だよ。」

 

「そっかぁ……じゃあわたし、()()()()()()()()()()()んだ。」

 

 研究員は近くの資料を見て、『入手方法』と書かれた欄の横に『売り』、そして『注意事項』の横にあった『暴行経験アリ』を見て久しぶりに胸がざわついた。

 

「……一緒に、頑張ろうな?」

 

「??? うん?」

 

 ………

 ……

 …

 

 監査日が近づくに釣れ、移植が成功しても能力の発現がすることはなかったので細胞のサンプルを次々と変えた過激な手術は続いて既に不健康気味だった少女はさらにやつれていった。

 

「ッ……ッ……」

 

 彼女は研究員と二人きりになったところでデータ上では初めての『すすり泣き』をし始めた。

 

「お、おい────」

「────ほんとは……わたしに“てきせい”がないからうまくいかないんでしょ?」

 

『人工ギアスユーザー』とはそう簡単に作れるものではないらしく、別の場所で手術を終えて『成功』したとしても、『能力が使えない』あるいは『不適合者』と認定されればC.C.細胞を取り除くためにエデンバイタル教団の中枢に送られてくる。

 

 この様な移植行為は正直、『くじ引き』のような感覚で行われているので成功例は極めて少ない。

 

 そして少女の様な()()()な対象は更に稀である。

 

「明日もある。 次はその……麻酔無しでやってみるよ。 痛いけれど、痛がることで成功したというケースもあるから。」

 

「……うん。」

 

 ……

 …

 

 それから監査日まで研究員は出来る限りの事をしていき、少女もこの狂った世界(地下都市)でそれに応えようとした。

 

 研究員は急ピッチで出来るだけ成功例のC.C.細胞の種類や薬物などを調べ上げて出来るだけ移植の成功率が高くなるよう移植を試みた。

 

 少女のあらゆる感覚に自我までもギリギリに低下させてようやくC.C.細胞は定着したが、ギアス能力の開花とその発覚は監査日までには間に合わず、生きているのか死んでいるのかわからない状態の少女は不良品の再利用処置場所へと送られた。

 

「ごめんなさい。」

 

 それが連れ出されていく少女が口にした言葉だった。




スバル:……ナニコノ後半のC計画?
マオ(女):CC細胞だけに?
集合ちゃん:コードギアスだけに?
スバル:本編ワイのSAN値示すd100ロール、危うし。
作者:そんなこと言ったらリアルで『ゴールデンウイーク中もスタンバイ』と言われた自分の身にもなってくれ。
スバル:おい。
作者:やけくそに後でオールでゲームプレイしてきます…… (;へ:)グスン
スバル:オイ! (# ゜Д゜)


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第172話 悪、即、斬

次話です!
お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!

マオ(女):ちょっと! 『なぜなに』が変わっているじゃん?! (=`ω´=)
作者:展開を進める為デス、ご了承ください。 (;´Д`)
マオ(女):ブーブー!
ミス・エックス:(既視感を感じるのはなぜかしら?) ←『オズ』ではよくふくれっ面のままブーブー言っていた人


 ザー。

 

「………………………………」

 

 やがて(スバル)が見ていた画面の映像は白黒が砂嵐のように激しく映る物へと変わるが、ただ静かにそれをボーっとする頭で見つめていた。

 

「お兄さ~ん?」

 

 ノイズへと変わった画面をまるで石像か何かのように固まって見ていた俺の、股の上に座っていたマオ(女)は首を回して振り返りながら声をかける。

 

 というかいつの間にそこに座った?

 最初は隣だったはずだ。

 

「………………………………」

 

「お~い?」

 

 とりあえず、何か話をして────

 

 「────マオ、今のは何だ?」

 

 え、今の誰?

 俺か?

 俺の声か?

 体は強張っていると自覚していたが、自分の口から出た言葉からいつも以上に感情が抜けていることにびっくりしたぞ?

 

「え? だから言ったじゃん、“()()()()()()()()()()”って。 ()()の様なものだよ?」

 

 は?

 

 ちょっと待て。 だという事は、今まで見た痛々しくて生々しい映像は、全部────

 

「────あ、“日記”とはちょっと違うかな? ……うん、それもちょっと違うかな~? ま、いいか────」

「────ちょっと待て、マオ。 まさかだが、今まで見た映像は────」

「────うん♪ 無理やり命名するなら“音声の付いた記憶”だね♪」

 

「…………………………」

 

 俺は言葉を失くし、理解が追いついた(というか実感が湧く)と冷たくてもやもやとした何かが胸の中で沸々とする。

 

『映像の中身』は、まぁおおむね()()だ。

 

 単に『R-18』というより、『R-18G寄り』で────

 

「────でもまさかオジサンも初めての経験が()()()()()()なんてキッツイよねぇ~?」

 

 は?

 “初期型”?

 

 マオ(女)はまるでポーカーフェイスを維持していた俺の疑問を感じ取ったのか、平然と()()()()()()()おちゃらけた笑顔のまま言葉を続けていく。

 

「そうだよねぇ~、軍属から転属したほとんどがイレギュラーズだから想像しにくい? あ、でもお兄さんってギアス嚮団のことを知っているんだよね? アレだよアレ、エデンバイタル教団はギアス嚮団の二軍や予備軍落ちしたヤツの『リサイクル(再利用)』と『処理場』とかを兼ねていてね────?」

 

 なんだろう。

 

「────それに最初の頃はさっき見たように大変だったらしいよ? あっち(ギアス嚮団)は『実験体』扱いだから比較的にマシだったけれどあの地下都市に連れてこられた時点で『実験動物』だもんねぇ~────」

 

 マオ(女)はいつもの様子の筈なのに何故だか、こう……

 

「────あっちの手足に付ける筋力低下装置も、こっちで直接薬物を注入した所為でみんな重症筋無力症みたいになって『実験』が出来なかったらしいから作られたみたいだし────あ! でも薬物の方はマシだね! だって最初は『C.C.細胞の作用で体に隠れて起こる異変対策』としてバッサバッサと手足切り落としていたもんね! 逃げようとしたら片足とか、暴れたりしたら片腕とかバッサリ。 ま、義肢や義手が出来た後でも噛み付いたりする子は抜歯されてたよ────?」

 

 なにか いうべきなのかもしれない。

 ことばが みつからない。

 

「────まぁ普通、抜歯なんかしたら顔の骨格も変わっちゃってヨボヨボしちゃうけれど見た目がいい子たちはゴム製の歯が代わりに入れられたからそこまで変わらないけれど────」

 

 ギュッ。

 

「────え~? このタイミングで抱きつくのお兄さん? なんか早すぎない────?」

「────その……このことを他の……いや、そういえば“10人ぐらい生きていた”と────?」

「────そうだよ~。 見に行こっか?」

 

 マオ(女)はするりと器用に猫のような身軽さで俺から離れて手をまたも引っ張り、ヨロヨロとしながらも俺は付いて行く。

 

 ……

 …

 

 マオ(女)に連れてこられたのはリア・ファルの医務室────って何この匂い?

 

「……」

 

 唐突だが、『フレーメン反応』というモノを知っているだろうか?

 馬とか、猫とか哺乳類に起こる『臭いに反応して唇を引きあげる生理現象』だ。

 

 まぁ、『変顔』とも呼ぶな。

 

 一緒にいたマオ(女)と俺はきっとそうしているだろうよ、何せ医務室のドアが開いた瞬間、中からまるで“泥がついたまま湿った枯葉を燃やした様なムワッとする焚き火の臭い匂い”が鼻に来て二人とも固まったままだからな。

 

「フゥ~……あら? 二人だけ?」

 

 いつもは口に咥えているだけのキセルから黙々と煙を出していつも以上に怠い上に緩い雰囲気のラクシャータが首を回してこちらを見る。

 

 ラクちゃんお前、『アヘン』って……『不思議の国のアリス』に出てくる『イモムシ』そのままやんけ。

 

 って違う。

 

「……えーっと、ラクシャータさんなら元医者だし口も割と固いから────」

 

 マオ(女)が何か言っているが、次第に俺の注意は部屋の中の匂いから部屋の中にいる者たちへと移らせ、片耳でマオ(女)たちの会話を聞き流す。

 

「────あら、マオちゃんってお上手♪ おだててもな~んにも出ないわよ?」

 

「それを頼みにしているんだけど?」

 

 そこにいたのはマオ(女)が言ったように、10人ほどの者たちがいた。

 

「しっかし、まさかこんなところでまた『医者』になるとはねぇ~……しかもとびっきりひどい状態のオンパレードで、悪いことより良いことの方が探しやすい。」

 

 男女で歳は様々な上に見た目から10代辺り……と言っても、脂まみれの髪に貫頭衣の様な服装からチラチラと浮き出ているアバラと共に傷や痣に小さな火傷や手術痕などを考えれば、見た目で判断するの正直難しい。

 

「肉体の成長が遅いのは栄養不足もあるけれど、意図的に薬物で衰えさせている感じね。 ま、ま、軽~く診た感じだけれど後頭葉妨害もあってこの子たちは読み書きも出来なくなっているし、知能も低下させられているっぽいわ……だから数年ぶりにキメているんだけれど────」

「────道理で臭い訳だ────」

 

 それに……俺の気のせいだが目は……いや、自然と俺の目はポッコリと確かな丸みを帯びた下腹部に────

 

「────当り前よマオちゃん。 でなきゃやっていられないわよ……で? この子たちどうしたの? 小児性愛者の巣窟でも発見したの────?」

 

 ラクシャータの続きの言葉がぼやけていき、『リーン』と鈴が鳴り続ける様な音が耳朶に響く中、俺は膝を地面に着いて未だに焦点の定まらない、ボーっとする子供たちと目線を合わせようとするとさっきまでおさまっていた感じが沸々とより強く戻ってくる。

 

 最初から何かを言いたかったが……今はただ目の前の屍のような子供たちを前にヨクワカラナイモノに打ちひしがれていた。

 

「────で? どうするの?」

 

 何時近づいたのか分からない、ラクシャータの声がはっきりと聞こえてくる。

 

「……は────?」

「────だからさ、()()()()助けるの? それとも……」

 

 いき が とまる。

 

 このひとは────

 

「え? 二番目のそれってもしかして、中絶手術?」

 

 のどの すいぶんが さばくのように ひあがっていく。

 

 ────いったい────

 

「じっくりと見ていないから何とも言えないけれど……時間制限(タイムリミット)があるのよねぇ~。」

 

 こえが だせない。

 

 ────なにを────

 

「吸引みたいに母体への負担が少ない手段は妊娠11週ぐらいまで。 その後は通常の手術手段は21週……それ以降も()()可能だけれどおススメはできないわね……それになんだかこの子たちの下顎骨の接合部、なんかされて一定間の圧力かけると外れるようになっているし……あんた達も一服どう~?」

 

「ボクは良いかな~……ね、お兄さん?」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 ────プッツン────

 

「────お兄さん────?」

 

 ────おれの なかで なにかが はじけた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 そこからは正直、あまり覚えていない。

 

 気付けばマオ(女)にラクシャータの所に案内をされてから、窓の外の景色に日が沈みかけていたことを配慮すれば数時間は経っているだろう。

 

「「「「………………………………」」」」

 

 場所はまたも医務室だが、前回と違うのは無言で()()()()の俺を手当てするラクシャータだ。

 

 身体の感じからすると脱力感と疲労は増しているが外傷的な痛みは少ないので俺の髪と肌のべったりとした感覚等は返り血だと思う。

 

 もう……何も考えたくない……

 

「………………こんなクソみたいなタイミングだけれどさ? 正直、良い年をした『大人』でもいろ~んな『大人』がいるわ。 一概に“子供だから~”とか“大人だから~”ってのは言えないと思う事もあるわ。 頭ごなしにさ、“子供だからダメ”って決めつけるのなら“大人だからダメ”っていう一定の基準が無ければおかしいのよ。」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………???

 

「ただその……どんな選択をしてもリスクはそれなりにあるわよ? これは偏見とかじゃなくて科学的統計も含めているけれどまずは身体ね────」

 

 ああ。

 身籠った元エデンバイタル教団の子供たちの事か。

 

「────まず未発達な身体だからホルモンバランスがまだ不安定……元がその、()()だからバランスもへったくれも無いのだけれどそれをまず置くとするわ。 ホルモンバランスが不安定だと体調も気力も不安定でつわりも長引くから余計に負担がかかる。」

 

 気のせいか、ラクシャータの顔がいつもののんべんだらりとしたモノより幾分か柔らかい。

 

「あとは骨盤(こつばん)が発達中で、ぶっちゃけると子宮を含めた内臓が支えられず早産や体重の少ない赤ちゃんが生まれる可能性が高くなるし……」

 

 ああ、そう言えばそういう事を以前に『世話係』の一環として習ったような気が……

 

「あとは出産のときに色々あって、帝王切開になる可能性もある上に妊娠高血圧症候群のリスクもあり得るわね。」

 

 今ふと考えたけれど、ラクシャータが凄いマトモに見える。

 

 チラッ、チラッ。

 

 ん?

 彼女がチラ見している先を見ると、そこには壁に立てかけてあった一刀の────そう言えば、刀を見て気付いたが俺の掌には久しく感じていない、()()()()()()()があるような……

 

 ああ、段々と思い出してきたぞ。

 

 いつか、遠い昔に誰かが言ったような気がする。

 “()()()()()()()()()()”と。

 

 そして俺は……()()私怨で、人を……

 

「……………………」

 

「考えがまとまらない?」

 

「……少し、考えさせてくれ。」

 

「あいよ……」

 

 ラクシャータに見送られながら、おぼつかない足取りで俺はリア・ファルの中を歩き適当な空き部屋の中に入っては服を脱いでギプスのされた左腕に気をつけながらシャワーを浴びる。

 

 丁度いい温度のお湯に冷え切った身体が暖かさを取り戻していく代わりに密着した返り血が流れ落ちていく様を、まるで夢を見ているかのような気持ちのままただ見下ろす。

 

 シャワーを浴び終えて部屋のタンスにあった適当な普段着に着替え、ベッドに座ってようやくほっと一息ついた感じに身を任せると自然と頭の中に考えがさまざまなキーワードとして思考が浮かんでくる。

 

 グリンダ騎士団。 マリーベル。 オルドリン。 オルフェウス。 ピースマーク。 ミス・エックスことユーリア。 ウィザードことオイアグロ。 エデンバイタル教団の被検体たちに生き残り。 ギアス嚮団。 V.V.。 アマルガム。 リア・ファル。 元wZERO部隊に元イレギュラーズ。 アンジュに毒島。 黒の騎士団。 カレン。 シュタットフェルト家。 旧日本兼エリア11。 R2. ルルーシュ。 ナナリー総督。 ラグナレクの接続。

 

「………………………………………………」

 

 やることと分かったことがクッソ多すぎる上にどれも頭が痛くなる。

 

 以前は『原作から自分を遠ざけて見守る』が『支援組織作ろう』が『いつの間にか膨れ上がってどうしてこうなった』どころか今ではグリンダ騎士団とどっこいどっこいの組織化してしまった。

 

 それが今では政治的に入り組んでいる案件にどっぷりとハマってしまっている。

 

 ……………………なんでじゃい。

 

 あー、何だか冷静に考えだしたらネガティブ思考が止まらなくなってきたぞ?

 

「……ッ…………………ッッ……………」

 

 俺はただ顔を両手で覆って、胸の奥から噴水のように湧き出てくる虚しい気持ちと今更ながらヒシヒシと体中から伝わってくる痛みに身を任せてただ静かに涙を流した。

 

『うっわこいつ泣き出したよキモカッコワリwww』とかもう正直この際どうでもいい。

 

 「……………………………………………………辛い。」

 

 バァン!

 

 「ひゃ?!」

 「ちょちょちょっと?!」

 「滑る滑る滑る!」

 「い、一時撤退にゃ~!」

 

 ドタタタ────!

 

 「────スバル! 疲労に効く湿布薬とか持ってきたから背中を向けて!」

 

 ドアが荒々しく開けられて何人かの焦るような小声と声の持ち主たちの足音をかき消すかのように高々と救急箱を持ったカレンが入室するのを見た俺は涙をそれとなく拭いながらポーカーフェイスを戻す────

 

「────いやちょっと待て────」

「────痛く貼り付けないから────!」

 「────自覚あったのか────」

 「────良いから背中を向けるか無理やり剥ぎ取られるかどっちにする?」

 

「前者だ。」

 

「よろしい。」

 

 

 相変わらず押しが強いカレンの前で上半身から服装をはだけさせながら背中を向けると文字通り、カレンは静かにペタペタと湿布を張っていく。

 

 思わず“痛くない……だと?”と言いたいが言ったら最後、『背中バッチン』が来ると予測されるので────

 

 ペタ。

 

 ────あ♡ そこがヒンヤリするの、めっさええばい♡

 

「……ねぇスバル?」

 

「なんだ、カレン?」

 

「その……話なら聞くよ?」

 

「いきなりどうした?」

 

 あふん♡

 的確な湿布張りが♡

 

「その……なんかあったでしょ?」

 

「……おいそれと他人に聞かせるほどでもない────」

「────アンタが血まみれになるのなんて、日本侵略以来に見たことがないよ?」

 

 う~ん、痛いところを突いてくるな。

 

「それにさ、その……スバルは昔から一人で頑張りすぎ。」

 

 “頑張りすぎ”、か……

 

 「そこがカッコいいんだけれど────」

「────なんか言ったか────?」

 「────“こんなにボロボロになるのは痛そうだな”って言ったの!」

 

 なにその膨れ饅頭気味な答え文句は?

 それに“痛そう”か────

 

 ピト。

 

 ────背中にチクチクする髪の毛の感触が。

 

「だからさ……辛くなったら、スバルも他人に頼ってもいいんじゃない?」

 

「………………………………」

 

「それともさ、()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ。」

 

 カレンの言葉に思わずヒュッと息を飲み込みそうになり、我慢した代わりに身体が強張ってしまう。

 

「ねぇ、聞いていいかな?」

 

「……なんだ?」

 

「スバルはさ、ル────()()みたいな事をするつもりなの?」

 

ゼロ(ルルーシュ)みたいなこと』と言うと、『国を作る』ということか?

 

 冗談はよしこさん。

 

「……俺はただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている。」

 

「それってその……ブリタニアとか、中華連邦とかの人でも入るの?」

 

「ブリタニアも中華連邦もEUも『国家』だけで、市民や民衆全てが皆『人』に違いは無い。 たとえそれが()()()()()()()()であっても自律思考と行動が出来るのなら……それともなんだ? “国家の示す態度や方針を元に格差をつけるのが正しい”とでも言いたいのか? それだと元イレギュラーズやwZERO部隊など『存在しない人たち』になるぞ?」

 

「そ、そんなんじゃ……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()。 そもそも『相容れない絶対的な悪』なんてモノはそうそうない。 皆、自分の行っていることを『絶対的な正義』と思いこんでいるからこそ起こる衝突相手を『悪』と断定しているだけだ。 ナンセンスだ。」

 

「えっと……」

 

 ああ、うん……

 俺きっと疲れているな。

 

 俺の強げな言い方に、カレンが口ごも────

 

 ガチャ。

 

「────じゃあ、君の考えはどうなのだ?」

 

 「アワワ?! まだ全部話させていないのにちょっと気が早いって毒島さん……」

 

 部屋のドアが開かれて毒島が入ってくると、カレンは僅かに慌てるような仕草にブツブツと独り言の様な何かを口にする。

 

「君のその言い草だと、『国家』がまるで悪いように聞こえるのだが?」

 

「『国家』自体は悪くない、所詮はただのシステムだからな。 『悪い』というのならば今の世の中を良しとさせる『政治家』という寄生虫だ。」

 

「き、寄生虫だと────?」

「────政治家とは、国家の市民が納める税金を“公正かつ効率よく再配分する”という任務を託されそれに従事しているだけの存在。 それ等を行使するだけならば良いが、権力を得る絶好のポジションにいる為、システムを私物化して私利私欲のまま国家を自分勝手に運用する存在など『寄生虫』と呼ぶほかに何かあるか?」

 

「かなり極端な考え方だな……人は社会的な生き物だぞ────?」

「────そうだ。 だが『社会が必要な生き物』であって『国家を必要とする生き物』ではない。 そもそも『国家』など、『イデオロギー』や『宗教』などの『大義』と認定されやすいものを『政治家』が旗印に利用した産物でしかない。 人間は『社会』は必要だが、『国家』は別だ。」

 

「……もしや、君は『無政府主義者』なのか?」

 

「いいや? この世で人間にとって、もっとも尊いものを俺は『個人の自由と権利』と思っている。 それには『国家への服従する自由』も含まれている。 『政治家による国家』という事は要するに、自分の生き方や判断などを他人に委ねているようなモノだからな、自分の思想と国家の思想が相違なければそれでいい。 だがそうでなかった場合は『拒否』する自由がある筈なのに『悪』と断定されるのが気に入らない。」

 

「……それでさっき君が言った“周りの人たちが笑顔でいられる居場所”か。」

 

「ああ。 その居場所が『国家』である必要がないと言ったが、『国家』はシステム。 要するに形のない『道具』の一つでしかない。 そして『道具の良し悪し』はそれ等を使う者たち次第だ、力や権力のように。 ナイトメアだって、元々は戦略兵器だが使い方によっては工事や運搬や救助作業にだって使える代物だ。 その話を続けると、“軍”と“テロ”も所詮は国家や政治家の思想が対立するのが原因で衝突する『武装組織』だ。 そこに『民主国家』も『君主国家』などの政権に違いは無い────ッ。」

 

「大丈夫?」

 

 (スバル)の意識が薄れては上半身が思わずよろけ、カレンが支える。

 

「……すまんな、少々苛立っているようだ……すまんが、少し休ませてくれないか?」

 

「そうだな……湿布、ありがとうカレン。」

 

「う、うん……おやすみ。」

 

「ああ……毒島も、ありがとう。」

 

「いや、私()()も良いことを聞けた。 感謝するのはこちらだ。」

 

 パタン。

 

 部屋にはポツンと再び俺だけが残ると、ズキズキと鈍痛が続く身体の良くするまま毛布の中に埋まって睡眠の誘惑に身を委ねていく。

 

 取り敢えず……

 今はガッツリ寝よう。

 そして今までの事を書きだして、俺の知識と照らし合わせて……

 いやその前に、グリンダ騎士団やマリーベルたちとの会談を……

 

 あと、ロロ枢機卿がどうなったのかも……

 

 やるべきことが……いっぱいだが……今はただ寝たい……

 

 


 

 

 パタン。

 

「だ、そうだが?」

 

「「「「「………………………………………………………………」」」」」

 

 スバルの部屋となった場所のドアが閉まり、毒島はすぐそこにいた者たちに声をかける。

 

「(てかギャラリー増えてんじゃん?!)」

 

 カレンが見たのはアマルガムの者たちだけでなく、いつの間にかリア・ファルに来ていたグリンダ騎士団にピースマークの者たちやコーネリアまでもがいた。

 

「概ね、私たちが言ったことが合っていると思うが……異論や感想はないかね、ブリタニアの諸君?」

 

 余談だが、『“ムッフー♪”と高らかに誇るようなどや顔をしながら腕を組むぶっちゃん毒島可愛い』と思ったのは、恐らくダルクとアヤノだけだろうとここで記入したい。




『各人は、平等な基本的諸自由の最も広範な制度枠組みに対する対等な権利を保持すべきである。ただし最も広範な枠組みといっても他の人びとの諸自由の同様に広範な制度枠組みと両立可能なものでなければならない。』

-ジョン・ロールズ氏の『正義論』より


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第173話 闇夜を照らす星

ゴールデンウィークなのにお読み頂きありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 さて、何故アマルガムだけでなくグリンダ騎士団の面々がスバルのすぐ近くに隠れながらいたのか簡単に説明すると実はスバルがリア・ファルの中に戻ってから、『クリストファー』という共通の敵を撃退したから自然と訪れた一時的な停戦状態を続けさせるためにアマルガムとグリンダ騎士団の双方は使者を出した。

 

 落ち合う場所はちょうど両艦の中心辺りで、グリンダ騎士団からはシュバルツァー将軍と腕に覚えのある乗組員。 アマルガムからは『桐原の孫』であると同時に『NACの関係者』の毒島や、日系人のアキトやアヤノなどを中心にした『ブリタニアに見られても別段、問題のない者たち』である。

 

「グリンダ騎士団の顧問、ヨハン・シュバルツァー将軍だ。」

 

「NAC、桐原泰三の孫の毒島冴子だ。」

 

「(NAC……エリア11の売国奴、『キリハラ』の? なるほど……ならばバックにキョウトとやらの残党、あるいは黒の騎士団がいるのか。)」

 

「(『顧問』……そして自身を『将軍』と称したからには、無理やり現役復帰させられたという噂は本当の様だな。) さて、話すべきことはあるが……その前に、力を貸してくれたことに感謝する。」

 

「(うーむ、まさかオルドリンたちの暴走がいい方向に繋がるとは……世の中どうなるかわからんな。 説教と反省文の言い訳にはならんが。)」

 

「そこで見たところ、そちらの艦は万全の状態に見えないのだが────」

「(────来たか。)」

 

 ほぼ前口上なしに互いの探り合いが始まるや否や、毒島とシュバルツァー将軍の()()が始まる。

 

 元々結果を求めるが為に急造艦であるグランベリーとリア・ファルは『完成』からほど遠く、後者の主砲の余波や連続射撃で予期せぬ行動をして無茶をしたので、二つの艦は戦闘以前に互いの作戦行動の続行を続けるには『お互いの素性や目的がわからないままは危険』と感じ、『交渉』という名ばかりの『情報の引き出し』と『修理の時間稼ぎ』を毒島とシュバルツァー将軍は行った。

 

 互いが互いを信じられずに会談が進んでいく間、突然スバルが身一つで毒島の刀を持ち出してグランベリーに乗り込んだとの焦るような通信が毒島とシュバルツァー将軍側に入り、双方は大きく動揺して慌てた。

 

 グリンダ騎士団からすれば『素性の知らないものが武器を持って()()()()()()単身で乗り込んだ』、そしてアマルガムには『見たこともない形相をして近寄りがたいスバルが()()()()()()毒島の刀を持ち出してブリタニアの艦に乗り込んだ』。

 

 何とか収まりかけていたカオスが再び活性化しそうな案件にアマルガムやグリンダ騎士団の者たちはただ動乱(混沌)の終結を願って、グランベリーへ侵入したスバルの後を追うとただ壁越しにも聞こえてくる恐怖の叫びなどを軽く凌駕する叫び声だった。

 

 それはただ、『貴様等の血は何色だ?!』というシンプルなモノだが激昂に満ちていた。

 

 ようやく激怒した叫び声の元へとつけば、エデンバイタル教団から保護した研究員たちは既に斬殺された後で、部屋の中からはとてもさっきの叫び声を発したとは思えないほど憂鬱で悲壮感に満ちた抜け殻の様なスバルが退室してきた。

 

 その様子と見た目にグリンダ騎士団の者たちは声をかけるどころか気圧されて道を開け、後を追っていたアマルガムの毒島やアキトにアヤノたちワイバーン隊がかける声に気付く様子もなく、ただリア・ファルに帰るスバルを追い、途中ですれ違いそうになったマオ(女)によって双方の注意が彼女に移った。

 

「ワオ♪ アイツらも自業自得だけれど、『即座に皆殺し』にするなんてお兄さん過激過ぎ~!♪」

 

「どういうことだマオ?」

 

「あ、ぶっちゃん(毒島)。 ん~……だってアイツら、『探求』や『欲求』に乗じて子供を()()()()()()()()()()()()にしていたし~?」

 

「「「「「……?!」」」」」

 

 マオ(女)の平然とした態度とは裏腹に、釣り合わない単語の連鎖が彼女の口から発されたことに誰もが耳を疑った。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこからはマオ(女)の言葉に彼女の『え~? 本当に見たいの~? レンタルビデオの○ポよりグロ中心の内容だけれど~?』の挑発的な注意事項(?)からスバルが行動を起こした理由の映像を見せられた。

 

『見せられた』と言っても途中で中断されてはいるし、アマルガムとグリンダ騎士団でも残虐非道なスナッフフィルム以上の生々しく痛々しい数々の内容が進むにつれて殆どの者は顔色を悪くしながら退室したが。

 

 よって最後まで残ったのは数多の戦場などを目にした猛者たちだけである。

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

「アッハハハハハ! 皆の顔色、信号みたいに色変わって面白~い♪ ヒャッハー!」

 

 近くにいたマオ(女)は愉快に声を出しながら、座っていたスツールの上でクルクルと回る。

 

「……あー、マオ?」

 

「なーにー、サンチ~?」

 

「……」

 

 新たなあだ名で呼ばれたサンチアは一瞬呆けそうになるが、気を取り直す。

 

「この映像はどこから入手した?」

 

「知り合いが残した義眼の中から。  あ、死んでたから()知り合いになるか~。」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

「研究者たちの中でも新人で最後まで酷いことをするタイプじゃない人だったんだけれどそれが『異端』と逆に見られて────」

「────これがエデンバイタル教団だと仮定しても、私は初耳だぞ────?」

「────そりゃそうだよ! サンチアたちは元々軍属でしかも適合者で成功例なんだから()()に決まっているでしょう? 今見たのは不適合者や()()()()()()たちだけだよ~?」

 

「……それにしては、お前はよく知っていたな?」

 

「だってボクってばレイトブルーマー(遅咲きの人)リサイクル(再利用)処置中に成功例になったんだも~ん♪」

 

「「「「「「え────?」」」」」」

 

 バァン

 

 「────誰かスバルを見なかった?! 凄いやな予感がしたら“血まみれで帰ってきた”ってさっき聞いたのだけれど?!」

 

 そこに血相を変えながら救急箱を持つカレンが乱入し、そのままとあるリア・ファルの室内でスバルが珍しく弱音を吐き、蝶番がはち切れそうな勢いでカレンがドアを張り倒す場面と、スバルと毒島の政治家や国家観についての議論(?)へと繋がる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 アマルガムでは『比較的新人』の部類に入る者たちや、世間知らずがほとんどのグリンダ騎士団たちの価値観などは酷く揺さぶられた様子に腕や首が包帯に巻かれたミイラ女状態の毒島は『誇らしげなムッフーどや顔』を披露していた。

 

 いくら恐らくカップ詐欺師のぶっちゃん毒島等のアマルガム最古参で『スバルの理解者*1』がそれらしい思想や予想を言葉にしても、本人が言ったわけではないので新人たちや、スバルの行動をよく知らないものにとって説得力がイマイチ欠けていた。

 

 よってこうも彼自身が考え方を口にして、ここまで彼の考え方明確になったことは初めてで、その場にいた者たちに様々なインパクトを与えていた。

 

 彼の理解者*2たちは自分たちの思っていたのと似通っていたことに肯定感を味わい、新人たちは理解者たち*3の言った言葉に共感した。

 

 グリンダ騎士団やコーネリアたちを含めたピースマークも例外ではなく、どちらかというとグリンダ騎士団への揺さぶりが一番大きかったのかもしれない。

 

 理由としては、グリンダ騎士団の団章は『箒にまたがる魔女グリンダのシルエット』で赤をモチーフにし、それ等は『テロリストたちを塵芥のように掃除を行う為なら血を浴びる覚悟もいとわない』という意味を持つ。

 

 そんな彼ら騎士団が動いた結果、さっき見た映像の人体実験等の原因となった研究者たちを保護したという事実が更に気分を重くさせていた。

 

「……ねぇ?」

 

「うん? 何かね、オルドリン・ジヴォン?」

 

「貴方……アッシュフォード学園でも居た人よね?」

 

「そうだが?」

 

「だったらその……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知らないかしら?*4

 

「(なるほど……あの時のことを、マリーベルから聞いているのか。) “知っている”……と言ったら?」

 

「その……“マリーを助けてくれてありがとう”って言いたかっただけ。」

 

「そうか、()()()()()()そう伝えておこう。」

 

「え?」

 

「(しかし『人々に必要なのは社会であって国家ではない』、『政治家は寄生虫』、そして『周りの誰もが笑顔になれる場所』……か。 ゼロのやろうとした様な事に似ているが、明確にやり方が違う……絶対に私情からではないと分かってはいたが、道理でおじい様(桐原)がここまで肩入れするわけだ。)」

 

 オルドリンのぽかんとするような顔を他所に、毒島は先ほどスバルから言われた言葉を思い返す。

 

「胸糞悪くなるような事柄だったな。」

 

「ネリ……ネリスと同感だ。」

 

「今まで通りの“ネリス”でも、“コーネリア”でもいい。」

 

「そうか。」

 

「「「「(あ、やっぱりそっくりさんとかじゃなくてコーネリアだったんだ……)」」」」

 

 ため息交じりにボソリと言葉を出しながら目頭を押さえるコーネリアにオルフェウスが強く同意すると周りの者たちは『ネリス=コーネリア』とようやく結びつけた。

 

『化粧で人間(ひと)は化ける』とはよく言ったものである。

 

「(さて、どうしたものか……)」

 

 毒島はさっき聞いたスバルの言葉に考え込み、他の者たちも次第に静かに情報過多になっていた思考をまとめていく。

 

「「「「(『周りが笑顔でいられる居場所』……)」」」」

「「「「(『国家はシステム、力や権力も道具の一つでしかない……』)」」」」

「「「「(『道具の良し悪しは使い主次第……』)」」」」

 

「(……やはり彼ら彼女らも思い当たる節があるよう────ん?)」

 

 毒島は周りの者たちの反応を見て面白がっていたが、ふと()()()()()に思い当たると人ごとのようにそれを口に出す。

 

 「果たして彼が……スバルがドアの外にいた者たちの気配に気付かず内心をそのまま暴露するのだろうか?」

 

 「毒島さんもそう思う?」

 

「ッ……だろうな。 彼がそんなミスを犯すとは思えない。 私たちは思っていた以上に負担を彼にかけていたようだな。」

 

 近くにいたカレンのボソッとした質問返しに毒島はハッとして、自分が考えを口にしていたことに気付きながらも相談を続ける。

 

「じゃあ、やっぱりアレって────?」

「────口にするのが不器用な彼の事だ。 多分だが、彼なりの頼り方なのだろう。」

 

「まぁ……スバルって昔から一人で背負い込みがちだしね~……」

「だな。」

 

「「……………………よし。」」

 

 毒島とカレンの二人は何かを決めたかのような表情になると言葉が重なった。

 

 

 


 

 

「……………………………………知らない────ああいや、知っている天井だ。」

 

 俺は目を覚ましながら、地平線に朝日が昇る最中の景色に視線を移す。

 

 体はところどころ痛むが昨日までの状態が嘘みたいにすっきりとしていた。

 心は清々しく、もやもやしていたモノも消えて何時もの平常運転。

 

 敢えて言葉にするのなら、『泥の様に眠った後の状態』。

 

 具体的にはこう……『10ゴールド払った宿に一晩止まってチャララ~♪と気の抜けるトーンが鳴った後にHPMPが全快した上に異常状態もなくなる』的な?

 

 ってポ〇モンセ〇ターは無料だっけ。

 

 まぁいいや。

 

 要するに『めっさ爆睡した!』と言いたいだけだ。

 

 う~ん、鼻歌を歌いたい気分だ~♪

 って、これはもうやったか。

 

 …………………………久しぶりに素振りでもしよう。

 

 ガチャ────ゴン

 

「ぶえ────ふんがああああああ!」

 

 ドアを開けると何かが当たる音と、突拍子もない声が聞こえる。

 

 ドアをこれ以上動かさずに向こう側を見ると、額が赤くなっていたアリスはワチャワチャとしてから落としそうだったミルクコーヒー(ガラス瓶入り)を両手でがっしりと掴んでいた。

 

「……何をしている、アリス────?」

 「────べ、別にアンタの為のコーヒーじゃないからね!」

 

 中身が入ったガラス瓶を俺に投げ渡すと、アリスはまるで文句を吐き捨てるかのように赤くなりながら言い、その場からぴゅーッと走り去る。

 

 ……なにこのテンプレ的な展開?

 

 まぁいいか、頂こう────って、ぬる?!

 

 ホットかキンキンに冷えているならまだしも、『生温い』って……

 

「あ、スバル。 起き────って、え?」

 

 で、今度はカレンが通路の曲がり角からパック入りコーヒー牛乳を手に来たでヤンス。

 

 え? なになになに?

 今日は『コーヒーの日』なのか?

 

「ジー。」

 

「なんだ?」

 

「いんや、そのアンタの手に握られているのってミルクコーヒーでしょ?」

 

「そうだが? 飲むか?」

 

「へ。」

 

 カレンのジト目の視線先にあった、一口ほどしか飲んでいないガラス瓶を俺は持ち上げながらそう伝えると彼女がポカンとする。

 

「……あー、じゃあ一口貰お────ぬっる。

 

「フハハハハハ。」

 

「も、もう! もぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 バシ、バシ、バシ、バシ!

 

「いて、いて、いて、いて。」

 

 俺の乾いた笑いにカレンの『背中バッチン』がさく裂する。

 

 「もう何なの……でも他に誰がコーヒーなんて差し入れを……ブツブツブツブツ。」

 

 地味に痛いが、懐かしくも思えるジクジクとした痛みを味わいながらもそのままカレンはブツブツと何かを言いながらパックコーヒーを飲んでいく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ブン、ブルン。 ブン、ブルン。 ブン、ブルン。

 

 おおおおお。

 

 外に出たら、既に素振りをしていた毒島がいた。

 ここまでは良い。

 

 ただ────

 

 ブン、ブルン。

 

 ────ムヒョヒョヒョヒョ♡

 

 真剣な表情に汗が頬を滴る凛とした彼女が両手で持っていた木刀を振るたびに『サイズ詐欺』としか思えない、程よく整えられた双山が剣道着の下から自己主張するかのように揺れる揺れ────♡

 

 ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 ────アギエェェェェェ?!

 

 わわわわわわわ脇! 脇が! 脇腹! ワイの脇腹がもげるがな?!

 

「……」

 

 あらやだ、ぷっくりむっつりんごのカレンがここに居るばい♪

 とりあえず、ポーカーフェイスは崩さなくて良かった……

 

「どうした、カレン?」

 

「ぁ……ううん、ゴメン。」

 

 え?

 ここで謝るの、カレン?

 いつもなら『別に。 プクー』とかするのに?

 

「……ん?」

 

 カレンがさっきまでつねっていたわき腹を放すと血の循環が戻り始め、俺たちの話声で集中が切れたのかようやく毒島が気付く。

 

「どうしたお前たち?」

 

 今この瞬間ほど、『汗拭きになりたい』と思ったことはナイゾ♪

 オホホホホ、やっぱりD以上じゃないの?♡

 

「目が覚めたので、素振りでもと思っただけだ。」

 

「そうか。 なら────ああ、いや。 君は休んでいてくれ。」

 

 気のせいか、一瞬ウキウキしたのに何か気付いたみたいにハッとして慌てだしたぞ?

 普通なら俺をぼこぼこにするまで付きあわせるのに……

 

 毒島らしくもない。

 

「ああ、それとグリンダ騎士団だが────」

 

 ん?

 

「────勝手ながら君無しで会談を進めたが…私たちアマルガムのことはブリタニアに黙ってくれるそうだ。 その代わり、艦の修理と偽装の為の資源などを少々分けることになったがいいだろうか?」

 

「問題ない。」

 

 おおおおおお! さすが毒島!

 やっぱスゲェェェェェ!

 

『桐原の孫は伊達じゃない!』ってか?!

 

「むしろ感謝したい、ありがとう毒島。」

 

「~~~~。」

 

「ジトー。」

 

 いや、マジで有能すぎ。

 しかも俺無しでアマルガムの運用を────あれ? カレンさんや、何そのジト目?

 

「コ、コホン! それと余程のことをしたのか、『()()()が来れば協力してくれる』とも言ってくれていたぞ?」

 

「グリンダ騎士団がか?」

 

「ああ。 世話係のトトとやらが皇女のマリーベルとオルドリン・ジヴォンの言伝だと。」

 

 よっしゃー!

 ブリタニア版黒の騎士団、ゲットだぜぇぇぇぇ!!!

 

「他には、何かあるか?」

 

「それとは別に、ミルベル博士がグリンダ騎士団のレオンハルトと共にグランベリーに行っているな。」

 

「……ブラッドフォードか。」

 

「知っていたのか。」

 

「以前に、ミルベル博士のことを少し調べたときにな。」

 

「さすがだ。」

 

 セェェェェフゥゥゥゥ!

 やっべ、俺まだ寝ぼけているな。

 

「それと、リア・ファルの主砲だが修理は順調に進んでいる────」

 

 ────ちょっっっっっっっっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ラクシャータとかがいるから光学迷彩浮遊航空艦はまだわかる。

 

 でもまさかあいつら……ロマン砲をマジに作り上げたのか?

 という事は原子力ジェネレーターを作ったのか?

 

 え? 何それやばくね?

 

 フレイヤじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 お、落ち着け俺。

 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。

 

 「あ、慌てている。」

 

 だまらっしゃいなさいカレン。

 

「その……艦のエナジー源は原子力か?」

 

「ラクシャータたちは嘆いていたぞ、“ミルベル博士の所為で無茶できなかった”と────」

 

 でかしたぞウィルバー! 座布団三枚!

 

「────なので今はもとより電磁流体力学を元にした水銀も利用して多大なエナジーを注ぎ込んでヒッグス粒子を崩壊させた、通常より高い電磁気力を無理やり代用している。」

 

 オーマイガッ?!

 

 「あ、もっと慌てている。」

 

 一々声に出さないでくれカレン。

 

ム。 この手の近辺報告は逆効果だったか…… そう言えば体の調子はどうだ?」

 

「すこぶる良いな……背中は痛むが。」

 

「う。」

 

「そうか……まぁ深くは追及しないさ。 ああ、それとエデンバイタル教団のルルーシュに似た少年だが……ユーフェミアが話したがっていたぞ?」

 

 あー、ロロ枢機卿かー。

 

「そこで奴に対抗できる君と確認をしたかったが────」

「────ああ、良いだろう。」

 

「そうか……」

 

 俺も冷凍魔王(笑)と話して確認したかったし、丁度いいか。

 

 でも毒島がやんわりとしているのは気のせいだろうか?

 

 な~んか調子が狂う……

 

「それとだが……スバルはアンジュの……ええと……」

 

 ん? やんわりとした毒島もだが、口籠るのも珍しいぞ?

 

 それにアンジュ関連だと逆に戸惑う話題なんて、今更のような気がする。

 

「……いや、何でもない。 すまない。」

 

「そうか。 後でアンジュを訪ねようか────?」

「────い、いや! いい! 彼女の方から話が来るかもしれんからな!」

 

「そうか。」

 

 変な毒島だな。

 

 あ。 そう言えばコーネリアやオルフェウスのことも聞いておこう。

 

「ピースマークはどうしている?」

 

「とりあえずはリア・ファルに招いているが……マズかったか?」

 

「いや、別に構わないが……ああ、ガナバディが気になるかもしれん────」

「────小太りのインド軍区の奴ならばミルベル博士と口論して意気投合しているぞ?」

 

 “口論して意気投合している”って……

 

 思わず“インド!”って言いたくなるじゃん。

 

 ウィルバーは褐色なだけだけれどさ?

 

 いや~、今日の朝は平和ですなー。

 

 Ha、ha、ha。

*1
*注*自称

*2
*注*自称です

*3
*注*まだ自称です

*4
144話より




ゴールデンウィークなのに待機なんて~♪ 嫌だな~♪ ヾ(;ε;●)ノルンルン♪ 

余談でまとめに少々手こずっております、申し訳ございません。 <(;_"_ )>


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第174話 久しぶりのゆっくりな(?)時間

お読み頂き、ありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです!


『立場が逆転したな。』

 

 リア・ファルの独房でルルーシュに似た少年は部屋の天井からコーネリアの声がすると、強化ガラスの向こう側にいた本人に視線を一瞬だけ映すが興味がないのか、視線を外して目を閉じる。

 

「…………………………」

 

『あの時の威勢はどうした?』

 

「あの時の顔に傷を持つ男────アンドレアス・ダールトンはどうした?」

 

「「…………………………」」

 

 ガチャ。

 

 挑発的な売り言葉に買い言葉をルルーシュ似の少年が返すと、二人の間にはただ静かな時間が流れるがドアが開かれたことでそれは破られる。

 

「ッ?! Y()L()B()0()8()、生きて────?!」

 

 さらにドアの向こう側からおずおずとユーフェミアが独房エリアに入ってきたことでルルーシュ似の少年は目を見開かせながら横になっていたベッドを起き上がる。

 

『────ルルーシュ?』

 

「……」

 

 だがユーフェミアに『ルルーシュ』と呼ばれ、彼は再び興味────というよりは気力────をコーネリアに声をかけられる以前よりさらに失くした様子でベッドの上に寝転ぶ。

 

『どうだ、ユフィ?』

 

『その、非常に似ています。 ですがこう……雰囲気がちょっと違うような……』

 

『“雰囲気が違う”、か。 それはそうかもしれん。』

 

 ピンクちゃんを片手に持ちながらユーフェミアの後に入ってきたスバルの言葉に、ルルーシュ似の少年は反応しなかった。

 

 その様子はどちらかというと、免れない処刑を静かに待つ死刑囚の様なものだった。

 

『“それはそうかもしれん”だと? どういうことだ。』

 

『簡単な話だ────』

 

 スバルは自分たちとルルーシュ似の少年の間にある境界線となっている強化ガラスの近くに立つ。

 

『────彼は、C.C.細胞を埋め込まれた()()()()だ。』

 

『クローン────?』

『────まて、こいつは私に“双子”と言ってきたぞ────?』

『────そうか……ならばアレかもしれん。 “体外受精”というヤツだ。』

 

『確かに、それならば“クローン”と言えなくもないが────』

「────なんだ、知らなかったのか?」

 

 ルルーシュ似の少年はユーフェミアとコーネリアの驚く声やスバルの予想を聞くと、ここぞとばかりにニヤリとした笑みと共にニヒルと皮肉めいた口調で答える。

 

「私()()はお前たち皇族の兄姉や弟妹の()()()だよ。」

 

『やはりな。 名は?』

 

「……LVB-07. そう呼ばれていた。」

 

『“LVB”……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの略か?』

 

「それが()()()()()の名か。」

 

『……“ロロ”や“枢機卿”に“魔王”という単語に覚えはあるか?』

 

「ない。」

 

『……正直だな?』

 

「C.C.細胞のことを知っているのなら、反作用のことも知っているだろう? 先ほどの戦闘で、私は無理やり能力を使わざるを得なかった。 ともに出撃した兄上、CVB-03は反作用で息絶えた……だから私ももう、長くはない筈だ。」

 

『それで大人しく捕獲されたというのか?』

 

「どうせ長くないのなら、ここまでエデンバイタル教団を追い込んだ者たちの顔を拝みたくなってな…………まさか敵に、死んだはずのイレギュラーズがいるとは予想外だったが。 貴重な抑制剤なぞ、私に使うつもりはないのだろう?」

 

『その前に聞きたい、さっきお前はユーフェミアを見て“YLB”と言ったな?』

 

「……そうだが?」

 

『(それにさっきの“CVB”……もしや、“シャルル・ヴィ・ブリタニア”の頭文字?)』

 

 スバルがそう考えていると、先ほどから何か聞きたそうだったコーネリアが代わりに言を並べていく。

 

『さっき、自分のことを“スペア”と称していたが……それはどういう意味だ?』

 

「意味も何も、()()()()だが?」

 

『“そのまま”、だと? ……まさか?!』

 

 ルルーシュ似の少年────『LVB-07』が平然としたままスバルやコーネリアの質問に答えていく様を別の部屋にいたレイラやマーヤ、毒島にアンジュなどの主だった者たちが監視カメラを通して見物していた者たちはコーネリアと同様に顔は驚愕へと変わらせた。

 

『その様子だと、YLB-08は死んだようだな。』

 

 ここで人を見下すような表情をしたLVB-07────否、興味云々より()()()うんざりしていた目に、初めて悲しみに似たようなものが浮かぶ。

 

『その……エルビ(LB)ーさんはそのワイビ(YB)―さんと仲が良かったんですね────?』

『『(────頭文字そのままのネーミング────)』』

「────ああ。 恋人だったよ────」

『(────スルーした?!)』

 

『な、んだと……』

 

 スバルは(ポーカーフェイスのまま)ユーフェミアの言葉に更にスンとなり、コーネリアはギョッとする。

 

『(そういやルルーシュとユーフェミアって初恋の人同士だったよな。) ………………そうか。 ほかにも、お前のような奴はいるのか?』

 

「CVB-03、そしてYLB-08は死んだ。 後は私だけだ。」

 

『それのほかは?』

 

「“成功例”のことならば、そこのコーネリアに似せたCLB型も“かつてはあった”と聞くが……反抗心が強かったので懸念から破棄され、生産も止められた。 質問はそれだけかね?」

 

『エデンバイタル教団の人体実験に関して何を知っている?』

 

「人体実験なら、眼前にいる“スペア”の私たちか?」

 

『いや違う。 外部から連れてこられた子供たちのことだ。』

 

「??? “外部から連れてきた子供たち”? 知らんな、初耳だが……なるほど、道理で『不適合者』の数が思っていたより多かったはずだ。」

 

『(“不適合者”……もしかして、あの量産型エ〇ァ見たいな奴らのことか? だったら……いや、それよりも────)────マオ。』

 

『はいはーい!』

 

 スバルが名前を呼ぶと開いたままのドアの向こう側からマオ(女)がひょっこりと姿を現し、ルンルン気分のまま目の眼帯を取り外す。

 

『う~ん……こいつ、上手く隔離されていたみたいだね。 本当に知らないみたい……単純に“記憶にない”だけかもしれないけれど。』

 

「マオ? ……“読心術のマオ”か。」

 

『LVB-07、お前はブリタニアに忠誠はあるか?』

 

「忠誠? おかしな話を……“忠誠”など、人が人を都合よく利用する体の一つでしかない。」

 

『“盲目的な忠誠と従属に違いはない”、と?』

 

「理解が速いな。」

 

『……もし、C.C.細胞の反作用を乗り越えることが出来たらどうする?』

 

「そうだな……手始めにエデンバイタル教団の関係者どもを殺し、そしてギアス嚮団、ゆくゆくはブリタニアを……」

 

 LVB-07は強化ガラスの向こう側で、どんどんと緊張するコーネリアやそんな彼女を見てソワソワするユーフェミアを見て僅かに笑みが深まる。

 

「などと本気で言うとでも思ったか? 安心しろ、狼狽えるお前たちを見たかっただけだ。 それにそんなことを考えても無意味だと理解している……『いつかは終わりがある』と分かっていても、YLB-08が亡くなった今ではどうでもいい。」

 

『そうか。 なら取引だ、“抑制剤”と言わず“中和剤”を提供する代わりに俺たちに手を貸せ。』

 

「(中和剤? 何を馬鹿げたことを……どうでもいいか。) 良いだろう。 で? 何に手を貸してほしい?」

 

『“社会の居場所を失くした者たちの居場所を作ること”にだ。』

 

「……ははははははは! 私がここでそれを了承し、あとで寝首を掻くかもしれんぞ?」

 

『それは困るな。』

 

『『「……………………………………………………………………………………」』』

 

 コーネリア、ユーフェミア、そしてLVB-07はスバルが言葉をつづけるのを待つ。

 

「……………………まさかそれだけとでも言うまいな?」

 

『そんなことになれば、俺の見る目がなかったというだけだ。 後で中和剤を持って来させよう。』

 

 だが数分ほど待っても何もなかったことにしびれを切らしたLVB-07の質問にスバルは平然としたまま応えてから部屋を退室する。

 

「………………………………………………呑気な奴だな。」

 

 ……

 …

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 別の部屋でやり取りを監視カメラ越しに見ていたアマルガムのレイラ、毒島、マーヤ、アンジュや『万が一の為に』と元イレギュラーズはただ静かにお互いを見ては『どこまで知っているのだろう?』の疑問や、あるいは『またか』という納得感を秘めたアイコンタクトを飛ばしていた。

 

「……昨日、話していた件だが────」

「────そうですね。 彼はやはり優秀過ぎて、一人ですべてをやりがちみたいですね。」

 

「過去の自分を見たか、レイラ?」

 

「あら、それはサエコではなくて?」

 

「えーっと、どういうこと?」

 

「つまり、より早く彼の意図ややろうとしていることを前もって行う必要があるという事だ。」

 

「ええ。 ですので今までの行いや皆の情報をまとめて察するに、全ては来るべき時の為に戦力と組織の充実化をしています。」

 

 ハテナマークを頭上に飛ばすカレンに毒島とレイラが視線を移し、毒島の言葉にレイラが自分の考えも付け足す。

 

「最終目的は昨日のおかげでそれとなく分かってきたが、『過程』が……いや、『現在の目標』が見えん……」

 

「あら、そうでしょうか?」

 

 その場にいた者たちは、不思議そうに周りを見るマーヤへと注目を移す。

 

「どういうことだ、マーヤ?」

 

「あの方はずっと黒の騎士団────いえ、それ以前からなるべく()()()()()()()()()()()()()()()に徹していました。 なら、周りの私たちがすることは簡単になるのでは?」

 

「……つまり、『裏で彼が動きやすい様にすること』と、『彼の代わりにできること』に集中すると?」

 

「ええ。 今までの行動から、かなり遠い未来まで計算をするあまり負担がとても大きいのでそうすれば幾分か楽になるかと思うわ。」

 

「(つまりはどういうこと?)」

 

 カレンが更に困惑する横でどんどんと話は進んでいく。

 

「ならば、彼の成そうとしている動きを察知するために────」

「────その前に彼がどこに行くかを定めて────」

「────それと更に理解することが────」

「────そもそもブリタニアにマーク────」

「────あとは学園とシュタットフェルト家────」

「────それにEUとユーロ・ブリタニア────」

 

 

 

 


 

 

 俺は(『LVなんたら』なんて一々呼ぶのが面倒くさいので(仮)だが)ロロ(仮)との面会後、リア・ファルの技術部で面倒くさいことになっていないラビエ親子とソフィ博士に話を付けていた。

 

「そこで、パイロットスーツの開発を頼みたい。」

 

 話題はもちろん、(俺の)癒しを含めたパイスー(パイロットスーツ)開発。

 

「「「…………………………」」」

 

 紙に描いたラフをマリエルは何とも言えない表情になり、ソフィは安堵するような顔をする。

 

「あー、うん……これはその……なかなかのデザインだね?」

 

「何か問題があるのかマリエルさん?」

 

「さん付けはいらないって! ただその……『やっぱりお年頃なんだな~』って。」

 

「私は逆に普通の男の子っぽいところを初めて見たことで安心したわ。」

 

 それどういう意味、ソフィちゃんや?

 

「いや、まぁ……今までが今までだけに、それはそうだけれど────」

「────もしかして()()()()のか────?」

「「────そうは言っていないでしょ?!」」

 

 俺の挑発的な言葉に二人はむっとしながらムキになる。

 

 計画通り。

 

「あと、ミルベル博士とアンナたちに()()を渡してくれないか?」

 

「……ナニコレ。 KMFに外装?」

「というか、KMF……だよね、これ?」

 

『KMF=ロボット』というのなら、『YES』だが?

 

 ロボットに強化パーツ外装なんてロマンじゃん!

 

 っと、その前に着替えを探して休もう。

 

『グッスリ寝た』とはいえ、体中が痛いのは変わらないし左腕の骨折も治している途中だ。

 

 関節がギシギシ言うし、体中が凝っている。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

 それがどうしてオルドリンに声をかけられる展開になるの?

 

 別に『グランベリーが出発する前に一目見たいな~』とか、『あのハイレグから見える脚線美を見たいな~』とか『ちょっとリアル百合と話してみたいな~』とかほんのちょっとしか思っていなかったでござるよ?

 

 なのに昨日、適当に選んだ空き部屋に戻っているとオルドリンがスフィンクスのようにドアの前で立っていた。

 

「なぜ、そこに?」

 

「えっと、貴方の部屋の前で待っていたら会えるような気がして……」

 

 そう言いながらオルドリンはいつの間にか俺の名前が書かれた名札を指で指す。

 

 指細いな~♪

 

 って、いつの間にか適当に選んだ部屋が俺の自室と指定されとるがな。

 

 というか俺に会う為に待っていたのか。

 

「えっと、人違いじゃないのならいいのだけれど……感謝をしたくて。」

 

 ………………………………………………………………………………?

 全く身に覚えがないぜよ?

 

「その……マリーを守ってくれてありがとう。」

 

 “マリーヲマモッテクレテアリガトウ”?

 

 ボク、意味が分からないよ。

 

「あ、その……」

 

 黙り込んだ俺の様子にオルドリンは言い淀む。

 

 いや、ほんっっっっっっっっっとうに意味が分からないのだが?

 

 「そう言えば路地裏だから暗かったかもしれないわね────」

 

 ──── “路地裏” ?

 オイラ、宇宙少年じゃないぞ?

 

 でも『オズ』で『路地裏』に『マリーベル』と言ったら『ゲットーで強姦未遂』しか思い浮かば────あ。

 

 そういや万が一の為に、アッシュフォード学園襲撃の阻止の為トウキョウ租界に侵入するついでとして毒島にマリーベルの後を付けるように言っていたな。

 

 なるほど、見えてきたぞ。

 

 本当はオルフェウスが助けるところとアッシュフォード学園の襲撃時に、毒島たちが助けたから俺に感謝を言いに来たんだな!

 

 毒島、気が強いと見せつける割に謙虚だからな~……

 ま、オルドリンのプリーツスカート風の軍服姿を拝めたからいいか。

 

 ナイスやでぶっちゃん!

 

「気にするな、大したことはしていない。 ただその……()になる前でよかった。」

 

『トウキョウ租界の視察中にゲットーで皇女がレ〇プされた』なんて報道された日なんて来れば、ゲットーすべてが火の海と化するからな。

 

 マリーベルって、『何もない状態から頑張って這い上がった努力家』だから他の皇族から可愛がられている描写がいっぱいあるし。

 

 あとマリーベルとオルドリンって百合の疑惑(強)だし。

 

 ……『疑惑』って言ってもオズO2で記憶喪失になったオルフェウスにギアスを使わせてオルドリンになった彼と『あっは~んうっふ~ん♡な慰安♪』的なことをしていたと仄めかす会話とかあったし。

 

 後、普通に(ほぼ)毎日添い寝をするか?

 どちゃクソエッロイ薄着を着た者同士で?

 しかも『マリーベルの“不安だからオズをもっと近くで感じていたいの”』からの『オルドリンの“いつも近くにいるからマリー”でマリーベルのうなじを舐める』というシーンがあってか?

 

 ……………………いけね、妄想がエンドレスになっちゃいそうで無理やりここでカット。

 

 まぁ……それ等全部はマリーベルが幼少の頃からずっと引きずっていたトラウマに苛まれながらオルドリンの所為にしたり、罪悪感とか憎悪とかの負の感情がぐちゃぐちゃのドロドロな闇鍋っぽく絡んでいたと思うと、安心感や快感の為の自慰行為とかとあんまり変わらないかもな。

 

 ……それもそれで、問題アリか。

 

「……あ。」

 

 カァァァァァァァァァァァ。

 

 お。

 オルドリン、ようやく俺の口にした『事』に思い当たった様子。

 徐々にゆでだこ状態へと突入。

 

「そそそそそうね! よかったわ、ありがとう!」

 

 アワワと慌てるぐるぐる目のオルドリン、ゲットォォォォ!!!

 

 ムオッホ♡ スカート短かいから走ると見えそう見えそう♡

 

 って俺はト〇ジか?!

 

『同じ変な日本語を使うだろ?』だと? そんなんまぐれに決まっとるがな!

 

 余談だがSIDE:オルドリンの漫画通りなら、オルドリンは『紐パン派』だけれど……『色』はどうなんだろ?

 流石に漫画特有の白黒トーン塗りでは分からなかったし……

 

 ま、いっか!

 

 とりあえず、知っていることのまとめを書いておこう。

 

 

 


 

 

 尚スバルは知らない。

 

 彼の知らないところで様々な人物が独自に動き、彼の評価が勝手に上昇していったことを。

 

 例えばウィルバーだが、『ブラッドフォードの仕上げ』と称してグリンダ騎士団機特有の『ヒッグスコントロールシステム』のデータを集めていた。

 

 コードギアスの世界でKMF騎乗者のパイロットスーツには『生存率を上げる』、『対ショック』や『対G』に『止血機能』などの仕組みを搭載しているのがスタンダード。

 

 だがグリンダ騎士団のきわどいハイレグパイスーパイロットスーツはどちらかというと『派手さ』を追及しているようにしか見えない。

 

 その秘密が、『ヒッグスコントロールシステム』だった。

 

 かなり簡単に説明するとコックピットブロック内の磁場に干渉し、ナイトメア操縦や機動戦に伴う衝撃やGをほぼ相殺するハイテクシステム。

 まだ特派だった頃、第七世代のランスロットの性能を極限まで高めた所為で有能なテストパイロットを次から次へと重傷を負わせてしまった為にロイドが(渋々と)開発した『デヴァイサー生命補助装置』である。

 

 そう考えれば、“テストパイロットを殺していたシェンフーを開発したラクシャータと似ている”とも言えるだろう。

 

 あとはダールトンがエデンバイタル教団から救った子供たちに対し、真摯な『父親役』を買って出たことなど。

 

 とはいえ、何もアマルガム側だけが得を得たわけではない。

 

 例えばマリーベル、そしてユーリアが先日一通り泣いた後にポツポツと話をし始めると流石に聡い姉妹同士というべきか、要点だけを聞けばあとはおおむねの流れを察してはお互いが確認し、二人はテロ事件後に歩んだお互いの人生が空白時間を埋めていったあとは、まるで憑き物が落ちたかのように以前にも増して行動的になったとか。

 

 もう一つの例はユキヤが面白がってグランベリーのOSにプログラムの強化&最適化とロックをしてしまい、グリンダ騎士団のエリスがこれを挑戦と受けて立ったことなど、スバルは知る由もない。

 

 彼はただこれまでの事やこれからの事を覚えている限り、まとめるために静かにコーヒーと────

 

「つ、作り過ぎて! 余ったから! あ、上げる!」

 

「(アンジュの奴、バター使い過ぎ……けどその分、うめぇ。) ああ、ありがとう。」

 

 ────アンジュの差し入れであるマフィンを頬張って考えなどを紙に書いていくのだった。




後書きEXTRA:
ユーちゃん:どうでした、アンジュ?!
アンちゃん:褒められた! ゚*。(・∀・)゚*。
ユーちゃん:きゃ~♪ (*゚▽゚*)
ネリちゃん様:ユフィ……お前、覚えている中で一番ウキウキしていないか?
ユーちゃん:はい! 私にもようやく出来ることが出来ましたのです!
ネリちゃん様:ほぉ?
ユーちゃん:その……優しく(皆さんに指導)してもらいましたから♡ (ポッ
アンちゃん:え。
ネリちゃん様:…………………………もう一度。
ユーちゃん:ですから優しく(皆さんに指導)してもらいました♡ ←満面の笑み
アンちゃん:(((( ;゚д゚)))アワワ
化粧いらないほど真っ白な鬼の形相のコーちゃん:キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!! ヾ(# ゚д゚)ノ


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R2前までの各キャラ+他のまとめ編
『オズ』後、R2前のまとめ (主人公+アニメ)


お待たせいたしました! 次話ではなく、サブタイトル通りのまとめ回です!

こういうモノは初めてですが、『小心者、コードギアスの世界を生き残る』を読み返しながら自分なり頑張って書いてみました!

今回は基本、主人公とアニメで初登場した人物たちと原作の違いなどを書いたモノです!

アニメだけでも登場キャラが多かったので、各キャラの説明を短くしても長くなってしまいました。 (;´∀`)ゞ


 オリキャラ:

 

 ‐スヴェン・ハンセン((スバル)・半瀬)

 前世の記憶持ち(多分&詳細があやふや)で今作の主人公。 自称神様によって『特典』と『普通より少々性能のいい体』で地雷という死亡イベントばかりのコードギアスの世界に転生。 『原作と関係ないところでひっそりと生きる』という方針は従者見習いとして日本の紅月家に単身送られたことで早速方針を『とりあえず生き残る』へと転換する小心者だったが、原作知識でこれから起こるであろう不幸な出来事やすれ違いをよりよい展開に変えていってしまう。 根はやさしく、基本お人よしな男で『ポーカーフェイス』、『優男』などの仮面を使い分けている。

 銀髪赤目の美形、やる時は完全にやりきる主義。 

 過去の文化祭で『シンデレラの姉役』が急遽必要になり、ミレイの頼みで女装することに。 『貴族の高飛車ご令嬢でしかも護身術(格闘技)が得意』*1という事からアッシュフォード学園では同性愛者や『女王様ファン』が増えてしまった。

 

『自称神様』に貰った特典は某奇妙な冒険に出てくるような『認識できる事象の無効化』。 転生先がコードギアスと知ってから、副作用が怖くて使いたがらない故にマイナーな火薬式兵器や他メディア作品のネタ由来の立体起動装置を駆使し、変装を使い分けて当初は『アッシュフォード学生のスヴェン』、『整備班のスバル』、『情報家のスヴェン』の三重生活をこなしている。

 

『どうしてこうなった』、『なんでじゃい』などが絶えない苦労人。

 

 本人は知らないが、『自分の正体がゼロと知ってしまった』人物の割り出しにラクシャータへゼロが依頼した結果、彼の血液データは『ブリタニア本国由来で皇家と似ている』らしい。

 さらに崖っぷち状態からのまるで先回りするような行動でKMFと己がボロボロになっても戦う事をやめない様子から『幽鬼(レヴナント)』とブリタニア側から要注意人物化されている。 本人は知らずに噂を聞いた瞬間『なんだそのSCP、こっわ』と思っている。*2

 

 願望はコードギアス作とは関係ない場所でひっそりとR2エンドまで過ごし、モブ子とイチャイチャすること。

 この『居場所を作る』が周りからは過大化されている。

 

 

 コードギアス(アニメ):

 

 ‐カレン・紅月・シュタットフェルト

 アニメのヒロインその1、今作では主人公と幼少期からの幼馴染でスバルに頼り過ぎた所為で、政治の理解などが遅くなっている上に原作ほど孤独に張りつめていないのでアニメより感情的&ゴーイングマイウェイ。 

 

 自分同様ハーフであり、素の姿を躊躇なく見せられて更に付け足すとスバルがあまり深く考えたり、警戒しなくとも気兼ねなく考えたことをそのまま会話ができる数少ない女性。 

 というか今のところ『オンリーワン』でスバルを一番理解している。

 カレンからすればこれが『普通』であり、彼女自身も自覚ナシ。

 色々あって『黒の騎士団の一員』という事はバレていない上に戦力アップしている。

 

 余談でカレンが焦ったりテンパったりすると日本語で慌てるだけでなく、関西弁も時々出てしまう。 スバルの所為。

 

 スバルの過去を彼からミレイと共に聞いた後からは『何かしてあげたい』と思いながらも歯がゆくどうしたらいいのか分からない。

 

 

 ‐ナオト・紅月・シュタットフェルト

 カレン兄。 アニメでは既にいない人だが幼少のスバルが余りにも人間味が薄かったせいか面倒をカレンと共に見ていた。 彼の身体能力が高かったことで負け惜しみに毒島冴子に彼の事を話してしまった天然。

 アニメでカレンが使用したグラスゴーの奪還作戦でナオトグループのほとんどが亡くなり、彼自身も『カレンには戦いとは無縁な人生を歩ませてくれ』とスバルに託してから自分の居たビルにブリタニア軍をおびき寄せて建物を爆破した。

 

 スバルが内心で『さん付け』している数少ない人物。

 

 

 ‐留美・紅月

 カレンママ。 スバルの日本名の名付け親で彼にとっては母親同然。 跡継ぎの為ナオトとカレンがシュタットフェルト家に引き取られ、自身もメイドとしてシュタットフェルト家に仕えた。 原作ではシュタットフェルト夫人や他の使用人の嫌がらせにナオトを失うだけでなく事情を知らないカレンからの嫌悪感に心身共々追い詰められてとうとう麻薬(リフレイン)に手を付けたが、今作ではスバルのフォローで無事カレンと和解。

 

 スバルが内心で『さん付け』している数少ない人物その2で、スバルが不完全な立体起動装置付きパイルバンカーでナイトポリス相手に生身で特攻を仕掛けさせたきっかけ。

 

 ブラックリベリオン時はスバルから渡された指示通りにシュタットフェルト家を上手くい立ち回らせて他の逃げ遅れた貴族たちを保護し、存続させるという功績を得た。

 

 

 ‐ジョナサン・シュタットフェルト

 名門のシュタットフェルト家当主、外交官。 シュタットフェルト夫人とは愛のない政略結婚され、跡継ぎに恵まれなかったおかげでナオトとカレンを引き取った。 よく家を留守にしがちながらも二人や留美にスバルたちのことを常に気にかけていたが、ブリタニア貴族と夫人の目がある間は公に動けなかった。 ブラックリベリオン後のエリア11では数少ない、有能な文官としてエリアの平定に尽力を入れてブリタニア社会内の権力と発言力が強化されていく。

 

 余談でカレンママ(留美)とは留学時代から相思相愛同士の様子。

 

 

 ‐ルルーシュ・ランペルージ(本名ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)

 コードギアスの主人公。 スバルの暗躍により原作ほど冷徹&残忍&言葉足らずではなくなっている上にシャーリーの父親も殺してはいない。

 ヒントなしで『第三者が絡んでいる』とまでたどり着き、行政特区時には正体をスバルにユーフェミアへバラされて『日本人を皆殺しにしろ』イベントが消された。 スバルから母親の死の真相を聞かされる前に、ブラックリベリオンへの流れを強制的に強いられて一期エンド同様にブリタニアに捕獲されて『亡国のアキト』のジュリアス・キングスレイにされる。

 

『スバル=スヴェン』と知ってからは『スザクに次ぐ友人』とかなり高く評価している。

 

 

 ‐枢木スザク

 ルルーシュの幼馴染、スーパー日本人。 今作では実の父親がナナリーと婚姻関係を結んでブリタニア皇族関係者になることとルルーシュを売るところを止めようとして、無我夢中で撃ち殺した所為で混乱した日本がトラウマ化。 周りは彼の傀儡化を目論んでいた所為で、本人が逃げて名誉ブリタニア人となってもおつむは弱いまま。

 原作同様に『初めて自分個人を愛したユフィをゼロが殺した』と思い込み、ゼロを捕縛してしまうが、過去にスバルの介入などもあってルルーシュがゼロだと知っても『何があっても守ろう』と決めている。

 原作と違い、自ら望んでラウンズ入りしていない上に自己が強いため、原作以上にシュナイゼルからは『危険人物』と思われて厳重な監視対象となっている。

 

 余談で子供の頃は毒島と同じく藤堂の門下生で、彼女に負けていた跳ね返りか『元腕白悪ガキ大将』だった。

 

 

 ‐CC

 コード保持者故に不老不死の不思議ちゃん少女。 変装を解いたスバル兼スヴェンを目撃し、どういうわけか彼に本名だけでなく願いまで知られていたことで興味を持ち、お互い弱みを握っている状態での『同盟者』という協力関係を結ぶ。 出前ではなく都合のいいピザ製造機が生徒会のクラブハウスに居た*3ことで、ポイントが足りなかったのでスバルを脅して『チーズ君』を作成してもらった。

 何気に『手と手を取り合える家族の団欒チーズ君たち』を大層気に入っている。

 

 何故かスバルの周りにいると『不老不死』が適用されなくなることを発見してから更に興味を持ち、彼がギアス能力者でもギアスユーザーでもないことは確かだが()()()()と感じて絡んでいる模様。

 

 現在、生存したマ()を召使のように使役しながらも面倒はちゃんと見て次いでに『ゼロ奪還』の為、黒の騎士団の運用もしている。

 

 原作と違って、本当に『次いで』らしい。

 

 

 ‐ナナリー・ランペルージ(本名ナナリー・ヴィ・ブリタニア)

 ルルーシュの同母妹で目と足が不自由の状態は原作通り。 アッシュフォード学園に入学して間もなく虐めに合いそうなところをスヴェン(スバル)が穏便に解決。 スヴェンを兄やスザク同様に自分を気にかけてくれる『良い人』と認識していた。

 

 ルルーシュがゼロとして更に活動をし始めてよく留守にしている中、『自分では何もできない』と弱っていた彼女は自分の代わりに(ルルーシュ)の手助けをしてくださいと願うが逆にスヴェンは『そこは自分たち兄妹と言うべき』と返し、彼の騎士の誓い同然の“イエス、ユアハイネス”で自分と兄が皇族の身だったことを知りながらも気がついてないフリをするどころかフォローしていたと思い当たって(静かに)泣いた。

 

 

 ‐シャーリー・フェネット

 ルルーシュに想いを寄せている、心優しく不正を嫌う真っ直ぐな活発少女で生徒会と水泳部の両方にかけ持ち所属している。 原作では父親をゼロの作戦で亡くして悲運の道を辿るが、今作でナリタ連山の土砂崩れの正確さが増していた為に父親は無事生存し、ルルーシュとも無事にデートと相合傘が出来た。

 

 

 ‐ミレイ・アッシュフォード

 今作でも面倒見がよく人望も厚い姉御肌は変わらず、スバルの事はナナリーの虐めを未然に防ぐだけでなく穏便に誰もが嫌な思いをしなかった手腕を目撃して生徒会へとドナドナ『全生徒はクラブに所属しないといけない』という理由で加入させた。

 時間が空いている時に生徒会の為に尽くすスバルのおかげで原作よりかなり頭の痛くなる案件がなくなったり、困る案件を片付けてくれる代わりに自身の見事なボディを押しつけるくらいには好感度はかなり高い様子。 カレンと同じくハーフだけでなく、『物心ついた時からほぼ軟禁状態だった』とスバルの過去を知ったことでルルーシュたち相手同様に気にかけている。

 容易に破談が出来ないロイドとの政略結婚に困り、ルルーシュはあまり戦力にならなかったことからダメ元でスバルに相談したら意外と効果的な情報をもらって無事に『婚約者のフリ』をロイド相手と交渉ができている。

 

 

 ‐リヴァル・カルデモンド

 楽天家でルルーシュの悪友。 今作ではスバルと共にバイク乗り&メカニック仲間。

 原作とあまり変わっていない……と思いきや、全力で女装したスバルの『シュゼット』にときめきそうになった黒歴史が追加されている。

 

 尚本人は学校の裏サイトを維持し、『女生徒のスリーサイズ表ウィキ』を作成したが次の日には何故かナナリーとカレンの欄だけが念入りに抹消されていた。 あとついでにミレイのも。

 スバルの所為である。

 

 

 ‐ニーナ・アインシュタイン

 コードギアス最大の地雷とも呼べる『科学の鬼才』で、原作では復讐鬼となって戦略兵器のフレイヤを開発した結果、大勢の命が無差別に消された。

『男性恐怖症』、『暗がりへの恐怖』、『イレヴンに対する偏見』は幼少の頃、金目当ての旧日本人の暴漢に両親を殺されて強姦されそうだったトラウマを今作では持つ。

 フレイヤの開発を防ぐためにスバルは研究目標を『兵器』から『発電』に方針を誘導し、さらには河口湖ホテルジャックではユーフェミアより早く庇った。

 このおかげで『男性恐怖症』は薄れ、原子発電の研究もボチボチ進んでいた頃にブラックリベリオンが発生。

 スバルの代わりに学園から戦闘を追い出す為、稼働可能なガニメデに原子炉のテストモデルを放射性物質散布装置に転換した兵器を搭載して出撃したが、スバルによって説得されて兵器の運用化を止められている。

 おとなしめな性格と人付き合いは苦手のままだが、原子力の兵器転換に関してはシュナイゼル相手でも断固拒否のスタンスを示せるほど、自身の意見を言えるようになっている。

 

 現在は原作通りに研究チームのインヴォーグチーフに任命され、合理的に日本人に復讐する為サクラダイトに代わるエナジー源の原子力の開発を進めている。

 

 

 ‐アーサー

 原作同様にスザクの手足を噛む猫。

 今作ではスバルもよく噛む。

 

 

 ‐扇要

 ナオトの壊滅寸前のグループを引き継いだ天然パーマ男。 原作同様に温厚な性格とそこそこの人望、そして争いごとの元となる意見の対立を教師だった頃の名残で穏便に済ませる『組織に一人は必要な潤滑油』。

 まるで未来が見えるかのようなスバルの事を不気味がって警戒している。 カレンのオッサン化の原因一号。

 原作ではゼロの正体らしきことを口にしたヴィレッタを匿ったが、見事にフラグは折られた。 原作以上に黒の騎士団に力を入れた藤堂の地獄のような正規軍訓練のおかげでより現実的な考えが出来ている。

 

 ブラックリベリオン時に逃げ遅れてブリタニアに拘束されている。

 

 

 ‐玉城真一郎

 ナオトグループから扇グループに変わった際に(自称)ナンバーツーを名乗り始めたお調子者。 根では仲間思いで一度気を許した者に対する信頼を曲げようとしない情に厚い男。

 

 毎度作戦に参加したり出撃したりすると必ず最初に撃墜される……が、毎回生き残って返ってくるどこぞの美味そうなサワードリンク並みの強運を見せる。

 余談でCCとは『お互いを弄る張り合い』をずっと続けられている珍しい人物。

 

 プラント最高評議会議員兼宴会太政大臣(笑)。

 

 

 ‐南佳高

 今作ではゼロがブラックリベリオン時にいなくなる寸前の『命を賭けてもやることが出来てしまった』という一言で原作ほど疑心暗鬼になっていない。

 公式公認のロリコン重度の少女嗜好。

 現在で元イレギュラーズ(年若い少女たち部隊)に会わせてはいけない人物ナンバーワン。

 

 現在ブリタニアに拘束されている。

 

 

 ‐杉山賢人

 暗緑色の髪をした男性。 玉城とは夜の街を徘徊する飲み仲間。 カレンのオッサン化の原因二号。

 原作ではブリタニアに拘束されているが、原作知識の介入で無事に逃げおおせている。

 

 現在、井上と共にエリア11に散らばった黒の騎士団関係者の集結とネットワークの復旧に励んでいる。

 

 

 ‐直美・井上

 後方サポートの指揮官で、カレンやスバルにとっては姉の様な存在。 二人の仲睦まじい様子にホッコリしながらも茶々を入れてはカレンの反応を面白がる。

 

 原作知識の介入でブラックリベリオン時に戦死せず、現在は杉山と共にエリア11内で行動している。

 

 

 ‐吉田透

 上着半袖で茶髪の男性。 カレンのオッサン化の原因三号。

 ブラックリベリオンでは後方支援部隊の隊長として雷光に搭乗し、怒り狂っていたスザクに殺されるが原作知識の介入で生き延びた。

 

 現在、エリア11に他の黒の騎士団幹部たちと潜入して黒の騎士団復興に向けて行動している。

 

 

 ‐藤堂鏡志朗

 ブリタニア軍との戦いで日本軍が唯一金星だった『厳島の奇跡』、『奇跡の藤堂』。

 反ブリタニア武装勢力にとって精神的支柱となる存在……なのだが、自分の所為で多くの日系人がブリタニアに対して各地で特攻攻撃やレジスタンスを止めずに命を落としていることと理不尽なほどの期待を向けられる対象になったことで精神を苛まされていた。

 エリア11になる前の日本ではスザクと毒島冴子を門下生に持ち、当時は無敗で天狗になっていた毒島の見様見真似で出繰り出した三段突きを初見で防いだスバルに興味を持ち始めた。

 スバルが黒の騎士団とは別の組織を作っている事を知り、助力を申し出るが『黒の騎士団に所属したままの方が良い』と言われ、彼に先を見るような指示に評価がさらに上昇していく。

 

 黒の騎士団員たちを逃がす為にブラックリベリオンではギルフォードに一騎打ちを挑み、現在ブリタニアに拘束されている。

 

 

 ‐千葉凪沙

 男勝りな性格の女性で、藤堂に明らかな好意を寄せている。 四聖剣の中で唯一味音痴ではなく、料理も上手。 何気に女子力が高い。

 

 ブラックリベリオンではギルフォードとの一騎打ちに負けた藤堂を救出しようとしたがブリタニアに拘束される。

 

 

 ‐朝比奈省悟

 藤堂に憧れて彼の部下となり、『厳島の奇跡』時の無茶で右眼に傷跡が残るもそれを『勲章』と思う日本軍の男性。 四聖剣の中でもすぐにアツくならず、冷静に物事をとらえる性格。

 無類の醤油好き。 コーヒーに牛乳の代わりに醤油を入れるほど。

 

 現在エリア11にて生き残った旧日本解放戦線や黒の騎士団とのコンタクトを図っている。

 

 

 ‐仙波崚河

 四聖剣では一番キャリアが長い軍人で実戦経験だけならば藤堂以上に安定感のある人物。 味音痴ではないが料理のレパートリーは一部の例外を除いておじいちゃん寄りの胃に優しい物ばかり。

 

 現在エリア11にて生き残った旧日本解放戦線や黒の騎士団とのコンタクトを図っている。

 

 

 ‐卜部巧雪

 青髪の若い男性で、武装組織に必要な総合的能力を見れば四聖剣内ではダントツの一位。 『原作では黒の騎士団がR2まで生き残れたのは単に卜部のおかげ』は伊達ではない様子。

 ただし『明らかに重要性の低い作戦にはやる気が出なくて凡ミスが多発する』という噂もある。

 味音痴で無類の味噌好き。 どれほどかと言うとコーヒーに入れるほど。

 

 現在、エリア11に潜入して吉田と共に黒の騎士団復興に向けて行動している。

 

 

 ‐ディートハルト・リート

 トウキョウ租界支局報道局の元プロデューサー。 状況判断力と推察力に優れている手腕を買われて黒の騎士団の情報全般、広報、諜報、渉外の総責任者に任命される。普段は整備班で地味な働きしかしないスバルが時々ゼロと同等(あるいは彼以上)の活躍や動きをすることがあって警戒している。

 

 原作同様に中華連邦へ逃げおおせているが、今作では一足早く人工島で中華連邦から借り受けている場所を拠点にゼロがいつでも復帰できるように下準備を進めている。

 

 余談で同じく左遷されたジェレミアに酒の席で『そうだ! ゼロには人と人の記憶を操る能力があるのだ!』と言われているが、彼自身は別段それが真実でも気にしていない様子。

 

 

 ‐ラクシャータ・チャウラー

 インド軍区出身の女性技術者兼元名医。 両足を失くした少女(ネーハ)に義肢を移植したことで医療サイバネティック技術を世界中に広めさせた功績を持つ。 ロイドやウィルバー・ミルベルたちとは大学のゼミ時代からの縁らしい。 ランスロットのデータが流通して興味を持ち、『経費? 知らんわそんなもの!』と独自のKMF開発を紅蓮弐式とは別に行ったマッドサイエンティスト。

 スバルから数々の他作品ネタや原子力などを聞き、実現させているマッドサイエンティスト(二回目)。

 操縦技術やその他諸々が面白すぎのスバルに(技術者として)興味を持つマッドサイエンティスト(三回目)。

 “面白ければどうでも良い”と思って黒の騎士団のように支援組織のアマルガムともギブアンドテイク関係を築いている自由奔放なマッドサイエンティスト(四回目)。

 

 

 ‐皇神楽耶

 旧財閥系家門である皇家の当主。

『ゼロの妻』と原作同様に自称しているが、原作と違ってゼロはその提案を断ってはいない。

『勝利の女神』の自称もスバルが毎度遮っていて、それ故かスバルの事をあまりよく思っていない。 桐原の孫である毒島冴子とは幼少からの付き合い。

 ブラックリベリオン後は中華連邦に亡命し、ディートハルトと共にゼロがいつでも帰還できる下準備と、生存した桐原と共に中華連邦のご機嫌取りなどをしている。

 

 今作でも胸部装甲は全キャラ最下位。 ご先祖様らしき皇双葉の様な『身長の割に発育が良い』といった前兆はまだ見えない。

 

 

 ‐桐原泰三

 サクラダイト採掘業務を一手に担う桐原産業の創設者にして、旧日本枢木政権の影の支配者。 敗戦直前にブリタニアの植民地支配への積極的な協力者となったことで『売国奴の桐原』という汚名で呼ばれている。 実際はスザクの父親殺しの隠蔽を孫の毒島に頼まれて一早く最善の結果(敗北)になる様に立ち回る行動をしただけ。

 今作では孫の毒島冴子に対しては重度の孫バカ。 過去に『敗北』を始めて味わって泣きじゃくる毒島の原因である少年を同日に抹消する為に動いたほど。

 その毒島を泣かせたスバルが黒の騎士団とは別の組織を作ることと会った印象で、藤堂同様に彼への評価と期待が高まる。

 キョウトとは別に、スバルの支援組織を個人的に支援している。

 

 原作ではブラックリベリオン時に捕まり、処刑されているが今作では孫の活躍のおかげで神楽耶たちと共に中華連邦に亡命している。

 

 毒島曰く『妖怪ジジイ』で、居合術と抜刀術に関しては(少なくとも)彼女以上。

 

『ひ孫を見るのは何時頃になるかのぅ?』と思いながら今日も政治的暗躍を中華連邦から続けている。

 

 

 ‐篠崎咲世子

 流派・篠崎流の37代目くノ一『自称SP』でアッシュフォード家に仕えるスーパーメイド。 主にルルーシュとナナリーの世話をしていてナナリーをいじめから庇ったスバルとは同じ従者、そして彼が日本人のハーフと勘付いてシンパシーを感じている。

 後にディートハルト直属の『隠密』として雇われるが原作と違って出番があまりなく、ブラックリベリオン時にはディートハルトたち黒の騎士団の幹部を中華連邦に亡命する補佐を(陰から)していた。

 

 

 ‐シャルル・ジ・ブリタニア

 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝。 弱肉強食を唱える実力主義者……は表の姿。

 実は『ラグナレクの接続』という『嘘のない世界の創生』をもくろむロマンチスト。

 というのが『原作の』シャルルなのだが、どうやら彼自身も兄のVVに黙ってルルーシュをブリタニアから遠ざけていたりなど、独自の暗躍を行っている様子が今作ではチラホラとある。

 

 

 ‐シュナイゼル・エル・ブリタニア

 腹黒虚無感男(スバル命名)。 『穏やかな笑みを絶やさない紳士的な人物』とは仮の姿、世渡りの仮面で実際は『欲望や執着心を持たない虚無的な性格』なのだが、ことごとく『未来を読んでいる』としか思えない者の存在*4に見たことも無い機動戦をKMFで行う存在*5によって徐々に興味が引かれている。

 

 スザクやクロヴィスなどの、エリア11に関わった者たちの性格や価値観などが予想していたモノより変わっていることに疑念を抱き、スザクをラウンズに推薦したり彼に監視を付けたりなどしている。

 

 異を唱えるニーナとは別に、フレイヤの兵器開発を独自に進めている様子。

 

 

 ‐コーネリア・リ・ブリタニア

 表側は優秀な頭脳と勇猛さで『ブリタニアの魔女』と世間から評される文武両道の反面、オフでは同母妹のユーフェミアを超が付くほど溺愛している。

『行政特区』から続く流れが原作より違う所為で重傷を負わずに済んだが、逆に謎の組織の一味らしき者たちに追い出されるように生存したダールトンと共にブリタニアの外へと旅立つ。

 

 スバルの似顔絵(クロヴィス作)をユーフェミアが持っていたきっかけに彼の事を知り、現在ではユーフェミアを匿ってくれたことに恩を感じている上にブリタニアと繋がりを持つと思われるエデンバイタル教団の非人道的な行いを暴いたことで評価している。

 

 

 ‐ユーフェミア・リ・ブリタニア

 コーネリアの同母妹で穏健主義、原作では『お飾りの副総督』から空回りばかりしていたが生存したクロヴィスにダールトンやギルフォードにノネットのサポートもあってそこそこの能力を発揮し、次第に原作の様な『周りの言いなり感』が薄れていった。

 スザクの本心を見抜き、彼の痛々しい行いを止める為に堂々と告白する。

 行政特区も当初は宣言しないつもりだったがシュナイゼルの暗躍に言わざるを得ない状況に陥り、『日本人を皆殺しにしろ』フラグを折ったスバルに命を救われる。

 メキメキと家事全般スキルにオペレータースキルも身に付けている。

『お飾りとは言わせません』フラグが回収されつつある。

 

 学生時代ラクロス部だった頃にアンジュリーゼとは何度か会っている。

 現在スバルの黒の騎士団支援組織の『アマルガム』に身を置き、自分の影武者らしき者を看取ったスザクとどうにか会えないかと密かに悩んでいる。

 

 余談でピンク色のハロをスバルから誕生日プレゼントとしてもらって、『ピンクちゃん』と命名している。

 

 

 ‐クロヴィス・ラ・ブリタニア

 アニメでは『総督は看板役者』という考えから民衆に向けて派手なパフォーマンスを行っていただけの総督……だが実はルルーシュとナナリーが亡くなったエリア11初代総督に志願したのは復讐のためだった。

 原作ではそれらをルルーシュに語る前に眉間を撃たれて即死したが、今作では人を殺す行為に戸惑うルルーシュに撃たれるが、代わりに脊髄損傷になり下半身が不自由の身となる。

 バトレー将軍と共にCCとCC細胞の研究を独自に行っていた。

 劇場版でチラリと一瞬だけ出番のあった妹のライラを弱愛するシスコンで、脊髄損傷後そのライラに世話を焼かれて価値観が徐々に変わった。

 過去からコーネリアとは幾度となく衝突し、(物理的に)彼女にボコボコにされたトラウマを持つ。

 ブラックリベリオン後はギルフォードと共にエリア11の平定に尽力を尽くしている。

 妹のおかげで日本の文化好きとなりつつあり、軍港に日本風の軽食屋が出来るほど。

 

 

 ‐オデュッセウス・ウ・ブリタニア

 神聖ブリタニア帝国第1皇子で、『どうやったらこんな人が皇族に生まれる?』としか思えないほど善良で温厚な性格。 相手が非ブリタニア人でも同じ立場の者として気遣う人物。

 原作では『凡庸』と称されているがそれはあくまで『現コードギアス世界の基準』で、生まれてくる時代を間違えた悲運の天然。

 

 他の人と混じって一緒に汗を掻きながら労働することが好きらしく、『ブリタニア皇族としての自覚を!』とネチネチ説教するギネヴィアが昔から大の苦手。

 

『癒し対象』として巨大な非公式な(主に女性で出来た)ファンクラブを持つ。

 

 

 ‐ギネヴィア・ド・ブリタニア

 神聖ブリタニア帝国第1皇女でアニメではきつい性格下目立っていないが、社会構造と価値観が一昔前のコードギアスの世界の中でよくシュナイゼルと比較される上に『女のくせに優秀過ぎる』などの妬みや陰口を日々言われているのが理由。

 更にはオデュッセウスの自由奔放な行動に頭を悩ませている上に『金遣いが荒い』という事情も、戦争や軍事方面に偏り過ぎているブリタニアの経済を動かす為に『貴婦人の鏡』となる為。

 

 地の彼女は兄弟姉妹などの身内には優しい(小姑系の)姉。

 

 密かに『一から這い上がってきた女』の努力家マリーベルを応援し、気にかけている。

 

 

 ‐カリーヌ・ネ・ブリタニア

 原作ではナナリーを毛嫌いして罵っているクソガキだが、原因はマリアンヌが嫌いな貴族出身の皇后たちに自身も影響されているだけ。

 ギネヴィアと共にブリタニアの経済難に頭を悩ませ、素はツンデレで気丈に振る舞うマリーベルに憧れている。

 

 ライラを実の妹のように弱愛していたが、再会したライラが余りにも庶民みたいな言動でショックを受けて『更生』させようとしている。

 

 

 ‐マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア

 ルルーシュとナナリーの母親。 庶民出身だが騎士として群を抜いた能力を見せてラウンズとなり、あとに『血の紋章事件』と呼ばれる事件では新たに皇帝となったシャルルに反旗を翻したラウンズたちを全員一人で返り討ちにさせた。

 原作でも今作でも『最強』と未だに謳われ、『閃光』という肩書は今尚も重くて誰も背負う気にならないほど。

 

 今作ではいまだ名前や過去の武勲だけが語られ、本人は未登場。

 

 

 ‐ガブリエッラ・ラ・ブリタニア

 クロヴィスとライラの母。 貴族出身の皇妃で庶民出身のマリアンヌを他の貴族出身の皇妃たちと共に毛嫌っている。 『選民思想』を自身の娘のライラに植え付けさせてナナリーの更なるいじめを図るがマリアンヌたちを慕うクロヴィスによって阻止されている。

 本人は未登場。

 

 

 ‐ビスマルク・ヴァルトシュタイン

『血の紋章事件』後にマリアンヌが身籠ってラウンズを辞退した後、ナイトオブワンとなった現帝国最強の騎士でシャルルの側近。

 

 

 ‐ジノ・ヴァインベルグ

 陽気な自由人のナイトオブスリー。 KMFリーグの派手な外装を見て完成間近のトリスタンに “角を付けて♪” と技術部に言って泣かせた一人。

『オズ』のレオンハルト・シュタイナーとは幼少からの付き合い。 レオンハルトを文字通り片手で負かし、『シュタイナー家は名前だけのお飾り騎士家』と呼ばれるきっかけを作ってしまった張本人。

 ミントアイスが好き。

 

 

 ‐ドロテア・エルンスト

 黒髪を団子に上げた褐色のナイトオブフォー。 ノネットなどの仲が良い者からは『ドロシー』と呼ばれている。 厳しい見た目と性格に反して『イチゴアイスが好物』という女性らしい一面を持つ。

 

 

 ‐アーニャ・アールストレイム

 最少年でラウンズとなった、長いフワフワピンク色の髪を常に一つ結びにする小柄なナイトオブシックスの少女。

 皇室に出入りできる貴族家の生まれで『行儀見習い』としてマリアンヌたちが居たアリエス宮にいた経験を持つ。

 余談だが、オレンジペコ味アイスが好きらしい。

 

 

 ‐ノネット・エニアグラム

 ナイトオブナインで気ままにして豪放な性格の持ち主でブリタニア側にとっての『皆のお姉さん』。 『男より男前』の気丈さと性格の持ち主で男女両方から好かれている。

 士官学校時代はコーネリアの先輩で、彼女の武はノネットから由来している。

 今作ではユーフェミアの後押しをしたり、スバルの似顔絵と彼と偶然に会ったことなどで興味を持ち始めた。

 実は彼女とスバルはKMF越しに何度か敵対しては毎度決着が付かないで終わっている。 『スバルの動きはビスマルクに似ている』と称されている。

 領地を持っているが、超が付くほどのド田舎。

 ブラックリベリオン時には、変装をしたスバルがKMF同様にボロボロになってまで即席フレイヤのボタンを持っていたニーナを誰も傷つけずに、心からの言葉で解決する勇姿を見せられて心を打たれ、彼を探すような言動がチラホラと。

 

 

 ‐ルキアーノ・ブラッドリー

 ナイトオブテンで、戦う際に見せる残忍さから『ブリタニアの吸血鬼』と呼ばれている。

 EUの大舞台を、スザクは自身にかけられたギアスによってほぼ一人勝ちをしただけでなく『これ(鎮圧)はブラッドリー卿がしたのですか?』と彼の天然の言葉を挑発と受けて目の敵にしている。

 

 

 ‐モニカ・クルシェフスキー

 リボンを巻いた金髪ぱっつんロングヘアで清楚の見た目に反して際どいスリット入りスカートのナイトオブトゥエルブ。

『騎士はどこの民衆や弱者に関わらず何時如何なる時でも守るべき』という高い志しを持つ上に差別を嫌うが、それゆえに苦労が絶えない。

 

『高潔なる騎士』のおかげか、密かに非ブリタニア人の間でも好意的に思われている上に何かとノネットが絡んでくる。

 

 

 ‐ジェレミア・ゴットバルト

『純血派』というコミュニティを結成したオレンジ辺境伯。 原作同様に紅蓮弐式の輻射波動を受けて満身創痍の所をバトレー傘下の研究員たちに拾われて実験適合生体に変えられた。

 酒の席で酔った勢いのまま『きっとゼロには人と人の記憶を操る能力がある』との世迷言を口にしていたが、真に受けたのは同じく左遷されたディートハルトと思い当たりがあったヴィレッタだけだった。

 

 

 ‐ヴィレッタ・ヌゥ

 実力で騎士侯にまで成り上がり、純血派の幹部にまでなったプライドの高くて強気な性格……は、周りの純血派に合わせているだけで根は繊細で温厚な乙女そのもので、行動全ては本国に居る幼い妹や弟たちを養う為。

 今作ではシャーリーの父親は亡くなっていないのにも関わらず、僅かに残った記憶を頼りに独自で『ゼロ=アッシュフォード学園の関係者=ルルーシュ』と結び付けたところを暴走中のブリタニア絶対殺す狂犬(マーヤ)に撃たれて記憶喪失となる。

 扇の代わりにスバル(変装時)が保護し、苦し紛れのネーミングセンスで『ベルマ』という仮の名前を与えられるだけでなく、支援組織が保有する隠れ家の一つをまるごと仮の住まいとして提供する。 『扇の二の舞いにはなるまい!』*6という方針からスバルは距離を置いていたが逆効果で、『スバルがブリタニア人ではない』と悟っては“残ってもいいですよ? エリア11に”とスバル(に変装していたマオ)に告げている。

 ブラックリベリオン時に記憶が戻り、気を失っていたスバル(変装時)を見逃し、ゼロの正体を突き止めた功績として男爵位と機密情報局にスカウトされながらもスバル(変装時)の安全を祈っている。

 

 

 ‐QLキューエル・ソレイシィ

 生真面目な性格で、ブリタニアへの忠誠心が高い純血派メンバー。 本人の能力は高くないがソレイシィ家がかつて内戦状態だったブリタニア共和国の統一と帝国になることに大きく献上した家に生まれたことを誇りに思っている。

 原作ではカレンの輻射波動で死亡したが、今作ではブリタニア絶対殺す狂犬(マーヤ)にナイトメアを強奪された挙句、輻射波動の余波に当てられてジェレミア同様に実験適合生体に変えられて『イレヴン絶対根絶やしにするマン』となった。

 

 現在はギアス嚮団の命令に大人しく従って、裏で動いている様子。

 

 

 ‐アンドレアス・ダールトン

 コーネリアの側近。 『有能ならば出自を問わない』実力主義者で、いかつい見た目に反して戦災孤児を養子として引き取っては育てるなど面倒見がいい。 ブリタニアだけでなく、コードギアスの世界では『相手が誰でも受け入れる程の良識を持った聖人』。 向かってくる相手には容赦はしないが。

 今作では『ナイトメア・オブ・ナナリー』のイレギュラーズとは何度か戦場であっては胸を痛めていた。

 流れが変わった『行政特区』の際に、『コーネリアに真実を伝えろ』というギアスをゼロに掛けられて生存し、コーネリアと共にギアスを追う。

 

 現在、非人道的なエデンバイタル教団の行いを見ては壁を殴って拳を痛めながらも、保護した生き残りの子供たちの面倒を見ている。

 

 

 ‐ギルバート・G・P・ギルフォード

 コーネリア親衛隊隊長で筆頭騎士。 コーネリア個人に対する忠義を第一としている生真面目な性格と騎士道精神の塊。 ブラックリベリオン時に生存したクロヴィスの名を借りてコーネリアが復活するまで防衛の戦力を温存させたことと、藤堂との一騎打ちに勝った功績で『エリア11の準総督』の様なポジションにいるが、行方不明のコーネリアとダールトンの捜索に力を入れている。

 

 ギアスを追う際、コーネリアとダールトンは一瞬だけギルフォードに伝えようかどうか迷ったが、彼の性格が過去の隠密行動時に災いしたことを危惧して黙っていることに決めた。

 

 ギルフォードは泣いていい。

 

 

 ‐バトレー・アスプリウス将軍

 クロヴィスの元でCCとCC細胞の研究をしていたガマガエル禿頭の将軍。 脊髄損傷に陥ったクロヴィスの罪を問われ左遷されたところをシュナイゼルに拾われる。

 

 

 ‐ロイド・アスプルンド

 特別派遣嚮導技術部の主任で、上下関係や社会的タブーに無頓着な自由奔放のマッドサイエンティスト。 ラクシャータやウィルバー・ミルベルたちとは大学時代のゼミの同輩でライバル。

 今作では自分の最新技術や発明がことごとく頭の悪い(ロマン)武器や兵装によって打破やコケにされたり、スザク並みのKMF乗りが敵にいることでしばしば発狂している。

 ミレイとは『ギブアンドテイク』の婚約者ごっこ関係を築き、スザクの頭の悪い(ロマン)ネタを元に『ボタンを押せばKMFが自動操縦で信号の元に現れる』などの開発をしている。

 尚、後輩のセシルが過去で誰かを失くしたことを慰めるような一面もある。

 余談だがノネットとは以前から気が合う者同士で『エニちゃん』、『ロイ』とフランクに呼び合っている。

 

 

 ‐セシル・クルーミー

 大学時代からロイドの後輩兼補佐兼ストッパー役を務めている。

 特派では元々優秀なテストデヴァイサー(パイロット)だったらしいが、過去に何らかの事件以後はオペレーターに専念している様子。

 

 

 ‐ジョセフ・フェネット

 シャーリーパパ。 サクラダイト関連の地質調査を行う役人で、河口湖ホテルジャック事件時にはシャーリーの無関係さを日本解放戦線にニュースメディア経由で訴えていた。 原作ではナリタ連山で帰らぬ人となるが、原作知識介入により生存。

 

 

 ‐カノン・マルディーニ

 シュナイゼル直属の士官で側近。 高い女子力を持ち、オネエ口調で話す男性。 ノネットとは幼少の頃からの腐れ縁で、会うと必ず男勝りな彼女に一言を言っては裏の意味を持つ言い合いに会話が進んでいく。

 

 

 ‐カラレス将軍

 アフリカ戦線では行き違いと不運で都市を丸ごと部下たちが焼いたことで左遷されかけたところを、以前から噂されていた彼の『原住民と衝突することなく自己の領地を穏便に治める』手腕を買われてブラックリベリオン後のエリア11の新総督に就任した公爵兼将軍。 

 視察に来ていた『マリーベル貞操の危機』に『テロによるアッシュフォード学園の占拠』の所為で吹っ切れ、マリーベルの“市民は区別すべき”とギネヴィアの“イレヴンは好戦的で自決や退化の道を自ら選ぶ文化無き猿”という言葉を元に、原作で見たような圧政者に性格が急変した。

 

 

 ‐枢木ゲンブ

 日本最後の総理大臣で『日本が負ける』と悟ってはナナリーと婚約関係を結び、自身はブリタニア皇族の地位に付きつつルルーシュを反皇帝派に売ることで保身を獲得しようとして駆け付けたスザクに討たれる。 死の真相は桐原等によって隠蔽されて『自決』と公表されている。

 

 

 ‐澤崎(さわさき)(あつし)

 中華連邦の傀儡政権の手先としてフクオカ基地を奪取し、独立国家『日本』を宣言し、『キュウシュウ戦役』の発端となったデメキン政治家。 あとに黒の騎士団とブリタニア駐留軍の混雑部隊に拘束され、処刑された。

 

 

 ‐片瀬(かたせ)帯刀

 日本解放戦線のリーダー。 『人を見る目』だけは確かだがそれ以外の能力は高くなく、リーダーになったのも生き残った旧日本軍の中で唯一の少将だったから。

 原作では流体サクラダイトを積んだタンカーで逃亡を図り、ゼロの仕掛けた機雷によって“何事だぁー?!”を叫びながら亡くなったが、今作では中華連邦に亡命して澤崎敦と共に独立国家『日本』に日本解放戦線の残党と共に協力した。

 澤崎敦同様に拘束され、処刑された。

 

 

 ‐草壁(くさかべ)徐水

 藤堂と同じく旧日本軍の中佐で、一方的なライバル意識を向けていた。 扇グループの勝利に刺激されて独断で河口湖のホテルジャックを決行した。

 ゼロからは『古い時代に囚われた人物』、そして『日本解放戦線の価値観』を入手し、自決をギアスで命じられている。

 

 

 ‐永田(ながた)呂伯(りょはく)

 ナオトが最後に計画していた『毒ガス奪取計画』の決行時にカレンと共に清掃員として潜入し、毒ガスカプセルを乗せたトレーラーの運転手を務めていた。 クロヴィスの親衛隊やブリタニアのKMFに襲撃されて重傷を負い、トレーラーを自爆させて死亡。

 

 

 ‐黎星刻(リーシンクー)

 中華連邦の武官。 スザク並みの戦闘能力にルルーシュ並みの頭脳を持つロリコン疑惑者文武両道者。

 今作では原作より少し早く無事に中華連邦に黒の騎士団が亡命してきたことでエリア11に送られる前に少しだけ黒の騎士団の桐原と神楽耶、アマルガムの毒島にスバルと会っている。

 天子の“お友達になってくれますか?”という頼みに対してスバルの真摯な “貴方の望み、しかと聞きました”のおかげでスバルを目の敵にしている。

 

 

 ‐天子(本名蒋麗華(チェン・リーファ)

 中華連邦の頂点に君臨する幼い『飾りの女帝』。 大宦官が政治の実権を握っていることをそれとなく感じているが朱禁城から一歩も外に出たことが無いのでどうしたらいいのか分からない日々を過ごしている。

 自分と同じでコードギアスの世界でも珍しい『白に近い銀髪&赤目』のスバルと目が合ってから、彼と毒島に会って日本の話を聞く間に知識をどんどんと蓄えていく。

 折り紙をスバルたちから教い、『鶴を千羽折ると願いが叶う』と聞き毎日時間があればせっせと折り鶴を折っている健気な性格の持ち主。

 

 

 ‐(ツァオ)将軍

 澤崎を支援し、自身も『補佐』という名目でキュウシュウ戦役に参加した。

 後に逃亡を図るが拘束され、中華連邦からは『独断』と断定されて見捨てられた。

 

 

 ‐マオ(男)

 中華連邦出身で口減らしとして捨てられた過去を持つ。 当時、中華連邦を横断していたCCに拾われて『心魂読解』のギアス能力を発現。 人の生々しい心の声を幼少から聞き、母親同然のCCと共に転々と人気のないところまで移動しながら住んでいた。

 CCをマオ(女)共に追い求めてエリア11に来た際、CCらしき人物をナリタ事変のニュース報道の映像で見て、同じく誘い出されたルルーシュとばったり会ってしまう。

『人を撃つ』に不慣れだったアンジュによって狙撃され、ルルーシュから得た情報を元にCCを原作同様に誘き出すが彼女と同じく心の声が聞こえないスバルを『パパ』と呼んで懐く。*7

 今ではスバルの事を『兄さん』と呼んで慕い、CCの元で彼の協力者となる。

 

 

 ‐VV

 ギアス嚮団の現嚮主を務めるショタジジイ(62-63歳)。 CCと同じくコード保持者で不老不死。

 原作同様に『大体こいつの所為』の様な暗躍ムーヴを度々見せ、行政特区とブラックリベリオンを原作のような流れに外堀を埋めた黒幕(らしい?)。

 ギアス嚮団の支援組織、『エデンバイタル教団』は便利&面白いと思うも頭領であるマッドの事は好きではない様子。

*1
つまりは銀髪ル〇ィアゼリッタ

*2
お前だよ!

*3
スバルです

*4
原作知識です

*5
本人自身もよくわかっていないモノです

*6
アキト:ナイスだ。

*7
スバル:何でじゃい。




次回は『ナイトメア・オブ・ナナリー』と『亡国のアキト』のキャラ+他の予定です! (現状の未完成状態で既に10,000文字数を超えていますが。 (汗))


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ナイトメア・オブ・ナナリー+亡国のアキトまとめ (『オズ』後、R2前)

今回はナイトメア・オブ・ナナリー+亡国のアキトのキャラ+他まとめ回です!

原作のネタバレをなるべく抑えながらも今作で出したオリジナル情報を出してみました…… (;´∀`)ゞ


 ナイトメア・オブ・ナナリー(コミック外伝):

 

 ‐特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)

 原作ではマッド中佐が率いる特殊部隊で占領区難民からギアスユーザーの適性が認められた者たちで固められているブリタニアの特殊部隊。 適合者はどうあっても必ずギアスの反作用で活性化するCC細胞の浸食は一時的に抑制剤で抑えられるが、いずれは100%死に至る運命を持つ。

 今作では細々とした組織の設定が違う。 一例として原作以上に捨て駒の奴隷兵同然の扱いと部隊は実験データを得るためのモノと、大量の捨て駒(遺体)の上に成り立つ『100%任務達成率』を誇る闇の部隊で河口湖ホテルジャック事件時には『アリス含めて残り4名』と数を減らしている。

 

 

 ‐エデンバイタル

 原作では『高次元的存在であり全能の存在』、そしてギアスもこれに干渉した際に起こる現象とされているが、frの実bgqzw■ぇ●rvt☆byぬみこ♨l*1

 

 

 ‐エデンバイタル教団

 原作ではブリタニア帝国の国教の中枢でギアス研究機関。 つまり母親と共に亡くなったVVのいない『ナイトメア・オブ・ナナリー』世界でのギアス嚮団。

 今作ではVV率いるギアス嚮団の支援組織兼CC細胞の採取施設兼『実験体の再利用化機関』。 表舞台を去ったマッドを最高責任者に、フィクションの暗黒機関並みに闇が深く、胸糞が悪くなるような非人道的行いをしていた。

 適合者やブリタニア軍の志願者たちなどと表の闇舞台から更に隔離された(ギアス嚮団が以前使っていた)地下都市の閉鎖空間では主に不適合者や好ましいギアス能力を発現しなかった者たちを『再利用化(意味深)』やギアス嚮団の為となる処置の実験などを行っていた。

 脳手術、筋力や知能低下剤に孤児虐待、何でもござれ。

 

 

 ‐CC細胞

 コミック外伝でのCCはその昔、百年戦争中に見せた数々の戦術と武勇から『ブリタニアの魔女』と恐れられたが『フランスの魔女』の『ジャンヌ・ダアク』と密かに繋がっていたブリタニアに売られ、処刑されたが『ジャンヌ・ダアク』の呪いによって不老不死と変えられていた。 そのCCの細胞を摂取し、移植してから適合者となると『ギアス』という超能力を発現できる。

 今作のCC細胞の出所は『魔女のCC(セラ)』ではなく、別作品の『漆黒の蓮夜』で登場した元ナイトオブワンと同名の『クリストファー・チェンバレン』と発覚し、適合者も必ずギアスを発現できるとも限らない。

 尚ギアスを使えば使うほど致命的な反作用が体を侵食し、死に至る点では共通している。

 原作同様に抑制剤はCC細胞による浸食を『中和』するのでなく『遅くさせる』だけだが、『浸食に苦しみながらすぐに死ぬ』よりは遥かにマシである。

 

 

 ‐ワイヤード

 コミック外伝ではCC細胞の移植無しでもギアスを使える者たちのこと。 ギアスを使ってもまったく反作用がなく、単語は『繋がりし者』を示す名称。

 

 

 ‐アリス

 アッシュフォード学園の金髪ツインテ赤目の中等部生徒で、ナナリーの親友。

 とは仮の姿で、実際は特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)の一員。 ミレイを通じてアッシュフォード家を監視することが潜入任務の目的だったがナナリーがかつて失った妹と酷似していることで情が移る。

 原作ではナナリーの騎士となった。

 尚今作ではナナリーの事を自分と同じく気にかけているスバルに何かと突っかかっている。

 

 後にアッシュフォード学園に入学するクロヴィスの妹ライラの護衛任務も請け負う内に多種多様な『加重力による超高速移動』を可能にする『ザ・スピード』の能力を酷使され、CC細胞の浸食に悩まされていたところに元イレギュラーズのマオ(女)がエリア11に来たと聞かされて抑制剤を餌に排除するよう命令され、スバル(変装時)と遭遇する。

 ヤケクソになってはスバル(変装時)の手を噛んだことがきっかけで、彼の血液に『CC細胞の中和効果がある』ことが発覚する。

 

 そのことを鼻にかけることも無く、まるでおとぎ話に出てくるような『善意で他人の為に』と行動するスバルを(無意識のうちに)見直しては(無意識のうちに)認識が変わっていく。*2

 余談で挑発への買い文句として思わず『スバルは信じている』と口にしてしまい、ツンのデレを意識し始めてしまう。

 

 

 ‐サンチア

 イレギュラーズの年長者でリーダー格の上に、元はブリタニア正規軍からの志願者で階級は大尉。

 生物気配と動向を察知できる『ジ・オド』のギアスユーザー。 幼いころから軍に身を置いていただけに優秀な上その分厳しい態度……なのが板に付き過ぎていることが密かな悩みとなっている、割とお年頃(16歳)な黒髪セミロングの少女。

 

 マオ(女)とは一応同期となる。

 

 

 ‐ダルク

 身体強化の『ザ・パワー』のギアスユーザー、褐色活発アホの子脳筋少女。

『噴射装置などを使わない輸送システム』の発射装置。 *3

 余談、ホラーが苦手で大食い。

 

 

 ‐ルクレティア

 KMFファクトスフィア真っ青なほど精密な地形の解析と把握する『ザ・ランド』のギアスユーザー。 ニコニコおっとりな性格と言葉使いのシルバーロング少女。 サンチアのギアスのシナジーでイレギュラーズの副官っぽいポジション。

 

 

 ‐マッド・カニングハム

 今作ではイレギュラーズの実行指揮官であると同時に、ギアス嚮団の支援組織であるエデンバイタル教団の最高責任者、そしてロイドやラクシャータたちが居たゼミの元教授。

 あらゆる学会や業界では革命的な技術やサクラダイトの応用で名を広めていたが、暗殺未遂にあってからは更にネジが飛んだような非現実的な論文などを訴えていき、スポンサーや社会から見放されて表舞台から姿を消した。

 何度も『死』が確認されているが、何故かひょっこりと再登場を成せているマッドサイエンティストの中のマッドサイエンティスト。

 作中では『器』と呼ぶものをVVへの切り札として探していた様子があった。

 

 VVと決別後、逃亡中にキューエルらしき人物に捕縛されるようなシーンがある。

 

 

 ‐エカテリーナ・スフォルツァ

 名門スフォルツァ家の長女でアッシュフォード学園の中等部。 原作同様に他の者たちと違い、彼女に媚を売らないナナリーにイラついて虐めようとしたが、スバルの介入で虐めは未遂に終わる。

 さらには彼の女装時の『シュゼット』が余りにも『理想的な貴族令嬢』だったことに感激し、慕うようになった。*4

 

 

 ‐マオ(女)

 元イレギュラーズの脱走兵で、今作でも『CC細胞』の元凶と思っていたCCを偶然中華連邦で会ったマオ(男)と共にエリア11へと追った赤目+白に近い銀髪少女。 相手の神経(シナプス)を認識し、改編するギアス『ザ・リフレイン』のユーザー。

 

 マオ(男)を狙撃しようとしていたスバルと遭遇し、彼にギアスを使うが不発どころか『反射からの無限ループ』の様な現象にあって昏倒し、抑制剤の制限時間を超えても死ななかったことでスバルの協力者になり、彼のことを『お兄さん』と呼ぶ。

 

 移植適合者の中でもギアス能力の開花がすぐに観えなかったため、エデンバイタル教団の『再利用化処置』を受けるが、その途中でギアスに目覚めた。 この経歴故か、『自由』を何よりも望んでいる為にエデンバイタル教団からは脳手術を施されている。

 元々か、あるいは精神が壊れた所為かメンヘラ(ヤンデレ?)気味で、スバルを崇める『スバル教』の異端審問官と化している。

 

 

 ‐LVB-07(原作ではロロ・ヴィ・ブリタニア枢機卿と呼ばれていた)

 原作では『ブリタニア国教のエデンバイタル饗団枢機卿でありルルーシュの双子の弟』という記憶と人格を植え付けられたクローン。

 今作では自分が“スペア(クローン)”であることとCC細胞の移植によるギアスユーザーである事を最初から知り、ユーフェミア型のYLB-08とは恋人同士だった。

 全てを凍らせる『ジ・アイス』のギアスユーザーで、力の応用では時間をも停止可能。

 YLB-08がユーフェミアの代わりに死亡したと悟り、悲しさを超えて自暴自棄状態だった所をスバルたちに捕獲されてCC細胞の中和剤の提供の代わりに『皆の居場所作り』の協力を頼まれる。

 

 

 ‐YLB-08(エデンバイタル教団所属の今作オリキャラ)

 ユーフェミア型の“スペア(クローン)”。 何の因果か、過酷なエデンバイタル教団の環境内で慰めを求めた結果、LVB-07とは互いに惹かれ合って恋人同士となる。

 それはオリジナルのルルーシュとユーフェミアのように、長くは続かずYLB-08は『行政特区』時にスバルの組織に匿われたユーフェミアの代用品として『虐殺皇女』として送られ、ユーフェミアを馬鹿にしたような行いに激怒したゼロによって致命傷を受ける。

 自分をユーフェミアと思いこんで保護したスザクに『自分はユーフェミアではない』と伝えようとするが、言い終える前に息を引き取った。

 

 

 ‐CVB-03(エデンバイタル教団所属の今作オリキャラ)

 LVB-07からは“兄上”と呼ばれ、ゾンビのようなKMFの原因と予測されている。

『一度滅んだモノを蘇らせて意のままに操る』という現象はナイトメア・オブ・ナナリーの『ザ・デッドライズ』のギアスと酷似しているが、『ザ・デッドライズ』を保有していたのは『神聖ブリタニア帝国』を『聖エデンバイタル教国』へと国号を改めた“絶対皇帝シャルル聖下”だった。

 

 

 亡国のアキト(OVA):

 

 ‐ユーロ・ブリタニア

 フランスの市民革命により亡命した貴族の末裔が元領地(EU)を奪還するために立ち上げられ、神聖ブリタニア帝国に臣従する国家。

 

 ‐wZERO部隊

 現状のEUが保有する軍事力と戦略ではいずれ負けると悟ったレイラ・マルカル少佐の発案によって立ち上げられたKMF遊撃部隊。

 だが政治的理由で、EU内部の腐敗した政治家や汚職に手を染めている軍上層部にとっての不穏分子などを集めて左遷したり、そしてEU兵士の代わりに強制収容所などから()()した日系人を主体とした特攻部隊へと発案からはほど遠い姿形に変えられた。

 今作ではスバルの介入によりEUからは『トカゲの尻尾切り』に遭うも大勢が生き残り、そのまま彼の組織に鞍替えした。

 

 

 ‐『アポロンの馬車』

 コードギアスの世界で初といってもいい『大気圏離脱式超長距離輸送機』。 つまり『宇宙ロケットによる物資搬入』。 EU政府にとって保持するだけで金食い虫だったところを、wZERO部隊の遊撃方法に再利用させた。*5

 

 

 ‐EU内のイレヴン用ゲットー

『日本がエリア11とブリタニアの支配下に置かれた際に、EU国内に住む日系人たちがブリタニアの間者や手先となることを恐れた市民に政府が応えた際にできた各隔離所。』

 というのは建前で、実際は日系人たちの人権剥奪と財産没収し文字通りの『家畜以下の存在』にしたエリア11のゲットーより悲惨な『強制収容所』。 過失傷害どころか強盗、殺人、暴行、強姦、堕胎などのありとあらゆる、『社会が良しとしない非道』は日常茶飯事。

 

 

 ‐日向アキト

 OVAの主人公で、EUで生まれ育った日系人の青髪三つ編みポニテ少年。 元はEUでもそれなりに領地を持つ貴族家系内で育ち、異父兄のシンとは非常に仲が良かった。 シンが父親を殺してギアス能力者となった日に『死ね』という命令を受けるが幼過ぎて概念を理解できずに不発。 以後は『死ぬために』軍人となる。

 今作ではスバルが『シュバール』と呼ばれるきっかけとなり*6、自分を理解してくれる彼を『第二の兄』のように慕っている。*7

 原作では『クールで不愛想』だったが、実は他人との接するのが怖くて黙り込んでいた。

 今作では色々あり、根は寒いダジャレをしたりするも他人思いの年相応で天然な少年と、より早く心の蓋が取り除かれている。

 

 スザクが『“生きろ”という呪いを受けた天然の超人』であればアキトは『“全力で死ぬため”の呪いで努力して超人となった人間』。 KMFを生身で撃墜したスバルを見て、自身も頑張っている内に能力を更に開花していく。

 

 原作と違ってレイラではなくアヤノと恋仲になった様子。 スバルはこのことをまだ知らない。

 

 

 ‐レイラ・マルカル(本名レイラ・フォン・ブライスガウ)

 EUの特殊部隊『wZERO』の提案者にて参謀、後に司令官となるツインテ金髪公式公認の紐パンでナイス太ももの少女。

 亡命したブリタニア貴族の出で、貴族の血を欲していたマルカル家の養女となる。

 過去にテロ事件に巻き込まれて瀕死状態の所を、気まぐれに通りかかっていたCCと契約を結ぶが本人は夢と思って完全に忘れていた。

 最初は無断で『傭兵のシュバール(スバル)』と正式な契約書がwZERO部隊の前司令官が結んだことに不満を持っていたが、彼の多種多様なスキルと経験に知識などのおかげで部隊の総合的な戦力に士気が上昇したことと、同い年(17歳)ということにショックを受ける。

 原作同様にルルーシュ並みの頭脳持ちだが世間知らずで感情的になると手が先に出るところをスバルにフォローされたり、司令官や兵士に必要なノウハウなどを習い、何気に極限状態のスバルが一心不乱に思う『死ぬわけにはいかない!』を直に目撃した。

 ヴァイスボルフ城の防衛戦時にはスバルに『死刑宣告』と同等だった『時間稼ぎ』を命じ、彼の『別に殲滅してしまっても構わないか?』と生き残った後の『お前が必要だ』が心に響き、彼を意識し始めてしまう。

 

 現在は毒島冴子の誘いに乗って、スバルの組織『アマルガム』の現場指揮官兼艦長の座に就いて彼女なりにスバルの意図を察してはサポートすべき行動している。

 

 

 ‐佐山リョウ

 EUで生まれ育った日系人。 言動や性格は一昔前の『昭和辺りに描かれた漫画の不良』そのもので、ゲットーという名だけの『イレヴン用強制収容所』から他のモノたちと一緒に脱走し、アンダーグラウンドで活躍していたところを既在するマフィア組織などに目障りと感じられ、抗争へと発展する。

 グループがようやく自分含めて三人だけになったところを毒島冴子が接触し、完成度の高いスマイラス将軍の襲撃&誘拐を決行する。

 原作と違って襲撃時には無事に逃げ、ヴァイスボルフ城にたどり着いてはwZERO部隊に志願兵として入隊する。

 今作では毒島の事を『スゲェ姉御』、密かに『居場所』を作ろうとしているスバルを『スゲェ兄貴』と内心で慕っている。

 

 

 ‐成瀬ユキヤ

 情報収集やハッキング、自前で爆発物を作るなど『工作員』としては十分以上に能力を持つ少年。 アムステルダムの強制収容所では他の旧日本人学生の過激ないじめの対象となり、左手もほぼ真っ二つに切断された過去を持つ。

 過剰な人間不信となり、自分のいた収容施設をまるごと爆破してEUの警察から逃げていたところをリョウのグループに保護され、初めて『家族』と思える者たちと触れ合う。

 悲観的で状況を常に客観的に見ているが、『家族』の危機になると自分の命さえも捨てきれるほど激情的になる。

 

 一歩間違えば、どこぞの仮面のように個人で終末戦争を仕掛けていたかもしれない。

 

 リョウ同様にワイバーン隊に志願する。

 

 スバルの『自分より他人を優先する』スタンスを見て長らくは不信に感じていたが、ようやく彼をも『家族』と認めた。

 

 余談だが『他人弄り』が趣味で、アヤノを弄る乗りのまま思わずカレンをからかって撲殺(物理)されそうになり、初めて内心が冷や冷やしたらしい。

 

 

 ‐香坂アヤノ

 リョウたちの仲間で15歳と最年少に不相応なレイラと同等の抜群なスタイルを持つ少女で、リョウたちからすれば妹。 祖父から譲り受けた日本の話や文化に小太刀の所為か近接戦はかなり強く、毒島も才能を認めている。

 アヤノとはスタイルが正反対の姉がいたが、二人を養う為に娼婦として活躍していたが他の日系人からは『売国奴』としてみなされてなぶり殺された過去を持つ。

 振る舞いは身体もあってか大人びているが、感情的になると年相応のモノとなる。

 小太刀の銘は豊臣秀吉の枕刀である『蜂屋長光』で、毒島が聞いた際に手入れや使い方の指導を血走った眼で無理やり叩きこみ、アヤノに小太刀が如何にどれほど大事なものか理解させた。

 

 リョウとユキヤと共に原作の徴兵と違い、志願兵としてワイバーン隊に入隊する。

 

 原作同様にアキトの事が気になり、今作では彼と寄り添う内に恋心が成就した。

 アキトの寒いダジャレに頭を痛めながらも、二人はお互いを大事に思いながら戦場を駆け抜ける姿にリョウはジーンときたそうな。

 

 

 ‐タカシ & イサム(今作のオリキャラたち)

 wZERO部隊のオリジナルワイバーン隊の二人。 原作ではナルヴァ作戦でアキト以外全滅したが、スバルの介入で軽傷だけ受けて最後まで生き残る。

 

 

 ‐クラウス・ウォリック

 野原ヒロシwZERO部隊の副司令で中年男。 過去はちゃんとした軍人で賄賂などの汚職を見れば告発していたが、娘の病で急遽金が必要になり汚職に手を付けようにも門前払いを受けた所為で良くも悪くも現実主義になり、EUの腐敗が末期症状と理解してしまっている。

 悲観的な彼はシュバールの頑張りなどを見ては内心うんざりしていたが、次第に明るくなっていくwZERO部隊の様子に少しずつ希望を持つと同時に内通者であることに罪悪感を持つ。

 後に娘のノエルの病の治療費などをすべてNACが肩代わりしてくれると言った毒島の前では人目を気にせず涙を流し、今ではアマルガムの一員として久しぶりに頑張っている。

 

 余談だが娘のノエル曰く『パパのくつしたはどくがすへいき』らしい。

 

 

 ‐オスカー・ハメル

 ヴァイスボルフ城の警備隊長で、生真面目な性格と正義感から実績を挙げて軍の改革を意図していた所為でwZERO部隊に左遷転属された。

 今作では『傭兵』のスバルや怪しすぎる『志願兵』のリョウたちを信用していなかったが、行動していく内に『仲間』と認めるようになった。

 

 なおスバル教官のスパルタ訓練では何気に一番根性を見せていた。

 故にヴァイスボルフ城10週を追加された。 

 

 花村ハメルは泣いていい。*8

 

 

 ‐ピエル・アホウアノウ

 wZERO部隊の前司令官。 軍上層部からは『日系人たちを有効活用しろ』と命じられて主に特攻作戦をwZERO部隊に行わせていたクズの中のクズ男。 暴言や凶行、酒癖の悪さなどの酷さに補給部隊へと転属される際、『相手が転属を認めない』などの一悶着を起こした人物。

 ナルヴァ作戦が決行される前に、城の近くにある村で泥酔していた彼にスバルは接触し、『部隊支援の傭兵』としての契約書を結ぶ。

 こいつがいなければ、スバルの穏便な『亡国のアキト』への加わりと介入は他の道を辿っていただろう。

 

 

 ‐ソフィ・ランドル

 脳科学者で民間人の協力者として雇われている白衣が似合うムチムチボディの既婚者。 『世界や宇宙の構築や観測は観測者の認識によって確立する』という研究の一環で『他者と脳を同調させる』ブレインレイドシステム(BRS)を作った。

 本来はニューロデバイスというチップを対象に埋め込まなければいけないが『コードギアス版サイ〇ミュシステム』に興味を持ったスバルのおかげ(所為?)で頭に装着する検知機タイプに変わった。 尚スバル本人のBRS適正は『測定不能』。

 日本に留学したことがあり、夫もそこで出会っている。

 余談で超が付くほどの日本マニア。

 

 

 ‐ジョウ・ワイズ

 ソフィの助手で大の甘党の気の小さいデブ男。 スバルの手作りのお菓子に甘さが足りないことに不満を持つ。

 

 

 ‐アンナ・クレマン

 EUでは初となるKMFアレクサンダの開発者で、レイラの旧友の紫ロングウェーブの貧乳少女。 クレマン・インダストリーの令嬢であり、本職は昆虫学者。 12歳で『面白そうだから』とグラスゴーを解体、フロートシステムやブレイズルミナスも見ただけで理解し、実用化できる天才。

 今作ではスバルの介入で変わっていくレイラを応援しているが、レイラからは逆にアンナとスバルの仲を応援していると本人は知らない。

 

 アンナから見たスバルは『突拍子もないアイデアを出す面白い人』なので、レイラはあながち間違ってはいない……かも。

 

 物珍しさにスバルの持ち込んだKMFを無断で解体した犯人一号。

 

 

 ‐ケイト・ノヴァク

(スバル曰く)ポニテ超ミニ短パンサイハイソックス活発学者。 ソフィの部下で彼女ほどではないが日本に興味がある。

 ダイフクが大好き。*9

 

 

 ‐フェリッリ・バルトロウ

(スバル曰く)ボンヤリショートカットショートスカート不思議ちゃん科学者。 ケイト同様にソフィの部下で眠そうにしているのは低血圧の所為。 それ故かいつも『のんびりしたい』と思っている。

 何気に看護師の免許を持っている。

 

 

 ‐クロエ・ウィンケル

 押しに弱い、カチューシャふんわり小型動物系技術者少女。 アンナの助手同士のヒルダとは姉妹のようにテキパキと作業を進められる。

 余談でどれだけバカ食いしても大きくならない。 胸や尻が大きくならないのも悩み。

 物珍しさにスバルの持ち込んだKMFを解体した犯人二号。

 

 

 ‐ヒルダ・フェイガン

 眼鏡黒髪ロングパンスト委員長系技術者少女。 クロエと共にアンナの助手を務めている。

 余談で小食なのに大きくなっていく一方に困っている。 主にサイズの合わなくなった服装とか。

 物珍しさにスバルの持ち込んだKMFを解体した犯人三号。

 

 

 ‐サラ・デインズ

 紫ロング&褐色超ミニ軍服のオペレーター。 wZERO部隊では元々軍属から転属したので軍人としての訓練経験がある。

 現在はアマルガムの航空浮遊艦『リア・ファル』の総舵手を担っている。

 

 

 ‐オリビア・ロウエル

 金髪の三つ編みお下げそばかすオペレーター。 サラ同様に元々軍属で、そばかすが若干コンプレックス。 現在はアマルガムの航空浮遊艦『リア・ファル』のオペレーターを担っている。

 

 

 ‐ジィーン・スマイラス

 EUの将軍でレイラの父親の親友。 彼が亡くなった後はレイラを何かと気にかけていた。

『自身の野心に利用できるその時までは』という前提付きだが。

 内通者であるクラウスからwZERO部隊の情報をユーロ・ブリタニアのシンに渡す代わりに、EUの掌握時に不可侵条約を結んでいたが、シンがヴァイスボルフ城を攻めている事を知りユーロ・ブリタニアを侵略。

 原作では時空の管理者に脅されて謎のワープで登場したアシュレイによって殺される。

 今作では謎の人物に見限られるようなセリフと場面があり、その直後にユーロ・ブリタニア側からの砲撃によって死亡する。

 

 

 ‐ヨアン・マルカル

 マルカル家の三男でレイラの義兄にして婚約者のチンピラ(またはチャラい)風の男。 レイラには『お前を妾にしてやる』などの言葉を贈るが実際は大事に思うだけでなく、彼女を守りたいと思っているが、レイラが自身の能力の限界以上に優秀なことに悲観的なイラつきを感じていた。

 

 

 ‐ダニエル・マルカル

 ヨアンの実兄で、銀行を経営している。 弱気のデブ。

 

 

 ‐ステファン・マルカル

 ヨアンの実兄、工場を経営している。 弱気のノッポ。

 

 

 ‐ブラドー・フォン・ブライスガウ

 レイラの実父。 ブリタニア帝国の貴族だったが選民意識主義に反対したことの報復を恐れて亡命し、政治活動を続けた結果支持率は一気に膨れ上がり、親友のスマイラスに爆弾テロを装った暗殺に遭って死亡する。

 

 

 ‐クラウディア・ブライスガウ

 レイラの実母で、容姿は歳を重ねたレイラそのもの。 夫を批判するどころか支持し、夫がテロに遭った直後レイラと共に市街地の外にある森にまで逃げきれたところで乗っていた自動車が攻撃され、レイラを庇い息を引き取る。

 

 

 ‐シン・日向・シャイング

 アキトの異父兄で、今作では父親に殺されそうになったところを返り討ちにした境にギアス能力者となると同時に『愛すものの死=救い』という考え方の呪いを植え付けられる。

 ユーロ・ブリタニアに来た元ナイトオブツーのミケーレ・マンフレディに拾われ、名家シャイング家の養子となるだけでなく義妹アリス・シャイングとの婚約によって、シャイング家後継者として内定されていた。

 その経歴故か、捨て子の保護などをして周りの義妹のアリスや義母のマリアに兄弟同然のマンフレディとは心から想っている。

 今作では色々と変わっている所為で自らのギアスの源である両目を抉りだして呪いを自ら解呪し、アキトとも和解するだけでなく生存しているアリスとマリアと部下のジャンとも再会を果たしている。

 

 現在は亡くなった両目の代わりとなる義眼の入手と移植の準備が整うまで中華連邦からアマルガムが借り受けている人工島で休養している。

 

 

 ‐ミケーレ・マンフレディ

 元ナイトオブツーでユーロ・ブリタニア宗主のヴェランス大公と、アンドレア・ファルネーゼとは旧知の知り合い同士。 ナイトオブツーを辞退した際にラウンズ専用のKMF『サグラモール』を持ってきたことでユーロ・ブリタニアの技術は数十年飛躍し、無人機KMFの開発などが捗った。

 シンに自害を命じられ、『サグラモール』は『ヴェルキンゲトリクス』と名称を変更された。

 

 

 ‐ジャン・ロウ

 捨て子だったところをシンに拾われた恩を返す為にユーロ・ブリタニアの兵士&参謀となった……は建前で実際は彼に一目惚れした所為。 絶大な忠誠心と愛情故に『ヒュウガ様(シン)とならば地獄でもついていく』と盲目的に思うほど。

 今作では重傷を負わなかったユキヤに説得され、生存している。

 

 現在は同じく生存したアリスと共に休養しているシンの世話が出来ることを嬉しく思う反面、『シンにとっての一番』になりたいとも思っている。

 

 

 ‐アシュレイ・アシュラ

 ユーロ・ブリタニアの騎士で孤高の柴犬狼。 実際に捨て子で狼に育てられた浮浪児だったところをシンに拾われる。 『運』をこれ以上ないほど信じている所為でロシアンルーレットをよくする。 実弾を装填してリボルバーで。

 部下にはいつも苦労を掛けている。

 

 現在部下たちと噂の『幽鬼(レヴナント)』であるスバルの元で面白がって活躍している。

 

 何気に余談でアヤノのアキトに対する恋心を後押しした人。

 

 

 ‐ヨハネ・ファビウス

 アシュラ隊の金髪少年騎士。 原作ではギアスで暴走したアキトによって追い詰められたアシュレイを庇って死亡し、彼の死がアシュレイを復讐鬼に変えた。

 今作では目の重傷によって騎士としての務めが難しいと軍医からは宣言されている。

『怪我人』という事でアシュレイの運試し(ロシアンルーレット)から除外されていることで複雑な気持ち。

 

 

 ‐シモン・メリクール

 中性的な顔立ちをしている黒髪ロングアシュラ隊の騎士(男)。 OVAでは運試し(ロシアンルーレット)を暇つぶしにしていたアシュレイを止めさせようとした。

 

 

 ‐フランツ・ヴァッロ

 アシュラ隊の騎士で、豪傑風な顔立ちをしている大男。 彼自身が提案した『息止め合戦』で危うく三途の川を渡りそうになった。 アシュラ隊のツッコミ役その1.

 

 

 ‐ヤン・マーネス

 アシュラ隊の中でも『ユーロ・ブリタニアの騎士道』を情熱気に訴えるサングラスの騎士。 誤魔化しの口癖は“騎士道に則っています!”。 意味が分からん。

 

 

 ‐ルネ・ロラン

 ドレッドロックに似た、民族風な赤い髪の褐色少年騎士。 アシュラ隊のツッコミ役その2.

 

 

 ‐アラン・ネッケル

 アシュラ隊の緑髪メカクレ騎士。 物静かでほとんど必要な時以外は黙っている。

 

 

 ‐アンドレア・ファルネーゼ

 ユーロ・ブリタニアの最大戦力の四大騎士団の一角である聖ラファエル騎士団の団長。 マンフレディとは親友の間柄でナルヴァ作戦時に自爆式特攻を仕掛けてきたwZERO部隊に騎士団がほぼ壊滅状態に陥る。

 マンフレディの不自然すぎる自害に疑念を抱いてシンを疑い、原作ではシンの粛清から逃げおおせている。

 四大騎士団長の中では元ナイトオブツーのマンフレディに次ぐ実力者。

 

 今作では原作ほど弱体化していないユーロ・ブリタニアの支えとなり、ブリタニアによる完全な傀儡化を止める要因となった。

 

 

 ‐ゴドフロア・ド・ヴィヨン

 四大騎士団の聖ガブリエル騎士団長。 豪胆な性格の持ち主で原作ではシンの粛清にあって死亡するが、今作ではファルネーゼとサン・ジルのおかげで生存。 ブリタニアによるユーロ・ブリタニアの完全な傀儡化を止める要因その2。

 

 

 ‐レーモンド・ド・サン・ジル

 四大騎士団の聖ウリエル騎士団長で一番の高齢者。 ユーロ・ブリタニアの人口が少ない故に無人機を多く配置するのがセオリーとなっている他の四大騎士団とは違い、有人機の身で結成された騎士団を保有する。 このおかげでシンの粛清時には自分と自分の騎士団を犠牲にファルネーゼとゴドフロアを逃がしている。

 

 

 ‐オーガスタ・ヘンリ・ハイランド

 本国のブリタニアの為にかつて追われたヨーロッパの領地(EU)を取り戻すために、ユーロ・ブリタニアの宗主のヴェランス大公と名乗る。

 実際はブリタニアのやり方に疑問を持ち、独立を目論んでいる。 今作では最終目的の為に出来るだけ人口への被害が少ない戦い方をしている。

 本国から送り込まれた名軍師のジュリアス・キングスレイに叛意を見抜かれて幽閉され、執政権をシンに奪われる。 原作は幽閉されているところを介入してきたブリタニアによって助け出される代わりにユーロ・ブリタニアの全権を剥奪される。

 今作ではゴドフロアとファルネーゼたち率いる騎士たちによって助け出され、今もなお独立の為の暗躍を続けている。

 

 

 ‐ミヒャエル・アウグストゥス

 オーガスタの側近で、主同様に独立国家を目論んでいる。

 

 

 ‐アリス・シャイング

 シンの義妹で許嫁。 シンを純粋に慕っており、シンも深く彼女を愛していた。

 原作ではシンのギアスで母親との心中を命じられる。

 今作では生存し、両目を失くしたシンの世話をしている。

 背丈の割に胸部装甲が大きい。

 

 

 ‐マリア・シャイング

 シンの継母で日系人の彼を実の息子のように気に抱えている。 原作ではシンのギアスで娘を刺し殺すように命じられる。

 今作では生存し、アリスとは交代で両目を失くしたシンの世話をしている。

 爆乳。

 

 

 ‐ジュリアス・キングスレイ

 本国から皇帝の名代として、ユーロ・ブリタニアに派遣された名軍師。 自信過剰な言動に高慢な性格で自身が『無能』と思う相手にはとことん容赦しない。 『箱舟の船団』と称する架空のテロを装った犯行声明、SNSを使った情報操作、そして広域な停電によってEU全土を一気にパニック状態に陥れると同時にヴェランス大公の本心を見抜いて幽閉する。

 その手腕、性格、戦術はより残忍なゼロそのもの。

 

 それもその筈、正体は『ジュリアス・キングスレイ』という架空の人物の記憶を植えつけられたルルーシュ(ゼロ)

 だが改善された記憶が余りにも本来のルルーシュからかけ離れている為、常時精神不安定な状態だった。

 

 彼の起こした動乱に乗じてユーロ・ブリタニアの簒奪を図ったシンによって正体を看破され、護衛のスザクと共に幽閉される。

 

 

 ‐エリザベート(またはエリザ)

 レイラの飼っている猫。

 スバルをよく噛む。

 

 

 ‐時空の管理者

 意識の集合体にして、今作ではスバルを転生させた『自称神様』*10

 原作アニメの集合無意識である『Cの世界』とは対照的な在り方。

 人間にとっては“存在しない者”と自称し、コードギアス世界の人類にギアスを授けたらしい。 原作ではギアスの欠片を発動したレイラの前に姿を現して会話をするタイミングでスバルからはリベンジとしてカレン直伝の『鳩尾グーパン』を食らい、会話どころではなくなる。

 

 

 ‐ワルシャワのジプシー老婆達

 占いをする大婆様*11を中心とした世捨て人気味の七人の老婆たち。 原作では慰謝料をたかるために軍人らしきアキトにわざとぶつかるところから接点ができるが、今作ではスバルにぶつかる。

 世捨て人気味だがアキトたちが路頭に迷っていると聞き、衣食住を提供する代わりに労働力を入手。 ついでに鍛えて腹筋が割れているスバルへのセクハラを図る。 *12

*1
???:それは許されないことだよ

*2
原作知識の介入故のバタフライエフェクトです

*3
『タオ〇イパ〇移動方法』? そうとも呼ぶ。

*4
シュゼット:エークセレントですわ、ミス・エカテリーナ! オーホッホッホッホ!

*5
エントリィィィィ!

*6
EUの共通語はフランス語設定

*7
原作知識です

*8
レナード:そっとさせておこう。

*9
アキト:完全なダジャレじゃないぞ。

*10
スバル命名

*11
レイラ命名

*12
スバル:なんで俺やねん、リョウの役割やんけ?!




後は『白の騎士 紅の夜叉』、『ロスカラ』、『双貌のオズ』、『漆黒の蓮夜』、『ロススト』、『反攻のスザク』、『戦渦の天秤』に毒島とアンジュ……

作者:まだ描く作品のキャラが全員登場していないとはいえ、これは……(;^ω^)
集合ちゃん:自業自得だよ♪
作者:え? なんか中途半端な長さになったのだけれど?
集合ちゃん:……あそ。


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白の騎士 紅の夜叉+ロストカラーズ+反攻のスザク+戦渦の天秤+漆黒の蓮夜まとめ (『オズ』後、R2前)

次話です!

今作で登場してきた原作のキャラやキーワードなどのネタバレをなるべく抑えながら、今作で出たオリジナルネタを出してみたら中途半端な長さに…… (汗

今回は『白の騎士 紅の夜叉』、『ロストストーリーズ』、『ロストカラーズ』、『反攻のスザク』、『戦渦の天秤』に『漆黒の蓮夜』です!


 白の騎士 紅の夜叉(外伝):

 

 ‐コノエナイツ

『名誉ブリタニア人が初めてラウンズに加わる』というサクセスストーリーを成したスザクの為にシュナイゼルが結成した親衛隊。 本来はラウンズ自身が命名した者や人選で部隊編成されるモノだが、原作では珍しくシャルルが直接スザクをラウンズに任命したことに違和感を持ったシュナイゼルが送り込んだスパイたち。

 今作ではラウンズ入りを拒否したスザクをシュナイゼルが彼をゼロへの対抗馬とするべくシャルルに推薦して無理やりラウンズにさせるも、親衛隊を持つことに拒否し続けるスザクに『ラウンズとして示しがつかない』と無理やり言い聞かせつつ部隊を押し付けた。 

 

 

 ‐シュネー・ヘクセン

 シュナイゼルが無理やりスザクに付けた親衛隊の金髪碧眼騎士で、ユーロ・ブリタニアの貴族とも交流を持つブリタニアの名門家の出の上にナンバーズへの差別意識持ち。

 スザクを良く思わなかったが戦いの中で何度も自分の命をスザクに救われていく間に、本人はダールトンのような『実力があればどうでもいい』の考えへと変わっていく。

『貴族は国民の為に動く同胞である』という信念を同じくしている筈のユーロ・ブリタニアの(本国から独立を目論む)者たちと戦いを命じられ、次第に精神が疲弊していく。

 今作ではより早い段階で彼の精神状態に気付いたスザクにより、戦線から離れて休養するように言い渡されている。

 

 

 ‐レド・オフェン

 シュネー同様にシュナイゼルが無理やりスザクに親衛隊として付けた騎士その2。 庶民の出身で、シュネーとは軍学校時代からの知り合いの中性的な褐色ロングヘアー。

 昔から『女性』と間違われることもあり、クールな無表情を徹底している

 本当は過去の出来事によって表情を作るのが苦手で、『取り敢えず生き残れば良い』というドライな現実主義者。

 

 

 ‐朱城ベニオ

 赤髪縦ロール少女で、『白の騎士 紅の夜叉』の女主人公。 行政特区日本の設立に、両親と共に賛成したがブリタニア軍によって多くの日本人が殺されるのを目のあたりにし、逃げている途中で両親も爆散するところを目撃している。 自らも命の危機に陥るが、突入していたカレンによって命を救われる。

 

 ブラックリベリオン後にコウベ租界でカレンと再会し、ブリタニアに黒の騎士団残党を引き渡そうとした雇い主を裏切ってカレンに危機を伝えて命を助けられた恩を返そうとする。

 エリア11に残るベニオの身を守るために『テロに脅されていた』という体に現実味を増す為カレンに縛られると“なんだかこれ(縛られるの)、ワクワクしますね!”と余裕綽々だったとか。

 

 今作では行政特区での虐殺行為が早まっているが、スバルの『もしもの保険』によって一早く突入したカレンによって危機一髪のところで命を救われる。

 つまり今作では『原作への介入により生き延びている』という人物。*1

 

 現在はカレンの『時が来れば合流時がわかるよ』という言葉を信じ、日本の文化に感化されてクロヴィスが労働者たちの為に設立した『テイショクヤ(定食屋)』の一つでバイトをエリア11内で続けている。

 

 

 ‐ヘンリック・ゲーラー

 ユーロ・ブリタニアの貴族でシュネーとは友人だったが、民衆を蔑ろにし続けるブリタニアに反旗を翻して他のユーロ・ブリタニアの貴族たちと共に反逆行為を続けているところに、討伐命令を下されたシュネーと相対する。

『志は同じ貴族の筈なのに』という疑問をシュネーに植え付けたきっかけ。

 スザクによって切り捨てられている。

 

 

 ‐ロメロ・バルクライ

 EU軍ではかなり異例となる『祖国を守るためなら己が犠牲になってもいい』と思う同志と共にスマイラス将軍がいなくなった後に『ブリタニアへの徹底抗戦派』筆頭の将軍となった。

 スザクのギアス暴走突貫に寄り戦線は崩壊し、ルキアーノにとどめを刺されるところをスザクが無意識状態のまま横取りしたことで、ラウンズであるルキアーノとスザクの間柄を険悪なモノへと変えたきっかけの人物。

 

 

 ロストストーリーズ(ゲーム):

 

 ‐マーヤ・ディゼル・ガーフィールド(日本名字は百目木)

 日本人とブリタニア人のハーフで『ロストストーリーズ』の女主人公。 太ももまで伸ばした艷やかな黒髪ロングにおっとりしていそうな顔立ちとコードギアスの世界でも上位に食い込む、優れた容姿を持つ。

 清楚な印象を与える反面、ブリタニアの非ブリタニア人に対する行いを前にすると『狂犬』(または『ブリタニア絶対壊すウーマン』)と呼ぶしかないほど苛烈な言動をする。 

 

『家族をブリタニアに殺された』というトラウマ持ちは共通しているが、今作ではあくまで設定を読み取った作者のイメージキャラ化などの変更等があり、トラウマの所為かアッシュフォード学園の中等部に入学するまでの記憶を失くしている。

 ブリタニアとは何も関わりたくないことからアッシュフォード学園には徐々に不登校気味になっており、その空いた時間帯はシンジュクゲットーで日本人の孤児たちの世話を見て来る日々を過ごしていた。

 だがシンジュクゲットー掃討作戦時に孤児たちが文字通りに潰され、自身の命にかけてもブリタニア軍人を出来るだけ殺そうと決意するがその矢先にスバルの活躍を目撃し、彼の後を追う間に数々の所業を見ては彼を『神』と崇めるようになるつまりはヤヴァイストーカー

 

『狂犬』ならぬ『狂信者』となってスバルを盲目的に崇拝するようになり、彼と実際に会うまでは『神』に見習って夜な夜なトウキョウ租界を徘徊してブリタニアの軍人を単身で殺していた。*2

 

 ナリタ連山ではキューエルのKMFを強奪して、見ただけで完コピした高機動戦と立体機動戦を駆使して危機に面していたスバルをイレギュラーズから救ってはランニング『神を崇める祈りムーヴ』を披露し、初めて彼に『なんでじゃい』を声に出させた。

 

 余談だが見た目だけならばスバル曰く、『好みドストライク』。 そして出会って間もないのにカレン並みにスバルの内心を読み取れることが出来、それを美化している。

 スバルの教え(?)を実行できる死刑執行人で『スバル教』を作った張本人。 彼の知らないところで胃痛設置過大評価装置と化している。

 

 スバルは『ロススト』を知らない様子で、彼女の事を『清楚の皮をかぶった超ハイスペックでヤヴァイモブ子』と思っている。 初対面やそのあとに見せつけた狂犬急変ぶりにスバルはトラウマ()()()()としている。

 

 

 ロストカラーズ(ゲーム):

 

 ‐ライ(仮)

 現時点では本人かどうか明確にされていないが、とりあえずスバルがそう思いこんでいるのでここに記入。

 ロストカラーズ主人公のデフォルト名でゲーム序盤では記憶喪失。 アッシュフォード学園近くで倒れていたところをミレイとルルーシュに拾われて自我が初めて芽生えた子供のように『見聞きするもの全てが見知らぬもの』という状態だったことで学園に仮入学して数々のキャラクターたちと触れ合う。*3

 容姿は銀髪碧眼の美形で中性的な顔立ちに背格好はルルーシュ似。 アッシュフォード学園に入学して住んでいるものの、学籍がないことから『幻』と学園では噂されている。

 様々なルートがあり、ゲームプレイヤー次第で千変万化の変わり具合を見せ、『ルルーシュ並みの知能にスザク並みの運動神経でスザクでも不可能な操縦技術を持つ上にルルーシュの上位互換ギアスを保有する』と、オールマイティーで公式公認の『ぼくがかんがえたさいきょうきゃらくたー』級のチートキャラ。

 

 今作ではどういうワケかブラックリベリオンを阻止しようとして、盛大なしっぺ返しをVVによって受けた重傷のスバルを襲う冷酷な敵として登場し、彼の設置した手榴弾や地雷のブービートラップの作動から爆発する間に移動して追い詰めた。

 生身で。*4*5*6

 スバルが初見でゲームのデフォルト名を口にさせるほど酷似している容姿で、攻略本で出た『ライの素顔』のままで髪をセミロングにしていた。

 

 現在はキューエルを尾行しているような様子が見える。

 

 

 ‐ノネット・エニアグラム

 初出自は『ロストカラーズ』だがあまりにも違和感がないので原作アニメの方に出してしまいましたので、そちらを参照してください。 m(;_ _ )m

 

 

 反攻のスザク(コミック外伝):

 

 ‐強化歩兵スーツ

 原作ではKMFが存在しない代わりに、兵士の能力を上昇させる装備が登場している。

 今作では当初の目的であった、『体が不自由な人々の補助機能スーツ』だったのを兵士用に開発方針が変えられているが、通常装備化にするあたりに『難あり』で開発が(ワザと)遅れている。

 

 ‐ランスロット(スーツ)

 強化歩兵スーツで元から『とある種の人間が扱うこと』を前提にした『ナイトメアシステム』を搭載し、性能だけを追求した所為で着用者の体をことごとくボロボロにしたモンスターマシンスーツ。 

 通称『ランスロット仮面』の元ネタ。*7

 

 

 ‐マリエル・ラビエ

 僅か17歳ながら既に大学を出ている才媛で、博士号を会得している男勝りな技術者少女。 原作では存在しない『セシル枠』でコミック主人公のスザクをアッシュフォード学園に入れるなど、彼を気にかけていた。

 

 今作ではかつて所属していた特派の事故で下半身が不自由になった父親と一緒に、補助スーツを開発していた。 『亡国のアキト』のパニックに便乗した貴族たちによるテロに巻き込まれそうだったのを、マーヤたちによって知り合いのウィルバー・ミルベルたちと共にスバルの組織に保護される。

 現在はスバルの依頼&設計したパイロットスーツを見て『あ、やっぱり根は普通の男の子なんだ』とホッとしながらも複雑な心境の様子。

 

 

 ‐レナルド・ラビエ

 マリエルの父親で、元特派。 ロイドの上司だった過去を持つ。 原作では暴走した一部の黒の騎士団に『ブリタニア軍の関係者だから』という一方的な理由だけでテロ爆破にあって亡くなってしまう。*8

 今作では特派にいた頃の事故で下半身が不自由の身となり、自分と同じような境遇を持つ者たちの為に補助スーツを娘と共に開発していたが、ブリタニアからのそれの兵装転換要請を受け、ワザと開発費用が高くなるよう再設計していた。

 現在は娘と共に、スバルの組織に保護されている。

 

 

 戦渦の天秤(ゲーム):

 

 ‐ライラ・ラ・ブリタニア

 クロヴィスの妹でユーフェミアの異母妹であり、ナナリーの異母姉にあたる金髪碧眼ツインテ少女。 『戦渦の天秤』ゲームのオリキャラでプルートーンに追われているところをピースマークエージェントである主人公に保護され、共にエリア11を目指すヒロイン兼重要人物だった。

 今作では普通にクロヴィスの妹として登場し、皇族の間でよく起きる政治の道具にならないようにクロヴィスが極力存在を隠蔽したため、彼女のことを当初知っていたのはごく少数の者だけだった。

 天真爛漫で活発、素直で箱入りの天然ぶりなところは幼少のナナリーそのままで長らく表社会から匿られた生活を送っていた反動で『学園生活』に興味を持ち、『ライブラ・ブリエッラ』と偽名を名乗ってアッシュフォード学園の中等部に入学しては護衛のアリスを振り回す。

 クロヴィスがルルーシュに撃たれて脊髄損傷となり、カレンの従者兼世話係のスヴェン(スバル)に介護の教えを乞うては立派に家事全般の上級者になった。

 次いでに日本の文化も習い、クロヴィスが旧日本の文化に関心を示すきっかけとなった。

 

 ブラックリベリオン後は治安の問題で密かに本国に送られ、他の皇族たちと再会しては数々の庶民的な能力を披露して(オデュッセウス以外を)驚愕させた。 スバルの所為。

 

 尚オデュッセウスからは『いいなぁ~』と内心羨ましがられ、仲良しだったカリーヌからは『私の知っているライラじゃない!』と驚かせている。

 余談でジャンプしたり飛び跳ねたりするたびにほぼ同じ身長のアリス(155㎝)が精神的ダメージを負うほど揺れる胸部装甲持ち。 

 

 現在はブラックリベリオン後に転々とオデュッセウスやカリーヌたちの元にいたが、最近落ち着いてきたエリア11の政庁に戻ってきてナナリーの代わりに聞く『クララ・ランペルージ』に困惑中。

 語尾に『です』をつける子。

 

 

 漆黒の蓮夜(コードギアスの正史兼序章コミック):

 

 

 ‐ブリタニア共和国

 元々は一つの国家だったがオーレリオン皇帝が殺され、ナイトオブワンも居なくなったことで大貴族たちは『共和国』という体制を取り、崩壊寸前のブリタニア帝国が無理やり繋ぎ止められた際の名称。

 後に皇位継承権を持つクレア・リ・ブリタニアが表舞台に出て皇帝位に上がり、国を統一化した際に国号が『神聖ブリタニア帝国』へと戻った。

 

 

 ‐日本

 史実とは異なり、京都は壊滅状態になり中枢政府はほぼ崩壊寸前で国は文字通り戦国時代へと退行している途中。 この隙に、日本ではよく採れる希少な桜の爆ぜ石(サクラダイト)を狙う外国の手によって実質的な侵略が進んでいた。

 

 

 ‐穎明(えいめい)の里

 現権力者たちにとって表向きは滅亡した家や国の血筋を引く重要人物、及びその世話人が寄り集まって暮らす隠れ里。 実際はコードギアスの世界では初とも言える『ゲットー』。 住人が里から出れば『その者の一族含めて全員即斬首刑』が待っている、いわゆる留置刑の場所。

 身分を剥奪された主人公たちの第二の故郷……だった。

 

 

 ‐ナイトメア

 舞台は1860年代辺りの江戸時代という事から原作アニメと違って『ナイトメア』とはKMFのロボットではなく、『ダッシュ』と自身を紹介する不思議な少年と契約した際に肉体の変化や物理的な異形の力を手に入れた人間のことを示している。

 

 

 ‐ギガントアーマー

 西洋の重装歩兵用の鎧の下に、サクラダイト合成繊維などの技術を搭載したいわゆる『パワードスーツ』。 希少なサクラダイトをふんだんに使うので、もっぱらラウンズ専用鎧となっていた。

 当時の時代ではコストパフォーマンスが余りにも非効率的に悪い上にラウンズに合うようオーダーメイドだったので、大砲などの兵器が開発されてからは廃れていった。

 

 

 ‐桜の爆ぜ石

 現在のサクラダイトを示す、過去の名称。 当時は現在より更に希少で、ダイナマイトや火薬に変わる役割を果たしていた。

 貿易での流出をコントロールすることで、日本が大国相手でも強気でいられた最大の理由。

 同時にブリタニアが日本を侵略した原因。

 

 

 ‐蓮夜(れんや)

 日本の武家の跡取りで、コミックの主人公で何気にスザク似。 左腕が義手になっていて、剣術や学問はてんでダメだが実践だけは得意なスザク似の脳筋少年。 隠れ里が壊滅され、その時に出会ったCCと契約を成そうとするが失敗に終わる。 親友のクレアをブリタニアにまで送り、皇帝となった彼女の側に仕えた。

 今作では(今のところ)名前のみ登場。

 

 

 ‐カルラ(本名はクレア・リ・ブリタニア)

『琉球から隠れ里に来た』とされているが、実はブリタニアの皇族で『カルラ』という偽名を名乗っていた金髪紫目の少女。 ブリタニアへ媚びを売るために当時の皇家当主が血眼になって探し出し、とあるブリタニアの騎士から現帝国の状態を知り皇帝位に付くべく友人たちと共に旅へと出る。

 コーネリアとユーフェミア姉妹の祖先であり、何の因果かスザク似の蓮夜に想いを寄せている節がチラホラとある。

 今作では(今のところ)名前も所業も未登場。

 

 

 ‐アルト・ヴァインベルグ

 ブリタニアでも屈指の名家の跡取りで、とある事情で崩壊寸前だったブリタニアをまとめるためにクレアを日本から連れ戻すように命じられる。 見た目はコードギアスアニメのジノ・ヴァインベルグそのモノだが、周りや自分にも厳しい生真面目な騎士道精神の塊。

 ブリタニア国家の滅亡的な危機から救った英雄の一人として語り継がれている。

 今作では(今のところ)名前のみ登場。

 

 

 ‐(すめらぎ)一心(いっしん)

 ブリタニアとの交渉材料として、クレアを探し出すために穎明の里を壊滅した傭兵団の頭領。 戦闘狂で野心の為ならば何でもする男で、原作では蓮夜に敗れている。

 今作では(今のところ)名前も所業も未登場。

 

 

 ‐皇二葉(ふたば)

 上記の一心の義妹で、一応親族だった彼の仇を討つため蓮夜たちをつけ狙うも、ことごとく逆に彼らに助けられるトラブル体質持ちの強気な神楽耶似の少女。

『トラブルとはなんぞや』? 以下に例を記入しよう。

 入浴中兼蓮夜たちの偵察中に巨大なイノシシに追いかけられたり、危うくブリタニアに媚びを売った野侍たちの慰み者(意味深)になりそうになったり*9触手巨大イカの餌になりそうだったり*10、捕獲されて奴隷商に売り飛ばされそうになったり*11。 等々。

 クレアの即位後は一緒にブリタニアに暮らす提案を断り、蓮夜には『仇は必ず討つから死ぬな』と言い残して日本に戻る。

 尚、くノ一*12としての能力は高いのだがトラブル体質の所為で上手く発揮できていない。

 今作では(今のところ)名前も所業も未登場。

 

 

 ‐クリストファー・チェンバレン

 神聖ブリタニア帝国が共和国と国号を変える前のナイトオブラウンズのナイトオブワン。 コードギアスアニメ以上にラウンズは国の政権が乱れても外国の進行や内乱を未然に防ぐ抑止力と、かなり大きな存在だった理由が単にクリストファーのおかげだった。

 皇帝と共に長らくブリタニアを繁栄させていたが皇帝のオーレリオンが殺されて間もなく兄弟の嫉妬によって毒を盛られてほぼ不死身な再生力を持つ巨体のナイトメアへと変えられる。

 今作ではギアスユーザーを作るためのCC細胞の出所と判明し、エデンバイタル教団の地下都市で氷漬けのサンプル化していたところをスバルに反応するがごとく、暴走した。 スバルの組織が保有する浮遊航空艦『リア・ファル』の主砲とマリーベルのグリンダ騎士団たちによってようやく討伐され、長すぎた生に終止符を打たれる。

 

 

 ‐ロレンツォ・イル・ソレイシィ

 クレアが即位するまでブリタニアを国家として繋ぎ止め、ブリタニア共和国を帝国へと統一に粉骨砕身したブリタニアの大貴族にして大英雄。

 コードギアスアニメのキューエルとマリーカの先祖。

 今作では(今のところ)名前のみ登場。

*1
いわゆるブーメラン

*2
ブリタニアの軍人のみを狙う連続殺人者

*3
ゲーム未プレイの方達にはプレイすることを強くお勧めします。

*4
作者:それなんていう悪夢(ナイトメア)

*5
アキト:KMF(ナイトメア)だ。

*6
アヤノ:アキトやめい!

*7
一期アニメの学園祭で一瞬だけ映っている。

*8
ちなみにこの爆破テロは玉城の指示によるもの

*9
二葉:変なもの見せられちゃうしもう嫌じゃー!

*10
二葉:わらわを助けるのじゃー!

*11
二葉:だから怪しいと思ったのじゃー!

*12
咲世子:SPです。




次回は『双貌のオズ』と毒島とアンジュの予定です!

尚頑張りますが、来週の水曜日は仕事の予定で投稿ができないかもしれません…… (;´д`)トホホ


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グリンダ騎士団、ピースマークの主要人物まとめ (『オズ』後、R2前)

まとめ続きます。

原作のネタバレを出来るだけ押さえながら、今作を読み直して判明+変わった要素を書いてみました。

そして“『オズ』って登場人物とネタがが多いんダナー”と放心しながら思う作者でした。

申し訳ございません……


 双貌のオズ(コミック&小説SS、本編と並行):

 

 

 ‐ピースマーク

 報酬と引き換えにエージェントの派遣兼自由支援組織でスポンサーは『ウィザード』と名乗る謎の仮装仮面男。 世間からは『テロ活動支援組織』の認識で、規模は不明。

 巷の噂では、ウィザードが『とある目的』の為に立ち上げたとか。

 今作では原作でSIDE:オルフェウスとSIDE:オルドリンでチラホラと仄めかされていた要因などが仮説で繋がられ、立ち上げの理由がスバル(のかけたカマ)によって判明されている。

 

 

 ‐グリンダ騎士団

 ブラックリベリオン後にブリタニアの各植民地方で多発し続けるテロ活動を潰す為、アヴァロンの次に開発されたカールレオン級浮遊航空艦のグランベリーを旗艦としている対テロリスト遊撃機甲部隊。

 結成の発案者は過去に爆破テロによって家族を失ったブリタニア第88皇女マリーベル・メル・ブリタニア(17歳)。 皇位継承権が低いのは彼女が身分を一度剥奪されたことがあるからで、そんな彼女でも『ブリタニアの実験段階の装備に次世代ナイトメア技術のモルモット部隊ならば』と周りの貴族からも了承を得られている。

 

 部隊名の由来は『オズの魔法使い』で出てくる『南の善い魔女グリンダ』から取っていると思われる。

 

 

 ‐ファイアーボールズ

 KMFリーグでは群を抜いて有名なで女子だけで結成されたチーム。

 リーダー以外の全員はマフィアが運営していた孤児院の出で、ソキアとは幼馴染。

 

 

 ‐プルートーン

 皇族の一部にしか知らされていないブリタニア皇族直属の暗躍組織……とは建前で、本質はギアス嚮団の実行部隊。 ジヴォン家の当主だったオルドリンママ(オリヴィア)を団長としていたが、オルドリンを守るためにオイアグロが殺害しては新たな(名だけの)団長となる。

 今作ではジヴォン家自体がプルートーンの精鋭を占めていたが、全員殺されている。

 

 

 ‐オルフェウス・ジヴォン

 SIDE:オルフェウスの主人公で緑の瞳に金髪ショートのイケメン。 子供の頃、家族にギアス嚮団へと売られて『周囲の人物に自分を他人と誤認させる』、『完全変化』のギアスを発現したことで暗殺者や工作員としての技術を磨かれる。

 ギアス嚮団の実験体としては年長者の上に外部から来たので、他の子供たちの面倒を見たり一般常識などを教えていた。 そこで過酷な環境下でも優しい心を失わなかったエウリアという少女と出会って恋人同士となり、ギアス嚮団から脱走する。

 後にVVが動かしたブリタニアの闇部隊であるプルートーンを差し向けられ、エウリアと住んでいた村を失って以来は復讐を誓い、ピースマークのエージェントとの依頼と並行しながらギアス嚮団やVVにプルートーンの手がかりを探す。

 若さと端整な容姿に反して、粗暴な言動が多いが高貴な振る舞いや感性を見せる上に博識な所為で知り合いたちからは『素直じゃない』と評価されている。 

 

 実家のジヴォン家は一子相伝の女系貴族の為平民の家に捨てられ、本人は終ぞ知ることはなかったがジヴォン家はプルートーンの一味だった。

 ピースマークの依頼でベジャイア基地を襲撃し、グリンダ騎士団に所属する双子のオルドリン・ジヴォンと遭遇して彼女のことを知る。

 まるで運命その者が定めているかのようにオルドリンと何度も衝突し、最後は和解するもR2の最終決戦時に行方不明となる。

 余談だが一級フラグ建築士で、依頼先では言動のギャップ感からかよく女性に好意を寄せられる。 本人はこのことに(ほとんど)気付いていない。

 地味に手先が器用なのでKMFや兵装の整備などにも心得があり、“作業の邪魔になるから”と前髪を束ねた姿はカブトムシの角そのもの。

 

 作中の『一本角』と呼ばれているのは伊達ではない。

 

 今作では初対面であるにもかかわらず自分のことを知っている節からスバルを長らく警戒していたが、色々と予想外のことが続き過ぎてブチ切れたスバルによって無理やりジヴォン家、プルートーン、オイアグロやウィザードに関してのぶっちゃけ暴露話を聞かされて複雑な心境となりつつも感謝している。

 

 

 ‐オルドリン・ジヴォン

 SIDE:オルドリンの主人公で、ブリタニアの騎士でジヴォン家であることを誇りに思ううら若き緑の瞳に金髪縦ロールツインテの少女。

 戦闘も人生経験も浅く、世間知らずの箱入り貴族令嬢。 マリーベル皇女とは幼馴染みであり、過去に彼女が見知らぬ少年を離宮に招いたことがきっかけでマリーベルは家族を失う事件が起きる。

 この直後に優しかった筈の叔父上、オイアグロ・ジヴォンが母親を殺してジヴォン家当主の座を簒奪し、自分をジヴォン家の屋敷から追い出すという出来事から心に傷ができてしまう。

 マリーベルとはお互い、トラウマを持つ者同士かつ支え合う仲(意味深)となり、『力無き者の笑顔を守る』という信念の同志からマリーベルのグリンダ騎士団筆頭騎士となる。

 

 だが次第にマリーベルの元で行っている行為が自分の考えていたモノからかけ離れていっていることに気付き、次第に“殲滅しているテロリストたちもまた民衆である”事実をウィザードに突きつけられては慟哭する。

 

 更には自分の兄であるオルフェウスの事や、プルートーンにギアス嚮団に関することを認識したり、思い出しそうになるとその都度近くのギアス能力者によって記憶を消されている。

 

 今作では毒島の介入で、ウィザードのまどろっこしい言い回し以上に効果のある言葉を突き付けられて、他の騎士たちも共に迷いを見せる。 上記のオルフェウス同様にぶっちゃけたスバルによってジヴォン家の闇と、ウィザードであるオイアグロが何故母親を殺したかの真相を聞かされ、その上ブリタニアと繋がりを持つと思われるエデンバイタル教団の凶行を目撃して複雑な気持ちになりながら更に迷う。

 

 余談だがエリア11の視察で暴漢に襲われそうになったマリーベルを助けたのっぺり仮面+ライダースーツをスバルと思い込み、礼を伝えると初めてありがたみの籠った屈託のない笑みを彼から向けられてドキリとしてしまう。

 

 実際は『ゲスバル』*1と化した昴が脳内妄想を走らせた結果、いつもの不愛想なポーカーフェイスが崩れて優しいニヤケ顔になっただけである。*2

 

 

 ‐マリーベル・メル・ブリタニア

 普段から愛らしい外見とおっとりとした振る舞いをする皇位継承権第88位の皇女。

 元々は更に高い継承権を持っていたが、幼少の頃に爆破テロで家族を亡くして父親のシャルルと謁見し、より込み入った調査をお願いするが却下された言葉と態度に激怒して帯剣していた剣で彼に襲い掛かる。 

 ある意味ルルーシュと似ていなくもない過去だが、さらに過激で行動的の所為で継承権と皇女の身分をはく奪される。 当時7歳の出来事である。

 

 以後は一般人として幼馴染のオルドリンとジヴォン家のハウスメイドのトトと暮らすようになり、幼い頃のトラウマに身分の格下げなどの過激なストレスから極度の依存症の表れとしてオルドリンの近くに居るようになる。

 

 知能や戦略はルルーシュ並みに、KMFの操縦技術はスザクと同等のオールS。 十分にバケモノ級だが過去の経緯からテロに対して異常なほど憎しみを抱いている上に幼少のトラウマから不安定な精神となっており、彼女の抜群な能力に目を付けたシュナイゼルからさえも『扱い方が難しい駒』と危惧されている。

 

 原作ではブラックリベリオンの後遺症がないか、エリア11に視察に来ていた途中に黒の騎士団くずれの男たちに拉致されて言葉も通じない環境で暴行を受けるが、オルドリンとほぼうり二つのオルフェウスによって助けられる。

 次第にオルドリンが自分の思い通りに命令を忠実に実行しなくなったことから、オルドリンに感じていた信頼が憎悪へと転換し、気を失ったオルフェウスをVVから託されてギアスの契約をして以後はVVの指揮下に入るも復讐の機を窺う。

 

 契約時にマリーベルの発現したギアスは『絶対服従』と、ルルーシュに似ているが彼女のギアスは『相手の自我は完全に破壊して忠実な人形と変える』と言った、かなり異質なモノ。 

 ギアスのかけられた人間は『自我の無い人形』となるので、事前の命令や方針の伝えなどが無ければ文字通りに外部からの刺激に対して全く無反応になる。

 

 今作ではオルドリンと決別時のタイミングと仕方、そして二人の考え方も変わっているので致命的な友情を引き裂くようなモノとなっておらず、より穏便な出来事で終わっている。

 

 更には改善された記憶の真実に気付かされ、精神崩壊ギリギリのところでずっと『死んだ』と思っていた妹のユーリア・メル・ブリタニアとの再会も果たし、徐々に心身ともに癒されていき、大きな借りをスバルと彼の組織に作ることとになった。

 

 

 ‐ウィザード(本名オイアグロ・ジヴォン)

 魔法使いを自称し、オルフェウスとオルドリンの前に現れては意味深なセリフで翻弄する謎のタクシード仮面男でピースマークのスポンサー。

 正体は二人の母親オリヴィアの弟、つまりは叔父でありジヴォン家の現当主のオイアグロ・ジヴォン。

 ジヴォン家の資産管理や投機で利権などを獲得しては経済面で家を支え、幼い頃から騎士に必要とされる過激で擦り傷などが絶えない戦闘訓練に明け暮れていたオルドリンにとっては『優しい心のオアシス叔父さん』だった。

 だが彼は姉のオリヴィアがブリタニアの特殊部隊『プルートーン』の団長であることと、マリーベルからオルドリンが『何らかの組織(ギアス嚮団)の事に気付いたかもしれない』という憶測から抹消命令が出たことで、オイアグロは姉のオリヴィアを殺害する。

 新たなプルートーンの団長となった代わりにオルドリンの身の安全を確保した彼は裏からオルフェウスとオルドリンの幸せを願い、ワザと誰にも知られずに悪役を甘んじて引き受ける。

 

 尚ガウェインやR2で登場するギャラハッドの様な大型KMFの開発は彼の頑張りと宣伝によるところが大きい。

 

 今作では彼の不器用な言い回しや遠回しな介入もあり、ストレスが限界突破したスバルにブチ切られ、事情の全てをオルドリンとオルフェウスが一緒にいるところで正体諸々すべて暴露されてしまう。

 その上彼がピースマークを立ち上げた理由が、爆破テロから保護したマリーベルの妹、ユーリアの隠れ蓑にしたことも看破されてしまう。

 内心、自分の成そうとしたことをオルドリンたちと歳が変わらないスバルがズバッとほとんどやったことに感動と感謝をしながらも『これが若さか』と痛感してへこんでいる。

 

 ドンマイ、オイアグロのおじさん。

 

 

 ‐ズィー・ディエン

 中華連邦出身で幼い頃から苦労人だったためか間違われやすく『おっさん』ではなく『青年』。*3

 中華連邦で生まれたが転々と国から国に移動し、闇社会の仕事で生き残った。 過去ではタイの非公式なKMFアリーナで活躍し、『ゼッド・ザ・タイガー』という二つ名で有名な不敗のチャンピオンとして君臨した。 その腕を買われ、ピースマークへの勧誘する依頼を受けたオルフェウスのことを気に入っては彼の相棒役を買って出る。

 

 よくオルフェウスをからかい、彼が作業時に束ねる髪の毛を崩して『ゲフィオンブレイカー化』するのが趣味。

 

 今作では生存したダールトンとギアスを追っていたネリス(コーネリア)と出会い、過去にKMFアリーナでダールトンと対峙したことがあることが追加されている。 『敗北ではなく引き分けと終っているので不敗に違いはない』のだとか。

 

 

 ‐ガナバティ

 インド軍区出身の技術屋兼商人。 よくオルフェウスたちとは絡みがあるが厳密にはピースマーク所属ではなくフリーのエージェントだが“金さえあれば問題ない”の銭ゲバ。

 オルフェウスのことは個人的にいいカモ高く買っているので彼の依頼を優先して引き受ける。

 今作では技術者としてか、ラクシャータと何らかの繋がりがある。

 

 

 ‐ミス・エックス

 年齢不明、経歴不明、国籍不明でピースマークの依頼をエージェントたちに伝える仲介人の謎のウェーブ銀髪美女。 タイツスカートスーツで妖艶さマシマシ、オルフェウスの前だと割と本気で好意を寄せている言動をするが、オルフェウスからは『厄介ごと(依頼)しか運んでこない小悪魔』の扱いをされては一悶着を起こす。 主に取っ組み合い。

 

 オルフェウスより年下だが工作員として高い能力、そして医師としての免許を保有している。

 

 原作で仄めかされていたネタ等と、今作では直接彼女と会ってピースマーク内の立ち位置、ピースマークの在り方、ウィザードとの直通連絡方法を所有するなどと言った情報を掛け合わせてからカマをかけたスバルによって、マリーベルの妹『ユーリア・メル・ブリタニア』と判明。 元々生まれながらに病弱だった所為で母親のフローラが姉のマリーベルより気にかけていたことも。

 十年越しの再会に二人は今までお互い何をしていたかを語り合い、和解する。

 余談だがスヴェン(スバル)のことを『離宮の見習いの一人』と思い込んでいる。 後彼が幼少の頃、単身で日本に送られたことも伝えられている。

 

 

 ‐トト・トンプソン

 幼少からジヴォン家に伝えているハウスメイドで、オルドリンやマリーベルと付き合いが長い褐色赤目犬耳っぽくまとめた髪型&メガネっ子。*4 温和な性格でそれなりに頭の回転もよく、名誉ブリタニア人だが名誉騎士章を保持し、グランベリーのオペレーターも担当している。

 

 内実はプルートーンとの繋がりを持つジヴォン家からオイアグロによって離れたオルドリンをギアス嚮団から監視と『記憶の管理』を命じられた諜報員。

 原作シャルルの下位互換とも呼べる『忘却』のギアスを保有し、ギアス嚮団やオルフェウスのことをオルドリンが思い出しそうになるとその都度に記憶を消している。

 ギアス嚮団にいた頃はオルフェウスやエウリアたちとは仲が良く、彼ら彼女らを『兄さま』『姉さま』と慕っていた。

 これを利用され、ギアス嚮団はワザと脱走を見逃してその結果エウリアがプルートーンに殺されてしまうトラウマを備え付けられる。

 

 今作ではエデンバイタル教団由来の脳手術で『主従心』を増加されている。

 間接的にとはいえ、慕うオルドリンとオルフェウスに不幸を強いたことに追い目を感じていたが、スバルのぶっちゃけ暴露にてトトを批判するどころか逆に心配された。

 

 

 ‐ソキア・シェルパ

 元競技KMFリーグのスタープレイヤーで、サバサバした性格と容姿からスポーツ用品メーカーなどの専属モデルを務めていた。 立派な臀部やくびれなどを強調したDURANDAL宣伝は今なおも有名で採用されている。 ブラックリベリオン後に起きるテロ活動を阻止するグリンダ騎士団に志願し、騎士となる。 KMFリーグ由来の高度な戦略と情報分析能力、そして何気に卒大して電子情報工学修士(でんしじょうほうこうがくしゅうし)号を持っている。 明朗活発で表裏の無い天才で、思ったことをドストレートに言うのが玉に瑕。

 孤児として育ったためコミュ力と社交性が高く、すぐに見知らぬ人相手でも打ち解けることが出来る。

 KMFリーグ時代に観客を喜ばせるために毎試合、自身の機体を大破させている所為で付いた二つ名は『ザ・クラッシャー』。*5

 

 今作でも出撃する度に機体を大破させていたが、徐々に部位だけと少なくなってきた様子。

 余談で(寒い)ダジャレなどというオヤジ性持ち*6

 

 

 ‐レオンハルト・シュタイナー(18歳)

 ジノ・ヴァインベルグのヴァインベルグ家に仕える騎士家から技術系貴族に変わったシュタイナー家の長身イケメン。

 幼少から本人は『騎士』になることより『学者』を目指していたためジノとの模擬戦で呆気なく敗れたことから家がシュタイナー・コンツェルンを設立するきっかけとなり、それ以来は家のため本格的に騎士を目指すこととなる。

 空中戦の重要さに気付いたウィルバー・ミルベルを主任に開発された可変型KMFをフィーリング(本能)で使いこなし、高い戦闘力を見せる。 許嫁とは別の好意をトトに寄せている……のだが、見目麗しい女性を見てはドキドキするヘタレ奥手。

 

 今作では原作より色々と出来事の流れが変わっていたり、タイミングがズレている所為でより早く(事故的な)リア充ムーヴを周囲に晒して許嫁を『政略結婚相手』から『一人の女性』と意識し始める。

 今更だが、彼の許嫁はマリーカ・ソレイシィ(14歳)である。

 

 

 ‐ティンク・ロックハート

 元皇立KMF技研所属のテストパイロットで巨漢。 見た目と違って仲間想いで温厚な性格をして、騎士団の潤滑油的な役割も担っている。 が、相手の気持ちや場の空気までは考えられない無神経さでトラブルを起こす。 *7

 

 今作ではウィルバーが率いる『タレイランの翼事件』がないので明かされていないが、テストパイロット時の行使で左腕と体の3割がサイバネティック技術で補われている。*8

 

 このおかげで原作ではオルフェウスの変装を見破り、『ギアス』という異変に独自でたどり着いている。 ぼんやりしていそうで、ソキア並みに頭がキレる。

 

 

 ‐マリーカ・ソレイシィ

 14歳と、作中でも最少年にあたる碧眼茶髪の少女で、レオンハルトの許嫁。 

 キューエルの妹。

 レオンハルトがグリンダ騎士団に入団してからは可変型KMFブラッドフォードのテストパイロットを務め、軍学校は首席で卒業しているリアル『兄より優秀な妹』。

 許嫁だからではなく、純粋にレオンハルトのことを想って初めて顔合わせをする際に手作りのミートパイを作るが緊張のあまりに『激辛ミートパイ』に仕上がってしまう。

 

 レオンハルトと同等か彼以上にブラッドフォードを肌で感じて使いこなす高い操縦技術を持ち、ブラッドフォードを『子』と例えるおちゃめな性格。

『本当にキューエルと兄妹?』と思いたくなるほど、色々と出来ている子。

 

 今作ではグリンダ騎士団の砕けたアットホーム的な言動にクラッとしながらも、次第に馴染んでいき、療養所から姿を消した兄のことを心配している。

 

 

 

 ‐ヨハン・シュバルツァー

 伯爵にして現役時代は『ブリタニアの猛禽』と呼ばれていた将軍。 マリーベルのグリンダ騎士団の戦略顧問をシュナイゼルに()()()されて現役復帰する。

 心身共に未熟である若き騎士たち、マリーベル、グリンダ騎士団の乗組員たちに頭を抱える苦労人。

『将軍』だったころの名残からか戦術や戦略の立案、自身もKMF操縦が優秀なオールラウンダー。

 原作ではドンドンと過激化していくマリーベルのストッパー役を担っていたが、彼女のギアスによって人間味を完全に消されたキリングマシーンに変えられた。

 

 今作では原作以上に頭を抱える案件が次々と出てきて胃潰瘍の前兆が見られる所為で、胃薬を常時持ち歩くようになっている。 *9

 

 

 ‐ドメニティーノ・デッラ

 子爵にして、グリンダ騎士団の技術顧問を務めるスケベ老人。 今作では急造艦のまま発艦したグランベリーの本格的なオーバーホールが為されていないので、ほぼ24時間常時グランベリーが落ちないよう奮闘している。

 

 

 ‐マーシル・マラーホフ

 グリンダ騎士団の整備士長で、『ザ・クラッシャー』のソキアとは犬猿の仲。

 

 

 ‐エリシア・マルコーア

 金髪ツインテ元PDR13(アイドルグループ)少女。 グランベリーでは戦略オペレーターを務め、セントラルハレースタジアムでは『余興』と称し、遅刻していたソキアたちの為の時間稼ぎパフォーマンスを可愛い外装に変えたMR-1で行っていた。

 今作では語尾『なの』っ子で、歳の近いエリスとは仲がいい。

 

 

 ‐エリス・クシェシスカヤ

 艦内オペレーターを務める黒髪ぱっつんストレートロングで冷静沈着な少女。

 今作ではグランベリーのソフトウェアメンテナンスを行うエンジニアで、いともたやすくハッキングしたユキヤに馬鹿にされ、(久しぶりに)対抗心に火がついた。

*1
採用させていただきました有機なすさん!(*ゝω・*)ノ

*2
表情筋が……

*3
ズィー:二十歳だ!

*4
スバル:しかもガーターベルトって属性盛り過ぎだけど嫌いじゃないわ!

*5
*注*巨大レンチは所有しておりません

*6
149話より

*7
シュナイゼルとの『皇帝は美しい畑に種をまき過ぎ』など

*8
つまりはサイボーグ化

*9
シュバルツァー将軍:宰相閣下から、『アマルガム』とやらの隠蔽工作などブツブツブツブツ……




作者:SIDE:オルフェウスとSIDE:オルドリン、登場キャラとネタとネタバレになりそうなことがてんこ盛り過ぎ。 これ問題。

スバル:……なんだかいつもよりおかしくなっていね?

集合ちゃん:色々とリアルでストレスとか抱えて憂鬱になっているんじゃない?


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『オズ』のその他主要人物+オリジナル要素&キャラまとめ (『オズ』後、R2前)

お待たせ致しました、これでようやく人物相関図などのまとめに一段落が付けたと思います。

次話から本編再開の予定です。


 双貌のオズ(コミック&小説SS、本編と並行)その2:

 

 

 ‐アレッサンドラ・ドロス

 KMFリーグチーム『ファイヤーボールズ』のリーダーで、祖父は元々ブリタニアの裏社会で君臨していたファミリーのドンだった。 ナイトポリスが徐々に導入されていき、実質アレッサンドラの代で『廃業』となったマフィアはオデュッセウスの臣民更生プログラムで孤児院の運営をする。 ソキアがたまに叫ぶ『ベイベー』はアレッサンドラの口癖に由来する。

 

 

 ‐ジェイミー・ホーガン

 大女で、ドロスファミリーの用心棒(物理)だった。 今ではKMFリーグに当時の技を披露している。

 

 

 ‐ステファニー・アイバーソン

 アレッサンドラの所為で語尾に“だぜ”と付けるボーイッシュな口調の少女。 KMFリーグを去ったソキアの代わりに『メインアタッカー』して入った『期待のルーキー』。

 

 

 ‐マトアカ・グレインジャー

 褐色でジェイミーに次ぐ大女。 ファイヤーボールズの一員で、原作ではソキア機にブリタニアン(ジャーマン)スープレックスをお見舞いして撃墜させている。

 

 

 ‐リリー・エルトマン

 ファイヤーボールズの『戦略家』。 各メンバーの特徴や癖に強みを生かして優勝していたがマリーベルの前で如何に自分が非才なのか痛感させられる。

 マリーベルが化け物級だけであるのでドンマイ。

 

 

 ‐ダスコ・ラ・クレルモン

 第5皇女のカリーヌの専属騎士である青年。 主にSIDE:オルフェウスで登場し、オルフェウスとはピースマークの依頼先で幾度となく相対してその都度に『引き分け』に終わっている。

 ライバル(自称)であるオルフェウスが強化された紅蓮型と分かってからは鹵獲した紅蓮壱式を専用機に改造するという、ブリタニアの騎士としてはかなりの変わり種。 どこぞの世界のMSWADパイロットと似てなくもない。

 

 本来はカリーヌを護衛する為にセントラルハレースタジアムへ同行するはずだったが、オルフェウスとの決闘をブリタニア軍に邪魔されて負傷していた。

 余談で原作ではペンドラゴンにフレイヤが落とされる直前にギアスをかけられてメイドとなっていたカリーヌを救っていることが判明されている。

 

 

 ‐ダルリー

 ピースマークの依頼でシンの専用機ヴェルキンゲトリクスの破壊を承ったオルフェウスを相手にしたユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団に属する男爵。 SIDE:オルフェウスにのみ登場。

 ユーロ・ブリタニアの騎士としては異質で、任務の遂行の為ならば手段を択ばなかった。

 

 オルフェウス機が部隊の防衛を突破して輸送列車に取り付いた瞬間、事前に仕掛けていた流体サクラダイトを起爆させて列車の乗員やEUの一般市民を含む乗客を丸ごと殺した。

 オルフェウスは重症のままダルリーを殺すが、この時の惨状を見てオルフェウスは過去のトラウマを刺激されてワルシャワで休養することとなる。

 

 今作ではこの時にオルフェウスは『亡国のアキト』の老婆たちと、ワイバーン隊たちに付いていたスバルと出会っている。

 

 

 ‐フローラ・メル・ブリタニア

 マリーベルとユーリアの母親。 “皇族は民を慈しみ、その心を思いやるべき”と皇族ではかなり珍しい信念を持っていた。

 

 今作ではこの所為で爆破テロによって死亡し、病弱なユーリアの看病に付きっ切りだった所為で幼少のマリーベルはいじけていた。

 

 

 ‐ユーリア・メル・ブリタニア

 マリーベルの妹で、彼女のトラウマの原因となった。 原作ではマリーベルの通した少年によってフローラと共に最期を遂げ、マリーベルの心にテロリストへの憎悪を植え付けるきっかけとなった。

 今作では病弱な所為でフロ-ラが秘密で看病していたことと、駆け付けたオイアグロに保護されてピースマークも当初は彼女の隠れ蓑であるためと判明した。

 スバルに正体を見破られ、マリーベルと和解する。

 

 

 ‐オリヴィア・ジヴォン

 オルドリンとオルフェウスの母で、前ジヴォン家の当主であると同時にプルートーンの前団長。 マリーベルが家族を亡くした爆破テロにギアス嚮団が関与していたことと、オルドリンが事件の真相を知っていたことから娘の抹消命令を受けるが、プルートーンのことに気付いたオイアグロによって殺される。

 オイアグロの記憶などから察するに、オリヴィアは最後の最後まで迷っていたこととオルドリンを守ることを条件に敢えてオイアグロに感謝しながら負けたと思われる描写がある。

 

 彼女もまた、コードギアス世界の闇の被害者だった。

 

 今作でも流れは同じだったが、その前にオイアグロ共々プルートーンの精鋭であるジヴォン家を殺してから、オイアグロに自らの命を捧げた。

 この時期にオルドリンが鍛錬から家に戻ってきたのは『不幸』としか言いようがなく、この時からオイアグロは悪役の演技を強要される。

 

 

 ‐謎の少年

 マリーベルの居た離宮の門の外で『届け物がある』と言って、母と妹を困らせたかったマリーベルが通した爆破テロの実行人と思われる子供。

 今作ではマッドがマリーベルの改竄された記憶を正す為に『ヴィクター』という名前を出して、マリーベルも少年がそう自分に名乗っていたことが判明する。

 

 

 ‐ウィルバー・ミルビル

 シュタイナー・コンツェルンのKMF技術主任で、作中で見る『可変型KMF』の生みの親。

 時代の戦場が空に移ると確信し、空戦能力を持ったKMFの戦力を増強させる計画を提唱していたが聞き入れられず、テロによって妻を失くして再度計画の認可をシャルルに求めるが“瑣末なこと”と言われてブリタニアに幻滅する。

 空中戦力を主体にした反ブリタニア武装組織の『タレイランの翼』を結成するがグリンダ騎士団の活躍によって亡くなるが、その前にオルドリンとレオンハルトに『信念の為に戦う理由をよく考えろ』と言い残す。

 技術者なのに軍人顔負けの作戦立案能力や敵の対応を先読みする能力や彼自身のKMF操縦能力は非常に優れている。

 

 今作では教授だったころのマッドの元に居たことがサンチアの口から判明している。 そしてブラックリベリオン後に自分の組織が『武』に偏り過ぎていると感じたスバルのおかげで妻とラビエ親子共々テロから守られた。 そのままブリタニアに幻滅するも、『タレイランの翼』は立ち上げずにスバルのことをマーヤから聞き、直接会ってから正式にアマルガムに妻と共に加入する。

 

 技術者だが実証されて解明した技術でロマンを追及する『現実的なロマン主義者』。 ロイドとラクシャータとは昔から子供の張り合いマウントの取り合いをしている。

 フロートシステムに関しては『よく理解していない現象だけを頼りに開発するなど命を良く分からないものに預けるようなものだ!』とか。

 

 余談だがスバルに対するアリスの気持ちを知っている唯一の人で、『妻と娘が出来たらこんな感じになるのかな?』とホッコリしながら思っている。

 

 

 ‐アレクセイ・アーザル・アルハヌス

 帝都ペンドラゴンの警備騎士団を率いる警備騎士団団長。 原作では『タレイランの翼』の支援組織『タレイラン・チルドレン』を結成していた。 セントラルハレースタジアムにグリンダ騎士団と皇族が集まることを人質に占拠する。 最後は追い詰められるも、オルドリンの説得に降伏するかに見せて自決する。

 

 実際はギアスをかけられ、オルドリンを精神的に追い詰める一手だった。

 

 今作ではウィルバーに変わって『タレイランの翼』を結成し、ウィルバーが保有するはずの戦力も加入していたがスバルとマリーベル(そしてアンジュとマーヤとノネット)の乱入で計画は瓦解する。

 

 今回もまたオルドリンの説得を受け入れるも、自分の意思に反しながら動く身体に従って自決する。

 

 

 ‐澤崎(さわさき)幸麿(ゆきまろ)

 日本侵略時に父であるデメキン敦と共に中華連邦へ亡命した政治家。 キュウシュウ戦役時に父親を失ってからは独自に大宦官へ取り入って、中華連邦の南部にある基地に自ら日本の亡命政権を築いて密かに中華連邦の在り方に不満を持つ者たちを集めて『紅巾党』を結成する。 

 ここまでは良かったのだが父親のように欲をかいて己の領地(亡命政権の基地)をブリタニアに差し出そうとして、条件として中華連邦内部を混乱に陥れるように言い渡される。

 彼の抹殺をピースマークの依頼で承ったオルフェウスとズィーによって本性を暴かれ籠城戦状態の基地は混乱に陥り、混乱に乗じてオルフェウスに殺されている。

 

 後に『紅巾党』の生き残りはシンクーによって拾われ、新たな首領をシュ・シンフォン一とするが過激派の一部は暴走してオズの『紅巾党の乱』を始めてしまう。

 

 

 ‐威海衛の少女

 中華連邦と密会するシュナイゼルの護衛として中華連邦に入国したグリンダ騎士団が威海衛で足止めを食らっている間に気分転換に町へくり出した際にソキアが仲良くなった現地ガイド。 

 シュナイゼルと大宦官たちを狙う紅巾党が威海衛の市街地や住民を巻き込む大規模な攻撃にマリーベルとオルドリンの優先順位の食い違いが発覚するきっかけ。

 今作ではマリーベルもソキアとオルドリンと一緒に町へくり出していたので決別のタイミングが外れた。

 余談で肩車をしていたソキア曰く、“モッチモチでスッベスベ太もも♡”持ち。

 

 

 ‐ネーハ・シャンカール

 ドイツ東部の都市ベルリンを拠点に研究をしているインド人の科学者。 実は過去に両足を戦災で失くしており、当時医師だったラクシャータに助けられて特製の義足を彼女から貰っていることがきっかけで、ネーハもラクシャータのように医師と科学者の道を歩む。

 飛び級でEUの総合工科大学に入学しては『次世代KMFのOS』という論文を出し、これによってEUとブリタニアの双方から注目される。 見た目も背後関係もない天才の所為で

 ()()()誘いを両国から受けて困っているところにピースマークの存在を知り、自分をラクシャータの居る元へ護衛することを依頼する。

 彼女の亡命を聞いたEUの保安局、そしてユ-ロ・ブリタニアの特殊部隊の追っ手をオルフェウスとズィーと一緒に潜り抜けている間に、それまで研究一筋だったネーハは紳士的な異性である『王子』の様なオルフェウスに惹かれていく。

 余談だが義肢故に足取りはおぼつかなく、『ドジっ子』属性の所為でオルフェウスは紳士的に接していた。

 

 

 ‐クララ・ランフランク

 太ももまで伸ばしたふんわりピンク髪の自己中心的で残忍なヤンデレ。 ギアス嚮団のエージェントでギアスは『目視しながら名前を叫ぶことで対象の肉体を意のままに操る』というモノ。 

 過去に頭部への実験を受けたところで脱走し、オルフェウスに帽子を渡されて以来は髪の毛を切っていなくその時の帽子を常時かぶっている。

 原作ではオルフェウス、エウリアやトトと共にギアス嚮団を脱走するがクララの所為で居場所がバレてしまう。

 後に『ジュリアス・キングスレイ』として壊れかけたルルーシュの再調整後の為にナナリーの代用として『クララ・ランペルージ』としてアッシュフォード学園に一足先に潜入する。

 彼女の行動すべては愛するお兄ちゃん(オルフェウス)の為で、彼と会えるのならVVの命令にさえ背くが、様々なすれ違いが起きてよりにもよってそのオルフェウスに殺されている。

 

 今作ではオルフェウスとエウリアの脱走後に問題児となった彼女はエデンバイタル教団由来の脳手術で『家族愛』を増強されて、VVを『パパ』と崇拝するまで何度も人格が破綻寸前まで調整されていることが判明。 それでもオルフェウスを『お兄ちゃん』としてっているのは変えられなかった。

 

 尚エデンバイタル教団で同時期に脳手術を受けていたマオ(女)とは似た性格と工作員能力故か、よく顔合わせをされて比べられ、本人たちは不本意で心の奥底から同族嫌悪感を互いに向けていた。

 毒島の峰内によって昏倒され、マオ(男)によってギアス嚮団の拠点を読まれるがそこが実はエデンバイタル教団の拠点と変わっていた。

 

 現在は今まで芋虫簀巻き状態でキャリーケースの中に封印軟禁されていた反動からかオルフェウスに合わせた瞬間に目をハートマークに変えながら見事な縄抜けを披露しては彼に付きまとって困らせている。 *1

 

 

 ‐エウリア

 ギアス嚮団で育っても優しい心を持ち続けたオルフェウスの恋人だった少女。 プルートーンの襲撃により、オルフェウスの眼前で村人共々殺されてしまう。

 彼女が発言したギアスは死後に発動する『特定の物質に思念体を宿らせる』という異質的なモノ。

 原作ではオルフェウスが彼女の形見として持っている髪紐を通して彼に安らぎの言葉や夢を見させて慰めたり、彼女の墓標の前に現れた記憶喪失のオルドリンをオルフェウスと思って幽体として登場している。 何気に死後でもオズの二人を支えている。

 今作では(今のところ)名前だけ登場している。

 

 

 学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD(通称HOTD兼『コードギアスと関係あらへんやん!』その1):

 

 

 ‐作品設定

 主に『もし現代社会に生ける屍が突如として現れたら』という事に重点を置いたもので、視点は主に高校生の生徒たちから見たもの。

 

 

 ‐『奴ら』

 HOTD内で死亡した人が再び活動した状態。

 生ける屍、つまりは『ゾンビ』なのだが作中では『非現実的』とみなされて『奴ら』と呼称されている。

 

 

 ‐毒島冴子

 原作ではヒロインの一人で高3(18歳)だった。 腰より長く伸ばした黒髪ロングで凛とした古風な冷静沈着で引き締めた態度の(天然)淑女。 高2時に全国大会で優勝した実力を持つ剣道部主将で、周りが『奴ら』の出現によってパニック状態に陥っても自身は『奴ら』を木刀で平然と『こういう事もあるだろう』と思いながら薙ぎ払っていた。

 尚作品内のステータスは174㎝、56㎏、83/56/86のDカップとされているがどう見ても『カップサイズ詐欺』としか思えない描写と言う説が今でも絶えない。

 

 実は普段の冷静沈着な彼女のは『表向き』のモノであり、本心では他者をいたぶることで感じる(意味深)ドS。 *2

 

 今作ではどういう訳か桐原泰三の孫であり、神楽耶とスザクは幼馴染でスザク同様に藤堂の門下生であることが判明した際、幼いスバルに初めて『なんでやねん』と(内心で)ツッコミを入れさせた存在。*3

 当時からでもスザクさえボコボコに打ち負けさせていたが、藤堂の見様見真似の三段突きをスバルによって完封されて桐原に初めて泣き付いたとか。*4

 これを機に反省してはメキメキと色々成長していき、スザクに頼まれて彼の父親の元へと護衛のSPたちと共に向かい、スザクがゲンブを殺した後の現場に居合わせてしまう。

 機転を利かしてとても7歳とは思えない手腕で証拠隠滅にゲンブの凶行の隠蔽を工作、そして放心していたスザクと気を失わされていたルルーシュとナナリーたちの三人をその場から遠ざけたことから『神童』と周りから一方的に称えられて期待を寄せられ、このことが原因で彼女が原作HOTDで見せたドSが加速していく。

 アッシュフォード学園の高等部では幼馴染で自分の全力に応えてくれる数少ない実力者であるスバルと再会して内心喜び、お互い素の姿を知っている者同士で支え合う。

 スバルからある日『六家の遠縁という事から桐原との面会アポを取れないか?』と聞かれてから深読みをし始めたことで、何気に彼の過大評価伝説を始めた張本人でもある。

 黒の騎士団支援組織のアマルガムは単に、毒島の手一つが元に出来上がったモノと言っても過言ではない。

 

 余談で『クールビューティーな成人女性』の所為で年上の扱いを受けているが今作ではスバルたちと同じ17歳であり、内心では自分の築き上げたイメージの所為でかなりストレスを感じており、ドSを発揮したり一人だけの時はスバルの編んだぬいぐるみ(す〇すく白澤)を相手に時たま愚痴っている。

 スバルの周りに女性が増えていくことを嫌がる所か『流石だな』と納得している節が見える。

 更に余談で、ゾンビの様なKMFを相手にしてからたまにHOTDを思わせるような悪夢を見ている様子。

 

 

 クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 (『コードギアスと関係あらへんやん!』その2):

 

 

 ‐作品の注意事項

 登場人物の大半が見目麗しい女性キャラの上に一話目で『アレ』を思わせる描写がでるため『エロ寄りの深夜アニメ』の第一印象があるが、実際はシリアス+グロ+過激な内容と言うダブルパンチの所為でハードルがかなり高くなっている。

 更には製作の所為で『オープニングがSE〇Dそのまま』、『良くも悪くも()()な女主人公』、『ナニコレ展開』のオンパレードが追加されて作品を観た者たちは『大好き』か『全く受けない』の二択に激しく分かれてしまう。

 

 余談だが『流石にこれはアカン!』と後から隠す処理や描写変更などが多数あった作品。*5

 

 気になって今から観る方には、一話目のショック的な内容を乗り越えられることを祈り〼。*6

 

 

 ‐作品設定

 クロスアンジュの世界は『マナ』と呼ばれている万能物質が存在し、これを利用することで『魔術』や『魔法』に似た現象を個人が使え、更には電気や燃料に変わる『動力』などとしても使用されている。 高度な技術への発展により戦争や自然破壊などの問題もなくなり、宗教も皆が平等に使える『マナ』に寄るモノばかり。

 

 

 ‐ノーマ

 通常は老若男女問わずにマナを扱えるのだが、たまにマナが全く使用できない者たちが生まれてくることを指す言葉。 『マナによって成り立つ社会に反する存在』として虐げられ、差別の対象となって各国政府に捕獲され、処刑されている。

 実際は『人権』をはく奪されてとある最前線に連れて行かれ、死ぬまで『普通の(マナを使える)人間』を守る奴隷兵として使われることを義務付けられている。

 生まれてくるノーマは何故か全て性別が『女性』と限定されている。

 

 

 ‐エアバイク

 マナを使用することで空を飛ぶバイク。 以上。

 今作ではクロスアンジュの事を知っているスバルの変態機動によって『虹色のオロロ~』をしたアンジュを見て思っときに単語として出ている。

 

 

 ‐エアリア

 エアバイクを用いたラクロスに近い球技。 ルールは二人一組でタンデム式のエアバイクに乗って一人は操縦、もう一人はラクロススティックを使ってボールを奪い合い、相手チームゴールであるサークル内にボールを入れるとポイントを稼ぐ。 *7

 余談だが原作アンジュはこれのおかげで空中戦のセンスがずば抜けていた。

 

 

 ‐アルゼナル

 世界中のノーマの強制収容所であると共に次元を越えて侵攻してくる『ドラゴン』と日々戦う海の孤島に造られた最前線の軍用基地。

 ここに連れて来られたノーマは訓練され、人類社会の防人として強制的に死ぬまで軍務に使役される。

 クロスアンジュでは世界の上層部でも一部しか存在を知らされていない最高機密で機密漏洩の恐れがあるのならば誰であれ例外なく秘密裏に抹殺されている。

 

 

 ‐ドラゴン(正式名称DRAGON)

 アルゼナルに連れて来られたノーマたちが戦う『人類の敵』。 正式名称は『Dimensional Rift Attuned(次元を越えて侵攻してくる) Gargantuan Organic Neototypes(巨大攻性生物)』、通称『DRAGON(ドラゴン)』。*8

 外見は名称の通り、ファンタジー作品などに登場するドラゴンや飛竜(ワイバーン)に酷似していて個体差によって分類され、『ゲート』と呼ばれる次元の門から出現する。

 

 

 ‐ゲート

 原作でドラゴンが出現してくる次元の門。 このおかげでアルゼナルは出現場所を予測して前もってロボット兵器に搭乗したノーマたちを先回りさせている。

 尚余談だがロボット兵器は予測された作戦遂行に必要最低限の燃料しか搭載されていないので無駄な行動をすれば帰れなくなり、そのまま僚機によってKIAとされてしまう。

 

 

 ‐パラメイル

『クロスアンジュ』で登場しているロボット兵器。 長距離飛行を想定した戦闘機の様な形態をした『フライトモード』と人型形態の『アサルトモード』に変形可能な可変型。

 

 今作では名前も機体も未登場なのだが、裏で可変型KMF開発をしていたウィルバー・ミルベルがアマルガムに合流した所為で………………

 

 

 ‐ペロリーナ

 かつてクロスアンジュの世界でブームとなった、見た目がツギハギだらけのブサイクなクマのゆるキャラマスコット。

 今作ではスバルが仲間外れにしょぼんとしていたアンジュに編んだぬいぐるみとして登場。

 スバルは『クロスアンジュだから』と思っているが、アンジュからすれば『ナニコレブサイク』と思われている。 *9

 

 

 ‐永遠語り

 原作では『ミスルギ皇国』の皇族にのみ伝わっている歌。

 

 今作でも出てきているが、設定が『母から娘にだけ代々口伝で受け継がれている禁断の家宝』とされている。

 アンジュがこれらしき歌を歌って、クリストファーを倒す大きな要因として献上しているような描写が仄めかされている。

 

 

 ‐作品内のパイロットスーツ

 長時間の行動と排泄の利便性を考えられて胴体部前面と臀部が露出しており、スーツの下に下着はつけられていない(ショーツの様なものはスーツの一部であり、着脱可能となっている)。 頭部にはオプションとして暴防用のバイザーがあり、パイロットスーツに付いた尻尾の様なものと繋げると機体情報が映し出されるヘッドアップディスプレイとしても機能する。 *10

 

 原作では留置所にも似た境遇から物資の供給がままならないので、アルゼナルの備品は基本全て回収できたものは使いまわしている。

 アンジュは(アニメでは)死亡した『ナオミ』のスーツを着用している。

 

 今作では『クロスアンジュ』のアンジュが居たことと、登場人物の中の人がコードギアスでも多数いたことでスバルが悪ふざけ半分で学園祭用のコスプレ衣装として作っている。 

 

 余談でこれを見たミレイが『うっわエロ』と思って衣装を隠した保存した。 そして何の因果かカレン(エルシャ)CC(エマ・ブロンソン)に挑発されて着用した。

 

 

 ‐アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ(今作では『アンジュリーゼ・イカ(Eka)ルーガ(rüga)ミスルギ(Measerugi)』として登場)

 原作では一つの大国であるミスルギ皇国の金髪ロングアホ毛にサイド縦ロール第一皇女。 容姿端麗、才色兼備でスポーツ万能、高貴で礼儀正しく優しい性格は国民や同級生だけでなく他国からも愛される存在だった。

 そんな彼女でもクロスアンジュの『常識』に毒されきっていてノーマに対しては赤子であろうと徹底して人類悪(または化け物)扱いをしていた。 *11

『ノーマの根絶こそが最高の理想』と宣言しておきながら、16歳で全国民の前で行われる『洗礼の儀』で彼女がノーマであることが明かされて人生が一気に一転してしまう。

 強制収施設のアルゼナルに連れて行かれても皇女としての高いプライドと頑固さは続き、頑なに周りを見下して距離を意図的に取っていた為『痛姫』というあだ名が付けられる。

 いずれは自身がノーマである自覚を持つようになるのだが性格や口調は(悪い意味で)ワイルドとなり、チームプレイは皆無……どころかヤケクソ気味の『単機吶喊(とっかん)特攻4649♪』。

 

 今作ではシュタットフェルト夫人の嫌味で無理やりカレンを貴族令嬢として送り出した先に、『お茶会の主催者兼政治に直接関わらない皇族の血が流れている家の長女』として登場し、原作で見せた『ノーマは人類悪』が『非ブリタニア人は非人間』と変わっている。 

 後に彼女自身が非ブリタニア人とのハーフであることが発覚してしまい、母親は乱心して死亡し、『周りが落ち着くまで』と父親が交友関係のある家が運営しているアッシュフォード学園へ留学生として送る。

 アッシュフォード学園に来ても『痛姫騒動』は健在で、当初は『群れ合うのは庶民のすること』や『家事などは下々の者がやること』など協調性は皆無であのミレイでさえも扱いに手こずり、従者見習いのある経験の誤解からスヴェン(スバル)黒のレース下着等の洗濯を含む身の周りの世話を一時的にするが『とある出来事』で徐々に置かれた環境に順応していく。

 

『痛姫』時代からスヴェン同様に態度を全く変えなかった毒島とは仲良くなり、彼女と共に夜な夜なストレス解消をしていくうちにメキメキと『武』方面が鍛えられていく。

 神根島にて命の危機に瀕し、独自乗り越えたことで『原作アンジュ』の様なサバサバな男勝りな素の姿を出し始める。

 

 天元突破するアホ毛に『残念系ポンコツ美人』属性が追加されたのか、実家の状況把握や縁談の話などをおそろかにした所為で危うく政略結婚をさせられるようになるがスヴェン(スバル)と共に乗り越え、彼に恩と共に特別な感情も密かに感じている様子。

 

 ユーフェミアとは以前からラクロスを通じた交友があり、アンジュは昔の自分を連想したのか(あるいは似た境遇を通った所為か)ユーフェミアがアマルガムに匿われている間に大の仲良しになっている。

 

 余談で家事全般は出来るようになったが、初めて料理をする物限定で何故か毎回必ずシャーリー以上にヤヴァイ『鳴き蠢く謎の物体X』が漏れなく出来上がってしまう。 

 

 

 オリジナルEXTRA:

 

 

 ‐アマルガム(正式名称アマルガメーション・ユニオン)

 全てはスバルが毒島の問いに『黒の騎士団に賭けるのは危うい』と答えたことから始まった。

 最初は『黒の騎士団お助けサークル』のつもりが何故か『黒の騎士団支援組織』にまで進化していき、スバルが原作知識を用いて着々と有能な人材を集めた結果に今では対テロリスト遊撃機甲部隊のグリンダ騎士団とほぼ同等の、個人が持つべきではない戦力へと膨れ上がった。

 

 

 ‐中華連邦の人工島

 一期でルルーシュが『もしもの時の為に』と思い、中華連邦と交渉してエリア11外の拠点をR2で得た蓬莱島(ほうらいじま)と似た中華連邦の潮力発電用人工島の一つ。

 いずれ必要になると思いかつEUの強制収容所にいた日系人たちの亡命先にスバルが桐原に頼み、貸し出された島。

 本来は人が住むような想定をされていないのだがEUにいた日系人たちに取っては新天地として感謝している。

 スバルにとっては『R2に向けて』と『亡国のアキトで描写された日系人たちも次いでに』の目的だったが、深読みした桐原などの方針によって本格的な開拓を施されている。

 

 

 ‐火薬

 コードギアスの世界と知ってから『ヤベェ』と思ったスバルが思いついたのが多種多様な使い道もある上にコードギアスの世界ではほぼ未知なものという事で対策もされていない『火薬』。

 実質グラスゴーの軽金装甲を長距離から破っており、パイルバンカーと立体機動用戦闘装置を付けた狙撃銃でKMFを撃墜させている。

 恐らくコードギアスの世界では初となる『KMFに真っ向勝負を単身で仕掛けた歩兵が勝つ』というジャイアントキリングを果たしている。

 

 

 ‐蒼天(オリジナルKMF)

 シンジュクゲットー事変でスバルが資金調達のため売ったランスロットから得たデータをラクシャータが見て発狂し、紅蓮二式と並行する形で作ったいわゆる『シェンフーMKII』。

 殺人的な機動力とスバルのパイルバンカーに火薬式兵器、そして輻射波動アームを持っているがラクシャータ曰く『完全体からは程遠いから試作を付けて』らしい。

 

 

 ‐小型無人機

 現在『ドローン』と呼ばれている物。 コードギアスの世界でも開発は進められていたがファクトスフィアの所為で中断されていたのを、スバルが毒島に頼んで得た設計図を完成させて前世の知識でセンサー類などがてんこ盛りとなり、『質より量』でファクトスフィアとほぼ違いない情報量を得られるようになっている。

 スバルにとって簡単なAIプログラミングだったが、彼の機体を(無断で)分解したwZERO部隊の技術部(アンナたち)はこれのおかげでより高性能な無人型KMFを作ることに成功している。

 

 

 ‐ガニメデ・コンセプト

 アッシュフォード学園に残された機体をベースに元々の設計図に沿ってGX01に使われていたサクラダイト合成繊維のマッスルフレームで覆ったKMF。

 従来のKMFより一回り居大きく、エナジーの燃費も悪いが機動力は指揮官用グロースターにも劣らず元イレギュラーズのギアスを直接KMFに適用できるようになっている。

 スバル曰く『GX01以上に小型化された覚醒〇ヴァ(S2エンジン未搭載)』。

 

 

 ‐サザーランド・スカイアイ

『オズ』のソキア専用機であるサザーランド・アイより前に、スバルが亡国のアキト編に介入する時の為に改造したサザーランド。 主に小型無人機による索析や電子戦を想定されたD-3 どら焼きの形をした頭部のKMF。

 ナルヴァの森作戦後に、wZERO部隊の技術部(アンナたち)によって解析する過程で部品にまで解体された。

 

 

 ‐試作型蒼天型・村正一式、武蔵タイプ

『亡国のアキト編』に介入したことで『アポロンの馬車』の技術を手に入れたスバルが頑張った独自に(魔)改造を施したアレクサンダ……なのだが通常のKMF寄り装甲が厚くされている上にサイズが一回り割大きくなっており、体中に取り付けられて噴射機やスラスターのおかげでとても見た目から想像できない機動力を誇る。

 兵装はアレクサンダのリニアアサルトライフル(超電磁式機関銃)、近接戦闘用の長刀、可変式レールガン、パイルバンカーなどをハリネズミ状態のように搭載している。

 

 当初考えた名称が長いので、スバルはもうぶっちゃけてよく『撃震(げきしん)』と呼んでいた。*12

 

『亡国のアキト編』クライマックスで激戦を繰り広げた末に、シンのヴェルキンゲトリクスとの戦闘でほぼ原形をとどめられないほどの残骸と化した。

 

 だが『流石はスバルが自ら手を入れた機体』と言うべきかその状態でも得るものはあり、アマルガム用の『次世代KMFのサンプル』として現在アンナたち技術部が解析しながら復元を試みている。 スバルはまだこのことを知らない。

 

 

 ‐ディーナ・シー

 桐原が冴ちゃんアマルガム用に調達した潜水艦。 名前は『トゥアハ・〇・ダナーン』繋がりでスバルが軽い感じで出したのが密着してしまった。

 元ネタは『イタズラを行う、自然を操る、他者を治療する、妖精にしては珍しく人間と集団生活など』を行うアイルランドの妖精。

 

 軽はずみに言ったスバルの名前が、余りにもアマルガムの在り方に合っていたのでアマルガムメンバーたちは感動したとか。

 

 

 ‐リア・ファル

 亡国のアキト編で撃墜されなかった『ガリア・グランデ』の残骸とwZERO部隊の高々度観測気球を再利用して造られたアマルガムの航空浮遊艦。 

 グリンダ騎士団のグランベリーより一回り大きく、本来はニーナの論文を元に作った原子力で動く代物だがウィルバー・ミルベルの慎重さにより、従来のサクラダイトによる電力供給などで補っている。

 移動手段はフロートシステムに『アポロンの馬車』と水銀を利用した磁気流体力学を混ぜたモノの上に光学迷彩も搭載されている為レーダーなどのセンサーに発見されにくい。

 ただしこれらのステルス機能を付けている間は高い周波数の音を発することと、莫大なエナジーを要求されるのでブレイズルミナスの展開は同時に出来なくなる。

 

 主砲は元々原子力による高密度に凝縮した粒子エネルギーを発射するモノだが原子力の開発が終わっていないことから現在は磁気流体力学の水銀と魔改造したフロートシステムの応用を生かしてヒッグス粒子の崩壊で得られる電磁気力を流用したレールガンとなっている。 これはこれで恐ろしいのだが、『エネルギー』ではなく『実弾』と変わっている所為で反動や船体にかかる物理的&電力の負担が想定以上となっており、文字通りに『諸刃の剣』と化している。

 

 現に今作では(無理やりとはいえ)二発撃っただけでリア・ファルには様々な方面でガタが来ている。 なおスバルのロマンで主砲の引き金は拳銃型スイッチとなっているが、レイラたちはそれを『意味あるもの』と深読み過ぎている受け取っている。

*1
ネーハとミス・エックスも困っている。

*2
要するに相手をいたぶればいたぶるほどに濡れてくる。

*3
2話より

*4
桐原:ワシの冴ちゃんを泣かせたクソジャリを探せぇぇぇい!

*5
つまり今では見られない貴重な『自重無しの製作』

*6
作者:帰れ、キルゲ・オピー

*7
公式:クィディッチ? 知らない子ですね。 ラクロスは知っていますけど。

*8
流石『種』製作!

*9
それでも捨てていないのは……

*10
ぶっちゃけ高度の寒さでギリギリ死なない程度のエロパイスー。

*11
子供が連れ去られて泣き喚く女性を慰める“生まれた子供がノーマ(不良品)だったのなら、また産めば良いだけの事です”は衝撃的。

*12
つまり戦術〇モドキに〇魂号をコンクリートミキサーにぶちまけたような代物。




リアルが少々きつかったので寝てきます。


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コードギアスR1.9、R2前の“空白期間”
第175話 『無知は幸福なり』


お読み頂きありがとうございます、本編再開です。

リアル関連で投稿時間が一時的に変わっていますが、楽しんで頂ければ幸いです。


『矯正エリア11』。

 かつての旧日本にして、ブラックリベリオン後に反ブリタニア活動が燻るエリア11の正式名称だった。

 

 特に治安の悪いゲットーは『ダークゾーン』と呼ばれ、アッシュフォード学園が占拠されそうになったことで以前より租界エリアとは徹底的に隔離されるようになっていた。

 

 そんな様子を、エリア11支部の機密情報局に着任したヴィレッタは租界内を走るモノレールから見下ろしていた。

 

「(表面上、街並みはそれほど変わってはいない。 だが、明らかに中央から離れれば離れていくほどに路地裏の人だかりが目立つ。 それも、総督が変わってからだ。)」

 

 パパパパーン!!!

 

『このイレヴンどもはゼロというペテン師に踊らされ、かつて蛮族だったころの“日本人”に戻ろうとした好戦的で危険な種である!』

 

 ヴィレッタは大型スクリーンから乾いた銃声と共に大々的に映し出される、()()()()死刑執行の映像後に演説を行うカラレス総督を見た。

 

『よって我らブリタニア人による管理、およびに武を用いた教育を!』

 

 人の流通までは流石に無理だったが租界とゲットーの間を行き来する物資などは厳しくチェックされるようになり、『怪しい』という理由だけでその場に居合わせただけや周りの人たちまでも連行されるようになっていた。

 

 その者たちが行きつく先には『事情聴取』という名だけの尋問が待っており、一人が告白すれば同じ場で連行された者たちもまとめて公開処刑されるという流れだった。

 

「あらやだ、またイレヴンどもよ。」

「もう少し控えてほしいものだ、これから通勤だというのに……」

「銃声は良いから紅茶の質が戻ってくれないかな?」

 

「………………」

 

 そして()()()租界内に残ったブリタニアの富豪や貴族たちにとっては慣れた光景、つまりは()()になりつつあったことにヴィレッタは何も言わずに駅から降りるとブリタニアのSPたちが敬礼する。

 

「お待ちしておりました、ヌゥ男爵。」

 

「(以前からエリア11に配置された者たちか。)」

 

 ヴィレッタは頭を短く縦に振ってから外から様子が窺えないようにガラスが黒張りになっていた車に乗ると、中には既に15,16歳ほどの少年が既に乗っていたことにハテナマークを浮かべる。

 

「君は────?」

「────初めまして、ヴィレッタさん。 ボクは『ロロ』。 とある機関に所属していて、貴方への簡潔なブリーフィングを任されています。」

 

 目の前の少年が淡々と冷めた様子のまま言葉を並べながらフォルダーをヴィレッタに手渡そうとする。

 

「『とある機関』と言ったが、君も機密情報局なのか────?」

「────そこまであなたが知る必要はありません。 ただ────」

 

 ファサ。

 

 急に髪の毛が擦れるような音と共にヴィレッタのサイドテールが解けていき、『ロロ』と自己紹介した少年はヴィレッタに髪留めを手元のフォルダーと一緒に手渡す。

 

「────こうすれば、貴方ほどの方ならばお分かりになられるかと。」

 

「(バカな……今のは、どうやって?)」

 

「これは『ギアス』と呼ばれる……そうですね、『超能力』とでも呼びましょう。 これは機密情報局でも限られた者しか知らされていない情報ですが、ゼロの捕縛に献上した功績を見込んで貴方に話すことを許されています。」

 

「“許されている”? 皇帝直属の機関の者が────?」

「────これ以上の詮索は無用ですし、知ろうとすれば貴方だけに()()は止まりません。」

 

 ロロの言葉にヴィレッタはゾッとしながら本国に残した弟妹たちを想像し、出来るだけ平常心を保とうと渡されたフォルダーを拝見すると、ゼロとルルーシュに関する書類を読む。

 

「(ところどころの情報が伏せられているが、この少年は……なるほど、ゼロが学生だったとはな。 道理で見つからないわけだ、これならば噂になっていた『クロヴィス殿下が二重人格者説』がよっぽど現実味がある。 しかし180の監視カメラに50名ほどの監視役に政庁とは独自の指揮系統を持つ機密情報局のナイトメア一個小隊……これでは『学園』と呼ぶより差し詰め、『監獄』だな。 対象が『ゼロ』とくれば、わからなくもないが。)」

 

「貴方の様な聡明な方ならば察しているかもしれませんが、ゼロも『ギアス』を保持しています。 ですが今では()()を施したので、彼は自身がゼロだった頃やギアスの事を消去されています。」

 

「その……『ギアス』とやらはどんな────?」

「────彼が万が一思い出す前兆があればボクが殺しますので貴方が詳細を知る必要はありませんが……そうですね、彼のギアスは『他人を操り、操られている間の記憶を消す』モノです。」

 

「(なるほど……だからあの時のジェレミア卿や、バトレー将軍も……) だがこれだけの監視とはいえ、もしそのギアスを使用されれば────」

「────貴方は過去に術中にハマったので『もう効かない』という事が、このエリア11トウキョウ租界支部の機密情報局指揮官のポストを任された最大の理由とご理解すればいいです。」

 

「……」

 

 ヴィレッタは盛大な溜息を出すのを我慢し、情報過多によってくらくらとしそうな思考を無理やり動かして資料を読み続けながら口を開ける。

 

「アッシュフォード学園の教師役────?」

「────貴方たち外部の人間が最も効率よくかつ怪しまれずに記憶喪失であるゼロの監視を行える為の身分です。 不服ですか?」

 

「別に……任務であれば従うが、私がゼロの……この『ルルーシュ・ランペルージ』の教師役を通して監視は────」

「────貴方の過去に示した履歴などを配慮して最も無難な『体育』が割られています。」

 

「……私が教師役をするとして、君は……ロロは何をするのだ?」

 

「ボクは彼の弟として潜入しています。 兄弟で同じ男性ならば彼とどこへでも一緒に行っても怪しまれません。」

 

「そ、そうか。 ん?」

 

 ヴィレッタがページをめくるとほぼすべての情報が伏せられている、緑髪の少女を映した写真に目が留まる。

 

「少女のコードネームは『C.C.』。 本作戦の捕縛対象であり、最優先事項です。」

 

「『C.C.』? なんだそれは、人の名前では────」

「────ええ。 仰る通り、()()()()()()()()()()()()。 非常に危険な存在です。 発見次第、射殺する発砲許可も既に下りています。」

 

「それほどまでの者なのか?」

 

「目撃者の口封じも兼ねている許可ですが?」

 

「な────?!」

「────何を驚くんです?」

 

「だがもし、彼女が人ごみの中に紛れ込めば────?!」

「────通行人含めて全員殺します。 最も確実な方法でしょう?」

 

 見た目も態度も違うが、ヴィレッタは『ベルマ』としてマオ(女)と共に過ごした時に感じた危うさをロロに重ねながら資料のページをめくると────

 

「────こ、これは────」

「────その方もC.C.同様に危険人物として捕獲、あるいは抹殺の対象となっています。」

 

 ヴィレッタが見たのは手書きの、スバル(森乃モード)の人相だった。

 

「体面的にボクは機密情報局の指揮官である貴方の『部下』ですが、どちらかというとあなたがボクの『協力者』の方が近いですね。 必要とあれば、前任者のように消えてもらいますし────」

「────は────?」

「────ですので貴方とその部下はC.C.、またこの絵の男性の捕獲か遺体の回収に専念してください。 無用な詮索が過ぎれば、ボクも消されかねませんのでお控えください。」

 

「……わかった。」

 

 ようやく車が動き出し、ロロが携帯を取り出して操作しながらハート形のロケットを片手で弄り出し、ヴィレッタは車の窓ガラスに頭を預けて空を見る。

 

「(スバルさん……貴方は一体、何をしているのでしょうか?)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「これは……」

 

 モジモジモジ。

 

「えっと……設計図通りに試作を作ったけれど?」

 

 モジモジモジ。

 

 スバルは無言でただただ『勝・利』の二文字を内心に刻み、ボディラインにぴったりと密着した斬新なデザインをしたパイロットスーツを着込んだ毒島の姿を記憶に焼き付ける。

 

 ジー。

 

 「その……そう見つめられると、気まずいのだがスバル?」

 

 「(パーフェクトだマリエル! ムホホホ♡)」

 

 今すぐそう叫びたいのか、スバルのポーカーフェイスはムズムズとしていた。

 

 「うーん……やっぱり男の子なんだね────」

「────何か言ったか、マリエル?」

 

「い、いや~……その、みんなから聞いた話だとこう……君って異性に興味がなさそうな感じもあったから、こういう風なことを提案するの意外だったというか。」

 

 マリエルのボソッとした小声にスバルがツッコミを入れると、彼女は目を泳がせながら話をはぐらかそうとするが。

 

「フ、分からんか? このパイロットスーツの────いや、今は見た目だけだが()()()()()の予定された機能だが────」

「────いやまぁ、性能は────」

「────まずは高度な伸縮性を持ちながら衝撃に対して瞬時に硬化する光ファイバー回線技術を用いた特殊保護破膜に対G、防刃、耐熱耐寒耐化学物質性の機能に、スーツには通信機器やセンサーによって着用者のバイタルモニターにラクシャータがデザインしたパイロットスーツのような生命維持装置兼緊急救護処置────」

 

 

 ……

 …

 

 スバルにしてはかなり珍しい饒舌な演説が続くので時間を少々飛ばしながら、この状況までたどり着く一連の出来事をここで書きたいと思う。

 

 1. 彼はリア・ファルの個室で、R2の大まかな流れを単語で繋ぎ合わせて書いていると外が急に騒がしくなった。

 2. 『気のせいか近づいてきてね?』と思い、顔を出したら何人かを引きずっていた大きなカブコーネリアがいたことに『ナニコレ』と思う。

 3. そう思っていた彼とコーネリアの目が合うと彼女は奇声を上げながらしがみついていたサンチアたちを無理やり振りほどき、銃剣を抜きながら突進。

 4. スバルは逃げた。

 5. 彼はひたすら逃げた

 6. 彼は軋む体と背中と痛む左腕を無視してただ全力ダッシュのまま、背後からくる奇声から逃げた。

 7. リア・ファルの甲板に追い詰められた彼が振り返るとどこからどう見ても童話や『オズの魔法使い』に出てくるような『魔女』が文字通りいた。

 a. 獣の様な『フシュルルルルル!』な唸り声とかもあり、彼は内心で言語化できない焦りの声をひたすら浮かべていた。

 8. リア・ファルのスピーカーから突然『そんなお姉さまは、嫌いです!』とユーフェミアの声で流れてくると『魔女』はまるで溶けるかのようにシワシワ顔ショボショボとしたコーネリアへ急変していく。

 9. そのまま弱々しい姿に変わったコーネリアは甲板に出てきたユーフェミアに説教されながらも、以前より逞しくなった彼女を見て感動する。

 a. この説教で、騒動がユーフェミアの言葉の綾が原因と知る。

 i. 『俺にNTR趣味はない!』と叫びたい衝動をぐっとこらえる。

 10. 難を逃れてスバルがホッとしているとマリエルから連絡が入る

 11. マリエルとソフィがいる技術部用の部屋にスバルは(内心)ウキウキしながら早歩きする

 12. 行先で(試着をスバルが名指しした)毒島が例のパイロットスーツに着替えていた

 

 ……

 …

 

「────そして対となるヘッドセットにはランドル博士のBRSを応用して機体と直接リンクすることで、戦域情報や機体のセンサー類を直接かつ自然に視界上に浮かべてパイロットの脳波と体電流を測定し、間接思考制御で機体とのダイレクトなインターフェイスを可能とさせ────ってオイ、聞いているのかお前たち?

 

「「あ、ハイ。」」

 

 スバルはどう反応したらいいのかわからなくなって『ポケー』としたマリエルとソフィに声をかけ、ようやくずっと続いていた演説が途切れる。

 

「まぁ……今までの機能はあくまで例えで、そういった方針で開発を頼みたい。」

 

 「そこまで考えていたなんて────」

 「てっきり壊れかけて思春期特有の()()()()趣味に走ったのかと思ったわ────」

 「────何か言ったか?」

 

「「イイエ、ナニモ。」」

 

「それでその……今のでスバル君の提案したパイロットスーツが凄い代物を目指していると分かったが、何故こうも()()のだ?」

 

「(エロパイスーなのに、凛々しい美人が着るとカッコイイとは何故だ。 いや、エロいのは変わらんが惜しい。 非常に! 惜しいぞ!) ちょっといいか毒島?」

 

「「「(彼女/私の質問をスルーした?!)」」」

 

 毒島の問いに答えず、スバルはただどこからか櫛と白いリボンにワックスを取り出しながら彼女に迫る。

 

 「へ。 あ。 その、え────?」

 

 頬を赤らめていた毒島は更に赤くなって行き、ついさっきまで廉恥心から出来るだけくっきりとボディラインをあらわにされた胸部装甲や下腹部から手を除いては日本刀を落としそうになり、アタフタと慌ててようやくスバルが眼前にまで近づくと目をギュッと力強く閉じて硬直してしまう。

 

「────はわわわ?! 大胆?!」

「────え? え? え?

 

 マリエルは目を両手で覆うスタンスをしながらもはっきりと見えるように指に隙間を作り、ソフィはキョトンと目を点にさせる。

 

 スバルがササッと毒島の髪の毛を手際よく櫛とワックスで整えると今度は白いリボンをつける。

 

「よし、目を開けていいぞ。」

 

「………………………………うん?」

 

 思っていたのと違うのか、毒島は困惑しながら目を開けるとスバルが拝むような姿勢になっていた。

 

「……なぜ拝む、スバル君?」

 

 「(黒髪ロングの(めい)〇たんがおる。 リアル〇()たんが降臨しておる。)」

 

「「「…………………………」」」

 

 旧日本風に拝みながらどんどんと顔色が良くなっていくポーカーフェイスのスバルを前に毒島、マリエル、ソフィはどうすれば良いのか困惑した。

 

「……よし、ありがとう。 もう一つパイロットスーツが出来上がるのが楽しみだ。 (ええもん見れたわ~♡ 眼福眼福♡ デュフォオホホホホホホホ♡)」

 

 時間が経ち、スバルはそれを最後に(ウキウキな雰囲気を出しながら)退室する。

 

「……………………思っていたより、重症だな。」

 

「「え?」」

 

 毒島がボソリと上記の言葉を発しながら申し訳ないような表情を浮かべる。

 

「ブラックリベリオン後から、“彼は無理をしているかも”と思っていたが……連続の激しい戦場でかなり疲弊したのだろう。 それこそ普通の彼から考えられないような……………………この様な………………その────」

「「────合理的な機能を予定されて胸から股間まで薄い生地の様なデザインをしたパイロットスーツ────?」」

「────“奇天烈なモノを依頼するほどまでに” 。 と、私は言うつもりだったが、その通りだ。 私は()()もしたが、危ういとも感じた……マーヤはどう思う?」

 

 ガチャ。

 

「私もそう思うわ冴子。」

 

 毒島がそう声を近くのクローゼットにかけると、中からマーヤが出てきてマリエルとソフィがビックリする。

 

「「(そこにずっといたの?! いや、何時から?!)」」

 

「君の感想を聞かせてくれ。」

 

「「(しかも毒島/ブスジマは普通に受け入れているし……)」」

 

「そうね……私はエリア11で、良く学園から抜け出して租界やゲットーを彷徨っていた時期があったからそれなりに視線に対して敏感になっていると思うけれど、()s────スバル様からは今までそのような邪な視線を向けられたことはないわ。」

 

 余談だが、マーヤとの出会いと彼女の見た目に反する過激な言動が衝撃的だったこともあってか、マーヤをスバルがそのような目で見る前にトラウマが彼の脳内で先に浮かんできているだけである。

 

 「ねぇ、マリエル? 今この子、()()って言わなかった?」

 「あー、うん。 色々あってあの子を崇拝しているみたい。」

 「えぇぇぇぇぇ。」

 

「やはり君もか。 スバルは今まで記憶している限り、この手の様なモノを見せたことはない。だがまぁ、この様な…………………………『異性を意識したデザイン』は少なくとも、“人並みにひと肌が恋しくなる時がある”という事でそれはそれで喜ばしい────」

「────回りくどい言い方の最中にごめんだけれど、()()()()ね冴子────?」

────言わないでくれマーヤ。 彼の意図を確認するためとはいえ……その………………恥ずかしいものは恥ずかしいのだ────

「────そうかしら? 彼の話を聞くところ、彼の目指している装備としては高性能な強化スーツなのだから、完成すれば通常時でも私は着るつもりだけれど?」

 

「「え。」」

 

「あ、もちろんアマルガムの一員としての行動時だけよ? いくら私でも普段着にするつもりはないわ。」

 

 ニッコリとしながら上記の言葉をマーヤは発するが、ソフィとマリエルは言葉を失う。

 

「でもそうね、彼がこのようなことをし出すという事は思っているよりも気を張り詰めているかもしれない。 何せ、こんな時でもこの様なものを用意しているぐらいですもの。」

 

 マーヤはとある紙を取り出し、それを毒島に渡すと彼女の目は見開かれていきながら彼女の手がワナワナと震えだす。

 

「こ、こ、こ、これは────?!」

「────筆跡から恐らく、彼の手書きのメモね。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 マーヤが手渡したそれは、スバルがR2やその同じ時期頃のことを思いだしながら書き上げた単語などが記された紙だった。

 

 魔女コーネリアの騒動時にスバルが逃げている間、一番介入してそうなマーヤがそうしなかった理由は単にこのメモを見つけた所為である。

 

「……はぁー……今でもここまで先を考えているとは……“彼の事をある程度は理解していた”と思っていたが、自分が情けない。 これ以上彼に自身を酷使させるわけには……マーヤ、他の皆を集めてくれ。」

 

「ええ、集合場所はここでいいかしら?」

 

「……私が着替え終えてからな。」

 

「それと、紅月さんはどうしますか?」

 

「……私としては加わらせても良いのだが、彼女は()()()()()からな。」

 

「そうね。 彼女の魅力的なところでもあるけれど、()鹿()()()なのも考え物ね。」

 

「(せっかく言わないようにしたのに……マーヤは容赦がないな。)」

 

 その日からスバルの行動を深読みしすぎた者たちは書いた予測(原作知識)に基づいた作戦を立てつつ、出来るだけ彼の負担を下げようとグリンダ騎士団の本来の目的である紅巾党の残党狩り、グランベリーのデータ偽装、リア・ファルの修理、捕獲したヴィンセントの処理、エデンバイタル教団の孤児やルルーシュ似のLVBたちなどの案件を各自が連絡しあって動いた。

 

 スバルはこのことを露知らず、何か月ぶりの緩やかな一時を密かに楽しんだ。



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第176話 懐かしき東方のエリア11

お読みいただきありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです!


 グリンダ騎士団の面々と別れの挨拶を済ました(スバル)はゆっくりと浮上してから動き出すグランベリーをリア・ファルの甲板から見送りながら、ぼんやりとしたまま口を開けた。

 

「なぁカレン?」

 

「何?」

 

「気の所為か、『至れり尽くせり』のような気がするんだが?」

 

『気の所為』と俺は言うが、実際そうとしか思えん。

 

 こう……『今欲しがっているモノが先回りに準備されている』といった現象を想像して見てくれ。

 それが一日中続いてみろ。

『お、こりゃ楽でいいな』から『何これ不気味やねんけど』に変わるのは意外とそう時間はかからなくなるぞ?

 

「ん~……なんだかんだ言って、『スバルは怪我人だから』かな?」

 

「……そう言うモノか。」

 

「そう言うモノだよ。 左腕、折っているんでしょ? 鎮痛剤とか飲んでいても、えっと……“根本的な治療”にはならないでしょ?」

 

 確かに。

 

 でも果たして“そういうモノ”だろうか?

 

 グリンダ騎士団側はマリーベルなんて上っ面だけのニコニコ顔じゃなくて、見た目と同じようなふんわりとした微笑ましい笑顔になっているし、トトなんかは泣き疲れたのか目が『3』のマークになっていたし、オルドリンはチラチラと何故か俺をみるし、ソキアはそんなオルドリンを見て俺の肩を叩いて意味深な“やるねぇ~”って声をかけながらニヤニヤするし、レオンハルトはそんなオルドリンを見てマリーカに質問しても、マリーカは乾いた笑いを出すし、ティンクは…………………………

 

 ティンクは原作同様にただニコニコしていて、何を考えているのか全く分からなかった。

 

 ちなみにシュバルツァー将軍からは同類の感じがしたから、俺の愛用している胃薬を渡し────()()したとき複雑な顔をされたな。

 

 で、ピースマーク側と言えば今まで簀巻き状態だったクララをオルフェウスに丸投g────()()たら見事な縄抜けをクララが披露してべったりとオルフェウスにくっ付いてミス・エックスとネーハがギャーギャーと騒いでいたとか。

 

『縛られた上に布団に包まれた簀巻き状態から縄抜け』って……

 

 クララはどこぞのサル殴りさん作の怪盗三世か何かか?

 

 コーネリアはギアス嚮団を探し出すと言って渋るダールトンに“ではその子たちの様な犠牲者が更に出てもいいというのだな、グラストンナイツが泣くぞ”って言いくるめていたし、彼女の旅に同行するってオルフェウスが言い出した途端にクララも賛同する意思を示してネーハと(特に)ミス・エックスから抗議の声が上がって更にはオルドリンの『うわぁ……私のお兄ちゃんって……』と言う小声とオイアグロの『あっちのオズ(オルフェウス)ジェームズ(父親)のように刺されなければ良いが……』とか不穏なことを言うし。

 

 と言うか、オイアグロの言い方から察するにオルフェウスのフラグ建築士スキルは父親譲りで『父親は(多分オリヴィア(オズママ))に刺された』という事に……

 

 ……………………………………………………もうこれ以上はカンガエナイヨウニシヨウ。

 

 ウン、ソウシヨウ。

 

 まぁ『ものは考えよう』という事で、考える方面をコッチ(アマルガム)陣営に転換しよう。

 

 無駄に洗練された無駄の無い無駄な衛士ky────ゲフンゲフン

 

 ちょっと深呼吸だ。

 

 スー、ハー。 スー、ハー。

 

 ()()()()で見た目重視した目の保養のパイロットスーツや、可変型KMFに、コックピット内のショックやG対策に使えるヒッグスコントロールシステムという技術の開発目途もついたし、思っていたよりハチャメチャな『R2前の空白』の道のりだったがかなり用意ができた……と思いたい。

 

 まさかC.C.細胞の真相が『漆黒の蓮夜のクリストファー・チェンバレン由来だ』とか、予想していたより『オズ』への込み入った介入とか、エデンバイタル教団……………………………………とか()()あったし。

 

 

 

「「………………………………」」

 

 グランベリーが次第に加速して(ピースマーク由来の情報から得た)紅巾党の残党が逃げたと思われる遺跡へ移動するのを見送っていたからか、スバルとカレンは静かなままだった。

 

 う~ん、そよ風に揺られるカレンのツンツンヘアーが何だかお米の(いね)っぽいな。

 

「ねぇ、スバル?」

 

 と思いきや、カレンが話しかけてきて沈黙はいとも簡単に破られた。

 

「なんだ?」

 

「ひょっとして、シュタットフェルト家に()()の?」

 

「ッ。」

 

 カレンの言い方は、スバルにとって胸にジ~ンと感慨深く来るものだった。

 

「(“帰る”、か……)」

 

 何せ原作で見た限り、彼女にとってシュタットフェルト家は『ウザくて情けない母』、『嫌悪感しか湧いてこない義母』、『周りに(ブリタニア人)だらけの環境』、そして『無関心な父親』などが居る場所だった。

 

 そしてリフレイン(麻薬)中毒者になってから母親の気持ちを理解し、本編では深く描写はされていないがカレンが黒の騎士団の一員とブリタニア側に知られた所為で(恐らく)家は取り潰されている。

 

「(何もかもが手遅れ&空回り気味状態だったカレンが……シュタットフェルト家を、『帰る場所』と呼ぶだなんて……泣けそう……アカン、涙腺が! いかん! 泣くな俺! 引き締まれ、俺の表情筋&涙腺筋ッッッ!!!!)」

 

「(うわ、昴の顔……なんかメッチャ無理している? ううん、これは『我慢』しているのかな?)」

 

「お前の質問への答えだが、一度は()()べきだとは思っている。 (俺の所為で色々と変わっている筈だからな、R2が。 下手したらジュリアスだったルルーシュも原作より手堅い監視下に置かれている可能性もあり得る。)」

 

「そ、そっか! (“帰る”って……“帰る”って今、昴は言ったよね?!)」

 

「(なんだかカレン……『嬉しそう』? 『ドキドキ』? やっぱりシュタットフェルト家が恋しいのか?) それが、何か?」

 

「その……帰ったら、お母さん()()によろしく言っておいてくれる? 私がそのまま帰ったら、迷惑になるかもしれないから……」

 

「(ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?! あの、あのカレンが! あのカレンが、『配慮』というか『遠慮』ヲをヲをヲ────?!)」

 

 ドッ!

 

「────ごふぉ?! カ、カレン……今の肘打ちは何だ?」

 

「なんかモヤっと来たから。」

 

「でもその……いいのか?」

 

「良いの。」

 

「……………………じゃあ帰ったらジョナサン様や留美さんに言っておこう。」

 

 「ん! よろしい!」

 

「(おおお……貴重な『ムッフーどや顔と胸張り』。 カレンの胸が種オープニング並みに揺れる揺れる────♪)」

 

 ドッ!

 

「────ぶっqざwxせcdrvftbgyんふmj?!

 

 そんなポーカーフェイスを張ったスバルの顔面にカレンの拳が低い音と共に直撃し、彼は気を失ってしまう。

 

 「あ?! どどどどどうしよう……いつもみたいに手が出ちゃった……」

 

 ……

 …

 

 そこからあれよあれよトントン拍子にスバルは中華連邦の辺境、人工島の沖合、中華連邦、エリア11とめくるめく国境をスバルは超えていった。

 

「(人工島の開拓も結構進んでいるみたいでよかったよかった♪ 桐原のじいさん頑張っているな~……まぁ、色々と聞かれたときは呆気に取られそうだったけれど。)」

 

 スバルが思い浮かべたのは桐原からの通信で産業、経済、税制農業政策、軍備、外交などに関しての事だった。

 

 『何を?』と思いながらも、思わず(前世)でやりこんだ街づくり兼都市建設ゲームを思い浮かべながら適当に話に合わせた雑談をしていった。

 

 

 『農業』や『経済』に『税制』と、スバルなりに『それとなく同学年の学生でも習っていて思い浮かべられる』レベルのことを話したつもりなのだが、彼の誤算は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだった。

 

 意図的にか、あるいは別の理由でもあるのか、コードギアスの世界に将棋やチェスなどの盤上遊戯はもちろん、格闘や対戦ゲームも存在するが箱庭や『国の建造』に類する(ゲーム)は一般的に販売されていない。

 

 スバルはこのことに気付いてもおかしくないのだが、幸か不幸か一般的に家庭用テレビゲームに興味を示す期間とされる時は既に扇グループ────いや、もっと時を遡らせるとナオトグループでの行動やカレンのフォローに彼女と自分の学生(そしてスバル自身の世話係)としての設定や体面に時間を費やしていた所為でそれどころではなかった。

 

「(いや~、久しぶりにシ〇シ〇ィとかを思い出すな~。)」

 

「嬉しそうですね、スバル様。」

 

「……そうだな。 (せっかく現実逃避していたのに、こいつの声で一気に引き戻されてしまった。)」

 

 水路を移動していた船の甲板に立っていた彼の近くには、“一緒にs────戻る”と言ってスバルに同行するマーヤがいた。

 

「(そういや、アマルガム内で俺以外にブリタニアに見られても平気な奴ってマーヤぐらいだっけ。 俺と同じで変装していたし、素顔は見られていない。)」

 

 実はスバル、R2スタート前にエリア11に戻ってアッシュフォード学園の下見調査をするつもりで『帰る』とカレンに言ったのだが、どこからかそれがアマルガムメンバーたちに伝わり、『誰が表の世界に出ても問題ない』という議論相談となった。

 

 ブリタニアの諜報員や情報部に素顔を見られていない者たちが候補として挙げられ、そこでスバル同様に素顔を相手側に見せていないマーヤが選ばれた。

 

「(……確かに? ほとんどの場合『裏方』に徹していたし、髪型を変えたり染めたりメガネをかけたりした『変装』をマーヤはしていたし。 前世の基準ではそれは『変装』じゃなくて『イメチェン』だけど……)」

 

 尚それらが果たして『変装』と呼べるかどうかスバルは一瞬疑ったが、『どこからどう見ても本人に見える他人の空似で通ってしまうコードギアスの世界だから』と片付けた。

 

「(ユーフェミアの『変装(帽子とサングラス)』とか、C.C.の『変装(学生服)』とか、コーネリアの『変装(どすっぴん)』とか、オズO2でオルドリンが披露した『変装(タイツスカートスーツ)』とか、クララの『変装(男装)』とか。 本当に『変装』と呼ぶものをしているのはミス・エックスとオルフェウス辺りだけだな……ああ、前世の事がある俺自身は対象外だ。 変装時の『森乃モード』は本来、ゼロへの対策だったし。)」

 

「(こんな時でも何かをお考えになられているのですね……もしやこのようなことを想定されて、黒の騎士団を前もってエリア11に潜入させたのかしら?)」

 

 尚、『オズ』時の襲撃に備えて国境の検問が厳しくなる前にアッシュフォード学園にアマルガムを潜入させるとき、“ついでに”と原作より生き残りが多かった黒の騎士団員の幹部たちも一緒に付けただけである。

 

「(これ、気を紛らわしながら考える顔だよね?)」

 

 更にスバルとマーヤの二人の近くには、スバル手製の変装をしたロングブロンドポニテに少々大人っぽい化粧をしたカレンが少しふくれっ面気味にコーヒー(牛乳入り)を飲みながら、端で静かに読書をしていたレイラに横目で見る。

 

 カレンとレイラの目が合い、彼女はにっこりとした笑顔をカレンに送り返す。

 

「(はぁ~……気の所為と思いたいけれど、この男女比率ってどうなの?)」

 

 

 そこに“コードギアスだからドンマイ(汗)”とツッコみを入れる人はいないので敢えてここで記入したいと思う。

 

 

 


 

 

 あ、ありのままの出来事を(スバル)は言うぜ?!

 

『カレンとマーヤたちと別れてから懐かしく感じるシュタットフェルト家の屋敷に帰ってきたら見慣れない使用人たちが増えていてお辞儀されながら“おかえりなさいませ”と言われて戸惑う俺はドナドナされながら個室に連れていかれて身なりをパパッと整えられてまたもドナドナされた先に居たのは少々顔色を悪くしながらも生き生きとしたジョナサン様とブリタニア本国の使者がいる応接室だった』。

 

 いやもう、何が何だか俺もよく……眩暈がするよ。

 

 使者とジョナサン様は世間話を続けていき、俺は相槌を打っていると────

 

「それにしても、ご友人の()のことは幸いでしたねハンセン君?」

 

 ────急に話題を使者が俺に振ってきた。

 

「弟────?」

「────ええ、何でも足が不自由でしたが最近歩けるようになったと医療業界で少しニュースになりましたが。 確か、『ロロ』という────」

「────ああ。 あの話ですか、ネーハ・シャンカールのモノと酷似していますね────」

 

 チリチリチリチリチリ。

 

 使者の話が進んでいくとジョナサン様も会話に加わり、俺の首のうなじ辺りにチリチリとした感覚を感じる。

 

 これは……『値踏み』? いや、『観察』か?

 

 どちらにしても『ロロ』という名前を出している時点で、確実にR2で出てきた機密情報局かあるいはギアス嚮団の関係者。

 

 なら、『乗る』しかないな。

 

「────そうですか? それは良かったです。 彼の兄も長らく悩んでいましたので、弟の不自由さが解消されたのならば友人としてホッとします。」

 

「……でしょう?」

 

 使者のスンとしていた表情が愛想笑いへと変わり、アッシュフォード学園に関する雑談が続く。

 

 そしてチラホラと『ロロ・ランペルージ=ルルーシュの弟』という話題が出てくる度にうなじ辺りがチリチリとし始めて俺は相槌を半ば自動で行いながら考え込むと、とある仮説に行きつく。

 

 このチリチリした感覚は『視線』とか生ぬるいモノだけじゃないし、感じ出すタイミングとかを考えると……『ギアス』だろうか?

 

 一期後にシャルルが演説に便乗してギアスを使って学園の生徒たちからナナリーに関する記憶をロロに変えた描写が『オズSIDE:オルドリン』にあったが、本国とかその時に居なかった生徒たちにはこうしてギアス嚮団を使って辻褄を合わせていたのか。

 

『そんなギアス能力者、居たか?』という疑問もなくはないが……この世界には嚮団のほかにエデンバイタル教団があった。

 つまり、『ギアスユーザー(人工ギアス能力者)が原作より世の中に出ている』という可能性も入れればゼロじゃない。

 

『なら原作ではシャルルが生徒たちに一人一人ギアスをかけたのか?』という別の疑問が浮かぶが……多分、『アーカーシャの剣』を使ったんじゃないか?

 

『アーカーシャの剣』は『ラグナレクの接続』に使う思考干渉システムで、シャルルのギアスは『記憶の改竄』。

 さらに彼はR2後編辺りでは既に『達成人』────つまり自然強化&暴走したギアスのコントロール化に成功している。

 

 そうと来れば、R2のアニメ冒頭に感じた歪さと違和感が幾分か軽減される。

 

 それに……遠隔でネットワークに接続している携帯のデータも多分、閲覧してナナリーなどに関する情報も消去されているだろう。

 

 そう言う事を危惧して、俺の使う端末は全て独立したシステムになっている。

 

 ……知らない間に()()()()()()()()()()()()に接続された端末の情報操作、そしてギアスによるニュースやソーシャルメディアを使わない『大衆の洗脳』って今更だがやっぱやべぇな、コードギアス。

 

 ギアスが俺に(多分?)通用しなくて良かったよ────ってそういやトトで検証すれば良かったな、彼女のは『記憶が薄れて忘れる』系の奴だし……

 

「────では、私はこれで。 お時間を取らせて申し訳ない────」

「────いえいえ、こちらこそ()()()()になれて恐縮です────」

 

 っと、ボーっとしている間に雑談とお互いの周辺を探る会話が終わったようだな。

 

「では────」

「────いえ。 君はここに、私がエスコートをさせていただきます故。」

 

 久しぶりに『優男』の仮面と従者見習いの態度に専念し、ブリタニアの使者を応接間から広い玄関へとエスコートするモーションに入ると別の執事────リアルミドルグレーの中年だ。

 

 うわぁ、コードギアスの世界でもいるんだ。

 ちょっと感動……ん?

 “君はここに”って執事さんは言ったよな?

 

 ブリタニアの使者がエスコートされていき、俺とジョナサン様だけが部屋に残されてから数分後に疲れた様子の彼が口を開ける。

 

「……こうして君と二人きりで話すのは久しぶりだね。」

 

「ええ、全くですね。 それに元気で何よりです、ジョナサン様。」

 

「それも、君のおかげだよ。 ありがとう。」

 

 そう言いながら、ジョナサン様は頭を下げ────え゛。

 

「あ、頭を御上げください────!」

「────君のおかげでこの家と使用人たちはブラックリベリオン時に助かったとルーミー(留美)から聞いている。」

 

 うわぁ……留美さん、話しちゃったの?

 って、話すか普通。

 

「君でもそんな表情をするんだね?」

 

 あ、アカン。 『優男』の維持ガががガガガががが。

 

「とまぁ、感謝はこれぐらいにして実は君に話す事があってね?」

 

 あ、なんだかいつものジョナサン様に戻った。

 俺も『優男』に戻ろう。

 

「君が長らく学園を留守にしていることは、対外的には『ブラックリベリオン後に行方不明となったカレンを探していた』という事にしている。」

 

 この言い方、留美さんから夜な夜な屋敷からカレンと共に抜け出していたのを聞いて────いや……

 さっきの言い方から察するに、ブラックリベリオン時の対策から俺の関係性と、多分他の使用人たちから“よく家を留守にしている”とも聞いている筈。

 

 ジョナサン様が、良識のあるブリタニア人でよかった。

 

「……ありがとうございます。」

 

「感謝は要らないよ、事実なのだから。 ただまぁ、学園にそろそろ戻った方がいいと思うがね。 何しろブラックリベリオンの事があったとはいえ、『新学期がそろそろ始まる』という通告をルーベn────学園の理事長の孫が直々に来て伝えたぐらいだからね。」

 

 “理事長の孫”……もしかしてミレイか?

 というかジョナサン様、今名前呼びをしなかったか?

 ま、いいか。 学園に学生として戻ればいいだけだし。

 

「そう言えば、久しぶりに見たが……綺麗な女性になったね、ルーベンのお孫さん。

 

 ……んんんんんん?

 ジョナサン様が急に小声になったかと思えば、疲れた様子の俺を見ながら手をワキワキとし始める。

 

 「こう……()()()()で。」

 

 ……………………………………はい?

 

「あの……ジョナサン様? 疲れていませんか?」

 

「……まぁ、このところハッスr────ゴホン! 連日で作業をしていたからな。」

 

 今『ハッスル』って言わなかったか、ジョナサン様?

 

「スヴェン君?」

 

 ……………………………………ハッ?!

 ま、まさか?!

 い、いやジョナサン様に限ってはないと思いたいが……わ、話題の転換をしよう。

 

「そう言えば、ここに来る間に家の者たちが随分と変わっていましたがどこの者たちでしょうか?」

 

「おお! よくぞ聞いてくれた 実は────!」




おはぎちゃん:もうちょっと空白期間の話が続くよ♪ ヽ(。´・ω・`。)ノ


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第177話 動き出すファクターたち

お読みいただきありがとうございます、少々長めの次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


「(シュタットフェルト家の存続に、アッシュフォード学園への帰学手配、それにズタズタにされたエリア11の復旧作業と手配……やっぱり、凄いな。)」

 

 ジョナサンからブラックリベリオン後に上手く立ち回りをしたシュタットフェルト家の事と現在の事情を聞いたスバルは感心と驚きを内心でしながらも、久しぶりに自室のベッドに背中を預けて雨がパラパラと降り出し始めた外を窓越しに見る。

 

「(だがまさか、『ナナリーが旧日本政府の残党に人質として囚われていた』というニュースを報道していたとはな。)」

 

 雨が本格的に降り出した外から、スバルはパソコンの画面に視線を戻すとブリタニア帝国のニュース局の記事が映し出されていた。

 

 映されたのはブリタニアのSPに車椅子を押されながらも少し困っている(あるいは困惑している)様子のナナリーで、題名は『旧日本の残党に囚われていたナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下がブリタニアの特殊部隊に発見されて保護される!』とデカデカと書かれていたウェブページだった。

 

「(原作一期後と、R2を最初に見たときは違和感ありまくりで『はぁ~?』な感じだったが……なるほど、こういう風に事前に報道されていれば違和感は無いし、R2では記憶を取り戻したとはいえルルーシュはアッシュフォード学園が自分専用の檻に作り替えられたのを知っていたから『慎重に行動をしていて不用意にナナリーのことをネットなどで検索できなかった』と考えれば辻褄はそれとなく合う……のだろうか?)」

 

 余談だが実はブラックリベリオン時に行方が分からなくなったナナリーのことを親友のように思っていたアリスは心配していたのだが、原作知識で『展開がどれだけ変わっていても皇帝シャルルは(多分)ナナリーを保護しているだろう』と思った彼の“多分無事だがブリタニアの手に渡っているだろう”とブラックリベリオン後のリハビリ中にボソリと言ったほぼ次の日にナナリーの安否がニュースで報道されていたのをスバルは知らない。

 

「(ま、『アニメが~』とかじゃなくて実際に繋がっているからセーフとしよう。)」

 

 というか彼はリハビリが終わった後に『亡国のアキト』の介入に向けて準備や手配をしていてそれどころではなく、EUでの用事が終わると今度は『オズ』に介入を試みたら連続で予想が出来なかった事件に立て続けで巻き込まれていったので文字通りに怒涛の日々の中でそこまで考える余裕がなかった。

 

 このおかげで彼がいない間にも、アマルガム内での評価が更に上がっていったのは言うまでもないだろう。

 

「(マーヤとレイラはいつの間にか留美さんに挨拶を済ませてカレンと一緒に黒の騎士団の拠点に向かった。 後はアッシュフォード学園に顔を出しながらR2との状況の違いをそれとなく探りを入れて、ルルーシュとロロと……ああ、そう言えばライラのことも……俺……何かほかに……忘れているような……気が……グゥー。)」

 

 悶々と考えて精神は興奮していたが、最近物理的にドタバタとしていた上に緊張していたスバルは寝る直前にモヤモヤしながらそう思ったが、眠気にとうとう抗うのをやめて泥のように彼は眠りに入った。

 

『忘れ物』とは言うまでもなく、リア・ファルで『コーネリアの魔女化騒動』の直前に書いていたメモであるが……

 

 彼が目覚めた頃には、その違和感は綺麗さっぱり無くなってしまっているだろう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ザァァァァァァァァ!

 

「あーあ。 本降りになってしまったな……」

 

 トウキョウ租界内でアッシュフォード学園から距離の離れた場所で()()()アングラチェス大会で賭けに出掛けていたルルーシュが雨宿りをしながらボヤくと、そんな彼の横にいたのは癖のある栗色の髪に紫色の瞳をした少年────ロロが文句のような言葉を言い返す。

 

「だから言ったのに……“今日は土砂降りになるらしいからバイクを使った遠出はやめた方がいい”って。」

 

 この『ロロ』こそ機密情報局のヴィレッタにゼロだったルルーシュの事情を話し、彼の監視兼いざとなれば殺す為に『弟役』をギアス嚮団から命じられたエージェントの一人であり、彼のゆったりとした表情はとても淡々とヴィレッタと話していた時より柔らかい、見た目相応のモノだった。

 

「なのに兄さんは“バイクがなければ条件は満たせない”って────」

「────はは、そういうことを言うなよロロ。 そうでもしないとあのやる気に満ちた、新人体育教師のヴィレッタ先生に追いつかれちゃうじゃないか。」

 

「それも兄さんの所為でしょ? 体育の授業なんて、ヴィレッタ先生の言うようにやる気ぐらい出せば兄さんは────」

「────体育ぐらい、別に健康管理が充実していれば怠けてもいいだろ? 元々俺は汗を掻いたりするような行動や労働は嫌いなんだし、今の現代社会は()()()()()によって支えられているんだ。 よっぽどのことがない限り、ブリタニア人が汗水を流すことはないさ。」

 

 ルルーシュの言葉にロロの眉毛がピクリと反応し、彼は腰に携帯している拳銃をいつでも抜けるよう、僅かにだけ腕を動かす。

 

 彼がV.V.から受けた命令は主に『ルルーシュがゼロの記憶らしきものを思い出せば即抹殺』、『C.C.の捕縛』、『ギアスや嚮団の情報漏洩を防ぐ』の三つ。

 

 そしてV.V.とは()()モノだった。

 

「……兄さん(ルルーシュ)は、ナンバーズのことをどう思っているの?」

 

 それはシャルルから更に、『ナンバーズ(非ブリタニア人)』に関しての話題をそれとなく時々出すように命じられていた。

 

 普通なら『なぜわざわざそんなことを?』と思うかもしれないが、ロロにとってはどうでもいいことだったので『()()とあらば従うだけ』。

 

 そしてV.V.にはシャルルから『“ジュリアス・キングスレイ”の事もあったので、ルルーシュを試す過程』と伝えられている。

 

「“ナンバーズのことをどう思っている”、か……俺が彼らのことをどう思おうが、関係ないだろ?」

 

「でも、兄さんはその……()()()()()()の?」

 

「そう問われると……そうだな、『哀れ』とは思っているよ?」

 

「……」

 

「『哀れでバカな連中』という意味だけれどね。 何せこの完成された世界で『敗者』となったんだ、それも二回も。」

 

 ルルーシュは土砂降りの中で雨宿りをするブリタニア人たちを見て、そのまま視線を土砂降りの中でも働くことを強要されている名誉ブリタニア人たちに移す。

 

「一度目は第二次太平洋戦争。 そのあとでも『降伏』したことで他のエリアのような徹底的な粛清を免れたのに、二度目の敗北となったブラックリベリオンの所為で、彼らの立場と風当りはさらに酷くなった。 自業自得だよ、ブリタニアに逆らうなんて馬鹿馬鹿しい……」

 

「……そうだよね。 ブリタニアに逆らうなんて、馬鹿げているよね。」

 

「ああ。 そんな不毛なことより、()()()()()()()()()()を考える方が有意義さ。」

 

 チャリ。

 

 ルルーシュの答えに満足したロロがリラックスすると僅かに携帯とハート形のロケットを繋いでいるチェーンが動き、金属音が出てしまう。

 

「ッ。」

 

 彼の発現したギアスは強力な能力であると共に冷淡な彼の態度は他の者たちからも気味悪がられて距離を置かれ、ギアス嚮団の実行エージェント(暗殺者)として申し分ない性格と能力をロロは保有していた。

 

 例外は外部から来たオルフェウスや元からコミュ力の高いエウリアだが、二人とロロが接した時間も短く、その二人はクララやトトの様な深い影響を及ぼす前に脱走をしたのでさほど問題はないと嚮団は判断し、彼を5歳の時から既に暗殺任務に送り出していた。

 

『少年兵』、『臨時の見習い』、『配達員』、『迷子』、『通りすがり』などの様々な『役割』をしてきたが、今回の様な『ターゲットの身内役』────それも長期的にターゲットに身近で接する『弟』は初めてだった。

 

 それだけならば別に思うところはないのだが、ゼロへの『普通のブリタニア人であるルルーシュ・ランペルージ』の処置は今までに見ない非の打ちどころのないモノなのか、完全にロロへの接し方がブラコンレベルのモノだった。

 

『リハビリ中』のロロは出来るだけ処置に綻びが出来ないように、かつてのオルフェウスやエウリアを慕うトトやクララを思い出しては彼女たちの真似をしながら『弱弱しい弟』設定をしていると過激なまでに過保護なルルーシュの連日の対応を涼しく、距離を置いた対応ができていた。

 

『10月25日』が来るまでは。

 

 その日、ロロが“リハビリ”(実際は機密情報局からの報告会議に居座っている)から生徒会のクラブハウスに帰ってきてまたも退屈(というか正直暇)な『病弱な弟』の一日を過ごしているとウザイ人騒がせな生徒会長のミレイが部屋を訪れては無理やり連れだすとホールには彼をクラッカーで歓迎するシャーリーやリヴァルとルルーシュがいた。

 

『クラッカー』などロロにとっては初めてで、思わず乾いた発砲音に似た音が耳に届くと反射的にギアスを使ってしまいそうになったがすんでのところで自重できた。

 

 何事かと聞くとどうやら生まれた日を祝う『誕生日パーティ』という、ロロにとっては不可解なモノだった。

 

 記憶の限り、他人が自分に関心を持つのはギアス関連、あるいは暗殺任務の最終段階な時だけ。

 

 意味も分からないまま、取り敢えず周りにロロが態度を合わせていると今度は『誕生日だから』とプレゼントを記憶を失ったゼロ(ルルーシュ)に渡された。

 

『あ、ありがとう……でもこのロケット、()()()()()()()()?』

『何を言っているんだよ、ロロ。 それはもう、俺がお前一人だけにプレゼントしたモノだ。』

 

 その時のロロは混乱した。

 

 彼個人の所有物なぞ、今までなかった。

 

 装備や備品に服装や携帯に自身の体や命でさえも、今までは全てギアス嚮団から一時的に借りているだけだったロロは初めて、『自分のモノ』をその日受け取った。

 

 別に小さなロケット一つで何かが変わるわけでもないが、少なくとも『自分以外の他人全てを背景景色の一部』として見続けてはいてもそのロケットは『彼だけのモノ』だったことに変わりはない。

 

「(本当に変わりはない筈なのに、どうしてこうも気になるんだ?)」

 

 ロロはそう思いながらハート形のロケットを手で弄り、ルルーシュは雨に影響されてかいつも以上にアンニュイかつもどかしい心境で曇る空を見上げていた。

 

「(本当にこの世界はどうしようもなく完成して、腐っている……このままじゃ、ロロや()()()()()()()なんていずれは大人たちが浮かべるような上っ面だけの表情に……)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(また今日も知らない人が来ているです。)」

 

 トウキョウ租界の政庁にいたライラは()()()相槌を打ちながら暇そうにクロヴィスやギルフォードなどと雑談をするブリタニア本国の役員たちを見ながら静かに抹茶ラテを飲んでいた。

 

 ズズズ。

 

 セントラルハレースタジアムのテロ事件後からエリア11に帰って来たライラは、ほぼ毎日誰かがクロヴィスやギルフォードに謁見の申し込みをしては同席されて、『他愛のない世間話を長々としては帰る』という毎日が続いていた。

 

 クロヴィスがエリア11の総督時だった頃は別に珍しくもなかったが、脊髄損傷後はめっきりとこの様な事は減った……というか限りなく無くなった。

 

「(これ、絶対に私かギルギルマン(ギルフォード)の様子を見に来ているです。)」

 

 それが突然()()()()()()()()()から昔のようにブリタニアの役員がクロヴィスに会いに来るとなれば、いくらこういう事に興味がないライラでも気付くだろう。

 

「(それに話の内容も()です。 少し前まではアッシュフォード学園の話に時々『クララ』という名前が出てきていたのに、今は『ロロ』という名前ですしお兄様(クロヴィス)たちも当たり前のように話しているです……)」

 

 ライラはモヤモヤとした得体のしれない感情を心の奥底に埋め込み、その日の会話後にクロヴィスからの連絡でアッシュフォード学園に戻れることに期待を寄せた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『紅巾党の残党狩り、お疲れ様。』

 

 中華連邦の空域からユーロ・ブリタニアに渡ったグランベリーは補給とようやくオーバーホールらしき作業に本腰を入れ、艦長室ではマリーベルと通信越しのシュナイゼルに報告をしていた。

 

「シュナイゼル兄さま────」

『──── “予定より遅い”というつもりはないよ、中華連邦は広大だからね。 むしろ “艦一つだけでよくやった”と言うよ。』

 

「ありがとうございます。 中華連邦との交渉具合はどうでしょうか?」

 

『“十分すぎた”と言いたいぐらいに、こちらの条件に合わせているよ。 これで航空浮遊艦、そして空の戦力の重要性を本国の連中にも証明できてログレス級とカールレオン級の本格的な製造に目途がついた。』

 

「シュナイゼル兄さま?」

 

『何だい、マリー?』

 

「カンボジアのトロモ機関に寄って預かったKMFは現在、グランベリーに載せたままですが……」

 

 マリーベルが思い浮かべるとのは先日、巾党の残党の拠点らしき場所をグリンダ騎士団が殲滅した後にシュナイゼルから来た頼みで、“そのまま中華連邦からカンボジアに寄ってユーロ・ブリタニアに来てくれ”という一連だった。

 

「あの機体、もしや『幽鬼(レヴナント)』に対抗するためのモノでしょうか?」

 

『鋭いね、マリー。 確かにアレはユーロ・ブリタニアから譲り受けたEUの新型KMFらしきフレームをベースに改良した、第八世代に相当するナイトメア。 名前は“フローレンス”と呼ぶそうだよ。』

 

「『フローレンス』……」

 

 RZX-12TM1、正式名『フローレンス』。 元々はスロニムでユーロ・ブリタニアのアシュラ隊が撃退した無人機のアレクサンダだったがシュナイゼルの()()によってブリタニアへと渡り、ドローン技術が解析された後に有人機として改造された。

 

 そしてマリーベルの『幽鬼(レヴナント)に対抗するためのモノ』という言葉は、スロニムでシンの機体から得た画像データを閲覧したマリーベルだからこそ言えたことだった。

 

『“相手が使っていた機体の改良型なら”というのは楽観的だけれど、少なくとも乗り手が優秀であればいざという時の為に対抗できるし何より通常時でも大きな戦力となる。』

 

「乗り手は、グリンダ騎士団の騎士ですか?」

 

『実は乗り手には心当たりがある。 そして()()は現在、エニアグラム卿の領地にいる。』

 

「(エニアグラム卿……という事は、あのフローレンスをラウンズの専用機にするということかしら?)」

 

 マリーベルは風の噂でロンゴミニアドファクトリーがシュナイゼルの命令リクエストで、『スザク以外のラウンズにも専用機を』という動きに勘付いていた。

 

 元々グリンダ騎士団も『新技術のモルモット部隊』という事もあるが。

 

「(エニアグラム卿と繋がりを持つラウンズと言うと……) なるほど。 ではグランベリーのオーバーホール後は彼女にフローレンスを送り届けるのですね?」

 

『ああ、そしてマリーにはそのまま()()()2()4()に向かってくれ。』

 

「ッ。」

 

 マリーベルはこの言葉をシュナイゼルから聞いた瞬間、わずかに体が強場ってしまうだけでなく息もヒュッと素早く飲んでしまう。

 

『どうしたんだいマリー?』

 

「いえ、何も────」

 

 画面越しでもマリーベルの緊張感が伝わったのか、シュナイゼルが(彼にしては)珍しく心配するような声をかけ、マリーベルは平然さを保とうとしながら言葉を続けた。

 

「────もしや、『マドリードの星』に関する情報を得たのでしょうか?」

 

 エリア24となった『旧スペイン領』はエリア11ほど激しくはないモノの、ブリタニアの植民地となってから日が浅い故に反ブリタニア活動が起きていた。

 

 だが今までのエリアのように、その活動も徐々に時間が経つにつれて『激しく荒々しい炎』から『燻る風前の灯火』へと沈黙化していたが先のブラックリベリオンで息を吹き返すかのような動きを見せていた。

 

 これは別にエリア24に限ったことではないのだが、エリアになってから日が浅いことが災いして余力を残していた『マドリードの星』は今ではかつて、ナリタ事変で名を上げたような『第二の黒の騎士団』になりえる存在となりつつあった。

 

『そう、マドリードの星は今までの活動から黒の騎士団ほど優秀ではないという仮説が変わるほどに活発な動きを見せ始めている。 ブラックリベリオン後に主要メンバーが入れ替わったのか、あるいは背後にエリア11の“キョウト”のような組織がついたのか……どちらにせよ、この状況を楽観的に見るつもりはない。 そこで────』

「────“エリア24の総督をやってみないか”と、提案するのでしょうか?」

 

『……』

 

 シュナイゼルの言おうとしたことを先んじてマリーベルに言われたのが意外だったのか、シュナイゼルは一瞬だけ呆気に取られるかのような表情を浮かべてマリーベルはニッコリと笑顔になる。

 

「お兄様でも、そのような顔をするのですね?」

 

『いやはや、これは一本取られたかな。 流石はマリーだよ。』

 

「恐れ入ります。」

 

 シュナイゼルはいつもの笑みに戻り、マリーベルもいつものニコニコした愛想笑いを返す。

 

『ではやってくれるかね、エリア24の総督?』

 

「はい、エリア24の平定を任されました。」

 

『期待しているよ、マリー。』

 

 通信が切れて数秒後、マリーベルは大きなため息を出しながら椅子にもたれる。

 

「(まさか、本当にエリア24に……しかも『総督』……)」

 

 マリーベルは先日、アマルガムのリア・ファルと別れる前に毒島に言われたことを思い出していた。

 

「(“エリア24の総督”、“マドリードの星への対処”、そして“恩人の力になりたいと思うのなら”……か。)」

 

 上記の元は言わずもがな、先日スバルが原作知識を書いたメモ用紙に『オズO2』に関する単語から由来していた。

 

「(あれだけの戦力、先読みする様な計画性、サエコ・ブスジマ(毒島冴子)タイゾウ・キリハラ(桐原泰三)、ユーリアやオズの事……そして────)」

 

 マリーベルは瞼を閉じて、セントラルハレースタジアムとスロニムのデータ画像と似た機動戦を行っていた試作型蒼天を思い浮かべる。

 

「(恩があるとはいえ、全ては彼女(毒島)の憶測。 私自身が、見極めなければ……)」

 

 

 ……

 …

 

 

 

 マリーベルとの通信が切れ、シュナイゼルはグランベリーから送られてきた報告書を読んでいるとどこか浮つく空気をカノンは彼から感じ取る。

 

「……如何がなさいましたか、殿下?」

 

「ん?」

 

「いえ、殿下はどこかご機嫌になられたような────」

「────そうだね。 『やはりマリーを総督に任命して良かった』と思っていたところさ。 何せ彼女はもう既に()()()()をし始めている。 それも私たちに内密で。」

 

 カノンはグランベリーから送られてきた報告書に目を通し、シュナイゼルが上記の言葉を言わせる根拠を見つけようとする。

 

 グランベリーやKMFの通信履歴、エナジーに物資や兵装などの消耗具合などはどこからどう見ても予測された作戦の範囲内だった。

 

「独断行動……ですか?」

 

「そうだね、それも巧妙かつ徹底的な隠蔽工作がされている……恐らく、私でなければ気付かないだろう。 確かに、パッと見ればすべてのパラメータは予測範囲内だ。 ()()()()()()()()()()。 ここを見たまえ、カノン。」

 

「……お、『汚水タンク』?」

 

「報告されている活動や作戦時間より()()気がしないかい?」

 

「へ────」

「────人間はバイオリズムの一環として定期的に排泄を行う。 これは人間だけでなく生き物すべてに適用できるのが、日々のルーティーン化。 そこからある程度の観察をすれば一定のカロリーなども消費や生活の予想ができる。 そして人間は活動をすればするほど使ったエネルギーを排泄物に変える。 このデータを見る限り、私の目安だが数日間ほど他のすべてのモノと釣り合わない。 つまり、何らかの隠蔽をしているという事さ。」

 

「ですが、それだけで断言するのは────」

「────そうだね、普通はできない。 だが逆に送られてきたデータにバラツキが無いところに、意図的な作為を私に感じさせている。」

 

「もしや、マリーベル皇女殿下をエリア24の総督にしたのは────?」

「────最初はマドリードの星の殲滅と、彼女に総督としての経験を積ませるのを兼ねていたけれど……」

 

 急にシュナイゼルが、彼にしては珍しく言い淀むような態度をカノンは静かに見守る。

 

「……………………いや。 それよりカノン、ユーロ・ブリタニア方面の報告は?」

 

「スザク君と、彼のコノエナイツが奮闘しているわ。 もちろん、ナイトオブスリー(ジノ)ナイトオブシックス(アーニャ)も頼み通りにどんどんと前線に出ています。」

 

「なら、()()()は順調だね。」

 

 表面上、シュナイゼルは平常運転に戻っていたが内心では何故か子供の頃の自分に『敗北』を何度も味わう寸前のところまで追いつめていたルルーシュと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()を密かに重ね、少々早くなっていた心拍を気合で押さえつけた。




♪o(●´ω`●)o♪ ←息抜き用に買った『ゼルダの伝説』が今日届く予定に踊る作者


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第178話 懐かしき地

お読みい頂きありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです!


 ドドォン!

 パパパパーン!

 ドォン!

 

 銃声の乾いた音と、爆発音がEUとブリタニア軍とのまるでターン制の攻防を示す。

 

 海からはブリタニアの船が艦砲射撃を行って上陸部隊の援護をし、EU側からはパンツァー・フンメルと陸上の大砲が迎撃を行う。

 

『亡国のアキト』後、二つの勢力に分かれて連携が取れなくなった共和国の連合体であるEUは徐々に反ブリタニア徹底抗戦のスタンスを示す国から撃破されていき、これに対して徹底抗戦派は混成部隊を編成してブリタニアが使用する陸路や海路などの戦略的に重要な地形に戦力を集中させてブリタニア軍の集結を阻止していた。

 

『左翼、ドイツ州軍が攻勢に移りました。』

『右翼、オランダ工兵による地雷原の設置完了。』

 

『攻勢』はともかく、『防衛』に関してならばブリタニアとユーロ・ブリタニアを相手でも引けを取らないEUの集中された防衛陣は予想以上に効果的だった。

 

「ほぅ、イタリア州軍も中々粘るな。」

「上陸ポイントが故郷とくれば、腰抜けでも死に物狂いになるという事でしょうな。」

「では今夜の酒は彼らへの手向けと勝利の美酒となるか。」

 

 そんな何日も続いている防衛を、EU側の将軍たちはのほほんと本陣から見下ろしながら会話を交わしていた。

 

『直上より、未確認物体!』

『ミサイルか?!』

『は、早すぎます!』

『まさか、KMF?!』

 

 慌てるような通信とほぼ同時に、ブリタニアの船から急激に接近してきた白いKMF一機がEUの陣ど真ん中に降り立つ。

 

『こ、こいつは────』

『────ランスロット────』

『────ブリタニアの“白き死神” ────?!』

『────ラ、ラウンズをもう投入してきただと?』

 

 EUの兵士たちの間にどよめきが広がっていく。

 

 なんてことはない、ラウンズと言えば文字通り『ブリタニアの少数精鋭』、または『一騎当千』の戦力。

 その力故に()()()ラウンズが前線に出るときは『正規軍での攻略が難しい』、『敵の士気をくじく』、そして『拮抗状態が長く続くこと』。

 

 あるいは────

 

『武器を捨てた者を、自分は撃ちません。 降伏してください。』

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ふ、ふざけるな!』

『撃て! 撃てぇぇぇ!』

 

 スザクのランスロットはEU軍から集中砲火を浴びる前に、ただただ周りのパンツァー・フンメルと固定砲台などを片手のMVSで切り倒し、もう片手のVARISで地形をえぐって緩んだ地盤を逆手に取る。

 

「うわっは! もうこれ、スザク一人で殆んど終わらせるんじゃね?!」

 

「………………また残念。」

 

 誰から見てもスザクの活躍ぶりに攻勢が逆転していく様を、新型機に乗っていたジノとアーニャの二人が画面越しに見ていた。

 

「(……俺は一体、何を……)」

 

 当の本人であるスザクは活発な行動とは裏腹に、この頃自分を襲ってくる静かな虚しさに悩んでいた。

 

 彼は精神的に参っていたシュネーが頑なに休暇を取ろうとしないために、レドに頼んで無理やり前線から遠ざけていた。

 

 結果スザクは一人に戻ったが依頼の量は減ることは無く、最初はこれらが『功績』に繋がると信じてスザクは奮闘した。 功績が上がれば上がるほどラウンズとしても、そして名誉ブリタニア人としての世間の評価が向上すると信じて。

 

 だが最近は動けば動くほど、行動にキレが増していき逆に戦闘中でも『余裕』が出来てしまい、不安が襲うとスザクはより作戦に専念しようとすれば実力が増していく。

 

 そして先日、ジノとアーニャのラウンズ専用機がキャメロットから届いたことで久しぶりにロイドやセシルに会いに行ったが二人は連日の徹夜の所為か、デスマーチゾンビ状態だったところを見てスザクでさえも声をかけるのを止める程の様子だった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……」

 

 戦局は一気に逆転し、撤退するEU軍をブリタニアは追いながら出来るだけ戦力を削るために遠距離砲撃で追撃をしながら残された地雷や罠などをチェックし、周辺を探索する様子をランスロットから降りたスザクは見渡す。

 

「よぉスザク! お疲れ!」

 

「ジノ────」

「────また一人で先行しすぎ。」

 

「アーニャまで。」

 

 ジノはトリスタン、そしてアーニャはモルドレッドから降りてスザクに声をかける。

 

 実は『完成した専用機の引き渡し』を口実に、スザクの側から離れたコノエナイツの代わりにシュナイゼルが二人を付けた。

 

「しっかし、これじゃあアーニャを置いて来なきゃトリスタンの性能チェックもできないな!」

 

「それでいい。 全部シュタルクハドロンで薙ぎ払う。」

 

「いや、それじゃあオレとスザクが危ないから……」

 

「じゃあ避けて。」

 

 あとは『新型の機体性能のテスト』も兼ねていたが、このところスザクの突貫によって活躍は未だ『ほぼ無い』に等しいが。

 

「でもさぁ、スザク……なんかお前、焦っていない?」

 

「焦っている? 僕が?」

 

「ラウンズになってからお前、一度も休んでいないだろ?」

 

「ランスロットの整備やチューニングはしているよ?」

 

「いやソレなんか違うぞお前!」

 

「スザクって、ワーカホリック(仕事中毒者)?」

 

「そうなのか? 損するぞ────」

 「────ッ────」

「────待って。」

 

 スザクがジノに黙る様に手を上げると彼は瞼を閉じて、聴覚に集中する。

 

「……? おいスザ────っておい!」

 

 ハテナマークを頭上に上げるジノを無視したスザクは砲撃で瓦礫が目立つ市街地の中を駆け抜け、彼が止まったのは()()()瓦礫の一角。

 

「グッ!」

 

 ガラガラガラガラガラ、ドォン

 

 その瓦礫からはカラカラと音を立てながら小石が既に落ちていっていたが、スザクが力任せに押すと建物の一部だった瓦礫は押し倒されると運よく周りの崩れた部分が防波堤のようになっており、その下から少女が出てくる。

 

「う、うぅぅ……」

 

「君、大丈夫か?!」

 

「う……あり、がとう……」

 

「(あの距離からこの子の呻き声が聞こえたのか?)」

 

 ジノは振り返り、距離から生じる目の錯覚ですっかり親指サイズほどになったランスロットたちを見る。

 

「どうして、ここに?」

 

「戦争が……戦争(銃撃音)が終わるまで待っていた……」

 

「君、もしかしてずっとここに? 怪我もしているようだし────」

「────お父さんが、()()でここに来ていて……」

 

「スザク、救護班を呼ぼうか?」

 

「いや、()()ランスロットで運べば────」

「────()()()()()()?」

 

 土や出血でボロボロだった少女の顔色は『ランスロット』と言う単語を聞いた途端、更に悪くなっていく。

 

 「お父さんを返して!!」

 

 だがそれも束の間だけで、とてもさっきまで弱々しかった少女の者とは思えない肺活量で彼女は怒りと憎しみの籠った上記の叫びをスザクに面と向かって吐き捨てていた。

 

「ッ。」

 

 「この人殺し!」

 

 ドッ

 

 その瞬間、自分の事を恨めしそうに眼が濁るまで睨め付けていた少女と枢木ゲンブの形相が被り、スザクの心臓は一際大きく跳ねると同時に幼少から封印していたどす黒い感情が彼の中で蘇ってしまう。

 

「ぼ、僕は────」

 「────お父さんは国を守るために戦った! おじさんも、お兄ちゃんも、皆────!」

「────()は────」

 「────皆、優しかった! なのにどうして殺しちゃうの────?!」

「────ち、違う! ()の所為じゃ────!」

 

 ────パシュ!

 

 乾いた発砲音と共にスザクを罵倒していた少女は気を失うかのように倒れ、音のした方向にスザクが振り向くと拳銃を持っていたアーニャを見る。

 

「アーニャ────?!」

「────麻酔銃。 手当てするにも暴れちゃ出来ない。」

 

「だ、だからって────」

「────なぁスザク? お前、もしかしてその少女の言ったことを気にしているのか?」

 

 いつも人当たりの良いスザクがこれほど感情をあらわにしたのが面白かったのか、ジノが挑発するような言い方をする。

 

「そ、それは────」

「────この世界は……戦場は“弱肉強食”だ。 つまり“強ければ生きて弱ければ死ぬ”。 そうシンプルに考えろよ────」

「────ダメだ! そんな……そんな……」

 

 スザクは視線をジノたちから離し、地面を見ながらいつの間にか作っていた拳に力を入れる。

 

 「そんな考え方じゃ、俺は……何のために……」

 

「(あー、こりゃあ……ちょっと言い過ぎたかな?)」

 

 ジノは思っていたより悪い空気になったことを気にしたのか、この後で同じように落ち込んでいたシュネー達に連絡を取ることとなる。

 

「(枢木スザクって……Ⅿ?)」

 

 そしてアーニャはマイペースにも、内心でのほほんと上記のレッテルを自分の中にあるスザクに貼ったそうな。

 

 ……

 …

 

 少女からの罵倒事件が起きたフランス戦から数日後、スザクは呆気に取られていた。

 

「休暇? 僕が、ですか?」

 

『ええ。 貴方がずっと活躍していることが気になった殿下からの命令よ。』

 

「で、ですが僕は────」

『────このままだと、貴方もヘクセン卿(シュネー)の二の舞いになりかねないわよ? 良いから取りなさいクルルギ(枢木)卿。 悩むのなら、彼の実家があるアイダホに行って部下の様子を見て来てはどうかしら?』

 

「……それも、命令ですか?」

 

『いいえ、これは提案よ。 私も一度だけ寄ったのだけれどド田k────新鮮な野菜や果物が印象的だったわ。』

 

「……分かりました。」

 

 カノンにしては珍しい何かを言いかけたが、スザクは掘り起こす気になれずカノンの示した提案を受けた。

 

『じゃあ、手配の必要があったら声をかけてね?』

 

「ありがとうございます、マルディーニ卿。」

 

 カノンとの通信が終わるとスザクは天井を見上げる。

 

「(休日、か……いつ以来だろうか……アッシュフォード学園の皆は、元気かな……スヴェン君はどうしているのだろうか?)」

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園よ! 私は帰ってきたぞぉぉぉぉぉ!!!

 

 そう俺は(内心で)叫びながらポーカーフェイスを維持し、大きく息を吸い込みながら『ウェルカムバック(お帰りなさい)!』とバナーが掲げられた学園の門を潜り抜ける。

 

「おはよう~♪」

「久しぶり~!」

 

 ムホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ♡

 アッシュフォード学園の女生徒の制服、やっぱりデザインがええのぉ~♪

 

 じゃれる美少女にぴったりとフィットしたブレザーと美脚にニーソにサイハイ、アンクルソックスにショートソックスにストッキングなんでもござれ♡

 

 眼福、眼福~♪

 

「あ、スヴェン君だ。」

「朝から良いものを見れたわ~♪」

「おや、おはようございます。 (ニコッ)」

「「はう。」」

 

 そう思いながら一年近く戻ってきていないアッシュフォード学園の様子を見て、久しぶりの『優男』の仮面を徹底的に維持しながら周りの挨拶を返しながら()()を見る。

 

 「こっち見た!」

 「」

 

 ……うん。 見事に、小型の監視カメラがあらゆるところに設置されているな。

 

 壁や柱、そして地中に埋め込まれているスプリンクラーや木に偽装されていると思われる怪しい部分。

 注意深くかつそれとなくチラチラと見ていると、時々日光に人工物が反射してキラキラとごくわずかに光っているところが多分監視カメラだ。

 

 隠すのが上手いし、何より本気で『監視されている』と自覚を持ちながらその手の知識が無ければ気付くことは至難の業。

 

 おっかないが、ぶっつけ本番でも()()()()任せたから問題はない筈。

 

 多分。

 

 …………………………心配、ないよね?

 

 キリキリキリ!

 

 なんだか考えだしたら『プークスクス』と嘲笑うユキヤの顔が浮かび上がってオイラの胃が痛むんだが。

 

『マーヤは?』、だと?

 

 別行動と言うか、別々のタイミングでの登校だ。

 

 学園では『不登校気味な彼女の説得をした顔見知り同士程度』の関係だからな、公に『手を組みながら“ボクタチはナカーマ(゚∀゚)人(゚∀゚)♪ ”』なんて宣伝する必要は無い。

 

 お、褐色スリムでボインで丈の短いワンピースで大変けしからん銀髪ロングのサイドテール体育教師(ヴィレッタ)を発見。

 

 教師として挨拶をしておる。

 

「新しい先生かな?」

「校門で挨拶をしているからそうじゃない?」

「ああ、だから緊張しているのか~。」

「おはようございま~す!」

 

「あ、ああオハヨウ。」

 

 ヴィレッタ先生、笑顔が引きつっているヨ~。

 

 ま、俺も挨拶をするか。

 

「おはようございます、新しい教師でしょうか? (ニコッ&歯がキラッ)」

 

 秘儀! 『優男の何気ないスマイルと口調にそれとなくの探り』!

 

「………………………………」

 

 あれ?

 ヴィレッタが俺を見て固まったぞ?

 

「……えっと、先生ですよね?」

 

「ッ。 あ、ああそうだ。 本国から来たヴィレッタ・ヌゥだ、新しく体育教師として赴任した。」

 

 ヌゥ(ν)ガン〇ムは伊達じゃない!

 

 この際俺が適当に『ベルトーチカ・〇ルマ』から取った『ベルマ』なんてどうでも良くなる!

 

 ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……

 愛想笑いと分かっていても、ヴィレッタのこの大人びてやんわりとした笑顔の破壊力ゥゥゥ……

 

 いかん。

 いかんぞこれは。

 思っていたよりアッシュフォード学園に戻ったことで浮かれ過ぎている様な気がする。

 

 気を引き締めていこう。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 それがどうしてこうなった。

 

 場所は生徒会のクラブハウス。

 

「あ~ん! もう会長ったらここ間違えているよ~!」

「あはははは。」

「目を逸らさないでください! リヴァルも手を動かして!」

「もう諦めようぜ、シャーリー。」

「そうだぞ。 人間、誰しも諦めは重要だ。」

 

 そして目の前にはこんもりとした『未』と『済み』に分けられた書類の山がある。

 

「ルルも本当は片付けられるのに~!」

「ハハハハハ。」

「またそうやってはぐら────!」

「────出来ました。」

「「早い?!」」

「な? 俺が動かなくともスヴェンがやってくれるさ。」

 

 まさかこれもルルーシュの計算通り?

 デジャヴを噛み締めようにも、この大量の書類を前に俺はただ身に付けた処理能力で次々と────

 

 ────ムニ。♡

 

「ありがとう、スヴェン~!」

 

 オホホホホホホホホホホホホホ♡

 ミレイ会長? ワイの頭を後方から抱きしめるとその生暖かくて見事なオリュンポス火山たちが拙者の頭部に当たるでゴザルヨ?♡

 

「やっぱり持つべきは出来る人ね!♡」

 

 ムニー。♡

 

 ミレイがそう言うと、別の大変けしからん()()()を連想してしまうでヤンスよ♡

 

「ハイ、こっちもできたわ。」

 

「「ガーフィールドさんも早い?!」」

 

 そして『アッシュフォード学園の生徒は全員部活に入っていなければいけない』というルール

 のおかげでマーヤもちゃっかり『準生徒会員』として混ざっている。

 

「流石ですね。」

 

「いえ、事務作業には少し自信があるの。」

 

「そうですか。」

 

 そう言いながら、俺とマーヤはニッコリと似た笑顔を返す。

 

 「あの二人、なんか距離近くね??」

 「え? そうかな?」

 

 シャーリーの言う通りだぞリヴァル、これは何ともない雑談だぞ?

 

 「ほほぉ~? こうしてみると、彼女もバランスが……」

 

 ミレイの小悪魔的な笑み、ごっつあんどすえ!

 

 そしてその笑みがシャーリーのトップとアンダーに類するもの*1なら俺も同感だ。

 そう思いながら俺はルルーシュの隣に座って作業をニーナ並みに黙々と続ける少年────ロロを横目で見る。

 

『ロロ・ランペルージ』、本名が無い『名無し』。

 

 原作でもひたすらギアス嚮団のエージェントであり続けてきた、ある意味R2ではかなり上位の不憫枠に食い込むと同時に原作アニメではカラクリを理解していないと『無敵』に近い危険人物。

 

 あれだ、『気付いた頃には終わっていた』系のギアス。

 より詳しく詳細を入れると『自分の半径何メートル範囲内にいる生物の神経(シナプス)を停止させる』。

 

 ………………………………どことなく『奇妙な冒険グリーン』と『奇妙な冒険世界』をミックスしたような説明だったことは偶然だ。

 

『俺の良く使用している特典(の一部)』に似てなくもないが、ロロは対象の()()に作用する。

 

 つまりは『超』が付くほどに危険なのだ。

 え? 『そんなこと言ったら冷凍魔王の方が危険だろう』だと?

 

 実はそうでもあるが、()()()()()()

 

 エル(L)(一々『LVB』なんて面倒だから今命名した)のギアスは『一定範囲内にある全ての運動を凍らせる』。 そしてその『一定範囲内』は実はと言うと数メートルだけ。

 

 クリストファーの暴走があったからか、範囲が数十メートルぐらいに上がっていたが……微々たる()()だ。

 

 逆にロロはアニメの描写で少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()が有効範囲内だ。

 

 この違いは大きい。

 確かにエルのような『物理現象』に適応されないが、見方を変えて上記を視野に入れるとロロは完全に『上位互換』な感じだ。

 

 俺に(多分)ギアスは効かないが、周りの連中は別問題。

 自由に動けてもそれは()()()で、周りの人間を基本的にゴミと同然な扱いをしているロロによる危害があったらたまったものでは無い。

 

 まぁ……『殺る』と決まった訳ではない、何せ原作では『家族』と『任務』の間に板挟みされていたロロをルルーシュが自作自演で堕としているから。

 別に『意味深』の方じゃなくて(ルルーシュから見た)『利用できる駒』としてだぞ?

 

 前世で見た『ロロxルル』タグを興味本位でクリックして『あ、ブラウザのサーチ設定が安全じゃないや』と思った頃には既に後悔していたとかじゃないぞ。

 

 オモイダシタクナイッテバヨ。

 

 と考えながらスラスラと書類を────水泳部の予算優遇っぽいの見つけた。

 

 これは確か……ああ、思い出したぞ。 R2の癒しパートの『アレ』だ。

 ……周りに誰もいないよな?

 

 ミレイは俺から離れてリヴァルに『ガッツ』の魔法をかけている途中。

 リヴァルはミレイに構ってもらえていることに感動中。

 シャーリーはルルーシュとロロに突っかかっている。

 

 サッ。

 

 マーヤがそれとなく次の書類を取る動作で俺への視線を遮り、そのチャンスで水泳部の書類に『許可』を書いてすかさず『済み』の書類に紛れ込ませる。

 

 ナイスだ、マーヤ。

 

「あ、そうそう。 今朝聞いたのだけれどライブラちゃん、もう少ししたら学園に戻れるって連絡があったわ。」

 

 あ。

 

「おお! それは良かったですね会長!」

 

 あああああああああああ?!

 

「そ! だから今度、ランペルージ兄弟と彼女の無事を祝うパーティをしようと思っているの!」

 

 超わ・す・れ・て・た。

 

 俺がマーヤを見ると、彼女も同じことを思ったのかスンとした表情で俺を見返していた。

 

『俺とマーヤ(+アンジュ)がセントラルハレースタジアムに居たことを知っている皇女ライブラが来る』、と。

 

 キリキリキリキリキリキリ。

*1
22話より




余談で先日届いた『ブレスオブザワイルド』、プレイしたら『ウィンドウェーカー』以来の感動を感じています♪

追記:
ヘスツの踊りがぶりぶりざえもんを召還する儀式に見えた……


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第179話 ブラックリベリオンの影響

お待たせしました、次話です!
少々展開を早めていますが、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


「…………………………」

 

 朝の始業式と教師の『役』を無事に終え、活動を始めて日が浅いヴィレッタは少々疲れながらも、アッシュフォード学園の地中深くに設置された機密情報局の拠点からモニターに映っていたクラブハウス────正確には監視対象であるルルーシュの、当たり障りのない言動でその場をやり過ごす姿を見ていた。

 

「(呑気なものだな……こうしてみると、とても世界を揺るがした人物とは見えん。 せいぜい家族思いの優等生。 とはいえ────)」

 

 ヴィレッタはルルーシュに関しての資料に目を移す。

 

「(────そんな彼が、こうも頻繁にアンダーグラウンドでの賭博行為をするとも思えんが。)」

 

 資料にはアッシュフォード学園がテロによって占拠し、空気が抜け出していく風船のように経済難と活力が一気に縮小していく対策として総督のカラレスが導入したのは『娯楽の増加』だった。

 

 コードギアスの世界でも芸術品やオペラ、スポーツなどと言った娯楽は存在するが、富裕層などが真に心から楽しめる()()()娯楽は本国外だとかなり少ない。

 

 そこでカラレスが目を付けたのは『賭博』系のカジノ、闘技場、競馬場などはそれほど立ち上げて管理するのに難しくなく、客受けもかなり幅広くかつ経済的にも良い起爆剤になるものだった。

 

 幸い、『娯楽施設』のデザインなどはクロヴィスが居たことで万人に受けたがそのような市場が増える程、自然とクロヴィスが総督だった時代のように治安も悪くなり、汚職も増えるのだが……

 

 そこは“流石は(性格と信念が急変しても)カラレス”と言うべきところか、一方的な『搾取』ではなく逆にその手の者たちを徹底した管理下におきつつ『Win-Win』な双方が得をする協力関係を結んでいた。

 

 よって租界の表世界はブリタニアの保安局が、そして法の手が届きにくい裏社会は認知かつ政庁に黙認されているマフィアが仕切っている。

 

 そしてルルーシュは週に何回かそのような賭けをする場所に出ては、連戦連勝している。

 

「(しかも勝ち加減が上手く、相手もそれなりにプライドを持っているが故に学生の彼に対して強く出られない者たちばかり……か。)」

 

 そんな考えに耽っていたヴィレッタの背後に、機密情報局の部下がフォルダーを渡してくる。

 

「マイロード、こちらが頼まれていた学生の資料です。」

 

「ん? ああ、ご苦労────ってブルーノはどうした?」

 

 ヴィレッタがクラブハウスに居る学生たちに関しての資料を受け取ると、彼女が当初頼んだ機密情報局の者と資料を渡してくる者が違う事を問うと、部下は目を逸らす。

 

「ブルーノは……()()()()()()────」

「────な、なんだと? どうしてだ────?!」

「────わ、私は偶然その場に居合わせただけです! た、ただその……『ロロ』が言うには“機密事項に触れたかも知れない”と……ですが! ブルーノはただ彼の携帯を拾って、開けただけですよ?! それのどこが機密事項なんですか?!」

 

「……………………」

 

 ヴィレッタはモニター越しのロロ────正確にはロケットの付いた彼の携帯────を見る。

 

「そもそも、彼は機密情報局の者では無いはずです! 無礼を承知で申し上げますが────!」

「────ロロは別機関の人間だ、皇帝直属のな。 彼がここにいるのも別件で、我々とはあくまで協力関係にあるだけ。」

 

「あのガキがですか────?!」

「────そうだ。 他言無用だぞ? どうやら私の前任者も気になり過ぎて行方を晦ませたらしいからな。」

 

「イエス、マイロード。」

 

 ヴィレッタは一応ルルーシュが所属する生徒会メンバーの資料を目に通していたが、それはあくまで必要最低限のモノだったが故に、より詳しいことが書かれた資料を頼んでそれに目を通していた。

 

『そうすれば、生徒会メンバーの異変や行動原理をある程度は推測できるから』というのは建前上。 実際は────

 

「(────結局何だったのだろう、あの()()()は?)」

 

 ヴィレッタはそう思いながら、スヴェンの情報が書かれている書類を見る。

 

「(『スヴェン・ハンセン』、“病弱なシュタットフェルト家の跡継ぎ令嬢カレンの世話係兼従者見習い。 ブラックリベリオン時に行方不明になった彼女を最近までは探す為に休学していたが、現在は家が本腰を入れて捜索を続けている”────)────ん?」

 

 彼女はそんな当たり障りのない情報を読み上げていると、さっきの部下がまだ立ち去っていないことに気付く。

 

「それが……」

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

 部下が更に気まずいまま書類を渡し、ヴィレッタが受け取ったそれを読むと、彼女が固まってから胃薬を取り出して服用してから頭を抱える。

 

「……………………………………な、なるほど。」

 

 “書類にはライラの写真が付いていた”と、ここで追記しておこう。

 

 

 


 

 

 「久しぶりなのです!」

 

 うーん、こっちの気持ちが良くなるほど元気の良い挨拶!

 

 っと、いきなりですまなかった。

 簡単に言うと“数日後に胃痛案件ライブラを名乗る金髪縦ロール皇女ライラが学園に復帰してきた”。

 

「あ~ん、もうやっぱり可愛い!」

「久しぶり~!♡」

 

 「グニュ~……くるしいですせんぱい。」

 

 そして今ミレイとシャーリーの双山に挟まれてもみくちゃにされている。

 

 大変けしk────和みますな~♪

 

「ぁ。」

 

 ドドドドドドドドド

 

 そして気のせいかライブラ(ライラ)とロロの目が合った瞬間から『奇妙な冒険』特有の背景音がワイの背後から来る幻覚が聞こえる気がするデヤンス。

 

 あと気のせいかも知れないけれど大量の汗もじゃんじゃんとオイラの首から下の身体中から流れている気がしないでもないでゴザル。

 

 “なんで首から下”だって? 気合。

 

「久しぶりだね、ライブラさん。」

 

「あ、そうそう! ロロってばこの間ようやく歩けるようになったんだよ! 驚きよねぇ~?」

 

「…あ、はい! そうです!」

 

 ん?

 今一瞬間があったような────

 

「────ロロちゃん、良かったです!」

 

 『ロロちゃん』。

 

 いやまぁ、ライラはいつもナナリーと親しげにしていたからこれぐらいは普通……かも?

 

 「ろ、ロロちゃん?」

 

 うっわ。

 ロロが原作や外伝含めてみたことの無い、何とも言えない『複雑な引きつった顔』をしている。

 何気にレアな表情を見たぞ、今。

 

()()()()()ね、ライブラさん。」

 

「あ! マーヤ先輩、()()()()です~!」

 

 いっっっっっっっっよっしゃあぁぁぁぁぁぁ!

 ナイスだマーヤにそれを察したライラ! これで第一関門、クリア!

 一番恐れていた『ライラ経由でボロが出る』はなさそうでよかった!

 

 やっぱコードギアスの世界ってばモブ子とモブ皇女でも優秀な人材がわんさか居るのな。

 ただルルーシュとか腹黒皇子とかスザクとかカレンとかシンクーとかラウンズとかマリーベルとかオズたちとか名前が付いた登場人物が圧倒的過ぎて、霞んでしまうだけで。

 

 玉城もしぶとさだけで言うのなら、『毎度出撃しては撃墜されて生還する能力』はピカイチだし。

 そして『毎回青筋を浮かべた井上に説教される』までがセット────おっと脱線した。

 

 ライラの件がクリアになったことで、次に取り掛かるべき案件と言うと……アレだ。

 

『カラレスの“へぁぁぁぁ”ならぬバベルタワー』。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「久しぶりだな。」

 

 夜のトウキョウ租界は以前と比べて、政庁のある中央から離れれば離れる程ブリタニア人でもヤバくなっている。

 

 だが逆に言うと、それだけ中央に近ければブリタニア人は動きやすいという事だ。

 

「へ、へぇ……坊ちゃんもお変わりなく。」

 

 俺の付けた『印』に、以前酔っぱらってアンジュに危害を加えようとしたモブA,B,CのBが冷や汗を掻きながら挨拶を返す。

 

 情報屋として行動をしていた時から結構時間が経っているが、裏世界の事情を知っているこいつらが生きていてよかった。*1

 

 それに心なしか、当時よりかなり身に付けている物がグレードアップしている。

 

「で、今回坊ちゃんの依頼とは?」

 

 そして俺の付けた『重要性が高い印』を見た所為か、ゴマすりをするモブA。

 

「そうだな……租界の外縁部にある、バベルタワーを知っているか?」

 

 モブA,B,Cの三人がキョトンとしてから、お互いを見る。

 

「おい、お前がバラしたのか────?」

「────ちげぇよ────!」

「────ならどうして────?」

 「────知っているのか?」

 

「「「シッテイマス。 と言うか雇われています。」」」

 

 Oh……なんだか偶然にしては出来過ぎていてちょっと怖いが好都合だ。

 

「そうか、なら丁度いい。 俺もそこに興味が出てきてな、紹介をしてもらえないか?」

 

 実は第一関門(ライラ)後に、こういう話が分かりそうなリヴァルにバベルタワーの事を相談してみた。

 だがバベルタワーはカジノ兼デパートという事で一般に公開をしているものの、『従業員』となると()()によって採用のされ方が変わってくる。

 

 ブリタニア人だと紹介制。

 名誉ブリタニア人だと『見た目』と『技能』で更に分かれる。

 名誉ブリタニア人未満のナンバーズは基本、噂によると『技能』を持った囚人が横流しされているとか。

 

 あるいは人種に関係なく『金貸しなどへの返上』だが、これは結構ありきたりだな。

 

「坊ちゃん、金が必要なんですかい?」

 

「いや? ()()()の次の仕事に関係しているらしいだけだ。 紹介だけで良い。」

 

 ちなみにこの『依頼人』とは真っ赤な嘘だ。

 

「お、俺らじゃ他のことはできないんでしょうか?」

 

 モブC……お前らもっと俺から金をとる気だな?

 俺も変わって欲しいが、事が事だけに『代理』では駄目だ。

 

 だがそうだな……考えようによっては良いかもしれない。

 

「ならそうだな……()()()()()()()()()()()()()()()()()を入手できるのなら追加報酬を考えてもいい。」

 

「それは、二つで追加報酬ですかい?」

 

「いや、一つに付き追加だ。」

 

 金さえあれば(ある程度は)何でもするモブA,B,Cが、明らかに嬉しそうな空気を出す。

 

 ちなみに『設計図』と『地下周辺の地図』は言わずもがな、R2の一話で起きる『ゼロ奪還作戦』の為だ。

 

 俺自身はゼロの奪還に直接関与するつもりも必要も無いが、黒の騎士団に設計図を渡せば幾分かバベルタワーの占拠と、ゼロとして記憶を取り戻したルルーシュが動きやすくなるだろう。

 

 原作よりかなりマシな戦力を保有する黒の騎士団ならば、上手く作戦も進めてブリタニアの機密情報局を阻止して、ついでに民間人の大量虐殺も止められるかもしれない。

 だがそこは保険をかけて、地下周辺の地図をアマルガムに渡して動いてもらおう。

 

『何故か』って?

 シンプルに『そろそろ俺無しで展開がより良い方向に動かせるか』を見たいから。

 

 ちなみにモブA,B,Cたちに聞いた『紹介』は……まぁ、平たく言えば俺の我儘だ。

 

 どうせなら、バニーカレンを拝みたい!

 

 

 


 

 

「やはり、彼は動くみたいね。」

 

『そうか……』

 

 モブA,B,Cと別れて夜のトウキョウ租界を歩くスバルが分かれてから数日後、マーヤが夜のトウキョウ租界を見下ろしながら暗号機の付いたインカムに話し込むと、毒島の声が返ってくる。

 

『こちらも、匿名で黒の騎士団にバベルタワーの設計図が送られたと、困惑した仙波達から聞いたぞ。』

 

『バベルタワーというと、シュバールさんのメモに書かれた建物ですね?』

 

『ああ。』

 

「やはりこれは、“ゼロ奪還”に関係しているのね。」

 

『恐らくな。 ん?』

 

「どうしたの、冴子?」

 

『いや、先ほどスバルからバベルタワーの地下周辺のデータが送られてきた。 ()()()()()()()()()()()、という言伝付きで。』

 

『黒の騎士団には設計図、そして我々には地下……避難案……飛燕4号作戦……』

 

『レイラ?』

 

『……………………サエコ、黒の騎士団の人たちに連絡は取れるかしら?』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「……」

 

 現在では『新大陸』と呼ばれる、正史ならば『アメリカ合衆国』が出来ている筈の土地に、スザクはシュネーの様子を見にアイダホの首都ボイシまで足を運んでいた。

 

 周りは自然豊かで、市街地の外縁部のほとんどの土地が畑であるその印象は、幼い頃の日本に似ていた。

 

「枢木卿!」

 

 ヘクセン家の屋敷内から、元気そうなシュネーが驚いた様子でスザクを出迎えに出てくる。

 

「やぁシュネー。 休暇中に来てすまない、邪魔したかな?」

 

「と、とんでもないです! 枢木卿ならば、僕はいつでも歓迎します! 来てくれてありがとうございます!」

 

 「“来てくれてありがとうございます”、か……」

 

「枢木卿?」

 

「(歓迎されるなんて、いつぶりだろうか……) いや、なんでもない。 実は僕も休暇を取った────と言うかマルディーニ卿に取らされてね、君の様子を見に来た。」

 

 スザクとシュネーが話しをしている間に“何事か”と思ったのか、何人かが屋敷の中から出てくる。

 

「そうですか、では紹介しましょう枢木卿。 こちらが家族────」

「────ようこそいらっしゃいました枢木卿、ボイシ地区の領主であるヒンメル・ヘクセンです。 こちらが妻のエーゲラ。」

 

「……息子がお世話になっております。」

 

『枢木卿』と聞こえた瞬間、髭を生やしたシュネーの父の困惑顔が愛想よい笑みへと変わり、彼の妻はスンとした表情のまま挨拶をする。

 

「初めまして、枢木スザクです。 事前に来る連絡をせず、急な訪問で────」

「────いえいえ、ラウンズの方とあればいつでもヘクセン家は歓迎いたします! なぁエーゲラ?」

 

「ええ、まぁ。」

 

 外に出てきてからスンとしたエーゲラの背後にずっと隠れている14,5歳ほどのショートカット縦ロール少女が、ずっと困惑したままシュネー達を不思議そうに見る。

 

「これ、スノウ。 そうやって隠れずに、枢木卿に挨拶をしないか?」

 

「すみません枢木卿、いつもは元気過ぎるぐらいの妹なんですが……」

 

 ヒンメルがそう言うとシュネーが困ったような苦笑いを浮かべ、スノウは更に困惑する様な顔のままヒンメルたちとスザクを互いに見る。

 

「…………………………どうした、スノウ?」

 

「どうして三人とも()()()()()()()に畏まっているの?」

 

 サァァァァァ。

 

 スノウの言葉にヒンメルとエーゲラの顔から血の気が引いていき、シュネーは意味不明なビンタを食らったかのように唖然とする。

 

「……」

 

 逆にスザクはどこか()()()様子のまま顔色を変えず、ヒンメルは次第に赤くなっていきながら口を開ける。

 

 「スノウ! 枢木卿の前で、なんてことを────!」

 「────だ、だってお父様もお母様も何時も仰っているじゃない?! “イレヴンなんかが栄えあるナイトオブラウンズになったのは浅ましい手段を使った筈だ”って! それに、ブラックリベリオンなんてことを起こす野蛮人のイレヴン────!」

 「────スノウ! いい加減にしないか?!」

 

 顔を真っ青にしてブワリと汗が出始めたヒンメルはハンカチを取り出して額を拭くと、申し訳なさそうな顔に変わり、スザクを見る。

 

「……不敬罪に当たることは承知して申し上げます。 貴方は確かにナイトオブラウンズという高い地位におられる方ですが……私たちは貴方に対して、敬意を払いながら歓迎はできません。」

 

「分かりました、突然の訪問に関わらず出迎えをしてくれてありがとうございます。」

 

 スザクは急激に冷めていく心を表情に出さず、ただそう口にしてからヘクセン家の屋敷に背中を────

 

 「────勝手なことばかり言わないでくれ!」

 

 さっきまで奥歯をかみ砕く勢いだったシュネーの怒りに満ちた叫びにスザクは足を止め、ヒンメルたちはびっくりする。

 

「確かに枢木卿はブリタニア人ではないかもしれない! だからと言って“敬意が払えない”なんてのはおかしい────!」

「────シュネー、お父様になんて口を────」

 「────母さんは黙っていてくれ────!」

「────ひっ────?!」

「────枢木卿は自分を犠牲にしてまで私の命を何度も救ってくれただけでなく、こうやって僕の見舞いにも来てくれる素晴らしい人だ!」

 

 シュネーは歯を食いしばる代わり、グローブの生地が軋むほどの力で拳を作る。

 

「そんな人に対して、父さんは何という侮辱を────!」

「────非ブリタニア人がブリタニアの、それも貴族の命を守るのは当然だろう。」

 

「口で言うのは簡単だよ、父さん。 でも実際に身を挺してまで他人を守れる人間がどれほどいるというのです?」

 

「私がいるだろう。」

 

「…………父さん、本気で言っているんですか?」

 

「ヘクセン領の領主である私がどれだけの民の人生や命を守っていると思う?」

 

「父さん……ヘクセン領は一度も戦火に晒されていないですよね?」

 

「戦火にならないのは私のおかげだ。」

 

「枢木卿、申し訳ありません────!」

 

 ヒンメルとのやり取りが無意味と悟ったのか、視線を彼からスザクに移したシュネーは歩き出す。

 

「────まさか私の家族がこんなにも恥ずかしい人間たちとは思っておりませんでした! 来客用の離れがありますのでそこに案内し、今日からは私もそこで休暇を過ごします!」

 

「なっ────」

「シュネー────」

「兄様────?」

 

 ヒンメル、エーゲラ、そしてスノウはこのようなシュネーが見たことが無いのか驚愕した。

 

「────遠路はるばる来てくださった枢木卿を父さんたちが歓迎していなくとも、私には関係ありません。」

 

 ドンドンと歩きだすシュネーを、スザクが追うように歩くとあたふたとしていたヒンメルが口を開ける。

 

「まて、シュネー! 話はまだ終わって────!」

「────いいや。 私の命の恩人であり客人である枢木卿を侮辱した時点で終わっているよ、父さん。 誰が何と言おうと、私は彼に感謝はしているし一人の人間として尊敬もしている。 行きましょう、枢木卿。」

 

 シュネーの“尊敬している”などと言う、自分を褒め称えるような言葉を聞いたスザクは、思わず胸の奥にジンワリとした温かい気持ちになった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その夜、使用人たちに私物を本家から離れに移したシュネーは宣言通りにその日から離れに住むことを伝えた。

 

 仲のいい家のシェフや使用人が数人移り込み、その日の夕食をシュネーは家族ではなくスザクと過ごした。

 

「……………………」

 

 熱くなったまま行動をしたシュネーはクールダウンして気まずくなったのか、静かになって食後の紅茶を飲んでいた。

 

「夕食、美味しかったよシュネー。」

 

「ッ。 あ、ありがとうございます! お口にあったのなら嬉しいです!」

 

「やっと笑ったね。」

 

「ウッ。」

 

「でも良いのかい? 何も僕の為に、ここまで────」

「────いいえ、する必要がありました。 誤解されがちですが人種が違うとはいえ、同じ人間なんです。 それをまさか、枢木卿のことを幾度となく話した筈の家族が……」

 

「………………………………」

 

「く、枢木卿! どれだけ考えても分からなかったことがあるのですが!」

 

 シュネーは自分の所為でまたも気まずい空気になってしまったことを気にしてか、以前から考えていた疑問を口にすることにした。

 

「以前お聞きにした、『願い』の事*2なのですが……一体、その願いとは何なのでしょうか?」

 

「……僕には、心から尊敬できる人が二人────いや三人ぐらいはいるんだけれどね? その内二人は“周りを笑顔にしたい”と言う理想を口にしたんだ。 ブリタニア人、非ブリタニア人に関係なくね?」

 

 スザクの言葉に、シュネーがハッとしたような顔をする。

 

「そ、それは……もしや枢木卿を騎士にした────?」

「────うん、一人はユフィ……ユーフェミア皇女殿下だよ。」

 

「……? 二人と言いましたが、もう一人は?」

 

「ブリタニア人だけれど、君のように差別をするどころか人を『平等な人間』と見ている友人だよ。」

 

「では枢木卿の願いとは、“周りを笑顔にしたい”ということでしょうか?」

 

「……少し、違うかな? 僕は自分が器用じゃないのは自覚しているから、『その業を成せる人たちを今度こそ守ることが僕の願い』……になるのかな?」

 

「では、私にも“手伝え”と命令してください。」

 

「……それは出来ないよ、シュネー。」

 

「な、なぜです?! 私は貴方に付いて行くことを決めたいのです! 例え相手が旧友であろうと、同じブリタニア人であろうと戦います!」

 

「“何故”って……だって友達に『命令』は、なんだか違うような気がするから?」

 

「…………………………………………はい?」

 

 目が点になったシュネーを見てスザクは何かしでかしたと思ったのか、“明日は別の場所を探す”と口にすると、シュネーはムキになりながらスザクに、“休暇が終わる(気が済む)まで離れを共に使っていい”と無理やり言い渡したのだった。

 

「(一度言い出したら止まらないんだね、シュネーは。)」

*1
30話より

*2
159話より




天然、恐るべし。 (゚ー゚;Aアセアセ
もうそろそろR2と思いますです、ハイ。 (;^ω^)ゞ


あと余談ですが、ブレスオブザワイルドがゼルダ版スカイリムで面白すぎ♪


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第180話 マドリードの悲運は回避された! エリア11は別です

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 旧スペインであるエリア24は以前にも記入したがブリタニア帝国の植民地となってから日が浅く、反ブリタニア活動は続いている。

 

 組織名は『マドリードの星』と呼ばれ、『エリア11と違って幸い』と言っていいのか旧スペイン軍の残党を合併した後は文字通りに旧スペイン人にとっては『希望の星』であった。

 

 だがこちらには『ゼロ』の様な高レベルの指導者がいなかったため、一時は他のレジスタンスのように窮地に追いやられたが、ブラックリベリオンが起きたことでブリタニアの注目がエリア11の鎮圧に向けられた隙を突き、多くのサザーランドの買収や奪取をすることに成功して新たに『エストレヤ』と言う機体の改造に成功した。

 

『ブリタニア機の見た目を改造』という点ではエリア11の無頼と共通しているが、あちらが『グラスゴー(一世代前)の改造機』に対してこちらは『サザーランド(現役兵器)の改造』である。

 

 このことが功績と認められたのか、インド軍区などブリタニアをよく思わない小国を始めに多くの支援をマドリードの星は得ることに成功した勢いでイベリア地域周辺では『第二の黒の騎士団になりかねない組織』として注目の的となっていた。

 

 そしてエリア24がエリア11のように『奇跡』という名のきっかけ(起爆剤)で『第二のブラックリベリオン』になりかねない『火薬庫の状態』を危惧したシュナイゼルは、グリンダ騎士団で活躍を示していたマリーベルを新たな総督として任命した。

 

「(全く面白くない話だネ~。)」

 

 そんな記事が書かれた新聞をポニーテールにまとめたセミロングヘアーの女学生────『マリルローザ・ノリエガ』が読むと、曇りそうになる表情を我慢しながら新聞をごみ箱に捨ててから帝立ペンドルトン学園の門を潜り抜ける。

 

『帝立ペンドルトン学園』とは、帝国の統治によってエリア24となったマドリード租界に建設された一貫校で、その在り方はどことなくアッシュフォード学園に似ていなくもなかった。

 

『ブリタニアの子女が勉学に勤しみ、理事長は殆んど誰も会ったこともなく姿もわからない学園である』、という事を除けば。

 

「(ハァァァァ……お兄ちゃんの頼みで通い続けているけれど、正直かったるいナ~。 じゃなきゃ、先日届いたアマネセール(新型機)のシミュレーターを試しているよ。)」

 

 機体形式番号Type-05G/ESP、通称『アマネセール』とはエリア24の()()()()()()()()()に月下を量産化する過程で開発された『暁』のカスタム機である。

 

 既に察しているかも知れないが、マリルローザは『マドリードの星』の一員でありKMFの操縦スキルもそこそこ良い。

 

 それだけでなく父はブリタニア人、母はスペイン人という事で彼女はハーフであり、実の兄である『フェルナンド・ノリエガ』はマドリードの星のリーダーを務め、マリルローザが反ブリタニア活動に参加して戦うことには猛反対している。

 

『ハーフの兄妹でブリタニアに対してゲリラ活動を行っている』という面では、ナオトやカレンと非常に似ている。

 

 ドン!

 

「「きゃ?!」」

 

 マリルローザが寝不足から来る睡眠欲求を気合いで振り払いながらペンドルトン学園を歩いていると誰かとぶつかってしまう。

 

「いたたた────」

「────ご、ごめん! 大丈夫────?!」

 「────ピースマークの者です。」

 

 ドキッ!

 

 マリルローザがぶつかった学生が鼻を抑えながら尻餅をついたので様子を見る為にしゃがみ込むと、相手が小声で『ピースマークの者』と告げたことでマリルローザの心臓が強く脈を打つ。

 

「(ピースマーク! 反ブリタニア支援組織の────?!)」

 「────マドリードの星の()()()()()()に伝言です。 “ベンタスゲットーの旧闘技場にて待つ”と。」

 

「(お兄ちゃん(フェルナンド)の事を知っている?! いや、それ以前に私がマドリードの星と繋がっていることをどうやって?!) 貴方は……一体────?」

 

 マリルローザと同じくペンドルトン学園の制服を着た()()()()()()()()()()がニッコリとした笑顔を返す。

 

「────()()『ミスティ・イクス』よ♪ あ、それとついでに言うとこれでも貴方より年下よ♪」

 

え?!

 

 マリルローザは驚愕に目を見開かせながら、ワナワナと震えてミスティ・イクスをジロジロとみる。

 

「そんな胸で…………大きい……大きい?! 私より胸が大きそうなのに────?!」

 「────大きい大きい言わないでくださいな────?!」

 「────背も小さいし────!」

 「────そこまで小さくない!!!」

 

『年相応』と言えばそこまでだが、普段の()()()()()()()からは想像もできない低能低レベルなツッコミである。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ベンタスゲットーはエリア11の『ダークゾーン』とあまり大差がないほど治安は悪く、ブリタニア人だけで無く、そこに住んでいるツーフォー(旧スペイン人)でさえも夜道の出歩きは極力控えている。

 

 運が悪ければ、『義賊』と称して徘徊する者たちに『ブリタニアの内通者』と一方的に断定されてリンチにかけられかねない。

 

 そんな場所を平然と歩けるのは自衛手段とその手の者相手でも引けを取らない戦力を保有する者たちだけだろう。

 

 一人のツーフォーの青年────『フェルナンド・ノリエガ』が数人の腕の立つ者たちと共にその日のうちに、妹のマリルローザから受けた伝言相手と会う為に闘技場を目指していた。

 

 いや。

 この場合は『目指していた』と言うより、『戻っていた』と呼ぶべきだろう。

 闘技場はマドリードの星が持つ拠点でも大き目の一つで、インド軍区から送られてきた新型機であるアマネセールの保管場所でもある。

 

「(仲介人がピースマークとはいえ、不気味過ぎる。 相手がピンポイントで、俺たちのアジトを会う場所に指定したのも……マリルローザに接触して、俺を名指しに────)」

「────フェルナンド、何かがおかしい。 見回りの奴らが一人もいない────」

「────なんだと────?」

「────あ、お兄ちゃん────」

「────ってローザ(マリルローザ)?!」

 

 フェルナンドたちは耳鳴りがするほど静まり返った闘技場を地下駅から上がって様子を見ていると一足先に足を運んでいたマリルローザと出くわし、フェルナンドが慌てだす。

 

「何でここに?! “大人しくアジトで待っていろ”って言っただろう?!」

 

「だから()()()待っていたけれど?」

 

そう言う意味じゃねぇよ。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ。

 

『兄妹コントをまたし出したよこいつら』と呆れていたマドリードの星たちの耳に、闘技場の石で出来たフローリングを靴が踏む独自の反響音が届くとピリピリとした緊張感が場を満たす。

 

「ごきげんよう。 マドリードの星のフェルナンド・ノリエガですね? 私、この間エリア24の総督となったマリーベル・メル・ブリタニアと申します。 ここにいた者たちは一時的に隔離させていただきました。」

 

「「?!」」

 

 まるで夜会に出会った人に挨拶をするかのようなマリーベルに、フェルナンドとマリルローザはギョッとする。

 

「グリンダ騎士団の────!」

「────ブリタニアの皇女殿下────!」

「────影武者でも、ここで打ち取れば────!」

 「────やめろお前ら!」

 

「え────?!」

「な、なんで────?!」

「────多分、俺たちは既に包囲されている。 闘技場の奴らも捕まっているだろうさ。」

 

 フェルナンドの制止する声にマドリードの星の者たちがビクリと体を跳ねさせ、マリーベルはニッコリとする。

 

「賢明な判断です。 それと私は影武者などではなく、正真正銘のマリーベルです。」

 

「……だろうな。 影武者だろうと、皇女の名前を口にしている時点で不敬罪になりかねないもんな。 それにそうでもなければ、色々と説明が付かない……で? 俺を呼び出したのはなんだ? 『夜のデート』への誘いなら、喜んで受けるぜ?」

 

「貴方に……マドリードの星の()()()()である『フェルナンド・ノリエガ』と話をするために、ここに参りました。」

 

「……おいおいおいおい。 買いかぶって恐縮だが、俺は()()だぜ────?」

「────“マドリードメトロ”。」

 

「ッ。」

 

 マリーベルが口にした『マドリードメトロ』とは、名前の通りスペイン首都マドリードの地中を蜘蛛の巣のように張り巡らされた駅地下の事を指している。

 

 エリア11やEUの旧地下鉄と似ているが、エリア24がそれ等を放棄したの近代ではなく19世紀。

 

 故に、地図に載っていない上に土地勘が強い物でも口頭でしか構造を伝われていない。

 

 故に、隠れ家にするにはもってこいの場所である。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と言う前提が付くが。

 

「……………………チ、そこまでお見通しかよ。 そうだ、俺が君たちブリタニア人によって国を奪われたスペイン人の希望の星、『マドリードの星』のリーダーだ。 で? 俺を捕まえて公開処刑でもするかい新総督さん?」

 

「お兄────?!」

 「────お前は黙っていろ。」

 

「いいえ、先ほど申しあげた通りに話をしに来ました。 このままだと、貴方たちを()()()殲滅しなくてはなりません。 そしてそれを行う事は、本意ではありません。 何故ならば、これから来るであろう大嵐にエリア24────いいえ、()()()()は準備を一刻も早くし始めなければいけません。」

 

 マリーベルの言葉にマドリードの星のメンバーたちはどよめき、フェルナンドがさっきまで浮かべていたチャラい表情がキリっと真剣なモノへと変わる。

 

 何故なら『第88』と皇位継承権が低くとも、仮にも皇女殿下でしかもブリタニア人の総督が『エリア』ではなく『旧名』で地区を呼ぶのは前代未聞どころか、下手をするとブリタニア本国に『謀反の気配アリ』と受け取れかねない発言。

 

 そしてそのリスクをマリーベルが冒してまでわざわざ言い換えることはフェルナンドにとって────否、イベリアの者にとって最も尊き『敬意』が払われていると感じさせていた。

 

 その上、『これから来るであろう大嵐』の言葉に彼の好奇心は大いにくすぐられた。

 

「……話を聞こうか、マリーベル皇女。」

 

「ええ、それと貴方が信頼できる同胞たちにも聞いて欲しい内容になると思いますので────ああ。 それよりも私の仲間たち数名を呼んでもいいかしら?」

 

 「美人さんならいつでも大歓迎だ!」

 

「お兄ちゃん……せっかくの空気が台無しだよ────」

「────だって総督が直々に会いに来て、しかも美少女なんだぜ?」

 

「…………………………私は?」

 

「は? お前がどうかしたか?」

 

「……」

 

 フェルナンドの言葉に、マリルローザがとうとう痛み出した頭を抱えだす。

 

 原作のオズO2では、記憶喪失のオルドリンはマリルローザと知り合いとなり彼女を経由してフェルナンドと出会い、マドリードの星と共に活動をした。

 

 そしてA級パイロットである上に指揮官能力も高かったオルドリンがアマネセールに騎乗して加担したことで、エリア24全土に圧制政治を強いていたマリーベル総督に対してイベリア半島の反ブリタニア戦力を全て上げた、かつてないほどの反旗をマドリードの星を筆頭に翻した。

 

 結果はこれ以上ないほどの『惨敗』。

 

 トントン拍子に作戦が決行されてマリーベルを追い詰めたかのように見えていたがその実、全てはマリーベルのシナリオ通りだった。

 

『生身のマリーベルまであと一歩』というところまで政庁を進入したフェルナンドとマリルローザの部隊は88機のヴィンセント・グリンダで構成された『リドールナイツ』の奇襲により、文字通りに二人は『串刺しの刑』に処されて無慈悲で無残な死に方をした。

 

 オルドリンと同じく記憶喪失になってマリーベルの右腕となったオルフェウスを相手にしていたオルドリンはようやく彼を振り払って政庁に侵入すると、これ見よがしにボロ雑巾のように四肢欠損し、変わり果てた容姿に変えられたフェルナンドとマリルローザの亡骸がアマネセールの前に放り出された。

 

 これによりマリーベルはアマネセールの戦意喪失を図ったが、意図せずにアマネセールに乗っていたオルドリンのトラウマを刺激してしまい、致命的なまでにマリーベルに対してオルドリンが持つ印象を大きく変えてしまうきっかけとなった。

 

 だが原作より様々な要素が変わったおかげで、ノリエガ兄妹は原作の様な犬死する運命と違う道を歩むこととなる。

 

「(まさかここまでとは……まるで、シュナイゼルお兄様だわ。)」

 

 そんな未来を原作では自分が作ったとは知る由もないマリーベルはニコニコとしながらも、内心は高揚感と畏怖が混ざった気持ちにドキドキしていた。

 

「(ですがもし、仮に彼が本当にセントラルハレースタジアムで私と同等の動きを未調整のヴィンセントでした騎乗者ならばシュナイゼルお兄様の様な『知』だけでなく、私の様な『武』までも兼ねそろえていることに……)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 晴天の空。

 

 思春期真っ最中でじゃれるアッシュフォード学園の生徒たち。

 

 そして────

 

「子供ならば授業は受けるべきだ!」

「ちゃんと単位は取れていますよ先生?!」

 

 ────とある廊下では日課になりつつある、とある生徒ととある体育教師を中心にした鬼ごっこがまた繰り広げられていた。

 

「毎日毎日毎日! よく飽きないですね、ヴィレッタ先生?!」

 

「教師だからな!」

 

 ルルーシュは授業が終わった放課後、必ずと言っていいほど教室の外にいるヴィレッタに待ち伏せされていた。

 

「そういうお前こそ、今日はいつもの姑息な手を使ってこないじゃないか?! 『補習を受ける気がある』と、取って良いか?!」

 

「そんな訳ないじゃないですか! 今日は頼れる友人が隣にいるだけです!」

 

 そう言いながらルルーシュは横で走っているスヴェンを見る。

 

「ははは。 頼られているところ済まないが、私は手出しはしないよルルーシュ。」

 

「な、なにぃぃぃぃぃ?!」

 

「と、言う訳だルルーシュ! 私が先に話を持ち掛けたのを知らずに、体力勝負に出たところがお前の敗因だよ!」

 

「(クッ! まさか先回りされていたとは! それに俺の体力もそろそろ……いや、まてよ?) なぁスヴェン? ()()()()()()()んだよな?」

 

「ええ。 ()()出さない約束をしているよ?」

 

「そうか、じゃあ()()()。」

 

 ルルーシュの合図にスヴェンは走ることを止めて、自らの足を背後からくるヴィレッタの脚に絡めて転がそうとする。

 

「おわ?!」

 

 だが仮にも体育教師以前に機密情報局の彼女は前のめりになった身体の勢いを利用し、そのまま地面に手をつかずに宙返りをしてからスヴェンを睨む。

 

「手は出さないんじゃなかったのか?!」

 

「ですから()()出していませんよ?」

 

「な、なんだその子供みたいな屁理屈は?!」

 

「だって私たちは『子供』ですから。 ねぇ、ヴィレッタ先生?」

 

「んな?! お、おま────!」

「────それよりも、ルルーシュが逃げてしまいますよ?」

 

 ヴィレッタはハッとしてからルルーシュの走り去った方向へ全力疾走する。

 

 「ぬおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 ビュン!

 

「きゃあぁぁぁぁ?!」

「スカートが?!」

 

「ははは。 (白に緑ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! そしてヴィレッタは紫ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!)」

 

 スヴェンは清々しく、愛想のよい笑いのままヴィレッタの疾走によって巻き上げられた景色を脳に焼きながらゆったりとした足取りで歩きだす。

 

「あ、副会長だ!」

「頑張って~!」

「今日こそ捕まれ、副会長!」

「俺たちの小遣いを返せー!」

 

「はいはいはい……」

 

 ルルーシュは汗だくになりながらも、自分が学園の日課的なエンターテイメントになっていることに悪い思いをせずただ走る。

 

「ルル~! 会長からの差し入れ~!」

 

 階段を下りていたルルーシュが見上げると上の階段にいたシャーリーによって投げられた焼きそばパンを彼が受け取る。

 

「ありがとうシャーリー!」

 

 「シャーリー! 帰ってきたらお前も覚悟をしておけ!」

 

「えええええええええ?!」

 

「当然の報いだ!」

 

 これを見たヴィレッタの言葉に対し、シャーリーはゲッソリとした顔をする。

 体育教師であると同時に、ヴィレッタはシャーリーの所属している水泳部の顧問をしているので、苦手意識を持つのは無理もないが。

 

 それは何故か?

 理由は至極単純に、ヴィレッタが余りにも教師役に『本気過ぎる』からである。

 

 最初こそどこかたどたどしかったのだが、次第に生徒たちがどこか本国に居る弟妹達を思い出させた所為で()()()同じように接してしまうようになった。

 

 特にルルーシュがゼロだと知っていても、どこか『頭脳だけ突出している所為で体力をおそろかにしている』────つまりは『マセた頭でっかち弟』と共感してしまった。

 

 ちなみにシャーリーは逆に『脳筋体力バカ』という事で、ヴィレッタは部活動の合間に彼女の勉学を見ている。

 

「(とまぁ、こんな平和な描写、アニメでは無かったから新鮮だ。)」

 

 本校の屋上からグラウンドを見下ろしていたスヴェンはロロと共に学園から逃げ出すルルーシュを見てそうのほほんと考えながら春の季節になったそよ風で眼前に降ろされた前髪を上げる。

 

「(元教師の扇との出会いが無かったから、ヴィレッタが学園に配属されるかちょっと不安だったが……概ねR2通りでよかったよかった♪。 それにリヴァルに聞いたところ今週のルルーシュはバベルタワーに行く予定はなかったし、『バベルタワーひあぁぁぁぁぁ』はまだ先という事か。)」

 

「どうかされましたか?」

 

 そんなスヴェンの背後から、屋上に出てきたマーヤが声をかける。

 

『屋上近くには他に誰もいない』というハンドサインを送りながら。

 

「いや、少し考え事をしていた。 (主に『果たしてバベルタワー事変は俺が居なくともそのままの流れなのか』。)」

 

 とはいえ、カメラはある筈なので態度や仕草は通常時と変わらないが。

 

「そうですか。 (見ていた方角は、メモに書かれた『バベルタワー』……だとすると、恐らくは同じく書かれた『ゼロ奪還』と『飛燕4号作戦』の事を考えていたのね。)」

 

 ゾワッ!

 

「(……なんだか寒気がする。 それに気のせいか、マーヤの目が笑っていないような────)」

「────そう言えば、今日()出かけてくるのかしら?」

 

「ん? どうしたのです、急に?」

 

「出かけるとすると、ライブラは私が見ておくわ。」

 

 実は復帰して以来のライブラはスヴェンとマーヤ、そしてミレイの周りに居ることが多くなっていた。

 

『アリスが居ない』、『ナナリーが居ないどころかまるで元々居なかったような扱い』。

 そして極めつけは恐らく『ロロ』が代わりに居たことで異変が起きていることを悟ってか、ライラは安全地帯に身を置くかのような行動を独自に取っていた。

 

「(おお、ナイスアシストだマーヤ。 そろそろバベルタワーの件がある筈だから、今日でバイトは最後にするか。 バニーカレンは拝められなかったが……仕方がないか。) じゃあ、彼女を頼めるか?」

 

「ええ。」

 

 マーヤはにっこりとしながら屋上を後にするスヴェンを見送ってから租界の上空をゆっくりと飛ぶ、()()()()()を見上げる。




『スヴェンは にげる をつかった!』

『だがにげられない!』


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コードギアス 反逆のルルーシュR2
第181話 イベントからは逃げられない!


ついにR2突入です。 (;´∀`)

楽しんで頂ければ、幸いです。 (⌒_⌒;


 ___________

 

 とある少女の視点

 ___________

 

『とある夢を見ている』。

 

 かなりありきたりなセリフだが、『夢』と『現実』の区別はなんだろうか?

 

『認識』を基準だとどちらも脳が見せているモノだとすれば、もしかしたら私は()()()を境にずっと『夢』を見続けているのかもしれない。

 

 一人の人間にしては長すぎる、数えきれないほどの夜を重ねては朝を迎え、転々と住む場所を動くことをするまでは『異端』と夢の住人たちによって数々の死に方を経験した。

 

 ようやく放浪者になって世界を旅する間に、『コード』という不老不死の()()に苛まれながらも生きることを強いられるだけでなく、『ギアス』と言う異質な力を与えれる能力は周りの人生を狂わせてしまった。

 

『ギアス』とは大きな力を得る代償として、その人にとって『かけがえのない物』を掠め取っていく。

 

 それで狂う人を何人も……

 

 本当に何人も見てきた。

 

 ……………………今何故か本当にふと思ったが、『蓮夜』と言う少年は少し違ったな。

 

 彼はダッシュと言う半端物によって、私のギアスの洗礼が『発症のカギ』となる(ギアス)を既に受けていた所為で異形の失格者になっても悲観することは無かったな。

 

 それどころか『生きる』ことを止めなかった結果、生きた。

 

 シャルルも、マリアンヌも、ヴィクトルも、呪いを力として世界を変えようとして私とも志を一時は同じにしたが結果的に一人の暴走で袂を分かたざるを得なかった。

 

 そんな彼らは()()()、確固たる意思を持って生きようとしている。

 

 その線で行くと、あの二人の子供である坊やもたった一人の妹を生かせるために力を欲したな。

 

 彼は自分の起こす戦いにより、多くの人々を巻き込んで次第に世界を巻きこんでその結果、『愛する者の敵を取る為』や『友の為に』と言う理由で戦いが戦いを呼ぼうとも。

 

 そう考えれば、皆は……『人間(ヒト)』は生きる為に未来に……『前進』するのだったな。

 

 私は……どうだろう?

 

 私は────

 

 

 ……

 …

 

 

「トウキョウ租界管轄、こちら2のD4機。 間もなく空域に入ります、聞こえますか?」

 

 隣から来る声に目を覚まし、窓の外を見るとはるか遠い地上は『ボロボロの廃墟』という名の砂漠の中にオアシスの様な『開拓されていく租界』の景色が目に入る。

 

『こちらトウキョウ租界管轄、飛行目的は広報宣伝で間違いないか?』

 

「変更なし。 滞空時間も申告どおりの時間を予定。」

 

『了解……レーダーで確認、上空飛行を許可する。』

 

「対応、感謝します。」

 

 隣に居る金髪の少女が通信を切り、ホッとした息を吐き出す。

 

『レイラ』…………なんだっけ?

 

 取り敢えず、『かつて私がまだギアス嚮団に居た頃でいつものように気ままな散歩に出た先の森の中にある湖で飢餓状態だった少女』だ。

 

 長すぎるからもう『レイラ』と呼ぼう。

 

 それにしてもどういう道を辿れば、あの時気ままに助けた少女とまた出会うのだろうか?

 そう言えばマオもだな。

 

 この間は……『エデンナントカ』というのは知らないが、『クリストファー・チェンバレン』という懐かしい名も話に出てきた。

 

 こんなに昔のことが頻繁に次々と夢や現実に出てくるなんて、今まではなかった。

 

 それに坊やにも驚いたが……あの若造の事だ。 

 

 坊やはとやかく私のことを()()()としていたが、若造は以前から何も聞かずにただ急で一方的な私の願いをただ受け────

 

「────??? どうしたのです、C.C.さん?」

 

 どうやら思っていたより長く考えに耽っていたようだ。

 これも『夢の一部』と思えばいいか。

 

「いや、なんでもない。」

 

 そう何時もの調子に戻りつつある意識でハッキリと返し、枕代わりにしていたぬいぐるみたちを抱いて窓の外を見る。

 

 

 

 


 

 

 マーヤがアッシュフォード学園から見上げていた『とある気球』の中で、トウキョウ租界管轄と音声のみの通信でやり取りをしていた、歩兵用の強化スーツ(ラビエ親子製)を軍服のインナーのように着込んだレイラは隣で座りながら『家族のチーズ君』たちを抱いていたC.C.に素っ気ない返事をされても彼女を見続けていた。

 

「(……………………………………そういえばこいつら(ぬいぐるみたち)も若造が編んだものだったな。 まさか学園に置き忘れた箱をギアスの呪いを気力で打ち破った少年(アキト)から渡されるとは思わなかったぞ。) ……ん? どうした?」

 

「いえその……本当にどこかで、C.C.さんを以前に見たような気がして……」

 

「そうか? “会っていた”としても、そこまで曖昧なモノなら“会っていない”のと同然ではないか?」

 

「その……すみません。」

 

「そこで普通謝るか?」

 

「はい???」

 

 ハテナマークを浮かべる生真面目なレイラからC.C.は気まずく面白くなさそうな表情のまま視線を後ろに移すと黒の騎士団仕様の月下、無頼、そして月下に似た別の機体が数機ずつあった。

 

 彼女は知る由もないが、原作ではこの時点で黒の騎士団は死に体で大した戦力も残っておらず、文字通りの『最後の賭け』に出てゼロ(であるルルーシュ)の奪還を卜部と数十人の団員で試みていた。

 

 その虚しく、重い空気のまま「別れの杯」を飲む姿はかつての日本軍が特攻に出撃する前のモノだった。

 

 だがここには卜部だけでなく原作ではブリタニアに捕まっていた仙波や朝比奈、更にはブラックリベリオンでほぼ無意味な死を遂げた井上や吉田もいる上にどんよりとした空気どころかやる気に満ちていた皆の姿があり、明確な作戦の方針を練っていた。

 

「それにしても良いのか、お前?」

 

「何がです、C.C.さん?」

 

「……………………(なんだか年寄り臭いから)さん付けは止せ。 私が聞きたいのは、“黒の騎士団でもないお前がここに居て良いのか?”、という事だ。」

 

「今回の()()()()は最初の奇襲と動きによる連携が肝心ですので、その時の戦局を見るベストな位置がここです。 それにことが起きた直後、既に潜入している方たちに合流し警備室の様な場所を占拠すれば自ずとゼロほどの者ならば作戦の意図に気付き、そこに来るでしょうから。」

 

「なるほどな……ちなみにその『既に潜入している』とは、あの女みたいな小僧たちと黒髪のヤツらの事か?」

 

「後は()()()()()さんですね。」

 

「ブフ?! しゅ、シュバールだと……ジュースみたいで、良いあだ名だ。 (なるほど、アイツが言っていた『シュバール』とは若造の事だったのか。)」

 

「えっと……『あだ名』などではなく、EU(フランス)語のインタネーションでどうしてもそう口にしてしまう傾向と言うべきか────」

「────いや、その言い方が若造の癇に障りそうだ。 (マオやこいつ(レイラ)の事もあったのだし、『そう言う事』もあるのだろう。)」

 

 ヴヴヴヴヴ。 ヴヴヴヴヴ。

 

 C.C.のポケットから振動音が響くと、彼女は携帯を取りだして送られてきたメッセージを確認する。

 

「……よし、取り敢えずフェーズワンは無事に成功したようだ。」

 

「なら、気球を予定通りにバベルタワー方面へ向かわせます。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 トウキョウ租界の、ルルーシュが今日も違法なギャンブルで儲ける筈だった会場前に人だかり出来ていたことに疑問を持っていたルルーシュが周りの人たちに何事かと聞いたところ────

 

「────『大会が急遽キャンセルされた』?」

 

「ああ。 何だか()()()()があったみたいで消防局と警察が来ているんだとさ。」

 

「警察もか?」

 

「ほらこの頃、放火魔事件が結構続いているだろ? 同一人物と見ているらしい。」

 

「(放火魔事件……このところ、裏カジノを集中的に狙っているのは逆恨みだろうか? だとしても、俺が寄ったカジノだという事は偶然か? それとも────)」

「────兄さん、もう戻った方が良いんじゃない?」

 

「(ロロも『警察に事情聴取をされたらヤバイ』と感じているか。 ならそうだな。 今日はもうやめに────)」

 

 ルルーシュは憂鬱な表情で口を開けるとふと、上空に浮かぶ気球が目に入る。

 

 ゆったりとした動きをする気球は『建設中でも、バベルタワーはオープン!』と高らかに宣伝をしていた。

 

「兄さん────?」

「────ちょっと遠出になるけれど、今日はバベルタワーに行ってみようか?」

 

「ッ?!」

 

「学生でも、金さえあればカジノは大歓迎するだろうさ────ってどうした、ロロ? そんな顔をして?」

 

「う、ううん……でも良いの? 租界の外縁部だよ?」

 

「あそこなら、建設中とはいえ大きい施設だし治安もそこそこいい筈だ。 最悪、デパートもあるから気晴らしになる。」

 

「兄さんが、それでいいなら……ちょっと天気予報を見るね? この間みたいな大雨は嫌だから。」

 

「ああ、助かるよロロ。」

 

 ロロはハート形のロケットが付いた携帯を取り出しては、()()()()()()()()()をしながらメッセージを送る。

 

『ヴァルハラ作戦の予測バベルタワーにて発生。 7号プランに基づいたスタンバイを要請する』、と。

 

 このメッセージをロロが送ると一斉にトウキョウ租界中の機密情報局の者たちに通達されると彼らは早々に一応の礼儀として事が起きた直後に作戦地方の管理局────つまりは政庁────にいつでも『機密情報局の作戦が決行中』という報告が出せるような準備も行い始める。

 

「(ロロには感謝している。 俺の我儘に付き合ってくれるし、何より必要以上に制止の言葉をかけない……自分でも知っている、こんなことを学生の俺がやったって何の意味も……)」

 

 そんなことが裏で起こっていると知らないルルーシュは、ロロが運転するリヴァルのバイクのサイドカーでやるせないイラつきを感じたまま『大企業や貴族によって完成されたブリタニア帝国の社会の中でどう無難に生きられるか』を暇つぶしに再び思考を巡らせる。

 

 ……

 …

 

 ほぼ同時期、中華連邦の総領事館から『大宦官が着任の挨拶に来る』という通信を受けたトウキョウ租界の政庁は慌ただしかった。

 

 理由は単純に『来るタイミングが通信の数時間後』という、外交的には殆んど『無礼』に値する中華連邦に対して租界の駐屯兵の8割を呼び寄せて武力による威圧を与えながらも歓迎する準備を並行に行う為だった。

 

「私は好きではないね、こういうのは。」

 

 まるで蜂の巣をつついたような政庁の様子を、クロヴィスが自室の窓から見下ろしながらボソリと上記の言葉を口にする。

 

「殿下────」

「────分かっている、ギルフォード。 今の私は総督でも何でもないが、礼儀も何もない中華連邦の突然な訪問にここまで慌てなくとも……」

 

「いえ、私が言いたかったのは“これから自分はカラレス総督のお供をするのでライラ皇女殿下の安否や外の様子で現実逃避をしないでください”という事でしたが────」

「────ング────」

「────次いでに言いますとライラ皇女殿下からすでにこのようなことを言う許可は既に得ております────」

「────グ……」

 

 クロヴィスはズバズバとした指摘をされ、いくつものメタな矢がぐさりと突き刺さっていく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(ハァ~……バニーはええの~♡)」

 

 バベルタワーの中にあるカジノがあるフロアの裏部屋に髪を金髪に染めてディーラー制服を身に纏ったスヴェンがマジックミラー越しにバニーカジノの様子を見ていた。

 

「あ、ガレス(スヴェン)さん。 今日はその……()()()()は来ないんですか?」

 

「ええ、まぁ。 そのような情報は入って来ていませんが、他の女性の従業員たちに“警戒を怠るな”と言ってもらえますでしょうか?」

 

「ええ、いつもありがとう。」

 

「いえいえ、こちらこそ。」

 

 スヴェンはまたも『ガレス』と言う偽名を使い、カジノでバイトをしていた。

 

 着ている服装から察せる様に、カジノに雇われた一人のディーラーとして。

 そして裏社会の有力者たちの間で流行っている、名誉ブリタニア人やナンバーズの女性を対象にした『兎狩り』と称される遊び────と片付けるにはあまりにも悪質な、文字通りの『()()()()』への対策として立ち方などや失礼のない程度に()()()()()()()()()などをカジノで働かざるを得なかった女性たちに出来るだけのアドバイスをしていた。

 

 スヴェンは(少々の彼自身に下心がありながらも)アニメのR2で見た『兎狩り』が、決してルルーシュに負かされたチェス名人一人の遊びではない事を知って『どうにかできないか?』と考えた末が『情報網を使って出来るだけ被害を抑える』ことだった。

 

 一応暗黙の了解は『同意の上』となってはいるが、何らかの代償さえその『狩り場』を仕切っている組織に払えば『身請け』と言う形で交渉は成立してしまう。

 

 身請けする相手が()()()()()()()持ちだとしても。

 

「(いや、まぁ……うん、ちょっとと言うかかなりダークな内容だったよ。)」

 

 元々は『いつか訪れるルルーシュの奪還に潜入するカレンの為』だったが『次いでに』という事でスヴェンはこのようなことをし始めた。

 

『同情の気持ちが無かった』といえばウソになるが。

 

 ガチャ。

 

 そんなことを考えながら目の保養を楽しんでいたスヴェンのいる裏部屋のドアが開く音がする。

 

「えっと……着替えましたけれど────」

「────あら、サイズピッタリじゃない────!」

「(────ん? 何だか聞き覚えのあるような遠慮する声────)────ほ?!

 

 スヴェンがマジックミラーの硝子に反射された人物を見ては素っ頓狂な息を吐き出してしまい、ゆっくりと振り返りと黒髪に薄い茶色の目とご立派なスタイルをした新人バニーを見る。

 

 「(バニー()()()……だと?)」

 

「………………ひゃわ?! ほ、ほんとにいた。

 

 そして金髪に髪を染めたスヴェンを見たアヤノは最初『誰こいつ?』と言う表情から、次第に目が見開かれていく。

 

「??? 新人とガレスって知り合い? もしかして恋人とかぁ~?♪」

 

 「「単なる知り合いだ/よ!」」

 

 ガレス(スヴェン)とアヤノの声がハモるとそこに居た女性の従業員がニヤニヤし出し、明らかにアヤノは赤くなっていく。

 

「ちょっとこっちに来い────!」

「────わわわわ────?!」

「────ごゆっくり~♪」

 

 スヴェンとアヤノがカジノの裏部屋から壁の端に出るドアを出ていくとすれ違うように、アヤノが入ってきたドアから新たな人がおずおずとしながら裏部屋の中へと入ってくる。

 

「あ、あれ?」

 

「あら、そっちも着替えたのね。 ピンクが似合っているわ~♪」

 

「さっきの子は?」

 

「ガレス君と知り合いらしくてね────ああ、ガレス君はね凄腕ディーラーで────」

「────(なんだかミレイさんに似ている。)」

 

 髪を降ろし、おっとりしたバニーの衣装に着替えた()()()はそう密かに思っていたそうな。

 

 

 


 

 

「あ、えっと……シュバ────?」

「────ここではガレスと名乗っている。」

 

「そ、そう。」

 

「どうしてここにいる?」

 

 俺は『優男』から『ポーカーフェイス』に戻ってしまったことに『あ、しもた』と思いながらも周りはスロットや賭博などの娯楽を楽しんでいるガヤガヤとした声や音によって多少の話ならいけると思いながらアヤノに問う。

 

 ちなみに彼女の体を俺ので隠すような体勢であるので、はたからすれば『壁ドン状態』。

 

 つまりそれとなくじっくりと見えるという事だ♪

 バニーアヤノって、ええのぉ~♡

 

 出るとこはボンと出て、引き締まるところはキュッとなって、腰のくびれもムオッホホホホホホホホホホホホホホホ♡

 

 それにとても15歳とは思えない長身だけれど、俺もかなり高い方だからノープロブレ────いや問題アリやがな。

 

 何故ここに?

 

「なぜここにいる?」

 

 もうぶっちゃけよう。

 

「え? えっと、避難を依頼したでしょ? “ならば数人各フロアに前もって潜入させる必要がありますね”ってレイラが────」

 

 ────どういうことなの、そ()

 

 あー、『ポーカーフェイスの維持に慣れていて良かった』とこれほど思ったことはない。

 

 冷や汗は流石に出ているが、内心の『なんじゃそりゃああああああああ?!』とエドヴァルド・ムンク氏の『叫び』のような表情は表に出していない。

 

 ともかく今は冷静に慌てよう。

 

「そうか……だがなぜ従業員の、それもバニーなのだ?」

 

「あー、あの緑髪の人が────」

 

 ────C.C.、珍しく本気(マジ)でクッソええジョブをしとるやないか。

 

「そうか。 他の奴らは?」

 

「他の皆も違うフロアにいるよ? アキトは、ほらあそこのバーテン。」

 

 アヤノの視線を辿っていくと────

 

 「……………………」

 

 ────何故か目だけは笑っていないアキトがにっこりとした笑顔を向ける。

 

 正直ちょっと怖い────って今はそれどころじゃない。

 

「そうか。 その……バニーではなく、別の物に着替えたほうがいいと思うぞ?」

 

「え?」

 

「アキトと同じバーテンなどはどうだ?」

 

「……シュ────じゃなかった。 ガレスがそう言うのなら着替えてくる。」

 

 アヤノが裏部屋に戻り、俺はホッとしながらアキトを見ると彼が意味不明なサムズアップを返し、俺は手を振る。

 

 いや本当に意味が分からん────

 

「────ガレス君、あちらのルーレットの者と変わってくれるか?」

 

「あ、はい。 今すぐ行きます。」

 

 横からフロアの支配人の指示に従いながら、『なんでアヤノとアキトがいる?』と思っているとふと、彼女がさっき口にした単語が思い当たる。

 

 “避難を依頼した”と、アヤノは確かに言っていた。

 

 という事は────

 

「「「「「────ワァァァァ!!!」」」」」

 

『さぁさぁ、本日注目の兄弟対決のコングが鳴りました! 生き残るのは果たして兄か弟か!何とこの兄弟、多少の武術に心得があるらしくこちらの試合は10ラウンドを予定されております!』

 

 ドアの向こう側が一層騒がしくなり、カジノのスピーカーからアナウンスが流れ、周りのブリタニア人たちから上がる熱気とは裏腹に、俺自身はスゥーっと血の気が引いていくと同時に寒気が走っていく。

 

 このアナウンス、確かR2の一話目でルルーシュがバベルタワーに────

 

「「…………………………」」

 

 ────Oh。

 

 ピンクをメインにした色を持つウサギの耳を模ったヘアバンド。

 ストレートに降ろされたショートの赤い髪に青い目と健康的な美肌。

 蝶ネクタイにカフスにハイレグ気味のスーツの内部がコルセットの様な『ワイヤーボーン』と呼ばれている芯材でポロリを防ぎつつ、パッドで圧迫されるも逆にその立派なたわわサイズと形を主張する双山。

 ピンと姿勢が正されるようなハイヒールに、脚線美を包むタイツ。

 手にはシャンパングラスを載せた銀のプレート────うん、もうここらへんで現実逃避をやめようか、俺?

 

 バニーカレンだ。

 バニーカレンだ。(大事な事なので二回。)

 バニーカレンが居る。

 ポカンとして『なんでここに?!』と訴えるような顔のバニーカレンが居る。

 

 逆に俺が知りてぇよ。

 

 どないしてこうなった?

 

 そう考えている間、ルーレットの球に入れる力加減を間違えてしまう。

 

「大穴を当てたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ヒャッハァァァ!!!!」

 

 危うし俺の精神と時間の狭間に漂う意識、誰か助けて。

 ただいま土壇場ハプニングで物理効かないメダパ〇(混乱)中ダス。

 

 いや、操作ミスだから普通に混乱でいいのか?




久しぶりに他の人の視点を出しました!

そして久しぶりにテンパるスヴェンでした…… (;´・ω・)

『アヤノのバニースーツの色』ですか? 
黒です♪ (♪´ω`)


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第182話 早々に やらかしてしまう スバル側

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 スバルが(内心で)ギョッとしている間、カレンはまるで時が止まったかのような幻覚の最中一つだけ思ったことがあったそうな。

 

「(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(見られちゃった?!)あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(と言うか何でここに)?!)」

 

 ドッ!

 バシャ!

 パリィン!

 

 カレンは内心でスバルと同様にテンパっていた所為か、思わず準備もまだ出来ていないまま誰かとぶつかってしまう弾みにシャンパン(ノンアル)を相手に零してしまう。

 

「「あっ。」」

 

 更に焦った所為で演技力に拍車がかかったカレンは呆気に取られるルルーシュと目を合わせて気の抜けた声をお互いに出してしまう。

 

「(あ! やべ! 今の私は腰の低い日本人!腰の低い日本人!腰の低い日本人!) も、申し訳ありません────!」

「────あ、ああ。 いや良い、こちらも前方不注意で────」

 

 カレンがハンカチを出してシャンパンをルルーシュの学生服から拭きとろうとするとルルーシュもどう接したらいいのか分からないドギマギした動作をする。

 

 そしてその様子をスバルは────

 

「(────ま、まさか?! いや何でここに?!)」

 

 彼が見ていた先では、表の世界でもチェス名人として少々名の知れた褐色で髪を金髪に染めた、悪人趣味の悪そうな顔をした大男が数人のSPを付けながら先ほどシャンパングラスの割れる音でカレンを見てはさっきまで不服そうな顔が一気に満足するようなモノへと変わる。

 

「(モブA,B,Cによれば()()()は別の場所のチェス大会に居るスケジュールだった筈!)」

 

「あの……ディーラーさん?」

 

「あ、ああ申し訳ございません。」

 

 スバルは緊張で固まっていたところを、客のかけた声によってルーレットを続けながらも横目でさっきの場をそれとなく見ていると、褐色の大男はズカズカと我が物顔でカレンに近づいては顎を横から掴んでは無理やり顔を自分に向けさせた。

 

「あ?! (しまった! 発信機が────!)」

「────ほほぅ? いい顔の商品ではないか? 全く……近頃は狩場も悪くなり、今日儲ける筈だったホールもボヤ騒ぎになって中止されたがここでようやく良い巡り合わせとぶつかったな。」

 

 満足そうな顔で、嫌がるカレンの身体を値踏みしていた男は舐めずりを────

 

 ────ブチッ!

 

 これを見た瞬間、スバルの中で何かが弾けるような音と共にどす黒い()()が一気に心の奥底から湧き上がる。

 

「(下郎が、その舌を引き裂いて────)」

 ────バキッ────!

 「────ちょ、ちょっと君! 大丈夫かい?!」

 

 何か堅いものが砕かれる音に、さっきスバルのミスで大穴を当てた客がヒソヒソ話をするかのような声をかけてスバルはハッとして、ようやく自分の摘まんでいたルーレット球を握り潰してしまったことに気付くとニッコリとした笑顔でジンジンと手から伝う痛みを誤魔化す。

 

「ああ、これは大変失礼いたしました。 ()()(悪い意味で)有名な、あの方に緊張してしまいました────」

「────黒のキングさんですね? チェスの世界では名の知れた打手と聞いていますが勝負を願えませんか?」

 

 原作でも聞いたようなルルーシュのセリフが聞き耳を立てていたスバルの耳に届くと、自分の痛む手の中から粉々になった球の破片などをハンカチにくるんでからディーラーの交代を申し込むサインを送る。

 

「あ? 知った上で、俺に挑むのか学生君?」

 

「無論だ。 そもそも俺が今日出てきたのはアンタと対戦をするためのようなものだよ。」

 

 ルルーシュの言葉に、キングの見下すような眼の色が変わる。

 

「……なるほど、お前が例の『荒らし屋』か。 まさか学生だったとは────」

「────それで、どうするんです? 受けるんですか? 受けないんですか?」

 

「チッ……いいだろう。 15分もあれば、事足りるからな。」

 

「ハッ。」

 

『黒のキング』と呼ばれた大男がルルーシュの挑発に奥歯を噛み締めながら舌打ちをして挑発をし返すが、ルルーシュは鼻でそれを笑い飛ばす。

 

「15分? 10分も要らないよ、お前程度。」

 

 毅然とした態度で自分より大きなキングに食い掛るルルーシュ。

 この二人のやり取りの所為で戦闘直前に感じ取れるような、ピリピリとした緊張感が漂うと観客の何人かは足が震えだし、あとの何人かはごくりと喉を鳴らす。

 

 そしてスバルは痛み出した胃の所為で胃薬を服用し、ゴクリと飲み込んでから部屋の端にルーレット円盤のスペアなどが置いてある所へ静かに移動する。

 

 ……

 …

 

 上記のバベルタワーから租界の中心にある政庁寄りで、一握りの人間にしか場所や存在が明かされていない地中深くにある場所は重要な囚人が集められた留置所内ではブラックリベリオン時に捕まった藤堂や彼を助けようとした千葉、アッシュフォード学園から逃げ遅れた扇や南などの黒の騎士団の幹部などが今日も退屈そうにただ静かに各々が独自の方法で暇つぶしをしていた。

 

 これらは原作通りに物事が運んでいれば、もっとゼロを疑う(あるいは非難する)ような光景が広がっていたところである。

 

 何せゼロ(ルルーシュ)はブラックリベリオンの『ここぞ』というクライマックス時に、ナナリーが攫われたことで冷静さを欠いて何も言わずに戦線離脱をし、恨みを残す形のまま黒の騎士団を筆頭視した大規模な反逆は空中分解してしまうだけでなく多くの黒の騎士団のメンバーが命を落とした。

 

 実質、原作アニメでは失敗したブラックリベリオン時に中華連邦に亡命できたのは以前から万が一の為に逃走ルートを準備していたディートハルト、ラクシャータ、神楽耶、そして咲世子に数人の団員のみ。

 

 エリア11に至っては、ブリタニアの追っ手から逃げ続ける毎日の末にR2が始まる頃にはカレンとC.C.、卜部と彼に付いてきた数十人の黒の騎士団たちしか生き残っておらず、その上多くの主要幹部や卜部以外の四聖剣などはことごとくブリタニアに捕まっていた。

 

 全ては、ゼロが『あとは任せる』と一言だけを藤堂たちに言い残したために。

 何も知らされていないまま、獄中生活を送っていた黒の騎士団がゼロを疑ったり、憎んだりするのは仕方がない事だったが────

 

『命に代えても、やらねばならない事が出来た!』*1

 

 ────原作と違って、今作でゼロがトウキョウ租界を去り際に黒の騎士団幹部たちに送った最後の通信が上記である。

 

 “あとは任せる”と“やらねばならない事が出来た”は最近の日常会話では、さほど違いがない様に良く使われるがブラックリベリオンの様な切羽詰まった状況などでは明確な違いがある。

 

『あとは任せる』はよく言えば『信頼を置いている』、悪く見れば『一方的な放任』。

 

 逆に『やらねばならない事が出来た』は『何事よりも優先しなければいけない事案』としか聞こえない。

 

 それにより、留置所では『余程ゼロの様な者を揺るがせるような事件が起きたとしか思えん。 だがその『事件』とは一体……』と藤堂たちの考えは概ね固まったいた。

 

 これもあったことでブラックリベリオン後に生き残った黒の騎士団は散り散りとなってもゼロへの不信感はかなり抑えられていた。

 

 後にこれがどのような結果を出すかは、神のみぞ知ることだろうが。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 コン。

 

「────チェックメイト。」

 

「なッ?!」

 

「どうやら、俺の勝ちみたいだな。」

 

 キングの驚愕するような顔に、ルルーシュはギリギリ隠せていない勝ち誇ったどや顔を返す。

 

「(ルルーシュ……何で今日に限って、しかもマフィアと繋がっていると知っている相手にそこまで攻勢に……)」

 

 何時もは相手の立場も考えながら絶妙な勝ち方をするルルーシュだったが、今日に限っては腹の虫が悪かったのか初手から相手を完膚なきまで追い詰めるかのような態度にロロは不思議に思っていた。

 

「(何故、俺はここまでイライラ……いや、腹を立てているのか俺は────?)」

「────困るな~、君?」

 

「「「「「???」」」」」

 

 突然キングがニタニタとした顔を浮かべて手を上げるとルルーシュが彼のSPたちによって羽交い締めにされる。

 

「な、何を?!」

 

「“何を”って、イカサマをしたのなら()()()()()()()()()()()()()だろう?」

 

「チェスでイカサマだと?! この薄汚い大人が────!」

「────正しいことに価値はないんだよ、学生君。 『()()()()』なのだよ。」

 

「ッ。」

 

 ドキッ! ズキッ!

 

 キングの言葉を聞いた瞬間、ルルーシュの心臓が大きく跳ねると同時に鋭い痛みが走る。

 

「(な,なんだ今のは? どういうことだ?)」

 

 アキトと同じようにバーテンダーになりすましたアヤノは、周りの者たちの注目がルルーシュたちに注がれているのを確認してから胸の谷間に仕込んでいたインカムを取り出しては数回指で叩く。

 

 ……

 …

 

 

 トットットッ。

 

「Bプランです!」

 

『総員、出撃!』

 

 アヤノのインカムと繋がっていた通信機からのノイズを合図に、レイラがそう黒の騎士団に告げると卜部が騎乗している月下を先頭に黒の騎士団のナイトメアたちがバベルタワーの屋上に降り立つ。

 

『朝比奈と井上は各警備室の占拠、吉田は下の階に移動しながら地上部隊と合流! 仙波は外部の敵の露払い!』

『『『『了解!』』』』

 

「敵の空中戦力が近づけば、私はスモークチャフを散布してから他の皆と共に突入します。 皆さん、ご武運を。」

 

 

 ……

 …

 

 

 ドゴォォォン!

 

「「「「「キャアアアア?!」」」」」

「「「「「ワァァァ?!」」」」」

 

 バベルタワーの上空から爆発音と共に建物が揺れ、照明がチカチカと点滅すると会場内は一気に驚く悲鳴が呼び水となってパニックが広がる。

 

「「「(今だ!)」」」

 

 そうカジノの中で数名が上記の出来事を好機と思いながら一気に行動に出た。

 カレンは近くのキングを張り倒し、これを見た彼のSPたちが銃を懐から抜いて構えると横からルーレット円盤がフリスビーのように飛来してきては銃を払い落とし、その隙にアキトとアヤノが息の合った連携でSPたちを倒していく。

 

「兄さん、こっち────!」

「────あ?!」

 

 そして、肝心のルルーシュは()()()()()()ロロに引きずられて電源の補給が無くなったことで暗くなったカジノの闇へと消えていく。

 

「カレン────」

「────す、スバルだよねやっぱり────?!」

「────大丈夫か────?」

「────あ、うん。 でもルルーシュを追いかけないと────!」

「────いや、上々だ。 後は紅蓮まで────」

「────シュバールさん。」

 

 いつの間にか尻餅をついていたカレンに声をかけながらディーラーの上着を羽織らせるスバルは、横から来るアキトの声に首を回すとナイトメアの作動キーが手渡される。

 

「屋上間近のエレベーターシャフト内に折りたたんである。」

 

「そうか。 (どう言うこっちゃ。)」

 

「俺とアヤノたちは客を避難させる。」

 

「なるほど。 (意味が分からん。)」

 

「アンタの専用機は物資搬入用エレベータで来るはずだ。」

 

「あ。 えっと────?」

「────俺たちはシュバールさんの仲間だ。」

 

「(『シュバール』って……それにこの訛り具合はユーロ(EU)人の?)」

 

 スバルは必死にポーカーフェイスを維持し、アキトとカレンのやり取りを見守りながら『胃薬飲んどいてよかったぁぁぁぁぁ!』と内心叫んでいた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ロロによってカジノから窓ガラスから差し込む陽光によって明るいデパートエリアに出てきたものの、ブリタニアと黒の騎士団のナイトメアの交戦に巻き込まれそうになり、二人は更に建設中のエリアに逃げ込んだところで落ちてきた瓦礫によって離れ離れになってしまった。

 

「(早く、ロロを見つけてここから脱出しないと! 一人の!たった一人の家族なんだ────!)」

「────あ。 ラッキー♪ ボクの方に来たんだ♪」

 

 ルルーシュはそんな焦る気持ちのまま、ロロと最後に出会った地区まで必死に戻るところでがらんとした通路の端で軍服に身を包み、座り込んでいた一人の白髪の少女が()()()()()()()()()()様な言葉を口にする。

 

「────お兄さんに褒めてもらえるかな~? ニヘヘヘ────♪」

「(────誰だ? 一般人……にしては落ち着きがあり過ぎる。 まさか、テロリストの一員────?!)」

「────ああああっと! 敵じゃないよ! むしろ味方だよ!」

 

「(味方?! 分からん……何が一体、どうなって────ウッ?!)」

 

 白髪の少女が目からコンタクトを外して二人の目が合った途端、走馬灯のように『ただのルルーシュ・ランページ』としての記憶が、次第に『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』として記憶に併合されていく。

 

「(なんだ、これは?! これは、俺なのか?!)」

 

 白髪の少女────マオ(女)が言い渡されたのは『ルルーシュの保護』であるので本来なら、彼女はそのまま彼を黒の騎士団の元に連れて行くだけで済むのだがルルーシュの言動が余りにも『ゼロ』の想像からかけ離れていた所為で()()()()で『ザ・リフレイン』でルルーシュの記憶を読み取ろうとした。

 

 さて、シャルルのギアスはあくまで『記憶の改竄』であり『忘却』ではないので、記憶は本人の中に残ったまま封印されているだけである。

 

「(これを、俺はしら────いや……()()()()()?)」

 

 なので理論上、マオ(女)の『ザ・リフレイン』で記憶を思い出させることは『可能』の上に対象は彼女と共に閲覧が出来てしまう。

 

 人間の脳には何千億個もの神経細胞が複雑な神経回路網を形成し、神経線維の太さによってばらつきがあるもののその全てを100%使えば人一人の10と数年分などの記憶など文字通りの『一瞬の出来事』でしかない。

 

「……………………なるほど、そういう事か。」

 

「ふわぁ~……」

 

 ルルーシュはゼロとしての笑みを浮かべ、マオ(女)はコンタクトを付けなおしながら感心の息を吐き出す。

 

「お前はさっき、“敵ではない”と言ったな? 誰の差し金だ────?」

「────スヴェン────」

「────なるほど。」

 

「それにしても、すごく濃い人生送っているね、君?!」

 

「まぁ、そうだな。 偽りとはいえ、今の俺には二人分の────いや。 ()()()の記憶が入っているからな。 それがお前のギアスか?」

 

「う~ん、理解するの早いね! 噂以上だよ!」

 

「何をバカなことを。 自分がゼロだと思い出したばかりで思考の約3割を使って整理している所だ……それよりも、スヴェンの仲間と言うのなら状況を説明しろ。」

 

「(うっわ。 大人しそうに見えてすぐにマウントを取りたがる『オラオラ系陰険インテリ』か~、()を思い出しそうで嫌いなタイプだな~。)」

 

 ……

 …

 

「なぜこうも手こずる?! 我々の配置は完璧だったはずだ!」

 

 バベルタワー内に潜伏し、ナイトメアに騎乗していた機密情報局の部隊長が恨めしそうに上記の言葉を吐き捨てる。

 

 上空の気球から襲撃した黒の騎士団を租界の駐留部隊に任せ、機密情報局は直ぐにルルーシュの周りに居られるような包囲網を組めるような陣を取っていた。

 

 だがまるで自分たちの事を知っていたような、別の部隊が物資搬入用のエレベーターなどから出てきた見たことの無いナイトメアの乱入で()()()をされて見事なまでに機密情報局はバラバラになっていた。

 

 機密情報局は皇帝直属の機関なので優秀な人材ばかりなのだが、元々は情報収集や奇襲などの『暗躍作業』に長けている人間がほとんどで、真っ向からの勝負には慣れていない。

 

 ヴィレッタの場合、『彼女がブリタニアの貴族になる努力をしている』、『監視対象のルルーシュの正体を知っている』、『彼のギアスが効かない』、『いざとなれば指揮を執って物理的に取り押さえることが出来る』などと言った条件を兼ねそろえていたからこそ選ばれた『少数の例外』とも言えた。

 

 そんな機密情報局が今相手をしているのは無人化された()()()()で、それらのAIが優秀な上に操作をしているのが『ジュリアス時のルルーシュ』でも警戒していたレイラだったので、単純に『分が悪かった』と言えばそれまでなのだが。

 

「(ドローンの改善、上手くいっているわね。)」

 

 レイラは以前のアレクサンダ・スカイアイに似た機体に乗りながら、ファクトスフィアと無人機などから入ってくる様々な情報がバベルタワーの設計図の上に表示されている地図を操作していた。

 

「(アンナたちに感謝をしないと。)」

 

 レイラがそこで思い浮かべるのは焦っていたラクシャータにがっしりと腕を掴まれて半ば無理やり引きずられ、涙目になりながら『あ~れ~』と連れ去られたアンナたちだった。

 

「(……『リア・ファル』の様な艦になると、流石にあの島に残してきた人員では無理がありそうな────)」

『────君が、マルカル司令かね?』

 

「(この声、それに威圧的────いえ、自信にあふれた口調……なるほど、思っていたより少々若い声でしたが────)────ええ、貴方がゼロですね?」

 

 アマルガム用の周波数から聞き慣れていない声の通信を聞き、レイラは直ぐに相手が誰なのかをすぐに察した。

 

 ……

 …

 

 

「(すぐにそこまで思い当たるとは、流石だな。)」

 

 一通りの事をマオ(女)から聞き、彼女の指揮官と話す為に無線機を借りていたルルーシュは素直に関心を内心で示す。

 

「そうだ────」

『────あ。 少々待って下さい、今貴方を包囲しようとした者たちを生け捕りにしますので────』

「(────しかも理解が早い上に、的確……スヴェンの仲間……それにブラックリベリオン時の言動を考えれば……)」

 

 ルルーシュの『関心(かんしん)』に、少々の『寒心(かんしん)』が混ざった瞬間だった。

*1
80話より




作者:忘れがちだった『アレクサンダの変形機能が元々収納用』設定の活用。 (;´ω`)ゞ
アキト:『かんしん』したぞ。
アヤノ:(ㆆωㆆ)ジー
アキト:関心と寒心と感心。
アヤノ:(゜゜()☆○=(-"-)バキッ!


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第183話 ちょっと違うR2冒頭

かなりカオスな展開の進み方ですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (汗


 バベルタワーの異変直前、カラレスはエリア11にある中華連邦の総領事館で総領事を務める大宦官の『高亥(がおはい)』に対して『礼儀』と呼ぶにはあまりにも威圧的な態度で出迎える。

 

「ようこそ、エリア11へ。」

 

「大層な出迎えですな?」

 

 政庁の滑走路は『警護』と言う名目で必要以上のサザーランドと歩兵が待ち構えており、『その威圧を物ともしていない』高亥(がおはい)が挑発的な言葉をカラレスに投げる。

 

「ゼロは死んだと聞いていましたが?」

 

「いえいえ、中華連邦の方々に我がブリタニアを理解して頂くにはこのような景色が早いかと思いまして。」

 

「存外、ブリタニアは直裁的な手を使うのですね────」

「────ホッホ。 星刻(シンクー)、そこは流すところだぞ?」

 

「失礼しました。 (なるほど。)」

 

 カラレスと高亥(がおはい)が雑談をし始めながら歩くと、星刻(シンクー)はかなり遠くにあるバベルタワーを横目で見ながら内心で納得する。

 

 実はスバルのメモを見た後の毒島から『大宦官に関しての動向』を桐原は頼まれ、それとなく二人は連絡を取り合っていた。

 

 無論、暗号や隠語を使ったやり取りなので中華連邦に居る『黒の騎士団の監視役』達にはさっぱりだったが少数の人間────特に星刻(シンクー)の様な、有能な人物たちには内容が分からなくとも『何かしら言葉通りではない相談』と察するには十分だった。

 

「(我々の到来を旧日本のご老人────いや、黒の騎士団は利用するつもりか。)」

 

 ズズゥゥン……

 

 そしてバベルタワーから明らかに異様な音がすると租界内の空域がバタバタしている様子に、星刻(シンクー)は直ぐにいくつかの仮説を思いあげながら彼自身が独自に進めている計画の微調整を加える段取りを脳内でメモしていった。

 

 ちなみにこの後、考えに耽っていた星刻(シンクー)の背後からアプローチしたブリタニアの警備員に気が付くのが遅くなり、接近された所為で半ば本能的に星刻(シンクー)は腰に帯剣していた剣を目で追えないほどの速度で抜刀し、同じ流れで警備員たちのホルスターベルトだけを器用に切り落としてしまい、その場に居たカラレスやギルフォードをゾッとさせたそうな。

 

 この後カラレスに『バベルタワーを占拠したテロリストの対応に機密情報局が援軍の要請をしている』という報告が入り、ギルフォードが出撃することを提案するが中華料理に使われる調味料を理由にカラレスは『総督自らが士気向上の為に出るべき』と押し通した。

 

 実際はアッシュフォード学園の占拠とマリーベルの誘拐未遂から吹っ切れて(急変して)から『人間狩り』を()()()感じてしまう欲求を満たす為に出払うのだが、流石の彼でもそんな歪んだ趣味を口にすることは無かった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「はぁ~……ルルったらロロまで悪事に引き込もうとしているのかな?」

 

 距離と音の反響の所為か、バベルタワーの出来事を『またも租界内で工事している』と思っていたアッシュフォード学園の本校で屋上庭園を生徒会メンバーたちと共に造っていたシャーリーがそうボヤく。

 

「“悪事”って、なんです~?」

 

『生徒会メンバー』と上記で記入したが、そこには勿論『準生徒会』の者たちも入っており軍手と麦わら帽子をしたライラがハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「あー、うん……ルルーシュが時々、放課後外出するでしょライブラちゃん? あれってギャンブルしに行っているのよ。」

 

 ライブラ(ライラ)はミレイの言ったことから、少女漫画風に競馬ジョッキー姿に服装を変えたルルーシュが競走馬に自ら乗りながら『Hahahahahahaha!』と高笑いをし、他の騎乗者たちを蹴落とすホワホワした妄想を浮かべる。

 

「……なるほどです! 鬼畜なのです!」

 

「「「「………………………………」」」」

 

 ライブラの口にした言葉に、その場にいた生徒会のメンバーたちは複雑な表情を浮かべながら固まるが、最初に回復したのは中身オッサンのミレイだった。

 

「(なんだかちょっとズレているような気がするけれど……まぁ、いっか!) そういうシャーリーってば、本当はルルーシュの事が心配なんでしょ?」

 

「ふぇ?! ちちち違います~!」

 

「………………」

 

「どうしたです、マーヤ先輩?」

 

「ああ、なんでもないのよライブラちゃん。」

 

 麦わら帽子と軍手を使って作業をしていたマーヤはジッと見ていたバベルタワーの方向から視線を外し、ニッコリとした笑みをライラに返してから中断していた土のセッティングを再開する。

 

「(マーヤって意外と腕力あるのな……もしかして、シャーリーと同じ体育タイプ?)」

 

 そしてリヴァルは淡々と力仕事をこなすマーヤを見て、そう静かに思っていたそうな。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 記憶を取り戻したルルーシュの動きは早く、自分の身の周りと今の状況をマオ(女)から簡単に聞いていると自分たちのいる場所にまで来たC.C.の操るゼロ仕様の無頼の手に、マオ(女)と共に乗りながら答え合わせをしていた。

 

「あの男、皇帝にギアスを与えたのはお前かC.C.?」

 

「違う。」

 

「ナナリーはどこにいる?」

 

「一応、未確認だが新大陸に居る……()()()。」

 

「“らしい”? お前にしては歯切れが悪いな────?」

「────私や黒の騎士団が直接、情報を得たわけじゃないからな。」

 

「……なら咲世子はどうした?」

 

「ディートハルトに雇われていたみたいで、ブラックリベリオン時は彼や神楽耶たちと共に中華連邦へ逃げた。 彼女はお前がゼロだと知らないからナナリーの傍から離れていたし、重要性が分からなかったのだろう。」

 

「……そうか────」

『────C.C.、そこを左です。』

 

 C.C.は通信から来るレイラの声に従うと、バベルタワーの警備室らしき場所へとたどり着く。

 

「(……どうやら、俺の知らない間にかなりのことが進められている様子だな────)」

『────ゼロ、黒の騎士団の四聖剣さんたちの周波数に繋げますので、彼らの指揮をお願いします。』

 

「君はいいのか?」

 

『私はあくまで助言を可能の限りしたまでです。 それに、噂で聞く貴方ほどの方ならばいくつかの作戦を既に立てている筈です。』

 

「(この女の判断力に、相手を読む能力……有能だな。) そうか。」

 

「じゃあボクはもう戻るねぇー!」

 

「C.C.はそいつを送った後、3階に向かってくれ。」

 

「やはり何か考えがあるのか?」

 

「まぁな。 ついでに何人か黒の騎士団で爆発物の扱いに長けているやつを連れていけ。」

 

 警備室に残されたルルーシュは端末を通信機に繋げると新たな通信が入る。

 

『ゼロ、貴方に関することが書かれた手帳を見つけたので鹵獲したナイトメアと共にそちらに一人送りました。 まもなく着く頃だと思います。』

 

「うん? それは────?」

 

 ────キュイィィィン!

 ガチャ。

 

 展開されたランドスピナーが出す特有の音がルルーシュのいる警備質の外で止まり、ドアが開かれる。

 

「(ん? 誰────)────↑ほぁぁぁ?!」

 

 開かれた警備室のドアへ、ルルーシュが何気なく視線を移すと彼の口から変な声が出てしまう。

 

「あ、アリス?! 何故、君がここに────?!」

「────はい、これ。」

 

 アリスがルルーシュに手渡したのは、現場に出てきていた機密情報局の部隊長が持っていた日記手帳の様な物だった。

 

「あ、ああ……」

 

「外に敵のサザーランドも置いていくから。」

 

「「………………………………………………」」

 

『ちょっとアリス~? 外で待っているんだけれど~?』

 

「じゃ、じゃあ! 私は! 他のやることが! ある! から!」

 

 予想もしていない知人との再会をしたルルーシュはどの様な声をかければいいのか迷い、気まずい空気が二人の間に流れるがダルクの通信でアリスはハッとしてギクシャクしながら回れ右をして逃げる退室する。

 

「(何故彼女がここに? いや待てよ……今思えば、行政特区で彼女らしき人影を見た*1のはやはり間違いでは……いや、今はこの状況を打破するのが先決だ。) こちらゼロだ。」

 

『え?!』

『ゼ、ゼロの生声……』

『まさか本当に学生だったとはな────』

『────ちょっと待て卜部! 知っていたのか?!』

『うん? まぁな────』

『────卜部さん、相変わらずそういうところは抜けていますね?』

『え?』

 

「仙波、朝比奈、卜部。 戸惑う気持ちは分からなくもないが、このままだと敵の駐留軍が包囲に留まることをやめて一気に押し寄せる可能性がある。 指示に従えば切り抜けられる。」

 

 ルルーシュは警備室のコンピューターを操作してタワーの構造把握と、通信機を繋げたことで黒の騎士団の配置と敵の情報が指示された地図を元に的確な指示をし出すと形勢は瞬く間に逆転していった。

 

 平常運転に戻りつつあるルルーシュはようやくここで違和感を内心で思い浮かべる。

 

「(待てよ? 俺の兄弟姉妹に、『ロロ』とかいう弟はいなかった筈だ。 奴は一体────?)」

 

 

 


 

 

『P4は階段を封鎖。 R5は左30度にパイルバンカーを射出。 N1、そこから50メートルの天井に向けてリニアライフルを発射────』

 

 やっぱルルーシュってスゲェ!

 

 (スバル)は軽量化された『村正一式、伊織タイプ(仮)』でバベルタワー内を走らせながら、指揮をレイラから引き継いで間もないままテキパキと指示をし出すルルーシュに感心していた。

 

 ちなみにこの機体は以前に俺がヴァイスボルフ城の防衛戦用に作り、聖ミカエル騎士団との戦いで大破させてしまった『村正一式』(長かったから通称『激震』)をアンナたちが回収して解析し、独自に作ったらしい。

 

 つまり『アレクサンダに小型化した武装と装甲を付けた』感じだ。

 

 ……取り敢えず“コレってば要するに某15Jの『陽炎』だよなぁ?!”とツッコませてくれ。

 

 流石にBRS────というか男性用パイロットスーツ────は間に合わなかったので通常のラビエ親子の強化スーツに手動操縦だが、かなりいけるなこれは。

 

 ゴツゴツとした装甲は薄いものに変わっている所為で当然耐久性は低くなっているが、機動力で言えば以前の激震以上だし何より俺がやった『木星帰りの男のように取り敢えずスラスター付けて推力でごり押し(ジ・〇)』よりデザインの見直しが効いていて、今の様な『室内での行動』にうってつけだ。

 

 ちなみに俺はバベルタワー内の作戦地区の端を遠回りに移動しながら、出来るだけ毒島等がいるはずの()()を目指していた。

 

 建前上は『合流』だが、理由は単純に『退却』。

 

 だって俺、バベルタワーに居たくないもん。

 

 せっかくこのイベントをどっしりと外か学園から構えながらのほほんと見る予定だったのにガッツリ関わってしまっているがな。

 

 とはいえ、『ルルーシュやカレンの事が気にならない』と言えば嘘になるが────え゛。

 

 い、今角を曲がったところで目の前にいるヤツって────()()()()()()()()ガガガががががががガガガ?!?!

 

 ダダダダダダダダダダ!

 

 ────ちょ?!

 

 俺の弾丸をよけた?!

 はや?!

 

 スラッシュハーケンのメッサーモ-ド?!

 

 キィン!!

 

 ライフルがぶった切られ────ちょ?!

 

 ヒュン!!

 

 も────?!

 

 ────ガキン!

 

きゃあああああ?!

超接近戦ッ?!?!

 

 キィン!!

 

いやああああああ?!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「さて……そろそろカラレス総督の出番かな?」

 

 ルルーシュはバベルタワー内の仲間が次々と撃墜されて臆したブリタニア軍が徐々に退いていくのを見て、外部を映したカメラでG1ベースと数々のKMF用VTOL輸送機が近づいてきている景色に視線を移す。

 

「順調みたいね、ゼロ────」

 

 警備室の椅子に座っていたルルーシュは背後へと首を回し、ディーラーの上着を羽織りながら自分の右肩を押さえるカレンに振り返る。

 

「────ううん、ルルーシュ。」

 

「カレン? 21階に行けと言ったはずだが? それとも何だ? ゼロがルルーシュと知って、落胆したか?」

 

「一つだけ聞かせてほしいの、神根島の事で。」

 

「なんだ、スザクの事か?」

 

「それもだけれど……あの時、私を撃った奴を見た?」

 

「君を?」

 

 想像より落ち着いたカレンに対してビックリしながらも、ルルーシュは神根島のことを出来るだけ思い出す。

 

「(カレンを撃った奴、か……確かにあの遺跡のドアを潜り抜けるところでカレンが表れて、俺とスザクが睨み合って────)」

 

『────ッ?! やめろ!』

 

 気が付けばルルーシュは自分がスザクに無理やり地面に伏せられて拘束されたと思えば、スザクが息を素早く呑んでそう叫んでいたことを思い出す。*2

 そして辛うじて地面に伏せられながらもルルーシュはスザクの見ていた方向を右目で見て、暗い遺跡内でルルーシュは見たような気がした。

 

「(そう言えば、カレンが撃たれたという事はあの場に俺とスザクとカレンだけでなく、4人目の別の誰かが……)」

 

 コードギアスの世界でも、珍しい()()()()()()を。

 

「(あれは……スヴェンだったのか? だがなぜだ? カレンを撃つ理由など────)」

「────どうなの、ルルーシュ?」

 

「……確かに、神根島でお前を撃った奴が別にいた。 だが生憎、スザクに伏せられていたから見えなかった。」

 

「そう。」

 

「(『嘘』は言っていないが、何も不確かで『見たかもしれない』などというあやふやな情報で混乱させることもない────)」

「────ルルーシュ。 貴方は……ゼロは黒の騎士団で何を成そうとしたの?」

 

 カレンは拳銃を背後から取り出し、それを手に取っていた。

 

「怒っているのか? だとしても、『ゼロに付きたい』と思ったのは皆の自由意志────」

「────アンタのギアスの事、聞いたわ。 『他人を思い通りに命令できる』のでしょ?」

 

「……」

 

「答えて。 それを黒の騎士団に……私や皆に使った上で何をしようとしたの?」

 

 カレンの問いにルルーシュは黙り込むと、彼女は再度問いを投げた。

 原作の彼はここで、色々なことがルルーシュの知らないところで進み、誰が果たして自分の敵や味方なのかわからない状態だった故に言葉を濁した。

 

 だが────

 

「君にギアスを使ったのは力を得て間もなかった頃だ。 君がシンジュクに居たかどうか聞いた後、ヘマをして“シンジュクの事は誰にも話すな”と言った時だよ。 覚えているかい?」

 

 ────ルルーシュは原作ほど濁さずに、本音に近い答えを返した。

 

「………………そう。」

 

「黒の騎士団は……強いて言うのなら“タイムカプセルを埋めるときのスヴェンが口にした願いに似たものをかなえるための手段”、かな?」

 

「かなり饒舌ね?」

 

「まぁな。 君(たち)にはそれぐらいは話しても良いと思っただけだ。」

 

「……彼のとは、違うんだね。」

 

「そうなるな。」

 

 ルルーシュはこれ見よがしに平然と座ったまま、拳銃を握るカレンの視線を返す。

 

『ゼロ! ブリタニア軍の増援が来た!』

『すごい数だ。』

 

「ふむ。 マルカル司令、そちらの作戦の進み具合はどうだ?」

 

 ルルーシュは通信の周波数をアマルガムの物へと変える。

 

『こちらは順調です。 恐らく、貴方が考える策までには間に合います。』

 

「そうか。 そちらに爆発物の取り扱いに慣れている奴がいれば3階に送ってくれ。」

 

『ブリタニアの進行は始まりましたか?』

 

「ああ、上空と地下から同時に攻め込んできているな。」

 

『では本作戦、()()()()()ですね。』

 

「(この女……やる。) そう言う事だ。 君の送る奴に最終チェックを行ってもらうが、かまわないか?」

 

 ……

 …

 

「(こちらを試すような言い方と、このタイミング……やはりゼロの作戦は、『バベルタワーの転倒』で間違いないわね。)」

 

 レイラはアレクサンダ・スカイアイ改に乗りながらその日、バベルタワーに居合わせた客や従業員などを避難時にアマルガムの者たちが誘導したバスたちを見る。

 

 簡単に言うと、スバルからゼロ奪還時に起きるであろう『バベルタワー事変』の避難を、ゼロが取ると思われる作戦に便乗するつもりだった。

 

 普通に避難をすればブリタニア軍に保護される前に機密情報局に皆殺しにされてしまう恐れがあるのでレイラはドローンなどを使って彼らを一気に制圧を試みたが少々時間がかかってしまい、ブリタニア軍による包囲が完了してしまったことで無事に民間人を逃がせる状況ではなくなってしまった。

 

 否、ブリタニア人()()なら無事だろうが()()()の身の安全は微妙なところだった。

 

 何せカラレスは『テロに関連した疑いがある』というだけでナンバーズだけでなく、名誉ブリタニア人でさえも処刑している。

 

 このまま放せば文字通り、狩人(ブリタニア軍)狩りの対象(非ブリタニア人)を与えるだけだろう。

 

 そこでレイラが毒島たちに頼んだのは、『転倒したバベルタワー内を進んで通じた先の中華連邦の領事館を経由した避難』だった。

 

 これならばブリタニア人、非ブリタニア人に関係なく無事に避難させることが出来る。

 

 ただしこれを成立させるためには『中華連邦の大宦官が在任中』であることと、『バベルタワーを橋として黒の騎士団が利用する』が前提となる。

 

 何せ、レイラたちに依頼したスバルは『極力アマルガムの関与を世界に知らせたくない』という条件を付けていた。

 

 そしてこの条件に沿う為、レイラはアマルガム側を『黒の騎士団』と偽らせて行動させていた。

 余談で機密情報局()()は『避難』ではなく『情報収集用』に別のバスで身柄を拘束されている。

 

「(後は、こちらに向かっているシュバール(スバル)さんが合流してゼロが策を発動させれば完了の筈。) シュバールさん、聞こえますか?」

 

 レイラは一息入れながら、通信をスバルに送るが音沙汰がないことに眉毛を『ハの字』に変える。

 

「サエコ────」

『────どうしたレイラ? 例の“体感停止”とやらを仕留めたか?』

 

「いえ、そちらはまだ捜索中なのですが……シュバールさんからの返答が────」

『────レイラか?!』

 

「ッ?!」

 

 ようやくスバルから返事が来るが、いつもより高い音量と彼の焦り具合から尋常じゃない事態に彼が巻き込まれていることを物語らせていた。

 

「シュバールさん、どこですか?! そちらにサエコやドローンを向かわせ────!」

『────ダメだ! ()()()()()()────!』

「────それはどう────?」

『────()()()()と交戦中だ!』

*1
73話より

*2
90話より




地獄の鬼ごっこの逆襲! (;・∀・)ノ


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第184話 爆発解体によるジェンガ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


「♪~」

 

 カラレスは中華連邦と堅苦しいだけの雑談から解放され、鼻歌交じりに政庁内に駐留していたほとんどの戦力をバベルタワー内に潜む黒の騎士団の『人間狩り』に投入していた。

 

 サザーランドを輸送しているKMF用VTOLがざっと上空に目視だけでも200機と少し、バベルタワー周辺の包囲に更にサザーランドや装甲車に軽戦車が数十機ずつに残党狩り用の歩兵部隊たち。

 

 これらはブラックリベリオン後にエリア11の平定の為に本国から送られて増強した戦力の大部分であり、ブリタニア側が予想していなかった黒の騎士団の戦力でも優に『圧倒的な数』で蹂躙することが出来る算段だった。

 

「中華連邦に見せつけよ! 皇帝陛下のご威光を! ブリタニア帝国の力を!」

 

『『『『『『イエス、マイロード!』』』』』』

 

 カラレスは勝利を確信していた。

 

 上空からの数十個のKMF部隊の一斉降下。

 遮蔽物がない地上には同じぐらいのKMF部隊に地上兵器部隊。

 そして地下の輸送用通路は全て封鎖。

 

 手薄と一見見える道路にはカラレスがいるG1ベースの本隊。

 

 確かに、戦力差を見れば絶望的だろう。

 

「第2次突入部隊は10階まで制圧完了!」

「地下にいる第3次突入部隊、待機中!」

「黒の騎士団と思われる武装組織の脱出ルートは一つのみです、総督。」

 

「(さて、どう出る黒の騎士団? 頼むから特攻はしないでくれよ? 貴様らの公開処刑はギネヴィア皇女殿下への貢ぎ物として捧げる予定だからな。)」

 

 カラレスは隠そうともせず、ほくそ笑んだ。

 

 いかに優れたナイトメアや装備を持っていようとも、数の差はそれだけで脅威である。

 しかも戦場は外延部とはいえトウキョウ租界内でブリタニアの勢力圏内。

 

 ……

 …

 

「(確かに絶望的だな。 “()()()()()()()()を見れば”、の話だが。)」

 

 一気に動き出すブリタニア軍の様子を、ルルーシュは涼しい顔のまま警備室のレーダーから観察していた。

 

「どうするの、ルルーシュ?」

 

「何、条件は全て整った。 故にこの勝負は()()()()()に終わるだろう────」

「────え────?」

「────C.C.、朝比奈。 そちらの状況はどうだ?」

 

『仕上げているところだ。』

 

「……予定より早かったな? どうだ、朝比奈?」

 

『協力者のユキヤって子、独学だけど経験豊富だからほとんど調整するところが無くて思わず疑ってしまったよ。』

 

「よし、なら作業が完了した後にマルカル司令たちのいる場所へ迎え。 (ブラックリベリオン時に、ディートハルトへ頼んでいた『ライン・オメガ』の確認は出来た。 後は────)」

『────こ、こちらB2!』

 

 ルルーシュが椅子から立ち上がり、敵から鹵獲したサザーランドに乗り込むとインカムから黒の騎士団員の焦る声が入ってくる。

 

「どうした、B2?」

『ナイトメアが()()────うわぁぁぁぁ?!

 

 ブツ。

 

「おい! B2、どうした?! 応答しろ! P6! 近くにいるB2の────」

『────こ、こちらP6! ランスロットタイプと思われる────に、二機とも早い?! 本当にナイトメアか?!』

 

「(“ランスロットタイプ”だと────?)」

『────ここここっちに()()()────?!』

 

 ────ブツ。

 

『こちらR5! P6が巻き添えを食らって大破! ランスロットタイプと見たことのないタイプのナイトメアが未だ交戦中────!』

『────こちらR1! もう一機、出てき────?!』

 

 ────ブツ。

 

『カレン、ゼロ!』

『卜部さん!』

『取り敢えず、下の連中には“引け”と口頭で言い渡した!』

 

 連続で通信が途絶したことでルルーシュの心拍数は徐々に緊張から上がっていき、彼はサザーランドのレーダーに撤退していく黒の騎士団機と、反対方向から次々とブリタニア軍と黒の騎士団関係なく逃げ遅れた機体が『LOST(ロスト)』と表示されていく様子を見る。

 

「(敵はIFFを外して────いや、このままではここに到着してしまう!)」

 

『ゼロ、こちらレイラ・マルカルです! そちらに敵と思われる機体が向かっています、早急に撤退を────』

「────間に合わん! 卜部、カレン! 迎撃用意! K2、物資搬入口にて敵ナイトメアの詳細を報告した後に即時撤退しろ!」

 

『こちらK2! 敵はランスロットの量産用試作機と思われます! これより撤退────うわ?!』

 

 ブツ。

 

「チィ! C.C.! 距離を取ってすぐに仕掛けの点火をしろ────!」

 

 ────ドゴォン!

 

 ルルーシュが舌打ちを打つと彼のサザーランド、卜部の月下、カレンの紅蓮がいるホールの大型ドアが破壊されて初期量産試作型のヴィンセントが姿を現す。

 

「(二つのうち、一つのイレギュラーがこいつか! またもスザクの時みたいに戦略が戦術に潰されてたまるものか!)」

 

『ゼロ、仕掛けは終わったよ────』

『ワシらもそちらに向かう────!』

 

「朝比奈と仙波はマルカル司令のいる場所へ行け! カレン、卜部! ここで()()()()ぞ────!」

『────もしかして、俺たちを捨て石にでもするつもりかい────?』

「────バカなことを言うな卜部! 私もここに残る 誰も捨てるつもりはない────!」

『(────ゼロ、お前────)』

「(────レイラ・マルカルが、俺の予想通りの奴だとすれば────)」

 

 ────ダダダダダダダダダダ!!!

 

 金色の試作型ヴィンセントの背後、そして左右の店舗からドローン化したアレクサンダたちがリニアライフルを撃ちながら姿を現す。

 

「(やはりな! それにあれはジュリアスの時に見た『ドローン』とやらか! 丁度いい!) 今だ! 卜部、カレン! 敵の破壊をするぞ! オレンジ色の機体は無人の機体だ、同士討ちを気にすることはない!」

 

『『了解!』』

 

 いくらルルーシュがゼロであっても『無人機だから』と言ってそれを盲目的に信じる者は普通、いないだろう。

 

 だが幸か不幸か、バベルタワーでの作戦決行時の初期段階で突然現れた機密情報局の部隊を制圧した際に何機かが大破されてパイロットの救出に向かった黒の騎士団の歩兵部隊のおかげで『オレンジ色の機体は無人』という事は黒の騎士団内で広がっていた。

 

 だが戦闘が開始されると奇妙な現象をルルーシュたちは目の辺りにする。

 

「(なんだ、これは?!)」

「(この()()()()な感じ……もしかしてギアス?!)」

「(まるで意識が状況に()()()()()()()感じ……なんだこれは?!)」

 

 簡単に表現すると、ルルーシュたちが見たのはまるで『オンラインゲームのプレイ中に生じるラグの所為で見えている物が実際の景色に追いついていない』様なモノだった。

 

『消えた────?!』

『神速のごとき────!』

 

 そんな中をカレン、そして卜部はできるだけドローンたちの猛攻に便乗してヴィンセントに攻撃を加えるが今まで猪突猛進的な乱戦での経験が薄いカレンは苦戦を強いられてデザイン的にトップヘビーな紅蓮を酷使し機体の不調が出てしまい、卜部の月下が剣で突いたときに流れるような動きでヴィンセントはランスタイプMVSで受け流してから肘のニードルブレイザーのカウンターで腕の可動部分がダメージを受ける。

 

「(────あり得ん! 物理的なものではない、だとすれば何か別の────)────は!」

 

 いつもの癖で考え込んでしまったルルーシュは気が付くと、試作型ヴィンセントは一気に距離を詰めていた。

 

「(やはり『高速スピード』などではなく、『瞬間移動』の様な────!)」

『────ルルーシュ!』

 

 試作型ヴィンセントの攻撃を紅蓮が受け止め、起動したランス型のMVSと輻射波動によるバリアーがバチバチと音を出しながらお互いを弾き飛ばそうとする。

 

「カレン────?!」

「(紅月、まさか────!)」

 

 卜部、そしてルルーシュの二人は今にも『くの字』に腰部分が折れそうな紅蓮を見ては焦った。

 

「────()()()()()だから持って、紅蓮!」

 

 ビキビキビキビキビキビキ、ガガガガガガガガガ!

 

「(あいつがここに来ているんだ! だから────!)」

 

 だが先ほどから不穏な音を出す紅蓮の中にいたカレンは、ルルーシュや卜部の二人が思っているようなことを考えていなかった。

 

 「────だから────!」

 

 バキバキバキバキバキ

 

 「────大丈夫の筈なんだ!」

 

 バキィ

 

 ひび割れる音が紅蓮から発するとともにルルーシュたちがいるホールの横壁を破って現われたのは、満身創痍な姿のスバルの『村正一式、伊織タイプ(仮)(陽炎)』、背中と腰、さらには足の裏にまでついているスラスターの全てを使い、黒いランスロットを文字通りに物理的にも押していた。

 

 『ぬあああああああああああああああ!!!』

 

 そのまま壁の向こう側から飛来してきたスバルは叫びながら伊織タイプ(仮)(陽炎)で黒いランスロットごと試作型ヴィンセントをも押し込み始め、次第に三機ともホールの反対側にある壁にあたってようやく伊織タイプ(仮)(陽炎)の突進は止まる。

 

「スバル────!」

『────時間だ。』

 

 ドゴォォォォォォン!

 

 そんな時、平常運転のC.C.からの通信の直後にバベルタワー全体を震わせるような爆発音がそこら中に響き渡り、正確な爆破解体によってタワーはその巨体を保ったまま崩れ始める。

 

 ……

 …

 

 

「「「「うわぁぁぁ?!」」」」

 

 ブラックリベリオン時に居なかった者たちは、経験したことのない『地震』のような『地面の震え』に狼狽えていた。

 

「な、何事だぁぁぁぁ?!」

 

 そしてそれはG1ベースの中に居たカラレスも例外ではなかった。

 

「ば、バベルタワー内から震動が────!」

「────爆発の連鎖音と思われます!」

 

「て、テロリスト共め! まさか自決を?!文化なき猿どもが────!」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 その時、半分に割れたバベルタワーが重い轟音をあげながら地面へと倒れていく。

 

 そしてその先には、カラレスのG1ベースや部隊が展開していた。

 

「────ば、バカな?! ここここんな芸当が?! ↑へあぁぁぁぁぁぁぁ────?!

 

 プチッ。

 

 バベルタワーがG1ベースもろとも部隊を圧倒的質量で圧し潰した瞬間、『プチ』っと聞こえたのはきっと空耳か幻聴の類だろう。

 

 多分。

 

 ……

 …

 

 

「うっわ、すご!」

「キャッハー♪ 倒れるぞ~!♪」

 

 この様子をファクトスフィア越しに見ていたダルクは感心し、マオ(女)は感激に浸った。

 

「流石だな。 まさか建物を『こん棒』代わりに使うなど、想像もできなかったが……」

 

 上記でブリタニア側が想定していた『テロリストの蹂躙』とはあくまで相手が黒の騎士団、そして兵装も既存の物と想定されているのでここに第三の勢力(アマルガム)と装備の強化が加われば話は違ってくるのだが……

 

シュバール(スバル)はあまり組織の存在を必要以上に広めたくない』という傾向から黒の騎士団と共にブリタニアに対して真っ向勝負を仕掛けるつもりはなかった。

 

 第一そんな戦い方は()()()であることを、黒の騎士団とアマルガムの指揮官たちは既に予想し、策を実行していた。

 

「ええ、ですがそれだけではないわサエコ。 これで攻撃に転じたブリタニア軍の包囲は一気に崩れ、指揮系統は乱れるはずです。 その隙に────」

 

 ……

 …

 

「(────このバベルタワーをカラレス総督が率いるブリタニアの本体に叩きつけるだけでなく、同時に我々の『脱出トンネル』として活用する。)」

 

 ルルーシュはそう思いながらも崩れていくバベルタワー側にいたヴィンセント、黒いランスロット、そして伊織タイプ(仮)(陽炎)を思い浮かべる。

 

「(あの機体、wZERO部隊のアレクサンダとやらに似ていた。 もしや……いや。 今は俺の出来ることからしよう、あまり時間がない。) レイラ・マルカル、これから────」

『────バベルタワー内の客や従業員を輸送する準備はできています。』

 

「そうか、ならば黒の騎士団が先行し安全を確保しながら一気に中華連邦の領事館へ駆け抜ける。 カレン、後詰めを頼めるか?」

 

『え? う、うん。』

 

 

 ……

 …

 

 

 バベルタワーで出来るだけ避難させた者たちをアマルガムのナイトメアたちは先行しながら障害物を道上から取り除く黒の騎士団の後を追うかのように移動していた。

 

『いいのか、レイラ?』

 

「何がです、サエコ?」

 

『スバルの事だ。 彼が()()と称する様な敵と遭遇したが、本当に援護をしに行かなくていいと思うのか?』

 

「……彼は“近くに来るな”と言いました。 なら、現状で私たちが駆けつけてもあまり意味はないでしょう。」

 

『そしてそれが“逆にゼロたちの援護をしろ”と、彼が言いたかったことに気が付いたのか?』

 

「知っていたのですか?」

 

『伊達に小さい頃からの知り合いではないさ。』

 

 ……

 …

 

 

 ボガン!

 

 崩落したバベルタワーの一部の瓦礫が伊織タイプ(仮)(陽炎)のくり出した蹴りによって崩れ、両腕を失くした機体がようやく移動を(不穏なガラガラとした音を出しながら)開始する。

 

死ぬかと思った。 (()()ってやっぱり……()()()だよな?)」

 

 スバルは黒いランスロットと直面し、即座にリニアライフルの引き金を引いたが敵はそれを避けながら接近し、メッサーモードになった腕のスラッシュハーケンでスバル機のライフルを斬った。

 

 これに対してスバルは距離を取ろうと後ろへと推進力で機体を動かすが、黒いランスロットは腰のスラッシュハーケンを使って更に追撃を行ってブリタニアのMVSでもアマルガムのマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム(バスターソード)でもない、ヴァイスボルフ城の防衛線時に使ったような実剣でそれを反射的に受け流してしまう。

 

 無論、ただの実剣なので受け流した後はボロボロになって再び使うのは危険だったのでスバルは黒いランスロットに背中を見せない『逃げ』に徹した。

 

 建物内だったこととスバルの騎乗していた伊織タイプ(仮)(陽炎)が通常のナイトメアより小柄だった、そして元々見栄っ張りなロイドが広い戦場を想定してデザインされたランスロットだったことが幸いし、いつか原作のシンジュク事変で見せたような機体を駆使する様な三次元的な機動を行った。

 スラスターを用いた()()()()()()()()

 壁を地面代わりにする()()()()()()()()()

 等々。

 

 だが敵パイロットの腕は尋常ではない上に、スザクと違って戸惑いが無くかつ巧みな誘導で徐々にスバルの逃げ道を絞っていった。

 

 最後にはバベルタワーの工事中だった袋小路みたいな通路に逃げ込んでしまったことに気付いたスバルはヤケになった全力の体当たり発想の転換により敵の虚を衝くことに成功し、工事中だったため薄く作られた壁を破ってルルーシュたちがヴィンセントと対峙していたホールに乱入したところで『バベルタワーの意図的な爆破解体』に巻き込まれ、ヴィンセントは崩れていく建物からすぐに離脱を図った。

 

 逆に黒いランスロットは『それでも』と言いたいかのように落ちる瓦礫などを足場にしては己の推進力で空中の軌道の調整を行える伊織タイプ(仮)(陽炎)にギリギリまで挑んできていた結果、伊織タイプ(仮)(陽炎)は両腕を犠牲に(パーツ解除)して無理やり距離を取り、黒いランスロットから逃げおおせた。

 

 ちなみにここでスバルが『アイツ』と言いながら思い浮かべたのは、ブラックリベリオン時に自分をしつこく追った銀髪の『ライ』と思われる者だった。

 

「(黒い機体に、スザク並みの操縦技術とあの執着具合…………やっぱり早く前線から自分を遠ざけないと! ……あと湿布を貼ってもらおう、もう既に体中ズキズキする。)」

 

 久方振りに『湿布貼りのバチン』まであと少し。

 

「(それとキングの野郎を機情とかブリタニアの奴らとは違う場所に隔離&監禁だ。)」

 

キング の ちぇっくめいと まで あとすこし。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『我がエリア24総督、マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下率いる()グリンダ騎士団はグラナダに蔓延るツーフォー(旧スペイン人)のテロリストを一掃したとの宣言発表を府令しました!』

 

 事務室内にいたシュナイゼルは平常運転ながらそんなニュースが報道されるテレビを無音にしてから机上にある、ちょうどエリア24に関しての報告書などが書かれていた書類に目を通す。

 

 旧イベリア半島、エリア24は確かに他のエリアに比べて土地が広大な上に地形も入り組んで複雑なので軍拡と再編成によってグリンダ騎士団は発足当初より数倍の規模に膨れ上がり、報告書には如何にマリーベルが『大』を付けるほど大きくなったグリンダ騎士団の名に恥じぬ強硬な、保有する巨大な戦力による数々の手段でエリア24の平定と支配がされているかが書かれていた。

 

 そしてその戦力は一人の皇族としても、エリアの総督としても個人が保有するには『過激』と呼んでもおかしくない戦力だった。

 

「(極めつけは、テロリストたちの一掃と、エリアの発展具合が微妙に()()()()()()()。)」

 

 シュナイゼルはエリア24の総督になってから『マリーベルに何らかの隠している意図』のことを既に察していたが、別段気にしてはいない様子だった。

 

「(マリー、君は優秀だが優秀過ぎて予想の範囲内の行動をしてしまいがちだ……私と唯一対等に打てる打ち手はいないのだろうか?)」

 

 ガチャ!

 

「で、殿下突然の訪問をお許し────!」

「────いいよカノン。 パックを付けたまま君が慌てるなんて余程の事柄でなければ見ない光景だからね。」

 

「…………………………………………………………」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべるシュナイゼルを前に、カノンはおずおずと目の周りに付けたままだったフェイスパックを完全にはがしてから再びシュナイゼルに向き合う。

 

「で、どうしたんだいカノン?」

 

「エリア11を中心に、全ブリタニアのチャンネルにゼロが────!」

 

 ……

 …

 

 同時刻、エリア11のコウベ租界のラーメン屋にて一人の三角巾とエプロンをしたアホ毛+ツインテ少女が他のつなぎを着た名誉ブリタニア人たちと共に店のテレビの画面に釘付けになっていた。

 

 『私は、ゼロ! 日本人たちよ、私は帰ってきた!』

 

「ゼロ────!」

「ゼロだ────!」

「やっぱりゼロは生きていた────ムグ?!」

 

 脱ぎ取られた様子の三角巾とエプロンは一人の作業員にあたるがそれを気にすることなく、少女はそのまま店の外へ飛び出る

 

「(カレンさん、待っていてください!)」

 

 アホ毛をピョンピョンと跳ねらせる少女────朱城ベニオはワクワクする衝動のままトウキョウ租界へ向かう。

 

 そしてテレビに出たゼロの演説により、名誉ブリタニア人やイレヴンたちはベニオのようにトウキョウ租界に殺到することとなる。




朱城ベニオ、再登場。 (;´▽`)ゞ


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第185話 ゼロの復活に触発されるきっかけ

お待たせいたしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m


 『私は、ゼロ! 日本人たちよ、私は帰ってきた!』

 

 エリア11を中心に、ブリタニアのテレビチャンネルは全てゼロを映していた。

 

『聞け! そして刮目せよ、力を持つすべての者たちよ! 私は……()()()

 戦争。

 差別。

 強者である理由を盾に振りかざされる悪意と欲望。

 間違った流れのまま繰り返される悲劇と喜劇。

 あの時から時間が経つも、世界は何一つ変わっていない────否! 変わることを拒んでいる!

 故に、私は復活せざるを得なかった!

 まずは愚かなカラレス総督に、つい先ほど天誅を下した!

 強者が間違った力の行使をし、弱者を理不尽に虐げ続ける限り私は抗い続ける!

 私はここに再び、合衆国ニッポンを宣言する!』

 

 ゼロの演説は世界中の誰もが注目を向けられる対象となっていた。

 

 指揮系統が完全に乱れる直前に、『指揮を執る』と宣言したエリア11のギルフォード。

 中華連邦にいるディートハルト。

 過酷な労働状況(デスマーチ)の所為で阿鼻叫喚となっていた人工島の一部のラクシャータと彼女に無理やり付き合わされていたアンナたちや、アマルガムのミルベルたち。

 

 ……

 …

 

「(エリア11のカラレス……)」

 

 そしてそれはエリア24でも例外ではなかった。

 

 マリーベルは特徴的な髭とモミアゲだけでなく、シュバルツァー将軍と会って間もなく意気投合したカラレスを思い浮かべると同時に、以前誘拐未遂とアッシュフォード学園の占拠未遂事件後に急変したカラレスを思い浮かべて気が重くなった。

 

「(以前の私ならば、彼の様な政治を良しとしていたでしょう。 実際、私の言った言葉を真に受けた彼は私が辿ろうとしていた道だったかもしれません……それにしてもこのタイミングと状況、これが『嵐』なのは間違いないわ。 これで、シュナイゼルお兄様が私から目を少しでも逸らせばいいのですが……)」

 

 

 ……

 …

 

 

 確かに、マリーベルが思っていたように新大陸のシュナイゼルはカノンに言われてテレビ放送を見て彼女に関しての懸念は(一時的に)綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

 

「……ああ、それとカノン? 昨日頼んでいた手配もうすんでいるかい?」

 

「あ、はい……殿下。」

 

「そうか。 (なら、()()()の方は問題ないかな?)」

 

 ……

 …

 

「ゼロ?!」

 

「な……んで……」

 

 ゼロの演説をテレビで見たシュネーはびっくりしながら席から立ち上がってしまい、スザクは驚愕に座ったまま固まっていた。

 

「(どうして……彼はもう『ゼロ』として記憶を────)」

「────枢木卿────」

「────これはもう、休暇どころじゃないね……」

 

 ズズゥゥゥゥン……

 

「この音は────」

「────爆発?!」

 

 ヘクセン家にまで響く音に、スザクとレドは離れのバルコニーから煙の上がるボイシの方角を見る。

 

「あれは……まさかテロ?!」

 

「(これがテロだとすれば────)」

「────あ、枢木卿!」

 

 スザクは踵を返して走り出しながら椅子に掛けてあったラウンズの正装の上着を羽織って、領主のいる屋敷へと走って中に入るとヒンメルは顔色を変えながら寝間着姿のまま電話に出ていた。

 

「テロだと?! 警察はどうした! ……敵の中にサザーランド、だと?! どういうことだ?!」

 

「ヘクセン卿────」

「────ウッ。 く、枢木卿────」

「────ボイシで、何が起きているのですか?」

 

 ブラックリベリオン────と言うより黒の騎士団────によって『テロ』と言う行為は一種のブームのように世界中へと広がり、それを機に一度は廃嫡されたはずのマリーベルをシュナイゼルは『対テロ組織』としてグリンダ騎士団を立ち上げたきっかけとなった。

 

 そしてそれと同じように『きっかけ』さえあればテロもまた起こる様になってしまい、そのテロは己の『正義』と定義したモノを信念として行動していた。

 

 その『正義』が果たして、黒の騎士団の様な『道徳』に基づいた行動かどうかは全く別だが。

 

「………………先ほどの、ゼロの演説に触発されたのか一部の者が暴走して議会場を襲った。」

 

「父さま! 軍への要請は?!」

 

 スザクの後を追ったシュネーはスザクの複雑そうな顔を見て、先ほどの爆発の原因を察した。

 

「……ここは私の領地だ。」

 

「そ、そんなプライド(意地)の為に被害の拡大化を見過ごすというのですか────?!」

「────シュネー! お前はまだ子供だ! もっと大局を見ないか?! 私の力で何とかせねば、沽券にかかわるのだ!」

 

 二人のやり取りを見たスザクは、幼い頃の自分と父親だったゲンブのやり取りを連想しながらも拳に力を入れるシュネーを見て、彼が手を出す前にスザクはシュネーの肩に手を置く。

 

「シュネー────」

「────枢木卿────」

「────ヘクセン卿。 我々は議会場へ向かい、場合によっては()()()テロリストを制圧します。」

 

「な?! 戦闘をボイシでする気ですか?! ナイトメア戦を、都会の中でするなどどれだけの損害が────!」

 

 ────ヴー。 ヴー。

 

「(レド?)」

 

 スザクの携帯が鳴り、彼が表示されている着信相手を見ると『レド』となっていたことに困惑しながらも電話に出る。

 

「レドか? 今アイダホで────?」

『────ええ、シュネーの実家ですね。 上を見てもらえますか?』

 

「上?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 スザクが上を見上げるとほぼ同時に、振動音がヘクセン家の屋敷の背後から見慣れた浮遊航空艦が姿を現す。

 

「あ、アヴァロン?!」

 

 シュネーは目を見開いた。

 

「(……なんでここに?) なんでここに?」

 

 スザクは思ったことをそのまま口にした。

 

『いや~、来ちゃった♪』

 

 そして大雑把に伸ばした髪をポニーテールに束ねたロイドは栄養ドリンクを片手に気の抜けるような口調で通信越しに声をかける。

 

「ロ、ロイドさん?! ロンゴミニアドファクトリーに居たんじゃ────?!」

『────ざ~んねんでした~♪ 軍にはテロ発生の可能性がある都市が常にマークされていてね~? 丁度スザクが近くに居たから急いで仕上げて届けに来たんだ~♪』

 

「“仕上げる”……って、コンクエスターをですか?!」

 

 形式番号Z-01/D、『ランスロット・コンクエスター』とはキュウシュウ戦役時からスザクが今まで使っていたランスロット・エアキャヴァルリーの見た目を変えずに基本スペックが強化されている機体。

 

『ユグドラシルドライブ』による出力増加で今までネックになっていたエナジー消費への対策、胸部と両脚部に追加されたブレイズルミナス、ガウェインの強奪によって開発が遅れていたハドロンブラスターの追加装備、生き生きとナイトオブナインのノネットが自ら検証していたルミナスコーンの大型版で機体全体を覆う『コアルミナスコーン』、そして今までつける気が必要が無かった脱出機能も追加されている。

 

 ただし砲撃力や突貫の能力が上昇した半面、遠距離武器の反動を緩和するためにフロートユニットが調整されたことで機動力は低下している。

 

 それも『スザク君ぐらいのデヴァイサーなら問題無いっしょ!♪』とロイドが呆れるセシルに自信満々に言ってゴリ押ししたのだが。

 

『あとで戻ったら、置いてきたセシルさんをちゃんとなだめてくださいよロイド主任?』

 

『あー! あー! あああああー! ぼ~く~な~に~も~聞~こ~え~な~い~よ~!!!

 

 通信越しとはいえ、久しぶりに『特派』特有のアットホームな雰囲気にピリピリしていたスザクは内心和みそうなところで、ヒンメルの方向から焦る女性の声がする。

 

「貴方!」

 

 アヴァロンが上空に現れたことで呆気に取られていたシュネーの父ヒンメルは妻のエーゲラがそのまま横から血相を変えながら横から割り込んできたことで固まっていた彼はようやく我に返った。

 

「……ハッ?! え、エーゲラ────?!」

「────スノウが! ()()()()()()()()()()の!」

 

「「……は?」」

 

 エーゲラが口にした言葉に、シュネーとヒンメルは目を点にしながらハテナマークを頭上に浮かべた。

 

「(スノウ……確か、シュネーの妹────まさか?!)」

 

 だがスザクは()()()()()()()()()()()()を思い浮かべては、戦火からの煙が上がるボイシの方角を見る。

 

「ロイドさん!」

 

『はいはーい?』

 

「ランスロットを出してください! 早速使います!」

 

『まぁまぁ、改良出来たてホヤホヤ────♪』

「────出さないとセシルさんに彼女のサンドイッチを捨てたことを言いつけますよ?」

 

 ぴぎゃあああああああああああああああああああ?!』

 

 ………

 ……

 …

 

 時間を少しだけ巻き戻すが、シュネーの妹であるスノウはギクシャクな空気と化したヘクセン家に居づらくなっていた。

 

 スザクと初対面で彼女が言った『イレヴンなんかになんで畏まっているの?』それをきっかけに、シュネーは家族から離れて生活するようになった。

 

 スノウからすれば完全に意味不明な行動だが、それよりも彼女にとってさらに意味不明だったのはスザクだった。

 

 実はあの一件後ヘクセン領の一部にある畑を借りられるかシュネーに聞き、使用人経由でその質問はヒンメルに届いた。

『ヘクセン領は自然が売り』と言えば聞こえは良いが、悪く言えば『広い土地を持て余している』という事で領主のヒンメルは首を縦に振った。

 

 最初はジョギングか素振り、あるいは別の目的でその土地を借りた想像をしていたがまさかスザクが剣ではなく文字通りに『クワ』を手にして畑を耕すとは誰も思っていなかっただろう。

 

 トラクターなどの農業機械が顔負けするほどの猛スピードで土地がどこからどう見ても見慣れない者からすれば浅い沼としか思えない田んぼがみるみると整えられ、あとは収穫の時期まで待つだけだった。

 

 ちなみにシュネーはすぐさま慣れない畑仕事(の見様見真似)で普段使いなれていない筋肉を酷使した所為でバテてしまい、『ナイトメアがあれば!』などと悔しそうな事を口にして彼の横でスザクはただ昔を懐かしむような表情を浮かべながら延々と農作業を続けた。

 

 とまぁ、余談で脱線しかけたがスザクはただ単純に体を動かしたかっただけであるのだが余りにも行動が奇怪で周りからからすれば意味不明なことが近くで起きているだけでストレスである。

 

 特に『自分の所為で今のギクシャクな状況になった』と理解した13歳のスノウには。

 

 そしてアイダホの首都ボイシとはいえ、広大な田舎にある都市の中で貴族────特に令嬢────が楽しめる娯楽(ストレス発散)などは非常に少ない。

 

 せいぜいが、『家から忍び出て夜の街を歩く』様な冒険────否、『危険な火遊び』が手頃だろう。

 

『危険』と言っても田舎の都市であるため知れているが、今夜に限っては最悪の夜である。

 

 グシャ! ガシャン!

 

 軍の払い下げグラスゴーから治安の為に改造されたナイトポリスと、ブラックリベリオン時にテロリストたちがマドリードの星に見習って買収した軍用サザーランド。

 

『相手が軍用のサザーランドなんて聞いていないぞ?!』

『警察用のナイトポリスじゃ無理だ!』

『ブリタニア軍はまだか?!』

 

「わぁぁ?!」

「きゃあああ?!」

 

『市民たちが邪魔です!』

『馬鹿野郎! 迂回してでもかく乱に専念しろ────!』

『────隊長! 敵のサザーランドが────!』

『────バカ、市民たちが居るところに戻ってくるな!』

 

 数だけ見ても互角だというのに、圧倒的な性能差と慣れていない(と言うか初の)対KMF戦闘でボイシの保安局に打つ手がない事をスノウは市民に紛れながら逃げている間に悟っていたので通信を聞く必要はなかった。

 

「(なんで?! どうしてこんなことに────)────きゃ?!」

 

 突然の人波の動きにスノウは足をもつらせて転んだ拍子に、素顔を隠すためにかぶっていたフードが頭から外れてしまう。

 

「あ、あぁぁ……」

 

 初めて『味方ではないナイトメア』の威圧感に大破したナイトポリス、そして巻き添えを食らった市民たちの変わり果てた無残な姿は尻餅をついたスノウに初めて今まで感じたことの無い恐怖を与えて腰を抜かせるには十分だった。

 

 ガガン!

 

 そんな時、上空から降りてきた白いナイトメア────ランスロット・コンクエスターの操る二刀の剣によってサザーランド達は戦闘不能状態へと陥る。

 

 ランスロットの登場で戸惑っていたサザーランド達は仲間が斬られたことでハッとしたのか、すぐさまケイオス爆雷を投げつける。

 

『動かないで────!』

 ────バラララララララララララララ────!!!

「────きゃあああああああ?!」

 

 文字通り、雨霰のように降り注ぐ弾丸をランスロットは回避できただろう。

 

 だがスノウや、他の逃げ遅れた市民たちを守るためにブレイズルミナスをランスロットは展開した。

 

 その行動はいつかの日、純血派による『内部の粛清』に飛び出したユーフェミアを守った時の事をスザクに連想させていた。

 

 ただしあの時と違うのは敵がランスロットを攻撃することに躊躇しない事と、ケイオス爆雷の攻撃が止むまで足止めすることが元々の狙いだったことだろう。

 

「(だが、あの時と違う!)」

 

 ガァン!

 

 ランスロットの背後に回ろうとしたサザーランドを、シュネーのサザーランド・スナイパー(先行型)を二次爆発が起きないような部分を狙って撃ち抜く。

 

「(今の僕は、一人じゃない!) シュネー、レド! 町の被害を広げずに戦え!」

 

『『イエス、マイロード!』』

 

 レドはアサルトライフルに付けられた銃剣を展開し、シュネーの援護下で敵のサザーランドを鎮圧していく。

 

 数でテロリストたちは勝っていたが付け焼刃の操縦はラウンズとその親衛隊の敵ではなく、瞬く間に制圧されていくのだった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「で? どうでした、父さま?」

 

 太陽が輝く日光の中で、ボイシの被害状況を直に目で見てきたヒンメルは気まずそうに視線を逸らしていたがシュネーの言葉に苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

 

「う、うむ……く、枢木卿には感謝と詫びを尽くすほかないな。 今しがた現場を見てきたが……“ナイトメア戦があった”と言われても想像できないほど奇跡的に被害が少なかった。 それに────」

 

 ヒンメルがそこで視線を移したのは事件の終息後、警察によって身柄を保護されたスノウだった。

 

「────スノウや、他の市民たちの事もあるしな。」

 

「だから言ったでしょう、父さま? 枢木卿は……いいえ、()()()()()は自分を犠牲にしてでも他人の命を守る方なのだと。」

 

「う、う~む……」

 

 ヒンメルとシュネーがいた場所から少し距離の空いた場所ではスザクがボーっと、どこか上の空だった様子のスノウに話しかけていた。

 

「それにしても、(スノウ)があの場に居たと知ったときはびっくりしたよ。」

 

「……………………」

 

「転んだ時の擦り傷、応急処置はしたけれどちゃんと医者に診てもらった方が良い。」

 

「……………………」

 

「……えっと??? スノウ君?」

 

「ッ?! は、はい?!」

 

「大丈夫かい?」

 

「だ、だ、だ、大丈夫です! えっと、あの! こ、こ、この間の非礼何とお詫びをしたら────!」

「────いや、君が無事ならいいよ。 それよりも、お兄さんと仲良くね。 それと────」

 「────ぴゃ?!」

 

 ここでスザクはスノウの耳打ちをするかのように近づくと、ギクシャクしていたスノウは固まってしまう。

 

 「ヘクセン卿とのやり取りを見たところ、まっすぐで子供っぽいシュネーならまだへそを曲げていそうだからね。」

 

 「まぁ! 兄の事をよく見ているのですね?!」

 

まぁね。 彼とは『上司と部下の上下関係』とは別に『友人同士』としていたいからね。 (それに久しぶりにゆっくり出来た気分になったのは、間違いなく彼のおかげだし。)」

 

「スザクく~ん! 帰りたくないけれどそろそろ出発しないと~。」

 

「(あれ? ロイドさん、髪を伸ばしたんだ……イメチェンでもしたのかな? それともミレイ会長の趣味?)」

 

 実際は仕事や研究にのめり込んで髪を切る暇もなく、視界の妨げにならないようにポニーテールにしただけなのだが。

 

「く、く、枢木卿! いつかここ(ヘクセン領)に戻ってこられますか?!」

 

「(うん???)」

 

 アヴァロンへと戻るところで見送りに来たスノウに呼びかけられたスザクは内心でハテナ状態となるが、スノウの背後にスザクが自分で耕した土地を見て合点がいく。

 

「(ああ、なるほど。) そうだね、時間が出来たら戻ってこようと思っているよ。」

 

「そ、そうなのですね!」

 

「(うん、やっぱりシュネーに似ている。 流石は兄妹と言ったところかな?)」

 

 スザクの言葉にパァッと笑顔が広がるスノウを見て彼はそう思いながら口を開ける。

 

「うん、時々(土地の)様子を見に来るよ。」

 

「そ、そうですか!」

 

「???」

 

「じゃなくて! 待っています!」

 

「あ、うん? (なんだかコロコロと表情が変わる子だなぁ。)」

 

 スザクとシュネーと共にアヴァロンへと乗り込み、浮遊航空艦がヘクセン領を離れて姿が見えなくなってもスノウは船が飛び去った方角をジッと見ていた。

 

「スノウ、どうした?」

 

「お父様! 私、頑張ります!」

 

「う、うん???」

 

 後にアイダホの名産品であるジャガイモ、小麦、大麦、トウモロコシなどに『ヘクセン家のご令嬢が自ら開発した米類』が加わって大ヒットするのだが……

 

 それはまた別の話である。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 アイダホから新大陸のニューロンドンに着いた途端、スザクは通信室にナイトオブワンのビスマルクに呼び出されて『シャルルからの勅命』という事でエリア11に行くように言い渡された。

 

「エリア11、ですか? しかも単独で?」

 

「ああ、悪いなシュネーにレド。 せっかくこうやって三人一緒になったのに。」

 

「……不服ですか、枢木卿?」

 

「まさか。 皇帝陛下の勅命とあらばどこにでも行くよ、僕は。」

 

 スザクは愛想笑いを浮かべながらそう言い、エリア11へと旅立つための飛行機にのるのを見送ったシュネーは浮かない顔をしていた。

 

「……何かあったのか、シュネー?」

 

「ん? いや、スザクさんが何だか困ったように見えたから。」

 

「『スザクさん』って、お前は本当に分かりやすいな────」

「────茶化すなよ、レド。」

 

「まぁ、故郷に戻るんだ。 感傷的になっているだけだろう。」

 

「故郷に帰るのにか?」

 

「じゃあ例えばだが、もしアイダホがEUか中華連邦に占領されたとしてお前はどう思う?」

 

「…………分からないな────」

「────気持ち悪い。 いつものシュネーなら癇癪を起す手前で“縁起でもないことを言うな!”ってプンプンしているのに────」

「────んな?! 私にだって仮定の話をしているぐらい理解しているぞ────?!」

「────そういうところだぞシュネー────」

「────う゛。

 

 レドの指摘にバツが悪そうな顔をシュネーが浮かべるのを、レドは表情を変えずに内心では驚く。

 

「(アイダホで何かあったのは間違いない。 だが何がここまでシュネーを────?)」

「────あ! 分かったぞ! レド、お前スケジュールが合わないからって()()外れにされた意趣返しだろ?! 今度レドも私の故郷に来ないか? スザクさんも招いて────」

 「────オレは遠慮するよ。」

 

「ッ……そう、か。 まぁ無理にとは言わないさ。 それで今回はロイド伯爵がお呼びって聞いたが?」

 

「既存するナイトメアにフロートユニットを搭載するテストパイロットを頼まれている。」

 

「了解……ん? その話、前にグリンダ騎士団のシュタイナー卿辺りが担当していなかったか?」

 

「グリンダ騎士団はエリア24の平定に力を入れている────」

 

 ピシャリと自ら会話を終わらせつつ話題を変えたレドに戸惑うも、シュネーは何となく彼の気まずい癖を察して話題の流れを元に戻さずに話に乗った。

 

「(『仲間』、か……)」

 

 レドはそんな思いを表に出さず、ただ何時もの表情のない顔のままシュネーと話を続けた。

 

「(どうせ人間、誰もが『一人』なんだ。)」




スザクゥゥゥゥ…… (;′Д`)ノ (二回目


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第186話 過大評価とウッカリ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!

ちょっと展開がバタバタしています、ハイ…… (汗


『ロロ、大丈夫か?!』

 

「兄さん?!」

 

 エリア11を中心に、ゼロの演説を見たロロは直ぐに中華連邦領事館へと押しかけ、ゼロの暗殺を行おうとしたところでルルーシュから電話が入っていた。

 

 これだけを見れば原作通りなのだが、少々の違いはやはり出ている。

 

 バベルタワーの崩壊時に彼のヴィンセントは黒いランスロットと一緒に瓦礫に埋もれそうになったがやっとの所で脱出したが思わぬ破損をし、やむなく機密情報局の身分を使って借りていたヴィンセントをブリタニア正規軍に事後処理を任せて、租界内にある建物の影を黒いランスロットの手に乗って領事館の場所まで移動していた。

 

『よかった、無事だったんだな?! 連絡が取れないから心配したんだぞ────』

「(────どういうことなんだ? 今、テレビ中継で演説しているゼロとルルーシュは別人なのか?) 兄さん、今どこに────?」

『────あ────』

『────ロロ、私だ。 ルルーシュは学校に戻って、補習を()()()()受けているぞ。』

 

「ヴィレッタ?! ……先生。」

 

『そうだ、おまえも早く学園に戻って来い。』

 

「(ヴィレッタが嘘をついている……いや、そんなメリットは彼女にない。 そもそもルルーシュのギアスは彼女には効かない。 という事は今回のゼロとルルーシュは別人?) はい、分かりました。」

 

 ロロは電話を切ると警戒態勢に入っていた中華連邦の兵士と、彼らの前に立っていた星刻と向き合う。

 

「どうした、ブリタニアの学生?」

 

「もう大丈夫です。 ()()()これで終わりです。」

 

「そうか。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『ゼロの復活』と同日の夜、トウキョウ租界近くにエリア11内の他の地区に居た多くのナンバーズや名誉ブリタニア人が押し寄せてくる。

 

 これにより半身を文字通りに押し潰され重症ながらも意識不明のカラレスに代わって総督代行となったギルフォードは戒厳令を敷き、ほぼ壊滅状態寸前になったトウキョウ租界の駐留軍の大部分はダールトンが行方不明後にギルフォードの指揮下に置かれていたグラストンナイツが取り仕切ることとなり、トウキョウ租界内に入ることが出来なかったナンバーズたちはやむなくゲットーに腰を下ろすこととなり、租界周りはシンジュク事変以前の人口密度まで膨れ上がった。

 

 一見すると、ギルフォードの行動は少し前にクロヴィスが重症になってすぐにバトレーの身柄を確保し、総督代行と自称したジェレミアなどの純血派が取った行動に見えるが、『コーネリア皇女殿下の騎士にかけてあくまで一時的な処置』とギルフォードが宣言したことにより指揮系統や治安の乱れは最小限に収まっていた。

 

 言い返すと、『ブリタニア軍内で如何にギルフォードがコーネリアの事を慕っているか伝わっているかの表れ』とも。

 

 そんなギルフォードは中華連邦領事館の領地ギリギリにまでブリタニア軍を引いて包囲網を敷き、トウキョウ租界に押し寄せてきた名誉ブリタニア人も中華連邦の領事館にたどり着くことは出来ない……筈()()()

 

「どうです、ユキヤ?」

 

『ん? んー、ここのセキュリティって中華連邦語だったけれど対策の構造自体はグランベリーとかと大差なかったよ?』

 

「では監視カメラの画像をループさせてください。」

 

『もうやったよ?』

 

「そうですか。 ではこのまま、次の作戦の準備にアキト達と共に行ってください。」

 

『へいへーい。』

 

「タワーから避難させた人たちはどうなりましたか??」

 

「無事に中華連邦の人たちに引き渡して、ちゃんと身柄の安全を確保させてから租界に送り出した。」

 

「流石サエコね。」

 

「君ほどじゃないさ、レイラ。」

 

 黒の騎士団とアマルガムの者たちは領事館に立て籠もり、バベルタワーから避難させたブリタニア人や名誉ブリタニア人を『黒の騎士団』と称し、人道的な行動を装って(中華連邦経由で)外交的に租界内へと帰していた。

 

 と言っても、ナンバーズの大部分と名誉ブリタニア人は黒の騎士団への入団を希望したので急遽、中華連邦領事館内に簡易宿舎を立てることになったが。

 

 そしてすでに察しているかもしれないが、一部は中華連邦の者しか知らない筈の緊急用脱出ルートを確保しつつ租界と人の流通と物資の搬入などが可能となっていた。

 

「(……………………胃が────)」

「────お~わり────!」

 ────バチン

 

 「グッ?!」

 

 ちなみにこの場を中華連邦の領事館内の個室から唖然とし、原作ではゼロの演説を見ていたカレンは擦り傷や打撲の手当てを受けてから何時もの『湿布貼りバチン』をスバルにお見舞いしていた。

 

 余談だがポーカーフェイスを必死に維持ながらくぐもった声を漏らしたスバルは、ムカムカする胃から意識が移って気が楽になっていたそうな。

 

「(どうしてこんなことに……どうしよう?)」

 

 スバルもまさか『バベルタワーでのバイトを辞める日にまさかの“カラレスひあああぁぁぁ”案件に居合わせて何故かアマルガムにガッツリとナイトメアの作動キーを手渡され巻き込まれて逃げようとしたら黒いランスロットと遭遇して命を賭けた鬼ごっこをしたと思えばいつの間にか中華連邦の領事館に居る』という一連後、どうすれば良いのか分からなかった。

 

「……ねぇ?」

 

「「「うん?」」」

 

「毒島さんは前からそれとな~く知っていたけれど────」

 「────ま、また『さん付け』────」

「────アンタ、船の艦長じゃなかったっけ?」

 

「(あれ? カレンとレイラってお互いを知らなかったっけ?)」

 

 実はカレンとレイラは互いと何回か顔を合わせたことはあるのだが、エデンバイタル教団のゴタゴタやエリア11の潜入などでちゃんとした自己紹介はお互いにしていない。

 

「あ。 そう言えば名乗っていなかったですね? 私はレイラ・マルカル、元EU軍所属のwZERO部隊の指揮官で、今はシュバールさんのアマルガムの『リア・ファル』の艦長兼参謀として身を置いている者です。 宜しくお願い致しますね、黒の騎士団のエースのカレンさん?」

 

「(う~ん、レイラのニッコリ顔! 大変ええのぉ~♪)」

 

「あ、うん。 よろしく? というか“シュバール”って……いや待てよ、今『アマルガム』って……んんんんん??????

 

 余談でレイラの方はすでにカレンの事を周りから聞いていたり、事前に調査をしている。

 

 カレンはブツブツとした独り言を口にし、ハッとしたような表情を浮かべる。

 

「あ。」

 

「(うん? 何かカレンがこっちを見たような気がする────)」

「────ああ、それとピースマークからの伝言を預かっているぞスバル?」

 

「うん???」

 

「(あら、シュバールさんでも『ポカン』とするのですね。)」

「(うわ。 久しぶりに見たよ、昴の『ポカン顔』。 お兄ちゃん(ナオト)に氷を背中に入れられた時以来かな?)」

 

 毒島に声をかけられたスバルはハテナマークを頭上に浮かべ、レイラとカレンは少しだけ得をしたような気分になった。

 

ネリス(コーネリア)からだ。 “グラストンナイツに被害が出たら地の果てまでアンドリュー(ダールトン)が追いかけるぞ”、だとさ。」

 

「(ちょっと何それ?! もしやネリコーちゃん様、ギルフォードの出る行動とゼロの対策を既に予測していらっしゃる? “さすコーネリス(流石コーネリア)”と言うべきか?ここは“保証できない”か────いやそれ以前に“俺は関われない”とか────違う! もっと具体的な────)────そうか」

 

 手詰まりになりそうな思考でスバルが口にしたのは肯定にも否定にも聞こえるような、曖昧な言葉だった。

 

「(俺の口下手、ちくせうぅぅぅぅ…… ハァ~……もういい、今日はなんかドッと疲れた。 まぁバニーカレンとアヤノを見れた……いや、釣り合わないよ流石にトホホのトホホギス。)」

 

「ジー。」

 

「(そしてカレンがさっきからコーヒー飲みながらじっと見ていらっしゃる。 何故に?) どうしたカレン? 俺の顔に、傷以外の何かがついているか?」

 

「あ、ううん。 なんでもないよ?」

 

「(てっきり今度こそ根掘り葉掘り聞かれると思っていた。)」

 

「それより時間、大丈夫? 明日()学園でしょ?」

 

「それにこちらは我々で何とか対処できるはずだ。」

 

「何か予期せぬことがあれば、連絡を入れますね?」

 

「(ありがたいけれど、何これ?) あ、ああ。」

 

 スバルはニコニコするカレン、毒島、そしてレイラの態度に違和感を持ったが予想だにしなかった怒涛の一日でかなり疲労と筋肉痛、そして酷使した所為で治りきっていない左腕の痛みからか休みたい衝動が勝り、そのまま領事館内の租界への脱出ルートを使う為に退室した。

 

 パタン。

 

「……良いのですか、コウヅキさん?」

 

 スバルが部屋を退室すると、レイラが最初に口を開けた。

 

「良いか悪いかで言えば良くないけれど……スゴイ疲れていそうな感じだったから。」

 

「そうなのですか? いつもの表情でしたが────?」

「────まぁ、レイラや他の者には分からんだろうな。 スバルと知り合って、数か月だけと思えば大したものだが。」

 

「それにアイツ(スバル)が居たらなんか話にくくなるような気がしたし、この方が二人にとっても良いんじゃない?」

 

「ほう。」

「あら。」

 

 カレンの言葉に毒島とレイラが感心する様な息を出す。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、その……」

「てっきり『口より手が出るタイプ(脳筋)』の方だと────」

 「────よっしゃ、表に出ろマルカルさんとやら。」

 

「レイラで構いませんよ? それにそれだと話が出来ませんけれど?」

 

「……まずはその話を聞いてから────」

 

 ────ガチャ。

 

「そこは私も加わらせてほしい。」

 

 個室のドアが開かれ、ゼロとC.C.が入ってくる。

 

「あ、ゼロ────」

「────の()()()だ────」

「────え?」

 

 カレンが声をかけるとC.C.が彼女の言葉を遮り、ゼロが仮面を取ると()()()()()の素顔が晒される。

 

「え? あれ? でもゼロはルルーシュで? え────?」

「────ふむ。 黒の騎士団のエースでも見分けがつかないのならば“及第点”と言ったところか?」

 

「???」

 

 ()()()()()が上記の言葉を口にすると、猛烈な違和感がカレンを更に困惑させる。

 

「まぁ……私でも未だに()()ルルーシュがゼロだと信じ難いが、そうであればおじい様(桐原)の買い被りも合点が色々とつく。」

 

「そうですわね……今までの行動からてっきり、軍部かあるいは貴族の出とてっきり私は思っていました。」

 

「(いや、その考えは良い線を行っているぞレイラ。)」

 

「ルルーシュ……じゃないわよね? アンタ誰?」

 

 毒島は納得し、レイラの独り言にC.C.は内心頷き、カレンはルルーシュ────否、『ルルーシュによく似た誰か』にムっとしながら問いかける。

 

「まぁまぁ紅月君、そこまでピリピリすることは無い。」

 

「毒島さん────?」

────頼むから君まで『さん付け』をしないでくれ。 まるで老けたみたいで────」

「────え────?」

「────コホン! 取り敢えず、こいつはルルーシュであって、同時にルルーシュではない。」

 

「……どういうこと? 見た目と声がそっくりなんだけれど────」

「────カレンのその疑問も御尤もだ。 私も最初は思わずダッシュだと────」

「────『だっしゅ』って────?」

「────話を続けてくれ。」

 

「(逃げた。)」

「(逃げたな。)」

「(逃げましたわね。)」

 

 C.C.は思わずカレンとの共感からボソリとした言葉に食い掛ったカレンの問いに無理やり話題を元に戻した。

 

「さて、まずは私の事だが……『エル(L)』と()()名乗っている。」

 

 余談だがこの命名、スバルによるモノでただ単純に『せや、LVBの頭文字を使おう』という安直なネーミングである。

 別に『とある別作品で出てくる過剰な甘党で陰険っぽくて性格をこじらせた天才探偵』のことを思ったわけではない。

 

「???」

 

「君のその顔はわからなくもない……私もまさかゼロの役をやらされるとは思っていなかったからな。」

 

「いつの間に入れ替わったの?!」

 

「恐らく、演説の前でしょう。」

 

「ああ、バベルタワーからお前たちが出た直後。 『注意の逸らし』は手品の基本だぞ? それにしても……(ルルーシュ)の驚く様は傑作だったぞ? フハハハハハ。」

 

「(あー、でもこういうところはシャーリーの語るルルーシュかな?)」

 

 カレンはニヤリとしてから笑い出すエルを見て、すぐにウキウキしながらルルーシュの事を話すシャーリーを思い浮かべた。

 

「レイラに聞きたいことがある。」

 

「??? 何でしょう、C.C.?」

 

「何故、黒の騎士団が動くのが『今日』でなければいけなかったのだ?」

 

「……そうですね。 わかりやすく説明するために、エデンバイタル教団から簡単に説明していきましょう────」

 

 レイラと毒島の二人はお互いを補いながらカレン、C.C.、エルの三人にもわかるように今までのことを彼女たちに話していく。

 無論、スバルの『予想(原作知識)』が書かれたメモ用紙などは省いたが────

 

「────ちょっと待て。」

 

「うん?」

「あら?」

 

 今まで静かに聞いていたC.C.が声を出し、毒島とレイラの話を遮ったことで二人は珍しいモノを見るような目になる。

 

「お前たちの話し方だと、あの若造────いやスバルとやらが成そうとしていることがゼロの様なものに聞こえてくるのだが?」

 

「「……」」

 

 C.C.の言葉に毒島とレイラはキョトンとし、お互いを見る。

 

「やはりこれは────」

「────多分そうだろうな、おじい様からもそれとなくそのようなことを聞いたら的確な返答が来たからな────」

「────おい。 話を勝手に進めるな、ちゃんと説明しろ。」

 

「(癪だが、C.C.と同感だな。)」

 

「???」

 

 上記をエルは思い浮かべながら席に座り、カレンはしょぼんとしながら無数のハテナマークを周りに浮かばせる。

 

「いえ、C.C.の指摘でより確信しただけです。」

 

「ああ。 おそらくだが、スバルは建国をしようとしている。」

 

 「ゑ?」

 

「……コホン。」

 

 変な声を出して固まって目を点にしていたカレンに、その場に居た殆どの者は視線を移すが毒島の咳払いによってハッとする。

 

「さっきの続きだが、実はおじい様と以前二人で会ったことがあってな────?」

「「(────毒島/サエコでもこんな顔をするんだ。)」」

 

 カレンとレイラは『ムッフーどや顔』をする毒島を見てそう思い、毒島は彼女側から見たスバルの話を続けてようやく『ちょっと長すぎかも知れないな』というところで早々に桐原とスバルの『国に関するやり取り』を披露していく。

 

『国に関するやり取り』と言っても、現代の教育や都市作りゲームなどを嗜んでいれば()()な事ばかりだが、そもそもコードギアスの世界では上流階級の者はそのような知識と特権を保持する為にその手のノウハウを独占している。

 

 一家の次世代にその分野にたけている家庭教師などを付けたり、口頭や実務の手伝いなどをして得られるもの。

 

 よってスバルが『常識』と思いながら桐原や毒島と話していることは、この世界の住民の『秘匿されて伝わる知識』より詳しく、彼らからすればギョッとするようなモノである。

 

 「(チンプンカンプンだけれど、『スバルが凄い』ってのは分かる!)」

 

 中華連邦の月餅を口いっぱいになりながら頬張るカレンさん、それでいいんですかい?

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 次の日、筋肉痛になりながらもルルーシュは『普段通り』を装いながらクラブハウスで生還記念日パーティーの下準備をミレイにさせられしていた。

 

「会長。」

 

「ん? なーに?」

 

「なんで俺やロロ、ライブラたちの生還記念パーティーなのに本人たちがパーティーの準備しているのですか?」

 

「アハハハハ……」

 

 ミレイはぎごちない、乾いた笑いを苦笑いと共に出す。

 

「多分、昨年のゴタゴタで学園も大変だからじゃないか?」

 

「ナイス、スヴェン!」

 

「いえいえ、書類の手伝いをさせられていましたから。」

 

「アハハハハ~。」

 

 スヴェンのどことな~く刺々しい言い方にミレイは目をそらす。

 

「それに全然こんなこと苦にならないです!」

 

「んもうライブラちゃん健気すぎー!」

 

 ムニュン。

 

「へぶぅぅぅぅぅ。 苦しいれすぅぅぅぅ……」

 

 キラキラとした、元気いっぱいな笑顔と共にエプロンをしたライブラが楽しそうに声をあげるとホッコリとしたミレイのハグの餌食を堪能する様子をリヴァルは複雑な気持ちで見る。

 

「ライブラと違って、こっちは────」

 

 ────ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!

 

 「うひゃああああああああ?!」

 

 ボウルから何かを削るようなミキサーの音にびっくりしたシャーリーは慌て、その所為で更にボウルがグラグラとしてシャーリーはボウルを手放してしまい、中に入っていたクリームがそこら中に飛び散る。

 

「ルルーシュのタイプって、『生活力ゼロ』なのがお約束なのになぁ……」

 

「ははは、家計簿までありますからね────」

「────ちょっと待て! 何故お前がそれを知っているスヴェン?」

 

「n────」

「────うわ、本当にあるのかよ?!」

 

「(良くやったリヴァル!)」

 

 スヴェンの答えをリヴァルが遮り、彼は心の奥底からリヴァルに感謝をした。

 和む癒し満杯の空気に気が緩んで思わず『ナナリーに聞いたから』と口にしそうだったことに冷や汗を掻きながら、スヴェンは気を引き締めた。

 

「(ヤバかった……そんなことを口にすれば最後、クラブハウスが『流血沙汰案件』ならぬスプラッターハウスに変わりそうだ。)」

 

「………………」

 

 そしてそんな彼の様子を、ライブラはチラッと一瞬だけ横目で見た。

 

「会長……ロロは?」

 

「ロロ? 声をかけたんだけれど、ちょっと遠慮しちゃったわ。 ほら、兄と違って人見知りだから。」

 

「あんなんだから友達が出来ないんだよな~、ライブラちゃん以外。」

 

「アハハハハ……ロロちゃん、大人しいですから。」

 

 今度はライブラが先ほどのミレイのように、困ったような表情をしながら乾いた笑いと微妙に弁解になっていない言葉を出す。

 

「(やはり皆の……いや、恐らく()()()()()()がナナリーに関しての記憶をあの『ロロ』とやらに変えられている。 さっき、リヴァルに遮られる前にスヴェンが言いかけていたのが『ナナリー(Nunnally)』と思いたい。 ギアスへの対策をコンタクトレンズで図っていたアイツならあり得ない可能性じゃないし、何より────)」

 

 ルルーシュが思い浮かべるのは先日のバベルタワー事件だった。

 転倒したタワーを使って中華連邦の領事館に着く寸前、ブラックリベリオン時に『もしもの為に』とディートハルトに頼んだテレビ放送権限のジャックの仕掛け────通称『ラインオメガ』を用意してあった段階でゼロの代わりをC.C.に取り敢えず決めようとしたところで自分と瓜二つの少年がいたことに驚愕した。

 

 ただ時間もなく、状況が状況だけに彼をゼロ役にして急いで用意されていた脱出ルートを使って中華連邦の領事館から学園に戻り、アリバイの為ワザと徘徊していたヴィレッタに捕まって大人しく体育の補習を受けた。

 

「(『味方』と断定できれば、頼もしい。 何とかスヴェンと一対一で接触をしたいが……機密情報局から得た手帳で、この学園が俺を徹底的に監視する檻だという事は理解している。 チャンスがあるとすれば、学園の外か。 どちらにせよ、腰巾着のように俺に付き纏う『ロロ』とやらを先に攻略してやるか。)」




後書きEXTRA:
カレン:(レイラと毒島さんたち、凄い格好だなぁ……) ←一期で披露した初期私服パイロットスーツ姿
レイラ:(カレンさんの服、サイズがキツそうですね。) ←軍服ジャケットの下はぴっちりインナースーツ
毒島:(確かこの後は『囚われた黒の騎士団の処刑場』だったな。) ←レイラと同じ服装





知らないところで胃痛案件の闇鍋火薬庫に物資が追加。 (;´д`)ゞ

余談でシステムショックのリメイク版、オリジナルをそのままより3D化した感じでおもしろ過ぎる。 (#´ー´)旦 フウゥゥゥ



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第187話 それぞれの見方

お読みいただきありがとうございます、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


「アッハッハッハ! あれが噂のゼロか!」

 

 ブリタニア本国の最高戦力であるラウンズが定期報告も兼ねた、よほどの用が無ければ何ヶ月に一度集まる集会場で、ルキアーノは先日のゼロを愉快そうに語らう。

 

「最高だ! 奴は分かっている! 国に必要なのは愛国者とその国の在り方に不満を持つ反徒共の争いだ!」

 

 「はた迷惑。」

 

 そんなルキアーノを『ウザ』と訴えるかのような言葉をジト目と共にアーニャが送る。

 

「そうか? ゼロは起爆剤だ!」

 

「そっちじゃない。」

 

「あ?」

 

「言葉をわきまえよ、ブラッドリー卿。」

 

「……あー、ゼロ討伐には対テロ専門の組織を持つ英雄皇女殿下が向けられるんじゃないかな?」

 

 現ラウンズ最強のビスマルクの言葉にルキアーノは肩をすくませ、ジノはギスギスし出した場の雰囲気を変えようとした。

 

「グリンダ騎士団。」

 

「そうそれ! ナイスだアーニャ!」

 

「……トリスタンだけにトリ(頭)。」

 

「え?」

 

「コホン……因縁浅からぬ相手だけに、枢木卿が向けられるという噂も耳にしました。 その所為で、彼がここに居ないとのことも。」

 

「相変わらずクルシェフスキー卿は耳が早いね!」

 

「……グリンダ……いや、大グリンダ騎士団はエリア24の平定中。 それに急激な拡大を成したマリーベル様を危険視するような声が他の皇族内から出ている。 『彼女をテロ討伐に』、は低いね。」

 

 どこか面白くない表情に、先ほどのルキアーノのように肩をすくませるノネットの言葉にルキアーノがニヤニヤし出す。

 

「兇状もちだもんな、英雄皇女様は。」

 

「不敬罪。」

 

「褒めているつもりなんだが?」

 

 ピロン♪

 

「記録。」

 

 「オイバカヤメロ、ブログに乗せるなよ?!」

 

 ピロン♪

 

 オイィィィィィィ?!」

 

 この後、兎……と呼ぶには獰猛すぎる小動物っぽい何かを全力で狩ろうとする獅子のようなアーニャとルキアーノのやり取りをビスマルクがルキアーノ、そして遅く来たドロテアがアーニャを捕まえて無理やり止めたそうな。

 

 ……

 …

 

「……………………」

 

 ゼロが『合衆国日本』の宣言した翌日、中華連邦の領事館の一部でカレンはベッドに寝転がりながらラッコのぬいぐるみを宙に押し投げては重力に引かれて落ちるそれを再び手にするという行動をボーっとしながら続けていた。

 

 彼女はレイラや毒島から聞いた話のほとんどを理解できなかったことにモヤモヤした気持ちになっていた────

 

「アイツ、大丈夫かな?」

 

 ────訳ではなく、逆にスバルのことを心配していた。

 

「(レイラや毒島さんたちから見ると、アイツ()がまるで一人で何でもかも全部できちゃうような感じに話しているとな~……)」

 

 確かに第三者からすればスバルは博識で行動力もあり、それでこそ『超人』と見えなくもないだろう。

 

「(だけどなぁ……)」

 

 そう思いながらカレンが脳内に浮かべたのは、今日の話でようやく繋がった『リア・ファル』で見た孤児らしき子供たちとエデンバイタル教団、スバルが斬殺したブリタニアの研究員たちらしき()()

 

 そして────

 

「(────あの時の昴、すごく悲しそうで寂しい様な……近くにいるはずなのに、遠くにいるような感じだった。)」

 

 ポス。

 

「……私にできることはないかな?」

 

 ここでカレンはぬいぐるみのキャッチボールを止めて、ベッドの上に寝転がる。

 

「やっぱりいつも通りの振る舞いで、支えるとかかな?」

 

 そう尋ねてもぬいぐるみが応えるわけもなく、カレンは兄のナオトが居なくなった頃から何かと自分の相談などに乗るスバルを思い浮かべる。

 

「(だって独りは……やっぱり寂しいよね?)」

 

 ……

 …

 

 カレンが上記のように一人で悶々と考えている間、同じ領事館内の一角にある別の個室で下着姿の毒島は緑と白色、つぶらな瞳と小さな手足が目立つすくすく〇澤モドキ(角ナシ)のぬいぐるみ────『おはぎちゃん』(毒島命名)を枕代わりにしていた。

 

「(うーむ、やはり今日話し合ってみたがスバルは相変わらず凄い。 憶測だがこうも意見が揃うとな……この様子だとメモの事も()()()残したという可能性も……)」

 

 何を思ったのか、そこで彼女はおはぎちゃんのお腹に値する部分に顔を埋めて盛大にしなやかな足をバタつかせた。

 

 ぬああああああ! 昔から知っているだけに凄すぎる! 幼い頃におじいちゃんに泣きついたのが恥ずかしくもいい思い出になるとは想像もしていなかったぁぁぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 力一杯に叫んでいたので、もしおはぎちゃんが生き物であったのなら確実に涙目になりながらキューキューとした鳴き声に手足をバタバタさせていただろう。

 

 「いったい! いったいどれだけ先を見ているのだ彼はぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 このような夜を過ごしている所為でいつの間にかぬいぐるみの洗濯に毒島が慣れているのはきっと気のせいだろう。 ウン。

 

 ……

 …

 

「うーむむむ……」

「ゼロが学生だったことにも驚きだけれど、まさか……えっと……そっちのグループの名前は何だっけ?」

「アマアマガムだ、朝比奈。」

「アマルガムです、卜部さん。」

 

 パイロットスーツからEUの軍服に着替えたレイラは朝比奈、卜部、そして仙波の、実質的に現在の黒の騎士団で発言力(と人望)がゼロに次いで大きい三人と現状と今後の事を話し合っていた。

 

 普通ならここに毒島も加わるのだが────

 

「なかなかに愉快な名前だな、四聖剣の卜部?」

 

 ────その代わりなのか、『ゼロ役』を終えて私服に着替えたエルが居た。

 

「コーヒー、ミルクだけでいいのか? 味噌もあるぞ?」

「醤油ですよ、卜部さん。」

 

「……………………なんだそのチョイスは?」

 

「ま、まぁ……人の好みはそれぞれですから。」

 

 エルのヒクつく表情にレイラが卜部と朝比奈の味音痴をぎごちなく弁解する。

 

「気にするな、卜部と朝比奈が()()なだけだ。 それで、今の状況をそちら(アマルガム)はどう見るのだ?」

 

「表面上、ブリタニアとのにらみ合いは中華連邦側の大宦官が現在の……人ならば少しの間は持つでしょう。 脱出ルートも確保しておりますので、いざとなればエリア11から逃げることも可能でしょう。」

 

「ワシが聞きたいのは、“ブリタニアがどう出るか”の予測だ。」

 

 他の者たちのコーヒーと違って紅茶をレイラはすすり、手を顎に付けて考え込むような仕草をする。

 

「……カラレス総督が重傷で動けない今、総督代行を仕切っているギルフォード卿ならば、短期決戦を目指した手段で出られると思います。」

 

「短期決戦?」

 

「ええ。」

 

「その根拠は?」

 

「今まで得た情報によると、ギルフォード卿は非常に有能で『帝国の先槍』の異名を持つ騎士道精神に溢れている戦士です。 彼ならば、ゼロの演説による脅威に気が付いている筈です。」

 

「ブリタニアが植民地としている領地に突然国が宣言されたのだ。 さぞや内心、慌てているだろうな。」

 

「それだけでないですエルさん。 ゼロは未だかつてないほどに反ブリタニア活動が可能であることを証明しています。 時間が経つにつれ、ゼロの元に現ブリタニアに不満を持っている人々は雪崩込むでしょう。 現に、租界の外には既に大勢の旧日本人たちが殺到しています。」

 

「なるほど……ブリタニアからすればゼロはすぐにでも潰しておきたい存在だという事はわかった。 先ほど言った『手段』に目星はついてあるのか?」

 

「……捕らえられている黒の騎士団員たちを人質に公開処刑の宣言などですね。」

 

「それは……いや、相手はブラックリベリオンで藤堂さんの一騎打ちに応じるような奴だ。」

 

「それに奴は行方不明となっているコーネリアの部下だ、政治的な意味合いでも捕虜を条件にしてゼロをあぶりだす可能性はあるだろう。」

 

「それとここにいる皆さんに()()()があるのです。 ゼロの正体に関してあの藤堂鏡志朗にも黙ってもらいたいのです。 前回は状況が状況だけに仕方のないこととはいえ、正体を知られるのはゼロの意思によるものではありませんでした。 それに正体が広がればゼロの立場だけでなく、我々アマルガムも動きにくくなります。」

 

「………………お願いはしていいが、我々がそれを守るという保証は────」

「────そうだな。 保証はお前たちの首だけでいいだろう。」

 

 仙波の挑発的な言葉をエルが遮ると四聖剣の三人は部屋の温度が下がった様な錯覚を感じ、気が付くと向かい側に座っていたはずのエルは椅子ごと彼らの背後に回っていた。

 

 その目にもとまらぬ速さと不気味さに卜部たちは文字通り肝を冷やしたそうな。

 

「(う、うーむ……少々やり過ぎた感じはありますが、効果的なのは認めなくてはいけませんね。)」

 

 対するレイラも内心ヒヤッとしながらも頭を抱えたい気分だった。

 確かにこのようなためにエルが同席することを頼んだのは彼女自身であるが、レイラもまさかエルが本気の殺気を飛ばしながら脅すとは思っていなかった。

 

「(それにしても、『建国』ですか……)」

 

 レイラはそう思いながら天井を見上げた。

 

「……あ。 そういえばラクシャータさんたちが人を送ったそうですが?」

 

 レイラは肌寒くなったその場の空気をよくするために、話題を変えた。

 

「ッ。 あ、ああ。 黒の騎士団に入団したい奴らがどんどん来るから、中華連邦から何人か来るらしい。」

 

「本当なら、僕たちだけで足りるのだけれど……」

 

「???」

 

 卜部と朝比奈が歯切れの悪い言い方をしたことに、レイラはハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「あー……ラクシャータ曰く、我々に『入団者の基準』を任せると軍事に傾き過ぎるらしい。」

 

「……………………ああ、なるほどです。」

 

 レイラは自分たちwZERO部隊が加わるまでのアマルガムを思い浮かべながら仙波に同意した。

 

「あと、話に聞いたのですが送られてくる人たちの中にインド軍区の技術者がいると聞いたのですが────?」

「────ああ。 旧日本人とインドのハーフの事か。 かなり優秀だと聞いたぞ?」

 

「なぜそのような方が────?」

「────“人工島の事で手いっぱいだから無理”、だと。」

 

 今までアマルガムと同行しすぎた所為で、以前から黒の騎士団に頼まれたが大幅に遅れている依頼やほったらかし途中段階で開発が止まったモノなどをwZERO部隊のアンナたちという助手たちを無理やり借りた得て再開したので、インド軍区から送られてくる新人の世話どころではなかった。

 

 ちなみにラクシャータに送られてくる人材は一癖も二癖もある者たちばかりだったのが決定的だった。

 

『体のいい厄介払い』?

 そうともいう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「バベルタワーの事件以降、ルルーシュ・ランペルージに特段の変化は見られません。」

「偽装した監視役も47────いや。 監視役48名による睡眠時間以外の行動でルルーシュと行方不明のカルタゴ隊を結びつける情報は上がっておりません。」

 

 バベルタワー事件から数日間ほどが過ぎ、アッシュフォード学園の地下にある機密情報局の拠点でエージェントたちは報告を照らし合わせていた。

 

「そうか────」

「────本当にルルーシュがゼロとして復活したならば、わざわざ学園に戻ってくるのはナンセンスです。」

 

 機密情報局の会話に、携帯電話についていたロケットを弄っていたロロが口をはさんできたことに機情の者たちはギロリとした視線を送り、場は一気にギスギスとした空気に包まられたことにヴィレッタはため息を出しそうになる。

 

「ほかに、奇妙な出来事はないか? 些細な事でもいい。」

 

「……あ。 いや、でも……」

 

 機密情報局でも若手に一人の男性が口を開けては口ごもってしまう。

 

「なんだ?」

 

「あ、その……直接的な関係があるかどうかわかりませんが数日前、トウキョウ湾にて()()死体が発見されています。」

 

 「ぷっ。」

 「なんだそれは?」

 「これだから若い新人は……」

 

 若い男性の言葉に他の者たちは笑いを堪えたり、鼻で笑うようなことをすると若いエージェントは萎縮してしまう。

 

「話を、続けろ。」

 

 だが逆にヴィレッタは先ほどの憂鬱そうな表情から、真剣なモノに変わった。

 

「あ……っと、発見された死体は変死を遂げており、警察の鑑識報告によると死後数日間は経っていて、かなりの拷問をかけられた後にわざとトウキョウ湾に捨てられたそうです。 指紋を取る部位や歯が抜かれていたのでDNA調査では“キング”と名乗っていた、租界マフィアの幹部と一致して────」

「────キング────?」

「────確かルルーシュがチェスで────」

「────それのどこが『妙』なのだ?」

 

 しびれを切らした機情の同僚がイラつきを隠そうともせずに問う。

 

「えっと……その“キング”とやらの胸に、刃物か何かで旧日本語の言葉がえぐられて────」

 

 若い男性は携帯電話でそのニュースが記入されているサイトを調べ、画像を出すとケガが全く見当たらない変死体の胸に浮き出ていた『Divine punishment for Pigs(豚への天誅)』を見せる。

 

「うぇ。」

「なんでこんな……」

 

「(これは……)」

 

 いやな顔をする者たちをヴィレッタは無視して、彼女は警察の報告や鑑識の画像などをよく見る。

 

 一見すると雑に見える、()()()()()()などを。

 

「(もしかして、スバルさんなの────?)」

『────ふえっくし!』

 

 丁度その時、くしゃみがモニター画面から出る。

 

『どうしたスヴェン? 風邪か?』

『いえ、ちょうど鼻がムズムズしただけです。 それに風邪など子供の頃以来ですよ。』

 

「チ」

「学生は気楽でいいな。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ルルーシュはバベルタワーからの間、不自然なことをせずにそれとなく会話などで情報収集を行っていた。

 

 それから得た情報は以下の通りである:

 

 1. 監視データの送信先はアッシュフォード学園の地下

 2. 学生や以前からの教師たちの記憶から『ナナリー・ランペルージ』という学生は『ロロ・ランペルージ』に変えられている

 3. 常に自分に視線が向けられている

 

「(その上、画像データも改竄されているな。)」

 

 ルルーシュはクラブハウスに置いてあるパソコンのマウスをクリックしながら次々と写真を閲覧していく。

 

 ナナリーがいた筈の写真は巧妙に手が加えられ、あたかも最初から写真がそうだったとしか思えないほど違和感のない様に彼女の姿は消されていた。

 

 それどころか無表情なロロが代わりに所々居た。

 

「(そしてC.C.の言った、『ナナリーが新大陸にいるらしい』────ん?)」

 

 そしてルルーシュは違和感を持った。

 

 その違和感とは、()()()()()を境にずっと無表情だったロロの表情が柔らかいモノへと変わっていたことだった。

 

「(この変化……日付けは……いや、まさかな。)」

 

「どうしたの、兄さん?」

 

「(おっと。) いや、どれだけ会長がイベント好きか再確認していただけさ。 留年しててっきり落ち込むのかと思っていたら例年以上に次々とイベントを始めたからさ?」

 

「ふーん……よく包囲網の中から()()()()()ね?」

 

「何言っているんだよ? それを言うなら“どうやってテロリストから逃げたか”、だろ? 建設中のエリアに非常通路があったんだ。 お前に連絡しようとしたんだけれど、電波が届かなくてさ? (言葉で引っ掛けるつもりか? 幼稚だな。)」

 

 チャリ。

 

「(あれは……)」

 

 内心であざ笑うルルーシュの耳に金属のチェーンが擦れる音にロロが握っている携帯電話に付けられたハート形のロケットが目に付くとルルーシュの胸がざわつく。

 

「(そのロケットは俺がプレゼントとして、10月25日の誕生日に渡した────いや、以前からナナリーの為に予約を入れておいた物……) ロロ、そのロケットさ? よく考えたら男性に送る物じゃなかったな────」

「────え────?」

「────だから、返し────」

 「────だ、ダメだよ!」

 

 ルルーシュがロケットを手に取ろうとした瞬間、さっきまで仮面みたいなロロの表情が酷く動揺したものへと変わる。

 

 「こ、これは兄さんに貰った! だから僕のなんだ!」

 

 ガッシリと携帯電話とロケットをロロは両手で力強く握りながら、幼い子供がおもちゃを取り上げようとする親に対してするような主張にルルーシュは面食らう。

 

「あ、ああ? 分かったよ。」

 

 そうルルーシュが声をかけた瞬間、ロロの強張っていた顔は明らかに緩む。

 

「(何なのだ一体……そこまで嫌がるとは……いや、演技だと思えば大したものだがもしやこいつ……)」

 

 そう疑心暗鬼になっていたルルーシュと相対していたロロ自身、なぜ急に内心ヒヤッとしたのか分からず困惑していた。

 

 

 


 

 

 やぁ、俺スバル。 スヴェン。 もしくはシュバール。

 

「スヴェンせんぱーい!」

 

 現在コードギアスの世界に転生(多分)してから最大の危機。

 

 「最近のライブラさん、スヴェンの周りに居ることが多いわね?」

 「やっぱりそう思う?」

 「ロロの足が治ってからだよね?」

 

 え? なに? 何なのこの状況?

 俺、何かライラ(ライブラ)にした?

 何で事あるごとに、接触しようとしているの?

 

「せんぱーい!」

 

 いや、だからロロが居ない時でも同じだって!

 機密情報局の目があるから!

 

 だから頼むから付け回すのやめてくれよ~。

 泣いちゃうゾ~?

 

 「ねぇニュース見た?」

 「見た見た! 黒の騎士団のことでしょ?」

 

 ん?

 

 ドシッ!

 

「へぶ?!」

 

 急に俺が立ち止まった所為で後を追っていたライラが背中に衝突して変な声を出すが……それよりも今聞いた話が本当だとすると────

 

『────聞こえるか、ゼロよ?! 私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードである!』

 

 携帯を取り出してビグロブ(サーチエンジン)で検索するとすぐに検索結果が画面上に流れ、ヒョコっとライラが背後から頭を出してそれを見る。

 

「あ、ギルギルマンです。」

 

 ……………………『ギルギルマン』って別作品の『AUO』なの?

『取り敢えず武器を放出すればええやないか』のゴリ押し金ぴか?

 中の人は魔獣ヤ〇ンだぞ?

 ドモ〇ならまだしも────

 

『────明日15時より、国家反逆罪を犯した特一級犯罪者の処刑を行う!』

 

 ────っと、危うく訳の分からない現実逃避にのめり込むところだった。

 

 マスクが無ければ即死だったぜよ。

 

『ゼロよ! 貴様が部下の命を惜しむなら、この私と正々堂々と勝負をせよ!』

 

 そう言いながら、原作より少ないながらも捕まっていた黒の騎士団の幹部たちの映像がこれ見よがしに放送されていく。

 

 ギルフォードの背後には領事館の周りを陣取っているグラストンナイツ────あ゛。

 

 脳内でギロチン台をウキウキしながら持ってくるコーネリスちゃん様とダールトンがガガガが。

 

 ……だが実際問題、どうやってグラストンナイツの被害を下げよう?

 

 原作でゼロことルルーシュはギルフォードと一騎打ちを受ける体を見せるがその実は租界の死刑を逆手に取ってブリタニアの足場を失くすと同時に捕まった黒の騎士団を領事館の領地に強制移動させた。

 

 その一連でブリタニア側に被害が出て、少なくともグラストンナイツに二人ほど犠牲が出る。

 

 一人は傾いた地形で滑りだすG1ベースの下敷きに、グラストンナイツの『バァァァァトォォォォ!』(ギルフォード風の叫び)は潰される。

 そしてもう一人は黒の騎士団たちの援護に出撃したカレンの輻射波動の餌食になって脱出装置が動かないまま『ぽぺ』される。

 

 …………………………どうしよう?

 

「スヴェン先輩?」

 

 ライラがぴょこんと俺の顔を横から覗き込む────あ、そうだ。

 

「ライブラさん?」

 

「はいです?」

 

「この映像の中のブリタニア軍の配置、どう思います?」

 

「です?」

 

 DEATH(デス)

 

 いや、それはもういい。

 

「見栄えが良くなるためにわざと密集しすぎだと思いません?」

 

 後は、領事館にいる()()()()と連絡を取ろう。

 

「う~ん……よくわからないです!」

 

 うん。

 元気いっぱいの満面の笑み、ごっつあんどすえ。



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第188話 『夜明け』の裏で

お待たせいたしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


「(ギルフォード……『騎士道精神の堅物』の()()を除けばブリタニア全土でも多芸で優秀な人物だけはある……堅物であること以外。)」

 

 ルルーシュは表面上、平然としていたが内心は穏やかではなかった。

 約一年分、自分の遅れている現状把握中にこの様な事態が起きればなおのことイラついて彼らしくもない内心の言葉が浮かび上がるのは仕方のない事だろう。

 

「(『時間』と『合理的な配慮』を味方に付けるとはやるな、ギルフォード。 『領事館内のテロリスト』ではなく『ゼロ』を指名してきた以上、ゼロが出て来なければ名声とイメージダウン、その他諸々に今後とも悪影響が出ることを承知した大胆な行動だ。 これで俺が学園を『檻』から『庭』に変えるタイムリミットは明日までと────)」

 

 ────ガチャ。

 

「あれ? ルル一人なんて、珍しいね? ロロは?」

 

「シャーリーか。 ロロなら散歩だよ、そっちこそ水泳部はどうした?」

 

「あー、実はくじ引きで私がヴィレッタ先生の誕生日プレゼントを買う事になって……でも先生が好きそうなもの、ちょっと分からなくて────」

「────お酒なんてのはどうだ? 確か好きだったんだろ?」

 

「あー、うん……でもなんか最近は『胃が~』とか言って控えているみたいだし、そもそも銘柄なんて私知らないし────」

「────じゃあ付き合おうか?」

 

 「エ.」

 

 ルルーシュの提案にシャーリーは目を点にさせ、パチクリと瞬きをすると次第に顔が赤くなっていく。

 

「つつつつ()()()()だなんて! そんな急に言われても心の準備────!」

「────これからプレゼント選びに出かけるんだろ?」

 

 ガクッ。

 

 「相変わらずのルルに期待した私が……」

 

「ん? どうしたシャーリー? 腹が痛いのか?」

 

「なーんーでーもーなーいーでーすー!」

 

「変なシャーリーだな。」

 

「(うわぁ……ルルーシュ、それはねぇよ……)」

 

 シャーリーとルルーシュのやり取りを窓の外から様子を窺っていたリヴァルはシャーリーに同情した。

 

「(だから骨は拾ってやるぞ!)」

 

 そして面白いネタに感謝をしながらも、ミレイやライブラたちにメッセージを送る背中姿をルルーシュは見逃さなかった。

 

「(よし、これで初期段階の条件は整ったな。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ちょっと何でロロまで連れてくるんですか会長?」

 

 租界内のオモテサンドウモールで、シャーリーの誕生日プレゼント選びに付き合うルルーシュたちから距離を開けて尾行していたリヴァルがそうミレイに問いながら彼女に無理やり引きずられてきた様子のロロを見る。

 

「だってロロも興味あるでしょ? ひょっとしたらシャーリーとも家族になれるかも知れないんだもの♪」

 

「おおおおお! 大人の階段というヤツですね?!」

 

「まぁ……シャーリーの性格からしたら、()()が何時になるのかわからないけれどね……」

 

「『ソレ』って何です?」

 

「ライブラは分かっているのだか、分かっていないのだか……」

 

「???」

 

「『家族』……」

 

 ミレイとリヴァルの言葉に対してライラはただハテナマークを浮かべ続ける。

 傍からすれば小動物が首を傾げてキョトンとしているようなライラの隣で、ロロは何とも言えない心境のまま周りに配置された機情の者たちを確認してから再びルルーシュとシャーリーを見ると、思わずギアス嚮団にまだいた頃のオルフェウスとエウリアを連想してしまって更に荒ぶる心境をロロは無理やり任務に神経を集中させて抑える。

 

 ワインボトルをルルーシュは手に取り、ボトルに反射された景色で周りの様子を窺う。

 

「(相変わらずだな。 会長とリヴァルにライラが来るのは想定内だったがまさかロロまでくるとはな……それにしても、尾行者が多いのは学園の外だからだろうな。)」

 

 実はルルーシュの監視とは別にライラの護衛も兼ねている者たちも今回加わっているだけなのだが、『ルルーシュはおおむね間違ってはいない』とここで追記しよう。

 

「(これってデート?  デートだよね?! デートにしよう!)」

 

 ちなみにいつもより少々身だしなみに気を使って髪の毛もツーサイドアップにしたシャーリーは、ミレイたちの尾行に気付くどころか内心ルルーシュと出かけられることに有頂天かつ浮足気味だった。

 

「やっぱり俺もお酒を飲んだことはないから、何とも言えないが……ああ、すまないシャーリー。 この間、携帯電話をどこかで失くしたみたいでさ? 新しいのを見てもいいか?」

 

「あ、うん!」

 

 何時もならドジを踏んだルルーシュを茶化したり、詳細を聞くなどをするシャーリーはただ肯定の言葉を口にした。

 

「(さすが皇帝直属の機密情報局……尾行は完璧だな。)」

 

 ルルーシュは新しい携帯電話のお店に入り、そこでもサンプル用品の液晶パネルなどを鏡のように使って予想していた監視者がガラリと変わった様子に感心していた。

 

「(だが完璧すぎるがゆえに、予想外のアクシデントには()()。) あの、ここはどう書けばいいのですか?」

 

 そうソフトローラ(電話会社)の店員に言いながらルルーシュはギアスを阻害するコンタクトレンズを目から取り外す、店員としっかり目を合わせる。

 

「それと『お願いしたいことがあります。 16時に、人気のないところで非常ベルを押してくれませんか?』」

 

「ええ、良いですよ。」

 

「(条件は整った、あとは俺が普段通わない店舗に入ればいい。)」

 

 ルルーシュは電話会社との契約書にサインをし、新しい携帯電話をポケットに入れるとどこかボーっと一点だけを見ていた様子のシャーリーの後ろ姿を見る。

 

「シャーリー?」

 

 うひゃああ?!」

 

「(うお?!)」

 

 素っ頓狂な声をシャーリーが出して思わず体が跳ねようとしたい衝動をルルーシュが気合で押さえつける。

 

「(危ない危ない、思わずタイムロスになりそうな行動をとりそうだったぞ。) 何を見ているんだ?」

 

「え?! あ、えっと~……あ、あれ! あれを見ていたの!」

 

 実はシャーリー、モール内で熱~いキスを交わしていたカップルに釘付けになってしまったことを慌てて隠す為に宣伝用のポスターへ適当に指をさす。

 

 原作ではここでシャーリーが『ゼロによって父親を殺された』、『ゼロ=ルルーシュ』などの記憶を皇帝シャルルのように捻じ曲げたことにルルーシュはシャーリーに対する負い目と罪悪感を覚えるシーンなのだが────

 

「温泉?」

「ふぇ?!」

 

 ────色々と違う今作でシャーリーが指でさしたのはエリア11の名物と経済を潤す為にクロヴィスが推していた旅行の宣伝だった。

 

 余談であるが、ブリタニア帝国で言うところの『温泉』は古代ローマ時代からの公衆浴場────いわゆる『テルマエ』が一般的であるが、普通に思い浮かべる『温泉』と違うところは風呂のみならず運動場やサウナ、マッサージ室や風呂後の食事にくつろげるスペースなどがある総合レジャー施設が一般的である。

 

 

『それってスー〇ー銭湯じゃん』? 逆です。

 

 

「あわわわわ!!!」

 

 シャーリーは思わず何故か風呂に自分とルルーシュが肩を並べた、ホワホワとした想像をしてしまい余計に慌てだす。

 

 ちなみにテルマエは普通に男女別で、混浴は非常に稀である。

 

「(『温泉』か……確か疲れが取れるのだったな? 全てが収まった後で、『慰安旅行』として行っていいかもしれん。)」

 

 少々先の話になるのだが、原作と少々違うこの出来事が後に大変な事態へ繋がるとはルルーシュ含めて誰も思う由もないだろう。

 

「(っと、時間が迫っている。) シャーリー、ちょっと良いか?」

 

「え?」

 

 「会長たちが後をつけている、驚かせてみないか?」

 

 ルルーシュとシャーリーはそのあとすぐに高級ブランドを扱っているEUのブティック、『Lever du Soleil(夜明け)』に入店する。

 

 ……

 …

 

「『Lever du Soleil(夜明け)』って……」

「これだから子供は……」

「学生……だよな?」

「でも確かシャーリー・フェネットは令嬢だよな?」

 

「(ハァァァァ……いいなぁ……)」

 

 ルルーシュたちをモールのカメラなどを通じて監視していた学園の機情員たちは愚痴を口にしながら、ヴィレッタは(内心で)ため息交じりに羨ましがっていた。

 

「(……ハッ?!) コ、コホン! 監視は怠るなよ! 黒の騎士団が表れたのだ! C.C.が出現する可能性が高くなっていることを忘れるな!」

 

 ……

 …

 

 「しばらく、俺がここにいるようなフリをしてくれないか?」

 

 「うん、わかった!」

 

「(よし。 ここなら監視や盗聴器の類はないだろう、何せ俺が普段来ない場所の上に使わない店だからな。)」

 

 ブティックの店内にある着替え室にルルーシュが入ってドアを閉めると、先ほど契約した携帯電話に暗号機を繋げて『黒の騎士団からの爆破予告』を小声でモールの警備室にしてから変装の服装に着替えて時間を見る。

 

「(よし、後は────)」

 

 ────ゴト。

 

「(うん?)」

 

 着替え室の天井から変な物音がして、ルルーシュが見上げると()()()()が見下ろしていた。

 

 「↑ひょ────?!」

 

 素っ頓狂な声を出したルルーシュは驚きから思わず上げた腕を天井裏に居た自分────否、エルに掴まれて上に引きずられていく。

 

「私だ、エルだ────」

「────な、な、何故────?!」

「────時間がないから取り敢えずお前に成りすますように頼まれている。 それとモールから出た後はこれを読め────」

「────??????」

 

 暗闇でエルには見えなかったが、手紙の様なものを手渡したルルーシュの顔はポカンとした猫の様なものだったと追記する。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガチャ。

 

 変装(と言っても服装と帽子だけ)したルルーシュはバクバクと脈を打つ心臓を悟られないように平然を装いながらブティックの裏口から出るとモール内のスピーカーからアナウンスが流れる。

 

 ピンポンパンポーン♪

 

『ハコダテ租界よりお越しのマクシミリアン様、お電話が入っております────』

 「────こ、これって────」

 「────『テロに警戒せよ』の────?」

 「────黒の騎士団────?」

 

 このアナウンスが流れると、モールの店内にいる作業員たちの間でひそひそ話が繰り広げられて不安感が高まっていく。

 

 ……

 …

 

「オモテサンドウモールに、黒の騎士団より爆破予告が入ったようです!」

 

「ルルーシュは?!」

 

「『スコーピオン』によると、ブティックの裏口から────え?!」

 

「どうした?」

 

「た、“ターゲットが後をつけていたアッシュフォードの学生たちを背後から驚かせた”と────」

 「────は?」

 

 ……

 …

 

 「わ!」

 

 ルルーシュ(に変装したエル)はミレイたちに背後に忍び寄ってから大声を出す。

 

ひゃああああ?!」

うきゃあああああ?!」

のわぁぁぁぁぁぁ?!」

「ッ?!」

 

 予想通りにミレイ、ライラ、リヴァルの三人は叫び、ロロは思わず携帯していた拳銃を抜きそうになる。

 

「アッハッハッハ。」

 

 エルは愉快そうに笑い、ブティックの店舗内から様子を窺っていたシャーリーに手を振る。

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!

 

 丁度そんな時、モール内では耳をつんざくような非常ベルの音が鳴り響くと一気に各々の店の中からパニックになった作業員たちにつられて客も慌てだし、それがさらに訳の分からない者たちにも広がっていく。

 

 ……

 …

 

「も、モール内で非常ベルが────!」

「────スコーピオンが対象を見失いました────!」

「────対象を見失っただと────?!」

「────パニックが────!」

「────ロロとの連絡は────?!」

「────治安維持の為、電波が────!」

「────えええい! 私が直接出向かう────!」

「────中佐?!」

 

 モールの混乱具合に機密情報局の完璧と思われた監視がガラガラと脆いガラスのように崩れてズブズブになっていく慌て様にイライラしてしまい、ヴィレッタは自ら現場へと直行するため学園を後にする。

 

 ……

 …

 

「(『それっぽい情報で民衆の不安を煽ぎ、恐怖心を限界突破させる状況でパニックを起こす』……まさかジュリアスだった時の記憶を活用する日が来るとはな。 胸糞悪いが、効果的なのは認めよう。)」

 

 パニックに陥ったモール内を慌てて逃げ惑う人々を冷静な思考で防波堤のように使い、ルルーシュは一種の『自己嫌悪』に似たものを感じながら、人ごみに紛れてモールを後にする。

 

「(よし、ここなら良いだろう。)」

 

 地下水道を使ってルルーシュが移動したのは『万が一の為に』と、ゼロとしてディートハルトに依頼した隠れ家の一つだった。

 

「(これは……畳か? 落ち着く匂いだな。)」

 

 余談でその隠れ家がどこか和風だったのはディートハルトが個人的に雇った咲世子の所為である。

 

 ゼロ、ディートハルト、そして用意した咲世子のみが知るアジトの中でルルーシュはエルに手渡された手紙の封蝋を専用のレターオープナーを使って中身を拝見する。

 

「………………………………………………………………………………????」

 

 今度はルルーシュがライラのように無数のハテナマークを頭上に浮かべることとなった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あ、お疲れ様なのですギルギルマンさん。」

 

 上記が部下たちに無理やり政庁に戻らされたギルフォードを滑走路で出向かえる第一の声である。

 

「フブ! ぎ、ギルギルマン……

 

 そしてそれを聞いたクロヴィスは吹き出して笑いをこらえる。

 

「……ライラ皇女殿下、その……『ギルギルマン』とは?」

 

「ギルギルマンさんはギルギルマンさんです!」

 

 どや顔と胸を張るライラの後ろにとうとう笑いを堪えることが限界になったのか、クロヴィスは震えながら急いで(車椅子に付いたブースト機能を使って)そそくさと政庁の中へと逃げた退却する。

 

「いえ、その……胸を張られて言い直されても……」

 

 ライラは『ギルバート・G・P・ギルフォード』から『ギル』を取っただけなのだが、きびきびしているギルフォードに『あだ名をつける』などコーネリアかダールトンぐらいしかいなかったので正直どう反応すれば迷っていた。

 

「(どうすれば良いのだ? 相手は子供とはいえ仮にも皇女殿下……笑い飛ばすには……こんな時のダールトンなら平然と笑って場をごまかしているのだろうな────)」

「────そういえばギルギルマンさんに質問です。」

 

「あ、はぁ……私に答えられればいいのですが────」

「────中華連邦の包囲網、なんだかガチガチ過ぎじゃないです?」

 

 ライラから想像もしていなかった、意外な言葉に歩いていたギルフォードは固まった。

 

「あ、ギルギルマンさん止まったです────」

「────ああ、これはその……ライラ皇女殿下から兵法が出てくるとは意外だったもので……それにしてもその……“ガチガチ過ぎ”とは一体?────」

「────皆が近すぎて()()()()()()()()()()です!」

 

 ライラに言われてギルフォードはハッとする。

 

「(確かに『逃がすまい』と、徹底的に警察も総動員して物理的な包囲網を敷いた。 だがそれでは逆にナイトメアの強みである『機動力』を自ら封印するとは……私もまだまだという事か。) 感謝しますライラ皇女殿下。」

 

「あ、うん。 どういたしましてです?」

 

 上記の小動物的なライラの様子を見て『あ、可愛い』と思ったブリタニアの兵士や文官は少なくなかったそうな。

 

「(ああああ、やっぱりライラは可愛すぎる~!!!)」

 

 その様子を単眼鏡で見ていたクロヴィスもそのうちの一人であると記入する。

 

 その夜、中華連邦の領事館を包囲していたブリタニア軍の配置が少々変わる間にアッシュフォード学園でも動きはあった。

 こちらはブリタニア軍と違って水面下での動きだが。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 オモテサンドウモールでのテロ騒動で警察にロロはミレイたちと共に事情聴取を受ける順番待ちになっていたが、その場に駆け付けたヴィレッタが色々と融通を聞かせて受ける順番を速めていた。

 

「(仲間、か……)」

 

 ロロは帰り道に自分やミレイたちと共に学園へ戻るためのタクシーを呼んだりなど、世話をしたヴィレッタの言葉を思い出していた。

 

 その時彼女が言いかけたのが『仲間』という単語である。

 すぐに彼女は『生徒』に言い直したのだが、『仲間』という文字がロロの頭から離れなかった。

 

「(仲間なんて馬鹿馬鹿しい。 結局は体のいい呼び名だよ。)」

 

 余談だが色々と気張っていた所為か(あるいは原作と違ってライラの護衛任務にも気を使ってか)、疲れていたヴィレッタは機密情報局の日報のまとめを彼に任せていた

 

「(大切なのは任務遂行だけ────)」

「────やぁロロ。」

 

 ロロが地下拠点の指令室に入ると機密情報局の者たちではなく、()()()()()がロロを一人で────そして何の因果かゲンド〇ポーズ(メガネ無し)の姿勢で指令室内のテーブルに腰をかけていた。

 

「俺────」

 

 カチャ。

 

「────は別にお前をどうこうするつもりはない……と言ってもお前は信じないだろうな、ロロ?」

 

 ルルーシュが喋っている途中で入り口近くのロロの姿が消え、ルルーシュは背後から構えられる拳銃の音に驚かずに平然と喋り続けた。

 

「驚かないんですね?」

 

「まぁ、な。」

 

 ここでルルーシュは本来、驚いて部屋に仕掛けておいたカメラの映像などでロロのギアスの秘密に目星を付けながら『威圧』に似た圧力(プレッシャー)をロロに与えつつ『交渉』(という名の『罠』)を持ちかけていた。

 

 だが現在は『そのようなことをする必要はない』と判断したのか、平然としたままルルーシュは言葉を続けた。

 

「お前の今とバベルタワー時の行動を見ると、どうやらお前のギアスが止めるのは『時間』ではなく『体感』、あるいは『時の認識』と言ったところだろう。 俺では到底敵わない────」

「────それを知ったところで僕の任務……ゼロとしての記憶が戻ったルルーシュの処刑は変わりません。」

 

「そうだ、俺では到底お前に敵わない。 だがこのままでは、君には永遠に未来は訪れないぞ?」

 

「未来なんて────」

「────俺が言う『未来』とは時の流れで自然に訪れるモノではない。 『生きる希望』だ。 お前が任務を達成した先にお前を待っている未来は何だ? 何も変わらず、延々と言いなりになったままだ。」

 

 ルルーシュはゆっくりと、手をあげたまま立ち上がってロロの方向を見る。

 

「明日、俺は処刑される筈の黒の騎士団を助ける────」

「────貴方にはここで死────」

「────それは『黒の騎士団』の為ではない。 ()()()の為だよ、ロロ。」

 

「……ハッ。 何を言うかと思えば────」

「────これは新しい未来の為だ。 だから俺が明日、妙な動きやお前からすれば疑わしいと思ったら躊躇なく俺を殺しに来てもいいと思っている。」

 

「だから敢えて宣言したと? 貴方のメリットが無さすぎますね。」

 

「メリット? それこそ“何を言うかと思えば”だよ……

『兄弟』だからだよ、ロロ。

 だから、お前には嘘はつかないよ。」

 

 仏頂面をするロロにルルーシュが向ける表情は幾度となくナナリーに向けたものと大差ない、優しいモノだった。




(´・ω・`;)


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第189話 ちょっと違う『悪を持って巨悪を討つ』

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


「動きはないか?」

 

「未だ、何も。 中華連邦からは“刑の執行は認める”との連絡があっただけです。」

 

 包囲網の配置を再編成したギルフォードに対し、明日に備えて休んでいたグラストンナイツの一人が答える。

 

「(人質の処刑で相手を引きずり出すなど……我ながら品のない手段だ。)」

 

「ギルフォード卿、果たしてゼロは現れるでしょうか?」

 

「奴は現れる、()()だ。」

 

 力強く断言するギルフォードの返事に、各々仮眠や読書に軽食を口にしていたグラストンナイツが興味を持つ。

 

「ギルフォード卿にしては珍しい物言いですね?」

 

「根拠ならある。」

 

 そう言いながらギルフォードは部屋に飾ってあるコーネリアの肖像画に向けて敬礼し、かつて彼女がサイタマゲットー壊滅作戦時のG1ベース内でゼロに関する感想を思いだす。

 

「(“ゼロは劇場型の犯罪者”、でしたね姫様……)」

 

 「うーん……()()があってもモテるのか、ギルフォード卿は……」

 父上(ダールトン)には“顔がいかついから”だの、“傷が醜い”だのと貴族共は言うし……」

 「ギルフォード卿には恋文、父上には苦情……」

 「そんなのまだマシだ。 顔の傷跡の所為で“傷物”なんて言われたときの父上は“戦士の勲章ものだ!”と笑い飛ばしたが……流石に殺意を相手に抱いたぞ?」

 「「「「「その気持ち、分かる。」」」」」

 

「(姫様……何処へ? ダールトンが一緒にいるのならば大丈夫でしょうが、)」

 

 グラストンナイツが未だに見た目や『ブリタニア人らしくない言動』だけで評価されるダールトンの話で盛り上がり、ギルフォードはアンニュイな気持ちのまま夜を過ごした。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『かつて“騎士団”を名乗り、エリア11を退化させたテロリストたちの処刑が今日、行われようとしています。 部下の処刑に、果たしてゼロは姿を現すのでしょうか?』

 

 中華連邦の領地の空域ギリギリにまで近づいたブリタニアのヘリの中にいるレポーターによる声と映像を、トウキョウ租界内の住人たちは様々な心境のまま釘付けになっていた。

 

 アッシュフォード学園の生徒はブラックリベリオン時に起きた抗争に巻き込まれたことを思い出し、エリア11に残ったブリタニア人たちは暴徒化したイレヴンや名誉ブリタニア人たちを思い出す。

 

 そして原作とは違って見事なまでに扇との出会いフラグを折られたヴィレッタは────

 

「(……ホッ。)」

 

 ────映し出される黒の騎士団たちの中に拷問跡が目立つ男性(森乃モードのスバル)がいないことで、静かに安堵していた。

 

「(見極めるよ、兄さん────いや、ゼロ。)」

 

 余談だが先行型ヴィンセントに騎乗する予定で後処理を丸投げされたキンメル卿から(またも横から)無断で拝借したロロは静かにそう思いながら、昨日のやり取りを思い出す。

 

「(だから変な動きをすれば、即座に貴方を殺します。)」

 

 即席の処刑場を見渡せる建物の屋上に狙撃手として配置された一人のグラストンナイツはブリタニアの歩兵が一人で接近したことに気が付く。

 

「ん────?」

『────本隊から極秘命令です。 通信の傍受を避けるため、“口頭伝達せよ”とのことです────』

「────そうか、少し待て。 (何か思いついたことがあるのか、ギルフォード卿?)」

 

 狙撃ポイントにいたデイビッドはグロースターの作動キーを外してからロックをかけ、コックピットブロックから姿を現すと同時に口を開けながら腰の拳銃をいつでも抜けるようにする。

 

「IDを見せろ────」

「その前に『お願いしたいことがあります。 ゼロの機体が────』」

 

 ……

 …

 

 領事館内に居た黒の騎士団のカレン、仙波、朝比奈、卜部やアマルガムのサンチア、ダルク、アリス、ルクレティアは指示通りにナイトメアに騎乗し、待機していた。

 

『しかしアマアマガム……じゃなかった、アマルガムに子供兵士が採用されているとはねぇ~?』

『元々はブリタニアの懲罰兵の様なものだ、文句が言いたいのならブリタニアに言え。』

『う~む……ワシとしては複雑な気分だ。』

『とはいえ、彼女たちが今回の作戦の要であることは変わりません。』

 

 卜部、朝比奈、サンチアたちの通信に同じくナイトメアに騎乗したレイラが横から通信をはさむ。

 

「(さてと……アマルガムとやらの軍事、そして政治的手腕のお手並み拝見と行きますか。)」

 

 卜部はそう思いながら、操縦桿を静かに握る。

 

『……』

『緊張しているか、紅月君?』

 

 カレンと毒島も上記の者たち同様にナイトメアに騎乗し、個別の通信でやり取りをしていた。

 

『あ、毒島さ────じゃなくて毒島────』

『────名前で呼んでもいいんだぞ?』

『……ちょっとハードルが高いから()()()パス────』

『(────“今回は”という事は────?!)』

『────大丈夫なのかな?』

『……うん? 何がだ?』

『こっちから手を出せば、多分、問答無用で中華連邦は黒の騎士団を背後から襲ってこないかな?』

『(ふむ?) 君にそう思わせることは何だね?』

『領事館の警備を仕切っているあのシンクーって人、アマルガムを目の敵にしているんでしょ?』

 

 毒島とカレンが思い浮かべるのは先日、スバルが手当を受ける間ずっと親の仇を見るような睨みとチリチリとした殺気を効かせていた中華テリオン星刻だった。

 

『………………あー……彼の場合、目の敵にしているのは私と(主に)スバルだな。』

『え? それって何かあったから?』

『う~む……“何かあった”というか、“何もなかった”というか……』

『え────?』

 

『────さあ、テロリストの残党に正義の裁きがいよいよ下される時間が迫っています!』

 

 でかでかと放送される映像には指定された時間のカウントダウンが秒にまで迫ってきたことで、その場に来た名誉ブリタニア人たちの悲願する様な祈りがそこかしこで出てき始める。

 

「ああ、ゼロさま!」

「お願い! どうか! どうか奇跡を!」

「殺さないで!」

 

「(イレヴンどもの狼狽える様子……演技ではないな。 ゼロ、残念だよ。) イレヴンたちよ! お前たちが信じるゼロは正々堂々の勝負から逃げた! 今からテロリストの処刑を実行する! 総員、構えろ────!」

『────違うな、ギルフォードよ! 貴公が今から手にかけようとしているのはテロリストではない!』

 

「ゼロ?!」

「ゼロの声だ!」

「どこからだ?!」

 

 ブリタニア、そして名誉ブリタニア人たちが周りを見ると指揮官用無頼に乗っているゼロが真正面の大通りからゆっくりと近づく姿にその場にいた者たちの視線が釘付けにされる。

 

「彼ら彼女らは我が合衆国の兵士であり、民でもある!」

 

「(やはり来たか。) その言い分だと、まるで“国際法に則り捕虜として認めよ”と言いたげだなゼロよ?」

 

 ゼロの無頼を通すように合図するギルフォードによってブリタニア軍の包囲網を通された無頼とギルフォードのグロースターは、自然と出来上がったKMFで作られた円の中央に収まる。

 

「お久しぶりです、ギルフォード卿。 ナイトメアから降りて昔話でもいかがですかな?」

 

「遠慮しておこう。 過去の因縁には、ナイトメアでお答えしたい!」

 

「そうか、では決闘のルールを決めようではないか!」

 

「良いだろう……この決闘、他の者は手を出すな!」

 

 コーネリアの『ゼロは劇場型の犯罪者』という評価、すなわち()()()()()()と言った部分をギルフォードは利用して自分の土俵(騎士道)である『決闘』に引きずり込めたことに高揚感を感じ、『陶酔』していたのかもしれない。

 

「装備は一つだけというのはどうだろうか?」

 

「よかろう! 私はこのランスで答えよう!」

 

「では私は、そこの盾を貸してもらおう!」

 

 故にゼロの選んだ武器────否、装備にどよめきがブリタニア人やナンバーズ、黒の騎士団たちの間で走った時、ギルフォードの思考は『落胆』という段階で止まってしまった。

 

『何だと?』

『盾を?!』

『しかもナイトポリス用の、暴徒鎮圧の盾だぞ?!』

『まさか……自決か?』

『だが、それだと黒の騎士団たちの処刑はどうするつもりだ?』

 

 ギルフォードは馬鹿にされたかのように、歯を食いしばってから『落胆』したまま言葉を投げる。

 

「ゼロ! 正直、失望したぞ────!」

「────ギルフォード卿。 『正義』が通用しない『悪』がいる時、貴公ならばどうする? 悪に手を染めてでも悪を倒すか? それとも己の正義を貫き、悪に屈するを良しとするか?」

 

「この期に及んで言葉遊びとは……我が正義は姫様のもとに! それだけである!」

 

「私ならば、“悪をなして巨悪を討つ”!」

 

「「「「「…………………………………………………………」」」」」

 

シ~~~~~~~~~~ン。

 

 ゼロの言葉に場は静まり返り、静寂な時間が数秒間ほど過ぎる。

 

「(スヴェン、いやスバル! どうしたというのだ?!)」

 

 そしてゼロは焦り出してダラダラとした大粒の冷や汗を流していた。

 

 ……

 …

 

『私ならば、“悪をなして巨悪を討つ”!』

 

 上記の言葉をゼロが高らかに宣言する同時刻、トウキョウ租界が成り立つ基盤の階層構造を操作する調整室のスピーカーから流れる。

 

「(クソ、タイミングが悪すぎる。)」

 

 その画面を背中に、ライダースーツにフルフェイスヘルメットの姿になっていたスバルはそう思いながら、ホルスターから抜き取った拳銃を出入り口にいるライ(仮)に向けながらゼロ以上の冷や汗を掻いていた。

 

 本来、ここでルルーシュがギアスで洗脳した作業員が階層構造を緊急パージさせていた。

 だが未だに心を完全に鬼にできていないルルーシュの指示で、スバルは作業員たちの気を失わせて避難させてから緊急パージの準備をしていた。

 『これから』というところで背後から気配を感じた彼は振り向くとライ(仮)が居たことで、キョドリならもポーカーフェイスを必死に維持しながら拳銃を抜き取って現在の『一触即発状態』に陥っていた。

 

「ブラックリベリオン……いや、バベルタワー以来だな?」

 

「君に対して僕に渡された命令は変わらない。 お前を連行する、たとえ亡骸となっても。」

 

「今は、取込み中だ────」

「────僕には関係ない。」

 

「……つくづく会うタイミングが最悪だな、ライ────?」

「────『銃を降ろせ』────」

 

 ズッ!

 

「────ウッ?!」

 

 ライ(仮)の命令にスバルは自分の上げていた腕が重くなったことに声を出すとライ(仮)は一瞬で接近し、スバルの拳銃(コルト)へと手を伸ばす。

 

 バンッ!

 

 相手の急接近を見たスバルは威嚇に発砲するが、ライ(仮)は銃口の向きから弾丸の軌道を読み取って当たらない確率の方が高いことを察してそのまま走って銃のスライドを掴み、レバーを押しながらスライドを抜き始めると同時に弾倉取り出しボタンが押されると弾倉が重力によって下に落ちていく。

 

 「(ぬわにぅいぃぃぃぃい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛?!)」

 

 これを見たスバルは盛大に驚愕する。

 

 一昔前のアクション映画などでこの様な『銃撃戦中に相手の武器を分解する』という演出は珍しくも何もない。

 

 ただしコードギアスの世界で銃などの類は『火薬式』ではなく『電動式』を主流にしてある所為で、燃焼ガスの圧力で後退する薬莢の運動を利用した自動装填式銃器の作動方式────いわゆる『ブローバックシステム』を活用するスライドなどを銃に使ったりなどしていない。

 

 つまりライ(仮)は以前の接触と、ついさっきの出来事(発砲)でスバルが(コードギアスの世界で)復活させた火薬式の銃の構造と動作を理解し、瞬時に無効化させる手段を見抜いたという事になる。

 

 スバルは分解された拳銃から手を放し、ライ(仮)が出す拳銃を握った手首を掴む流れで肘内を食らわせながらライ(仮)がしたように弾倉取り出しボタンを押す。

 

 ガチン

 

 ガチチチチチチチチ!!!

 

 二人は手に持っていた拳銃の部品(弾倉やスライド)などをお互いの顔面目掛けて投げてはもう片手でナイフを取り出し様に切りかかると金属同士が当たった時に出す独自の耳鳴りがするような音共にチリチリとした火花を放つ。

 

「(ラビエ親子のスーツを着用していなければ、今ので負けていた────)」

 

 グィィィィィィ!!!

 

「(────うおぉぉぉ?!)」

 

 スバルは盛大にテンパりながらもレナルドとマリエルが開発していた歩兵用強化スーツをライダースーツのインナー代わりに着ていたことに感謝していたが、すぐに相手の入れる力が増加したことに冷や汗を掻き始める。

 

「(ぬおおおおお! 力強いぃぃぃぃぃ?! どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう?!) ら、ライ! 待て!」

 

 バベルタワーからの傷が全快していないからか、徐々に力負けするスバルは焦ってどうにかして注意をそらそうとした。

 

 「……それは、ボクの────?」

「(────いまだ!)」

 

 ボソリと声を出したライ(仮)の隙を狙い、後ろに押されていたことを逆手に取ったスバルはそのまま素早く横に避けるとライ(仮)は前のめりに転びそうになることを何とかつま先で踏ん張る。

 

 そのままライ(仮)めがけてスバルが拳を振り下ろすのを横目で見て、ライ(仮)はそれを避けると重い音でスバルの拳が階層構造管理室のコンソールに直撃する。

 

 ピー!

 

 電子音と共に画面には『*注意*階層構造パージ確認』と書かれていた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「(『時間に意味はない』!)」

 

 フッ。

 

「……消えた? それに……」

 

 体中に響く轟音が始まるとほぼ同時に姿を消したスバルに対し、ライ(仮)は崩れる周りを見ながら平然とした口調のまま独り言を発してからその場から走り出す。

 

 ……

 …

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

『地震?!』

『いや、この地鳴りはブラックリベリオンの────?!』

『────マズい! 総員、散開せよ!』

 

 本国から来たブリタニア軍は狼狽え、ブラックリベリオン時に活躍したグラストンナイツやヴィンセントの中に居たロロやギルフォードはすぐに今の状況に気が付いては共倒れになることを避けるために十分な距離をお互いから取る。

 

 ドォォォォォォォォン!!!

 

 ブリタニア軍と人質にされていた黒の騎士団を載せたトレーラーが突然上昇しながら傾き、次第に中華連邦領事館の手前に衝突し、トレーラーやナイトメアや装甲車が投げ出される。

 

「フハハハハハハハハハハハ!!! (時間差はあったが、想定内だ!)」

 

 ルルーシュ────否、ゼロは今にも鼻歌を歌いたくなる安堵に内心ほっとしながら、ナイトポリスから借りた盾で『スノボー』ならぬ『シールドサーフィング』で傾いた地形を滑り出す。

 

 ガリッ!!

 

「ゼロ?! 私を踏み台に?!」

 

「ヒャッホウー!」

 

 一瞬だけ『波乗り電気ネズミ』ならぬ『ギルギル顔面乗りゼロ』であった。

 

「うわぁぁぁ!」

「G,G1ベースが?!」

 

 配置されたG1ベースもとうとう傾いた地形に抗えず、滑り出すと逃げ遅れたグラストンナイツ含むブリタニア軍に迫る。

 

 「どっせぇぇぇぇぇぇい!」

 

 ガッ!

 ガリガリガリガリガリガリガリ!

 

「黒の騎士団機────?!」

「た、助かった────?」

「何故俺たちを────?」

 

『────今です! 総員、()()()()に基づき()()()()()()()をこれより行います!』

 

 一回りサイズが大きい月下(に偽装されたガニメデ・コンセプト)に乗ったダルクがG1ベースを止める行動を合図に、レイラの掛け声に黒の騎士団とアマルガムの者たちが『人命救助』という大義名分の下で一斉に動き出す。

 

『『『『『了解!』』』』』

 

「(なるほどな。 治外法権区内での『人命救助』ならば『国際問題』どころか政治的に利用できる……考えたな、レイラ・マルカル。)」

 

 実はこの案、一連の予測をしたレイラから聞いた毒島が付け加えたものである。

 桐原辺りが聞いていればきっと手拭いで涙を拭きとりながら『やはりワシの冴ちゃんは世界一ィィィィ!!!』と年甲斐もなく高らかに叫んでいただろう。

 

「黒の騎士団! 聞いての通りだ! 我等が同志を救うぞ! (その間に────!)」

 

 こうして黒の騎士団の歩兵が人質を解放していく間、アマルガムと黒の騎士団のナイトメアたちは()()()()()()()()()を行っていった。

 

『貴様! イレヴンごときが────』

『────はいはいはいはい、危ないから武器は手放そうね~ねぇ~────?』

『────こ、子供の声────って、うわぁぁぁぁぁ?! ちょ?! 待っ?! は、放せ!』

 

 ちなみにその『人命救助』の中に、パイルバンカーなどによる『物理的な武装解除』が果たして入るかどうかは微妙なところである。

 

「ゼロ、やっぱり逃げるんだな。」

 

 その間、ゼロの操る無頼は人命救助どころかそのまま領事館内に駆け込むような動作をしたことでロロは冷静にヴィンセントで追う。

 

「やはり追って来たか! (もう少し! あともう少しなんだ!)」

 

 ダァン!

 

 逃げるような移動をするゼロの無頼を狙ったグラストンナイツが狙撃銃を撃つ。

 

「え?!」

 

 放たれた弾丸はちょうど無頼を追っていたロロのヴィンセントへと一直線に向かう。

 

 軽いおさらいだが、他者に対して圧倒的なほど効果的なギアスのおかげ(あるいは所為)でロロは暗殺者として破格の能力を保有している。

 

 故に彼自身の技術や操縦能力は中の上辺りであり、ロロのギアスはあくまで『体感』を止めるモノでありエルのジ・アイスやスバルが使用する特典の一部の様に『物理現象』までは干渉できない。

 

「(ダメだ、直撃する?!)」

 

 ロロがここまで考えるのに要した時間、僅か3秒であった。

 

ガァン

 

 そしてゼロの無頼が反転してヴィンセントにあたる筈だった弾丸を代わりに受けたのも3秒である。

 

「おわぁ────?!」

「────兄さん?!」

 

 腕を文字通りに撃ち抜かれた無頼は転倒し、ゼロの周りにあるスクリーンは全てエラー表示に変わり自動で発動するはずの脱出機能にも支障が出るほど被弾していた。

 

『なんで、僕を庇った?!』

 

 ヴィンセントは直通通信で思わずそう問いかけた。

 

 彼からすれば、ゼロは『わざわざ敵である自分を排除する絶好のチャンスを自ら潰す』と言った奇怪な行動でしかなかった。

 

『お前が、弟だからだ……備え付けられた嘘の記憶が元だったとしても、共に過ごした時間は本物だ。』

 

 流石に破損具合が酷かったのか、ゼロからの通信にはノイズが混じっていたが上記の言葉はロロに確かに伝わっていた。

 

『そんな……そんなくだらない理由で?!』

 

『昨日、言ったはずだ……“新しい未来の為”だと────』

『────ゼロ! 貴様の命、もらい受ける!』

 

 オープンチャンネルで放たれたギルフォードの声に、ヴィンセントが見ると彼のグロースターは持っていたランスを横たわっていたゼロの無頼へと投げていた。

 

 ガッ!

 

「ぁ。」

 

 気が付けば、ロロは訳が分からないままヴィンセントでギルフォードの攻撃を阻止していた。

 

『な?! キンメル卿! どういうつもりだ?! まさか、ゼロの仲間────?!』

「────あ。 いや。 こ、これは! 彼が死んだら任務に支障が────!」

 

 ────プルルルル。 プルルルル。

 

 丁度その時、ロロの携帯電話が鳴り彼が横目で見ると着信相手がヴィレッタだと見てさらにパニックに陥る。

 

『ロロ、ヴィレッタからの連絡を受けている。 とりあえず、出るぞ────』

「────あ、えっと────」

『────もしもし、なんですかヴィレッタ先生?』

 

『ルルーシュ、今どこにいる?』

 

『ロロと映画館に連れていく約束をしていましたので、映画館ですが?』

 

『ロロはどうした?』

 

『彼はトイレですよ。 それで、どうしたんですか? 様子を聞くなんて珍しいですね?』

 

『中華連邦の総領事館の事は知っているか?』

 

『ああ、そう言えば周りの人たちが何か言っていましたね。 何かあったんですか?』

 

『……黒の騎士団とブリタニア軍が睨み合いする中でゼロが現れた。』

 

『わかりました、じゃあロロがトイレから出たら俺たちは真っ先に学園に戻りますよ。』

 

『ほぉ? いつも思うが、弟想いなんだな?』

 

『そんなの当たり前じゃないですか。』

 

 ロロはパニックから思考停止する一歩手前で何とか踏みとどまるが、あれよあれよ進んでいく周りの状況に流されて脳内がぐちゃぐちゃになっていく。

 

「ボ、ボクは! ボクは! ボクは────?!」

『────俺が、俺たちの未来を手に入れる────』

「────ボクはぁぁぁぁぁぁ────!!!」

『────ロロ、安心しろ。 俺がいる。』

 

 中華連邦からの正式な外交的抗議にヴィンセントの中に居たロロは頭を抱えて、母体の中にいる胎児がするように体を丸め、通信から三つのように甘い言葉をゼロが送る。

 

「(……やはりギアス()()が取り柄だったことを無自覚にとはいえ存在意義にしていたのが仇となったな。 俺そっくりの奴に渡された紙に“ロロは実の弟の疑いあり”などと書かれたから取り敢えずは()便()におとしたが……ナナリーがいるべき場所に平然と居座る貴様などさんざん使い倒して、ボロ雑巾のようにあっさりと捨ててくれるわ! フハハハハハハハハハハハハハハ!!!)」

 

 ゼロの仮面の中で、静かに今作で一番の愉悦に浸りながら『悪い顔(悪人面)』をするルルーシュだった。

 

『原作で見飽きるほどしていたじゃん』?

 それは言わない約束というモノである。




次話であの子たちが出る予定です。 (´ε`;)♪~


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第190話 少しほのぼのとした時の咆哮

お読みいただきありがとうございまあう、少々長めの次話です!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 予期されていた黒の騎士団(もしくはゼロを名乗る首謀者)の公開処刑の妨害で披露された鮮やかな手並み、知略、大胆さなどがよりにもよってブリタニアが大々的に報道してしまったことで世界は動き出した。

 

 エリア11内の名誉ブリタニア人は()()()()()()()を目指し、ナンバーズもゲットーを経由して租界に入っては領事館を様々なルートを使って入っていった。

 

 勿論、この者たちは黒の騎士団への入団希望者だが名目上は『中華連邦への入国手続き』などという事からブリタニアは明確に彼ら彼女らの移動を拒む大義名分もない上に()()()()の件もあってか、せいぜい検問所などを立てて厳しいチェックによる嫌がらせや犯罪履歴がある者たちなどを逮捕するのが精一杯だった。

 

「(それでも、黒の騎士団への入団希望者は時間が経つほど増加していき、今日の人命救助が中華連邦の手柄という事にしたおかげでブリタニアと睨み合いを続けてくれている……)」

 

 カレンはそう思いながら、シャワーを浴びていた。

 

「(藤堂さんや扇さんたちも無事に合流出来て、最初は急に居なくなったゼロの事でギスギスしていたけれど最後の通信があったことで一応藤堂さんたちが皆を納得させてくれたし、今は卜部さんたちが殺到する入団希望者たちの面接などを交代で対応していて、あのレイラって子はC.C.と一緒に大宦官と話を……そう言えば大宦官の“全ての幸せはゼロにより来たれり~”って、あれがルルーシュのギアスなのかな?)」

 

 カレンは怒涛の一日を思い出しながら、暖かいシャワー音の中でボーっとする

 

「(私がここに居ることで、本当に役に立って────?)」

「────ねぇカレン────?」

「────あ。 何、アヤノ?」

 

 ちなみに隣のシャワーにはアヤノが居て、カレンは彼女の声によって考え事を中断された。

 

「そっちにリンスない?」

 

「えっと……あった────」

「────ん。」

 

「(そう言えばこの子、レイラのように昴がEUから連れて来られたんだっけ。) ……ねぇ、アヤノ?」

 

「何?」

 

「スバルの事なんだけれど────」

 「────あああああああああああ?!」

 

 急に素っ頓狂な声をアヤノは上げ、カレンの肩が跳ねる。

 

「うわ?! な、なに────?!」

「────今考えれば、C.C.自身がバニーやればよかったじゃん?!」

 「……あ。」

 

 カレンもアヤノに言われて今気が付いたのか、似たような声を出してはリンスを急いで流してからタオルを巻いてアヤノと共にシャワー室から出る。

 

 ……

 …

 

「────今日の出来事と人命救助を材料に、ブリタニアからの引き渡し交渉は遅滞させていますので少しは持つかと────」

「────そうか、伝えておく。」

 

 別の部屋では護衛の星刻とアキト、そしてテーブルを挟んで座っていた大宦官の向かい側にC.C.とレイラが会談をしていた。

 

「(この女……ブリタニアとの交渉を有利に進める為に、わざと『人命救助』という名分で行動に出たのか……中華連邦に恩を売ると同時に、保身の一石二鳥。 やはり、侮れんな。)」

 

「(メモに書かれていた注意人物、『黎星刻(リーシンクー)』……恐らく、今日私たちが行った『人命救助』の意図に気が付いているでしょう。 ですが、まだ私たちの事を『黒の騎士団の一部』という認識を持っている筈────)」

「(────だが目的はなんだ? 如何に数がそろっても、中華連邦の本国がここを見放せば一挙に叩かれるのを承知のはずだ────)」

「(────そして彼のメモだと────)」

 「「────C.C.!」」

 

 星刻とレイラが無言でお互いの探り合いをしている所に、カレンとアヤノの声が無理やり会談を中断させた。

 

 ドタドタドタドタドタドタ!

 

「今考えてみたら、アンタがバニーやった方が良かったんじゃないの?!」

「そうだそうだー!」

 

「その割には二人ともノリノリだったではないか?」

 

「…………………………えっと。」

 

 タオル一枚で大変けしからん発育状態の身体を覆って出てきたカレンとアヤノにC.C.は平然としたツッコミを入れ、レイラは言葉を失くしてしまう。

 

 「ゼロは……女だった────?!」

「「────違うわよ!/ちゃうがな?!」」

 

「あの……早く着替えなされては?」

 

「「へ………………うひゃああああああ?!」」

 

 慌ててシャワー室を出たため、ズルズルとズレていくタオルの事をオブラートに包んで指摘したレイラに気が付かされた二人はまたも慌てながら、『バニー』だけに脱兎の如き素早さでシャワー室へと戻った。

 

「(今のが『紅月カレン』か。 だがもう一人の少女は……だとすれば、もう一度香凛(ちゃんりん)に頼んで探りを────)」

 

 チリッ!

 

「────ッ。」

 

 星刻は思わず身構えてしまい、腰の剣に手を伸ばしそうなのを意識で止めて静かな殺気の元であるアキトを見返す。

 

「(この少年の気迫……並大抵ではない修羅場を潜り抜けた戦士のモノだ。 やはり新しい客人たちの情報が必要だ。)」

 

「(こいつ、アヤノの裸を見そうになったな。)」

 

 星刻はそう思いながら黒の騎士団の探りと重要性を再確認し、逆にアキトは割と小さなこと(?)で本気の殺気を飛ばしていたそうな。

 

 ……………

 ………

 ……

 …

 

 領事館の治外法権区内に建てられていた黒の騎士団用の簡易宿舎は、その日に藤堂や扇たちが救われるより前に領事館へと来ていた入団希望者たちである名誉ブリタニア人たちでほぼ埋まっていた。

 

 その中にある二段ベッドの一つに寝転がる、コウベ租界から来た少女もその一人である。

 

 もぞもぞ。

 

 「……うーん、眠れないなぁ~。」

 

 少女────朱城ベニオは眠ろうにも胸の奥から湧き上がってくるワクワク感に目が覚めていた。

 

 彼女のようにかなり早い段階で来た名誉ブリタニア人たちは他の殺到して来た者たちより一足早く既に面接を受け、シミュレーターで軽い適正テストなどを終えて『歩兵』や『パイロット候補』などの肩書で仮入団をしていた。

 

 ベニオが示した適正はナイトメアのパイロットであり、明日はいよいよ本物のナイトメアを使った模擬戦闘が予定されていた。

 

 「正直、ナイトメアでよかった。 これなら紅蓮のパイロット、カレンさんの近くに居られる。」

 

 ベニオはかつてコウベ租界で出会ったカレンを思い出し*1、さらにはそれより前の行政特区の会場で紅蓮に助けられたことも思い浮かべた。

 

 「でもコウベ以来、一度も会っていないし私の事なんか忘れちゃっているんだろうな~……」

 

 「「「「(ええから早よ眠れやお前!)」」」」

 

 ベニオの周りに居た者たちはそう静かに思いながら出来るだけ身体を休めたそうな。

 

 

 次の日、体育館のような作りをした会場内にパイロット候補たちが集められ、眼鏡を掛けた明らかにやる気なさげの日系インド人────加苅サヴィトリ(16歳)が先頭に立っていた。

 

「今日の模擬戦を取り仕切る、黒の騎士団技術部の者です。」

 

 「子供?」

 「なんだよ、これ……」

 「マジか?」

 

 イライライライライラ。

 

 「(ああ、ウッザ。)」

 

 ひそひそとした、仮入団の者たちの声にサヴィトリは内心憂鬱な気分だった。

 

 彼女は子供の頃から聡く、実年齢以上の精神と物の理解に長けていた所為か僅か12歳で学業を修了し、父がいる研究所で『特別視が他人との壁をより厚くする』ことをラクシャータという『先輩』に学んでからは()()()より勉学に励んだ。

 

 所謂『人嫌い』とも呼べる彼女は黒の騎士団の支援の為、インド軍区からラクシャータの元へ送られたのだが────

 

「(────“ちょっと今は忙しいから代わりにエリア11内にある中華連邦の領事館へ行ってくれヨロシク~♡”ってどうしても厄介払いにしか思えないしEUの子たちが明らかに助手をやっている様子だったんですけれど~?!)」

 

 イライライライライラ!

 

「うお?!」

「なんか怖え……」

「でも良いかも♡」

「「え。」」

 

 サヴィトリはイライラし出し、彼女の気迫にビビりだした仮入団員たちを見ては深呼吸をして落ち着いたところでこれから行われる模擬戦についての注意事項の説明を再開する。

 

「今日の模擬戦は一対一で勝ち負けが明らかになった時点で負けた方が交代、あるいは私が決めた時に次の模擬戦に移ります。 使用する機体は正規用の無頼ですが極力殺傷能力は抑えられ、弾丸は実弾ではなくペイント弾でスタントンファーやスラッシュハーケンなども強化ゴム製のモノに変えられていますが当たり所が悪ければ大破されることはあり得ます。

 ですので死んでも自己責任という事でお願いします。」

 

「「「「え。」」」」

 

 サヴィトリの無慈悲な言葉に、仮入団者の何人かが上記の声を出す。

 

「(あ、良かった。 私と同じぐらいの子も黒の騎士団にいるんだ。)」

 

 対して16歳の割に色々と発育が遅い幼い容貌をしたベニオは安心し、KMFを用いた模擬戦……と呼ぶにはお粗末すぎる『喧嘩』が始まる。

 

「(『失格』。 『失格』。 『失格』。 『失格』……これじゃあ、無頼ちゃんたちが可哀想だよ。) ハァ~……」

 

「あ、おはようサヴィトリ────」

 「────あ、カレンさん!」

 

 サヴィトリは憂鬱なままため息を吐き出すと後ろからカレンが声をかけられ、彼女の表情は明るくなる。

 

 人間嫌いなサヴィトリでも、ほぼエリア11に着いて初日からカレンの活発&明るい性格に(ほだ)されていた。

 後はカレンの専用機である紅蓮を、間近で解析できたことも大きい要因であったのは間違いないだろう。

 

「どうしたんです、こんなところに?」

 

「『こんなところ』って……ほら? 私、一応『黒の騎士団のエース』らしいし?」

 

「『らしい』じゃなくて、元一般人とは思えないほどの操縦技術に知識に教養を兼ねそろえたエースですよ!」

 

「いや、まぁ、その……そうやって褒められても……全部私自身のおかげじゃないし────」

「────何か言いましたカレンさん────?」

≪────う、ううん?! 何もぉぉぉオホホのホホヨ?!≫

 

「???」

 

 急に焦りだして日本語を口にしたカレンにサヴィトリはハテナマークを浮かべながらも横目で模擬戦の様子を観察しながら、次々と『失格』の烙印をタブレット端末に押していく。

 

「それで、合格は何人ぐらいいるの?」

 

 「まだ誰もいません。」

 

「……え?」

 

「カレンさんと比べると、今までの人ってお粗末すぎて最初の数秒間でどれだけ下手くそか分かってしまいます。 月と地中に潜む菌の差です。

 

「あ、相変わらず辛辣ね?」

 

「本当の戦場なら出撃した瞬間に瞬殺ですよ? ナイトメアが泣きますよ? そのくせ“やる気だけは人一倍あります!”とかクッソくだらない前口上をしながらイザ模擬戦となると子供の喧嘩みたいな殴り合いをするかへっぴり腰の銃撃戦とか……………………どうせならそのまま裸丸出しで敵陣に突っ込ませた方が精神的ショックを与えられますね。

 

「あ、あははは……」

 

 辛辣な(平常運転の)サヴィトリに、カレンは乾いた笑いを出す。

 

コウベから来た朱城ベニオ、16歳!やる気だけは人一倍あります!

 

「……………………」

 

 無頼の上から高らかにそうベニオが宣言した瞬間、目からハイライトが消えたサヴィトリの半開きになった口から『やる気』と書かれたエクトプラズムっぽい何かがボワァと出ていく錯覚をカレンはしたそうな。

 

『ネタが古い』? ただいまそのような言葉は受け付けておりません。

 

 ベニオの騎乗した無頼は相手、そして観客にお辞儀をすると笑いが会場内に響く。

 

「あれ……そう言えばあの子の声、どこかで────?」

 

「────はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……(これまた一段と低レベルな子供が……って16歳?! 私と同い年?!)」

 

 カレンは聞き覚えのある声に腕を組みながら首を傾げ、サヴィトリは面接のときに作成された彼女の資料を見てビックリする。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「オイあの子、これで何人目だ?」

「さ、さぁ……10までは数えていたが……」

「15……17人ぐらい?」

 

 あれからベニオは『初めてKMFに騎乗した』という事が詐欺かのように、ことごとく相手の無頼にほぼ確実な勝利を収めていった。

 

「……………………」

 

 最初は“まぐれ”、“ビギナーズラック”などと言っていたサヴィトリも次第に口数が少なくなっていた。

 

「(あ! 思い出した! コウベの時に、逃がしてくれたバイトの子だ────!)」

「────かなり良い腕をしているな────」

 「「────おひゃああああああああ?!」」

 

 いつの間にか背後に立っていたライダースーツとヘルメットをしたスバル(森乃モード)の声にカレンとサヴィトリ双方は驚きから叫びを出す。

 

「??? どうした────?」

「────いるならいるって言ってよ?! というかアッチ(学園)は大丈夫なの?!」

 

「ああ、(ルルーシュのおかげで)問題ない。」

 

 ……

 …

 

「あれ? 今日はルル、一人? ロロやスヴェンは?」

 

「ロロは体育の補習、スヴェンなら今日は具合が悪いって。」

 

「ふーん……それよりもさ! ヴィレッタ先生のプレゼント選び、途中だったでしょ?! だから今からもう一度出かけ────?!」

「────問題ない、もう買ったよ────ってどうしたシャーリー? お前も調子が悪いのか?」

 

 学園でのルルーシュは今日も平常運転であり、機密情報局の者たちにギアスをかけていたがそれが出来ないヴィレッタをどうやって『懐柔』するか頭を悩ませていた。

 

「(何故よりにもよって書類がこうも多い時にスヴェンは……ええい! 奴とゆっくり話が出来る時間と場所がない! 昨日も藤堂たちを救出してからはそれどころではなかったというのに!)」

 

 後は追記で何らかのイベントを企画している所為でいつも以上に増えている書類にルルーシュは内心イライラしていた。

 

 ……

 …

 

「というかさ、スバル? アンタ、ちゃんと寝られているの?」

 

「ああ。 昨日は4時間ぐらい寝たぞ────」

 「────それは『寝た』って言わないの────」

「────それにちゃんと声はかけたぞ?」

 

「え? そうなの?」

 

「何度もな。」

 

「う……ゴ、ゴメ────」

「────だけど空を見上げるニワトリみたいに、ポカンとしたお前の顔が────」

────も、もう! もぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!

 

 バシ! バシ! バシ! バシ

 

「いて、いて、いて、いて。」

 

 驚きからか(あるいは照れなのか)、顔が赤くなっていくカレンはスバルの肩や胸を平手で叩く。

 

「(出たわね、『スバル』。)」

 

 逆にサヴィトリは一気に冷静になりながら、浮かび出てきそうだった『嫌悪感』を隠した。

 

 実はサヴィトリ、スバルの事をデータ上やラクシャータが人工島で話した彼の『技術者』&『パイロット』に関して色々と聞いていた所為で期待を寄せていた。

 

 実物を見るまでは。

 

「(正直、実際の彼は凡骨で人前に出るのが嫌いな陰険で秘密主義で、そのくせ藤堂やカレンさんと馴れ馴れしいだけの冴えない男だったわ。)」

 

 逆に期待を寄せられていた事を知らず、何かと自分の周りに居たがるサヴィトリの前では『極力目立たないただの黒の騎士団の整備班の手伝い役』にスバルは徹していたとここで追記する。

 

「(拍子抜け……いいえ、落胆も良いところね────)」

『────あ、あのぉ……』

 

 模擬戦で動かなくなった相手を前に困惑するベニオの声にサヴィトリはハッとする。

 

「……………………では()()()()()()()()()()()()()()()()()。 誰でも良いので朱城(あかぎ)さんの相手になって。」

 

 一気に会場内はサヴィトリの宣言にザワつき、ベニオは心臓の脈が強くなったことに妙な高揚感を感じた。

 

「え。」

 

 カレンは目を見開いてサヴィトリを見てからやる気満々のベニオ機を見る。

 

「ふむ? (うっわ、やりやがったよこいつ……って、なんで俺を見る?)」

 

 会場内に居た仮入団者と黒の騎士団員たちはお互いを見る。

 

「流石にそれはひどくないか────?」

「『実力差のある相手』、っていう設定だろうけど────」

「うーん────」

 「────何ビビっているんだお前ら?!」

 

 その時、『()()』が現れたのだった。

 

 「情けねえ! いいぜ! ここはゼロの親友、玉城様が『世間の厳しさ』って奴を教えてやるよ!」

 

 *注*『勇者』とは本来、『()気ある()』の事を示す言葉である。

 

 「うわ出たよ、玉城のアレ。」

 「自称“親友”……」

 

 黒の騎士団たちの何人かはジト目で無頼に乗り込む玉城を見送った。

 

「あ、あのゼロの親友?! (そ、そんな人が私の相手に?!)」

 

 逆にベニオは玉城の言葉を真に受けて唾を飲み込んだ。

 新人なので、無理もないが。

 

『た、玉城()()! よろしくお願いします!』

 

『おうよ! ちゃんとわかっているじゃねぇか、新入り!』

 

 玉城はウキウキしながら無頼へと乗り込むと、二人の機体はぶつかり合う。

 

 さて。

 

 ここで余談だがベニオの先天的な操縦技術はかなり良く、『類稀な能力』と呼んでも遜色ない程のモノである。

 その反面、玉城は『ナイトメアで出撃しては撃破されて作戦終了後、後方支援部隊と整備班の部隊長である井上に説教を毎度受ける』のがオチなのだが────

 

 ガン!

 

「うわ?!」

 

 ゴン!

 ドゴッ!

 

「ゴェ?!」

 

 バガッ!

 ガラガラガラガラ

 

 ────二人の無頼は衝突したと思った瞬間、玉城機はベニオ機の攻撃を受け流してはバランスを崩し、容赦のないランドスピナーの勢いの付いた蹴りを入れて瓦礫を模範したデブリを突き抜けて会場の壁にベニオ機が衝突すると女性が絶対に出してはいけない声をベニオは出す。

 

「手加減なしか玉城さん?!」

「大人げない!」

「女の子相手に最低すぎる!」

 

『ば?! バッカ野郎! あんなの初歩的だぜ?! 実戦じゃ堕とされて即死だぞ、即死! これが俺なりの優しさって奴だよ!』

 

 一気に会場内はブーイングに満ち、実戦経験だけなら豊かである玉城は今作で最大レベル級の『お前が言うな』宣言で言い訳をする。

 

 ギ、ギギギギギギ。

 

「お?」

 

 錆びついた金属同士が擦る時に出る独自の音に玉城が見ると、ベニオ機は既に戦闘態勢どころか急接近していた。

 

『うおぉぉぉぉ?!』

 

 玉城は(主に自分が受けてきた)カウンターなどでベニオ機を迎撃するが、ベニオ機はまるで機体の損傷具合を無視するかのように何度も立ち上がっては玉城に勝負を挑む。

 

 最初の5,6回までは良かったがそれが10や20までとなると、相手をしていた玉城にとっては最早『()()の塊』みたいに見えただろう。

 

「ちょ、ちょっと?! 両者そこまで! 模擬戦ですよ────?!」

『────わぁってるよ! それは新入りに言え! 止めたくてもこいつが────!』

 

 サヴィトリはベニオ機の具合に焦って勝負を中断させようとして、玉城が(いつもの)焦りを見せる。

 

「(あの子の戦い……どことなく()()()()?)」

 

 そう思いながらカレンはとなりに居たスバルを見る。

 

「(怖?! 何あれ? もしかしてあの子が噂になっている『幽鬼(レヴナント)』なのか?)」

 

 そして今度はスバルが『お前が言うな』レベルの記録を最新した。

 

「(お父さんも、お母さんも、少なかった友達も! 皆、死んだ! 私だけが生き残った! だからカレンさんが生かしてくれたこの命! カレンさんの近くで役に立つんだ!)」

 

 そしてベニオは沸々心の奥底から湧き出る、()()()()()()を目の前の『敵』に集中させていた。

 

 『────たぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ────!!!』

 『────え?! ちょ! オレは大先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃ────?!』

 

 ────ガァァァァン!!!

 

 ついに玉城のカウンターを正面から受け流したベニオ機のアッパーが、玉城の機体を吹き飛ばす。

 

「…………………………」

「(こわ! あの子、普通にこっわ! 流石コードギアス! 超高性能なモブ子がいるやんけ!)」

 

 ボーっとしながらサヴィトリは初の『合格』烙印を押し、スバルは平然とした態度を維持しなら内心が冷んやりとした。

 

「(やっぱり、似ている。)」

 

 そしてカレンはベニオとスバルの操縦の仕方がどこか似ていたことを確信した。

*1
87話より




どこぞのクラウン:そろそろ『歓迎会』に行こうかな?♦
作者:(;´д`)ゞ


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第191話 表面上(だけ)の平穏

お待たせいたしました、次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!

誤字の訂正報告してくださる方々に、感謝の気持ちと言葉を。
非常に助かっています。 誠に、ありがとうございます。 m(_ _)m


「…………………………は?!」

 

 翌朝、ベニオは見知らぬ天井をベッドの上から見上げていた。

 

「あ、気が付いた────」

 「────でっか。

 

 グサッ。

 

 そして横から『ヌン』とアヤノの上半身が視界に入ると一気に彼女の一部を見ては恨めしそうな声を上げるとメタ的な矢がアヤノを射抜く。

 

 「(図体が)デカい……」

 

「う、うーん……第一声がそれ(デカい)なのは、どうかと思うけれど────」

 

 ベニオはカレンを見て安堵し、カレンは明らかに気落ちするアヤノを見て慰めの声を出す。

 

「────あ、カレンさん?! というかここはどこ?!」

 

「医務室、覚えていない?」

 

「“覚える”って、何をです?」

 

「貴方、模擬戦で見事なアッパーを玉城さんに食らわせてそのまま丸一日気絶したのよ? で、そこからここに運ばれて来たってわけ。」

 

「う、ご迷惑をおかけ────って丸一日────?!」

「────医者の見立てでは軽い脳震盪────」

「────道理でお腹が空いていると思った!」

 

「……………………あ、うん。 そうだね。 (な~んか妙な“見覚え”の感覚。)」

 

 「ブツブツブツブツ隠し事が出来ないからってユキヤたちに仲間はずれされちゃうしアキトにはバニー見せてくれってせがまれるし好きで大きくなったわけじゃないしブツブツブツブツ。」

 

「あ、忘れる前にこれ。」

 

 カレンは近くのフォルダから紙を出すとページの上には『辞令』と書かれ、ベニオは紙を読み上げると次第に固まっていく。

 

「えーっと……“貴殿、朱城ベニオを黒の騎士団の自在戦闘装甲機部隊へと配属”────え。

 

「おめでとう、昨日の中であなたの操縦が一番上手かった。 けれど“急にナイトメアに乗れってどうなの?”と思って、扇さんたちと話し合ってみたの。」

 

「へ? どうして?」

 

「うーん……一番の理由は『訓練期間』かな? 普通、ナイトメアの訓練って一ヶ月ぐらいは時間をかけるものだからサヴィトリのやり方って“ぶっちゃけ過ぎ”というか……それにコウベの件もあるし。 あの時はありがとう……でも確かに“時が来れば分かる”って言ったけれど、まさかその身一つでここまで一直線に来るなんて相当な無茶をするわね?」

 

「えへへへへ。」

 

 カレンに褒められたと思い、ベニオがアホの子っぽい照れ隠しの笑いを出す。

 

「(あー、うん。 やっぱりこの子とスバルって無茶するところが似ているわね。)」

 

「でも、そんなことを言ったら行政特区日本の時に私が紅蓮に助けてもらっているからおあいこですよ。」

 

「……あ、貴方……(あそこに居たの……)」

 

 カレンが思い浮かべるのは一方的にブリタニア軍によって撃ち殺される旧日本人たちの景色と────

 

「────じゃあその礼、私だけじゃなくてもう一人にも言った方が良いかもね?」

 

「もう一人?」

 

「うん、『スバル』って人。 ()()ひっそりと整備班の手伝いをしているけれど私のように初期から黒の騎士団に居て、“行政特区に異変を感じたら取り敢えず紅蓮で突っ込め”って私に言ったのも彼なんだ。」

 

「ふ~ん……でもどうしてそんなことを?」

 

「う~ん……なんでだろうね? 昔から『目立ちたくないけれど人助けをしたい』っていう、優しい奴だからかな?」

 

 カレンは柔らかい表情を浮かべながら、医務室の窓から見える租界に視線を移してアッシュフォード学園に居ると思われるスバルを思い浮かべる。

 

「(本当に大丈夫かな? 学園では、()()()が来るらしいし……)」

 

 尚この後、正式な黒の騎士団の一員となったベニオは幹部たちに敬礼しながら『ビシバシ鍛えちゃってください!』と言うと、余所余所しくなった玉城が居たそうな。

 

 

 


 

 

 今日は、晴天。

 アッシュフォード学園の一つの教室を元に、ざわめきが広がっていく。

 

「本日付けを持ちまして、アッシュフォード学園に復学することになりました。 枢木スザクです、よろしくお願いします。」

 

 なんだかここんところ怒涛の連続じゃね?!

 

 いやまぁ……そう思う(スバル)も『そういやR2ってなんだか次々とラッシュした感じがしたっけ』とかで自己納得はしているんだけれどもさ?

 

 でもまさか『R2冒頭での黒の騎士団救出事変』から二日以内にスザクが来るとは思わないだろ、普通?

 

 「枢木スザクって……あのゼロを捕まえた────?」

 「『白き死神』が、学校に────?」

 「あれが、ナイトオブセブン────」

 

「は~い 静かにする! 枢木卿はエリア11配属に伴い、復学することとなった。 席は……とりあえず、ルルーシュの隣に────」

 

 そしてヒソヒソ話が耳に届く────ってちょっと待て。 なんださっきの『白き死神』は?

 二つ名?

 〇ンダム?

 〇ンダムなの?

 何時から皇歴が宇宙世紀007〇に?

 いや、『白き死神』だからホワイ〇ドールになるのか?

 

 ロー〇・ロー〇なのか────ウッ?! 頭が……

『女装』はやぶ蛇だ、ヤメテオコウ。

 

「久しぶりだな、スザク!」

 

 そこでルルーシュが書き換えられていた時の記憶通りの設定、『スザクとはただの幼馴染』と『日本が侵略されて以来の再会』という体で嬉しそうに話しかける。

 

 ここから、ルルーシュとスザクの化かし合いが────

 

「ッ……懐かしいよ、ルルーシュ。」

 

 ────あれ?

 

 一瞬、スザクの雰囲気がちょっと変わりそうだったぞ?

 今のは……『悲壮感』?

 なぜに────?

 

「────スザク君、久しぶり────!」

「────出世したよなぁ、スザク────?!

「────スザク君が戻ったって!?」

 

 そこにシャーリーとリヴァルがこらえきれなくなったのか席から立ち上がり、ミレイははまだ授業中というのにわざわざ抜け出してタイミングを計らったような登場をする。

 

 そしてルルーシュは次にこう言う! “会長、授業中ですよ?”と!

 

「会長、一応授業中ですから……」

 

 ……一字一句といかなったが、良しとしよう!

 流石にこの世界で物心ついてからもう10年プラス、コードギアスに関しての記憶も薄れて────

 

「────ああ、久しぶりスヴェン。」

 

 おおおっと『優男』の仮面、着用!

 

「ええ、久しぶりですねスザク。」

 

「ちょっと疲れている様子だけれど、大丈夫かい?」

 

「ええ、お嬢様(カレン)を探す旅から帰ってきては最近まで少々ゴタゴタしていましたので。」

 

「…そうだよね。」

 

 なんかマジでスザクが思っていたより弱々しく見えるだけれど、気のせいだろうか?

 

 ……

 …

 

「────それでねぇ? 私たち以外殆んどが帰っちゃったの! 先生もよ?!」

 

 その日の昼休み、R2でも見た生徒会メンバーによる『プチお帰りスザク会』が開かれていた。

 

「“帰った”って、ブリタニア本国に?」

 

「と新大陸かな? だから今ここでスザクを知っているのは殆んど居ない。」

 

「そっか……道理で知らない顔がいっぱい居ると思ったよ。」

 

「ッ。」

 

 原作同様にちょっとぎごちない様子のロロは、スザクの視線が自分に向けられると目を逸らす。

 

 ズビビビビビー。

 

 そして何故か俺の隣でなるべく静かにポワっとした様子のライラ皇女殿下が音を出しながらジュースを飲んでいる。

 ……本当に皇女だよね?

 

「なあスザク? ゼロの顔、見たんだろ? どんなヤツだった?!」

 

 うわ。

 そう言えば世間的に『ゼロを捕獲したのはスザク』ってことになっていたんだっけ。

 

 そんなリヴァルの隣に座っていたルルーシュは……スゴイな、平然としている。

 

「実は女の子だったとか?!」

 

 C.C.が影武者をやっていただけに、ミレイもあながち間違っていないな。

 

「実は二重人格者のクロヴィス殿下って噂は?!」

 

 「おm────!」

 

 ────おおおおおおっとここはやはり反応してしまいますかライラさんそうですかと言う訳で口の周りをハンカチで拭き拭き~♪

 

「────フギュ~。」

 

「ライブラさん、口の周りにジュースが付いていますよ?」

 

 誰も見ていないな? ……よし、皆ゼロのことを乾いた笑いでのらりくらりと躱すスザクに注意を向けているな?

 

 セェェェェェェェェフ!

 多分。

 

「じゃあどこかの国の皇子様だったとか?」

 

 シャーリー……ピンポイント過ぎるぞ?

 

「ゴメン、話せないんだ。 軍の機密事項で────」

 

 ────ガブッ!

 

 い゛?!

 

「あ、アーサーです!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 俺の手首にアーサーガガガガガガがががが。

 

「あ、ほんとだ!」

「スザク、連れてきていたの?!」

 

「えっと……気持ちは痛いほどわかるよスヴェン。 大丈夫かい?」

 

 スザクの哀れみがこもった視線が地味に痛いぜよ。

 

 だが残念だったな?! レイラのエリザやジプシー婆たちの猫のおかげで噛まれ慣れているのだ!

『耐性』とも言う。

 

「……もう慣れた。」

 

 俺の口下手ぁぁぁぁぁぁ。

 

「「「いや、“慣れた”って。」」」

 

 シャーリー、リヴァル、ミレイ、ナイスなツッコミだ。

 

「あははははは。 本当にスヴェンとスザクは猫に好かれるんだな?」

 

 ルルーシュ殿、貴殿の目が『いい気味だ』と拙者に訴えているでゴザルヨ?

 

「アーちゃん、こっちくるです!」

 

 ライラがアーサーをすくい上げて抱きかかえるとアーサーが大人しく噛むのをやめてゴロゴロと喉を鳴らしながら額をこすりつける。

 

 …………………………なんだか負けた気がする。

 

「……」

 

 そしてスザクがほっこりとした表情を浮かべる。

 

 ……ナンデ?

 

「あ、そうだ! スザク君の歓迎会をやろうと思っているの────!」

「────なるほど、俺に書類の処理を丸投げした理由はそれでしたか会長。」

 

 Oh……

 片手で数える程しか見ない、“う~ら~む~ぞ~”と言う幻覚が聞こえるようなジト目ルルーシュが降臨。

 

「だってしょうがないじゃない? お祖父ちゃん(理事長)だって急に“ラウンズが来るどうしよう?!”って慌てていたんだから。」

 

 ミレイも華麗なスルーをするぅ!*1

 “幼馴染は伊達じゃない!”ってか?

 

 この流れから推測するに、スザクは『“ルルーシュがゼロとしての記憶が蘇った?”という疑惑を持ってエリア11に来た』っぽいな。

 

 という事は、()()()()も来るという事か。

 

 トリスタンだけに『トリ頭の()()』をしているジノ・ヴァインベルグと、『作中で恐らく一番激ヤバで身勝手な愉悦キャラに憑依されているアーニャん』ことアーニャ・アールストレイム。

 

『ラウンズが三人一か所に送られてくる』なんて、かなりオーバーな気がしないでもないがそれだけ『ゼロ』という存在の復活をスザク────そして彼のバックに居るブリタニアが危惧しているという事だ。

 

 だがスザクたちが居ても、原作よりかなり良い状態だから問題はないだろう。

 

 ロロはルルーシュに協力的な筈だし、C.C.が学園に置いてきたチーズ君は『チーズ君ファミリー』となっている上に『オズ』の『学園占拠未遂』時に毒島に回収させているから、C.C.がわざわざ来る理由はほぼない。

 

『世界一のピザは』だと?

 フッ。

 俺を誰だと思っている?

 既に大量の手作りピザを彼女の分含めて中華連邦の領事館で作ってきたわ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 ……なんか変なテンションになるの、やっぱり寝不足気味だからな?

 

 まぁいいや。

 

 これからは歓迎会もあることだし、スザクがナナリーをルルーシュに話しかけさせても大丈夫だろ。

 

 ……………………タバタッチの着ぐるみを着たカレンが見れないのは残念だけれど、ノー問題だろう。

 

 ()()がある筈だしな♪

 

 

 


 

 

 学園の地下にある機密情報局の司令室はヴィレッタ、スザク、そしてロロの三人だけが居た。

 

「突然来るような感じですまないね、ヌゥ中佐────いえ、ヌゥ男爵と呼べば良いのでしょうか?」

 

「枢木卿に気を使われるのは少々……ですが呼び名はどちらでも。」

 

「じゃあやっぱり『学園』という事でヴィレッタ先生と……って、どうしました?」

 

「い、いやお気になさらずに……ここに来られたのはやはり、『元祖ゼロ(ルルーシュ)』と『新たなゼロ』の出現に関係でしょうか?」

 

「……ヴァルトシュタイン卿が言うにはね。」

 

「ナイトオブワンのヴァルトシュタイン卿がですか???」

 

 スザクの歯切れの悪い言い方に今まで黙っていたロロが困惑する。

 

「(ナイトオブワンのヴァルトシュタイン卿……ならば皇帝陛下の御言葉と見ていいだろう。) 彼と接触されてみて、枢木卿は何か気づかれた点等はありますか? やはり……ルルーシュなのでしょうか?」

 

「今日一日、それとなく接してみたけれどまだわからない。」

 

「なら、やはり『対象の記憶は戻っていない』と判断して────」

「────ロロ。 ゼロに関することとなると即決は良くない。 今まで通り、弟役を頼む。」

 

「ッ。 イエス、マイロード。」

 

「ヴィレッタ先生、『C.C.が現れた』という報告は未だに上がっていないのですね?」

 

「ええ、残念ながら……」

 

「それは、もう一つの任務の支障ゆえでしょうか?」

 

「自分で言うのもあれですが、相応の人員を確保しているのでそれは無いかと。 ですが三日後に、生徒会主催で枢木卿の歓迎会を行うようですのでC.C.がその時の人混みに紛れて学園内に現れることも予想して監視を強化する予定です。」

 

「分かった。」

 

 スザクは立ち上がり、指令室を後にして地上へと通じるエレベータに乗り込む。

 

「(ルルーシュ……何でゼロをもう一度、名乗り出たんだ? これじゃあ僕は、君を……いや、それよりもヴァルトシュタイン卿の件だ。)」

 

 スザクは先日、アイダホの騒動後にニューロンドンへ着くとビスマルク(ヴァルトシュタイン卿)から『餌の確認を行え』と言い渡されていた。

 

 この時の『餌』とはC.C.をおびき寄せるルルーシュの事であり、『アーカーシャの剣』の発動に彼女が必要なことを以前にシャルルからスザクは聞いているので何ら不思議はない筈……………………なのだが────

 

「(────今までは皇帝陛下が直接、勅命を言い渡してきたのにどうして今回に限ってはナイトオブワンを通したモノなんだ?)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「そこまでだ!」

 

『それは ナイトオブセブンとしての判断ですか枢木卿?』

 

「そうだ。」

 

 ほぼ同日、トウキョウ租界の政庁に見慣れない飛行物体が突入し、ナイトメアに変わって警護に当たっていたグラストンナイツたちとにらみ合いをしていたところで焦ったスザクはラウンズの権力を使って無理やり戦闘行動を止めさせた。

 

「おお! スザク~!」

 

 見慣れない飛行物体兼ナイトメア────トリスタンの開いたコックピットハッチからジノがのほほんと顔を出してスザクに声をかける。

 

「ロイド伯爵から伝言! “いつもの土壇場での無茶ぶりは慣れているから間に合わせる”ってさ!」

 

 実は以前のアイダホで新装備を追加されたランスロット・コンクエスターなのだが、ロイドは『仕上げた』と言っただけで実戦を想定した調整等出来ていなかった所為でスザクの『被害を最小限に抑える』方針の機動戦でガタがすぐに出てきた為、ロイドは(アイダホで得た実戦データを使って)もう一度ランスロット・コンクエスターの見直しをしていた。

 

 ここまでは良いのだが────

 

「(────あれ? ジノにランスロットを持ってくるように頼んだだけなのに、なんで通信じゃなくてわざわざトリスタンで来ているんだ?)」

 

 スザクの思い浮かべた疑問を答えるには、二つの事が関係している。

 

 一つ目はバベルタワーで目撃情報があった『黒いランスロット』に関して、ロンゴミニアドファクトリーに問い合わせが来たことでセシルが急遽ロイドを問い詰めたこと。

 

 ちなみにその時のロイドはいつも以上に顔色を白くさせながら『知らない知らない僕知らないぃぃぃぃぃぃ!』と以前のトラウマを刺激されてニーナ級の顔芸を披露しながら頭を抱え、更なる調査の所為でコンクエスターの見直しが遅れていた。

 

 そしてもう一つの理由は────

 

『────もうおしまい?』

 

「みたいだぞ、アーニャ。」

 

『そ。』

 

「モルドレッド?! アーニャまで?!」

 

 政庁内部に、通常のナイトメアのコンセプトに真正面から喧嘩を売るような砲撃性能と防御力を誇る重量級のモルドレッドが騎乗者のアーニャの退屈そうな声と共に入ってくることにスザクは驚く。

 

「(何で? ジノは僕が頼みごとをしたから、来るのはまだ分かる。 でも、なんでアーニャまで────?)」

「────なぁスザク? お前、ここで庶民の学校に通っているんだろ────?」

「────は────?」

「────なんだか面白そうだから俺らも入学させてくれ!」

 

 「…………………………………………は?」

 

 尚ここでジノが口にした『庶民の学校』とはアッシュフォード学園の事で一般的なモノから見れば決して『庶民』ではないのだが、あくまで名門貴族出身のジノからすれば『庶民に見える』。

 

 らしい。

 

 ジノのあっけらかんとした言葉にポカンとしたスザクの近くにモルドレッドが着陸し、へそ丸出しハイレグパイロットスーツを着用したアーニャが降り立つ。

 

「ジノはトリ(頭)だから言葉足らず。 無視。」

 

「アッハッハッハ! アーニャは相変わらず厳しいな! まぁ、『学園に興味がある』のは本当の事だが────」

「────目的は『ゼロによる不穏分子の活性化への抑止力』。」

 

「だな!」

 

「(……確かにゼロの復活宣言で触発されたのはアイダホだけでなく、世界中に広がりつつある。 エリア11でも既に数か所からテロの報告が上がってきていると聞く……それでも、ラウンズを三人も一つのエリア────それも比較的に陸地が少ない島国に集める理由になるのか?)」

 

 スザクが思い浮かべるのはゼロに撃たれ、下半身が不自由になってからほとんど表舞台に出ることが無くなったがブラックリベリオン時にコーネリアの代わりに自ら皇族の肩書を使ってブリタニア側の兵士や市民双方の犠牲を大幅に軽減させたクロヴィスと、この頃ギルフォードに『ギルギルマン』というあだ名を付けた天真爛漫なライラだった。

 

「(……例え皇族が二人いるとしても、そこまでの戦力を集中する理由になるのか? 一人は皇族らしくないとしても。)」

 

 スザクは『皇族らしくない』と思い浮かべた瞬間、胸の中で浮かび上がったモヤモヤした気持ちに思わず胸ポケット────より正しく言えば『騎士の証』が入っている胸ポケット────に手を添える。

 

「(ユフィ……僕は……」」

 

 ……

 …

 

「兄さん。」

 

 エリア11とは別の場所で、珍しく()()()()()V().()V().()()話しかけていた。

 

「ん? なんだいシャルル?」

 

「何故、ビスマルクを使って枢木たちを動かしたのです?」

 

「世界に疎いシャルルでも聞いたでしょ? “ゼロが復活した”って。 なら君の息子が『ゼロへの対抗馬』に仕立て上げた彼と、援軍に戦力となる親しい友人たちを送るのが適任じゃないのかい?」

 

「ゼロは単なる戦力で抑え込める相手ではないと、兄さんも承知の筈ですが?」

 

「だけど牽制にはなる。 何せ、()()がエリア11の総督に志願したんだから。 それとも何か問題でもあった?」

 

「…………確かに一理、ありますな。 ですが今までは勅命を直に出していたので、“周りに不自然と思われるのでは?”と言いたかっただけです。」

 

「あー、確かに……じゃあ次は伝えるよ………………シャルル。」

 

「なんです、兄さん?」

 

「エデンバイタル教団の事、残念だったね?」

 

「それは私より、嚮主である兄さんが残念なのでは?」

 

「“設立者としてどう思う”、と聞いたつもりだけど?」

 

「あれは兄さんの支援の為に立ち上げただけで、実際の方針や行動は嚮団に任せていたので“どう”と聞かれても困りますな。」

 

「……そっか。 (結局マッドをどれだけ尋問(解剖)して記憶を漁っても繋がりはなかった……気の所為だったかな?)」

 


 

後書きEXTRA:

ユフィ:あ、エルさん! ちょっと良いですか?!

エル:なんだい、ユー?

ユフィ:えっと……エルさんに頼みたいことが────

ピンクちゃん:────ナンデジャイ!

*1
アキト:流石シュバールさんだ




後書き余談:

皆様の『ここ好き』を見て笑う作者でした。 ありがとうございます。 <(_"_)>


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第192話 『歓迎会』と言う名の爆弾

お待たせいたしました、少々長めの次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m




「お待たせしました~! ただいまより、ナイトオブセブンの歓迎会を始めま~す! 主賓、挨拶を!」

 

「あの、言わないとダメですか?」

 

 生徒会用の放送室の中でマイクを渡されたスザクは困惑しながらも困った顔で周りを見る。

 

 リヴァルは苦笑いをスザクに返し、シャーリーとライラは明らかにワクワクして待っていて、ルルーシュは憐れむ目を向け、スヴェンに至ってはアーサーに足首を噛まれながら笑っていた。

 

 ハイライトが消えた目だけは笑っていなかったが。

 

「…………ダメみたいですね。 スゥゥ……にゃー!

 

 スザクがアーサー()風の声を出すとアッシュフォード学園は一気にどこもかしこも活気に満たされていく。

 

 部活の見世物のバンジージャンプや乗馬体験、屋台や衣装の貸し出しなど。

 

「(これが学園の『普通』なの?)」

 

 そう思い浮かべながらロロは生徒会の一員としてガヤガヤとした学園内のチェックをしていた。

 

 尚『ナイトオブセブンの歓迎会』とミレイは放送室で口にしたが学園の門には『アッシュフォード学園の定期フェス(Ashford Academy’s Annual Festival)』と門の上の看板には書かれていた。

 

「(…………………………なんか趣旨がズレている気がする。)」

 

 ロロはそのまま、ルルーシュに頼まれた通りにスザクをそれとなくマークし尾行をしていた。

 

 ……

 …

 

「面白いなぁ~、これ!」

 

 ピロン♪

 

「記録。」

 

 タンクトップを着たジノが物珍しそうに屋台を見回り、そしてそんな彼を後から追うゴシック風ドレスのアーニャが携帯で周りの写真などを撮りまくっていた。

 

「お前はどこに行っても何しても必ずするな、それ? で、どうする? 特にやらなきゃいけないこととか無さそうだし、『庶民の学校』ってのをもう少し見て見るか?」

 

 ドン!

 

「────うっ?!」

「────うお?! すまん、ちょっとまわりを見過ぎた!」

 

 周りを見ていたジノは思わず誰かとぶつかってしまい、反射的に謝る。

 

「いえいえこちらこそ。」

 

 ジノがぶつかったスヴェンは愛想笑いを浮かべ、人混みの中へと消える。

 

「う~ん、やっぱ前方不注意は駄目だな!」

 

「……」

 

「あれ? どうしたアーニャ? 調子悪いのか?」

 

「何が?」

 

「いつもならここでなんか小言を言うだろ、お前?」

 

「……なら正装を着ればいい。」

 

 アーニャは素っ気ない、いつもの様子に戻ったことでジノはあっけらかんと笑う。

 

「(……()()()で。)」

 

 そんなアーニャは内心でハテナマークを浮かべて頭を傾げながら、スヴェンの消えた方向をもう一度見てからジノ後を追う。

 

 ………

 ……

 …

 

「美少女から────!」

「────アダルティーなお姉様まで────!」

「「「「「────より取り見取りの水泳部カフェにようこそ~!♡」」」」」

 

 「「「「「「Foooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」」

 

 学園の競争用室内プールではスクール水着にカチューシャ、ガーターニーソ、エプロンにカフスに赤のハイヒールと少し前のクラブでも滅多にお目にかかれないマニアックな属性てんこ盛り衣装を身に付けながら色気満々のポーズを取る水泳部の挨拶に(主に男性たち)が嬉しさにはしゃぐ雄叫びが辺りに響く。

 

 ちなみに『アダルティーなお姉様』とは勿論ヴィレッタの事であり、彼女はローライズ風のボトムビキニにコルセットと一体化したトップ、アームカバーに網タイツと水泳部員たちより更にマニアックで際どい姿だった。

 

「(なんで……どうして……私が……)」

 

 そんなヴィレッタは仮面の様な、引きつった笑みを浮かべながら内心では放心しそうになっていたが、シャーリーは気にせずに周りのように拍手をしていた。

 

 元々ヴィレッタはこの日の為に監視を強化させ、指令室に籠るつもりだったのだが珍しくシャーリーと他の水泳部員たちから『歓迎会の手伝い』を頼まれた。

 

 頼みごととは『出し物の水泳部カフェ開店時に出るだけ』だったが、まさか着慣れた学園指定の水着ではなく上記の『あぶないみずぎ』級の物が用意されていたとは夢にも思っていなかった。

 

『だったら断ればいいじゃん』と話が変わるのだが更衣室の中に服装が他に無かったので仕方なくヴィレッタが着替え終わった瞬間に開店の場へと更衣室の出口からドナドナされたのだった。

 

「やっぱり先生に着てもらって良かった~!」

「ねぇ~?!」

「やっぱり違うよね~!」

「これで一位を目指すわよ!」

 

「「「「おおお!!!」」」」

 

 水泳部は明らかに『してやった』感に満ちており、シャーリーたちは話し合って自分たちの『水泳部カフェ』の人気ぶりに気合を入れる様子を、ヴィレッタは遠い目で見ていた。

 

「(あああ……せめて、この場にスバルさんが居れば────)────ッ?!」

 

 放心一歩手前になっていたヴィレッタはとある気配に思わず視線を移すと、そこにはヘルメットを外したスバル(森乃モード)の顔が────

 

「(────え?!)」

 

 彼女は思わずギョッと目を見開き、目頭を押さえてからもう一度見るとスンとした表情(ポーカーフェイス)のスヴェンが代わりに居た。

 

「(何故、私は彼と見間違えた? ……噂に聞く彼とスバルさんはかけ離れているのにどことなく、今の彼とスバルさんの視線が似ている感じがしないでもない。)」

 

 

 


 

 

 水泳部とヴィレッタのプリケツすぇくすぃー水着姿ゲットだぜぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 ムヒョへヒョホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ♡♡♡

 

 あ、シャーリーのルームメイトで同部活のソフィちゃんや?

 ワイの視線に気付いて前かがみの姿勢になりつつ、13位のお胸たちを二の腕に挟んで寄せながら『キュルン☆』も披露するなんて高等テク、素晴らしいモノをお持ち()ね♡

 

 グッジョブ♪

 

 っととと、違った。

 これでヴィレッタが仕向けたように水泳部の出し物に付きっ切りになったのは確認できた。

『決して下心がなかった』という嘘はつかな────

 

「────スヴェン先輩……もしかしてああいうのが好きなんです?」

 

 おっと、やせいのライラが出現。

 

「まぁ、皆がやる気に満ちている姿は良いものですし元気がもらえますから。 あ、でもちょうどいいですね────?」

「────へ────?」

「────ここのエリアの見回りはライブラさんにお任せしますね────?」

「────え────?」

「────私はちょっと野暮用があるので後で戻ってきます────」

「────えええええええ?!」

 

 タブレットを渡してスタコラサッサ~。

 

 「後で屋台おごってくださいですー!」

 

 それならばお安い御用だ。

 これで『ハムスターの様なライラ』も期待できる。

 

 「ライブラさん、私も付き添いますから。」

 

 「マーヤ先輩、ありがとうです~!」

 

 ナイスなフォローやマーヤたん♪

 

 俺は早歩きのままあみだくじの様な動きをし、型落ちしている古い携帯を取り出して操作する。

 えーと、ユキヤのアプリは……あった。

 場所は『本校の屋上』に入力して俺も階段を上がっていき、扉を開ける。

 

「ようやくだな、スヴェン。」

 

「ああ。」

 

 庭園っぽく仕上がっていく様子の屋上に出ると、予想通りにルルーシュがいた。

 

「去年の……()()()()だ?」

 

 う~むむむ、この言い方。 絶対に俺を試しているな。

 

 ま、答えは決まっているんだが。

 

G1ベース(行政特区)以来だ。」

 

 俺の言葉に、ルルーシュののっぺりとした仮面の様な表情が柔らかくなる。

 

「……そうか……ああ、安心しろ。 ヴィレッタ以外の機情にはギアスをかけている。 この会話のデータも他愛のない物に改善されているし、スザクにはロロを付けている。」

 

「そうか。」

 

「さて。 あの時の会話を続けたいところだが……この一年のブランクは思っていたよりも大きい。 まずはそちらの話を聞かせろ。」

 

「そうだな……どこから話を始めようか……」

 

 ハァァァァ……やっとだ。

 やっとルルーシュに話して、楽が出来る目途がつくとは♪

 今日は~♪ いい事~♪ 尽くし~♪

 

 ん~♪ 実に清々しい気分だ~♪ ギターを借りて(俺の知っている)(アニソン)の一つや二つを歌いたい、実に良い気分だ~♪

 

 

 


 

 

 スヴェンが考え込む(フリをする)仕草を、ルルーシュは目で見ながら平行思考を行っていた。

 

「(記憶が戻った時は『黒の騎士団の状況が悪い』と危惧していたがそうでもなかった。 捕らえられたのは主にブラックリベリオンで学園を死守するように命じた者たちと、卜部たちを逃がす為にギルフォードと一騎打ちを申し出た藤堂に千葉と他数名だったが先の騒動で救出は出来た。

 総領事館にいる大宦官にはギアスで支配下に置き、レイラ・マルカルの『人命救助』で一先ず黒の騎士団の仮拠点として機能できている。

 先日ようやくディートハルトと連絡がついたことで次にやるべきことに目途もついているし、何よりラクシャータ、神楽耶だけでなく桐原泰三までもが逃げきれたことは大きい。 正直に言うと……『多々の条件はすこぶる良い』と呼んでも寸分違わないだろう。 ()()()なほどに。 それに────)」

 

 ここまでの思考にルルーシュが要した時間はざっと一秒未満であり、彼は前にいる少年から目を極力離さないようにしていた。

 

「(────今までの出来事から、スヴェンが独自の戦力を保有しているのはほぼ間違いない。 それも、黒の騎士団と同等……あるいはそれ以上の、全盛期の頃とやり合える戦力を……何が目的だ? 俺を利用するのか? いや、それは間違いないだろう。 『母様(マリアンヌ)の死の真相』など、俺が長年追い求めていたことを餌にするぐらいだ────)」

「────まずは……」

 

 スヴェンが口を開けたことで、ルルーシュは相手の口調にトーンや体の仕草を見逃さないように今まで思考に割いていた集中力を全て彼に向けた。

 

「(敵となりえる要素があれば、排除も視野に入れなければ……)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………………………………………………」

 

 あれから1時間ほどが経ち、見事なまでに『ポケー』とした顔のままルルーシュは硬直していた。

 

「ルルーシュ、大丈夫か?」

 

 そんな『宇宙猫顔』のまま固まったルルーシュから反応がない事でスヴェンは少々焦っていた。

 

 スヴェンがしたのは、大まかに一期とR2の空白時間内に起きた一連の流れの話だった。

 

 最初は主に黒の騎士団に関する物ばかりだったが、話の途中でルルーシュの質問で黒の騎士団を中華連邦に避難させたアオモリ事件や、EUにて見殺しにされそうだった部隊の救出&スカウトにユーフェミアとコーネリアの再会などを仄めかす情報でルルーシュはスヴェンが口にしたこと以上の情報を推測し、自己完結していた。

 

 所々スヴェンは省いたつもりなのだが、これだけでもかなり情報過多になるかもしれないのだが、ここで更に追い打ちをかけるかのようにセントラルハレースタジアムで『ライブラ=クロヴィスの妹=皇女』を知ったことで等々『いつもは相手より情報を持っている』という優勢側に立っていたルルーシュは見事に逆の立場となり、子供の頃以来の精神的な衝撃を受けていた。

 

「(やべ、やり過ぎたか?) ルルーシュ、顔色が悪いぞ。 エチケット袋を持ってこようか?」

 

「い、いやその……いい。 だが今までの話で、俺がゼロとわかったきっかけをまだ聞いていないのだが?」

 

「(あ、やべ。 考えていなかった。)」

 

 スヴェンはポーカーフェイスを維持しながら考える。

 

「(えっと……ええええええっと? どうしよう……何か……何かなかったか?)」

 

 スヴェンは背中を預けていた屋上の手すりに肘を付けて、賑やかになったグラウンドを見渡すと丁度二人の女生徒たちが目に入る。

 

「(せや! アレがあるやないか!) 実はその……以前にアーサーがゼロの仮面を被っていただろ?」

 

 ドキィィィィ!!!

 

「(↑ひょ?!)」

 

 スヴェンの言葉にルルーシュの心臓が一際大きく脈を打ち、彼の思考がフリーズし始める。

 

「その時のアーサーをミーヤ(金髪女生徒)さんとヘレン(茶髪女生徒)さんが見た筈なのだが、急にアーサーを追っていたお前の“忘れろ、今見たことは”と命令口調に対して素直に“うん分かった”と言ったことがきっかけだな。*1

 

「(ぬわ?!)」

 

 スヴェンは必死に『コードギアス反逆のルルーシュ』のアニメを元に、それらしいことを口にする都度にルルーシュは体中から冷や汗が噴き出る。

 

「そこからお前が恐らくゼロと思うようになり、後から噂好きである筈のミーヤさんとヘレンさんにあの時の事を問いただしても『覚えていない』の一点張りだったことで何らかの方法でお前が『他人に命令できる』という憶測を付けた。 (おお、なんかスラスラと出るぞ? いいぞいいぞぉぉぉぉ。)」

 

「(↑ヌワン?! ダトゥゥゥ↑↑オォォォホォォォォォォ?!)」

 

 スヴェンはすらすらと『それらしいこと』に軌道が乗ったおかげで愉快な気分になり、腕を組みながら言葉を続けた。

 

「まぁ……お前が学園に居ない時期が丁度ゼロが活動していた時と噛み合っていたのもあったな。 ギアスの事だが────↑ホッ?!」

 

 スヴェンがチラリと横を見ると目からハイライトが消え、生気が全く感じられない上に口から魂の様なものが抜けた『抜け殻』のように立ちすくむルルーシュにスヴェンは素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「(まさか……まさかあの初歩的なミスでバレて……いや……そもそも『バレていなかった』と思いたくて思い込んだ俺の痛恨のミスだ…………言い訳は……いいわけが……イイワケガ……) ふへ……ふへひははははははは────」

「────おおおお落ち着けルルーシュ! 傷は浅いぞ?! 屋上の上から人を見下ろすのだ! 痛快だぞ?!」

 

 今までどの場面でもルルーシュが見せたことも聞いたこともないほどな様子と乾いた笑いにスヴェンは思わず素になりかけながら自分でも意味の分からないことを口走り、無理やり地面に沈んでいたルルーシュの顔を学園のグラウンドに向けた。

 

「見ろよ、ルルーシュ! 人がご────じゃなくて! アリの様だぞ?!」

 

「あ、ああ……そうだな……ははははは。」

 

 ヨボヨボ&ヨロヨロになったルルーシュを、スヴェンは訳の分からないテンションのまま他作品ネタで元気付けようとした。

 

「はははははははははははは。」

 

「(うっわ、なんだかやばい感じがするじゃないですかーヤダー。 このままマリアンヌの事を話しても────)────は?

 

 どことなく空気が抜けていく風船のようにルルーシュから元気が更に無くなっていく様子を見て内心慌てるスヴェンはどうするか迷い、彼から視線を外して学園のグラウンドを見ると()()()()()()の女生徒を見て固まる。

 

「(な。 ちょ。 待って。 待て待て待て待て待て待て待て待て! アレってC.C.?! ナンデ?! いやそれは『原作通り』って言えばそれまでなんだがマジでなんでやねん?!) おい、ルルーシュ! 見ろ!」

 

 スヴェンは無理やりルルーシュの視線先をのほほんと学園内を制服姿で歩くC.C.に向ける

 

「ん? ま、まさか?!

 

「(あ、元気になった────)────↑ほよ?!」

 

 スヴェンもホッとしたのも束の間、今度はグラウンド内をまるで何かを探しているかのようにポテポテと歩く緑色のラッコ姿(タバタッチ)の着ぐるみを目にして本日二度目の素っ頓狂な声をあげる。

 

「(な、なんでばい?! い、いやC.C.がいるから不思議じゃないけれど────ん?)」

 

 スヴェンはそのままタバタッチの着ぐるみが一直線に風船を持ち歩く()()()()()()()()()()()()()()()()()に向かっていたことに気付き、血の気が引いていく。

 

 アッシュフォード学園のイベントで着ぐるみなど別段、珍しくもなんともないのだが────

 

「(なんで、ペロリーナの着ぐるみが?!)」

 

 ────それが他作品(クロスアンジュ)で出てくるペロリーナの着ぐるみならば話は違ってくる。

 

「「スヴェン/ルルーシュ!」」

 

 二人は瞬時にお互いを見て、するべきことをアイコンタクトで悟ったのかいつも冷静(に見える)二人はドタバタしながら屋上を後にする。

 

「「ピザトラックのある校舎裏で合流しよう!」」

 

 しかも息もぴったりであった。

 

 ………

 ……

 …

 

 

「世界一のピザ、やりま~す────!」

「────詳細のパンフレットをくれ。」

 

「(おおお、可愛い。) はい、よろしくね~♪」

 

「こっちもお願いしま~す!」

 

「はいはーい! (おお! この子の胸、会長みたいに窮屈そう♪)」

 

 コック帽子とエプロンをしたリヴァルは鼻の下を伸びさせながら学生服のC.C.にパンフレットを渡し、別の女子に声をかけられてはそちらにフラフラ~とおびき寄せられる移動する。

 

「おい────ぜぇはぁ────お前! 何しに────ゲホッゲホ────来た?! 自分の────オエッホ────立場を分かって────ゴフッ、ゴホッ────いないわけじゃないだろうに?!」

 

 屋上からなけなしのスタミナを使って全力疾走をしたルルーシュは息切れを起こしながらもC.C.を問いただす。

 

「去年食い損ねたからな、世界一のピザ。」

 

「お、おま?! そんなことの為に?!」

 

「まぁな。」

 

「と、とにかくこっちへ来い!」

 

 ルルーシュは近くのポップコーンの包装に使う未使用の袋をC.C.に無理やりかぶせてからグイグイと彼女を引きずる。

 

 ……

 …

 

「あはははは! 変!」

「どういたしましてペロ~!」

「それ、なんていうキャラですか?」

「ボクはペロリーナと言うんだペロ~!」

「ブスカワ!」

「ぺ、ペロ……」

 

 上記のルルーシュたちと同時刻、ペロリーナのきぐるみはそのツギハギにゆるキャラ的な容姿もあってか歩くだけで注目を浴びていた。

 

「あ、風船! 一個良いですか?」

「もちろんだともペロ!」

 

 ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ!

 

「あ、ヤバいペロ!」

 

 そんなペロリーナは明らかに自分めがけて走ってくるタバタッチ着ぐるみに慌てだす。

 

「じゃあね皆! ボク、ちょっとアイツに捕まっちゃいけないんだペロー!」

 

 タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!

 

「皆、援護するよ!」

「「「「おおお!!!」」」」

 

 ペロリーナが風船を急いで配り終えると走り出し、すっかりペロリーナファンになった学生たちはタバタッチを減速させるために面白半分で壁を作るが────

 

 ポヨ~ン。

 

 ────上記のゆるそうな音とは裏腹に、タバタッチが両腕(手?)を鳥のようにバタつかせながら勢いの付けたジャンプで壁を作る学生たちの上を飛び超える。

 

「飛んだ?!」

「すご?!」

「マジ?!」

 

 ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ、ポテ!

 

 学生たちは逃げるペロリーナと、それを追うタバタッチの着ぐるみを着用した中の人達が見せる身体能力に感心しながら見送った。

 

「あ、可愛い。」

 

 そしてまるで合流するかのように、()()()()()()()()()()()()()()()もペロリーナを追いかける姿を見た誰かがそうボソリとこぼしたそうな。

 

 

 ……

 …

 

 

 ペロリーナはそのスリムなフォームを逆手に取り、ワザと人ごみの中に紛れてもこもことしたタバタッチの機動力を封じ込めてからさっさと人気のない校舎裏に息切れしながらも逃げてきた。

 

「ぜはぁ、ぜはぁ、ぜはぁ……こ、ここまでなら大丈夫な筈ペロ────」

「────お前は何をやっている────?」

 

 ビクッ!

 

 「────ペロォォォォ?!」

 

 一息つこうとしたペロリーナは背後から来た声に肩を跳ねさせ、汗をだらだらと掻きながらぎごちなく後ろに立っていたスヴェンへと振り返る。

 

「お前、アンジュだな────」

「────ち、違うペロ────!」

「────嘘をつくな────」

「────ひ、人違いペロ────!」

「────取り敢えず何で学園に来たのか理由を言え……と言うかその前にその着ぐるみを────」

「────わわわ! やめて()()()()ペロ~!」

 

 グググ!

 

 スヴェンはペロリーナの頭部分を掴んで無理やり脱がせようとするが、ペロリーナは足をバタバタさせながら両手でそれを阻止しようとする。

 

「こ、この────」

 

 スポッ。

 

「────ぁ。」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ペロリーナの頭部が外れ、中から長髪の()()()()()()を団子にしていた()()()()()()が現れたことでスヴェンは固まる。

 

「あ、あははははは……バレちゃいました。」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

「スヴェン! スヴェン! ハロースヴェン!」

 

 明らかに気まずい様子のままユーフェミアは目をそらし、スヴェンの持っていたペロリーナの頭部からピンクちゃんが耳(?)をパタパタさせながら出てきたことでようやく彼は口を開けた。

 

 ≪なんでやねん。≫

 

「あ、それって日本語ですよね?」

 

 思わずユーフェミアを前に日本語で話すほどにスヴェンは盛大に焦り出した。

 

「んな────?!」

「────あ! ルルーシュ!」

 

 ポテポテポテポテポテポテポテ!

 

「おわ?! なんだこの生き物たちは────?!」

 

 スポッ!

 

「────ぶは! 追いついたわよユフィ────!」

「────あ、アンジュ────」

 「────“あ、アンジュ”。 じゃ! ないわよ?!」

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 ≪なんでじゃい。≫

 

 その場に紙袋マスクを着用したC.C.を連れてきたルルーシュが来ただけでなく、色違いのタバタッチが到着した途端に頭部を脱ぐとアンジュが居たことにスヴェンはポーカーフェイスのまま痛む胃から意識をそらす為に本日二度目の日本語を口にした。

 

 ポテポテポテポテポテポテポテ!

 スポッ!

 

 「もう! 声が大きいわよ?! バレたらどうすんのよ?!」

 

「…………………………カレンも大概だがな。」

 

「んぐ。」

 

 アンジュとは違う、緑色のタバタッチの下からカレンが顔を表したことで唖然としていたスヴェンは反射的に調子を取り戻した。

 

 キリキリキリキリキリ!

 

「(ヤベェ。 オレ、イグスリノンデナイ。)」

 

 少なくとも、表面上は。

 

 

 


 

 

 後書きEXTRA:

 

 中の人咲世子と同役:よし! なんとかここまで気が付かれずに来れたな!

 中の人アーニャ同役:なぜ、この様な回りくどい……と言うか、これでは密入国者その者ではないですか?!

 中の人咲世子と同役:だってバレたらまずいでしょ?

 中の人アーニャ同役:まぁ……ラウンズが5人も一つのエリアにいるなんてそれこそ────

 中の人咲世子と同役:────いやぁ、それもそうだけれど……私たちがここにいるって誰にも教えていないから。

 中の人アーニャ同役:はぁぁぁぁ?! エニア────むぎゅ?!

 中の人咲世子と同役:シ、シィィィィィ! 声が大きい! 偽名を使いな、モリ-ちゃん!

*1
やっと出せました。 誠にありがとうございます心は永遠の中学二年生さん!




バタバタし始める歓迎会、スタート。 (;´ω`)


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第193話 おいでませ、闇鍋の歓迎会へ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!

*注*カオスです。 ご了承くださいますようお願い申し上げます。 (;´ω`)ゞ


 一日を過ごす為にレイラの朝は早い。

 

 殆どの場合、彼女が目を覚ますのは朝日が地平線を上がる前の薄暗い時である。

 

 身体のほぐしと脳の目覚めを兼ねたストレッチ(別名『ラジオ体操(現代日本式)』)をし、適度な汗を掻いた後は蜂蜜と重曹を混ぜたシャンプーを使ったお風呂。 なお風呂を嫌がるエリザでも蜂蜜の癒し効果もあって大人しくしている。

 

 お風呂上りに少々の化粧水を肌に塗り、その日の着替えを身に纏って少々のバターを塗ったパンと紅茶を飲んでから『仕事』に取り掛かる。

 

 アマルガムは『戦力』は充実しているモノの、その他では主に()()()()なのでまずはアマルガムの者の配置具合。

 

 例えばEUからの日系人たちの受け皿となるため人工島が用意されていたことを一例としてあげると、『人権のないEUにいるよりははるかにマシ』という意気込みで人が住めるように開拓をしたおかげでようやく外部から物資を取り寄せずに自給自足できるような目途が立った。

 

 これでようやく食糧難に対して『余裕』が出来たのだが、今度は『作業員』ではなく『管理』等の必要が出てくる。

 とはいえ人権も最低限の教育もない環境で育った者たちがほとんどで、意思疎通の会話もEUの標準(フランス)語だけで共通()語を覚えるところからのスタートライン。

 

 そこは嫌々言いながらもハメルやクラウス、そしてやる気満々のアシュレイにつられてアシュラ隊もEUからの難民の教育と()()()()で何とか対応はできている。

 

 とはいえ人手不足なのは変わらないので、何とかやりくりをしているのがアマルガムの現状であり、求心力のある黒の騎士団の幹部たちとの話し合いもその事等の打開策を兼ねている。

 

「ふぅ……(彼の周りは充実していますね。)」

 

 それ等の話し合いやプランニングを行った後のレイラは当然疲れているのだがそれを表に出さず、逆にwZERO部隊時より生き生きとしながら個室で個人の端末に送られてくる報告書を読みながら優雅にハーブティーを────

 

 ────バン!

 

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……」

 

「あらサエコ、血相を変えながら息切れをするなんて貴方らしくないわね?」

 

 落ち着いた今のレイラからすればいつも余裕満々な毒島が慌てた様子でノックもせずに部屋に入ってくるのは()()()なく、いつもとは立ち位置が逆転した状況に心を躍らせた。

 

「ユ────()()が学園に向かった────」

 「────ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

 レイラが紅茶を噴出したことで優雅な時間が終わりを告げた。

 

 毒島がここで口にした『客人』とはもちろんユーフェミアのことを示しており、『学園』はそのままアッシュフォード学園である。

 

 そしてその日は『ナイトオブセブンの歓迎会』が開かれている。

 

「い、いえこの程度で取り乱すとは私もまだまだですね。」

 

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ。

 

「レイラ、手が震えてカップから紅茶が零れているぞ。」

 

「…………」

 

 レイラはカップとそれを載せた小皿をテーブルに置き、ハンカチで紅茶をふき取りながら(幸か不幸か)ヴァイスボルフ城の経験を生かして『冷静』を装う。

 

「それで、サエコのことですから彼女を追う人を送ったのでしょう?」

 

「う。」

 

 ここで毒島はバツが悪そうな感じにおずおずとしながら、目をそらす。

 

「(あら可愛い。) えっと……人を送ったのですね?」

 

「その……自主的に()()()。」

 

 「ナンニンカ。」

 

 レイラの目以外は笑っていた。

 

「最初は『客人』の友人であるアンジュに連絡を取ろうとしたのだが、もう既に領事館に来ていて────」

「────モウキテイテ────?」

「────で、彼女が“学園に行って連れ帰る”と言ってそれを聞いた紅月君が“じゃあアイツ(ユーフェミア)と同じく着ぐるみを変装に使おう”と────」

 「────ヘンソウ────」

「────そして“取り敢えず人手がいる”と……その……アリスたちも連れていかれた────」

 「────アリスタチモ……」

 

 レイラの遠い目をしながら部屋の窓から領事館の敷地内で新人たちの基礎体力をあげるランニングを行う黒の騎士団員たちを見る。

 

「……」

 

「レイラ?」

 

「今日はいい天気ですね。」

 

「……そうだな。」

 

 遠い目をしたまま外の景色を見るレイラを見て毒島は既視感で同意の言葉を浮かべた。

 

 

 


 

 

 アッシュフォード学園の人気がない校舎裏では珍妙な景色が広がっておるがな。

 

『ペロリーナ』の着ぐるみを着たユーフェミア。

 着ぐるみの下はスポーツウェア。

 

『青いタバタッチ』のアンジュと『緑色タバタッチ』のカレン。

 この二人は何故かタンクトップ……と言うかアニメだと、その下はノーブラの上にパンイチだったはず────

 

「「……………………」」

 

 ────いや、これ以上よく見たらやぶ蛇な様な気がする。

 

 二人からの威嚇的な視線が結構痛い。

 

 そして明らかにサイズが違う赤、黄色、土色とピンク色の『タバタッチーズ』((スヴェン)命名)。

 

 どうしてこうなった。

 

「説明しろ。」

 

『頼む……誰か説明してくれ』と願った俺は着ぐるみをした全員に正座を強いて、必死に天を仰ぐことを我慢しながら短くそう告げるとアンジュとカレンは目をそらし、まるで『どうしよう?』、『どうしようか?』、『お前の所為じゃん!』、『違うもん!』とわかりやすい表情を浮かべながら『タバタッチーズ』はお互いを気まずそうに見る。

 

 ……R2でもカレンはタバタッチに自分の感情を表現する、見事な操作テクニックを披露したがこいつらも中々だな。

 

「えっと────」

「────大方、今日スザクが学園に来たことで歓迎会を開かれるどさくさを狙ってユフィが来たんだろ────?」

「────ギクッ。 そ、そんなことはございませんよ~?」

 

 姉のコーネリアと違って、ユーフェミアって意外とわかりやすいな~。

 これよこれ。 これが『コードギアスの青春』なのだよ♪

 

 ルルーシュの言葉にユーフェミアが反応しながら変な口調になったことで、ルルーシュがため息を出す様子に思わず和んでしまう。

 

 “現実逃避するな”だと? 

 てやんでい。 癒しが欲しいの、お・れ・は。

 

「昔から本当に変わらないんだな、ユフィは────」

「────か、変わりましたよ! ルルーシュが変わり過ぎなんです────!」

「────痴話喧嘩している場合か、お前たち。」

 

 おっとジト目C.C.、ごっつあんです。

 でも“痴話喧嘩”って妙に的を射ているな、ちょっと言い方がきついけど。

 

「まぁ、そこまでにしておけC.C.。 初恋同士でしかも一年ぶりこうやって会ったんだ、少しぐらい────」

 「────ちょっと待て! 何故スヴェンがそれを知っている?!」

 

 あ。

 口にしていたのか俺────

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 ────って、なんでカレン達から“またか”的なジト目が来る?

 

 その熱い視線に、拙者の肌がバーニング中で汗が出そう。

 

「だが彼女(C.C.)が言っていることを別にしておいて────」

「────おい!」

 

 ルルーシュが何か言いかけているが無視!

 

「まずは彼女たちのことを────」

『────ル~ル~!』

 

 あ、やべ。

 

 カポッ!

 

「何だいシャーリー?」

 

 シャーリーの声が建物の曲がり角から聞こえてくると着ぐるみの頭部をユーフェミア、カレン、アンジュはかぶりなおし、俺は先ほどの紙袋仮面をC.C.に付けなおすと予想通りにガーター付きニーソスクール水着とホワイトプリム&カフス装着のツインテシャーリーが現れてはルルーシュが対応する。

 

「あのね、良かったら────って何、これ?」

 

 そして数々の着ぐるみたちを見ては不気味がる。

 

 うん、その気持ちはわからないでもないぞシャーリー。

 

「ああ、これは……その……」

 

 チラッ。

 

 って俺をここで見るんかいルルーシュ?!

 

 キリキリキリキリッ。

 

 う、胃が痛みだす……

 いや考えろ!

 

 連想ターイム!

 

『数体の色違いの着ぐるみ』、『ツギハギの中は皇女』、『タバタッチーズの中はアマルガム』、『秘密の組織』、『秘密結社』……ええええええっと────

 

 ピーン♪

 

 ────あ、キタ。

 

 焦る俺の中で浮かんでくる点と点を無理やり繋ぎ、半ばヤケになった先に昔のテレビで見た(ような気がする)ネタを思い起こす。

 

「ああ。 昨年、『ランスロット仮面』の出し物がありましたでしょう? これ等はその一環で新たに登場させようかどうか迷っていた『敵の組織の幹部と怪人たち』ですよ。」

 

「「へ?/は?」」

 

 いや、ちょっと……シャーリーはともかく、ルルーシュまでポカンとすんなや。

 バレちゃうじゃん。

 

 シュババババ!

 

 まるで俺の言葉が合図だったかのようにC.C.を中央にした大きめのタバタッチ二体が左右で腕(手?)を組み、他のタバタッチーズは三人(一人+2匹?)の後ろで様々なポーズを取る。

 

 あ、なんか特撮の悪役っぽい。

 

「フハハハハハ。 ひれ伏せ、人間ども。」

 

 突然のことで最初は気の抜けた声を出したC.C.だったがすぐに腕を組み、ノリノリのセリフを口にする────って今のはまるっきり女版ゼロじゃん。

 いや、『ナイトメア・オブ・ナナリー』の東〇不敗っぽい魔王ゼロか?

 

「……あ。 うん。 そうなんだ。」

 

 シャーリーよ。 思い付きのネタだったのは認めるが、そう棒読みの返しをされるとマイハートに傷が付く。

 

「ルルって、いま時間ある?」

 

「は?」

 

「時間あったら歓迎会、一緒に見て回らない?!」

 

 お?

 シャーリーのアタック!

 

「ああ、すまない。 今この出し物の相談に乗っているところなんだ。」

 

 そしてルルーシュの『鉄壁』! 

 よって無敵────じゃなく無自覚!

 

「あ、そうなんだ……」

 

 うわぁぁぁぁ、あの元気が取り柄のシャーリーがしょげている?!

 効果は抜群だ!

 

「ああ、大丈夫ですよシャーリー。 ()()()()()()()ルルーシュの時間を空けさせます────」

「────は────?」

「────本当?!」

 

 キラキラキラキラキラキラ~。

 

 ふぐおぁあぁぁぁぁぁぁ、180度のシャーリーの眼差しがぁぁぁぁぁぁ。

 

「ええ、ですから安心して水泳部カフェでヴィレッタ先生へのリベンジを頑張ってください。」

 

「うん、わかった! じゃあルル、またあとでね! ♪~」

 

 そう言いながら元気100倍に戻ったシャーリーが鼻歌まじりにスキップしながらその場から遠のく。

 

 はぁぁぁぁ、健気やのぉ~。

 はみ出る横乳とたゆんたゆんと動く胸もええのぉ~。

 

「おい、スヴェン。 今のはどういうつもりだ?」

 

「どうも何も、シャーリーの性格だとあのまま着ぐるみの下が誰なのか不思議がって無理やりにでも引きはがす勢いだった。 これで時間が稼げたと思えば良い。」

 

「だが────」

「────それともシャーリーと見て回るのは嫌か?」

 

「それとこれは違うだろ?」

 

 こいつ、どれだけ鈍感なんだ?

 あれだけ猛烈な『好き好き大好きアピール』されながら気が付かないなんて……

 リヴァルが言っていた朴念仁もあながち間違いじゃなかったな。

 

「と、いう訳でカレンとアンジュたちはペロリーナを。」

 

 ガシッ。

 

『『ラジャ。』』

 

『えええええ?! そんな酷いペロ!』

 

「………………………………なんだその語尾は?」

 

『わかりませんペロ。 この着ぐるみについている音声変換機能(ボイスチェンジャー)を付けたらこうなりましたペロ。』

 

『実はこれ、ラビエ親子の試作品を入れた強化スーツで────』

 

 ────ナニソレ。

 赤い蝶ネクタイを締めて犬だかネズミだか熊だかよく分からない茶色の生き物を元ネタにした『ふもふも』な着ぐるみなのかそれは。

 

「そうか。 だが君がここにいるのは非常に危険なことに変わりはない────」

『────酷いペロ~!』

 

 左右のタバタッチに引きずられていくペロリーナたちに付き添うかのように小柄のタバタッチ達もポテポテと後を歩く。

 

「……………………」

 

 訂正。

 一匹の黄色いタバタッチはこっちをジッと見てからポテポテとカレン達の後を追う。

 

 ………………………………何だったんだ?

 

「ようやく落ち着いたところと丁度C.C.がいることで、本題に入るぞ。 スザクはギアスのことを知っていた、誰が奴にそれを教え────ああ、いや。 まずは母さんの死の事を────」

 

 うん。 ルルーシュも内心では相当テンパっていたんだな。

 

「────どうする?」

 

 ってC.C.?! 寄りにもよってここで俺に振るのか?!

 

 あ、その妖艶な笑みは『してやったり♪』な奴だな?

 

 よろしい。

 

 そのケンカ、言い値で買ったるわ!

 

「まずだがスザクにギアスを教えた奴は……C.C.、確認だがそれはV.V.の仕業で間違いないか?」

 

「V.V.???」

 

「……」

 

 フハハハハハ! どうよこの見事なカウンターは?!

 グゥの音も出まい?!

 

「お前、どこからその名前を知った?」

 

 Oh……

 

 本気の睨みをするC.C.がちょっとだけ怖い。

 

「エデンバイタル教団から得たデータベースにあった。」

 

「エデンバイタル教団……確か、人体実験をしていた機関だな────?」

「────ああ。 ギアスを使った人体実験だ。」

 

「は?」

 

 ルルーシュの激レア『ポカン顔』、ゲット。

 

「エデンバイタル教団のおかげで、かなり『ギアス』とやらの事についても知り得たし、V.V.の事も……そしておそらくだが皇帝シャルルにギアスを与えたのも、マリアンヌ様の暗殺を()()()()奴も互いに関係している筈だ。」

 

 敢えて“殺した”と言わなかったのはC.C.の反応を見るためだったが……反応無しだった。

 

「……その『V.V.』とやらが皇帝にギアスを? いや、そもそもなぜそう言い切れる?」

 

「V.V.の本名が皇帝シャルルの亡くなった筈の兄と同一だったこととギアス、C.C.の事などを考えた上での仮説だ。 G1ベースの時はハッキリ言って更なる調査が必要なほどあやふやだったがエデンバイタル教団で入手したデータがその仮説をより一層、確信へと近付かせた。」

 

 う~ん、『それっぽく』言うのも慣れてきたな。

 俺も成長しているのかな?

 

「V.V.……それが、奴の名前か……」

 

「……」

 

 そして考え込むルルーシュに、(多分)複雑そうな学生服のC.C.。

 

 そう言えばこの際だ、聞いてみよう。

 

「なぁC.C.?」

 

「なんだ?」

 

「何故()()を付けているんだ?」

 

『それ』と称しながら俺が見たのは立派なメカ耳だった。

 

『何でそんなことを』だと?

 アニメを見てからずっっっっっっっっっっと気になっていたからしょうがないじゃん。

 

「これか? 変装だが?」

 

 それのどこが変装やねん。

 オマン、ミス・エックスやオルフェウスたちにケンカ売っとんのか?

 

 ピロリン♪

 

 メッセージが届いた通知音に携帯を出すと着信相手は『マーヤ』と画面に浮かんでいて。

 そしてメッセージを見ると『ヘルプ』とだけ書かれて────え゛。

 

「すまん二人とも、少し急用が出来た。」

 

 そう言いながら俺はちょっとだけ早くなっていくステップをマーヤとライラがいる筈のエリアへと踏んでいく。

 

 さて、ルルーシュが俺を信じるかどうか。

 信じなくとも、心構えがこれで出来るはずだ。

 少なくとも、R2でシャルルとマリアンヌ(の精神体)の二人にCの世界で再会して怒涛の暴露をされて『ウソだー?!』と脱力するほど打撃的なショックを受けずに済む……筈。

 

 マーヤが『ヘルプ』なんて助けを求めるのは珍しいがはてさて、どうなっているのやら。

 

 

 


 

 

 アンデス山から取り寄せられたトマトを載せたトラックの近くでは、立ちながら難しい顔で考える仕草をするルルーシュがC.C.と共にいた。

 

「で、どうするルルーシュ?」

 

 スヴェンが立ち去ってから数分どころか10分ほどが経っても全く動く気配のないルルーシュにしびれを切らしたのか(あるいは面白くなくなったのか)C.C.が声をかける。

 

「積る話はまだ残っているが────」

「────なぁ────?」

「────なんだ?」

 

「奴がさっき言ったこと、お前が教えたわけではないんだな?」

 

「いや、私は何も言っていない。」

 

「奴の言ったことを、お前はどう思う?」

 

「マリアンヌ云々はともかく、少なくとも皇帝にギアスを与えたのはV.V.だ。」

 

「それと……お前とスヴェンの関係は何だ?」

 

「なんだ坊や、嫉妬か────?」

「────質問に答えろピザ女。」

 

「何、『関係』というモノほどでもないさ。 以前、アイツが傷だらけの仮面を外したところを見ただけだ。」

 

「(つまりは、『スバル』と『スヴェン』が同一人物だったことか。) なぜ黙っていた? お前なら、面白がるために俺にそれとなく教えていそうなネタだろ?」

 

「……………………名前だよ。 どういうワケか、奴は私の名前を……()()を知っていた。」

 

「なに?」

 

「ほとんどサイタマの直後だったからビックリしたぞ、私を脅すなんて。」

 

「あいつも……スヴェンもギアス能力者────?」

「────それは無いな。」

 

「何故断言できる?」

 

「分かるのさ。 陽光が皮膚に当たっているような感じだ。」

 

「なんだその漠然とした例えは?」

 

「さぁ?」

 

「“さぁ”って、お前……いや、いい。」

 

 ここでルルーシュは腕を組み、また考え込む。

 

「(どういうことだ? 『ギアス』ではない……だがそうと思えば辻褄が合う。 それに時々、奴の目はまるで()()()()()()()()()()一歩引いたところから見ているような……そうだ。 まるで周りを『景色の一部』の様な……)」

 

 ……

 …

 

 別の場所ではようやく一対一になったミレイとスザクが話していた。

 

「ねぇスザク、やっぱりカレンって中華連邦の総領事館にいると思う?」

 

「その……紅蓮弐式が確認されていますので……」

 

「そっか……ニーナは?」

 

「この間、学会で論文を出していましたよ。」

 

「ああ、スヴェンと一緒に開発していたあれね。 『サクラダイトに頼らない原動力』……ねぇ? スザクはスヴェンのことをどう思う? やっぱり、黒の騎士団?」

 

「……正直、僕にはわからないです。 カレンの事もありましたから『もしかしたら』と言った程度ですね。 ただその……そうだとすれば()()()話が合わないんです。」

 

「ハァ~……難しいな~……ロイド伯爵、何か言っていた?」

 

「ぁ……その、別に何も。」

 

「呆れているんじゃないかしら? 私が留年した所為で、結婚も延期したんだものね────」

「────いや、()()に限ってそれはないね。」

 

「「え?」」

 

 ミレイとスザクは後ろから声をかけられ、ガサガサとする低木に振り返る。

 

「アイツは昔からドタバタすると周りを敢えてよく見えていないふりをして没頭する癖があるんだよ。」

 

 「え────?!」

 「エ、エニア────?!」

 

「────おおおっとストップ! 今の私は隠密行動中なのさ♪ だから名前は勘弁してくれ。」

 

「えっと……なぜここに?」

 

「いや~、“せめて忍び込む前に挨拶を~”って()()()がうるさくてね? 待っていたら昼飯も食っていないからいつの間にか寝落ちしちまって、話声とロイ坊の事が聞こえたから起きたのさ。」

 

「「……『ロイ坊』?」」

 

「あー、ロイドのことさ。 しっかし何時になったら()()()は来るのかね?」

 

「……エニアグラム卿、まさか?!」

 

 ノネットがいることと、彼女が『モリー』と呼ぶ人をハッとしたスザクがとある人物を思い浮かべてギョッとする。

 

「だーかーら! 名前じゃなくて、そうだね……『ノリー』って呼んでくれよ────!」

「────いやいやいやいや! 一つのエリアにラウンズが()()もいるなんて前代未聞ですよ?!」

 

「バレなきゃいいのさ。 バレなきゃね♪ ……ん? 今『五名』って────?」

「────ジノとアーニャも来ているんです。」

 

「へ?」

 

 サァァァァァァァ。

 

 スザクの言葉に、珍しくノネットの顔から血の気が引いていく。

 

アールストレイム卿(アーニャ)のブログに多分、載っていると思いますよ?」

 

 

 スザク、それは『慰め』ではなく『トドメ』です。




練乳入りアイスコーヒーが無ければヤバい日々が続く中、お互い頑張って乗り切りましょう。 (;゚∀゚)=3


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第194話 迫る~♪ (モフモフな)恐怖のぐ~ん~だ~ん♪

お読みいただきありがとうございます、相変わらずカオスの次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


 アッシュフォード学園の『世界一のピザ』とは別のステージ上を、アッシュフォード学園の学生たちガヤガヤしながら待つような仕草をしていた。

 

 パッ!

 シュタッ!

 

『やぁ、待たせたね皆!』

 

 スポットライトが当たる場所を某ライダー風にランスロットを模範したコスチュームを着た者がステージに降り立ちながらインカム風のマイクを通して元気よく挨拶をする。

 

「あ、ランスロット仮面だ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「(…………………………どうしてこうなった。)」

 

 嬉しがる学生たちが見ているランスロット仮面の中に居たスヴェンはそう静かに思い浮かべながら、事の発端でありステージの端にいて自分にサムズアップをするシャーリーをスヴェンは横目で見る。

 

 実は去年の学園祭で『世界一ピザ』の作成中にお忍びのユーフェミアが発覚したことで色々な見世物のスケジュールが滅茶苦茶(あるいはキャンセル)されていて、その中の一つが『ランスロット仮面ショー』だった。

 

 シャーリーはスヴェンやルルーシュたちの前から去った後、『ランスロット仮面ショー』が再開されるかもしれないことを水泳部カフェに伝えるとその場に居たライラがそれを聞き、あっという間に広がってしまった。

 

 スヴェンからすればあくまでも『その場しのぎの話』だったのだが真に受けた者たちはペロリーナをずるずると引きずるタバタッチーズを見て勝手に『被害者』(?)と『悪役』(?)を決めつけてそれをショーの一環と思い込み、ライラに続いて騒いだ。

 

 勿論、ペロリーナ(ユーフェミア)タバタッチーズ(カレン達)にとっては想定外の事だったことでどうするか迷っているところを目撃し、動作や仕草で中の人達を察したマーヤがブラインドタッチで短く『ヘルプ』とメッセージを打ってスヴェンに送った。

 

 「(なんでじゃい。)」

 

 スヴェンもまさか自分が口にしたデマカセがこのような事態を招くとは思っておらず、唖然としたがすぐに思考を巡らせた。

 

 何せ着ぐるみの中の人達は『絶対に見られたらアカン奴』ばかり。

 

 よってそのまま急遽『ランスロット仮面ショー』を開くこととなったのだが、肝心の役をする人たちがいない上に打ち合わせも殆どできない状態だったのでスヴェンは焦りながらも自分に出来ることをした。

 

 それは『特撮ヒーロー(ランスロット仮面)役を率先して取り組み、流れで内容を進める』ことだった。

 

『アドリブ』とも言う。

 

『元気にしていたかい? 自分はさっきも元気にブリタニアの市民を守っていたんだ────!』

『────ふふ!あーはっはっはっは! 立派ですこと!』

 

『やや?! 誰だお前は?!』

 

 ランスロット仮面(スヴェン)の言葉を、高飛車な口調とトーンで割り込みながらステージに『某アンジュ監察官制服衣装』*1を着たマーヤ(ポニーテール&赤い枠のメガネ着用)が現れる。

 

『私ですか? 私はブラックな団の幹部、“メガーネ”ですわ!』

 

『ブラックな団? もしや、黒の組織か?! 何をしに来た?!』

 

『ふ、黒の組織ですって? あれと同じにしないでくださいな……それに“何をしに来た”など知れたこと……いでよ! モフモフ軍団!』

 

 ポテポテポテポテポテ!

 

『もきゅー!』

『フキュー!』

『ハキュー!』

『キュー!』

『キュ……キュー!』

 

『ブラックな団の幹部メガーネ(マーヤ)』の掛け声にタバタッチーズが次々とステージに出てきては一人一人(一匹?)が『一昔前の特撮ヒーローに襲い掛かる戦闘員っぽいポーズ』を取る。

 

「うわ、なんだあれ?」

「アザラシ?」

「ラッコじゃね? 首のところに貝があるし。」

「なんか可愛い。」

「分かる!」

 

『おのれ、ブラックな団のメガーネ! 明らかに戦いに慣れていない者たちを前に出すなんて────!』

『────そう思うのは勝手ですわ。 でも、余りみくびらないことですよ?』

 

『なに────?!』

『────さぁ、底力を見せるのです!』

 

『『『『……』』』』

 

 メガーネ(マーヤ)の宣言にタバタッチーズはお互いを見る。

 

『フ、フ、フキュー!』

 

『『『『キュー!』』』』

 

 緑色のタバタッチの掛け声(鳴き声?)に他のタバタッチーズは“じゃんけん”をし始めた……のだが、全員の手がフリッパー状態だったので主に『グー』と『パー』しか出来なかったので『グー』で負けた組が先に襲い掛かる。

 

 “襲い掛かる”と言ったが何も“一斉にとびかかる”などではなく、ピンク色の小柄なタバタッチが両手(腕?)をぶんぶんと上下にまるでレーダー探知機の様に動かし、赤色で小柄のタバタッチはステージの上に置かれたままだった棒状の部品をかき集めて槍の様に投げる。

 

『うあ?! (ちょちょちょちょちょちょちょおおおおおおおお?!)』

 

 スヴェンは()()()投げられるそれらをわざとらしく避けながらも内心焦る間、ポテポテとランニングスタートをした黄色のタバタッチが飛び蹴りを食らわせようとする。

 

『こ、こんなもの!』

 

 スヴェンはランスロット仮面として飛び蹴りをそれとなく受けながらも両手でタバタッチの足を掴み────

 

 『ぴゃ?!』

『(今、何か聞こえたような?)』

 

 ────遠心力を使って黄色いタバタッチを赤とピンク色のタバタッチへと投げ返す。

 

『『『キュ?!』』』

 

 これを見た土色のタバタッチはキョロキョロとステージを見てトコトコと()()()()()()()()()()()()()()を掴む。

 

『(え、ちょっとまて。 まさか────)』

 『────フギュゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

 ミシミシミシミシミシミシ、バキ!!!

 

 スヴェンの予想通り、土色のタバタッチは柱を()()()()引っこ抜いては、まるで巨大なこん棒(スラスター無し)両手剣の様に掴んだままランスロット仮面(スヴェン)へドッドコドッドコと勢いよく走る。

 

 ガイィィン。

 

『『あ。』』

 

 と思いきや柱はステージライトの支えに当たってしまい、ランスロット仮面(スヴェン)メガーネ(マーヤ)は思わず気の抜けた声を出してしまう。

 

『フギュ?!』

 

 土色のタバタッチは予想外にもバランスを崩されたことで目をばチクリと白黒させ、自ら持っていた柱の下敷きに鳴き声を上げて目を回す。

 

『……………………………………』

 

 メガーネ(高飛車な悪)役をしていたマーヤは流石に想定外だったのか、どう反応すればいいのか迷う。

 

『そら見ろメガーネとやら! 慣れない者たちに戦う事を強いたからだ────!』

『────いいえ、まだよ! 行きなさい、青と緑!』

 

 マーヤの掛け声に今度は今まで戦闘員っぽいポーズをしていたカレンとアンジュのタバタッチが器用にジャブ、シッポを使ったキック、サマーソルトキックなどの高等な格闘技術で襲い掛かる。

 

『ぬわ?! (わ?! ちょっとこいつら本気なんですけれどドドドドドドドドドドどどどど?!)』

 

 ちなみにこれには理由があった。

 

 『『(着ぐるみの中がクッソホット(熱い)!)』』

 

 それは単純にずっと通気性が悪い着ぐるみの中のままずっとステージライトに照らされた結果、ヤケクソとストレス発散単調な思考に囚われていただけである。

 

 ドッ!

 

 『かひゅっ?!』

 

『『キュ()。』』

 

 急激に息が合い始めたタバタッチたちのラリアットx2が見事スヴェンの喉を捉え、彼女とたち(のタバタッチが)器用に目をギョッとさせて吹き飛ぶスヴェンを見る。

 

『(ああああ?! カレン、アンジュ! “もっと加減を”なんて細かくて無理なことは言わないけれどショーなのよ?! ……ランスロットを殴りたい気分はわからないでもないけれど。)』

 

『『(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! どないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよどないしよ?!)』』

 

 シュバババ!

 

 カレンとアンジュのタバタッチたちはアタフタとしていた動作を無理やり『待機する戦闘員っぽい』モノへと変える。

 

『(これ、アバラが折れているんじゃね?) く……かは! 』

 

 スヴェンはプルプルと震えながら痛みに叫ぶことを気合で抑え込み今の出来事をそのままショーに繋げる。

 

『なんて強さだ! 観客の皆、僕に力をくれ!』

 

 スヴェンは観客席にいるライラを見ると、しょぼーんとしていた彼女がハッとする。

 

「皆さん、声をかけるです! 頑張れですー!」

 

「「「「頑張れー!」」」」

 

『グッ! まだだ! まだ足りない! もっと、()()()頼む!』

 

 「頑張れですー!」

 

 「「「「頑張れー!」」」」

 

『もっとだ! 今この瞬間を見ている皆もだ!』

 

 「「「「「「頑張れー!」」」」」」

 

 “何事か”と思って足を止めていた観客席ではなく、立っていた者たちも声をあげる。

 

 大声をあげたことでほぼ反射的に瞼を全員が占めた瞬間、スヴェンは演劇部が科学部からくすねた煙幕を展開させてモクモクと煙が広がり、ランスロット仮面が立ち上がる。

 

『ありがとう! 君たちの応援でボクは次のレベルに進める! へ~ん! しん!』

 

 『立派な佐々木〇氏』と思わずツッコミたくなる丸パクリどこか胸が高鳴る変身ポーズをランスロット仮面が取ると()()()()()()背中にはランスロット・エアキャヴァルリーを模範したジェットスクランダーフロートユニットを背負っていた。

 

『突貫! ランスロット・エアキャヴァルリー仮面!』

 

 ランスロット・エアキャヴァルリー仮面となったスヴェンは両手を上に上げると足がステージから離れ、体が上がっていく。

 

「飛んだ?!」

「うわ、なんだこれなんだこれなんだこれ?!」

「すごい!」

 

 尚、これを見ている者たちにとって『どうせ演劇部のワイヤーアクションとかだろ?』と納得しているのだが、実際はやられたフリをした黄色のタバタッチがステージの土台に潜り込んで加重力の操作をプルプルと震えながら密かにしているだけである。

 

『キィィィィック!』

 

 ランスロット・エアキャヴァルリー仮面の体が飛び蹴りのポーズになりながら叫ぶと、そのまま彼はアタフタと慌てるステージ上のタバタッチ達を蹴り飛ばす。

 

『『キュー!』』

 

 タバタッチ達は吹き飛ばされる演技をしてながらステージから消えるとメガーネ(マーヤ)が他の小柄なタバタッチーズを抱えていた。

 

『おのれ、ランスロット! 今回はこのくらいにしておいてやる! 次に会うときは覚悟しなさい!』

 

 完全に悪役っぽいセリフを言いながらマーヤはタバタッチ達と共に走り去ると、ステージライトは再びランスロット仮面へと移る。

 

『ありがとう皆!』

 

 ……

 …

 

「なんだ、あれは?」

 

 校舎裏の陰から一部始終見ていたルルーシュは半分皮肉、半分呆れの表情を浮かべながら上記の質問を口にしてしまう。

 

「ああいうのを、世間では『英雄(ヒーロー)』と呼ぶそうだぞルルーシュ?」

 

 彼の独り言に、紙袋仮面のC.C.が皮肉めいた口調で答える。

 

「『英雄』? そんなもの、物語(ファンタジー)やあの様な見世物の中でしか存在しないプロパガンダ(宣伝)だよ。」

 

 C.C.は拍手を送られてステージから退場するランスロット仮面を見送り、さっきまで『皮肉』と『呆れ』が混ざった表情を浮かべていたルルーシュの顔にアンニュイな影が落ちていく様を静かに見る。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 アッシュフォード学園の屋上に、タバタッチ達と(未だにコスプレ中の)マーヤが着くとドアを閉めて鍵をかけると青と緑色のタバタッチたちは頭部を脱ぎ捨てる。

 

 カポッ。

 

 「アッッッッッッッッッッッッッッッッッッッツイ!」

 

 タンクトップの中から露出している顔と肩が汗だくのカレンとアンジュが力一杯に叫ぶ。

 

 カポッ、カポッ、カポッ。

 

「フィ~。 蒸すねぇ~?」

「お疲れ様ですわ、ダルク。」

 「……可愛いし、どうにか着やすい様にできないかな?」

「サンチア、何か言った~?」

「何でもない。 “熱い”と言っただけだ。」

 

「これ、マジに初期型グラスゴーの事を思い出すわ~……あれ、アリス?」

 

 カレンは懐かしい思い出に浸りそうになるが、そこで黄色のタバタッチが頭部を脱がずに屋上の手すり越しに学園のグラウンドを見渡していることに気付く。

 

「(ナナリー……ライラ……ハァァァ……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「よし、行くよアンタたち────」

「────あの、エニア────ノリーさん?」

 

「ん? 何だい?」

 

「なんで隠密行動何ですか?」

 

 ノネットたちはヒソヒソとしながら人目を避けるルートを通っていることを疑問に思ったスザクは上記の問いを投げかけながら器用に動きにくいドレスを着ながらも自分たちの後を追うミレイに振り返る。

 

「…堂々と歩くよりスリルがあるからさ。」

 

「あ、気を使っているのスザク? 私は楽しいから良しとしているけれど?」

 

「な?」

 

「……ノリーさん、本音を言ってもらえますか?」

 

「…なんのことだい?」

 

「話題をそらす仕草がセシルさんそっくりなんで。」

 

「ああ、うんまぁ……そうだね、ぶっちゃけ私とモリーって()()中なんだよね────」

「────本当は何ですか?」

 

「…君、なんだか慣れ過ぎていない? ま、いいさ。 『休暇』は本当だよ? ただ報告していないだけ────」

「────独断の休暇って……え?!」

 

「あのー……エニアグラム卿────?」

「────だからノリーでいいんだよアッシュフォードの嬢ちゃん────」

「────それってつまり、『密入国』ってことですよね?」

 

「いや? ちゃんと私はちゃんとここに来ることを前もって送ったよ? ……()()()が私からの手紙を見るとは限らないけれどね。」

 

 ……

 …

 

「ハックショイ!」

 

「クロヴィス殿下、風邪ですか?」

 

「いや……どこかの脳にまで筋肉が行き渡っている誰かが私の事を口にしている様だ。 ああ、今頃ライラは庶民の学園を体験しているんだろうね……歯痒いな~……ハァァァァ……」

 

「……(ギルフォード卿はこんなクロヴィス殿下を毎日相手にしていたのか。)」

 

 ……

 …

 

「お?」

 

 ノネットが急に立ち止まり、近くの低木に身をひそめて向こう側を見る様子でスザクとミレイも同じように身を潜める。

 

「ノ────」

「────シッ、ちょいと黙っときな。」

 

 彼女たちが潜んでいる低木の向こう側にはコソコソしながら早歩きで周りをキョロキョロ見るランスロット仮面だった。

 

「面白そうなことが起きる予感だよこれは。」

 

 

 


 

 

 よーし!

 左に人影なーし!

 右にも人影ナッシング!

 

 カポッ。

 

「フゥゥゥゥ……」

 

 俺はランスロット仮面のヘルメットを取り、額の汗を手でぬぐいながら内心と同様に表でもため息を出す。

 

 何とか『ランスロット仮面ショー(仮)』を切り抜けた今だから言えるが、アドリブだらけだった割にはマーヤやカレン達もノリノリだったし、あれで練習も何もない割には結構よかった気がする。

 

「あの……お疲れ様です。」

 

 ドキィィィィン!!!

 

 ふお?!

 

 い、今! 至近距離から声をかけられて心臓が胸から飛び出そうだった────いやそれよりもなんで声をかけられるまで気付かなかった?!

 

 緊張か?! 『やっとルルーシュに任せられる』から急にランスロット仮面の緊張感と胃の痛みとかとかとかとかとか?!

 

 それともこのヘルメットの視界が悪いからか?!

 

 声のした方向をみ────ん?

 

 ンンンンンンンソンンンンンンンンンン?!

 

 サングラスと帽子をしているが、この清楚っぽい金髪パッツンロングの少女ってモニカたんじゃね?

 

 ……………………………………え? 何で?

 

「……あの?」

 

 モニカたんって、『皇帝ルルーシュ』以外でエリア11に来たことあったっけ?

 

 あの有名な『僅か一分未満の登場』アニメ以外で。

 

『オズ』のSIDE:オルフェウスやオルドリンでは中華連邦とユーロ・ブリタニアに新大陸だった筈だし……………………………………って、アレ?

 

 モニカたん、割とマジで出番が少なくね?

 

「えっと、お水か何か持って来ましょうか?」

 

 おおおおおっと、考えに没頭して無視してしまった。

 

『優男』の仮面、着用!

 

「いえ、お気になさらずに。 慣れないことをして少々ボーっとしてしまいました。」

 

 うーん、見た目と性格は清楚なのに、服装のどこかがエロいこのギャップ感がたまらん。

 モニカはええのぉ~♪

 

「はぁ……それにしても、ランスロットのマスコット化とはいい考えですね?」

 

 う~ん、社交的な愛想笑いもいい。

 

 アニメで合計一分未満の登場でも、ファンが出来るのが全然不思議じゃないぞ。

 

 俺もその一人だったし。

 

 ……多分。

 

「さっきの『ブラックな団』とはやはり、最近騒がしている黒の騎士団をモチーフにしたものですか?」

 

 あー。 

『ブラックな団』って実は前世の『ブラック会社』というモノが元ネタなんだよね。

 “だから違うんだよねー、それが~”なんて答えられるわけがない。

 

 ……………………またそれっぽく言うか。

 

 相手が『モニカ』だし。

 

「先ほどともに出演してくれた学友が言ったように、『ブラックな団』と黒の騎士団は別です。」

 

「別────?」

「────『ブラックな団』とはその名の通り、世界の闇を示しています。」

 

「『世界の闇』???」

 

「これはあくまで個人的な見解ですが、この世の中は『強さ』だけで生きることが容易いのです。」

 

「……貴方は何を言っているのかわかっているのですか?」

 

 まぁそうなるわな。

 俺が今言ったのって要するに『皇帝陛下の言葉』に対する非難だもんな。

 モニカは名乗っていないけれど、内心『プチおこ』レベルだろう。

 

「私が言いたいのは『強さだけ追及すれば乱暴者になる』という事です。 今の世の中はあまりにも強さだけに重みを置いたことで諍いが絶えません。 話し合えば……分かり合うことを最初から捨てずにいれば、戦いをする必要が無い場もあるかもしれません。」

 

「ッ……それは────」

「────私が思うに、相手とわかり合うことを諦めないための『優しさ』。 そして()()()()()()を受けたときにこそ周りの者たちの守りに『強さ』を使うべきと思っています。 現に、先ほどのラッコの着ぐるみには非致命傷な反撃しか行っていません。」

 

「……」

 

 ま、俺からすればちょっとした『イースターエッグ』みたいなものだ。

 気付いてくれればいいし、気付かなければそれでもいい。

 

 それよりもメインは『モニカ・クルシェフスキー』が、原作通りの『真面目で礼儀正しく、“正義は全ての人間に対し等しく注がれるべきである”』という人物のままならば今の言葉でちょっとは自分で『現在()』を見て考えることを止めないで欲しい。

 

 過去に自ら自分に強いた固定概念で損をしたり、亡くなるなんてあまりにも悲しすぎるからな。

*1
64話でC.C.が変装に使ったモノと同じ




なるべく展開を進めるように頑張っています。 (;´ω`)

-by最近の温暖差に心身ともに当てられている作者


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第195話 クルルギスザク

お読みいただきありがとうございます、なんとかキリの良い200話達成に間に合わせられました!

楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m




「……」

 

 場が静寂に包まれ、気まずくなったスヴェンが『着替え』を理由に腰かけていたベンチから立ち上がってその場から立ち去ってもモニカは無言で固まったままだった。

 

「「「………………」」」

 

 スヴェンが言った言葉に何か思うところがあるのかモ二カと偶然にもその近くに来て思わず聞き耳を隠れたまま立てていたノネット、スザク、そしてミレイたちに深く突き刺さってはそれぞれの者たちに様々な思いをさせていた。

 

『分かり合う優しさを最初から捨てずにいれば必要のない戦いがあるかもしれない』。

『強さとは理不尽な暴力を受けたときの為にある』。

『強さだけを追及すれば乱暴者になる』。

 

 社会の在り方と大衆としての『普通』がより優れた者重視(弱肉強食)であり簡単にその表れとして『武』に重みを置いているブリタニアが掲げる思想とあまりにも違い、斬新な考え方────否、『異端』である。

 

「(う~ん、流石は少年だねぇ。)」

 

 ノネットはブラックリベリオン時に興奮していたニーナを言の葉(優しさ)のみで大惨事を防いだ時を思い出しながら感心していた。

 

「(相手がモニカと知っての事なら()()()()だよ。)」

 

 彼女は横目でモニカのように固まり、なにか考え事をするスザクとミレイを見る。

 

 コードギアスの世界では、周りの都合に翻弄されがちである『貴族』や『立場にある者』は自分の意思が反映されることが少ない所為で諦観がちになり、『より()()()傷の少ない選択』を選ぶ傾向にある。

 

『無難な考え方』とも呼べるが、基本的に『自己への負担』を基準にしているので選択の善し悪しは別の話である。

 

「(“分かり合うことで必要のない戦いがあるかもしれない”、か。)」

 

 スザクがそう思いながら脳内に浮かべたのは独断で動いていたユーロ・ブリタニア軍の鎮圧や、EU戦線で『人殺し』と呼ばれた場面だった。

 

「(“強さだけを追及すれば乱暴者になる”か~……)」

 

 ミレイはアンニュイな気持ちに浸り、その場で耳をへにゃっとしながら大人しくしていたアーサー()を撫でた。

 

「(さ~て、ジノとアーニャに見つかる前にモニカを迎えに────)」

 

 チャリ。

 

「(────うん?)」

 

 丁度身体を乗り出していたところで金属音が横からしたことでノネットは動きを止めてみると、スザクが『騎士の証』を手にして見ていた。

 

「(『騎士の証』? ……もしかして、ユフィに騎士選任をされた時のものをずっと持っていたというのかい?)」

 

 皇帝直属のラウンズに加入する時、本来は『皇帝への忠誠』を示す為に過去に仕えた主や部署から承ったモノなどは破棄や処分されるはずであり、皇族の騎士から昇進した者でも例外ではない……のだが、シュナイゼルの計らいでラウンズになることに乗り気ではなかったスザクに対して小さな例外が『騎士の証』である。

 

『彼の心と在り方の支えとなっていた亡き主の形見』とほぼゴリ押し気味に周りの貴族を説得させ、抗議を上げた軍部の者たちにはシャルルが『良い』という一言で黙らせた。

 

「にゃ?!」

 

「ア、アーサー?! ま、待て!」

 

 スザクの持っていた『騎士の証』にアーサーは目をキラキラとさせてそれを奪い取っては走り去り、そんなアーサーを追う為に隠れていた茂みから飛び出る。

 

 ……

 …

 

「あれぇ~? 迷ったかな~?」

 

 別のガランとした、明らかに人気がいない場所では頭をガシガシと掻きながら周りを見渡すジノとそんな彼を呆れたジト目で見るアーニャが居た。

 

「やっぱりトリ(頭)。」

 

「ん? 」

 

「無視?」

 

「そりゃ虫はいるだろうよ*1────ってなんだこれ?」

 

「……」

 

 ジノは更にジト目になるアーニャを横に、折りたたまれて待機状態だったMR-1を乗せたトラックに置かれたフォルダーを拾い上げる。

 

「『巨大ピザ計画』? えええっとなになに~? “ステップ2、トマトのコンテナはKMFによる輸送”……ルートまで書いてあるな。」

 

「チェックリストもスザク宛にある。」

 

「ルートの入力はスザクがしているみたいだな……って、これスザク宛じゃん!」

 

「…………………………………………」

 

「主役のスザクがする奴か! 面白そうだな! けど時間なのにいないのは何でだ?」

 

「ナイトメア、動くよ?」

 

「こいつ、動くのか?!」

 

 余談でここだけ何故か何時ものおちゃらけたトーンではなく某種で聞く真剣な声になったジノは次の瞬間、悪戯っ子の様な目をする。

 

「やっぱ面白いな、庶民のする物は!」

 

 ジノは待機していたMR-1に乗り込むと、アーニャはポチポチと携帯に入力をしていく。

 

 ……

 …

 

「(フゥ~……)」

 

 ランスロット仮面ショーで盛り上げ役を上手い事ライラに引き継がせて騒ぐ観客のどさくさに紛れて強化スーツとしての機能を使って逃げおおせたペロリーナことユーフェミアは内心でため息を出しながら学園内をトボトボとした足取りで歩く。

 

「(スザク、全然見つからないな~。)」

 

 チャリ。

 

「(ん?)」

 

 ユーフェミアは足元からした音に気が付くとスリスリと額をこすりつけてくるアーサーとアーサーの横に落ちていた『騎士の証』を見てギョッとする。

 

「あ、アーサー?! 何でここにペロ?!」

 

「にゃ~?」

 

 アーサーはコテンと首を傾げながらペロリーナ(の中に居るユーフェミア)を見上げ、ユーフェミアはペロリーナに内蔵された音声変換機能(ボイスチェンジャー)を通して驚く声を上げてしまう。

 

「(それに、これは……)」

 

 彼女は好意的に寄り添うアーサーを抱きかかえると同時に、『騎士の証』を拾い上げて明らかに丁寧な手入れがされているそれをジッと見る。

 

「(……スザク────)」

 

 ────キュイィィィィィィィィ!

 

「???」

 

 背後から展開するランドスピナー特有の耳鳴りに近い音がしてユーフェミアは振り返ると巨大なコンテナを頭上に掲げたMR-1が真っ直ぐ自分に向かってきているところを目撃する。

 

 「にゃ?!」

 

 アーサーはびっくりした。

 

 「バイバペロ?!」

 

 ユーフェミアはペロリーナの語尾付きで驚きを示す意味不明な言葉を口にして思わずアーサーと手にした『騎士の証』を抱きかかえたまま強化スーツの機能をフルに使って逃げ出す。

 

 ……

 …

 

「(う~む……やっぱりモニカたんの『見た目清楚なのに服装がエロい』という設定、ここでも活きているのな~。)」

 

 ランスロット仮面の衣装から着替える為スヴェンは本校内を歩きながらどこからか(恐らく無断で)拝借したピッチピチで超ミニスカ一回りサイズが小さすぎる学生服を着ていたモニカ(サイドテールスタイル)を思い浮かべる。

 

「(パンツが見えそうで見えないところも……そう言えばモニカのパイスー、『パン2〇見え』属性だったな────)────↑はぴゃ?!

 

 スヴェンは何気なく窓から学園のグラウンドを見ると巨大ピザ用にレンタルされたMR-1がアンデス産のトマトが詰め込まれたコンテナを振りながら()()()()()を追う景色に素っ頓狂な声をよく見る為に窓ガラスに近づくと額がガラスに当たってしまう。

 

 ……

 …

 

「ん────?」

「────おい、聞いているのかピザ女?! お前たちもここから絶対に動くなよ────?!」

「────ルルーシュ、()()もお前の指示なのか?」

 

「は────ほあああああああああああ?!?」

 

 アッシュフォード学園本校の庭園っぽくなってきている屋上に、のらりくらりと喋るC.C.を連れ出して既にいたカレンたちにビックリしながらも、どうにかしてスヴェンに借りを作る算段付きで彼女たちやユーフェミアを逃がそうか計画を練っていたところに、C.C.の指摘に学園のグラウンドの上をMR-1に追われるペロリーナを見たルルーシュは素っ頓狂な声を出しながら急いで屋上を去る。

 

「うわぁ?! あのお飾り姫ぇぇぇ!」

 

 カポッ。

 

 ポテポテポテポテポテポテポテ!

 

「私たちもいくわよ!」

 

「「「「え。」」」」

 

 カポッ。

 

 ズルズルズルズルズルズルズル!

 

 ペロリーナの状況を見て思わず過去に付けられたユーフェミアのあだ名を口にしながらタバタッチの頭部をかぶり直し、これを見たマーヤは(無理やり)頭部をかぶり直されたタバタッチーズを引きずっていく。

 

「……」

 

「ん? なんだアンテナ(アホ毛)女?」

 

アンテナじゃないわよ?! というかアンタは行かないの?」

 

「生憎“ここから動くな”と言われたものでな?」

 

「(うわぁ……こいつの性格、面倒くさそう。)」

 

 アンテナ(アホ毛)女のアンジュは静かに着ぐるみを着直しながらそう思い、『今か今か』と期待を持っていたC.C.を後にする。

 

「……………………………………は?! ここに居たら、出来たてホヤホヤのピザが食べられないではないか?!」

 

 ようやくここでC.C.はルルーシュの企みに気付いて彼女も屋上を後にする。

 

 ……

 …

 

「(きゃあああああああああ?! いやぁぁぁぁぁぁぁ?! 何で私を追うの~?!)」

 

「あはははははは! 庶民のすること、面白れぇ!」

 

 ジノはMR-1の中で愉快な気持ちになりながら、ナイトメア相手に逃げきれそうになっていた着ぐるみを見て更に面白がった。

 

 絵面的に子犬を無邪気に追いかける子供であり、てっきりこれも巨大ピザの一環と勝手に思い込んでいた。

 

『さあ! パレードルートに出たようです! 校舎をぐるりと回ってから、こちらにやってきますよ~?!』

 

 何も知らないリヴァルは時間より少し遅めに出現したMR-1にホッとしながら前もって準備されたセリフがマイクを通ってスピーカーから出る。

 

 バン!

 

 MR-1に最も近い本校からルルーシュが慌ててタックル気味にドアを乱暴に開けて全力疾走する。

 

「グッ! (なんてことだ! このままではせっかくシャーリーから遠ざけたユフィが大衆に────!)」

 

 ビュン!

 

「────おわ?!」

 

 校舎裏から猛ダッシュで走っていたスザクによって巻き起こる風にルルーシュは体勢が崩れそうになり、どうにか悲鳴を上げる身体に鞭を打って踏ん張る。

 

「す、スザク?! (マズイマズイマズイマズイマズイマズイ────!)」

 

 ビュビュン!

 

「────のぉ?!

 

 今度は後から来たランスロット仮面と緑色のタバタッチの追い風で転びそうになる。

 

「い、今のはスヴェンたちか……(確かに、今考えると、走るなんて、俺のジャンルじゃ────!)」

 

 ビュビュビュビュビュン!

 

「────ごわ?!

 

 ドッ!

 

 走る速度を落とさずに息が絶え絶えになりながらも考えを整えていたルルーシュを今度はかなり走りにくい筈の某Xアンジュ監察官(ブーツやタイツスカート)衣装を着たままのマーヤと彼女の後を追う小柄なタバタッチーズにとうとう足をもつれさせ深く息をして空気を要求する肺に供給しながらガクガクする膝に手を置いて上半身を支える。

 

「ブハァ! ゲッホゲホゲホゴホ! ゼェーハー、ゼェーハー、ゼェーハー────」

 

 タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ!

 

 「────とっつげき~────!」

 「────です~!」

 

 先ほどのマーヤのように走りにくいはずの丈の長いカントリードレスを着たミレイは持っていた馬上用の鞭をサーベル代わりに振りかざしながら掛け声を出し、どういう訳かシャーリーの様に水泳部カフェ衣装(ポニテエプロンカフスパンプススクール水着)を着たライラと共にルルーシュの横を通っていく。

 

 「クッ!」

 

 悔しさからか、あるいは別の何かにルルーシュは表情を歪ませて近くの建物に入る。

 

『来たぁぁぁぁ! ナイトオブセブン、枢木スザクがアンデス産のトマトとともにお出ましだー! さあ、来てくれ! 僕らは君を待っていたぁぁぁぁぁ!』

 

 リヴァルはハイテンションのまま、前回の失敗を踏まえて既にピザの生地が用意されたステージ上から近づいてくるMR-1の中に居る筈のスザクの返しを待つ。

 

 だが段取りに無かった着ぐるみを追うように走っていてMR-1からは返しが無かった。

 

「……あり?」

 

 『中の人、違いま~す!』

 

 「えええええええええええええ?!」

 

 逆に中から(リヴァルや学生たちにとって)聞き覚えのないジノの声が出てくるとリヴァルは驚愕する。

 

「きゃペロ?!」

 

 ペロリーナは足をもつらせた拍子にアーサーと『騎士の証』が両手から飛びでて、キラキラと光るそれをアーサーは器用に宙を舞いながら口に咥えて地面に着地して走り去る。

 

 ボテ!

 

「ベロ?!」

 

 バランスを崩したペロリーナは転び、ユーフェミアは淑女(?)にあるまじき声を出す。

 

『北の見回り班! ルーフトップガーデンを見ろ!』

 

「???」

 

 突然インカムからルルーシュの声に従い、委員会の一人が上を見上げる。

 

「副会長────?」

『────【システムパターン、ブルー!】』

 

「了解、システムパターンブルーを作動。」

 

 プシュウゥゥゥゥゥ!!!

 

 ルルーシュの姿を黙視した委員会は命令(ギアス)に従い、持っていた端末に入力したコマンドを実行させると学園の芝生中に仕込まれたスプリンクラー設備から水の代わりに防爆ジェルからインスピレーションを取った科学部の新作で、人体に無害であり消火の効果を持つ煙が一気に放出される。

 

「きゃあ?!」

「わぁぁぁ?!」

「なんだなんだなんだなんだ?!」

 

「おっと! こういうサプライズだったのか! アッハハハハハハハ!」

 

 学生たちは慌てふためき、ジノは足元や道上が見えなくなったMR-1を止めて豪快に笑う。

 

「な、なんだこれは?! 一体────」

 

 ボヨン!

 

「「────どぅわ?!」」

 

 近くにまで来たヴィレッタが混乱するその場に(セクシーな水着衣装のまま)駆け付けて半ば条件反射的にルルーシュ(トラブルメーカー)を探すと煙の中で着ぐるみにぶつかる。

 

「ッ。 す、すまない。 大丈夫か?」

 

「あ、いえこちらこそ────うわ?!」

 

 カポッ。

 

 ヴィレッタとぶつかったカレンは反射的に謝りながら自分の状況を思い出したのか、慌ててズレたタバタッチの頭部をかぶり直す。

 

「(あれ? この女の人……以前、どこかで見たような気が……)」

 

 カレンは感じたデジャヴにハテナマークを浮かべながらペロリーナをタバタッチーズと共に探した。

 

 ……

 …

 

 

「(ど、どこだ?!)」

 

 煙が黙々とするグラウンドをスヴェンは慌てながらペロリーナを探すがヘルメットと煙の所為で視界が悪くなっていたことにイラつきながらランスロット仮面のヘルメットを脱ぐ。

 

 ピロン♪

 

「(ん────?)」

「────記録、ありがとう。」

 

「どういたしまし……まし……て?」

 

 スヴェンが振り返ると周りがバタバタと騒ぐ中で唯一平常運転の様子だったアーニャを見て固まる。

 

 「(アーニャだ。 リアルアーニャんだ。)」

 

「……?」

 

 「(ちっさ。 手足ほっそ。 色白。 ピンクの髪の毛フワフワしてそう。)」

 

「……なに?」

 

「(おっと、『優男』で()()()だったな。) ああ、いえ。 少し驚いただけです。 ここの学生の親族でしょうか? 迷子ですか?」

 

 「大丈夫。」

 

 スヴェンに『迷子』と呼ばれたことが不愉快だったのか、アーニャは若干『ムッ』としながら答える。

 

「さようですか。 では、自分はちょっとこの場の収束に出ますのでこれにて。」

 

 スヴェンは内心冷や汗をしながらもにっこりとしてから煙の中へと消える。

 

「…………………………………………ぁ。 (聞くの、忘れた。)」

 

 何かに気付いたかのようアーニャはハッとして騒ぐ周りを無視しながら携帯を弄る。

 

 ………

 ……

 …

 

「フゥー……」

 

「アッハッハッハ! 流石スザクだね!」

 

「いえ、エニアグ……ノリーさんこそ、そちらの方を助けていただきありがとうございます。」

 

 消火剤の煙の広場から離れた、人気のないところでアーサーを抱きかかえていたスザクはペロリーナに肩を貸していたノネットを見る。

 

 あの時、煙が噴出される直前ペロリーナとアーサーを両方抱きかかえようとしたスザクを見てノネットはペロリーナを支えてあの場から離れたスザクのあとを追っていた。

 

「………………」

 

「あの……どうかしましたか? 怪我でもされました?」

 

 自分を見て無言で固まった様子のペロリーナにスザクは優しく声をかける。

 

「あ。」

 

 アーサーはスザクの腕からするりと抜け出し、『騎士の証』を咥えたままペロリーナの足に身体を擦る。

 

「よっぽど猫に懐かれやすいんだね、その着ぐるみ。」

 

 ノネットに言われて足元を見たペロリーナはアーサーを抱きかかえ、咥えていた『騎士の証』を手に取る。

 

「これ、君の物ですかペロ?」

 

「ッ。」

 

 ペロリーナの喋り方と仕草にスザクはユーフェミアを連想してしまい、目を見開きキリキリと痛み出す胸の上に手を置きそうになる。

 

「……うん。 あり、がとう。」

 

 スザクは証をペロリーナから大事そうに受け取り、それを見る。

 

「……そうなんだ。 これは僕が……()が……」

 

「……」

 

「大切な……とても大事と()()人から貰った、大切なモノなんだ……」

 

 ポン。

 

 泣きそうな表情になったスザクを慰める為か、ペロリーナは手を彼の頭の上に乗せる。

 

「……大丈夫ペロ。 貴方が大事に思うその想いはきっと伝わっているペロ。」

 

「にゃ~。」

 

 ペロリーナはアーサーの鳴き声に視線を移すと、アーサーがジッと見ているノネットにびくりとする。

 

「あペロ。」

 

「うん? 何ビクビクしてんだい? 今の私は半ば密入国したノリーだよ? それに今目の前にいるのはただの男子学生と、ブサ可愛い着ぐるみと、拾われた猫さ────」

「「────え/えペロ────?」」

「────あーあー、モリーを見つけないと大変だー。 この周りに彼女が居ないか心配だー。 探さないとー。 (棒読み)」

 

 そのままノネットは場を後にすると空気を読んだのかアーサーは近くの茂みへ入り、スザクとペロリーナだけが残され────

 

 コロコロコロコロコロコロ。

 

「────クルルギスザク!」

 

「え?」

 

「クルルギスザク! クルルギスザク! クルルギスザク!」

 

 アーサーと入れ替わるかのように、ピンク色の球体(ピンクちゃん)がペロリーナの足元に転がり、耳らしきものをパタパタさせながらスザクの名を連呼する。

 

「何、これ?」

 

「……これは、()の物ですペロ────」

「────え────?」

「────その騎士の証が貴方の大切な人の大事なモノのように、この子が呼ぶ名前も()にとって……とてもとても大事で、未だに自分で自分を嫌いになって欲しくない、大切な人の名前ペロ────」

「────そ、それは……」

 

 ここでようやくペロリーナの中にいる人をスザクが察したのか彼は目を見開き、顔が驚愕のものへと変わりペロリーナは頭部に手をかける。

*1
アキト:まだまだだな。




(´•̥ ω •̥` )ブワッ


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第196話 ユーフェミア・リ・ブリタニア

お読みいただきありがとうございます!

前回からの進み具合が続くので不安ですが、楽しんで頂ければ幸いです!

言葉だけでは表現が難しい場と雰囲気で、自分に絵を描く才能が無いのが恨めしい……


「(つ、疲れた。)」

 

 ルルーシュはとある学園敷地内の屋上からグラウンドに『システムパターンブルー』によって撒かれた消火剤の後片付けをする学生たちを見下ろしながらそう思い、ハフハフとピザを頬張るC.C.とその他に視線を移す。

 

 スプリンクラーシステムを経由して放出された煙を煙幕の様に使うと同時に場の混乱に乗じて、ルルーシュはカレン達タバタッチーズと共にペロリーナ(ユーフェミア)を探したのだが、結局ルルーシュはプレートをうちわ代わりに煙の中を進むC.C.と遭遇しては意味不明な声を出してしまい、その場から急遽撤退した。

 

 なおその間に前回の失敗も踏まえて、自動(オート)でピザが焼き上がっていたのを見たマーヤとタバタッチーズはC.C.を誘う餌としてくすねてカロリーを補充していった。

 

「ハァァァァ……」

 

「珍しいわね、あんたがため息出すなんて? モグモグモグ。」

 

「……それよりも、ここにいる者たちの素顔は見られていないな?」

 

「「「「見られていないと思う────」」」」

 「────あ。」

 

 仲良く否定する者たちの中で唯一カレンだけが心当たりがあるかのような声をあげるとルルーシュとC.C.がジト目になる。

 

「「“あ” ────?」」

「────あ、いやその! 煙の中だったし! ぶつかったときに頭が外れた一瞬だけだったし!」

 

「(この……頭が痛くなる。) 相手は誰だ? 学生か?」

 

「ううん、違うと思う。 大人の女性だった。」

 

「(何ともアバウトな……) 特徴とか何かないのか?」

 

「う~ん……凄い露出だった!」

 

 「・ ・ ・」

 

「えーと! えーと! えええええっと!

 

 無言の圧力のあるルルーシュのジト目が鋭くなったことでカレンはアタフタと焦りながら目をつぶりながら『ムムム』と唸り声をして必死に思い出そうとして思い出せたことを次々と口にする。

 

「えええええっと! ビキニ! 露出! フィッシュネットストッキング! 半ケツ────!」

「────ぶふぉ────?!」

「────うぐ────?!」

「────~~~~~────!」

「────……」

 

 ダルクは思わず口に含んでいたピザを吹き出し、サンチアはこれにびっくりして口を閉じ、アリスは喉にチーズを詰まらせ、C.C.は呆れた。

 

「(う~む、KMFの操縦は確かなのにこういうところが……いえ、神様ならば何らかの理由で目を付けている筈。)」

 

 ちなみにマーヤはニコニコしたまま頭から湯気を出す勢いの様に捻っているカレンを軽くディスっていた。

 

「────褐色! 胸がデカい! ん~っと! ビキニ────!」

「────それはもうさっき言った────」

「────紫の口紅! ロングの銀髪────!」

 「────まさかヴィレッタか?!」

 

 ここでルルーシュは口に手を付けて思考を巡らせた。

 

「(マズい。 他の教師ならばやりようもあったが、ヴィレッタだけはギアス以外の手でどうにかせねば……シンプルに脅迫するか? 確か、彼女の家族は新大陸にいた筈だ────)」

 「────ああああああああああああああああああああああああああ?!」

 

 ビクッ

 

 カレンの見た目からはとても想像できない音量の声に屋上に居た誰もが反応してしまう。

 

「「「「(凄い肺活量。」」」」

 

 そう思いながらタバタッチーズはすぐに連想した人物(アンジュ)を見る。

 

「(うるさ!)」

 

「ど、どうしたカレン────?」

「────そういやあの人、前の文化祭で見たわ!」

 

「前の文化祭? と言うと────」

「────そうよ! 病弱設定なのにアンタ(ルルーシュ)に嵌められてお化け屋敷の脅かし役をさせられた時!」

 

「何?」

 

「あれ? でもその時確か……」

 

 カポッ。

 

 うんうんとまたも考えだすカレンの視線から逃げるかのように、冷や汗を掻いていたアリスが着ぐるみを着なおす。

 

「そうそう……確か『スバル』と『高飛車ドリルオホホホ』が同時に居たような……」

 

「……アンジュか?」

 

違うわよ! 多分あれじゃない? スヴェンの女装。」

 

「……………………………… (なるほど、『シュゼット』の事か。 ん? カレンは()()()と言っていたな? どういうことだ? もしや以前からヴィレッタと接触をしていたのか?)」

 

 ルルーシュは並行思考を利用してカレンが口にした、以前の文化祭でスヴェンとヴィレッタが一緒だったことについて脳内の一部をそれに充てつける。

 

「(だがそれだと順序がおかしい。 算段があったとしても、以前の彼女は機密情報局のデータによると平凡な純血派の一員だけだった筈。 軍学校時代では『優秀な女性』と言う評価があったが、ブリタニアにはごまんとある評価だ。 そんな彼女をマークしても何ら不思議はないが、直に接触する必要性は低い。)」

 

「(あああ、だからあの人を助けたのですね! 流石神様です!)」

 

 マーヤは自己納得していた。

 つまりは『平常運転』とも。

 

 「……試すか。」

 

 ルルーシュは携帯電話を取り出して────

 

 「────こんなことをしている場合か?! お前たちものほほんとピザを頬張って、ユフィが────」

「────大丈夫だと思いますよ────?」

「────ガーフィールドさん────?」

 「────マーヤでいいですよルルーシュ。」

 

「……そ、そうかマーヤ。」

 

 顔()()がニッコリしているマーヤを前にルルーシュは嫌な感じがして言い直す。

 

「何故そう言い切れる?」

 

「そうですね……確かに彼女が人の前に出てしまえば大惨事ですがこれは彼も承知の筈ですし、“未だに我々へ捜索の連絡が入ってこないから”……でしょうか?」

 

「……………………そう、か?」

 

 ルルーシュは全く不安がっていない────と言うか逆に落ち着いているマーヤを見て歯切れの悪い生返事を返す。

 

「(あのマーヤが! あのマーヤが落ち着いている!)」

 

 以前、興奮して暴走機関車気味に豹変したマーヤを目撃したアンジュは胸がジーンとしたそうな。

 

「…………………………」

 

 カレンはそっと着ぐるみの中に仕込んである、シンジュク事変直前にスヴェンから渡されて未だに大事に持っている一世代前の型をした携帯電話に視線を移す。

 

「(“連絡がないから大丈夫”ってマーヤは言うけれど……私は逆に心配だよ。)」

 

 カレンはボーっと思いながら携帯をポチポチと弄って『大丈夫?』とメッセージを入力して既読が現れるのを待つ。

 

 

 


 

 

 えらいこっちゃ。

 

 キリキリキリキリキリリリリッ!

 

 えらいこっちゃ。 えらいこっちゃ。 えらいこっちゃ。 えらいこっちゃ。 

 

『何がえらいこっちゃだ』って?

 よくぞ聞いてくれた!

 

 いや、『興味ない』とか『早く次に行け』とかじゃなくて聞いてくれ。

 

 ユーフェミアが見つからないでゴザル。

 

 確かにランスロット仮面ショーをやっていた時は観客席側で盛り上げる役をしていたのにいつの間にかライラに変わっていてこういう時はどことなくアニメとかで見た『悪知恵』が働いて中の人繋がり『タク〇かよ?! 本当に勇者トリオメケメケ団のリーダーなのかガ〇ード似!』と、自分でも意味不明に近い訳の分からないことを口にして叫びたい。

 

 実際はそれらの衝動を抑えるために学園内でも人気がなさそうなところをしらみつぶしにして思わず思春期真っ最中の男女の場に乱入しそうで隠密行動(スニーキング)に行動を変えたりして胃がさっきから結構ヤヴァイ。

 

 「ハロ~────!」

 「────ノォォォォォォ?!?!」

 

 曲がり角から “ハロ~”と挨拶してくるハ〇モドキがコロコロと転がりながら出て来てことにドビックリマー〇モしてしまい、どうしたら良いのか分からなくなった上半身と下半身の動きがチグハグになって俺は転んでしまう。

 

 ドシッ!

 

「…………………………」

 

(ランスロット仮面の)ヘルメットが無ければ顔面フェイスプラントを決めていた。

 

 パタパタパタパタパタパタパタ。

 

 そしてまるで俺の無様な姿をあざ笑うかのようにハ〇モドキのピンクちゃん(ユーフェミア命名)が耳部分をパタパタさせる。

 

 ……無性に腹が立つが、ピンクちゃんがここにいるという事はペロリーナ兼ユーフェミアが近くにいるという────

 

 ガブッ!

 

 ────あいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 俺の右手にした手袋をアーサーの牙が貫通したぁぁぁぁぁぁぁ?!

 こ、こ、こ、コケコッコーのこいつ、『直撃』持ちか?!

 

 まだだ! まだ終わらんよ────!

 

「────テヤンデイ!」

 

 バシッ!

 

「ブッ?!」

 

 ナニコレ。

 こ、今度はピンクちゃんが顔面に頭突きをヲをヲを?!

 

 えええい、つまらん小細工ゥゥゥゥゥ────!

 

 ガジガジガジガジガジガジッ!

 

 ────いたたたたたたたたたたたた?!

 

 か、噛んだ! 噛むのやめてぇぇぇぇぇぇ!!!

 

 強く出たいけれどピンクちゃん壊したり、アーサーをケガさせたららユーフェミアは悲しむだろうしスザクなんかは怒りが天元突破しそうでヤバい。

 

 へ、ヘルプミー────!

 

 ────テシテシテシテシテシテシテシテシテシッ!

 

 肉球の所為で痛くはないというかどちらかと言うと癒されるけれど同時にこれっていわゆる『猫パンチ』だからはた迷惑と言うか困る絶妙なラインに沿っている……だと?

 

 

 


 

 

 場は上記でスヴェンがアーサーとピンクちゃんによる巧みな波状攻撃を食らう少し前の、ちょうどペロリーナが頭部に手をかけた瞬間へと時間は戻る。

 

 スッ。

 

「ペロ?」

 

 ペロリーナの動きを制するかのように、スザクは手をあげる。

 

「今の僕に、君と向き合う資格はないよ。」

 

「……?」

 

「僕は、“君のそばにいたい”と思いながらもあの日……君じゃない君を『君』と思い込んで、同じぐらい大切な友達のいう事を信じるどころか────」

「────それはスザクの所為じゃないペロ。」

 

「……え?」

 

「間とあなたや私たちの性格や感情等を利用した人たちが悪いペロ。 それに、()()()も……」

 

「それは……」

 

「だから、スザクは何も悪くないペロ。 スザクもただ利用されただけペロ。 あの時のみ~んな、被害者ペロ。」

 

「ッ。」

 

「それに……もう一人の私も多分恨むどころか貴方を気遣って、“自分はユーフェミアじゃない”と伝えるペロよ?」

 

「(……ああ。 だからあの時、彼女は“ちが”と言い続けていたのか……なんて思い違いをしたのだろう。)」*1

 

 スザクはそのことに考えが行きつくと頭が真っ白になり、思わず脱力していく足の所為で体がフラフラする。

 

「だったら、僕は……俺はやっぱり、無駄なことをして────」

 

 ────ポスッ。

 

 倒れそうになったスザクを、ペロリーナがハグをして支える。

 

「私の思いは今も変わらないペロ。 だから、自分を嫌いにならないでペロ?」

 

「……俺は、ナイトオブワンになってエリア11を領地に指名するつもりだった────」

「────貴方なら、スザクなら絶対なれますペロ。 それに、それは()()()()のそばに居る為ですよねペロ?」

 

「ッ……そこまで……どうやって────」

「────エッヘンペロ。 私だって何もしていないわけじゃありませんペロ。 ですから……今でもいつか、皆で笑顔になれる場所を作る努力はしていますペロ。」

 

「でも、それは……今の君は────」

「────身分がない分、もっと自由に動けるようになったペロよ?! ですから貴方も早くナイトオブワンになってナナリーと一緒に()()()と合流するペロ!」

 

「………………君には、敵わないな。 いつも急だ。」

 

「“突然”と言ってくださいペロ! さぁ! 返事はどうです、枢木スザクペロ?!」

 

「………………」

 

 ハグから離され、スザクは片膝を地面に着く。

 

「イエス、ユア……ううん、今は敢えてこうしよう────」

 

 ────スッ。

 

 スザクは片膝を地面につけたまま、ペロリーナの手を両手で取る。

 

「ペロ?」

 

「日本侵略後、君に会うまで俺の心はまるで夜しか訪れていない、冷たい大地のようだった。 でも、君と会って初めて光が差しこんだ。 それは暖かくて、まるで陽光の様に眩しくて……その……君は、俺にとっては『太陽』なんだ。」

 

 上記のそれはフクオカ事変時にユーフェミアがした大胆な告白に対しての、スザクなりの返事だった。*2

 

「だからその……その時が来たら、隣で俺を照らしてくれないか?」

 

「……………………」

 

「あ! 勿論その、君が嫌だったら────」

 「────あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛。」

 

「え?」

 

 スザクは知らないだろうが、ペロリーナの中のユーフェミアはスザクからちゃんとした告白の返しを聞いて思わずズブズブに泣き崩れ、音声変換機能(ボイスチェンジャー)でも対応しきれないほどの声を出していた。

 

「う゛う゛うぅぅぅぅぅぅ。」

 

「え? あの、え?」

 

 ぺロリーナは俯きながら両手で顔を覆い、スザクはどうしたらいいのか戸惑う。

 

「えっと……それとさっきの君に対しての返事なんだけれど、“イエス、マイレディ”でいいかな────?」

 「────あ゛う゛あ゛う゛あ゛う゛あ゛う゛あ゛う゛あ゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛。」

 

 スザクの慰め(トドメ)に、ペロリーナの中のユーフェミアはブラックリベリオン後から今まで抑えていた感情に身を任せて更に泣いた。

 

 そんなペロリーナを、今度はスザクが子供をあやすようにハグをした。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……お騒がせしましたペロ。」

 

 あれから数分ほど、目が腫れるまで泣いたペロリーナ(の中にいるユーフェミア)はむくれた目を(ペロリーナの頭部を使って)擦りながら地面の上に体育すわりのまま気まずい声を出す。

 

「あー、うん。 僕も僕らしくないことを言って御免。 大丈夫? “着ぐるみの中は大変だ”って以前に聞いたのだけれど。」

 

「……この着ぐるみって高性能で長時間の活動を想定された物ですから、どちらかと言うと服より快適ですペロ……頭部はやっぱり外しちゃダメペロ?」

 

「“資格がない”のもあるけれど……その……ギアスのことを知っているという事と、君がここにいるのは、ルルーシュのおかげ?」

 

「え?! う、う~ん────」

「────君が即答せずに考えるという事は、君の事がブリタニアに知られたら厄介なことということだろ? だから、『仮面』をお互い外すのは後でもいい。」

 

「……スザク────」

 『────ハロ~────!』

 『────ノォォォォォォ?!?!』

 

 ビクゥ。

 

 スザクたちのいるところにピンクちゃんと男性の叫ぶ声が届き、二人は思わず驚きに肩を跳ねらせてしまう。

 

「な、なんです今のペロ?」

 

「だ、誰か来るみたいだ! ここは僕がいるから、君は早く────!」

 『────テヤンデイ!』

 

 バシッ!

 

 『ブッ?!』

 

「う、うんペロ!」

 

 ペロリーナはアタフタと立ち上がるが、ポンとまるで何かを思い出したかのように両手を打つ。

 

「あ! スザク! こっちを向いて────!」

「────な、なんだい────?!」

 

 ────チュ♡

 

 ペロリーナの声に呼ばれるままスザクは頭を振り向かせるとふわりと花のような香りと共に柔らかい感触がスザクの鼻と頬をくすぐる。

 

「え────」

 

 カポッ。

 

「────続きは『仮面』を外した時でペロ♪」

 

 ポテポテポテポテポテポテポテポテ!

 

「……………………………………………………………………………………………………え?」

 

 スザクはただほのかに残る感触を手で覆い、真っ赤になって恥ずかしがる表情を浮かべたペロリーナが消えるまで見送る。

 

 、タ、タ、タ!

 

 まるで消え去ったペロリーナと入れ替わるかのように、(ガジガジと手首を噛み続ける)アーサーと(片手で無理やり抑え込む)ピンクちゃんを持った(衣装がボロボロの)ランスロット仮面がその場に現れ、スザクを見ては一瞬固まる。

 

「ッ。 や、やぁそこの君! ここらでツギハギの着ぐるみを見なかったかい?!」

 

「………………………………」

 

「(あれ? 生真面目なスザクにしては見向きもしないなんて珍しいな?) ……あの~?」

 

 「は?! ちょ?! ()()()()()()?!」

 

「(うわ?! 何だこのテンパり方?! って焦っているのは俺もか! 何か、何かを考えろ! 素数とイケボハルトを思い出せ! ……良し、落ち着いた。) ここらでツギハギの()()()()()を見なかったでしょうか?」

 

「(『ペロリーナ』? ああ、多分さっきのアレか。) え、ええ。 ついさっきあちらの方向へ────」

「────そうか! 感謝する少年────!」

「────あの、手首のアーサーを預かります────」

「────さらに感謝するぞ雄二(ゆうじ)!」

 

 、タ、タ!

 

 アーサーを預かられたランスロット仮面は嵐の様に来ては去った。

 

「…………………………………………………………『ユウジ』って、誰だろう?」

 

「にゃ~?」

 

 珍しくスザクと同意するかのようなアーサーの、一人と一匹はハテナマークを浮かべてお互いを見る。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガシッ!

 

「わ────?!」

「────や、やっと捕まえたぞペロリーナ────」

「────捕まっちゃったペロ♪」

 

 スヴェンはランスロット仮面としてようやく人気のないところを走り回っていたペロリーナの手をがっしりと掴むとバツが悪そうにペロリーナが言葉を発する。

 

「(なんだこの『いたずら大成功!』みたいなノリは? 自分の立場を理解しているのか? いや、それよりも────)────誰にも()()()見られなかったか?」

 

「はい、(話はしたけれど)()()()()()()()()。」

 

「(セェェェェェェェフゥゥゥゥ!) そ、そうか。 ならばピンクちゃんを持ってカ────タバタッチ達と合流し……いや、そもそもなぜリスクを冒してまで学園に来た?」

 

「その……スザクの歓迎会なら人がいっぱいですし、遠目でも彼を一目見たくて……ご迷惑おかけして申し訳ありません!」

 

 「(思っていたより健気な理由だった。)」

 

 頭を下げるペロリーナ(ユーフェミア)を前に、焦りから興奮していたランスロット仮面(スヴェン)は内心冷えていく。

 

「(いや、まぁ……うん。 ブラックリベリオンから今までの境遇を考えたら、無理もないか。 外に出てきたのも結構最近なわけだし、大目に見るか。) ……送るから、行くぞ?」

 

「あ、はい!」

 

 キラキラキラキラキラキラ~☆

 

「(なんでユーフェミアってこんなに元気なの? 昼間、あんなにMR-1に追い回されていたのに……それに心なしか浮足に────)」

 

 ────ピロン♪

 

 スヴェンは携帯を取り出すと未読メッセージを開く。

 

「(えーと? 一つはルルーシュから。 『ヴィレッタの説得』と……カレンから『大丈夫?』、か。 二人には『大丈夫』と返してからユーフェミアを送ってヴィレッタに会いに行くか……割と久しぶりに『スバル(森乃モード)』の化粧だな。)」

*1
74話より

*2
60話より




。゚(゚´ㅅ`゚)゚。


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第197話 『なんでじゃい』、リターンズ

お待たせ致しました、少し不安なので事前に予約投稿をされた次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m


「『ヴァインベルグの懐刀』とは伊達ではないようだな?」

 

「い、いえ。 こちらこそナイトオブテンと手合わせを出来て光栄です!」

 

 旧日本────すなわちエリア11でゼロが復活したことを好機に想い、ブリタニアへ徹底抗戦をすべしと思うEUの連合国や周辺国(ユーロ・ブリタニア)たちの活動が活発になったことで独自の部隊を展開できるラウンズが更に導入されていた。

 

 ナイトオブテン────ルキアーノと彼の親衛隊である『グラウサム・ヴァルキリエ隊』も途中で補給をする為にエリア24に立ち寄り彼らが待っている間、ラウンズ相手に自分の実力を試したかったレオンハルトとシミュレーターで対戦していた。

 

『別にヴァルキリエ隊に転属されたマリーカの様子を見たかったわけではない』、とレオンハルトは口にしていたがラウンズのルキアーノより先にマリーカに会いに行った時点で周囲にはモロバレであった。

 

「なぁに、シミュレーターなんて所詮は遊びだ。 なんの贄にもならない、ナマの殺し合いと違ってな────あ、これパーツと弾薬の受領書ね? ありがとう。」

 

「……」

 

 エリスは目を点にしながら、『ブリタニアの吸血鬼』の異名を持つルキアーノのどこからどう見ても『健やかな青年の笑顔』を前に固まっていた。

 

「??? なにか、私の顔についているかい?」

 

「ハッ?! と、とんでもないです! お手数お掛けしましたナイトオブテン様!」

 

 「ええ! 助かりましたわ!」

 

 グイ。

 

 そんなルキアーノとエリスの間に露出度が高い衣装に強調されるスタイル抜群であり巨乳の金髪ロングヘアーでヴァルキリエ隊の一員、『リーライナ・ヴェルガモン』が横から無理やり割り込むように現れる。

 

「ヴィンセントタイプの補充物資を備えている基地はエリア24ぐらいですから、これからEU方面の攻略に『KMFの用意が出来ませんでした』では体裁が整いませんもの。」

 

「おや? ナイトオブテンが()()ヴィンセントをお使いになられたのですか?」

 

「(ほう、これが噂のティンク・ロックハートか……)」

 

 後から来て、シミュレーターでルキアーノに撃墜されたレオンハルトを慰めていたティンクをルキアーノはチラリと横目で見る。

 

「ベラルーシ戦線でテストパイロットを兼ねていた。 このリーライナを始め、ラウンズの親衛隊には腕に覚えのあるパイロットたちばかりいるが、それでもあの機体を持て余すどころかあの機体の性能に追いつけなかった。」

 

「なるほど、そこでナイトオブテン自らが出てきたと言う訳ですね?」

 

「今の主流であるサザーランドをヴィンセント型に変えるのなら、初期量産試作型辺りと同程度の性能に下げた方が良いだろう。」

 

「流石はナイトオブテン、ご慧眼を────」

「────しかしだ。」

 

 ここでさっきまで飄々としていたルキアーノの目が細くなり、まるで得物を見つけた野獣の様なモノへと急変するとその場に居たレオンハルト、ティンク、そしてエリスの三人を緊張感が包み込む。

 

「しかし、何故ヴィンセントの予備パーツがエリア24────それも大グリンダ騎士団のここに、大量に備えられているんだね? 確か(けい)らの乗機は『ヴィンセントプラン外の試作機』だった筈だよなぁ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かい?」

 

「(『ブリタニアの吸血鬼』、ルキアーノ・ブラッドリー……『血塗られた古の名家の末裔』……)」

 

「(『帝国への反響』の旗印になり得る度重なる兇状によって、あの皇帝自らがナイトオブワンに成敗を命じて帝国に恭順を誓わせた……)」

 

「(『ナイトオブテンのブラッドリー卿』と言えば『血に飢えた狂戦士』と世間は評価しているが……その実は冷静な洞察力と嗅覚を持つ狩人だ……)」

 

 ティンクは自分のサイバネテックを使って表情を維持し、エリスはルキアーノの事をかつて面白半分で読んだデータベースの内容を思い出しながら身じろぎ、レオンハルトは冷や汗を流しながらルキアーノへの評価を改めた。

 

「………………………………ま! 他人の暗闇に手を突っ込むほど野暮でも暇でもない。」

 

 ルキアーノの態度と口調がまた『健やかな青年』へと戻ると同時に、その場に満ちていた圧力がフッと消える。

 

「ああ、それと私から言えることは “せいぜい(けい)らも励め”という事ぐらいだ。」

 

 ルキアーノはニカっと笑みを浮かべ、彼にべったりとくっついたリーライナと共にその場を後にする。

 

「……どう思います? ティンクさん、レオンハルトさん?」

 

「一応、『私たちの事は秘密にする』という事で間違いないだろうね。」

 

「“でもその代わりヴィンセントのパーツと武器弾薬は弾め”とも取れましたね。」

 

「ですよねー────」

 

 バサッ!

 

「────まぁまぁ良いじゃないか諸君にエリスたん────!」

「────きゃ?! ソキアさん────?!」

「────目的だった『ナイトオブテンの戦闘データ』は入手できたんだし、それで良しとしようぜい────!」

「────ちょっとソキアさん、どこ触っているんですか?!」

 

「ま、ソキアの言う通りですね────」

 「────いい。」

 

「ん? レオン、何か言ったかい?」

 

 「じゃれる女子の景色はやはりいい。」

 

「あー、うん。 聞いた僕が野暮だったね。」

 

 ティンクはレオンハルトと共に(ソキアが一方的に)じゃれる女子二人の光景を脳内に焼き付けながら、今日の事をどうマリーベルに説明しようか考えた。

 

 ……

 …

 

 

「朱禁城に確認もせず、独断でなぜ“合衆国日本をお認めになる”などとブリタニアに宣言なさったのですか?」

 

 中華連邦の総領事館内で、星刻(シンクー)と彼直属の部下たちは総領事を務める大宦官の高亥(がおはい)を問い詰めていた。

 

 今までの行動は『黒の騎士団を利用する』という体で大宦官たちが進めていたことと星刻(シンクー)たちは思い込んでいたのだが、先日ブリタニアの使者との外交で高亥(がおはい)の『中華連邦は合衆国日本を認めている』という会話がきっかけとなり、中華連邦本国からは『高亥(がおはい)の独断』という事が星刻(シンクー)たちにようやく伝わった。

 

 よって、『この一連は高亥(がおはい)独自の計画で、黒の騎士団を自分一人の手土産にして我先にとブリタニアに寝返る気なのでは?』と星刻(シンクー)は考えた。

 

 以前から天子の政略結婚の密談は続いているが、『もし黒の騎士団を分配せずに丸ごと手柄とすれば約束されている地位はより向上する』。

 

 傍からすればアホみたいなこと狂気の沙汰でしかないのだが星刻(シンクー)はそのような考え方をした者たちを今まで幾度となく見てきて、そのような『寄生虫』を排除してきた。

 

 今回はただようやく、中々尻尾を出さない大宦官だけの事だった。

 

「いかに大宦官の1人とはいえ、許されることではありません。 ゼロを利用するにせよ、いかなる目算があって────」

 「────ゼロを利用するなどあってはならぬ!」

 

「「「「????」」」」

 

 声を上げながら()()()()()()()()口にする高亥(がおはい)に対して、星刻(シンクー)たちは戸惑うがそんな彼らを高亥(がおはい)は無視する。

 

「ゼロ! ゼロこそが幸せ!」

 

「(何を言っているのだこいつ? この変わり様、まるで────)────天子様の御意向は────?」

 「────あんな小娘よりゼロよ!」

 

「(やはり、まるで優先順位を変えられたかのような豹変ぶりだ。 もしや麻薬か何か術の類か?)」

 

「ゼロこそ私を幸せにしてくれるということが絶対の法則────!」

「(────もうここまででいいだろう。)」

 

 ドシュ!

 

「ぐあぁぁぁ?!」

 

 まるで絶対的な存在のようにゼロを崇拝する大宦官に狼狽える部下たちを見て星刻(シンクー)は手首の元に隠した暗器を飛ばして高亥(がおはい)の喉を掻っ切る。

 

 喉から出る血を両手で抑え、『無理』と分かっていながらも止血を試みる大宦官が絶命するまで星刻(シンクー)は待つ。

 

「『紅天、既に死す』……お前たち、黒の騎士団に与えられた領地に通じる橋を一つだけ残し、ほかは全て落とせ。」

 

「「「ハッ!」」」

 

 星刻(シンクー)の部下は彼の命令を遂行するために部屋を退室していき、星刻(シンクー)は目から光が消えた高亥(がおはい)の亡骸を見下ろす。

 

「この寄生虫が……」

 

 

 ドゴゴゴォォォン!!!

 

 星刻(シンクー)が命令を出した日の深夜、中華連邦の総領事館を中心にトウキョウ租界内で爆発音が響く。

 

 それはまるで、状況がまた動き出す合図の鐘の音の様だった。

 

 ………

 ……

 …

 

「状況は?」

 

 謎の爆発で飛び起きた毒島は下着姿のまま、レイラ(薄いヒラヒラ寝間着姿)のいる個室に入るなり説明を求めた。

 

「監視カメラの映像を見たユキヤたちによるとつい先ほど、この領事館の周りにあった橋や道が一つを残して全て爆破されたようです。」

 

「なるほどな……星刻(シンクー)が動き出したか。 なら、こちらも移動の準備を進めるとしよう。」

 

「ええ。」

 

 

 

 レイラや毒島とは別の部屋では同じように飛び起きて急遽現状把握をし終えたC.C.とカレン、そして報告をまとめに来た井上の三人は銃の点検をしていた。

 

「橋や道が塞がれた。 これでここは『陸の孤島』状態となった。」

 

「ええ、アオモリを思い出すわ。*1

 

「でも皆、服を着ているからあの時よりは全然マシじゃないかしら?」

 

「まぁ、井上さんの言う通りなんだけれど……そう言えば井上さんはあの時、誰と一緒に無頼に乗ったんですか?」

 

 「本当に知りたい?」

 

「イエゼンゼンゴメンナサイ……それにしても、総領事はゼロにその……()()()だったはずなのにどうして……」

 

「さぁな。」

 

 カレンは無言の威圧を放つ井上に対してカタコトになってからふと気づいたことを口にし、井上が居たことで敢えて『ギアス』と言わなかったが、察したC.C.はぶっきらぼうに返事をする。

 

「……それよりもお前、変わった銃を持っているな?」

 

 C.C.は自分で点検しようとした銃から、井上が肩のベルトからぶら下げていた機関銃に視線を移す。

 

「ん? ああ、これ? スバル君が後方支援部隊の部隊長用に提案した短機関銃なの。」

 

「そうなのか? 私は初めて見たぞ。」

 

「ああ、うん。 これ、()()()()()()()使()()()()()()時点で変わっている上に撃った後の匂いがきついから不人気なのよ。」

 

「じゃあ何でお前はそれを使っている?」

 

「多少の水に濡れたり泥が付いたりしても使えるし、部品も少ないから点検は割と簡単だし────」

「────見せろ。」

 

「…………………………………………」

 

 井上は弾倉を外してからC.C.に銃を渡すと、C.C.はまじまじと渡された短機関銃をあらゆる角度から観たりパーツを引っ張ったりする。

 

「あの、大丈夫? 点検の仕方、見せるわよ────?」

「────バカにするな。 これぐらい何とも────」

 

 ツル。

 

 「「────あ。」」

 

 ガシャ! パァン

 

 「ちょっと! その短機関銃、オープンボルト式らしいから気をつけてよ?!」

 

 C.C.の卵のような肌をした手からするりと銃が抜け出して床に衝突すると短機関銃が装填されていた弾丸を発砲して壁にめり込むと、すごい剣幕でカレンが怒鳴る。

 

「あ、うん。 ゴメンカレン……」

 

「『オープンボルト』? それにこの匂い……火薬?」

 

「あ、C.C.には分かるんだ。」

 

「フ、歳は伊達ではないぞ?」

 

「(歳って、この子は何を言っているのかしら?)」

 

 何とかどや顔を出してマウントを取ろうとするC.C.の言葉に井上は(内心で)ジト目になる。

 

「うーんと、スバルの受け売りなんだけれどね? 『オープンボルト』は部品が少ないから点検も作るのも簡単なんだって。」

 

「なんだその曖昧な説明は?」

 

「いやだって、私もよくわかんないし。 あ! でもスバルはウキウキしていたよ────!」

 「────私はそこまで聞いていない。」

 

「あ、うん……そうだね……」

 

「(畏まるカレン、何だか叱られた猫みたい……)」

 

 ガチャ。

 

 カレンたちがいる部屋に、険しい表情を浮かべた星刻(シンクー)が入室する。

 

「一人?」

 

「意外だな。」

 

「何? 文句でもある? 中華連邦の総領事は、ここを合衆国日本と承認した筈だ────」

「────その方にはつい先ほど亡くなってもらった。」

 

「「「ッ?!」」」

 

 カレン、C.C.、そして井上の三人は驚愕の目で星刻(シンクー)をソファーから見上げる。

 

「して、お前たちはどうする? ここでついえる道を選ぶか?」

 

「なるほど、我々は思わずきっかけを作ったようだな? お前たち、ここから出るぞ。」

 

 C.C.は何かを察したのか、そう言いながら星刻(シンクー)をもう一度見る。

 

「(さて。 これが高邁なる野望か、俗なる野心か、あるいは他の何かだろうか?)」

 

 ……

 …

 

「ハァァァァ……」

 

 アッシュフォード学園の『ナイトオブセブンの歓迎会』兼イベントに半ば無理やり巻き込まれ、水泳部カフェの一番の見世物に決められ、『世界一の巨大ピザ』で起きたアクシデントの所為で芝生に密着した消火剤の後片付けにヴィレッタは自分のセクシーで恥ずかしい衣装が気に無くなる程心身ともに疲れていた。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァ……飲みたい。」

 

 彼女はトボトボとした足取りで、その日の報告を聞くためそのまま機密情報局がある地下の拠点に向かう為のエレベーター中で、酒を飲みたい衝動のまま上記を口にする。

 

 プシュ。

 

「久しぶりだな、()()()。」

 

 エレベーターから降りて、そのまま指令室の中に入ると久しぶりに聞く声と呼び名にヴィレッタは目を見開く。

 

「スバル……さん……」

 

 指令室のテーブルには包みに入ったモノ等と、ライダースーツに『森乃モード』の仮面をしたスバルだった。

 

 

 


 

 

 ぶっつけ本番にオラの胃がキリキリすっぞ。

 

 俺、考えたんだけれど……『扇フラグ』を折れさせたのは良いけれど肝心の俺がルルーシュに人質にされてヴィレッタを無理やり従わせるフラグも立てていたんだな?

 

 そう捉えれば、この結果は『良好』かも知れない。

 

 さてと。

 こうやって久しぶりの『ライダースーツ』に『森乃仮面』を付けているわけだがどのような説明をして、どのタイミングで『スバル(森乃)=スヴェン』と────

 

「────無事、だったんですね?」

 

 およ?

 

 思わず『罵倒される』、あるいは『脅される』の行動を予想していたのになぜかヴィレッタがホッと安堵しているぞい?

 

 何故(なにゆえ)

 

「その、お変わりなくお過ごしでしょうか?」

 

「ああ、俺は元気だ。 ベルマも……いや、ヌゥ男爵も元気で何よりだ。」

 

「ヌゥ男爵なんて……ベルマで良いですよ。 あの子も、元気にしていますか?」

 

『あの子』ってマオ(女)の事か。

 

「ああ、マオも元気にしている。」

 

「そうですか、それは良かったです。」

 

 しおらしくホッとするヴィレッタ!

 最高ンンンンンンンンンンンソンンンンンンン!!!

 

 そういや今思ったんだが『ヴィレッタ』って、『扇』を抜けばR2でそれほど大きな役割を持っていなかったよな?

 

 つまり……モブ子に近いよな?

 それに『ロストカラーズ』からの情報だと、何気に女子力が高いし。

 

 でも、肝心な『スバル(森乃)=スヴェン』が大変なんだよなー。

 

「スバルさんは、やはり黒の騎士団なのでしょうか?」

 

「何故そう思う?」

 

「その、イレ……旧日本の方ですし、隠れ家に────」

「────“以前のアジトなどの設備を考えれば自ずとそう思ってしまう”か? 概ね間違ってはいない。」

 

「そう、ですか。」

 

 え、まさかそれだけ?

 もっとこう、根掘り葉掘り聞かれる覚悟だったんだけれど俺?

 

「「……………………………………………………………………」」

 

 き、気まずい沈黙が続くのは嫌いだがどうしよう?

 

「あの────」

 

 ん?

 

「────以前、学園で伝えたことを覚えていますか?」

 

 “イゼン、ガクエンデツタエタコトヲオボエテイマスカ”ッテドウイウコト?

 マ()から何も聞いていないぞ?

 

「……???」

 

 やばい、俺の返事がない事にヴィレッタが不思議に思っている!

 

「あの時の返事────」

「────すまない。 続きを言う前に、君に聞きたいことがある。 ブリタニアの男爵である君は、俺を捕まえて手柄にしようと思わなかったのか?」

 

 って、思わず焦って口を開けたけれど何言ってんの俺ぇぇぇぇぇ?!

 

「ぁ。 その……考えもしていなかった、です。 それに命の恩人でもあり、右も左も分からない私に深く検索せずに居場所を提供してくれた恩もありましたし。」

 

 ……割と本気でアニメの印象よりかなりしおらしいし口調も違うが、これが彼女の『素』なんだろうな。

 

 前世の現代社会で『男女平等』は結構最近なモノだが、何だかんだでコードギアスの世界は『性別が女』というだけで不利なスタートだ。

 まるっきり20世紀前半の様な男女差別がまだまだ活きている。

 そんな中、ヴィレッタは年下の兄妹を養うためにブリタニア軍に入ってのし上がってきたんだ。

 性格もキリキリときつく、跳ね詰まったモノになるのは仕方がない。

 

「先ほどの、君の質問に答える前に知って欲しいものがある。」

 

「私に知って欲しいもの?」

 

 俺は傷跡などが絶えない仮面に手をかけて、それを外すと空調の効いた空気が俺の顔に当たる。

 

「ッ?!」

 

「事情があって、俺はこの姿で通っていた。 それを踏まえた上で、君と話がしたいが……聞く気はあるかね?」

 

 「なるほど。 だから()()()、私には二人の姿が重なったのか……」

 

 ちょいまち。 『あの時』っていつ?!

 というか何でバレた?!

 バレる要素はゼロの筈だ!

 

「あ、その……二人の『目』が一緒だったので────」

 

 ────オーマイガッ?!

 

 俺、もしかして考えていたことを口にしていた?!

 

「あ、別に“口にした”とかではなくその……『雰囲気からなんとなく』そう感じてだけで。」

 

 何この圧倒的『包容力』と『理解』はぁぁぁぁぁ?!

 

 流石は原作の扇が一日の会話を『うん』、『ああ』、『そうだな』で済ませてもなんとか夫婦をやっていけていただけはある!

 

「それにしても、驚かないんだな?」

 

「ええ、まぁ────」

「────ゼロの事があったからか?」

 

「え?」

 

 よし、ここでゴリ押しに出よう。

 

「先ほど俺が『事情があった』とは、ゼロの……ルルーシュの事だ。」

 

「まさか、スバルさん……ああいや、スヴェンも?」

 

「まぁな。 ゼロとルルーシュの繋がりに行きつくまでさっきの仮面を対策として()()()()『スバル』も使っていたが、彼も俺の正体を知っているからこの変装はほぼ無意味になった────」

「────待ってくれ!」

 

 ん?

 

「その……変装はしない方が良いと思う。 ロロに手渡された資料に、お前の────じゃなくて『スバル』がC.C.同様の『捕獲対象』となっていたのですが。」

 

 なんでじゃい。

*1
87話より




余談:
色々あって、後編のスバルは『森乃モードをV.V.に見られた』ことをど忘れしています。 (;´ω`)

余談2:
ちなみヴィレッタの誕生日プレゼントに用意されたモノ等は原作同様にルルーシュ&水泳部から胃に優しいタイプの健康ドリンクと、キーホルダーサイズの『角の生えたデフォルメ狼(犬?)』です。 |ω・`) ノ


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第198話 動き出す(雪だるまな)世界

猛暑が続く中、読者の皆様もお体に気を付けてください。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m


「中華連邦がか?」

 

『ああ、どうやらあの星刻(シンクー)にも思惑があるようだ。 ただの武官ではない。』

 

 アッシュフォード学園のナイトオブセブン歓迎会でのアクシデントの片づけが終わり、ようやく恒例の後夜祭の光景をルルーシュは建物の屋上から見下ろしながら中華連邦の総領事館に戻っていたC.C.から来た現状報告の連絡に焦らず、平然と暗号化された携帯電話でやり取りをする。

 

「だろうな。」

 

『まさかお前、知っていたのか?』

 

「以前お前を中華連邦への使者として送った時があっただろ?*1 その際、軽く調べた時に『中華連邦と言う国にマークされている人物』とリストに上がっていた武将の一人だ。 それで、総領事館からの脱出ルートは?」

 

『確保できている。 既に撤退する準備した者から順にチバ(千葉)へと向かわせている。』

 

「そうか。」

 

 C.C.から『千葉』を聞いた瞬間、ルルーシュは先日黒の騎士団の幹部たちをギルフォードの宣言した公開処刑から救出した夜、『何故ゼロは急に居なくなった』と問い詰めながら一部始終、藤堂や扇からゼロが戦線離脱した理由の弁護をしても自分を睨んでいた千葉を思い出す。

 

「……」

 

『そっちの千葉じゃないぞ?』

 

「分かっている。 というか今のはなんだ?」

 

『アキト流の“ぎゃぐ”という奴らしい。』

 

「(意味が解らん。) どちらにせよ、随分と早く行動が出来たな?」

 

『毒島達が物資の搬入などができやすい様に片づけをしていたらしいからな。』

 

「(『サエコ・ブスジマ』……確か桐原の孫だったな? 祖父共々、優秀だな。 黒の騎士団への協力者にしておくことが惜しいが、桐原曰く“アレはアレで役割を持っている”と断られたな。) そうか。 状況が変わるようならば、すぐに連絡をして来い。」

 

『学園の問題は良いのか?』

 

「ヴィレッタをアイツに任せた。 あとは────」

『────スザクか。』

 

「ああ。 何故このタイミングで戻ってきたのか、そして何のためにわざわざ理由を『学生としての復学』にしたのかをはっきりしなければ計画の練りようもない。 それに────」

 

 ここでルルーシュが思い出すのは忌々しい、『ジュリアス』としてユーロ・ブリタニアで活躍していた時だった。

 

「(あの時のジュリアスが『皇帝直属の者』であったことと、スザクが皇帝と繋がっていることを踏まえれば皇帝の命で常に近くいたのは明白だ。 だがあの時のスザク……奴の目は『監視対象』を見るものでは無かった……ような気がする。 どちらかと言うと10年前の日本侵略後に見せた時、悲哀────)」

『────ルルーシュ?』

 

「ッ。 (何を考えているんだ、俺は。 俺を撃った奴が、そんな────!)」

『────何かあったのか?』

 

「(落ち着け俺、熱くなるな。) いや、少しスザクの事で考えごとをしていた。 ()()だからな。 それより藤堂と扇の指示の下で、黒の騎士団をいつでも再度動けるようにしておけ。 それと、星刻(シンクー)に『ゼロが中華連邦本国に居る大宦官たちと話がしたい』と伝えてくれ。」

 

『分かった。 内容は?』

 

「追ってこちらから連絡をする。」

 

『いつものように強引だな────?』

 

 ────ピッ。

 

「(さて、これであとは────)」

 

 ルルーシュがC.C.との電話を切るとメッセージが『非通知』と表示される連絡先から入ってくる。

 

 ────ピコン♪

 

 内容は『黙認、了』と短いモノだった。

 

「(スヴェンか? 仕事が早いな。 考えると情報屋だけでなく、整備もこなせ、彼自身も相当の戦力を……それに、ヴィレッタとも繋がりを────)」

 

 ────ガチャ。

 

 ルルーシュは建物内に通じるドアが開く音に携帯電話を服の中にしまい直すと、スザクが出てきたことに驚くふりをする。

 

「スザク? 主役はメインステージにいないとダメだろ?」

 

「そうなんだけれど僕、どうもこういうのに慣れていなくて。」

 

「慣れていない? 何にだ?」

 

 スザクはルルーシュが肘を預けている手すりに寄りかかってキャンプファイヤーを中心にカクテルドレスを着た女性たちとスーツ姿の男子たちがダンスをし、そんな者たちから距離を開けて魅入られる学生たちの景色を見下ろす。

 

「ほら、その……皆()()()()だからさ。」

 

「ん? スザクお前、何かあったか?」

 

「え?」

 

「お前今、昔の頃の顔になっていたぞ?」

 

「昔の顔って────」

「────ああ、お前も楽しそうだったぞ?」

 

「あー……そうするつもりは無かったんだけれどなぁ~……」

 

「(何を言っているんだ、こいつ? だが二人きりになったことは好都合だ────)」

「────ねぇルルーシュ?」

 

「なんだい、スザク?」

 

「僕、ナイトオブワンになるつもり……()()()んだ。」

 

「おいおい、ナイトオブワンと言えば『帝国最高の騎士』だぞ? お前まさか、あのタイムカプセルを埋めるときの宣言を本気で口に────ん? “だった”?」

 

「うん。 殆んど()()()()でラウンズになったから分かったのだけれど、『ナイトオブワンの特権に好きなエリアを一つ管轄下に出来る』というのがあってね────?」

 

 ────ギリッ!

 

 ルルーシュは表情に出しそうになった怒りを鋼の気力で蓋をしながら、思わず奥歯を噛み締めて拳を力強く握ってしまう。

 

「(『成り行き』、だと?! こいつ……俺を! 友人を皇帝に売り払った、この人非人(にんぴにん)がッ!!!) ふ~ん? ナイトオブワンになって、エリア11の間接統治……『保護領』にでもするつもりかい?」

 

「うん。 少し前までは、そう考えていた。 けれど止めることにしたよ。」

 

「“止めた”? お前らしくないな、あれほど昔は“ブス子に次こそは勝ってやる~”と負けず嫌いなお前が────」

「────ブッ?! お、覚えていたのかいルルーシュ?!」

 

「あれほどほぼ毎週口にすればいやでも覚えるさ。 “ブス子は~”と、あーだこーだと────」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ぶえっくしょい?!」

 

 ぶえっくしょい、ぶえっくしょい、ぶえっくしょい、ぶえっくしょい、ぶえっくしょい、……

 

 毒島が出したクシャミが彼女のいたトンネルの様な場所の壁に反響し、やまびこの様な現象に周りの者たちがビックリする。

 

「大丈夫ですか、サエコ?」

 

「ズズ……すまん、どこかの脳筋小僧が私の悪口を言っている気配に鼻がムズムズしてしまった。」

 

「ハンカチ、使います?」

 

「気にするな、自前のを持っている。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「────そして毎回勝負を仕掛けては、身体中痣だらけに────」

「────む、昔の話だ! 今の僕なら、ナイトメア(ランスロット)に乗っていれば勝てる!」

 

「それもどうかと思うが……そもそもその『ブス子』とやらも、KMFに乗り慣れていなければ勝負にすらならないじゃないか。」

 

「あ………………………………うん……そうだね。」

 

「それで? ナイトオブワンになることを止めたお前はどうするつもりなんだ?」

 

「……………………………………」

 

 さっきまでルルーシュに『ブス子ネタ』でいじられていたスザクの表情は一転し、真剣なモノへと変わる。

 

「来週、エリア11の新総督が赴任される予定で────」

「────おいそんな情報、ただの学生である俺に言ってしまっても良いのか────?」

「────僕はその新総督の力になることに専念したいと思っている。 ()()()()()()()だからね。」

 

 「ッ。 (なん……だと?)」

 

 スザクの言葉にルルーシュは息をすることを止めてしまい、身体中の筋肉が硬直すると同時に冷や汗が噴き出しながらも心臓は強く脈を打つ。

 

「(ルルーシュ……どこまでできるかわからないが、君が記憶を失っている間は君の代わりにナナリーを守る。 ユフィに託されたことでなくとも、それが僕の……)」

 

 後夜祭を見下ろすスザクは天を仰ぐルルーシュに気付かず、ワルツの様な音楽を背景にジノとのダンスを楽しそうにするミレイと、そんな彼女の相手を見てしょんぼりとするリヴァルを見てクスリと笑う。

 

「(何時か俺も、ああやってユフィと踊れる時が来るかな?)」

 

 ……

 …

 

 

 リーン、ゴォーン。 リーン、ゴォーン。

 

 フワフワとどこか少女漫画風な風景に鐘の音が鳴り響き、教会の前にはウェディングドレスを身に纏い、美化されたユーフェミアが居た。

 

『お姉様! 私、幸せになります!』

 

 突然ユーフェミアは背後からお姫様抱っこにされると、彼女は抱きかかえられた相手と────

 

 

 

 

 

 

 「────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛────!」

「────わ?!」

 

 コーネリアの悲鳴がどこかの荒野内に設置されたキャンプサイト中に響き、目を『3』にさせながらクララが寝袋から飛び起きる。

 

「ひ、姫様! 落ち着いてください!」

 

「離せぇぇぇぇぇダールトンンンンンン! ユフィが! ユフィがぁぁぁぁぁぁ

 

「………………………………な~んだ、()()か。」

 

 寝ぼけながら『何事か』と思った彼女は目をこすりながらテントの外を見ると寝間着のままマントを羽織って鬼の形相をしながら銃剣を手にしていたコーネリアと、そんな彼女を止めようとするダールトンを見て落胆する。

 

「ん……どうしたクララ?」

 

「あー、うん。 ネリスがいつもの発作を起こしたみたい。」

 

「そうか。」

 

「あ。」

 

 横のテントの中から出てきたオルフェウスにクララが答えると彼は興味が失せたのか、生返事を返しながら自分のテントに戻っていくがクララが呼び止める。

 

「オルフェウスお兄ちゃ~ん、クララも一緒に寝る~♡」

 

「一人で寝ろ────」

「────うわ~、お兄ちゃんつれないな~♪ そんなところもす・て・き♡」

 

 クララはシャカシャカと器用に手足を動かし、テントに戻っていくオルフェウスの手を握る。

 

「じゃあ~、クララをギュ~ってするだけで良いから~────」

 

 ギュウゥゥゥゥゥ!!!

 

「────あいだだだだだだだだだ!!!」

 

 オルフェウスは器用にクララの手を過剰なほどまでの握力で握り返し、クララのあざとい態度は一変する。

 

「何するの?!」

 

「お前が“ギュウしろ”って言ってきたんじゃないか────」

「────オルフェウスお兄ちゃん酷い! クララはか弱い女の子なんだよ────?!」

「────どこが『か弱い女の子』だ────」

「────傷跡が出来たらどうするの────?!」

「────自業自得と言う言葉を知っているか────?」

「────あ。 でもその時はお兄ちゃんに責任取って貰うからいいかも♡────」

「────人の話を聞けよ────」

「────オルフェウスお兄ちゃんは子供の面倒見がいいから最初は♪────」

「────え?! あの鉄仮面の様なオズが?!」

 

 クララのいたテントから、明らかに聞き耳を立てていたミス・エックスが頭を出す。

 

「ちょっと意外────」

「────どう言う意味だ、ミス・エックス?」

 

「だってあなた、『そういうことに無頓着そう』というか────」

「────ミス・エックスの知らないところ、話してもいいんだよ~? でもその場合、お兄ちゃんは私がもら────」

 「────大・却・下よ! オズは私のだから────!」

「────俺は誰のモノでも────」

「────いつも喧嘩しているのに────?」

「────それはオズが────!」

 「────だから聞けよ、お前ら。」

 

『きょうも ぎあすきょうだんたんさくぐみは げんきです!』と言うテロップが似合う、原作の『オズ』で見るような切羽詰まった状況からほど遠い光景が繰り広げられていた。

 

 つまり『コーネリアたちの安否を毎日祈るギルフォードは泣いていい』とも。

 

 ……

 …

 

 

「(どういう事だ?)」

 

 機密情報局の地下拠点で取り敢えずルルーシュにメッセージを打ったスヴェンはポーカーフェイスを維持しながら、無数のハテナマークを内心で浮かべていた。

 

「(嚮団が、俺を? どこで『森乃仮面』を見た?)」

 

 スヴェンは座っていたテーブルの上に肘を乗せ、手を組み合わせながら悶々と考え込む。

 

「(……あ。 行政特区のG1ベースか! 確かにあのときは色々やらかしたからなぁ……)」

 

「あの、スバル……えっと、スヴェン? 大丈夫か?」

 

「ん? どうしたヴィレッタ先生?」

 

「う……」

 

 早速学園で常に見せるよう試みていた『優男』の仮面から、普段の『ポーカーフェイス(仏頂面&ドライ)』な態度と口調になったスヴェンに、ヴィレッタは目を背ける。

 

「……いやその、お前の……君の顔色が優れないようだったから。」

 

「そうか────」

 ────ガタ────

「────え、な、何故上着を────」

 ────ファサ。

 

 スヴェンはそのまま立ち上がりながら上着を脱ぎ、これを見て慌てるヴィレッタに上着を羽織らせてからまた座る。

 

「……え? ぁ。」

 

 カァァァァ。

 

 ヴィレッタはここでようやく、自分がまだ露出度の高い水泳部カフェ衣装のまま指令室に来ていたことに気付く。

 

「(わ、私は今までなんて格好で?!)」

 

『もしこのままだったら部下にどう思われていたのか』と思うヴィレッタは、ただ静かに考え事をするスヴェンを見る。

 

「(嚮団が見たのが『森乃仮面』だけでよかった。 もし、俺の素顔も知られていたらきっと絶対殺すマンモードになったロロにザ・ワー〇ドされていたかもしれん……そう言えば────)────ヴィレッタ先生────」

 「────グ────」

「────のご家族は、本国ですか?」

 

「……だ、男爵になってからは新大陸に家を建てて皆そこで住んでいる。 元居た本国の家はそのままだが売り出そうか迷っているが────」

「────でしたら、万が一の為に新大陸の……………………そうですね、()()()()辺りにこっそりと別荘を建てたほうが良いかもしれん。 (確かアイダホは『野菜や果物以外何もないド田舎』って、使用人用裏ネットで以前に愚痴られていた気がするし上手く動けば安全だろ。)」

 

「万が一……確かにそういわれると良い手かもしれませんね。 それで、機密情報局の部下たちにはやはり説明が必要ですか?」

 

「それには及ばない……と言うよりも、既にゼロが対処済みだ。」

 

「『絶対服従のギアス』、か……お前は、大丈夫なのか?」

 

「(やっぱそう聞くよね? だがさっきの話のおかげで想定済みだ。) ああ、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 実は上記の言葉は、さっきヴィレッタが言った『嚮団にスバル(森乃モード)が狙われている』ことでスヴェンが思いついたものである。

 

「(フ、これで『何で嚮団に狙われているか』を自己完結すれば完璧だ。)」

 

 完全なウソでもない言い訳に、スヴェンは内心満足した。

 

「(この姿で一人称が『俺』の破壊力……侮れん。 これがなくとも女生徒たちの間で『学園内で付き合いたい男子トップファイブ』をキープしているというのか。)」

 

 そんな彼でも、ヴィレッタが水泳部の顧問や担任教師として聞く乙女な噂話を思い浮かべていたとは知る由もないだろう。

 

 

 ……

 …

 

 

「これが、対テロリスト遊撃機甲軍団『大グリンダ騎士団』。」

 

 エリア24政庁の上空から着陸する、カールレオン級のシュナイゼル直属の要人護送艦『ハイシュナイゼン』の中からノネットが滑走路の上で五十機ほどが見事な隊列を組みながらずらりと並ぶ赤いグロースターを見下ろす。

 

「(なるほどねぇ。 カノンはいつも『化粧は女のウォーペイント』と例えて言うが……第88皇女マリーベル・メル・ブリタニア、これが貴方の『化粧』と言うのかい。) さてと、皇女殿下に挨拶をしに行きますか────」

「────ノネット、貴方ちゃんとハンカチとモバイルは持った?」

 

 そんなノネットをカノンが呼び止める。

 

「ああ、ちゃんと持っているよ────」

「────それにまさか貴方、そのタヌキ顔のまま出るつもり?」

 

「『タヌキ顔』って────」

「────ほらちょっとこっち向きなさい、簡単にブラッシュアップするから。」

 

 カノンはてきぱきとノネットに化粧を施し、ノネットはいつもと違って素直にそれを受け入れた。

 

 と言うのも、エリア11に密入国したことをカノンが知っていることが仄めかされた電話が来てその件に黙っていることを条件に『宰相のお願い』とやらをするためにほぼとんぼ返りの様にエリア11からエリア24へとカノンと共に移動した。

 

「大体貴方、素材はいいのにガサツ過ぎなのよ……ハイ、完成。」

 

「あ、ああ。」

 

 カノンに見送られる中でノネットは渡されたコンパクトの鏡を見て、キラキラする自分の顔に戸惑いながらもハイシュナイゼンから降りていく。

 

「ようこそ、ノネット・エニアグラム卿。 歓迎いたします。」

 

「マリーベル皇女殿下自らお出迎えとは恐縮しちゃうよ。」

 

「ラウンズとなれば、礼を失するわけにはまいりませんから……と言っても、貴方を寄こしたのは恐らくシュナイゼルお兄様でしょうけれど────」

「────さすが、短期間で統治領を持つだけでなく平定も驚くスピードで行う皇女様だね。 (お、スタジアムの若造たちだ。)」

 

 ノネットはグロースターとは違うブラッドフォードとゼットランドを見て、マリーベルの後を歩きながら手を振るう。

 

『あ、ティンク! エニアグラム卿がこっちに手を振っていますよ! やっぱり美人だな~。』

 

『レオン、ブラッドフォードで手を振るのはやめた方がいいよ?』

 

『やっぱり私たちの事を覚えていてくれたんだ! まいったなー!』

 

『……うん……まいったなぁ……』

 

 ブラッドフォードの中でウキウキするレオンハルトの隣にいたゼットランドのティンクはここでようやく自分がレオンハルトに与えていた悪影響に罪の意識を感じた。

 

「それにしても、エリア24の平和は見事だね。」

 

「恐縮です、エニアグラム卿。」

 

「ゼロの復活で反ブリタニア勢力が活発になっている上に、噂では軍人たちが混乱に乗じて好き勝手していると聞いているし。」

 

「少なくともエリア24内や周辺での略奪行為はEU()()()見過ごさず対処を徹底するよう心がけています。」

 

「やれやれ、その話し方だと()()()()()()()()()()()を連想させるじゃないか。」

 

 予想外であるノネットの意味深い言い回しにマリーベルは歩みを思わず止めそうになるが、長年鍛えた愛想笑いを維持しながら彼女は歩く速度が落ちたことを誤魔化すようににっこりとしたままノネットへと振り返る。

 

「あらエニアグラム卿、物々しいですわね?」

 

「ま、これでもラウンズだからね。 ()()()()()()見聞きしてしまうのさ。」

 

「そうですか、大変ですね。」

 

「まぁね。」

 

「フフフ。」

 

「ははは。」

 

「(ひ、ひ、姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 ノネットとマリーベルのやり取りを近くで冷や冷やしながら聞いていたシュバルツァー将軍の胃痛は一層激しくなった。

 

 ……

 …

 

 様々な者たちの思惑が進行中────あるいは行われようとされているエリア11や中華連邦、そしてヨーロッパ方面だけではない。

 

「え? ほ、本当ですか?」

 

「はい。 ナナリー様がエリア11の次の総督になる申し出が通ったと連絡が今朝ありました。」

 

 新大陸にて、ブリタニア本国にあるペンドラゴンの離宮などを模範したとある場所の中で一人の目が不自由な少女────第87皇女のナナリー・ヴィ・ブリタニア────に上記の言葉を補佐官である『アリシア・ローマイヤ』が告げるとナナリーは明らかに驚く表情を浮かべる。

 

「……如何なされましたか?」

 

「い、いえ……申し出はしたものの……その……それより、お兄さまは────?」

「────ルルーシュ様は以前と変わらず、未だ『()()()()』とのことです。 彼に会う、連絡などの行動を取れば病が悪化しかねません。 ブラックリベリオン時の爪痕が残っており多くの者が本国や実家に帰っている学友たちも然り。 最悪の場合、混乱を招くかもしれません。」

 

「……では、シュタットフェルト家のご令嬢に関しては?」

 

「???」

 

 一瞬『何の事だ?』と思ったローマイヤは、いつも持ち歩いている手帳を取り出して素早く『シュタットフェルト家』の項目を読む。

 

「………………ああ、確か病弱である『カレン・シュタットフェルト』ですね? 依然、『ブラックリベリオン時から行方不明』とのことで家が総力を挙げて検索を行っているそうです。 彼女の世話係である者も探す旅から無事帰還し、勉学に励んでいるという報告が来ておりました。」

 

「そうですか……では、赴任の準備をしましょう。」

 

「既に行っております。 あとはナナリー様の確認と署名が必要なだけです。 いま、書類をお部屋までもっていきます。」

 

 ローマイヤはそのまま踵を返すかのように立ち去ると、先ほどシュタットフェルト家に関して“世話係である者も探す旅から無事帰還した”と聞き安堵しながら複雑な心境になっていたナナリーはエリア11の方角と思われる空へと顔を向けて込み上がてくる気持ちをぐっと抑える。

 

「(……未だに見つからないカレンさんには大変申し訳ないですが、スヴェンさんがご無事で本当に……本当に良かった。)」

*1
コードギアス 反逆のルルーシュ16話を参照




。゚(゚´Д`゚)゚。


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第199話 フリーダム(?)

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!

『サブタイ(笑)』ですか? 猛暑が続くので練乳入りアイスコーヒーを連日きめています。 (゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャ


 さて、皆さんは『アプソン将軍』と言う人物をご存じだろうか?

 

 アニメでもカラレスの様に一話しか出てこないが、『双貌のオズ』では反旗を翻して本国に向かっていたウィルバー・ミルベルの組織、『タレイランの翼』の迎撃を行おうとしたシーンにも出てきている。

 

 彼自身の詳細は取り敢えず色々と省くが、名誉ある本国の守備隊指揮官から外されたことをいつもは静かにイラついていた彼は浮足立っていた。

 

「♪~」

 

 それこそ、カリフォルニア基地内の廊下を歩きながら鼻歌を思わず出してしまうほどに。

 

 最初は守備隊指揮官から外されたアプソンは『英雄皇女(マリーベル)』に振り回されて苦労するシュバルツァー将軍や、エリア11で人が変わったように人格が豹変した挙句テロによって重傷を負うだけでなく失脚したカラレスのニュースを聞き、『自分も似たような役割を課せられるのか』と思っていた。

 

 だが彼に命じられたのは『エリア11の新総督の護衛艦隊総司令と教育係』だった。

 

『忠義より己の保身』の考え方に傾向があるアプソン将軍からすれば血の気が引くような名であり、上記だけを見ればマリーベルとエリア24と似ていなくもない状況だった。

 だが、その『新総督』と言うのが先のブラックリベリオン時に旧日本政府残党から身柄を確保された目が不自由のナナリー・ヴィ・ブリタニアとなると色々と変わってくる。

 

 彼女は皇族とはいえ、後ろ盾はほぼ世間に無関心な皇帝シャルルと強いて足すのならば『大局的に帝国へ不利なことでなければ黙認する』という事で有名なシュナイゼル。

 

 つまりアプソン将軍は()()()()()()()()()()()()()()に任命されたということ。

 

 しかも指揮下には通常の海軍などではなく、ブリタニア帝国でも皇帝やエリア24にシュナイゼルを除けば真新しい浮遊航空艦の艦隊。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、(理論上)敵の攻撃があったとしてもせいぜい空母艦や戦闘機だが、空母艦を撃破すればいいだけのこと。

 

 つまり(理論上)安全な航海で送り届けた後は新総督の『目が不自由』を利用して傀儡にすれば、実質エリア11の総督になったも同然である。

 

「将軍。」

 

 そんな愉快なアプソンに声をかけたのは『ブリタニアの魔女』と文武両道で有名なコーネリアの騎士で『帝国の先槍』との異名で有名なギルフォードが話しかける。

 

「何かね、ギルフォード卿?」

 

「やはり私やグラストンナイツに、護衛に同行する許可を────」

「────手助け不要。 先のカラレスと君やクロヴィス殿下によって『エリア11周辺の平定は進んでいる』と聞いたが?」

 

「ですが、エリア11にはゼロが戻ったのです。 必ず仕掛けてきます、そうでなくとも────」

「弱気だな、ギルフォード卿。 ナナリー総督の護衛には新型の浮遊航空艦で構成された艦隊が()()付いておるのだぞ? 共に来たとしても、貴公等に出番はないだろう。」

 

「しかし、ゼロは────!」

「────ゼロは死んだ。 今『ゼロ』と語っている者が前回と同じな訳があるか。 出なければ、どうやってナイトオブセブンの昇格を説明する? 何をそんなに恐れている、『帝国の先槍』?」

 

「……中華連邦の総領事館では、紅蓮弐式が────」

「────何を言うかと思えば、ナイトメアか。 ナイトメアなど陸戦兵器、空を飛べるわけがない。 仮に空を飛ぶにしても、輸送機の積み荷としてだ────」

 「────遅れちゃって申し訳な~い~♪」

 

 アプソンとギルフォードがいる場所に気の抜けた声と共に目の下にクマ、そしてセミロングになった髪をギルフォードの様なポニーテールに束ねたロイドがクルクルしながら近づく。

 

「ロイド伯爵??? 何故────」

「────お久しぶりです、ロイド博士。」

 

 ハテナマークを浮かべるアプソンとは対照的に、ギルフォードは旧友に挨拶するかのような表情を浮かべる。

 

「いや~、本当はもっと早く来たかったんだけれど皇帝()()()の直属に────」

 「────ロイドさん!」

 

 背後から気まずそうに小声でロイドとは違って容姿があまり変わっていない様子のセシルが注意する。

 

「あれ? 何か、まずいこと言ったっけ?」

 

「“博士は相変わらず”……と言いたいところですが、その髪型はもしや私のマネでしょうか?」

 

 昔からポニーテールにしたギルフォードは内心、ロイドの髪型を見て少し嬉しかった。

 

 と言うのも(余談だが)過去にギルフォードが誤って髪を短くしてしまったことで判明したのだが、彼の髪が太いせいでそのまま重力に逆らってトゲトゲのヘアスタイルになってしまい、ダールトンからは『ウニ頭』と笑われた黒歴史があった。

 

「んふふ~、ざ~ん~ね~んでした~ギルギルちゃん────♪」

 「────ギ、ギルギルちゃん────?」

「────この頃ねぇ~? あることない事の言いがかりとかラウンズの機体チューニングとかカスタマイズとかシュナイゼル殿下の無茶ぶりとかに振り回されて全然サロンに行けていないだけで面倒だからセシルからヘアバンドを借りてみた! ちなみにセシルも化粧でクマを隠して────」

 「────ロイドさん?」

 

「ゴメンナサイ。」

 

 口だけ笑っているセシルの無言の圧力が籠った声に、ロイドは一気にしゅんとする。

 

「……コホン! それで、例の物は────?」

「────あ! それならアヴァロンの中に積んであるよ~ん♪」

 

「助かります。」

 

 ロイドとギルフォードの間で起こる謎のやり取りを────と言うよりロイドを────見てアプソン将軍は内心で呆れていた。

 

「(まったく、ナイトオブセブン(スザク)の後見人がこんな放蕩貴族が勤めているとは……世も末だな。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 コツン……コツン……コツン……

 

 アッシュフォード学園の地下にある、機密情報局の拠点に一人でいたルルーシュは静かに苛立たしく自分の前に置いたチェス盤にピースを置いていく。

 

「(スザクの口癖からして、新しいエリア11の総督がナナリーだという事は予想できる。 これが罠だという可能性があったとしても、スザクがそのような類の口八丁を使うとは思えん……なんの冗談だ? 

 いや。 “強さこそ絶対の価値と考えている”皇帝の事だ、再びナナリーを政治の道具に────それも『目と足が不自由な少女』という事を利用してブリタニア、そしてナンバーズ双方から同情を引ける対象として送り込むつもりだろう。 スザクがゼロへのアンチテーゼへ仕立て上げられたように。)」

 

 ここまでルルーシュは考え、チェス盤に置いた黒のキングの駒とそれに向き合うかのようなピンクの折り鶴を見る。

 

「(さて、どうするべきか……『戦う』? それはない。 『放置』? それこそ論外だ。 元々黒の騎士団はナナリーが利用されず、幸せに過ごせる世界を作るために設立した!)」

 

 カァン!

 

 ルルーシュはここで、黒キングのピースを手に取ってそれをピンクの折り鶴の近くに力強く置く。

 

(それが、ゼロの存在意義なんだ! なら、取るべき行動は自ずと一つだけ! 『新総督を捕虜にする』と言う大義名分でナナリーを保護するしかない!) それに、彼女が新大陸にいるのならば、エリア11に来るために太平洋を横断するはず……つまり護衛の数と戦力は知れている。 このチャンスを見過ごす手はない!」」

 

 ここでルルーシュは、とあることを疑問に思い当たる。

 

「(……待てよ? そう言えばC.C.が言っていたな、“ナナリーは新大陸にいる()()()”と? そして“その情報源が黒の騎士団ではない”とも。

 と言うことは恐らく、情報の元はスヴェン側か? だがそうなると、どうして奴は俺にナナリーが総督になることを言ってこない?)」 

 

 ルルーシュはここで、チェス盤の端に置いていたルークに目を移す。

 

「(可能性を考えると大まかに三つ。 ブリタニア内部でも極秘の情報という事でごくわずかな者達にしか伝えられていなく、エリア11に来ているスザクが偶然に知っていたので『スヴェンは分からなかった』。

 あるいはそれらしい情報は掴んだものの、確証を得ていないので『まだ言ってこない』。

 ……それとももしや、『知っていて()()()()()()()()』? いや。 アイツに限って、そんなことは…………………そんな、ことは………………………馬鹿馬鹿しい! こんな考えをするより、今はナナリーの奪還方法と戦術だ!)」

 

 ルルーシュは『スヴェンに限ってそんなことはしない』と即時に断言できなかった自分の思考を切り捨てて、いかにどうやってナナリーを乗せた艦隊を()()()()()()()()()襲撃するかの考えに切り替えた。

 

 スヴェンを作戦から除外した理由は別に意識的に行ったものではなく、ルルーシュが『戦略家のゼロ』として自動的に予想外の要因を削ぎ落し、『()()()()()()()()()()()()()』と言う脳内フィルターを通した結果である。

 

 

 

 二日後、ルルーシュは太平洋を横断するであろうナナリーを乗せた艦隊をいち早く発見するため太平洋方面に黒の騎士団の目を向けていた者たちから予想より早く、『カリフォルニアとアラスカの二方面に動きアリ』と言った連絡が来たことに内心焦りながらも急遽作戦を練った。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「黒の騎士団が、いない?」

 

「ああ。」

 

 次の日、『昨夜トウキョウ租界内の中華連邦の総領事館内で謎の爆発音があった』と言う報告にスザクはジノやアーニャと共に領事館を訪ねると星刻(しんくー)が出向き、黒の騎士団がいたと思われる一部にラウンズ三人を案内した。

 

「昨日の夜に爆発が起きたので、様子を見にきたら建物が崩れていた。 今朝ようやく残骸を取り除いたが、地下の階層に続くトンネルが()()()()()()出来ていた。 ナイトメアごといなくなっていることから、黒の騎士団は恐らくこのトンネルを使ったと思われる。」

 

「総領事は?」

 

「……殺されていた。 死ぬ間際に書きのこしたと思われるメッセージから、黒の騎士団に脅されていたことが判明した。 これで、中華連邦はブリタニアに敵意はないと分かっていただけるかな?」

 

「トンネルの行先は?」

 

「部下に捜索をさせているが、かなり入り組んだ構造なのでまだ何も。」

 

「では、政庁の者たちに言い渡して探索を合同で行いましょう。」

 

「喜んで受け入れましょう、情報は共有する。」

 

「なぁスザク? どうする? トンネルの中、トリスタンで探す?」

 

「だめだ。 あんな密閉空間だと────」

「────スザク。」

 

「アーニャ? (自分から声をかけるなんて、珍しいな……)」

 

「今日、エリア11の新総督が来る日。」

 

「ッ?!」

 

「関係あるかも。」

 

 スザクは目を見開かせ、携帯を取り出してはアッシュフォード学園の機密情報局にメッセージを送る。

 

 ピロン♪

 

 すると『ルルーシュは授業を受けている』という返信と証明するリアルタイムの映像が送り返されたことで、スザクは踵を返してトウキョウ租界の政庁へと向かう。

 

「あ、おいスザク────?!」

 

「(────ルルーシュは学園にいる……という事は、今黒の騎士団の指揮を執っているゼロが別人である可能性が……ならば、護送されている新総督を────ナナリーを狙っていてもおかしくはない。 そしてゼロがルルーシュではないとすると、彼女の身に危険が!)」

 

 スザクの脳裏を過ぎったのは、ケガをしたりナナリーに害が及んだとしても『新総督の身に何かあった』程度の認識をする、ナナリーの記憶がないまま過ごすルルーシュ。

 あるいはそのショックで記憶が戻り、混乱しながらも絶望して自暴自棄状態になるルルーシュ。

 

 どちらにしても、スザクにとっては耐え難いシナリオだった。

 

「ジノ、アーニャ。 手伝ってくれるかい?」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

「……お仕置き。」

 

 

 ……

 …

 

 

 中華連邦の総領事館から移動した黒の騎士団は、インド軍区からニイガタに届けられた物資やKMFを別部隊が受け取ってチバへと集結し『新総督の捕獲作戦』に向けて戦力が総動員されていた。

 

 アプソン将軍や、ほとんどのブリタニアの者たちが認識しているように従来のナイトメアは基本、陸戦兵器である。

 

 トリスタンのような可変型やフロートユニット、エア・サザーランドのように元々空中戦を想定した機体など存在するが生産性に運用性やそれ等の整備は『難アリ』という事で主に空中戦はブリタニアの独壇場である。

 

 とはいえ、()()()()()()()

 そのやりようとはいたってシンプルであり、『空を飛べないKMFのハーケンを、代わりの翼になる戦闘VTOL機に固定して浮遊航空艦に乗り移って新総督を捕虜にする』と言ったモノ。

 

『何を馬鹿な?!』と思うかもしれないが、元々ナイトメアの輸送に使われるVTOL機も戦闘VTOL機や戦闘ヘリと同じエンジンを応用しているので推力に問題はないし、ぶら下がったままのナイトメアはアサルトライフルなどの遠距離攻撃方法があればそのまま空中戦も行える。

 

『自由自在に飛べる』と言うわけではないが。

 

「エナジーのチェックよ~し! 異常な~し!」

 

 そんなVTOL機の一機を任されたベニオは整備班に任せるだけでなく、自分も出来る確認を鼻歌まじりに行っていた。

 

「…………………………」

 

 そして近くにいたサヴィトリは難しい顔をしながらベニオと、彼女の近くにあった紅蓮を見る。

 

「どうしたのサヴィトリ────?」

「────あ、カレンさん。」

 

「老け────()()顔になっているよ?」

 

……元々こういう顔なんです。 カレンさんは、不安じゃないんですか?」

 

「ん? ベニオの事? 彼女ならやれると思うわ。」

 

「でも彼女、実戦経験が無いんですよ?」

 

「ベニオは勇気も行動力も判断力もある。 優しいところも、アイツに似ているし────

「────最後、なんて言いました────?」

「────ううん! なんでも! ま、彼女を見ると初めて私がナイトメアに乗った時を思い出すよ。」

 

「……え?」

 

「あれ、話さなかったっけ? 私もぶっつけ本番だったの。 だからかな? ちょっと放っておけないの。」

 

「……あまり感情移入しない方がいいですよ? 新入りですしいつ死ぬかわからないですし、裏切られるかもしれませんし。」

 

「サヴィトリ……」

 

 カレンは年齢的に似合わない、冷え切ったサヴィトリの表情を見て思わず日本侵略後のスヴェンを連想してしまう。

 

「(彼女にも、やっぱりアイツみたいに色々とあったのかな? それに……)」

 

 カレンはポケットから、少々古い型の携帯を取り出してメッセージを見るとそこには自分が送った『どこ?』に対して、『別作戦中』と言う短い返しがあった。

 

「(これって絶対に『暗躍中』の間違いだよね? ゼロも……ルルーシュに聞いても、歯切れが悪かったし。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所は太平洋の上空へと移り、そこにはナナリーを乗せたログレス級浮遊航空艦を旗艦に、円を描くように周りはグリンダ騎士団のグランベリーを元に再設計されて戦闘力が上がったカールレオン級浮遊航空艦が数隻によって守られている光景を、アプソン将軍は自分の端末をレーダーに繋げてホッコリしていた。

 

「(痛快なモノだ。 ログレス級とカールレオン級の艦の中にはさらに戦闘機と戦闘用のヘリが搭載されている。 ギルフォードが気になるような物などない。) して、ナナリー総督は?」

 

「いつも通り、庭園エリアに居ます。 ブリッジにくる気配はありません。 それに来たとしても────」

「────うむ。 ()()()()()な。 それで、アラスカからの艦隊は?」

 

「一時間前の定期連絡では『異常なし』と来ていましたので、もう間もなく見えてくるはずです。」

 

「そうか。 (そう言えば、元EUのイタリア産ボルドーがエリア11の着任式用にあったな……フフフフ。)」

 

 

 ……

 …

 

 

 エリア11でゼロ復活と黒の騎士団によると思われる『バベルタワー転倒事件』によりブリタニアの戦力が低下した所為で援軍として、アラスカから発進した別艦隊はアプソン将軍たちのような穏やかな空気などではなかったのは知る由もない。

 

 ピー!

 

「三時の方向にレーダー、反応アリ! 」

 

 艦隊の要であるログレス級浮遊航空艦の中で、予想外の反応が現れるまでは。

 

「(三時だと? 方向的にはアラスカ方面だしここはまだまだブリタニアの勢力圏内、どうせ新型艦のテストフライトか何かだろ。) よし、必要がないかもしれんが形式だけでも所属を問いただせ。」

 

 ピリリ。 ピリリ。 ピリリ。

 

「応答ありません!」

 

「(通信機器の不具合か? それとも────) そのまま続け────」

「────識別信号に反応なし! 所属不明機、更に速度を上げて接近────」

「────なに?! 各機に、迎撃態勢を取らせろ! 相手は何だ?! 艦か────?!」

「────違います! サイズが小さすぎます────!」

「────ならばミサイルか! 全砲門開け! 撃ち落とすのだ────!」

「────は、早い! 来ます!」

 

 ログレス級浮遊航空艦のブリッジにいたアプソンは、スクリーン上に何かがきらりと光ったと思えばその『何か』が三時の方向に護衛を務めていたカールレオン級の後方で()()()()()

 

「もしやVTOL戦闘機か?! (いや、早すぎる上にこうも空中停止────!)」

 

 ボォン!

 

「────何事────?!」

「────護衛艦『ブリジット』、“操舵不能”とのことです!」

 

 ブリッジの中から、護衛艦『ブリジット』が機関部からモクモクと煙を上げながら高度が落ちていく様を見て誰もが驚愕の表情を浮かべる。

 

「えええい、撃ち落とせ────!」

「────ダメです! 未確認機の機動に自動照準器が間に合いません!」

 

 ボォン!

 

「こ、今度は『マルドゥーク』が────!」

「────砲門をマニュアル操作に変えて撃ち落とせ! (私は……私たちは何と戦っているのだ?!)」

 

 

 

 

 「ヒャッホウォォォォ!!!」

 

 ブリタニアの別艦隊が恐怖を感じていた未確認物体の中で、まるで水を得た魚のように生き生きとしたアンジュは自由自在の機動に感動していた。

 

 彼女が乗っているのは新型の戦闘機……などではなく、()()()()()()可変型兵器である。

 というのも、これは完全にスヴェンが『アンジュだから~』と思いながらネタ趣味全開アンジュに合う機体をウィルバーに依頼した結果だった。

 

 その形状はまるで大型モーターサイクルの後方にブースタージェット、前方に巨大ライフルを取り付けたようなもので、コードギアスの世界にとっては完全に未知のデザインであった。

 

「よっしゃ! つ・ぎ・は~!♪」

 

 ()()()()()()の中でかなりエロい 露出ゴイスー 覆うべき箇所が全く隠されていない()()()()パイロットスーツを身に纏っていることを、興奮からかもう気にしている様子がないアンジュはバイクハンドルの様な操縦桿と、ペダルの様なステップボードを操作すると周りのパーツが滑らかな動きをしだし、機体の形状が人型へと変わる際に前方についていたライフルの照準を、付けていたゴーグル越しに機関部へ合わせて撃ちこむ。

 

 「ヒャッハー!」

 

 先ほど『水を得た魚』と例えたが訂正しよう。

 

『まるでワタワタと不器用に氷上を移動していたワモンアザラシの群れを奇襲した空腹のホッキョクグマのようだった』、と。

 

 本人(アンジュ)からすれば『何でそんな物騒な例え方なのよ?! せめて狩りを行うイルカとかにしなさいよ!』とか吠え抗議してきそうだが……

 

 ホッキョクグマは他種のクマと比較すると頭部は小さい上に耳も小さく、肉球以外全身が真っ白な体毛で覆われているので割とかわいいですよ?

 

『必死過ぎw』トハイワナイヤクソクデス。

 


 

フルートが どこかで はげしく かなでられる。



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第200話 燃えつきるほど熱い正義のヒート(?)

200話目の次話です!

いつもお読み頂き誠にありがとうございます! m(_ _)m

長めでカオスですが、楽しんで頂ければ幸いです!


「落ちな!」

 

 ドッドッドッドッドッドッドッド!

 

 アンジュの乗っている機体のライフルから、明らかにナイトメアが使用する従来のコイルガン以上の重い音を放つ。

 

シールド(ブレイズルミナス)はどうした?! なぜこうも簡単に攻撃される?!」

 

「全方位に展開はしていますが、展開時に生じる隙間を────!」

 

 ────ボォン!

 

 次のカールレオン級の機関部から煙と爆発音が出ると、中で混乱していた乗組員は慌てて退艦する準備をする。

 

「これで三つ目!」

 

『クロスアンジュのハイテンションアンジュにヴィ〇キスやんけ!』と叫んでいる者たちがいるかもしれないので『イグザクトリー(その通り)!』……と返したいところだが、実は少々違う。

 

 とはいえ、『クロスアンジュ』を見たことが無い者たちにも理解できるような簡単な説明と変更点を大まかにしたい。

 

 元ネタの機体は『クロスアンジュ』に出てくるDRAGON(ドラゴン)に対抗するために開発された7メートルほどの可変型機動兵器の『パラメイル』とコードギアスのナイトメアより一回り大きく、戦闘機と人型の形態を利用した高速機動戦を前提にされている。

 

『クロスアンジュ』の中では強制的に死ぬまで軍務に使役される『ノーマ用の棺桶兼兵器』という事で戦闘機の形態時はオープンコックピット式の所為で外気や風圧にさらされ、操縦席にパイロットを固定するベルト等の装備もなく、DRAGON(ドラゴン)の物理的攻撃で外に放り出されたり、被弾する危険性もある。

 一応パイロットを装甲が覆う人型形態もあるが、それでも衝撃を受けた際にコクピット内壁(仮)にパイロット自身が叩き付けられて負傷したり構造上気密性は絶無な上、誤って海に落ちればあっという間に浸水してしまう等々、完全にパイロットの安全性を無視したデザインが『クロスアンジュ』の『パラメイル』であるのだが、今作ではそのような搭乗者への危険性がミルベル夫婦博士たち等によって幾分か改善されている。

 

 まずコックピットは密閉型に変えられており、中はグリンダ騎士団から盗んだ 技術を借りたヒッグスコントロールシステムによりパイロットへの負担を大幅に軽減され、ソフィ博士のBRSの応用で搭乗者のヘッドウェア経由でリアルタイムに情報が入り、パイロットスーツはデザインを変えずにラビエ親子によって光ファイバー網技術等を利用し、身体能力の補助と外部からの打撃や斬撃耐性などの機能が追加されている。

 

『パイロットの生存率アップ』だけでも本来のパラメイルからかけ離れているのだが機体自体もウィルバーのおかげでデザインはより現実的なものに変えられ、武装も実体弾兵器で対DRAGON(ドラゴン)用の超硬度斬鱗刀も柄の中にエナジー源が搭載されているアマルガムのマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステムの物に変わっている。

 

 これらの変更があっても機体の速度も推力重量比は原作と大差ない3.7467T/Nと、もはや化け物である。*1

 

 まだまだ変わった個所はあるが、大体はこんな感じでありもはや『見た目だけヴィ〇キスとフリー〇ムを足して2で割った様な機体』が出来上がった。

 

 ちなみに元々頭頂部にあった天使をかたどったエンブレムはウィルバーの“空気力学的にどうなのだ?”という事で『取り付けは保留』となっている。

 

 ただし、全てが良い意味で向上したわけではない。

 

『アンジュさん、戻ってきてください。 それ以上活動を続けると戻れなくなりますよ?』

 

 「あ゛。」

 

 レイラからの通信でアンジュはすっかりKMFの騎乗時に注意事項の一つであるエナジー残量を表示するモニターを見て顔色が青くなっていく。

 

 彼女の機体であるヴィ〇キス『ビルキース』*2は武装がすべて機体のエナジーを使っていないものの、機体の強みである『機動力』を使うだけで莫大なほどのエナジーを消費する所為で主に『短期決戦仕様』になっている。

 

 ……

 …

 

 アンジュのビルキースから少し離れた場所では、アマルガムのリア・ファル……ではなく、潜水艦のディーナ・シーが海上を進んでいた。

 

「やはり、彼女の機体は凄いですね。」

 

「「だろう?/でしょう?」」

 

 中でレイラの感心する声に、ウィルバーとサリア(ミルベル夫人)は端末に映っているビルキースとパイロットの状態を見て誇らしげに答える。

 

「ただ、エナジー問題がちょっと……」

 

「ああ、それが無ければあの子(アンジュ)は更に成長を見せるだろうね。 何せ彼女、レオンハルト君以来の逸材だからな。」

 

「『レオンハルト』……グリンダ騎士団────いえ、大グリンダ騎士団の『ヴァインベルグの懐刀』の方ですね?」

 

「ああ、あの子と会うまではブラッドフォードなどの試作機のテストパイロットは私ぐらいしか務まらなかったからな。 それもサリアの心配から控えていたし。 (それに……)」

 

 そう言いながら、ウィルバーは敵の対空砲火をよけながら戻ってくるビルキースの様子を見る。

 

「(彼女はユーフェミア皇女殿下のように、ラクロス部だったと聞いたがそれだけでは説明ができないほどの適性だ。 空中戦などの三次元的な行動は素質があっても、『理解』が難しいというのに最初の飛行からこうも……そうだな。 これは『素質がある』と言うより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……私の考えすぎか?)」

 

「ウィル? どうかしたの?」

 

「うん? ただ、ああも綺麗な空中戦を見せられると『私も歳かな?』と。」

 

「もう! ウィルは全然まだまだよ! 冗談が好きなところもいいけれど……」

 

「サリア……」

 

「ウィル……」

 

 ウィルバーとサリアが発するメタなハートが飛び出ている空間仲睦まじいやり取りに、ディーナ・シーの乗員たちはスヴェンとは違う意味での『またか』の表情となり、レイラはホッコリしながらも作戦の進行具合を端末の画面上で確認する。

 

「(そろそろ、ゼロたちが現れる筈。 これでブリタニアと彼が出る行動は恐らく────)」

 

 ……

 …

 

 ボォン!

 

『のわぁ?!』

『何やってんだ玉城!』

 

 一機の戦闘用ヘリが被弾すると脱出機能が自動的に危機を察知して作動し、ヘリからぶら下がっていた無頼の中にいた杉山も落ちる前にイジェクションレバーを手動で行う。

 

「(クソ! もう既に迎撃態勢になっているとは、さすがに早い!)」

 

 思っていたより早くナナリーを乗せた艦隊がエリア11に向かったことで黒の騎士団を総動員し、原作のように太平洋を渡っていた。

 

 だが『アラスカからの別艦隊の気配』と『新総督の艦隊に異常事態発生の可能性アリ』という事からルルーシュは発進と移動速度を急がせた。

 

 よって原作以上の戦力が黒の騎士団にあったモノの、黒の騎士団は当初考えられていた様にまとまった戦力ではなく自然と戦闘ヘリのパイロットたちの腕によりバラバラになっていた。

 

「いいか?! 作戦目的は、新総督を捕虜とすることにある! いかなることがあろうと、絶対に傷をつけるな! いいな?! 絶対にだ!

 

『ゼロ、アラスカからの艦隊も見えてきた!』

 

「第一グループ、チャフスモーク展開! 第二グループはアラスカ艦隊を落とせ! 新総督を乗せた旗艦以外は用なしだ!」

 

『『『『了解!』』』』

 

『カレンさん、頑張ってください!』

 

『ありがとう、ベニオ!』

 

 後からくる黒の騎士団組は北から来るアラスカからの艦隊を相手しに方向転換をしていく中、黒の騎士団はスモークに紛れて未だに慌てるカールレオン級やログレス級の甲板へと降り立ってから出撃してスモークに集中していたブリタニアの戦闘機やヘリを撃ち落としてからカールレオン級の機関部を攻撃していく。

 

「(よし。 予想より護衛艦が多かったが、おおむね予定通りに進んでいる。 ブリタニアの者たちよ、次はどう出る?)」

 

 ……

 …

 

「アラスカの艦隊とは連絡はまだつかんのか?!」

 

「電波妨害が激しくて応答はありません!」

 

「残った空戦部隊も出せ! 護衛艦にはこの艦を優先させろ!」

 

「しかし、敵は各護衛艦のフロートを狙っています! それに護衛艦もシールドを展開し応戦しているので────」

────この艦を守らずしてどうする! 先の未確認機体は?!」

 

「黒の騎士団が到着する前に、レーダー範囲内から出たので────」

「(────チィ! あれはもしや、前もって我々をかく乱させるための布石か!) もうよい! 護衛艦に離れさせて、退艦命令を出せ! 艦ごと黒の騎士団を葬り去る!」

 

「で、ですが────」

「────アラスカからの艦隊が来るまで持ちこたえるだけだ!

 」

 

 ……

 …

 

「この動きは……なんと愚かな。」

 

 ディーナ・シーの中でウィルバーはブリタニア側の動きに驚愕で目を見開かせてから、目頭を落胆から押さえる。

 

「ミルベル博士────?」

「────ブリタニアの指揮官は、自らの護衛艦ごと黒の騎士団を落とす気だ……『援軍が到着するまでの時間稼ぎ』と言ったところだが、これはあまりにも……」

 

「そうですね。 こちらとしては乱戦になることは望ましい事ですが、護衛艦の乗員たちは……」

 

「いや、君は気にしなくていい。 元々、一兵士や民たちなどを気にもかけていないブリタニアの上層部が悪い。 このまま作戦続行だ。」

 

「……では、ダルクさんたちに号令をかけます。 総員、対ショック準備を。」

 

 ……

 …

 

「自分の護衛艦を犠牲にしたか。 愚策だな、ブリタニア。」

 

 ルルーシュは涼しい顔のまま、ログレス級の甲板から侵入を────

 

 ────ドォン!

 

「↑うおぉぉぉぉ?!」

 

 ルルーシュが丁度ナイトメアからログレス級の甲板にあるハッチに降りようとしたとき、突然衝突のような音とともに艦が激しく揺れて彼はあまりにもゼロらしくない慌て方をしながらバタバタとオートバランサー機能が起動した無頼にしがみつく。

 

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、ぜぇはぁ?!」

 

 ルルーシュは体中から冷やりとした汗を吹き出せながら深呼吸(?)を繰り返してバクバクと脈を打つ心臓を落ち着かせようとする。

 

「(い、今のは誰だ?! 誰が旗艦に攻撃した?! いや、今はそれよりも────)────今の衝撃はなんだ?! 誰か何か見たか?!」

 

『ゼロ! こちら卜部、北から何か飛んできたような感じだった!』

 

「もしや長距離ミサイルか?!」

 

『どうだろう、ファクトスフィアにはなんの反応もなかったからな……だが見たところ、不発の様だ。』

 

「(北からだとするとアラスカ艦隊か? だが意味が分からん……もしや『新総督が乗っている』と言うのは囮で、本命はアラスカか?! ……確認する方法は一つだけ。 待っていろ、ナナリー!)」

 

 ……

 …

 

 アプソン将軍が乗っているログレス級の内部は黒の騎士団、そして先ほどの未確認物体の衝突で警備隊と救護班が負傷者の保護を行っていた。

 

「なぁ、トウキョウ租界から援軍が来るとしても一時間はかかるよな?」

 

「ナイトメアが中にでも入ってきたら墜落待ったなしだよ。」

 

 救護班とその護衛である警備員は緊張をほぐす話をしながらもログレス級が被弾したところへと早歩きで移動する。

 

「それより、生存者がいるかどうか見つけてさっさと────」

 

 ────プシュ。

 

 ヒュ! ドドッ!

 

「「ぐぁ!」」

 

 彼ら二人組が今まさに開けようとしたドアのロックが解除されると同時に影の様なものが横過ぎると重い打撃音にブリタニアの二人組は気を失い、更にもう一つの人影が彼らのいた部屋に銃を構えながら入る。

 

『クリア?』

『クリア。』

 

 ガスマスクに似たフルフェイスヘルメットに、何らかのインナー式スーツに装甲板を足した様な装備をした二人組の声がガスマスクにより外部に漏れることはなく、マスクに内蔵された通信で話し合うとぞろぞろと同じような装備や銃を構えた者たちがお互いの死角や部屋の構造、ドアの向こう側などを想定した上での見事な連携を見せる。

 

 その動きからその者たちがどれだけお互いを信頼、そして役割などを熟知しているかを容易に想像できるほどだった。

 

「お、おい!」

「クソ、警備隊に────!」

「────それよりも総督だ! ナナリー総督、謎の者たちが────!」

 

 ────ガシャン!

 

「な?!」

「ど、ドアにはロックをかけていた筈────!」

 

 ────バスバスバスバスバスバスバス!

 

 この様子を警備室から見ていた者たちが通信機器を手に取ろうとしたとき、彼らの背後にあるドアが開かれると画面上の同じガスマスクに黒ずくめの全身ボディーアーマーをした者が構えていたライフルの銃口から、ゴム弾がフルオートで次々警備員の二人に襲い掛かる。

 

「ぐえ?!」

「ごが?!」

 

『ゴム弾』と言っても、従来の銃より大きめの口径である12ゲージのスラッグ弾であるそれ等が首や胸などに連続で直撃すれば軍人でも気を失うだろうが。

 

『いや~、凄いねマリエルさんたちのスーツにアンナたちの銃は。 』

 

『バカだなユキヤ、凄いのはそいつらに依頼したシュバールだよ。 さっさとここのシステムを乗っ取れ。』

 

『ハイハイ。 シュバールさんに対するリョウの評価は相変わらずだな。』

 

『ち、ちげぇよ!』

 

『ハイハイハイ。』

 

 ……

 …

 

 ガコォン。

 

 ログレス級内の庭園エリアへと続くドアが開かれると中にいたナナリーは車椅子の上で身構える。

 

「(数人分の足音に、このカチャカチャとしたのは銃? でも、吐息が聞こえない。 マスクをしている? それに先ほどからの振動……もしや────)────そこにいるのは、ゼロですか?」

 

 ナナリーの問いに、ぞろぞろと入ってきていた全身黒ずくめのガスマスク達は足を止める。

 

「私も、殺すのですか? ユフィ姉様のように? なら、少しだけ待っていただけませんか? 貴方のやり方は間違っていると私は思うのです────」

 

 ────カッカッカッカッカッカ。

 

 ナナリーの耳に聞こえたのはただ無言で近づいてくる足音だった。

 

「(ダメ。 話を聞いてくれない、どうすれば────あれ? でもこの足音と足幅────)────きゃ?!」

 

 ナナリーは突然手の甲を掴まれたことに声をあげるが次の瞬間、掌にトントンと前にいると思われる指が優しく押されていくことに戸惑う。

 

「(な、なんで? これは、ブライユ? ……………………『ス』、『ヴェ』、『ン』、『で』、『す』?) ………………………………………………え?」

 

 ナナリーの手を取っていた者が、手袋を外していたもう片手を他の者たちへと向けると次々と腕が掴まれて全員が何らかの接触をすると装甲越しの音が────否、周りのすべての音が静まり返る。

 

 先ほどまで聞こえていた戦闘や爆発音、庭園の中で川を模倣した水の流れる音でさえもピタリと止まったことに、ナナリーは不安を感じた。

 

 プシュゥ。 カチャカチャ。

 

 だが静寂の中で空気が抜けるような音と、金属とベルトの様なものが擦るような音がしたのも束の間、次は予想外の声が聞こえてきた。

 

「怖がらせてすまない、ナナリー。」

 

「……………………………………………………」

 

 ナナリーは返事せずに、自分の手を握っているスヴェンの手を握り返して確認するかのように触り出す。

 

「本物……なんですね?」

 

「ああ。 あまり時間が無い────いや、こんな時に“時間が無い”のも変な言い方だが────」

 

 ────プシュゥ、ガチャ、ガコン────

 

 「────ナ゛ナ゛リ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!」

 

「え? アリスちゃ────?」

 

 ────ガシッ!

 

 ガスマスクを脱ぎ捨てたアリスは涙目でナナリーの名を呼びながら戸惑う彼女に飛びついた。

 

 無事でよ゛がっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

「な、なんでここにスヴェンさんだけでなくアリスちゃんまで?」

 

「それは私から説明するわね、ナナリー?」

 

 自分の問いに帰ってきた声に、ナナリーは固まった。

 

「…………………………………………え? その、声は────」

「────久しぶり……と言っても一年ぶりだから“どうかな~”と思うのだけれど────」

「────手……手を握らせてください!」

 

 閉じられた目が潤い、『まさか』と思ったナナリーの両手に新たな手が置かれるとポロポロと涙が流れ出る。

 

「ユフィ……お姉さま────」

「────うん────」

 「────ユフィお姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ガバッ!

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ただただ流れ出る涙を気にすることも、拭うことも忘れてナナリーは車椅子から飛び出るような勢いでただユーフェミアを抱きしめる。

 

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛、よ゛がっだねぇナナリー────?」

「────感動的な再会を濁すようで悪いが、どれだけこの状態を維持できるか()にも正確に把握できていない。」

 

「なるほど……『時を止める能力』とは流石にびっくりですね?」

 

「すご~い! 水が氷みたいー! 蝶も作りものみたい~!」

 

「……確かに。 道理で『強い』わけだ。」

 

 ガスマスクを取り外して周りを物珍しく見るルクレティア、はしゃぐダルク、そして感慨深くなったサンチアがそれぞれスヴェンの『“時間”に意味はない』で止まった景色に対しての思惑を口にしてしまう。

 

「はぁぁぁ……」

 

「あれ? そう言うアリスはビックリしないんだね? と言うか、なんでため息?」

 

「あ。 それはですね? アリスちゃんと私は、ブラックリベリオンの時に『これ』を経験していましたから。*3

 

 「「「え゛。」」」

 「((´・_・`)(ゑ゛)。)」

 

 ユーフェミアのニコニコした顔と返答にサンチアたちは口をあんぐりとしてしまい、スヴェンは(内心で)目を点にしてしまう。

 

「えっと……これ────?」

「────は、話を進めよう────」

 

 スヴェンはナナリーの問いを(焦って)遮るかのように口をはさむ。

 

 ……

 …

 

 時間はちょうど、謎の飛行物体────種明かしをすると『タオ〇イパ〇輸送システム』────がログレス級に衝突した直後に戻る。

 

 この時、ナナリーの艦隊の後を静かに追っていたアヴァロンからフロートユニット付きのヴィンセントに騎乗したギルフォードたちの奇襲によって黒の騎士団たちは苦戦を強いられていた。

 

 フロートユニットを使った三次元的な攻撃を相手に無頼は早々に殲滅され、今なおも反撃を行うのは四聖剣の月下たちとカレンの紅蓮だけだった。

 

 だが流石は黒の騎士団でも猛者である彼女たちは『空が飛べない相手』と言うギルフォードやグラストンナイツの思い込みを逆手に取り、打ち込んだスラッシュハーケンをロープウェイ代わりに使ったりなどをして互角に戦って()()

 

「おかしな戦闘機だねぇ、でもさ────ナイトメア?!」

 

 過去形である理由は単純に、『トウキョウ租界方面から新型機が現れた所為』である。

 

 黒の騎士団用の作戦指揮官(潜水艦)はこの新たに現れた機体たちに慌てていた。

 

「サヴィトリさん! カレンさんたちは?!」

 

 戦闘用ヘリから降りて、乗員たちの慌てる様子から『何か起こっている』と察したベニオもその一人である。

 

「フロートユニットを搭載したブリタニアのKMFが現れた────」

 「────えええええええ────?!」

「────でも四聖剣とカレンさんたちも互角の戦いを見せた────」

「────流石カレンさん────!」

「────で、今度はナイトオブラウンズの機体が出てきた────」

 「────えええええええ?!」

 

 余談だが、切羽詰まった状況なのにコロコロと表情と様子が変わるベニオに対してホッコリしてしまった者たちが数人いたとかいないとか。

 

『こ、このままじゃ────!』

『────焦るな紅月君! 我々の勝利条件はゼロが新総督を捕獲できるまでの時間稼ぎだ!』

『は、はい!』

『(とはいえ、この戦力差はまずい。)』

 

 フロートユニットを搭載したヴィンセントたちと、それ以上の機動力を持ったトリスタンを相手に藤堂は冷静沈着を装っていたが、内心は焦っていた。

 

 何故ならば確かに彼らの目的は『時間稼ぎ』だが、フロートユニットを付けたヴィンセントたちだけならともかくラウンズ機────それも()()ともなれば難易度は跳ねあがってしまう。

 

『カレン────!』

『────スザク?!』

『────今のゼロは、ルルーシュか?!』

 

 その一機────ランスロット・コンクエスターが直通回線を紅蓮に開く。

 

『そんな問いに、私が素直に答えると思う?! 馬鹿にしないで!』

『そうか……僕は、ラウンズ────いや。 一人の人間としてナナリーを守ると決めた────』

 

 ランスロットはMVSごと紅蓮弐式の輻射波動で無理やり押し返されると、調整が終わってフロートユニットの上部に取り付けられた追加装備であるハドロンブラスターの照準を紅蓮に定める。

 

『ごめん、これ以上ナナリーのいる艦にダメージを負わせるわけにはいかないんだ。』

 

 ドゥ!

 バキバキバキバキ!

 

「な、何これ?!」

 

 VARISに連結されたそれは今まで以上の出力と貫通力で今まで輻射波動で防ぐことが出来ていた容量を容易く上回り、紅蓮の右腕を無理やりもぎ取るだけでなく紅蓮本隊もログレス級の甲板から吹き飛ばされる。

 

「(お、落ちる!)」

 

『紅月! 脱出しろ! 脱出レバーだ!』

 

 ガチャ!

 

「え?!」

 

 ガチャ! ガチャ! ガチャ!

 

『だ、ダメ! 作動しない!』

 

 この通信と様子を、黒の騎士団の潜水艦内から見ていた者たちの間にどよめきが走る。

 

「カレンさん、脱出できないってなんで?!」

 

「(まさか……整備不良? いえ、出発前にした点検は完璧だった筈。 ならダメージによる故障?!)」

 

 サヴィトリも、表面上はいつもの仏頂面だったが今すぐにでも駆け出したい衝動を抑え込んだ。

 

 

 ビィィィィ! ビィィィィ! ビィィィィ!

 

「ハァ、ハァ、ハァ! ご、御免ね紅蓮?!」

 

 フリーフォール中の紅蓮内にいたカレンは焦り、過呼吸発作に似た息遣いを押さえようとしながら紅蓮に謝るとひたすら言葉を続ける。

 

「こ、このままじゃ! このままじゃ! お母さん! お兄ちゃん! スバル────!

『────カレン!』

 

「スバル?! ど、どこにいるの?!」

 

 カレンはスバルの声が聞こえたことにびっくりしながら周りをキョロキョロとしてからコックピット内にガムテープで固定した携帯電話を見る。

 

「スバル、どうすれば良い────?!」

『────右端の赤いレバーだ! 引け────!』

「────え?! で、でも! 『絶対引くな!byスバル』って────!」

 『────良いから引け────!』

 「────う、うん!」

 

 ガチャ!

 

 バスン、バスン、バスン!

 

 カレンが言われた通りにすると紅蓮の負傷した右腕だけでなく、左腕と足もパージ(解除)されて本体から離れていく。

 

 

 

 ピィィィィィィィィィィィィ!!!

 

「な、なんですこの音?!」

 

 潜水艦内ではけたたましい音が鳴り響き、画面が落ちていく紅蓮からデカデカと『CODE(コード)MAVERICK(マーヴェリック)』と言ったモノが表示される。

 すると潜水艦発射型弾道ミサイルの二つから、明らかにミサイルではない何かが発射される。

 

 二つのパーツは吸い寄せられるかのように落ちていく紅蓮の前方と後方に飛んでいき、挟むかのように連結し始めると落ちる方向が徐々に変わっていき海上スレスレを飛ぶと今度は上昇していく。

 

「え?! え?! え?! へ、変形するの?!」

 

 訳が分からないカレンは目まぐるしい速度で紅蓮のOSやドライバーが更新されていくことに戸惑い、先ほど連結したパーツが新たな上半身(腕付き)と下半身(足つき)に変形していくことでさらにビックリする。

 

 テッテレー♪

 

 コックピット内に愉快な(?)機械音が鳴ると、以下の文字がスラスラと紅蓮のモニターに映っていく。

 

『空中戦OSアップデート、および新装備のドライバーインストール完了。 Welcome to the Next Stage(次のステージにようこそ)。』

*1
余談でSR-71のジェットエンジン推力重量比は約5.319で、F-15は約1.04です

*2
元ネタはイスラーム世界の文学や歴史書などにおいての『シバの女王』

*3
75話より




『合体』と『機体が赤』ですのでサブタイトル。 +。゚φ(ゝω・`○)+。゚ ←暑さでテンションおかしくなっている作者


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第201話 刻まれるすれ違いのビート

お読みいただきありがとうございます、まだまだカオスな展開速度です!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m

早速朝のアイスコーヒーを……(υ´Д`)アツー


『ここまでか!』

 

 ボシュ!

 

 藤堂達の連携による防衛陣は紅蓮がログレス級の甲板から吹き飛ばされたことをきっかけに出来た隙をギルフォードたちのヴィンセントとジノのトリスタンによって突かれ、一対一になっても最後までジノとギルフォード二人を相手に粘っていた藤堂の月下も自動脱出機能が作動する。

 

『皆! 中佐────!』

 

 ────ガシッ!

 

『もうおしまい────』

『────くそ! 放せこのデカ物!』

 

 ギルフォードが注意を藤堂に向けたことでアサルトライフルを使い、援護していた千葉の月下の頭部をモルドレッドが鷲掴みにするどころかそのまま握りつぶす。

 

『バイバイ。』

 

『クソ!』

 

 ボシュッ!

 

 とうとう千葉も戦線を離脱してしまう。

 

 紅蓮が吹き飛ばされてからここまで要した時間、僅か10秒未満であった。

 藤堂達の月下もヴィンセントなどと同じ第七世代KMFに部類されるが、それほどまでにフロートユニットの有無は圧倒的であり、それでもなお唯一ブリタニア側が警戒していたのが多種多様な紅蓮の輻射波動だった。

 

『ヴァインベルグ卿、我が隊は落ちていった者たちを追います。』

 

『ああ、新総督は私たちに────』

 『────アレ取ってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 ギルフォードとジノ通信に突然、横から割り込んでとても同一人物とは思えない、気迫に満ちたロイドの叫びにギルフォードやグラストンナイツ、ジノとアーニャは思わず耳に付けたインカムを取り外してしまう。

 

「ッ……(姫様以上の肺活量!)」

 

「おあ?! なななななななんだ今の?!」

 

「……キィーンって耳鳴りがする。」

 

『ロ、ロイドさ────』

 『────取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取って取ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 アヴァロンの中から、ロイドは今すぐにでも飛び出したい衝動のまま顔の頬や血走って大きく見開いた目、そして体全体をべったりとブリッジ内にあるスクリーンに引っ付けながら荒い息を出していた。

 

 欲しいィィィィィィィィィィ!!! 欲しいよぉぉぉぉぉぉぉ! 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい()()()()()()()()()()()()!!!!」

 

 シンジュク事変以来の『発狂』具合にアヴァロンに『特派時代』からの乗員はため息を出し、『キャメロット』として活動し始めてから入部した者たちは面食らっていた。

 

「(あの紅蓮が見せた『空中連結システム』……ラクシャータさんだけなく、もしやウィルバー先輩たちも黒の騎士団に協力を?!)」

 

 ストッパー役であるはずのセシルだけは新たな紅蓮の容姿に、伝手で『妻と共に行方が不明』と聞いたウィルバーとサリアの事を連想して驚いていた。

 

 ……

 …

 

 

 原作ではここで今まで整備不良でスペアパーツなどでやりくりしていた紅蓮弐式甲壱型腕(こういちがたわん)装備はブリタニアのフロートユニットを独自にした『飛翔滑走翼』の開発を進めていたラクシャータによって新たな背部装備の飛翔滑走翼や内蔵されたミサイルに新たな右腕を付けて強化されたType-02/F1A、『紅蓮可翔式(かしょうしき)』へと進化していた。

 

 だが今作のラクシャータは原作と違う刺激や体験、出会いなどをしていた。

 

 「アッハッハッハ!!! ぶっつけ本番だったけれど、オート(自動)化した空中換装は成功の様ねぇ!」

 

「ら、ラクシャ-タさ────ウィエ゛?!

 

 サヴィトリが特徴的な高笑いに振りかえると思わず変な声を出しながら後ずさりをしてしまう。

 

 そこにはロイドのように過労によって変わった容姿をしたラクシャータがいた。

 

 何時も怠そうにしていた目はテンションの所為かギラギラと血走っており、フワフワしていそうな髪もぼさぼさに半ばアフロ化していて彼女の露出狂っぽいみだらな服装は更に乱れていたり、着崩れなどしていた。

 

「えっと……ラクシャータさん……ですよね?」

 

「ええそうよ!」

 

「……」

 

「まぁ今日で徹夜七日目だからね! 他の子たちは流石に五日目でダウンしたけれど私はまだまだよ! オホホホホホホホホホホホホホホホホホ!!!」

 

 ひとしきりに笑ってからラクシャータはモクモクと煙を出すキセルに口を付けて、煙を口の中に含む。

 

「…………………………ふはぁ~……『これは何』って? あれよあれよ、気分が良く成る奴よ。」

 

「……誰に喋っているんですかラクシャータさん? (と言うか“他の子たち”ってEUの人たちのこと?)」

 

 ……

 …

 

 上記とほぼ同時刻で人工島の技術部にあてがわれていた建物内はまるで嵐が過ぎ去ったかのような、阿鼻叫喚の景色が広がっていた。

 

 用途がわからない部品や解体(あるいは壊された)機材がそこらじゅうに散らばっており、端では半壊していた村正の外装が外されて内部がむき出しになっていた。

 

 そしてよく見るとその近くに『ランドリー(洗濯物)』とマジックで書かれた籠に脱ぎ捨てたと思うしかない衣類や肌着が特盛のご飯のようにこんもりとたまっていた。

 

 床には肌着や衣類の主と思われるボロボロのまま作業中に気を失った様子のアンナ、クロエ、ヒルダ、そしてどういうワケか部屋を片付ける元気が残っているネーハ(三角巾着用)がいた。

 

「あら?」

 

「ぁ……ぅ……」

 

 そんなネーハに、おずおずと前回に見た時より更に健康的な体つきになっていたエデンバイタル教団から救出された子供たちが数人上手く声を出せずに真似をしていた。

 

 ……

 …

 

「御覧なさい! あれが私の飛翔滑走翼よ! オズたちから聞いた話で紅蓮タイプのトップヘビーなデザインを改善したしっかりとした下半身! 中途半端野郎(ウィルバー)の可変式フレームにオズたち(グリンダ騎士団)の連結システム! そして本体にだけでなく、アッパーとアンダーパーツにそれぞれ搭載した動力で出力不足は若干改善したわ!」

 

「……さすがラクシャータさんですね。」

 

「ンフ♡ 私、天才だから♡ ……と言いたいところだけど、このデザインはあの子の依頼を元にしたヤツなんだけれど。」

 

「『あの子』?」

 

私の子(紅蓮)に手を出したやつよ。」

 

 「「「「「え゛。」」」」」

 

 ラクシャータの何ともない一言に、黒の騎士団は固まってはそれぞれが別々の事を思い浮かべた。

 

 追記するが、何人かはラクシャータの性格を理解しているので先ほどの言葉がKMFの紅蓮の事だと分かっているのだが……

 

 

「……」

 

『紅月くん! 千葉がやられた! このままではラウンズ数人にゼロが一人で逃げなくてはならなくなる!』

 

 カレンは茫然として、新たに変わった部分などを簡単に表示した注意事項に目を通していたが藤堂からの通信によってハッとしてから機体を上昇────

 

 ゴゥ!

 

「────かッ?!」

 

 カレンは思わず体中に圧し掛かるGにびっくりしながら体が要求するまま息を吐きだすと目の前がチカチカと火花が飛び散り、パイロットスーツは過激な移動の中で体形と首の維持の為に膨れ上がる。

 

『来るぞ!』

『早い?!』

『まるで、ナイトオブスリー(トリスタン)の────?!』

『────お前たち、撃て!』

 

「グッ! クッ……食らいなぁブリタニアァァァ!」

 

 先ほどの機動で紅蓮が一気に近づいたことに戸惑うヴィンセントたちの反撃を見て、視界がシパシパなりながらもカレンはそのまま輻射波動のスイッチを入れる。

 

 ボゥ!

 

「え?! ちょ?! 待っ────きゃああああああああ?!」

 

 今までのように零距離のバリアーで攻撃を防ぐつもりだったカレンは予想以上の出力で撃ち出される輻射波動に機体が急に後ろへ動くことに叫び、収束して撃ち出されたレーザービーム輻射波動は、そのままグラストンナイツのヴィンセントに直撃しては横に移動して他の機体を掠ると異常なまでのオーバーヒートなどに次々とKMFのOSが自動で脱出機能を作動させていく。

 

「な、なんだと?! 直撃しなくても……掠っただけで一撃────?!」

 

 ────ビィィィィ!

 

「お、オートだと?! む、無念!」

 

 ギルフォードは驚愕しながら試作のシールド(ブレイズルミナス)で防ごうとするがそれでもOSが『危険』と判断したのかギルフォードのコックピットブロックが飛び出ていく。

 

「うお、スッゲェ! まるでハドロンブラスターだな?!」

 

「……あっそ。」

 

 ジノの言葉にアーニャがムスッとし、モルドレッドのハドロンブラスターが展開されていくのを唖然としていたスザクが見てはハッとする。

 

「ッ! アーニャ────!」

「────落ちなさい。」

 

 ドゥ!

 

「来る! グ、ああああああああ!!!」

 

 モルドレッドの大型シュタルクハドロンによる砲撃の光を見たカレンは、先ほどの機動を見せて更に接近する。

 

「おっと────!」

「────ジノ────!」

「────スザク、お前は新総督の方に向かえ!」

 

 トリスタンは人型から戦闘機に形態を変えて追撃を行う。

 

『こちら枢木スザク! アプソン将軍、応答を願います!』

 

『アプソン将軍は警備隊の指揮を執りにブリッジに居ません! 航空艦内に、賊が侵入しましたが、なんとか追い払うことが出来ました! ですが、高度が上がりません!』

 

「(ナナリー、無事でいてくれ!)」

 

 スザクはそう願いながら、さっきの紅蓮が出した攻撃でエンジンにダメージを受けて徐々に高度を落としていくログレス級の内部にランスロットを移動させる。

 

「セシルさん! 総督の位置は?!」

 

『メインブリッジの後方にある庭園、でも今までの戦いで艦は墜落中でアプソン将軍などの主な者たちとも連絡が取れない! このままだと────』

「────必ず助けます! コアルミナスコーンを使います!」

 

 ……

 …

 

 

 ルルーシュは外で戦闘音が鳴り続ける中、ログレス級の通路を早歩きで移動する。

 

「(警備や救護班の者たちも退艦準備に手がいっぱいなようだな────)」

 

 ────ガチャン。

 

「ッ。」

 

 焦る気持ちのままルルーシュは()()()意識を残しているブリタニアの者と出会わず、そのまま庭園エリアへと続くドアを開けると、彼はゼロの仮面の下で息を素早く呑みこむ。

 

「(ナナ、リー……)」

 

 ルルーシュは実におおよそ一年ぶりに見る妹の姿に腰が抜けそうになってしまい、無理やり前進することでそれを誤魔化す。

 

「(この足幅、どこかで────)」

「────お初にお目にかかります、私はゼロと言います。 新総督のナナリー皇女殿下ですね? お迎えに上がりました。」

 

 ナナリーは目が不自由と知りながらも、ルルーシュはゼロと言う『象徴』とイメージを保つ為にオーバーなアクションを取る。

 

「“お迎え”────?」

「ナナリー総督、皇帝は『強さこそ存在するための絶対の価値』と考えている男です。 貴方のこの任命も、貴方自身を利用しているだけにすぎません。」

 

「『目も足も不自由な私なら、ブリタニアと旧日本人の同情を引ける』と言うのですね?」

 

(さすがはナナリーだ!) そうです。」

 

「そうかも知れません────」

「────でしょう? 私はそんな貴方に、手を差し伸べているだけにすぎま────」

「────ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。」

 

 「(なん……だと?)」

 

 まるで頭を物理的に揺さぶられたかのような衝撃にルルーシュは思わず後ずさり、自分の靴が後ろへ動いたことで擦れる音が耳に届くとハッとする。

 

「(ナナリー……な、何を────いや落ち着け。 落ち着くんだ俺よ! 真意を……彼女の真意かどうか聞きだすのだ!) 君自身の、意思、ですか?」

 

「ハイ。 私は私なりに託されたものを実行し、()()()が来るまでの準備をするつもりです────」

「(────『託されたもの』? 『その時』? どういうことだ────?

 ダメだ、もうタイムリミットが……ならば正体を明かすか────?

 ダメだ、そんなことをすればナナリーの事だ、傷ついてしまう! それとも強引に連れて────?

 いや駄目だ! そんなことをすればスザクの二の舞に────!

 それ以前にそもそもそんなやり方はアイツ(皇帝)と同じ────?

 違う! 断じて、断じて違う────!)」

「────()()大丈夫です。 ですからゼロ、どうか────」

 

 ────ボガァン!

 

「うお?!」

「きゃ?!」

 

 庭園エリアの壁が崩れ、ランスロットが中へと入ってくる。

 

「(やはりゼロ! ナナリーは?! ……無事か、良かった────)」

「(────ランスロット?! スザクか! 何故だ?! 何故貴様はいつも肝心なところで、俺の邪魔をする?!)」

 

 ……

 …

 

「「「「ゼロ?!」」」」

 

 アヴァロンの中では簀巻き状態のまま大きなたんこぶを額に作って気を失ったロイド以外でランスロットからの中継を見ていた者たちが一斉に驚く

 

 ……

 …

 

 

『この船は墜落寸前ですので、脱出と要人の保護を優先します────!』

「────スザクさん────?!」

「────ま、待て────!」

『────ゼロ、(君がルルーシュでなくとも)お前も早く脱出しろ!』

 

「チィ! (よりにもよって、俺を皇帝に売った奴がナナリーををヲをヲをヲをヲ!!!)」

 

 ランスロットはナナリーを車椅子ごと運び出すと、一瞬だけ外部との気圧の差によって生じた風に吹き飛ばされたゼロは走り去る。

 

 ドォン

 

「うおああああ?!」

 

 ログレス級が高度を維持できず、海上に衝突するとルルーシュは船の揺れによって頭を強く強打し、星が飛び散っていく。

 

「(ダメだ、意識をしっかり持て! ここで気を失ったら────)────な?!」

 

 ルルーシュの視界が戻ると今度は庭園エリアから浸水し始めた海水が背後から彼を無理やり押し出す。

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────がぼごぼがば?! (ま、マズい! 神根島を教訓にマスクを防水仕様にすることを忘れ────!)」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

『先日、エリア11の新総督であるナナリー・ヴィ・ブリタニアを護送していた浮遊航空艦隊が卑怯な黒の騎士団の奇襲に合い、我がブリタニアのナイトオブラウンズにより救出されてから三日目ですが依然として大打撃を受けた黒の騎士団の残党狩りは未だ────』

 

 ────ピ♪

 

「ハァ……」

 

 (スヴェン)はテレビの電源を消してため息を出す。

 

 だって……ねぇ?

 

 結局こうなったのよ、パ〇ラッシュ。

 

 え? 『ナナリーはどうした』って?

 

 見ての通り、原作のようにエリア11の総督になっていますが?

 

 あの時、ユーフェミアたちと引き合わせて今までずっとチャージしていた分の『“時間”に意味はない』を全部使ってまで行政特区日本の真相(殺されたユーフェミアがクローンで『ゼロが皇族殺し』と言う汚名を着せるためのパフォーマンスだった)等を話した上で、ナナリーを連れ出す気満々な感じに『黒の騎士団に攫われたことにしようze☆』ってところで今度はユーフェミアが何かナナリーに耳打ちをしては彼女に『まぁ!』なんて言わせて……

 

 何を話していたか内容を聞きたかったけれど『女性同士の秘密です♪』で……まぁ、ぶっちゃけるとナナリーたちにやんわりと断られた。

 

 “スヴェンさんの申し出はとても嬉しいのですが、出来ればお兄様の助けになってください”と、ナナリーは笑顔で。

 

 ああいうナナリーは梃子でも動かないのはユーフェミアとかコーネリアとかルルーシュとかを今まで見てきたから頭では理解していた。 

 こう考えるとブリタニアの皇族って頑固者が多いな?

 

 『一緒に来ないのならせめてもっと詳しい話を~』と話しかけようとしたら急に眩暈と体の調子が悪くなって、アリスとユーフェミアが何かに気付いたのか、さっさと話を切り上げてログレス級の艦から『リバースタ〇パイ〇イ』で脱出していた。

 

 ちなみにアリスとユーフェミアは脱出する寸前まで左右から嬉しくも困るナナリーを『ギュゥ~』と抱きしめていた。

『ナナリー成分補給』だとか。

 

 その気持ち、わからないでもないがそんなことをしたらナナリー(の骨)に負担がかかるじゃん。

 

 ああ、余談だが俺もあの後他の奴らのようにログレス級から他の乗員に紛れてパラシュート降下したけれどギリギリディーナ・シーに届かなくて海水に入ったよ?

 

 超寒かったぜよ。

 

 「ナナリー、凄いです……」

 

 俺がぼんやりと思い出していると、隣からライラがボソリと声を出す。

 

 まぁ、ナナリーが凄いのは今に始まったことじゃないけどな。

 

 遅くなったが俺が今いるのは学園のクラブハウスだ。

 恐らくログレス級から海に放り出されて溺れそうだったところをカレンが助けたが、モヤシなルルーシュは風邪で寝込んだから代わりに生徒会の手伝いを俺がして────

 

「────ケホ、ケホ。」

 

「あれ? スヴェン先輩も風邪です?」

 

 思わず咳を出した俺の顔を、心配そうにライラが覗きこ────って、近いよ?!

 

 ばっちりとした大きな碧眼の御目目ががががががががが

 

 あ、ふんわりとしたリンスの匂い。

 

 「ハァ。」

 

 おっとここでシャーリーがトーンの低い息を吐きだしたぁぁぁぁぁぁ!

 ル〇アだぁぁぁぁぁぁ!

 

「ルル、大丈夫かな……」

 

「う~ん、ロロが付きっきりでそばに居るから大丈夫なんじゃね?」

 

「でももう三日目だよ?!」

 

「まぁまぁシャーリーさん。 この際ですから聞いても良いですか────?」

「────へ────?」

「────この前の歓迎会でルルーシュと回りましたよね────?」

「────へ────?」

「────後片付けと後夜祭の間に────」

「「────ほほぉ────?」」

「────しかも水泳部カフェの衣装のままだったのでルルーシュの上着を────」

「「────ほほほほぉぉぉぉ────?」」

「────へ?! あ、ちょっと待って! ああああああああれは違うの!」

 

 良し、リヴァルとミレイも釣れてシャーリーも慌てだしたぞ。

 

 計算通り。

 

「………………」

 

 で。 いつもならここで悪戯っ子な顔をして便乗したり、『大人の階段です~!』とか騒ぎ出すはずのライラが何故かクスリと笑って────いや……これは────

 

「────ライブラさん?」

 

「……ぁ。 はいです?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「え~? スヴェン先輩、もしかして気にしているです~?」

 

「ええ、していますよ?」

 

「へ。」

 

 そりゃあ、あれだけどこか寂しそうな表情をすれば気にするさ。

 

「ぁ……えと……ウェヒヘヘヘヘヘ♪」

 

 う~ん、両サイドのポニテ縦ロールを両手に取ってパタパタし始めながら笑い出したぞ?

 

 健気だなぁ~。

 

 「ねぇシャーリー、どう思う?」

 「どう思うって、何が?」

 「……リヴァルは?」

 「う~ん……割とモテるけれど浮いた話が怖いくらい未だに一つも上がっていないからなぁ……でも『シュゼット』の事もあるし。」

 

 おいリヴァル、それは嬉しいがコードギアス(と言うかルルーシュ)に関わっているから下手に交際が出来ないだけだ。

 

 最悪、原作のヴィレッタのように人質に取られるかもしれない。

 

 「ああ! そういえばヴィレッタ先生もこの頃、体育でソワソワしているわね!」

 

 「会長? 何かありました? ロイド伯爵から連絡とか?」

 「うん? ううん、何もないわ。 何も、ね……」

 

 どういう話だっちゃ?

 

 

 

 


 

 

 「う、うぅぅぅ……」

 

 同時刻のクラブハウス内にある部屋の一つで、ルルーシュは自室のベッドの上でうなされていた。

 救出後からも海水に濡れたゼロの衣装のまま彼は個室に籠もり、元々体が丈夫ではない彼は軽い風邪で終わる筈だったものを拗らせて熱を出していた。

 

「……兄さん、替えのタオルを持ってくるね?」

 

 そんな弱ったルルーシュを見たロロは自分の不甲斐なさに悩みながら看護をしていた。

 

 「ま、待ってくれ……一人に……行かないでくれ……」

 

「ッ! に、兄さん!」

 

 ガラン!

 

 ロロは手探りで何かを求めるようなルルーシュの動作と言葉に焦って、持っていたボウルを落としてルルーシュの手を握る。

 

「僕はここに────!」

 「────ナナ、リー……」

 

「ッ?!」




ルルーシュゥゥゥゥ……(;´д`)



後書きの余談:

紅蓮は無事(?)にトリスタンとモルドレッドを被弾させてロイドを(悪い意味での)発狂させました。 (ゝ∀・*)


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第202話 説得の基本は物理だ (違

お読み頂き、ありがとうございます!

相変わらずの展開ですが、楽しんで頂ければ幸いです! (;゚∀゚)


「スゥー……ハァー……よ、よし! (きょ、今日こそ!) 」

 

 コン、コン。

 

 学園のクラブハウスでは明らかに緊張した様子のシャーリーが髪の毛と身だしなみをチェックしてからの深呼吸をして、何か決意をしたかのような表情浮かべる。

 

 ガチャ。

 

「……何ですか、シャーリーさん?」

 

「ロロ、大丈夫? ずっと()()の看病をしていて疲れたでしょ────?!」

「────僕()()は大丈夫です。」

 

「そ、そう? これ、差し入れ────」

「────ありがとうございます────」

「────じゃあ────!」

「────病気がうつるとダメなので────」

 

 パタン。

 

「────あ………………………………ハァァァァァァ~。 (今日()ダメかぁ~。)」

 

 入室することも断られてドアがピシャリと閉められるとシャーリーはガックリと項垂れ、トボトボとした足取りで歩く。

 

「…………………………」

 

 そんな叱られた子鹿シャーリーの後ろ姿をロロはひっそりと開けたドアの中から見送っていると、うなされてナナリーの名前を呼んだルルーシュを思い出す。

 

「う……うぅぅぅ……ハッ?!」

 

「兄さん?!」

 

 ルルーシュは体中が汗でベトベトして苦しい、最悪な気分のまま起き上がると額についていた濡れたタオルがずるりと落ちる。

 

「(ここは、学園……クラブハウスか?)」

 

「気が付いたんだね、兄さん?」

 

「ん……ロロか。 俺は、いつの間に学園に────?」

「────えっと……あの(作戦)後、ヴィレッタ先生が迎えに来て意識が朦朧として熱を出していた兄さんを連れ帰って来たんだ。」

 

「(ヴィレッタが? 『黙認』どころか『協力』をするとはな……スヴェンは一体何をした?) そうか……なぁロロ? 俺、何か口にしていなかったか?」

 

「…何も言っていないよ? うめき声はしていたけれど、言葉になるようなものは。」

 

「(やはりこいつ(ロロ)を優しく落として正解だったな。) そうか、心配をかけたなロロ────」

「────それと、あれから三日目だけれどアッチは大丈夫?」

 

「(三日だと?! それほどまでに、俺はショックで体調を……) そうか、その間に看病をしてくれたんだな?」

 

 ルルーシュはざっくりとロロの疲れた様子、化粧でぎりぎり隠しているクマなどで推測する

 

「……もしかして、ずっとそばに居てくれたのか? 礼を言う、ありがとうロロ。 流石は俺の弟だ。」

 

「う、うん……」

 

「(三日か。 この間のロス、黒の騎士団方面はディートハルトからの報告で聞くとして問題は……)」

 

「じゃ、じゃあ僕はこれで。」

 

 ロロは何も言わずに考えに耽り始めるルルーシュを後にする。

 

「(あの時、兄さんは確かに僕ではなく……ナナリー(妹の名)を呼んでいた……)」

 

 ガチャ。

 

「う~ん……ここはどうするべきだと思いますです、マーヤ先輩?」

 

「そうねぇ……場所自体に、観光として見て回れる物とかがあるから現場近くの宿泊でなくてもいいじゃないかしら? そうすれば予算も抑えられると思うわ。」

 

「おおお! 流石先輩です!」

 

「いえいえ、ライブラが事前にリサーチしてくれたから助かっているわ。」

 

 ナデナデナデナデナデナデナデナデ。

 

「ムフフのフ~です~♪」

 

 ロロがドアをくぐるとマーヤ、そしてヘルプとしてライラがアッシュフォードの修学旅行プランニングを仲良くしている光景を目の当たりにしてしまう。

 

「(この二人も、血は繋がっていないのに……)」

 

「あら?」

 

「あ、ロロちゃんです! ルルーシュ先輩、大丈夫です~?」

 

「え? あ、うん。 さっき目を覚ましたよ……あれ? スヴェンさんは?」

 

「ああ、彼なら“シュタットフェルト家の用事がある”と言って早退したわ。」

 

「……そう。 シャーリーさんは?」

 

「ミレイ先輩と一緒にプールへ行ったです。 何か“威力を確かめる~”とか言ってたです。」

 

「…………………………………………“威力”?」

 

「「(あ、なんだかネコみたい/です。)」」

 

 ロロがポカンとしてハテナーマークをあげ、そんな彼の顔をマーヤとライラには『猫耳似合うな』と内心で思ったそうな。

 

 

 

 

「(う~む、何かいい方法はないか?)」

 

 水泳部の部活動やルルーシュのクラスの担任を担当していたヴィレッタは時々上の空になるようになっていた。

 

 というのも、『スバル=スヴェン』と知ってからで────

 

「────ヴィレッタ先生~♪」

 

「ん? シャーリー! 今までどこに────」

 

 バシャ!

 

「────ぶわっぷ!?」

 

 自分を呼ぶシャーリーの声にヴィレッタが振り返ると水鉄砲から放たれた水が顔に直撃する。

 

「うん、距離は十分ね♪」

 

「……生徒会長。 それは何だ?」

 

「何って、修学旅行用の水鉄砲だけれど?」

 

「…………何故、私の顔めがけて撃つ必要がある?」

 

「う~ん、先生が痛がるようなら別のモデルに────」

 

 「────よろしい! 戦争だ!」

 

 ブシャアァァ!

 

「「うきゃああああああ?!」」

 

 どこかプッツンとキレたヴィレッタは近くのプールに備え付けられたホースから水を出して面白がるシャーリーとミレイに反撃する。

 

「先生! それは卑怯────!」

「────フハハハハハ! 火力とはこういうものを呼ぶのだ────!」

「────まだよ先生! まだまだ高出力モデルはあるんだからぁぁぁぁぁ────!」

「────何だその火炎放射器みたいな物────おわぁぁぁぁぁ?!」

 

「「「(先生とシャーリー、滅茶苦茶生き生きとしている。)」」」

 

 水泳部は静かにヒートアップしていく水鉄砲戦争を見てひっそりと見守ったそうな。

 

 

 ……

 …

 

 

「ハァー……」

 

 カレンは黒の騎士団の潜水艦内で長~いため息を出しながら、帰還してからラクシャータに渡された新たに変わった紅蓮に関する説明書に目を通していた。

 

『説明書』と言っても、当初の予定では紅蓮に搭載する飛翔滑走翼と新たな右腕だけだった元々の物に手書きで変更点や改善具合が書かれたものだが。

 

「やっぱりカレンさんはすごいよね、サヴィトリ!」

 

「…………………………うん。」

 

「こう、バビューンって光線が出てブリタニアをバシバシと! 凄くリーチの長~いハエ叩き……じゃなくて、刀みたいだったね?!」*1

 

「…………………………うん。」

 

 近くでは未だに興奮が冷めないベニオに、宇宙猫生返事っぽい相槌を返すサヴィトリの二人をカレンは横目で苦笑いを浮かべてしまう。

 

「(いやまぁ……そうなっちゃうよね?)」

 

 ゼロの救出後、カレンの紅蓮可翔式・強襲型はすぐさま黒の騎士団にとって話題の中心となった。

 

 当たり前だがカレンの操縦技術を考慮しても『単機でブリタニアのフロートユニットを搭載した新型数機の撃墜とラウンズを追い払う』と言う結果は『本来の作戦で手持ちの戦力の大部分を削ぎ落されて新総督の確保に失敗した』より注目の的となるのは仕方がない。

 

『失敗』より『成功』や『功績』を見たいのが『人間』であり、その上アラスカ艦隊に別動隊が大打撃を与えたことも大きかった。

 

 とはいえ、原作でナナリーが乗っていたログレス級に操舵不能となったカールレオン級を撃ち落とすはずだったモルドレッドが逆にアラスカ艦隊方面にシュタルクハドロンを撃っていた所為で、多少の犠牲は出てしまったが。

 

「(テンションが変────()()()()()()だったラクシャ-タさんの説明を、ベニオたちはちょっと分かっていない様子で頷いていたけれど……サヴィトリは呆気に取られていたわね~。)」

 

 カレンはもう一度説明書に目を落としながら、この数日間の間に紅蓮可翔式・強襲型をベースにした空中戦用のシミュレーターに乗って体調を崩したり、顔色を青くした者たちを思い出す。

 

「(あれから『ハードル高すぎ』とか『乗る前提が絶対に人間じゃない』とかの声が出て結局デチューンしたけれど……空中戦に適性を出せたのは藤堂さんたちと四聖剣たち……あ、あと幹部の何人か。)」

 

 尚、上記の『乗る前提が絶対に人間じゃない』に対してカレンはムカッとしたそうな。

 

「(本当に失礼しちゃう! そんな言い方、まるで私やスバルが人間離れしているみたいじゃない! ちょっと慣れれば誰だって出来ることだし! 私だって、あの宇宙怪獣(クリストファー)っぽいヤツにスバルと対峙していなかったら目を回していたのは認めるけれど……根性と気合で乗り切れるし!)」

 

 『無茶言うな』、と内心で上記の様な愚痴をするぷんすこカレンにツッコミを入れる者はいなく、彼女はそのまま説明書に書かれた変更点などを読む。

 

 まずは原作のType-02/F1A、『紅蓮可翔式』についてだが全高 4.5メートル、全備重量約8.50トンと紅蓮にフロートユニットである飛翔滑走翼と新たな輻射波動機の徹甲砲撃右腕部が足されている。

 

 武装は強化されて遠距離型と拡散型の切り替えが可能となった輻射波動砲以外に、飛翔滑走翼に内蔵されている小型の浮遊式ゲフィオンディスターバーに追尾式ミサイルと、本来は紅蓮がそのまま空を飛ぶ+強化されたというモノである。

 

 対する紅蓮可翔式・強襲型は全高約6.5メートルに全備重量役11トンと一回り大きくかつ重くなっている。

 

 とはいえ、『原作の紅蓮可翔式より遅いのか?』と聞かれれば答えはノー()である。

 

 単基だけで紅蓮を動かせるものに加え、飛翔滑走翼本体に新たな足に内蔵された計三つのエナジー源が全て連結している。

 

 このおかげで輻射波動の出力は飛躍的に向上し、収束率も上がったことで実質『レーザー(光線)』と化している。

 ただし、本来は何発かごとに装填しなくてはならない熱交換器が一発ごとにしなくてはならなくなったデメリットはあるが文字通り『レーザー化』しているので余程の事がない限り、相手は沈黙しているだろう。

 

 更に空中戦を可能にしただけでなく、紅蓮タイプの悩みの種であるトップヘビーな悩みもしっかりとした下半身()によって改善され、更に飛翔滑走翼のように追尾式ミサイルが外付けされている。

 *注*『このしっかりとした下半身、実は半ばレーザー化した輻射波動の反動を押さえる為じゃね?』という正論をラクシャータは只今受け付けておりませんのであしからず。

 

 更に以前からカレンや黒の騎士団の乗り手が回りへの被害を押さえるために使用するパイルバンカーも改造されて今では炸薬がカートリッジ式になったおかげで連発も可能となり、いざとなれば打ち出すことも可能となった。

 近距離以外の撃ち出しの精度は低いが。

 

 更に飛行形態にも変形して同時代のKMFと比べて設置数及び分散率において突出している機動戦用のスラスターの応用で長距離移動(あるいは高速移動手段)としての行動も出来る。

 

 これは紅蓮と似たデザインの白炎を乗り回したオズ、グリンダ騎士団の連結機能、ウィルバーの可変技術などをラクシャータがアマルガムと同行した際に得たアイデアをもとに実現された。

 

 余談だが、グリンダ騎士団のブラッドフォードなどのKMFは加速時などから生じるGの対策にヒッグスコントロールシステムを使っているので、それを知らないラクシャータはうっかり(?)とスバルの蒼天とEUから『新型サンプル』として解析されていた撃震のデータを流用した。

 

 尚更に余談だがアマルガムと一緒に人工島に戻ってきて黒の騎士団からの依頼などをほとんどすっぽかしていたことに焦ったラクシャータによって強引に巻き込まれたアンナたちEU組の技術者たちは完全に被害者である。

 

 例えアンナたちが目をキラキラさせながら『以前(亡国のアキト編前)のシュバールさんの操縦データ?!』と言って(初めは)ノリノリだったとしても。

 

「(そういや通信の向こう側にいるスバルも呆けていたわね。 “感動の嵐、なんと言う出力(パワー)なんでしょう”って棒読みで訳の分からないことを言っていたし。 エナジー源が三つあるんだから高出力に決まってんじゃん。)」

 

 カレンはチューチューとパック入りオレンジジュースを飲み干しながら『スバルは今頃どうしているんだろう?』と思ったそうな。

 

 

 ……

 …

 

「ふぅー……」

 

 エリア11の新総督として就任したナナリーの補佐、ローマイヤは無事にエリア11に来て早々頭を痛めていた。

 

 まずはナナリー自身、ブリタニア皇族としての自覚が薄い所為か()()()()()()()()()()()様な言動が一つ。

 

「(以前からその様なふるまいがあれば度々注意していましたが、治りそうにないですね。 そんなことをすれば『ナナリーがナンバーズを認めている』と吹聴されれば、補佐である私の立場が危うくなりかねない……これは長年旧日本残党の元に居た所為にするかしら? ダメね、そうすれば『総督』としての能力を疑われる……いえ、これは私が()()()導かなければいけません。 バトレー将軍が居なくなった、クロヴィス殿下のようになりかねない。)」

 

 二つ目はかつてエリア11の総督時だったクロヴィスの人となりが、話に聞いていたモノより違っていたことへのショック。

 

『ナンバーズは労働力、ブリタニア人はそれらを管理する側』と言った、ブリタニア内ではごく一般的なナンバーズへの偏見がクロヴィスから薄れていたどころか、よりにもよってエリア11の内政や経済にイレヴンの文化を『ブリタニアのモノで上書きする』のではなく逆に『取り込む』様な事をしていた。

 

「(軍港に入って慣れない匂いに『テイショクヤ』や『音を出して食べる物』などと訳の分からないことが堂々として眩暈が……それに噂には聞いていたけれど、ナナリー総督と同じように足が不自由になっている所為か、まるで気迫が感じられなかった。 それにコーネリア皇女殿下がいないギルフォード卿も、ナンバーズに無関心(使えるのならどうでもいい)と言う考えで……まるであの野蛮そうなダールトン将軍だわ。)」

 

 イライライライライライライライライラ。

 

 イラつきのボルテージが上がっていくにつれ、ローマイヤは政庁にある自室に戻る速度を上げた。

 

「(それにナナリー総督と同い年であるライラ皇女殿下よ! なんなのです、アレは?! 『“庶民の色に染まりあがっていた”とカリーヌ皇女殿下がずっと嘆いていた』とクレルモン卿(ダスコ)が酒の席で口にしていたと言うけれど想像以上よ!)」

 

 ナナリーの母マリアンヌが庶民の出自であることは有名で、特にそんなマリアンヌを毛嫌いしていたライラの母ガブリエッラがあの手この手で嫌がらせをルルーシュとナナリーにしていたのは有名なうわさ話である。

 だが()()()()に再会したライラとナナリーは直ぐに打ち解けたことに、ローマイヤとしては意外な誤算だった。 だがその直後に『トライダーナナ号、出撃です~♪』とライラは言いながら車椅子の背後にまたがり、『出撃しま~す』と答えながら何とも思っていないようなナナリーのやり取りにローマイヤ含めて誰もが度肝を抜かれて目を点にさせた。

 

 余談でこの場に居合わせていたクロヴィスはどう反応すれば良いのか器用な変顔を浮かべながら、後日『自分の車椅子にもスピードが上がる機能を~』と政庁の技術部に相談したそうな。

 

 イライライライライライライライライラ。

 

「(しかもギルフォード卿は止めるどころか見ないフリをして! 極めつけは枢木卿よ! 名誉ブリタニア人とはいえ、あれがラウンズでしかもナナリー総督の知り合いとなると、エリア11の運営に()()()が出てしまう! これはやはり、再教育を────)」

 

 ────ガチャ。

 

「ッ?!」

 

 ローマイヤは自室のドアを開けてくぐると急な寒気が身体を襲うと共に『()()()()()()()()()()()()()()』ような錯覚をしてしまい、蛇に睨まれた蛙のようにそのまま硬直してしまう。

 

口を開ければ殺す。 質問に答える以外の声を出したら殺す。 指示された以外の行動を取れば殺す。 分かったのならゆっくりと()()()()()()()ドアを閉めろ。

 

 ……パタン。

 

 ローマイヤは横から来る、強烈なまでの殺気の元で明らかに音声変換機能で変声された声の指示に従う。

 

アリシア・ローマイヤ、26歳。 実家の住所は新大陸の────

 

 ローマイヤはただスラスラと自分の事を言い出す声に集中しようとするが、周到に調べをしなければいけない個人情報や人間関係に学生時代で他の者たちと行った『ナンバーズ狩り』の数と日付も出てきて冷や汗が止まらなくなった。

 

 時間にすれば僅か数分だが、体感で言えば数時間にも及ぶ中でローマイヤの思考は固まっていく。

 

 好きな食べ物や使用している香水のブランドや頻度に休暇の過ごし方などの細かいところまで他人がスラスラと、()()()()()()()()()()()ように喋り出せば無理もないだろうが。

 

さて。 これらは大概のブリタニア人ならば良しとする思想や行動と、()()認めよう。

 

 コツ、コツ、コツ。

 

「ッ。」

 

 横から足音がしてようやく声の主であると思われる、のっぺりとした白いフルフェイスヘルメットに真っ白な服装と手には旧日本で『カタナ』と呼ばれる剣と、『()()()()()()』恰好を目にしたローマイヤは身構える。

 

 当然だが各エリアの政庁の警備は(KMF対策はさておき)は『クロヴィス暗殺未遂』、『オレンジ事件』、『ブラックリベリオン』、『コーネリア行方不明事件』などが起きた所為で見直しがされて更に守りは厳重となった。

 

 それこそ、『時間帯に予想されていない動きなどがあれば即座に警備室へ連絡がつく』などと一般には公開されていない対策など。

 

 それ等をローマイヤの目の前にいる者は目立つ格好でしかも単身ですり抜けただけでなく、エリア11に着て間もないローマイヤの自室を探り当てていた。

 

しかしナナリー総督は違う。

 

 仮面とスーツに声を替えている所為で表情はおろか、目の前にいる者が男性か女性かローマイヤには分からなかったが、人生で初めて『誰かを射殺せるような視線』というモノがぴったりと合う眼光が自分に向けられていた事は本能で察せた。

 

ミス・ローマイヤ。 貴方はナナリー総督の何だ?

 

 ローマイヤはカラカラに干上がった様な口と喉から、辛うじて声を出す。

 

「………………………………補佐、です。」

 

果たしてそれだけですかな?

 

 ピクッ。

 

 ローマイヤは良く分からない侵入者の問いに思わずどう答えればいいのか迷った。

 

ミス・ローマイヤ、君は『補佐』であると同時にお目付け役もブリタニア帝国から兼ねられているだろう?

 

「(どうやって────?!)」

 

 ハラハラハラハラ。

 

 ローマイヤが内心で焦っていると、目の前を数本の前髪が宙を舞ったことに驚きの声を出してしまう。

 

「ヒッ────?!」

「────シー……首よりはマシだろう? さて、そんな君がナナリー総督の体が不自由なことをいいことに、あるいは他人思いであることを利用して、彼女の意に反する()()()政務を勝手に執り行えば……口で言わなくとも、君が想像できないような生き地獄を見せると約束する。

 

「……」

 

分かったのなら目を閉じろ。

 

 ローマイヤは言われたとおりにすると、前方の人物が言葉を続けた。

 

私を探そうとしても無駄だ、全てが筒抜けである。 我々は闇、()()()()()()である。

 

「…………………………………………………………?」

 

 前方からかけられる声が終わると同時にローマイヤは空気の雰囲気が変わったことを不思議に思い、数分経っても何もなかったことで恐る恐る目を開けると彼女は()()()()()()、自室の中からすぐ外の通路に居たことに腰を抜かしてしまい、尻餅をペタンとついて肝を冷やしながら声にならない叫びを出しそうになる。

 

 ……

 …

 

 コツ、コツ、コツ。

 

「兄上ぇ……」

 

「ん?」

 

 場所はエリア11から、宙に浮かぶ神殿の様な場所へと変わるとシャルルがV.V.に声をかける。

 

「シャルル? 珍しいね、君が僕に声をかけるなんて。」

 

「兄上は、何故プルートーンをエリア11に動かしたのです?」

 

「は?」

 

 シャルルの問いに、V.V.は見た目相応の子供の様な呆けた表情を浮かべて次第に眉間にしわを寄せ始める。

 

「それ、僕は知らないねぇ……どうしてそう思うの?」

 

「噂がありまして。」

 

「う~ん……プルートーンをここ最近、僕はエリア11に動かしていないよ?」

 

「フム……そうですか。」

 

「世間に興味が出るなんて珍しいね、シャルル?」

 

「噂が少々気になっただけです、兄上。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 後にエリア11の新総督となったブリタニア皇位継承第87位ナナリー・ヴィ・ブリタニアの就任挨拶時の、『行政特区日本を再建したい』と言う、完全にナナリーのアドリブによってローマイヤ含めて数人の意識が飛んだり、奇声を上げたりしたそうな。

*1
京都弁の沖田: 13キロやないから違うで?




……………………(;´ω`)ゞ


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第203話 約束

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


『行政特区日本を再建したい。』

 

 エリア11の総督となったナナリーのアドリブによるこの宣言は以前のユーフェミアが文化祭で宣言した時と同等の────否。 以前の宣言から始まった行政特区エリアの富士山付近で起こった『イレヴン虐殺事件』があったからこそより強い衝撃が生じた。

 

『口にするだけでもはばかられるモノを』とブリタニアの貴族たちは恐れを抱き、

『ブリタニアの皇族が“日本人”って口にした?』と富士山の周辺に住み着いた旧日本人たちはつぶやき、

『また騙して今度こそ根絶やしにするつもりか?』と租界にひっそりと住んでいた名誉ブリタニア人たちは皮肉めいたコメントを内心で思う。

 

 そんな様々な思惑が蠢くエリア11のトウキョウ租界にある政庁は(またも)ハチの巣をつついたような騒ぎだった。

 

「まさか特区日本を君が言いだすなんて、驚いたよナナリー。」

 

「あの、ローマイヤさんは?」

 

 目が不自由な代わりに他の五感が鋭いナナリーは、自分の行政特区宣言で走るどよめきの中で何人か倒れた人の中で補佐のローマイヤもその一人だったことを落ちるときの音の重さと方向で目星をつけていた。

 

「あー、医者の見立てだと貧血だそうだよ?」

 

 スザクは一瞬先日の宣言を聞き、顔色を青くさせたまま気を失ったローマイヤを思い出して目を泳がせた。

 

「まぁ……良くなると良いのですが。 (私の所為なのに……スザクさんは変わりませんね。)」

 

 ちなみに新大陸でナナリーの教育係を務めていたローマイヤはナンバーズに対する差別や嫌悪意識を隠そうともしなかった上に、『自分より格下』と思う相手には高圧的な態度を隠そうともしなかった。

 

 その対象にはラウンズであるスザク(の話題)もナナリーも入っていた。

 

「(それなのに何かで妨害をしたり、何かすると思ったのにここ最近はこちらの指示に小言を挟む事なく従っていますし……むしろ、()()()()()()()様な気が────)」

「────ナナリー?」

 

「(あらいけない。 難しい顔をしていた。) なんでしょう、スザクさん?」

 

「(このタイミングでの行政特区宣言……まさか?) ナナリー、君は……ユフィの事に関して()()()()知っているんだい?」

 

「私はユフィ姉様がやろうとしたことが間違っているとは思えません。 ただ『あの時は()()()()()()()()()()()()()悲しい出来事』と。」

 

「……そうだね。 (確かに、アレは悲しかった。 だからこそ、今度こそは……)」

 

 スザクは思わず、ユーフェミアからもらった騎士の証が入れてある胸ポケットに手を添える。

 

「(そういえば、スヴェンさんも時々具合が悪くなって薬を服用していましたね?)」

 

 ナナリーは時々スヴェンから薬が放つ特有の匂いがしたことをふと思い出し、この後同じ薬を取り寄せてローマイヤに手渡すのだが……

 

 彼女は知らない。

 

 ローマイヤと違ってナナリーがナンバーズに友好的であることとつい先日、どこからか漏れたローマイヤの(表や裏事情を含めた)個人情報が『プルートーン』と自己紹介を一方的にしてきた謎の人物によってさらけ出されて脅され、今度は数々の薬を渡しながら愛想笑いを浮かべたナナリーの行動がローマイヤの胃痛を加速させたことを。

 

 とはいえ余りにも調子が悪くなり半ばヤケクソ気味に渡された薬を服用したローマイヤは元気になり、ナナリーはホッとしたそうな。

 

 そのホッとするナナリーの様子も、ローマイヤからすれば更にプレッシャーを感じさせるものだったが。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ハッ! あの新しい総督もよく言うぜ! あれじゃあ『虐殺皇女ユーフェミア』と全く同じじゃねぇか!」

 

「少なくとも、現状の日本で生きていけるような日本人は誰も参加しないだろうな……」

 

 ヨコスカ港区でタンカーとして偽装されている黒の騎士団の潜水艦内で玉城の声が響き、前回の行政特区を扇が思い浮かべる。

 

 例え主催者が目も足も不自由な少女と言えど、『ブリタニアの皇女が主催した一度目の行政特区で日本人の大量虐殺が起こった』という事例がある限り、よっぽど後がない(あるいは余裕がない)者たち以外は集まらないことは容易に想像できていた。

 

「まぁ……あの時、藤堂さんが掛け声をかけていなければもっと死んでいたよな。」

 

「そうだな……」

 

「……」

 

 扇たちは背後にあるテーブルへ────より詳しくするとテーブルのそばの椅子に座りながら腕を組み、難しそうな顔で何かを考えている様子の藤堂だった。

 

「(スバル君が言ったから、黒の騎士団に身を置いているがよもや行政特区でゼロの指示を待たずして突貫したことで作戦が失敗した今の状況は予想していたより悪くはない……)」

 

 行政特区の大量虐殺に、いち早く異変に気付いて()()()()カレンが飛び出たことで始まった黒の騎士団の介入により多くの参加者の命が救われたおかげで未だに黒の騎士団の人気が高いのも確かなことだった。

 

 現に、ブラックリベリオンや総督がカラレスに変わっても数々の協力者や裏ルートで入団希望者や補給物資は絶えずに来るほど。

 

「(それによもやあの頑固な冴子を傘下に付けるだけでなく、かなり聡明なEUの女性もつくとは……それに桐原殿もどうやら何か考えがある様子……さて、ゼロは如何にして今度の状況を切り抜ける?)」

 

「なぁ扇? ゼロからの連絡は?」

 

「……まだない。 何で聞くんだ?」

 

「そりゃあ……今回の行政特区も何かあるだろ?! だったら黒の騎士団がまた殴り込みを────!」

「────落ち着け玉城。 『殴りこむ』って言っても、この間の作戦で手持ちの戦力はナイトメアもヘリも含めてかなり低下しているんだ────」

「────だったらこの間の奴らに頼めばいいじゃねぇか!」

 

「“この間の”?」

 

「ほら、あのオッパイがデカくて髪の毛がキラキラしていた奴とか!」

 

「ああ、桐原さんの孫の?」

 

「え? 俺が言っていたのは金髪の方だぞ?」

 

「(………………思わず口を開けていなくて良かった。)」

 

 南は扇たちのやり取りに参加しなかったことにホッと胸をなでおろしたそうな。

 

「でもあいつら、いつの間にか消えているんだよなぁ~。」

 

「ハァァァァ?! “いつの間にか”って、どう言う意味だ?!」

 

「相変わらずお前は騒がしいな、ヒゲ男────」

「────お前に言われたきゃねぇよ、自称ゼロの愛人気取り!」

 

「“自称”? お前が勝手に付けたあだ名だろ、このドアホが。」

 

「ド、ドアホ────?!」

「────って、C.C.はゼロのいる場所は知らないのか────?」

「────扇────!」

「────必要なこと以外喋らないからなゼロは。 直に連絡を寄こす筈だ。」

 

 「……なぁ扇? もしかしてゼロ、この間の作戦が失敗したのがショックになったんじゃないか?」

 

 「あのゼロがか? ……想像しにくいが、正直どうなんだろうな。」

 

「あら、それはないと思いますわよ?」

 

「うお?!」

「か、神楽耶さま?!」

 

 そんな場所に以前の様な重苦しい正装とは違う、軽そうなヒラヒラミニスカ巫女装束っぽい服装の神楽耶が顔を開いていたドアからひょっこりと顔を出して部屋の中にいた(藤堂以外の)者たちがビックリする。

 

「ど、どうしてここに?! 中華連邦にいた筈では?!」

 

「ゼロさまに会いに来たのです! 信じられます? 新妻の私に文の一つも送ってこないと思えば、今度は何事もなかったように活躍しているんですよ?」

 

「「「(『新妻』って。)」」」

 

 キョロキョロと部屋の中の様子を見る自称ゼロの新妻である神楽耶を扇たちは内心でツッコミを入れ、藤堂は彼女の言葉によりとあることを思い浮かべた。

 

「(もしや桐原殿は冴子をスバル君の伴侶に? あり得る。 彼女に初めて敗北を実感させた上に、見事あのお転婆を傘下に付けている。) ……………………フッ。」

 

「「「(もしかして藤堂さんは『神楽耶がゼロの新妻』って認めている?!)」」」

 

 藤堂の意味深い『フッ』に扇たちは、彼の真意を知らずに自己完結でショックを受けた。

 

「それとC.C.さん? 私がいない間ゼロさまのお世話をしていたと聞きましたわよ? 礼を言いますね?」

 

「……そうか。」

 

「???」

 

 何時もは高飛車にマウントを取ろうとするC.C.が何とも煮え切らない返事をしたことに神楽耶はハテナマークを浮かべる。

 

「あ、そう言えばカレンさんは?」

 

「……そういや見ていないな? 扇は知っているか────?」

「────いや、俺はてっきり南とかに────」

「────俺は何も聞いていないぞ?」

 

「え。」

 

「「「……………………」」」

 

 扇、南、吉田、玉城の四人は藤堂を見る。

 

「私も知らんな。」

 

「「「………………………………………………」」」

 

「ま、いざとなったらこの俺様が紅蓮に────!」

「────冗談は撃墜されてから言え────」

「────うるせぇよ!」

 

「(ルルーシュ……お前の『生きる目的』であり、当初ゼロや黒の騎士団の『存在意義』であったナナリーが相手になった今、どう出る?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次の日、アッシュフォード学園のグラウンドには数台のバスが待機しており高等部の3年生たちは今か今かと待っていた。

 

「……ルル、遅いね。」

 

「電話もつながらないし、アイツは何やってんだか……そういやスヴェンもまだだな?」

 

「へ?!」

 

「あれ? 会長は知らなかった? さっきヴィレッタ先生が俺に聞いて来たからさ。」

 

「先生が……」

 

 ミレイは視線を、引率者の一人であるヴィレッタへと向ける。

 

「(リヴァルも知らない。 ルルーシュとロロの行方が分からないとなると、黒の騎士団絡みなのはほぼ確実だが……)」

 

「スヴェン先輩、遅いですねー。」

 

「う~ん、ライブラは何か聞いていない?」

 

「ナイナイです、マーヤ先輩!」

 

「(そういえば今回の修学旅行はこの二人が企画していたな……良し。) マーヤにライブラ、少し急だが二人に頼みがある────」

 

 高等部を見送りに来た中等部たちの中にいたライラはいつものようにぴったりとマーヤにくっ付いている様子に、ヴィレッタは声をかけた。

 

 ……

 …

 

 トウキョウ租界内の、元シンジュクゲットーであった新宿再開発地区へとルルーシュは気が付けば足を運んでいた。

 

 熱が収まり、やっとゼロとしての行動を再開できると思いきや今度は総督としてナナリーが『行政特区の再建』の宣言があったことで、『ナナリーの為と思っていた今までの行動がまるで無駄に終わる』と考えてしまった彼の脳は物理的に揺すぶられたかのような感覚に陥っていた。

 

『もうこのまま消えてしまいたい』と彼が思うほどなショックを、そして聡明すぎる故の精神的『負のスパイラル状態』になっていた。

 

「やっと来たか。」

 

 そんなルルーシュの耳に聞き慣れた声が届くとようやくボーっとしていた思考が驚きから再起動する。

 

「………………………………スヴェン?」

 

 まるで自分を待ちわびていたかのような言葉遣いと見た目(弁当箱と瓶入りのコーヒー牛乳)にルルーシュはハテナマークを浮かべた。

 

「(まて、今こいつは何を言った? “やっと来たか”、だと? それに今日は修学旅行の日だという事は知っている筈だ。 なぜここに?)」

 

「座らないのか?」

 

「(……もう、どうでもいいか。)」

 

 ルルーシュがスヴェンの隣に座ると、スヴェンが紙袋を手渡してくる。

 

「……なんだこれは?」

 

「朝食。」

 

「見ればわかる。 俺が聞きたいのは────」

 

 ────きゅるる。

 

 ルルーシュは今更になって昨日の朝、学園のクラブハウスから出かけてから何も口にしていないことに気付いたのか自分の空腹感が急に襲い、スヴェンに渡された紙袋を開けて中身を取り出す。

 

「なんだこれは?」

 

「天丼セット。 天ぷらの丼に────」

「────そういう意味で俺は────!」

「────ハラ、減っていないのか?。」

 

 ルルーシュはいそいそと静かに食べていき、瓶に入ったコーヒー牛乳を飲む。

 

「なんだこれは?」

 

「カフェモカ。」

 

「……」

 

「ココアが入っているコーヒーだ。 チョコの入ったベルガモット風味のアールグレイにしたかったが、紅茶は時間が経つとマズくなる。」

 

「……」

 

 淡々と受け答えをするスヴェンに一々リアクションを起こすことをルルーシュは止めてただただ食事を終わらせると、特に言葉がないまま時間が過ぎていく。

 

「……静かだな。 とても看板に書いてある再開発地区とは思えん。」

 

「『再開発』という名分のもとに、住民を追放しただけだからな。」

 

「そうか。」

 

「「……」」

 

 またも気まずい静かな時間がただ過ぎ去っていき、ルルーシュは耐えられなかったのか口を開ける。

 

「……聞かないのか?」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「……そう言えばお前、皇帝に記憶を書き換えられていないのか?」

 

「対策はしていたからな。」

 

「例の、コンタクトレンズか。」

 

「ああ。」

 

「そうか……聞いていいか?」

 

「なんだ。」

 

「今日、修学旅行だろ? お前は行かないのか?」

 

「お前は?」

 

「質問に質問で答えるな。」

 

「答えて欲しいのか?」

 

「……わからん。」

 

「わからないのならば、俺がここにいても何ら問題は────」

「────違う。 俺が“わからない”と言ったのは、“お前がここまでする理由がわからない”という意味だ! それだけでない! なぜ────?!」

「────なんだ、そんなことか────」

「────“そんなこと”……だと────?」

「────『友人』だと思っていたのは、俺の方だけだったか。」

 

「ッ。」

 

 ルルーシュはギョッと目を見開き、自分の言い方やさっきまで取っていたそっけない態度に慌てだす。

 

「い、いや。 『友人』というだけで、そこまで────いやそれも違うが! 俺はそう言う意味で言ったつもりでは────!」

「────別にそう思われても、俺がやることは変わらない。」

 

「……は?」

 

「俺は()()()()()()()()()()()()()()からな────」

「────約束?」

 

「“お前()()の助けになる”、というモノだ。」

 

「なんだそれは?」

 

「だから“お前たちの助けになる”という約束をしたと言っている。 人は誰でも、一度は誰かに寄り────」

「────わからない、スヴェンが……」

 

 ルルーシュは焦りからか、普段は見せない狼狽えるかのような表情を浮かべて考えるよりも先に問いを投げかけるとスヴェンは自分の持っていたコーヒー牛乳を飲み干す。

 

お前の言動の行先が! 目的(ゴール)がさっぱりわからん! 何がお前をそこまで突き動かすのだ?!

 

「周りの皆が笑顔でいれればそれでいい。 前にも言った筈だ。」

 

 「・ ・ ・ ・ ・ ・ は?」

 

 まるで当たり前のように平然と答えながら空になった瓶を単眼鏡のように手に取って中を見るスヴェンを、ルルーシュは明らかに信じられない様な顔でまじまじと見る。

 

「(こいつ……本気か? え? あれはただの、その場の言い訳とかではなかった? 本気だったのか? いやそもそもそれ以前に、そんなことがこいつの行動原理となりえるのか?!)」

 

 ルルーシュは幾度となく、脳内で並列思考を使って様々なアプローチで検索や憶測をする。

 

 だが自ずとそれらの全てが行く先は一つだけ────否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(いや、でもそれは……だったらこいつがここにいたのは……俺のためだというのか? そんな馬鹿な! 俺自身、ここに来ることを全く予想せずにただ歩きまわっていた! 『全ての不可能を除外して最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる』とは言うが────!)」

「────なぁ、ルルーシュ?」

 

「な、なんだ?」

 

「今更『ゼロが居なくなった』としても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 感情も、思い出も……そうだな、この透き通るようなガラスの様にだ。」

 

「は?」

 

「ガラスは透明で人の視線を妨げず、気付かれ難い。 人の何気ない行動と同じだ。 世間の話題や()()になるような奴ならば尚更影響を与える。」

 

「(だが俺は、ナナリーの為にゼロや黒の騎士団を……そんな彼女が、俺たちを……)」

 

「『ゼロが象徴』という事を利用すれば、どうにかならないか?」

 

「む、無理だ。 エリア11の総督となった彼女は、黒の騎士団の大多数を埋める旧日本人の悲願である『日本奪還』の妨害となる……なって、しまった────」

「────どうかな。」

 

 

 スヴェンはそれだけ言い残し、立ち上がっては歩き出す。

 

「お、おい!」

 

 ルルーシュが呼びかけてもスヴェンはただ歩き続け、次第に見えなくなる。

 

「(一体どういう……待てよ?)」

 

 ルルーシュは空腹が満たされるだけでなく、スヴェンとの会話(?)を思い出しながら思考を巡らせる。

 

「(もしや……いや、これならば無血かつ穏便に────)」

 

 ……

 …

 

「なぁレド?」

 

「なんだシュネー?」

 

 トウキョウ租界の政庁でスザクのコノエナイツは先日ナナリー総督の護衛している艦隊とは別にあった、アラスカ艦隊をフロートユニットを搭載したサザーランドカスタムたちで援護に向かったのだが多勢に無勢で、結局はカールレオンやログレス級の乗員たちの救援活動へと作戦を変えた。

 

「何故先日、ブリタニアの救助より黒の騎士団の殲滅を優先したんだ?」

 

 否、正確には()()()()()()()()()()()()

 

シュネーはスナイパーライフルのスコープ越しにアラスカ艦隊の情勢が既に不利だったことを知りレドに伝えた瞬間、レドは躊躇なく艦ごと黒の騎士団を落とそうと動いた。

 

「……」

 

「レド────」

「────じゃあシュネーはブリタニアの新型艦を、黒の騎士団に鹵獲されてもいいと────?」

「────それよりも人命が大事だろ?!」

 

「……その鹵獲された新型艦で、更にお前の言う人命が危険になるんだぞ?」

 

「それはあくまで可能性(if)の話だ────」

「────新しい技術が広がるにつれて戦局と巻き込まれる度合いが広がることは、歴史で何度も証明されている事実だ。 現に取り締まりが行き渡っていないせいで反ブリタニア勢力にもKMFが行き渡ったために世界各地の紛争は泥沼化し、ラウンズを割かなければならないほどだ。」

 

「だからと言って、救える人命をそう簡単に割り切れる物じゃない。」

 

「……そんなことを気にせずとも、お前は立派に職務を全うしているよ。」

 

「そう言うレドは、周りを見ずにどんどんと突き進むから冷や冷やする。」

 

「背中はお前(シュネー)に預けているつもりだからな。」

 

「茶化すなよ、僕の()()信頼するのは良いが……」

 

「“するのは良いが”?」

 

「こう、なんというか……レドは最近()()()になっているような気がする。」

 

「……」

 

「レドがあまり自分の事を話したくないのは分かるし、僕やスザクさんの事を気にしていない様子は構わないが……僕やスザクさんにとってもレドは大切な仲間と思っているし、失いたくない。」

 

「……友情ごっこは間に合っている。」

 

「お前……すぐそうやってはぐらかす。 こっちは真面目に言っているのだぞ?」

 

「生憎オレのコレ(性格)は生まれつきなんだ。」

 

「はいはい……」

 

「……………………………………ありがとう。」

 

「ん? 何か言ったかレド?」

 

「“威嚇する猫のように枢木卿の事を警戒していたシュネーはどこ行った”と言ったんだ。」

 

「お前なぁ……せめてガードマンとかに例えればいいのに。」

 

「はいはい。 (……シュネー、オレは君の思っている様な奴じゃない。 特に『枢木卿(ラウンズ)の仲間』なんて大層な肩書を、名乗る資格はオレに無いんだ。)」

 

 

 ……

 …

 

「“近衛騎士団を持ちたい”?」

 

 新大陸のニューロンドンでシュナイゼルは珍しく意外そうな表情を浮かべながら通信先相手の言った言葉をオウム返ししていた。

 

『ええ、ダメでしょうか?』

 

「カリーヌからの通信なんて珍しい上に、今まで軍の予算を押さえようとしていた君が騎士団を持ちたいなんてね。」

 

 シュナイゼルのニッコリとした笑顔にカリーヌは内心、少々気まずそうになる。

 今まではシュナイゼルからブリタニアの予算や経済関係などの通信はあっても、逆にカリーヌからの通信は片手で数えられるほどしかない。

 

 そしてそのどれもが『通信で報告しなければいけない事案』ばかりである。

 

「……」

 

『シュナイゼルお兄様?』

 

 何時もは即答するシュナイゼルが顎に手を添えて何か考えている様な仕草にカリーヌは内心ヒヤっとしてしまう。

 

「……そうだね。 財務長官たちと……そうだね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ストレスのない範囲以内ならば良いんじゃないかな?」

 

『では、そのようにします。 ありがとうございます、シュナイゼルお兄様。』

 

 プツン。

 

「カノン?」

 

 カリーヌとの通信が切れると今度はカノンとの通信にシュナイゼルは繋げる。

 

『なんでしょう、殿下?』

 

「例の“耳”から何か進展はあったかい?」

 

『そうね、“枢木卿がアッシュフォード学園に学生として復学した”と。』

 

「(アッシュフォード学園……ロイドの婚約者がいる学園だったか。)」

 

『それと“機密情報局との連絡も密にしている”とも来ていたわ。』

 

「(皇帝直轄の諜報部局と? ……なるほど。) カノン、今度視察に出かけないかい?」

 

『はい?』

 

「そうだね、テキサス辺りが良いかな?」

 

 突拍子もない事にカノンは生返事を思わず上げてしまい、シュナイゼルは返事をそのまま受けて話を進めた。

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上記のルルーシュ、そしてスヴェンがいた場所から少し距離の空いた物陰にブリタニア風の私服ドレス姿になり身を潜め、目をウルウルにさせつつ口を両手で覆って声を押し殺しながら走り去る様子のカレンがいた。

 

「(『約束を反故にするつもりはない』って……スバル……アンタ本当にあの時の……()()()()()()を、まだ引きずって?

 

 

 だったら私の……

 

 

 

 

 ()()()()()……………………)」



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第204話 天然

勢いで描いた少々長めの次話です!
お読みいただきありがとうございます、楽しん頂ければ幸いです!


 ……良し、ヨコスカ港区に着いた。

 

 誰も周りにいないよな?

 

 右に人影なーし。、左も同じくー。

 

 ……あああああ!

 ビッッッッッッックリした!

 

 いや、だって信じられるか?

 

 ルルーシュの熱が引いたと聞いた日、今度は学園の講堂でナナリーの『行政特区の再建』と『黒の騎士団への協力願い』が出されていつの間にかルルーシュが居なくなって生徒会の皆は大慌てでそんな俺は元シンジュクゲットーだった新宿再開発第5地区に行って『原作のようにカレンが来てルルーシュに“慰めろ”からのビンタが見られるかな~?』と思っていたら誰も来なくて『どういうこっちゃ?』と思いながら腰かけていたらルルーシュが来て焦って今朝作った弁当を分けて丁度ルルーシュの好きなエビ天とチョコ入りのコーヒーを譲ってどうやって元気づけたらいいか迷っていたらどんどんと質問をしてきたルルーシュにそれっぽいことを言って機会を見て即座に逃げてきた。

 

 え?

『なんでルルーシュの好きなモノを知っている』って?

 If的なキャラインタビューが乗せられていた雑誌で読んだからだ。

 ルルーシュの好きなモノはエビやプリンのプルプルしたものと、チョコ。

 嫌いなモノは納豆や山芋のネバネバするもの。

 完。

 

 ……いや、終わったらだめだろうが。

 

 多分あの後カレンがルルーシュのところに現れるだろうな。

 で、ルルーシュの『慰めろ』に対して照れからビンタと『最後までゼロとしての責任を持て!』からのギャン泣きをするだろうから、タオルとかを用意しておこう。

 

 と、その前に変装、変装、森乃モード仮面とライダースーツの変装。

 

 ……

 …

 

「あ、スバル。」

 

 偽装された黒の騎士団の潜水艦のタンカーに入って目を泣き腫らすであろうカレンの為にひんやりしたタオルなどを用意していると背後から名を扇に呼ばれる。

 

「扇さん?」

 

「スバルはその、ゼロから何も聞いていないか?」

 

「特に何も────」

 

 ガチャ。

 

「────カレン?!

 

 ドアが開くと案の定、原作で見た様なピンクのドレスに青いパーカーをしたカレンが泣いた所為でぐずぐずになった顔をしていて、扇はビックリする。

 

「ぁ。」

 

 そして俺を見ては肩をビクリと跳ねさせては顔を背ける。

 

 まぁ、無理もないわな。 想いを寄せている相手がダウンしている所為で『なんでも命令して次の事を考えよう!』から急に『なら女性として((ルルーシュ)を)慰めろ』なんて言われたらショック受けるだろうな~。

 

「ご、ごめ────!」

 

 ガシっ。

 

「────え。」

 

 で、何故か申し訳なさそうに俺をもう一度見てからトンズラしようとしたカレンの手を無理やり掴んでは(またも)無理やり近くのベンチに横たわらせて冷やしたタオルでカレンの目を覆う。

 

「何も聞かない。 だから今は休め、カレン。」

 

 聞いても答えないだろうし。

 

「………………ぅ。」

 

 って、何故かカレンが余計に泣いているんですけど。

 

 うわぁ、ルルーシュ……どれだけだよ。

 いや、単純にアニメとかで描写されていないだけで表側では気丈に振る舞うカレンの根は繊細で優しくて他人思いの子なんだ。

 きっとそれだけショックが大きかったんだろう。

 

「「「「「……」」」」」

 

 何故かギャラリーが増えとる。

 

 食堂のドア越しから視線が────

 

「────皆、集まっている様だな。」

 

「「「「「ふお?!」」」」」

 

 そして背後に現れたゼロにより扇、吉田、南、玉城、杉山たちがビックリする声を上げる。

 

「相変わらず人の驚くことをするのですね、ゼロさま!」

 

「……」

 

 そしてそんなゼロの後ろに(原作で)自称勝利の女神である神楽耶と未だに何を考えているのかわからない藤堂の姿があった。

 

「ぁ……この声、ゼロ────むぎゅ。」

 

 今のぐずぐずな顔を見せたらダメでしょうが。

 というわけで取り敢えず立ち上がろうとしたカレンを俺は手をタオルに乗せて抑え込む。

 

「いいから休んでいろ、カレン。」

 

「…………………………うん。」

 

 ん?

 一瞬、ゼロの視線を感じたが……気の所為か?

 

「ゼロ、これからどうする?」

 

「決まっているだろ扇! ブリタニアをぶっ潰す算段が付いたんだろ、ゼロ?」

 

「他の主な者たちを呼んできてくれないか?」

 

「既に卜部たちへ声はかけてある。」

 

「流石だな、藤堂。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「まず、我々黒の騎士団は行政特区日本に参加するとナナリー総督に返事を返す。」

 

「「「「「行政特区日本に参加する?!」」」」」

 

「ああ。」

 

 よっしゃ。 案の定、ゼロの“行政特区日本に参加する”宣言キタ。

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 まるでゼロがした突然の宣言で時間が止まったかのように、黒の騎士団の主な幹部たちは固まる。

 

「ゼロ、それは一体どういうことだ?」

 

「扇────」

「────あ、オレ分かった! 行政特区に参加するふりをするんだろ? そして隙を付いてブリタニアをぶっ飛ば────!」

「────玉城、これは()()()()()()ためだ。」

 

「“戦わずに済む”?」

 

 ゼロの言葉に扇にさっきまで表情を変えていなかった藤堂の日本組たちの間にどよめきが走る。

 無理もない、ゼロの言い方はまるで────

 

「────ゼロ、それは“ブリタニアを内側から変える”と言う意味か?」

 

「それだとまるで、枢木の様だねぇ。」

 

「では聞くが、千葉に朝比奈。 歴史上、外敵の侵略や攻撃で()()()滅びた国家の例はあるか?」

 

「???」

「それは……」

 

「ゼロ、その話し方だと考えがあるようだな?」

 

「ああ。 我々の目的の為に()()()()ブリタニアを利用すると共に、打撃を与える方法をな。」

 

 あ。 これ絶対仮面の下でルルーシュがスゲェ悪いことを考えあげた顔をしているのが想像できる。

 

「まず私を……『ゼロ』を利用する。 その為にこちらの服装と仮面を出来るだけ多く、そしてサイズのバリエーションを扇たちに頼みたい。」

 

 ゼロはラフなスケッチがされた、『ゼロの仮面と服装』を扇に渡す。

 

「これは?」

 

「我々黒の騎士団と我々に賛同する日本人たちを、()()()逃がす為だ。」

 

「は?!」

「海外に?!」

 

「ゼロ、我々は日本独立の為に今日まで戦ってきた。 今更逃げるなど────」

「では聞こう、千葉。 このまま戦って、エリア11を合衆国日本にするとしよう。 国内のブリタニア人はもちろんの事、ブラックリベリオンで見たように暴徒化した者たちなども出るだろう。 そんな状態のまま、ブリタニア帝国や中華連邦の陰謀を防げると思うか?」

 

「「「「「……」」」」」

 

 扇たちはここで、ブラックリベリオンに便乗して思うがままに暴力を振るった名誉ブリタニア人やナンバーズの悲惨な跡の光景を思い浮かべて黙り込む。

 

 う~む、このどんよりした空気は苦手だ。

 というわけで助け舟を出そう。

 

「次の行先の宛てはあるのか、ゼロ?」

 

「ああ。 以前から交渉していた、中華連邦だ。 そこでスバルに頼みたいことがある。」

 

 え。

 

「君は一足先に中華連邦へ向かってくれ。 そこでディートハルトの部下、S().()S().() ()と共にこれから行う作戦の準備をしてきてくれ。」

 

 ……『S.S. 』って誰?

 

 ワイ、そんな奴は知らんけど?

 

「わか────けほ、けほ。」

 

 あ、咳止めが切れた。

 

 

 


 

 

「ナナリー……本気かい?」

 

 トウキョウ租界の政庁では行政特区の宣言後、膨れ上がった事務作業を手伝っていたクロヴィスがそうナナリーに問いかける。

 

「クロヴィスお兄様────」

「────せっかくこうして、生きて出会えただけでも奇跡的だというのに……何故、ブリタニアの中でも敵を作ってしまう様な宣言を? これだと……彼女の……」

 

『まるでユーフェミアの二の舞』、という続きの言葉が聞こえるかのような錯覚がナナリーとクロヴィスの間に聞こえ、二人の間に言葉が無くなる。

 

 と思えば、ナナリーが口を開けた。

 

「……現在のブリタニア帝国は、各エリアの生産能力が昨年からあまり芳しくないと聞いています。 行政特区の参加者が少なくとも『行政特区の前例があった』ともなれば、他のエリアで実現すれば……」

 

「なるほど、各エリアのナンバーズに『やる気を出させる』という事か。 ナナリーが一人で考えたのか? それとも、ローマイヤの入れ知恵か?」

 

「いえ。 これはクロヴィスお兄様が旧日本の文化を取り入れてから、生産力が向上した実例の延長線です。」

 

「フ、私だって伊達に総督をしていたわけではないからな。」

 

 余談だが、『旧日本の文化が好きそうなライラが喜びそうだったから無理やり旧日本の文化を推し始めた』とは口が裂けても言えないクロヴィスだった。

 

 ……

 …

 

「マリー、ただいま。」

 

「おかえりなさい、オズ。」

 

「??? マリー、どうしたのそれ?」

 

 エリア11からユーロ・ブリタニア、そしてEUの先にあるエリア24で遠征から帰ってきたオルドリンは政庁の総督室に入るとハテナマークを上げながら思わず脳内で浮かべた疑問を口にした。

 

 疑問とは、マリーベルが()()を付けていることだった。

 

「ああ、これの事? 似合わないかしら? 一応トトがしている物を参考に────」

「────いや、その……似合う、似合わない以前に……もしかして目、悪くしちゃった? 事務作業、手伝うわよ?」

 

「ありがとうオズ。 でも総督でなければ、目を通してはいけない案件もあるから……それにランスロット・グレイルと()()()()()の事もあることですし、無理をしているのはオズの方でしょう? ソキアから、居眠りする貴方の可愛い寝顔が送られてきたわよ?」

 

「(ソ~キ~アアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!)」

 

 マリーベルが暴露した情報によりオルドリンは顔を覆って身悶え、彼女は静かに恥ずかしさと怒りを覚えた。

 

「……可愛かったわよ?」

 

「それを言うのは二度目よマリー……私だってこの頃、グリンダ騎士団の所為でマリーが目を付けられているのを知っているわ。」

 

「『大』グリンダ騎士団ね、オズ。 確かに“一総督、一皇族が持つには過大な力”という噂は耳にしているわ。 だからこそ、オズには()()()()()()()()()()を任しているの。」

 

「そしてソキアにはエリア24の()()()の調整に内偵のあぶり出しと、私が公に行動している間にティンクが水面下で動く。 そしてレオンはいざとなればマリーカの元にかけ付けられるようにと色々根回しをしているのを知っているわ。」

 

「ええ、よくわかっているじゃないオズ。 それでも……」

 

 マリーベルの愛想笑いに、小さな影が表情に出る。

 

「(“それでもシュナイゼル殿下には筒抜けと思いなさい”、と。 “そして手を出してこないのはそこまでの脅威と感じさせていないから”、ね。)」

 

 オルドリンは腕を組み、マドリード租界の政庁の天井を見上げる。

 

「(EUや他の小国の統制が乱れたことで軍人が略奪行為等盗賊まがいの事を止める方が、同じ国家の内部に潜む脅威よりいくらかやりやすいわね……) あ。」

 

「何、オズ?」

 

「そう言えばマリーの妹である、ナナリー皇女殿下がエリア11の総督になったと聞いたけれど────」

「────ああ、そう言えばそうね。 ()()()わ。」

 

 マリーベルがいつもの愛想笑いとは違う、ニコニコとする悪戯っ子の様な笑みにオルドリンは目をパチクリとする。

 

「……()()?」

 

「う~ん、誰でしょうね? ()()()()()()()()とか?」

 

「ちょっと待って! そこまで()()()()()というの?!」

 

「それでね? ナナリーとは()()()会っていたらしいの。」

 

 Wha(はぇ)?」

 

 オルドリンの目は点になり、彼女の表情は立派な宇宙猫と化していた。

 

 マリーベルがここで口にした『幽霊』とは無論、セントラルハレースタジアムで現れた『幽鬼』────つまりスヴェンの事であり、エリア24での『マドリードの星』やミス・エックス(ユーリア)の件からマリーベルは毒島やレイラとの密談を続けていた。

 

 とはいえマリーベルたちが危惧しているように、シュナイゼルや他の有力貴族などの目が付いている以上()()()()()()()()()()だけを、暗号化した手紙を伝書鳩でやり取りをしていた。

 

 ちなみにこの『必要最低限』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()K()M()F()なども含まれている。

 

「(エリア24で上手く元テロリストたちを傘下に置き、水面下での私兵化に成功はしている。 質はともかく、志は素直なおかげでハードウェア(KMFや兵装)さえあればそれなりの戦力として数えられる……ここはフェルナンドやマリルローザが上手く働いてくれたわ。 あとは航空浮遊艦隊の天空騎士団に重装騎士団の両翼を整えることが出来れば、ユーロ・ブリタニアのヴェランス大公に決断を下させるだけの要因が整う。 そうすれば、ファルネーゼ卿の聖ラファエル騎士団にヴィヨン卿の聖ガブリエル騎士団が加えられれば────)」

 

 マリーベルは未だに宇宙猫状態となっているオルドリンから目を離し、東側の窓の外に広がる景色を見る。

 

「(────残る課題は中華連邦のみ……そこは恐らく、黒の騎士団次第ね。)」

 

 ……

 …

 

 カタカタカタカタカタカタカタ……

 

「……ハァ。」

 

 そしてエリア11とは正反対に位置する新大陸の、とある研究所内ではパソコンの画面を見ながらブラインドタッチでキーボード入力をしていたニーナがため息を出しながら眼鏡を外し、ジンジンとする目頭を指で押さえると首や肩の凝りを気にする仕草をする。

 

「あ、そうだ。」

 

 ふと何かを思い出すかのような独り言を出し、彼女はキッチンで手拭いを水で濡らして畳んでから電子レンジに数秒間入れては取り出してから横になり、ホカホカの手ぬぐいを目の上に乗せる。

 

 すると次第に手ぬぐいの温度に眼球と瞼がほぐれていく感覚と同時に、緊張していた首周りの筋肉も和らいでゆく。

 

「フゥ~……(こうしていると、学園を思い出すな~……元気にしているかな?)」

 

 ニーナが思い浮かべるのはアッシュフォード学園で、原子力発電の論文などをスヴェンと共にしながら徐々に生徒会とのやり取りに馴染んでいた頃だった。

 

「……………………会いたい。

 

 ニーナは自室の中で一人、横になりながら胸に思っていたことを口にして目に載せていたタオルをずらし、自分の家族の写真立てを開けて裏側にあった学園の生徒会員が乗っている写真を見る。

 

 ……

 …

 

「あの……私までここにいていいんでしょうか?」

 

 トウキョウ租界の政庁内にある要人用休憩所で、立派なお餅やへそなどの上半身が露出した際どいカクテルドレス姿のセシルが気まずそうにロイドに話しかける。

 

「ん? だって君、ゼロを見たがっていたじゃない?」

 

「で、ですが……その……」

 

 セシルが畏まったまま、周りの者たちを見る。

 

 自分の上司であるロイド、総督補佐のローマイヤ、ラウンズのジノとアーニャとスザク。

 そして総督であるナナリー。

 

 ちなみにこの様な豪華メンバーたちは全員、会議などに見合った正装を身に着けていた。

 

「あ、ドレスなら似合っていますよセシルさん。」

 

「も、もう! スザク君はまたそうやってからかう!」

 

「え────?」

「────あ、繋がるよん♪」

 

 ザザザ。

 

 休憩所のテレビスクリーンにノイズが走り、ゼロが写る。

 

『ほぉ、これはこれは……ナイトオブラウンズが三人も? それに御多忙であるはずの総督まで……中々の面々が集まりましたな?』

 

「いいえ、これは私の協力願いを受け入れたせめてもの敬意です。」

 

「あ、少しいいかな────?」

 「────ちょっとロイドさん────?!」

「────君は前のゼロと同じなの?」

 

『ゼロの真贋は“中身”ではなく、行動によって測られるものだ。』

 

「アハ♪ 哲学なんて予想以上のロマンチストだね?」

 

「ゼロ、黒の騎士団の返事は? やはり参加のままか?」

 

『ああ。 こちらからは100万人を動員しよう。』

 

「ひゃ、100万?!」

「アッハー!♪ セシル君も良い顔するねぇ~?」

 

『ただし、条件に私を見逃してほしい。 そうだな……“追放”などが的確だろう。』

 

「な?!」

「わお! それだとアンタは黒の騎士団を見捨てるってか?!」

「思っていたよりつまんない話。」

「だから内密なわけだねぇ。」

 

 ローマイヤはギョッとし、ジノは面白そうに声を上げ、アーニャは興味が失せ、ロイドはジノとは違うニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 

「……ローマイヤさん。 追放ならば、エリア特法12条の第8項で執行可能ですよね?」

 

「え、ええ……確かにそれを適用すれば総督の権限内です……」

 

「ナナリー総督、いいのですか?」

 

「スザクさん────」

「────今のは『枢木スザク』としての問いではなく、『ラウンズ』としてのモノです。」

 

「……過去に行政特区の前例があるため、荒事を回避できるのなら法的解釈も使います。」

 

「わかりました。」

 

「ありがとうございます、ゼロ。」

 

『いいえ。 こちらこそ手を差し伸べるだけでなく寛大な処置に、感謝を。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『こちらシズオカゲットー、行政特区日本予定地です! 間もなく始まる式典に立ち会おうと既に大勢のイレヴンが集まっています! “100万人を超えている”との為、身元確認などは式典後となりますが同時にイレヴンにとってどれだけゼロの言葉が重いことを感じさせます!』

 

 新たな行政特区になる予定のシズオカゲットーの式典の上空を飛んでいた報道局のヘリの中にいるニュースキャスターはプロパガンダを言いながらも純粋に感心を口にしていた。

 

『日本人の皆さん行政特区日本へようこそ。 たくさん集まってくださり、私は今とても嬉しいです。』

 

 時間になり、ナナリーの挨拶から始まり今度はローマイヤがスクリーンに映し出される。

 

『それでは式典に入る前に、私たちがゼロとかわした確認事項をお伝えます。』

 

 ここでローマイヤは延々と『曲赦として参加者の中にいる犯罪者は執行猶予扱い』などを口にしながら、ようやく本命である『ゼロだけ国外追放』を内心ほくそ笑みながら自信満々に宣言する。

 

 何故ならば『ゼロだけ国外追放』は実質上、『ゼロだけをブリタニアは見逃す』と言っていることに等しい。

 

 そしてこれが原因で暴動などが起きれば、ブリタニア側には『暴徒鎮圧』という大義名分が出来る。

 

 ジノのトリスタンやアーニャのモルドレッドにブリタニア正規軍と重傷ながらも『ゼロが現れるかもしれない』という事から出撃したギルフォードにグラストンナイツが加われば『暴徒鎮圧』と記入するより『不穏分子の除去』となるが。

 

 ザザザ!

 

『ありがとう、ブリタニアの諸君! 寛大なる処置、痛み入る!』

 

 どこか暴動を期待していたローマイヤが追放処分を言い渡すと、巨大スクリーンがゼロによってジャックされる。

 

『さて、ここで私からブリタニアの諸君に問題を問おう。 “民族”とは何か?』

 

「また言葉遊びか! 全員、警戒を怠るな!」

 

 今の様な状況に、既視感を感じたギルフォードは上記の通信をグラストンナイツに飛ばす。

 

 ここで原作ではスザクが馬鹿にされているように聞こえたゼロに対して答えていた。

 

 だが────

 

『私にとって、民族とは“志”だと思います。』

 

 ────スザクではなく、ナナリーがゼロに答えた。

 

『よくぞ言った!』

 

 ブシュウゥゥゥゥゥ!

 

 一気に行政特区中のグラウンド中に煙幕が撒かれて日本人たちの姿を覆い、風に乗って煙幕が晴れると日本人たち全員がゼロの仮面と服装を身に着けていた。

 

『ゼ、ゼロが! たいへんなことになりました! 確かにゼロですが、これは! ()()()()が現れました!』

 

 新たな行政特区になる予定のシズオカゲットーの式典の上空を飛んでいた報道局のヘリは狼狽えていた。

 

「まさか、こんなことが────!」

『────さぁ、全てのゼロたちよ! ナナリー総督のご命令に従い、速やかに国外追放処分を受け入れよ!』

 

 ローマイヤはスクリーンに映ったゼロを睨み、拳銃を出す。

 

「待て、ミス・ローマイヤ! ゼロは何もしていない!」

 

 そんなローマイヤの腕を、スザクが掴んで無理やり銃を降ろさせる。

 

()()()()()()()だと?! ふざけるな! 今のエリア11から100万人の労働力を逃がせばどれだけの打撃を受けると思っている?! 移動手段がない今、仮面を無理やりにでも剥がして────!」

『────こ、こちら港湾管理室! た、大変です!』

 

 ローマイヤとスザクのインカムに、焦るような通信が入る。

 

「どうした?! 今度は何があった?!」

 

『そ、それが……中華連邦が申請していた海氷船が式典場に向かっています!』

 

「なん……だと?」

 

「(この作戦は、俺がまだ明白な罪を犯していない人に発砲を許さないと分かった上でなければできない……ルルーシュ、本当にゼロとして活動を再開したのか。 流石だよ、君はいつも一枚上手だ……それに────)」

 

 スザクは煙幕が上がってことでSPたちに囲まれたナナリーを見る。

 

「(────彼女をエリア11に残したのも多分、狙いの一つなんだろうな。 だからルルーシュ、俺はエリア11に残った者たちをナナリーと共に守るよ。)」

 

 

 


 

 

 (スバル)は今、コードギアスの世界でも特製の断熱ポリマーと超ベルチェフィルムで氷の形を維持している海水船(と氷で人が乗れる面積を多くした半分氷、半分船)に乗っている。

 

 ()()ゼロの仮面と服装を着て。

 

「ゴホッ、ゴホッ。」

 

 あの後、ルルーシュ(ゼロ)に言われたように中華連邦に行ってムスッとしたディートハルトにS.S.とやらを紹介されて急遽この海氷船の改造をした。

 

『改造』と言っても、ラクシャータの渡した指示通りに特殊な氷で元々の船の乗員数を大幅に向上させるための足場や仮の居住区などを急ピッチで仕上げてそのままシズオカゲットーに発進したが。

 

「似合っているぞ、スバル。」

 

 そして隣には何故か本家ゼロがががががががが。

 

「クク。」

 

 こ、この……今笑いを押し殺しただろ、ルルーシュゥゥゥゥゥ?!

 

 どんどんとゼロのコスプレをした人が乗ってきて────

 

 ぐあん

 

 ────うおっとととと。

 立ち眩みか?

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

 

 あ、やべ。

 咳止めの効果が切れたっぽい。

 

 「ん? おい、どうした?」

 

 気が緩んだら、なんだか、ちょっと視界がグルグル────

 

 「スバル?! ちょっと?!」

 

 ────一人の赤いゼロの仮面と服装をした者が近づいて……ってカレン?

 

 おおお、三人おる。

 

 スゲェ~。

 

 あ。

 

 分かった、コレ────

 

 ────バタン。



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第205話 あなたが寝てる間に

……楽しんで頂ければ幸いです! m(;_ _ )m


 巨大改造海氷艦の甲板に、(スバル)含めて黒の騎士団の幹部たちはディートハルトに集められていた。

 

「紹介しよう。 彼女はこれまで私の活動を補佐してきた、し────

「────『S.S. 』です────」

「────S.S.君だ。」

 

 そしてディートハルトの隣には安全ヘルメットにサングラス、マスクにブリタニア風のメイド服────ってやっぱり見間違いとかじゃなくて『篠崎咲世子(Shinozaki Sayoko)』じゃん。

 

 いや、こうして見るとハッキリと分かる────え?

 『一緒に船を改造していただろ』だって?

 

 作業する速度があまりにも早くて目視できなかったんだよ。

 初めてリアルで『残像』って奴を見たぞ。

 

 いや、実質くノ一だから『分身の術』か?

 ニンニン。

 

「よろしくお願いします皆さん。」

 

「お、女だぁ~?」

 

「ちょっと玉城、それはないだろ?」

 

 「そうよねぇ玉城~?」

 

 井上さん、とばっちりでもちょっと怖いでヤンス。

 

「あれ? S.S.さんの声って、どこかで聞いたような……そうでもないような?」

 

 カレン、無理してまで思い出そうとしなくて良いぞ?

 咲世子さんはコードギアスの一期では片手で数えられるほどしか喋っていないし、アッシュフォード家に雇われているから殆んど関わりが無いし。

 

 関わりがあるとすれば、ナナリーの周りによくいた者たちぐらいだ。

 俺やルルーシュみたいに。

 

 あとはナナリーにべっとりとくっ付いていたアリスぐらいか?

 

「おい扇────」

「────ああ、あのファッションセンス────」

「────メイド服。」

 

「「「萌え~♡」」」

 

 扇、吉田、杉山……

 

 お前たちはフレンチじゃなく、ヴィクトリア派だったか。

 

 俺? 俺は────

 

「────S.S.君の希望で今後は本格的に黒の騎士団の諜報部の一員として活動し始めることとなる。 今日は、主に黒の騎士団の幹部たちとの顔合わせのつもりだ。 無論、あとでゼロにも紹介する。」

 

「え? ちょっと待て、一般人……なんだろ?」

 

ブリキ野郎(ディートハルト)……お前もしかして、黒の騎士団でメイド喫茶の諜報部でも開けるつもりか?」

 

 ()城、お前()()にええこと言うやん。

 

「「「それも悪くねぇ……」」」

 

 クッ!

 まさか俺の内心がぁぁぁぁ! よりにもよってこの三人に共鳴するとはぁぁぁぁ!

 

「さて、君たちから何か質問などはあるかね?」

 

 いや、質問って……

 咲世子さんの事だからのらりくらりと躱すに決ま────

 

「────あ、じゃあS.S.さん。 勝負……というかテストをさせてくれないか?」

 

 扇?! お前まさか、『勇者』だったんかい?!

 

 原作であれだけ『ヘタレ疑惑』だったのに……

 

「テストでありますか?」

 

「ああ……こいつと────」

「────って(玉城)かよ?!」

 

 ……………………うわぁ。

 扇お前今、サラッと玉城を黒の騎士団の『最低限ライン』に指名しやがったよ。

 

「承知いたしました。」

 

 咲世子さんも咲世子さんで、平然と受けるし……

 

「で、勝負って何をするんだよ扇?」

 

 扇が吉田たちに合図すると、一昔前のバラエティ番組などに出てくる早押しクイズのピコピコ台────って、どっから出してきたその機材たち?!

 

「勝負は『パターン』!」

 

 ドドン!

 

 南、そのSFX機材はどこから出した?

 

 というかお前もこのノリに乗ったんか。

 

「お花屋さんの娘の名前は『ハナコ』。

 ケーキ屋さんの娘は『ケイコ』。

 では? 

 ()()頭屋さんの娘の名前は、な~んだ?」

 

「「「「ブフゥゥゥゥゥ?!」」」」

「……」

 

 俺含めてオッサンたちが一斉に吹き出してしまい、井上に至っては『うわコイツ最ッッッ低』と訴えるジト目を扇に向けていた。

 

「ッ?!」

 

 ちなみにディートハルトは固まった。

 無理もないが。

 

「う~ん……なんて呼ぶんだろ?」

 

 カレン……お前だけは……お前だけは、今の綺麗なままでいてくれ。

 

 ピコン!

 

 先に動いたのは玉城だった。

 

「おまん────ぅえ゛え゛え゛え゛え゛?!

 

 玉城がギリギリで気付いたのでギリセェェェェェェェェフ!

 

 ピコン!

 

「S.S.さん!」

 

 「アン()!」

 

 「正解!」

 

 ピコピコピコーン!♪

 

「あ、その手があったか。」

 

 

「「「「ホッ。」」」」

 

 玉城が納得をして、俺たち男性組はホッと胸をなでおろす。

 

 ナニコレ。

 

「お・う・ぎ?」

 

 ギュウゥゥゥゥゥゥ!

 

「いででででででででで?!」

 

 そして激おこの井上が扇の耳を引っ張る。

 

「ちょ、ちょっとタンマ扇! 今のはノーカンだ、ノーカン! 現場で求められるのは腕っぷしだぜ?!」

 

「腕っぷし? なら玉城は何か考えがあるのか?」

 

「腕っぷしなら決まっているだろ吉田! 戦士の勝負、腕相撲や!

 

 なんでやねん。

 

 次からお前を『コバ』って呼ぶぞ玉城。

 

「では、御誂(おあつら)え向きのテーブルを持ってきてくれたまえ。」

 

 ああ、この中で唯一今までの一連に戸惑っていたディートハルトまでもがこの流れに飲み込まれていく……

 

「玉城さん────」

 

 俺は焦る気持ちのまま、玉城の肩をがっしり掴む。

 

「────あ? なんだよスバル────?」

「────悪いことは言わない、止めろ。 死ぬぞ。

 

「たかが腕相撲で死ぬ訳ねぇだろうが?! さてはお前……バカだな?」

 

 ……………………あー、うん。

 玉城のこのにやけ顔を見ていると、そもそも何で俺がこいつを助けようとしたか謎で仕方がない。

 

「では! 両者、肘をついて手を組んで~?」

 

「よろしくお願いします。(マスクの下からニッコリ)」

「カモーン、ウーマン()! (ドヤァ)」

 

 玉城、お前の骨は文字通りに拾ってやるからな。

 

「レディ……ゴー!」

 

 「「フン!」」

 

 ボキッ!

 

 ほらな?

 

「あの……玉城君? 腕が変な方向に曲が────?」

 「────うぎゃあああああああ?! 腕ぇぇぇ?! 俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「うわ?! 玉城の肘が?!」

 

「く、クソォ! 覚えていろよぉテメェ?!」

 

 玉城、そんな泣きっ面で言っても全く説得力がないぞ?

 せいぜい中ボス……いや、中ボス以下の小物が吐く負けセリフだ。

 

 あるいは後から覚醒してラスボス級に化ける敵役。

 

 玉城だからそれはないだろうけれど。

 

「お次は、どなたが勝負なさいますか?」

 

「ぅい゛?! きょ、今日は顔合わせだけのつもりだったのだS.S.君! これ以上犠牲────失礼、けが人を増やす必要はない────」

 

 ────カッ、カッ、カッ、カッ!

 

 狼狽えるディートハルトや俺たちの背後から、力強くステップを踏む藤堂が前に出る。

 

「と、藤堂ちゃん?」

 

 『藤堂ちゃん』って。

 ディートハルト、お前はなんてあだ名をつけているんだ?!

 

「フム────」

 

 ────バッ!

 

 藤堂は自分の胸倉を掴み、上半身の上着やシャツを一気に脱ぐ────って完全に『龍が〇く』のワケ分かんない脱ぎ技やんけぇぇぇぇぇぇ?!

 

「では、ポカポカじゃんけんでお手合わせ願おうか?

 

 なんでじゃい。

 

「承知いたしました。」

 

 しかも即承諾するんかい。

 

「藤堂さん?!」

 

「な、なんで上半身裸?」

 

 なんてことだ! よりにもよってぇぇぇぇ!

 扇が俺の考えていたことをぉぉぉぉぉ!

 

「やっちまえ藤堂さん!」

 

 玉城だけは自分のリベンジの為か、藤堂を応援した。

 ちなみに右腕は井上が付けたギプスが付けられている。

 

 もうなにがなんだか……

 

 なんやねんこれぇぇぇぇぇぇ。

 

「では両者、ハリセンとヘルメットを前に正座で向き合って……初め!」

 

 カァン

 

 だから南、そのコングはどこから────?

 

「────ぽっかぽっかじゃ~んけ~ん────!♪」

 

 言峰〇父がポカポカじゃんけん歌っとる。

 フォル〇ンがポカポカじゃんけん歌っとる。

 レ〇ニードさんがポカポカじゃんけん歌っとる。

 野太い声の〇授がポカポカじゃんけん歌っとる。

 

 大事だから何回か言った。

 

「────じゃ~ん! け~ん! チョキィィィィ!♪」

 

 バシッ!

 

 イケボハルトの宣言とほぼ同時に、玉城がじゃんけんで負けたS.S.の前に置いてあったヘルメットを蹴飛ばす。

 

 「んな────?!」

 「────チェストォォォォォォ!!!!」

 

 そして藤堂が雄叫びを上げながらハリセンをS.S.────もう咲世子さんでいいや────の脳天目を掛けて振るう。

 

「く、こうなったら────!」

 

 ────ハシッ!

 

「「「「な?!」」」」

 

 咲世子さんが真剣(ハリセン?)白刃取りを繰り出して藤堂のハリセンを止める。

 

「ま、まさかこれは! 旧サイタマ県カワグチ市に伝わる、伝説の真剣白刃取り?!」

 

 「もうホンマになんやねんこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 とうとう口に出して叫んでしまったよ、俺。

 

「ま、負けた……この私が……」

 

 藤堂が涙を静かに流しながらがっくりと項垂れる。

 

「と、藤堂さ~ん?!」

 

 玉城がショックを受けて涙を流す。

 

「頑張ったよ! アンタ頑張ったよ!」

 

 そして扇が少し前のネタ系の慰めの言葉を引っ張り出す。

 

 ……マジでナニコレ?

 

「さぁ、涙を拭きたまえ。 君は、男の子だろう?」

 

 ディートハルト、何故お前がよりにもよってそのノリを知っているのだ。

 

「こ、このぉぉぉぉぉ! 次は私よ!」

 

 そうしてカレンが野球ボールを手に取って────っていつの間にかデッサンデザインが『巨人の〇』に変わっとるがな。

 

「食らいな! お兄ちゃん秘伝の、『見える魔球』!」

 

 「消えへんのかい?!」

 

 なn────う?!

 頭が……

 頭が割れそうだ……

 

 さっきまで一々ツッコみを我慢したからか?!

 

 その反動なのか?!

 

 どうなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「う、ううぅぅぅぅぅ。」

 

 医務室(仮)と付けた掛札の部屋の中で、スバルは大量の汗を掻きながら横たわるベッドの中で身動ぎながらうめき声をあげる。

 

「その……彼は本当に大丈夫なのラクシャータさん?」

 

 彼の近くに居た黒の騎士団の者たちの輪に居た井上がラクシャータに問う。

 

「まぁね。 ただその……()()()()()()みたいだから、ちゃ~んと手洗いとうがいはしなさいよねぇ?」

 

「う、ううう……やめろ……やめるんだ玉城ぃぃぃぃ……」

 

「あ? こいつ、夢の中でも俺を見るのか? へへ────」

「────死ぬぞぉぉぉぉぉ────」

 「────って、夢の中でも俺は撃墜されているのかよ?!」

 

 黒の騎士団の幹部たちは苦笑いを浮かべたそうな。

 

「(スバルが風邪を引いて寝込むなんて、久々に見たな。)」

 

 扇はほかの皆に合わせて笑いながらいつも物静かながらもピンピンしながら仕事を────

 

「(────あれ? そういえばスバルのヤツ……()()寝ているんだ?)」

 

 今更ながら扇が思い浮かべるのは、ブラックリベリオン前からスバルがしていた数々の裏方役の上に学生としての二重生活。

 

「(カレンでも学園で『病弱』を理由に早退したり、保健室で寝たりしていたと聞くが……スバルの場合、そんな時間なんてない筈だが……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガチャ。

 

「ハァ~……」

 

「「か、彼の容態はどうなのです/なんだラクシャータさん?!」」

 

 別の日、スバルがいる部屋からラクシャータが出てくると毒島やレイラにアキト達が心配しながら駆け寄ることにラクシャータはため息を出す。

 

「古典的な過労と重い風邪……と、黒の騎士団には伝えておいたわよ? 今度も()()と同じ症状が出ているけれど、アレほど重症じゃないわね。」

 

「「「「「ホッ。」」」」」

 

「“前回”?」

 

「ブラックリベリオン直後のことよ。 話してほしいのなら話すわ。」

 

「あら、ではお願いしますアンジュさん。」

 

「任せなさい!」

 

 ハテナマークを浮かべるレイラに、アンジュが(少々)得意げに答える。

 

「そ、そうか……急にスバル君が倒れたと聞いた時は、その────」

「────まぁ、サエコの姉貴は血相を変えて潜水艦を無理やり出そうとしたもんな────!」

 

 ────ガシッ!

 

グギゴガガガガギギギギ?!」

 

「リョウ……あとで面を貸せ。 手合わせ(折檻)だ。

 

グゴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!

 

 目だけ笑っていない顔をした毒島のアイアンクローにリョウの顔面は鷲掴みにされ、彼は意味不明な息(奇声?)を出す。

 

「その……彼の見舞いをしてもいいでしょうか?」

 

 ラクシャータは思わずソワソワするレイラやイラつきの矛先をリョウに向ける毒島をちゃんと見ると、メタな電球が頭上に光る。

 

「(あああ、なるほどねぇ~。 若いわねぇ~。) ま、いいんじゃない? ただ意識は朦朧としているみたいだから会話は無理だと思うわよ?」

 

 ガチャ。

 

「う……うぅぅぅん……」

 

「すごい熱……」

 

「アキト────」

「────新しい水なら汲んできた。」

 

「「はや?!」」

 

「私が指示したからね────」

「────シン?!」

 

 アヤノがびっくりしながら、アリス・シャイングとジャンに支えられるシン(目に未だ包帯を着用中)が部屋に入ってくる。

 

「おう! 俺もいるぜ!」

 

「あ、アシュレイさん?」

 

「へぇ~、こいつが例の『幽鬼(レヴナント)』とやらか? 思ったより、普通だなオイ? もっとこう……おっかねぇ野郎を想像したぜ。」

 

「(アシュレイは嘘がつけない、正直者だから同行するように言ったが……これが、『幽鬼(レヴナント)』だと? このアシュレイ曰く『普通の少年』が? あれほどまでに、聖ミカエル騎士団や俺を追い詰めた者が?)」

 

 アシュレイは物珍しく寝込むスバルをジロジロと見下ろし、シンはアシュレイを通してようやく容姿と雰囲気が分かった『幽鬼(レヴナント)』を不思議に思った。

 

「う……うぅぅぅん……アポロ~……」

 

「お? 何かボソボソと────」

「────し────」

「────“し” ────?」

「────柴犬ぅ。」

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛────?!」

 

 ベシッ。

 

「────ぐぇ。」

 

 怒りを露わにしたアシュレイをシンは目が見えないにもかかわらず頭を正確に叩いて無理やり黙らせる。

 

「しゃ、シャイング卿────!」

 「────アリスが怖がるから叫ぶな。」

 

「あ、はい。」

 

「「「「(柴犬だ。)」」」」

 

 しゅんとするアシュレイを見て、アキトたちは叱られた柴犬を連想した。

 

「(これほどまでに弱ってまで……やはり、私たちの働きはまだ足りないの言うの?)」

 

「(やはりマーヤだけではストッパー役にはならないか……今度、別のものも学園に送り出すか。)」

 

 レイラ、そして毒島は未だに熱で寝込みながらうなされるスバルを見ていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「う、うぅぅぅ……」

 

 スバルは顔にペンギンのぬいぐるみが載せられた所為で、苦しい声を出してうなされていた。

 

「……」

 

 そしてペンギンの持ち主と思われるアリスは苦しむスバルを見ていた。

 

「う~ん……」

 

 「…………………………こんなに弱るまで、能力を使っちゃってさぁ。 自業自得よ……」

 

 アリスが思い浮かべたのはブラックリベリオン時にスバルが所属不明機から逃げるために粉骨砕身した、スバルの必死で勇敢な────

 

 「────って違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!」

 

 ボスボスボスボスボスボスボスボス!

 

「バカ! このバカ!」

 

 アリスは自分の顔に血が充満するのを感じ、否定の言葉を叫びながらペンギンのぬいぐるみを何度もスバルの苦しそうな顔にぶつける。

 

「人の気も知らないで一人でこんなになるまで無茶しちゃって倒れちゃって────!」

「────もう本当にね────?」

「────うきゃあああああああああ?!」

 

 天井からアホ毛首をひょっこりと出したアンジュの声にアリスは奇声を上げてしまう。

 

「よっと────」

「────なななんななななな────」

「────いやね、こいつがぶっ倒れたって聞いたからからかいに来たのよ。」

 

 アンジュが悪戯っ子のように笑い、ここでアリスは彼女の背中から見え隠れしているペロリーナの縫いぐるみを目にする。

 

「……もしかしてアンジュ先輩も心配────?」

「────は、はぁぁぁぁぁ?! 私が! こいつのぉぉぉぉぉオホホホホホホホホ?! ただ弱っているこいつの顔にぬいぐるみを乗せようと思って機を窺っていただけですけれどぉぉぉ?!」

 

 ここでアンジュは既にペンギンのぬいぐるみが載せられているスバルを見てからアリスに視線を移すと、『わぁぁぁぁ! もうしちゃっているよどうしよう~! \(;≧ω≦)/』と慌てるかのようにアホ毛が動く。

 

「「………………………………………………」」

 

「と、とりあえず他に誰かが来ない間にここから出ましょうか、先輩?」

 

「え、ええそうね後輩。」

 

 ここでアンジュとアリス(似た者同士)はお互いに深く追求せず、その場を立ち去ろうとする。

 

「前に見たときも思ったけれど、ブサイクなぬいぐるみね。」

 

「これはブサカワいいのよ!」

 

「……まぁ舌を出している、バカっぽいところが可愛く見えないこともないけれど。」

 

「でしょう~? (変なの……たまにこの子を見ていると誰かを思い出す。 シルヴィアじゃない……見覚えのない、()()()()()()()が……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「“島の状況が彼による結果”と桐原さんに聞いたよ、昴。」

 

 静まり帰った夜に、ようやく容態が良くなったスバルがスゥスゥと寝息を出す部屋にカレンの声が響く。

 

「最初、ゼロが『国を作ろう』なんて言ったときはビックリしたし、てっきりアイツが全部仕切るのかと思ったけれど……アンタは凄いよ、本当に。 アイツ(ルルーシュ)のように、とても同い年とは思えないほどだよ。」

 

 部屋の中で、カレンは未だ眠る昴の手を取ってはギュっギュっと力を入れ、昴の手を覆う厚い化粧を拭う。

 

「こんなになるまで、一人でずっと……」

 

 カレンの視線先には化粧によってさっきまで隠されていた、ボロボロに荒れた手だった。

 

「ねぇ昴、知っている? 黒の騎士団さ、これから本格的に動くらしいんだ。 だからさ、私()()は頑張るよ? 少しでもアンタの負担が少し減るように……」

 

 カレンはただ申し訳ない気持ちいっぱいのまま、昏々と久方ぶりに熟睡する様な昴の手を両手で握る。

 

「(証明さえできれば、きっと……)」




(;´д`)ゞ


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第206話 (原作と)ちょっと違う蓬莱島兼日本タウン

少々長めの次話です!

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 ベニオとサヴィトリの二人は桐原の交渉によって事前に与えられた人工島の居住区に引っ越し作業を済ませていた。

 

「よいっしょ! サビトリ~? この箱、ここで良い?」

 

「サ『ヴィ』トリよ……それと、そこでいいわ。 それで最後なの?」

 

 今更だが、『正反対同年代だから』という理由でサヴィトリとベニオは同室するようになっている。

 

「うん、そうだよー。 でも思っていたより、引っ越しする時間ってかからなかったねー?」

 

 本来のコードギアスで人工島────通称『蓬莱島』は従来の巨大ソーラーパネルの代わりとして建造された潮力発電用の島であり、『人が住む』という想定がされていない上プロジェクトも『維持費と費用が掛かり過ぎる』という事から必要最低限のメンテナンスしかされていない『手付かずの島』。

 

 ()()()

 

「この島は元々潮力発電用だと聞いたから、人が住める状態になるまで苦労すると思っていたけれど……なんなの、この島? お父さんから聞いた『日本』なんだけれど?!」

 

「でもでもでも~、私は懐かしい感じがして好きだよ~? 『商店街』とか『和菓子屋』とか、あの“プープー”ってラッパを吹く人たちとか面白いじゃん!」

 

「あれって“プープー”じゃなくて、“キィキィ”の間違いじゃないの?」

 

「うわぁ! 海の景色が綺麗だねサヴィトリ!」

 

人の話を聞きなさいよ……それに海なんて、日本から来る途中で見飽きたわよ。」

 

「でも中華連邦の海は見たことないじゃん! あ、そだ! 明日さ、泳ぎに行こうよ!」

 

「そんな暇なんて無いと思うわ。 日本を離れても、ブリタニアとの戦いや中華連邦の陰謀とかが止まってくれるわけでもないし。」

 

 キラキラと窓の外に広がる新天地の夜景に目を光らせるベニオに、サヴィトリは無慈悲な現実を突き立てた。

 

「『中華連邦の陰謀』? でも私たちにこの島を渡したじゃん?」

 

「一つの国が()()()そんなことをするわけがないでしょう? 何か裏があるわよ、きっと……」

 

「例えば?」

 

「さぁ?」

 

「う~ん、でもそっか~……そうだよねぇ、これ見たら全然わかんないや!」

 

 カラカラカラ。

 

 ベニオがアパートの窓を開けると夜風が潮の匂いと共にヒンヤリとした空気と共に活気に満ちた賑やかな音がベニオたちの部屋に入ってくる。

 

「もうこれ、『日本』じゃん!」

 

「……そうね。 ベニオも箱から荷物を────」

「────ふみゅ~。」

 

「『寝落ち』って……(まぁ無理もないか。 見るもの聞くもの全部にはしゃいでいたし。)」

 

 サヴィトリはそっと寝るベニオにブランケットをかけては窓の外をもう一度見る。

 

 正確には、江蘇省沖の向こう側にある筈の中華連邦の本土を。

 

「(平穏そうに見える理由は『交渉した桐原泰三がそれだけ優秀』、そして『一気に人口が100万人増えたから狼狽えている』といった事かしら? まるで嵐の前の静けさみたいで、正直あまり好きじゃないわ。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お久しぶりです、桐原殿。」

 

 蓬莱島の臨時首都の建物内に、ゼロと桐原が腰かけながらテーブル越しに相対していた。

 

「元気そうで何よりじゃな。 トウキョウ租界奪還作戦────世間では『ブラックリベリオン』と呼んでいるアレの途中で、お主が姿を消したと聞いたときは肝を冷やしたぞ?」

 

「私こそ、『キョウト六家が捕縛されて処刑された』と聞いたときは焦りました。 よくご無事で。」

 

「ほっほ、なんの。 ワシが孫に助けられる日が来るとは……歳は取りたくないの。」

 

「御冗談を。 貴方は当時の、あの頃のままですよ。」

 

「世辞でもそう言ってくれると助かる。 それと皇の娘には、もう……会ったようじゃな?」

 

 桐原はルルーシュが遠い目になりながら視線をそらす仕草に笑みを浮かべる。

 

「苦手か? あの子を変えたのが、他でもないお主だったというのに。」

 

「ッ……さすが桐原殿ですね。」

 

「何、アレの護衛をしていたのがワシの孫での? 山で出会った『鬼』とやらがお主の特徴に類似していただけじゃ。 あの時の冴子は隠れて行動していた所為か、お主の事はあまり覚えていないようじゃが。」

 

「(カマをかけたわけか。)」

 

 余談だが、上記の話は枢木神社の土蔵に幼いルルーシュたちが住んでいた頃のモノで、神楽耶が『皇家の跡取り』そして『スザクの婚約者』としての稽古などに明け暮れていた時の話である。

 

 当時の神楽耶は原作のアニメや外伝から想像できないほど『お転婆』、『我儘』、『自己中心的』の三つを兼ねそろえていて、『超』が付くほどのメスガキ腕白な少女だった。

 

 そしてある日、耐えかねた彼女は隙を見て山の中に逃げて食料を確保していた見知らぬ異国の少年(ルルーシュ)に出会い、『私を攫って』と懇願した。

 

『お前ごときを攫うメリット(理由)がない。 凄いのはお前の家であって、お前自体にはなんの価値もない』と、幼いルルーシュに神楽耶のお願いは一刀両断されたどころか、逆にディスられた。

 

 これを機に神楽耶の対抗心は燃え上がり、『見返してやらぁ!』と態度とやる気を出したおかげで現在の神楽耶へと変わるきっかけとなった。

 

 結局二人は再会することなく、日本侵略が起きて状況がガラリと変わってしまったが。

 

「それよりも、この島の事情や設備を一通りまとめた資料をここに集めておいた。」

 

「感謝する。」

 

 ゼロは渡されたフォルダを開けて、資料を確認していく。

 

「(……やはり桐原泰三が生きていることは大きいな。)」

 

 ゼロは資料に目を通しながら、100万人の受け入れ先である人工島の事に感心していた。

 

 ルルーシュはプレハブやテントなどの簡易住居で凌ぎながらやりくりをすると計画していたが、いきなり見知っている場所から完全に右も左もわからない場所への引っ越しは実際に問題が精神的にも物理的にも山済みである。

 

 例として、見知らぬ土地に移住するストレスに不安。

 今までの生活基準より下がった環境。

 空腹への対処にこれから(未来)の方針。

 そして治安の維持。

 

「(つまるところ『衣食住』と『不便の改善』と『新たな社会の立ち上げ』だ。 最初は配給品や周辺の小国との貿易や日本からの物資で賄いながら軍備を増強させて自立するまでを目指していたが……こうしてみると、考えが甘かった。 インフラが整っていない状態で武力だけを見ていれば、現状のブリタニアと何ら変わりはない事に────)────コホン。」

 

「どうかしたか、ゼロ?」

 

「いえ、お気になさらず。」

 

 ゼロは自分への嫌気を感じながら、舌打ちしたい衝動を咳払いでごまかす。

 

「(島自体が潮力発電用だけに電気には困らない、生活水も中華連邦からブリタニア式に効率化された海水淡水化プラントで補えている。 畑も順調に育っている……我々にとっては良い事尽くしだ。 “たまにEUなまりがひどすぎて何を言っているのかがわからない”という点と……この都市化を『不気味』と俺個人が感じる意外は。)」

 

 ルルーシュは資料に目を通しながら、自然とチェックリストを脳内に浮かべ始める。

 

「(中華連邦に桐原が人工島を交渉したのがブラックリベリオンの少し後。

 そして俺がジュ────『箱舟事件』でEUがパニック状態になっている間、桐原の孫である毒島がEUから日系人やユーロ・ブリタニアの者たちを引き連れて開拓し、農業も『綿』などの高価な物ではなく未来性のある食物である程度の自給自足。

 戸籍管理もされ、EUから来た軍人たち(ハメルたち)が警備隊として機能しているおかげで、治安維持と正当防衛ぐらいの基礎的な訓練が住民に行き渡っている。

 そして現状のブリタニアの在り方に不満を抱いていた者たちもブリタニアからスカウトし、反ブリタニア支援組織のピースマークとの繋がりも出来上がっている。 これは、まるで────)」

「────どうかしたか、ゼロよ?」

 

「いえ、ただ『さすがは旧日本政府を陰から支えていた桐原殿』と感傷に浸っていただけです。」

 

「まぁ、これぐらいは初歩の初歩。 それにEUから来た者たちは皆『自分たちの居場所を作る』という事に憧れてやる気を出しておったのも助かったわい。」

 

「(確かに……“国を作る”と宣言はしたが俺が計画していたものは理論上のモノであり、その国に住む民衆の意見が含まれていなかった。 『国』とは『一組織(黒の騎士団)の運営』とは違うことを、こうして見ると痛感してしまう。)」

 

「“国とは個人が集まり、団結して社会(コミュニティ)の枠を超えた規模になり初めて出来上がる産物”じゃからの。」

 

「それは、桐原殿のお考えですか?」

 

「はて、どうじゃろうな?」

 

 桐原はニヤニヤしながら窓の外を見る。

 

「して、これからどうするつもりだ? お主の事だから既に次の行動は決まっておるのだろう?」

 

「インド軍区から取り寄せる物資の交渉次第……と言いたいところだが、その様子だともう既に成功しているのでしょうな。」

 

「うむ。 インド軍区のマハラジャ()()が支援物資を送っている。」

 

「『個人』、ですか。」

 

「ワシが言うのもなんだが、長らく中華連邦からの独立を目論んでいる狸爺じゃからの……果たしてこれが、『漁夫の利』を狙う布石なのか────」

「────あるいは恩を売っているのか、ですな。」

 

「どちらにしても、黒の騎士団を利用する魂胆に変わりはないがの。」

 

「そこは、桐原殿たちの働きに期待しますよ。」

 

 

 

 数日後、予定通りにインド軍区からナイトメアなどを含めた兵装や物資の確認作業がされている横で、藤堂や四聖剣は今まで使用していた月下の後継機であるType-05『暁』の説明書を読んでいた。

 

「ラクシャータ、ちょっと聞いていいか?」

 

「ツーン。」

 

 卜部の質問に対し、不貞腐れながらソファーに寝転んでいたラクシャータがそっぽを向ける。

 

「……まさかと思うけれど、もしかして僕たちが強化装備を断ったことを根に持っている?」

 

「そんなことないわよぉ~? 別に私が汗水流してまで再設計した装備を『いらねぇ~』なんて軽~く断られたことを根に持つわけないじゃな~い? ねぇ、ゲロオッサン?」

 

「い、いや……ワシに話題を振られても……」

 

 紅蓮可翔式・強襲型の活躍を後の報告書で見たラクシャータは仮眠後、すぐに暁の強化に取り掛かった。

 寝ている間に黒の騎士団員たちの操縦データなどを(彼女なりに)配慮していたものなので、紅蓮より過激な瞬発力ではないものの、初めての空中戦で想定された作戦時間中に耐えられたのは黒の騎士団の中でも数人、そして元々軍の厳しい訓練を終えた藤堂や四聖剣だけだった。

 

 それでも装備を上手く扱いきれなかった者が殆どであり『機体を使()()()()()()()()()()』、『()()()()な武装はかえって危険』などという言葉(言い訳)にラクシャータは拗ねた。

 

 まるで完成されたプラモに凝ったディテーリングや外装パーツの追加をしてもそれ等が全く評価されない子供の様である。

 

「ラクシャータ君、一つ良いか?」

 

「何よ?」

 

 余談だが藤堂だけは暁・強化型を使いこなせられる所為か、ラクシャータは彼だけに対して素直な受け答えをしていた。

 

「あの戦闘空母────」

「────『斑鳩(いかるが)』ね────」

「────この説明書のおまけ部分に、『船体を銃身にする企画』と書かれていることだが────?」

 

 ────プイ。

 ブッス~。

 

「……………………」

 

 ラクシャータが一気に不機嫌饅頭顔になったことで藤堂は察した。

 

「(まぁ……却下されたのだろうな。 小さな部隊の規模ならともかく、戦力の強化を一点に集中するよりも同じ資源を使って組織全体を強化したほうが現実的だからな。) そういえばラクシャータ君、船の名前の由来は何だ?」

 

「ん? ああ、それは────」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「────Welcome to my ship(私の船へようこそ)!」

 

「「キュー!」」

「「……」」

 

 斑鳩の見学と仕上げに取り掛かっていたゼロ、カレン、スバル(フルフェイスヘルメット着用状態)がエレベーターからブリッジに出ると腕を組みながら誇らしげに、どこからか調達した艦長っぽい帽子にトレンチコートを着たアンジュと、彼女の背後に様々なポーズを取るタバタッチーズに迎えられる。

 

「………………………………さて、作業に取り掛かるかお前たち────」

「────ああ、そうしよう────」

「────だよね────」

 「────ちょっと無視しないでよ?!」

 

 スバルたちが遠回りまでしてアンジュたちを見なかった振りをすると帽子を突き抜けたアンジュのアホ毛が『((ヾ(≧皿≦;)ノ_))きぃぃぃぃっ!』と訴えるかのようにバタバタする。

 

「お前が“自分の船”なんて馬鹿げたことを言うからだ。」

 

「この船を名付けた親、私なんだからね!」

 

「だったらただの名付け親ではないか。」

 

「実質『親』になるじゃん! ……………………ってカレンのその顔、何?」

 

「い、いや~……この間も思ったけれど、“アンジュって思っていたよりサバサバしているなぁ~”って。」

 

「まぁね。」

 

「(これが素で、学園のは荒れていただけなんだ。)」

 

 プシュ。

 

「ゼロ、ここにいら────おや?」

 

「キュ?」

 

 ディートハルトがエレベーターから降りると、目の前に広がる奇妙な組み合わせに立ち止まってしまう。

 

「話を続けろ、ディートハルト。」

 

「……………………新たに再編成される黒の騎士団の幹部候補の選別が終わりましたので報告をと思いましたが、別の機会にリストをお渡ししましょうか?」

 

「必要ない、寄こせ。」

 

「畏まりました……当面はやはり、幹部たちは全員この船に配置しますか?」

 

「そうだな……後は内政担当者か? ならば桐原と話し合え。」

 

「では彼と共に話すとき、同時に情報管理局も再構築しましょう。」

 

「ああ、そのように。」

 

「では、私はこれで。」

 

「キュー?」

 

「……」

 

 ディートハルトは自分の近くにいた土色のタバタッチんの『ぽへ』ッとした顔を見てから、無言でその場を後にする。

 

「ねぇ、ゼロ?」

 

「なんだ、アンジュリーゼ?」

 

「アンジュでいいわよ。 私が言うのも違和感ありまくりかもしれないけれど……あの男、胡散臭いわね。」

 

「どういうところが胡散臭いのだ、アンジュ?」

 

「う~ん……なんかこう、『背後からグサッ!』って感じ?」

 

「なんだそれは。」

 

「勘。」

 

 「素のアンジュってやっぱりこうなんだ。」

 

「(お前も大概だぞカレン。)」

 

「……そうだな。 ここだけの話、『信頼』は無理だが『信用』は出来ると私は思っている。」

 

「根拠は何?」

 

「奴は『ゼロの神格化』を目論んでいる。 それこそ人種などを超越した『世界的な宗教の象徴』のようにな。 それが奴の行動原理である限り、予測は出来る。」

 

 ゼロの返事にアンジュとタバタッチーズたちの頭上に、狂気の目を宿しながらスバル教(仮)を口にするマーヤの姿が浮かんでそれぞれが納得する様な顔を浮かべる。

 

「あー、なるほど。」

 

「「「「キュー(なるほど)。」」」」

 

「それより……」

 

 ゼロはそこで言葉を濁すと、スバルがアンジュたちを見る。

 

「君たち、少し席を外してくれないか?」

 

「「「「キュ!」」」」

 

 ガシッ!

 

「え────?」

「「「「────キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()キュ()────」」」」

「────ちょちょちょちょっと放しなさーい!」

 

 敬礼をしたタバタッチーズがそれぞれアンジュの手足を掴み、ジタバタする彼女と共にブリッジから退室していく。

 

「「ふぅ……」」

 

 ルルーシュとスバルはそれぞれヘルメットを外して、楽になってからそれぞれがカレンと共に作業をし始める。

 

「賑やかな連中だな、スバル。」

 

「まぁな。」

 

「お前やお前の知人たち含め、これからも黒の騎士団活動に協力するスタンスなのか?」

 

「俺個人として協力するつもりだが、まだ皆に話していないので何とも言えんな。 それに事情が事情だけに、公に協力するのは難しい。 それにギアス関連の件も────」

「────いや、それで十分すぎるぐらいだ。 それに元々お前たちがいなくとも、黒の騎士団だけで中華連邦を落とすつもりだった。」

 

「ちゅ、中華連邦を?!」

 

「なんだカレン、出来ないとでも思うのか?」

 

「いや、まぁ……今の紅蓮があるし、出来るとは思うけれど……中華連邦、結構広いわよ────?」

「────首都の洛陽を落とせばいいだけの事だ。 それも『侵略者』としてではなく、『解放者』としてな。」

 

「『解放者』???」

 

「なるほど、民衆を味方に付けるつもりか。」

 

「理解が速いな……って、どうしたカレン?」

 

「え? ううん……その、“なんだか二人は気が合うな~”って思っていただけ。」

 

「そうか────?」

「────コホン! それよりもカレン、こうやって俺たちに付き合うのは良いが今は休んでいた方がいい。 これから夜間中の作戦を連日、予定しているからな。」

 

「俺は?」

 

「スバルはまだ知人たちと、今後の事を話し合っていないのだろう? ならばそっちを優先しろ。」

 

「あとスバルも休んだら?」

 

「カレン────?」

「────()み上がりなんだしさ。」

 

「……じゃあ言葉に甘えるとしよう。」

 

 ………

 ……

 …

 

 サヴィトリはその日、ラクシャータと自分とあまり年が変わらないアンナたちに驚きながらも手伝いを終えてから部屋の中でゆっくりしているとドアが乱暴に開けられる。

 

 バァン!

 

 サヴィトリィィィィィィィィィィィィ────!」

「────ベニオ────?」

 

 ガシッ!!

 

「────どどどどどどどどどうしよう?!」

 

「落ち着きなさい! それに肩が痛い────!」

「────カレンさんと一緒に出撃するって! 零番隊に、私編入された────!」

「────あらよかったじゃない、昇格じゃん────」

「────サヴィトリも一緒に編入────!」

「────え────」

「────そしてこれからブリーフィングなの────!」

 「────そっちを先に言いなさいよ?!」

 

 ベニオとサヴィトリは急いで私服から制服に着替えてから黒の騎士団の本部(仮)に走り、ブリーフィングルームの中に入ると炊き立てのご飯が出す独自の匂いに気付く。

 

「何この匂い────?」

 「────白米だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 目をキラキラさせるベニオはウキウキしながら早歩きで匂いの元にサヴィトリと共に到着すると、フルフェイスヘルメットの上にコック帽を付けたスバルがいた。

 

 そして両手にはラッピングされたおにぎりが載せられたトレイ。

 

「「ナニコレ。」」

 

握り飯(おにぎり)だ。」

 

「「知っている。」」

 

「お前たちから見た右からシャケ、おかか、ツナマヨ、梅干し、沢庵、そしてサプライズの具入りだ。 選べ。」

 

「「“さぷらいず”?」」

 

「四聖剣が作ったからな。」

 

「「…………………………………………」」

 

「飲み物なら、あっちにいる者が配っているので貰え。」

 

 スバル(のヘルメット)の視線先には割烹着姿の毒島とレイラだった。

 

「おおおお! ラムネがある!」

 

「……蜜柑水って聞いたことがないわね。」

 

 余談だがこれ等日本文化的な品揃いは日本マニア(ソフィ等)のおかげである。

 

 

 配給されているおにぎりや飲み物に対してのショックや驚き(あと毒島やレイラへのナンパの玉砕)から回復した者たちで次第にブリーフィングルームの中がいっぱいになっていき、やがてカレンが慌てた様子で入ってくる。

 

「ま、間に合った────!」

「────カレン、アラームはどうした────?」

「────殴っ(壊し)た────」

「────あとで片づける。 それと寝癖があるぞ────」

「────え、嘘────?!」

「────ジッとしていろ、すぐ直す────」

「────あ、うん。」

 

「ナニアレサヴィトリ。」

 

「……………………………………保護者と子供?」

 

 カッ、カッ、カッ、カッ。

 

 ゼロがマントをなびかせながら入室すると部屋の中に緊張感が生まれ、自然と皆が黙り込んでいく。

 

「諸君、まずは急な招集に答えてくれて感謝する。 ディートハルトの情報部から得たこの動画を見てほしい────」

 

 ゼロの合図で部屋の明かりが暗くなり、彼の背後にある巨大スクリーンに中華連邦の辺境と思われる景色が映し出される。

 

 そこはエリア11のどのゲットーよりも貧しい場所で、中華連邦の兵士の指示により馬車馬のように無理やり働かされる者たちが写っていた。

 

 隣人が急に倒れても誰も見向きもせずにただ延々と働く景色、病によって働きぶりが悪くなった者の『治療』と称した処刑シーンや、処刑された者の家族に対して『代わりに働く者を後日用意しなければ家族への配給は無し』と一方的に告げられる残酷な映像などだった。

 

「見ての通り、人民は貧困と中華連邦の政府の停滞や領主のように配置されたエリアを我が物顔で支配している軍部に圧政を敷かれ、活力を奪われている。 我々黒の騎士団はその様な場所へ行き、村人たちを解放する。」

 

「え。」

「でもそれって……」

 

 ゼロの宣言により、部屋の中にいた黒の騎士団員たちの間にどよめきが走る。

 

 理由は単純に────

 

「────ゼロ、いいですか?」

 

「なにかね?」

 

「『現在の黒の騎士団は中華連邦の庇護下にある』という状況の中、何故わざわざ敵対するような行動をとるのですか? 納得がいきません。」

 

 サヴィトリが周りの皆が思っているであろう疑問をはっきりとゼロに告げたことで、室内はもう一度静まり返る。

 

 「ちょ、ちょっとサヴィトリ?!」

 

 そんなサヴィトリの隣にいたベニオはハラハラしながら汗をダラダラと掻いた。

 

「『中華連邦の庇護下』? その認識は間違っているぞ、サヴィトリ。 確かにこの人工島は元々彼らの物であったが、正式な手順を踏んで既に所有権を買い取っている。 ここに移住する際にした進言はあくまで海域を通るための認知であり、中華連邦と我々合衆国日本は対等の関係にある。 そして黒の騎士団は理不尽な暴力に虐げられる者たちの味方だ。 よって、中華連邦が非道を行うのならばそれを正す! 『合衆国日本』という国の黒の騎士団として!」

 

「「「「おおおおお!」」」」

 

 ゼロの自信満々な答えに、一気に部屋の中の雰囲気が前向きなモノへと変わる。

 

「……口をはさんで申し訳ありませんでした。」

 

「問題ない、君は当然の疑問を口にしただけだ。」

 

「(なるほど、これがゼロ。 口八丁で圧倒的なカリスマ性を生まれさせ、その言葉を肯定させるだけの知略を持つ存在……)」

 

「(さすがは“ブリタニアを壊す”と宣言しただけはある。)」

 

「(やはりスケールが大きくなる分、大義名分や政治も絡んできますね。)」

 

 サヴィトリ、毒島、レイラは冷静にゼロの立ち振る舞いなどを分析していた。

 

「(やっぱ生ゼロかっけぇ!)」

 

 スバルはアニメで描写されていない、細かい部分を目に出来たことに(静かに)感動していた。

 

「(握り飯に、辛みそだと?!)」

 

 ちなみにどこからか現れたC.C.は『サプライズ具入り』を口にして珍しく複雑な顔を浮かべていた。




ちなみにC.C.が口にしたのは卜部のおにぎりです。

他の人たちは以下の通りです:
朝比奈、醤油をかけた焼きおにぎり。
仙波、沢庵入り。
千葉、唐揚げ入り。
藤堂、肉巻き。

余談でレイラと毒島は髪をアップにしていました。


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第207話 『北宋だな』 (違

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 ゼロからのブリーフィングが終わると同時に黒の騎士団は早速行動に移るための準備をし始めた。

 

「あ、ベニオちょっと良いかな?」

 

「え? どうしたんですかカレンさん?」

 

「実はベニオに渡したいものがあるの。 あ、スバルも来てくれる?」

 

「ああ。」

 

 スバルはチラッと頷く毒島とレイラの方を見てからベニオと共にカレンの後を追うと、一機の赤い無頼(?)が保管されている倉庫へと行きつく。

 

「これって……無頼?」

 

「まぁ、『元はグラスゴーだった』ところは一緒だけれどね。」

 

「……(おお、この機体は────)」

「────実はこれ、元々私が初めて乗っていたナイトメアなの。」

 

「カレンさんが初めて乗ったナイトメア?!」

 

「うん。 紅蓮が来ると知らなくて、修理していたヤツ。」

 

「(あと、お前の希望で改造していた奴な。 懐かしいような、そうでもないような……)」

 

 カレンはKMFの足にそっと手を添える。

 

「これで、色々あったなぁ……ね、スバル?」

 

「……ああ。 (ナオト義兄さん……)」

 

「この無頼で、カレンさんは出るんですか?」

 

「う~ん、その事なんだけれどさ? “ベニオに乗ってもらえないかな~”と思っていたの。」

 

 「私が?!」

 

「メンテはちゃんとされているから、安心して乗れ。」

 

 「えええええええええええ?!」

 

「(う~ん、この子の反応がカレンみたいに素直。)」

 

「で、でもそんな大切なナイトメアに私が乗っていいのですか?! それにこの右腕……玉城()()()が言っていた『パイルバンカー』ですよね?!」

 

「「『玉城大先輩』。」」

 

 カレンとスバルの声がハモリ、二人はお互いを見ると同時に思いつく。

 

「「(……ああ、あの模擬戦の。)」」

 

「でも私に扱いきれるのかな……玉城大先輩たちも“あんなクソハードル高い武器を~”って言っていましたし。」

 

「いや、朱城(ベニオ)なら案外うまくできると思うぞ?」

 

「「え?」」

 

 コック帽をヘルメットに乗せたスバルの意外な言葉に、カレンとベニオは振り向きながらポカンとする。

 

「訓練データなどをチラッと見たが、カレンに似ているところがあるからな。」

 

 「えへへへへ……カレンさんと似ている……」

 

「スバルのお墨付きなら問題ないわね!」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ? この胡散臭いライダー男のお墨付きって言われても……でもカレンさんだし。

 

「(このモブ子(ベニオ)のアレ、まるで触覚みたいだな。)」

 

 カレンが何故自信満々に宣言したのか理由が良く分かっていないベニオのピクピクと動くアホ毛を見て、スバルは内心そう思ったそうな。

 

 

 


 

 

 

「フゥ……」

 

 で、カレン達を見送った(スバル)は資料とにらめっこしている所為で、シパシパし始めた目頭を指で押さえながら窓を見る。

 

「もうため息か、若いの?」

 

 そして同じ部屋にいる桐原が嬉しそうに話しかけてくる。

 

 せっかくR2の『中華連邦の蓬莱島へおいでませ♪』まで進んできたし、すぐに黒の騎士団が作戦行動に出られるように100万人を受け入れられるように手を回して、島の生活も軌道に乗ってくると思ったのになぜか桐原のじいさんの手伝いをしている。

 

 まぁ正確には『している』というか……『させられている』というか……

 

「必要なら目薬をお使いになられますか?」

 

「いや、そこは首回りに湿布だろう?」

 

「あ~、ワシの肩を誰か揉んでくれんかの~? 湿布でも良いの~。」

 

「あ、えっと……気付かなくてすみません────」

「────気にするなレイラ、コレのアレはただ注目を集めたいだけだ。」

 

「冴子……ワシ、もう歳なんじゃよ? 何時亡くなるか分からないワシを労わる気持ちはないのかえ────?」

「────えっと────」

「────それ、去年も口にしていますよ()()殿────」

「────チッ。」

 

 そしてもう察しの通り(オロオロする)レイラに(桐原に対して毒舌な)毒島もいる。

 

 何故だ?!

 

 どれだけこの内政業務を却下したくとも、桐原のじいさんとか毒島からの視線が増すだけだし……

 

「あの、桐原さん? ここはどれを優先すれば────?」

「────フム……のぅ、スバルよ? 領土の経営で何をすべきかの?」

 

 何故俺に話題を振るのだ、桐原のじっちゃんよ?

 

 まぁ、いいか。

 聞かれたのは初めてじゃないし、前回言ったことをもう一度言えばいいだけか。

 

「そうだな。 基本的に領土の治安維持、密偵などからの防衛、領土自体外敵からの防衛、住民の不満や意見を取り入れて環境の改善、民に生産の職を与えることだ。」

 

「それで税はどうするのですか、シュバールさん?」

 

 「おい冴ちゃん、遅れておるぞ。 お主も早くあだ名を付けんかい。」

 「アレはあだ名というより、単純にEU語なまりですおじい様。」

 

 何か聞こえてきたような気がするが今はとりあえず無視。

 

「何をするにも『対価』は必要だ。 それを『税』とするならまず、合衆国日本に資金────つまり交換の媒介の価値が保証出来るまでの基盤が必要だ。」

 

「では、領土の防衛は?」

 

「幸い、ハメルやクラウスたちのおかげで領内養成がはかどっていることもあって助かっている。」

 

「あ。 あの二人なら丁度いいですわね。 でも、黒の騎士団は使わないのですか?」

 

黒の騎士団(軍隊)に依存するのは少しな……元々『軍隊』と『警備隊』の違いは分かるか?」

 

「えっと……前者が外敵からの守り、後者が治安維持?」

 

「……大まかにその解釈で間違っていない。 ただ『軍隊』は主に『制圧』を生業としているので今は警備隊に専念している。 だから今のところ住民全員を鍛えてその中から特に優秀な者たちを家業と兵役の兼業をさせれば繋いでいける。 今の合衆国日本に、黒の騎士団以外の常備兵を大量に維持する余裕はあまりないからな。」

 

 まぁ、これはアレだ。

『国民皆兵式』に『交代制』を加えてみた。

 兵歴が終わっても民衆の自衛手段にもなるし他人からの暴力の抑止力となる。

『自分だけが戦う術を持っている』という認識を一部が持てば治安は自然と低下する。

 人間は誘惑などの『欲』に弱い生き物だからな。

 

 だから極端な話、『全員が戦う術を持っている』か『誰も持っていない』状態でなければ保安局への負担は大きくなるばかりだ。

 

 そして現在の世界はいわゆる、『乱世の時代』だ。

『平和主義』なんてものを貫き通せるほど甘くはない。

 

 それにいざとなれば、黒の騎士団が居なくてもある程度の対処は出来る。

『暴力への対処』をある程度心得ているからな。

 

「お金が必要でしたら、畑の一部を綿花にして他国に売れるのでは? 需要も高いですし───」

「───確かに金()得られるだろう。 だが代わりに民が()()()。」

 

「え?」

 

「もし農家たちが金に目がくらめば食物を育てることを止めて、畑は商品作物に偏るだろうな。 人間、誰もが贅沢を覚えれば欲が出てしまう。 だがそうすれば輸入するコストも上がるうえに、農家たちは自分たちへの負担を補おうとして食料品の価値が上がり、最悪景気低迷に繋がってしまう。 そうすれば国内問題が次々と出てきてしまい、国民の支持は下がるだろう。」

 

「で、ですが……合衆国日本の民は、全てを捨ててまでここに来たのですよ? 国民愛があれば────」

「────残念だが、それは理想論だレイラ。 それに裕福かつ善政で長い歴史を持つ国ならともかく、新しい国の民に結束力などが生まれるのは『様子見』の発足時当初から上層部が代替わりした時期からだ。」

 

「確かにの。 お腹を空かせていれば道徳心や愛国心を投げ捨ててでも生きていこうとするのが『人間』じゃからな。」

 

「それでキョウトは日本がブリタニアの侵略後でも、食に困らないように手配しておいたのか。」

 

「まぁの。」

 

 “まるで餌付けだな”。

 と言いたいところだが実際問題、食糧難で『どうせ死ぬなら~』という感じで暴動を起こしたり、精神的に追い詰められて宗教の狂信者になったりするのを前世で見た(ような気がする)からな。

 

 戦国時代風に言うと『一向宗の一向一揆』とか、数百年単位で近くのアラブ国から略奪行為に晒されていたヨーロッパの『あ、これは自分たちへの献上品が減っている?』状態を察した法王が『じゃあこっちも“聖戦”という大義名分で団結して略奪しようze☆』とか、中国の紅巾────じゃなくて黄巾党とか。

 

「……………………」

 

 あれ? 何故だかレイラがちょっと複雑そうな顔をしているぞ?

 

 ニコニコニコニコニコニコ。

 

 桐原に至っては不気味なほどまでに清々しい笑顔を浮かべている。

 

「フフフフフ。」

 

 出たよ。

 満足そうな笑みをしながらの『フ』が少し多い毒島の笑いが。

 

 あ、腕を組んでいる所為で立派なサイズ詐欺Dカップのお胸が丁度いいぐらいに圧迫されて目の保養でザンス♪

 

 ムヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ♡

 

 って、なんで『ゆっくり出来る』と思ったのにこれほどまでに書類に忙殺されているのだ俺は。

 これじゃあ、アッシュフォード学園の二の舞じゃねぇか?!

 

 しかも今回は『カレンお嬢様の容態が~』という逃げ技(言い訳)も使えねぇし!

 

「……お主は黒の騎士団の動向が気にならんのか?」

 

「ある程度の予想は出来ている。」

 

 アニメでこの時期の描写が飛ばされているから気になる。

 とは言えないし、先日ルルーシュにカマをかけたが多分『死ぬ死ぬマン』こと『星刻』が企画しているクーデターを利用する根回しをしているんだろ。

 

 「……さすがですね。」

 

 レイラよ、何が『さすが』ですかな?

 

 ………

 ……

 …

 

 次の日、朝起きたらラジオ体操をしてから炊飯器をセットし、朝シャンでさっぱり。

 朝食には卵ご飯、味噌汁、魚と醤油たっぷりの大根おろしに鰹節。

 

 う~ん……日本!

 

 まさか卜部と朝比奈のマニアックなまでの味噌と醤油好きでこうもレベルが変わるとはなぁ~。

 

 それ等を俺は静かに食する────

 

「ご飯に、生の卵だと?」

「お腹、壊さないのかしら?」

「「「「ジー。」」」」

「なんでそこで皆私を見るの?!」

「「「「ダルクだから。」」」」

「その言い方、まるで私が何でもかんでも拾い食いするみたいじゃない!」

「お前の『三秒ルール』なんて拾い食いではないか。」

「違うやい!」

「その三秒も自分を納得させるだけの言い訳────」

「────だから違うって!」

 

「「「「えぇぇぇ?」」」」

 

「なんでこういう時に限ってサンチアたちが仲良くなるの?!」

 

 ────うん。

 俺はともかく周りは全然静かじゃない。

 

 理由は単純に、何故かサンチアたちとマオ(女)も俺の居る寮に泊まっているからだ。

 

 最初は『何故よりにもよってここなんだ?』、と思ったが考えてみれば結構理にかなっている……気がする。

 

 アマルガムのメンバーたちは合衆国日本にとって『黒の騎士団の一部か協力者』、そして黒の騎士団にとってはピースマークっぽい『支援組織』。

 

 まぁ要するに『アマルガム=黒の騎士団(?)』という曖昧な立場で未成年(ぶっちゃけ子供)が兵士として活躍する場とかを目撃されたら『気まずい』以前に彼女のたちの事情も話さないと色々と誤解とかが生じる。

 

 というわけで、『100万人の受け入れの時に移住したEUの孤児たち』という感じに俺が仮住まいにしているひっそりとした住居地区に来ている。

 

「う~ん、さすがお兄さんの手作りだね!」

 

「「「「……あ、美味しい。」」」」

 

 俺のマネをしてみた平気なマオ(女)を見て、(恐らく)人生で初めて卵ご飯をしたサンチアたちの感想に思わず顔がニヤニヤしそうになる。

 

 ハァ~、これだよこれ!

 こういう、のんびりとした雰囲気を俺は求めていたのだよ!

 

 ……まぁ、これからちょっとしんみりするところに行くのだけれど。

 

「ん? 今日も行くの?」

 

 そう思いながら俺が席を立つと、つい先ほどまで大根おろし+魚のコンビを静かに楽しんでいたアリスが声をかけてくる。

 

「ああ。」

 

「そ。」

 

 ……いつもながらこいつ(アリス)のそっけない態度はむかつくな。

 

「疲れているのなら寝たら? 散歩がてらで良いのなら、代わりに行くけれど?」

 

「……???」

 

 こいつは今、何を言った?

 

 なんだか気遣いの言葉が来た幻覚が────

 

「────何よその顔?」

 

「いや、今お前が……何でもない。」

 

「私が何よ?」

 

 いや、気の所為だ。 そうに違いない。

 初期のまだ出会って間もなくて猫をかぶっていた頃ならいざ知らず、アリスが優しいだなんて────あ、わかった。

 

 こいつ(アリス)、からかっているんだ。

 

 フゥ、思わず騙されるところだったぜ。

 

「そうか────」

 

 クシャ。

 

「────んな?!」

 

 近くを通るついでに頭を撫でると素っ頓狂な声がアリスから出てくる。

 

 フハハハハハ!

 そっちがその気なら、俺もやったるわぁぁぁぁ!

 

 ……あー、虚しい気持ち以前に元気ねぇわ、俺。

 

 さっさとエデンバイタル教団の孤児たちの居るところに行って、見舞いして寝ようかな?

 

 ……いや、ダメだ。

 今日も桐原のじいさんとかとミーティングだったな。

 新たに受け入れた日本人たちの人口調査に、背景の調査────ってこれはマオとサンチアのギアスが的確だな。

 

 そういやマオはまだC.C.を追いかけているのかな?

 

 それに税収とかの事もあるし。

 ()()合衆国日本という国だから……ま、手始めに『収穫などの一割』に『労役』と言ったところか?

 

 他の税は取り敢えず、国としての規模と安定感が大きくなってからじゃないと民衆への負担が大きすぎて不満が出る。

 

 後は『(小指上げながらの)シ~ン~クー!』とかもこれからあるだろうし、それにクソショタブイブイのギアス嚮団やシャーリー死亡フラグも完全に折ったと思うけれど下手したら不器用なルルーシュの事だからロロの暴走とかで代わりにヴィレッタとかに危害が……

 

 あ、あと学園のライラにエリア24のマリーベルたちとかピースマークのオイアグロとかも────って、こう考えたらなんだかクッソ忙しいなオイ?!

 

 ルルーシュやレイラたちにこれからの事を丸投げしたはずなのにどうしてこんなに忙───ああ、いや。

 

 国としての基盤が固まるまでの辛抱だ。

 

 つまり未だに(引継ぎの)正・念・場!

 

 今度こそは倒れないように気を付けながら(ほどほどに)張り切ろう!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 今俺がいるのはウィルバー博士たち技術部がいる場所。

 

「元気にしているか?」

 

「……ぅ。」

「……?」

 

 そして何人かは喉を潰されてただキョトンと見ていたり、言語になっていない息を出したり、目の前には生気の籠っていない目で視線を返す様々な状態の孤児たち。

 これでも全員じゃなく、目の前にいるのは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他はベッドの上か、車椅子だ。

 

 ラビエ親子たちがそういう子たち用のスーツなどを作っているが……やっぱ、空気がクッソ重い。

 

 それでも────

 

「────生きていてくれて、ありがとう。」

 

 毎度のことながら、こいつらを見ると自然に上記の言葉が口から出てきてしまう。

 

 さて、湿っぽいのはここまでにしてこいつらが嬉しくなる(と思う)料理とかを振る舞おうか!

 

 

 


 

 

「やぁ、すまない二人とも。 待たせたかね?」

 

 ブリタニア帝国の首都ペンドラゴンにて、これからの事などで公務に忙殺されかけていたオデュッセウスはギネヴィアとカリーヌに呼ばれていた。

 

 内容は知らされず、要件はただ『帝国の問題について』だった。

 

「兄上、よく多忙のところ来てくれました。 これから中華連邦に向かう準備はもう済ませているのですか?」

 

「いやぁ、これから披露宴の衣装の選定に迷っていたんだ。」

 

「それで兄様、良い物は見つかりました?」

 

「うん? いいや、君たちに呼ばれてすぐに来たからまだだよカリーヌ。 あ! でも式で着る服とかはもう決まっているよ────!」

「────兄上、実は少々捨て置けない問題が浮上────」

「────そう言えば聞きましたよ兄様?! お相手である天子様はまだ13歳だとか! 兄様に()()()()()()がおありとは盲点だったわ! 道理で今まで縁などに興味が無かったワケね!」

 

「いやぁ~、若いのに一国の重責を背負ていると思うと心が痛むよ────」

「────まったまた~! 誤魔化しちゃって! これで行き遅れないわね────?!」

 「────カリーヌ? 話の最中です。 お黙り。

 

 ギネヴィアのキツイ口調にカリーヌは固まり、萎縮する。

 

「まぁまぁ、ギネヴィアも肩を凝らせているみたいだしここはリラックス────」

「────兄上。 内々にそれなりの規模の予算の個人運用をされていませんでしょうか────?」

「────ギクッ────」

「────例えばナイトメアの運用や開発など────?」

「────ギクギク。」

 

「……」

 

 静かに圧力をかけるギネヴィアを前に、オデュッセウスは静かに汗を出す。

 

「あ、あれかな~? 南米の領主たちに重機としてMR-1を貸与したことかい? そ、そ、それともチャリティーイベントやツアーでPDR13(アイドルグループ)に紛れてグロースターでダンスした件かな? あ! そう言えばこの間アイダホで新しく『コメ』というモノの栽培に、投資したこととかな?! それとも黙ってエリア24のマリーベルに挨拶しに行くついでに観光をしたこと?! やややややややっぱり前もって相談した方がよかったかな?!」

 

「白だわ。」

「白ですねお姉様。」

 

 慌てだすオデュッセウスが次々と暴露する可愛い皇族らしくない行動にギネヴィアとカリーヌは呆れながらジト目で彼を見る。

 

「え? どういうことだい?」

 

「事の発端はカリーヌの申請でした。」

 

「実は私もマリーベルに見習って近衛騎士団を持とうと思いましたの。 それでお姉様や財務長官たちに相談して、構造的に帝国への負担なく計上を整理していったの。」

 

「そして、その調査で私たち皇位継承権を持つ皇族にしか使えない予算の一部が使途不明のままいくつかの銀行や産業などを通していることが判明したのです。」

 

「え。 それは……う~ん、シュナイゼルの移動要塞の建造じゃないかな? 工期の短縮にさ?」

 

「実はフロートシステムの関係で、軍時研究開発機関の予算内で作業は進められています。 帝国は第七世代型のナイトメアへの機種転換とフロートシステムの導入、そして近年の領土拡大化により軍事予算は2割にまで届きました。 例外を除き、各エリアの生産能力も頭打ちの現状で貴重な臣民と名誉ブリタニア人による血税の漏れは些細なモノでも重大です。」

 

「確かにね……」

 

「それでね兄様? 予算の中抜きはここ数年どころか、遥か昔からの様ですの。」

 

「えっと……シュナイゼルは、このことを知っているのかな? というか、彼がこのことに対してどう動くのだい?」

 

 表情の曇るオデュッセウスの問いに、ギネヴィアとカリーヌの目からハイライトが消えていく。

 

「「“ダラスで良いツボが見つかった”らしい、と。」」

 

「………………………………あー、ご愁傷様? こ、今度カリーヌとギネヴィアの好きなプディングとエクレアを買って来るよ。」

 

 シュナイゼルにより大役を押し付けられた任されたと察したオデュッセウスは苦笑いを浮かべた。

 

 ……

 …

 

 チーン♪

 

 新大陸のテキサス内で最も栄えているダラスにある、一つのお店の中で心地よい音が鳴り響く。

 

「うん、いい音色だね。 これも購入するよ。」

 

 シュナイゼルはいつもの笑いを浮かべ、SPたちが放つ威圧にハラハラドキドキする店内の作業員たちを無視しながら歩いては次のツボにデコピンの様な仕草で出る音色を楽しんだ。

 

 如何にも『今の私はオフの行動中デスヨ~』と、大々的に宣言する様な光景だった。

 

「(『仕事人間』である殿下にも、こんな趣味が?!)」

 

 尚カノンたちなど同行した側近たちはこのような景色を見て内心、驚愕したそうな。




果たして何人が見ただけでサブタイの元ネタを……

それはそうと猛暑が続く中先日ダウンしそうな作者でした。 (;´д`)ゞ アチィ
読者の皆様もお身体にはお気をつけくださいませ。


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第208話 ……ブルボ〇(?)

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 スバルが全力でエデンバイタル教団から救った孤児たちや技術部に料理を振る舞っている蓬莱島の別の場所では、公園のベンチに座りながらボーっと空を眺めるベニオの姿があった。

 

「……」

 

 彼女が考えていたのは、先日行われた『圧政から村人を救う』作戦だった。

 

 初撃はカレンの紅蓮による強襲を合図にした、四聖剣の暁を突入させて敵の本隊にわざと包囲網を完成させたところを、ベニオを含めた本隊が包囲網を背後から奇襲すると言った単純なモノだった。

 

 これならばベニオの様な、経験の浅いパイロットでも十分中華連邦の正規兵に後れを取ることはほぼない。

 

 何せKMF技術が低いため二足歩行ができないどころか『尻尾』の様なランドスピナーに機体が支えられている状態に、『正面への集中砲火』だけを追及させたようなデザインをした中華連邦の鋼髏(ガンルゥ)相手ならば特に『背後からの奇襲』の効果は絶大である。

 

 ベニオは初めての出撃であったこともあり、他の新人たちのように興奮しながら元カレンのグラスゴー兼無頼を他の黒の騎士団の暁と一緒に突撃させた。

 

 本来、この時点で無頼は『型落ち』どころか『時代遅れ』と言った認識になっている。

 何せ元々はブリタニアの第四世代KMFのグラスゴーの外装などのマイナーチェンジをした機体、既に第六や第七世代KMFが出てきている。

 

 だがあろうことか、元々カレンが乗ることを想定しつつ彼女の(無茶ぶりな)注文を、『後に紅蓮が来る』と分かっていたスバルの魔改造によって『外見だけは無頼』となっていた。

 

 まずナイトメアの可動摩擦面の摩擦抵抗を減らす仕組みが施こされ、その過程で駆動部の見直しと共に『ナイトメアの内骨格と外装の独立化』も試された。

 

 結果、『見た目だけ無頼』のパイロットの入力に対する応答時間と機動力は大幅に上げられて半ば『化け物化』していた。

 

 余談だが、このおかげでスバルは『亡国のアキト』への介入時にリアクティブアーマーの開発に経験を活かしている。

 

 設計の想定外である『背後からの奇襲』に『接近戦』に戦いが持ち込まれた中華連邦の鋼髏(ガンルゥ)は為す術もなく駆逐されていき、ベニオはただ目の前の狼狽える敵機を次々と備え付けられたパイルバンカーで打ち取っていた。

 

 元々無頼の元となったグラスゴーも接近戦を想定された設計ではないのだが、アサルトライフルの反動を押さえる仕組みが後付けされたスタントンファやナックルガードよりもパイルバンカーの相性は非常に良かった。

 

だ、助げ────ゴボ……』

 

 しかしパイルバンカーの当たりどころが悪かったのかベニオが倒したと思った鋼髏(ガンルゥ)からガラガラした声で命乞いをする通信と、杭によって開けられた穴から中の様子を直視してしまったベニオは動きを止めてしまった。

 

 幸い、作戦はほとんど終わった頃なので難無くベニオは他の者たちと一緒に帰還したのだが最後の敵の言葉と光景がベニオに衝撃を与えていた。

 

「ベニオ────」

「────あ、カレンさん……」

 

「どうかした? サヴィトリから貴方が寝ていないって聞いたけれど?」

 

「あー、そうですかねぇ~。 初めて実戦を間近で経験した興奮だと思います。 どうしてですか?」

 

「……なんだか辛そうだったから。」

 

「……」

 

 カレンの言葉にようやく堪えきれなくなったのか、俯いたベニオの目から大粒の涙がボロボロと出始めた。

 

「べ、ベニオ────?」

「────私、今更ながら『人を殺した』って実感が沸いて。 戦争だから、()()()()()って頭で理解しようとすると『きっと相手と私に違いはない』って……私は、両親が目の前で殺されたから『遺された人の痛み』を分かっている筈なのに、私自身がそのような痛みを広げていると思うと、私……私、どうしても────」

 

 ────ギュ。

 

 どんどんと取り乱すベニオを、カレンは出来るだけ優しく抱擁する。

 

「ずみまぜん……ごんなごど()()()()()のに、どうじでも割り切れなくで────」

「────割り切らなくていいよ、ベニオ。 私も、初めは同じだったから。」

 

「ズビ……カレンさんが???」

 

「うん。 私もね、初めてナイトメアに乗って人を殺した実感に凄く悩まされたわ。 食欲は無くなったし、何を口にしても吐いちゃうし、瞼を閉じれば殺した相手の事を考えちゃうしで……とにかく、凄く大変だった。 」

 

「カレンさんは、どうやって乗り越えたんです?」

 

「……今の私のように、知り合いが抱擁してくれながら語りかけたんだ。」

 

「その人、なんて言ったんです?」

 

「“慣れなくて良い。 誰もこんなことに慣れるべきじゃない、慣れれば人として大事なものを失くしたという事だ。 だから、泣いても良い”って。」

 

「それって、ひょっとするとゼロの言葉ですか?」

 

「ううん。 私にとって……うん。 私にとって、大切な人が言ったことなんだ。」

 

「……どうしてカレンさんは私にここまでするんです?」

 

「う~ん……ベニオが『妹』って感じがするからかな?」

 

「カレンさんがお姉さんだったら鼻高々ですよ! 絶対に周りの人たちに自慢しています!」

 

 ピリリ♪ ピリリ♪

 

 そこで二人の和んだ空気を壊すかのように、ベニオの通信機が鳴る。

 

 着信相手は『ゼロ』で、用件は単純に『零番隊への配属』だった。

 

 「どえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 まるでさっきまで泣いていたことが嘘かのように、ベニオは一気に元気(?)になった。

 

『態度がコロコロ変わる』? ソウトモイイマスネ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「朱城ベニオ、先日の作戦では目覚ましい活躍をしたと高評価を受けている。」

 

「こここここ光栄です!」

 

 カレンと一緒にゼロの執務室に来たベニオはカチコチに言動が怪しくなるまで緊張していた。

 

「データの解析も済み、君のその操縦技術とセンスを見込んで零番隊へ正式に配属したい。」

 

「あ、あ、あ、ありがとうございま()()!」

 

 カァァァァ。

 

「(うぎゃあああああ?! かかかかか噛んでもうたぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

「う、うむ。 喜んでもらえて何よりだ。」

 

「(スルーされたからセェェェェェェェフ!)」

 

 「あー、ベニオ? そこまで緊張しなくても良いよ────?」

 「────無理ですよぉぉぉぉぉ! ()()ゼロですよ?! 私みたいまド庶民からしたらカレンさんと話せるだけでもすごいことなのにゼロなんて雲の上の存在ですよぉぉぉ?!」

 

「……カレン、すまないが彼女が馴染むまで先輩として面倒を見てくれないか?」

 

「え? いいけど、歓迎会を開いた方が手っ取り早くない?」

 

「それなら丁度いい。 実は桐原殿の計らいで、甘味の大量生産に目途がついたので試食を兼ねたパーティーを先ほど始めた。 そこで朱城を他の者たちにも紹介しよう。」

 

 そこからゼロは立ち上がり、カレン達が後を追うと既に零番隊の者たちがいる部屋へと着く。

 

「見ての通り、もう主な者たちは集まっている。 テーブルの上にあるのが────」

「────ポッ〇ーだ!」

「────まさか、ルマ〇ド?!」

 

 ゼロの言葉をカレンとベニオが遮り、テーブルの上にあった数々の懐かしい菓子に目を光らせた。

 

 二人が言ったようにポッ〇ー、ルマ〇ドだけでなく、バーム〇ールにア〇フォート、果ては柿の〇(柿〇ー)まであったことに室内はゼロたちが入室してきたことに気付かないほど既に盛り上がっていた。

 

「(……まぁ、たまにはこういうのも良いか。)」

 

 テンション爆上がり&盛り上がる旧日本人たちの様子を部屋の端から見ていたルルーシュは、ゼロの仮面の下でほくそ笑みながら景色を楽しんだ。

 

「(報告によると、学園の修学旅行も『黒の騎士団による行政特区への参加による危惧』という名目で租界内のデパートやモールへの出かけや友人の家での宿泊などに変わったと聞く。 早い話が『学園がスポンサーするお泊り会』なような物にイベントを変えたのは、恐らくミレイ会長辺りか?)」

 

 これはルルーシュがゼロの仮面を防水仕様にした為、(食事はともかく)飲み物も堪能できなくなったことに気付く5分前の出来事である。

 

 どうでも良いことかもしれないが。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「何? 黒の騎士団が?」

 

 中華連邦の首都である洛陽にて、大宦官たちは『黒の騎士団によって辺境にある村たちから軍が退けられている』という報告を受けた。

 

「如何なさいますか? 奪還いたしますか?」

 

「ふふ、そのままにさせておけ。」

 

「は?」

 

「“捨て置け”、と言っているのだ。」

 

「は、はぁ……」

 

 だが大宦官たちは慌てることなく、困惑する武官に放っておくように大宦官たちは言い渡す。

 

「ただし、ネズミ一匹見逃さぬほどに洛陽の守備は更に固めろ。 他の都市に居る者どもを動かせてもよい。」

 

「な、なぜ???」

 

「そちは支払いを受けたくないのかね? ならばそのまま質問を続けるといいぞ?」

 

「し、失礼しました。」

 

「うむ、金はいつもの口座に振り込んでおく。」

 

 金によって大宦官に飼いならされている武官はそそくさと部屋を出て洛陽の守備に取り掛かる連絡をし始める。

 

「黒の騎士団……哀れよのぉ?」

 

「ブラックリベリオンが失敗して今は所詮、蟷螂の斧よ。」

 

「今に知る。 この世の中、どのような道具でも『消す』よりはるかに良い使い道があることを。」

 

「「「「ホホホホホホホ。」」」」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『いやぁ、すまないねマリー。』

 

 エリア24の上空をアヴァロンで通りながら通信の画面内に居たシュナイゼルは、申し訳なさそうな声でマリーベルにそう声をかける。

 

「いいえ、皇族の一人と言えど今の私はエリアの管理を任された一総督にしかすぎません。 帝国宰相の頼みとあらば、『イエス』と答えるまでです。」

 

 愛想笑いを受かべるマリーベルはそう返しながら、レーダーに映るシュナイゼルのアヴァロンの近くを飛ぶグランベリーをチラッと見る。

 

「ですが驚きましたわシュナイゼルお兄様? まさか“天空騎士団を借りたい”などと。」

 

『これから中華連邦に向かうからね。 本来なら、エリア11を経由したかったが拠点を中華連邦付近に移した黒の騎士団の襲撃にあっては冗談にならないからね。 念には念を入れて、君の天空騎士団を護衛にしながらユーロ・ブリタニアを横断するよ。』

 

「良い旅を、シュナイゼルお兄様。 ()()()()()()()()よろしくお願いいたしますわ。」

 

『ああ。 マリーもエリア24をよろしく頼むよ。』

 

 シュナイゼルとの通信が切れるとマリーベルは静かに席を立ち、自室内へと歩いてからベッドでうつ伏せになりながら顔を枕に埋める。

 

 ダァン!

 

「(やられた!)」

 

 ベッドを殴ったマリーベルは静かに沸々と怒りが湧き上がっていく。

 

「(まさかオデュッセウスお兄様の婚約のスケジュールをここまで前倒しにするとは、不覚! その上、ゼロの行った『100万の奇跡』を逆手にとってオズたちをこの時期にスペインから引きはがすなんて! ……いえ。 落ち着くのよ、マリーベル・メル・ブリタニア。 ここまでするという事は、シュナイゼルお兄様が危惧するほどの動きが中華連邦であるということ。 それにエニアグラム卿の目も離れた今ならば────)」

 

 ……

 …

 

 アヴァロンの中から、カノンはグリンダ騎士団のシンボルが横に描かれた数々の浮遊航空艦の景色に圧倒される。

 

「噂に聞いていましたがまさか、グリンダ騎士団がこの規模の艦艇を有しているとは……殿下────」

「────大丈夫だよカノン。 未だにあの子(マリーベル)は私の掌の上だ……兄上は、どうなされているかね?」

 

「オデュッセウス皇子殿下なら、先ほどグランベリーに向かわれました……」

 

「カノン。 顔色が優れないようだから今から言う事は独り言とでも受けてもらって構わない。 昔、私に『面白い』と思えるほどの異母弟が居てね? 名を『ルルーシュ』と言う大人しい子だった。」

 

 ピクッ。

 

「(『ルルーシュ』────?)」

「────チェスで負けたクロヴィスに煽られたのか、私に何度か試合を申し込んだ。 本気で悔しさに満ちた彼は羊の皮をかぶった炎だったよ。 決して私に灯らない感情で、私はルルーシュがいとおしくてたまらなかった。 彼と似た気迫を、私はマリーに見た。 まだ幼い体と心が悲しさと怒りに駆り出されるまま父上────神聖ブリタニア帝国の皇帝の眼前に刃を向けた。」

 

「(皇帝暗殺未遂事件の……)」

 

「あれは非常に、とても面白みのある光景だったよ。 まるでルルーシュの再来の様だった。 それに……」

 

「殿下?」

 

「いや、なんでもないよ。 (さてゼロと幽鬼よ、今度はどう動く? どう私を楽しませくれるのだ?)」

 

 余談であるがこの時、グランベリーに挨拶に向かったオデュッセウスに気落ちしたソキアが泣き付いた所為で一波乱あり、後日『私は無神経な騎士で反省中です』と書かれた看板を首から下げながらシュバルツァー将軍に見張られて廊下に立つソキアの姿があったそうな。

 

 そしてオデュッセウスの『楽しそうだね』により、彼もソキアの隣で立ったことでソキアの『罰』は『ご褒美』へと転換したそうな。

 

 

 ……

 …

 

 

「会長、どうしたんですか?」

 

 アッシュフォード学園では、いつもの元気な姿ではないミレイに怖いもの知らずのシャーリーの問いがクラブハウス内に響いた。

 

「う~ん……ちょっとねぇ。」

 

「会長は、例の婚約者から連絡が来たんだよ。 な、リヴァル?」

 

 ルルーシュ(に変装しているエル)がハンカチを思いっきり噛み締めていたリヴァルに話題を振るう。

 

「むきぃぃぃぃぃ! 今までさんざん会長をほったらかしにして、何様のつもりだあの女たらし?!」

 

「「「伯爵。」」」

 

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 正論を言うなよお前ら!」

 

「あれ? でもリヴァル先輩も子爵家じゃないです?」

 

「↑ひょあ?!」

 

「え?! リヴァルって、子爵の嫡男なの?!」

 

 ライラの他意のない、純粋な質問にリヴァルは素っ頓狂な声を出してマーヤがびっくりする。

 

「そそそそそそそそそそれはクソ親父(オヤジ)の話な?! 今の俺には関係ないからな?!」

 

「あー、だから先輩って母親の旧姓名乗っているです?」

 

「ライブラちゃん、それ以上はもう止めてくれ……」

 

「それで会長、伯爵はなんて?」

 

「あー、結婚のこと────」

 「────ぬおああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 先ほどまでショボショボしていたリヴァルは『結婚』というキーワードに反応し、復活しながら叫んだ。

 

 尚、ミレイの口にした『結婚』が彼女自身の物ではないことをリヴァルに伝えるまでに数時間はかかったそうな。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「『天子と第一皇子の政略結婚』、か……」

 

 中華連邦の辺境を圧制から解放し始めた数日後、緊急招集の号令を出した神楽耶に『中華連邦の天子とブリタニア帝国の第一皇子の結婚』を聞かされ、静まり返った斑鳩のブリッジでゼロが上記の言葉をボソリと出す。

 

「(想定より早い、こんなことになる前に天子を確保するつもりがまさか人工島のインフラが整い過ぎていたことで気が緩んでいた────!)」

「────如何なさいますか、ゼロ?」

 

 ディートハルトの声と彼の険しい表情で、ルルーシュは色々と察しながら考えを走らせた。

 

「(これではディートハルトと共に進めていた例の計画の準備が間に合わん……険悪な仲であるブリタニアと中華連邦の仲を一気に回復させるこの手腕は、あの凡庸な第一皇子(オデュッセウス)が出来る訳が無い。 とするとシュナイゼルか、厄介だな……昔は一度も勝てなかったが、今の俺は昔と違う。 勝算はある筈だがいずれにせよ、時間を稼がねばならんな。) 神楽耶様、式の招待状は皇コンツェルンを通しているのですな?」

 

「ええ。 天子様が私と冴子宛に出したものかと思われます。」

 

「(なるほど、では正式なモノでほぼ間違いないな……) 人数制限は?」

 

「一応書かれてはいませんが、大人数だと門前払いを受ける可能性が出ると思います。」

 

「なぁ、どうして皆そんなに気掛かりにしているんだ?」

 

「「「「「ハァ?」」」」」

 

 緊張感が漂う中で玉城の何気ない言葉に、ブリッジに居た全員が呆気の取られてしまう。

 

「だって俺ら、ブリタニアに追放されたじゃん?」

 

「あの~……追放されただけで罪が消えたわけじゃないんですけれど────」

「────それに『政略結婚』ともなると、中華連邦とブリタニアが同盟になる訳ですし────」

「────かえって黒の騎士団はヤバい状況に……最悪、ブリタニアに差し出されるんじゃないかしら────?」

「────ちょっと待て! じゃあなんだよ?! 俺ら黒の騎士団は結婚の結納品かなんかかよ?!」

 

「本当に使えない才能だけに溢れた髭男だな?」

 

 斑鳩のブリッジにいた新人オペレーターたちの言葉でようやく事の重大さを理解して慌てだす玉城に、C.C.の鋭いツッコミがさく裂する。

 

 「呑気にしている場合か────?!」

「────さっきまで呑気だったのはお前だけだろ?」

 

 ここでC.C.と玉城の何時もの言い合いをまるで合図かのように黒の騎士団は話し合い始め、ルルーシュはいったん考えた策略にブレーキをかけた。

 

「(よし、ある程度の条件はクリアできる。 あとは────)」

 

 ルルーシュは仮面の下から、さっきからひっそりとブリッジの端で立っているスバルを見る。

 

「(────彼と彼のグループがどう出るかだな……果たして彼は今、何を考えているのだろうか?)」

 

 同時に毒島もスバルの方向に視線を送ることなく、内心で思考を走らせていた。

 

「(さて、彼のメモにあったこの時が来たか。 『天子奪還』と書かれていたが、果たしてどうやってそれをするつもりだスバル?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(ムヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ♡)」

 

 スバルはヘルメットの下でポーカーフェイスを維持しながら、斑鳩のブリッジにいた茶髪っぽい紫の髪を左右の肩の前に垂らした桃色ニーソにピンクのミニスカ服装の双葉綾芽(ふたばあやめ)、ロングブーツに藍色のスパッツをしたポニテ眼鏡っ子の日向(ひなた)いちじく、そしてロングの黒髪にビーズの髪飾りにミニスカワンピースタイプの制服に紫のタイツを履いた水無瀬(みなせ)むつきの三人を見て内心ゲスで下品な笑いを出しながら目の保養にしていた。

 

「(『斑鳩オペレーターの一二三(ひふみ)三人娘』、やっぱええのぉ~♡ モブなのにオペレーターだから見栄えよくさせる為、明らかに力を入れているところが特にいいではないか♡)」

 

 誰もスバルが内心でゲスバル化しているとは夢にも思っていないだろう。*1

*1
あだ名のアイデア、誠にありがとうございます有機なすさん! 採用させて頂きました!




リヴァルの父親に関しては独自設定です。

暑い日が続きますが、読者の皆様も身体にはお気をつけくださいませ。

余談:
次話が少々長くなる……かもしれません。 (汗


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第209話 意地の張り合いとせめぎあいの裏側で

キリの良いところまでの、少々長くなった次話です。 (汗

楽しんで頂ければ幸いです!


 夜の朱禁城は(今夜も)活気に溢れていた。

 

 ブリタニアの貴族たちに大宦官側の中華連邦の重鎮たちが楽しく腹の探り合いをする中で、主役であるはずの天子は俯きながら、出来るだけ感情を殺して時間が過ぎるのを待っていた。

 

 天子は今日もせっせと折り鶴をして、ようやく千羽になったところで突然呼び出されては一方的に『ブリタニアの第一皇子との結婚祝いに出ろ』と言い渡され、訳も分からないまま天子は迎賓館に連れ出されて現在へと至る。

 

「(どうしよう……結婚なんて急に言われても……良く分からないよ……)」

 

 見た目と位置で天子が判断しているだけだが隣には体格も歳も一回りどころか二回り上回る、変な髭のおっさんことブリタニア第一皇子のオデュッセウスをチラッと見て視線が合うと天子は更に俯いてしまう。

 

「(う~ん。 この子の怯え方は尋常じゃないね。 ()()()()()()()()()()()()()()様子だ。)」

 

 逆にオデュッセウスは天子の仕草にかつての自分を見ているような既視感を思い出したのか、出来るだけ和やかな雰囲気を出し、ワインを飲むふりをしながら考える。

 

「(でもなぁ……ここで私が彼女を支えるとあらぬ疑いをかけられそうだし、何より更に彼女の立場が悪くなるだろうね。 どうしたものか……ん?)」

 

 オデュッセウスはニコニコしながら、珍しい人物を見て目を点にしてしまう。

 

「(あれは確か……シュナイゼルの元特派の?)」

 

 彼の視線先に居たのはブリタニア貴族の正装姿をしたロイドであり、隣には『幻』と噂されている彼の婚約者らしき姿があった。

 

 そんな二人がどうしていいのか分からない表情で見ていた先には、ウキウキしながら鳳凰の形を模したデコレーションを食するセシルの姿があった。

 

 

 

「(うわぁ……飾り用の物を食べるなんてちょっと……いや、かなり『ない』わね。 ソキアもやっていたけれど。)」

 

 前にも来たことがある経験から客人兼護衛を務めながら部屋の端で静かに立っていたオルドリンは、複雑な顔を浮かべながらセシルを見て内心では引いていた。

 

「ハァ~……マリーカさん……」

 

「まぁまぁ。 ブラッドリー卿のあまり良くない噂はあくまで『戦場でのこと』ですし、前に会ったときの印象からして何もないでしょう。 多分。 それよりほら、今は眼前に広がる景色を共に楽しもうじゃないか。」

 

 そんなオルドリンの隣には、元気がないまま項垂れるレオンハルトとそんな彼を励まそうとするティンクがヒソヒソと話し合っていた。

 

「楽しむも何も、今の僕たちはオルドリンの防波堤じゃないか。」

 

 レオンはチラッと、ソキアの『郷に入っては郷に従おうぜ!』といった流れのままチャイナ服を着せられたオルドリンを見る。

 

 既に美少女である彼女にチャイナ服を着せた効果は絶大なモノでブリタニア、そして中華連邦双方の男性の興味を引くだけでなくレオンハルトたちが来るまでずっと言い寄られていた。

 

 というのも、オルドリンのイラつきボルテージが限界に達して拳が出そうだったのをティンクが察して文字通りの『流血沙汰』になる前に横から無理やり(レオンハルトを引きずりながら)入ってきたのだが。

 

 ちなみにソキアは持ち前のコミュ力で難無くオルドリンの周りに出来上がった人だかりに溶け込んでは自分一人だけ逃げて以前訪れた際に食い損ねた珍味と雑談を再び楽しんでいた。

 

「防波堤だから出来ることだよ、レオン。 こういう時こそ、脳内フィルターを使うんだ。 中華連邦の女性の服ってボディラインや腰のくびれがくっきりと出るタイプだからね。」

 

「あ、なるほど……チャイナ服、良いですねティンク。」

 

「ああ、良いものだともレオン。」

 

「マリーカさんに着せたい……絶対に似合う。」

 

 「「(うわぁ、重症だ。)」」

 

 レオンハルトの言葉にオルドリンとティンクの笑顔は引きつった。

 

 

「(うーん、こうしてみると何の変哲もない少年少女たちなんだけどなぁ。)」

 

「どうかされましたか、エニアグラム卿?」

 

 三人とは少し離れた場所から感慨深い気持ちで見ていたノネットに、スザクが声をかける。

 

「ん? んー……“君と同じぐらいの子たちがこうやって戦士として駆り出されるのもどうかなぁ”、とね。」

 

「帝国は争いを良しとしていますから。」

 

「……ま、そうだね。 ところで、君から見た天子様はどう思う?」

 

「え? どう……とは?」

 

「いや何、一国を背負う立場の者だが彼女はまだ幼い。 “彼女は果たして、この件に納得しているのだろうか?”という質問さ。」

 

 スザクはうつむく天子を見ては日本に来たばかりで心細い時期のナナリーの姿を重ねてしまい、複雑な心境になる。

 

「……どうでしょうね?」

 

「(ふ~ん? 以前なら“平和への道の一つ”とか言いそうだったけれど、やっぱり前とは違う心構えだね。 何かあったのかな────?)」

「────あ、エニアグラム卿────!」

「────おや、今回のセシルも中々に大胆な衣装だね? そう思わないかい、枢木卿?」

 

「“彼女に似合う”とは思いますけど?」

 

「も、もう! スザク君もふざけないで!」

 

「え? 今のはいたって本心からですけれど?」

 

「(………………………………あー、スザクはこういうタイプなのか。)」

 

「なぁスザク────?!」

 

 そんなスザクたちにジノがお皿に乗っていた飾り用の竜(?)を持ちながら無邪気な子供のように持ってくる。

 

「────おおおっと、エニアグラム卿もここに来ていたのか!」

 

「ジノじゃないか。 何だい、その手に持っているのは?」

 

「いや、これを食う前にスザクに見せたくてさ!」

 

「……それ、飾り用だよ?」

 

「え? でもポテトで出来ているっぽいぜ、これ?」

 

「あら、それもポテトなの? 私はケチャップの代わりにラー油をかけて鳥の様なものを食べたけれど────」

「「────え。」」

 

 セシルのゲテ物好き味音痴なアレンジにスザクとノネットは固まる。

 

「おお~、その手があったか! じゃあ先にレオンに食わせるとしよう!」

 

 「「え。」」

 

「お~い! レオ~ン!」

 

 スザクとノネットは近くのテーブルに乗せてあったラー油入れを取りながらオルドリンの防波堤役をしていたレオンハルトに近づく景色を見送る。

 

 二人はジノの手に持った料理(?)を見てギョッとするレオンハルトたちの声は届かなかったものの、どういうやり取りが交わされているのか動作で容易に想像できた。

 

『レオン、これ食って見ねぇか?!』

『な、なんですかそれ?』

『ポテトで出来たドラゴン!』

『……その赤いシミは?』

『タバスコの代わりにラー油をかけてみた!』

『…………………………………………………………エンリョシマス────』

『────遠慮するなって────!』

『────あ、ちょ、ま、やめて────ぐほぉおえあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛?!!

 

 無理やりラー油がたっぷりかかっていた大量のポテトをレオンハルトが口にすると彼は吹き出しながら気を失い、それを見たセシルが気付け薬として持ち歩いていたワサビを出して事態は悪化していく。

 

「「………………………………そっと距離を取っておこう。」」

 

「ンフフフ~、エニちゃんも楽しんでいるね?♪」

 

「おや、ロイ坊にアッシュフォードの令嬢じゃないか!」

 

「お久しぶりです、エニアグラム卿。 前回の文化祭に参加してくださって、ありがとうございます。」

 

「いや何、ロイ坊に泣きつかれたからね。 “どうしても(ガニメデが)見たいんだよ~”って。」

 

「過去の話はもうそこまででいいんじゃない? 今の話をしようね、エニちゃん────?」

「────あら、これはまた珍しい組み合わせね。」

 

 ノネットたちの様子に気付いて、物珍しい表情カノンがジロジロとロイドと青いカクテルドレスで着飾ったミレイを見る。

 

「まぁ、たまには体調の為に散歩ぐらいはしないとね♪」

 

「それとそのポニーテール、意外と似合っているわよロイド────」

「────えっと────?」

「────ああ。 紹介しよう、こちら僕の婚約者。」

 

「始めまして、ミレイ・アッシュフォードです。」

 

「ふぅん、かわいい子じゃない……“ロイドが婚約をした”っていうのは、デマじゃなかったのね?」

 

「……えっと?」

 

()()()()以来、ずーっと科学人間だったロイドが人間に興味を持つなんて────」

「(────『あの一件』────?)」

「────あー! あー! ぼーくーきーこーえーなーいー!」

 

「相変わらずね……ああ、紹介が遅れたわね。 私はカノン・マルディーニ。 コレ(ロイド)と同じように伯爵でシュナイゼル殿下の側近を務めているわ。 公私、共にね♡」

 

 「へ。」

 

 呆気に取られたミレイの思考が言われた言葉に追いついていくにつれて、顔が徐々に赤くなっていく。

 

「こらこらカノン、ワザと誤解するような言い方しないの。 彼女、困っているじゃない。」

 

「相変わらずマルディーニ伯爵は冗談がきついね♪」

 

貴方たち(ノネットやロイド)ほどじゃないわ────」

『────神聖ブリタニア帝国宰相! シュナイゼル第二皇子様、ご到着!』

 

 迎賓館の警備をしている者からのアナウンスに、中にいた者たちは視線を入り口へと映すとシュナイゼルがいた。

 だが彼は自分一人ではなく、ドレスを着てウェーブのかかった髪をなびかせる()()()()をエスコートしながら会場に現れていた。

 

「宰相閣下の隣、誰?」

「随分と若いわね……」

「どこの馬の骨なのかしら?」

「しかし美人ではある。」

「もしや宰相閣下は()()()()ご趣味を?」

「いえ、アレは確か閣下直属の技術部の主任だったはず……」

「ああ。 時代遅れの。」

「確か……『サクラダイトを使わない電力』だったか?」

「今更よねぇ……」

 

 周りからヒソヒソとした話声を気にするどころか、ただ真っ直ぐ見ながらシュナイゼルの隣を女性は歩く。

 

「(あ、あれはまさか……ニーナ?!)」

 

 思ってもいなかった来客にミレイは目を点にしてしまい、内心驚愕する。

 

『どこかよそよそしく、他人の目を避けながらオドオドする人見知りな子』。

 それがミレイの知っているニーナであるのだが、眼前のニーナらしき女性からその様子は全く見受けられなかった。

 

「(ニーナ……元気になって、よかった……ニーナよね?)」

 

「(あ、ミレイちゃんだ! それにロイドさんたちも!)」

 

 ミレイが微笑ましい笑顔を浮かべながら手を振ると、ニーナの顔も無邪気に喜ぶ笑顔に変わる。

 

「(あ、やっぱりニーナだ。)」

 

「ここは祝いの場だ、もっと楽にしてくれたまえ君たち。」

 

 その間にラウンズたちは全員シュナイゼルの前で膝を付き、頭を下げるがシュナイゼル本人は困ったような表情浮かべて上記の言葉を放つ。

 

『皇コンツェルン代表、皇室神楽耶様! およびNAC代表()()の毒島冴子様、ご到着!』

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 新たに到着した客人たちの所属と名に会場にいた者たちは驚愕に目を見開かせた。

 

 天子は思わず嬉しさから椅子から立ち上がりそうになったところを、大宦官が彼女の肩に手を置いて制止され、シュナイゼルの口端がピクリと反応し、オルドリンたちはギョッとしてしまいレオンハルトは気が遠くなりまた気を失いそうになる。

 

「(神楽耶に冴子まで?! なぜここに?!)」

 

 スザクに至っては久しぶりに見聞きする幼馴染たちに血の気が顔から引いていった。

 

 余談だがセシルはのほほんとしながらわさび醤油を小籠包(ショーロンパオ)に付けて満足げに食べていたところで、固まっていたそうな。

 

 迎賓館の会場内に正装姿の神楽耶とエスコートにゼロ、そして毒島のエスコートにライダースーツにフルフェイスヘルメットをした者たちが臆する様子を見せずに歩いてくる。

 

「ゼロが、堂々と……」

「一体誰が招いたのだ?」

「こんな似つかわしくない場所に、我が物顔で来るなんて……」

「テロリスト風情が……」

 

 狼狽えたり、戸惑いや警戒や困惑を言動で示す人たちの中で、唯一シュナイゼルだけは心の奥底からの笑みを浮かべていた。

 

「(やはり来ると思っていたよ、ゼロ。 大方、“一連の主導者の確認”と言ったところかな? ん?)」

 

 会場の中華連邦の兵士たちは神楽耶たちを囲み、槍を彼らへと向けると会場内は更に騒がしくなる。

 

「神楽耶────?!」

「────天子様、どうか静粛になされよ。 貢物が自ら来たのですよ?」

 

 天子が思わず立ち上がるとさっきの大宦官がまた彼女の肩に手を置いて、ニタニタとした笑みのまま無理やり座らせる。

 

「神楽耶たちも、ブリタニアに────?!」

「────所詮は死罪になるべき者たちです、お忘れなさい────」

「────おかしいわ! だって、ここはブリタニアではないのに────!」

「────高亥(がおはい)は黒の騎士団によって殺されています。 十分に重罪ですぞ────?」

「────で、でも────」

「────やめませんか、中華連邦の方々?」

 

 友人に危機が迫ったことで焦りを勇気に変えた天子と大宦官との言い合いを、シュナイゼルの静かな提案に場は静かになる。

 

「本日は、我々の国にとって祝の席でしょう?」

 

「で、ですが────」

「────皇さん、後日の婚姻の儀ではゼロの同伴をご遠慮いただけますか? 彼にその意思がなくとも、現れるだけでこうも平和をかき乱してしまうからね。」

 

「それは、いたし方ありませんね。」

 

「それに、毒島さんもご遠慮を願いたい。」

 

「フム? 私の事を知っているのか?」

 

「『あのタイゾウ・キリハラの親族』、というだけで注目に値すべきだからね。 それにあなた自身も、ゼロほどではありませんが場を刺激しかねない。」

 

「光栄だな……では残念だが、欠席するとしよう。」

 

 シュナイゼルがチラッと天子、そして大宦官を見ると兵士たちに合図が送られ、彼らは会場の端と戻っていく。

 

「(やはり一連はシュナイゼルの策略だったか……ちょうどいい、昔と変わっていないか分析できるまたとないチャンスだ────)────シュナイゼル殿下、チェスの一局でも如何ですか?」

 

 この様子を見て確信したルルーシュは『チェスによる分析』を開始するのだった。

 

 ……

 …

 

 ゼロの提案した『チェスによる対局』を承諾したシュナイゼルたちは別の部屋に移ってからチェスを打ち始め、その様子は会場にある大型モニターに映し出され、双方が一手を打つごとにチェスに精通した者たちが歓声を上げたり、良く分からない者たちは説明を乞う。

 

「君は見なくていいのか?」

 

 そして会場の外にあるバルコニーにて、着物姿の毒島は手すりによりかかるライダースーツの男────スバルにそう問う。

 

「ああ。 (どうせ色々あって引き分けになるだろうし……でもまさか毒島にこの格好のままで引きずられてくるなんて……どんな羞恥プレイだよ。)」

 

「そうか。 (なるほど、既に()()()()()というわけか。 ん?)」

 

 毒島は自分たちを遠目から見る視線に気づいて視線を送ると、少し離れた場所に影が見え隠れするのを見る。

 

「(あれは……なるほど、こういう意味もあったのか。) スバル、何か飲みたくないか?」

 

「俺はいい。 (幸いにも、変装はしているが……)」

 

「そうか、なら私は取ってくる。 (彼ほどの者が気が付いていないはずがないし、大丈夫だろう。)」

 

「ああ。」

 

 毒島が離れ、ようやく一人になったところでスバルはバルコニーの手すりにヘルメットごと突っ伏した。

 

 ドスッ。

 

「(ああああああああ、早う帰りたいがな。 なんで俺がここに? 天子ちゃんから、何故か自称女神(笑)だけじゃなくてぶっちゃんにも招待状が送られているし、ここにいる筈のないグリンダ騎士団もいるし……まぁソキアだけじゃなくてオルドリンがチャイナ服だったのは嬉しかったけどな?! スリットの間からチラチラと見えた紐は十中八九、オルドリンの紐パン────)」

 

「────ミレイちゃんは、どうするの? 単位、あと少しなんでしょ?」

 

「(↑↑↑ほわぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

 スバルは予期していなかった声が聞こえてきたことでびっくりしてしまい、思わず声のする方を向くとニーナとミレイがいた。

 

「(そういやニーナ、シュナイゼルに連れてこられたんだった……ミレイはロイドに────ムオホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ♡ バインダーっぽいドレスなんてナイスチョイスでヤンス♡ 立派なおっπがほぼ見えるのグッドジョブだわさ♡)」

 

「そうなのよねぇ……でも卒業すると、『婚約』じゃなくて『結婚』になっちゃうんだよねぇ~。」

 

「えっと……ロイドさんは、悪い人じゃないよ?」

 

「でも自分のしたいことに没頭しそうじゃん? 妥協点を見つけられる相手ならともかく……それにママも“早く伯爵と既成事実を作りなさい”ってうるさいし。」

 

「“既成事実”……(ポッ)」

 

『既成事実』と聞いたニーナは頬を赤らめ、ミレイから視線を外す。

 

「そう言えば、学園の皆は元気にしている?」

 

「ええ、元気にしているわ。 学生と先生のほとんどが総代わりしちゃったけれどねぇ。」

 

「そっか……でも()()()()、凄いよね?」

 

「え? ナナリー()()殿()()が何?」

 

「だって、あんなに若いのに────え?」

 

 ニーナはナナリーに関するミレイの言い返しに顔が困惑を現す。

 

「ミレイちゃん、貴方────あ。」

 

 そんなニーナはジリジリと影の中で動く人影────スバルを目撃する。

 

「ま、待って!」

 

「(うぎゃあああああああ?! 見つかったぁぁぁぁぁぁぁ?!?!)」

 

「御免ミレイちゃん────!」

「────え? あ、あの人は────」

 

 ニーナはドレスの裾を両手で上げ、早歩きでスバルを呼び止めては彼のそばへと駆け寄る。

 

「────えっと……ブラックリベリオンの時以来だよね?」

 

「……………………何の事だ? (急に何を言って来ちゃってんのこの子?! よく覚えていないが俺の素顔ってあの時出ていなかっただろうな?! 出ていたら大問題だよ?!)」

 

「ですから────」

「────ニーナ────って、あら? 貴方、ブラックリベリオンの────?」

「(────ミレイまでも見覚えがガガがガガガが?!)」

 

「あー、なるほどねぇ……あの時、ニーナを止めてくれてありがとうね?」

 

「(お? もしかしてミレイは知らない?)」

 

「え? ミレイちゃん、何言っているの? だって────」

「────まぁ、確かに()は前に文化祭でアッシュフォード学園に来たことがあるな。」

 

 ニーナの言葉をスバルが無理やり遮る。

 

「この様な姿だからな。 あまり人の目に触れるように動いていないから、その時に()を見たのではないかな?」

 

「えっと……“このような姿”?」

 

 ミレイの言葉にスバルはヘルメットのバイザーだけを上げ、ミレイは口を手で覆い思わず一歩引いてしまう。

 

「……ぁ。 ご、ごめんな────」

「────謝らなくていい。 (ミレイ)のその反応はごく自然なモノだ。 それと、(ニーナ)の開発進展はどうだ?」

 

「あまり詳しいことは言えないけれど……一言で言うのなら『順調』かな?」

 

「そうか。」

 

「(ニーナ……本当に男性恐怖症を乗り越えたのね。)」

 

 ミレイは成長して平然とするニーナと、ブラックリベリオンで彼女の暴走を止めた見知らぬ日系人(スバル(森乃モード))のやり取りを見てホッコリしていると会場がガヤガヤとし始めると同時に毒島が近づいて来たことに気が付く。

 

「終わったぞ。 それと久しぶりだな、ミレイ会長に……ニーナだったか?」

 

「あ、ブスジマさん……やっぱり黒の騎士団だったのね?」

 

「ブリタニアは引っ括めて我々も黒の騎士団としているが……まぁ、おじい様がNACなので実際は『協力者の疑い』がかけられているだけだな。」

 

「だったら────」

「────だがこのままノコノコと学園に戻れば身柄を拘束され、スザクの時の様に証拠も裁判もでっち上げられてブリタニアに良い様に道具にされるのは目に見えている。 まだしばらく、学園には戻れんな。 これ以上の長居は無用だ。」

 

「そうだな。 またな、二人とも。」

 

 毒島の言葉にスバルは同意を示し、二人は出口へと歩き出す。

 

「毒島、ゼロと第二皇子の結果は?」

 

「君ならもう知っているだろう?」

 

「引き分けか?」

 

「ああ。 “すりーふぉーるどれぺてぃしょん”とやらだ。」

 

「第二皇子はキングを前に差し出してきたのか?」

 

「まるで見てきたかのようだな?」

 

「(原作で見ましたとは言えねぇ。) 引き分けから双方が得るものはないからな。 そして揺さぶりをかけるとなると、勝負(チェス)を提案したゼロではなく第二皇子だろう。 そして彼の事だから『ゼロにワザと勝ちを譲る』と思っただけだ。」

 

 スバルはハラハラドキドキしながらそれっぽいことを口にし、その場をやり過ごした。

 

 毒島はチラリと背後の柱へ視線を繰ると一瞬、稲穂の様な金髪が柱の陰に隠れていくのを見る。

 

「(彼女たちがここにいたのは予想外だったが……まぁどうにかなるだろう。)」

 

 余談だが毒島の見解にスバルの評価がさらに彼の知らないところで上がるのはまた別の話である。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「嚮主様、おくつろぎの所を失礼します。」

 

「ん?」

 

 宙に浮いている神殿のような場所に、フード姿の者が語り掛けるとV.V.は何かを書きこんでいた世界地図から目を離す。

 

「やはり先日から始まり、いくつかの資金が凍結されている模様です。」

 

「そっか。 多分、僕の姪たちだね。」

 

「如何なされますか?」

 

「気付かれるのは時間の問題だった。 それが今になっただけだよ。」

 

「……良いのですか?」

 

「まだまだ資材はある。」

 

「いえ、その……差し出がましいようですが、オイアグロやジヴォン家に付けた『枝』とも連絡が付かない今は……」

 

 フード姿の者は敢えて言葉を終わらせず、ただ今現在の状況が変わってきているかを訴える。

 

「(『オイアグロ・ジヴォン』……やはりあの時、オリヴィアを殺して交渉に来たときに殺すべきだったかもしれないね。 飼い馴らせると思っていたのに、エデンバイタルの一件から明らかに離縁するための動きをし始めた。 トトやクララも消息不明、オルドリンは健在。 それに、弟であるシャルルも僕に隠し事を……まさかシャルルがマリアンヌの亡骸を、大切に保存しているなんて……何をする気だ? 僕たちの計画が成功すれば『死による隔離』に意味がなくなるというのに……いや、もしやシャルルは()の事を知っているのか?)」

 

 V.V.はため息を出しながら金色に近い空を見上げる。

 

「(だとすればマッドやエデンバイタルの事を放任していたことも頷ける。 だったら、僕が成すべきことは────)」




次話も(多分)長くなると思います。 (;´д`)ゞ


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第210話 意義

……前回からの勢いのまま書いた長い次話です!

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 場所は朱禁城敷地内にある、過去に『新築の技術サンプル』として作られては忘れ去られた避難所の司令部へと移る。

 

「何か情報は得られたか、(ジョウ)?」

 

 そこには星刻を始め中華連邦の将軍に紅巾党のなどの反大宦官派の幹部たちが集まっていた。

 

「はい、どうやら去年の密談から大宦官たちとシュナイゼルの間には密約が成立していた様子です。 内容までは、確認できませんでしたが────」

「────その内容とは?」

 

「……ブリタニアへ天子様との婚姻、そして領土の割譲。 その引き換えに、大宦官たちはブリタニアの爵位を手にいれます。」

 

「帝国の爵位だと?!」

「そんなものの為に、国や民を?!」

「何という下劣な!」

「大宦官たちはやはり討つべき売国奴だ!」

「星刻様、婚姻を潰す為にも計画を前倒しにしましょう!」

 

「だが今クーデターをおこせば、ブリタニアは我々の都合などお構いなしに攻めてくるぞ!」

 

 テンションが怒りと友に上がっていく者たちを見て星刻の補佐である周香凛(ジョウチャンリン)は慌てずに正論を口にして他の者たちを黙らせる。

 

「(それに紅巾党の前首領であるシュ・シンフォンも亡くなり、星刻様が残党に掛け合ってきていたものの、未だに大半は忘れ形見である娘が握っている……彼女を見つけ、話を付ければやりようはあったが……)」

 

 星刻は恨めしく、自分や天子に忠義と協力を唱えている兵士たちと大宦官の番犬に成り下がった者たち、そして様子見に徹している者たちが描かれた勢力地図を見下げる。

 

「足りないが、決行するしかない……皆、準備の合図を出せ!」

 

「「「「臣遵旨(チェンズンジィ)!」」」」

 

 ……

 …

 

「(シュナイゼル! この俺を……ゼロを大衆の前でコケにしたこと、いつか倍にして返してやる!)」

 

 ルルーシュは今にでもKMFに乗って中華連邦の空域ギリギリにとどまっているアヴァロンへ物理的に殴り込む衝動を『今成すべきこと』に集中することで必死に抑え込む。

 

 彼は朱禁城で、予想以上に強かったシュナイゼルに対して互角の勝負が出来ていた。

 

 チェスで言うところの『スリーフォールドレペティション』────つまり『無限に終わることの無いチェック状態』に陥っていた。

 

 本来ならばそこで試合は終了するはずなのだが、あろうことかシュナイゼルは試合をそのまま続行した挙句、『勝利』をゼロに譲ろうとした。

 

 ()()なら、これ見よがしの勝利で取っても全く不利なことが無ければ喜んでその勝利をもらっていただろう。

 

 だが聡い上に矜持(プライド)の塊のようなルルーシュにとって『勝ちを譲られる』ことは『最大の屈辱』でしかなかった。

 

 そしてルルーシュは────ゼロは譲られた勝ちを取らずにワザと駒を引かせるとシュナイゼルが()()()

 

 まるで面白い玩具を見つけた無邪気な子供のような笑いを。

 

「(兄上(シュナイゼル)が笑うことなど、前例の無いことだ。 彼の側近らしき者やラウンズを含めたブリタニアの者全員がショックを受けていた様子から、あれが演技とはとても……だが、笑う対象はなんだ? 何が彼を笑わせた? 俺は知らないうちにミスを犯したのか?)」

 

 婚姻の儀に向けて根回しをしながらも、ルルーシュの脳内にはグルグルと負の考えがループしていた。

 

 そう考えながらルルーシュはゼロとして、朱禁城の周辺などにあらゆる仕掛けの采配をしていくと()()報告が黒の騎士団たちから返ってくる。

 

『既に別動隊が仕掛けを施している様子』、と。

 

「(どういうことだ? 俺以外の誰が────?)」

『────ゼロ様。』

 

「ん、ディートハルトか。 どうした?」

 

『先ほどF班が中華連邦の兵士らしきものと遭遇し、これを捕らえました。 如何なさいますか?』

 

「正規軍か?」

 

『それが身元を証明する者は何一つ持ち合わせていませんでした、ただ……』

 

「なんだ? お前にしては歯切れが悪いな?」

 

『それが、その兵士もF班のようにECMの設置する工具を持っていました。』

 

「……そうか。 その兵士を直ちに連行してこい、私が直々に尋問を行う。」

 

『畏まりました。』

 

 

 

 

 ゼロは拘束された中華連邦の兵士の『尋問』を済ませて新しい情報を手に入れ、自室で考え事をしていた。

 

「(なるほど、やはり紅巾党の企画していたクーデターの裏には天子派がいたか。 フム……これならば例の計画も並行して問題なく決行できる。 だが問題は、どうやって洛陽の守備を無効化するかだ。 それも『気付かれず』に……)」

 

「どうしたゼロ?」

 

「↑ひょ?!」

 

 いつの間にか外からロックを解除して自由気ままに部屋の中へ入って来ていたC.C.の声に、考えごとに浸っていたゼロは奇声を上げてしまう。

 

「なんだ、今のは────?」

「────忘れろ! 今すぐに────!」

「────それより、お前はこの頃悩むときが多くなっているな────?」

「────だから人の話を────」

「────大方、洛陽への侵入経路か何かだろ?」

 

「……まさかお前、守備隊の警備システムを経由しない裏道か裏口を知っているのか?」

 

「期待しているところで残念だが、崩落していたか新たな建築物で塞がれていたよ。」

 

「(知っていたのは知っていたんだな────)」

「────それより、単純な方法があるぞ?」

 

「ん?」

 

「天子の婚姻が発表されたことで、様々な人が洛陽に来ていることを利用すればいいじゃないか。」

 

「まさか堂々とナイトメアをそのままPDR13(アイドルグループ)のように外装を変えて持ち込むとか言うんじゃないだろうな?」

 

「惜しいぞ? 私が考えていたことは、前もって潜入することだよ。 バベルタワーと同じ手口さ。 相手は中華連邦、よほどの事情が無ければ兵士も全員男だ。」

 

「…………………………なるほど。」

 

 ニヤリとした笑みをルルーシュは浮かべ、席をから立っては通信を開く。

 

「ん? 外部通信?」

 

「スバルと彼のグループにな。 フフ、フフフフフフフ。」

 

 

 


 

 

 さて。

 突然だがゼロが主にアマルガム側が使っているアパートに突然訪問してきて『天子の結婚を潰す為に潜入を黒の騎士団と合同でしないか?』という提案が来た。

 

 しかも何故かチームは主に女性メンバーばかり。

 

 (スバル)がその理由を聞いたら、どうやら作戦は『踊り子として洛陽の守備隊長たちのいる基地に潜入する』らしい。

 

 これならばアニメで中華連邦側に気付かれずゼロや藤堂のKMFが乱入できたわけだ。

 

 てっきり『婚姻の儀に参加した神楽耶やカレンが何かしたのかなぁ~?』と思っていたけれど……こういう裏設定があったのね。

 

 知らなかったな~。

 

「どうだ? 潜入はそちら側(アマルガム)の得意技だと聞いたが?」

 

「あの~……」

 

 アヤノが手をおずおずと上げた?

 珍しいな?

 

「ん? どうした香坂君?」

 

「それってもしかして、()()C.C.が提案した作戦? ああ、別に“嫌だ”とか言ってないよ? 踊り子の服は私もレイラもおばあちゃんたちから貰った自前のもあるし。 ただ確認したかっただけ。」

 

「(……おばあちゃんたち???) 一応発案者はC.C.だが、理にはかなっている作戦と私は思う。 中華連邦はブリタニア以上に男女格差が激しい。 よって、軍部はほぼ100%男性だという事を逆手に取る。」

 

「ん、了解────」

「────アヤノ────」

「────アキト────?」

「────嫌なら行かなくていいぞ?」

 

「あ、そうだ! アキトも潜入しようよ────!」

 「────嫌だ。」

 

「フム……確かに潜入チームが全員女性だと……そこでスバル────」

 

 あ。 何だかスッゲェ嫌な予感。

 

「────“シュゼット”の出番だぞ? クク。」

 

 やっぱりそれかい?!

 俺に恨みでもあるのかお前は?!

 

「あの……“シュゼット”とは一体?」

「シュバールさんの妹か何かか?」

 

「これの事だ。」

 

『オーホッホッホッホッホッホ! 良くってよ!』

 

 レイラやリョウたちwZERO部隊の面々がハテナマークを浮かべているとこういう訳かC.C.が文化祭時に『シュゼット』が高笑いをする動画を見せる。

 

「あら、綺麗な女性ですね。」

「うんうん、スゴイ美人!」

「うお?! か……可愛い……

「なんだか銀髪版のアンジュさんを見ているみたい────」

「────だがアヤノの方が良いな────」

「────ちょっとアキト?!」

「ふぅ~ん、なるほどねぇ~?」

 

 グサグサグサグサグサグサグサッ。

 

 純粋なレイラとアンナ、頬を赤らませるリョウ、アヤノとアキトのコソコソ話、意味深い笑みをしながら視線を俺に向けるユキヤたちなどの言動がメタ的な矢として俺に突き刺さっていく。

 

「これ、全部アイツの()()だからな?」

 

 「「「「「C’est pas vrai(嘘でしょう)?!」」」」」

 

 EU組がEU語でビックリしながら驚愕に目を見開かせ、俺と動画内のシュゼットを互いに見る。

 

「あー、なんか懐かしいなぁ。」

「ねぇー! ボクもまさかお兄さんがここまでノリノリになるとは思わなかったもん!」

「……流石に自信を無くしそうになったぞ。」

「まぁまぁ、サンチアも十分()()ですわよ?」

 

 で、元イレギュラーズが遠い目をしたりテンション上げたりしている。

 

「「……あぷぉ。」」

 

 アリスとカレンは何故か意味不明な息を吐き出しながら目からハイライトが消えている。

 

「どうだ? このような潜入調査に適任だろう?」

 

 ルルーシュ……いや、ゼロ。

 お前、確信犯でこれをやりながら楽しんでいるだろうが……残念だったな?

 

 このスヴェン兼スバル兼シュバールが最もスカッとする時は、確信を持った相手に啖呵を切れることだ!

 

 と、言う訳で────

 

 「────だがNO(ノー)と断る。」

 

「ほぉ? 意外だな。 君にも『出来ない』ことがあるとは────」

 

 うん。 仮面の下でニタニタ笑いしているルルーシュの鼻っ柱を折ってやらぁ。

 

「『女装』は出来るが、『踊り子』が無理な理由はこれだ────」

 

 ────バッ!

 

 上着とシャツ、キャストオフ!

 

「「「「「きゃ?!」」」」」

「「「「ふぉ?!」」」」

 

 そして出来るだけ身体中の筋肉を力ませてこの状態を維持!

 フゥゥゥンヌゥゥゥゥゥゥ!

 *注*ただの(内心での)掛け声です。

 

「何ぃ?!」

 

 フハハハハハ!

 

 残念だったなルルーシュゥゥゥゥ?!

 

 目を大きく開いて、刮目せよ!

 

(生き残るために)必死に鍛え上げられた僧帽筋、肩甲挙筋、三角筋、大胸筋、前鋸筋、外腹斜筋、クッキリ割れた腹筋、上腕二頭筋、腕橈骨筋、広背筋等をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 ペタペタペタペタペタペタ。

 

 フハーハハハハ!

 

 ペタペタペタペタペタペタ。

 

 どうよ?! この鍛え上げられて筋肉の形が分かる身体は?!

 ここまで鍛え上げられているのは藤堂だけ(多分)ぐらいだぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 ペタペタペタペタペタペタ。

 

 ……………………………………あの、女性陣の方たち?

 何故ペタペタと吾輩の筋肉を触っているのです?

 

 正直こそばゆい。

 

「うわ、硬い。」

「くっきり形が出ている。」

「スゲェ……」

「筋肉……」

「広い背中……」

 

 あ♡

 こそばゆい上になんだか動く羽毛布団の様な感じでええばい♡

 ムヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ────

 「────コホン!」

 

 ビクゥ?!

 

 カレンによる咳払いによって羽毛布団マッサージタイムは終了を告げた。

 ちくせう。

 

「どうだ、ゼロ? ドレスやコルセットなどを付けて誤魔化しが効く衣装ならともかく、『踊り子』などこれでは無理だろう?」

 

「……………………………………」

 

 ん? ゼロが固まっておるぞい?

 何故に?

 

「おい、ゼロ────」

「────あ、ああ! 確かにそこまで筋肉質だと無理だな! うん!」

 

 何で男のお前が焦るような声を出すの?

 

 ……あ、そうか。

 俺をはめられることが出来なかったからか。

 フハハハハハ! 俺の(筋肉の)勝利!

 

 でも確かに女性だけで男だらけの軍基地に潜入させるのはあまり良くないな。

 

 主に俺の精神的に。

 

 カレンやアヤノたちが居るだけでオーバーキルな感じだが────あ、せや!

 

 変装と言えば、丁度良い人材がいるじゃないか!

 

「ゼロ、一人適任者がいる。 連絡を取ってみても良いだろうか?」

 

「???」

 

 

 


 

 

「私を早く放して正々堂々一対一で再戦するアル!」

 

 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!

 

 中華連邦の洛陽からそう遠くない西安市の外延で、一人の少女が拘束されながら地面の上をバタバタともがいていた。

 

 ドスッ!

 

「げふ。」

 

 そんな少女の上にクララが座り、ジタバタともがく動きを無理やり止める。

 

「この子どうする、お兄ちゃん? 静かにする(殺す)?」

 

「アイヤー?! この子、見た目に反して言っていることとルビが違う以前に物騒過ぎる発想ネ?!」

 

「う~ん、負け犬の遠吠えって言うのかなこれ?♪」

 

「この縄が無かったらアンタも功夫の餌食になて負けているネ!」

 

「ありがとう♡ で、その舌はいらないよね?」

 

「そこまでにしておけ、クララ。」

 

「…はぁ~い。」

 

 オルフェウスは頭痛がするのか、眉間にシワを寄せて迷っていた。

 

 この拘束されている少女の名は『シュ・リーフォン』。

『オズO2』の期間に出てくる人物で、『紅巾党の乱』の首領であるシュ・シンフォンの娘である。

 かつて紅巾党が『反乱分子を一か所に集めて滅するグループ』として大宦官に利用されてリーフォンは父を亡くし、家族同然だった者たちが多かった紅巾党の生き残りがグリンダ騎士団による残党狩りに合ったことで彼女は大宦官とグリンダ騎士団への復讐をする為だけに僅かな生き残りの紅巾党を纏め上げた。

 

 原作のように、父の直接の死因となった大宦官の暗殺に成功したのだが、エリア24に向かっている途中でグリンダ騎士団がシュナイゼルとオデュッセウスの護衛をする為再び中華連邦に来ていると聞いた彼女は洛陽に最も近い西安に来ていた。

 

 ここで偶然にも情報収集をしていたオルフェウスと出会い、彼の近くに居た『ネリス』が行方不明のコーネリアと気付いては、彼らを『潜入中のブリタニア特殊部隊』と誤解しつつ西安に居た紅巾党の者たちと共に奇襲をかけた。

 

 リーフォンはオルフェウスやコーネリアほどの高いKMF操縦技術は持っていないが、対人戦闘となると話は違ってくる。

 

 実際、功夫の達人である彼女はオルフェウスとクララを同時に相手にしても、リーフォンは二人を追い詰めていた。

 

 だが幸か不幸か原作のオズO2のようにオルフェウスはズィーから習ったことのある対近接格闘術でリーフォンの虚を突くことに成功し、その隙にクララが彼女を拘束することに成功した。

 

「は~な~せ~!」

 

「ハァー……(しかし、まさか『紅巾党』とこうして接触するとは……)」

 

「オズ、そっちも無事だったか。」

 

「ネリス……まぁな。 そっちは?」

 

「まぁ、見ての通りだ。」

 

「ハッハッハ! 中々に面白かったぞ!」

 

「……なるほど。」

 

 所々に生傷が見え隠れするコーネリアやダールトンを見てオルフェウスは察した。

 

「うわぁ~、また派手にやっているわねぇ~……オズってトラブル体質?」

 

 そんなオルフェウスたちに、どこからかミス・エックスが状況を見てはオルフェウスにコメントを投げる。

 

「オレが知るか。 何しに来たお前────」

「────ちょっとオズ! 何よその態度────?!」

「────オレの前にこうやって現れながら軽口を叩くのは面倒な仕事がある時だけだ────」

「────そんなことないわよ────!」

「────じゃあ例外を挙げて見ろ。」

 

「……………………………………ところでオズ、髪伸ばしている────?」

「────せめて人付き合いがいいフリかビジネスパートナーかに落ち着けよ、気持ち悪い。」

 

「何をー?!」

「ちょ、お前、待て!」

 

 オルフェウスの素っ気ない態度に怒ったミス・エックスは彼にチョークスリーパーをかけ、オルフェウスはそれをカウンターすると見事に二人はお互いの頬っぺたをつねり合う。

 

「「グニュニュニュニュニュニュニュ!」」

 

「……ねぇ?」

 

「何?」

 

「あれ、いつもアルか?」

 

「うん。」

 

 リーフォンとクララはこの時だけ、同じような呆れ顔になった。

 

「あ、これをしている場合じゃなかったわ。 オズ、アンタにスバルからの連絡が来ているわ。 仕事の依頼でね。」

 

「……なんだと?」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 天子とオデュッセウスの結婚を聞き、可能性に中華連邦内だけでなく周辺国の者たちも今まで外部に出てこなかった天子を一目見たいが為に洛陽へ殺到していたことで守備隊は溢れる業務でデスマーチ中だった。

 

 一般の兵舎と違い、守備隊長たちの住居は騒がしいどころか『静』そのもので、()()()()()()()()旅芸人たちがそれぞれ違うデザインの衣装と舞のスタイルを守備隊長や彼の補佐官たちの前で披露していた。

 

 パチパチパチパチパチパチ。

 

「あの緑と赤の妖艶な舞、良いモノよ♪」

「特に緑の笑顔はそそるものが♪」

「いやいや、赤の方も胸が♪」

「何を! 金色にほのかな紫の良い尻の形と落ち着いた舞こそ至高よ!」

 

「ガハハハッ! 眼福! 眼福である! 見事な舞であった!」

 

 明らかに『軍人』と呼ぶより『小太りの不健康なオッサン』の方がフィット感の出る守備隊長────黄軒(ホアン・シュウワン)は満足そうな声で旅芸人たち────C.C.、カレン、アヤノ、レイラたちを褒め称える。

 

「光栄です。」

「私たちのようなしがない旅芸人が、まさか首都洛陽の守備隊長である黄軒(ホアン・シュウワン)の前で舞を披露できるとは────」

「ブリタニアの第一皇子と天子様の結婚と聞き、遠路はるばる来た甲斐がございました。」

 

「ウム! ウム! どうだ? 旅芸人などを止めてワシの所に留まるつもりはないかね?」

 

 黄軒(ホアン・シュウワン)はニチャっとした笑顔をしながらなめずり回すような視線と上記の提案をするとアヤノは思わず身震いをしてしまい、レイラやカレンは顔色が白に近づく。

 

「姉()()も一緒なら────」

 「「「────え。」」」

 

 唯一涼しい顔をしたC.C.の爆弾的宣言にカレンたち三人は素の声で驚く。

 

「ホッホ! 姉たちとな?!」

 

「ええ。 私が言うのもなんですが、姉たちは大陸一の美女たちでありながらその声は楽器の様なモノでございます。」

 

 「「えぇぇぇぇ?」」

 「……ぁ。」

 

 カレンとアヤノは困惑する声を上げるが、レイラは逆に何かに気が付いたような顔をここで浮かべる。

 

 だが守備隊の者たちは気にすることなく、C.C.の言葉に期待が高まる。

 

「ふむ……姉たちは来ているのかえ?」

 

「ええ、次の一曲を合図に……」

 

「楽士どもよ!」

 

 黄軒(ホアン・シュウワン)の声に曲が流れると部屋のドアが再び開く。

 

 「「「「「おおおおおお!!!」」」」」

 

 新たに表れた二人の姿に、さっきのC.C.たち以上の歓喜の声は守備隊の者たちから出る。

 

「これは!」

「美しい!」

「長い絹の様な黒い髪に、無駄のない体!」

「そして隣は、先日の実った稲穂の様な金の髪をしたブリタニアの騎士と瓜二つな少女!♡」

「確かに大陸一の美女たちよのぉ!」

 

「「…………………………………………」」

 

「うん? どうした二人とも? 緊張することは────?」

「────お初にお目にかかります、洛陽の守備隊長殿。」

 

「男?!」

「あれが?!」

「そんなバカな?!」

「だが今、確かに────!」

「────捉えよ!」

 

 守備隊の武官が叫ぶとドアの近くで戸惑っていた兵士たちは壁に立てかけていた槍に手を伸ばすが、彼らがそれを構えられる前にオルドリン(?)とアヤノによって拘束され、レイラとカレンが彼らの背負っていたアサルトライフルを守備隊長たちへと向ける。

 

「「「「ヒィ────?!」」」」

 

「────まぁまてお前たち、ワシは美しいものが好きだ。 その様な美の前では、性別など小さなものにすぎぬ……ジュルリ。

 

 「「う゛ぇ゛。」」

 

 カレンとアヤノは込み上がってくる吐き気を小さく声に出して我慢する。

 

「……もういいでしょう?」

 

「ああ、そうだな。」

 

「金色の者の声が、昨日の騎士と同じだ────!」

 「────良い────!♡」

 「────『貴様らは全員、物言わぬ豚となれ!』」

 

 黒髪ロングのカツラをしたルルーシュの命令に、守備隊長たちは徐々に四つん這いになりながら呆けた顔でブヒブヒとした息をし始める。

 

「フン。 元から豚の様だっただけに、何も変わらんな。」

 

「な? 上手くいっただろ?」

 

 「どこがだピザ女。」

 

 「オルドリンが巻き込まれていなければ、こんな女装など二度もやるか……」*1

 

 ルルーシュは逆ギレ気味にC.C.を睨み、オルフェウスはちょっとしたトラウマを思い出しては頭痛がし始めたのか顔をしかめた。

 

「うわぁ……本当にあのオルフェウスって奴なのね? そのリアルな胸と体つき、どうなっているの────?」

 「────触ったらかみ砕くぞ、(アヤノ)。」

 

「それにしても意外だったぞ? まさかスバルがお前を呼ぶとはな、ピースマークのオズとやら?」

 

「……奴には借りがある。 それだけだ。」

 

「オズさんも、妹の事が気にかかっていましたから『渡りに船』だったのでは?」

 

「……………………ただの依頼だ。」

 

 レイラの全く悪意のない付け足しに、オルドリンそっくりに()装していたオルフェウスはそっぽを向く。

 

「(それにしても、まさかゼロがオレと変わらない男子だったとはな。 それにクララと似たギアスを持っているとなると……なるほど、中華連邦に黒の騎士団がいたのは()()()()()()もあったのか。)」

 

「(流石はピースマークのエース……と素直に感心したいところだが、まさかこいつのギアスが暗殺に向いている『完全変装』とはな。 道理でスヴェン(スバル)がパイプを作ったわけだ。)」

 

「「(……もしやスバルが俺たちを引き合わせたのはV.V.(ギアス嚮団)が原因か?)」」

 

 ルルーシュとオルフェウスはお互いの事を自分たちなりに分析し、(予想している)自分たちの利害が微妙に(多分)一致していることに少々の不気味さを感じたそうな。

 

『ゼロ、正規軍の識別信号を出していない者たちが動きました!』

 

「チッ。」

 

 ルルーシュは耳に付けていた小型のインカムから来た、警備室を占拠していた黒の騎士団からの通信に舌を打つ。

 

「(動きが早すぎるぞ、星刻。 このタイミング……やはり我々を利用して、より早く天子を確保するつもりだな? だがもう遅い。 彼女の確保には()を向かわせたからな。 ククククク。)」

 

 ……

 …

 

「あの、これどうしますか?」

 

「ん?」

 

 朱禁城内にある、天子の侍女兼監視役である女性が大宦官に部屋の中にある数々の折り鶴に関してどうすれば良いのか迷っていた。

 

「……燃やせ。」

 

「は?」

 

「“燃やせ”、と申したのだ。 天子様と共に我々もブリタニアへ旅立つ。 ()()は少ないほうが良かろう? ホホホホ。」

 

 

 

 

 

 

「────この婚姻に同意するか? 異議があれば声にせよ、さもなくば沈黙は同意とみなす。」

 

 朱禁城の敷地内に急遽、ブリタニア風に建て直された礼拝堂の中でブリタニア本国から呼ばれた聖職者が正装姿のオデュッセウス、そしてブライダルガウン姿の天子に誓いの言葉をかけていた。

 

 建物や服装だけなく、客人も殆んどがブリタニアの者たちであったことからこの結婚が政略的な────それも不平等条約に近いモノだったことを物語っていた。

 

「……では二人に、神の────」

 ────異議あり。

 

 礼拝堂内のスピーカーから出ていた音楽が急に声へと変わり、どよめきが走る。

 

 『国の利益の為と言えども、この婚礼は他者の我欲に満ち足りているだけでなく幼き少女へ強要されている。』

 

 ガコォン。

 

 礼拝堂の奥に飾り付けられている中華連邦とブリタニアの旗────つまり天子やオデュッセウスたちに最も近い壁が綺麗に外部から切られては崩れ落ちていく。

 

「「「きゃあああ────?!」」」

「「「────て、テロリスト────?!」」」

「────放送を切れい────!」

「────殿下をお守りしろ────!」

「────ブリタニアの者たちを守れい────!」

 

 客人たちが叫ぶ中、大宦官たちの命令によってオデュッセウスやシュナイゼルたちは崩れる壁から無理やり引き離される。

 

 崩れた壁の向こう側には黒と赤をメインカラーとした、藤堂の専用機として開発された機体型式番号Type-04の『斬月』……に似た()()()()だった。

 

 そしてブライダルガウンで上手く動くことが出来ない上に狼狽える天子の横にはゼロ……ではなく、刀を背負いながらのっぺりとした白いフルフェイスヘルメットに真っ白の服装を着た誰かだった。

 

「(さて、ここからどう動く?)」

 

 斬月モドキの中には以前より完成されたピチピチデザインの強化スーツを身に纏った毒島がいた。

 

 

 


 

 

 さてさて、突然だが俺はただいま流れに身を任せている。

 

 背後には毒島の乗った斬月モドキというか『斬月のデザインを元にした戦〇機モドキ』である。

 

 そして俺は今、壁を突き抜けて天子の隣に降り立っている。

 

 だったらするこという事は一つしかねぇよなぁ?!

 

 シュバ!

 

 「俺、参上!」

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

 フ、ポーズもセリフも決まったぜ────

 

「────やぁ────」

 

 ────ってなんでシュナイゼルがニコニコしながら前に出ているの?!

 ラウンズさんたちもどうしたらいいのか困っている様子なのですが?!

 

 あ、アーニャんが困って眉毛をハの字にしておらっしゃる珍しい────

 

「────初めまして、私は神聖ブリタニア帝国第二皇子のシュナイゼル・エル・ブリタニア。 非才ながら宰相を務めている。 貴方の名は?」

 

 Oh……

 

 流石にここまで考えてねぇ。

 

『だったらなんでゼロじゃなくてお前がいる?!』だと?

 俺が知りてぇよコンチクショウが!

 

 えーと、えーと……れ~ん~そ~う~タ~イ~ム~!

 

『天子』、『中華連邦』、『結婚』、『俺もいつか結婚したい』────脱線。

 えーと……『シュナイゼル』、『にこやか挨拶』、『俺の胃がヤヴァイ誰か助けて』────脱線。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイダレカタスケテ。

 

『ラウンズ』、『ジノ』、『トリスタン』、『オデュッセウス』、『長い道のり』────あ、これだ!

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は通りすがりの、ネモ!」

*1
『コードギアス双貌のオズ SIDE:オルフェウス』の2巻を参照




(;´ω`)



余談ですが、次話(あるいはさらに次の次の話)が遅れるかも知れません。
ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。 m(;_ _ )m


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第211話 『……可憐だ。』 (同意)

勢いのまま書いた話の第三弾です。

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 結婚式場のスピーカーから『婚姻に異議あり』との声が聞こえ、次の瞬間ナイトメアが壁を切り崩して声の持ち主と共われる者が乱入し、機転を利かせたシュナイゼルの問いに以下の言葉を放った。

 

 「俺は通りすがりの、()()!」

 

『ネモ』。

 

 それはそれぞれの人物に、様々な意味合いを持つかのような『モノ』として取られていた。

 

 ……

 …

 

「ちょっとこれ、もしかしてテロ?!」

 

「会長は?! 会長は無事なのかぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 テレビを見ていたシャーリーは思わず席から立ち上がり、リヴァルはテレビの小型パネルを両手で掴みながら物理的に放送中のカメラの角度を変えようと必死に念じた。

 

「(あれ? このネモって人のポーズ……どこかで?)」

 

 ライラは感じた違和感にハテナマークを頭上に浮かばせた。

 

「(さすがは神様! 古来ギリシャの『誰でもない』をお使いになられるとは! 皮肉たっぷりの偽名ですね! ああ、あの場にいないことが悔しい!)」

 

 マーヤはクラブハウス内に漂う緊張感とは裏腹にキラキラと輝いた。

 

「(ほぉ、よりにもよって()()()を使うとはな。)」

 

 そしてルルーシュに偽装中のエルはほくそ笑んだ。

 

 ……

 …

 

「(“ネモ”? もしやヴェルヌ氏の小説、『海底二万里』の? あれもよく読んで、現実逃避をしていたなぁ~。)」

 

 オデュッセウスはビックリしながらも、昔によく読んでいた本を連想した。

 

「(『ネモ』……確か『誰でもない』という単語……『ゼロ()』の関係者か?)」

 

 シュナイゼルは目の前の人物と、『オレンジ事件』で初めてゼロが現れた時と今の状況を重ねていた。

 

「(あ! マリーがエリア11で助けられたと言っていた人と特徴が合う!)」

 

 オルドリンはハッとしながら颯爽とマリーベルの危機に駆け付ける姿を今の状況に連想したそうな。

 

 

 余談だがグリンダ騎士団では落ち着くために、この放送を見ながら優雅にティータイム中だったマリーベルは紅茶を全く優雅ではない作法である『吹き出し』を披露して『何でシュナイゼルお兄様は私も連れていかなかった?!』と嘆いたとか。

 

 

 「(俺は何を口走っているんじゃああああぁぁぁぁぁ?!)」

 

 そして当人のネモと名乗ったスバルは滝のように冷や汗を試作型の強化スーツ中で流しながら、ここで震える天子の様子に気が付く。

 

 心配するな、もう少し落ち着いたところで想い人に引き合わせる。

 

「え?」

 

 バァン

 

 礼拝堂への扉が荒々しく外部から開けられ、そこにいたのは予想されていた周辺の警備隊ではなく星刻と正規軍だった。

 

「天子様────!」

「────星刻?! 警備隊は、どうな────」

「────今は侵入した賊が先! 貴様、天子様から手を放せ!」

 

「(はいこれでサイナラの合図キター。) だが断る────!

 

 ドォン!

 

「────きゃ?!」

 

 スバルは天子を抱きかかえながら背後の礼拝堂に空いた穴を抜けて斬月と暁が下ろしてきた巨大トレーラーのコンテナ中へと走る。

 

『フ.まさか我々の初仕事が、花嫁強奪の手伝いとはな。』

『中佐、なぜ我々がこのようなことをしなければならないのです?!』

『まぁ落ち着け、千葉。 ゼロの作戦だよ。』

『同時に中華連邦側の実力もお手並み拝見しようって話かな?』

『……そう言う朝比奈はかなりゼロの事を買うようになったんだな?』

『色々あったからね……色々……』

『(中佐と私がいない間に、一体何があった?!)』

 

「天子様を取り戻せ!」

 

 大宦官の命令に中華連邦の警備員は銃を構え、相手のナイトメアに効かないと知りながらも照準をネモ(スバル)に合わせては引き金を引く。

 

 パパパパパパパパパパパパパパパパ!

 

「きゃああああああ?!」

 

「(正気かこいつら?!)」

 

 天子は雨あられのように周りを飛来する弾丸に怯え、スバルはマントと自分の体で彼女を守ると毒島の機体が間に割り込む。

 

「殿下、ここは行きましょう────」

「────う、うむ────」

「────枢木卿────」

「────やめろ!」

 

 ジノがオデュッセウスとシュナイゼルにこの場から離れるように進言すると、オデュッセウスは少し歯切れが悪いまま言われたとおりにし、シュナイゼルが何かを言い終える前にスザクはオデュッセウスたちから離れては中華連邦の警備隊の発砲を無理やり止めていく。

 

「天子様に当たればどうするつもりだ?!」

 

「そこをどけ、ブリタニア!」

 

断る! 来い、ランスロット!」

 

 スザクは作動キーのボタンを押すと上空を巡回中だったアヴァロンの中で待機中だったランスロットが作動キーからの信号を受信し、自動(オート)でスザクの居る場所へと飛来する。

 

「(ほぉ、これは嬉しい誤算だ。 まさか彼が自主的に行動を起こすとは────)」

「────おお! 凄い!」

「────カッコイイにゃー!」

 

 オルドリンとソキアはその場へ駆けつけるランスロットに、目をキラキラと輝かせた。

 

 「────マリーカさんのヴィンセントも、ああやって来てくれないかな……」

 

 レオンハルトは先日と同じ暗い雰囲気のまま、ボソリと上記を口にした。

 

「────いやぁ、さすがはラウンズ。 KMFのOSも最新なモノを使っているんだねぇ。」

 

 ティンクはのほほんとした口調のまま、独りでに動くランスロットを見ては感心する言葉を出した。

 

「(……………………………………マリーも物好きだね。)」

 

 シュナイゼルはそんなグリンダ騎士団を見て癖の強い変人たちロイドたちを思い浮かべて、思わず感じた既視感に対して素直な意見を胸の中で浮かべた。

 

 スザクはそのまま開いたランスロットのコックピット中へと素早く乗り込み、すぐにコンテナを運ぶ千葉と朝比奈たちの暁の後を────

 

 ガァン

 

「────ッ!」

 

『私を忘れてもらっては困るな。』

 

 ランスロットは横からくる、藤堂の制動刃吶喊衝角刀の様なKMFサイズの刀をMVSで受け止める。

 

『やっぱり冴子か────!』

『────未だ呼び捨てにするのは昔から変わらずか、少し安心したぞ。 何せ学園に入学したと聞いたものの、一度として私に挨拶に来ないどころか避けていた節があったからな。』

 

 バチィ!

 

 ランスロットのMVSが毒島の斬月に似た機体────『ナイトメア』と呼ぶには少々一回り大きい『村正一式・陽炎タイプ』の近接戦闘長刀(マイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム付き)を強引に押し返す。

 

『あの時の()は、それどころじゃなかった。 それだけだ。』

 

『“僕”? 気味の悪い言葉遣いは止せ、脳筋小僧。』

 

『今の僕は、()()()()()()()ここに居る────』

『────そして私は黒の騎士団に手を貸している────』

『────では────!』

『────勝負!』

 

 スザクと毒島は互いの立場を宣言し、認識し合わせるとほぼ同時にランスロットと陽炎タイプの剣がぶつかり合い、その都度に火花が飛び散っていく。

 

『村正一式・陽炎タイプ』とは以前、スバルがバベルタワーにて使ったものを回収してから毒島用に再設計と調整をされた機体である。

 

 更にはスバル自身が手掛けて酷使した結果『再起動不可』の状態に陥っていた村正・武蔵タイプ(撃震)をベースにアンナたち技術部が再設計したことでソフィのBRSやラビエ親子のおかげで(デチューンはされているが)スバル以外でも扱えるようになり、さらには最近まで扱えるパイロットが見つからず半ば死蔵していた彼の改造したカレンのグラスゴー────『無頼弐型』*1に使われた技術の応用で装甲が向上しつつも機動力にそこまで影響を与えていない仕組みとなった。

 

「(フム。 この機体とこの強化スーツ、ランドル博士の『BRS』とやらも上手い具合に噛み合って実に馴染む。)」

 

 毒島は以前試着した時より更に完成度の高い無駄に無駄な設定モリモリの性能が追加されていた。

 以前はインナーだけであったが今では高機動戦によるGに耐えるための頸部プロテクターにBRSを応用したヘッドセットと脚部により操縦桿を補佐する(疑似的な)間接思考制御、そしてそのBRSで脳内に疑似的な網膜投影システムがコックピット内の画面に機体状況やレーダーにセンサー情報等がオーバーラップして展開される。

 

『パイロットの生命維持』や『動きやすさ』を重視したコードギアスのパイロットスーツの中でも毒島や太平洋でアンジュが着用していた物は破格の性能を持っているがそれ故に、大量生産や大規模なロールアウトはそれこそ軍事力に力を入れているブリタニア帝国でなければ無理である。

 

 アマルガムの様な『少数(超)精鋭の組織』にはうってつけの装備であるが、今までアマルガムはEUからの避難組などの自給自足が安定していたことで余分のリソースなどをナイトメアや浮遊航空艦に新たな兵装などに回せていたが『100万の奇跡』で膨れ上がった人口を支えるために物資は軍部から外され、新たな機体や武装の量産も開発も以前の様に行えなくなった。

 

 だが取り敢えず、ビルキースや新たなパイロットスーツの類を数人分の試作品含めて出来上がっている。

 

 数が少ないだけに、乱用や『破損は機体と装備共々なるべく避けてね?! シュバール(スバル)さんの様にリミッターを外して無理な機動戦で関節部や電気回路がめちゃくちゃになるまで溶けさせたり、機体を使い捨てるみたいな扱いなんてしないでね?! お姉さんたちとの約束だよ?! 絶対だよ?!』と、涙目になっていたアンナたちに使用者は懇願され念を押されているが。

 

 ちなみに上記には太平洋で『ヒャッハー』をしながらカールレオン級を追撃していたアンジュも含まれていて、帰還した後にウィルバー・ミルベルからみっちりとビルキースの整備と調整をアンジュは(無理やり)手伝わされたとか。

 

「(だがやはり空中戦はどうも慣れんな……やはり当所の狙い通りにスザクを地面に釘付けて、合図に伴い離脱するか。) そうとくれば、話は早いな────!」

 

 村正一式・陽炎が少し間を取りながら構えをすると、ランスロットの中にいたスザクはかつて藤堂の道場で何度も瞬殺される直前のイメージを思い出す。

 

「(毒島の居合! だがKMFを通しての攻撃ならば、武器が先に動くはずだ!)」

 

 ガシャ! ゴゥ!

 

「グッ!」

 

 村正一式・陽炎の背中、腰、肩や足裏などのあらゆる場所の噴射機が一斉に機体を加速させ、中に居る毒島は急なG変化による圧迫感を身体全体に感じながら、強化スーツのおかげで操縦に負担なくそのまま居合を警戒する(あるいは躱す)様子のランスロットへと飛来する。

 

「ッ?! 武器に動きが────?!」

「────やはり甘いな、スザク!」

 

 ドガン

 

 村正一式・陽炎は速度や構えを変えることなく、装甲の厚い肩でランスロットに体当たりをする。

 

「ぐ?!」

 

『刀が来ると思ったか? 生憎“戦場”は“道場”とは違うのだよ、脳筋坊や!』

 

「ッ! ブス子ッ!」

 

 村正一式・陽炎の突進は止まることなくランスロットはそのまま朱禁城の防壁にめり込み、機体の胴体を狙った刀をランスロットはMVSで受け流すが後付けされているフロートユニットのウィングが切り取られる。

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 予想通りにスザクが動いたことと、狙った結果になったことで毒島はいつもの『優しい姉御顔』から『獲物をなぶる猛獣』と化していた。

 

『髪型は』?

 無論、以前にスバルがセットしたものとなっていますが何か?

 

 「うぎゃああああああ?! 僕のランスロットがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 余談だが礼拝堂の中からランスロットの(フロートユニットの)被弾を見たロイドは立ちすくみながら真っ青になり、絶叫したそうな。

 

 

 

『カレン、準備は良いか?』

 

 場所は朱禁城付近────というより洛陽の地下にある迷宮(あるいは蜂の巣)の地下空間に中水道などのパイプが人体の血管のように張り巡らされている場所にいた紅蓮・強襲型にゼロからの通信が繋がる。

 

「ええ、ナリタの時と同じ要領ね。」

 

『ああ。 ただし、出力は以前の時より少々強めにしろ。 私の合図があるまで待て。』

 

「了解。」

 

 カレンは輻射波動機の付いた手を、以前にナリタ連山で見た様な貫通電極と形状が似た装置に手を置く。

 

「輻射波動機構、涯際状態維持。 出力確認────」

『────カレン、今だ────!』

「────鎧袖伝達!」

 

 ズン

 

 カレンの紅蓮が輻射波動を撃つと手の置かれていた装置だけでなく、そこら中を張り巡らされたパイプ等に装置も同時に出力アップされた輻射波動の影響を受けて急激な温度変化により、洛陽のいたるところで水蒸気化したことで湿気を一気に上がっては()()()()()()()()()()()()()()が発生する。

 

 

 

「これは?!」

 

 スザクは驚きながらモクモクと周り一帯を包み込む霧にびっくりしながらレーダーやセンサーにノイズが走り始める。

 

『(来た。) またな、脳筋坊や。』

 

 毒島はこの霧の発生を合図と受け取り、村正・陽炎タイプに付いたブースターで距離を取りながら更にチャフが混じった霧に己の機体に備え付けられているチャフスモークを作動させて密度を上げる。

 

「(この大規模な状況……黒の騎士団? 中華連邦の慌て様を見れば、『天子を守った』とも言えなくもないが……彼らならばもっと上手く出来た気がするけれど────)」

 

 

 ……

 …

 

 

『しかし凄いですね、中佐。』

『ああ。 まさかチャフを洛陽の水道に混ぜ、紅月君の輻射波動で人為的な霧状のチャフスモークを一気にばら撒くとはな────ッ?! 上だ────!』

 『────脳天ガラ空きィィィィ!』

 

 ガリガリガリガリガリガリ!

 

 天子や神楽耶たちを乗せたトレーラーを持ち上げていた暁たちに、フロートユニットを新たに搭載したランスロット・クラブ・エアタイプが上空からMVSランスで襲い掛かってきたが、藤堂の斬月が制動刃吶喊衝角刀で受け止める。

 

『させん!』

 

『中佐────!』

『────ヒュー! やっぱやるねぇ! 一足先にグランベリーに戻っておいて良かったよ!』

 

『お前たちは先に行け! 後で合流する!』

 

『お、その声……確か奇跡の藤堂とかだったね? 私はナイトオブナインのノネット・エニアグラムだ!』

 

『なるほど、君が“ブリタニアの武士”とやらか!』

 

 ノネットのこの『ブリタニアの武士』とは皮肉にも、ブラックリベリオン時にトウキョウ租界で暴徒化した者達の鎮圧やアッシュフォード学園での大活躍をした彼女に対してエリア11の者たちが(密かに)敬意を表した二つ名である。

 

『え? 私、黒の騎士団側からはそう呼ばれているの? アッハッハッハ、参ったな~。 そっちの方が“閃光”より複雑な気持ちだ────ねぇ?!』

 

 ガッ!

 

 ランスロット・クラブが空いていた手で背負っていたMVSをくり出してきたのを、藤堂は制動刃吶喊衝角刀のブースターを使ってMVSランスごと強引に受け流し、それらを斬月に掠らせながらも勢いのまま接近した彼女の機体を斬りつける。

 

「やはりラウンズ、一筋縄ではいかないか!」

 

 だがノネットのランスロット・クラブはこれをMVSで受け止めて、無理やり距離を取る。

 

「血がたぎるね────!」

『────エニアグラム卿────』

「(────ん? 宰相の坊やか────?)」

『────一旦引いてくれないか? 流石の君の腕でも、奇跡の藤堂と彼の部下たち相手に天子様を無傷で奪還するのは厳しいだろう? それにこれ以上は正当防衛の範疇を超えて、外交介入と取られてしまう恐れがある。 ここは、中華連邦の出方を見るとしようじゃないか。』

 

「……了解だよ。 (“出方を見る”、ねぇ? “試す”の言い間違いじゃないのかい?)」

 

 ノネットはそう思いながらどんどんと距離を取りながら自分を警戒しながら出来るだけ離れていく藤堂達とコンテナを見送る。

 

 

「(ラウンズが追ってこない……ゼロたちの読み通りだな。 若いのに恐ろしいほどまでの観察眼と洞察力だ……)」

 

 藤堂は自分の画面に表示されたノイズの走るレーダーに、地形の上に投影される中華連邦の監視網を見下ろす。

 

「(しかも蓬莱島について早々、黒の騎士団に“中華連邦の辺境などの村人解放”と称した動きで注目を集めながら裏では別動隊に中華連邦の防衛システムの把握をさせていたとはな……こっちは恐らくディートハルトかスバル君たちだろう。) 末恐ろしいな。」

 

『中佐? 何か言いましたか?』

 

「いや、何でもない。 コンテナをトラックに移すぞ。」

 

 

 


 

 

 ガコォン。

 

「ひ。」

 

 コンテナが路上を走るトラックに接続した際に生じた揺れによって俺の腕の中に居る天子は怯える。

 

大丈夫か?

 

「あ、えっと、その……」

 

ああ、礼拝堂では……すまないが、仮面の横にあるボタンを押してもらえるか?

 

 プシュ。

 

 フゥ~。

 天子ちゃんのおかげで仮面をやっと取れたばい。

 

「済まなかったな、急に抱きかかえたりして────」

「────あ、スバルさん!」

 

 ヒシッ!

 

 え。

 ちょ。

 な。

 えええええええええええええ?

 

 震える天子ちゃんがハグしてきたぞ?

 

 ナニコレ。

 

 この子(天子)、13歳の筈なのに体が11,2歳担当ぐらいだからな軽いし柔らかくてあったかくて髪の毛もフワフワ猫毛みたいで山の中にある花畑に石鹸を投げ込んだほんのりとしたこの香りは多分香水か花が牛乳のお風呂か何か混入された湯上り状態な感じでそんな庇護欲を駆られる少女にヒラヒラウェディングドレスとヴェールにしかもさっきチラッと見たような気がするブライダルガーターなんてアカン奴やろというかけしからんッッッ!!!

 

 今この瞬間、中華テリオンの気持ちが分かったような気がした。

 

 全力で守りたい! この笑顔ぉぉぉぉ!

 

 ガコォン。

 

「フゥ……」

 

 またコンテナ────ああ、今はトラックか────が揺れると今度は毒島がため息を出しながら姿を露わ────って天子ちゃんの教育上に良くないピチピチスーツ姿じゃないの?!

 

「あ、サエコさん!」

 

「元気そうですね、天子様。」

 

 あ、良かった。

 以前より衛士っぽい強化スーツの上にジャケットにパレオっぽくて際どいスカート着ている。*2

 

 ……………………………………何気に学園〇示録(H〇TD)の姿に酷似しているのはきっと俺のキノセイダロウ。

 

 ウンキットソウニチガイナイ。

 

 天子は俺の腕から飛び降りては毒島に駆け寄り、ハグを────

 

 ────ギュゥゥゥ。

 

「────ング。」

 

 あ、ぶっちゃんがキラキラしながら力一杯にハグしてきた天子ちゃんから赤くなっていく顔を背けたぞい。

 

 「やはり可憐だ……」

 

 その気持ち、分かる。

*1
採用させていただきました! ネーミングありがとうございますBBDKさん!

*2
服装アイデア採用させていただきました! ありがとうございますちゅうんさん!




次話投稿は来週の中間辺りを予想しております。

ご了承くださいますようお願い申し上げます。


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第212話 『連邦の機体は化け物か?!』 (これも同意)

お待たせしました、少々長めの次話です!

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 朱禁城の空域にて待機していたアヴァロンにスザクたち、そして近くで浮いていたオルドリンたちも招集されていた。

 

「マルディーニ卿、オデュッセウス皇子殿下は?」

 

「大丈夫よジヴォン卿、今は部屋で休んでおられるわ。」

 

 オルドリンの質問にカノンが応え、ソワソワしていたソキアは明らかに胸を撫で下ろす。

 

「枢木卿、ランスロットの具合はどうだい?」

 

「フロートユニットがやられただけです殿下。 今、交換されていますのでそのあとの調整さえできればすぐにでも出撃できると思います。」

 

「殿下、トリスタンとブラッドフォードを出しますか? 今ある機体で最も足の速いあれ等ならば容易に後を追えるだけでなく、天子様の────」

「────それは出来ない、ヴァインベルグ卿。 これ以上は『正当防衛』や『支援』の範疇を超えてしまう。 アヴァロンや君たち三人(スザク、ジノ、アーニャ)()中華連邦内で軍事行動を続けるには正式な要請が必要となる。」

 

「で、その様子を見るに宰相閣下はもう既に考えがあると見受けしますが?」

 

「勿論だよエニアグラム卿。 相手は『合衆国』と自称しているが、世界の各国に認められたわけでなはない。 ()()テロリストの集団だ。 つまり────」

 

 シュナイゼルの視線がここでシュバルツァー将軍やオルドリンたちへと向けられる。

 

「────ここは対テロリスト遊撃機甲部隊である、グリンダ騎士団の出番という事さ。 以前、威海衛で始まった『紅巾党の乱』の時、中華連邦と結んだ条約は活きているからね。」

 

「(まさか、シュナイゼル殿下はこんなことをあの時から予期していたと言うの?*1)」

 

 オルドリンは静かに内心で広がる氷のような畏怖や動揺などが表情や仕草に出ないよう必死に我慢した。

 

「(これが、神聖ブリタニア帝国のナンバーツー……そして政に滅多に出ない皇帝に次いで実質的な支配者。 道理であのマリーが『徹底的に隠蔽をしてもバレていると常に思え』と念を押すわけね。)」

 

「と、いうワケだシュバルツァー将軍。 『ブリタニアの猛禽(ヨハン・シュバルツァー)』に『閃光の再来(ノネット・エニアグラム)』……そして対テロリスト遊撃機甲部隊のグリンダ騎士団の活躍に期待しているよ。」

 

「「「「「イエス、ユアハイネス!」」」」」

 

「残る枢木卿、ヴァインベルグ卿とアールストレイム卿は各機体の整備と準備を。 いつでも中華連邦の要請に応えられるようにね。」

 

「「「イエス、ユアハイネス!」」」

 

 シュバルツァー将軍たちは敬礼をしてからグランベリーに乗り移る様子を見ていたシュナイゼルは久しぶりに愉快な気持ちになっていた。

 

「♪~」

 

「……殿下?」

 

「ん? 何だねカノン?」

 

「今のはもしや、モーツァルトでしょうか?」

 

「“モーツァルト”?」

 

「え、ええ。 今、殿下が鼻歌を────」

「────私が、“鼻歌”を?」

 

 カノンの質問に対し、シュナイゼルは珍しくポカンとしたような表情を一瞬だけ浮かべるがすぐに納得するような笑みをする

 

「……いや、他でもない君が言うのだから歌っていたのだろうね。 前に、私は“戦に酔っていた”と言っただろう? それかも知れない。」

 

 

 ……

 …

 

 

「将軍、どうしますか?」

 

 アヴァロンから距離を取っていくグランベリーの中で、シュナイゼルによる事前の布石によって対テロリスト遊撃機甲部隊の行動を期待されたおかげでピリピリとした緊張感が漂うブリッジに居たオルドリンは他の皆の質問を代弁するかのように上記の問いをシュバルツァー将軍に投げた。

 

「……ここに『万が一の場合』を記した、姫様の手書きの命令書を預かっておる。」

 

 シュバルツァー将軍は懐から、サクラダイトを縫い込んだ布地に封蝋がされた手紙を出してオルドリンにそれを渡す。

 

「これは……『もしもオズ(魔法使い)を討つことになれば』────?」

「────“専用のレターオープナーはジヴォン卿が持っている”と、姫様から聞いておる。 内容はワシも知らん。」

 

「お嬢様……」

 

「ありがとう、トト。」

 

 オルドリンはおずおずとブリッジに居たトトからレターオープナーを手渡され、それを使って手紙を開ける。

 

「オズ、なんて書いてあるにゃ? ……にゃ?!」

 

 ソキアが頭をオルドリンの方に乗せて手紙の内容を読むと目が点となって固まってしまう。

 

 マリーベルの実筆で書かれた内容はいたってシンプルで、簡略化すると『もし敵対する時が来たら遠慮はしなくていい』と書かれていた。

 

「……うわぁ。 オズ、これどうするにゃ?」

 

「いや、どうするもこうするも────」

「────恐らくあれでしょうね。 『本気でぶつかって負けるようならばそれまでの事』……ん? 何だい皆?」

 

「「「「ティンクがまともなことを口にしている。」」」」

 

「はっはっは……泣くよ?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 バララララララララララ!!!

 

 高速道路を走る黒の騎士団のトラックを追う中華連邦の戦闘用ヘリに対して、残月と千葉の暁が無慈悲に内蔵型機銃などを使って撃ち落としていく。

 

『中華連邦だけに、数が多い!』

『とはいえ、紅月君が来るまでの辛抱だ────!』

 

 ────ドゥゥゥゥ!

 

 まるで合図だったかのようにレーザーの様な輻射波動の攻撃が巨大なハエ叩き棒トリモチ棒のように上空を動き、余波や攻撃に掠った戦闘ヘリは落ちていく。

 

 ゴゥゥゥ

 

 トラックの上を何かが飛び越え、時間差と共に轟音が頭上を過ぎ去る。

 

「わわわわわ?! 行き過ぎたぁぁぁぁ?!」

 

 トラックの上を通ったオブジェ────フォートレスモード(戦闘機形態)になっていた紅蓮・強襲型の速度に慌てるカレンは飛行中であるにもかかわらず機体をナイトメアモード(人型形態)とし、無理やり減速をさせてからトラックの横を飛ぶ。

 

『御免、遅くなった!』

 

『いいや、よくやったぞ紅月君。』

 

『……しかしいつ見ても君のそれは“化け物”と呼ぶしかない機体だな。』

 

『スバルの(アイデアを元にデザインした)機体だもんね!♪』

 

 紅蓮の中で誇らしいどや顔を浮かべるカレンだった。

 

『???? (あの何の変哲もない整備士の機体だからなんだと言うのだ??)』

 

『何を言っているんだこいつ?』と聞きたいような千葉は頭上に無数のハテナマークを浮かべた。

 

『フ. (やはり彼にかかわる案件だったか。)』

 

 藤堂は微笑ましい笑みをこぼした。

 

『他の皆は無事?』

 

『ゼロたちならば、トラックの中だ。 先ほど毒島も無事に予定通り合流した。』

 

『……フゥ~ン?』

 

『ん? どうした、紅月?』

 

『ううん、“毒島もいるんだなぁ~”って。』

 

『……(若いな。)』

 

 藤堂は少々不機嫌そうなカレンを見てはさらに内心、微笑ましくそう思ったそうな。

 

 

 

「よし、次は────」

「────右だよね、C.C.!」

 

 トラック内の助手席にいた玉城のガイドする言葉を、マ()が無理やり遮る。

 

「ハイハイ。」

 

 キキキキキキキ!

 

 マ()の荒い運転にトラックのタイヤは安いアスファルトの上を滑るそうになり、けたたましい音を出す。

 

「マオ、もう少し優しくドライブしろ。」

 

「必要なら僕に寄りかかっていいんだよC.C.?!」

 

「……あー、次は左だ────!」

「「────違う、真っ直ぐだ。」」

 

「あっはっはっは! 流石は現地ガイド────って、お前(C.C.)はここら辺を知っているのか?!」

 

「………………………………昔に、ちょっとな。」

 

 椅子の背もたれに寄りかかりながらチーズ君ファミリー人形たちをハグしつつ、C.C.はチラッとウキウキしながら()()()()()()()()()()()を横目で見る。

 

「あ! 見てC.C.! あそこの小屋がまだあるよ! 懐かしいねぇ~。」

 

「……そうだな────」

「────ちょっと待て! ガイドじゃなかったのかよ?! それにお前ら、一体どういう関係だ?!」

 

「「一緒に旅をした/寝たことがある。」」

 

 ぬぅわにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」

 

 マ()の全く深い意味も他意もない言葉にC.C.はかつてないほど睨みが効いたジト目顔になり、玉城は文字通り驚愕する。

 

「♪~」

 

 そしてマ()は鼻歌まじりに子供の頃、雨宿りして一夜をC.C.の抱擁の中で過ごした時を思い出していた。

 

『無免許運転』?

 そうとも呼ぶが、果たして下手な運転センスを持った者や初心者以上に巨大トラックを自身の手足のように扱える者を批判出来るだろうか?

 

 

 

「(随分と運転席が騒がしいな?)」

 

 トラックのコンテナ内の端で千葉や藤堂の機体の整備を手伝っていたスバルはそう考えながら、ぼんやりしながらテーブルをはさんでお互い話をしていたゼロと天子たちの居る方を見る。

 

「────私達の国合衆国日本を、更にもっと『大きな合衆国連合の一部である』と考えてくださって構わない────」

「────えっと、つまり中華連邦もその一部に────?」

「────ええ。 ただし『中華連邦』としてでなく、『合衆国中華』としてです。」

 

「え?」

 

 天子は反射神経的にゼロから目を外し、近くにいる神楽耶や毒島を見てしまう。

 

「既に黒の騎士団はインド軍区とは話をつけています。」

 

「それに恐らく、これに乗じてモンゴルやビルマなどの周辺国も動きを見せる。」

 

 視線を送られた神楽耶と毒島の答えに天子は考え込み、ハッとする。

 

「あ。 つ、つまりえっと……今の『連邦制』を刷新させるという事でしょうか────?」

 

 「────その通り(イグザクトリー)────!」

 

 ビクゥ

 

「────ぴゃ?!」

 

 神楽耶だけでなく、スバルや毒島とのやり取りで原作より頭の回転と物分かりが成長した天子との会話がトントン拍子に進んでいったことで興奮した中二病演出家のゼロが立ち上がると天子は畏まりながら驚く声を小さく出してしまう。

 

 「大宦官は己の保身のためだけに、『天子様を売ろう』という浅はかな考えをするまでに現在の中華連邦の政治は寿命が来ているのです────!」

「────えっと、あの、その────」

 「────そのため合衆国中華へと生まれかわり、合衆国連合を作るのです! それはブリタニアに対抗するための枢軸となり、まず第一歩として貴方が必要なのです────む?!」

 

 ゼロはゾクリと背筋が冷たくなるような感覚に体を震わせてしまい、自分に向けられた視線元を見ると整備作業を途中で止めてからジッといつも以上に無表情な顔で見るスバルと目が合う。

 

「……コホン! 天子様? あの礼拝堂に突入してきた方、警備隊員ではないですよね? もしや将来を言い交わしたお方ですか?」

 

「え。(ポッ)」

 

「(ほほぉ、わかりやすいな♪)」

 

 場の空気を和らげようとした神楽耶の質問に天子は頬を赤らませながらもじもじする様子を、毒島は微笑ましい気持ちになった。

 

「そ、その彼は……ただ、約束をしただけです。」

 

「もしかして、許嫁ですか?」

 

「いえ、その……“外に出たい”と6年前に────」

「────まぁ! なんてロマンチックな話!」

 

 天子との会話にキャピキャピし始めた神楽耶の様子にゼロは頭を抱えそうになり、トラックの運転席に────

 

「────ププー。 年下にしてやられてんのー。 ゼ・ロ・ちゃん♪」

 

「何故貴様がここに居る、マ()。」

 

「私が呼んだ。」

 

「お前────」

「────まぁまぁそうカッカしないしない!♪ 髪、白くて天然パーマ付きで伸びちゃうよ────?」

 「────大きなお世話だ貴様!」

 

 マ()はケタケタと笑い、玉城は珍しく本気で怒るようなゼロを珍妙なものを見るかのような目で見た。

 

 

 

「これはかなりガタが機体中にきているな。」

 

「え、嘘?!」

 

 トラックのコンテナ内で補給が終わった藤堂機の次にカレンの紅蓮・強襲型の整備をしていたスバルの言葉に水分補給していたカレンはビックリする。

 

「そもそもさっきデータを見たが、高速移動中に無理やり変形をするなんて無茶があるぞ?」

 

「う……だって、そうでもしないと敏感過ぎるし……それにカッコイイじゃん?! 空中変形の機動戦!」

 

 「お前はどこぞのグラ〇ムか。」

 

「??? グラ〇ムって、あのビスケットの?」

 

「何でもない。 取り敢えず、応急処置にリミッターをかけておくぞ。 (OSが蒼天に似ていて良かった。)」

 

「(そういやグラ〇ムビスケット、最近食べていないなぁ~。)」

 

「紅月、少し彼を借りていいか?」

 

「毒島? うん、いいけれど────」

「────どうした毒島?」

 

 スバルの問いに毒島は周りに居る黒の騎士団の幹部たちをチラッと見る。

 

「ここでは少し、な。」

 

「……わかった────」

「────あ、スバル────」

「────カレン、水分補給も良いが機体の補給もしておけよ? こいつは高出力だがその反面エナジーの消費が半端ない────」

「────ぁ。」

 

 スバルはそれだけ言い残し、毒島の後を追ってトラックコンテナの甲板で座っている村正・陽炎タイプがある場所へと出る。

 

「さきほど、艦に戻ったレイラから連絡があった。 『グリンダ騎士団に動きアリ』、と。」

 

「もしや────」

「────ああ。 君の思う通り、恐らく前回中華連邦内での活動を許された条約を利用しているのだろう。」

 

「(いや、俺、全然そんなん思ってへんがな。 それにいつの間にレイラたちって洛陽を脱出しているの?)」

 

 実は警備隊隊長たちの無力化をした後、レイラたちはゼロとは別のルートで洛陽の外延部で光学迷彩を起動しながら待機していたリア・ファルへと帰還し、小沛から移動する黒の騎士団の斑鳩と後で落ち合う航路を取っていた。

 

『ここで腹黒皇子ごとアヴァロンを落とせばよかったのでは?』と思うかもしれないが、アヴァロンにもブレイズルミナスもある所為で確実に落とすには主砲を使わざるを得なくなり、さらに落とせばシュナイゼルだけでなくオデュッセウスも葬り去ることにもなる上にアヴァロンの残骸が洛陽に落ちて被害が広がってしまう。

 

 

 主砲を使わずにナイトメアでアヴァロンに乗り込み、中に居るシュナイゼルを殺せばいいのだが『スバルのメモに書かれていなかった』ことと『手綱(宰相)を失くした帝国の出方が分からなくなる』等といった懸念によってアヴァロン(引いてはシュナイゼルとの衝突)は後となった。

 

 

「それに彼女(レイラ)の読みだと……“恐らく(グリンダ騎士団は)渓谷の襲撃後に虚をつく”とも。」

 

「なるほど、このままいけば黒の騎士団の襲撃直後を狙われる可能性があるか……相手は?」

 

「将軍だそうだ。」

 

「よし。 少々早いが、ここからは黒の騎士団とは別行動だ。」

 

「天子様の事は良いのか?」

 

「神楽耶もいるから、ゼロも上手くはやれるだろう。 レイラたちのいる場所にいけるか、毒島?」

 

「そのために私はここに居る。」

 

「そうか、なら天子様に別れの言葉を言い残してから行こう。」

 

 

 ……

 …

 

 

 「え?! 二人とも行ってしまわれるのですか?!」

 

「「フグッ!」」

 

 涙腺をウルウルしながら悲しそうな天子の声と顔にスバルと毒島は思わず胸に手を置きながら顔を背けてしまう。

 

「い、一時の別れです天子様────」

「────そんな! こうしてせっかくまた会えたのに……グスン。」

 

「「グォ?!」」

 

 とうとう静かにポロポロと泣き出す天子を前にスバルと毒島は物理的な痛みに身悶えそうになる。

 

「か、必ずや戻ってきますので……ど、どうか気を強く持ってください。」

 

「…………………………うん。 グスン。」

 

「……」

 

 毒島は自分の気遣いの言葉に対して泣く天子を前に両手で顔を覆い、そんな彼女の方にスバルが手を置く。

 

「毒島、気持ちは分かるが────」

≪────スバル、彼女を持って帰ってはだめだろうか────?≫

 「────ダメに決まっている。」

 

「えっと……お、お兄さん。 お姉さん……も、戻ってきてね?」

 

 「「……行って、来ます。」」

 

 天子の言葉に二人は黙り込み、数秒後に動きを再開しながら明らかに『行きたくねぇなぁ』と訴える悔しい顔になる。

 

「……」

 

 尚このやり取りを見たカレンは複雑そうな気持になり、そんな彼女に反応してかマ()がにやりとした笑みを浮かべる。

 

「(ふーん……なるほどねぇ。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「それで? 筋書き通りかい?」

 

「今まではな。 先方から多少のフライングは起きたが、予想以上にスムーズに事は進んでいる。」

 

 天子たちを乗せたトラックは原作通りに竿中渓谷を渡るための橋が崩落で落ちていた手前で足を止め、大宦官たちは警備隊に追撃を命じた。

 

 だが逆にゼロの策略により警備隊はベニオを含めた黒の騎士団の本隊により左右からの挟み撃ちにより壊滅し、無くなった橋の代わりに飛翔滑走翼の整備が終わった機体によりトラックは向こう岸の小沛(シャオペイ)で待機していた斑鳩へと無事に移動できていた。

 

 そんな斑鳩の中で事の運び方に感心していたゼロにC.C.がブリッジへと続くエレベーターの中で話し合っていた。

 

黎星刻(リー・シンクー)とやらの計画はそこまで織り込み済みだったというわけか。」

 

「ああ。 非常に優秀で、己の政府から『要注意人物』と目を付けられていたのは伊達ではない。 今回の作戦も、彼の練っていたクーデターを我々の目的に応用させたところが大きい。」

 

「先日の兵士にギアスを使ったのか?」

 

「効率的に最も確実だからな。 だが奴は我々と協力することを拒んだ。 それは野心か、果たして────」

「────お前はこういう時に限って鈍感だな。 さっき天子が言っていたじゃないか? “外に出たい”という約束を。」

 

「バカな。 そんな小さなことの為に、国を────」

 

 ゼロはここで、自分も『ナナリーが幸せになれる世界』という名目で黒の騎士団やゼロとして立ち上がった自分を思い出しては口をつぐむ。

 

「……天子は神楽耶に任せるとして、なぜここにアイツがいる?」

 

「だから言っただろう? 私が運転したくなかったからだよ。 使えるものは使わなければ損だからな……まだ苦手か?」

 

「奴は俺の事とナナリーの事も知っている。 それに────」

「────安心しろ。 それに関しては私から厳しく言っている。 あれはあれで、余程の事が無い限り私との約束を守るからな。」

 

 ゴゴォン

 

 エレベーターがブリッジに着くと、開く寸前だったドアの向こう側からくぐもった爆音が響いてくる。

 

「状況は?!」

 

 そして『ただ事ではない』と悟ったルルーシュはゼロの仮面をかぶると同時に思考をすぐに『戦略家』へとシフトさせて近くの扇に問いかける。

 

「あ、ゼロ! 先行のナイトメア部隊が破壊されて、恐らくは敵襲かと!」

 

「全軍停止だ! (おかしい……こんなに早く迎撃を中華連邦が出来るわけが────)」

「────敵影の映像、出ます!」

 

「拡大しろ!」

 

 斑鳩のスクリーンに映ったのは────

 

「────げぇぇぇぇ?!」

 

 ブリッジに居たラクシャータが今まで出したことのないような声を出して注目を集める。

 

 ……

 …

 

『こいつ、同じ可翔型でも────!』

『────卜部、朝比奈、仙波! 千葉に続いて斬撃包囲陣!』

『『『了解!』』』

 

 藤堂と四聖剣の機体たちが神虎の周りを囲むかのように回り、錯乱させる機動戦を仕掛ける。

 

『斬撃包囲陣』とは藤堂達がナリタ連山でコーネリアたちと相対した際に使った戦術で、ナイトメアの機動力をフルに活かし、敵を中心に円を描くように回りながらそれぞれの機体が隙を見て接近戦を挑むと言ったモノ。

 

 元々は第二次太平洋戦争で、ブリタニアのグラスゴーが既存兵器を機動力で翻弄しているため『強みである機動力を封じ、間合いを詰めた距離から一気に火力をKMFに叩きこむ』という戦法で『厳島の奇跡』と世間で呼ばれていることからナイトメア専用に改良された戦術である。

 

「(相手は一機! そして人である限り、必ず付け入る隙が生じる筈!)」

 

『死角のない知的生物』など例が無いので、そう藤堂が思うのも無理はないだろう。

 

 相手が()()()()()ならば。

 

 ……

 …

 

「「「「「……」」」」」

 

 斑鳩のブリッジは静寂に包まれていた。

 

 藤堂と四聖剣が敵機と思われる相手へ陣を敷きながら飛来したと思えば、流れるような動作で初手の廻転刃刀のチェーンソー部分ではない芯を狙って受け流しながらスラッシュハーケンで次の二機に絡めて無理やりぶつかるように軌道を捻じ曲げ、そのまま他の三機にスラッシュハーケンに絡まった二機をモーニングスターのように投げつけた。

 

 流石に『大破』とまでは行かなかったが飛翔滑走翼が作動せず、それぞれの機体は文字通りに『翼をもがれた鷹』のように地面で距離を取りながら警戒していた。

 

 誰から見ても、彼らが神虎と戦闘を続行するのは困難を極める様子だった。

 

「(一瞬……一瞬で藤堂達を? スザクじゃあるまいし! ランスロットじゃあるまいし! ええええい! なぜこうも『ここ一番』でイレギュラーが発生するのだ?!) ラクシャータ、アレは何だ? 先ほど君が声を上げたからには知っているのだろう?」

 

「……『神虎(シェンフー)』、紅蓮ちゃんと同時期に開発した機体で取り敢えず搭乗者の事を考えずにスペックだけを追求した化け物よ。」

 

「そうか。 そのスペックは?」

 

「ま、『()()()ランスロットと互角』……ってところかしら?」

 

「(紅蓮と同時期に開発してそれか?!) 弱点は無いのか?」

 

「強いて言うのなら、試運転中にテストパイロットを17人ぐらい死なせたから『命を惜しんで誰も乗りたくない機体だった』……かしら?」

 

「(なんだその自殺願望者を前提にした機体は? いや、そもそもあれがここにあるという事はインド軍区由来だろうな。 クソ、マハラジャの狸爺め。)」

 

 「う~ん……こうなることを予測できたのなら、蒼天ちゃんのパイロットに手錠をかけてでも引きとどめるべきだったかしら────?」

「────ぐ、紅蓮が?!」

 

「何?!」

 

 斑鳩のオペレーターである左右紫セミロング双葉が慌てるような声を出すと格納庫と思われる場所から()()()()()を装備した紅蓮が出るのを見て、ゼロは思わず驚く声を出してしまう。

*1
150話より




毎日 暑い
頭痛がするほど 暑い
蒸し 暑い

byこの頃の暑さと天気にやられ気味の作者 _(X3」∠)_


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第213話 『初歩的なマキャベリズム? 断る』

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


「ハァ~……」

 

 少々時間は戻り、神虎が斑鳩の前を先行していたナイトメアたちを大破させる前となる。

 

「結婚を嫌う花嫁の強奪なんて……ロマンあるなぁ~♪」

 

 シェンチョン渓谷の奇襲を終えて斑鳩の側面を護衛するため、地面を無頼弐型のランドスピナーで走らせていたベニオはうっとりしていた。

 

『“ロマン”って────』

「────やっぱりゼロはロマンチストなんだよサヴィトリ!」

 

 「ハ?」

 

「だってだって! 本人の望まない政略結婚をこうやって乱入するなんて素敵じゃない? 良いなぁ~♡」

 

『別にゼロは天子を救おうとしているわけじゃないと思うわよ? 単純に世界三大勢力のうち二つであるブリタニアと中華連邦が同盟関係になったら合衆国日本が袋叩きになるのを防ぐために、天子を横取りしたのよ。』

 

「サヴィトリ、夢が無いなぁ~。 そんなことなら、別に花嫁を攫うよりほかの方法があるんじゃない?」

 

『例えば?』

 

「私が分かる訳ないじゃん!」

 

『(こいつにちょっとでも期待した私って……) でもそうね、ゼロの事だから何らかの意味があると思うけれど────』

「────だよね?! やっぱりゼロは正義の味方なんだよ!」

 

 『どうすればそうなるのよ。』

 

「よ~し! やる気がモリモリ湧いてくるよ~!」

 

 ベニオの能天気単純な性格にサヴィトリは毒気を抜かれ、『ベニオだから』と自分に言い聞かせる。

 

 ……

 …

 

「どう、井上さん? 紅蓮、何とかなりそう?」

 

 斑鳩の格納庫内ではパイロットスーツに着替えたカレンは難しい顔をする井上にそう問いかける。

 

「う~ん……この機体、戦力的にも性能も申し分ないほど凄いけれど……主要部分が三つに分かれていたり、複雑な構造とかをしているから整備側としては『悪質』としか言い様がないわね。 このソフトウェアのリミッター、多分スバルが付けた奴でしょ?」

 

「う、うん……ってなんで井上さんが知っているの?」

 

「う~ん……」

 

 井上の頭上にカレン用に奪取したグラスゴーについていたOSロックを解除するため、カレンがシミュレーターに乗っている間にプログラムのハッキングをしていたスバルが思い浮かべられる。*1

 

「どうしてでしょうね?」

 

「あ! 井上さん絶対なんでか知っているよね────?!」

「────でも現状ではやっぱり彼の付けた『出力を押さえて現状維持』が一番かなぁ?」

 

「え? そうなの?」

 

「この場合、悪くなったパーツを丸ごと交換した方が早いけれど流石に斑鳩にはスペアパーツ積んでいないわ。 そもそもそのスペアの制作も間に合っていないわけだし。」

 

「どこが悪いの?」

 

「……負担がかかった背中にあるフロートユニットに、関節部全部。 これ、絶対カレンが相当無茶をさせたでしょ? いったい何をすればこうなるの?」

 

「……く、『空中変形で表面積を増やした減速』?」

 

 フッと井上の目からハイライトが消える。

 

「あ?! や! だって想像以上に機体の加速力が────!」

 「────ウン、ソレハムチャヲシタワネ?」

 

「ゴ、ゴメンナサイ……じゃあ、何かで代用できないかな?」

 

「パーツ交換ならできるわ。 よくも悪くも、ナイトメアの接続部は殆どユニバーサルデザインらしいからね。」

 

「“ユニバーサルデザイン”? じゃあ────!」

「────斑鳩には暁型の予備しか無かったと思うけれど────」

「────うん、それでお願い!」

 

 「だから貴方も手伝うよね、カ・レ・ン?☆」

 

「あ、ハイ。」

 

「やぁ、僕も手伝うよ?」

 

「あ、あんたは……えっと────?」

「────ンフフ~、マオだよ。」

 

「……あれ? マオって────?」

「────あー、あの子(女のマオ)と僕は別人だよ。 名前だけが同じさ♪」

 

「(そうかなぁ? 雰囲気も飄々としたところも、見た目もどことなく似ているなぁ────)」

「────ハァァァ?! どこがだよ?!」

 

「わ?! ごめ────(ってあれ? 私、今の声に出していた?)」

 

「チッ……で? 何をすればいい?」

 

「えっと……そうね、取り敢えず背中のユニットを飛翔滑走翼に変えてから脚部も────」

 

 井上の指示に紅蓮・強襲型のパーツ交換をカレンはマオと共にしはじめ、昔からスバルの手伝いをしていたことで手慣れた作業をし始めたカレンは()()()()()で思わず周りを見て見慣れた黒の騎士団の整備班にスバルがいないことでため息を出す。

 

「ハァ~。 (そういやスバルは毒島と一緒にどっかで別行動だった……私、何やっているんだろ。)」

 

 カレンは動かされるクレーンの誘導をし、新たなパーツの接続を確認してからシステム上のエラーが出ていないかをコックピット内の画面からチェックをする。

 

「(皆、彼を頼りにするのも無理ないか。 目立つのは超嫌だけれど、やったことが評価されなくても自然と裏で動いていろんな助けになることを人知れずにやって、それで威張ったり上から見下すこともなく……整備だけじゃなくて開発も、それにパイロットとしても個人での戦闘も凄いし……そんなんで、大勢の女の子が自然と惹かれるのも無理ないよ……うん、無理ないよね。)」

 

 今度は紅蓮のコンピューターに自己チェックプログラムを走らせて待っている間にも、カレンの心は更に沈んでいく。

 

「(『スバルにしか出来ないこと』。 彼だけの特別な『価値』……私は……私には、何があるんだろ? アイツなら答えてくれるかもしれないけれど、聞くのが怖い。 もし聞いて戸惑うこととかあったり、考え込んだりすれば今の関係が拗れて気まずくなるのが怖い……それに────)」

 

 カレンが思い出すのは先日の新宿再開発地区でスバルが気落ちして八つ当たりをしていたルルーシュに対して言った言葉だった。

 

『俺は約束を反故にするつもりはない』。

 

「(…………………………………………………………スバr────)」

「────なぁ────?」

「────どひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 開いていたコックピットハッチから首を突っ込みながら声をかけてくるマ()にカレンは変な声を出してしまう。

 

「ななななななに?!」

 

「お前、兄さん(スバル)とは昔からの知り合いなんだってな? なんつーか『幼馴染』?」

 

「へ?! い、いやぁ~、そんな大したもんじゃないよ! “腐れ縁”ってやつ~?」

 

「ふぅ~ん……悩んでいるみたいだけれどさ? 大方、アイツに認められたいのか?」

 

 ドキィ

 

 マ()の言葉によりカレンの心臓は脈を強く打ち、彼女の動きが一瞬止まる。

 

「でもアンタ、相当強いんだろ? 腕が立つって聞いたぜ?」

 

 ホッ。

 

「あ! でもあの毒島って奴には敵わないんだっけ?」*2

 

 ドキィ

 

「でも君って、『戦力』以外に何かある?」

 

「………………」

 

 ゴゴォン

 

「な、なに?!」

 

 外部からくる爆音が格納庫内に響き、カレンはビックリする声を出すとほぼ同時に外が騒がしくなる。

 

「あららら。 なんか大変みたいだね。」

 

アンタ(マオ)、何か知っているの?」

 

「うん、敵襲みたいだね。」

 

「へ────?!」

 

 ザザ、ザ。

 

『────同じ可翔型でも────!』

『────卜部、朝比奈、仙波! 千葉に続いて斬撃包囲陣!』

『『『了解!』』』

 

『仙波さん、僕の────』

『────早い────?!』

『────よけろ朝比奈────!』

『────捕まった────?!』

『────朝比奈を放せ────!』

『────卜部、上昇しろ────!』

『────うわ────?!』

 

 カレンの機体に藤堂や四聖剣たちの通信が入り、どれだけ戦況が苦しいかを伝えていた。

 

「そこを降りな! 私も出る!」

 

「はいは~い。」

 

「(ここにアイツはいない。 だったら────!)」

 

 カレンは紅蓮のコックピットハッチを閉めて、セルフチェック結果の『問題なし』という表示を見てから紅蓮を動かす。

 

「ベニオ、聞こえる?! 応答して!」

 

 斑鳩の格納庫で整備の手伝いをしていたサヴィトリは慌てだす人たちと外部からの音に焦りながら通信を飛ばす。

 

『さ、サヴィトリ! 私は大丈夫だけれど、先行していた人たちがやられた!』

 

「敵のKMFは見える?! ならカメラを繋げて! (おかしい、ゼロの予測だとあと一時間ぐらいの余裕はあった筈!)」

 

 サヴィトリはインカムと端末を繋げ、ベニオからの映像を出すと神虎を見て血の気が引いていく。

 

「バカな?! 神虎?!」

 

『サヴィトリは知っているの?! あ! 藤堂さんたちが!』

 

「(間違いない! アレは正真正銘の神虎! ラクシャータ先生たちがあまりにも機体性能を追求した所為で何人もテストパイロットが死亡して『危険物』認定されたモンスターマシン!) ベニオ、逃げて! あの機体にパイロットがいるとなると、死ぬわ!」

 

『御免サヴィトリ! 逃げるなんてできない!』

 

「なんでよ?!」

 

『カレンさんが戦っているのに、私だけ逃げられない!』

 

 ……

 …

 

「これで本来の3()()程度の性能か、恐ろしいな。」

 

 神虎の中にいた星刻は驚きと共に感心の言葉を漏らしていた。

 

 原作で彼は前から計画していたクーデターを前倒しにまでして天子とオデュッセウスの政略結婚に割り込み、これを逆に利用して混乱に乗じた黒の騎士団の所為で星刻は部下たちと共に大宦官の私兵たちに捕まり、反逆罪で死刑になるところを『天子を取り戻す為』という名目で彼と彼の部下たちは監視の下で行動を起こした。

 

 だが今作でルルーシュはゼロとして星刻を彼なりに分析した結果『一方的な利用』ではなく『合同作戦』という前提で、黒の騎士団を動かせていた。

 

『星刻ほどの男ならばこちら(黒の騎士団)の意図を読んで動くだろう』と踏んで。

 

 ただルルーシュにとって誤算だったのは星刻自身、『黒の騎士団を信用していなかったこと』、誰も知る筈もない『天子と交えた永続調和の契り』、そして『己の計画を利用された』と思い込んだ星刻の『黒の騎士団を利用する』という意趣返しに似た行動だった。

 

 よって、身柄を拘束されながら大宦官から警戒されるどころか星刻は原作以上に装備が充実した神虎に騎乗していた。

 

『ゼロ! 天子様は返してもらうぞ────!』

『────星刻!』

 

 神虎は紅蓮からの輻射波動をよけ、二機がお互いの攻撃を弾くと火花が飛び散る。

 

『その声、紅月カレンか────!』

『────そこをどけぇ!』

 

 カレンは力任せに、そしていつも以上に荒々しい操縦で星刻の神虎を戦闘不能にさせようとした。

 

「(情報によると『ラウンズと渡り合える実力者』と聞いたが、なるほど。 確かにこの戦闘能力は脅威的だ!)」

 

「(私だって! 私だってやれるんだ!)」

 

『損傷が激しい機体は斑鳩に戻れ! 自力で戻れない者は近くの機体に通信を飛ばせ! 残った者たちは、私と共に紅月の機体を援護しろ!』

 

 地面に居た残月内にいた藤堂はそう通信を飛ばし、暁たちやベニオの無頼弐型と共に機関銃やアサルトライフル等を神虎めがけて撃つ。

 

 更に紅蓮の体中からミサイルが発射され、神虎はこれ等をよけて攻撃が中断した隙に胸部分にあるパーツを展開させる。

 

「天愕覇王荷電粒子重砲を食らえ!」

 

「(大技が来る?!) ()()()()輻射波動をなめるなぁぁぁぁ!」

 

 神虎の動きが止まり、首の付け根がザワザワしたカレンは本能的に今の紅蓮で出せる最大火力を作動して撃ち出す。

 

「「「「うわぁぁぁぁ?!」」」」

「バランサーが! なんて凄い威力なの?!」

 

 紅蓮のレーザーと神虎のビームが空中で衝突してはお互いの攻撃が大気と共に歪み、衝突の余波と科学反応に暁や無頼弐型は歪んだ地形と共にまるで嵐の風に当てられるかのように吹き飛ばされていく。

 

「3割で互角だと?! (やはり紅蓮は侮れん!)」

 

 星刻は胸をヒヤリとさせながら紅蓮とカレンに対する評価を脳内で改めた。

 

「今の輻射波動と同じ出力?! (やっぱりリミッターがついていちゃダメなの?!)」

 

 そしてカレンは逆に焦りを感じていた。

 

 ……

 …

 

「おお!」

「凄い!」

「あの神虎と、互角?!」

「お前たち、データは取っているんだろうね?!」

 

「(マズい。)」

 

 斑鳩のブリッジに居たクルーはラクシャータ含めて思わず画面上で繰り広げられる激闘に感心の声を出すが、ルルーシュはゼロの仮面の下で一人だけ冷や汗を掻いていた。

 

 彼のコンソールには現在の紅蓮のスペックに交換されたパーツに補給具合、そしてラクシャータが開発していた神虎の性能が映し出されていた。

 

「(このままでは紅蓮は────!)────斑鳩のハドロン重砲は使えるか?!」

 

「まだ調整中よ? あと30分でもあればゲフィオンコントロールを────」

「────20分だ! いや、15分ですませろ────!」

「────ちょっとゼロ、何をそんなに────?」

 「────黙って言う通りにしろラクシャータ! どれだけ人員を割いても構わん! シールドも機関部も後回しでいい!」

 

 ゼロの慌て様にラクシャータや扇たちはビックリして面食らう中で、ディートハルトだけは険しい表情浮かべていた。

 

 ……

 …

 

「「(このままでは埒が明かん/明かない。)」」

 

 神虎と紅蓮の中にいた星刻とカレンは数回の衝突でそれを察し、すぐに次の手へと移った。

 

「ならば、機体の性能を5()()に戻して決着を────!」

「リミッターを解除して、一気にケリを────!」

 

 星刻とカレンはそれぞれの機体に付けられた縛りを外し、二機の攻防はさらに過激なモノとなった。

 

「「(これでもまだか?!)」」

 

 

 余談だが、ラクシャータがゼロたちに言った『(神虎は)今のランスロットと同等』という宣言は何も神虎の100%状態を示した言葉ではない。

 

 シミュレーション上で『100%状態の神虎は生物的に無理』と既に出ていたため、最初は性能を8割にカットして試運転されたが、死人が出るにつれて徐々に機体のリミッターは強くされた。

 

 4割でようやく『機体が帰還するまでテストパイロットが死亡しない』と言ったところでインド軍区のマハラジャは神虎を『金食い虫の失敗作』と印を押して死蔵されることとなった。

 それでも『機体があるから~』と、スバルが以前に売った『ランスロットと繰り広げた命の鬼ごっこデータ』も反映されて原作より性能アップしてしまっていた。

 

 皮肉にも、『神虎を扱えるパイロットが世界に存在する』ということがラクシャータに伝わったために神虎は原作以上の性能と乗りやすさが向上していた。

 

 

「ぐ?! かァ!」

 

「う?! うううううう!!!」

 

 二人はお互いの機体に相手がついて来られることに驚愕しながら体を襲うGに耐えながら、無理やり吐き出しそうになる息を出来るだけ肺の中に引きとどめようとする。

 

「「(取った!)」」

 

 そしてようやく神虎のスラッシュハーケンが一瞬、動きが遅くなった紅蓮の左腕に絡められるとそれぞれのパイロットはこれを好機とみなした。

 

 神虎のワイヤーを高電力が伝い、紅蓮が輻射波動でワイヤーの内部にある配線を焼き切る。

 

「何?!」

 

「これでアンタも逃げられないでしょ?! くたばりな────!」

『────やめろカレン! ()()()()()使()()()────!』

「────え?!」

 

「もう遅い!」

 

 ボォン

 

 勝利を確信したカレンは出力を最大にして輻射波動を神虎に向けるとゼロから慌てたような通信が入るが、既に引き金を引きながら驚く声を出すと輻射波動機構が付いていた右腕が暴発して全システムがシャットダウンしてしまう。

 

「うわぁ?! どうしちゃったの、紅蓮?!」

 

「己の機体性能を見誤ったな、紅月カレン。」

 

 ……

 …

 

「ゼロ、ハドロン重砲の調整が終わっ────!」

 

 ダァン

 

「────もう遅い!」

 

 ルルーシュは思わず声を上げながらイラついた気持ちのまま近くのコンソールに拳を振り下ろす。

 

「カレンが!」

 

 画面上の紅蓮の右腕は爆発からボロボロになり、エナジー切れでぐったりとしたまま神虎のスラッシュハーケンにコックピットブロックごとグルグル巻きにされながら盾にされていた。

 

「(くそ! まさか星刻がカレンの性格から、短時間でこの一連を導き出せていたとは────!)」

『────黒の騎士団。 いや、ゼロよ。 武装解除し、天子様を────』

 

 ドゴォン!

 

「なんだ?! 早すぎるぞ大宦官────ウッ?! ゴホッ、ゴホッ!

 

 星刻が言い終える前に斑鳩の周りを雨のような砲撃が着弾して砂塵や石を辺りにまき散らしていくと彼は怒りのこもった声で上記のセリフを出すと咳をし始め、唾液と共に血が混じっていることに焦る星刻。

 

「(先ほど無理をし過ぎたか! だがまだだ! まだここで倒れるわけにはいかん!)」

 

 

 

「後方より、中華連邦軍大部隊!」

 

「チィ────!」

「────イカルガを回頭させろ!」

「────動かせるナイトメアは斑鳩に残っているか?! 飛翔滑走翼が無くてもいい!」

 

 斑鳩のオペレーターであるイチジクの報告にゼロは舌打ちをすると、周りが慌ただしくどうやってカレンを取り戻すかを議論し始める。

 

「ゼロ、私は撤退を進言します。」

 

 戦闘中に珍しく口を開けたディートハルトの言葉に、ブリッジは静まり返るが徐々に気持ちを押さえられなくなった扇が沈黙を破った。

 

「何故だ?! カレンをとりもどさないと────!」

「────彼女は確かに優秀ですが、()()()()()のパイロットです────」

「────“見捨てろ”って言うのかブリキ野郎?!」

 

 たまに玉城が未だにディートハルトなどの協力的なブリタニア人に出す差別的な名称を普段は温厚な扇が口にしたことで、ブリッジに居た者たちは唖然とした。

 

「扇さん、これは()()()()()選択です。 『ここで一人の為に黒の騎士団をかけるのか』、あるいは『次の機会の為に兵力を温存するのか』。 ゼロ、ご決断を。」

 

「私に選べというのか、ディートハルト。」

 

「貴方の様な方ならば、比べるまでもないでしょう。 大局の為に、時には一部を犠牲に────」

 「────全軍反転せよ!」

 

 ディートハルトの言葉をゼロは遮ると旧日本人たちはホッとする。

 

「な、何故ですゼロ?! 組織のためにも、ここは引いてインド軍区などからの援軍を────!」

「────先ほどの神虎を見る前ならば私も撤退していたかもしれん。 だがあれが中華連邦に渡されている以上、『インド軍区が一部始終を静観しない』という保証はどこにもない!」

 

「ゼロ────!」

────くどいぞディートハルト! 四聖剣たちの機体修理が出来次第、鶴翼の陣を敷かせろ! (それに『大を生かす為に小を切り捨てる』など、それではまるでブリタニアのやり方ではないか?! 俺は認めん!)」

 

 ……

 …

 

「ハッ、ハッ、ヒッ、ハッ、ハッ?!」

 

 エナジー切れになったおかげで暗く静まり返ったコックピット内に居たカレンの目の焦点は合っていなく、瞳孔は大きくなっており、息は過呼吸気味になっていた。

 

 完全にパニック寸前の恐怖状態に陥っていた。

 

「(そ、そんな! このままじゃ、捕虜になる?! ()()?! いやだ! いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ────────いやだぁぁぁぁぁぁ! お母さん! お兄ちゃん! 昴!うわぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 訂正。

 カレンは過去のトラウマと記憶が蘇ったことでパニック状態となり、錯乱し出した。

*1
16話より

*2
145話より




今回は殆どSIDE:黒の騎士団風になってしまいました。 (汗

尚、最後の方は独自設定(過去への介入?)に関連しています。


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第214話 ブリタニアの奇策

お待たせ致しました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


「黒の騎士団、全軍戦闘準備! 地形は高低差が少なく、地理的優位は望めない上に数では敵が勝っている!! しかし、ナイトメアの性能ではこちらが上だ! よって、敵は神虎での一点突破を図る筈だ! 藤堂、奴の相手を任せられるか?」

 

『足止めなら。』

 

「十分すぎる。」

 

 ゼロの命令によって斑鳩は反転し始め、格納庫から次々と待機や急ピッチで修理を終えた暁等が出てくる。

 

「(ゼロ……確かにこの選択を取れば今この場にいる者たちの不信感を抱かせることを阻止できますが、今現在の『前例』のような局面にまたも対峙して同じ判断を下さなければ『偏愛』、あるいは『贔屓』と取られて組織内であらぬ噂や軋轢が生まれるのは自明の理……何故です、ゼロ?)」

 

 ゼロの命令によってやる気を出す中で、ディートハルトは一人だけそう思っていたそうな。

 

 社会────あるいは組織────の規模が大きくなればなるほどに、そして判断をする上層部が狭ければ狭いほどに一つ一つの言動は全体を影響しかねない。

 

 良くも悪くも、『人の集まり』である『社会』が大きいほどに選択の良し悪しは人間のように千変万化となってしまう。

 

 ガキィン!

 

 神虎の巨大な中国刀と残月の制動刃吶喊衝角刀が空中で弾き合う間に中華連邦の鋼髏(ガン・ルゥ)が波のように斑鳩の近くで陣取る黒の騎士団へ押し寄せる。

 

「ゼロ、敵の機体が中央を突破しました!」

 

「さすがに数が多いな……良し、反撃開始だ! 右翼、千葉と仙波! 左翼、朝比奈と卜部! 後方射撃に警戒しながら敵本陣に弾幕を張りつつ、先行部隊をたたけ! 神虎のスペック上、カレン機との交戦でエナジーはそこまで持たない筈だ! (そして彼の身柄と神虎を捕獲して、カレンとの交換を────)」

 

 ……

 …

 

「なんということよ?!」

「これでは星刻に神虎を与えた意味がないではないか?!」

「ここまで猪突猛進的な武官だったとは!」

 

 中華連邦のピラミッドの様な形をした陸上戦艦である『大竜胆(ターロンダン)』の中でじわじわと数が減っていく鋼髏(ガン・ルゥ)に大宦官たちは狼狽える様を晒す。

 

「いいえ。 これも星刻様の作戦の内です。」

 

 一連の流れが少々違ったことでどう見ても『クッ殺!』的なエロい縛り方で胸が強調される拘束をされていない香凛は大宦官の狼狽え様に愉悦を感じる涼しい表情のまま上記を宣言する。

 

(香凛)様、こちら運河工作隊です。 目的地に到着しました、ただ……』

 

「ん? どうした?」

 

『それが、報告より水量が減っていて────』

「────構わん、こちらへと水を流せ。」

 

『は、はぁ……』

 

 香凛の指示により近くにある運河の流れが操作され、陸上戦艦の中から大宦官たちはみるみると横から浸すだけほどの水量が戦場の地面を覆う景色を見て内心呆れ、この様子を見た香凛はただ黙って見送る。

 

「(“取るに足らない水量”、“なんのために?”とこいつらは考えているだろうな。 だが今作戦はお前たちの傲慢が故に可能となったモノだ────)」

「────み、見よ!」

「黒の騎士団の機体たちが────!」

「────沈んでいくぞ?!」

 

 水に浸ったことで乾いた大地が一気に沼へと変わり、大宦官や彼らの私兵たちが驚きの声を上げる。

 

「ええ。 ここは『灌漑干拓地』ですよ────?」

「────バカな────?!」

「────だったら尚更、こんなことには────!」

「────癒着による手抜き工事の結果、この様な大地となりました。 さすがのゼロも、短期間でここの土地勘までは把握できていない筈。 全部隊、進軍開始! 敵の機体は無視して敵艦動力部に砲撃を集中!」

 

『『『『『臣遵旨!』』』』』

 

 ……

 …

 

「ラクシャータ! 輻射障壁の展開を急がせろ!」

 

「ゼロといると全く暇が無いね!」

 

 一気にどんでん返しを食らったルルーシュはゼロの仮面の下で冷や汗を流しながら、後手に回ったことで次の一手を張り巡らせながら停止した思考を切り捨てる。

 

「扇、例の場所の偵察は済んだか?!」

 

「え? あ、ああ。」

 

「よし! 艦首の拡散ハドロン重砲で敵を一掃し、各ナイトメアの回収! 動力部を守りつつ後退! プランデルタ!」

 

「ッ。」

 

「りょ、了解。」

 

 ゼロの視線先を(多分?)感じたディートハルトや扇は戸惑いながら出された指示を実行に移していく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 時間は黒の騎士団が星刻率いる中華連邦と衝突する少し前へと戻る。

 

「ねぇ、エリスさん?」

 

「何、エリシア?」

 

「どう、思います?」

 

「“どう”、って────」

 

 大グリンダ騎士団の主力とも呼べる浮遊航空艦隊の天空騎士団の戦闘を飛ぶ準旗艦となったグランベリーのブリッジに居たエリシアとエリスの二人は険しい顔のまま無言で立っているシュバルツァー将軍と、どこかウキウキしているノネットを見る。

 

「(────多分、エリシアが聞きたいのは“本当に敵対するの?”でしょうけれど────)────エリシア? 私たちは軍の人よ? 命令があるのならば、それに従うまでよ。」

 

「で、でも……」

 

「(正直、彼女の気持ちは分かる。 けれどマリーベル殿下はこれを見越していた。 ならば、彼女と彼らを信じて行動をするしかない。)」

 

 そんな彼女たちのヒソヒソ話をシュバルツァー将軍は無視しながら、考えをまとめていた。

 

「エリス、各艦からのレーダー表示をグランベリーに繋げてくれ。」

 

「え? あ、はい。」

 

「(さて……姫様が『全力を出してもいい』と言ったからには、恐らくワシが持っていた疑心をお見通しだったというわけか。)」

 

 実はシュバルツァー将軍、トントン拍子でグリンダ騎士団の持っていた懸念や闇を一気に払ったスバルと彼の部隊に対していい気持ちを持っていなかった。

 

 これは何も桐原泰三の孫である毒島との会談の所為ではなく、ただ単純に『良い感じがしなかった』という違和感のせいだった。

 

 普通、元気づけられることは良い事で誰も深く考えないのだが『ヨハン・シュバルツァー』個人ではなく、『ブリタニアの猛禽』としての勘が『あまりにも出来過ぎている』という警告を本能レベルで告げていた。

 

 彼もまさか、『自分の居る世界や人物の過去や内心が様々なアングルやメディアで描写されている』とは思ってもいないだろうが。

 

「各艦からのレーダー情報、グランベリーに繋げられました。」

 

「よし、このまま指向性レーダーをなるべく広範囲に前へ向けて定期的に発信するように伝えろ。」

 

「え────?」

「────何かね、エリス君?」

 

「い、いえ。」

 

「ふ~ん? 何か考えがあるのかい、将軍?」

 

「エニアグラム卿……貴方ほどの者ならば、薄々気付いているのでは?」

 

「まぁね。 この陣形……()()()()に使う戦術のモノだね?」

 

「左様です。」

 

「(それだけじゃないね。 指向性レーダーも使っていると言う事は、『仮想敵がレーダー網をかいくぐれる』という事……こりゃ黒の騎士団じゃないね。 ここまでとなると────)────んじゃ、私はいつでも出られるようにランスロット・クラブで待機するとしよう。」

 

「ナイトメア戦にまで発展しないよう、初撃で終わらせる……フフフフ。」

 

「(う~ん、『ブリタニアの猛禽』の表情に戻っているね。 あと10年若くて妻子が無けりゃ、周りからまたキャーキャー言われているね。)」

 

「各艦、戦闘配置。 いつでも迎撃準備に入れと通達しろ。 (さて、『リア・ファル』……ワシの全力に、どう答える?)」

 

 ……

 …

 

「『対潜水艦陣形』?」

 

 光学迷彩を付けながら大地をアマルガムの浮遊航空艦、『リア・ファル』が大きく中華連邦のレーダー網を迂回しながら進んでいるとリア・ファルに天空騎士団の電場が感知されて地図を見たレイラは思わずそう呟いた。

 

「……確かに、これは合理的かもしれないな。」

 

「ミルベル博士?」

 

「ああ、突然横からすまないね。 ただ君の思ったことを肯定しただけさ。 ただこの陣形を見ると、明らかに我々を相手にすることを想定しているね。」

 

「マリーベルさんの事ですから。」

 

「ああ。 恐らくだが、総督の彼女自身があの艦隊を動かしているのではなく、副官のヨハン・シュバルツァー将軍だな。」

 

「『我々と彼をぶつけさせて、彼を納得させるため』……との解釈でよろしいでしょうか?」

 

「だな。 将軍は実績と人望、共に豊かな老練の名将。 現ブリタニア軍としてはかなり珍しく、良くも悪くも着実な用兵を行う人物だ。 だが以前の戦闘で彼は知っている筈だ、この艦が単純なレーダーに引っ掛からないことを────」

「────ッ! サラ、艦の光学迷彩の純度を()()()()!」

 

「え? 落とす?」

 

「早く!」

 

 ウィルバーの独り言の様な語りにレイラは目を見開かせながら、慌てた様子で()()になる様な命令にサラは困惑しながらも言われた通りにする。

 

 

 ……

 …

 

 

「未だに何も出ないねぇ……」

 

 ノネットの呟きにシュバルツァー将軍は反応せず、ただレーダーから得た情報を表示するスクリーンを見る。

 

「エリス、今までの索敵で()()()()()ポイントを割り出せ。」

 

「……“綺麗すぎるポイント”、ですか?」

 

「うむ。 今から30分ほど前から各センサーのどの感度でもまったく反応が出ていないところだ。 出来るかね?」

 

「は、はぁ……」

 

 エリスは意味不明の命令通りにデータ操作をしたものをシュバルツァー将軍の端末へと送る。

 

「……見事に空白のスペースがあるねこりゃ。」

 

「確か……ここをこうすれば……あれ……うーむむむむ────」

「────ちょっといいかい将軍? これはこうして────」

 

 端末の操作に苦戦するシュバルツァー将軍を見かねたのか、ノネットの頭上に電球(メタ)が光って彼女は横から助言し始める。

 

 そしてエリシアとエリスは『ブリタニアの猛禽でも老眼になるんだなぁ~』と思ったそうな。

 

「ほい、出たよ……って何も無いね?」

 

 ノネットの手伝いもあり、シュバルツァー将軍の画面に映し出されたのは()()()()()()()地図だった。

 

「いや、この地図を他の地図と照らし合わせると────」

「────って、何だいこりゃ?!」

 

 ノネットが珍しく声を上げながら見たのは、感度を上げたセンサーに広がるノイズや雑音の中で蛇の様な()()()()が写っていた。

 

「良し。 各艦のナイトメア、発艦準備。 および、各艦の艦砲の射撃統制システム(FCS)手動(マニュアル)に切り替えてこのポイントを中心に半径500メートルを徹底的に一斉射するように通達。」

 

「は、はい!」

 

 ……

 …

 

「総員、第一種戦闘配置! 非戦闘員は避難ブロックに移動!」

 

「何かね、レイラ────?」

「────ミルベル博士が先ほど言ったことで気付きました! 『完璧すぎる隠蔽も考え物』と────」

「────ッ! そうか────!」

「────敵艦隊からの砲撃! 着弾まであと10秒!」

 

 艦内クルー用の強化スーツを身に纏ったレイラはシートベルトを着用しながら一瞬考え込む。

 

「……着弾と同時に光学迷彩を解除してその分のエナジーをブレイズルミナスに回し、各KMF部隊の出撃用意!」

 

「しゅ、主砲の準備をしますか────?!」

「────ダメです! ()()()()()()()()()()()()()────!」

「────着弾の衝撃、来ます!」

 

 状況の急変に慌てるユーフェミアの脳筋物理的な思い付きをレイラは却下しながら来るべき衝撃に備える。

 

 ……

 …

 

「所属不明の艦、レーダーに出ました!」

 

「良し。 艦砲射撃を続けろ、ナイトメア部隊に発進準備。」

 

「(なるほどねぇ……敵さんの艦が強力なECMを持っていることを配慮した陣形だったんだね。 最悪、何もなくても中華連邦は広大だから迷惑にならない────)────私もクラブ・エアで出るよ!」

 

 ノネットはウキウキ気分になりながらブリッジを後にして、シュバルツァー将軍は地図を拡大化させて艦隊の位置を確認する。

 

「(フム。 サエコ・ブスジマで見当はついていたが黒の騎士団がいると思われる方向の中間あたりに陣取れば、以前に見た砲撃を行えんだろう。)」

 

 ……

 …

 

「まさかこちらの高性能な光学迷彩を逆手に取るとは、敵ながらあっぱれな考えだなシュバルツァー将軍!」

 

 姿を現したことで徐々にリア・ファルが受ける砲撃の数が増していく中で揺れるブリッジ内にある端末スタンドにしがみつきながらミルベル博士は感心を示す。

 

「(敵は主にカールレオン級とはいえこちらは一隻。 それに相手はグリンダ騎士団の天空騎士団とはいえ手を抜くわけにもいかない……) ならば応戦するまで! 太陽を艦の背後に移動! オリビア、リア・ファルのカンタベリー級砲で応戦! 確実に敵艦を落とすことより、高度の維持を不可能にするための機関部を狙ってください! 砲火は敵の先頭に集中! 全ナイトメア部隊は発進可能になり次第、隙を見てこちらから発艦指示をします!」

 

 前回の主砲に頼ったことで艦自体に負担が出たことを教訓に、リア・ファルの副砲は更に充実されていた。

 散弾銃の様な弾頭を発射できることから近接防空システム(CIWS)のような役割を持った黒の騎士団(というより元日本解放戦線)の雷光と、艦隊戦で必要な『射程距離』と『威力』を兼ね備えたユーロ・ブリタニアのカンタベリー(の砲台部分)。

 

 

 ……

 …

 

 

「敵艦からの砲撃! 『ドンキャスター』と『セルビー』、共にフロートユニットに被弾! 高度維持と操舵不能!」

 

「(やるな、アマルガム。 それに太陽を背後に位置させるとは……こちらが射撃統制システム(FCS)を手動に変えたことへの対策か。)」

 

 元々攻城兵器として開発されたカンタベリーの砲台の威力は、現ブリタニア帝国の航空浮遊艦が主に実弾系の反撃を想定されたブレイズルミナスを容易に貫通してはフロートユニットや機関部にダメージを与えていく。

 

「(実に良いところに攻撃をしてくる。 それに確実に『撃沈』するのではなく、『戦闘不能』にさせる兵装をこうも当ててくるとは……) 艦隊、両翼をのばして包囲陣を敷け! 固まれば敵の思うつぼだ! ナイトメア部隊も準備が出来しだい発進!」

 

 ここで(多対一ではあるが)浮遊航空艦を利用した、本格的な艦隊戦が幕を上げることとなった。

 

『あれ? スバル/スヴェンは?』、ですか?

 

 只今『鬼ごっこ』を堪能していますが何か?

 

 

 


 

 

 誰か助けて。

 

 俺はただそう叫びたい衝動を必死に我慢しながら毒島は村正一式・陽炎タイプの機体を、HOTAS式の操縦桿で操りながら()()()()()()(多分)のドローン(これも多分)がくり出す攻撃を躱し、Gが俺と毒島の体を襲う。

 

 ムニ。

 

 「ん♡」

 

 アフン♡。

 

 またも(多分)ドローンがくり出す攻撃を躱す

 

 ムニュン。

 

 「ぁ♡」

 

 ア♡。

 

 俺たちの乗っている機体が揺れるごとに、毒島の体と俺の体が自然と密着するというか押し付けられる。

 

 これは完全にアレだ。

 『漬物石の感じ』だ。

 『ナチュラルクッション』とも。

 

 え? 『なんてうらやまけしからんどうやってそうなったか説明プリーズ!。°(°`ω´ °)°。』だって?

 

 良いだろう! 教えてやるとも!

 

 1、 毒島と共にリア・ファルの予想ルートへ向かう。

 2、 どうやって天子のところに戻れるか悶々と考えて村正・陽炎タイプがジャンプとブーストを繰り返す

 3、 ここで『そう言えばカレンはどうなるんだろう?』と思い、原作以上に強化された紅蓮でホッとする

 4、 急に毒島が俺の胸倉をつかんで自分の体に俺を押し付け無理やり席に座らせる

 a. 余談で頬っぺたに押し付けられるマシュマロに銀河を見るような錯覚に陥る

 5、 レーダーに敵の攻撃っぽい反応が出るとほぼ同時に機体が横に急旋回(シザーズブレイク)する

 a. また余談だがここで俺の視界が一瞬暗くなって内心ヒヤッとする

 6、 戦術機モドキの所為か、実際のモノより大きい画面でハドロンブラスターの閃光が通り過ぎるのを見てびっくりする(ポーカーフェイス維持したまま)

 7、 毒島が無理やりシートベルトを俺と自分にかけなおして波状攻撃の様なハドロンブラスターを避ける ←今ここ

 

 な、何が何だか……

 中華連邦に『ハドロンブラスターが多数』なんて、俺は知らない。

 そもそもハドロンブラスターなんて、この時期では最先端技術を誇るブリタニア軍と雖も使用できる機体は限られている。

 

 試作機や装備のモルモット部隊であるグリンダ騎士団でもだ。

 

 後はラウンズだが……彼らが表舞台に堂々と出てくるのは天帝八十八陵に黒の騎士団が立てこもって正式な介入要請を大宦官から受けてからの筈だ。

 

「「………………………………」」

 

 俺と毒島の間に言葉はなく、ただ無言の時間が過ぎていく。

『無言』であって、決して『無音』ではないが。

 

 ビィー、ビィー、ビィー、ビィー!

 

 コックピット内で耳をつんざくようなロックオンアラームの音が前と左右からのスピーカーから出て、毒島が空中戦闘機動で避けたハドロンブラスター特有の赤い光線がスクリーンを通り過ぎていく。

 

 心なしか、彼女の顔色はあまり良くないような気がす────

 

 ────ヒュン

 

 その時、敵機と思われる()()()()()()()()()()()が画面を横切る────て、え?

 

 今の……もしかしてもしかすると『フローレンス』か?!

 

「敵の陣を突破する、もう少し()()()()。」

 

 もっと荒くなるんかい。

 

 ヒュン! ヒュヒュン! ヒュン!

 

 毒島の呟きの少しあとに、フロートユニットを搭載したフローレンス()()が次々と画面を過ぎ去って……え゛。

 

 なんで……なんでフローレンスがこんなにいるの?!

 

『ラウンズ専用機のオンリーワン』じゃなかったんかいワレぇぇぇぇぇぇぇ?!

 

 カァン

 

 ヒィィィ!?

 

 いいいいいいい今! 今何か当たった?!

 攻撃が掠ったぁぁぁぁぁぁ?!

 

 「……ウプッ。

 

 毒島の顔色ががががががががが。

 

「すまんスバル、チョットメガマワッテ────ウッ。

 

 こいつの飛行適性、もしかして標準のBとかより下のCなの?

 

 あるいは『ザ・ビッグ』系のようにDとか?

 

 Dはその立派な胸部装甲だけにしてくれ!

 

 ムニ~。

 

 あ♡

 ええ柔らかいボディですなぁ────って、あああああああああ?!

 機体がさかさま!

 さかさまのままシャンデルターンはヤメテェェェェェ?!

 

 いや、そもそもなんでフローレンスが?!

 

 意味が分からない!

 

 どうしてこうなった?!




タイトルのアイデア、誠にありがとうございますぬま沼さん! m(_ _)m


作者:それと殆どスバルの所為です。 (;^ω^)
スバル:……ちゃうねん! ( >Д<;)


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第215話 もうひとつの明日へ、□□のまま走る

カオスで表現不足かもしれませんがお読みいただきありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


 斑鳩は奇しくも星刻からの追撃を艦首にある拡散ハドロン砲で無理やり振り切り、歴代の天子を祀る『天帝八十八陵』がある山の中へと避難し、偵察部隊と合流して立てこもる準備を進めていた。

 

「……」

 

「ベニオ!」

 

 そんな中、神虎の襲撃に中華連邦との衝突と撤退援護の連戦を終えた無頼弐型から降りて、トボトボと腫れた目と鼻をしたベニオをサヴィトリが斑鳩の格納庫で抱きしめる。

 

「良かった、無事で────!」

 「────ぜんぜん、よくないよ。」

 

 ベニオはサヴィトリを抱きしめ返し、またも涙腺が緩んで涙が流れる。

 

「カレンさんが敵に捕虜にされたのに、追いかけたくてもあの化け物相手だと負けると分かったから……斑鳩を守らなきゃって思ったけど……私……今更になって“怖いから正当化したんじゃないか?”って────!」

「────バカなことを言わないで。 貴方は、私から見て『最善の選択をした』と思うわ。」

 

「へ。」

 

「だって、下手したら貴方も捕虜になっていたかもしれないのよ?」

 

 サヴィトリはベニオがしたロマンの話や泣きじゃくる彼女の言動で今更ながらようやく気付いた。

 

『あ、カレンさんみたいな子でも普通なんだな』、と。

 

「……」

 

「何、その顔?」

 

「サヴィトリ、何か悪いモノ食べた?」

 

 「失礼ね────」

「────ベニオ、サヴィトリ。 少しいいか?」

 

「「え? ……ええええええ?!」」

 

 ベニオとサヴィトリの二人は声をかけてきた方角を見ると、いつの間にか格納庫に居たゼロを見てびっくりする。

 

「ぜ、ゼロ────?!」

「────辛いのはわかる。 しかし、今は悲しむ時ではない。 ベニオ、次の作戦の為に君の無頼弐型をカレンの機体用パーツで強化を施す。」

 

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「カレンがいない今、零番隊にかかる負担は大きくなった────」

「────無理ですよ?! 無理無理無理無理無理無理無理の無茶です! あのパーツ、カレンさんでも扱いきれなかったって聞きますし────!」

「────無論、ああならないようにラクシャータと井上、そして君の操縦を見てきたサヴィトリに君が扱える様な調整(リミッター)を施す。」

 

「ゼロ、次の作戦にこの様な処置は必要なのですか?」

 

「(ヒィィィィィ?! サ()トリィィィィ?!)」

 

「ああ。 次の作戦には『時間』が必要だ。 よって一分一秒でも長く戦いを長引かせることが、次の作戦を成功させる絶対条件の一つだ。」

 

「……わかりました。」

 

 サヴィトリの不満そうな顔を見て、ゼロは通りざまにベニオの肩に手を置く。

 

 「すまない────」

「────へ。」

 

 ベニオの耳に届いたゼロからの謝罪のような小声に呆気に取られて固まり、彼女は無数のハテナマークを頭上に浮かべた。

 

 ゼロはそんな様子のベニオに気付かないまま、エレベータに乗り込んでブリッジへと向かう。

 

「(スヴェンのように、上手く行かないものだな────)」

「────残存する全ナイトメアの修理と配置、完了しました。」

 

「そうか。 (だがまだ策はある、それにこれで条件はほぼクリアしている。)」

 

 ブリッジに着き、オペレーターのいちじくの報告にゼロは短くそう答えながら巨大スクリーンに映る光景を見てホッとする。

 

「(天帝八十八陵(てんていはちじゅうはちりょう)……確かにここなら中華連邦の兵士は躊躇するはず。 その上、出入り口は正面の開けた道のみで敵が終結すれば斑鳩のハドロン砲で一掃できる。 退路が無い分、『籠城戦』になるんだろうな。 ディートハルトは蓬莱島の近くまで来ているインド軍区に通信を送って当てにしているが……)」

 

 扇はさっき星刻による反撃時とは違って幾分か落ち着いた様子のゼロを見ながらそう思い、正面のスクリーンに視線を移す。

 

「(果たして、()()()()()でも俺たちに協力してくれるのだろうか?)」

 

 扇たちが見ている先では星刻の神虎を先頭に、彼の部下たちを乗せた鋼髏(ガン・ルゥ)の部隊が後方からいわゆる『督戦隊(とくせんたい)』のような動きをする大宦官の私兵たちによって無理やり前進させられていた。

 

 何の気まぐれか原作に似たような景色が広がっていた。

 

「(確かに、中華連邦内でも派閥があるとは聞いていた。 だが────)」

 

 扇は更に大宦官の部隊の後方に控えているブリタニアの浮遊航空艦であるアヴァロンとモルドレッド、トリスタン、ランスロットを見る。

 

「(────ブリタニアが直接的な介入をしてきた上に、ラウンズまで動いたとなると……インド軍区が静観してもおかしくない。)」

 

「ディートハルト、仕掛けの準備を。」

 

「ここで、ですか?」

 

「ああ。 恐らく大宦官はここで我々共々星刻一派を皆殺しにするだろう。」

 

「ちょ、ちょっと待てゼロ! こっちには天子がいるんだぞ?」

 

()()()だよ、扇。」

 

 ……

 …

 

「大宦官! これはどう言う事だ?!」

 

『星刻よ、我々が貴様の目論む反乱に気付いていないと思うてか?』

『聞けば、高亥(がおはい)を殺したのもお前らしいのぉ?』

 

「ッ。」

 

『今までは良い働きぶりであったが所詮、野良犬は野良犬であっただけの事。』

『飼い主の手を噛もうとする犬の末路に、花を添えようとしているのだ。 感謝してもらいたいものだな。』

 

 星刻は大宦官たちの通信、いつも以上に威圧的な言葉、そしてさらに後方で控えているアヴァロンを見て理解してしまう。

 

「(そうか、私のクーデターをブリタニアから────いや、宰相(シュナイゼル)から聞いたか! 恐らくそれと引き換えにブリタニア軍へ援軍要請を出したというのか?! ここまで愚かだったとは誤算だった! 大宦官たちは、相手がユーロ・ブリタニアとEUの半分を短期間でブリタニアの事実上の領地化させた男と理解しているのか?! だがどうする……背後には大宦官と私兵たちに、人質の香凛、そしてブリタニア……前には黒の騎士団……)」

 

 星刻は操縦桿を握る手に力を入れ、覚悟を決める。

 

「(ならば、前進して黒の騎士団と合流する手しかあるまい! たとえ、敵として撃たれても!) 全機、突撃! 黒の騎士団の砲撃をかいくぐれ!」

 

『『『『『臣遵旨!』』』』』

 

 ……

 …

 

「本当ですか、会長?」

 

『ええ。 結婚式から無事にアヴァロンへニーナが避難させてくれたの。』

 

「皆、会長は無事だって────」

「「「────よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ/です~!」」」

 

 アッシュフォード学園でミレイの安全を心配していたシャーリーにリヴァル、そしてライラがルルーシュの言葉で安堵し、声をハモらせては緊張の糸が切れたのか三人はテーブルに突っ伏す。

 

「……よかったよ~。」

 

「ほらほら、シャーリーも泣かない。」

 

 しくしくとなくシャーリーにルルーシュがほんわかとしたままハンカチで彼女の涙を拭う。

 

「……ルル、なんか変わったね────」

「────え? そ、そうか────?」

「────本国に戻ってからなんか優しくなったというか……」

 

「兄さん、ちょっとこっちに!」

 

 シャーリーの言葉にどぎまぎし始めたルルーシュをロロが無理やり手を取って部屋の外へと出ていく。

 

「じゃあ、私がアナウンスをするわね────?」

「────ライブラがじま゛ずでず!」

 

「……先にその顔と鼻をどうにかした後にね?」

 

「う゛に゛ゅ~……」

 

 マーヤはニッコリしながらロロたちの出たドアをチラッと見る。

 

「(それにしても、メモで描いていた通りに篠崎咲世子の変装術は凄いわね。 見た目()()ならエルとルルーシュ本人のように見分けがつかないほどに……問題は変装時の性格だけれど、彼女は黒の騎士団側だからここはロロに任せていいかしら?)」

 

 後にマーヤがする上記の考えが原因で大変なことと繋がるのだが、彼女含めて誰も知る由は無いだろう。

 

 

 

「兄さんは、()()()()です。」

 

 ロロは図書室にある隠し扉をルルーシュ(?)と共にくぐってエレベータに乗ると、ルルーシュは仮面を取ると下から咲世子が現れる。

 

「ですが、この振る舞いはエル様を基準にしたモノでルルーシュ様からもお墨付き────」

「────それとさっきのアレは別です。」

 

「はぁ……」

 

「兄さんが優しいのは、気の許している人だけ……基本、『家族』だけなんです。」

 

「ですから先ほどのような振る舞いをしたのですが────」

「────僕が言いたいのは“自重して()()()”という事です。」

 

「畏まりました。 (なるほど、『平等に』でしたら『問題ない』と。)」

 

 

 ……

 …

 

 

「『バーレイ』と『チピング』、高度維持不能! 指示通りに退却していきます!」

 

「天空騎士団のカールレオン級の艦隊にここまで痛手を負わせるとはね……やるねぇ────」

 「────おかしい。」

 

 戦闘配備の号令によりブリッジにオペレーターとしてエリスと場所を交代したトトの被害報告を聞いたノネットの呟きに、シュバルツァー将軍は不満そうに上記を漏らす。

 

「(ん~? 将軍のそれはどういう意味だい? たった一隻でこちらの艦を戦闘続行不可に陥れるのは相当性能の良い艦と、それの能力を十分に引き出せる艦長がそろって初めて出来る芸当だ。 何が不満なんだい?)」

 

「(おかしい……セントラルハレースタジアムで姫様(マリーベル)と同等の操縦技術と遜色ない様な知略を持っていると踏んで初手から畳みかけたが、この手応えは何だ?)」

 

「ん? 将軍────」

「────何かねエニアグラム卿?」

 

「これを敵艦に送れば状況は変わるんじゃないかな?」

 

「……確かに。」

 

 ノネットの端末にアヴァロンから送られてきたこの何気ない行動で、状況は大きく動くこととなる。

 

 ……

 …

 

 ここで突然だがナイトオブトゥエルブの専用機となった『フローレンス』に関しての開発経歴を簡単におさらいをしたいと思う。

 

 元々はユーロ・ブリタニアがスロニムをEUから再奪還時に鹵獲したアレクサンダ・ドローンを献上品としてブリタニアに渡し、それに目を付けたトロモ機関がシュナイゼルの許可で有人機に修理&改造したものをモニカの専用機とした。

 

 原作の『オズ』ではフローレンスが試運転出来る直前に、ピースマークを経由して『ブリタニアの開発している新型機の破壊』の依頼を承ったオルフェウスが潜入した際、近くの町で酒酔いからか暴れてはストレスのはけ口にブリタニアの軍人がナンバーズに当たり散らしていた場面を見過ごせず介入する彼の姿にオフ(休暇)中だったモニカが興味を持ち、彼と出会うきっかけとなった。

 

 そしてオルフェウスは、彼女のブリタニア帝国らしくない思想を聞いて共感しては興味を持つだけどころか、再会の約束を取り付けた。

 

 世間でいう『デート』であり、SIDE:オルフェウスでもSIDE:オルドリンでも彼がこのような約束を女性に取り付けた例は今回だけである。

 

 恋愛小説に興味がないどころか苦手だったモニカは、彼からの誘いを単純な『お礼』と思っていたがフローレンスの調整と試行錯誤中、次第に彼を無自覚に『異性』として気に入っていたことに気付く。

 

 デート直前、フローレンスの試運転中にモニカはピースマークの『一本角(白炎)』に襲われて見事退けることに成功するが機体を大破させてしまい、モニカ自身も意識がもうろうとするほどの重傷を負ったことで結局デートには間に合わず、同じように重症でも無理やり待ち合わせの場所に来てオルフェウスはギリギリタイムリミットまで待ち続けた。*1

 

 残念な気持ちと共にオルフェウスは洛陽内にある朱銀城を目指し、『シュナイゼルの暗殺依頼』を決行するがその結果彼は『記憶喪失』となってしまう。

 

 対するモニカは目を覚ました直後、オルフェウスと約束した待ち合わせの場所へと赴くが既に彼が去った後という事から残念がりながら、次の機会の為に彼と話し合った『力があれば裕福であり、力による弱者いじめや不平等を好まない』と言った信念を貫こうと決意する。

 

 モニカとオルフェウスはその後に何度もニアミスを続けるが終ぞ再会することなく、モニカはスザクが騎乗するランスロット・アルビオンによって亡くなってしまう。

 

 コードギアス特有の、『すれ違いによる悲惨な恋愛』である。

 

 少しだけネタバレをここですると今作では色々と順序や状況が狂ってしまい、上記の様な『ボーイミーツガール』が起きなかった。

 

 シュナイゼルが()()でユーロ・ブリタニアから献上品としてアレクサンダ・ドローンの機体だけでなくガリア・グランデに使われた『大型フロートシステム』、『無人機(ドローン)技術のノウハウ』、『シュロッター鋼』、そして『アフラマズダ』*2を得ていた。

 

 原作では『大型フロートシステム』は後に『ダモクレス』、『シュロッター鋼』は次世代の機体たちに流用され、『アフラマズダ』はナイトオブフォーのドロテアの『パロミデス』として応用された。

 

 だが原作に無かった『無人機(ドローン)技術』はすこぶる(元の機体を考えれば当たり前だが)フローレンスと相性が良く、ソキアのサザーランド・アイと並行してモニカ機には『ドローン制御用OS』が組み込まれていった。

 

 アレクサンダ・ドローンが元々各種性能の安定化&向上と量産化の為にデザインが見直されたアレクサンダType-02を更に簡略化しただけに、モニカのフローレンスを中心にしたドローン部隊が出来上がってしまった。

 

 元々オルフェウスがシュナイゼルの暗殺依頼を拒否したことで彼とモニカが会うきっかけは無くなっているのだが、上記の開発経歴によりフローレンスの試運転時期は大幅にズレているだけでなく機体も運用化も強化されていた。

 

 それが今、彼と毒島が乗っている村正・陽炎タイプを追い詰めていた。

 

 ぶっちゃけると、『スバルの所為(介入)によるバタフライエフェクト』である。

 

 

「これは……果たして『戦い』と呼ぶべきかしら?」

 

 そんなことを知らず、アニメでも見せたパン2〇見え際どいパイロットスーツを身に纏ったモニカはグリンダ騎士団や自分の実戦データを元に戦闘行動が最適化されたフローレンス・ドローンの攻撃を避けながら(近接戦闘装備しかないのか)距離を詰めようとするアンノウン(毒島)の機体をドローンたちの映像越しに見ていた。

 

「(まさかフローレンスの『バード(準ドルイド)システム』の試運転フィールドに、黒の騎士団と思われる機体と遭遇するとは────)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ウッ。」

 

「(吐くなよ吐くなよ吐くなよ吐くなよ吐くなよ吐くなよ吐くなよ吐くなよ、絶対に吐くなよ?!)」

 

 村正・陽炎タイプの中で毒島が普段出さない声で顔色が悪くなっていくことを察してスバルは必死にポーカーフェイスを維持しながら内心でそう願っていた。

 

「(スバルが『アポロンの馬車』を応用させた『噴射跳躍システム』でも十分にフロートユニットを搭載したKMFに対抗できる。 問題は私の機体と、私自身が得意とする間合いか。 長刀の方が得意だが、こんな状況になるのなら銃系を一丁でも装備してくればよかった。)」

 

 毒島の機体はその瞬発力で、一時的に攻撃が緩んだフローレンス・ドローンのハドロンブラスターにスラッシュハーケンを再度よけ始める。

 

 カァンカカァンン、チリチリチリチリ!

 

「ッ?!」

 

 だが余裕で攻撃をよけきれていた先ほどと違い、今度繰り出される攻撃は更に毒島の機体を当たっていき、ハドロンブラスターのビームは装甲を掠る。

 

「(さっきより明らかに攻撃の精度が上がっている。 それにこの動き方……とても『人』が乗っているとは思えん。 リョウたちの機体データで見た『ドローン(無人機)』とやらならば少々……いや、かなり不味いな。)」

 

 網膜投影システムで外の様子をより実感していることで内心ヒヤッとしながら、毒島はコックピット内を写すカメラ越しにスンと表情を変えないスバルを見る。

 

「(流石にこのこともメモに書いていなかったとなると、予想外の展開か。 それでも思考停止をするのではなく、何か考えている様子だな。 流石だ。)」

 

 さて、毒島は現在スバルの案で村正型の機体用に開発された強化スーツを着用している。

 これには様々な機能が付いているだけでなくパイロットの補助も兼ねていて、今ここで話したいのは『頸部プロテクター』であり、これのおかげで着用者は高機動戦によるむち打ちや揺さぶられる頭部の衝撃が大幅に緩和される。

 

「(グガギギギガガガガガガガ────)」

 

 つまり強化スーツではなく『ネモ』としての衣装を着たスバルはもろに機体の機動の影響に晒され、己の筋肉や毒島と共有しているシートベルトを使ってギリギリ意識を保っていた。

 

 ────ゴリッ。

 

 如何に鍛えていても、人間の頭部を支えている胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋が強靭であっても限度はある。

 

 通常、『人間の首の骨が折れたら即死』と言われているが実はこれには八つのうちどの頸髄が損傷したのかで後遺症は変わってくる。 簡単にまとめると第5から第8頸髄は手足の動き、第2から第4頸髄は主に自発呼吸などの横隔(おうかく)神経がある。

 つまり位置が高い脳髄であればあるほど人体への影響が出てくる。

 

「(??? 何だ、今の音は────?)」

『────所属不明の機体へ、私はナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキーです。 先ほど、黒の騎士団のエースである紅蓮のパイロットが機体と共にアヴァロンに連行されました。 武装解除をし、投降すれば────』

 

 全神経を網膜投影によって映し出されている外部の状況に集中していた毒島は文字通りにスバルから出てきた音による疑問からモニカからの通信によって考えが遮られる。

 

 

 


 

 

 ゴリッ。

 

 なに、今の不穏な音は?

 

 あれれ? (スバル)の視界がかな~り斜めになっているぞ?

 何故に────って、首が?! 首が全く動かんぞぉぉぉぉ?!

 フ、どうよ俺の田〇信〇氏風のセリフは?

 

『所属不明の機体へ、私はナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキーです────』

 

 って、やっぱりモニカたんだったか。

 

『先ほど、黒の騎士団のエースである紅蓮のパイロットが機体と共にアヴァロンに連行されました────』

 

 なん…………………………だと?

 

 ()()()()……()()()()

 

 『────武装解除をし、投降すれば────』

 

 

 

 

 周りの景色と音が同時にぼやけ、代わりにセミが真夏に出すミーンミーンとして音が聞こえてくる。

 

 大気の匂いも空調とフィルターが効いた物から変わる。

 

 夏独自の蒸した、重苦しい空気。

 そこに混じる汚臭に、焼け焦げた腐臭と放置された死体が出す死臭。

 

 そんな中、ボロボロでところどころ焦げた衣類を身に纏いながらブランケットの様なボロ布を羽織った少女のところどころ腫れた顔と、嫌悪感を露わにした視線と────

 

 『大丈夫って言ったじゃん、この□□□□!』

 

 そうだ。

『首が動かない』?

 

 それがどうしたと言うのだ。

 

 動け。

 動けよ俺の体!

 動けってんだよ、俺の体ぁぁぁぁぁ!!!

 

 ピシッ!

 

 俺ががむしゃらに力むとガラスにひびが入るような音と共に、鼻からドロリと何かが流れ落ちてようやくピクリと体からの手ごたえと、痛みが首と四肢全てに走る。

 

『紅蓮聖天八極式』?

『エナジーウィング』?

 

 知ったことか。

 

 俺は!

 

 あいつを────!

*1
双貌のオズ SIDE:オルフェウスの25を参照

*2
129話より




決して焦って約束をしてはならない。

-マハトマ・ガンジー


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第216話 プレスト。 ピウ、プレスト。

「(このままではジリ貧────!)」

「────毒島────」

「────スバル────?」

 「────俺と代われ。」

 

 スバルは普段ではめったに見せない力強い宣言とともに、ほぼ無理やりに操縦桿を毒島から奪い、外にいる無人機のフローレンス──『フローレンス・ドローン』が迫ってくる景色を()()

 

敵は12時、1時、10時の左右に下。 更に時間差で5時と3時────」

 

 スバルは村正・陽炎タイプの操縦桿とコンソールを使って次々と安全装置を切っていく。

 

「────毒島、口を閉じていろ。」

 

「え────ガッ?!

 

 村正・陽炎タイプは、毒島が操縦していたとき以上の瞬発力を発揮し、スバルの身体が毒島に押し付けられ、彼女は肺から息を吹き出してしまう。

 

 ピィー! ピィー! ピィー! ピィー!

 

「(武装は近接戦闘の物ばかりだが何丁かずつあるしエンジンと機体のエナジー残量は良好────)」

「(────こ、こ、これは流石というべきか?!)」

 

 コンソールだけでなく毒島の網膜投影システムに様々なエラーと注意事項が音と共に出てくるがスバルはそれを気にする様子はなく、そんな彼に息切れする毒島は久しぶりにビックリする。

 

 急加速により機体の軌道は揺れ、自然と直進しながら武器を持った右方向にロールし始める。

 

 スバルは毒島に押し付けられながらも歯を食いしばりながら操縦桿のボタンを、ピアノをプレスティッシモに従って弾くピアニストのように操作していき機体のスラスターの僅かな噴射でロールを制し、急激な速度に戸惑うようなフローレンス・ドローンを一気に二機ほど通り様に村正・陽炎タイプが持っていた超硬度大太刀モドキによって斬ら(粉砕さ)れる。

 

「(こいつ、急に動きが?!)」

 

 モニカは背筋が冷たくなっていき、ドローンのバトルプログラムAIに指示を送りながらフローレンスを後退させる。

 

「(逃がさん────)」

「(────更に、早く、なった?!)」

 

 スバルは右の操縦桿を上、左、上と動かすと村正・陽炎タイプの元となった村正・武蔵(撃震)の名残で装甲の下に隠れていたブースターノズルが展開してフローレンス本体に急接近して超硬度大太刀モドキを振るう。

 

「やられる────?!」

 

 ────ガァァァン

 

 村正・陽炎タイプの超硬度大太刀モドキはモニカの予測通りに上から振るわれたがフローレンスのドローン制御通信装置とフロートユニット、そして右半身を斬る。

 

「な、なぜ?!」

 

 だがモニカは別に安堵する訳でもなく、ただ困惑した。

 

 なぜならば村正・陽炎タイプの超硬度大太刀モドキの軌道が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

 ガァン!

 

「ぐあ?!」

 

 次に村正・陽炎タイプは飛び蹴りに似た追撃でフローレンスのコックピット内に居るモニカに衝撃が伝わり、フロートユニットにダメージを受けて高度維持が困難になったフローレンスは落ちていく。

 

「(こいつ! 私を無視するのか?!)」

 

 残ったフローレンス・ドローンに新たな指示を出して落ちていくフローレンスを保護させながら、あっと言う間に遠ざかる村正・陽炎タイプをモニカは仕方なく見送る。

 

「(早く……もっと早く!)」

 

 村正・陽炎タイプの速度を維持しながらスバルはそう思っていた。

 

 早く、速く、はやく(プレスト)

 

 その願いに応えるかのように、機体から村正・武蔵(撃震)に追加設計された外装や装甲が所々負担と空気抵抗によってめくれては散る。

 

 ……

 …

 

『艦隊戦では不利』と判断したグリンダ騎士団の天空騎士団はナイトメア部隊を展開させ、リア・ファルもこれに応じた。

 

「「(こいつ、やる!)」」

 

 その結果、自然と可変型であると同時に(デザインはともかく)同じ開発者を親に持つブラッドフォードとビルキースが見事な()()()ドッグファイトを披露していた。

 

 否、グリンダ騎士団とマリーベルの功績が(渋々とだが)ブリタニア帝国の貴族に認められたことでキャメロットによる強化────通称『エメラルド・プラン』によって電力駆動プラズマ推力モーターから正式にトリスタンと同じハイブリッド仕様を施された『ブラッドフォード・ブレイブ』になったこととビルキースのアンジュが太平洋での様なエナジー消費を抑えるために噴射機によるゴリ押し機動戦を止めているおかげで『ようやく互角』と言ったところが現状である。

 

 アンジュがレオンハルトの背後を取り、レオンハルトはコブラで急激な減速を図るとアンジュもコブラ────否、クルビットをしてようやく二つの機体は隣合わせとなってレオンハルトは気流を使って横方向へ偏移する『スリップ』でアンジュの機体に近づく。

 

「アイツ、私に取り付こうとしていたの?!」

 

「機体性能はそちらの方が上の様ですが、ミルベル博士仕込みの空中戦なら僕の方が上だ!」

 

 ブラッドフォードがフォートレスモードからKMFになるとビルキースも人型となり()()攻防を行った後に二機はまたもフォートレスモードに戻っては空中戦……という流れの繰り返しをしていた。

 

「(こいつ、やっぱりウィルバーさんが褒めていただけはある────!)」

「(この人の操縦! まだまだ荒々しいけれど、ダイヤモンドの原石の様だ────!)」

 

「「(────『まだまだこれから』と思うとゾッとする!)」」

 

 純粋な機体性能ではビルキースに軍配が上がるが、それを補うほどレオンハルトもミルベル博士の元でしごき訓練された経験と理論を使っていた。

 

 決してアンジュの操縦が悪い訳ではない。

 彼女の操縦はゴリ押しによるところが多い『力技』に近い反面、レオンハルトは洗練された動作。

 

 皮肉にも、二人の操縦スタイルは正反対でありながらお互いを高めていった。

 

「う~ん、どうしようかなぁ。」

 

 ブラッドフォードのように強化されたゼットランド・ハートの中でティンクはのほほんとしながらも、展開した広範囲のブレイズルミナスの隙を探って攻撃しようとするアシュレイの操るレッド・オーガ(フロートユニット付き)を見ていた。

 

「テメェ! この野郎! 隠れてないで盾の裏から出てこいやぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 余談だがアシュレイはお預けを食らった柴犬のようにきゃんきゃんと吠えてブチ切れていたと追記しよう。

 

『あー、これってなんていうんだっけ?』

『“暖簾に腕押し”……だったと思う。』

『それな。 サンキュー、アヤノ。 ここは良いっぽいからアキトの所に行ってみたらどうだ?』

『私の腕じゃ、邪魔になるだけだよ。』

『ま、シュバールさんが認めているアキトと引けを取らないあの赤と金色のランスロットっぽい奴も相当ヤベェからな。』

 

 

「う~ん、あの子……腕を上げたね♪」

 

 リア・ファルの甲板に膝を着けながら狙撃と電子戦を並行していたアレクサンダ・ヴァリアント(バックアップタイプ)の中でユキヤはライフルのスコープ越しに見える景色から、別画面で彼のアバターであるゆるキャラの大群が『貴族学生オルドリンちゃん♪』のマスコットの大群と激しい攻防を繰り返していた。

 

 お互いのキャラの目が×印になるまで手らしきものでポカポカとお互いをテシテシと叩いているだけにしか見えないのだが、実際にはリア・ファルのユキヤとグランベリーのエリスの電子戦の状態が分かりやすいように無理やりグラフィック画像をユキヤが付け足しただけなのだが、彼にしてもシュール(子供心?)な絵面である。

 

「あれ? レイラ~?」

 

『なんでしょう、ユキヤさん?』

 

「この反応、もしかしたらぶっちゃん機じゃない?」

 

『……ええ。 角度も、識別信号も照合しますが────』

「────うん。 ()()()()()()()()よね?」

 

『……ユキヤさん────』

「────はいはい。 “カタパルトの妨げになるから退け”ってんでしょ?」

 

 

 レイラはリア・ファルの中からユキヤの機体がぶっきらぼうな返事とは裏腹にそそくさと移動するのを見て今度は格納庫へ通信を開く。

 

「ミルベル博士、出撃準備の途中で申し訳ありませんが例の換装システムの発射準備をしてもらえませんか?」

 

『ん? いいが、試運転させる予定の蒼天は宝来島にあるぞ?』

 

「分かっています。 ですが機体のデザインが似ているサエコ(毒島)の機体でも理論上、空中換装は可能ですよね?」

 

『まぁ、そうだが────』

「────270の方向から彼女の機体を操縦していると思われるシュバールさんが来ています。」

 

『分かった、すぐに出そう。 本番ぶっつけになるが────』

「────紅蓮の時も同じとラクシャータさんから聞き及んでいますよ?」

 

『……レイラ君。 もしやラクシャータに出来たことを私が出来ないとでも言いたいのかね?』

 

「え? いえ、ただ“状況が同じ”と言いたかっただけなのですが……」

 

『そ、そうか。』

 

「「「(うわぁ……)」」」

 

 ブリッジに居たサラ、オリビアとBRSのチェックをしていたソフィたちは純粋なレイラに毒気を抜かれたウィルバーに同情した。

 

「(??? なんだろう、この空気?)」

 

 レイラの言葉の意図を察していたユーフェミアだけはレイラと同じくハテナマークを頭上に浮かべていた。

 

 

 

「(これは────)」

 

 強化スーツの補助でもスバル(の身体)に押しつぶされそうだった毒島はようやく乱れていた呼吸を整えながら網膜投影システムの表示にリア・ファルからの通信で新たに更新されていく戦域マップに、『補強パーツ』と友軍信号を出している物がリア・ファルから村正・陽炎タイプの向かっている射線上に動いているのを見る。

 

「(────流石はレイラたちだ。 天空騎士団相手に、主砲を使わず単純な艦隊戦とKMFによる攻防でここまで消耗させながら死者を極力出さないようにするとは……しかし、BRSのテストで測定不能と出たスバルに網膜投影システムは見えない────!)」

 

 スバルは速度を落とすことなく再び跳躍するとリア・ファルから射出された補強パーツが機体信号を受信し、機体を通り過ぎてからUターンをして追いながら軌道修正を自動で行って村正・陽炎タイプに急接近する。

 

「スバル────」

 

 スバルにこのことを伝えようと毒島は口を開けるが、どういう訳か最後の最後で彼は機体のスラスターと肩と背部のサブアームを使って吸い付かせるように補強パーツを手動で受け取る。

 

「さ、流石だな────ウッ?!」

 

 毒島は網膜投影システムによって機体ステータスの表示に安堵しながら外部モニターに戻しながら声をかけようとして機体が追加されたフロートユニットに腰の跳躍システムや足裏の噴射機が点火して更にG(とスバル)がのしかかる。

 

 村正・陽炎タイプはただ速く、銃弾やビームが雨霰のように降る空を駆けた。

 

「来る?! グランベリーのシールド位置修正────!」

「────間に合いません────!」

「────面舵!」

 

 村正・陽炎タイプの行く先に居たグランベリーは慌てながら機関部に予備のエナジーを注入して無理やり艦を動かす。

 

「(ぶつかる?!) 総員、ショックに備えよ!」

 

 シュバルツァー将軍は近くの手すりを両手で握り、オペレーターのエリスとエリシアは頭部を両腕で守り、トトは犬耳をぺたんとさせてから眼鏡を外し、エリス達のようにかがむ。

 

「「「「…………………………………………」」」」

 

 だがどれだけ待っても予想していた村正・陽炎タイプとの衝突や攻撃が無かったことから、先に状況把握に動いたのはシュバルツァー将軍だった。

 

「(バカな、このレーダーによると機体はグランベリーに────)」

『シュバルツァー将軍~! こちらソキア! あの所属不明機、グランベリーの甲板を地形代わりにランドスピナーで更に加速して飛んでいった!』

 

「「「「は?」」」」

 

 『エニアグラム卿のクラブ・エアも追いかけるように飛び出たにゃ~!』

 

 「「「「は?」」」」

 

 『なんでじゃ~?!』

 

 「「「「こっちが知りたい/よ/です/わい!」」」」

 

 グリンダ騎士団の設立とメンバーが揃ってから恐らく初めてブリッジ要員のエリシア、エリス、トト、シュバルツァー将軍の心は通じ合ったそうな。

 

「(あの機体……だが動き方はシュバールさんか────)」

「(あれは……セントラルハレースタジアムで見た立体機動? 乗っているのはマリーを守った奴ね────)」

 

「「(────速いな/わね。)」」

 

 ようやく完成したフロートユニットを装備したアレクサンダ・リベルテとランスロット・トライアルの中に居たアキトとオルドリンは全力を出していた攻防を一瞬だけペースを下げて村正・陽炎タイプを見送ってから戦闘行為を再開した。

 

「「(彼があれほどの速度を出せるというのなら、俺/私の機体も!)」」

 

 二人が何らかの閃きをしたのか、感化されたのか、更に二人のせめぎあいはヒートアップした。

 

 ……

 …

 

「中華連邦軍、前進してきます!」

 

「(来るか、星刻。)」

 

 天帝八十八陵が夜に包まれ、黒の騎士団とのにらみ合いに業を煮やした大宦官によって中華連邦軍の一部が動き出す。

 

 ザザ。

 

「ん? 今のは、なんだ?」

 

 斑鳩のブリッジ内にあるスピーカーからノイズの様なモノに扇は誰かに向けたわけでもない問いをする。

 

「恐らく────」

『────黒の騎士団、こちら黎星刻! ゼロ、聞こえるか?!』

 

「(やはりな。) 洛陽以来だな、星刻?」

 

『ゼロ、お前ほどの者ならば私が合同作戦用の周波数でこの通信を開いた意味を理解している筈だ。』

 

「ああ。 (そして、それに乗じて────)」

 

 ────ヒュルルルルルルルルル、ドガァン!!!

 

「い、今のは────?!」

「これは────?!」

「────ここを中華連邦軍が空爆しているのだろうな。」

 

「「「「「え?!」」」」」

 

 扇たちがゼロの平然とした答えにギョッと目を見開かせる。

 

「中華連邦は────いや、大宦官どもはこの天帝八十八陵ごと我々を潰すつもりだろう。」

 

「それって……天子様を見捨てるという事か?!」

 

「ああ。 (とうとう化けの皮を剥がしたか。 タイミングは恐らく、星刻の通信だろう。 そして首謀者はブリタニアの────)」

 

 ……

 …

 

「な、なにを?! 全軍攻撃を中止しろ! あそこには天子様もおられるのだぞ?!」

 

 天帝八十八陵への攻撃を見た星刻は慌てながら周波数を中華連邦に戻して上記の通信を飛ばす。

 

『星刻、分かっておらんな?』

『天帝八十八陵は“歴代の天子様が眠られる所”。』

『そしてオデュッセウス殿下とも釣り合う新しい天子の手配は既に済んでおる。』

 

「貴様等、天子様を────?!」

『────全軍、反乱軍共々黒の騎士団を攻撃せよ。 ブリタニアの方々も、ご自由に。』

 

 ガァン

 

 神虎を上空からトリスタンがハドロンスピアーで切りかかり、星刻はこれを巨大中国刀で受け止める。

 

『そこを退け、ブリタニア! これは中華連邦内の問題だ!』

 

『そうもいかないんだよね。 シュナイゼル殿下経由で中華連邦の代表たち(大宦官)からは“反乱軍もろとも黒の騎士団を殲滅せよ”とのことだし、それに……私自身、“借りがあった紅蓮のパイロットを捕獲したアンタの実力を見極めたい”ってのもある!』

 

 神虎が介入要請(とパイロットの私情)によって襲い掛かるトリスタンと空中戦を行う間、モルドレッドは星刻の部下たちを文字通り一方的に壊していく。

 

 鋼髏(ガン・ルゥ)の三つ指式のマニピュレータがどれだけ実弾式の機関銃や大砲を撃っても強固であるモルドレッドの全方位GNシールドブレイズルミナスの前では虚しい抵抗(の表示)でしかなかった。

 

 斑鳩からフロートユニットを搭載し直した藤堂や四聖剣の機体、ベニオを含めた零番隊とピンク色の暁が発進する。

 

「スゴイ! まるで機体が空気の一部みたい────!」

『────機体性能に感動しているところ悪いけれど、作戦の方針を伝えるわよ────?』

「────そう言いながらサヴィトリも嬉しそうじゃん────♪」

『────この戦いで一番の脅威は言うまでもなくブリタニアのナイトオブラウンズよ。 そして彼らの専用機に対抗できるのは藤堂機、千葉機、朝比奈機、卜部機、仙波機。 そしてC.C.機────』

「────え? 本当に~? あのC.C.さんが~?」

 

 ベニオが思い浮かべるのは先日のお菓子試食パーティで文句を言いながらもピザのトッピング用としてそれぞれの種類が入った箱を確保する食い意地を張ったC.C.だった。

 

『言いたいことは分かるし私も同感だけれどデータは嘘をつかない。 だから彼ら彼女らがラウンズを相手にしている間、貴方は零番隊と共にブリタニアと中華連邦の航空戦力を押さえなくちゃならない。』

 

「えええええええええ?! でも私、部隊長なんてやったことないよ?! 無理だよ!」

 

『そこまで期待していないから。 貴方はいつも通りに突貫すればいいのよ。』

 

「あ。 うん。 そだね……」

 

『……(確か日本ではこの状態のベニオを“叱られた犬”って呼ぶのかしら?)』*1

 

「さ・て・と! 砕け散れぇぇぇぇぇ!」

 

 ベニオは新たな強化パーツの出力に耐える為、無頼弐型の本体を一段階上のエナジーフィラーを搭載した暁用に変えた上にカレンの紅蓮用パーツを付けた『紅鬼灯(べにほおずき)』の右腕に付けた輻射波動機構を広範囲仕様のまま作動させてブリタニアと中華連邦の戦闘ヘリを落とす。

 

「ッ! データのないヴィンセントタイプでも────!」

 

 ベニオは空中回転で大型キャノンから打ち出されたロケットを躱し、ヴィンセントに似た機体────RPI-212B、『ヴィンセント・ウォード』に接近して特殊鍛造合金製ナイフで切りかかる。

 

『ヴィンセント・ウォード』とはベニオが一目見て分かるようにヴィンセントを更に量産に向けた結果に出来た機体で、ランスロットを基にした機動力のおかげで『グロースターの次世代機』として少しずつブリタニア帝国内で指揮官機として配備されていく予定の機体である。

 

 本来、原作ではこのような戦力をアヴァロンは持っていないのだが元々マリーベルが独自のルートや交渉などでヴィンセントのパーツなどを取り寄せる『言い訳』として『ヴィンセントの量産化のテストを行っている』という事をカノンから聞いたシュナイゼルは、グリンダ騎士団が旅立つ前に数機ほど『実戦テストの為』と取り寄せていた。

 

 つまりスバルの所為である。*2

 

『うわぁぁぁぁぁ?! 脱出機能が発動しな────?!』

 

 ────ボォン!

 

「ッ……ごめん!」

 

 紅鬼灯に捕まって輻射波動の所為でコックピットブロックが歪み、脱出機能が作動しないことに慌てたブリタニア軍の兵士の叫びがベニオの機体に届くと彼女は謝罪の言葉を漏らす。

 

『ベニオ! 今だから言うけれど最初は貴方の事はあまり好きじゃなかった! 新参者でカレンさんの様な戦い方をわざとして気にいられたと思っていたけれど、貴方と暮らしてそれが貴方の素だって分かった!』

 

「(ありがとうサヴィトリ。 でも私は目を逸らさない。 今、私は人殺しをしている。 でも────!)」

 

『すまない。』

 

「(────ゼロだって人の心があるんだ! だから、カレンさんの事とか全部含めて私に謝るぐらい普通の人なんだ! だったら、ゼロもカレンさんを助けたいと思っている筈なんだ!)」

*1
作者:『しょぼん』です

*2
スバル:俺は何も知らんがな?!




↑←↑


追記:
更新ペースが週三から二に落ちるかも知れません、ご了承くださいますようお願い申し上げます。 m(_ _)m


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第217話 『一騎当千』と『数は戦力』

お待たせいたしました、少々長めでほぼSIDE:黒の騎士団とアヴァロンとなってしまった次話ですが楽しんでいただければ幸いです。


 共通の敵の脅威を前に一時的な停戦状態となった星刻のクーデター派と黒の騎士団、大宦官とブリタニアの混成部隊による戦闘が始まって早速数分ほどの時間が過ぎ去っていた。

 

「(今ので何機め? 21? それとも23機だっけ?)」

 

『無頼弐型・改』────改め『紅鬼灯』が右腕から輻射波動を打つと巨大な薬莢の様な形をしたエナジーパックが輻射波動機構から煙と共に射出される間、彼女は左腕で持っているオープンボルトのセミオート式散弾銃で戦闘ヘリや空爆機を撃ち落としていく。

 

「(藤堂さんたちも、他の皆も頑張っている! でも────!)」

 

 星刻のクーデター派はラウンズに一番近かったこともあり被害は大きく、黒の騎士団も空中戦力が少ないため多くの空爆部隊を取りこぼしてしまい、斑鳩が立て籠もる天帝八十八陵はどんどんと攻撃を受けていく。

 

「(────やはり『数は戦力』、か……それに恐らくスバルと毒島が別行動中なのは今グリンダ騎士団を押さえる為だから、これ以上敵の数が悪化はしないだろうが……こちらの対空戦力は限られている。 仙波、卜部、朝比奈、千葉に朱城君たち零番隊も一騎当千の気構えで当たっている。 ゼロの『作戦』とやらに時間が必要と聞き及んでいるが……果たして、それまで『天帝八十八陵』自体が持つかどうか……せめてもの救いはナイトオブラウンズが直接、天帝八十八陵に攻撃してこないことだろうか。)」

 

 元々年代物で空洞に中身をくりぬいて多少の補強をされた山はもちろん『戦』を前提にされている筈もなく、みるみるとボロボロになっていく状態を藤堂はいつも以上に険しい表情をしながら戦闘中でもファクトスフィア越しに把握していた。

 

「(やはりシュナイゼルはラウンズに“天子の死に繋がるような攻撃はするな”と命を出している様子だな。)」

 

 切羽詰まった空間の中、ルルーシュは冷や汗を仮面の下で掻きながら冷静を装って時計を見る。

 

「(そろそろ、この辺が頃合いだろうか?) 扇、大宦官へ通信を繋ぐ周波数を探れ。 それとラクシャータ、部下たちに()()()()の発進準備をさせろ。」

 

「お? ようやくあの子の『披露会』ってところかしら?」

 

「『周波数を探れ』って、どうするつもりだゼロ?」

 

「ここからは私自身が赴き、()()()()()。」

 

「は?」

 

 ゼロは他に何も口にせず、再びエレベーターへと向かう。

 

「(あのもじゃもじゃ頭、シンジュクやナリタの事でもう少しは頭の回るヤツかと思っていたが……まぁいいだろう。)」

 

 ……

 …

 

 ピリリリリ! ピリリリリ!

 

「ん? 何事か?」

 

 大宦官たちがいる大竜胆(ターロンダン)の中に着信待ちの音が鳴り響く。

 

「もしやブリタニアの方達か?」

 

 ピリリリリ! ピリリリリ!

 

「ええい鬱陶しい! 早く繋げよ!」

 

 ヴン。

 

『先日の夜会以来ですな、大宦官の諸君。』

 

「なんだ。」

「誰かと思えばゼロか。」

「何用だ? もしや、今更ながら『降伏』とでも────?」

『────“そうだ”、と答えたらどうする?』

 

「……ほぉ? “敗北を認める”、と?」

 

『そこで天子の引き渡しに攻撃を一時中断────』

「────もう既に時すでに遅しなのだよ、ゼロよ。」

 

『どうしても攻撃はやめないと? このままでは、天子も死ぬぞ?』

 

「ホホ、それがどうしたと言うのだ?」

「『天子』など、たかが都合の良い政治システムの一部。」

「代わりなどいくらでも取り立てられる。」

「たかが小娘、交渉材料にはならぬぞ?」

 

『しかし、貴公たちは彼女を取引材料にブリタニアの爵位と領地として約束を取り次いでいると聞いているが?』

 

「何とも耳聡いことよのぉ?」

「アレは実に今までの中でも一番()()取引だったよ。」

「小娘()()を送るだけで、約束された人生と富が盛んな大国の上級者へ仲間入りよ。」

 

『それら領土の割譲に不平等条約の締結、そして民と天子の不幸の上で成り立っているのだぞ? なぜそうも簡単に自国民を切り捨てられる?!』

 

「我々にはもう関係ない。」

「ブリタニアの貴族の、我々にはな。」

「それにゼロよ、貴様は道を歩くとき“虫を踏まないように気を付けている”という詭弁を申すのか?」

「尻を拭いた紙をそのまま残す道理はあるまいて?」

「それ等と同じことよ。」

 

『国と主を売り、民を裏切ったその先を考えたことは無かったのか?!』

 

「驚きだな、まさかあのゼロが『理想主義者』とは。」

「所詮、主や民などいくらでも代わりが効く。」

「それがこの世の『理』よ。」

 

「「「「ホホホホ。」」」」

 

『“ノーブルズ(貴族の)オブリゲーション(義務)”も知らないのか?! その考え方、腐っている! 貴族と聞いて呆れる!』*1

 

『ゼロ! 天子様が────!』

 

 ……

 …

 

「やめてぇぇぇぇぇ!」

 

 朱銀城から文字通りに攫われた天子はトラックのコンテナから黒の騎士団の斑鳩内にある重要人物用の個室に移る間、中華連邦の『外』を初めて目にした。

 

 そして洛陽は首都という事から都会だと言う事は理解していたが、想像では壁の外は豊かな緑に畑が広がっていると思っていた。

 

 しかし現実にはサバンナ────否。 荒野が広がっており、見るからに土地は疲れていた様子だった。

 

『哀しい』。

 

 それが天子にとって、初めて洛陽を出て現在の中華連邦に対して自然と浮かんだ感情だった。

 

 それからというもの、外部からの音は聞こえなくとも部屋の揺れ具合で『外で何かが起きている』と分かるし、何より『防音』といえども先ほど並べた通り『揺れ』や爆発による『振動』は伝わってくる。

 

 つまり天子には『()()()()()()戦が起きている』と理解するのは簡単なことで、()()()()()()周りの人たちが巻き込まれていると思い当たるのは容易だった。

 

「こんな戦い、もうやめてぇぇぇぇぇ! 私、戻るから! ()()()()()()からぁぁぁ!」

 

『天子』という役割を担う彼女でも所詮は10代の少女で、『余分なこと』をずっと一年と少し前まで知らなかった彼女は精神も肉体的にも実年齢の13歳より幼い。

 

「(あれは、天子様?! 何故甲板に出した?!)」

 

『今だ。 全軍、天子様を撃て。』

 

 星刻はトリスタンからの攻撃をよける間に超高性能天子様セコムレーダーによって何気なく斑鳩を見ると天子が出てきたことに驚愕し、大宦官の通信に星刻は神虎で無理やりトリスタンを引き剥がして一心不乱に天子の元へと向かう。

 

 

「この────!」

『────全黒の騎士団KMFに告ぐ! 星刻を通せ!』

 

「ぇええええええええ?」

 

 神虎の動きを見たベニオが動くよりも先に黒の騎士団専用の周波数から出てきたゼロの通信にベニオは気が抜けそうになる。

 

 

 大宦官たちの私兵による砲撃が斑鳩の甲板に出た天子に当たる前に神虎が文字通り空から降り、スラッシュハーケンの付いた手首を高速回転させて物理的な盾として天子に襲い掛かる実弾を防ぐ。

 

 星刻が取った行動で大宦官の私兵たちによる砲撃の9割は完封された。

 

「ぐ! 持ってくれ、神虎!」

 

 とはいえ元々KMFの防御能力は高くなく、元々神虎は『スペックの追及のテスト機体』という事から速度と高火力で敵勢力を翻弄することを前提にデザインされている。

 

 その為、高速回転するスラッシュハーケンの僅かな隙間を抜けた弾丸は次々と神虎の装甲を抉っては中身にまで確実にダメージを与えていく。

 

『(そう長くは機体が持たないか!) 天子様! 今の内にお逃げください────!』

「────その声、星刻────?!」

『────構わん、一斉砲火で天子ごと神虎を叩き潰せ────』

『────中華連邦の腐敗、ここに極まれり!』

 

 斑鳩の甲板でボロボロになり動けなくなった神虎が倒れる前に、オープンチャンネルと外部スピーカー越しにゼロの声が高らかに黒と金をメインカラーとした機体から宣言されながら赤い光の壁の様なモノを展開して砲撃を全て防ぐ。

 

 型式番号Type-0/0A、通称『蜃気楼』。

 ブラックリベリオン時にジェレミア卿のジークフリートを無理やり深海に沈めて水圧で倒した結果、太平洋でド座衛門になりかけたプカプカと水平線に浮かぶデブリ気分になっていたC.C.と共にサルベージされたガウェインを徹底的に解析して開発されたナイトメアであり、開発世代を敢えて定義するのなら『第八世代担当』。

 

 つまり『ラウンズ専用機と同等レベル』である。

 

 それだけでも目を見張る機体だが蜃気楼の恐るべき点は『ゼロ専用機』という事で、ナイトメアの『高速で攻撃を避けながら反撃する』と言った戦い方に真っ向から喧嘩を売っている所だろう。

 

 蜃気楼は『戦闘()()パイロットの保護』、『絶対的な防御』、『多彩な中と遠距離武装による攻撃』を前提にした()()()KMF。

 

 この『絶対的な防御』とは、ラクシャータがガウェインのドルイドシステムの処理能力をフルに活用させてようやく実現可能となった絶対領域『絶対守護領域』と、大層な名称を付けられたエネルギーバリアの事である。

 

『ブレイズルミナスのパクリやんけ』と思うかもしれないが、ラクシャータのキセルが飛んでくる前に付けたしたい点はブレイズルミナスと違って『絶対守護領域』の形成は変幻自在で防御性能はより高く、コードギアスの作中でも世界最高峰(に近い)防御力を誇る。

 

 実際、ハニカム構造の絶対守護領域はその気になればブレイズルミナスの応用であるルミナスコーン(ドリル)と似た使い方も可能としていて原作アニメではラウンズ4機の猛攻とモルドレッドの零距離シュタルクハドロンにも耐え抜いている。

 

 ただし効率的なシールド展開にはハイレベルな情報処理能力が必要になるため実質『ゼロ(ルルーシュ)専用機』であり、ブレイズルミナスと違ってシールドの発生源は外付けされた兵装ではなく機体本体という事から一時的な操作ミスで絶対守護領域の展開にも不調が出てしまう。

 

 あと接近戦用の武装が()()

 というか騎乗者であるゼロ自身のKMF操縦が(酷であるが他の者たちと比較して)あまり上手くないので接近戦は元から断念されている。

 

「消えろ。」

 

 弾頭を装填し直す隙に蜃気楼のバリアーが消え、代わりに胸が展開してひし形の結晶の様なモノが射出されると高出力レーザーが後から発射されて結晶に当たると乱反射して見事に大宦官の私兵たち()()が切り裂かれていく。

 

 接近戦闘の手段がない代わりに、搭載されている遠距離()()の一つである『拡散構造相転移砲』は()()極まりなく、大宦官側の鋼髏(ガン・ルゥ)もこの一撃によって20機ほどが大破する。

 

『さて……星刻、今度こそ私と組まないか?』

 

『だからと言って、部下に成り下がるつもりは無い。』

 

『無論だ。 君は国を率いられる()。 よって天子や貴公、弱者たる中華連邦の人民を救おうではないか!』

 

『そのナイトメア一機でか?』

 

『否! 何時だって戦局を変えたのは戦術ではなく戦略である! ………………………………一部の例外を除いて。

 

 ゼロは蜃気楼のドルイドシステムと絶対守護領域の応用で巨大スクリーンの様なモノを展開すると、彼と大宦官の間に行われた通信が流れ、画像は『涙を流しながら懇願をする幼気な少女(天子)と彼女を守る騎士たち(ゼロと星刻)ごと葬り去ろうとする大悪党(大宦官)たち』が写る。

 

『な、なんだこれは────?!』

『────緊急入電! 上海市内で、大規模な暴動が! い、いえ、上海だけではありません! 寿春、北京、ビルマ、ジャカルタ、イスラマバードからも次々と発生しています────!』

 『『『『────はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』』』』

 

 みるみると大宦官たちの顔色が白く(というか元々白かったので青く)なっていき、背景から焦る兵士たちの声で中華連邦内と支配下に置かれている周辺国数十か所で人民による暴動が多発していることに大竜胆(ターロンダン)内はパニックに陥った。

 

「(これは……もしやゼロは大宦官との通信記録を国中に流して、私のクーデター計画にあった『人民による一斉蜂起』を利用したのか?! 中華連邦に来て間もなく、あれだけの厳しい報道規制をこうも軽々と……)」

 

 星刻は思わず身震いをした。

 ここで少しネタバレをすると、中華連邦内の惨状はそこに住む一般市民にとって周知の事実なのだがインフラ整備が整っていない上に主な都市の外は世紀末的な無法地帯。

 

 よってジャーナリストなどが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな国を他国からわざわざ来てメリットも何もなく取材する物好きなどもいなく、中華連邦は僅か数人残った文官や武官たちの支えで何とか騙し騙しでここまでやってきていた。

 

 現在で言うところでの多発している紛争地域や民族の弾圧みたく、自国に何らかのメリットもなく問題を抱えている国への介入など()()()()()()()()()()()()である。

 

 よってここで星刻が感じた寒気とは、『この事件をゼロはどうやって政治利用するのか?』という懸念に対してだった。

 

「(ふむ、流石はディートハルトだな。 この短期間でここまで編集を行えるとは……実力だけで成りあがった元プロだけはある。 それにしてもこの編集の仕方、どちらが『悪』でどちらに『正義』があるか明らかだな。)」

 

 実は原作より万人向けに通信と画像が編集されていたのは、いくつかの要因が重なっている。

 

 簡単かつ簡潔に並べると『ランスロット仮面や悪役の演出が案外幼稚な割に思っていた以上に学園から始まってエリア11に反響したこと』、奇妙なことにルルーシュの『ジュリアス』だった時に行われた『EUの箱舟事件』の編集具合、あとは『スバルが大々的にゼロと似た流れでネモと名乗り出たこと』。

 

 等々。

 

『な、何をしている?! つ、通信を早う切れい────!』

『────だ、だめです! 入力が拒否されています!』

 

『『『『なにぃぃぃ?!』』』』

 

「フハハハハハ! (踊れ踊れこの道化ども、何せこの次に起きることで貴様らは更にどん底に落ちるのだからな。)」

 

 ルルーシュは長い間感じていなかった高揚感に身を任せ、蜃気楼の中でただ愉悦に浸って笑った。

 

『ブ、ブリタニアの者たちが引き上げていきます!』

『なんだと?!』

『ま、まさか我々を見捨てるつもりか?!』

 

 ルルーシュは画面越しに慌てふためく大宦官たちの様子に内心ほくそ笑みながら、撤退していくアヴァロンを見送る。

 

「(やはりそう動きますか、兄上。 引き時を心得ているな────)」

 

 ガシャアン!

 

『────し、星刻────?!』

『────ブリタニア(シュナイゼル)にも見捨てられたようだな、大宦官ども────!』

『────ひぃぃぃぃぃぃ?! ま、待て! 待ってくれ! 待ってください────!』

『────我ら大宦官は身を引く! だだだだから────!』

『────最後まで我が身大事か────!』

「────待て星刻!」

 

 ルルーシュは蜃気楼内の画面から神虎が大竜胆(ターロンダン)のブリッジに無理やり突っ込ませて今まさに大宦官たちに天誅を与えようとした星刻を制止する。

 

『何だ、ゼロ?』

 

「そいつらには聞きたいことがある。 大宦官どもよ、 紅月カレンはどこだ?」

 

『こ、コウズキ────?』

『────何の事だ────?』

『────いや、エリア11の名前っぽいから人か────?』

『────ワシに聞かれても────』

『────人事はお前の担当だろうが────?!』

『────それを言えば軍部は────!』

 

 大宦官たちは見事なまでにオロオロとしながらお互いに『知っているか?』と言葉を飛ばしながら擦り付けようとしていく。

 

『私が引き渡した紅蓮のパイロットだ。 (“交渉材料として手元に置け”とあれだけ言っただろうがこの腐れ外道共が。)』

 

 見かねた星刻は呆れながらも脱線をピシャリと防ぐ。

 

『あ、あの捕虜なら()()()()()!』

 

『……………………』

 

 星刻は貧血を起こしたのか、一瞬体がフラリとよろけるがすぐに彼は姿勢を正して険しい表情と共に殺気が漏れ出し始める。

 

『お前たち、その話は本当なのだな────?!』

『────ひぃぃぃぃぃぃ────?!』

『────ブ、ブリタニア宰相がナイトオブセブンを直々に来させたのだ! 間違いない! いえ、間違いありません!!』

 

 星刻の殺気に委縮したのか、腰が低くなった大宦官たちはビクビクしながら両手を上げる。

 

「ナイト……オブセブンだと? (スザクか……そうか、アイツがここでも────!)」

『────ゼロ! 扇だ!』

 

「(チ! よりによってもじゃもじゃ頭()か! こんな時に!) なんだ?!」

 

『撤退していくアヴァロンに、ものすごい速度で接近している所属不明の機体が近づいている────!』

────ハ? (そうか、機体なのは確かか? どの方向と速度で近づいている?)」

 

 ルルーシュはゼロの仮面の下で思わず建前と内心の声を逆にしてしまい、先ほどの星刻のように頭がクラっとした。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ここでブリタニア側に視点を移して時間を巻き戻したいと思う。

 具体的には中華連邦の大宦官からの軍事的介入要請を受け取る前、つまりシュナイゼルによってグリンダ騎士団が黒の騎士団が通ると思われるルートに送り込んだ後。

 

「外はあれからどうなっているのかしら?」

 

 カァン!

 

「マルディーニ卿曰く、グリンダ騎士団が中華連邦軍とは別に黒の騎士団を追っているとか……」

 

 アヴァロンの中でミレイとニーナは防音によって割と静かで耐衝撃性の高い居住区スペースで、ビリヤード玉を手で押す『なんちゃってスポーツ競技』で暇を紛らわしていた。

 

 カァン!

 

「あー、ミスっちゃったなぁ~。」

 

 カラァン、ガコッ!

 

「あ、入った!」

 

「流石ニーナね!」

 

「えへへへ……」

 

「そう言えばこういうの、昔から得意よね貴方? ね、何かコツとかある?」

 

「う~ん……玉の重さと距離と角度とテーブルとの摩擦に力加減が上手くかみ合っただけだよ? ミレイちゃんもしようとしたら出来ると思うわよ?」

 

「……私も一応そうしているんだけれどさぁ? どうも狙いが上手く定まらないのよねぇ~……」

 

 ニーナはご立派に成長したミレイ(の胸)を見て、何とも言えない表情とジト目をする。

 

「……ウン、ソウダネ。」

 

 ピロリン♪

 

「「え?」」

 

「記録、ありがとう。」

 

「「どう、いたしまし────って、ナイトオブシックス?!」」

 

「うん。 そうだけど、何?」

 

「「……そうですね?」」

 

 ニーナとミレイが振り返ると平常運転(ポーカーフェイス)なアーニャが居たことにびっくりする。

 

 理由は単純に、アーニャが今まで二人が見てきた他のラウンズと違って癖が強い印象があまりにも()()()()からである。

 

 個性の話となると『強い』のだが、アーニャのどこか冷めた口調に口数の少なさは他の凛としていたり、自己主張や背景歴史が目立つラウンズとかけ離れている。

 

 強いて言えば15歳ということで『最年少でラウンズ入り』したことと、皇室への出入りが可能なほど名門貴族であるアールストレイム家だと言う事ぐらいだろう。

 

「あ、二人ともここにいたんですか────?」

「────あ、スザク。 “ロイド伯爵の顔色が悪くなっていた”と聞いたけれど、ランスロットは大丈夫なの?」

 

「ッ。 あ、ああ。 フロートユニットと装甲が少しえぐれただけだよ、ニーナ。 それに黒の騎士団は中華連邦軍が追っているから、今の僕たちは『待機』なんだ。」

 

 一瞬ミレイではなく、ニーナから声がかけられてことで戸惑うがスザクはすぐに頭を切り替える傍でアーニャは携帯への入力を続ける。

 

「ん? 記録の整理かい?」

 

「うん、()()。」

 

「「(“記憶”って……)」」

 

「……見る?」

 

「じゃあ、遠慮なく。」

 

 ハテナマークを浮かべるミレイとニーナを横に、スザクにアーニャが見せるのは以前に開かれた歓迎会のあらゆるシーンだった。

 

 コーンドッグの物珍しさに、一つの揚げ籠ごと買ってはむしゃむしゃと頬張るジノに一括でそれらを買った彼にほれ込む女生徒たち。

 

「(ジノ……なにやっているんだよ……)」

 

 水着メイドカフェでノリノリの水泳部ミーヤ・ヒルミックが恥ずかしがるヴィレッタを無理やり人前に連れ出すシーン。

 

「あれ? この人誰?」

 

「あー、ニーナは知らないわよね。 新しい体育教師で、一年前の事件で生徒と教師が結構変わったの。」

 

『世界一のピザ』宣伝に励むリヴァルにジ~ッと『世界一のピザ』用の自動オーブンを物欲しそうな目やよだれを出す表情を浮かべるタバタッチーズ。

 

「きゃぁあああ! 何これ可愛い!」

 

「あー、スヴェンが企画した出し物の一環。」

 

「昔からニーナ、こういうモノ好きだったわよね?」

 

 水着メイドカフェの交代時間でルルーシュと見回れることに浮かれすぎて着替え室に忍び込んだミレイに気付かず彼女の強引な『胸サイズチェック』の餌食となるシャーリー。

 

「……ミレイちゃん。」

 

「あはははは~。」

 

 スザクは目をそらし、ニーナはジト目で冷や汗を流すミレイを見る。

 

 アーサーとブスカワな着ぐるみ(ペロリーナ)をMR-1の前から抱えて逃げるスザク。

 男子トイレらしき場所で慌てふためくロロ&男子生徒たち。

 

「ちょっとこれ、男子トイレ?!」

 

「うん。」

 

「“うん”って……流石にこれはだめだよアーニャ。」

 

「なんで?」

 

「え。」

 

「何でダメ?」

 

「えっと……だからその……」

 

「「(あのスザク/スザク君が気圧された?!)」」

 

 最後に────

 

「あ。 ルルーシュに……これはスヴェン?」

 

 ────学園の屋上テラスと思われる場所でどういうワケか落ち込んでいる様子のルルーシュを元気づけようとするスヴェンの写真にスザクは口を開けて話題を切り替える。

 

「へぇ~、ルルーシュたちもこんな苦労する顔をするのね?」

 

「あ、ほんとだ。」

 

 ミレイとニーナが珍しがって目からハイライトが消えかかっているルルーシュとそんな彼を元気づけようとする様子のへコメント付け足す。

 

「『ルルーシュ』? 『スヴェン』? この二人、スザクたちの知り合い?」

 

「え? うん。 あ! 会長、学園への連絡が出来る許可が出たので────」

 

 スザクとミレイの会話の横で、アーニャは携帯電話を弄る。

 

「(ふ~ん……『ルルーシュ』に、『スヴェン』────)」

「────お~い!」

 

 写真を見ていたアーニャの考えを遮るかのようにジノが現れ、中華連邦からアヴァロンの移動許可が出たことを伝えてくる。

 

「ジノはやっぱりトリ(頭)。」

 

「だから何だよそれ?」

 

 数時間後、『紅蓮が中華連邦によって捕獲された』と聞いたシュナイゼルはそのタイミングで星刻のクーデター作戦の証拠を大宦官に提示したタイミングでブリタニアに正式な『反乱軍の鎮圧』という名目で軍事介入の許可を出した。

 

 反乱軍(星刻派)の排除をブリタニア軍が受け持つ代わりに、シュナイゼルは紅蓮とそのパイロットの引き渡しを大宦官たちに要求することとなる。

*1
コードギアスの世界ではEUの事もあり『ノブレス・オブリージュ』の代わりに『ノーブルズオブリゲーション』となっています



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第218話 ソレは夜空をかける凶星

……………………………………お読みいただきありがとうございます! 楽しんで頂ければ幸いです! (;゚∀゚)=3ハァハァ


「僕が、ですか?」

 

 シュナイゼルに呼び戻されたスザクは中華連邦から紅蓮とパイロットの受け渡し作業を頼まれ、困惑と戸惑いの混ざった表情で上記の気の抜けた声を出す。

 

「紅蓮のパイロットと君は、クロヴィス殿下がエリア11の総督だった時から浅からぬ因縁を持つと聞いているからね。 それに、機体だけでなくパイロットもかなりの能力を持っているだろうから君に頼みたい。」

 

「…イエス、ユアハイネス。」

 

 スザクはアヴァロンのブリッジを後にし、曇った気持ちのまま格納庫にあるランスロットに再び騎乗すると珍しくロイドが開いているコックピット内のスザクに声をかけてくる。

 

「珍しいね?」

 

「え?」

 

「紅蓮と君、これまで何度も戦ったからねぇ……やっぱり複雑かい?」

 

「そう、ですね。 “珍しい”と言えば、ロイドさんがこうやって話しかけてくるのもそうですよね?」

 

「う~ん……紅蓮はラクシャータが作ったからねぇ。 やっぱりさ、気になるんだよねぇ~。」

 

「ロイドさん、聞いていいですか? ロイドさんとセシルさんたちって、ラクシャータと知り合いなんですよね?」

 

「うん? 大学時代、マッド博士の元で同じゼミ仲間だったけれど? ああ、そう言えば恋人ごっこもやっていたっけ!」

 

「へぇー、恋人ごっ────え。

 

 ロイドの暴露した言葉にスザクはギョッとして思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「あ、今のナシ。」

 

「……」

 

「今の他の人に言っちゃダメだよ~?」

 

「……はい。 (ロイドさんが、『恋人ごっこ』?)」

 

 スザクは無数のハテナマークを頭上に浮かべた宇宙猫顔のままランスロットの簡易チェックを済ませてからアヴァロンを出る。

 

「ロイドさん、スザク君に何を言ったの?」

 

 そんなスザクの様子を見ていたセシルは彼の急変具合に当たりを付けて原因(ロイド)を問い詰めていた。

 

「あー、大学時代の時をちょっとね。」

 

「大学時代って────」

「────ラクシャータとの話さ♪」

 

「(『プリン伯爵』と呼び始められたきっかけの)『アレ』ですか。 」

 

「んー、まぁ……そこまでじゃないけれど、そだね。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「では、確かに引き渡した。」

 

「……ハイ……確認と、引き渡しを認めます。」

 

 スザクは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、中華連邦から渡された書類に署名をしてチラリと横目で車椅子の上で拘束衣に身を包まれながら熟睡している様子のカレンを見る。

 

「ああ、()()ですか? 機体から引きずり出した時、ひどく錯乱していて暴れので、麻酔で無理やり鎮圧させました。 今は眠っているとはいえ、身一つで9名ほどの同士に重傷を負わせたので油断はしない方がいいですよ?」

 

「忠告……ありがとうございます。」

 

 ぎこちない返事をスザクがすると中華連邦の兵士は紅蓮がアヴァロンの格納庫に降ろされたのを確認してから、他の者たちと共に輸送用ヘリに戻ってはその場を後にする。

 

「(……………………何を、やっているんだ俺は。 こんなんじゃ、あの時と……ルルーシュの時と同じじゃないか────)」

 「────やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ちょっとロイドさん?!」

 

 スザクのドンヨリとした内心を無視した歓喜に満ちたロイドの声と慌てるセシルの声が遮り、スザクは出来るだけ内心を押し殺す。

 

「さぁさぁさぁさぁさぁセシル君! とっととこれのデータを集めるよん♪」

 

「はいはい……パソコン、繋げますね? それにしてもパイロット、スザク君とあまり変わらないわね……(やっぱり似た者同士の所為かしら?)」

 

 セシルはそう思いながら紅蓮の周りをシャカシャカと動き回りながら装甲に頬ずりをしたり、破損したことでむき出しになった内部をどこからか出した虫眼鏡で観察しながら興奮する大人の容姿をした子供のロイドを見てため息を出す。

 

「はぁ~……」

 

「うん? どうしたんだいセシル君? ため息なんて珍しいね♪ 綺麗な顔が台無しだよ?」

 

「え。 そ、そんな! “綺麗”だなんて────」

「────シワができやすくなっちゃうよ────」

 「────今のどこが失礼か教えて差し上げましょうか?」

 

「まずはその手に持ったレンチを降ろして。」

 

 

 スザクは熟睡するカレンをアヴァロン内にある独房エリアまで見送り、船医が容体に異常がないかをチェックし終えるまで付き添ってからランスロットに戻ろうとして思わず足を居住区スペースへと運ばせていた。

 

「あら、どうしたのスザク?」

 

「ミレイ会長? (あれ? いつの間に僕はここに……)」

 

「顔色、悪いよ?」

 

「うん、その……紅蓮をパイロットと共に、中華連邦が引き渡してきたんだ。」

 

「え。」

 

「そうなんだ!」

 

 ミレイはびっくりし、逆にニーナは嬉しそうに安心する表情を浮かべた。

 

「良かった~、黒の騎士団の中でも一番厄介とされている紅蓮が捕まったのならこれで一安心できるね! って、どうしたの二人とも?」

 

「ニーナ……紅蓮の機体だけじゃなくて、パイロットも中華連邦から送られてきたのよ?」

 

「え?」

 

「それにその……パイロットは僕たちの知り合いなんだ。」

 

「…………………………あ。」

 

 ニーナは複雑そうな顔をするミレイとスザクの言葉で、ブラックリベリオンで兵器化したフレイヤで紅蓮のコックピットを開けて自分を止めようと声をかけてきたパイロットがカレンだったことを思い出してシュンとする。*1

 

「ごめん、その……えっと……パイロットは……どう、なるのかな?」

 

「恐らく、重要な捕虜として扱われると思います。」

 

 スザクの返答に、ニーナは更にシュンとしてしまう。

 

 現在の世界ならばいざ知らず、価値観が一昔前のまま技術が進歩したコードギアスは未だに『男尊女卑』が成り立っている。

 

 そのおかげか同じ職でも性別による格差や扱いは当然存在し、ヴィレッタやギネヴィアなどの『地位』や『権力』が高い女性の性格が表面上、きつくなってしまうのも自然である。

 

 余談だがノネットはコーネリアでさえ手も足も出ないほど圧倒的な物理で相手を黙らせているので『例外中の例外』。

 

 話を戻すと『男尊女卑』という事と、『条約』や『法』などがあやふやな(というか無いに等しい)戦時下では特に()()()()()()が起きるなど日常茶飯事。

 

 皮肉にも、ナポレオンが独裁者にならなかったことでEU内は女性に対して扱いがまだマシだった。

 それでもスマイラスの死をきっかけにユーロ・ブリタニアとブリタニアが本腰を入れた猛攻の前にEU軍は敗北を重ね始めたことで、脱走兵や指揮系統から外れて兵士としての規律を乱す行為を行いながら『義勇軍』と自称する者たちが目立ってきているが。

 

「ねぇスザク? 『司法取引』とかって出来ない?」

 

「一応、ラウンズだから掛け合うことはできるけれど……ほら、うやむやになったけれど僕も一応『罪人』だったからさ?」

 

「あ……」

 

 スザクは苦笑いをしながらそう言うと、ニーナは当初そんな彼を怖がって避けていた自分を思い出してしまう。

 

「「「……………………………………」」」

 

 時は大宦官の醜態がゼロと画像データを編集したディートハルトにより、中華連邦全土に流れる少し前の事であった。

 

 ……

 …

 

「……なるほど。 ここまで読んでいたとは流石はゼロだよ。 (それにしても────)」

 

 シュナイゼルは感心の言葉を口にしながら、中華連邦全土に報道されている映像を写している画面を見る。

 

 そこには国の主である筈の天子を軽んじ、彼女や民の命を軽視する大宦官たちの声と画像があった。

 

「撤退するよ、カノン。 別行動中の天空騎士団(シュバルツァー将軍たち)にも通達を。」

 

 シュナイゼルは『してやられた』という感じの口調とは裏腹に、表情はゆったりとした笑みを浮かべていた。

 

「は?」

 

 カノンはポカンとした。

 

「し、しかし殿下!」

「今黒の騎士団の主力は地上部隊!」

「空爆を行えば────!」

 

 そしてアヴァロンの艦長や士官たちが抗議を上げ始めるが、シュナイゼルは手を上げてそれらを黙らせる。

 

「……君たちの言い分は分かる。 今、黒の騎士団は虫の息で彼らを排除する絶好のチャンスであることも。 だが我々ブリタニアは、中華連邦の代表である大宦官によって『反乱軍の鎮圧』という名目で軍事介入を許されていた。 だが大宦官たちは国から────民衆から見放された。 よって我々には行動を続ける大義名分はない。 これ以上は『私的行為』とみなされ、それを咎めなければブリタニアは信頼を得られなくなってしまう。」

 

「「「……」」」

 

「無論、彼ら大宦官をブリタニアに入れる前提も崩れている。 撤退だ、艦長。」

 

「……イエス、ユアハイネス。 舵、進路280へ!」

 

「280!」

 

「フゥ……(やはりこのやり取りに胸の高鳴り、ルルーシュの事を連想するよ。 だが紅蓮とパイロットを────)」

 

 ────ビィー!

 

「方針、080から飛行物体が急接近中!」

 

 反転中のアヴァロンのブリッジ内に警報が鳴り響き、クルーの間とシュナイゼルたちに再び緊張感が走る。

 

「……反応に照合無し────!」

「────ミサイルではありません────!」

「────識別反応無し────!」

「────なぜもっと早く探知できなかった────?!」

「────未確認物体の速度……え────?」

「────どうした────?!」

「────未確認物体の速度、グランベリーと()()です!」

 

 これにより、アヴァロン内のブリッジはざわめいた。

 

 何せ観測器が間違っていなければ、例の未確認物体はエナジー伝達効率の最適化によって未だに『世界最速の航空浮遊艦』を誇るグランベリーの時速約960kmで飛来して来ているということになる。

 

 余談でソキアの『スピードスターズに改名しようぜい!』は却下されている。

 

「今すぐ残っているヴィンセント・ウォードとトリスタンを出撃させて迎撃。 モルドレッドにはシュタルクハドロンの使用許可。 枢木卿のランスロットは物体の来る方向とアヴァロンの間に配置して防衛線を。」

 

 シュナイゼルは先ほど感じていた高揚感とは違う、背中がザワザワとする意味不明な感覚に戸惑いながらも的確な指示を出していく。

 

 ……

 …

 

「へぇ、あれか。」

 

 フォートレスモードのトリスタンの中にいたジノは何時もの様子で興味をそそられていた。

 

「(確かに速いけれど、“()()()()()()()()()”ってのは本当かな?) それに本当だとしても、速いならばそれなりの対策は出来るさ!」

 

 ジノは迫りくる光に対してフォートレスモードのままハドロンスピアーを撃ち出すと、未確認物体は進路変更をしてそこをヴィンセント・ウォードたちに狙い撃ちされる。

 

 だがアサルトライフルとロケットランチャーは避けられ、未確認物体────(ジノたちから見た)所属不明のKMFらしき機体は両手に持っているオートマチックの散弾銃で撃ち返す。

 

 上記で『散弾銃』と呼んでいるが、それ等が打ち出すのは散弾ではなくスラッグ弾であり容易にヴィンセントたちの装甲を打ち破っていく。

 

 トリスタンは両腕に装着されたブースター付きのメギドハーケンで所属不明のKMFの動きを誘導させ、元々のデザインと本人の希望で可能となった一秒未満の空中変形中にスピア型のMVSを所属不明機の飛行経路に正面から突き出す。

 

「何?!」

 

 “100%当たる。” そうジノが思った矢先に、トリスタンのMVSが敵機の装甲を抉ると装甲が派手に内側から弾け飛び、MVSの軌道が無理やり外される。

 

お前に用はない、()()()()()()()()()()()()。』

 

「ッ。」

 

 ガァン!

 

 敵機からの短くて冷たい通信にジノは息をするのも忘れるぐらい頭が真っ白になり、気が付けば敵機が持っている散弾銃らしきものが向けられていたため機体を避けさせるが、フロートシステムを撃たれる。

 

「変な装甲ごと落とす────」

 

 ────ドゥ!

 

 所属不明機が第二防衛線を張っていたモルドレッドへと向かうと余波も含めた射線上からトリスタンが外れた瞬間、アーニャは即座にシュタルクハドロンを撃つと所属不明機は予想通りに減速を────

 

「ッ。」

 

 ────しなかった。

 するどころか、逆に加粒子砲のビームを掠る程度の軌道修正を()()()()()()行って装甲が更に削ぎ落されていく間に散弾銃をモルドレッドに向けて連発し、残弾が無くなったのか銃を捨てる。

 

「無────」

 

 全方位型のブレイズルミナスによって攻撃が弾かれ、アーニャが『無駄』と言い終える前に外部装甲が剥がれて内部が露出するボロボロの所属不明機────村正・陽炎タイプがモルドレッドのブレイズルミナスを足場にしながら空になった銃の代わりに、サブアームで武装交換した長刀でシールドを突く。

 

 ガンッ!

 

「こいつ?!」

 

 長刀はモルドレッドのブレイズルミナスを貫くとシールドがガラスのように割れ、そのままフロートシステムに支障が出て高度の維持をしにくくなったモルドレッドが落ち始める。

 

 アーニャは小型ミサイルの照準を村正・陽炎タイプの背後に合わせるが、画面上に『Out of Range(射程距離外)』という表示が出てきたことでフロートシステムの再調整を行う。

 

「(早い……まるで本気のノネット────!)」

 

 

 

『────クルルギ卿、殿下の命により急遽艦内に残っているヴィンセント・ウォードの増援を発艦します!』

 

「(ジノもアーニャも相当腕が立つというのにもうここまで来たのか?!)」

 

 出撃要請を受けたスザクはランスロット・コンクエスターのVARISを連発すると、村正・陽炎タイプの外装が剥がれ落ち、その下にある骨格の様な部分が所々剥き出しになる。

 村正・陽炎タイプは横へ避けながら『お返しに』とばかりに、サブアームを使って背中から取った銃を撃ち返す。

 

 ランスロットは村正・陽炎タイプの前方を阻むため前に出るが、村正・陽炎タイプは横へと移動すると二機は並行にアヴァロンの周りを器用に飛び回り、村正・陽炎タイプは長刀を捨てて両手に銃を取り、サブアームで両肩に展開させたロケットランチャーでランスロットに狙い定めて撃つ……かのように見えていた。

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────?!」

「────ヴィンセントが────?!」

「────カタパルト被弾!」

 

 ロイドは急発進して飛ぼうとするヴィンセントが大破して更に追い打ちをかけてきたもう一発のロケットで被弾するカタパルトの景色に絶叫し、セシルや他のクルーたちは背筋がゾッとする。

 

「(このブレイズルミナスを知り尽くしているような動きに戦い方、まさかシンジュクの────)」

「────シールド展開────!」

「────いない?!」

 

 アヴァロンの艦長によりブレイズルミナスが展開されるが村正・陽炎タイプは銃を捨てて背中の換装パックからベニオ機が装着していたような輻射波動機構を腕に装着してはそれをアヴァロンの機関部目掛けて打ち出す。

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッ!

 

 一瞬だった。

 

「今度はなになになになになにィィィィィィィィィ────?!」

「────アヴァロンの第一機関部に火災! 一時停止します!」

 

 スザクは()()()()()で視界から消えた村正・陽炎タイプが()()()()()()アヴァロンの後方へと移動しながら攻撃していた光景に困惑しながらも後を追う。

 

「(今の動き……ギアス?! だとしたら、中に居るのはギアス能力者? だけど今よく見たらボロボロとはいえ機体はブス子(毒島)の物に見える……一体どういうことだ?)」

 

 

 

 ガタッ!

 

 これを見て、席から立ち上がったシュナイゼルにカノンはビックリする。

 

「殿下?!」

 

「(これは、なんだ? あり得ん……まるで物理法則を無視したこの動き────)」

『────殿下! 敵がアヴァロンの機関部に……あれはまさか、地雷────?!』

 

 スザクの通信を遮るかのようにアヴァロンに文字だけの通信が入る。

 

2分以内に紅蓮とそのパイロットを射出セヨ。

 

「ま、まさか────」

「────黒の騎士団────?」

「────だがこんな機体、データバンクに無いぞ?」

「もしや……新型?」

「それにラウンズをすり抜けるあの動き……」

「まさか……噂の?」

 

 外部に漏れることは無いが、シュナイゼルの前ということでヒソヒソとクルーは話し合いながらアヴァロンの外部カメラ越しに見たのはボロボロでひび割れた装甲の下から漏れた黒い潤滑油などの液体がどす黒い血液のようにこびりつき、無茶な機動か摩擦熱の所為か蜃気楼のように機体周りの大気がゆらゆらと蠢き、頭部の『骨格』とも呼べる部分は骸骨(ドクロ)の様だった。

 

 その姿は、まるで怨霊────

 

「────やぁ。 君が噂になっている『幽鬼』かい?」

 

「「「「「殿下?!」」」」」

 

 シュナイゼルの異様なまでの落ち着きようにはカノンでさえも驚愕の声を出してしまう。

 が、当の本人は無視するどころかいつものニコニコとした笑みを崩さずに言葉を続ける。

 

「私はブリタニア帝国、第二皇子の────」

【────残り1分45秒。 以後の通信は無い。

 

 シュナイゼルの自己紹介を無視して、無慈悲に画面の文字が更新される。

*1
81話より




暑すぎだったこととリアルのイザコザでここまでしか書けませんでした、申し訳ないです。

スバルが乗っていると知ってリア・ファルが送った換装パックや今話で出てきた武装の経歴は次話で出す予定です。

あと『皇族殺しのヴァインベルグ』も。

ロイドの言ったことに関しては独自設定です。

???:へっへ、ルビコン作戦は成功だぁ~
作者:あまりの暑さに雪が恋しくなったというのか……


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第219話 プレスティッシモ、ポッシービレ

大変長らくお待たせいたしました、勢いで書いた次話です!

活動報告でのお気遣いの返信、誠にありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです!


「私はブリタニア帝国、第二皇子の────」

【────残り1分45秒。 以後の通信は無い。

 

 自己紹介で介した話術での時間稼ぎと注意逸らしがバッサリと切り捨てられた後のシュナイゼルが出た行動は素早かった。

 

「カノン、さっき引き渡しに出たばかりで申し訳ないけれど、紅蓮をランスロット(枢木卿)で運び出す指示を。 ルートは────」

 

「────ッ。 紅蓮のパイロットは如何なされます?」

 

「第一機関部が停止している今のアヴァロンは辛うじて高度を保っているだけだよ、今背を向ければ黒の騎士団に噛み付かれる可能性がある。 何とか振り切って天空騎士団(グリンダ騎士団)と合流しても手負いになるだろう。 そんな中、交渉カードを一気に二つとも手放すのはナンセンスというモノさ。 まずはロイドたちを紅蓮から引きはがして、彼含めたキャメロットの者たち全員を機関部の修理に専念させれば紅蓮のパイロットを引き渡す時間内に修理は間に合う筈。」

 

「わかりました────」

「────ああ。 それと()()砲門をこの照準に合わせて、必要ないかもしれないがエニアグラム卿へは()()()()()()()()と通信を送る用意をしてくれたまえ。」

 

「……え────?」

「────()()()の為だよ。」

 

 シュナイゼルは緊張感が高まっているこの状況にゾワゾワとする背筋の感覚を味わいながら淡々と思考と行動を止めず、現状の為に脳内整理に使う『棚』からとある科目を集めた一覧表を引きずり出す。

 

 

 

幽鬼(レヴナント)』。

 

 シュナイゼルが上記の名称を初めて見たのはユーロ・ブリタニアの外堀を埋める点に国と個人の調査をカノンなどの文官に頼んでからだった。

 

『四大騎士団』とやらの戦力を見極めるために受け取った報告書の中で、『元ナイトオブツーであるミケーレ・マンフレディが不自然な死を告げて彼の聖ミカエル騎士団が代替わりした』という事から始まった。

 

 と言っても目を軽く通した程度で、元々はマンフレディ卿が旧知であるヴェランス大公の元に向かう際に持ち去った機体の『サグラモール』をシュナイゼルが危惧していたからだけである。

 

『サグラモール』とは、マンフレディ卿がブリタニア帝国からユーロ・ブリタニアに異動した際『ヴェルキンゲトリクス』と改名している『陸戦特化型の試作機』とも呼べる代物で、その戦闘能力はそれまで既存していたKMFと一線を画すほど。

 

 亡国のアキト編では乗り手であるマンフレディ卿が急死してシンに譲られたが、彼が見せたのは機体の一部のポテンシャルのみである。

 

 ただし『試作機』であるため使われている駆動システムがフロートユニットやシステムと干渉を起こして不安定になるので空輸が出来ない、そして運用に大量のサクラダイトを消耗するというデメリットがあった。

 

 それでも警戒するに越すことは無いと思ったシュナイゼルが報告書で見たのは『ハンニバルの亡霊』とユーロ・ブリタニアがあだ名をつけた、あまりにもEUらしくない特殊部隊の動きと活動とそんな者たちを一網打尽にするスロニムでの作戦。

 

 聖ミカエル騎士団の中でも名高いアシュラ隊と、シン自身が奇襲をかけたにも関わらず撤退せざるを得なかった戦闘記録の映像を見たとき、シュナイゼルはふとこう思った。

 

『このボロボロの機体の動きをどこかで私は見たことがある?』、と。

 

 そこから彼はスザクが初めてKMFに騎乗したランスロットのデータベースから、シンジュク事変時の映像記録を出して見比べると『やはり似ている』という考えが強まったがそんな矢先に様々な事件が多発した。

 

 1、『ユーロ・ブリタニアとEUの弱体化と内政混乱。』

 2、『ペンドラゴンでテロ事件発生。』

 3、『ミルベル夫婦がシュタイナー・コンツェルンを辞職した。』

 4、『ラビエ親子が兵士強化スーツの研究が難航していることから身を引くと宣言すると同時に姿を消した。』

 5、『1に刺激されたかのようにブリタニア帝国の植民地でテロ活動が活性化する予兆。』

 

 

 これらの対応に思考を巡らせるために『幽鬼』という科目はシュナイゼルの脳内に留めようとしたが、自分でも把握していなかった『皇帝直属の軍師ジュリアス・キングスレイ』に関する報告書によると『まるで幽鬼に先回りされているような対応』ということで興味が湧いた。

 

 この時はあくまで『興味』であり、『気にする案件』ではなかったが。

 

 何せ『幽鬼』が本当にいたとしても、所詮は一機(あるいは一人)。

 戦術で戦略が覆されるのは()()()()()()()()()()()()()()()()し、戦略の要は如何に開戦前に情報を所持しているかで左右される。

 

 よってシュナイゼルは自国の案件に取り掛かった。

 

 1についてはシンとの密談とヴェランス大公の調べである程度予測もしていたし、交渉相手が生死不明となったシンからヴェランス大公に変わっただけなのでスムーズに行えるだろう。

 

 2、3、5は全て共に関連している案件なので一挙にくくれば対応できるものばかりだった。

 

 確かに3のミルベル夫婦が抜けたことは痛いが、その対策として元特派をより大きくしたキャメロットで補える。

 丁度いいタイミングで2と5が連鎖して起き始めたことを大義名分として手元に置いていたマリーベルに皇女としての身分を戻すと同時に彼女の対テロ部隊の発足に、前からキャメロットが欲しがっていた新しいシステムや技術の試験用環境としてマリーベルの部隊(グリンダ騎士団)を活用できる。

 

 それに2は現在の帝国上層部が皇族や皇族の親族で埋まっていることをよく思っていない貴族派によって引き起こされた騒動だと言う事は既に調べと裏付けがついているので、証拠をチラつかせればブリタニア本土と新大陸で立派に活用できる脅迫材の一部に出来る。

 

 4のラビエ親子は前々から企画していた『KMFの時代に歩兵部隊の存在意義』、あるいは『脱出後の騎士(パイロット)の補助』と言った用途で開発を進めていたが、本人たちがあまり軍用化に乗り気ではないこともあってさほど目立った進行もなく、その少しあとにやはり予想通りにグリンダ騎士団の活躍で如何に戦場が『陸』という二次元から『空』を含めた三次元的なモノに変わったことから重要視することではなかった。

 

 そんなこんなで燻っていた反皇帝派のテロの刺激と、対応せざるを得ないグリンダ騎士団の活躍によってブリタニアの威厳宣伝に自作自演に近いセントラル・ハレー・スタジアム事件にまたも『幽鬼』と思われしき者が現れた。

 

 よりにもよって、試作機としてグリンダ騎士団に送ったヴィンセントでしかも(スザクに更新されるまで)歴代で一位のKMF操縦技術を持つマリーベルと見事な連携と機動戦を披露して。

 

 そこからシュナイゼルはマリーベルだけでなく、グリンダ騎士団に違和感を持ったことで独自に調べ上げれば調べ上げるほどに不可解な点が出てくる。

 

『明らかに黒の騎士団とは別の組織と接触している』、と。

 

『マリーベルなりの暗躍だろう』と思い、それなりに根回しをしている最中に今度は黒の騎士団が見事100万人ほどの旧日本人を引き抜いて中華連邦に亡命したことで以前から練っていた『オデュッセウスと天子の婚姻計画』を早めて無理やり黒の騎士団と中華連邦の星刻たちを触発し、表の世界へと引きずり出した。

 

 ブリタニアが持つ最先端の技術を積み込んだ第七世代KMFと、第八世代KMF相当の性能を持つラウンズたちにグリンダ騎士団の天空騎士団艦隊は戦略的に申し分ない戦力……()()()()

 

 それ等を敷いた防衛ラインを一機だけにこうも突破されてアヴァロンに傷を付けさせるなど、()()()()()だった。

 

 アヴァロンの画面にはランスロットが紅蓮の機体を甲板に出し、『幽鬼』と対峙するかのような光景が広がっていた。

 

「あの、殿下────」

「────ロイドが抗議しているならばセシル・クルーミーに対応をお願いすれば問題ない。 その間、他の者たちは第一機関部の修理に回してくれ。」

 

 ……

 …

 

「……ぅ。 (いかん、いつの間にか気を失っていたか。)」

 

 毒島は酷い頭痛と痛みで軋む体に意識が戻り初め、ようやく目を開けてボンヤリとする焦点を合わせるために瞬きをしながら今まで見たことを脳内で整理しようと試みた。

 

「(スバルの操縦……なんだったのだ? マーヤは『』やレイラにアンジュたちから『』 時々機体が見せた速度と揺れ方、まるで空気抵抗が無くなったような……それに、ここはアヴァロンの甲板────?)」

 

 ガコォン。

 

「(────あれは、ランスロットに……紅蓮?)」

 

『紅蓮のパイロットを今連れてきている。』

 

「(この通信、脳筋小僧(スザク)か……ということは、やはりこれは全て紅月君の為に?)」

 

 毒島は徐々に覚醒していく意識で更に思い返す。

 

「(確か……()色の機体たちを操っていた本体を抜けて、リア・ファルから試作品の装備換装パックが送られたな……まさか本番で、やるとは思わなんだが。)」

 

 

 

 実はこの装備換装パック、スバルが以前ヴァイスボルフ城の防衛時に見せたことをインスピレーションにアンナたち技術部が新開発した一部だった。

 

 あの時の機体はほぼ無理やり兵装を詰め込み過ぎた結果、機体のサイズが一回りに大きくなったうえに弾倉が底をつけば戦う手段が限られてしまいとてもではないが並みのパイロットが扱える代物ではなかった。

 

 よって彼の開発した機体の一般化(デチューン)と共に、『如何に機体補給を戦闘中に行えるか』を考えた先で出たのが『簡易フロートシステムを兼ねた補給を機体に送り届ける』というモノだった。

 

 決してラクシャータの紅蓮可翔式・強襲型が太平洋で見せた所業の所為ではない。

 

 ……多分。

 

 そして今時珍しく、安定した出力を供給するサクラダイトの代わりに瞬発火力に長けている火薬を使う兵装に目を付けたウィルバーにより武装はエナジー切れを心配せずに高火力を期待できる物で揃えられた。

 

 様々な弾丸タイプが装填できて構造がシンプルなおかげで歩兵からKMFサイズにアップスケールされたオートマチック式のショットガン、火薬とサクラダイトを使ったハイブリッド式のロケットランチャー、直鎖状に繋げられた遠隔操作可能なKMF用の手榴弾(ケイオス爆雷の棒状ではなく吸着ディスクタイプ)等々と、現実主義者のロマンチストであるウィルバーを知っている者たちからすれば彼なりに許容した武装等である。

 

 現状ではこの様な換装パック兼補強パーツだけを数個試作され、スバルが見ていたらツッコミが間違いなく飛んでいただろう。

 

 毒島たちがそれを知る由もないが。

 

 

 

 紅蓮が運び出されて少しした後に、拘束衣のまま寝ている様子のカレンがアヴァロンの艦内から運び出されてボロボロのままである紅蓮の中に入れられると、先ほどから一言も言葉を口にしていないスバルが発する緊張感がごく僅かに揺らぐ。

 

「(……カレン。)」

 

 スバルはそのまま紅蓮を村正・陽炎タイプで運び出し始め、アヴァロンから飛び立つ機体をランスロットの中にいたスザクは内心ほっとする。

 

「(よかった……これで────)」

 

 ────ドゥ!

 

 スザクやアヴァロンのブリッジクルーがホッとしたのも束の間、急に艦に備えつけられた砲門の一つが村正・陽炎タイプを背後から撃つ。

 

「な?! 当た────え?!」

 

 スザクは驚愕から思わずランスロットを動かす為に操縦桿を動かそうとしたとき、彼は自分の目を疑った。

 

 どういうワケか、アヴァロンの76mm単装砲のトレーサーは()()()()()()()

 

「(この感じ……どこかで────)」

 

 ────ドガァン

 

 同時にアヴァロンの後方で爆発が起こり、アヴァロンの船体が揺れながら高度が落ちていく。

 

 

 

「出力を上げろ────!」

「────ダメです! これ以上は第二機関部も停止を────!」

「────シールドの出力を回せ! 艦が落ちれば元も子もない────!」

 

 言うまでもなく、アヴァロン内のブリッジはパニックに陥っていた。

 

 最初は『ユーロ・ブリタニアから流れている噂の幽鬼がアヴァロンを襲ってきた』緊張と、背中を見せたことをきっかけに単装砲を誤って撃ってしまった兵士に対してのショックだったが、次は『当たる』と思っていた攻撃が当たらなかったことへの困惑、そして極めつけは攻撃に対しての報復で高度維持が困難な現在。

 

 これ等にシュナイゼルの側近として色々見てきたつもりのカノンでも動揺しながら指示を出していたそんな中────

 

「♪~」

 

 ────シュナイゼルはいつも以上に涼しい顔のまま、鼻歌交じりに近くの端末に目を向けていた。

 

「(さて、そろそろだね。)」

 

 

 

 「あんの腹黒坊や!」

 

 ランスロット・クラブエアの中にいたノネットは横の画面に届いていた通信を睨みながら盛大な愚痴を口に出していた。

 

 彼女はどうにかしてスバルが乗っている(と思われる)村正・陽炎タイプを追おうとしたが彼女の機体に付けられたフロートユニットではやはり限界があった。

 

 それでも必死にエナジーフィラーを交換して装備を身軽にした上でスバル機が一直線に飛んでいたこと、そしてヴィンセント・ウォードやトリスタン、モルドレッドの様子をレーダーで見てようやく追いついたと思えばカノンからシュナイゼルの『アヴァロンを優先』という通信が届いていた。

 

 完全に『お預け』の感じだが、先にあるアヴァロンは確かに見ている間にもゆっくりと落ちていた。

 

 対する村正・陽炎タイプはボロボロで、同じくボロボロの紅蓮を運んでいて(とてもではないが)まともな戦闘行為が行えるようには見えなかった。

 

 公私混同を(あまり)しないノネットでもこの状況を見て、何を優先すべきか分かりきっている筈なのだがカノン(の背後に居るシュナイゼル)による通信は彼女をイラつかせ、思考を単純化させていた。

 

『やぁ、エニアグラム卿。 申し訳ないが君の機体でアヴァロンの修理が終わるまで支えてくれないかい────?』

「(────人使いが荒いね────!)」

『────()()()()を試す機会と思えばいいさ────』

 「(────本当にいけ好かないヤツだね!)」

 

 ノネットはイラついたままスバル機の横を素通りし、ランスロット・クラブエアをゆるゆると落ちていくアヴァロンの後方へと飛ばす。

 

 さて、ここで少々原作の話をするが本来の『花嫁強奪』には毒島ではなく人員不足から藤堂の斬月が切り込んでランスロットの相手をしている。

 

 その時に藤堂は空中戦にも関わらず剣術の技をKMFに応用させた『影の太刀』という一撃でランスロットのフロートユニットにダメージを与えた際、器用にランスロットの足に付いたブレイズルミナスを衝角代わりにした蹴りで藤堂機の飛翔滑走翼を狙った。

 

 ここで注目させたいことは『足にブレイズルミナスが取り付けられていた』という事。

 単純に考えれば『ランドスピナーの被弾を避けるため』なのだが……

 

 もしこれが新技術開発の前兆の一部であり、ロイドではなくセシルの提案だとすれば?

 

「(んじゃ、セシルには悪いし少年との再会に取っておいていたけれど……) エナジー()()()()、展開!」

 

 ノネットはそう言いながら落ちるアヴァロンをまるで自機により支えようとする姿勢を見せるとランスロット・クラブエアのランドスピナーが強制パージされ、ブレイズルミナスが足場になる様な現象が起きてアヴァロンの高度が下がる速度が落ちる。

 

 これによりアヴァロンの機関部の修理が間に合い、天空騎士団と合流を果たして中華連邦からの撤退に成功するのだが……

 

 余談でこの後にランスロット・クラブの記録を見たロイドは収まりつつあった狂喜が発狂に戻り、セシルは質問攻めになり、シュナイゼルは資源投資の結果に満足したとか。

 後に『黒の騎士団を相手に手負いだったアヴァロンと天空騎士団にラウンズたちが幽鬼の怒りに触れ、被弾した』という噂がブリタニア兵士達の間に広がるきっかけとも。

 

 ……

 …

 

「「「「「……」」」」」

 

 斑鳩のブリッジは辛うじてカメラの拡大化(ズーム)とレーダーで村正・陽炎タイプの活躍(の一部)を一部始終見た後は静かだった。

 

 無理もないが。

 

 ブリタニア側の勢力は既に戦闘行為を行っていたとしてもヴィンセント・ウォード数機の撃破、ラウンズ機のトリスタン、モルドレッド、ランスロットをすり抜けてアヴァロンを攻撃し機関を停止させた。

 

 単機の活躍によって。

 

「ディ、ディートハルト! 緘口令だ!」

 

「は、はい────!」

「────なぁ?」

 

 黙り込んだ斑鳩のブリッジに言葉を噛みそうになったゼロの声にディートハルトはハッとしてから頷き、口を開けた扇が注目を浴びる。

 

「俺の気の所為じゃなければあの機体────」

 

 ……

 …

 

 ゴォォォォ────!

 

 斑鳩の格納庫にて、機体が不足していたことで井上や他の後方部隊の手伝いをして斑鳩に戻ってくるKMFの誘導をしていた吉田と杉山は作業中だというのに手を止めて外を見ていた。

 

「なぁ杉山?」

「なんだ吉田?」

 

 ────ゴォォォォ────!

 

「あの機体、こっちに突っ込んで来ているよな?」

「しかも止まる気無しで。」

 

 ────ゴォォォォ────!

 

「「────おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────?!」」

 

 吉田や他の黒の騎士団員たちは慌てて格納庫内に文字通り飛んでくる勢いの村正・陽炎タイプと運んでいた紅蓮のルートから逃げるために命がけで走る。

 

 ────ガシャン! ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

「ッ! ベニオ────!」

『────こいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 これを見たサヴィトリは慌てて中破や大破したKMFの運びを手伝っていたベニオに通信を送るとベニオ機から(日本人以外からすれば)意味不明な掛け声と共に村正・陽炎タイプと紅蓮を紅鬼灯で受け止める。

 

「カレンさん!」

 

 二機の勢いを止めた紅鬼灯の中からベニオが慌てながら出ると、時間が止まったように静まり返っていた格納庫が一気に動き出す。

 

 ……

 …

 

「フゥ……」

 

 村正・陽炎タイプの中で、操縦かんを握るスバルの手に自分の手を重ねていた毒島が息を吐きだす。

 

「(アヴァロンからの攻撃を避けるまでは良かったが、まさか斑鳩への帰還中に気を失うとは────いや……それほど驚くべき程ではないか────)」

「────う────」

「(────気が付いたか────)────う?!」

 

 スバルから声を出たと思った毒島の視界はぐにゃりと歪んでいくと共に吐き気に眩暈等と並行して、身体中が文字通りに痛みで構築されたような感覚に陥ると網膜投影システムに自分自身のバイタルモニターに様々なアラートと対処として作動していく生命維持装置や鈍痛覚醒材に吐き気止め薬などを初めに注意事項などが次々と目で追えないほどの速度で表示されていく。

 

 「ガフゥ?!」

 

 ここでスバルは吐血をすると彼の体はガクガクと痙攣し始め、毒島は機体の管制ユニットのハッチを慌てながら開けるとシートハーネスが自動解除してしまい、スバルの体は重力によって前によろけて外へ崩れ落ちそうになるが毒島が寸でのところで彼の服を掴むとスバルの体中の筋肉が緊張状態を維持し、意味不明で苦しむ様な声が彼の口から出る。

 

 「ガが、ごげ、か?! か、かかカががガガ────?!」

 「────誰か! 医者を呼べ! 担架も持ってこい!」

 

 未だに強化スーツを他人に見られて恥ずかしがる毒島なのだがスバルの異常にそれどころではなく、彼女は格納庫内の注目を帰還してきた紅蓮とカレンから引き寄せようと力一杯に声を出す。

 

 ようやくスバルの状態に背筋がゾッとした者たちに呼ばれた救護班と毒島によりスバルは担架に乗せられる間、彼は白目をむきそうな目で寝ているカレンを見てようやく寒いのか暑いのか痛いのか欠落しているのかもう何が何だか分からない体と共にぐちゃぐちゃになっていた頭の中で一つの言語化できる思考を浮かばた。

 

『ああよかった』、と。

 

 それを最後に、スバルの意識は電源コンセントを抜かれたテレビのようにブツリと切れた。

 

 そして黒の騎士団と、あとに駆け付けたアマルガムの医療チームによる戦いが幕を上げることとなる。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ば、バトレー将軍……これは?」

 

 オロオロしながら、白衣をした研究者らしきものがバトレー将軍に声をかける。

 

「い、いや……私にもさっぱりだ。」

 

 問いを投げられたバトレー将軍も動揺を隠すことなく、明らかに変わった周りの環境に戸惑っていた。

 

 彼らは先ほどまでシュナイゼルの頼みによって、珍しく引きこもりがちなシャルル皇帝が過去にわざわざ自ら足を運んでいた遺跡を調査する依頼を受けていた。

 

 通常の科学知識では解明できないものがあったがロイドと違って『超』が付くものの研究をしていたバトレーにより調査は進み、遺跡は古代に造られた人工物なのだが比較的に保存状態はよく、過去の建築技術では不可能な所業だというところまで突き止めていた。

 

 しかもそれらは見た目で言えば『神殿』そのものだが、他の遺跡でも見た構造と照らし合わせて欠損している図面を完成させていくとどこからどう見ても情報通信技術(IT)業界で()()()()()()の様なものに見えてきていた。

 

『コードギアスの世界は確かに技術が進歩しているが、遺跡が建てられた時代の文明にそのような概念さえ無かった筈。』

 

 と、そのような結論に至ったところでバトレーたちの周りの空気が明らかに湿っぽく埃臭いものから空調の効いた新しい空気になり、遺跡の状態が遥かに完全に近いモノへと変わった。

 

 これだけならば『感覚の錯覚』や『ガス漏れの作用』などで片付けられるのだが、調査用の器材などが丸ごと無くなっているとくれば『異常事態』である。

 

 それはまるで、彼らが瞬間的に移動をさせられた様な出来事だった。

 

 普通なら“バカなことを”というのだが、ここに居るのはバトレー含めてクロヴィスの元で『コードR(C.C.)』や『イレギュラーズ』のC.C.細胞を見てきた研究員たちが殆ど。

 

 通常の者たちよりは『摩訶不思議な超現象』を直に見てきた者たちである。

 

「お久しぶりです、皆さん。」

 

 コツコツとした足音が近づき、バトレーたちにとって背筋が凍るような声がかけられる。

 

「き、貴様はジェレミア卿?! 生きていたのか!」

 

「ええ、まぁ。 私の方でも、色々とありまして今では皇帝直属の組織に身を置いております。」

 

「こ、()()()()だと?! それにここは一体どこだと言うのだ────?!」

「────君たちの居た新大陸とは違う大陸だよ、バトレー・アスプリウス。」

 

 そこに場に似つかわしくない、髪の長い少年の幼い声にバトレーたちは困惑する。

 

「子供?」

「だがこの感じは────」

「────初めまして、僕はV.V.。 君たちが研究して再現しようとしたC.C.と似ている者さ。 それと、()()()()にこの組織の運営を任されている。」

 

 V.V.が皇帝を呼び捨てにしたことでどよめきが走るがまるでそれを狙っていたかのようにV.V.の笑みが少々深まり、彼は言葉を続けた。

 

「そこで君たちにお願いしたいことがあるんだ。 ()()の解析を大至急、頼みたいんだ。」

 

 V.V.がジェレミアの隣を見るとバトレーたちの視線が釣られるように動かすとジェレミアの隣では肩まで伸びた銀髪とバイザーをしながら静かに立っていた誰かだった。




迫る〜、胃痛~ズ♪ 恐怖のぐ~んだ~ん〜♪
我が胃を痛めるほのかな影た~ち~♪
今日も平和に過ごすた~め〜♪

(((( ;゚д゚))))アワワワワ


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第220話 『思い』と『想い』と『重い』

お読みいただきありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです!


 長い、長い夜に夜明けによる陽光が天帝八十八陵とその周りの地形を照らすと昨夜の軍事行動が如何に激しかったか一目瞭然だった。

 

 数々の敵味方双方の鋼髏の残骸、中華連邦の戦闘ヘリや爆撃機、ブリタニア側のヴィンセント・ウォード、黒の騎士団の暁、片翼を切り落とされた神虎によって大穴を開けられた大竜胆(ターロンダン)

 

 比較的にダメージが少なかった斑鳩も、殆どの理由は戦闘に参戦していないおかげだった。

『大宦官の醜態を晒す段階から戦後、星刻派との上下関係をはっきりとさせる為』という考えも入っているが。

 

 それだからか、戦闘処理後に星刻派と黒の騎士団と行われた会談は斑鳩の甲板だったのかもしれない。

 

「怖かったでしょう、天子様……」

「怖かったけれど、朱禁城の外を見ることが出来たし……えっと……怖かったけれどそれとは違うドキドキがしたというか────」

「(────強くなられましたね、天子様。)」

 

 星刻は上手く描写が出来ないことにドギマギする天子を見て微笑ましい気持ちになりながら、今後の事を考えていた。

 

「(探していたシュ・リーフォンと連絡が取れたことで一斉蜂起をした民衆たちの大部分を紅巾党経由で我々の方針の下で広めたおかげか、予想していた以上の領土を確保できたのは幸いだった……)」

 

 

 

 余談だがオルフェウスに『洛陽の警備に黒の騎士団と共に潜入』という依頼をスバルがしたついでに彼から“紅巾党のシュ・リーフォンと会っていないか?”と聞いたことで(オルフェウスからすれば)全ての点がそろい、彼はリーフォンと以前に受けた幸麿(ゆきまろ)*1の暗殺任務絡みでクーデターを目論んでいると知った星刻の二人を引き合わせていた。

 

 ちなみにスバルの何気ない問いは原作から『オズ』の展開がかなりかけ離れたためであり、まさかオルフェウスとコーネリアが既にシュ・リーフォンと接触していたのは完全に予想外であり、単純に『潜入任務(女装)』のついでで気になっただけである。*2

 

 そのおかげでオルフェウスとルルーシュはお互いと相手のギアスを知ることとなったが完全に偶然であり、スバルには全くそのような思惑は無かったと再度付け足したい。

 

 

「(さて、中華連邦の混乱を収める前にもう一つの難問を超えなければ。)」

 

 星刻は天子から斑鳩の甲板で自分の部下たちと相対するかのように向こう側に立っている黒の騎士団たちとゼロを見る。

 

 ……

 …

 

「(いいなぁ……)」

 

 黒の騎士団側に居た千葉は頬を赤らませながらチラチラと仏頂面の藤堂を見て、そんな様子の彼女を見た朝比奈と卜部は微笑ましい笑顔を浮かべ、扇、南、吉田に杉山も天子と星刻のやり取りに微笑ましい顔、そして嬉しそうな表情浮かべた神楽耶とアンニュイなC.C.とは別にディートハルトがゼロに耳打ちをする。

 

 「ゼロ、『天子とブリタニアの第一皇子の婚姻が無効になった』と世界中に喧伝する必要があります。 同時に、力関係を知らせる為に日本人の誰かと結婚して頂くのが上策かと考えますが?」

 

「………………………………」

 

 本来、ゼロも『花嫁強奪計画』の初期段階からディートハルトが提案したような政治的宣伝に天子を利用するつもり満々だった。

 

 原作でも彼が躊躇なくディートハルトに同意し、内心で『藤堂……いやこの際、玉城でもいいか』と思っていたほどでその場にいた神楽耶、千葉、C.C.(女性陣全員)に猛反対されてゼロたちはタジタジになった。

 

「……少し、席を外す。」

 

 だが原作より少々物分かりの良い天子と触れ合い彼女の評価が上がったこと、星刻が彼女との約束の為にクーデターを起こしたことが自分とナナリーを連想させたこと、そしてカレンが戻ってきたことで焦る気持ちが無くなり冷静になっていたことでルルーシュはゼロの仮面の下で迷い、思わず上記の言葉を出した。

 

「(何故だ? ディートハルトの提案していることは理論的にも政治的にも正しく、わかりやすく妥当な正論だ。 だというのに、なぜこうも胸がざわめくのだ? 一体、どこに問題が────?)」

「────あ、ゼロ!」

 

 思わず近くにある斑鳩内部へ通じる通路でうろうろしていたところに、玉城が声をかけてくる。

 

「玉城か、カレン達の様子はどうだ?」

 

「んー……ラクシャータたち医療チームはまだスバルに総動員中だが、取り敢えずあの色気ムンムンのEUの姉ちゃん(ソフィ)によれば麻酔を打たれて寝ているだけらしい。」

 

「そうか……」

 

「なぁゼロ? この時に言うのもなんだけどよ、俺になんの肩書もないのも後輩連中に示しが────」

 ────プシュー────

「────中々俺たちが喋る機会が無いじゃん────?」

 ────ガコン────

────って、シカトかよ?! なんかあるとすぐ別の用事つくりやがって! ケッ!」

 

 玉城は無言で近くにある物置部屋の中にゼロがスーッと入ってはドアを閉めるのを見て、彼はブツブツと言いながら斑鳩内部へと戻っていく。

 

「(一体、何をすれば────ん?) もしもし?」

 

『あ、ルル? 今いい?』

 

 ルルーシュはマナーモードにさせていた学生の身分用の携帯電話が鳴っていることに気が付き、電話を取るとシャーリーの声が届く。

 

「シャーリー? どうしたんだい?」

 

『実は今日、理事長にこっそり教えられたんだけれど会長(ミレイ)が卒業するための単位がそろいそうなんだって。』

 

「そ、そうなのか?」

 

 ルルーシュは携帯の着信履歴を見ると確かに理事長からの連絡が何回か届いていた。

 

「(しまった。 黒の騎士団活動で忙しくて咲世子に変装させているとはいえ、携帯の確認を怠るのはマズいな。) それで、理事長は何て?」

 

『“ミレイ(会長)の卒業祝いは何がいい?”って。 でも、私もそんなの良く分からなくて……』

 

「(そんなの、俺に聞かれても……) いっそ、会長自身に決めさせれば?」

 

 原作同様に、黒の騎士団のゼロとしての活動が始まったことでミレイに対する投げやりな態度は変わらなかった。

 

『う~ん……でもそれだと、ちょっとねぇ~。』

 

「(そうだ! シャーリーに聞いてみよう!) なぁシャーリー? とある男女が別れたら国────じゃなくて、双方の家族と周りにメリットしかないんだが……シャーリーならばどう思う?」

 

『その男女、別れたいの?』

 

「は? いやでも、別れた方が、その……得が────」

 

『────そんなの絶対にダメェェェェェェェェェェェ!!!』

 

「ふぉ?!」

 

 キィィィン。

 

 ルルーシュは携帯電話越しに聞こえてきたシャーリーの断固拒否を示す叫びに素っ頓狂な声を出してしまい、耳鳴りに顔をしかめる。

 

「な、なぜだ?! どうし────?」

『────その二人、想い合っているんでしょ?! 家の問題は家の問題! そのカップルたちに全然関係ないでしょ────?!』

「────い、いや。 そうは言うが、シャーリーも一応フェネット家の令嬢なら理解でき────?」

────ダメダメダメダメダメダメ、絶対にダメェェェェェェェェェェェ!!!

 

「(シャーリーにここまで言わせるとは……一体?) だが、その二人が一緒だと、家も周りも────」

『────()()()()なの────!』

「(────“思いは力”、だと────?)」

『────強ければ強いほど、何でも出来ちゃう気持ちになるし実際できちゃうの! 毎日毎日毎日そのひとのことを考えちゃって詩を書いちゃったり、夢見て早起きしちゃったり、冬になってきたらなけなしの裁縫能力でマフラーを編んじゃったり、プールに飛び込みながらそのひとの名前を叫びたくなったり────!』

「────そ、そうか。 つまりその……なんだ、“想いにはその人の世界を変えるほどの力がある”と言いたい……あ。」

 

『ルル?』

 

「(そうか。 だからアイツはボロボロになっても、ああやって特攻を……)」

 

『……』

 

「(案外、以前リヴァルが言ったことも“あながち間違ってはいなかった”と言う事だろうか────?)」

『────ルルはさ、普段やらないことをやらせる人って……いない────?』

「────ありがとうシャーリー!」

 

『へ? あ、うん。 どういた────』

 

 ────プッ。

 

 ルルーシュはシャーリーの言葉を遮るかのように携帯を切ってから、斑鳩の甲板に戻っては高らかに天子の処遇に関しての答えを出す。

 

「天子様よ! 貴方は最早、自由の身! 己の未来は、己の心で決めるのだ!」

 

「へ?」

 

「心は力の源……大宦官に対して決起した人々も天子様と国を憂う心、我々黒の騎士団も正義という心で戦ってきた!」

 

 ゼロの言葉に中華連邦や黒の騎士団のほとんどの者たちは『ゼロにも人としての心がある』と、ホッとしながら内心で安堵した。

 

「(“心は力”? ゼロ……貴方は、本当にブラックリベリオン前と同じゼロなのですか?)」

 

 ディートハルトだけは違ったが。

 

 ……

 …

 

 プッ。 ツー、ツー、ツー。

 

 「もう! ルルったら、こういう所は変わらないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 アッシュフォード学園にある水泳部の更衣室内でシャーリーの叫びが響く。

 

「どうしたシャーリー?」

 

「ルルの事ですよ! 聞いてくださいよヴィレッタ先生!」

 

「ま、まぁ彼も多忙な身だからな────」

「────ルルにミレイ会長の事を相談するために電話をかけたら自分の聞きたいことだけ聞いて一方的にあっちから電話を切ったんですよ?! 理不尽と思いません?! それにこの頃まるで人が変わったように変になっているから心配しているのに全然会えなくて肝心なところで連絡が届かなくてもどかしくてやっと繫がったのに具合も調子も聞ける前に切られる私の気持ち分かります?!」

 

 「その気持ち、分からないでもないぞシャーリー。」

 

「「「「「「へ。」」」」」」

 

 水着に着替え終わったヴィレッタ先生がいつになく本気の表情を浮かべながら同意すると思わずシャーリー本人含めて水泳部の者たちが目を白黒させる。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「あ……その……えっと、なんだ……いいいいいい今言ったことは忘れてくれ!

 

 ヴィレッタは静かになった更衣室を見渡すと、部員がポカンとしながら自分を見ていたことに慌てだしながら部屋を後にすると更衣室に居た者たちはキャピキャピし始め出す。

 

「今の聞いた?!」

「聞いた聞いた!」

「あれって絶対、ヴィレッタ先生も彼氏持ちだという事よね?!」

「そうじゃなくても誰かを思っているみたい!」

「相手は誰かな?! やっぱり教師?」

「それとも生徒だったりして!」

「「「「きゃああああああ!♡」」」」

 

「(……あれ? 確かナイトオブセブンの歓迎会で……う~ん?)」

 

 ふんわり紫ロングで学生なのに4位の井上と同等の胸の持ち主で水泳部のミーヤ・I・ヒルミック*3は思わず水泳部カフェを連想してしまい、持った違和感に対してハテナマークを浮かべて首を捻った。

 

「ハァァァァァァ。 (最近のルルってば変。 何時も通りだったり、妙に優しかったり、距離を取ったり……アレだと、()()()()()()()()()()ような……)」

 

 シャーリーも(ミーヤとは違うベクトルだが)違和感を持った。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 中華連邦に介入する大義名分を失ったアヴァロンは応急処置を終えたシュバルツァー将軍が率いる天空(グリンダ)騎士団と合流し、なるべく混乱中の中華連邦の大きな都市や街を迂回しながら(以前より自立性が低下した)友国であるユーロ・ブリタニアへと向かっていた。

 

「(ハァァァァ。)」

 

 そんなアヴァロンのラウンジスペースにミレイは自分の携帯電話のメッセージアプリを見て、スヴェン宛のモノ等に未だに『未読』が付いていることに内心でため息を出す。

 

「(なかなか連絡が付かないなぁ~……どうしよう?) ハァ~。」

 

 ロイドが紅蓮の事で狂喜したり、発狂したり、アヴァロンやラウンズの機体の修理に取り掛かって手持ち無沙汰のミレイは先日の歓迎会から自分の母の『さっさと嫁ぎなさい』押し(プレッシャー)が強まったことに、ため息を今度は出してしまう。

 

 それもこれも“庶民の~”と言う口癖(?)以外、ラウンズであると同時に古くから続いている由緒正しき名門貴族ヴァインベルグ家という肩書に人柄の良さそうだったこととノリの良さもあって意気投合したジノが、後夜祭を始める合図として相手を探して困っていたミレイを誘ったことから始まった。

 

 いつの間にか『絵になる』と軽い気持ちでジノとミレイのダンスする姿を写真に収めてブログにアップし、それがミレイの母に伝わったからである。

 

「(どうした良いのかなぁ~……あら? 噂をすればヴァインベルグ卿。)」

 

 ミレイはソファの背もたれに身を預けると、いつの間にかラウンジスペースで外を見られる窓際に立っていたジノを見かける。

 

 これぐらい何ともないのだがジノの顔はいつもの自由で奔放な振る舞いをする彼からかけ離れた、暗いモノだった。

 理由として単純であり、先日の戦闘で未確認機が送った通信が原因だった。

 

 

 

 “ジノ・ヴァインベルグとは?”という問いを投げれば以下の様な返答が返ってくるだろう。

 

『卓越したKMF操縦技術でラウンズの地位を自らの手で得た実力派。』

『スザクと同等の動体視力を持ち、空戦シミュレーター(ミルベル博士の手製)ではSランクの評価。』

『初見の相手に余裕を持つ自信家。』

『浮世離れした好奇心旺盛な貴族。』

『与えられた命令に疑問を持たず、忠実に実行する。』

 

 等々と纏まっているように見えるのだが、見方を変えれば『自分自身の思想や主義主張を持たずにただより大きな存在に帰属しているだけ』という一面もチラホラと見え隠れしている様に見えなくもない。

 

 

 

「(“皇族殺しのヴァインベルグ”、かぁ……まさか知っている奴と会うとはなぁ~。)」

 

 ジノにとってヴァインベルグ家は誇りであり、ブリタニアを古くから支えていた一族。

 

 今でこそ『ブリタニア帝国』と名乗っているが、一時は『ブリタニア共和国』となったので厳密には『第二ブリタニア帝国』であり、ヴァインベルグ家は初期時代のブリタニア帝国を宮中伯として政務を支え、皇帝と皇族たちが殺された所為で国として滅亡を迎えようとした時に活躍しただけでなく復興に大きく貢献し、それからもブリタニアを中枢から支える屈指の名家。

 

 だが皮肉にも、初期のブリタニア帝国を終わらせようとして皇族を殺したのもヴァインベルグ家の者だった。

 

 名は『ガヌロン』と言い、その少年は当時のヴァインベルグ家の嫡男であるアルト・ヴァインベルグとは所謂『幼馴染』であり、二人はお互いを補うような関係を築いた。

 

 アルトは『武』を、ガヌロンは『知略』を。

 

 ガヌロンはある日、自分がアルトの妹アネットと恋仲であることを告げ、アネットの婿になりたいことを申し入れた。

 

 アルトは何の疑いを持たず、ガヌロンと自分の妹のアネットが結ばれることを家族同様に祝福し、共にブリタニア帝国を支え合うことを誓った。

 

 事件が起きたのはガヌロンとアネットが結婚してから一年後、アルトが騎士として蛮族退治の遠征から返ってくる途中で、皇帝と皇位継承権を持つ皇族たちが暗殺され、捜査の結果『ヴァインベルグ家の献上品に遅効性の毒が見つかった』という報告だった。

 

 ヴァインベルグ家の者たちを捕縛した際、ガヌロンが逃亡したことで連帯責任としてアネットやガヌロンに近かった者たちは斬首刑(ギロチン)にかけられ、生き残されたヴァインベルグ家はアルト含めて全員牢に投獄された。

 

 皇帝と皇族が亡くなり、ブリタニア帝国を束ねる権力を持つナイトオブワンも行方不明になったことで覇権をめぐる内紛に突入する直前、ロレンツォ・イル・ソレイシィが無理やりブリタニアを『帝国』から『共和国』に体制を整えたことで国家を首の皮一枚で繋ぎ止めた。

 

 そしてロレンツォは絶対の忠誠をアルトに課すと引き換えに一時の自由を与え、反皇帝派を集め出したガヌロンの()()を命じた。

 

 アルトにとってこの依頼は衝撃的だった。

 

 今まで騎士道精神一筋で生きてきたことで卑怯な手を強いられたのもあるが、幼馴染のガヌロンを追い詰めて“何故皇帝たちを殺した”という問いに対しての答えだった。

 

我が(ガヌロンの)一族はヴァインベルグによって貶められたから、ヴァインベルグを根絶やしにする為にわざと妹のアネットやアルトに近づいた。』

 

 そう言いながらガヌロンは茫然とするアルトの前で自ら持っていた剣で自分の腹を切り裂き、笑いながら自殺した。

 

 この一連が『皇族殺しのヴァインベルグ』の由来であり、未だにヴァインベルグ家が()()貴族として()()()()()()()()()理由である。

 

 全ては過去に(入り婿とは言え)先祖のした罪の贖罪と、第一ブリタニア帝国が崩壊した真実を隠匿するための監視。

 

 これ等を知っているのは皇族でも現皇帝と、ヴァインベルグ家の現当主、ヴァインベルグ家の次期後継者を含めて()()()()

 

 さて。

 

 上記のこれ等を並べた今、それまで自分の家に絶対的な誇りを持ち、『かの英雄アルト・ヴァインベルグの現身』とまで呼ばれ、貴族らしくチヤホヤされてきたジノが『次期後継者』に選ばれたことで喜びながらヴァインベルグ家の真実を告げられた時の気持ちを想像できるだろうか?

 

 想像しにくいのならば、これも付け足しておこう。

 

『表向き、シュタイナー家はヴァインベルグ家に仕える騎士家だが実は監視役と不穏な動きを見せればヴァインベルグ家の()()を任された一家』、とも。

 

 つまり今まで兄弟のように平然と接してきたレオンハルトが、『一歩道が間違っていればジノを殺す刺客になっていたかもしれない』という事。

 

 これを発端にジノはレオンハルトに模擬戦を申し込み、それまで両親の目から隠れてひっそりと読書などの騎士らしくない生活に明け暮れていたレオンハルトの人生と彼の軟弱さが明るみに出たことでシュタイナー家の状況も一転することとなるのは、模擬戦を申し込んだジノ本人もこの時は想像もしなかっただろう。

 

 

 

「ハァ~。」

 

「ジノ、ため息が多い?」

 

「んあ? アーニャ? 何時からそこに?」

 

「ロイドの婚約者に呼ばれた。」

 

「……ああ、アッシュフォード家のご令嬢か。」

 

「それとマルディーニ卿から伝言もある。 “モルドレッドとトリスタンのメンテをエリア11で行わせるから、休暇をアッシュフォード学園で取って来なさい”と。」

 

「は?」

 

「大丈夫、ジノの制服サイズは合っている筈。 私の記録(写真)からキャメロットが割り出したから。」

 

 「は?」

*1
元々紅巾党を政治の道具として立ち上げた人

*2
210話より

*3
後の“なーに、マイハニー?”の女生徒




というわけで『皇族殺しのヴァインベルグ』は『漆黒の蓮夜』からでした。

ジノについては独自の解釈&設定です。 (;´ω`)


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第221話 寝ている間にも世界は動く

少々長めで勢いで書いた次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


『随分と中華連邦は騒がしいようですわね、お兄様?』

 

 アヴァロン内にあるシュナイゼルの事務室にて、要人護送艦『ハイシュナイゼン』を見送っていたシュナイゼルは事のあらましが書かれた報告書を送りながら直々に通信を開くと開口一番にマリーベルから上記の言葉が来る。

 

「はは、すまないねマリー。 ようやく兄上の相手が決まったところで、このような事態を危惧して君の天空騎士団を借りてもこの有様さ。」

 

『それでもお兄様の事でしょうから、得る物はおありだったのでしょう?』

 

「私の頭は兄上の婚約が台無しになったことでいっぱいだよ。」

 

『そうですか……このまま混乱中の中華連邦に宣戦布告いたします?』

 

「いいや?」

 

『あら意外。』

 

 シュナイゼルから予想していた言葉とは違う即答にマリーベルは思わず上記の言葉を口にしてしまう。

 

『ンン……失礼。 私、てっきりこの混乱に乗じるのかと思いました。』

 

「EUとの戦争は順調だけれど、帝国が経済的に何かと不安定な今そんな大それたことをやる必要はないと感じている。 戦争なんて、()()()()だからね。」

 

『ッ……お兄様────』

「────ああ、今のは失言だったね。 忘れてくれマリー、思っていたよりショックが大きかったようだ……それとジヴォン卿たちだけれど、天空騎士団と共にペンドラゴンへ向かう。」

 

『ペンドラゴンへ?』

 

「兄上を送ることも兼ねているけれど、皇帝陛下の名でヴァルトシュタイン卿に呼ばれていてね。 恐らく、今後の事を話す為だと思う。 丁度私も一度ギネヴィアたちと話す必要があると思っていたところだから好都合だけれどね。 もう少し借りることになると思う────」

『────それでしたら、オズたちも喜んでいると思うわ。』

 

「そうかい……ああ、それのお返しと言う訳ではないが今回得た戦闘データも送ろう。」

 

『まぁ♪ それは嬉しいですね♪』

 

「ははは。 では、ペンドラゴンに着いたら天空騎士団をエリア24に送るよ。」

 

 満面の笑みになるマリーベルを見てシュナイゼルは軽い笑いをして通信が終わる。

 

「……」

 

 トン、トン、トン。

 

 シュナイゼルはそのまま仮面の様に散々顔に付けてきた『愛想笑い』を外し、無表情なまま机を指でトントンと軽く叩きながら現状の整理を脳内でしていく。

 

「(中華連邦とのことは残念だが、思っていた以上のリターンがあった。 アールストレイム卿はともかく、クルルギ卿にはいい刺激になっただろう。 まさかニーナたちを艦に乗せたことがこの様な結果を生み出すとは……それよりも、ヴァインベルグ卿だ。 ()()には驚いたが、ヴァインベルグ家の婚姻や人間関係が筒抜けだった事や名門貴族の家だというのに親族の数が異様に少ない等を考えれば腑に落ちる。 セシルが独断で開発してエニアグラム卿にこっそりと取り付けていた技術────)」

 

 ────トン!

 

「(それよりもフローレンスからのデータ、トリスタンとモルドレッドの特徴を知っているかのような対応、こちらの予想と思惑の斜め上をいく行動とブリタニアでもEUでもインド軍区系統の技術に収まらない機体……まさに『幽鬼』と呼んでも違和感がないだろう。 しかし────)」

 

 シュナイゼルは端末を弄り、村正・陽炎タイプが紅蓮を持ち帰る際の映像を出して()()()誤射しやすい状況下で攻撃をしてしまった瞬間を一フレームずつ動かす。

 

「(────ここだ。)」

 

 シュナイゼルが何度も再生するのは攻撃が当たる瞬間、村正・陽炎タイプの位置が前後のフレームの間にいつの間にかズレていた。

 

 アヴァロンは『世界初の航空浮遊艦』ということから未だに設備全てが最先端技術の塊。

 それは無論センサー類やカメラも入っている。

 

「(このような仕様ではないとは言え、この機体の動き方は物理法則を無視しているとしか思えない。 それに────ん?)」

 

 シュナイゼルは自分宛てに送られてきたメールを開くと、彼ののっぺりとした顔に笑顔が戻る。

 

「ほぅ……」

 

 メールの件名には『バトレー将軍たちが行方不明』と書かれ、報告書には『まるで忽然と作業中に姿を消した』や『休憩中に食事していた痕跡あり』などが書かれていた。

 

「(ロイドは嫌がって否定していたけれど、『超』が付く現象も視野に入れて行動をしないといけないかな? それに『幽鬼』はどうやら紅蓮のパイロットの事を……) フフフフフフフフフフフフフ。」

 

 シュナイゼルは鼓動する脈と腹の奥から湧き上がる衝動のまま笑いをこぼし、ペンドラゴンで待ち受けているであろう会談について考えをし始める。

 

 その中には、次の波乱場所となる筈のエリア11と『幽鬼』もあった。

 

 ……

 …

 

 カラン。

 

「……」

 

 モニカは注文してから全く手を付けていないジュースの入ったガラスの中にあった氷が溶けては崩れ、彼女は考えに耽っていたのか全く反応せずにただテーブルに座りながらボーっとしていた。

 

 「ティンク、クルシェフスキー卿の正装姿っていいですね。」

 「そうだね。」

 

 同じ休憩スペースで食事をしていたティンクたちはチラチラとモニカの方を見ていた。

 

「(うーん、クルシェフスキー卿も『幽鬼』と遭遇していたか~。)」

 

 彼女はフローレンスとフローレンス・ドローンと共にアヴァロンではなく、近くに居たグランベリーに回収されてそのまま居残り、ティンクは伝手によりモニカやジノたちにアヴァロンの事を聞いていた。

 

 「なぁ、聞いたか? 『幽鬼』のこと?」

 「ああ、噂じゃアヴァロンの防衛を突破して機関部を停止させたんだろ?」

 「その防衛に、ナイトオブラウンズも絡んでいたって知っているか?」

 

 ティンクの耳に、先日から徐々に広がっていく噂に関してひそひそと話すブリタニア兵士たちの声が届く。

 

「(それに宰相閣下のことだから、恐らくワザと情報操作をして『幽鬼』の危険性を広めているだろうね……あ。)」

 

「ちょっといいかい、モニカ────?」

「────え────?」

「────よっと。」

 

 モニカの答えを待つことなく、ノネットはモニカの向い側に腰かける。

 

「見たよ、フローレンス。 モニカもやられた?」

 

「ええ、まぁ……正確には、()()()()()と言えばいいのかもしれませんが。」

 

「ん? どういうことだい?」

 

「最初は善戦していたんです。 ですが、急に私との対決に飽きたかのような……」

 

「ふぅ~ん? モニカさ、何かやっていない?」

 

「え?」

 

「いやね、勘なんだけれど『モニカが何かやった』って感じるんだよね。」

 

「……降伏するように通信を送りましたが────」

「────ちょい待ち。 アンタ、そんなに有利だったわけ?」

 

「え、ええ。」

 

「通信、なんて送ったんだい?」

 

「えええっと……相手が恐らく黒の騎士団が起こした騒動に便乗した反ブリタニア組織の者と思ったので“紅蓮を捕獲した”と。」

 

「・ ・ ・」

 

「え、エニアグラム卿?」

 

 「ふぅ~ん?」

 

「……何かおかしかったでしょうか?」

 

 「いんや? 別に~?」

 

「でしたら何ですか、その顔は?」

 

「う~ん……消化不良?」

 

「胃薬、飲みます?」

 

「そっちじゃないよ! モニカは真面目だねぇ~……私服とかは()()なくせに。」

 

「は?」

 

「「「「「(私服が……『アレ』とは?!)」」」」」

 

 ノネットの愚痴に似た言葉にモニカはキョトンとし、近くに居たティンクたちは動きを止めて妄想を浮かばせてしまう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「「うぎゃあああああああああああ?!」」

 

 リア・ファルの格納庫内に毒島のボロ雑巾ボロボロになった

 村正・陽炎タイプが運ばれ、クロエとヒルダの叫びが響く。

 

 リアクティブアーマーがほぼ全て根こそぎ落とされ中の骨組みと配線がむき出しになっており、その配線等もショートを起こしたのか大半は黒く焦げ、腰と肩等に付いていた六つのサブアームの内にある四つは無理な駆動と負担に曲がっており、マニピュレーターに至って左手は指が全て吹き飛んでおり右手は変な方向に曲げられ、背中と腰の推進部も安全装置を切り離した機動戦で太股同様に所々溶けていた。

 

 武装にしては殆んど全てを使い捨てのように使ったのですっからかん。

 

 ちなみに新しく開発した網膜投影システムとファクトスフィアを連結させる為に通常のガラスと液体レンズを使用したハイブリッドのメインカメラにはヒビが入っている所為か、奥から濁った液体が流れ出ていたので文字通りに『機体が泣いている痛々しい様』だった。

 

「「(これ、絶対にボスたちが見たら────)────ヒッ?!」」

 

 クロエとヒルダの二人はアンナとミルベル夫婦たちが居る隣を恐る恐る見ると三人とも何とも言えない、スンとした表情のまま村正・陽炎タイプを見上げて────

 

 ────ドサッ。

 

「三人とも倒れちゃった?!」

「い、医者ぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 シ~ン。

 

「「皆、シュバールさんに取り掛かり中だったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!」」

「と、と、と、取り敢えず担架を~!」

 

 ……

 …

 

 

 クロエたちが格納庫内でアンナたちが倒れたことで慌てている間、斑鳩の一角にある手術室の外ではレイラや毒島などを始めに様々な人たちがソワソワしながらいた。

 

「(まさか単機でラウンズたちとブリタニアのランスロット量産タイプの防衛陣を突破し、あのアヴァロンに手傷を負わせて紅蓮たちを取り戻すとは……やはり彼の実力は底知れない。 『幽鬼』……いや、あれぞ『鬼神』と呼ぶのだろうな。 それにスバルがあのような表情を浮かべるとは、それほどまでに紅蓮……あるいは紅月君の事を……少々、妬けるな。 だがこれで彼という存在も公になってしまった。 おじいちゃんなら、何をするだろう?)」

 

 毒島はそう思いながら、ずっと難しそうな顔をしながら壁に寄りかかっていたレイラを見る。

 

「(これでアマルガムの存在はブリタニア────それもあの第二皇子シュナイゼルの視野に入ってしまった。 いつかはこうなるとわかっていても……それに────)」

 

 レイラはここでそっと左目に手を添える。

 

「(────あの時に感じた()()は間違いなく、ヴァイスボルフ城以来の……とても悲しいような、怒りのようなモノ。 一体、これは何かしら?)」

 

「ハァ~……」

 

「ん?」

 

 毒島は長~いため息がした方向を見る。

 

「どうしたアリス?」

 

こいつ(エル)の監視。」

 

「ふむ、“こいつ”とは心外だな? それにそもそも私はただ通りかかっただけだぞ? 逆にウロウロしていたお前に引きずられ────」

 「────違うし! じゃんけんで私が負けただけだから!」

 

「はいダウト~。」

「あ、やっぱりマ()?」

「そうだよマオ♪」

「ほうほうほう。」

「ウンウンウン。」

 

 「二人ともシャラ~~~~~~~ップ!!!」

 

「(う~ん、良いわねぇ~。)」

 

 ニヨニヨするマオーズに慌てるアリスのやり取りを見て井上はほっこりした。

 

「(まさかこんなところでタケルの知り合いに、しかもデバイス(リモート)手術経由で頼ることになるとはね……)」

 

 その中でソフィは複雑な気持ちで夫の知人であるデイビッド(外科医師)に連絡を取ったこととBRSシステムに関して思い浮かべる。

 

『亡国のアキト』で、ユキヤは聖ミカエル騎士団に襲撃した際ガリア・グランデと共に墜落して重傷だったところを彼女は同じように知り合いであるデイビッドを頼っている。

 

 スバルの行動によりその局面が無くなったのだが皮肉にも、こうやって自分に返ってくるとは思っていないだろう。

 

 余談だがソフィがBRSの研究を続けていたのは昏睡状態であった夫────日本人のタケルの為でもあり、原作の『亡国のアキト』の最終局面で彼はアレクサンダのBRS共鳴で目を覚ました。

 

 今作でも彼はガリア・グランデで輸送中に目を覚ましたがBRSの研究をソフィが止めることは無く、理由は単純だった。

 

「(まさかシュバールも、特異点を発生させるとは思ってもいなかったわ。)」

 

 実は彼女、以前オマケ程度に撃震に付けたBRSから得たデータからかつてアキトがシンたちと共に発生させた『脳波動による時空間への干渉』と似たものを見た。

 

 そして今回も毒島機から似たような反応がぽつぽつとあったことから、スバルが何らかの方法でBRSへ干渉していたことが確信へと変わった。

 

「(そして反応はそこからだけでなく、リア・ファルの……ブリッジからも伺えた。 BRSの使用時に必要なニューロデバイス無しでそんなことが可能とすれば正しくタケルがかつて業界に出そうか迷っていた論文で出てくる『新人類』……になるのかしら? 思いもよらなかったところで、とんだ土産話を得てしまったわ。)」

 

 ガチャ。

 

 手術室のドアが開かれ、寝不足気味のラクシャータが出てきてはドアの一番近くに居たレイラに話しかける。

 

「終わったわよ~。 取り敢えず、最悪な事態は避けられたわ~。」

 

「あ、ありがとうございますラクシャータさん。」

 

「いやいや~、礼を言うのならソフィの呼んだ助っ人……ええええっと、デイビッドに言って。 膵臓が急に出血し出したけれど、彼の速い処置で何とかなったから。」

 

「それでその……彼は?」

 

「うん? まぁ……その……何かしら。 私って『超』とかが付くものが嫌いなんだけれど、正直生きているのが奇跡ね。」

 

「「「「え。」」」」

 

「脊椎損傷、頭蓋骨陥没、内臓破裂、大腿骨の複雑骨折に脳髄損傷にその他諸々……ああ、あと何回か心臓停止もしたわね……ま、息を吹き返したけど♪」

 

「「「「……」」」」

 

「んじゃ、私は疲れたからあとはヨロ~。」

 

 ラクシャータは上手く言葉を探せず唖然とするレイラたちを後にしながらヒラヒラと手を振りながら後にし、斑鳩のエレベーターに入ると違う階のボタンを押すどころか非常停止ボタンを押してさっきから浮かべていた緩~い表情が真剣なモノへと変わる。

 

「(……さてと、どうしようかねぇ。)」

 

 ラクシャータはかなり悩んでいた。

 彼女がスバルの治療に携わる直前、無理やりディートハルトが自分を止めてゼロの前で『スバルの血液調査をしてほしい』と。

 

 実はスバル、これまで黒の騎士団で整備士や情報屋などの裏方役をしていたおかげで黒の騎士団のKMFパイロット全員の健康の為に義務付けられている身体検査から逃れている。

 

『高機動戦を行うKMFの負担は人体に与える影響もバカにできない』……と聞こえは良いが、ディートハルトはこの際に得られるデータを元に黒の騎士団の背景歴史や家系などを洗い出してスパイや利用価値のある人間などのチェックをしていた。

 

 それを知ってからラクシャータは以前、スバルの治療をする際にアマルガムから口止めをされていたことから『ああ、これの為か』と納得をして出来る限りディートハルトの注目をスバルから遠ざけていた。

 

 別にこれは彼の保身とかの為ではなく、『スバルの様な人間が彼女のKMFの実力をフルに出せるから』と言った一種の独占欲からである。

 

「(まさかこんなところで()()血液について話すことになるとはねぇ……)」

 

 ラクシャータは珍しく悩んだ末にエレベーターのボタンを押す。

 

 行先は斑鳩のブリッジ。

 

 より正確には、ゼロが居る場所へ。

 

 

 

「そうか、奴は無事か。 感謝する。」

 

「ま、私だけの手柄じゃないけれどね。」

 

 斑鳩のブリッジでラクシャータはスバルの容態が安定になったことを知らせると旧扇グループの者たちが明らかに安堵の息を出すのを見る。

 

「(よし、これでスヴェンの状態による不安感と士気の低下は防げられた。) そうか。 詳細は後程────」

「────その前に、()()()の事でちょっと話があるんだけれど。」

 

「(例の件? ラクシャータに依頼した件と言えば……) そうか。 扇、私は席を外す。 何かあれば連絡を。」

 

「ラクシャータ、それは私も────」

「────ごめんだけれど、これはアンタの頼んだこととは別件だよディートハルト。 だからアンタはお呼びじゃないわ。」

 

「は────?」

「────以前にゼロから受けた依頼よ。 ほらあっち行った。 シッ、シッ。」

 

 ゼロがラクシャータのいるエレベーターの中に入り、後を追おうとしたディートハルトをラクシャータは犬を追い払うかのような仕草をしながらエレベーターの開閉ボタンを押してドアを閉める。

 

「さて……君が『例の件』と言えば、心当たりが少々あるのだが?」

 

「そうだねぇ……『ヨコスカ港区』って言えば分かるかしら?」

 

「ッ?! あの時、君に送った血液の事か?」

 

「そ。 実はディートハルトに、あのスバルって子の血液検査を頼まれてね? で、見事にあの時の物と照合したってわけ。」

 

「……」

 

「まぁ、ディートハルトに言ったことも嘘じゃないけれど……アンタが秘密裏に頼むぐらいだからちょいとデリケートなことかなと思って、こうやって前もってアンタに報告したわけ。」

 

「……」

 

「ちょっと聞いている?」

 

「あ、ああ。 少々その、考えをまとめていただけだ……間違いないのか、ラクシャータ?」

 

「私がこんな冗談を言うと思う?」

 

「いや、君を疑っているわけではない……ただ、事が事だけにな……よし。 ディートハルトも含め、会議室で話すとしよう。 君も自分ひとりで彼への報告が嫌なのだろう?」

 

「……まぁね。」

 

「この際だから聞くが、君は彼の事が嫌いなのか?」

 

「ディートハルト? 陰険な男って、私にとっては『自分ファーストな男』の次に嫌いな部類よ? 私じゃなくても、女性の大半もそうじゃないかしら?」

 

「そ、そうか。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「それで、私との会談にゼロだけが同席するとは一体どういうことかなラクシャータ?」

 

 会議室に呼ばれたディートハルトは先ほどあしらわれたことが気に食わなかったのか、少々いつも以上にムスッとしていた。

 

「ディートハルト、ラクシャータを責めるな。 事はかなりデリケートなのだ。」

 

「『デリケート』? あの『スバル』という者の検査のどこが────?」

「────検査結果をまとめた資料よ。 まずはこれを読みな。」

 

 ディートハルトは手渡されたフォルダーを開けて中の資料を読み始めると、次第に彼の顔色が変わっていくと同時に表情も険しいモノになる。

 

「……君を疑うつもりは無いが……これは本当なのですか? 私たちの情報部が調べた限り、これに該当する系譜は途絶えている筈────」

「────だから“デリケート”って言ったじゃない。 私も桐原のじいさんと皇の嬢ちゃんに協力してもらってサンプルと比較した結果が()()よ?」

 

「……しかし、生き残りがこうも見つかるとは幸運────いえ、これこそ『奇跡』のようなモノ。 ゼロ────」

「────これは確かにラクシャータの言うようにデリケートな情報である。 しかし、使い方によっては黒の騎士団にとって大きな『武器』とも成り得る。」

 

「“使い方”……ですか。 ()()が果たして、我々の思惑通りに動くかどうか次第です。 文字通り、『諸刃の剣』ともなり得ます……スザク・クルルギのように、()がゼロ────ひいては黒の騎士団の阻害に成り得かねません。」

 

「だからこそ『デリケート』なのだ、ディートハルト。」

 

「……そうかしら?」

 

「「どういうことです/どう言う意味だラクシャータ?」」

 

「ん~……“考えすぎじゃないかしら?”、って言う意味よ。 それに何だかんだで、彼のおかげでブラックリベリオン後の黒の騎士団ってかなり余力を残したでしょ?」

 

「確かに彼のおかげで犠牲はかなり抑えられました。 ですがそれも彼が黒の騎士団に報告せず、独自に持った戦力のおかげによるところが大きい。 しかもその中には桐原殿の孫も含まれていると聞いています。」

 

「ディートハルト、『時には敵の目を欺く為に味方から』とも言うが?」

 

「ゼロ、勘違いなさらないでください。 私はあくまで彼に頼り過ぎる危険性を申し上げているだけです。 彼個人が持っている戦力に、この情報が表に出れば本人にその意思がなくとも、黒の騎士団の分裂を招き────」

「────クルルギの時のように暗殺しろとでも言いたいのかしら、ディートハルト?」

 

「……黒の騎士団は今もはや一つの国家の軍隊とも呼べます。 そのような組織の指揮系統はトップが一人だけで十分でそれ以上となると、効率も伝達の質も落ちる可能性が生じかねません。」

 

「ディートハルト、私に『()を殺せ』とでも?」

 

はいストップ。 それは私が困るわよ? 何せ彼、カレンちゃん並みに優秀なパイロットなんだからね? 彼を殺そうとするのなら────」

「────ゼロ、私はまさにこのようなことを危惧しているのです! 私が言いたいのは彼を特別扱いするのではなく、部下の一員として同列に待遇することだけです。」

 

「つまり、“この情報を表に出すな”と?」

 

「その通りです。 神楽耶様は既にゼロへ思いを寄せておられる様子。 何も危険な爆弾を我々が自ら抱えることは無いのです。」

 

「……………………ラクシャータ。 このデータは我々三人以外に、知られているか?」

 

「さぁ? そこは()に聞かないとハッキリとした答えはないわね……少なくとも、()()()()()検査結果を知っているのはここにいる三人だけよ?」

 

「……そうか。」

 

 ゼロは頭を抱えたくなる衝動を抑え、『冷静沈着なゼロ』を装いながら仮面の下で静かなため息を吐き出しながらこう思ったそうな。

 

『……どうしてこうなった』、と。




スバル:俺のセリフゥゥゥゥ?! Σ(゚д゚lll)ガ━━ン!!
作者:ちなみに今話の元ネタは『アレ』と『アレ』と『アレ』と『アレ』をミックスしたオマージュです! (*ゝω・*)ノ
おはぎちゃん:つまり『闇鍋』だね! (。´ω`。)


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第222話 寝ている間にも世界は動く2

次話です! (;゚∀゚)ハァハァ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


「……ん。」

 

 閉じていた瞼の向こう側から見える光にまるで靄がかかった意識の中だったままカレンは、顔をしかめて顔を背けようとする。

 

「う~ん……(眩しいなぁ~。)」

 

「カレンさん?」

 

「(あれ? この声って、ベニオ? なんで私の部屋に……そういや体が怠い様な────)」

 

 ────ドシッ!

 

「ぐぇ?!」

 

 カレンは突然自分の胸に何かが圧し掛かってきた感覚に目を白黒させながら潰れたカエルの様な声を出してしまう。

 

 「がれ゛ん゛ざん゛よ゛がっだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!!!」

 

 ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

「(え?! ちょっと何?! 何何何何何何?! というか首! 首首首首首首首! ぐるじぃぃぃぃぃ!!!)」

 

 バシッ!

 

「イデ────」

「────ベニオ! そんなに抱き着いたらカレンさんが苦しいでしょうが?!」

 

「ゲホゲホ! た、助かった……」

 

 カレンは咳をしながら痛む首をさすり、ようやく室内を照らすライトに目が慣れると次第に自分が医務室にあるベッドの上に居る事に気が付く。

 

「(というかいつの間に病衣に着替えたの? 確か私……)」

 

「えぐっ、えぐ────」

「────もう、そんなに泣かないのベニオ。 ほら、ハンカチ────」

 ────チィィィィィン────!

 「────ってそのまま鼻をかむの?!」

 

「……ええええっと……漫才?」

 

 「違います。 まったくもってそのつもりはないわ。」

 

「ぐす……そんなボケ殺しはいらないよ、サヴィトリ?」

 

 鼻をかみ終わってポカンとするベニオの言葉にサヴィトリはこめかみをぴくぴくさせるが、深呼吸で落ち着いてからカレンに向き合う。

 

『無視』? そうともいう。

 

「とりあえずカレンさん、体の調子は? それと、最後に覚えていることは何ですか?」

 

「え? う、う~ん……体はちょっと怠い感じかな~?」

 

 カレンは思うままに答えながら腕や首を回すと、ポキポキとした音が鳴る。

 

「う~ん! 凝っている~! 特に首が~!」

 

「・ ・ ・ソウデショウネ。」

 

 サヴィトリは背筋を伸ばすカレンに続いて病衣の下からでも主張が強くて揺れる胸を見ながらジト目でコメントをする。

 

「えーっと……最後に覚えていることと言えば~……………………あの星刻って奴に捕まってから────ああああああああああああ────?!

 「「(────声でっか────)」」

「────あの後どうなったの?! よく覚えていないけどここに二人がいるって言う事は斑鳩の中?! それとも二人も捕まったって言う事なの────?!」

「────本当にバイタリティに満ち溢れているわね、カレン? 隣の部屋から聞こえてきたわよ?」

 

「井上さん?! じゃあ、ここってやっぱり斑鳩?」

 

「ん~、ちょっと違うわね。 蓬莱島よ────」

「────え────」

「────それと貴方が捕まってから二日後よ────」

 「────二日────?!」

「────そう二日。 ちょっと色々とあったから順序を追って説明するけれど、いいかしら?」

 

「えっと……その前に一ついいかな?」

 

「何?」

 

「お腹空いた。」

 

「「「え。」」」

 

 きゅぅぅぅくるるる。

 

「……」

 

 カレンは自分のお腹を押さえて物理的に音を出さないようにするが逆効果だったらしく、彼女から空腹を訴える胃の音が鳴り響く。

 

「……何が食べたい? お粥なら────」

 「────卵焼きを乗せてソースたっぷりかけたハンバーグ。」

 

「水炊きで我慢してね?」

 

 「ポン酢と肉類アリアリで。」

 

「はいはい。」

 

 人間、どんな状況下でも腹が極端に減っていれば食欲を満たすことで頭がいっぱいになる単純な生き物である。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ふはぁ~、食った食った~! 『マ〇ニーの代わりに春雨』ってのも良いわね!」

 

「(カレンさん細身なのにあれだけの量はどこへ消えたの?)」

 

 サヴィトリはどこからどう見ても物理法則が無視されている量を食い終えて『ご満悦~』というテロップが合うような様子のカレンを唖然としながらそう思った。

 

「(流石はカレンさん!)」

 

 ベニオは納得(?)した。

 

「(う~ん……この後のことを考えると、気が引けるわね……)」

 

 井上はニコニコしながらこれからカレンの知らない二日間の出来事を知り、予想するカレンの反応に気が重くなった。

 

「それで井上さん、この二日間何が起きたの? 私が戻ってきていると言う事は、やっぱり黒の騎士団が中華連邦に乗り込んだの?」

 

「……いいカレン? 心して聞いてね────?」

 

 そこから井上が口にしたのは以下の通り:

 

 ゼロが反対を押し切り、星刻と予期せぬ対峙による被害。

 天帝八十八陵への退路と籠城戦。

 ブリタニアと結託した中華連邦による爆撃。

 状況に耐えかねて、危ないと知りながらも斑鳩の甲板に懇願する天子と彼女を守る神虎とゼロの蜃気楼。

 大宦官が民や天子を蔑ろにする醜態と宣言が堂々と国内放送されたことで民衆とブリタニアに見限られる流れ。

 

「(ふーん……やっぱルルーシュ、『ゼロ』なだけに凄いわね~。) あれ? スバルは?」

 

「「……」」

 

「あー、うん……その事なんだけれど────」

 

 ベニオとサヴィトリはお互いをチラチラと見て、井上は気まずくなりながらも話し出す。

 

 黒の騎士団とは別に桐原がスポンサーしてスバルが所属している『アマルガメーションユニオン』────通称『アマルガム』という組織が所有している航空浮遊艦と合流中に毒島機がナイトオブラウンズの新型専用機と交戦。

 

 同時に黒の騎士団の斑鳩を別方向から奇襲をかけようとしたらしい対テロリスト遊撃機甲部隊グリンダ騎士団の持つ二つの艦隊のうち一つ『天空騎士団』とアマルガムの航空浮遊艦────『リア・ファル』が()()にも遭遇し苦戦を強いられた事。

 

「(うわぁ、毒島()()やレイラたちも苦労したんだなぁ……あれ? 毒島さんの機体、天子様が見送った時に昴も乗っていったよね?) スバルは? そのリア・ファルって奴に乗っていたの?」

 

「……ううん。 彼は毒島の機体に乗ったまま、ブリタニアの新型機()()を相手にしたわ。」

 

「え。 なんで?」

 

「その、さっき言ったグリンダ騎士団とリア・ファルみたいに()()()()()()()になって……」

 

「(うわぁ……最悪じゃん。)」

 

「それでアンナって子曰く、外見からの推測だけれど新型機は彼女たちが使っていた機体をベースにされた物に似ていてね? 動きからするとテスト中のナイトオブラウンズ機だったらしくて────」

 「────え。 ちょっと待って。 何故に?」

 

「どうも動きがぎこちない部分と、通信での自己紹介?」

 

「自己紹介?」

 

「確か“自分はナイトオブトゥエルブの~”って言いていたような気がするわ。 まぁ、通信って言っても“一方的な降伏勧告”みたいなモノだったらしいけれど。」

 

「毒島さんたちに~?」

 

 まるで『ラウンズの人ってバカぁ~?』という続きでも言いたそうなカレンの表情に井上も笑いそうになるが、なんとかその場を乗り切って話を続けた。

 

「そう。 それでここからは毒島の話によるところが大きくなるのだけれど貴方が中華連邦から引き渡されたことを聞いた瞬間、どうもスバルは人が変わったように操縦を無理やり────」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「“中華連邦から領土を奪え”?」

 

 中華連邦────ひいては蓬莱島から離れたブリタニアのペンドラゴンで、上記の言葉がオデュッセウスの口からオウム返しのトーンのまま出た。

 

「それを、皇帝陛下が?」

 

 そしてオデュッセウスに続くかのようにシュナイゼルが、ナイトオブワンのビスマルクに確認する様な問いをする。

 

「はい。 一字一句とまでは言いませんが、そのように皇帝陛下は仰っていました。」

 

「う~ん────」

「────私としては、兄上に恥をかかせた罰としてそれでもいいと思いますわ────」

「────ギ、ギネヴィア? 天子様の事なら、私は全然気にしていないからね?」

 

 「ブツブツブツブツせっかく低賃金労働者と資源の確保ができると思って今年の経済調整をようやく終えたと思ったらブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

 原作の様にメイクでうまく隠しているクマときつい表情をしたギネヴィアはイライラしながらブツブツと独り言をし続ける。

 

「でもでも婚姻関係とは別に、ブリタニアの領土と人員を確保できるからいいかも────!」

「────カリーヌまで……ほ、ほら? EUとの戦争も順調だし、今は自国の安定に集中した方がいいんじゃないかな? それに、今までトラブルばかりだったエリア11の和平路線もナナリーのおかげで順調だし────」

「────なんでナナリーの名前を出すの? 別にいいじゃん、あんな奴。」

 

「(う~ん、これはかなりライバル意識が芽生えちゃっているね。)」

 

 一気に不貞腐れながらプンスコと怒るカリーヌを見て、オデュッセウスは地雷を踏んだことに後悔しだす。

 

 実は黒の騎士団の成した『100万人の奇跡』以来、エリア11の状況は日を追うごとに改善していた。

 治安も以前と比べれば雲泥の差なほどよくなり、クロヴィスによる『エリア11風テルマエ(温泉)』の宣伝と効能でブリタニアだけでなくEUからの観光や退職者の来訪も盛んになり、生産能力もグングンと向上していた。

 

 最初こそ『着任早々に総督権限でほぼ独断のゼロ国外追放』と『100万人の引き抜き』によりナナリーは陰で非難されていたが、現在にまで見られるエリア11を見れば間違った選択どころか最善だった事は一目瞭然だった。

 

 対するカリーヌが担当している香港では他のエリアや領土と似通った統治で、『可もなく不可もなくで例年通り』……と言いたいところだが、大宦官の放送による中華連邦のごたつきによって移民希望者と裏ルートによる亡命者などが多くなったことで治安は悪化しつつあった。

 

 つまり何が言いたいかというと同い年であるナナリーとよく比べられる上に『かりーぬちゃんあたまいたいの~』案件が増えたことでカリーヌは表面上冷静だったが、内心では荒れていた。

 

 それと全く関係ないかもしれないが、ここ最近カリーヌもマルディーニブランドの化粧水を愛用し始めた噂が出回った所為でマルディーニブランドの株が右肩上がりしているとか。

 

 「ハァ~ブツブツブツブツブツブツなんでこんなにも周りは“ナナリーは~”ってうるさいのかしらブツブツブツブツブツ」

 

 カリーヌは原作でも口にした様なセリフをボソッと言いながらそっぽを向く。

 

「そんなに邪険にすることは無いだろうカリーヌ? 彼女は頑張っているじゃないか!」

 

「・ ・ ・ ・ ・ ・」

 

「……ええええと、この前に約束したエクレアとプディングを買ってきたよ? 後で食べる?」

 

「フ~ンだ。 食べ物で釣られる私ではございませ~ん。」

 

「あ、あはははは……」

 

 オデュッセウスは乾いた笑いを出すと、珍しくシュナイゼルがいつもの愛想笑いのまま言葉を発する。

 

「ナナリーの活動はきっと、カリーヌを見習っているものだと思うよ?」

 

「そ、そうかしら?」

 

「そうだよ。 でなければ、あの手際の良さは私でさえ見習いたいぐらいさ。 それと中華連邦の件に関してはブリタニアとユーロブリタニアから二個師団ずつを国境に配置しよう。」

 

「シュナイゼル殿下が自ら軍の指揮を執るとは、意外ですな? EUとの戦争以来、政治だけでなく軍方面にも興味を出されましたか?」

 

「いいや? これも外交の手段の一つに過ぎない。 今の中華連邦はバラバラだ。 特に西側は統一性のない烏合の衆だから戦闘行為がなくとも三分の二……あるいは半分ほどの領土をすんなりと手に入れられる筈。 これ以上の領土拡大は流石に帝国の経済の穴を更に大きくしかねない。」

 

「なるほど……皆様からほかの意見が無ければ、皇帝陛下にそう伝えますが?」

 

 プンプンしながらもオデュッセウスの買ったエクレアを食べるカリーヌ。

 そんな彼女を見てにこにこするホッと胸を撫で下ろすオデュッセウス。

 近寄りがたいオーラと共にブツブツとした独り言をするギネヴィア。

 ニコニコと、いつもの愛想笑いとはどこか違う笑みをするシュナイゼル。

 これ等皇族の様子を、見て見ぬフリをしようとする文官たち。

 

「(ふ~む……聞いていたものより()()()()が、概ね問題はなさそうだな。)」

 

 ビスマルクは周りを見ながらそう静かに思った。

 

 

 


 

 

『視界が暗い。』

 

 それが、最初に思ったことだった。

 その次は『突貫してどれぐらいの時間が過ぎた?』。

 

 気が付けばそんな質問を考えている間、次第に体中をじわじわと蝕むような痛みから意識をそらす為に耳を澄ますと周りから映画で出てくる集中治療室のような音が聞こえてくる。

 

 ピッ……ピッ……ピッ……

 

 各モニタリング用機器の電子音。

 

 シュー、シュコー……

 

 人工呼吸器などの生命維持装置が出すシュコ~と空気が出たり入ったりする音。

 

 一々リストアップすれば終わりが無いので『その他』。

 

 ……フローレンスの装備、原作や外伝から変わっていたな。

 フローレンス自体の容姿とかではなく、フローレンス子機────強いて名付けるのなら『フローレンス・ドローン(仮)』を使っていたことだ。

 

 元々がwZERO部隊のドローン機だったから量産はしやすいだろうしブリタニアがその気になっていればドローン技術を、人口不足なユーロ・ブリタニアからもぎ取っていてもおかしくはなかったなそう言えば……

 

 それよりも、体に血液の代わりに鉛が入っているかのように重い。

 

 さっきから瞼を開けようとしても接着剤で閉じられているかのようにぴったりと閉じたままだし、手足に力を籠めれば籠めるほどじわじわとした鈍痛が鋭くなっていくだけでうんともすんとも動かない。

 

 これじゃあ、まるで暗い世界の中に『自分』という存在だけがいるかのようだ。

 

 ゾワッ!

 

 考えを切り替えよう。

 そんなことを考えても無意味どころか気持ちがダウン(嫌な感じが)するだけで、それならば別の事を考えよう

 

 …………………………うん、ボヤッとするな。

 頭が。

 

 あの後からどうなったんだろう?

 どれぐらいが経ったんだろう?

 

 ボヤ~とどこか寝ぼけた頭のまま、どれだけ記憶を辿ってもフローレンスからモニカと思われる通信による『カレンを捕まえた』と言われたころから曖昧だセミの鳴る音が耳鳴りのように鳴き続き────

 ピッ、ピッ、ピッ。

 確か俺はカッとなって毒島から操縦桿を取って焼かれた大地とコンクリートに死体からの死臭の中で────

 ピッピッピッピッピッピッ。

 フローレンス・ドローンと真面目に対峙することを止めてガイア機並みの踏み台ムーヴを披露して悲しさで口がきけなくなった他人の為に泣くカレンが────

 ピピピピピピ!

 そのまま噴射機を使った飛躍(ジャンプ)を使って表示されていたリア・ファルの方向に向かって換装パックっぽい信号と共に地図(マップ)が更新されて天帝八十八陵の方向が表示されてアヴァロンと自分の間にトリスタンとモルドレッドとランスロットが痛々しくて“大丈夫だよ” と言い聞かせてなだめてナオトさんと一緒にナオトさんはナオトさんが────

 ピィィィィィ!

「────ごげ?! ガッ?! ごぶぇ────?!」

 ────かれんガガがガガガががががががががガガガガガガががががががが。

 

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!

 

 バァン!

 

 からだがふるえだし

 どろっとしたものがのどからせりあがって

 ふさがれているくちのかわりにはなからなにかがでて

 からだがおもくなってうごきをとめた

 

 プー、ドォン

 

 グッ?!

 何かの電子音のすぐ後に右の胸と左脇から熱のこもった衝撃が来て、文字通りに頭が一瞬クリアに────だめだ また ねむくなってきた

 

 プー! ドォン

 

 イデェ?!

 またさっきの衝撃が────というか更に痛い?!

 今ので体が凄く跳ねたぞ?!

 

 ダン!

 

 体が跳ね上がった拍子に首がダラリと横に曲がり、さっきまでの天井とは違う景色が見られるようになる。

 

 どうも病室のようで、視線が開いていたドアの向こう側に居るカレンと会う。

 

 顔は良く見えないし、病衣を着ている様子だが目立った傷とかは見当たら────「────ごげぇ!

 

 

 


 

 

「────と、宰相閣下が公言しました。」

 

 シュナイゼルたちとの会談が終わり、ビスマルクは報告の為にシャルルと会いにとある部屋へと来ていた。

 

「そうか……」

 

「一つ、よろしいでしょうか陛下?」

 

「もったいぶるなビスマルク。」

 

「では……何故、このタイミングであのようなことを言い渡すのですか? 普段から政に関わっていない故に、怪しまれかねないのですが?」

 

「『今』必要なことだからだ。 それが何か?」

 

「いいえ。 これ以上、私から言う事はございません。 では、私は────」

「────ビスマルク。」

 

「何でしょう?」

 

「スザク・クルルギは確か、シュナイゼルに“エリア11への休暇と待機”をヴァインベルグたちと共に言い渡したのだったな? であれば私の名を使い、奴にナナリーの補佐に入るように言い渡せ。」

 

「それは……よろしいので?」

 

「今の奴とルルーシュを学園で会わせるのは厄介な()だからな。」

 

「承知致しました。」

 

 ビスマルクは立ち上がり、そのまま部屋を出るとシャルルは頬杖を付く。

 

「(シュナイゼル、ユーロ・ブリタニアも動かすか……ふむ。 ファルネーゼ卿だけなく、ヴィヨン卿も生きていれば不思議ではないと言えばそれまでだが……)」




……展開、遅くて申し訳ございません。 (;´д`)ゞ


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第223話 寝ている間にも世界は動く3

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 「「「「「スヴェンが、事故?!」」」」」

 

 「(声がでかすぎるわよ!)」

 

 アッシュフォード学園のクラブハウス内で上記の言葉が響き、久しぶりに復学したアンジュはミレイたちの声に内心ビックリしながら叫び返すことを我慢しながら、この場に居ないマーヤを思い浮かべていた。

 

 というのも、スヴェンの容態を伝えに毒島やレイラやアリスに負けてエリア11に戻ってきたアンジュはマーヤに『学園での出席日数が~』と言われ、今の立場の入れ替わりを提案された。

 

 何ともスヴェンに会うまで新学期早々から不登校気味だったおかげで留年する恐れがあったマーヤと、アマルガムの活動が本格化するまでは律儀にクラスに出席(だけは)していたアンジュの立場が入れ替わったのは『皮肉』というべきか。

 

 そんなアンジュからすれば、『学生である事は今更』というか正直どうでも良かったのだが連絡係の大役を決める際にじゃんけんでアリスに負けた上に他人の言う通りに『ハイそうですか』とすんなり納得することが気に食わなかった。

 

 見事にマーヤに賭け事を煽られ提案されて負けて復学し、補習スケジュールを『なぜこんなにも出席日数が危うい学生が続々と~』と愚痴る教師たちと確認し終えてようやくクラブハウスにいる者たちに(表面上だけでも)スヴェンの欠席理由を伝えに来ていた。

 

 余談ではあるが、色々と察したヴィレッタは過去から体育の成績が良かったことから色々と免除してもらっている。

 

「ええ、それでちょっとの間だけ学園に来れないって伝えに来ただけ。 (まったく……なんでこんなことに……)」

 

「どうしたです、アンジュ先輩?」

 

「ん? ちょっと、補習の話を思い出していただけ。」

 

「そういやアンジュ────って、『アンジュ』でいいよな?」

 

「あー、ハイハイ。 好きに呼んで頂戴リヴァル。」

 

 「なぁライブラ? アンジュ、スゲェ丸くなったと思わないか?」

 「??? アンジュ先輩、太っていないですリヴァル先輩!」

 

そういう意味じゃ……ま、まぁいいや。 それでアンジュはここ最近、どこに居たんだ?」

 

「え? えええええっと────」

「────まぁ、彼女の事だから“自分探し~”辺りとかじゃないかしら? で、スヴェンが相談に乗ったから旅から帰ってきたら事故にあったことを分かったんじゃないかしら?」

 

そうそれそれそれそれ! いや~、私ってばほら? 箱入りだったじゃ~ん────?」

「「「(────『箱入り』ってレベル────?)」」」

「────『せっかくだから旅に出よう』と思って! アッハッハッハ!」

 

 アンジュはミレイの助け舟に乗りかかり、豪快に笑った。

 

「(あれ? そう言えばマーヤも学園に今日は来ていないな? ハッ?! あいつ、もしかしてカレンがいないのをいい事に他の女に手を出していた?! うらやまけしからんッ!)」

 

 リヴァルは割と当たっているようで当たっていないスヴェンの妄想をした。

 

「…………………………」

 

 そんな中、シャーリーはチラチラとルルーシュの方を見ていた。

 

「ん? どうかしたかい、シャーリー?」

 

「へぁ?! う、ううん! なんでもない────!」

「────もしかして疲れた? 肩でも揉もうかい────?」

「────ううん、いいから────!」

「────お腹が空いているなら、軽食でもつくるけど────?」

 「────兄さん、ちょっと良いかな?!」

 

「(ナニアレ。)」

 

 ルルーシュはタジタジになっていくシャーリーからロロにより連れ去られ、これを見たアンジュは内心で呆けながら思わず見ているところをリヴァルに気付かれる。

 

「あー、アレな。 ルルーシュのヤツ、なんか変なモノでも食ったのか急に優しくなるんだよなぁ~。 それに……」

 

「それに?」

 

「……ナンデモナイ。」

 

「(まぁ、今って確か中の人は『自称SP』のあの女だからねぇ~……それでもあの態度はルルーシュ的に『無い』かな?)」

 

「んで、シャーリーもシャーリーで戸惑いながらも満更じゃないんだろ?」

 

「へ?! あ……その……」

 

 カァァァァ。

 

 「う、うん。」

 

「(くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 甘酸っぱぇぇぇぇぇぇぇ! ……分からないでもないけれど。)」

 

「……」

 

 頬をほんのりと赤らませながらモジモジとするシャーリーを見てホッコリしながらも微笑ましい気持ちになるアンジュの横で、ミレイは学園に帰る途中でようやく未読メッセージが既読に変わったルルーシュからのぶっきらぼうな返信等を思い浮かべていた。

 

 あと別件で、()()()()()()()()についても。

 

「(はぁ~……相手方の立場上もあるし、『断る(ノー)』なんて返せるわけないけれど……どうしよう?)」

 

 ……

 …

 

「ふぅー……(これで一応、『合衆国中華』と亡命政府の『合衆国日本』の体制は整えられた筈だ。)」

 

 蓬莱島にある、『合衆国日本政庁(仮)』に居たルルーシュはようやく終えた事務作業の書類を横にしながらため息を出す。

 

「豪快な溜息だな坊や? ただの書類審査と確認ではないか?」

 

「黙れピザ女。 お前に俺の苦労が分かってたまるか。 というか手伝え。

 

「その気になったらな……それにしても、かなり早いな? 中華連邦が『国』からバラバラの『州』となったというのに。」

 

「星刻とその側近たちが紅巾党の手綱を握っていたおかげで、元々彼のクーデターに応じて大宦官の中華連邦から独立を目論んでいた領土がそのまま合衆国中華になったからな。 と言っても信用できる文官が少ない上にブリタニアとユーロ・ブリタニアの動きが怪しい中、星刻たちはよくやっている……なぁC.C.?」

 

「なんだ?」

 

「お前のそのぬいぐるみ、増えていないか?」

 

 ルルーシュが横目で見たのは最早両手で抱きかかえられる量を超え、手と手を繋ぎ合わせられるような仕組みで輪っか────いわゆる『ハワイアンレイ』ならぬ『チーズ君ファミリーレイ』を抱き枕代わりに寝転がるC.C.の様子だった。

 

「何がだ────?」

「────だからその────」

「────あげんぞ────」

────いらん。 それよりも、星刻の側近(香凛)たちに任せられる筈だ。 合衆国中華と日本が落ち着き次第、俺はエリア11に戻る。」

 

「学園にか? 早いな? 合衆国中華は一応まとまったかに見えるようだが、まだまだ『盤石』と呼べないんじゃないか? それともやはり、合衆国日本をバックに付けるのか?」

 

「今まで好き勝手にやってきた州の反抗勢力の事ならばどうとでもなる。 軍を境界線に張り藤堂や星刻に任せれば、戦闘行為など必要なく交渉だけで調略できるだろう。」

 

「もしかして民衆たちが立ち上がった時にお前が言った『思いは力』を利用するのか?」

 

「まぁな。 きっかけが無ければ行動をしない民衆たちなぞ、常に『指導』を心の奥底で求めている奴ばかりだからな。 それが『人』であっても『隣国』であっても、『天子や星刻がいる』ということだけでも民衆はなびくだろう。」

 

「成長したな? ……これであのシャーリーとかいう女もとうとう報われるというわけか。」

 

「??? なぜそこでシャーリーの名がお前の口から出てくる?」

 

「……」

 

 冗談無しにハテナマークを浮かべながら不思議に思うルルーシュの顔を見たC.C.は特大の『マジかこいつ?』のジト目になる。

 

「はぁ~。 前言撤回、お前はやっぱり何も成長しちゃいなかったよ。」

 

「(時々こいつ(C.C.)が何を言っているのか分からんが、まぁいいだろう。) それよりもC.C.、嚮団に関する情報が手に入れば連絡しろ。」

 

「まだ嚮団を探すつもりだったのか?」

 

「当たり前だ。 皇帝側にギアス能力者を生み出せる組織がある限り、対ギアス能力者も踏まえた作戦をし続けるのにも限度がある。 それが無くとも、奴には『ブリタニア』という軍事国家(アドバンテージ)がある。 強大な敵を部分的に切り崩すのは常識だ。」

 

「だがギアス嚮団の拠点は周到に秘匿され、嚮主の指示一つで本拠地を移動できる。」

 

「しかし現嚮団員のロロ、そしてピースマークのオルフェウスも『中華連邦のどこかにある』と確信している。 それだけでもかなり捜索範囲は絞り込められた。」

 

「と言っても、ここの土地の範囲は広大。 どうやって探す?」

 

「一応オルフェウスを泳がし、奴の動きを見る……と言っても、俺の探し方とあまり変わらない様子だがな。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。 人と物資の流通、電力の流れに、通信記録を読み取っている。 かなりのやり手だ。」

 

 

 ……

 …

 

 

「……」

 

 ディートハルトは難しい顔をしながら読み終えた資料をテーブルの上に置くと肘をテーブルに着き、手で顎を支える。

 

 資料には『スバル』に関しての行動や判明している情報に、ディートハルト自らが築き上げた情報網で『スバル』らしき者と出会った人たちの証言などが書かれていた。

 

 そしてそれらを一つにまとめた、ディートハルトは『スバル』という人物の行動原理を理解しようとしていた。

 

『人間』という生き物は、周りの環境や育った社会に世界の価値観によって影響される為にたいていの場合はその人物の周りをある程度調査し終えれば自ずと行動原理や思想などの予測ができる。

 

 現に原作でもルルーシュにシュナイゼルや、『亡国のアキト』のスマイラスやシンもこの様な洞察力を用いて他人や部下たちの心境を誘導したり、大衆の誘導などをしている。

 

 そして人間は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、これはコードギアスでも現在でも変わらない()()()()である。

 

「(だというのに、この『スバル』とやらの行動は不明な点が多すぎる……『扇要』がレジスタンスの指揮を執る前、『紅月ナオト』が後にレジスタンスとなるグループの立ち上げから身を置いているが目立った功績は見当たらない。 せいぜいが、『手先が器用で整備士の真似事が出来る』と言ったところ。

 ゼロが初めて指示を行ったシンジュク事変では姿を消しながら扇要の指示による別行動で、シンジュクゲットーからイレヴンたちを事前に逃がしている。 そしてゼロが初めて姿を現し、動じるどころか平然としていたことから扇要の推薦により、クロヴィス殿下殺人未遂の()()オレンジ事件に参加……

 次に黒の騎士団宣言時の河口湖で起きたホテルジャック事件は不参加……にも関わらず、その後も黒の騎士団の整備班の一員として活動し、実質紅月カレンのグラスゴーの整備士に収まる……だが────)」

 

 ディートハルトは横目で、とあるゴテゴテで通常より一回り大きい『槍』の様なものが映されている写真を見る

 

「(────リフレイン事件にて、()()()人質を取ったナイトポリスを沈黙化させるという所業を成し遂げ、彼の戦力として評価が上がると共にゼロからの警戒も上がり、結果的に接近戦用のパイルバンカーが開発された。 使用者の技量が試されるが、使いこなせば敵機の誘爆も少ない上に周りへの被害も最小限に抑えれる兵装……この件から、ブリタニア兵士の連続殺人も始まったな、そう言えば……関係があるのか?)」

 

 ナリタ連山と、ナリタ市の写真、そして紅蓮に似た機体の写真にディートハルトは視線を移す。

 

「(そして日本解放戦線を囮に行われたナリタ事変。 別動隊と称してゼロはスバルをナリタ市に配置し、『未確認機と交戦している』という通信を送って生還……)」

 

 彼は更に資料を見直していく。

 

『キョウトとは別に行動し始める桐原泰三。』

『日本解放戦線がヨコスカ港区にて逃げ出した際の乱戦にて姿を消す。』

『のちに黒の騎士団と合流した藤堂と知りあいの様子。』

『式根島で枢木スザク捕獲作戦の予備戦力として神根島にて待機、何らかの理由で飛ばされたゼロと紅月カレンを神根島の捜索中だったブリタニア軍から逃がす手伝いを行う。』

『フクオカ事変では片瀬少将を紅蓮と共に追い、それなりの技量を見せて複数の無頼改などを無頼で撃破。』

 

 そして、黒の騎士団にとって『黒歴史』とも呼べるブラックリベリオン。

 

「(ここだ。 ここから彼は雇われの身────()()()()としての手腕を見せ始めている。 ブラックリベリオンでゼロが事情により突如として姿を消し、欲望と我欲のまま暴徒化した者たちの見切りを黒の騎士団員たちに付けさせ、残存戦力の誘導を桐原の孫と共に開始し、桐原自身が蓬莱島を受け皿として中華連邦と交渉……後にEUからの難民や兵士、ユーロ・ブリタニアからも亡命者が来訪。

 ()()()()で、人工島の開拓を進めた……更に時間が経過し、ウィルバーとサリア・ミルビル博士にマリエルとレナルド・ラビエ博士たちが着き、ラクシャータと共に様々な技術開発に携わる……後にサルベージしたガウェインの解析に解体をし、斑鳩と蜃気楼……そして黒の騎士団の傘下に無い、あの例の部隊専用の航空浮遊艦が建造されたと言う事か。)」

 

 ギシッ。

 

 ディートハルトは背もたれに身を預け、椅子が軋む音だけが室内に響く。

 

「(そして先の『天子強奪計画』は、ブリタニアが突然仕掛けてきた電光石火の策だというのに、動じるどころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()で紅月カレンの奪還を大勢の前で成し遂げている……)」

 

 ギシッ。

 

 またも椅子が軋み、ディートハルトは頬杖で頭を支える。

 

「(極めつけはラクシャータの血液検査だ。 ()()が本物で、本人に自覚があると仮定し、今までの行動がワザと意味不明な『自身にメリットのない行動』や『他人の為に自身をなげうつ』動きがこの為の布石だとすれば……黒の騎士団は……ゼロは……)」

 

 ……

 …

 

「はぁ~……」

 

「どうしたの、サヴィトリ?」

 

「……ベニオは気楽でいいわよね?」

 

「うん?」

 

「だってさ、考えられる? 単機でブリタニアに特攻かけて、ラウンズをあしらって、()()ブリタニア帝国宰相から紅蓮とカレンさんをもぎ取るなんて……普通、無理でしょ?」

 

 蓬莱島でディートハルトが自分の部屋の中で悶々と考え事をしている間、サヴィトリとベニオはカレンが目を覚ましたことと、井上が彼女にアマルガム側(スバルたち)の話をして未だに夢を見聞きしているかのような感じだった。

 

「う~ん……そうかな? 逆だったら、カレンさんも出来ちゃう気がする。 こう、『バビューン!』とか『ドカーン!』とか『ガオー!』って感じで。」

 

 「何その絶妙な語彙力低下は?」

 

「う~ん……フィーリング?」

 

「……そう言う物なの?」

 

「きっとそうだよ!」

 

「(……パイルバンカー、衝撃吸収能力が高くてコストの抑えにも効く装甲(アーマー)、廃れたと思っていた火薬式の兵装にまさかフロートシステムに頼らない大気圏離脱式超長距離輸送機の小型化に成功した物と燃料エンジンのハイブリッド、KMFに似て全く違う人型兵器にファクトスフィアの簡略化、より人馬一体化を追求したヒューマンマシンインターフェイス、そしてパイロットの生命維持と動体視力強化を追及したスーツにその他もろもろ……まっっっっっっっっっっっっっっっっっったくもって非常識もほどがあるのに、最後は一心不乱にカレンさんを助けるなんて……)」

 

「サヴィトリー? そんなにしわを寄せたら余計に老け顔になるよ~?」

 

 「誰のせいだと思っているのよ。」

 

 ガチャ。

 

「あら、そんなにカリカリしてはだめよ? ビッグモナカ、食べる?」

 

 パァァァァ。

 

「え、あるの────じゃなくてノックも無しに入ってきた貴方は誰ですか。

 

 サヴィトリは一瞬だけ嬉しそうになるがノックも無しにショッピングバッグを見せながら部屋に入ってくる私服姿のマーヤを威嚇にびっくりする。

 

「えっと……鍵、かけていたよね私?」

 

「ええ。 ノックするのも悪いかと思ってピッキングしましたけれど何か?」

 

「「(何こいつ。)」」

 

「ああ、ごめんなさい。 貴方たちからすれば“初めまして”になるわね。 私はアマルガム所属のマーヤ・ガーフィールド。 少し、お話を聞いてもいいかしら?」

 

 

 ……

 …

 

 

「ふあっくち!」

 

 旧中華連邦となった領土内のどこかにある、ギアス嚮団の拠点で『ネリス』と名乗っているコーネリアはくしゃみをする。

 

「大丈夫ですか、姫様?」

 

「ズズ……遺跡だけに、ほこりの所為か鼻がな? ()()()はどうだ?」

 

「順調の様ですな……果たしてそう呼ぶべきかどうか、何度見ても怪しいですが。」

 

 コーネリアとダールトンは遺跡の様な場所の中に近代的な電子機器などが設置された、研究所らしい見た目に改造された場所を歩く。

 

 周りには白衣を着た者たちやブリタニア正規軍とは違う装備をした者たちの亡骸があり、二人が行きついたのは一つのサーバールームの様な場所だった。

 

 カタ、カタカタ、カタカタカタ。

 

「フッ……グッ……」

 

 中からは指がキーボードをたたく音に、くぐもった声が聞こえてくる。

 

「遅いなぁ……『もっと早く作業』できないの~?」

 

 カタ、カタカタ、カタカタカタ。

 

「お、お前たち……ギアス嚮団を裏切って逃げていると思えば……こんなことを……」

 

 コーネリアたちが見たのは、近くに立っていたクララに対して上記の問いを口でしながら必死にパソコンを操る研究者らしき男と、その様子を黙りながら見ていたオルフェウスたちだった。

 

「はぁ~……ねぇお兄ちゃ~ん? 次にこいつが不愉快な事言ったらお仕置きしていい~?」

 

「……好きにしろクララ。 だけど殺すなよ?」

 

「大丈夫、だいじょう~ぶ! 尋問なら任して!♡」

 

「本当に、ギアス嚮団の本拠地を探しているとはな……助っ人がいるようだが、無事でいられると思っているのかお前ら────?」

「────そう思っているから、貴方を生かしておいてこうやって探っているんじゃない♪ お? あったあった────♪」

 

 ────ヒュン、ザク!

 

 クララは近くの救急箱の中からハサミを取り出すと研究者の左腕を掴み、テーブルに左手を押し付けながら手に持っていたハサミを振り下ろすと研究者の小指と薬指が半分になる。

 

あっ?! あげぁ?! あがぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛────?!

「────うんうん、『作業に戻ろう』ねぇ~? 次は中指と人差し指だよ? 何なら右手と右目だけになる────?」

────おおおおおおお前! お前も知っている筈だ! 逃げ続けるならともかく、嚮団に歯向か────?!

「────今考えたら、口もいらないよね────?」

「────へぁ、ちょっと待ってく────!」

「────『動かないで』ねぇ~?」

 

 バチン、バチン、バチンバチンバチンバチンバチン!

 

 「むぐおぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 クララが次に取り出したのは医療用のステープラーで、彼女は躊躇なく研究者の口を縫い付ける。

 

「ほらほら♪ 早く言われたとおりに作業しないとどんどんいくよ~?♪ アッハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 「止めなくて、良いのか?」

 「……いや?」

 

 クララがウキウキに行使する過激(?)な拷問にダールトンは小声でオルフェウスに話しかけると彼は小声かつ淡泊に答える。

 

 「彼女は、先があまり長くないかも知れないからな。 俺はできるだけ、彼女の行動を大目に見るようにしている。」

 

「オズ、それは一体どういう────?」

「────すまんネリス。 これ以上は、俺の口から言うべきことではない。」

 

 オルフェウスはそう言いながら、常に頭に巻き付けているミサンガの様な物────最愛の人の形見であるエウリアの遺髪で編んだ髪紐にそっと触れる。

 

「(エウリア、もう少しだけ待ってくれ……俺は必ず、命を懸けてもV.V.と嚮団を……そうしたら、俺も……君の元に……)」




きょうも ぎあすきょうだんたんさくぐみは げんきです!


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第224話 懐かしきエリア11にて予兆(?)

お待たせいたしました、次話です!
楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 キィン! パシッ!

 

 金属音が鳴り、手の甲が叩かれる音がする。

 

「「「表!」」」

 

「ふむ。」

 

 そしてカレンとマーヤにレイラが同時に声を出し、コインを投げたと思われる毒島が顔を崩さないようにする。

 

 「なんだ、あれ?」

 「う~ん……スバルの看病役決めの延長?」

「ハァ?! あんな陰険野郎の?! 何てうらやま────ぐが?!」

 

 蓬莱島にて、杉山の問いに井上が答えると玉城の素っ頓狂な抗議が上がりそうになったところで井上のアイアンクローが彼を無理やり黙らせる。

 

 「どういう意味だ井上?」

 

「うん。 実はラクシャータさんから“大勢で駆け込むのは感心しないから自重しな”って言われたらしく、最初はじゃんけんで決めようとカレンが言い出してマーヤが賛成して他の子たちが猛反対したんだって。」

 

「それがどうしてコイン投げになる?」

 「ぐげげげげ。」

 

「どうやらマーヤちゃん、じゃんけんだと無敵なんだって。 で、試しにカレンとしだしたらエンドレスになっちゃって……ちなみにこれは毒島とレイラちゃんに聞いたのだけれど……どうやらあの二人、手を振り下ろす瞬間に相手が出すものを察して対応しているみたい。

 

「は?」

 「あがががが。」

 

「ほら、よく考えたらグー以外の手を出そうとすると手が開くじゃない? だからグーの場合はパーを出してチョキかパーか分からない場合はチョキを出せば最悪相打ち、良くて勝ちになるって寸法。」

 

「つまり……相手の拳を見て? それに対応していると?」

 「……」

 

「ええ、まぁ……そう言う事になるわね。 で、それだと勝負がつかないからコイン投げになったのだけれどそこでもカレン達はコインが表か裏か落ちてくるのを見ているし……多分レイラ辺りは計算とかしているんじゃない? で、結局()()()誰が一番早くコイン投げの結果を当てられるか競争しているみたい。」

 

なんだその動体視力と才能の無駄遣いは。 って、“今日も”? まさか、あれからずっとか?」

 「ブクブクブクブク……」

 

「そうね。 あの孤児たちが中心になって世話をしているけれど、やっぱり子供だけだと大変みたい。」

 

「孤児たち?」

 

「あ。 あー……中華連邦で保護した子供たちらしいわ。」

 

「……井上はアレに参加したくないのか?」

 

「いやいやいや無理でしょ! 参加しても負けるだけだし。」

 

 杉山の質問に井上は苦笑いを浮かべ、二人は未だに続くアイアンクローの所為で白目になり気を失った玉城を背景景色の一部────ゲフンゲフン、忘れていたそうな。

 

 「よっしゃー!」

 

 数分後、カレンの勝ち誇るような声が出る。

 

「(勝ったどー! 前の時みたいに離れていたり、黒の騎士団案件や事情聴取とかでバタバタしていたけれど今度こそ────!)」

「────そういえばカレンは彼の看病をしたことあるか?」

 

「んぇ? なんで?」

 

 毒島の問いにカレンはハテナマークを浮かべ、さっきまで気落ちしていた様子のマーヤが反応する。

 

「あら、大丈夫かしら? 彼、身動きできないのよ?」

 

「うん、それで?」

 

「えっと……ということはですね、カレンさん? ……~~~~ッ! しょ、少々耳を貸していただけないかしら?」

 

「うん?」

 

 どこかぎこちなくなり、段々と赤くなっていくレイラが小声でカレンに耳打ちするとカレンも徐々に赤くなっていく。

 

 「し、し、し、し、下の世w────むぎゅ?!」

 

「し、シィィィィィ! カレンさん、声が大きいです!」

 

 素っ頓狂な声を出し始めるカレンは自分の口を両手で塞ぐ。

 

「(そ、そ、そ、そういえばそうだった! 『身動きできない』ってことは当然『そう言う事』も一人で出来ないワケでででデででデでデデデ! え、え、ええええええええええええええええ?!)」

 

 ゆでだこ状態になりつつカレンの目はグルグルとしだし、妄想がドンドンとはかど────

 

「────あれ? ねぇ? それだと前回と前々回はその……どうしていたの?」

 

 カレンはふと思った疑問を口にするとそこに居る者たち全員の目が泳ぐ。

 

 マーヤ以外。

 

「あら? 今日みたいにじゃんけんで当番制にしたわよ? でも流石に下の世話は自主的な者たちだけで────」

「────え。 ちょっと待って。」

 

「??? 何かしら?」

 

()()()ってどういう意味。」

 

「そのままのことだけれど? ああ、『着替え』は結構人気があったわね。 でも今だとあの子たちもいるから随分とやりやすく────」

 「────は?」

 

 ガシッ。

 

 「ソノハナシ、クワシク。」

 

 カレンの目からハイライトが消え、彼女は力強くマーヤの方を両手で掴んだ。

 

 

 


 

 

 目が覚めたら病室だった。

 

 え? 『意外と普通な反応だ』って?

 いやもう……この一年間の間に何回もこのように目を覚めたら慣れるがな。

 

『目が覚めたら病室だった』といっても、髪が伸びすぎて右目がチクチクするけどな。

 

 そういや最後に髪を切ったのって、(セルフカットだが)ヴァイスボルフ城以来か?

 

 グゥ~。

 

 腹減ったな……栄養は点滴だけで足りるが、腹は────

 

 ────ガチャ。

 

「ぅ。」

「?」

 

 てってけ、てってけ、てってけ。

 

 考えているとドアが開き、エデンバイタル教団から保護した子の二人が一瞬起きた俺を見てビックリしてから歩いてくる。

 

 手に持っているモノを見ると、多分寝込んだ俺の世話と着替えだろう。

 

 それにしてもこの二人……顔つきも体つきも徐々にだが頭に追いついて来たな。

 あの時に見た、頭のサイズに対して細すぎる体に粗末な服、そして生気の抜けた表情と目。

 

 今でも考えるだけで無性な怒りが沸き上がってきて、それを何かにぶつけたくなる衝動が……

 

「ぁいじょぅぶ?」

 

 っと、いつの間にか考え込んで────「────え?」

 

 ちょっと待て今、喋ったよな?

 不慣れの様子だけれど……声を出したよな?

 

 ふぉぉぉぉぉぉぉぉ

 

 む、胸が……

 感動で思わず天を仰ぎたく────アイテテテテテ!

 

 腕を上げようとしたら痛い!

 時間差で感じ始めたけれど体中が痛い!

 

『ブラックリベリオンかエデンバイタル教団直後のどっち?』って聞かれたら『取り敢えず痛い!』って言い返したくなる!

 

「あぅ。」

 

 ぐぬぬぬぬ!

 気張れ俺!

 痛がったりしたらこいつらを怖がらせてしまう!

 痛覚、邪魔だ!

 

「元気に、していたか?」

 

 コクコク。

 

「そうか。」

 

 ナデナデナデナデナデ。

 

「ぅ~。」

「……」

 

 そう思いながらもう一度よく見ると、二人が持ってきた物の中にラビエ親子たちに随分前に依頼していた強化スーツ(男版)があるではないか!

 

 よし、俺とこの二人の分含めてお粥……はちょっと味気ないから、甘めのパン粥でも作るか。

 

 というわけでリハビリがてら病衣を脱いで強化スーツに着替えて試運転としてキッチンに行くか。

 

 ヌギヌギヌギヌギ。

 

「まて。 なんでお前たちもここに残って手伝う?」

 

「「???」」

 

 いやそんな顔で見ても逆に俺が困るのだが?

 俺一人で、着替えぐらい────イデデデデデデデデデデ!

 

 無理!

 筋肉痛がガガがガガガがががががががが

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 う~ん、モチモチとしたパンを蜂蜜牛乳に浸したパン粥が美味い!

 

 モシャ、モシャ、モシャ、モシャ。

 

「美味いか?」

 

 コクコクコクコクコク。

 

 うむ、ワイも満足である。

 流動食だけれど(多分)長い間何も口にしていない(多分)からお腹にきつくないかつ栄養たっぷりなモノを作ってみた。

 

 強化スーツの評価だが、さすが『反攻のスザク』でセシルキャラの代わりを務めたマリエルにロイドの元上司であるレナルドのラビエ親子たちというしかない。

 

 元々体が不自由な人たちが普通の生活を送れるようにと開発していただけに、まるで皮膚の上から外骨格……敢えて言うのならパワードスーツが脳波を察して動きの補助をしている。

 

 良かった、BRSの相性テストで『測定不能』と出た俺でも使えると言う事は使える人たちの範囲は大きい。

 

 多分。

 

 こりゃ、特許を取れば全部終わってからバカ売れするな。

 

 あ。 あとでラクシャータにエルと、ロロの血液検査結果の事を話さなくちゃな。

 

 しかし……考えが甘かったな。

 紅蓮も黒の騎士団もパワーアップさせるために俺も一期あたりから散々、機体の魔改造やコードギアス以外のネタ等を出して『これでカレンの捕縛フラグは無くなった』と安心していた。

 

 慢心だ。

 

 いままで『コードギアス』の大まかな流れが続いているのに、何故カレンの捕虜フラグも折れたと思ったのだろう俺は。

 

 現に、ブラックリベリオンも起きた。

 偽物のユーフェミアもゼロに殺されて、その所為でスザクとは対立した。

 外伝やSSもあるが、原作通り……

 原作も、大体の細かい部分などは違うが。

 

 その中で一番違うのは、紅蓮がロイドたちの手に渡っていないことだ。

 つまり、『トウキョウ決戦でカレンを咲世子たちが助け出してパワーアップされた紅蓮聖天八極式が無くなった=トウキョウ決戦で紅蓮聖天八極式が活躍するフラグが無くなった=エナジーウィングの技術が黒の騎士団側に流れてこなくなった』。

 

 明らかに、不利だ。

 

 ドサッ。

 

「ん?」

 

 食べながら考えているとキッチンから通路へと繋がるドアから何かが落ちる音が出て、見上げるとポカンとするカレンが立っていた。

 

「カレン?」

 

 彼女の足元には着替えとかが────

 

 ────タッタッタッタッタ! ドシッ!

 

 「ぐぇ。」

 

 突然カレンが走り出したと思うと、自分の首に何かが圧し掛かってきた感覚に目を白黒させながら潰れたカエルの様な声が圧迫感によって口から出てしまう。

 

 ぐ、ぐるじぃぃぃぃ

 

 ドサッ。

 

 すかさずパン粥を近くのテーブルに置くと、そのまま飛び込みハグをお見舞いしてきたカレンを支え切られずに押し倒される。

 

「グハッ……か、カレン────」

「────よかった……よかった!」

 

 とても切ない声で、俺を抱擁しながらカレンは何度もただ“よかった”と口にする。

 

「俺も……カレンが無事で良かった。」

 

 自然と上記を口にすると同時に、俺は真横にあるカレンの頭をただ優しくなでる。

 その……変な意味とか無しでうまく表現できないが、彼女の体の重みによって俺の体は悲鳴をあげる。

 だが、それと同じくらいに心地いいと感じている。

 

 「もう、ばかぁぁぁあぁぁ……」

 

 カレンのその言葉と消え入りそうな声で、さっきまで感じていた不安や痛みや暗い気持ちが全て吹き飛ぶ。

 

「グスン……一人で無茶しちゃって、どれだけわ……皆が、心配したと思っているの……」

 

「そんなつもりは、無かった────」

「────知っているよぉぉぉぉぉもう~……グスン。」

 

 グリグリグリグリグリグリ。

 

 イデデデデデデデデデデデデデデデ!!!

 

 頭! 頭を?! 頭を擦らないで?!

 痛いから~!!!

 

「あれから、何日経った?」

 

「グスン……まるまる二週間。」

 

 Oh。

 それはちょっと色々とマズいな。

 

「そうか、ル────ゼロはどこに居る? エリア11に戻ったか?」

 

「ううん……でも近いうちに戻るって言ってた……」

 

 よし良かった。

 

「俺も、気になることがあるからもd────」

「────やだ。」

 

 『やだ』って、子供かお前は。

 

「罰として、このまま頭撫でて。」

 

「……ああ、分かった。」

 

 ナデナデナデナデナデナデナデ。

 

 カレンの頭がすぐ横にある所為で、彼女の表情は見えない。

 

 でも不思議と『どんな顔をしているのだろう?』と思うより、ただこうして幼馴染を安心させたい衝動が込み上げてくる。

 

 優しくて、周りをよく見ていてその都度表面上の態度を改めたり時には敢えて自分が被害者になって気遣いをしたり、実は努力家だけれど決して周りに悟られないように隠そうとするし、家族や友人や親しい人に誠実な、ただの普通の女の子だからな────

 

 ────きゅぅぅぅくるるる。

 

 今の、俺の腹じゃない。

 と、言う事はカレンか。

 

「パン粥、食べるか?」

「ハンバーグが食べたい。」

「流石にカレーやシチューの作り置きは無いぞ?」

「じゃあ目玉焼き乗せでいい。」

「半熟?」

「後たっぷりチーズ入れて。 中からとろけるヤツ。*1

「ウスターソースもか?」

「うん。」

 

 ……よし。 少し早いが、カレンや孤児たちにも手伝ってもらえば早く出来上がるだろ。

 

 そして今夜の献立はカレーかシチュー付きハンバーグ(チーズ入りに半熟卵乗せ)で決まりだ。

 

 

 


 

 

 トウキョウ租界のはずれにある、クロヴィスシーライフパークは名の通りクロヴィスがエリア11の経済対策の一環として新しく建てられた水族館である。

 

 規模だけで言えばトウキョウ租界の中でも一二を争うほどのサイズであり、予定ではイルカの群れでショーを容易に開けるほどの大きさ。

 

 そして搬入の為に海に直接繫がっているトンネルもそれなりのサイズ。

 

 つまり水中を進める、通常サイズのKMFにとって人目を盗める格好の出入り口となる。

 

 ザパァン!

 

 例えばガウェイン(7メートル)からサイズダウンした蜃気楼(4.7メートル)など。

 

「おかえりなさいませ、ルルーシュさま。」

 

 蜃気楼のコックピットハッチが開くと、ルルーシュの影武者として活動している咲世子が彼を迎えた。

 

「咲世子か。 報告は読んでいたが、直接会うのは人工島……蓬莱島以来だな。」

 

「はい……密入国ルートはどうですか?」

 

「悪くない。 指定されたこの場所が、機密情報局の所有物と聞いたときは驚いたが……こうして君が堂々と来ていると言う事は、問題なかったのだな?」

 

「はい。 この建物の出入り口、土地に周辺の海を先程チェックしましたが問題ございませんでした。 ですので、ルルーシュ様の出入りに的確かと思われます。」

 

「そうか……ロロはどうした?」

 

「ロロ様はお疲れの様子でしたので、私が一人で来ました。」

 

「???」

 

 ルルーシュは蜃気楼から出ながら、ハテナマークを浮かべる。

 

「(疲れる? アイツが? てっきり俺が来るから、死んでも迎えに来ると思っていたが……) 何か、学園で変わったこととか無いか?」

 

「はい。 実はナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグ、並びにナイトオブシックスのアーニャ・アールストレハイムが臨時入学されました。」

 

「な、何ィィィィ?! (は?)」

 

 ルルーシュは思わず滑りそうになるが反射神経となけなしの筋肉で体勢を立ち直させる。

 

「待て、何時だ? 何時、学園に?」

 

「今朝です。 アッシュフォード家も二人が学園についてから知らされたので報告が遅れて申し訳ありません。」

 

「そ、そうか。 (スザク……ランスロットがエリア11に居るというだけでも厄介だというのに、トリスタンやモルドレッドまでもがここに……しかも、学園に学生として来るだと? 意味が分からん! ゼロである俺と学園をリンクする証拠は何もない筈……しかし、これで何故ロロが疲れているのかが見当がついた。)」

 

 ……

 …

 

 ヒュン!

 

 ルルーシュがエリア11に海路から密入国し、咲世子と共にアッシュフォード学園に戻っている頃とほぼ同時刻、旧地下鉄の中を『見えない何か』が通る音と一緒に風によってほこりや土がそのあとに撒き上がる。

 

 フォン。

 

 旧地下鉄内を、ほんのりと緑色の光を放つ発光塗料の目印を目安にその『見えない何か』は殆ど無音のまま進んでいき『とある場所』まで飛ぶと空中で止まる。

 

 ヴン、プシュー。

 

 お腹に来るような電子音に、気圧的な何かが排出される音と共に地面に降り立った戦闘機形態であるビルキースが姿を現す。

 

 ガコォン。

 

「すまんなアンジュ、お前の専用機を足代わりにして。」

 

「フフン、『一つ貸し』ってことでいいわ!」

 

 中からスヴェンと誇らしげなアンジュが出てくる。

 

「そもそも『貸し』と言っても貴方の機体が光学迷彩の取り付けにもサイズ的にも適合していただけでしょう?」

 

 相変わらず辛辣なマーヤも時間差でビルキース内から出てくる。

 

「細かい事は良いのよ! ……んじゃ、また学園でね────?」

「────隠し場所は分かっているのでしょうねアンジュ────?」

「────断層構造────!」

「────光学迷彩も完全ではないのよ────?」

「────つけっぱなしにしないわよ────」

「(────何だこれ。)」

 

 辛辣ながらもどこか『ウザ~』と感じていそうなアンジュに確認を取るマーヤのやり取りはどこか以前のスタジアムで見せた様な『委員長と不良』と呼ぶより、『長女と次女』のような雰囲気だった。

 

「(まぁ、さらに以前と比べれば雲泥の差なんだが。)」

 

 

「分かった────?」

「────まるで姉妹だな────」

「────うっさいわよエル?! 徒歩で歩きたいの?!」

 

 ヴォン!

 

「(律儀。)」

 

 スヴェンはそのまま背景景色とほぼ同化したように消えながら飛び去るビルキース内でイラつき先をマーヤから同乗していたエルに向ける様をマーヤと共に見送る。

 

「フゥ……では、行きましょうか?」

 

「(ん?)」

 

「??? シュタットフェルト家に戻らないの?」

 

 「(何故に当たり前のように『じゃあ帰りましょうか?』な勢いでニッコリとするの。)」

 

「あ、私は『貴方の見舞い』という体でアンジュと交代で出入りしているから。」

 

 「(俺、やっぱりこの子が怖いでヤンス。)」

 

 「それともご自身の状況の把握が先かしら?」

 

「(“ご自身の状況の把握”とはなんぞや?)」

 

「貴方の事は『交通事故にあった』と言うことで休学届をシュタットフェルト家が出しているわ。」

 

「………………………………………………………………そうか。 (お・れ・の・く・ち・へ・たぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 ……

 …

 

 ドカッ!

 

 ルルーシュは咲世子と共に学園のクラブハウス……ではなく、人払いをされた機密情報局の地下アジトの椅子にゲッソリとした様子で重力任せに座る。

 

「(まったく……咲世子からナイトオブラウンズが入学したと聞いて心構えはしたが、まさか生徒会にまで入り込むとは厄介極まりない……しかし何なのだあの男は?! 本当に名門貴族出身のナイトオブラウンズか?!)」

 

 ルルーシュが腕を組みながら悶々と考えだすのはジノの事だった。

 

「(ラウンズと言えば『ブリタニア帝国でも屈指の実力者』、つまりは『認められている強者』。 その上『名門貴族』とくれば……だがあの男の振る舞いは何だ?! 自由奔放すぎる上に貴族としての意識自体が低いどころかまるで口癖のように『庶民~』とすべてを物珍しそうに見聞きしながら、慣れていない所為か『庶民の出』の設定である俺の事も“年上だからランペルージ卿でいいだろ?”なんて……ある意味、スザク以上に扱いにくい!)」

 

 実のところ、臨時入学したジノの世話をルルーシュは半ば巻き込まれ気味にしていたことで一日中動き回っていた所為で疲れていた。

 

「フ、だがよかったな? 代わりとなったロロに労う言葉をかけるのはどうだ?」

 

 ちなみにそれまでジノに引きずり回されていたロロが疲れていたのもジノたちの所為であり、嫌味が含まれたエルの言葉に対してルルーシュは聞こえないふりをする。

 

「(まったく、何が“社会的立場は学校では無視してくれたまえ”だ! 何が“人生の先輩”だ?! 俺はまだ18だぞ! 誰かの世話をするのはナナリーだけだ!) ハァァァァァァ……もしやこれがスヴェンの感じていたことか。

 

「ルルーシュ様?」

 

「ああいや。 今のは忘れてくれ……詳細が書かれた報告書を────って何だ、その憐れむような目はヴィレッタ?」

 

 ルルーシュは(スヴェンの名を使って)機密情報局権限でジノとアーニャの情報を探るように頼んでいたヴィレッタの視線に気付く。

 

 余談だがスヴェンは全くそのようなことを頼んでいないことを追加する、つまりはルルーシュの独断である。

 

「いや……それを読めば分かると思うぞ。」

 

「(??? 報告書を読めば分か────)────↑ひょ?! な、なんだこれは?!」

 

「スケジュール帳です、ルルーシュ様────」

────そんなことは見れば分かる! だ、だが……これは……これは何だ咲世子?!」

 

 ルルーシュがギョッとして見上げたのは以下の様な物が書かれた報告書だった:

 午前:

 7:00、マリー(高等部)と手作り弁当の朝食デート

 9:00、ジゼル(高等部)とクロヴィス美術ギャラリーのデート

 10:30、アリス(教師)とモールデート

 12:00、ドーナ(教師)と水族館の視察と称したデート

 12:45、水族館から蜃気楼で移動

 13:30、ゼロとして上海で合衆国中華とインドの貿易の交渉に立ち会う

 14:30、エリア11の水族館でモナ(中等部)とイルカショーデート

 

 等々(エトセトラ)

 

「はい。 以前、ロロ様から注意されたので『平等に優しく』と言うことから教師、高等部、中等部を含めて合計108人の女性との約束を承りました。」

 

は? いや、その……待ってくれ。 このスケジュールは無理があるのでは?」

 

「??? スヴェン様が以前からご活動されているスケジュールを元に作成したものですが?」

 

 「睡眠時間が今夜だけでたったの三時間なのだが?」

 

「はい。 明日は休日ですのでスヴェン様と同じように24時間中ずっと活動する体制ですが……何か、おかしかったでしょうか?」

 

「……」

 

 ルルーシュは立ち眩みをしたのか、足がクラッとふらつく。

 

「(スヴェン……多分、スバルの事だろうな。 『24時間中ずっと活動する体制』とは……)」

 

 ヴィレッタは咲世子の言ったことに、考え込んだ。

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 エルはお腹を抱えながらただ笑った。

*1
チーズアイデア、誠にありがとうございます剣BLADEさん! (*ゝω・*)ノ




(;´ω`)


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第225話 懐かしきエリア11にて予兆(?)2

現在、リアルで未だ進行中のごたごた案件が多数あるので投稿が遅れてしまいました。 (汗

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m


 ルルーシュが機密情報局にて、咲世子の安請け合いの所為で現時点から六カ月先にまで至る108人の女性との約束で埋め尽くされたスケジュール表を前に脱力感と血の気が頭部から引いていく立ち眩みに耐えながら頭を抱えている間、アッシュフォード学園の女子寮のテルマエは時間帯もありかなり混雑していた。

 

 シャァァァァァ。

 

 背景音にはシャワーが流れる音と、その一日の出来事や何気ない雑談をしながら入浴する女子たちの声。

 

「…………………………」

 

 そんな中、シャーリーは自分の髪と体を滴るシャワーの水に気を向けずにボーっとしていた。

 

 彼女が考えていたのは先日、どれだけ自分が以前から────あくまで本人の基準だが────猛アタックしても“予定がある”、“また今度”、もしくは“考えておくよ”などと言ったあやふやな返事ばかりだった。

 

 唯一の例外は一年前のオペラ(デート)で、その時のルルーシュ曰く“予定が空いたから良いよ”だった。

 

 先日までは。

 

 ……

 …

 

『ね、ねぇルル? 今度の休日、空いている? 映画館とか行ってみない────?』

『────いいよ。 何時のヤツだい────?』

『あ、ダメだったら別に……え────?』

『────夜でもいいかい────?』

『────へ────?!』

『────??? どうかしたかい、シャーリー? ああ、もしかして来週や再来週とかの予定もあったのかな? 何時でも言ってくれ────』

『────へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

 ……

 …

 

 シャーリーの誘いに軽くオーケーを出したルルーシュに、彼女は未だに夢を見ているような気分で周りの事や声はずっとぼんやりと靄がかかった様な感じで過ごしていた。

 

「(これって、『付き合っている』……と言うことでいいかな? ……あの日から中々話せていないけれど、いいよね? 私の思い違いとかじゃ────)」

「────さっきから表情をコロコロと変えているけれど、どうしたのシャーリー?」

 

「え?」

 

 シャーリーはようやく隣でシャワーを浴びていたアンジュの声によってハッとしては髪を洗う彼女の方を向く。

 

「“コロコロ変わる”って?」

 

「 “ウィヒヒヒ~”って意味不明な笑いを出しながら体をモジモジしたと思ったら今度は真顔になったり、不安そうになってため息を出したり……ま、あんたの事だから概ねルルーシュの事だろうけれど────」

「────う゛。」

 

「で、どうしたの?」

 

「……ええええっと……今度の休日、一緒に出掛ける予定をしてさ────?」

「────あ~、うん。 それで大体わかったわ。 (あれ? アイツ、『ゼロ』としてここ最近ずっと蓬莱島とかに居たよね? そんな暇あったのかしら? エルは“スヴェンが生死をさまよっている~”って聞いた瞬間、“笑う為に影武者は休業だ~”とか言っていたらしいし……別の影武者の仕業かな?)」

 

「アンジュはどう思う?」

 

「ふぇ? 何が?」

 

「ルルの事。」

 

「『どう』って……どういう意味? あ、もしかして私がアイツに興味があるとかかなぁ────?」

「────ふぇ?! あるの────?!」

「────ナイナイナイナイナイナイそれは無いから安心して。 そもそも……」

 

「“そもそも”?」

 

 「そ、“そもそもなんでここでルルーシュが出たのかなぁ~”って思っただけ! ウハ、ウハハハハハハハ!」

 

「だってここ最近のルルって、変じゃない?」

 

「(んー、義理も何もないけれどここはそれとなく否定するかな?) そぉ~? ルルーシュって、相手によって態度を変えたりしていない?」

 

「う~ん、それはそうなんだけれど……こう……なんて言ったらいいのかな? ()()()()()居るような感じ……かな?」

 

「……その“三人”って具体的な数はどこからきたの?」

 

フィーリング()?」

 

「(なにこの子、アイツみたいでちょっと怖いのだけれど?)」

 

 アンジュの頭上にホワホワと浮かび上がったのは、『ウフフフフ♪』とどこか意味ありげに(深く)笑うマーヤの顔だった。

 

「そうだ! 会長~? このあと少し時間いいですか~?」

 

 シャーリーは自分の左に居たアンジュから、右側のシャワー室に居たミレイに声をかける。

 

「……」

 

「「???」」

 

 だがいつもなら“な~に~?”と言った気の利いた答えやボディチェック背後からの奇襲の気配を見せなかったことから、アンジュとシャーリーはミレイの方を見る。

 

 何時もはヘアカーラーを使って形を作る髪の毛はシャワーとテルマエの湿気に当たったせいで肩にまで届くロングな髪は滴り落ち、腕を組みながらかつてないほど真剣な表情を浮かべていた所為かいつも自由奔放なミレイからは想像できない、儚げな様子だった。

 

「会長────?」

「────え?! あ。 ご、ごめ~ん? ちょっと考え事をしていて……」

 

「(う~ん……なんだろうこの既視感?)」

 

 そんな彼女にシャーリーは構わず声をかけ、アンジュは上記の様子のミレイを見ながら上記を内心で思い浮かべる。

 

 まさか一年前、『自分の御家騒動』でアンジュが全く同じ表情をしていたことをど忘れしているかのように。

 

「会長? 大丈夫ですか? 何か私の方でできます?」

 

「う~ん、これは自分の家の事だから無理かな? でもありがとうシャーリー、そう言うところ好きよ♪」

 

「もう! 茶化さないでください────!」

「────それで私に話って何かしら? ルルーシュの事────?」

「────どうして毎回みんな、私の悩みがルルになるって決めつけるの?」

 

「「……………………違うの?」」

 

 アンジュとミレイの声がハモる。

 

「ふぇ?! いえその……違わないけれど────」

『────明日私、ルルーシュくんとデートなんだぁ────♪』

「「「────え?」」」

 

 そしてシャーリー、アンジュ、ミレイの三人は通りかかったマリー(同級生)の声に振り返る。

 

「あれ? でも明日、B組のジゼルも“美術館にルルーシュと一緒に行くんだ~”って言ってたよ?」

「は~い! (ジゼル)もルルーシュ君と明日美術館に行きま~す♪」

「「「「私も~!」」」」

 

「(うわあ~……ルルーシュの影武者、何やっているのよ。 ま、『ご愁傷様』ね────)」

 

 ビキッ!

 

「────ルゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」

 

 アンジュが内心でルルーシュを憐れんでいると、シャーリーの恨めしそうな声と共に彼女が掴んでいたシャワー室の仕切り用のガラスに小さなヒビが入っていく。

 

「シャーリー、ガラスガラスガラス────」

「────え?! あ! ご、ごめんなさい会長!」

 

「あ、アハハハ~。 良いのよ、やっぱり見た目重視より性能よねぇ~……ねぇアンジュさん? この後、少し話いいかしら?」

 

「え? え、ええ……構わないけれど?」

 

 ミレイはキャピキャピとルルーシュとのお出かけ話を中心に盛り上がっていくテルマエの様を複雑そうな表情で見ていたが、ふと何か思いついたかのような顔になってはアンジュに話しかけた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次の日から、ルルーシュにとって『長~い一日の連続』が始まった。

 

「はいルルーシュ君、あ~ん♡」

「あははは、照れるじゃないか。」

 

 例えば朝食デート。

 

「ほらルルーシュ! あっちにクロヴィス殿下の新しい展示品があるんですって!」

「ジゼル君、そのまま走ると転ぶよ? こういう物は、なるべく時間をかける物さ。」

「じゃあ……手握ってもいいかな?」

 

 例えば美術館デート。

 

「あら、早かったわねランペルージ君。」

「ドーナ先生もずっと時計を見ていたじゃないですか。」

「もう、学園の外だから他人行儀はやめてくれないかしら?」

「じゃあドーナさんで。」

 

 例えば年上相手にモールデート。

 

「ゼロ様、ようやく二人きりですね!」

「周りに護衛や藤堂にディートハルトもいるがな。」

「もう! ゼロ様は分かっていません! 彼らを空気と思えばいいのです!」

 

 例えば黒の騎士団のゼロとして、そして合衆国日本代表の神楽耶の付き合いとして。

 

「ふぅ~……疲れる。

 

 そしてルルーシュは移動中、彼らしからぬ愚痴を口にしながら着替えたり仮眠を取ったりしていた。

 

 休日は24時間ずっと動き回り、平日は三時間の睡眠と30分の自由時間。

 以前からゼロとして活動し始めた頃から成績上から問題ないクラスの居眠りは増加し、今では体育以外ほぼすべてのクラスでルルーシュは居眠りをするようになっていた。

 上記の30分も食事やシャワーに割り当てている。

 

 そんな日々が過ぎていき、元々体力のないルルーシュは徐々にスケジュールを守れなくなっていくのは目に見えていた。

 

 それでも咲世子はスケジュールの再調整をするのだった。

 

 『エルは?』と思うかもしれないが、彼は『仮初とは言え、ユーちゃん(YLB-08)以外の女性と関係を結ぶだと?! 断る!』と宣言し、ルルーシュからの提案を蹴ったそうな。

 

 それでも咲世子はスケジュールの再調整をするのだった。

 

 大事なことなので二回目。

 

 


 

 

 アッシュフォード学園、私は帰ってきた!

 

 うん? 『何でハイテンションなんだ』って?

 

 そりゃあ勿論、ほのぼのとした学園に戻ったこともある。

 

「スヴェン先輩、体は大丈夫なんですか?」

「『事故に合った』って聞いたぜ?」

 

「ええ、まぁ……こうして念のために包帯はしていますが、ほぼ完治しています。」

 

 ライラ、そしてリヴァルの心配する声に対して久しぶりに『優男』の仮面で対応しながらクラブハウスでここ最近留守がちになったルルーシュとシャーリーの分の書類を整理していく。

 

「つかいつも以上の仕事をやって大丈夫か?」

 

 ふ、甘いなリヴァル。

 蓬莱島で桐原のじいさんの手伝いに比べればどうということは無い!

 

 ぶっちゃけ国政、超面倒くさい。

 

 「おお……書類が減っていく……」

 「流石先輩です!」

 「それに引き換え、ルルーシュは毎日毎日デート……」

 「だからルルーシュ先輩って中等部でも話題になっているです! “ようやくお付き合いが出来る”というやつです!」

 「キィィィィィ!」

 「リヴァル先輩、なんでハンカチ出して噛んでいるです?」

 「まぁ、うん……そこはそっとしておこう、ライブラ?」

 「アンジュの言う通りね……彼の嫉妬の仕方は男性としてどうかと思うけれど。」

「ほっとけよマーヤ!」

「やっぱりリヴァル先輩って面白いです!」

 

 まぁ、クラブハウスにはマーヤだけではなくアンジュもいるのでルルーシュとシャーリーが居なくてもまだ書類は回せている。

 

「……」

 

 この頃は確かアニメでルルーシュは咲世子さんの所為でスケジュールが学生側ではデート、ゼロとしては合衆国の国政に交渉に助言やこれからの方針。

 

 うん、俺を思い出してしまいそうなのでこれ以上考えるのはやめるとしよう。

 

「……」

 

 それになんだかんだで俺も……

 

「……」

 

 俺も……

 

「……」

 

 うん、もう気付かないフリはやめてアクションを取るか。

 

「あの、何でしょうかアーニャ様?」

 

「なに?」

 

 いや、『なに』って……アンタ、時々俺を見ているでしょうが?

 

 バァン!

 

「スヴェンせんぱ~い!」

 

 生徒会室のドアが開かれ、現時点で生徒会員のサボり魔ナンバーワンの陽キャが声をかけてきながらビラを見せる。

 

「見てくれよ! クロヴィス殿下が新しいカジノを建ててオープンしてるんだって! 連れてってくれないか?!」

 

 働け、この陽キャが。

 それでも(一応)生徒会員か。

 

 そんなんだから肝心の『庶民の暮らし』の理解も出来ないし、ファンからもウザがられるんだよ。

 

 フラフラしていて仕事らしい仕事はしていないけれどひっそりとしているアーニャを見習え。

 

 しかもこれはこれで『ラウンズで名門貴族の出なのに年相応の感性持ちで気さくで人懐っこい性格~♪』って騒がれて女性に好かれるだけでなくファンクラブも出来上がっているらしいし。

 

「ゲッ────」

「────アンジュリーゼ先輩嬢もどうだ────?」

「────行かないわ、それに今は『アンジュ』よ────」

「────あ、そうだった! すまんすまん! 昔の名残で────!」

 「────その話はやめて頂戴────」

「────今更『令嬢』ぶっても気色悪いだけだぜ────!」

 「────余計なお世話よ────!」

「────ハハハハハ!」

 

「あら、やっぱりお二人って気が合うのですね? もしかしてお付き合いをしたことがあるのかしら────?」

 「────ないわよマーヤ────!」

「────ま、むか~しに子供の頃は許嫁候補同士で顔合わせはあったな────」

 「────何平然と暴露しちゃってくれているのですかこの野郎────」

「────ぶっちゃけると俺のタイプだけどな────♪」

 「────あ゛?」

 

 余談だがジノとアンジュ、二人とも名門貴族の出自の所為かお互いに顔見知りっぽいこのやり取りにも慣れた。

 

 キュ。

 

 と言うかアンジュ、ドスの効いた声のディスコード・フェイザー攻撃(ワイドレンジの威嚇)をするなよ。

 ライラが怖がって不安そうに思わず俺の袖を取りながら後ろに隠れたじゃないか。

 

 別にいいけれど。

 

 これはその……なんだ?

 敢えて言葉にするのなら『タ〇クじゃないけれど中の人的にタ〇クに似たキャラ演じただけに陽キャになったタ〇クと吹っ切れたアンジュのやり取り』を見ているような感じだ。

 

 つまり『ホッコリする』と言うことだ。

 

 からかわれる本人(アンジュ)からすれば迷惑なだけかもしれんが。

 

「でもスヴェン先輩が元気になってよかったです!」

 

 ライラの満面の笑顔、ナナリーと似たベクトルで癒しになるな~。

 こう……『平穏』って感じがする。

 異母姉妹だからか?

 

「ええ、まぁ……ブリタニアの医学は優れていますからね。」

 

 浮かれているからか、思わず立ち上がりながら『ブリタニアの医学は世界一ィィィィ!』と叫びたくなった衝動を飲み込みながら、俺は『優男』を維持しながらもう一つの空席に視線を移す。

 

「ん~……リヴァル先輩、ミレイ先輩は今日も居ないです?」

 

「ここ最近、なんだかドタバタしているっぽいし……留年の影響じゃね?」

 

「アンジュは何か聞いていない?」

 

 ギクッ。

 

「さ、さぁ~? ナンノコトカナ~?」

 

 アンジュお前、下手くそにもほどがあるぞ?

 

『マーヤと共にスヴェン()の補佐をするから大船に乗った気分で~』ってあれだけ胸張りながら言っていたのに、不安しかない。

 

 その『大船』、『泥船』じゃないよな?

 

 一度三人で話し合ってみるか。

 

 ………

 ……

 …

 

「それで、最近何か変わったことはあるか?」

 

 屋上の完成しつつある庭園テラスで、俺は『優男』の仮面を外してからマーヤに早速聞いてみた。

 

 ちなみに機密情報局側からの監視はヴィレッタが外してくれている。

 

「最近……と言うと、御身が身動きできなかった期間中の事ですか?」

 

 『御身』ってなんやねん。

 まだその『神様ネタ』を引きずっていたのか、思わずポーカーフェイスが崩れそうだったぞ?

 

 最初に会ったときと、ヨコスカ港区での衝撃イベントと、少し前にトウキョウ租界付近で多発していた『ブリタニア軍人連続殺人事件』の犯人だと分かったトラウマからあまり関わろうとしなくて放置気味な俺も俺なんだが。

 

 こう……アレだ。

 

 普段はおとなしめそうな雰囲気なのに、いざ火が付くと好戦的で原作のアンジュを暴走トラックに例えるのならマーヤは暴走機関車のごとく『自分の身なんか知ったこっちゃねぇ!』の勢いで自分の命を粗末にするような特攻を仕掛けていざ止めようとすると『血を見るぞ!』みたいな危なっかしい核爆弾の地雷原の上でタップダンスをするような────もうここでこの考えはやめにしておこう。

 

 人に聞けば、最近は落ち着いたようだし。

 

 俺が気を失っている間、エデンバイタル教団の孤児とも会って早々意気投合して世話を見ていたらしいし。

 

 前々から言っているけれどマーヤ、見た目だけならば丁度俺好みドストライクなんだよな~。

 

 長い髪の毛にホワイトプリムっぽい髪飾りに私服時はガーターベルトだし────

「────そうですね……気を失っている間、私は主に御身の活動を目撃した黒の騎士団員たちなどに対して()()()()()()()()()()などをしたわ。」

 

 Oh……

 そう言えば俺……盛大にカレンを助け出す為にやらかしていたんだった────ってちょい待ち。

 “数々の手続きや根回し”とは何ぞや?

 

 委細は聞きたいような、聞きたくないような……

 ええい、ままよ!

 

「どんな手続きや根回しだ?」

 

「そうね……手始めに、『アマルガムのスバルは傭兵であり、黒の騎士団のスバルとは別人』と────」

 

 あ、それは良かった。

 なら森乃モードはまだ使えるな……クソショタジジイ(V.V.)やギアス嚮団から狙われているけれど。

 

「────あとは『KMFが()()()()()()()()()()()()()()()()様な映像など無い』など────」

 

 ゑ。

 

「────ですので、貴方様の異能力などは長時間のストレスによる目の錯覚です。」

 

「……映像の記録は────」

「────すべて残らず消去いたしました。」

 

「…………人の証言が────」

「────根も葉もないです。 仮に報告があったとしても、先ほど言った高ストレス者の虚無の証言です。」

 

 ………………………………Oh.

 

「ただ、幹部の人たちはどうもガードが堅かったのですが残ったのは少人数と言うことで、今後御身に関して根も葉もない噂が出たとしても全て妄言として私()()()()()()()いたしますので、貴方様には今後ともご安心しながら活動なさってください♪」

 

 キリキリキリキリキリキリ!

 

 ワイはやはりこの子が怖いでヤンス。

 

 ただ純粋に怖いし、何より俺に対しての信頼(というか信仰?)が正直クッソ重い。

 

「あ、そう言えばこれからの事ですがどうされるのかしら? やはり桐原さんと掛け合って蓬莱島の領主をやるのですか?」

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そう言えばナナリーはどうしているのかなぁ~?

 

 イビリクソメガネ婆(ローマイヤ)には釘を刺しておいた所為か、エリア11の状況は日々向上しているし名誉ブリタニア人の保護もちゃんとしてきている上にナンバーズの一方的な虐殺も聞かないどころか、現在で呼ぶところの『セーフティーネット』の予兆も見えてきている。

 

 まぁ、『行政特区内』で『背景歴史チェック済み』やら面倒な手順とかを踏んだ名誉ブリタニア人が対象となっているが。

 

 え? 『現実逃避するな!』って?

 

 無理でゴザル。

 腕を組みながら崇めているようなマーヤの姿に吾輩の頭が胃と共に痛くなってきているダス。

 

「……変わった弁当箱ですね?」

 

「ん? あ、ああそうだな。」

 

 まだ昼飯食べていないんだった。

 

 そういや今朝、ヴィレッタに呼び出しを食らって『シュタットフェルト家から忘れ物が届いているぞ』って言われて渡されてきたな。

 

 取り敢えずご対面と行こうか……って、考えてみれば変な話だぞ?

 

 カパッ。

 

 今の留美さんが厨房に立つなんて無理が────

 

 ────カポッ。

 

「……」

 

「??? 食べないのですか?」

 

 イマ ベントウバコノナカニ ヘンナモノガ ミエタヨウナキガスル。

 

 い、いや落ち着け俺。

 目の錯覚かも知れない。

 

 もう一度弁当箱を開けて刮目するのだ!

 

 カパッ。

 

「……………………」

 

「あら可愛い弁当ね。」

 

 ミマチガイジャナカッタ。

 

『タコさんウィンナー』はまだいい。

 

 前にも見たからな。

 

 でも『クマさんおにぎり』に『ハート型の卵焼き』とは何ぞや?

 

 これ、絶対に留美さんじゃないっしょ?

 

 だが背に腹は代えられない。

 

 パクッ。

 

 あ。 美味い。

 

 それに舌もピリピリしない上に銀のフォークに無反応だから毒もないな。 多分。




余談でヴィレッタは機密情報局のアジトでガッツポーズを決めていたそうな。 (*ゝω・*)ノ


尚、次はあのイベントであってあのイベントではない話の予定です。

次話投稿は金曜日を目指していますが、ちょっと分からないです……(;´ω`)アセアセ


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第226話 懐かしきエリア11にて予兆(?)3

お待たせいたしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


「そういえばさ、ナナリー?」

 

 アンジュの威嚇に、昔の人見知りであった側面をライラが出して萎縮しているほぼ同時刻のトウキョウ租界の政庁────より正確には総督室────では、皇帝の命により総督の補佐役となって書類に目を通していたスザクが近くでブライユに返還された資料を読み取っていたナナリーに声をかける。

 

「はい? 何でしょうスザクさん?」

 

「その、遅くなったかもしれないけれど……総督になって大変な筈だというのに、相変わらず元気で頑張っている様子で良かったよ。」

 

「あら、それはスザクさんにも言えることでは?」

 

「え?」

 

「だってスザクさん、以前に会った時より幾分か晴れ晴れしくしていません? 何かいい事でもありましたか?」

 

「(ユフィの事は……いや、言ってしまったら彼女だけでなくナナリーも危険にさらしてしまう。) 『良い事』と言えばそうだね。」

 

「もしや学園がらみの事でしょうか?」

 

 ドキッ

 

 ナナリーの言葉にスザクの心臓は一瞬だけ脈を強く打ち、彼は平然とした態度を装う。

 

「ッ。 まぁね。 それにしてもクロヴィス殿下にギルフォード卿、それにシュタットフェルト卿……この調子を見ていると、僕の補佐なんていらないんじゃないかい?」

 

「スザクさんは、私の補佐が大変ですか?」

 

「まさか。 あの日以来、8割はずっとEUやユーロ・ブリタニア方面の戦場や前線に居たからホッとするよ。」

 

「流石のスザクさんも、落ち着きを感謝できるようになったんですね?」

 

「こ、子供の頃はその……色々とあったから。」

 

「子供の頃、良くお兄様に相談していた……えっと、『ぶすこ』とかでしょうか?」

 

「ぶっ?! そ、そ、それは忘れてくれないかいナナリー? は、はははは。」

 

「ウフフフフ♪」

 

 内心だけでなく表面上もスザクは冷や汗を流しながら乾いた笑いを出し、ナナリーは悪戯っ子の様な笑いを笑みと共に出す。

 

 そんな時、スザクはふと思った疑問を口に出しながら自分とナナリー、そして部屋の端で黙々と事務作業をするローマイヤしかいない部屋を見渡す。

 

「……そう言えば、ナナリーには騎士の話とかを持ち込まれていないのかい?」

 

 スザクからすれば、上記の事を不思議に感じても仕方がないだろう。

 何せ以前のナナリーはともかく、今の彼女は(公的にも)皇族なので立場的に騎士の申し込み話などが来ていてもおかしくは無いのだ。

 

 特にあまり強い後ろ盾がないナナリーならば、彼女に付け込もうとする輩が出てきてもおかしくはない。

 

 ピクッ。

 

 彼の言葉を聞いたローマイヤは思わず手を止めると顔色はいつも以上に白くなり、冷や汗を出し始める。

 

「そうですね……確かにそう言った話などは来ますし、会った方達の中にも良い人は居ました。 でも……」

 

「でも?」

 

「フフ、内緒です♪」

 

「え?」

 

 ナナリーは作業を止めるとスザクが居る方向に笑みを送り、スザクがポカンとするのも束の間だけだった。

 

 ヴー、ヴー。

 

「ん?」

 

「あら、電話ですかスザクさん?」

 

 スザクは胸ポケットの中から携帯を取り出して画面を開くと、さっきまで纏っていた軽い空気の代わりに、少々ドンヨリとした重いモノになる。

 

「……うん、シュネーからだ。」

 

「ヘクセン卿から……()()()、どこですか?」

 

「熊本……えっと、九州だよ。」

 

「キュウシュウ……」

 

「(ユフィも、もし『行政特区』があのまま実行されていたらこうやって困っていたのだろうか?)」

 

 困ったような表情を浮かびそうになるナナリーを見てスザクはそう思いながら椅子から立ち上がる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『お忙しいところ、申し訳ありませんスザクさん。』

 

「いや、良いよシュネー。 こっちこそ損な役割を任せてすまない。」

 

『いえ、スザクさんこそ慣れない総督の補佐お疲れ様です。』

 

『枢木卿は気を悪くするかもしれませんが、旧日本は“祭り騒ぎ好き”と聞きましたがイレヴンはこうも頻繁に騒ぐものですか?』

 

『レ、レド────?!』

「────いや、良いよシュネー……僕もこれはどうかなと思うしね。」

 

 ランスロットの中に居たスザクは中近距離特化したレド機である『ヴィンセント・ブレイズ』と遠距離特化したシュネー機の『ヴィンセント・スナイプ』を左右に、アヴァロンの甲板上から地上で起きている暴動をうんざりする気持ちで見下ろしていた。

 

 事の頻繁さに彼がそう感じるのも、無理はないだろうが。

 

 ナナリーが総督になって間もなくゼロが黒の騎士団ごと100万人ほど引き抜いた後でも以前以上の善政と生産力の向上を見せていたエリア11だったが、主にエリア11の辺境を中心に暴動は発生していた。

 

 首謀者たちは主に黒の騎士団の呼び出しに以前の『行政特区事件』を連想したのか、日和見や様子見して応じなかった者たちである。

 

 暴動を起こす理由は様々だが、おおざっぱに分けると『中枢にある租界に比べて地方租界の改善が遅い』、『ブラックリベリオン以前から生き延びていた旧反ブリタニア組織による意思表示』、『100万人の奇跡による合法的に国外への脱出への訴え』。

 

 ぶっちゃけると『逆恨み』や『鬱憤晴らし』などと、ホテルジャック事件を起こした日本解放戦線や第一行政特区事変後に黒の騎士団の勢いに乗った野次馬たちの消化不良などが原因だった。

 

 スザクはランスロットのカメラを拡大化させ、地上で暴徒たちの先導をするサザーランドたちをみる。

 それらは全て、ブラックリベリオン時に黒の騎士団などが鹵獲した『義勇軍仕様』と意味する黄色の塗料が施された機体等だった。

 

「(まさかブラックリベリオンの爪痕が、こうも長引くとは流石のルルーシュも予想していなかっただろうね。)」

 

『どうしますか、枢木卿?』

 

「何時も通りさ、レド。 暴動の鎮圧は租界の警察に行わせ、なるべく死者が出ない行動をしつつ我々はナイトポリスと共に敵のナイトメアを無力化する。」

 

『相変わらずですか……』

 

『なんだレド? 自信がついに無くなったか?』

 

『それを言うのならシュネーこそ良いのか? “スナイパーライフルでなるべく相手を殺すな”なんて普通に無理難題だぞ?』

 

『ナイトポリスがいいおと────()()()()になってくれるからな。』

 

『シュネー、お前今サラッと“囮”と言いそうだっただろ────?』

「────じゃあシュネー、先手は任していいかい?」

 

 レドの通信を遮るスザクの声にシュネー機のライフルが形を変えて遠距離仕様になり、彼の攻撃によって暴徒たちを先導していた一機のサザーランドの右足が膝から下が横に吹き飛び、機体が転倒したことが開戦の合図となって左右の建物に潜んでいたナイトポリスが表通りに出てくる。

 

 パパパパパ!

 グシャ!

 

 周辺への被害を押さえるためにレド機は足の踏ん張りが効くように降り立つとブレイズルミナスの盾で敵のサザーランドの攻撃を弾き、近寄ったところで電磁ランスにより敵機の無力化を行う。

 

 ガン! ガガン! ゴン! ガシャン!

 

『日本から出ていけー!』

『ここにブリキ野郎の居場所はねぇー!』

 

「(生身でナイトメアの相手をするなんて、馬鹿かこいつら。 社会の底辺に救われない弱者と不満の吹き溜まり……分からないでもない。 ()()()()()()だったからな。)」

 

 レドは呆れながら、自機相手に石や火炎瓶を投げてくるナンバーズの横をランドスピナーの展開を使って素通りする。

 

「(それにしても、こんな乱戦に近い状況下でナイトメア()()を無力化する枢木卿はやっぱりそれだけ機体能力と実力差があるということか。)」

 

 余談であるが、この時のスザクはこう思っていたそうな。

 

「(やっぱり、『一人』ではやれることに限界がある……)」

 

 義勇軍仕様の塗装がされたサザーランドの手足を切断したり、機体の緊急脱出機能が作動するまでのダメージを与えながら、周りで苦戦するナイトポリスや暴動を鎮圧する警官たちを見る。

 

「(それをナナリーが分からない筈ないのに、なぜ騎士の話が浮かばないのだろう? ……もしやルルーシュが裏から手を回している? だとすると、彼はゼロとしての記憶が戻っていることになるけれど……それだと機密情報局からの報告や証拠と噛み合わない。 それに、ジノからの話を聞くと今の彼はそれどころじゃないらしいし……)」

 

 ……

 …

 

 

 ピィィィ! ピィィィ! ピィィィ!

 

 スザクがコノエナイツと共にキュウシュウで起きている暴動を鎮圧している間、トウキョウ租界の外れにある水族館に着いた蜃気楼内に耳に来るけたたましい電子音が鳴り続ける。

 

「くかぁぁぁぁ……」

 

 蜃気楼のコックピット内は小さなリビングスペースと化しており、ゼロの衣装から私服への着替えの途中で眠ったと思われるルルーシュはあられもない半脱ぎ姿のまま、普段からは想像もできないいびきをしながら寝ていた。

 

『熟睡』ともいう。

 

 ピピピピピピピピピピピ

 

 「おわぁ────?!」

 ────ガシャン、バフ────!

「────ぶ?!」

 

 時間が経った所為で一段階レベルが上がったアラームに慌てたルルーシュの上に合衆国中華で貰った────と言うかC.C.に押し付けられた────女性用のチャイナ服の入った箱が横から落ちてきて彼の顔に当たる。

 

「い、今何時だ?!」

 

 『22:27』

 

 携帯にセットしたアラームを止めて、無慈悲に時間を移した画面を見たルルーシュの顔から血の気が引いていく。

 

「ま、まずい! (スケジュールに遅刻────いやそれ以前にレイトショー(映画)をすっぽかしてしまった────!)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……遅い!

 

 明らかに不機嫌そうなハーフツインテのシャーリーはクラブハウス前で腰に手を置きながら仁王立ちをしていた。

 

「(賭け事は良い! 昔からロロの治療費とかに使っていたから! で、ロロの足が治ったと思ったら今度は不登校気味……と思えば今度はプレイボーイに?! それもルルがその気でもないのに根は優しいからみんなの期待に応えようとしていると思えばそれはそれで最近のルルっぽいけれど────!)」

「(────映画の事は、どうやって言い逃れをしよう……)」

 

『寝不足』、『ストレス』、『予期せぬアクシデント』の三連星による精神攻撃で負のスパイラル思考になっていくルルーシュは何とかなけなしの体力を使って全速力で学園に戻ってきていたが、クラブハウス前に陣取っていたどんどんと周辺に対して思わず威圧を飛ばすシャーリーを見ては迂回するルートをコソコソと取っていた。

 

 彼なりの隠密行動(スニーキングミッション)である。

 

「やっと会えた────」

「────うぐ?! あ、アーニャ様────?!」

「────四つん這いで何しているの?」

 

 だが予想していたのか、あるいはルルーシュのステルススキルが低すぎたのか、もしくは単に運が悪かったのかルルーシュはクラブハウスにたどり着ける前にアーニャに見つかってしまう。

 

「(ま、まさか咲世子の奴はアーニャにまで関わりを持ったのか?! もう勘弁してくださいぃぃぃぃ────!)」

「────これって、ルルーシュ?」

 

 そう言いながらアーニャが取り出してルルーシュに見せたのは、自分の携帯に入っていた一つの写真だった。

 

 キリキリキリキリ。

 

「(う?! な、何故アリエスの宮殿に居た俺の子供写真をアーニャが?! い、いや今はそれどころではないだろう!) い、いやだなぁ~。 俺の訳が無いじゃないですかぁ~。」

 

「……」

 

 焦りからかルルーシュの口調はリヴァルに似たものとなっており、彼のギクシャクな態度に対してアーニャの無言の圧(ジト目)がさく裂する。

 

「だ、だ、だ、だ、第一に俺はただの平民ですよぉ~?」

 

「……」

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

「(う?! 胃、胃が! 咲世子に進められた胃薬を飲むべきだったか?! ろ、ロロはどうした?!)」

 

 ルルーシュは忘れている、あるいは余裕が無くて思い出せないのだが、ロロはリヴァルのバイト先(主に『アングラチェス大会』が開かれている場所など)に興味を示したジノのフォローをしてルルーシュ並みにぐったりとしていた。

 

 

 


 

 

「ちょっとスヴェン、聞いている?」

 

 アーニャの全力ジト目攻撃の前にタジタジになっていくルルーシュに目を向けていた俺の注意を、テーブルの向かいに座っていたミレイが引き戻す。

 

「ええ、もちろん聞いていますよ? ただシャーリーがいたのでちょっと目が行っただけです。」

 

『なんで立派な双山持ち()のミレイから目をそらしていた』だと?

 単純に現実逃避であり、理由としては急に現れたと思ったミレイから『ちょっと話と言うか相談に乗って!』と頼まれたから。

 

 まぁ、想像するに『去年のブラックリベリオンの所為で留年していたモラトリアムの終わりが近付いているからだろう』と思ったらドンピシャだった。

 

 ただちょっと違うことと言えば、『ロイド伯爵からのお見合い即オーケーでちゃったけれどいつもの“クロヴィスランドに行って相手の苦手な物攻撃の破局が出来ない”どうしよう?!』って珍しく慌てていた時にも相談に乗った前例もあってかアニメでは悶々と一人で悩む描写があったのに『相談相手に俺を呼んだ』と言うことぐらいか?

 

 あの時は『相談』と言っても、原作知識でそれとな~くロイドの人柄と性格を伝えただけだけれど。

 

 ……あの頃が懐かしいなぁ~。 コードギアスのアニメだけをベースにこれからの身の振り方を配慮していた、シンプルな時期だったなぁ~。

 

 “既に外伝である『ナイトメア・オブ・ナナリー』のアリスと遭遇した時点……いやそれ以前に全く関係のない『クロスアンジュ』のアンジュ────ってよく考えたら『サ〇ライズ』とメカ繋がりがあったかクロスアンジュは────そして更に以前となるとメカ繋がりも何も関係がない『学園黙示録』の毒島がどういうワケかあの桐原泰三の孫だったじゃん”と言った類の正論は言わないで。

 

 ワイのガラスのハートがブレイクしちゃうので。

 

「それでさぁスヴェン? この間の私、後夜祭のキャンプファイヤーダンスを始める合図としてナイトオブスリーと踊ったじゃん?」

 

 あー、そう言えばアニメでもリヴァルがかなりかわいい子と踊っていながらも本命のミレイがジノと踊っているところを見て『トホホ~』と残念がる描写があったな。

 

「あれからママがうるさくてうるさくて……それに、出来るだけ単位を取るのも遅くしたけれど……もう、限界みたい。」

 

 おぅふ。

 

 儚げな表情を浮かべながら窓の外を見るミレイの破壊力は何かぐっと胸にくるものがあるな。

 

「一応、ロイド伯爵からは婚約破棄のオーケーを貰っているけれど……理由がねぇ……」

 

 ああ、多分それはアッシュフォード学園にガニメデがもう無いからだろうな。

 根っからの技術者だし。

 

「ね? スヴェンなら何か思いつけない? 出来るだけ円滑な方法?」

 

 そこで俺に振るのか。

 

 しかしそうだな……『貴族社会での婚約破棄』は普段、明らかな問題が無ければ『双方に非がない婚約破棄』なんて無理難題だぞ?

 

 アンジュの時は、原作知識で煽り耐性皆無のジュリオを怒らせて相手側を『悪役』として仕立て上げられたがロイドには非がない。

 

 強いて言えば、『婚約者に会いに来ない』ぐらいだが『婚約破棄』の理由としては弱すぎる。

 特にミレイママが推しているのなら問題にならない。

 

 それに、ロイドと婚約破棄できたとしても今度はジノが問題……にならなさそうだが、ミレイママがごねる可能性が出てくる。

 

「……理事長は、この件に関してなんと言っているのですかミレイ会長?」

 

「おじいちゃんはその……アッシュフォード家の現状を作ったから、あまり干渉したくないみたい。」

 

 まぁ、そうだわな。

 元々コードギアスの世界って価値観がまだ『男尊女卑』なだけにミレイやシャーリーたちの様な『現代風の価値観を持てる世代』ならともかく、『家の名前で周りを黙らせていた元貴族家の婦人』なんてレッテルは苦痛でしかないだろうな。

 

 特に、その『没落貴族の女性』に何らかの自立で生き抜けるほどの才能か功績が無ければ────あ。

 

「ミレイ会長、一つ考えがありますが?」

 

「え?! あるの?!」

 

「ええ。 第一皇女殿下(ギネヴィア)()()として使うのです。」

 

「うんうん! ……って、どうやって?」

 

 ドストレートに『アナウンサー兼レポーターとか』なんて言えない。

 ならそれとなく伝えるか。

 

「そうですね……第一皇女殿下が今でも独り身のままで居られるのも単に第二皇子殿下(シュナイゼル)と並ぶような働きが出来るところにあるのが大きいと思います。」

 

「なるほど……いわゆる『キャリアウーマン』って奴ね!」

 

「ええ。 出来れば()()()()()()()()()()ことと同時に、ロイド伯爵からも婚約に関しての話を一番反対の声を出しそうな母親にさせることをお勧めしますね。 後は、ミレイ会長の手腕によります。」

 

「フムフム……それでさ、スヴェンは気になる異性とかいる?」

 

「…………………………………………?」

 

 なにこの脈絡の無い話題変更は?

 思わず『優男』の仮面が剥がれて表情筋がスンとしたぞ────って、ああ。 もしかして『ルルーシュが初恋兼許嫁候補説』のアレか。

 

 つまり『吹っ切れのきっかけが欲しい』話題か。

 

「『気になる異性』……もしや、ミレイ会長自身の事の相談ですか? (ニッコリ)」

 

「ア、アハハハハ~……」

 

 フハハハハハ。

 その目の泳ぎ方ときごちない笑いは図星の時にするヤツだな。

 

「それでしたら、こう言うのはどうでしょう? バレンタイン(聖バレンティヌス)の日はまだですので……そうですね、『キューピッドの日』などはどうでしょう? 当日は全校生徒に男女で色違い被り物をかぶせて、相手と自分の物を取り換えることが出来れば『学園公認のお付き合い関係同士』……とか?」

 

 ガバッ!

 

 「スヴェン────」

 

 目を見開かせながらミレイが体を乗り出して来たおかげで彼女の立派な胸部装甲がゆっさゆっさと揺れる。

 

 揺れる~♪ 胸部~♪ 装甲~♪

 眼球で楽しん~で~♪

 

 ……うむ。 つまり余は満足である。

 

 「────天才か。

 

「いえいえ、ミレイ会長に比べればまだまだです。」

 

「またまた~、照れちゃって……上手ね♪」

 

 いやね、元はと言えばこれってアンタが原作アニメでルルーシュとシャーリーの事をどうにかしようと考えたイベントでそれをまるまるパクっただけだからね?

 

 「これでシャーリーも……」

 

 うん?

 何故かミレイが黄昏る様な表情を浮かべた様な────?

 

「────よし! ありがとうスヴェン! 善は急げっていうし、早速取り掛かりますか!」

 

「ええ、では私もこれで────」

「────あら? あなたにイベントのブラッシュアップを手伝ってもらおうと思っていたのだけれど?」

 

 なんでや。

 

「……だめ、かな?」

 

 その上目遣いと表情で頼むのは卑怯だぞミレイ!

 

 だが俺は! 屈せぬ!

 

 断じてな!




作者:書き出したい意欲のまま書いてみたら何故かイベントまで辿り着けなかったよ、スバラッシュ。
スバル:誰がスバラッシュやねん。
アキト:今のは微妙だな。
作者:え。 (;´ω`)


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第227話 キューピッドの日、来たれり

少々カオスになる前の次話です! (汗
楽しんで頂ければ幸いです!


「昨夜はミレイ会長と何か遅くまで話していたけれど、何かあったの?」

 

「……まぁ、な。」

 

 翌朝、ルーフトップガーデンにあるテラスにてマーヤからの質問によって俺の視線は折っていた折り鶴から外される。

『何をしているんだ』って?

 

 上記でも記入したように、折り紙だが?

 

 理由としては『リハビリ』と、体の調子の確認だな。

 

 カレンの救出時からずっと寝たきりだったことと無理やり面倒くさい頭の痛くなる事案から距離を取った所為もあり、現状としては体をラビエ親子たちの作った強化スーツのインナーで無理やり動かしている。

 

 ちなみに動こうとしただけで筋肉や関節が悲鳴をあげるので毎朝ラクシャータ製の鈍痛薬を服用している。

 

 ……普通の薬物であって、ヤバい方じゃない。

 

 そして薬の効果が切れそうになったらアンジュかマーヤ、あとは手が空いている場合ヴィレッタたちに頼んで湿布を貼って貰っている。

 

 だが流石に手先まではどうしても俺自身の力量次第だからこうやって時々チェックしている。

 

「上手く、いきませんね。」

 

 マーヤが苦笑いを浮かべ、目の前に出来た紙のオブジェ(?)から見上げる。

 

「マーヤ、それは?」

 

「貴方と同じ、折り鶴のつもりだけれど?」

 

 俺も俺で、不格好な折り鶴だがマーヤの前にあるのはどこからどう見ても紙をクシャクシャにして丸みを帯びた()()である。

 

「私、あまりこういった系の物が得意でなくて……」

 

 初めて会った時と暴走機関車のごとくヨコスカ港区で暴れたまま撃たれた時のインパクトから近寄りがたくてずっと避け(放置し)ていた所為もあってかここ最近、一緒に良く行動することになっていくらか分かったことがある。

 

 機械いじりやジャンクパーツから何かを作ったりするのは得意だが、シャーリー並みに女子力がかなり残念。

 

 シャーリーと違って『料理が出来ない』と言うわけじゃないが、どちらかと言うと『男料理特化』だが。

 どうやって知ったかって?

 クラブハウス用の軽食を作っているとき、手伝いを名乗り出して分かったことだ。

 アンジュのように『初めて調理するものが例外なく蠢く物体Xになる』という現象は無かったが……レイラの指導以来だぞ、あそこまで苦労したの。

 

 ……『身体のプロポーションがシャーリー並み』と言う事が関係しているのだろうか?

 

「??? 何かしら?」

 

 おっと、マジマジと彼女を見過ぎていた。

 

「いや、俺もまだまだ本調子ではないなと思っていただけだ。」

 

「焦ることは無いと思いますよ? 噂程度ですが、かなりの無理をしたでしょう?」

 

「……まぁな。」

 

 確かにこの頃ずっとドタバタとしていたから、時々蓬莱島から来るレイラや毒島達の連絡以外はこうした『のんびり&ゆっくりとした時間』を堪能している暇はあまり無かったな。

 

 蓬莱島でもなんだかんだで業務とか孤児たちの世話やリハビリにKMFやパイロットスーツの開発相談とかに乗っていたし。

 

「でもいいのですか? ここに居て?」

 

「俺の場合、アンジュや過去のお前のように出席数……と言うより、欠席の理由が無い上にタイミングが明らかにアッチ(黒の騎士団側)と被っているからな。 ある程度はこちらの方面にも顔を出しておかないと。」

 

 それにもうすぐ『アレ』の発表の筈だからな、出来るだけ体力を温存して自然治療に専念したい。

 

 ガチャ。

 

「あ、スヴェン先輩居たです!」

 

 テラスのドアが開かれ、ライラが出てくる。

 アーニャと共に。

 

「あらライブラさん……に、アーニャ様。 珍しい組み合わせですね?」

 

「ん。」

 

 確かに珍しいな。

 

『アーニャ・アールストレイム』、まるで吸い込まれるように赤い目をしたこの少女は現ナイトオブラウンズではたった15歳でありラウンズ内でも最年少な上、KMFとしてはかなり珍しい『高火力+防御力でごり押し』に重点を置いたモルドレッドの乗り手でもあると同時に名門家のアールストレイムの出。

 

 だから(偽名で通っているとはいえ)皇女であるライラのお付きとなってもおかしくないのだが……

 

「……?」

 

 マーヤが言ったように珍しい組み合わせだ。

 そもそもこの二人、『同じ中等部』でありながら『準生徒会員』と言うことでクラブハウスでは一緒になるが基本的には別行動をずっと取っている。

 

 原作アニメでも、どちらかと言うと多分と言うか恐らく()()()()の影響でナナリーに懐いているし。

 

『ラウンズ』とだけ見れば脅威なのは間違いないが、同時にコードギアスの作中でも『状況的に被害者の上位ランキング入り』とも呼べる。

 

 彼女が原作で口数が少ない上にお世辞にも性格があまり社交的ではない……と言うより思ったことをそのままドストレートに口にする『無表情なマイペースで振り回す困ったちゃん』。

 

「???」

 

 その理由も単純に彼女が()()()()()()()()()()()()で、先ほどの『中の人格』から由来している。

 

「……」

 

 彼女は皇室への出入りだけでなく、ルルーシュたちが居たアリエス宮で『行儀見習い』も出来るほどの家柄の者である。

 本来はルルーシュやマリアンヌにナナリーとも顔見知りである筈なのだが、マリアンヌのギアスによって自分や周りの人間を信用できなくなっている。

 たまに抜け落ちるかのように自分の記憶と書いた記録が一致しないどころか全く思い出せない日々もあり、その所為で小さい頃から常に違和感と恐怖心を覚えていて頼みの綱は自分の持っている携帯とブログ。

 

「……」

 

 つまり『元はV.V.がマリアンヌをテロと見せかけた暗殺がきっかけでギアスを発動出来たマリアンヌ』という二次災害と言うか加害者の所為で、アーニャはナナリーやルルーシュのように幼い頃から時々被害を────

 

「────なんで二人ともジッと見つめ合っているです?」

 

 おっと。

 

 ライラの声で俺はハッとしては視線をアーニャから外して同時に顔に出てきそうだったポーカーフェイスから『優男』に戻す。

 

「あははは、これは失礼しました。 未だにナイトオブラウンズの方が()()豊かな方達ばかりでしたので、アーニャ様のような『物静かな方』が少々珍しく思いまして。」

 

「ああ、確かに……エニアグラム卿や、ジノ様や枢木卿も……()()ですし。」

 

 マーヤ、お前いまサラッと三人ともディスっていないか?

 

「『能天気』と『トリ頭』と『M』?」

 

「「ぶ?!」」

 

 アーニャの毒舌に俺とマーヤは吹き出す。

 

「『トリ頭』……なるほどです! いいダジャレです!」

 

 ライラ……そのまま綺麗(?)でいてくれ。

 

「でも『M』って何のことです~?」

 

 Oh。

 

「『M』、つまりまz────」

 「────ライブラには少し早い単語です!」

 

 配慮無しの口にすかさず(横からの言葉で)チャック!

 

「早すぎる単語です?」

 

「……」

 

 アーニャの言葉を俺が遮るとショボーンとしたライラは更にハテナマークを頭上に浮かべ、俺はアーニャからの『この野郎ジト目』に晒される。

 

「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……や、やっと追いついた……」

 

 俺の周りにマーヤ、アーニャにライラと屋上への階段を上がってくるアンジュは汗だくでどうやらアーニャたちを追いかけていた様子。

 

 世間的に今の俺の状況を見ればリヴァルなどが血涙流しながら恨めしそうになる『両手に花』どころか『花畑』状態……と言いたいが、俺自身からすれば『カオス』以外の何でもない。

 

 最近皆周りで立て続けに起きた事と比べれば『癒し』だが。

 

 と言うかアーニャは仮にもラウンズだから別に驚かないが……

 学園に来てから毒島と共に租界の夜スイーパー的なことからアマルガム活動で体が引き締まっただけでなく更にプロポーションが良くなった上にラクロス活動から元々あった体力も上昇している筈のアンジュを撒くライラってどれだけなの?

 

 ルルーシュやコーネリア、腹黒虚無男(シュナイゼル)、ギネヴィアにサラッと現代の価値観を持つオデュッセウス。

 ユーフェミアも最初は不慣れな様子だったけれど今ではそれなりにアマルガム色に染め上げられている様子だしナナリーも総督としてバリバリエリア11の平定を順調に進ませているし……

 

 マリーベル? 元々ハイスペックだから除外。

 

 ……こうして考えるとあれだな。

 皇族は全員化け物か?!

 

 キンコンカンコ~ン♪

 

『こちら生徒会長のミレイ・アッシュフォードで~す♪』

 

 アッシュフォード学園の校内中にあるスピーカーからミレイの声が響くと、俺はホッとする。

 

『ついに私、私自身の卒業イベントを決めました! その名も“キューピッドの日”!』

 

「「キューピッドの日?」」

 

 マーヤとライラが同時にコテンと頭を傾げながら仲良く無数のハテナマークを浮かべる。

 

 なんだか『仲の良い姉妹』だな。

 

「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……み、みず……みずを……みずを……」

 

 アンジュは『みずを探し求める人(女版)』となっていた。

 

「キューピッドの日……」

 

 原作と変わらないトーンを変えずにミレイの言ったことを復唱するアーニャ。

 ……と言うかアーニャの中の人って今の状態でどうやって外部を『見て』いるんだろう?

 

 ミレイのアナウンスが続く中、俺はふとした質問を思い浮かべた。

 え? 『前にお前“だが俺は屈せぬ!”とか言ってなかったっけ?w』だと?

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………取り敢えずアーニャの中に居るマリアンヌの事だ!

 

(脳内)ソファの前で(脳内)テレビを見ているような感じなのか?

 それともリモコン?

 今風に例えるとスマホでドローンの見ている映像を見る?

 

 正直、分からん!

 原作アニメでもそこまで深い描写とか説明とかなかったし。

 でも少なくとも分かることと言えば、アレだ。

 

 彼女はギアス適性(うろ覚えだが確かRだかC因子だっけ?)が低い所為でギアスが上手く発現できず、某他作品の『大きいノトーリアス』と同じように『死後に発動するギアス』をよりにもよってV.V.の暗殺をワザときっかけとして発動させた。

 

 コーネリアも原作一期後半ではルルーシュのギアス尋問に対して、『その日はマリアンヌ様が直々に警備を弱めるような指示を出していた~』と暴露してルルーシュを動揺させていたし。

 

 今回は原作のブラックリベリオンと色々と違うけれど、使用人ネットワークとかで調べていたら確かにコーネリアは警備隊長を担当していたしマリアンヌがテロに会って他界している情報もあったからそこは違わないだろう。

 

『────ではでは、イベントが開催する前に参加注意事項が書かれたポスターをそこら中に貼ってあるからしっかり読んで理解してね~!♪』

 

 っと、ミレイのアナウンスが終わった。

 

「………………………………ふ~ん?」

 

「なんだ、アンジュ?」

 

「べっつに~? ……あ。」

 

 アンジュが何故か面白くなさそうな表情をしたと思ったら今度はニヤニヤし始めた。

 

「……」

 

「??????????」

 

「変な学園。」

 

 マーヤはマーヤで黙り込むし、ライラは未だにハテナマークを量産しているし、アーニャはド直球に思ったことを口にするし────いててててててててててててて。

 

 目頭を押さえようとして手を上げたら関節から悲鳴が……

 

 ちなみに俺がこうしていられるのも、キューピッドの日が来るように誘導した直後にルルーシュに相談したからだ。

 アレだ、和平条約……じゃなくて『情報提供による同盟条約』ならぬ『不干渉条約』で既に俺の分のプランまでも練って貰った。

 

 ルルーシュが更に大変になるのは原作知識で知っているからな!

 使える手は今のうちに使っておかないと!

 

 フハハハハハ!

 

 それにこの学園って俺の夢見るモブ子とのひっそりライフ候補を見つけるのに最適だからな!

 

 確かに企画の原因を作ったのは俺だが発表&学園公認と言いだしたのはミレイだし?

 

 俺とは関係ない。

 

 え? 『考え方がゲスイ』だと?

 

 悲しいけれどこれって戦争になる予定なのよね。

 

 ……主にルルーシュを中心にしたヤツ。。

 

 

 


 

 

 

「なあ、スザク! 庶民の学校って面白いな!」

 

 朝早くのトウキョウ租界内にある政庁の通路内にジノの声が響く。

 

「ジノ……前にも言ったけれどそうやって『庶民』を付けるのはどうかと思うよ?」

 

「え? そうか?」

 

「そうだよ。 ジノだって『名門貴族のヴァインベルグ~』って連呼されるのはいやだろ?」

 

「あー……言われてみればそうだな。 てか、ミレイの卒業イベントだぞ? 来ないのか?」

 

「僕はジノたちと違って皇帝陛下の勅命で『総督補佐』を命じられているからね。 部下も頑張っているし、僕だけが仕事から抜け出すというのも────」

「────だったらええええっと……『コノエナイツ』たちも誘ったらどうだ?! ここにはギルフォード卿やグラストンナイツも居るわけだし!」

 

「じゃあジノが皇帝陛下に言ってくれるかな? (ニッコリ)」

 

「う゛。 ス、スザクも言うようになったじゃないか……なんか良いことでもあったか?」

 

「良い事……うん、そうだね。」

 

()()()とかだったりして?」

 

「まぁね────」

「────え────」

「────ボクのフィアンセによろしく伝えてねぇ~♪」

 

 ポカンとしたジノにロイドの声を送り、スザクは会議室のドアが閉まるまで笑顔を向けた。

 

「ふぅ…… (ジノは相変わらずだな────)」

「────枢木卿、あとで電話くらいはしてあげてもいいと思うぞ?」

 

「ギルフォード卿?」

 

「今の君はラウンズである、それ以前にユーフェミア様の騎士だった。 コーネリア様の騎士である私の『先輩としての助言』として取ってくれたまえ。 『今』という時間がいつまでも続くとは限らないご時世だからな」

 

「ギルフォード卿────」

 「────姫様……」

 

「「「「「はぁ……」」」」」

 

 ギルフォードが開いたままにした資料のフォルダーの中に、(彼なりに)こっそりと入れたコーネリアの顔が映った小さな肖像画が出てきたことに気付いた者たちのため息が会議室に広がる。

 

 パン、パン。

 

「気持ちは分かるが、話を戻そうではないか────?」

「────んふふふ~♪ クロヴィス殿下も変わりましたねぇ────」

 「────こんな会議よりライラの報告がよっぽど有意義だというのに────」

「────んじゃあ、中華連邦で…………………………………………………………………………()()()()()()紅蓮から得たデータとシュナイゼル殿下から予定されている()()()のことだけれど────」

 

 ブツブツと何かを独り言のように言うクロヴィスを差し置いたロイドも言葉を探してから話を続けた。

 

 ……

 …

 

「(しかし108人との約束のままでは実質ブリタニアによって動いている世界を、俺の思いのまま創造することなど不可能だ────)」

 

「フハハハハハ!」

 

「エル、テストの採点中なんだ。 もうちょっと静かにしてくれないか?」

「(────それに先日のアーニャのあの問いも……いや、それはおいおい対処しよう。) 今は会長の宣言した『キューピッドの日』を利用し、女たちとの関係を一気に清算する!」

 

「ククク……」

「そして晴れて兄さんは自由の身になる。」

 

「ああ。 幸いなことにこのイベントは学生だけでなく、職員も参加できる。 だから俺の帽子はヴィレッタに────」

 「────断る。」

 

「フハーハハハハハハハハハ!」

「貴方は笑い過ぎです!」

 

 学園地下にある機密情報局のアジトにて悶々と考え込んだ末にルルーシュが決行しようとした計画の言葉をヴィレッタは力強く遮り、とうとう部屋の端で大笑いを堪えることを止めたエルにロロがムッとしながら怒鳴る。

 

「ククク……これが笑わずにいられると思うか?」

 

「そもそも貴方も影武者としてどうなんです────?!」

「────確かに影武者としてお前たちのサポートをするように頼まれているが、あくまでそれは『頼み』であって『命令』ではない。 それに……」

 

「それに、なんです?」

 

「……それに私はユーちゃん(YLB)以外の女性と関係を持つことなど想像できん。」

 

「それ、前にも言いましたよね?」

 

 エルにしては歯切れ悪い言葉の続きが以前に聞いた物と同じだったことに、ロロは違和感を持ったがすぐに興味が失せたのかルルーシュの居る方を向く。

 

「……そうだな。(“私は貴様と違って世界を見てみたい”など言ったところで、逆上されるか……)」

 

 エルは視線をロロに戻す。

 

「(『ロロ・ランペルージ』。 ギアス嚮団のギアスユーザー……いや、正攻法でギアスを得たからギアス能力者とやらになるか。 資料にあったオリジナル(ルルーシュ)オリジナルの妹(ナナリー)を足して二で割ったかのような容姿をしていると思っていたが……まさかこいつが()()()とはな。)」

 

 エルは先日、ビルキースで共に乗っていた時にアンジュから話しかけられた話題を思い出していた。

 内容としては単純なモノで、『ラクシャータの検査結果』についてだった。

 本来、スヴェンから頼まれていたものなので彼にラクシャータが直接結果を伝える筈なのだがカレンの救出後や中華連邦のゴタゴタにスヴェン自身が気を失っていたこともあり、上手くスヴェンに伝えるタイミングが合わなかった。

 

 よって、ラクシャータはスヴェンたちをエリア11に送り返すアンジュに結果を伝えた。

 そしてそのアンジュはそのことをスヴェンに伝えるタイミングを逃してしまったのでエルに伝言をした。

 

『それ、単に忘れていただけだろ』だと?

 

 セケンテキニハソウデショウネ。

 

「(さて……うまい具合にこのことをスヴェンに伝えたいが……このキューピッドの日を、上手く利用できないだろうか?)」

 

「というかルルーシュ……お前、いっそシャーリーに帽子を取られてみればどうだ?」

 

「は? 何故そこでシャーリーが出てくる?」

 

「…………………………………………………………シャーリーならお前の立場を悪くするとは思えないし、周りからとやかく言われる恐れもなく、その上周りは納得して引き下がると思うぞ? 賭けても良い。」

 

 ヴィレッタが呆れたように言うとルルーシュは黙り込むどころか、椅子に座って額に手を当てて『頬杖』ならぬ『額杖』をする。

 

「(そこまでヴィレッタに言わせるのなら多分、そうなのだろうな…………………………………………………………ならば当日は咲世子に影武者としてイベントのタイムリミットギリギリまで逃げてもらい、最後は俺と入れ替わり、シャーリーに帽子を交換しないか提案をすればいいか。 スヴェンにも話を通して、影武者役をしている咲世子のサポートに回せば安泰だな。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてイベント当日、アッシュフォード学園中に緊張感たっぷりの空気が充満していた。

 

『あの……本当に卒業なさるんですか?』

 

「まぁ、ね。 屋上ガーデンも完成したし、“いつまでもモラトリアム~”ってわけにもいかないから。」

 

 そんな学園のクラブハウス内にある放送室ではピンク色の帽子をかぶったミレイが、イベント開始直前にスザクからかかってきた電話に出ていた。

 

『すみません……せっかくの卒業イベントなのに。 ただ、どうしても外せなくて……』

 

「分かっているって♪ 大事な仕事があるんでしょ?」

 

『……ええ、まぁ。』

 

「ならそんな貴方に魔法をかけま~す♪」

 

『え?』

 

 「リラ~~~~~~~~~ックス!」

 

『……あの────?』

「────貴方、他人に頼らずなるべく一人で何でもしようとする癖があるから。」

 

『流石会長ですね。』

 

「伊達に周りを見ていないってだけよ……それに……」

 

『それに?』

 

「あ、時間が迫っているから()()()()ね!」

 

『あ、ハイ。 では。』

 

 ピッ。

 

「さてと! 始めますか!」

 

 キンコンカンコ~ン♪

 

「みなさ~ん、今日で最後の生徒会長のミレイ・アッシュフォードで~す♪ まもなく私の卒業イベント、キューピッドの日を開始するまえに簡単にルールのおさらいをしますねぇ~?

 まず、男女はお互いから2メートルは離れていること!

 二つ! 帽子を取る方法は特に決めていません! 小道具を使ったり、チーム戦などもオーケーです!

 三つ! タイムリミットは部活動時間が終わるまで!

 四つ! 相手の帽子を奪ってもタイムリミット内に他人に取られれば、最終的に帽子を換えた人同士が学園公認の恋人同士となります! だから相思相愛での交換でも他人から狙われていたらお互いの帽子を守ることをお勧めしま~す!

 他はまぁ、色々とあるけれどその為の参加者注意事項ポスターを出したし、もういいかと思いま~す! では始める前に私から一言~!」

 

 ここでミレイは一息を入れる為に目を閉じて、先日アンジュと話し合った内容と()()()調()()()()()()()()()を全て脳内でおさらいし直してから意を決したかのように目を開きながらアナウンスを続ける。

 

「3年B組、ルルーシュ・ランペルージ! または()()()()()()()()の帽子を私のところに持ってきた部活は部費を10倍ずつ上げます! 両方であれば部費20倍というデラックスでスーパーなラッキーチャンス到来ということです!」

 

『『な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!』』

 

「ではではスタート~!」

 

 ミレイは外から聞こえてくる男性二人分の叫びに似た幻聴に耳を貸すことなく、かつ容赦なくイベントスタートの合図するボタンを押した。




やはり『書きたい意欲』の勢いに任せると…… (;´ω`)


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第228話 第一回パジャマパーティーの日、来たれり

勢いのまま書いた少々長めの次話です!

ほほ(?)SIDE:アマルガムですが、楽しんで頂ければ幸いです!


 少々唐突かも知れないが、ここでアマルガム側の話を少ししたいと思う。

 

 時間は、アッシュフォード学園で『キューピッドの日』となる企画をミレイがスバルから聞いて、原作とは少々違うイベントとなる数日間前にまで戻る。

 

 場所は『合衆国中華』の首都である洛陽。

 

 この頃はまだ、空気が読めない星刻が中華連邦の残骸から洛陽を中心に築いた合衆国中華の体裁を落ち着かせる為に軍方面だけでなく政権の安定にも四六時中付きっ切り状態の所為で、日々寂しがっていた天子の気を紛らわす為に神楽耶は主な女性たちに声をかけては茶会などのイベントを空いている時間に開催していた。

 

「神楽耶様! これが、『ぱじゃまパーティー』なる物なのですね?!」

 

 ちなみに上記の嬉しそうな天子の言葉で察したかもしれないが、今夜はパジャマパーティーである。

 

『パジャマパーティー』といっても、声をかけられてから来る女性の数が数だけに大所帯となってしまったので規模的に『修学旅行』寄りなのだが。

 

 あと『パジャマ』……というか『寝間着』の定義がピンからキリまである様で、とある者たちはオーソドックスな長袖に長ズボンもあれば下着のみの様な物もあり、果ては『本当に(年相応の)パジャマなの?』と聞きたくなるようなネグリジェなどもあった。

 

 しかもそれらが薄着、厚着、薄透明、エトセトラという風に更に細かく分かれてしまうので()()省く。

 

「しかし、なぜ我々もここに?」

 

 千葉(下着オンリー)は場違いを感じているのか、周りを見渡して国の運営や一部隊……というより一組織を指揮したり組織の開発に携わっている重鎮たちを見る。

 

「それは……(香凛)さんが“数が多ければ多いほどいいから”と仰っていたので、勝手ながら私の方でもお声をかけました。」

 

「それにこんな風にお泊り会がまたできるなんて思っていなかったから、つい!」

 

 レイラ(ヒラヒラ薄着ネグリジェ+紐パン+眠たげのエリザ)は他意なく答え、普段は人見知りなアンナ(レイラと同じヒラヒラ薄着ネグリジェ+レースパンツ)が『フンス!』と興奮しながら答える。

 

 多分、『夜食用に』と数々の蓬莱産(仮名)であるお茶に茶菓子や甘味は関係ない……と思いたい。

 

「いや、まぁ……そうだけれど……これって本当に()()()()()()()の規模なのかなぁ~?」

 

 マリエル(半袖丈短くてへそ出し+短パン寝間着)は畏まりながら千葉と同じようにソワソワしていた。

 

 余談ではあるが、神楽耶が声をかけた大半の女性たちは参加者の名を聞いては『恐れ多すぎる!』と辞退していたとここで記しておく。

 

「う~ん……こういう物かも……って、アリス?  私のパジャマって変?」

 

「ジー。」

 

「えっと???」

 

「ウウン。 ナニモ、ナイヨ、アヤノ。」

 

「???」

 

 アヤノ(マリエルと同じ半袖+短パンスタイルの寝間着+パンダぬいぐるみ)は自分をジッと見ていたアリス(長袖+長ズボン+三つ編みポニテ+ペンギンぬいぐるみ)に声をかけるが、アリスはフッとどこか遠くを見るような目をしながら片言とした口調で答える。

 

「まぁ……アリスの気持ちは分からないでもないな。」

「何が、サンチア~?」

「ダルクはまだわからなくていい事ですわ。」

「だよねぇ~?」

「マオ(女)に言われると不愉快!」

 

 大半の女性が辞退した所為で、『歳が近い』と言う事からC.C.によりほぼ無理やりにアリスたち(サンチア(長袖長ズボン+)、ルクレティア(ブラスリップ+団子ヘアー+オルカぬいぐるみ)、ダルク(スポブラ+短パン+イルカぬいぐるみ)、マオ(ブラスリップ)など)は強制参加させられていると更にここで追記しよう。

 

 声はかけられていないがアヤノは単純に『なにそれ面白そう!』といった興味で参加しているとも追記する。

 

「それで、これからどのようなことをするのでしょうか?!」

 

 ウキウキとする天子(長袖+長ズボン)はぬいぐるみを抱きしめながら、眩しいほどに清々しい笑顔を周りの皆に向ける。

 

 「やはり可憐だ……」

 

「……そう言えば天子様、その抱き締めているぬいぐるみは何なのでしょうか? ウサギのように見えますが────?」

「────はい! 『うさ〇ちゃん』と呼んでいます!」

 

「「「ブフォ?! (そのまんま?!)」」」

「「(『プラウスちゃん』なのでは?)」」

「「(ミッ〇ィーちゃんの間違いじゃない???)」」

 

 天子が見慣れないぬいぐるみを抱きしめていることに気付いた香凛(チャイナ風短パン+丈短い半袖)の問いに天子が迷いなく答えるととある者たちは吹き出し、とある者たちはハテナマークを頭上に浮かべ、更にとある者たちはハテナマークを頭上に浮かばせた。

 

『今の絶対に年代で違うリアクションだろ』だって?

 Ha,ha,ha。 そんなわけないだろ?

 だって上の全部、合っているんだぜジョージィ?

 

「は、はぁ。 そうですか……ちなみにいい毛並みですね! どこのブランド物ですか?」

 

 神楽耶(ヒラヒラ薄透明スケスケのブラスリップ+ビキニタイプショーツ)は場の空気を変えようと話を進めた。

 

「えっと、()()()()が編んでくれましたのでその……『ぶらんど』はないかと思います」

 

 「「「「「「(まさかの手作り?!)」」」」」」

 

 余談ではあるが、天子が持っているうさ〇ちゃんぬいぐるみは強化スーツの試運転兼リハビリとしてスバルが編んだもので以下の通りの一連である:

 1、『そう言えばこの頃の天子は寂しかったのだろうか? 詳しい描写なんてないしこの先。』

 2、『せや、久しぶりに本気でぬいぐるみを編もう!』

 3、『天子様にはやっぱりゴ〇ちゃん?』

 4、『でも中華っていうとパンダで、パンダと言えばたれぱんだ』

 5、『でもどちらかと言うと本人の見た目的にはウサギっぽい?』

 6、『ウサギだとロップイヤーが良いか? 髪も白いし目が赤いから白兎?』

 7、『白兎と言えば……デザイン的にはピー〇ーよりシンプルな()()が良いか。』

 8、コードギアスの世界にて『うさ〇ちゃんぬいぐるみ』が天子の手に渡る

 

「ほぉ、それは奇遇だな。 私のも彼が編んだ物なのだ。」

 

 毒島(下着+ツンツンポニテ+すくすく白〇モドキ)はほんの少しだけ誇らしいドヤ顔になった。

 

「まぁ! 冴子のそのカビた大福────」

 「────おはぎちゃんと言います、神楽耶様。」

 

「おはぎ???? ……どこからどう見ても、カビの生えた鏡餅────」

 「────おはぎちゃんですよ神楽耶様?」

 

「は、はぁ……」

 

 毒島のいつにもまして威圧感の出る、ニッコリとした桐原似の笑顔に神楽耶は少々引いた。

 

「おはぎちゃんの小さなおててと小さい目、すっごく可愛いですお姉さん!」

 

 「ン゛。」

 

 キラキラと光を放つ様な笑みをする天子の顔の前に、神楽耶のからかいによりピリピリしていた毒島の胸にグッとくる何かに彼女は目を天子から背ける。

 

「それで、『ぱじゃまぱーてぃー』では何をするのですか?!」

 

「うーん……まぁ、定番で言うと恋バナってところかしら?」

 

「『こいばな』???」

 

 ラクシャータ(バインダー水着っぽいトップに超々々ミニスカからの黒のパンツ丸出し)の言ったことに天子は首を横に傾げると、少女の抱き締めていたう〇こちゃんの片耳がぺたんと落ちる。

 

「「「んぐっ。」」」

 

 この様子に何人かの女性は天子と彼女が抱きしめるぬいぐるみの景色に先ほどの毒島のように心を打たれる。

 

「『恋の話』。 略して『恋バナ』で慕っている異性の話だよ、天子様。」

 

 C.C.(ワイシャツ+ショートパンツ+抱き枕代わりのチーズ君ファミリーの巨大輪っか)が飄々としたまま周りの様子に気付かなかった天子の問いにいち早く答える。

 

「まぁ! では皆様には、将来を誓った方がおられるのですか?!」

 

「私にはゼロ様が居られますけれど……ねぇ~?」

 

「そ、それは……」

「む……」

「えっと……」

「あは、あはははは~……」

 

 天子の問いに神楽耶は迷いのない返答をしながら、悪戯っ子の様な表情で周りに居る毒島たちを見渡す。

 

「まぁ、周りの奴らなんてろくでもない選択肢ばかりだからねぇ~。」

 

「黒の騎士団なんて、特にな。」

 

 目が泳ぐ女性メンバーたちに気付かない(あるいは気づかないフリをする)ラクシャータとC.C.が話を続けると千葉達などが徐々に参戦していく。

 

「まぁ……確かに? 扇さんは優しいけれど、それだけだし────」

「────玉城は下品で幼稚────」

「────南はロリコン────」

 

 「────『ろりこん』ってなんですかアヤノさん────?」

 「────う゛……『年下か幼い見た目の女性が趣味』の事、です────」

 「────まるで悪い事のように言われていますけれど────?」

 「────まぁその……えっと……『世間一般的に良くない』からだと思います────」

 

「────ディートハルトは根暗で陰険────」

「────杉山はナンパすぎる────」

「────吉田はチャラい────」

「────仙波は趣味が爺臭いし年もかなり行っている────」

「────こうやって並べると卜部が一番無難だな。 味音痴だと言う事と味噌マニア以外は。」

 

 香凛の言葉にその場に居た誰もが先日、四聖剣たちが話していた料理の中で『特にセミの油揚げは美味かった~』と言っていた卜部に周りがドン引きしたことを思い出す。

 

 ちなみに普段物静かな藤堂は『あくまで極限状態ならば~』と一応のフォローをしたと記しておく。

 

 卜部の『でも美味かったんだよなぁ~』で台無しになったが。

 

「そう言えば、『朝比奈省吾』とやらはどうなんだ?」

 

「あら! (香凛)さんが気になるのなら、取り持って差し上げますわよ?」

 

「あ、いえ。 神楽耶様の提案はありがたいですが、私の趣味は()()()()ですので────」

「────あら! ではちょうど良いかもしれませんわよ? 朝比奈さんも()()()()との話ですし?」

 

「あの……神楽耶様? いくら神楽耶様でも、その……同僚の悪口は────」

「────ああ、私は悪い意味で言ったつもりはありませんよ千葉さん? 実は先日、朝比奈さんに聞いたのです────」

 「「「────え。」」」

 

「それでどうも朝比奈さんは『無性愛者』の様でして、藤堂将軍の事は純粋に憧れる人と言い切りましたわ。」

 

「そ、そ、そうですか────」

「────ですので安心してハッキリしてもよろしくてよ千葉さん?」

 

「んな────?!」

「────だって恐らくバレていないと思っているのは貴方だけですよ────?」

「────ま、待て待て待て待て待て待て! そもそも話は(香凛)の相手だったはずでしょう?!」

 

「彼女が気になるのは黎星刻だけでしょう?」

 

「……あ、あの『シン』とやらはどうだ?」

 

 明らかに話題を自分から逸らす香凛を微笑ましく思う中、C.C.が口を開けた。

 

「ああ、なるほど。 お前の趣味は『誰かの為に頑張る男性』か?」

 

 ドキーン

 

うぐ。

 

「アイツは()()()と許嫁な上に相思相愛だから難しいぞ?」

 

「「「「え?」」」」

 

 ニヤニヤとするC.C.から、皆の視線がその場に居るアリスに移る。

 

 「言っておくけれど(アリス)じゃないわよ?!」

 

「ああ、あの胸が大きい方の。」

 

 グサッ!

 

 ラクシャータの何気ない一言がその場に居たひん……その場に居た何人かの胸に突き刺さった。

 

「そ、そうか……そう言えばあの……なんだ? 『阿修羅(アシュラ)隊』は意外とよさそうな男子ばかりだな。」

 

 どこかドンヨリとした空気に気まずくなった千葉は話題を戻す。

 

「騎士道精神が根強いから、紳士的だしな。」

 

「それを言うお前はどうなのだC.C.? もしや玉城の言うように、ゼロの愛人なのか?」

 

フハハハハハ、面白い冗談も言えるなお前。 で、どうなんだお前たち?」

 

 C.C.がレイラたちを見渡すと皆の視線が泳ぎ出す。

 

「例えばそうだな……レイラ、とか?」

 

「わ、私ですか? ……そう、ですね……『気になる男性』なら────」

「────やっぱりそうなのレイラ?! よかった~。」

 

「え、ええ……『必要』と言ってくれたのだけれど、アンナが先に仲良くなったので私は────」

「────へ、誰の事レイラ────?」

「────え? だって貴方────」

「────え? でも私はてっきりレイラが……」

 

「「………………………………………………エ?」」

 

 話がかみ合わないことに、レイラとアンナは互いを見ては目をぱちくりさせる。

 

「(『必要』、か……たまにはそうやって、私に言ってくれれば……)」

 

 毒島は微笑ましくも、どこか内心でため息まじりに上記を思い浮かべた。

 

「……………………カレンはどうなんだ?」

 

「うぇ?!」

 

 C.C.はレイラたちや毒島の表情を見ながらニヤリとし、矛先をカレン(タンクトップ+ショートパンツ+タバタッチぬいぐるみ)に向けるとカレンは明らかに慌てだす。

 

「井上から聞いているぞ? お前、昔から仲の良い整備士がいるそうだな?」

 

「なななななななななナンノコトカナー。」

 

「嘘が下手だなお前。 で? 毒島はどうなんだ?」

 

「ん? そうだな……まぁやはりスバルだろうな。」

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 目を泳がせながら顔を背けるカレンからC.C.は黙り込んでいた毒島に話題を振ると、毒島があっけらかんと答えたことで場は静まり返る。

 

「なんだお前たち? そんなに驚くことか?」

 

「う、うぅぅぅぅ……あの冴子が……剣術以外に興味を持つ時が来るなんて────」

「「「「「(────神楽耶が泣くほどってどれだけ?)」」」」」

 

「ほう? アイツか……どこに惹かれた?」

 

「そうだな……幼少の頃、私はその……武術一筋だったのでな? 周りには腕白な小僧とかしかいなかったのだ。 そんな中で初めて会ったスバルは歳に似合わず、大人と同等なほど落ち着いていた。」

 

「あ、それ分かります。 シュバールさんっててっきり年上かと思うほどに大人びていますよね?」

 

「ああ、そうだな。 それでいて強者。 だというのにそれを笠に着ることなく、対等な相手として接する。」

 

「それでなんだかんだ『目立ちたくない~』って口で言っている割に、子供の頃から裏で色々やるからねアイツ。」

 

「カレンさんもサエコみたいに?」

 

「ん? というか子供の頃からアイツと一緒に住んでいたよ?」

 

「……なるほど、君はやはりナオトの妹だったか。」

 

「あ! ようやく分かった! お兄ちゃんがたまにブツブツ言っていた『ブスジマ』ってやっぱり毒島の事だったんだ!」

 

「そう言うカレンさんはシュバールさんの事はどう思っているのですか────?」

「────う────」

「────察するからに『単なる馴染み』といった軽い思いだけでもないだろうに。」

 

 他意のないレイラ、そして毒島の挟み撃ちにカレンはタジタジになりながら赤くなり、言を並べていくと徐々にそこに居る女性陣が便乗していく。

 

「そ、そうかな~? ま、まぁその……スバルって誰にでも優しいからさ? よく周りを見ていて気遣いも出来る凄いヤツだしさ? それで色々できるのも単純に才能だけじゃなくて、実は努力家でいてさ────?」

「────ああ、とても分かるな。 彼は口ではあまり語らないが、誠実だし────」

「────それに予期せぬ事態で危険が迫っても慌てたりせず、冷静に対処をする態度が────」

 

 余談だが次々と盛り上がる『恋バナ』は一晩中続いた。

 

 レイラとカレンによって、一時は盛り上がりが止まってしまうまで。

 

「────でもさ、たまに怖い時もあるんだよね。」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 カレンのぽつりとこぼした言葉に、周りの者たちはしんみりとするカレンを見る。

 

「カレンさん……それは、シュバールさんの心強い態度に関してでしょうか?」

 

「うん……なんかさ? 昔から色々簡単に出来ちゃうような感じだから忘れちゃうけれど、一人で何でもかんでもやっちゃうから。」

 

「そうですね……確かに彼は、自ら重荷を課す節があります……その所為で、『彼はいつか壊れてしまうのではないか?』と……」

 

「二人の危惧していることは分かるぞ。 だがだからこそ、私たちが彼を裏から全力で支えるべきなのだと考えている。 男のプライドを守ると言えばいいか。 それこそが、『女たる矜持だ』と考えている。」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「ん? なんだ、お前たちのその意外そうな顔は?」

 

「冴子が……冴子が普通の人みたいな事を口にしていますわ────!」

「────神楽耶様がそれを言うのですか? 幼少の頃、貴方も非常識だったと────?」

「────あら冴子は約束(誓い)を破るというのですか────?」

「────う────」

「────あれだけ“約束は命がけで守る”と仰っていたのに────?」

「────んぐぐぐぐ……」

 

「(『約束を守る』って……もしかして────?)」

「────でも、『それだけ一人で頑張る』ということはその人にとって『周りの人たちをそれだけ大事に思っている』ということではないしょうか?」

 

 神楽耶と毒島のやり取りを見て、カレンはふとしたことを思い浮かべるが天子の声によってさえぎられる。

 

「……」

「アッハッハッハ!」

「確かに……」

「天子様も良い事を言いますね?」

「御慧眼ですわ天子様!」

「大人の女たちがそろって教えられたな?」

「(『無茶をする大事ほどに思っている』、か……)」

「あ、アリスが赤くなったー。」

「ウフフフフ♪」

「(……私も入っているのだろうか?)」

「あ。 今度はサンチアが────むぎゅ。」

「天子様って良いわぁ~♪ お願いだから変な男に捕まらないでねぇ?」

「大丈夫ですラクシャータさん! この朱禁城の壁と防衛は見直しされたので賊が入ることは────!」

「────あー、そういうことじゃないわ。」

 

「え? ではどういう意味ですか?」

 

「んー……天子様がもう少し大きくなったら説明するわ。 ねぇ香凛さん────?」

「────そこで私に振るのか────?!」

「────釘を刺しただけよ────?」

「──── “大きくなったら”って、何時ですかラクシャータさん?!」

 

「うん? そうねぇ……ぶっちゃけるけれど、天子様って生理きている────?」

「「「「「────ふぁ────?!」」」」」

「────ドクターラクシャータ?! なんてことを聞くのですか────?!」

「────“せいり”? お部屋ならちゃんときちんとお片付けしていますけれど────」

「────うんうん♪ やっぱり天子様っていいわぁ~♪」

 

「パジャマパーティー、面白いですね神楽耶様!」

 

「あ、あはははははは……」

 

 果たしてこの会談のような集会を『パジャマパーティー』の一言で片づけていいのか分からなくなった集会のきっかけを作った張本人の神楽耶なのだった。

 

 後にこういった『パジャマパーティー』が再び行われて波乱が起きるのだが……それは少々後の話となる。

 

「(やっぱり、『約束』なの?)」

 

 ワイワイと続くパジャマパーティーの中で一人だけカレンは表面上では笑いながらも、内心では憂鬱な気持ちになっていた。

 

「(……やはりもっとアピールするべきだろうか?)」

 

 そんな彼女の様子に気が付いたのは、幸運にも同じように憂う千葉だったとか。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時はアッシュフォード学園で『キューピッドの日』が始まる先日にまで進み、場所は『合衆国日本』の亡命政府が拠点としている蓬莱島にある合衆国日本政庁(仮)へと変わる。

 

 その中で桐原は中華連邦が合衆国中華に変わったことで神楽耶と共に隣国との交渉の場に出払い、ようやく以前から任されていた内政をする為に今までの資料チェックをしていた。

 

「……ん?」

 

 そんな彼が声に出してまでハテナマークを頭上に浮かべるほどの案件が書かれた情報が目に留まったのは蓬莱島の経営が100万人ほどの受け入れをしてからようやく軌道に乗り戻したことが予想より早くなっていたことにより、黒の騎士団に深く調べるように頼んだ資料が原因だった。

 

 普通、いきなり100万人の住人が一か所に移り住むことで人口が一期に膨れ上がった反動にトラブルなどや治安その他諸々の低下などが起きて回復するまでに時間は必要である。

 

 これは単純に大勢の人間が移り住んだ先のインフラが人口に追いついていないからであり、本来はどれだけ改善に力を入れて頑張っても数週間から数年はかかる。

 

 しかも『数週間』とはそれだけの財産や作業に割ける人員、そしてあらゆる過程を飛ばせるような迅速な対応が可能な政治国家を想定した時間。

 

 ()()()()()が無い限り不可能な短縮である。

 

「(『埋蔵金発掘の進行』??? 『横領確定の官僚からの私有財産』???) あー、レイラ? 少々聞いていいか?」

 

 桐原はそれらを見て、同じ部屋の中で事務作業をしていたレイラに声をかける。

 

「何でしょう、桐原さん?」

 

「これらはどういうことかね?」

 

「ああ。 それは先の『天子様とブリタニアの婚約』をよく思っていない紅の乱(紅巾党)と共に立ち上がった民衆たちが得た自治権の保証と引き換えに引き渡されてきた県令たちや領主気取りの武官たちがため込んでいた財産や横領していた国宝などを見つけ出しては他国に売りました。」

 

「 “国宝を売る”などと……かなり思い切ったことをよく星刻たちが了承したの?」

 

「人口は大国と引けを取りませんが、現在の合衆国中華は国としてあらゆる問題を抱えています。 そしてその多くは金銭で解決できることを説明しました。 あ! 勿論、『国宝』と言っても文化や歴史的価値のある物は合衆国中華内の博物館などで展示できるようにあげています。 逆に資産として価値ある物、例えば翡翠や装飾品などを他国に売ってその何割かを仲介手数料として合衆国日本の取り分としています。」

 

「よく売り先が見つかったの?」

 

「そういった資産家などには()()()()心当たりがありましたので♪ フフフフフフ♪」

 

 レイラが笑いながら思い浮かべたのは何時かのナルヴァ帰還祝賀パーティーで、軍服を着ていた自分やワイバーン隊をコケにした者たちの面々であり頭のいいレイラはほぼ全員の顔を覚えていた。*1

 

 つまりちょっとしたwZERO部隊をコケにした者たちへの、レイラなりのリベンジである。

 

「しかし資産価値のある物全てを売り払う必要はあったのか? これから先、何が起きるか分からないときの貯えに備えてもよかったのでは?」

 

「それも考えましたが、そのような『後の為』に取って置くより『今の改善』にした方が国民にとっていいと思いますし、その『後の為』を未然に防ぐ力として国民の支持を活用できます。 物を持っても、すぐに金銭に変えられるとは限りませんから。」

 

「フム……理屈に適っているな。」

 

 ちなみにこの考えかたはスバルがヴァイスボルフ城に招かれた後、普段は『もしもの為に限りなく何でも節約する』といった方針を彼がぶっ壊した影響から来ている。

 

 当時のスバルからすればヴァイスボルフ城の状態が予想より良くて『あれ? 思っていた以上に物資があるじゃんか! ラッキー♪』といった軽い考えなのは知る由もないだろうが。

 

「『合格』、でしょうか?」

 

「今のところはな……ところで、先の考えはスバルから聞いたのか?」

 

「半分はそうですね。」

 

「半分?」

 

「もう半分はサエコと話して『誰もが住める場所』の延長線にある、『誰もが快適に住める居場所』に基づいた、私なりに出した考えの一環です。」

 

「ほほぉ?」

 

「金銀財産を保有するのは必要でしょうが……それは国の在り方として余裕のある時でいいのです。 それに……」

 

「それに?」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

 レイラが思い浮かべたのはウキウキと『『C.C./お兄さんの為に頑張るよ!』』と掛け声をかけ乍ら横領などの疑いがある官僚などの尋問に乗り出すマオーズたちだった。

 

 (マ男)彼女(マオ(女))そしてサンチアの三人は100万人の受け入れ時に簡単な入国審査を終えた者たちにギアスを使い、更なる『面接』を受けさせた。

 

 マ男は文字通りに相手の考えを読み取り、マオ(女)は相手の記憶を再現させて『観る』ことが可能である。

 サンチアの能力は上記の二人とは少々違うがジ・オドで相手の動向や感情で『悪意』やうしろめたさから来る『負』を感知できる分、マオーズより作業スピードが速い場合もあった。

 

 つまりこの三人により蓬莱島を訪れる者たちの察知と選抜が事前にされていたこともあったことで、治安が(大きく)乱されることは稀な出来事となっていた。

 

「(まさかエデンバイタル教団の惨状を知ってから、後に提案した『平時のギアス運用』がここまで功を奏すとは自分でも驚きましたが……それに本人たちも嬉しがっているようですし────)────え?」

 

 次は携帯端末に着信したメッセージをチェックしていたレイラが声を出す番で、見たページにはアッシュフォード学園で次の日に開かれる予定の『キューピッドの日』に関することが書かれていた。

 

 ちなみに送り主はアンジュではなくマーヤ。

 

「……」

 

 そしてそのアンジュから何の音沙汰も無かった時点で、レイラは思考を巡らせてから電話をかける。

 

「もしもし、サンチアさんですか? 実は────」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その夜、黒の騎士団の斑鳩とは別の場所で停泊しているリア・ファルへ物音を出さずに走って近づく黒ずくめの人物が物陰に潜み、周りの様子を暗視ゴーグル越しに見渡す。

 

「(……良し。)」

 

 黒ずくめの人物────毒島は変わっていない様子に再び走り出す。

 

 シュパッ!

 

「き────~~~~?!」

 

 リア・ファルにあと少しといったところまで毒島が近づくと足に()()が引っかかる様な違和感とほぼ同時に、彼女は自分の体が逆さまに宙を自身の意思とは関係なく猛スピードで舞う感覚に叫ぼうとした瞬間に肺から空気が無理やり吐き出されて声にならない叫びへと変わる。

 

「あ、ぶっちゃんも捕まったんだ♪」

 

「うぅぅぅぅ……ま、マオ?」

 

「そだよー。」

 

 暗闇の中で目を回したままようやく動きが止まると横からマオ(女)の呑気な声がする。

 

『うぎゃああああああああ?! お、お、落とし穴ぁぁぁぁぁぁ?!』

『な、なにこのベトベトしたヤツ?! ゴキ〇リホ〇ホ〇?!』

『『ボスぅぅぅぅ?!』』

 

 夜の蓬莱島のリア・ファル近辺で、そこかしこから悲鳴や驚愕の声が次々と上がってくる。

 

「うーん、これは一本取られたねぇぶっちゃん?」

 

「……」

 

「ぶっちゃん────?」

「────うぷ……」

 

「え?!」

 

「せ、先日スバルと一緒に乗った時の後遺症が……き、気持ち悪い……」

 

「吐かないで! 吐かないで! 今絶対に吐かないで?!

 

 阿鼻叫喚なそのカオスの状況を、レイラはリア・ファル付近にある建物の屋上から空を飛んでいる暗視機能付き小型無人機(ドローン)経由でレイラ、サンチア、ルクレティア、ダルクが見下ろしていた。

 

「うっわ……エグいトラップばっかり。」

 

「サンチアさん、他にも動いている気配はありますか?」

 

「い、いや……ないが……その……」

 

「???」

 

「この様な数々のブービートラップを、EUの正規軍の士官が知っていたのは意外だったので。 ねぇサンチア?」

 

「あ、ああ。 すまないが、その……EUの士官などは『世間知らず』や『温室育ち』などといった、あまり良くない噂が纏わりついていたからな。」

 

 サンチアのどこか余所余所しい態度にハテナマークを浮かべたレイラに、苦笑いをしていたルクレティアが言葉を付け足す。

 

「レイラがそうでないことは、分かっていたが……」

 

「ああ。 これらはシュバールさんが城の防衛の時に設置していた罠を真似たものですので、厳密には発案者は私ではありません。」

 

「なるほど~……あの人なら納得!」

 

「その……三人に手伝って貰って今更ですが、ありがとうございます。」

 

「ん? 良いって良いって! どうせ多分、あのスヴェンって人にゆっくりとした時間を与えたいんでしょ?」

 

「相変わらずダルクは直球的だな。」

 

「ダルクちゃんですから♪」

 

「だがそう言うレイラもエリア11に行きたくはないのか?」

 

「……正直、行きたいですが……このままエリア11に行けば、更なる迷惑が彼に掛かるのは見えています。」

 

「……まぁそうだろうな。」

 

「それに彼が私を信じてくれている様に、私も彼を信じていますから。」

 

 レイラは夜空を見上げる。

 

 空の色も、時間帯もあの時と違うが、胸の中に感じるものはかつて『停戦条約』と称された、シンによって仕組まれた奇襲の時と同じ確固たる気持ちだった。

 

「(あ。 そう言えばマーヤは国歌と新たな部隊名の事をシュバールさんにもう提案したのかしら?)」

 

 次の日、シュバールがそれどころではなくなることをレイラはまだ知らない。

*1
95話より




後書きEXTRA:
レイラ:そう言えば、アリスさんの姿が見当たりませんね?
サンチア:そうだな……罠を設置した後だというのに。
ダルク:え? アリスならレイラの指示通りにエリア11に飛ばしたよ?
ルクレティア:指示? ありましたっけ?
ダルク:え?
サンチア:……これは嵌められたな。
レイラ:(恐ろしい子!)



余談:
作者:『書きたい意欲』には抗えなかったよスバラッシュ……
スバル:誰がスバラッシュやねん。
おはぎちゃん:次回は『キューピッドの日』だよね?
集合ちゃん:(9割の確率で)そうだね。


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第229話 ハチャメチャなキューピッドの日

ようやく学園中心の話です!
*略*つまりはカオス。

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


 シュ! スタッ。

 

「(……意外とセキュリティーがザルだったな。)」

 

 アッシュフォード学園の周りを囲う壁を、まったく違和感のないほど男性用の制服を着こんだ褐色の青年────コノエナイツ(スザクの親衛隊)のレドが拍子抜けしながら平然を装い、校内を移動しながら少々乱れた身だしなみを整える。

 

「(さて、『ルルーシュ・ランペルージ』……何故枢木スザクは機密情報局と連絡しつつ一学生である君に接触したのか、その理由を見ようじゃないか。 それにしても……『皇帝直属の機密情報局が学園を根城にしている』と言うから用心して潜入したのに何のアクションも起こさないとは……もしや学園と連携を取っていないのか?)」

 

『レドは親衛隊のコノエナイツであり、シュネーと共にスザクの部下。』

 

 というのは()()()()()()であり、実際はスザクが当初考えていたようにシュナイゼルに付けられた『鈴』である。

 

『鈴』といっても、『ただの監視』と片付けるには少々事情が込み入っているのだが。

 何せレドはシュナイゼル本人だけでなく、カノンからもかなり期待を寄せられるほどに『密偵』や『工作員』としての手腕を買われている。

 

 その証拠に、『スザクの監視はレドだけで十分』と判断させるまでだった。

 

 少し『レド・オフェン』という青年について話そう。

 

 彼はその昔、既に()()()()()()()()から『()()()()()』として活動していた。

 無論、レドは別に貴族でも何でもない庶民なのでそんな彼が『貴族の相手にされる』となると、自ずと彼の職は絞り込まれるが敢えて記入する。

 

 つまりレドは物心ついたときから、『両親』という存在を知らずただ知らない男によって豪華なホテルルームなどに案内されてはドアをくぐった者のあらゆる生々しい欲のはけ口とされてきた。

 

 その貴族が女性であるときもたまにあるが、大半は男である。

 

 そんな生活に嫌気がしたレドは歳のわりに聡く、自分の職を最大限に生かす為『同じ境遇の子供で男娼たちによる情報ネットワークチーム』を自分中心に結成し、次々と貴族の汚職や秘密などの部分的な情報を繋ぎ合わせては仲介者を通し、数々の情報屋などに売って得た報酬は自分と仲間たちの為に使った。

 

 現在の状況からの逃走の為に偽造された身分証や、戸籍だけの親などの手配にその後に不自由なく暮らせる資産。

 

 全てはレドみたくチームの全員が目指す、“嫌なことをはっきりと嫌だ”と言える世界への脱出の為。

 

 ちなみに当時のレドはまだ10代になったばかりの少年である。

 

 みるみると彼の働きにより自分だけでなくチーム全員分の自立が出来る目途がようやく立ったある夜、レドの状況は一転してしまう。

 

「(これでオレとあいつら全員分の金が貯まる。 後は仲介者を通してこの地区から────)」

 

 それはいつもの夜の仕事の筈だった。

 

 ────ガチャ。

 

「?」

 

 何時ものように豪華なホテルルームのベッドにレドは腰かけていると、入ってきたのは貴族風の男ではなくレインコートを着た者だった。

 

 普通の視点からこの時点で『何かおかしい』と思うかもしれないが、そう言った()()()()()を持つ客の相手をレドは文字通り腐るほど見てきたので彼からすれば別段珍しくも何もなかった。

 

「(なんだ? 付き人がいない────?)」

 

 ダァン!

 

「────ぐぁ?!」

 

 レドが反応する暇もなく、男によって床に伏せられるとレドの視線に星が散る。

 

「すまんが、俺を恨むなよ。 恨むのなら甘かった自分を恨め。」

 

 この言葉だけでレドは察した。

『誰かが自分の情報を流した』のだと。

 

「だ、誰に聞いた?! 仲介者か?! それとも貴族の誰かに頼まれた?! 依頼された倍の額を払う────!」

「────()()()()だよ。」

 

「…………………………は?」

 

 自分を床に押し付けている男の言葉にレドは頭が真っ白になる。

 が、それも束の間だけで彼の頭はカッとした怒りでいっぱいになる。

 

「嘘を言うな! 仲間だと?! そんなデマカセを────!」

「────ああ、そうか。 言い直すよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()だよ。 そいつらにちょっと金を渡せばすぐにゲロったぜ?」

 

「嘘だ!」

 

「お前が嘘だと言っても、現実は変わらないんだぜ? 冥土の土産に教えてやるよ。 今夜全員トンズラするらしいし、皆が何を口にしたと思う? 『レドによろしく言ってくれ』、だとさ。」

 

「……………………ッ」

 

 ショックでそれまで抵抗しようとしていたレドの体から力は抜け、男は拳銃を出す。

 

「悪く思うなよ、俺のコレも仕事だ。 他人を信じたのが間違っていたな。 ()()()()()()()()()()()()()。」

 

 パン!

 

 乾いた銃声が鳴り、ほぼ時間差が無く男の頭部に穴が開いては詰め込まれていた肉片や頭蓋骨などが飛び出る。

 

「……は? ……え?」

 

「あら、可愛い顔が台無しね。」

 

 レドの上に覆いかぶさった男の亡骸がSPの様な者達によってどかされ、貴族風の者がハンカチでレドの顔に付着した肉片や血をふき取る。

 

「君が、『レド・オフェン』ね? 私はカノン・マルディーニ、お初にお目にかかるわ。」

 

「……何で、オレを?」

 

「あら知らない? 貴方は最近、上流階級の貴族たちの間でかなりの噂になっているのよ? 『貴族の闇を売りさばいては破滅に陥れる幻影が居る』って。 まぁまさか貴方みたいな年端も行かない少年とは私も思っていなかったけれどね。 歳のわりに素性を隠すの、かなり得意ね?」

 

「だから、なんでオレを助けた?」

 

「うーん……素行の悪い貴族の払拭をした謝礼も兼ねて、貴方の能力がここで途絶えるのは良くないと思っただけよ。 どう? その能力、私たちの為に使ってみない?」

 

 これがレドがカノンと初めて出会った夜、そして後にシュナイゼルと出会うきっかけへと繫がる。

 

 ………

 ……

 …

 

「(見栄えのいい建物、キラキラに光るまで磨かれた道、陽光を最大現に受け入れられる大きい窓……『綺麗な学校』、か。 それにしても、今は部活時間中だというのに騒がしいな? 事前に調べたスケジュールではなんの特殊な行事もなかった筈だ。)」

 

 レドは眩しいアッシュフォード学園とそこら中を行き来する生徒たちの景色に思わず自分の過去を思い出しては冷めた内心のまま見渡す。

 

「(……もう少し出会いのタイミングが違っていれば、オレもシュネーの『仲間』になっていただろうか? いや、元々彼を調査の隠れ蓑に仕立て上げるつもりがいつの間にか彼からは本当の仲間と認識させている時点で成功しているか……『成功』……確かに成功はしているのに、なぜこうも胸がイラつく?)」

 

 アッシュフォード学園の景色かあるいは別の理由でレドは最近燻っていたイラつきが蘇りそうになり、彼は深呼吸をして落ち着く。

 

「(落ち着け、今は潜入任務に集中するんだ。 今は『ルルーシュ・ランペルージ』の事だ。 人間、調査をすればするほどに不審な情報が浮かんでくるような生き物。 一切の例外はない。 だというのに、彼は綺麗すぎる。 しかも枢木卿が人の目を気にして密かに会うほどの人物。 彼の裏に何かがある筈だ。)」

 

 そんな確信を持ったままレドが歩いていると後ろから声をかけられてくる。

 

「あれ? 君は────?」

 

 レドが振り返ると変な帽子をかぶった銀髪の少年が居たことに安堵する。

 

「(良し、ヴァインベルグ卿(ジノ)ではない。) ああ、すまない。 この騒ぎは何だ────?」

「────帽子を貰っていないのか?」

 

「(帽子? ………………………………何の事だ?)」

 

 レドはポーカーフェイスを維持したまま、ハテナマークを更に浮かべさせた。

 

 ……

 …

 

 少しだけ時間を戻し、スヴェンにスポットライトを当てようと思う。

 彼はアッシュフォード学園の通路内を歩いて周りを見渡していた。

 

 理由はもちろん、自分同様に青い男性用のポフポフした帽子を参加者がかぶっているかどうかの確認する為である。

 

 そんな彼の後ろを一定の距離を保ちながらじりじりと後を追う女子たち。

『男性の青い帽子もチラホラ見えたのはきっと気のせいだろう』とスヴェンは思っていたそうな。

 

『シンデレラの姉役を演じた時に男子から言い寄られたトラウマを押し付ける気なのだろう』だと?

 

 はっはっは……何の事だか。

 

 キンコンカンコ~ン♪

 

『みなさ~ん、今日で最後の生徒会長のミレイ・アッシュフォードで~す♪ まもなく私の卒業イベント、キューピッドの日を開始する前に簡単なルールのおさらいをしますねぇ~?』

 

 校内にあるスピーカー全てからミレイの声が響き渡り、誰もが臨戦態勢に入ったことでピリピリとした緊張感が普段ホワホワした学園中に広がっていきいかに今回のイベントが大掛かりなものなのか窺えた。

 

 とある女子は普段はしないメイクで自分を磨き、とある男子は普段外さない上着のボタンを外して自己アピールをしたり、またとある者たちは狩り対象の捕獲用の小道具を手に持っていた。

 

「♪~」

 

 階段にはジノを文字通りに上下から狙う女子たち。

 

「……」

 

 そしてボーっとしたどこか上の空状態のアーニャの周りにはクラウチングスタートダッシュを決めているラグビー部、巨大な虫取り網を構える昆虫採集部、どこからどう見てもバズーカ砲としか見えないネットガンを作った手芸部の男子たちなど。

 

「(いやあの光景、普通に犯罪臭しか匂わないのだが良いのか? セーフ? というか何気に『ユーフェミアの爆弾(行政特区)宣言』以来の大規模なイベントだな今回?!)」

 

 そんなスヴェンは帽子の渡し忘れの確認だけでなく、ルルーシュと事前に交わした不干渉条約の布石として女子たちをお互いから遠ざけるためになるべく学園の反対側を歩いていた。

 

「(さて……後はスタート宣言と共に、俺がこいつらを適当に撒いて後はマーヤかアンジュかヴィレッタを見つけてお互いの帽子をタイムリミットまで死守するだけだが……ルルーシュは知る由もないだろうな。 最後の最後にミレイがする爆弾宣言によって男女双方から全生徒と教師の注目の的になるだなんて。 まさに『血に飢えた獣の群れに投げられる餌』だ。 フハハハハハ。)」

 

『では始める前に私から一言~!』

 

「(お。 イベントスタート前のスピーチがキタ♪)」

 

 スヴェンは優男の仮面を維持しながら内心愉悦に浸っていると、中庭で見慣れぬ褐色の男子生徒を見かける。

 

「(お? 帽子忘れ発見。) あれ? 君は────?」

「────ああ、すまない。 この騒ぎは何だ────?」

「(────ふぉ?! なんだこいつ?! 男?! 女?! ……いや、男か。) 帽子を貰っていないのか?」

 

「?」

 

 スヴェンは見慣れぬ男子生徒────レドに声をかけてからスペアの帽子をレドの頭に乗せた。

 

 ポス。

 

「???」

 

「その様子だと、もしやミレイ会長のイベントは初参加か?」

 

「ええ、まぁ。」

 

「そうか……災難だったな。」

 

「???」

 

「君は多分、()()()()ぞ?」

 

「(こいつ、まさかオレが部外者だと勘付いている?!) ……“狙われる”、だと?」

 

「(あれ、こいつ……キューピッドの日を本気で知らなさそうだぞ? もしや真面目そうに見えてボーっとするタイプか?)」

 

 「ねぇ見てあの子。」

 「誰?」

 「知らない子ね……」

 「でも────」

 「────うん────」

 「「「「「良い感じね♡」」」」」

 

『では始める前に私から一言~! ……3年B組、ルルーシュ・ランペルージ! または()()()()()()()()の帽子を私のところに持ってきた部活は部費を10倍ずつ上げます! 両方であれば部費20倍というデラックスでスーパーなラッキーチャンス到来ということです!』

 

 「(え。)」

 

 キリキリキリキリキリキリ。

 

 ミレイの言葉にまるで氷柱が背中にぶっ困れたような冷たい感覚がスヴェンの背筋を伝い、一瞬だけ世界が止まったかのような静寂と共に彼の胃に痛みが走り始めた。

 

「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」

 

「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」

 

「ッ?!」

 

 ルルーシュ、そしてスヴェンの叫びが同時に響き渡るとレドはポーカーフェイスのままビックリする。

 

 「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 そして飢えた猛獣のごとくそこかしこで男女が一気にスヴェンとルルーシュの捕獲、そしてとばっちりでレドに一気に襲い掛かる。

 *注*深い意味(?)は特に無し。

 

「(うあああああああああああああ?! ウッッッソやろ会長ぉぉぉぉぉぉ────?!)」

「(なんだこの学園は?! 付き合いきれん────!)」

 

「「(────とにかく人気がないところへ!)」」

 

 優男の仮面とポーカーフェイスをしたスヴェンとレドは思わず同じことを思った所為か、二人は同じ方向に逃げ出し始めた。

 

「「(こいつ! なぜ同じ方向に?! 俺/オレを道連れ/囮にするつもりか?!)」」

 

 周りの女生徒たちの包囲を抜け出したスヴェンとレドは全速力で走り出そうとすると急にピタリと止まる。

 

「うおっとっとっとっとっと?!」

 

 スヴェンは足をつっかえそうになり、必死に悲鳴をあげる体に鞭を打っては気合で周りの皆のように動きを止まる。

 

「(これはロロがルルーシュを逃がしたアレだな、すっかり忘れていたぜ……()()でさえも俺には効かねぇのな。 つくづくチート過ぎて代償が怖すぎる……というか今考えたら、『無意識的なギアスの無効化にも代償が付く』とかじゃないよね?)」

 

 神のみぞ答えを知る考えにスヴェンは更に冷や汗を掻いた。

 

「(ヤバくね? 色々と。)」

 

 今更である。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「ナハハハハハ! ここまでお・い・でぇ~♪」

 

 「「「「「ジノ様~♡」」」」」

 

 中庭の一つの中であっけらかんと余裕を持って手加減して走るジノの後を、何人か目をハートやシイタケマークに変えた女性たちが追いかける。

 

「……」

 

 そんな様子を、青い帽子をかぶったランスロット仮面がひっそりと物陰から見ていた。

 

「(よし、誰も俺がランスロット仮面だとは思っていないようだな……計画通り!)」

 

 ちなみにランスロット仮面の中はスヴェンである。

 

 普通はランスロット仮面でも十分に捕獲対象になるのだが実はこの行動、『キューピッドの日』のルールを逆手に取っていた。

 

 ミレイがルールのおさらいとして四つ目に口にしたルールを覚えているだろうか?

 

 ルールは『相手の帽子を奪ってもタイムリミット内に他人に取られれば、最終的に帽子を換えた人同士が学園公認の恋人同士』となる。

 

 つまり相思相愛のカップルならば帽子を取り換えて死守すればいい……と聞こえるが、その逆だとどうなるのだろうか?

 

 例えば、『誰が中に居るのか分からない着ぐるみや仮面に帽子を取られてタイムリミットまでに帽子を取り返していなければ』……となると、素性や見知らぬ相手と学園公認のカップルとして成立してしまう。

 

 そしてランスロット仮面は全身を覆うコスチュームデザインである為、中に誰が着込んでいるのか分からない。

 

 性別は帽子で示しているので、()()()()()()()()()()()()

 

「(『考え方がゲスイ』だと? 以前にも言ったがこれ、戦争なのよね!)」

 

 ……

 …

 

 

キュゥゥゥゥゥ(ハァァァァァァ)……」

 

 学園のとある通路で赤い帽子を着用した黄色いタバタッチがポテポテと若干ダウン気味に歩いていた。

 

「(なんで私来ちゃったのかしら?)」

 

 タバタッチの中に居たアリスは今更ながら自分が学園に来たことに自己不信に陥っていた。

 

 これが漫画ならばトボトボと歩きながら青い雲を頭上に浮かべているコマである。

 

「……やはり可愛い。」

 

「キュ? (ん?)」

 

 着ぐるみの中に居たアリスが見上げると、自分が思わず中等部の方に足を運んでいたことに気が付く。

 

「キュ?! (え?!)」

 

 そして恐らく『可愛い』を口にしたと思われるエカトリーナがキラキラした目で見ていたことと、彼女の背後にずらりと相手の捕獲用のネットガンや黐竿(もちざお)などを装備した群れにアリスはギョッと目を見開かせる。

 

「皆さん、作戦変更ですわ! 異議は?!」

 

「「「「「ありません!」」」」」

 

「では第一に『お姉さま捕獲』! 第二にあの子の捕獲よ!」

 

「「「「「イエス、マム!」」」」」

 

 「キュウゥゥゥゥゥ?! (なんでじゃああああああ?!)」

 

 アリスにとっての鬼ごっこ、スタートの合図である。

 

 ………

 ……

 …

 

「ふうぅぅ……何だこの学園は。

 

 ブラックリベリオン後に改装したアッシュフォード学園が誇る巨大な図書館にたどり着いたレドは思わずため息まじりに本心を口にしていた。

 

「(っと、いけない……思っていた以上に精神的ストレスを受けたようだ。 だがこの様な場所に来られたのは幸いだ。 本棚などで入り組んでいる場所にわざわざ帽子の奪い合いをする者好きなどいない筈────)」

 

 コツ、コツ、コツ。

 

「(────物好きが居ただとぉぉぉぉぉ?!)」

 

 レドはビックリしながら足音がした正反対の方角にある本棚の陰に隠れて様子窺っているとルルーシュが歩いてきていることに驚愕した。

 

「(よりによって『ルルーシュ・ランペルージ』?! ……いや、これはこれで好都合だ!)」

 

 レドは携帯を出しては静かに録画機能のスイッチを入れる。

 

 ……

 …

 

「(さっき様子を見たが、ジノは本当に『庶民の学園』を満喫しているようにしか見えなかった。 アーニャは俺の素性に引っ掛かっている様だが、そこまで重要視するほどではない。 これでナイトオブラウンズの件はクリアしたも同然……後は機密情報局のアジトで待機している咲世子と入れ替われば問題は無くなる。 ミレイ会長の悪ふざけで俺だけでなく、スヴェンにも迷惑がかかったことは予想外だが、これで────)」

 

 パッ!

 

「────やったぁぁぁぁぁぁ!♪」

 

 考えに耽っていたルルーシュの油断を最大限利用したミーヤはルルーシュの帽子をハグしながらクルクルとご機嫌良くその場で回る。

 

「これでルルーシュ君とカップルだー! アハハハハハハ♪」

 

 イラッ。

 

「あ、ああミーヤ君……ちょっと良いかな?」

 

「なーにー、マイハニー?♡」

 

「『その帽子を返してくれないかな?』」

 

「……はーい。」

 

 ……

 …

 

 「(いやちょっと待て! 何だ今のやり取りは?! 明らかに不自然すぎるぞおい?!)」

 

 レドはさっきからバクバクと力強く脈を打つ心臓を鎮めようとしながら、さっきまでキャピキャピしていた態度から平然と帽子をルルーシュに返すミーヤに内心で盛大なツッコミを入れた。

 

「(い、今起きたことを言葉にして整理しよう! 『ルルーシュの背後からミーヤという女生徒が帽子を取ったと思ったらルルーシュが“返してくれ”と言っただけで素直にミーヤが帽子を返した』…… な、何を意味するのか分からないが、明らかにおかしいモノの片鱗を見たのは確かだ!)」

 

 そして次に『ルルーシュが本棚の奥に入ってはすぐに出てくる』といった奇妙な景色を遠目に目撃しては脱力感が体中に広がっていく。

 

「(この学園、長居は不要だ……俺の頭がどうにかなりそうだ……さっさと脱出して、マルディーニ卿に報告を……どうにかなりそうだ。)」




ちなみにレドは設定資料によると『クール』ではなく、『感情が出にくいポーカーフェイスなだけ』らしいです。

『どこかの誰かに似ている』?

……シラナイコデスネ。


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第230話 ハチャメチャなキューピッドの日2

お待たせいたしました、少々長めの次話です!

リアルの出来事による怠さでゴリゴリ気力が削られていましたが、『書きたい意欲』が出たたびに書き留めていた投稿です。

楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 アッシュフォード学園は初等部、中等部、高等部全てを兼ねそろえているので敷地面積は広大である。

 よって前回の『猫探しイベント』などで戦果を挙げられていない部活は基本、『部費予算の見直し』を条件にミレイの指揮下で動いていた。

 

『こちら園芸部! ルルーシュが消えました!』

『こちら馬術部! スヴェンも同様に姿を消しました!』

 

「はぁ? (二人が消えた?)」

 

 生徒会室から『キューピッドの日』の進行具合を確認していたミレイは上記を口にしながら、学園の地図と元々マリーベルが視察に来た際に開く予定だったイベント、『バトルロイヤル鬼ごっこ』の為に設置していた監視カメラを確認していく。

 

 基本、この様なことは『ズル』なのだがミレイからすればここまでしないと『ルルーシュとスヴェン相手に学生たちには荷が重い』と判断した。

 

「(他人の好意に鈍感なルルーシュはともかく、“スヴェンなら私の言葉の意味を分かってくれる~”と思っていたけれどなぁ……やっぱり噂で聞く、カレンとの────)」

『────こちらラグビー部! ポイントKTの01にてルルーシュを発見────!』

「(────っと! 今は二人の内どちらかの確保を優先!) アッシュフォード学園の東全部活メンバーたちに通達! 男子寮と中庭を中心に包囲網を敷き、ラグビー部はそのまま突入!」

 

『『『『イエス、マム────!』』』』

『────これで部費はわがラグビー部の────』

 『────とぅ────!』

『────どわぁ?!────』

 『────さらば────!』

『────な、なんだ?!』

 

「ん?」

 

『俺を踏み台にしただと?!』

 

「へ?」

 

『こ、こちらラグビー部! 対象のルルーシュ、信じられない反射神経を披露して部員を突破しました!』

 

「……………………………………え。」

 

『つ、次の指示は?!』

 

「ッ! 馬術部はホール側面から回りこんでアーチェリー部は援護射撃! 科学部はルルーシュ、あるいはスヴェンを目視でき次第に一斉射!」

 

『『『『イエス、マム────!』』』』

 

 呆けそうだったミレイはハッと考えを切り替えてはムキになったそうな。

 

 ……

 …

 

「咲世子、変な掛け声と動きは止めろ────」

『────そう申されましても、息と同じで思わず出してしまいますので────』

 「────俺の人格が疑われるからなるべく控えろ。」

 

『善処します────たぁぁぁ

 

 言われている傍から奇声(?)を上げる咲世子の通信に、機密情報局のアジトの中でルルーシュは両手で顔を覆う。

 

「(まさか咲世子がここまでの天然だったとは盲点だった……108人の女生徒の約束を平然と受けた時点で想定すべきだったか……仕方がない。 方針だけを定め、これから体育の授業は咲世子に出てもらうとするか! とてもではないが、あのエルとやらもここまでの身体能力を保持していると思えんしな……そう言えば奴の姿が見当たらんが……それに先ほど合衆国中華の国境がきな臭い情報も……えええい! 何故上手く行きそうなときにこうも次々と事が起きるのだ?!)」

 

 ……

 …

 

「(ルルーシュの動きがおかしい……流石におかしすぎるぞ、咲世子さん!)」

 

 物陰に潜んでいたランスロット仮面(スヴェン)は内心で汗を描きながら、パルクールのプロ並みの動きを披露しながら奇声を上げるルルーシュ(咲世子)を見ていた。

 

「(アニメでは画面越しに所々しか描写されていないが、こうも実際に目にすると『アレ』だな……アレだ、アレ……変態だ。)」

 

 「ねぇ、あれって……」

 「ランスロット仮面?」

 「帽子が青いから、中は男子……だよね?」

 「帽子を取る?」

 「中に誰がいるのか分からないのに?」

 「そんなの怖すぎるわよ。」

 「そうよねぇ~。」

 

「(フ。 計画通り────)」

 「────キュウゥゥゥゥゥ────!」

「────ん?」

 

 ランスロット仮面の中でスヴェンがほくそ笑んでいると、聞こえてくるはずのないタバタッチの鳴き声がした方向に振り返ると、大勢の中等部から涙目になって全速力で逃げている黄色いタバタッチとばったり目が合う。

 

 クル。

 

 「え。」

 

「キュウゥゥゥゥゥ! (居たぁぁぁぁ!)」

 

 「え。」

 

 そして目が合った瞬間、黄色いタバタッチは急な方向転換をしては真っ直ぐにランスロット仮面の居る場所へと走ってくる。

 

「キュウゥゥゥゥゥ! (何で逃げるのよぉぉぉぉぉ!)」

 

「(何でこっちに来るんだぁぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

 スヴェンは物陰から脱兎のごとく校内へと走り、彼の後を追うかのようなタバタッチの様子を見たエカトリーナの中で何かがピンと繋がる。

 

「こちら中等部のエカトリーナです! お姉s────スヴェンさんらしき男子を発見! ターゲットはランスロット仮面に変装している模様!」

 

『でかしたわ! 中等部部隊はそのままローラー式にスヴェンを追跡!』

 

 スヴェンの状況も悪化した瞬間である。

 

 


 

 

 今の俺の状況を説明しよう。

 一行で。

 

『イベントのルールを逆手にとって中身がわからないランスロット仮面に変装していたら大勢の中等部に追われていた黄色いタバタッチに見つかって擦り付けられた集団に俺も追われるようになった。』

 

「キュウゥゥゥゥゥ! (助けなさいよぉぉぉぉぉ!)」

 

 ちなみにカッコに入っているのはあくまで俺による解釈だ。

『どうやって』だって?

 

 勘。

 

「キュウゥゥゥゥゥ?! (待ちなさいよぉぉぉぉぉ?!)」

 

 こっちに来るなぁぁぁぁぁぁぁ!

 とんだとばっちりというかアレだ! これってまんま一昔前の『MMO擦り』やんけ!

 

「ホホホホホホホ!」

 

 というか何気に『ナイトメア・オブ・ナナリー』のエカトリーナがいるのは気のせいじゃなかったんかい。

 

「来た!」

 

 っと、角を曲がったら中世の大砲の列ががががががががががが

 

「総員、鳥黐(とりもち)弾を一斉射!」

 

 ボボボボボボン!

 

 焦っている場合じゃない。

 

『受ける』?

 確実に帽子を取られる上に身動き取れないからどうなるか分からない。

 

『避ける』?

 その時間はない。

 

 まぁ特典を使えばいいかも知れないがこんな大衆の前で使うにはリスクが大きすぎる。

 身体も本調子ではないし。

 

 なら答えは一つ。

 ()()

 

 ギュ。

 

「キュ? (え?)」

 

「とぅ!」

 

 黄色いタバタッチの手を取りながら咲世子さんみたいな掛け声をした俺は強化スーツの出力を全力にして、飛来してくる鳥黐(とりもち)弾と科学部員たちの上を飛ぶ。

 

 ちなみに掛け声は気分だ。

 

「「「「な、なにぃぃぃぃぃぃ?!」」」」

 

 べちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃべちゃ!

 

「きゃあああああ?!」

「な、何これぇぇぇぇ?!」

「ふ、服が?!」

「ちょっと押さないでよ?!」

「いやぁぁぁぁぁぁ?! お尻を触ったの誰ぇぇぇぇ?!」

「あ♡」

 

 そして背後からは俺(というか黄色いタバタッチ)を追っていた中等部たちの悲鳴が響いてくる。

『ええから振り返って状況の委細をワイらにも教えろ』だと?

 

 ……まぁ、きっとアレだ。 

 

『シャラララ~ン☆』と背景音がしたり、どこからともなく花が咲いたり、自主規制の部分とかをタイミングよく見せないように花弁がひらひらと舞うようなちょっぴり成人向け的なアレなサムシング的なハプニングだ。

 

『女性のツイスターゲームなもみくちゃ状態』とも。

 

『例が古いwww』だと? ほっとけ。

 

 着地と同時にちょっと複雑そうな表情を浮かべる黄色いタバタッチ。

 

「キュ?! キュキュキュウウゥゥ?! (で?! これからどうすんのよ?!)」

 

「何をするかって? そんなの一つしかないだろう?」

 

「キュ────? (え────?)」

「────逃げるんだよぉぉぉぉ────!」

「────キュウゥゥゥゥゥ?! (えぇぇぇぇぇぇ?!)」

 

 俺が全力で(強化スーツ頼みに)逃げ出すと、黄色いタバタッチも手(フリッパー?)をアタフタと振るい、慌てながらついてくる。

 よし、このまま人のいないところに逃げ────ん?

 角を曲がった先にあるあれは……確かアニメでルルーシュの足止めを試みた『幻惑部隊』とやらか?

 

 フ、だが悲しいかな?

 

 俺は既に前世で(多分)大変お世話になったことで鮮明にイメージは覚えている!

 

 確か左からミレイが以前に着たミニスカエロナース、『あかいいなずま』ならぬ『えめらるどいなずま』にハイヒール、殆んど両面テープ頼りに着物兼巫女服を大胆にはだけさせた女生徒、鞭を持ったSっぽい女王、スカートをギリギリまでたくし上げた控えめのゴスロリっ子。

 

 ……ムホホホホ♡

 やっぱええもんはええわ~♡

 

 ボフ!

 

「キュウゥゥゥゥゥ! (何ボケっとしているのよ?!)」

 

 ポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカポカ

 

 足を止めた俺の背中に黄色いタバタッチが乗っかっては、頭や首をポカポカと叩き始める。

 

 いてててて!

 可愛らしい効果音なのに地味に痛いぞ?!

 どういう理屈だべ。

 

 俺は黄色いタバタッチをおんぶし、そのまま校舎裏に駆け込む────

 

 「────おりゃあああああああああああああ!!!」

 

 ブゥン!

 

 い、いま眼前で起きたことをそのまま思い浮かべるぞ?!

 

『角を曲がったら鬼の様な形相をしたアンジュがラクロスラケットを全力で振りかぶってきた。』

 

 イミガワカラナイヨ。

 

「ちょっと待てアンジュ! ()だ────!」

「────取り敢えず帽子を寄こせスヴェン!」

 

 よし。 逃げよう。

 

「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 無理。

 

 最初は『アンジュに帽子を取らせてもいいかな~?』と少しだけ思っていたが『顔が狩り人』というか『血走った目』というか尋常じゃない気迫が俺の本能に『いやな予感(身の危険)』と訴えてくる。

 

「キュウ! (てりゃあ!)」

 

 ドゴ!

 

「ごぇ?!」

 

 おおおおお?

 黄色いタバタッチが俺の背中から飛んではアンジュにイナズマキックをお見舞いしたぞ?!

 

「キュ!」

 

 そして今度はキリっとしながら俺を見てサムズアップする。

 これはあれだ、『ここは私に任せなさい!』的なアレだ。

 じゃあ、お言葉に甘えるとしよう!

 

「恩に着る、()()()()()よ!」

 

 「ギュ? (あ゛?)」

 

 なんか知らんがスゴイ睨まれた……ような気がする。

 ん?

 二人の動きがピタリと止まったぞ?

 

「キュキュウ。 (一時停戦にしない?)」

「……良い考えね。」

 

 んんんんんん?

 なんだか雲行きが怪しくなったぞ?

 

 ガシッ!

 

 アンジュと黄色いタバタッチが止まったと思ったら、今度はアンジュが黄色いタバタッチの頭部を掴んで無理やり引きはがそうとする。

 

「それより誰なのよアンタ?! いい加減ソレを取りなさいよ!」

「キュウゥゥゥゥゥ! (取ったら色々とマズイのよ!)」

「そんなの知らないわよ!」

「キュキュキュウゥゥゥゥゥ! (それに取ったら私だってバレちゃうじゃない!)」

「それこそ知らないわよ!」

 

 ……………………なんかこの二人のやり取り、似ているな。

 ちなみに黄色いタバタッチの中身はアリスだとこれで確信を持てた。

 

 さっきの『見知らぬ人~』のセリフは彼女の事を思っての物だ。

 何せ『ナイトメア・オブ・ナナリー』の事と、ライブラの転入の後も考えると恐らく彼女はイレギュラーズの依頼でミレイやアッシュフォード家辺りの監視とライラの護衛も兼ねていたと思う。

 

 当時は『イレギュラーズ』という後ろ盾も、その時からの偽造工作が活きていたから何とか学園に居座ることも出来たがその時と今では色々と事情が違う。

 

「スヴェン、こっちよ!」

 

 俺が考えながら走っていると、手を振りながら声をかけてくるマーヤによって意識が引き戻される。

 

 周りを見れば、ここら辺は高等部でもあまり人気がないエリア。

 マーヤが誘っているのは空き部屋か何かか?

 確かに『タイムリミットまで人気のないところでやり過ごす』という案はものすごくいいが────ちょっと待て。

 

 なぜ君はダイアル式じゃなくて鍵式の南京錠を取り出し────『“時間”に意味はない』。

 

 

 


 

 

 マーヤは目の前から文字通りに消えたランスロット仮面に戸惑う事はなく、取り出し始めた南京錠を元に戻し始める。

 

「(うーん、どうして慌てて逃げたのかしら? 御身を囮にしてここに厄介な者たちを閉じ込めたら一気にハードルが下がるというのに……ハッ?! もしや既にお考えが────?!)」

「────あ! マーヤ先輩です!」

 

「え? あ、ああ。 どうしたのライブラさん?」

 

「さっきスヴェン先輩、ここにいなかったです?」

 

「そう? 見間違いじゃないかしら?」

 

「ふーん……あ! シャーリー先輩です!」

 

 ライラが窓の外を見ると騒がしい学園の中で一人だけポツンと困ったように周りを見るシャーリーが居た。

 

「ええ、そうね。 (あの様子だと、ルルーシュに扮した咲世子の行動に違和感を覚えているようね……無理もないわね。 まさかおっとりとしている咲世子があれだけ非常識だなんてあの方もビックリしていたぐらいだし。)」

 

「あ! 今度は泣きながらバイクに乗っているリヴァル先輩です!」

 

「ええ、そうね。 (うわぁ……あれだけ泣いてよく走行できるわね? 一種の才能よね……それだけミレイ会長のことを────)」

「────あ! ()()()()()()です!」

 

「ええ、そうね────エ.()

 

 ライラが見上げている視線先をマーヤが辿ると確かに重装KMF(モルドレッド)が何気ないまま学園の空域をフヨフヨと飛んでいた。

 

 「ハ?」

 

 マーヤは気が付いた他の生徒たちみたいにポカンとした。

 

「(あ。 マーヤ先輩たち、驚いた猫みたいな顔してるです。)」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「ぜはぁ……ぜはぁ……ぜはぁ……ぜはぁ……」

 

 スヴェンは体育館と繋がっている薄暗い地下倉庫の中で仮面を取り外し、過呼吸気味の息を正そうとしていた。

 

「その……災難でしたね?」

 

 そんな彼は濡れたタオルと水筒をぎこちない様子のヴィレッタに手渡され、彼は汗を拭きとる。

 

「ま、まぁな。 (まさかマーヤから逃げるために思わず特典を使って窓から飛び出たところで気を失うとは思わなかったな。)」

 

 それもその筈。

 

 スヴェンは気が付いていないが、気を失った理由は単純に今まで無理をして動かせていた体で全力疾走しただけでなく、元々行動の補助をする為に着込んだ強化スーツのブーストをかけた急な動きをした所為と特典の反動による激痛とショックで彼は無意識に気を失った。

 

 またの名を『気絶』とも。

 

 そして彼が痛みをそこまで感じていないのは着ている強化スーツが微弱な電気を流して痛覚をマヒしつつ、光ファイバー網技術が体内の各臓器を圧迫して機能促進と保護も図っていた。

 

「ハアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…… (なんだか胸の奥底から強烈な憂鬱感がにじみ出始めたぞ……)」

 

「その……やはり大丈夫そうではないようだな? 体調不良による倦怠感か?」

 

「(やべ、声にしていたのか俺。) ……そうかもしれん。 最近、()()無理をしたからな。」

 

「聞きましたよ?」

 

「何をだ?」

 

「……アヴァロンの事を。 緘口令を敷かれていましたが、ブリタニア側ではかなりの噂になっていますよ?」

 

「そうか。」

 

「(普通なら、ここで威張らないのも彼らしいと言えばそうだが……何故かもっとドンヨリとしだした?) それで聞きたいのですが……やはり貴方が今回『逃げる』と言う事は、()()()()()なのか?」

 

「ん? (それってどゆこと、ヴィちゃん(ヴィレッタ)?)」

 

「えっと……こう言っては何だが、ミレイに帽子を取られればルルーシュが大変になるからか? それとも、ミレイに帽子を取られたくない理由は別の理由(誰かを慕っている)からか?」

 

「(ああ、なるほど。) どちらかと問われると、()()前者の方が強いかもしれん。」

 

「そ、そうか。」

 

「(なんだかヴィちゃん、嬉しくなっていない?) 嬉しそうだな?」

 

「へぁ?! そ、それはその────」

「────まぁ以前、()()をしたからな。 “ルルーシュの助けになる”と────」

「────約束────?」

 

 ────ドゴォン! バキバキバキバキバキ!

 

 頭上からくる轟音がヴィレッタの言葉を遮り、天井が崩れると急に薄暗かった倉庫が陽光によって照らされる。

 

 落ちてきた瓦礫によって巻き起こる砂塵と眩しい太陽の光がヴィレッタとスヴェンの視界を奪い、KMFのマニュピレータがスヴェンを掴む。

 

「おわ?!」

『────やっと見つけた────』

「(ま、マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! というかこれってまるっきり『キ〇グ・コ〇グ』のワンシーンじゃねぇか?! たぁぁぁしけてぇぇぇぇぇぇ!)」

 

 下半身が動かないことで予想はついていたが、目が慣れたスヴェンが見たのは自分を掴んだモルドレッド。

 

『これで────』

「(────流石というか、ラウンズなだけに操縦技術が高いな! 痛くはないが全く抜ける気がしない────!)」

「────な、ナイトオブシックス様────!」

『────ん?』

 

 モルドレッドの中に居たアーニャは地上から来る声に機体のメインカメラの景色を移すと、通信用のインカムを付けたヴィレッタが居た。

 

「ナイトオブシックス様! ここは機密情報局の作戦地域です! どうか、ナイトメアを速やかにお引きください!」

 

『……ダメなの?』

 

 「ダメです!」

 

 『……………………ダメ……』

 

 モルドレッド(アーニャ)はヴィレッタの通信に叱られた子供みたいにシュンとしてはスヴェンを地面にゆっくりと降ろす。

 

「(た、助かったぁ~……ん? アレは咲世子さん?)」

 

「(すみませんスヴェンさん。)」

 

 この様子を近くの図書館内から、ルルーシュに変装中の咲世子が申し訳なく窺っていた。

 

 流石の彼女もナイトメアが出てきては追跡を撒くのは無理と感じたのか、どういうワケかあまりアーニャと関わりを持たないようにしながらも世話を遠目から見ているスヴェンにモルドレッドを擦り付けていた。

 

『不利な立場に陥った獲物が自分を狩ろうとするモノへの対処として、最も使われる手は他のエサで見逃して貰う。』

 これは何も自然界の動物たちに限定された行動ではなく、人間もよく使っている手である。

 

 物理的にも、社会的にも。

 

「よ────グッ。」

 

 モルドレッドの手から降ろされたスヴェンは興奮状態の緊張が解れていくほど、体中が上げる悲鳴に思わず尻餅をその場で付きそうになるのを踏ん張っていると、学園の外から警察のサイレンが近づいてくる。

 

「(そう言えばアニメでも、モルドレッドの出撃で政庁は慌てていたな……)」

 

 ……

 …

 

「咲世子……よくやった。」

 

「いえ、ルルーシュ様もお疲れ様です。」

 

「(さて、アクシデントは色々とあったが計画を最終段階にしようか。) ……ハァァァァ。」

 

 図書館の本棚の奥にある秘密のエレベーター内でルルーシュは咲世子と入れ替わり、本棚が閉まるとルルーシュは頭を抱える代わりに似合わないため息を出す。

 

「(たかが学園のイベントに軍用KMFを持ち出すとは……ジノはともかく、まさかアーニャまでが一般の常識に欠けていたとは誤算────)」

「────ルル?」

 

うあ?! シャシャシャーリー?!」

 

 窓からトボトボした様子のモルドレッドを見ていたルルーシュは背後からくる声に振り返ると、困ったような笑みを浮かべたシャーリーにビックリする。

 

「(な、なぜここに?! いや、本棚の陰に隠れていたのか?! その前にまさか機密情報局の隠し本棚を見てしまったのか────?!)」

「────大丈夫? 完全に遊びモードになった会長の相手って、大変でしょ? ()()()()なんてものを使うぐらいだし。」

 

「ッ。」

 

 シャーリーが口にした言葉にルルーシュはヒュッと息を飲み込み、血の気が引いていくことで冷たくなっていく彼の体は冷や汗を掻きだす。

 

「(やばい……『見られた』、だと? どう説明すれば……ギアスを使うか? だが彼女の記憶を弄るなど、それこそあの男がやったことと同じだ! だ、だが────!)」

「────まぁ、そう彼を焦らさないでくれ。」

 

「「へ/何?!」」

 

 ルルーシュとシャーリーが横の本棚の上を見ると、そこにニヤつくエルが座っていた。

 

「え? え?! ルルが二人────?!」

「────んな?! (こここここいつは何で今この時に姿を現す────?!)」

 

「────シャーリーさんとこうやって会うのは()()()だよね? 私はエル・()()()()()()、そこの()()()とは()()さ。」

 

「へ?」

「(は?)」

 

「もっとも、両親とかがちょっと古い考え方だったからさ? 『双子は忌み子』、ということから()()()だけれどね────」

「(────な、何を言っているんだこいつは?! そんな突拍子もない、胡散臭い作り話をいくらシャーリーでも信じるわけが────!)」

「────あ! だから最近のルルってば()だったんだ! なるほどなるほど~。」

 

「…………………………(通じた……だと?)

 

 エルのそれっぽい話に頷きながらホッとするシャーリーの姿にルルーシュが必死に言い訳を考えていた所為で感じていた緊張感が全て脱力感へと転換していく。

 

「ハハハ。 まぁそう言う事だからさ、()()()が好意を持っている女性は君一人だから安心してよ。」

「へ────」

 「────ちょっと待て貴様! 何を勝手に口走っている?」

 

「なんだ、だったら彼女は()()()にとってなんなのだ────?」

「────グッ────」

「────そもそも鈍感な兄さんでも、薄々気が付いているのでは? 無意識的に恥ずかしくて避けていたことに────?」

「────ちょっと待て────!」

「────ねぇルル……それって本当?」

 

「あ……えっと……その……」

 

 シャーリーの問いに、ルルーシュは目を泳がせるといつの間にかエルの姿が消えていた。

 

「(あ、あの薄情者が! ここぞというところで逃げるとは!)」

 

「ルルは、いや?」

 

「は?! な、何をだ?!」

 

「私が一緒に居ると、迷惑?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「じゃあ、嫌い?」

 

それはない。 それどころか……」

 

「“それどころか”?」

 

「(正直、シャーリーのひたむきな明るい性格には何度も助けられている。 部活と生徒会の掛け持ちをしつつ彼女なりにナナリーの世話や相手をしたり、スザクが転入した時も偏見なく第一に声をかけた。 バベルタワーで真の過去を思い出して荒む心を時々忘れさせるくらい、昔の元気のまま接してくれた……それに咲世子による滅茶苦茶なスケジュールの所為で映画に行く約束に遅れてもイラついてはいたものの、許してはくれた……だがこれ以上、彼女の周りに居ればいずれ巻き込んでしまかねない。) ……シャーリー、俺は君のことを嫌いでも迷惑とも思っていない……ただ、その……えっと────」

「────いいよ。」

 

「え?」

 

「こういうとき、ルルが言い淀むって言えないこととかがあるからでしょ? だから説明とかは、今はいいよ。 だからさ────」

 

 シャーリーはそのまま自分とルルーシュの帽子を取り換える。

 

「────待っているから。 話せるときまで、待つから。 いつまでも。」

 

「……ああ。 いつか、全てを話すよ。 約束する、絶対だ。」

 

「……うん。」

 

 リーンゴーン、リーンゴーン。

 

『キューピッドの日』の終わりを告げる為、アッシュフォード学園内にある礼拝堂の鐘が鳴る中でルルーシュとシャーリーは完全にさっきまでの出来事が綺麗さっぱりなかったように自分たちの世界に入り込んでいた。

 

 リーンゴーン、リーンゴーン。

 

 鳴り響く鐘はどこか、二人を祝福する様な音色で続いた。




どこぞの℃じゃない軍人:いつ『スヴェンに何事もなかった』と錯覚した?
作者:まぁ……その……うん、彼の帽子も……ハイ…… (;´д`)ゞ ←汗ダラダラ+目が泳ぐ
おはぎちゃん:次回は戦闘パートがあると思うよ! (多分

追記:
どうでもいいかもしれませんが、後編のイメソンは『With you』でした。 ( ・д-☆


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第231話 ハチャメチャなキューピッドの裏側で

お待たせいたしました、次話です!

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!

今回はアマルガム兼合衆国日本SIDEです。 (汗


 旧中華連邦の首都である洛陽は国が合衆国中華に変わっても、星刻たちと紅巾党の根回しもあり首都としても国の中心としての機能を残し、継続していた。

 

 新しい国としてまとめられつつあるが、現在の合衆国中華は以前の三分の二ほどの領地を維持しているおかげで人口はさほど低下していない。

 

 が、元々横領や悪質な経費削減など好き勝手やっていた武官や国力低下を気にせず己の欲を通す為だけに動いていた大宦官たちのおかげで衰弱死、問題だらけの国をそのまま引き継いだ形なので未だに騒がしくもあった。

 

 洛陽や合肥(ごうひ)市などの大都市の周辺は上辺だけとはいえ、治安が良い……のだが、やはり『上辺だけ』ということから問題は山積みだった。

 

 それでも『国』としての機能と体裁を保っているのは星刻たち、そして合衆国日本の亡命政府による働きが大きい。

 

 ドォン……ズズゥン……

 

 戦闘音と崩れる建物の音を背景に、旧中華連邦の鋼髏(ガンルゥ)たちと以前の『フクオカ事変』で得たデータと機体をもとに造られた無頼改のコピー機たちが崩壊しつつある基地の中を敗走していた。

 

『何故だ?! なぜこうも簡単に第6機甲師団が追い込まれる?!』

『左から高熱源、来ます!』

 

 濃い赤に塗装された無頼改たちは地面から飛ぶと左方向からレーザー光線の様な物が飛ぶタイミングを逃した無頼改たちの足や元々『移動式砲台』としか設計されていない鋼髏(ガンルゥ)たちの脚部を切断し、動きを封じる。

 

『クソ! まただ!』

『後は我々三機だけか……』

『少佐────!』

『────やはりあの攻撃は連発が出来ないと見て良い! 建造物の残骸を盾にして散開! 西へ逃げた将軍たちと合流するのだ────!』

 

 ────ドゴォン!

 

 三機の無頼改が盾にしていた建物の壁が内側から吹き飛び、一機がそれに巻き込まれて転倒する。

 

 ガァン!

 

 吹き飛んだ瓦礫に当たらずにいた二機の無頼改はモクモクとする砂塵の中から出てきた紅鬼灯と紅蓮のパイルバンカーに腰を貫かれ、脱出機能が自動的に作動する。

 

『息ぴったりですね、カレンさん!』

『……うん。』

『どうしたの、カレンさん?』

 

 そして今日も元中華連邦の基地を拠点にしている盗賊や領主のようにふんぞり返って民を搾取していた元武官たちの鎮圧を紅蓮・強襲型と紅鬼灯の援護で敵性KMFを押さえ、合衆国中華の機械化歩兵部隊が中心となって作戦を行っていた。

 

『ハァァァァ……ううん。 ただ、その……“今日も簡単だったなぁ”って思っていただけ。』

『それは単にカレンさんのおかげですよ! こう……バビューン、ドカーンって右から左に千切っては投げ千切っては投げて!』

『そ、そう?』

『そうですよ! ()()()()()()()()()()()みたいで!』

『…………………………………………そう。』

『(あ、あれれれ? カレンさん、余計に気落ちしちゃった?)』

 

 作戦がほぼ終了していることを確認しつつ、明らかに自分の言ったことでドンヨリする紅蓮・強襲型にベニオは困惑した。

 

 ここで彼女が口にした『あの時』とは無論、ほぼがむしゃら(無我夢中)にアヴァロンに特攻をかけた村正・陽炎タイプの事である。

 

 実際に操縦をしていたのはスバルだが、彼の『目立ちたくない』傾向とゼロの緘口令も出ていたことで『村正・陽炎タイプのパイロットは毒島だった』ということになっている。

 

『(でも毒島さん、綺麗だったなぁ~。 カレンさんと同い年とは思えないほど凛としていて、大人びていて、落ち着いて……落ち着いて……………………………………)』

 

 後半に考えが近づくにつれ、ベニオが内心と共に体を震わせた。

 

 理由は『村正・陽炎タイプのパイロットは毒島事件』からより彼女を意識し、元々原作の学園〇示録(H〇TD)でも人気が出るビジュアルだったのでまったくおかしくは無いのだが先の活躍のおかげで一気に注目度が増し、『お知り合い』になろうとして近づいてきた異性たちに毒島は『では手合わせから始めようか?』と提案した。

 

「(()()()落ち着いているし。)」

 

 そして彼女と手合わせした猛者たちの末路はかなり酷かった。

 あまりのトラウマの所為か毒島を避けたり、彼女の存在に敏感になっていたり……あとごく少数だけだが毒島の言いなりになっていたりしている男たちもいた。

 

『……よし! 帰ったら毒島に手合わせを願うとしよう!』

 

 『え、なんで?』

 

 ようやくカレンが復活したと思ったベニオは思わず内心でツッコミを入れたそうな。

 

『モヤモヤしているときは体を動かすのが一番だから!』

 

『あ、そう言われてみれば分かるかも!』

 

「ハァァァァァァ……」

 

 今度は二人のオペレーターを務めていたサヴィトリが顔を両手で覆った。

 

 「(メロンソーダが飲みたい。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 どの国がどのように栄えていても、領地が広大であればあるほどに『正式な用途のない土地』────またの名を『廃墟』────は存在する。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ

 

『き、きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

『落ち着いてベニオ!』

 

 廃墟にある一つの高層ビルが崩れ、紅蓮と飛翔滑走翼を付けた紅鬼灯が宙へと飛び出す。

 

『ベニオ、避けて!』

 

 カァン!

 

 カレンの言葉を半ば本能的に従ったベニオの機体を弾丸が掠る。

 

『カレンさん────!』

『(────今の弾丸が来た方向は……あそこのビルっぽいね!)』

 

 ベニオ機を掠った弾丸の軌道を予測したカレンは、出力を上げた右腕の輻射波動機構を向ける。

 

 ……

 …

 

『どうだ────?』

『────掠っただけです。』

 

 カレンが紅蓮の輻射波動機構を向けていたビルの内部から毒島の村正・陽炎タイプが噴射機を使って飛び出て、レイラは新しい機体────『アレクサンダエスペランス(Espérance)』の形態を変形させて可変式ライフルを背負い、毒島とは違う方向にビルを飛び降りる。

 

 アレクサンダエスペランス────略すれば『エスペランス』────とはシンとの激戦の末に半壊したアシュレイのレッドオーガとアキトのリベルテから得た戦闘データと、スバルが開発した村正シリーズ由来の技術をベースにした機体である。

 

 見た目と大きさはアレクサンダと村正シリーズの中間辺りであり、インセクトモードになる際にはサブアームも展開して村正シリーズの武装やさっき使った可変式電磁(ライフル)の同時使用も可能であり、機動力を優先して若干薄めだが複合装甲のおかげで防御力もそれなりである。

 

 そして複合装甲のせいで排熱量の向上の為、どこかで装甲を削らなければいけなくなった際にはレイラたちの『では顔をむき出しにしましょう/しよう♪』ということから、骸骨に鬼の仮面をつけた様な頭部が出来上がった。

 

『では私はでるとしよう────』

『────私も位置を変えます。 恐らく、長距離輻射波動が来ます。』

 

『そうか。 ならば手筈通りに援護を頼む。 相手は二機だけだが、その中に紅月……カレンが居るからな。』

 

『無論、全力で抑え込んでみます。』

 

 輻射波動が毒島とレイラたちの居たビルに当たるとガラガラと崩壊し、毒島とベニオの廻転刃刀が衝突する。

 

『(機体のパワー差がこんなにあるの?!)』

 

 だが一回り小さい紅鬼灯は今までの村正シリーズよりは軽いと言っても通常のKMFよりは大きい村正・陽炎タイプに物理的に押され始める。

 

『度胸は認めるが、真正面から受けるのは感心しないなベニオ君!』

 

『知っているから大丈夫────!』

『(──── “知っているから大丈夫”? どういう────?)』

『────上ですサエコ!』

 

 レイラの声に毒島が見上げると、アレクサンダ02にブースターなど改良した様子の機体が巨大な斧で切りかかってくる。

 

『よぉ、毒島!』

 

『リョウか!』

 

 毒島の思考に反応して、村正・陽炎タイプの腰にある噴射機が向きを変えると機体がリョウ機の攻撃を躱す。

 

『行きますよ、佐山さん!』

『一歳違いなのに“さん”はいらねぇよチビ助!』

 チビ言うなぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 毒島機はサブアームを展開して空いていた左手に(機能的には)何の変哲もない近接戦用短刀を装備しては二機の相手をし始める。

 

 近接戦用短刀とはエナジーフィラーを元々内蔵している村正シリーズのエナジー負担軽減の為に補助兵装として常備される予定の物である。

 

 なおここで『短刀』と名称されているが、機体のサイズ差から現存するナイトメアからすれば十分『小太刀』のサイズと言え脅威である。

 

『(リョウにベニオか。 これは少し────)────ん?!』

 

 機体のセンサーのアラームが直に『寒気』として伝わり、彼女はその場から飛ぶと今度はリョウ機のように改良され、フロートユニットの出力を全開にしたレッドオーガがほぼ見えない速度のままヒートサーベルで突いてくる。

 

『流石リョウたちの評価するブスジマだぜ!』

 

『(三機も私に宛がったというのか────?!)』

 

 ────ガァン!

 

『うわ?!』

 

 毒島は突然自分の機体の右腕が撃たれたことで外れ、それをBRS越しに感じてはびっくりするような声を出す。

 

 ……

 …

 

『あ、当たりました!』

 

 少々距離を置いて毒島達の様子を見ていたのは毒島の機体よりも一回り細く、村正シリーズでも軽量化と共に隠密と機動力に力を入れた村正・月光タイプが電磁電磁(ライフル)のスコープ越しに、中に居たユーフェミアが驚く。

 

『良い上達ぶりです。』

 

 その隣には黒く塗装されたジャンのグラックスもあり、彼女の長距離キャノン砲は位置を変えていたレイラ機を狙っていた。

 

 ビィー!

 

『しまった! 飛び降りますよ!』

 

『え? え? え?』

 

 アラーム音にジャン機はユーフェミア機を半ば無理やり潜んでいた建物内から押し出し、自分も飛び降りると到底人間が騎乗しているとは思えない軌道で彼女たちが居た場所を襲うナイトメアたちが襲撃する。

 

『(やはり来たか。 流石は『魔女』だな!) 各機、敵はやはりドローン機を使用している! コウズキ(カレン)機はそのまま目についた敵の粉砕に専念しろ! 他は事前の手筈通りに各個撃破! それが出来なければコウズキ機が来るまで持ちこたえるだけで良い!』

 

 ……

 …

 

『(敵の順応性が早い! やはり相手の指揮を執っているのはジャンさんでしたか。 それに、カレンさんたちの配置に采配が的確────!)』

『────レイラ、ジャンは私に任せろ。』

 

『では他の方たちはドローンと私の援護射撃で牽制しておきます。』

 

『もしや流れ弾で私を討つか?』

 

『まさか。 シュバールさんは貴方を生かしました。 つまり私に貴方を討つ理由がありません。』

 

『……そうか。』

 

 レイラ機にアレクサンダ・リベルテに似た機体の中に居たシンが皮肉たっぷりの通信を送るが彼女の返信に毒気を抜かれ、シンの機体は噴射機を作動して戦場へと乗り出す。

 

『さて、義眼の慣らしの次いでにBRSとやらの性能を見せてもらおうか────!』

『────兄さん!』

 

 シンの前に、自分と同じ機体に乗ったアキトと毒島機に似て接近戦特化機に乗ったアヤノが現れる。

 

『アキトと……アヤノとやらか。』

 

『兄さんに“無茶するな”なんて言わない。 だから大事になる前に兄さんを止める!』

 

『うわぁ……こういう時のアキトたちって、真面目だよね。』

 

『『どう言う意味だ。』』

 

『こんな時でも息が合うのね……まぁ、最初に会ったときは“近づきすぎると斬るぜ!”みたいなとげとげしい態度だったけれど “本当はどうやって他人と触れ合えば良いのか分からなかったからムスッとしていた”なんて可愛いじゃん。』

 

『『……』』

 

 ガキィン!

 

 『ちょっと私を無視しないでよ!』

 

 人数や機体の数もあってかなりのカオスな『手合わせ』に廃墟が野原へと変わって行く中、『手合わせ』は参加者たちのコックピット内にアラーム音に何かが焦げる匂いと煙で充満するまで続いた。

 

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ここでコードギアスの世界にある、KMFの仮想訓練用シミュレーターについて少し話したい。

 

 戦場の映像や揺れや機体状況にヒッグスコントロールシステムの応用によるGの再現で機体やパイロットへのフィードバックなどをほぼ忠実に再現するソレは、現在の『VR』を軽く凌駕するハイスペックな代物である。

 

 元々はグラスゴーの初披露とインパクトを世界に与える為に開発されたそれは開発に開発を重ねた結果、ブリタニアの騎士用だった高性能な機材は現在、調節次第であらゆる仮想訓練に応用できるようになっている。

 

 それだけに、高性能になればなるほどシミュレーターはどこの国や組織でも重宝されている。

 

 特にインド軍区など、KMFや兵器の新開発に力を入れて国の経済を潤わせている国は小国とはいえシミュレーターの元祖ブリタニアとほぼ同等なモノを持っていてもおかしくはない。

 

 さて。

 “ここまで来てなんでこんな話を~”と思っているかもしれないが、取り敢えず高性能で現実とデータを忠実に再現できるシミュレーターは帝国外では入手方法も値段もメンテナンスも嵩張ると言いたかっただけである────

 

「────それらを踏まえた上でもう一度聞くけれど……()()は何かな?」

 

 蓬莱島で桐原の配慮からアマルガム用に切り取った様な一角にある建物内部で、白衣を着たマリエルは腕を組みながら珍しくこめかみをピクピクさせながら正座で畏まっている毒島、カレン、レイラ、アヤノ、アキト、リョウ、ベニオ等々を見下ろしていた。

 

 ちなみにそこには正座を強要されているアンナの姿もあり、マリエルの背後にはモクモクと煙を吹きながら火事でもあったのか所々焦げている数々の仮想訓練用シミュレーター台があった。

 

「「「「「あー、そのー……」」」」」

「「えっと……煙を吹くシミュレーター?」」

「「「「レイラ/カレンさん、ぶっちゃけ過ぎ!」」」」

 

「うんうん♪ そうだよね♪ その前までは『火を吹くシミュレーター』だったよねぇ────♪」

「「「「「「────う────」」」」」」

「────私が聞きたいのは、どうしてこうなったの?」

 

「「「……」」」

 

 皆がアンナ、カレン、毒島、ベニオを見る。

 

「あ、その、えっと……実はこの間の機体や戦闘データを組み込んで、レイラ用の機体とシステムのテストを────」

「────わ、私は普通に手合わせを申し込んで────」

「────そして手合わせならばこの際にレイラやシンなどのリハビリに丁度いいかと思って声をかけた────」

「────それで“私も~”と思って他の人たちにも声を────」

「────うんうん♪ つまり芋づる式に巨大化した模擬戦だね♪ その気持ちは分からないでもないよ? じゃあ何でここまでなるような設定と模擬戦を行ったの? セーフティー(安全装置)も切ってさぁ~?」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

 今度はカレンたち四人が部屋の端でバケツを頭に乗せたまま立たされているラクシャータを見る。

 

「あー……一応言うけれどこの人数のシミュレーションって────」

────ラクシャータさんはシミュレーターが火を吹き始めても面白がってデータを得るためにずっと黙認していましたよね? ですから同罪です。 この子が匂いに気付いて様子を見て、被害が出る前に慌てて私に連絡をいれてきたからいいけれど……そう言えばアシュレイ君は何でここに?」

 

「ん? んー……最初は巡回のさb────散歩に出ていたんだけれどよ? 焚き火の様な匂いがしてみたらこいつらがオロオロと慌てていたんだよ。」

 

「ぅ?」

 

 クラウスが視線をマリエルから離し、横でエデンバイタル教団から保護した無表情な孤児の一人を見る。

 

「しっかし、シミュレーターをこう何台も一気にオジャンにするとはおっかねぇな! はっはっは!」

 

「笑いごとじゃないよ、もぉー……元々ミルベルさんたちが伝手で得ただけに現役物で数が少ないのに……」

 

「んなの、横流しされているヤツを買って直せばいいじゃない。 ピースマークとかガナバティとかから。」

 

 「ラクシャータさんは粗悪品を扱ったことがないから、そう気軽に言えるんですよ!」

 

「「「「(シミュレーターで粗悪品なんてあるの?)」」」」

 

「変な癖がハードウェアに密着しているわ、煙草やパイプを吸った奴が中に居た所為で匂いが沁みついているわ、Gや機体のデータの再現力が欠落しているやつとかあるわでぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。」

 

「じゃあ聞くけどさ、マリエル? あんたは技術者として、アンナちゃんの開発した新しいシステムとかシンちゃんの義眼の調子とかが気にならないわけ?」

 

「「「「「(『シンちゃん』……だと?)」」」」」

 

めちゃんこ気になります。 まさかシンプルな動作やプログラムしかできないドローンの複雑化と応用力をここまで引き出せるなんて思わなかったし、これの大規模な運用化が出来たら『戦争』自体が変わっちゃうしブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 

「アンタやレナルドが作っているスーツや義手とかや、ネーハの様な者が出ないようになるんだからいいじゃない?」

 

「……私はラクシャータさんみたいに楽観視できません。」

 

 ここでずっと黙っていたレイラが口を開けると毒島も彼女に続いた。

 

「そうだな……皮肉だが、『戦闘行為による被害』が出るということ自体が一種の抑止力となっている。 それが無くなれば、戦争が頻繁に行われるかもしれん。」

 

「あ、あれでしょ? 弓矢や機関銃を作った人の“これで戦争が終わる”というヤツ……って、なんです? そのビックリする目は?」

 

「いや~、皆アンタ(ベニオ)がそれを口にするとは思わなかったんじゃない?」

 

「「「「ラクシャータさんッッッ!!!!」」」」

 

「えへへ~、照れちゃうな~。」

 

 照れるベニオの様子に、誰もが『本人が良いならそれで良いか』と思ったそうな。

 

 一人を除いて。

 

「(う~ん、このモヤモヤとイライラは……スバルが何かやらかしている様な気がする……)」




作者:野生の勘、恐るべし。
ピンクちゃん:オマエモナー。
おはぎちゃん:ユフィちゃんが生きていることを知った人たちの反応は~?




次話はアッシュフォード学園SIDE……の予定です。 (;^ω^)ゞ


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第232話 『思(想)いはパワー』の後夜祭

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです!


『あー、テステスー。』

 

 アッシュフォード学園のクラブハウス内で『キューピッドの日』の打ち上げと、ミレイへの感謝を示すパーティーがその夜開かれた。

 

 参加者は主に寮やトウキョウ租界でも学園から近くに住んでいる者達……の予定だったのだが、残った生徒の数がかなり多かったので以前にキャンセルされた修学旅行の代わりに開かれた『お泊り会』もクラブハウスのパーティーと並行に準備されつつあった。

 

『えー。 皆さまキューピッドの日イベントの参加、ご苦労様でした~!』

 

 主催者っぽく振る舞うリヴァルの声がスピーカーを通して館内の中で響き、拍手と歓声が送られる。

 

『ではでは! これより打ち上げ兼“ミレイ会長ありがとうございました”イベントをおこないま~す!』

 

『皆~! アッシュフォード学園の生徒会がここまで大きくなって、私は大変嬉しいです!』

 

 ちなみに『あまりにも部活が小さい』、あるいは『内容の所為で部活費が乏しい部員』は全員『準生徒会員』として生徒会の傘下となったことで、部費は個々では得られないほどまとまった大金となった。

 

『これで皆の部活費の悩みは消えたかな~? たっぷりと感謝をするがよい!』

 

『『『『おおおおおお!』』』』

 

 これから準生徒会員となった彼らや彼女らは『事務作業』という別の地獄を見ることとなるのだが……

 

 皮肉にもこれが学園卒業後に活躍するスキルとなるのは、後の話である。

 

「……感謝祭も兼ねているイベントで、感謝を参加者に強要するってどうなのだろう?」

 

「う~ん……でも、なんだかこれって会長らしくない?」

 

 この様子を、壁に寄りかかりながら困ったようなルルーシュとシャーリーが遠目に見ていた。

 

「確かにそうだな……でも、『会長が卒業する』というのがどこかまだ……」

 

「うん、実感ないよね?」

 

「………………………………」

 

「スヴェンは?」

 

「………………………………そうだな。」

 

 ルルーシュがチラチラと見ていたことに気づいたシャーリーの呼び掛けに、目からハイライトの消えたスヴェンは棒読みで同意の言葉を発した。

 

「あらあら、主役()()がこんな端っこに居て良いの~?」

 

「か、会長?! どうしてここに? 感謝会の挨拶とかはしなくて良いんですか?」

 

「リヴァルが仕切りたがってそうだったから、抜けてきちゃった♪」

 

『さぁさぁさぁ見てらっしゃい! 会長の偉業をまとめた、映画の上映でーす!』

 

「リヴァル、ずっと生徒会の業務作業をしていたはずなのにいつ映画を作ったの? 」

 

「真面目に仕事をすれば、そこそこ才能は普通にあるんだが……まぁ、アイツにも色々あるんだろ。 なぁ、スヴェン?」

 

「………………………………そうだな。」

 

 ビックリするシャーリーに、それとなくリヴァルの個人的苦労を察せる言葉でルルーシュが答える。

 

「そう言えばスヴェン、お前はなぜ帽子をかぶったままなんだ?」

 

 そこで彼は無表情のスヴェンの頭上にある、()()帽子を見る。

 

「・ ・ ・」

 

「す、スヴェン?」

 

 ハイライトの消えた目のまま自分を静かに見るルルーシュは胸がザワザワしだし、思わず一歩下がってしまう。

 

「あー! ルルーシュも帽子をちゃんとかぶりなさいよね?!」

 

「へ? だって、イベントは終わりましたよ────?」

「────一週間かぶりっぱなしに決まっているじゃない。」

 

 「一週間かぶりっぱなし?!」

 

「参加注意事項にちゃんと書いてあったじゃない。 もしかしてルルーシュ、読んでいなかった? 珍しいわねぇ……」

 

「あー、そう言えば書いてあったような気がする……小さい文字だったから虫眼鏡で見ないとわからなかったけれど。」

 

 「それは果たして『ちゃんと書いてあった』と数えられるのか?」

 

「それはちゃんと読まなかった人の責任よ────」

「────それって詐欺師の手口じゃないですか会長!」

 

「人聞きの悪い言い方ね! ま、これも『人生経験』の一環として取ればいいじゃない。」

 

「ぐ……」

 

「あ、それとID登録されたGPSチップも入っているから勝手に外しちゃ駄目よ?」

 

 「何故そんな無駄な機能が帽子に?!」

 

「いつでも会いたくなったらカップル同士がすぐ会えるよう、科学部に頼んだから♪」

 

「無駄な技術を……」

 

 ルルーシュはニコニコするミレイから、視線先をスヴェンに移して彼の様子に納得した。

 

「(だからスヴェンはどう反応して良いのか困っていたのか。 いや、彼の事はこの際どうでも良い。 今は俺だ。 この後は合衆国中華に戻る予定だっというのに! 蜃気楼で通信妨害は可能の筈だがそれをするとGPS反応が消えて怪しまれかねない! 下手な騒ぎで注目を集めては逆効果になるな……………………………………あとでエルにでも渡すか。 シャーリーも奴のことを知っているから好都合だがこのタイミングは────)」

 

「────あれ? リヴァルの映画に映っているのって……会長、もしかして初等部の頃から生徒会長をしていたんですか?」

 

 上映している映画には『ガッツ!』と書かれた(たすき)をした、小学生サイズぐらいにダウンサイジングされたミレイが涙目で困る同級生たちを振り回す映像が映されていた。

 

「うん、というか当時は『児童会』だったのよ? アッシュフォード学園ってウハウハ時代のおじいちゃんが気まぐれ……というか、エリア11に入植してきた人たちと子供たちが安全に生活したり勉学に勤しめる環境を整え始めた勢いに乗って設立したのは良いけれどもうあの時は暇で暇で……あの頃はがむしゃらに思ったことをそのまま実行に移して大変だったなぁ~♪」

 

「(あの頃は本当に大変だった。)」

 

 ミレイの言葉にルルーシュが思い浮かべたのはミレイによって、学園全体が振り回される数々の記憶。

 

「(第二次太平洋戦争後、昔母さんと仲が良かったアッシュフォード家を頼った俺とナナリーを匿ってくれた時からミレイ会長に振り回されて……っと、()()()は知らない筈の時代だったなそう言えば。) へぇ、そうだったんですか? かなり幼い頃からアッシュフォード学園を仕切っていたんですね?」

 

「あれ? ルルーシュは知らなかったっけ?」

 

「(??? もしや『そこ』は改竄されていないのか?) 何を言っているんですか会長。 俺が学園に入学したのは中等部からですよ?」

 

「う~ん? そう……だったかな~? ルルーシュじゃなかったら中等部は……他の誰かが居たような気が……」

 

「(なるほど。 あの頃は(ロロ)ではなく(ナナリー)だった上に俺の元皇子としての素性も知っていたアッシュフォード家との関係も、今では『ごく普通の平民』だからな……

 あの男に記憶が改竄されたとしても、『本来の記憶』と大きな違いが無意識表層と記憶の衝突で『違和感』として残るのか。 今考えてみれば、俺もその『違和感』を『日常と現状へのイラつきともどかしさ』として感じていたな。

 幸い、俺はギアスのことと記憶改竄の過程を知っていたから何とか冷静に居られたが……会長たちの記憶が戻れば、混乱は免れないだろう。 以前と今までの記憶の違いから疑心暗鬼、いや最悪の場合だと錯乱してしまいかねない。 だがどうすればいい? 『今の俺』だとミレイ会長に説明が────)」

「────やだな会長、それってきっと僕ですよ。」

 

「あー、ロロ。」

 

「(ナイスだ、ロロ!)」

 

「そうですよ会長、きっとロロですよ!」

 

「そう……だったかなぁ?」

 

「ですよねシャーリーさん? ()()()()()()兄さんの隣に居るというんです?」

 

 モヤ。

 

「うんうん♪ でも足が治ったから、そろそろ独り立ちも良いと────」

「────あははは、治ったばかりですよシャーリーさん? それにほら、ちゃんと立っているじゃないですか?」

 

「う~ん、そういう意味じゃないけれど……」

 

「アッハッハッハ。 じゃあどう言う意味でしょうか?」

 

 モヤモヤ。

 

「・ ・ ・ ・ ・ ・ (シャーリーとロロの間に────というか主にロロからどういうワケか火花が飛び散っているような幻覚は何だ?  ……俺の気のせいだろうか? この頃、ロクに睡眠も取れていないからな。)」

 

 ルルーシュはお互いニコニコし合うシャーリーとロロを見て、ハテナマークを頭上に浮かべたがあることに気が付いてはハッとする。

 

「そう言えば会長、『卒業する』ということは……その……やはり結婚されるのですか?」

 

「ん? んっふっふ~♪ ルルーシュはやっぱり気になる~?」

 

 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ!

 

 「しませんよね会長?!」

 

「「「リヴァル?!」」」

 

 ステージの上でミレイのアレコレをプロデュースしていたリヴァルは必死な表情を浮かべ、ステージの上からミレイたちの居る場所へと目に捉えられないほどの速度で駆け付けたことにルルーシュたちはビックリする。

 

「(やっぱりやればできるのに……才能を使うところが勿体なすぎる。 〇郎とは大違いだな……声だけに。)」

 

 近くにいたスヴェンだけはボーっと微動だにせず、上記を冷静に内心で思っていたが。

 

「ええ、まぁ……結果的に言うとそうなるわね。 実は色々と()()をしてから家も何とか納得させることが出来たの。 だから急ぐ必要は無くなった……かな?」

 

 いやっほ~い! ありがとう神様!」

 

「(リヴァル、自称神にもう一度会うことがあったら腹パン決めてから伝えるぞ……また会えるかどうかわからないが。)」

 

「リヴァルったらはしゃぎ過ぎ。 そう思わない、スヴェン?」

 

「………………………………そうだな。」

 

「ってスヴェン、まだイベント(キューピッドの日)の最後からこんな様子なのね。」

 

「まぁな。俺も三年間ぐらい知っているが、今のような状態のスヴェンは初めてだ。 (学園でも、黒の騎士団やアマルガムでも、以前もすべて含めて。)」

 

「「……(やっぱりスヴェンも人間なのね/だな。)」」

 

 上の空状態のスヴェンをみて、ミレイとルルーシュは内心でホッとした。

 

「……でも『急ぐ必要がなくなった』ってのも、ニーナやアンジュさんたちに相談してもらったからなんだけれどね。」

 

「ニーナに、アンジュ?」

 

「シャーリー、なぜそこで意外そうな顔をする?」

 

「だって、ルルは分からないかもしれないけれどその二人って……う~ん、どう言ったらいいのかなぁ? ……『不器用そう』?」

 

「「(うわぁ、ド直球。)」」

 

 シャーリーの身も蓋もない全く悪意も何もない言葉にリヴァルとミレイが同時に内心で感心(?)した。

 

「そ、そう思うかもしれないけれどねシャーリー? 二人とも、それなりに苦労した所為か社会に関しての知識も経験も豊富なのよ?」

 

「会長はニーナと未だ連絡を取り合っているのですか?」

 

「まぁ……ね。」

 

 チラッ。

 

「(今スヴェンを見た? ……ああ、そう言えば彼もニーナとは仲が良かったな。) やはり長く一緒に居たから話しやすい、と言ったところですか?」

 

「それもあるけれど、彼女の()()も兼ねているわ。」

 

「応援……ああ、そう言えば彼女の……えっと、『サクラダイトに変わる電力供給』でしたっけ? 世間ではあまり評判が良くないようですね?」

 

 今度はルルーシュが横目で未だにこれと言った反応をしないスヴェンを見る。

 

「ま、ずっとサクラダイトを中心に企業とか大勢の国が回っているから風当りは強いわね……と、いうわけで~? スヴェンもたまに連絡を彼女に入れてね? 連絡先を送るから。」

 

「そうだな。」

 

「「(これ、聞いていないんじゃないのか?)」」

 

「あ、映画がそろそろ終わるわ!」

 

 ミレイは再びマイクを手に取り、二回へ通じる階段をステージのように上がっていくとスポットライトが彼女に当てられる。

 

『は~い! ではここに集まった皆さんに、私からのお返しをしたいと思いま~す! メイド会の皆さん、どうぞ~!♪』

 

 ミレイの号令に、どこかから現れたのか大勢のメイドたちが現れてテキパキといつの間にか設置された数々のテーブルの上に料理や飲み物などが並べられていく。

 

『メイド服のタイプはなんぞや?!』ですと?

 勿論、ロングのエプロンドレスにホワイトプリムのヴィクトリアンメイドです。

 

『これらは全て、私が感謝の気持ちを込めて作った料理で~す!』

 

「スゴイや兄さん!」

 

「これ全部が()()()手作り?!」

 

「はっはっは、『会長もやれば出来る』ということさ……なぁスヴェン?」

 

「……ソウダナ。」

 

 子供のようにビックリするロロとシャーリーからルルーシュが視線を外してスヴェンを見ると一層どんよりとした雰囲気をスヴェンは纏った。

 

「(あ。 これは手伝わされたな。 多分、ミレイ会長の事だから『ルルーシュ()の代わりにスヴェン』……と言ったところか?) あー……スヴェンもご苦労だったな?」

 

「ああ。」

 

「……まだ元気がないようだけれど、大丈夫?」

 

 「病み上がりなのに、(無理やり)学園にくるからじゃない。」

 

 メイド会に交じって料理を運び込んでいたマーヤとアンジュ(双方ヴィクトリアメイド服を着用)がスヴェンの様子を見てはそっと寄ってくる。

 

「………………………………そうだな────」

「────あ! スヴェン先輩です!」

 

 ビクゥ

 

 自分の名が呼ばれ、スヴェンの身体がビクリとして声がした方を見るとメイド服を着たライラがトテテ~と走ってくる。

 

 ホワイトプリムの代わりに彼女がかぶっている帽子をなるべく見ないようにして。

 

「どうしたです先輩? 顔、真っ白です。」

 

「………………………………大丈夫だ。」

 

 


 

 

 嘘です、全ッッッッッッッ然大丈夫じゃないです。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 必死に痛む胃の所為でゲロりたい吐き気と悪寒を我慢するためにポーカーフェイスの維持に専念するほどに余裕がない。

 

「そうですか! あ! ヴィレッタ先生を呼ぶです?」

 

「イイデス(DEATH)。」

 

「そうですか!」

 

 呼ばれたら多分、我慢ができなくて吐く。

 

 誰がって?

 

 俺だが?

 

 ……話を戻すとしよう。

 これまでの流れで察せたかもしれないが、スタートが少々違っても最終的にキューピッドの日は原作アニメ通りにルルーシュとシャーリーがお互いの帽子を交換した。

 

 ちなみに今の打ち上げパーティー等は、アニメでは省略(オミット)されていたからミレイから『自分の卒業イベントの相談』は予想が出来ていたが、そのあとに『料理の手伝いを~』なんて頼まれるとは思っていなかったが結果的に体を安静にし過ぎて固まっていた筋肉をほぐす良い機会となって、キューピッドの日にあれだけ動けるようになったとも。

 

 まぁつまりは『原作通り』ということでめでたしめでたし……の筈だが何だろう?

 ルルーシュとシャーリーのやり取りとか距離感(?)がこの時点のアニメ以上に近くなっているような気がする。

 

 何時もならシャーリーがグイグイ来るところをルルーシュがサラッと鈍感スキルを反射的に使って躱すところだが、いまはどうだ?

 ルルーシュはグイグイ来るシャーリーを拒むどころか『体を寄せている』っぽいぞ?

 

 ナニアレ。

 

『思春期』って言えばそれはそれで微笑ましいが何故に?

 そりゃあカレンやナオトさんとかの原作どっぷりの人たちと関わりが出来たからルルーシュが後々『冷徹&非道の魔神ゼロ』ではなくなるために裏で色々やったけれど……せいぜい彼が躊躇なく他人を『使うピース()』として見られないようにしただけだぞ?

 

 あ。 あと人間の心が保てるようにシャーリーとのデートをミスさせないため、桐原のじいさんと無理やりアポを取ったっけ。

 

 ニーナとかと相談したおかげでシャーリーパパは生きている所為か、シャーリーも気落ちしていないしルルーシュも後ろめたい気持ちがないし。

 

 …………………………………………今にして考えれば今でも原作通りっぽい事が起きているのが不思議なほどだな────

 

 ────キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ────

 

 ────良し、現実逃避でも胃が痛むから代わりに俺のことをなるべく簡単に整理しておこう。

 

『俺はイベント終了を告げる鐘が鳴る直前にアーニャのモルドレッドから降ろされたところで俺の青い帽子を狙ったアンジュと黄色いタバタッチ(アリス(多分))のダブルタッグから逃げた先にマーヤが居たから本能的に角を曲がったらライラが居た。』

 

 ハッキリと申したので、もうお分かりでしょうか?

 

 ライラがかぶっているのはホワイトプリムではなく、()()帽子だ。

 

 つまりはアレだ。

 

 俺の帽子。

 

「それでスヴェン、私たちに何か言うことは無いのかしら?」

 

「皆、綺麗だぞ。 (別に。)」

 

 チラチラと俺を見ながら“いうことは無いのかしら”なんて回りくどい言いかたするなよ、アンジュ。

 あまりにもテンプレ過ぎて思わず本音と建て前を逆にしてしまったじゃないか。

 

「へ?! そ、そう~? そんな当たり前のことを言われてもねぇ~。」

 

 強い態度を取るなよアンジュ、お前のアホ毛がウキウキ気分に揺れてバレていて逆にホッコリするぞ。

 

「スヴェン先輩、私はどうです?」

 

「まぁ、さっき“皆”と言ったときに入れたつもりだが?」

 

 俺の口下手チクショウめがぁぁぁぁぁ!

 

「(う~ん……神様の事だから、いとも簡単に帽子を取られるなんてことは無いはずだから何か考えがある筈……そういえば、この学園で私たちやアマルガムの事を知っている『部外者』は彼女だけだわ!

 だから敢えて監視しやすいポジションにご自身を置いたというの?! いえ、それだけでなく学園の機密情報局まで手駒にしているから外堀も……流石は神様です!)」

 

 なんだかマーヤのキラキラした目から上の様な考えが手に取るようにわかる。

 

「(まさかイベント終了直前の鐘が鳴るタイミングで、ああもサラリと角を曲がったスヴェンから風のように帽子を取り変えるなんて……ううん、この子もだけれどまさか『教師権限』をヴィレッタ先生が行使して『健全なお付き合いの監視役』として自分をねじ込むとは……)」

 

 アンジュもどこか晴れない表情(とアホ毛の動き)で考えていることが分かった……ような気がした。

 

 ちなみに黄色いタバタッチはいつの間にか逃げたというか消えた。

 音沙汰がないから『戻った』と思いたい。

 

 ヒュルルルルルルルルルルルル~……ドン

 

「きゃ?!」

「な、何よ今のは?!」

「爆発?!」

 

 外から空気を突き抜けながら笛の様な独特な音と爆発音にブリタニア人の学生たちの間にどよめきが走る。

 

 ギュっ。

 

 そしてメイド服を着たライラがすかさず俺の後ろに隠れる。

 彼女の今の動きは咲世子さん並みの速度だったと追記する。

 

「あら? これって……」

 

 そして俺みたいにハーフのマーヤや旧日本文化に通な生徒たちはすぐに窓を見ると案の定、花火が夜の空を照らしていた。

 

『花火をご覧になっている皆さん、今この時この瞬間も世界は変わっています。 世界が変わっているから我々が変わり、我々の行動で世界は変わるのです。 これからいろいろなことがあるでしょう。 良い事も、思ってもいない悪い事も含めて。 進路だけでなく、社会での行き先も違うようになって別れるかもしれません。

 でも、今この景色を見ている気持ちを覚えていることで我々は繋がったままでいられるんです。』

 

 リヴァルお前……やっぱり才能の使い方を間違っているぞ。

 思わず涙腺が緩みそうだったじゃないか。

 

「リヴァルのヤツ、たまに良い事をいうな。」

 

 ルルーシュと同意見だ。

 

『では皆さん! 最後は後夜祭恒例のダンスです! 初めはもちろん、イベントの主役たちで~す!』

 

「「何?!」」

 

 花火が次々と上がっていき、次第に勢いが徐々になくなった頃にミレイの声によって俺とルルーシュの声がハモる。

 

 周りを見ると花火に気を取られている間、ホールの端へと飲食類の乗ったテーブルなどが既に寄せられていた。

 

「ほぇ?」

 

 隣に居たライラも目を点にして、気の抜けた声を出しながら無数のハテナマークを頭上に浮かべた。

 

「最後の最後まで、会長は……」

 

「そうだな。」

 

「ほらほら二人とも、早く着替えに行きなさい!」

 

「会長?! ちょっと押さないでください!」

 

「それに『着替え』って、私たちの服のサイズは────?!」

「────そんなの、制服のデータベースをちょちょいと♪」

 

 ルルーシュと目を合わせ、ミレイに押されるまま部屋に入ると中には確かに燕尾服が二着あった。

 

「早くしなさいよねぇ~♪」

 

 パタン。

 

「……スヴェン。」

「ルルーシュ。」

 

 ドアが閉まり、俺とルルーシュはお互い頭を切り替えて着替える。

 

 その時に俺は一応、体の傷とか手術の縫い後などが見えないか鏡で確認し────

 

「────……」

 

「ルルーシュ? 何故俺を見て固まっている?」

 

「あ。 いや、その……俺も筋肉を付けようと思ってな。」

 

「(モヤシの)ルルーシュが?」

 

「ああ、ちょっとな。」

 

「珍しいな、汗を掻いたりするのが嫌だったと思ったが?」

 

「何故お前がそれをしっ────じゃなくて、咲世子からお前の睡眠時間を聞いて今納得した。」

 

 どういうこっちゃ?

 意味がわけわかめ。

 

『♪~』

 

 おっと、ダンスの音楽がクラブハウス内に広がり始めた。

 

 ササッと着替えて……それに久しぶりのダンスだ、前髪は上げて視界の妨げにならないようにする。

 

 良し、出陣だ。

 

「では先に行ってくるルルーシュ────」

 「────はや?!」

 

 フハハハハハ!

 黒の騎士団以前から森乃モードとかでたっぷりと『早着替え』と『身だしなみチェック』のスキルたちは(多分)カンストしているのだ!

 

 俺が久々に『優男』と従者見習いの仮面を二つともかぶりながらクラブハウスのホールへと出てくると周りから様々な思惑や感情を乗せた視線とかがチクチクと突き刺さる。

 

 ヒソヒソとした声も聞こえてくるが、今の俺は『優男』で『従者見習い』だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()であって、()()()()()()()()()

 

 ホールに出ると薄い青とオフホワイトカラーが混じった、優しいデザインのドレスを着たお嬢様(ライラ)が居た。

 

「ライブラお嬢様、僭越ながら一曲お相手願えませんか?」

 

 貴族流マナー全開で腰を折りながら、びっくりした様子のライラに手を差し伸べてダンスを申し込む。

 

「ッ。 はい、よろしくお願いしますです。」

 

 うむ。

 即座にしっかりとした答え、キッチリした表情と気品ある立ち振る舞いに変えるとはやり手だな。

 流石は皇族、ハイスペックだ。

 

 ユーフェミアも話によると化けつつあるからなぁ~。

 近いうちにKMFに乗るとかなんとか。

 ……ゲームで見たピンク色のグロースターを特注していたりして。

 

「スヴェン先輩……ですよね?」

 

 お互いホールの中央に歩き、向き合うとマジマジと自分を見るライラが不安そうに聞いてくる。

 

「ええ、もちろんです。 何か?」

 

「雰囲気が違い過ぎるです。」

 

「ええ、そうでしょうとも。 ()()()はレディをエスコートしているので。」

 

「……」

 

「ライブラさんは、ダンスの経験は?」

 

「一応、嗜む程度だけです。」

 

「ではキツイターンや踊りは避けてなるべくゆっくりとしたダンスでライブラさんに合わせます。」

 

「あ。 シャーリー先輩たちも来たです。」

 

 燕尾服のルルーシュ、かっこええのぉ~。

 シャーリーもシャーリーで、色白の彼女に似合う橙色のドレスで着飾られている。

 

『♪~』

 

 おっと、彼らも出てきたことで本格的にダンスが始まった。

 

 それともう一つ、確認しておくか。

 

「ライブラさん、シャーリーさんや貴方はコルセットをしていますか?」

 

「??? 一応緩めの物をしているです。」

 

 良し。

 

「ならシャーリーたちにも合わせたダンスで行きましょう。 無理そうでしたら声をかけてください、何とかしてみます。」

 

「ハイです。」

 

 スヴェン、行きま~す。

 

 

 


 

 

「う~ん……ルルーシュたち、凄いわね。」

 

 ルルーシュたちがダンスし始め、他のカップルやキューピッドの日で縁を結んだ学生たちが加わって数分後にアンジュはポツリと上記の言葉をこぼす。

 

「??? 何が凄いの、アンジュ?」

 

「恐らく、スヴェンは全く本気を出していない。 それどころか、ルルーシュやシャーリーにライブラたちが足をもつれさせたりしないように()()()()()を合わせているわ。」

 

「え?」

 

「ライブラはほら、()()だけれどシャーリーも体力お化けじゃない? その上ルルーシュってスタミナはゼロなのにダンスを続けられている。 普通、ダンスって周りの人たちに合わせようとして中央に近づくほど速度が速くなっちゃうの。 一見するとお互いのダンスに参加している人たちが自由にダンスしているように見えているけれど、スヴェンが上手く自分たちだけじゃなくて周りのペースをも調節している。 それに本来、ダンスは一人や一組だけが上手くても空回りや浮いたりするのがオチ。 周囲は気づいていない……相当手慣れているわ。」

 

「(ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)」

 

 余談ではあるが、皇族であるライラのような英才教育を受けていないシャーリーは目を回しそうだった。

 

 ダンスそのものは嗜んでいるが相手が今までいなかったせいでそれほど上手いわけではなく、現状の彼女はドレスを着たままのダンスを抜群の運動神経で何とか付いて行っている状態だった。

 

 なるべく、ルルーシュと過ごしているこの時を手放さないように。

 

「(ルル上手すぎ! キラキラしすぎ! 近すぎィィィィィィィィィ────)────ぁ。」

 

 とはいえ何れは来る限界が来たのかシャーリーがルルーシュの足を踏みそうになるのを避けるために無理やり後ろへ下がった事が災いし、体がグラつく直前小さな声を出した。

 

「(倒れちゃう?! やだ、ルルに恥ずかしい思いをさせちゃう────!)」

 

 ────クル! フワッ。

 

「ひゃ?!」

 

 だがシャーリーが倒れそうなところにルルーシュは彼女の足が地面から離れるほど勢いの付いたターンをし、彼女の姿勢を正す。

 

「大丈夫かい、シャーリー?」

 

「い、い、い、い、い、いま! 体がフワッて浮いた!」

 

「シャーリーが倒れそうだったからな。 それに……」

 

「??? “それに”?」

 

「いや、何でもない。 もう少しステップを緩くするよ。」

 

 ルルーシュが思い出すのはシャーリーの異変にいち早く気付いたスヴェンが勢いの付けたターンを見て、自分もそれでやっと彼女の体勢が少し変だったことに気付いたこと。

 

「(偶然……ではないだろうな。 やはりスヴェンの観察力と洞察力は凄まじい。 それだけに、ディートハルトが危惧する理由も……)」

 

 ちなみにその時のスヴェンと言えば────

 

「(ふぅ~。 ルルーシュが気づいて良かった~。)」

 

「スヴェン先輩、ビックリしたです。」

 

「ライブラさん、驚かせて申し訳ない。 大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫です……今のは、シャーリー先輩の為ですか?」

 

「(気が付いていた?! 流石は皇族! さすこう!) ええ。」

 

「……やっぱりスヴェン先輩は凄いです。」

 

「ははは、お世辞でも嬉しいですよ。」

 

「ならペースをもうちょっと遅くさせます?」

 

「ええ。 流石ですね。」

 

「エッヘンです!」

 

 かくして、シャーリーや多くの学生たちは心ときめくダンスに興じたのだった。

 

 余談でこの夜のダンスの録画された映像が『理想的なダンスの見本』として他の学園や貴族たちなどを相手に学習材として広まっていくのだが……それは後の話である。




後書きEXTRA:
ギルフォード卿:ヴァインベルグ卿……貴方の趣味は政庁を騒がしくさせることでしょうか?
ジノ:アハハハ! やだなぁギルフォード卿、勉強不足じゃない? しょ────普通の学校ではよくあることだよ?
スザク:ジノ、それは違うよ。 あの学園にはミレイ会長が居るからだよ。
ジノ:あー、そう言われるとそうだった!
アーニャ:やっぱりトリ(頭)。
ジノ:え? 私はどこかの誰かみたいにKMFを出撃させていないけれど? ヾ(-∀・*)
アーニャ:ジ~。(ㆆ_ㆆ)



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第233話 『思い出』とは

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


『本当に卒業するんだミレイちゃん。』

 

「うん」

 

『キューピッドの日後夜祭』の夜、アッシュフォード学園でルルーシュとシャーリーが学園公認の恋仲となった詳細や結果をミレイは今や日課となりつつあるニーナとの通信(やり取り)で話し終えていた。

 

 時間差で起きたばかりの様子で髪を下ろしていたニーナの背後に見える窓からは陽の光が差し込んでいたが、ミレイは風呂からまだ湿っている髪にタオルを巻いて服装は既に寝間着へと着替えていた。

 

『でも本当に()()を実行するの? 例の就職先から来た雇用条件、結構良かったんでしょ?』

 

「うん、良かったわよ。 むしろ良すぎて、最後の最後まで迷っていたぐらい。」

 

『“迷っていた”? ……ミレイちゃんの考えを変えるほどの()()があったの?』

 

「え? うん、おじいちゃんとアンジュさんと話を、ちょっとだけ。」

 

『ふ~ん……あ! この間の論文、スヴェン君に渡してくれた?』

 

「ううん────?」

『────え────』

「────逆にニーナの連絡先をあげちゃった────♪」

『────え、えぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

「(青くなったり赤くなったり、まるで信号ね♪)」

 

『み、ミレイちゃん!』

 

「これでニーナもスヴェンに連絡を直接取れるようになったでしょ?」

 

『ちょ、直接?! って、絶対に面白そうになるからそうしたでしょ?!』

 

「あははは、バレちゃった♪ 流石はニーナね!」

 

『茶化さないでよ、もう! ……それでその、スヴェン君はどうなったの?』

 

「ん? 何が?」

 

『キューピッドの日の帽子。』

 

「う~ん、取られちゃったわね────」

 『────だ、誰に?!』

 

 驚きの声と共にスクリーン越しにミレイのところに突き抜ける勢いでニーナの顔がアップになる。

 

「ちょ、ニーナ落ち着いて────!」

 『────まさかミレイちゃんが取ったの?!』

 

 ギクッ。

 

「あ、あはは────」

 『────目を合わせてミレイちゃん。』

 

「と、取っていないわよぉ~? スヴェンの帽子を取ったのはライブラちゃんよぉ~?」

 

ライブラちゃんが?! あ。 でも確かにスヴェン君はアリスちゃん()()とも仲が良かったし……

 

「に、ニーナ?」

 

 驚愕の表情から突然、神妙な顔に変えて一人でブツブツと何かを小声で言いだしたニーナにミレイは声をかけたがニーナの耳に届いた様子はなかった。

 

もしかしてスヴェン君はツインテールが? だとしたら二つ結びのおさげから髪を下ろしたのは失敗? だとしたら────

「────お~い、ニーナ~?」

 

『ハッ?! な、何?!』

 

「私の勘だけれど、大丈夫なんじゃない?」

 

『だ、だだだだだだ“大丈夫”ってナンノコトカナ~────』

「────多分だけれど、ライブラちゃんにとっては“棚から牡丹餅”みたいな感じで帽子を取ったと思うのよねぇ~。」

 

『“タナカラボタモチ”……って何?』

 

「あ。 えっと……スヴェンが以前口にしていたエリア11の“コトワザ”ってヤツで“ラッキーな感じ♪”っていうこと。」

 

『???』

 

「まぁつまるところライブラちゃんとスヴェンが()()()()()()に(多分)ならないってことよ。 だから(少し)安心してもいいと思うわよニーナ?」

 

『なななななな()()を安心してもいいというのかしら~?』

 

「(お嬢様口調のニーナなんて久しぶりな気がする。)」

 

『↑↑↑オホホホホホホホホホ~!!!』

 

「(余程焦ったのねぇ~、可愛いわね♡)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 更に日々が経つと、元々単位が足りていたミレイはあっと言う間に卒業した。

 

 クラブハウスでもリヴァルが正式に生徒会書記から生徒会長へと昇進し、人手不足気味だった生徒会は『キューピッドの日』にミレイが準生徒会員として迎えた生徒たちの参加で解消されたことで生徒会の事務作業もかなり減ったことでエル(体育は咲世子)と入れ替わることでルルーシュは予定通りの二重生活を送れるようになっていた。

 

 「意外と、呆気なかったな。」

 

「でもゼロ様の根回しや采配があったからこそ、武力の行使が無くとも領土を得ることができるのですよ。」

 

 そんな彼はゼロとして合衆国日本と黒の騎士団の業務処理中に思わずトントン拍子に進んだミレイの卒業に関する感想を口に出してしまい、近くに居た神楽耶が言を並べる。

 

「(口に出していたか。 だが確かに想像していた以上に簡単だったことも……この際だ、神楽耶から桐原の考えも聞いておくか。) いや、これは私だけの成果ではない。 星刻と藤堂たちが優秀なのだ……神楽耶様は、桐原殿から何か聞いていないか?」

 

「“何か”……そうですね、強いて言えばあちらの……えええっと。 タイガー……『アマルガーム』でしたっけ?」

 

「(神楽耶の頭上に外用鎮痛消炎薬となぜか卜部が見えたような気が……) 『アマルガム』ですよ、神楽耶様。」

 

「はい、アマルガムの認識と先日の活躍が一致しないということから黒の騎士団との間に軋轢が生じないよう、色々と手配しておりましたわ。」

 

「ふむ…… (確かに、『アマルガムは黒の騎士団の支援組織』と今まで通してきていただけに黒の騎士団と同等かそれ以上の活躍をしていたことは団員たちにとって寝耳に水。 ディートハルトの危惧していたことの一つだな。)」

 

「まぁ、桐原殿の活躍と冴子の事もあったので概ね協調性に欠け────でなく、じゃじゃう────()()()()()()()()という認識に変わっておりますわ♪ それと扇さんとマルカル(レイラ)さんを内政の補佐としてこき使────付けていますわ。」

 

「(なるほど。 『重なる役割を持った組織』から『敢えて二つに分けて手綱を握っている』という認識に変え、実の孫もそれに利用するとは流石は桐原だ。 扇も『元教師だけだった男』と考えればそれなりの才能を持っているのは明白だが、政治と統治能力はやはり本職の桐原がずば抜けている……少々古い時代の行動だが理に適ってはいるやり方だ────)」

「────それと、新しい菓子の試食を頼まれています。」

 

「ん? 新しい菓子の試食? (もしや()()蓬莱島の特産を作ったか?)」

 

「はい! 羊羹です!」

 

「(ヨウカン……ああ、あのこしあんの塊か。)」

 

 ゼロの頭上に浮かぶのは『蓬莱島産』として合衆国日本の貿易の味噌や醤油と並ぶほど人気が出ている数々のお菓子。

 

 余談で貿易相手は表側では旧中華連邦や元インド軍区のインド人民共和国にEUが主であるが、ブリタニアの植民地でも密かに流出し始めていた。

 

「それでその……ゼロ様がよろしければ、私がお茶を入れますが?」

 

「ん?」

 

 何時もと違う様子の神楽耶にゼロ(ルルーシュ)はようやくここで資料から見上げると、毅然としながらどこかソワソワしていた。

 

「どこか落ち着きがない様子ですがどうかされましたか、神楽耶様?」

 

「え? いえその……」

 

「(神楽耶ほどがここまで狼狽えるのは珍しいな……何かあったか。)」

 

「お聞きしても?」

 

「私に答えられるものならば。」

 

「ゼロ様がこのところご多忙な中でも、浮足立っている様子でしたので。」

 

「(“浮足立っている”? 俺が? ……確かにこのところ順調すぎて不気味がっているが────)」

「────もしやゼロ様、C.C.さんと進展がありました?」

 

「“進展”?」

 

「お赤飯が必要ならご用意を────」

────少し待ってくれ。 神楽耶様は何か勘違いをされている。 彼女と私はそんな関係ではない。 C.C.は……持ちつ持たれつのギブアンドテイク、ビジネスの関係だ。」

 

「そうでしょうか? ここ最近のゼロ様は女性が出来た殿方そのものでしたけれど?」

 

「・ ・ ・ あ。 (そういえばここ最近学園に戻った際にはよくシャーリーの周りに居るようになったな。 だが態度にまで出てくるとは────)」

「────心当たりが御有りのようですね?」

 

「そ、それは。 その────」

「────私はさほど気にしておりませんわ。 ですが言い淀むほどならば、一つだけお願いしたいことがございます。」

 

「なんでしょう?」

 

「『神楽耶』、とお呼びしてください。」

 

「は? (何故?)」

 

「いずれ、貴方の妻になるのですからこれぐらいはしてもらいたいです♪」

 

「(追及されないのであれば安いものだ。) ……まぁ、二人の時ならば────ん?」

 

 ゼロが神楽耶の入れたお茶を見ると、湯呑の中で茶柱が立っていた。

 

「あら、流石は私! 茶柱が立つのは良い事が起きる前兆と昔から伝わっておりますわ!」

 

「ほぅ、そのようなことが。 (分からん。 『良い事』など一人一人によって定義が違う上に、飲み物とどう『良い事』が連動するのだ?)」

 

「以前は言いきれませんでしたが、やはり勝利の女神とは私の事ですね!」

 

「(……『勝利の~』はともかく、『女神』? どこからその自信は湧いてくる?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(“何かいいことがある前兆”、か。)」

 

 うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

 先日のことを思い浮かべながらルルーシュは学園のグラウンドを歩き、クラブハウスの中に入ると泣きじゃくるシャーリーが抱き着いてくる。

 

「おわ?! シャ、シャーリー?!」

 

「もう駄目! 無理! 無理無理無理無理無理~!

 

「(な、何があった?! シャーリーがここまで動揺して泣くなんて余程の事が無ければあり得ん! ハッ?! もしや記憶が戻ったのか?! あるいは脅迫?! それとも────?!)」

「────シャーリー先輩、早く戻って来るのです! 玉ねぎはまだまだあるです!」

 

「は?」

 

 「ル~ル~! 玉ねぎもう剥きたくないよ~!」

 

「あー、これはどういうことだ?」

 

「シャーリー先輩、料理を覚えたいからって言ったので教えているです!」

 

「なんでライブラちゃんは平気なの~?!」

 

「シャーリー先輩はまだまだ料理の道を歩き始めたばかりです! スヴェン先輩に比べればまだまだマシです、えっへん!」

 

「料理? シャーリーが? ……複雑なモノは、やめた方が────」

「────手の込んだものは無しです! 取り敢えず『カレー』と『唐揚げ』が作ればいいと思ったです! 流石に鶏肉を骨入りのまま唐揚げを作るのは無いと思うです……一応アリで美味ですが骨が粉々になりやすいのに注意が必要とスヴェン先輩も言っていたです。」

 

「(ライラも苦労している様だな。) だがシャーリー、急に料理なんてどうした? もしや会長に何か言われたか?」

 

「う。」

 

「チッチッチ~、ルルーシュ先輩は分かっていないです! シャーリー先輩は────」

「────わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ライラの言葉を真っ赤になったシャーリーが遮り、ライラは面白がりながらクラブハウスの中に撤退していく。

 

「??? (何だったんだ?)」

 

「べ、別にルルは私が料理しだしたことを気にしなくていいからね!」

 

「(ああ、そう言う事か。) ……気長に待つよ。 何なら、時間が空いたときに俺が教えようか?」

 

「へ?」

 

 

 


 

 

「むっふっふー! 成功したです!」

 

「そのようだな、手柄だぞライブラ。」

 

 へっへ、『ゴル〇尉』風に言えば『シャーリーを誘導してルルーシュの天然を発揮させた進展作戦』は成功だぁ~。

 

 あ、違った。 これだと『カミンスキー』だ。

 

 そう思いながら(スヴェン)とライラはハイタッチを交わし、クラブハウスのキッチンに戻る。

 ここの所、俺やライラなど料理が出来る人たちは主にキッチンに缶詰めだ。

 何故かって?

 

 事務作業が減った代わりに人が増えたから。

 

 あと誰だ、裏学園サイトで『クラブハウスのピッツアは手作り~』なんてスレッドを載せやがったのは。

 その所為でクラブハウスは人気スポット的なカフェみたいに準生徒会員とその知り合いたちが集まって作業し始めて、毎日俺たちは事務作業の代わりに料理とその下ごしらえ。

 

『ちょっと苦労する』と思いきやアンジュ(キノコ柄エプロン着用)やマーヤ(花柄エプロン着用)とライラ(ヒヨコ模様エプロン着用)の手伝いで想像していたより結構ゆったりとした時間を過ごせているが。

 

 そしてストレス解消的な意味合いでも甘~いルルxシャリ展開を堪能している。

 

 ガチャ!

 

「よぉハンセン()! 今日も美味そうだな、ピザ!」

 

Ha、ha、ha。 『卿』ではなく『先輩』とルルーシュのように呼んでくださいよジノ様。 それと正式な名称はピッツアですよ?」

 

「そう言えばそうであったな! ナハハハハハ!」

 

 ピッツアをたかるだけでなく少しは生徒会の一員として働けよジノ・ヴァインベルグ。

 

 無断でナイトメアの出撃をさせたことで租界を騒がせた事後処理を済ませたジノやアーニャも帰ってきて、ミレイが居なくなってもこいつ(ジノ)所為おかげで俺の周りは未だにどんちゃん騒ぎ。

 

 これが『漆黒の蓮夜』で出てきたあの騎士道精神の堅物アルト・ヴァインベルグの子孫と思うとなぁ~。

 

 アルト本人が化けて出てきて、英和辞典を読みながら中途半端な日本語で『目先の感情で動いているだけに背景が伴っていない! 失礼ながら我、大・笑である!』って呆れながら怒っていそうだ。

 

 あ、でも今の標準語は英語だからそれはないかも。

 

「ジノ先輩の分は右奥のオーブンに入っているです!」

 

「お! サンキュー!」

 

 クッ! 太陽の光を反射する髪に明るい性格でキラキラ星付きオーラを放つ金髪碧ガーン()ズが今日も眩しい!

 

「……」

 

 アーニャ があらわれた!

 ジッとこちらのようすをみているようだ……

 

「それとアーニャ様のアンチョビピザはその隣のオーブン内に保温してあります。」

 

「ん。」

 

 うむ、今日も『無表情ながらホッコリするアーニャ』が見られてグッド。

 ちなみにロロが休んでいる間はリヴァルかアーニャがジノに付き合っている。

 

 リヴァルは元々体力がある方だが、アーニャは15歳で成長期とはいえまだ小柄だが、体力はラウンズだから高い。

 が、振り回すジノもラウンズ。

 

 表情があまり変わらないアーニャでも普通に疲れるし、やつれたりしてもおかしくは────

 

 ────ガブ!

 

 あいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

「フシィィィィィ!」

 

 こ、こ、このクソ猫(アーサー)め!

 ま、ま、ま、また俺を噛みよった!

 Why(何故に)?!

 

「アーサー、めっ。」

 

「……にゃー。」

 

 アーニャに抱き抱えられたアーサーはプイッと顔を俺から背ける。

 まるで『フン! いい気味ね!』とでも言うかのように。

 

 奇遇だな。

 俺もお前の事は気に入らんよ。

 

 嵐のようにピザを取ってはクラブハウスの厨房を後にするジノとアーニャ。

 そしてピザを持ったアーニャにテクテクと浮き足で付いて行くクソ猫のアーサー。

 

 噂によるとトッピングであるアンチョビを食べているらしい。

 

 ……フ、たくさん食べて太りに太れよクソ猫が。

 太ればその分、お前の『かみつく』の命中率はデフォルトの100から下がっていくのだ。

 フハハハハハハハ!

 

 ……はぁぁぁぁぁ。

 初見でこのネタ分かる人ってこの世界じゃ誰もいないだろうな。

 

「……」

 

「何か質問です、アンジュ先輩?」

 

「ふぇ?! ななななな~んの事かしら~?」

 

「ここ最近、ずっとチラチラ私やスヴェン先輩を見ているです。 何故です?」

 

「う。」

 

 ほほぉ、ライラも気が付いていたとはな。

 流石皇族、ちょっと威圧がかかった言い方もどこかルルーシュを思い出させる。

 

 語尾に“です”を付けているが。

 

「そ、そのさぁ~? ライr────ライブラって、キューピッドの日にスヴェンの帽子を取ったでしょ?」

 

 ん?

 アンジュがソワソワしたと思ったら珍しくよそよそしく質問をした?

 全く似合わないが、何かグッとくるな。

 

「ハイです!」

 

「と、いうことはさぁ? その……………………………………」

 

「です?」

 

「…………………………ど。」

 

「「「“ど”?」」」

 

「“どうしてスヴェンの帽子を取ったのかなぁ~?”って思っていただけよ! 別に深い意味とかないから! うは、うははははははははは!」

 

 なんだこのアンジュ?

 棒読みというか、ギクシャク過ぎるというか……不気味というか。

 

「あ! その事ですか! 帽子を取ったら『()()()()』的に一緒に居られるからです!」

 

 ライラさんや! それ語弊がメッサ入っとりまっせ?!

 

 「は?」

 

 ほらぁぁぁぁぁ。

 アンジュも目を見開いて俺とニコニコするチミ(ライラ)を見比べているじゃないか~。

 

 いやん♪ 熱い視線が痛いわ♪

 

 多分ライラの事だから、身の安全の為に俺たちの周りに居られる正当な口実が欲しかっただけだと思うぞ?

 

 現にあれから何日間か経っても、ライラの態度や仕草は何時も通りだし。

 

『何時も通りじゃない』のは俺の周りで、主に中等部と高等部の男子学生たちから悪意や敵に向けるような熱~い視線?

 

 あとはライラの行き返りの際は(ヴィレッタの目のあるところで)見送るときに真っ黒なスーツを着たSPさんたちの殺気と威圧がこもった冷た~い視線などの餌食になるぐらいか?

 

 ちなみにマーヤはブツブツと『なるほど、もしやその事も視野に? それならば……』となにか独り言を言いながら頷いて納得しているかの様子だったが深く考えない様にした。

 

 オレ、ナニモキコエナ~イ。

 デキテナーイ……って、パズルをやっているわけじゃないから、ワカラナーイ。

 

 そんな日々が更に経ったある朝、珍しくホームルームが始まる時間だというのにヴィレッタがまだ教室に来ていなかったことで教室内はざわついていた。

 

 無理もない、ブリタニア軍人だからか時間や規律に関して厳しいからなヴィレッタは。

 それに今朝は珍しく校門前に居なかったし。

 

 ガチャ。

 

 お、噂をすればなんとやら。

 

「ま、待たせたな皆。」

 

 うん? どこかぎこちないぞ?

 

「ほ、ホームルームを始める前にその……発表することがある。」

 

 んんんんんんんんん?

 なにこの流れ?

 

「今日から私のほかにもう一人、実習を兼ねて助教が加わることになった。 は、入ってくれ。」

 

 ヴィレッタが諦めた様な顔になりながら教室の空いたままのドアを見るとハイヒールにストッキング、タイトスカートにたわわな胸を主張するワイシャツってどこのイメクラ教師────

 

「おっはよぉ~♪ 今日から貴方たちの助教となったミレイ・アッシュフォードで~す☆」

 

 ────ミレイ……だと?

 

 ガタッ!

 

 どよめく教室の中、シャーリーが立ち上がる。

 

「かかかかかか会長?! 何やっているんですか?!」

 

「シャーリー、気持ちはわからないでもないが────」

「────だ~か~ら~、助教よ助教♪ ゆくゆくは教師になって~、おじいちゃんの代わりに理事長!」

 

「「「「「えええええええええええええええええええ?!」」」」」

 

 Oh。

 これは……超予想外だ。

 

「よっと。」

 

 新人の助教であるミレイが教壇にすわ────むほほほほほほほほほほほほほほ♡

 

 見えそう、見えそう♡

 

「と、いうワケで教師として張り切っていくわよ! 生徒会の顧問としてもね♪ あ、それと明日は普通に定期試験があるからね~?」

 

 「「「「「え。」」」」」

 

「大変かもしれないけれど、『大人になる』ってそういうことだからねぇ~?♪」

 

 この仕草、言葉遣いに服装……

 

 柏木だ。

 柏木がいる。

 完全にペルソ〇4の柏木だコレ。*1

 

 おほ♡

 ミレイがこっちを見てウィンクしてきた♪

 

 ……もしやミレイがレポーターにならなかった理由って、俺やルルーシュの所為?

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリキリ。

 

 フ、胃薬が無ければ即死だった。

 

 俺の胃が。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「もう! 心臓に悪すぎですよ会長!」

 

「あはははは、ごめんごめん。 サプライズにしたかったから♪ それと『会長』じゃなくて『先生』ね?」

 

「ほぇ~……ミレイ先輩がミレイ先生になったです!」

 

「んもう~! ライブラちゃん可愛すぎ~♪」

 

「先生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 俺にもハグを~!」

 

 その日のクラブハウスはミレイの登場によってかつての騒がしさを取り戻した。

 余談で涙目のリヴァルをミレイは躱し、彼は顔面を壁にめり込ませている。

 

 ドンマイ、リヴァル。

 

「それにしてもシャーリーの言うように人が悪いですよ、ミレイ会────先生。」

 

「あら、ルルーシュは嬉しくないわけ?」

 

「……でもいいんですか? 家の事とか。」

 

「いいのよ! ね、アンジュさん?」

 

「そ、そこで私なのね……」

 

 生徒会の皆がタジタジになったアンジュを見る。

 

「ま、まぁ……本来は『貴族の女性は家同士の繋がりを作るためにどこかへ嫁ぐ』って考え方が主流だけれど、それは安易で確実な手段だからよ。 でも婚姻政策を取らなければならないほど家が弱く無ければいいだけ。 ちゃんとした後ろ盾や功績とかがあればの話だけれどね。」

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

「な、何よその目は?」

 

「ううん。 皆多分、『そう言えばアンジュさんって貴族令嬢だったなぁ~』って思っているだけだと思う!」

 

「シャーリー、それ……慰めのつもり?」

 

「え?」

 

「ま、まぁいいわ。」

 

 シャーリーの天然がさく裂し、アンジュの眉毛はピクピクする。

 

「……」

 

「スヴェン先輩────?」

「────私は少し席を外しますね。」

 

 ライラの返事を聞かずに、俺はモヤモヤとした気持ちのままクラブハウスの屋上にある庭園を目指す。

 

 ドアを開けるとクラブハウスの位置もあり、下のどんちゃん騒ぎも租界のゴタゴタや車のクラクションも届かない静寂な空間へと出る。

 

 日が沈んだ心地よい風が体を撫で、庭園のテラスに寄りかかって何気に見上げると夜が訪れた空には人工の光に負けるまいと星が数個キラキラ光っていた。

 

 夜空を見上げていると、以前の花火……正確にはリヴァルがイベントの打ち上げ時に言っていた言葉が脳を過ぎる。

 

『世界は人によって変わり、人によって世界は変わるけれど思いが一緒ならば繋がっている』、と。

 

 うん。

 腹をくくろう。

 色々俺が変えたことで、『世界』は変わっているんだ。

 もうここまでくれば『原作』なんて参考にならないし、俺のやりたいようにするしかないか。

 

 周りの皆を信じて。

 

 ガチャ。

 

 後ろから、クラブハウスから庭園に続くドアが開く音がする。

 マーヤだろうか?

 

 トッ、トッ、トッ。

 

 いや、足幅がアンジュにしては短すぎる。

 それに地面を踏む音が()()

 

 だとすると……ライラか?

 だが彼女であれば、元気よく声をかけて来る筈。

 

 それにこの歩き方は相手を逃がさない為のしっかりとしたモノ。

 

 もしやロロか?!

 

「やっと二人で話せる。」

 

 そう思いながら俺が振り向くと、意外な人物がいた。

 

「貴方に聞きたいことがある。」

 

 そう言いながら庭園に来た相手────アーニャが携帯を弄って画面を俺に見せる。

 

「これは貴方?」

 

 そう言いながら俺が携帯の画面を見ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに映っていたのは男性の服装が無ければ『少女』と言っても全く疑わない、幼いルルーシュが写っていた。

 

「いえ、違います。」

 

「…………………………………………」

 

 アーニャが携帯を見て、更に弄る。

 

 フゥ~……驚かせやがって。

 

 そもそも俺とアーニャの間に接点はない筈だ。

 

 アッシュフォード学園に来た時点で、『先輩』と『後輩』の────

 

「────じゃあ、これ。」

 

 そこでアーニャが画面を再度俺に向けるとアニメや設定集でチラッとしか知らない幼女アーニャが自撮りを取っていた。

 

 急に寒気が体を覆い、俺は息をするのも忘れるほどの悪寒が駆け巡り、脳の奥で何かが俺の意識に訴えてくる。

 

『彼女の隣を見るな』と。

 

 それで尚、『好奇心』という人間の本能によって視線は徐々に移ってしまう。

 

 心の臓はドクドクと力強く脈を打ち、視界が細くなっていき、血が氷水に変わったような感覚の中で耳鳴りが心拍音と共に耳朶にくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自撮りをするアーニャの横に

 

 

 

 

 

 

 

 目を移した先には

 

 

 

 

 

 

 

 幼女アーニャに手を引かれて映っていたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 無表情の6、7歳ぐらいの少年がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一目見るだけで分かる顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 『俺だ』と。

*1
中の人は同作P4でマーガレット役も同役しています。




“あなたが何者なのか、あなたには見えない。 あなたが見えるのはあなたの影法師にしかすぎない。” -ラビンドラナート・タゴール


余談:
今年のインフルエンザはかなり酷いタイプです。 読者の皆様もくれぐれもお体に気をつけて、健康にお過ごしください。


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第234話 少し変わりつつある『世界』

少々長めの次話です!

濃いカオスですが、楽しんで頂ければ幸いです!


「あ、ロイドさんはミレイ会長の事を聞きました?」

 

 ほぼ同時刻のアヴァロンでスザクはランスロットの調整に付き合ってロイドを目にしてふと思ったネタで雑談をしていた。

 

「うん? ああ、彼女が助教をするってやつ~? うん、婚約解消と一緒についこの間に聞いたけれど?」

 

「へぇ~、婚約解消といっ────え。

 

「「「「「ええええええええええ?!」」」」」

 

 近くにいた整備士や元特派の者たちがビックリする声が租界の政庁の格納庫内に響く。

 

「え、ぇぇぇぇぇぇ~へへへ……えぇぇぇぇ?」

 

 一人、セシルだけは小さく声を出して思わずにやけそうな口端を表情筋に力を入れて御した。

 

「うん♪ “流石は僕のフィアンセ”と思っちゃうほどにサラッと告げてきたよぉ? まぁ、僕の付き合いが悪い上に僕がこっちの作業に専念したいと言ったからなんだけれどねぇ?」

 

「……つまりロイドさんがフラれたってこと?」

 

「アハハハ~!」

 

 「それにしてはロイドさん、ショックを受けていないような……」

 「カラ元気とか?」

 「元々“本気じゃなかった”とか?」

 「ロイドさん、結婚とか興味なさそうだもんなぁ……」

 

「いや~、でも人生で()()も婚約解消されるなんてねぇ~?」

 

「そうですか~。 婚約解消ですか~……」

 

「セシルさん、急に元気になりましたね?」

 

「え?! そ、そんなことないわよスザク君?」

 

「それとその髪型、似合っていますよ?」

 

 長くなりつつあるポニーテールの髪を弄るセシルにスザクは声をかける。

 

「も、もう! グランドリゾートの時といい、中華連邦でも貴方はそうやって冗談を────!」

「────冗談? 僕は思ったことをそのまま口にしているだけですけれど?」

 

「え。」

 

「ん?」

 

「「「「「(こっちはこっちで『進展』なのか『いつも通り』なのか……)」」」」」

 

 ……

 …

 

「(そうですか、ミレイさんが……)」

 

 総督室の中でブライユ語に変換されたスザクからのメッセージを読み取ったナナリーは静かにそう思っていたそうな。

 

「(『キューピッドの日』、面白そう……足が不自由でも、参加したかったな……そう言えばライラちゃんは誰かに帽子を取られたのかな? ……それとも取る側?)」

 

「どうかしたのかい、ナナリー?」

 

「へ? あ、いえ。 何でもありませんクロヴィスお兄様……あら?」

 

 バァン

 

「ただいまです~!」

 

「あらお帰りなさいライラちゃん。」

 

 ナナリーは元気いっぱいのライラ(そして少々息を荒くしていた彼女のSPたち)にニッコリとした笑みを向ける。

 

「ライラ……毎度言うが、もう少し静かに開けてくれないか?」

 

 クロヴィスはビックリする表情を苦笑いへと変えながら、バクバクと脈を打つ心臓のある胸を押さえてニコニコするライラへと振り向く。

 

「だから今日はドタドタと走って来たです!」

 

「(ああ、だから今日は足音が聞きやすかったのね。)」

 

「(“ドタドタと走って来た”の意味が分からない。)」

 

「(あ、ナナリーには通じたっぽいです……ポカンとするお兄様、変な顔です!)」

 

 納得するナナリーと、ハテナマークを頭上に浮かぶクロヴィスにライラは内心でさらにホッコリした。

 

「いや、そもそもライラは皇女としての自覚が……それにこの間、最近のライラのことを知りたがっていたカリーヌからまた連絡が来ていたぞ?」

 

「ああ、アレですか……」

 

「ああ、アレだ。」

 

「アレです。」

 

「“アレ”とは何です?」

 

 今まで黙り込んで黙々と書類を分けていたギルフォードはクロヴィスと同様の遠い目になり、クスリと笑みになるナナリーの三人はハテナマークを頭上に浮かべるライラの横で思い浮かべたのは先日、カリーヌから『植民地化について』とだけ通信項目に付いていた会談だった。

 

 通信時間はライラが学園に通っている時と、どこか幼少期時代からよく突っかかってくるカリーヌだったこともあってかナナリーはネチネチとした一方的な話を覚悟していた。

 

 だがいざ話をしてみるとやはり予想通りに小言が飛んできたのだがカリーヌはソワソワとして次第にはクロヴィスに『それでライラはどうしているのかしら?』とストレートにライラの様子を聞いて来た。

 

 総督でも何もなく、皇族内でも立ち位置が危うくなっていたクロヴィスはエリア11に半ば放逐されている状態で更に何の心変わりかエリア11の文化の取り入れなどをしているので正式な『廃嫡』を受けた彼と話すには世間的にも『それなりの理由』が必要となってきていた。

 

 つまるところ、『ナナリーはクロヴィスを引きずり出すダシにされた』とも。

 

 そこでクロヴィスは『お手本としての義務が~』や、『以前より時間があるのならもっとライラの庶民的感覚を正す義務が~』などと、ギネヴィアレベルの説教をカリーヌから受けた。

 

 そしてその後、ギルフォードはとばっちりで一方的にクロヴィスからの愚痴に付き合わされた。

 

「“アレ”とは、その……ライラ皇女殿下の事を、カリーヌ皇女殿下が気にかけていることです。」

 

「そうですか! カリーヌお姉様、元気でしたか?!」

 

 ギルフォードは眼鏡を直しながらスッと目を逸らす。

 

「……ええ、まぁ。 (元気は『元気』だが、どうも疲れを隠している姫様(コーネリア)と同じ仕草をされていたが……)」

 

「そう言えばライラ、この間アッシュフォード学園で催し物があったと小耳に挟んだのだがどうだったのだ?」

 

「楽しかったですお兄様!」

 

「そうかそうか、それは良かった。」

 

「これで安心できるです!」

 

「……“安心”?」

 

「あ……こ、こ、こっちの話です! ウハハハハハハ!」

 

「ライラ、そう口を大きく開けながら笑うのもそうだがなんだその笑い方は? 悪い事は言わない、品位を疑われるぞ。」

 

「うぅぅぅ~……アンジュ先輩の真似です……」

 

「(フム……その“アンジュ”とやらも所詮は庶民ということか。 しかし“アンジュ”、か。 かつてどこかで聞いたような名前だな?)」

 

「(“安心できる”? じゃあやっぱり帽子を?)」

 

 ライラはしょんぼりとし、クロヴィスは『アンジュ』という名にどこか引っ掛かりを感じ、ナナリーは先ほどライラが口にしたことに関して考えた。

 

 横にいたギルフォードは『果たして和んでいるところにこの報告を今出して害するのはどうか?』と『いやしかしエリア11も近いので警戒はすべきだ』という、二つの相対する思いに板挟みされていた。

 

 シュナイゼルの案でEU方面からブリタニアとユーロ・ブリタニアのKMF部隊を国境に配置した効果は覿面で、旧中華連邦の領土を星刻たちの合衆国中華との取り合いとなっていた。

 

 一部分を除いて。

 

 そしてギルフォードが見ていた報告書には『未だにブリタニアでも合衆国中華の圧力に屈していない旧中華連邦の領土と国境が面している東ユーロ・ブリタニアが膠着状態』と言った類のもの。

 

『軍のにらみ合い』としても、本来相手を挑発する為の突発的な衝突や攻める口実の撃ち合いが起きてもおかしくはないのだが全くそのような出来事が起きる予兆も無いのが現状だった。

 

 つまり異様なほどに『()()()()()』のだ。

 

 そしてギルフォードが危惧しているのは『それ(静かすぎる)』が理由だった。

 

「(……位置的には『可能』だ。 もし、旧中華連邦の武官共が資源の提供を交渉材料に()()()の傭兵たちを抱き込んでいると考えれば……)」

 

 ギルフォードが思い浮かべたのはかつて、シャルルの命により『アジア制覇』をブリタニア帝国が試みた時代で唯一、()()()()()()()()()()()()()()過去だった。

 

 それまで殆んど『勝利』しか認めていなかったブリタニア帝国にとってこの出来事は実質上の『敗北』とも呼べるソレで、圧倒的な戦術を前にナイトオブワンであるビスマルクが前線に出て直接全軍の指揮を執ってようやく『互角の戦い』となった。

 

「(()()()が関与しているとなると、厄介になる。)」

 

 ギルフォードが思い浮かべるのは軍事国家のジルクスタン王国、通称『戦士の国』。

 

 ブリタニア帝国が投入した戦力数十万に対し、1万未満という寡兵でビスマルクの介入まで互角以上の戦いを成し、小国でありながらブリタニア帝国と対等な不可侵条約を結んだ国家だった。

 

 講和の条件は帝国からの不可侵略、代わりにジルクスタン王国は周辺国や他国への不可侵略。

 

 そしてこの条約の()を使ってジルクスタン王国は未だに兵の(経験)を研ぐために自らの兵士を『傭兵』として世界中の依頼人(クライアント)に貸し出していた。

 

 ピースマークが『民間の傭兵部隊』ならば、ジルクスタン王国は『国家の傭兵部隊』である。

 

 ギルフォードは冷や汗を流し、自分の想像にごくりと思わす喉を鳴らしてしまう。

 

『帝国の先槍』である彼でも躊躇させるほどまでに、ジルクスタン王国は未だにブリタニア軍にとって『厄介な国』という認識だった。

 

 ……

 …

 

「この件に関して、ジルクスタン王国からの直接の関与はないよ。」

 

 まるでエリア11のギルフォードが危惧している事態に答えるかのように、涼しい表情をしたシュナイゼルが上記のセリフを口にする。

 

「珍しいですね、かの国に関して殿下が断言するというのは?」

 

 一瞬ポカンとしてカノンがいつもの表情に顔を戻す。

 

「あの国は父上(シャルル)が皇位に就いて初めて侵略を断念させた。 カノンの危惧していることはもっともだよ。 ()()()()()ね。」

 

「“本来”?」

 

「我が国とジルクスタン王国の間に不可侵条約があるのは知っているだろう? それが理由だよ。」

 

「ですがあの国は傭兵という、条約の穴を使っています。 それらを使って、帝国に対する代理戦争が行えるのでは?」

 

「それ故に、先ほどの言った“本来”だよカノン。」

 

 シュナイゼルは椅子から立ち上がり、背後にある窓から暗い夜空を見上げる。

 

「7年前、世界を変える程の何が起きたかね?」

 

「7年前……と言いますと、第二太平洋戦争でしょうか?」

 

「その通り。 かつてエリア11がまだ大日本帝国────『日本』を名乗っていた頃、彼らは過去から何度もサクラダイトという貴重な資源を独占していた事実を笠に『重商主義的軍事国家』とも呼べるような立ち位置、第一太平洋戦線後はお互い『不可侵条約』に近い関係を続けていた。 そして宣戦布告とほぼ同時に、我々が電撃作戦を行った。」

 

「それが、どうしてジルクスタン王国の関与がないと断言できるのですか?」

 

「俗に『第二太平洋戦争』と世間では呼ばれている出来事が理由だよ。 暗黙の了解に近い不可侵だったとはいえ、我々が宣戦布告と共に電撃作戦を行ってエリア11を瞬く間に植民化したことが幸運にも『前例』となった。」

 

「なるほど……では今回、どのように対応なされるのですか?」

 

「あの場所は自然資源が豊富だからね、資源そのものを直接使えなくとも金にはなる。 よって先ほど『王国からの直接的な関与はない』と言ったが、時間が経てば経つほど状況の予測がしにくくなる。 だから冷静な判断が下される前に激発させるよう仕込んだからもう()()()()事態が動くはずだよ。」

 

「……ッ?! もしや、部隊の配置を先日変えたのはワザと?!」

 

「カノン。 どれだけ技術が発達しても、人間も恐怖に対して急性ストレス反応を示す動物。 そして判断力が低下した動物の誘導は造作もない。」

 

「(さすがは殿下ね……)」

 

「(さて、餌は撒いた。 果たして食いつくのはマリーベルか、ゼロか……あるいは、幽鬼だろうか。) ……ふ。」

 

「殿下?」

 

「いや、何でもないよカノン。 (まさかエリア11よりこちらが速く進行するとは……本当に思いがけないきっかけでタイミングがズレるものだ。)」

 

 ……

 …

 

『大公閣下、いつまでにらみ合いを続ければいいのでしょうか?』

 

 ユーロ・ブリタニアのヴェランス大公は凛とした表情を保ち、顔を覆いたくなる衝動を我慢していた。

 

 彼の執務室にある二つのスクリーンのうち一つに映っていたのはユーロ・ブリタニアの東方面に展開させた部隊の指揮官、レヴァンドフスキ辺境伯。

 

『もうこれで二週間目ですぞ! ヴェランス大公は何を躊躇っておられるのか?!』

 

 そして二つ目のスクリーンには旧中華連邦で合衆国中華やブリタニアに属することを断った領土を束ねる武官たちの代表者、シャオロン将軍だった。

 

「双方待たれよ。 合衆国中華は外交で話が付けられるがブリタニア帝国はそうもいかぬ相手、 今はまだ待つ時だ。」

 

『今のブリタニアはまだEU方面に軍を広く割いている。 独立の好機だと思われます大公閣下。』

 

『それにヴェランス大公閣下には、西からの()()があるのであろう?!』

 

「確かに当てはある。 だがあの国(ブリタニア)が強硬手段に出るどころか戦線を緩めるなどどう考えても妙だ。 ここは、むやみに動くべきではないと西の者も仰っている────」

『────大公閣下、あのような()()の助言を我らより重んじると仰られるのか?!』

 

『ヴェランス大公……もしやと思いますが、かの者の()()()()に惑わされているのではないのか?』

 

 ギュ!

 

 ヴェランス大公の隣で立っていたファルネーゼが今にでもシャオロン将軍に向かって怒鳴りそうな怒りの形相に表情を変えたゴドフロアの肩を掴んで制する。

 

「シャオロン将軍、私は貴公らの事を勇気ある者と評している。 そして今の状況も貴公だけでなく、レヴァンドフスキ卿にも厳しいモノであることも。 よって今の発言は極限状態から由来するものと片付けよう。 だが、貴公が先ほど『小娘』と称した少女はこの私や側近たちが手を取るに値する同盟者と認め、エリア11のゼロを思わせるほどの才を持つ。 ほぼ無償で我々に知略を貸し、着実な手と技術をも────」

『────なるほど。 ヴェランス大公、我々は貴方のことを誤解していたようだ。 慎重論を通り越した優柔不断だったか────』

「────シャオロン将軍! 待ちたまえ、早まるな────!」

『────大公閣下、私は辺境伯として常に祖国の奪還を夢見てずっと仕えていました。 “閣下がEUの者たちと通じている”とキングスレイ卿やシャイング卿に通告されても信じず、中立どころか大公閣下の味方であり続けようと思いました……先日、証拠が()()()()までは。』

 

「レヴァンドフスキ卿?」

 

『大公閣下、ご武運を。』

 

 プツン。

 

「……愚かな。 準備不足の決起など、ヒステリー以外の何物でもない。」

 

 二つのスクリーンの通信が相手側から切られると、ヴェランス大公はため息を出して天井を見る。

 

「(しかし犠牲をなるべく抑えるためにEUの者達と連絡を取り、あのジィーン・スマイラスが既に内通していたと分かってから手を引いたとしても未だその遺恨は続くか……) ファルネーゼ卿、聖ラファエル騎士団を南東に動かせるようにしてくれないか?」

 

「閣下……」

 

「何、こうなっても彼らの部下は同胞に変わりは無い。 しかし我々ではなく本国(ブリタニア)の部隊と相対すれば必要以上の犠牲が出てしまうのは明白。 それを防ぐための配置だ……やはり私は甘いと、思うかね?」

 

「いいえ! そのような閣下だからこそ、我々やマンフレディ卿は閣下の呼び掛けに応じたのです!」

 

ヴィヨン卿(ゴドフロア)……気遣いは無用だ。」

 

「いえ! 私は元気と素直さが取り柄らしいのでお構いなく! ……だろ、ファルネーゼ卿。」

 

「う……知っていたのか?」

 

「サン・ジル卿が以前に酒の席で、少々。」

 

「亡くなってもあの爺さんは私をからかうのか?!」

 

「はっはっは! なんだかんだで面倒見がよくて、面白い御仁だったよ。」

 

「ああ……だがレーモンド(サン・ジル卿)のおかげで我々ユーロ・ブリタニアはまだ自治権を失ってはいない、まだ希望はある。 アンドレア(ファルネーゼ)、ゴドフロア……二人には感謝している。」

 

 久しぶりにヴェランス大公は『大公』ではなく、『オーガスタ・ヘンリ・ハイランド』としてブリタニア軍に居た頃の男として元同僚たちに感謝の言葉を送った。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 太陽が高く昇り、その光はアッシュフォード学園を照らしていた。

 

 カリカリカリカリカリカリ。

 

 一つの教室内でペンを紙に走らせる音がそこかしこから聞こえ、ピリピリとした緊張感が更に定期試験を受けている学生たちにプレッシャーを与える。

 

 その中にルルーシュ、シャーリー、担任のヴィレッタに助教のミレイは勿論の事、スヴェンもいた。

 

「……………………」

 

 ただ彼は時々何かの考え事に没頭するかのように、『ペンを握っている手を止めてはテストを再開する』を何度も繰り返していた。

 

 明らかにテストに身が入っていない様子だった。

 

 「(全然問題が頭に入らねぇ。)」

 

 それもその筈であり、彼の頭は未だに先日アーニャに見せられた写真が脳内に浮上しては無理やりそれを気力で頭の奥底に押し込んでいた。

 

「(あの写真には思わずかなり動揺したが、身に覚えがないからそのまま『身に覚えがありませんし自分は下級貴族の出ですので~』と正直に答えて濁せた……アーニャはどこか納得していなかった様子だが……)」

 

 スヴェンはため息交じりに目頭を指で押さえ、再度テスト用紙と向き合う。

 

「(しかしチラッと一瞬だけアニメで見た幼女アーニャんは年相応に笑えていたんだなぁ~……)」

 

 スヴェンが再び思い起こすのは、写真の中で無表情な少年とは対照的に無邪気な笑いをしながら自撮りのツーショットを取るアーニャだった。

 

「(『アールストレイムは名門家で確か行儀見習いでルルーシュたちの離宮であるアリエス宮に居た』……だっけ? その時のよりもう少し幼い彼女が写真の中に居たことから、今から10年以上前の写真か? だとすれば俺はハンセン家でほぼ軟禁状態の生活中に、俺はアーニャと会っている? いや、それはどうだろうか? 俺が覚えている限り、彼女と初めて出会ったのはアッシュフォード学園に転入生としてライラにクラブハウスへドナドナさ(引きずら)れてきた時……の筈。 もしや俺の記憶が改竄されているとでもいうのか? だが俺にギアスの類は()()()()。 それはルルーシュの『絶対遵守』、マ()の『心魂読解』、ロロの『絶対停止』、オルフェウスの『完全変化』、マオ(女)の『ザ・リフレイン』、それに話によるとサンチアの『ジ・オド』にルクレティアの『ザ・ランド』でも検証出来ている。)」

 

 ここでふと、スヴェンは何かに思い当たってペンを再び止めてはボーっとする。

 

「(まてよ……そう言えばエルの『ジ・アイス』は干渉できていたな? 『事象の世界線を微分させて全ての運動を凍らせる』からか? それとも分子の熱運動を停止させた物理現象だからか? それに今思い起こせば、ライ(仮)の『吹聴』が効いていたような気が────)」

 

 ────ベシ────!

 

「────い゛?!」

 

 いつの間にか視線を机から上げていたスヴェンの額に、飛んできた消しゴムが音を立てながら見事に命中する。

 

「こぉら、スヴェン! よそ見しない!」

 

「(っとと、今はテスト中だった。 アーニャの謎写真の件は後回し。 それに今思えば写真の中がライ(仮)だったことも………………………………ないか? 写真の中の少年は俺と同じ銀髪赤目で、それって『なんでもござれ』なコードギアスの世界でも割とマイナーな色合わせだった────)」

 

 ────ベシ────!

 

「────イタ?!」

 

「……ち、ちなみにあと15分だぞ。」

 

 本日二度目の消しゴムが命中し、ヴィレッタの忠告にクラスの半数ほどが冷や汗を掻き始めたそうな。

 

 ……

 …

 

「(ぐああああああああ! 今回は駄目なような気がする~!)」

 

 テスト用紙をミレイに渡したスヴェンは頭を抱え、冷や汗を掻き続けていた。

 

「ルル~、今日はどうする?」

 

「ん? ああ、実は()()して来たんだ。」

 

「え。」

 

「な、中庭で()()()食べようか?」

 

「ぁ……うん!」

 

「(よし、やはりこれが正解か。)」

 

 自分の言葉に曇るシャーリーに、胸がちくりと痛んだルルーシュの苦し紛れな誘いにシャーリーが元気を出すと内心でルルーシュはガッツポーズをする。

 

「……スヴェン、大丈夫?」

 

「んぁ?」

 

 どれほどスヴェンが焦っていたかと言うと、マーヤに直接声をかけられてすぐに対応できずに気の抜けた声を出してしまうほどだった。

 

 「目のクマ、化粧で全部隠せていないですよ?」

 

「(マジか。) 忠告ありがとう、マーヤ。」

 

「いえいえ。 これぐらい安いわ。」

 

 「なぁあの二人、やっぱ怪しくね?」

 「特にガーフィールドさんの噂、聞いたか?」

 「ああ、確か少し前までは不登校気味だったが解消したきっかけがスヴェンだったってやつ?」

 「ああ。」

 「けどこないだのキューピッドの日、どうやらアンジュも怪しかったってもっぱらの噂だぜ?」

 「マジか。 あれ? でも確かアイツの帽子って……」

 「ああ。 中等部の子に取られていた。」

 「どれだけだよ?!」

 

 緊張感から解放されたクラスの中でヒソヒソとした話声(主に男子)がスヴェンの耳に届く。

 

「ルルーシュ、お前たちも今日は弁当か。 ちょっと一緒に良いか?」

 

 何気に教室に居続けることが気まずくなったスヴェンは逃走経路を確保し、そのままマーヤやルルーシュたちと共に中庭を目指す。

 

「どうした、ミレイ?」

 

「あ、ヴィレッタ先生。」

 

 テスト用紙を集めていたミレイは窓の外を見ていると、ヴィレッタに声をかけられる。

 

「……一応同僚になるのだから呼び捨てで良いぞ? 余計に歳を意識してしまうではないか。

 

「へ────?」

「────な、何でもない。 それよりも、ミレイがビグロブの報道部からの雇用を断ってまで教師になるとは予想外だったぞ。」

 

「あははは……やっぱりヴィレッタさんでもそう思っちゃうかな?」

 

「(さん付け?!) ……家の事で、何かあったのか? 男爵だが、私も一応貴族だ。 力になれるのなら声をかけてくれ。」

 

「は~い☆」

 

 「……私もそう振る舞えれば『ぎゃっぷかん』とやらで気を引けるだろうか?」

 

「へ?」

 

「な、何でもない! ただの独り言だ。」

 

「そ、そう。」

 

 ミレイは窓から中庭を見ると通りかかるスヴェンたちを茂みの中から飛び出てビックリさせるライラ、それによって思わずルルーシュの腕を掴むシャーリーと戸惑うルルーシュを見てほっこりする。

 

「(最初はカレンの影響で面倒見がいいと思っていたけれど、根もそうみたいなのよねぇ……)」

 

 最初、ミレイにとって『スヴェン・ハンセン』という者はただ噂だけをよく聞く男性だったが、遠目から見ていたミレイからすればスヴェンはどこか表面上だけ『良い人』を演じているとしか感じられなかった。

 

 彼と知り合いである、あの『毒島冴子』のように。

 

 ある日、ミレイはロロ(ナナリー)が同級生からの虐めに会う場面に出くわして迷った。

 何故ならば『ロロ(ナナリー)の事をアッシュフォード家が贔屓している』という噂があることを知っているだけに、下手にロロ(ナナリー)を助けるとさらに事態が悪化しかねない。

 そうミレイが迷っていると、どこからともなくスヴェンが現れては間に割って入って、穏便に事を済ませたことで初めて彼の事を近くで目につき、直感で感じた『上辺だけの善意』が間違っていたかどうかを見極める為にその日から準生徒会員としてクラブハウスに引きずり込んだ。

 

 結果、予想以上に早く生徒会に馴染んでは溶け込んだ。

 人の良い部分しか見ないリヴァルやシャーリーは別として出自から他人を警戒するルルーシュやロロ(ナナリー)、それにあまつさえニーナまで。

 

 そこからミレイは時間をかけてカレンの過去を口実に、スヴェンの事も調べた。

 

『人間、誰もが調査をし続ければいずれ不審な情報が出てくる。』

 どんな聖人君子染みた者でも『人間』である限り、誰もが『(世間にとって)後ろめたいこと』や『(世間から)隠したい秘密』など一つや二つでも存在するのが世の道理。

 

 だというのにスヴェンは綺麗すぎるほどに()()()()()()()

 

 調べた限り、彼は幼少の頃にフラッと日本の紅月家に現れては第二太平洋戦争が起きた直後の情報は手に入らなかったが、紅月ナオトとカレンが跡取りの居ないシュタットフェルト家に引き取られる際にスヴェンは苛めに合って病弱となったカレンの世話係兼従者見習いとなり、彼女の代わりに学校に通っていた。

 

 どれだけ調べても、彼が日本に来る前の経歴は一切不明だった。

 

 そこでミレイの祖父であるルーベンを頼って『アンジュリーゼ』が入学してきたことは最初『手に余る災難』と思ったが、どうやら勘違いをさせてしまったスヴェンがアンジュリーゼの抱えていた色々な問題を解消した。

 

 しかもその時だけでなく、スヴェンはどこか怖いほどまでに的確に問題を解消していった。

 ルルーシュのように。

 

 先のアンジュの事はもちろん、根は引っ込み思案なライラに家事の基本を教えたり、スザクが転入した時のニーナを制したり、ニーナの男性恐怖症と河口湖でのホテルジャック事件、不登校気味だったマーヤ・ガーフィールド。

 

 例をあげればキリがないが、その中でスヴェンが馬術など普通は貴族が嗜む技術等を持っていることに違和感を持ったミレイは祖父のルーベンに彼の家、『ハンセン家』のことを知っているか聞いた。

 

 そこでカレンの事がハーフだったことも知り、スヴェンが男爵家の出と知り更に幼少の頃は軟禁に等しい人生を送っていたことを知り、それでもなおスヴェンは『他人が笑顔でいられるために』とタイムカプセルを埋めるときに口にしていた。

 

 これだけでも『面白い』のだがここでまた一つ、ミレイは卒業直前に更なる違和感を持った。

 

 それは祖父のルーベンでは無く、アンジュに『ハンセン家という貴族家を知っている?』と聞いた際に来た答えが、『自分(アンジュ)の覚えている限り()()()()()()()()()』だった。

 

 果たして普通の男爵家が、『スヴェン』がいたとしてもこれだけの大掛かりな隠蔽工作が行えるのだろうか?

 

 やろうと思えばやれるだろうが、そこまでの財力やコネを使うのならば別の事に使う方が有意義な筈。

 

 例外は余程の『身分』、あるいは『財力』、あるいは『()()を持った者たち』であり、その場合でも巧妙な隠蔽の履歴や違和感が残る。

 

 だがそれすらもない事は異様であり、興味を引くことには十分過ぎた。

 

「(『それをアッシュフォード家の再建に使えるかな~?』という、ちょっとした下心もあるけれどね────)」

「────ところでミレイは聞いたか?」

 

「へ?! な、何を?」

 

「旧中華連邦と、東ユーロ・ブリタニアの事だ。」

 

「???」

 

 この後に、いまだブリタニアとも合衆国中華とも歩もうとしなかった旧中華連邦の領土と東ユーロ・ブリタニアの一部が独立とともに『東ユーラシア人民共和国』を宣言し、ニュースで報道されることとなる。




(;´∀`)ゞ


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第235話 久々の『アレ』

お読みいただきありがとうございます!

楽しんで頂ければ幸いです!


 ガァン

 

「くっ!」

 

 空中を駆るランスロット・グレイルの中にいたオルドリンは大粒の汗を流しながら、次々と自分を襲ってくる数々のヴィンセント・ウォードからの銃弾や砲弾を躱し、躱しきれない攻撃は改良を重ねたソードハーケンで防ぎながら落としていく。

 

「(なんて攻撃の数! それに加え、相手側には────!)」

 

 ────ビィー!

 

 上空からハドロンスピアー独自のビームにコックピット内のアラーム音が鳴り響く。

 

「ここでハドロンスピアー?! (躱すのは無理、受け止めるのは無理に近い。 だけど『無理に近い』だけで『無理』ではない!)」

 

 ドゥ!

 

 オルドリンはグレイルの腕部内部にセットされたブレイズルミナス発生装置を二つとも使用し、ルミナスコーンを展開してハドロンスピアーをやり過ごして突貫してきたトリスタンの槍型メーザーバイブレーションソードの攻撃を自機のMVSで受け流してカウンターを入れる。

 

 ガァン!

 

「うぁ?!」

 

 だが攻撃を受け流すと同時にカウンターを入れようとした為、ガラ空きになったグレイルの脇に受け流された勢いを付けた蹴撃をトリスタンに入れられて、オルドリンはその衝撃に体と頭を揺さぶられて目を白黒させる。

 

「しま────?!」

 

 オルドリンはトリスタンの次の攻撃に備えるが追撃が来ず、代わりにモルドレッドが打ち出していたシュタルクハドロンが迫ってくるのを目にして焦っているとグレイルが瞬く間に光に包まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビィィィィィィィ!

 

 耳をつんざく音に『Fifteenth simulation(15回目の仮想訓練), over due to KMF destruction、(機体大破の為に終了)。 Will you try again?(もう一度やり直しますか)』という無慈悲な文字が暗くなった仮想訓練シミュレーター内のスクリーンに浮かび上がる。

 

 バシュ!

 

「むがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 シミュレーション用コックピットのハッチが開くとフラストレーションに声を荒げながら頭をガシガシとするオルドリンが姿を現す。

 

「なに?! なんなのアレ?! 理不尽すぎるわよぉぉぉぉぉぉ!」

 

「お疲れ様です、お嬢様。」

 

「でもオズズズズズズズズズ~……が、私たちの中で一番長く持ったほうなのサ♪」

 

「でもオズと同感だね。 あれは一方的過ぎるよ。」

 

 そんな荒れるオルドリンの横に近づいたトトがスポーツドリンクとタオルを渡すのを見て同じスポーツドリンクを飲んでいたソキアとティンクはあっけらかんとしながら、落ち込むオルドリンに慰めの言葉を投げかける。

 

「大勢のヴィンセント・ウォードはまだいいわ、母艦の警護も兼ねているもの。 でもその上にラウンズ機ってどれだけハードル高いのよ?!」

 

 オルドリンが先ほど経験したシミュレーションは中華連邦で起きた『幽鬼の単機突貫』に対する仮想訓練だったものをマリーベルが入手し、ソキアがデータ等にハッキングをかけて元々の『対幽鬼』とは別に『幽鬼の代理』の設定を加えたモノだった。

 

 つまりさっきのオルドリンは幽鬼(スヴェン)の代わりに中華連邦にいた頃のアヴァロン側と対峙していた。

 

 ちなみにこれはあくまで正式に得られた情報やデータの元に造られた仮想訓練なので信憑性や正確さに欠けるモノの、疑似的な()()()の経験にはなる。

 

 国力も軍事力も他国と比較しても現状で群を抜いているブリタニアには本来、無用の長物なのだが……

 

 マリーベルは()()()()()()()()()()に向けた訓練としてグリンダ騎士団(特に中核を担う者たち)に経験させていた。

 

 余談でマリーベル本人はクマが目立つほど長時間、シミュレーター内に一週間ほど籠もってようやく仮想訓練の最終目的地(アヴァロン)へ到達している。

 

「それよりも、レオンは?」

 

「今日は東方面に行っているにゃー。」

 

「ソキア、それを言うのなら“今日()”ですよ。」

 

「ああ、マリーカが配置されたEUの……それよりマリーは?」

 

「「例の『東ユーラシア人民共和国』に関して会議中。」」

 

「……トト、出来るだけ甘~いものを作ってくれる?」

 

「では窯でじっくり焼いたラムレーズン入りのチーズケーキは如何でしょうお嬢様?」

 

「はいはいはいはい! ソキアは食べたいです!」

 

「ご心配なく、ソキアさんやティンクさんたちの分も焼いていますよ?」

 

「やったぜベイベー!」

 

「う~ん、日々トト君のレパートリーが増えているのは気の所為かな?」

 

「ウフフフフ♪」

 

 ティンクの問いにトトはただ笑うのだった。

 

 ……

 …

 

 エリア24より南西、地中海の向こう側にある東ユーラシア人民共和国から地域的に近いジルクスタン王国の首都グラルバードでブリタニアや他の国からきたレポーターたちは少々長めの濃い緑髪をポニーテールにまとめた男────ジルクスタン王国親衛隊隊長の『シェスタール・フォーグナー』にインタビューを求めていた。

 

「東ユーラシア人民共和国? ああ、先日騒ぎを起こした、ここから東にある()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことですね。」

 

「ではやはり、ジルクスタン王国は東ユーラシア人民共和国の建国をお認めになられていないと?」

 

「我々は小国とはいえ一国にすぎません。 その問いは我々ではなく世界にして欲しいものですね。」

 

「ではジルクスタン王国に、『東ユーラシア人民共和国』と称する地域からの特使が来たという噂については?」

 

「噂はしょせん噂という事です。 少なくとも、私は知りませんな。 では、私はこれで────」

 

 各国から来たレポーターたちはシェスタールに更なる質問をせがむが彼は手を挙げてそのまま王宮(神殿)の中へと入り、警備兵によってレポーターたちは押し戻される。

 

「ふぅー……いつの時代でも、記者という生き物は騒ぎが好きだな。」

 

「一時とはいえ、インタビューを受けてよろしかったのですかシェスタール様?」

 

「インタビューではなく、あれも外交の一環だ。 姫様にも了承は得ている。 して、()()の引き渡しは?」

 

「は。 抜かりなく、特使と共に。 関わった作業員たちは?」

 

「外から流れてきた難民だ、()()しろ。」

 

「ナム・ジャラ・ラタック。」

 

「それと、()()()はまた王のところに?」

 

「は。」

 

「(またか……しかし何故姫様たちはああもヤツを信頼しているのだ?)」

 

 

 ……

 …

 

 

「“東ユーラシア人民共和国”? ……ああ、だからここ最近地上が騒がしいんだね。」

 

 地下都市らしき場所にいたV.V.はローブの者から来たと思われる報告に納得するような表情を浮かべる。

 

「嚮主、周辺の哨戒は如何なさいます?」

 

「う~ん……多分、いらないんじゃない? どうせこれも甥絡みだろうし逆に増やせば目立つ。 でもそうだね……内部の警備体制を上げて。 そろそろ()()だろうから。」

 

「“来る”?」

 

「こっちの話。 それとバトレーたちに頼んでいた()()は?」

 

「は、はぁ……“順調”と報告は上がっています。」

 

「“順調”? “完成間近”じゃなくて?」

 

「何やら、()()()がたまに独りでに行動するみたいで……」

 

「そっか。 う~ん……このままだと時間がないな、()()()()()()……よし。 少し早いけれどここでもう一度初期化して。」

 

「は?」

 

「ん? ジェレミアたちの方は完成間近なんでしょ? “だったらいいかなぁ~”って……あ。 その前に、どんな行動をしているの? ちょっと興味がある。」

 

「いや、私たちも詳しい事は……」

 

「あ、そ。」

 

 

 ……

 …

 

「ば、バトレー将軍……これ以上は……」

 

「わ、分かっておる!」

 

 同時刻、地下都市にある一角の研究所内では研究員の一人が冷や汗を流しながら同じく冷や汗を流すバトレーを見る。

 

「しかし考えてもみろ! 我々が突然ここに連れてこられたことを考えれば、用済みと我々が見做されれば……それに……」

 

 バトレーが見上げるのは異様な模様が掘られた扉の様な物に繋げられた様々な機器と、それらの機器とケーブルやチューブが繋がっている椅子にヘルメットの様な物をかぶり静かに座っていたライ(仮)だった。

 

「(もし、この遺跡が神根島やネヴァダの物と同じと仮説を立てれば……この世界は我々人類が思っている以上に……)」

 

 

 


 

 

『ジルクスタン王国』。 首都を含めて片手で数えられる程度しかない大都市と、全土の9割がむき出しの荒野や砂漠で形成された、人口は小さな領土と比較してもかなり少ない中東アジアの小国。

 

 今でこそ世間からの評価は上記の通りだが、数百年前に過酷な環境によって強靭な戦士に育った者たちを用いて周辺国を圧倒的な武力で次々と平定していき、全盛期の領土は現在基準でも『大国』と呼べるほど広大だった。

 

『新しい利潤を得ると同時に自国の民の不満の矛先を外へと向けつつ国土を広げていく。』

 国の在り方としては現在のブリタニア帝国を酷似────否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に酷似していたと言えた。

 

 しかし決定的な違いは新たな地を平定した後、つまりは『政治理念』にあった。

 

 かつてのジルクスタン王国は良くも悪くも『武』で全てを解決していき、自国の者たちを非課税対象にする一方、他国の民────いわゆる『二級市民』から様々な税を多く取り立てた。

 

 だが次第に大掛かりな事業を出来なくなっていき、『軍事的勝利』は未だ続いているが『国』としては緩やかに衰退して領土は徐々に縮小していき、一時は権力や派閥争いで国は荒れて『戦士』たちの大半は俗に言う野党、山賊、海賊などに成り下がっていった。

 

 ようやく内政が落ち着いた頃には、領土は初めて『王国』として建国した当時のサイズにまで知小さくなっていた。

 だが領土が小さくなっただけで、『武力』は大国であるブリタニアを退けるほど未だ脅威である上、乱世の世では貴重な『資源』となる。

 

 ここにジルクスタン王国が『戦士の(傭兵)国』として名を世界中にとどろかせた。

 

 ……………………そういや(スヴェン)って、『亡国のアキト』への介入の為に調べをしていた時に、原作アニメでは見聞きもしなかった国で、しかも『無敗』だったから興味が引かれて『傭兵のスバル』という人物を作ったんだっけ。

 

 あの頃が懐かしいなぁ。

 

 あれからまだ一年も経っていないのに、何十年も前の出来事に感じる。

 

「何をしているの?」

 

「です?」

 

東ユーラシア人民共和国(原作や外伝に無い出来事)』の建国宣言があって調べ物をしていた俺の横から、画面をアーニャとライラの二人がのぞき込む。

 

「はっはっは。 先の『東ユーラシア人民共和国』がありましたよね? あそこの地域はあまり馴染みがないので調べていただけですよ。」

 

「「フゥ~ン。」」

 

 チン♪

 

 クラブハウスのキッチンからタイマーが鳴る音に興味を向けた様子のアーニャが離れ、こんがりと焼かれたピザをライラがオーブンから取り出す。

 

 ライラたちが視界と部屋から出てから机に突っ伏した。

 

 めっさHP(体力)MP(精神力)が双方ゴリゴリと削られていくドレイン状態。

 

 いや、もうね……どういうワケかライラだけじゃなくてアーニャもあの写真を見せつけてきた夜以来、こうやって俺の周りにいることが多くなったのよ。

 

 あの日、動揺しつつもポーカーフェイスを全力で維持しながら本心からの『いえ違います』を答えたのになぜだ?!

 

 意味わからん誰かはよ俺にエクスプラネーション(説明)をプリーズ。

 

 ルルーシュはルルーシュで『しめしめ、厄介な案件を押し付けられてラッキー☆』っぽい態度を取っているし。

 

「……」

 

 それに何故かこのところ、アンジュの刺さるような目が拙者に向けられてるでござる。

 

「にゃ!」

 

 そこだ!

 

 ガシッ!

 

 アーサーの声で反射的に俺はクソ猫(アーサー)の首根っこを宙で捕らえることに成功する。

 

 「フハハハハハ、当たらんよ。」

 

 テシテシテシテシテシテシテシテシテシテシッ!

 

 いででででで!

 キックをお見舞いしてきただと?!

 なんて器用な真似を!

 

 ヒョイ。

 

「アーサー、メ! です!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロ。

 

 いつの間にか戻ってきたライラに抱かれたアーサーはすぐに態度を変え、喉を鳴らしながら彼女の顔に頭をこすりつけて甘える。

 

『なるほど、“猫をかぶる”とは、こういうことか。』 Byスヴェン

 

 しかしこの『東ユーラシア人民共和国』、アホじゃね?

 シンのクーデターとEUに攻め込まれてから時間があまり経っていないのにユーロ・ブリタニアの東の一部と、中華連邦の暴動が最近あったばかりの旧中華連邦の独立宣言なんて周りから物理と外交的にボコられるのは目に見えている。

 

 自然資源は豊かだけれど、それを扱いきれるインフラは……ないよな、多分。

 合衆国中華や日本と交渉をして超合衆国の一部になる?

 それでも他国から侵略されて国が無くなれば同盟とかなんて白紙に戻るどころかデメリットしかない。

 ブリタニアやユーロ・ブリタニアからの侵略を防ぐ当てがあるのか?

 だとしたらやはりジルクスタン王国の傭兵を大勢雇った?

 あるいは別の何かが?

 それも、ジルクスタン王国のように侵略を恐れない()()が────待てよ?

 

 そう言えばアニメだと今の時期、確か原作アニメでシャーリーが亡くなったことで、ギアスの根絶兼ロロ雑巾の使い捨ての為、ルルーシュはギアス嚮団に対する態度を『捕獲』から『殲滅』に変えた辺りだったよな?

 

 という事は、そろそろゼロが旧中華連邦領土内にある筈のギアス嚮団の位置特定をするところでこの意味わからん東ユーラシア人民共和国の建国宣言がされたと?

 

 こんなタイミングがあるか?

 

 いや、そうそう無いだろう。

 

 だが()()()()()

 ()()は?

 

 ……わからん。

 原作を参考にするのはやめたと言ったが、気になる。

 

 気にしてもここらのR2時期が一期とは違って結構時空というか時間がはっきりしていないから気にしても意味はあまり無い……のだが、気になる物は気になる。

 

 ガタッ。

 

「行かれるのですか?」

 

 俺が立ち上がると気配を消していつの間にか横にいたマーヤの声が来る。

 

「そう……ですね。」

 

 幸か不幸か、このところアーニャとかに驚かされ過ぎる連続でマイハートがドキドキしてもポーカーフェイスがメキメキと鍛え上げられたせいで動揺が顔に出ることは無くなった。

 

 というわけでライラもいるので『優男』の仮面を着用中。

 

 ヴー、ヴー。

 

 ポケットの中からマナーモードのまま鳴る携帯を取り出すと意味の分からないメッセージが来ていた。

 

『東ユーラシア人民共和国の鎮圧の為ブリタニアから送られた浮遊航空艦部隊が全滅。』

 

 ……………………………………いや本当に意味が分からんのだが。

 

 ブリタニアの浮遊航空艦、確かに近距離だと脆いけれど遠距離だとブレイズルミナスのバリアとかで固いよね?

 太平洋の時はアンジュのビルキースの不意打ちというかザ・〇ールド並みの疑似スカ〇フィッシュ的な超高機動戦もあって、シールドの展開より早く動いて撃墜していたし、黒の騎士団は物理的に甲板の上に乗って死角から狙い撃ちしたし。

 

 それに現状、浮遊航空艦を落とすにはさっきの様な変則的な戦い方か正攻法で浮遊航空艦か艦のサポートを付けたフロート付きナイトメアぐらいの筈。

 

 浮遊航空艦を落とせる地対空砲とかミサイルなんて、前世のボマークやパトリオットやアスターや03式なら……………………………………

 

 いや、普通に感知されて展開されたブレイズルミナスで防げられてナイトメア想像しか出てこない。

 

 いや、コストを抑える為に量産型の浮遊航空艦は全方位バリアを持っていないから感知されないまま息を潜んで囲って一機ずつボコるとかならワンチャン?

 

 ヴー、ヴー。

 

 そしてまたも新たなメッセージ。

 

『地下に来い。』

 

 はいルルーシュからのご指名来ましたー。

 

 ………………………………………………うわぁ、行きたくねぇ~なぁ~。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 東ユーラシア人民共和国建国宣言がされて数時間。

 

 未だ独立の色がチラホラと見え隠れするユーロ・ブリタニアの一部と、他より自然資源が豊かな旧中華連邦の領土が結託したのはブリタニア帝国からすれば面白いわけがなく、対処の動きは早かった。

 

 まずはユーロ・ブリタニアの地上部隊が国境(仮)沿いに配置し注意をそらし、肝心の鎮圧部隊はブリタニア帝国がほぼ独占出来ている空路で陸内深くにある大都市に侵入して降下。

 

 作戦に要する時間の予想はたった4時間の短期決戦による電撃作戦。

 

『しかし東ユーラシア人民共和国ねぇ~……』

『大層な名前だなぁ~。』

『それに作戦の予想時間も短いし、俺らの出番はないだろうな。』

 

 浮遊航空艦部隊を護衛している複座式戦闘機内のパイロットたちが内線で雑談を躱していた。

 

 天候は晴れで、陽光を背中に部隊は東ユーラシア人民共和国の国境をいとも簡単に超えて進行中だった。

 

『それに侵入経路上、抵抗も予想されていないんだろう?』

『どうしてそう思う?』

『戦闘機グループの配置と出撃の交代時間だよ。 この陣形、エナジーと弾薬の節約を一番に考えている。』

『流石年長者! 歳は伊達じゃない!』

『茶化すな! いくら簡単そうでも予想は予想なんだ!』

『そんなことを言われても、相手はまともな航空戦力の無かったユーロ・ブリタニアと旧中華連邦じゃないっすか。 何に緊張────あれ?』

『どうした?』

『いや……何かキラッとしたような────』

 

 若手のパイロットが言葉を言い終える前に音もなく遠方から飛来した()()が陣形の中心にあったログレス級を文字通りに()()()()

 

 超高速で飛んできた実弾はログレス級の先頭から背後の機関部にまで通過し、その実弾によってブイをえぐられた乗組員たちは体に起きた不調に意識が付いて来れず、まるでその大きなトンネルが出来たときに生じた衝撃が時間差で発生したように、次第に船体は(ひしゃ)げていきダメージによってサクラダイトが引火する。

 

 ドォン

 

 着弾からここまで約0.3秒の出来事であった。

 

『今何が起きた────?!』

『────総員散開────!』

『────攻撃?! 攻撃か────?!』

『────レーダーには何も映っていないぞ────!』

『────索敵広げろ! 遠距離からの────!』

 

 一瞬でブリタニアの部隊は混乱に陥り、さっきまで静寂だった出撃中の戦闘機同士の通信は慌ただしくなる。

 

 が────

 

 ドゥ

 

 ────まるで追い打ちをかけるように生じる衝撃波が後から襲い掛かり、残っていた浮遊航空艦や戦闘機に襲い掛かる。

 

『うわぁ────?!』

『────翼が────!』

『────落ちる────!』

『────乱気流が────!』

『────高度を保てない────!』

『────メーデー! メーデー────!』

『────こちらカールレオン級のネストルの艦長だ! 第二弾が来るぞ────!』

『────第二弾ってど────?!』

 

 レーダーの索敵範囲を最大にまで上げたカールレオン級の艦長の通信に更なる困惑が広がる前にログレス級を撃ち抜いた()()がまた部隊に襲い掛かり、辛うじて浮遊していたカールレオン級たちに致命的な打撃を受ける。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「────っと、これが秘密裏で入手できたブリタニアの第一先遣隊のデータだ。」

 

 ナニアレ今の映像というか出来事こっわ

 

 説明しよう! ……『どこぞの星っぽく』な。

 

 肉まん食いたいのは関係ない。

 

『送られてきたメッセージ通りに機密情報局のアジトに着いたら何故か巨大スクリーンの前に座って待っていたルルーシュに先ほどのホラー映画真っ青のリアル映像を見せつけられたのであーる!』

 

 意味が分からんがな

 

 それとゲン〇ウポーズ、しっくりとくるのはやはりゼロだからか?

 

「さて……お前はこの件に関してどう思う?」

 

 どうしてこうなった




RTA気味のR2で描写されていない空白期間…… (;´ω`)ゞ


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第236話 久々の『アレ』2

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです! m(_ _)m


 パリィン!

 

「「「???」」」

 

 カフェ兼クラブハウスの中で磁器が割れる音に、物珍しさに準生徒会員たちは作業を中断してキッチンの方を見るとひょっこりとドアから出てきて箒をクローゼットから取り出すシャーリーの様子に『ああ、またか』と納得してしまう。

 

 確かに生徒会の人員が増えたことで事務作業は格段に少なくなった。

 だが、別の意味で忙しくなったことと『料理を覚えたい』と願ったシャーリーはこの頃よくキッチンにいることが多くなった。

 

 よって磁器が割れる音は時々するようになったのは事実だが、今回は彼女が原因ではない。

 

「スヴェン、大丈夫?」

 

「アハハハ、面目ない。」

 

 箒で割れたお皿を集めるシャーリーが心配するような表情で、塵取りを支える(スヴェン)を見る。

 

「そう? なんだかこの頃、ボーっとしている様子だけれど……もしかして、事故の後遺症?」

 

「……そう、かもしれませんね。」

 

 活発で元気いっぱい少女のシャーリーでもコードギアスの人間、察し能力が半端ないな。

 

 たまに察しが良すぎてそれが仇となり、アニメとかではヘタレる時があったけれど。

 

「マーヤかアンジュ……あ! ライブラちゃんを呼んだ方がいい?」

 

「イエ、ダイジョウブデス。」

 

 前者だと今より目立ちかねない。

 後者だとたいていの場合、アーニャがセットとしてくる。

 つまり『どっちが来ても注目を浴びる』という事だ。

 

「ルルーシュはまた図書館ですか?」

 

「え? うん。 ほら、ミレイ会長────じゃなくて先生、が生徒会の顧問になったじゃない? どうもルルを教師にさせたがっている様子なんだよねぇ~……」

 

「ははは、そうですか。」

 

 俺は『心ここにあらず』の状態のまま、どうにか上辺だけでも『何時も通り』を演じながら話題を変えた。

 

『誘導』? Ha、ha、ha。 そんなわけないじゃないかジョージィ。

 

 と言っても、俺にとって重要な案件が多数同時に発生したので時々考え込んでしまうことが日々続いているのは事実だ。

 

 まずはいったん訳の分からない東ユーラシアは置いておこう。 ルルーシュには()()()()()俺なりの予測を話したが、彼やディーハルトなどの方が情報の分析などに向いている。

 

 そもそも俺が『情報屋』なんてやっていたのは黒の騎士団とは別行動をとれるためと、裏方役に徹するためだったし。

 

 俺の場合は『原作知識』に基づいたものばかりだった上に、ここまでくれば正直それももうほぼ当てにしない方がいい。

 

 だからまずは黒の騎士団……いや、彼らだけでなく俺たち側の強化だ。

 先ほど『原作知識は当てにも参考にもならない』と言ったが、黒の騎士団が『合衆国日本』の亡命政府を名乗っているからほぼ確実に第二次トウキョウ決戦(もしくはそれに類する大きな作戦)が来るだろう。

 

 蓬莱島を見本として合衆国中華のインフラが急激に整えられているのも、同盟国として恩を売る為だろう。

エリア11(日本)の奪還』が、合衆国日本の軍隊として黒の騎士団が行動する大義名分だからな。

 

 俺の滅茶苦茶なアイデアをラクシャータが独自に再現したおかげで紅蓮可翔式・強襲型なんて化け物KMFが出来たが、見事なまでに『紅蓮聖天八極式』の開発&回収フラグをへし折ったせいでぶっ壊れ性能を持つエナジーウィング技術がブリタニアの専売特許になりかねない。

 

 現在流用しているフロートシステムを遥かに凌ぐ超高速飛行と旋回性能を持つエナジーウィングは要するに、コードギアス版『光の〇』っぽい代物でピーキーな性能の分だけ装備した機体は乗り手を選ぶが、原作アニメでは皇帝ルルーシュに対して反逆したラウンズたちを前にランスロット・アルビオンがモニカにドロテアだけでなく、『未来予知』のギアスを持つビスマルクをも瞬殺している。

 

 例え慢心からくる不意打ちも入っていたとはいえ、それだけフロートシステムとエナジーウィングの性能には雲泥の差がある。

 

 つまり第二次トウキョウ決戦でエナジーウィングを装備したランスロット、下手をすればトリスタンを相手に超合衆国連合軍は大打撃を受けかねない。

 

 俺はセシルの様な稀代の閃きを持つ天才じゃないからな、せいぜい出来ることと言えば技術部の者たちに頼むぐらいだ。

 

 それにいざ最悪の事態となれば、俺が第二次トウキョウ決戦でランスロットたちの相手をしようと思っている。

 

 いや、しなければいけない。

 

 フレイヤ無しでもブリタニア軍は脅威。

 なまじフレイヤがない分、第二次トウキョウ決戦が中断される流れもない。

 そして連合軍の敗北はラグナレクの接続に繋がり、それはLCLにパシャった神話(人の精神が統一化)並みのバッドエンドだ。

 

 そう思いながら自分の手を見てゆっくりと拳を作っていき、次第に鈍痛と麻痺感覚が手の先から腕の肘にまでじわじわと伝わってくる。

 

 強化スーツで一応、動くことが出来るのはキューピッドの日で検証済みだ。

 ナイトメアの操縦に関しても、以前からミルベル夫婦博士やアンナたちに頼んでいた機体と技術にソフィ博士のBRSを組み込んで修正を加えることを頼んだ。

 俺の場合、BRSの適正は『測定不能』であって『無い』というわけではないが少なくとも網膜投影システムによるヘッドアップディスプレイ(HUD)だけでもかなり有利になる筈だ。

 

 新しい装甲の()()が出来上がれば、怖い物はビームや荷電粒子砲だけになる。

 MVSに対しても、ある程度の強度もある見込みだ。

 あとは使える熱核反応炉だな。

 

 随分前にラクシャータに頼んでニーナのフレイヤ開発のフラグをへし折ったから対フレイヤ弾頭の必要が無くなったが、ウィルバー夫婦博士たちが加わったことで未だに『安全面に難アリ』で開発が難航しているとこの前、連絡を取った時に聞いている。

 

 とすれば、やはりKMFは短期決戦仕様になるな。

 

 ……それでも『今の俺に出来るだろうか』という不安はぬぐえない。

 

 だが、やるしかない。

 

 結局()()()()なんだからな。

 

「それでさ、スヴェンの方はどうなの?」

 

「……? “どう”とは?」

 

 やべ、思わず本心からの疑問をそのまま口にしてしまった。

 

『優男』の仮面、装・着ぅ!

 

「ほら、ライブラちゃんに帽子を取られたじゃない?」

 

「はぁ……まぁ、そうですね。」

 

「その、やっぱり休日はデートとかに出掛けたりする?」

 

「いえ? 今まで通り、普通に学園内でのやり取りだけですが?」

 

「え?」

 

 いやそんな意外そうな顔を俺に向けても困る。

 15歳とはいえまだまだ成長期。

 彼女と一緒に出掛けていたら通報され……いや、俺の事がクロヴィスに伝わって超絶面倒くさい事態になりかね……それ以前にヴィレッタが監視役の代わりとして付いて来てもややこしくなるのは明らかだ。

 

 そもそもライラが俺の帽子を取った理由って、どう考えても俺たちアマルガムの周りに居る為の口実だろ。

 

 キューピッドの日の後夜祭でミレイが感じた『ナナリーの代わりにロロ~』に関する認識の違和感を、ライラもどこか無意識に感じているのかもしれない。

 

 だって普通に考えても見ろ。

 認識の食い違い状況は完全にアレだ、『月〇さんに謝れ』並みのホラー現象でしかない。

 

 でもそれを言うとそういえばおれもアー ニャ からの  しゃし ん  も────

 

「────ちょっとスヴェン、大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

 おっと何時の間にか大量の汗を掻きながら呼吸を乱していた。

 呼吸を整えよう。

 コーホ────じゃなくてスゥー……大きく息を吸って……

 ハァーっとゆっくりと、痛みと共に吐き出す。

 

「大丈夫です、ただ少し息が苦しかっただけで。」

 

「そ、そう? 無理、していない────?」

 

 ────カード、ドロー! 『話題チェンジ』を使用────!

 

「────それとライブラさんが帽子を取った理由は恐らく、『面白そうだから』なのでは?」

 

「そうかな? 私はてっきり……」

 

 今日もシャーリーのボケと俺のツッコミぶりは絶好調というかその“てっきり”はどういう意味なのもっと詳しく話してみ?

 

「なんですかシャーリー、その“てっきり”は?」

 

 俺の口下手。

 

「だってスヴェンって他の人たちとも仲が良いけれど、ライブラちゃんとかだと特に接しかたが違うというか……雰囲気が柔らかいというか~……う~ん……まぁ、いっか!」

 

「????」

 

『接し方が違う』?

『雰囲気が柔らかい』?

 そう……なのか?

 俺はずっと同じ『優男』の仮面を維持しているつもりだったが……いつの間にか態度が変わっていたのか?

 

 そもそも元と言えば、『優男』はシュタットフェルト家に溶け込みやすいために鍛えていた仮面だ。 アッシュフォード学園でも通用するから維持し続けただけで。

 

 カレンかマーヤか毒島がここにいたら、何が違うのか指摘してくれるのだが居ないしなぁ。

 

「あ! この間はニーナとも連絡を取ったんだよね! どうだった? 元気?」

 

 ルルーシュ辺りから聞いたのか、シャーリーよ。

 

「ええ、元気そうでしたよ?」

 

 地味眼鏡ツインテおさげもいいけれど、やっぱ髪を降ろした素のニーナはイイナ。*1 *2

 

 というか時差で寝間着だったし風呂から出たばかりか顔がほんのり赤くなっていたしモジモジしていたし今だから勢いで言うがちょっと色っぽかった。

 

 それにしても、『さて……お前はどう思う?』か。

 あの時はビビったが、まぁ東ユーラシアに関しては数件仮説を立てているらしいからそっちはルルーシュたちに任せよう。

 

「あ、スヴェン? その上に破片があるかもしれないからテーブルクロスを退けてくれる?」

 

 ハイハイっと。

 

 うわぁ、このテーブルクロスの模様と見事な赤茶色は良い気がしないな~。

 汚れがあまり目立たなくなるのは分かるが、これを見たら前世の通勤電車を────

 

 ドグン。

 

 ────???

 

 ここで強烈な違和感(心臓の動き)に駆り出されて、俺は思わず動きを止めてしまう。

 

 俺は今、()()違和感を抱い(動揺し)た?

 

『通勤電車』か?

 

 ドグン。

 

 違う、これは実家の────()()()()()のフローリングか?

 屋敷内の通路か?

 今までいくら思い出そうとしても、モヤがかかっているようにうまく見えなかったものが一瞬だけミエタヨウナキガスル。

 そう言えば、前世での路線名────違う、ノイズが邪魔だ。

 今はハンセン家だ。

 

 思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()だ。 これを頼りにハンセン家を思い出せ。

 

 これは駅か────

 「スヴェン、大丈夫?」

 都会か田舎か────

 「スヴェン、どうしたの?」

 田舎のどこだ────

 「ちょっと、鼻血が!」

 これは花か────

 ちがう花じゃない、これはジャガイモの畑でこれらは花か────

 「誰か、救急車を呼んで!」

 そしてこれは線路であそこに見えるのは山────

 

 ────ドサッ。

 

 あれ、いつの間に地面が横に?

 いや、俺が倒れたのか。

 

 あと少しだ、あともう少しで何かが見えそうなんだ。

 

 ハンセン家のフローリング。 田舎。 花畑と間違える程のジャガイモばたけ。 デンシャのロセンラシきものトヤマににににににににににににに二二二二二二二二二二二二にににににに二二二二二にに二二にに二二にに二二────

 

「────ガッ?! ガッ?!

 

 ジメンガユレテイル?

 ゆれているのはおれだ。

 いやちがう。

 ヒザヲツケナガラウツムイテイル?

 

『汝ら、ここに制約を立て礎となることを願うか? 我らと共に領民を守る剣と盾となることを望むか? 我らの合議を持って□□□□□の意思とすることに賛同するか?』

 

 ダレダ、このこえは?

 

『『『『承りました、□□□□□□□。』』』』

 

 イマノハ、なんだ?

 

『なぁ、■.■.? あんたもさ、居場所が欲しかったんだろ? 鳥も、魚も、人も()()()必要としているんだ。 誰が何のために必要としたのかはわからない。 けれど必要なんだと俺は思う。 もう既にいるんだからさ、仕方ないじゃないか。』

 

 このこえはだれだ?

 

『お前は……優しすぎるよ。 それを私は受け入れられるほど、器量が出来ていない。』

 

 コノコエハキイタことがある。

 これをおれは()()()────?

 

『長生きしているクセにか?』

 

『長生きしているからだよ()()。』

 

 ────そうか。 これは『漆黒の────

 

 

 

 


 

 

 

「(“どう思う”、か。 我ながら、人を試すのが癖になってしまったな。)」

 

 ルルーシュは仏頂面なスヴェンに問いかけた時を、合衆国中華の領土を広げる算段を行いつつトウキョウ租界内の仕掛けの確認を、ギアスのかけた公安部の者たちからのレポートを読みながら平行思考の一つとして思い返していた。

 

「(しかし奴の検査結果が()()なだけに、なるべく奴の真意を明確にした上でなければディートハルト辺りの者たちの説得は難しいだろうからな。 それに奴の保持する戦力は『奴が居るからこそ纏まっている』といっても過言ではない。 それよりも────)」

 

 彼は自分自身が得られる情報とラクシャータたち技術者からの見解による仮説を内心で既に東ユーラシアへ向かった鎮圧部隊を襲った現象についていくつかの仮説を立てて()()()()()()()()()()()という結果に行きついていた。

 

「(────このタイミングと有効範囲や立ち位置から考えればあの周辺────『ギアス嚮団がある』と思わしき地域の守りを固める為として知らずの内に利用されている可能性が高い。 

 だが、何故だ? 理由は? ここまで『隠蔽』に力を入れていたのに何だ、この手のひら返しは? これではまるで、嚮団の居場所を宣伝しているとしか思えない。 位置の特定に迫った俺やピースマークに対する威嚇? あるいは罠か?

 どちらにせよ、東ユーラシアなぞ結局誰かの掌の上で踊らされている烏合の衆。 今の段階で計画の障害物に成り得ない。 それに、ギアス嚮団にはピースマークがそろそろ当たりを付ける筈だ────)」

「────なぁ、少し良いか────?」

「────んな?! お、お前! こんな真っ昼間に堂々と!」

 

 ルルーシュは動揺をイラつきで塗りつぶしながら、物陰から声をかけてきたエルに怒鳴りつける。

 

「そう慌てるな、ここに居る者たちは全員お前のギアスにかかっているのだろう────?」

「────ええい! 俺の顔でそんなに軽く物事を言うな!」

 

「フハハハハハ。 私の顔は別に好みでしているわけではない。 呪うのなら……そうだな、ブリタニアを呪え。 ああ失礼、もう呪っているか。 ククク────」

「────この────!」

「────ああ、怒る前に私から話がある。 ロロの事だが────」

 

 ────ピリリ、ピリリ。

 

「ん? 少し待ってくれ。」

 

「チッ。 (なんと間の悪いタイミングだ。)」

 

 ルルーシュの携帯電話が鳴り、話が中断されるとエルは舌打ちをする。

 

「もしもし? すまんが、今は────何? それは……そうか、すぐに向かう。」

 

 一瞬驚く表情をルルーシュは浮かべてエルの横を過ぎ通る。

 

「お、おい! 私の────!」

「────すまんが、お前のロロに関する話は後にしてくれ。 ククク。」

 

 ルルーシュは先ほどエルが浮かべていた表情そっくりなものを浮かべてそれをエルに向けながらその場を後にした。

 

「おかえり、兄さん。 学園にもう戻る?」

 

「いや、このまま病院に行ってくれ。」

 

 ルルーシュは待っているロロのバイクのサイドカーに乗り込むと、ロロの予想していた移動先とは違う場所が返ってきたことにロロは眉間にしわを寄せながらもバイクをくり出す。

 

「病院?」

 

「ああ、少し用事が出来た。」

 

 ……

 …

 

「まぁ! ミレイさんが、先生に?」

 

「そうなんです!」

 

 総督の自室内で今夜もライラはナナリー自身が総督となって通えないことを察してか、

 アッシュフォード学園の様子を彼女に話していた。

 

「もう皆ビックリしたですよ~。」

 

「それは……私もビックリです。」

 

「です!」

 

「でもどうして急に? 確かライラちゃんの話だと、レポーターになると思っていたのに……」

 

「う~ん……どうもアッシュフォード家の再建の為みたいです。 あ! あと“その方が面白そうだから♡”とも言っていました!」

 

「(ミレイさん、変わりなくて良かった)────」

 

 ────“愛も絶望も羽根になり~♪ 不死なる翼へと~♪ 蘇れボクの鼓動~♪”────

 

「────歌?」

 

「あ、着メロです。 ハイもしもしアンジュ先輩、どうしたですか? ……え。」

 

 ガタッ。

 

「ライラちゃん?」

 

「あ、えっと……」

 

 ライラの纏う空気が揺らいで彼女が突然立ち上がったことでナナリーは不安になり、ライラは自分の携帯電話とナナリーを見る。

 

「その……“スヴェン先輩が倒れた”って。」

 

「え。」

 

「えっと、ええええと────!」

「────行っても良いですよ、ライラちゃん。 私の分もスヴェンさんの容態を見てきてください────」

「────ありがとうです!」

 

 タジタジになりながらもライラは通路へと通じるドアとナナリーを見比べ、察したナナリーの後押しによってライラはその部屋を後にする。

 

「……」

 

 部屋に残されたナナリーは祈るかのように手を合わせ、ただただ静かにもどかしさからか手をギュッと力強く握り合った。

 

 

 

 ザァァァァ。

 

「「「「“過労”?」」」」

 

 外で雨が降る中、病院に担ぎ込まれたスヴェンについての容態を医師から聞いたリヴァルやマーヤたちが復唱していた。

 

「正確にはケガも完治していないにもかかわらず、無理をしたツケで体が更に弱ってしまった状態ですね。」

 

 医師のあっけらかんな言葉にリヴァルやシャーリーたちはホッとしたり、様々な反応を示していた。

 

「(咲世子によると、こいつのスケジュールはハードだ。 だというのに中華連邦でカレンを取り戻した負担が残っていても学園に来ていたという事か?)」

 

 ルルーシュは咲世子によってスヴェンの事情を以前より更に把握できたことに、珍しく『同情』染みた考えをしていた。

 

「(まーたこいつは無茶をして……EUやブリタニアの時もちょっとは周りに頼りなさいよ……もう。)」

 

 アンジュはジト目になりながら肌色が更に真っ白になりながらベッドで寝ているスヴェンを見下ろす。

 

「(神様が倒れるほどの無茶をしてまで学園に通っていた……つまり、『近いうちに何かが起きる』とも捉えられる。 今、学園でここにいる皆のそばに居られる人の数が少ない。 危険を承知でアリスたちを呼ぶ? ヴィレッタや機密情報局を押さえているからある程度の隠蔽が出来るけれど学園にはラウンズがいる。 それに、彼をブリタニアの病院に連れられるのを阻止できなかった……)」

 

 マーヤは後悔をしながらも、スヴェンがこのような状態になるまで無理をしていた行動の意味を見出そうとした。

 

「…… (やっぱり、普通の男の子だよね?)」

 

 ミレイは(彼女から見て)初めて倒れたスヴェンに対してマーヤ以上に複雑な感情を抱いた。

 

「一応確認しますが、彼はシュタットフェルト家の方ですよね? でしたら、病院から連絡をしますが────」

 

 病院から出たルルーシュたちはそれぞれの傘をさしてからそれぞれの帰り道へと出て、リヴァルなどの別方向の者たちと別れていく。

 

「あ! その前に会長! じゃなかったミレイ先生! 庭園にハーブを備えたいのですけれど良いですか?」

 

「ん? 良いわよぉ? もしかして栄養満点スープとか?」

 

「そうなのか、シャーリー?」

 

「だってルル、去年ずっっっっっっっとピザばかりだったでしょ?」

 

「いや、アレは……その…… (ええい! あのピザ女め!)」

 

「ふ~ん? じゃ、シャーリーは胃袋を掴もうとしているの?」

 

「胃袋を掴む???」

 

「あー、さすがにこの『ことわざ』は分からないか。」

 

「取り敢えず、ハーブの苗を買ってくる!」

 

「じゃあ私も一緒に買うです!」

 

「ハーブなら園芸部に話せばわかると思うわよ? ……あ。」

 

「「……」」

 

「それじゃあ、俺から話すよ。 雨も止みそうに無いから二人は帰った方がいい。 体を冷やすのは、良くないからな。 スヴェンの見舞いに来て、俺たちが風邪を引いて寝込んでみろ。 知った彼は嫌がるだろうよ」

 

「あー、確かに。」

「確かに言いそうです……」

 

 ウキウキしていたシャーリーとライラの『お出かけ』を一刀両断してしまったミレイはバツが悪そうな顔をしてしまうが、ルルーシュの気転によって何とか回復した。

 

「ライブラちゃん、アレってもしかして迎え?」

 

 ミレイが見た先には地味な自動車のわりに黒いコーティングをされた窓と、黒いスーツを着ながら雨だというのに傘を差さずに立っているSPたち。

 

「ハイ、ムカエデス。」

 

「そ、そぉ。 ……また学園でね?」

 

「ハイデス。」

 

 少々ドンヨリとするライラの肩に、貴族令嬢だった若い頃の息苦しさを思い出しながら苦笑いを浮かべながらミレイは手を置く。

 

「ルル? 一緒に駅まで行く?」

 

「ああ、実はロロが待っているんだ。」

 

「ロロが?」

 

「“雨が降るから先に帰れ”って言ったのに地下の駐車場で待っているらしくて。」

 

「もう、ロロってば足が治ってもべったり引っ付くなんて本当にお兄ちゃんっ子ね!」

 

「ははは。 だからすまないシャーリー。」

 

「ううん、良いよ。 ルルのその顔で充分だから。」

 

「は?」

 

「♪~」

 

 シャーリーは鼻歌をしながらハテナマークを浮かべるルルーシュを後にして、スキップするのを我慢しながら傘をさして雨の中を歩く。

 

「(あーあ、出会った頃からルルってずっとロロのそばに居たから今度はロロが中々────)」

 

 車椅子に乗っていたロロの顔を思い出そうとすると────

 

 

 

 

 

「────あ、れ────?」

 

 

 

 ────()()()エリア11の総督であるナナリーが代わりに思い浮かべ────

 

 

 

 

 

 

「────あ、ああああああ────?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────とめどなく湧き出る水脈のように、シャーリーの頭は『現状』と『以前』の食い違いに頭が割れるような頭痛がしだして頭を両手で抱えた。

 

 そんなシャーリーから少し離れたところでレインコートに身を包んだジェレミア卿と、もう一人の男がトウキョウ租界内を徘徊しながら体の調子に気を使っていた。

 いわゆる『リハビリ』とも。

*1
アキト:流石だ。

*2
シン:フ。




東ユーラシアのアレが間に合いませんでした…… (;´д`)ゞ


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第237話 少々違う、『過去からの刺客(死角)』

……久々に『あの人たち』も登場してカオスです。 (;´∀`)


「フイ~……やっぱり肩は凝るな。 歳は取りたくないのぉ。」

 

 合衆国日本の暫定首都である蓬莱島に戻ってきた桐原はそう言いながらSPに囲まれながらしっかりとした足取りで歩く。

 

 「そう口で言いながらも、歳の割にとてもアクティブだがな。」

 

 「まぁまぁ、元気なことは良い事ですよ?」

 

 「そんな桐原殿も、(多分)冴子の前だから見栄を張っているワケですし。」

 

 そんな桐原の近くを歩く毒島の愚痴に近い独り言にレイラはワルシャワの老女たちを思い出してはホッコリし、神楽耶は一応のフォローする様な言を並べた。

 

 原作アニメなどより状況がよく、星刻たちが新興国である合衆国中華の領土に旧中華連邦の大部分を(紅巾党のリーフォンの活躍もあって)殆どは交渉のみで併合していった。

 しかし『東ユーラシア人民共和国』の宣言とブリタニアからの鎮圧部隊を返り討ちにした噂に感化され、ようやく得た自治権を手放すのが惜しくなって『合衆国中華の一部』になるよりは『同盟国となりたい』といった流れが出てきていたことで当初ゼロや星刻が計画していた軍による『威圧』と天子という名の『旗印』を大義名分にした、半強制的な合併が行使されようとした。

 

 ここで桐原からの提案で彼自身が赴き、再び外交交渉による『話し合い』が決行されるのだった。

 

 彼の提案とは『噂程度とはいえ、ブリタニアの部隊を退けたことが広まる前に一度東ユーラシア人民共和国と一度は話すべき』といった物。

 

『ブリタニアの部隊を撃退した』という噂が出ていたものの、ほぼ同じ時期に新興国となった合衆国中華より領土も人口も少ない東ユーラシア人民共和国から使者や大使が来るのが()()()()()なのだが桐原は気にせずに東ユーラシアへと行くことにしていた。

 

『社会勉強になるし気分転換にもなるだろう』と、桐原は遠足に出るような軽い言葉を並べながらいざ東ユーラシアに着けば明らかに歓迎されていない態度にレイラたちは面食らったが。

 

「(最初はどうなるかと思ったが、やはりかつて日本の裏を牛耳っていたご老人だ。)」

 

 合衆国日本の代表として桐原や神楽耶たちだけはどうかと思い、戦闘行為もこのころ減ったので体調も良かった星刻は自分たちを挑発する様な強気な態度────いわゆる取り付く島もないような条件を突き付けてきた東ユーラシアのシャオロン将軍たちを思い出していた。

 

 その条件とは『我々の軍門に加わるという前提なら話を聞いてもいい』という、はなから交渉を破綻させるような言葉。

 

 そして桐原曰く『東ユーラシアに交渉の意思はないが無用な争いを避けるためワザと交渉人を煽るような態度を取っていた』。

 

「しかしお爺様は悔しくないのですか?」

 

「うん? ワシはもう歳じゃが冴子をマジマジと見られたのは面白くないの。 正直不愉快で八つ裂きにして犬にでも食わせてやりたいわい。 ホッホッホッホッホッホッホッホ。

 

 桐原が纏う空気が一気に冷たくなり、彼の顔が影によって隠れるが殺気が出た瞬間とほぼ同時にそれらはパッと消え去った。

 

「コホン。 しかしあの場でワシらが怒ったり、感情的になればワシらの国が不利になる所か相手に抗議する材料を与えてしまう……して、神楽耶や黎殿(星刻)から『国』として見てどうだった?」

 

「私として受けた印象は『歪』でしたね。」

 

「……私も皇の者(神楽耶)と同意見だ。」

 

「うむ、ワシも同じ見解じゃ。 さ~て冴ちゃ────冴子にレイラ、理由は何故だと思う?」

 

「(今このご老人、『ちゃん付け』をしようとした? ……いや、気のせいだろう。)」

 

「うん? 私としては……そうだな、警備や兵士の装備品が従来の者が持つ物やそれより型が落ちる物が混じっていたから、『新しい国』としては統一感があまり見受けられなかったぐらいか?」

 

「(ほぉ。 やはり桐原泰三の孫だけにかなりの観察眼をお持ちだ。)」

 

「それとは別に、もう一つ気になることがあるのですが……ただその、私の思い違いかも知れませんが────」

「────それは何かね、レイラ?」

 

「装備が統一されていないのもですが、その……()()()()()ような印象でした。 まるで勢い任せに独立宣言したものの、トップの方針が末端の者にまで明らかにされていないような……」

 

「……そうじゃな。 神楽耶や黎殿(星刻)も同じ印象を受けたのだろうが、要するにあれは『国』としてはお粗末すぎる。 目的まではまだまだ判断材料は足りぬが恐らく、誰かが合衆国中華の勢いを利用して裏で糸を引いているのだろう。 それに……」

 

「「“それに”?」」

 

 桐原は歯切れの悪いまま、空を見上げる。

 

「いや、なんでもない。 (まずはゼロとスバルの意見を聞くか。)」

 

 この後、『スバルが倒れて租界の病院に運ばれた』というニュースがマーヤ経由でアマルガムの者たちに知らされて慌てるのだった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『超巨大砲』。

 

 その言葉は『大砲』が実現されてから軍人や砲弾学者をことごとく誘う単語であり、ロマンである。

 ただし現実化するにあたって致命的なまでのデメリットがあった。

『攻撃の範囲が砲身の直線方向に限定。』

『向きの転換に時間を要する。』

『より巨大になればなるほど運用が限定される。』

 

 などなど。

 

 つまりは『現実』という『重石』でシミュレーションや設計図でしかお目にかかれない、『夢』の一種。

 

 とくにナイトメアがロールアウトされてからは『素早さ』や『小回り』が何よりも大事にされ、今や『浮遊航空艦』などが出回っているご時世に『超巨大砲』など今では重戦車や巨大戦艦(ドレッドノート)のように『前近代的兵器』────時代遅れ(ロートル)のレッテルを貼られ、世界の技術者たちの大勢は早々に見切りをつけては次の研究対象に取り掛かっていた。

 

 だがもし誰かが研究を続けて、もし『電力』だけでなく『火薬』も視野に入れ、もしその誰かが空にある雲が撃ち抜かれるのを見てインスピレーション(閃き)を受け、もし電力による『電磁砲』と火薬の『多連薬室砲』を兼ね合わせた超巨大砲を設計し、もしそのハイブリッド式レールガンの設計が実現可能になったのなら……

 

 無論、これだけでは鈍足で方向転換のできない『超巨大砲』が出来上がり、そもそも砲身先の敵の位置も自力では測定できない。

 

 しかしここで色々な制限を付けられ、ブリタニアの目を盗んで独自の開発をしていたとある国等の産物でそれらは改善できてしまう。

 

 ユーロ・ブリタニアの自走砲のカンタベリーに、EUの超大型陸上戦艦と高高度観測気球である。

 

『超巨大砲』の形は概ねカンタベリーだが砲身は発射初速度を大きくするため多連薬室の補助に電磁砲式の砲身で異質的な初速。

 巨大な砲身を支える脚部の代わりに、ホバー機能を持つ超大型陸上戦艦。

 そして測定器には大気圏内スレスレまでの上空で哨戒移動をしている高高度観測気球。

 

 さて、ここで『砲弾に対する抵抗値は?』と思っているかもしれない。

 何しろ大気の中を移動するのなら、必ず『空気密度による空気抵抗』という壁に当たってしまう。

 

 例えばの話をここで出すと、旧日本海軍の戦艦大和は砲身長20メートルの主砲で約42キロ先の場所に1.5トンの徹甲弾の着弾に成功させている。

 

 これは空気の薄い高度を利用することで成功させている遠距離砲撃であり、肝心なのは()()()()()大気圏内を利用したところである。

 

 ここで『スーパーキャビテーション』と呼ばれている、()()()()()()()()()()であるキャビテーションの応用が出てくる。

 

『大気はガス』、それは間違いないのだが『空気』の物理的性質は『ガス』でありながら『液体』の流動性を持っている。

 所謂『液体は流動性』だが『流動性≠液体』である。

 

 さて脱線しかけたがキャビテーションとは液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象────空洞現象とも呼ばれ、スーパーキャビテーションは意図的にコレを大量発生させて周りの液体を気化させ、移動の際に発生する摩擦による抵抗力を大幅に減少させる()()()()移動方法である。

 

 これにより超巨大砲の()()は今までの『砲撃』から想像できない速度で大気を文字通りに飛来しては露払いの役割を担い、直後に発射された()()()()()が着弾しなくとも入力された地点で衝撃波を発生させて敵を駆逐する。

 

 これによりファクトスフィアやレーダー探知機に引っ掛からず、かつ巨大な破壊力を所持する『超巨大砲(スーパーキャノン)』が誕生したのだった。

 

「(まったく馬鹿馬鹿しいほどの憶測の数の上に建てられた仮説なのだが……現にユフィが世話になっているアマルガムは数々の理論上だっただけの技術を実現化させている。 あのリア・ファルなど、その『馬鹿馬鹿しい』の塊だ。)」

 

 ギアス嚮団の本拠地と思われる場所に近づくに釣れて『東ユーラシア』が所有し、ブリタニアの航空部隊を撃退したと思われる巨大兵器が移動の際に巻き上げる砂塵の影を、コンピューターアシスト付き暗視スコープの画像がほとんど何も区別が付かないほどぼやけるまで拡大したズーム越しに呆れながらそう考えていたコーネリアは、近くで普段はキリっとしているダールトンや仏頂面なオルフェウスが目を子供のようにキラキラさせているのを見る。

 

「(それよりも────)────お前たち、あの巨大兵器を見てから浮かれ過ぎていないか?」

 

「はっはっは、これはその……子供心をくすぐる、一種の『憧れ』ですな。」

 

「『巨大兵器』へのか。 オルフェウスの年頃だとまだ分かるが、お前(ダールトン)が言うとまた自然とギルフォードのジト目が脳裏に浮かんでくるぞ。」

 

「ギルが子供を持つようになれば、彼のその考えも変わりますよ姫様。」

 

「え~? クララはオルフェウスお兄ちゃんより年下だけどよくわかんな~い。 でもキラキラしているオルフェウスお兄ちゃんは可愛いから許せちゃう!♡」

 

「……このままあの巨体が通り過ぎるまで待つのかネリス?」

 

「あ。 元に戻った。」

 

 クララの声にオルフェウスはハッとしてはいつものポーカーフェイスに表情を戻すとクララはしょぼんとする。

 

「私の見たところ、()()は長距離戦に長けていると見ている。 こちらもナイトメアを出撃させて接近すれば何とかなるかも知れんだろうが、今はギアス嚮団の本拠地と思われる場所に潜入して確認することが先決。 むやみに動いて目立てば、我々が潜り込む前に場所を変えかねない。 変えていなくとも、乱戦になって首謀者を見逃す可能性が高い。 行くぞ。」

 

 コーネリアの言葉に4人はそのまま夜の暗闇に溶け込む迷彩柄と暗い色をしたフード付きマントを羽織っているにも関わらず丘などを利用して出来るだけ身を隠したままギアス嚮団の本拠地の入り口周辺に必ずあると思われる、半壊した遺跡近くへと急ぐ。

 

 そのまま辺りを観察して一時間ほどが経つと、人気が無かった遺跡の()()から人が出てきてはタバコに火を点ける。

 

「当たりですな、姫様。」

 

「ネリスはどうする?」

 

「そう言うオズたちはもう乗り込むのか?」

 

「少なくとも、内部の構造を把握したい。」

 

「同感だ。」

 

 

 

 

 

 コーネリアたちが潜入中であるギアス嚮団の地下都市にある一つの研究所内では小声で話す研究員たちがいた。

 

 「バトレー将軍! 逃げましょう!」

 

 「外に出てどうする?!」

 

 その中には狼狽える様子のバトレーもいた。

 

 「夜とはいえ、外はほぼ荒野と砂漠! ナイトメアのファクトスフィアにすぐさま捉えられれば最後、射殺されるだけだ! それに今まで何人が試みて成功した?!」

 

 「ですがジェレミア卿たちの調整が終わり、二人ともが留守にしている今がチャンスです!」

 

 「それに夜以外は()()が目を光らせています! それにこの頃将軍も聞こえるでしょう、地鳴りを! きっと地上で地上戦艦が稼働しているということは、もしかしてブリタニア軍が────!」

 「────それで我々が安全だという保証はどこにもない────!」

 

 ────カァン

 

「「「ッ?!」」」

 

「誰も動く────って、お前はバトレー?!」

 

「そ、そのお声はコーネリア皇女殿下?! よ、良かった……」

 

 天井の通気口にはめられた網が外れると部屋の中に居た全員が見上げ、素早く動いた何者かが着地するとほぼ同時に銃を突き付けてバトレーがいることに驚愕するコーネリアの声に彼は安堵するような声を出す。

 

「あれれれ? お知り合い?」

 

「クララ、シッ。」

 

「バトレー、なぜ貴様がここに居る? まさかお前も、嚮団の────」

「────ち、違います! 我々は攫われたのです! お助けください────!」

「────ハッ! 攫われただと? 人参役者(クロヴィス)の部下だった頃から演技者と思っていたが、まさかギアス────」

「────そ、それよりも皇女殿下、我々は新大陸で宰相閣下(シュナイゼル)の命で遺跡の調査をしていて気付けばここにチームごと()()されてはここの皇帝陛下直属の研究機関の一部として無理やり作業させられているのです!」

 

「……皇帝陛下直属だと?」

 

「皇女殿下が先ほど仰られた“ギアス”だけでなく、世界にある遺跡の調査などや()に関する研究をも────」

「────昔からオカルト好きとは思っていたが、まさか宗教まで守備範囲だったとは流石に意外だったぞバトレー。」

 

「茶化すなダリル(ダールトン)!」

 

「先に冗談を言ったのはそっちだろう? それともようやく狂ったか────?」

「────私は正気で真面目な話をしている! それよりも、早く我々をここから逃がしてください! 我々の仮説が当たっているとなると────」

「────分かった、出来ることはしよう────」

「────ありがとうございま────!」

「────だがまずはここの見取り図と警備体制を教えろ。」

 

「で、ですが────!」

「────我々としては、どちらでもいい。 元々お前と私たちは顔見知り程度だからな。 ああ、陰口も少々あったなそう言えば。」

 

「クッ……お前たち、さっさと地図を描け!」

 

 バトレーはコーネリアのネチネチとした言葉に、コーネリアに対するクロヴィスの陰口に笑ってしまった自分を恨みながら汗を拭きだしながらも近くの研究員たちに指示を出す。

 

「それとバトレー、さっきの話でなぜ『神』が出てくる?」

 

「それがこの研究機関はどうやら比喩表現などではなく『神は実在する』という前提でその神を殺す武器の作成を元に作られた様子で……そ、それよりもコーネリア皇女殿下! 今の外部の世界では異常などが発生しておりませんか?!」

 

「正直『異常』の定義がここ最近、揺らいでいるのでな。 何故だ?」

 

「この世界はもしかすると我々の誰もが思っている以上に複雑な成り立ちと時間が経っているのかも知れないのです!」

 

「?????」

 

 コーネリアは『何を言っているんだこいつ?』と言いたそうな顔を浮かべそうになるのを、表情筋に力を入れて阻止した。

 

「バトレー、お前……何を言っているんだ?」

 

 ダールトンは素直に感情のまま言葉を並べ、オルフェウスも内心で彼に同意した。

 

「ええええい! 相変わらず単純な男だなお前は! 一々説明している時間はない! 取り敢えずここを脱出しないといけないのです、()になる前に!」

 

「『アレ』だと? それにそもそも今は夜明け前だぞ、何を警戒────?」

「『────許可なく見動きするな、声も上げるな。』」

 

 その()に、室内に居た全員は金縛りに合ったかのように硬直した。

 

 カッ、カッ、カッ、カッ。

 

 誰かの足音が響き、静まり返った部屋の中に入って来てコーネリアたちが(内心で)驚愕する。

 

 もし口が利ける状態だったのなら、こう思わず怒鳴り叫んでいただろう。

 

 

『何故お前がここに居る』、と。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「おい、シャーリー。」

 

「……」

 

「シャーリー。」

 

「……」

 

 ポン。

 

 ?!」

 

「うぉ?!」

 

 アッシュフォード学園の水泳部用の更衣室内では部活動が終わって他の者たちが着替え終わっても一人でボーっとしているシャーリーにヴィレッタが何度か声をかけても反応がなく、手を肩に置くとシャーリーは一瞬だけひどく怯えた様子にヴィレッタは戸惑う。

 

「ぁ……ヴィレッタ、先生……」

 

「大丈夫かシャーリー? 酷い顔色だぞ?」

 

「う、ううん! 何でもない……です……」

 

「ここ最近、何かあったのか? ……もしやルルーシュが────?」

「────何でもないです! ルルは何もしていないです! 何も……何も……

 

「そ、そうか。 体調が悪そうだったら部活を休んでも良いんだぞ?」

 

「その、本当に、何でもないですから……」

 

 “何でもない”とそう口にするが、シャーリーはあの夜から全く熟睡できずにいた。

 

 起きている時の彼女は今までナナリーの代わりにロロが居た()()()()は勿論の事、学園が休業中だった頃はナナリーの代わりにクララが違和感なく学園に居座っていたことを不気味がっていた。

 

 何しろシャーリーはしっかりと見て思い出せる。

 ロロやクララがブラックリベリオン時に、自分たちを守ろうとした謎のショートカット少女(マオ(女))を容赦なく襲っては平然と死んでもおかしくない深手を負わせて、生徒会員たちを動けなくしてはナナリーを攫ったところを。*1

 

 そしてシャーリーが『恐怖』として感じていたのはその時の出来事より、『クララをナナリーと思い込んだ』ことや今の『ナナリー=ロロ』という衝撃と何故周りの誰もがこの食い違いを平然と受け入れているのかというショックだった。

 

「(そう言えば今考えれば、生徒だけじゃなくて教師も殆んどが入れ替わっている……もしかして、教師もグル? だったら、ヴィレッタ先生────)」

「────シャーリーさん、どうしたんですか昔のアルバムを見────?」

「────ッ?!」

 

 パタン!

 

 背後からロロに声をかけられてシャーリーはドキリとし、思わずナナリーが様々な写真から消されているアルバムを勢いよく閉じてしまう。

 

「ぁ……えっと、その……ロ、“ロロってずっと車椅子だったんだな~”って思い返していただけ!」

 

「え? うん、そうだけれど……急になんで?」

 

 ロロが一歩近づくとシャーリーは今も飛び上がりたい衝動を我慢し、思わず『バクバクと力強く脈を打つ心臓がロロに聞こえてしまうのでは?』と焦る。

 

「それにしてはその、普通に歩いたり走ったりできているなぁ~って。」

 

「ああ。 手術後もリハビリをしていたし、兄さんも手伝ってくれたから。 ブリタニアの医学が凄いことを再確認したよ。」

 

「そ、そうよね。 凄いわねぇ~……ルルは? 勉強を見てもらっていたんでしょ?」

 

「兄さんならイケブクロに用事があるって、出かけちゃった。 それにミレイ先生は会議で、リヴァルさんもバイクの車検で、ジノさんたちは政庁。 だから、()()()()()()()だよ────」

 

 ────ガタッ!

 

「そっか! 私も実は────!」

 

 ────ガチャ────

「────アーサーをお風呂に入れおわってただいま戻りましたです────!」

「────ライブラちゃん、新しいブティックを見に行きたかったんだよね確か! 今時間あるから行こう────!」

「────です?!」

 

「にゃ?!」

 

 シャーリーはロロの言葉にとうとう我慢できなくなり勢いよく椅子から立ち上がり、それっぽいことを口にしては強引にライラの手を取ってびっくりしたアーサーは床に飛び降り、シャーリーはライラと共にその場からいなくなる。

 

「……」

 

「にゃ~?」

 

 呆気に取られた表情を浮かべるロロはシャーリーの見ていたアルバムに視線を移すと、アーサーはハテナマークが似合うような様子でロロを見る。

 

 ピリリ♪ ピリリ♪

 

 そんなロロの携帯電話が鳴り、彼は着信相手が『Baron Nu(ヌゥ男爵)』と出るのを見ては携帯電話をポケットの中に戻し、部屋を出てはクラブハウスの外に止めてあったバイクにまたがって租界へと繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

『ピリリ♪ ピリリ♪』

 

「ロロ、電話に出ろ! 出てくれ!」

 

 機密情報局の地下アジトにいたヴィレッタはスクリーンに映し出された報告に焦りながらロロが電話に出ることを願っていた。

 

 スクリーンには『どこぞの仮面仮装パーティにでも出かけるような半面仮面と服装をした二人組がルルーシュ・ランペルージの事を聞きこんでいる』といった、租界内に潜伏している機情のエージェントたちからの報告が映し出されていた。

 

 ヴィレッタは繋がらない電話を切り、別の番号に電話をかけた。

 

「……もしもし、私だ。 シャーリーの様子が変で、ロロが後を追うように出た。 ライラ皇女殿下もシャーリーが連れ出していて、彼女も危ないかもしれん。 それと妙な二人組がルルーシュの事を嗅ぎまわっている……ああ、私も咲世子に連絡を取ってすぐに向かうつもりだ。 事が事だけに、出来るだけ機情と私たちだけで治め────」

*1
78~79話より




後書きEXTRA:
スヴェン:・ ・ ・ ・ ・ ・ (死ぬほど暇だ。)
アンジュ:なにその暇そうな顔? いいから休みなさい。
ピリピリピリ♪ ピリピリピリ♪
スヴェン:携帯が鳴っている。
アンジュ:はいはい…………………………ナニコレ。
スヴェン:どうした?
アンジュ:ウハ、ウハハハハハハハハ~。 (目を逸らす
スヴェン:こっちを見ろアンジュ。


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第238話 少々違う、『過去からの刺客(死角)』2

ほぼSIDEブリタニアの次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m

追記:
色々なところで色々なハプニングが多発してしまっていますが、なるべく展開を進めようと思っています。 (汗


 ガチャ、チャリーン♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

 世界を騒がせた『ゼロ復活』と同日に起きたバベルタワー事件後から数カ月たった今、トウキョウ租界の経済を立て直す為────そしてイメージ向上という思惑も兼ねた────新たなカジノの初日はよりクリーンな環境と見た目のおかげかブリタニア人、そして行政特区日本から従業員として働きに来ていた名誉ブリタニア人たちの双方からかなりの人気が出て、活気に満ちていた。

 

 中心には大きな噴水やその周りにルーレットやポーカーテーブルに空気清浄機を様々な緑に偽装したオブジェ。

 

「賑やかな音……」

 

「中華連邦でのクーデターなどで世界の緊張感が高まっているからね、人はこの様な時にこそ嗜好品などで心を紛らすのさ。」

 

「それも兼ねて、経済的にもこちらが助かる……『初日にしては予想通り』だ。」

 

 そんなカジノのオープニング初日にナナリーとシュナイゼルにクロヴィスの三人が視察に来ていた。

 

「それにしても、少し驚いたよ。 噂ではクロヴィスがあの事件後、まさかエリア11の文化を推すだけでなく名誉ブリタニア人にもこうして手を差し伸べるとはね。 何が君をそこまで変わらせたのだい?」

 

「『ゼロが引き抜いた100万人を補うためにはこれぐらいしないと』、と思ったまでだよ。」

 

「はっはっは。 そういう事にしておくよ。」

 

「昔からクロヴィスお兄様はこうした贈り物が好きでしたし。」

 

 ナナリーの言葉を聞かなかったふりをしてか、クロヴィスの視線は他の場所へと泳いだ。

 

「そうだね。 ハッキリと言えばいいのにわざわざ回りくどいのも、彼の長所であり短所でもあるのだけれど。 何せナナリーが生きていると知った時、『号泣した』と聞いているしね。」

 

「本当ですか、クロヴィスお兄様?」

 

「・ ・ ・ ハテ、イッタイナンノコトデショウカ?」

 

 冷や汗を流し始めたクロヴィスの口調がぎこちなくなったところでシュナイゼルとナナリーが微笑ましい表情を浮かべる。

 

「そう言えばカノンさんは?」

 

「カノンなら、ギルフォード卿たちのところだよ。」

 

 シュナイゼルが視線を移し、スロットマシンの近くにいるカノンとギルフォード、そしてスザクとジノと背中がぱっくり露出してムホホなカクテルドレスを着たセシルたちを見る。

 

「へぇ~、変わったスロットの形だなぁ~。」

 

「これって……パチスロ?」

 

「パチスロって何だスザク?」

 

「エリア11で発達したスロットマシンなんですよ、ヴァインベルグ卿。 回る絵柄を揃える三つのボタンを押すんです。」

 

「なるほど! やってみようぜスザク!」

 

「じゃあ取り敢えず同じ絵を三つ揃えるところからだね。」

 

「ほぉ、これは驚きですね。 まさかセシルさんが賭け事に詳しいとは。」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

「ストレスがたまる職場にいますから♪」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

「……ああ、確かに。」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

 セシルの生き生きとした表情に、ウィスキーグラスを持っていたギルフォードはポワポワしながら皇帝を『クルクルちゃん』と称するロイドを思い浮かべては納得した。

 

「本当にギャンブルって、ストレス解消になるものなのかしら?」

 

「じゃあ今度、三人でギャンブルしましょうよ!♪」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

「それは良いわね……私もラウンズや皇族ばかりの周りにいて肌が……」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ♪

 リンリンリンリンリンリン♪

 

 カノンの顔が憂鬱なモノになりかけ、カノンの視線先を見たセシルとギルフォードがギョッとする。

 

「どうしよう……コインバケツが足りない……」

 

「スザク~、これ遅すぎてつまんねぇ。」

 

 スザクとジノの足元に大量のコインが入ったバケツが数個あることに、先ほどから聞こえてきた当たりの音がこの二人によるものだったと理解した。

 

「まぁ、オープニング初日だからきっとワザと遅く回っているんだよ!」

 

「あ、そうか! 『サービス』ってヤツだな! いくら何でも遅すぎるからな! あはははは!」

 

「でもどうしよう、これ……換金しても良いのかな?」

 

「良いんじゃね? 出来なければツケにして貰ってここの下のフロアのモールで何か買いに来て遊ぼうぜ!」

 

「それもそうだね!」

 

 「……これだからラウンズって……」

 

「「(うわぁ……)」」

 

 能天気『我が道を行く』ジノとスザクのやり取りを聞いては更に淀むカノンの雰囲気に、セシルとギルフォードは内心で色々と察しては同情した。

 

「そ、そう言えばもう一人のラウンズの方は?」

 

「アールストレイム卿なら写真を撮りに────あ。

 

「???」

 

 セシルが顔を別方向に向けると固まってしまい、ギルフォードが見るとアーニャがフロア中心にある噴水を上ってその上から写真を撮っていたところを見る。

 

 余談で彼女のラウンズ正装は慌てながらどう対処すればいいのか迷っている従業員たちの服装と違ってまったく水に濡れていなかったとも。

 

「ハァー……これだからラウンズって……」

 

 ようやく撮れた写真に満足したのか、アーニャは全く怯む様子もなくそのまま噴水の上から一気に飛び降りてはカジノの従業員たちを驚かせる。

 

 そして彼女はそのまま噴水の上から()()していたビュッフェスタイルのテーブルから様々な料理をお皿に乗せてはナナリーの居るところにそれを持っていく。

 

「??? 私の気の所為かな? あの二人、よく一緒にいるような気がするのだが……」

 

「きっとアールストレイム卿がナナリー総督との歳が近いからですよ。」

 

 セシルとギルフォードは従業員にアーニャの奇行の説明(フォロー)しに行くカノンの様子に自分たちを重ねないように意識をワザと背けた。

 

「ナナリー総督、珍しい料理があった。」

 

「その声、アーニャ? ……あら本当! パンケーキとフルーツのソースが! これは何て言うのですか?」

 

「カイザーシュマーレン。」*1

 

 「……フ. (次はライラだな。)」

 

 嬉しい顔を浮かべるナナリーを見て(プチ)どや顔を浮かべたクロヴィスだった。

 

「それと他にもプルプルしたモノとか────」

「(────お兄様(ルルーシュ)が好きそうな物ですね────)」

「────あと()()()()とか()()()()。」

 

「……??? “ぴくぴく”? “ウネウネ”?」

 

「はい。 ピクピクとウネウネ。」

 

 ナナリーはアーニャの表現にハテナマークと共にもやもやとした不確かな想像を頭上に浮かべた。

 

「(あ、あれは()()のテーブル!)」

 

 そしてクロヴィスはアーニャが見ているテーブルに視線を移すと再び冷や汗を流した。

 

「ではそれも食べてみます!」

 

「(ノォォォォォォォォォォォ?!)」

 

 クロヴィスは『もしこの流れでライラまでが珍味に興味を示したら』と思い至ると真っ青になり、悲鳴にならない叫びをあげながらナナリーたちの後を追いかけるため頭文字〇並みのドライブ(?)テクを披露した。

 

「たっだいまぁ~♪」

 

「あ、ロイドさん。 さっきまで珍味コーナーにいたんじゃ────?」

「────ナナリー皇女殿下とクロヴィス皇子殿下が来ちゃってね、ちょっと面倒なことになりそうだったから逃げてきちゃった♪」

 

 ロイドの言う『逃げてきちゃった♪』にセシルたちが珍味コーナーを見るとやはりクロヴィスがオブラートに包んだ『食べるな!』に対してアーニャの『ゴーイングマイウェイ(あ、そ)』がさく裂し、ナナリーは周りの者たちと同様の困った顔を浮かべていた。

 

「それにしても、アーニャとナナリー皇女殿下ってよく一緒にいるよね? やっぱり年が近いからかな?」

 

「それ、先ほどセシルさんが言ったことと同じですよロイドさん────」

「────え────」

「────ギ、ギルフォード卿────!」

「────あっは~♪ じゃあ()()セシル君に先を越されちゃったねぇ~♪」

 

「(…… “また”?)」

 

「セシル君やロイドたちが言ったように歳もあるだろうけれど、もしかすると魂の部分で引かれあっているのかもしれないよ?」

 

「『魂』~? シュナイゼル殿下から、そんな非科学的な言葉が出るなんて────」

「────あらいいじゃない。 『魂』なんて、ちょっとロマンチックで素敵じゃない?」

 

「ま、心が無くても立派に生きている人間もいることだし♪」

 

「本当にそうなのよねぇ~……」

 

「はっはっは。 そこで何故私を見るのかな、カノン?」

 

 一気に温度を下がらせる様なシュナイゼルの雰囲気にセシルとギルフォードは思わず一歩下がりそうになるが、カノンは飄々としたまま言葉をつづけた。

 

「感心しているのですよ、殿下ほど『私情』を『己の責務』から切り離せる人を私は見たことがないですから。 私たちが初めて会った頃を覚えていますか?」

 

「勿論だとも。」

 

「う~ん、ノーサンブリア寄宿舎だねぇ~♪」

 

「??? 失礼、ロイドさんはその……」

 

「うん? ああ言っていなかったっけ? ボクとシュナイゼル殿下にマルディーニ卿って同期なんだ♪ あ、もちろん大学は別だったけれど。」

 

「は、はぁ……」

 

 ギルフォードは知りたかったような、知りたくなかったようなことを初めて聞いてこれをどう脳内処理すれば良いのか迷った。

 

 これから更に迷うこととなるのだが。

 

「殿下はあの頃から完璧で、監督生としては優しいだけでなく規律を守るためには乗馬用の鞭の使用も厭わないほど容赦がなかった。」

 

 「「え゛。」」

 

「結果的にあの一件以来、卒業まで他の誰にも鞭を使用せずに済んだけれどね。」

 

「ええ、あの時点で問題児だった私を見せしめにするのが最良の手段でしたわ。」

 

「だが聡い君は納得してくれただろ?」

 

「ええ。 そんな殿下だからこそ、これからの行き先を見届けたいと思ったのです。」

 

「「………………………………………………」」

 

 セシルとギルフォードは未だに『乗馬用の鞭を体罰にシュナイゼルが使用した』という事に宇宙猫を大量生産呆然として思考が停止しかけていた。

 

「ンフフフ~♪ その顔、久しぶりに見るけれどやっぱり良いものだねぇ~♪」

 

 ロイドは愉快な気持ちを表す上機嫌な笑みを浮かべた。

 

「殿下~!」

 

「「「「ん?」」」」

 

 ジノの呼ぶ声にシュナイゼルたちは彼の方を見ると、彼はカードゲームのテーブルで独り勝ちをしているかのような絵図を見る。

 

「ちょっとこっち来てくれませんか~? スザクもここにいる人たちも弱すぎて全然勝負にならないんですよ! あ、ギルフォード卿もどうです~?」

 

「一応スロットでは勝ったのに……」

 

 スザクは少々(?)いじけながら上記を独り言のように零した。

 

「私はその……仲間と戦うのはどうも気が引けるので、遠慮します。」

 

 ギルフォードは苦笑いを浮かべた。

 

「(スザクもギルフォード卿も素直すぎるから……)」

 

 セシルは微笑ましい気持ちになった。

 

「ほほぉ……これはどうするべきと思うかね、カノン?」

 

「勝負ごとに弱い指揮官の元で動く部下は、不安になるでしょうね。」

 

「ロイド君は?」

 

「いっそボッコボコにしちゃった方がいいんじゃないかなぁ~、マルディーニ卿の時みたいに♪」

 

 サァァァァ。

 

「あれ? お二人ともどうしたんですか?」

 

「あ、あとで話すわねスザク君?」

 

 ロイドの言葉にセシルとギルフォードは真っ青になり、これに気付いたスザクの問いにセシルはぎこちなく答えた。

 

「それと今日も綺麗ですよ、セシルさん。」

 

「も、も、もう! ちょっとはTPOを弁えて!」

 

「へ?」

 

「では副官と同期たちの了承も得たことだし、完璧に叩き潰して見せようかな? ()()()()()()()からね。」

 

 チャーチャララ~♪ チャーチャーチャララ~♪

 

 スザクの携帯電話から今エリア11内で流行っている、ランスロット仮面の特撮番組のオープニングテーマが流れ出すとスザクは困ったような表情を浮かべる。

 

「あ、すみません。 これ取ります。」

 

 それを最後にスザクは恐る恐るとヒートアップしていくシュナイゼルとジノのバカラ勝負から遠ざかった(逃げた)

 

 スザクは周りに誰もいないことを確認してから彼が個人的に持っている電話ではなく、暗号装置が付いた携帯電話に出る。

 

「もしもし? 意外だね、君が僕に電話をしてくるなんて。」

 

『ごめんね、正直いま……誰を信じればいいのかわからなくて……』

 

「何か、あったのかい?」

 

 ……

 …

 

 スザクがカジノで電話を受け取るより時間は少しだけさかのぼる。

 

「シャーリー先輩? リニアカー、一周しちゃったですよ?」

 

「う、うん。 そうだね、ライブラちゃん。」

 

「ブティック、行かないのです?」

 

「うん……」

 

「ふ~ん……そうですか。」

 

 租界の外縁部地区を沿りながら走るリニアカーの中に同じ人が出入りしていないことと、一周しても降りない人が他にいないことをシャーリーは確認していた。

 

 これは彼女なりに考えた、あるのかどうかも分からない尾行や監視への対策……

 あるいは、単純に動転しそうな自分が落ち着く為にワザと租界をぐるぐると回るリニアカーにただ乗っていただけかもしれなかった。

 

「♪~」

 

 こんな自分勝手な行動に巻き込まれてもリニアカーの中から景色を楽しむライラを見たシャーリーは通常時だと胸がちくりと痛んだ。

 

 だがそれよりも、今の彼女はごちゃ混ぜになっていた記憶の整理をしながら必死に平然とした態度に専念していたためにライラに対しての気持ちは一瞬だけで、シャーリーは車内にある広告を見る。

 

「(どうしてナナちゃん(リー)の事を忘れていたんだろう? そしてあの子の代わりにロロやララちゃん────“クララ”がいて……その上ルルや会長(ミレイ)たちや学園の皆はその入れ替わりやナナちゃんが総督になっていることを平然と受け取っている……おかしいのは私だけ? 学校だけ? それとも租界全体? あるいは周りの皆がグルで何かが起きている?)」

 

 そう疑心暗鬼になりそうな瞬間、シャーリーは周りの人間たち全員がオペラなどで見る様なのっぺりとした薄笑いの仮面を『顔』の代わりに付けているのを連想してしまい、彼女の背筋はゾッとした寒気を物理的に振り払うかのように頭を振る。

 

「(違う。 ルルに限って、ナナちゃんが巻き込まれているのならそんなことはしない筈……だから何らかの事情がきっとある筈。 もしかして、脅迫されている? あの時に……ブラックリベリオンで見たロロやクララを見た後だとこれが一番しっくりと……でも、それだとしても色々と説明がつかないし違和感が残っちゃう……)」

 

 そこでシャーリーは考えた。

 

『誰に相談できるか』を。

 

「(ルルは当事者で、ルルの事だから私が心配しないように言いくるめられるような気がする。 会長(ミレイ)は教師になったばかりで、いま私が私用で租界に呼び出せば周りから不自然がられちゃうかもしれない。

 リヴァルは……リヴァルだし、ニーナは学園にいないことを考えるともしかしてルル以上に大変なことになっているかも……

 スヴェンも倒れちゃったし、アンジュさんは彼の見舞い。 マーヤは……マーヤはどうなんだろう? そう言えば急に学校に来るようになったのも、黒の騎士団が出来たすぐ後……もしかして黒の騎士団が関係している? でも黒の騎士団はブリタニアと対峙しているし……

 そう言えば、カレンもアリスちゃんもブラックリベリオン時から行方不明も関係しているの? 

 ……分からない……誰に話せばいいの? 誰なら話せるの? 他に誰か今の状況を不自然に思っていないの?)」

 

 そこでシャーリーは意を決してから、同じリニアカーに人が居なくなってから()()()電話番号に電話をかけた。

 

 判断条件は『ナナリーを以前から知っている人』、『彼女とルルーシュとも仲が良い人』、『それなりの地位や権力を持ちつつ自由に動ける人』、『すぐに連絡が付ける人』、そして『密談に乗ってくれそうな人』。

 

 シャーリーにしてはかなりしっかりとした判断な上に普段はしない警戒ではあるが、無理もない。

 彼女からすれば自分はほぼ『孤立状態』な上に『危険な状況下』で『想い人の危機(かもしれない)』。

 用心するに越したことは無いと彼女は感じていた。

 

『もしもし?』

 

「……スザク君、今いいかな?」

 

 シャーリーが電話したのはナイトオブラウンズであり、今トウキョウ租界に居て、ルルーシュとナナリーとは昔から仲がいいスザクだった。

 

『意外だね、君が僕に電話をしてくるなんて。』

 

「ごめんね、正直いま……誰を信じればいいのかわからなくて……」

 

『何か、あったのかい?』

 

「その、出来れば会えるかな? 時間、大丈夫?」

 

『……時間? 大丈夫だと思う……多分。 どこで落ち合う?』

 

 シャーリーが次にリニアカーが止まる駅を見る。

 

「オオクボステーションで、良いかな?」

 

『大久保? いいよ────』

「────それと、出来れば内密に話したいところで。」

 

『……わかった。 駅の近くに中央公園があるから、駅で合ったらそこで話そう。』

 

「うん……ありがとう。」

 

 ピ♪。

 

 シャーリーは電話を切り、ホッと息を吐きだす。

 

「今のって、スザク先輩です?」

 

「ひゃ?!」

 

 ガシャ!

 

 そこでシャーリーの横から来たライラの声に思わず携帯電話を落としてしまう。

 

「ら、ら、ライブラちゃん?! ど、ど、どうしてここに?! なんでもっと早く声をかけなかったの?!」

 

「だってシャーリー先輩、声をかけても全然見てくれなかったです。」

 

「どこに行っていたの?!」

 

「隣のコンパートメントです! それで今の、スザク先輩だったです?」

 

 ここでシャーリーはライラの事をすっかり忘れてしまったことに焦った。

 

「(どうしよう……もしライブラちゃんも関わっていたら……ううん、関わらなかったとしてもこれからスザク君と会うことをどうやって説明すれば────ハッ?!)」

 

 ここでシャーリーの脳裏を過ぎったのは、ブラックリベリオン後の騒動と共に租界内の治安が落ち着いてから学園に戻ってきたライラが『ロロ』と久しぶりに再会した(初めて出会った)際に、ライラが一瞬だけ躊躇した記憶だった。*2

 

「(そう言えばライブラちゃんって入学時からずっとナナリーの傍にいたのに、戻ってきたあの時からずっとスヴェンやアンジュさんやマーヤさんの近くに居ようとしていた? だったらもしかして……)」

 

「どうしたです~?」

 

 「……ねぇ、ライブラちゃんって()()()()()の事をどう思う?」

 

 シャーリーは胸の高鳴りと共に慎重に言葉を選びながら、小声となけなしの勇気(希望)で平然さを装うために空を見上げるとワザと昔の呼び方でナナリーを話題に出す。

 

「(ライブラなら『不敬罪』とかうるさくないし、最悪でも“ナナリー総督の事?”とか聞き返して来る筈)」

 

「────シャーリー先輩……もしかして、()()()()()です?」

 

「え?」

 

 シャーリーは予想していなかったライラのホッとしつつもどこか不安がる表情と言葉に戸惑った。

*1
『ドイツバイエルン州の定番』とも呼ばれるデザート

*2
179話より




余談でシュナイゼルはカジノの出禁にならなかったものの、『遊び』にストップがかかりました。 (;´ω`)


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第239話 少々違う、『過去からの刺客(死角)』3

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂ければ幸いです!


「「……………………」」

 

 シャーリーとライラは()()から無言のまま、オオクボステーション(大久保駅)のモールを歩いていた。

 

 距離は近すぎずかつ遠くもなく、なにかというとぎこちない距離だった。

 

 ちなみに『あれ』とは無論、シャーリーがナナリーを『皇女殿下』としてではなく『アッシュフォード学園にいた頃の名称』で呼んだ事に対してライラが口にした『思い出した?』の問い。

 

 そして『ぎこちない距離』の理由は────

 

「(先ほど聞いた“思い出した”とは一体どういう意味かしら?)」

 

 ────マーヤがほぼライラの問いと同じタイミングでその場に出くわした所為である。

 

 シャーリーから見て『マーヤ』という『不確定要素(第三者)』が出てきたことにより、ライラとの会話を続けるのは危険と思い、ライラの言葉の意味をはぐらかした。

 

「(一体どういうことなの? こんなタイミングで、マーヤが来るなんて……偶然? それとも意図的? もし前者ならまだマシだけれど、後者なら────)」

 

「(シャーリーの言動がおかしい……何かあったとしか考えられない。 聞きたいけれどここにはライラもいる。 もしルルーシュの事ならば、ライラのSPたちを経由してブリタニアに情報が漏れる可能性が出てしまう────)」

 

「(どうしよう……シャーリー先輩がナナリーの事を思い出して嬉しいのに、この重い空気はどうすればいいのです────?)」

 

「────あれ? シャーリーにマーヤにライブラなんて珍しい組み合わせだね?」

 

 シャーリーが悶々とそれぞれが考えているとサングラスと私服で変装(笑)をしたスザクに声をかけられる。

 

「あ、うん……」

 

「?! (ナイトオブセブンの枢木スザク、なんでここに?!)

 

「スザク先輩?!」

 

 シャーリーが迷うような様子に気付かず、マーヤたちはビックリした。

 

「えっと……また別の日にした方がいいかな、シャーリー?」

 

「(どういうこと? シャーリーとスザクが待ち合わせをしていたの? 一体何のために? もしや、裏で繋がっていたというの────?)」

「────シャーリー? それにマーヤとラ────スザク?!」

 

 背後から来た声にスザクが振り向くと、そこには────

 

「る、ルルーシュ?」

 

 ────ルルーシュがいた。

 

 少しだけルルーシュ側の話をすると彼はエリア11全体を天秤に賭けた、来ると予想されている決戦の下準備の確認にとある駅にある車両メンテナンスプラットフォームに来ていた。

 

 その『とある駅』とはオオクボステーションで、プラットフォームの中にいた作業員や警備員たち全員には既にギアスをかけているので実質は黒の騎士団────否、今の時点で『租界の何割かは既にゼロの支配下にある』と言っても過言はないだろう。

 

 場所も人員も限定的ではあるが、現時点でルルーシュと潜入可能な黒の騎士団員によるトウキョウ租界内の根回しはほぼ終えていた。

 

 だがどれだけ準備してもやはりスピード勝負にはなると、ルルーシュが危惧していたのはブリタニア側の駐在戦力にある第5世代以降の機体を私有しているスザクを含むラウンズたちにグラストンナイツたち。

 

 何せ今確認した根回しの中心は、『ゲフィオンディスターバによる大規模な租界全体のジャミング』……なのだが、何度もランスロット相手にゲフィオンディスターバを披露しただけにロイドたちキャメロットによる対策がラウンズ機全てと第6世代以降のナイトメアに急ピッチで施されていた。

 

 とはいえ黒の騎士団も強化を目指した。

 紅蓮・強襲型から取り寄せたデータを元に、ラクシャータたちは紅鬼灯や斬月を初めに暁などにも改良した飛翔滑走翼や対ブレイズルミナス装備なども合衆国中華の協力で何とか準備も進んでいた。

 

 ここでルルーシュはプラットフォームから駅へと続く作業員用の出入り口から平然を装いながら、考えを続けた。

 

『しかし、これだけでいいのだろうか?』、と。

 

 実はこの頃、ルルーシュは『すべてが順調』と思った矢先に何らかのアクシデントやイレギュラーがことごとく起きていることに、『評論家』である思考部分が上記の懸念を浮かべさせていた。

 

 表面上、合衆国日本の相手はエリア11の上層部に居るギルフォードたち。

 だが実際はシュナイゼルが裏で糸を引くことになるだろうと懸念していたルルーシュは決定的な打撃を与えられるような一手が欲しいと思っていた。

 

 ここで何故ルルーシュがアマルガムを自己の戦力の一部としてカウントしていないかというと、彼からすればアマルガムという組織は()()()()()()()である。

 

 一見、黒の騎士団のようにトップダウン型の組織に見えるのだが実際は複雑な人間関係とパワーバランス、そして()()()()()()()()()の上で成り立っている。

 

 一応『上司』と『部下』に類する人間は存在するが指揮系統が一本化されていない為にヒエラルキーが非ピラミッド型であるために、アマルガムの組織全体の協力を得るには個人一人ではなく数人の了承が必要となる。

 

 とはいえ、『例外』はあるには一応ある。

 

 その例外とは言わずもがな、実質アマルガムの発祥のきっかけとなったスヴェンである。

 

「(今までの動きを見ると奴が決めたことに一人一人がお互いの事を知っている故の動きをしている。 しかもこの様な組織形態にありがちな『問題に対する反応の遅さ』がレイラ・マルカル、サエコ・ブスジマ、桐原公と新たに加わったシン・ヒュウガ・シャイングたち()()()()()と部下たちによって最小限に押さえられている……

 いや、『個々の働き』と並べていたが、実際はそれぞれが自身の得意分野を生かして運用している流動体の様な組織。 ブリタニアへの皮肉も兼ねているのだろうが、『アマルガム』という名の由縁がそれか。 それに組織の主導権を握っていると思われるスヴェンも協力は承諾するだろうが、個々の動きを制限せずに方針を決めるスタイルは現状の黒の騎士団とは合わない……どちらかというとマリーベルのグリンダ騎士団寄りか?)」

 

 かなりの思考を並べているが、単にアマルガムはルルーシュにとって『戦力として動きが予想しにくい外部の組織』である。

 

 つまりは嫌いな『イレギュラーの塊』とも。

 

「ん? シャーリー? それにマーヤとラ────スザク?!」

 

「る、ルルーシュ?」

 

 そこでルルーシュは奇妙な組み合わせと、ここで合うとは全く予想していなかったスザクたちとばったり出会う。

 

「……」

 

 これがシャーリーたちとルルーシュが出会うまでの一連であり、双眼鏡で遠くからロロが見た流れだった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「「……」」」」」

 

 またもぎこちない空気のまま、ルルーシュたち五人は無言で租界内を歩いた。

 

「(どうしよう……スザク君を呼んだのは良いけれど、さっきライブラちゃんが言いかけたことも気になるけれどルルとマーヤもいるし……)」

 

「(まさかルルーシュも来るなんて想定外だわ……ここにはライラもいることだし、私一人でヴィレッタが来るまで守り切れるのかしら?)」

 

 シャーリーはスザクを呼び出しただけでなくライラを巻き込んだこと、そしてマーヤとルルーシュにばったりと出会ったことにどうしたらいいのか迷い、マーヤはヴィレッタの連絡によって急行は出来たものの果たして自分一人で現状をうまく切り抜けられるのか少々の不安を覚えていた。

 

「(ルルーシュ……リヴァルによるとずっと日本に居た君は本当に記憶を失ったままなのか? 機密情報局からは『未だに白』という報告が来ているがもし密かに記憶が戻っているのなら、どうにかして他の皆に悟られずにナナリーの事を伝えないと……)」

 

 スザクは以前、『ジュリアス・キングスレイ』としての記憶が植え付けた失敗からシャルルが言った言葉を思い出していた。

 

 その言葉とは『もしルルーシュがゼロとしての記憶を取り戻したのならナナリーを使う』というモノ。

 

「(もし、僕の考えが当たっているのなら皇帝はナナリーを人質にする為エリア11に『合衆国日本への対策』を口実に戦力を集めている。 多分、黒の騎士団が暴れてもねじ伏せられるように……僕一人だけの命で済むのなら、ユフィは悲しむだろうけれど……その時は……)」

 

 スザクがチラッと横目でルルーシュを見ると、ルルーシュが視線を外す。

 

「(一体どういうことだ? スザクをシャーリーが呼び出した? いや、この場合はスザクが呼び出したのだろうな……奴の事だ、シャーリーを利用して俺の周辺を嗅ぎまわっている可能性がある。 こいつ……ナナリーだけでなく、今度はシャーリーまで────いや、落ち着け。 こいつ(スザク)はそれほど器用ではない。 

 接触は恐らく学園での俺の様子を機密情報局以外から聞く為だろう。 ならリヴァルやシャーリーたちに連絡を取っていてもおかしくはない。 その為に影武者を用意したではないか俺よ……

 しかしここにライラとマーヤがいることは果たして偶然か? それともこれはスヴェンの考えによるものか?)」

 

 スヴェンがルルーシュの考えを聞こえていたら全力での否定が飛んでくるどころか呆然とした『何故(なんでや)』、『知らん(知らんがな)』、あるいは『違う(ちゃうんすよ)』のいずれかが返ってきていただろう。

 

 ポーカーフェイスの下で胃がキリキリと痛み出すのを我慢しながら。

 

 チャララ♪ チャララ♪ チャチャララ~♪

 

「「あ、失礼。/これ取ります。」」

 

 ルルーシュとマーヤの携帯電話が同時に鳴り、二人が距離を置いて電話に出る。

 

「もしもし、俺だ────」

『────ルルーシュ様、咲世子です。 今そちらにヴィレッタと共に向かっています。』

 

「どうした?」

 

『ルルーシュ様が今いる近辺で妙な男たちが聞きまわっているとのことで確認したところ、以前から行方不明だったジェレミア卿と思われる人が確認されました。』

 

「ジェレミアが俺を? (しつこいな、オレンジ。)」

 

『先ほど、黒の騎士団の協力者数人がB2対策として接触した際に、ルルーシュ様がゼロだということを仄めかしたので協力者が二人の無力化を試みましたが返り討ちに遭いました。』

 

「(B2対策……俺が自動(オート)で対応するようにギアスで操った保安部だな。)」

 

『それと気がかりなことがもう一つございます。』

 

「なんだ?」

 

『協力者たちが倒される直前、妙な言動をしていたとのことです。』

 

「“妙な言動”?」

 

『はい。 目撃者によると、まるで協力者たちは夢から覚めた様な態度だったと。』

 

「(“夢から覚めた様な態度”? ……もしや。)」

 

 咲世子の言葉に、ルルーシュの脳裏に浮かび上がるのはかつてユーロ・ブリタニアで自分が『ジュリアス』としての設定(記憶)があまりにも普段から離反していたために錯乱した時や、バベルタワーでマオ(女)によってゼロの記憶を思い起こされた時。

 

「そうか、よくやった。 咲世子はそのままここに、ジェレミアを挟み撃ちにする。 それとなぜヴィレッタと一緒にいる?」

 

『はい、ロロ様が急に行方をくらましたとのことで────』

「────そっちを先に言え! (は?)」

 

 あまりのマイペースさにルルーシュは建前と本音が入れ替わった。

 

『申し訳ありません。』

 

「い、いや良い。 そのほかはよくやっている。」

 

『恐縮です。』

 

 ルルーシュは少し離れたところで電話に出ているマーヤを見る。

 

「(もしやこの為にマーヤが来たのか? しかし人選としては他に適任者がいるだろうに……という事は突発的な行動か。 ロロめ、余計なことをしなければいいが……)」

 

 

 

「ロロが?」

 

『ああ。 クラブハウスでシャーリーが見ていたアルバムは全てロロが弟役として来る前の物ばかりだった。 もしかすると、シャーリーが何らかの拍子で思い出したのかもしれん。』

 

「……なるほど。 (だからライラが“思い出した”なんて言っていたのね。)」

 

『今、咲世子と共にそちらに向かっている。 普段ライラ皇女殿下の護衛をしている者たちを何とか機情のエージェントたちと入れ替えることが出来たが、あまり人員は割けられない。』

 

「そうね。 なるべく私たちだけでこの場を凌ぐのがベスト。 ただ……」

 

『なんだ?』

 

「ここにはスザクもいるの。」

 

『ッ! よりにもよってギアスの事を知っているラウンズか……』

 

「ええ。 私は最初、彼にシャーリーを任せようと思ったのだけれどもしナナリーに関して彼女の記憶が戻っているとスザクに知られれば────」

『────皇帝側……引いては嚮団側に、その情報が渡ってしまう可能性が出るか。』

 

「そしてそれを利用されかねない。」

 

『……難問だな。』

 

「ええ。」

 

『……()に相談するか?』

 

「一応それも視野に入れて見たけれど、ユキヤがすぐに消去したとはいえ彼の情報が一瞬だけブリタニアのシステムに入院の際に渡っている。 それに()()()の事だから話せば────」

『────そうだな、無理をしてでも病室から飛び出てくるのが容易に想像できてしまう。』

 

「それだけじゃない。 ここで彼が目立った行動をすれば、彼個人に注目が行ってしまう可能性が出る。」

 

『既にブラックリベリオン時に見事な采配で難を逃れただけでなく、今のエリア11の平定に貢献したことで影響力が増強したシュタットフェルト家は目立っているからな。 いい意味でも、悪い意味でも。』

 

「……さっき貴方が言ったように、難問ね。」

 

『……一応エルにも連絡を入れようと思ったが、スザクが居るからな。 影武者だということを見破られかねない。』

 

「なら私は────」

 

 

 

 ルルーシュとマーヤがそれぞれの電話に出ている間、スザクはチラッとシャーリーを見ては声をかける。

 

「シャーリー、もしかしてルルーシュには内緒の話?」

 

「え? えっと……その────」

「────あ。 じゃあ私は耳を塞いでいるです。 ん~。」

 

 シャーリーが視線をライラへと泳がせると彼女は察したのか、文字通りに耳を両手で押さえながら唸るような声を出す。

 

「はは、彼女って健気だね。 (ナナリーみたいだ……って異母姉妹だから珍しくもないか。)」

 

「うん……そうだね。 まるで……」

 

「シャーリー?」

 

「待たせたな────って、ライブラは何をしている?」

 

「ん~。」

 

「あー、ちょっとね……」

 

「それよりも二人とここで会うのは意外だな。 何かここに用事でもあったのか?」

 

「まぁ、ね。」

 

「ふ~ん……俺には話せない理由か?」

 

「ほらねシャーリー、ルルーシュだからこう言うの秘密にできないんだって────」

「「────へ/は────?」」

「────実はルルーシュの誕生日プレゼントの相談さ。 ほら、もうすぐ12月5日だろ?」

 

「あ、ああ。 (そう言えばそうだったな……)」

 

「だからシャーリー、悩んじゃって。 ね?」

 

「う、うん!」

 

 シャーリーはハッとしながら機転を利かせたスザクの言い訳に便乗した。

 

「それだとそこでウンウンと唸っているライブラはなんなのだ?」

 

「わ、私が無理やり連れだしちゃって! で、マーヤが迎えに来てくれていたの!」

 

「そうか。 邪魔したみたいで悪かったな。 そろそろ俺も────」

「────そういうルルーシュは、なんでここに?」

 

「ん? ああ、それはロロが何も俺に言わずにこっちに来たみたいでさ? 探していたんだが、もしかしてシャーリーと同じで誕生日プレゼントを探しているのかもな。」

 

「そうか……なら、見かけたら連絡をするよ。」

 

「助かる。」

 

 ルルーシュはそのままライラの肩に手を置いてからマーヤの注意を引き、スザクとシャーリーから離れていく。

 

「それじゃあ、電話で話した公園に────」

「────スザク君とルルの間に、何かあった?」

 

「え?」

 

 シャーリーの言葉に、スザクの胸は思わずドキリとした。

 

「どうして、そう思うんだい?」

 

「だって二人とも前はあんなに仲が良かったのに、今だとちょっとギクシャクしているというか……ルルが壁を作っていて、スザク君が遠慮しているというか……喧嘩でもした?」

 

「……そう、だね。 喧嘩、だね。 僕の勘違いが、ルルーシュを酷く傷つけた。」

 

「謝らないの?」

 

「僕が謝ったところで、ルルーシュが許せるとは思えない。 いや、許せないだろうな。 それだけ僕のしたことは大きい。」

 

「……それでもルルの事だから口では許せないとか言いながら、心の奥底ではスザク君からの言葉を待っているんじゃないかな? ほら、ルルって素直じゃないから。」

 

「シャーリーは、ルルーシュの事をよく見ているんだね……」

 

「スザク君ほどじゃないかもしれないけれど、一応ルルの事は知っているつもり。 スザク君もだけれど。」

 

「え?」

 

「だって二人とも、面倒ごとになると思うとなるべく他人を遠ざけて一人で背負い込もうとするからさ。」

 

「……」

 

 スザクは息を吐きだしながら、空を見上げる。

 

「そう、だね。 もう一度二人きりで話す機会があるのなら、ルルーシュに────ん?」

 

 スザクは見上げていた青い空に灰色が混じるのを見て振り返ると駅のモール内からモクモクと煙が出ていることに気が付く。

 

「あ、あれってもしかして火事?!」

 

「ッ! シャーリー、こっちへ!」

 

 スザクはシャーリーの手を引き、騒動に駆け付けた様子の保安部員を見てラウンズの身分証明書を取り出す用意をする。

 

「消防に連絡は?!」

 

「ぐ、軍のほうが先じゃないのか? だってこれ────」

「────ナイトオブセブンの、枢木スザクだ。 これはテロの可能性がある、よって周辺の警察および消防は自分が監督します。」

 

「「い、イエスマイロード!」」

 

「それと、彼女を保護してくれ。 大事な友人なんだ。」

 

「スザク君────」

「────大丈夫、守るから。 ルルーシュも、君も。 (そうだ、今度こそ……僕は……俺は……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「煙幕か、子供騙しな……」

 

 モール内で煙が立ちこむ中、倒れている警備員から離れていくジェレミアがいた。

 

「(まったく……“調整が終わった”と思いきや、よもや暴走するとはな。)」

 

『ではゴットバルト卿、私()()はこのままハンティング(狩り)を続けながらキューエルを連れ戻します。』

 

「(それにこっちはこっちでまるで以前の面影がなく、面倒な性格になっている。) やり過ぎるなよ。 我々の任務はあくまでルルーシュ・ランペルージがゼロなのか見極めることだ。」

 

『卿もやってみればどうだ? 存外、楽しいものだぞ、ゴットバルト卿。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()というやつは。』




後書きEXTRA:
スヴェン:(火事か?)
ピリリ♪ピリリ♪
スヴェン:(メッセージが携帯に? ……アンジュもいないし、確認するか。) ……………………………………ナニコレ。


後書き:

偶然が全ての始りである。
芽生えた意識は行動を生み、行動は情熱を生み、情熱は理想を求める衝動。
その理想の行きつく結果は吉と出るか、凶と出るかは神のみぞ知る。
『偶然』は『必然』に結果次第で変わり得る。
では、『必然たりえない偶然』は?


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第240話 少々違う、『過去からの刺客(死角)』4

カオスの次話、投稿です。


 パァンパァンパァン!

 

「何────?!」

「防弾対策を────」

 

 モクモクと煙が立ちこみ始めるモール内の警備員が問答無用で拳銃を使ってジェレミアを攻撃するも、サイボーグ部分によって弾丸が弾かれたことに驚愕する。

 

「────あれ?」

「────おれたちは、何を?」

 

 だがそれも一瞬だけで警備員たちは夢から覚めた様な、呆けた顔になっては周りを見ているとジェレミアによって昏倒される。

 

「(なるほど、『ギアスを解除するギアス』か。 一応可能性の一つとして入れていたが寄りにもよってオレンジとは……少々厄介だが、対策はここにある設備で事足りる。)」

 

 この様子を地上から数フロア離れた上の階からルルーシュは解析を兼ねたジェレミアへの攻撃をギアスにかかった者たちで繰り返していた。

 

「(問題は、マーヤたちの方だな。)」

 

 彼は地上から、橋の向こう側にあるモール部分に視線を移す。

 

「(オレンジの注意を俺に引きつつ、あちら側にギアスをかけた手下たちを送っているが音沙汰が返ってこない。)」

 

 事の発端は気転を利かせたスザクとシャーリーから分かれて数分後、突然マーヤが足を止めたところから始まった。

 

「(普段、表情を変えない彼女が明らかに驚愕を現すなど余程の事としか思えん……マーヤとあの男には浅からぬ因縁があると見える。 現に、こうも白昼堂々と襲っている。)」

 

 ルルーシュが視線を感じて下を見ると、ジェレミアと目が合い二人は似た様な笑みを浮かべる。

 

「(しかしまずは貴様だ、オレンジ。 いや、G列車の実験体第一号君。)」

 

 ……

 …

 

 ルルーシュがいたモールの反対側にある、清掃員用の着替え室の一つにマーヤとライラは居た。

 

「マーヤ先輩、血が────!」

「────大丈夫よライブラ、額の出血は大げさなの。 (まさかブリタニアのクズが生きていたとは!)」

 

 そう口で言いながらもマーヤは内心の焦りを隠し、清掃エプロンの一つを破いてはそれを包帯代わりに傷の止血を試みて状況を急変化させたクズ────キューエルらしき人物を思い出す。

 

「(隣には皇女殿下とルルーシュがいるというのに私を見ただけで、まさか問答無用に銃を撃つなんて……本当にクズ中の犬畜生になり下がったわね。)」

 

「マーヤ先輩、さっきの人は誰です?」

 

「少し前に、ちょっとした()()()()をね────」

 

 ────バババ!

 

「ひゃ?!」

 

 マーヤはニッコリとした表情を不安がるライラに向けているとドアの向こうの通路内に響き渡る銃声にライラが体を強張らせる。

 

「(今の銃声……あのクズとこの子の護衛にいた人たちかしら? それにしては銃声の種類が護身用より重い。)」

 

 ダァン!

 

 外から何かしら重い音がするとマーヤは今いる部屋をもう一度見渡してはウェストポーチから拳銃────グロック19とナイフを取り出して、部屋のドア近くにある水道パイプの上に壁を蹴ってはその勢いでパイプ上によじ登る。

 

「はぇ────」

「────()()()、この部屋に誰かが来る────」

「────え────?」

 

 ────ダァン!

 

 ライラの視線はパイプの上によじ登った勢いでもろパン出しでも平然とするマーヤから蹴破られるドアへと移った。

 

 そこにはブリタニア軍警察が着用するような装備一式で身を包んだ者たち数人が部屋に雪崩れ込む景色があった。

 

 普段、この場でこの様な事が起きれば普通の市民やそこらのブリタニア貴族は『助けが来た』と思うだろう。

 

 実際バベルタワーでも、(租界の指揮下ではなく機密情報局の者たちとは言え)ブリタニアのサザーランドが現れて民衆の安全確保より黒の騎士団の制圧を優先して周りが巻き込まれるまで市民たちはそう信じていた。

 

 しかし部屋に入ってきた者たちは皇女殿下であるライラが居ると確認してからも並々ならぬ『殺気』をそのままに、銃口を再度上げる。

 

 ザシュ、ドン!

 

 この動作を確認したマーヤは器用に足をパイプに絡めたまま最初に入ってきた者の後頭骨と背骨が合う中間に体重をかけた勢いで右手のナイフを差し込むと同時に二人目の左目に左手の拳銃を撃ち込む。

 

 ドンドン、ドス!

 

 そのままマーヤは絡めていた足を解き、地面に降り立ったと思うと拳銃をドア付近にいた三人目の心臓と頭を撃ち抜いてはドアの向こう側に身を隠した4人目の喉にナイフを刺す。

 

 ドアが蹴破られてからここまで約3,4秒の出来事である。

 

 マーヤは顔に付いた返り血をふき取りながらライラの方へと振り向く。

 

「驚かせてごめんね? でも相手が正規のブリタニアだったら貴方をそのまま保護してもらおうと思っていたのだけれど、そう上手く行かなかった……ケガはない?」

 

「……ない、です。」

 

「そう、歩ける? このまま貴方を先に脱出させるわ。」

 

「……はい。」

 

 ライラは夢を見ているような、唖然としたまま周りを警戒しながら歩きだすマーヤの後を追う。

 

「(と言っても今の持ち合わせはこの拳銃とナイフに、()()()()妨害のペンライトと防弾着を兼ねたレオタード式試作型強化スーツ。 こいつらとさっきのクズを相手にライラを守りながらだと心許無さすぎる……でも、ルルーシュなら────ゼロなら私たちの事を入れた作戦を練れる筈。 まずはヴィレッタにメッセージを────)」

 

 ────ガチッ。

 

 歩いていると微かな金属音が廊下を伝わり、マーヤの耳に届くと彼女は反射的にライラの肩を強引に押さえては自分もしゃがむ。

 

 ダダダダダダダダダダ! バスバスバスバスッ!

 

「カヒュ?!」

 

 ライラを押さえるために自身のアクションがワンテンポ遅れたマーヤの脇に弾丸が数発ほど当たる。

 幸運にも弾丸は防弾着のおかげで貫通しなかったものの全て衝撃へと変わり、その上当たった場所が人体でも鍛えにくい脇だったことからマーヤはよろけてしまい、無言でライラを引き連れながらその場から離れようとするが思っていた以上の痛みに膝を着く。

 

「(マズい、このままだと撃ってきたやつが!)」

 

「先輩?!」

 

「おや、これはライラ皇女殿下でしたか。 何故、この様な物騒な場所などに?」

 

 マーヤたちを襲った弾丸が出て来た部屋の中から妙な半仮面をしたキューエルがニタニタした笑みと共に出てくる。

 

「……カハッ!」

 

「誰、です?」

 

 答えようとしたのか声を出そうとして咳込むマーヤの代わりにライラが初対面であるキューエルに問いを投げかけながら、マーヤにハンカチを渡そうと思いポケットの中に入れていた手で携帯を弄る。

 

「これは失礼。 私は……そうですね、ただのキューエルと覚えてください。」

 

「タダノ・キュウエル? 日本人の方────?」

────誰が! イレヴンなどですかぁぁぁぁぁ?! ああいや失敬。 私、イレヴンの事となると少々気勢が荒くなってしまう質ですので控えてくださると大変助かります────」

「(────あ。 ()()()()()()()()はよく送信先が間違っていると確か先輩が……あと何着かメッセージを着信して────)」

「────それで私個人、貴方様の後ろにいるそこのイレヴンに殺されかけた恩がございますので退いてくれたまえ────」

 「────ヤです────!」

 「────ならば君ごとさらば!」

 

 キューエルはストックを切り取って紐を使ってコートの下に肩からぶら下げていたアサルトライフルを手に取って構えるが、彼が引き金を引く前にマーヤはペン型のセンサー妨害装置を取り出してはキューエルの顔面にそれを向けて作動する。

 

「グッ?!」

 

 半仮面の向こう側にあるキューエルの義眼が夜空を激しく駆ける流星群の様なノイズと不確定な色で埋め尽くされ、彼がライフルの引き金を引いたときにはマーヤはライラの手を取って既にその場から離れていた。

 

「ゲホッ?! 守る、今度こそ!

 

「せ、先輩?」

 

 

 

 

「チッ!」

 

『どうしたソレイシィ卿? と聞いてもその舌打ちを聞くに取り逃がしたな?』

 

 目の不具合が収まり始めたキューエルはイラつきを隠さずに通信相手を無視しようと通路を歩く。

 

『だから言っただろう? 人間狩りは徐々に追い込むスリルを味わいながら行うモノだと。』

 

「そう言うお前の手勢が四機すぐに減ったぞ?」

 

『替えの効く駒を“手勢”にカウントしていないからな。 次は躊躇せずに、ギアスや不意打ちでも使って()()()()()()仕留めるのだなソレイシィ卿。 私は私で勝手にハンティングを続行する。 死にたくなければ邪魔はするな。』

 

 

 ……

 …

 

 

「ねぇ聞いた聞いた────?!」

「────オオクボステーションでテロだって────!」

「────じゃああの煙ってもしかして────?」

「────マジか! 見えるじゃんか!」

 

「(ふ~ん。)」

 

 アンジュは患者やナースたちは外が見える窓に群がっては静かに空へと上がっていく煙の方向に携帯電話のカメラを向けては噂話をして騒がしくなった病院内を涼しい顔のまま歩き、スヴェンの居る病室のドアを開ける。

 

「(呑気なモノね。 バッカじゃないの、ブラックリベリオンとかまだそんな前の事件じゃないのに距離があるからってテロの方を見ようとするなんて……本当に物珍しいものに飛びつく家畜共ね。) スヴェン、起き上がれる? 貴方が頼んだハンバーガーセットって思っていたより面倒────んが?!

 

 アンジュは空っぽになっていたベッドを見ては女性にあるまじき奇声を上げる。

 

 ピーピーピリピッピッピー♪ ピーピーピリピッピッピー♪

 

 アンジュは聞こえてきた通知音に携帯を取り出してはギョッとし、すぐにその場から走り去る。

 

 ……

 …

 

「お嬢さん、車の用意が出来ましたよ。」

 

「え?」

 

「ナイトオブセブン様から貴方をここから離れさせるようにとのご命令を承っています。」

 

 未だ煙が上がるモールを外から様子を見ながら何度もルルーシュに電話をかけていたシャーリーに、スザクが指示を出した保安部の一人が声をかける。

 

 ピリリ♪

 

 シャーリーが自分の携帯電話にメッセージが届き、彼女がそれを見る。

 

「お、おい君?!」

 

 するとシャーリーは迷いもなく保安部の横を走ってモールの中へと走っていく。

 

 送ってきた相手のIDは『Libra(ライブラ)』。

 

 電話に届いたメッセージはたった4文字の短い内容。

 

 

 ただ『Help(タスケテ)』、と言ったモノだった。

 

 

 少し前のシャーリーならば、一度スザクに連絡を取っていたかもしれない。

 

 だが自分がライラを巻き込んだ負い目か、現状が明らかにおかしいことを打ち明けられる他人(ライラ)をやっと見つけた仲間意識からか、そのどれもを口実にした『全てを自分一人で解決しようとするルルーシュの助けになりたい』という純粋な思いからか、あるいは()()()()()()()()()()()()()()という衝動からかは、本人も知らない。

 

「ッ?!」

 

 保安部や警察のサイレンが遠ざかり、人気が無くなったモール中に走ったシャーリーは血だまりの中で動くことのない遺体と変わったブリタニアの警備員たちの亡骸を見ては戸惑いを感じる。

 

 だが遠くからくる銃声と今の状況をかつてのアッシュフォード学園が紛争地域のごとくブラックリベリオンに巻き込まれた時を連想させたところで『あの時よりは』と思い、シャーリーは『自衛のために』と拳銃を拾い上げる。

 

「ッ。 (重い……)」

 

 予想していたよりずっしりと来る重みにシャーリーは戸惑いを感じながらも拳銃を手にモール内を最後にルルーシュが向かったと思われる方向へと走る。

 

 ……

 …

 

「ここまでしつこく付きまとうとは大した執念だよ、オレンジ。 (思わぬところで日々の筋トレが役立った。)」

 

 ステーションホームの最上階まで走ったルルーシュは自分が嫌う汗を掻きながらも、思い通りに動かせる体に感謝を内心でしながら自分を余裕で追ってきたジェレミアと相対していた。

 

「『執念』? 違うな、これは『忠義』である。 と言っても、テロリスト(ゼロ)である貴様とは無縁な思想だろうがな。」

 

「忠義か……あの男(皇帝)やV.V.のどこが忠義を捧げるに値する価値があるのか見当もつかんな。」

 

 カチッ。 ヴゥゥン。

 

 ルルーシュはポケットから取り出したスイッチのボタンを押すとお腹に来る、低い地鳴りのような音と共にさっきまで元気だったジェレミアの様子が一転して彼は石化していくかのように動きが止まっていく。

 

「鋼鉄の体に、ギアスを無効化するギアス。 確かに脅威だがサクラダイトに依存していれば対策は容易い。」

 

「ゲフィオン、ディスターバ────?!」

「────のスペシャル型だ。 何度も使った所為でブリタニアはサクラダイトへの干渉対策をしたからな。 技術部曰く、こいつは電子部品を破壊する電磁パルスも含まれていると聞く。 よって、君のようなサイバネティックス化などが進んだ者に対しては絶大な効果があるとされたが……これで確信に変わったよ。 ありがとうオレンジ……いや、G列車の実験体第一号君?」

 

 元々G列車はゲフィオンディスターバの巨大ジェネレータを搭載する予定だったが、ヴァイスボルフ城の防衛時に電磁パルスが大いに役立った為*1、その技術をラクシャータは(渋々)取り入れてゲフィオンディスターバを改良した。

 

 これにより第6世代以下だけでなくそれ以降の機体やサイバネティックスで強化された人体の機械化歩兵部隊などで対策が施されていない相手にも多少の効果が期待できるようになった。

 

「さて、答えてもらおうか? ギアス嚮団……いや、V.V.の居場所を?」

 

「答え、るのは……貴様、だッ!」

 

 ギギギギギギギギ。

 

「何?!」

 

 錆び付いた鉄が無理やり動かされる音とぎこちない動きでジェレミアが再び歩き出したことにルルーシュは驚愕する。

 

「(バカな! こいつの体は今や骨格までほとんどサイバネティックス化している筈! ゲフィオンディスターバと電磁パルスによって動けるはずが無い! いや……まさか残っている生体部分で無理やり動かしているのか?!)」

 

「私は……私はこれ以上! 皇族の期待を、裏切る訳には! いかぬのだ! 忠義を……義務を果た、す! マリ、アンヌ様の死の、真相を! 暴くまではぁぁぁぁぁ!」

 

「(か、母さんの死の真相だと?!) 何が貴様をそこまで動かす?!」

 

「9年前、アリエスの離宮での事件……たとえ当時の警備隊長、であったコーネリア、皇女殿下の命で、警備の数が減らされていたとしても、賊の侵入に! まともな調査もない結末! 亡きマリアンヌ様の忘れ形見である、ご子息たちがエリア11へ送られ! あまりにも不自然! あまりにも! あまりにも無念! ゼロよ……貴様はなぜ、実の父親を?! 祖国を敵にし────グッ……」

 

 無理をしたジェレミアの体中が内部出血を起こし、筋肉が動かない体の抵抗にようやく勝てなくなったところで彼は膝と手を地面に着いてしまう。

 

「マリアンヌ様……忠義を果たせぬ私を、お笑いに、なって……む、無念────」

「────ま、待てジェレミア!」

 

 ルルーシュは慌てながら倒れたジェレミアの傍へと駆け寄りそうになる衝動を理性で抑え込み、()()()()()を取る。

 

「オレンジ────いや、ジェレミア卿。 お前のした先の質問に答えよう。 俺が何故あの男、皇帝シャルルや帝国の敵になった理由を! それは俺が、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだからだ!」

 

「ッ……同性同名で、ナナリー様が生きておられると知りもしやと思い……無理を言ってまでこの任務に出たのは……私の間違い、では……」

 

 ルルーシュはゲフィオンディスターバのスイッチを切り、今度こそジェレミアの傍に歩く。

 

「ジェレミア卿……もしや、貴公は俺を殺しに来たのではなく────?」

「────私の、忠義はV.V.ではなく……未だマリアンヌ様だけにです!」

 

「ならば貴公のその忠義、亡き母上の代わりに俺の為に使え! 貴公がそこまで敬愛しているマリアンヌ……母さんの死に、V.V.が関与している! 真相を暴くために俺はギアス嚮団────いや、V.V.の居場所を欲していたのだ!」

 

「ッ?!」

 

「忠義を果たしたいと言うのなら共にV.V.を問いただせるように俺と協力しろ、ジェレミア・ゴッドバルト卿!」

 

「……イエス、ユアマジェスティ。」

 

 この時、改造時にジェレミアの脳に課せられた呪縛が『皇族への絶対的忠義』から『マリアンヌ様の忘れ形見への忠義』に圧倒的精神力(忠義心)で無理やり塗り変えられた。

 

 これは元々ジェレミアに対する認識を、V.V.含めて周りの誰もが誤解していたから可能であった。

 

 ジェレミア・ゴッドバルトは幼少の頃から名門貴族の出である事を鼻にかけず、自らの努力と実力で一度の挫折もなく周りを認めさせた文字通りの『エリート』。

 

 そんな彼にも子供の頃から憧れた人物がいて、その人の為になろうという小さな願望もあった。

 

『憧れた人物』とはもちろん、ルルーシュの母マリアンヌである。

 庶民の出とはいえ実力のみでナイトオブラウンズに着任し、シャルルが帝位につくことを良しとせぬ貴族派によって先導された大規模な反乱────世間で『血の紋章事件』と呼ばれている騒動でラウンズを含めた大勢の貴族たちによって窮地に陥ったシャルルの身をほぼ一人でマリアンヌは守りきり、シャルルの妻となった。

 

 そんな英雄のような人物が現実に居たことだけで、ジェレミアは皇后になったマリアンヌの居るアリエス宮の警備兵と若くして成った。

 

 そこで彼にとって、初めての挫折(屈辱)である『マリアンヌの暗殺事件』が起きた。

 そのあと、彼女の息子と娘であるルルーシュとナナリーはまるで島流しのように日本へ送られ、どれだけジェレミアがそこに行きたくとも許可は出ず結局彼がその大地に到着したのは第二次太平洋戦争後でルルーシュとナナリーが生死不明となってから。

 

 彼が純血派という派閥を作ったのも『皇族の為』と口では言っていたが、本来はマリアンヌやルルーシュたちを守り切れなかった雪辱の為。

 

 ルルーシュは知る由もないのだが、ジェレミアという男はこの様な経歴を持ちながら『憧れた人のように』と一途な思いで行動してきた騎士だった。

 

「早速だがジェレミア、貴公と共に来た他の者たちについて話してくれ────」

 

 ……

 …

 

 ダァン、ダァン、ダァン!

 バババババババババ!

 

 ルルーシュやジェレミアとは反対側のモールではライラを見て躊躇しなかったブリタニア軍警察の装備をした者たちとスーツ姿や私服姿の機密情報局がそこかしこで撃ち合う音が響く。

 

「ハァ! ハァ! ハァ!」

 

 そんなオオクボステーションのモール内を、ライラとマーヤは走っていた。

 

 先ほどまでマーヤと一緒にいたのだが急に敵────少なくともマーヤだけでなくライラやブリタニアの機密情報局も狙ってくる相手────の動きがおかしくなった隙に、マーヤが機密情報局の大まかな位置を予測して、ライラと共にオオクボステーションからの脱出を試みていた。

 

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!

 

「ッ。」

 

 背後から近づいてくる、何かの機械音にマーヤは走る速度を緩める。

 

「ライラはこのまま先に行って────」

「────マーヤ先輩はどうするです?!」

 

「ちょっと追手が来ているみたいだから、撒いてから勝手にここから出るわ。」

 

「で、でも携帯────」

「────ハァ……貴方がいると身動き取れないの。 だから先に行って。」

 

「……じゃ、じゃあまた外で会うですよ?!」

 

「ええ。」

 

 マーヤはライラを見送ってから、壁際に沿って拳銃を構える。

 

「(さっきから電気製品の調子がおかしいのは多分、ルルーシュの仕業ね。 だけどこの機械音────)────な?!」

 

 マーヤが考えていると、曲がり角から半人半馬のケンタウロスのような男性が曲がってきたことにびっくりする。

 

 下半身は明らかに機械であり、片手にはレバーアクションのライフルを持っている姿はヴェルキンゲトリクスに酷似していた。

 

「人間、発見!」

 

「貴方は、カラレス?!」

 

パァン!

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 マーヤの突き放すような口調を気にすることもなくライラはそのまま走り、普段から他の皇族や貴族令嬢と違って活発(物理)だったことに感謝をしながらモールの地上へと降りるエスカレーターを飛び降りていくと正面に人影があることに気付いて物陰に身を潜めながら息を整えようとする。

 

「(誰です? 敵? それとも────)」

「────ロロは────好き?」

「決まって────兄さんだもの────」

「(────シャーリー先輩に、ロロ────?!)」

 

 距離と外部からのサイレン音もあり、会話がところどころ途切れるが聞こえてくる声に聞き覚えがあったことでライラは人影が誰なのかわかり、そっと物陰から顔を出して更に聞き耳を立てる。

 

「────ロロはルルの味方? 本当に?」

 

「シャーリーさん、兄弟に『味方』も何も────」

「────ううん、私が聞きたいのはそれじゃない……貴方があの夜、()()()()()をクララと一緒に連れ去った理由も聞かない。」

 

「ッ。 シャーリーさん、貴方はもしかして────」

「────今のロロあの時と違って冷たい感じがしない。 変わったような気がするから……だから、代わりに答えて。 ロロは、ルルの味方? ルルを一番に考えている?」

 

「……当たり前じゃないですか。 何そんな分かりきったことを────」

「────だったら一緒にルルを助けよう! 私たちが一緒にルルを支えればきっと助けにもなるし、()()()()()────!」

 

 そこでシャーリーはぴたりと、まるで信号ゲーム(だるまさんが転んだ)の参加者のように動きを止めた。

 

「……」

 

 無言で動かなくなったシャーリーへと近づくロロの表情は固く、どこか無慈悲なモノだった。

 

 ロロはそのままシャーリーが手に持っていた拳銃に手を伸ばす。

 

 タッタッタッタッタ────!

 

「────え────?」

「────アリスちゃん直伝キィィィィィック────!」

 「────ガッ?!」

 

 ロロが振り返るとほぼ同時のタイミングで彼の胸に飛び蹴りをライラが食らわせ、これを予想だにしていない様子のロロは肺から息を吐きだしながら目を白黒させて動かなくなったシャーリーにぶつかっては胸を苦しそうに抑えた。

 

「(バカな?! ボクと同じ世界に?! ダメだ、維持が────!)」

「────る筈! って、ライブラちゃん?!」

 

「シャーリー先輩、逃げ~る~で~す~!」

 

 

 


 

 

 プアァァァァァ!

 

 おっと、またも眠りそうだった。

 

 簡単にそう思いながら、(スヴェン)は感覚が鈍感になった体の姿勢をそのまま正しては無断拝借した車を走らせる。

 

『盗難車』? 『無免許運転』?

 

 その通りだが元々ロックもかけていない上にスマートキーに頼っている持ち主が悪い。

 電波なんて(ユキヤ特性の)ソフトウェアでちょちょいのチョイで偽造完了だ。

 

 これだからボンボンどもは────ッと脱線しかけた。

 

 今は道に集中集中。

 

 ……何か忘れている気がするが鈍感になっているのは意図的だが体が熱いし頭もズキズキと痛むし脂汗でびっしょりだった病衣から着替えた後でも強化スーツのインナー越しに私服がべったりと肌に張り付いている。

 

 正直に言って鈍感になっているおかげで体を動かせている感じだ。

 が、気持ち悪いのは止められない。

 それのおかげで体のだるさを紛らせられる。

 

 俺は移動を止めずにただ煙の上がっている方向へと向かう。

 ニュースでは何も報道されてはいないが、方向的にはトウキョウ租界の環状線の駅があった辺り。

 という事はもしかするとジェレミアの襲撃……もしくはそれに類する何か。

 何せライラから『タスケテ』なんてメッセージなんて普通は来ないだろう。

 

 キキィィィィィ!!!

 

 車のタイヤが急ブレーキによってアスファルトの上を滑り、俺はそのまま大久保駅────ああ今はオオクボステーションだったか────へと続くレールの上を走る。

 

 無謀と思うかもしれないが、今起きていることが『ジェレミア襲撃』だと仮定すれば『テロ活動』と見られてこの辺りのリニアカーは全てストップがかけられている筈。

 

 今の装備品は強化スーツのインナーと病院からセルフ退院した時にちょろまかしたものが少々。

 

 スヴェン・ハンセン、いいかげん飛んで火に入る夏の虫のごときシチュエーションにはもうコリゴリな肉体的に18歳。

 

 中身の歳は正直知らないが体に鞭を打って助けを呼ぶメッセージ()に呼ばれるまま出勤である。

*1
125話より




色々な暴走によりカオス度が急上昇中…… _:(´ཀ`;」 ∠):_

余談でギアスも関係しています。 ( ・д-☆


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第241話 『君を失えない、だから……』の仮装

作者:お待たせ致しました、キリの良いところまでの勢いが付いた次話です! 楽しんで頂ければ幸いです!
集合ちゃん:色々と何を入れるか悩んだせいでギリギリだったのは言わないの?
作者:ソレハイワナイヤクソク……ともかく、他は次話で入れようと思います! m(_ _)m


 ジ、ジジジ。

 

「チ、やはりこちらもダメか。」

 

 ルルーシュはステーションの裏側にある警備室で稼働しづらくなってノイズの走るモニターを前に舌打ちをした。

 

「(新たな発明や開発は良いが、やはり土壇場での使用は考え物だな。)」

 

 彼は今ステーションモールにいると思われる他のギアス嚮団に関する情報をジェレミアから聞きだし、情報共有をライラと一緒にいるマーヤにしたかった。

 

 元々G列車にゲフィオンディスターバのほかに搭載した電磁パルスジェネレータは異変の原因に気が付いて近寄ってきた者たちの通信機を破壊し、司令塔との連携を取りにくくする微弱な出力の設定だったが電磁パルスの発生源近くに居た所為か、ルルーシュ自身の携帯にも被害が及んでいたことで彼は動けなくなったジェレミアに肩を貸しながら距離も(少々)あって理論上ではある程度電磁パルスも遮断するコンクリートの壁越しにある警備室へと運んで中にあった機材に電源を入れて状況把握を試みていた。

 

「(純血派の『キューエル・ソレイシィ』か……マーヤがあの時にあの場所にいたことも驚きだが、まさかキューエルと彼女に接点があったとはな。)」

 

 ルルーシュがここで思い浮かべたのはジェレミアによる証言で、ナリタ連山でキューエルをマーヤが騙して半殺しにした上にナイトメアを奪った事と、それを発端に改造中やそのあとでもキューエルが異常なほどまでに『イレヴン殺し』に執着を見せ始めたこと。

 

「(だが正確には『イレヴン』ではなく、『マーヤ』だろうな。 今回もジェレミアから聞けば(ルルーシュ)の情報収集を行うだけが、彼女を見ただけで発砲するという暴走で始まったと聞く……執念深いな。 それを言うならば、元エリア11総督の『カラレス将軍』もギアス嚮団の誘いに乗って改造を受けたこともだが────)────ん?」

 

 ルルーシュはノイズが走り続けるモニターを操作してモールの屋上にあるヘリポートを見せるカメラに変えると丁度着陸した機密情報局用のヘリの中から出てくるヴィレッタと咲世子を見ては警備室の通信機の周波数を変える。

 

「(ヴィレッタに咲世子? 丁度いい。) 聞こえるか?」

 

『ルルーシュ様、ご無事でしたか。』

 

「ああ。 今モールの屋上近いフロアの警備室にジェレミアといる。」

 

『ジェレミア……まさか、ジェレミア卿か?!』

 

「……その声、ヴィレッタ、か。 久しい、な。」

 

 無理に体を動かして疲れたのか警備室に入ったきり仮眠していたジェレミアがヴィレッタの声に目を覚ます。

 

『生きてらっしゃったのですか────?!』

「────彼だけではない。 キューエルもだ────」

『────キューエル?! だが彼は確か、本国の療養所にいたと────』

「────彼もジェレミアも同様にギアス嚮団に引き取られてサイボーグ改造されている。 かくいうカラレスもだが────」

『────ちょ、ちょっと待ってくれ……情報量が────』

「────取り敢えず、ジェレミア卿の説得には成功したが彼は動けない。 よってヴィレッタか咲世子のどちらかでもいい、ライラと一緒にいると思われるマーヤの援護に回ってくれ。 (咲世子はもちろんの事だがヴィレッタは恐らく機情からの報告を聞いて来た筈、断る理由がない。)」

 

『それではルルーシュ様、敵となる者たちの情報は?』

 

「ある。 が、俺が口にすれば逆効果になり得るからこれ以上は話せん。」

 

『『は?』』

 

 ……

 …

 

「貴方は、カラレス────?!」

 

 そう言いながらマーヤは手に持っていた銃の引き金を引く。

 

「────え?!」

 

 だがマーヤは手が軽い事と、引き金の感覚がない事で手に持っていた筈銃がない事に驚愕の声を上げながらケガをしている自分に困惑しだす。

 

「(()()()()?! ()()()()()()()? ()()()()()()()()()()?! いったい何が────)」

 

 カチッ。

 

「────ッ?!」

 

 ガァン!

 

 マーヤは前方からする金属音にゾワっとした感覚に対してほぼ条件反射的に体を動かすと自分のいた場所に弾丸が撃ち込まれ、軌道の先にニヤリとするカラレスがいたことで思い出す。

 

「(そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()! 銃も攻撃を避けた際に撃たれて()()()()! ならばナイフを使う!)」

 

 マーヤは太ももに暗器として隠し持っていたナイフに手を伸ばし、それをカラレスへと投げながら距離を取るために通路を走る。

 

「ふ、()()か。 無駄なことを。」

 

 カラレスは体をよじってナイフを避け、余裕のまま四脚の足でマーヤの後を追う。

 

「(まさか私へのサイバネティックス化の提供がこの様な好転をするとは……)」

 

 カラレスが思い浮かべるのはバベルタワー事件後、目を覚まして下半身が文字通りに潰されたにも関わらず奇跡的に助かったものの、ゼロ復活のきっかけとブリタニア駐留軍に多大な損害を出した罪で地位も爵位も剥奪されたところで怪しげな組織から接触が来た。

 

 その組織とはギアス嚮団であり、カラレスは原作でのジェレミアと同じ手術と調整を終えたところで『ゼロと何らかの関係がある学生の事を調べ上げるように』との命令がV.V.から下されて『土地勘がある』とキューエル、そしてジェレミアもついて来た。

 

「(それにこのギアスとやら、半信半疑だったが素晴らしい。 人間狩りがより楽しめて僥倖である。)」

 

 ジェレミアが原作で『ギアスキャンセラー』があるようにカラレスもギアスを保有していた。

 いくらカラレスが改造されていたり、装備も充実していないとはいえマーヤが彼相手に苦戦している大部分の理由はこのギアスによるところが大きい。

 

 カラレスが所有するギアスはトトの持つ『忘却』と非常によく似た性質であり、『人の部分的な記憶を消す』と言ったモノ。

 ジェレミアと同じくギアス発動の際に微弱な電波を発し、周りにいる者たちの記憶を消すこと。

 

 こうして記入すれば一見、強力に見えるものの制約などはある。

 例えば『消せる記憶に限度がある』、『術者(カラレス)もそれを指定しなければいけない』、『消せる記憶は短期記憶に類するもの』等々。

 だが暗殺や潜入、周りを誤認させるなどと使い方次第では確実に初見殺しになり得る。

 

 皮肉にもマーヤが未だに生きているのは単に、カラレスの残虐性が普段より()()()()()()所為でもあるのだが今その話は置くとしよう。

 

 ガシャアン!

 

「ぶわ?!」

 

 そんなカラレスの顔を横からガラス瓶が投げつけられ、彼の顔は何らかの液体に覆われる。

 

「な、何だこ────?!」

 

 ボゥ!

 

「────ぐあぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 カラレスは自分の顔がヒンヤリすると思いきや、液体が発火しては顔が燃え始めだし彼は叫びながら火を消そうと顔を両手で覆う。

 

「(これは……なるほど、自然発火性物質の入った瓶を────?!)」

「────マーヤ、離れるぞ────」

「────あ、貴方は!」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ま、待ってライブラちゃん! いったい何が────」

「────だーかーら! 早く逃げるですシャーリー先輩!」

 

 ライラに手を引かれるままシャーリーは困惑しつつも走り、ライラはやはりロロが危険だったことに過去の自分にグッジョブを感じる余裕もなくただどうにかしてその場から逃げることで頭がいっぱいだった。

 

「ぬわ?! ()()です?! うぎぃぃぃ! お~も~い~で~す~!」

 

 そんなライラは急に止まったシャーリーにつられては驚愕の声を出し、動きの止まったシャーリーを体格的に小さな身で必死に引っ張ろうとする。

 

「(やはり、彼女には効いていない?)」

 

 シャーリーの動きが止まったのは無論、彼女たちの後を追うロロの『絶対停止』によるもの。

 

 さて、ここで何故ロロが急にシャーリー相手にギアスを使ったかを簡単に説明したいと思う。

 

 彼のギアスは『周りの生物の体感時間を停止させる』もので、幼少期からはギアス嚮団の任務で潜入や暗殺任務を()()()延々とこなしてきた。

 

 行動はいたってシンプルであり、『対象に近づいて周りの体感時間を停止させて暗殺か情報を抜き取ってからその場から居なくなってから能力を解除する』。

 

 対象の護衛や周りの者が気付いたころには暗殺は完了しており、印象に残らないように動いていた犯人(ロロ)は既に現場から居ない。

 疑似的な『完全犯罪』だがロロのギアスには欠点があり、その所為で長時間そのギアス能力の維持が出来ない。

 欠点とは『能力の発動中は自身の心臓が停止する』というモノ。

 

 そんな彼の操作を容易くするため、V.V.はクララやトトたちの脳手術とは少々違う方法────精神的な洗脳を施した。

 

 洗脳は『他人に必要とされる事イコール己の存在意義』。

 

 クララ達という前例があったために、脳手術は手駒にする方法として確かだが結果は微妙であったために別の方法の試行錯誤で『洗脳』が選ばれた。

 

 大人や自我が強くなった時期だと洗脳の効果はほぼないに等しいのだが物心がつく幼い頃からされ続けると思考が洗脳を中心に固まっていき、ほかの思考が()()()()()()()()

 

 この精神的弱点をV.V.に利用され続け、看破したルルーシュにも利用されてねじ伏せられていた。

 

 主がV.V.からルルーシュに変わっても無意識に積もらせたフラストレーションか、自分をもっと頼らないルルーシュへの疑念か、ゼロなどとしての記憶が戻るまでは自分だけを見ていた時期への嫉妬か、口では『兄弟』といいながらも未だにナナリーへの未練を表するルルーシュへの独占欲か、あるいは別の何か。

 

 それ等が重なり、原作でロロは自分からルルーシュを取るかもしれないシャーリーを殺していた。

 

 色々と違う今作でもその様な負の感情をロロはシャーリーに対して積もらせていたのだが、『殺したい』というレベルまでではなかった。

 

 何せ原作より幾分か人間味のあるルルーシュに口では嫌々と言いながらもジノに振り回され、よそよそしくも自分を『ロロちゃん』と呼ぶ同年代のライラ。

 

 毎日が充実していた。

 

 ではなぜ、ロロはシャーリーを殺そうとしたのか。

 

 その話に、『人間の脳』という少々込み入った話が関わってくるが簡潔にまとめると人間は複雑な思考や行動を起こせる生き物であるが極端な話、彼らは脳内の神経細胞を駆け巡る電圧によって稼働や思考をし、記憶などが出来る。

 

 それらの正体は、ごく僅かな電圧である。

 

 もし、ピンポイントで感情などを司る『大脳辺縁』の電圧を直接刺激できれば?

 

 どんな人間でも『感情的』になり、『理屈』ではなく感じるがままに行動をし始めるだろう。

 

「(それが私のギアス、か。)」

 

 ロロから逃げるシャーリーたちを、上のフロアにあるテラスからキューエルが涼しいまま見下ろしながら思い浮かべていた。

 

「(初めはこの様なギアスなど、使い物にならないと思ったが……どうにも面白いではないか。 しかし話に聞いたロロとやらも、不便な能力を抱えたものだな。)」

 

 キューエルが視線を動かしたのはずるずるとシャーリーを背負って逃げようとするライラの様子を窺っているロロだった。

 

 ロロは今まで、『ルルーシュ(ゼロ)の弟役』の任務に就くまでは殆ど短期的な任務しか遂行していなかった。

 

 それは彼のギアスが強力な事もあったかもしれないが、ギアス使用時の副作用(欠点)に大きく由来しており、その所為かロロの体は『病弱』と呼ぶほどではないが年齢的に育ちが遅い理由でもある。

 

 つまり彼が感情の赴くままに『ギアス能力の目撃者(シャーリー)』という足かせを利用して不確定要素(ライラ)などをさっさと処理(始末)しない理由(は慕う兄(ルルーシュ)ほどではないが)もやし『不健康』な所為でスタミナがあまり無いからである。

 

「(しかし聞いていた話以上にロロとか言う小僧、欠陥品だな。)」

 

 後はロロのギアスが発動(心停止)中にライラが放った初撃(飛び蹴り)がd20のクリティカルのごとく非常に効いていたことも大きい理由であるが、その場を見ていないキューエルは知る由もない。

 

「ッ!」

 

 ギィン

 

 キューエルは何かに気付いたのか、すぐさま背後に振り返っては自分へと迫ってくるクナイを腕で払い落とす。

 

「やはり機械────!」

「────女で、しかもイレヴン!」

 

 クナイを投げてきた張本人と思われるメイド服の女性────咲世子を見たキューエルの表情は驚きから歪んだ笑みに変わる。

 

 キューエルの両腕からスティレットの様な細長い刃が出て、二人の間に激しい攻防が繰り広げられる。

 

 サイボーグ化により一撃でも食らえば『致命傷』になり得る攻撃と強化された防御力任せのキューエルと、俊敏性と防御力が薄いと思われる僅かな生体部分の隙間を狙う咲世子。

 

「たとえ機械でも、生体部分を狙えば────!」

「────ぬ?!」

 

 原作で彼女がジェレミアとほぼ拮抗した攻防を広げたのは伊達ではなく、ジェレミアより荒々しい戦い方をするキューエルは徐々にダメージを備蓄していき圧されていく。

 

 ドゥ!

 

「う?!」

 

『このままいけば攻撃を当てなくとも勝敗はいずれ決まる』と咲世子が思った矢先に、キューエルの腕から刃とは別に筒────銃口が飛び出てほぼ同時に射出した散弾が咲世子の右上半身に命中する。

 

「ふむ。 仕込み銃の具合は上々……」

 

「ブリタニアの騎士だった方が、暗器など────」

「────私はオレンジのように『矜持』にこだわる理由はない。 奴の言っていた言葉を借りるのなら“結果が全て”なのだ。」

 

 ダァン!

 ギィン

 

「弾かれた────?!」

 

 ────ドゥ!

 

 別方向からヴィレッタの撃った弾丸がキューエルの頭部に当たるが予想通りに貫通しなかったことにヴィレッタが声を上げ、キューエルの反撃に身を物陰に隠してこの隙に咲世子も消える。

 

「その声、ヴィレッタか……フゥ、またも女か。」

 

「キューエル、何故こんなことをしているかは聞かん! その代わりに見なかったことにするから去れ! (確か咲世子に渡された銃に、フルメタルジャケットの弾丸が入った弾倉が有った筈……)」

 

「“見なかったことにする”、か。 男爵位になっただけで、大きく出るようになったなヴィレッタ。 いや、トウキョウ租界機密情報局支部長?」

 

「そういう貴様は、体の改造とギアスごときで機を窺うだけの小心な男から威張り散らす猟犬に退化したか────?」

 

 ────バスバスバスバスバス────!

 

「────クッ?!」

 

 キューエルが連射して放ったスラッグ弾はヴィレッタの潜んでいた壁を貫通しなかったが大きな衝撃にヴィレッタは苦い表情を浮かべる。

 

「私は変わったのだよ、君と同じでね。 最も、君の所属する機密情報局はギアス嚮団の隠れ蓑だがね────」

 

 ────ダダダダダダダダダダァン!

 

 ヴィレッタは壁の向う側からギリギリ身を乗り出した体勢で狙いをほぼ定めずに拳銃を連射し、キューエルは頭部を両腕で守る。

 

 ボォン!

 

「これは……スモーク(煙幕)か。」

 

 銃声とは違う音がするとキューエルの周りにモクモクと煙が立ちこみ始め、彼は義眼の視界設定を変えていく。

 

 赤外線に変えたところで自分の方へ瓶の様な物が投げつけられるのを見て、キューエルは一瞬払い落とそうと腕を上げるが嫌な予感がして彼は瓶を避けながら投げた人型を仕込み銃で撃つ。

 

 バス!

 

 「ぐぁ?!」

 

「(男……ルルーシュとやらか────)────何?!」

 

 苦しむ声を聴いたキューエルの予想に反し、赤外線で見えた相手は怯むどころか一直線に自分へ走ったことに驚きの声を出す。

 

 バスバスバスバスバスバスバス!

 

 今度はキューエルが狙いを定めずに連射し、何発かは確実に当たったがそのようなそぶりを見せない相手はキューエルへと迫り続けた。

 

 キューエルは腕のスティレットを突くと腕が掴まれ、ここでようやくキューエルは相手を目視する。

 

「き、貴様は?!」

 

 森乃モードっぽいスバルを見たキューエルが驚愕し、反射的にフリーの腕からスティレットを相手の胴体めがけて射出する。

 

 グサッ!

 

 「い゛?!」

 

 スティレットの刃は森乃モードっぽいスバルの胴体ではなく、手を貫く。

 

「ぬあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 だがそのままスバルはキューエルの拳を掴むと今度は力任せにキューエルを強引にテラスのバルコニーへと押し始める。

 

「こ、こ、こいつ?!」

 

 流石に強化されたキューエルを押すのは困難……とキューエル自身も思っていたのは束の間で、スバルによってキューエルはバルコニーへと瞬く間に押されてはバルコニーの手すりで止まらずそのままキューエルとスバルは宙を舞う。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「どこに、こんな力がぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 キューエルはスバルの胴体を蹴って離れ、来る衝撃に備える。

 

「スバルさん!」

 

 スバルの方へと縄付きのクナイを咲世子が投げるも、彼は気を失っているかのようにそのまま落ちていく。

 

「(あ、やべ。)」

 

 そう冷静に思ったスバルは受け身を取る姿勢になり、来る衝撃と痛みに背筋を氷が伝うような感覚のまま身構えた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ……………………………………………………『痛い』。

 

 最初に(スバル)が思ったのは取り敢えず『痛い』。

 

 もう全身の痛覚が叫び続ける感覚のみで構成されているかのような痛みに意識ははっきりとしていく。

 

 モール内にあった化粧品売り場でちゃちゃっとした簡素『森乃変装』の見た目みたいにしたが、とにかく全身が『痛い』。

 

 だがはっきりとしていく意識とは裏腹に体中は怠く、瞼が開ける気が全くしない。

 

 周りが騒がしいのは理解するし、これが人の声だという事も分かる。

 

 

 だが不思議と耳に届いてくる声は周りの者たちではなく、どこか遠いようで近い距離にいる少年と少女のモノだった。

 

「私の、私の所為だ!」

「違う! 君の所為じゃない、俺のだ!」

「ち、違うです! 先輩の所為じゃなくて、助けを求めた私です!」

 

 すすり泣く少女と、そんな少女を慰めるような少年と、悲痛に満ちた声が聞こえてくる。

 

 聞いたことのある声たちだ。

 

「君も悪くない! 俺が甘かったせいだ……その所為で、君たちにまで被害が……」

 

「でも、元はと言えば私が勝手に────!」

「────いいんだ、もう。 やはり、君と現を抜かすべき時期ではなかったんだ……俺と関わっている所為で、こんな怖い思いをして……君は今まで通りに……忘れれば────」

「────こんなの……こんなのどうやって忘れるのよ────!」

「────出来る。 俺ならば、出来る────」

「────な、なに急に────?」

「────俺は、失いたくない……君を。 だから────」

「────へ────?」

「────もし、全てが終わった後で俺が生きているのならば……平和な世界になった後で、もう一度君と会って……俺を許してくれると言うのなら────!」

「────ルル、待って! ダメェェェェ!」

 

 悲痛に満ちた静かな少年の声と少女の叫びを最後に、(スバル)の意識は途切れる直前にふと俺はこう思った。

 

『こんな声が聞きたく無いが為に来たのに』、と。

 

 

 


 

 

「シャーリー!」

 

 スザクはオオクボステーションモール内に軍警察を送り、自分も乗り込むところでフラフラとしながら歩くシャーリーを見かけては驚きながら声をかけて制止する。

 

「ぁ……スザク、君……」

 

「無事だったかい?! 保安部から、君が急に中に入ったって聞いて……ううん、君が無事ならばそれでいい。 それでその……君からの相談話はまた今度にしようか? ほら、君を送る車も待機させて────」

「────“相談話”って、何のこと?」

 

「…………………………え?」




後書きEXTRA:
ダルク:ほわあぁぁぁぁぁ?!
マオちゃん:え?! え?! え?!
ルクレティア:なんですのダルクちゃん、急に?
ダルク:なんだか今、ビビッて来た!
アリス+サンチア+ルクレティア:………………『ビビ』??
ダルク:こう……アレだよ! アレアレアレアレアレ! 電気ショックみたいで違うビビッて奴! アヤノさんなら分かるよね?!
アヤノ:いや、分かんないわよ。 (『さん』って……)


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第242話 『思惑』と『自由意志』

急展開でカオスな次話です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。


「────と、いうワケでスヴェンはまたしばらく休むらしいわよ。」

 

「またぁ~?」

 

 陽光の当たるアッシュフォード学園のクラブハウスでは、少々ギクシャクしていたアンジュがミレイを含めた生徒会にスヴェンの容体が無理をし続けた所為で悪化したことを説明し終えていた。

 

「スヴェン、こうやって立て続けに……マジで厄介ごとを引き寄せる体質持ちなんじゃね?」

 

 もしここにスヴェンがリヴァルの言葉を聞いていたら全力で『お前が言うな!』と(リヴァルたちにとって)意味不明なツッコミを入れていただろう。*1

 

「う~ん……でもその“厄介ごと”って、大抵は人助けをした結果だからそうやって攻めるのもねぇ~……ね、()()()()()()はどう思う?」

 

「そうだな……それが、彼の良いところだ。」

 

「そう言えばロロはどうしたの?」

 

「あ、ああ……ちょっと、実家絡みの問題でね。 しばらく、戻ってこられないかもしれないんだ。」

 

「「……???」」

 

 そこには平然とするシャーリーもおり、ルルーシュの呼び名が変わっていることにミレイやリヴァルは違和感を持ったのかハテナマークを頭上に浮かべながらルルーシュと彼女を互いに見る。

 

「ふ~ん、そう。 あ、会長────じゃなかったミレイ先生~! ノルマこなしたので部活に行ってきま~す!」

 

「え? あ、うん。 行ってらっしゃい?」

 

「♪~」

 

 何時もの様子でどこか少し違うシャーリーの様子にミレイでさえも戸惑いを隠せずに生返事を返し、彼女が視界から出るとミレイとリヴァルが一気にルルーシュへと攻寄る。

 

「ちょっとなによ、今の?!」

 

「なんか超『他人行儀』っぽいぞ?!」

 

「……」

 

 アンジュは腕組をして手を握りしめる。

 

「あははは……恥ずかしい話、実は喧嘩中なんだ────」

「「────シャーリーとルルーシュが、喧嘩ぁぁぁぁぁ?!」」

 

「ほら、さっきロロの事を言っただろ? 実はその所為で俺、ちょっと最近イライラしていてさ? 先日、シャーリーに八つ当たりを……その、しちゃったんだ。」

 

「かぁぁぁぁ~! このリア充どもが! なんて贅沢な喧嘩だよ、おい!」

 

「喧嘩で他人ごっこって……可愛いわねぇ~♪」

 

「は、はは……はははは……」

 

 リヴァルは呆れ、ミレイは微笑ましいものを見たかのような表情を浮かべ、アンジュは視線を乾いた笑いをするルルーシュからそらして可動式屋内プールへと走るシャーリーを目で追う。

 

「(『知らない方がいい時もある』、っていうけれどさ……痛々しいわね、どうも。)」

 

 

 

 

「あ、ヴィレッタ先生!」

 

「ぁ……しゃ、シャーリー? 今日は来るのが早いな?」

 

 水泳部の更衣室に来たシャーリーを見たヴィレッタはぎこちなかった様子から回復しては()()()()()を装った。

 

「あ、はい。 ヴィレッタ先生から渡されたと思うノートを返そうと思って張り切っちゃって────!」

「────ちょ、ちょっと待てシャーリー」

 

 シャーリーはごそごそとカバンを漁っては、題名欄に『簡単献立レシピ表』とヴィレッタの手書きで書かれたノートを渡してくる。

 

「え?!」

「レシピノートを返すってことは……」

「もしかしてシャーリーの『謎の物体X生産癖』が治ったってこと?!」

 

「ちょっと! 『謎の物体X』なんてラベルはアンジュさんが初めて作った時に出る()()を指すヤツでしょ?!」

 

 ワイワイと騒いでは自分を弄ってくる水泳部員にシャーリーは抗議を上げ、その場でシャーリーのカチカチで黒焦げ物体Xとアンジュのコールタールのような性質を持ちながら独りでに蠢く物体Xを思い浮かべる。

 

「「「……ああ、確かに()()は無いわ~。」」」

 

「それよりもシャーリー、ルルーシュのお弁当作りの見本は良いの?」

 

「は? ルルーシュのお弁当?」

 

 水泳部員のミーヤにそう尋ねられたシャーリーは眉間にしわを寄せる。

 ちなみにあまりの予想外な展開に彼女たちはシャーリーのルル呼びがない事に全く気が付いていないと追記しておく。

 

 次の瞬間、変わることになるのだが。

 

「それでそれで~? 今朝は何を作ってあげたの?」

「卵焼き?」

「サンドイッチ?」

「ケチャップのメッセージとか?!」

 

「“作ってあげた”って……私が? ナイナイナイナイ! 誰が()()()()なんかに!」

 

 「「「「え。」」」」

 

「あー、シャーリー? そろそろ着替えてくれ。 他の者たちは私と一緒に来い、もう特訓に入るぞ。」

 

 ヴィレッタの言葉で察したのか、シャーリーを除いた部員たちはヴィレッタの後をついてプールサイドまでくるとヴィレッタが部員たちへと振り返る。

 

「少しいいか?」

 

「「「「???」」」」

 

「もう予想している者たちもいるかもしれんが、今シャーリーとルルーシュはその……()()()だ。」

 

「えええええええ?!」

「信じられない!」

「昔から甘~い雰囲気の二人が?!」

「貴重なラブラブから得られる保養成分がぁぁぁぁ……」

「あ~んま~りだぁぁぁぁぁ!」

 

「まぁ、今だからハッキリ言っておくがルルーシュの実家問題絡みでシャーリーに非は全くない。 ただその……彼女もルルーシュもこんなことは初めて同士だからどう振る舞っていいのか分からなくてな? 時々二人がきごちなくなるかもしれんが、そこはほとぼりが冷めるまで大目に見てやってくれ────」

「────それでヴィレッタ先生の方はどうなの────?」

「────告白できたの────?」

「────毎日朝早く来ているってことはお弁当を作っているんですよね────?!」

「────あ。 でも最近は前の時間に来ているからフラれたとか────?」

「────彼は今、そんな場合じゃ────って何を言わせているんだお前たちはぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

「「「「きゃあああああ!♡」」」」

 

 ヴィレッタは余程ニヨニヨした部員たちの悪ふざけが気に入らなかったのかその日から少しの間だけ、水泳部のスケジュールは更にスパルタ化したそうな。

 

「ひぃぃぃん! ヴィレッタ先生がいつもより怖い~!」

 

 「恨むのなら他の者たちを恨め、シャーリー!」

 

 今回ばかりは完全にシャーリーはとばっちりである。

 

 ……

 …

 

 ガラッ。

 ファサ。

 

「おおお~。 見た目より大きいです~。」

 

 女子寮内にあるシャーリーが使っている部屋の中のタンスを開けたライラは中を漁り、入っていた下着(ブラジャー)を出しては思わず感想を口にする。

 

「あら、本当。 着やせするタイプ────って、そんな場合じゃないわ。」

 

ルームメイトのソフィ(話せる相手)がいるとは言え、シャーリーの性格からしてこういった類の物を書き込んでいるノートがある筈だ』という事から二人はシャーリーの日記────あるいはそれに類するもの────をルルーシュのお願いで探していた。

 

 マーヤはそのままシャーリーの机や化粧箱を開けて探しものを再開し、チラッとライラの方を横目で見る。

 

「(表向きでは探し物をさせながら私とライラを指名するという事は、恐らく本命は出来るだけライラの傍に誰かが居ることね。 多分。 ルルーシュの……ゼロの見立てだと彼女には『何か』がある。 それに、オオクボステーションモールで()()()()()があったのに平然としている様子は確かに……ううん、私がもっと良い立ち回りをしていれば────)」

「────あ、あったです!」

 

 ライラがベッドのマットレスの間を探すと案の定、シャーリーの筆跡で『Diary(日記)』と書かれたノートが見つかる。

 

「あら、でかしたわライブラちゃん。 では、部屋の状態を戻しましょうね?」

 

「でも日記なんて、ルルーシュ先輩はどうするつもりだと思いますです?」

 

「う~ん……多分、燃やすんじゃないかしら?」

 

 「え。」

 

 マーヤのあっけらかんとした答えにライラは笑みのまま固まる。

 

「だって中を見なくとも、情報消去が確実だし────」

 「────そんなのダメです!」

 

「ら、ライブラちゃん────?」

 「────ダメダメダメダメダメダメ! そんなの絶対にダメダメのダメですー!」

 

「でも、それだと────」

「────日記は書いた人の記憶を紙に絶対に忘れたくない思い出を移したものです! それを燃やすなんて、ダメダメのダメ人間がすることです! 絶対にダメです! それなら私が死守するですよ?!」

 

「『思い出』……そう、よね。」

 

 ライラの地団駄かつノートをぎゅっと両腕でガードし、断固拒否の意思表示にマーヤは何か思うところがあったのか次第にいつもの調子に戻っていく。

 

「うん……確かに大切よね、『思い出』は。 私が軽率だったわ。 でも、ルルーシュにはどう────?」

────私たちが燃やしたことにするです。 それとも写本してからの方が? ……ブツブツブツ。

 

「(私にも、()()()()()()()()()()()のかしら────?)」

 

 ────ゾワッ

 

 ライラがブツブツと考え込んでいる間、マーヤは窓の外に広がる租界の景色を見ながら今までずっと考えない様に(蓋を)していた疑問に意識を運ばせると悪寒が背筋を上がる感覚に考えを止めた。

 

「(ううん。 それよりも今は、『今後』の『どうなるか』と『どうするか』ね。 一応、彼のメモに書かれた『怒りと悲しみ任せのギアス嚮団完全殲滅*要注意*』と書かれていた。 そして今までの情報やデータから嚮団は東ユーラシア領土内にいるとレイラが予測を出している。

 緘口令であの周辺に関するニュース報道こそされていないけれど、アングラジャーナリズムによると国境を何度か超えようとしたブリタニアやユーロ・ブリタニアの部隊は自衛に長けた領土軍とあの巨大兵器────仮称『Sultr(スルト)』から被害を受けて未だに攻略ができていない。 東ユーラシアに嚮団があるからブリタニアが本腰を入れていないだけかもしれないけれど……)」

 

 ………

 ……

 …

 

 

「シャーリーのノートを、お前たちが燃やした?」

 

 同日の昼、更にアリエス宮に似せられたクラブハウスの屋上庭園でシャーリーのノートを受け取る筈だったルルーシュがライターを手にしながらライラとマーヤを見る。

 

「ええ。 その方が良いかなと思って。」

 

「……提案者は()()()か?」

 

「エッヘンです!」

 

「(キャラを作っていたとずっと懸念していたが……もしやこれがライラの素なのだろうか?) そうか、手間をかけたな二人とも。」

 

 ルルーシュはいつも通り(平常運転)を装いながら、なるべく他の事を考えられないようにすべての並行思考を使ってまで頬杖をしながら思案に(ふけ)る。

 

「(先日のオオクボステーションモールの事件で、『ライブラが実はライラ皇女だ』とマーヤが知った経歴でアマルガム側が偶然に知ったような体をしているが見たところ別の状況で知った印象が強い────それは今、重要ではないな。 取り敢えず『これから』だ。

 ピースマークのオズから最後に来たデータとジェレミアの協力に以前ロロから得た情報でギアス嚮団の大まかな位置はほぼ特定できた。 東ユーラシアの『スルト』とやらはギアス嚮団の捕獲をすればよりギアスの事を理解することが出来、自軍の強化に、オフに出来なくなった俺のギアスの改善に繋がる可能性が……『ギアス嚮団の捕獲』、か。 当然、ギアス嚮団には()()()も居るということで再び会うことになるのだろうな。)」

 

 ここでルルーシュが『アイツ』と称しているのは、先日のオオクボステーションモール騒動から居なくなったロロである。

 

 先日は文字通り、ボロボロになったスヴェンがキューエルと共に上の階から落ちていく場所へと急行していたルルーシュとマーヤが見たのは『困惑しながらシャーリーを引くようなライラを、胸を掴みながら追うロロの様』だった。

 

 どこからどう見ても、ロロが二人を追い詰めているような絵図だった。

 

 それにロロが気が付いたのか、彼はルルーシュたちと目が合うなりに表情がハッとしてはすぐに焦りへと変わり、彼が口を開けたところで受け身を取っていたキューエルと明らかに重症なスヴェンが落ちてきたことでロロの言葉は遮られた。

 

 更には異様な姿へと変わり果てながらも顔に火傷を負ったカラレスが『四脚の足』で着地してきたところでその場は混乱し、気が付けば砂塵の中へとキューエルやカラレスにロロは姿を消していた。

 

 何時もならばアクシデントがあっても頭を切り替えて動ける者たちもその場にいたのだが、居なくなったロロたちよりスヴェンの様子にひどく怯えて動揺するシャーリーと、そんな彼女を狼狽えながら慰めていたルルーシュの姿と動揺するシャーリーにルルーシュがギアスを使ったことに気を取られてしまっていた。

 

「(まさかあの男と同じように、ギアスを使う羽目になるとはな……今にでも頭がどうにかなりそうだ。 今すぐにでも零番隊でギアス嚮団の壊滅を決行したい。 だが────)」

 

 ルルーシュはこれからの事から思考がシャーリー関連に脱線していくその都度に考えを別の重要案件になり得る情報に向けていく。

 

「(────『ロロが(ルルーシュ)の弟』で、『ナナリーの兄である可能性』か……)」

 

 そしてようやく彼の思考が辿り着いたのはエルが伝え忘れてはアンジュに託し、オオクボステーションモール事件直後にようやくタイミングを見つけたと思ったアンジュから先日伝えられた情報だった。

 

 そのおかげか、ルルーシュが命じそうだった『ギアス嚮団の完全殲滅』は感情が新たな可能性(情報)の前に濁り、作戦は『一時保留』となった。

 

 ………

 ……

 …

 

「ふ~ん……これは面白い発見だねぇ~?」

 

 別の場所ではキューエルたちから得たデータや画像を見てニヤニヤしていたV.V.がいた。

 

「情報ありがとう。 これを見つけた功績で君()()の勝手は不問にしておくよ。」

 

「「……」」

 

 V.V.はニッコリとした満足そうな顔を複雑な顔をするキューエル、そして未だに怯えるような表情を浮かべるロロへと向けた。

 

「ああ、別にボクは怒ってもいないし気にしていないから自由にしていて良いよ? キューエルは修理してもらったら? ロロも休んだら? そのまま二人とも来ちゃったんでしょ? というか二人とも下がっていて。」

 

「で、では……」

 

 キューエルはそそくさとその場から逃げ出すかのように居なくなり、ロロも無数のハテナマークを頭上に浮かべながらV.V.にもう一度だけ振り返ってから退去する。

 

「君たちも。」

 

 するとV.V.は近くに居た者たちも退去するように手を振って一人になったところで天井を見上げる。

 

「(さてと、ルルーシュがゼロならば早々にここを引き払う用意をするか。 でも……『自然体でありながら()()()()()()()()』なんて逸材が見つかるとはねぇ~。 少しタイミングがねぇ~……エリア11にはまだクララとナナリーの件でシャルルが送り込んだ()()()がいることだしもう終わっちゃってこっちに来ている頃かな?  それとは別に、やっぱり()()()はちょっと厄介だな~。) だからさ、勝手なことをしないでくれるかな?」

 

 V.V.が振り返様に先ほどまで何もなかった場所にいつの間にかテーブルでハーブ茶をすすっている男性に声をかける。

 

「“勝手なこと”? 何の事だい?」

 

「聞いているよ。 近くの東ユーラシアにある巨大兵器って、ジルクスタンからの提供なんだよね? あの国、君がよく出払っているところじゃないか。」

 

「確かに足を運ばせているよ? でも兵器の提供なんて、私が推薦出来る立場にいるわけがないじゃないか。 前から言っているじゃないか、あれは訪問診療の為だよ。」

 

「(いけしゃあしゃあと……)」

 

「そもそもここは『秘密』が最大の防御となっているからね、あちらと違って。」

 

「あちらというと……」

 

「おや、流石は教祖。 しっかりと覚えていたか……といっても、前回の衝突は印象的だったからねぇ。」

 

「何度か遺跡を巡って()りあっているからね。 (そう考えればおかしくはないかもね、最近は派手に動いたし。 それにあの時はシャルル経由でビスマルク直々に軍の指揮を取らせて引き分けに終わったからなぁ……)」

 

 ここでV.V.の笑みは少しだけ深くなった。

 

「(だからこそ、あの子の捕獲が完了したらここから拠点を移す用意はするのだけれど。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……ん。」

 

 スヴェンが目を覚めると、今となっては見覚えのある天井を見上げていたことに意識の覚醒が早まっていく。

 

「(『目が覚めたら左腕が肘から下がギプスで体中がジンジンするままベッドから窓の外を見ると蓬莱島でアマルガム側のアパートビル内だった』、か。)」

 

「あら、目が覚められましたか。」

 

「(追記、『隣のベッドには重症ながら器用にリンゴの皮むきをしていたマーヤがいた』。)」

 

 この状況下にスヴェンの脳内には様々な疑問や感想が浮かび上がった。

『器用だなおい』。

『どうやってケガを負った?』。

『何故マーヤもケガを?』。

 

 等々。

 

「オオクボから何日経った?」

 

 彼は口下手な自分に少々呪いながらも、マーヤが自分の知っている姿と違ったことから時間の経過を知りたがっていた。

 

「あれから三日ほどが経ちました。」

 

「(三日?! 三日も寝込んでいたのか、俺は……うわぁ。) そうか……その傷は?」

 

「はい、どうぞ。」

 

 スヴェンは自分に呆れながらもマーヤへ気遣いの言葉をかけると横から皮がところどころ付いたままのリンゴが出てくる。

 

「(相変わらず不器用な手先。 見た目はいいのに……) 頂こう。 それで、その傷はどうした────?」

「────私が説明しよう────」

「────ムグっ?! ゴホ、ゴホゴホ?!」

 

 スヴェンがリンゴにかじりつくと反対側から来た声に思わずむせてしまい、喉にリンゴの皮を詰まらせてしまい咳き込みながら包帯を首や額に病衣から出ている手足に巻き付けた声の主であるエルを見る。

 

「エル、今のはワザとね?」

 

「クク、まさか。 彼が尋ねたのに君が答えないから代わりにしただけだ。」

 

「(そう言っている割には『ナイトメア・オブ・ナナリー』並みの悪い顔をしているのだが?!) それで、何故二人ともケガをして────?」

 

 ────ガチャ。

 

「あ、スヴェン先輩やっと起きたです!」

 

 「↑ホ?!」

 

 病室のドアが勢い開かれて向こう側からどういうワケか私服でお湯の入った桶とタオルを持ったライラの姿にスヴェンは奇声を上げた。

 

「プフ?! “ホ?!”って何よ────」

「────良かったですねアリスちゃん! 今日は温いコーヒー牛乳を飲まなくていいですね────!」

「────ぬあああああああああ?! 違うからぁぁぁぁぁ!」

 

「(アリスまで? なにがなんでいったいぜんたいこうなった────?)」

「────うん、そこはちょっと私が説明するかな? 話が進まなくなるような感じだし。」

 

「カレン?」

 

 ドア付近でニコニコするライラに対して威嚇する猫のように騒ぐアリスの横を保温バッグを手にしたカレンは流れるようにベッドサイドまで近づき、スヴェン近くの椅子に腰かける。

 

「(流れるような動作、やっぱ(前世の)世間でスザクと並ぶチート身体持ちだなぁ~。)」

 

「な、なに? ジロジロ見て……」

 

「(しまった。 “あまりにも久し振りでどう声をかけたらいいか分からなかった”なんて言えねぇ……) ああ、すまん。 いつ見ても綺麗(な動き)だなと────」

 「────クヒ────」

「────うん? 何だ今の音は?」

 

「コホン……それでどうしてここにライブラ────ううん、ライラちゃんが居るかだよね?」

 

「(『ライブラ=ライラ皇女』を誰かから聞いたなこれは────)」

「────ああ、そこはエルとマーヤから聞いたし状況が状況だけにね? だから責めないで。」

 

「……今の俺、口にしていたか?」

 

「ううん、私が勝手に悟っただけ。」

 

 「(カレンの勘、やっぱこえぇぇぇぇぇ!)」

 

「「「……」」」

 

「何だその目はお前たち。」

 

「別に。」

「いえ、仲が良いと思っただけです。」

「ククククククク。」

 

「(アリスの顔プイとマーヤの純粋なコメントはともかく、エルのリュー〇っぽい『ククク笑い』はシャレになっていない……というか何気に激辛マーボー男を連想しそう。)」

 

 アリスのジト目に視線を送るマーヤとニヨニヨとするエルの視線に気が付いたスヴェンの問いに答えるも、スヴェンは不安を拭えなかった。

 

 そこからカレンが語った、簡潔な一連の出来事にスヴェンは痛みを忘れるほど重傷ながらも頭を抱えた。

 

「(『記憶が弄られた政庁で待ち構えていたクソショタ陰険根暗ジジイの手先に攫われそうだった』だと? 『攫われているところをエルとマーヤが突貫』いったいどういうことだっちゃ。)」

 

「(あ。 これ相当テンパっているわね。) 」

 

 ポーカーフェイスながらも頭を両手で抱えて汗をジワリと掻きだす静かなスヴェンの内心を悟り、手にしていた保温バッグの中から()()()()を出してスヴェンの目につくように出す。

 

「な?! そ、それはまさかビッグモナカ?!」

 

「そ。 この間、ようやく大量生産の目途がついたの。 試しょ────?」

 「────ぜひ。」

 

「はいはい。 包装は仮の物だけれどちゃんとした奴だから────」

 「────くれ。」

 

「ハイハイ。」

 

 ポーカーフェイスのままキラキラと明るくなったスヴェンの前にカレンが包装を取り除いたビッグモナカを食べられる距離にまで近づかせると、スヴェンは躊躇なく口を開けてはガブリつく。

 

 バリ! ボリ、ボリ、ボリ。

 

「(ムッハー! このモナカのパリパリにバニラアイスと板型のチョコレートの触感! たまらんわ~♡。)」

 

「どう?」

 

 ゴックン。

 

 「余は満足である。」

 

「よし! じゃあスバルの御墨付になったことだし、生産のオーケーを出しておくね? あ、それと桐原さんから蓬莱島に関する資料を置いておくから目を────」

「────ちょっと待てカレン。 お前、ナイトメアは? (この時期だと旧中華連邦の領地確保とかに中華テリオンと藤堂さんが出払っている筈……それにルルーシュもギアス嚮団の捕獲に動いている筈だ。)」

 

「うん? ナイトメアにも乗っているよ? でも藤堂さんとかベニオが頑張っているから、こうやって桐原さんやレイラの横で手伝いをしている。 あとは正直怖いけれどアヤノと一緒に冴子との手合わせとか。

 

「(あのカレンが! 勉強とか面倒くさがって教科書を丸暗記していたカレンがッ!!! 事務作業をッッッッ────!!!!)」

 「────スバル、これ以上失礼なことを考えたらしばくよ。」

 

「…そんなことは無い、感心していただけだ。」

 

「でもさぁ、良く分からないんだよねぇ~……人頭税無しに税も低いのに労役の給金出すなんて、どうしてだろう……桐原さんはウンウンとレイラの案に頷くだけだったし……大丈夫かな?」

 

「カレン、それは違うぞ。 元々蓬莱島は流民で出来たばっかりの場所だ。 言いたくはないが、生活基準こそ高いが世界の貧富基準だと貧しい民ばかり。 そんな人たちから税をとってもたかが知れている。 逆に特産品で暮らしを安定しつつ経済を回せば、流民という『母数』は上がる。 本来、こんなやり方は通用しない。 領主や国の代表を通して民の流通は制限されるからな。 だが中華連邦や東ユーラシアの騒動の影響で流民の正確な把握が出来ない今だから人の流入を利用する手に桐原は納得したのだろう。」

 

「へぇぇぇぇぇぇ……」

 

「ほぼ反則な手に近いが、理には適っている。 (でもまさかあの委員長っぽいレイラがねぇ~。)」

 

 追記するが、レイラはスバルが『亡国のアキト編』への介入時に見せた『ジュリアスによる精神攻撃時にEUの強制収容所から日系人を全員人工島へ避難させる』の『国の混乱を利用して人間の流通を密かに行う』という案をオマージュしただけである。*2

 

 「つまり他の貧しいところから民を釣って、人口を増やすってことだよね!」

 

「カレンの言い方は少しアレだが……まぁ、有り体に言えばそうだな。」

 

「「「「……」」」」

 

「「あ。」」

 

 カレンとスヴェンは室内にいる者たちからの様々な視線に気が付いては黙り込む。

 

「(ん?)」

 

「???」

 

 ただスヴェンはそんな中で、少々異質な思惑のある視線の違和感のライラの方を見ると彼女がしょぼんとした表情で見返すだけだった。

 

「(今のは、気の所為だろうか?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うへぇ~。」

 

「ま、まぁ時間が経ったらライラにもベニオは慣れてマシになるわよ。」

 

「そうあって欲しいです~……」

 

 同日、太陽が沈んで夜になった蓬莱島のアパートビルに少々疲れ気味のライラがトボトボとアリスによって慰められる。

 

 実は元イレギュラーズのアリスたち、マオ(女)によって(半ば無理やりに)蓬莱島で栽培しているサトウキビなどのおかげで潤沢な甘味料を利用した菓子屋やケーキ屋などに連れまわされている間にばったりベニオとサヴィトリと出会った。

 

 歳も近い所為か、すぐに意気投合した。

 ほぼ誕生日が皆より早い事で『お姉さん』を自称するベニオのおかげで。

 

 余談で年齢でこそベニオが一番年上なのだが、どや顔と胸を張るベニオの横で精神面だと大人寄りであるサンチアとサヴィトリが引率する図となっている。

 それもあり、ベニオは何かとアリスたちの面倒を見たくなるのか当初はべっとりと引っ付く癖が新参者であるライラに向けられた。

 

「……ねぇライラ? 本当に一人で大丈夫?」

 

 ちなみにライラからは『呼び捨てにしてほしい』という事からフランクな呼び名となっているので彼女が皇女という事は未だ限られた人数の人にしかバレていない。

 

「ん~……毒島先輩から借りた特大モチモチおはぎちゃんを借りたから大丈夫です!」

 

「(ああ、毒島が自ら編んで作った真っ白な枕ね。) そ、そう……何かあったらいつでも電話してね?」

 

「ハイでーす!」

 

 そう言いながらライラ元気よく手を振って自室に入ると一直線にベッドの上に横たわり、真っ白な鏡餅風の巨大す〇すく白〇モドキの『特大モチモチおはぎちゃん』を抱く。

 

「……ふー。」

 

 次第に緊張が抜けていくと、着けていた『笑顔』が憂鬱の入った表情へと変わっていき、彼女は顔を特大モチモチおはぎちゃんのお腹に埋めたところで思わず思い出してしまう。

 

 何時も通りの日々が終わる瞬間を。

 

 何時も通りに学園から政庁へと帰るといつもは無いSPの交代が玄関でされ、嫌な予感に助けを求めに建物内を貼り巡る通気口を使ってようやく兄のクロヴィスの事務室に辿りついた時を。

 

『お兄様、助けて! 何か嫌な予感がするです!』

()()()()()?』

 

 ズキッ!

 

「ふ……」

 

 まるで奇怪な他人を見るような(いぶか)しむ目で自分を見るクロヴィスを前にライラは体から力が抜けてしまい、事務室にいた別の男性に腕を掴まれてその場から退去させられた。

 

 気が付けば自分は政庁のヘリポートで待機していたヘリに連れ込まれ、男性たちをもう一度よく見ると全員が初老のクロヴィスの様な見た目をしていた。

 

 ただし目と顔はクロヴィスと違い、まるで生きることを諦めた様な暗いものだったが。

 

 そしてライラが困惑している間にどこからともなく空を飛ぶバイクが現れては中からフルフェイスマスクをした二人組がヘリに取り付いて中にいた者たちと交戦し、落ちていくヘリの横に空飛ぶバイクが来てはカウルらしきものの中から手を伸ばしたアンジュがいた。

 

 ライラはほぼ本能的に手を取り、負傷しながらも落ちていくヘリから脱出したフルフェイスヘルメットの二人組の回収も手伝った。

 

 負傷した二人組とはルルーシュそっくりのエルと、マーヤだったのは言うまでもないだろう。

 

「ふぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

 そしてここまで思い出してはようやくマヒしていたライラの胸に心の痛みが走り、彼女は悲しさと虚しさで涙を流し始めた。

 

 スヴェンがライラから感じた視線には『値踏み』という奇妙なモノが含まれていた。

 

 幼少から箱入りな環境で育った上に兄のおかげで隠匿された存在としても使用人などを通した皇族争いを生き抜くために『使えるものは何でも使う』ということを無意識に身につけていた。

 

 その一つがクロヴィスに可愛がられて保護されてきた経歴もあってか自然と身についた『甘え上手』を使って他人を観察して気に入られることだった。

 

 ライラは元々愛想がよい上に観察眼を磨いては『他人に取り入る』ことでその身を守ってきた。

 

 つまるところ彼女は心を緩ませられる環境はごく僅かで、その数少ない場所は初めての学園と兄のクロヴィスの周りだけだった。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 物言わぬ特大モチモチおはぎちゃんに顔を埋めてもライラの泣き声は僅かに漏れていたことに気付かない彼女は人生で初めて心の赴くままに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 『うわぁぁぁぁぁぁ!』

 

「「……………………………………」」

 

 ライラの部屋へと通じるドアの前に、手に差し入れらしき物を持ったアリスと松葉杖を使ってドアにノックしそうだったスヴェンたちは無言で固まっていた。

 

「ッ?!」

 

 だがそれも数秒の間だけで、アリスは横から来る冷たい感覚にスヴェンの顔を見ては顔色を青くさせながらビクリと体を震わせた。

 

「………………………………………………」

 

 スヴェンの表情はポーカーフェイスどころか、感情のない人形が浮かべるようなのっぺりとした顔だった。

*1
なんでさ

*2
114話より




鉄騎兵がランドスピナーを使って走り、跳び、機銃がうなっては咆哮を上げてミサイルが弾けていく。
戦場が彼を幾度となく無慈悲に呼び戻し、その都度に彼は奇声を上げた。
例外は悲しさや無力感、虚しさなどに流される他人の涙を自ら巻き上げる劫火で乾かす時のみ。

冷えた彼の怒りは、何に向けられる?

次回予告、『幽鬼、魔女たちと舞い降りる』。




余談:
現在作者は『年末の休暇もぎ取り作戦』を遂行中。


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第243話 スルトぶっ殺しにムスペルハイムへレッツゴー

次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


「どうしたんですか、スザクさん?」

 

「え?」

 

 トウキョウ租界の政庁の総督室でナナリーがふとスザクに声をかける。

 

「あまり元気が無いようですけれど……」

 

 何時も薄笑いを浮かべているスザクは確かに感情のこもっていない表情をしていたが、目が不自由なナナリーはスザクから感じてくる違和感に関して問うことにした。

 

 上記だけが、ナナリーの動機ではないが。

 

「あ、ああ。 オオクボステーションモールのテロ現場の近くにシャーリーが居てね。 彼女、無事だったけれどちょっとショックを受けていたのが気に……なって……」

 

「まぁ! あそこにシャーリーさんが?!」

 

「うん。 でもケガも何も無かったから大丈夫だと思う。 (あの口ぶりだと、多分……ルルーシュにギアスをかけられた。 あれだけ彼の力になると決めておきながら、僕は……)」

 

「それにしても、急でしたねスザクさん。」

 

「え? 何が?」

 

「合衆国中華の事もあって、ライラちゃんが本国に帰国されたことですよ。 元気にしているかしら?」

 

「ッ。 何も連絡は来ていないみたいだから、どうかな?」

 

「急なことで、きっと彼女もクロヴィスお兄様も大変ですよね……」

 

「ああ……だから今はエリア11に専念できるように、皇帝陛下も彼女の話を禁じているんじゃないかな? 宰相閣下(シュナイゼル)も、黒の騎士団が次に狙うのはここ(エリア11)だと睨んでいるしね。」

 

「……そうですよね。」

 

「(僕の……不甲斐ない俺の所為だ……だけどせめて、ナナリーだけはルルーシュの代わりに守ろう。)」

 

 政庁からライラが居なくなったことで明らかに気落ちしているナナリーにスザクの胸の痛みは増し、彼はそれに蓋をしようとする。

 

「(ユフィには悪いけれど、もしナナリーやシャーリー……ルルーシュと親しい人たちに危機が迫って自分と彼女たちを天秤にかけるような事態に陥れば……その時、俺は迷わず────)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 パシャ、パシャ。

 

 とっくに夜が訪れた蓬莱島の務室内と繋がっている休憩室の中でルルーシュは顔を洗っていた。

 

「……フ、酷い顔だな。」

 

 水と共に化粧が流れ落ちた後に、自分の顔を見た彼は思わずボソリとつぶやきながら疲れを示すクマなどをメイクで覆っていく。

 

「そうだな。 初めてじゃないか? お前が私の化粧品をこうやって使うのは? ああ、女装した時があったなそういえば。」

 

 そんなルルーシュを後ろから何時ものクスクスとした笑いを浮かべず見ていたC.C.が声をかける。

 

「うるさい、ピザ女。 あの時は不可抗力だ。 そもそも女装はスヴェンだけの筈がいつの間にか会長……先生の悪ふざけと流れの所為だ。 それよりもお前に確認したいことがある。」

 

「なんだ?」

 

「お前は、俺に協力してくれるのだな?」

 

「そういう契約だからな。」

 

「相手がギアス嚮団でもか? 一応、あそこの嚮主だったのだろう? 思い入れとかは無いだろうな。」

 

「私は良くて『象徴(シンボル)』、ありのままを口にすれば『お飾り』だったよ。 今の嚮主である、V.V.は違うがな。」

 

「そのV.V.はお前と同じで不死身なのか?」

 

「まぁ、そうだな……なんだお前、奴を殺すつもりか?」

 

「正直に言うと、奴が不老不死だということを逆手に取って何度でも八つ裂きにしてやりたい!」

 

「帰って来るなり、開口一番が“シャーリーにギアスを使った”と言っていたな……かけたギアスの内容は何だ?」

 

「好意を……俺と初めて出会った時に戻し、あの男のギアス内容を────って、お前には関係ないだろう! それよりもお前との契約、もう一度聞かせてくれ。 お前は俺にギアスを与えた、その代わりにお前の願いを叶える。 お前の願いとやらを聞かせろ────」

「────それこそお前には関係ない────」

「────この期に及んでまたそれか! 相変わらず我儘で、卑怯だな!」

 

「……お前()V.V.を殺すことが出来るのなら教えてやるよ。 といっても、お前()()無理かも知れんがな。」

 

 珍しく荒ぶる感情のまま言を並べるルルーシュを前に、C.C.は観念するかのように上記の言葉を返した。

 

「ふん、やってみなければわからんだろう? それにクロヴィスがお前にやったように奴を封印をして、『苦痛』という名の試行錯誤を繰り返すだけだ────」

 

 ────ピリリ、ピリリ。

 

 部屋の中で呼び鈴の様な音が鳴り響くとC.C.は近くの端末を操作する。

 

「ルルーシュ、お前に客だ。」

 

「誰だ。」

 

「あのスバルとかシュバールとかスヴェンとか名前をコロコロ変えている若造だ。」

 

「目が覚めたのか?」

 

「ああ、今朝な。」

 

 「何故俺に言わなかった。」

 

「……聞かれていなかったからな。 で、どうする?」

 

「入れろ。 この時間、ここに来たという事は恐らくライラの事を知ったのだろう。」

 

「ああ、お前の異母妹の。」

 

 C.C.は記憶を呼び起こすと頭上にほわほわとした少女漫画風の想像が浮かび、自分を見たライラの感想である『滅茶苦茶綺麗な人、出現です!』を思い出す。

 

「可愛かったな♪」

 

「(こいつは本当に何を考えているのか分からん。)」

 

 ルルーシュは化粧をし直してゼロとしての身だしなみを軽く整えてからドアのロックを解除すると、包帯を取っていくスヴェンが部屋に入ってくる。

 

「ゼロ、今いいか?」

 

「ああ。」

 

「ギアス嚮団の場所は特定できているか?」

 

「(いつになく直球だな。) だとしたら?」

 

「知っているのか、知らないのか?」

 

「お前はそれを知ってどうするのだ?」

 

()()()()()()()()。」

 

「……“同じこと”、か。 果たして────」

「────違うのか? だとしても、俺は一人で出る。」

 

 スヴェンの答えにゼロは腕組をして、まるで考えているかのように間を置くが切り返すようなスヴェンの確認にルルーシュは仮面の下で思わず悪い笑顔を浮かびそうになってしまう。

 

「……いいや、違わないだろうな。」

 

「だろうな。 ではいくか────」

「────ああ────」

「「────ギアス嚮団へ(V.V.を追い詰めに/()りに)。」」

 

 肩を並べながら歩くゼロとスヴェンは同じようでありながら微妙にずれている思いをしながら部屋から出ていく。

 

「(つくづくアイツの周りにも皇族が居るようになるな~。)」

 

 一人残されたC.C.はのほほんとゼロたち(死角にはスヴェン)の背中姿を目で追った。

 

「(二人の『理不尽な暴力の抑止力』となる動機が、まさか『最愛()の笑顔の為』と『周りの笑顔の為』とは誰も思わないだろうな。)」

 

 C.C.はぼんやりと、ぬいぐるみの輪っかを抱きしめて天井を見上げながら靄のかかった記憶を久しぶりに呼び起こした。

 

「(まるで、あの二人を思い出させる。 蓮夜とクレアを……あいつらの誘いを受けてブリタニアに居座っていれば、私も今頃は……いや、そんなことを考えても意味は無いな。 それにV.V.を坊や(ルルーシュ)は封じようとするだろうな。 若造(スヴェン)は……)」

 

 C.C.は右手をぬいぐるみから離しては眼前にかざしては天井からの照明を遮りながら、かつて自分で試したことを思い浮かべた。

 

「もし、本当にV.V.を殺すことが出来るのなら……私もこの夢に、ようやく終わりを告げられるのだろうか?」

 

 ……

 …

 

「他国からくる流民は来たグループをまとめて蓬莱島と合衆国中華の土地に振り分けるのか?」

 

 アマルガム用に置いてある蓬莱島の事務室で資料を振り分けながら手伝いをしていた毒島がレイラに事情を問いかける。

 

「ええ。 流民と言ってもグループ化出来ているという事から少なからずの身内意識が出来ていると思われますので、無理に開拓村などに新参者を送り込んでもいい結果は生みにくいかと。」

 

「それは君がEUに居た経験ゆえか。」

 

「元々シュバールさんがやってくるまでwZERO部隊が活動を行えたのは、ワイバーン隊の日系人たちが既に仲間意識を持っていたことが大きかったからですので。」

 

「しかし、“収穫や生活が安定するまでは税を免除する”と言っても……ああ、だから労役に対しての給金か。 鞭と飴の使い分けかたがおじい様(桐原)並みになってきたな、『()()()』?」

 

 「う。」

 

 レイラが思い出すのは初めて黒の騎士団の幹部たちに会ったときの印象から、杉山が思わず口にしたあだ名だった。

 

 ちなみにその時のセリフは────

『へぇ~。 “責任感が強くて真面目な性格な上にルール破りが嫌いだ”なんて、まるで委員長だな!』

 ────である。

 

 なおこの時に彼が口にした『委員長』という役割を、(かなりの偏見を持った)卜部たちから聞いた後に地味メガネの着用やら三つ編みおさげなどを身内(主に日本人組)から勧められてその都度にレイラは断固拒否したりしていた。

 

 ちなみにスヴェンはこの時『双貌のオズ』への介入中だったので、これは彼が知らないエピソードである。

 

「そ、その呼び名はやめて頂けると助かりますサエコ────」

 

 コン、コン。

 

『────私だ。 スヴェンもここにいる、良いか?』

 

 部屋のドアにノックとゼロの声が聞こえたことにレイラはササッと書類を片付け、毒島がドアを開ける。

 

「ようやくか、待っていたぞ二人とも。」

 

「ギアス嚮団の事ですよね? 既に大まかな作戦を練ったので、他の皆さんにも連絡を付けます。」

 

「流石だな、レイラ・マルカル。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「今まで得た情報からの憶測を纏めますと東ユーラシアの所持している巨大兵器の『スルト』は恐らく早期警戒管制機の役割を持った高々度観測気球、あるいはそれに準じた物を国境沿いに配置しているかと思われます。 これがあれば国境に近づいてくる敵の方位、距離、速度等を事前に察知しデータを利用すれば今までの迎撃態勢の対応速度に説明が付きます。」

 

「それはそこにいる、シャイング卿も同意見か?」

 

「ええ。 そもそもこの様な警戒網と超長距離砲と部隊の展開方法は、私がまだユーロ・ブリタニアに身を置いていた頃に発案した理論と酷似している。」

 

「なるほど。 ではEUと中華連邦だけでなく、ユーロ・ブリタニアからの離反者もいると考えた方が良いか────」

「────それだけではないな。 付け足すのならフロートシステム……あるいは電力駆動プラズマ推力モーター付きの航空部隊も視野に入れるべきだろう────」

 

 まるでスヴェンとゼロが来ると予想していたかのように、レイラと毒島に呼ばれたシン、ジャン、ウィルバーなどが集まり淡々と東ユーラシア攻略の話を進めた。

 

「(……そう言えば……)」

 

 ここでスヴェンはようやくアマルガム側が全員、似たデザインの軍服を着用して統一性が増していたことに気が付く。

 

 彼だけがゼロのように違う服装で『アウェイ感アリ』で少々気まずくなったのは(あまり)関係ないだろう。

 

 例え男女が強化スーツのインナーとロングコートまでは共通していて男性は長袖長ズボンスーツに女性が長袖スーツにプリーツタイトスカートで某ラヴ世界の国連士官用軍装に似ているのも、きっと彼の気のせいだろう。

 

 そしてよく見ると軍服のいたるところにカモフラージュされたドットボタンや、タイトスカートにもかなりきわどいスリットが巧妙にあるのも彼の気の所為だろう。

 

 多分、早急にインナー姿になって強化スーツの外骨格を付けられるようにした工夫も気の所為だろう。

 

「(うん、きっとそうに違いない。 皆、少しだけ独自の工夫をしているがなんだかSMの『アッチ系の趣味』を持った人の服装みたいで女性陣がエロ────いや。 今はそんなことを考えているときじゃない。)」

 

 スヴェンは自分にそう言い聞かせながらいまだに続く会話に注意を戻す。

 

「だとすると、こちらも航空部隊を導入すれば速やかに片付けられるのではないのか?」

 

「私もそう思っていましたジャンさん。 ですが先ほどミルベルさんが言ったように、敵は電力駆動プラズマ推力モーターのみを使用しているところから新たな可能性が出ました。」

 

「どういうことだ?」

 

「つまり東ユーラシアの『スルト』に付いている早期警戒管制機はフロートユニットやシステムの使用時に生じる現象をフィルタリングし、より大きな反応に『スルト』を向けて発射している可能性です。」

 

「それは……」

 

「『フロートを使えば標的にされる』という事だ。 ……ならばギアス嚮団への進行は自ずと一つになる────」

「「「「────鉄床戦術か/ね/だな。」」」」

 

 その場にいた全員がゼロの言葉の続きを口にした。

 

 ウィルバーとシンにジャンはアマルガムの戦力と編成を整えるために立ち上がり退室し、苦労しながら立ち上がるスヴェンにレイラと毒島が肩を貸すとゼロによって呼び止められる。

 

「待て。 お前たち三人に……いや、スバルに話がある。」

 

「「「???」」」

 

「この作戦が終わった後に、時間を割いてくれ────」

「────いいだろう。」

 

「そうか。」

 

 スヴェンの即答にゼロは端末機器を操作し、零番隊とラクシャ-タを含む技術部に通信を送る。

 

 そして彼が見た端末にはピースマークのミス・エックスからオズ(オルフェウス)からの定期報告が遅れているというメッセージに目を通す。

 

「(もしやオズたちがやられた? コーネリアたちが付いていながら? 余程のイレギュラーが起きたのか、あるいはそれほどの戦力をギアス嚮団……いや、V.V.が手元に置いているか。 どちらにせよ、少数精鋭による決定的な打撃が必要となるな。 シャイング卿は義眼に慣れる必要があると彼の副官(ジャン)から聞いているからこの辺りはスヴェン、カレン、毒島、日向アキトとベニオたちが適任か。)」

 

 ゼロの頭上にどういうワケか犬の耳を付けたアシュレイやリョウ達が浮かぶ。

 

「……戦力にはなるだろうが、アクがつよ────おおざっぱすぎるからな。 うん、やはり先の5人が良いな。」

 

 なお彼はアマルガム側で高機動戦力の上位を飾るアンジュとマーヤにウィルバーのことを少しあとに知ることとなるとここで追記する。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「────夜分遅くに諸君を起こしてすまない。 そして急な招集に応じてくれて、感謝する。 」

 

 ゼロがブリーフィングルームの中で眠たそうな顔をしている零番隊に向けてスピーチを始める。

 

「だが先ほど、ピースマークから早急に手を打たねばならなくなったとある情報が入ってきたことにより零番隊、そしてアマルガムとの合同作戦をこれから行う。」

 

「……んが?! “ごーどーさくせん”?」

 

 殆ど舟を漕いでいたベニオが少女にあるまじき音を出しては寝ぼけたままゼロの言葉を疑問形で復唱する。

 

「そうだ。 ブリタニアは、中華連邦の内通者と結託してとある人体実験を行っている。 『死なない兵士』の研究だ。」

 

 ゼロの真剣な口調と言葉に、部屋の中にいた者たちの目が一気に覚め始めていく。

 

「死なない兵士って────?」

「────本気か────?」

 

「────皆の疑心は尤もだろう、私もそうだった。 この映像を見るまではな。」

 

 ゼロの合図にブリーフィングルーム内の照明が消えて巨大スクリーンにブラックリベリオン時にアマルガムが対峙したサザーランドやGX01が大破する攻撃を受けながら徐々に負傷部分が再生されていく記録映像が流れる。*1

 

「うっわ。」

「何だ、あれ?」

「ホラー映画?」

「ゾンビより質が悪いな……」

「気持ち悪いな……」

 

「見ての通り、ブリタニアは『死なない兵士』の研究成果で得たデータを元に不死に近い性質を持ったナイトメアの製造に辿りつけている。 幸い、数も少なく対処も可能だと判明している。 しかし諸君、考えてみてほしい。 この研究を完成させたブリタニアを。」

 

 その場に居た全員は、映画などで出てくる世紀末的な妄想を思い浮かべて背筋がゾクリとする。

 

「(ほぇー、大変だぁー。)」

 

 ベニオだけはインパクトが薄かったのか、気の抜けた感想を内心で漏らした。

 

「『死なない兵士』に『大破から再生するナイトメア』。 この二つの量産が可能となった暁には、武力によるブリタニア世界政府が出来上がってしまう可能性が出る。 しかし! この様な研究の犠牲となっていく者たちを我々黒の騎士団は見過ごせるだろうか?! 私は出来ない! 幸い、この研究がおこなわれている機関の場所はジェレミア卿がもたらしてくれた情報によって判明した。 よって研究員は全員保護し、人体実験に巻き込まれた者たちには人道的な処置をし、出来るならば得たデータを全人類の為に有効活用したい。 問題は、ブリタニアの研究機関が東ユーラシア内にあることだ。」

 

「東ユーラシアって……」

「ブリタニアとユーロ・ブリタニアを撃退してるって噂の?」

「同じブリタニアなのに?」

「もしかして、派閥争い?」

 

 目標が東ユーラシア内にあると聞き、零番隊がざわめく。

 

「(『死なない兵士』ねぇ~。 多分、ブリタニアのギアス関連の人体実験機関の事だよね。)」

 

 なおカレンは寝癖によっていつもとは違う方向にツンツンしていた髪の毛を手で治しながら、アリスたちを思い浮かべていた。

 

「諸君が思っているように、同じブリタニアでも一枚岩ではないということだ。 そしてジェレミア卿によると研究機関は()()()()所為で中々に尻尾が掴みにくい。 潜伏されれば、ブリタニアでも見つけるのが困難になるほどに。 つまり、東ユーラシアが運用して幾度もブリタニアおよびユーロ・ブリタニアの進軍を防いでいる巨大兵器────『スルト』を突破し、短期間で研究員たちが逃げる前に攻め込む必要がある。 だからこそ、合同作戦だ。」

 

「あ、あのぉ……」

 

「ん? なんだねベニオ?」

 

「えっと……ジェレミア卿って、エリア11での純血派の人の事ですよね? 何で私たちと協力しているんですか?」

 

 ベニオはかつてのサヴィトリを見習ってか、おずおずとしながらも黒の騎士団の誰もが胸に秘めていた疑問を口にした。

 

「彼は『オレンジ』以外にも複雑な事情が絡んでいるのでな、多くは口に出来ない。 だが一言ですませば、彼も『死なない兵士』の犠牲になったからだ。」

 

「ああ、なるほど~?」

 

 ゼロのそれらしい物言いに引っ掛かりを感じながらもベニオは納得した。

 

「ではこれよりイカルガに移り、作戦の委細はそこで話す。」

 

「あ、ゼロ! 一つ良いですか?」

 

「うん? なんだね? (ベニオにしては質問が多いな?)」

 

「作戦名は何ですか?」

 

「・ ・ ・『ムスペルヘイム攻略作戦』だ。」

 

「おおお、なんだかカッコいい!」

 

 余談だが、ルルーシュにとって今度の作戦に名前を付けることは考えていなかったので『スルト』から連想できた北欧神話を無理やりこじ付けたそうな。

*1
80話、158話より




サラッとアマルガムの軍服兼制服デザインが出せました。

次話からカオスの予定です。 (今更


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第244話 ジャイアントキリングの下準備とは言えば

 中華連邦の『国』としての瓦解は長年中華連邦から『独立』を目論んでいた属国や種族自治区にとって夢の様なきっかけで、その所為(おかげ)でアジア大陸の勢力図は一時期複雑化した。

 

 西からはブリタニアやユーロ・ブリタニア、そして東からは合衆国中華と同盟国の合衆国日本の圧力に対して武力でもインフラでも劣ることからブリタニア、あるいは『合衆国連合』の陣営に下っていった。

 

 東ユーロ・ブリタニアと旧中華連邦が手を組んで創立された『東ユーラシア人民共和国』だけは例外的にブリタニアからの圧力(侵略)に武力で耐えた。

 

 それは巨大兵器『スルト』のおかげでもあるが地形的にも恵まれていたことが大きく、見晴らしのいい野原に陸での進軍を困難にさせる山脈に暴風、日が出ていれば熱いが夜になれば一気に氷点下となる厳しい気候。

 

 通常の進軍ルートは限られる上に『スルト』の遠距離かつ広範囲な攻撃が加われば『自然の要塞に砲台』である。

 

 フロートシステムであればある程度の妨害を無視が出来るとの見込みで近くに居たブリタニアの駐屯軍が交渉(鎮圧)に向かったがいち早く『スルト』に感知されて撃退されてしまい、『スルト』を警戒して通常の行軍を行えば防衛に特化された大量のパンツァーフンメルに鋼髏(ガンルゥ)による雨嵐の様な砲撃にいらぬ被害を受ける。

 

「(“それでも付け入る隙はある”、か。)」

 

 スバルはそう思いながら一面真っ暗な地形をセンサー頼りに低空飛行を行いながら強化スーツと新たな機体の連携チェックをしていた。

 

『♪~』

 

『カレンさん、凄くご機嫌ですね!』

 

『へぁ?! そ、そ、ソウカナ~?』

 

「声が動揺しているぞカレン。」

 

 スバルの戦闘機のような機体の上には以前からの問題点の修復と改善されたカレンの紅蓮・強襲型と、その後ろに乗る紅鬼灯・弐式のベニオ機の直通通信にスバルがツッコミを入れる。

 

『……ソンナコトナイヨー。』

 

「(いま間があったな……それにしても、まさか本当に()()()を間に合わせるとは正直思わなかった。)」

 

 今にも目をそらすカレンの仕草にスバルは安心を感じながら、今自分が乗っている新しい機体────蒼天・ムラクモ式に対して若干引いていた。

 

 長らく放置されていた試作型蒼天は順にラクシャータ、ミルベル夫婦、アンナ、そしてネーハが手を加えたこととスバルに関するデータを元に変貌していた。

 

 以前の兵装に加えてスバルが開発した撃震の装備換装システムやサブアームに『アポロンの馬車』を機体の推進力にする為のミニチュア化、ウィルバーによってフロートシステムと電力駆動プラズマ推力モーターのハイブリッド式ブースターを搭載した可変機能、毒島で検証出来たBRSとその応用で各センサーの情報をダイレクトに騎乗者に伝えるインターフェイス等々。

 

 その所為か紅蓮・強襲型のようにより人型になりつつ一回りサイズが大きくなったことで他のナイトメアの運搬にも活用できるようになった。 余談でこの機能のインスピレーションは以前、グリンダ騎士団を相手にしたウィルバーによるものである。

 

 

『完全に爆撃機の土台(ドダイ)YSじゃねぇか』ですと? ・ ・ ・シラナイデスネ。

 

 

 これらだけでも量産化を全く視野に入れていない技術なのは明らかであるが、スバルが感心しつつ恐怖を感じていたのは彼がダメ元で依頼していた追加装備が出来ていたことだった。

 

 ()()()()()を省けば、今回の改良の目玉は二つある。

 

 一つ目はリアクティブアーマーの上位互換である()()の装甲。 無論、ただ装甲を重ねただけでなく『通常装甲』という名の表皮の下に『サクラダイト繊維』という真皮を兼ねそろえたことで機動力の向上に機体への負担軽減、更にサクラダイト繊維に電力を流すことで対外的な物理的衝撃を大幅に軽減させる機能が付け加えられていた。

 

 身も蓋もない呼び方をすれば既に開発したリアクティブ装甲を応用した某メカアニメの『T〇装甲』であるのだが、筆頭開発者であるアンナからすればリアクティブアーマーを昆虫の脱皮に例えただけである。

 

 ちなみにどういうワケかこの新た装甲名は電力を流した状態の色から『ミスリル』と名付けられている。

 

『アマルガム』の機体に『ミスリル』とはスバルにとって中々に皮肉で、彼は思わず『なんでじゃい』を口にしそうだったとか。

 

 二つ目は彼の機体の動力がエナジーフィラーのみではないこと。

 これにはアンナだけでなく、筆頭で開発を進めていたラクシャータにまで『機体の大破は厳禁』といつもの緩~い口調なまま念押しされながら如何に『蒼天・ムラクモ式一機だけで数十体ほどの予算や資源を消費している~』等も含まれた説教染みた説明にスバルの胃が痛みだす。

 

 キリキリキリキリキリ。

 

「(ラクシャータ特製の胃薬()服用したのに、まだ痛むな。 それにしても、『ムスペルヘイム攻略作戦』とは大層な作戦名だな。)」

 

 スバルは緩~い飛行速度のままゼロの作戦に従い、横を飛ぶ他の機体たちを見る。

 

 ガニメデも『コンセプト』から『コンプリート』に変わっており、スバルの機体に使われているミスリル(T〇)装甲の応用で繊維型の翼を付けてより『プチエ〇ァ』(スバル命名)となった。

 

「(『プチエ〇ァ』と言っても、翼の形とマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム搭載の兵装だと『プチエ〇ァ量産機』寄りだが……というかやっぱりサクラダイト繊維ってスゲェ。)」

 

 スバルが次に視線を移すのはベニオの紅鬼灯・弐式。

 一からデザインの見直しがされ、紅鬼灯の難点だった『紅蓮のスペアパーツの盛り合わせ』感がより洗練された見た目と『人型兵器』特有の柔軟性が高まった。

 

 輻射波動は後付けの物ではなく腕に組み込まれ、エナジー補給も機体からではなくカートリッジ式に変えられ、戦闘やパイルバンカーなどの兵装に必要な弾倉交換を補助するサブアーム。

 

 余談で近接戦闘に特化されたのはデータから得たベニオ本人の戦い方であり、村正・武蔵タイプを蒼天・ムラクモ式と似た追加を頼み込んでいた毒島に『見どころがある』と言わせたそうな。

 

 メインカラーを青にした蒼天・ムラクモ式、赤の紅蓮・強襲型、オレンジの紅鬼灯・弐式、灰色のガニメデ・コンプリートに紫の村正・武蔵タイプたち。

 

 より完成された兵器たちは今宵、天誅を下す合図を待っていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ふぁぁぁぁ……」

 

 とある山脈の近くにある小屋の中で元EUの兵士があくびを出して星の出ている夜空を見上げていた。

 

 彼の近くにある小屋の中では暇を持て余し、通信兵もカードゲームでの賭け事に混じっていた。

 

『う~、中にいても寒い!』

『暖炉にもっと薪をくべるか?』

『だったらお前がもっと取りに出るってことだよな?』

『暖炉も電力式だったらいいのにな~。』

『暖炉があるだけマシだろ? 気を紛らわしたいのなら、携帯でテレビなんてのはどうだ?』

『アホか。 こんな時間帯はゴミしか映っていない。 それならば雪の音を聞いていた方がマシだ。』

『それよりも噂の幽鬼の事を聞いたか?』

『ああ、あのユーロ・ブリタニアが噂している?』

『どうも少し前、ブリタニア本国のセントラルハレースタジアムのテロ占拠事件にも関わっていたらしいぜ? なんでもマリーベル皇女殿下の味方をしていたとか。』

『は? ユーロ・ブリタニアに対抗していた奴がか? なんでだ?』

『さぁ……けど俺はあのブリタニア宰相が贔屓にしているアヴァロンを落とす寸前まで追いつめたって聞いた。』

『“森の魔女”並みに怖い話だな。』

『“森の魔女”? なんだそりゃ?』

『幽鬼の召喚者らしくて、毒ガス並みにエグイ殺し方をするって噂さ。 EUだと結構有名な話で、魔女がいる森に入ると生きて出てこれないって。』

『童話かよ。』

『いやいやいや、マジな話だって!』

 

 

 

 東ユーラシア人民共和国の複雑な地形は何も敵だけでなく東ユーラシア軍にも影響を与える為、国境沿いにEUの高々度観測気球を設置していてもデータの受信に難アリや受信に生じるタイムラグがあれば最大の抑止力である『スルト』の運用に響いてしまう。

 

 その『穴』を埋める為に東ユーラシアは索敵と受信能力の高い小型レーダー数十基をトラックやナイトメアに搭載してはアダプティブアレイ式に一つの拠点施設に繋げ、その施設からデータが更に周りの拠点等に情報が共有できるようにしていた。

 

 原始的だがその分、確実だった。

 

 一つ問題点があるとすれば、この様なレーダー網兼コミュニケーションネットワークに必要な人員が通常の倍────否、24時間働けない人間だと更に必要な人数は跳ねあがる。

 

 だがブリタニアの前に大敗し続けて落ち目となりつつあるEUからの義勇軍(脱走兵)などにとって、東ユーラシアは祖国で盗賊染みた活動をし続けるより美味しい転職場となった。

 

 そして先ほどあくびを出したのもその一人で、同僚との賭けに惨敗した不運で『見張り役』をしていた。

 

「……ん────?」

 

 ドォン

 

「────ごわぁ?!」

 

 彼は冷えこむ夜に身震いをしては星の光を遮る、鳥の様な影に目を凝らしていると背後に何か落ちてきては砂や積もっていた雪だけでなく見張りの兵士も巻き起こる爆風に飛ばされる。

 

「ブハ?!」

 

 雪と泥に埋もれていた兵士は起き上がりながら、鐘が鳴り続いているような感覚の中でじゃりじゃりとする口内から砂などを吐き出して後ろを見ると先ほどまであった筈の小屋とその周辺がクレーターになっており、中心にはKMFより大きな鉄の柱の様な物が立っていた。

 

「……は?」

 

 兵士は足をすくませながらも、自分が賭け事に弱いことに初めて感謝したそうな。

 

 その所為か、さっき見た鳥の影の様な物がグルグルとグライダーのようにその周辺を回っていたことに気づいていなかった。

 

 ……

 …

 

『当たったよーおじさん。』

 

『そうか。』

 

 フロートシステムを使った艦やこの世界の飛行機より高度の高い上空にいたのはサザーランド・イカロスではなく、アレクサンダを火器管制・機体制御を担うコアとして大型オプションに組み込まれた新たなKGFモドキだった。

 

『(まさかアレクサンダ・ヘリオスの初出撃が運び屋になるとはな……)』

 

 尚最後の最後までウィルバーとラクシャータによる『ナイトギガフォートレスかナイトメアか』の口論は続き、最後にはウィルバーの横暴な屁理屈()()に基づいた『ナイトメアに付随する大型オプションだし本体はナイトメアのままだから機体分類はあくまでナイトメアだ』で終わった。

 

 原作でもウィルバーが開発し、騎乗していたサザーランド・イカロスは優れた空中機動力と爆撃能力などを引き継ぎ、電磁装甲等も組み込まれてスバルの蒼天・ムラクモ式の延長線な役割を持つ機体となり、現在ではダルクと彼女の機体が投げる投擲武器(物理的なモリ)を乗せたまま巨大な翼を展開して大きな滑空機と化していた。

 

『まだ30代だ!』

 

『えー、十分おじさんじゃん!』

 

『……それ、クラウス君にも言うなよ? 彼、ああ見えて傷付きやすいタイプだからな。』

 

『ん~……無理! ノエルちゃんが言っていたもん! “パパはおじさんだ~”って!』

 

『……彼、泣いていなかったかい?』

 

『泣いていたよ~。』

 

『……………………………………ほかに、敵の熱源反応情報は来ていないかね?』

 

『きてな~い!』

 

『そうか。』

 

 ウィルバーは思わず『辛辣なことを悪意なしで言える無邪気な子ほど怖いものは無い』と思い、サリア()との子供が出来たらちゃんと育てようと決心しながら頭を切り替えた。

 

 ……

 …

 

 ウィルバーたちが空から『スルト』の目や耳(探知網)を潰している間にも、他の部隊は動いていた。

 

『調子どうだ、アキト?』

『いいよ。 兄さんこそ、義眼はどんな感じ?』

『…悪くない、馴染んだともいえる。』

『今の、嘘だよね?』

『…違うぞ。』

『やっぱり痛い?』

『痛くないぞ。』

『これ以上は無理そうだね。』

『無理ではないぞ。』

 

『な~んか釈然としない……』

『(同意見だ。)』

 

 アキトとシン、そして二人の通信を近距離で聞いていたアヤノとジャンは『アポロンの馬車』に乗せる必要が無くなったことで更に物々しくなりヴェルキンゲトリクスの技術を取り入れたアレクサンダ────『アレクサンダ・アラクネ』を使ってウィルバーたちの攻撃の撃ち漏らしなどで東ユーラシアの中枢に連絡が行かないように襲撃を繰り返していた。

 

 ギリシャ神話で出てくる怪物の名が付けられている時点で想像できるように、従来のナイトメアのように二足歩行やランドスピナーを使える上に武装の追加などで増した機体の全重量を支えながら通常の移動方法が困難な地形などにも対応できる六つの脚が内部から展開し、長時間は展開できないものの背部のブースターを使えばヴェルキンゲトリクス以上の速度も見込めた。

 

 余談だがこのアレクサンダの形状がアキトやシンにとってカマキリに見えていた所為か寒い日向兄弟式ダジャレがさく裂し、キリキリと頭を痛めていたアヤノのハリセンがさく裂した。

 尚ジャンもその日から『洋扇』よりは『ハリセン』に近い物を持ち始めたとかなんとかは、きっと気のせいだろう。

 

 

 ……

 …

 

 

「全熱源反応への投擲着弾、ドローンにより確認できました。」

 

 東ユーラシアの『スルト』の予測された防衛網より外で着陸したリア・ファルの薄暗い戦闘指揮所(CIC)内で黒髪ロングのウィッグ、伊達メガネ、アマルガム軍服を着用したユーフェミアの声が緊張の高まった空気を響かせる。

 

「(今はまだ、作戦通りの様ですね。)」

 

 レイラは内心ホッとしながらも近くのスクリーンに映し出される時間を見てはドキドキと力強く脈を打つ心臓によって体が震えるのを気力で抑え込みながら、自分の考えなどを取り込んだゼロの作戦を思い浮かべる。

 

「(まずは現在の強みであるフロートシステムを使えなくなっている元凶、『スルト』の攻略。 フロートシステムに反応しつつ優先的に狙うのならば『目』や『耳』を潰すのが先決。 まずは短期間で敵の通信施設の破壊が本作戦の第一段階。 上空からはミルベル博士たち、地上はアキトさんたちがシュバールさんたちと零番隊の為に突破口を開く。

 そのままシュバールさんたちは軌道の予測が困難な少数の高機動部隊を用いて『スルト』を攻略が第二。

 第三段階に潜入部隊はそのままシュバールさんと合流しつつギアス嚮団の防衛施設の弱体化を行っている間に我々が輸送機等を護衛し、必要な人員とデータの回収をしてそのまま撤退。

 言葉にすれば簡単だけれど、通信施設からの定期的な報告や何らかの手段で異変に気が付かれれば攻略の難易度が上がり、潜入部隊は激戦を強いられて、今回の作戦の目標であるギアス嚮団が逃げてしまう可能性が出てしまう。)」

 

 そこまで考えると、ふと『最悪のケース』が彼女の脳内に浮かび上がる。

 それは『スルト』によりアマルガムのリア・ファルあるいは黒の騎士団のイカルガが大破し、潜入部隊が孤立した状態。

 

「(いえ、それならばまだ良いのですがもし潜入部隊から『生死不明者』が出てくれば……)」

 

 レイラはwZERO部隊のワイバーン隊がまだ多くの日系人たちで結成されていた時期を思い出し、自爆や彼らの生還に全く配慮していない作戦の都度に彼らの家族に送る報告にせめてもの慈悲として『立派に活躍し、殿を務めて生死不明(MIA)』と、ヴァイスボルフ城の自室で細々と書いた時を思い出しては自分が現場に()居られないことにソワソワし、もどかしさを感じながら何時でも既に出撃していたドローンたちの遠隔操作を行えるように、着込んでいた強化スーツのコネクターを端末に繋げた。

 

 ポーン♪

 

 何時間にも体感的に感じる数分後、リア・ファルの戦闘指揮所内に場違いな通知音が鳴って緊張感が高まる中でレイラは逆にホッとした。

 

「(合図!) 取り舵、方位175! 総員に通達、これより潜入部隊が『スルト』を攻略する前提で『ムスペルヘイム攻略作戦』を次の段階に移行します!」

 

 リア・ファルとイカルガのエンジン機関にエナジーが補給され、同時に浮上すると一気に周りの輸送艦も後を追うかのように動き出す。

 

 ……

 …

 

「ん?」

「どうした?」

「いや、今長距離レーダーに艦影が映ったような気が……」

 

 通信施設やレーダー網が無くとも『スルト』にはある程度自機のみでの運用能力も揃えている。

『揃えている』と言っても、あくまで予備機能であり外との連携を前提にしたモノである。

 

「どうせ故障か何かだろ? 警戒システムや付随のレーダー網から何もないだろ?」

「いや待て……連絡が取れない。」

「“連絡が取れない”? どうせサボっているか何かだろ────」

「────フロートシステムの反応を多数キャッチ!」

「何?!」

「国境を超えつつ近づいてきます────!」

「────何故本機に搭載されたセンサーに引っ掛かるまで何もなかった?! 外の連中は何をやっていた────?!」

 

『スルト』内部は突かれた巣のように一気に騒がしくなり、彼らはすぐに東ユーラシア防衛司令部に連絡を送った。

 

『状況は分かった、敵は何機だ?』

 

「速度から浮遊航空艦を含めて一個小隊以上は居る!」

 

『落ち着け、こちらも周辺で待機している機体や航空部隊たちに連絡を送りすぐにそちらへ回す。 その戦域から一般人の退去はもう済んでいるから長距離砲の使用も独自判断で行って構わない。 時間を稼げ。』

 

「ああ、そうかい! 総員第一戦闘配備! これより侵入者の撃退を試みる! 砲身の方位を330に向けろ!」

 

 東ユーラシアの司令部から返ってきた、ゆったりとした口調にイラつきながらも『スルト』を中心にした祖国防衛隊隊長はイラつきを隠そうともせず命令を出す。

 

「ナイトメア部隊を半円陣に展開! 航空部隊もスクランブルだ!」

 

 ブオォォォォ

 

 方向転換の為に『スルト』の足代わりとなっている陸上戦艦のホバー機能が砂塵を起こし、まるで巨大な怪物の咆哮を思わせるその音が東ユーラシア側の開戦合図となった。




表舞台に『幽鬼』が出現したことを『世界』はすぐ知ることになる。
レールから外れた『物語』の先は、何処へ?





余談:
『年末の休暇もぎ取り』に成功しました♪ (´∀`)ワクワク


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第245話 『ムスペルハイム攻略作戦』

 ピィー!

 

『合図が来たよスバル!』

 

 蒼天のコックピット内部に外部からの電子対抗手段が表示と共に警告音が出てくると、カレンの声が通信機器越しに来る。

 

「ああ。 毒島、頼めるか?」

 

『本当に私が指揮を執って良いのか?』

 

 近くを飛んでいた村正一式・武蔵タイプの物々しい容姿から想像しにくい、少々自信に欠けた毒島の声が返ってくる。

 

「急に俺が仕切っても、零番隊から不信がられかねない。」

 

 本当は仕切っても、上手く部隊を運用できる指揮能力が無いからだが。

 

『なるほど。 確かに“桐原の孫”である私ならば威厳が保てるか。』

 

「……そうだ。」

 

『よし……総員、こちら毒島だ。 飛翔滑走翼の使用許可! 各グループは散開し、障害物に対応する者たちは気にせず敵を駆逐してから後続! 迷いそうならば通信線やソーラーパネルに沿って飛べ! 敵巨大兵器のスルトまでおよそ65㎞を駆け抜けて攻撃を脚部分に集中しろ!』

 

『『『了解!』』』

 

『そういう事にしておこう』、と内心でホッとするのも束の間だけで毒島の号令に耳鳴りのような音高がコックピット越しにも伝わり、俺の機体も機関にエナジー補給が開始されると同じ音が耳に圧迫感を与えるがヘッドセットについている自動調整機能によって消えていく。

 

「スー……ハー……」

 

 ゆっくりと深呼吸をしながら、ずっと操縦桿を握っていた所為で感覚がマヒしていた手の指等を開き、血脈が行き渡っていくとオオクボステーションモールで無理やりカラレスの攻撃を受けた掌からジクジクとした鈍痛が伝わり、痛み出す感覚の中で操縦桿を再び握る。

 

「カレン、それと朱城(ベニオ)。 一応気を付けるが振り落とされても良い様に、いつでも独自で飛べるようにしていろ。 あと口を開けるな────」

『────ッ。 分かった────!』

『────え? それってど────?』

「────こちらレヴナント01、交戦────」

 

 ────ドゥ────!

 

『────いぅわあああああああああ?!』

 

 ベニオの何かを聞きたそうな声を半ば無視し、俺は噴射機の出力を上げると彼女が閉まらない口のまま叫ぶイメージがくっきりと分かる様な叫びが聞こえてくる。

 

 だから言ったのに、『口を開けるな』って。

 

 先ほどまでゆったりと動いていた地上もすぐに景色が混ざっていき、速度計測や出力機器は一気にレッドゾーンへと突入する。

 

 普通ならここで機体のOSが自動(オート)で出力の制限などをするが生憎と騎乗者が(スバル)と想定されて組まれたOSは特殊であり、ただアラート音が鳴るだけ。

 

『ッ! ッッッ!』

『ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』

 

 通信からくる声は無視。

 何せ注意はしたからな、自業自得だ。

 それにカレンとプチカレンっぽいベニオならこれぐらいは余裕の筈。

 そう思う俺の体は座席に固定されてなお急な加速でシートクッションにめり込んでいき、技術部たちに内心で感謝をできる前に敵の対空機銃によって発射された曳光弾がまるで地上から宇宙へ帰りたがる流星群のように光り、さっきまで真っ暗だった夜の景色を人工的な光でライトアップしていく。

 

『物騒な花火』そのものである。

 だから『きたねえ花火だ』にならないように注意を……いや、意識を集中させる。

 研ぎ澄まされていく意識に周りのノイズが消えていき、曳光弾や対空ミサイルの信号の表示等がまるでスローモーションで動いているかのような中を俺は減速せずフルスロットルで突き進みながらなるべく背中に乗っているカレンとベニオの機体が振り落とされない軌道を取るとBRSによって機体のコントロールに調整が加えられて対空砲火を余裕のある距離で避けていく。

 

 何故『余裕のある距離を?』だって?

 

 曳光弾は基本的に『数発に一発程度』で、それだけ当てにしていると曳光弾のない対空機銃に足をすくわれる可能性があるからな。

 

 操縦桿とBRSでヘッドアップディスプレイを操作し、とある兵装の予測効果範囲が表示され最大の効果が見込めるタイミングで発射ボタンを押す。

 

「レヴナント01、投下。」

 

 気の毒だが、後続部隊の為に速攻で戦意を(くじ)く。

 

 


 

 

 ウ~、ウ~!

 

 東ユーラシアの『スルト』周辺に配置された飛行場は空襲警報が鳴り続け、強力なスポットライトが夜空を突き刺すように出来るだけ侵入してきた者たちの妨害を図る。

 

 スポットライト自体はナイトメアにダメージは与えられないものの、直接光を浴びさせることができれば画面焼けを起こして撃墜のハードルが下がる。

 少なくとも、牽制になる見込みがある。

 

『敵機が接近中、全パイロットはスクランブル! これは演習ではない! 繰り返す、演習ではない! 直ちに迎撃せよ────!』

『────爆撃機は退け、邪魔だ! 戦闘機R5から10は滑走路2から7の使用を許可する! 滑走路に入り次第、即離陸────!』

『────こちら東トーチカ03! 敵のナイトメアだ! ナイトメアが降下して────』

『────本部、応答を願います! こちら東05飛行場、敵の攻撃を受け交戦中────!』

『────被害尊大────!』

『────うわぁ?! が、骸骨────?!』

『────骸骨?! なに寝ぼけたことを────!』

『────待て! 何かキラキラとしたものを落として────?』

 

 ボボボボボボボボボ!

 

 連続で大地を震わせる轟音により、東05飛行場の航空部隊を収納しているハンガーを中心に2割が更地と化した。

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁ?!』

『え、衛生兵! 衛生兵ー!』

『腕、腕ぇぇぇぇあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

『本部、こちら東05飛行場! 被害尊大────!』

 

 多くの生き残った兵士たちは奇妙な手足の生えた戦闘機の様な物が上空を過ぎっては手足等が折りたたんでいき『ソレ』が戦闘機に戻るところで内部骨格剥きだしの頭部を目に焼き付かせた。

 

 

 


 

 

 俺は減速と兵装展開を兼ねた無理なガ〇ォーク形態へ機体を移行させた所為で影響が出ていないかを簡易チェックで確認してから残りのロケット弾数を見る。

 

 ちなみに先ほど使ったロケット弾一つに数百個の子弾が内蔵されていて、展開されるとそれ等が全て後半にばらまかれる仕組み────いわゆる『クラスター爆弾』だ。

 

 無論、前世ならば『クラスター爆弾禁止条約』とかに引っ掛かりのだがコードギアスの世界にはそのようなモノは無い。

 

 というかクラスター爆弾の使用がどれだけ危険かまだ理解していない。

 

 今だからこそいうが、これの開発に俺は携わっていない。

 

 ネタバレをすると『オズ』でブリタニアに失望したウィルバーが『タレイランの翼』を率いてペンドラゴンに『戦争の恐怖』を痛感させるため、サザーランド・イカロスに爆撃用装備としてクラスター爆弾を使う予定だった物のサイズダウンと小分けさせて蒼天に付けている。

 

 テストと実用性を兼ねていると口では言ったが、無差別爆撃による負傷や『恐怖』がメインだ。

 戦場では、『死』より厄介なのが『重傷』。

 これはヴァイスボルフ城の防衛でも大いに役に立った戦法。

 

 ……そう考えている。

 

 俺は空になったコンテナを排除(パージ)し、少しでも軽量化を────

 

『────こちら斑鳩(イカルガ)、総員に通達です。 敵の巨大兵器による砲撃を確認しました、予測軌道と弾着観測を送ります。』

 

 来たな。

 

 俺の機体のようにBRSの応用が効いている機体のヘッドアップディスプレイに斑鳩(イカルガ)から送られてくる情報が直にオーバレイされ、従来のシステムが搭載された機体はそれぞれのレーダーに表示されていく。

 

『でか?!』

『この赤いエリア全部が危険地帯なのか?!』

 

 思っていたより効果範囲が広いな。 飛来中はまるで文字通りに『宙を殴る』かのようで、弾頭の効果がさく裂するときは前世の第二次世界大戦で有名な『アハト・アハト』だ。*1

 

『弾数2、初弾着まで20秒。』

 

『うおおおおおおおおおおお! 横に飛べェェェェ!』

『落ち着け、落ち着け、落ち着け!』

『最悪の場合出来るだけ地面に寝そべるようにべったりとしていれば致命傷にならない……筈。』

 

 まぁ、手榴弾と同じで攻撃に当たる『表面』を小さくすれば被害は小さくなるかもしれない。

 

 そう思いながら、俺は蒼天をガウォー〇から戦闘機形態に戻しながら再び加速をし始める。

 

『カレンさん、あの人突っ込む気ですよ?!』

『いつもの事だよ! ほら、ベニオもボケっとしていないでさっさと散開!』

 

『5,4,3,2,1! 初弾、今です!』

 

 ゴォォォォ!!!

 

 巨大兵器スルトの初弾による衝撃波で轟音と共に大気の震えが機体の装甲を展開させ、警報が鳴る。

 

『まるで台風だ!』

『機体のアラーム表示がバグっている!』

『画面にひびが入った!』

 

『次弾着まで5────』

『────もう────?!』

『────早すぎる────!』

『────動け動け動け動け動けぇぇぇぇ────!』

『────飛翔滑走翼の反応が遅い────!』

『────2、1! 来ます!』

 

 キィィィン。

 

 周りから『スルト』の怖さを甘く見積もっていた者たちの通信を斑鳩のオペレーターが遮るとヘッドセット越しでも聞こえてくる、耳をつんざくような耳鳴りに似た音がまさに『宙を切る』という表現をリアルで実感させる。

 

『敵機が上がってくる!』

『すぐに体勢を整えて滑走路の上で破壊しろ!』

『対空砲火が濃すぎる!』

『ベニオ、行くよ! 背中は任せる!』

 

「レヴナント01、第二弾を投下。」

 

 ハンガーから出てくる航空部隊や対空砲火機銃ではなく滑走路を狙ったクラスター爆弾がさく裂すると、瞬く間に平らだった滑走路が……いや、予想以下の凸凹具合となった。

 

 ミニチュア化した所為で破壊力は『対人』により特化された様で、敵の航空部隊が次々と離陸すると空が機銃やミサイルに爆発などで更に窮屈な印象を与えてくる。

 

 ガァン! ゴォン!

 

 機体が外からの衝撃で何度か震え、網膜投影システム表示に『被弾:損傷軽微』が出てくる。

 

 “新装甲さまさまだな”と思いながらも、他の連中に集中を割いている場合ではないと自分に言い聞かせながら蒼天を動かす。

 

 交戦開始から数分後となった今、レーダー表示を見ると黒の騎士団の精鋭である零番隊とアマルガムでも戦力上位者たちの働きで既に敵影は当初の3割を切っていたことから、既に部隊等は『スルト』の方角へと転進しつつ前方に立ちはだかる敵の身に攻撃を集中していた。

 

『敵の巨大兵器による砲撃、再度確認!』

 

『早いな……』

『もう?! 味方が残っているのに?!』

『見境なしかよ!』

 

 ま、次はそう来るだろうな。

 東ユーラシアが持つ最大の戦力は『スルト』だ。 こんな拠点の一つより、『スルト』を優先するのが合理的で、戦術としては何も間違ってはいない。

 

 “大を生かすために小を捨てる”というヤツだな。

 

 イライライライライライライライラ。

 

 どこぞのクルクルロン毛風に言うと気ぃにぃ入らぁぬぅんンンンンンンン!!!

 

 考えただけでムカムカし始める。

 よし、速攻でスルトを攻略してみようじゃないか。

 

 どうせギアス嚮団の戦力はプルートーンとカラレスやロロにベ〇ブレードオレンジに乗ったクソショタジジイたちぐらいだろうから、アマルガムと零番隊で潰せる筈だ。

 

 ……何か忘れているような気がするが、今は『スルト』だ。

 

『弾着10秒前。 7、6、5────』

 

『────赤い表示内から逃げられないヤツは衝撃に備えろ!』

『本番はまだまだこれからなんだ、損傷や消耗の少ない機体は出来るだけ温存しろ!』

 

『────2、1、弾着!』

 

 ゴォォォォ!!!

 

 先ほどより近い距離を通過する『スルト』の砲撃によって今度は大気だけでなく、コックピット内に居る俺の体までもが触れて視界がブレる。

 

 敵と味方機の信号がいくつか『信号途絶(LOST)』の表示へと変わっていき自機のステータス表示にも『被弾:損傷軽』が出てくる。

 

 幸い、俺の知人たちの信号は誰一人として消失していない。

 

『────1、弾着!』

 

 キィィィン

 

『スルト』の次弾が宙をまたも切り裂け、乱気流が発生して空中に飛んでいる敵味方関係なく影響を与えていく。

 

 だが俺は減速せずにただただ空中を駆け抜けると次第に、レーダー上に『スルト』らしき反応が出てきてカメラの拡大と暗視機能を点ける。

 

「でっか。」

 

 そう思わず声を出させてしまうほどの光景が俺を待ち受けていた。

 

 以前、日本解放戦線がホテルジャック事件で使用した雷光のベースとなったユーロ・ブリタニアのカンタベリーを覚えているだろうか?

 

 一行で済ませるのなら『カンタベリーを何倍にもスケールアップし、足代わりにEUの地上戦艦を四つ付けた巨大砲』だ。

 

 弾幕が厚くなりすぎる前に挨拶代わりの先手必勝クラスター爆弾を食らいやがれ。

 それと某ウェスト風に“ミサイルのシャワーなのである”も追加。

 

 あとレムリア(輻射波動)で爆散しろ。

 

 何時の時代の敵対巨大ロマン兵器のように。

 

 

 


 

 

 時間を『ムスペルハイム攻略作戦』が本格的に決行されて攻撃が本体にされる少し前まで遡る。

 

 場所はギアス嚮団の地下都市内。

 

「意外と早かったね、シャルル。」

 

 その中でエリア11にてライラやオオクボステーションに関しての根回しや手配にV.V.は感心するような言葉を通信越しのシャルルに送っていた。

 

『兄上がそのような言葉を並べられるとは珍しいですな。』

 

「珍しいのは君の方だよ、シャルル。 今までずっとボクや周りの者たちに任せていたのに、どういう風の吹き回しだい?」

 

『任せっきりだったからこそですよ。 それに計画はC.C.さえ加われば実行可能な段階ですが、自然ながらも“ギアスの無効化らしき現象”に興味が出るのは必然かと思いますが?』

 

「それもそうか。 それで、彼女を運んでいる輸送機はいつこっちに到着する予定?」

 

『予定通りならば()()()()()()の筈です。 やはり拠点を動かれるのですか?』

 

「そうだね。 ここに長居しすぎた所為かたどり着いた人たちが出たからね。 新しい拠点先は追って伝えるよ。 それと以前依頼していた物は届いたかいシャルル?」

 

『ええ。先日、無事に届きました。 礼を言います────』

「────でも驚いたよシャルル。 まさか君にそんな趣味があったなんて知らなかったよ。」

 

『意外ですかな?』

 

「まぁね。 じゃあライラが来たら連絡するよ。」

 

『ええ、待っています。』

 

 端末からシャルルの顔が消えるとV.V.が通信を再びギアス嚮団関係者らしき者へ繋げる。

 

『嚮主様、如何なされましたか────?』

「────データをイジェクトダートに乗せて。 それとカラレスたちに……そうだね、コーネリアと例の子たちもいつでも出撃できるように。」

 

『例の者が到着次第、ここを出払うのですか?』

 

「出る用意はしておいて損はない。」

 

『承知いたしました。』

 

「それと例の装置は?」

 

『設置し終えました。 使用対象が無いのでやはり効果は検証データ頼みですが……』

 

「いや、それだけでも十分さ。 ああ、それとジークフリートも。」

 

『ですが、ジェレミア卿は────』

「────ボクがジークフリートに乗る。」

 

『嚮主様自らが御出になられるのですか?!』

 

「ジェレミアとカラレス、それにキューエルの他でジークフリートの神経電位接続に対応しているのはボクとアレだけだからね。 いざという時の為だよ。」

 

『畏まりました。』

 

「……ふー。」

 

 V.V.は端末を切っては天井を見上げながらため息を出す。

 

「(そろそろの筈だけれど────)」

 

 ────ズズゥン……

 

 V.V.が見上げている天井────外部から見た『地上』────から地鳴りのような低い音が響くと地下都市が揺れ、土埃がパラパラと落ちてくる。

 

「こういう時は“時間通り”、っていうんだっけ?」

 

 V.V.は薄い笑みを浮かべながら平然と立ち上がっては中枢にある研究施設へと足を運ばせると、戸惑うローブや白衣を着たギアス嚮団の者たちを見ては表情をスンとさせる。

 

「嚮主様、これは一体────?」

「────慌てるな。 多分誰かが東ユーラシアを攻撃している────」

 

 ────ピッピッピ♪ ピッピッピ♪

 

「この音は、定期連絡────?」

「────それにこの着信IDは、ジェレミア卿────?!」

「────繋いで。」

 

「「「え?」」」

 

「聞こえなかった? “繋いで”と言ったのだけれど?」

 

 周りの者たちは平常運転の言動を続けるV.V.を見ては唖然としたり、感心したりしていたが彼の念押しに通信を受けると表情のないルルーシュが出てくる。

 

「これは────?!」

「────確か、『ルルーシュ』とやらの少年────?」

「────ではやはり……」

 

 「発信元は?」

 

 「エリア11と表示されています。」

 

『初めまして、貴様がV.V.か?』

 

 V.V.の問いに、近くのローブ姿の者が答えるとルルーシュが上記を問いかける。

 

「君はルルーシュだね────」

『────自己紹介は必要ないだろうから、単刀直入に聞くぞ。 観察者を気取りながら神根島に俺やスザクたちを飛ばしたり、トウキョウ決戦の時にナナリーを学園から攫ったのはお前か?』

 

「……うん、そうだよ。 それを聞くという事は、ゼロとしての記憶が戻っているんだよね。」

 

『ああ、()()()()でな。』

 

「ふーん……C.C.も一緒にいるの?」

 

『もう一つ、俺から聞きたいことがある。』

 

「なんだい?」

 

『マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが……()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「……まぁ、()()()()。」

 

『そうか────』

 

 ────ドゴォン────!

 

「────嚮主様! ナイトメアが天井から────!」

『────覚悟しろV.V.、貴様の命運はここで尽きる。』

 

 ここでルルーシュの表情はかつてないほど、悪党がするような悪い笑みを浮かべた。

 

『大人しく天誅を受けいれれば痛くないようにしてやるぞ?』

 

 皮肉にもルルーシュがここで口にしたのは以前、スヴェンが夢の中で見たC.C.が発した言葉に似ていた。*2

*1
?:私はソレが大好きだァァァァ!

*2
156話より




『年末の休暇もぎ取り』とは別に今週からリアルで急な予定が立て続けに重なってしまい、次話投稿が遅れると思います。
ご了承下さいますよう、お願い申し上げます。 m(_ _)m


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第246話 『ムスペルハイム攻略作戦』2

大変長らくお待たせいたしました、リハビリ気味の次話投稿です。 |ΦωΦ)チラリ (・ω・`)@キュ~?


 キィィィン。

 

 ボンヤリとした意識の中、(スバル)を待ち受けていたのは『鳴り続ける鈴に似た耳鳴り』、『目を開けているのに一面真っ暗闇』という矛盾、触覚がマヒした妙な……例えるのなら、『アポロンの馬車』で経験した降下中に似た無重力感に似ている。

 

 一旦、思考の活性化を図るとしよう。

 

 確か俺は東ユーラシアの巨大兵器である『スルト』にクラスター爆弾、マク〇スミサイルパーティー(あるいは某ゼンマイ好きな西のドクター風だとミサイルのシャワー)、そして輻射波動を連続で打ち込んだ筈だ。

 

 まぁ、いわゆる『容赦&加減無しのトリプルアタック』。

『ガンガンいけ』とも。

 

 直撃だったかどうかも確認せず、砂塵やらが巻き起こったせいかモニターの一面にところどころノイズが走るままギアス嚮団があると思われる方向に横切ろうとして蒼天・ムラクモ式の推進力が集中している土台(ドダイ)────ゲフンゲフン、バックブースターシステム(BBS)の出力を上げたところまでは明確に覚えている。

 

 問題はこの後を、俺が()()()()()()ことか。

 待てよ?

 それってつまり、俺は今ナイトメアの中にいるという事だよな?

 という事は機体の電源が落ちているだけか。

 

 操縦桿のボタンを左手でポチッとな。

 

 カチ。 カチカチカチ。 ギュン、ギュン、ギュン、ガチン!

 

 予想通りだが反応が無いので、並行して手動の点火装置のクランクを右手で充電してスイッチを押すと一気にコックピット内の計器等に電源が戻ると再起動し、息を吹き返す。

 

「ッ?! おわぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 網膜投影システムのおかげで文字通りに眼前まで急接近して来ている地面と二桁にまで落ちていた高度計が描写され、焦った俺は本能的に機体に取り付けられた全ての噴射機を使って落ちていく軌道を無理やり捻じ曲げて機体の下半身だけ形態を変えて足とランドスピナーで地面を蹴るかのように走る。

 

「ぐ、ぎぎききき?!」

 

 Gが体中の全体に圧し掛かり、肺から空気が押し出されて血の気が頭部から去っていく副作用として視界がブラックアウトする。

 

 だがそれに対応するかのように蒼天に搭載されたBRSが反応し、『パイロット(人間)』としての五感が希薄になっていく代わりに各センサーからの情報が脳へとダイレクトに入ってくる。

 

 敢えて言語化するとなると五感の内でも視覚が某360度パネルの()()すべてを一度に見渡せるようになり、聴覚も『音を拾う』のではなく『肌で感じる』ようになった。

 

 代わりに他の五感がほぼ無くなったが、情報源が『メカのセンサー』なんだから無理もないだろう。

 

 そんな、まるで蒼天が俺自身の体の延長線上であるかのような感覚に浸りながら、俺はふと思い出してしまった。

 

 以前、俺は“自分がナイトメア~とかは言わない”と言ったような気がするが……一部だけナイトメアの感覚だからセーフと思いたい。

 

 取り敢えずバカな現実逃避は止めて先ほど使った蒼天の輻射波動機構のカートリッジを装填しながら思考に入ってくるデータを整理していくとしよう。

 

 するとどうだろうか?

 

『スルト』は健在。

 

 それどころかどういうワケか蒼天の横から巨大クローを武装した形がゴツゴツとしたヴィンセントががががガガガ?!

 何時からコードギアスに某ダブルゼロからのG〇盾針があるようになった?!

 

 とにかく回避だ回避!

 フットペダルを全力で踏む!

 このエンジン音にドリフト時に車体の響き、やっぱ車はR3────って完全に違うジャンルでしたごめんなさい。

 ふ、人間の五感がほぼシャットアウトしていて良かったぜ。

 

 いや、先ほどから諸君等の訴える“お前が『ジャンルが違う』って言うなw”とかは御尤もな正論だがいざ敵対するとなると『心の準備』というか『覚悟』というモノがですね必要に────待てよ?

 

 コードギアスでも巨大クローはあったような気がする。

 

 主に『ジヴォン』が名字に付いた野郎が白いカブトムシっぽく紅蓮壱式をリメイクした辺りとかとかとかとか。

 

 あと気のせいか、さっきのゴツイヴィンセントに続いてさらに何機かのヴィンセントが追加と更にどういうワケかアリスたちのガニメデ・コンプリートに疑似した色違いのガニメデたちが『スルト』周辺に展開して交戦している。

 

 ……………………共食いとかし初めないでよね?

 歪な形をした赤い槍とか出さないよね?

 紫色の村正・武蔵タイプがいるしさ?

 絶対だよ?

 

 あ。

 

 そう言えば『シュタットフェルト家』って、元々はEUに変わる前のヨーロッパ(ドイツ)出身だったって聞いたことがあるな。

 

 それに今ので思い出したくもなかったがカレンの紅蓮って赤いし、色々とヤバくね? この状況?

 

『何を悠長に現実逃避しているんだ』って?

 

 その通りだよ。 命がけの鬼ごっこに現実逃避中だよ、悪いかおいコラ。

 

 単純に五感が『人間』から『ナイトメア由来』になったからか、『恐怖』が『焦り』に変わっているだけだ。

 

 あとは脳が今までの経験や記憶を活かしてか戦術処理&操縦?を自動(オート)でしてくれているからかちょっと余裕があるだけだ。

 

 アレだアレ。

 

 ヴァイスボルフ城の防衛線時に、内心の俺の声に対して体が自発的に『うるさい』やら『黙れ』とか『知るか』とか独りでにセルフツッコミ*1を披露していた時に似ている────

 

「────相変わらずうるさいな。」

 

 ↑↑↑ひょ?!

 

 い、いいいいいいいいいい今なんと仰いましたかなそこのチミィ?

 

「……………………」

 

 いや、気のせいだろう。

 あ~、ビビったビビった~。

 ワッハッハーのハッハッハー。

 

「……付き合いきれん。」

 

 気の所為じゃなかったよコンチクショウめがッ!!!

 

 俺が『俺』に内心で虚しい独り言を続けていると、どういう理屈か知らないが以前の時よりも巧みな操縦で周りから来る攻撃等を躱していく。

 

 それだけ操縦できるのなら、避け気味のクロスカウンターとか他の機体への援護射撃とかできないのかよ?

 

「……」

 

 いやそこでダンマリとかしないでよ?

 以前のツッコミよりはマシかと最初は思ったが、流石に無視というかシカトを決め込まれたら意外と傷付く。

 

()()()は撃ちたくない。」

 

 “無駄弾”って。

 

 どこからどう見ても優勢じゃん。

 

「……来たか。」

 

 何そのフラグを全力で立てるような決めセリフは?

 

 そんなことを考えている間に猛スピードでこの混乱状態の戦況を見事なまでに潜り抜けてくる機体が蒼天の視界(カメラ)に移る────

 

 ガキィン

 

 ────と思いきや、急に切りかかってくるMVSを蒼天が廻転刃刀で受け流すがフロートシステムの勢いが付いた相手の攻撃に思わず蒼天が押し返されて更なる追撃が『蹴り』の形で襲ってくると、余儀なく地上で踏ん張るような形になってしまう。

 

 この猪突猛進な戦闘スタイルって、もしかしてももしかしてもしかするのか?

 

『やはり君か。』

 

 中性的な声が近接通信経由で聞こえてきて、俺の中になった『大体の予想』が『9割の確信』に変わった。

 

「つくづくお前とは間の悪い時にしか会わないな。」

 

 嫌な汗が先ほどの激しい操縦の所為もあってか内外的に体中から噴き出してきた。

 

 キリキリキリキリキリキリ。

 

 あと久しく感じていない胃痛も感じてきた。

 

『ボクが受けている命令は以前のままだ。』

 

 はい今の会話でライが黒いランスロット────略して『黒ラン』────の騎乗者であること確定~。

 

「そうか。」

 

『ああ。』

 

 なんで淡々とした会話が成立しているの?

 

 キリキリキリキリキリキリ。

 

 吐きたいのに吐けないのは地味につらいでござ────ふおぉぉぉぉぉぉぉぉ?!

 

 急にサブアームをも使ったフルバーストのアサルトライフルやバズーカなどで奇襲染みた攻撃を、機体が逆走しながら黒ランにする。

 

 無論、動きはフロートシステムも機体のそこかしこにある噴射機に足だけ出してランドスピナーを使った立体起動のもの。

 

『アポロンの馬車』用の訓練でグルグルと360度回り続ける椅子に乗った感じだ。

 

 あの時もヘロヘロになったグロッギー状態のアヤノは虹色オロローンを披露したな。

 主にひどい状態のアヤノを見て慌てたリョウのシャツに────あかん。

 

 現実逃避、もうムリ。

 

 目が。 目がマワル。

 

 あ、あそこにあるのは金色の先行型ヴィンセント?

 ロロ雑巾かな?

 

 それと目の錯覚かな?

『亡国のアキト』のラスボスであるシンが使ったヴェルキンゲトリクスがシンとアキトのアレクサンダ・アラクネと戦っている幻覚がちらっと見えた様な気がする。

 

 ……疲れているんだろう。

 うんきっとそうだ────

 

 「“フード付き”だと鈍いな。」

 

 ボシュ!

 

 ────って、なにバックブースターシステム(BBS)を三度笠キャバリアー風にキャストオフしているの?!

 

 “一体何人にネタが分かるんだろう”とかは別にしてあーあ、黒ランに特攻したよ。

 

 アンナたち技術部の泣く姿が容易に想像できちゃう。

 

「フッ!」

 

 うお?!

 

 『俺』が息を吸って留めこむと更に動きが加速した?!

 

 イタ?! イタタタタタタタタ!!!

 

 体が強化スーツを破る様な勢いでハチ切れそうな上に目が霞むし地味に痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 これ絶対に人間が生身だとミンチ化するGだよね?!

 

ドォン!

 

 しかも『スルト』がまだ近くで活動している所為で爆風による響きというか揺れがひどくなるし。

 

 『後悔』があっても『止まる気』はサラサラ無いが。

 

 人が涙を流していい時などあっていい筈がないからな。

 

 

 

 


 

 

 

『今作戦の捕獲優先対象であるV.V.の現在位置は逆探知で特定できた! アマルガムの部隊が地上部隊の注意を逸らしている間、一挙に目的を達成し作戦地域外へと離脱せよ!』

 

 地上で『スルト』とそれの守りに付いていた東ユーラシアのナイトメアや航空部隊に黒ランや敵対するガニメデたちをまるでスバルたちアマルガムに任せたかのようにルルーシュはアッシュフォード学園の部屋を模したコンテナ内で振る舞った。

 

『体のいい利用』? 

 確かにそうとも言うかも知れないが、ゼロも若干の罪悪感を覚えていたのかワザと『一挙』という言葉を使った。

 

『全軍、α7地点を中枢に包囲網を敷いて研究員は捕獲! データはサーバーごと切り離して輸送の準備を! 実験体とおぼしき者達には決して生身のまま接しようとするな! 発見次第、ナイトメアを使って封印せよ!』

 

 元々この作戦は蓬莱島でのブリーフィングで宣言されたように、黒の騎士団とアマルガムの合同で行われるはずだったが最後の最後で一部の修正を加えられて決行された。

 

 最初はルルーシュがこの提案を聞いた時、一部正論であることもあってか悩んでいたが渋る彼に修正を発案した者は“今までの事が事だけにこれからの事を考えると黒の騎士団にも箔を付ける必要がある”と“これ見よがしに配置されたスルト以外に未知数の何かが絶対にあり、まずはアマルガムをぶつけてその正体を見極めるべき”との言葉が決定打となった。

 

 そしてその予感は的中していた。

 

 スバルたちが『スルト』に攻撃を加えた際に、広範囲かつ()()()を持ったゲフィオンディスターバーが先行隊を襲った。

 

 これまでもゲフィオンディスターバーを使ってきたからこそ、万が一の為に黒の騎士団側も対策を機体に組み込んでいたが流石に資源の振り分けもあってか精鋭部隊中でも幹部レベルの機体にしかまだ対策が組み込まれていない。

 

 その反面、数も少なく元々機体の一つ一つが試作品扱いの様なアマルガム()()全ての機体には搭載されていたおかげで敵のゲフィオンディスターバーの影響を受けなかった。

 

 よってもし当初の作戦通りにアマルガムと共に零番隊がスルトを攻撃していればこの初撃でかなりの被害が出ていたかも知れなかったことに、渋々直前の修正を受け入れたゼロは少々の罪悪感から作戦を出来るだけ早く終わらせられるように采配をしていた。

 

 余談だがスバルの蒼天はその試作機体の中でもかなり最後の最後まで手が加えられた所為で対策の組み込みなどが遅れ、ゲフィオンディスターバーの効果を受けて一時のシャットダウンをしてしまったとここで追記する。

 

 皮肉にも、先端技術を注ぎ込みし過ぎた所為で初歩的な装備がおろそかになってしまっていた。

 

 果たして『対ゲフィオンディスターバーの処置』を初歩呼ばわりしていいのかは現在のところ微妙だが、今は『初歩』と定義しておくとする。

 

『ゼロ、カレンがまだ地上に!』

 

「む。 ベニオはどうした?」

 

 零番隊の副隊長である木下(きのした)からの通信にルルーシュはゼロとして疑問の声を返しながら、コンテナの隣で待機していた蜃気楼に乗り込む。

 

『えっと、作戦通りに我々零番隊と共に突入しました。』

 

「ならば問題ない、許容範囲内だ。 木下はそのまま副隊長として指揮を執れ。」

 

『了解しました。』

 

 ……

 …

 

「すごい……地面の下に町がある。」

 

 ベニオはナイトメアの中からギアス嚮団がある地下都市の景色に、先ほどまでアマルガムを騙すような行動に感じていた『モヤ付き(戸惑い)』が『感動』によって上書きされていた。

 

『これがとても人体実験の施設だと思えないな。』

『こんなところ、写真を撮って後でアップ────』

『────私語は慎め。 地上に展開しているナイトメアが敵の全てだという保証はない。 まずは地上部隊が動きやすい様に的勢力の制圧しつつ実験体の封印を行う。 各機はグループでの行動を開始!』

 

『『『了解!』』』

 

 ベニオを含めた黒の騎士団の暁たちはそれぞれ二、三機ずつの班に分かれては予期せぬ騒動で容姿を見に建物から出てきた研究員たちを取り囲んで一つの場所へと集め出す。

 

「(本当にこんな人たちが人体実験なんてするのかなぁ?)」

 

 ベニオがそう言うのも仕方がないほど襲ってきたナイトメアたち、地上からくる振動、そして不安定になる電力の供給の所為でチカチカとオンオフを繰り返す明かりに動揺し逃げ惑う白衣を羽織った研究者たちは『普通の一般人』の装いだった。

 

 本来はここで零番隊は激怒したゼロによる無差別の虐殺を命じ、その様子はベニオに少なからず()()()を────かつての『行政特区』でブリタニアによる虐殺を連想させていた。

 

「(この作戦って、『正義』の為に必要なことなんだよね?)」

 

 だが少々出来事の流れが違ったことで今の彼女は『違和感』程度の気持ちを浮かばせていた。

 

『お、おい! コックピットハッチを開くな!』

『け、けど子供たちが! 俺の子とそんなに歳が離れ────うゲッ?!

『おいどうした?! なにg────ぐわ?!』

『何だ?! ま、待て! 味方だぞ、撃つのはやめろ!』

『か、体が言うことを聞かない?!』

『研究員たちの様子が変だ! 急に走るのを止めてこっちに走って来るぞ────おわぁ?!』

『こいつら正気か?! な、生身でナイトメアに走って来るぞ!』

『ブリタニアに、玉砕なんて考える奴らがいるのか?!』

『怯むな! 無力化を────!』

 

「────え?!」

 

 そんなベニオの考えを遮るかのように、次々と焦り出す零番隊の者達による不可解な通信が入ってくる。

 

「な、何が?! 何が起きているの?!」

 

 ベニオは紅鬼灯・弐式の飛翔滑走翼を使い、思わず上空へと上がってはファクトスフィアを展開させて性能の上がったカメラで周りを見渡すと各地で起きている異常事態を目にする。

 

 あるナイトメアは操られているかのようにきごちない動きのまま味方を襲い、一部の暁は泣き叫ぶまま機体を登ろうとする研究員たちに戸惑い、そんな研究員たちや味方機を傷つけずに止めるためコックピットハッチを開けては首や体が曲げられて散っていく黒の騎士団員たちがいた。

 

 キュィィィィィィン!

 

「ハッ?!」

 

 バキィン!

 

 横から来るランドスピナーにベニオが振り返ると器用に建物を使った立体起動でベニオの居るところまで上がってきた黒いサザーランドたちがランスを使って飛翔滑走翼のX字型の翼が折ってしまう。

 

「うっ?! (やられた! 力場が安定しない!)」

 

 紅鬼灯が地面に落ちたところで第二、第三の追撃が黒いサザーランドたちによって放たれるがベニオは流れるように機体を操ってその攻撃を回避する。

 

「この黒いサザーランドたち、明らかに今までの敵と違う────うわ?!」

 

 ベニオはすぐに反撃の為、輻射波動を向けると第一波のサザーランドたちが通りざまに打ち出したスラッシュハーケンが紅鬼灯の足に絡まっており機体は転倒し、減速せずに遠ざかる彼らに釣られて紅鬼灯は地面を引きずられていく。

 

「この人たち、戦い慣れている!」

 

 ベニオがそう感じ取るのも、相手がプルートーンであることを踏まえれば何ら不思議は無い。

 

 未だに『騎士道』や『パターン化された戦闘行動』などの、理想論に基づいた『綺麗な戦い方』が通じるコードギアスの世界で、プルートーンはそれ等を根底から否定する様な戦い方────黒の騎士団の様な『近代的な戦い方』をずっとしてきた。

 

 特にV.V.がギアス嚮団の嚮主と成り、プルートーンの実質的なトップになってからは『戦術が通常の道理とは違う』戦い方を強いられてきた。

 

『少々やるようだな、あの機体。』

『嚮主様も自ら出撃なさった、黒の騎士団の主力は引き受けるそうだ。』

『ならばその間に雑魚を掃除する。』

『『『了。』』』

 

 

 ……

 …

 

「今の内です、逃げましょう将軍!」

 

「ならん!」

 

 文字通りカオスに陥りつつあるギアス嚮団の一角ではクロヴィスの元で『コードR』に携わり、ナリタ連山から逃げて、シュナイゼルの下で世界中の遺跡の研究、そして今では超現象で転移されてきた場所でさらなる研究を強いられていたバトレー将軍と研究員たちはいた。

 

「体の自由が効く今こそがチャンスなのだ!」

 

「無茶ですよ将軍! コーネリア皇女殿下たちの解放なんて────!」

「────そう思うのならお前たちだけでも黒の騎士団に保護してもらえ! 私は一人になってでも殿下を救う!」

 

 バトレーはそう言い放ち、周りからくる爆音や人の叫びなどの阿鼻叫喚をものともせず走り出した。

 

「(ここで信頼できるのはコーネリア皇女殿下しかおらん! どうにか彼女に、この世界のことを! ()()を伝えなければ!)」

 

 

 ……

 …

 

 

「ジークフリート?!」

 

 バトレーが勇敢にも地下都市を駆け抜けている間、木下たちとは別ルートで『ケジメ』をギアス嚮団と付けにルルーシュと共に来たC.C.はピンク色の暁・直参仕様の中で建物内から自分を襲ってくるトゲの生えたオレンジ見覚えのあるオレンジ色のナイトギガフォートレスに声を上げていた。

 

『ああ、やっぱりその機体は君が乗っていたんだ。 昔から君は何かとピンク色が好きだった様子だし、変わらなくて安心したよ。』

 

「その声、V.V.か! まさか観察者気取りの貴様自らが出てくるとはな!」

 

 C.C.を庇うかのように前に出て絶対守護領域を展開した蜃気楼の中にいたルルーシュは驚きの声を挑発の口調で誤魔化す。

 

『こうして会うのは初めてになるのかな、ルルーシュ? 初めまして、そしてさようなら。』

 

「そうか、なら天誅はなるべく痛くしてやるとしよう!」

*1
123話より




ハッピーバースデー、腹黒虚無宰相閣下。 (`・ω・´)ゞ


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第247話 『ムスペルハイム攻略作戦』3

スライディングセーフの投稿!

……アウト?


 時を同じくして世界のほぼ反対側にある『新大陸』のダラス州の研究所で、シュナイゼルは日光がガラス越しに照らす室内で、いつもより少々興味深い薄笑いの表情をしながらとある書類等を読み漁っていた。

 

 コン、コン。

 

『殿下、よろしいですか?』

 

「カノンか。 いいよ、入りたまえ。」

 

『では────』

「────もしや、東ユーラシア絡みかい?」

 

「流石は殿下ですね。」

 

 入ってくるカノンに対してシュナイゼルが上記の言葉を間髪入れずに発すると、カノンはビックリすることを内心にだけ留めさせながらニッコリとした笑みを返す。

 

「あそこは明らかな挑発をしていたからね、もうそろそろ事態が動くと思っただけだよ。 ()()()()()、カノンはこの資料に書かれている『フレイヤ』に関してどう思っているんだい?」

 

「……もし理論通りの代物であれば、もう『剣』だの『騎士』だのと言う、現在の『闘争の矜持』を超えた次元の力になるでしょうね。」

 

「フム……これを書いた研究者たちは『好奇心』と『恐怖』が半々の様子だったけれど、カノンはなぜ平然としていられるのかね?」

 

 シュナイゼルが見下ろす資料は予想された『フレイヤ』による災害力で、その比は毒ガス兵器以上のモノだった。

 フレイヤの物理的な破壊力とその効果が表れるまでのタイムラグや効果範囲の調整は群を抜いており、それに比べると毒ガスは原始的にも見えてしまうほどであった。

 

「あら、そう仰る殿下もエリア11でフレイヤの開発具合を聞いてすぐにダラスに戻ってきた熱は見る影もなく、いつも通りですけれど?」

 

「『いつも通り』、か……なら、()()()()()()()と喜ぶべきなのかな?」

 

「???」

 

「確かに私はフレイヤの事を聞き、ここに急遽戻ってきたがそれだけではないよ? 我々は多分、既に例の『謎の勢力』による術中にハマっているからね。」

 

 シュナイゼルがスラスラと、まるでなんともないように言ったセリフに、流石のカノンもとうとう目を見開いてしまう。

 

「例の報告にある()()に、私たちが?! で、ですがそれに対する想定は今まで通り────」

「────そう。 ()()()()()()()()のだよ、カノン。」

 

「……ああ、殿下は独自に私たちとは別の対策を?」

 

「君にも黙っていたことは悪いと思っている。」

 

「では殿下には『何が変わったか』も把握していられるので?」

 

「いや、さすがにそこまでは憶測の域を出ない仮定ばかりだよ。 だがこれで、例の不思議な力は侮れないと再度痛感した……さて、東ユーラシアでは何があったのかな? それとエリア24のマリーにEUと旧中華連邦方面で戦闘を終えたラウンズと親衛隊の部隊が何人かいた筈だよね? 彼女や彼らと連絡を至急取ってくれないかい?」

 

 鼻歌が今にも交じりそうな、どこか若干浮いたシュナイゼルの様子にカノンは内心ウットリホッコリしたそうな。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 スルトや従来型ナイトメアで迎撃を図る東ユーラシアにプルートーン側と思われるガニメデタイプとアマルガムが交戦している影響で、ギアス嚮団がある地下都市のそこかしこに天井から土埃や緩い岩石などが振動と共に落ちてくる。

 

『お、おいやめろ! 撃つな!』

『味方だぞ?!』

『俺じゃない! 体が勝手に動くんだよ!』

『研究員たちも邪魔だ!』

『ナイトメアを生身で登ってくるなんて、正気か?!』

 

『天井の一部が落ちてくるかもしれない』だけでも心配事の元になるのだが、『“超”が付く現象』と呼ぶしかない予想外の事態に陥っている零番隊の大半は、大小なりの動揺────いわゆる『パニック状態』になっていた。

 

『まさか、これってゼロの言っていた人体実験の所為?!』

『う、撃て! 撃つんだ!』

『だ、だけどゼロが捕縛って────ってコックピットが?!』

『う、うわぁぁぁぁぁ?!』

 

 既に察しているかもしれないが、最愛である数少ない心の支えのシャーリーを失った激怒と悲哀からルルーシュがゼロとして零番隊に『人体実験を行っているブリタニアの機関(ギアス嚮団)らしき者は片っ端から殲滅』が変わった時点で、ギアス嚮団に乗り込んだ零番隊はギアス能力者、そしている筈のない敵KMF(プルートーン)の奇襲に混乱が生じていた。

 

『落ち着け! あそこにいる奴らが元凶だ!』

『子供が?!』

『まさかゼロの言っていた実験体がそうなのか?!』

『子供たちをカプセルに放り込め! それで止まれば分かる!』

『ナイトメアで子供を……』

『仕方がない、やろう!』

 

 とはいえ散々今までゼロの元でエリア11や中華連邦内などで活動してきた零番隊であり、早くも今の状況に順応する者たちもいた。

 

『黒いサザーランドたちには気を付けろ!』

『は、早い!』

『建物の屋上を道代わりに?!』

 

 これには地下都市内に残ったプルートーンへの対処も含まれていた。

 

『どっせぇぇぇぇぇい!』

 

 最初はセオリーに無い動きをするプルートーンにベニオも同じく戸惑いはしたものの、非常識な機動戦(カレンや毒島たち)を行う者たちとの手合わせなどの経験を活かして、何とか味方機のいる場所へと逃げおおせていた。

 

『うらぁぁぁぁぁ!』

 

 第三者が冷静に見ていれば、ベニオの紅鬼灯がくり出している技等────『輻射波動を中距離でも発生する二次効果を器用に使う』、『近くの物を投げる再利用する』、『パイルバンカー付きのマニュピレーターで殴る』、『ヤクザキックランドスピナーの勢いを利用した蹴り』、『敵を踏み台にする』などは割とコードギアスの世界では異質な『何でもありスタイル』なので、ドン引きしているかもしれないが。

 

『さすがは期待の新人! ……掛け声とかがオッサン臭いけれど……

『すげぇ機動戦だ! どことなくカレンに似ている気がするが。

無茶苦茶すぎる! ベ、ベニオ機を援護しろ!』

 

 皆さん、本音がダダ漏れですよ?

 

『(何が何でも生き抜く! 地上でカレンさんたちも踏ん張っているんだ! ならここは私が活躍する!) 往生、しやがれぇぇぇぇ!』

 

 今の紅鬼灯の姿はどこか、第一次トウキョウ決戦(ブラックリベリオン)時でアッシュフォード学園が紛争地域になったと聞いて突貫した紅蓮に似ていたともここで追記する。

 

 

 ……

 …

 

 

 上記とほぼ同時刻、ゼロの蜃気楼やジェレミアのサザーランド可翔式(純血派仕様)にC.C.の暁(ピンク色)の三機は、建物内から出現したジークフリートと対峙していた。

 

「(まさか明らかな脅威である地上部隊ではなく、地下にジークフリートを残すとは!) ジェレミア! 確かこの機体は神経電位接続で反応を底上げしていたな?!」

 

『はい、それと電磁装甲によって、ほぼすべての実弾やビーム攻撃に対して高い防御力を発現します。』

 

『前以て言っておくが、今回の私はアレごと心中する気はないぞ? 前回と違って周りは砂漠だらけだからな。 ミイラになりたくはない。』

 

 最後に神根島での出来事を言ってきたC.C.をスルー無視したルルーシュは現状の打破の為に並列思考を使い、蜃気楼の中でありとあらゆる状況パターンを脳内でシミュレートしていった。

 

「(ジェレミアのサザーランド可翔式に大型キャノンは装備されているが、従来の火力を持ったナイトメアではジークフリートの電磁装甲には通用しないだろう。 見込みがあるとすれば目標に吸着し輻射波動を直接叩き込む粘着輻射弾、蜃気楼の拡散構造相転移砲。 あとは紅蓮の輻射波動だが彼女は地上に残った。 それに地上での様子からすれば……勝利の条件は見えた!) ジェレミア、ギアスキャンセラーを今から送るルートを移動しながら発動! C.C.は俺と共にジークフリートとの対峙だ!」

 

『何かあるのか?』

 

「条件は既に揃っている、あとは地上の皆が予想通りに動いていればクリアできる!」

 

 ……

 …

 

 地上ではアキトとシンのアレクサンダ・アラクネが濃い青色のヴェルキンゲトリクスと対峙していた。

 

「兄さん、あれってヴェルキンゲトリクスだよね?」

 

『色も変わり、少々の違いもあるが基本はヴェルキンゲトリクスのままだな。』

 

「性能はどう?」

 

『ああ、()()も含めて以前とあまり変わっていない様子だ。』

 

 ここでネタバレをすると、ヴァイスボルフ城の決戦時にボロボロとなったヴェルキンゲトリクスはwZERO部隊のアレクサンダやアシュラ隊のグロースター・ソードマンと違って、リサイクル(再利用)されたガリア・グランデに回収されて蓬莱島へと輸送されていなかった。

 

 無論、ヴェルキンゲトリクスも回収したかったが、置き去りにせざるを得なかった大まかな理由は二つあった。

『ヴェルキンゲトリクスの駆動システムが発する独自の力場が、フロートシステムに干渉して支障をきたす』。そして『回収に要する作業時間』である。

 

 一応苦戦の末に聖ミカエル騎士団を退けたものの、何時ユーロ・ブリタニア正規軍の追撃、あるいはEUの『事故』と称した『証拠隠滅』を図る別動隊が来てもおかしくない状態を危惧し、wZERO部隊は『長居は無用』という判断の元でヴァイスボルフ城から蓬莱島へと撤退した。

 

 そして不幸にもユーロ・ブリタニア軍が聖ミカエル騎士団を追ってヴァイスボルフ城に到着する前に、シンがギアスを得た経歴を調査していたプルートーンの別部隊によってヴェルキンゲトリクスは回収され、ギアス嚮団による誘いを受け入れたカラレスの専用機へと変貌した。

 

 更に元々ラウンズの為の試作機であったヴェルキンゲトリクスとカラレスの発現した広範囲型のギアス────『忘却・短期記憶』*1の相性はよく、『初見殺し』や『遊撃士』としての能力は脅威であった。

 

 しかし、アマルガムでもヴェルキンゲトリクスの癖や動きをよく知っているアキトとシンたちが自ら対峙することで、戦況への影響は最小限に抑えこむことが出来ていた。

 

『それでも、近すぎるのは危険だな。』

 

()()()()()()()()兄さんでも?」

 

『ああ。』

 

 最初はアキトもカラレスのギアスに影響されて苦戦を強いられていたが、カラレスのギアスがジェレミアのギアスキャンセラーと似た性質を持ったせいか『遮蔽物』(この場合『シンの義眼』)がカラレスのギアスを無効化していたことがな大きな要因だろう。

 

『何故だ! 何故イレヴンの猿どもに、この私が?!』

 

 ブリタニアの試作機で『サグラモール』と呼ばれていた時期からヴェルキンゲトリクスを熟知しているシン、そして『公式チート人間スザクと良い勝負が出来るかもしれない』疑惑持ちのアキトたち兄弟の前では、さすがのカラレスも焦りを感じていた。

 

「“イレヴン”……少し違うな────」

『────そうだな────』

「『──── “()()人”だ……()()の剣だけに。』」

 

 『意味が分からん!』

 

 カラレスの困惑した叫びを無視し、アキトたちはサクラダイト繊維による人工筋肉がくり出す爆発的なパワーで物理的な長刀(超硬度大太刀)を振るっては、ヴェルキンゲトリクスの四脚の内二つの足を無理やり左右から切り落とす。

 

『きょうも ひゅうがきょうだいは さむくて げんきです』とも。

 

 ……

 …

 

「うぁ?! こんにゃろ!」

 

 別の場所では、ガニメデ・コンセプトの中でアリスはビックリしながら転倒しそうな機体をザ・スピードによる『加重力の操作』を使って機体を空中回転させながら、反撃をするためバスターソードを投げる。

 

「うげ、マジ?!」

 

 しかしまるでアリスの動きを事前に知っているかのように、敵はガニメデ・コンプリートによる投擲を躱すどころか、飛来してきたバスターソードの柄を掴んでは投げ返した。

 

 アリスのガニメデ・コンプリートが投げ返された剣をキャッチし、態勢を整えた直後に敵のヴィンセントが切りかかってくる。

 

「(こいつ、私の戦い方を知っている動きを────)────ッ?!」

 

『……う。』

 

 するとゾワリと、まるで毛が逆立ちする様な感覚にアリスが覆われると、今までどれだけ傍受をしようとしてもダンマリを決めていた相手のヴィンセントからの、直通回線越しの通信が入ってきた。

 

『ようやく、来たか。』

 

「(この声……どこかで────?)」

『────こうして、会うのは、行政特区以来だな、マッドの。』

 

「その声……まさかダールトン将軍?!」

 

 たどたどしい言葉の所為で最初は誰なのか分からなかった声も、“行政特区以来”というキーワードでアリスはハッとする。

 

「何故将軍が敵対を?!」

 

『敵の、ギアス、だ────』

「────何とか機体を無力化します将軍。 ですから────」

『────私の、ことは良い! 姫様を……姫様を、頼む!』

 

 ヴィンセントがアリス機のバスターソードを弾くと同時にがら空きになったガニメデ・コンプリートの脇にタックルを食らわせる。

 

「ぐあ?! しょ、将軍────!」

『────体が、言うことを、聞かないのだ!』

 

「ッ! (この識別反応(シグナル)は……確か『オレンジ』?)」

 

 目を白黒させながらもダールトンの言葉にレーダーを見たアリスはジェレミア機を示すシグナル(識別反応)が映っていたことにピンとくる。

 

「(そうか! 報告で彼は、ギアスキャンセラーとやらを持っている! だとすればこの配置はルルーシュ……ゼロの采配!) ダールトン将軍、もう少しだけ堪えてください!」

 

 ドォン!

 

 近くのスルトによる砲撃による余波がアリス機とダールトンが中にいると思われるヴィンセントの機体たちを震わせた。

 

 ……

 …

 

『こいつ、強い!』

 

「しかし、これで終わらせる!」

 

 アリス達より更にスルトに近い場所ではカレンの紅蓮と毒島の村正一式・武蔵タイプは、器用にフロートシステムだけでなくスラッシュハーケンを駆使して、周りの機体やスルト本体を利用した立体的な機動をするヴィンセントを追い込んでいた。

 

 ピッ♪

 

「ッ?!」

 

『え?!』

 

 今まさに死角である背後からトドメを刺すところでメッセージが入ると毒島の動きは止まり、カレンもそれを読むと目を点にさせる。

 

 この隙に正面の紅蓮にスラッグ弾を装填された散弾銃を撃ちながら、背後の毒島にMVSのランスで反撃するヴィンセントから紅蓮と村正一式・武蔵タイプは余儀なく距離を取る。

 

「なるほど……そう言う事か。」

 

『道理でこの敵の動きを見たことがあると思っていたよ……』

 

「前に対峙したことのある君がそう言うのなら、中に()()がいるのはほぼ間違いないだろうね。」

 

 コックピットの中で毒島は納得する様な表情を浮かべ、カレンは真剣な顔をしたまま操縦桿を握る拳に力を入れた。

 

『本当に厄介だね、ギアスは……』

 

「そうだな……厄介な道具(能力)だ。」

 

 先ほどのメッセージはアリスが地上に居るアマルガムと黒の騎士団に送ったモノであり、内容は簡単なモノだった。

 

『敵の中に洗脳された味方の可能性、大』とだけの内容だが、ルルーシュの『絶対遵守』を知っている者たちはすぐにメッセージの裏の意味が伝わった。

 

『さ~て、どうしようか毒島?』

 

「そうだな……恐らく()の事だから、殺さずに凌げばいずれ解決方法が来るだろうな。 だから君は彼の元へ向かえ。」

 

『……いいの?』

 

「いいも何も、君は彼の援護を考えて力を温存しているだろう?」

 

『ぅ……そこまでその……分かりやすかった?』

 

「(素直ではないところは、似ているな。) まぁな。 それに“相手を殺さず”となると、私も誰かと共に戦うよりは一人の方が()()だ。」

 

 「……ありがとう。」

 

 カレンは消え入るような声で上記の言葉を言い残し、その場から紅蓮をスバル機の反応がある場所へと飛ばす様子を、毒島は横目で見送った。

 

「(まったく、ここまで彼と似ていると少々妬けるな……) さて。 想像していた状況とは違う手合わせ願おうか、ブリタニアの魔女よ?」

 

『……』

 

 毒島の通信に返事はなく、ヴィンセントはただ村正一式・武蔵タイプにランスを無言で向ける。

 

「無言か……果たしてその口からは、どのようなうめき声をあげるのかを想像するだけでぞくぞくするよ。 フフフフフフフ♪

 

 周りに知人が居なくなったことを確認したその時の毒島が浮かべていた表情は、祖父である桐原やよく共に行動したアンジュをも含めて、未だかつて誰も見たことが無い残虐な獣の様なモノだった。

 

 

 


 

 

 右、左、右、また右に上。

 

 蒼天がどこへ動いているのかは体に圧し掛かるGで文字通り、肌で(スバル)は感じていた。

 

 左、左、下、右に上。

 

 センサーに五感を繋いだおかげか、目を瞑っても外部の様子を見られるのは奇妙な感覚だ。

 

 正直『目が回る』を一周して単純に吐き気が絶えずに俺を襲う。

 吐こうとしても吐けないのは難点だが、今この交戦状態で吐けば一発でゲームオーバーに繋がるだろう。

 

 下、下、上、後ろ、後ろ。

 

 黒ランとの鬼ごっこの『追う者』と『追われる者』の役割が何度も交差し、交わるその都度に黒ランと蒼天がお互いの兵装を潰しあう。

 

 黒ランとの間合いは常に近距離か中距離。

 

 決して俺のホッと実家の様な安心感がする様な遠距離になることは無く、無理やりにでも距離を空けようとすれば黒ランは必ず空けた距離の二倍は接近してくる。

 

 おかげさまでスナイパーライフルや電磁砲はこん棒替わり、あるいはバレル(銃身)を外したままでの使用ばかり。

 

 アサルトライフルは盾代わりにした所為で真っ二つ、長刀も敵のMVSとの斬り合いでボロボロ。

 

 輻射波動用のカートリッジも、さっきから攻防に使っている所為でそろそろ例の原動力を使用する時間が来ている。

 

『BBS』? ほぼ最初からキャストオフされて黒ランに特攻を強要されましたが何か?

 

「……」

 

 それもこれもさっきから無言で怖くてヤヴァイ高機動戦を行っている『俺』の所為なんだけどな?!

 

 だから脳内での妄想アンナたんにウィルバーちゃんにラクちゃんにウハウハ白衣の姉(ランドル博士)ちゃんたち?

 

 血涙を流しながら俺をリンチにかけるのは止めてくださいでゴザルヨ。

 

 上、上、前、下、左、広範囲設定の殺虫剤で黒いGならぬ輻射波動で黒ランを追い返す。

 

 え?

 

『なんだか冷静だな』だって?

 

 だって俺が騒ぐと『俺』がキッッッッッッッツイ一言のツッコミとか虚しくなるようなスルーを決めるんだもん。

 

 ピッ!

 

「……ようやく来たか。」

 

 レーダーに反応が出てようやく『俺』が────ってこのシグナルはカレン機じゃん。

 

 この時から『俺』が蒼天を更に無理な機動を強いる周りからミシミシとした嫌な音が装甲越しに聞こえ、蒼天の大振りを黒ランが避けると丁度その場に飛来してきた紅蓮の突進に会う。

 

『うおおおおりゃあああああああ!!!』

 

 ドゴォ!

 

 黒ランをサンドイッチにするかのように蒼天も体当たりをすると紅蓮が既に黒ランのエナジーフィラーの蓋を開けていたところに、『俺』は蒼天で黒ランのエナジーフィラーを抜く。

 

「流石だな、カレン。」

 

『ううん! スバルの誘い方が上手かったから出来た!』

 

「そうか。」

 

 なにこの息がぴったりな淡々としたやり取り。

 

 普通に羨ましいのだが。

 

 

 


 

 

「おや、もうこんな時間か。」

 

 蓬莱島でもアマルガムの技術部用に取ってある倉庫の中にいる男性が、腕時計を見ては上記の独り言を漏らす。

 

「(あの人……誰です?)」

 

 泣き腫らして未だにモヤモヤとする心を整理させるために散歩をして、偶然にもその男性が突然誰もいないと思った横道から出てくる瞬間を目撃したライラは、隠れながら我が物顔で技術部の資料を読み漁っていた男性を物陰から見張っていた。

 

「さて、彼の最期を見届けようか。」

 

 どこからどう見ても『不審者』極まりないのだが、ライラが皇族として生き抜くために磨いた観察眼が彼女に訴えていた。

 

『この男を見張れ』、と。

 

 彼女自身、何故この様な衝動が浮き上がって来たのかは分からない。

 だがあまりにも色々起きた所為で、冷静な判断が下せる状態ではなかったのは確かだろう。

 

 

 

 

 

 後に原因が彼女の()()によるものとは、現時点で本人含めて誰も思わないだろう。

*1
誠にありがとうございますカザユキさん! 命名を採用させていただきました!




『そして展開は動き出す。』 (((( ;゚д゚))))アワワ

尚、リアルの所為で投稿が週一の速度に変わるかもしれません。 大変申し訳ないです。 。゚゚(*´□`*。)°゚。


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第248話 集結するカオス

1/22/2024 08:58 追記:
後半のルルーシュ&ロロシーン直後辺りに上手く投降しきれていない部分を、スバル視点の後半に移動して文章を追加しました。

ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。 m(_ _)m


 キュィィィィィィ、ガァン! バララララララララララララ! ヒュオン、ガァン

 

 サンドボードを使ったKMFが砂の上を走る時に聞こえる独自のランドスピナー音とラクシャータ製とブリタニア製のフロートユニット(飛翔滑走翼)の起動音が重なっていき、体の芯にまで響く鉄と鉄がぶつかる鈍い音が衝撃、地鳴り、様々な口径の発砲音を背景音として響き合う。

 

 その様はまるで金属や爆発物のみでコンサートを開かれているようだった。

 

 それ等の情報は精密な情報処理が施されて、(スバル)にとっては『レーダー上に浮かぶ音源位置データ』として入ってくる。

 早い話が、FPS等でよく見る『ミニマップ』というヤツだな。

 

「『………………』」

 

 で、なんで俺がこんなに悠長な内心での説明が出来るかというと最初は細々とした『俺』や『俺』とカレンのやり取りが無くなったからだ。

 

 エナジーフィラーを一つ抜いても尚、ほぼ互角の機動戦を挑んでくる黒いランスロットの対応に紅蓮・強襲型と蒼天・ムラクモ式は全集中力を注いでいた。

 

 一言で済ますのならば黒いランスロットは単純に『強い』。

 

 黒いランスロットは『二対一』の状況を巧みに利用し、エナジー消費を最小限に抑える立回りで()()()()を狙っていた。

 

 まさかカレンや『俺』の狙いを察知して、それを逆に仕掛けてくるとはな。

 

 忘れがちだが、元々KMFはその高い機動能力を活用した電撃作戦などの戦闘教義(きょうぎ)での使用を前提で長らく開発されてきた。

 今ではアーニャのモルドレッドやティンクのゼットランド、ユーロ・ブリタニアが独自に開発したアフラマズダにゼロに強奪されたガウェイン、オイアグロのアグラヴェインなどの重量級大型KMFが少数ながらも制作されて来ているが、それでも基本部位や基幹パーツはメンテナンスの効率化の為にユニバーサルデザインで共有している。

 

 エナジーフィラーももちろんこれに含まれているワケで、エナジーの使用量が激しい装備や機体であればあるほどに、何らかの消費削減対策が施されるのが常識だ。

 

 従来のKMFを基準として、モルドレッドは空中戦を主体にしている所為で陸上の機動力なんてモノは無いに等しいし『宙を飛ぶ』よりは『浮遊する』と言った微妙な速度しか出せない。

 試作型に当たるゼットランドやゼットランドの元となったアフラマズダも『拠点防衛』の一点から開発されたものだから機動性はさらに落ちるばかりか、武装も実弾を使ったモノなどを使用している。

 

 MVSは内蔵バッテリー仕様に出来るから除外するとして、ブラッドフォードやトリスタンなんてメギドハーケン、ハドロンスピアーにフロートシステムだけの軽装備な上にギリギリにまで落とした装甲と軍用強化プラスチックで軽量化されている。

 

 ミルベル博士夫婦たちの話によると、エナジー消費が一番高いハドロンスピアーやハドロン砲も使用時には銃口への負担なども配慮して出力制限を機体の操作入力がOSに入る段階でかけているらしい。

 

 ラウンズ機は一般用と違って、騎乗者が任意でこのリミッターを解除(オフ)に出来る仕様を採用した方策だったとか。

 

 長々と並べて結局何が言いたいかというと、現在の紅蓮・強襲型や蒼天・ムラクモ式にアンジュのビルキースなどは『新技術の実証試験に使用されるプラットフォーム機』という範疇を超えているどころか、『エナジー容量をほぼ配慮していない最先端技術を積み込んだ機体』であるという事。

 

 その点では()()()のランスロットや、サザーランド本体に予備パーツを付けたランスロット・クラブと似通っている。

 

 というわけで黒いランスロットのエナジーフィラーを抜いたのは相手のパワーダウンを狙っていた行動からではなく、逆に俺たち側のエナジー切れを相手が狙いにくくする為だ。

 

 通信が開いているのに無言という事は多分、カレンも『俺』と同じで緊張と焦りから大粒の汗を額と首回りに浮かばせながらどうにか現状の打破が出来る一手、あるいは隙を探しているだろうな。

 

『二対一』だというのに黒ランの動きと間合いの取り方。

『エナジーフィラーを抜かれる』といった予想外の攻撃に対する対応力。

 それに紅蓮や蒼天の動きに慣れてきているような微妙な距離の取り方。

 

 少なからず動揺を見せてもおかしくはない状況下で確実に、周りの戦況を組み込んだ対処と動きが、時間が経てば経つほどにどんどんと洗練されていく様は気の所為ではないな。

 

 ルルーシュ並みの観察眼とスザクの様な応用力を見ると、やはり黒いランスロットの中にいるのがライ(仮)で間違いないな。

 

 というかライ(仮)であって欲しい。

 この時を想定してラクシャータたちにも黙って独断で入れた()()()()()があるからな。

 

『フードはどうした』って?

 身軽になる為もう既にパージ&特攻をかけましたが何か?

 

 そこ、『脳筋ムーブw』なんて言わない。

 

 あとは()()()()()と────

 

 ボォンボォンボォンボォンボォン!

 

 ────そう俺が思っていると紅蓮がパイルバンカーの杭を数本撃ち出し、黒いランスロットがMVSでそれ等を弾いた瞬間に『俺』が蒼天で仕掛ける。

 

 過激な加速に生身の体が反射的に瞼を閉じそうになるがギリギリのところで踏ん張るとすぐに涙目になる。

 それでもフットペダルと操縦桿を操作し、円を描くような軌道で蒼天を黒いランスロットの死角に入りこんで右手の輻射波動機を向ける。

 

 カチ。

 

 杭を撃ち出しながらも動きを止めなかった紅蓮が輻射波動の効果範囲外に出たことを確認すると俺はスイッチを入れる。

 

 以前に話した、『脳から信号が送られて筋肉が反応して動作を始める物理的な壁』を覚えているだろうか?*1

 

 時間にすると脳が神経に命令を出して筋肉が反応するまで約『0.2秒』。

 人間という生物であるのなら、この壁を超えるのは()()不可能である。

 例外があるとすればルルーシュのように『先を読む』、ジェレミアの様な『神経電位接続』で脳の信号をダイレクトに機体へ送る、あるいは────

 

 カァン

 

 ────ライ(仮)のように『ロスカラ』でとあるルートで判明したように身体を改造されるか。

 

 まるで頭部の後ろにメインカメラ()があるかのような反応速度で黒いランスロットはハーケンブースターを使って腰のスラッシュハーケンで蒼天の右手を弾き、まるでスラッシュハーケンの後を追うかの様なMVSが蒼天に飛来してくる。

 

 だが『俺』は怯むことなく蒼天を更に前進させて黒いランスロットに接近して懐に入らせると、強い衝撃と血が体の後方に充満するような感覚が俺を襲う。

 

 意識が飛びそうになったからか星が散る視界の中で俺は黒いランスロットがさっきの俺のような機動で背後に回って、体当たりをしてきたことに理解が追いつくと、『俺』はブースターに出力を入れて背後からの体当たりの勢いを利用しながらくるりと180度反転して黒いランスロットと対峙する。

 

 後を追おうとした黒いランスロットを上から紅蓮の輻射波動が襲い、その間に蒼天はサブアームに渡された長刀を手に取る。

 

 黒いランスロットが蒼天をより近い脅威と感じてか、先ほど以上の速度で接近してくる。

 

 ガキィン!

 

 MVSと長刀が衝突し、フロートユニットの勢いを付けた黒いランスロットに蒼天が力負けをして押される。

『俺』は敢えてそれを受け流すことなく、そのまま正面から受けては衝撃緩和の為か噴射機でより後方へと逃げる。

 

 ピィィィ!

 

 長刀を持っていた左手の異常と同時に後方に『物体急接近』を示すアラームに蒼天が近付いていた地上にランドスピナーを展開させると、非常着陸時の飛行機のようにコックピットが再び揺れる。

 

 ピィィィ────ガイィィン

 

 それでもアラーム音はなり続き、ほどなくして蒼天が何か────『スルト』にぶつかって無理やり動きが止まってしまう。

 

 黒いランスロットがこれを好機と見てか、紅蓮ではなく蒼天に迫る。

 

『俺』は左手のマニュピレータで持っていた長刀を投げると黒いランスロットがそれを容易く弾いては全速力で近づいてくる。

 

 え? 『何で奇声を上げていないんだ』って?

 

 そりゃ勿論、ここまでが()()()()だからさ。

 

 というわけで罠カード発動!

 

 ガシャ!

 

 長刀を投げた左の前腕カバーが展開すると収納されていた補助火器が姿を現す。

 

 ここまで長かった。

 

 ブラックリベリオンのサザビー(サザーランド・ザ・ビッグ)、そしてバベルタワーの村正一式・伊織タイプ……お前たちから得たライ(仮)に関する戦闘データを使った『対ライ(仮)の戦術パターン』。

 通常のKMFより一回りゴツイおかげで隠すことが出来た暗器。

 そして十分に注意を引かせるだけでなく激戦を強いることのできるカレンとの共闘。

 

 本当に……本当に長かった!

 

 サプライズを食らいやがれ、ライ(仮)!

 

 ダダダダダダダダダダダダ!

 

 火薬式の銃火器独自の力強い発砲音と共に網膜投影システムに残弾数が凄い勢いで減っていき、突進してくる黒いランスロットの軽金装甲が徐々に剥がれていく。

 

 ダダダダダダダダダダダダ!

 

 それでも猪のように敵は暗器サイズに収める為に反動が大きく、銃身が短くなった所為か着弾が一点に集中していないことに気付いたのか、黒ランは機体をそらしてなるべく被弾を押さえていた。

 

 ダダダダダダダダダダダダ!

 

 冷却問題から単身ではなくマルチバレルの機関銃によって発砲速度が上がっているおかげで数百弾と言えども、撃ち続けた今では弾倉には半分しか残っていない。

 

 ザクッ! バリィン!

 

「ぐ?!」

 

 穴だらけになった黒ランのMVSが左前腕の機関銃を切断する流れで蒼天の胸部装甲も抉られ、コックピット内のモニターにノイズが走ってガラスが飛び散る。

 

 バキッ!

 

 負けじと蒼天の右腕がサブアームで展開した予備の長刀を無理やり押して黒ランのコックピットブロックに斬りつける。

 

「まだだ! まだ終わらせない!」

 

 ボォォォォォ!

 

『俺』は叫びながら操縦桿でエナジーフィラーとは違う電力に機体のブースター出力を底上げさせてフットペダルを踏むと、噴射機が『スルト』に当たり黒ランに突き立てていた長刀を更にめり込ませようとする。

 

 バキッ!

 

 だが元々この様な使用を想定していないサブアーム等はぽっきりと折れてしまい、最後にはスルトをロープ代わりに機体をリバウンドした蒼天がラリアットを黒ランに食らわせるような絵図になる。

 

 ガァンガァンガァンガァン!!!

 

「落ちろ落ちろ落ちろ落ちろぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 ガリガリと地面で削るかのように押し倒した黒ランを、『俺』は蒼天の右腕で何度も黒ランを物理的に殴る。

 

 ボゴォォォォン!

 

 蒼天が黒ランを殴っていくとミニマップに大きな反応があり、反射的に感覚をKMFのカメラに戻すと地中からオレンジ色の球体────ジークフリートの巨大スラッシュハーケンを絶対守護領域で受け止めていた蜃気楼の二機が姿を現す。

 

 


 

『指揮官機でそこまで戦えるなんて、君はまごうことなきマリアンヌの子だよ────!』

『────V.V.よ、良い事を教えてやる! 観察者が当事者に役割を変えるという事は、責任を取る覚悟があるという事だ────!』

『────何を────』

『────俺は言ったはずだぞV.V.、“大人しく天誅を受けいれれば痛くないようにしてやるぞ”と────』

『────だから何を!』

 『────ハイヤァァァァァァァ!!!』

 

 ガキィン

 

 ルルーシュとV.V.の通信を遮る少女の掛け声に、攻撃用アーム────『Wolve’s Tooth(ウルブストゥース)』を展開したヴィンセント・()()()が真上からジークフリートに攻撃を当てる。

 

『何?! この声は双子の────?!』

『────V.V.! 』

 

 バキィン!!

 

 硝子が壊れるような音にウルブストゥースが砕かれると同時にジークフリートの装甲にヒビが入ると、ヴィンセント・グラムの中にいたオルドリンはすぐにウルブストゥースを機体からパージし、ヒビの裂け目にルミナス・コーンを展開する。

 

 型式番号RZX-7Z-01C、『ヴィンセント・グラム』。

『双貌のオズO2』に登場する第七世代相当のKMFにして初期量産試作型ヴィンセントを大グリンダ騎士団が限界までカスタム化した機体であり、『オズ』の最後に記憶喪失となってからはマリーベルの筆頭騎士『ライアー』と名乗ったオルフェウスの専用機。

 

 今作ではスバルが様々な不運が起きる前に『オズ』の初期に介入した所為で流れが変わり、今作ではオルフェウスではなくオルドリンの裏の顔────ピースマークの『ドロシー』として行動する際の機体に役割が変わり、本人の()()()()で『単機行動特化』の思想の元にデザインされた。

 

『娯楽として多くの無垢な民の運命を捻じ曲げた悪の根源、天裁(てんさい)の激突を知るがいい!』

 

 バキバキバキバキバキバキ!!

 

『呪われた皇子に双子ごときに!』

 

 ジークフリートの装甲に入ったヒビが大きくなっていき、V.V.は無理やりヴィンセント・グラムを振り払う。

 

『装甲の強度が────!』

『────V.V.! ギアスの根源、ここで断ち切る!』

 

 V.V.の通信がまたも遮られ、今度はヴィンセント・グラムが落ちてきた方向から数多のミサイルにハドロン砲独自の赤いビームが直撃していく。

 

『オイアグロ、君までここに?!』

 

 上空から攻撃していたKMF────アグラヴェインを見たV.V.は先ほどまで平然だった声を驚きに変えた。

 

 さて、ここでどうやってヴィンセント・グラムやアグラヴェインが来たかをすると、アグラヴェインは元々プルートーン団長のオイアグロ・ジヴォンが『ピースマークのウィザード』として活動する為に造られた特注の機体であり、大型KMFでありながら隠密行動に長けている。

 

 大型機であるためエナジー消費を気にしないほどの強力な電波妨害装置を搭載し、さらには通常のレーダーやファクトスフィアの電磁波を吸収する特殊塗料が施された装甲によりフロートユニットの作動時でも、戦闘行動を起こすまでは肉眼でしか姿が見えなくなる。

 

 これが『オズ』や『オズO2』で突然、オイアグロが『ウィザード』として姿を現すことを可能にしたネタバレである。

 

 そして今回はオズからの定期報告が無くなったことで心配から独断でギアス嚮団にオルドリンが単機で向かう前にオイアグロがアグラヴェインのステルスと連結機能を使い、二人でギアス嚮団に向かった。

 

 “介入によって変わった流れがここに来て一気に返ってきた”とも。

 

『まだだ! まだボクは────!』

 

 ────ドォォォォン

 

 ジークフリートがヴィンセント・グラムとアグラヴェインの攻撃によって飛ぶ軌道が変わると、開戦からずっと見境なしに撃っていた『スルト』の主砲の余波が当たる。

 

『ルルーシュ、まさかここまで────?!』

『────迂闊だったな、V.V.! 自らの部下と人生を狂わせた人形に守護者などに撃たれる様子は哀れに思えるよ! フハハハハハハハハハハハ!!!』

 

 ゼロの通信が発信された蜃気楼は皮肉にも射出された大型スラッシュハーケンによってより大きな難を逃れ、ジークフリートは煙と火花を飛ばしながら落ちていく。

 

「よし、あとは────」

 

 


 

 

 ────バカァン!

 

 前方間近から来た音に、スバルが注意をKMFのセンサーから生身の自分に戻すと何時ぞやのブラックリベリオン時に見たライ(仮)が機体の搭乗ハッチを開けて乗り込んでいた。

 

 体中から流血し、ボロボロな状態ながらもナイフを手にしていたライ(仮)を。

 

「生身で?!」

 

 スバルは驚きながらもすぐに体をコックピット内の席の固定具を緊急リリースさせながらも、直感と共に脳内で察した。

 

『間に合わない』、と。

 

「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 横からオッサン臭い荒々しい掛け声と共に赤い何かがライ(仮)の注意を引き、ナイフを振りかざした腕を押して僅かに軌道をそらして脇の下に拳銃の銃口先を当てる。

 

「隙あり!」

 

 バァン!

 

 肩を無事に撃ち抜いた証のように、火薬の乾いた音と硝煙が充満する中でカレンがライ(仮)に一本背負いの応用で蒼天のコックピットから飛んで地面に叩きつける。

 

 焦りながらスバルはコックピットから出て下を見るとニカッとした笑顔とサムズアップを返すカレンと、地面にうつ伏せで微動だに動かないライ(仮)を目撃する。

 

「(カレンよ。 収まりつつはあるが、お前はここがまだKMFの戦場だという事を忘れてはいないか? ……いや、今更だしここは素直に手を振るか────イタ?!)」

 

 スバルが手を上げようとすると激痛が走り、彼はポーカーフェイスを維持しながら途中まで上げた手でサムズアップを返すと酷い脱力感によってスバルはコックピットの中へと倒れる。

 

「(眠い……眠たい。 もう寝よう……)」

 

 この時ラクシャータの『誘爆したら貴重な資源や敵味方関係なく半径何百メートルが消し飛ぶからぁ』が頭を過ぎったので追記しよう。

 

 蒼天のメインとは別の原動力となったのは文字通り、『()()()』だ。

 つまり俺の機体のお腹には皮肉にも俺自身が危惧していたフレイヤ(ミニサイズ)を搭載しており、半永久的なエナジー源にしている。

 

 もうここまでくると『流石はマッドサイエンティストや同レベルでネジがぶっ飛んでいるとしか思えない技術部だな』としか思えない……

 

 そしてその技術部が今の対ライ(仮)戦で無茶をさせた蒼天を見たらと思うと憂鬱になる。

 

 

 ……うん、やっぱもう寝よう。

 

 


 

 

 ライ(仮)との対峙にスバルとカレンが勝利し、ジークフリートを撃った直後に乱戦で満身創痍だった『スルト』はリョウやアシュレイたちアマルガム陣営によって沈黙しつつあった。

 

 突然の乱戦状態に臆したのか、東ユーラシア軍は蜘蛛の子を散らしたかのように逃げようとしては結局良い様にアマルガムとギアス嚮団の両陣営から利用されて『スルト』が静かになる前からほとんどが大破していた。

 

 ジェレミアがルルーシュの指示通りにギアスキャンセラーを乱発しながら動き回り、動きが鈍ったところをアマルガムに付け込まれた敵のガニメデも殆どが鎮圧されていた。

 

 最初はギアス能力者による混乱に乗じたプルートーンらしきサザーランドの奇襲に零番隊は苦戦を強いられていたが、ジェレミアによって様々なギアスが解かれていく中でベニオを先頭にした反撃にOSと機体の改造でも既に資金不足などで限界が来ていたサザーランドは撃破されつつあった。

 

 あとは────

 

「(────落ちていったジークフリートからV.V.を引きずり出す。) ターゲットは施設内に逃げ込んだ! 零番隊で手の空いている班は上層から調べろ!」

 

『『『了解!』』』

 

『ゼロ、指示通りにロロをこちらで捕獲いたしました。』

 

「(そう言えば、もう一つの案件の()()も必要だったな。) そうか。 そちらに今行く。 妙な動きを見せれば首を切れ。」

 

 蜃気楼のカメラで空っぽになっていたジークフリートのコックピットに新たな指示を出し、複雑な内心のままルルーシュは蜃気楼を操ってジェレミア機のいる場所へと飛ぶ。

 

 するとヴィンセントから自ら出た所為か、両手を上げたまま地面に俯くロロを見張るジェレミアの場が見えてきた。

 

「(さて。 ナナリーの居場所に平然と居座る、あの男(皇帝)とV.V.の手先。 例えそのように育成されていたとしても慣れない環境や行動のストレス、感情などに身を任せて暴走する道具など何時爆発するか分からない時限爆弾でしかない。 ここで反逆者の烙印を押して処刑するか……それが最も確実で、合理的でもある。)」

 

『どうしますか、ゼロ?』

 

 どうすべきかをジェレミアに問われたルルーシュは記憶の中で覚えている時より顔色の悪いロロを見下ろしながらゼロとしての簡易衣装を身に纏い、仮面をつけてから蜃気楼を着陸させてジェレミアのいる場所へと歩き出す。

 

「さて、申し開きは無いか?」

 

「ッ……僕の所為じゃない。」

 

「(こいつは何を今更……) 君がエリア11で何をしたのか私が分からないとでも?」

 

「ゼロ。」

 

 ゼロの問いにロロは更に気まずくなるとジェレミアが口を開ける。

 

「何かね?」

 

「私のギアスキャンセラーを受けたロロはすぐに戦闘を止めて投降したと付け足します。」

 

「お前にロロを庇う理由があるのか?」

 

「いいえ。 私はただ、ロロ自身に我々と敵対する意思は無かった可能性を並べただけです。」

 

「……本当かね、ロロ?」

 

「ギアス嚮団には、にい────ゼロと似た性質のギアス能力者がいるんだ。 それが分かったのは、ギアス嚮団に着いてから。」

 

「(俺と似たギアス? 嘘か? いや……こいつが嘘を言ってもメリットが無い。 それにこいつは素直すぎるからな、そこまで器用ではなかった筈。 言っていることが本当だと仮定すれば、もしや遅効性のある命令を受けていた?) そのギアス能力者は今どこに居る?」

 

「……黒いランスロットで出ていた。」

 

「(カレン達が対峙していたアレか。 ならば────)────ジェレミアはロロを連れて例のギアス能力者を連れて後方部隊と合流しろ。」

 

「「は?/え?」」

 

 ゼロの淡々とした言葉にジェレミアとロロの唖然とした声が同時に出る。

 

「なんだ?」

 

「その……ゼロは良いの? ボクは────」

「────なんだ、そんなことか。 私はお前をこういった状況に巻き込みたくないからワザと黒の騎士団とは別の行動をさせていた。 その事でフラストレーションが高まったのは言葉足らずだった私の誤算だ。 そう、目くじらを立たせることでもないだろう?」

 

「に────ゼロ……」

 

「覚えておけ、ロロ。 お前の身に何かが起きれば、悲しむ者が居ると。」

 

「……………………」

 

「(ひとまず、これでロロは大人しく従うだろう。 今すぐ処理しなければいけないV.V.が先だしな。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ガフッ!」

 

 不老不死の体を持ったV.V.は墜落していくジークフリートから自ら飛び降りていた。

 

「(痛みだけは……慣れないな……)」

 

 V.V.は喉に詰まった血を吐き出し、呼吸をしながら自分を襲う痛みに顔を歪ませた。

 

 打撲に打ち身、骨折などを体中のいたるところでの満身創痍の状態でV.V.は上半身で地面を這いずり、地下都市の最下層にある遺跡────『黄昏の門』へと移動していた。

 

 次第に体が自己修復していき、ようやく立てるようになったV.V.はフラフラと歩いて『黄昏の門』の前まで来てはピタリと歩みを止めた。

 

「……」

 

 今までずっと閉まっていた『黄昏の門』が僅かに開かれ、その前に巨漢────神聖ブリタニア帝国の第98代皇帝であるシャルルが立っていた。

 

「ゴホ! ……そんな顔、しないでよ、シャルル────」

「────兄上、やはり今からでも────」

「────シャルル。 君のそう言うところは、美点でもあるけれど、時には非情になるべき場面では、弱点だよ? さぁ、コードを。」

 

「……兄さん、例の物は間に合いましたか?」

 

「マッドの、おかげで、なんとか……」

 

「そうですか……」

 

「だから、後は任せたよ……シャルル。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(これで、ようやく────)────うっ!」

 

『黄昏の門』へと続く階段にV.V.は先ほど自分を追ってきたルルーシュが蜃気楼ごと消えたことで腰かけると体の芯から走る激痛に痛々しい声を出してボンヤリと天井を見上げる。

 

「こうやって直接会うのは何年ぶりだったかな、V.V.。」

 

「そう、だね。 マリアンヌの暗殺以来、かな。」

 

 前方から声をかけられ、重い瞼をV.V.は開けるといつの間にかピンク色のKMFを着陸させて機体の中から出てきたC.C.が居たことに達成感を感じながら彼女の雑談に付き合った。

 

「喜べ、V.V.。 ようやく私たちの定めから逃げる方法を見つけたよ。」

 

「そう、か……遅、かったね……」

 

「……V.V.、お前まさか────」

「────う、ん。 ルルーシュたちは、門の中だよ。」

 

「……死ぬ前に一つ聞かせてくれ。 本当にマリアンヌを殺したのはお前か?」

 

「早く行かないと、門が閉まる、よ。」

 

 C.C.の問いにV.V.はただ何も答えず、ただいつもの薄笑いを浮かべた。

 

「そうか……じゃあな、()()()()()。」

 

 ズズゥン……

 

 C.C.はそれを最後に、V.V.を後にして歩くと重い音と共に門が閉まる。

 

「君の最期が、満身創痍のズタボロ状態とはね……これを『因果応報』と呼ぶのだろうか。」

 

 C.C.が居なくなったことでV.V.一人になったところで、若い青年の声にV.V.は驚くことなく瞼を再び開けて声をかけてきた金髪の青年を見る。

 

「最期を、見届けるのが、君か。」

 

「不服かい?」

 

「いや……君は、そういう人と、知っている。」

 

「そうか。」

 

「ボクには、『この先』が無いのだろう?」

 

「そうだね、君には『この先』が無い────」

「────それを聞いて、()()()()()。」

 

 カチッ。

 

 V.V.がコートポケットに入れていたスイッチを押すと、『黄昏の門』の前にある広場に柱の様な物が彼と青年の周りを囲うかのように地中から展開する。

 

「な、何を────?!」

「────さぁ、ボクと一緒に退場しな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッタレな()よ!

*1
44話より




アグラヴェインの強力なECM&ステルス装備に関しては『ガウェインのドルイドシステムを載せる代わりなら在ってもおかしくはない~』の独自解釈&設定です。


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第249話 観測者

カオス等が続きます。

え、『いつも通り』?
……ソウデスネ。 (=ω=;)


「…………………………は?! こ、ここは?」

 

 白昼夢から目覚めるかのようにハッとして(ルルーシュ)は周りを見渡すと、いつの間にかオレンジと金色が混ざった昼頃の光に包まれた神殿らしき場所の前にいた。

 

 周りは雲ばかりで先の神殿も宙に浮いているような、物理的に不可能な構造を────いや違う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺は、()()ナイトメアから出た? いや、それ以前に俺はいつ学生服に着替えた?」

 

 大事なのは『自分が蜃気楼の隣に立っていること』と、『服装がゼロのからアッシュフォードの学生服に変わっていること』……

 

 今に至るまでの記憶を辿れば、何か思い当たるのかもしれない。

 

 確か罠に嵌めたジークフリートから飛び降りたV.V.を蜃気楼で追って、ギアス嚮団の最下層の更に最奥にナイトメアを飛ばした。

 

 ここまではすぐに思い出せるし、違和感もなく辻褄が合う。

 

 それから────

 

 「────久しいな、ルルーシュよ────」

「────ッ!」

 

 特徴的な威厳あふれる()()()の声が辺りに響くと咄嗟に()()()()()()様、蜃気楼の陰に身を隠しながら一気に思い出す。

 

 ギアス嚮団の最奥に、神根島と酷似した遺跡を。

 そしてその門らしきモノが開いていて、中に()()()が立っていたことを!

 

「何故貴様がここにいる?! 皇帝シャルル!」

 

「愚問だな、ルルーシュ。 お前も行動を起こしたからこそ、ここに辿り着いたのではないか?」

 

 俺の叫びに()()()────シャルルが癇に障る挑発に似た返しをしてくる。

 

 ギアスを使って、ここにいる真意を────いや違う。

 

 俺はそんなことが聞きたいわけじゃなかった筈だ!

 

「皇帝シャルル! 若き頃の質問をもう一度問う! 何故マリアンヌを、母さんを守らなかった?! 何故俺だけでなく、ナナリーまで日本に追放した?! 何故────?!」

「────どうしたルルーシュ? いつもの貴様らしくないな? ギアスを使い、質問をすれば済む事ではないか?」

 

 やはり皇帝(シャルル)は俺がギアスを使用することを狙っていた……その為に俺を誘う、イラつく言葉遣いか!

 

 皇帝(シャルル)のギアスの性質は俺と同じく『相手の目を直視して効果が表れる』タイプ……俺のギアスが通じる条件下では、奴のギアスも俺に通じる。

 

『ギアスの発動条件が同じ』、『お互いの能力の射程距離が同じ』、『敵が見晴らしの良い場所にある』、『蜃気楼が傍にある』。

 一応、この様な事案を想定した対策はあるが……下手をすれば俺自身に危険が及ぶ。 何か、俺にとってリスクが少ない方法を考えて────!

 

『────お前は、()()()()()()()()()()()()()()────』

 

 ────思考を走らせていると子供の頃、まだブリタニアの第十七皇位継承者だった頃に感情任せで緊急謁見を申し込んで質問を皇帝にしたときの答えが脳を遮る。

 

 そうだ、燻って怖気づいたままでは死んでいるのも同じ。

 自分から行動を起こさなければ『いつか』は永遠に来ないと、あの時に痛感した筈だ!

 

 躊躇している場合ではない!

 

 先手必勝!

 

 カチッ。

 バシュ!

 

 学生服の上着から蜃気楼の仕掛けと繋がっているリモコンのボタンを押すと、蜃気楼の胸部から数々の鏡がチャフスモークのように飛び出てくる。

 

 それ等の鏡を血眼になって、俺は必死に探す。

 皇帝の姿が映された鏡を。

 

 ……見えた!

 流石の奴もこんな仕掛けを予想していまい!

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる! 『自害しろ!』

 

「……よかろう。」

 

 は?

 俺の命令に、あの男が……皇帝が承諾した?

 数々の鏡に俺のギアスが反射し、命令が皇帝に効いた?

 

 パァン!

 

 今のは銃声か?

 

 ドサッ。

 

 何とも言えない心境のまま近くに落ちた鏡で蜃気楼の向こう側の様子を見ると、神殿の前で流血しながら倒れる皇帝の姿が窺えた。

 

「……」

 

 数秒間ほど様子を見ても、皇帝が起き上がる気配はない。

 

 カッ、コッ、カッ、コッ。

 

 緊張しながらフラフラな足取りで歩く俺の足音がこの奇妙な空間内に響いて祭壇らしき場所に着くと、血溜まりの中で身じろぎせぬ皇帝が横たわっていた。

 

 まさか────「────本当にこうも、簡単に?」

 

 思わず思っていたことが口から出てしまったことにより目の前の場が現実味を帯びて、俺の中で良く分からないモヤモヤとした感情が蠢く。

 

「ク……ククク。」

 

 内心で蠢く感情がドンドンと大きくなっていくと、俺はいつの間にか笑い出していた。

 

「フハハハハハ!!!」

 

 いや。 どこからどう考えてもこれは笑うしかないだろう?

 

 長年、復讐をどう行おうかあれこれ考えていた男が、疑問に答えてほしい男が、まさかのまさかでこうもあっさりと目の前に姿を現しては簡単にも死んだのだから。

 

 「ハハハハハ!」

 

『優越感』、『嬉しさ』、『悲しさ』、『虚しさ』、『悔しさ』。

 

 様々な思いが混ざってコールタールのように俺の胸に留まって────

 

「────どうした。 それで終わりか、ルルーシュ────?」

 「────ッあ?!」

 

 死んだはずの男がムックリと起き上がりながら声をかけたことで、俺は思わず悲鳴にならない気勢をあげてしまう。

 

「い、生きている?! 馬鹿な、俺のギアスは────!」

「────少し前ならば、確かに死んだままでおったが……一足(ひとあし)、遅かったなぁ?」

 

 そう言いながら皇帝が右手の手袋を外すと、時々C.C.の前髪の下からからチラッと見え隠れする入れ墨(模様?)が掌にあることが見えた。

 

 その意味は良く分からないが、この男が再び立ち上がったということから一つの、()()()()()()()()()()に考えが辿り着くと俺の体中から力が抜けていき、代わりに嫌な汗が噴き出す。

 

「まさか貴様も、C.C.のように────?!」

「────如何にも。 今のワシには剣も、銃も、ありとあらゆる手段でも命を散らせることは出来ない────」

 

 ────パパパパパパパパパパパパパパパパーン! カチ、カチ、カチ、カチ。

 

 俺は近くに皇帝が自分を撃った拳銃を拾い上げて、弾倉が空になるまで元の持ち主を撃ち続ける。

 

「ッ。」

 

 皇帝の体に全ての弾丸が着弾した。

 血も出ているが、一向に奴が倒れる様子はない。

 

 ドシャ。

 

 気が付くと脱力感に身を任せて、仰向けに俺は倒れていた。

 奴は確かにこう言った。

 “少し前ならば確かに()()()()()()()()”と。

 

 つまり、この男が……皇帝は死んでも蘇るということを示している。

 それ故に()()()()()()()()()

 

 皇帝を殺すことも。

 問いただすことも。

 詫びさせることも、もう────

 

「────なんと不甲斐ない。 貴様の覚悟とやらはそれほど薄っぺらい物であったか。」

 

 は?

 

「そんな腑抜けた貴様に、この世界の在り方を教えるわけにはいかぬなぁ。」

 

 こいつは……この男は────「────何を、言っている?」

 

「ほぉ? その目。 若き頃のワシを思い出す……よかろう、ではあの時と同じようにしようではないか────」

「────な、何を────?」

「────何、余と勝負しようではないか。 お前の得意なチェスとやらでな。」

 

 「は?」

 

「貴様が勝てば……そうだな、質問に答えよう。 何、()()()()()()()()。」

 

 俺が呆けているといつの間にか現れた椅子にドカッと皇帝は腰かけ、テーブルの上に置いてあったチェス盤に皇帝は白い駒を置いていく。

 

「なんだ? 勝負しないのか?」

 

 皇帝は……いや、この男は何を考えている?

 この期に及んで『チェス勝負』だと?

 意味が……意図が分からない。

 

 だが……

 

「良いだろう。 貴様とのチェス勝負など、受けてやる。」

 

 この男が何を企んでいるのかは知らないが、自ら俺の土俵に上がると言うのなら受けない理由は俺に無い。

 

 むしろ好都合だ。

 

「なら、貴様が勝ったときはどうする?」

 

「言った筈だぞ。 “勝てば質問に答える”と。」

 

 そう思いながら、俺は黒い駒を並べていきながら向かい側に居る皇帝に質問を投げるがサラリと受け流される。

 

 良いだろう。

 

 相手がシュナイゼルならばいざ知らず、長年政や表舞台から隠居していた皇帝ならばたかが知れている。

 

 速攻でカタを付けて、吠え顔をかかしてやる!

 

 カッ!

 

 無言で俺と皇帝がコツコツと駒を動かす音が辺りに響き、俺が(キング)を前に出すとようやく皇帝が口を開く。

 

「……ほぉ、王を動かすとは。」

 

「自らが動かなければ、配下は付いてこない────」

「────なるほど、道理ではある。」

 

 カッ!

 

「んな?!」

 

「なんだ? “王が動かなければ”と言ったのはお前だ、何をそんなに驚く?」

 

 怯えるな、俺!

 狼狽えている時間があれば、目の前の男の解析と打破を考えるんだ!

 

 

 


 

 

「新たな敵影をキャッチ! 方位098からです!」

 

「(この方角は……) 敵の識別を急いでください!」

 

『スルト』の注意が国境から外れたことでギアス嚮団に近づいていた後方部隊のリア・ファル内部でオペレーターのサラが声を上げるとレイラの額から冷や汗が流れる。

 

「少し待ってください、ウィルバー博士からの通信が……ブ、ブリタニアとユーロ・ブリタニアの混成部隊らしいです!」

 

「早?!」

 

 サラの言葉にオリビアが思わず口を開けてしまい、CIC内の緊張感が更に高まっていく。

 

「サラ、『アマルガム部隊は先行した輸送機と合流する』とゼロに進言してください。 撤退です。」

 

「て、撤退?」

 

「事前のブリーフィングとは違う行動をとった黒の騎士団(零番隊)、そして想定以上にギアス嚮団の制圧に時間を割いたためにタイムリミットを超えました。 このままでは疲弊した者たちとブリタニア軍が衝突し、必要のない消耗戦になります。」

 

「……わかりました。」

 

「ユーフェミアは整備班に輸送機と部隊のナイトメアが戻って来ることを伝えてください。」

 

「優先順位は『機体の整備』、でいいですか?」

 

「それで構いません。」

 

「捕虜などは?」

 

「……黒の騎士団の艦に向かわせてください、ゼロの事ですから人員が待機している筈です。 逆に機器やデータの入ったサーバーなどはこちらで預かります。 ピースマークの機体等は……そうですね、黒の騎士団に送るわけにもいかないので本人たちが希望するのならリア・ファルへの着艦も可能なことを伝えてください。」

 

「テヤンデイ!」

 

「シ! ピンクちゃん、今はダメですよ?」

 

「レイラ艦長、零番隊から返信! 『ゼロが消えた』と────!」

「────へ────?」

「────それと紅蓮からも来ています! シュバールさん(スバル)の姿が見当たらないとも!」

 

 「へ。」

 

「オーマイガッ! オーマイガッ!」

 

 その時、耳(?)部分をパタパタさせるピンクちゃんの言葉がCICにいた者たちの内心を代弁したそうな。

 

 

 慣れつつあるレイラがハッとしながら考えを進ませながら通信を開く。

 

「……ら、ラクシャータさん! リア・ファルの主砲は撃てますか?」

 

『ん~? いつでも撃てるわよ?』

 

「例の準慣性制御装置はどこまでの効果が見込めますか?」

 

『………………………………』

 

「ラクシャータさん?」

 

『いやぁ~、アンタ達ってどうも試作品をぶっつ本番ばかりの状況に陥って使うから退屈しないで面白いわねぇ~♪』

 

「「「(ラクシャータさんがはぐらかした?!)」」」

 

「サラ、地上部隊に追伸を。 『こちらからの合図で可能な限り爆薬でスルトの破壊』! 総員、室内を対G及びショック体勢に入らせてから安全帯を近くの手すりに連結! 前線部隊とギアス嚮団の捕虜が射線上から退避した後にスルトに似せた砲撃で敵部隊を威嚇します。 リア・ファルの主砲を撃つ用意を。」

 

『思いきりも良いわねぇ~♪』

 

『ラクシャータ君が“可能かどうか”だけで後先を考えないから────』

『────なんだいこの中途半端ロマン野郎!』

 

「……オリビア、切ってくれるかしら?」

 

「了解です。」

 

 ブツン。

 

「それと高度を地面スレスレに落とし、アンカーボルトで船体の固定を図ります。」

 

 レイラが上記を口にするとCICにいたサラたちがギョッと目を見開いて、思わず彼女を見る。

 

「……レ、レイラさん? アンカーボルトでの固定って、もしかしてスヴェン(スバル)が前にあの大きいサザーランド(サザーランド・ザ・ビッグ)に搭載する予定だった巨大なスラッシュハーケン案ですよね?」

 

 ユーフェミアが思い浮かべたのはかつて、行政特区から逃げた時スヴェンの特典反動からの虹色オロローン無茶な機動戦に付き合って気分をフジサワで悪くしていたところ、段層構造内にあったアマルガムの隠れ家で純血派カラーリングをされた巨大なサザーランドだった。*1

 

「ええ。 私も資料を読んだだけですがあの機体にも巨大な砲台が搭載される予定で、巨大スラッシュハーケン(アンカーボルト)は砲台の使用時に姿勢固定を補助するとのことでした。 終ぞサザーランド・ザ・ビッグが完成することは無かったらしいですが、前回の主砲使用時を教訓にリア・ファルにラクシャータさんたちが準慣性制御装置を急ぎ取り付けたのです。」

 

「ああ、だからヒッグスコントロールシステムを……でも試運転はまだでしたよね?」

 

「そのためのアンカーボルトなのですユーフェミアさん。」

 

「ああ、なるほど!」

 

「ナルホドナー。」

 

 最後にユーフェミアの真似をしたピンクちゃんの言葉にCIC内の緊張感は少しだけ薄れたそうな。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「……」

 

「どうした、ルルーシュ?」

 

 一方、宙に浮く神殿では固まりながらチェス盤を見ていたルルーシュにシャルルが声をかけていた。

 

「(バカな。 “政や世界から隠居していた”と思い、攻め手を強めにしただけだ。 決して慢心したわけでもないのに、この手応え……()()()()()()()()()()()()()()ではないか?! ここまでの腕を持ちながら、何故ブリタニア帝国の方策をほぼ宰相一人に任せっきりにしているのだ?! そうする理屈は何だ────?!)」

「────なぜ駒を動かさぬ、ルルーシュ────?」

「(────勝ちは出来ないが、負けもしないこの展開は……もしや中華連邦での再現を? 分からんが、もしそうだとしたら────)」

「────時間切れだ。」

 

「は?」

 

 シャルルは椅子から立ち上がりながらテーブルを掴んではチェス盤ごと神殿からそれ等を神殿の上から宙へと投げ捨てる。

 

「今のは何だ、シャルル?」

 

「なに、“余興”という他愛ない遊びよ。」

 

「ッ。 な、なぜお前がここに?」

 

 投げ捨てられたチェス盤などの方向とは反対側から来た少女の声にルルーシュは喉を詰まらせて、椅子から立ち上がる。

 

「C.C.がここにいることがそんなに驚くことか、ルルーシュ────?」

「────シャルル、()()を揺さぶる必要はもうないだろう?」

 

「確かに。」

 

「何を……お前たちは……」

 

『敵対関係』ではなく、あたかも『昔からの知り合い同士』と言いたげなシャルルとC.C.との会話にルルーシュが口を開ける。

 

「ここにお前が居たことは意外だが……まぁお前と私の仲だ。 よしみで教えてやるよ、契約した時に話した私の願いを。 私の願いは『終わり』を見つけることだ。」

 

「『終わり』? ……だがC.C.、お前は確か────」

「────ああ、不老不死だよ。 そしてギアス能力者はギアスを使えば使うほどに、能力のオンオフが出来なくなることは知っているな? 実はそれだけじゃない、そこまで達成したギアス能力者はいずれ力を授ける者の地位を継ぐことが出来る『器』となる。 つまり、私のこの呪いを……『コード』を移すことが出来る。」

 

「呪い……そうだな、兄さんを見ていれば確かに呪いではあったな。」

 

「“兄さん” ────?」

「────知らなかったかルルーシュ? V.V.は、シャルルの兄だ────」

「────は? (V.V.が、俺の伯父だと────?)」

「────シャルル、なぜ今になってV.V.からコードを?」

 

『V.V.がシャルルの兄』ということにびっくりするルルーシュをC.C.は無視し、自分の問いをシャルルに投げつける。

 

「その質問の答えを、お前は本当に欲しているのか?」

 

「ああ、すまない。 いつもの癖で聞いてしまったよシャルル────」

「────待てC.C.! ではお前は……終わりを……死ぬ方法の為に契約を結んできたと言うのか?!」

 

「そうだ。」

 

「死ぬためだけに、生きてきたと────?!」

「────遅いか早いかだけの違いで、すべての人には『終わり』がある。 『限りがあるから命』と太古から呼ばれている。」

 

「違う! 『生きているからこその命』の筈だ! それに太古からというのならば、人々にはこの世に生まれた理由が……()()()()()筈────!」

「────ルルーシュ。 お前のそれがただの幻想……気休めだとお前ほどの聡い坊やが分からない筈がない。 死なない積み重ねをすることは『人生』ではなく、『経験』と呼ぶんだよ。」

 

「それは……そんなのは────」

「────もういい。 ルルーシュ、お前と言葉遊びをしにここに来たわけじゃないんだ。 さようなら。」

 

「ま────!」

 

 慌てだすルルーシュの足元に穴の様な物が開き、彼は一瞬にして落ちては消える。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 場所はどこかの開けた浴場へと変わり、湯気越しでも数々の護衛官らしき女性たちが薙刀状の武器を持っていた。

 

「……?」

 

「姉さん?」

 

 それ等の中心には二十代の女性が15、6歳ほどの少年────会話からして女性の弟────に髪を洗われていた。

 

「どうかしたの? もしかして、預言?」

 

「いえ……何か胸騒ぎが……シャリオは、何か感じない?」

 

「お湯の温度?」

 

「そう、それは良かった……体の調子は?」

 

「大丈夫、目は見えているままだよ。」

 

「あの人の言葉は守って、()()()()()まではあまり無茶はしないでね?」

 

「僕はアイツの事は嫌いだ────」

「────シャリオ────」

「────でも姉さんが言うのなら、僕は従うよ。」

 

「いい? “王は民の為に、民は王の為に”……貴方が自由に動き回れるのなら、それだけで我が国の戦士たちの士気は上がり、経済も────」

「────姉さんも喜ぶしね。」

 

「もう!」

 

 このやりとりだけを見ると、仲のいい兄弟である。

 

 少々過剰な数の護衛が付いている上に、風呂場なだけに二十台と15,6歳の少年が裸だということを置いて誰も想像できないだろう。

 

 まさかこの二人が、軍事力()()ならばブリタニアに匹敵するほどの戦力を保有する小国の実権を握っている姉弟だということを。

 

「それよりも聞いた? 例の幽鬼、ブリタニアの宰相に一泡吹かせたって噂?」

 

「ええ。 実はこの間、あの人から聞いて実際に見たわ。」

 

「へぇ……僕、その幽鬼と会って(殺し合って)みたいなぁ。」

 

 そして後にこの二人が、世界を揺るがす事変の中心となることを誰が想像できるだろうか?

 

 しかしそれは来るであろう時期に委細を記入しようと思う。

*1
75話より



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第250話 観測者2

少々長めのアレな話です。


「……」

 

 ライ(仮)との激闘を終えてから緊張の糸が切れた反動で、体中を襲う酷い倦怠感に身を任せながら瞼を閉じた(スバル)は気が付けば体の感覚がない、まるで無重力の中を彷徨っている感じのまま意識が覚醒していく。

 

「……?」

 

 いや、違うな。

 

 どこかへ……『下』へと引きずられていく浮遊感を微かに感じる。

 

 ゆっくり……本当にゆっくりな速度だ。

 まるで深海に潜水(ダイブ)していく、観光用の潜水艦の感じだ。

 

 徐々にボンヤリとした光が星のように見えてくる。

 

 それはまるで、光で出来たシャボン玉。

 その近くに俺は徐々に近づいていく。

 

『────』

 

 シャボン玉の何から、音が聞こえてくる。

 

『────この愚図が────!』

 

 音じゃない。

 声だ。

 荒い男性の、大人の怒鳴る声だ。

 

 ガシャン!

 

 まるで光に吸い込まれていく感じに浮遊する速度が加速していき、シャボン玉に近づけば近づくほどに木製で出来た何かが割れる音等がうるさくなって俺は思わず目をしかめるどころか瞑ってしまう。

 

『死体の片づけの儲けがこれだけなはずが無いだろうが────!』

 ────バキっ────!

『────イタ────!』

『────大体お前の所為で母さんは────』

 ────ドカッ────!

『────ごめんなさい────!』

 

 次に目を開けると目の前には中世ヨーロッパを思わせる、ボロい家(小屋?)の中で小さな女の子を殴る大の男の景色がモノクローム状態で広がっていた。

 

 よく見たら女の子の体中には痣や打撲傷などが無数にあり、俺は思わず彼女の傍に駆けより────ん?

 

 ……動けない。

 “動けん! 全く、体が動かんぞぉ!”とかの冗談を言っている場合じゃないので割と本気だ。

 

 本当に()()()()

 ()()()()()()

 

「……」

 

 なんだこれ?

 まるで体全体が細胞レベルでガッチリと固定されているかのような感覚だ。

 

『────今日は外だ────!』

 ────ドサッ────!

『────う!』

 

 そう言いながら男は痛がる女の子を文字通りに『家』────もうボロ小屋でいいや────から投げ出す。

 

『チ……農具の置いているところを使え!』

『……はい。』

『お前を生んだ所為で母さんは死んだんだ! 屋根があるだけ感謝しろよ。』

 

『はい……ありがとうございます……』

 

 バァン!

 

 ボロ小屋の扉が力任せに閉められ、みすぼらしい服装のまま追い出された女の子はずるずると地面を移動して道具置きの屋根(と言うか簡易な屋根しかない)の下で丸くなる。

 

『さむい……』

 

 ガァン!

 

 女の子はぽつぽつと雪が降ってくる空を見上げながらボソリと独り言を出すと、何を思ったのかそのまま頭を地面に叩きつけた。

 

『い、たい……』

 

 いや、そりゃ痛いだろうよ。

 凄い音が出たからな。

 ……あと血も出ているし。

 

『でもさむいより、むねのなかが、いたいよりも、いい……』

 

 ……俺は一体、何を見せられている?

 子供が自虐の痛みで、虐待の悲しさや寒さを凌ぐなんて……

 

 悲し(理不尽)すぎる。

 

 何か……何かこの子の為にできることはないか?

 せめて、自虐を止めるとか。

 

 身体は動かない。

 声も出せない。

 

 それでも何か出来ることがある筈だ。

 

『う……ッ……ぁ……』

 

 空から降ってくる雪が少女の肌に────傷であれた肌に当たる度に、彼女は苦しむ声を出して顔を歪める。

 

 ……そうだ。

 ()()()()()()()()()、少しは少女の為に筈だ。

 

 身体が動けなくとも、特典で────って、この距離でも通じるか?

 

 こう、『少女の周りの空気を膜状のようなモノで常温に固定』することが出来れば……

 ん?

 気のせいか?

 

 雪が少女に当たる前に消えていくぞ?

 

 ()()()

 

 ……なに〇フィールドなの、これ?

 

 『……がと……います……』

 

 まぁいいか。

 どういたしまして。

 

 理由も原理も分からないが……これぐらいならばお安い御用だ。

 

 それから目の前の景色が早送りされるビデオのように動きが加速していき、少女の日常が見えてくる。

 

 昼は糞尿やドブさらいに死体の処理用の穴掘り等の、誰もがしたくない面倒ごとや雑用を村人から押し付けられる。

 

 夜は帰り道に状態のよさそうな食物をゴミの溜まり場からサルベージしたり、木から落ちた木の実等で腹を満たしながらボロ小屋へと帰っても野宿が殆ど。

 

 だが、さっきの応用で少しだけ汚臭や天気からの影響を押さえることが出来る。

 

 それでも少女は感謝の言葉を口にしても、表情が笑顔になることは無かった。

 

 

 

 とある時期を境目に景色がぐらりと回り、乗り物酔いと似た感覚にビックリしていると場が一気に変わる。

 

 ボロ小屋の前に小綺麗な馬車とそれ等を囲むかのように武装した大人たちが止まっているし、さっきの女の子から痣とかが見えないところから察するに、やはり少しの時間が過ぎたようだ。

 

 雪も降っていないところと、木々の葉っぱを見ると……春か、夏あたりだろうか?

 

『ではこれで。』

『……ああ。』

 

 馬車の御者と女の子を殴っていた男の二人が話す間によく見ていると、少女と似たような恰好や状態の子供たちが一緒に馬車の後ろに乗っている。

 

 御者の横で虐待男がなんだか不服そうな顔で手の中にあるコインの通貨を数えていた。

 

 これって、もしかして……

 

『ではいくぞお前たち。』

『旦那、ここからもう商会に戻るんですかい?』

『ああ、着くまで気を抜くな。 ハッ!』

 

 ガタ()()()ゴト。

 

 御者が手綱を操ると馬車がボロ小屋の前から動き出し、鎖の音が馬車の中からする。

 

『中世ヨーロッパ』、『辺鄙な田舎』、『虐待』、『小奇麗な馬車』に『金』と数々の点によって先ほど思い浮かべた仮説が確信に変わる。

 

 この御者、奴隷商人か────うわ?!

 

 またもぐるりと世界が一転し、今度はさっきの少女を含めた子供たちが教室っぽいところにいる場へと変わる。

 

 学校……にしては物々しすぎる見張りらしき者たちがドアや窓の外に立っていることから、ここは奴隷商会の教育施設だろう。

 

 だとしても幸運にもさっきまではどこからどう見ても細すぎた少女の体つきは良くもなっている。

 

 モノクロームだからよく見えないが、多分顔色もよくなっていると思う────

 

『────それでどの段階まで来ている?』

 

『はい、水汲みや家畜の世話などを行えるだけの体力や料理の下ごしらえ、裁縫や洗濯、簡単な文字の読み方などと一通りの教育は済んでいます。』

 

 うん?

 教室の外から声がして、注意をそちらに向けると明らかに裕福そうな大人が貴族っぽい者に報告をしていた。

 見るからに奴隷商人と常連(あるいはスポンサー)な感じだ。

 

『そうか、“選別”は出来るか?』

 

『せ、選別でございますか?』

 

『何かね?』

 

『いえ、いささか早いと感じたので────』

『────それとも例の“出来損ない”に情が移ったか────?』

『────まさか。 確かに他の商品と比べると様々な点では見劣りしますが従順さと頑張りはピカイチで、他の模範に────』

『────人材育成に長けている君がそう言うのなら問題は無いのだろうが、生憎ながら世界は私たちの様な者の評価が噛み合わくなってきている。 ここも引き払う────』

『────買収は済んだのでは────?』

『────近頃は平民共が“平等” や“自治”だ何だとうるさくなってきたからか“能力さえあれば文官の補佐などに採用する”などと言った愚行が広がってきている。』

 

 なんだ、これは。

 何を聞かされている?

 

『なるほど、それは確かに厄介ですな。 奴らは世界の仕組みを知らず後先考えずに自分らの正義を他人に押し付ける、血気盛ん過ぎる犬どもですからな。 では選別はすぐにでも行います。』

 

 奴隷商人が、子供たちの簡易的な肖像画と情報が書かれた紙を取り出しては次々と『用途』の欄に書き込んでいく。

 

『労働』。

『娯楽』。

『替え玉』。

()()』。

『その他』。

 

『単語が何を意味するのか』を想像したくないものばかり。

 

 そして少女の肖像画がとうとう出てくる。

 書かれていたのは『性別:女』、『種:白』、『健康:良』、『見目:良』、『体力:中』、『容量:下』、『勉学:下の中』、『メモ:実直で従順』など。

 

 サラサラサラ。

 

 そして商人が『用途』に書いたのは────

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

『ほら、この人が新しいご主人様だよ。 挨拶をしなさい。』

 

『はい────』

 

 何も知らない彼女の受け渡しを、指をくわえながら見届ける。

 そもそも体が動かないから『指をくわえた気』なんだが。

 

 ダメだ、ドレスに見とれたままついていくな。

 

 馬車に乗るな!

 

 クソ、ここでまたも早送りが……

 

 場所はどこかの室内へと変わり、装飾品などから高級な宿(あるいはどこかの屋敷の室内)で少々薄暗~い雰囲気は()()な場所を連想────

 

『ふむ、値段の割に見た目より小さいが些細なことだな────』

『────いや────!』

『────従順だと聞いていたのに何だその態度は────!』

 

 少女が初めて声を荒げ、拒否の言葉と共に自分へとよじってくる男相手に暴れる。

 

 少し前(小さい頃)より成長したと言っても、大人との体格差を埋めるには何もかもが足りなさすぎる。

 

 それに右足は鎖の足枷でベッドに繋がっているから、コマンドに『逃げる』は灰色で塗りつぶされて選択できない。

 

 故に『暴れる』しかない。

 

 なんで、この子ばかりが……いや、この時代だと割と普通なのかもしれないが価値観が────

 

『────目をつぶればいい────!』

『────やめて────!』

 

 こんな……こんなことって……

 

 ()()()()()

 

 ビリビリビリビリビリビリ!

 

『い────むぐー!』

 

 少し前まで少女が初めて嬉しがって着ていたドレスが破かれ、口が男によって────止めろ。

 

 止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

『むー! むー────!』

『────壊されたくなければ大人しくしろ────』

 

 こ、この! 最低ド変態のクソキモ豚野郎が!

 

 ブチッ

 

 ()()ね。

 

『な────ガッ?!

 

 嫌がる少女の上に覆い被さばろうとした男は動きを止めて、意味不明な息を吐きだし初めながら頭と首の筋肉を強場らせると血管が浮き出てくる。

 

が……ア゛?! か、かかかカカかかががガガ?!

 

 男は自分の胸の上に手を置いては更に苦しみだす鳴き声を上げるが……知ったことか。

 

 汚物に『生』なぞ贅沢過ぎる。

 

 ドサ! ドスッ。

 

『あう! イタ……』

 

 次第に男は白目を剥いたまま苦しみに悶えているとうつ伏せに倒れていき、これを見た少女はさっさとベッド上から床へと転び落ちる。

 

 身動ぎ一つしなくなった男を少女が見て、ボソリと独り言を出す。

 

『……死んだ?』

 

 死んだぞ。

 奴の心の像はもう脈を打っていない。

 少女は辺りをキョロキョロしていると、何度か自分と目が合う。

 

 いや、合ったような気がしというべきか────

 

『────あり……が、とう────?』

 

 ────え゛。

 

 ちょ、ちょっと待て。

 疑問形だったけれど、この子はもしかして────

 

 ────ドンドンドン!

 

『お客様! どうなされましたか?!』

 

『あ?!』

 

 部屋のドアがノックされ、外から別の男の声がしてくる。

 “お客様”と言ったからにはやはりここは()()()()()()()で、外にいる奴は支配人か何かだろう。

 マズい。

 このままだと彼女がこの豚を殺したようにしか見えない。

 真偽の調査なんてマトモなことはしないだろうし、悪い結末しかない。

 時間が無い、鎖を引っ張れ。

 

『ふん!』

 

 ガチャ!

 

 少女は自分の足をベッドに繋げている足枷に付いた鎖を引っ張りだす。

 

 何か、何か出来ないことは無いか?

 

 よく見れば足かせと鎖は使いまわされているのか、錆び付いていた。

 

 “だから何だ”と言えばそれまでなのだが、鎖が繋がれた先はベッドだ。

 ()()()

 

『ふん!』

 

 ミシミシミシミシ!

 

 頑張れ!

 

 バキン!

 

 よし! ベッドが壊れた!

 

 そのまま窓から逃げて走れ!

 

『うん!』

 

 よし、いい子だ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 少女は窓から出て振り返らずにただ走って、走って、走りまくった。

 

 星が散らばっていた夜空も太陽によって照らされては再び夜が訪れ、また日光が辺りに光を散らしていた。

 既に小さな道沿いにある村をいくつか通ったが、相手が貴族かある程度の富豪の相手をする娼館ならば立ち寄らない方が良い。

 

 殺しの容疑が掛けられているだけならまだマシだが『子供』を扱っている時点でツーアウトノー打者状態の重罪なのは明白。

 裏の組織やコネの繋がりがあってもおかしくはなく『幼女の暗殺者』なんてのデマをでっちあげても何ら驚かない。

 捕まったら問答無用で引き渡されるか、殺されるか、あるいは()()()()()()()()()になるのがオチだ。

 

『う……』

 

 だが限界が来たのか少女の足取りは徐々におぼつかないモノへとなっていき、最後は糸の切れた人形のように倒れてしまう。

 

 無理もないか、何も飲まず食わずの上に睡眠も二日ほど取らなかったのだ。

 寧ろ子供なのによくここまで頑張った。

 少しの間、眠って────ん?

 

 道を誰かが歩いてくるような……おい、起きろ!

 

『……』

 

 起きろ、誰かが来るぞ!

 

『……』

 

 あ。

 よく見ると教会のシスターか。

 

 現代ならともかく、この時代のシスターならば……

 いやどの時代でも『汚い聖職者』はいたわ、ガッデム。

 

『……あら? もし、大丈夫?』

 

 あ、なんだか優しそうな女性でよかっ────待て。

 

 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!

 

 ずっとモノクロームだったから気付くのが遅くなったが、シスターの額には()()()()が……つまりこの景色を()()()()()

 

『う……だ、れ?』

 

『私? 私はしがない、辺鄙な村のシスターよ。 ひどい顔色ね……』

 

 ぐ~きゅるるるる。

 

『お腹が空いたの? 教会へいらっしゃい。』

 

 ま、待て! やめろ!

 そのシスターについていくんじゃあない!

 行くな!

 

『……?』

 

 声が届いていない?

 なんでだ。

 ならそのシスターが()()()()だということを証明してやる!

 

 ……なんだこの手応えの無さは?

 

『キョロキョロしてどうしたの?』

 

『……ううん……なんでも、ない……』

 

 だから行くな!

 その女に騙されるな!

 

 シスターと出会った時から叫び続けたが、虚しくも少女に────幼い頃のC.C. の耳にそれ等が届いた様子は無かった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 またも『動画の早送り』状態が再開しては所々で景色が通常のスピードで流れた。

 

『貴方には、生きる意味がおありかしら?』

 

 体を洗われ、空腹を温かいスープで満たし、次の朝まで寝て次の日の朝にシスターがそう幼いC.C.に問う。

 

『わからない……でも、しにたくはない……』

『では私が生きる理由を、“契約”として貴方に授けましょうか?』

『けーやく?』

『はい、私からは貴方に生きる力を。 その代わりにいつの日か、貴方には私の願いを叶えて頂けます。 お名前は何と言います?』

『……なまえ、ない。 いつも“おい”、“おまえ”、“きみ”だから……』

『なら……“セラ”なんてどうかしら?』

『せら……わたし、せら……』

 

 これはアレだ。

 奴隷だったC.C.が、とある教会のシスターに拾われてギアスの契約をする場面か。

 名前までシスターに付けられたとは知らなかったが……

 

『ほぉ……綺麗なお嬢ちゃんだね。』

『ああ、まるで天子様だ!』

『それならば宴をしよう! 俺たちだけだと彼女に失礼だ!』

『近くのサーカス団も呼び寄せよう!』

 

 教会の近くにある村の者たちが次々と狼狽えるC.C.を祭り上げる。

 

 C.C.が発現したギアスは、『周りから愛されること』。

 性質はマ()に似ているが、こうやって初めて『愛』に触れて喜んでいる姿を見るとまだ能力のオンオフが出来ているっぽい。

 

 彼女の……セラ(C.C.)の世話を村人たちが全員したがり、交代制に彼女への貢ぎ物が増えていく。

 それが『奉仕』であれ、『物』であれ、『高級品』であれ、『ドレス』であれ、何らかの貢ぎ物を。

 

 みすぼらしい服装はドンドンと良い物にアップグレードしていき、体も時の流れと栄養満点にしっかりとした衣食住によってメキメキと健やかに成長していく。

 いつも仏頂面だったセラ(C.C.)の顔にはもはや笑顔が絶えずに浮かべられ、毎日が自分を中心に開かれるどんちゃん騒ぎを本当に楽しんでいる様子だった。

 

 村は町に発展し、町は都市に変わる。

 

 彼女がドンドンと人を呼び寄せる規模が拡大し、今では貴族や貴族夫人等なども思春期頃に成長したセラ(C.C.)をチヤホヤし始めた。

 

 シスターと会ってからからずっと何度もアクションを起こそうとしているが、うんともすんともしない。

 完全に見ているだけの状態でそれだけに、()()()が更に哀しく感じる。

 

 貴族たちからチヤホヤされて数年後、どれだけ断っても招待状がひっきりなしにとある領主に貰った豪邸に届けられる頃から、セラ(C.C.)の顔が時々曇り始めた。

 

 ギアスのオンオフが出来なくなり、止めようにも止められない能力に振り回されて戸惑い始める。

 それでも唯一ギアスの効かないシスターに愚痴などを言えば、胸奥の靄は解消される。

 だがセラ(C.C.)が教会に毎日通うところを見た者たちは『彼女はきっと宗教信仰者なのだろう』という勘違いから、ギアスの影響で彼女を称える集会を作った。

 

 そんな状況下でどうすればいいのか分からないセラ(C.C.)は更にシスターに依存する。

 

 悪循環の出来上がりだ。

 

 そして────

 

『────ちゃんと言われた通りにして来ましたか?』

『はいはいはい、言われた通りに貰い物は全部手放して人払いも済ませましたー。 それでシスターの頼みって、何?』

 

 教会の中はステンドガラスを通して入ってくる日の出の光に照らされたシスターと、シスターに言われるがまま生まれた姿になったセラ(C.C.)だけがいた。

 

『ちゃんと全て、ですよね?』

『ちゃ~んと全部で~す。』

『確認は済ませましたか? 数が多いだけに────』

『────私の意思関係なく、ギアスの所為でどんどんと来るんだから仕方ないじゃない!』

『そうですか。』

『シスターには感謝はしているけれど、正直私もうんざりしているの。 本当よ? あーあ……毎日の贈り物に、私の意思に関係なく“嚮主様”呼びする変な集会も出来ちゃうし、プロポーズも領主とかから来るし……はぁ~……』

『全部、終わりにしたい?』

『うん!』

『そう────』

 

 ────ガシッ!

 

『っあ?!』

『ようやく! ようやく終わりに出来るわ!』

 

 シスターがセラ(C.C.)の喉を両手で掴み、セラ(C.C.)が目を白黒させている間に首を絞めていく。

 

『かはっ────?!』

『────私の永遠を終わらせるには、貴方の様なギアスを持つ誰かが必要だったのよ!』

 

 シスターにマウントを取られたセラ(C.C.)はバタバタと足をバタつかせ、シスターの手を振りほどこうとしながら涙目で訴えた。

 

『何故?』、と。

 

『“なんで”? 簡単よ! “私”が終わるために必要な道具だったからよ! 私にとってうんざりなガキだったけれど、これでようやく私も姉上たちの場所に行ける! アハハハハハハハ!』

 

 徐々に暴れていたセラ(C.C.)の動きが鈍くなっていき、彼女は近くのロウソク立てを必死に掴んではそれを振るう。

 

 ザシュ!

 

ガッ?!

 

 生々しい音がシスターの喉を貫いたロウソク立てから発される。

 

『ケホ!』

 

ガボッ?! ゴボボッ……

 

 返り血まみれになったセラ(C.C.)の咳込みをしている間、背景で自分の喉を押さえるシスターのブクブクと泡立てをするような音が出る。

 

 シスターは倒れ、ぐったりしながらもセラ(C.C.)を見てはニチャッとした笑みを浮かべると次第に目の焦点が合わなくなっていき、喉の音も消えていく。

 

『……シスター?』

 

 バァン!

 

 息を整えたセラ(C.C.)が亡くなったシスターに恐る恐る近寄ると、教会の扉が力任せに開かれる。

 

『皆────?』

『────いたぞ!』

『────こ、これは?!』

『────なんだその血は?!』

『────やっぱりお前は人間を食い物にする魔女だったんだな!』

 

『な、何を────きゃああああああ?!』

 

 かつての村人たちの豹変ぶりにセラ(C.C.)は戸惑い、何かを言える前に怒った形相の者たちによって外へと引きずり出されては醜い感情をそのままぶつける人達の餌食となる。

 

『お前の所為で俺は破綻だ────!』

『妙な術の所為で、自信を失くした妻は頭を病んだ────!』

『ドレスは良いから、彼を返してよこの泥棒! 貴方の所為で彼は狂ったのよ────!』

『全部お前の所為だ────!』

『────ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!』

 

 罵倒の中で殴られても蹴られてもセラ(C.C.)は身を丸くさせながらただ謝っていた。

 

 にもかかわらず────

 

『────古来より魔女の浄化と言えば炎だ────!』

『────火炙りだ────!』

『────お願い、やめてよ皆────!』

『────松明を添えるぞ────!』

『────いやああああああああ────!』

 

 ────彼女は『魔女』と一方的に定義され、彼女の懇願は完全に無視されて火がどんどんと広がっていく。

 

 白い球の肌は焦げ、肉の脂肪が火の燃え上がりを加速させた。

 やがて顔中が火によって覆われるとセラ(C.C.)は酸欠から悲鳴を上げられずに窒息死するまでの間、体が炎の中で痙攣し続けた。

 

 これを見届けた人たちは歓喜を上げ、これを期に『魔女狩り』を始める。

 

 その次の日も、別の女性が近くで火炙りにあった。

 

 その次の日も。 そしてそのまた次の火も。

 

『……ゲホ!

 

 やがて『魔女狩り』が終わって火が消えていくとシスターからコードを無理やり受け渡されたセラは────C.C.は死んでおらず、体が再生していった。

 

 火によって自分を拘束していたボロボロのロープは容易く音を上げて切れて、セラ(C.C.)は燻る灰の上から逃げる。

 

 自分の体から傷が癒えていく様に不安を感じ、彼女は震える自分自身の身体を抱きながら空を見上げた。

 

『どうして……どうして?!』

 

 守れなかった……

 

『なんで?!』

 

 すまない。

 

『どうしてみんなひどいことするの?!』

 

 ()()()()()()

 

『大っ嫌い────!』

『────み、みろ!』

『嚮主様だ! 嚮主様が蘇られた!』

『やはり嚮主様は不老不死の術を?!』

 

『魔女狩り』が終わって近くまで来ていたローブの者たちがC.C.を見て『嚮主様』と呼びながら、歓喜の声を上げる。

 

『魔女だ! 魔女が復活しやがった!』

『皆の衆、嚮主様を守るんだ!』

 

『待って、止めて!』

 

 C.C.を『魔女』と『嚮主』呼びする者たちが彼女の意思を無視し、彼女の身柄を巡る戦を始めた。

 

 当の本人であるC.C.はただ泣きながら、その場から逃げる。

 

 逃げては保護を求め、良心的な者の世話になったりする場合もあればその逆もあった。

 

 だがどちらにしても、数年後には老いた様子や傷跡が一つも残らない彼女の容姿に嫉妬や疑惑が周りから来るとC.C.はその場所を離れることを強要される。

 

 数年住んでは引っ越しが続き、その中で彼女は必死に一人で自分の世話が出来る術を覚えてからひっそりと人知れない田舎でポツンと住み始める。

 

 あれだけ笑っていた彼女の面影はどこにもなく、時折に静かな涙を流していた彼女も今ではただせっせと事務的に『生命活動を続ける』を日課にしている。

 

 そんな痛々しい姿にどれだけ声を届けようとしても彼女が反応することは無い。

 

 

 もう、観たくない。

 

 

 それを最後に、意識が遠のく。

 シャボン玉の様な光の玉から意識が出ると再び暗い場所へと戻る。

 

『────』

 

 声が……

 

 暗闇の中で、呼ぶ声が……

 

『……』

 

 もう、答えられない。

 

 逆に光から遠のく速度が上がって体が────

 

 意識が浮上する様な感覚が────




???:いつから『160話にあったアンケートの投票がまだ可能だった』ことを『作者のミス』だと錯覚した?
作者:長い。 (;´д`)ゞ


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第251話 もう一人の観測者1

独自解釈&設定&要素が続きます。


「……ここは?」

 

 ルルーシュは気が付くと、濃い霧がかかったような芝生の上に立っていた。

 自分含めてモノクロームな景色だという異質な状態だったが。

 

「(遺跡の外か? いや、それならばギアス嚮団に出ている筈だが……しかし神根島での件も配慮するとどこかに飛ばされたという可能性も捨てきれない。 それに霞がかかっているのに湿気や温度差をさほど感じられない所を見ると、ホログラムの類か。)」

 

 ザザァン……

 

「ん? 神楽耶にスザク?」

 

『わかっておろう、蓮夜────』

 

「────……いや、別人か────」

 

『────そうだよな。』

 

 霧が少し晴れていくとルルーシュは近くから来た声に振り返ると神楽耶に似た少女が居たことに平然としていたが、左腕を包帯で巻く以外では全身鎧姿の『蓮夜』と呼ばれたスザク似の少年にはさすがに驚きを声に出した。

 

「(スザクと似ているがどこか荒々しい空気に一昔前のブリタニアの鎧姿……ここは過去の映像か何かか?)」

 

『元々俺を追っかけてきた理由は仇討ちだっけ?』

『うむ。 わらわとしては何らかの手柄を持って帰らねば、皇の一族は示しがつかぬ。』

『いや、それで俺の首を塩漬けにする準備はどうなんだ?』

『手柄と言えば生首に決まっておろう!』

『いや分かるけれど二葉がそうする理由は分かんねぇよ!』

 

「(『レンヤ(蓮夜)』と、『皇双葉』か……想像はしにくいが、神楽耶の遠縁だろうか? )」

 

『分かるけど分からんとは、蓮夜にしては複雑なことを……』

『だから二葉が帰る国────日本に俺たちは捨てられたんだ、だからブリタニアで俺たちの居場所を作る。』

『だから首にはなれぬと?』

『アホ、お前もこっちに残ればいいんだよ。』

『へ。』

 

 ここで連夜の後ろにある霧の中から普段から公の場でコーネリアが普段着ている皇族ファッションに似た正装姿の少女が出てくる。

 

『そうですよ、私たちと一緒に二葉さんもこの国を作っていきませんか?』

『蓮夜、お主はもしかして────』

『────おう、一緒にブリタニアを作るつもりだ。 な、クレア?』

『ええ。』

 

「(“クレア”に、“ブリタニアを作る”……もしやこの少女、神聖ブリタニア帝国を再建させたクレア・リ・ブリタニア女帝か? この“レンヤ(蓮夜)”……自然とクレア女帝の手を握れるほどに仲睦まじい様子から察するに、二人は────しかし、“レンヤ(蓮夜)”いう名には聞き覚えが無い……)」

 

『なるほど……必死な理由付けだな、蓮夜。』

『いや、俺は真面目に────』

『────ならばこちらも真面目な返事をしてやろう。 わらわは一先ず日本に帰る。 色々とやることがあるしな。 戻ってきたら必ず仇を討つ(リベンジする)から死ぬな、わらわが許さぬ。』

『いや、言っていることが無茶苦茶だぞ二葉。』

『それじゃあ、私も行くぞ。』

 

「この声は、まさか?!」

 

 今度は聞き覚えのある声にルルーシュは思わず声を上げてしまう。

 

『やはり、C.C.さんも行ってしまうのですか?』

『ああ、元々私は漂流者。 今回は一つの場所に長く居すぎた。』

『なんだ、お前も行っちまうのか?』

『そうだよ蓮夜……もしかして寂しいか? お前にはクレアがいるだろう────』

『────どういう意味だよそりゃ────』

『────()()()()()()だよ、若造。』

『クレアはこいつが何を言っているか分かるか?』

ウフフフフ、今までお世話になりました(分からせますので心配しないで)C.C.さん♪

『……クレア、なんで怒っているんだ?』

『怒っていないわよ、連夜(鈍感)?♪』

 『おやどう見ても俺の苦手な座学を無理やり受けさせる時の顔じゃねぇか……』

 

 この時、クレアの仕草にルルーシュは静かに怒るユーフェミアを連想したのは余談である。

 

『蓮夜は、私を恨まないのか?』

『あ? 突然他人の心配か?』

『私の所為で、お前は()()()()()()()となった。 十分に私を恨む理由を、お前は────』

『────じゃあ逆に聞くがよ、なんでC.C.は俺たちに今まで付いて来た?』

『……さぁな。 強いて言うならば、“契約に失敗した者へのアフターサービス”とでも受け取ってくれ。』

『ずっと思っていたけれどお前、本当に素直じゃないな。』

『何だと? どういう意味だ蓮夜。』

『なぁ、C.C.? あんたもさ、居場所が欲しかったんだろ? 鳥も、魚も、人も世界が必要としているんだ。 誰が何のために必要としたのかはわからない。 けれど必要なんだと俺は思う。 もう既にいるんだからさ、仕方ないじゃないか。』

『お前は……優しすぎるよ。 それを私は受け入れられるほど、器量が出来ていない。』

 

「……」

 

 蓮夜が言った言葉とこの時C.C.がそっぽを向きながら見せる悲哀と諦観の混じった表情に現在のC.C.を知っているだけに、ルルーシュは珍しく考えを走らさずにただ話をジッと聞いていた。

 

『長生きしているクセにか?』

『長生きしているからだよ、若造。』

『そっか……困ったらいつでも来いよ、今のブリタニアはいろんな奴らの力を必要としているからな。』

『気が向いたら、な。 ああ、そう言えば聞いたぞ? 生き残ったナイトメアたち────』

『────今は“ギアスユーザー”な。 ボケたかC.C.────?』

『────ギアスユーザーと私は言ったぞ? 相変わらず馬鹿な蓮夜だな────』

『────おい────!』

『────そのギアスユーザーたちの為に、お前たちは新たな暗部を立ち上げたのだろう?』

『おう、また皇族が一網打尽にならないようにな陰からさせる奴をな。 えええっと……名前は“プルトン”だったか、クレア?』

『“冥界を司る神”から取って“プルートーン”よ、蓮夜?』

『ああ、それな。』

『世話になったなお前たち。』

『お前は本当にブレないな?!』

『私はC.C.だからな。』

『……いつでも来いよ、C.C.。』

『考えておくよ……なんだ二葉、その目は?』

『なんでもない! さっさと行くぞ!』

『……ああ、そう言うことか。 安心しろ、私はクレアやお前と違ってこの若造に────』

『────何を安心しろと────?!』

『────連夜とは違う方向性で面白いな、お前は。』

 

 ニヤニヤするC.C.とは正反対にイライラする二葉たちが木製の船に乗り込むとルルーシュの回りがまばゆい光に包まれていく。

 

 ルルーシュが気が付くと景色はさっきの場所からどこか別にある、夜の浜辺へと移っていた。

 

 小舟の近くには綺麗な作りをした小屋とC.C.、そして彼女と小屋を見て呆れる様子の蓮夜が立っていた。

 

『で、あれだけしんみりした別れ方をしたのに……なんだ? 半年後はブリタニアに密入国して、矢文を俺の頭めがけて射ったってワケかお前は────?』

『────久しぶりだな若造────』

────無視するなよお前。 あの後どれだけ城内が騒がしくなったと思っている? アンジさんは俺を“若”と呼んで警備体制を見直すし、暗殺未遂で警備隊はアルトの野郎の所為でビクビクして巡回に力を入れすぎて夜な夜な必殺技の叫びとかがうるさいし────』

『────蓮夜は大変だな。』

『だ・れ・の所為だと思っていやがる、このドアホ!

 

「C.C.も全く変わらんな。」

 

『“どあほ”? 何だそれは?』

『“度が過ぎる阿呆”っていう意味だよ!』

『日本語は奥が深いな。』

『ったく、これでクレアも取り乱していたらプルートーンとニールスのマーリン騎士団たちが大騒ぎを起こしていたぞ……』

『ロレンツォのヤツに丸投げすればいいではないか。 そのため彼を傍に置いているのだろう』

『クレアの事もあって既に過労で倒れそうなあいつにとどめを刺せと?』

『ああ、そう言えばクレアは身籠っていたんだな。 おめでとう、蓮夜。』

『お、おう……サンキュ……』

 

「む?」

 

 いじる様なC.C.の言葉に照れ臭くそっぽを向きながら頬を掻く蓮夜の様子にルルーシュは一つの仮説を思い浮かべる。

 

「(やはりクレア女帝の相手が、この“レンヤ”という日本人なのか? しかし、そう考えれば何故“仲睦まじい愛のある皇帝夫婦の例”とまで名高いクレア女帝の夫の名前が一度も歴史書などに出てこないのかに納得がいく。 ブリタニア人至上主義を称える貴族共にとっては邪魔で忌々しいな部分でしかないだろうからな。)」

 

『で? 用件はなんだよ、C.C.?』

『実は用があるのは私ではなく、こいつだ────』

 『────また会ったのぉ、蓮夜!』

 

 小屋の上に人影────忍び装束姿の二葉が胸を張りながらどや顔で蓮夜を見下ろしていた。

 

 『ってお前(二葉)かよ?!』

『そうだ、わらわじゃ!』

『じゃあ、そういう事だから後は若い者たち同士で。』

『“若い者同士”ってお前……いったい何のために来たんだ?』

うるさいこいつ(二葉)の案内のついでとして、クレアたちに挨拶をしに来た。』

『“うるさい”とは誰の事じゃ?!』

『……その次いでと本命の建前、逆じゃねぇか?』

『蓮夜も無視するでない!』

 

 C.C.は連夜の言葉に答えることなくただ手をひらひらと振っては────

 

 『────蓮夜、強く生きろよ────?』

『────は?』

 

 ────その場から消える前に蓮夜の肩に手を置いては小声で彼女(C.C.)らしくない、気遣いの言葉に蓮夜は耳を疑った。

 

『ん? どうした蓮夜?』

『あー……取り敢えず、“一族の復興と日本統一おめでとう”ってところか?』

『う、うむ? 感謝、なのじゃ?』

『んじゃ、そう言うことで────』

『────ってちょっと待てぇぇぇぇぇい! 逃げるな蓮夜!

うるせぇ! こちとらまだまだいろんなことに手をつけないといけなくてクッソ忙しいのに()()()()()()()()()()までやってられるか!』

『め、面倒くさい?!』

『せめてちゃんと日本の使者として書状を先に送れよ、このじゃじゃ馬が! それでも武家の当主か?!』

な、何をぉぉぉぉぉぉぉ────おっとコホン……このままだと平行線だな。 この皇二葉、こうして蓮夜殿が密会の要望に応じたことを光栄に────』

『────急に上品なお嬢様口調になるんじゃねぇよ。 気持ち悪くて鳥肌が立つ。』

『失礼な! お主がギャーギャー騒ぐから相応の態度になっただけだ!』

『まっっっっっっっっっったく似合わねぇ……』

 『ぐぬぬぬぬぬぬ……減らず口を……』

 

「(この連夜、見た目だけでなく性格も口の悪さも俺とナナリーが初めて会った時のスザクと瓜二つだな……いや打ち明ける前の段階で言えば、スザクの方が自己中心的だったか。)」

 

 ルルーシュが思い浮かべるのは皇歴の2009年、ナナリーと共に日本の枢木首相の元へと身一つと二人分の所持品が入れられたスーツケース一つで送られ、紹介された住処が枢木神社。

 

 ―――の敷地内にある、薄汚れた土蔵。

 

 その時点で何の説明を父親から受けていない幼いスザクと土蔵の中で出くわし、彼の“秘密基地(俺の場所)まで植民地化する図々しいブリキ野郎”という文句に対し、ルルーシュは“日本も経済や貿()()()調()()などで他国を裏から実質的に支配を行っている”と正論に基づいたアンチテーゼを言い返し続けた結果、“土蔵に関してナナリーに嘘ついた”とスザクに言われてルルーシュは感情の赴くまま彼に殴りかかった。

 

 結果は1ラウンド未満の完全KO(一方的なタコ殴り)

 

 そして兄が暴力を受けていることに耐えかねたナナリーが“兄の代わりに暴力を受けるからやめて”と懇願したところでスザクは彼女の状態に気が失せたのか、あるいは罪悪感からかその場から逃げた。

 

「(第一印象と接触は最悪だったな……しかしあの時点からナナリーに気をかけていたから俺たちは仲が良くなった。)」

 

 ちなみにルルーシュは詳細を知らないがスザクと仲良くなったきっかけはとある日の昼ごはんを提供された食材だけでなく、より良いご馳走とさせる為に山菜を探しに山へと出かけたルルーシュの帰りがいつも以上に遅くなっていたことだった。

 帰りが遅い事に心配したナナリーは目も足も不自由という障害を持ちながらそのまま車椅子で兄を探しに山へと出かけ、落とし穴スザクの二代目秘密基地へと通じるトンネルに引っ掛かり秘密基地内にいたスザクとばったり会い、ルルーシュがいないことでゆっくりと初めて話してお互いの境遇を知り打ち解けた。

 その間、土蔵に帰ってくるもナナリーがいないこと、車いすのタイヤ跡が山へと続いていたこと、そして雨が降り始めたことでルルーシュは焦りながら傘を手に取って山へ駆け出すと、雨の中だというのに落とし穴に落ちて壊れた車椅子の代わりにナナリーを背負ったスザクを見つけたことから次第にルルーシュとスザクの間にあったわだかまりは消えていったのだった。

 

「(そう思えば今まで、ライバルや家臣などだけが周りにいた(ルルーシュ)にとってスザクは本当の意味での『親友』だったな……それを考えればこの連夜も、口ほど根はさほど悪いヤツではないのだろうな。)」

 

『……ま、まぁ良かろう……それにしても蓮夜、お主はやはり腑抜けたな?』

『お前なぁ────』

『────前回の別れ際に、わらわが言ったことを忘れておるな?』

『ッ! そう言うことかよ!』

 

 蓮夜はすぐに腕に巻かれた包帯を取ると包帯の下からは“人間の腕”や“義手”とも呼ぶには禍々しすぎる、まるで生きている様に脈を打つ異形の腕が姿を現す。

 

『────ウッ?!』

 

 だが蓮夜が何かを成す前に、彼の動きが急に止まる。

 

『お、おま……何を?!』

 

 蓮夜が見た風上の先には小屋の隣に小さな壺らしき物。

 そしてその壺の中から煙が僅かにだけ出ていた。

 

『まさか、痺れ薬か?! 卑怯だぞ、二葉!』

『お前がかつて日本で居場所を失くし、流浪の旅で言ったようにこの世は結果じゃ────!』

『────アホか! あれは、クレアが危なかったから他の奴らを鼓舞────!』

『────わらわとの雑談に乗った時点で貴様の敗北じゃ────!』

『────聞けよ────!』

『────ナイトメアモドキのお前でも、流石にこれは防げまい! さてと────』

『────え? え? え?!』

 

 二葉が小屋の上から飛び降りると壺に蓋をし、彼女はそのまま足に力が入らなくなった連夜を小屋へと引きずっていく。

 

『のわぁぁぁぁぁ?! 待て待て待て待て待て俺をどうする気だテメェ?!』

『ふ、ふふん! 心配することは何も無いぞ蓮夜!』

『心配しか無ぇよ?!』

『壁のシミを数えていれば終わるぞ?』

『ちょっと待────なんでだよ?!』

『これからの時代、桜の爆ぜ石だけでなく政治的にもブリタニアと日本の繋がりはこれから必然となる!』

 

 身体の動かない蓮夜と二葉はそのまま小屋の中へと消える。

 

 『どわぁぁぁぁぁぁ────?!』

 『────安心して観念せいやぁぁぁぁぁ────!』

 『────やぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ!!!

『良いではないか~、良いではないか~♪』

 

「・ ・ ・」

 

 C.C.と負けず劣らずなジト目になりながら呆れていたルルーシュは無言で顔を覆う。

 

「(夜のドラマのような展開だ……)」

 

 ザ、ザザ……ザザァァァァ!

 

『キャハハハハ────!』

 

「(────子供の声────?)」

 

 まるで砂嵐の中にいるように景色が一時的に不確かなものになり、ノイズが走る音が終わると聞こえてくる少女の声にルルーシュが再び周りを見ると今度は未だに霧の中にいるような靄がかかった景色からルルーシュにとって最も意外な人物が出てくる。

 

「────んな?!」

 

 気楽な笑いをあげながら()()()()()、幼いナナリーが居た。

 

「ナ、ナナリー────!」

 

『────待てよナナリー! そんなに走ったら転ぶぞ────!』

「────ッ?!」

 

 ルルーシュが抱き上げるかのようにしゃがむと同時に幼いナナリーが自分の体を過ぎ通って行き、後を追うかの様に幼い自分が見えたことでルルーシュは驚いたがおかげで一つの仮説を立てた。

 

「(これは……)」

 

『だったらお兄様が捕まえて~♪』

 

「(もしや、()()()()()()()()?)」

 

 そうルルーシュが思うと霧が少しだけ腫れていって見通しが良くなるが、周りは未だに色が抜けたモノトーン(白黒)の景色のままだった。

 

「(良く走り回っては俺を困らせる元気なナナリーか、懐かしいな。 それにこの庭園……アリエスの離宮か? いや、それよりもなんだここは……) ッ?!」

 

 彼は見覚えのある風景に内心和むながら歩きだすと、懐かしい姿を見ては息を呑んでしまう。

 

「(か、母さん……)」

 

 ルルーシュが見たのははしゃぐナナリーとルルーシュへ温かい、ニッコリとした笑いを向けるマリアンヌだった。

 そんなマリアンヌの隣に立っていたのは燕尾服を着た、見慣れない子供だった。

 

「だが隣にいるのは……誰だ?」

 

『どう? ここでの暮らしには馴染めたかしら?』

『……』

 

 しかし騒がしいルルーシュとナナリーがいる所為か、あるいはその子供の表情がのっぺりとしているから、マリアンヌの言葉に生気が籠っていない目と無言で見返していた。

 

『……やっぱり貴方には、他人と接するのは早すぎたかしら……』

 

 ザザザザザ!

 

 マリアンヌがその場を子供と共に振り返るとまるで砂嵐の中にいるように景色が一時的に不確かなものになり、ノイズが走る音が終わると同時にマリアンヌと燕尾服の子供に気が付いたナナリーはマジマジと子供を見ている景色に変わる。

 

『ねぇおかあさま! そのこ、だ~れ?』

『この子は……そうね、新しく従者見習いとして入って来た子よナナリー。』

『ふぅ~ん……へんなかおー! まるでおにんぎょうさんみたいー!』

『……』

『あなた、おなまえは?』

『……』

『わたしはナナリーよ! あなたのおなまえは~?』

『…………の、なま、エ?』

 『……喋った?』

『へんなしゃべりかたー!』

 

 天真爛漫でグイグイと押しの強いナナリーに、たどたどしく口を開けた子供の様子にマリアンヌが目を見開かせる。

 

『ねぇおかあさま! この子はどうしたの~?』

『この子はちょっと事情があって、少しの間ここにいさせることになったの。 それとあまりその……今まで人と触れ合う機会が無かったの────』

『────へんなの! へんな子ー! アハハハハ~!』

 

 興味を失くしたナナリーは元気よくジャンプしてはマリアンヌのかぶっていた帽子を取り、またも元気よく走り出す。

 

『あらあらあら、私に似て元気ねぇ……』

 

 マリアンヌがチラッと横目で見るのはスタミナ切れから、肩で息継ぎをしていたルルーシュ(子供)だった。

 

『そういえばあの子もナナリーに似ていたわね……建前上の身分的にも、良いかも知れないわ。』

『……?』

『大丈夫よ。 そんなに心配しなくても、あの子もここにいる貴方と同じ見習いとして来ているから。 こちらにいらっしゃい?』

 

 マリアンヌと子供が歩き出すとルルーシュも後をつけながら考え込む。

 

「(一体どういうことだ? さっきの蓮夜と二葉、この見覚えのない少年に母さんとの間に何の接点が? そもそも、俺はこんな子供────)」

 

『────()()()()、今少しいいかしら?』

『あ、マリアンヌ様。』

 

「アーニャだと?!」

 

『もちろんです……その子はどなたでしょうか?』

 

 歩いて来たマリアンヌにカーテシー(お辞儀)をしながら挨拶する少女──── “アーニャ”と呼ばれた者は燕尾服の子供をチラッと見る。

 

『実はこの子の事であなたに頼みたいことがあるの。 貴方と同じく見習いとしてここに居させるのだけれど、事情があって人との関わり方などが得意ではなくて……私はルルーシュとナナリーでその、手がいっぱいだから頼めるかしら?』

『喜んで世話を見ますわ、マリアンヌ様。 その少年のお名前を窺っても?』

『……“スヴェン”よ、ね?』

『……ハい。』

 

「なん……だと?」

 

 ルルーシュがショックを受けている間、マリアンヌが場を後にするとアーニャは誰も周りにいないことを確認してからボーっと立ったままの子供へと開き直る。

 

『あー、緊張したー! で、貴方はどこの家の子? きっとここに出入りできるのだから、どこぞの名門貴族でしょうけれど……貴方の様なへん────()()()な子は聞いたことがないわ。』

『……ドコの、こ?』

『いや、私が先に聞いたのですけれど? ま、いいわ! じゃあまずはここでの立場が先ね!』

『???』

『見た目的には貴方の方が年上っぽいけれど、言っておくけれど私が先に見習いとしてここに来たのですから私を先輩として敬うこと!』

『……』

『その代わり、困ったらいつでも胸を借りても良いわよ!』

 

 スヴェンが無言で頷く様子に、さっきまでの『落ち着きのある令嬢』からお転婆娘に一転した様子のアーニャが“ムッフー!”と誇らしく(?)どや顔を披露しながら胸を張る。

 

『……』

『ちょっと! レディの身体を見るなんて────!』

『────でも、アーにゃ、むね無イ────』

 『────ぐ?!』

 

 未だに無表情のスヴェンの(恐らく)他意のない言葉がアーニャを(精神的に)滅入らせる。

 

わ……私だってきっとあと数年すれば、胸も尻も殿方が好む…… や、や、約束しなさい! レディに対して絶対に失礼のない様に振る舞うと!』

『やく、ソク……ナに?』

『約束はねぇ……絶っっっっっっっっっっっっっっっ対に! 破っちゃいけない誓いの事よ! それは分かる?』

『……はイ。』

『じゃあ約束! レディには紳士的に接すること!』

『……しんシ?』

『 “優しく”、ということよ。 “優しい”、これは知っているわよね?』

『……“ヤサしい”?』

『他の人を思いやったり、穏和で好ましい感じ!』

『……?』

『貴方ねぇ……本当に貴族男子? 絵本や教本などくらいは読んだことあるでしょう?』

 

 フルフルフルフル。

 

 先ほどから無言でハテナマークを浮かばせながら、首を横に振るスヴェンにアーニャは頭を抱える。

 

『こ、これは重傷だわ……』

 

 ナデナデナデナデ。

 

 遠目にある何かを見ながら、スヴェンはぎこちない動きでしょんぼりと俯くアーニャの頭を撫でる。

 

『はぁ~……ありがとう────って、許可なくレディに触れるのもダメよ。』

『????????』

 

 スヴェンが不思議なものを見るかのように無言で頭を静かに傾げると、アーニャは顔を覆う。

 

マリアンヌ様……この子、うるさい自分の家より面倒そうです…… いいわ! じゃあまずはマナーやエチケット、それと従者のマニュアルね! そしてあわよくば私の仕事を押し付け────いえ、まずは“おてほんまにゅある”を読ませることからね!』

 

 そこからアーニャがスヴェンに読ませたのは確かに従者としてのマニュアル本だったが、それ以外の絵本や小説なども含まれていた。

 

 余談で題名は『影の王子様』、『完璧な執事は完璧に尽くす』、『こんな美女な男がいるわけが!』等々と言ったものであった。




サングラスのマックス:何時から160話────え、ちょっと押さないで?!
おはぎちゃん:あっちに行こうねぇ~。 ~(´・ω・)つ))`Д´)グリグリ
作者:長くなりましたが、次話で展開を進める予定です。


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第252話 もう一人の観測者2

某4風に表現すると、『ペンは止まらなかった』。

というわけで少々早めの投稿です。

お読みいただきありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです。 m(_ _)m


 ザ、ザザザザ、ザザザザァァァァ!

 

 ルルーシュの回りの景色がまたも酷いノイズと砂嵐(の様な乱れ)によって変わり、目の前には一つの民家の前に停まった黒い車の中から黒服黒サングラスの男がボーっとしている様子のスヴェンとリュックサックを引きずり出している間、もう一人が家の扉にノックをしていた。

 

『着いたぞ。 ここが、お前が世話をする家だ────』

『────はい? どなたでしょうか?』

 

「あれは……確かカレンの母親のルミ(留美)か?」

 

 家の中から出てきた女性の容姿を見て、ルルーシュはリフレイン事件の解決時に動揺したカレンと生身でKMFを撃墜したスヴェンを思い出す。

 

「と言うことは、ここは日本か……」

 

『先日、連絡をしたハンセン家の使いです────』

『────え────?』

『────こちらが従者見習いの者です────』

『────まぁ?! まだ子供じゃないですか────?!』

『────それは我々の知ったことではない。 連絡した通り、確かに送り届けましたよ?』

 

 それを最後に大人たちは車の中へと戻り、サッサとその場を後にする。

 

「……」

 

 その景色はかつて、シャルルに感情任せで抗議した自分への罰として日本へ追放処分を食らった自分とナナリーをルルーシュは重ねた。

 

『………………えっと……ま、まずは中に入りましょうか?』

『お邪魔しマス。』

 

 スヴェンと留美が家の中に入り自己紹介をしても未だに無表情のスヴェンを『可哀そう』、あるいは『我慢をしている』と思ったのか、留美は優しくスヴェンをハグしながら気休めの言葉をかけ、後からカレンとカレンの兄らしき者たちもスヴェンの事を受け入れるシーンにルルーシュは思わず口端を上げた。

 

「(……なるほど、スヴェンがあれほど必死にさせる秘密がコレか……このように自分を受け入れて支えてくれる人たちが近くに居たから、アイツはアイツなのだろうな。 しかしカレン、“白髪”はないだろうに……)」

 

 しかし、カレンの家族────紅月家がブリタニア人の血が色濃く出ているハーフの『スヴェン』を『日本人のスバル』として受け入れたからと言って、周りの日本人が同じだと限らなかった。

 

 当時の日本は世界が依存しているサクラダイトが一番多く採れることもあってかお世辞にも『外国人にやさしい』とは言えない、鎖国的な考えが主流だった。

 当時の日本政府のプロパガンダ効果もあり、一般的な日本人からすればブリタニアは『図々しい価値観を持つ国』、『欲しいものは力ずくで奪いながら清潔さを装う野蛮人の国』などと言った閉鎖的な先入観が植え付けられていた。

 

 無論立場的に大国同士であるためブリタニアと日本の交流は全く無いわけではなく、お互いの国への留学や出張などもあるので『国内でお互いを(ある程度)認め合っているコミュニティ』は存在する。

 

 だが外国人との交流が頻繁にある大都市(あるいはコミュニティ)から少し離れた辺鄙な町ではそうもいかない。

 

 名前をスヴェンからスバルに変えたとしても、容姿が明らかに日本人ではない彼の噂が広がるにはそう時間はかからなかった。

 

 留美のお使いや紅月家の用事に頼み事で出かけるとスヴェン待っていたのは政治的要人扱いから他人との接触を制限されたルルーシュたちの比ではない『迫害』、『苛め』、『無視』、エトセトラ。

 

 目につきにくい、彼の体は痣や打撲だらけだった。

 学校でも例外は無く、精神がまだ幼いおかげで周りの者たちを基準に育つ子供たちはカレンやナオトたちがいないときの隙を狙ってはスヴェンに陰険な嫌がらせをしていく。

 

『ブリタニア人だから』と言う理由、後ろ盾がシングルマザーの留美、そして教師たちは見ていぬフリをすると言うことから最初は数人だけだったが、次第にそれは他の者たちへの免罪符となり加速した。

 

「……」

 

 精神をすり減らす陰湿なそれ等は見ているだけのルルーシュでも言葉を失くさせ、『俺たち(ルルーシュとナナリー)はまだマシだった』という己の並列思考の一つが考えに彼の心は更に痛んだ。

 

「(当時の俺だったら、報復……自暴自棄か、人間不信になっていたかもな。)」

 

 ルルーシュは『もしナナリーがこんな仕打ちを受けていたら』という考えを脳の奥深くに押し込み、そんな扱いを受けても嫌な顔を表に出さずにただ紅月家の迷惑にならないように鳴きごと一つもなく、平然とした態度をスヴェンは続けた。

 

 平然と、喜怒哀楽の表現が乏しいスヴェンをナオトはある日、知り合いの居る道場へと連れていった。

 

「(なるほど……これでなぜ藤堂が時々スヴェンを気にかける理由に納得がいく。 そしてこの時から彼は毒島冴子とも会っていたのか。 今まで桐原がこのことを隠蔽していたな? 道理でディートハルトの調査が難航していたわけだ。 しかしブス子────いや毒島冴子、今の様子とスザクから聞いていた昔のイメージ。 かなり……………………………………()()()だったな。)」

 

 ルルーシュが思い出すのは先ほどナオトの自慢にどんどんと鋭くなっていった、まるで獲物を補足した肉食獣の目をした毒島(子供)の様子である。

 

「(そんな彼女の攻撃をいなしたスヴェンも見事なものだが……藤堂の三段突き、恐らくスザクでも初見では防ぐのは難しいだろうな。)」

 

 スバルが学校でいじめに遭っている現場にカレンがばったり出くわすと彼女は文字通りにその場でいじめっ子たちを無慈悲に成敗(ボコボコ)した。

 この時のカレンならば、ただの悪ガキ相手にゲンコツや蹴りの一発で済ませるのだが……

 流石に()()ともなると頭に血が上って、正義感の赴くままに行動を取っていた。

 

『大丈夫、昴?』

『ん……でも、なんデ?』

『何でって……だって腹が立ったから。』

『……でも、かレんに迷惑がかかる。』

『うーん……だからお兄ちゃんは……だったらさ、これからは昴も私を守ってみせてよ?』

『……うン。』

『んじゃ、約束だね!』

『ウん、ヤク束。』

 

 昴の手当の終わった幼いカレンと彼が指切りを交わし、そして────

 

 ────ザザザザザザァァァァァァァァァァァァ!

 

 ゴォォォォ……

 

 ウゥゥゥゥゥ~~~~~!

 ボォン! ボォボォォォン!!!

 キュィィィィン!

 

 周り一帯から日は上がっており、炎の轟音が響く中で空襲のサイレンを背景音に強度を保てなくなった建物が朽ちていく景色にルルーシュは呆然と見つめていた。

 

 ルルーシュが空を見上げるとおびただしい数のナイトメア用の輸送機と爆撃機、そして遠くからは耳をつんざくような爆音とランドスピナーの特徴的な音が聞こえてくる。

 

「これは……まさか……」

 

『第二次太平洋戦争』。

 彼の脳に浮かんだ単語はそれだった。

 

 彼自身はブリタニア軍の侵略時を直接見てはいないが、今見ている景色はルルーシュがスザクから聞いた話と一致していた。

 

 それもブリタニアの侵略直前にナナリーを連れ去ろうとした枢木ゲンブを止めようとしたルルーシュは殴られて、第二次太平洋戦争が一番騒がしかった初期段階では気を失ったから無理もない。

 

 ザザザ!

 

 ルルーシュが気付くとどこかの山に避難した様子の紅月家が居た。

 火が回りきる前に脱出した所為か、背負ったリュックと服装も所々は焦げていたが外傷は見当たらない。

 

『お母さん、お兄ちゃん……どうなっちゃうの?』

『大丈夫だ、カレン。 ここまで火は届かないはずだ。』

『お兄ちゃんの言う通りよ、カレン。』

 

 泣くカレンを彼女の兄であるナオトが慰め、留美は出来るだけ不安をより除こうと気丈に振る舞っていた。

 

『………………』

 

 昴は紅月家の様子をただ無言で見てから燃える町に目を移していた。

 

 ザザザザザザ!

 

『お母さん、おなかすいたよ~!』

『ええ、だからナオトも(スバル)も出かけているでしょ? ほら、お水を────』

『────お水はもう飽きた! ジュースが飲みたい────!』

 

 『────きゃああああああ!』

 

 どこか丘の様な場所に、簡易的でこぢんまりとした小屋の中で我儘を言うカレンの言葉を、外からくる女性の叫びが遮ると留美はすぐにカレンの耳をふさいでガラスの貼っていない窓から見えないように身を屈ませては息を潜める。

 

『お母さん?』

『……』

 

 『そっちに行ったぞ!』

 『逃がすな!』

 

 先ほど叫んだ女性を追うような言葉を発する男性たちの声が続く。

 

 『捕まえたぞ────!』

 『────放して────!』

 『────お前には“反政府組織の結成員の疑い”がある────!』

 『────な、何かの間違いです────!』

 『────ならなぜ逃げた────!』

 『────そ、それは────』

 『────詳しくは基地で話を聞く! 来い!』

 『いやぁぁぁぁ! 行きたくない! 誰か助けてぇぇぇぇ!!!』

 

「……」

 

 これ等の会話と留美の様子に、ルルーシュは容易に何が起きているのかが想像はできた。

 

 色々と事情と歴史が異なるコードギアスの世界でも一応、戦争犠牲者の保護強化を成すジュネーヴ諸条約に値するものは存在し、大まかにそれは以下二つである:

『戦地、および海上にある軍隊と難船者の傷者及び病者の状態』。

『捕虜と戦時における文民の保護と人道的扱い』。

 

 しかしこれらは所詮紙の上に書かれた(あるいは印刷された)インクの価値しかなく、結局は戦争に参加している国の軍隊と軍隊が所属している政府によって徹底されるべき自制心に任されている。

 

 幸運にもブリタニア軍の騎士たちはやはりどこまで腐っても『騎士道』を重んじている為、敵国の捕獲した軍人や民間人に対して彼らはある程度の人道的な扱いをしているのが大半である。

 

 しかし実際に占領や現地の駐屯軍として敵国に乗り込む実行部隊である歩兵の多くはほぼ使い捨て扱いをされ、苦い思いや割を食わされている名誉ブリタニア人たち。

 

 そんな彼らが(滅多なことがない限り)反乱しなかった理由が『()()()()()()』でありそれ等はいつの時代────どの世界でも大なり小なりの違いはあれど────必ず起きている。

 

 テレコミュニケーション技術が飛躍した今の世の中で『綺麗な戦争』とは所詮、各国による情報操作と汚い事実の隠蔽による賜物である。

 

 それはコードギアスの世界でも例外ではない

 あるいは価値観がどこか未だに前の時代のままであるにして、更に酷いとも言えるだろう。

 

 他国への侵略が終わり、堅物の騎士や上官たちの目が届かない範囲(あるいはある程度の了解)での略奪、財産の接収、殺人、強姦や凌辱等々の戦後処理中に起きる()()()()が名誉ブリタニア人による大規模な反乱を防いでいた。

 

 何かを欲していれば奪い、気に入れなければ恫喝をし、反抗されれば『反乱分子』として処刑され、()()()()()()()()()()()()

 

 文字通りに、『一時の自由』と『優越感』を味わえる貴重な時間である。

 

 勿論これらは全て条約違反なのだが、敗戦国に異議を唱える威厳も無ければ周辺国たちに大国を罰して得る自国への報復と比べると長期的なメリットは少なく、ほとんどの場合は行動が暗黙されるか発覚した歩兵部隊ごと上官直属の精鋭部隊によって()()()()()()のが慣例となっていた。

 

 あるいはコーネリアのように、そもそも名誉ブリタニア人を全く作戦に組み込まずにブリタニア人のみの戦力で被害を最小限に抑えて事を終わらせるか。

 

 厳しい言い方ではあるが所謂(いわゆる)、『(大衆の)目に付かなければ(認識に気付かなければ)無かった事』というモノである。

 

「……」

 

 それ等を察していたルルーシュは知識として『そういうことは起きる』と分かっていても、こうして見るのは流石に堪えたのか黙り込んだままだった。

 

 ザザザザザ!

 

『母さん?! カレン?! どこにいるんだ二人とも────?!』

『────ナオトさん。』

 

 荒らされた小屋の様子にナオトが焦っているとボロボロの留美に肩を貸したスバルが目に入る。

 

『母さん、どうしたんだよ?! それに、カレンは────?』

『────ブ、ブリタニア軍の人たちが来て……止めようとして、丘から落とされて……』

『まさかカレンは……クソ! 昴は母さんを頼む!』

『分かっタ。』

 

 顔色が悪くなったナオトは小屋から走り出し、スバルは静かに留美の手当てをしていく。

 

『昴……私の事はいいから、ナオトを……カレンをお願い!』

『うん。』

 

 ザザザザザザザザザザザザザザザ!

 

『う……』

 

 またも景色が変わり、スバルは血まみれだった。

 ボロボロの服は無数の様々な大きさの切り傷から流れ出た血によってべったりと引っ付いており、左足は挫いたのか変な方向に曲げたまま引きずっていた。

 

 ゴォォォォ……

 

 うめき声をあげながらライフルだった鉄製の何かを杖代わりに彼は燃える基地だった敷地内を徘徊していた。

 

『ッ。』

 

 ようやく彼が行きつい手動きを止めたのは上辺が火に包まれて焼かれた肉の匂いを発する、簡易なプレハブ。

 

『か、レン!』

 

 ジュ!

 

『う?! ぐ、ううううう!!!』

 

 スバルは血相を変えながら自分の怪我を無視して駆け出し、火のついたプレハブの扉を手で無理やり開くと中には息絶えたと思われる女性たちの遺体が転がっていた。

 

『か────ゲホゲホゲホ!』

 

 彼が口を開けて叫ぼうと息を吸うとすぐに咳をしはじめ、のどの痛みを我慢しながら遺体を退けていく。

 

 ガン!

 

ガフッ?!

 

 天井から落ちてきた瓦礫がスバルの頭と背中を強打し、彼は吐血しながらフラフラとする意の中でもせっせとカレンを探────

 

 ────ザザザザザザザザザザザザザザザ!

 

 砂嵐のノイズがひどくなっていく。

 

 『大丈夫って言ったじゃん、この────!』

 

 ────ザザザ!

 

 次に景色が見えてくるのは燃える基地の近くにあった僻地。

 そこにはボロボロでところどころ焦げた衣類を身に纏いながら、びっくりした様子の兄に渡されたブランケットの様なボロ布を羽織った少女────カレンの顔はところどころ腫れていて、彼女の視線はかつて見たことのない嫌悪感を露わにしながら立ちすくむスバルに憎しみを込めて叫んでいた。

 

 『あんたなんか……約束破りのブリキ野郎なんか────!』

 ────ザザザ────!

 『────いいんだ!』

 

 ノイズが一瞬だけ、怒りのまま叫ぶカレンの言葉を遮った。

 

 彼女の言った言葉にスバルは初めて表情を変えながら、スバルは火傷と傷跡が目立つ両手で頭を抱える。

 

 

 

 彼の顔は今までに見たことのないほどに歪んでおり、途方に暮れてどうしたらいいのか分からなくてただただ苦痛で泣くことを我慢するために唇を噛み締めながら目尻に涙を留める、幼い迷子がする様なモノだった。

 

 

 

『────……ぅア……ぁ、アア────』

 

「────もう……いい……もういいだろう?!」

 

 ルルーシュはここでとうとう耐えかねたのか、上空にそう訴えた。

 

「これを俺に見せて、何が目的だ! こんな! こんな……俺にどうしろと言うのだ?! だから何だと言うのだ?! こんな……こんな(過去)を見せつけて────!」

 

 【────■■じ■■■

 

「……なに?」

 

 流石のルルーシュも自分の問いに答えが返ってくることは意外だったのか、彼は思わず聞き返した。

 

「……空耳か────?」

 【────に、■■■■■■■■ ■■か、■■だけ■■……】

 

 途端に弱く、思わず聞き逃しそうなほどの細声がノイズに交じりながら耳に届くが先ほどより酷い雑音によってかき消されていくと周りの景色も一昔前の受信が悪くなったテレビのように揺れる。

 

 ■■■■■■だ。 ■■■、か■■■■ ■う、■■■■■────】

 

 聞こえてきた声がとうとう途切れると、まるでコンセントが抜かれたテレビのようにルルーシュの視界が暗闇によって遮られる。

 

『ごめんなさい。』

 

 上記が文字通りに脳の中で浮かぶと同時に、ルルーシュは自分の体が暗闇の中を落ちていく感覚の中、今起きたことがグルグルと彼の頭の中を回っていた。

 

 ……

 …

 

「スザクさん、どうかされましたか?」

 

「え?」

 

 エリア11の政庁にて、どこか上の空のままボーっとしていたスザクにナナリーが声をかける。

 

「“どうか”って……ちょっとその……世界の事を考えていた。」

 

「まぁ! 世界に関心を持つなんて……やはりラウンズになられてからスザクさんの視野は広がりましたね?」

 

「は、はははは……こ、これは手厳しいな。」

 

 スザクはこの頃、憂鬱な空気を時々発していたナナリーが少し意地悪なからかいを口にして気を紛らわしていることはこの数日間顔色が悪くなるローマイヤの様子で察せたのでスザクは敢えてそれらに付き合うことにしていた。

 

 そんなスザクは世界中が騒がしく、色々なことが進んでいるかが全く見受けられない静かなトウキョウ租界の様子を室内から見る。

 

「(このタイミングでほぼ全員のラウンズと親衛隊の総動員……シュナイゼル殿下は何を企んでいる? ヴァルトシュタイン卿(ビスマルク)と連絡が取れるタイミングが中々無いことも……)」

 

「そう言えばスザクさんはアッシュフォード学園に復学したのですよね?」

 

「へ? あ、ああ。」

 

「皆さん、元気にしていますか?」

 

「ッ。 うん、僕の見た限りでは……元気だよ?」

 

「お兄様やミレイさんにシャーリーさん、リヴァルにスヴェンさんも?」

 

「ミレイは先生になってから生き生きとしていて、副会長のルルーシュはリヴァルの補佐で毎日忙しくしているよ? スヴェンも口でなんだかんだ言いながら生徒会を手伝っていて、シャーリーは……いつも通り、部活と生徒会の掛け持ちをしているよ。」

 

「そうですか……」

 

「あ、それとクロヴィス殿下がナナリー宛に差し入れを送って来たよ。 美味しそうなモンブランだった。」

 

「う~ん……いくら()()()()()()()()()()()()()からって、こうも毎日差し入れなどがあると腰辺りがプニプニにならないか心配しちゃいます……」

 

「そうだね。 (やっぱり皇帝陛下によって、クロヴィス殿下たちは……)」

 

「もう、スザクさん? そこは気休めの言葉をかけるところですよ?」

 

「え? ……あ。

 

「私は分かっていますから大丈夫ですけれど……そう言う風ですと、()()()()()()拗ねちゃいますよ?」

 

「あ、ああ。 忠告ありがとうナナリー。」

 

 余談だが、スザクはこの時密かに『拗ねたユフィなら可愛いだろうな~』と言う想像に和んでしまいそうになったがライラの事で気を引き締めた。

 

「(ヴァルトシュタイン卿いわく、『ライラは無事』らしいけれど……どうも胸騒ぎがする。)」

 

 

 ……

 …

 

 

 ズズゥン……ドォン! パパパパーン!

 

「ひ?!」

 

 地鳴りや爆発に銃声の音がそこかしこに鳴り響く、()()()()()の地下都市の中ででとある少女が────()()()がビクビクしながら周りを警戒しながら建物の物陰に隠れて周りを見渡す。

 

「(一体……一体ここはどこです?!)」

 

 彼女がここにいる『何故』を説明するのは簡単である。

 

「(『変なおじさんが消えたと思って走ったら急に暗い街の中』ってどういうことです?!)」

 

 ライラはバクバクと早鐘を打つ心臓に息が震え、かつてのブラックリベリオンの記憶が蘇って足がすくみそうになる。

 

 だが逆にブラックリベリオンでアッシュフォード学園が紛争地帯に陥ったからこそ、今彼女は踏ん張りながら行動を起こせるようになっていた。

 

「わ?!」

 

 角を曲がると4、5歳ほどの子供たちの集団と出くわしてビックリしたライラは尻餅をついてしまう。

 

「こ、こど、も?」

 

「「「「………………」」」」

 

 子供たちはライラを睨むかのようにジッと視線を注ぎ、そんな子供たちとライラの目が合う。

 

「「「「「………………?」」」」」

 

 子供たちが不思議そうなものを見るかのように、眉間にしわを寄せながら頭を傾げるとライラも釣られて頭を傾げた。




ラフ時から、かなり絞って展開を進めてみました。

それとどうでもいいことかもしれませんがただいま迷い中です。 (;´ω`)ゞ


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第253話 ■の世界(?)

『ペンは止まらなかった』のパート2です。


 地上のリア・ファル内にいたレイラは戦況とギアス嚮団の把握に気を配りつつ、戦域に向かってくる新たな敵対勢力の速度等を参考に土壇場での戦術を練っていた。

 

「(主砲のエナジー充填率は……いける。 今ギアス嚮団から総員を退避させれば間に合いますが、未だにシュバールさんとゼロは行方不明────)」

 

『────レイラ、そちらはどうだ?』

 

「サエコ? こちらの受け入れ準備はもう整って……サエコ、何かありました?」

 

 レイラがスクリーン越しに見たのは清々しい、肌のツヤがどこか増した毒島だった。

 

『ん? きっと気のせいだ。』

 

「なんだかスッキリとしている様子ですが?」

 

『気の所為だ。 それよりもブリタニアの動き、不味くはないか? 勘だが、これ以上待つと避難が間に合いそうに無いのだが?』

 

「……」

 

『何か困っている様だな────』

 

「────あ、貴方は?!」

 

 レイラと毒島の通信に三人目────コーネリアが割り込む。

 

「コ────?!」

『────ネリスだ。』

 

「……ネリスさんも何かありました? 顔が少し腫れていますけど、凄く清々しい表情────」

『────気の所為だ。』

 

「(さっきも同じやり取りをしたような……)」

 

『それよりも失礼を承知のうえで君たちの通信を聞き、状況は察している。 君は何を気掛かりにしているかは分からないが、今の君は指揮官だ。 大局を見る必要性がある立場だ。』

 

「……」

 

『どんな指揮官でも一度は通る苦難だ、私にもあったよ。 それに今聞くが、君が心配している()()()はそれまでの評価なのか?』

 

「ッ!」

 

『心配はするのはいい。 だが私としては同じ心配をするのなら最悪にならないように最善を尽くす方向に事が進むように心がけることを進める。』

 

「(流石に経験豊富な言葉……これが、『ブリタニアの魔女』と呼ばれる所以。) 分かりました。 助言、ありがとうございます。」

 

『何、借りがあるからな。』

 

「流石はお姉さまです!」

 

『う。』

 

 カァァァァ。

 

 純粋な憧れの眼差しと共に姉の凄さを喜ぶユーフェミアの声に、コーネリアは頬を赤らませて明らかに動揺する様子に毒島とリア・ファルのブリッジクルーはニコニコとした微笑ましい笑顔を浮かべた。

 

「地上の皆、及び地下の零番隊に退却路を、避難し次第に主砲で敵ブリタニア混成部隊を薙ぎ払ってから戦域から離脱します。」

 

『この距離からでも撃てるのか?』

 

「目的は敵艦隊の殲滅ではなく、足を止めてKMF部隊が撤退しつつ施設の破壊の時間稼ぎです。」

 

『それでも届くのか。 少し前に噂で聞いた、メガ・ハドロンランチャー並みの射程距離にエデンバイタル教団での破壊力ともくれば……使いようによっては、KMF部隊を送り出すよりも効果的な運用が出来るな────』

「────助言、ありがとうございます。 しかし主砲の使用目的は先ほど言ったようにあくまで『時間稼ぎ』であり、『敵の殲滅』ではありません。 アンカー射出、準備。」

 

「アンカー射出!」

 

 ガァン!

 

「艦内クルー、および施設内の固定とヒッグスコントロールシステムの作動確認状況は?」

 

「“完了”との報告が8割ほど入ってきています!」

 

「主砲の照準と射線上、敵勢力をマップにオーバーレイ表示。」

 

 リア・ファルのレーダーと、上空にいるウィルバー機、そして偵察機として地上部隊と共に先行させた小型ドローン機による情報が重なり、精密な戦況表示がレイラのコンソールに出てくる。

 

 

 ……

 …

 

 

 汗だくになりながらも少々小太りのガマガエルバトレーは、彼独自の調べによってコーネリアが居ると思われる建物へと走っていた。

 

 ドォン

 

「うお?!」

 

「将軍、気を付けてください!」

 

 そして落ちてくる瓦礫の着地点からバトレーを部下らしき一人が腕を掴んで避けさせた。

 

「う……すまん、他の者たちは?」

 

「何人かとははぐれたのでわかりません。 ですが、将軍と共に来た者たちは私を置いて……」

 

 ここでバトレーはハッとして、自分一人でズンズンと進んでいたことに気落ち────

 

「(────いや。 それでこそ、ここで止まって何もできずのままではその者たちに申し訳が立たなくなる! 贖罪は後だ!) 例の監禁場所はあともう少しだ! 行くぞ!」

 

「ですが将軍、この辺りはギアス能力者たちが────」

「────ぬ?!」

 

 バトレーたちが角を曲がるとギアス能力を保有する子供たちの集団が居た。

 

 しかし彼らの関心は子供たちではなく、この場に似つかわしくない金髪少女へと向けられていた。

 

『似つかわしくない』と言ったが、それは何も『金髪』や『少女』の所為ではない。

 

 単純に、彼女が着ていたのが『アッシュフォード学園の中等部の制服』だったから。

 

「何故……()()がここに────?」

「────ば、バカな?! 何故ここにライラ皇女殿下が────?!」

「────ライラ皇女殿下?! あの子が────?!」

「────あ! ガマガエルおじさんです!」

 

 ライラの陽気で他意の無い言葉にバトレーは思わずガクッと思わず気が抜けそうになる。

 

「で、ですからワシは────う?!」

「ガッ?!」

 

 子供たちと視線が合うとバトレーたちが苦しむ声を上げ────

 

 「────こらぁぁぁぁぁ! メ、です!」

 

 どこぞのダブルバスターコレダーなアホ毛を決めている金髪赤目淑女(笑)に負けないほどの肺活量で、ライラが叱ると近くの子供たちはビクリと体を震わせては視線をバトレーたちから外し、しょんぼりとして彼女を見る。

 

 この光景にバトレーたちは目を白黒させながら困惑する。

 

「な、なぜ?」

「将軍、この子が────あ。 いや、この方がライラ皇女殿下なのですか?」

 

 バトレーと彼の部下、ウェーブのかかった七三分けの茶髪の男性が信じられないような物を見ているように驚愕する。

 

 ギアス嚮団は『オルフェウスとエウリアの脱走』、エデンバイタル教団で死に間際にギアスユーザーが起こす反乱、クララやトトなどを教訓に育成時の刷り込みに脳手術での洗脳でギアス能力者たちをコントロールしていた。

 

 基本的には『ギアス嚮団には従順』や『反抗は無理』などだが、緊急時や襲撃時には『手段を問わずにギアス嚮団関係者を守れ』や『部外者は全力で排除せよ』などにすり替わる。

 

 無論、刷り込まれた指示(命令)がおおざっぱなのはわざとであり、V.V.やギアス嚮団の主な幹部たちからすれば自分たちさえ無事であれば何度でもやり直しは出来る。

 

「これからはすぐに『それ』を使うのはダメです! 命の危機とかではいいかもですけど……取り敢えず行き当たりばったりで使うのはダメです!」

 

 コクコクコク。

 

 しかしどうだろうか?

 目の前にあるギアス嚮団の能力者(子供)たちは、ライラの言うことを素直に聞いている様子だった。

 

「と、とにかくライラ皇女殿下! ここは危険です、すぐに逃げますぞ! ジョセフ、一番近いイジェクトダートに案内しろ!」

 

「りょ、了解し────!」

「────なら()()逃げるです!」

 

「「え。」」

 

 ライラの行ったことにバトレーと彼の部下────ジョセフが目をパチクリとさせながらライラと彼女の回りにいる10人ほどの子供たちを見る。

 

 地下での暮らしが長かったためにお世辞にも『健康体』や『足並みが速い』と呼べない子供たちを。

 

「「……………………」」

 

「です!」

 

「……………………」

 

「しょ、将軍? この人数で逃げるとなると────」

「────わかっておる! 皆まで言うな! やむを得ん、ここを襲っている連中のナイトメアの注意を引くのだ!」

 

「し、しかし奴らは黒の騎士団と名乗り出ています! 保護ではなくここの関係者とみなされて捕虜に────!」

「────そんなことは百も承知! しかし生きていればこそ、未来があるのだジョセフ────!」

 

 ……

 …

 

「────敵混成部隊、エナジー出力増大と共に速度がさらに上がりました!」

 

 リア・ファルの中で、オリビアの報告に苦い顔をレイラは浮かべた。

 

「(もしやすべての艦に、グランベリーと同じブースト仕掛けが施されている? まさかこうも早く実装されるとは────)────避難の進行度は?」

 

「地上部隊の作業は終わりました! 地下都市内の生存者、およびデータの確保はまだ進行中とのことです!」

 

「レイラさん、このままだと主砲が使えず、地下部隊がブリタニア軍に追いつかれてしまいます!」

「ミトメタクナーイ!」

 

「……角度の修正後に主砲を撃ちます!」

 

 レイラが主砲の発射装置を手に取りながら誤差修正する入力に、船体が僅かに傾いてモニター画面の照準が予想の場所に動くと彼女は引き金を引く。

 

 ドゥ

 

 

 ……

 …

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

「こ、今度はなんです?!」

 

 地鳴りの様な音が地下都市内に響き、ライラや子供たちは周りを見ていると地下都市のいたるところで東ユーラシア軍とプルートーンとの戦闘行為で脆くなっていた建物や地上の基盤などが崩れていく。

 

「将軍、上────!」

「────何ぃぃぃぃぃ?!」

 

 ジョセフの声にバトレーが見上げると瓦礫等がライラたちのいる場所へと落ちていく様子が窺えた。

 

 ライラもバトレーのようにジョセフの叫びに気が付き、自分より展開に戸惑う子供たちを優先して彼らをバトレーたちが居る、安全な方向へと押す。

 

「あう?!」

 

 無理に子供たちを押した拍子にか、あるいは何かに躓いたのかライラは逆の方向へと倒れてしまう。

 

 そしてそれは丁度、落ちてくる瓦礫の影があった場所。

 

「え。」

 

「ライラ皇女殿下ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 グシャ。

 

 

 ……

 …

 

 

「良いのか、C.C.?」

 

 場は黄金色の空に浮かんでいるような神殿へと移り、そこではシャルルが消えたルルーシュに関してC.C.に問いかけていた。

 

「何がだ?」

 

「奴とは、契約を結んでいたのだろう? 流れる時の川にお主の知人たちは流されて先に逝った。 そう言えば良かったのでは?」

 

「シャルルにしては珍しく、優しい言葉だな。 (V.V. )が死んで、感情的になったか?」

 

「否定はせぬ……さて、C.C. ────」

「────ああ。 お前が手を汚す必要はない、予想通りならば()()()()()()()。」

 

「なに────?」

 

 ────カチャ。

 

 C.C.はジャケットの中から既存の拳銃ではなく、火薬式のベレッタチータを取り出して自らのこめかみに銃口を当てる。

 

「C.C.、何を────」

「────私の予想通りなら、普通に死ぬことが出来る筈だ────」

 

 カチン。

 

「先に逝っているよ、シャルル。」

 

 C.C.は戸惑うことなく拳銃のハンマーを下ろし、驚愕するシャルルに別れを告げながら引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ!

 

「ッ!」

 

 急に誰かがベレッタチータを掴みながらハンマーとファイアリングピンの間に親指を挟むと、爪が砕く音が発砲音の代わりに鳴る。

 

 「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!!」

「────お、お前は?!」

 

 C.C.は急にその場に現れて拳銃を掴み、痛みの声を上げるスヴェンに珍しく表情を驚愕に変えた。

 

 


 

 

 さて、諸君は知っているかな?

 人間の指やつま先には刺激を受容する自由神経終末が集中している。

 これは環境による『危険』を、すぐに脳へと伝達させて体を遠ざけるためと言われている。

 

 まぁ、つまり何が言いたいかと言うとクッソペインフル(痛い)

 

『ライ(仮)との戦闘を終えて緊張の糸が切れたからか、そのまま襲ってくる脱力感に身をゆだねて次に気が付いたらC.C.がシャルルの前で自殺しようとしていた。』

 

 ぶっちゃけると俺も何がどうなっているのか分からないが、思わず前世の映画で見た『撃鉄が撃針を叩く前に何かをジャムれば銃は発砲しない』をそのまま実行して親指がただいま遺体でゴザル。

 

 コードギアス世界の電動式じゃなくて、火薬式で良かったぜ。

 

「き、貴様は?!」

 

 おっと横からシャルルの驚く声。

 そう言えばよく見るとここはアーカーシャの剣、『思考エレベーター』の中か。

 

 いや、どうやって俺は蒼天のコックピットからここに来た?

 

 それにしてもC.C.っていつもは無表情やジト目の癖にいざこうやって心が顔に現れると本当に見た目の年相応の女の子だな。

 

「C.C.! スヴェン! こっちに来い!」

 

 おっと背後からルルーシュの声が。

 

 と言うことはこれはきっとあれだな、『ギアス嚮団を襲ってV.V.追いかけたらクルクルパーマ(シャルル)との再会&C.C.の願い暴露シーン』。

 

 というわけでトンズラこくわ。

 

「ルルーシュ! 貴様もここに────?!」

「────きゃ?!」

 

 俺はジンジンと痛む右手とは反対の左手でC.C.の手を取り、蜃気楼へと走る。

 

「ま、待て────!」

「────貴様は引っ込んでいろ!」

 

 ボシュボシュボシュボシュ!

 

 蜃気楼が両手を上げて内蔵されたハドロンショットを撃ち出す────え。

 

 ちょ。

 待っ。

 えええええええ。

 

 俺たち、すぐそこにいるんですけどぉぉぉぉぉぉぉ?!

 

 ドォン、ドドォン!

 

 ほら言わんこっちゃない!

 ハドロンショットが俺とC.C.にシャルルの居る神殿中に当たりまくり、神殿は見た目通りの脆さで崩れていく。

 

 俺は考古学者にして冒険家のジョーンズじゃねぇぞ?!

 

「ぐ?!」

 

 足場にひびが入るのを見て走る速度を上げようとするが、体中が悲鳴をあげる。

 

『────!!!』

 

 いや違う。

 実際に聞こえる。

 

 聞こえてくる。

 

 数多の声にならない悲鳴と、断末魔の叫びが無数の人型の影から発される。

 

「────!」

 

 気付けば崩れていく神殿から落ちながら、俺も共鳴するかのように叫んでいた。

 

 これは……なんだ?

 

 確か『アーカーシャの剣』は思考エレベーター、つまり『Cの世界』と呼ばれる人の無意識集合体へと干渉するシステム。

 

 もしや俺の無意識も、影響を受け────

 

 ────ブツン。

 

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

「う……」

 

 頭痛と共に目を開けると見知った天井────

 

「────知らない天井だ────」

 

 ────ではなかった。

 

 リア・ファルの医療室でも、蓬莱島の医療室でも、アッシュフォード学園の保健室でも、トウキョウ租界の病室でも、シュタットフェルト家の自室でもない。

 

 それに治療に使う消毒液や薬が発する独自の匂いもしない。

 

 ……こう考えると俺、医療室や病室と縁があり過ぎじゃね?

 

 今更か。

 

「気が付いたか。」

 

 部屋の中からルルーシュの声がして、俺は起き上が────イ゛?!

 首を動かしただけで鋭い痛みが体中に広がる?!

 

「無理はするな、横のままでいい。 お前、蜃気楼でキャッチした時にはもう既に気を失っていたからな。」

 

 何故ルルーシュが? 俺はどうなっている?

 

 もうどこから質問したらいいのか分からないまま、俺は口を開ける。

 

「ここは?」

 

 俺の口下手、嫌いでゴザルよ。

 

「ここはイカルガの……俺の部屋だ。 ムスペルハイム(ギアス嚮団の強襲)作戦はおおむね成功したと言っていい。」

 

 グッド!

 それはグッドなニュースだぜ!

 

「だが途中でブリタニアとユーロ・ブリタニアの混成部隊が、俺たちの襲撃に合わせてスルトの確保に動いた。」

 

 Oh。

 それは大変よくないニュースね。

 

「それに便乗するかのように東ユーラシアや旧中華連邦の、ブリタニアでも合衆国連合の勢力に属していない領土に進軍を開始している。」

 

 おぅふ。

 それはとっても悪い。

 

 けど、気になることがもう一つある。

 

「被害は?」

 

「ナイトメアに多少の被害は出た。 だがこちら側の者たちに死者は出ていない。」

 

 ホ、それは良かった。

 

「嚮団は?」

 

 さっき俺は“気になることが一つある”と言ったな?

 アレは嘘だ。

 

「……予期せぬ敵の襲撃があったからな、ある程度の人命救助は出来た。 捕虜にされていたコーネリアたちや……ロロも救えた。」

 

 よっしゃ!

 

「しかし大半の研究者たちと、何か重大な情報を持っていたとコーネリアが言っていたバトレーは死んだ。」

 

 あー。 そういやバトレー、R2でも生きていたことが描写されていたな。

 確か囚われたコーネリアを救う為、逃げずに走り回っていたか。

 

「しかし、バトレーのおかげで……」

 

 歯切れの悪いルルーシュに俺は首を回して彼へと向くと、ルルーシュは神妙な表情で頬図絵をしながら俺を見ていた。

 

「スヴェン。 率直に聞くがお前、シャーリーの父親について何を知っている?」

 

 ……シャーリーパパについて?

 えーと、確か夫婦共々よく出張に出払っていて?

 家はそこそこ裕福だけれど大富豪と言うわけでもないから、シャーリーが寂しくならないようにアッシュフォード学園の寮に入れていることぐらいだけれど?

 

 あ、あと原作だとシャーリーパパは成田への出張中にナリタ連山の『ゼロによる黒の騎士団ウハウハぶっちゃけ実戦作戦』に巻き込まれて生き埋めにされた。

 だがシャーリーパパ死亡フラグは俺がへし折ったから生存している筈だ。

 

「俺が知っているのは、夫婦共々よく出張に出がちということぐらいだ。 何故だ?」

 

「いや、いい。」

 

「あ、あの……」

 

 それを最後に、ルルーシュは椅子から立ちあがるところで、おずおずとどこかおっかなびっくり状態のC.C.が眉毛をハの字にしながら声を出す。

 

「私は、どうすれば良いのですか?」

 

「うん? そうだな、取り敢えず服を裏返しにしてその場で回転しながら歌え────」

 

 あ゛。

 ルルーシュの馬鹿!

 

「────畏まりました、ご主人様。」

 

 シュル。

 

「────おわ────?!」

 

 ────って色白で肌もスベスベもっちりでええのぉぉぉぉ~。♡

 

 じゃなくて!

 

 ノーブラだとぉぉぉぉぉぉ?!

 

「おいバカやめろ────!」

「────きゃあああ?! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 まさか自分の言葉をそのまま受け取るとは思わなかったルルーシュの荒げる声と近づく勢いにC.C.は尻餅をつきながら頭を両手で覆い、ただ謝り出す。

 

「ちょ、ちょっと待てC.C.……一体どうしたと言うのだ、お前?」

 

 あれ?

 ルルーシュお前確か、アーカーシャの剣から退去された時にC.C.の記憶を観覧しているだろ?

 それとも、もしや……

 

「ルルーシュ。」

 

「なんだスヴェン……いやこの場合、お前をどう呼べば────?」

「────お互い、素性を知っている者同士。 スヴェンでいい。 あの変な神殿で、何があった? そもそも、アレは何だ?」

 

「……俺も詳しくは知らない。 ギアス嚮団の、最奥に逃げたV.V.を追ったら扉が合ってその向こう側に、あの空間があった。」

 

 ルルーシュが一瞬悩んでから短く答える。

 やっぱり渋るよな。

 

 ……よし。

 

「ルルーシュは、()()()()()()()()()?」

 

「それは、()()()()()()だ?」

 

「どういう意味も何も────」

「────そもそもスヴェン、お前は地上にいた筈だ。 いつギアス嚮団の扉をくぐった?」

 

 俺も知らんがな。

 

「知らん。 気が付いたら訳の分からないまま、俺はあの変な空間でC.C.が自殺しようとしたところに居合わせただけだ。」

 

「自殺? C.C.がか?」

 

 いや、俺もビックリだわさ。

 ポーカーフェイスは維持しているので顔には出ないが。

 

「ああ。 その“訳の分からない”と言った時に、俺は何かを見たような気がした。 だからルルーシュも何かを見たのか聞いただけだ。」

 

「……俺は気が付いたら、あの変な空間にいて皇帝と相対していた。」

 

 お、そこは原作通りなのね。

 

「そして……奴を殺そうとしたが……ヤツはV.V.からC.C.と同じ不老不死の能力を受け取った後だった。」

 

 うんうん、良好だな。

 

「そして……C.C.が現れて俺は次の瞬間、気が付いたら蜃気楼の中でお前とC.C.たちを見た。」

 

 あり?

 ルルーシュ、やっぱりC.C.の過去を見ていない?

 だったらあのビクビクしながら俺たちの顔色を窺うC.C.の状態を知らないということか。

 ……仕方ない、原作アニメで見たC.C.の素性を俺が見たことにして話すか。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「なるほど……そう言うことだったのか。」

 

 俺からC.C.の話を聞き、今の様子にルルーシュは納得するかのような独り言を出す。

 

 そしてC.C.のことを話している間に俺の意識は覚醒し、聞きたいことが次々と浮かび上がっていた。

 

 例えば『今の状況は』とか『何故急にシャーリーパパの事を』とか『カレン達は全員無事か』とか『ライ(仮)はどうなった』とか。

 

 とかとかとか。

 

 だがそれよりも今、緊急に聞きたいことは────

 

「────ルルーシュ。 考え込んでいる様子ですまないがその……アマルガムの誰かを呼んでくれないか?」

 

「ん? どうした? ああ、アマルガムならば全員無事だ。」

 

 それは良かったけど、それじゃあないのだよ。

 

「いや、その……俺がどのくらい意識を失っていなかったのか分からないが、その……人間は生物であり、生きている限り生理現象がだな────」

 「────ハ?」

 

 ルルーシュがポカンと、呆気に取られた表情を浮かべてはハッとする。

 

「あ。 ああ、そう言うことか。 その……あー……」

 

 ルルーシュの目が泳ぎ、未だにハテナマークを浮かばせるC.C.で止ま────ゑ゛。

 

 ま、まさかこいつ────

 

「────あー、こいつの世話をしてくれるか?」

 

「畏まりました、ご主人様。」

 

 おおおおおおおヲをヲをいいいいいいいいいいいいいいい?!

 

「ま、待てルルーシュ。 人は言葉と言うコミュニケーションの道具が────話し合えばわかる筈だ。 C.C.もだ、嫌なら別に────あ、ちょ、待って────ア゛────」

 

 

 


 

 

 ___________

 

 ルルーシュ 視点

 ___________

 

「フー……」

 

 自室からイカルガ内へと通じるエレベーターの中に乗り、ゼロの仮面を両手に持ちながら力ませていた表情筋を緩ませ、肺いっぱいに留めておいたため息を一気に出す。

 

 ……ちゃんと騙せただろうか?

 

 察しの良いスヴェンだ、俺の表情だけでなく声だけでも俺の動揺がと複雑な心境を悟られていてもおかしくはない。

 

『アーカーシャの剣』と呼ばれたあの空間で、彼の過去らしき断片を見た。

 そして彼は多くは語らなかったが、まるで第三者による()()()()()()()から察する恐らくはC.C.の過去を彼は見たのだろう。*1

 

 ならば、C.C.は俺の過去を見たのか? もしそうだとしても彼女が記憶を失くすことと何の関係がある。

 彼女とシャルルの関係は、親しい者同士なのか? あの短いやり取りで少なくとも顔見知り以上だということは確かだ。

 スヴェンはあれほどの過去を持ちながら、何故他人に優しく居られる? 彼なりの理由が……動機があるとすればなんだ?

 スヴェンがアリエスの離宮にいたとして、何故俺やナナリーは覚えていない? 皇帝によるギアスか? 後でジェレミアにギアスキャンセラーを違和感なく受ける状況を作る。

 

 並列思考による自問自答が続き、エレベーターが下の階を刺し始めると俺はゼロの仮面をかぶって気持ちを切り替える。

 

 扉が開き、ブリッジにいるラクシャータがクルリと振り返り、彼女の近くにある端末にレイラが写っていた。

 

『お疲れ様です、ゼロ。』

 

「私のいない間の指揮、大変助かったよレイラ・マルカル。」

 

『ゼロ』として、珍しく俺は本心からの感謝の気持ちを送る。

『アーカーシャの剣』とあの変な空間、外部との時間の流れが少々異なっていた。 それでも、あの空間に居た俺がいなかった間は彼女が全体の指揮を執ってくれたことで被害は最小限に抑えることが出来た。

 

「追っ手は?」

 

『爆破したスルトとギアス嚮団に部隊の半分を置き、もう半分は私たちの追跡に割いたようです。』

 

「追跡と言ってもせいぜい私たちの後を追い、我々が迎撃したところで引きながら他の部隊たちが着くまで時間を稼ぐつもりだろうがな。 君たちはどう思う?」

 

『我々も同意見です。』

 

「そうか……彼が動かせる状態になれば、そちらの艦に移そう。」

 

『それまでアキトたちをよろしくお願いします。』

 

「ああ。」

 

 通信を切り、ラクシャータに仮面()を向ける。

 

「というわけだが、例の捕虜はどうだ?」

 

「カレンちゃんが連れ帰ってから一言も喋っていないわ。」

 

「そうか。 もう一度言うが、カレンを奴に近付かせるな。」

 

「わかっているけれど……そこまで重要かしら? 血液を摂取した時も反応しなかったし、ちょっと拍子抜けってところかしら?」

 

「予想通りならば……」

 

「???」

 

「いや、忘れてくれ。 調査の結果が出次第、私に直接送ってくれ。 私はこれからギアス嚮団の捕虜たちを尋問しに行く。」

 

 ラクシャータの答えが返ってくる前に、俺はそのままブリッジを後にしてイカルガ内の収容エリアへと歩く。

 

 早足で目的の部屋の前へと立つとここで自分の動揺が表に出ていることに気がつき、呼吸を整えてから扉を潜り抜ける。

 部屋の中では零番隊でも身体能力に優れた者たちが威圧をかけていることで落ち着かない様子の白衣を着た男性が俺を見てはギョッとする。

 

「私はゼロ。」

 

 内心とは裏腹に威厳と自信がたっぷり入った自己紹介を口にしながら、男性の向かい側にある椅子に座って手を組む。

 

 落ち着け俺。

 落ち着くんだ。

 動揺を悟られるな。

 

 これはただの尋問だ。

 手荒な真似はしないのだ。

 

 そう思いながら、俺は肺を空気たっぷりにしてから目の前の男に挨拶をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、()()()()()()()()()君。」

*1
*注*原作アニメ知識です




“スバルの黒歴史が、また一ページ。”




……堪えられませんでした。 (汗


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第254話 シャーリーパパ

「うーん……」

 

 アッシュフォード学園のクラブハウス────より正確には生徒会室────で、シャーリーは携帯を見ながら喉を唸らせていた。

 

 その姿はまるでどうやって自然にルルーシュをオペラに誘い、どうやってチケットを手渡すか悩んでいた時と似ていた。

 

「どうしたの、シャーリー?」

 

「へ? もしかして私ってば今の、声に出していたアンジュ?」

 

「いえ、先ほどからずっとうんうんと悩んでいる様子だったから……何かあった?」

 

「あ……えっと……私の家族の事だけれど、話して良いかな?」

 

「うん? 私は別に構わない……って、なんで?」

 

「ほら、アンジュって少し前に家のことがあったからさ。 アンジュのお父さん、病気なんでしょ?」

 

「……まぁ、ね。 でも最近は良くなってきているし、医者たち(ランドル夫婦)のおかげで喋るくらいまでは回復しているから。」

 

 アンジュはシャーリーから目を外し、生徒会室の外を窓越しに見る。

 

「この間なんて、電話から声が出てきてビックリして思わず受話器を落としそうになっちゃったし。」

 

「へぇー……アンジュもお父さんっ子?」

 

「ふぇ?! どどどうしてそうなるの?!」

 

「だってお父さんの話しているアンジュ、嬉しそうだったから♪」

 

「う……で、で?! シャーリーの悩みは?!」

 

 「アンジュ、逃げ方が下手ね。」

 

 「けどそう言う裏表のないところが彼女の人気の元なんだよなー。 流石は男子からの『彼女にしたい上位ランカー』。」

 

「あらそうなの? ちょっとその話、詳しく聞かせてくれないかな?

 

「奇遇だな。 俺も聞きたくなったよ。」

 

「え。」

 

 近くに居たマーヤの独り言を聞いたリヴァルの返しに、彼女と近くに座っていたルルーシュ(に変装したエル)は嫌な予感がするような笑顔をリヴァルに向けたそうな。

 

「う~ん……実は私の両親、二人ともよく出張に出るんだ。 特に中等部辺りからは二人ともよく家を留守にするようになって……だから私、寮に入っているの。」

 

「あー、なるほど?」

 

 「あの、マーヤにルルーシュ? 俺の肩を放してくれませんか?」

 

「(なるほど。 だからシャーリーは実家がトウキョウ租界内にあるのに、寮生活を送っていたのね……)」

 

「(私としては影武者よりも、この『学園生活』というモノが気に入────いや。 他の者たちに悟られない為にも、出来るだけ『ルルーシュ』として振る舞わなければ。)」

 

おーい────イデデデデデ?!」

 

「ふ~ん……そう言えばシャーリーの両親って何をしている人たちなの?」

 

「お母さんはブリタニア政府の役人で、サクラダイトに関わる地質調査を。 お父さんは……う~ん……製薬会社、かな?」

 

「“かな”って?」

 

「昔、家にいっぱい置いてある生物学の本とかを読んだりしていたから────あ! それと家に帰って来た時たまに消毒液の匂いがしていたから聞いたら、“お仕事でちょっとね”て言っていたし。」

 

「??? シャーリーは詳しく知らないの?」

 

「うん。 お父さん、あんまり仕事の話をしない人だから。 でもたまに寝ているとき、口癖みたいに言っていたよ? “人の為だから必要だ”って!」

 

「(“人の為だから必要”、か。 昔は私も、そう思って騎士を目指していたモノだ……)」

 

「ジノ。」

 

「ん? どうしたアーニャ?」

 

「変な顔。」

 

「へ、変な顔って……ただ考え事をしていただけだ。」

 

 そんな話を聞き、どこか複雑そうな顔をしていたジノにアーニャがいつもの調子(辛辣な言葉)で指摘する。

 

「全然似合わない。」

 

「お前なぁ……私だってこういう時はあるんだ。」

 

「トリ(頭)なのに?」

 

ナイトメア(トリスタン)は今、関係ないと思うが?」

 

「ジノはやっぱりトリ(頭)。」

 

「……もう、それでいいか。」

 

「悩みがあるのなら、口に出した方が良い。 ね、アンジュリーゼ先輩?」

 

「な、なんでそこで私に振るのかしらアーニャ?」

 

「………………………………ジノと婚約者だったから?」

 

 「婚約者『候補』ね! それも『元』が頭に付く奴!」

 

「今だから言うけど、ハッキリ言ってアンジュみたいな子って私のタイプなんだよなぁ~。」

 

 ア゛? 寝言が言いたいのなら放課後、校舎裏に来いやコラ。」

 

「お、もしかしてこれが噂に聞く告白って奴か────?!」

「────な訳ないじゃない! クッサいセリフ言ってんじゃないわよ! 鳥肌立つじゃない!」

 

「トリ(頭)同士……」

 

「んな?!」

 

「なははははははは!」

 

 アンジュは実に嫌がる顔をすると、ジノは笑いながら『今度こそ察せられないように』と思い浮かべながら、出来るだけ表面上でも『いつも通り(平常運転)』を装った。

 

 脳裏に蘇るのは緊張感が漂う最近の政庁内部。

 中華連邦の事もあり、これは予想内であった。

 

 ジノが問題視しているのはこのところ、何かとスザクとアッシュフォード学園に居る生徒会の事を気にかけている様子のレド。

 

「(宰相閣下の発案でスザクに付けられた親衛隊────コノエナイツ。 シュネーと言う方は純粋にスザクの人柄を知って好意的だがレドは……()()()()()。 ()()()他人から距離を取りつつも探りを入れている。 でも最近は特に焦っているようにも見えるのは何だ? 理由は分からないが、嫌な予感がする。)」

 

「う~ん……でお父さんから全然連絡が無いのって、初めてなんだよねぇ~。 お母さんは何も知らされていないし。」

 

「……シャーリーって、お父さんの事が好きなのね。」

 

「うん! 自慢のお父さんだよ!」

 

 シャーリーの屈託のない笑顔はまるで彼女の言った言葉を肯定しているかのようだった。

 

「(『自慢のお父さん』か。 私にも────ッ。)」

 

 マーヤはシャーリーの言葉に自分の父を思い出そうとするが、ただズキズキとした鈍痛が強まる一方と『()()()()()()()()()()()()()()()()』と言う考えから断念した。

 

 

 

 

 ___________

 

 ルルーシュ 視点

 ___________

 

 

『ジョセフ・フェネット』、45歳。

 ブリタニア内でも指折りの製薬会社に勤める20年のベテランでありながら、研究室に籠もらず珍しい病原やウィルスの出を探すために世界中を旅する出張に出る、珍しいアウトドア派の研究員。

 現在の妻ローラとは出張時に出会い、20代で結婚し、娘のシャーリーが生まれる。

 家庭内関係は良好であるが夫婦揃ってよく家を留守にしてしまう職に就いている為、娘のシャーリーはアッシュフォード学園の寮に入れている。

 

 それが今眼前で緊張から汗を掻いているジョセフに関して、(ルルーシュ)がこの数時間で調べられた『表』の情報だ。

 

 ギアス嚮団でジェレミアがライラとギアス能力者と思われる子供たちを保護したからある程度あそこにいた理由の予想は出来るが……まさかシャーリーが何故学園生活を寮で過ごしているがギアスと繋がっていた夢にも思っていなかったな。

 

「初めまして、ジョセフ・フェネット君。」

 

「き、君は────」

「────私はゼロ。 黒の騎士団の最高経営責任者だ。 さて、ジョセフ・フェネット君……いくつか君に確認したいことがある。 君はアッシュフォード学園のシャーリー・フェネットの父で間違いないかね?」

 

 ガタッ!

 

 ゼロの質問にジョセフは椅子から立ち上がり、部屋の中にいた者たちを俺は手を上げて制止する。

 

「む、娘は無関係だ! 彼女も、妻も何も知らない────!」

「────落ち着いてください、ジョセフ君。 先ほども言ったように、これはあくまで確認です。 

 では次にですが、貴方があの地下都市(ギアス嚮団)に来た経緯は『不死』に関しての研究を、クロヴィス皇子の元でしていたバトレー将軍直属の部下として、ですか?」

 

「……そうだ。」

 

「そしてクロヴィス皇子が私に撃たれ、立場が危うくなったことでバトレー将軍が出した命令に従ってナリタから研究資料などをトウキョウ租界へ移した。 その後、ブリタニア宰相シュナイゼルがバトレー将軍を保護し、今度は彼の元で研究をしていた。 何か違うところはあるかね?」

 

「……」

 

「答えたくないのならば、私はそれで構わない。 だが君が関係者だと、ナリタで保護されたとジェレミア卿本人が証言していると付け足そう。」

 

「……何も、違いません。」

 

「しかし君たちはバトレー将軍と共に、新大陸へと移動していた筈。 中華連邦領土への陸路、海路、空路共々の輸送記録に君たちの移動履歴が無い。 君たちはブリタニアの裏の組織(ギアス嚮団)が拠点にしていた、あの地下都市にどうやって移動した? それとも、最初から繋がって────?」

「────気が付いたら……バトレー将軍と我々は、新大陸からあの場所に居たのです。」

 

「ほぉ……ジェレミア卿、入ってくれ。 他の者たちは席を外してくれ。」

 

 俺の言葉に、零番隊の者たちは部屋の外で待機していたジェレミアと入れ替わる。

 

 「ゼロ、カレン()がスバルに会いたいと言っておりますが。」

 

 その際、一人が俺に小声で上記を伝えてくる。

 

そうか。 許可を出す。 さて、ジョセフ君……詳しい話を聞こうではないか? 君たちと……君と、ギアス嚮団との関係を?」

 

「ッ……関係も何も、私たちは急にあの場所に居た────」

「────しかしそれ以前に、君やバトレー将軍たちは『コードR』の一環としてここにいるジェレミアと行方不明のキューエル卿たちを改造した。 彼らの生死状態を偽装した上で。 これはギアス嚮団に移動する前の話だ。」

 

「……」

 

「『緑髪の少女』、と言えば分かるか?」

 

「ッ?!」

 

 やはりな。

『毒ガス』と偽装して、保管するほどの()()()()だったC.C.、バトレーと彼の部下たちにとっては重要度がかなり高かったのは間違いない。

 現に目の前のジョセフは動揺している。

 

「君に……君だけには話そう。 あの少女は私が今、身を預かっている。 コードとやらの事も知っている。 故に君の突拍子もない話は、ある程度の理解はできているつもりだ。」

 

 それに『転移』と言う現象は、以前スザクの勧誘時の『式根島から神根島に突然移動した』で俺も経験しているからな。

 

 未だに原因は不明だが。

 

「……信じて、くれるのですか────?」

「────それを踏まえた上で問おう。 君は確か、ジェレミアに保護されたときに“重要な情報がある”と言っていたらしいな? それはどのような事だ?」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「……詳しい事は、バトレー将軍だけが────」

「────では君自身、何も知らないのだな?」

 

「その……将軍は何かひどく怯えていた様子で、“話さないのは部下の安全の為だ”とだけ仰っておられました。 他の方たちや世間が彼をどう見ているのかは別にして、将軍は最後まで部下思いの人でした。」

 

 俺は隣にいるジェレミアに視線を移すと、彼は首をわずかに縦に振ってジョセフの言葉を肯定する。

 

「付け加えると、私も感心するほどに彼は立派に皇族への忠義も果たしました。」

 

 ジェレミアにこうまで言わせるとはな。

 バトレーは『善人』とはお世辞にも言えないが、周りの者たちにとって彼はそれなりの人格者だったのだな。

 なぜその他人を思いやれる気持ちを、名誉ブリタニア人や旧日本人(イレヴン)たちに向けなかった?

 

 今更ではあるが、少しでもブリタニア政府とナンバーズたちの関係が良い物であったのならば、黒の騎士団は今とはかなり違う形になっていただろう。

 

 まぁ、以前のエリア11の扱いが酷かったおかげで未だに突発的な暴動が続いていることは俺たちにとって好都合だが。

 

「ですがライラ皇女殿下を救われた時、息を引き取る前に最後の力でこう仰っていました────」

「────ん────?」

「────“この世界は違う”、とだけ。」

 

 “この世界は違う”?

 

 何とも荒唐無稽な……まるで模範解答の無い、テスト問題だな。

 

 だがどこか違和感を覚えさせるそれは脳内には留めておこう。

 

「そうか。 情報提供、感謝するよジョセフ君。」

 

「その……我々は、これからどうなるのですか?」

 

「無論、国際法に則って人道的に『捕虜』として扱う。 しかし君たちとギアス嚮団の者たちは機密情報に触れている上に事情が事情だけに、他の捕虜と隔離するが。」

 

「そ、そうか……」

 

 俺の言葉を聞いて、初めて緊張感を緩めたジョセフはホッと息を出して安堵する。

 

 バトレーと彼の部下たちがジェレミア達にやってきたことを考えれば無理もないが、ギアス嚮団やエデンバイタル教団と比べれば『生温い』。

 

 特にエデンバイタル教団。

 映像は周りの者たちから、グリンダ騎士団の反応を聞かされる上で止められていて未だに拝見できていないが。

 

「それと……娘と定期的な連絡を────あ、いや。 私たちは家族とのやり取りをしている物が数名いるのですが────」

「────良いだろう。 無論、目は我々の者たちが目を通すが。」

 

 色々と話せて、幾分か冷静になった。

 問題は山積みだが、今はまず皇帝だ。

 

 あの空間が崩れる中、宙に浮いたままの『扉』をくぐったのは蜃気楼に乗った俺とナイトメアの手の中にいたC.C.にスヴェンだけ。

 

 もしあの空間から出入りできる手段があの扉のみならば、皇帝のいない帝国に……いや、エリア11に攻め込む好機となる。

 

 ナナリー、もう少し辛抱してくれ。

 

 そう言えば、さっきから何か忘れているような気がするが……まぁ急な事は起きないだろう。

 

 

 


 

 

 い、今(スバル)の目の前で起きていることをありのまま説明するぜ?!

 

『身体を拭こうと服を脱がせようとしたC.C.(記憶なし)を無理やり激痛の走る体を動かして両手ギプスで押し返していたら部屋の中に入ってきたぶっちゃん(毒島)とカレンが入ってきて視線が刺さってきた。』

 

「これは一体どういうことだ?」

「ネェスバルコタエテヨ。」

 

 で、スンとした毒島に目からハイライトが消えたカレンがガガ、ガがガ、が〇ガイガぁぁぁぁぁぁ。

 

「あの……お知り合いですか?」

 

「ん?」

「へ?」

 

 お、良かった。

 毒島とカレンのヘイトがC.C.に向かったぞ。

 にしてもカレンお前……集中力無さすぎじゃね?

 

「もしやその……奥方様()()でしょうか────?」

「────そそそそそそそそそんな訳ないじゃないのぉぉぉオホホホホホホホホホホホホ! ↑↑↑もう何を言っているのやら────!」

「────きゃ?!」

 

 べちょ。

 

 ぐああああああああ?!

 カレンの奇声にC.C.が驚いて落としたびちょ濡れタオルがむき出しの首にぃぃぃぃぃぃ?!

 き、気持ち悪い!

 

「??? ってC.C.、アンタ……拾い食いでもした?」

 

 流石のカレンでもビクビクする気弱なC.C.を『変』と感じるか。

 ここは一応、誤解が無い様に説明しよう。

 

 毒島も無言で『説明求む』の(プレッシャー)を向けてくるし。

 

「毒島にカレン、実は今のC.C.は記憶を失くしている。」

 

「記憶喪失とやらか……どの程度の物だ、スバル?」

 

 おお、さすがぶっちゃん。 頭の切り替えが早い。

 

「???」

 

 カレンはもう少し彼女を見習ってほしいかな?

 しょぼーん顔は可愛いけれどもさ。

 

「そうだな……俺の見たところ、1()0()()()()()までの記憶しか持っていないと思う。」

 

「あー、道理で……てかアンタ(C.C.)、スバルに何をしていたの?」

 

「あ……その……ご主人様に(この方の)世話をするよう、承って────」

 

 C.C.。 言い方。

 

 「────よっしゃスバル、表出ろ。」

 

 あらやだこのブチ切れカレンお熱いわ、いやん♪

 

「記憶を失くしているところを付け込むのは私もどうかと……」

 

 ちゃうねん毒島、なんかめっさ勘違いしとるで君。

 

「フフ♪ 今のは冗談だからそう焦らないでくれたまえ。」

 

 ぶっちゃん、ついにカレンやマーヤレベルの読心術を得たんかいな。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ほぉ、C.C.はギアス嚮団とそのような繋がりが……」

 

 俺がそれとな~くした説明に毒島は腕を組みながら頬杖をしてよそよそしいC.C.を見る。

 

「まさかC.C.が、ギアス嚮団の人体実験の所為で不死の体になっていたなんて────」

「────えっと、あの────?」

「────辛かったよねぇ~……ショックの所為で、記憶を失くすなんて……」

 

 そして早くもハテナマークを出しながら困惑するC.C.を抱きしめながら慰めるカレン。

 

 二人に話した内容は勿論、アニメで知った本当のことからはちょっと変えてはいるが概ね問題は無いだろう。

 

「それでスバル、体の調子はどうだ?」

 

「まぁいつも通り、自力で動くのは難しいな。」

 

「そうか。 それとカレンから奇妙な事を聞いたが、君はどうやって地上から地下に移動したのだ?」

 

 あ。

 あー……流石にそれ聞いちゃうよね。

 そもそも式根島から神根島に移動(転移)した時も深く追求はされなかったけれど、流石に今回は聞くか。

 

「……」

 

 どうやって説明しよう?

 

「カレンの慌て様が尋常ではなかったのでな、少し気になっただけだ。」

 

「う。 そこまで慌てたワケじゃないし────

 

 カレンが反論せずにそっぽを向くって、どれだけ慌てたのだろう?

 

「今にも泣きそうな顔で“スバルが居なくなって見つからなかったら私~”────」

「────わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 なるほど。

 でも今は『転移』の事だ。

 

「……俺も詳しい事は分からない、気が付いたら地下に居た。」

 

「“気が付いたら地下に居た”?」

 

 冥夜たん似ヘアスタイルを維持するぶっちゃんに復唱されてハテナマークを浮かべながら頭を傾げられても困る。

 

 だって俺もなんで地下に居たのか分からないし、そもそも俺は『ライ(仮)との戦闘が終わったぜベイビー!』と思って気を抜けながら目を瞑ったら次の瞬間、自分の脳天を撃つ用意をするC.C.と驚愕するクルクル皇帝が眼前にあったのだから俺自身もワケワカメだよ?

 

「ふむ……ギアスや不死やスバルの事もあることだし、そう言うモノか。

 

 何か知らんが、ブツブツと何か言いながらも毒島が納得しているので結果オーライにしておこう。

 

 しかしどうしよう……

 俺、やっちまったぜよ。

 

 ハァァァァァァ……

 完全に巻き込まれたライラが泣いていてカッと頭にきて大勢の前で盛大に活躍しちまったよ、俺。

 

 今までは上手くアマルガムや俺の行動の主導権を『黒の騎士団に便乗した』とか『各人物にそれとなくにおわせて自発的に行動させた』とかで自分から注目を遠ざけていたのに……

 

 中華連邦でカレンを助けたときはアマルガムの皆とルルーシュの敷いた緘口令とかのおかげで何とかなったと聞いているけれど、今回は流石に無理だよなぁ。

 

 ライ(仮)との戦闘もばっちり見られているだろうし。

 

 “大勢と言っても零番隊だけだろ”だって?

 

 零番隊とカッコイイ名前が付いているけれど、あの部隊って正規の軍人たちで固められた部隊ではないし黒の騎士団の守秘義務もアニメで描写されているように結構ディートハルトの諜報部とかに丸投げされている。

 

 隊長である木下も、完全に零番隊とは管轄が違う壱番隊隊長の朝比奈にギアス嚮団の虐殺を暴露しているし。

 

 それにクソショタジジイ(V.V.)には会えず仕舞いなまま結局ギアス嚮団の襲撃は終わったしで消化不良感は結構ある。

 

 ……まぁ、なってしまったモノはしょうがない!

 しかし気弱なC.C.をあやすカレンの絵図ってアニメでもなかったから目の保養になる。

 

 特にカレン(3位)C.C. (12位)の二人って薄着を好む傾向だから、そうやって密着すると双山が重なって山山が♪

 

「……」

 

「様子はどうなっている、毒島?」

 

 視線を感じ、困惑するC.C.の頭を撫でているカレンから毒島に目を移しながらそう問う。

 

「そうだな……簡単に言えば、ムスペルハイム作戦はおおむね成功したと言っていい。」

 

 っしゃあああああ!

 あれだけやって、『ざんねんながら スルトは けんざいのようだ』とかはあんまりだからな!

 

「スルトと地下都市の破壊、および研究員や実験体の保護は()()出来た。 それにコーネリアとピースマークの者たちも多少の怪我はしていたが無事救出している。 今はリア・ファル内で手当てと審査を受けている。」

 

 二回目のよっしゃあああああ!

 

「ただ……ブリタニア軍が攻め込んできて、急な避難のため多少の死人は出た。」

 

 ……“ぶりたにあぐん が せめこんできた”……だと?

 

 どうしてそうなった?

 

「あ、ショック受けている。」

 

 人の内心を言葉にしないでくれカレン。



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第255話 一時の静けさ

お待たせしました、次話です!


「……」

 

 中華連邦が合衆国中華に変わってからガラリと変わりつつあるアジア大陸の不安定な勢力圏を避け、カールレオン級2番艦のハイシュナイゼンで『エリア11から新大陸から帝都ペンドラゴン』というルートをシュナイゼルは一週間に必ず何度か行っていた。

 

 航空浮遊艦が出来てからわずか数時間で済ませられるこれは海路しかなかった時代からずっと────否、シュナイゼルが『第二皇子』の肩書と共に『帝国宰相』の職に就いてから行われていた。

 

 理由は単純明白であり、ブリタニアをシュナイゼルが実質動かしているが彼は『皇帝』ではなくあくまで『宰相』である。

 

 よってシュナイゼルは帝国の政などをまとめた報告を皇帝であるシャルルに手渡し、シャルルの出す質問や提案などのやり取りをしてブリタニアを動かしている。

 

 殆ど身を表舞台から引いている状態とはいえ、未だにシャルルの威厳は強大である。

 

「……」

 

 そんなシュナイゼルは自分の報告に手をつけられていない様子の机から、次に庭園に視線を移したのは庭園に咲いている花の状態。

 

 庭園は手塩に掛けられて美しく、見栄えが良い。

 

 良いのだが────

 

「(────何日か、世話がされていない……)」

 

 余程の目利きでない限り、添えられた花は少し元気が無かった。

 表舞台から引いたと言っても人間である限り精神衛生上、『時間を使う趣味』は必要不可欠である。

 

 世間では完璧人間で通っているシュナイゼルでさえ、遺跡やアンティーク漁り*1をしている。

 

『庭園の花の世話』も、マリアンヌが亡くなってからシャルルが始めた趣味の一つであった。

 

『時々姿を消す』案件は以前から度々ある前例としても、今まで無かった『手の付けられていない提供報告』と『世話のされていない庭園』、そして先日の『東ユーラシア事件』などが揃えば────

 

「────どうした?」

 

 いつもの穏やかな笑みが顔から消したシュナイゼルが無言のまま踵を返してそのまま立ち去ろうとしてところで威圧感マシマシのシャルルとばったりドアから出たところで出会う。

 

「ッ。 これは失礼を陛下、散歩でしたか。」

 

「何やら急いでいる様子だったが?」

 

「いえ。 特に────」

「────シュナイゼル。」

 

 名前を呼ばれただけでシュナイゼルの心拍数は上がり、嫌な汗がじっとりと出る。

 

「ワシは質問をした。 何か、あったのか?」

 

「……陛下の部屋と庭園の様子に“もしや”と思っていました。」

 

 シュナイゼルは言葉を濁すより、限りなく事実に近い言葉を発した。

 

「その“もしや”とは、()()()()()に関してだろうか?」

 

「流石です────」

「────世辞は良い。 それよりシュナイゼル、貴様のやろうとしていたことをせよ。」

 

「……(は?)」

 

 想ってもいなかった言葉がシャルルから来たことで、シュナイゼルは(内心に留めたが)困惑した。

 

「……よろしいのですか、陛下?」

 

「何がだ?」

 

「情報は人に知られれば知られるほど予期せぬところで漏れるモノです。 『陛下が行方不明』など特に、前代未聞────」

「────()()()()()()()()()だ、シュナイゼル。 貴様はやりたいようにすれば良い。」

 

「それでは、私の名で部隊を動かしても宜しいでしょうか?」

 

「援軍の行き先はエリア11であるのならば、既にその用意はしてある。」

 

「恐れ入りました、陛下。 やはり黒の騎士団と『合衆国中華』と名を変えた中華連邦の動向を把握しておられましたか。」

 

「世辞は要らぬ。 それよりもこの一連、貴様はどう見ておる?」

 

「“どう”、とは?」

 

「中華連邦は先の内乱にて弱体化しかつての区は名を変えて国を主張し、EUは半数以上の国が既に植民化されておる。 その中で、黒の騎士団は恐らく」

 

「」

 

 

 

 

 

 

「「「「皇帝陛下が……行方不明?」」」」

 

 トウキョウ租界の政庁内の会議室にて、シュナイゼルからの極秘情報を口にしたナナリーの言葉をギルフォードやグラストンナイツたちは復唱した。

 

「……」

 

 クロヴィスに至っては他の文官たちと同様に目を見開きながらあんぐりと口を開けていた。

 

「帝国全土でも、ごく一部の者だけしか知らされていません。 このことは内密にお願いします。」

 

「皇帝陛下が……」

「正式な宣戦布告が出来なくなるぞ?」

「それ以前に、これでは中華連邦周辺にある『国』と主張している領土に直接的な手が……」

 

 今までブリタニアが『花嫁奪還事件』後に手を出していた領土は、一般的に『瓦解した中華連邦の元領土』の認識で行われていた。

 

 中華連邦の崩壊後、『合衆国中華』などは()()()()として政治的に『国』として世界に認められていない()()()()だったので、皇帝による正式な宣戦布告が無くとも宰相や皇帝の代理である者たちが独自に動いて植民地化しても問題は無かった。

 

 しかし黒の騎士団を背後にまだ余力を残した合衆国中華との同盟や協力関係に次々と『国』を主張して手を結ぶ領土は日々増えていき、アジア大陸周辺はいまやブリタニアと合衆国中華との取り合いとなっていた。

 

「これでは、先制攻撃が……」

「海軍や空軍を今から増強すれば────」

「────だめだ、明らかに異常があることを宣伝してしまう。」

 

 エリア11は地形的に合衆国中華に攻め込む拠点として最適ではあるが、同時に攻撃を受けやすい為ギルフォードたちはいつでも攻勢に出られる準備を『暴動鎮圧の効率化』と称して駐屯軍の拡大や強化をしてきた。

 

 しかし先制攻撃を可能とする皇帝がいなければ『守り』しか選択できなくなる。

 

「大丈夫です。 エリア11の状況は宰相閣下もご存じですので、援軍を寄こすとのことです。」

 

「(皇帝がいないということは、ナナリーを守ることに専念できるということだけど……援軍とはもしや、ビスマルク達だろうか? もしや宰相はこのことを視野に入れてジノたちや僕を前もってエリア11に待機させたのか? 嵐の前の静けさだな。)」

 

 ナナリーの言葉にスザクは静かにそう思いながら、毅然としながら総督として対応するナナリーを横目で見た。

 

 その姿はどこか幼少の頃に見たルルーシュと似ていた。

 

 

 


 

 

 

 リア・ファルの中で、とある少女の声が医療室内に響いていた。

 

 「お゛兄ち゛ゃ~ん゛! よ゛がっだよぉぉぉぉ!!!」

 

 ピースマークエージェントの『ドロシー』としてそばかす(化粧)、地味メガネ(伊達)、三つ編みツインテ(地毛)の変装をしたオルドリンは包帯などを頭や腕に巻いたオルフェウスに泣きながら抱き着いていた。

 

「こらぁぁぁぁぁ! オルフェウスお兄ちゃんを殺す気かぁぁぁぁぁ?!」

 

 余談だがオルドリンが抱き着いたのは負傷したところを避けた首であるので、オルフェウスは顔を青くさせながらも負傷した腕でジタバタしていたと追記する。

 

「あ。」

 

「ケホ、ケホ!」

 

 オルフェウスほど重傷ではない様子のクララの叫びに、オルドリンはハッとして腕を離すとオルフェウスは涙目になりながら咳き込む。

 

「ご、ごめんお兄ちゃん! 大丈夫?」

 

「て、手を振っていたエウリアを見たような気がする……」

 

「む~……オルフェウスお兄ちゃんってば引きずり過ぎ────」

 「────ってちょっと待ったぁぁぁぁぁ! アンタ誰よ?! 『オルフェウスお兄ちゃん』って何?!」

 

 そこでようやく気付いたオルドリンはビシッとクララを指差した。

 

「え? 誰って……オルフェウスお兄ちゃんの恋人だけど?」

 

 「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「(あの双子がこのように、接せる日が来るとは……)」

 

 部屋の端でオルドリンの付き添いとして来ていた辛気臭さ純度100%の変装中のウィザード(オイアグロ)は器用に仮面下のホロリと出た涙をハンカチで拭った。

 

「く、クララ────」

「────な~に、お兄ちゃん?♡」

 

 オルドリンはキラキラしながらもどこか色気づくクララの仕草とタジタジに気まずくなるオルフェウスを互いに見てはジト目になる。

 

「お兄ちゃんって……もしかして()()()の趣味なの?」

 

 「ちょっと待てオルドリン?! どこがどうなったらそう考えつく?!」

 

「だってだってだってだって! お兄ちゃんってばミス・エックス(15歳(?))ネーハちゃん(15歳)に────!」

 「────違う。 誓って違うぞオルドリン。 俺は────」

「────あ。 それならクララは愛人でもいいよ────♡」

 「────え────」

「────いやああああああ?! まさか私のお兄ちゃんが少女嗜好だなんて────?!」

 「────違うから俺の話を聞いてくれ頼む。」

 

「いやぁ~、モテる男は辛いね~。」

「ウフフフフ、良いわねぇ~。」

 

 ウィザードとは違う部屋の端でニヤニヤしながらラブコメ空気に、ソフィ(ランドル博士)サリア(ウィルバー妻)はホッコリした。

 

「「(タケル/ウィルバーとの子供が出来ればこうなることもあるのかしら?)」」

 

 そしてソフィは蓬莱島で長らくの昏睡状態から目覚めてリハビリ中の夫タケル、サリアは紅蓮と蒼天のデータでさらなる探求をするウィルバーを思い浮かべた。

 

 「ブツブツブツブツそうじゃないんだ罪滅ぼしとかの為でもなくてただ単純に格差社会の中で生きるには女子の教育機関が不足していることに目を付けてこれは金になると思ってブツブツブツブツブツブツブツブツ制服のデザインも自らしたからと言って決してそう言う趣味を私はブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 

 そして『少女嗜好』と言う言葉にグサリと精神的ダメージを受けた様子の貧困層の子女も支援してまで手広い受け入れをしているマドリード租界にある全寮制の一貫女子校の理事長であるあしながオイアグロおじさんならぬ仮面オジサンウィザードは膝を抱えながらブツブツと独り言を零した。

 

「ぅ。」

「あぅぅ。」

 

 ナデナデナデナデナデ。

 

 そしてそんなウィザード(オイアグロ)を見て、医療室の手伝いをしていたエデンバイタル教団の孤児たちは彼の頭を撫でて慰めようとしたそうな。

 

 ……

 …

 

「それでお────ネリスさん? 私、この間ようやくスフレパンケーキを一人で作ったんですよ────!」

「────そうかそうか、それは良かったな。」

 

 オルフェウスやクララと同様にリア・ファルの部隊に保護されたコーネリアはニコニコと笑顔のままウキウキとする変装中(笑)のユーフェミアに艦内を案内されていた。

 

「「「「「???????」」」」」

 

 地上部隊に保護され、搭乗前にクルーは彼女に関して『内通の協力者』との説明を受けていてがまさかこのようにご機嫌なコーネリアを見るとは思っておらず二人の姿を見ては宇宙の果てを見た猫のような表情を浮かべた。

 

 それは噂の『ブリタニアの魔女』の異名を持つコーネリアが、まさかこの様な無防備かつ普通の人間っぽい仕草を晒すような人物とは思っていなかった事もあった。

 

 「あれがコーネリア皇女?」

 「なんだか前に見たときより生き生きしていないか?」

 「ああ。 こう……『健康美人』的な────?」

 「「────分かる。」」

 

 だが彼女が浮かべている表情以上に、テレビなどで出てくるより『美人』であったことが大きかっただろう。

 

 理由としては単純にコーネリアは昔から先輩(ノネット)に何かとアドバイスをする知人(カノン)に影響され、公私の場所では常にウォーペイント(化粧)をしていた。*2

 

 そして数々の所業と成果に伴い、増していく責任(重圧)に肌の荒れなどを隠すために化粧は厚化粧へと変わっていった。

 

 だがユーフェミアの行政特区とブラックリベリオンでの出来事をきっかけに、エリア11の総督の責務放棄、貴族社会から離れていたこと、満足に化粧品を買える状況ではなかったことが重なったことが幸いして彼女の肌は本来の健康的な美へと変わった。

 

「あ、それと後でネリスさんに話があるとレイラが言っていましたよ?」

 

「レイラ・マルカルが?」

 

 コーネリアは先ほど廊下ですれ違ったクルーの端末から目に入った情報と、東ユーラシアで感じたこと、そして近くの黒の騎士団の艦隊と共に飛んでいる方向を星や太陽の位置から大まかな進路を思い浮かべた。

 

「……そうか。 ユ……“ゆーちゃん”に少し頼みたいことがある。」

 

「???」

 

「一般的な情報でもいいので、調べものができる端末を貸してくれないか?」

 

「(“ゆーちゃん”……姫様、それはもしやエニアグラム卿に付けられたご自身のあだ名の転用ですかな?)」

 

 余談だがコーネリアの付き添い兼護衛として二人の後ろを歩いていたダールトンは庇護欲に浸ったそうな。

 

「良いですよ? でも私からも()()()があります。」

 

「そうか。」

 

 ……

 …

 

『ゼロ、例の会談は早く済ませたほうがよろしいかと申し上げます。 このまま長引かせれば長引かせるほど────』

「────分かっているディートハルト。」

 

 イカルガではディートハルトからの通信に、ルルーシュはゼロとして自室とは違う個室にて答えていた。

 

「君が懸念する理由は分かる。 だが今は────」

『────今の彼は負傷していると聞きました。 ならばこそチャンスなのでは?』

 

「なぁにアンタ? “点滴に自白剤を入れろ”とでも言う気?」

 

 ディートハルトはゼロの隣にいたラクシャータに視線を移し、表情を変えずに口を開ける。

 

『あくまでも話し合いですので、その必要はないでしょうラクシャータ。』

 

「その必要があればするとでも────」

「────ディートハルトの言いたいことは分かっているが、体面もある。 このまま彼に対して威圧的な行動を取って他の者たちが良くない感情を我々に一度持つことになれば、そのわだかまりを失くすことは至難の業だ。 これからの活動に支障が出る可能性も捨てきれなくなる。 ならばこそ、恩を売る方が得策だ。」

 

『ですが────』

「────蓬莱島に帰還次第、君も参加させて会談を即時開く予定だ。」

 

『……わかりました。』

 

 ゼロは腕を組んで考え込んだそぶりをしてから言を並べるが、ディートハルトは更に表情をスンとさせてから通信を切る。

 

「……」

 

「お疲れ。 栄養ドリンク、飲む?」

 

「いや、遠慮しておこう。」

 

「変なモノは入っていないわよ?」

 

「いや……少し、一人で考える時間が欲しい。」

 

「そ。 地下都市で保護した子たちを診てきていいかしら?」

 

「ランドル博士たちを信用できないのか?」

 

「んー、彼女の専門は脳科学だからね。 精神的なケアは問題ないでしょうけれど、人間の体は複雑だからね────」

「────ラクシャータ君、一つ聞いていいか?」

 

「ん?」

 

「医者として、君の意見を聞きたい。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「そうか、礼を言う────」

「────私も一応かじっているだけだからさっきとは逆の事を言うようだけれど、アンタの質問はランドル博士にした方が良いわよ?」

 

「いや。 恐らくは君の言う通りだと、私も思う。」

 

「ふ~ん……んじゃ、行ってくるわ────」

 

「────ああ。 それと、()()()()はくれぐれも丁重な扱いをすることを忘れないでくれ。」

 

「ハイハイ。」

 

 ラクシャータはヒラヒラと手を振って了承したことを示しながら個室を出ると、ゼロは天井を仰ぎながらため息を出す。

 

「(ディートハルトの危惧していることは尤もなことだ。 俺でさえ、ずっと考えて最も有利かつ最高のタイミングで話をするつもりだったからな……しかし、彼の過去らしきものを見た今ではどうも気乗りしない……そもそもその所為でラクシャータに彼を診させ、イカルガでも防諜上最も安全な俺の部屋にC.C.と共に────)────あ。

 

 ここでようやく一段落したルルーシュはハッとした表情を仮面の下にしながら立ち上がっては自室に繋がるエレベーターに乗る。

 

「(俺は部屋を出る前に、様子のおかしいC.C.になんと言った? “あいつの世話をしろ”だったはずだ。 いや彼だから間違いはない筈だが────いや待て、その前に俺は別の何かを忘れている気が────!)」

 

 思考がどんどんと加速していく中、ルルーシュはそのまま早足でエレベーターの扉が開くとほぼ同時に自室へのドアを開けた。

 

「────“まーでゅーかすさん、はっしゃかんとびらを”……“かいほうしんろいちいちぜろ”? “じゅんこうみさいるはっしゃ”?」

 

 ドアを開くとロングの緑髪を三つ編みにしたポニーテールを青いリボンで結び、茶色のタイトスカート軍服を身に纏ったC.C.がスバルの持つカンペのセリフをたどたどしく口にしている場面にルルーシュは出くわす。

 

「……ッ……ッッ……ッッッ……」

 

 ちなみにカレンは自分の腹を抱きながら必死に笑うことを我慢し、隣にいた毒島は携帯でC.C.を撮っていた。

 

 「ナニコレ。」

 

 困惑したルルーシュの声だけが静かになった室内に響くとカレン達の視線はスバルへとを向けられる。

 

 

 


 

 

 いや “なにこれ”と言われてもファンへのサービスの一環として前から時々ドアップで安産型のヒップラインや明らかに制作側のこだわりのある見事な丸みをした臀部を強調する白の超短いぴっちり短パンに横乳が見えそうでへそと腕が肩から先が丸出しの袖なし丈が短いぴっちりタンクトップ服装のC.C.は一ファンとしては超喜ばしくてありがたいのだがこういざ目の前にすると彼女のファンサービスファッションってどこからどう見ても防寒対策がお世辞にも良いと呼べなくて見るからに寒くて今にも風邪を引きそうな薄着だからカレンと毒島に手伝って貰って部屋のクローゼットを無断で漁ったのは悪いと思うけれど流石に成長したナナリーを想定した女性物の服が出てきたときは固まって困惑したカレンと毒島に弁護したから勘弁してくれルルーシュと思いつつもさまざまなデザインの服が次々と出てきて『せや今の気弱なC.C.なら素直に中の人の他作品セリフを言わせることが出来るのでは?』という、わりとしょうもないアイデアに駆られるままフォ〇っぽい衣装を着せようとしたけれど流石にアニメ版と違って劇場版で見たあのキツイ口調と性格は今のC.C.には無理と断念して今度はコードギアスでイギリスということでセシ〇アのセリフを言わせていたが時間が経つにつれてカレンと毒島からの視線が気になったので途中で止めさせて“今度はStri〇erSのリィンたんや!”と意気込んだものの“どこかライラとかぶるから風花にしようかな?”と思ってどのセリフを言わせようと迷っていたらカレン達が物理的に俺に危害を加える想像が脳裏を過ぎって谷間ちゃんことエンジェル〇リィのセリフを言わせたら案外カレン達への受けが予想以上に良かったから次は神無(かんな)ちゃんのセリフを言わせたのだけれどどこか切なすぎて俺が耐えられずテッサに急遽変えたらこれがカレンだけでなく予想外にも毒島に大受けをして二人ともノリノリに────

 

「────コホン。 もう一度聞くが、何だこれは?」

 

「お帰りなさい、ご主人様。」

 

「あ、ああ……ただいま。」

 

 おお。

 いつものC.C.とは違う様子にルルーシュがゼロの仮面の下でタジタジになるのが丸わかりだ。

 

「それでこれは一体どういうことだ?」

 

 あ、ハイ。

 答えますから仮面の下からでも分かるC.C.と同等と言うかハイパーボリア・ゼロドライブレベルの冷た~い呆れのジト目光線を向けてくるのはやめてくれ。

 向けるならせめて絶対零度に留めておいてくれ。

 

「彼女の服装が寒そうだったから、温かいものを見繕っていただけだ。」

 

「そうかそうか。 その手に持ったカンペは何だ?」

 

「彼女に発音と人の前で話をさせる練習をさせていた。 そうすれば、話しやすいだろう?」

 

「……ふむ。 では毒島君が持っているその携帯は?」

 

「ムラが無いかどうか、あとで見直す為の記録だ。」

 

「…………………………彼女の髪型も変わっている理由は?」

 

「俺の手先のリハビリだ。」

 

「………………………………そうか。」

 

 セェェェェェェェフ!

 

 完全に退路(言い訳)を断たれそうになった俺は前以てそれらしいことを理由に答えると、ゼロことルルーシュは間を開けながらも渋々とそれを受け入れた。

 

「スバルと毒島には以前言ったと想うが蓬莱島に戻り次第、例の話をしたい。」

 

 “例の話”?

 ってなんだっけ。

 

「そうか。 ここで君がそれを口にするということは、レイラだけでなくカレンも参加させるという認識でいいかな?」

 

 どゆこと?

 

「???」

 

 あ、カレンも目を点にさせてショートした頭からハテナマークを飛ばしている。

 

「ああ。 それと、君の祖父である桐原殿と師の藤堂も参加させたいと思っている。」

 

 いや、マジにどういう事だってばよ?

 

そこまでの大事……分かった。 レイラには私から伝えよう。 それと、コーネリアの事だが────」

「────あ!」

 

 お、カレンが復活(再起動)した。

 

「そうだよゼロ! あのネリスって人、やっぱりコーネリアだよね?!」

 

「ああ。 実は俺も少し前に知ったことだが彼女は反ブリタニア組織のピースマークの一員としてギアス嚮団を追っていた。 過去の事もあるだろうが、当時は彼女にも立場というモノがあった。 今はこちら側に協力的と見てくれ。」

 

「……」

 

 むむ、カレンがぷっくり餅不服顔になっとる。

 爆発する前にガス抜きをするとしよう。

 

「カレン────」

────分かった! 分かったわよ! でも扇さんや藤堂さんたちにはどう説明するつもり?」

 

「……それはピースマークにいる変装のエキスパートに任せる。」

 

 オルフェウスに変装の依頼か。

 アニメのユーフェミアやオズO2漫画で見たオルドリンのクラーク・〇ント並みの変装(笑)よりは幾分かマシになるだろうな。

 

「いやいやいやいやいや、流石にお飾り姫とは色々違うから無理があるでしょ?!」

 

 コーネリアってしっかりな年上────ゲフンゲフン、ビシッとしているからなぁ……

 こう、普段から『位とプライドの高い人です』オーラを発しているし。

 

 ユーフェミアが絡む時以外は。

 まぁ、これはナナリーが絡むときのルルーシュにも当てはまるのだが。

 

 あとオズで見たギネヴィアとカリーヌとマリーベルとか。

 

 ……なんだか重いな、ブリタニア皇族の家族愛って。

 

「……君がそこまで回復したことは喜ばしい事だ。 俺の部屋から動けると思うか、スヴェン?」

 

 そう言えば記憶喪失のC.C.がいるということは、ここはイカルガ内にあるゼロの自室だったか。

 

「すまない、悪い事をしたな────ッ。」

 

「ちょ、ちょっと!」

「大丈夫か?」

 

 座っているベッドの上から退こうして足が床と接触した瞬間、下半身中から襲う激痛に俺の体がよろけるとカレンと毒島が肩を貸す。

 

「あ、ああ。 少し立ち眩みがしただけだ────」

「────あちらのクローゼットの中に車椅子がある。 それを使えばいい。」

 

 用意周到だな、ルルーシュ?

 その車椅子、絶対にナナリーの為に取っておいた物だろ?

 だが今としてはありがたい。

 

「助かる。」

 

 さてと……

 

 ギアス嚮団の次は恐らくあれだな。

 

『超合集国の成立』と、自称勝利の女神兼ゼロの妻神楽耶による『日本解放の要請』。

 

 アマルガムだけならともかく、もうこれ絶対にギアス嚮団で色々やってしまったから俺もガッシリと巻き込まれるよな?

 

 キリキリキリキリキリキリ。

 

 車椅子に座りながらボーっとこれからの事を考えていると、久しく感じていない痛みが胃から来る。

 

 ま、ニーナのフレイヤ爆弾フラグは早々にへし折ってやったから無い物としてまずはエナジーウィング対策だな。

 

 ミルベル博士が()()の開発を進めていればいいが……

 

 

 


 

 

 ゼロの仮面を取ったルルーシュと某パニック少女艦長コスプレをしたC.C.が車椅子に乗せられたスバルとカレン達を見送る。

 

「あの……ご主人様?」

 

「ん? なんだ?」

 

「えっと……前の私の事を、知っているのですよね?」

 

「(スヴェンが何かカレン達に言ってごまかしたか。) ああ。」

 

「以前の私と、あの人……えっと……()()()()()()さんと私は知り合いか何かでしょうか?」

 

「ぶふ……まるでシュークリームだな。 ああ、前の君と彼は顔見知りだ。 何か言われたか?」

 

「えっと……私が、記憶を失くしていると。」

 

「それ以外は?」

 

「私があの……変な人たちの所為でこうなったと。」

 

「(やはり誤魔化したか。) ああ、あながち間違っていない。」

 

「そう、ですか……」

 

「??? 何かほかにあったか?」

 

「えっと……」

 

 ルルーシュの問いにスバルたちが退室したことで不安がるC.C.の目が泳ぎ始め、明らかに戸惑っていることを伝える。

 

「……」

 

 普段のルルーシュなら時間が惜しいが為に急かしていたかもしれないが最近の事による影響か、彼はただC.C.が言葉の続きを話すまでジッと待った。

 

「……その……まるで、あの人を()()()知っている様な……()()()()様な気がして……」

 

「そうだな。 彼と君は一年前ぐらいからお互いを知っている。」

 

「は、はぁ……」

 

 ルルーシュの言葉にC.C.は頷いたが内心では『本当に一年前だろうか?』という、フワッとしたなんとも言えない心境に疑惑を持ちながらも自分の記憶喪失に原因があると思うことにした。

*1
207話を参照

*2
198話を参照



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第256話 「いきなりなんです!」リターンズ

…… (;´ω`)ゞ


「ま、待て!」

 

 オルフェウスやクララと同様に、リア・ファルの部隊に保護されたコーネリアはとある部屋の壁際にまで追いつめられながら焦りの声を出していた。

 

「まぁまぁまぁ、“頼みごとを受け入れる”って言ったじゃないですか♪」

 

 「それとこれとは違いがあり過ぎる!」

 

 彼女の目の前には五日の日のようにニコニコかつ生き生きとした笑顔を浮かべるユーフェミアがいた。

 

 アマルガム特製の強化スーツを手にしながら。

 

「ははははははは話せばわかる────!」

「────騙されたと思って着てみてください────♪」

「────いや、ユフィこそ騙されているのではないか?! そ、そ、そんな破廉恥な物を着ただけで身体能力の向上と脳の活性化による人体強化などどこからどう聞いても夢物語ではないか?! 以前にもそのような効果をもたらす強化歩兵スーツを開発にプロジェクトが立ち上げられた気もするがあれも結局大金をつぎ込まれたにもかかわらず破綻したと聞いている! それにプロジェクトの筆頭開発者のラビエ親子も去年のテロ攻撃によって行方不明に────!」

「────じゃあ後でレナルドさんとマリエルさんに紹介しますね♪」

 

は? 何故ユフィがその二人の名を────ぬああああああああああ!?!?!? 待て待て待て待て待て! なぜそんなにも力が強いのだユフィ?!」

 

「もう、さっき説明し終えたばかりじゃないですかお姉さま♪」

 

「ま、まさか歩兵強化スーツが完成されたとでも言うのか?! しかし何故この様なデザインに?! プロジェクト当時では騎士たちが着用する物と似たデザインだったはず!」

 

「ああ。 これはですね、スヴェン君が立案したらしいですよ?」

 

 なんだと────」

「────てや────♪」

「────あ゛────」

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

「こうして会うのは久しぶりですね、コーネリア。」

 

「今までは通信越しだったがな。」

 

「確かに、こうして身近に会うのは初めてですね。」

 

 リア・ファル内部にある会談用の個室にてゼロがそう話しかけると、テーブルの向かい側に居たコーネリアはジェレミアを見る。

 

「しかしまさかジェレミア卿がそちらに付くとはな。 意外だ。」

 

「全くですな、思いもしませんでした。」

 

「……」

 

 コーネリア、そしてダールトンの言葉にジェレミアは反応を示すことなく、ただ黙ってゼロの傍に居た。

 

 蓬莱島に到着する前にゼロはジェレミアを供にスバルたちと一緒にリア・ファルへと移動し、コーネリアと会う事を申し出ていた。

 

 初めこの申し出を聞いたウィルバー等はどうするか迷った。

 

 何せ相手はゼロ、『レジスタンスグループ』という小規模な集団を大国相手に上手い立ち回りで警戒させる組織に育てた張本人。

 今でも正体は不明な上に行動原理が今の世の中では胡散臭さ100%の『正義の執行』。

 

 しかも何故か失脚の原因であるゼロに恨みを持っていても、従う理由が無いにも関わらずイエスマンの様に付き添うオレンジ(ジェレミア)卿の姿は『異常』であった。

 

 果たしてそんな人物を『ブリタニアの魔女』と異名を持つコーネリアに会わせてよいのだろうか?

 

 そう懸念していたが『ゼロに同伴する者は一人だけ』というレイラの提案と、コーネリアが謁見を承諾したことにより迷いつつも両者による会談は開かれていた。

 

「さて、コーネリア。 聞きたいことがある────」

「────それよりも、その仮面は着けたままにするのか?」

 

「「「……」」」

 

 ゼロの言葉をコーネリアが遮ると、気まずい空気が室内を満たす。

 

 だが────

 

「────そう、だな。 貴方とダールトン将軍の前では、不必要かもしれん───」

「────ゼロ?!」

 

 ゼロは仮面に手をつけるとギミックが作動し、形態を変えた仮面を彼はそのまま取り外すとダールトンはギョッと目を見開く。

 

「ゼロが、少年だと?!」

 

「さて。 仮面を取ったところで、もう一度自己紹介をしよう。 お久しぶりです、()()。」

 

「“姉上”? まさか────?!」

「────やはりお前だったか、ルルーシュ。」

 

 驚くダールトンとは対照的に、コーネリアはただ納得────あるいは安堵────する様に上記を口にする。

 

「姉上は、何時────?」

「────“何時から気が付いた”、と聞くのならばそうだな……表の社会にナナリーが復帰したことと、何故ゼロがエリア11に固執と意識した立ち回りをし続けたこと、それとあれだけマリアンヌ様に憧れていたジェレミアがそちら側にいる理由を考えれば自ずと対象になり得る人物はごく僅かな人数に絞られる。」

 

「流石は姉上。 サイタマゲットーでは肝を冷やしましたよ。」

 

「それを言うのならば、まさか保険を用意しているとは思っていなかったぞ。」

 

「…お互い様ということですか。」

 

「ルルーシュ……いや、ゼロ。 こうして私に会いに来たのはナナリーの為か?」

 

「その通り、話が早くて助かりますよ。」

 

「皇帝が行方不明としても、エリア11には恐らく兄上(シュナイゼル)がいる。 それも承知の上か?」

 

「「“皇帝陛下が行方不明”?!」」

 

「「ダールトン/ジェレミア、落ち着け。」」

 

 驚きを声にしたダールトンとジェレミアには目を向けず、そのままコーネリアとルルーシュはお互いから目を離さずに言葉を続けた。

 

「姉上も同じ意見ですか。」

 

「ああ。 ブリタニアの動きがあまりにも消極的過ぎる。」

 

「ほぉ?」

 

「中華連邦の……合衆国中華と周辺国の次に標的となるのは西のユーロ・ブリタニアか東のエリア11の二択。 そして合理的に考えてもエリア11の方が静観している国を動かす刺激になる。 それに黒の騎士団に居る大部分の者たちの士気を上げるためにちょうど良い。

 どちらを黒の騎士団が狙うのは明らかだ。 “ならば先に”という、見え透いた好戦的な物流と人の流れが最近になって守りに転じている。」

 

「フ. (さすがはコーネリア。 腕と統治の両方を両立できるだけはある────)」

「────しかしゼロ。 このまま力任せにエリア11に攻め込むのか? 皇帝が不在でも恐らくはラウンズと各々に親衛隊に正規軍が陣取っている。 ぶつかればそれなりの被害が出るだろう、例えこの艦と組織を使ってもな。 それに……」

 

 コーネリアは隣でチラチラと見るダールトンに横目を向けると、彼女に気が付いたダールトンはただスンとした表情をして前だけに視線を向ける。

 

「元より力で押し通すつもりは、()()俺には無い。 だからこうして姉上たちに会いに来たのです。」

 

「ナナリーの為か、ルルーシュ?」

 

()()()ですよ、姉上。」

 

 ルルーシュは腕を組みなおし、戸惑いながらも言葉を強気に発した。

 

「俺はなるべく、血が流れない方法でエリア11を……日本をブリタニアの傘下から取り除きたい。 その為に、姉上たちに協力してもらいたい。」

 

「……何かあったのか?」

 

「ん? 何の事だ?」

 

「いや……アリエスの離宮と、ゼロとして活動しているときの行動と今目の前にいるお前があまりにも別人みたいでな。 心境を変えさせることでも起きたか? 例えば……女性絡みとか?」

 

「そう言う姉上も昔から変な服装を着ていましたが、今度のはかなり風変わりなモノですね?」

 

 コーネリアのからかうようなジャブにルルーシュはニッコリしながらカウンターの右ストレートをくり出すと、アマルガムの強化スーツ+制服を着ていたコーネリアはビクつく。

 

「あ、アレは先祖代々から受け継がれた正装だ! それに今のこれはゴニョニョに無理やり────ゴホン! ただの!試着だ!

 

「いやはや。 グランドリゾートオープン時でも思いましたが、意外でしたよ────」

「────あの人参役者はどれだけ私を困らせば気が済むのだ……」

 

 ……

 …

 

 ゾゾゾゾゾゾゾゾ!

 

「??? どうかされましたかクロヴィス殿下?」

 

「い、いや。 少々暖房を低く設定したかと。」

 

「そうですか。」

 

 トウキョウ租界内の政庁にて事務処理をしていたクロヴィスの上半身が急に震えだしたことを見たギルフォードに答えながらも窓から見える租界を見る。

 

「(まさか“行方不明の姉上が何か自分の愚痴を言ったような気がする”とは言えないな。)」

 

 「ブツブツブツブツブツブツそう言えば姫様も冷え性だというのに他人の前では強がってブツブツブツ」

 

「(特に相手がギルフォード卿ならば尚更だな。)」

 

 「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 

 

 

 


 

 

「あ、先輩! おかえりなさいです!」

 

 い、今目の前で起きていることを話すぜ?!

 

 “イカルガから(スバル)たちと一緒にリア・ファルに来たルルーシュinゼロとオレンジと別れてから『うーん、ルルーシュはどうしているかな?』と思いながら俺は車椅子を動かして小腹が空いたと思って食堂に入ったらちょっと不健康そうな子供たちの中心に縦ロールツインテをもっと簡単なツインカールに変えて割烹着を着たライラが何か料理していた。”

 

 何故に?

 

「先輩?」

 

 え? 何でライラがリア・ファルにいるの?

 

「先輩~?」

 

 だって蓬莱島に残してきた筈……

 密航?

 密航なのか?

 ブリエットなのか?

 ミハルなのか?

 ドゥガチなのか────ってこれはさっきとかぶるからNGか。

 

 「先輩!」

 

「うお?! な、なんだ────?」

「────何か注文しないのなら横に行ってくださいです!」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ライラのかけてきた声に現実逃避から引き戻されて彼女の視線先を見ると、後ろでは何とも言えない顔をしたアキトたちが居た。

 

「子供?」

「気の所為か増えてねぇかユキヤ?」

「ていうかあの地下都市に居た子たちみたいだよリョウ。」

「どうしてわかる?」

「肌の色がちょっと白すぎるから。」

「ていうか割烹着着ている子、何時もの人じゃないね?」

「ああ……なんだアヤノ、その目は?」

「いや、てっきりアキトが何か変なことを言うかなと思って。」

へぇー()そう()────」

 「────殴るよ。」

 

 いやはやいやはや。

 ワイバーン隊がこうやって和むような日が来るとは……

 って顔を見られる前に他へ行こう。

 

「あれれれれ~? シュバールさん???」

 

 ゲ。

 ユキヤに顔を見られた。

 

「は? 嘘だろ?」

「やっぱりシュバールさんだ。」

「なんで車椅子に?」

「まさかケガをしたのか?」

 

 あああああああ、質問のオンパレード面倒くさい!

 先にシャワーと着替えに行ったぶっちゃん(毒島)とカレンカムバーック!

 

「あ。 それとも脊髄が逝ったとか?」

 

『“女みたいな名前で何が悪い!”のやんちゃ坊や』じゃないでゲソ。

 中の人的にライラの兄になるし。

 でもあっちは脊髄損傷していたな。

 

 あ、せや。

 

「アキト。」

 

「なんだシュバールさん?」

 

「お前の兄の調子はどうだ?」

 

 秘儀、『話題と注目先を変える』!

 

「兄さんなら少し無理をしてランドル博士たちに義眼のチェックをして貰っている。」

 

「そうか、ならよかっ────」

 「────えええええええええええええええええええ?!」

 

 耳をつんざく素っ頓狂な声が食堂内に響き、ライラの周りにいた子供たちはきっと険しい表情を作る。

 

「あ。 アリスちゃんです────!」

「────なんでこの艦に?! え?! なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?!」

 

 いつもの細ツインテではなく髪をベリーロングに下ろしたアリスが思わず持っていたタオルを落として固まっていた。

 

 顔が赤いのと髪の毛が湿っているところを見ると、シャワーから出て間もないのかな?

 

『現実逃避すんなや』だと?

 

 そんなん無理やて。

 

「なんでライラ様がここに?! 島に残っていたんじゃ────?!」

「────ライラ“様” ────?」

「────どういうことだ────?」

「────そう言えばアリスたちってブリタニアの懲罰兵だったよね────?」

「────ライラちゃん遅れてごめんね~────!」

「────あ、いつもの食堂の人だ────」

「────肉()()()()食えるな。 ()()()イモ()たっぷり────」

「────アキト、あんたねぇ────」

「────あ! お帰りなさいですお姉さま────!」

「「「「────は?」」」」

 

 ここに変装中のユーフェミアも乱入!

 なにこのカオス。

 

 闇鍋感が半端ないのだけれど?

 

 アキトたちなんか気まずいユーフェミアと、ニコニコしながら気まずい空気にハテナマークを浮かべるライラを見比べているし。

 

「ん? どうした皆、こんなところで固まって?」

 

 ここに新たなチャレンジャーが登場!

 未だに冥〇たんポニテを維持してくれている毒島だ!

 

「あ! ぶっちゃん先輩です────!」

「「「「「────ブ?!」」」」」

 

「ぶ、“ぶっちゃん”……」

 

 あ。 ぶっちゃんの口端がピクついておる。

 

「??? “ぶっちゃん先輩”呼び……ダメ、です?」

 

 ライラの『不安そうな上目遣い』のスペルカード発動!

 

「ふぐ?!」

 

 毒島のライフポイントに3000のダメージ!

 

「……………………………………………………いい、ぞ。」

 

 毒島の敗北!

 

「やったです!」

 

「ひ、一つ聞くが……その呼び名はどこから聞いたのだ?」

 

 「ダルクちゃんです!」

 

「……ふふ…………フフフフフフフフフフフフフフフフフフ。」

 

 え、なにこの毒島。

 声は笑っているのに目と顔が全く笑っていない。

 普通にいつも以上に怖い。

 

「……」

 

 ほら、いつもは気丈に振る舞うカレンも自分が食堂についたことを後悔しているような────

 

「────おいカレン────」

「────い゛?! な、なにスバル────?」

「────お前、髪にドライヤーをかけていないだろ?」

 

「ギクッ……」

 

 図星か。

 何時ものようにちゃんとすれば自然とカールボブとふわショートの中間ぐらいのセットがしやすいくせに、そんなゆるふわボブだかエアリーボブだかよく分からない中途半端な髪型になりやがって。

 

「こっちにこいカレン、力任せで髪を乾かそうとしてもダメだ。 タオルを貸せ────」

「────い、いいよ! スバルは休んでいてよ────!」

「────ダメだ。 髪を痛めたいのか────?」

「────いいから────!」

 「────良くない、来い。 椅子も持ってこい。」

 

 俺の10年間プラスの努力を無駄にさせたいのかこいつは。

 

「…………………………………………あい。」

 

 良し、いい子だ。

 

 俯きながらトボトボとカレンは椅子を近くに持ってきて座ると猫背のままタオルを渡して────

 

「────おい、カレン。」

 

「こ、今度はなに?」

 

「このタオル、マイクロファイバーじゃないぞ。 薄いし。」

 

「ギクギクッ。 い、いいじゃんタオルはタオルなんだから!」

 

 あああぁぁぁぁ! もうぅぅぅぅ! こいつはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

「“ドライヤーをかけないのならせめて吸水性の良い物と肌を痛めないタオルを選べ”とあれだけ言っただろ? 伸びやすい髪の毛を無理やりショートに留めていたいと言ったのはお前だぞ?」

 

「う……」

 

「それとシャンプーとリンスが別々に────ん?」

 

 なんだか周りから刺さる様な感覚────「ふぉ?!」

 

 ま、周りを見たら目を点にして唖然とするアキトたちが。

 

 「いいなぁ……」

 

 え? 今なんて言ったぶっちゃん?

 よく聞こえなかった、もう一度プリーズ。

 

 「先輩たち、凄く仲良しなのです! 流石()()()()です!」

 

 ああああ、ライラちゃん……悪気が無いのは分かるけれどその言葉、めっさトドメどすえ。

 

「え。」

 

 あ。 アヤノの顔のデッサンが崩れていくような幻覚が。

 

「へぇ~、そうなんだ。」

 

 ユキヤのニチャッとした笑みが……怖い。

 

「お、おいシュバール……お前……もしやそう言う趣味か?」

 

 リョウ、その“趣味”ってどういう事だってばよ。

 

「考えてみれば、シュバールさんは手際が良かったな。」

 

 一を聞いて十の内の八を瞬時に理解するとは……

 アキト、やっぱお前はまごうことなきコードギアスの主人公枠だよ。

 

 中の人はクロスロードだけれども。

 

「うぅぅぅぅぅぅ……」

 

 俺の不注意が原因なのは100%認めるからカレン、その恨めしそうな涙目を向けないでくれ。

 

 頼む。

 

 ……頼む。

 

「さて……カレンと俺の事を聞きたいのなら少し時間を借りるぞ?」

 

「あ。 じゃあライラはポテトチップス作るでーす!」

 

 V.V.をぶっ飛ばすことは叶わなかったけど、元気いっぱいで良かった。

 

 ナナリーとは別の意味で癒しだな。

 

 カレンの髪の毛をタオルでもみもみして乾かすのは止めないけれどな。

 

 

 

 


 

 

「お、お帰りなさいご主人様。」

 

「ああ。」

 

 コーネリアとの会談を終えたルルーシュは自室に戻ると日課になりつつあるC.C.とのやり取りをしながら仮面を取り、椅子に座る。

 

「(これでエリア11の攻略の糸は掴んだ。 しかし要因に入れなければいけない不確定要素が多いのは純粋に気に入らん。 気に入らんが、当初のやり方ではコーネリアの部下たちにダールトンのグラストンナイツに必ず何らかの被害が出てしまう。 彼女たちと敵対してもいい状況下であればコーネリアにギアスをかけてエリア11内に保険をかければいいだけだが……()()()()()()()()()()()()()。)」

 

 ルルーシュは頭をガシガシと手で掻いては再び机に肘をつけて頬杖で頭を支えると、机の上にあるチェス盤の駒を動かす。

 

「(自分自身、そう感じることが不合理的だと頭では理解している。 “大きなことを成す為には多少の犠牲はつきもの”だということも。 しかし……何だこのイラつきは? それになぜコーネリアに、易々と姿と正体を?

 いや、確かに彼女をこちら側に引くためにはある程度の譲歩を……ユフィを利用────いや。 やはりそう考えればこの方針は間違いではない筈だ。 そもそもコーネリアほどの者ならば、自ずとゼロの正体を突き止めていた可能性は十分にあった。 時限爆弾があるのならば前以て無力化すればいい、むしろ俺にプラスに働かせればさほど問題ではない────)────クソ!」

 

 バァン!

 

 モヤモヤとした、何とも言えない感情にルルーシュは思わず机に拳を叩きつける。

 

「キャ?!」

 

「(あの妙な空間に行って以来、俺らしくない! 調子が狂う! ……落ち着け。 コーネリアと練った計画は確かに要因とそれに伴うリスクが多いがその分、リターンも十分見込める。)」

 

「あの……ご主人様?」

 

「(しかし皇帝が不在の今が好機。 早々に神楽耶とシンクーたちに話をつけて、ブリタニアが動く前に────)」

「────ご主人様?」

 

「ん? ああ、何だ?」

 

「あの……ご主人様の……“でんわ”?が赤くなっています。」

 

「ん?」

 

 C.C.の言葉にルルーシュは赤く点滅していた端末に電源を入れる。

 

「……ッ?! クソ!」



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第257話 違う流れに突入……???

「────とまぁ、これが大雑把に情報をまとめた話だ。」

 

 もみもみもみもみもみ。

 

「フニャ~。」

 

 ライラの悪い言い方(爆弾宣言)にアキトたちの好奇心によって加速するであろう思春期特有の妄想の暴走が収束出来ないほどさく裂する前に、(スバル)は自分とカレンの背景を簡単に話した。

 

 もみもみもみもみもみ。

 

「むふ。」

 

 話したと言っても、基本的に当たり障りのない程度の事ばかりだ。

 

 1、俺とカレンがブリタニアと日本人のハーフであること。

 2、カレンが『紅月』であると同時に『シュタットフェルト』であること、そして『シュタットフェルト』と名乗っているときはなるべく『病弱かつ大人しい令嬢』を装っていたこと。

 3、彼女の実父であるジョナサン様の計らいで俺が(建前上の)世話係兼従者見習いをしていたこと。

 

 終わり……

 な、ワケが無いぜよ。

 

 4、茶髪ツーサイドアップのウィッグに茶色のカラコンのユーフェミアこと『ユウちゃん』はブリタニアの貴族で彼女が情報源だったこと。

 

 4.5、アリスがこの関係を前から知っていたと追記。

 

 5、ユウちゃんとライラが遠縁で、その所為で敵勢力による『超能力(ギアス)』で孤立&拉致されかけたこと。

 

 5.5、ここでコーネリアこと『ネリス』も二人とは以前からそれなりに知り合っている関係と追記。

 

 6、遠縁のユウちゃんが居るところにライラを匿いつつ、敵勢力がいる東ユーラシアとギアス嚮団を潰したこと。

 

「フ~ン……“遠縁”、ねぇ~?」

 

「あ、あははははは。」

 

 もみもみもみもみもみ。

 

 ユキヤが疑う様な目を向けるとユーフェミアが気まずい、乾いた笑いを出す。

 

 もみもみもみもみもみ。

 

「何か変です?」

「「「「「??????」」」」」

 

 逆にライラは他意のない『え、何を言ってんのこいつ?』風にハテナマークを浮かべながら頭を傾げると、ここで何故か見た気がして今もう一度よく見たらアニメで『ロロお兄ちゃん!』と呼んだそのロロ本人に虐殺されたギアス嚮団の子供たちもライラを真似て頭を傾げる。

 

 どういう経歴でその組み合わせに?

 そもそもなぜなぜライラが蓬莱島からここに?

 もしかしてワープ? 『亡国のアキト』で見た謎ワープなの?

 あとはユーフェミアの変装ってどこからどう見ても『さっちん』なユーちゃん。

 

 非ッッッッッッッッッ常に『どういうことだってばよ』と問いたいがそれよりも俺の注目は────うん……我慢しよう。

 

 今問いだすとロクなことにならないような気がする。

 

「なるほど……色々と納得がいきます────」

「────ふわ?!」

 

 もみもみギュウゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

「いだだだだだだ?!」

 

 横から急にレイラの声が来て思わずドビックリマーリモ!

 

「スバル、ギブギブギブギブギブギブ!」

 

 さっきまで緊張感ゼロの糸目になっていたカレンだったが堪能していた『頭部のツボもみもみマッサージ』が急に『両手アイアンクロー』に変わったことで即座に涙目カレン。

 

「あ、ああ。 すまないカレン。」

 

 というわけでタオルをターバンっぽくして巻き巻き~。

 後は自然乾燥させて大丈夫だろ。

 

「レイラ、何時からそこにいた?」

 

 あとそのインナー、強化スーツのだよね? 

 目の保養的に効果抜群なのだけれどブリッジクルーに意味は……いや、あるか。

 元ネタがエロゲーからだとしても、無駄に凝ったデザインと開発方針の設定で『着用者の生存と性能アップに負傷からの防御力』に特化しているから意味あるか。

 

 あの世界線、ディストピアと言うか人類滅亡一途寸前だったし。

 

 ……でもやっぱレイラええのぉ~♪

 スリットからチラチラと見える太もも♡

 

 ゾワ!

 

 何やら横から寒気が……

 

「なんだ、カレン?」

 

「別に。」

 

 カレンがむっつりんごのままそっぽを向いた?

 なんでこんなに大人しい?

 

 あ、他人の前だからか。

 

「えっと……“いつから”との質問ですが、お二人の馴れ初めの話からでしょうか?」

 

 ほぼ初めからやん。

 

「艦は大丈夫なのか?」

 

「ウィルバーさんが代わってくれました。」

 

 さいですか。

 何故にニコニコ顔?

 

「それに……恐らく近い内に何かが起きるでしょうから今の内に英気を養おうと。」

 

 え。

 ちょっと待ってレイラ。 もしかして君、超合集国決議第一号の『日本解放』をすでに予測しているの?

 もしそうだったら流石『亡国のアキト』でシンやルルーシュ(厳密には『ジュリアスとして振る舞うように洗脳されたルルーシュ』)が警戒しただけはある。

 

 やっぱりアマルガムに引き込んでおいてよかった。

 

「何かって、どういうことだレイラ司令?」

 

 あれ?

 何故にアキトはレイラを呼び捨てにしないの?

 

「ゼロのやろうとしていることに対してブリタニア帝国が何かを前もって仕掛けてくると思います。」

 

 そしてレイラ、何故にアキトの呼び方をスルーしている?

 

「なるほど、束の間の休憩ということか……」

 

 何かがおかしい……

 いや、俺がここにいる時点で何もおかしくないか。

 

 ピりリ、ピりリ。

 

 そこでカレンの携帯に連絡が来る。

 

「あ、私だ。 ちょっと取って来るね。」

 

 頭にタオルターバンをしたまま距離を取るカレンの姿はどこかシュールだな────

 

「────↓う↑ぇぇぇぇぇ?!」

 

 カレンの素っ頓狂な声にその場の皆が彼女を見ていると、顔色が悪くなったカレンが俺たちに振り返る。

 

 と言うか俺を見る。

 

「なんだカレン?」

 

「えっと……ここにいる皆に、福江島に親戚とか友達、居ないよね?」

 

「フクエジマ? どこだ、それ?」

「アヤノは知っている?」

「さ、さぁ?」

 

 福江島?

 ええええっと……佐世保の西にある島だっけ?

 

 え、『何で知ってんだよ』だって?

『フクオカ事変』があったから────

 

「────いや、その……大きな暴動があったみたい。」

 

 フ~ン……またか。

 

「なぁ、それって俺らに関係あるのか?」

 

 おお、流石はずけずけ言うタイプのリョウ。 

 

「それが、福江島に黒の騎士団用の倉庫と言うか拠点があって……ほら、あの時と同じだよスバル。 アッシュフォード学園の。」

 

 アッシュフォード学園の……はて?

 

「ああ、マリーベルとクララのか。」

 

 ああ。 そう言えばあったな。 ナイスだぶっちゃ────はい?

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『よく突然の通信に応じてくれた、感謝する。』

 

 リア・ファル内にある作戦室のモニターに映っていたゼロが俺たちにそう挨拶してくる。

 

『まずフクエジマの事を話す前に、ここにいる皆は“キュウシュウブロックの乱”を覚えているだろうか?』

 

「『キュウシュウの乱』?」

「いや、(アヤノ)を見ても私自身分からないし。」

 

「『キュウシュウの乱』とは一年前、かつて第2次枢木政権で官房長官を務めていたアツシ・サワサキと元日本解放戦線のタテワキ・カタセ少将、そして中華連邦の第七機甲師団長ツァオ将軍によるフクオカ基地の占領の事です。」

 

「流石はレイラだな。」

 

「いえ、新聞の記事にあったことをそのまま口にしただけですシュバールさん。」

 

 それにしてはめっちゃご機嫌そうですが?

 

「黒デメキンの澤崎淳か……」

 

 そしてぶっちゃんにとって未だに苦々しい思いの様子。

 

「ですがゼロ、あの時は黒の騎士団も介入して傀儡国家となった日本を阻止したのでは?」

 

『うむ、中華連邦の傀儡国家となることは一目瞭然だった。 故に黒の騎士団はサワサキたちを倒した。 そしてブリタニアの注目がそちらに向けられている間、来るべき時の為に日本のそこら中に武器弾薬にナイトメアなどを設置した……その多くはブラックリベリオン時に消耗された、あるいはブリタニアに発見されて破棄されたが。』

 

「……」

 

 ムホホホホホホホ♡(コーネリア、) 紫の強化スーツが(きっと内心は)対魔忍っぽくてええのぉ~♡(複雑だろうな~。)

 

『さて。 ここで注目すべきところはそれらの拠点の全てが発見されなかったことと、福江島はブラックリベリオン後に日本解放の為多くの黒の騎士団の協力者に物資を送っていたことだ。』

 

 おっと、な~んか知っているコードギアスとは違う流れ。

 アニメではスザクとの密会後、ルルーシュはトウキョウ租界を攻め落とすことを建前にナナリーの奪還を試みたはず。

 

 やっぱり色々と違うからか?

 それともRTA気味で色々端折ったアニメでは描写されなかった部分?

 

 多分、どちらも混じっているような気がする。

 

『皇女ナナリーが総督になってから以前とは違う、穏健で的確な統治で租界を中心に治安などは比較的に上昇した。 だがそれでもかつての悲劇によって一度燃え上がった情熱は燻り続け、暴動は地方で度々起きていた。 そして先日、福江島で一際大きい暴動が起きた。』

 

 ……あ。

 俺たちが『スルト』とギアス嚮団ぶっ潰しに行っている間か?

 もしかして?

 

「ゼロ、その暴動者たちは黒の騎士団の拠点を見つけたのか?」

 

『ああ。 察しが良いな、スバル。 今までの暴動は程度が知れていてナイトポリスでの対応ができていたが軍用ナイトメアが出てくると話が違ってくる。 そして黒の騎士団の協力者たちはブラックリベリオンの再現を阻止するため暴徒たちの手綱を握ることに成功はしたが、間の悪い事にブリタニアの駐屯軍は既に鎮圧のために動きだしていた。 これも、ブラックリベリオン後に対処方法が見直しされた結果だ。』

 

 なるほど、つまりブラックリベリオンの余波によって起きた暴動か。

 

『協力者たちは暴動の制御が出来たものの、ブリタニア軍が動いてはやむを得なかったのだろう。 地の利を活かし為、駐屯軍を山中に誘い込んで奇襲を試みた。 だが駐屯軍と言っても相手は訓練された軍、衝突の際に大打撃を与えられなかったせいで蹴散らされ、協力者たちは各個撃破を余儀なくされ敗走している。』

 

 うっわ。 当然と言えば当然だけどブリタニア軍、手加減無しかよ。

 

『敗走と先ほど申したが、彼らがゲリラ戦を繰り返した結果に出た被害のおかげでブリタニアの駐屯軍は躊躇を覚えた。 数時間前までは。』

 

「その口ぶりからすると、正規軍が動いたのか?」

 

 おっと、ここで黙っていたコーネリアからコメントが。

 

『その通り。 正規軍が加わったことによるブリタニアの反撃に、協力者たちは瀬戸際に立たされた。 よって、彼らの支援と救助を行いたい。』

 

「ゼロ、てっきり“切り捨てる”とでも言うのかと思ったぞ。」

 

 ダールトンさんや、それってさっきから続けていた『ブラックリベリオンネタ』の意趣返しですか?

 

『“切り捨てる”という選択肢を私は視野に入れていない。 確かに暴動から始まった小競り合いだが彼らは勇気をもって孤立状態になった今でも戦い続けている。』

 

「そうか。」

 

『話を続けるが、協力者たちは一度バラバラになっていたが正規軍の巧妙な攻勢により一つの大きなまとまりになり、何人かの者たちが指揮を執り行動を総括している。 現時点でブリタニアは地上戦力で包囲網を敷いているが、時間が経つあるいは航空部隊が現れれば一気に攻め込むだろう。 藤堂のいるサウジや四聖剣たちを任している地域でも小競り合いが確認されている。 零番隊だけではカバーしきれん。 そこで────』

「────ねぇゼロ、一つ聞いていい?」

 

『何かね、ユキヤ君?』

 

「それって要するに、僕たちに仕事をやらせて黒の騎士団の手柄にするつもり?」

 

「「「「……」」」」

 

 Oh……ユキヤ、口にしにくい事をズバズバと……

 余程『ムスペルハイム作戦』のことを根に持っていらっしゃる?

 

『……先の作戦について、アマルガムの皆には申し訳ないと思っている。』

 

 ゼロが謝罪した……だと?

 初めてなんじゃね、これ?

 

「“ごめんなさい”で済むと思うの?」

 

『……』

 

 つーかどこか本当にしょんぼりしている……ような気がする。

 

 助け舟を出すか。

 

「ユキヤ、そこまででいい。」

 

「シュバールさん────?」

「────ゼロにも考えがあっての作戦変更だったのだろう。 黒の騎士団とアマルガムによる初めての合同作戦だ。 もし連携が上手く活かせず、全員が地上部隊とスルトに手こずっていている間、伏兵による背後からの攻撃を受けていれば被害は出ていた。 その隙に、地下の者たちも逃げおおせていたのかもしれない。 『適材適所』だ。」

 

 要するに、『結果オーライ』というヤツだ。

 

「……」

 

 だからその『イライラしていることを隠すニチャッとした笑み』はヤメロ。

 胃が痛む。

 

 ……躍起になって『やっぱ全部爆破しよう!』とか思わないよねこの爆弾魔?

 

「……はいはい、そう言う風に考えた方が前向きだよねぇ~。」

 

 肩透かしをして諦めた様な顔をしたからセーフ!

 

「「「『……』」」」

 

 キリキリキリキリ。

 

 だけど代わりに周りと通信のゼロから無言の視線にワガハイの胃がアウチ!

 

『……コホン。 恐らくブリタニア軍は、我々の介入を予期していないだろう。 何せ合衆国中華の支援に、黒の騎士団の戦力はかなり広く展開されているからな。 その隙を突き、包囲網を崩し、ここまで正規軍を相手にした者たちの退路を確保する。』

 

「しかしゼロ、このままでは下準備が終わっていないまま帝国に宣戦布告することになるぞ?」

 

『そこでアマルガムに声をかけた。』

 

 ん?

 

()()()()ならば、さほど不思議ではないだろう……“傭兵のスバル”?』

 

 ここで俺に振るんかい?!

 鬼か!

 

 キリキリキリキリキリキリキリ!

 

 いや、高笑いが似合う魔神だったわ。

 

 

『しかし君も先の作戦でかなり消耗したと聞いている。 よって、君の肩書だけを今作戦に使おうと思っている。』

 

 およ?

 

「……いいのか?」

 

『私は君たちに何かを強制させる立場に立っているわけではない。』

 

「そうか。」

 

 っしゃぁぁぁぁぁぁ!

 

 ルルーシュから雑巾二号にならない言質を取ったどおぉぉぉぉぉ!

 

 ……まぁ俺『個人』じゃなくて、『組織としてのアマルガムに対して』ということに目を瞑ればな。

 

 おっと浮かれ顔を出すわけにはいかないのでそれとなく振る舞うか。

 

「レイラと毒島はどう思う?」

 

「……ゼロが言ったように、協力者たちが予期せぬ衝突にここまで機転を利かせて生き残ったことは凄いことだと思います。」

 

「そしてそのような者たちを見捨てれば、有能な人員たちを失うことになる。」

 

 つまり二人は『賛成』ということか。

 

「コ────ネリスさんたちは?」

 

 あっぶねぇ、思わず本名で呼びそうだった。

 

「……この様な地方に主戦力を投入するとなれば猶予はある。 早急に事を済ませれば問題ないが、『黒の騎士団と関係のある勢力』だと勘づかれれば後の事に響く。」

 

 つまり『スピード勝負』とな。

 

「「「……」」」

 

 え? なんでそこで俺を見るの?

 あ、分かったぞ。

 傭兵部隊への偽装となると、今でもブリタニア外では珍しいフロートシステムは使えない。

 

 つまり────

 

「────ゼロ、紅蓮壱式に偽装できる月下はイカルガに何機搭載されている?」

 

『話が早いな。 二、三部隊ほどならすぐに用意できる。』

 

 よっしゃ。

 

 「あとはリア・ファルにあるアレクサンダを量産型に偽装して、ブースターを全てに取り付けばいけるか?」

 

「アンナたちにもう手配は済ませています。」

 

 早?!

 

「……勝手すぎでしょうか?」

 

「いや、むしろよくやった。」

 

 丁度いい、ブリーフィングが終わればすぐにでも出撃できるということか。

 

「あ、ゼロ?」

 

『何かね、カレン?』

 

「スバルの代わりに私が出て良いかな────?」

 

 ん?

 

『────私に反対する理由は無い────』

 

 んんんんんんんん?

 

「────では詳しい打ち合わせはこの後に────」

『────ああ。 それとウィザードにも参加してもらいたい、彼の機体に搭載されたECMはこの様な行動に向いている────』

「────ドロシー(オルドリン)にも声をかけますか────?」

『────あくまで彼女個人の意思での参加ならば私から言うことは無い。』

 

 なんだかトントン拍子に俺が出撃しない流れになっていないか、これ?

 

「待ってくれ。 俺は?」

 

『「「お休みにならないのですか?/休め。/君は十分に活躍している。」」』

 

 レイラ、毒島、ゼロの三連星によるダメ押し?!

 誰も踏み台に出来ない!

 

 出来てもしないけど。

 

「そうだよ。 スバルってまだ車椅子から立ち上がるのも大変でしょ?」

 

 カレン、お前もか。

 

「ではライラ、彼をお願いしますね?」

 

「じゃあ皆で世話するです!」

 

「「「「……」」」」

 

 ウキウキした乗りのまま返事をするライラとは対照的にギアス嚮団の子供たちによるジト目攻撃……

 

 ナニコレ。

 

「つまり“休め”って言うこと、分かった?」

 

「どういうことだアリス?」

 

「……いい加減に気付きなさいよ。」

 

 アリスさんや、分からない人に“気付け”なんてこの上ない投げやりな言葉なのですが?

 

 「このバカ。」

 

 え? 今なんて?

 

 

 


 

 

 

 蓬莱島へと帰還するルートを変えなかった黒の騎士団、およびアマルガムの混成部隊から東シナ海を横断する部隊は黒の騎士団やアマルガムとはわかりにくく、量産されているナイトメアに偽装していた一機の中にカレンは居た。

 

 平べったい従来のVTOL機に推進力を高める為、フロートシステムが開発されるまではメジャーだった電力駆動プラズマ推進モーターを取り付けたドダイ土台の上にフロートシステムが取り外されたナイトメア。

 

 それ等はフロートユニットの代わりに、アマルガム機に使用されている噴射機ユニットが代わりに背部のユニバーサルコネクターに付けられていた。

 

『機体の調子はどうだ、カレン?』

 

『えっと……スバルの機体って、前にも乗ったことがあるから大丈夫。 大丈夫……なんだけど……』

 

『“だけど”、なんだ?』

 

『……この強化スーツって落ち着かない! なにこのぴっちり感?!』

 

『ラクシャータのパイロットスーツのように、光ファイバー回線で血液の偏りを防────』

『────それにしても薄くない?! こう……とかさぁ?!』

 

『別にこれだけ着て大衆の前に出るわけでもないし、私は気に入っているぞ? 性能も折り紙付きだからな。 実際、普通のパイロットスーツで活動した時より体にかかる物理的負担はかなり軽減されている。』

 

『そりゃそうかも知れないけどさぁ────』

『────それにバベルタワーの潜入時に君が着たバニー姿よりはマシだと思うが────?』

 『────大して変わらないよ?!』

 

『それにこの強化スーツはスバル本人の提案によって開発されたのだぞ?』

 

『……そうなの?』

 

『着用者の能力向上と生命維持を追求した凝ったデザインでこうなった、とマリエルたちから聞いている。』

 

『へ、へ、へぇ~? そうなんだ~────』

『────ちなみに着用者第一号は私だ。』

 

 『・ ・ ・ フゥ~ン?

 

『フフ♪ 可愛いな────』

『────こちら、星団(リア・ファル)からプレイアデスナイツへ。*1 そちらに友軍の通信周波数を送ります。』

 

『あ、ハイ。 (そうだよ、今は小さい事より目の前で助けが必要な人たちがいるんだ!)』

 

『(ふ~む……まだ緊張しているか。 やはりスバルみたいには行かないか。 私もまだまだということか……)』

 

 毒島とカレンの直通通信をレイラの声が遮ると水平線から太陽の光が昇り始めると陽光が辺りを照らし始め、パイロットたちの緊張感が自然と高まっていった。

 

 

 

 

「(マリーとあの『スバル』って人、似ているわねぇ……一人で無理するところとか。)」

 

 余談だがオルドリンこと『ドロシー』はのほほんと今着ている強化スーツとグリンダ騎士団の騎士服を連想していたそうな。

 

 

 

「……」

 

「レイラさん? 緊張していますか?」

 

 「ユーさん……そう、ですね。 (このタイミングと規模、恐らくはワザと仕組まれた敵の罠。 シュバールさんが居ない今……いえ、いないからこそ彼に更なる負担にならないよう上手く立ち回って見せる!)」

 

 

 ……

 …

 

 

 

「殿下、考えましたね。」

 

「うん? いったい何のことかねカノン?」

 

 新大陸からエリア11へと向かう艦隊の中心にあるハイシュナイゼン(第2皇子親衛艦隊要人護送艦)の中でカノンがシュナイゼルに話しかけた。

 

「殿下の指示通りに噂を流しただけでエリア11内の不穏分子は集結し、動きはより大胆なものに活性化したことですよ。 部隊を動かす名分に、より厳重な体勢と市政へ緊張感を持たせる。 その上、黒の騎士団などが介入すれば報復の大義が────」

「────さすがに買いかぶり過ぎだよ。 私は何時か起きるであろう事態を早めただけにすぎない。」

 

「殿下がそう仰るのなら、そういうことにしておきましょう。」

 

「カノン、人を動かすのは何だと思う?」

 

「『意思』なのでは?」

 

「違うね。 それはまやかし、気休めさ。 結局のところ、人を動かすのは『他人』……『社会』だよ。 これは人だけに限定した話ではなく、群れを成す生物すべてに当てはまる。 それ等個人は周りに感化され、仲間外れにならないように自らを合わせようとする。 何せ群れから外れた個体は『異端』と古くから断罪されているからね。 だから個人の意思は集団の前では無力さ。」

 

「……果たして殿下の思惑通りに現れるでしょうか?」

 

「ん? 何がだいカノン?」

 

「例の『幽鬼(レヴナント)』ですよ。 東ユーラシアでは空振りだったじゃないですか。」

 

「うん?」

 

 シュナイゼルが珍しく何か面白そうなアンティーク物を見つけたかのような表情を浮かべる。

 

「……ああ、そう言う見方もあるか。 それは誤解だよ。 東ユーラシアが所有していたと思われる兵器と領土の確保、それ等と並行して反ブリタニア勢力の脅威を同時に排除する作戦だよ、あれは。」

 

「そういうことにしておきます。」

 

「しかし────ッ。」

 

「殿下?」

 

「……いや、何でもないよカノン。」

 

「そうですか。」

 

「(さっき、私は何を言いかけた? “現れて欲しい気も確かにあった”?)」

 

 シュナイゼルは朝日が昇り始める平行線へと目を向け、平常運転を装った。

 

「(まさか私が『大局』ではなく、『個』を気にかける日が戻ってくるとはね……これでは視野が狭くなるというのに何だ、この胸の鼓動は……糖分を摂取したからだろうか?)」

*1
誠にありがとうございますちゅうんさん! アイデアを採用させていただきました! ようやく出せた……(汗)




大人の事情でRTA気味だったR2でしたが、ここから少々(?)変わります。  (;´∀`)

尚どうでもいいかもしれませんが、後編で聞いていたイメソンは『奇跡の海』でした。 理由は……後ほどに。 (*ゝω・*)ノ

え? 『そんなことよりカレンとオルドリンの着用色を早よ』?
……脳筋のピンクよりの赤と隠れスケバンの赤ですが何か?


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第258話 背水(前)の陣

ようやくこの話のラフが使える日が来るとは……

投稿し初めて(あと三か月で)二年、読者の皆々様には感謝しております。
感想で活力を頂き、誤字報告ではご迷惑をおかけしてすみません。
そしてありがとうございます。 m(_ _)m


 エリア11付近が騒がしい頃、エリア24内にあるマドリード租界の政庁ではティンクとソキアが訳の分からない会話で意思疎通をしていた。

 

「う~ん……」

「うん?」

「うん。」

「うーん。」

「うんうん。」

 

 果たして喉の唸り声を『会話』と例えて良いかは別とする。

 

 「「暇だ。」」

 

 ようやく言葉を発したと思えば開口一番が上記である。

 

「ティンク隊員?」

「なんだねソキア隊員?」

「やっぱりレオン……がいないと暇だねぇ。」

「そうだね、彼……がいないとしっくりこないねぇ。」

「じゃあエリア24の軍拡傾向に関して話そうze!☆」

「はっはっは。 ソキアはいつも唐突だね。 でも正直なところ、エリア24が半島と言っても規模に対して軍備がね。」

「本国から警戒されているしねぇ~。」

「本国だけじゃなくて他のエリアに反ブリタニア思想を持つ各国に黒の騎士団に参加や同盟を組もうとしている国や土地にとってエリア24は『警戒すべき脅威』と見られているからねぇ。」

「まるで情報屋みたいだねソキア。」

「ナッハッハー。」

「それとは少し外れるけれど、マリーベル様はどうすると思う?」

「うーん……ユーロ・ブリタニアも、あの東ユーラシア騒動でかなり動きにくい立場になったからにゃー……こういう時、オズに聞ければいいけれど先日出発────」

「────()()()()()しちゃったからねぇ~。

「な、なははは。 面目ない……」

 

 ティンクはソキアの言葉を遮りながら、静かに自分の口に指を付けるとソキアが乾いた笑いを出す。

 

「でも見たかったなぁ~。 ()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「はっはっは。 庭師たちが血涙を流していたよ。」

 

「整備士長のマーシルさんもにゃ~……それにオズもオズで血相を変えなくて良かったと思うんだなぁ~。 マリーベル様もえっちゃんからの連絡を聞いて困っていたし。」

 

「……“えっちゃん”?」

 

「ほら、あのピーからのオッパイがデカい子。」

 

「……………………………………ああ、そうだね。」

 

 ティンクの中で『ピー』と『オッパイがデカい』の言葉によって想像が一瞬卑猥なモノに変換されたが、『ピー=ピースマーク』から『えっちゃん=ミス・エックス』とソキアの隠語に気が付いては頷いた。

 

「ティンク隊員、今エッチな妄想をしなかったにゃ?」

 

「はっはっは。」

 

 ……

 …

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 マドリード租界の、とある病室で重傷らしき少女が窓の外を見ながらため息を出していた。

 

「(お嬢様は無事にオルフェウス兄さんを探したのかな?)」

 

 少女────()()()()()()()()()()()()()()はベッドの上でソワソワしていた。

 

 病衣から見える肌はなるべく包帯やガーゼで覆い、それでも露出した部分は白のファンデーションを塗り、稲穂の様な金髪でウェーブのかかったウィッグに緑眼のカラーコンタクト。

 

 長年オルドリンの世話をしていたからこそ彼女は『オルドリン役になりきれる』という見込みだった。

 

 さて、何故こうなったかを説明するには一週間ほど前にまで時間は遡る。

 

 ………

 ……

 …

 

「全く、帝国最強の騎士を呼び出すなんで前代未聞だよ? オルドリン・ジヴォン。」

 

「ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム卿に懇請すべきことがあります。」

 

 政庁より西にある、マドリード租界最大の庭園にノネットは呆れ気味にオルドリンと向かい合っていた。

 

「その為にそいつらを準備したってのかい?」

 

 否。 ノネットが見ていたのはオルドリンの背後にある、フル装備状態のランスロット・グレイルとクラブであった。

 

「はい。 エニアグラム卿がここに持ち込まれていたと聞いたので勝手ながら準備させていただきました。」

 

「じゃあやっぱり君がナイトメアを準備した理由が、私の予想と間違っていないと見て良いんだね?」

 

「恐らくは。」

 

「ハッハッハッハ! いやぁ、参った参った……本当に、この時代にはどれだけの強い子が────」

「────エニアグラム卿────?」

「────ああ、いや。 面白い子は嫌いじゃないと言っていただけさ。 ノネットでいいよ。」

 

「では、私の事も“オズ”と。 ()()()()()、そう呼びます。」

 

「そうかい……んじゃ、早速始めようか!」

 

 ノネットとオルドリンが羽織っていたマントを脱ぎ捨てるとそのまま両者はナイトメアに乗り込み、起動させると戦闘態勢に入る。

 

 庭園────現在のカサ・デ・カンポはかつてフェリペ2世が首都を新しくマドリードに移した際に王室の狩猟場として用意されてきた敷地面積約1,600 ヘクタール(ニューヨークのセントラルパークの役4,5倍)を誇る自然空間であり、コードギアスの世界では現在でも貴族たちの娯楽私有地として親しまれている。

 

 ガキィン

 

 そして今日はマリーベルによって貸し切り状態&立ち入り禁止にされ、オルドリンとノネットのナイトメアが衝突していた。

 

『ルールは?!』

 『フロートユニットを使った飛行禁止! そして相手が敗北を認めるまで、でいかが?!』

 『上等!』

 

 グレイルの射出したソードハーケンをクラブは片手のMVSで弾き、グレイルはフロートユニットの推進力で一気にランス型のMVSが扱いにくい距離にまで機体を詰める。

 

 だがグレイルが動き出すとほぼ同時にクラブは既に後方へと移動を開始していたことでグレイルはシュロッター鋼ソードを両手に更に突進する。

 

 バキッ!

 

 突進したグレイルのマント────『ソードラック』が投擲されたクラブのランスによってもぎ取られる。

 

 だが止まらないグレイルの突進に対し、クラブも両手に持ったMVSで刃を受け止める。

 

『いいねいいねいいね! ゾクゾクするよ、本当に!』

『恐縮ですが、余裕をお持ちに?!』

『ハ! ()()()と比べば欠伸が出るね! 』

 

 お互いの剣から火花が散り、徐々に出力が低いグレイルが押されていくとグレイルは通常のスラッシュハーケンとソードハーケンでほぼ密着のクラブに打ち込む。

 

 ガガン!

 

 しかしそれ等はクラブのスラッシュハーケンによって弾かれる。

 

『お強いですね!』

『ナイトオブラウンズは伊達じゃないさ! この世界、言葉だけじゃあ何もできやしないからね!』

『そうですね! 現実では言葉だけで人や人の心自身も救えない!』

『(フ~ン……こりゃシュナイゼルの坊やの思う通りに何かあったねぇ?) 私がアンタほどの小娘だった頃はもう少しバカだったのにねぇ? 何か……あったのかい?』

 

 ノネットが自らの言葉を言い終える前に、クラブでオルドリンの母オリビア並みの────否、それ以上の猛攻でグレイルを攻めていき、確実に装甲と各アクチュエーターに無視できないダメージを備蓄させていく。

 

「(やはり、強い! お母さま……いいえ、それ以上! でも、ここで負けるわけには────!)」

『────勝負時に考えごとかい?! 随分と自信があるようだね────!』

『────う?!』

 

 クラブがランドスピナーの加速を利用した蹴りにオルドリンの視界がブレる。

 

『アンタは強いよ、オルドリン・ジヴォン! でもそれで私に頼みごとをするとは片腹痛いよ!』

 

『貴方に、勝ちます! その為に私は今日まで────!』

『────懸命に剣を振るった結果が、必ずしも自分の思っていた結果になるとは限らない! それを承知の上でそれを言うのかい?!』

 

『その為の今です!』

 

 オルドリンは操縦桿を操作し、操縦を『オート(自動)』から『マニュアル(手動)』に切り替える。

 

「(動きが変わった?! ()()()()マニュアル操縦に切り替えたと言うのかい?!)」

 

「(仮想訓練での成果を、ここで!)」

 

 動きがさらに加速したグレイルにノネットは黙り込み、オルドリンはブレ続く視界の中で先日苦労してようやく()()()()()()()()()の感覚を思い出しながらミシミシと軋み、まるで痛みに泣く機体の音を無視する。

 

『その力で何を成そうというんだい?!』

 

 ちなみにクリアが表示されてオルドリンが呆けた直後にシミュレーターがショートしボヤ騒ぎになっていた余談である。

 更にどうでも良い事だが、この時消火器を持ちながらソキアは『業火は消火だぁぁぁぁぁぁぁ!』と叫んでいたとか。*1

 

『私は!』

 

 バキィ!

 

 グレイルとクラブの蹴りが互いを相殺し、衝撃に耐えられなかったランドスピナーは明日の方向にねじ曲がり────

 

『国境も!』

 

 バキィン!

 

 グレイルがシュロッター鋼ソードを何本か犠牲にしてやっとクラブのMVS一本を使用不可能な状態に陥れ────

 

『人種の差別もなく!』

 

 ザクッ!

 

 クラブはMVSを投げてグレイルの右腕にダメージを負わせ、先ほど投擲したランスを代わりに手を取るが起動できる前にグレイルによって真っ二つに斬られ────

 

「(これを使うのは少年以来だよ、全く!)」

 

 クラブは残っていたMVSを投げてグレイルの左腕を落とし、両手のブレイズルミナスコーンでグレイルの射出したスラッシュハーケンを払い落す。

 

『私()()は、力を持たない人々を守れる立場にいたい!』

 

 ザクッ!

 

 グレイルは隙が出来たクラブに距離を詰めながら、壊れかけの右腕内部から仕込まれた刀身でクラブの頭部を貫く。

 

『……………………………………ハァ~、参ったねぇ。 まさか仕込み武器を入れていたとは思わなかったよ。』

 

()()()()()機体から、アイデアを貰いました。』

 

『……みたいだね。』

 

 クラブのコックピットブロックから汗を袖で拭うノネットが出てくると、グレイルから披露しながら息継ぎをするオルドリンも姿を現すと両者は地面に降り立ち、手の届く距離にまで近づく。

 

「んで? “頼み”っての何だい、オルドリン?」

 

「グリンダ騎士団を、ノネット・エニアグラム卿の指揮下に入れてください!」

 

「……………………おいおいおいおいおい、それって────」

「────エニアグラム卿の立場は分かっているつもりです。 私も、マリーも。 ですが、今のマリーは動こうにも動けない状態です。 ですから────」

「────ノネット。」

 

「……はい?」

 

「ノネット。 そう親しい人は私を呼ぶんだよ、()()。」

 

「ッ。 では────!」

「────おっと勘違いしないで頂きたい。 これでも私はラウンズを誇りに思っているんだ。 出来ることと言えば、アンタを……いや、()()()()()をエリア11に私の名において連れていくぐらいさ。 それに……シャルル皇帝が不在の今、あの坊主────ああいや。 宰相の言葉が持つ重みは更に増した。」

 

「ではせめて……私の行方に少々の間、目を瞑ってくれませんか?」

 

「うん? な~にを言ってんだい! 今の模擬戦でアンタは満身創痍、私は怪我で今すぐには宰相の命に従える状態じゃない……ってのはどうだい?」

 

「ッ。 ノネットさん!」

 

 オルドリンは笑顔になり、ノネットにハグをする。

 

「いや~、ここまで楽しかったのは久しぶりだよ! ちょっとアンタを見くびっていたけれど────」

 

 ミシミシミシミシ!

 

「────あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────?!」

「────ありがとうございます! 本当に────!」

「────ギブギブギブギブギブギブギブギブ

 

 ノネット、『怪我ですぐに動けない』という方便に少々真実味を帯びた瞬間である。

 

 

 ………

 ……

 …

 

「(本当に今の時代には凄い子等が居るもんだよ……)」

 

 そして現在、オルドリン(に変装中のトト)とは別の病室中からノネットはマドリード租界を見渡しながら複雑な気持ちに浸っていた。

 

「(でもまさかロイ坊が連絡を寄こすとはね、びっくりしたよ。 セシルもなんだかソワソワしていたし。 クラブの状況を聞いて『あ、そうなんだ。 やっぱり改良の余地があるから来てくれない?』とエリア11に移動する建前がやってくるとは思ってもいなかったけれど……エリア11では何が起きるのやら。)」

 

 

 

 

 

 

 

へっくし! ……変ね、新しいパイロットスーツの所為かしら?」

 

 エリア11の福江島へと飛んでいたオルドリンは鼻がムズムズしていないにもかかわらずくしゃみを出すと、彼女は不思議に思いながらもコックピット内の暖房を上げていると友軍の通信がプレイアデスナイツたちに届いてくる。

 

『こちら義勇軍の篠原(シノハラ)少佐だ! 近づいてくる友軍のIFFは例の傭兵部隊だな! 我々は今すぐ火力支援を必要としている!』

 

『こちら、プレイアデスナイツの……B子(毒島)とでも今は名乗ろう。*2 誤射を防ぐため友軍にIFF信号を発するように君から伝えてくれ。』

 

『だ、そうだ。 各部隊、識別信号を────』

『────ああ?! 傭兵だと────?!』

『────海の向こう側から援軍が来たと思ったら金取り虫共かよ!』

『────頼んだ援軍と違うじゃないか!』

 

 レイラは少し前の自分やwZERO部隊の者たちが傭兵(スバル)に対して当初、歓迎していない空気と態度を重ねると内心モヤっとしたが彼女はそれを押さえ込みながら前線部隊から入ってくるデータに目を通す。

 

『……こちら篠原少佐だ。 総員、上空から義勇軍の支援機が来る 必要ならレーザーでターゲット指定をしろ。』

 

『チッ! こちらの指定したターゲットどもを叩け、傭兵! 以上!』

『どうして傭兵なんだ!』

『愚痴かよ?! こっちは圧されているんだぞ!』

『金だけとって危険を感じれば最初にトンズラするような連中だぞ!』

『そんな戦争中毒者どもを、どう信用しろと言うんだ?!』

 

『……各プレイアデスナイツ、友軍に指定されているポイントを中心に包囲網を崩してください。 (果たして彼も、ヴァイスボルフ城に来た当時もこんな気持ちだったのでしょうか……)』

 

『総員、こちらB子だ。 下の連中の言葉に耳を貸すな、一々気にしていればキリがない。 彼のように、行動で示せ。』

 

『……B子の言う通りですね。 今は、この戦域に集中します。』

 

『何、彼が私に言ったことをそのまま復唱しただけだ。』

 

『B子、なーんか嬉しそうね?』

 

『それでもないぞ、カーちゃん(カレン)?』

 

 『誰が“かーちゃん”だゴラァァァァァァァァァ?!』

 

『あー、横から口を挟んですまないが……魔術師(ウィザード)だ。 ここら一帯のECCMはかなり強力なモノだ。 ECMはかけてあるが、チャンネル数が限られているのでここは友軍の為にもなるべく私語は謹んでくれないか?』

 

『『あ、ハイ。 すみません。』』

 

「(さすがオイアグロ叔父さんね。)」

 

 コックピット内でカレンと毒島が叱られた子供のようにしゅんとし、オルドリンは静かに彼を誇らしく思った。

 

『流石オジサンだね!』

 

『グッ……大丈夫だ私はまだ30代で特殊な性癖もブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……』

 

 次の瞬間、ダルクの所為でオイアグロは(精神的)ダメージを受けては自分を慰めることとなったが。

 

 

 プレイアデスナイツたちが空中でそれぞれに近いターゲットに近づくため別れ、森や山中に潜むブリタニア軍に攻撃を開始する間にも義勇軍の通信が耳に否が応でも入ってくる。

 

『最後のマガジンだ! ヨリノブ、残りの奴らを装甲兵輸送車に連れて退避しろ!』

『軍曹はどうするんですか?!』

『命令だ、いけ!』

 

『こちら移動式火砲部隊、全指揮官に告ぐ! 包囲網が近づいているのでトレーラーを放棄し、次の防衛ラインへ退避します!』

 

 それ等は数々の、如何に義勇軍がブリタニア軍に圧されているかを語っていた。

 

 黒の騎士団、アマルガム、そして(一人ずつだが)グリンダ騎士団とピースマークでも屈強な者たちが『プレイアデスナイツ』として加勢するため、機体と武装の偽装をしていたことも関係はあったかもしれない。

 

「(だとしても、これは……“鮮やか”だな。 ブリタニアも有能な人材を宛がったということか。 これは来てよかったかもしれん。 このままでは、ここの者たちは皆殺しになっていた。)」

 

 そして相手の出方と反応を見た毒島は感心しながらも、どれだけ義勇軍が窮地に立たされていたかに背筋がゾッとした。

 

『今だ、行け! 敵がひるんだすきに戦略的撤退だ!』

『ま、まだ戦えます少佐!』

『バカ言え! 今のうちに人員を維持するんだ! 戦車隊が退避を援護している!』

『その戦車隊、囲まれているだけじゃないですか!』

『アホか! ワザと追跡されてオレたちの為に敵のど真ん中に残ったんだよ! 気付け!』

『傭兵どもに行かせるか?』

『最後の通信から何分経っていると思う? 無理だろ。』

 

『こちらオ────ドロシー! L(レイラ)さん、義勇軍の戦車隊は?!』

『……もう、手遅れです。』

『そんな! なら、彼らが連行されている方向を────!』

『────ですから、()()()です。』

『ッ……了、解。』

 

 レイラは義勇軍の戦車隊の識別信号が()()()場所を敵のナイトメア部隊が平然と通過していく様に込み上げてくる悔しさをグッと堪え、それを察したオルドリンも苦い顔をしながらも自分の届く範囲内の義勇軍の撤退を援護する。

 

 マークスマンシップがCなので、ほとんど『銃による攻撃』ではなく『投擲』であったが。

 

 ……

 …

 

『なぁ、この反乱軍────ああ違った、武装集団の指揮官は誰なんだ?』

 

 義勇軍の戦車隊に生き残りがいないことを確認したブリタニアの騎士の一人が警戒しながらふとした疑問を通信に出す。

 

『どうしたんだ、突然?』

『いや、ただの一般人に我々がここまで手こずるなんて思えなかったからな。』

『聞いていないのか? 噂によると、元日本解放戦線の生き残りだとさ。』

『日本解放戦線?! あの“トウドウ”とやらが居た?!』

『みたいだぜ。 ここだけの話だが一年前のキュウシュウの乱ではフクシマを乗っ取った上層部の連中に、左遷されたと言うのがもっぱらの噂だ。』

『じゃあ、まさか……ゼロか黒の騎士団による作戦か何かか?』

『いや、単にバカ騒ぎ好きなイレブン共の暴走だと切っている。 多分、ブラックリベリオンの二の舞を防ぎたかったんだろうよ。』

『日本解放戦とキュウシュウの乱を生き残って、今はこれか。 同情はするし、心得もイレブンにしちゃ立派だが……不運な奴だな。』

『ああ。 そして今は傭兵に救いを求めている。』

『黒の騎士団の手先だろ?』

『いや、それがネットとかで調べると黒の騎士団とは別で昔から世界中でテロ支援をしているピースマーク……の一部らしい。』

『ピースマーク? ……厄介だな。』

『ああ。 実際、部隊の何割かは猛攻を受けて陣地から後退している。』

 

『ジェイソンがやられた!』

『何?! 我が隊で対空砲を装備しているのはアイツだけなんだぞ?!』

『た、退却! 陣形を保ったまま退却! 戦略を練り直す!』

 

『“優秀な正規軍”と言っても、所詮は来て日の浅い新兵同然か。』

『ま、ブラックリベリオンを経験していればどの戦場でも温いと感じるさ。』

『違いない。』

 

『総員、こちらフクエジマ地域司令部だ。 反乱分子がこれ以上暴れる気があるのならこちらにも“アロー”を既に呼んでいる。』

 

『なぁ、司令部の言った“アロー”って何だ?』

『絨毯爆撃機部隊の略だよ。』

 

 

 ……

 …

 

 

『少尉! 帝国が居なくなった陣地に部隊を移動させます!』

『分かった! 傭兵どもに見分けがつくように識別信号をオンにしておけよ! 反撃を続けろ!』

『総員、こちら篠原少佐だ。 包囲網を崩して退却することが目的だということを忘れるな。 配置から追い出された部隊はこの座標に進み、怪我人たちの防衛に当たってもらいたい。』

 

『プレイアデスナイツ総員に通達。 海岸沿いから方向転換中の新たな敵正反応をキャッチ。 速度から恐らく爆撃機の部隊です。』

 

「あああああ、もぉぉぉぉぉぉぉ! 次から次へと! ム・カ・つ・く!」

 

 カレンは一瞬、思わず輻射波動を使う為に操縦桿を操作しそうになるが機体を偽装した意味を思い出しては背部のブースターの出力を上げて機体を飛来させた。

 

「(でもアイツってこういうことをしていたんだよね。 多分、愚痴も零さずに……)」

 

 ……

 …

 

『ナイトメアが、飛んだ?!』

『フロートユニットか?!』

『いや、そのような反応は確認されていない!』

『電磁モーターだったら、出力が従来の物と段違いだぞ?!』

『こっちは弾を避けて剣で切りかかってくる奴が!』

『剣を投げてきやがった?!』

『なんて非常識な傭兵たちなんだ?!』

*1
ヒュウガブラザーズ:微妙。 スバル:ノーコメント。 (汗)

*2
作者:一体何人に分かるんだろこのネタ。(汗)




後書きEXTRA:

ぶすじまが(おるどりんを)みている…… (^•ω•^)


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第259話 ジワジワと動く裏表

作者:『ハッピーバースデーカレン』という感じからのサプライズ投稿です。
おはぎちゃん:キュー♪ |•ω•,,)チラッ


『総員、こちら地方司令部だ。 目標は達成された、一時撤退せよ。』

『『『『了解。』』』』

 

 爆撃機がアンノウン(正体不明)のナイトメアに落とされたことを悟らせない、冷静沈着に満ちた指示がブリタニア軍の現場指揮官が乗っているG1ベースから発される。

 

「(これで、本当に良かったのだろうか?)」

 

 そして後退していくG1ベース内に居たグラストンナイツの金髪イタリア系ブリタニア人────アルフレッドがそう思いながら予測された友軍と敵の被害の報告に目を移す。

 

「(キュウシュウの乱後、ゴトウ(五島)租界にブリタニアの一般市民が避難されたとはいえ……いや、これは実質的な“戦争”だ。 そう呼んでいなくとも……) それと我々の包囲網を破ったナイトメア部隊が何者か、我が軍の誰かは確認できたか?」

 

『こちら機甲部隊です。 自分が見ました、あの飛んでいた機体にエンブレムらしき物が描かれていました。』

 

「(フロートユニットの反応が無くとも“飛ぶ機体”、か。 まるでユーロ・ブリタニアの騎士たちが噂した奴みたいだな。) どんなエンブレムだ?」

 

『……』

 

「おい、どうした機甲部隊?」

 

『……骨でした。』

 

「よく聞こえなかった、もう一度言ってくれ。」

 

『………………炎に包まれた頭蓋骨、みたいなエンブレムでした。』

 

「は?」

 

『炎に?』

『頭蓋骨?』

『しかも飛び回っていたんだろ?』

『剣を蹴って投擲してきた機体も……』

『非常識だな。』

 

 アルフレッドが困惑している間、通信を聞いた他の分隊長等の話に彼は背筋を走るヒヤリとした冷たい感覚に身震いしそうになる。

 

『ちょっと待て! まさか……それって噂の、レ────?』

「────りょ、了解した機甲部隊。 情報提供、感謝する。 反乱分子に、傭兵が紛れていることを警告に出そう。」

 

 アルフレッドは通信を遮りつつ、どうトウキョウ租界にいるギルフォード、そして話を聞いてくるであろうシュナイゼルに説明すればいいか迷った。

 

 ……

 …

 

 

星団(リア・ファル)からプレイアデスナイツへ。 帝国軍が撤退していきます、深追いは必要ありません。』

 

『お、おい! 俺たち生きているぞ!』

『ああ!』

『なぁ、あの傭兵たち思っていたより凄かったな!』

『ていうか、女の声だったよな?』

『マジか?!』

『女の声をした野郎じゃねぇの?』

『いや、俺の直感が“美人”と伝えている!』

『お前たち、私語は慎め。 まだ終わっていないんだ。 こちら篠原少佐だ。 諸君ら傭兵たちのおかげで大勢の命と戦力が崖っぷちの状況から救われた、感謝する。』

 

 介入から一時間ほどが経ってからレイラが通信を飛ばすと落ち着いて彼女の声を聴いた義勇軍たちが騒ぎ出す。

 

『こちらプレイアデスナイツの星団から篠原少佐へ。 受けた依頼を我々が遂行できたのはそちらの皆さんが頑張って生き残り、適切な組織を維持できていたからこそ成せた所業です。』

 

『しかも優しい!』

『こりゃ美人で確定だな!』

 

「……な~んか玉城さんたちを思い出すなぁ。」

 

 量産型に機体を偽装した際、こっそりと胸部にエンブレムを付けたカレンは義勇軍の通信に半ば呆れ顔になっていたとここで追記する。

 

「(ティンクはきっと暇を持て余しているでしょうけれど、レオンは大丈夫かしら?)」

 

 そしてオルドリンはコックピット内に設置された水分補給装置(スポドリパック)供給線(ストロー)を刺し、グビグビと飲みながら義勇軍の言葉に知人を重ねて連想したレオンハルトを思い浮かべた。

 

『あー、プレイアデスナイツ……の星団と言ったか?』

 

『ハイ、こちらプレイアデスナイツの星団です。 どうかされましたか、篠原少佐?』

 

 ブツン。

 

『少佐、今のは何でしょうか?』

 

『あ、ああ。 今から聞く内容が内容だけに、一般兵との通信を切った。 今レーダーに映っている、浮遊航空艦はもしかして────』

『────ハイ。 プレイアデスナイツの母艦、通称“星団”です。』

 

『そ、そうか……維持費も、やはり高いのか?』

 

『費用は協力者たちによって支払われています。 ご心配なく。』

 

『まさか傭兵団が救援に来るとは思わなかったが……流石に航空浮遊艦持ちとは斜め上だ。』

 

『そうですか。』

 

『気を悪くしたのならすまない、ただその……私も色々と初めてでな……傭兵の悪い話や、実際に触れあったことがあってとても……悪い先入観を持っていた、すまない。』

 

『……いえ。 私もそのお気持ちは大変良く理解できますのでお気になさらず。』

 

『そうか……まだ手を貸してくれるか?』

 

『ご依頼内容によります。』

 

『実は五島市に先行させた非戦闘員部隊から通信が途絶えていた。 第二段として護衛付きの部隊を向かわせていたのだが先ほど連絡が入った。 “五島市及び非戦闘部隊はブリタニアの爆撃に合った”、と。』

 

『……心中、お察しいたします。』

 

『ブリタニアの連中は、私たちの事を“暴徒”と呼んでいるが我々からすればこれはれっきとした戦争だ。 戦争に犠牲はつきものだと、皆は理解している。 それに全滅したわけではない、生存者がかなり見つかっている。 問題はこれからだ。 五島市にブリタニアが陸と海、両方から近づいていると聞いた。』

 

『動きがかなり早いですね。』

 

『我々もブリタニアの介入を危惧して機を窺っていたのだが、バカが先走って……いや。 もう過ぎた話だ。 君たちの航空浮遊艦を使わずとも、隠していた移動手段で避難をさせる準備はこちらで出来る。 つまり君たちには、避難する者たちが戦闘地域から撤退出来るまでの時間稼ぎを頼みたい。』

 

『承りました。』

 

『ッ。 感謝、する。 ありがとう……』

 

『では、我々傭兵団用の合言葉をゴトウ租界に先行した部隊にお伝えください。』

 

『合言葉? ……分かった。』

 

『合言葉は────』

 

 

 ……

 …

 

 

「殿下、フクエジマエリアに送られたアルフレッドから報告が入りました。」

 

「フム……」

 

 政庁の中でカノンが報告書をシュナイゼルに手渡し、彼はスラスラとそれを読んでいく。

 

「なるほど。 結果は上々だね。」

 

「それよりも北の、ホッカイドウブロックは宜しいので?」

 

「うん? ああ、通常の巡回パターンのままでいい。 そうでなければ今作戦の意味がなくなってしまうからね。 例の調査員から何か聞いていないかい?」

 

「今はまだ調査中だと……」

 

 ……

 …

 

「“コノエナイツは待機”、ですか?」

 

 エリア11の政庁では軍の連絡記録で福江島の騒動を見たシュネーがスザクからの答えを復唱していた。

 

「うん、そう僕は聞いているよ。 キュウシュウの乱とブラックリベリオンの影響でブリタニア人は殆ど五島市から居なくなっていることが幸いして、暴徒を正規軍と駐留軍がそこに追い込んでいる。」

 

「……」

 

「どうかしたかい、シュネー?」

 

「何故、今になって待機の命令が下されたのかが少し気掛かりに……」

 

「……これはあくまで僕の考えだけれど今、中華連邦が先の騒動の平定をしているからだと思う。」

 

「もしや、黒の騎士団?!」

 

「かもしれないね。 でもこうやって彼らが分かりやすい行動に出るとは考えにくいから、もし彼らが関係していると福江島は陽動なんじゃないかな?」

 

「なるほど。 では我々は守りを固める為にここに残ると?」

 

「あくまで僕の考えだけどね。 (それに陽動でなくとも、エリア11に来たばかりの正規軍を個々の地形に慣らす演習とも捕えられる……だとすれば、福江島のアレは意図的に勃発されたということになる────)」

「────それとスザクさんはレドを知りませんか?」

 

「ん? レド? 彼がどうしたんだい?」

 

「いや、実はフクエジマエリアの事を彼と話したかったのですが見当たらなくて……探しているその時、丁度スザクさんが通りかかったのです。」

 

「レドが? 君に何も言わずに?」

 

「そうなのですよ。 たまにあるのです、フラッと消えてはフラッと隣に現れるのです。」

 

「(まるでルルーシュだな。」

 

「……昔からなので私は慣れているのですが、スザクさんは気にならないのですか?」

 

「ん? レドの行先について?」

 

「行先と、何をしているのかを。」

 

「(ああ、なるほど。 形だけでも僕はレドの上司に当たるから、シュネー自身よりハッキリと問いただせると思っているのか。) うーん……“気にならない”と言えば嘘になるけど、何かあったら連絡を入れてくるだろうし根気よく待とうよ。」

 

「はぁ……スザクさんがそう仰るのなら、そうします。」

 

「ああ。 彼を見つけたら、また一緒に昼でも食べよう。 クロヴィス殿下がエリア11の文化を取り入れてくれたおかげでいい丼屋さんが出来たんだ。」

 

 スザクはそう言いながら、窓の外に広がるトウキョウ租界を────否、帝都ペンドラゴンがある方向を見る。

 

「(人を見る目があるシュネーも純粋にレドを心配している。 信用はしたいし信じたい……そう思う僕は間違っているのだろうかと思う時もある。)」

 

『信じてくれ!』

 

 すると上記の言葉で自分に懇願するルルーシュの声がスザクの脳内に響く。

 

「うん……そうだね。 信じて彼を待とうよ……はは、天丼が食いたくなったよ。」

 

「“テンドン”? もしや十皿の物が出てくるのですか?!」

 

「なにそれシュネー? ダジャレのつもりかい?」

 

「“だじゃれ”?」

 

 ……

 …

 

「……」

 

 アッシュフォード学園の制服を身に纏っていたレドはオモテサンドウモール内を、顎に手をつけながらソフトローラ(電話会社)を後にしながら歩いていた。

 

「(やはり数か月前、テロ騒ぎの元となったのはこの店の店員だったか……)」

 

 レドは当時の騒動を保安局の報告に頼らず自分なりに人に何があったのかを調査し、『普通以上に焦っていた店員』にまで辿り着き、『新しい携帯機種を探している学生として身分を偽ったジャーナリスト』を演じてその店員にテロ騒動の日の事を聞いていた。

 

 そしてレドが当時の日の事を質問していくと、その日に非常ベルが鳴った16時直前辺りの記憶が店員に無かったことに行きついていた。

 

「(まさかここでルルーシュ・ランペルージに再び繋がるとは……参ったな、これじゃあほぼ確実になるじゃあないか。)」

 

 レドは携帯電話を開き、シュネーからのメッセージを無視してカノンの電話番号にかける寸前で指を止める。

 

「(ルルーシュ・ランペルージはカノンの思った通りの黒。 そして新たな情報は、彼は催眠術の類のような……何らかの方法で()()()()()()()()()。 前者は俺がこうやって行きつけたんだ。 報告は遅らせても、しないワケにはいかない。 しかし、後者は非常にマズイ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。 彼と枢木卿に間にはアッシュフォード学園以外の接点はない。 そして枢木スザクは過去に何度か単身でルルーシュ・ランペルージと接触している……『ルルーシュ・ランペルージが黒』であることと『妙な術の使い手』を二つとも報告すれば間違いなく枢木卿にあの妙な術による内通者、あるいは傀儡の容疑がかかってしまうだろう。 その上、機密情報局とも……皇帝と繋りがあるとすれば、シュナイゼルは枢木卿を放っておかないだろう。)」

 

 ガチャン!

 

 レドは『平然』を装いながら落としてしまった携帯を拾い上げる。

 

「(いや、何を躊躇している。 元々ナンバーズでありながらラウンズに任命された異例の枢木卿を調べる為にコノエナイツなんていう親衛隊に入ったんだ。 それに彼は『他人』だ。 一体どこに躊躇する必要が……いや、分かっている。 シュネーが枢木卿を敬愛しているからだ。 )」

 

 ガチャン!

 

 レドはまたも携帯を落としてしまい、今度は画面にヒビが入ってしまう。

 

 「……いっその事……戦場に出撃できれば戦死という選択も……」

 

 彼はそのままヒビの入った画面に映っていた、自分とシュネーとスザクが並んでいる写真を見ながらボソリと静かな独り言を口から出した。

 

 ……

 …

 

 

「フクエジマエリアの五島租界は我々が包囲網を崩している間、爆撃機による攻撃によって主な軍事拠点の維持が困難な状態です。 恐らく陥落するのも時間の問題です。」

 

 リア・ファルにカレン達の機体が戻り、束の間の休息後にブリーフィングルームへと再び招集された彼女たちにレイラの開口一番は上記の言葉だった。

 

「え?!」

「ちょっと待った!」

「じゃあ、私たちが戦ったのって意味が無かったの?!」

 

 上からダルク、カレン、オルドリンがそれぞれ内心考えていた疑問をぶつけた。

 

「いいえ、意味はありました。 義勇軍及びその協力者たちの大部分は一方的な虐殺から守ることに成功しています。 元々義勇軍はブリタニア軍を福江島から撤退させ、報復や帝国の援軍が派遣される前にフクエジマ内の重要地域を制圧し、防衛線を引きつつ『国』を出張し黒の騎士団の同盟に参加することを予定していました。 残念ながら、先走った者たちの暴走によりその予定は崩れてしまいましたが……」

 

「ではレイラ、我々は残った義勇軍の撤退を援護するのか?」

 

「ええ。 サエコの言った通り、今は義勇軍の余力をこれからの為に温存する方針です。」

 

「……義勇軍の非戦闘員たちは、この艦に乗せるのか?」

 

「それも考えましたが、義勇軍のシノハラ少佐に遠慮されました。 “さすがにそこまで世話になる訳には”、と。」

 

「ほう、出来る指揮官だな……いや、この場合は文官か?」

 

「……」

 

「ネリスさんは、何かお考えがありますか?」

 

「脱出先はもう決めてあるのか?」

 

「南へとフクエジマを周り、上海の方向へと向かいつつ合衆国中華の福建省(ふっけんしょう)へと向かいます。 既にシンクーさんたちには連絡を送り、受け入れの準備をして貰っています。」

 

「手際が良いな。」

 

「“敵との接触後の想定”は難しいですが、行動方針を決めて無駄にならないことの事前準備をすれば憂いは少なくなりますから。」

 

 レイラはニッコリとした笑顔をブリーフィングの見学をしていたコーネリアに向けた。

 

「戦術家を心得ているな。 (う~む、この世代でこれほど有能な子たちがいるとはな。)」

 

「ええ、まぁ。 (シュバールさんのおかげなのですけれどね?)」

 

 コーネリアは図らずともエリア24で湿布を貼って貰っている先輩(ノネット)と似たようなことを考え、レイラは以前のガンマ作戦時に言われた受け売りに少々戸惑った。

 

 

 尚 “もしスバル(シュバール)がレイラの内心を聞いていれば?”と言う問いを本人にすれば、彼はポーカーフェイスの裏で『ちゃうねんあの時はぴっちりワイバーンパイロットスーツ姿のレイラから気をそらす為にそれらしいことを言っただけや!』と内心で少々長めの抗議をしていただろうとここで追記しておく。

 

 

「今作戦は脱出が速やかに進められるよう、義勇軍の支援となります。」

 

「えーっと……つまり?」

 

「ブリタニア軍を混乱させるということですよ、カレンさん。」

 

「(“それに恐らくゼロはこの騒動を利用してあの計画の下準備を進めるでしょう”、という言葉が今にも聞こえるほど分かりやすい……のは若さ故か。 それとも純粋に『素直』だからか?)」

 

 一瞬だけレイラがコーネリアをチラっと見てはニコニコしながらカレンに答えると、コーネリア(28)は微笑ましくそう思っていたそうな。

 

「ナルホドナー!」

 

「差し入れで~す!」

「ですー!♪」

 

 ブリーフィングルームのドアが開かれ、あっけらかんな機械音声が部屋の中にコロコロと床を転がるピンクちゃんと共に響くと軽食を載せたトレイを持ったユーフェミアが愉快な声と、飲みものを載せたトレイを持ったライラもユーフェミアの語尾を真似しながら入って来ては二人とも持っているトレイの物を配りだす。

 

「“握り飯”、というヤツか。」

「あ、縁茶だ! 見てアキト!」

「アヤノ可愛い。(ああ。)」

「へ?!」

「フーン。」

 

「ほらカレン、元気を出せ。 お前の好きなかつお節たっぷりめの小松菜とツナみそ入りだぞ。」

 

「え、本当?! やったー! いただきま~す……じゃ・な・く・て! なんでここにアンタもいるのよ?!」

 

 そしてあたかも当然のように振舞うスバルの様子にカレンはツッコミを入れた。

 

「……差し入れだから?」

 

 ちなみに彼の車椅子には小型の屋台(に似た)オブジェがあるとここで追記する。

 

「「「……いやなんで?!」」」

 

「「「……」」」

 

「「あ、は、は、は、は。」」

 

 そんな彼を見た者たちの数人が驚きの声を上げ、他の者たちは気まず~く目をそらしながら乾いた機械的な笑いを出すユーフェミアとライラを見た。

 

「休めと言ったような気がするのだが、スバル?」

 

「いや、何故と問われても“()()()()()()()”としか答えようが無いのだが?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 

 


 

 

 え? 

 何、この間?

 毒島の問いにありのままに答えたらお互いを見ている奴らもいれば、憐れみを込めた目を向けてくる人たちもいる。

 

 WHY(何故に)

 ぶっちゃけこれってば『習慣』というか『日課』の枠に入るから全然『負担』の中に入らないぞ。

 

「あの……行為は大変嬉しいのですが、無理はなさらないでくださいねシュバールさん?」

 

 あー、レイラの控えめな言葉で分かった(と言うか察した)ぞ。

 こいつらからすれば俺が無理をしているように見えるんだな、きっと?

 

「何、そこまでの事をしていない。 せいぜい下準備と出来立ての物を運ぶ手伝いをしただけだ。」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 もうね、『休め』と言われても他にやることが無いのだよ。

 あ、言っておくがちゃんと自分なりに休んだぞ?

 

 何時もの睡眠時間に対しての活動とかに比べればどうってことないし、ニュースを見ていたりとか日向ぼっことかライラの周りにいる孤児たちの視線を無視したりとかそんな孤児たちを見て震えだすエデンバイタル教団の孤児たちを慰めたりとか何故かオルフェウスを取り合っているクララ&オルドリンの仲介に落ち込んでいるオイアグロをけしかけたりとかラクシャータやミルベル夫婦博士たちに第二トウキョウ決戦(と言うかブリタニア側のエナジーウィング)に備えての装備アイデア提供とか。

 

 それでも時間があるのだから何が言いたいかと言うと超絶に暇だということだ。

 

 と言うか周りの奴らがせっせと何かしているのに、俺だけボーっと何もしていないのは居心地が悪い。

 

 ……あれ?

 

 俺、スローライフになる為に色々としていたはずなのにどうしてこうなった?




集合ちゃん:今更。 ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)


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第260話 警報の鐘

『正面に見えるのがゴトウ租界か。』

『戦略的撤退が既に進んでいる様ですね、ヒュウガs────』

『────義勇軍との通信中は“ウィンド”だよ、J(ジャン)君。』

『し、失礼しましたh────ではなく、ウィンド様!』

『いや、良い。 これから気を付ければいい。』

 

『まるで戦争だな、おい。』

『“まるで”じゃない、れっきとした戦争……いや、一方的な虐殺だ。』

『アキト……』

 

 ゴトウ租界に近づくにつれて半壊した建物と黒い煙によって見えにくくなった地形が目立ち出す光景に、シンたちはそれぞれの感想で緊張感をほぐしていた。

 

『さて諸君、最後の確認だが……今作戦、俺とJ君の指揮下で動いてもらっても良いのだな?』

 

 そして先の『緊張感』には、今回アマルガムの実行部隊が初めてレイラや毒島ではないものが執ることも兼ねていた。

 

『オレはやっぱ、毒島の姉御が────』

『────評価してくれるのはありがたいが、私の戦略は攻撃的でな? “撤退”に適していない。』

『自覚していたんだね。』

 

『ちょ、おま! ユキヤ────!』

『────だから今回は彼らに私とレイラは頼んだ。』

星団(リア・ファル)も、出来る限り戦闘地域外ギリギリまで待機しているのも傭兵団の偽装だ。』

 

『では、そろそろ作戦範囲内に入るぞ。 各機、気を引き締めろ。』

 

 ユキヤのドライな言葉に慌てるリョウの声を毒島とジャンが遮り、更にシンが気の入った声で念を押す。

 

「(大きさからすればトウキョウ租界より一段と小さいが、それはブリタニア人が住むことを想定していないだけで中心の規模はさほど変わりは無い。 強いて言うならば、ゲットーの範囲が広いくらいか……そこに軍用爆撃機の攻撃をしたのか。) “地上は悪夢並み、と見て良い”……か。」

 

 シンが考え込んでいると義勇軍の篠原少佐に教えられた周波数から通信が入ってくる。

 

『こちら五島市の守備隊だ! 接近中のナイトメア部隊、“暗い光の無い夜はどうやって故郷に辿り着く?!”』

 

『“ポラリスの導きの元に帰る”。』

 

『そ、そうか、君たちが篠原少佐の言っていた傭兵団か! 助かった……あれ? 指揮官は女性だったと聞いているが────?』

『────星団(リア・ファル)は目立つ。 それに先の戦闘の者たちが休んでいるからな、我々が派遣された。 君たちの指揮官であるシノハラ少佐もこちらに向かっていると聞いている。 ゴトウ租界の状況は?』

 

『陸と海沿いの退却経路の見張りが、ブリタニア軍からの攻撃を受けている。 今すぐにでもそちらに向かってもらいたい。』

 

『了解した。 そちらの部隊に救難信号を出すように指示しろ、誤射は避けたい。 プレイアデスナイツ、取り掛かるぞ。』

 

『了解だ! テメェら、気合入れろよぉぉぉぉl?!』

 

「「「「「「「「(アシュレイ/アシュレイ隊長、滅茶苦茶ハイテンション。)」」」」」」」」

 

『久々の娑婆の空気だぜぇぇぇぇぇぇ!』

 

『フランツ、どうする?』

『隊長、ずっっっっっとイライラしていたもんなー。』

『島の警備も日がな一日、散歩する様な毎日だったからなぁ~。』

『この間のムスペルハイム作戦でも、消化不良気味だったから……』

 

 『ヒャッハー!』

 

『……大丈夫でしょうか、ヒュウガ様?』

『言葉はアレだが戦力としては申し分ない。』

『確かに。』

 

『兄さん、必要だったら俺が頑張るが?』

『いや。 それには及ばないと思う。 それに、無事に帰る理由が出来たのだろう?』

『ああ。 だからアヤノもケガするなよ。』

『~~~~~!!! な・ん・で! サラッと言えるの?!』

『思っていることを口にしただけだが?』

 

『……』

『どうした、ジャン?』

『いえ、何も。』

 

 ウゥゥゥゥゥゥ! ウゥゥゥゥゥゥ!

 

 耳に来る空襲警報が機体の装甲越しに聞こえるほどの距離にまで近づくと、プレイアデスナイツのKMFはそれぞれVTOL機から飛び降りながら義勇軍の周波数に通信機を合わせる。

 

『────離れて通信機の範囲外に出れば容易にこうやって喋れることは少ない。 各自、今のうちに大事な人に連絡しておけ。』

『“死別の覚悟”というヤツですかい、隊長?』

『いや、単純に言いたいことを今の内に言っておけと言う意味だ。』

 

『こちら篠原少佐だ。 プレイアデスナイツを経由してゴトウ租界の状態は把握してある。 全隊長は俺の指揮下に入り、プレイアデスナイツと一緒に撤退に当たれ。 そうすれば、無事にここから脱出できる確率が高くなる。』

『そこまでですか、少佐?』

『ああ、彼らの腕は確かだ。 現に、私たちの方にもほとんど被害が出ていない。 先行部隊から聞いていなかったか?』

『それはまぁ……確かに……』

『よし。 ではウィンド君、ここからは頼む。』

 

『任されました。 まず守備隊と避難する者たち全員に言いたいことがあります。』

 

『む……なんだね?』

 

『脱出中、まずは生き残ることを優先してください。 相手に見つからないように識別信号を切っても構いませんし、必要とあらば裏道や下水も使う際には連絡を入れれば可能な限り支援します。 ただし車両や機体を破棄せねばならない状況に陥れば燃やしてください。 そうすれば敵の爆撃によって視界を遮っている煙は維持できます。』

 

『煙を維持する?』

 

『その方が、()()()()()()()のままですので。』

 

 本来『視界が悪くなる』と言うのは敵味方に関係なくデメリットしかないことなのだが、味方が敵より土地勘があればその分自由に動き回れる。

 

 某ゲーム風に例えれば『味方はマップ(地形のみ)をいつでも見られるが、敵の表示は常に暗闇』と言ったところだろう。

 

Black(ブラック) sheep(シープ) wall(ウォール)状態じゃねぇか!』ですと?

 

 そこまでのチート力ではないが、撤退する側に有利なのは有利に違いありません。

 

『非戦闘委員たちは予定通り、地下に避難させろ! タイミングを見て義勇軍の元に送り届ける!』

『戦車を引っ張りだせ!』

『ナイトメアに回り込まれるぞ?!』

『少佐の使い方をすれば使い道はある! ナイトメアも無敵じゃないんだ!』

『ブリタニア軍から分捕ったVTOL機を使うぞ!』

『おいバカやめろ! ブリタニア軍の対空砲に落とされる!』

『バカはお前だ! 地面効果翼機みたいに使って避難所に行く足にするんだよ! それに奴さんの対空砲もまだ対人機銃程度の物しかここに届いていない!』

『おい! あの戦車と砲兵隊、前に出過ぎじゃないか?!』

『篠原少佐だ。 彼らはここを脱出しても待ってくれている家族がいなくなったことで、撤退の為に()()()()ゴトウ租界に残ることを志願した者たちだ。』

『だが……そんな……』

進士(しんし)中尉、彼らの犠牲が無駄にならないように私たち……いや、()()()正規の軍人たちが頑張って被害を押さえて出るしかないんだ。 分かるな?』

『ッ……了解しました、少佐。』

 

『……ウィンド兄さん────』

『────この位置情報ではブリタニア軍の斥候と交えている可能性がある────』

『────だが────』

『────それに租界内に敵のナイトメアが少ないことを考えれば、既に敵の本隊と接触している。 シノハラ少佐が言うように、俺たちもやれることをやろう。』

『こんなことって……』

 

『少佐! ゴトウ租界の東から先に船で脱出させた民兵たちがブリタニアの沿岸警備隊に見つかり、救助要請を送って来ています!』

『……彼らに散開して何とか脱出するように伝えてくれ。 現状の戦力では救助には間に合わない……“申し訳ない”と付け足してくれ。』

 

『アヤノ────』

『────うん────!』

『────フ。 ウィンドから義勇軍へ。 今からプレイアデスナイツを二名ほど東に送る。 足場代わりになれるタンカーらしき船の甲板から人を下げてくれ。』

 

『ま、まさかお前たちのナイトメアはフロートを────?!』

『────いや、フロートユニットは生憎と無いから飛べん。』

 

『なんだ────』

『────しかし飛翔する分には問題ない。』

 

『・ ・ ・ は?』

『行け、アキト。 こちらは任せておけ。』

『ありがとう兄さん。』

 

 ……

 …

 

『本当に、この命令で良いのでしょうか?』

 

「……お前も宰相閣下の通達を読むか?」

 

『いえ、結構です。』

 

 爆撃機による攻撃に乗じてゴトウ租界に攻め込む部隊を任されたグラストンナイツの赤茶毛+目つきの悪いデヴィッド*1はいつも以上に機嫌が悪く、言葉も強張ったものだった。

 

「チッ! (父さん(ダールトン)がいればビンタどころか、殴っているなこれは……)」

 

 と言うのも、シュナイゼル直々に下された命は以下の通りである。

 

 1、『確固たる意志を持ち、暴徒たちを()()()()()()せよ。』

 2、『敵対勢力にテロ活動を引率していた日本解放戦線なども混じっているとのことで交戦想定は緩和されている。』

 

 しかもキュウシュウの乱とブラックリベリオン後のゴトウ租界にはブリタニアの市民はゴトウ租界の文官と駐留軍しかいないことは周知の事実となっていた。

 

 つまり早い話が『ゴトウ租界内に残っているのは敵のみだから攻撃し放題』&『見せしめに全員殺せ』である。

 

「(こんなことをしたら、第一行政特区の時みたいじゃないか! あの事件の所為で、父さんは……) 各部隊、武装した敵対勢力に警戒しつつ前進! ただし降伏勧告は続けろ! 武器を捨てた敵は法に乗っ取って罪人として手厚く捕獲しろ!」

 

『良いのですか? 宰相閣下の命は────』

『────その前に我々は帝国の騎士だ。 武装をしていない者たちまで手にかけるなど、オレが許さん。 責任はオレが持つ。』

 

『デヴィッド様、敵の戦車隊を突破した斥候部隊からです。 “ゴトウ租界内に所属不明のKMF多数あり”、とのことです。』

 

「そうか。 斥候たちには無理をせず監視に徹せよと再度伝えておけ。 情報を後方の部隊に送って所属を調査させろ。」

 

『こ、こちら沿岸警備隊! 敵のナイトメアに攻撃を受けています!』

 

「なに?! まさか、フロートユニットか?! (やはり黒の騎士団絡みか?!)」

 

『い、いえ! レーダーに磁場は感知されませんでした!』

『こちら“トリントン”! 退艦します!』

『どこから来た?!』

『あの機体たち、船と海上を足場にして飛んでいるぞ?!』

『こんなの聞いていない! どうすりゃいいんだよ?!』

『こちら海軍のショーレフ艦長だ。 臨機応変に応じろ。』

『冗談じゃない! “今”攻撃されているんだ!』

『今そちらに向かっている。』

『それじゃあ遅すぎるんだ!』

『こんな……こんな筈じゃ……』

『あの傭兵どもだ。 あの傭兵どもの所為だ!』

 

 

 ……

 …

 

 

『ディートハルト、ホッカイドウブロックの状況は?』

 

「概ね問題なく、指示通りにはかどっています。」

 

 リア・ファルがキュウシュウブロックの福江島で立ち上がった義勇軍の支援を続けてブリタニアの注目が北に集中している間、黒の騎士団は北のホッカイドウブロックから静かにディートハルトが用意したいくつかの経路を使って一部の人員たちを潜入させていた。

 

 元々は『灯台下暗し』ということから福江島の協力者たちに物資を送り、接触すると共にトウキョウ租界を落とす挟撃の一部として以前からゼロはディートハルトの諜報部を使って策を練っていた。

 

「ただ何分、福江島には優秀な人材を送り込んでいたので不安は残りますが。」

 

『しかし結果的にシンクー達に借りを作らない方針で計画は進められている。 それに少々我々の見積もりが甘かった事も痛感した。 恐らく、今回の暴走は遅かれ早かれ起きていただろう。』

 

 策は順調に進んではいたが同時に『蟻の甘きに付くが如し』のことわざもあるように、キュウシュウの乱という前例がありブラックリベリオン後のカラレスが総督時に改編したシビアな監視体制になっていたも関わらず、ナナリーが総督に就く前からどこか活気がある福江島には生き残った協力者たちだけでなくブラックリベリオンで優越感を味わった経験のあるならず者たちも群がり、結果的に今回の騒動へと繋がってしまった。

 

「それにしては同感ですが、それだけでしょうかゼロ?」

 

『どういうことだ?』

 

()()()()間際に、この様な……ゼロ、私にはこの暴走が人工的に勃発したとしか思えません。」

 

『君のその意見には同意する。 恐らくはブリタニア宰相の牽制だろう。』

 

「それを踏まえての潜入はリスクが────」

『────リスクは承知の上だ。 それとも君は、現状のまま真っ向からブリタニアに勝負を挑み、勝てるとでも思うか? ()()()出来るだろう、それは間違いない。 だがその勝利の果てには消耗によって疲弊しすぎた黒の騎士団と連合の国々と、人口に物資が豊富で余力を新大陸に残したブリタニアだ。』

 

「……」

 

『不服かね?』

 

「ですが────」

『────我々が目指すべきは“短期決戦かつ明確な打撃の上に築いた勝利”でなければならない。 分かりやすい言い方では精神と共に物理的な()()()()()が必要なのだ。 事は国家レベルであり、演出の余裕がある時勢ではない。 君なら理解できるはずだ。』

 

「……わかりました。」

 

 ピッ。

 

 通信がゼロ側から切れるとスクリーンが暗くなるとディートハルトは近くの冷蔵庫からガラスを取り出し、ウィスキーを氷の上から注いでは再びソファに座る。

 

「…………………………」

 

 カラン。

 

 ただ静かに何かを考えこむディートハルトの手が掴むガラスから、溶けた氷がガラスに当たる音が響いた。

 

「(ゼロ、一体何があった? “短期決戦かつ明確な打撃の上に築いた勝利”? “演出の余裕”? ならばハッタリと口八丁による枢木スザクの奪還、地形を文字通りに敵と共に崩したナリタ連山、使えない組織を利用したヨコスカ港区、ブラックリベリオンにバベルタワーなどで見せた租界の構造崩しにシンクーのクーデターに便乗した動き……貴方自身の御業だったそれ等は一体何だったと言うのです?)」

 

 ディートハルトはウィスキーを口に含みながら味わってはグラスを飲み干し、自室の窓から広がる蓬莱島の様子を見下ろす。

 

「……例の会談で、ハッキリすべきか。」

 

 彼はそう言いつつ机に目を移すとそこに置いてあったのは以前見たスバルの写真とファイル……

 

 そしてアンジュの写真が付いたファイルだった。

 

「(もし、彼女の素性を奴が把握してワザと手元に置いているということならば……)」

 

 ……

 …

 

 

「……んぅ~、ととぉ~? ……あイタ?!」

 

 仮眠を取っていたオルドリンはもぞもぞと個室のベッドから立ち上がり、寝ぼけながらトトの名前を呼んで返事がない&部屋が見知ったモノではない&体のあちこちが筋肉痛で傷むことにようやく思考が覚醒する。

 

「イタタタタタ…… (そっか、私消息不明になったお兄ちゃんを探しにエリア24から飛び出して来たんだった。)」

 

 痛みを堪えながら私服に着替え終わり身だしなみを整えたオルドリンはそのまま個室を出て、グランベリーより少々殺風景な(実用性に重点を置いた)通路を歩いて既に甘い匂いが漂よってくる食堂へと足を運ばせた。

 

「────スバル、クリームが出来たよ────」

「────イチゴは────?」

「────あと二分ぐらいかな────?」

「────よし、ならケーキも今オーブンから出して────」

 

 オルドリンが食堂に着くとキッチンからてきぱきと献立の用意を息の合うカレンとスバルの二人を、呆然として立ち尽くしていたユーフェミア(さっちん変装中)と毒島(若干汗を掻きながら日本道着を着用中)を見ているとオルドリンの気配にユーフェミアたちが振り向く。

 

「あ。 えっと、グリンダ騎士団の方……ですよね?」

 

「え? ええ、まぁ……」

 

「今は『ピースマークのドロシー』だがな。」

 

「あ、はい。 そうですね……なんでしょうか、これ?」

 

「ん? これは道着と言ってな────?」

「────うんそれじゃなくてあの二人のまるで隙が出来ないようにお互いを補いながらキッチンのほとんどを使いつつ占拠しているアレの事だけれど?」

 

「そ、そうか。」

 

「あ、は、は、は、は、は、は……」

 

「なんだかまるで長年連れ添った……のような。」

 

「「「……」」」

 

 モヤッ。

 

「「(何/なんでしょう、今のは?)」」

 

「(う~む……意識していないところを見ると、これは……)」

 

 ユーフェミアとオルドリンは何とも言えない感情に困惑し、毒島は逆に興味深い物を見たような顔をした。

 

「ど、ドロシーさんもいつ割って入って手伝えばいいか分からなくないと思わない?!」

「他にないかやることがあるか探しても良いわよね?!」

「そ、そうよね────?!」

「────あ! もしかして先輩たち、ケーキ作っているです?」

 

 何やら気まずい静けさに変なテンションになりながら同意者を求めたユーフェミアたちを他所に、食堂に入って来るなりカレンとスバルが何を作っているのか察したライラの声にカレンが向くと何を思ったのか、カレンはニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「うん、そうだよ~? これぐらいてきぱきと役割分担しておかないと時間がかかっちゃうからねぇ~?」

 

「じゃあライラも手伝うでーす!」

 

「「「え?」」」

 

「土台のケーキはオーブンからもう出していいです────?」

「────ああ、それと冷やしていたクリームも────」

「────では冷蔵庫から出してからケーキを団扇でパタパタするです!」

 

 ライラが何の躊躇もなく割り込むながら手慣れた様子でなんの違和感なく溶け込んでいく様子にオルドリンたちだけでなくカレンまでもが宇宙猫唖然とした。

 

「よく覚えていたなライラ。」

 

「先輩に教えてもらったからです!」

 

「だとしても僅か数か月だけだった割にはかなり良い線だ。」

 

「先輩の教え方が上手だったからです!」

 

「将来は有望だな、ライラは。 (世話係として。)」

 

 「「「「え。」」」」

 

 スバルの言葉にカレン達は固まり────

 

 ドキィン

 

「エ、エッヘンです! (なんです、今の?)」

 

 ────そしてライラは胸を張った。

 

「…… (よし、手の先にまで感覚が戻ってきたな。 後は立ち上がる時の痛みさえ引いてくれれば、何かあった時の為に動ける。)」

 

 余談ではあるが、スバルは慣れた作業を半ばセミオートで体を動かしながら自分の体の具合を文字通り感じ取って居た所為で自分の言ったことにあまり気を向けていなかった。

 

「…………………………………………………………」

 

『余談その二』と呼ぶべきなのか、ライラと共に食堂に来ていたアリスは静かにスンとしつつジト目の表情で拳を作ったりしていたスバルを見ていたそうな。

 

「……ぐ、軍歌だ! こういう時こそ軍歌で統一感を出すのだ!」

 

「「「「え。」」」」

 

 何故かグルグル狂気の目をした毒島の突拍子もない力説(?)に、彼女の周りは更に唖然とした。

*1
原作R2でルルーシュがギアスをかけたスナイパーKMF担当者




後書きの余談:
いつの間にかハーメルンの次話投稿時の仕様がガラリと変わっていて『あれ?こんな感じだったっけ?もしやエイプリルフール?』と宇宙猫の如き戸惑う作者のエイプリルフールじゃないエイプリルフール日の投稿でした。


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第261話 『これが若さ』

(;´ω`)ゞ


 アッシュフォード学園のクラブハウスの二階にある生徒会室のテレビからは租界の報道局によるニュースが発されていた。

 

『────ブリタニア軍の電撃作戦により、愚かにもゴトウ租界を中心に、九州ブロックを再び混乱に陥れようとしたテロリストの掃討────』

 

「────♪~。」

 

 作業に集中するための背景音として点けているのだが内容が明らかにブリタニア側寄りのプロパガンダの映像や内容だったにも関わらず、マーヤは鼻歌まじりに作業を続けていた。

 

 「マーヤのヤツ、な~んかご機嫌じゃね?」

 「そうか?」

 

 普段の彼女ならばテレビのチャンネルをすぐに変えたり、ただ無言に黙り込んでしまうのでこのように楽しそうな様子のマーヤは稀であることにリヴァルはルルーシュに(変装したエルに)小声で問うが返ってきたのははぐらかすような答えだった。

 

 「う~ん……もしかすると、彼氏でもできたとか────?」

 「────ぬぅわにぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」

 

「ねぇマーヤ、それって何の歌?」

 

「へ? 歌?」

 

 ルルーシュ(エル)の呟きにリヴァルがオーバーなほどの音量で叫ぶが、生徒会は皆慣れているのかスルー(無視)したシャーリーの質問にマーヤが書類から見上げてはパチクリと瞬きをしながらハテナマークを頭上に浮かばせる。

 

「なんだか良いテンポが良いヤツ! 聞いたことが無かったから聞いてみただけ!」

 

「私、歌なんて歌っていたかしらアンジュ?」

 

「思いっきりね。 鼻歌だけれど。」

 

「どんな鼻歌?」

 

「アレよ。 国歌というか……軍歌みたいな()()。」

 

「……ああ。 ()()ね。」

 

「ふーん……でも“オール・ハイル・ブリタニア(ブリタニア帝国国歌)”じゃないわよね?」

 

「ああ。 アンジュは国歌や軍歌に例えていただけで、実際はまだただの鼻歌よ。」

 

「そっか~、残念! 綺麗な歌だったのに……」

 

「そ、そう? なら作曲した甲斐が────

「────へ────?」

「────ああいえ何も。 ただの独り言よ。」

 

「それにしてもスヴェンのヤツ、まだ療養中なのか会長────じゃなくて先生?」

 

「え? ええ、シュタットフェルト家からそう時々連絡が来ているけれど……どうして?」

 

「いや、アイツが風邪を引くとか聞いたことなかったからさぁ? “結構引きずっているんだなぁ”って。」

 

「うーん……まぁ、カレンの事もあるし? スヴェンも結構無理するタイプだから疲れとかが一気に押し寄せて体調を拗らせたとか?」

 

「♪~。」

 

 ニッコリと愛想のいい笑みを浮かべながら再び鼻歌を発するマーヤの隣では、心の中で冷や汗を掻くアンジュがいた。

 

「(いくらニュース報道が具体的な事しか言っていないことに嬉しくても浮かれすぎ! ヴィレッタも機密情報局とロロの事とかの調整で手いっぱいな様子だし、もう本当にこの子だけにシャーリーやエルたちを任せなくて良かったわ! ……でも国歌、ね。)」

 

 アンジュは先ほどの事を思い出すと、“一度はちゃんと()()()()()()()()歌ってみたいな~”とふと思い浮かべたそうな。

 

「(電球とかが爆散した時は慌てちゃったし、思わずスヴェンから追及があると思ったら彼、何も言わずに箒を出して割れたガラスの片付けを始めるし……)」

 

 彼女は少し前に突拍子もなくスヴェンに前触れもなく、音楽室に誘いだされた時を思い出す。

 時はバベルタワー事件辺りへと戻り、アッシュフォード学園に戻ってきてヴィレッタに『スバル=スヴェン』と正体を明かして間もなかった日へと遡る。

 

 ……

 …

 

「な、何よ? 急に“来てくれ”だなんて?」

 

 音楽室にはどこか照れているのか、少しだけ気まずそうに肩より長くなった自分の髪を弄るアンジュが目をそらしながらスヴェンにそうぶっきらぼうに問いかけていた。

 

 と言うのもその日、アンジュはスヴェンから短く『音楽室に一人で来てくれ』というメッセージを受け取ったからである。

 

 そして彼女は同年代でもかなりの戦場や修羅場を潜り抜けたとしてもまだ18歳。

 恋愛小説や少女漫画などに対して興味津々なお年頃である上、男女のアレやコレに興味は十分すぎるほどにある。

 

 つまり今の彼女は“これってもしかしてもしかするともしかするのかしらぁぁぁぁアハハハハハハハハハハ?!”という内心の奇声と考えから少々キラキラと美化した脳内妄想に心臓が太鼓のように力強く鼓動しているのを、必死に隠していた。

 

「ああ、これを見てくれ。」

 

 そうしてスヴェンがアンジュに渡したのは一枚の紙であり、アンジュがそれを恐る恐る手に取って図面を見ると彼女の表情は一気に冷めたものへと変わった。

 

「……何よコレ。」

「歌詞。」

「見りゃ分かるわよ!」

「ならなぜ聞いた?」

「……」

「なんだ、その目は?」

「別に。 で? これで私にどうしろと?」

「歌詞があるのならアカペラだが?」

「……」

「もしかして歌えないのか?」

「そんなこと誰も言っていないわよ! 歌えばいいんでしょ、歌えば! ……と言うかこれ、スヴェンが考えた物かしら?」

「…そうだ。」

「いま間が無かった?」

「気の所為だ。」

「……あ、そ。 これって何をイメージしたヤツ? テーマは?」

「イメージはアレだ、皇暦1860年代辺りに日本の首都である京都が壊滅し、国が内乱中に二つの対立する忍びの集落の次期頭領がお互いの集落に居る異性に好意を持った所為でどうにかして秘密裏に融和を結ぼうとするイメージの背景に桜が散る様なテーマだ。」

ものすごく具体的ね。 もしかしてどこかの誰かを連想しながら書いた歌詞かしら? (もしかしてブリタニア側のグリグリ団とか?)」

「いや? (『漆黒の蓮夜』とかから連想した繋がりとは言えねぇ。)」

「フーン……いいわ。」

「曲なら一応用意してあるから聞くか?」

 「ならなんでさっき“アカペラ”何て言ったのよ?!」

「(面白いから。) 曲、聞かないのか?」

 

 尚この後に、スヴェンの仏頂面(ポーカーフェイス)と突然の一方的なリクエストにかなり少々イラっと来たアンジュは彼の度肝を抜くため、アンジュは少し本気を出すと室内の電球などが爆散するのだが、スヴェンは『クロスアンジュ』の事もあってただのほほんと『凄い肺活量だな』と思いながら、自分が何をしたのか自覚して気まずくなったアンジュを他所に淡々と部屋を片付けていったそうな。

 

 ……

 …

 

「(あれ?)」

 

 そこで思い返したアンジュはふとこう思った。

 

「(つーかアイツ、全ッ然動じなかったわね? いつもの事だけれど……もしかして()()()()()とか? 一応、代々口頭でしか伝えられていない秘密だけれど……『アイツ(スヴェン)』ってだけで、説明が出来ちゃうのがなぁ~。 でもそうだとすれば、なんであの時を口実に詳しい事を聞いてこなかったんだろ?)」

 

 アンジュは腕を組み、ウンウンと考えこむがどうしても答えは出なかった。

 

「(ま、いっか! 思いっきり歌ったけれどなんかスカッとして、ストレス発散にもなったしね!)」

 

 

 アンジュさんや、今の台無しでっせ。

 

 

 


 

 

 今までのあらすじ。

 

「では行くぞ皆! せーの────!」

「「「「「────“わ~れ~らが~思い~♪ ゆ~め~、見~る明日~♪

 そ~れ~はど~こまでも~♪ 自由に、笑顔で~♪ 駆けられる大~地~♪

 た~だ~、それだけ~♪ ただ、それだけ~♪

 あ~、雲よ空よ~♪ 聞いて~おくれ~♪

 我等~の願いは~♪ 友と、互いの為~

 た~だ~、そ~れだけ~♪ た~だ~、それだけ~♪”」」」」」

 

『暇と言うか気まずい時間を持て余していたからお腹を空かせているであろう実行部隊の為に腹持ちする食事と女性陣たちの為に糖分増し増しなデザート類をカレンとライラたちと一緒に作っていたらいつの間にか食堂に来ていた毒島やオルドリンやアリスたちが何やら合唱し始めて今では誰もがノリノリで歌っている。』

 

 俺も訳が分からんよ。

 だって料理している間は“なんか騒がしいな”と思う程度だったけれど、全部終わった頃にはリズムが合わされて嫌でも注意がそっちに逸れてしまうのだよ。

 

「「「♪~」」」

 

 あ、ライラと一緒に来た孤児たちも自分たちなりに歌(声?)を出している。

 

 アカン、なんか泣きそう。

 

 それに浮かれて笑っているレイラとアリスとオルドリンが何だか姉妹っぽくて可愛い────じゃなくて!

 

「いい歌だね、スバル。」

「ですですー!」

 

 うん。 確かにホッコリするカレンに同意するライラと同様に、俺もいい歌だと思う。

 これは相当時間をかけて、考えられたものだろう。

 何せ歌詞がいかにも『軍歌』と言うか『国家の歌』っぽいし、何より人種や出自がバラバラなアマルガムに合っていると言えば合っている上、非常にシンプルだ。

 

 だがどうしてテンポが完全に『赤い人が新生ネオの総帥になった時の歌』なの?

 

 いや、その時の赤い人のように『精鋭とも言える戦力のある組織』という点においてはアマルガムと似ているというか一致するけれどさぁ?

 それにあの世界と言うかシリーズから取ったネタ技術とかこっちではクレイジーなダイヤモンド並みの開発精神でどんどんと再現させちゃっている天才たちもいるけれどさぁ?

 

 おいそこ、『どっちもお前の所為やんけw』とか言うなし。

 

「気に入ったか、スバル?」

 

「毒島。」

 

「なんだね?」

 

 そのウキウキな笑顔は別の意味で怖いからこっちへ向けるのをヤメテ。

 

「この歌の出所は何だ? もしやとは思うが、お前が考えたのか?」

 

 もしそうだとしたら以前、アンジュに『バジリ〇ク』のエンディングテーマを歌わせたことに対して全力で謝ろう。

 

 いやちょっとそこで待て俺。

 一旦落ち着こうか? 困惑するのは目に見えている。

 動くその度にギシギシと痛む身体やその他もろもろの所為で気が動転している様な気がする。

 かの人が言ったように、まだ慌てる時間じゃない。

 

 毒島の言葉を待ってから慌てるとしよう。

 

「非常に残念だが、違うな。」

 

 え、ちゃうの?

 

「この歌を考え上げたのはマーヤだ。」

 

 ……………………………………え? 何?

 

 俺、オープン型と密閉型のごちゃ混ぜ無理やりドッキングしたコロニー内でその中途半端な危険性を持った建造の不公平を軸に演説するの?

 

 それ以前に俺、確かにちょっとした悪ふざけで『亡国のアキト』介入時にアポロンの馬車降下中に“これが重力に引かれることか!”とかを口にしたけれど、俺は別にアステロイドベルトに避難したり夢見るピンクツインテ少女に男性へのトラウマを植え付ける原因になったりして逃げるように地球圏に戻っては偽名を使った上にサングラとタンクトップの軍服のかなり砕けたスタイルの行動とかはしていないぞ?

 

『サボテンの花が咲いた』イベントもなかったし────あ。 そう思ったら少し胸の奥がチクチクとするような……

 

 そして何故に俺は“夢見るピンクツインテ少女”の単語でユリ〇コスプレをしたフ〇イ並みのプロポーションを持ったツインテヴィ〇ィアンの連想を浮かべた?

 するならユーちゃんが居るから、さっちん風ツインテのル〇ルリ艦長コスプレしたユーちゃん────ってあかん妄想やこれは。

 

 ハ〇ーン様風にグレたユーフェミアなんて、悪夢すぎる。

 何よりコーネリアも加担しかねない。

 

 いやその線で行くとユーフェミアがセレー〇化してコーネリアがハ〇ーンに……っていくら何でもごちゃごちゃ過ぎるぞ俺! *1

 

 これ以上のメダパ〇状態になる前に現実逃避をストップしてマーヤに戻そう。

 初めて出会った時に色々とテストした────と言うか聞いた────けれど、マーヤって本気(マジ)で転生者とかじゃないよね?

 

 ただの登校拒否気味だった、超高性能なモブ子だよね?

 

「毒島、聞いていいか? マーヤから“逆〇ャア”や“コロニー落とし”や“伊達じゃない”や“男同士の戦いに割り込むな”とか“人類は地球上のノミだ”とかなどの言葉を、彼女から聞いたことはあるか?」

 

 頼むから“聞いたことがある”とか言わないでくれよ、ぶっちゃんや?

 

「最後と似通ったものは聞いたことがあるな。 確か、“一般人の事なかれな態度は家畜と同等ね”だとか。」

 

 『逆シャ〇』じゃないからセーフっぽいけれど色々とごちゃ混ぜなネタを含んだ返しが来たよオイ。

 

 キリキリキリキリキリキリキリ。

 

 ステイ、胃痛ちゃん! ステイ!

 胃薬でまた無理やり弾圧するぞコラァァァァァァァ!

 

「ああ、それとレイラから伝言だ。 “キュウシュウブロックの義勇軍は合衆国中華から出港した艦隊と合流し、目下別ルートで避難中”ということだ。」

 

 キュウシュウブロックの義勇軍ンンンンンンン?!

 

 そんなことになっていたのか?!

 てっきり工作員とかの小規模な感じだと思ったが、『軍』とな。

 

「それと、指揮を執っている篠原少佐だが、前に一度師匠(藤堂)から聞いたことがある────」

 

 ────シノハラショウサって。

 毒島が何かを言っているけれど思わず“どこぞの重工業の御曹司だよ?!”とツッコミを入れそうだったことを怒涛の出来事で気が遠くなる中でグッと堪えている所為か耳に入らなくなる。

 

 …………………………………………………………良し。

 

 ちょうど良い言い訳を思いついたからさっさとここからトンズラしちまおう。

 っと、その前に────

 

「────毒島。 ムスペルハイム作戦で、俺とカレンが対峙したKMFのパイロットはどこに居る? リア・ファルの独房か?」

 

「ん? ああ、あの黒いランスロットに乗っていた者ならば零番隊が地下都市の者たちと共にイカルガで保護したと聞いているぞ。」

 

「そいつの姿を見た者はいるか?」

 

「カレンが見たとは思うが、ゼロによって早々に保護されたから容姿は私も知らんな。」

 

 ああ、やっぱりか。

 

 道理で俺と容姿がかなり似ているライ(仮)に関して騒がられていないと思ったらルルーシュが察してくれて隔離したか。

 

 うーん、こりゃ『借り』の内に入るのか?

 入らなければいいが……っと、もう一つ聞くことが出来たな。

 

「あの地下都市からデータ等の入手は出来ているか?」

 

「ああ、そちらはレイラの指示によってリア・ファルに出来るだけ詰め込んだ。」

 

「“出来るだけ?”」

 

「爆破した────」

 

 ナイスやレイラたん!

 

「────ユキヤが。」

 

 Oh。

 コードギアス作中の爆弾魔ならば確実だな。

 

「フム……君のその嬉しい様子を見るに、彼女はこれを見越していたのか。 流石だな。

 

 え? 今なんて?

 俺がデータの方に興味を持つことをレイラが予想していた?

 

 そうだったら毒島やマーヤとは違う意味で“恐ろしい子!”なんだが……ま、まぁいいか!

 

 実質アマルガムを組織として動かせているのはレイラのおかげがかなり大きいのは事実だからな!

 では早速、格納庫へ避難でレッツゴー!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 グラグラグラグラグラグラグラ

 

『格納庫に逃げよう』と言った俺を、体(主に上半身)がマグネチュード7ぐらいの強さで揺れている今の俺は殴りたい。

 

 グラグラグラグラグラグラグラ

 

 「どうしたらこんなにボロボロになるまで酷使できるのぉぉぉぉぉぉ?!」

「ボスちょっと落ち着いて!」

「シュバールさんが青を通り越していつも以上に白くなっているよ?!」

 

 俺の両肩を右&左手で掴みながら俺の体を揺するのは涙目で訴えるラフな作業服ポニテアンナをなだめようとするクロエとヒルダの声を他所に俺の思考はガクガクと震える。

 

 それに乗じてせっかく引いていた首の痛みも増加中……と言うか地味ズキズキとして痛い。

 

「いいいいいややややややそそそそそそそののののののののすすすすまままんんんんん────」

 「────ファクトスフィアはもとより、メインカメラとサブカメラにモニターに対物センサーも全部壊れているし無理やり入れた腕部のギミックも長時間撃ち続けた所為で両腕の関節はガタついているし新装甲を当てにするのは嬉しいけれど当てにし過ぎてひび割れているし背部ブースターに補佐噴射機のノズルもクールダウンを無視したマニュアル動作でグチャグチャになっちゃっているし────!」

 

 ほぇ~。

 そんな状態でよく動いていたな、蒼天。

 

「────まぁまぁまぁ、データと機体の本体は無事だったからそこまでにしなさいアンナ。」

 

「ソフィ博士はBRSのデータさえあればホクホクですけれどね、毎度毎度出撃する度に機体がオーバーホール修理が必要な状態で戻って来るのはかなり心が痛むんですよ?!」

 

「ならラクシャータとミルベル夫婦が提案したように、壊れる前提でスペアパーツの増加と交換システムを充実すれば? この間の紅蓮もパーツ交換できたし、毒島機の背部パーツ交換もすんなりと行えたじゃない?」

 

 「いやですよ! 何だか負けたみたいで癪ですッ!!!」

 

 ケラケラと笑うソフィに対し、wZERO部隊でしょぼくれ&気の小さい人見知りなアンナがこんなにも逞しく変わるなんて……

 

 胸の中が温かくなる中、俺は『亡国のアキトに介入してよかった』と心から思いながらホロりリとする。

 

「「ボスのその気持ちわかります!」」

 

 う~ん、クロエとヒルダのこのムードメーカーで前向きぶりな姿はヴァイスボルフ城でもかなり癒しになったな~。

 

 っとと、俺の話を伝えよう。

 

「その……機体の耐久力に考えが────」

 「「「「────あるの?!」」」」

 

 “いや、ねぇよ!”と言う鋭いツッコミを、荒い鼻息と血走った眼で急接近した女性技術者たちと入れたい衝動をグッと堪える。

 

 何気にヒルダとクロエの胸、大きいな。

 特に頭一つ分ほど俺より背の低いクロエって身長の割に────ええい、また脱線しそうだった!

 

「耐久力を上げるのなら、従来のKMF骨格に固執するのはどうかと思う。」

 

「……まさかシュバールさん、“一から作り直せ” とか言わないでしょうね?

 

 顔は笑っているけれど目が全く笑っていない、険しい表情のヒルダがメルトダウン寸前でゴザル。

 腰に両手を当てながらずいッと顔を近づかせる仕草で胸が垂れる様子は普通ならイイのだが、さきほど弾圧した胃がムズムズする。

 

「いや、それは現状では余りにも負担がかかり過ぎる。 俺が言おうとしていたのはビルキースの事だ。」

 

「ビルキース……あの寝癖おんn────アンジュって人用にミルベル夫婦が作った、専用機のナイトメア?」

「そもそもアレってナイトメアの部類に入るのかしら? ブリタニアで失敗作の烙印を押された可変型KMFのサマーセット……の亜種?」

「どっちかっていうと、あのウィザードって胡散臭いおじさんのアグラヴェインの様な“オーダーメイドの大型ナイトメア”?」

 

 俺の出した機体名にヒルダ、クロエ、アンナのオブラートもへったくれもない

 辛辣で素直な感想に、内心で同情の気持ちをアンジュと(特に最近は落ち込み気味な)オイアグロに送る。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 パシャ、パシャ。

 

 シンたちがリア・ファルに戻って来て作ったデザートや軽食やガッツリ食べたい派の為のおでんに対しててんやわんやしている間、俺はひっそりと自室に戻って顔を洗っていた。

 

「フゥ……」

 

 冷たい水が染み、化粧が洗い流されると目の下に目立つクマと少々こけた頬をした自分の素顔が鏡の中から視線を返す。

 

 理由は考えるまでもない。

 

 行政特区に事件からほぼ毎日、本格的にうろ覚えでも自分が知っている有能なコードギアスの人物を何とかこちら側に引き込む────少なくとも敵対はしないように────奔走してきた結果だ。

 

 不幸な出来事を回避したのはまぁ……後味が悪くならないような『次いで』だ。

 

 だがそのおかげでかなり不確定要素や過程が大幅にカットされたR2に向けての準備はできていると思いたい。

 

 フレイヤ開発フラグを折って、黒の騎士団の井上さんや吉田たちの多くの人たちが意味のない死に方をせずにここまで来られた上に紅蓮とカレン捕獲のフラグも折った。

 

 その代わりにエナジーウィングの入手は無くなり、俺の存在も結構大々的に出したが……

 

 ダメだ、備蓄した過労で自己嫌悪とネガティブな思考になっている。

 

 おつりが返ってくる程のプラスをしたと思いたい。

 

 こういう時、取るべき行動はただ一つ。

 

 たった一つだ。

 

 寝る。

 

 ライ(仮)とかギアス嚮団のデータ閲覧とか毎回俺の機体の損傷が酷い事への対策とか諸々含めて明日にして今は寝る。

 

 

 身体は睡眠を求めているのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 とある合衆国中華の港ではエリア11から避難してくる義勇軍を護衛する為に黒の騎士団と旧中華連邦の混成艦隊が出港した後、今度は義勇軍の受け入れ作業に移行していたため酷く混雑していた。

 

 義勇軍の受け入れに蓬莱島を使うつもりだったが以前の『百万人の奇跡』とは違って入港してくる船が想定されていた数より圧倒的に多かった事と船の種類がバラバラだったこともあり『入港可能な船は蓬莱島、その他は合衆国中華に』という体で準備が進められていた。

 

 そのガヤガヤとした港の一角で、黒の騎士団の諜報部に所属する青年は顔をひそめながらディートハルトと向き合っていた。

 

「局長、本当によろしいのでしょうか?」

 

「不満かね?」

 

 青年は諜報部でもかなり優秀の部類に入る若手であり、ディーハルトにこうした『密会』に呼び出されたことに内心ワクワクしていた。

 

 ディートハルトに頼まれた任務の内容を口頭で聞くまでは。

 

「“不満”ではなく、この行動に関する“必要性”の説明を求めたいですね。」

 

「フム……君は今の合衆国連合とブリタニアの国力差がどれほどあるのか理解していると思ったのだが?」

 

「……ある程度は。」

 

「ではハッキリと言葉にしよう。 現在の合衆国連合が一丸となって、上手くまとまった行動を取れても知れていると。 確かに中華連邦の大部分がそのまま生き残ったことは好ましい、だが国としてはまだまだ発展途上だ。 EUも去年の『方舟事変』で国の防衛機能が一時的に瓦解した所為で今や全盛期の3分の1程度の領土に縮小し、死に絶え直前だ。 歯痒い事だが、今の我々ではブリタニアと外交のテーブルに着くことすら難しい状況だ。」

 

 ディートハルトはオブラートに包もうとした青年の意図を無視し、スラスラと上記を口にしていった。

 

 ディートハルトの言ったこれ等を分かりやすく例えると外交による抗議は『物理的な衝突』を『言葉による合戦』に変えただけであり、発言力も各国の戦力や貿易に依存した物である。

 

 コードギアスの世界だけでなく、現実にも当てはまるのだが一応リアルではこの様な問題を解決する案の一つとして『国際連合』がある……のだが、結果は御覧の通りである。

 

「今の合衆国連合でブリタニアが注目しているのは黒の騎士団にいる藤堂とゼロ、それとシンクーだけだ。 それも『戦時の脅威』としてだ。 その枠に、あの『アマルガム』という組織も入りつつはある様子だが……今は置いておこう。」

 

「お言葉ですがこの行動が諜報部の所為であると明るみに出れば、『アマルガム』から黒の騎士団に対する心証を悪くするのでは?」

 

「バレなければ『嘘』と『事実』に変わりは無い、それを見込んで君を選抜した。 それに今あの組織は協力的ではあるが……そもそもあの組織の構造は表面上まとまっている体をしているだけで実際は各々の価値観で動いている、雲のようなあやふやなまとまりに過ぎない。 ()()()黒の騎士団と連携を取らずに静観を決め込めこんだり、ゼロの不利益になるようなことをしない保証がどこにもない。 背後の安全を確保しなければ、勝てる戦争にも勝てない。 これは合衆国連合を見て、君も分かるだろう?」

 

 青年がディートハルトにそう尋ねられると、今の状況下の構図を思い浮かべては頷く。

 そもそも合衆国連合に加盟している『国』は元々、個々の軍を持たない────あるいは領土に比べて小規模な治安維持用の軍────中華連邦の属国や周辺国が主なメンバーであるので仕方がないと言えばそれまでなのだが、ゼロの方針は意図的にか合衆国中華以外は黒の騎士団の軍事力に依存するように仕向けられていることもまた事実だった。

 

「外交やプロパガンダは何も『戦時下』にのみ限定されたことではないということだよ。」

 

「……なるほど。 それならば、納得できます。」

 

「ウム。 成功を祈っている。」

 

 青年が船の乗組員の上着を羽織り、ディートハルトに渡されたキャリーケースを手に取ってからその場を後にする。

 

 青年が停泊している合衆国中華の船に乗り込み、それが迎えとして出向したことを双眼鏡で確認したディートハルトはひっそりとほくそ笑んだ。

 

「(悪く思うなよ、少年。)」

*1
作者:そもそもセレー〇を知っている人がどれだけいるか…… (汗




『信念は言葉ではなく、行動に移さなければ価値がない。』
-トーマス・カーライル


後書きEXTRA:
スバル:イケボハルトに神父ががガガガが。
作者:(;^ω^)
青年E+少年E:なんでさ。


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第262話 『薬の貯蔵は十分か?』

少々長めの次話です。


 エリア24の政庁では、正装姿のマリーベルとノネットが向かい合っていた。

 

「マリーベル皇女殿下、突然の謁見ですまないね。」

 

「構いませんわ、エニアグラム卿。」

 

 その場に居合わせてヒソヒソ話をする貴族たちを横目で見ながらノネットのかなりフランクな物言いに、マリーベルはいつもの穏やかな表情を浮かべながら答えていた。

 

「んじゃ、時間が惜しいから単刀直入に言うよ。 先日、シュナイゼル宰相閣下から呼び出しがあった。 “ラウンズはエリア11にて招集”、とね。」

 

 ノネットの言葉に貴族たちによるヒソヒソ話がピタリと止み、ざわつきへ変わる。

 

『もしやとは思っていたが……』

『やはり噂通り、黒の騎士団の狙いはエリア11か。』

『しかし東ユーラシアと名乗っていた輩共のおかげでユーロ・ブリタニアとブリタニアの軍が西から睨みを利かせている筈では?』

『エリア11の知人たちに連絡を送らねば。』

『投資もしばらくは……』

 

「その為グリンダ騎士団は私の指揮の元に再編して共にエリア11に向かい、黒の騎士団制圧の任に就く。」

 

 ガタッ。

 

 周りの貴族たちを無視したノネットの言葉に、思わず座っていた椅子から立ち上がるマリーベルの表情に不安が混じる。

 

「エニアグラム卿、この様な越権行為が認められるとでも────?」

「────マリーベル皇女殿下なら、黒の騎士団が次に動くのはエリア11だということを理解できるはずだと思ったんだけれどねぇ。」

「グリンダ騎士団が私の直属の騎士団と知ってのことですか?」

「さっきも言ったようにこれはシュナイゼル宰相閣下の指示でもある! 現在のブリタニア帝国の状況下で、この言葉の重みが分からないはずが無い!」

「クッ!」

 

『おお。』

『皇女殿下を前に、ああも堂々と。』

『さすがは名高きエニアグラム卿。』

『“閃光の再来”は伊達ではないということか。』

 

 何時もは相手がだれであろうと気丈かつ強気に振る舞うマリーベルが、ノネットに狼狽える姿は貴族たちにとっては爽快なものであった。

 

「さぁ、行くよお前たち! 出立の準備だよ!」

 

 ノネットの掛け声にソキア、レオンハルト、ティンク、そしてオルドリンが頷く。

 

『エニアグラム卿、やはりただの鎖では終わらなかったか。』

『マリーベル皇女殿下からグリンダ騎士団を外すとは大胆な。』

『こうもあっさりと実効戦力を薄弱化させるとは』

『武力の無い“英雄皇女”など……』

 

 椅子に座りなおし、謁見前の覇気が抜けてしょげかえるマリーベルの雰囲気に貴族たちは更に愉悦を感じた────

 

 

 

 

 

 

 

 

「(────なんーてね♪)」

 

 マリーベルは表面上こそ悔しそうな表情と空気を発していたが、内心では悪戯の成功した子供のような気持ちだった。

 

 実は今までの流れはアドリブ力の高い高度な柔軟性を持ったノネットと、東ユーラシアの所為でブリタニアによる強化された監視をどうにかしてかいくぐるか帝国が納得できる建前で、決戦場となると予想されているエリア11にグリンダ騎士団を送る案をマリーベルが考えた画策等が微妙にいい具合に重なった結果であると、ここで追記しよう。

 

 尚余談だがマリーベルの演技はミス・エックス(ユーリア)直伝である。

 

 決してオルフェウスを探しに来たミス・エックスから彼が行方不明プラス音信不通と聞き、エリア24から飛び出たオルドリンの後を追ったオイアグロに置いてけぼりを食らったことは関係ない。

 

「(まさかこうも上手く行くだなんて、ウフフ♪ オルドリンやオイアグロだけでなく、ユーリアにまで貸しが作れるなんてまさしく一石三鳥だわ♪)」

 

 恐らく。

 

「(姫様、耐えなされ! 身体が歓喜のあまりにプルプル震えていますぞ?!)」

 

 そんなマリーベルを見てシュバルツァー将軍は内心ハラハラドキドキしたストレスで痛む胃の為に胃薬の量をその日から二倍にしたそうな。

 

 

 

 

 

 更に余談だがこの日、ノネットから連絡を受けたロイドは歓喜のあまりに近くに居たセシルの手を取ってダンスをしだしたそうな。

 

「「ウフフフフ~☆ アハハハハハハハハハハ~♪」」

 

「ロイドさん、凄く興奮しているなぁ~。」

「セシルさんも満更でもないし。」

「……やっぱあの二人、絵になるよなぁ~。」

「元特派の奴らにとっては……」

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「クルーミー副主任ンンンンンソンンン!」

「いいぞ、もっとだ。 もっとやれ。 もっとロイド主任に食テロをお見舞いしてくれセシルさん。」

 

 きゃめろっと は きょうもげんきです。

 

 ……

 …

 

 

「……ふわぁ。」

 

 夜が次第に朝日へと変わる早朝、リア・ファルにある一室の中で部屋の主────毒島がベッドの上で抱き枕代わりにしていたおはぎちゃんを手放し、身体を起こしながら欠伸交じりに腕を天井へと伸ばす。

 

 寝癖対策として束ねた、太ももまで伸ばしている長い髪を自らの手で踏まないように注意しながらベッドから出ると、背伸びをしてから朝練の準備を着々としていく。

 

 曲がりなりにも旧日本の重鎮である桐原の孫である彼女はご令嬢なのだが、『家族以外から世話をされる』ことを『甘やかされることを当たり前と取ってしまう』と言った、割と常識から外れた世界観を持っていたことから大体の事は一人で出来るようにしてきたので、これらは全て毒島にとっては日課であった。

 

「おっと、これもしなければな。」

 

 そんな毒島は顔を洗った際に、ヘアバンドで後ろへと流しても濡れた髪の毛をタオルで揉みながら乾かしていくと洗面台に置いてあった白いリボンを手に取り、今でこそ慣れた手つきで後ろ手に髪をまとめてポニーテールを作る。

 

「うむ。 いつ見ても実用的な髪型だな。」

 

 鏡を使い、顔を傾けながら髪のまとめ具合に満足した彼女は寝間着を脱いで、下着姿になってから部屋の中央に移動する。

 

 そのまま彼女はほぼ180度に足を開きながら座り、掛け声を付けた本格的なストレッチをし始めた。

 

「ふ……ぬ……ふ。」

 

 両手で足のつま先を掴み、足の(すね)に出来るだけ頬を近づかせることを右足と左足を交互に繰り返していくうちに、次第に足の(すね)に頬を付けられるようになっていくと、今度は上半身をほぐすストレッチをし始める。

 

 少々長くなってしまうので割愛するが彼女のストレッチは全身を意識したモノであり、終わった頃には毒島の額には汗が出ていた。

 

 汗をタオルでふき取ってから黒いハイネックインナーの上に道着と言った服装に着替えると、部屋の片隅に置いてある赤樫(あかがし)で出来た少々重めの木刀を手に取り、ブーツを着用してから部屋を出て通路を歩く。

 

 ストレッチやら何やらをしても早朝なことに変わりは無く、毒島は通りざまにすれ違う三人の乗組員たちに挨拶や言葉を交わし、ようやく陽光によって明るくなった開けた甲板へと出る。

『甲板』と呼ばれているが、人がそこで気晴らしやジョギングをすることを想定されているので手すりなどの安全装置は設置してあり、ちょっとした公衆エリアにはなっているのだが。

 

「「む。」」

 

 その広場に似た場所の先客であるオイアグロと目が合うと、二人の声が被ってしまう。

 

 どうやら彼は先に素振りをしていた様子で、何時もの胡散臭い仮面男ブリタニアの騎士風より体の動きを意識したラフな薄着の下からでも窺えられる、とても30歳を過ぎた身体とは思えないほどに鍛え抜かれて無駄が一切ない体が発した汗に、服装は所々じっとりと濡れていた。

 

「隣、良いだろうかオイアグロ殿?」

 

「ああ、構わないよ。」

 

 毒島の問いにオイアグロが返事を返すと彼女は隣に並んでは素振りをし始める。

 

「「……」」

 

 ただ宙を斬る音が辺りに響くこと数分、二人の間に続いた沈黙がオイアグロによって破られる。

 

「ここは、心地いいな。」

 

「だろう? 当初この艦が設計された時には無かったスペースなのだが、どうも潜水艦(ディーナ・シー)に続いて窮屈な場所はどうかと思い、ウィルバー博士に頼んだのだ────」

「────そうではない。」

 

「ん?」

 

「私はプルートーン団長、ジヴォン重工、ピースマークのウィザード、そしてジヴォン家の者として様々な組織や社会構造を見てきたが、アマルガムのような場所は稀……いや、ほとんどないと言える。」

 

 毒島は横目で素振りを止めてオイアグロを見ると、手拭いで額の汗を拭く彼の表情は穏やかなモノだった。

 

「確かにミス・エックス……ユーリア皇女殿下と共に“ウィザード”として世界を旅していた時に寄った辺境や、田舎の村などにも似た場所はあったが、アレ等は周りに他のコミュニティが無いからこそ生まれた民性だ。 規模もそうだが、メンバーたちの境遇と生い立ちがこうもバラバラな者たちが助け合いながら、お互いと協力しあう構図は見たことが無い。」

 

「何故、その話を私に?」

 

 毒島がそう不思議に思うのは無理もなかった。

 最近こそこの二人は通常、

 

「アマルガムが一つの組織として纏まっていることに、レイラ・マルカルと君が大きく献上しているのは明らかだ。」

 

「そこは私ではなく、経験が豊富なウィルバー・ミルベル────」

「────確かに彼が居るところも大きい。 だが、ミルベル博士たちは新技術の開発などでほとんど運営に関与していない。 それにこの組織はブラックリベリオン前から存在しているだろう?」

 

「……」

 

「謙遜することは無い。 “桐原泰三の孫”と言う肩書を余所にしても、君はかなり優秀だ。」

 

「……何故、それを今言うのですか?」

 

「昔に私の姉……二人のオズたちの母親であるオリヴィアがいつの日か、愚痴のように零した話を思い出してね。 君は今のブリタニア帝国が二代目だということを────?」

「────ああ。 “知っている”と言っても、歴史書などから得た情報だけだが。 それが何か?」

 

「かの英雄たちであるロレンツォ・イル・ソレイシィとアルト・ヴァインベルグを部下に、当時バラバラだった帝国を一つにまとめて強国へと蘇らせたクレア女帝の名言や成したことは多く語り継がれているが……姉のオリヴィア曰く、“今のブリタニア帝国を見たら悲壮に満ちた涙を流しているだろう”と酒の席で嘆いたことがあった。」

 

「“今の帝国を、クレア女帝が見たら泣く” ────?」

「────プルートーンは現代でこそ汚れ役を承っていた組織だが、昔は第一神聖ブリタニア帝国の生き残りである皇族たちを……クレア女帝と彼女の“思想”に協力する親しい者たちを影から守る騎士団だったそうだよ。 “誰もが居場所を得られる優しい国”、と言う思想をね。」

 

 ここで毒島の素振りがピタリと、オイアグロの言葉に固まった彼女と連動して止まる。

 だが止めた身体の動きとは裏腹に、激しく鼓動する彼女の心臓によって上半身は多少揺らいだ。

 

 何せ今オイアグロが口にしたことはブリタニア帝国が掲げている在り方────『法、税、力の支配による秩序』を根底から覆すようなことを“過去の皇帝が思想にしていた”など、彼女含めて誰も思いつけられる物ではない。

 

「クレア女帝の思想は、“ブリタニアを再び強国に戻すこと”では無かったのか? 少なくとも、彼女が帝位に就いた時の側近であったロレンツォ・ソレイシィはよくそれを口にしていたと受け継がれている。」

 

「さぁ? その時のオリヴィアは珍しく酒を飲んでいて、泥酔するほど酔っていたからな。 言葉の真偽はともかく、今のアマルガムを見てふと思い出しただけだ。 それに彼女はプルートーンの事も“人と言う鋳型に収められた超越者たちの居場所だ~”とも口にしていたし。」

 

「そうか。」

 

「しかし……もし本当にクレア女帝がそのような思想を持っていたのなら、アマルガムの在り方を肯定してくれるだろうな。 それに、不敬に当たるかもしれないが、“ユーフェミア皇女殿下もやはりクレア女帝の血筋を色濃く引き継いでいる”と考えてしまう。」

 

「……確かに。」

 

 

 偶然にもこの時、ユーフェミアがクシャミを出したせいで、近くに居たコーネリアはマントを脱いで彼女に無理やり羽織らせて、近くに居たアンナに風邪薬が置いてある場所に案内させたそうな。

 

 

「さて、私は先に行くよ。 オルドリンに、オルフェウスたちの事を伝えないといけないしね。」

 

 そう言って艦内へと戻っていくオイアグロを、毒島は見送ってから空を見上げる。

 

「(“人と言う鋳型に収められた超越者たち”、か。 まるで神楽耶様の家にある言い伝えに出てくる、『伴天連(バテレン)の妖術師たち』だな……現在だと、アリスたちのようなギアスユーザーたちがそれに当てはまるのだろうか? 彼女たちが……いや。 彼女達含めてアマルガムの皆は友好的だが、オイアグロの言ったように、これからも皆が必ずしもそうだとは限らない。)」

 

 想いに耽っていた彼女は肌寒い風によって思考が現状へと戻り、素振りによって火照った体が冷える前に艦内へと戻っていく。

 

「(さて、今日()スバルは来なかったか。 となると彼は恐らく────)」

 

 

 

 

「────アレ? 毒島先輩どうしたです~?」

 

「・ ・ ・」

 

 シャワーを浴びて朝の汗を流してから食堂に来た毒島は、ライラ(プラス孤児たち)がキョトンとする姿しかないことに内心項垂れた。

 

「お、遅くなっちゃってごめんなさい! ネリスさんが中々────ってあら? サエコさんどうかしましたか?」

 

「あ、ああ。 いや何、少し体を動かしたので何か食べるものが無いか見に来ただけだ。」

 

 茶髪に変装中のユーフェミアは毒島をジッと見てはポンと手を叩く。

 

「……ああ! スバルさんなら格納庫に居ると思いますよ?」

 

「んな?!」

 

「ほぇ~……なんで分かるです?」

 

「んふふ~、どうしてでしょう~?♪」

 

 何故かニコニコしながら答えるユーフェミアを見て、毒島はじっとりと再び汗がにじみ出た。

 

「ささ、皆さんが起きる前に朝食を作りましょうライラ♪」

 

「え? もうほとんど終わらしているです。」

 

「え。」

 

 ユーフェミアはライラの言ったようにほぼ出来上がっている数々の食事を見ては目を点にさせる。

 

「ら、ライラって割と手際が良いのね?」

 

「先輩に鍛えられたのは伊達ではないです! エッヘン!」

 

「う゛。」

 

 今度は胸を張るライラに項垂れるユーフェミアであった。

 

 

 ……

 …

 

 

「────どうだ、出来そうか?」

 

 リア・ファルの格納庫内のとある休憩室では作業服姿のウィルバーとサリア(ミルベル夫婦)マリエルとレナルド(ラビエ親子)、それと上着を腰に巻いたクロエと上着をはだけさせたヒルダたちと、テーブルをはさんで向かい側に座っていたスバルが上記の質問を放っていた。

 

「出来そうかそうでないかで言えば、前者ではあるが……」

「でも大丈夫かしら? ねぇ、クロエちゃんとヒルダちゃんはどう思う?」

 

「う~ん……シュバールさんだからねぇ~。」

「そうですよねぇ、ヒルダ軍曹~。」

 

「(全然説明になっていないが、ほのぼのとしているから良しとしよう────)」

 「────にひひ────」

「(────そして随分とご機嫌そうですな、カレンさんや。)」

 

 休憩室の中にあるオーブン近くで立っていたカレンはクロエとヒルダのやり取りにくぐもった奇声を出し、そんな彼女にスバルはポーカーフェイスを維持したまま内心でツッコみを入れた。

 

「(いくら俺をダシにして毒島との朝練をサボれたとしても、変な意味不明の声を出すのはどうかと思うぞ────?)」

 

 ガチャ。

 

「────遅くなってごめんなさい! ネリスさんが風邪薬を探していて────」

「「────あ。 ボス、おはようございます。」」

 

 チーン♪

 

「スバル~、出来たよ~。」

 

「よし。 アンナ、今あそこのオーブンに出来立てのフレンチトーストがある。 それとハーブティーのポットも既に温めてあるからお湯を注げばいいだけだ。」

 

「え、本当?! シュバールさんの手料理って久しぶりね!」

 

「「ジー────」」

「────ああ、もちろんヒルダたちの分もあるぞ。 ちなみにイチゴジャムと蜂蜜は冷蔵庫の中にある────」

「「────やった!」」

 

 少し焦った様子であるアンナは走ってきたことと作業服をフル着用していたこともあり汗を少々掻いていたが淡々とスバルの言葉にヒルダたち同様に表情に元気が出る。

 

「いや、ちょっと待ってくれたまえ。 アレ等は君の朝食ではないのか?」

 

「??? 俺はもう食ってきたぞ?」

 

「……君は朝が早いと聞いていたが、随分と予想以上だね?」

 

「「「スバルだからね!/シュバールさんだから。」」」

「昨夜は泥のように(ちゃんと8時間)寝たからな。」

 

 ほぼ同時にアンナやカレン達の言葉がスバルとかぶり、彼は咳払いをしてから話を続けた。

 

「さて────」

 「────ウィルバーの質問も御尤もだけれど誰も彼がアンナたちのスケジュールを熟知していることを気にしていないのかしら?」

 「あの子たち、前に何カ月間かスバルと同じ所に住んだみたいだよ?」

 「まさか、同衾?!」

 「じゃなくて雇われの傭兵として。」

 「……“傭兵”???」

 「謎だよね~。」

 

 困惑するウィルバーの質問に、あたかも当然のようにスバルは話を進めた姿を見たサリアの疑問にマリエルが答えるが、二人にとっては謎が深むだけであった。

 

「しかし……君も()()に辿り着くとはな。」

 

「うん?」

 

 ウィルバーがチラッと見たのはテーブルの上に置いてある案や設計図が書かれた用紙だった。

 

「サクラダイトによるエネルギーの地場を発生させたシールドを、膜のように展開させる発想を聞くのは()()()だ。」

 

「……そうか。」

 

「アンナたちから聞いているよ? 君は彼女たちの開発したKMFであるアレクサンダをベースに、ほぼオリジナルのKMFのデザインをいくつか編み出しているじゃないか。」

 

「あの時は(孤立していたから)出来ることをやっただけだ。 それに俺一人で全てやったわけではない。」

 

「それだけじゃないぞ? 『火薬』などのような、数世紀前に廃れた技術等を見事なバランスと工夫で安定した瞬発力の高い機動や火力を生み出すことにも成功している。 それにアキト君たちから聞いたが、君は生身でKMFを撃破したそうだね?」

 

「あの時は(文字通りに)必死だった。」

 

「それに整備も出来るとなると、君はパイロットなどの職より技術者が向いていると思えるのだが?」

 

「………………()()だ。」

 

「ん?」

 

()()()()()()()()()()()。」

 

 スバルのこの一言に、その場は静まり返った。

 

 アンナたちはせっせと自分の状態に関係なく、自ら無理な範囲ギリギリや死地へと赴くスロニムやヴァイスボルフ城の防衛線などを思い浮かべ、ウィルバーたちはエデンバイタル教団やセントラルハレースタジアムの潜入などを思い返していた。

 

「(スバル……)」

 

 カレンは背を向けた状態のまま胸の前に上げた拳をギュッと更に力を入れて握りしめた。

 

「(さてと、エナジーウィングへの対策はウィルバーたちに任せて今度は()のところに行ってみるか。 ああ、その前にデータを閲覧していこう。 それと黒いランスロットの事もあるし……あとは『ヴィル〇ス』モドキのビルキースも準備させておくか。)」

 

 尚現在のお通夜状態の当事者であるスバルは、気付いていないどころか既に考えを次の段階に進めていた。

 

 

 ……

 …

 

 

 ゴォォォォ!

 

 エリア11のカナザワブロックにあるコマツエアポート(空港)の到着手続きターミナル内では、壁越しに噴流エンジンとかなり似た轟音を出す民間用の電力駆動プラズマ推力モーター音が鳴り響く。

 

 

「はい、次の方。」

 

 入国審査のスタッフが手を振りながら声を出すと、列に並んでいた20代半ばのブリタニア人が若い女性を連れながらパスポートを係員に渡す。

 

「えーと……『ガレス・ベクトル』さんと『ミーニャ・ベクトル』ですね。 親子で観光にでも?」

 

「ううん、デート♡────へぶぅ。」

「視察でした。 それとこの子は養子です。」

 

 若い女性────ミーニャが上記を言いながら男性の腕に(すが)ると、男性────ガレスが彼女の顔を押し返しながら淡々とした様子のまま質問に答える。

 

「は、はぁ……よく中華連邦から出られましたね?」

 

「“間一髪”、と言ったところですがね。」

「ねー!♡」

 

 係員がキャピキャピするミーニャと、そんな彼女から目をそらすガレスのパスポートを機会に入れてスキャンする。

 

「はい、結構です。」

 

 パスポートが返されるとガレスたちは手荷物を受け取り移動すると今度は税関検査の者に止められる。

 

「ではスーツケースを開けてもらえますか?」

 

「今回はチェックが多いですね?」

 

「中華連邦と、ゴトウ租界の事もあったからね────ッ?!」

 

 ガレスが出してきた、機密情報局のIDにスタッフはギョッと目を剥いた。

 

「こ、これは────?!」

「────あまりやりたくは無かったが、時間が惜しいのでね────」

「────こ、皇帝陛下直属機関の方でしたか────?!」

「────そうだよオ・ジ・サ・ン?♪」

 

「た、大変失礼いたしました! ど、どうぞ!」

 

 ガレスたちは畏まるスタッフの横を通り、人でごった返しになっている空港周辺に出るとガレスとミーニャは近くの裏路地に入る。

 

「……潜入成功だな。」

 

「だね、お兄ちゃん♡」

 

 ガレスの容姿が消えるとマトリョーシカ人形のようにオルフェウスが現れ、『ミーニャ』を演じていたクララはウィッグを脱いではすぐにいつもの茶色のキャスケット帽をかぶる。

 

「それと何が“デート”だ。 変な誤解を与えて失敗したらどうするつもりだった?」

 

「う~ん……皆殺し?」

 

 「頼むからやめてくれ。」

 

「ほ~い☆」

 

「じゃあ、行くぞクララ。」

 

「トウキョウ租界だね♪ じゃあ、はい!」

 

 クララは着ていたワイシャツをはだけさせてやや小ぶりな胸を覆うブラジャーの下から出したメモ用紙を開いてからオルフェウスに手渡す。

 

「……なんだこれは?」

 

「リクエストされたお土産リストだよ♪」

 

「……なるほど、道具を売っている闇市のディーラーリストか。 流石だな。」

 

「あ♡ クララ、休憩したくなっちゃったなぁ~?♡」

 

「トウキョウ租界に着いてからな。」

 

「わ! お兄ちゃんってば大胆~! 0.01じゃなくて0.001も使っちゃう────?」

 「────ちょっと待て、お前は何を言っているんだ?」

 

「ナニだよ?」

 

「・ ・ ・」

 

 唇に指を付けながらキョトンとハテナマークを浮かばせて頭を傾げるクララの、あたかも当然のような回答にオルフェウスは気が遠くなりそうだった。

 

 余談だがこの後にエリア24から急いできたミス・エックスが合流したことで、ホテルルームを男女に分ける口実がオルフェウスに出来てしまったことに揉め出したミス・エックスとクララの二人に、オルフェウスは頭痛薬を服用したと、ここで追記する。




SENTRYとMANOR LORDS、面白過ぎ。


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