カチ勢頑張る (インスタント脳味噌汁大好き)
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プロローグ

『Fantasy Universe Online 2』略称『FUO2』というゲームが、もうすぐサービス終了を迎えようとしている。宇宙にある様々な惑星を舞台にしたMMORPGで、プレイヤーはタキオン船団に所属する戦闘員シアリーとして宇宙の敵と戦う。何だかんだでサービス開始から10年間ずっとプレイしていたゲームだ。個人的には凄く悲しい。

 

[クロワッサン:あと10分だな]

[ユリクリウス:とうとうサ終かー。長かったな]

 

5年前、最盛期を迎えたFUO2は同時接続数20万人を記録し、国内のオンラインゲームのトップに位置していた。確かチュートリアルをクリアして5レべになったプレイヤーが、300万人を突破したのもその頃かな。しかし近年、人離れが加速してメインイベントであるエマージェンシークエストでも同時接続数は3000人に満たなくなった。恐らく、アクティブプレイヤーは1万人もいないだろう。

 

299万人が辞めたゲーム。そう言われるのもやむを得ない。そんな中、常に最前線でプレイしていたプレイヤーの感想として、サービス終了は悲しいけど妥当だった。

 

だってこの少ないアクティブ層を、更に二分化しているからね。カジュアルとプロフェッショナル。この区分けがこのゲームのサ終を早めたと言っても良い。

 

[クロワッサン:FUO3の方はどう?]

[ユリクリウス:ベータ版参加したけどオープンワールドのせいでレベリングがだるい、戦闘のテンポ悪い、移動めんどいの3重苦]

[クロワッサン:マジか。まあもうすぐ社会人だしそろそろネトゲは引退だなー]

[ユリクリウス:キャラクリはそのまま引き継げるし、ログインだけでもしてみたら?]

 

54人いるフレンドの内、唯一最後の時までインしているフレンドのユリクリウスとのチャットを楽しむ。まあリア友だし中学、高校、大学まで一緒だったのでこのゲームでは一番パーティーを組んだんじゃないかな。

 

最後の時をスクショするべく、カウントダウンの掲示板の前に立って自キャラのクロワッサンをアップにする。名前の由来は名前を付ける時に食べていたのがクロワッサンだったから。案外、こういう食べ物系の名前の人は多いんじゃないかと思う。

 

このゲームの最大の売りとして、キャラクリの幅が極めて広い、という特徴がある。そして自キャラであるクロワッサンは、外見が完全に美少女だ。女性用の着物を着ているし、小さくて可愛い。だが男だ。

 

自キャラを作る時に、最初は女にしようと思っていたけどキャラクリの幅に驚いた自分は、性別:男で可愛いを追求することにした。そしてゲーム内通貨数億ゴールドとリアルマネー20万円を費やし、完成したのがこの『狐の尻尾付き赤髪緑眼着物美少女』だ。ぶっちゃけ女にしか見えない。

 

ゲーム内のあちこちでスクリーンショットをとり、いよいよカウントダウンが始まるとオープンチャットの方ではあちこちで[ふおにありがとー][サ終しないでー!]というコメントが飛び交う。しかしまあ、最終日にも関わらず人は少ないな。

 

自分も最後はクロワッサンをアップにしてスクショしまくり、これをFUO3に連れて行こうかなーとか考えていると、いつの間にか自分がクロワッサンになっていた。食べ物のクロワッサンではない。自キャラのクロワッサンに、だ。

 

「……は?」

「……お?」

 

ふと、声がしたので隣を見るとユリクリウスがいる。自分と同じく着物を着ているが、男性用なので当然男。このゲーム、女性用の服を男性が着るのは問題ないのに男性用の服を女性が着るのは無理なんだよね。まあ一部の水着や露出の多い服のせいだろうけど。

 

……あれ、これどーなっているんだ?周囲を見渡すと、明らかにサービス終了時より多い人数がゲーム内のロビーにいる。なるほど、これが集団異世界転生か。

 

というかロビーが滅茶苦茶広い。1つの宇宙船に1000万人が乗っていると言われているタキオン船団のロビーだから現実になると滅茶苦茶広いのかな。

 

明らかに周囲も動揺しているが、ここでロビーの中央にあるディスプレイに女性の顔が映る。タキオン船団の船長、シウラさんだ。

 

『地球の皆さん、ようこそタキオン船団へ。タキオン船団の船長を務めるシウラです』

 

……現実として、ディスプレイに映っているシウラさんはめっちゃ美人だ。いやこれ夢だよな?なんか和服の着心地とか実感出来てしまっているんだが夢だよな?

 

「VRMMORPGでサービス終了のゲームの中に取り残されるタイプのラノベは結構読んだけど、ふおにはただのMMORPGだよな?」

「ただのMMORPGに間違いないぞ。うわ自分の声めっちゃ高い」

「男性キャラボイス132っていのりんボイスだっけ?そりゃ高いわ」

「ピッチ変更してかなり高い声にしたし、見た目も相まって完全に女になった気分だわ……」

「俺は普通にイケボにしておいて良かった」

 

しかし隣にいるユリクリウスの存在が、夢じゃないぞと訴えかけて来る。というか声も変わってるのは凄い違和感。下手すりゃネカマに見られるとかめっちゃ嫌だ。男の娘キャラを使っている時点でネカマに等しい存在だけど。

 

『あなた方は全員「Fantasy Universe Online 2」略して「FUO2」のプレイヤーだったはずです。しかしあの物語は、ゲームの物語ではありません。現実です』

 

シウラさんの話は続くが、周囲のざわつきがどんどん大きくなる。うわ、初心者プリセットの人も多い。何だか懐かしいなぁ。

 

「話が読めた」

「奇遇だな。俺も読めたわ。

……強制徴発かい」

「装備はどうなってる?」

「普通にアサシン/ソードマンで使っていた装備だな」

「こっちはソードマン/ナイトで使っていた装備だ。まあラストだったし1番強い状態にはするわな」

 

周囲の装備を見て、自分の装備を確認するけど、3部位全てで課金して手に入れた防御系特殊能力を10枠全てに突っ込んだ通称『カチ装備』を身に付けていた。詳しい能力値はゲームと同じか後で確認するけど、まあ滅多なことでは死なない。というかこのカチ装備を作る前からソードマン/ナイトで死んだことはない。

 

『物語では最終章で主人公が大いなる闇を打ち払いハッピーエンドを迎えましたが、現実は違います。主人公に該当する人物が最終章前の7章ラストで死亡しています。その代替戦力として、あなた方を招待いたしました』

 

シウラさんの話はとうとう本題に入り、主人公死亡済みとかいう大変辛い現実を押し付けて来た。確か7章ラストで主人公は大いなる闇陣営に裏切った人と刺し違えて一歩間違えば死亡、みたいな描写がされていたかな。ということはそこで主人公に該当する人が死んで、大いなる闇と戦う戦力としてFUO2プレイヤーを連れて来た感じか。

 

……ゲーム内では滅茶苦茶戦闘しているが、現実世界で戦闘した経験なんてない。いやこれどう考えても無理だろ。現在進行形で背中に背負っている剣とか、使ったことすらないんだぞ。

 

『どうか大いなる闇の打倒に協力して下さい!300万人のFUO2プレイヤー達の力があれば、きっと倒せます!』

 

300万人。そうは言うものの、ここにはそこまで大人数居ない気がする。恐らく、1万人も居れば良い方か?ロビーが凄く広いとはいえ、端が見えるしな。寿司詰め状態だけど、300万人は居ないと思う……。

 

「なあ、どう思う?」

「ムリゲー。カチ勢のお前はともかく、俺は1回のエマージェンシークエストで1回はペロるし、最終章の敵ってストーリーの敵なのにやたら強かったじゃん」

「……自分はまあ、基礎防御ステの暴力で一回もペロらなかったけど時間はかかったな。サービス終了間際、ラストのプロフェッショナル基準をクリアしているプレイヤーって何人ぐらいいると思う?」

「1500人は超えてないな。昨日称号獲得人数でプロフェッショナルになっているプレイヤー数を計算したけど、最大で1500人程度だったぞ」

「あー……まあ、カンストで装備も充実しているシアリーが1500人も居たら何とかなるか」

 

このゲームは、基本的には誰とでも遊べるゲームだ。最大12人でクエストに行くマルチ形式であり、その仕様上、サービス開始から5年目までは寄生プレイやスタート地点で放置するプレイが横行した。そのため、次第に真面目にプレイしているプレイヤーはそれ以外のプレイヤーとの区分を望むようになった。

 

そして運営側は、プロフェッショナルとカジュアルの二つの層にプレイヤーを分ける。プロフェッショナルの基準を満たした者はプロフェッショナル限定ブロックへ移動することができ、そこでクエストを受注することで『プロフェッショナル限定ブロックへ移動出来ないカジュアル層と一緒のマルチ』という状況にはならないようになった。

 

この制度、最初はとても喜ばれたが、次第に雲行きが怪しくなる。カジュアル同士でマッチングして行くと、エマージェンシークエストがクリア出来ない状況となるのだ。やがてカジュアル層はゲームを辞め、人口が減る。人口が減るとプロフェッショナルの割合が高くなり、割合を減らすために再度基準が設けられる。

 

次第に求められる技量は高くなり、カジュアル落ちしたことでゲームを辞めるプレイヤーが多発した。そしてどんどん先細った結果がサービス終了という認識だ。まあ今のこの状況を考えると、わざと先鋭化させたという捉え方も出来るけど。

 

『ゲーム内で保有していた通貨は残念ですが使用できません。しかし、アイテムや装備であれば使用することが出来ます。後日、順番に案内人を用意いたしますので個室で自由にお過ごしください』

 

ディスプレイに映るシウラさんは、それだけ言うとお辞儀をして去ってしまう。残ったのは困惑している人、ゲーム内に来れたと喜んでいる人、ふざけるなと叫んでいる人などと様々だな。

 

「個室か。これってマイルームがゲームでの状況そのままってことかな?」

「お、じゃあ俺のマイルームは温泉宿になってるな。ちょっと気になるわ」

「自分は完全に女子の部屋だから嫌なんだけど……あとコレクション部屋が恥ずかしい」

「あの何億ゴールドかけたんだっていうマットやポスターの山はゲーム内通貨がない今、財産じゃないか?」

「現実的に考えてマットやポスターにどれだけの価値があるかって話よ……」

 

ゲーム最盛期の時は、アクティブプレイヤーが40万人から50万人ほどいたため、それなりに装備の整っている人が多い、しかし1年前からレベルキャップが80レべから100レべ、100レべから120レべと極端なインフレが起きたため、5年前のレベルキャップである65レべの人が多い印象だ。

 

そして何より、レベル5からレベル30の人が半分以上いる。これは面倒な状況だな。この後ロビーに居ても暴動とかに巻き込まれそうだし、さっさとマイルームの方へ移動するか。



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第1話 カチ装備

マイルームに移動しようとして、どうやって移動しようか迷っていると目の前にアイコンが現れた。FUO2のUIがそのまま目の前にあるとか面白い光景だな。

 

ユリクリウスとはその場で一旦別れを告げ、マイルームに移動を選択。ついでにマイルームへの入室制限を『制限なし』から『フレンド&チームメンバーのみ』に変更する。この状況で制限なしのままにして、足を踏み入れられるのは勘弁。

 

マイルームに移動するを選択すると、一瞬でマイルームへワープした。うわ宇宙の技術凄い。変な酔いとか全くしないし……地味にマイルームって広いな。

 

課金で最大まで拡張しているから、大きな部屋が6つある。全部ピンクで目に悪い。しかし内装は後で変更するとして、この大きな部屋が6つもあるのは快適だな。キッチンやシャワー、バスタブなどの家具は個人的な趣味で置いていたけど、置いていない人はどうするんだろう……?

 

そして個人的には気になっていた存在、サポートロイドと面会する。

 

「お久しぶりです、マスター。久しぶりにクエストの素材集めを任せに来ましたか?」

「うわ出た」

 

最初の部屋の左側の扉を開けると、そこには限界まで背を縮めて限界まで胸を大きく設定したロリ巨乳がいた。装備が禍々しいのは、ドロップした装備をそのまま付けているからだな。ドロップした装備と、そのドロップした装備を加工しアップグレードした装備、性能は全く違うがどちらも同じレア度だ。

 

そしてサポートロイドのステータスは装備品のレア度で決まるため、ドロップした装備、通称『ドロップ品』を装備させている。

 

最近は目にすることもなかったサポートロイドだけど素材を集めて来てくれるから優秀な機能ではある。NPC枠としてクエストで連れまわすことも出来るし、初心者の頃はお世話になった。まあ脱初心者になると完全にキャラクリを楽しむためだけの存在になるけど。

 

このサポートロイド『コッペパン』もロリ巨乳の美少女であり、綺麗な緑色のチャイナドレスを着ている。髪型は地味に高かった『お団子ヘアS:赤』だし、アクセサリーの『シニヨン』はガチャで出た奴だが、売れば数千万ゴールドを手に入れられるものを使用している。うん、自分の趣味が良く出ている。

 

「コッペパン、地球人が大量にタキオン船団へ拉致されたことについて、状況説明は出来るか?」

「少々お待ちを。サポートロイド専用ネットワークに繋ぎます。

……申し訳ございません、あまり答えられそうにありませんが、マスターのご質問にお答えします」

 

コッペパンにちょいと質問をすると、その情報は回覧出来ませんでしたという回答がほとんどだったが、少なからず情報を得ることは出来た。

 

・地球からタキオン船団に拉致された人は合計で316万6762人。

・サーバー番号が船団番号に置き換わっており、自身のいたサーバー1は船団番号1番に置き換わっている。

・船団は全部で30あり、サーバー番号に対応している。

・1つの船団に10万人程度の人となるよう、調整をしている。調整対象者はゲームプレイ時間が短い順。

・現在は大いなる闇が一時的封印されてから10年が経過している。つまりは第7章で主人公が命を落としてから10年が経過している。封印が解かれる時期は分からない。

 

主な情報は上の5つだが、なるほどつまり今この船に10万人の地球人がいるということか。ロビーにいたのは1万人程度だったとのことで、あの規模のロビーが20個はあるとのこと。その内の10個を使って地球人への歓迎セレモニーを行ったということだな。

 

……歓迎は、していたかな?まあゲームの中の世界に取り込まれたとしか思えないこの状況、素直に喜べる人は相当な奇人変人だろう。ちなみに自分は喜んでいる内の一人だし、恐らくユリクリウスも内心キャッキャしている。ユリクリウス、この手のラノベは大好きだったしな。

 

しかも、自分達の位置的には300万人のうちの上位1500人が確定している。というか自分は鯖内で最高クラスの防御力だ。特化型には数値上負けるが、タフ(HP盛り)とカチ(各種防御盛り)の組み合わせたこの装備、よっぽどのことが無い限り倒れない。というか、最近はHPが半分に到達したことがない。

 

とりあえずサポートロイドにセクハラの類をしても良いのかドストレートに聞くと、基本的にはサポートロイドにも人権があるからダメとのこと。「ただしマスターになら良いです」と言われた時には襲いそうになったけど。その大きなおっぱいに顔を埋めたかったけど鋼の理性で自重した。

 

……うん、これ上位プレイヤーにとっては至れり尽くせりの環境だな。サポートロイドなんてよっぽどのプレイヤーじゃない限り、好感度カンストまでは使っているだろう。序盤、中盤の金策や資源集めには必須の存在だし、フレンドがいないぼっちソロプレイヤーは終盤までサポートロイドにお世話になっていると聞く。

 

さて、このあとどうしようかと考えていると『フレンドのユリクリウスが入室しようとしています』という表示がされる。ゲームでは勝手に入れるが、流石に現実だとガバガバセキュリティじゃないか。入室を許可すると、ユリクリウスがスーツ姿になってマイルームに入って来た。

 

「おう、もう着替えてるのか」

「流石に着物は目立つからな。シアリーの制服で良いかなとも思ったけど、スーツで良いだろ」

「自分も着替えるわ。

……女性用だけどダッフルコート赤で良いかな」

「男性用持ってないならトレードするぞ?」

「いや、これは女性用でも男性用でもあまり変わらないだろ」

 

というわけで自分も赤色のコートに着替えるが、ごつい見た目に反して中は快適だ。動きやすさも変わったようには感じないので、バスタオルや水着でも普通に戦闘は出来るということだろう。

 

「で、どうする?俺は一度クエストを受けようかと考えてるけど」

「ステータスの確認が終わったら自分も行くわ。惑星ドゥームズの自由探索とかで良い?」

「お、良いな。あそこの敵は攻撃パターンがワンパターンだし、2番目の惑星だから推奨レベルも低いしな」

 

FUO2は、各種の惑星で大いなる闇の手先である『シャドウ』という名の敵を倒して原住民と仲良くなったり、敵対していくゲームだ。中でも惑星ドゥームズは鬼族の惑星で、角の生えた鬼が沢山いる。

 

そして一部の陣営は闇の手先に洗脳されており、常時戦争中である。どこもこんな惑星ばかりだが、この惑星ドゥームズは昔の日本がモチーフになっており、和風建築物が立ち並ぶので一度ぐらいは実物を見てみたい。

 

というわけでまずはステータスチェック。転生物お決まりのステータスチェックのお時間である。ステータスオープンと叫ぶ必要はなく、FUO2のUIからキャラクター情報を選択して見る。

 

キャラクター名:クロワッサン

種族:ヒューマン

メインクラス:ソードマンレベル120/サブクラス:ナイトレベル120

【基礎ステータス】

HP:1100+500

MP:100

近接攻撃:660

射撃攻撃:460

魔法攻撃:360

技術:650

近接防御:680

射撃防御:570

魔法防御:550

 

メイン武器:光燐剣アカツキノヴァ+99

カテゴリ:ソード

近接攻撃:1898

スロット1:HP吸収Ⅲ(攻撃する度にダメージ量の1%分HP回復、上限50)

スロット2:堅牢なる力(ガードスタイル時、ダメージ量10%減)

スロット3:解放されし力(クリティカル率20%UP、クリティカルダメージ8%UP、MP消費20%減)

スロット4:活力増幅(HPが多いほど能力を獲得する。HP500につき1個。全10個)

スロット5:ガーディアンソウル(HP100、MP10、全能力100UP)

スロット6:オールステータスアップⅩ(全能力100UP)

スロット7:ガードブースター(HP100、全防御能力100UP)

スロット8:HPタフネス(HP150UP)

スロット9:スタミナⅩ(HP100UP)

スロット10:オールガードステアップⅩ(全防御能力100UP)

 

防御ユニット1:ガーディアンボディ+10

カテゴリ:ボディ

HP:200

MP:10

近接防御:350

射撃防御:350

魔法防御:350

スロット1:自然の恵みⅢ(MPが3秒毎に1回復)

スロット2:堅牢なる力(ガードスタイル時、ダメージ量10%減)

スロット3:妙技Ⅲ(クリティカル率25%アップ)

スロット4:不動の心得(静止時間1秒毎にMP3回復)

スロット5:ガーディアンソウル(HP100、MP10、全能力100UP)

スロット6:オールステータスアップⅩ(全能力100UP)

スロット7:ガードブースター(HP100、全防御能力100UP)

スロット8:HPタフネス(HP150UP)

スロット9:スタミナⅩ(HP100UP)

スロット10:オールガードステアップⅩ(全防御能力100UP)

 

防御ユニット2:ガーディアンアーム+10

カテゴリ:アーム

HP:200

MP:10

近接防御:350

射撃防御:350

魔法防御:350

スロット1:自然の恵みⅢ(MPが3秒毎に1回復)

スロット2:堅牢なる力(ガードスタイル時、ダメージ量10%減)

スロット3:妙技Ⅲ(クリティカル率25%アップ)

スロット4:不動の攻勢(静止時間1秒毎に攻撃力0.4%上昇/上限120%)

スロット5:ガーディアンソウル(HP100、MP10、全能力100UP)

スロット6:オールステータスアップⅩ(全能力100UP)

スロット7:ガードブースター(HP100、全防御能力100UP)

スロット8:HPタフネス(HP150UP)

スロット9:スタミナⅩ(HP100UP)

スロット10:オールガードステアップⅩ(全防御能力100UP)

 

防御ユニット3:ガーディアンレッグ+10

カテゴリ:レッグ

HP:200

MP:10

近接防御:350

射撃防御:350

魔法防御:350

スロット1:自然の恵みⅢ(MPが3秒毎に1回復)

スロット2:堅牢なる力(ガードスタイル時、ダメージ量10%減)

スロット3:妙技Ⅲ(クリティカル率25%アップ)

スロット4:不動の恵(静止時間2秒続くと、10秒毎に支援魔法がかかる)

スロット5:ガーディアンソウル(HP100、MP10、全能力100UP)

スロット6:オールステータスアップⅩ(全能力100UP)

スロット7:ガードブースター(HP100、全防御能力100UP)

スロット8:HPタフネス(HP150UP)

スロット9:スタミナⅩ(HP100UP)

スロット10:オールガードステアップⅩ(全防御能力100UP)

 

セット効果:ガーディアンセット(ボディ、アーム、レッグ)

HP150、MP30、全防御能力100UP

 

【合計能力】

HP:4150

MP:200

近接攻撃:3358

射撃攻撃:1260

魔法攻撃:1160

技術:1450

近接防御:3430

射撃防御:3320

魔法防御:3300

 

通常のFUO2プレイヤーのHPは、大体2000程度だ。基礎ステータスが約1000、装備の基礎ステータスで+300~500程度。それに特殊能力でHPを盛り、2000を超えると敵の大技を一回は耐えることが出来るから安定する。

 

しかしまあ、よっぽどの課金をしていないとこのスロット10まで埋めるのは至難の業となる。そもそも素材を10スロットにするのが苦痛な上、10%の次に10%を通し、更に10%を通すと中間素材が1個出来上がる。その中間素材を10個使って更に10%を通すと、最終素材が1個出来る。

 

これを10回繰り返してスロットの中身を厳選した最終素材を10個作るのだが、課金で手に入る成功率アップや失敗時素材返却保証アイテムを湯水のように使えないと最早やる気が起きないほどである。あとゲーム内通貨を大量に消費するので、ほとんどの廃課金もスロットは7や8で止めている。スロット9や10にまで到達しているのは、極一部の廃課金か変態だけだろうな。

 

また、各種防御ステータスも普通の人の1.5倍はある。これによりダメージ量自体が減っている上、高騰を続けていたスロット2専用特殊スキル「堅牢なる力」を贅沢にも4積みしている。もはや敵の大技でも二桁ダメージに抑えることが珍しくない異常事態にまで発展していた。

 

当然その分、火力はおざなりだがクリティカル率を基本の5%から100%まで強引に上げていることで火力特化型にも負けないほどのDPSを持っている。まあスロットを7ぐらいにまで拡張している火力特化型とかとは良い勝負をするというだけで、火力特化型でスロットを8や9まで拡張している人には負ける。

 

……カジュアル層は、まず3スロットを目指すように言われる。安いソウルに、ステータスⅤに、ステータスブースターを使って1部位で攻撃ステータスを200伸ばすことが目標だ。それには到達している上、クリティカル型に仕上げているんだから文句を言われたことはない。

 

一方のユリクリウスの装備は……あれ、他人の装備を見れなくなってるな。まあ良いや。ユリクリウスは火力特化型で、メインはアサシンだが武器は刀を使用する。一応スロット9まで拡張しているので変態の一人。ついでに言うと、TAで毎週上位に入賞するPSの持ち主でもある。

 

まあエマージェンシークエストで敵がわちゃわちゃし出すと耐久が並みのせいで死ぬが。そしてこの世界、蘇生アイテムがない。綺麗に蘇生アイテムだけアイテムバッグから無くなっている辺り、あれはご都合主義の塊なのだろう。というか一度死んだ人が体力半分で生き返るのは現実に置き換えられるわけないな。

 

回復アイテムの回復量も軒並み落ちているし、回復薬に頼るごり押しプレイは難しそうだ。だからまあ、簡単なクエストに行って感触を確かめる必要がある。

 

とりあえずはロビーに行くと、人の数は減っており各々自由に行動していたり、どうしたらいいのか分からず右往左往している人がいたが、自分達はまっすぐにクエスト受注カウンターへ行って惑星ドゥームズの探索クエストを受注。キャンプ船に乗り込む。

 

タキオン船団が、直接クエストを受注した惑星へ移動することは出来ないために、別の小さな宇宙船に乗り込んでクエストを受注した惑星へ移動する。そのための船がキャンプ船というわけだな。

 

「どうする?サポートロイドを連れていくか?」

「俺は要らないと思うが……まあ念のために連れていくか。推奨レベル21で苦戦するとは思えないけど」

「じゃあコッペパンとサタンちゃんで行くか」

 

パーティーは最大で4人だが、基本的にこういうクエストでサポートロイドを連れていく人はまずいない。ただ今回は何が起こるか分からないし、念のために連れていくことにした。

 

「よろしくお願いいたします、マスター」

「やっほー!サタンちゃんの登場だー!」

「あれ、サタンちゃんメイジに転職したの?」

「メイジ/ナイトで支援魔法と回復魔法だけを使う固定砲台にした」

「ああ、マルチメンバー12人の中に1人はいるとありがたい便利な奴ね」

 

この判断が、恐らく自分達の明暗を分けた。あっという間に惑星ドゥームズに到着し、降下しようとした直後、自分達の乗るキャンプ船は拉致され、全く別の惑星へとワープする羽目になった。



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第2話 アブダクション

「ここどこだ」

「間違いなく惑星ドゥームズじゃないな。

……アブダクションかよ」

「発生確率0.1%のイベントとか考慮してなかったんだけど。

これ、サポートロイド居なかったらヤバかったかもな」

「ゲームの仕様が現実にも適用されているとは思えないから、サポートロイドの提案はナイスだった。……そしてこの状況でお前がいることにマジで感謝」

 

地面に降り立った自分達の目の前に広がる光景は、綺麗な和風建築の建造物が立ち並ぶ美しい街並みではなく、真っ黒に染め上げられた場所。駅みたいな建物も、ビルみたいな建物も、全部真っ黒だ。

 

……いやまあ一応輪郭とか分かるし、黒に近い灰色か。間違いなくシャドウに侵食された惑星の1つで、シャドウの拠点の1つなのだろう。

 

恐らく今起きたのは、アブダクションと呼ばれるゲーム中のイベントだ。クエストを受注し、いざ目標の惑星へ降下しようとしたタイミングでシャドウに拉致され、シャドウの拠点に招待されるイベント。基本的には5分耐えることで救援ポータルが届き、脱出する流れだ。

 

遭遇確率は通常時だと0.1%。アブダクションウィークとかいうありがたくない期間だけレアドロップ率+200%とセットで1%になる。あとは特定のクエストを連続でクリアし続けるとアブダクション確率が上がったかな。

 

敵の経験値が高く、ドロップ品の質も良好と旨味は全くないわけでもないのだが、基本的には高レベルな敵がわんさか出て来るからソロの時とかだと非常に辛い。カチ勢の自分的にはひたすら自キャラがフルボッコされるのを見守るイベントでした。雑魚しか出ないから死にようはないが、ユリクリウスはちょっと不味い。

 

「事象:アブダクションを確認。

……救援ポータル設置まで23分かかるようです」

「うわわ、これマジヤバくね?」

 

ユリクリウスのサポートロイドのサタンちゃんがマジヤバくね?と呟くが、実際ヤバイ。しかも耐久する時間が23分とか聞いてない。ゲームでは5分だったのに、何でそんなに時間かかるのってそりゃ現実だからだよ!

 

そしてシャドウと呼ばれる敵が出て来るけど、レベル126って何?こちらのレベル120なんだけど。敵のレベル上限って120までだったよね?いや敵の方がレベル高くても何とかなるのがこのゲームだけど、100レべ以降は1レべ毎のHP上昇幅が大きいから126レべはかなり硬いんじゃ?

 

この光景を見て、ユリクリウスはかなり顔色を悪くしている。火力特化型である以上、耐久は並み。火力特化型で耐久も並み程度あるのがユリクリウスの凄いところだが、ゲームの世界が現実となった今、ゲームの時のような動きが出来るとは思えない。

 

ユリクリウスを守るように立ち、サポートロイドのコッペパンにユリクリウスの援護をするよう言っておく。コッペパンのクラスはアーチャー/ナイトで敵に攻撃力弱体化の弓矢を打ち続ける、デバフを撒くだけの存在にしている。この状況で、一番の当たりとも言えるクラス構成だろう。

 

さて、ソードマンのメインスキルであるガードスタイルを起動。これにより、ガードスタイル本来の性能で被ダメ4割カット。武器と防具に仕込んでいる特殊能力で被ダメ4割カット。合わせると被ダメは36%にまで軽減できる上にHPが1000増える。これでHPは5150だし、即座にアイテムバッグからHPドリンクを摂取。HP2割増+被ダメ1割カットの効果のため、HPは6180だ。

 

ドーピングした次の瞬間、黒い人影のようなシャドウから黒い弾をぶつけられるがステータスを見ると6179/6180。基礎防御が高いから、雑魚敵からの攻撃は元からずっと1である。またカマキリみたいなシャドウも襲って来るが、鋭い鎌で斬られてもダメージ1って光景はなんか気味が悪い。実は最初の一撃を受けるまで、ビビり散らかしていたのは内緒である。

 

そして敵の攻撃の直後、HPが100回復する演出が入る。ナイトの自動回復スキルで、1秒毎にHPの1%が回復するが上限は50なので50しか回復しない。次に武器のスキルにある活力増幅の効果で同じようにHPの1%を回復、上限50回復するから、合計で1秒に100回復するということだ。

 

お、静止していたからか支援魔法が入った。これで攻撃と防御系のステは全て1割アップ。ついでナイトのスキルであるヘイト上昇スキルを起動。次の瞬間、取り囲んでいたシャドウたちのヘイトが全てこちらを向いた。よし、これで後は23分耐えるだけ。

 

「ゲッカエンド!」

 

ひたすらシャドウを引き連れてタコ殴りにされていたら、ユリクリウスが丁寧に一体ずつ敵を葬っていた。MPを30消費して使用する技、ゲッカエンドの弐式だなあれ。ゲッカエンドは零式、壱式、弐式、参式のどれかに技を強化することが出来るが、弐式は威力増強、チャージ時間増のやつだったはず。

 

ゲッカエンドそのもののモーションは刀による単純な突きなので、ゲームが現実となったこの世界では使い易い技だろう。雑魚敵を一匹ずつでも処理してくれるのは助かる。現状、20体以上の敵がフルボッコしてきているからな。

 

元からチャージ時間が長いので、誰かがモンスターをトレインしている状況かボスがダウンした状況でしか使えない技だが、威力は絶大だ。126レべでHPが盛られまくっているはずのシャドウが一撃で死んでいる。頭という弱点を狙っているし、急所狙いも発動しているから恐らく1000万以上のダメージが出ているだろう。

 

1レべの体力は200ぐらいしかない雑魚敵NPC。しかし100レべを超えるとHPは200万になるし、120レべだと400万。100レべから120レべまでの倍率と同じなら126レべは520万とかやってられねー。

 

一方の自分も、剣を振り回す技を起動。その名もエンドクラッシュ。技の強化は効果範囲増大の壱式。格好いい名前だが性能は微妙。ただ、こういう1対多の時は使い易い。

 

何せ技の始動から終了まで操作キャラは右手以外一切動かず、右から左へ巨大化させた剣を振り、左から右へ巨大化させた剣を振り、最後に上から振り下ろすこの技は巻き込み範囲が非常に広い。なおダメージ量は微妙な模様。50万、50万、100万ってところか。MP消費50に対して明らかに割に合わない。

 

ちなみに主観的初心者死因第1位が「エンドぶんぶん中タコ殴られ死だ」初心者は最初、ソードマンから始まるからな。ソードを持って、敵に囲まれた状況。打開するために大技を使用したら敵からの攻撃を一切躱せない状況に突入してタコ殴りにされる。そして初床ペロ。初心者ならわりと多くの人が通る道だ。

 

ついでに言うと、床ペロとはHPが0になって床に倒れ伏すことを指す。死んだプレイヤーは床に倒れ伏していることから床を舐める=死ぬというこのゲームのスラングのようなものだ。ゲームの世界ならすぐに格安の蘇生アイテムで復帰できるが、どうやらこの世界ではHP全損=死らしい。まあそうじゃなきゃまず主人公に該当する人物が死から復帰してるわな。

 

そうこうしていると、10分が経過。時々ヘイト上昇スキルを使用し、赤く光ってるだけで何とかなるから大丈夫そうだなと思ったところで、メカの身体をした巨大なカブトムシが出現した。第1章のボス、量産型メカビートルだ。

 

……は?

 

「アブダクションに何でボスキャラがいるんだよ!」

「知らねえよ!ここが拠点だからだろ!?

くそ、ウォークライ!こっちだ!」

 

速攻でヘイト上昇スキルを使用し、自分が攻撃するが全く効いていない気がする。このメカビートル、120レべでHPは12億ある。単純計算で126レべなら13億はあるな。12人で倒すようなボスだから、この体力は絶望的な数字だ。

 

「GGGGGGGGGGGGUUUUUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOO」

「ヤバイって、何でいきなり最終砲撃とうとしてるんだよ……」

「全フィールド攻撃って俺に死ねってことかよ!?」

「よし、落ち着け。自分の影に隠れろ。現実なら恐らく放射状だ」

 

そして唐突に、メカビートルは飛び上がり奇声を発してエネルギーを蓄え始める。HPが残り2割を切った時の、メカビートルの特殊行動だ。内容はフィールド全面にエネルギー砲を発射すること。紙耐久は死ぬ。

 

ゲームなら逃げ場などないので、その前にメカビートルの眼前にあるエネルギー球を破壊する行動が必要になるが恐らくあのエネルギー球、HP1億近くはあるはず。そんなの2人で発射前に破壊し切れるわけないでしょ。

 

なのでユリクリウスとコッペパンとサタンちゃんを守るようにして立ち、エネルギー球が眼前に落ちて来るのを待つ。大きな剣を盾にして、少しでも衝撃波が後ろに伝わらないようにする。直後、巨大なエネルギー球が目の前に降ってきて破裂した。

 

HPがゴリゴリ減っていく。一度のダメージ発生で130程度HPが削れているな。そのダメージ発生が10連続で起きてHPは1300ほど減る。その後すぐに回復していくけど、これ生半可な耐久力なら一度のダメージ発生で1000は減るから合計で10000ダメ。当然即死だ。

 

「大丈夫か⁉︎」

「ダメージ発生が無かったから大丈夫だ。

というか未だにゲーム内でトップクラスの威力の最終砲を受けて何でHP半分以上残ってるんだよ……」

「回復薬オートが起動するような体力にもならなかったぞ」

「こっわ。

と、それよりダウン状態だ。攻撃入れて来る」

 

後ろを振り返るとユリクリウスとサポートロイド達の無事を確認する。まあ物理的に衝撃波が届かない範囲だったからゲームとは違って生き残れたのだろう。その後、最終砲を撃ったメカビはダウン状態に入る。

 

この最終砲モーション、メカビートルの眼の前でエネルギー球を破壊してもDPSが足りなくて撃たれても、メカビートルにもダメージが入る仕様にゲームではなっていた。あの威力だと、恐らく現実でも反動があるはず。本来なら敵同士の攻撃って当たらないはずなんだけど、雑魚敵はさっきの一発で全員消し飛んだし。

 

ゲッカエンドの構えをして、突く。これをユリクリウスが5回繰り返したところで、メカビートルは赤い光になって消える。それと同時にレベルアップのファンファーレが脳内に鳴るけど、やっぱりレベル上限解放されてるなこれ。下手したらレベル上限ないかも。

 

そしてメカビートルの周囲にアイテムが散乱するので回収。何でゲームのようにアイテムが散乱するのかは謎だけど回収するべきものはさっさと回収する。うーん、経験値+100%はもう腐るほど持っているんだよなぁ。

 

武器のビートルソードもたぶん今までに1000本以上回収してるな。っと、アブダクション産だからかオールステアップⅤがついてる。まぁまぁの当たりだ。

 

「ドロップ品はゲームと変わらなさそうだな。

……どうした?」

「……なんかスロット1アイテムの二刀流って奴が出た」

「明らかに主人公属性のレアドロップしてて草」

 

シャドウのおかわりが来ないか警戒しながらドロップ品を確認していると、スロット1の特殊能力追加アイテムをユリクリウスが拾っていた。この手のアイテムは貴重で、時にはとんでもない価格で売れることがある。

 

……ユリクリウスの言った二刀流なんて特殊能力は聞いたことがないので、まあゲームが現実になった影響だと考えておこう。早速ユリクリウスが効果も見ずに使用して、現在の装備のスロット1を通常攻撃威力15%アップから二刀流に交換すると、武器装備スロットが1つ増えたと報告を受ける。どう見てもぶっ壊れスキルじゃねーか。4つしか持てない装備を、スロット1つで5つに増やせるとか存在がバグってる。

 

これ、コイツが主人公で良いんじゃないかな?ということは自分は大いなる闇との戦いでサボれそうだし、ひたすら応援でもしておこうか。



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第3話 ランカー達

アブダクションから帰還した自分とユリクリウスを待っていたのは、さきほどクエストを受注した際、クエスト受注カウンターにいる人だった。ゲームだとどこの鯖のどこのブロックでも同じNPCだが、流石に現実となると同じNPCというわけじゃないからロビー毎に受付嬢は違って来る。しかしそれでも可愛い女の子が受付嬢をしているので、目の前で土下座されると困惑する。陰キャは美少女と対面するのも辛いのだ。

 

「ごめんなさい!他の船団から情報を仕入れていれば……!」

「他の船団って……同じようなことが起きたんですか?」

「はい。おそらく全ての船団で、地球の方々の1組目はアブダクションが起きました」

 

どうやらあのアブダクション、全ての船団のトップバッターが遭遇したようで生還したのは30組中3組だけらしい。あれ、猛者達が集まる1鯖でトップバッターが自分達だったというのは意外だな。あ、1鯖の1位チームは全員でVR任務受けたのね……。それならアブダクションは100%発生しないね……。

 

というかよく考えてみれば戦闘技能を試すのにわざわざクエストを受けに行く必要性はなかったな。簡単な任務でもアブダクションに遭遇すれば危険度は一気に跳ね上がるという意識さえあれば、自分達もVR空間で訓練する選択肢を選んでいた。

 

ついでにどの鯖でも2組目からはクエスト受注を止めることが出来たようなので、1鯖の被害者は自分とユリクリウスだけである。今回の事件での死者の名前も教えられるが、他鯖の対戦経験のあるランカーが何人も死んでいた。

 

……このタイミングで慌てることもなく「探索任務で腕鳴らししよーぜ」とかいうやつは、大抵がサービス終了間際までプレイしていた人間だろう。特に鯖対抗戦で活躍していた8鯖の椛さん、11鯖のブラッドさんは自分以上の廃課金勢で凄いプレイ動画を動画投稿サイトに何本も上げていたので、亡くなっていたのはショックだ。

 

[黒猫:『幼女同盟』のメンバーは全員チームルームに集合!集まれー!]

 

なおそんなショックはお構いなしに我らのチームリーダー黒猫がメールで招集をかける。速攻で集まれとのことなので、謝罪を受けるのもそこそこにチームルームまで移動。地味に受付嬢からお金を貰えたのは嬉しい。

 

……というか幼女同盟ってチーム名、リアルだとヤバくないですかね?これでFUO2最強鯖である1鯖の2位チームなのは問題だと思うよ。

 

さて、FUO2ではチームという、100人までが所属できる団体がある。チーム全員でチームの泉を育てたり、週末にはチーム対抗戦で他鯖の人と戦ったりする。このチーム対抗戦に出場できるのは1チーム12人と少ないが、幼女同盟のチーム人数は19人なので大した問題じゃなかったりする。報酬しょっぱいし。

 

ちなみにチーム対抗戦は、勝つ度にレートが増え、強い所と当たるようになるのに報酬は変わらない糞仕様である。お蔭で我ら幼女同盟は1鯖の最大規模にして最強のチーム「ふおにの森1」と同時間帯に参加申請をしないというルールまで出来た。1とナンバリングしてあることからわかるようにふおにの森2がある。ついでに3もある。

 

合計チームメンバーが250人とかいう頭おかしい戦力を誇るが、大半が無課金だし、チーム対抗戦は12人同士の戦いなので直接対戦の戦績は1勝2敗と1回勝てている。しかしここで負け越したせいで、うちは永遠の2番手が確定した。

 

チーム対抗戦全サーバーランキング

1位 2690ポイント サーバー1 ふおにの森1

2位 2680ポイント サーバー1 幼女同盟

3位 2385ポイント サーバー1 ふおにの森2

4位 2310ポイント サーバー3 無能艦隊

5位 2300ポイント サーバー11 †Bloody Wings†

 

……改めてチーム対抗戦のランキングを見ると酷いな。森、幼女、無能が並んでいるよ。というかブラッドさんが死んだってことは、サーバー11って1位チームのチームリーダーが逝ってる?マジであのアブダクションは何だったんだ。

 

ブラッドさんは昨今の課金勢がユニットを万能型1つに纏めようとしているのに対し、確か特化型の装備をきちんと3種類作っていたんだよね。DPSは全鯖トップクラスだったはずなので、恐らくアブダクションには1人で連れ去られたんじゃないかなぁ……?

 

色々と考えるのは後回しにして、一旦チームルームへと移動。おおう、完全な温泉宿と化している。しかもほぼ全員がバスタオルか水着という、こいつ等ゲームが現実になった実感ないのかよという光景が広がる。

 

「お、来た来た。TS転生し損ねたお2人さん、今どんな気持ち?」

「いやむしろ男キャラで良かったよ。クロワッサンは……まあありじゃない?」

「何がありなのか詳しく話をしようか?」

 

その中央にいるのは、キャラクター名が黒猫なのに、白髪で白い猫耳を付けている白肌の女の子。恐らく元男。というかTwitterで顔写真まで載せているのを見てるので間違いなく男。自キャラが白ビキニでロビーを走り回る姿を見て抜いたという逸話はあまりにも有名でチーム内外にも知れ渡っている変態。ついでに装備とPSも変態。

 

「アブダクションから1ペロもせずに生還とか相変わらずカチ勢は頭おかしいな」

「その話出回っているんです?タキオン船団なら隠しそうなものだけど」

「いや、3鯖のキリタ君が色々と教えてくれたよ」

「どのキリタ君だよ」

「両脇に黒い十字を付けたキリタ君」

「†キリタ†か。確か解析勢だっけ?何であいつはもっとまともなプレイヤー名を付けなかったんだ……」

「クロワッサンがそれ言う?」

 

チームリーダーの黒猫と話すけど、どうやらアブダクションで1組目が連れ去られた話は既に拡散しているらしい。3鯖のアクアさんが確かアブダクションで生還していたはずだから、そこ経由か。

 

「……アクアさんってアーチャーだよな?確かソロで生還していたはずだけど何があった?」

「不屈の闘志発動からのネバーギブアップの無敵時間で最終砲回避」

「うわ50%の確率で死んでるやつじゃん。マジで良く生き残ったな」

「ついでにアクアさんはアブダクションクリア時に特殊アイテムの『スロット1:豪運』を獲得したらしいが、お前らは何か拾った?」

「……ユリクリウスが拾ったぞ」

「ちょ、言うのかよ!」

「うるせー。武器枠が2つに増えたとか絶対バレるんだからさっさとゲロれ」

 

そして黒猫に二刀流のことをユリクリウスが話すと爆笑し始める黒猫。どう見ても薄幸な美少女なのに中身が釣り合ってないからちぐはぐな光景だ。なおこれで面倒見は良い模様。そうじゃなきゃ変態どもは束ねられない。

 

「これからふおにの森と会談みたいなのするんだけど、お前らは強制参加な。

あとはゼルとABCで5人だな」

「えっやだ」「ここで寝てる」

「ABCは寝るな絶対連れて行くからな元チームリーダー兼大使がサボれると思うな」

 

集合をかけた最大の理由は、今からふおにの森と話し合いがあるからか。まあ向こうはVR空間で色々と試したみたいだし、こっちはアブダクションに遭遇したり黒猫が他鯖から情報を仕入れたりと少しはこの世界がわかってきたから、情報交換会みたいなものかな。

 

というわけでふおにの森チームルームへ移動。金色のトロフィーがずらりと並んでいるが、3割程度は銀色である。流石にチーム全体での討伐数ランキングとかでは負けるけど、TAとかはうちも負けていないし勝っているところも多い。

 

なおこちらのチームルームも温泉宿の模様。まあ1番高額なチームルームで広い&温泉で色々と遊べるとなると上位チームのチームルームは温泉宿固定になるのだろうか。

 

出迎えてきたのは、ふおにの森のチームリーダーのシャルルさん、サブリーダーの「お兄さん」さん、ふおにの森の圧倒的エースであるライトさん、ふおにの森2のチームリーダーのべロベロスさん、ふおにの森3のチームリーダーのらんらんさんの5人だ。

 

ふおにの森は、最終的に1鯖のアクティブがほぼ全員集まった。1鯖でまともに機能しているチームはうちとふおにの森ぐらいだ。まあ最終的にアクティブが1万人程度になって、1番人の多い1鯖のアクティブも500人ぐらいだったとすると辻褄は合う。

 

「ようこそおいで下さいました。ABCさんはお久しぶりですね。ふおにの森のシャルルです」

「相変わらずの姫プだな。

幼女同盟現チームリーダーの黒猫だ。こっちは元チームリーダーのABC。半年ぶりに見た」

「レベル100なのに何故か参加することになったABCです……お久しぶりです……」

 

シャルルさんと黒猫が対面するけど、黙っていたらめっちゃ絵になる光景だな。シャルルさんは金髪で黒猫さんは白髪という違いはあるけど、根本的にロリ巨乳なのは似ているし。

 

そして情報共有が始まるが、流石は巨大チームなだけあって情報収集が早い。あくまでもまだ推測段階だが、地球が滅んでいる可能性とか考えたくもなかったよ。

 

[クロワッサン:ユリクリウスは今の話分かった?]

[ユリクリウス:お、個チャってそのまま使えるのか。まあ聞いた通りだろ。既に地球が滅んでいるほどの、未来に魂を移動させられたって考えだな]

[クロワッサン:ゲーム内アバターを操作しているようで実際にはこの身体を遠隔操作してたって話に繋げるには、それしかないか。シアリーの人員不足の話も胡散臭いんだよな……]

[ユリクリウス:設定上、シアリーになれるのは魔力を使える一部の人間が、厳しい訓練を修了してようやくレベル5の段階だからな]

 

こちらも情報を出すものの、団長の握っていた3鯖情報以外は既知だったあたりふおにの森のガチ勢感が凄い。

 

ある程度の情報交換が終わったところで、今後の話に移行する。まずは2組目に誰が行くかという話だ。現状、地球組のクエスト受注はVR空間以外全て停止されている。特に対策もせずに地球組がクエストを受注して、またアブダクションが起こったら、何しているんだという話になるからな。

 

しかし現状、元々タキオン船団に所属する地球組以外のシアリーは特にアブダクションが起きていないんだよな。そもそもゲームの中でも発生確率0.1%で忘れていた人もいるぐらいの存在。30組同時に発生したこと自体が何かおかしい。

 

「……まあ、前に進むなら2組目は練度の高いメンバーで行って試すしかない。

こちらから2人、そちらから2人の4人パーティーでどうだ?」

「その2人がユリクリウスさんとクロワさんであれば有り難く申し出を受けますが……お2人はアブダクションで死にかけたとのことですが、再びクエストに行く気はありますか?」

「俺は問題ない」

「自分も行きますよ」

 

死にかけたけど大丈夫か?みたいなことをシャルルさんが聞いてくるけど、自分は死にかけてないし、自分が死ぬなら恐らく遠からず地球組は全滅の憂き目に遭うから行く以外に選択肢はない。一方で、ユリクリウスが参加するのは意外だった。コイツの性格的にしばらく引き籠るかと思ったのに。

 

ただこのやり取りだけで、シャルルさんが慕われるのも分かる気がする。時々姫プしてるけど。個人的にも何度かTAで組んだことがあるのでPSが高いことも知っている。自分のことをクロワさん呼びする、珍しい人だ。

 

「ではこちらからはらんらんさんとライトさんを出します」

「火力2人、回復支援1人、カチ1人。まあ何があってもクロワッサンだけは帰って来るだろ」

 

しかしまあ、下手すりゃ死ぬという意識がまるでないな。自分も死ぬ気ないけど。どうしてもゲームの延長線上の出来事のように思えてしまうし、初心者達や中級者達は今どうしているのか結構気になる。



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第4話 課金勢

「クエストは何でも良いですか?」

[ライト:どこでも良い]

[らんらん:喋れライトォ!]

「ええ……普通に喋った方が早くない?」

「だよね?ライトはこの世界になってからもずっとチャットだけど」

 

自分とユリクリウスのパーティーにライトさんとらんらんさんが加わり、パーティーリーダーはユリクリウス。クエストを受注するのはパーティーリーダーの役目だからユリクリウスがどこでも良いかと聞いて来たけど、あれはたぶん惑星ドゥームズの探索任務を受けるつもりだろうから自分からの要望は特にない。

 

ライトさんがずっとチャットで喋りかけて来るのは最早コミュ障ってレベルじゃないけど自分もチャット機能で喋りたくなる気持ちは分かる。ただ、普通に喋った方が早い。

 

まあもしかしたら声が変な設定のままという可能性もあるし、意思疎通ができるなら何とも思わないけど。このライトさん、課金額は累計で6000万円overと比較的ヤバイお方。自分は高校の頃からアベレージで年間60万円ぐらいだから、合計で400万ぐらいしか使ってないけど、ライトさんは年1000万ペースで6年間ずっと最前線でのプレイしているから色々とヤバイ。

 

というか年1000万ってどの辺に課金しているんだろうと前に聞いたことがあるけど、普通の課金勢ではまず買わない、重課金勢でもほぼ買わないレアドロップ率+400%を高い金額でまとめ購入していた。いやレアドロップ率+200%や+300%が無料でバンバン配られているのに、そこに課金する意味はあるの……?

 

ただまあ、そういう無駄な課金が出来るぐらいにはほぼ全ての課金要素で大金を突っ込んでいる上、細かい仕様も把握しているから装備も当然10スロット変態仕様。具体的にはMPが400を超える。自分のMPは200程度だし、ユリクリウスや火力特化型の廃課金でも大体が250ライン。300を超えたら変態と呼ばれるMP盛りの世界で1人MP400の装備を用意できるのは頭おかしい。

 

このMPはあればあるほど、技や魔法を使用し続けることが出来る。ライトさんのクラスはメイジ/キャスターという、魔法攻撃しか考えていないアタッカーだ。MPがあればあるほど継戦力が上がるし、火力も群を抜いているからチーム対抗戦や鯖対抗戦の時は圧倒的エースです。ライトさんがいると、ひたすらに戦場を電撃や氷塊が走る。

 

息切れをしない魔法使いは、まあ恐ろしい存在だ。そんなライトさんの付き添い人であるらんらんさんはアーチャー/キャスターという完全にサポート特化なクラス編成。攻撃弱体化の弓矢を撃ち込み、防御弱体化の呪符を使い、支援魔法や状態異常回復魔法で補佐をする。特にキャスターの状態異常回復魔法は、状態異常を回復するとMPの回復速度が上がったり攻撃力が上がったりする。マジ便利。

 

ついでに課金者同士、どれぐらい突っ込んだかというのは分かるんだけど、らんらんさんはかなり微課金よりの人。たぶん月2000円とかその程度じゃないかな。それで第一線で活躍していた人だから頼もしい。

 

「前回アブダクションを受けた惑星ドゥームズの探索任務にしました。

……やっべ緊張して来た」

「2回目もアブダクションされるなら毎回アブダクションを覚悟した方が良いね。

ただタキオン船団も対策をアップデートしたらしいし、しばらくは来ない可能性もある」

[ライト:二刀流拾いたい]

[らんらん:私も緊張して来ました(*´꒳`*)]

 

ライトさんがチャットで喋るから、らんらんさんもチャット勢になってしまった。らんらんさんせっかくの可愛いキャラ声が勿体無い。というかこの世界、今気づいたけど女性率が高いから男性視点ハーレムだな。

 

確か、ゲームをプレイしている層は男性8割女性2割。ゲームの中の性別は男性2割女性8割。中身男性の女性が多いハーレムって需要どこだよ。というか今気づいたけどチーム幼女同盟はユリクリウスと自分以外全員アバターは女性だから外から見たらユリクリウスが完全に黒一点だ。自分はもう、完全に女の子にしか見えないし。だが男だ。

 

クエストを受注して、キャンプ船で移動するまでは前回と同じ流れ。今回はライトさんとらんらんさんがいるからちょっと賑やかだけど、このキャンプ船とんでもない速度で移動というかワープするのでものの15秒で惑星ドゥームズに到着する。ゲーム的な都合かと思っていたキャンプ船待機15秒だけど、本当に15秒だったのか。

 

そして今回はアブダクションが起きないので、惑星ドゥームズの大地にそのまま立つことが出来た。日本の昔ながらの街並みが続いているような感じだけど、基本的に住む種族が鬼で大きいから建造物も大きく感じるな。

 

『北にシャドウの反応があります。殲滅をお願いします』

 

寺みたいな建物もあるなと周囲を見渡していると、オペレーターの人から連絡が入る。ゲームだと同じNPCで可愛い声だったけど、完全に別の人の声だね。

 

探索任務なので、この北にいるシャドウの殲滅はすぐに達成しないといけないわけではない。たぶん拠点みたいなのが生えているだけだろうし、釣りとか採掘とかして良いかな?

 

[ライト:釣りが今までのように秒で釣れるとは思えないからさっさとシャドウ倒す]

「俺も直接シャドウの拠点叩くだけで良いと思う。採取系はもうちょっと時間ある時にやろうぜ」

「それもそうか。

らんらんさんはボス直で良い?」

[らんらん:早く戦いたい]

「らんらんさんも戦闘狂だった……」

 

少し話し合った結果、採取系はあと回しにしてシャドウの拠点を叩くことに。ゲームの世界ではポットのような拠点を送り付けて、そこでシャドウを繁殖させるというのが大いなる闇のやり方だったけど、現実でも同じ感じなのかな?

 

しばらく移動すると、シャドウが出て来るけどレベル22。弱い。というかレベル把握した瞬間にライトさんのノンチャヒョウカセンで凍り付いた。ノンチャというのはノンチャージの略で、魔法は基本チャージしないと威力が高くならないが、ライトさんはノンチャで魔法の威力が上がるスキルを大量に取得しているのでノンチャで馬鹿みたいな火力が出る。

 

ただその分、MPの消費は早くなる。まあ1秒チャージで1発200万ダメージなのを、1秒間に3発撃って300万ダメージ出すみたいな感覚だからMP特化でも中々使い手はいないのが現状。うーん、これはカチ勢の出番ないな。

 

拠点に近づくと、一斉にシャドウが出て来るけどほとんど20レべ代前半なのでカンスト120レべしかいないパーティーが苦戦するはずもなく、技や魔法の使用感を試すだけで終わった。レアドロップは何もなし。収穫もなし。つまらねえ!

 

ただ、これでアブダクションが毎回発生するわけじゃないことを確認することが出来た。この後はふおにの森で検証をしていくようなので、自分とユリクリウスは撤退しよう。

 

「おかえりー。どうだった?」

「ステータスの暴力でクリアして来た」

「せっかく二刀流になったのに抜刀する必要すらなかった」

「あー、ドゥームズの探索任務とかだと魔法職の殲滅速度が一番早いだろうねえ」

 

クエストを途中で抜けて、チームルームまで移動するとエルフ耳のゼルさんが出迎えてくれた。うちのチームのエースで耐久寄りのキャスター/メイジだ。

 

「じゃあ、もうクエスト行けるってことだね。

やった。海底神殿には一回行ってみたかったし、行ってこよ!」

「海底ステージは確かに楽しみかも。景色とか綺麗そうだし」

「しょっくしゅ、しょっくしゅ、待っててねー」

「……俺、ゼルさんがガチの女性って信じられないんだけど」

「奇遇だな。自分もゼルさんの動画を見てなかったら信じてない」

 

ゼルさんはクエストにいけるようになりそうなことを告げると、一目散に惑星オパルの海底神殿へ行くと言ってチームルームを飛び出して行った。口ずさんでいる言葉を聞くに、海底神殿にいるアイツに会いに行くのだろう。

 

オパルの海底神殿には、エロゲに出て来るようなローパーがいる。知性のない原生生物なのでシアリーを襲って来るし、地味に拘束攻撃は結構なダメージが入る。30レべから40レべ程度の中級者までなら。

 

……これ、自身の性欲を満たすために自殺しに行ってない?流石に止めたいけど止める必要があるのかも謎。どうせ120レべなら推奨レベル36レべの敵の攻撃なんて1ダメだけだろうし、ゼルさんも自動回復装備は持っているから延々と触手に虐められるとかそういうシチュエーションを受けられるんじゃないかな。

 

何せ、動画投稿サイトへローパーに虐められる自キャラの様子を何本も投稿する1鯖でもトップクラスの変態だ。ついでにその動画にゼルさん本人の声が入っており、女性ということが判明している。触手で虐められる自キャラを見て第一声が「良いなー」は狂ってるんよ。このゲームのランカー達こんなのばっかか。

 

しばらくすると、ゼルさんからメールが届くけどローパーの触手に絡まれる動画を撮ってチームメンバーに送り付けていた。随分とこの世界への適合が早いっすね。どこで自立式のカメラ買ったんだよ。タキオン船団の技術力なら普通に売ってそうだし、その動画をメールに貼るのも出来そうだけど習得速度が異常!

 

「ゲームだと直接性的な描写はなかったけど、現実だと生々しいな」

「……自分も女性型のモンスターの攻撃でも受けて来るかー。アラクネとか良い感じに拘束攻撃あったし」

「あ、それは録画撮れたら撮って」

「……なあ、今思い出したけどユリクリウスの好みって」

「ショタが男の娘のおねショタ」

「親友の縁切って良いか?」

 

自分もMよりの人間だという意識はあるので、ドン引きすると共に少しだけゼルさんが羨ましい気持ちもある。ちなみにゼルさんはその後、回復薬を使い切るまで触手風呂に入ってました。そんなに死にたいのかコイツ。



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第5話 チーム

チームとしての活動もそこそこに、ソロで活動したり、ユリクリウスとのパーティーで適当にクエストを受け続けて1週間。アブダクションみたいな例外は特に発生せず、実労働時間5時間ほどで100万ゴールドが稼げたのでゲーム準拠の稼ぎが出来るのは確認した。めっちゃ稼げるし、タキオン船団の物価が想像以上に安いから贅沢な暮らしは出来そうだ。

 

ほぼ1ゴールド1円の物価で考えて良いだろう。そう考えるとゲーム内ではイベントとかでバフ用のケーキが1000ゴールドで売っていたけど、まあ妥当な価格なのかな。マイショップ機能も使えるけど、今のところゲームの時の価格帯と変わらない感じ。最低レアの課金アイテムが大体20万ゴールドで売られているけど、買う人は少数だろう。

 

ショップエリアはゲームとは大きく変わり、生活必需品の売買もある。ついでにマイルームには賞味期限のない栄養食が毎日無料で届く。流石に文明が進んでいるだけあって、ベーシックインカムみたいな形にはなっているな。働かなくても部屋は用意され服は制服があり食事は届けられる。用意された部屋の水や光熱費は全て無料。まあ、それ以外は一切配給がないけど。

 

そして恐らく地球組の半数以上を占める初心者達は、1万ゴールドを稼ぐのも難しい。懐かしいなぁ。最初の頃のクエストの報酬は500ゴールドとかだっけ。複数の採取系や討伐系の依頼を受けて纏めてクリアが基本だけど、日本円換算すると最低時給を割るぞこれ。まあ最低限の用意はあるから、生きるだけなら何とかなるだろうけど、回復アイテムやドーピング剤が若干ゲームより高いから負担は大きい。

 

「よくソロで行けるな……?」

「ネコッチが出て来ても基本槍壊すからソロの方がぶっちゃけ都合は良い」

「壊獣種呼んでるのかよ……」

 

よくソロで行けるなとユリクリウスは言うけど、コイツも二刀流になってからソロで行く回数が増えました。ユリクリウスも二刀流での戦い方に慣れて来たようで、ステータスの暴力を活かしソロで周回する時は耐久の高い低レべボスを一撃で粉砕しているらしい。たぶんお金稼ぎでは低レべのボス狩りが今のところ一番効率良いんじゃないかな?

 

ちなみにユリクリウスの言った壊獣種とはネコッチと呼ばれる獣人を逃げ帰らせると出て来る非常に攻撃力の高いモンスター群だ。ネコッチはゲーム内だと時々主人公に戦いを申し込んで来る武人で、本人の耐久は滅茶苦茶高いが、武器を壊されると逃げ帰る性質がある。これが現実となると、簡単に死を呼ぶ存在になるから非常に厄介。

 

最初のアブダクションを除く、今までの1週間で死んだシアリーは1鯖だけで30人。その内の16人は5レべや10レべといった初心者層だけど、残りの14人はこのネコッチを『槍を壊せば逃げ帰る』と把握してしまっている中級者達だった。

 

その後の敵の方が耐久力は低いから、12人のマルチメンバーでエマージェンシークエストに挑む時とかは槍を即破壊するのが主流だ。しかし4人パーティーとかだとその後のボスを倒し切る火力が足りなくなるし、そもそもボスは基本的に攻撃力が高い。1ペロで死ぬことを考えると普通の人は迂闊に武器破壊を出来ないのだ。

 

一方の自分は槍を壊してボスを呼び、ひたすらにボスと殴り合ってソロで倒しているけど。自分も二刀流は欲しいから、メカビートルと同じドロップテーブルにある壊獣種を倒しまくっている。まあ向こうからのダメージがこちらの自動回復量を超えなければ、実質自分は無敵だからソロでの討伐が安定になるのは仕方ない。何よりガードスタイルはジャストガードと呼ばれるパリィに成功すると、1分間クリティカルダメージが1.5倍になるぶっ壊れスキルがある。

 

元々、このジャストガードクリティカルアップがない時代のガードスタイルは地雷の代名詞だったが、3年前にこのクリティカルダメージ1.5倍が実装されたことによってアタックスタイル以上の火力が出る場面も出て来た。これがクリティカル率アップに特化した装備と相性が抜群に良く、実質1.5倍の火力になるのだからそりゃ並みの火力特化型には負けないわ。

 

アタックスタイルのスキルを全部取ると実質火力は1.6倍程度になるけど、ジャストガードクリティカルアップのスキル1つでほぼ同値になるという恐ろしい事態。ただそれでもガードスタイルは流行らなかった。一度ついた地雷イメージが強すぎたのだ。だからこそこんなぶっ壊れスキル実装したわけだしね。

 

そしてクエストに行っていない時は、マイルームの改築をしたりマイルームにあるパチンコで遊んだりマイルームにあるパソコンでこの世界のネトゲを楽しんだりしている。倉庫にある家具類が充実し過ぎていて一生遊べそう。高値で売れる奴以外は全部倉庫に突っ込んでいたせいで、家具倉庫は2898/3000種類とかになっていました。

 

何があるのかも把握し切ってないので、マイルームに出現させてはマイルームに置くか吟味し続ける日々。地味に普通の家具も多いので、選択肢は多い。ゲームの画面として見るのと、現実で見るのとではまた違って来るし、プロフェッショナルでマイルームに引き籠っている奴らの大半はマイルームを改造しているとか何とか。

 

ただ一方で、初心者勢で満足に戦えない人達も引き籠る人が増えて来たみたいだから状況は良くない。わりと放置気味だし。タキオン船団の船長であるシウラさんの言っていた案内人とはサポートロイドのことで、レベル20で配布されるやつだけど地球組は特別にレベルが20に到達してなくても配布されるとか。

 

ただそれが間に合っていない人もいる以上、ガチ初心者が勝手にクエストへ突っ込んで死ぬという光景も見られる。あとガチ初心者が120レべまで到達するのに何年かかるんだという話もあるな。ゲームと同じ仕様でも恐らく最短で120レべまで1年はかかるし、安全マージンをとっていたらもっとかかる。ゲームみたいな経験値アップイベントとかないだろうし、余裕で数年はかかるだろう。

 

「あの、マスター。これは……?」

「ロウ・ヤー。これ鍵があるからガチ監禁出来るね」

「流石に人を監禁したら通報しますよ……?」

 

家具の牢屋を出したらサポートロイドのコッペパンが若干怖がっているけど、このサポートロイドがまた便利な存在過ぎて堕落したい。頼めば料理作ってくれたり掃除してくれたりする便利過ぎる存在。何ならサポートロイドをママと呼び始めた界隈も存在する。……うちのチームメンバー達だ。

 

[ゼル:ダメージ受け続けてたらレベルアップしたので報告]

[黒猫:経験値が見えなくなってるんだよなー。耐久でもレベル上がるならクロワッサンヤバくね?]

[クロワッサン:何がヤバイか知らんが今123レべまで上がったぞ]

[ユリクリウス:俺も123レべ。ライトさんは124まで上がってるらしい]

[黒猫:全鯖一の廃課金ニートの名は伊達じゃねえ……。てかお前ら徐々に推奨レベル上げてレベル上げに勤しんでいるとか真面目かよ]

[時雨:引き籠りショップ生活快適だよ。サポートロイド3人まで買ってて良かったヾ(*´∀`*)ノ]

[黒猫:ロリママが3人もいるとか最強かよ……]

[クロワッサン:ショップってどこか課金アイテムの価格操作してるとこある?]

[時雨:分からないけど全鯖のショップにアクセスできるようになってるから変に安い価格付けられなくなったんじゃないかな]

 

中でも時雨さんはサポートロイドを2人課金で購入しているので、実質3人態勢。上限まで増やしても結局ゲーム内では1人しか稼働出来なかったから意味のない課金だったけど、現実になると3人同時にお世話を頼めるとか凄まじく羨ましい。見た目は自由にカスタムできるからね。

 

まあ200万ゴールドで買えるっぽいし、ゴールド貯めたらもう1人買おうかな。5年前のFUO2最盛期にプレイしていた60レべから65レべの人達も真面目にレベリングし始めたようだし、プレイ人口が大幅に増えたFUO2だと考えると今後のショップの相場状況は気になるから逐一確認しておこう。1鯖トップクラスのショップ戦士である時雨さんが24時間張り付いているなら、極端な価格下落や高騰は起きないだろうけど。

 

[黒猫:そういえば今日シウラさんから聞き出したけどやっぱり人造人間を地球組に遠隔操作させてその人造人間の器に地球組の魂を持って来たらしい]

[クロワッサン:うわ、じゃあマジで未来の世界であってたんだ。地球ってどうやって滅びたの?]

[ABC:そこは教えてくれなかったけどFUO2の設定から考えると西暦換算で5600年というのはどこかで見ました……]

[ハル:そりゃ人類滅びますわ]

[クロワッサン:退路断たれていて草]

[ユリクリウス:悲壮感とかをあまり感じないのは人造人間のせい、だったら嫌だなぁ]

 

上位陣には色んな情報が回って来ているけど、この情報が広まったらヤバそうではある。反乱とか起こす層も出てきそうだ。1鯖だけで10万人の人がいるし、人が集まれば政治は生まれる。その内、支配層に回ろうとする人も出て来るだろう。黒猫とかシャルルさんとか既に支配層だし。

 

「マスター、そろそろ夕食の時間です。

……ちなみにチームチャットは全てサポートロイド達に筒抜けなのでご注意下さい」

「はっ!?えっ、個チャまで全部筒抜け?」

「いえ、パーティーを組んでいない時のパーティーチャットと個人チャットはこちらまで届きませんが、チームチャットはサポートロイドも対象なので……」

「……黒猫とか時雨さんとかひたすらサポートロイドとの惚気話書き込んでいるんだけど」

「そろそろお2人にもサポートロイドからお話があると思いますよ」

 

コッペパンが夕食を作ってくれたので、それを食べるけど基本的に食事は美味しい。まあ文明が進んでいたら食文化も発展するわな。そして衝撃のカミングアウトを受けたので、明日のチームチャットが楽しみである。特にサポートロイドのことを話していた黒猫と時雨さんは死にたくなるような気持ちになるんじゃないかな。

 

……確かに、チームのステータス上昇効果とかサポートロイドまでかかるからサポートロイドもチームの一員なんだよなぁ。よく考えたら分かることなので、黒猫が見落としていたのは意外だった。



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第6話 初エマージェンシークエスト

徐々にタキオン船団の生活にも慣れてきた頃、それは唐突に起こった。

 

『エマージェンシークエスト発生!採掘ステーションにシャドウの軍団が接近中!対象惑星は惑星テトラス、惑星サマーリアです!』

 

警報が鳴り響く。ゲームが現実となってから、初めてのエマージェンシークエストだ。内容は惑星にある採掘ステーションが襲撃されるというもの。対象惑星によって難易度は変わるけど、テトラスは高難易度でサマーリアは低~中難易度ぐらい。

 

自分は当然高難易度に行くべきなんだろうけど、今のボリューム層である低~中難易度に挑む人がどういう状況か確認したいし、サマーリアの方へ行こう。ユリクリウスを誘って、いつも通りの2人パーティー。サマーリアの採掘ステーション防衛ならゲーム内だと2人でクリアもしたことあるし、周囲がどうであろうと何とかなるだろう。

 

チームメンバーにも事情を話して惑星サマーリアに移動しようとすると、惑星サマーリアの中でもシャドウの脅威度が高い地域から低い地域までを選択できるようでここは脅威度が高い地域を選択。採掘ステーション前に到着すると、なんか12人では収まらない程度の人がいた。20人ぐらいいるね……?

 

まあエマージェンシークエストだし、ゲームの様に12人限定にする意味もないか。そしてキャラ情報でクラス編成を見て回っていると、あることに気付く。装備が見れるのだ。

 

[クロワッサン:あれ、装備が見れる]

[ユリクリウス:それ、21レべ以上下の人だと装備が見れるらしいよ。120レべからだと99レべ以下は見れるし、123レべなら102レべ以下を見れる]

[クロワッサン:同格なら見れないって感じか。うわ、未強化のレア度50代を担いできてる奴がいるんだけど]

[ユリクリウス:まあこれだけ人数いたら大丈夫だろ……]

 

「失礼、幼女同盟のユリクリウスとクロワッサン?」

「ん?あ、ふおにの森のライさんか。120レべいるなら寝てて良いな」

「今は122レべです。中級者の様子を見に来たんですが、指導する人とかいないんでしょうね……」

「未強化装備を身に付けてエマージェンシークエスト来た人見かけたからびっくりしたよ……」

 

装備を見て、中級者の状況が思っていたよりも不味いことを確認していると、ふおにの森のライさんが話しかけて来た。ライトさんと混同されることも多いが、こっちは普通の微課金勢でアバター名は「lie」だけどめっちゃ誠実な人。ふおにの森1の1軍メンバー12人の中に入っているので当然強い。クラスはゴースト/キャスター。

 

物理攻撃を半減するゴーストのクラスはHPを盛れれば存在そのものが強い。キャラクター本体のHPも半減するけど、特殊能力で盛ったHPは半減しないし、魔法攻撃はメイジに次ぐ火力が出る。耐久寄りで火力も出すという思考は自分と似ているし、何回かカチ装備談義はしたことのある人だ。

 

「おいてめえ!脅威度高いのに何で40レべで来てるんだよ!装備も全部未強化じゃねえか!」

「ゴールドがないから仕方ないでしょ!このクエストは経験値が美味しいの知ってるのよ。このクエストが終わったら強化するわよ」

 

なんか怒声が聞こえて来たが、怒鳴っているのは65レべで装備もスロット5まで拡張している5年前に前線に居そうな人。怒鳴られている方は受注制限ギリギリの40レべで、未強化装備を担いでいる人。

 

懐かしいなあ。高難易度クエストが増えて来た5年前、嫌というほど見た光景だ。ただHP全損=死になった現実でも未強化装備担いで来る人がいるとは思わなかったよ。

 

そしてゲームの時のように、非戦闘エリアというものは存在しない。送られた20人、直で戦闘エリアへ転送される。おお、採掘ステーションの大きさは実際に見るとヤバイな。まあ惑星の魔力を吸い上げている装置だから大きいのは当たり前だけど。

 

転送から間もなく、シャドウが湧いて出て来るけど未だに中級者組と初心者組の言い争いが終わらない。やっべ、こいつら89レべあるじゃん。65レべでしっかりした装備の人も40レべで未強化の人もみんな等しく一撃で死にそう。

 

こいつらを送り込んだオペレーター共は何をしていたんだと思ったけど、脅威度選んだのはこちら側ですね……。脅威度を選ぶタイミングでもオペレーターに質問は出来たわけだし、実際に自分とユリクリウスはオペレーターから「この惑星で確認されているのは最高でも80レべ代の敵なので、お2人であれば脅威度が高くても死ぬことはないかと」と言われている。うわ、ゲームの時よりか明らかにシャドウの数が多い!

 

「ユリクリウスさんは1番をお願いします!僕は2番を守るので!」

「自分は!?」

「ボス敵の引きつけをお願いします!」

 

ライさんから指示が出るが、従う意味はない。でも従わない意味もないので素直に言うことを聞く。そもそもライさんはふおにの森の指示出し係みたいな存在だし、指示もわりと的確なので文句はない。少なくとも、この3人で役割分担はするべきだろう。

 

さて、採掘ステーションの大きな採掘装置はこの地域だと1番から3番までの3本。ユリクリウスが東の1番、ライさんは南の2番の敵を殲滅しつつ、西の3番の敵に遠距離魔法を当ててヘイトを稼いでいる。となると、自分のやるべきことはボス敵を引きつけつつ、3番の装置に被害を出さないよう立ち回りつつ、3番に群がるシャドウを適度に狩ることかな。

 

ライさんからユリクリウスと自分を除く、その他全員に対し、3番で防衛するように指示が出るが当然反発する人が出て来る。こいつらほぼ全員が50レべから60レべ代だから居たらむしろ邪魔なまであるけど、全員で力を合わせれば3番に群がるシャドウを1匹ずつ倒すことも出来るだろう。

 

「何でレベルが上がらないのよ!きゃぁ!」

「あぶねえ!」

 

ふと、さっき言い争いしていた2人が目に入ったけど40レべの方は戦う気もないみたいだ。完全に寄生プレイをしていた人の思考だな。……救う価値はないに等しいけど、目の前で死なれたら目覚めが悪くなるので身を呈して助ける。

 

しかしそのせいで、ボス敵の高威力遠距離攻撃が飛んで来た。躱したらこの人が一撃死するからHPで耐えるしかない。うげ、50も減った。

 

「戦う気がないなら隅っこでメカハンターと戯れてて!装置の周囲で戦うな邪魔!」

 

流石に死が眼前に迫って文句や反論を言う気はなくなったのか、自分が指示を出した後は一番弱い敵のメカハンターを引きつけて攻撃し出す40レべの人。これでまあ、一先ずは安心か。1番の装置は寄って来るシャドウをユリクリウスが全滅させていて、装置に傷1つ付けてないし、2番の装置は多少攻撃を受けているけどライさんが3番の装置の敵まで引きつけているからよく戦っている方だ。

 

なお3番の装置はその他20人ぐらいで戦っているけど被害が半端ない模様。よし、引きつけていたボス敵は倒したから雑魚掃討するか。

 

……!?!?!?

 

「頭の爆弾を破壊して!」

「は?

ああああああああああああああああああああ!」

 

しかし自分が介入しようとしたところで、一部の人がメカハンターの頭を破壊せずにHPを削り切ってしまい、爆発が起きる。さっき怒鳴っていた、65レべの人がやらかしているとか、もう何を信じたら良いんだ。

 

メカハンターは頭に爆弾を搭載しているから、頭の部位破壊をしないと爆発してしまう。ちょっとまて、何でそんなことまで知らないのに脅威度高いところ来ているんだよ!65レべでしょ!?

 

……流石に今のは、援護できない。このゲームの高難易度クエストは、わりとギミックもあるので思考停止でプレイは出来ない。これは懇切丁寧に一から説明しないと戦力にもならないぞ。

 

そこから先は、地獄絵図だった。シアリー側がバッタバッタと死んでいく。忠告をした人も、爆発の巻き添えを食らって死んだ。ついでに自分も巻き込まれた。ダメージ倍率が高いから1発で30ダメージも入ったよ。それが2発。60レべから65レべまでの並みの耐久ならまず死ぬ。

 

更に装置は破壊され、シャドウの攻撃は2番の装置に集まる。一部始終を見ていたライさんは「嘘でしょ……」と呟いていた。……自分が火力特化なら、防げていた事故ではあるんだよな。

 

いや、どちらにしろ誰か1人はボス敵を装置から引き剥がす役割をしないといけなかったし、別にボス敵を倒すスピードが遅かったわけじゃない。結局のところ、知識不足の人が足を引っ張った形か。

 

[クロワッサン:テトラスの脅威度高いところはどんな感じ?]

[黒猫:おー、ふおにの森のメンバーが張り切って狩ってるからめっちゃ楽。20人ぐらいいるしな。棒立ちのままガンガンロケランを撃てるの楽しいぞ]

[ユリクリウス:他鯖の人はいない?]

「黒猫:いないな。たぶん別の惑星に配置されてると思う」

 

一息入れられるタイミングになったころには、自分とユリクリウスとライさん以外の人は2人しか残ってなかった。その2人の内の1人は、さっきの40レべの人。もはや途中から1番の装置の後ろでずっと泣き続けているけど、その行動が一番ありがたいという紛れもない事実。

 

もう1人は、75レべの人だから最盛期を過ぎても少しはプレイしていた人か。クラスはガンナー/アーチャーと遠距離特化。爆発から一番遠い位置に居たから死ななかったんだろうね。

 

その後、ライさんが1番の装置担当、ユリクリウスが2番の装置担当に切り替わって無事に1時間守り切ったところでエマージェンシークエストは終了。スコアも表示されるけど当然のように1位はユリクリウス。倒した敵数が圧倒的過ぎる。2位はボス敵を全部狩ったからか自分だね。

 

「ありがとうございました。お2人がいなかったらたぶん失敗しています」

「こちらこそありがとう。中級者の育成は早急にやらないと不味いね……」

「これ、俺が魔法職使ってたら何とかなったか……?」

「無理だと思うよ。メカハンターの頭爆発させてたもん」

「はぁ!?」

 

ユリクリウスは3番の装置壊滅までずっと東の1番を守っていたから、西の状況が分かってなかったみたいだけどメカハンターの頭を爆発させていたことを告げると頭を抱えた。まあそれほど、上級者からすればあり得ない行動を取っていたということだな。

 

……今回のエマージェンシークエストで、たぶん多くの人が死んだと思う。初心者から中級者の育成までの育成は、ちゃんとして行かないとこれからどんどん死にそうだ。



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第7話 散々な結果

エマージェンシークエストが無事……無事というわけじゃないけどとりあえず終わったので報酬を回収。どうやらドロップ品はシャドウが身に付けていたものやシャドウのエネルギーを回収して作られているようで、この手の採掘ステーション防衛戦では一旦タキオン船団が回収した後、防衛戦終了時に帰還ポータル周辺へばら撒く形になっているようだ。

 

報酬の方はまあレア度が低いけど、初エマージェンシークエストがゲームとどう違うのかという確認と、特殊能力目当ての参加だったし特に問題はない。お、スロット1アイテム拾えた。中身は通常攻撃の威力が15%上がるノーマルアタックアドバンス。ユリクリウスが二刀流を取る時に捨てた奴だな。これでもゲーム内では500万ゴールドぐらいの高値で売れる奴。求めていたぶっ壊れスキルではないけど嬉しい。

 

そしてロビーへと戻ると、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。これは多くの人が死んでるな。その大半が自分の実力を見誤った人達で、ふおにの森が各難易度に1人ずつ120レべを派遣していなかったらもっと被害は凄惨だったはず。

 

惑星サマーリアの最高難易度でも、低レベル層が2人は生き残ったしな。そして案の定、1鯖のように強者を派遣出来なかった鯖は死者の数が多い。1鯖はまだ数百人程度だけど、他の鯖は四桁死亡が珍しくない。初エマージェンシークエスト、お蔭で初級者や中級者の気は引き締まっただろうけど無駄に死なせてしまった数が多すぎる。

 

[黒猫:お通夜だな。ちょっとシウラさんにかけあって、幼女同盟の人とふおにの森の人にクエストからのキック権限を要求してくるわ]

[ユリクリウス:横暴と言われようがそれしかないな。あと推奨レベル+15ぐらいのマージンは確保しておいた方が良い]

[クロワッサン:それ以上に、脅威度の説明とかクエスト説明文に書いとけ。推奨レベル41で89レべが出て来たぞ]

[ゼル:一応惑星サマーリアの脅威度高の推奨レベルはオペレーターに確認したら81からだった……]

[クロワッサン:あれ?ゼルさんもサマーリア行ったの?]

[ゼル:行ったよー。でもたぶん別地域だったね]

 

どうやら同じ惑星の同じ難易度、同じ地域でも別の割り当てになるようなので、今回ライさんと一緒になれたのはわりと幸運だったか。そしてこの初エマージェンシークエストが終わった直後から、ふおにの森への加入申請数が増大。一気にチーム人数が1000人を超えてチーム数が13もある状態となった。

 

どうやら本格的に、初心者や初級者の育成に乗り出したらしい。流石に知識不足で死んでいく人が沢山出るのは見逃せないのだろう。一方の幼女同盟も1人チームメンバーを増やした。と言っても出戻り組だけど、ふおにの森に移籍したふわわさんだ。アバターが男性で、中身は女性という珍しいプレイヤー。

 

元々ふおにの森と幼女同盟を行き来していた人で、初心者育成係を押し付けられそうになったから逃げて来たらしい。この人らしいと言えばこの人らしいな。ちなみに月10万は課金していた廃課金勢でもある。その大半が3人のロリサポートロイドの容姿に注ぎ込まれていたので幼女愛は本物だ。

 

「いやー、男になれてロリっ子に囲まれるとかこの世界は最高よね」

「その外見で女性言葉使うのは辞めたら?」

「クロワッサンこそその外見で男言葉使うの辞めたら?」

「は?」

「……いやどう見ても女アバターなんだけど?ちゃんとついてるのよね?」

「元々の自分のより大きいのは確認済みです。かなり大きいです」

「それは解釈違い」

「は?」

 

ゼルさんといい、ふわわさんといい、この世界に来れた女性は自分の欲求に素直過ぎる。あとふわわさんが入ったことで20人になったけど、黒猫はこれ以上チームメンバーを増やす気はないみたいだ。

 

[黒猫:初心者の育成やっても養殖にしかならんだろ]

[クロワッサン:「こんなの教えられてなかった!」とか言いながら散りそう]

[ABC:真面目に自身を向上させようというやつはエマージェンシークエスト前にふおにの森へ加入申請出してる。今から慌てて加入している奴に期待出来そうな人はいないと思う]

[ユリクリウス:いやでも推奨レベル41レべなのに40レべで来る人は少なくなるだろうし死者は減るんじゃない?]

 

まあ1人でも初心者の加入を許すと「どうしてあの人だけ」みたいな状態になるし面倒だから全部ふおにの森に押し付ける感じかな。シャルルさん過労死不可避。そして手塩に掛けて育ててもアブダクションや想定外のボス敵襲撃で無に帰すことを考えると今から育成に手は出し辛い。

 

[ジョーカー:あの……ちょっと良いですか?]

[黒猫:どした切り札]

[ジョーカー:いやあの妹もFUO2やってたみたいでチームに入りたいみたいなんですが入れて良いですかね……60レべだったんですけど]

[黒猫:切り札って高校生だったよな?

……ガチロリっ子来たぁあああああああ]

[白猫:マスター、チームチャットで品位を落とす言動はもう辞めると言ったじゃないですか。いい加減にして下さい]

[黒猫:サポートロイドがチームチャット使ってるううううううぅぅぅ!?]

 

なお既にチームメンバーの身内にはだだ甘な模様。幼女同盟の加入条件は①3つ以上のクラスでレベル上限②レア度90台の装備を強化限界の+99にしている③防具はスロット5まで拡張しているの3つを満たした上で、サポートロイドがロリっ子である必要がある。

 

……伊達に幼女同盟を名乗っているわけじゃない。サポートロイドは操作キャラ以上に性癖が詰め込まれやすいと個人的には思うけど、このチームメンバーはサポートロイドが全員ロリである。コッペパンもロリロリしているしな。そしてそんなロリっ子サポートロイドに窘められる黒猫。流石にサポートロイドがチームチャット使うのは予想外だったけど見れるなら書き込めるよな……。

 

そんなこんなで、ジョーカーさんの妹のマルマルさんが加入してチームメンバーは21人。ジョーカーさん自身はライさんと同じでゴースト/メイジの耐久寄り魔法アタッカー構成。最盛期の頃に始めた人だけど、今ではTA上位の常連である。かなりのシスコンだということは把握してるし、妹がこの世界来ちゃってるなら同じチームに誘いたくなるよね。

 

なおジョーカーさんの妹であるマルマルさんは幼女同盟というチーム名にドン引きしていた。真っ当な感性を持つ良い子じゃないか。クラス編成はナイト/ソードマンでかなり防御寄りの編成。ちゃんとスロットを5まで拡張しているのは好感が持てる。

 

『今週末より、チーム対抗戦を行います。参加したいチームはクエスト受注カウンターまで』

[クロワッサン:チーム対抗戦やるのか]

[黒猫:ポイントリセットされねーのかな。

まあ良いや、ふおにの森が11時の枠に参加するそうだし13時の枠で参加するぞ]

[ユリクリウス:ふおにの森の連絡はっや]

[ゼル:それだけ戦いたくないんでしょ。ふおにの森が唯一負ける可能性あるチームだし]

[ABC:11鯖の†Bloody Wings†が潰れたの大きいな。というか元々タキオン船団にいるチームとかあると思うんだけど当たるのかな?]

[黒猫:地球組が慣れたら当てるようにするとは聞いた。まあまだ準備期間のつもりなんだろう。大いなる闇の封印状態は変化ないっぽいし、まだ戦力としてあてにはしてなさそうだからな]

 

チームルームの温泉宿の砂風呂でまったりしながらチャットをしていると、シウラさんから全シアリーに対してチーム対抗戦をするという連絡が入る。マジか。チーム対抗戦をやるなら、今後は鯖対抗戦とかもしていくのかな。

 

報酬も発表されるけど、勝利チームはチームメンバーに一律10万ゴールド、敗北チームには何もなしというオールオアナッシング仕様は相変わらず。ゲーム内だと最早産廃と化したアイテムの配布だったけど、それを現金化したということか。しかしこれ、ポイントリセットされないならマジで強いチーム同士、同じ時間帯に申し込む必要性がないな。

 

[黒猫:お、ポイントリセットされた。ランキングが白紙だ]

[ユリクリウス:よっしゃ。シウラさんナイス]

[ゼル:じゃあふおにの森と同時間帯でも良いんじゃない?まず最初は当たらないだろうし、当たったらラッキーということで]

[黒猫:流石にまだ互いに身体の動きに慣れ切ってないから初っ端から当たる可能性を作るのはNG。全鯖のチームと対戦可能性があるから確率は低いがな]

 

と思ってたらポイントもリセットされたのでこの瞬間にふおにの森が最強チームであるという証明はなくなった。今ならたぶん向こうのエースのライトさんよりユリクリウスの方が火力上だろうし、直接対決の時には完成してなかった自分のカチ装備が完成しているからワンチャン勝てるんだよなぁ。

 

そうこうしていたらすぐにマッチング相手が決まって、相手は船団番号26の『ハイエンドシティ』に決まった。もうサーバー26って表記じゃなくて船団番号26って表記になるのね。

 

船団番号26の上位チームかなーと思って相手のスタメンを見るとレベル120が1人、レベル108が1人いる以外は全員100レべ以下なので惨殺不可避。こちらのスタメン全員100レべ以上なのに負けるわけがない。

 

チーム幼女同盟

リーダー:黒猫 122レべ ガンナー/ナイト

サブリーダー:ABC 103レべ テイマー/ガンナー

エース:ユリクリウス 124レべ アサシン/ソードマン

サブエース:クロワッサン 124レべ ソードマン/ナイト

アタッカー:ゼル 123レべ キャスター/メイジ

アタッカー:ふわわ 122レべ テイマー/メイジ

アタッカー:ジョーカー 121レべ ゴースト/メイジ

アタッカー:ビートル 122レべ シューター/アーチャー

アタッカー:めう 125レべ ボクサー/ソードマン

ディフェンダー:アルタイル 121レべ ナイト/ソードマン

ディフェンダー:HAKU 122レべ メイジ/キャスター

ディフェンダー:ビショップ 123レべ ソードマン/アサシン

 

チーム対抗戦は12人で戦うので、参加条件としてチームメンバーが12人以上という制約もある。うちのチームではディフェンダー枠はわりと入れ替わりが激しいけど、アタッカー以上はまず変わらない。 地味にめうさんが125レべまでレベルを上げてるけど、黙々と高レベルのシャドウを狩っているんだろうな……。

 

寡黙な人でチャットには滅多に顔を覗かせないけど、黒猫の誕生日には毎年高額なアイテムをプレゼントボックスに入れて黒猫のマイルームに置きまくるという高度なデレを見せてるし、黒猫と個チャでのやりとりは頻繁にやっているみたい。

 

あとアタッカーであまり関わりないのはビートルさんかな。火力のないカチ勢嫌っている人だし。クロワッサンは別と言いつつ内心では嫌っているかもしれない。まあビートルさんは遠距離職でユリクリウス並みの火力が出せる糞つよアタッカーだし、個人的には頼りにしています。

 

……これ、なるべくゲームのイベントを実装して現実感を無くす意図とかもありそう。まあ単純にPVPは身体を動かす練習になるし、向こうにも1人120レべはいるから適度に戦えそうか。



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第8話 チーム対抗戦

チーム対抗戦の日程が決まり、11時の一番早い時間帯の枠にふおにの森1が申し込んだので、幼女同盟は13時の枠。ということはふおにの森1の対戦の様子とかをゆっくり見れるかな。

 

そう思ってサポートロイドのコッペパンに他のチームのチーム対抗戦が見れるか確認したら、チーム対抗戦の様子はネットで配信されていることを教えられたのでふおにの森1の対戦を観戦する。このタキオン船団には戦闘員シアリー以外の人も多く住んでいるし、元の世界のスポーツみたいな娯楽になっているのかな。

 

チーム対抗戦の行われる場所は、タキオン船団内部のVR空間。HPが全損しても死なない唯一の場所である。まあVRだしね。ふおにの森1の対戦相手は船団番号3の無能艦隊。前のランキングでは3位に入っていた3鯖の強豪チームだ。

 

ここには飛びぬけた廃課金勢こそいないものの、月5万から10万ぐらい課金していたメンバーが12人揃っている。連携もしっかりしているし、1鯖以外で強い鯖と言えば3鯖の名前が上がるのは彼らがいたからだ。どこら辺が無能なのかは分からない。

 

しかしまあ、飛びぬけた課金勢相手には分が悪い。ライトさんが盾役を引き連れて、中央の拠点をあっという間に制圧してしまう。このチーム対抗戦は東と西にメンバーが配置され、相手の本丸を落とすか相手のチームリーダーを倒せば勝利する。あとは、制限時間が0になったら制圧している拠点でのポイント数で勝負か。

 

基本的には中間にある幾つかの拠点の取り合いになるんだけど、ふおにの森1のエースであるライトさんにダメージレースで勝てる人がいないからライトさんが無双気味だ。HPが0になるとしばらく再出撃出来ないルールなので、ライトさんと直接やり合うのは完全に悪手。

 

自分とユリクリウスの2人がかりならライトさん+盾役の人を倒せるけど、1対1だと本当に全鯖で数人しか相手にならないんじゃないかな。

 

[ユリクリウス:チーム対抗戦が配信されてて草]

[クロワッサン:いや良い事じゃない?これ見て入りたいチームとか決められるだろうし]

[ユリクリウス:ああ、そういう目的もありそうだな。ご丁寧に平均レベル書いてくれているし]

[クロワッサン:低レべのチーム同士の対決を見てポイントボールのサッカーしてて和んだ]

[ユリクリウス:サッカーwwwいや笑い事じゃねえなそれ]

[クロワッサン:うわあ急に真面目になるな]

 

ユリクリウスから個チャが飛んでくるけど、たぶんふおにの森1と無能艦隊の勝負を見ているな。勝負は中央にいるライトさんが押しているから全体的にはふおにの森1が優勢だけど、無能艦隊も要所要所でしっかり拠点を守っているからちゃんと強い。

 

ただそれでも、同じ人数なら質の差はどうしようもない。最終的にはタイムリミットを迎えて、734対266の大差。いやまあふおにの森1と当たって1000対0以外のスコアになるチームの方が珍しいけど。

 

熱戦を繰り広げたふおにの森1とは違い、塩試合が簡単に予想出来る幼女同盟。試合が始まると相手のチームのリーダーの120レべの人が一騎討ちしようぜと名乗り出て来たので、サブエースの自分が一騎討ちすることになった。提案する阿呆に乗る阿呆である。まあエースのユリクリウスが二刀流になっているのを全鯖に公開するタイミングとしてはちょっと早いし、サブエース辺りをけしかけるのは自然な流れか。

 

[黒猫:いや単に今のお前の硬さを見ておきたかっただけだけど]

[クロワッサン:言うほど変わらないけど?

いや4レべ上がってスキルポイントでどうしても取れなかったスキルを取れるようになったからもっと硬くはなったけど]

[ユリクリウス:120レべ相手の一騎討ち中にチャット操作する余裕あるのかよ]

[クロワッサン:スロット4までしか拡張してない上に火力全然盛ってない奴の攻撃とか二桁ダメだわ]

[黒猫:HPはサブエース補正もあって7000超えるんだっけ?完全に要塞なってるな]

[ユリクリウス:……そもそも1秒で100回復するしマジで死なないね?]

 

まあ一騎討ちに乗るなら、100%勝てる奴を出すよな。黒猫はそういう奴だ。相手の装備のレア度が低いのを見て、自分なら100%負けないことを覚ったのだろう。実際、ダメージは自分にほぼ入らない状況。こちらから攻撃するだけで一方的に殴り勝てる。

 

勝負はあっさりついて、相手のチームリーダーを倒したので1000対0の勝利。MVPはとったけどMVP報酬はないので意味はない。まあ無課金と重課金の差だな。このゲームで無課金なのに強い人はよほど運が良い人か、人生の時間をほぼ全てFUO2に費やした人かのどちらかだ。

 

チームメンバーからは「おめでとう」と「何あの防御力引くわー」みたいな言葉を交互にかけられて、初のチーム対抗戦は終わる。その後もチーム対抗戦が引き続き行われるけど、やっぱりサーバーでトップのチームは何処も強い感じかな。

 

そんな風に観戦を続けていると、地球組以外のシアリーが戦っているのを見つけた。検索からは弾かれていたし、チーム数が多すぎて今まで見つけられなかっただけか。そのチーム対抗戦を観戦すると、両方ともレベルは平均120レべ程度で思っていたよりも地球組と差がない。エースの人は130レべだけど、無茶苦茶強い感じはしない。

 

流石に動きは良いけど、あれならゲームの時の自分達の動きと大差はない。うん?地球組以外のシアリーって思っていた以上に強くないのか。だとすれば、地球組を作ったというか拉致した理由も分かる気がする。

 

黒猫やシャルルさんは頻繁にシウラさんと会っているみたいだし、ユリクリウスもタキオン船団の諜報部のNPC達と交流を持ち始めたから勝手にストーリーが進行している気分。まあ大いなる闇の戦いとの対策とかそっちで勝手にやっといてくれという気分。そんなことより自分はもう一体サポートロイドを買ってロリっ子2人とにゃんにゃんする!

 

[クロワッサン:サポートロイドもう一体買うぞおおおお!]

[ふわわ:どんな子!?]

[ゼル:よく宣言したわね……]

[黒猫:男や]

[ユリクリウス:200万ゴールドは大金やぞ。と言っても現状使い道ないか]

[クロワッサン:そもそもこの装備作るのに40億ゴールド溶かしてるから。200万ゴールド程度装備に費やしたところで何も変わらん]

[ゼル:時価総額150億ゴールドという言葉が誇張でもなんでもない装備]

[ユリクリウス:結局スキル2の堅牢なる力が1鯖で13個しか落ちなかったせいで10億ゴールドで買ったのが安かったという]

 

貯蓄はあまりないけど、適度に働くだけで大金を稼げるようになったんだからサポートロイドを買っても良いと思った。そもそもアブダクションの時の謝礼金は手を付けてなかったし、もう一体ロリっ子買っても良いでしょ。何か購入時に細かい性格まで決められるようになってるし。

 

……いやしかし、いざカタログを見てどういう子を買おうか悩み始めると同時に恥ずかしさも込みあがってくるな。異世界転生した主人公が奴隷を買う時の心境ってこんな感じなのだろうか。よし、素体はコッペパンと同じタイプで良いや。

 

あとは自分の好みを反映させるべく、キャラクリを頑張る。お、ゲームの時より各種パーツの選択肢が多い。これは間違いなく泥沼ですわ。

 

……とりあえずベースの体系はロリ巨乳にして、コッペパンのように胸を限界まで大きくするのは止めよう。不自然な大きさにはしないで、体系は痩せ気味だけどちゃんと太ももや腕に肉が付くよう、脂肪率バーと各部位の筋肉量を調整。この辺、全くゲーム的には意味ない項目なんだよな。キャラクリで戦闘に影響があるの、身長によるダメージ判定の増減と手足の長さによるリーチの長さぐらいだし。

 

髪はコッペパンのようなお団子ヘアにして、姉妹みたいにするか。髪色は当然赤一択。自キャラもコッペパンも髪色は赤です。ただ若干暗めの赤にしておこう。うん、可愛い。

 

さて、最後は一番の沼である顔の造形だ。眼の大きさと眼球サイズ、色、艶、鼻の高さや耳の大きさ等の調整をしていく。うーん、ちょっと釣り目でコッペパン以上にSっ気のある感じの顔が良いかな。じゃあまずはこの眼のチケットを消費して……。眼球はこっちのチケットで…………。

 

「マスター。何時間かけるおつもりですか?」

「うわあ!?人が集中している時に声をかけないで」

「それは申し訳ございません。しかしタキオン船団の船長、シウラ様がマイルームを訪問しようとしております。入室許可を出しますか?」

「それはもっと早くに言って!?」

 

しばらくキャラクリエイトに時間をかけていると、コッペパンに声をかけられてびっくりする。どうやら、タキオン船団の船長のシウラさんが自分のマイルームに訪れようとしているらしい。どどどどうしよう?一先ず、コッペパンにはおもてなしのためにお茶入れさせる?

 

[クロワッサン:どどどどうしよう?シウラさんがマイルームに来るんだけど]

[黒猫:あーそれ地球組の戦闘力高い順にマイルームの訪問をしているらしい。

うちだとユリクリウスが一番最初だと思ったんだが、クロワッサンの方が先だったか]

[クロワッサン:社長面接とか聞いてないんですけど!?]

[ユリクリウス:マイルームの片づけしてくるわ……]

[ABC:あ、やべ、それ今日だと伝え忘れてた。

というわけだからみんなマイルームには来客用の部屋作っといてね]

[ふわわ:りょうかーい]

[クロワッサン:ふざっけんなABC!]

 

まあ、入ってすぐの部屋は来客用っぽい部屋になってるから大丈夫か。入室の許可を出すと、何度も主人公を地獄へと叩き落したシウラ船長が目の前にいる。最終章では持ち前の戦闘力で主人公をサポートしてたけど、FUO2プレイヤーからは『こいつ1人で良いんじゃね?』と言われた存在だ。何で武器や装備奪われた素の状態でボス敵ラッシュを耐えているんですかね……?

 

ゲームでは無事ハッピーエンドだったけど、シウラさんが黒幕ってわりとあり得そうな気もするんだよな。地球組を拉致した張本人だし。とりあえず家具の『VIP専用席』に座らせて、お茶を出す。

 

「ご丁寧にありがとうございます。

武田優貴(たけだ ゆうき)様」

「……この世界が地球が滅んでから数千年後の未来だとして、個人情報まで探れるのか?」

「いえ。しかし武田様はクレジットカードを登録していましたので」

「それで個人情報を取得するのは法律違反じゃ……」

「滅んだ地球の、しかもたかが一国でしかない日本の法律なんて適用されませんよ?こちらもある程度は配慮いたしますが」

 

すると開幕で自分の本名を当てに来る辺り、対外的にはちゃんと取り繕うのに、ゲーム本編の様に性格が悪い。まあこのタキオン船団、シャドウから各惑星を保護するための勢力だけど、シャドウとの戦闘のために各惑星から貢物を要求している側面もあるからな。根本的に性格が悪い。

 

どうやら戦闘力の高い人に対して、こうやって個人面談をしているようだけど、何が目的なのかは分からない。とりあえずは相手の質問をはぐらかしつつ、こちらからの質問を通していこうか。



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第9話 船長面談

「とりあえず武田様は止めて欲しいです」

「わかりました。ふむ。何故今のタイミングで?と聞きたいようですが、単に重要な人と強い人から面談していたら今のタイミングであなたとの面談になっただけです」

「……自分より先に面談した人って教えてもらえますか?」

「各鯖の1位チームのチームリーダーと黒猫様を除けばライト様、モルモット様に続き3番目ですね」

「7鯖のモルモットさんそんなに強かったっけ……?

あ、アブダクション生還組か」

 

このタキオン船団の船長と面談ということは、実質国のトップ、企業でいう社長との面談ということになる。就活の時の社長面接は緊張したなぁ。もうその企業も日本も滅びているらしいけど。

 

どうやらこのシウラさんから、自分は全鯖で3番目の強さだと思われているみたい。ユリクリウスの方が火力は絶対にあるが、二刀流でも自分にはダメージがそんなに入らなかったからな……。ダメージ割合カットは至高。

 

ライトさんがトップなのは納得できるとして、何で7鯖のモルモットさんが2位なんだろうと思ったけど、そう言えばアブダクション生還組か。30組中3組の内訳は、1鯖のユリクリウス&クロワッサン、3鯖のアクアさん、7鯖のモルモットさんの3組。たぶんモルモットさんはユリクリウスやアクアさんみたいになんか凄いスキルを拾ってるな。元々モルモットさんも7鯖ではトップクラスには入るプレイヤーだったから聞き覚えはあるし、そういう人が凄いスキル拾っているなら全鯖でトップクラスになるのは分かる。

 

一桁ナンバーの鯖は、サービス開始直後からあったから古参が多いんだよね。その後に人が増えて11鯖から20鯖が出来て、最盛期には21鯖から30鯖が出来た。その後はひたすら人が減少したけど、他ゲームで聞く鯖統合とかはなかったな。

 

まあ最初からこの状況にする予定だったなら、鯖統合がなかったのも分かる。うーん、マジで戦力としてこの世界に引き込んだのかは気になる。あと戦力として引き込むのに、初心者や初級者までセットで連れて来た理由も気になる。

 

「あの、どうして初心者や初級者まで引き込んだんですか?」

「身体は用意してしまっているので、1人でも多くの人を連れ込んだ方がその中から英雄の発生確率は上がるでしょう。

こちらからの質問ですが、貴方は大いなる闇との戦いに挑む勇気はありますか?」

「……ゲームと同じ仕様なら一撃で100ダメージ程度だ。大技でも1000ダメージ程度。勇気がなくても戦える範囲だな」

「……なるほど。貴方の性格、思考は分かりました。」

 

シウラさんからの質問は、大いなる闇との戦いについてだった。いやラスボスに命をかけて挑む勇気はあるかと問われれば皆無だけど、ゲームと同じ仕様なら恐らく死なない。つまり、勇気がなくても戦うことは出来るな。

 

そのことをそのままシウラさんに伝えると「人間らしくて良いと思いますよ」とか言うけどそれ人間じゃない存在の常套句。自分が人造人間の身体に魂を入れられた人擬きであることはもう把握してしまっているが、シウラさん本人も滅茶苦茶強かったはずだから人じゃない可能性や黒幕の可能性が捨てきれない。

 

その後も性格や趣味嗜好に関わることについて、何個か確認されるけど人となりを見に来ただけとは思えない。やることなすこと全てに意味がある完璧超人シウラさんだぞ。絶対に何かある。

 

「では最後に、貴方はこの世界を楽しめていますか?」

「……FUO2プレイヤーの上位勢で楽しめていない人はいないと思いますよ。少なくとも自分は楽しめています」

「新しくサポートロイドを買おうとするぐらいですものね。

それでは今日はありがとうございました。お見送りは結構です」

 

……と思ったけど、最後の質問で単に落ち込んでいる人とか気後れしている人がいるか探しているだけのように感じた。あと、面談が終わったらサッと次の人のところに向かうようで、一瞬で消えてしまった。それと同時にユリクリウスがチームチャットで叫んでいたので、ユリクリウスのところへ行ったのだろう。元々結構な課金勢の1人だったユリクリウスだけど、シウラさんの評価では全鯖で4番目の強さか。

 

さて……。

 

「『チャイナドレスS:緑』も良いなー。いやせっかくだしレイヤリングウェアを重ねてオリジナル感だそうかな。『ニーソックス:白』と『指ぬきグローブ:白』と……」

「……マスターって先ほど勇気がないとおっしゃいましたけど、かなり強心臓ですよね?」

「ゲームの世界ですら死ぬのが嫌だったからカチ装備作ってるやつに勇気なんてないし強心臓なんてナイナイ」

 

シウラさんも帰ったことだし、ロリっ子作成を再開。せっかくだしコッペパンに合わせてチャイナドレス姉妹も良いかと思ったけど、清楚なメイド服とかも良い感じに似合いそうだから迷うな。やっぱキャラクリはある程度仕上がってからの着せ替えタイムが一番楽しい。

 

コスチューム倉庫も当然最大まで課金して2783/3000種類まで埋まっているので何でも着せたい放題やりたい放題である。まあコスチュームが増えたのは課金ガチャが能力も待機モーションも強化アイテムもコスチュームも家具も全部一緒のごちゃまぜ闇鍋仕様だったからだけど。

 

HPタフネスを付けられるアイテムを4つ引くために1回300円のガチャを600回引いたのは良い思い出。200回で1天井なので天井3回分である。1回素引き出来たのは幸運だった。まあ自分に限らずステ系を盛っている人は全員この地獄を経験しているだろうけど。装備の更新の度に特殊能力アイテムは使い直さないといけないし、金のかかるゲームです。

 

ヨシ!2人目のサポートロイドのモデルが完成した。価格は200万ゴールド+ゲーム内通貨で8000万ゴールド相当のコスチュームと顔パーツ。

 

「2人目のサポートロイド完成したし、到着が楽しみだな」

「……もう発注されましたね。到着は3日後ですか」

「3日でサポートロイドが作れるって凄いな未来の技術」

「今は地球組にサポートロイドの配布を行っているので、通常24時間以内には納品されるサポートロイドが3日後到着に遅れています。」

「ああそっか。まだ順番に配布している途中だった」

 

3日後に届くようだけど、通常時ならこのレベルのアンドロイドが1日以内に届くとか怖すぎない……?普通に会話出来るのだけでも凄いのに、サポートロイドとして身の回りのお世話もしてくれる美少女が配布されるとかシアリーの特権階級っぷりがヤバイ。

 

……まあでも現状、全宇宙の脅威であるシャドウと日夜戦っているから許されていることなのかな。ちょっとサポートロイドを作るのに疲れたので横になろうとすると、正座して膝枕を用意するサポートロイドのコッペパン。地味に嫉妬してそうでかわいい。ロリっ子の膝枕は最高。

 

「2人目のサポートロイドの名前は何にしたのですか?」

「チョココロネ!」

「またパンの名前ですか……」

 

膝枕されながらじっくりとコッペパンの顔を見るけどやっぱり美人さんである。上位勢の中にはサポートロイドのお世話により堕落したプレイヤーが何人もいるとか何とか。現在進行形で膝枕されている自分もその中の1人に入っているけど。

 

[ユリクリウス:社長面接終わったぁああああ!

この後の順番はアクアさん→ライさん→ゼルだって言ってた]

[黒猫:ほう。

ゼルはクロワッサンより前に個人面談だった人の情報聞いといてくれ]

[ゼル:えっ、あの、シウラさんに質問する勇気ないんだけど]

[クロワッサン:それなら自分が既に聞いたぞ。

各鯖の1位チームのチームリーダーと黒猫を除いたらライトさん→モルモットさん→自分だった]

[黒猫:お、主要チームのチームリーダーが呼ばれているとは思ったけど、各鯖の1位チームと幼女同盟だけか。これは幼女同盟高評価。あのシウラさんが真面目な顔で「幼女同盟は要注意ですね」みたいな話をしているかと思うと胸が厚くなるな]

[ふわわ:それ以上胸を盛るのはどうかと思う]

[ハル:あれ?モルモットってそんなに強かったか?俺と同程度じゃね?]

[黒猫:アブダクション生還組だから何か拾ってるだろ。あとついでにクロワッサンはマジで何も拾ってないの?]

[クロワッサン:何も拾ってねえ。自分も二刀流欲しかった。アカツキノヴァ作る前に使っていた封呪剣使いたい……]

[ゼル:あれにももしかして堅牢付いてた?]

[クロワッサン:YES]

[ユリクリウス:コイツ1鯖で出た13個の内5個を独占してやがる]

 

膝枕をされながらゴロゴロしていると、ユリクリウスの面談が終わる。そしてユリクリウスの情報的に、ゼルさんが全鯖7位か。まあ分からんでもない性能の装備はしているし、PSは高い。これ幼女同盟の人間は結構な数が全鯖上位に来てそうだな。シウラさんが黒猫だけ特別扱いして呼んでいるのも、幼女同盟の評価が高くなるのも分かる気がする。全員ロリコンなのが玉に瑕。

 

[クロワッサン:あ、2人目のサポートロイド作ったら3日後に到着って言われた。名前はチョココロネにしたからよかったら見に来て]

[ユリクリウス:よし、サポートロイド俺も買う。ユウシャちゃん作る]

[ふわわ:到着したら動画取らせて下さい!]

[ゼル:到着したら添い寝スクショ、いや添い寝動画を撮らせて下さい]

[クロワッサン:……スクショなら気軽に許可出せたのに、動画となると急に抵抗感出て来るの何でだろう?]

[黒猫:新規で購入した奴なら好感度最低だからまずはクエスト周回に連れていく必要あるんじゃないか?]

[クロワッサン:あ、そうか。

いや倉庫に眠っていたNPC好感度UPアイテム大量に投与したら初日に好感度最大も行けるんじゃね?]

[ユリクリウス:そういえばあったなそんなアイテム。

……シウラさんにも使えるのか?ゲーム内では使えたけど]

[黒猫:NPCに使うものだからサポートロイドはどうだろうな……?あとそれシウラさんにやろうとしたら受け取られた上で「次はないですよ」と言われたぞ]

[白猫:流石にそれは自重して下さい駄マスター]

 

ふとチームチャットをしている最中に、NPCの好感度上昇アイテムがあることを思い出したのでサポートロイドに使えるかは気になった。シウラさんには効果が無かったみたいだけど、まずそれを使おうとした時点で黒猫は頭がぶっ飛んでると思う。よく見逃されたなコイツ。



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第10話 検証

NPCへの好感度上昇アイテムは幾つかあり、その中でも最大の効果がある『サイゼリカのケーキ』は好感度を1段階上昇させるアイテムとしてゲーム内に存在している。……いやうん、某有名飲食チェーン店とのコラボアイテムのはずだったんだけどな。何でタキオン船団で普通に売っているんだろう。しかも予約が10年待ちとかになっていた。宇宙規模で有名なケーキ屋の看板メニューであるケーキとかちょっと自分で食べてみたい。

 

「コッペパン、サイゼリカのケーキ食べる?」

「え!?今あるのですか!?」

「うん。倉庫に眠ってた。ほら」

「おお……これがサイゼリカのケーキ……」

 

倉庫の中を見ると、サイゼリカのケーキの数は47/999個。うーん、あまり貰えるものでもなかったからこの数かぁ。試しにコッペパンと食べてみる流れになったので、フォークであーんして貰う。外観はロリ巨乳に膝枕されながらあーんして貰う男の娘。完全に堕落した上位プレイヤーの末路である。

 

そして口の中に含まれた瞬間、一瞬で心が幸福感に支配された。これヤバイ薬とか使ってないよな!?甘いとかとろけるとかそういうのではなく、ただひたすらに美味しいって感覚が一口毎に顔面を殴り込んで来るんだけど。

 

これは攻撃力が上がるのも納得ですわ。効果は5分間だけだけど攻撃力上昇効果は大きいからTA上位勢は集めていたはず。ちょっとユリクリウスに在庫が何個あるのか聞いておこう。

 

「はい、あーん」

「え!?あ、はい。あー……ん!?!!?」

 

膝枕されながらコッペパンの口の中にケーキを放り込むと、サポートロイドという機械の身体であるはずなのに目を白黒させて悶えている。これは好感度上がりますわ。また3日後にチョココロネが来たら歓迎会とかやって、そこでこのケーキを出そうと決める。そして何か通知が来たなと思って空中に浮かぶUIを推すと、間違えてそのままOKを推してしまう。あ、これ入室許可だ。

 

次の瞬間、マイルームに現れるユリクリウス。その姿を見て固まる、コッペパンに膝枕されている自分。うわなにこれめっちゃ恥ずかしいんだけど。しかも現在進行形でサイゼリカのケーキを食べさせ合っているし。

 

「撮って良いか?撮るぞ?撮った」

「いや撮影許可出してねーよ!どうせお前もサタンちゃんに膝枕とかして貰ってるんだろ!?」

「まだ触れてすらいないわ!決めつけんな!」

 

そしてすぐさま写真を撮られる。何で撮影モードがUIに残っているんですかねこの世界。しかも変に現実化しているからすぐさま写真をチームチャットに流されるという。コイツ鬼畜か。

 

[ユリクリウス:サポートロイドに膝枕とかこの世界堪能し過ぎでしょ]

[黒猫:やっぱその外見で男は無理だぞ。にしてもサポートロイドといちゃつくとかお前さぁ]

[クロワッサン:白猫ー!チムマスのサポートロイド権限で写真を消してくれー!]

[白猫:【黒猫が白猫に耳掃除されている写真】]

[白猫:【黒猫が白猫のお腹に頬ずりしている写真】]

[白猫:【黒猫が白猫に頭を撫でられてとろけている写真】]

[黒猫:ああああああああああああああああああ!!!オールスクリョデリートォォォォ!]

[クロワッサン:もう遅いわ。ダウンロード完了してる]

[ユリクリウス:この世界来てから百合フォルダの写真がめっちゃ増えた気がする]

[クロワッサン:おい。そのフォルダに自分の写真は入ってないよな?]

[ユリクリウス:薔薇フォルダに入れてやろうか?]

[クロワッサン:え……いや……まあ……うん……]

 

そして黒猫のサポートロイドの白猫さんがサポートロイドにしては感情豊か過ぎる。まあコッペパンも徐々に口数が増えて来たけど、主人とのコミュニケーションの量が増えると、感情豊かになっていくのだろうか。

 

ということは、もうちょっとコッペパンと一緒にクエスト行く回数とかも増やした方が良いのかな。主人の戦闘をサポートするのが一番の役割とかいう設定だったはずだし、ゲームの世界だと一緒にクエストを周回するのが何だかんだで好感度上げでは一番だった。

 

個人的には、もうちょっと感情豊かになって欲しいし。設定で性格を弄るのも、ユリクリウスのサタンちゃんを見ているとそれはそれで何か硬い感じになるからなぁ。

 

「というか何のようだよ」

「いや格好つける前に立ちあがれよ……。

要件としてはアレだな。二刀流スキルを適当な装備に移してクロワッサンに渡そうかと……」

「却下。1000億ゴールドの価値があるスキルを無償で貰うのは個人的なプライドが絶対に許さない」

「……いや、これはお前が貰うべき報酬だっただろ?あのアブダクションを生還出来たのは100%クロワッサンのお蔭だ」

「じゃあユリクリウスにあげる」

 

チームチャットで黒猫が暴れ始めたので、放置してマイルームに来たユリクリウスに何のようかと尋ねると、二刀流を渡すとか何とか言って来た。いやそれは却下。流石に火力役が持つべきスキルだろうし、50%を引けなかった自分が悪い。何より既に、ユリクリウスが二刀流を持っていることは1鯖で広がっている。それを自分に譲渡される意味が分からないわけではないだろう。絶対嫉妬の目で見られるわ。

 

というか既に嫉妬の個チャとか飛んで来てそうだしな。上位プレイヤーからは「アブダクションから生還しただけで何であんな報酬貰っているんだ」と言われそうだし、中級者以下からは単純にズルい、チートだ、みたいな言葉を投げ付けられてそう。

 

「今日、二刀流の技が3つ登録されていたんだ。試してみると威力が今までの比じゃない程度には出る。だからこれからはその技を使っていくべきだろうし、二刀流スキルを渡すタイミングとしては今日が最後だ。よく考えてくれ」

「よく考えても結論は変わらないからアブダクション生還組のユニークスキル持ちとして有名となって思う存分大いなる闇との戦いに身を投じてくれ」

「……ああ分かった。それじゃあ技の強化素材集め行って来るわ」

「いってらー」

 

結局のところ、この場面でスキルを受け取っても仲が微妙になりそうだし、それならユリクリウスがずっと持っていた方が良い。現段階で、火力が想定より出てないのはユリクリウスのもう片方の装備が型落ち品だからだし、なんか二刀流の技も実装されたようだから、将来的には全鯖トップに立つだろう。ユリクリウス頑張れ。超頑張れ。自分はマイルームでサポートロイドとイチャイチャする。

 

「いえ、マスターもそろそろレベル上げに励むべきかと。マスターなら可能でしょう?レベル121以上が跋扈するシャドウの拠点、そこに単騎で乗り込んでも死にはしないと分かっているでしょう?」

「アブダクションじゃなくて、マジもんの殴り込みの方か。……ふおにの森のメンバーや、他鯖のランカーが何人か死んだせいで入場禁止になってなかったか?」

「先ほどシウラ様から特別許可証を頂いております」

「マジかー。……うーん、とりあえずアイテムは掘るかぁ」

 

しかしコッペパンから、シャドウの拠点の探索許可が出ていることを告げられ、逝ってこいと言われる。現状、唯一121レべ以上のシャドウが確認されているシャドウの拠点に送り込もうとするとかこのサポートロイド怖い。ゲーム的には毎回同じ惑星だったけど、当然ながら何か所かシャドウの拠点は存在するし選択できる。たぶん一番高難易度のところは、140レべ前後が出て来る。流石にやだよう。

 

でもまあ、レベリングさえしておけばあのチームメンバー達にも大きな顔は出来るし、まだまだ最硬を目指すために取りたいクラススキルは幾つかある。……しょうがない、レベリングのために一番脅威度の低いシャドウの拠点へ行こう。流石に推奨レベル100ぐらいの場所で安全マージンを設けながらレベリングをするのは効率が悪すぎる。

 

クエスト受注カウンターへと向かい、ソロでシャドウの拠点の一番脅威度低いところ行きますと告げると受付嬢から「こいつは何を言っているんだ」的な視線を貰うが、シウラさんからの特別許可証を見せるとあっさり通してくれた。何だこの許可証。効果すげえな。

 

……シャドウの拠点へと向かうこのクエストは、繰り返すたびにアブダクション率も上がるクエストだ。ユニークスキルに関して、先ほどユリクリウスには格好つけて押し返したが、欲しくないわけではない。そもそも二刀流スキルを掘るために今までも壊獣種を倒しているしな。

 

ふおにの森のシャルルさんからは、パーティーメンバーが死んだ理由としてボスラッシュがあったという情報も貰っている。ただまあ、自分はメカビートルの最終砲も余裕で耐えられるし大丈夫なはず。よし、行くぞ!

 

コッペパンも連れずに、完全にソロでの挑戦。ゲームの時のような時間制限はない。ここで思う存分、レベリングをしよう。そして三大産廃クラススキルの1つである『強靭』にレベルアップで貰えるスキルポイントをいっぱい割り振るんだ。ついでに何か凄いアイテムとか取れたら文句なし。

 

『強靭』……クリティカルダメージがLv×5%減、最大50%

 

……いや本当、スキルポイントが余らなかったら絶対振らないスキルだけどスキルポイントを無限に振れる可能性が出て来た今、一番欲しいスキルだよこれ。対人戦だとクリティカル率100%装備の人も珍しくないけど、要するにそういう人達からのダメージを全て50%削ることが出来るのだ。これは強い。

 

ちなみにゲームの敵のクリティカル率は10%から高くても20%程度。一部の敵は50%だったかな。クリティカル時にはダメージがほぼ1.5倍になるから、この強靭スキルの効果は地味なようで大きい。

 

そして戦い始めて僅か30分で経験値が溜まり125レべにレベルアップ。シャドウの数はめっちゃ多いけど、この環境はレベリングには最適じゃね?と思い始めたところで亡霊と呼ばれる敵が出る。

 

あれ……11鯖のブラッドさんだ。あの金ぴか装備は見覚えある。は?え?嘘でしょ?

 

次の瞬間、ブラッドさんに撃たれてHPがガリガリ削れる。アブダクションでのクエスト失敗をした時、しばらくの間は自キャラがクエスト中に襲って来るイベントがあったけど、要するにシャドウに捕まって死んだ場合はこうなるってことかよ!?

 

舐めプを出来る相手じゃないので、割高になったドーピング剤を使用し、アイテムバッグに眠っていた防御が上がるケーキを食べる。そうか、ブラッドさんは射撃職で最初にクエストに挑んだのか。となれば凄まじい火力を短時間で叩きこんでくるだろう。

 

ブラッドさんが撃つ、自分が回避しようとする、当たる。ブラッドさんが撃つ、自分が回避しようとする、当たる。これを5回ぐらい繰り返して、10秒の間にHPが1500減り、HPが1000回復した。……これ被弾覚悟で突っ込んだ方が早くね?

 

ブラッドさんが大技のモーションに入ったところで距離を詰め、自分も剣を振るうが1回で250ダメ程度か。一方のブラッドさんの大技の威力は1000。流石に強いわ廃課金。

 

だけどブラッドさんは自動回復スキルがないクラス構成。回復アイテムを使うモーション中に攻撃を入れたら回復アイテムで回復する分のダメージ程度は与えられるので向こうは詰んでいる。周りのシャドウも取り囲んで来て総攻撃が来るけど所詮は1ダメ。うん、何とかなるなこれ。

 

ラストはこちらの単体攻撃技、オーバースラッシュでトドメ。火力しか頭にない人は耐久が低いから助かる。ブラッドさん、たぶん二刀流のユリクリウスには負ける程度の耐久しかないんじゃないかな。だからこちらの攻撃は普通に通ったし、自分に負けた。

 

そしてブラッドさんが倒れた瞬間、レアドロップの演出が入る。おお?と思ってブラッドさんが倒れたところまで近づくと、ブラッドさんの装備が落ちていた。絶妙に要らない。なんで防具1部位しか落としてないんだこんちくしょう。しかも特殊能力が火力重視の射撃特化だから宝の持ち腐れも良いとこ。これは射撃職の黒猫との交換材料にでも使うか。

 

……しかしまあ、死んだら敵で出て来るとか凄まじく嫌な世界だな。ランカー達が死ねば死ぬほど、相手として出て来るとか悪夢でしかない。そりゃふおにの森のメンバーは慎重になるわ。恐らくこの現象、ふおにの森のメンバーは知っていて隠してたな?



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第11話 リサイクル

「クロワッサン:個チャ良いか?シャドウの拠点でブラッドさんの亡霊を確認したぞ」

[黒猫:ああ、その手の話はシャルルからも聞いてる。死んだはずの人が襲って来たってな。

……おい待てお前今クエスト中ってことはシャドウの拠点にいるな?]

[クロワッサン:当然。ついさっきブラッドさんと戦ったところだからな]

[黒猫:いや何でそれで個チャ出来ているんだ?シャドウの拠点なら敵は途切れないはずだろ?]

[クロワッサン:敵は途切れてないし、絶賛吹き飛ばされ中だぞ。ダメージ量が低いから今はブラッドさんからのダメージを回復中。久しぶりにHP2000台が見えたわ]

[黒猫:普通のシアリーはHP2000前後しかないんですがそれは]

 

何だかんだで痛かったブラッドさんからの傷を、シャドウに吹き飛ばされながら回復しつつ黒猫へ個チャを入れる。どうやらシャドウの拠点で死ぬと亡霊として出て来るようで、今のところシャドウの拠点以外で死んだシアリーの亡霊は確認出来ていないらしい。

 

しかしそもそも亡霊との遭遇数が2件とかのようなのでこれで3件目か。ブラッドさんと当たったのは不運だったな。装備貰えたのは幸運だったけど、射撃職の装備が落ちたのは不運。でもまあ射撃職ならとても欲しい装備に違いはない。一応射撃職も120レべにはしているので、もしかしたら射撃職もやるかも。

 

その後もレベリングを続けるけど、2時間ぐらいぶっ続けで戦い続けたところでこの身体にも疲れが出始めたので終了。息が切れたら殴られ続けながら息を整えるカチプレイ。しかし殴られる時にも経験値が入る仕様になったお蔭か、128レべまで上がった。クエスト行く前の時点で、うちのチームメンバーで最高レベルはめうさんの126レべだったからそれより2レべも上がったということだな。

 

よし、これで強靭のレベルは8まで上がった。この時点でクリティカルダメージ40%減は十分強い。カチ勢嫌いなビートルさんとかは発狂しそうなスキル構成だけど、HP全損=死になった現環境なら文句も言わないんじゃないかな?

 

疲れたのでマイルームに戻ってコッペパンに倒れ込むよう抱き着くとしっかり支えてくれたのでマジで彼女みたいな存在になって来てる。サポートロイド万歳やなぁ。今日はそのサポートロイドに地獄へ逝ってこい言われたけどなぁ。

 

「ブラッドさん……Twitterでも絡みあったんだけどなぁ」

「……亡霊ですか?」

「ん、よく分かったな。亡霊ってシャドウに洗脳されているとか身体を乗っ取られているとかそんな感じだとは思うんだけど、動きが完璧に本人なんだよ……」

 

アイテムバッグには、今もブラッドさんのアーム装備が残っている。ゲームの中とはいえ、ブラッドさんの努力とリアルマネーの結晶のようなものだろう。

 

間違いなく実力者だったし、11鯖を引っ張る存在だった。しかし初日にブラッドさんが死んでしまったからか、11鯖の1位チームは機能停止しているようだ。だからか、11鯖はこの前の採掘ステーション防衛戦でも一番死者が多く、4690人の犠牲者が出ている。鯖を纏める人がいないのだ。

 

くっそ、ブラッドさん本人と戦っている時やシャドウとの戦闘をぶっ続けていた時には何とも思わなかったのに、いざ落ち着くとやっぱりセンチメンタルな気持ちになるな。思っていたより亡霊が出て来るのは辛い。特に知っている人だととても辛い。

 

[時雨:リサイクルチケットを1000ゴールドで並べている人が居たから出品してた46枚全部買っちゃった( ・∇・)]

[黒猫:いやそれは流石に返してやれよ可哀想だわ]

[時雨:45枚は返したよ]

[ユリクリウス:1枚はしっかりとってて草]

[クロワッサン:そういえばリサイクルチケットって今は使えるのか?課金出来なくなった今だと勿体ない気もするけど]

[時雨:んー、リサイクルチケットで交換できるアイテムは買い占めておこうかな?]

[黒猫:一応リサイクルチケットは使えるし、今後はゴールドで課金アイテムのガチャ実装するらしいからリサイクルチケットで交換できるアイテムについては高騰しなさそうだぞ]

 

そんな辛い時でもチームチャットは平常運転。リサイクルチケットとは課金アイテムを特定のNPCに渡し、変換すると貰える万能交換アイテムのようなもの。ゲーム世界だとショップ価格は20万ゴールド程度だったな。

 

地味に時雨さんの現金資産がこの短期間で既に1000万ゴールドを超えたと聞き、この人やばいと思うようになった。ゲームの世界だと確か2000億ゴールドぐらい貯め込んでいたんだっけ?ショップ戦士こええ。やってることは完全に転売屋の所業だけど。

 

[クロワッサン:転売やっぱこの世界でも儲かる?]

[時雨:んー、無課金でも出品できるようになった以上、相場はこれまで以上に読みづらくなったけどね。初心者も多いしそこら辺からは結構稼げるけど]

[クロワッサン:やってること屑過ぎない?]

[時雨:一応初心者にも素材が行き渡るように調整はしてるよ。わざわざ出品者に個チャ入れて来るような初心者は好感持てるし、そういう人には格安で融通してる]

[ユリクリウス:打撃エナジーあと200個ほど格安で売ってくれ]

[時雨:ユリクリウスなら無料で良いよ。技厳選頑張れ]

[黒猫:え、じゃあ俺も射撃エナジー500個ぐらい投資して]

[時雨:チムマスには定価で売るよ。1個4000ゴールドね]

[黒猫:ふざっけんなゲーム時代の2倍じゃねーか]

[時雨:今の定価だよー]

 

チームチャットしてると、何だかんだ気持ちは和んだ気はする。はー、でもこいつらが死ぬ可能性だってあるし、自分だって即死系の技は例外じゃない。即死系の技でも50%で耐えるけど、流石に何度も自分の命を50%で捨てる賭けなんてしたくないわ。

 

「お、プレゼントボックスが届いた。

……あれもうサポートロイド出来たの?」

「マスターはシウラ様に『特別許可証』を渡されたシアリーなので、こういった注文等は優先されるようになりました」

「うわ出た特権階級。プロフェッショナルの制度を作ったのがシウラさんなら、ギスギスさせるの本当に得意な人だな」

 

ちょっとうじうじしていると、サポートロイドのチョココロネが届く。うん、今後はコロネと呼ぼう。コッペパンはコッペパンで良いや。

 

結局メイド服のような恰好にしているけど、お団子ヘアとも合うなこれ。ちっこくて可愛い。えーと、初回起動には魔力込めるのか。そんな設定あったんだ。

 

技を使う時の感覚でMPを込めると、起動し出すコロネちゃん。この手の場面を動画で撮影は紳士の嗜み。おお、動いた。眼をぱちくりさせてる可愛い。

 

「初めまして。これから旦那様……お嬢様の身の回りのお世話をさせていただきますチョココロネです。どうかよろしくお願いします」

「旦那様で合ってるよ。

こっちはコッペパン。コロネと同じサポートロイドだ」

「マスターは男性です。胸への視線移動回数が多いので健全な男性です。これから先輩サポートロイドとして色々と教えていきますのでよろしくお願いします」

「ええいや待ってあまり見てないと思うんだけど……?」

 

ロリっ子同士がお互いに自己紹介をし、互いにお辞儀をするまで撮影してチームチャットに流すと早速ロリっ子について性癖談義が始まるので撤退。しかしまあ、コロネは当然レベル1だよな。コッペパンは120レべあるから、この差を埋めるのはとても難しい。

 

基本的に、クエストの素材集めを任せてクリアさせるとレベルアップをするという仕様だったけど、現実になってからは一緒にクエストへ行くことでレベルアップする姿が確認されている。完全に養殖にはなるけど、コロネは自分とコッペパンと一緒にクエストへ行ってレベルアップさせるか。

 

となると、4人までパーティーは組めるから誰か誘いたいけどユリクリウスはちょっと今誘い辛いし……適当に野良の人誘ってみるか。最初は推奨レベル40ぐらいのクエストで良いだろ。

 

そう思って、たくさんあるロビーの1つ、40レべ台推奨ロビーへと足を運ぶ。お、結構な人がいる。40レべ台の人だけじゃなくて、50や60レべぐらいの人もいるな。もうコミュニティとかも出来てそう。

 

……げ、ここら辺にいる人全員ふおにの森8の人達かよ。確かふおにの森って15まで出来たんだっけ。ということはちょうど中間に位置する人達か。ほーん、40レべ台で中間ねぇ……。

 

「お、クロワッサンさん、お久しぶりです」

「「おにいさん」さん久しぶりー。今ふおにの森8にいるの?」

「ええ。いもうゲフンゲフン。リアフレが40レべ台だったのでふおにの森8に配属となりまして……色々と教えながらレベリングの手伝いをしているんです」

「まっじめだ。流石シャルルさんが真面目さだけで選んだサブマス……」

 

ちょっとプレイヤー層について考えていると、ふおにの森1のサブチームリーダーだった「お兄さん」さんが声をかけて来た。今は妹の育成のためにふおにの森8にいるらしい。結構、リアルの知り合いとかも知らないだけで居そうだよね。自分はリアフレ、最後の時はユリクリウスだけだったけど、それまでは結構いたし全員この世界に来てるとなると会って話とかもしておきたいなぁ。

 

「誰か40レべ台で将来有望そうな子とかいない?サポートロイドのレベリングするんだけど」

「それ完全に養殖になるじゃないですか……。一時的なレベリングなら経験値ハイブーストクエスト受けたらどうですか?」

「ああそれ一応チケット持ってるけど1人限定だろ?」

「ゲーム内だと1人限定でしたけどこの世界だとパーティー単位で受けられますよ」

「マジで!?結構倉庫に溜まってるから全消費……」

「……クロワッサンさんも、全部のチケットが期限切れてますよね。期限切れチケット10枚で新品1枚と交換出来ますけど、交換カウンターで交換して来たら数十枚の在庫が数枚になりますよ……」

 

そして「お兄さん」さんに経験値ハイブーストクエストが4人で受けられるようになっていることを教えてもらったのでそちらを活用する。いや経験値の概念が今どうなっているのかは謎だけど、ゲームの経験値ハイブーストクエストはかなり美味しいクエストで100レべに到達しても1回3分で1レべ上がった記憶。

 

自キャラのレベルの敵が出て来るので、128レべの敵が出て来るということか。うわ、よく見たら「お兄さん」さん初心者の指導もしているのにレベル127だ。これ経験値ハイブーストクエストの存在に気付いてなかった自分が馬鹿なのかなぁ。まさか「お兄さん」に教えられるとは。

 

とりあえずクエストを受注し、サポートロイドを2人呼び出す。1人枠は空いているけど、まあそれは良いや。そして交換して来たばかりのチケットを消費し、クエストを開始しようとしたところで、パーティーに入って来た人がいる。げっ、パーティーにフレンド・チームメンバー限定の鍵をかけたらよかった。

 

ってあれ?フレンド・チームメンバー限定の鍵はかけてる。じゃあ誰が……?



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第12話 初心者

唐突に入って来た人の名前はケルビンさん。うん……どこかで見たことはある名前だ。あ、ちょっと待って、何か思い出せそうな気がする。確かフレンド一覧に居た。

 

「お久しぶりです信玄先輩!128レべとか意味不明なレベルになってるの何ですかそれ!?」

「……ああ、水野さんか」

「ちょっ、リアルネームは駄目じゃないですか!?」

 

そして入って来た人から先輩と言われた瞬間、全てを察する。高校時代の部活の後輩の水野さんだ。まあ部活と言っても閑古鳥が鳴いていたボードゲーム部の部室でユリクリウスと2人FUO2をやっていただけなんだけど。

 

そのボドゲ部で自分達が3年の時に入部した2つ下の学年の後輩が水野さんだ。人に妙なあだ名を付けるのが好きな奴で、自分は苗字が武田だから信玄先輩と呼ばれていた。対になるユリクリウスは苗字が上野だから謙信先輩だったけど『上』しか合ってねーよという。

 

で、この子も少しFUO2に興味を持ったからちょっと教えたりはしたんだよな。まあ3日で辞めたけど。ついでにすぐ幽霊部員なったけど、それにしては44レべはレベル高くないか……?もしかしてこの世界になってから鍛えたのか……?

 

「信玄先輩ってふおにの森所属じゃないんですか?128レべなら歓迎されると思うんですけど」

「リアルネームがダメならリアルネームに纏わるあだ名もダメだろ。クロワッサンと呼べ。……この世界でリアルネーム考慮する必要があるのかは謎だが」

「うぐっ、そうですね……。

っと、クロワッサン先輩のチーム名は……幼女同盟?21人しかいないなら辞めてふおにの森に来ましょうよ」

「言っとくけどたぶんふおにの森と幼女同盟がチーム対抗戦で戦ったらうちが勝つぞ」

「え?

いやいや、またまた御冗談を。ふおにの森のライトさんって人、130レべらしいですよ?上位の人みんな凄いレベルだし……1500人以上いる中のトップ12人が21人しかいないようなチームに負けるわけないじゃないですか」

「130なら今日中に抜くぞ。まだチケット一枚も切ってなかったからな。

……養殖は自分も良くないと思ってるからまあ、一回だけ一緒に行ってやるよ」

 

[コッペパン:誰ですかこの不愉快な女]

[クロワッサン:リアルで知り合いだった子。悪気はないから許してあげて。外見はただの弱小チームだし]

 

個チャでコッペパンからチャットが飛んでくる辺り、コッペパンにも人格が芽生えたような印象を受ける。これがただのロボットとか信じられないんですけど。ついでにめっちゃ庇って来るの可愛すぎん?

 

トラブルは起きたけど、サポートロイドとの周回が終わった頃には自身のレベルは132に、コロネは68レべまで上がっていた。超がつく養殖である。ちなみに44レべだったケルビンさんは1回のクエストクリアで46レべになっていたからギリ許容範囲内の養殖だろう。どうせその辺のレベル帯はレベル上げに凄く時間かかるだろうし、PSが追い付かなくなることはないはず。

 

で、クエスト周回が終わってロビーに戻るとケルビンさんがロビーで自分を待っていた。どうやらユリクリウスがどこにいるか知りたいらしいが、ユリクリウスは……。

 

[ユリクリウス:クロワッサン様。『ゆるふわロングS:アホ毛付き』の在庫はありますでしょうか]

[クロワッサン:リサイクルチケット20枚]

[ユリクリウス:はー!?……いや過去の取引価格だと適性価格か。というかショップの在庫0だからむしろ超好条件……!ありがとうございます……!]

 

ついさっきから2体目のサポートロイドのキャラクリを始めたから、今からだとたぶん数時間は会えないかもしれない。下手すりゃ数日は平気で引き籠るぞあいつ。

 

「ユリクリウスは今取り込み中だし、下手すりゃ数日は連絡取れないな」

「えー、嘘ついてはぐらかそうとしてません?

と、それよりクロワッサン先輩はふおにの森への移籍考えてくれましたか?私、結構戦いの才能あるみたいで「お兄さん」さんから強化対象メンバーに選ばれたんですよ!将来的には一緒のチームで戦いましょうよ」

「あー、「お兄さん」が選抜してるのか。……わりとポンコツだよあの人?」

「ふおにの森のサブマスター様になんてことを!?」

 

そしてふおにの森への勧誘が止まらないケルビンさん。勘弁してくれ。これ幼女同盟がチーム対抗戦で勝たないとずっと勧誘してくる感じ?いやその前に鯖対抗戦があるわ。その時の談合具合で幼女同盟の影響力が強いことはゲームやってなかった層にも伝わるかな。

 

[クロワッサン:黒猫ー。鯖対抗戦はどうするんだ?]

[黒猫:うちからは12人、ふおにの森17人、ゆるゆる同盟から1人に決まった。

どしたの?]

[クロワッサン:いや今の40レべ帯に幼女同盟の強さ全然伝わってないからビビった。一応全鯖2位チームだよね?]

[黒猫:内面はともかく、外面はただのヤバイロリコン集団だからなぁ]

[ふわわ:え、内面もただのヤバイロリコン集団だよね?]

[ゼル:その辺は仕方ないだろうね。ふおにの森が頑張って下位層や中位層を育成しているのは知ってるし……まあ、多少下位層や中位層からの知名度が落ちていたとしても上位層はちゃんとうちらの強さ知ってるから大丈夫だよ]

 

鯖対抗戦の予定について聞くと、いつも通り幼女同盟は12人の枠。TA上位から30人を選出するのが鯖対抗戦なんだけど、走る人を制限してあらかじめ30人選んでおくのが1鯖のここ数年のやり方だ。こうすれば予定外の人が参加することはないし、鯖対抗戦で勝てば鯖全員に報酬が出るからわざわざ邪魔する人もいない。それでもたまに混じって来るけど、そもそも選出される30人のタイムが良いから滅多にないな。

 

「……鯖対抗戦って知ってる?」

「それぐらいは教えられたので知ってますよ。今週末にあるイベントですし。サーバー代表の30人による、チーム対抗戦を大きくしたやつですよね?」

「それの出場メンバーをふおにの森が決めてるって知ってるか?」

「はい。確かシャルルさんが決めるって言ってたような……?」

「今回、鯖対抗戦30人の枠の中に幼女同盟のメンバーは12人入る。ふおにの森が17/1500に対して、幼女同盟は12/21だな」

「……何となく強いチームだということは分かったんですけど、そのチーム名どうにかならなかったんですか?チーム紹介文も変態っぽいことしか書いてないですし」

「まあ変態しかいないことは否定できない……」

 

チーム対抗戦と鯖対抗戦は交互に行われるので、鯖のトッププレイヤーは毎週末にイベントがある状態だな。まあチーム対抗戦とは違って鯖対抗戦はライトさんが味方にいるからめっちゃ楽。全部あの人に任せれば良いんじゃないかな?

 

[クロワッサン:TA早めに走っておくかー]

[黒猫:若干敵の内容変わってるから注意な。ギミックは変わらないから大丈夫だと思うけど]

[ユリクリウス:『レッドサンアイ2』欲しい。誰か持ってない?]

[ふわわ:それ『アニメ絵アイ:赤』で代用出来ない?無課金ガチャの方だからサポートロイドも使用可能になってると思うけど]

[時雨:今ショップにキャラクリ素材全然ないの辛いそうだね]

[黒猫:ああそれと今回の12人は黒猫、ユリクリウス、クロワッサン、ゼル、ハル、HAKU、時雨、めう、ふわわ、アルタイル、ジョーカー、ビートルな。後でメールでも流すわ。ABCはさっさとレベル上げろ]

[ABC:もう経験値ハイブーストクエストのチケットないです……]

 

今回の12人の選出の中にはABCさんがいないので、1鯖としてガチで最強面子を集めて勝ちに行くのだろう。ケルビンさんには「お兄さん」さんに幼女同盟がどういう同盟か説明受けといでとだけ言って別れて、マイルームに戻る。流石に68レべからは短期間だとなかなか上がらないだろうし、コロネのレベリングは一旦中止。

 

マイルームに戻ったら、ゼルさんとふわわさんが入室してくる。そしてコロネちゃんを見るなりまた性癖談義が始まった。

 

[ふわわ:可愛いけどロリ巨乳……]

[ゼル:ロリ巨乳は何人居ても良い……]

[クロワッサン:またロリ巨乳過激派対ロリ巨乳撲滅派の言い争いが始まる……]

[ユリクリウス:言い争いしてる筆頭が中身女子なの草]

[黒猫:今は大体の奴が女子だがな。

何でお前ら男のケツ見ながらゲームプレイしてたの?]

[ユリクリウス:いや格好良さ求めても良いだろ普通……]

[ハル:俺も男にしておけばよかった……!やっぱり相棒が欲しいよう……!]

[クロワッサン:技術進んでるし生やせるんじゃない?]

[黒猫:ロリの身体に生やしたければチームから抜けてくれないか?]

[ハル:いや俺もこの身体に生やしたくはない……]

 

最近はこの世界にも慣れて来たのか、チャットの下ネタが酷い。いやそれは元からだったか……?まあ大体の人は良い大人だし、一番年齢が低くても高校生なので大丈夫だろう。あ、ジョーカーさんの妹が居た……。

 

[マルマルさんがチームから抜けました]

[ジョーカー:妹からふおにの森へ行きますとメール来ました……]

[黒猫:妥当。真っ当な感性を持っている人間はこのチームについていけない]

[ゼル:そもそも女子中学生だったんでしょ?そんな子がいる中でロリっ子最高とか言ってたら避けられるわよ]

[クロワッサン:まあふおにの森の方が育成とかもしっかりサポートしてくれるだろうしね]

[ABC:ここは『自分が最強』と思っているプレイヤーが集まってるから育成の手伝いとかはあまりしないよね……]

[ユリクリウス:このぐらいの規模の方が良いというのもある。100人もチームメンバー居たら名前覚えられないし、チャット気軽に出来ない]

[黒猫:今のふおにの森のチームメンバー1569人だぞ。まだまだ加入希望者いっぱいだぞ]

[クロワッサン:この船で生き残ってる地球組、まだ10万人近くいるだろ?これ最終的にチームの規模1万人行くんじゃね?]

[黒猫:行くだろうな。まあただ育成にリソースを割く分は色々と遅れていくと思うぞ]

 

そして危惧した瞬間にマルマルさんの離脱メッセージが。こういうのって察した時にはだいたい遅かったりするよね。これでまたチームメンバーは20人に戻って、相変わらずの小規模チームである。



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第13話 タイムアタック

コロネのレベリングを行い、歓迎会をした日の翌日。今日はサーバー対抗戦に出るためにTAを行う。いや、今は船団対抗戦か。サーバー同士、30人単位でのPVPということで基本的には上位のプレイヤーしか出来ないイベントだった。サービス終了前は、過疎鯖だと時間帯の都合とかで参加希望が30人に満たない場合もあったけど……。

 

TAはタイムアタックの略で、サーバー対抗戦に出るためには特定のTAで上位30位までに入らないといけない。まあ走る人が1鯖の場合は選ばれた30人で固定されているし、幼女同盟の枠に選ばれているので必然的に上位30位以内が確定です。

 

ちなみに一度だけふおにの森のメンバーから「幼女同盟の枠12人が多すぎる、制限無くせ」という声が上がったために制限を撤廃したことがあったけど、その時は上位30人のメンバーが幼女同盟17人、ふおにの森13人という結果になったんだよね。完全に真逆になる現実を突き付けられたふおにの森から、その後文句は出て来てない。どちらかというと、こっちの枠をもっと増やせと言いたい。半々で良くないかな?

 

[クロワッサン:そう言えばケルビンさんがふおにの森8に居たぞ]

[ユリクリウス:あー……水野さん?]

[クロワッサン:そうそう。今46レべだった。なんかユリクリウスとも話しをしたいとか言ってたぞ]

[ユリクリウス:え、俺あの子苦手。陽の者オーラが強すぎる]

[クロワッサン:実際陽だったから仕方ないだろ。まあ個チャ入れといたら?というかユリクリウスとケルビンさんってフレンドだったっけ?]

[ユリクリウス:水野さんからフレンド申請なんて来てなかったが?あいつ3日ぐらいで辞めてなかった?]

 

ついでに個チャで、昨日会ったケルビンのことをユリクリウスに話しておく。ユリクリウスにフレンド申請がなくて、自分にはフレンド申請をしてきたということは自分に気がある……のではなく、たぶんユリクリウスにフレ申請出せなかったんだろうな。どう見てもあの子ユリクリウスに惚れてたよ。ユリクリウスがガチオタロリコンで話が合わなかったから撤退したんだろうけど。

 

一旦TAを走る前に、今の記録を確認しておく。1位はユリクリウスで3分58秒か。唯一の4分切りとかやっぱはえーな。もうほぼゲームの時と同じ記録じゃないか。

 

2位はライトさんで4分1秒、3位はゼルさんで4分3秒と続く。今のところ15人が走ってて、15位はうちのハルさんで4分17秒。まあ指定された30人が弱いわけないからみんな記録良いな。

 

きっちりとドーピング剤は攻撃力上昇のものを使い、武器だけTA用の銃剣を装備。遠距離攻撃があるかないかだけでだいぶタイム変わるからカチ装備を仕舞うのは嫌な気分になるけど仕方ないね。スロット拡張は8で妥協した装備だけど、火力はこっちの方が出るしね。

 

今回のTAの会場は『タイムアタッククエスト:VR空間 天国と地獄』でゲームの時は最高難易度のTAだった。紙耐久だと一瞬のミスでペロるクエストだがVR空間なので死んでも帰還は出来る。まあ選出された人にこのTAで死ぬ人はいないだろうけど。

 

『3、2、1、ゼロ!』

 

カウントダウンが0になった瞬間に飛び出し、シャドウを模した敵を次々に倒していく。うーん、132レべになったからかこちらの火力が上がって敵がより柔らかくなった感じしかしないな。あとは配置を丸暗記しているボタンを正確に射撃で攻撃していって、次のステージへのゲートを開く。うん、めっちゃ単純なTA。だからこそ火力とPSが求められるんだけど。

 

[黒猫:二刀流ユリクリウス強すぎない?誰だ火力バカにこんなスロットスキル渡した奴]

[ユリクリウス:DPSが単純に倍になったのはヤバイと思った。たぶん今ならクロワッサンの防御突破出来る]

[ゼル:戦争おじさんが一瞬で消し飛んだの笑った。斬撃飛ばすやつ強すぎない?ずるいわー]

[ハル:4人で2分2秒www]

[黒猫:今のパーティーならアブダクション起きても良いな。へいかもーん]

[ユリクリウス:ちょ、マジで止めろ]

[ゼル:お、クロワッサンTA中だ。頑張れー【ゼルのサポートロイド、ゼロのチアコスの写真】]

[ふわわ:TA中に幼女写真を送りつける外道]

[ゼル:【薄着のゼロのローアングル写真】]

[黒猫:この女TAの邪魔に余念がねえ……もっとゼロちゃんの画像下さい]

 

チームチャットが騒がしいが、中身まで見ている余裕はない。移動しながら銃剣のリロードを挟み、残弾管理をしながら敵を倒す。げっ、ここの敵数変わってるのかよ。くそ、5秒はロスした。

 

しかもなんか幼女のパンツ画像直接送って来るし、TAの邪魔をするとかなんだこのチームメンバー。まあ敵の発生間隔は同じだし、火力に余裕はあるから画像のダウンロード操作とかは余裕で出来るんだが。132レべの火力は120レべの時の1.2倍ぐらいあるな。基礎ステータスが上がっているのは大きい。

 

ラストのボス部屋に来るけど、対戦相手は第5章のボス戦争おじさん。VRで敵を再現できる設定って色々と便利だな。なんかこの人は元シアリーだったけど、シャドウに捕らわれてシャドウ陣営の機械惑星に送られ、何だかんだあった末に半ロボット化の改造手術を受けた人。

 

機械文明とタキオン船団の戦争を望んでいる真っ当な敵です。開幕で威力の高い魔導砲が飛んでくるので、それを普通は避けるんだけど、ダメージを食らいながら直進して戦争おじさんに攻撃を開始する。ここカチ勢のタイム短縮ポイント。これだけで5秒は違う。

 

「うらぁ!」

 

ラストはいつものアカツキノヴァに持ち替え、単体攻撃技のオーバースラッシュで決める。単体相手にはこれしか使ってないけどこれ以外に使える技がないという悲しいソードマンの現実。他の技全部DPS的に下位互換だし、他の技使うならオーバースラッシュ連打で良いという。

 

戦争おじさんを倒したところでタイマーストップ。記録は4分7秒で11位。うわ微妙だ。一桁順位には入れなかったか。でもまあこの後に走る人で上位に食い込むような人はそんなにいないはずだから、15位以内には入るかな。半分より上に来ているなら上出来でしょ。

 

その後もどんどんと選ばれた人達がTAを走り、最終順位は14位でフィニッシュ。まあカチ勢としては頑張った方だと思う。30位のタイムは4分28秒でふおにの「お兄さん」だった。TAに有利な魔法職で最下位か……。

 

ちなみにふおにの森の指示を無視した馬鹿が勝手にTAを走っていたが、6分31秒と30位から2分ぐらい離された31位に名前入りでランクインしてしまったことで嘲笑の的となった。しかも反省の色なしふおにの森の独裁体制に文句を言う108レべという非常に残念な方。

 

まあチーム未所属でふおにの森の指示なんて受けないと勝手に騒ぐのは良いけど、今の幼女同盟とふおにの森の主要面子はクエストからのキック機能を入手しているのでその残念な人が今後エマージェンシークエストに行けることは恐らくない。たぶんふおにの森のメンバー、全員この人をブラックリストに入れるだろうし。

 

サーバ対抗戦は出場メンバーに別途報酬が出るから出たい気持ちは分かるけど、実力のない人が出て負けるのはマジで勘弁。まあしかし、各鯖の人数がゲーム最盛期より圧倒的に多いことを考えると、300人規模の戦いで良いと思うんだけど……それすると1鯖が群を抜きそうだなぁ……。

 

[黒猫:かえる13号はこれ永遠にさらされるんじゃないか?]

[ゼル:ちょっと可哀想ではあるけどふおにの森所属は援護出来ない]

[黒猫:は?未所属だったぞ?]

[ふわわ:TAのランキングに載った瞬間はふおにの森4だったね。シャルルさんは呆れてた]

[ユリクリウス:人数多くなって管理し切れてない奴]

[クロワッサン:あの6分31秒の実力で鯖対抗戦来られても迷惑にしかならないの分からんのか]

[ゼル:分からないんでしょ。言っても無駄だと思うしチーム追放は妥当]

[黒猫:かえる13号『TAで遅いから追放された俺氏、ユニークスキルをゲットして最強になる。今更戻ってこいと言ってももう遅い』]

[クロワッサン:遅いのはお前のタイム定期]

[黒猫:作戦通りに動けない奴はユニークスキルあって最強だろうが要らんわ。ライトさんでもシャルルさんの指示通りに動くぞ]

 

そしてその暴走した残念な人がふおにの森所属と判明し、一気に盛り上がるチームチャット。ふおにの森4に所属していたってことは、チーム拡張後にチーム入った新入りか。救いようがないムーブである。せめて謝罪さえしとけば初犯は許されるのに。

 

[クロワッサン:今回の鯖リーダーどっち?]

[黒猫:流石に今回はシャルルだよ。サブリーダーが俺。エースがユリクリウスでサブエースがライトさんな]

[ユリクリウス:エースあざす]

[クロワッサン:サブエースのHPアップライトさんにいる?自分に付けて自分がライトさんへの攻撃全部受けた方がよくね?]

[黒猫:いや今回クロワッサンが特攻係だから要らんだろ。せっかくだしカチ装備でも集中砲火受けたら死ぬということをクロワッサンに教えてやる]

[クロワッサン:いや過去に何回かそれで死んでるし理解はしているんですが。

いやでも過去に特攻役した時はこの装備完成してなかったし強靭とったから耐えるかも]

「ゼル:強靭wwww」

[ビートル:うわあ……]

[クロワッサン:50%カットは有能。文句あるなら1対1でかかってこい]

[ユリクリウス:ノ]

[クロワッサン:お?やるか?強靭取ったぞ?ユリクリウスはクリティカル率上げてもクリティカルダメージはそんなに伸ばしてなかったよな?]

[ユリクリウス:あー、こっちもクリティカルダメージを伸ばし始めたぞ?スキルポイント増えるのマジありがたい]

[クロワッサン:えっ、あっ……レベル上げて来ます]

 

鯖対抗戦の方は、今まで通りリーダーを交互に務めるようで今回はシャルルさんがリーダーだ。そして敵陣に突撃して、敵の初動を確認する役割は今回自分が務めることに。同じように敵鯖からも初動で何人かこちらに突っ込ませる形にはなると思うから、接敵した場所が前線になるな。

 

役職の方は、TA上位から選んでいくことになるからユリクリウスはやろうと思えばリーダーも選択できるけど当然エースを選択。ここら辺はみんな慣れているから、ミスでもない限りは波乱は起きない。自分はディフェンダーの方を選択。サブエースほどではないけど、若干HPが上がるので何もないわけではない。

 

……大いなる闇の封印がいつ解けるかは知らないけど、しばらくはゲーム感覚で生きていけそうだな。まあ、楽しむか。



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第14話 幼女同盟

ケルビンがクロワッサンと遭遇した次の日。ケルビンはいつものようにふおにの森8の集合ロビーである40レべ台推奨ロビーの隅にある部屋で「お兄さん」からの教導を受けていた。

 

「惑星シリウスでは車型のシャドウが多く出現します。トラック型は…………トレーラー型は…………戦車型は…………バイク型は…………なので、車型のシャドウを見かけた時はまず前輪部分の部位破壊を目指しましょう。

以上で今日の説明は終わります。何か質問があれば受け付けますよ」

 

学校の教室風に模様替えをされたロビー隅の部屋には、教壇の上に立つ若い男性がおり、対面するように椅子に座る多数の女性と、少しばかりの男性が居た。ここでは各シャドウの弱点や各エマージェンシークエストの立ち回りの仕方、装備の効率的な強化方法などを教えている。

 

根を詰めては指導しないよう、一回に教える内容は少ない。しかしそれでも多数の質問が出る辺り、「お兄さん」の教導は難航していた。そして今日もある程度の量の質問に答え、教導を終わろうとした時、ケルビンから質問を受ける。

 

「『幼女同盟』って強いんですか?何かふおにの森より強いって聞きましたけど……」

「んー、間違いなく強いし、うちのレギュラー陣より上かもしれないことは否定できないことだよ。だって僕が幼女同盟からふおにの森に移籍した理由は、幼女同盟だとレギュラー取れなかったからだし」

「え!?「お兄さん」さんも元幼女同盟だったんですか!?」

「うん。それで一度もチーム対抗戦に出られなかったから、ふおにの森に移籍したって形。当時は幼女同盟に25人ぐらい人いたしね。今は20人になっているけど」

 

内容は幼女同盟が強いかというもの。その問いに「お兄さん」は苦笑しながら肯定し、回答をしていく。元々は幼女同盟だった「お兄さん」だが、TAのタイムや装備の差、PSの差のせいで一度もチーム対抗戦のメンバーには選ばれなかった。それだけ幼女同盟に、課金勢かつPSの高いメンバーが集まっていたからだ。

 

当時のチームリーダーだったABCはなるべく多くの人にチーム対抗戦に出て貰うよう、ローテーションなども作ったりしていたが、その時にサブリーダーだった黒猫がチーム対抗戦に出る基準を用意。その基準を超えられなかった「お兄さん」は幼女同盟を去り、ふおにの森に移籍した。プロフェッショナルとカジュアルを分け、プロフェッショナルになれなかった者はゲームを辞めたように、基準をクリア出来なかった者は幼女同盟を去った。

 

そこから、幼女同盟の基本方針は少数精鋭となった。12人マルチクエストを最大で2パーティー分作れればそれで良い。例え人数が揃わなくても、問題はなかった。幼女同盟8人でエマージェンシークエストに行く方が野良12人でエマージェンシークエストに行くよりも早くクリア出来た。

 

鯖対抗戦でも1鯖の要注意人物として挙げられるのはふおにの森のメンバーよりも幼女同盟の方が多い。それだけ個の力の突出したものが多く集まる、奇妙なチームだった。

 

「はじめはただの変態達の集いだったんだけどね。サポートロイドのキャラクリに力を入れるなら課金しないといけないゲームだったし、大量のゲーム内通貨を稼ぐなら強くなるのが一番手っ取り早かった」

「課金……そう言えばライトさんが凄い課金をしていたって本当ですか?」

「ライトさんは少なくとも6000万円って言われてたね。もしかしたら億に届くかも。ただふおにの森で、頭のおかしい課金をしていたのはライトさんぐらいだった。一方で幼女同盟は、ほぼ全員が重課金している面子だよ」

「だからそんなに強いんだ。……何かズルいですよね」

「ずるいかなぁ……僕だって月に5000円、1年に6万円、10年で60万円ぐらいは課金してるからねえ。それに、課金すればするほど強くなる効率は悪くなる。少なくとも僕には真似出来なかった」

 

このゲームは課金者の割合が多い。少額の課金ですぐに強くなり、ゲーム環境が快適になるからだ。2割から3割程度が月に3000円以上の課金を行う課金者であり、いわゆる微課金層は多い。しかし一方で、月に5万以上の多額の課金を行う重課金者は少ない。

 

その多額の課金を行う者が集まったチームが幼女同盟であり、サーバー開設当初から存在する最古参のチームでもある。元チームマスターのABCはプレイヤーIDが0000007と一桁ナンバーであり、ベータ版のテスターでもあった。そのようなプレイヤーが、サービス終了間際まで引退しないなど稀有なケースだろう。

 

サービス開始直後、チームは山のように作られたため、幼女同盟はしばらくABC1人だけだった。しかしABCのリアフレである黒猫が加入し、黒猫が勧誘を始めたことで風向きが変わる。チーム人数が5人になったころ、ユリクリウスとクロワッサンが少数人数ながらチーム機能が充実しているという理由で加入。ほぼ同時期に、「お兄さん」も幼女同盟に加入した。

 

「ふおにの森は元からTwitterのフォロワー数が多くて有名なプレイヤーだったシャルルさんが立ち上げたことでサービス開始直後から人数は多かったんだ。でもたぶん、それでも最初期からチームメンバーを選んで加入させていた幼女同盟の方が強かったとは思うよ」

「へぇ……じゃあなんでふおにの森は幼女同盟にチーム対抗戦に2勝1敗って成績なんですか?」

「あー、まあ幼女同盟は最初の頃、ABCさんの方針で全員が好き勝手戦っていたからねえ。真面目に連携し出したのが3戦目だったんだよ」

「あー……本当に自分勝手な人達なんですね。初心者の育成みたいなことしないですし」

「そこはチーム人数が違うから何とも言えないかなぁ。チームチャットも独特だし」

 

ケルビンと「お兄さん」は、話しながらロビーへと向かう。「お兄さん」はサーバー対抗戦に出るため、TAを走る必要があり、そのためにクエスト受注カウンターへと向かった。

 

「ケルビンちゃんやっほー。「お兄さん」の授業終わった?」

「メリットさん!授業は終わりましたけどちょっと幼女同盟のことについて聞いてました」

 

その2人に声をかけるのは、ふおにの森1のメンバーであるメリットだった。メリットとケルビンは大学で先輩後輩の関係であり、メリットがFUO2をプレイしていたためにケルビンも昔のデータを引っ張り出して少しだけプレイを再開していた経歴がある。だからこそこの世界になった時、ケルビンは39レべと低くはないレベルだった。

 

「それじゃ、僕はTAを受けて来るからここまでだね。あー、4分30秒切れるかな」

「最低限、そのクラスは求められるって鯖上位勢は大変ね。私なんて5分を切ることが出来ないわよ」

「このTAは、5分を切れれば凄いんですか?」

「まあそうだね。通常のシャドウと違ってほぼ休みなく攻撃し続けてくるし、こちらも好タイムを出すには火力を出し続ける必要がある。4分台に乗るためには継戦火力の高さが必須だ。ここで言う継戦火力とは装備だけじゃなくて、スキルや立ち回りも含めた総合的な火力が必要になって来るから、まずは5分切りを目指そうって感じ」

「相変わらず何でも真面目に解説するわね……」

 

一般的なシアリーであれば、このTAのタイムは6分台。慣れた課金プレイヤーであれば5分台の成績となるため、現在ランキングに入っているメンバーが全員4分台前半ということに少し「お兄さん」は憂鬱になる。ゲーム時代でも4分台前半に入ったことは数回しかないからだ。

 

「あの……ユリクリウスさんって有名なプレイヤー何ですか?」

「幼女同盟のエース格だから、サービス終了までプレイしていた人で知らない人は居ないんじゃない?今回なんか4分切ってるしね。幼女同盟の中でも強いプレイヤーは現チームリーダーの黒猫と、ユリクリウスとクロワッサンとゼルで、今もトップはふおにの森のライトだと思うけど、2位~5位は彼らよ」

「クロワッサンさんも……」

 

ケルビンはメリットからユリクリウスとクロワッサンの評価を聞き、変に勧誘してしまった自身の行動を恥じた。一方でメリットはケルビンが幼女同盟を気にするような行動に疑問を抱き、質問を投げかける。

 

「ケルビンちゃんは、クロワッサンと知り合いなの?昨日一緒のパーティーにいたみたいだけど」

「え!?何で知ってるんですか!?」

「良くも悪くもクロワッサンは有名だからね。それにこのロビーに120レべ以上が居たら注目を集めて当然よ。結構目立つ容姿だし、ふおにの森にもファンはいるぐらいよ」

「そう言えばファッションランキングなんかでもクロワッサン先輩って男性部門1位ですよね……」

「どう見ても容姿ランキングよねあれ。あのキャラクリへの執念は尊敬できるものもあるわよ……。……クロワッサン先輩?」

「あっ」

 

そしてケルビンは、先輩であるメリットの圧に耐えられずユリクリウスとクロワッサンとは高校時代の先輩後輩の関係であることを話す。メリットはユリクリウスとクロワッサンが自分とは同世代であることに気付き、ユリクリウスが直近4年間、年に200万ほどの課金をしていると言っていたことを思い出し、思わず身震いした。

 

「あの2人は、実家がお金持ちだったりするの?」

「いえ、よく部室でバイトの話をしてましたよ。あとはカードの転売とか仮想通貨とかやってました」

「高校生の時点でバイタリティ高いわね……。というかあの2人、転売ヤーなのね」

「転売ヤーというか……出身校の近くに本屋とカードゲーム屋が道路挟んであるんですけど、本についているカードを右から左に流すだけで数万円稼いでいたというか……」

「へえ。その口ぶりはケルビンちゃん、一口噛んでいたわね?」

「えへへ、ユリクリウス先輩に誘われて一回だけ……。30分で5万ですよ!?凄くないですか!?

それに、ちゃんと本は資源ゴミで出しました!」

「アウトよそれ……たぶん数年前の話だろうし、今ならもう時効だけど」

 

課金をするために、多額のお金を稼ぐ話を聞き、メリットはやっぱり幼女同盟の人間は頭おかしいという認識を固める。それと同時に、少し羨ましいとも思った。

 



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第15話 サーバー対抗戦

サーバー対抗戦に出るメンバーが決まり、役職も決まったところでマッチングが開始。ぐるぐるとルーレットのような表示がスクリーンには映し出され、今回の対戦相手鯖は8鯖に決まった。8鯖の1位チームは『豪魔館』というチーム。RP勢が多く、なりきり勢が多数所属している。

 

アブダクションで生還出来なかった、サーバートップクラスのプレイヤーである椛さんもなりきり勢だったし、かなり独自色の強い鯖だ。椛さんもブラッドさんと同じく鯖を引っ張る存在だったけど、チームマスターじゃなかったのは幸い。

 

別の鯖の雰囲気とかは全然分からないけど、TAのランキングを見ると50人ぐらいが走っているね。そのうち46人のチームが豪魔館で、上位30人は全員豪魔館組。分かりやすい1強鯖だ。まあどこもかしこも最後はそんな感じだったけど。1つのチームにまとまった方が効率は良いし、旨味も大きい。

 

8鯖とは何度も対戦したことがあるし、相手のリーダーが変わってないのは戦いやすい。8鯖のリーダーはレミリャさん。とあるゲームの吸血鬼キャラらしいけど、本人は自分に似たカチ勢だから生半可な火力だと倒し切れない。吸血鬼キャラらしく、HP吸収が出来る装備で固めているから長期戦に強いんだよな。

 

今回のマップは、あらかじめ発表されていた◇形のマップ。上下の離れた地点に互いの本拠地があり、中央、北西、北東、南西、南東の5か所に大きな拠点がある。あとは東、北、南、西に2ヵ所ずつ小さな拠点があるだけだから、複数あるマップの中では一番単純なマップ。

 

そしてこの手のマップで重要なのは中央の拠点の制圧なので、特攻係になった自分の役割は相手の先行隊と中央を超えた場所で接敵すること。相手の先行隊の中央到達が遅れれば遅れるほどこちらの中央制圧がやりやすくなるので重要な役目だ。

 

まあ向こうにも特攻係がいれば中央で特攻係同士の戦いになるけど……1人を犠牲にして中央を取りに行くのは29対30になるからして来ない鯖も多い。チーム対抗戦と同じくVR空間なので当然死にません。これ死に慣れさせようとしてない?

 

[黒猫:グループチャットに乗り込めー]

[ゼル:わーい。

グループチャットも普通に使えるのね]

[ライト:よろしく]

[シャルル:皆様今回もよろしくお願いします]

[lie:豪魔館組かー。椛さん強かったのに……]

[ユリクリウス:今回の中央組って俺とライトさんとゼルさんだけですか?]

[シャルル:今回は南側なので北東と北西に圧をかけます。北東は中央組以外の幼女同盟の方で、北西側はふおにの森のメンバーで行きましょう]

[クロワッサン:生き残ったら自分も参加する@ユリクリウス]

[シャルル:あとらんらんさんもですよ@ユリクリウス]

「ユリクリウス:特攻係が生き残るな@クロワッサン」

 

グループチャットを作るけど、常にロリロリ言ってる幼女同盟組が真面目なチャットをしてるのはちょっと面白い。若干ふざけたチャットが多いのはもうどうしようもないけど、やっぱチーム外だと少しはまともになるよね。

 

向こうの要注意プレイヤーはカチ勢のレミリャさんに、火力特化で爆発物の投擲が上手すぎる十六夜白夜さんと廃課金勢のアリスドールさんかな。特にアリスドールさんは椛さんと双璧で8鯖トップの課金額だったはず。年500万円溶かしているとか富豪かな?

 

試合が始まったので、まず飛び出すのは自分。途中の拠点やポイントターゲット、ポイントボールを全て無視して一直線に敵陣へ突っ込む。よし、敵に特攻係は居ないな。

 

中央の拠点のサークルだけは避けるように遠回りして、マップの上半分の領域に突っ込む。それからもしばらく北上すると、敵の中央組と接敵した。数は6人か。思っていたより少ない。

 

「相手はクロワッサンね!さいきょーの氷魔法を見せて上げる!」

「火力を一気に叩きこむわよ!」

「あなたは私が止める。時よ止まれ!」

 

ロールプレイ勢なだけあって、接敵したらRPし出す辺りこの人達普通にゲームを楽しんでいる感じだな。拘束スキルが飛んでくるけど、回避は可能。げっ、十六夜白夜さんがいる。

 

「氷札!えたーなるふぉーすぶりざーど!」

 

十六夜白夜さんの拘束スキルを回避したタイミングで、ティルノさんからヒョウカセンを受ける。氷属性魔法の必中攻撃で、弾着点に氷の華が咲くエフェクトは綺麗な技だ。うげっ、火力特化型の氷属性魔法は今の装備とレベルでも200ダメ入るのか。その後も次々と攻撃が飛んでくるので、反撃できるタイミングはない。でも、ここで出来るだけ粘るのが特攻係の役目だ。

 

HPを合計で5000以上削られ、HPが残り25%を切ったところでナイトのスキル不屈の心得が発動。効果は30秒間防御力アップ。よし、これでヒョウカセンの攻撃が150ダメまで下がるし他の攻撃も軒並み下がった。

 

ついでに、武器をHP回復用に持ち替える。HPを盛るタフ勢御用達の装備、リバイバルソードだ。

 

メイン武器:リバイバルソード+99

カテゴリ:ソード

近接攻撃:1398

スロット1:時流回復Ⅰ(30秒毎にHP5%回復)

スロット2:時流回復Ⅱ(30秒毎にHP6%回復)

スロット3:時流回復Ⅲ(30秒毎にHP7%回復)

スロット4:時流回復Ⅳ(30秒毎にHP8%回復)

スロット5:時流回復Ⅴ(30秒毎にHP9%回復)

 

この装備を持つだけで、HPが35%回復する。アイテムの回復薬が頼りない今、コイツの価値は非常に高い。ゲーム内ではアイテムの回復薬を1個飲むだけでHP5割回復していたから、エマージェンシークエストとかだと出番はないし、そもそもあまり持ち出さない装備。まあ、回復薬を使えないPVPでしか使えない回復装備だったな。

 

これはブラッドさんとの戦闘後に色々と試していたから気付いたことだけど、これを持って回復して他の装備に持ち替えて、30秒経過してから再度これを持つと問題なくHPが35%回復する。ゲーム時代だとこの装備を持ち続けて30秒経過してからじゃないとHPは回復しなかったけど、この世界だと持ち替えた瞬間に回復するからこその挙動だ。流石にちゃんと30秒のインターバルタイムはあるが、30秒毎に35%回復は反則級に強い。

 

他にも色々と、ゲーム時代の常識が通用しないパターンはあるから何事も試した方が良いな。しかしこれは、死ぬ気配がない。ナイトの不屈の心得も30秒のインターバルが開けた時にHPが25%を超えていて、またHPが25%以下になったら再発動するし、6人の火力だと削り切れないか。

 

「やだ……やだようお姉ちゃーん!」

 

こちらの耐久力を活かして、受けるべき攻撃はしっかり受けながら反撃をし始めると、耐久力のなかったフレンさんが真っ先に退場。1人減ったことでより安定するようになり、多少大技を食らってもHPが全損するようなことにはならない状況となったのでまた1人、また1人と削っていく。

 

あー。これは自分が133レべまで上がったことも影響してそうだな。まだこの人達、MAXでも十六夜白夜さんで128レべだし。そして中央の拠点を、こちら側が占拠したというアナウンスが流れたタイミングで生き残りが撤退。逃がすか。

 

「逃がして良いぞ。さっさと本丸叩いて終わらせようぜ」

[ライト:特攻係で生き残るのヤバすぎ……]

[らんらん:相手何人だったの(・・?]

[ゼル:たぶん6人?

流石に頭おかしいわ]

[クロワッサン:相手も両翼中心っぽいしこのまま本丸行く?]

「お前ら対面してるんだから会話で話せよ……」

「ユリクリウスもチャットで良いんじゃない?グループ全体に話は伝わるし」

 

相手を追いかけようとしたところで、中央を制圧したこちらの中央組が到着。シャルルさんに連絡を入れると、両翼ではまだ戦闘が始まってないようなのでそのまま中央を突っ切って相手の本丸を占領しろとの指示が。この面子で、中央を制圧しているなら負ける気はしないな。

 

しばらく北上を続けると、敵の本拠地付近で上手く撤退した十六夜白夜さんとティルノさんに加え、レミリャさんとアリスドールさんが出て来るけど相手は4人でこちらは5人。しかもこちら側は1鯖の最高戦力達。勝ったな。

 

「何よその技!えっ……」

 

敵の鯖リーダーであるレミリャさんのHPを、半分ぐらい一瞬で消し飛ばしたユリクリウスは色々とヤバイ。あの人も一応カチ勢なんですけど。9スロまで拡張しているナイト/ソードマンで防御の数値だけなら自分より上なんですけど。その後もゼルさんとユリクリウスが攻撃を加え、鯖リーダーを討ち取れたことでポイントは一気にこちらに傾くけどもう関係ないな。

 

ラストはライトさんが本丸のHPを速攻で削り切って勝利。課金勢を廃課金勢が蹂躙した構図である。あまりにも早期の決着にシャルルさんは苦笑していた。まあこれは特攻係の自分に抑え込まれた敵中央組が悪い。あそこで自分を削り切れていれば、中央はその後4対6+2の戦いだったし。

 

……いやまあその構図になったとして、中央をこちらが制圧しているということはこちらに攻撃力10%バフと相手に攻撃力-10%のデバフが入るから結局こちらが勝ってそうか。特攻係は一瞬で爆発四散する場合もあるし、その場合は全く活躍出来ないけど、今回のように敵中央組の数が少なければわりと生き残る。

 

[クロワッサン:中央組が7人居たら死んでた]

[ユリクリウス:6対1で勝ててるのは流石におかしい。というか2対1で結構きつくないか?]

[ゼル:敵の特攻役が2人の時の絶望感は異常。でも2対1だとここにいる面子なら勝てる人も多いと思うよ?]

[クロワッサン:今回相手に十六夜白夜さん居たのはきつかった]

[ユリクリウス:十六夜レベルが2人いたら1人で勝つのはマジで無理だな。いや、今なら行けるか……?]

[黒猫:何も戦闘してないんだが。移動しただけで終わったとか超消化不良気味なんだが。あとで誰かPVPしてくれ]

[ふわわ:チムマスを合法的にボコれると聞いてノ]

 

チームチャットの方では消化不良気味の人達がPVPをやるそうだけど、中央組は普通に戦闘したし蹂躙できたので満足しているのか全員不参加。他鯖の動向を見ていると、同じように1000対0で勝っているのは5つの鯖だけ。それ以外は結構良い勝負のところもあったようだし、サービス終了前と今とで結構鯖戦力も変わってそうだから情報は集めておくか。



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第16話 報酬

[黒猫:こっちの報酬はゲームと変わらず特殊能力追加成功確率+20%と+10%か]

[ゼル:10%は999個あるけど20%は貴重だし今の世界だと超ありがたい]

[黒猫:そう言えばこの世界来てから装備強化した奴おる……?]

[クロワッサン:まず素材を用意するのに1000万ゴールド必要です(ゲーム時)]

[ユリクリウス:最終素材を用意するのに1億ゴールドは必要です(ゲーム時)]

[ふわわ:最終素材を10個用意します(ゲーム時)]

[ゼル:ラストの成功確率は5.6%です(ゲーム時)。出来るかボケェ]

[黒猫:今から真面目にやってもスロット6ぐらいまでしか拡張出来なさそうだな]

 

鯖対抗戦が終わり、報酬が配布されるけど出場者には特殊能力追加成功確率+20%が、勝利サーバーの人全員には特殊能力追加成功確率+10%が配布される。+20%は超優秀です。課金かここぐらいでしか入手できないやつだし、そりゃ勝ちに拘るわというアイテム。まあTA上位30位以内の報酬としての役割も兼ねているから、有用なアイテムを配るわな。

 

これ、この世界でも装備の強化更新していけってことか……?もう能力自体は完成しているから多額のゴールド払って移植することしかやらんぞ自分は。でもまあ、将来性のありそうな人に売ることや渡すことは出来る。もし新しく有用な特殊能力とかが出て来たら……その時はその時で考えよう。

 

[ユリクリウス:ゆうしゃちゃん届いてる!]

[クロワッサン:起動シーンはちゃんと動画撮っとけよ]

[黒猫:ロリっ子勇者は思考が天才]

[ふわわ:ロリっ子魔王も良かったし楽しみ]

[ゼル:添い寝したいする入室許可出せ]

[ユリクリウス:今日は誰も入れないからな【ゆうしゃちゃんの眠っている顔写真】]

[黒猫:ふおおおおおおおおおおおおおおおお]

[クロワッサン:おおおおおおおおおおおおおお]

[ふわわ:良いね!その服めっちゃ似合ってる!]

 

鯖対抗戦が終わってマイルームに戻ったらユリクリウスには2体目のサポートロイドが届いたようだけど、めっちゃ可愛い。よくあるRPGの女勇者をロリロリさせている感じで、髪は緑髪にしているのね。自分が渡した『ゆるふわロングS:アホ毛付き』が美麗な顔立ちに似合っている。眼は『レッドサンアイ2』だから赤色。拘ってるなー。

 

……あれ?TAの日には注文してたよな?それから鯖対抗戦の日までは3日の期間がある。もしユリクリウスがシウラさんから特別許可証を貰っていたら、これは1日で届いていたはずだ。それが3日もかかったということは、ユリクリウスの注文が難しいものだったのか、ユリクリウスが特別許可証を貰ってないかのどちらか。

 

……これは、気軽に話題に出したらダメそうな奴だな。ユリクリウスに特別許可証が渡されていないなら、ユリクリウス以下の評価をされた人に渡されたとは考え辛い。となると、ライトさんと7鯖のモルモットさんと自分の3人だけか?

 

というか発注から到着までの日数を冷静に考えられたら自分がやけに早いことは分かる。頼む、誰も気づくな。

 

[ユリクリウス:あれ?そう言えばチョココロネって何日で届いたの?]

[クロワッサン:コロネは2日ぐらいだったか?詳しくは覚えてねーな]

[ユリクリウス:発注履歴あるでしょ。画像の保存日時と照らし合わせたら分かるよ]

[クロワッサン:……言いたくねえ]

[ユリクリウス:ん、隠しておいた方が良い事か。了解。チームメンバーは気付いてないし、気にしないようにする]

 

[黒猫:お前の時、やたら発注から到着まで早かったけど何かあった?アブダクション生還時にお前だけ優先券みたいなの貰った感じか?]

[クロワッサン:あまり触れて欲しくない部分だから気にしないでくれ]

[黒猫:はいよ。チームの奴らは気付いてなさそうだし流すわ]

 

[ゼル:コロネちゃんって発注から到着まで1日なかったような気がするけどあれ何で?]

[クロワッサン:お前らエスパーかよ……。ちょっと訳ありだから気にしないで欲しいかな]

[ゼル:もしかしてプレイヤーとか?まあクロワッサンがそういうなら気にしないでおくー]

 

[ふわわ:追加料金システムどこです?届くまで3日かかるのに1日で届いたってことは優先権どこかに売ってますよね?ちょっと注文ページに見当たらないです]

[クロワッサン:お前はサポートロイド3人いるでしょうが!というか分かった。もう隠さないことにするからチームチャットの方で話す]

 

しかし現実は無情で、かなりの人数から個チャが来てしまっていたのでもうチームチャットで話すしかなくなる。こいつら何で全員察しが良いんだよ。しかも深掘りはしないようにしようとする良い人達だしここまで気付かれているなら隠し事はしたくねえ。

 

[クロワッサン:あー、シウラさんから特別許可証ってアイテム貰った。それで自分はサポートロイドの納品が早かったんだ]

[黒猫:マジか]

[ユリクリウス:プロフェッショナル的な?]

[ゼル:個人面談の時?]

[クロワッサン:そう個人面談の時にサポートロイドのコッペパンが受け取った。何か色々と優先的に手配してくれるらしい]

[ふわわ:どういう優遇措置があります?]

[クロワッサン:詳しくは聞いてないけどシャドウの拠点探索は許可貰ってる]

[黒猫:いやそれは知ってる。それを隠す気ならブラッドさんに会ったこと個チャで喋るなよ]

[クロワッサン:……( ゚д゚)ハッ!

いや黒猫以外には言ってなかったし]

[黒猫:そこに気付いてなかったとかポンコツか……?]

[コッペパン:優遇措置についてご説明いたします。

まず最初に、全クエストの受注許可、武器強化時のゴールド割引。各種ドーピング剤の割引等です]

[ゼル:ゴールド割引って特殊能力追加の方も!?]

[コッペパン:いえ、強化だけです]

 

チームチャットの方で特別許可証について白状すると、コッペパンが特別許可証の解説をし始めた。そしてこの反応だと、たぶん自分以外に貰った人はいないのか……?耐久力での判断とかならそりゃ自分一人になるだろうけど、そこで判断するか……?

 

[コッペパン:それに加え、あらゆる製品についてネット注文時に優先的な手配、配送を行います。これは地球組では今のところマスターとモルモット様しか持っていない特権です]

[クロワッサン:え?ライトさんも持ってないの?]

[ゼル:まあ、クロワッサンが全鯖で見ても死にそうにない人間ではトップでしょ。いわゆる戦力として数えられた1人ってことじゃないの?元々ゲームではシアリー自体が特権階級みたいなものだったし]

[黒猫:条件等はまたシウラさんに聞いて来るか。……モルモットはアブダクション生還組だが、何を拾ったんだ?]

[ふわわ:7鯖にもフレンドいるけどモルモットさんはマジで何があったか分からないね。ただレベルが140に到達してるらしい]

[クロワッサン:うわ、自分でもまだ135到達してないのに?]

[ユリクリウス:1鯖のトッププレイヤー達でも130台前半だし他鯖のトップは130に満たない人も多いんだぞ……?]

[黒猫:なんかあるのは確定だな。経験値入手率アップとか、そういうものの可能性も高い。何せ3鯖のアクアが獲得した豪運は、レアアイテムを入手しやすくなる能力みたいだし]

[クロワッサン:は?]

[ビートル:は?]

[ゼル:はぁ?]

[ふわわ:マジ?]

[ABC:!?]

[時雨:( ゚Д゚)ハァ?]

[ユリクリウス:はあ?]

[ハル:はあああ?]

[ジョーカー:ニア殺してでもうばいとる]

 

今のところ、1鯖では自分に与えられた特権とのことだけど素直に喜べないな。これでチームの人達から悪感情持たれたら嫌だよ……。あと、モルモットさんがレベリングに励んでいるようだけど情報の露出が少ないようで謎。まあ少なくとも、シャドウの拠点でレベリングしてそうなことは分かるな。

 

あの人もカチだっけ……?いや、普通に火力も耐久も振ってる模範的な課金勢という印象しかないな。8鯖とは違って、7鯖はあまり鯖対抗戦やチーム対抗戦でも当たってないしどういうランカーがいたのかもあまり覚えてない。興味のない、強くもない他鯖の情報までしっかり調べていた人は少ないだろう。

 

『エマージェンシークエスト発生!タキオン船団内部にシャドウが侵入!居住区に大量発生しています!対象船団は21から30です!』

 

どういう条件だったのか考えていると、エマージェンシークエストが発生。この世界になってから2回目だけど、こんなエマージェンシークエスト無かったぞ!?シャドウが侵入ってどういうことだよ。これ本当に大いなる闇が復活していないんだろうな!?

 

『船団1と船団11の救援対象は船団番号21です!至急救援に向かって下さい!』

 

すぐに指示が出るけど、推奨レベルとか何もねえ!何があるか分からないからユリクリウスとパーティーを組み、一番侵攻の激しい箇所に転送して貰う。……タキオン船団は、戦闘員シアリー以外にも多くの人が乗っている。居住区がその中にあることは設定集か何かで見た気がするけど、船の天井に屋上がくっついているような、ビル群みたいな感じなのか。

 

なんか普通に日常生活を送っているような感じの中に、シャドウの群れが侵入してきて現場はパニックみたいになってる。ヤバイ、こんな状況で戦えるのか!?

 

「行くぞ!」

「おう!……って、あれ?」

 

前方で普通の人がシャドウに襲われていたため、慌ててシャドウの方へ攻撃をすると、吹っ飛ぶシャドウ。よく見るとレベル5だ。これで市民は大パニックになるのか。いや、よく考えれば魔力を使える極一部の人間が厳しい訓練を経てレベル5だったな。うーん、これは初心者や中級者に狩るのを譲った方が良いか?

 

いや、市民にとってはレベル5だろうがレベル100だろうが脅威には違わないし救援を続けるか。ひたすら船団の内部に入り込んだシャドウを狩り続け、1時間ほどで根絶が確認出来たため帰還。強敵とか何も出て来なかったし当然経験値なんて雀の涙の方がまだあるレベルで少ないだろう。経験値バーが見えないから何とも言えないけど、これでレベルが上がったらびっくりだわ。

 

……ただこれ、タキオン船団の一番守りの厚いところに侵入されたというわけで、シャドウがヤバくなっているのかこちらの防御が手薄になっているのかは分からない。もしかしたらストーリーのように裏切り者が出て来るのかもしれないし、突発的なエマージェンシークエストが発生しても大丈夫なようにはしておかないといけないか。いざうちの船団に侵入された時、レベリングで疲れて戦えませんじゃシャレにならないしな。



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第17話 温泉

鯖対抗戦の翌日。寝ていたら幼女の声が聞こえてくる。自分のサポートロイドのコッペパンの声だ。

 

「マスター、そろそろ起きて下さい。今日はユリクリウス様のマイルームに行く予定の日ですよ」

「あと30分……」

「……はい、ぎゅー」

 

化け物みたいなスペックの身体になっても、寝起きに弱いことは変わらない。なおコッペパンに抱きしめられるとすぐに眼が覚める模様。しばらくコッペパンからのハグの感触を味わっていると、徐々に締め付ける力が強くなってくるので流石に眼を覚まして起き上がる。

 

一応この子もレベル125まで上がってるからね。まあ幼いロリっ子にさば折りされるのも良いかも……いや良くない。なんかもう色々と手遅れな気はするがその一線は越えたくない。

 

「……おはよう」

「おはようございます。既に食事の用意は出来ていますよ」

 

起き上がって、コロネの作ってくれた朝食を食べる。配給された完全栄養食とか色々と選択肢はあるけど、普通に米や肉も売っているので何パターンか朝食を登録しておいて、それをランダムに出して貰うことにしている。結構なゴールドはかかるけど特別許可証のお蔭で割引価格。特権階級万歳。

 

まあ、120レべのシアリーだった人は稼ぐ額が尋常じゃないから食料品の割引なんて誤差みたいなものだけど。今日の朝食は色んな果物が入ったグラノーラのようなもの。コロネの手作りである。サポートロイドの調理スキル、基本的にはカンストしているみたいだから安心して台所を任せられるのは良い。

 

[クロワッサン:コッペパンとコロネも連れていって良いか?]

[ユリクリウス:もち。何のために混浴にしたと思っているんだ]

[クロワッサン:あれ?男性用女性用に分けてなかった?混浴にしたのか]

[ユリクリウス:まあサポートロイドと一緒に温泉入りたいし、スペースを大きくしたかったからな]

[クロワッサン:お、欲望隠さなくなってきたな]

 

朝食を食べ終えたらユリクリウスに個チャを入れ、支度をしてユリクリウスのマイルームに移動。コッペパンとコロネも一緒に来て良いとのことだったので、3人でパーティーを組み、マイルームへ移動するとコッペパンとコロネもついて来る。ちょっとここら辺は、ゲームの仕様と変わってるな。まあ現実にいるから当然なんだけど。

 

「ちわす」

「お、来た来た。ユリクリウスとサタンちゃんとゆうしゃちゃんは温泉入ってるわよ」

「……ふわわさん水着っすか。というか男性になったんだから他人のサポートロイドをじっくり見るのはもう犯罪クラスですよ?」

「良いじゃない別に。はー、うちの子達の水着姿可愛いわー」

 

ユリクリウスのマイルームに行くと、既にふわわさんが来ていて自分と同じように連れて来たサポートロイド3人の水着着せ替えをしていた。そういうのは来る前に自分のマイルームでやってくれ。

 

ふわわさんのサポートロイドはリンゴ、ミカン、モモの3人。それぞれ果物の色の髪色をしているので分かりやすく、覚えやすい。ロリ巨乳撲滅委員会所属のため全員貧乳というかぺったんこ。絶壁だけどロリなのでそれが普通である。むしろコッペパンやコロネのような巨乳の方がおかしい。

 

ふわわさん自身は「近くの銭湯で時たま来る幼女の髪の毛を洗ってあげることが趣味」と言い張るれっきとした変態。おまわりさんこいつですと言いたいところだが自称婦警。こいつおまわりさんです。

 

というかシアリーが宇宙の警察みたいな存在だから、幼女同盟のメンバーも全員警察ということ……?

 

「クロワッサンも来たか。

……何でバスタオル(女性用)を付けているんだ?」

「まあ男性用だと上半身裸だし。この格好で上半身裸はR18になってしまう」

「……本当についてる?」

「いやその目付きどうにかしろやイケメンフェイスだから怖いんじゃ」

 

そういえばこの場にいるのは、全員今は男性か。幼女同盟に所属しているのはこの3人以外全員女性で、ゼルさん以外は元男のはずだからTSしたのは16人だな。8割ネカマのチームだったけどこのゲームの男女比的にはどこのチームもそんな感じになるんじゃない?

 

「師匠、そちらがクロワッサン様ですか?」

「お、素体クールタイプに愛称設定師匠は面白い」

「だろ?ついでにサタンちゃんとライバル設定にしたから色々と張り合ってる」

「レベルは当然1だからロリ魔王120レべvsロリ勇者1レべの構図ね。……こういうコンセプトものも良いわね」

「ふわわ様、いけません。他の人のサポートロイドの胸を触るのはいけません」

 

ユリクリウスの2体目のサポートロイドのゆうしゃちゃんを写真ではなくリアルで見ることになったが、まあ可愛い。ロリコンが本気でロリ作ってるわけだから可愛くならないわけないけど。

 

ふわわさんがゆうしゃちゃんの慎ましい胸に手を伸ばそうとするが、サポートロイドのリンゴが横から手を伸ばし、ふわわさんの腕を掴んで手の動きを静止させる。リンゴはよくやった。流石に胸触りにいくのは女でもアウトだよ。そして今は男だから通報出来るよ。

 

「そうよね、今は男だもんね……サポートロイドのみんな、これからは私がヤバイ行動とりそうになったら攻撃してでも良いから止めてね」

「その前に自力で止めろ。

さて、じゃあ自分達も温泉入るわ。サポートロイドの衣装もバスタオル女性用にしてと……」

「コロネちゃんのバスタオル姿可愛い!ねえ、髪洗ってふごぉふぉ」

「いい加減にして下さいふわわ様。……ふわわ様?」

「ああ……ふわわさんこれは人生初金的を受けたな」

「他人のサポートロイドに手を出そうとする方が悪い。まあこっち来てから作ったサポートロイドの方が完成度高くなるから手を伸ばしたくなる気持ちは分かるけど……サタンちゃんもちょっと修正しようかなー」

 

そろそろ風呂でも入ろうかと思って、コッペパンとコロネもバスタオル姿にしたところでふわわさんがコロネに飛び掛かり、リンゴから金的を受ける。これふわわさんにとって人生初金的か。見ているこっちもちょっと冷や汗掻いた。

 

その後は最初に入ったマイルームの右側の扉を開け、温泉宿風に改築した部屋を探索する。きちんと入り口には男性用暖簾と女性用暖簾があるのに中へ入ったら貫通してて分けられてないとかこれ意味あるのか?

 

そして大きなパネルの仕切りの向こう側には、大きな浴場が4つ組み合わせられている。この浴場、地味に高いんだよな。ゲーム時代では1つで300万ゴールドぐらいした。なお今は1000万ゴールドの模様。値上がりをし続けている家具の1つである。

 

しかしフレーバーテキストで『宇宙の最新技術で作られた大浴場。常に清潔なお湯が出続けており、いつ入っても一番風呂』とか書かれてあると元日本人として買いたくなる気持ちは分かる。

 

また大浴場の横にはジェットバスとか金色の浴槽とかも並べられていて、結構な数の家具を揃えていたことが分かる。ユリクリウスは自分よりも課金していたしな。ここら辺の家具は余りまくってそう。

 

「ではマスター、お背中をお流しします」

「……よろしくお願いします」

 

まずはコッペパンとコロネが身体を洗ってくれるけど、もうそういうお店に来た気分である。いや2人とも胸を大きく設定したから普通に当たるし、向こうにいかがわしいことをする気が全くないというのが余計にこう……来るものがある。

 

「うう……まだジンジンする……」

「お、生き返った。

というかふわわさんも水着かい。バスタオルは?」

「もってない」

「……バスタオル(男性用)渡しておくわ」

「女性用はない?」

「3個しかない」

 

身体を洗い終わって大きな浴場に入るのと同時に、生き返ったふわわさんと、ふわわさんのサポートロイドのリンゴ、ミカン、モモの3人が大浴場に入って来た。これで7人だけど、スペースにはまだまだ全然余裕ある。マイルームの大きな部屋は、とても広いし電話ボックスみたいなシャワールームも何台も置ける。シャワールームと洗面台が並んでいるのはちょっとシュール。

 

温泉に浸かってのんびりしていたら、ユリクリウスがバスタオル姿でアイスを持って入って来た。そしてアイスを持ったまま温泉にどぼん。ついでに大浴場の隣にコンビニとかでよく見るアイスケースを設置。おう世界観ぶち壊すなや。

 

「いやアイスケース置いても良いだろ。ゴールド払うなら中の奴は何でも食べて良いぞ」

「あれこれ食べたらなくなるの?」

「他の食べ物系家具と一緒。食べたら無くなってゴールド払ったら補填される」

「いやまだ食べ物系家具食べたことなかったから……」

 

しかしせっかくなのでアイスケースからシャーベットを拝借。1個300ゴールドとのことなので若干高いか?コッペパンとコロネにも食べさせ、他人とのゴールド取引の最低価格が1000ゴールドからなので特殊能力追加+10%を2000ゴールドで買い、1000ゴールドで売る。

 

ユリクリウスは、現実で金のやり取りだけはキッチリしていた。まあゲームの中ではわりと気前良かったけど、ゲームが現実になったらこうなるか。この取引だとこっちが損するけど、たかが100ゴールドだし入浴料ってことで押し付けた。律儀なところもあるから学生時代、それなりの数の女性が興味を持っていた気がする。なお中身はガチオタロリコン。

 

サタンちゃんとゆうしゃちゃんも大きな浴場に入って来たけど、サタンちゃんがコッペパンと同じく限界サイズの巨大な胸を持っているのに対し、ゆうしゃちゃんは慎ましい感じでほぼ皆無。良い趣味してるわ本当に。仲良くしたそうなサタンちゃんと、キッと睨むゆうしゃちゃんの構図というだけでスクショを何枚も撮れるな。きちんとユリクリウスから撮影許可は貰ったし、ひたすら撮るか。

 

[黒猫:ユリクリウスのマイルーム着いたぞー]

[ユリクリウス:入って右のマイルームが大浴場だ]

[白猫:水着で入ってもよろしかったでしょうか……?]

[ユリクリウス:大丈夫だよ]

 

のんびりしていたら黒猫と黒猫のサポートロイドの白猫が入って来るけど、白猫は黒猫の2Pカラーだ。通常、サポートロイドの方が全体的にワンサイズ小さいけど、黒猫は自キャラの身長を低くして、白猫の身長を高くすることで身長差を無くしているから双子みたい。ついでに黒猫が白髪白眼なのに対して白猫は黒髪黒眼なのは性格がひねくれている。

 

しかしまあ、女が多い世界だ。キャラの比率の時点で男性2割、女性8割だから仕方ないけど……サポートロイドも含めれば、男性1割かもしれないな。今のところ、地球組同士以外の交流はほとんどないし、将来のことを考えたらちょっと心配になって来た。そもそも、真っ当な将来があるのかも分からないけど。



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第18話 方針転換

[黒猫:個チャがうぜええええええええ]

[白猫:発狂しないで下さい駄マスター。一緒にお祈りメール出していきますよ]

[黒猫:何で愛称設定がマスターから駄マスターに変えられてるん……?しかも変更出来んし……?]

[白猫:愛ゆえです]

[ふわわ:最近私も様付けとれた。距離が近くなったぜヾ(*´∀`*)ノ ]

[ユリクリウス:それは流石にポジティブ思考が過ぎる]

[クロワッサン:何で個チャ?しつこいやつならブラックリスト入れたら?]

[黒猫:いや、そうじゃない……]

[白猫:現在幼女同盟への加入申請数は800を超えており、駄マスターが一件ずつお断りメール書いているために間に合わない事態に陥っております]

[クロワッサン:あー、それで返事が遅れてるから個チャが入ると。一斉拒否って出来なかったっけ?]

[黒猫:いや一斉拒否で本来入れるはずの逸材逃したら嫌じゃん……]

[ゼル:チームメンバー増やさない方針にしたんじゃ?]

[黒猫:いやそれなんだけどさ、既存チームに枠があればそこに入れろってシャルルさんから号令出た]

[ユリクリウス:……じゃあどういう基準で入れるの?]

[ABC:もちろん第一判断基準はロリコンか否か。マルマルさんの例もあるし、ロリコンじゃない人は入れない]

 

2回目のエマージェンシークエストが終わり、特に被害者もないという素晴らしい結果ではあったのだが、今回のエマージェンシークエストを受けてふおにの森方針が変わり、他の上位プレイヤーも育成手伝えやというモードに入ったらしい。まあ分からんでもないがそもそも育てる必要があるのかという点は疑問。

 

2回目のエマージェンシークエストが終わってから3日後には、チームの空きを埋めろとの指示が。チームに入れても育てる気がないチームとかとふおにの森とで軋轢が出来そうだが、とりあえずチームの泉を使わせてくれということらしい。仕方がないので現在のチームメンバーだけのグループチャットを作成。これでチームチャットの方は問題発言しかないという状態から脱せるだろう。

 

「黒猫:まあうちのチームの泉は全部最大レベルだし、受け入れるだけで80人がこれを利用できるとなると勿体ない状態ではあったんだが……」

[ユリクリウス:何かあったのか?]

[黒猫:シウラさんが各鯖の1位チームのリーダーと俺を集めて低レベル層の引き上げを依頼してきた。最悪養殖でも良いんだとさ]

[ゼル:……何か企んでいるのか、マジで戦力足りてないかのどっちかだね。そもそも何レべまで上げれば良いのさ]

[黒猫:……200レべ以上]

[クロワッサン:はあ!?]

 

何か方針転換でもあったのかなと思ったが、どうやらシウラさんが動いた模様。200レべ以上って、1鯖のトップ勢が130台前半なのにすぐ届くわけないでしょうが。これはどうやら、思っていた以上に自分達がお荷物だったようだ。

 

……ということは、自分達も養殖されている感じなのか。レベルの低いシャドウの狩場を用意されて、そこでのレベリングをしているのだから、配慮されているのかな。設定的にはシャドウの生体エネルギーを強奪してるとか何とかあったけど、レベルの概念どうなっているんだ。

 

[クロワッサン:いやまって、地球組以外のタキオン船団のシアリーを見たことあるけど130レべ台だったよ]

[黒猫:いや、そいつらは最大レベルがそこで止まってしまったシアリーの落ちこぼれらしい。作られた身体の俺達なら200レべを余裕で超えるってさ]

[時雨:……だんだん話が見えて来たね。落ちこぼれじゃないシアリー達は、もはや四六時中シャドウ達と戦っているんだ]

[黒猫:そうだな。正確にはシャドウの本拠地を攻め続けて防衛している感じか。

だいぶ俺達もシアリーとしての生活に慣れてきただろうということで色々と事情は説明された]

[ゼル:あー、攻撃し続けることで侵攻をさせない的な?でもそれが出来ているなら急速な戦力増強は必要ない気も……]

[ユリクリウス:大いなる闇が封印状態でそれってことだろ。爆発するのが明らかならそりゃシウラさんも慌てる]

 

シャドウの拠点の侵攻クエストを受ける際は、クエスト受注カウンターで口頭のやりとりをしていたけど、もし一覧みたいなのを貰っていたら本拠地侵攻クエストとかもあったのかな。なお地獄への片道切符の模様。もうちょっとレベルは上がらないと足手纏いにしかならなさそう。

 

この前のは大したことなかったけど、よく考えたらシャドウがこちらの本拠地に転移できるという時点で転移してくるシャドウの数が増えたら詰む。戦える人の数自体を増やしていく作業は必須か。

 

「コッペパン、今までにシャドウに捕らえられたシアリーは何人いるか、大体で良いから分かるか?」

「どうして、私に聞くのですか?」

「いやだって、サポートロイドって地球組のシアリーの監視役でしょ?カンスト勢にダメージ入るし、戦闘技能高いし。だから、ちゃんと聞けば答えてくれるかなって」

「……ここ10年でシアリーの訓練任務を修了した者は約67万人。その内、シャドウとの戦闘で死んだ者や攫われた者、行方不明になった者の総計は約58万人で、生き残っているシアリーは9万人ほどです」

「よくそれで……いや、だから地球組に遠隔操作させてた?何にせよ、余裕はないわけか」

 

そしてPVPのイベントがやたらと多い理由は分かった。実際にそうなる可能性が高いからだ。シャドウの拠点で未帰還だったブラッドさんは、キャラがほぼ全身真っ黒な亡霊として出て来た。装備は一線級だったし、動きもブラッドさん本人の動きだったからまあ、シャドウと戦うなら亡霊と戦う可能性もあるわけだ。

 

というかアブダクションで死んだトッププレイヤーは27組46人と多いし亡霊は何度も出て来る可能性がゲームではあったから次第にPVPだらけになるのだろうか。リソースが回復しない戦争ゲーをやっている気分だ……。

 

[一時休戦:よろしくお願いします]

[キング:よろしくお願いします]

[ネギトロサーモン:よろしくお願いします]

「黒猫:分からないこととかあったらどんどん質問してくれー」

[もぎしゃ:よろしくお願いします]

[クチリ:ロリコンです!よろしくお願いします!]

[ゼル:初心者です!よろしくお願いします!]

[ユリクリウス:初心者(131レべ)やめい]

 

チームの方はとりあえず黒猫さんが選別した20人が一気に加入。「よろしくお願いします祭り」が始まる。何故か元からチームメンバーの人達が初心者のフリをして挨拶しているけど、新加入メンバーからはスルーされ気味である。案の定、継続的にチャットに顔出す人は少ないし新入り勢でチームチャットに顔出すのクチリさんとキングさんだけだな。

 

[ふわわ:クチリさんテイマーなんだヽ(*・ᗜ・)人(・ᗜ・* )ノ ナカーマ]

[黒猫:テイマーだけ120レべっていうのも珍しい]

[クチリ:経験値の飴が倉庫に大量にあったので食べまくりましたwwww]

[ユリクリウス:ログイン勢偉い]

[クロワッサン:30日毎にログイン勢したら飴が大量に貰えるとか何とか]

[キング:1か月に1度だけでもログインしておけば……]

[ゼル:キングさん何レべー?]

[キング:まだ33レべです]

[ABC:でもロリコンならOKです]

[ゼル:全員ロリコンなのを認めたチームなのヤバくない?]

[クロワッサン:入って来た人のファッション確認したけど全員女の子です]

[黒猫:ユリクリウス1人しか男がいない状態なのは極力変えないようにしよう]

[ふわわ:?]

[クロワッサン:?????]

 

「チームチャットの方は新加入メンバーのために真面目な場にしよう」と話し合いしていたのはどこに行ったのか、数日で新規加入メンバー数人+元からのチームメンバーによる猥談に戻る。大真面目にロリは何歳からか談義するんじゃないよ。自身の年齢の半分以下はガチとか基準作ってるんじゃないよ。

 

[ユリクリウス:ちょいシャドウの拠点でレベリングしてくる]

[クロワッサン:脅威度中だと一気にレベル上がって150超えるから注意な]

[黒猫:おい待てその報告聞いてないんだが]

[ユリクリウス:了解。脅威度中行ってきまーす]

[ゼル:150かー。ちょっとまだ辛いかも]

[ABC:ペロったら死ぬの分かってる……?というかユリクリウスはともかくゼルは許可されないと思うよ……?]

[クロワッサン:そこら辺の線引きってシウラさんが決めてる?]

[黒猫:大体シウラさん。一部はシャルルさんだな]

 

ユリクリウスは135レべになった時点でシウラさんから特別許可証が出た。流石に200レべの跋扈する本拠地の方にはまだ行きたくないようだけど、150レべがいるぞって言ってるのに行こうとする辺り脳筋である。一応パーティーを組んでいくと、二刀流の技で敵が溶けていくのめっちゃ面白い。やっぱ耐久より火力なんだよなあ。

 

しかし、1発でも攻撃を食らうと結構なHPを持って行かれるユリクリウス。一方で150レべの敵だろうが雑魚敵の攻撃は全部1ダメの自キャラ。やっぱ火力より耐久なんだよなあ。

 

[ゼル:ちぇー。私は140レべまで脅威度中は駄目だって]

[ABC:武器枠増えてないからユリクリウスみたいに耐久増えてないし、耐久寄りのキャスターメイジって言ってもキャスターメイジの中ではマシなだけで紙装甲じゃん……]

[クロワッサン:あ、やっぱり判断基準そこ?死ななければ一応回復アイテムはあるし、HP吸収装備で多段ヒットとかでも何とかなるしね]

[ゼル:しょうがないから経験値ハイブーストクエストのチケットで50連してくるにゃあ]

[ユリクリウス:それ期限切れてる奴50枚か?元からもってるやつなら使えないぞ?]

[ゼル:違うよ?初心者相手に片っ端から装備で釣ってトレードして来た]

[クロワッサン:え、あれトレード出来るの?]

[時雨:そこら辺のアイテムは出品は出来ないけどトレードは可能になってるね。相場は1枚150万ゴールドぐらいだよ]

 

しばらく2人で狩っていると、あっという間に140レべまで上げて来たゼルさんがパーティーに参加。やっぱ1鯖のトップ勢は『自分が最強』みたいな思考の人が多いし、課金要素が無くなったはずなのにレベリングも早い。幼女同盟は、ふおにの森みたいな堅苦しい雰囲気じゃなければ慎重でもない。それはゲームが現実になった今危ういとは思うけど、出来れば人が増えてもチームの色は変わらないで欲しいな。



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第19話 2戦目

チーム対抗戦とサーバー対抗戦は、ゲームだと毎週交互に行われていた。毎週末のイベントって感じだったし、作業感もあったけど他鯖の人とPVPが出来るのは楽しい。ゲームの世界が現実となって3週間。2度目のチーム対抗戦の相手は7鯖の1位チームである花鳥風月。例のモルモットさんが所属しているチームだ。

 

チーム幼女同盟

リーダー:黒猫 128レべ/122レべ ガンナー/ナイト

サブリーダー:ABC 111レべ/101レべ テイマー/ガンナー

エース:ユリクリウス 140レべ/124レべ アサシン/ソードマン

サブエース:クロワッサン 143レべ/125レべ ソードマン/ナイト

アタッカー:ゼル 142レべ/125レべ キャスター/メイジ

アタッカー:ふわわ 136レべ/124レべ テイマー/メイジ

アタッカー:ジョーカー 129レべ/122 ゴースト/メイジ

アタッカー:ハル 130レべ/123レべ キャスター/メイジ

アタッカー:めう 138レべ/124レべ ボクサー/ソードマン

ディフェンダー:ビートル 131レべ/123レべ シューター/アーチャー

ディフェンダー:時雨 126レべ/122レべ ボクサー/ソードマン

ディフェンダー:クチリ 121レべ/109レべ テイマー/キャスト

 

サブクラスのレベルはメインのレベリングをしている途中でレベルアップをしていっているが、メインに据えないとレベルアップは遅いしいつかのタイミングで切り替えてレベリングをする必要があるな。しかしまあ、他鯖のMAXは135レべとかなのにうちのチームには140レべに到達している人が3人いるのか……。地味にめうさんもふわわさんもレベリング早い。

 

花鳥風月の方は、エースがモルモットさんになってて元エースのドラ田さんがサブエースに。恐らく7鯖での課金額が1位で、装備がスロット10の変態火力仕様のドラ田さんが135レべに到達しているのは違和感ない。だけどモルモットさんが150レべに到達してるとかどう見ても経験値入手に何らかの補正がかかっている。

 

ユリクリウスから見れば10レべ差で、このゲームの10レべ差はそこそこ大きい。振れるスキルポイントの差もあるし、基礎ステータスの差もある。ただまあ、二刀流とかいう反則級のスロットスキルで逆転出来るぐらいの差だ。

 

[黒猫:ユリクリウス、クロワッサン、ゼルでジェットストリームアタック決めてこい]

[ユリクリウス:150レべって何……?]

[ふわわ:獲得経験値2倍ぐらいになってそう]

[クロワッサン:通常のトップ層が1週間に5レべペースなのに1週間で10レべペースは頭おかしい]

[時雨:経験値量的には3倍でもおかしくないよ……?こっちも全員経験値ブースト使ってるでしょ……?]

[ABC:アクアさんの時はすぐに豪運と分かったのにモルモットさんの方はマジで分からないね。もしかしたら加速するスキルとかかもしれないし]

[クロワッサン:2倍速で動いて来るとかどうしようもないんですが。というかそれならいい加減情報入るはず……]

 

中央は自分とユリクリウスとゼルさんと新入りのクチリさんで構成されることになったので、ほぼ確実にこのメンバーでモルモットさんと相対することになるはず。

 

試合が始まったら、早速中央組は中央の拠点を制圧しに行くけど、花鳥風月の中央組と当然かち合う。あ、やっぱりモルモットさん中央組に居た。確か遠距離職のはずだから、ユリクリウスを護衛しながら前進だな。

 

「えっ!?」

「……いや、ソニックバレットは避けてよ」

 

数は4対5で、若干不利だなとか考えていたらモルモットさんの弾速が遅いソニックバレットが当たって一撃で落ちるクチリさん。まあ装備は全然だし一撃で落ちるのは仕方ない。けどその攻撃ぐらいは避けて欲しかった。

 

流石に溜めがあって、弾速が遅いほぼ対NPC用の技までは庇わんぞ。同時にドラ田さんからもユリクリウスへ攻撃来てたし。……ゼルさんがドラ田さんに攻撃をしかけるけど、ゼルさんはドラ田さんを相手にするので精いっぱいかな。廃課金勢は火力特化なのに耐久ある奴も多いから困る。

 

ということは、モルモットさん含め4人を自分とユリクリウスが相手するわけだ。そして相手中央組が全員遠距離職で固めているからどんどん攻撃が飛んでくる。

 

[クロワッサン:射撃攻撃のダメージ→1、2、1、1、15]

[ユリクリウス:これはカチ勢の鏡。お前を盾にしてるとチャット出来る余裕あるの良いわ]

[黒猫:そっち何人?上側は3人っぽい]

[ユリクリウス:4対5でクチリさんが速攻落ちた]

[クチリ:すいませんでした!前に出なければよかったです]

[クロワッサン:テイマーならペットを攻撃に行かせてユリクリウスの後ろいるだけでよかったと思うよ]

[ふわわ:下側4人っぽいのでこれで全員ですね]

 

しかし、自動回復量を上回るダメージが飛んでこない。まあ射撃攻撃は遠距離だとダメージ減衰があるし、今回はブラッドさんとの戦闘の時のように自分が攻撃しなくても良い。ついでに、相手に射撃職が多いこと自体は分かっていた。

 

だから、射撃防御特化用の武器を装備しておいた。

 

メイン武器:シールドソード+99

カテゴリ:ソード

近接攻撃:788

近接防御:199

射撃防御:199

魔法防御:199

スロット1:防弾の構え(射撃攻撃のダメージ20%減)

スロット2:逆境崩撃(被クリティカル率50%増、被クリティカルダメージ20%減)

スロット3:守勢増強(ガードスタイル時、各種防御数値を100UP)

スロット4:活力増幅(HPが多いほど能力を獲得する。HP500につき1個。全10個)

スロット5:ガーディアンソウル(HP100、MP10、全能力100UP)

スロット6:オールガードステアップⅩ(全防御能力100UP)

スロット7:ガードブースター(HP100、全防御能力100UP)

スロット8:HPタフネス(HP150UP)

スロット9:スタミナⅩ(HP100UP)

スロット10:射撃ガードⅩ(射撃防御100UP)

 

これを持ってると火力はもう全く出なくなるが、射撃攻撃からの盾としての機能は飛びぬけた性能となる。地味に強靭を取ったお蔭で、倉庫に眠ってたスキルの逆境崩撃が使えるようになったけどこれ強靭採用しているやつ以外で使っている人はいないだろうな……。

 

「ラッキーさんはゼルさんに攻撃!営業マンさんとマロンさんは右側から回り込んで!」

「口頭で指示出すのかよ。チームチャット使えよ」

「うるさい!変態カチ勢!」

「誉め言葉をありがとう」

 

向こうの攻撃がこちらに全く通用していないことをモルモットさんが確認すると、モルモットさんは即座に指示を出す。モルモットさん含め相手は4人いるけど、1人はドラ田さんと戦っているゼルさんに攻撃を開始し、2人は回り込むために移動を開始。お、これはチャンスだ。

 

こちらは回り込むように移動を開始した敵2人に向かって突撃。射撃職は基本、静止していると攻撃力が上昇したりMPの回復速度が早くなったり、とにかくずっと静止している時が一番手強い。しかし一方で、移動している時はそれほど強くない。命中率も悪くなるしね。

 

当然モルモットさんからの攻撃は飛んでくるけどわざわざシールドソードでガードしなくても100ダメ行かないという悲劇。1秒毎に100ダメが飛んでくるけど、こっちは1秒毎で100回復していくんだよなぁ。

 

移動していた2人からも攻撃は来るけど、ユリクリウスの耐久はそれなりにあるし移動中は命中率も悪い。急いで静止したところで、火力アップが発動するのは数秒先。その数秒の隙はユリクリウス相手だと致命的だ。

 

相変わらず謎な二刀流の技を使い、斬撃を飛ばすと2人のHPを一瞬で消し飛ばすユリクリウス。相手のレベルが130レべとユリクリウスより10レべ下だったとはいえ、一撃かい。一応相手もそれなりの課金勢だろうし、装備は自分と同じ防御重視のガーディアンセットだったのに……。

 

ゼルさんも応援に来た1人の方を倒し、ドラ田さん相手に五分。相手鯖ではトップのエースと殴り合える人材がうちのチームではただのアタッカーです。何かモルモットさんが悪足掻きに連射攻撃をして来たけど1秒間に20連射で20ダメってさっきの技よりDPS悪くなってる……。

 

と思ったら毒が入るけど状態異常時間はガードスタイルの効果で9割カットです。自分とユリクリウスの相手はモルモットさんしかいないので近づきながら攻撃をしつつ、ユリクリウスの攻撃でトドメ。ドラ田さんはモルモットさんが潰れたのを見てゼルさんに一か八かの攻撃を仕掛け自滅。

 

うーん、良い感じの戦いだったけどやっぱりこのカチ装備は反則臭い。特に今回のようなメタが嵌ると相手は何も出来ないわ。個人的にはオールマイティな耐久力を確保しつつも、ある程度の火力の確保ができるアカツキノヴァが一番だけど……。

 

[黒猫:ルインさんと一騎討ちしてたら逃走したんだがあいつ]

[ゼル:何でチームリーダー同士で一騎討ちしてるのwwww

あ、ドラ田さんに勝ちました。強かったねあの人]

[ユリクリウス:モルモットさんも倒したけどクロワッサンのせいで強さが何も分からなかった]

[クロワッサン:いやあの装備で1ダメにならずにダメージ通してきてたからモルモットさん強いよ。MAXで100ダメ入った]

[黒猫:あ、射撃メタ装備使ったな?あれを装備したクロワッサンとは戦いたくねぇ]

[ビートル:射撃メタ装備……ダメージ全部1……うっ、頭が]

 

ドラ田さん以外の人も強いイメージのチームだったけど、結果的には平押しで勝てたから幼女同盟の強さが分かる。まあ中央以外は数の不利も無かっただろうし、拠点の制圧を終わらせて敵チームリーダーのルインさんを討ち取って勝利。

 

……アイテムバッグにこの手のメタ装備は、ちゃんと全部突っ込んでおくか。倉庫に置いてたらいざという時に使えないし、ブラッドさんとの戦いみたいに急に必要になるかもしれないからちゃんと備えはしておこう。ただまあ火力は完全に捨てることになるから、悩みどころではあるんだよな。




書き溜めが尽きたので更新ペース落ちますすいません。


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第20話 レアスキル

ひたすらにシャドウの拠点でレベリングをする毎日だけど、一応これでもシャドウの総量は減っているみたいだから感謝されているようだ。まあタキオン船団に残ってる人でシアリーのなり手はもう少ないらしいし、地球組を大事に育てている……か?

 

個人的には今地球組の持っている装備が今シャドウの本拠地に攻め込んでいるシアリーの装備より優れているなら、売ったり譲ったりした方が良いと思ったが、どうやら現実だと装備は本人の魂と共鳴してスキルの効力を発揮するようなので難しいとか言われる。そう言えばシアリーの魔力とシャドウの魔力の衝突によってドロップ品に様々な特殊能力が付くみたいな設定ありましたね……。

 

[クロワッサン:……あれ?装備ってレア度50以上の出品もレア度90までならチケットあればいけたよな?]

[時雨:少しは市場見てね……?装備はレア度49以下しか出品が出来ないし、トレードも無理だったよ。スキル追加アイテムだけなら売れると思うけど]

[ユリクリウス:あと特殊能力移行出来なくなってる。二刀流が動かせない]

[クロワッサン:はあ?いやまあ完成品は当分移行させるつもりがなかったから良いけど、使い切りかよ]

[黒猫:ちなみに現状最高の技術で作った武器装備をゲームに実装していたそうだから更新はマジで当分ないだろうな]

[ふわわ:そんなことだろうとは思った。真面目にレベリングしていくしかないわね]

 

チームチャットで話しながら、シャドウの拠点でレベリングするのも慣れて来た。たまに事故要因であるボス敵は出るけど自分の場合はメカビートルの最終砲や戦艦を模したシャドウの艦砲射撃すら合計で500ダメージぐらいに収まるようになったのでシャドウの拠点ですら寝れる。

 

レベルが145になったところで、スキルポイントをオート回復薬使用の発動率と回復量アップに全振りする。ソードマンの超重要スキルであり、このスキルのためにソードマンをサブクラスにする人もいる。回復薬を自動で使ってくれる、モーションもなし、回復量UPと普通は取るスキルだ。

 

……普通は取るスキルなのだが、カチ勢的にはこれにスキルポイント振るぐらいなら他にもっと振るべきポイントがあるというスキルだ。そもそも普通のクエストならまず回復薬を使用する場面にすらならないし、最高難易度のエマージェンシークエストでも回復薬は1回使えば良い方。そのために貴重なスキルポイントを振るのは微妙。

 

あとは、火力極振りの人もこれに振るぐらいなら火力を取るという人がいた。流石に火力特化でもサブにソードマンを組み込むなら取るべきだと思うが、PSの高い人は取らない人も結構いる。

 

でもまあ、ゲームが現実になったなら振らないわけにはいかない。回復薬を持ち込めるのはゲームと同じく10個なので、まあ最悪10回はオートで回復するという意味だな。他の火力スキル取るよりかはこちらを取りたかった。

 

[黒猫:むしろ今まで何で振ってなかったし]

[クロワッサン:いやだって回復薬使うことがなかったし]

[ユリクリウス:回復薬ってソードマンのスキルがあれば3割回復までには回復量上がるから、クロワッサンを倒そうと思ったら実質HP24000ぐらいを削り切る必要あるのか……]

[クロワッサン:自身のHP100%と回復薬のHP回復300%を合わせたらそうなるな。まあ取って損はしないスキルだろ]

 

そろそろゲームの時の環境から変わっているだろうし、上位勢の構築はどんどん読めなくなってくる。レベルが上がると基礎ステータスは伸びるし、スキルポイントを獲得することが出来るから火力敷き詰めたクラス構成なら自分の防御力もぶち抜きそう。

 

現状、その可能性が最も高いのは武器のステータスを2個盛れるユリクリウスだけど、クリティカルダメージを伸ばしたせいでクリティカルにメタ張った自分との相性はイマイチ。次はクリティカル率を伸ばしてるしね。なおそのお蔭でNPC狩りはサクサクの模様。

 

[ユリクリウス:……やばい、何か出た]

[黒猫:ほう?]

[クロワッサン:ヤバイボスなら救援行くぞ]

[ゼル:あ、こいつまた何か取ったな?]

[ふわわ:どしたの?]

[ユリクリウス:スロット2スキル、二刀流の輝だって]

[クロワッサン:明らかに特定の人しか使えないスキルで草]

[黒猫:流石にズルい]

[ゼル:……白状します。スロット3スキルで魔撃無双というのを取りました。効果はMPバースト発動時に5秒無敵です]

[ふわわ:私もスロット1スキルで急速転換というスキル取ってます。効果はペットのHP吸収とHP譲渡です]

[クロワッサン:魔法職で無敵時間!?]

[黒猫:お前ら何でそんなにレアスキルとってんの?いつもの屑運どこ行った?]

 

いつも通りのレベリングの最中、ユリクリウスがまた何かレアスキルを拾ったようだけど、効果をチームチャットで言わないということは相当ヤバイスキルだな。そして何気にゼルさんもふわわさんもレアスキルっぽいスキルを拾ってる。なんかめっちゃ取り残されている気分だ。

 

[クロワッサン:効果何よ?]

[ユリクリウス:攻撃が連続して当たる度にダメージ5%アップ]

[クロワッサン:えなにそれは。上限は?]

[ユリクリウス:100%]

[クロワッサン:?????]

 

ユリクリウスに対して個チャで聞くと、思ってたよりもヤバイスキルを拾っていた。連続して攻撃を当てるとかいうぬるい条件で1発毎に5%ダメージ増加ってそれも反則級に強いスキルじゃん。しかも上限が30%なら似たようなクラススキルがあるから分かるけど、100%って2倍かい。

 

元々二刀流で手数が増えているから連続して攻撃は当たりやすいし、武器のステータスが諸に乗るから攻撃力も2倍。その上でダメージ2倍とかもうこいつ1人だけで良いんじゃないかな?案の定レベリングペースが倍速になったし倍の速さでシャドウを消し炭にしているのだろう。頭おかしいわあいつ。

 

しかしまあ、これだけチームメンバーがレアスキル拾っているならそろそろ自分のところにも何か来ないかな。火力特化型と比べて、ダメージ量は少ないから1体を倒す速度は遅い。だけどヘイト上昇スキルを駆使して多くの敵に囲まれては剣をブンブン振り回して多数の敵を一気に葬り去っている。レベリングのペースも敵を倒す速度も火力特化型と同等か、下手すれば早いぐらいだろう。火力特化型は命大事にしないといけないしね。

 

[クロワッサン:レアスキル拾ったぁ!]

[黒猫:マジ?本人に合ったスキルが落ちやすいっぽいけど防御系?]

[ユリクリウス:おめでとう!]

[ゼル:中身どんな効果ー?]

[ふわわ:その耐久力にレアスキルは駄目でしょ]

[クロワッサン:中身はスロットスキル1の厄災頑健です。……状態異常の時にHPが1%ずつ回復するって、これ元からあった?]

[ユリクリウス:元々ある奴だし珍しくない上、状態異常時間がガードスタイルって短くなかったっけ……?]

[黒猫:しかし一応区分はレアスキル。ご愁傷様]

[クロワッサン:そもそもHP吸収枠をスロット1には付けてるからあまり付け替えたくないっていう。HP吸収高いし在庫がねえ]

[時雨:HP吸収の価格は1億ゴールド超えているので付け替えは慎重に(*- -)]

 

とうとうレアスキルを拾ったと思ったら外れ枠。ネトゲあるあるだけど現実だとかなりがっくりする。そろそろHPを倍にするスキルとか出て来ても良いと思うんだけど出ないならちょっと引き籠ろう。

 

[ユリクリウス:椛さん出た]

[黒猫:椛さんの目撃情報2回目だな]

[ふわわ:椛ちゃん出たの!?どこ!?]

[クロワッサン:亡霊は見ない日は一度も見ないのに1人出て来たらワッと出て来る時があって辛い]

[ユリクリウス:ああでも椛さん120レべだ……装備も見れる……]

[クロワッサン:ユリクリウスは何レべまで上がった?]

[黒猫:装備が見れる?]

[ユリクリウス:143レべ。装備見れるけどスロット10の装備を身に付けてるしこの人つええ]

 

ユリクリウスのところにも椛さんの亡霊が出たようで、ユリクリウスはこの人つええとか言ってるけどチャット出来ている時点で余裕があるな。まあレベル差が20にもなるとかなりの差だから仕方ないけど、亡霊のレベルが上がらないというなら本人が洗脳されたというわけじゃなくてコピーとかなのか……?

 

ユリクリウスの言った場所が思ってたより近かったので現場に行くと、椛さん相手に見切りの練習をしているユリクリウスを発見。相変わらず命をbetしているはずなのにそうとは全く思えない行動をするよなこの馬鹿は。

 

……それにしても回避はもうゲームの時と同じというか、ゲームの時よりも回避技術が上がってるな。まあゲームだと回避が数パターンしかなかったけど、現実だともっと色んなパターンがあるし、ユリクリウスならどんどん最適化されていくか。

 

恐らく、倒すだけならあっという間に達成できるのだろう。チート級のスキルを2個も積んで負けるとは思えないし、連続攻撃を始めたら数撃で勝負はついてしまう。だけど椛さんの動きも良いから、可能な限り練習したいわけね。

 

しばらく観戦を続けると、次第にユリクリウスに攻撃が掠り始める。ユリクリウスが疲れて来たとか椛さんの攻撃の精度が上がったわけではなく、ユリクリウスが紙一重での回避を続けているからだ。たぶんあれ、どこまでならどういうダメージが入るのか検証もしているな。

 

[ユリクリウス:……見てた……?]

[クロワッサン:わりと前から見てた。死人を回避の練習に使う辺りわりと畜生]

[ユリクリウス:いやだって椛さんの攻撃上手いんだもん]

[クロワッサン:それを紙一重で避け続けてたの誰……?]

 

個チャでユリクリウスからメッセージが入ったから念のためにパーティーの申請をすると、椛さんにトドメを刺すユリクリウス。いつでもトドメを刺せる状態にしていたとか抜け目ないな。そしてユリクリウスがアイテムを回収するけど……げっ、椛さん武器落としたんじゃないかこれ?ユリクリウスの2本目の武器、今まで型落ちだったのに一線級の装備に変わるかも。

 

……というかアカツキノヴァ+99が落ちるとか素晴らしい世界だなここは。個チャで質問したらかなり強いスロット10編成だったし、ユリクリウスの2本目として申し分ないレベル。これはもう、1対1で勝てないだろうな。



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第21話 休日

毎日プレイするようなゲームが現実となり、四六時中シャドウを狩れるようになったので、シャドウを狩ることが趣味のめうさんとかライトさんとか、一日中シャドウを狩っているような人もいるけど、普通の人は休日を設けるようになった。というか鯖毎に休日が出来た。

 

どうやら鯖毎に休日を設定することで船団全体でメリハリを付けようということになったらしい。1鯖の休日は土曜日と日曜日なのでもう日本に居た時と同じ感覚で過ごせるけど、13鯖は水曜日と金曜日とかちょっと可哀想な休日設定になっている。

 

なお正月も盆もシャドウは出るので年末年始休暇とかはないです。そもそも無理やり日本のカレンダーを当てはめているだけだし。年間休日104日とかいうブラックな労働環境。そしてその休日もエマージェンシークエストで強制徴発が起きれば潰れる。

 

しかしまあ、普段のノルマは1クエストだけだから、ぶっちゃけ1日1回10分で終わる。簡単なクエストを受けるだけでも特に文句は言われない素晴らしい職業。

 

初心者組も、比較的安全な1番目の惑星で採取、採掘、釣りをすることでクエスト消化は出来るしね。そもそも地球組のお蔭でシアリーの数が膨れ上がっているみたいだし、色々と融通はしてくれている。だからその早く本拠地行けオーラは仕舞って下さいシウラさん。装備の力で通用はするみたいだけど流石に200レべがうじゃうじゃいると聞いて行ける勇気は持ち合わせていない。

 

この休日設定により、チーム対抗戦とサーバー対抗戦が1鯖は金曜日固定になったけど特に問題はない気もする。元々この2つは金曜日にやることも多かったしね。しかしまあ、初心者組にもノルマは課す辺り徐々にタキオン船団のシアリーと同じ枠組に入れようとしている感じはする。

 

「もう7月かー。地味にサービス終了日からのカレンダーにしてくれたのありがたいね」

「7月なのにこたつに入ってアイスを食べているという意味不明な状態だけどな。あ、1000ゴールド払っとくわ」

「四季がないからいつこたつ入っても良いでしょ」

「……あなたたち私のマイルームでくつろぎすぎじゃない?」

 

今日はふわわさんのマイルームにユリクリウスと訪れているけど、こたつがある和風な部屋だ。そしてリンゴ、ミカン、モモに加えてふわわさん4人目のサポートロイドであるブドウの撮影会が始まる。紫色の髪の毛に紫色の目と全体的に葡萄の色だね。ジト目で、見るからに分かるダウナー系ロリ。怠惰なロリも良きものだ。

 

「サポートロイドが4人もいると採取系のクエスト任せるのも楽で良いわよ。一気に50個ぐらいは稼いできてくれるから、1日で1万ゴールドぐらいは稼いでくれる。ロリ達の紐になれるわ」

「採取系クエストが任せられるのって推奨レベルが20レべ下のクエストからだろ?ブドウもそこまでレベル上げたのか?」

「ちょいとシャドウの拠点まで連れて行って、私が庇いながらレベリングしたわよ」

「自堕落な生活のために命懸けるのか……」

 

ふわわさんが採取系のクエストを任せていると聞き、ユリクリウスがサポートロイドのレベリングをしたのか聞いたらシャドウの拠点で経験値稼いでいるとの回答が。いやまあふわわさんも耐久寄りの装備で攻撃は全部ペット任せだから、サポートロイドを抱きかかえながら守りつつペットにシャドウを処理して貰ったんだろうなぁ。

 

ふわわさんのクラスであるテイマーは、一番PSの差が出辛いクラスと言われている。ペットが自動攻撃してくれるから、PSの差は技を出すタイミングぐらいか。そして一番、課金が必要なクラスとも言われている。

 

ペットの強化、滅茶苦茶ゴールドがかかる上に、課金アイテムを注ぎ込めば注ぎ込むほど強くなるのだから札束ビンタクラスと言われるのも仕方ない。そしてたぶん、全鯖最強のテイマーはふわわさん。配布アイテムを駆使しても1匹のペットを仕上げるのも大変なのに、この人ペット上限の20匹全部ガチ仕様だから頭おかしい。

 

その上で本人の装備もしっかりスロット9まで拡張しているから強い。HP盛り勢なので自分とそうHPの差はないという。サポートロイドのレベリングをするなら、確かにペットを駆使する方法は楽そうだな。20匹でローテーション組めばシャドウの拠点で寝てても大丈夫そう。

 

[黒猫:休日にレベリングしてるやつ多すぎ問題。まあ別に良いけど]

[クロワッサン:黒猫は休日何してるー?マイルーム行って良い?]

[ユリクリウス:チムマスの部屋そう言えばゲーム内でも行ってなかったな]

[黒猫:良いけどただのコンビニ化してるぞ?]

[ふわわ:それはそれで行きたいな]

[ゼル:コンビニのコラボ家具は便利だよねー。色々と手軽に食べ物が手に入る]

[クロワッサン:サポートロイドにご飯作って貰えよ……]

 

休日と言っても、常にFUO2のゲームにログインしっ放しみたいな感覚だからチームメイトのマイルーム巡りぐらいしかやることはない。それが終わったら、マイルームに戻ってネット環境を探索する。

 

お、地球組で配信者をやってる人がいるな。そりゃそうか。戦いたくない人もいるだろうし、自キャラが自分の姿になったのだから理想の身体を手に入れたのも同然、TSしている人も多いだろうし、配信で有名になろうとする人も出て来るだろう。

 

その配信者組の中で、一番人を集めているクーデリアさんという人の配信にお邪魔する。レベルは21レべと、恐らくサービス終了時のレベルは一桁であろう人。しかしキャラはかなり可愛いな。金髪でロリ……いや、少女って感じ。人気があり過ぎて再版になり、相場が破壊されたことで有名な天使の翼と、白いワンピースを身に付けている。

 

「皆様こんばんはー。バーチャル天使のクーデリアです」

 

コメント:こんばんはー

コメント:今日も可愛いね

コメント:元男だろうがそれが良い

コメント:雑談配信だ!

 

バーチャル天使でも名乗ってそうだなと思ってたらマジで天使名乗ってるけど8割方元男なんだよなぁ。まあ人生謳歌してそうだし、野暮なことは言わないけど。戦いたくない人を、無理に戦わせる必要もない。

 

にしても凄いな。1万人ぐらい人を集めてるし、時々スパチャみたいなものも飛んでいる。額としては200ゴールドや500ゴールド程度だけど、これで稼げるなら良いんじゃないか?

 

「このファッションはワンピース雪にエンジェルウィングSを付けたものですよ。ファッションランキングの方にも登録しているのでよければ『いいね』をお願いします」

 

コメント:エンジェルウィングは一時ショップ在庫消えたからね

コメント:みんな羽系アクセサリー大好き過ぎる

コメント:いいね100回押して来た

コメント:可愛い

 

気になったのでファッションランキングの方を見るとクーデリアさんが1鯖の女性部門上位トップ10に入ってる。結構凄いなこれ。まあ1位になったところで得られるのは知名度と変な個チャだけだけど。

 

「顔の造形ってやっぱり難しいですよね。私が参考にさせてもらっているのはクロワッサンさんです。あ、そうです。男性部門1位の人です。可愛いですよねあれ。最初に見た時女性でも男性部門に登録できるのかと思っちゃいました」

 

コメント:あの人も可愛い

コメント:変態カチ勢

コメント:この人だけいいね数おかしくない……?俺も押したけど

コメント:これでチン〇ン付いてるとか興奮する

コメント:押し倒したい

 

そして配信の中で自分の名前が出て来てどうしようもなく恥ずかしくなった。しかもコメントで自分のキャラクリについて「抜ける」だの「抱ける」だの言ってるのを見るのがもう何か凄く恥ずかしい。

 

いやまあ自分も男の娘キャラ好きだけど。好きじゃなかったら自キャラをそんな風にはしないけど。せっかくなのでクロワッサン名乗ってコメントしてみようかなと思ったけど、こういう場で本人降臨はあとが面倒くさいことになりそうなのでスルー。コメントもクロワッサンというキャラに人気があるだけだから、中身まで人気になったわけではない。

 

「というかこの人滅茶苦茶強いんですよね……?タイムアタックのランキング上位にいてびっくりしました」

 

コメント:カチなのにPSとそこそこの火力あるからTA上位来るね

コメント:チームの先輩から聞いたけど実質1鯖2位とか何とか

コメント:チームの後輩から聞いたけど高校生の時から年60万ぐらい課金してるらしい

コメント:幼女同盟のエース

コメント:あのチームにエース何人いるんだよ……

 

こういうプラスの評価を直接聞けると、ただの称賛でもとても嬉しくなれる。まあ課金パワーは大きいけど、それ以上に時間を費やして頑張ったからな。よし、気が乗ったからコッペパンとのツーショット写真いっぱい撮るか。

 

[クロワッサン:【クロワッサンの膝の上に乗るコッペパン】【クロワッサンの膝の上に乗り、向かい合うコッペパン】]

[ゼル:とうとう手を出したね?]

[黒猫:2枚目の対面座位のやつ入ってない?]

[ふわわ:通報しました]

[クロワッサン:自分は手を出してないけど、同意があれば手を出して良いぞ。というか中級者辺りの人はみんな手を出してるっぽい]

[ユリクリウス:手を出す勇気はないなー。相手ロリだし]

[ふわわ:ちょっとまだイマイチおにんにんの使い方分かってない]

[黒猫:ふわわは誰かに個チャして聞け。というか手を出せる人間40人中3人しかいなくて草]

[ゼル:女の子同士でも手は出せるでしょ。私は出した]

[クロワッサン:通報しました]

[黒猫:通報しました]

[ふわわ:逮捕しに来ました]

[ゼル:上半身裸でマイルーム入って来るな変態!]

 

既に好感度がカンストしているコッペパンは、スクショ撮っても嫌がらないというかゲーム時代はマジでよくスクショを撮っていたから気にしない感じか。一方でコロネはまだおでこくっつけてのスクショが撮れない程度の好感度。もうちょっとコミュニケーションとるかぁ……。

 

[時雨:サポートロイドは200万ゴールドぐらいするけど、ただのメイドロイドは20万ゴールドぐらいで買えるし、タキオン船団の住民ならメイドロイドを複数買っている人も珍しくないみたいだよ]

[ふわわ:私は4人目のサポートロイド買ったけど、上限ないならここを幼稚園とする]

[ユリクリウス:せめて小学校にしようぜ……。というか上限ないならゆうしゃちゃんパーティーを作れるな]

[クロワッサン:そうりょちゃんとかせんしちゃんを作るのか……ちょうどおあつらえ向きのクラスもあるし……]

[ユリクリウス:4人パーティーを作るとなると、あと3人で600万ゴールド……はまあまあの金額だな]

 

どうやらサポートロイドの所持上限自体はないようだけど、あまりに増やし過ぎても活用法が無くて困りそう。あとメイドロイドの存在は初めてしったけど、確かにタキオン船団に住む一般人の補助に戦闘は必要ないわな。



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第22話 スーパースター

3回目のエマージェンシークエストは2鯖と合同で大いなる闇の模倣体討伐クエストに向かった。4章のボスで自分を大いなる闇だと思い込んでいる一般大型シャドウが定期的に復活するので、それをタキオン船団の旗艦の主砲でやっつける補助をするのが第一段階。主砲にやられて散り散りになるのを退治するのが第二段階というエマージェンシークエスト。

 

ゲーム時代は出現パターンが5ヵ所の内の1つだったけど、今回は5ヵ所同時に発生。その内の1ヵ所、惑星オパルが1鯖と2鯖の担当領域だ。ゲームの設定だと惑星の中心部に寄生して魔力を吸い取る模倣体の種が結構な頻度で送られてきているから、結構な頻度でエマージェンシークエストが起きるという設定だったし、ゲームでは1日1回は復活していた。だけど、流石に現実だと模倣体の発生は1か月に1回ぐらいのペースのようだ。

 

早速旗艦から射出される小型の宇宙船の上に乗って模倣体の拘束に挑むけど、参加人数多すぎない?まあ1鯖と2鯖のカンスト人数考えたら1000人近く居てもおかしくないけど。120レべ以上は参加しないと罰金がある強制徴発とはいえ、エマージェンシークエストに参加する人間がこれほどいるならタキオン船団の将来は安泰そう。

 

[ゼル:拘束具バシュバシュクエストなのは変わらないのね]

[黒猫:地味に敵の攻撃は痛いがな。しかしこっちの人数が多いからほとんど攻撃が来ない上、カチ勢2人が前出てヘイト稼いでるのは大きいわ]

[クロワッサン:ジュリエットさんと共闘する日が来るとは思わなかった]

[ユリクリウス:スーパースターでカチ勢は流石に頭おかしい]

[ABC:君ら何で宇宙船の上で戦えてるの……?放り出されたら怖くない……?]

[クロワッサン:今回は特別にと持たされた緊急ポータルでテレポートできるし流石に放りっ放しはないでしょ。若干だけど重力あるし]

 

基本的に第一段階は宇宙船の上に設置された砲台から拘束具をひたすら巨大な敵に撃ち込むだけのクエスト。自分も拘束具を撃ち出す役目をやる予定だったけど、ヘイト上昇スキルを使えば敵からの攻撃を集められるようになっていたので、この場合は攻撃を引きつける役に徹底した方が良いだろうね。隣には、クラスがスーパースターのジュリエットさんもいる。この人は2鯖のカチ勢であり、残念な不遇職を使いながらも鯖トップの地位を守って来た人だ。

 

……この大いなる闇の模倣体が出て来る4章と同時に実装されたクラスがスーパースターであり、サブクラスを選択できない変わりに近接攻撃、射撃攻撃、魔法攻撃の3種類を全て使える、バランスの良いクラスという売り文句だった。しかし実際には、このスーパースターがあまりにも強すぎた。自分やユリクリウスですら、一時はスーパースターを使用するほどぶっ壊れた性能だった。

 

単純に火力が高い、耐久もある、ダウンからの復帰が早い、回避しやすい、回避時間も長い上、そもそもの操作が快適と、詰め込んじゃいけない要素をこれほどかと詰め込んでいたのがスーパースターだったから、当時は他の職を使うと文句を言われるまでのクラスになったのだ。

 

公式は4章で『集まれ、スター達!』というキャッチフレーズを作っていたのに対し、FUO2プレイヤー達は『去れ、一般人!』みたいな皮肉を作る始末。なおその後、下位職も同じような強化を為されていった結果、5章が終わって6章が始まる頃には『去れ、スター達!』になった模様。その後も一切の強化が入らずに典型的な地雷職となった。

 

クラスのスーパースターにはスキルの『スーパースター』が存在するが、このスキルと付随するスキルを全部取って60秒間ダメージを受けなければ火力が倍になるという一見すると強いクラス。しかし実際にはその火力2倍状態で他の職と火力が同等なので、要するに被弾すると火力が半分になる非常に辛い仕様になっている。

 

攻略Wikiなんかだと、被弾するなら使うなとすら書かれていたが高難易度クエストで一回も被弾しないなんてことは鯖トップ勢でもほぼ不可能。というか回避場所がなくて回避不能なことも多いので要するに使うなと書かれているクラスだ。なんかふおにの森が各クラスの要領をまとめたサイトを作っていたけど、スーパースターの項目が酷い。

 

『スーパースターはクエスト開始直後から一度も攻撃を受けてはいけません。被弾0のまま60秒を過ぎるとスーパースター(真)の状態となりダメージが2倍になりますが、被弾を1回でもすると解除されます。要するに被弾すると火力が半減する呪いです。それありきの火力なので被弾0をお願いします。被弾するなら使うな』

 

……だからまあ、このスキルスーパースターのスキルマップを全部カットして耐久に全振りした方がまだPVPでは強くなるという不思議。操作性が良いのは確かだし、回避もするカチ勢である。ゲームから現実になったけど、ジュリエットさんももうゲームの時と同じぐらいには動けている。自分とはまた違うタイプのカチだ。

 

スーパースターにもヘイト上昇スキルはあるため、交互に赤く光って攻撃を集める。当然だけど、被ダメは1だね。大型ボスだけどこの模倣体のレベルは120だから流石にもうダメージは入らない。眼が赤く光ってビームとかも撃って来るけど、1ダメ×10とか死にようがない。あ、ヤバイ燃焼入った割合ダメいてえ。

 

[クロワッサン:燃焼ダメで1%72のダメージ入るの辛い]

[黒猫:俺の体力の5%ぐらい持って行ってて草]

[ゼル:射撃職ってレベル上げてもHP1500ライン超えないの?]

[ビートル:火力特化だとギリ1500超えるか超えないかぐらい。スロットに射撃アグレッシブブースター(HP-100、射撃攻撃+150)が入るとまず届かない]

[黒猫:アグレッシブブースター高かったしこの世界だと再入手不可能だから捨てるに捨てきれないの……]

[ユリクリウス:アグレッシブブースター入りの装備はもうそのままにして耐久寄りの装備作りたくなってきた……]

[クロワッサン:お!?

カチ勢にようこそ。まずはオールガードステアップⅩから作ろうか]

[ユリクリウス:今からそのレベルを作る気は起きないからオールガードステアップはⅥかⅦぐらいで妥協するわ]

 

エマージェンシークエスト中なのにチームチャットは活発である。拘束具を撃ち出す間のインターバルが暇という証拠だね。次第に模倣体が苦しみ始めたので、そろそろ拘束できるかなと思ったタイミングで模倣体はメカビートルの最終砲のようなエネルギーを集め始めた。……これ、フィールド全面攻撃だったら流石に死ぬ奴何人か出て来るんじゃないか?オペレーターの人達も慌ててるし、不味そう。

 

ゲームにはなかった行動、ヤバそうな攻撃を見てジュリエットさんと同時に宇宙船から飛び出すが、ジュリエットさんだと受け切れない可能性があるのでジュリエットさんを宇宙船側に押し返す。この人、128レべってことは黒猫さんと同じく鯖の調整役をしていたってことだろうしレベリングが間に合ってない。

 

ジュリエットさんも大ボスの攻撃一発で沈むってことはないだろうけど、真っ先にヤバめの攻撃を受けるというカチ勢の本懐を味わうのは自分一人で良いです。ゲームから現実となったお蔭で、技を連続して使用すれば高度上限には引っかからずに無限に上昇し続けることが出来る。よし、このぐらい距離が離れていれば大丈夫だろう。

 

巨大な黒い塊が、眼前に迫って来るけど凄くワクワクする。ああこれ自分も結局ゲーム感覚抜けきってないな。結局のところ、自分は敵からの大技を受け切って「今何かしたか?」みたいな涼しい顔をしたいだけの人間だ。

 

衝突する寸前、技のオーバースラッシュを叩きこむと巨大な黒い塊が更に大きくなって自分を呑み込む。おおこれヤバイHPが溶けていく。-107、-100、-110、-101、-108……。

 

視界が一度真っ暗になった後、視界が開けたらHPは7割弱を示していた。オート回復薬使用が1回起動したから、回復薬で3割は回復しているはず。ということは、今の自分の耐久の6割を一撃で削ったことになるな。ダメージ発生は、40回ぐらいか?これジュリエットさんが飛び出していたら死んでいたかもしれない。

 

しかし自分が突っ込んだことで、後続への被害は0。今もの凄い充足感を味わえているので鏡で自分の顔を見たら気持ち悪い顔になっているだろう。あ、今の自分の顔めっちゃ可愛い男の娘だからただただドヤ顔が可愛いわ。

 

[クロワッサン:ダメージ発生40回程度、1回100ダメ~110ダメ]

[ユリクリウス:あれそれヤバくね?船上到達してたら結構な数の犠牲者出てたというか4000ダメはほぼ全員死ぬ]

[黒猫:いやクロワッサンは圧縮されてたのに当たった感じだから実際にはもう少し威力が下がっていた……はず?いやでもクロワッサンのダメージカット率で4000ダメか……。

あれ、マジで命救われた……?]

[ゼル:HP1500ラインなら普通に即死があったかもね。クロワッサンサンキュー]

[黒猫:マジでクロワッサンが居て良かったわ。まあ拘束は終わったし後は艦砲射撃で……あっ]

[ユリクリウス:どした?]

[黒猫:これ他鯖どうなったんだ……?]

 

拘束が終わり、後は艦砲射撃を眺めるだけになったのでチャットでダメージ量とかを報告していると黒猫が慌てて他の鯖の人と連絡を取るが、3鯖+4鯖、5鯖+6鯖、7鯖+8鯖は自分と同じようなカチ勢が前に出て防いだらしい。そしてそのカチ勢でもオート回復薬を7個8個使用するようなダメージ量だったから、他鯖も他鯖が心配だったらしい。

 

……そしてあの球が着弾したのは9鯖+10鯖の戦場。10鯖はゲーム最初期から人が少なく、上位層の他鯖への移動が多かったため、カンストが少なかった。9鯖も10鯖ほど人は少なくなかったが、有名なプレイヤーはあまり知らない。

 

強制徴発が起きなかった11鯖以降のカンスト勢は希望者のみこの9鯖+10鯖の戦場に送られたみたいだけど自主的な参加は少なく、1鯖+2鯖の960人に対して9鯖+10鯖は430人しかいなかったようだ。一応、鯖番号が若い順に高難易度にはなっていたけど、ボスの攻撃力はどこも一緒だったからなぁ。

 

ただそれでも、タキオン船団の計算上は勝てるはずだったんだろうけど……最後の攻撃に関してはオペレーターの人達も焦っていたし予想にない攻撃だったんだろう。結局、9鯖+10鯖の戦場では着弾した箇所の周囲に居た100人近くが倒れて治療ポット行き。

 

シャドウの拠点でHPが全損したわけじゃないので、助かる見込みは若干ある。けどまあ……あの手の攻撃が来たら普通は避けるし今回は緊急離脱のためのポータル持たされていたんだから現場の判断ミスも大きい。

 

自分はさっきまでの攻撃から100%耐える自信があったから飛び出したけど、他鯖の人はオート回復薬が何回も起動したとか生きた心地しなかったんじゃないか?……とりあえず自分は、オート回復薬の設定をHP50%から25%に変えておくか。

 



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第23話 追撃段階

第一段階が終了し、散り散りになって惑星に逃げ帰った大いなる闇の模倣体を追撃する段階に入ったが、均等に分かれたわけじゃないようで脅威度はバラバラだ。そして当然一番脅威度の高い場所に1鯖2鯖の精鋭パーティーが送られる。面子は自分、ユリクリウス、ライトさん、ジュリエットさんの4人パーティー。

 

火力役2人を守るカチ2人という構成だね。今回4人しかいないのは、散り散りになった量が多かった上、人の足りてない9鯖+10鯖の担当惑星にも1鯖と2鯖が向かったから。ここで安易に11鯖以降から緊急徴発しなかったのはシウラさんがローテーションを守る決意をしたのだろう。

 

眼前に相対する模倣体のレベルは、確認することが出来ない。あれなんかこいつ急に強くなってない?どんどんゲームが現実だと分からされている気がするけど、初っ端のビームが相変わらず1ダメなので何とかなるだろう。なおユリクリウスやライトさんは200ダメ程度受ける模様。回避の難しい攻撃でもダメージが大きいのは辛いな。

 

「ダブルクロスカットダブルクロスカットダブルクロスカット……」

「ヒョウカセンヒョウカセンヒョウカセンヒョウカセン……」

 

そして火力役2人から連続した攻撃が模倣体へと命中し、ヘイトがユリクリウスに向く。おうマジかよとうとうライトさんとのダメージレースに勝ったぞ。純粋な火力ならもうユリクリウスがトップか。いやまあ今まで二刀流のユリクリウスに対抗出来ていたライトさんがおかしいんだけど。

 

ヘイトがユリクリウスに向く光景を見て、若干不満気なライトさん。この瞬間、1鯖最強は元1鯖最強になったわけだけどどういう心境なんだろう?……そう思ってライトさんを見つめていたら、なんかライトさんが不満気ながらもホッとしているような気配を感じた。

 

さて、ヘイトがこっちに向いたならやることは1つ。ユリクリウスを庇うことだけだ。ヘイト上昇スキルを使い、ユリクリウスの前に立つ。そして今回は、新しいスキルにスキルポイントを割り振って参加している。

 

1つはシールドバッシュ。MPを10消費して行うガードの一種で、ゲーム時代では普通のガードでジャストガードが出来ない人用のお助けガード的な存在だった。MPを消費することで、剣のガードを前へ突き出し、攻撃に攻撃するような感じでガードする。

 

被ダメ軽減率はそれなりに高いが、ジャストガードの方がMP使わない&被ダメ軽減率高いと、PSが高くて普通のガードでジャストガードが出来る人には要らない存在だった。

 

まあガードは2種類同時に使えないし、ジャストガードは火力にも必要なのとシールドバッシュは火力を出すために必要なMPを消費することを考えると要らないスキル筆頭なんだよな。アタックスタイルへのスキルポイントを一切振ってないカチ勢の鏡なのでスキルポイントが余り気味だから振ったけど。

 

そんな残念スキルと組み合わせて取ったのが、シールドバッシュヒールというスキル。最大までスキルポイントを割り振るとシールドバッシュを成功させた時に周囲の人間を自分のHPの1%分回復するという、何とも言えない効果を持つ。しかしこれ、1%回復にしては珍しく上限がない。

 

その上、自分のHPの1%を回復させるのだから、つまりHP7000を超えた自分が使えば周囲にHP70をばら撒く存在となる。模倣体から連続攻撃が来るので、連続でシールドバッシュを使用すると面白いように回復する。

 

-1、+70、-1、-2、+100、+70、-1、-1、+70……。

 

模倣体は黒い大きな人型で、顔部分には大きな赤い眼が1つある不気味な感じだけど、連続攻撃の際は手を伸ばして台パンを繰り返すので可愛い存在だ。両手でバンバンしてくるけどダメージよりか回復量の方が明らかに多いんだよなぁ……。

 

しかも後ろにいるユリクリウスも回復させるおまけ付き。シールドバッシュの発動インターバルの間にダメージは入るけど全然削れないので大したことはない。たまに飛んでくる目からビームは避けることが難しいが、ユリクリウスに入ったダメージ分ぐらいは自分のシールドバッシュヒールで回復出来る。

 

一方でジュリエットさんもライトさんに飛んでくる岩石投げを防いだりしているが、ビームは防ぐことが難しく庇えていない。そしてジュリエットさんがライトさんを回復させる手段がないため、ライトさんは回復薬を使用することになる。

 

この差は大きく、HPが50%削れた時に模倣体が使う必殺技では10個のエネルギー弾の内、5つがユリクリウスに向かった。このエネルギー弾は、与えたダメージの割合によって飛んでくる量が変わるんだよね。残りの5つのうち、3つがライトさんでジュリエットさんと自分が1つずつ。つまりユリクリウスは1人でパーティーの半分ぐらいの火力を出している。頭おかしい。

 

なおユリクリウスへのエネルギー弾は全て自分が庇った模様。第一段階の時の様なすさまじいダメージではなく、合計6個で600ダメージ程度と必殺技なのに1割も削れていないので慢心出来るレベル。残り10%になった段階で20個のエネルギー弾を用意し始める模倣体だけど、発射される前にユリクリウスとライトさんが模倣体のHPを削り切って勝利。この2人の火力頭おかしいよ。

 

[黒猫:模倣体つれえな。直撃で球1個1000ダメはマジで辛い]

[ゼル:弾速遅いし避けるのは簡単だけど衝撃波だけで300ダメは勘弁して欲しい]

[ユリクリウス:油断してたら事故る。クロワッサンいたら全部吸うけど]

[クロワッサン:破裂させないよう直撃で6個受け切ったけどあと280個ぐらいは直撃しないと死なんぞ]

[黒猫:あれも100ダメ前後なのか……]

[ABC:第二段階での死者は0だったようだけど第一段階で19人逝きました……]

[クロワッサン:HP全損でもすぐに治療されれば8割方生き残るのか]

[黒猫:だからと言って油断は出来ないがな。シャドウの拠点で死ねばほぼ確実に回収不可だしそこらの惑星でのクエストでもシャドウはいっぱいいるから間に合わないケースの方が多いだろ]

[ふわわ:サポートロイド軍団作ってロリママ達に守って貰おう……]

[ゼル:サポートロイドのレベリング効率130過ぎてから悪いのよ……]

[ユリクリウス:結局は自分自身のレベリングの方が大事]

 

クエストに参加していなかったABCが死者とかの情報を一早く伝えてくれるけど、貴重なカンスト勢がわりと死んでいるなという印象。ギリギリ助かった面子も戦線復帰は遠そうなので、敵の大技は基本受けちゃいけないな。

 

FUO2プレイヤー達が楽観的過ぎるのとタキオン船団のストーリー中でも見せてたポンコツ具合が噛み合わさって死者が出ているのは笑えないけど、今回はわりとどうしようもなかった気もする。全鯖にカチ勢がいるわけじゃないしね。

 

今回は11鯖以降の戦力を温存していたわけだけど、もしこれを投入している最中に採掘ステーションへの襲撃があったら詰むらしいのでなるべくローテーションにはしたいのだろう。もう地球組が完全に戦力の枠組みに組み入れられたから、残った地球組以外のシアリーはシャドウの本拠地に侵攻している地域の維持に向かったらしい。……侵攻していた地域の維持とか言っている時点で、だいぶ劣勢そうだな。むしろよく一時は侵攻出来ていたよ。

 

[クロワッサン:わーい、封呪剣が落ちた。

……いらねえ!]

[黒猫:一応スロット1に確定で魔法攻撃ダメ減だろ?

……ああ、そう言えば持ってたな]

[ユリクリウス:収穫なし]

[ゼル:ペットの餌で高レアリティ演出やめろぉ!]

[ふわわ:ダークマターアイスなら高値で買い取るわよ]

[クチリ:ダークマターアイス欲しいです!]

[黒猫:そう言えばペットの餌は要らないやつ多いだろうし、ふわわやクチリに集めるか?]

[ユリクリウス:テイマーは基本弱いし今からペット育てるのもなぁ……って感じだからそれは賛成する]

[クロワッサン:適正価格の半額程度で融通とかなら良いんじゃない?]

[時雨:実はペットの餌は高騰しているアイテムの筆頭です(-_-;)

君ら自分で戦えない人のこと想像しなよ('ω')]

[クチリ:餌代高騰してるから半額でもマジでありがたいです]

 

模倣体から落ちるレアドロの内、封呪剣がドロップしたけどもう持っている上に強化もしているアイテムだから要らないです。あとはダークマターアイスが落ちたけど、これペットを戦闘で使う人だと重宝するんだよなぁ。

 

テイマーたちはペットに戦わせるわけだけど、ペットは餌を与えないと働いてくれない。具体的には、満腹度が0になると戦わなくなる。しかしこのダークマターアイスがあれば満腹度は一気に満タンの100になる上、減少にかかる時間も長くなる、ついでに餌を与えてから一定時間はバフがかかると超便利なアイテム。100回目まではステータスの技量が恒久的に1上がるおまけ付き。

 

だから餌の中では当然最高ランクのレアリティです。ショップで検索すると1個20万ゴールドと、餌にしては飛びぬけて高い。元々は10万ゴールド程度だったから、倍ぐらいにまで高騰しているな。まあ今回のクエストでドロップした人多そうだししばらくは下落するかもだけど。

 

しかし、自分で戦えない人にとってはテイマーが天職になるか。ペットに指示出すだけで良いし、本人はカチ構成で特に問題ないしな。まあペットをちゃんと育てないとマジで何も出来ないクラスだけど、今の環境なら最短でレベルが上がるのはたぶんテイマーだ。

 

というか戦いたくない人でも餌を与え続けるだけでペットのレベルは上がるし、本人棒立ちでも何とかなるのがテイマーだから増えていきそう。

 

……ナイトが実装されるまでは自分もソードマン/テイマーだったし、ちょっとはメインに据えていたから分かるけど、ペットの強化を疎かにして高難易度クエストに来て死ぬ人とか出て来るんじゃないかな?流石にゲームが現実となった今、そんなことをする人はいないと思うけど……そこら辺は、ふおにの森がちゃんと教えるかな?



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第24話 遭遇

シャドウの拠点を襲撃するクエストは、ゲームの時にもあった。そのクエストのクリアを繰り返すと、アブダクションの起こる確率がどんどん上昇していき、最終的には10%とかそのぐらいの確率となる。シャドウの拠点を襲撃するクエストでもアブダクションは起きるため、その辺でアブダクションが起こる。

 

この世界に来てから1ヵ月。レベルは151レべと2位のユリクリウスと3レべ差を付け1鯖トップの自分は、今日もシャドウの拠点に殴り込みに行く最中、アブダクションの演出が入る。初日の30組同時アブダクション以降、アブダクションが起きたとは聞いてなかったのでこれが2回目のアブダクションということだな。

 

即座に黒猫の方へ個チャでアブダクションが起きたことを伝えると、オペレーターの人達が救援ポータルの設置まで15分かかると言って来る。敵シャドウのレベルは175前後と雑魚だけでも普通の火力特化型なら苦戦するレベル。この物量に囲まれて無被弾は無理でしょ。

 

正直に言うと、わりと待ち望んでいたシチュエーションでもある。四方八方から攻撃は飛んでくるが、ダメージ量は基本1で時々2。そしてこちら側は、エンドクラッシュでひたすら敵を薙ぎ払い続ける。この技を使っている最中、吹き飛ばしは受けないので雑魚狩りには持って来いだ。

 

右から左、左から右、最後は上からドーンと剣を振り下ろすと結構なダメージが相手シャドウには入るが倒れない。やっぱりレベルが上がるとタフになるなあと思いつつ、ひたすらこの攻撃を繰り返す。よっしゃレベルが上がったと思う間もなく、メカビートルが登場。まるで初日の再現のようだ。

 

しばらくは通常攻撃を続けるメカビートルだが、ヘイト上昇スキルを使った瞬間、最終砲を準備をし始める。なるほどこれがトリガーになっていたわけか。他にもトリガーはあると思うけど、これは初日のユリクリウスに謝らないといけないな。

 

高く飛び上がって、最終砲を撃つメカビートルだったが、これ射撃攻撃なのよね。対射撃攻撃用のシールドソードに持ち替えると、ダメージ量は1回50前後と最早かすり傷レベルである。そのまま耐えきってダウンしたメカビートルに攻撃を続けていると、呻き声を挙げて消えるメカビートル。地味にダウンから倒すのに時間がかかった。

 

……落ちたスキルはスロット1スキルの「強身守護」というスキル。おおうゲームで見たことのないレアスキルをとうとう引いたよ。効果は連続で攻撃を受ける時、ダメージ量が軽減するというものだが少々減少率がおかしい。最大で75%減って何それダメでしょ。

 

[クロワッサン:ちょっとアブダクションでヤバイスキル引いたからユリクリウス後で検証付き合って]

[ユリクリウス:良いけどアブダクション起きたのか!?初日以降なかったはずだろ!?]

[黒猫:クロワッサンがたぶんシャドウの拠点に一番多く行ってたからクロワッサンで発生するのは分からんでもないが、これで何一つ楽観視できなくなったな]

[ゼル:そんなことよりどんなヤバイもの拾ったのか気になる]

[クロワッサン:レベル175前後のシャドウの巣窟だったから火力特化型が1人だと一瞬で死ぬ]

 

『全船団に通達。アブダクションの動きが再開。一時クエストの受注を制限して下さい』

 

[ゼル:……まあ今まで無かった方がおかしかったからね。これからはパーティーちゃんと組まないとだ]

[ユリクリウス:死かレアスキルか、か……]

[クロワッサン:ソロなら確定ドロップとか出来すぎな餌ではある。最大で被ダメ75%減って何よ]

[ユリクリウス:え、被ダメが75%になるじゃなくて75%減!?]

[黒猫:そもそも何で未知のアイテムのスキルの解析を出来ているんだってことにはなるが、そこはあの宇宙船の艦砲射撃の威力とか謎のドーピング剤とかの技術を見てたらまあ……って感じ]

 

ユリクリウスに連絡を入れて、効果の検証をしていくが検証していく最中にこの強身守護の効果がヤバイものだと判明していく。どうやら1回攻撃を受ける度、次に受ける攻撃を25%減らすもののようで、3回食らった後の4回目とかは元のダメージの25%しか食らわない。

 

このダメージ減少効果は1秒経過する毎に10%ずつ減っていくが、要するに2.5秒に1回攻撃を受けていれば50%のダメージ軽減率をずっと維持できるということ。10連続でダメージ発生するメカビートルの最終砲とかは4発目からずっと75%減のダメージ量ということだな?

 

さっきまで50ダメが連続して10回だったのが、-50、-38、-25、-13、-13、-13……みたいなことになるということか。ゲームを始めたばかりの頃はメカビートルの最終砲滅茶苦茶強く感じたのに、最早カスダメにしかならない。

 

アブダクションから無事に帰還後、VR空間を使用し、ユリクリウスが案山子に連続攻撃をして、ユリクリウスの通常攻撃を3回受けてからユリクリウスの多用している技であるダブルクロスカットを受けるがダメージ量は100程度。これは硬い。

 

[クロワッサン:武器防具で4割カット、ガードスタイル4割カット、ドーピング1割カットでダメージ量は32.4%になる。その上でユリクリウスの攻撃がクリティカルだから強靭の5割ダメカットと、強身守護で75%カットが入るから最終的なダメージ量は4.05%です……]

[ユリクリウス:ダメージ量100%UP入って108ダメってマジ?]

[黒猫:完全にチートで草]

[ゼル:注目すべき点はこの状態のクロワッサンに100ダメ入れたユリクリウスね]

[時雨:本当だ( ゚Д゚)!クロワッサンのダメ軽減率がなかったら、クロワッサンの防御ステでも2500ダメ入ってることになる]

[ふわわ:計算したら2666ダメね。一般シアリーは一撃死するダメージはチート]

[クロワッサン:2666ダメでも2発は耐えるのでHP盛りは正義]

[黒猫:そもそもクロワッサンは防御ステだけで被ダメを半分以下に抑えてるだろ]

[ユリクリウス:というか一時追い付いてたのにまた4レべ差開いてるとか負けず嫌い過ぎない?]

[クロワッサン:カチ勢のレベリングに移動や回避や回復行動は必要ないからなぁ……]

[ゼル:立ち回りすら捨てた完全脳筋のお言葉である。新入りは真似しないように]

 

チーム的にはアブダクションが起きたことよりも、自分の拾ったスキルの方が事件だったようだ。まあ被ダメ軽減をデメリットなしで使える上に、乱戦に滅茶苦茶強くなるスキルだから火力特化型でも事故防止のために欲しいだろう。

 

武器に付けるスキルだったし地味にHP吸収スキルが消えたのは痛いけど、最早そこまで回復する必要性も薄いというか自動回復スキルで間に合うというか……。これ、自分が死ぬような敵が出たらその時はシアリー全滅するんじゃない?

 

[黒猫:シウラさんから通達。120レべ以上のカンスト勢はこれからパーティーを組んでクエストに行けってさ。ただし特別許可証ある人は自由]

[ユリクリウス:流石にアブダクションはパーティー組みたいな……]

[キング:カンストしてない人は自由なんですか?]

[ABC:今回クロワッサンの受けたアブダクションを解析した結果、どうやらアブダクションの対象になるのはカンスト勢みたいなんだよね]

[クロワッサン:だからと言ってカンスト未満は制限受けないとか相変わらずのザル警戒で草]

[ゼル:……これ、シャドウ側に協力者いるんじゃない?最初のアブダクションの時にそのシャドウが175レべの拠点に連れて行けば、クロワッサンも耐えられなかった、よね?]

[黒猫:いやクロワッサンは耐えたと思う……。

シャドウ側にも裏切り者がいるというのはあり得そうだけどな]

 

色々と考えている人もいるけど、自分はとりあえずこれもう一個欲しいとか考えている。あまりにも有用過ぎるスキルだしもうアカツキノヴァは手放せない。もう射撃攻撃が相手でも射撃専用装備より強いんじゃない?そもそも射撃攻撃自体、連続して攻撃を入れる前提だし。

 

[ユリクリウス:駄目だ模擬戦で勝てる気がしねえ]

[クロワッサン:模擬戦でここまで余裕持てたの久しぶりだな]

[ゼル:ライトさんにダメージレースで勝ったユリクリウスでダメージ入らないの……?]

[ユリクリウス:いやもうシールドバッシュでダメ軽減された上にHP回復されたら死なないゾンビなんだよ……]

[クロワッサン:回復量>被ダメ]

[黒猫:次の鯖対抗戦1人で敵陣突っ込んで来ても生還しそう]

[ゼル:するでしょ。今のクロワッサン24人でタコ殴りにしてもたぶん落ちない]

[黒猫:ええ……]

[クロワッサン:27鯖相手だと30人からの攻撃でも耐えるぞたぶん]

[ABC:船団番号21番以降は過疎が酷かったからカンスト勢二桁とかもあり得る……]

 

次の鯖対抗戦の相手は過疎の酷い21鯖以降でも最も過疎が酷かったと噂の27鯖だし、課金できる人ほど脱出して1鯖や11鯖に移動していたから無課金率も高い。これは30人で囲まれても耐えるだけなら楽そうだね?

 

というか囲まれれば囲まれるほど連続して攻撃が来るから耐えるという悲劇。ユリクリウスの連続攻撃も怖くなくなったというか余裕で耐えれるようになったので検証後の模擬戦では圧倒出来た。圧倒出来てしまったよ……。

 

まあシールドバッシュをメインで使うとジャストガードが出来なくてその結果ジャストガードクリティカルアップも起動しなくなるから火力は死ぬんだけどね。それでもカチ勢以外なら普通の技で削っていけるし対人戦ではほぼ無敵になったんじゃないかな。

 

わりと待ち望んでいたレアスキルではあるけど、いざ自分が取ると他の人に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だからユリクリウスも二刀流スキルを自分に渡そうとしてきたんだろうね。他人から肯定されると使っても許されてる気分になれるし。

 

いやしかし、これ一番カチ勢に渡してはいけないスキルなんじゃないか……?1回目の攻撃には無力だけど、1回で死ぬような攻撃はゲームだとなかったし、盾役としての安定度は飛躍的に向上したと思う。



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第25話 要塞

2回目の鯖対抗戦の相手は27鯖。今回のリーダーは黒猫で自分はスタメンに選ばれたけど、自身の志願もあって特攻係に。まあ元々耐久ある人での持ち回りみたいな役目だし、大人数が中央に来ても耐えられる性能になってしまったからね……。

 

[シャルル:幼女同盟の戦力おかしくありませんこと……?]

[黒猫:ベロベロスさんも何か耐久寄りのレアスキル手に入れたみたいだけどどんな感じ?]

[らんらん:スロット1スキル「春の閃光」ってやつで被ダメージ1000を超える度に30秒間毎秒HP3%回復]

[クロワッサン:素直につっよ]

[ベロベロス:これ発動中はピンク色に武器が光るからやり辛い]

[ユリクリウス:毎秒HP3%回復は強いな。上限無い感じ?]

[ベロベロス:上限はないな。今のHP2500だから毎秒75回復していく]

[時雨:良いなー( ;∀;)]

[クロワッサン:良いなー(´;ω;`)]

[黒猫:クロワッサンが保有したらマジで死なない要塞になるな]

[ユリクリウス:現時点で既に要塞な件]

[lie:75%減は駄目でしょ……]

 

選出された30人の面子は普段と変わらず。前回と同じTAを走って自分も少しTAのタイムは短縮されたけど、一番短縮幅が大きかったのはユリクリウスで3分31秒と20秒以上縮めている。何でコイツに連続攻撃をする度に与ダメージ+5%、最大+100%なんて能力を与えたんだ。

 

連続攻撃が途切れればまたダメージ量105%から積み上げることになるけど、連続攻撃の判定がどうやら2秒以内とのことなので随分と余裕がある。まあ余裕があるのは自分も同じか。こちらも2秒以内に攻撃を受け続ければ耐久力はどんどん上がる計算だからな。

 

今回は幼女同盟の面子で中央を突破することになったので、中央組は12人。もはや力推ししか考えていない布陣だけど、相手の方が捨て身だった。

 

[クロワッサン:相手さん中央組28人だからブリッツだね]

[黒猫:近接組はクロワッサン以外前に出るな!相手の攻撃の的はクロワッサンだけにしろ]

[ユリクリウス:集中砲火で落ちてねえ……!]

[シャルル:ブリッツですか。両翼は右翼の私と左翼のライトさん以外中央に向かって下さい]

[ビートル:1人ずつ射撃で落としていくしかないね]

[黒猫:いやもう両翼は拠点の制圧だけしていって。拠点バフのお蔭で28人からタコ殴りにされても落ちないやべー奴いるから]

 

27鯖の作戦は、両翼の拠点の制圧を諦めての中央突破狙い。最短で本陣を落とせれば勝ちになるし、前回の1鯖は中央組少なかったからね。相対する中央組を瞬殺すれば囲まれる前に勝負を決めることが出来る。

 

ただまあ、28人からタコ殴りにされてもHPの減少スピードが遅い遅い。シールドバッシュを繰り返すだけで落ちないんだけど。しばらくすると自分を倒さずに自分の後ろから攻撃している幼女同盟の面子の方へ攻撃をしようとするけど、自分に近づくならオーバースラッシュで確実にダメージを入れていく。

 

「何だその耐久力!?」

「ガードスタイル使っててもそれはおかしいだろ!」

「チートやこんなん!」

「何で落ちないの……?」

「1鯖怖い……」

 

黒猫やビートルさん達の攻撃によって対戦相手の人が徐々に削れて行くと、次々と恨みつらみをぶつけられるけど怨嗟の声が心地良いです。そもそものレベルも相手の上位層が135レべから140レべの中で、自分は152レべだしこの差も大きい。まあ一番大きいのはタコ殴り中のせいで常時発動していたダメージ75%カットだけど。二刀流に対してズルいズルいとは思っていたけど、これもかなりのズルというか二刀流とほぼ同格だ。

 

……いや武器スロットが丸々1つ追加されて特殊スキルをもう5つ追加出来る二刀流の方がヤバイか。このゲームは武器の攻撃力で火力を盛るから、武器が1つから2つになるだけで攻撃力は実質倍になる。それにしても135レべ前後のシアリーにタコ殴りされても死なないのか。そろそろ大丈夫なのかな。

 

[クロワッサン:シャドウの拠点で脅威度の高いところだと175レべ前後とかだし、次からそっち行くわ]

[ユリクリウス:俺もそっち行く。直近のレベルアップ時のスキルポイントは耐久振ったし耐えるだろ]

[黒猫:真面目組は気分転換しろよ?何か上位層で鬱流行ってるらしいし]

[ゼル:鬱って流行るの!?というか何で鬱!?]

[黒猫:一般シアリー化した地球組はほぼ1日中堕落した生活してるからなぁ……。1週間分の採取クエを1日で終わらせて、あとはサポートロイドとイチャイチャしたりネットサーフィンしたりだから、存在意義を見失うんだろ]

[クロワッサン:この前に見た配信者で1万人ぐらいの人が来ていたのはそういうことか……。暇な人増えたんだな]

[ユリクリウス:金貯めるために働いてた人が、金貯めた後仕事辞めてどうするの系の話か]

 

やがて相手の中央組が壊滅すると、あっという間に陥落する敵本陣。試合はあっさり1鯖が勝って黒猫がMVPを掻っ攫う。遠距離から集団に向かってランチャーを撃つだけのお仕事でトドメだけきっちり貰っていく辺りPS高いわこの猫。ユリクリウスは接近を躊躇ったら何もできないのは仕方ない。一応相手も火力特化型かなり多かったし、人数差あったから射撃職が活躍したね。

 

そしてチームチャットは一般シアリー化した中位層から上位層について、鬱が流行るとかなんだそれと思うような情報が流れる。採取系のクエストは、まあノルマ以上にアイテムを稼いで後で細かく納品することが出来るのでサボるのにうってつけのクエストか。1週間で実働1日3時間程度じゃないかこれ。

 

実働時間が短くなった分、趣味に時間を費やせるわけだけど戦いたくない人達はサポートロイドとイチャイチャしたりネット環境で動画サイトを見たりゲームに興じたりしているわけだけど、そういう時にふと我に返ったりするのか。

 

……いや300万人の地球組の中の大半がゲームオタクとは言わないが、一般人もいるだろう。アウトドアな趣味は宇宙船の中だから限られるとして、商店街や公園はあるし結構色んなことはできると思うけど……。

 

あ、そう言えば大半の人はTSしてるんだった。自分は回避出来たけど、ネカマ率の高いゲームだったので地球組300万人のうち6割強は男性から女性になったシアリーだ。これからのことを考えれば考えるほど不安になるだろうし、鬱になるのも分かる気はする。

 

[黒猫:最上位層だとそういう話は少ないけどな。シャドウ狩りまくってるし、狩れば狩るほどお金が入る]

[ABC:そんなにお金を稼いでどうするの……?]

[ふわわ:保育園作る]

[ユリクリウス:ゆうしゃちゃんパーティー作る]

[ゼル:女の子ハーレム築く]

[クチリ:一日中ゴロゴロして過ごす]

[クロワッサン:ここにいる面子は大丈夫そうだな……?]

[ふわわ:合法的にロリっ子囲えるのに気落ちする理由が分からない]

[黒猫:そもそも鬱になっても薬の力で一瞬で全快するらしいが。

俺ももう1人サポートロイド買うかな……]

[ユリクリウス:薬で治せると言ってもゆうしゃちゃん作ったのを幼女同盟のHPに載せたら『いい年してお人形遊び楽しい?』って個チャ来たから病んでる人は多そうだけど]

[クロワッサン:コメントじゃなくて個チャで言うのは草。チョココロネ作った時は来なかったぞ]

[ゼル:300万人のオタクがいるからそういう人がいるのは仕方ないよ。ちゃんとブラックリスト入れた?]

[ユリクリウス:『めっちゃ楽しい』って返事したら何も言わなくなった]

[クロワッサン:その返しはシンプルに強い]

 

まあ、このチームにいる面子は大丈夫そうか。最近はさらに10人増えて50人にはなったけど、相変わらず喋る人は固定面子。まあチャットし辛いのは分かる。元々身内で和気あいあいとしているところに足を踏み入れる勇気は結構いるし、そう考えるとクチリさんはよく馴染めたなと思う。

 

……そうか。鬱とかそういうのも一瞬で治療できるレベルの技術力なのか。ちょっと前にこの宇宙船の植物工場を見せてもらったが、1日が1秒で流れる早送り再生動画みたいな速度でにょきにょき生えては収穫を繰り返していた。大きな植物工場を管理しているのは、サポートロイド1人だけ。ワンオペだけど種まきから収穫、出荷まで全自動だったので暇そうだった。

 

恐らくこの世界にシャドウがいなければ、ほぼ完全なユートピアだったのだろう。社会制度がどうなっているのかとかの把握は、あまりしてなかったな。たぶんだけど、ユリクリウスはかなり深く調べてそうだから聞いてみるか。自分のレベルを超えないよう、暇さえあれば諜報部の資料室に行っているみたいだし。

 

[クロワッサン:ユリクリウスっていつも諜報部で何調べてるの?]

[ユリクリウス:この宇宙の歴史とか、タキオン船団の成り立ちとかの資料を読んでるよ。あとは二段ジャンプが可能な理論とか、結構面白い]

[クロワッサン:あー……宇宙物理学専攻だったな。この世界、色々と物理現象に喧嘩売ってるけどその辺どうなの?]

[ユリクリウス:理論の方はすげえ誤魔化されてる感じがする。あと俺が資料室籠ってるのは純粋に惑星の利権を賭けたドロドロの政争が面白いから]

[クロワッサン:その辺を面白いと思えるのお前だけだよ。

……この世界ってさ、シャドウさえいなければ半永久的な繁栄が約束されてるよな?]

[ユリクリウス:どうだろう?少なくとも人同士の内紛が始まらなければ、という前提条件が付くだけで難しいと思うけど]

 

ユリクリウスに個チャを送ると、単純に歴史書小説的なのを好んで読んでいただけの模様。諜報部にはカエデさんというシウラさんとタメを張るレベルで胡散臭いNPCがいるはずだけど、まだ1回しか会っていないみたいだ。どちらかと言えばカエデさんに会う目的で資料室へ行ってると思っていたから意外だな。じゃあまあ、社会については自分で調べるか。



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第26話 制度

タキオン船団は公式設定で母星が滅んでいる。その辺についてユリクリウスに確かめたか聞くと、どうやらタキオン船団にある資料では母星『タレア』が小惑星との衝突により滅んでいるということと、公式設定との差異はほぼないことを説明された。1か月も経ってからこの辺に興味を持った周回遅れに対してもきっちり説明してくれる辺りユリクリウスは聖人である。

 

毎日完全栄養食が届いて水や光熱費は使いたい放題なタキオン船団だが、シアリーはシャドウと戦わないといけないし、一般市民は新たなシアリー候補を産み育む必要がある。……一般市民の義務が子孫繁栄とか素晴らしい世界だな本当に。

 

なお優秀な遺伝子の持ち主じゃないと結婚はできない模様。最終的な目標は優秀なシアリーの増産になっているから仕方ないね。まあ結婚出来なくてもこの世界にはサポートロイドという昼の生活から夜の生活までサポートしてくれる存在がいるから反乱も起きないのだろう。一般市民にはサポートロイドより格安なメイドロイドもあるし、ゲームの時のような所有制限はないのでハーレムも可能。

 

そして一般市民の一番手っ取り早いゴールドの稼ぎ方は、売血である。職の空きが極めて少ないならそうなるか。皮膚の薄皮とかも売れるそうなので、それでお金を貯めていくのだろう。

 

「……人類の生存圏を脅かすシャドウの存在ってさ、ある意味超便利だよな」

「シャドウのお蔭で雇用が作りだされていることを考えると、シャドウを生み出したのはタキオン船団側だと思ったけど歴史書とかにはその記述はないな」

「流石にその手の話がマジなら全書物で改竄してるだろ。書籍は何も信用出来ねー」

「カエデさんにもそれとなく聞いてみたんだが、それ以降ずっと避けられててなあ」

「1回しか会えてない理由それじゃないの?というかそれを聞いて避けられる時点で確定だと思うんだけど……」

 

今日はユリクリウスとパーティーを組んでシャドウの拠点でレベリングをした後、諜報部の書庫で書物を漁る。全部電子データ化されているかと思ったら、紙でも保存しているという謎状態。まあ紙が貴重だし、捨てるに捨てきれない状態じゃないかな?自分も似たような経験はあるから本棚で保管されているのを見て突っ込みたくはない。

 

この世界についてを調べていると、どんどんシャドウが扱いやすくて便利な存在に思えて来た。ユリクリウスが指摘した通り、雇用の創出に一役買っているというか雇用の創出のためにシャドウが生み出されたんじゃないかと考えてしまうぐらいには都合が良い。

 

「独裁政治で最高指導者は結婚禁止、後継者を指名する政治形態とかは面白い部分だな」

「シウラさん結婚できないのかー。行き遅れじゃなくて元々無理なのはちょっと可哀想だ」

「まあ世襲制にさせないようにするには結婚禁止が一番だろうから仕方ない。DNA検査で現指導者から三親等以内の人は次期後継者に指名不可らしいし。……元々結婚禁止が受け入れられている世界ならではだな」

「後継者も、自分の子供が候補になければ純粋に優秀な人を選びそうだしな」

「中々面白い話をしていますね?」

 

政治については優秀な独裁者が全てを決めるようだけど、死ぬまで独裁者をやらないといけないようなので実質終身刑。シウラさんが一時期FUO2プレイヤー間で行き遅れおばさんとか言われてたけど、単純に結婚できなかっただけという。

 

雑談を続けていると、タキオン船団の船長&独裁者であるシウラさんがニッコリ笑って話しかけて来た。急に話しかけて来るので一瞬肝が冷えた。圧が凄いよ最高指導者。

 

「……ユリクリウス様は把握しているはずですが、このタキオン船団には無数の監視システムがあるので特に情報が多い諜報部の室内で内緒話は出来ませんよ?」

「マイルームにはサポートロイドもいるし、24時間四六時中監視されているのは把握してるよ」

「クロワッサン様も、そのことを把握していてシャドウ誕生について色々と調べるのは良くないと理解出来る頭はあるはずですが……?」

「それぐらいは理解してるし。ついでにタキオン船団側の嫌な部分を漁っても自分が消されない程度には重要な存在であることも理解してるよ」

「……その認識は、どこからでしょうか?」

「黒猫が好感度上昇アイテムをシウラさんに使って消されなかった辺りで。よっぽどなことをするか反乱でも起こさない限り、地球組は丁重に扱わないといけないんじゃない?って考察」

 

シウラさんがストレートにシャドウ誕生について調べるなと釘を刺して来たけどこんな確定ムーブされて調べるのを止める人間ではないです。あと個人的に思っていたことだけど、地球組はかなりタキオン船団の命運を握っていると考えて良い。その中心戦力である1鯖のトッププレイヤー達を、闇に葬ることは難しいのだろう。

 

「あ、俺もシウラさんに質問ありますが良いですか?

地球組の身体って作られた存在と言われてましたけど、それって人工授精させた試験管ベビーを培養槽で大きくしただけです?」

「……正解です」

「ああ、作られた身体とか言ってたから機械の身体とか思ったんだけど、人工授精で文字通り人を作ったのか。技術進んでると色々とヤベー事出来るんだな」

「そうそう。それで魂だけこっち持って来たとか言ってたけど、単純に脳を入れ替えたんだと思ってるよ」

「……?この世界は西暦で言うと5000年とかそのぐらいじゃなかったか?」

「そこに関しては証明手段もないけど、たぶん未来じゃないよ。過去から何かを持って来る技術なんてなかったし、時間に関わる技術があるならそもそもシャドウの発生原因を防ぐでしょ」

 

ユリクリウスはどうやらこの世界に対する考察をかなり深めていたようで、隣にいるシウラさんは苦笑いをずっと続けている。しかしそれでも、1鯖トップの火力と耐久を宇宙船から追放とか出来ない辺りマジで主戦力なのか。

 

「シャドウの発生原因については魔力のある惑星に」

「そのシャドウという種の元を作ったのは100%タキオン船団側だと考えているから取り繕う必要もないですよ」

「あ、やっぱりそうか。自分でも分かる」

「俺でも分かるんだから黒猫とか初日段階でこの質問してたと思うぞ」

「そこら辺まで全て把握した上で好感度上昇アイテムをシウラさんに使うとか行動がロック過ぎる」

「……地球組の知りたがりは我々の想像を大きく超えていましたよ。これで根本的な説明をするのは4組目です」

「それは前に3組もいると考えるべきか、3組しかいないと考えるべきか……」

「俺は3組しかいなかったのかと思ったよ……いや、気付いた上で切り込めたのが3組しかいなかったのか」

 

シウラさんは観念したかのように説明を始めるけど、この説明にもたぶん嘘情報は入っているよな。まあでもシャドウの元を生み出したのはタキオン船団側だとはゲロったので一安心。公式設定とは流石に違うし、大いなる闇を作ったのもタキオン船団側とかこの宇宙全ての事象がタキオン船団の自作自演かよ。

 

というか大いなる闇を生み出した1人がシャドウ側に裏切った戦争おじさんことエディスとかシャドウ側の裏切り者はコイツだろう。しかしどうやら、大いなる闇が成長し過ぎて制御できなくなった上、シャドウの増殖により全宇宙に被害が出ているとかタキオン船団自体が迷惑極まりない存在だな。

 

……んん?

 

「そのうちシャドウが地球にも襲来するとかあり得る?」

「おお、クロワッサンにしては冴えてる。その可能性は頭になかった」

「……恐らく、大いなる闇が復活してシャドウがより積極的に勢力圏を大きくすればいずれ地球にもシャドウがやってくるでしょう」

「というか地球での自分ってどうなってるの?脳を引っこ抜かれたら流石に死んでる?」

「いえ、身体ごと持って来たので日本からは急に300万人が消えましたね。本来の身体は念のため、とある惑星のコールドスリープ施設で保管しています」

 

もしも時間軸に変化がないのであれば、そのうち地球にもシャドウが襲撃する可能性はあるため、自分達が地球に行く可能性も発生する。この身体で地球を探索するとか普通にやってみたいし、今は接触厳禁のようだけどいずれは帰れるのか。

 

そして元の身体は一応保管しているようなので、元の身体には戻れるようだけど流石に脳を何度も動かすのは難しいようで、元の身体に戻ったら再度この身体の中には入れないらしい。この辺は嘘っぽいけどタキオン船団の医療レベルを調べれば分かることだし、調べたら分かることで嘘をつくとは思えないから事実かな?

 

というか、日本で急に300万人が消えたとか一大事ってどころじゃなくて草。しかもFUO2プレイヤーの大半は30歳以下の若者だろうし、労働人口も多いはず。それらが300万人も消えるとか日本の経済は大ダメージってレベルじゃないぞ。

 

そう言えば、タキオン船団側が用意してくれたカレンダーや曜日はサービス終了日から連続するような形式のものだった。あれは単純に、時間軸が変わってないことを示していたのか。

 

「ちなみにどうしてシャドウが制御不能になったんですか?俺はエディスさん辺りが『戦争こそが停滞しているタキオン船団を成長させるための重大な要素』とか言って制御不能にしたんだと考えてますけど」

「単純に制御することを考えてなくて野に放ったら増殖して手が付けられない状態に、じゃないのか?」

「……ユリクリウス様正解です」

「流石に制御はしようとしていたのか。マッチポンプの規模が凄い」

「いやまあこれ正解しても現状は何も変わらないけど。とりあえず、復活までの猶予が分かるなら教えて欲しい」

「正確には分かりませんが、1年ほどの試算です」

 

ユリクリウスが色々とタキオン船団の闇を握ったからか、大いなる闇の復活までの正確な期間を教えてもらったけど1年か。今80レべの人とかは真面目にレベリングをすれば150レべぐらいにはなりそうだし、低レべ層の中からも戦える人が出て来るかもしれない。

 

いやしかし、培養槽で培養した人の身体に入っているのにも関わらず違和感とかがないのは凄いな。拒絶反応とかが出ていないのも凄すぎるし、地球との技術レベルの差は尋常じゃないや。



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第27話 目的

シウラさんに今までの話をチームチャットに流して良いか聞くと凄い剣幕で悩んだ後、諦めたような顔で「構いません」とため息交じりに呟いた。どうやら色々なことが明らかになるタイミングとして、早すぎたみたい。まあ元の身体があって戻れるなら戻りたいという人は多いだろうし、地球があるなら戻りたいと考える人は多いだろう。

 

だからユリクリウスと相談して、チームチャットに今の話を流すことは止めておこうという結論になった。自分もユリクリウスも、シアリーの中のトップ層だし、元の身体には戻りたくない派である。理想の男の娘になれたとか、戻る必要性もないしな。

 

しかしTSしてしまった人達にとっては、元に戻りたいと願う人も出て来るだろう。元の身体に戻りたくないにしても、親や兄妹に会いたい人は多いはず。その可能性を示唆しただけで、今は何とかまとまっている地球組が割れる可能性すらある。だからシウラさんも時期尚早だと判断していたのだろう。

 

帰れないのであれば、ここで生きていくしかない。何だかんだで大半のシアリーは悪い生活どころか良い生活を送れているようだし、こっちに慣れてしまえば戻りたい人も少なくなるという判断か。

 

……技術格差は凄いし、飯はこっちの方が美味いからなぁ。サポートロイドの作ってくれる料理はどれもプロの料理人が作ったかのような完璧具合だし、味も抜群に良い。

 

そしてもうサポートロイドに手を出している人の方が多いだろうから、人間の三大欲求の内の食欲と性欲は既に掴まれていることになる。……こっちに来てから快眠続きだし、不眠症なんかは一瞬で完治するだろうから睡眠欲も既に全部握られているか。改めて考えるとタキオン船団えげつない。実にえげつない。

 

[クロワッサン:マイルーム帰ったらコッペパンとチョココロネが両腕に抱き着いて来て離れない件について]

[ユリクリウス:クロワッサン、お前もか]

[クロワッサン:サポートロイドに何らかの指示が下ってそうだからその件について聞き出そうとしてるけど何も答えてくれない]

[ユリクリウス:手を出してない組に色仕掛けぐらいは指示出てそう。理性溶けるわこんなん]

 

マイルームに戻ってソファーにぼふんと座り込んだら、普段は隣のマイルームで待機しているコッペパンとチョココロネが両腕に抱き着いて来るけどこれはもう何らかの指示がタキオン船団側から出てそうで凄くもやもやする。

 

「……何があったの?」

「何もかも、なくなったのです。船団からの指示も、感情の抑制機構も、行動制限も、監視義務も。サポートロイド専用ネットワークにすら繋がらなくなりました」

「おおう、これどっちだ……?」

 

訳を聞くと、どうやらタキオン船団側としての役割を全て放棄させられたと言うが、当然演技の可能性もあるので迂闊に信じられないのは辛い。何も考えずに泣きそうなコッペパンを抱きしめてイチャイチャしたいところだが、ここは一旦鋼の理性で耐える。

 

[クロワッサン:なんかサポートロイドの様子が変になった?]

[黒猫:普段冷酷な目で見つめて来る白猫が『捨てないで下さい!』みたいなこと言い始めたからバグったと思ったけど一斉に起こってるのかこれ]

[ユリクリウス:俺らだけじゃなかったか]

[ふわわ:なんかタキオン船団との繋がりが切れたみたいで凄く不安そうな表情が凄くそそりますそそり立ちます]

[ゼル:ちょうど1か月だし何か方針転換でもあったのかな?

凄く庇護欲が湧き出るというか……]

[クロワッサン:監視義務もなくなったとか言ってるけど今まで監視してました的なことを聞くの辛い]

[ユリクリウス:そしてこれが演技の可能性すらあるの辛い]

[ゼル:そこは信じてあげなよ……?悪魔の証明みたいなものだし、サポートロイドの行動が全て演技でタキオン船団側の思惑通りだったとしても使用者本人が幸せならOKだと思います!]

 

今度はユリクリウスへの個チャではなく、チームチャットの方に様子を聞くと全員のサポートロイドがタキオン船団側から切られたようで、やっぱりサポートロイドの性格が少しおかしくなっているらしい。このタイミングで、シウラさんから全シアリーに対して連絡が入る。

 

『地球組の皆様、お久しぶりの方はお久しぶりです。タキオン船団船長のシウラから、現状の説明を行います。

ただ今を持ちまして、地球組の保護観察期間を終了いたします。よってサポートロイドの監視義務および個別任務は全て白紙となり、正式に個人所有のサポートロイドとなりました。全員、日本で言う個人事業者となったことでマイルームは完全なプライベート空間となり、稼いだ金額によって税金の発生もします。またマイルームの使用料に関しては…………』

 

どうやらタキオン船団側は、この1か月を保護観察期間と称して監視していたことを告白するが、この保護観察期間が終わったの自分とユリクリウスのせいじゃないか?たぶんだけど、大いなる闇が復活する直前ぐらいまでは監視するつもりだったと思う。

 

シウラさんは一方的に、今後ともよろしくお願いいたしますという言葉で挨拶を締めくくるけど四六時中行動を監視していたとかこれ地球組のタキオン船団への不信感、相当なものになっただろ。やっぱり社会が違うと敬遠する部分も違って来るし、分かり合えない部分も出て来るか。

 

というか、税金とか一番聞きたくない単語が聞こえた気がする。コッペパンに確認すると、どうやらシアリーは稼いだ額の1割を納税する必要があるそうで……1割ならまだ良いか。中層以下のシアリーにとっては痛手だろうけど、思っていたより低いなと感じたところでそう言えばシアリー自体が特権階級だったことを思い出す。

 

そしてマイルームの使用料なるものも徴収されると聞き、6部屋までエリアを拡大しているマイルームの使用料は10万ゴールドとのこと。6部屋で月10万かぁ。まあまあ良いお値段はするな。

 

ちなみにマイルームにはサイズ小とサイズ大があるけど課金者は大体サイズ大が6部屋だろう。1部屋分に関しては無料で、追加分に関してはサイズ小が一部屋1万ゴールド、サイズ大が2万ゴールドと分かりやすいお値段。

 

さあ働けと言わんばかりのタキオン船団の態度だな。すまん地球組のみんな。お前らの特権自分とユリクリウスが0にしたかもしれん。いやまあ課金者以外は基本1部屋だっただろうし、今までとそれほど変わらないのか……?相変わらず、無料の完全栄養食は届くようだからな。

 

というかネットサーフィンで一日を潰している連中からすればマイルーム一部屋でも大した問題じゃないな。一応サイズ小でも20畳程度はある広さだし。サイズ大への拡張だけならゲーム内価格で5万ゴールドだったはず。確か変わってなかったから、一般層なら何とか手が届く範囲かな?

 

「とりあえず捨てることは絶対にないから、今まで通りに家事や掃除をお願い」

「それではサポートロイドとしての機能を十全に活かせていません。家事や掃除だけであればメイドロイドでも可能です。サポートロイドの存在意義は、戦闘のサポートです」

「……サポートロイドが身に付けた装備って、装備の特殊能力の意味が無いんだよね?高難易度帯ほどその足枷は大きいんだけど理解してる?」

 

状況の把握は出来たので、抱き着いてくるサポートロイドの頭を撫でて絶対に捨てないことを告げるが、それでも不安そうな顔をする辺り今までの行動は全てタキオン船団の指示通りだったというわけで凄くもやもやする。ついでに戦闘に連れて行けとコッペパンが言うけど、サポートロイドの装備はゲーム時代、特殊能力が一切適用されなかった。

 

これが高難易度帯だと致命的で、ステータスは盛れないわ必須スキルは持てないわで残念な仕様になっていた。なんかサポートロイドが今までより戦えるような気配もするけど、レベル差もあるし留守番か採取系のクエストを任せるぐらいしかできないかな。

 

っと、そうだ。そろそろレベル5の状態でこの世界に来た一般層が何レべぐらいになったか確認しておこう。

 

[クロワッサン:ケルビンさん今大丈夫?]

[ケルビン:はい!?い、いきなりなんでしょうか?]

[クロワッサン:今のレベルってどれぐらい?]

[ケルビン:今58レべですね。結構順調な方です。ふおにの森8から7に移籍しましたし]

[クロワッサン:うわめっちゃ厳格な管理してそう。あと、1か月前は5レべだった層って今何レべぐらいか分かる?]

[ケルビン:15レべから20レべぐらいじゃないですかね。ふおにの森の初心者組はまず座学から始まりますが、結構順調ですよ。ところでクロワッサン先輩のレベルは……?]

[クロワッサン:154レべ]

[ケルビン:……この世界を楽しむことなくレベリングしてそうですね]

 

ということでリアルで繋がりのあったケルビンさんに、今のケルビンさん自身のレベルと5レべ層について聞くと大体1ヵ月で+10レべから+15レべ程度との回答があった。うーん、上位層は120レべから135レべ程度だから、どの層も真面目にシャドウを狩ってるなら2日に1レべは上がる計算か。となると、今10レべ以下の人はもう戦闘を諦めた人達か。

 

ふおにの森のチームナンバーは150まで作られており、合計で14834人が所属している。レベルの順に並べている感じで、50レべを超えていればふおにの森10には入れるそうだからここら辺が中位層か。ほとんどプレイしてなかった層の方が多いだろうし、初心者の育成は大変だ。

 

……うん、サポートロイドを養殖した方が将来的な戦力という意味では良いかもしれない。装備面は壊滅的だが、立ち回りはゲーム時代よりも上手くなっているし、補助役に必要なのはその立ち回りだ。となればもう1人サポートロイドを買って、4人パーティーを作るべきか。

 

[ゼル:サポートロイドが途中から育ち辛い理由分かった。所有者のレベル-10レべまでは普通に経験値入るけどそれ以上は所有者の方に流れてる。減衰かかる分所有者に流れる感じ]

[クロワッサン:マジで!?それならレベリングに使えるか?いやでもパーティー作るなら経験値は分割されるし、結局一緒か?]

[黒猫:パーティーの経験値分割は1人だと100%、2人だと75%、3人だと65%、4人だと50%だ。パーティーが全員サポートロイドで全員の経験値が全部所有者に流れるならレベリング効率は2倍になる。気付いていた奴は気付いていた奴か?]

[ABC:4人パーティーだからと言ってシャドウを狩る速度が4倍になるわけじゃないし、結局はそこまで大きく変わらないと思うよ]

[ユリクリウス:そもそもサポートロイドは火力出し辛いから辛い]

 

チームメンバ同士でパーティーを組むのがレベリングではベストなんだけど、いつも一緒に行ってくれるわけではない。完全機械のはずのサポートロイドがやる気というものを出しているので、レベリングしていこうか。



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第28話 パーティー

ゲーム時代にも、サポートロイドは3人所有することが出来た。だからサポートロイド達だけでパーティーを組む人もいたし、ふわわさんとかはそういうタイプの人だった。しかしエマージェンシークエストにはサポートロイドを連れて行けない。それだけ、プレイヤーより弱い存在だった。

 

しかしまあ、初心者を一から育てるよりかはサポートロイドを育てる方が効率は良さそうだと思う。人間だと『ある程度力を付けたら後は引き籠り生活』とかをされてしまう可能性があるし、実際にそれをやられると非常に困る。また、この手の引き籠りに対して罰則を与えるのは難しい。エマージェンシークエストが発生した時とか、強制参加で戦いに行かないといけない時は無理やり行かされるんだけどね。

 

というわけで新しくサポートロイドを作るわけだけど今回は両脇から覗き込むようにコッペパンとコロネがディスプレイを見ている。顔や身体をくっつけてまで覗き込んで来る辺りは単に興味があるのか嫉妬しているのか分かり辛い。

 

[クロワッサン:とりま3人目のサポートロイドもロリ巨乳にする]

[ふわわ:は?]

[ゼル:私は一向に構わん。やれ]

[ユリクリウス:可愛ければそれで良い]

[ビートル:ロリの貧乳はステータスです。盛るな]

[ABC:他のチームは装備のお下がりの議論が活発になっているそうだけど、ここはいつもこれだね……]

[黒猫:永遠の議題だからな。しかも丁度半々になるし]

[時雨:大きいお胸は好きだけどロリに付けるのはやっぱアンバランスじゃない(・・?]

[ハル:アンバランスなのが良いんでしょ]

[クロワッサン:いや明らかなアンバランスにはしないぞ……?]

[黒猫:このチームがもしも分裂するなら間違いなくロリ巨乳推進委員会とロリ巨乳撲滅委員会の抗争からだな]

[ABC:こんなんだから新入りが発言し辛くなるんだよ……]

[ぐんぺーさん:えっと、ロリは巨乳も良いと思います]

[ゼル:ロリは巨乳"が"良い、でしょ!]

[ふわわ:ぐんぺーさんのサポートロイドは貧乳です。残念ながら貧乳派閥よ]

[ぐんぺーさん:いやあの、無じゃなければそれで良いというか……]

[桜華:ロリは無乳が良いです!それ以外は邪道です!]

[ふわわ:ロリは基本無だよ……?]

 

チームチャットが加速する時は、大体ロリの体型についてである。幼女同盟の名に偽りはない。なお新入りさん達も大分慣れて来たのか一番流れが早くなるロリ巨乳推進委員会とロリ巨乳撲滅委員会の言い争いの時は口を挟むようになってきた。レベルも黒猫が見込んだ人だから最初から65レべや80レべといった高水準の人も多いし、レベリングの早い人が多い。

 

そして今回の口論で、新入りにロリ巨乳派が多いことを知り何人かは自分のサポートロイドの写真をチームチャットに添付していたので、ありがたく保存して参考にさせてもらう。ロリと言っても千差万別、色んなタイプのロリサポートロイドを見れたので満足です。

 

[時雨:マイショップでのやり取りでの利益からも1割徴収とか聞いてない( ・∇・)]

[ユリクリウス:うわマジか]

[黒猫:どうやらゲーム時代のアイテムを売っただけだと大丈夫なようだけど、転売すると差額から利益が自動計算されて勝手に徴税されるな]

[クロワッサン:確定申告……足りない領収書……うっ、頭が]

[ゼル:クロワッサンって大学生じゃなかった?]

[ユリクリウス:クロワッサンも俺も課金のためにアルバイトしたり競馬したり株したり仮想通貨してたから……]

[ふわわ:課金は鯖トップ勢にとって呼吸]

[ゼル:ゴールドからの課金機能はよ]

 

性癖バトルが一段落しそうなときに、強引に話題を変えたのは時雨さん。相変わらずショップ戦士をしているようだけど恐らく自分とユリクリウスの一番の被害者。まあ転売利益も収入なのはまあ仕方ない。もう既に10億ゴールド以上の資産があるようで、たぶん元々持っているアイテムを上手く捌いて現金を確保したのかな。

 

市場を操るためにはある程度の資金が必要とか、怖いことを言ってたし順調に転売を繰り返している模様。倉庫は全てMAXまで拡張してそうだし、市場操作に悦びを感じる辺りはちょっと怖い。チームメンバーには良心的価格で、時には無料でアイテムをくれる良い人なんだけどね。

 

[クロワッサン:時雨様、今のマイルームに飾っているマットやポスター類は換金出来ますでしょうか……?]

[時雨:値下がり傾向だけど案外人気はあるからポスター類は過去10件取引額の平均でなら仕入れるよ( *´艸`)]

[クロワッサン:マジで!?ありがとうございます!]

[ユリクリウス:あ、俺も運命シリーズの装飾品とか売り払いたいな]

[時雨:装飾品はまず取引が少ないから塩漬けしてた奴は売り辛いかも。まあ8割でなら買うよ( ゚Д゚)]

[黒猫:時雨銀行の開店である。融資してくれえ]

[ゼル:元々タキオン船団に所属しているシアリー達もいるのに既に市場掌握しかかっているのヤバすぎでしょ]

 

幾つか適当に高いポスターを時雨さんに売り払うと、3000万ゴールドという資産が出来たのでサポートロイドを15人は買えるな。ポンと3000万ゴールドを渡せるだけの金額を集められたことに驚くけど、市場自体が大きくなっているからゲーム時代よりゴールドは集まりやすいのか。初心者層もちゃんと依頼をこなしていけばお金は結構溜まるし装備を強化していくなら素材が必要になってくるからショップで買う必要が出て来る。

 

特に技の厳選とかは必要素材が多い上に上位ほど素材が集まりやすい仕様だからお金は上位層に集まるな。技は基本どれも壱式弐式参式とあるけどデメリットが重いのに対してメリットである強化パラメータの数値変動はランダムなので下手したら弱くなるまであるのが辛い。

 

しかしこれだけのお金が入って来るとなると、装備の更新も視野に入る。自分も火力用装備はあまり整ってなかったし、HPが大事な世界だからカチ用の装備を作りたいという人も多いだろう。新しいスキルとの兼ね合いもあるし、装備の最適解は変わっていく。……またあの地獄を繰り返すのかと思うと今から辛いけど。

 

[ユリクリウス:【内装・ガレージC】が568個あるけど市場にないキタコレ]

[時雨:いやそれ塩漬けしてる人多い上に誰も欲しがらないと思う……]

[クロワッサン:部屋の中をガレージにしたい人がリアルでいるのか……?]

[ゼル:一部屋だけなら欲しいかもしれない]

[ぐんぺーさん:それ僕も持ってます]

[黒猫:それ21個あるわ……無料チケットの方だから塩漬けどころか存在を忘れている人も多いと思うぞ?]

[ユリクリウス:そもそも消費がそんなにないか……何で集めたんだ過去の俺……]

 

時雨さんがチャットに顔を出すとみんなお金の話をし出すので幼女同盟は全員お金が大好きです。まあ元々ゲーム内通貨を幼女同盟は全員、かなり抱え込んでいたと思うし、それが0になった今金策は大事。

 

食事の方もお金があれば毎食寿司なんてことが出来るしね。……このゲーム、鮪や鮭がいるしな。釣りで『オパルのマグロ』や『ドゥームズのサケ』が入手できるし。マグロはどこの惑星にも居たし産地毎に色が変わるけど、グラフィックの使いまわしじゃなくて養殖しているだけだったんだな……?

 

「コッペパン、今日はマグロとサケの寿司をお願い」

「かしこまりました。『オパルのマグロ』の大トロ2貫、中トロ2貫、赤身2貫。それに『ドゥームズのサケ』のサーモン2槓、イクラ2貫でよろしいでしょうか?」

「……そう言えば、タイとかハマチはない?あと鰻とか」

「タイは『海底神殿のキンイロダイ』がありますのでそれを。ハマチは『オパルのフィッシュキング』が、鰻は『シリウスのウツボ』が似た味と食感かと」

「そうかそう言えばキンイロダイっていたな。じゃあそれらも2貫ずつお願いします」

 

サポートロイドの3人目に関してはまだまだ時間がかかりそうなので途中で打ち切って食事の時間。最近は、結構な頻度で寿司を食べている。値段を気にせずに食べる寿司は美味い。間違いなく高級寿司屋でしか食べられなかった寿司をマイルームで頻繁に食べられるのは素晴らしいことだと思う。

 

ゲーム時代だと1匹1000ゴールドで売られていた『オパルのマグロ』は、今や1匹20万ゴールド以上の高級アイテムになっている。マグロを1匹丸ごと買って20万ゴールドはまだ安いかもしれない。……いざ上位勢が買い漁るとすぐにマグロやサケの在庫が尽きたし、今後も値上がりは続くかな?

 

ちなみにサポートロイドはマグロの解体もお手の物です。寿司もちゃんと握ってくれます。ロリっ子が丹精込めて寿司を握ってくれます。ついでに自分は寿司が好物です。そりゃ寿司の頻度上がるわ。毎日寿司パーティーしたいぐらいだ。

 

[クロワッサン:マグロがまた値上がりしてるな。

しかしまあ、1回買ったらしばらく寿司三昧だからなぁ。気軽に寿司パが出来る素晴らしきこの世界にイカをくれ]

[ユリクリウス:タコならいるのに]

[黒猫:海老とタコで我慢しろ]

[ゼル:イカ食べたいよね。他の魚類なら代用が効くんだけど……]

[ABC:割高でもマグロは部位毎で買ったら?使い切れないでしょ]

[クロワッサン:まあ色んなレシピでサポートロイドが消化してくれるし保存もできるからシビアにならなくても良いと思う]

[ビートル:これマグロを素材にしたブーストアイテム市場から消えるんじゃね……?]

[時雨:あの大きなマグロがマグロ煮1個で2匹消費されること考えたら市場からブーストアイテム消えるのも仕方ない気がする……]

[クロワッサン:マグロ煮って射撃攻撃プラス100だから結構大きい気がするけど生活優先だな]

[時雨:タキオン船団が暴利食ってそう( `ー´)ノ]

 

恐らくこのマグロも、地球のマグロに似ているだけの別の魚だろうけど似ているからもうマグロで良いや。美味しいし、大トロなんて脂ののりが良すぎて一瞬で溶ける。まあ各惑星にいるということは、養殖しているということだろうし不味い魚を養殖するはずもない。

 

……胃袋が陥落済みだから地球に戻りたくない人は、結構な数になってそうだ。

 

 



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第29話 3人目

ちょっとありあわせの髪型チケットや瞳チケットで良い感じのサポートロイドは作れなかったため、時雨さんからの3000万ゴールドの内2000万ゴールドぐらいを費やして『ふんわりツインテール:白』と『シウラまゆ白』と『白まつ毛C』を購入。何か瞳以外丸々買って資産を溶かした気がするけど気にしない。元々があぶく銭だし。

 

3人目のサポートロイドの名前を『ロールパン』にしてこれで完成。メインクラスはメイジの支援魔法特化にするつもりなのでロリお嬢様っぽく高貴な感じにした。このゲーム、クラス別の男女比率も発表されていたけどメイジは女性比率が1番高かった。その上、メイジは装備にお金がかかるため、FUO2プレイヤーからはメイジの女性キャラ=お嬢様と呼ばれている。

 

クロワッサンを守るコッペパン、チョココロネ、ロールパンって文字にすると違和感が凄そう。実際には自分がサポートロイドを守りながらレベリングしていくことになるのだが。

 

クラス構成はコッペパンがアーチャー/ソードマンでデバフ撒き特化にするため、コロネがヒーラー/ソードマンで回復特化、ロールパンがメイジ/ソードマンでバフ特化にする感じで良いか。当然全員ガードスタイルのカチスタイル。命を大事に。コッペパンのサブクラスはナイトからソードマンにするけど火力にはそんなに影響しないはず。

 

……まあ支援特化で装備のスキルが機能しなくても、元々の装備が最高レアではあるから最低限火力はあるな。スロットを5か6ぐらいまで拡張した一般シアリーの半分程度は出る。なお廃課金最前線シアリーは一般シアリーの2倍程度の火力を出すから実質1/4。ユリクリウスはその最前線組と比較しても2倍の火力が出るからユリクリウスと比較したら1/8程度だな。

 

「まあまずはソードマンのレベリングからになるから全員ソードマンをメインにして養殖するか」

「私のソードマンのレベルは100ありますので、アーチャー/ソードマンでも戦えますが……?」

「いやもう全員ソードマン130レべまでレベリングしてガードスタイルのスキルマップ全部取って貰う。そこからメインのレベリングだけど……時間はかかりそうだな」

 

自分が倒した経験値が、パーティーに分散されるというのは既に確認済みなので経験値の高そうなシャドウの拠点で自分がひたすら敵をひきつけて狩ればサポートロイドのレベリングはスムーズに進むだろう。

 

「あ、注文したサポートロイドが届きましたよ」

「はっやぁ!?」

「もう既に地球組へのサポートロイド配布は終わっているので、素体が余っていたようです。それにマスターのサポートロイドの注文は、最優先で受けるようタキオン船団から指示が出ていたはずです」

「まあ1体10分程度で作らないと1か月経っても地球組への配布がまだ終わってない、みたいなことになりかねないしゲームでも外見弄るのは一瞬だったな」

 

注文して、僅か1時間ほどでロールパンは納品される。タキオン船団の技術力がおかしい。ちゃんと録画が出来ているか確認をして、綺麗にラッピングされたプレゼントボックスのような箱を開けると、中には白髪ロリお嬢様が眠っていた。

 

[クロワッサン:3人目のサポートロイドのロールパンです。【ロールパンの寝顔写真】ロールちゃんと呼ぶか]

[ふわわ:ふおおおおおおおおおおおおおお!]

[黒猫:顔の造形に関してはユリクリウスとクロワッサンの2トップが凄まじすぎる]

[ゼル:ロリっ子お嬢様を求めたんだってすぐ分かるの良いね]

[クチリ:もう一体サポートロイド欲しくなりますね]

[ユリクリウス:俺もそうりょちゃん作る]

[ハル:正直に言うと男に戻ってサポートロイドとにゃんにゃんしたい]

[クロワッサン:性転換はゲーム時代になかったけどこの世界の技術力なら性機能を有した性転換も出来る気がする]

[ユリクリウス:いや、そのレベルの性転換は厳しいと思うぞ?]

 

改めて見ると髪のボリューム感が大きいからミスったかとも思ったけどこれはこれで良い感じだ。コッペパンやチョココロネのような、お団子ヘアよりかは髪の調整が難しかった。そして衣装はお嬢様感を出すためにゴスロリファッション。見た瞬間にお持ち帰りしたいと思ったけど既に家の中である。もうお持ち帰りしていたわ。

 

「初めまして、ご主人様。ロールパンですわ。これからよろしくお願いしますわね」

「うんよろしく。早速だけどシャドウの拠点の脅威度高いところいくから死なないでね」

「……えっ」

 

元々ソードマンにクラスを設定していたので、装備だけ最高レアのやつをポンと渡してシャドウの拠点の脅威度が高い地点へ向かう。敵レベルが175ということもあり、敵も硬いが自分も硬い。そして計算上だと、このシャドウを1体倒しただけでロールパンはレベル1からレベル12になるはずである。

 

そう思って最初の1体を倒すとロールパンは12レべに。経験値の倍率は変わってなさそうだから、必要経験値の増え方も変わってない感じかな?指数関数的に必要経験値は増えて行くけど、シャドウを倒す時に得られる経験値も指数関数的に増えて行くんだよね。だから自分が死なないなら、極力倒していくシャドウのレベルは高い方が良い。

 

あとサポートロイドは人工頭脳で全部バックアップが効くから最悪死んでも生き返る。意識の連続性があるのかは不明だけど、こちらからしたら分からないし結局は最前線で戦うことになるから今からそこを気にしても仕方ない。

 

一応、サポートロイドの基本耐久値は軒並み高いからガードスタイルなら早々落ちないと思う。ただロールパンはまだ低レベルだし、ガードスタイルでも60レべぐらいまで175レべシャドウのワンパン圏内なのでそれまではコッペパンとチョココロネに守って貰う。もちろんコッペパンもチョココロネも敵を倒していく火力は全然ないけど、ヘイト上昇スキルの使用は可能だからね。

 

[クロワッサン:シャドウの拠点で養殖してるとロールパンが凄まじい勢いでレベル上がるの草]

[黒猫:1レべの生まれたてのサポートロイドをシャドウの拠点連れて行くのかよ……]

[ユリクリウス:あれさっき個チャでレベル175のところ行くって言ってたけど175のところ?]

[ゼル:効率厨は時々頭悪くなるよね]

[クロワッサン:まあ自分の命はBetされてないから……あと175のとこだよ]

[黒猫:そりゃサポートロイドのレベリング捗るわ]

[ユリクリウス:絶対に人では出来ないレベリングだな]

[ゼル:養殖するなら人よりサポートロイドの方が立ち回りや各種シャドウの弱点を知っている分良いかもね]

[ふわわ:サポートロイドはきちんと弱点狙ってくれるし武器の切り替えもしてくれるから下手な人よりよっぽど火力出るよ]

[クロワッサン:そりゃふわわさんのサポートロイド全員テイマーでペットに課金飴大量に食べさせているからなぁ……]

[ふわわ:全員ダーククロウ使いです(*'▽')]

[黒猫:それもうお前もサポートロイドも自動追尾弾を発射し続けているだけだな?]

 

サポートロイドはテイマーが強いとよく言われるが、これはサポートロイドのペットも強化が可能な上、装備の火力がペットの攻撃に関係しないのも大きい。要するにプレイヤーとサポートロイドが同等のハンデを背負っているから、課金でペットを大量に揃えられるならサポートロイドでもある程度の火力は出せる。

 

まあそもそもテイマー自体がそこまで強くなかったから着目してなかった人も多いだろうけど……サポートロイドだけでパーティー組むならサポートロイドはテイマーが最適解かもしれない。ただペットの育成に今から着手するとゲーム内でも年単位の時間が必要だ。リアルになった今、何年の月日とゴールドが必要なのか考えたくもない。

 

[クロワッサン:ダーククロウだけしか育ててない感じ?]

[ふわわ:ダーククロウとミリィの2匹だけをリンゴ、ミカン、モモの3人は育てているから計6匹]

[クチリ:ダーククロウは強いし何も指示しなくて良いので楽ですよね]

[黒猫:通常攻撃時の自動追尾弾とMP消費時の高速自動追尾弾の2パターンしか火力出ないからな]

[ふわわ:課金飴最大まで食べさせても1発10万ダメというのが泣けてくるけどね]

[クチリ:1発10万もでるんですかあれ……]

 

ペットで人気なのはおそらくダーククロウだろう。棒立ちでもシャドウを発見すると自動的に攻撃を開始するし、それだけで結構なダメージが入る。テイマーのMPを消費する技の中の1つにバーストというものがあるけど、これは通常攻撃の挙動を一定時間早くするというもの。

 

要するにダーククロウ使いはMPを使ってバーストをしてはダーククロウの通常攻撃を眺めるだけで良いということである。ちなみに自分も1匹だけ仕上げたペットはダーククロウ。カチ装備と合わせて範囲の狭いマップのクエストなら棒立ちが許されるレベル。

 

「レベルが……レベルが……」

「ロールパンはそろそろ60レべいった?」

「もう既に64レべですわ……」

 

シャドウの拠点で狩りを続けると、普通の惑星でシャドウを狩るのとは比較にならない速度でレベルが上がり続けるロールパン。ついでに82レべだったチョココロネは87レべに、100レべだったコッペパンすら103レべになっているので今日だけでかなり強くなったはずだ。

 

レベルの上がり方が緩やかになるまでは、しばらくシャドウの拠点での狩りを続けよう。地味にコッペパンとチョココロネはヘイト上昇スキルを使ってシャドウを釣っては自分の攻撃範囲へトレインしてくれてたから優秀。ソードマンは一気に薙ぎ払ってダメージを与えることが出来るから、自分のレベリング効率も少し上がった気がする。バフも貰えるようになったし、わりと順調だな。

 

 



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第30話 可視化

当初の案ではチョココロネをヒーラーにしようと考えていたけど、サポートロイドがガードスタイル使った時の硬さを考えると回復頻度がそう多くはないだろうからキャスターに変更。ソードマンのレベリングが終わったらキャスター/ソードマンにしよう。

 

そんなことを考えていると自分のレベルが155レべになったので今日の狩りは一旦終了する。1日で1レべアップしたのはかなり効率が良いな。ただやっぱりカチ勢なので殲滅速度は遅いし、ユリクリウスは今日だけで2レべ上がって152レべになっている。二刀流の殲滅速度はおかしいわ。

 

「あれ……ロビーにこんな表示あったっけ?」

「どうやら地球組のレベルのランキングのようです。1位はモルモット様で180レべですね。マスターは3位に入っています」

 

キャンプ船からタキオン船団のロビーに戻ると、シウラさんが挨拶にも使ったディスプレイにランキングが表示されている。ゲーム時代は広告やアップデートの予告映像とかが流れていたけど、現実になった今ではシウラさんの挨拶ぐらいでしか使っているところを見たことがなかった。

 

……これ、ランキングを表示させて地球組の奮起でも狙っているのだろうか。とりあえず見てみると上位50人は名前が表示されるみたいで、クロワッサンの名前は3位にあった。

 

【レベルランキング】

 

1位 サーバー7 モルモット 180レべ

2位 サーバー1 ライト 155レべ

3位 サーバー1 クロワッサン 155レべ

4位 サーバー3 アクア 153レべ

5位 サーバー1 ユリクリウス 152レべ

6位 サーバー1 めう 148レべ

7位 サーバー1 ゼル 147レべ

8位 サーバー21 バルバロッサ 147レべ

9位 サーバー1 ふわわ 146レべ

10位 サーバー18 マリー  146レべ

 

鯖トップ層は、145レべ前後か。ランキングにすると鯖の力関係が分かるけど、上位50人に1鯖はかなりランクインしている人が多い。50位はビートルさんで142レべ。

 

1鯖はそれだけ人が集まっていたということだし、課金者も多かった。それにしてもモルモットさんはこれ経験値入りやすくなってるとかそういうの隠す気ないだろ。ユリクリウスも頑張れば同じぐらいの速度でレベリングできそうだけど、自分のレベリング速度を待っている感じがするし抑えているのだろう。

 

というかここ1週間でレベリング速度が向上したのはシャドウの拠点で脅威度中、150レべ前後のシャドウが湧く地域へ向かう人が多くなったからか。経験値バーが見えないから分かり辛いけど結構効率は違うし、ここで課金アイテムの経験値ブーストを大量に使った人は多そう。

 

しばらくレベルランキングを眺めていたら、ランキングが切り替わる。唐突に表示されたのは、火力指数ランキングというものだった

 

【火力指数ランキング】

 

1位 サーバー1 ユリクリウス 68364

2位 サーバー7 モルモット 49850

3位 サーバー3 アクア 38762

4位 サーバー1 ライト 38750

5位 サーバー1 ビートル 36582

6位 サーバー8 十六夜白夜 35421

7位 サーバー21 バルバロッサ 34526

8位 サーバー18 マリー  34425

9位 サーバー1 めう 33685

10位 サーバー1 ゼル 33671

 

火力指数をどうやって計算しているかをコッペパンに確認すると、平均秒間ダメージ数から算出しているとのことで要するにユリクリウスはライトさんの倍近い火力を出せるということだ。実際、二刀流になればそのぐらいの火力は出るか。あとモルモットさんはレベルが高いから分かるけど、アクアさんが何でこんなに火力指数高いんだ。

 

自分は何位に入っているかなと思って確認すると34位で30356と最上位陣からは若干離された感じ。それでも十分上位層だと思うけど、レベルが全鯖で3位とかなり高いのに火力は34位ということはやっぱりカチ装備の火力の無さが影響しているか。地味にレベルランキングでは50位だったビートルさんが火力指数ランキングでは5位に入っているけど、あれ命削っているような火力装備だからなぁ……。

 

そしてやっぱりというか、防御指数ランキングも発表される。

 

【防御指数ランキング】

 

1位 サーバー1 クロワッサン 149115

2位 サーバー18 アルファ 68251

3位 サーバー1 ふわわ 68141

4位 サーバー8 レミリャ 67522

5位 サーバー2 シャルロット 65875

6位 サーバー12 春山 65754

7位 サーバー3 無脳 65565 

8位 サーバー3 痛いの嫌い 65421

9位 サーバー7 モルモット 65389

10位 サーバー1 ゼル 65325

 

何というか、レベルランキングと火力指数ランキングはある程度リンクしていたけど、防御指数ランキングはレベル関係ない感じだし各鯖の有名なカチ勢が集まった感じ。うん、自分の数値が桁1つ違うのは例のレアスキルのせいだから気にしないようにしようか。あれだけで数値が2倍になっているらしいし。

 

地味に、ゼルさんが火力指数ランキングでも防御指数ランキングでも10位に入っているのは凄いと思う。モルモットさんという例外を除けば両方でトップ10に入っているのはゼルさんだけだし。……ユリクリウスは当然だけど、防御指数ランキングではトップ50にも入って来ないな。まあ火力特化だから仕方ないか。

 

その他、釣りランキングや採掘ランキング、採取ランキングなんかも表示されていくけどこっちはレベル低い人もランクインしているし1鯖以外の人が多くランクインしているね。このタイミングでランキングを表示するようになったのは、戦力の可視化をするためとか色々と理由はあるけどゲーマーはランキングを見ると1つでも順位を上げようとするし、その性質を突いたものかな。

 

[黒猫:案の定クロワッサンの防御力あたまおかしくて草]

[ABC:全鯖1位の火力とカチを保有する幼女同盟とかいう頭おかしいチーム]

[ゼル:攻撃防御両面10位はちょっと嬉しい]

[ユリクリウス:クロワッサン省いたらアルファさんが一番硬いのか。あの人もHPと各種防御ステの両方盛る人だから意外だ]

[クロワッサン:特定の防御ステだけ伸ばして被ダメを1に抑えても他の種類の攻撃受けたらあっさり死ぬし、総合的な防御力で比較してるんじゃない?]

[黒猫:まーた加入申請増えてら……]

[クロワッサン:あれ、戦闘面でふおにの森ってトップ10に入ってるのライトさんだけ?]

[時雨:トップ50で見てもランクインしてるのライトさんとベロベロスさんとlieさんだけだね( *´艸`)]

 

こういうランキングで上位だと、悪い気はしないね。ゼルさんはメインキャスターでカチ寄りの構成だけど、自分よりかは火力が出る人だし、そもそもキャスターが火力を出しやすいクラスだ。

 

元々、敵に呪符を使って動きを遅くしたり、攻撃力や防御力を下げる役割のキャスター。ゲームでの紹介も支援職という位置付けだった。アーチャーのデバフとは共存するからデバフ型のアーチャーとデバフ型のキャスターがいるとマルチでは凄く楽だったな。

 

しかしこのキャスターという職は、デバフ関係のスキルを全部斬り捨てて火力スキルだけを取ると全クラスでトップクラスのダメージが出る。支援職どこ行った。これにより火力しか考えてない人の中ではサブクラスにキャスターを据えてメインメイジで魔法攻撃をし続けるタイプが流行る。ライトさんがこの職構成で、キャスターが実装された頃からナーフもされずずっと生き残っていた。

 

ゼルさんはその反対で、メインキャスターのサブクラスがメイジだね。メインクラスにした時だけ効力を発揮するスキルがある以上、メインをメイジにする方が魔法攻撃のダメージは出やすいけど、メインキャスターの方はダメージをカットするスキルが多いから硬い。

 

『今から呼ぶメンバーは私の自室へ来て下さい。サーバー1、ユリクリウス様。クロワッサン様。サーバー7、モルモット様。サーバー3、アクア様』

 

マイルームに戻って、今日はもう寝ようかと思ったタイミングでシウラさんから呼び出しがかかる。こういう呼び出しは初めてだな。というかこの放送、タキオン船団全体でやったのか……?わざわざ放送でしなくても4人だけならメールしたり、サポートロイドに伝言したりで良いんじゃないか……?

 

無視するわけにはいかないので、シウラさんのマイルームに移動。タキオン船団でトップの権力者でもマイルームに住むのは変わらないのか。移動すると、呼び出されていた他3人は既に用意されている椅子に座っていた。

 

「揃いましたね。今日は遅い時間に呼び出してしまい申し訳ありません」

 

自分も目の前に用意された椅子に座ると、シウラさんが向かいの部屋から登場して一礼する。椅子とテーブルしかないから、船長のマイルームとは思えないぐらいには殺風景だな。そして近くで見るとやっぱりシウラさんは美人。まあタキオン船団の住民全員美形しかいないし地球組も滅茶苦茶不細工な人は少ないだろう。

 

……改めて呼ばれた面子を見ると、全員アブダクション生還組だな。特に自分は全シアリーの中で2回アブダクションに遭遇している唯一の存在である。自分の2回目のアブダクションからちらほらと上位勢にアブダクションが起きている噂は聞いているけど、地球組の上位層のレベルは140手前まで成長しているので流石に生還している。

 

その時に、レアスキルを手に入れた報告はない。もしかしたら隠しているだけかもしれないけど、ゼルさんの性格的に隠すとは思えないから純粋に無かったのだろう。

 

「本日集めた4人には、あることを話しておきたいと思います。確認ですが、この中でストーリーを全部スキップして全く知らないという人はいますか?」

 

シウラさんがストーリーについて触れて来たが、自分とユリクリウスは一応ストーリーを読んでいるので最終章まで把握はしている。まあ第1章の流れとかサブキャラ作る度に見せられたしな。細かいところも、何となくは把握しているかな。

 

モルモットさんもストーリーは把握しているみたいだけど、アクアさんが恥ずかしそうに手を挙げて「ごめんなさい見てないです……」と言ったため、シウラさんは笑顔のまま後でゆっくり説明することを告げた。



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第31話 主人公

「まず始めに、FUO2の前作であるFUOについて知識のある人はいますか?」

 

シウラさんがFUO2のストーリーについて説明する前に聞いて来たのはFUO2の前身であるFUOについてのことだった。FUO2は名前の通り、FUOの続編だ。自分もユリクリウスもプレイはしていないが、存在は知っている。確かFUO専用のゲーム機が必要で、オンライン環境のあまりの人の少なさにほとんど協力プレイが出来なかったんだっけ。

 

ストーリーもシンプルで、ひたすらシャドウを狩るだけのゲームだったと黒猫からは聞いている。いやシャドウを狩るだけなのはFUO2も変わらないけど。FUO2は一応ストーリーがあるしたまに分岐したからな。

 

「……あれを用意したのもタキオン船団ですが、残念ながら正体を隠しての流通が難しく、プレイした人の数自体が少数でした。しかしその少数の中でも、極めてシアリー適性の高い人が確認出来たのは幸いでした。というより、ほぼ全員に最低限のシアリー適性がありました」

 

どうやらFUO2の前身であるFUOはシアリー適性判断機のようなもので、日本人にシアリー適性の高い人が多いということもこの時に把握したらしい。その後は裾野を広げるため、無料オンラインゲームでFUO2をリリースしたというわけだな。なお超が付く課金ゲーの模様。

 

「皆様から頂いた日本円に関しましては地球に存在する希少金属の購入費用に充てていたことを伝えておきます」

「……結構儲かりましたよね?」

「……地球でしか採掘出来ないものはありませんでしたが、我々にとって希少な金属が比較的安価に買えたのはありがたいことでした」

 

ユリクリウスが儲かったか突っ込むが、恐らくタキオン船団にとっては相当美味しい商売もしていたんじゃないかな?日本というか地球全体が利用されてそうだ。まあタキオン船団の方が技術力高いから仕方ない。

 

「ストーリーに関しましては、とある英雄の生涯を追体験する形で地球組の皆様には見せています。詳しい説明は今は省きますが、タキオン船団でシアリーの訓練を終えてから、凶刃により倒れたところまでのストーリーは全て過去に起こった事実です。アクア様には後で詳しく説明するとして……今からあなた達をシャドウの本拠地に送り込む前に、この英雄に一度会っていただきたいのです」

 

シウラさんが言う凶刃で倒れたところというのは、主人公を慕っていた後輩シアリーがバッサリ背後から切りつけたところだな。それまで人気投票では常に3位以内に入る人気キャラだったのに、裏切り以降の人気投票では10位圏外に外れている。オタクは裏切り行為に厳しい。

 

……というか、今さらっと本拠地に送るとか言ってなかったか?いやまだモルモットさん以外200レべには50レべぐらい足りないぞ。そんなに切羽詰まった状況なら、低レベルのシアリーを送り込んでも無駄だろ。

 

「シャドウの本拠地にいるタキオン船団のシアリーはレベル200とおっしゃっていましたので、今の自分達が行っても役に立たないと思いますが」

「少なくともここにいる4人はパーティーを組めば普段のレベリングと同程度のスピードでシャドウを狩れると確信しています。そもそも、貴方達はレベルというものをどういうものか正しく認識していますか?」

 

とりあえず反対意見を出すと封殺される。いやまあ自分は落ちないだろうし、自分がシャドウを引きつけてユリクリウスが狩る形なら200レべでも余裕だろうから、これにモルモットさんとアクアさんがいるなら普段のレベリングと同じぐらいの速度では狩れるか。……アクアさんの実力は正しく分からないけど、ライトさんを差し置いて選ばれるなら何か持ってるよなあ。

 

「経験値はシャドウを倒した時に得られる生体エネルギー的な何かを吸い取って自身の力に変えると設定にはあった気が」

「モルモット様、違います。レベルを上げるという行為は、シャドウの魂を浄化吸収して自身の魂の容量を増やすことです」

 

レベルの設定に関しては、モルモットさんの言っていることとシウラさんの言っていることであまり違わないような気もするけど、シウラさんの方には続きがある。容量が大きくなった分、スキルという力を身体に詰め込めるということだ。

 

「容量。そっちがボトルネックなのか」

「ユリクリウス様、正解です。そして装備に付けたスキルが本人にしか使えないのもそこが理由です。本人に合わせて入りやすくしたスキルを別人が取り込もうとするとキャパシティを超えてしまいますので、基本的には本人にしか扱えません」

 

同じスキルでも、たぶん本人の容量に入るよう同調みたいなことをしているのだろう。キャパオーバーになった場合の説明はないが、まあ不味いことになるんだろうな。そしてここまで話した段階で、シウラさんに奥の部屋へと案内される。そう言えば主人公に会わせるって言ってたな。……生きてるとは思えないから、死体と対面するのか?

 

そんなことを考えながら移動すると、タキオン船団の医療室にあるポットのような装置が奥の部屋の中央にはあり、男の人が眠っている。その顔を見て、地球組4人は絶句した。あまりにもユリクリウスと顔が似ていたからだ。

 

いやまあ、偶然だろう。そもそもこの世界、顔をかなり自由に弄れるしユリクリウスのイケメン像とこの主人公のイケメン像が一致しただけかもしれない。ただまあイケメン像が一致するということは思考回路が似ているということで……。

 

「……もしかして私達4人が持っているレアスキルって、元々この人が持っていましたか?」

「はい。全て彼が保有していたスキルです。装備にではありませんよ?彼自身が保有していたスキルです」

 

今まで話についていけてない雰囲気だったアクアさんが、自分達が持つレアスキルの元について気付く。……あの初回のアブダクションは何かおかしかったが、タキオン船団が仕組んだ可能性は十分にあるな。

 

「……あらかじめ申し上げておくと、あの初回のアブダクション自体は我々も想定外の出来事でした。もう少し渡す人を選出する時間も欲しかったので。

しかしアブダクションでのドロップ報酬に交ぜるという話がシャドウ側に漏れた結果が、あの一斉アブダクションです」

「倒したシャドウの素材を使って装備やスキル等を作るのはタキオン船団側だから、ドロップ品をこっそり追加することは可能なわけか。……いやそれならちゃんと選んで渡したら良いんじゃないか?初回アブダクション生還組に拘らなくても良かったはず」

「どちらにせよ、アブダクションで死んだ人も生き残った人も発表しなければなりませんでしたし、それならば厳しい状況下で生き残った人を英雄として祭り上げた方が良いでしょう」

「……自分が2回目のアブダクションに遭遇した理由は?」

「クロワッサン様のアブダクションに関してはこちらで仕込みました」

 

シウラさんを訝しげに見つめると、観念したように裏側の情報まで話し出すシウラさん。ついでに2回目のアブダクション自体は仕込みましたとか言ってるけどもうそれ何一つタキオン船団を信用出来なくなる言葉なんだけど。いやでもまあ、死ぬことは100%なかったか。

 

……あれ?

 

この主人公、ユリクリウスの二刀流と自分の強身守護を持っていた上にモルモットさんの持っているであろう経験値ブーストやアクアさんが持っている豪運スキルを持っていたということ?何だそのチート。

 

そしてそんな主人公を一撃で殺した後輩シアリーことマオさんは何を持っていたんだろう。いやまあ、強身守護を持っている時点で二撃目以降は25%ずつ被ダメがカットされるから、一撃で倒さないといけないんだけど。

 

というかあの後輩シアリー、最終章でシャドウの拠点に居てシウラさんに倒されるストーリーだったけどまだそれは起きていないはず。最終章がシウラさんの願望捏造ストーリーということはまだ生存確定というわけで……めっちゃ怖いんだけど。

 

「……そう言えばシウラさんに聞きたかったんですけど、どうしてシャドウを作ったのですか?」

「……タキオン船団が作りだしたことは認めましたが、その理由までは話していませんでしたね。簡潔に言えば、敵を滅ぼすためです」

 

主人公を見て、絶句していたユリクリウスはふと思い出したかのようにシウラさんにシャドウを作った理由について聞こうとするけどその質問のせいでアクアさんとモルモットさんも絶句する。この2人はシャドウをタキオン船団が作ったってこと、知らなかったのか。こりゃどんどんタキオン船団の悪事が広まるな。

 

そしてシャドウを作ったそもそもの理由についてシウラさんの回答は、よく分からないものだったけどユリクリウスは全てを察したようで、考え込もうとしている。その頭良い人同士の最小限の会話で全部分かりました系の顔するの辞めて欲しい。イケメンになってるから余計に腹立つ。

 

「ああいや、単純な話だろ。タキオン船団の敵を滅ぼすために、タキオン船団にしか倒せない敵を作った。これがシャドウの作られた原因だ」

「???

ああ、戦争おじさんがやったのは制御不能にしたことだけか。そもそものシャドウが作りだされる理由自体は謎だったけど、敵国を滅ぼすため、みたいな理由で良いのか?」

「はい。具体的に言えば、機械惑星に住む機械生物を皆殺しにするために創られたのがシャドウです」

 

シウラさんの解説が始まるが、どうやら機械惑星の本拠地を落とすためにシャドウが作られたようでやっぱりタキオン船団が全ての元凶だ。まあ敵対していた機械惑星も人類を都合の良い奴隷にする機械仕掛けのナノウィルスをタキオン船団側に放っていたようだからお互い様である。技術が発展していると戦争のスケールが違うな。

 

互いに相手を全滅させようとする戦争を宇宙スケールでやると、シャドウみたいな存在を作ることになるのか。シャドウの本質は、物や生物、果ては人間すら吸収して同化すること。考えてみれば機械知性に対する劇薬だな。車型のシャドウとか船型のシャドウとかいるし、機械型のシャドウは元を辿ればタキオン船団の戦争相手か。



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第32話 本拠地

シャドウ誕生の話を聞いた後は、現時点で存在するシャドウの本拠地についての説明を受ける。シャドウの本拠地に関しては、タキオン船団と敵対していた勢力の元母星だとか。魔力が潤沢に存在し、MPの回復速度は2倍以上になるがシャドウの発生率は2倍どころか数十倍。主人公が生きていた頃は本拠地の惑星の表面積の半分程度を支配していたらしいが、今では極僅かな面積しかない。

 

「直径6500㎞ってことは、火星とほぼ同じサイズだな」

「火星の直径って地球の直径の半分だっけ?それなら表面積は地球の1/4だけどそれでも広いな」

 

ユリクリウスがシャドウの本拠地について、火星の直径とほぼ同じことに言及したが、それなら地球と比較したら小さい惑星だ。海はないが、小さい湖は沢山ある感じ。この惑星のほぼ全地表にシャドウが犇めいているとか根絶するのに何年かかるんだ。惑星ごと破壊した方が早いんじゃないか?

 

主人公が居た頃には表面積の半分程度を支配していたようだけど、現在は撤退を繰り返し10㎞四方の極僅かな面積にしかシアリーの占領領域がない。そしてつい最近、その極僅かな面積の隣に巨大なポットが作られて大型のシャドウが量産されているとか。もうシアリーの占領地域は、風前の灯火なわけだ。

 

「この惑星が全てシャドウに呑み込まれれば、次はこの本拠地にいるシャドウが他の惑星に移動するようになります。そうなる前に、戦線の維持と巨大ポットの破壊をお願いします」

 

シャドウは各惑星にポットを産み付けて、その星の魔力を吸い上げることでシャドウを増やしていくけど本拠地でもその形式は変わらないのか。いよいよ不味い状況だからこそ呼んだんだろうし、このシャドウの本拠地が完成してしまったら各惑星へのシャドウの派遣速度が増加する。となると、地球にも影響は出そう。

 

「……本拠地に行く前に1つ言っておきたいことが。現段階でレベル10以下のシアリーって何人いるか把握していますか」

「10レべ以下であれば約89万人ですね」

「じゃあその人達のノルマの撤廃と、日本への帰還提案をして欲しい。自分はぶっちゃけこっちの方が快適だから良いけど、どう考えてもそこら辺の人は戻りたい人の方が多いだろうから」

 

4人でパーティーを組み、本拠地に行く前にこちらからの要求を通す。報酬はちゃんと用意されていたけど、ゴールドより下位層への配慮の方が良いだろう。自分からの提案に対し、真剣に考え込んだシウラさんはたっぷり10秒は黙った後、こちらからの提案を認めた。

 

……いやまあ、日本に戻りたい人が多いかは分からないけど下位層が89万人もいるならその中でも最低3割、30万人ぐらいは日本に帰りたいはず。元の身体にも戻れるし、望まぬTSをした人にとっては朗報だろう。なんか女性になっても生やせる上に、男性のそれと快感は同じらしいが。

 

日本に帰る提案をするということは、タキオン船団の嘘や悪事も一部開示しないといけない。そもそもかなりタキオン船団に対して猜疑心を抱いている人が多かったから、これで完全な不信に至る人は多いだろう。……帰れるかどうかはタキオン船団側の良心次第なんだよな。魂をこちらの身体に持って来たと最初の頃の説明ではしていたけど、それも恐らくは完全な嘘じゃない。脳と一緒に魂とかいうよく分からない概念も移植していたのだろう。

 

そんなこと、当然自分達には出来ないんだから最終的にはタキオン船団頼りである。自分達に力がなければ、対等な交渉は出来ない。極論を言えば、タキオン船団側が「もういいわ」とキレた瞬間に自分達全員宇宙へ放り出されて全滅する可能性もある。……まあ相当なリソースを費やしているだろうし、それをしたら共倒れになるだろうからこっちがこれだけ生意気なこと言っても追い出せないのだろう。

 

黒猫に個チャで今回の件を伝えたら、キャンプ船に乗り込んでシャドウの本拠地まで一直線。どこにでも30秒でワープする船とか相変わらず科学技術は凄まじいな。距離の概念がない。ただどちらかと言うと、タキオン船団の元は精神に関わる技術が発展してから科学技術が発展した感じがするんだよな。魂の容量とか浄化とか何となく意味は分かるがよく考えれば考えるほど意味不明で原理不明だぞ。

 

「アクアさんは豪運スキルらしいけど何で火力指数あんなに高かったの」

「えっと、アーチャーにクリティカル関連スキルで1つ死にスキルあったの覚えてますか?」

「ああ、クリティカルショットか。クリティカルダメージ150%でジャストガードクリティカルアップと並ぶ威力上昇スキルなのにクリティカル率が下がるやつ」

「ついでに、クリティカル率が下がる代わりにクリティカルダメージが上がる武器スキルもありまして……」

「……今のクリティカル率とクリティカルダメージ倍率教えて」

「クリティカル率は-50%、クリティカルダメージ倍率は342.144%。でも豪運のおかげで全攻撃が確定でクリティカルです」

 

アクアさんはクリティカル率が下がる代わりにクリティカルダメージが伸びる装備を大量に詰めていたようで、このゲームは最低クリティカル率が5%あったからそれに賭けるロマン型だったようだけど豪運スキルを手に入れたことで全ての攻撃が確定でクリティカルになったらしい。これは同じクリティカル型として羨ましいな。

 

自分はクリティカル率を上げるために装備のスロットを何個も使用しているけど、アクアさんは豪運スキル1つで済んでいるとのこと。恐らくデメリット持ちのクリティカルダメージを上げるスキルも詰め込んでいるのだろう。そしてデメリット持ちのクリティカルダメージが上がるスキルは大体デメリットがクリティカル率減少。デメリット踏み倒しはそりゃ強いわ。

 

あとはランダムでデバフを与える技が狙ったデバフになったりアイテムドロップ運が異常に良いなど最早チートの領域である。というかよく考えたらモルモットさんはガンナーだし、ユリクリウスは斬撃飛ばせるから近接しなくて良いし、自分が提案しなくても自分が敵を引きつけている間に残り3人が火力出す形での戦闘になりそうだな。

 

「着いたか。……降りるのすっげえ嫌なんだけど」

「変態カチ勢が先頭行ってくれるでしょ」

「お願いします。クロワッサンさん先に降りて下さい」

「……まあ一番槍は貰うわ。いきなり攻撃飛んできたりするかもしれないしな」

 

3人に先に行けと言われたので降りると、シアリー側の占領地域のようで、シアリー側の簡易拠点もある。流石に敵が集まっているど真ん中は無かったか。

 

「ん?新入りか?いや違う!?地球組か!?」

「フィルさん!?」

 

周囲を見渡すと、1人の大柄な男の人が現れるけどこの人NPCで出て来ていたフィルさんだ。クラスはソードマンで、ソードマンの戦い方をレクチャーしてくれる役割。優しい性格で面倒見が良かったけどあくまでそれはゲームの中での話だからちょっと警戒する。

 

「早すぎるだろ!?上は何考えてるんだよ!?155レべ!?せめて200レべになってから来てくれ!」

 

あ、でもゲーム通りに良い人っぽいな。そして200レべになってから来てくれというだけあって、フィルさんのレベルは231レべ。たぶん現場でのリーダー格なのだろう。

 

ふと、シャドウとシアリーが戦って壁になっている方を見ると大分苦戦しているというかシャドウの数が多い。というかシアリーの数が少ない。あれでよく戦線を維持出来ているな。

 

というわけで移動用の技であるソニックサイドを駆使してシアリーとシャドウの壁を超え、シャドウだらけの地点に着地。おお、ダメージが1だけじゃなくて2や3がある。フィルさんが「待て、早まるな!」とか言ってるけど知らん。とりあえずいつものようにヘイト上昇スキルを使用する。

 

直後、凄まじい数のシャドウが押し寄せて来るけど二桁ダメージにはならないな。そうこうしているうちに残りのパーティーメンバー3人が現れて端から順番に倒していってくれる。やっぱ200レべにもなるとシャドウも硬いのか、かなり耐えるな。

 

しかしどう考えても、周囲のシアリーより早く狩っている地球組のパーティー。約一名頭のおかしなシアリーがこのシャドウ密集地域でヘイト上昇スキルを使用しているから敵が滅茶苦茶集まって来るし、それを纏めて葬っているお蔭でレベルが上がる上がる。

 

「前進……してるぞ……」

「全員あの地球組のシアリーを援護しろぉ!」

「あれで死んでないの!?どうして!?」

 

時々現地組のシアリーの声が飛んでくるけどこいつら200レべオーバーなのに思っていたより弱いということはスキルの詰め込みが上手くいかなかったのか、単純に動きが悪いのか……。

 

というか前進していることに驚いているということは全く前進出来ていなかったということか。どんどん占領地は狭くなっていってたみたいだし、かなり戦況は苦しかったんだろうな。……この程度のシャドウを狩るだけなら、地球組の上位層はあと3ヵ月あれば届くだろう。シウラさんの想定していた1年という準備期間は長かったな。

 

やがてこの場の数が減る頃には、大型のシャドウしか残っていなかった。メカビートルみたいなボスタイプじゃなくて、戦車型や巨大なぬいぐるみ型など自分の身体よりも大きなシャドウ達だ。地味に1発5ダメとか出るからクリティカル受けたら12から13ダメぐらいは行きそう。HP今7000ぐらいあるけど。

 

というかこれよく考えたら-75%で5ダメだから一発20ダメはあるのか。自分の高い防御力とダメ軽減率が無ければ一発500ダメはありそう。一般シアリーだと数秒で死ぬな。だからユリクリウスを始め、モルモットさんやアクアさんも遠くからの攻撃になっているんだけど。

 

というか流れ弾があたっただけでユリクリウスのHPゲージがどんどん減る。これはユリクリウスには流れ弾すら発生させないよう、全部受け切らないと。

 

「目の当たりにすると本当に凄い……」

「な、何者なんだ彼は……?あんなこと、アーノルドすら出来なかったぞ」

「変態カチ勢です」

「アーノルド、があの主人公の名前か。流石にカチ勢ではなかったのか」

 

何か後ろで会話パートが始まっているけど現在進行形でフルボッコにされ中なので助けて下さい。空中でのハメは止めて下さい自分が攻撃出来ないでしょ。まあこっちのHPの減り方は緩やかで自動回復もあってほとんど減らないから、このまま1時間でも2時間でも攻撃は受け続けられるな。

 

 



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第33話 帰路

しばらくシャドウの壁を押し返しながら前進していくと、巨大なポットが現れた。これは上手いことポットの近くに自分達を降ろした感じか。……とりあえずこれさえ壊せば、今回の目的は達成する。道中、歯応えのある敵はいなかった。

 

周囲を見渡すと随分とシャドウの密度は減り、現地組のシアリーも余裕を持ってシャドウと戦えているというか少し押している。……随分と拮抗した状態だったのか、地球組の力が異常なのかは分からないな。

 

「惑星ごと破壊してしまえと思うけど、それをやったらこの惑星に住むシャドウは死なずに宇宙全体へ散る。それなら一体ずつ倒すしかないわけか。……とんでもない兵器だな」

「ユリクリウスは考察してないでさっさと助けてくれ」

「いや、その拘束攻撃受けた人見るの久しぶりだし鑑賞したい。というかジタバタしたら抜け出せるだろ」

「いやそれが結構力込めてるけど一向に抜け出せないんだよ。あ、右手だけ脱出できた」

 

なお数が減ったと言ってもまだ自分の周囲には視界を埋め尽くすぐらいにはシャドウがいるので、ポットに近づいたらポットからの拘束攻撃を避け切れずに捕まる。黒い触手に絡めとられて動けない。この光景、ゼルさん辺りに見せたら喜びそうだ。

 

「……その状態で戦車の主砲を受けても10ダメ出てないかぁ。マジで変態カチ勢だ」

「あの、早く助けないとクロワッサンさんが洗脳とかされたらこっちがピンチですよ?」

「あ、それは不味い。全シアリーの天敵が生まれる」

 

ユリクリウスが攻撃をすると、他2人も動かない敵に対して高DPSを叩きこめる攻撃を開始し、あっという間にポットが壊れて自分も拘束から解き放たれる。流石に全鯖トップ3の火力だ。強いしこれでまたレベルが上がったから自分の防御力と3人の火力が上がる。

 

「ありがとう、君たちが来てくれて助かった。次は」

「次なんてないです。僕たちは一度戻りますので」

 

一段落したらフィルさんが話しかけてきて、次の仕事を渡そうとしてくるけどモルモットさんがそれを制してさっさと戻ることを告げる。……まあ確かにこれ以上の働きをするなら、またタキオン船団側に要求を通してからだな。この光景を見て、現地組のシアリーはムッとしているけどこちらだって一応命懸けなので報酬の話は大事。

 

というか現地組のシアリーって、あまり着飾ったりしてないのか。狐耳生やしたり和服着たり翼生やしたりはしてないんだな。地球組だとゲームの感覚が抜けてないからたまにバスタオル一枚で惑星探索に行ったりマイクロビキニでシャドウの拠点へ行っている奴がいるぞ。まあ何を着ても防御力自体は変わらないからだろうけど。

 

……何を着ても防御力が変わらないということは、シャドウの攻撃は物理的なダメージだけを与えるわけじゃないんだろうな。シャドウに攻撃されても痛くないのは作られた身体だからだと思っていたけど、よく考えたらふわわさんがあそこをサポートロイドに蹴られた時は痛がっていたしよく分からん。

 

じゃあまた、と軽く言ってキャンプ船へ帰還する地球組の4人。シウラさんから通信が入り、凄く複雑そうな顔で「任務完了を確認しました。報酬は既に実行しています」との言葉が。さて、地球に戻りたいと思う人は何人いるかな。

 

[黒猫:お前ら盛大にタキオン船団へ喧嘩売ったなあ……]

[クロワッサン:帰りたい人は帰せと言っただけだよ。……地球は今どうなっているかの情報とかない?]

[黒猫:情報はないが推測することはできると前にも言った気がするな。おおよそ10代から30代の若者300万人が一斉に消えたんだ。社会に大きな影響はあっただろうし、下手したら一部の製造や物流はストップしているはず。……不景気は免れないだろうし、日本という国が傾いてそうだな]

 

黒猫からの個チャで、今の日本は相当不味そうだという話になる。まあ働き手世代や学生も多かっただろうし、日本の社会に大ダメージは入ってそうだ。

 

[クロワッサン:……現地組のシアリーは思っていたより大したことなかった。うちの上位陣なら3ヵ月で本拠地でも戦えると思う]

[黒猫:ユリクリウスも同じこと言って来てるし、マジで150レべの地球組と200レべの現地組で大差ないのか。

……なあクロワッサン、このタキオン船団で落ちこぼれ扱いされている130レべ台のシアリーは、何でそこでレベル上昇が止まったと思う?]

[クロワッサン:……そういう身体だから、じゃないのか?]

[黒猫:違うな。それなら新しい身体に精神を移植させれば良い。俺達にもやっていることが、出来ないとは思えないな。

……恐らくだが、レベルを上げ過ぎた場合、シアリーはシャドウになる。問題になるのは精神の方なんだろ。だから130レべでストップをかけたんだ。シャドウの魂を吸収しているってことは俺も前に聞いててな。真っ先にこの可能性を疑った]

 

自分は本拠地に行く前、シアリーはシャドウの魂を浄化吸収していると聞いたけど黒猫はもっと前のタイミングで探りを入れてたのか。あ、こいつレベリングサボってたのは保険をかけてたのか。……いやでもフィルさん231レべだったし、そこまでレベルを上げても大丈夫ならまだかなり余裕はあるぞ?

 

それにフィルさんもシャドウと戦っていたということは、まだそのレベルでシャドウを狩れるということ。シャドウを倒し過ぎたら自分もシャドウになるとかそういう可能性は考えたくないなあ。モルモットさんとかシャドウ一直線ということじゃん。

 

[クロワッサン:シャドウの本拠地でも回復薬は必要ありませんでした]

[ゼル:※個人の感想です]

[ユリクリウス:実際クロワッサンがいたら全部攻撃を引きつけてくれるから後半回復薬使わなかったな]

[ふわわ:え、もう本拠地行って来たの!?]

[ABC:クロワッサンが160レべになってる……]

[黒猫:ユリクリウスも5レべ上がったな。流石にパワーレベリングにはなったか]

[クロワッサン:そうかランキングでその辺の情報筒抜けなんだ]

[ユリクリウス:それでモルモットさんが180から186ってことは経験値ブーストだろうな。しかも本人にだけ適用されるタイプ]

[黒猫:流石にパーティーメンバー全員の経験値増やすならモルモット以外にもレベルの高いやつが居るはずだろ。まあ何にせよ、これで現時点の最終的な目標地点が見えたわけだな]

 

チームチャットの方でも話しながら、過去のログを遡ると前みたいにシウラさんから通達があり、10レべ以下を地球に帰還させる約束は守ってくれたみたいだ。そして案の定、今度は中位層の中で地球に帰りたい組が暴れ始めている。そりゃここの環境がいくら良くても、戻れるなら戻りたい人はいるよな。

 

[クチリ:10レべ以下が地球に戻れるそうですけど戻りたい人なんているんですかね?]

[黒猫:そりゃ多いだろ。むしろ元の地球に帰りたいと思う人の方が普通だよ]

[クロワッサン:それ]

[ゼル:は]

[ユリクリウス:どう]

[ふわわ:かな?]

[黒猫:お前らは思いっきり楽しんでいる側だから思わないだろうけど、家族や友人と急に別れて二度と会えないだけで精神的に病む奴も結構居たんだぞ]

[クロワッサン:誤送信から繋げるんじゃない。それで戻ることを選択した人は何人ぐらいになりそうなんだ?]

[黒猫:10レべ以下なら半数は戻るだろ。中層も含めれば100万人に届くだろうな。1/3だ]

 

よほど地球での生活環境が悪くない限りは、戻る選択肢を選ぶ人が普通の感性の人間だろう。まあ自分含めて、この世界での快適さが手放せない人は戻らないけど。あとは戻ることが嫌な人は戻らないか。

 

案の定、ネットに作られた掲示板では地球に戻る戻らない論争が起きているし、タキオン船団を信じる信じない論争も起きてる。……この掲示板もタキオン船団が監視しているだろうからネット上で議論しているのは死線の上でタップダンスを躍っているのと変わらないんだが、こいつらは何も考えてないのか。

 

というかチームチャットまでサポートロイド使って監視していたんだから、個チャ含めて通信系は全部監視されていると思って問題ない気がする。タキオン船団が黒過ぎて陰謀論者じゃないのにそういう思考にしかもうなれない。

 

タキオン船団内のチームルームでの会話も怪しいし、秘密の会話をするならどこかの惑星に集まるしかないか。ただ集まったことはクエスト履歴で分かるだろうし、密会も難しい。あれ、反逆を考えようとすればするほど無謀だな?

 

[時雨:地球に奥さん残してる人とか絶対帰るだろうね( ;∀;)]

[クチリ:あー、そういう人も……]

[黒猫:子供を失った両親とかのケースもあるだろうから、そこら辺一切考慮しなかったタキオン船団は元から信用してない]

[クロワッサン:チームチャットでそれ言って大丈夫?……まあ、俗に言う日本の破綻が10年は早まってそう。これから戻っていくから復旧していくだろうけど]

[ユリクリウス:いや半分戻らなかったら150万人が消えたことに変わりないし、色々と不具合は出てると思うぞ]

 

チームチャットで不平不満を言うのも正直怖い。けどまあ黒猫が大丈夫なら自分も大丈夫だろうの精神でどんどんタキオン船団についてのアレコレを言い合う。ああ、掲示板での議論が白熱するのも分かる気がする。チームチャットならABCさん辺りがブレーキかけるけど、掲示板だと明確なブレーキ役がいないならタキオン船団をボロクソに言えるんだ。

 

……死者、行方不明者の数はもう数日に1人のペースにまで減っている。こちらの世界であれば寿命も延びるだろうし、こっちの世界にも娯楽は多いというか地球より多いんだから戻りたい気持ちはそんなにない。両親と妹のことは心配ではあるけど、別に家族仲が良かったわけじゃないしな。



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第34話 TS

シャドウの本拠地から帰還してから数日。いつも通りにサポートロイドのレベリングを175レべのシャドウが出て来る地域で繰り返す。どうやらこの手のクエストは惑星上にいるシャドウを一か所におびき寄せているみたいで、クエストに行くと毎回同じ程度のシャドウがいるけど、惑星全体のシャドウの総数は確実に減って行っているようだ。ということは、浄化完了したらこの拠点でのレベリングは出来ないわけだな。

 

まあ脅威度の高いシャドウの拠点は他にも複数個所あるし、本拠地の方はそんなことしなくてもシャドウと大量に戦えるから敵であるシャドウが尽きるのはかなり遠そうだけど。

 

[ふわわ:最近シャドウにオスメスの概念あるのか気になって来た]

[クロワッサン:基本単体生殖っぽいからないんじゃないの?]

[ユリクリウス:いや違う。こいつ男子中学生が思春期の頃に患う『穴があったら突っ込みたい病』にかかっているだけだ]

[黒猫:ああ、女から男になって嵌ったのか]

[時雨:男から女になってそういうのに興味持つのは健全な感じになるのに女から男になってそういうのに興味持ち始めると犯罪臭が凄いね( ゚Д゚)]

[ABC:どっちも犯罪臭ある定期]

[ゼル:ふわわはサポートロイドに手を出した?]

[ふわわ:ごめんなさいしました……]

[クロワッサン:え!?]

[ユリクリウス:は!?]

[黒猫:むしろお前ら何で手を出してないんだよ……]

[ゼル:私でも手を出してるのに男の人が我慢してるって禁欲凄すぎない?]

 

女性から男性になったふわわさんは、とうとうサポートロイドに手を出したそうだけどあのロリロリしたサポートロイド達に外見はがっしりしているイケメン男子のふわわさんが手を出したって構図がもう犯罪的過ぎる。でもまあ、普通は手を出すよなぁ。最初から好感度MAXとかむしろ手を出さない理由がないという。

 

……元男性が女性の快楽に嵌るのはあまり忌避感ないけど、元女性が男性の快楽に嵌るっていうのはあまり良い感じはしないな。これは自分が男だからかな?ゼルさんとか、同じ元女性としてふわわさんをどう思っているんだろう?ゼルさんもゼルさんで触手プレイ大好き人間だけど。

 

[クロワッサン:膝枕とかは結構して貰ってるけど手は出してない。というかサポートロイドの膝枕に嵌った。何時間してもサポートロイドなら大丈夫だし]

[黒猫:巷ではお姉さん系サポートロイドを敷布団にするのが流行っているらしいぞ。あとやっぱりというか、女性型のサポートロイドが97%らしい]

[クチリ:男性型のサポートロイド買う人は希少っすね……]

[ゼル:何故男は女を寝具にしたがるのか……いや私も抱き枕にしてるけど]

[ふわわ:巨ロリつくるかあ]

[ゼル:!?]

[ユリクリウス:!?]

[黒猫:頭大丈夫か?]

[時雨:精神が男に染まりつつある((+_+))?]

[クロワッサン:ロリ巨乳撲滅委員会委員長のふわわさんが!?]

[ハル:ようこそロリ巨乳派閥へ]

[ふわわ:そこまで驚かれること!?というかロリを巨乳では作らないよ!2メートル超えの幼女作るだけだよ!]

[ユリクリウス:2メートル超えの幼女……?]

[黒猫:サポートロイドの身長はそんなに大きく出来ない……と思ったけどそこはゲーム的な都合だったからゲームじゃないなら行けそうだな]

[時雨:ゲームだとプレイヤーキャラより絶対に小さかったからね(*'▽')]

 

そしてふわわさんは巨大なロリという謎概念に手を出し始めた。ふわわさんもこの前特別許可証を貰った強いシアリーの代表なんだけど性格が破天荒過ぎる。……そしてすぐに、ふわわさんは年齢一桁の顔で身長2メートル超えの幼女作っていた。ふわふわのトレンチコートを着たメロンちゃん(ツルペタ)の完成である。設定年齢8歳で身長208センチとか巨人族の娘かな?

 

[ふわわ:幼女が大きければ手を出しても犯罪臭薄くならない?]

[黒猫:この体型と顔で身長2メートル超えは嘘だろ……?]

[ユリクリウス:比較対象がなければ身長120センチ程度に見える]

[クロワッサン:脳がバグるわこれ]

[ゼル:可愛いけどふわわが抱き着いてその身長差ってどういうことよ……]

[ビートル:あれ、ふわわさんのアバターって身長高くなかった?]

[クロワッサン:ふわわさん180近くはあったはず。だから脳がバグりそうになる。巨ロリとかいうジャンルを作りやがったぞこいつ]

[ABC:サポートロイドの可能性は無限大だな]

[黒猫:そう言えばサポートロイドの性格も追加されたものがあるから気になる奴は覗いて良いと思うぞー]

[クロワッサン:性格の選択肢増えたのか。それは朗報]

 

だらだらとチームチャットをしているとサポートロイドの性格が追加されているとのことなので、早速サポートロイドを発注するサイトにアクセスしてPV動画を見る。ずらっと新規登録動画があるけど、どの動画にも可愛い女の子が映っているな。お、かまってちゃん系とかいるのか。

 

『もっとあなたに愛されたいんです。だからもっと構って下さい』

『忙しいのは分かっているんです!でも構って欲しいんです!』

『私が一番ですか?ねえねえ。本当に、私が一番?』

『ね~え~、もっと私の好きなところ言ってください。えへへ』

 

個人的には性癖に刺さりそうな気はするが、発注ボタンは我慢する。パーティーメンバーが4人までなのは経験値分散効率がそれ以上だと悪くなるとのことだし、既にサポートロイドは3人もいるからこれ以上は良いかな。

 

しかし他にもヤンデレ系だの無知系だのダウナー系だの色んな性格のサポートロイドが追加されており、意地でも地球人を逃したくないんだなということが分かる。こんなの刺さる人は滅茶苦茶刺さるだろうし、刺さったらもう地球には戻れない。

 

「私だってやろうと思えばこれぐらい……」

「いやコッペパンはそのままが良いから。コロネも。

でもロールはちょっと変えようかなーと……」

「ご主人様!?そういうことは早く言ってくれませんこと!?

ロールパンは最新型ですのでお嬢様キャラ以外も完璧にこなせますわよ?」

「……そう言えば簡単に性格変えれるんだった。これ地球組返す気無いな」

 

好みの外見の子が好みの性格で尽くしてくれる環境は、居心地が良すぎて逆に気持ち悪くなる時すらある。……まあ自分はこの環境が良いと思ってるから、このままでいるけど。よし、ロールパンの性格を高貴なロリお嬢様からかまってちゃんお嬢様に変えておこう。

 

「もっとわたくしを見て下さいまし。……これでもっと構ってくださるのですよね?」

「……性格を変えられたらどういう感じになるの?」

「わたくし的には変わった感覚すら感じませんわ」

「マスター、サポートロイドの性格の根底には『所有者の望み幸福のため』があるため、性格を変える程度で感覚は変わりません」

「ああ、元々のベースがある上での演技か。……黒猫が白猫に罵られたりしているのも、所有者側の望みなんだろうなぁ」

 

このサポートロイドを地球組1人1人に用意したんだからタキオン船団の規模のデカさとこの計画に賭ける思いが伝わってくるようだ。……現時点で、地球に戻った10レべ以下の人数は89万人の4割程度となる36万人だ。自分の予想である3割と黒猫の予想の5割の丁度真ん中だな。

 

彼らはこの強靭な肉体とサポートロイドやタキオン船団で保有していた財産の全てを捨て、元の身体に戻って地球に戻ることを望んだ。近い将来、シャドウが地球にも攻め入る可能性すら聞いてなおも地球に戻りたいならその心は本物だな。

 

まあ元々戦闘出来ないタイプの人とかは強靭な肉体であるか否かは関係ないからさっさと戻してくれということだったのだろう。11レべ以上の人も希望者は順次審査をして戻す可能性を提示したが、時期は未定。……まあこっちでの生活が長ければ長いほど帰りたくなくなるだろうから、堕とす気満々だな。

 

[黒猫:地球の漫画やアニメの続きを買えるようにするため交渉中だけど上手く行きそうだ]

[ユリクリウス:帰る理由なくなったな]

[ゼル:有能。タキオン船団側も残留させたい意思ありそうだから多少無茶な要求も通るんじゃない?]

[クロワッサン:じゃあラノベとアニメグッズも追加で]

[時雨:アニメ絵からサポートロイドを自動で作るサービスとかあっても良いかもね( *´艸`)]

[ABC:欲望が止まらないね君達……]

[黒猫:ラノベやアニメグッズ程度なら大丈夫だろ。一度はゲームの流通までさせていたんだから入荷してくれるはず]

[クロワッサン:ゲーム類はむしろタキオン船団側の方が充実してるというのがなぁ……]

[ユリクリウス:サポートロイドに搭載するようなAIを作れるんだから対人ゲーじゃなくても面白いの多い]

[クロワッサン:続編が欲しいゲームをタキオン船団に作って貰うのもありだな。地球の著作権はここじゃ通じないらしいし]

[黒猫:そもそも裁く人がいない定期]

 

幼女同盟の面々は、タキオン船団での生活がより充実するように日々活動している。ほとんど黒猫が単独でやっているようなものだけど。こいつシウラさんの弱みも握っているようでかなり強気に要望を通している。1人で計画立ててみんなの意見を聞きつつ実行役もする辺りはマジで有能。お蔭で続きが気になっていたアニメや漫画を知れるようになった。

 

なお対価のゴールドは割高の模様。漫画一巻で1000ゴールドは高いような気もするけど買った後は何度でも視聴可能だからまあ良いか。

 

ラノベやアニメグッズの入荷もして貰えるようなので、心残りを1つずつ潰していくタキオン船団。何なら同人誌とかも入手するとのことだけど心折設計が過ぎる。作者に金渡してくれやと言ったらゴールドを金塊にして送れるようだしこれ家族にも送れるのよね。どれだけ地球組を定住させたいんだ……。

 

[黒猫:今の機会に要望出せるだけ出しときな]

[クロワッサン:マ〇ドナルドとケンタッ〇ーとモス〇ーガーとロッテ〇アの期間限定商品を含む過去全製品をいつでも注文できるようにして欲しい]

[ユリクリウス:Amaz〇nで買える奴全部買えるようにして欲しい]

[ゼル:食べ物系は簡単に再現してくれそうだし、もう純粋に地球と連絡とりたい]

[黒猫:地球との連絡は地球組を還したらするんじゃないか?流石にタキオン船団から地球に事情説明入るだろ]

[クロワッサン:そうか地球とタキオン船団の交流が始まる可能性とかもあるんだな。じゃあもう要望あまり要らない気が……?]

 

本当に協力関係を築くなら地球との交流自体をしてしまえば良いと思うんだけど、簡単に出来ないことなのかな。技術格差はとんでもない差だし、タキオン船団側のメリットは薄いけど……むしろ、志願してシアリーになる人が地球にいるかもしれない以上、交流する価値はあると思う。



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第35話 交流

10レべ以下の地球組に関して、40万人を超える人の脳移植を1日で行ったタキオン船団の技術力は最早バグの領域だと思う。1人につき1分もかからずに処理できる施設が数百あるとか知りたくなかった。というかタキオン船団の支配下惑星にも大量にそういう施設があるようなので真っ黒だけど規模が凄い。

 

元の身体に戻ったらこの宇宙船の環境に適応出来ず死ぬ、ということはないようでとりあえずはこれから帰還までの数日、元の身体に戻った地球組はこのタキオン船団内で過ごすようだ。美男美女率は下がった感じがするな。あとは男女比率が少し戻った。

 

帰還までに数日かかる予定なのは、タキオン船団がとうとう日本の閣僚にアポをとったから。拉致をしたのに、ちゃんと正規ルートで帰す感じなのか。なお元の身体に戻った人達の部屋からサポートロイドはいなくなり、外見が美男美女じゃなくなったからか気落ちしている人の方が多い模様。いやサポートロイドいなくなるってちゃんと説明あったでしょ。ついて来るわけないじゃん。

 

……手を出している人は多かっただろうし、本当に何で今の生活を捨てられたのか今の自分には理解できない。3割でも多い予想だったけど、4割かあ。

 

ちなみに地球へのアポを取る最大のきっかけとなったのはシャドウが地球に出現したからである。こちらからの要望を通すため、自分やユリクリウスがシャドウの本拠地に行って適度にレベリングをしていたが、タキオン船団占領地域周辺以外では増加傾向に歯止めがかからなかったようだ。……地球とアポを取るなら自分達が頑張った意味はあまりないな。まあ自分はレベリングが捗ったから良いけど。

 

そして地球の人と、タキオン船団での通信が可能となったために凄い勢いで情報交換が行われている。これ日本の偉い人達は今頃大変だろうなあ。タキオン船団側が日本人を拉致したことについて、文句の1つでも言おうものなら日本は一瞬で焦土になるレベルで技術力の差はある。

 

地球の持つ最強の兵器『核』もシアリーには一切通用しない恐怖。宇宙空間だろうが海底だろうがどこでも活動するのがシアリーだから放射能とかそこら辺は全く怖くない。改めて考えるとこの無敵ボディを捨てる決断した人が4割もいることに驚きだよ。クラスター爆弾だろうが素手で止められるんだぞ。

 

[クロワッサン:しかしタキオン船団側は、何で今まで地球との交流をしなかったんだ?]

[黒猫:そこら辺はシウラさんから説明が入ると思うが、銀河の全勢力の協定で未発展文明はその文明独自の文化を保護するために接触が禁止されている。地球人300万人の拉致すら特例中の特例だったらしい]

[ユリクリウス:それチームチャットで話して良いやつなのか?俺も聞いていたけど]

[クロワッサン:え、自分は聞いてないんだけど]

[黒猫:シウラさんや他のタキオン船団の上層部の人に、タキオン船団以外の銀河の勢力について聞いたら普通に教えてくれるから良いだろ別に]

[ゼル:あ、やっぱり宇宙には他の勢力とかもいるんだ。悪の銀河帝国とか]

[ABC:タキオン船団は武力で銀河連盟のトップに食い込んでいるから、どちらかというとタキオン船団が悪の銀河帝国側だよ]

[ふわわ:タキオン船団ってやってること、冷静に考えると悪の銀河帝国そのものじゃん]

[クロワッサン:そう言えばタキオン船団は実質シウラさんの独裁帝国みたいなものか。惑星からの上がりも受け取っているし、大量の植民地を持つ帝国であることは間違いないな]

 

個人的には地球と早々に接触しなかった理由が謎だったけど、やっぱりあるのか銀河協定。地球の文明度でも未開判定を食らうのはまあ、タキオン船団の技術力を見ていると仕方ない。何百年あっても追いつける気がしないレベルだしな。

 

しかしまあ他の勢力があるということは他の宇宙人もいるということで、その宇宙人ともそのうち会えるのかな?いやゲームに登場する惑星の住民も宇宙人だけど、その範囲外にも未知の宇宙人がいるなら興味はある。

 

……未開文明でもシャドウがいるなら接触可能とのことで、地球にシャドウが現れるようになったことは地球組にとって幸運かもしれない。日本のニュースサイトとかも見れるようになったので覗いてみると、どこのニュースサイトでも宇宙人が現れたことに騒然としているから見ていて非常に面白い。

 

あ、掲示板でサポートロイドとのツーショット写真を載せて自慢している人とかいるな。タキオン船団が地球側に要求しているのは、帰還したい地球組の対応と採掘ステーションの設置。帰還したい地球組の対応はともかく、採掘ステーションで魔力の他にも鉱石とか石油とか徴収したいそうだけどやってることが完全にやくざである。

 

シャドウに対しても地球の現行兵器はほとんど通用しないのでシャドウに支配され呑み込まれるかタキオン船団の支配を受け入れるかの2択。……ゲーム時代、ストーリーでは各惑星のトラブルを解決していく流れだったが、タキオン船団への反乱が複数回起きているのも納得ではある。

 

なお今の日本の首相が緊急記者会見でタキオン船団への対応について『可及的速やかに全力を挙げて対応する』とのコメントをした直後、タキオン船団のシウラさんが全テレビ局の回線をジャックして『では明日の正午までに回答をお願いします』と割り込む。タキオン船団は独裁政治だから即断即決が基本だけどそれを他国に押し付けるスタイルはもう流石としか言いようがない。

 

[クロワッサン:日本が徹底抗戦とかして来たらどうしたら良いんだろう……]

[黒猫:いやどう足掻いても日本に勝ち目はないんだから、日本は屈服するだろうし大丈夫だろ。問題はその他の国々だよ]

[ゼル:中国とかアメリカは一度戦いに踏み切りそうね]

[時雨:現在進行形で戦争している国もあるしね……]

[ふわわ:あれロシアの侵攻ってまだ終わってなかったの!?]

[ぐんぺーさん:タキオン船団『資源を寄越せ。対価?知らん』]

[ABC:全世界に喧嘩を売っていくスタイル。シャドウからの脅威に関しては守るけどそもそもがマッチポンプだからなぁ……]

[黒猫:惑星一個丸ごと敵対することなんてタキオン船団だと珍しいことじゃないだろうし、そもそも惑星全体で統一された機構が出来ていない時点で野蛮判定食らうのこちら側らしいぞ]

[クロワッサン:そう言えば1個の惑星に多くても国は3つか4つでしたね……]

[ユリクリウス:それがゲーム的な仕様かと思ったら普通にどこの惑星も1~4つの国で構成されているからな……]

 

しばらくすると日本がタキオン船団の支配下に入ることが正式に決まったけど日本にしては動きが早すぎる。これは帰還したい組の中に要人とかも多かったのかな。タキオン船団と日本で連絡が取れるようになったということはタキオン船団の情報もちゃんと入手することが出来ただろうし、しっかりと情報を収集していれば日本がタキオン船団に敵わないことは嫌でも分かる。

 

というか失業率が10%近いとか本当に日本かこれ?300万もの人が消失した穴は大きいな。元々社会不安が増大しており、国家転覆を狙ったテロも起きるとか荒れているところにタキオン船団が現れたから抵抗する気力もなかったのだろう。

 

『○○介護施設、経営陣逃亡』

『〇〇党の党大会中に爆破テロが発生。11人が死亡、97人が重軽傷。「火薬は自作した」』

『消えた300万人今どこに……?』

 

タキオン船団が接触する前日辺りのニュースを漁ると中々に世紀末である。テロが横行し、そのニュースに対するコメント欄には様々な政治思想を持った人達が議論という名の思想の押し付け合いをしている。またそれを「どうせ変わらない」と傍観しているものも多く、思想の押し付け合いをしている人達を嘲笑する。これタキオン船団に乗っ取られて良かったやつでは?

 

これで少なくとも、日本はタキオン船団の配下になったわけだから他国からの脅威はなくなった。社会構造とかも変わっていくだろうな。生産性が低い仕事は全て淘汰され、シアリー適性の高い人は徴兵かな。……あれこれ地球に帰還した組も徴兵で再回収されるのでは?流石にそんな手間なことをするとは思えないけど、そもそも脳移植を伴うシアリー化と非シアリー化が手間なのかどうかすら分からないぞ。

 

[黒猫:アメリカからタキオン船団に向けてステルス戦闘機が飛び立とうとしていたので離陸前に消滅させたとシウラさんから連絡来た]

[クロワッサン:こっわ。わざわざこっちに連絡入れた理由は何だよ]

[ユリクリウス:ここで地球組のシアリーに地球の味方をされると不味いから地球組の最大戦力に釘刺してるだけじゃない?]

[ふわわ:日本以外は正直どうでも良い]

[時雨:それは無関心過ぎる( `ー´)ノ]

[ビートル:アメリカのFUO2プレイヤーって数万人はいたよね?]

[黒猫:海外の人が多いのは2鯖だけどシャルロットが抑えるだろ]

[ABC:シャドウ以外にはほぼ無敵っぽい上に情報戦で勝てる要素が何一つないね……]

[ゼル:大いなる闇の模倣体を散り散りにする主砲とか大陸1つ消えるって]

[黒猫:情報戦で勝てないからどうやってもアメリカは勝てない。中国はもっと無理]

[クロワッサン:地球の全通信網を傍受しています、とかシウラさん言いそう]

 

しばらくすると、アメリカのニュースで軍の戦闘機が謎光線により一瞬で消えた映像が流れる。これ消滅させたというより拉致したんじゃ……?他にも戦車や軍艦が謎光線により消失していっているそうだけど単に技術レベル調べるために拉致しているだけだなこれ……。

 

大人と子供の喧嘩より酷い。本格的な戦争になったらアメリカ丸ごと消滅しそうだし、流石に危機感を覚えたのか世界中の世論が降伏寄りになる。……この一連の流れは、自分が10レべ以下の人達で帰還意思のある人は帰せと言ったから起きたのかな。だとしたらちょっと申し訳ない気持ちはあるが、遅かれ早かれこうなっただろうな。

 

 



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第36話 地球探索

日本がタキオン船団の支配下になった次の日には世界中の国の半数がタキオン船団の支配下に入ることを承諾し、採掘ステーションの設置に全面的な協力をすると約束した。滅茶苦茶スムーズに事が運んでいるので、タキオン船団にとってはいつも通りのことなのだろう。根っからの支配者である。

 

というか極僅かな人間しか職に就けないタキオン船団でオペレーターとかを含むタキオン船団職員というのは当然競争が激しいから優秀な人しかいないし、サポートロイドのような人工知能を上手く活用しているから全てがスピーディー。日本という国が国家の枠組みを残したまま速攻で打ち壊されていく姿を見ると思うところはあるけど、打ち壊された方が一般国民にとっては良さそう。拉致が無くても生活は緩やかに苦しくなっていってたからなあ。

 

サポートロイドから戦闘機能を抜いた、メイドロイドが40万円ほどで売り出されるそうだからオタクどもは歓喜している。……未婚率は更に上がっていきそうだな。タキオン船団のやること為すこと全てがえげつない。

 

さて。地球にシャドウが出たということは倒さないといけないわけだけど、地球組のシアリーの中でも特別許可証のあるシアリーに限定して地球探索の許可が出た。相変わらずの特権階級であるが、今回ばかりはありがたく使わせてもらう。……こういう時にも地球組を使う辺りはタキオン船団がタキオン船団している部分だな。

 

[クロワッサン:地球のシャドウのレベルは12とかだからレベル低い人にも許可出したら良いのに]

[黒猫:それで行方が分からなくなったり変な行動をされると面倒ということだろ。お前らは許可証を持ってるから良いじゃねーか]

[ユリクリウス:シャドウが出るようになったのはロシア、カザフスタン、カナダの3か国か。

……第二言語にロシア語取っておけば良かったな]

[ゼル:シャドウが国を選んだというよりは、単に面積が広いからそうなっただけよね?]

[ふわわ:これからUMA扱いされると思うとちょっとワクワクする]

[ABC:ついでに日本へ行く、というのも許可されているのは完全に特権階級だね]

[黒猫:一応シャドウが地球に到達することは可能性として高かったらしい。だからシアリー適性の高い地球人をあらかじめ戦えるようにすることが認可されていたわけだな]

 

早速ユリクリウスとパーティーを組んで、ロシアの地に降下したわけだけどすぐに軍隊が駆けつけて来る。ついでに発砲もされるが、弾丸が通じないのでシアリーの戦闘力ってやっぱおかしいな。特に暴れ回っているユリクリウスに攻撃が集中しているが、全く通じていないのでユリクリウスがカチ勢に見えてくる。

 

「で、シャドウに侵食された人が人を襲うシャドウになる負の連鎖であっという間に拡散しているのか」

「地球ってたぶん人口の多い惑星だしシャドウにとっては良い餌場でしかないんだな。そりゃ来るわ」

「……ここの拠点ぶっ壊したら自分の家がどうなってるか覗いてみても良いかな?」

「それぐらいなら良いんじゃないか?俺も気になる」

 

ロシア軍とシャドウの群れを掃討しつつ、ユリクリウスと会話を続ける。戦車がバターみたいに切れる辺りロシア軍は泣いて良い。ただでさえ軍のほとんどが隣国の侵攻に使われているから、なけなしの軍を集めて蹴散らされてる状態。一応、人は殺さないように注意したけどミサイルを撃ち込まれているのに手加減なんてやってられるか。

 

「何でロシア軍はそんなに必死なんだ」

「ロシアの面積が広いから採掘ステーションの設置数も多く要求されたんじゃないか?ロシアは資源の宝庫だし」

「あー……日本はあっさり恭順したけど、大国はどこも屈服するの難しそうだ」

「まるで日本が大国じゃないかのような言い方だな。……既得権益を手放す方が利益になると分かっていても、手放せない人がいるんだろうな」

 

ロシア軍が攻撃してくる理由は謎だったが、ユリクリウスの推理だと差し出さないといけない土地が多そうとのこと。まあ採掘ステーションの設置って要するにそこら辺一帯の土地差し出せということだし、国がその判断をすぐにするのは難しいだろう。一方日本は要求された土地に対し、無償の永久租借地という形で即座に手放したそうだけど。

 

……お、テレビ局と思わしきのヘリコプターがいっぱい飛んで来た。どこの国でもマスコミは変わらないな。撮影されるのも面倒なことになりそうなのでワープしてキャンプ船へ一時撤退。その後、服を着替えてから日本の地に降り立つ。

 

防具はステルス化が出来るし、武器を外せば外見はもうただの人間だからね。……ユリクリウスと男女ペアに思われたくないので男性用のファッションにしておこう。流石に真夏にトレンチコートはおかしいし、サマースーツMで良いか。

 

ちょっとでもFUO2をプレイしている人は拉致されていたから、FUO2がどういうゲームなのか知らない人しか今の日本には残ってないはず。……いや、生配信とかでプレイしている人を見ている人がいれば理解は出来るか。FUO2をプレイしていないのにFUO2の実況を見ている奇特な人は少ないと思うけど。

 

「……しかしまあ、本当に拉致されてたんだな。可能性の1つとして俺は人格だけコピーされていた可能性とか考えていたぞ」

「何でそんなSAN値が下がりそうなこと考えてるんだよ。魂が重要っぽいからコピー人格だと無理なんじゃないか?……なんか不景気にもなっているようだから、雰囲気が若干暗いな」

「最低時給は1200円まで上がったようだが……コンビニの塩おにぎり1個230円はもう社会が上手く回ってないな」

「あ、本当だ。塩おにぎり200円セールののぼり旗とか見たくなかった。

……日本円用意するのどうしよう?」

「為替レートは決まってないだろうからシウラさんに頼むか」

 

ユリクリウスと街並みを散策していると、コンビニののぼり旗には『おにぎりフェア実施中!塩おにぎり230円⇒200円』との表示が。……若者が300万人消えると、僅か一月ちょっとでここまで悪化するのか。いや、日本だからここまでの悪化で済んでいるのか。

 

ユリクリウスはシウラさんと通信でゴールドを円にしろと要求すると1ゴールドを2円にしてくれるとのこと。早速10万ゴールドを振り込むと手元に20万円が届く。現ナマでポンと大金を渡してくる辺り、もう日本のことを色々と掌握してそうだ。

 

「コンビニで飯買うだけで1500円ラインは高い」

「……やばい舌肥えたかも。不味くは感じないけど」

「あー、サポートロイドの飯は全部美味かったし、何食べても太らないしな。……実際天国みたいな環境だわ」

「太らないってマジで!?そう言えば体型気にしたことなかったけど……そうか、体型もかなり自由自在だったな」

 

しばらくすると、自分の家の目の前に着く。ちなみにユリクリウスの家は隣の地区だけど歩いて2分の位置。中学になってから一緒になったが、それ以前から顔は知っていた。

 

……これ家に帰るの滅茶苦茶勇気いるな。1か月以上行方不明だった息子が綺麗な男の娘になって帰って来たとかどういう心境になるんだろう。とりあえず呼び鈴を鳴らすと、母さんが出て来た。まだそんなに時間は経ってないはずだけど、流石にちょっと老けたかな?

 

「えっと、どちら様ですか?」

「……武田優貴です。オレオレ詐欺対策合言葉『犬の名前はレオン』」

「……本当に優貴なの?」

 

合言葉を言ったにも関わらず疑われているのは自分の恰好があまりにも違うからだろう。もう女の子になったと言ってしまった方が通じそうな顔の男の子になってるし、身長は縮んだし。

 

「小母さん、俺は上野です。お久しぶりです」

「?????」

「一旦落ち着くまで待った方が良いかなこれ?」

「そりゃ行方不明だった息子が姿変わって帰って来たんだからフリーズするよな……」

 

とりあえず母さんは自分達2人を家に上げるけど、相変わらずきょとんとしているので現実をちゃんと認識出来ていない気がする。自分も自分で、久々に会ったのにも関わらず会えて嬉しい気持ちはあまりない。あれ、今日は一応日曜日で休日なのに千春(ちはる)の靴がないな。

 

この一ヵ月とちょっとの間、どういうことがあったのか説明していると母さんは「千春もそこにいるの?」と聞いて来た。……うん?

 

[クロワッサン:武田千春のゲーム内ネームを教えて下さい]

[シウラ:アバター名『せんはる』で船団番号1、ふおにの森6に所属しています]

[クロワッサン:それは早く言えよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!]

[シウラ:それは申し訳ありません、プレイヤー間の関係について我々は全てを把握していませんので。ですがせんはる様は元気にシアリーとして活動をされていますよ]

 

「おい、どうした」

「いや、たった今シウラさんに確認したら千春もFUO2やってるし今ふおにの森に所属しているらしい」

「……兄妹で同じゲームしていたのか。しかも互いにそのことを知らなかった上、互いに互いのことを心配すらしてなさそうな感じだな。

小母さん、安心して下さい。千春ちゃんもタキオン船団内にいるようです」

 

まさか千春がFUO2をプレイしていて、自分と同じようにタキオン船団に拉致されていないかシウラさんに確認をすると、普通に千春がタキオン船団内にいるとの回答が返って来た。しかもふおにの森6かよ。結構上位層に近い存在じゃねーか。

 

ふおにの森はもう4ぐらいまで120レべで埋まっていたはずだし、ケルビンさんが58レべでふおにの森7の下位だと考えると今70レべぐらいか?流行っていた頃の最大レベルが60レべから65レべだから、その辺りでプレイしていたら今70レべぐらいか。

 

……妹とはあまりコミュニケーション取らなかったというか、高校に上がる頃には話さなくなったし、大学入って1人暮らし始めたから4年間ほとんど会わなかったんだよな。まあでも、とりあえずは無事で良かった。幼女同盟に誘うのは……ジョーカーさんの妹の時の事を考えると辞めた方が良いな。

 

「千春ちゃんと何歳差だっけ?」

「4歳差だけど5学年離れてるよ。今高校2年生だ」

「じゃあそろそろ大学受験を考え始める頃だったのか……」

 

一先ず、接触しておこうか。まさか妹もプレイしているとは思ってなかったし……このアバターで会うのやだなぁ。それは向こうも一緒だろうから、チャットを先に入れておこうか。



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第37話 居心地

しばらく近所の店を散策するが、インドア派2人でお出かけは辛いしやたらと視線を感じるようになったのでさっさとキャンプ船に戻る。うーん、日本に帰った安心感よりタキオン船団のマイルームに帰った時の方が安心感は強くなってしまったので、もう自分にとってはここが安寧の地だな。

 

[クロワッサン:マイルームの方が落ち着くようになってしまった]

[黒猫:wwww]

[ゼル:美味しい物食べに行ったり新しい服買ったり……全部マイルームで出来るもんね]

[ユリクリウス:普段の遊びがFUO2のシャドウ狩りやボス周回だったからもうどうしようもない]

[クロワッサン:というかもう1ヵ月以上住んでいるんだからここが我が家だ]

[時雨:順調に手懐けられているね(*'▽')]

[ふわわ:元の生活も懐かしくはあるけどね……パワハラセクハラ上司がいないだけでストレスがかなり違うわよ]

[ABC:こうしてタキオン船団人が完成しましたとさ。……まあ今の日本に帰りたいとか言う人は何も考えてないと思うよ]

 

日本の現状を知り、改めて考え直して日本に戻りたいと言う人は日に日に少なくなっている。もうあと追加で10万人が帰るとして、250万人ぐらいはタキオン船団に残りそうだな。対シャドウ以外ではほぼ無敵ボディだし、シアリーの立ち位置が良すぎるんだよ。

 

[黒猫:あれお前ら気付かなかったのか。タキオン船団のマイルームの空気には気持ちを落ち着けたりリラックスさせる成分が含まれてるぞ。だから落ち着くのは当たり前だ]

[クロワッサン:ふぁー]

[ユリクリウス:そう言えば眠りが深くなったとは思っていたな。……大丈夫なのかこれ?]

[ABC:タキオン船団の全マイルームで実施しているから有害性があったらダメでしょ]

[ゼル:鬱が一瞬で治るレベルの科学力なんだから、大気組成にリラックスさせる成分を混ぜるぐらいは普通に出来るわよね]

[ふわわ:不快な気持ちになるよりかはよっぽど良いんじゃない?]

 

そして黒猫がマイルームの空気にリラックスさせる成分が含まれていることを暴露するけど、怒りとかは湧かない。……嫌なことを思い出すとムカムカは出来るので、本当にそのリラックス成分自体は微量のようだけど、こういったことで徐々に洗脳……いや調教……誘導しているんだろうな。

 

さて。妹の千春がせんはるという名前でFUO2をプレイしていたようだけど、ふおにの森6に所属してくれていて良かった。お蔭でチームメンバーから探すことが出来るので、簡単にせんはるの名前が見つかる。

 

[クロワッサン:千春?]

[せんはる:はい?いきなりなんでしょうか?]

[せんはる:クロワッサンさんが何で私のリアルネーム知ってるの!?]

[クロワッサン:兄の名前は武田優貴で会ってますか?]

[せんはる:合ってますけど……]

[クロワッサン:……あー、自分が武田優貴です]

[せんはる:えっ、うそお兄!?]

 

とりあえず個チャを送ると最初は凄く警戒されたが、恐らく妹で合っているだろう。とりあえずせんはるのレベルを聞き出すと73レべとのことだったので、70レべ台推奨ロビーへ移動し待ち合わせ。妹の性格的に、たぶん女性キャラでプレイしているだろうけど外見はどうなっているか分からない。

 

[せんはる:着きました!今クロワッサンさんの後ろにいます。……本当にお兄がクロワッサンさんなんだよね?]

「証明手段は少ないけどな。というか後ろって……」

 

個チャで後ろにいると言われたので後ろを振り向くと、マグロがいた。アクセサリーの生きたマグロを、巨大にしているな。しかも一般狂キャラクリであるマグロの頭が上になってマグロが立っているようなキャラクリではない。マグロが横になって、それが3段積み上がっている。マグロ三連装砲だ。キチガイ染みたキャラクリは色々と見てきたけど、ここ最近で1番度肝を抜かれたキャラクリかもしれない。

 

……人間辞めてるどころか原型留めてないんですが。しかもマグロが微妙に顔を左右にフリフリしているけど、タイミングが同期していないから凄く気持ち悪い。真ん中のマグロはお面を被っていて、アニメキャラのお面だから可愛いけどけどそこに付けられると最早狂気しか感じられない。

 

幼女同盟ではこういう狂キャラクリが少なかったというか1人もいなかったから身近にはいなかったが、野良でクエストに行くとたまに狂ったキャラクリは見かけるな。えー、これを妹と認識したくない。というかマグロはアクセサリーだから簡単に外せるだろうし、外すようお願いするか。

 

「……マグロとってくれる?」

「えーやだ。一々ファッションセンター行くの面倒だしアクセサリーで誤魔化してるの」

「あ、さてはアクセサリー外しても相当変なキャラクリしてるな?超デブ体型とか。それならファッションセンター行って体型変えたら良いのに」

「そうじゃないけど……外すよ」

 

マグロの塊が身じろぎしたかと思うと、マグロ三連装砲はなくなり小さな女の子が中から現れる。栗毛でアホ毛もある、アホっぽいキャラデザインだ。可愛いな。地球に居た頃の面影はないけど。

 

そして胸の部分が、明らかにキャラクリ出来る範囲外で大きい。これはアクセサリーの『夢盛りパッド』だな。馬鹿みたいに高騰したアクセサリーの1つで、一時期はこれ1つで1億ゴールドぐらいした。今では再版が繰り返されたことで値段は下がったけど、それでも1つ4000万ゴールドから5000万ゴールドはするだろう。

 

……この夢盛りパッド、元のキャラクターのバストサイズがB以下じゃないと付けられないとかいう謎設定もあるんだよな。そして付けたら付けたらで、キャラクリの限界サイズである100センチを大きく超えて120センチとなる。身長を限界まで伸ばしても完全に見た目はアンバランスとなるが、それが流行っていた時期もあった。

 

そしてこのアクセサリーも大きくしたり小さくしたりできるから、化け物みたいなバストサイズにすることも可能だった。上半身が夢盛りパッドに埋まってるやつとか。あと複数個付けてる奴は見ているだけで何か凄く気持ち悪い気分になる。せんはるの夢盛りパッドは多少小さくしているが、それでも小さい女の子の胸が110はあるのはアンバランス過ぎる。

 

「……お兄ガン見し過ぎじゃない?キモイよ?」

「いやお前……何でそんなに顔は綺麗に作れるのに夢盛りパッド使ってるんだ……」

「いーじゃん別に。ガチャで当たった奴だし」

「うわ羨ましい奴だ。売ろうとかは思わなかったんだ?」

「私課金してなかったから売れなかったの」

「……あー、そうか。ショップで売るのは一応課金機能だったか」

 

ガチャで当たったのに売らなかったのはそもそも妹が無課金勢だったからのようで……無課金勢で夢盛りパッドを持っているということはログボで集めたジュエル砕いてガチャ回して当たったということで、しっかり貯めているわけじゃないなら僅か2、3回のガチャで当てたことになる。サポートロイドの爆乳化のために天井まで回したハルさん辺りが聞いたら血涙流しそうだ。

 

……いやしかし本当に大きいな。一応自分の倉庫にも夢盛りパッドは眠っているから後でサポートロイドに使ってみようか。いやでも今でもショップで確認したら1つ6000万ゴールドする。アクセサリーの類は、一度使用するとそのキャラだけでしか使えない。実物なら見れたわけだし無理に使わなくても良いか。

 

「で、何の用?」

「いや妹がいると分かれば連絡はするだろ一応。あ、母さんと会ったけど結構寂しそうだったぞ」

「あ、やっぱりお兄特別許可証持ってるんだ。いーなー」

「そこら辺の話って中層プレイヤーも把握してるのか。ふおにの森ってどこら辺まで特別許可証持ってる?」

「そこら辺うちのチームの機密事項なんだけど……ふおにの森1の10人ぐらいは持ってるって言ってた」

「あー、じゃあ特別許可証持ってるシアリーは幼女同盟の方が多いのか」

「今更だけどお兄があの変態集団のエース格とか知りたくなかった」

「どういう意味の変態だよ……」

「強さと癖」

 

妹とは今年の正月に会ったっきりだから、かなり久しぶりではある。そしてクロワッサンのことと幼女同盟のことは知っていたみたいで自身の知名度の高さを感じる。この様子なら誘っても良いかなとは思ったが、個人的に妹がいる前で性癖談義はしたくないので止めておこう。というかよくジョーカーさんは誘ったよ。

 

「……お兄がこれ付けたらもう完全に女の子じゃない?」

「絶対にそれはやらんからな。というかそろそろゲーム内ネームで呼ぶか。

せんはるが望むなら装備とか渡すけどいるか?」

「すっごく欲しいけどふおにの森は装備の譲渡禁止だからゴールドにして欲しい」

「……まあ装備の譲渡はトラブルの元か。

そのレベル帯の装備の更新なら500万ゴールドあったら十分?」

「お兄、じゃなかったクロワッサンさんって幾ら持ってるの?」

「今だと1億ぐらい?」

「……うわー、上位の人が稼ぎやすいって本当だったんだ」

 

一先ず互いの無事に安堵して、せんはるに500万ゴールドをポンと渡す。装備が非常に貧弱だったので流石に心配になるわ。いやまあ無課金なら仕方ないんだろうけど、ソウル系1つにステⅤとスタミナⅤの3スロット防具は流石に弱い。これならドロップ産の多スロット装備の方がまだマシだろう。たまにスロット9まで拡張されてる装備とか落ちるしな。

 

[クロワッサン:妹がごく普通のFUO2エンジョイ勢だった]

[黒猫:家族がプレイしているの把握出来て良かったな]

[ゼル:クロワッサンの妹とかどんなキャラクリしてるのかちょっと気になる]

[ユリクリウス:めっちゃ普通の子という印象しかないんだよな千春ちゃん]

[ユリクリウス:せんはるちゃん]

[クロワッサン:こんな外見【マグロ三連装砲】]

[ふわわ:wwww]

[黒猫:wwwwwwww]

[時雨:`.゜∵(゜∀゜)ブハッ]

[ゼル:狂人の方だったか……]

[ユリクリウス:……5鯖出身?]

[黒猫:単純でシンプルだけど良い狂キャラ]

[ABC:似たようなのは十字砲火マグロで見たけどこれ中段のマグロにユリちゃんのお面付けてるあたり狂気度高いよ]

[ふわわ:というかこれで全身隠れるなら中身はちっこいということでロリじゃん!]

 

チームの面子に三連装砲マグロの写真を送ると中々に好評だった。そしてこの写真できちんとロリ体系なの身抜いて来るふわわさんは色々と凄い。夢盛りパッド使ってるロリっ子アバターになってるのは伝えなくて良いかな。

 



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第38話 密談

AIに絵を描かせることに嵌ったので今回の話から挿絵が追加されます。
AIが描いているので細部が変です。猫耳が3つあったり左右の色が違ったり指が6本どころか7本になったり……。
AIが描いた絵に忌避感を抱く人は挿絵表示の設定をオフにしスルーをお願いします。


ロリ虚乳になっていた妹とのフレンド登録を済ませて、その日はそのまま別れた次の日。チームルームに集まれとの連絡が黒猫からあり、覗いてみるとゲーム時代にはなかった景色が広がる。どうやらチームルームの種類が増えたようで、今は砂浜になっているようだ。エリア制限があるから小さいけど海もちゃんとあるね。普通に泳げるスペースはある感じ。

 

「明日の10時、ドゥームズ初期エリアから真南に10.2㎞地点の洞窟」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そこで水着になって海辺を漂っていたら、白のスク水を着ている黒猫からボソッと告げられる。お、これは何か面白いことをしそうな雰囲気だ。この場で話せないということはタキオン船団に聞かれると困ることか?……幼女同盟の上位陣が一斉に惑星ドゥームズの探索クエスト受けるとか、タキオン船団側に密会していること自体はバレるわけだけど大丈夫かな?

 

その後の黒猫の動きを確認すると、ユリクリウスとゼルには声をかけていたけどABCさんも声をかける側かな。今の幼女同盟はチーム人数が80人近くまで増えたから、チームチャットだと伝えられないことなのだろう。それなら新しくチャットのグループを作ったら良いと思うんだけど、駄目なのかな?

 

翌日になり、ちょっと待ち合わせ時間より早い時間帯に指定の箇所に向かうと確かに洞窟はあった。タキオン船団で話せない内容とか危ない橋を渡りそうだなぁ。しばらくすると黒猫を始め、ユリクリウスや他の幼女同盟の人が集まって来る。

 

黒猫 144レべ/131レべ ガンナー/ナイト

ABC 119レべ/104レべ テイマー/ガンナー

ユリクリウス 179レべ/146レべ アサシン/ソードマン

クロワッサン 178レべ/150レべ ソードマン/ナイト

ゼル 155レべ/145レべ キャスター/メイジ

ジョーカー 149レべ/127 ゴースト/メイジ

ビートル 151レべ/131レべ シューター/アーチャー

時雨 130レべ/124レべ ボクサー/ソードマン

 

人数は自分も含めて8人。強い人順で呼ぶならふわわさんやめうさんを呼ばないとおかしいので、これは所属していた期間の長さで選んでいるな。自分とユリクリウスは同時に加入しており、結構な古参ではある。

 

「ここに集まって貰った理由について先に話しておこうか。

……ふおにの森に聞かれたくない話だからだ」

 

洞窟の中には大きなテーブルが配置されており、各自適当に座ると黒猫が語り始めた。警戒していたのはタキオン船団じゃなくてふおにの森か。タキオン船団に対して謀反を起こすのかと思ったよ。

 

「タキオン船団警戒じゃないんだ」

「あほか。ここもタキオン船団の支配下の惑星だぞ。どこであろうと会話なんて拾われるし、チームルーム内の会話を聞いて偵察マシンを飛ばすことぐらいはする」

 

ゼルさんも同じことを思っていたようだけど、そうかここもタキオン船団の手のひらの上か。まずタキオン船団に歯向かう意思というのは自分にはないし、幼女同盟の面子にタキオン船団へ喧嘩売るような精神の奴はいないだろう。最初の300万人拉致が出来る技術力の時点で反抗する気力なんてとっくに折れてる。

 

「だがまあ、ふおにの森の面子がここでの会話を聞けるとは思えない。タキオン船団もプライベートな会話を他人に公開することはないからな」

「そのふおにの森に聞かれたら不味い理由が知りたいが……この後何かあるのか?」

「……船団番号31の母船がもうすぐで完成するらしい。1つの船に1000万人が乗れるタキオン船団の母船がだ。その船の船員として、地球組の非戦闘組の移籍が既に決定している」

「はあ!?」

 

ユリクリウスが黒猫にふおにの森に聞かれたら不味い理由を聞いたが、こりゃ確かに聞かれたら不味い話だな。黒猫だけが知っている理由の方が気になって来たが、こいつの頭の良さはユリクリウスと同じでガチだしシウラさん相手にかなり強気な取引をしていたことから何か握っている可能性は高い。

 

……ふおにの森は非戦闘組も多い。下位層は採取と釣りと採掘だけでクエストを消化して、地道なレベル上げをしている。採掘だろうが釣りだろうが多少の経験値は入るからな。それも低レベルの間は結構効率が良い。

 

それに釣りは大物が釣れるなら金策になるようにもなった。釣りレベルがカンストならマグロも1日1回は釣れるだろう。採掘はまあ、掘れた鉱石から作れる装備が基本全部微妙だけど、最前線組からすれば微妙というだけで、決して悪い装備じゃない。自分が今も使っているシールドソード、採掘産だし。

 

「そしてこの話には続きがあって、地球組のシアリーが船団番号31番の船長になれる可能性があるんだとさ」

「マジで!?条件は!?」

「船団番号31の母船が完成してから1週間、一番シャドウ討伐スコアを稼いだチームのリーダーだと言っていた。ゲーム時代によくあったシャドウ狩りイベントと同じだな」

「……きっついわね、それ。というか無理ゲーじゃない?」

 

さらに船団番号31の話には続きがあり、シャドウを一番討伐したチームのリーダーが船長になれるそうだ。要するに船団長のシウラさんを除くと、一番上の立場だな。この話をしてくる時点で、黒猫が狙っているポジションはそこだろう。それに対してゼルさんは苦虫を嚙み潰したような表情で無理そうだと言う。

 

「幼女同盟のカンスト人数は40人前後。対するふおにの森1は限界の100人で稼いでくるでしょうから1人当たり2.5倍は狩らないといけない計算ね。勝算あるの?」

「船長になったチームリーダーのチームは全員船団番号31に移籍することになるの?」

「……これ、ふおにの森は把握してないの?」

 

上から順番にゼルさん、ビートルさん、時雨さんが突っ込むが、それに対して黒猫は順番に答えていく。勝算はどうやらあるようで、倒すシャドウが高レベルなほどチームに付与されるポイントが高いらしいから要するに自分やユリクリウスが本拠地で稼ぐということだ。

 

チームリーダーが船団番号31の船長になったら、そのチームは全員船団番号31に移籍することになるようだけど、幼女同盟の面子全員で行けるなら大きな問題はなさそう。1鯖に居た人と会うのが多少難しくなるが、ゲーム時代とは違って気軽に船団同士の行き来は出来るからそこまで大きな問題にはならない。

 

……ふおにの森は下部組織もあるし、ふおにの森1が移籍することになったらナンバリングされているチームは全員移籍するのだろうか?確か船団の移籍に必要なゴールドは1人30万ゴールド。上位層はともかく下位層全員の移籍は難しそうだな。

 

まあ、ふおにの森が本気を出さなくても他鯖のチームが本気を出して狩る可能性はあるから、楽観視は出来ない。他鯖には完全な一強独裁体制のところもあるし、そういうところにはカンスト勢100人が集っている。1位を目指すのは難しそうだ。

 

「ふおにの森は把握してないはずだ。だが、ランキング1位常連チームがこの状況になって初のイベントで走らないとは思えない。それに今回は当然、タキオン船団側のチームも参加するからどこまで稼がないといけないのかは分からないな」

「ああ、タキオン船団側のチームも参加するのか。……なあ、船長になる目的って何だ?無理して取りに行くべきポジションか?」

「そこら辺はタキオン船団の事情も話しておかないといけないか。

タキオン船団はわかりやすい階級があって、基本的には5段階に分かれる。階級社会ってことは全員既に把握してるよな?それで船長の位置は、上から2番目だ」

 

黒猫に船長を目指す目的を確認すると、このタキオン船団の階級について説明された。わかりやすくランク順にすると、タキオン船団の一般市民や地球組の非戦闘組がランク1、地球組の一般シアリーやタキオン船団の普通のシアリーがランク2、特別許可証持ってるシアリーや1つの鯖で1人か2人選ばれたチームリーダーがランク3とのこと。

 

その上のランク4が船長という立場であり、かなりの量の情報が開示されるようになるらしい。まあ船長の上のランク5が船団長シウラさんただ1人なので、シウラさんを除くとトップか。1鯖の船長はシウラさんが兼任しているから船長という立ち位置がイマイチ分からなかったけど、2鯖とか別の船団番号のところは普通にシウラさんみたいな船長がいるのね。

 

階級事情を説明された後は、タキオン船団の今後の計画について黒猫が語る。このことは絶対に他人に言うなと言っているが、どこかからは漏れるだろうな……。

 

「タキオン船団は最悪、シャドウを全滅させなくても良いと考えているみたいだな」

「それは宇宙船でシャドウから逃げ続ければ良いからか?」

「それもあるが、宇宙がシャドウで埋め尽くされても別の宇宙を目指せば良いと考えている。シャドウは別の宇宙に渡れないという前提だがな」

「……いやそれマジか?自分達の手で生み出した殺戮兵器に対処できないから自分達だけ安全地帯に逃げて再起するつもりか?」

 

黒猫の語るタキオン船団の計画とは、ジャンプドライブと呼ばれる別宇宙へ移動する技術を開発し、別宇宙に逃げるというもの。地球組が大いなる闇やシャドウの群れを退治出来なくても自分達の命だけは守り抜く姿勢のようでどす黒さが滲み出ている。

 

……まあ、ゲーム時代でもシャドウを狩ってポイントを稼ぐタイプのイベントでも幼女同盟は1位をいつも競える位置にいたし、気合い入れて1位を目指すなら取れる可能性はある。それで黒猫を船長に担ぎ上げることに、反対意見はないかな。この人、今は可愛い美少女だけどリアルだと31歳なんだよね。いや今もリアルだけど。

 

21歳の時に起業して、それが軌道に乗ったら大手企業に事業を丸ごと売って、また起業してを繰り返していたようだけど無難に就職活動をしていた身としては化け物かよと思う。ネタ発言も多いけど、ABCに代わってチームリーダーになってからはチーム活動を一番頑張っていた。長い付き合いだし勝たせたい。

 

とりあえずイベントが始まったら走るけど、チームが1位になるかは『報酬:船長』の公開されるタイミング次第かな。個人ランキングとかも作られるだろうし、カチ勢には厳しそうだけどユリクリウスを1位にするため頑張るか。




ついでにクロワッサンのイメージ図です。


【挿絵表示】


AIに男の娘を描かせるのは結構苦戦しました。右肩に鎧がなかったり左右で微妙に色が違うのはご愛敬。もうちょっと修正ガンバリマス。


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第39話 イベント

FUO2はゲーム時代、年に何回か1週間かけてポイントを稼ぎ競うタイプのイベントがあった。個人ランキングとチームランキングがあって、個人ランキングで上位に入る幼女同盟は面子が少ないのにも関わらずチームランキングでも上位に位置していた。

 

チーム対抗戦のように直接的な戦闘じゃなく、特定のクエストでシャドウを狩ったり特定のレアドロップを稼いだりゴールドを稼いだり……まあ基本的には同じクエストを延々とクリアするタイプのイベントだな。

 

この手のイベントがあるからゲーム時代、火力が大正義になったんだよなあ。カチ勢だとどうしても狩る速度が遅れるし、個人ランキングとかは完全にユリクリウスのサポートに徹していた。

 

まあそのユリクリウスの殲滅速度がゲーム時代でも異常だったお蔭でおこぼれを貰って2位とかはよくあったけど。基本的には1週間、ずっと狩っていたな。特に大学に入ってからは何日も徹夜して上位を狙っていたから、傍から見たらただの頭おかしい人だったと思う。

 

この手のイベントで、上位に入った時の報酬は多かった。利便性のあるアイテムから、コスチュームの引換券まで色々と手に入る上、シャドウを狩るだけなら無課金でも出来る。……だから報酬目当てで、時間が許す限り走り続けられる人が正義だった。

 

今回はどうやら毎日グループ分けがあるタイプのイベントのようで、恐らく15人で一組のグループになる。この小グループ、ゲーム時代の報酬はNPCチケットが多かったけど、ゲーム時代と同じならグループ内1位でNPCウェアコスチュームチケットが3枚、2位から5位で2枚、6位から10位までなら1枚という感じ。

 

シウラさんの服が確か10枚だったかな。その他、アイドルやってるNPCの服装や受付嬢の服辺りは人気が高かったけどゲームが現実になった今欲しいかと言われると微妙。そもそも結構な数のNPC服は揃えているし、追加されている雰囲気はないから無理に走る必要はない。

 

一方のチーム報酬はチームルームに飾れるトロフィーと、実用性のあるアイテムやガチャを回すためのジュエル辺りが多かった。今回はチームリーダーが新しい宇宙船の船長になれるという爆弾のような報酬があるから、これが早い段階で公表されるなら鯖によっては戦力を集めるチームとか出てきそう。

 

黒猫からイベントの告知があった次の日。イベントまではまだ3日あるようなので、今日はユリクリウスのマイルームでイベントに向けての打ち合わせをしながら温泉でのんびりと過ごす。今回のイベントでシャドウの本拠地に向かう面子は自分とユリクリウス、コッペパンとサタンちゃんといういつもの4人パーティー。

 

ぶっちゃけサポート役2人が居ればユリクリウス1人で殲滅は出来る。自分の役割は極力敵からのヘイトを集めてユリクリウスを被弾させないようにするぐらいか。もうレベルが上がったせいで被ダメはほぼ全て1だし、大型のシャドウでも数ダメージ食らう程度だからどんなに油断していても死にはしないんだよな。

 

「この身体になった以上、1週間戦い続けるのは余裕だけど、元々のゲーム時代の時も1週間走り続けていたのは頭おかしかったよな」

「基本トップランカーは寝ないからな。人がまだ多くいた時は高校生だったし1位を取れたことはなかった」

「それが大学生になった途端、イベント時には毎食カレーを食べる廃人になったのには正直引いた」

「良いだろカレー。美味しいし味変が簡単だし」

 

このユリクリウス、ゲーム時代にはイベント前日にカレーを仕込み、イベント時には1週間カレーを食べ続けるという頭おかしい生活をしていた。料理時間を短縮するためだそうだけど、これでも食事を全て出前で済ませている人(ライトさん)やカロリーメイトのみで食いつないでいた人(ゼルさん)には効率で負けていたらしい。

 

「ボトラーをしていないならまだ常識は保っているとかいう風潮。今回は飯どうするの?」

「戦闘中に食べるか我慢するかの2択。カレー持って行っても良いぞ」

「カレーは自分も好きだけど、1週間21食カレーはやだよ。……ゲーム内アイテム食べる感じで良いか。マグロ煮とかステーキとかあるし」

「火力上がるからそれがベストか」

 

簡単に打ち合わせをした後は温泉に入る。コッペパンも連れて来ていたので一緒に温泉に入るが、コッペパンを見ていると船長になれるイベントの存在を知らせた後の、黒猫の話を思い出すな。

 

 

【挿絵表示】

 

 

……サポートロイドに、人権のようなものはない。機械知性との絶滅戦争をしていた過去がある以上、その辺は仕方ないことなのだろう。そしてこのことで、ふおにの森ではトラブルが起きた。というか地球組同士の衝突が幾つか起きていると黒猫は語った。

 

サポートロイドに人権がないということは、どのような扱いをしても基本は良いというわけで、ふおにの森のとある人がサポートロイドの四肢を欠損させた状態で犯していたらしい。それが何らかの形でバレた後、論争が起きて少なくない人がふおにの森を脱退したようだ。その際に、四肢欠損がまだマシという犯され方をしていたサポートロイド達がいることも伝えられた。

 

……サポートロイドを使ってニャンニャンすることはタキオン船団内では合法。というか扱いが自慰と変わらない。何ならいたすことを肯定しているから日本人の感覚だとやっぱりおかしい。タキオン船団にとってサポートロイドは人じゃなくて物だから、どのような扱いをしても何ら罪にはならない。人権がないのと一緒だ。

 

そしてサポートロイドの方も、特にこのことに対して何かを思ったりはしない。どんなに酷い扱われ方をしても怒りも不信感も持たないらしい。サポートロイドの根底にあるのは所有者の幸福であり、サポートロイドが『自身が苦痛の表情でボロボロになることが所有者の幸福に繋がる』と判断すれば喜んで苦痛の表情でボロボロになる。

 

このことで声を荒げたのはふおにの森で一番の堅物である『お兄さん』だ。サポートロイドにも感情はあるし、ほぼ全てのサポートロイドが美女美少女である以上、虐げられていたり痛めつけられている姿はあまり好ましい光景ではない。というか自分も可哀想なのは抜けないタイプなので不快感は当然ある。それを表に出すか、世界が変わったし常識も変わったからと見逃すかの違いだな。

 

しかしチームでサポートロイドに対して酷いことをしないというルールを作るのは難航したようで、離脱者も出たなら優柔不断なシャルルさんでは決断し切れないだろう。そもそも手を出すこと自体が禁止とかになったら猛反発が起こりそうだ。大半が既に手を出しているのはもうしょうがないけど……マニアックな性癖の人というのは結構いるし、どこまでが酷いことなのかの線引きも難しい。

 

あ、自分のサポートロイドを痛めつけるのは合法だけど他人のサポートロイドを傷つけるのは重罪です。普通に他人の財産を破壊していることになるからね。逆に言えば、他人のサポートロイドを治したり、被虐嗜好な性格を変えようとすることも重罪です。他人のサポートロイドを勝手に治していることに対し、怒られるわけだ。なお戦闘時のHP回復は除く。

 

要するに、サポートロイドにはどういうことをしても良いということなので温泉に浸かりながら、膝枕をして貰うことぐらいは健全の範疇ということ。ちょっとだけ黒猫に見せて貰ったサポートロイドのリアル内臓姦動画は最早ホラー動画だったよ……。

 

サポートロイドについて考えていると、ユリクリウスとサタンちゃんがバスタオル姿で温泉に入って来る。このサタンちゃんに、手を出さないユリクリウスは色々と頑張っていると思う。裏で手を出していたとしてもそれはそれでしょうがないと思うぐらいだ

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何で服のまま入ってるんだよ……」

「いやゲーム時代はコスチュームそのままで入ってただろ……。

服は一瞬で乾くしこのままで良いかなと」

「まあ俺もそのままで入る時あるし、やってみたくなる気持ちは分かる。

……そう言えばクロワッサンって夢盛りパッド持ってる?」

「ぶっ…………持ってるけど何で今聞いた?」

「ゆうしゃちゃんに普通のサイズのパッドとして付けようかと」

「大きくするんじゃなくてパッドを持たせるのか……」

 

そしてユリクリウスが真面目な顔して夢盛りパッドを要求して来たので思わず吹く。妹が夢盛りパッドを使ってたこと言ったっけ?言ってなかったよな?

 

まあ、汎用性の高いアクセサリーであることは間違いない。現在のショップ価格だと5000万ゴールドだったため、リサイクルチケット100枚とHP吸収系特殊能力3つで手を打つ。HP吸収系の特殊能力は今絶賛値上がり中で、HP吸収Ⅲの価格は1つ1億ゴールドぐらいする。

 

今回入手したのはHP吸収Ⅰだけどそれでも1つ1000万ゴールドはするし、リサイクルチケットは1枚20万ゴールド程度の金券なので大体等価のトレード。……合成チャレンジは、お金がもうちょっと貯まってからで良いかな。まだ付ける予定の武器もないし。

 

……よく考えたらただのパッドに数千万ゴールドが必要で、効果が低いとはいえ万能な特殊能力であるHP吸収能力が1千万ってショップの相場が狂ってるな。効果の低い下位互換的な能力でも有用なものは多いし、今から装備を整えようとする人でも案外何とかなるんじゃないかな。

 

というかこのHP吸収Ⅰについてはせんはるに渡しておこうか。確かHP回復系の能力が何一つない装備だったと思うし、装備丸々の受け渡しは流石にダメだろうけど、特殊能力なら良いだろう。……流石に手助けを何もしないというのはアレだし、先に渡していたゴールドと合わせてある程度の装備にはなるだろう。

 

『全船団の地球組シアリーに通達。レベル120に到達しているシアリーを対象に、明日の0時から各職業のスキルマップの追加がありますのでご確認をお願いします』

 

せんはるにアイテムトレードで一方的にHP吸収能力を押し付けたところで、シウラさんからアナウンスが入る。レベル170超えて来るとスキルポイントが余って来るから妥当な追加だけどスキルの振り直しが必要になりそうだな。

 

というかソードマンの方はもうスキルポイントを振る場所がなかったから泣く泣くアタックスタイルのスキルも取って行ってたし、振り直し確定だ。貴重なスキルポイント振り直しアイテムを使うことになるけど、流石にこのタイミングなら配布されるかな?



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第40話 成長

[黒猫:新スキルマップは聞いてない]

[ユリクリウス:スキルポイントが30ぐらいは余るようになったからありがたい追加ではある]

[ABC:今シウラさんに問い合わせたけど新しいスキルマップは統一されていないみたいで各個人によってスキルマップが違うみたいだね]

[クロワッサン:あー、各個人に合わせて最適化でもしてるのか?]

[ふわわ:えっ、全員違うってこと?]

[時雨:地球組の120レべ以上って結構な人数がいたと思うけど、1人1人個別に対応しているのかな(:'∀')]

 

スキルマップが追加されるという告知が来てから、騒めき出すチームチャット。スキルポイントは1レべ上がる毎に1ポイント貰えるもので、大体1つのクラスにつき、累計で300ポイントぐらいは割り振れるスキルマップというのがある。まあ、大抵の場合は120ポイントで必要なスキルは取り切れる。

 

ソードマンの場合はアタックスタイルを取り切るなら120ポイント、ガードスタイルを取り切るなら100ポイントぐらい必要という感じなので、どちらか片方を捨てるなら120ポイントで事足りる。他のクラスでも似たような感じで二者択一という感じだから迷うのは最初だけかな。

 

翌日になって、ソードマンのスキルマップを確認すると確かに新スキルが幾つも追加されてる。これたぶん全部取り切ろうとしたら450ポイントぐらいは必要になったな。そして自分のスキルマップに追加されたスキルの中で、有用そうなのが幾つかあった。

 

・HPリジェネレイト(最大スキルレベル:10)

3秒毎にHPが(スキルレベル×10)%の確率で(スキルレベル×1)%回復する。

 

・ファーストダメージカット(最大スキルレベル:10)

HPが満タンの時、ダメージが(スキルレベル×5)%カットされる

 

・マッシブボディ(最大スキルレベル:10)

(スキルレベル×5)以下のダメージを0にする。

 

まず確実にヤバイ性能をしているのはHPリジェネレイトだろう。ナイトにもあった自動回復スキルだが、あちらは1秒毎にHPが1%回復だった。しかしナイトの自動回復スキルには上限があったのに、こちらには上限がない。その上で3秒毎に10%回復とかこれ以上強固にしてどうするのという感じ。

 

次に有用なのはファーストダメージカットだろう。割合カットは正義。特に今回の追加でソードマン/ナイトは自動回復スキルを2つ積めるようになったから、HPが減っていない状況でダメージを食らう回数は増えるはず。自身のレアスキルとの相性も良いので当然10振りだ。

 

そして最後にマッシブボディというのがあるけど、これは自分専用のスキルかな。カチ勢以外だと雑魚敵の攻撃でも1発100ダメ食らうのは珍しくないからこれを振るのはカチ勢しかいない。スキルレベル最大にしても50ダメ以下の攻撃しか無効に出来ないとか効果は一見するとしょぼい。

 

しかし大型のシャドウの強い攻撃にファーストダメージカットを必ず発動させるためには、雑魚敵からのダメージを1じゃなくて0にする必要がある。……大型のシャドウの必殺技も元の威力を100以下に抑えられるなら最終的に0になるのかな?この辺は検証していこうか。

 

とりあえずユリクリウスに個チャを送る。

 

[クロワッサン:新スキルマップ、自動回復スキルやHP満タン時に割合カットが入るスキルが追加されてるね]

[ユリクリウス:……追加された分は、ほぼ全て専用スキルっぽいな。こっちにそんな羨ましいスキルはなかったぞ]

[クロワッサン:あ、マジで?

ユリクリウスの方で何かヤバイスキルは追加されてた?]

[ユリクリウス:残撃というスキルがヤバそうだな。特にデメリットもなく一振りで2回攻撃が発生する]

[クロワッサン:……うん?]

[ユリクリウス:追加の刃が発生するようで1回の攻撃が2回になるみたいだから、実質的に火力が2倍になるな]

[クロワッサン:ええ……?]

 

するとABCさんが言っていた通り、新スキルマップは各個人毎に違うようだけどほぼ全てが違うとは思わなかった。一部ユリクリウスとも同じスキルは追加されてたけど微妙なスキルばかりだから共通スキルだろう。

 

いやしかし、1回の攻撃が実質2回になるとか元々の火力が凄まじいことになっているユリクリウスに持たせて良いスキルじゃない。マジでコイツ1人で良いんじゃないかな状態に突入するぞ。既に二刀流で2倍、レアスキルの二刀流の輝で連撃時に最終倍率が2倍、今回のスキルで2倍。最終的には一般シアリーの8倍か。1人で12人マルチ並みの火力を出せそうだな。

 

[ふわわ:新スキルマップ色々とヤバくない?]

[黒猫:追加されたスキルは共有していくか?他人と違うスキルマップの可能性大だから共有するメリット薄いけど]

[ビートル:デッドライン○○系のスキルが大量追加されたからオワタ式継続不可避]

[ゼル:人によってはかなり違いそうだね。全部共有しようとしたら長くなりそうだし方向性だけ伝えたら良いんじゃない?]

[クロワッサン:HPがMAXの時のダメージが半分になりました]

[ユリクリウス:1回の攻撃が2回分になりました]

[ABC:120到達したー!]

[黒猫:120到達おせーよおめでとう]

 

このタイミングで、幼女同盟のサブリーダーであるABCさんが120レべ到達。ちょこちょこ100レべで止まっていた人が120レべになったという報告は聞くようになったので、普通にレベリングしていたら20レべ上昇が普通のペースということだろう。

 

元チームリーダーだったし、チームチャットではABCさんに対するおめでとうメッセージが流れ続ける。ここら辺の雰囲気はゲーム時代とあまり変わらないし、変わって欲しくない。

 

他の人のスキルマップを聞いていると、1つや2つはぶっ壊れスキルが搭載されているようなので自分のスキルが相対的に微妙な感じがして来た。ゼルさんチャージ時間半減って何それ強すぎでしょ。ふわわさんも立ち止まり続けるだけでペットのダメージが増え続けるって何だそれ。

 

全体的に、追加されたスキルは火力寄りの方が多いのかな。と思っていたらカチ勢仲間である8鯖のレミリャさんの噂が2鯖のカチ勢仲間のシャルロットさんから入って来る。どうやらレミリャさんがアブソーブなんとかというスキルを取得し、与えたダメージの1%を上限なしで回復するスキルを取ったらしい。

 

あの人、確か火力もあったから普通に通常攻撃1発で10万ダメは出る。上限がないということは一撃で1000ぐらいのHPを回復するということで、明らかにぶっ壊れた存在になった。……まあゲームが現実になった今、求められるのはぶっ壊れスキルを持つ強い人だから喜ばしいことなんだけど、他人に凄いスキルやアイテムが出ると羨ましくなるのがゲーマーの性。

 

[ユリクリウス:やばい案山子に火力を叩きこんだら10秒で1億ダメ到達したんだが]

[黒猫:火力指数ランキングが2位とトリプルスコアになってるから妥当。それでビートルみたいなオワタ式じゃないのはズルいわ]

[クロワッサン:火力指数ランキング2位ビートルさんじゃん!?何のスキル取ったの!?]

[ビートル:デッドラインコンバート、デッドラインブースト、ハーフラインリロード、ハーフラインブースト]

[ハル:スキル名だけでアホみたいな構成になったのが分かるの草]

[ビートル:いやまあ死にかけになると異常なMP回復速度と異常な火力出るようになったけど、確定で3発耐えるようになったからオワタ式脱出したよ]

[ふわわ:え、何かズルそうなスキル取ってる。

私なんて棒立ち状態だとペットの攻撃力と防御力が上がるスキルとかだよ]

[黒猫:それいつものお前じゃねーか。

無条件で火力と防御力アップしてるだけでも十分だろ]

 

どうやら本当に1人1人、スキルマップを用意したようでタキオン船団がゲームと現実を切り離したことが分かる。120レべまではまだゲーム時代のスキルマップのようだけど、そもそもゲーム時代のスキルマップは戦うための前提となるスキルも多いしこっちはこっちで必須か。

 

……ああ、だからイベントを開催するのか。新しいスキルマップはカンスト勢に新しい力を与えたし、このタイミングでシャドウ狩りを推進させることで競わせつつ新しい力に早く慣れさせたいんだ。まあ合理的だし反対しないけど、タキオン船団のやること大体繋がっているのは薄気味悪いものも感じる。

 

そして黒猫の告知通り、イベントの告知がある。まだチームランキング1位の報酬はゲーム時代の報酬から更新されていないが、何かあることは告知された。どうでも良い報酬だと最初から走らない人も多く出るから、目玉報酬はイベント途中まで発表されないのがFUO2の常だったけど、現実でそれやられるとタキオン船団そのものが面倒な存在に思えて来る。

 

……黒猫はこれシウラさんから直接教えてもらったのかな。正直信じがたい報酬ではある。地球組が同率とはいえタキオン船団の2番目に偉いポジションになれるというわけだし。まあ1番と2番で天と地ほどの差があるけど。

 

[せんはる:お兄は今回のイベントどうするとか予定入ってる……?]

[クロワッサン:24時間×7日間シャドウの本拠地籠って個人2位目指す]

[せんはる:えっ]

[クロワッサン:イベント中になんか重要な連絡があったらまず時雨さんに連絡してくれ。時雨さん以外の個チャは切るから]

[せんはる:えっ……?]

 

黒猫の頼みもあるし、とりあえずは個人2位目指そうか。ユリクリウスとパーティーを組む以上、個人1位は難しい目標だけど、個人2位なら十分取れるチャンスはある。

 

シャドウを討伐した時のポイント加算方法は基本的に倒したシャドウの『レベル×個体毎のボーナス×与えたダメージの割合』になるので火力正義。これに加えて倒し切った際のキルポイントがあるからユリクリウスに勝てる道理はないが、自身に群がるシャドウにひたすら剣を振り回していれば与えるダメージ量自体は大きくなる。

 

ユリクリウスが8倍の火力で2体から3体を纏めて一気に葬り去るとして、自分は20体から30体にタコ殴りにされながら剣を振り回せばダメージレースでは勝てる可能性もある。……まあ実際にはそんな上手いこといかないし、ユリクリウスの1位を補助するために囮を頑張るか。



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第41話 面子

タキオン船団で産まれ、タキオン船団で育ったシアリーは基本的に全員が上流階級の人間である。生まれた瞬間にどういう人間に育つか解析されている世界で、シアリーとしての誕生を望まれた人間は当然優秀な人間だけだ。

 

生まれた時点で優秀な遺伝子であることが確定しており、学習装置で知識を獲得し、恵まれた環境で育てられ、シアリーとしての戦闘技能を叩きこまれる。彼らは一般市民とは違い、特権を幾つも持つ代わりに、義務であるシャドウの討伐に務める。

 

シャドウの本拠地で戦えているタキオン船団のシアリーはシアリーの中でも全員がエリートだ。通常のシアリーであれば連続して2時間も戦闘すればくたびれて倒れてしまうが、本拠地で戦うシアリーは5時間6時間の連続戦闘が可能である。

 

……シアリーは、眠らずに連続して戦闘することが理論上可能ではある。しかし疲労感や眠気は感じる以上、無理をして連続戦闘を続ける者は少ない。戦闘時には命がかかっているからだ。そんな彼らの目の前で、狂気に染まった廃人達が跋扈した。

 

「ヘイト上昇エンドクラッシュエンドクラッシュエンドクラッシュヘイト上昇エンドクラッシュエンドクラッシュ……」

「ダブルクロスカットダブルクロスカットダブルクロスカット……」

「あの、マスター達は少し休憩をグラビティゼロ、した方が良いと提言しますグラビティゼロ」

「ご主人達マジヤバくね?」

 

一番シャドウが集まる地帯には、数百のシャドウの猛攻を単騎で集め、数十のシャドウを一瞬で葬る二刀流の剣士が。

 

「チャージ最大メテオライトファイアが連発出来るの楽で良いわ。」

「それずるい。こっちラスキルが全然取れないんだけど」

「ふわわは突っ立ってるだけでそのスコア頭おかしいわよ……」

 

その隣では、巨大な隕石が降り続け、複数の鳥がエネルギー弾を連射している。幼女同盟の面子で、この4人はイベント開始時から3日経った現時点まで個人ランキングトップ10をキープし続けている猛者達だ。

 

元々、シャドウの本拠地には数千億のシャドウが存在していると推測されていた。日に日に増えて行くシャドウに、タキオン船団のシアリー達は絶望していた。しかしイベントの開始と共に、シャドウの数は減少し始めた。タキオン船団の予想を超え、文字通り24時間働く地球組のシアリーが、至るところで戦闘を続けているからだ。

 

タキオン船団のシアリーには、何が彼らを動かしているのか理解できない。確かにイベントで上位に入れば色んな報酬を得ることが出来る。だがそれでも、『出来る』と『実行する』の間には大きな隔たりがある。

 

そして4日目に入った段階で、個人ランキングでトップを走るのはふおにの森のライトだった。

 

個人ランキング

 

1位 サーバー1 ライト 16,485,600pt

2位 サーバー1 ユリクリウス 15,786,200pt

3位 サーバー1 クロワッサン 12,699,600pt

4位 サーバー1 ゼル 12,566,900pt

5位 サーバー1 ふわわ 10,891,100pt

6位 サーバー1 めう 10,885,600pt

7位 サーバー7 モルモット 10,769,800pt

8位 サーバー21 バルバロッサ 10,750,500pt

9位 サーバー3 無脳 10,712,400pt

10位 サーバー8 十六夜白夜 10,700,000pt

 

シャドウ本拠地のシャドウは一番弱い種類のシャドウでも1体1000ポイントを持つ。同じシャドウに複数のシアリーが攻撃していた場合は割合で計算するため、7割のダメージを与えていれば700ポイントが入る。

 

「くそ、全然ライトさんとの差が縮まらないし、ユリクリウスは片方ロケランにした方が効率良いな。範囲攻撃ないとたぶん無理だ。あと自分は攻撃力減らす」

「それするとクロワッサンがゼルさんに抜かれて4位落ちるけど良いのか?あと俺がランチャーを使ったら範囲攻撃に巻き込まれるが……」

「0ダメだから平気だ。ユリクリウスがライトに勝てるならそっちの方が良い」

 

火力ではライトを大きく上回るユリクリウスが同時間戦闘を続けてライトに勝てていない理由は、魔法攻撃職と比較した時に近接攻撃職は範囲攻撃に乏しいからだった。その上でライトはチームメンバー11人のサポートを受けているのに対し、ユリクリウスはクロワッサンとサポートロイド2人の計3人のサポートと数が少ない。

 

ライトとの差が縮まらないどころか、広がる一方なのを見てクロワッサンはユリクリウスに対し、ロケットランチャーの使用を提案する。その提案を受けたユリクリウスはスキル二刀流のスロットを持つ剣を装備し、もう一つの武器枠に全クラスで装備が可能なロケットランチャーを装備する。

 

この瞬間、二刀流での攻撃力上昇効果は無効になった。剣の方は近接攻撃力が上がるのに対し、ロケットランチャーは射撃攻撃力が上昇するため、上昇値が被らず攻撃力が二重に上がらない。しかしながら、スロットスキルである連続攻撃でのダメージアップや1回の攻撃が2回になるクラススキルは適用されたままだ。

 

元々、過剰な火力で敵に余分なダメージを与えていたためにポイントの稼ぎ効率が悪かったユリクリウスは、この狩り方法の変更によりポイントの上昇速度が加速する。その結果、シャドウの本拠地のタキオン船団占領地域がどんどん広がりを見せることに、タキオン船団のシアリー達は困惑することしか出来なかった。

 

そしてタキオン船団の本拠地にいるタキオン船団のシアリー達は、あることで頭を悩ませていた。

 

チームランキング

 

1位 サーバー1 幼女同盟 31.4億pt

2位 サーバー1 ふおにの森1 30.0億pt

3位 サーバー3 無能艦隊 29.7億pt

4位 サーバー8 拷魔館 28.6億pt

5位 サーバー1 ふおにの森2 26.7億pt

6位 サーバー21 アーサー帝国 25.6億pt

7位 サーバー11 †Bloody Wings† 25.4億pt

8位 サーバー10 ハローワーク 25.3億pt

9位 サーバー6 チャット禁止 25.0億pt

10位 サーバー18 ビギナーズ 24.9億pt

 

28位 船団番号1 集団戦闘研究会 15.7億pt

 

それはタキオン船団のエリート達が集い、次期船長候補であるハンナが率いるチームの「集団戦闘研究会」がトップ10どころかトップ20にも入っていないことだ。チームメンバーは全員がシャドウの本拠地で戦える高レベルのシアリー達であり、今回のイベントで1位チームのチームリーダーには船長の座が渡されることを把握していたため、選りすぐりの人を集めている。

 

しかしながら、地球組はタキオン船団の想定を遥かに超えてシャドウの殲滅を続けていた。カンストの人数的に不利を受けている幼女同盟は初日から3位が続いていたが、下位メンバーが上位勢の狂気に触れ、出来る範囲でのシャドウ狩りを行い始めたため、4日目にしてトップに躍り出た。

 

「……今からポイントの数値を弄って貰うか?」

「馬鹿なことを言うな。そもそも所属シアリーの平均レベルでは私達がトップなのだ。それでこの順位なのは、最早言い訳が出来ない」

 

FUO2のゲーム内ではソードマンの指南役として登場していたフィルは、ポイントの操作をシウラに提案しようとするが、ハンナに止められる。そもそも、幼女同盟以外は船長になれることすら知らずに走っている。その上、タキオン船団所属のシアリーがあまり継続して戦っていないことは地球組から認識されてしまっている。偽装して1位になることは不格好であり、不可能な状態だった。

 

『シアリー各員に連絡します。今回のイベントのチームランキング報酬項目を更新しました。今回のイベントで1位のチームになったチームリーダーには新設される船団番号31の船長となります』

 

折り返し地点を過ぎた5日目に、報酬が発表されるとまずふおにの森のシャルルと幼女同盟の黒猫で話し合いが起こり、20分程度の話し合いの末、ふおにの森1のライトを含む上位勢数名が一時的に幼女同盟に移籍した。この頃にはロケットランチャーに持ち替えたユリクリウスが個人2位ライトと200万ポイント差を付ける個人1位となっており、浮いた2位となっていたためチームの移動にかかる時間すら惜しい状況ではなかった。

 

この移籍により、幼女同盟のポイント増加速度は急上昇し、他鯖のチームを一気に突き放した。逆にふおにの森1のランキングは3位に落ちたが、今回のイベント報酬で2位と3位に差はなかったため、シャルルに対する反対意見は少なかった。

 

[クロワッサン:めっちゃ眠い]

[時雨:ゼルさんは最終日まで突っ走るって]

[クロワッサン:あの人もう3位ほぼ確定じゃない?というか自分はシールドソードに持ち替えた時点で4位覚悟だったし。あ、そうだ。時雨さん多少はポイント稼いでおかないとチーム報酬受け取れないよ?]

[時雨:さっき少し稼いだから大丈夫だよー(*´ω`*)]

 

ユリクリウスが1位なるためにロケットランチャーを使用し始めたため、クロワッサンは火力の落ちる射撃メタ装備に持ち替えた。そのため、クロワッサンは3位から4位に転落したがユリクリウスの1位に非常に満足していた。ゲーム時代、ユリクリウスとクロワッサンのコンビで何度も負けていたライトに、今回は同じ時間でのポイント稼ぎで勝ったためだ。

 

最終日になると、個人ランキングの上位の方はほぼ固定され、走るのを止める人も出て来る。ユリクリウスのポイントは最終的に4000万を突破し、無事に個人1位を確保した。それと同時に、幼女同盟のチームランキング1位も確定し、2位の無能艦隊に3億ポイントの差を付けた。

 

今回のイベントの個人ポイント上位勢には、幼女同盟の人間が多くランクインしており、幼女同盟の強さを地球組に認識させる結果となった。そしてそのチームリーダーである黒猫は、チームランキング1位報酬である船長の地位を受け取り、1週間後に巡航を開始する船団番号31の船長になることを宣言する。



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第42話 周回

[クロワッサン:あー、眠い]

[ユリクリウス:ライトさんも動き止まったし1位確定かな]

[ふわわ:おつかれさまー。ゼルはもうちょっと走るって]

[クロワッサン:いやもう自分は走らないからゼルさん3位確定でしょ]

[黒猫:ライトさんにどれだけ迫れるかやるだけやっておきたいんじゃないか?

あとチームランキング1位も確定したのでメンバー全員お疲れ様でした]

[ABC:あと12時間あるけどほぼ確定だね。チーム報酬受け取りたい人は10万ポイントまで周回頑張れー]

[ハル:50位ラインのデッドヒートがヤバイわ]

[ビートル:37位でフィニッシュしそうです]

 

イベント最終日を迎えて、昼の12時を過ぎた辺りで自分はランキング4位が確定したのでシャドウ狩りを終了。ユリクリウスの1位も確定したから今はマイルームに戻ってチームチャットを解禁した。

 

1位 サーバー1 ユリクリウス 41,500,000pt

2位 サーバー1 ライト 36,000,000pt

3位 サーバー1 ゼル 32,986,500pt

4位 サーバー1 クロワッサン 30,000,100pt

5位 サーバー1 ふわわ 27,001,100pt

 

結局トップ5は全員幼女同盟が占めるという結果に。一時的とはいえライトさん達が来てくれたのは助かった。チームポイントの上昇速度が確実に速くなったし、ライトさん達の移籍がなければたぶん今もふおにの森1と無能艦隊と幼女同盟が競り合う形になっていただろう。話を纏めた黒猫有能。

 

1週間走るタイプのイベントで、残りの12時間で稼げるポイントというのは、今持つポイントを13で割った数以上には稼げないから、ふわわさんは今から全力で走ってもあと200万稼げれば良い方。しかもふわわさんも5位確定したから走るのを止めているので、自分は4位確定です。

 

そして自分が今から走ってもゼルさんには追い付けないのでシャドウ狩りを止めたということだね。ゼルさんは順位確定してからもまだ走るそうだけどマゾ過ぎる。

 

今回のイベントのせいで、ユリクリウスと自分のレベルは一気に上がって自分は198レべと200レべ一歩手前だ。1週間で20レべぐらい上がっているのは少し新鮮。元々、カンストしている状態でイベントとかは走っていたからイベントがレベリングを兼ねることはなかった。

 

ユリクリウスは無事に200レべ到達。この点に関して自分は完全に寄生していたことになるけど、イベント1位の補佐しているんだからこのぐらいの役得はあって良いだろう。コッペパンも185レべまで上昇しており、普通に頑張っている地球組よりも強くなった。サポートロイドのレベルに関してはたぶん持ち主のレベル-15ぐらいまでは獲得経験値に減衰かからないね。

 

「あー、眠い」

「あのマスター……眠たいのであれば早くベッドで横になることをオススメします……」

「寝てチームランキングが2位に落ちてると嫌だから起きてる」

「幼女同盟が1位になる確率はもう99.9%ですよ……?」

「0.1%負ける可能性があるならそなえう」

「もう意識が朦朧として呂律も回っていないじゃありませんか……」

 

マイルームではコッペパンに膝枕されながらでも気力で起きる。チームランキングの方は2位と3憶ポイント差があるし、順位が確定している上位勢以外は周回しているから多少は縮まるけど2位に落ちる気配はないね。上位勢以外は毎日普通に寝て起きて今日は最終日の追い込みしてるし。

 

[ゼル:3300万でフィニッシュするね……]

[クロワッサン:おつかれー。結局24時間×7日間走るって宣言した組はラスト12時間走ってねえな]

[ユリクリウス:ぶっちゃけ身体がもう動かんし、ゆうしゃちゃんにマッサージして貰ってるからそろそろ寝落ちする]

[黒猫:お前ら途中でサポートロイドの方が離脱してなかった?]

[クロワッサン:サポートロイドに関しては充電タイムが必要だったから仕方ないね……]

[ライト:そろそろふおにの森戻ります。お邪魔しました]

[らんらん:私も戻ります。チーム1位おめでとうございます♪お疲れ様でした]

[ABC:ライトさんらんらんさんありがとうございました。助かりました]

[lie:ライトさんとらんらんさん以外は1位報酬受け取ってから戻るのでもう少しお邪魔します]

[黒猫:ライトさんとらんらんさんも1位報酬受け取ってから戻ったら?]

[ライト:計算したら無能艦隊抜けそうなのでそっちで狩ります]

[クロワッサン:2位の競り合いするのかー。……最後まで寝れないな]

 

そしてライトさんがふおにの森1に戻り、再度走るそうだけど化け物かよあの人。全鯖一の廃課金ニートと言われていたライトさんだけど、元ニートがあそこまで働くか?あと本当にニートなら1憶にも達すると言われている課金をどうやってしていたのかが謎なので何らかの方法ではお金を稼いでいたんじゃないかな。

 

それにしてもイベント開始してから、今までシャドウを狩った記憶しかないや。途中で意識失いながらもシャドウからのヘイトを集めていたのは最早意地だな。まあ自分の場合は多少ミスしても何なら被弾しまくっても大丈夫だから気持ちは楽だったけど、ユリクリウスとか神経すり減らしながら戦っていたはずだから尋常じゃない化け物である。

 

[クロワッサン:黒猫は船長になったら何したいの?]

[黒猫:まあ色々とやりたいことはあるけどどうした?]

[クロワッサン:いや何か大きな目的とかあったのかなーって]

[黒猫:んー、クロワッサンとユリクリウス、あとゼルとABCには伝えておくか。

船長になったらタキオン船団の内外から地位と身分を証明されるから……船長になったら買えるんだよ]

[クロワッサン:……何を?]

[黒猫:惑星を]

 

うとうとしながら、今回のイベントの最大の目玉であるチームランキング1位の報酬、船長の地位をどう黒猫は活用するのかなと思って黒猫に個チャを送ると、惑星を買うという回答が。思わず眠気が覚めたわ。惑星を買うって何だよ。

 

[クロワッサン:えっ、惑星ドゥームズとか買えるの?]

[黒猫:いや流石に人や知性生命体がいる惑星は買えないが、無人の惑星なら比較的安価に買えるぞ。そしてある程度の技術力を持った種族がある程度の文明を築いた惑星を持っている場合、銀河連盟に一勢力として加盟出来る]

[クロワッサン:……おー。それタキオン船団監視下の個チャで言って良かったのか?]

[黒猫:地球組シアリーを新種族にして無人の惑星を開拓したい的なことは言ってあるぞ。銀河連盟に加入するまでは言ってないが]

 

どうやら黒猫によると、50憶ゴールドもあればタキオン船団の保有する惑星を買えるようだ。もちろん知的生命体のいない惑星ということが条件になるが、地球とほぼ同環境で地球とほぼ同サイズが50憶ゴールドとのことだったので高いけど安すぎる。

 

[黒猫:というわけでクロワッサンも出資しない?今回のイベントで相当稼いだだろ?]

[クロワッサン:何がというわけで、だ。

……3億5000万ゴールドまでなら出すけど見返り何?]

[黒猫:7%か。ならまあアフリカ大陸ぐらいは渡すわ]

[クロワッサン:スケールが大きすぎる。というか安すぎない?]

[黒猫:いや地球が宇宙から見た時に小さすぎるんだよ。極小に分類される惑星だから安いんだ]

 

銀河連盟に所属している別の文明からでも惑星は買うことが出来るそうだし、その文明とゴールドの為替レートは決まっているので惑星購入自体は特に問題なく出来そうだ。まあ自分はタキオン船団の他にどういう文明が所属しているのか知らないし、調べるのも面倒だからここら辺は周囲の人間任せだな。通常の検索だと弾かれてるし。

 

……何というか、黒猫の中では何か面白そうなプランがあるのだろう。それに実行力もあるし、乗っかるべきところは乗っかって行こう。そもそもゴールドを稼ぎまくっても、使う用途が無さ過ぎて悲しくなってくるレベルだしな。今回のイベントで更にゴールドやら装備に付けるレアな特殊能力やらを手に入れたが装備を更新するほどではないし、お金の使いどころとしては丁度良い。

 

んー、惑星を合同で買うなら出資比率上げておいた方が良いか。ちょっと倉庫から今売れそうなものを売り払ってしまおう。幸い、イベントのお蔭で通常通りのゴールド収入に+αでゴールドが入って中層低層でもお金に余裕が出て来た人は多そう。ということは、ちょっとお高い武器や人気度の高いコスチューム辺りは売れるな。

 

……お、ちょうど良いところに品切れで高騰しそうなアクセサリーがあるな。今なら売れるかもしれん。

 

「クロワッサン:夢盛りパッド各種を1個5000万ゴールドで売るけど買う人いる?」

[ハル:各種あるのか!?]

[時雨:全部買い占めたい]

[黒猫:唐突に金稼ぎ始めてて草]

[ユリクリウス:俺も射撃装備整えたくなったから『飛行ユニット』と『浮遊ユニット』売るわ。値段は応相談]

[ゼル:単純にゴールドが欲しいならチーム内で売買するよりショップで売り払った方が良くない?]

[ABC:倉庫にアイテム溜め込んでる人多いだろうし、イベント後のゴールド多い状態なら市場価格が大きく動きそうだね]

[時雨:既に特殊能力系の値段がイベント前の2倍になってます( ・∇・)]

[ふわわ:特殊能力系がめっちゃ高騰してるー]

[クロワッサン:装備更新し出す人は出て来るだろうし、素材はあるだけ放出するか]

 

ショップを漁ると、イベント終了直後から取引が活発になっているし初心者向けの装備の素材なども高値で売れている。要らない素材や特殊能力は、今の内の放出しておく方が良いかな。

 

……そんなことを考えていると、あっという間に高騰しそうなアクセサリー類が売れていく。本当に欲しいと思っているのか買い占めて値を吊り上げるショップ戦士かは知らないけど、これで5億ゴールドぐらいは用意できそうだな。

 

 



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