転生したらオバロ世界のエルフだった件について (ざいざる嬢)
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帝国ルート 遭遇編
私アレーティア、今追われているの!



遂に投稿してしまった…初めまして、ざいざる嬢です。

ぶっちゃけ思い付きネタですので長く続くかは分かりませんが、楽しんでいただけると嬉しいです!


 

 私は死んだ。そして新たに生を得た。

 

 生まれ変わった私の名前はアレーティア。性別は女、しがないエルフの娘です。前世の性別は男だったのでTS転生とでもいうのでしょうか。

 さて、エルフと聞いてまず思い浮かべるのはきっとファンタジーな異世界か、もしくは様々な原作のある異世界か。

 

 そんな私は後者に当たる、原作のある異世界に転生しました。

 

 

 

 ……そう、よりにもよってオーバーロードの世界に。

 

 

 

 このオーバーロードの世界は人間種に優しくない。人は脆弱で、集まって行動を起こさなければあっという間に死んでしまいます。

 ましてや、この世界に()()()()()()()()主人公である鈴木悟、もといアインズ・ウール・ゴウンが率いるナザリック地下大墳墓。

 あそこはヤバい。人間なんて、その辺のムシケラと同じ様に扱われます。

 なので人間種は互いに手を取り合い、協力してあらゆる困難に立ち向かうべきなのです……が。

 

 ここで今どういう状況かを説明しようと思います。

 私、アレーティアは戦場のど真ん中を必死に駆けています。

 

 ……色々言いたいことは分かりますよ?なんで戦場にいるのだとか何時ごろこの世界がオーバーロードだと気づいたのかとか。

 ですが、そんな説明は後回しにします。今は逃げるのに精一杯なのです。

 

「なんとしてでもあのエルフを討て!ここで逃せば更なる被害をもたらすぞ!!」

 

「大罪人の血を引くエルフだ!絶対に逃すな!」

 

「六大神の加護の下に鉄槌を下すのだ!」

 

 ……はい、ガッツリヘイト貰ってますね。

 そんなこんなで某国の特殊工作員?戦闘員?の方々にめっちゃ追われています。

 

 勘の良い方はお気づきでしょう。スレイン法国の六色聖典が一つ、陽光聖典の皆さまです。多分。

 

「…〈暴風雨(テンペスト)〉、〈飛翔(フライ)〉」

 

 とりあえず少しでも追っ手を撒くために大雨を起こします。

 更に〈飛翔(フライ)〉で原作のアルシェの如く地面スレスレを低空飛行し森を駆け抜けるならぬ飛び抜ける。

 

「クソ!豪雨で視界が…!」

 

「いっそ森に火を放って炙り出しましょう!」

 

「馬鹿者!この豪雨で木が燃えるわけなかろう!総員天使を召喚し追撃に移行せよ!」

 

 

 うわ、天使召喚ですか。勘弁してほしいですね。原作とかアニメだと確か現地勢からすると割と強いんですよね、あの天使。なんでしたっけ?ドミニオンなんちゃら…だったかな?

 転生してから1()2()()()()()()()流石に細かいところまではうろ覚えです。仕方ありませんね。

 そんなことを考えてたら、樹をバッサバッサ斬り倒しながら天使達が迫ってきているじゃないですか。環境破壊は気持ちがいいゾイ!って幻聴が聞こえてきます。

 とりあえず天使が鬱陶しいのでこちらも追い払う程度に応戦します。

 

「〈魔法最強化・衝撃波(マキシマイズマジック・ショックウェーブ)〉」

 

 放たれた魔法が天使たちを吹き飛ばす。割と近くにいた天使は粉々になって消えてしまいましたが、また召喚されてしました。何せ私もこの手の召喚魔法を得意としているので、それなりに詳しいと自負しています。なので対策として増え続ける天使相手にスキルを使用します。

 

「〈上位の(サモン・グレーター・)水精霊召喚(ウォーターエレメンタル)〉」

 

 水の上位精霊を召喚し迫りくる天使群を激流で押し流す。

 ついでに地面をぬかるみにして術者の移動の妨害を。まあ、移動の妨害に対する対策がされていたら無意味ですが天使を倒さずに押し流すのには理由があります。

 前世のアニメでは天使が倒されてから再度新しい天使を召喚していた。1人何体使役出来るかは不明ですが、少なくともアニメの描写の限りでは1人1体なのではないかと考えました。実際何体も精霊を召喚することは今の私にも出来ませんから。ならば、倒さず退け弱らせることで新しい天使を呼び出されるのを防ぐ戦法に従事します。

 

「ニグン隊長!天使が押されています!」

 

「何ィ!?」

 

「おそらく高位の精霊を召喚し対抗しています!これでは…!」

 

「ならば天使を散開し囲うように追撃せよ!見たところあの精霊は正面にしか攻撃出来ない様子、複数で側面に回れば同時に対処されることはない!」

 

「ハハッ!」

 

 あ〜、そう来ましたか。そうなると流石にお手上げです。

 この水の上位精霊、基本は正面への範囲攻撃を主としていて、言われた通り追われてる現状では周りを囲まれたりすると、両方向には対応出来ないんですよね。私が直接対処すればいいんですけど、追いつかれて原作のガゼフの袋叩きみたいにされてしまえば、いくら強かろうが私は耐えられる気がしません。

 なので、これは仕方なく、本当に仕方なくこの魔法を使う。

 足を止めて追っ手の陽光聖典へ、天使が回り込む前に!

 

 

「〈激流(レイジング・ストリーム)〉!!」

 

 

 激流(レイジング・ストリーム)、第七位階魔法でダムの水の放出を思い浮かべるほどの威力を誇る災害級魔法。

 これを使うと規模的にあの()()()()に見つかると思ったから使いたくなかったんですが仕方ない。とりあえずは洪水で切り倒されたエルフツリーも天使も隊員も全部を遥か後方へと押し流す。

 第七位階魔法だから威力的に死んでしまわないか心配ですけど、そうも言っていられません。最低限威力は控えたつもりですから、どうか安心してほしい。

 

「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」

 

「おのれ忌々しいエルフの王女めがああああああ!!!」

 

「さようなら~」

 

 

 こうして私を追う脅威を排除できました。ここでニグンさん殺しちゃうと原作から離れちゃいますからね。生存を祈っておきます。

 さて、悠長に休んでもいられません。急いでこの場を離脱します。

 ここに留まってあのクソ親父に捕まったらまたこの戦場に戻されるでしょう。

 それを回避すべく私はこの場を後にしました。

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

「アレーティアはどうした?」

 

 

 エルフの国の王城、側近の男にエルフの王、デケム・ホウガンは淡々と問いただす。

 

 

「それが…受け持っていた戦場を魔法で滅茶苦茶にした後、姿を消してしまい…。後からの情報によると法国の特殊部隊に追われていた様なのですが、それすらも撃退していたというらしく…。」

 

 

 エルフの王はその報告を聞くと満足そうに笑みを浮かべる。ようやく生まれた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その強さは過去の失敗作共とは比べ物にならず、このまま育てば間違いなく自分に比肩する可能性を秘めていた。

 

 なので6()()()()()()()()()法国との戦場に送り出し強くなる様促してきた。

 結果は上々、いやそれ以上だった。己とは違う土ではなく水の召喚魔法を身につけ、更にはエルフでは珍しい武技すら身につけていた。

 このまま強くなればエルフという種族の素晴らしさをもっと広めることが出来る!

 

 なので後数年もしたら()()()()()()()()()()その子にも期待が出来ると思っていたが、アレーティアはこの森を離れてしまったという。

 残念だと思うが、()()()()()()()()()()愛娘だ。法国の特殊部隊を退けるだけの強さがあるならば、外でもきっとその強さを以ってエルフの素晴らしさを広めることもできるだろう。

 帰って来なければ少々面倒だが自らの手で連れ帰らなければいけないなと考えながら、デケムは報告を聞くのを程々にとある場所に向かった。

 

「お前が産んだアレーティアは素晴らしい成果を出した。となれば次の子もきっと素晴らしくなるに違いない。期待しているぞ?」

 

その部屋からはエルフの嬌声がしばしば聞こえたという……。

 

 

 




初投稿なので不備があったり、ガバがあったりしたら申し訳なく…!

なお、私はまだ15、16巻ちゃんと読み終えていません()

これから2週目です()

感想いただけると大変嬉しいのでよろしくお願いします!


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私アレーティア、自己紹介をします!


お待たせしました。お楽しみいただければ幸いです。


 

 どうも、アレーティアです。

 陽光聖典との戦いからかれこれ一週間が経ち無事森を脱した私は今……

 

 

 

 

絶 賛 迷 子 で す !

 

 

 

 

 

 ……はい、今までこのクッソ広い大森林から出たことが無くて、外の情報も入ってこない閉鎖された空間から、クソ親父の手から逃げ出す!っていう思考オンリーで動いてましたから。よくよく思えばオーバーロードの地理とか頭に入ってないんですよ。

 辛うじて王国の隣に帝国があって、南の方に法国があるっていうようなアニメで見たシーンぐらいしか記憶にないです。

 聖王国とかドワーフの国ってどこでしたっけ?

 

 さて、そんなポンコツ晒している私ですがここで迷子になっていること以外の現状確認をしましょう。

 

 私、TS転生者ことアレーティアは御年13歳になる少女です。

 見た目こそエルフという種族のせいか育ちづらい印象がありますが、前世の少年少女と同じぐらいの背丈はあります(推定125㎝)。

 アウラとマーレは78歳で子供の見た目だからエルフはある程度成長したら一度成長が止まるものなのですかね?他のエルフに話を聞いてみたかったんですけど、あの城にいた他のエルフは私とは目も合わせてくれず、会話があってもクソ親父の側近が部屋に来て「王がお呼びです」とか義務的なことしか話さなかったので知ることが出来ませんでした。

 この頃はまだこの世界がオーバーロードの世界だと知らず、普通に異世界に転生したんだなと思っていた頃でした。

 

 話を私の容姿に戻します。ここからが重要。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 何を隠そう、私はエルフの王の血を引いており初めて『王の相』というのを持って生まれた神の子…らしい。

 ここ何年も話していない母曰く、クソ親父は産まれた私を一目見て飛び跳ねる勢いで歓喜したとか。

 ようやく王の相を持つ子供が生まれたと城を駆け回りルンルンだったとか。そんな姿見なくてよかった。

 

 ここだけ見ると自分の子供が生まれて喜ぶ父にしか見えないですが、私がコイツをクソ親父と呼ぶには十分な理由があります。あるんです。

 ……最初の6年はよかった。大事にするあまり母と一緒に城の一番広い部屋に実質軟禁されていましたが両親からの愛情は受けていたと思います。

 

 だがしかし、現実は非情である。6歳になったある日、私はクソ親父に突然マジックアイテムを装備させられ戦場に放り出されました。

 

 

 はい、小学校デビューならぬ戦場デビューです。

 当時の私はまだクソ親父をお父様と呼び慕っていただけに、何故戦場に放り出されたのか意味が分からなかったのをよく覚えています。

 

 独りで心細く泣きそうになっている私のもとにクソ親父が来ることもなく、やってきたのは見たこともない人間の戦士たち。

 見つかるや否や襲い掛かってくる見知らぬ戦士たち!やばいと思いその場を逃げ出す私!

 ……とはいえ、まだ6歳の私に逃げ切る体力もなくダメ押しとばかりに仲間であろう魔法詠唱者(マジックキャスター)まで合流してしまいガチでピンチになってしまいました。

 この魔法詠唱者(マジックキャスター)、戦士に行く手を阻ませ魔法で私を狙い撃ち。幸い当たらなかったものの、避けた拍子にバランスを崩して転んでしまい、当然すぐに周りを囲まれてしまいました。

 挙句抵抗しないのをいいことにコイツ、私で魔法の的当てゲームをし始めました。一緒にいた戦士もノリノリで逃げられないように逃げ道を塞いでいました。本当にこのクソ野郎共と悪態をつきたくなりました。

 

 この時コイツの撃った魔法…確か〈魔法の矢〉(マジック・アロー)だったはず。

 よくある魔法名ではありそうですが、この後の会話で第一位階がどうとか、もっと強い魔法を撃てとか、こんなエルフに第三位階魔法なんて勿体ないとか、もっと痛めつけてから殺すとかいろいろ言っていましたがそこは割愛。

 

 そう、位階魔法と来ればピンとくる人はピンとくるのではないだろうか。ちなみに私はまだこの時はオーバーロードの世界と確証は得ておらず、もしかしたら…?というぐらいに留めていたんですが。

 それに命がかかっている非常事態。とっさに思いついた魔法をいくつも口にした。

 

 〈魔法の矢〉(マジック・アロー)〈火球〉(ファイヤーボール)〈電撃〉(ライトニング)〈酸の矢〉(アシッドアロー)、等々…。

 

 もう思いつく限り魔法の名前を言いまくりました。結果ですけど…当然ながら発動しない魔法もあり、逆を言えば発動した魔法もあったのです。

 がむしゃらに魔法を言いまくったので何が発動したのかは分かりませんでしたが、結果的に私を囲んでいた連中は皆死んでいた。こうして私は生き残ったのでした。

 

 そんなところでようやくクソ親父が現れ、満面の笑みを浮かべて抱きしめてきた。

 抱きしめられた私はひたすら困惑していましたが、この後の発言で私の中の優しかったお父様は死んだ。

 

 

「まさか生まれつき魔法の才まであるとは!流石は私の最高傑作(アレーティア)!」

 

「命がかかった極限状況で強者と戦うことこそが最も早く強くなれる手段だったが、想像以上だ!初陣でここまで強くなれるとは!」

 

「逃げ出した時は何事かと思ったが、まさか自分で自分を更に追い込むとは思わなかった…。よほど強さに貪欲なのだな。私は嬉しいぞ」

 

「さあ、今日のところは城へ戻り身体を休めなさい。私の大事なアレーティア」

 

「お前のために、いずれもっと厳しい戦場へ連れ出してやろう。…?ああ!震えるほど嬉しいのだな!こういうのを確か武者震いと言うんだったな!流石アレーティアだ!」

 

「いずれお前は私の伴侶となり、この世界を支配するエルフ達の頂点に立つのだ。こんなに嬉しいことはないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

ドン引きだわぁ!!

 

 

 

 

 

 

 はい。この後に記憶を掘り返して原作の幕間にチラッとだけ出てきたエルフ王がコイツだと悟り、私は色んな意味で絶望しました。ここがオーバーロードの世界だと。さらに親がとんでもないクズにも勝るクソだったと。

 近親相姦上等とか勘弁してほしい。私、前世男ぞ?むしろ女でも嫌ですわ。誰が好き好んで実の親に抱かれなければいけないのか。

 つまるところ、戦争の原因はエロフ兼クソ親父ことエルフの王が漆黒聖典の一人を騙して孕ませたのが原因。

 挙句、何人もの女エルフを使い捨てるがごとく産ませては戦場に出し間接的に殺してきた人でなし……いや、暴君という方が正しいですね。

 そんな奴が自分の父だと誰が思ったか。……ちょっとしか出てなかったから気づかなかったんです。同時に、だから他のエルフがクソ親父と同じ王の相を持っている私に近寄ろうとしなかったのだと察してしまいました。

 

 

 そんなこんなでここから6年、地獄のような日々を生き抜いてきました。

 

 戦場に出ては格上とばかり戦わされ、それが終われば城でマンツーマンで色々なお勉強。極めつけに寝ている私のベッドにコッソリ入ってきては身体の肉付きやら何やらを確認される。キモイ、マジでキモかった。

 戦場で成果を上げるたびに抱き着いてくるのもやめて欲しかった。……戦場で生き抜いた結果か、知らぬ間に幾つかの武技を使えるようになったときは抱きしめるどころかキスされた。え?どこにされたか?聞かないでください。

 

 これでお分かりいただけたでしょう。要は我慢の限界だったんです。

 あそこに居続ければいずれ死ぬか、捕まって奴隷にでもされるか、クソ親父に抱かれて子供を産まされ続けるかというどれもこれも碌な未来がありません。故に私は逃亡を決心したのでした。

 

 余談ですが最初は()()()()()()()()()()()()()()()とあの戦士たちの前に放り出したらしいが、()()()()()()()()()()使()()()()()を知ってからは魔法を直々に教えてきました。そこだけは感謝していますけど、ある程度成果を出すたびに一歩間違えればすぐ死ぬような格上相手の戦場に放り出すのはやめて欲しかった。何度死んだと思ったか。

 

 

 …正直、あの時どうして魔法が使えたのかは私にも解かりません。これが転生特典のチートだったりするのでしょうか?神様とか会っていませんが。

 もしくは生まれながらの異能(タレント)なのか。

 生まれながらの異能(タレント)なら正直どういった能力なのかはっきり理解できていません。

 あれは確か魔法による診断が必要だったはず…?これ(タレント)自体そこまで本編に絡んでいないからあまり知りません。

 ブレインとかは持ってるけど無自覚に使っていたという設定があったのは覚えています。最後に読んだ巻ですし。

 自覚していることといえば()()()使()()()()()()()()()()()使()()()()()()使()()()()()()()()()()()使()()()()というぐらいですね。

 〈完璧なる戦士〉(パーフェクト・ウォリアー)とかに似たものなら納得できそうなんだけど体感と原作を見る感じそれとも違うと思う。

 

 まあ解からずとも現状困ることはないのでいずれどこかで生まれながらの異能(タレント)を調べる機会があったら調べてみるとします。

 

 

 そう思いながら私は宛てもなく迷子という現実から目を逸らして歩き続けるのでした。

 

 

 






説明回でした。

小説って書くのが大変ですね。書くとわかる大変さ。
前話の誤字脱字報告ありがとうございました。私自身、国語力に自信がないので変な表現があったらお手数ですが教えていただけると…。


次回は今週中に更新できればなぁと。

カッツェ平野である人物と出会う予定です。


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私アレーティア、今カッツェ平野にいるの!

UA約5000、お気に入り約200件と嬉しいことに多くの方に読んでいただき気に入って貰えて嬉しい限りです。

3話もお楽しみいただければ幸いです。


 

 皆さんごきげんよう、アレーティアです。

 

 今私は…

 

 

 

 

 アンデッドの大群に囲まれています。

 

 

 

 

 

 時は少し遡りまして森を出て迷子になって早数日、やたら霧に覆われ昼夜問わずアンデッドがわんさか湧いてくるなんとも不気味な場所に来てしまった様です。

おぼろげな前世の記憶を思い起こせば恐らくここはカッツェ平野。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の中間地点にあったアンデッドが多発する地域のはず。

 

 骸骨(スケルトン)に始まり、動死体(ゾンビ)獣の死体(アンデッドビースト)など…ここは前世のバイオなハザードの世界かと勘違いしそうですね。

 生憎銃は無いので片っ端から魔法を駆使して排除して進んで行きました。

 この時、路銀稼ぎに討伐した証を集めて、いずれ冒険者ギルドに顔を出そうかとも考えたのですがやめました。

 何故かって?そりゃあ絶賛迷子なのに、そんないつ換金出来るかも分からないものを持っていても仕方ないでしょう?ただただ荷物が増えるだけです。

 クソ親父から貰っていた無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)があるから持ち運びには困らないものの、500㎏までしか入らないので──袋の中身を整理するのが面倒なので──あまり不要なものは入れたくありません。無限とは一体。

 まあ冒険者ギルドで正式に登録してから集めても遅くはないでしょう。

 

 

 さて、またそれから数日が経ち現在。私は戦い方を変えてこの平野を進んでいました。

 具体的には魔法ではなく武技を駆使してアンデッドと戦う感じですね。

 魔法だと余計に魔力を消費してしまっている気もするので体を動かして鍛えるにはある意味持ってこいです。

 何を隠そう私はこの強さに見合う程の体力がありません。これはレベル的な問題というより年齢的な問題ではないかと思っているのですが。

 私はまだ13歳。人間なら体力が溢れる子供の時期ですが、私はエルフ。エルフは長寿のため成長が遅いせいなのか、こうした素の身体能力は割と低く感じる……。魔法でバフを盛れば問題ないとは思いますが、あまり魔法に頼りすぎるのも良くありません。

 魔法抜きで身体能力を鍛えなければこの世界を生き抜くのはきっと厳しい。

 ……例外として魔法が使えない状態でも、大の大人を投げ飛ばせるぐらいのパワーなら何故かあります。あのクソ親父も最初はここを伸ばそうとしてたっぽいんですけど、自分でも気づいていなかったのにどうやって知ったんでしょう?知らぬ間に魔法とかでステータス見られてたのかな?

 なので魔法ではなく武技を鍛える必要があると判断し、戦士生活をしようと意気込んでいました。

 

 …そして気づけば冒頭の通り大量のアンデッドに囲まれてしまった私です。

不覚というか、なんかやたら統率された動きしてるんですよねこいつら。

 あ、なんかボスっぽいのいました。骨で出来た竜みたいなアンデッドの上にエルダーリッチっぽいアンデッドがいます。

 骨で出来た竜は察するに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)か。これこの世界基準だと中々ヤバい状況なのでは?

 第六位階魔法以下の魔法を無効化する骨の竜(スケリトル・ドラゴン)、それに乗って盾にしながら魔法を撃ち下級アンデッドの指揮を執るエルダーリッチらしきモンスター。そして大量のアンデッド。うーん、誰かここで不死の軍勢(アンデス・アーミー)でも使いました?確か第七位階魔法だったと思うんですけど、使えるヤツがいるのかな?

 

 激流(レイジング・ストリーム)辺りを最強化すれば、周りを囲んでるアンデッド達も一掃出来ますし、骨の竜も倒して乗っているエルダーリッチっぽいやつも運が良ければそのまま倒せそうです。ただここで私のクソ親父の虐待こと英才教育が活きてしまってます。

 ある意味この状況は強くなるチャンスでもあるのです。

 弱いとはいえこれだけの数のアンデッド。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に乗るあのエルダーリッチ。これらを1人で近接戦闘で倒せばどれだけの経験になるか。

 魔法を使ったとしても倒すことに変わりはないですが、私の性質上魔法は魔法、武技は武技で鍛える必要があります。なのでここは魔法無しで切り抜けます。いわば縛りプレイです。

 

 私は無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に放り込んでいたメイスを取り出す。このメイスは何年か前戦ったスレイン法国の神官と思わしき大男を倒した時にパク……もとい拝借した一品。アンデッドには殴打武器がよく効くとどこかで読んだ気がするので、こういう時に重宝します。

 メイスを片手に戦闘態勢へ。なにやらエルダーリッチっぽいやつがアンデッドに命令を与え始めています。なので先手必勝!

 

 

 

「武技〈流水加速〉〈能力向上〉」

 

 

 バフ盛りは必須。まず正面の敵から叩きのめします。

 

 

「〈殴打(スマッシュ)〉」

 

 

 ドゴォォォオン!という音とともに大量のアンデッドが種類問わず宙を舞いやがてバラバラになり地面へと落下していく。

 私の元々のパワーに加え〈流水加速〉による速度上昇、〈能力向上〉による更なる強化。ここに〈殴打(スマッシュ)〉という衝撃を放つ武技を放つ。

 相手はどうなるか?答えは簡単。相手は死ぬ。

 

殴打(スマッシュ)〉を連発するだけで正面のアンデッドが見えなくなる。いや、もう全員宙を舞って地面で見るも無残なことになっているだけでした。

 正面の穴を埋めるようにアンデッドが周囲から迫って来ますが、何ら問題はありません。

 

 

「〈即応反射〉、〈連撃〉」

 

 

 体勢を整え〈連撃〉で周りをボコスカ殴る。殴る。殴る。

 もう面白いぐらいにアンデッドが地面に還っていきます。一撃で何体倒しているのか?正直〈能力向上〉はやりすぎたかも…?

 そんなことを考えていると不意に魔法が襲ってきました。あれは……エルダーリッチ!骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に乗っていないのが三体も!

 

 

「よくも我らの軍を!生かして返さぬ!〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

 

「食らえ愚か者!〈雷撃(ライトニング)!〉」

 

 

「〈魔法の矢(マジックアロー)〉死ぬがいい!」

 

 

 

 怒り心頭のエルダーリッチ`s。この軍勢でどこかに攻めようとでもしていたのだろうか?まずはこの魔法への対処から。

 

 

「〈不動〉」

 

 

 

 魔法がそれぞれ直撃しましたが意にも介す必要はありません。この武技を使うと痛みを感じずに動ける。故に〈不動〉。そのままエルダーリッチに肉薄し、まずは一体を殴殺。

 ついに私に恐れを抱き始め逃げようとしたようだがもう遅い。そこは射程範囲内。〈流水加速〉を再度使用し新たな武技を放つ。

 

 

「〈投擲(スローイング)〉」

 

 

 武技を使用してなげたメイスは残りのエルダーリッチ二体の頭を破壊しただけでは飽き足らず付近のアンデッドも巻き込み飛んでいく。あんまり遠くに飛びすぎると回収が面倒ですね…今後は使用を控えていきたいところ。

 一先ず無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)から別のメイス(別の神官から拝借した同じメイス)を取り出し再び〈殴打(スマッシュ)〉を繰り出す。

 

 エルダーリッチという統率が取れるアンデッドがいなくなった影響か、アンデッドの動きが次第に群ではなく個としてのものに変わっていく。

 最早軍隊としての統率はとれておらずアンデッドの数もさらに減っていく。

 残すところ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)とそれに乗っているエルダーリッチもどき。何度見てもエルダーリッチとは違う印象を受ける。

 ついにそいつが降りてきた。

 

 

 

「…我が弟子と配下をこうも容易く仕留めるとは。やってくれたな人間」

 

 

 その声は人間味がありつつも人を恨むアンデッド特有の冷たさを感じた気がした。

エルダーリッチもどきは話を続ける。

 

 

「貴様は殺す。ナイトリッチなるこの私自らの手で死ねるのだ。光栄に思うがいい」

 

 

 …ナイトリッチ?いや、知らないですね。ドラゴンなクエストでは知ってますけど。デザインがデスナイトっぽいあれですよね?見た目全然違いません?

 むしろそんなのいたんだって驚いてます。

 

 

 

 

 

「貴様の死体は私の部下としてこき使ってやろう!死ねい!〈焼「武技〈土竜叩き〉」

 

 

 

 

 

 

 ドグシャァッ!という音を立ててナイトリッチは地面に潰れたトマトのような何かと化した。

 …えーっと、弁明させてください。だって、明らかに私は強いぞ!ってやつが出てきて、ぺちゃくちゃ喋ってるんですよ?隙だらけでいつでも攻撃してどうぞ!っていう風に見えたから遠慮なく脳天から叩き潰しただけなんです!こんなあっさり死ぬなんて思わないじゃないですか!!

 そんな主を失って呆然としているであろう骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を見ながら私はメイスを持ち直し、せめて主人と同じように土に返してやろうと跳躍し〈土竜叩き〉をその顔面に叩きつけた。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は粉々になった。

 

 

 …これはいい経験になったのだろうか?なんだかレベル差的なアレで倒してしまった感が否めない。

体力的には少々疲れを感じてはいるもののまだまだ戦える。さてこれからどうしよう。と考えながら歩きだそうとした矢先──

 

 

 

 

 空から豪奢なローブを着たお爺さんが降ってきた。

 

 

 

「偵察部隊からアンデッドの大群が現れ進軍しているという報告を受けて急いで来てみればこれは一体…。もしや、お主がすべて倒したのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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私アレーティア、今お爺さんとお話ししているの!


ものすごい勢いでUAとお気に入りが増えていく…嬉しい…嬉しい…!

連続投稿とか出来てしまうぐらいには嬉しいですね。

ありがとうございます。


 

 

 親方!空からお爺さんが!!

 

 …冗談です。いえ、冗談じゃなく〈飛行(フライ)〉の魔法で降りて来てはいるんですけど。

 

 私の目の前に降って来たお爺さん。その名もフールーダ・パラダイン。バハルス帝国の首席宮廷魔術師。またの名を三重魔法詠唱者(トライアッド)。この世界を生きる人間種では英雄の領域を超えた逸脱者と称されています。

 そう思うと私も逸脱者の括りに入るのでしょうか?一応この人より高位の魔法を使えるし……あっ。

 

 気づいてしまった。マズい、非常にマズい。何がマズいかってこの人魔法に狂っているのです。魔法のためなら持っているもの全部を捨てられるぐらいに。

 そう、私は第七位階以上の魔法を使える。ここまではいい。しかしフールーダには生まれながらの異能(タレント)がある。確か見た相手の所持している魔法の階位を判断できる……だったか。つまり私の方が優れた魔法詠唱者(マジック・キャスター)だとバレてしまうのだ。バレることは問題ではないがバレた後が問題です。間違いなく教えを請いに来るでしょう。

 正直、期待に応えられる気が全くしません。アインズ様も一冊の本を手渡して誤魔化していたし。私が教えられるとでも?

…魔法…クソ親父…戦場…キラリと光る星……ハッ!私は一体…ああ、過去の嫌な記憶がフラッシュバックしていました。現実逃避している場合じゃありません!

 

 

「どうしたのかな?ボーっとしているようじゃが……」

 

 

 お気になさらず、貴方への対処を考えているだけ…あれ?

 

 

「おーい、お嬢さん。そろそろ私の質問に答えてほしいのじゃが……」

 

 

 あれ?あれ?フールーダが普通だ?なんで?

 もしかして、今私が戦士状態なのが原因か?戦士状態の時、魔法は封じられる。だから生まれながらの異能(タレント)にも引っかかっていない?

 まあ狂っていない限りは理知的な人です。皇帝からの信頼も厚い──アインズに会うまでは──ので普通に応対しましょう。そして、しばらくは魔法を封印しよう。それがいい。

 

 

「…あぁ、すいません。少々疲れていたので答えるのに時間がかかってしまい…。そうです。私がやりました」

 

 

「おお、そうかそうか!大したものじゃのぉ。見渡す限りアンデッドの残骸が広がっておる。中には…エルダーリッチ、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)、下級アンデッドが多数に…この潰れているのは…未知のアンデッドか…?随分と酷い有様になっておるが…。おや?」

 

 

 ああ、ナイトリッチのことですね。原型が残っていないぐらいに潰れてしまいましたが、二百年以上生きる人物の知識に無いとなるとかなり希少な──もしくは原作にいない──モンスターだったのかもしれませんね。死の騎士(デス・ナイト)とどっちがレアでしょう。

 

 

「お嬢さん、よくこの場を切り抜けたのう。この潰れているアンデッド、かなり強力なマジックアイテムを身に着けている。私とて戦うことになれば苦戦は必至だったろう。いったいどうやって倒したのかね?」

 

 

 尋ねるフールーダに疑惑の目をむけられる。それもそうでしょう。こんなぱっと見少女にしか見えないエルフがこの惨状を作り上げ、挙句未知のアンデッドを倒しているのですから。

 何か裏があると考えるのも不思議ではありません。例えば、他にこの場を作り出した強者がいるとか。強大な魔法を使ったとか。

 まあ、そんな事実はありませんし真実のみを口にしましょう。

 

 

「このメイスで武技を使って殴ったらこうなりました」

 

 

「…すまんのう。耳が遠くなってしまったのかもしれん。もう一度聞いてもいいかの?」

 

 

「殴ったら死んだ」

 

 

 ちょっと荒々しい口調になりましたが簡潔に事実だけを伝えました。

 でも、フールーダはポカーンと呆けています。背景を宇宙にした猫みたいな顔をして。まだそんな齢ではないのでは?いや二百歳越えでしたね。十分以上に高齢です。誰か代わりに聴取してくれないでしょうか?

 そんな風に思っていた矢先、馬の駆ける音が聞こえてきました。これは…帝国の騎士団のようですね。アニメで見た金属鎧を着た方々が困惑するようにこの場にたどり着きました。

 

 

 

「師よ!ご無事ですか!」

 

「この場の惨状は一体…。これだけの数のアンデッドの残骸が広がっているとは…」

 

「各自、警戒を怠るな!まだ生き残っているアンデッドがいるかもしれん!気を引き締めよ!」

 

 

 騎士たちが規律を持って隊列を組んで動き出しました。もしかしたら彼らはここにあのアンデッド達と戦いに来たのかもしれません。よく見るとフールーダの高弟と思わしき人たちの姿も見えます。

 原作で語られていない箇所でこういった戦いもあったのかもしれません。ただまあ、その戦いの機会を丸ごと奪ってしまったのですが。

 

 

「あ、あのよろしいでしょうか?」

 

 

「はい?」

 

 

 呆けているフールーダの代わりに高弟の一人と思われる魔法詠唱者(マジック・キャスター)が事情を聴きに来ました。

 なので同じように答えます。

 

 

「アンデッドの大群に囲まれて襲われたのでこのメイスと武技で全部殴殺しました」

 

 

「えぇ…?」

 

 

 なんで同じような反応をするんですかね?なにもおかしいことは言っていないのですが。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 時は少し前、バハルス帝国。

ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが皇帝に即位し、親兄弟を処刑。

無能な貴族たちの大粛清を開始していた頃、その報告は上がった。

 

 

「カッツェ平野に千を超えるアンデッドの大群が発見されただと!?」

 

「はい!皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)がカッツェ平野の巡回中に発見したとのこと!中にはエルダーリッチ、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と思わしき巨体も確認されています!」

 

 

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。魔法に対する絶対的な耐性を持っており帝国の切り札であるフールーダでは相性が致命的に悪いアンデッドだ。そこにエルダーリッチを含む千を超えるアンデッドの大群。もしもその大群が帝国に攻め込んで来たとしたら被害はとても小さいものでは済まないだろう。

 

 なんでこの時期なんだとジルクニフは頭を抱える。皇帝になったばかりの自分を軽んじて王国が攻め込んで来ないかの確認のための警備巡回をしていたというのにまさかの事態だ。

 即位したばかりの自分に味方は少なく、騎士団とフールーダという味方としては十分だがこの事態には流石にこの両方をカッツェ平野に派遣し事態を収拾しなければ大変なことになる。

 スレイン法国が動いてくれていればいいが、発見された場所は帝国に近い場所だ。ならばかの国を頼るわけにはいかない。

 

 ジルクニフは皇帝として多くの民を守るために騎士団とフールーダの派遣を命じた。自分を守る味方がしばらくいなくなるが全員いなくなるわけではない。暗殺を警戒し近衛を侍らせ吉報を待ち、執務を行う。これが今のジルクニフに出来ることだ。

 しかし、いかに皇帝としての心持があろうとまだジルクニフは十三歳。まだ少年としての心を──肉親を処刑したことで一部壊れているが──持っているジルクニフは内心不安でいっぱいだった。最も頼れる爺、フールーダの不在は彼に不安、恐怖といった感情を与えた。先代皇帝である父が亡くなった時もフールーダが一緒にいたから死の恐怖に襲われずに済んだのだ。

 

 頼れる爺はおらず何度か暗殺者を近衛が退けて数日が経った頃、フールーダは転移の魔法で帰ってきた。一人の少女を連れて。

 

 

「陛下、遅くなり申し訳ありません」

 

 

「ああ、構わないとも。それでカッツェ平野の一件はどうなったんだ。他の騎士たちはどうしたんだ?」

 

 

 私の質問に、爺はニッコリと微笑み言った。とても信じられない話を。

 

 

「あのアンデッドの大群は私共が現地にたどり着く前に彼女がたった一人で全て片付けておりました。ご紹介します。さあ、前へ。」

 

 

 フールーダに促され後ろにいたエルフの少女が前に出て頭を下げ挨拶をする。

この出会いが、やがて帝国の、ジルクニフのとある運命を変えることを彼はまだ知らない。

 

 

 

「初めまして陛下。アレーティア・ホウガンと申します。家名は嫌いなのでアレーティアとお呼びください」

 

 

 

少女は見惚れるような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 





帝国編本番は~じまるよ~!


人物同士の会話って難しいですね。次回から登場人物が増えるんで頑張ります。


感想やお気に入り、高評価などいただけるとモチベーションが上がりますのでよろしければお願いします!

次回は早ければ一週間以内に投稿したい…!


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私アレーティア、今帝国に来たの!


気づけば二日前のUAから4倍、お気に入りの数は5、6倍となり日間ランキング9位になっていて驚きました。

多くの方の応援で嬉しくなってまさかの三日連続更新です。



 

 

 フールーダの意識がようやくこちらに帰ってきました。なんであんなに呆けていたんでしょうね?

 

「すまないのぅお嬢さん。あまり現実味がない回答で驚きのあまり魂消てしまったようじゃ。齢はとりたくないのう」

 

「いえいえ、お気になさらず。お年を召している様ですしそういうことがあっても仕方ないでしょう」

 

 気遣いの出来る女エルフ。それが私です。前世ではどうだったか、ですか?…きっと出来ていたと思いましょう。正直あまり覚えていませんので。

 

「おお、そういえば自己紹介をしておらんかった!私はバハルス帝国でしがない魔法詠唱者(マジック・キャスター)をしているフールーダ・パラダインという者じゃ」

 

「私はアレーティアと申します。先日、エルフの国から旅に出たエルフです」

 

 ここで出来るだけ友好的な関係を築いてフールーダから色々と情報を聞き出せたら嬉しいんですけどねぇ。今の世界の情勢なんて森にずっといたせいで何も知らないので世間知らずもいいところですが。森で交戦した陽光聖典のニグン隊長が存命していることから確実にナザリック陣営が転移していないことは明らかですが、情報を得ることは大事です。原作何年前か知ることで自分に出来る行動も自ずと見えてくるでしょう。多分。

 

「なるほど、エルフの国から…ふむ。あのエイヴァージャー大森林からここまで来るのに相当な距離だったであろう。今エルフと戦争しておるスレイン法国をよく迂回して来れたものじゃ」

 

「…ええ。なにしろ森の外のことは何も分からないままに飛び出してしまったので大変でした。スレイン法国を迂回出来ていたのは幸運としか言いようがありませんね」

 

 あっぶない!!あの森スレイン法国に近かったんでした!!一歩間違えれば自分で法国に行って粛清待ったなしでしたね!幸運に感謝です。

 

「そして、その先でアンデッドの大群に遭いそれすらも退けたと。いやはや、これだけの数のアンデッドに加え…恐らくこれらを支配していたであろう未知の高位アンデッドをも倒したアレーティア殿は英雄の領域を間違いなく超えておられるな」

 

「いえいえ、たまたまです。相手がそこまで強くないアンデッドばかりでしたし、コレに関しては油断と隙しかなかったので不意をついた一撃で倒せたのはまさに幸運…思えば私は幸運に救われてばかりですね」

 

 一応本当です。あのナイトリッチとかいうアンデッド、油断なくかかって来ていればそれなりに苦戦したはずです。ナイトリッチが身につけていたマジックアイテム──大半は〈土竜叩き〉の衝撃で壊れているが──かなり希少性が高いものが多くこの世界基準では強力そうでした。これらも使用されていたら流石にあのままでは厳しいので私もマジックアイテムを解放したでしょう。今回は武技だけで済みましたがマジックアイテムも解放すれば大抵の敵も何とかなるはずです。

いや~宝物庫から色々パクって来た甲斐がありました!今頃クソ親父は私に渡したマジックアイテムを失ってしまい困っていることでしょう。ざまあみなさい!

 

「そうかそうか。…アレーティア嬢、尋ねたいことが増えたのじゃが構わないかね?」

 

「はい、構いませんよ。」

 

「これからどちらに向かうつもりかね?聞けばエイヴァージャー大森林を出てから旅をしていると言っておったが行く宛はあるのかね?」

 

 行く宛…正直考えていませんでしたね。思えばここはカッツェ平野。近隣にある国といえばリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国、そしてスレイン法国あたりでしょうか。他にも聖王国や竜王国、評議国、都市国家連合といった地名は思いつきますが今後のことを考えると法国はもちろん王国と聖王国は論外。竜王国は原作にもほとんど出てきていない国だから行ってみたい気も…いや、駄目ですね。あの国は法国から六色聖典の支援を受けていたはず。つまりバレれば全員敵になる可能性があります。なので泣く泣く却下。そうなると評議国か帝国か都市国家連合のどれかになる…。

 

「そうですね…特に考えてはいませんがエルフを敵視していない国にでも行ってみましょうかね。あの森での戦争で正直敵意を向けられすぎて嫌気が差しているので、落ち着いた場所で暮らすのも悪くはないでしょう。」

 

 この答えにフールーダの眼がキラリと光ったような気がした。

 

「左様ですか。で、あれば是非我が帝国に招待させていただきたいのですが、いかがでしょう?」

 

「招待?」

 

「はい。聞けばまだ今後のことは決められていない様子。それならば帝国に拠点を持ち、少し落ち着いてから今後のことを考えればよいのではありませんかな?もし招待を受けてくださるなら私が責任をもって衣食住を提供させていただきます。勿論、お断りされても構いません。その時はこちらから貴方が望むものを下賜しましょう。私が陛下に掛け合って許可をいただきましょう。」

 

「…少々条件が良すぎるのでは?私はそんなに大それたことはしていませんよ?それに皇帝陛下に許可を取らずに事後承諾でいいんですか?」

 

「何をおっしゃる!これほどの成果を上げることは私でも、アダマンタイト級の冒険者でもきっと出来ませんぞ!それも一人でやったというのならそれはもう伝説に語られてもいい偉業!帝国の危機を救った英雄に対する褒賞はこの程度でも足りますまい。陛下も必ずや良い返事をしてくれるでしょう。」

 

 …うまい話には裏があるとはよく言うがどうなのでしょう。正直、拠点を得られるのは非常にありがたい。これでも元王族。森から逃げ出したはいいものの基本的な生活は一応お姫様みたい――実際姫なのだが――な暮らしをしていただけに野宿や食材の現地調達ということには慣れていないのです。前世でも経験はありませんからね。

 それに帝国なら今後原作が始まったとしても直接的な被害はアウラとマーレの襲撃とジルクニフの頭髪ぐらいで実質ナザリックの次ぐらいに安全な国かもしれません。裏があったとしても私の能力なら切り抜けられる自信はあります。漆黒聖典とか白銀の鎧とかが来ない限りは、ですが。なので…

 

「…分かりました。私もそういった拠点があれば今後活動しやすくなるのは間違いありませんしね。WIN-WINの関係でいきましょう。」

 

「ういんういんとやらが何かは分からぬが招待を受けてくれるということでよいのですな?」

 

「あ、そうでした。こちらにはそういった言葉はないのでした。双方に得のある関係でいましょう、という意味なので招待を受けさせていただきます。」

 

 私とフールーダは小さな手と皴が刻まれた手で握手を交わし交渉成立をさせたと思うと…

 

 

 気がつくと帝国に居ました。転移魔法ですね。あれ?カッツェ平野にいる弟子や騎士たちは放っておいていいのです?というよりもう招待されるのですか?もうちょっとこう、打ち合わせとかをですね。皇帝に無許可でこの褒賞決めたでしょう?先に相談しなくていいんです?

 

「陛下、遅くなり申し訳ありません」

 

 そんな私の内心なぞ知らんとばかりにフールーダは話を進めています。というよりこの前にいる少年って一体誰?陛下?もしかして!?

 

「ああ、構わないとも。それでカッツェ平野の一件はどうなったんだ。他の騎士たちはどうしたんだ?」

 

「あのアンデッドの大群は私共が現地にたどり着く前にこちらの御仁がたった一人で全て片付けておりました。ご紹介します。さあ、前へ。」

 

 前に出て挨拶するように促されています。…正直気は進みませんがフルネームを名乗っておくとしましょう。こういう場合隠しておくと面倒なことになるでしょうし。

 

「初めまして陛下。アレーティア・ホウガンと申します。家名は嫌いなのでアレーティアとお呼びください。」

 

 作法とかは知らないので深々とお辞儀をします。お辞儀は大事だってどこかの闇の帝王が言っていました。それに倣います。

さて反応は…あれ?無い?いや、固まっていますね。どうしたのでしょう。

 

「…じ、爺。嘘だろう?このような私と変わらない容姿の少女が千は超えるというアンデッドの大群を片付けたと?冗談だろう?」

 

「いいえ陛下。事実です。念のため嘘を見抜く魔法を使用し聴取しましたが一切の嘘はございませんでした。それに…彼女はエルフです。見た目にそぐわない年齢なのでしょう。それ故、高い能力を保持しているものと思われます。」

 

 おや?私もしかして年増だと思われています?

 

「そ、そうか。私はジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、バハルス帝国の皇帝だ。国を代表し礼を言おう。よくぞこの一件を解決してくれた。」

 

 やっぱりジルクニフでした!となると何年前なんでしょう?しかし、そのことを気にする前に先に一つ訂正しなければなりません。

 

「勿体ないお言葉です。それと…私はまだ12…いやもうすぐ13歳ですので誤解なきようお願いしますね?」

 

 

 ビシッ!っと空気が固まったような音がした気がします。二人を見れば本当か?という視線を向けるジルクニフと嘘はございませんと目で答えるフールーダが見えます。その後で二人そろって改めて私をジッと見つめてきます。あまりじっと見られると困るのですが…。

 

 

 

 





フールーダとジルクニフの口調、違うと感じたら申し訳なく…!

次回はちょっと時間かかります、多分。

感想やお気に入り、高評価などいただけるとモチベーションが上がりますのでよろしければお願いします!


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私アレーティア、今皇帝と握手しているの!


UAとお気に入りがものすごいことになっていました。
読んでくださる皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。

今回難産でしたがお楽しみいただけると嬉しいです。


 

 アレーティアの年齢が暴露されてからしばらく、ジルクニフとフールーダはアレーティアを別室に待機させ情報の照らし合わせを行っていた。

エルフの国出身、年齢に見合わぬ実力、人間性など…。少ないながらも今後帝国で受け入れる人間──エルフの娘だ。知っておくに越したことはない。万が一ということもある。

 

「アレーティアを受け入れると言ったのは爺だったな。強者を帝国に引き入れるという目的は分かったが彼女は何者なんだ?明らかに常軌を逸した強さを持っている。とても同年齢とは思えん。何か気がついたことはないか?」

 

「…恐らくですが、エルフの王族には他のエルフとは違う特徴を持った人物がいると聞いたことがあります。それを前提にすると()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり…」

 

「彼女はエルフの王族と考えられるわけか…。エルフは今スレイン法国と戦争の真っただ中だと聞くが?」

 

「彼女はその戦争であれだけの実力を身につけたのかもしれません。その辺りの情報は詳しく調べてみなければ分かりませんがしかし…」

 

「藪を突く可能性がある…か。スレイン法国を敵に回すのは避けたいところだ。」

 

 アレーティア・ホウガンと名乗ったあの娘、恐らくスレイン法国が狙っている可能性がある。法国は人間統一国家、人こそが神に選ばれた種族という宗教概念を持ち、人以外の他種族──特に今はエルフ──は殲滅すべしで纏まっている国だ。法国もエルフの国との戦争の最中、彼女相手に甚大な被害を受けていて六色聖典などを派遣していてもおかしくないと思えるだけの力を秘めている。推測が正しければ対エルフとしては王族であり強者である彼女は何としてでも排除したい相手だろう。

 ある程度情報を絞り出したら、法国に売り渡し国同士の関係を良くするという外道な策もあるが帝国とアレーティアとの力量差的にそれは不可能。逆に返り討ちに会うのが関の山だろう。

 それにフールーダはそんなことをするために彼女を帝国に招いたわけではない。あれを野放しにしておくのは危険だ。だが彼女はその力でなにかを起こそうとはまだしていない。ならば帝国でその力を奮ってもらおうとあの条件を提示したのだ。

 

「爺、近隣諸国、及び爺が知る限り過去にアレーティア程の強さを持った戦士はいたか?」

 

「いいえ、近隣諸国ではとても思いつきません。しかし、200年前ならば十三英雄や魔神が争っている時代。その当時ならそれだけの強さを持ったものがいてもおかしくはないかと。」

 

「であるなら決まりだ。アレーティアは帝国で囲う。法国にバレないよう色々と工作する必要がある。爺、協力してくれるな?」

 

「勿論ですとも陛下。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 帝国の一室で待たされているエルフ、アレーティアです。

 

 ジルクニフとフールーダが私の処遇を決めるのでこの部屋で待っていてくれと言われて体感で1時間ほど経過しました。

 ここはバハルス帝国の首都アーウィンタールの皇城。流石豪華な作りをしています。エルフの国の王城とはまた違った良さがあります。

 待たされている間に出された飲み物、これは美味しいですね。前世ではよく飲んだ甘い飲み物。飲んだ感じレモネードに近いと言えば伝わるでしょうか?程よく甘酸っぱい感じがいいですね。この世界に転生してからは甘いものといえば果実とそれを搾って作ったジュースぐらいでした。クソ親父のお陰か質のいい物をよく飲めましたけどあの果物、少なくとも森に生っているのを見たことがないんですよね。何処で手に入れて来たんでしょう?

 さて、飲み物を飲むと思い出すのは原作の帝国の面々にナザリックが出したウェルカムドリンク。アレはきっとこれよりもずっと美味しいのでしょう。今後どうするかは別として味は気になります。機会があれば飲んでみたいですね。

 

 そんなことを考えているとようやくジルクニフとフールーダが話を終えた様で皇帝の私室に呼び出されました。私室に招かれるって確か相当信頼した相手にしかしないとか聞いたことがある気が…。ともかく、執事──多分秘書官──の方に案内していただき居室へと辿り着きました。

 

「やあ、待たせてすまなかった。こちらへ掛けてくれ。」

 

豪華なソファーにゆっくりと腰掛けます。やはり高級品、座り心地は最高です。さて、ここからどういう褒賞になったのかを確認していきましょうか。

 

「まず最初に、フールーダからは帝国での生活面での最大支援。衣食住の提供、ここまではいいだろうか?」

 

「ええ、勿論です。正直それだけでも大変ありがたいのですけど。」

 

「いやいや、そうもいかないさ。そして、礼金として手始めに白金貨50枚を進呈したい。ん?少ないと感じるかい?金貨で渡してもいいと思ったが、そうすると金貨500枚と嵩張ると思って白金貨にしたのだが…ここはまあどちらでも価値はあまり変わらないだろう。好きな方を選んで欲しい。」

 

 あ、顔に出てたっぽいですね、たった50枚かって。でも、金貨で500枚…確か金貨1枚で現実値段で換算すると10万円あたりでしたっけ?貨幣価値は王国と帝国で変わらないっていうことぐらいしか覚えがないので合ってるかどうかは不明ですけど単純計算で5000万円程でしょうか?これだけあれば当面の生活にも困りませんね。万ではなく兆ならもっと嬉しかったのですがそれは欲張りというもの。でも5000兆円欲しいでしょう?

 

「では白金貨を40枚、金貨を100枚でお願いします。」

 

「ああ、構わないとも。…しかし、そのような半端な量を分けるのは何か理由でも?」

 

「いえ、保管は楽でしょうけど、あまり額が大きすぎると使いづらいでしょう?それなら、貯蓄と普段使いで分けておこうと。」

 

「なるほど。思ったより現実的な考えを持っているようだね。」

 

「普通だと思いますけど…。これも文化の違い、というやつですかね?」

 

「エルフと人の価値観の差か、それとも地位的な差か、色々と想像はつくがまあ良しとしよう。それから、住居についてだが…」

 

 ここからジルクニフの目つきが変わりました。本題ということでしょう。何を言われるのかちょっと不安です。

 

「知っているかどうかは分からないが、私は皇帝になったのはおよそ1年ほど前でね。それから、無能な貴族などを順々に廃して平民でも有能な者なら取り立てようと努力しているんだ。…しかし、当然そんなことをすれば貴族にとっては都合が悪く暗殺者などを仕向けられるのは日常茶飯事と化している。」

 

 なるほど。原作の“鮮血帝”の呼び名の由来が皇族である肉親の処刑、そして今行なっているであろう無能な貴族の粛清。つまり、ジルクニフは()()()()()()()()()。そんな中、今回の一件がありフールーダと頼りにしていた騎士団が一斉にいなくなってしまい心細かったのでしょう。だから私を取り込もうとしている…ということですかね?そういうことなら…。

 

「無論、普段はフールーダや近衛が侍っているが今回のようなことがあり警備が手薄になってしまうこともある。そこで君さえ良ければ私の…いや、帝国のために力を貸してもらえないだろうか?もちろん、今回の件とは別に報酬は用意する。もし帝国の手を取ってくれるならこの宮殿の一室を与えよう。それと貴族位と領…」

 

「いいですよ。」

 

「え?」

 

「いいですよ。身辺警護をする代わりに、私の望みを叶えることを対価としていただきます。これでいかがでしょう?」

 

 ジルクニフが呆気にとられた表情をしている。多分断られると思ったのでしょう。それとももっと条件を吊り上げられるとか考えていたのかもしれません。しかし、それは与えられるだけの一方的な関係になってしまいます。私が望むのはWIN-WINな関係です。

 それに帝国に居ることで何かしら変化を起こすことができるかもしれません。原作を変えよう!という気はありませんが、きっとジルクニフの悩みの種を少なくすることぐらいはできるでしょう。

 

「あ、ああ。ちなみにだが望みというのは…。」

 

「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。望みといっても様々です。あれが食べたいとか、欲しいとか。()()であれば簡単に叶えてもらえるものばかりです。当然、陛下が願いを叶えてくださるなら私も陛下の願いを叶えましょう。WIN-WINの関係…双方に得がある関係でいましょう。」

 

 私の差し出した手をジルクニフ…陛下は恐る恐る握る。これで契約成立。

こうして私のバハルス帝国での生活が始まるのでした。

 

 

 





ジルクニフとアレーティアの会話中、フールーダは置いてきた騎士と弟子たちに帰還指示を出しに戻ってます。置いてきちゃってますからね。

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帝国ルート 騎士団強化編
バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その1



今回、初めてアレーティア以外の視点で書いてみました。
こんな感じのが多分数話続くと思います。


 

 帝国でアレーティアが暮らし始めてからはや数ヶ月、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスはあることで胃を痛めていた。

 アレーティアと騎士団の衝突。これだけ見ればアレーティアに負けはない…が、皺寄せは直接意見を出すことを許したジルクニフの下へやってくる。

 始まりは彼女に身辺警護を任せると発表した時だった。

陛下は惚れた女を常に侍らせたいからあの様な発表をした。騎士団のことを信頼せずあの様な小娘を頼るなど我々を侮辱している。本当にあのアンデッドの大群を一人で滅ぼしたのか疑わしい。そういった声が多くジルクニフへと届けられた。

 そう、彼女は騎士たちから嫌われた。それもそうだ。彼らは帝国の剣となり盾となることに誇りを持ち、ジルクニフは彼等からの信頼を勝ち取り支持を得た。これも帝国を良き国にするため…だが、突然現れたあんな年端もいかない見た目のエルフを近衛を差し置いて側に控えさせるとは何事かと。

 

 そして、遂にはジルクニフすら侮り始めた。陛下はまだ若い故に過ちを犯してしまった。女を知って腑抜けた。…などと根も歯もない噂を──騎士たちからしたら事実を──ばら撒き始めた。そしてそれがジルクニフの耳に入り、当然アレーティアの耳にも入った。…入ってしまった。

 

「陛下、契約通り一つ望みを叶えてくださいまし?」

 

 アレーティアが望んだのは帝国騎士団との交流を深めるための模擬戦。ジルクニフも騎士からの心無い言葉は知っていたがこれを機に分かりあえばこの軋轢もなくなるだろうと許可を出した。

しかし、思惑通りにはいかずアレーティアは暴走した。自分だけならともかく、帝国のトップであるジルクニフを侮辱する発言をし悪い噂をばら撒いた事を知りアレーティアは義憤に駆られたのだ。

 

 騎士団の訓練場で行われた模擬戦という名の蹂躙劇。帝国八軍の内およそ三軍に当たる人数が参加したが誰1人としてアレーティアに傷をつけることは叶わず。最強であると言われている第1軍の者ですら軽くあしらわれていた。

 

「その程度で国を守るとかナメてます?私のいた森だったら死んでますよ?」

 

 アレーティアが棍棒を握り、魔法を模して小石を投擲する。振るわれた棍棒に当たった者と小石に当たった者はどうなったか。答えは…死んではいない、とだけ答えておこう。騎士団は彼女に徹底的にわからされた。己の未熟さを。彼女を侮った愚かさを。

 

「どうせならこのまま訓練にいたしましょう。私が追うので立ち向かうか逃げるかしてください。では開始。」

 

そして体験した。垣間見た。彼女の力を、その身をもって。

1人の騎士は鎧を着ているのにも関わらず武技を使った棍棒の一撃で壁にめり込み、また別の騎士は小石の投擲で気を失う。立ち向かえる者はおらず、歴戦の将軍たちでさえもこの光景を作り出した少女にドン引きしていた。これが陛下と同い年とは本当かと。

 

「私の実力を疑ったり、侮るのは結構ですが陛下を侮辱するのは別です。これからこの国を繁栄に導いてくださる偉大な陛下の足を引っ張るのが帝国を護る騎士でどうするのですか?」

 

 そう言いながら棍棒を振り回し、棍棒を投げつけ騎士たちを蹂躙していく。誰もが怯え次は誰かと震えて待つしかなかった。

 

「あなた方には覚悟がない。命を捨ててでも帝国を、陛下を護るという覚悟が。だから私から逃げるのです。もし私が陛下の命を狙ったとしたらどうするのですか?陛下を見捨てて逃げるのですか?答えは不要、行動で示しなさい。」

 

 アレーティアが、英雄を超えた逸脱者の領域にある者が容赦なくその力を振るう。そして騎士たちは気づく、己の過ちを。しかし気づいた時は既に手遅れ、再びその棍棒による一撃が振るわれるかと思われた時。

 

「アレーティア!模擬戦と聞いていたが一体何をしている!」

 

 彼らにとっての救世主が現れた。

 

 

 

 

「思えばお前たちの気持ちをもう少し汲むべきだった。これは私の不徳だな。」

 

「何をおっしゃいますか陛下!元を正せば悪いのはあの様な噂を立て陛下を侮ってしまった我々騎士団なのです!それを…アレーティア様が気づき我々に分からせてくれたのです。忠義とは何かと。」

 

 ジルクニフは騎士たちの面子を考えず、彼女を側に置くということをしてしまった。騎士たちは皇帝を信用せず侮る様なことをしてしまった。互いに言葉を交わしジルクニフと騎士たちの間には新たな絆の様なものが結ばれていた。何が原因かといえばそれは──。

 

「陛下、私はいつまでこうしていればいいですか?」

 

「少なくとも今日一日はそうしていろこの愚か者がぁ!!」

 

 あのアレーティアを御せるのがジルクニフだからだ。今、アレーティアは事の顛末を知ったジルクニフから正座込みの猛説教を受けていた。普段は感情を表に出さない様に教育を受けてきたジルクニフだが、取り繕っている場合ではなかった。

 ジルクニフは忙しい中、アレーティアの望みである『騎士たちと親交を深めたいから模擬戦など出来ないだろうか』という希望を叶えた後、様子が気になり覗きに来たらこの有様。何があったと聞いてみればアレーティアが自分のために怒り叩きのめしたと言う。その気持ちは嬉しいが流石にやりすぎだ。

 

「私のためを思ってしたことだ。多少大目に見よう…だが!いくらなんでもやりすぎだろう!これでは訓練にすらなっていない!そんなこと素人の私ですら分かるぞ!?もっとやり方があっただろう!」

 

「いえ、その腐った性根を叩き直してやろうと思ったので死ぬ寸前ぐらいが丁度いいかと思い…あ、ちゃんと手加減はしていますよ?武器もただの棍棒ですし、石での狙撃もなるべく命に関わらない場所を…」

 

「言い訳は無用だ!やり過ぎたことを反省しろォ!!」

 

 ジルクニフは胃を痛めた。そして喉も痛めた。普段出さない大声なんて出すものじゃないと思いもした。しかし、その甲斐あってか騎士たちからの視線は熱い。怒られてシュンとしているアレーティアを見て、あれだけの強者を従わせるとは流石陛下!という気持ちでいっぱいだった。

 

 ジルクニフはアレーティアが本当は内部から帝国をズタボロにする気なのではないかと疑いもしたが、騎士たちの話からそれはないと判断する。しかし、ある意味彼女の強さを目に出来たのは大きい。自分も騎士たちも彼女の強さを目の当たりにし、この場にいなかった騎士たちにもその力と恐怖は伝わっていくだろう。今後こういうことがない様にフールーダや騎士たちと話し合わねば…と思いジルクニフは天を仰いでいた。

 

「陛下、もうしないので許してはいただけませんか?」

 

「…せめて今後はこういう事をするならちゃんと相談してくれ…。」

 

「善処いたしますわ。」

 

ジルクニフ13歳。コイツ、絶対またやらかすなと思いながら彼女を連れて皇城へ戻るのであった。

 

 その日からしばらくして、ジルクニフの苦労もあり騎士たちとアレーティアの和解が済んだ。そして、彼女も臣下の一員と認められ新たに出来た帝国四騎士とは別枠の番外騎士“粛清”の二つ名を持つ皇帝直属の騎士として名を馳せることとなった。

 

「陛下、陛下。」

 

「なんだ?もうこの前みたいな望みは御免だぞ。」

 

「いえ、その件については私も反省しまして…代わりにですが反省の証として騎士団の皆さんに武技でも教えようかと思いまして。」

 

「…一応確認しておこう。その武技の訓練の内容は?」

 

「死ぬ寸前ぐらいまで追い込んであげれば身につくかと。」

 

「却下に決まっているだろう!?」

 

ジルクニフの胃を痛める日々はまだ始まったばかりだ。

 

 





アレーティア、実は脳筋というか力で全てを解決しようとするところがありますね。これも全部デケム・ホウガンってやつとスレイン法国との戦争のせいです。



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バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その2

またもや難産でした。

そんな中気づけばUAが70000突破して80000に迫っており、お気に入りも3000を超えていました。

本当にありがとうございます。



 

 アレーティアが帝国で暮らし始めて半年が経った。この頃ジルクニフ──鮮血帝の持つ最大戦力の一つ、粛清騎士の名が広まっていた。

広まった話によれば皇帝の命を忠実にこなし、その実力は()()()()()()()()()()()()()()()()。皇帝に暗殺者を仕向けた貴族を容赦なく屋敷ごと滅ぼし、跡には粛清された者たちの首だけが残っていたと言われ多くの貴族に恐れられている。未だ帝国外での活動をしてはいないものの、周辺国家最高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるフールーダ・パラダインですら粛清騎士は帝国最強の騎士と認めている。

 ただ、顔は隠されており騎士たちも粛清騎士の素性を外部に漏らすことはなく正体不明の人物というのが周辺国家での評判である。

 そんな、粛清騎士ことアレーティアの生活に迫ろうと思う。

 

 

 

 

 アレーティアの朝は早い。ジルクニフが目覚めるまでには起床し警護を出来る体制を整えている。日中は主にアレーティアが、夜間は近衛騎士が警護を行うという形式で騎士たちと話がついており、場合によって変更はあるがこうした措置が取られている。

 騎士になったアレーティアには武具が支給されており、高価な装備を身につけている。支給されている装備はミスリルやアダマンタイトなど希少金属を素材に作られており、彼女が元々所持していた武器に加え大剣、槍、斧など魔法が付与された武器を与えられている。極めつけは顔に装着されている目元を覆うバイザー。これはフールーダ率いる帝国魔法省で作られた一品。目元を隠すだけでなく耳元をエルフ特有の長耳から人間と同じように見せる幻術が付与されている。

 これにより対外的には人間に見えるようになり、外部の目も誤魔化せるというわけだ。鎧やマジックアイテム、バイザーを身につけ今日もアレーティアはジルクニフの私室へ向かう。

 

「おはようございます陛下。」

 

「アレーティアか、おはよう。今日もよろしく頼むぞ。」

 

「はい、本日も陛下の身の安全はお任せください。」

 

 しばらくすれば秘書官が数人来訪し今日の政務が始まる。新たな案を幾つも上げ一つ一つ吟味し裁決をしていく。余談だが、原作では人間以外だとドワーフまでしか保護されていなかった法案はアレーティアの存在故かエルフも含まれる様になっていた。対外的には奴隷として買われていたエルフが興味深い魔法を使っていたため帝国魔法省に技術提供する代わりに身分の向上を約束した、ということになっている。法国に疑われない様に実際にその役を演じるエルフは用意しており対策は問題ないだろう。優秀なものならどんな者でも利用するのが今の帝国だ。

 

 さて、ジルクニフの執務が始まると同時に警護中のアレーティアが何をするかと言えば勉強である。如何に前世があり知識があろうとも、転生し生まれた場所が場所だっただけに言葉は理解出来ていても文字は読めないのだ。

 帝国では帝国魔法学院が設立されているが、そこに通うと警護が出来なくなってしまうという理由をつけてこの場所でのんびりと自己学習に耽っている。分からないところがあればこの場にいる優秀な秘書官たちかジルクニフ本人に聞けばいい…という目論見もあるが。執務の邪魔になる、という風には考えないアレーティアである。

 

「アレーティア、そろそろ昼食にする。」

 

「はい、ご一緒させていただきます。」

 

 執務が進み程よくキリがいいところで昼食の時間。あらゆる改革を順次行なっているジルクニフは常に多忙だ。しかし、執務にのめり込みすぎると食事をする時間すらもどかしくなるが、根を詰めすぎてミスが出ては元も子もない。なので一度区切りがいいところで必ず昼食、もとい休憩を入れ程々に気を抜く。無論、食事に毒が盛られていないかを警戒しなければならないがジルクニフには一角獣の指輪があり、万が一に備えて解毒用のポーションも常備しているので対策は万全だ。

 この昼食時、アレーティアはどうするかと言えばジルクニフと同じテーブルで同じ食事を摂っている。本来なら身分違いもあり許されることではないがジルクニフはそれを良しとする。ついでにここでテーブルマナーも学べばよいと。

 過去一度、この食事中の隙を狙ってメイドに扮した暗殺者がジルクニフにナイフを突き立てようとしたことがあったが…。

 

 

 

「〈投擲(スローイング)〉…陛下、マナー知らずですいません。これが一番手っ取り早かったもので。」

 

「あ、ああ…助かったよアレーティア。…ところで今見えていたのか?視線は食事にしか向いていないと思うのだが…?」

 

「森の中で気配を消す厄介な敵なんて山ほどいましたから。森より狭いこの部屋の中の動きを察知するなんて普通なのでは?」

 

「…本当にお前エイヴァージャー大森林に居た頃どういう生活を送っていたんだ?」

 

「食事中にする話でもないのでまた今度にしましょう。それより、そこの身の程知らずを牢にでも入れておいてください。後で尋問して雇い主を吐かせるので。」

 

 この通り、食事をしながら暗殺者に向けてノールックでナイフとフォークを武技で投げつけトドメに食べ終えた皿までフリスビーのように投げて戦闘不能にするというある意味暗殺者からしたらオーバーキルもいいレベルの撃退をした。ちなみにだがナイフとフォークはそれぞれの腕に深く刺さっており、皿は頭部に命中し見事に気を失っていた。

 その後は先の話の通り。雇い主を聞き出しジルクニフの制止を振り切り単騎でその貴族の屋敷ごと落してきてしまい、殺しはしなかったが〈土竜叩き〉を脳天に叩きこみ首から下を地面に打ち込んだという報告を聞いてジルクニフの胃は痛みを訴え始めたという。また暴走しやがったと。

 

 本人曰く「国のトップを暗殺しようとしたんですから、言い逃れ出来ない様に即座に襲撃して根こそぎ叩きのめすのが一番早いのでは?」

 相変わらずの脳筋具合である。本来踏まなければならないであろう手順を全て無視して暴力で解決するあたりが。万が一その貴族が依頼したという話が噓だったらどうするのか、という質問に対しては「その時は…どうしましょうか?陛下に丸投げしたらいいですか?」と答えた。

 ジルクニフは激怒した。無責任にもほどがあると。説教が始まり執務が滞ってしまったがそれでもこの胃の痛みの元凶に怒りをぶつけなければ気が済まなかった。説教は一時間ほどで終わったもののジルクニフは「頼むから私の命令があるまでは勝手なことをしないでくれ。」と言いアレーティアは流石に考えなしすぎたと猛省したという。

 

 そんなこともあったが、最も隙を晒しやすい食事中でもアレーティアは暗殺者の返り討ちが容易いということが分かり共に食事をするのは安全と言い切れるだけの安心感があった。

 

「陛下、今日のサラダのドレッシングは少々独特ですね?」

 

「む、そうか?いつもと変わらず美味いと思ったが?」

 

「じゃあ、私の味覚が悪かったのですね。失礼しました。」

 

「念のために聞いておくが、どういう味がするんだ?」

 

「そうですね…、一言でいえば()()()()()()

 

今すぐ食べるのをやめろおおおおおおおお!

 

 訂正、彼女は安全ではなかった。

調査の結果、かなり危険な毒が使われていたようだがアレーティアは「変な味だな」と思う程度で済んでおり毒が一切効いている様子がなかったことをここに記録しておく。

 

 

 

 

 昼食を終え再び始まる執務と勉強。二人はそれぞれの作業の最中、帝国四騎士についての話をしていた。

 

「帝国四騎士の任命だが、私が任命して構わんのか?お前と将軍たちで話し合って決めた方がより良く決められると思ったが。」

 

「いえ、ここは陛下が決める案件でしょう。陛下に直接任命された方が騎士たちも次は俺が!私が!という風に士気も上がると思います。と、いうより分かってて聞いていますね?」

 

「まあな。とはいえ以前のお前と騎士たちとのこともある。あまり彼らを蔑ろにすれば彼らの気持ちは私から離れてしまうだろう。」

 

「では、こういうのはどうでしょう?帝国四騎士は任命された後、私の代わりに陛下に付き従い行動を共にすることも増えるはずです。ならば、陛下が四騎士に任命したい騎士を選別してください。選ばれた騎士たちを私が鍛え上げます。四騎士に選ばれずとも鍛え上げれば今の近衛よりは強くできると思います。」

 

「待てアレーティア。どうやって鍛え上げるつもりだ?あの時のような面倒ごとは御免だぞ。第一、あの一件を隠し通すのにどれだけ労力を使った事か…。」

 

「流石にあんなことはしませんよ…。アゼルリシア山脈で一月ほど遠征をおこない、そこでサバイバルをします。最低でも四騎士になるなら冒険者でいうオリハルコン級程度の強さは身につけてほしいので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ジルクニフは考える。多少の無茶、死にはしないという言葉はどこまで信じていいのだろうか。相手はアレーティア、こちらの常識は通用しないと思った方がいいと考え結論を下す。

 

「まず、その鍛え方…訓練内容を書きまとめ文書にして私に提出してくれ。それを見て判断する。」

 

「…陛下、私まだ文字読むのも書くのも手一杯なのですが。」

 

苦笑いを浮かべるアレーティアを見て、こんな顔もするんだなと思いながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「なに、これも勉強だと思え。今後、私もお前も忙しくなる。そうなれば学ぶ時間も失われてしまうからな。遠征で学ぶ時間を失う前にゆっくりとでもいいからお前の案をまとめてみろ。秘書官たちにも話せば協力してもらえるよう手は回しておく。やれるな?」

 

 ここまでやれば勝手なことはしないだろう、とジルクニフは考えアレーティアに圧をかける。もう胃が痛むのは御免なのだ。

そんな圧を受けたアレーティアは少し悩んだ後、了承した。その後は文字の書き取りをしながら、ジルクニフは執務をこなしながら時間が過ぎていった。

 

 




アレーティアの現在分かっていること
・エルフ王族(神人)
・魔法使用時武技使用不可
・武技使用時魔法使用不可
・生まれながらの異能持ち
・脳筋
・毒無効

こんなところですかね?
まあ、まだ増えるんですけどね。

余談ですがアレーティアはエルフ国から装備して逃げてきた装備の方が支給された装備より性能は高いですが、これは前世で言う制服みたいなものだからと基本的にこちらがメインの装備になっています。


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バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その3


今回から何人かオリキャラ出るかもしれませんがそこまで重要なキャラじゃないんで覚えなくても結構です。
ついでに四騎士の不動が登場しますが口調とか性格とか知らないんで完全想像で書いていますのでご了承ください。

オバマスだとセリフとか貰えてるみたいなんですけどオバマス進められてない…。
いまいち進め方を理解していない残念な私です。


 

 ジルクニフから帝国四騎士選抜遠征のメニュー作成を任されたアレーティア。その日から早半年。

 多くのことがあったが一番大きな出来事は先日起こったイジャニーヤの襲撃だろう。

 暗殺者の集団が深夜の皇城に忍び込み皇帝暗殺を企てるがアレーティアにより全員半殺し状態で確保された。しかし加減せず武技を放ったため皇城の一画が破壊されてしまい修繕のことなどを考えジルクニフの胃にも大ダメージが与えられた。

 

 捕らえた後の尋問でこの集団が暗殺集団イジャニーヤのメンバーと発覚。雇った貴族たちを聞き出し、後に粛清騎士と選抜された帝国四騎士による貴族の大粛清が行われることとなった。

 この貴族の伝手を利用しイジャニーヤを帝国の組織に組み込めないかとジルクニフは思案を巡らせたが、ようやくアレーティアが訓練内容をまとめた文書を提出したため先送りとなった。

 

 

「かなり時間をかけたようだがこの訓練内容なら問題なかろう。後で将軍たちにも目を通させるとしよう。」

 

「ありがとうございます!」

 

 訓練内容を考え半年かけて提出したアレーティアは何かから解放されたような清々しい顔をしていた。それもそのはず、慣れない作業を半年近く行っていたせいで無意識にストレスが溜まりイジャニーヤの襲撃の際ストレスを発散するがごとく武器を振り回し大技の武技、()()()を使いまくった結果が冒頭の皇城一画破壊事件になってしまったのである。

 

 

何という事でしょう!

煌びやかな皇城の一画──廊下の一部が崩れ落ち空と帝都と階下が見渡せる開放的なスポットになっています。これは(アレーティア)の腕が本物だと感じさせる解放感ある光景。この光景を見たジルクニフも頭と胃を抱えています。(修繕費的な問題とアレーティアのやらかしで)

慣れないことをさせるものじゃないとジルクニフは反省し、今後はアレーティアに担当の書記官を就けようと心から思った。

 

 その後、無事将軍たちからも了解を得たアレーティアはジルクニフが選んだ40名を連れて意気揚々とアゼルリシア山脈へと遠征に向かった。

 …ここでジルクニフは勘違いを一つしていた。アレーティアがイジャニーヤとの一件でストレスを発散出来たと。実際は違う。ストレスは発散出来たが彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、解放感から暴走する可能性を考えていなかったのである。ジルクニフは知らない。彼女が訓練内容通りに訓練すると思い込んでおり暴走してアドリブを入れるなんて想像もしなかった。そして、向かう先のアゼルリシア山脈の南方に広がるのは()()()()()()…そう、森である。

 その結果、帝国四騎士候補の騎士の面々は地獄を見ることになる。水を得た魚の如く動き出したアレーティアが止まるまで果たして彼らは耐え切れるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 アレーティアと選抜された40名の騎士たちは馬に乗り荷車を引きアゼルリシア山脈の麓のトブの大森林へと辿り着いた。ここからは一ヵ月程、帝国四騎士に相応しい実力を身につけるための実践訓練が行われると聞いていた。

しかし、到着して間もなく、アレーティアが姿を消してしまう。何事かと思い騎士たちは辺りを見渡す。その中には未来の四騎士が二人…バジウッド・ペシュメルとナザミ・エネックの姿もあった。

 

「チッ、あの粛清騎士サマは何処に行っちまったんだか。ナザミ、お前見てたか?」

 

「いや、さっぱりだ。」

 

「だよなぁ。ったく、散々問題起こすやつだから今回も何かやらかすんじゃないよな?陛下も何考えてんだか…。」

 

「…そうならないことを祈るばかりだ。だが今回は陛下と将軍方が訓練内容を確認したうえでの遠征だ。余程のことがない限りは問題ないと思いたいが…。」

 

二人は会話をしながら野営地で作業を続ける。一ヵ月の間ここに留まるので入念に準備は整えてきている。そんな中、大森林からけたたましい音が聞こえた。

 

 

 

グギャアアアアアアアア!!

 

 

 

 

「な、なんだこの音は!?」

 

「も、モンスターか!?かなり近いぞ!」

 

「うろたえるな!陣営を組み構えろ!」

 

各々がこの非常事態に対応するため動き出す。そこには当然バジウッドとナザミも含まれており武器を構える。

 

「…なあ、ナザミ。俺すっげえ嫌な予感がしてるんだが。」

 

「奇遇だな。俺もだ。」

 

二人の予感は的中することになる。しばらくすると現れたのは巨大なトカゲ。八つの足と石化の魔眼を持つ強大なモンスター、ギガントバジリスクがそこにいた…のだが。

 

 

 

グギャアアアアアアアア!?

 

 

「あっはっは!おいこら逃げるんじゃありませんよ!お前はこれからの訓練で使うんですから大人しくなさい!!」

 

 

 両方の魔眼を短剣で使い物にならない状態にした粛清騎士(アレーティア)が満面の笑みを浮かべて背に乗っていた。その光景を見た騎士たちは恐怖した。普段と違う様子の彼女に?ギガントバジリスクを容易く無力化できる彼女に?答えは両方にだ。

 

「はーい、皆さん!野営地は出来たようですね!では早速!このギガントバジリスクとの戦闘訓練を開始しまーす!!」

 

「お、お待ちください粛清騎士殿!訓練内容にモンスターとの戦闘が記載されていないのですが!?最初は粛清騎士殿との一対一の模擬戦の後個別指導と団体訓練に切り替えると…」

 

勇気ある騎士の一人、トーマス・アルトランドが粛清騎士(アレーティア)に勇気をもって進言する。しかし、森に来て日頃のストレスから解放されてしまった彼女には届かない。

 

「いや、こんないい獲物がいるのに使わないなんて勿体ないじゃあないですか!大丈夫です!危険な魔眼は潰してますし猛毒もさっき全部吐かせましたから今は身体のデカいただのトカゲです!それに怪我をしても陛下に大量に用意していただいたポーションがありますしいざとなれば私が手を出すので死にはしません!」

 

「し、しかしそれではこの訓練内容の意味が!」

 

「臨機応変に対応するのも騎士の務め!さあ来ないならこちらから行きますよ!〈狂化(バーサーク)〉」

 

 

 

グギャアアアアアアアア!!

 

 

 

 アレーティアのスキルによって強化されたギガントバジリスクがその巨体を揺らし騎士たちに襲い掛かる。呆気にとられた騎士の大半は動けずにいた…がこの場面で真っ先に動いた男がいた。

 

 

「武技〈重要塞〉!バジウッド!」

 

ナザミ・エネックである。主装備としている大盾でギガントバジリスクの進撃を受けきる。そしてナザミの次に動いたのはバジウッドだ。

 

「おう!武技〈斬撃〉!おうお前ら!ボーッと突っ立ってないで動け!それでも陛下に選ばれた騎士なのかよ!?突っ立ったまま死ぬ気か!?」

 

「そ、そうだ!ここで臆して何になる!俺たちは四騎士候補!ここで騎士の誇りを見せるんだ!」

 

「そうだ!我々は帝国を守る剣と盾!ここで立ち止まるわけにはいかない!」

 

「いくぞおおおおお!」

 

「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 ナザミとバジウッドが最前線に立ち、続いて他の騎士たちが剣を、槍を、弓を振るう。混戦しているように見えるがこれでも彼らはジルクニフによって選ばれた精鋭の騎士。次第に連携を取り波状攻撃を繰り広げる。しかし、ギガントバジリスクも抵抗する。石化の魔眼を潰され視野を失ってはいるがその巨体によって引き起こされる一撃には弱っている様子は見られず油断した騎士は吹き飛ばされてしまうだろう。それを許さないのがこの男、ナザミだ。武技〈重要塞〉を駆使し〈流水加速〉によってギガントバジリスクの一撃が放たれる場所に先回りして攻撃を防ぐ。その攻撃を受けた隙にバジウッドが分厚い鱗を断つように〈斬撃〉を放つ。こうした攻防が数十分繰り広げられそして…。

 

 

グ…グギャア…

 

 

ズウゥゥン!という大きな音を立ててギガントバジリスクの巨体は遂に倒れた。大きく消耗したものの騎士たちは無事勝利を収めることができたのだった。

 

「やった…やったぞ!あのギガントバジリスクを俺たちが倒したんだ!」

 

「オリハルコン級でも厳しいと言われるギガントバジリスクを…倒せたんだな。」

 

「あーもうクタクタだ。初日からこんなイレギュラーがあっていいのかよ…なあナザミ。」

 

「………。」

 

「ナザミ、おいどうし……落ちちまったのか。そりゃあ仕方ないよな。お前が一番体張ってたんだから。」

 

バジウッドはナザミを起き上げ野営地へと向かっていった。こんなところで雑魚寝するよりもキチンとした場所で休ませてやりたかったからだ。そんな男の友情を知る由もなく無慈悲な声がかけられる。

 

 

「皆さんお疲れ様です!正直厳しいかなって思ってたんですけど無事倒せて何よりです!では続きを始めましょうか!」

 

その発言にバジウッドは騎士たち全員の内心を代弁をするように恐る恐る答える。

 

「…あの、粛清騎士サマ?この戦いで流石に全員疲れ果ててる。今日は流石にやめにしないか?臨機応変な対応が必要って言ってたろ?」

 

「ああ、疲れたんですね!失礼しました!全員にポーションを…いや、これ使うと戦った意味がなくなっちゃいますね。私も使わせてもらえなかったし…。」

 

「だ、だろ!?だから今日のところは…」

 

「では一時間休憩の後再開しましょう!予定通り私と一対一の模擬戦をして個別指導とまいりましょう!」

 

「いや聞けよ!!」

 

 この後一時間後にギガントバジリスクの時とは違う騎士たちの悲鳴が飛び交いこの日の訓練は終わった。

そしてバジウッドは思う。時折見る陛下が腹を抱えてうずくまっている理由ってこれ(アレーティア)のせいなのか…と。

 

 

 

 





アレーティアが大分キャラ変わってない?って思いますが解放された結果がこれです。
嫌なことから解放された後ってこんな風になりませんか?最高にハイってやつです。地味に狂化自分にも使ってませんかねこの娘。

次回でこのバハルス帝国、アレーティアが来てからの日々は一旦終了予定。


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バハルス帝国、アレーティアが来てからの日々その4

オーバーロード十周年記念の特別ブックカバーが付いた書籍が欲しくていっそ全部買い替えようと出掛けたものの何処行っても何故か1、13、14巻だけ置いてなかったので泣く泣く断念…。
見るたびso-binさんのイラストは最高だな!って思いながら眺めてます。

そんなこんなでもう10話です。


 

 アレーティアによる帝国四騎士選抜遠征から二週間が経過していた。

初めは暴走を見せたアレーティアだったが、一日経つと落ち着きを取り戻し当初の内容通りの訓練が実施されていた。

 

 

「バジウッドさんは〈斬撃〉をもう十分使いこなせていると思うので次の一歩を踏み出しましょうか。」

 

「えー、粛清騎士サマ。〈斬撃〉の上っていうと何ですかい?〈空斬〉とか〈斬刃〉ならもう少し経験を積めば使えるようになると思うんですけどねぇ。」

 

「それはそれでいいんですけど見栄えに欠けるというか…そうですね〈能力向上〉も使えることですし〈斬撃〉が一番使い慣れているように見えたので、それに近い武技を身につけて貰えたら嬉しいですね。例えば…武技〈雷光〉」

 

 バジウッドのために見本として放たれた武技〈雷光〉。アレーティアが跳躍し的となった木に〈斬撃〉と同じ構えで剣を振り下ろす。その一撃は雷を纏い轟音を立て木を黒焦げにしやがて崩れ落ちた。あまりの威力にバジウッドは目を見開いた。こんな武技は知らないし、見たこともない。

 

「これが〈雷光〉です。動きは〈斬撃〉に近いのでコツを掴めば習得は比較簡単だと思います。ああ、いきなりこの武技をマスターしろだなんて無茶なことは言いませんよ?」

 

「…なんていうか、あの…なんだ?ホント規格外なんだなアンタ。」

 

 改めてこの粛清騎士という人物を知るバジウッド。ギガントバジリスクを圧倒し、イジャニーヤの襲撃を物ともせず返り討ちにしたフールーダを超える逸脱者。これほどの実力があるならあのアンデッドの大群を滅ぼしたという話が嘘ではないと頷ける。今自分はそんな人物から武技を教えこまれていると思うと込み上げてくるものがある。…決して胃の痛みから来る吐き気とかそういうものではない。

 実際、教え方は丁寧で的確な指導をしている…とバジウッドは思う。騎士になって訓練を積む中でがむしゃらに剣を振って力をつけてきた身ではあるがこうして指導を受けるとスッと身に入る何かがあった。この〈雷光〉も俺になら出来ると踏んで見せつけたんだろう。

 

「それは誉め言葉と受け取っていいんですかね?まあ私は各々にあった武技を薦めているに過ぎませんから。それを己の糧と出来るかは当人次第です。…いざとなれば死ぬ目に遭えば嫌でも身につくでしょうし。

 

「なんか最後物騒なこと言わなかったか!?」

 

「空耳です空耳。次はトーマスさんかナザミさん、ルミリアさんのところに行きますね。後、大切なのはイメージです。斬撃から〈雷撃(ライトニング)〉を撃つ、自分は魔法詠唱者(マジック・キャスター)になったと思い込むと上手くいくかもしれませんよ?」

 

 そう言い残し他の騎士の指導へ向かう粛清騎士(アレーティア)。シレッと魔法詠唱者(マジック・キャスター)になれとか言っていたがそんなこと想像もしたことがなかった。魔法詠唱者になった自分を想像する…がとても似合わない姿を想像して思わず吹き出す。こんなガタイの良い魔法詠唱者がいるものかと。とはいえイメージは大切、大剣に雷を纏わせ振り下ろす想像をしながらバジウッドは素振りを開始した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ナザミさんは盾の扱いが上手いですね。あの時もそうですけど最前線であれだけ身を挺して他人を守れるのは誇らしいことです。ただ、守ることに重きを置きすぎて攻めることが多少なりともおざなりになっているように思えます。」

 

「面目ない…。かつて見た盾を巧みに操り見事な攻防を繰り広げていたあの戦士のように…と思い盾を武具として扱っていましたがまだ技量が足りないようで。」

 

「いや、憧れを追うのはいいことだと思いますよ?あとはどうそこに追いつくかが問題だと思うので。確か〈重要塞〉が使えましたよね?であれば是非とも〈不動〉を身につけてほしいですね。これを併用できれば何者にも揺るがない鉄壁に成り得ると思いますよ。」

 

「それだと結局守りに重きを置いてしまうのに変わりないのでは?」

 

「いいえ、()()()()()()()()()()()()()()()。〈不動〉はあらゆる攻撃を受けてなお痛みを感じず動ける武技です。ここに〈盾突撃〉〈流水加速〉〈重要塞〉といった武技を併発させれば…」

 

「なるほど、守りながら攻めるとはそういう事か。」

 

「うまく使いこなせれば攻防どちらもこなせる万能性を身につけられます。ただ、〈不動〉を身につけるにはある程度痛みに慣れつつ攻撃を受ける、という経験が必要だと思うんです。」

 

 この発言にナザミは首をかしげる。

 

「粛清殿はそうやって身につけたのではないのですか?」

 

「いえいえ、私の場合は当時相手にした魔獣相手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()ので参考にならないと思うんですよね。なので、ナザミさんより少し強い相手とマンツーマンで訓練してもらいます。…出てきなさい"愚か者"。」

 

 粛清騎士の相変わらずの規格外さに驚いていると、森の中からさらに驚くべきモンスターが現れた。見た目はトロールのようだが冒険者や騎士が知るトロールより体格が優れており、闘技場に顔を見せ始めた剣闘士ゴ・ギンを彷彿とさせた。

 

「紹介します。トブの大森林の東を支配していたウォー・トロールの"愚か者"です。()()の攻撃を受けきれるようになれば〈不動〉を身につけるキッカケになるやもしれません。」

 

「待て!俺の名前はそんな臆病者の名前じゃあ…」

 

黙れ"愚か者"。あの時散々叩き込んであげたでしょう?()、という言葉は人の間では"愚か者"という意味なのです。大人しく私の言いつけを守れば生きて帰してあげますから協力しなさい。いいですね?"愚か者()"?」

 

「ぐ、ぐうううううううううう……ッ!!!!」

 

 ウォー・トロールらしい"愚か者"と粛清騎士の間には明確な力関係が生まれているらしい。一体どんなことをして従わせたのか気になるが気にしたら最後だと思っている。そんなことより今は我が身。ギガントバジリスクを確実に上回るこの強大なモンスターと一対一で訓練をしなければならない事実に絶望しか感じない。しかし、こういった場面もあるだろう。自分より相手がどんなに強大でも陛下がお逃げできる時間も稼げず何が騎士かと自分を奮い立たせる。

 

「じゃあ頑張ってくださいね。一応殺さないように言い聞かせていますけど万が一があるといけません。目の届く範囲には居るので安心してください。」

 

「…了解しました。期待に応えられるよう努めます…!!」

 

 盾を構える。受けるはあのウォー・トロールの拳。あの巨体から繰り出される一撃はどれほどのものか。〈重要塞〉とは違う受けながら動くというイメージを基にナザミは"愚か者"に立ち向かった。

 一撃は重く耐え切れず何度も何度も吹き飛ばされる。その度痺れる体を震わせ立ち上がった。"愚か者()"はその姿を見て身の程知らずだと嘲笑う。あの()()には敵わずとも、やはり俺は強いのだと。こんな木っ端が如きチビとは比べるまでもない強さが俺にはあるのだと自信を取り戻す。

 しかしナザミは少なくとも自身が相手より弱いと知りながら、それでも立ち上がり何度も何度もその身を粉々にしかねない攻撃を受け続けていた。その度ポーションをビンごと砕きそれを浴びる。自らより格上の敵に諦めず何度も立ち上がる姿はまるで″勇者″のようであった。

 

「もっとだ…もっと来い"愚か者()"。俺はこんなものではまだ倒れんぞ…!」

 

 この後、しばらくしてナザミ・エネックは〈不動〉を身につけウォー・トロールの一撃をも退ることに成功した。

 本編では〈不動〉の二つ名で知られた彼だが、この世界で彼の二つ名は──

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 それから更に()()()()()()()()

 当初の一ヵ月という予定を大幅に超え遠征という名の粛清騎士の地獄訓練は続いていた。

ナザミが〈不動〉を身につけたあたりからまたアレーティアの暴走が始まってしまい"愚か者"相手に何人かで組み立ち向かったり…森の中での警戒訓練と称したアレーティアの『隙を見せたら即終了!森の暗殺者!』という多くの騎士に暗殺者の恐怖を刻み込んだ訓練。極めつけは"愚か者"の配下であるオークやトロールとの本気の戦闘。訓練ではなく戦闘だ。

オークはまだ斬れば倒せるがトロールは強力な再生能力を持っており苦戦していたものの新たに〈炎刃〉という武技を身につけたトーマス・アルトランド、〈雷光〉を身につけたバジウッド・ペシュメルがトロールを倒し、残ったオークやゴブリンを残りの騎士…奥義〈連続斬撃〉を披露したルミリア・リイル・アーチゾルテが筆頭に倒し騎士たちの戦い…もとい、訓練は終わりを告げた。

 

 余談だが戦闘が終わった後、アレーティアの不意を突いて"愚か者"が奇襲を仕掛けたものの、何のダメージも与えられず反撃のスキルで頭部以外を消し飛ばされたという出来事があったことをここに書き残しておく。

 

 

 

帝都アーウィンタール 皇城

 

この場には怒れるバハルス帝国皇帝ジルクニフと正座をして申し訳なく小さくなっている粛清騎士(アレーティア)、そして遠征終わりの疲れ果てて今にも倒れそうな騎士たちがいた。

 

 

「…で?言いたいことはそれだけか?」

 

「で、出来心だったんです!現地行ってちょうどいいモンスターがいるし有効活用しないと勿体ないって思ったんです!それに訓練内容考えていた時より色々思いついたんでやってみようって…」

 

「それで半月も遠征を無断で延ばしたのか!?私に伺いも立てずに!!」

 

「も、申し訳ありませんでしたあああああああ!!!」

 

 帝国皇城にて、遠征帰りの騎士たちの前でジルクニフに本気で怒られている粛清騎士を見て、ようやく帝都に帰ってこれたと倒れるように崩れ落ちた騎士たちには目の前の光景がどう映っているのだろうか。

 少なくとももし次回があれば今回参加したメンバーで抑えを作るか、自分たちで指導しなければいけないなと力なく笑いあった。

 

 

 

 





書いてるうちにナザミがカッコよくなりすぎてる気がするし強化しすぎた気もしますがきっと気のせいです。

次回からはアレーティア視点に戻る予定です。


そういえば通算UAがもう10万超えていました。投稿始めた時には考えられないぐらい読まれてて嬉しい限りです。これからも頑張って書いていきますので是非とも応援よろしくお願いします。


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キャラクター紹介 アレーティア・ホウガン(帝国ルートpart1)

とりあえずアレーティアのプロフィールをまとめてみました。
暫定&ザックリなので後々修正入ります。
参考程度にご覧ください!


 

アレーティア・ホウガン

 

人間種──エルフ(?)

 

年齢──13歳(10話時点)

 

役職──エルフ国王女→バハルス帝国"粛清騎士"

 

住居──エルフ国王城→バハルス帝国皇城(10話時点)

 

誕生日──オックス・7日

 

趣味──自己鍛錬、勉強、花々や小動物を愛でること(エルフ王国では許されなかった反動もあり)

 

職業レベル(戦士時)──ファイター、マスターファイター、ウェポンマスター、ガーディアン、戦姫など合計75レベル(10話時点)

 

職業レベル(魔法詠唱者時)──ドルイド、ハイ・ドルイド、サモナー、エレメンタリスト(⬛︎⬛︎⬛︎)、フォレスト・メイジ、ウォー・ウィザードなど合計75レベル(10話時点)

 

生まれながらの異能(タレント)──簡単に言えば|⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎《⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》。もしくは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の劣化版。⬛︎⬛︎に⬛︎⬛︎まで使用可能。

⬛︎⬛︎に使う場合は⬛︎⬛︎⬛︎を消費する。

このタレントの存在を知ったらアインズは絶対に欲しがる。もしくは全力で排除にかかる。

アレーティアがこの生まれながらの異能の詳細を知り使いこなせれば更なる強化が見込めるが現状は不明。(本人が生まれながらの異能を調べることを忘れているため)

 

スキル──天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)

タレントによって6歳の初戦闘時に得たスキル。簡単に言えば全ての職業レベルをジーニアス化(?)…総入れ替え出来る。

これによって戦士、魔法詠唱者の職業を得ることが出来ている。

デメリットとして戦士時は魔法が使えない。魔法詠唱者時は〈武技〉が使えない。(現時点)しかしそれぞれの自己強化(バフ)はそのまま引き継がれる。

生産職にも置き換え可能。アレーティアが無意識に使用している。

1日に4度(例:戦士→魔法詠唱者など→戦士で1度)まで使用可能

 

余談だが戦士職が当初はメインで魔法職は生まれながらの異能で身についたので本職は戦士。デケムも魔法で戦士職を得ているのを知っていたのでそこを伸ばそうとしていた。

 

スキル──経験値取得増大(大)

タレントによって得た常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。文字通り経験値取得率が上がる。その為かアレーティアは成長が早い。

スキルを得る原因はデケムの教育から一歩でも早く逃れたかったから、早く強くなれればいいのにと思ってから発現した。

 

なお、デケムは娘の成長の早さにとんでもなく喜び、寧ろ教育がよりハードになった。なんなら一度ベヒーモスで殺しかけている。流石にこの時はやり過ぎたと反省している。アレーティアからは決定的に嫌われた原因の一つ。

 

スキル──⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

魔法詠唱者時のみ発動可能。デケムのベヒーモスに対抗して身についたスキル。デケムと違い現時点では制御不能な為使っていない。80レベルを超えれば使いこなせる。

 

これを初めて見て止めたデケムは自分の才能を引き継いでいるアレーティアを更に溺愛した。アレーティアの目は死んだ。

 

スキル──状態異常無効(毒、麻痺、即死など)

森での戦争中に身についたスキル。本当に死にかけたのでこのスキルが身についた時は飛んで喜んだ。

基本的には命に関わる状態異常が無効になる。

しかし、それ以外の状態異常は効いてしまう可能性が高い。

アインズの心臓掌握(グラスプ・ハート)は無効化出来る。

 

 

概要

エルフ国王女として生まれた前世男の転生者。

前世では色々な作品を嗜んでおりオーバーロードも好きな作品の一つだった。ライト層といえば伝わるだろうか。

生まれたばかりの頃はファンタジーな世界に転移したな、と思い優しい父(当時)の下で穏やかに暮らしていた。

しかし6歳の頃、戦場に放り出されてそこから人生は一変。生きるか死ぬかの戦場に出ることを強要される生活が始まる。この時この世界がオーバーロードの世界だと気づいてしまう。

元々温厚な性格だが、この生活のせいで色々壊れてしまった一面がある。

例えばデケムに近親相姦宣言をされてから自分に色目を使う男を全力で殺しにかかったり、デケムに就寝時ベッドに侵入され身体を弄られた時、キスされた時に身を震わせるほどの恐怖を感じたことから無意識に抵抗しないとヤられると思い過剰防衛する傾向になったことなど。

元男である為そういう感情には割と敏感。

ジルクニフは同年代かつ互いに利用する仲なのでこの対象にはならないが…。

無意識に手に入れたスキル経験値取得増大で強くなるスピードが上がり過ぎたせいで常に格上を用意されてしまう。そして勝って強くなってしまうの繰り返し。常に死が目の前にある生活に嫌気がさし12歳の時、陽光聖典との戦闘中のドサクサに紛れてエイヴァージャー大森林を脱走。運良くカッツェ平野に流れ着きバハルス帝国へと招かれる。

 

口調は幼少時から王族であると知って丁寧な言葉遣いを心がけている。時折、イラついた時など乱雑な口調になる。

 

 

容姿──身長150cm、B74W52H76(13歳時)

白に金色が薄らかかったセミロングヘア。

どこかあどけなさを残す大人しめの顔をしている。王の相と呼ばれるオッドアイを持つ。(戦士時と魔法詠唱者時で眼の色が変わるという裏設定があった)

基本的には帝国製のバイザーを着用し目元と耳を隠している。

戦闘時はアダマンタイトで作られた鎧を身につけている。

普段着は白のワンピースや男装など動き易い格好を好む。

一度メイド監修の下、ドレスを着させられそうになったが全力で逃げ出した経験あり。

 

 

夢──とりあえずは原作開始後も生き延びる事。

可能であれば平穏に争いのない場所で暮らしたい。

 

 

人間関係

デケム・ホウガン──クソ親父、クソ親父より強くなったら絶対ボコボコにしてやる(帝国ルート)

 

ジルクニフ・ルーン・ファーロード=エルニクス──同年代だからか陛下と敬いながらもどこか友人感覚でいる。

毎回やらかすのを悪いと思いながらこの関係を好んでいる。

 

フールーダ・パラダイン──帝国に誘ってくれた恩人。それは別として魔法のことは全力で隠す。

 

帝国四騎士──私が育てた!それなりに親しい関係。

 

スレイン法国──クソ親父が何したかザックリしか知らないけど、何も知らないエルフまで巻き込むのやり過ぎじゃない?

相手から仕掛けてきたらとりあえず反撃はするが、こちらから関わることはない。(帝国ルート)

 

名前も知らない姉妹たち──……ごめんね。助けてあげられなくて。

 



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帝国ルート アゼルリシア山脈編
私アレーティア、逃げ出し…旅に出ました!



新章です。

UAがもうすぐ15万、評価者数が150人を超えました。

毎回言っているような気もしますが言わせてください。ありがとうございます。


 

 どうも皆様お久しぶりです。アレーティアです。

私がこのバハルス帝国で生活を始めてかれこれ4年が経ちました。

この間色々なことがありました。私もジルクニフも同じく17歳になり、立派に成人を迎えました。まあエルフの私はいつ頃成人と呼ばれるのか分かりませんが人間的に成人年齢は15歳らしいので私も成人です。

 

1番大きな出来事の一つはアレですね。遂に帝国四騎士が任命されたことです。順を追って紹介していきましょう。

 

 1人目、皆さまご存知バジウッド・ペシュメル。通称〈雷光〉の二つ名を持つ大剣使いのイカしたおじさんです。四騎士のまとめ役を務めています。一緒に仕事していると時折お腹をさすっています。古傷でも痛むんですかね?奥さんが何人もいますし彼には身体を大事にして欲しいところです。

 

 2人目、トーマス・アルトランド。こちら原作にはいなかった人です。通称〈陽炎〉と呼ばれていて長剣による炎系の武技を得意とした騎士です。性格は生真面目で卒なく多くのことをこなします。ジルクニフからもそこを買われているのか執務なんかでも重宝されてますね。

 私がたまに手伝おうとすると全力で止めてきます。何故でしょうね?一緒に仕事をしている中、何故か天を仰ぎ始めるんですけど何してるんでしょう?

 

 3人目、ルミリア・リイル・アーチゾルテ。こちらもトーマスと同じく原作にはいなかった人。帝国四騎士の紅一点です。通称〈乱舞〉と呼ばれており剣2つを操り武技を組み合わせ、さながら舞うような剣撃を見舞う他の3人とは違ったタイプの騎士です。なんでも生まれながらの異能のお陰で武技に集中しやすいと言っていましたね。同じ女同士(私は元男ですが)よく話す仲です。

 最近は一緒によく仕事をして報告に行くとジルクニフが頭とお腹を抱えていることが多いですね。私とルミリアは満面の笑みを浮かべていますが。

 

 最後、4人目はナザミ・エネック。原作に出てきたけれどすぐに退場してしまった通称〈不動〉の名を持つ騎士でしたが…こちらでは現在〈勇猛〉と呼ばれています。帝国最強のタンクです。

 あの愚か者の一撃を耐えるだけの力量があり、この前は他の四騎士全員の攻撃を1人で凌ぐ実力を見せてくれました。多分英雄の領域に立つ寸前かもう立っているか、そう思わせるぐらいには強くなってますね。もう原作みたいに見せ場もなくやられるなんてこともないでしょう。

 

 あの時遠征に参加した他の騎士の方々は四騎士候補という名の精鋭部隊となり、四騎士の座が空くのを待っている状態です。四騎士が決まった後も目ぼしい人材をここに移籍させて訓練を積んでもらっています。優秀な人はいくらいてもいいですからね。その内、今の四騎士との入れ替え戦みたいなことをしても面白いかもしれません。これは後でジルクニフに伝えてみましょう。

 

 そういえばジルクニフは成人してからお世継ぎを作るため後宮に何人か女性を囲っている様です。正直思うところはありますがこれも王族としての務め…優秀な子供を未来の帝国のために育むことは大切なことです。しかし、優秀でなければ捨てられる…という設定があった気がしたので、私の経験から絶対に子供や産んでくれた女性を蔑ろにするなとジルクニフにはお願いしています。そんなことを私の前ですれば何をするか分からないとも。少々青い顔をしていましたが了承してくれて安心しました。

 

 さて、今日は何をするかといえば──端的にいえばお勉強です。

帝国四騎士が結成されてから警護も大分余裕が出来てきて私のフリーな時間が少々増えました。なのでこれを機に色々と勉強しています。ついこの間までは神殿の方に出向いて神官の方々に色々と話を聞かせてもらいました。

 その内信仰系の魔法なんかも使える様になれば出来ることの幅が広がるので積極的に学んでいきたいです。帝国には蘇生の魔法を使える人がいませんからね。もし習得できればいい加減魔法を使えるとジルクニフやフールーダにバラしてもいい…かな?

 なので今日も今日とて神殿に行こう…と思った矢先、ジルクニフに今日からしばらく貴族としての作法を学べと言われてしまいあえなく断念。何故かと問えば

 

「少なくとも皇帝のそばに控える騎士であるお前がそれなりの礼節が出来ていなければ他の騎士にも示しがつかんだろう?帝国四騎士も揃い、お前の育てた後進のお陰で騎士たちの実力も確実に伸びている。であれば、そろそろお前も次に進むべきだ。出来るな?」

 

 こう言われたらやるしかありません。後出し情報で四騎士の面々は問題ないとか。出来ないのが私だけというのは最古参の騎士(自称)として面目ないのでこうして立場ある人としてのマナーや作法を学んでいます。これでも元王族、やってやれないことはないはず!

 

 

 

 

 

 

 

 マナーや作法の指導、教育が始まって一週間が経ちました。進展はどうですかって………?

 

 

 

 

──無理です。

 

 

 

 

 作法、マナーはまだなんとかなります。前世でもなんとなくこうすれば良いというのは解っていますので。しかし、言い回しとか建前とか……()()()()()()()()。なんだってあんなに難解にするのでしょう?ストレートに言えばいいじゃないですか。やたら難しすぎるんですよ!!

 

 ストレスがフルに溜まった私は置き手紙を残して帝国を離れています。警護?四騎士とフールーダがいるんで大丈夫じゃないんですか?そんなことよりこの一週間で溜まったストレスを発散するためには思い切り身体を動かすか大規模な魔法をぶっ放すに限ります。

 とりあえずいつでも帰れる様に〈転移〉出来る様に転移先を記録して…向かうはトブの大森林の先、アゼルリシア山脈!

 

 

 

 

 

「ま、また来たのか凶星!!」

 

「ああ、久しぶりですね〈愚か者〉()。」

 

 偶々ですが私は今トブの大森林の東の巨人こと〈愚か者〉()の拠点にいます。コイツと知り合ったのは遠征の時ですね。愚かにも私に喧嘩を売った挙句、騎士たちにも手を出そうとしていたので〈彗星落下〉(コメットフォール)を使って住処ごと吹き飛ばしました。ものすごい爽快だったのを覚えています。久々に撃った高威力の第九位階魔法ですから。

 その時の光景が余程恐ろしかったのか、私のことを凶星と呼び始めたわけです。"彗星の尾には毒がある"という話があったと思います。きっとそれに近い伝承とか言い伝えがあるのでしょうね。

 実際この〈彗星落下〉(コメットフォール)〈隕石落下〉(メテオフォール)には攻撃範囲は及ばないものの追加効果として低確率ながら何かしらの状態異常を与えられます。住処を吹き飛ばした後コイツの生き残った配下が軒並みこの状態異常で死んでいったのは正直やりすぎたなと思いつつ気にしない方向でいきました。相手が先に仕掛けて来ようとしたんですから正当防衛です。その後有効活用して逃がしてあげたんですからそれでチャラという事にします。

 

「何の用だ!お前のせいで俺の配下が…」

 

「いや、ただ通っただけですから。あなたに用なんてありませんよ。」

 

 

 〈愚か者〉()の横を悠々と通り過ぎます。以前の遠征の最後に不意打ちをかましてきましたが〈不動〉と素の耐久で耐え、反撃で頭以外を吹き飛ばしてやりました。その事もトラウマになっているんですかね?虚勢を張ってはいますが足が竦んでいるのが見え見えです。所詮は井の中の蛙、真の強者を知らないからすべてを奪われるんです。同じ種族、武王のゴ・ギンを見習ってほしいものです。そうでなければ…数年後、私を超える強者(アインズ・ウール・ゴウン)に今度は命すら奪われますよ?

 

 さあ、気を取り直して目指すはアゼルリシア山脈のドワーフの国の王都への道に向かうまでの難所の一つ、溶岩地帯!

 この時期にドワーフが滞在しているであろう場所を探して私は森を進んでいきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

~バハルス帝国~

 

 

 私、ジルクニフは執務に区切りをつけ昼食に入った時、とある事件が発覚した。

 

「陛下!昼食中失礼いたします!」

 

「何事だトーマス!そんなに血相を変えて来るとは…何があった!?まさか、アレーティアとルミリアがまた何かしでかしたか!?」

 

 帝国最強の騎士であるアレーティアと四騎士でアレーティアと組ませると問題児と化すルミリア・リイル・アーチゾルテ、この二人がまた問題を起こしたのかと少々頭を抱える。

 ルミリアは基本は優秀だ。令嬢でありながら騎士を志し、勉学にも優れ今回の遠征で飛躍的に実力を向上させ今後の成長も見込んで任命した…が、粛清騎士であるアレーティアを心酔してしまい「アレーティア様がおやりになることですから仕方ありませんね!」とアレーティアの暴走の制止もせずむしろ自分もそれに乗っかるという"どうしてそうなった!?"と思わずにはいられない事件を引き起こしたことがあった。なので、この二人を組ませることは余程のことがない限りはしないようにと言い聞かせていたのだが…。

 

「いえ、今回はその二人がやったことではありません!」

 

()()、という事はルミリアは一人で問題を起こさないと考えればアレーティアが何かしたという事で間違いないな?思えば今日は貴族教育の日だろう。なにがあった?」

 

「はい、こちらを…」

 

 トーマスが何かが書かれている紙を手渡してくる。

 

 

 

 

 

陛下へ

 

 

あの勉強が嫌になったので旅に出ます。そのうち帰るので探さないでください。

 

 

アレーティアより

 

 

 

 思わず固まってしまった。なんだこれは?アレーティアが?勉強…貴族教育が嫌で?旅に出た??…なるほど。

 

 

「あ、あの大馬鹿者がああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 手紙を思わず握りつぶし周りの目も気にせず叫ぶ。これが叫ばずにいられるか。

あの女の素性を隠すのにどれだけ手を焼いていると思っているんだ。貴族としての振る舞いを身につけさせて今後の王国との戦争や他国との外交の場でもし素性がバレたとしても帝国の貴族令嬢だと言い張れるようにこの教育を始めたというのに……!!あの女はこちらの苦労を分かっていないというのか!!

 

 

「い、いかがいたしましょう?探すなとは書いてありますが念のため捜索隊を……。」

 

「いいや、無駄だ。アイツを探すことは不可能だ。以前姿が見えずフールーダに遠見の魔法で探させたことがあったが()()()()()()()()()()()()()()()()()()。物理的に探すとなればまず行方が分からなければ徒労に終わる。我々に出来ることは帰りを待つしかない、という事だ。」

 

 くたびれたように言い返す。正直、この前言われた子供と後宮の側室の一件で珍しく()()()()()()()()()()をしてきたことにも驚いた。そんなことを気にする女なのかと。…いや、これは恐らくだが未だ語らないあの女の過去が関わっているのだろう。そういったものには触れない方がいいがそうも言っていられなくなってきたな、と考えながら帰ってきたら絶対に一発ぶん殴ってやろうと心に決めた。

 

 

 

 




書きながら毎回思うのがジルクニフのキレ芸が某アルキメデスそっくりになってる気が…影響は間違いなく受けてます(笑)


後、実験的にアンケート機能試しに使ってみました。
今回はオリジナル武技、魔法の紹介が必要かどうかですね。

需要があれば次のキャラ紹介辺りで纏めます。


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私アレーティア、今蜥蜴人と山小人の後ろにいるの


アンケートありがとうございました!

結果は『必要』の方が多かったので次のキャラクター紹介Part2でまとめて紹介します。


 

 トブの大森林を抜けてアゼルリシア山脈に入り数日が経ちました。

思えば旅をしたのは故郷を脱走したのを除けば今回が初めてになるのでしょうか。前世でも体験したこともない、知識もないままに帝国を離れてしまいましたが襲ってくるモンスターを倒して食料代わりにし、トブの大森林でそれとなく採取した野草なんかも摂取します。問題は目的地である山小人の住処の場所が分からないという事…。

 

 原作でもゼンベルの記憶を頼りに捜索していたから正直見つけるのはかなり至難なのでしょう。ゼンベルはどうやって見つけたんでしょうね?

 

 …あ、そうだ。居住地を探すのではなく、ゼンベルを探せばいいんです!どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんでしょう!そうと決まれば早速探知系魔法を使いましょう。

 

 

 〈観測衛星〉(オブザベーション・サテライト)、第十位階に相当するであろう探索系魔法。かなりの魔力を消費し発動時間は数十秒という燃費が少々悪く地下や洞窟などでは使えないというデメリットがあるものの、その探索範囲は指折り付き。この広大なアゼルリシア山脈の地表部分なら問題なく探索できるはずです。

 

探索対象:蜥蜴人(リザードマン)

観測範囲:アゼルリシア山脈地表部全域

 

 …いました。大分離れたところですが片腕が大きいリザードマンが見えます。幸運なことに近くにドワーフらしき影も見えますね。あの近辺に恐らく目的地があるはずです。

 まだ晴れているうちに合流したいものですね。〈飛行(フライ)〉を使い二人目指して山脈を飛んでいきます。

 …ところでリザードマンの数え方が人か匹かで少々悩みましたが、多分人が正解でしょう。

 

 

 

 

「なあ、頼むよドワーフのおっさん。俺はもっと強くなりてえんだ!だからよ?」

 

「あーもう分かったわい!そこまで言うんじゃ、ワシが鍛えてやる!!しかしのぉ、ワシは厳しいぞ!ただ飯ぐらいなんて許さんからな!きっちり働いてもらうぞい!」

 

「それぐらいならお安い御用だ!よろしく頼むぜ!ドワーフのおっさん!」

 

「おっさんおっさん言うでない!ワシにはバザルっちゅう名前があるんじゃ!バザル師匠、そう呼ぶんじゃ。」

 

 

 移動を始めて凡そ半日、日が暮れ始めましたがようやく見つけました。今、あちらもようやく接触(コンタクト)したみたいですね。和気藹々と喋っています。さて、そこに割り込む形になりますが…思い切って後ろから話しかけてみましょうか。

 

「あの~すいません。」

 

「「うおぉっ!??」」

 

 二人して驚いた様子でこちらを振り返ります。そんなに驚かないでほしいです。

 

「おいリザードマンの!逃げるぞ!!」

 

 あれ?なんだか様子がおかしいです。どうしてでしょう?私なにかやっちゃいました?

 

「お、おう!?なんでだ!?」

 

「ありゃあこの山に現れるっちゅう『雪女』に違いねえ!捕まると凍えさせられてそのまま目覚めなくさせてくる恐ろしいモンスターじゃ!」

 

「そりゃやべえな!さっさとトンズラするのが正解だな!!」

 

 

 

 …ものすごい勢いで逃げられてしまいました。なんで?まあ確かに辺りは暗くなってきましたが雪女に間違われるような恰好はしていないんですけどねぇ?

雪女と言ったら和服が定番でしょう。今の私の格好はバイザーに白のワンピースに白地のタイツ……あ、まごうことなきバイザー除いて真っ白ですね。雪女に間違われても仕方ない…のですかね?バイザーで顔が見えなくて怪しいのも拍車がかかっているのかも…。ところでこの世界の雪女ってどういう姿で伝わっているのか非常に気になります。

 とりあえず後を追いましょう。逃げる先はきっとドワーフの拠点のはずですし付いていけば問題ないはず。

 

 しかし、ここで私の悪戯心が湧いてきました。彼らは私のことを『雪女』と呼びましたが、『雪女』では少々面白みが足りませんし恐怖が足りません。なので……

 

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…ここまで来れば大丈夫じゃろ。」

 

「なんでぇ、そのまま都市に向かうんじゃないのかよ。」

 

「馬鹿を言え。もし『雪女』を撒けずに帰ってみろ。たちまちみーんな凍ってしまうわい。今日のところはこの穴倉で過ごして、また明日日が昇ってから移動するぞい。ああいうモンスターは夜しか行動しないっていうのが鉄板らしいからな。」

 

「そういうもんなのか。しっかしこの山は寒いな。ちょいと俺には厳しい寒さだな。」

 

「今日のところは我慢せい。薪なら十分に取ってきてある。これで暖を取って酒を飲んで体を温めるんじゃ。お前さんも一杯飲んでおけ。」

 

「おう、すまねえな。俺達には酒を飲むっていう習慣が無いから新鮮だぜ。」

 

「それは勿体ない!お前さんもこの先のフェオ・ライゾに着いたら他のドワーフ共ともこういう付き合いがある。今のうちに慣れておけ、ほれもう一杯。」

 

 薄暗い洞窟で焚き木に火をつけ語り合うリザードマンとドワーフ。種族は違えど二人は既に打ち解けていたのはゼンベルの気軽さ故か、それともドワーフのバザルの懐の深さ故か。はたまた酒を飲み交わした間柄になったからなのかは分からない。

 

 

 

私アレーティア、今お外にいるの

 

 

 

 そんな折に二人の耳に聞き覚えのない小さな声が聞こえた。

 

 

「…なんだぁ今の?空耳か?」

 

「こいつは…〈伝言(メッセージ)〉か?アレーティアって名前も聞き覚えが……?」

 

 

 

私アレーティア、今洞窟の入り口にいるの

 

 

 

 二人の顔に汗がにじみだす。暑さや酒のせいではない。この聞こえてくる何者かも分からない相手からの一方的な〈伝言〉に恐怖心を抱いたからだ。そもそも、こんな〈伝言〉の使い方など想像したこともない。それ故、その異質感が恐ろしさに拍車をかける。

 

 

 

私アレーティア、今洞窟の中にいるの

 

 

 声量が大きくなる。それはこの〈伝言〉相手がこちらに近づいているのを示唆しているのか。二人は立ち上がり迎撃できるよう武器と拳を構える。

先程の和気藹々とした空気は消え去り、あるのは緊迫感。こちらに迫る未知の恐怖だ。

 

「なんだろうなぁ……〈伝言〉って魔法を使うモンスターっているのか?」

 

「いいや、少なくともワシは聞いたことがない。もしかすると、この山の知られざるモンスターなのかもしれん。気を抜くな?」

 

 

私アレーティア、今貴方達が見えるところにいるの

 

 

 

「「………!!」」

 

 

 最早声を発することすら出来ず目の前を凝視する。この洞窟は一本道、この焚き火で照らされている範囲に相手は見えず、であればその少し奥……すぐそこにいるはず。

何かが動く音も聞こえない。聞こえるのは早まる自分たちの心臓の鼓動だけ。今か今かと待ち構えそして──

 

 

 

私アレーティア

 

 

 

 再び声が聞こえる。先ほどと同じ音量で。ただし先ほどと違ったのは──

 

 

 

 

「今、貴方達の後ろにいるの。」

 

 

 その声が肉声であり、二人の肩に手をかけ耳元で囁いているということだった。

後ろを振り向くとそこには──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "ドッキリ大成功!"という文字が書かれた看板のようなものを背中に背負っている先ほど遭った『雪女』がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

 

「あはははは!!とっても面白かったですよ!」

 

「洒落にならんからやめてくれ!!もうダメかと思ったわい!!」

 

「いや~いつの間に後ろにいたんだよお前!あの時もそうだったが気づかないうちに後ろにいるのはどういう魔法を使ったんだ?」

 

「それは秘密です。」

 

 はい、ようやく合流できました。いや~疲れましたね!即席で"ドッキリ大成功"のプラカードを作って都市伝説の一つ、"メリーさんの電話"をこの世界で再現してみました。

〈伝言〉を使ったドッキリって見たことないですよね。都度都度〈伝言〉を使いなおさないといけないのが手間でしたが結果は上々、大成功で大満足です。

 どうやって彼らの背後に回ったのかといえば使用度が高く、使ってみるとあら便利と評判の〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉です。使ってみたいとは思いつつ〈完全不可視化〉までしか使えなかったので残念だと思った矢先に使えるようになったので早速使ってみましたが驚くほど便利ですね。音すら消せるのは今回のドッキリにはうってつけでした。

 まあ、どうして使えるようになったのかは本当に謎です。そういえばいい加減に生まれながらの異能(タレント)も調べてみた方がいいですね。

 自分を理解しないでこのまま強くなれるとは思いませんから。ドワーフの住処に生まれながらの異能を調べられる魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいれば聞いてみましょう。

 

 

「雪女と勘違いして悪かったなお嬢さん。いや、アレーティアって言った方がいいのか?」

 

「ええ、私はアレーティアといいます。」

 

「そういや俺も自己紹介をしねえとだな!俺はゼンベル・ググーっていうんだ。」

 

「ワシはバザルじゃ。それで、お前さんは何しにここに来たんだ?ワシらに話しかけてきたっていう事はドワーフに用があるんじゃろ?」

 

「はい、実はドワーフの王都への道に用がありまして。ただ行き方を知らないので誰か案内してくれないかと思ってドワーフの方を探していたんです。」

 

 ここでバザルが少々難しい顔になりました。多分クアゴアと王都を占拠するフロストドラゴンのことを思い浮かべているのでしょう。まあ、両方とも敵になるのであれば叩きのめしますが。

 

「王都…フェオ・ベルカナか。やめときなさい。今王都はフロストドラゴンに乗っ取られて最近はクアゴアという亜人がウヨウヨしておる。見つかればタダじゃあ済まんし、何よりも王都に続く道は難所と呼ばれ何の対策もなしに向かえば待っているのは死じゃ。」

 

「いえ、私強いんで大丈夫です。それに私の目的はその難所にいるっていうモンスターと戦う事なので。」

 

 そう、私の本来の目的はこのドワーフの王都への難所への道にいる溶岩を泳ぐモンスターです。名前は忘れてしまいましたが確かこの世界基準ではかなり強大なモンスターで難度百四十相当って言われていたはず。それに溶岩地帯なので普段の平野や森と違い地形そのものを警戒しないといけません。溶岩なんてレベルとか無視して殺してきそうじゃないですか。

 某作品の伝説の戦士みたいにバリヤーでも張って復活!とか出来れば胸熱なんですが。

 それに、私自身が強くなりすぎてタイマンならほぼほぼ負けることはないとは思いますが慢心ダメ、絶対。アインズ様が石橋を壊れるぐらい叩いてから〈飛行〉で渡るのと同じです。

 

「アレと戦う!?正気かお嬢さん!あの溶岩地帯を泳ぐラーアングラー・ラヴァロードは恐ろしいモンスターじゃぞ!?雪女やクアゴア、場合によってはあのフロストドラゴンよりも上かもしれんのだぞ!?」

 

「そんな名前なんですね。でもまあ昔森で戦った…なんて言ったかな?なんとか十五王より弱いなら問題ないです。」

 

 まだ私があの森にいた時のモンスター最大の相手だった真っ白なゴリラみたいなモンスターと同等なら今の私なら問題なく勝てます。

あのゴリラは本当に強かった……クソ親父に誘き出されて戦ったものの魔法も第四位階まで使ってくる上に森を縦横無尽に駆け巡りその体格に見合わぬスピードでこちらを攻撃してくるので当時の私にはひとたまりもありませんでした。その上知能も高く引き分けたのは運が良かったのか、それとも向こうが見逃してくれたのか…今となっては分かりませんが。

 

「その十五王が何かは知らんが……駄目だと思ったら即座に逃げるんじゃぞ。この条件が飲めるなら案内してやってもいい。案内した相手が生きて帰らなかったというのは酒がマズくなるからのぉ。」

 

「それはもちろんですとも。すぐに挑むつもりもありませんし、準備が整うまではバザルさんのところにゼンベルさんと一緒にお世話になりますね。」

 

「そりゃあ構わんが、ちゃーんと仕事をしてくれよ?ワシだって裕福なわけじゃないからの。」

 

「それなら任せてください。こう見えて力仕事は得意なので。」

 

「お、アレーティアの姐さんも一緒か!こりゃあ賑やかになりそうだ!」

 

 

 

 こうして、この日は日が昇るまで三人で焚き火を囲いながら過ごし、その後ドワーフの都市へと向かいました。

 種族が違えどこうして過ごすのは悪くないですね。帝国に居た時とはまた違った楽しさがあります。

 

 

 …あ、そうだ。もしフロストドラゴンが襲い掛かってきたら屈服させて帝国に何匹か持ち帰りましょう。"皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)"は鷲馬(ヒポグリフ)に乗って帝国の要所を警護していますけど、ドラゴンライダーが何人かいてもいいですよね!?

 よし、絶対に何匹か捕まえて帰りましょう。なんなら卵だけでも強奪しましょう。ジルクニフもきっと勉強から逃げ出したこともこれで許してくれるでしょう。

なによりも私が乗ってみたい。粛清騎士ではなく竜騎士の方が断然かっこいいと思うんですよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐううっ!?」

 

「いかがされました陛下?!まさか毒を盛られて……」

 

「いいや違う。何故だか分からんが近いうちにまたとんでもないことが起きそうな予兆(胃の痛み)だ……。」

 

 

 

 





ようやくタイトル回収出来たので次回からはタイトル名変えます(笑)

ラーアングラー・ラヴァロード……名前だけ出てきたモンスター、アニメにも一瞬出ている
レベル的には50手前ぐらい?

オリキャラ
バザル……ゼンベルに修行僧の心得を教えた人物ですが、原作に名前がなく未登場なのでオリジナルで書きました。名前の元ネタは多分マイナーですけど知ってる人は知ってるはず。

白いゴリラ……オリジナルモンスター。もう出番はありませんがエイヴァーシャー大森林の大樹海十五王の一柱という設定。
かなり知能が高い上に当然ながら身体能力も高い。エルフ国時代のアレーティア最大の敵であり、唯一倒すことが出来ず逃してしまった。
倒せなかった理由は逃走。あのまま戦い続ければ負けるのを悟り早々に離脱した、という設定。もしかしたらデケムに処理されてるかも…いや、アイツはそんなことしないな多分。


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アレーティアのゼロから始まるドワーフ生活~私エルフなのに~

今回場面転換多めになっているので読み辛かったらごめんなさい(汗)


 

 バザルさんの案内のもと、ようやくたどり着きましたドワーフの都市!名前はフェオ・ライゾというんですね。そこまで重要視してなかったので名前は憶えていませんでした。

 来訪者を歓迎するぞとバザルさんの友人たちが集まって小さな宴会が始まりました。ドワーフの人たちは本当にお酒が好きですね。その内皇城にあるお酒でもプレゼントしましょうか。

 ゼンベルも楽しんでいるみたいですね。彼は原作でもノリと勢いで生きている節がありましたから、こういった催しは好きなんでしょう。

 なにせリザードマンは酒盛りをするという風習がないのに何かにつけて部族で酒を飲むという流れを生み出したぐらいですから。多分お酒は何らかの祭りぐらいでしか飲むことがなかったんじゃあないですかね?無限に酒が湧き出るマジックアイテムがあるのにもったいないというか……いや、あのマジックアイテム持ってるのは彼の部族だけだからそもそも飲酒の文化がないんですかね?いやでも……考えるのが疲れてきました。

 

 さて、さっそくなんでしたっけねあのモンスター。えーっと、ラーアングラー・ラヴァロードでしたね!倒しに行きたいのですが、折角ドワーフの技術を学べるんですからそういった技術をモノにしてから挑みましょう。

 ラーアングラー・ラヴァロードも原作でも余裕で生きているので誰かに横取りされる心配もありません。

 ですが、まずやることがありますね。即ち日銭稼ぎです。

 何しろ現在無一文で帝国に戻れば金貨が……ああ、あると思っていた時代もありました。やらかしてしまったせいで責任取って弁償したりしたので所持金の大半はもうなかったのを思い出しました。

 あれはまあ仕方ありませんね。あまりにも壊しすぎたり、被害を出しすぎたりしてしまい国庫に甚大な被害が出てしまっていたので私の給金をお返ししました。

 そもそも帝国で買い物をしたことがほぼほぼなく無用の長物と化していたのでこうした方が経済が回っていいことづくめでしょう。

 私の中のジルクニフがそもそも被害を出さなければいいだろうと言っていますが、久々の出番だったりストレスが溜まったりするとつい力んでしまうので被害が出てしまうのは仕方がないというか……コラテラルダメージって言うんでしたっけ?それです、必要な被害なんです。四騎士結成前なら常に私の出番だったのでそこまで力む必要もなかったのですけど。

 

 

 さて、話を戻しましょう。バザルさんの元でお世話になるのでお金を稼いで還元しなければなりません。なので仕事探しをしているのですが、ほぼほぼ出来る仕事が限られているんですよね。

 ドワーフの仕事は鉱石などの発掘や運搬が主です。五日働いたら五日休む週払い制の労働環境です。素晴らしいですね。働いた分だけ休んでいいなんて!前世なら跳んで喜んでいるかもしれません。今の私は毎日が仕事──今は臨時休業中──ですけど前世に比べて充実した生活を送れていると思うので文句はありません。

 仕事は当然他にも鍛冶、酒造、軍事などがありますが、これらは専門的なことが求められるので却下。軍事に関しては部外者なので基本的にはまず無理ですし。いずれ鍛冶は出来るようになりたいんですけどね。そういったことも教えてもらうためには対価が必要なので出来る仕事は力仕事に限ります。

 支給されたピッケルを片手に、借りた作業着を身にまといいざ坑道へ!

 

「お、お前さんが新しく来たっていう娘さんか!そんなに細いのに大丈夫か?坑道の仕事は力仕事に加えて蒸し暑いししんどいぞ」

 

「見た目は細くて弱っちいですけど、こう見えて私強いので問題ありません。どうぞよろしくお願いします」

 

「ならいいんじゃが……辛くなったら何時でも言うんじゃぞ?坑道にはモンスターが現れることもある。無理して動けなくなってもしもモンスターが現れたらたちまち死んでしまうからな!体調管理には気を付けるんじゃぞ!」

 

「親切にありがとうございます。その時は声をかけさせていただきますね」

 

 基本的に接するドワーフの人々は本当に優しいです。原作のゴンドさんもアウラ相手にとても親切に応対していましたし、バザルさんもなんだかんだ気にしてくれています。ドワーフは恰幅がいい分心も広いのかもしれません。心がポカポカしますね。父性をどことなく感じます。

 

 父性と言えば……思い出すのはクソ親父。言動こそ優しくしていましたが言葉から感じる″お前は私のものだ″オーラがすごく嫌でした。あれは父性ではなく情欲とかそういうものでしょう。それに私を含めて年端もいかない姉妹たちを──残念ながら名前を知ることすら出来ませんでしたが──嬉々として戦場に送り出す精神が理解できませんし、死んだ後も″人″ではなく″物″を見るような目で見る男に父性などあるはずありませんね。どういう教育を受けていたんでしょうね?親の顔が見てみたいです。そして共々ぶん殴ってやりたい。

 

 んんっ……あまりあのクソ親父を思い出さないようにしましょう。感情が乱れます。今は心優しいドワーフ達と一緒に坑道で鉱石を掘ることだけを考えればいいんです。見るがいい!我がピッケル捌きを!

 

 

 

 

 

 

 ………力仕事が簡単、そう思っていた時期もありました。

 

 運が悪いのか掘って出てくるのはただの石ばかり。この坑道で採掘できるという白鉄鋼(ホワイトアイアン)や熱鉱石が全然掘れません。鉱石には詳しくないのでどれがどの鉱石かというのは正直分かりませんでしたが〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉で鑑定しながら掘り続けます。しかし一緒に同じ場所を掘っているドワーフおじさんが難しい顔をしているのでやはり芳しくないのでしょう。

 

「ここいらは掘りつくしてしまったのかもしれんの。場合によっちゃあこの坑道は諦めて別のところで掘った方がいいかもしれんな」

 

 顎髭をいじりながら言います。うーん、掘り尽くすなんてことがあるんですかね?実際、よく創作物でこの鉱山は掘り尽くしたとか聞きますけど。

 しかし、長年ここで働いているであろうドワーフの勘は間違いではないのでしょう。他のドワーフも次々とこの坑道から離れて班長のところへ向かっています。

 私もどうしましょうか。このままここを掘っていても大した稼ぎにはならないでしょう。思えばアダマンタイトとかはもっと深い場所じゃないと採掘できないんですかね?前世であったあのゲームでは一定の深さまで掘り進めないと希少な鉱石なんかは採掘できないはずですが、そういった法則がこの世界にもあるのでしょうか。

 

 

それから五日間、別の坑道を掘り幾らかの金銭は得ましたが稼げたとはあまり言えません。運が悪いといえば悪いのですが稼ぎが少ないとこの後の生活や鍛冶を教えてもらうための金銭が足りません。

 

 

 

 

 

 

 

──なので、稼ぎ方を変えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アゼルリシア山脈、フェオ・ライゾ近辺の山道でそれは起こった。

 

 

「なんだあいつは!?ドワーフじゃないのか!?もしかしてゴーレムか!?」

 

「失礼な、ちゃんと生きてますよ」

 

「援軍はまだか!?」

 

「まるで歯が立たない!退却!退却だ!!」

 

 

 この日、山道を巡回していたクアゴアたちは未知の存在に追い立てられていた。

 顔を隠す仮面のようなものを身につけ、その身には希少な金属を使って作られたと思われるドワーフが纏うプレートアーマーらしき武装をしたモノが悠々とこちらに迫り来ていた。

 最初は不用心に近づいてきたドワーフらしき種族のメスを馬鹿な奴と思い痛めつけて情報を引き出そうとしたが、まず傷一つつけることが敵わずむしろこちらの爪が欠けるという普通ではありえない状態になり困惑した目でそのメスを見た。

 そのメスは何をするでもなく問いかけてきた。「あなたたちの王は何処ですか」と。

 即座にこのメスがクアゴアに害をもたらすものと判断しクアゴアたちはこの事態を伝えるものとこのメスを足止めするもので別れ応戦した。

 しかし、足止めは全くの意味をなさずメスの進行は何人たりとも阻むことはできなかった。流石に効いていないとはいえ長い足止めに嫌気が差したのか、メスが腰の袋から明らかに入らないであろうサイズのハンマーを取り出し……

 

「〈土竜叩き〉」

 

 この一言を機に足止めに残った十数体のクアゴアは首から下が地面に埋め込まれた。退却は敵わず、こうして首以下は地面に埋まっているという恥を晒している。

 そして、この光景を作り出したメスはしゃがみ俺たちに目線を合わせて改めて問いかけてきた。

 

「すいませんね、あまりにしつこいんでついカッとして埋めてしまいました。さて、もう一度聞きたいんですが、貴方達の王は何処ですか?」

 

 その声はこちらを敵として見ておらず、ただただ出会った相手に道を尋ねるような軽い雰囲気で、そこには一切の敵意がなかった。

 かつては劣等種族として地を這い同種族同士で争う事しかできなかったクアゴアだが八氏族を束ねる氏族王ぺ・リユロが誕生してからは様々な改革が行われあのフロスト・ドラゴンとも──奴らからしたら不本意だろうが──同盟を結びドワーフを滅ぼすべく侵攻ルートを模索している。

 我々クアゴアはもう劣等種族でも弱者でもない。いずれはフロスト・ドラゴンをも倒し更なる繁栄を、と願い活動している。

 しかし我々が、強者になったはずのクアゴアがたった一人のメスに敵だとも思われていないこの現状こそが地獄に等しい。

 首から下は地に埋められ生殺与奪を握られている。お前たちの王は何処だと問いかけるこのメスが恐ろしくて仕方なかった。

 

「うーん、やっぱりやりすぎましたかね?いっそのこと魔法で聞き出した方が早そうです」

 

 メスが、いや得体の知れないナニカが先頭にいるクアゴアに手をかざした……その時だった、この状況を打破できる我らが王が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たれよ!私こそはクアゴアたちを統べる氏族王ぺ・リユロである!」

 

 ようやく出会えました。将来的にジルクニフの親友になるであろうクアゴアたちの王、ぺ・リユロ。

 思いのほか早く会えたことに驚きながら挨拶を返します。挨拶はされたら返さねばスゴイシツレイですからね。

 

「…初めまして、私はアレーティアと申します。ドワーフとは違う種族ではありますが種族が異なる人間と思っていただければ幸いです。」

 

 帝国で習ったカーテシーを披露しました。我ながら良い出来だと思います。何故だか分かりませんがリユロさんの表情が硬いんですよね。一体何をそんなに警戒しているんでしょう?私はこうしてクアゴアを一匹……いや一人も殺していないので警戒される謂れはないと思うんですけど……。

 ああ、もしかしてフロスト・ドラゴンを警戒しているのかもしれませんね。下手に動いて怒りを買ったら恐ろしいですし。

 

「ご丁寧にどうも……して、私に何か用か?」

 

「はい、貴方達に是非ともお願いしたいことがありまして……実はドワーフの方々にお世話になっているんですけど、そこでお世話になる間の資金が足りなくてですね……そこで貴方たちクアゴアは鉱石の在処を嗅ぎ分けることができると聞いたので希少な鉱石がある場所を教えてもらえないかな~と思い訪ねて来たんです」

 

 はい、これが目的です。ドワーフの坑道はあくまでドワーフで管理されていて掘れる物も限られていますが、管理されていない場所なら何を獲ろうと自己責任になります。

 この地では強さだけならほぼ敵なしの自信がありますが、鉱石の採掘場所などの知識はありません。ならば知識があるのものを頼ればいいと思いこうしてクアゴア探しへ出向いたのです。

 

「…その要望を受けるメリットがないですね。我々からすれば折角の餌場を一つ失うことになる。こちらにもそれ相応の見返りがなければ」

 

 なるほど。確かにこれでは一方的過ぎた。ジルクニフとの契約でも双方に得のある関係でいようと言ったのならリユロとの関係もそうするべきでしょう。

 

「では、その場所で採掘した希少鉱石の内半分を貴方たちと分割する、というのはどうでしょう。何も独り占めしたいわけではないので。勿論、満足する量を掘り終えればその後はどうしてくれても構いませんので」

 

 今度は少し驚いた表情になりました。私が力で全てを従わせるとでも?そういうことをするのは一部だけです。

 

「何か問題でもありましたか?」

 

「い、いえ、それで結構です」

 

「そうですか、では案内よろしくお願いします」

 

 交渉成立!握手を交わしてミッションコンプリートです!さあ!今度こそ掘って掘って稼ぎますよー!!

 

 

 

 この後めちゃくちゃ儲かりました!

 

リザルト

 

・ルビー、サファイアなどの宝石

・金、銀

・ミスリル

・オリハルコン

・アダマンタイト

・その他諸々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺ・リユロはその報告を受けた時眉をひそめた。クアゴアの先遣隊が謎の人物に行く手を阻まれこちらに向かっていると。こちらの攻撃は通じず意にも介さず進行していると。

攻撃が通じない敵などいるのかと疑問に思いながら最後に伝えられた王は何処だ、という言葉に冷や汗を覚えた。

 もしやそいつは自分を抹殺すべくドワーフが作り出したゴーレムなのでは?ゴーレムならば攻撃が通じない理由もわかる。きっと希少な鉱石を惜しみなく使い作ったものなのだろう。もしそうなら勝てるのはやはり自分しかいない。もしくはフロスト・ドラゴンぐらいだろうと思案を巡らせ結論を出した。

 

 

「今すぐその場に向かう。案内しろ」

 

「し、氏族王自ら向かうのですか!?」

 

「思うにただのゴーレムではない。恐らくだが倒せるのは俺かドラゴン共ぐらいだろう。だが、聞くにこちらの先遣隊には手を出さず俺だけを標的にしているとなるとドラゴン共に頼んで始末してもらうのも難しいだろう。これがクアゴア全体を狙っているなら話は別だったんだが……。ともかく、話ができるという事は意思の疎通もできよう。まずは対話を試みる。ダメなら……どちらかが死ぬだけだ。」

 

 こちらに敬服するような顔を見せる側近を尻目に数人の精鋭を連れて現地へと向かった。先遣隊はどうなったか。殺されているか、それとも逃げ出したか。様々な考えが浮かんでは消えていく。そうしている内に報告のあった場所でみてしまった。

 

 

 これだけの数、決して二手に分かれたとて少なくない数の同胞がどうやったのかは分からないが無力化されていた。

 兵は一人として死んではいなかった。首から下を埋められるという普通なら思いもつかない方法で。

 そして、その先頭にいる兵に手をかざす──報告にあった謎の人物がいた。この光景を作ったのがヤツで何かをしようとしている。咄嗟に声を上げた。

 

 

「待たれよ!私こそはクアゴアたちを統べる氏族王ぺ・リユロである!」

 

 さあ、どう返す?どういう行動をとる?瞬きもせずジッと見つめる。すると少し驚いた顔を──仮面のようなもので目元は見えないが──したヤツがこちらを見て立ち上がり服の裾をつまんで挨拶を返してきた。

 

「…初めまして、私はアレーティアと申します。ドワーフとは違う種族ではありますが種族が異なる人間と思っていただければ幸いです。」

 

 ゴーレムではない。ドワーフとは異なる種族、意思の疎通は可能。敵意は感じない。むしろ友好的にも見える。……ならば俺を呼び出した理由はなんだ?ドワーフに雇われてきたのかと思うもそうではないように窺える。

 いくらクアゴア最強の俺でも戦いながらこの光景を作るのは不可能だ。相手は確実に俺を上回る実力者、油断せずに相手を見つめる。

 

「ご丁寧にどうも……して、私に何か用か?」

 

「はい、貴方達に是非ともお願いしたいことがありまして……実はドワーフの方々にお世話になっているんですけど、そこでお世話になる間の資金が足りなくてですね……そこで貴方たちクアゴアは鉱石の在処を嗅ぎ分けることができると聞いたので希少な鉱石がある場所を教えてもらえないかな~と思い訪ねて来たんです」

 

 少し呆気にとられるが油断しない。もしかするとドワーフに頼まれて我々の鉱物を奪うためにやってきたのかもしれない。ならばと思い切って言ってみることにした。

 

「…その要望を受けるメリットがないですね。我々からすれば折角の採掘場を一つ失うことになる。こちらにもそれ相応の見返りがなければ」

 

 これは賭けだ。もしもドワーフに雇われているならこの提案には乗ってこない。我々とドワーフはこの地の鉱石を奪い合う立場。決して共存など──ドワーフの捕虜はいるが──できない奪い合う立場だ。さあ、これをどう返す!?

 

「では、その場所で採掘した希少鉱石の内半分を貴方たちと分割する、というのはどうでしょう。何も独り占めしたいわけではないので。勿論、満足する量を掘り終えればその後はどうしてくれても構いませんので」

 

 呆気にとられた。半分?分割?氏族王としてクアゴアたちをまとめ繁栄へと導いた俺でも鉱石の分配を行っては来たが希少なものは手柄を立てたものにしか配らなかった。それをいともあっさり分けると?

 もしも相手が同じく強者のドラゴンなら間違いなく全てを献上しろとかもっと寄こせと言ってくるだろう。だがこの人間──アレーティアは違うらしい。

 強者でありながら独り占めせず分けあうのは強者の驕りか、それとも…。

 

「何か問題でもありましたか?」

 

「い、いえ、それで結構です」

 

「そうですか、では案内よろしくお願いします」

 

 こうして、なるべく早く事を済ませるべく近場の採掘場へ案内した。比較的希少な鉱石が見受けられる場所ではあるが大分掘り起こしたので大した量は残っていないだろうし、それでも一人分ならドラゴン並みに強欲でなければ満足する量が獲れるだろうとここにした。

 

「案内ありがとうございます。さて、運よく希少金属がザックザックと掘れればいいんですけど……」

 

 そう言い、ドワーフが使う道具を使い掘り始める。あのドワーフより細い体でよく振り回せるなと思いながら俺はその光景を眺めていた。

 

 

 

 そうして数分が経った後、アレーティアから思いもよらない声が聞こえた。

 

「うわあああああ!!金、銀めちゃくちゃ掘れますねここ!!文字通りザックザク出てきますよ!!」

 

「はあっ!??」

 

 思わず声が出る。まさか鉱脈でも見つかったのか?もしそんな場所にあるなら我々が気がつかないはずがない。

 しかし、現実は目の前で希少な鉱石を見てて面白いぐらい掘り当てるアレーティアを映している。本当に我々が気づかなかったのか、それともアレーティアの運がいいのかは不明だが結果的にこちらの利益にもなるのだ、笑ってみているのが正解だろう。

 

 だがしかし、その後もオリハルコンやアダマンタイトを掘り当てたアレーティアを見てコイツの運は底なしかと少し震えながら満足するまで掘り終える姿を見届けた。

 

 

「親切にありがとうございました。いずれまた会いましょう。」

 

「礼を言いたいのはこちらの方だ。これでドラゴン共に貢ぐ材も蓄えられた。また来るといい。お前ならば氏族を上げて歓迎しよう」

 

 

 こうして最初は不穏な出会いとなったが我々とアレーティアは友好の握手を交わし別れた。

 どうせ支配されるならドラゴン共のような欲深いものではなくああいう強者の方がいいと思いながら元の生活へと戻っていった。

 

 

 これは余談だが、あの後あの採掘場を掘り進めさせたが希少鉱石はもう採れなかった。あの時のアレは何だったのか、偶然か、それとも……?

 

 

 

 

 





これ書いてる途中で帝国ルートだけで分岐ルート三つぐらい書けることに気づいてどれを書くか悩む…。
ただ一つは特典小説ネタになるからどうかなって思いつつ既にこの作品オリジナル要素たっぷりというか原作にたどり着いてすらないからいいのかなと思ったり…

とりあえず後々アンケートさせていただきます。


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アレーティアのゼロから始まるドワーフ生活 ~金槌とハンマーって何が違うの~

短め(?)です。多分前回が長すぎました。

今更ながらオーバーロード四期良かったですね。
ラナーのダンスシーンには驚かされました。

聖王国編も楽しみです。出来れば前後編でやって欲しいという願望が…(笑)


 

 大量の希少金属(この世界基準)を獲得したので早速幾らか換金してもらいました。

 買い取ってくれたドワーフの人が目を見開いてどこでこんなに集めたのかと聞いてきましたが企業秘密です、とだけ答えておきました。

 いや~しかし結構な大金になりました!次から弁償が必要になったらリユロさんにまた鉱山を紹介してもらいましょう。

 

 さて、金銭も手に入れたので幾らかバザルさんに支払い、残りの金銭で鍛冶屋に弟子入りします。

 そもそも何故鍛治を習いたいと思ったかといえば簡単に言えば実験です。私は武技使用時は魔法使用不可、魔法使用時は武技使用不可……即ち戦士、魔法詠唱者という2つのビルドを切り替えて使うことが出来ますがこの2つしか出来ないのか?という疑問のもと生産職も身につけられないかと考え、こうして教えを請おうとしていた訳です。また、仮に身につけられたとしても経験はどうしても必要なので、戦士時や魔法詠唱者時は見本とする人たちがいますけど生産職の人はほぼいませんので。

 何より、自分だけの武器…欲しくないですか?欲しいに決まっています!!

 ジルクニフに強請れば支給されたアダマンタイト製の鎧みたいにオーダーメイドしてくれますが、自分に合っているかというと微妙です。鍛冶ができるようになれば今支給されているものもリメイクできるかもしれません。夢が広がりますね。

 なので、どうせ弟子入りするなら1番腕がいい人に習いたいと思い、とりあえずバザルさんに誰が1番腕がいいか聞いたところ、それは鍛治工房長だと言うので早速会いに行きましたが……。

 

 

「いきなり来て弟子にしてくれじゃと!?知識もない上にドワーフでもない者に教えることなぞないわ!!出直してこい!!」

 

 はい、断られてしまいました。当然ですね。原作でも職人気質で気難しい印象がありました。そんな人にいきなり素人が鍛冶を教えてくれ、と詰め寄っても相手にされないでしょう。お酒も飲めませんしね。ちょっと考え不足でした。

 なので、他に沢山いる弟子の方々に誰か鍛冶を教えてくれないかと頼んでみましたが、誰もが兵士の装備やマジックアイテムを作るので手一杯な状況だから他を当たって欲しいと言われてしまいました。……体のいい厄介払いじゃないですよね?

 ただ代わりに比較的手が空いてるだろうという職人を数人教えて貰ったのでそちらを頼ってみます。

 

 〇

 

 〇

 

 〇

 

 

「お主が鍛治を習いたいという娘さんか?ワシはゴンド・ファイアビアドという。ワシでよければ基礎ぐらいなら教えてやれると思うがどうじゃ?」

 

「アレーティアと申します!こちらこそご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」

 

「ははは!元気がいいのう!まずは鍛冶をするために必要なことがあってじゃな、それは────」

 

 まさかの原作キャラ遭遇です。ゴンド・ファイアビアドさん、ルーン工廠…もといルーン技術開発家を名乗り過去の輝かしき栄光を取り戻すべく研究を続けている方です。

 残念ながらレベルの関係上ルーン工廠としては実を結ばなかったものの、恐らくどのドワーフよりもルーンの可能性を信じ情熱を注いでいると思います。

 鍛治工房長に習えなかったのは残念でしたが、こうしてルーンの知識を持っている御仁に教えていただけるのは幸運だったのかもしれません。機会があればフールーダにでも紹介してみましょうか。案外お互いに話せば新しい気づきがあるかもしれません。

 

 思えばルーンは原作──ユグドラシルには存在してはいたけど無かった技術。まだ全貌が明らかになっていない未知の技術とも言えます。過去にあった六つのルーンが刻まれたハンマーが最高傑作とのですが、これを超える数を刻むことが出来ればもしかするとユグドラシルの武具にも匹敵するものが作れるかもしれません。

 

 現地の素材では始原の魔法を使って作られた竜の秘宝でもない限りユグドラシル製の物には敵いませんからね。私もいくつかそれらしい物をクソ親父の宝物庫からパクって持ってはいますけど、レアリティ的には〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉によると最高でも伝説級(レジェンド)ですね。神器級(ゴッズ)とか夢のまた夢です。

 

 …よくよく思えばどうしてあの宝物庫にユグドラシル製のアイテムがあったんでしょう?もしかして私の実力が神人みたいなのってあのクソ親父がプレイヤーの子孫的なアレなんですかね?うーん…考えるのはやめましょう。きっとその内分かるでしょう。むしろ分からなくてもいいです。誰かの地雷を踏みそうな気がするので…。

 

 話を戻します。ユグドラシルのアイテム作成にはデータクリスタルというモンスターの素材とは別のアイテムが必要らしく、これの有無が現地とユグドラシルのアイテムの格差を生じさせているのかもしれませんね。この世界でそれを手に入れるには過去に転移してきたプレイヤーの遺産なんかを探す必要があります。探すとしたら…大陸の中央とかずーっと南の方か、もしくは王国から南西にある王国崩壊直前に青の薔薇が向かった滅びた王国の跡とかですね。後は八欲王が支配してたという都市のほぼ確実にギルドの跡地であるエリュエンティウ。

 もしかすると、このアゼルリシア山脈の大裂け目の最下層にあったりするかもしれません。そこは原作でも調査されていませんし。

 後、これはうろ覚えなんですが……今回私が標的にしているラーアングラー・ラヴァロードのいる溶岩地帯の溶岩は天然の転移門から流れてきているという記述があった気がします。その転移門の先を調べてみるのも面白いかもしれません。

 大分脱線しましたがゴンドさんの説明も終わり、実際に鍛治を体験してみます。

 

 

 

 

 ところで金槌とハンマーって何が違うんでしょう?大きさ?

 

 

 

 

 〇

 

 〇

 

 〇

 

 

 ゴンド・ファイアビアドはルーン工廠を名乗っているが、偉大な祖父と父の才を受け継ぐことが出来なかった。それでも日々ルーン技術の可能性を模索していた。

 しかし、研究を続けるも目に出る成果は出ず何より自分の発想を実行しようとしても自分にそれを行える技量がなく、ただただ鬱屈した日々を過ごしていた。

 そんなある日、外からやってきた人間の娘が鍛治を教えてくれる人を探しているという話を聞いた。大金を所持しており金払いは良さそうだと──ルーンの研究には資金と鉱石が必要なため──名乗りを挙げた。ここしばらく何の成果も得られていなかったのもあり、ちょっとした気晴らしにという気持ちもあった。誰かに教えてる最中に気づくこともあるだろうと考えながらアレーティアと名乗る顔を隠した娘に鍛冶を教え始めて数日が経ち……ゴンドは目の前に可能性の原石を見た。

 

「うーん…ダメですね。私が欲してるレベルに達してない……。やっぱりもっとレアな鉱石を使わないとなのか……」

 

「いや、これでも十分だと思うんじゃが……とんでもない出来じゃぞ?始めて数日なのに腕は間違いなく儂を上回ったではないか……。この剣だって希少鉱物を使っておらんのにどこぞの名剣と比べ物にならんぐらいに鍛えられておる。何が不満なんじゃ?」

 

「これじゃあ使い捨てる分には構いませんけどメイン武器として使うには弱すぎるんですよ。折角鍛冶が出来る様になったんですから自分で作った武器を使ってみたいんですけど、まだ足りないんです。」

 

 そう言い出来た剣をその前に作っていた武器の山に重ねる。重ねられた武器の高さは悠にゴンドの身長を越している。どれもここ数日で槌を振るい始めたとは思えないほどの出来栄え。商人会議長や鍛治工房長に見せれば良い反応が返ってくるには違いないが、それでも彼女は満足しなかった。

 

 正直に言えばもうゴンドが鍛冶について教えられることは何もない。一を教えれば十以上になって返ってくる。わずか数日で、どの鍛冶職人の腕をも抜いてしまったのではないかと思わせるほどの才覚。才能がないゴンドの心の中には嫉妬心が渦巻いていた。

 …しかし、それと同時に、もし彼女がルーン技術を身につけたらどこまで辿り着けるのかという希望が生まれてもいた。自分に技術は無いが知識はある。亡き父も技術書を読み解いた自分の考えを肯定してくれた。故に、ゴンドは自分で成し得なかった夢を、ルーンの未来を彼女に託してみることにした。

 

「…それなら、魔化ではなくルーンを刻んでみるのはどうじゃ?魔化とは違い時間はかかるが金は魔化よりかからんし刻む文字によってはより強化出来る。儂は……ルーン工廠としては無能じゃが知識だけは持っておる。他のルーン工廠を紹介してもいい、どうじゃ?やってみないか?」

 

 

 

 

 ──溺れる者は藁をもつかむという言葉がある。ゴンドはまさに今溺れていた中で藁を掴んだ。

 そして幸運なことにその藁は藁ではなく……溺れる自分を引き上げるロープだった。

 

 

 

 

「ルーンですか?帝国にもそういった物が刻まれている品々があるのは知っていますが……詳しく聞かせてもらっても?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回予告という名のナニカ


アレーティア「実験に希少鉱石が足りないんでまた案内してください」


リユロ「ま、まあいいだろう」


数日後


アレーティア「足りないからまたお願いします」


リユロ「また!?あんなに獲ったのに!?」


更に数日後


アレーティア「フロスト・ドラゴンの素材が欲しいので案内してください。」


リユロ「」


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アレーティアのゼロから始まるドワーフ生活 〜未知とは既知に変えるもの〜


今回、独自設定とオリジナル要素を多々含んでいますのでご注意を。



 

 ゴンドさんにルーン技術を習い、他のルーン工廠の方に指導していただいてから早数日……完成しました。()()()()()()()()()()()!名付けて〈セブンスター・ルーン〉とでも名付けましょうか。

 

 まさか伝承のあのハンマーを超える程の物が出来あがろうとは……ゴンドさんも指導してくれたルーン工廠の方も泣いています。ルーンの新たな可能性を見たと。噂を聞きつけて見に来たルーン工廠の方々も目を輝かせて剣を見つめています。

 ゴンドさんも「儂は…儂の考えは…ルーン技術への想いは間違っておらんかったと……証明してくれてありがとう……!!」と号泣しながら手を握ってくれました。

 それもそうですね、ゴンドさんの考えはどれも間違ってはおらず、恐らくレベル的な問題で再現出来なかった事が複数あったように感じました。

 ただ…男泣きしてる皆様には申し訳ないんですけど、正直物足りないです。

 

 何せルーンを()()()()刻めなかったのですから。

 

 正直、七つで十分だと思います。()()()()()()()()、という枕詞が付きますが。

 しかし私が目指す高みはもっと上、ユグドラシルの武具のレベルを目指しています。この剣もレベル的に言えば凡そ五十程度でしょうか?

 ただ、このルーンを学ぶ過程で思わぬものを身につけられたのは予想外の収穫でした。それについてはまた後程語ります。

 

 七つしか刻めなかったのは恐らく素材に問題があります。この七つ刻んだ剣はアダマンタイトやオリハルコンといった希少金属を惜しみなく使っています。

 ぶっちゃけ、私が前回採取した量では試作なども含めて到底足りなかったのでまたリユロさんに案内して貰い、今度は掘り尽くすレベルで掘りまくりました。必要としていたオリハルコンやアダマンタイトなどの鉱脈が見つかったのは本当に幸運でしたね。

 

 あの時のリユロさんは「こんなに掘れるならもっと早く掘っておくんだった。なんで…なんでもっと早く教えてくれなかったんだ」と項垂れていましたが気のせいです。案内したのはリユロさんなんで私に責任はありませんね。

 ちなみに、あまりにも多く掘りすぎて無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入りそうになかったので私の奥の手の一つ…〈根源の星霊召喚(サモン・プライマル・スターエレメンタル)〉で呼び出した根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)に運ばせました。

 

 一応この根源の星霊を紹介するとレベル九十相当の高位精霊で私が召喚できる最強のモンスターです。見た目は人型ですが、外見は皮膚が(?)宇宙のようで、星空のように所々が発光している…と言えば分かりますか?もっと分かりやすく言えばスマブ〇のタ〇ーとか無〇転生のヒ〇ガミみたいなやつだと思ってください。

 

 初めて召喚したのはあのクソ親父にベヒーモスで半殺しにされた頃です。あのベヒーモスより強いモンスターを召喚できれば……と召喚魔法に没頭していた頃に急に使えるようになったスキルです。

 嬉々として使ってみたものの当時の私のレベルでは制御できず、あのクソ親父がベヒーモスと一緒に全力で戦ってようやく倒せたというぐらいには強かったです。その後命の危機もあってか、アドレナリンがドッパドパのせいか、ものすごく興奮して抱きしめて「私のアレーティアが!私のベヒーモスを上回るものを召喚できるなんて!素晴らしい!素晴らしいいいいい!!」と大声を上げていたのは…あまり思い出したくない思い出ですね。

 

 そんな原初の星霊でしたが、ここ最近でようやく制御できるようになってきたのでこうして試しに召喚しています。

 レベル九十なだけあって使う魔法は強力。私も使える〈隕石落下(メテオフォール)〉や〈彗星落下(コメットフォール)〉は勿論、〈暗黒孔(ブラックホール)〉といった星や重力を操る広範囲を対象とした魔法を得意としていて、今回はこの重力を操る魔法で大量の鉱石を運んでもらった訳です。とっても便利です。完全に制御出来るようになったらあのクソ親父をベヒーモスごと……フフフ。

 

 さて、この剣を量産しろと言われれば私であれば可能です。製作に掛かる時間も魔化に比べて遜色ないところまで出来ています。ですが、コスト的な面を考えるとあまり現実的ではないです。

 ただでさえ希少なアダマンタイトやオリハルコンといった希少鉱石を大量に使いますから素材的な問題があります。

 また、素材に妥協したとしても低位、中位のルーンであればミスリルまででも三文字までは問題なく刻めますが、もっと多くのルーンを刻むにはそれ以上の鉱石を用意しなければなりません。そしてアダマンタイトやオリハルコンでも低位、中位、高位のルーンを含めても七つまでが限界でした。

 

 即ち、鉱石だけでは七文字が限界なので、また別の素材を模索しなければなりません。

 なので……試し切りも兼ねていよいよ挑戦しに行きましょうか!ラーアングラー・ラヴァロード!!

 

 

 〇

 

 ○

 

 ○

 

 

 さて、ゴンドさん、バザルさん、そしてゼンベルを引き連れてやってきました王都フェオ・ベルカナへの難所の一つ、溶岩地帯!

 当初の目的、チョウチンアンコウの様なモンスターのラーアングラー・ラヴァロードに遂に挑みます!

 さて、今回は魔法詠唱者(マジック・キャスター)として戦いますが…なんと、この〈セブンスタールーン〉は魔法詠唱者でも使える剣となっていて、私にとっては戦士化、魔法詠唱者化両方で使える優秀な武器になっています。

 なぜこの様な仕様になったかは…ルーンが関係している、と言えば分かりますかね?

 

 

「ところで…ゴンドさんとバザルさんは分かるんですけど、ゼンベルはどうして?この溶岩地帯は普段湿原や湖畔で暮らすリザードマンには厳しい環境ですよ?」

 

「いやあ折角だからよ、こういうところになんて滅多に来れるもんじゃあねえし見物にな!…ついでと言ったら何だが、後は姐さんの戦いっぷりを見てみたいわけよ」

 

「そうじゃな…ゼンベルも修行僧(モンク)としての力をつけて来とるし、偶にはワシ以外のヤツの戦いを見るのも勉強になるからの。それに…ワシもお前さんが心配での……万が一があったらワシらがお前さんを助けるから、思う存分戦ってくれ」

 

「儂としてもルーンの可能性を拓いてくれたお嬢さんがこんなことをしなくてもと思うんじゃが……せめてモンスターを変えんか?ラーアングラー・ラヴァロードはあまりにも危険すぎる。今からでも遅くない、一度帰ってゆっくり考えた方がいい」

 

 

 う~ん、ゴンドさんもバザルさんも私を心配してくれるのはありがたいんですが…。案内だけしてくれたら帰ってくれて構わなかったんですよね。

 まあ、守りながら戦うのは少々手間ですが出来ないことはないのでこれも一つの経験として糧としましょう。

 

「では一応防護魔法は掛けておきますけど私とアレの戦いに巻き込まれないようにしてくださいね?」

 

 いくつか魔法でバフを盛ったところで…いざ開戦!

 〈飛行(フライ)〉を使用し溶岩の海へと飛翔します。こちらに気づいたのかラーアングラー・ラヴァロードはその提灯のような疑似餌のような部位をこちらへと伸ばしてくる。こちらを餌と勘違いしているのか……。

 

 

 

 

──ならば教えてあげましょう。

この日この時、私の(素材)になるのはお前だと──。

 

 

 

 

「まずは地の有利を奪いましょうか。〈魔法効果最大化・激流(ワイデンマジック・レイジング・ストリーム)〉」

 

 ダムの水の放出を彷彿とさせる大規模水属性魔法〈激流〉でまず周囲の溶岩を一気に冷ましていきます。全てを冷ますことはできませんが一部をこうして固めることによって足場を確保します。転移門から絶えず溶岩が流れてきますが一時的にでも足場を確保できればいいので無視します。

 固まった溶岩の上に降り立つとラーアングラー・ラヴァロードは餌が近寄って来たとばかりに疑似餌のような部位──触腕をこちらに伸ばしてきます。なので、早速〈セブンスター・ルーン〉の出番です。武技は使えませんが私の戦闘技術には何ら遜色ありません。触腕を切り裂いてやります。

 

 ズバッといい音を立てて触腕が切り裂きました。これに驚いたのか、ラーアングラー・ラヴァロードは怒り一度溶岩に潜り勢いをつけて飛びかかってきます。なかなかの速度ですが私からすればまだ遅い。むしろ飛び散る溶岩の方が危険です。大きく開いた口に無詠唱化した〈衝撃波(ショックウェーブ)〉を撃ち迎撃します。

 勢いは落ちそのまま冷えて固まった溶岩の上に落下しました。足場に亀裂が入りましたが構わず接近して剣で斬りつけます。この鱗も確か原作でオリハルコンを凌ぐ硬さを持っていると言われていた気がしますがこの剣──〈セブンスター・ルーン〉の前では面白いぐらい簡単に切り裂くことができました。

 この剣に刻まれたルーンの付与効果は七つ。素材はアダマンタイト、オリハルコン等の希少金属を高レベル生産職の鍛治を得た私が鍛えているんです。王国のレイザーエッジを超える切れ味を持っていると言っても過言ではありません。

 この日まで強者だったラーアングラー・ラヴァロードは長らく感じていなかったであろう痛みに苦しんでいます。ちなみに戦士化して武技かスキルで斬っていれば一撃でした。魔法詠唱者で良かったですね!

 そして、トドメとばかりに〈セブンスター・ルーン〉でラーアングラー・ラヴァロードの皮膚にルーン文字を刻んでいきます。これは生産職としてのルーンの刻印ではなく、魔法詠唱者としてのルーンの刻印、攻撃のためのルーンです。

 刻んだ文字は″(イス)″氷のルーンを刻み終え魔力を込めれば文字が光り出し、刻んだ箇所から魔法が発動します。

 ラーアングラー・ラヴァロードの皮膚を突き破り私の身の丈を超える大きさの氷が出現しました。ラーアングラー・ラヴァロードは痛みにのたうち回って溶岩に飛び込んで逃亡を図った様ですが逃がしません。

 

「〈刻印魔法強化・(ルーンマジック・)連鎖する(チェイン・)龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 先程と同じように剣で空中に″(ライゾ)″雷のルーンを刻み発動した〈連鎖する龍雷〉は溶岩に潜ったラーアングラー・ラヴァロードを捕捉し容赦なくその身を焼き尽くした様です。その証拠に溶岩から岸の方へと打ちあがり動かなくなりました。少々呆気なかったですが、難度百四十相当のこの世界では上位のモンスターの討伐に成功しました!

 

 そしてこれこそ、思わぬ副産物である刻印魔法(ルーンマジック)。武器ではなく敵や空中、地面といった箇所に刻み発動する魔法です。恐らくユグドラシルにはないタイプの魔法です。まあ、知られてないだけで存在はしたかもしれませんが、この世界においては私だけが使える魔法だと思います。

 この刻印魔法は一文字で発動するものから、元々存在する位階魔法を強化する形で使用する付与魔法としても使えます。

 元よりある魔法最強化(マキシマイズマジック)と併用して使うとしたら刻印魔法最強化(ルーン・マキシマイズマジック)とかになるんでしょうか?まだ試したことはありませんが使えたら第七位階ですらこの威力なのでもっと跳ね上がるのではないですかね?

 ただ私の使える高位の魔法ってどれも規模がとんでもないので人がいるところで使おうものならどんな被害が出るか分からないので試す場所は考えないといけません。

 ちなみにこの剣でなくとも普通に指とかでもルーンは刻めますが、この〈セブンスター・ルーン〉で刻むとボーナス効果があるのでそれも利用しています。

 

 さて、こうして当初は倒して経験を積むことが目的でしたが、ルーンという思わぬ副産物のお陰でこの素材にも利用価値ができたというもの。現時点ではこの〈セブンスター・ルーン〉が最高傑作ですが、この素材や他の高レベルのモンスターを素材にすれば七つ以上ルーンを刻むのも夢ではありません。

 胸を高鳴らせて次はどんなものを作ろうかと思いはせているとゴンドさんが私のもとに駆け寄ってきました。

 

「お、お嬢さん今のはなんじゃ!?ルーンで魔法を使ったのか!?」

 

 鬼気迫る感じですね。まあ…確かにルーンを刻んで武具を作るだけの技術だったのに、急に魔法としても使えるなんて言われればルーン開発をしているゴンドさんにとっては信じられないことなのかもしれません。

 

「ええ。この剣でルーンを刻まなくても……ほら」

 

 一応目の前でも見せてあげました。すると目を輝かせて大声で笑い始めました。気でも狂いましたか!?私何かやっちゃいました!?

 

「儂は…ルーンはまだ先があった!これを笑わずしていられんわい!これを廃れゆく技術と思っていた連中を見返せる!ルーンはまた蘇るんじゃ!嬉しくて笑いが止まらんわい!わはははははは!!」

 

 

 気が狂ったわけではないようなので安心しました。後ろの二人もちょっと引いてます。なんでしょう、どこかフールーダに通ずるものがあるというか……今度紹介してあげましょう。

 

 

 

 

 こうして私のドワーフ生活は終わりを迎えました。

 ラーアングラー・ラヴァロードを倒したので目的を果たした私は多くのドワーフの方々に──主にルーン工廠の方々に──別れを惜しまれながらフェオ・ライゾを後にしました。

 ゼンベルには折角なので作ったルーン武器の一つをあげました。またいつか会おうと握手を交わして。

 ああ、勿論ルーン工廠の方々にもいくつか置いていってますよ?六文字ぐらい刻んだやつもありますが、アレはそこまで出来は良くない(アレーティア基準)ので置いていっても問題ないです。

 

 また機会があれば来たいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ ダイジェスト風味

 

 

 

 そういえばフロスト・ドラゴン!忘れていました!!リユロに案内してもらいましょう!!

 

 

「何用だ人間の小娘!その身につけている装備を置いて去るなら見逃してやっても……」

 

「武技〈炎斬〉!!」

 

「ぐわああああああ!???」

 

「命が惜しければ卵と鱗と牙と骨と……諸々私に差し出しなさい」

 

「父上!おのれ人間風情があああああ!!」

 

「やめなさいトランジェリット!力の差が分からないの!?」

 

「その名前!原作で死んでたしこいつぐらいはいいですよね!!武技〈閃光〉!!」

 

「なにを……」

 

 首を落としてやりました。ヨシ!一匹丸々手に入ったのは嬉しいですね!

 あ、ついでに宝物庫の中の物も少々拝借しましょう。私が見終えたら次来た時にでもルーン工廠の方々にあげれば喜ばれるでしょう。

 

「ば、ばかめ。その宝物庫は我々が全力で攻撃しても開かな……開いただとぉ!?」

 

 胸元火傷しているのに元気ですねオラサーダルク。他の妃たちなんて震えて動けなくなっているじゃないですか。寒いんでしょうか?

 扉については多分今盗賊化しているのか、鍵開けスキルみたいなものが発動したのでしょう。あっさり開きました。

 さてさて……おお!それはもう見たことがないぐらいの財宝が山のようにあります!これだけあればまた帝国で私がやらかしたとしても問題がないぐらいにありますね!

 ただ、これは本来ドワーフの物……いくつか拝借するとはいえ全て持ち去る気はありません。

 今後の武具製作に役立ちそうなものとルーンの技術書などを無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入れて宝物庫を後にしました。

 ああ、ちゃんと扉は閉めないとですね。指さし確認ヨシッ!

 

「何故閉めた貴様あああああああ!!」

 

「開けたら閉めろって習わなかったんですか?」

 

「黙れええええええ!その宝は全て私のも……」

 

「いいえ!持ち帰って結構です!卵もここに!なのでどうか……」

 

「キーリストラン!お前えええええ!!」

 

 喚いてばかりでうるさいですね。無詠唱化した〈沈黙(サイレント)〉で遮音します。

 

「話の分かる相手は嫌いじゃないですよ?卵は二つですか……そんなに多産じゃないんですね。」

 

「申し訳ありません。元々我々ドラゴンは長命故に子を多く残さないので……」

 

「いえいえ、お気になさらず。ああ、それと……私も長命でして、何事もなければ後三百年以上は普通に生きられると思いますので……

 

今後も何かあったらよろしくお願いしますね?

 

 あれ?なんか絶望した様な顔をしてます。末永くよろしくお願いします、と伝えたつもりなのに……。

 

 とりあえず、目的のものは全て手に入れたので帝国に帰りましょう!溶岩地帯の転移門はその内通ってみます!ワクワクが止まりませんね!!

 

 

 





・根源の星霊召喚、根源の星霊
ブルーレイの特典「プロローグ 下」に名前とレベルだけ登場したモンスター。
登場してすぐ退場したため詳細不明。
ベヒーモスと同じく普通の手段では召喚できないがアレーティアの場合、生まれながらの異能によって授かったものなので設定はオリジナル要素たっぷり。
ベヒーモスより強い。


・刻印魔法(ルーンマジック)
完全オリジナル、習得条件はルーン系の職業とドルイドを習得していること。
元ネタはケルト神話でドルイドがルーン魔法を使っていたというところから。
魔法というよりスキルという方が多分正しい。
最強化した魔法を更に強化できるが、代わりに二重、三重化は出来なくなる。

なお作者はルーンにわかなので間違っている可能性はあるので間違っていたら申し訳なく。

・ゴンド
今回最大にアレーティアの恩恵を受けた人。
ルーンの新たな可能性を見て他のルーン工廠をまとめあげ技術の復活と改革を目指す。


・ゼンベル
基本は変わらないものの、アレーティアの作った槍を持っていてルーンが四つ刻まれている。多分フロストペインより強いけれどゼンベルは自分の力だけでフロストペインの所有者を倒したいはずなのでザリュース戦では使わないはず。

・ラーアングラー・ラヴァロード
被害者その1
この世界でも割と上位の強さを持っていたため、試し斬りもかねて倒された。
炎に対する完全耐性は持っていたが雷や氷には耐性がなかった設定。
もしもアレーティアが超位魔法の天地改変なんかを使えていたらもっと楽に倒されていた。

・ぺ・リユロ
被害者その2
気づけばアレーティアに採掘所を三ヶ所掘り尽くされた。
もっと早く掘っていれば全てクアゴアの物になったのにと案内したことを後悔している。
更にフロスト・ドラゴンの元に案内させられてしまいドラゴンに気づかれる前に別れたもののバレたら……

・オラサ―ダルク
被害者その3
アレーティアとの実力差を理解できずわからされた挙句、自分達では開けられなかった宝物庫の中身を奪われ、子供一人と卵まで奪われた。
傲慢だったのがいけなかった。命あるだけ御の字。


・トランジェリット
被害者その4
原作で死んでたから殺してもいいよね!という脳筋思考で処された。
後にルーン武具の礎となる。

・キーリストラン
被害者その5
原作で上手く立ち回ったヘジンマールの母龍
勘違いでもう逆らえないと思ってしまい、今後は他の妃と一緒にオラサーダルクを抑えるべく行動する予定

・ジルクニフ
被害者その6…もとい0
次回、帰って来たばかりのアレーティアを一発ぶん殴ろうとしているがそれを超える厄介ごとをアレーティアが持ち帰ってきたため胃に大ダメージが入ることが確定



ここまで読んでくださりありがとうございます。
遂にUAも20万超えと嬉しい悲鳴を上げています。
また、コメント、高評価はとてもモチベーションが上がるのでどうかよろしくお願いします。



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キャラクター紹介 アレーティア・ホウガン(帝国ルートpart2)


お待たせしました、アレーティアのドワーフ生活後のキャラ紹介になります。

前回と変わっている個所もありますのでご注意。あくまで参考程度にご覧ください。

現状part1は修正する予定はないのでご注意を…。


 

アレーティア・ホウガン

 

人間種──エルフ(?)

 

年齢──17歳(15話時点)

 

役職──エルフ国王女→バハルス帝国"粛清騎士"

 

住居──エルフ国王城→バハルス帝国皇城(14話時点)

 

誕生日──オックス・7日

 

趣味──自己鍛錬、勉強、花々や小動物を愛でること(エルフ王国では許されなかった反動もあり)

 

職業レベル(戦士時)──ファイター、マスターファイター、ウェポンマスター、ガーディアン、戦姫、ケルティックウォリアーなどから合計85レベル(15話時点)

 

職業レベル(魔法詠唱者時)──ドルイド、ハイ・ドルイド、ルーン・ドルイド、サモナー、エレメンタリスト(星霊系)、フォレスト・メイジ、ウォー・ウィザード、■■■■・■■■■■■などから合計85レベル(15話時点)

 

職業レベル(生産職時)──ウェポンスミス、アーマースミス、アイテムスミス、ルーンスミス、スーパースミス、マスタースミス、ルーンマスター、鍛冶師などから合計85レベル(15話時点)

 

生まれながらの異能(タレント)──簡単に言えば⬛︎⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎)⬛︎⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎)。もしくは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の劣化版。一日に⬛︎⬛︎まで使用可能。

⬛︎⬛︎に使う場合は⬛︎⬛︎⬛︎を消費する。

このタレントの存在を知ったらアインズは絶対に欲しがる。もしくは全力で排除にかかる。

アレーティアがこの生まれながらの異能の詳細を知り使いこなせれば更なる強化が見込めるが現状は不明。(本人が生まれながらの異能を調べることを忘れているため)

実は作中でも何度か発動している。

生まれながらの異能というよりスキルという方が近い。

 

 

所持スキル

 

天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)

タレントによって六歳の初戦闘時に得たスキル。簡単に言えば全ての職業レベルをジーニアス化(?)…総入れ替え出来る。

これによって戦士、魔法詠唱者の職業を得ることが出来ている。

デメリットとして戦士時は魔法が使えない。魔法詠唱者時は〈武技〉が使えない。(現時点)

しかしそれぞれの自己強化(バフ)はそのまま引き継がれる。

生産職にも置き換え可能。アレーティアが無意識に使用している。

一日に四度まで使用可能だったが、使用頻度が多くスキルの熟練度(?)が上昇しレベルⅡになり一日に七度使用可能に変化している。最大レベルはⅢ。

無意識時に使っている時の職業選択は自動だが、任意にすることで自分の好みのビルドにすることも可能。

 

余談だが戦士職が当初はメインで魔法職は生まれながらの異能で身についたので本職は戦士。デケムも魔法で戦士職を得ているのを知っていたのでそこを伸ばそうとしていた。

 

●経験値取得増大(大)

タレントによって得た常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。文字通り経験値取得率が上がる。その為かアレーティアは成長が早い。

スキルを得る原因はデケムの教育から一歩でも早く逃れたかったから、早く強くなれればいいのにと思ってから発現した。

 

なお、デケムは娘の成長の早さにとんでもなく喜び、寧ろ教育がよりハードになった。なんなら一度ベヒーモスで殺しかけている。流石にこの時はやり過ぎたと反省している。アレーティアからは決定的に嫌われた原因の一つ。

 

●根源の星霊召喚

魔法詠唱者時のみ発動可能。デケムのベヒーモスに対抗して身についたスキル。デケムと違い現時点では制御不能な為使っていない。八十レベルを超えれば使いこなせる。

 

これを初めて見て止めたデケムは自分の才能を引き継いでいるアレーティアを更に溺愛した。アレーティアの目は死んだ。

 

●状態異常無効(毒、麻痺、即死など)

森での戦争中に身についたスキル。本当に死にかけたのでこのスキルが身についた時は飛んで喜んだ。

基本的には命に関わる状態異常が無効になる。

しかし、それ以外の状態異常は効いてしまう可能性が高い。

アインズの心臓掌握(グラスプ・ハート)は無効化出来る。

 

●刻印魔法Ⅰ

ルーンマジック。ルーン文字を刻み魔法を行使するスキル。一日の使用回数はないが一時間に最大30文字まで使用可能。

魔法の強化に関しては文字数が多ければ多いほど強化されるが反発する文字、同じ文字を多数使用しても効果はなくルーン文字への理解が必要。

経験値を消費することで魔法の効果が大きくなる。

また、戦士時にも使用出来る。

 

●概要

エルフ国王女として生まれた前世男の転生者。

前世では色々な作品を嗜んでおりオーバーロードも好きな作品の一つだった。ライト層といえば伝わるだろうか。

生まれたばかりの頃はファンタジーな世界に転移したな、と思い優しい父(当時)の下で穏やかに暮らしていた。

しかし6歳の頃、戦場に放り出されてそこから人生は一変。生きるか死ぬかの戦場に出ることを強要される生活が始まる。この時この世界がオーバーロードの世界だと気づいてしまう。

元々温厚な性格だが、この生活のせいで色々壊れてしまった一面がある。

例えばデケムに近親相姦宣言をされてから自分に色目を使う男を全力で殺しにかかったり、デケムに就寝時ベッドに侵入され身体を弄られた時、キスされた時に身を震わせるほどの恐怖を感じたことから無意識に抵抗しないとヤられると思い過剰防衛する傾向になったことなど。

元男である為そういう感情には割と敏感。

ジルクニフは同年代かつ互いに利用する仲なのでこの対象にはならないが…。

ただ、とある女性との生活で大分落ち着きを取り戻しており、女性であることを受け入れるようになっていく。

 

無意識に手に入れたスキル経験値取得増大で強くなるスピードが上がり過ぎたせいで常に格上を用意されてしまう。そして勝って強くなってしまうの繰り返し。常に死が目の前にある生活に嫌気がさし12歳の時、陽光聖典との戦闘中のドサクサに紛れてエイヴァージャー大森林を脱走。運良くカッツェ平野に流れ着きバハルス帝国へと招かれる。

 

口調は幼少時から王族であると知って丁寧な言葉遣いを心がけている。時折、イラついた時など乱雑な口調になる。

原作を知っているはずなのにそれを度外視した行動をとるのは、最終的に原作通りになるはずだから先に帝国の物にしても最終的には同じだろうという根拠のない考えから。

なお、既に多数やらかしているため当然全て原作通りとはいかない。

 

 

●容姿──身長152cm、B76W53H79(17歳時)

白に金色が薄らかかったセミロングヘア。

どこかあどけなさを残す大人しめの顔をしている。王の相と呼ばれるオッドアイを持つ。(戦士時と魔法詠唱者時で眼の色が変わるという裏設定があった)

基本的には帝国製のバイザーを着用し目元と耳を隠している。

戦闘時はアダマンタイトで作られた鎧を身につけている。

普段着は白のワンピースや男装など動き易い格好を好む。

一度メイド監修の下、ドレスを着させられそうになったが全力で逃げ出した経験あり。しかし、とある人物の勧めで受け入れる様になってきた。

 

●夢──とりあえずは原作開始後も生き延びる事。

可能であれば平穏に争いのない場所で暮らしたい。

 

 

●人間関係

デケム・ホウガン──クソ親父、クソ親父より強くなったと確信を抱き始めたので、その内お礼参りに行こうと思っている(お礼参りに行った場合、帝国ルートからエルフ国ルートに切り替わる)

 

ジルクニフ・ルーン・ファーロード=エルニクス──同年代だからか陛下と敬いながらもどこか友人感覚でいる。

毎回やらかすのを悪いと思いながらこの関係を好んでいる。

 

フールーダ・パラダイン──帝国に誘ってくれた恩人。それは別として魔法のことは全力で隠す…が遂にバレる。というかバラした。ルーンや位階魔法について毎日付きまとわれて鬱陶しがっているが頼りにはしている。

 

帝国四騎士──私が育てた!それなりに親しい関係。武器とかいっぱい作ってあげた。

ルミリアとバジウッドは相性がいい。一番信頼しているのはナザミ。一番苦労させているのがトーマス。

 

スレイン法国──クソ親父が何したかザックリしか知らないけど、何も知らないエルフまで巻き込むのやり過ぎじゃない?

相手から仕掛けてきたらとりあえず反撃はするが、こちらから関わることはない。(帝国ルート)

 

名前も知らない姉妹たち──かつて死んでいった名前も知らない姉妹たち。デケムを嫌う最大の原因であり、救えなかった罪の象徴。

来世があったなら平和な世界で生きて欲しいと願っている。

 

 

●所持装備

 

・セブンスター・ルーン──ルーンが七つ刻まれてた剣。長さは五十センチメートルほど。アダマンタイトやオリハルコンなどの希少金属を惜しみなく使って作られた。

戦士でも魔法詠唱者でも使えるため何かと重宝する。魔力量的にはレベル50程度なので仮にアインズと戦うことになればこの剣では傷をつけることは敵わない。

この剣で刻印魔法を使うとボーナス効果として威力が上昇する。

レアリティ的にはユグドラシル基準で最上級

 

・フロスト・オブ・アゼルリシア──フロスト・ドラゴン、トランジェリットと希少金属から作られた双剣の片割れ。ルーンが十刻まれている。氷を思わせる青みを帯びた剣。刻まれた文字には″(イス)″、″(ラグ)″、″ᚺ″(ハガル)を主とした氷や水属性を付与するルーンが刻まれており、凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)と同じく冷気による追加ダメージを得ているが、本質はそこではなくこの剣に魔力を込めて最大起動すると半径五十メートルを凍てつかせる氷属性魔法を放つ。その威力はフロスト・ドラゴンが得意とするドラゴンブレスを遥かに凌ぐ。

 

 

・フレイム・オブ・アゼルリシア──ラーアングラー・ラヴァロードと希少金属から作られた双剣の片割れ。ルーンが十刻まれている。刻まれた文字には″(アンサズ)″、″(ケン)″、″(ウル)″を主にした炎属性特化の剣。より大き目で肉厚な刃を持っている。こちらはフロスト・オブ・アゼルリシアとは違い炎属性の追加ダメージはないものの魔力を使うことによって炎を纏った強力な攻撃を放つことが可能。オンオフが効くので基本は冷気で相手の動きを鈍らせてから強力な一撃を見舞う。また、こちらは地面に突き刺すことで周囲一帯に一定時間溶岩を発生させることが可能。

 

この双剣の魔力量はレベル的には58程で仮にアインズと戦うことになれば傷をつけることは敵わないが、刻印魔法によるバフが入った時は共にボーナス効果で魔力量が一定時間増加するためダメージを与えられる。

レアリティ的にはユグドラシル基準で遺産級(レガシー)

 

・その他、ルーン武器作成時の試作品多数(内何点かは四騎士に供給)

 

・エルフ国の宝物庫から盗んできた最高レアリティ伝説級(レジェンド)の装備数点

 

 

●使用武技

 

殴打(スマッシュ)〉──オリジナル武技。文字通り殴打攻撃に補正がかかる。

 

〈連撃〉──オリジナル武技。一撃が二撃になる。

 

投擲(スローイング)〉──オリジナル武技。文字通り武器を投擲する。威力は普通に投げるより上がるが戻ってはこない。

 

〈土竜叩き〉──オリジナル武技。アレーティアのお気に入り。相手を脳天から叩き地面に打ち付ける武技で加減すれば地面に埋める程度に留めるが、加減をし損ねると地面の染みになる。

 

〈不動〉──オリジナル武技。受けた攻撃に一切動じなくなる。若干の防御力上昇効果有り。

 

〈炎斬〉──オリジナル武技。炎を纏った一撃。

 

〈閃光〉──オリジナル武技。光の如き一撃。

 

〈雷光〉──オリジナル武技……と言いたいが恐らく原作にある武技。詳しくはオバマスのジルクニフの奥義参照。

 

〈流水加速〉

 

〈能力向上〉

 

〈能力超向上〉

 

〈即応反射〉などなど

 

 

 

●使用魔法

 

・第十位階

 

観測衛星(オブザベーション・サテライト)〉──オリジナル魔法。かなりの魔力を消費するが地表部分を相当規模探索できる。

 

隕石落下(メテオフォール)

 

 

・第九位階

 

彗星落下(コメットフォール)〉──オリジナル魔法。〈隕石落下〉に威力、範囲は劣るが追加効果で状態異常を与えられる。

 

完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)

 

暴風雨(テンペスト)

 

 

・第七位階

 

激流(レイジング・ストリーム)〉──オリジナル魔法。膨大な水で相手を押し流す、押しつぶすといった使い方をされる。

 

連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

 

・第三位階

 

飛行(フライ)

 

 

 

・第二位階

 

衝撃波(ショック・ウェーブ)

 

 

 

・位階不明

 

上位の水精霊召喚(サモン・グレーターウォーターエレメンタル)〉──オリジナル魔法。

 

道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)

 

伝言(メッセージ)

 

 

 

 






次回でようやくバハルス帝国に帰国します。


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帝国ルート 帰国、日常編
アレーティアと帰国 〜半年分の胃痛の種を添えて〜



週一更新維持しようと頑張っていましたが間に合わず……。

三回ぐらい書き直した反動が()


 

 今、私は一つの夢を叶えています。

 

 そう!フロスト・ドラゴンの背に乗っているんです!飛んでます!ひゃほーい!!

 え?〈飛行(フライ)〉と何が違うんですかって?元男ならファンタジーな世界に来たならドラゴンを倒すか乗るかに憧れますよね?私は乗る派だったのです。それを〈飛行〉でいいとか言ってしまえばロマンもクソもありません。

 

 さて、ユグドラシルにドラゴンライダーや竜騎士の職業があったかどうか不明ですが、モンスターテイマーの派生であるかもしれません。なので、私はこの卵を育ててこの世界初の職業習得を目指します。

 余談ですが先日身につけた刻印魔法(ルーンマジック)は私以外現状誰も使う事はできないので私オリジナルと言ってもいいでしょう。

 

 竜王たちが使う始原の魔法(ワイルドマジック)みたいで格好いいです。でももっとオリジナリティあるものが欲しいと思ってしまうのが人の業というもの。ルーンも使えて竜も操れる…実にロマン。

 

「あ、あの……乗り心地は如何でしょう?」

 

「最高ですね……。すいませんね送ってもらっちゃって」

 

「いえいえ!貴方様のような強者に従うのは当然のことです!母上からも言われておりますので何なりとお申し付けください!!」

 

 そういえば紹介が遅れました。私が乗っているフロスト・ドラゴンはあの場にいた妃たちの娘の一匹、サフォロンという若めのフロスト・ドラゴンです。若めと言っても百年近く生きているそうですがドラゴンの基準で言えばまだまだとか。

 

 エルフの私とかはどうなんですかね?十七になりましたが、歳とったエルフからすればまだまだ赤子なんでしょうか?分かりません。クソ親父の年齢すら知りませんから。

 

 サフォロンは兄であるトランジェリットがあっさり殺された事に怯えて私に従うのでどうか命だけはと懇願されたので、帰りの足に使うことにした訳です。

 このまま帝国にお持ち帰りしたいのは山々ですが、妃のドラゴンたちと生きて返すと約束してしまったので断念。

 

 トランジェリットとラーアングラー・ラヴァロードの死体は冷凍して後続している根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)に運ばせています。重力系統の魔法って応用が利いて便利そうですね。私も後で練習しましょう。

 

 そんな心地よい時間もあと僅か。もうバハルス帝国が見えています。

 

「もうすぐ人間の国に着きますがどの辺りに降りればいいでしょう?」

 

「そうですね……皇城の正面の広間が空いているのでその辺りにお願いします」

 

 あの場所、アニメでもドラゴン一匹ぐらいなら余裕で納まるぐらいには広いので問題ないでしょう。さあ!帰ってきましたよ半年ぶりに!

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 その頃、バハルス帝国の皇城はとある報告で緊急の対処に追われていた。

 皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)からの報告によりフロスト・ドラゴンと思わしきドラゴンが帝国を目指して飛んできているという。

 フロスト・ドラゴンは大きさにもよるがアダマンタイト級冒険者でも討伐は難しいとされている。そもそも生物としての格が人間と竜では規格が違うのだ。

 帝国としては冒険者組合に依頼を出したいところだが、アレーティアによる騎士たちの強化で冒険者の需要がガタ落ちしたため──代わりにワーカーと騎士の志望者が増加したが──それは叶わない。

 迎撃のため帝国騎士団は以前起こったアンデッドの大群への討伐隊以上の戦力を早急に用意し対応に当たっていた。

 

 

「作戦は皇室空護兵団がフールーダ率いる魔法詠唱者(マジック・キャスター)部隊を護衛し〈火球(ファイヤーボール)〉による一斉放射で地上に叩き落とし、その後帝国四騎士〈勇猛〉〈陽炎〉〈雷光〉の三人を筆頭に皇室地護兵団(ロイヤル・アース・ガード)による地上戦を仕掛け上空と地上から討ち取る。他に意見はあるか?」

 

 この緊急事態にかつてのように頭を抱えて心細さを隠していた少年はいない。ここにいるのは帝国の未来を担うバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。彼は皇帝としてこの事態を収拾するべく騎士たちに指示を出していた。

 

「全く、アレーティアがいればここまでの事態にはなっていないのだが……」

 

 少し困った笑みを浮かべるジルクニフだがその顔に恐怖の色はない。この半年、アレーティア無しでも十分な武力を持ったことを王国との戦争で確認できた。

 それ故か、フロスト・ドラゴン相手でもこれだけの戦力を当てれば勝てるという確信を得ることができている。

 

「陛下、ご安心ください。私もアレーティア嬢程の戦果は上げられませぬが群れでなく一匹ならば十分対処出来るものかと思います。」

 

「そうか。それなら心強いな。しかし、仮にアレーティアがいたとして…アイツでもフロストドラゴンは流石に手に余るか?」

 

「粛清騎士殿でもフロスト・ドラゴン相手に勝てるかどうかは分かりませんが、かつてのアンデッドの大群を一人で滅ぼした功績を思えば不可能ではないでしょうね。あの人は良くも悪くも滅茶苦茶な人ですから」

 

「ははっ!違いないな!案外あの人なら逆にボコボコにして手なずけているんじゃあねえか?なあ、ナザミ」

 

「粛清殿なら考えられなくもないな。ギガントバジリスクやあの武王と同じ…ウォートロールと言ったか?あれと同じ種族を簡単に屠れるのだからドラゴン相手でも大きさ如何では返り討ちにしそうだ」

 

 各々がジルクニフのさり気ない疑問に答えていく。その空気はこれから死地へ向かう者に程よい弛緩剤となっていた。

 

「さて、お前たち。その命無駄にするなよ。生きて帰ってこい」

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

 そうして、騎士たちは戦場へと向かっていく。決死の覚悟を持って。

 

 

 ……そのフロスト・ドラゴンの背に胃痛の根源(アレーティア)が乗っていることに気付かずに。

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

「アレーティア様、前方に人間の群れが見えますがいかがいたしましょう?」

 

「ん?あれは……皇室空護兵団と…魔法省の高弟たちかな?もしかしなくてもこっち狙っていますね」

 

「そう見えます……ねえええええええええええ!!!!????

 

 おお、〈火球〉がものすごい数飛んできますね。流石フールーダの高弟たち、腕は上がっていそうです。サフォロンも火の耐性は低いので死に物狂いで避けています。

 とりあえず当たって落ちるのは嫌なので〈上位魔法盾(グレーター・マジックシールド)〉を唱えます。これで、あの程度の〈火球〉では傷一つ付けることは敵わないでしょう。

 

「うぎゃあああああ……ってあれ?熱くない?熱くないですアレーティア様!」

 

「そうでしょう?〈上位魔法盾〉は魔法によるダメージをいくらか防ぐので覚えておくといいですよ。」

 

 まあ、高位の魔法なんで難しいかもしれませんけど、ドラゴンスペックなら可能じゃないでしょうか。確か異形種設定で職業レベルも獲得出来るはずですし。

 確かドラゴンの種族レベルは成長の度合いで変わるんでしたっけ?ヤングとかアダルトとか。もしかしたら成長の度合いによって獲れる職業レベルは少なめに設定されているのかもしれませんね。そう思うとツアーとか他の竜王のステータスが気になりますね。

 その辺りはこの二つの卵から孵ったドラゴンで検証していきたいですね。

 

「では、このままあの場所まで突っ切って行ってください。」

 

「かしこまりましたっ!!」

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

「フールーダ様!〈火球〉が効いていません!なんらかの防御魔法かと!」

 

「なんじゃと!?」

 

 予想外のことが起きていた。火の耐性が低いフロスト・ドラゴンに〈火球〉が通じないのだ。なんらかの魔法で威力を軽減しているなら分かるがフールーダの眼にはあのフロスト・ドラゴンに魔力を感じていない。なのに何故通じないのかを考える。なんらかのマジックアイテムを装備しているのか、それとも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)のように魔法に対する絶対的耐性を持つ変異種か。

 

「状況を確認する必要がある。私から離れよ……〈魔法最強化・火球(マキシマイズマジック・ファイヤーボール)〉」

 

 最強化した魔法、英雄の領域を超えた者にしか扱えない威力を誇った一撃がフロスト・ドラゴン目掛けて放たれる。

 しかし、その一撃はフロスト・ドラゴンには通じていない様だった。

 

「そんな!師の魔法ですら及ばないのか!?」

 

「もうダメだぁ……お終いだぁ……」

 

「勝てるわけがない!相手はフロスト・ドラゴンなんだぞ!」

 

 次々に嘆きの声が聞こえ皇室空護兵団にもそれが伝わり士気が低下していく。

 しかし、この男は違った。

 

「馬鹿者ども!何を嘆いておる!たった一つ魔法が効かない程度で何を喚いておる!魔法が通じないのならば手を変えよ!お前たちは下にいる四騎士と地護兵団と共に一度後方に下がれ!そして陛下に報告し策を練るのだ!」

 

「は、ははっ!」

 

「で、ですが師は……フールーダ様はどうなされるおつもりで!?」

 

「なに…未だ魔法が効かぬと決まったわけではない。骨の竜と同じかどうか全霊をかけた魔法をもって挑むのみよ」

 

 

 そこには英雄のオーラを纏った男がいた。フールーダ・パラダイン、今を生きる魔法詠唱者でも五本の指に入る実力を持つ偉大な人物がその力をあらわにしていた。

 

「さて、本当に魔法が通じないかはまだ解らぬ。火の魔法のみが効かない可能性もある…ならば〈二重魔法(ダブルマジック)〉」

 

 フールーダの掌から二つの魔法陣が現れそこから魔力の塊が放出された。魔法陣には色があり今回の色は赤と緑、即ち火と風の属性。これら二つが同時に放たれフロスト・ドラゴンに直撃──するがこれも無傷。

 

 しかし、先ほどとは違い微かな手応えを感じた。何が違うかと言われれば恐らくは魔力量か位階による軽微化だろう。〈二重魔法〉は第四位階魔法相当の魔法だ。ならばそれを超える魔法を与えれば──。

 

「見るがいい。これぞ三重魔法詠唱者(トライアッド)と呼ばれた私の真髄、第六位階に値する我が最強魔法を!〈三重攻性魔術(トリプルブレイズマジック)〉!」

 

 再び現れる魔法陣、しかし今度は二色ではなく三色。込められた魔力は先ほどの比ではなく三色の魔法陣はそれぞれが五つもの魔法陣と重なり合い砂時計の様な立体を描く。そして、魔法陣から三色──火、風、雷の三属性による魔力が放たれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっぎゃああああああ!!痛えですううううう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとも情けないフロスト・ドラゴンの絶叫を轟かせた。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 すごいものを見ました。それは何かと言われればそう!フールーダ・パラダインの戦闘シーンです!!

 原作では一切戦わず、過去に死の騎士(デス・ナイト)を上空から〈火球〉でボコボコにしたという事しか触れられなかったあのフールーダが戦っているんです!これはすごいですよ!

 あ、サフォロンが魔法の痛みにのたうち回って振り落とされそうなので〈上位治癒(グレーター・ヒール)〉で傷を癒しておきます。

 

「ほらサフォロン。傷は治したから大丈夫でしょ?落ち着いて」

 

「うぅ~!!アレーティア様!魔法が効かなくなるんじゃあなかったんですか!?」

 

「いや、そんな都合のいい魔法があるわけないじゃないですか。あれはあくまで受ける魔法攻撃を一定量減少させるだけで無効にするわけじゃないんですよ」

 

 そんな効果があるのはアインズ様の常時発動型特殊技能(パッシブスキル)の一つ上位魔法無効化Ⅲとか骨の竜ぐらいだと思います。

 

「でもさっきまでは痛くも痒くも……」

 

「私の〈上位魔法盾〉の方が上だったから無傷だっただけで今のはそれを上回っていたから超えただけのダメージを受けたんです。いい加減納得してください」

 

 恨めしそうに私を見ていますが調子に乗ってあんな明らかにヤバそうな魔法に突っ込むのが悪いんです。そういうところは父親譲りでしょうか?

 そんな風に思っていると何やら別の視線を感じます。誰でしょう?

 

 

「……アレーティア嬢、ここで何をしておるんじゃ?」

 

 

 フールーダでした。付け加えるなら信じられないものを見る目で私を見ています。何故でしょ………あ!

 

 

 やっべえですわ!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

「色々聞きたいことがあるんじゃが……アレーティア嬢、まさか魔法」

 

「サフォロン!!今すぐあそこへ飛んで行きなさい!!早く!!」

 

「か、かしこまりました!!」

 

 もうバレてしまったっぽいですが、今はこの場を離れて後で戦士化すれば有耶無耶に出来るはず!!(※出来ません)

 

 一刻も早くこの場を離れるため速度上昇の支援魔法と刻印魔法も使用し──私たちは流星になったのです。

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオン!!!

 

 

 

「なんだ!?何の音だ!?」

 

「わ、分かりません!ただ今の音は皇城前の広間からかと…!!」

 

 私室でフールーダたちからの知らせを待っていたジルクニフの耳にとんでもない轟音が鳴り響いた。

 

 一体何なのか?もしやフロスト・ドラゴンとの戦いが激化して聞こえる音なのか。想定している戦場は帝都から大分離れた場所のはずだがここまで近づいているのか、それとも……。

 多くの思案を巡らせながら私室からベランダへ飛び出すとそこにあったのは……

 

 

 

 

 

 

「きゅう……」

 

「あー、速度上げすぎて減速できなかったんですね……支援魔法かけすぎちゃいましたし、刻印魔法は要らなかったかな……。でも、咄嗟に使ったとはいえ刻印魔法は鉱石に刻んで使うだけでなく生物にも刻んで強化できるとは思わな……あっ」

 

 

 

 広間のド真ん中に出来た小規模のクレーターの中には、恐らく減速できず地面に激突したフロスト・ドラゴンと帝国最強の騎士、アレーティアがそこにいた。そして目が合った。

 

 

「……一応聞いておこうアレーティア。何をしたんだ?」

 

 頬は引くついているが笑顔は作れているだろう。アレーティアはこちらを見て、辺りを見渡して少し申し訳なさそうにしながら

 

「えーっとですね……すいませんでした

 

 流れるような土下座を披露した。しかし、半年ぶりに帰って来て早々こんな大事を巻き起こしたこの女には一言言ってやらねば収まらなかった。

 

 

 

 

 

「この大馬鹿者がああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





〈上位魔法盾〉──原作にある魔法ですが効果が不明なので魔法によるダメージを一定の値減少、という効果にしました。

〈二重魔法〉〈三重攻性魔術〉──オバマスのフールーダのスキルと奥義。こちらも勝手に第四位階、第六位階と設定。

フールーダ──本来ならルーンの技術書でウハウハ予定が書いてる途中で折角なら戦っているフールーダも書きたいと思い変更。

ジルクニフ──半年いなかった胃痛の種が爆弾になって返ってきた。安息の日々はもうない。
王国との戦争はガゼフがいない頃なので、強化された騎士たちで十分王国群を蹴散らせた。

サフォロン──オリジナルフロスト・ドラゴン。メス。不憫可愛い感じ。


三回書き直した理由はどれもカオスな展開になったからです。大体ジルクニフとアレーティアが勝手に動き出してクロスカウンターを顔面に叩きこんだりするからいけない。
次回は書きたい内容が決まっているのでそんなに時間がかからないといいなぁ。(願望)



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アレーティアと帝国生活近況 〜ロクシーとの出会い〜

 

 帰国して数日が経ちました。

 今私は諸々の後処理に追われています。

 

 まず、フロスト・ドラゴンの一件。サフォロンについては約束通り一度アゼルリシア山脈に帰ってもらいました。ただ、本人がこのまま私についていく気満々になったようで親を説得してくるというのでその住居の確保に手間取りました。

 ジルクニフに卵貰って来たから育てて使役して竜騎士になる!と言ったのですが

 

「そのドラゴンを育てる知識と場所と時間と金はどうするつもりだ?ましてや、ドラゴンなぞお前以外にこの国で対処できる者がフールーダぐらいしかいない。お前が責任とか……うん、無理だな。返してこい」

 

 

 と言われてしまったので卵をこの場で育てるのは諦めました。()()()()()

 私は止めるジルクニフと縋るフールーダの手を振り払ってとある場所に向かいました。

 そう、勘のいい方は分かるはず。武王ゴ・ギンのオーナーの商人の屋敷です。名前は忘れていましたがオスクさんという方です。

 アポなしでの訪問でしたがルーン武器をチラつかせると快く迎えてくれ、フロスト・ドラゴンの相談をしたところ

 

「新たな武王候補にドラゴン…いいでしょう粛清騎士様。卵の保管、及び飼育に全面的に協力させていただきます。そして、後々来るであろうフロスト・ドラゴンの方も住居を用意させていただきます。」

 

 快諾してくれました。頼んでみてみるものですね。お礼に不要なルーン武具をいくつか差し上げました。三つ四つしか刻めてませんし割と弱い部類なので惜しくもありません。

 ただ目をキラキラさせて喜んでいたのが記憶に新しいです。職人冥利に尽きるとはこのことを言うんですね。また今度機会があったら武王の装備でも作ってあげましょう。

 

 余談ですがあの例のラビットマンの護衛には小さな声で「超絶にヤバい」という評価をいただきました。超級ではないのが残念です。

 

 なので、今後サフォロンが来たら新たな剣闘士として商人のオスクさんの下で生活してもらい、時を見て訓練とか調教をしていこうと思っています。

 ゴ・ギンにももっと強くなって欲しいですからね。彼は伸びます。

 〈愚か者()〉?アイツはダメです。性根が腐っているんでゴ・ギンと比べたら失礼です。格が違うんですよ格が。

 

 

 さて、二つ目ですが持ち帰った鉱石ですね。

 金や宝石の類は大部分をジルクニフに献上しました。量としてはジルクニフの私室の床半分が埋まるぐらいの量です。

 この量にはジルクニフもニッコリ。

 この時は感謝すると言ってくれました。まあ、散々迷惑かけてきましたしこれぐらいはしますとも。

 今後も多分というか現在進行形で何かしら起こすんで前払いと思ってもらえればいいなぁなんて。

 

 ついでに鍛治が出来る様になったので専用の鍛冶場が欲しいとお願いしたところ、皇城近くの一等地の屋敷をいただけることになりました。

 いや、欲しいの屋敷じゃなくて鍛冶場なんですけど……。好きに改造してくれていいとは言われましたが……。

 一先ずここは作業場兼私専用の訓練場にしましょう。後程改築のために職人を探してもらいます。

 後、爵位とか持ってないんですけどこんな良さげなところに住んで大丈夫なんですかね?そもそも今の私の住まいである皇城から出ていく気がないというのに……。

 使用人とか雇うことになるのでしょうか?細かいところはもうジルクニフにぶん投げます。頭脳労働は私の仕事じゃあないんです。

 

 

 ちなみに、貴族教育から逃げ出した件は珍しくジルクニフが

 

「気にするな。あれは私の判断ミスだった。お前という人間を理解していなかった私が悪いのだ」

 

 とか言い出したんで思わず、何か悪いものでも食べましたか?って聞いてしまいました。

 悪いものは食べていないそうですが、誰かにお説教はされたそうです。ジルクニフに説教出来る人なんていましたっけ…?

 

 

 そして、三つ目にして最大の問題───

 

 

 フールーダ・パラダインです。

 

 

 はい、お察しの通り誤魔化せませんでした。トドメの一押しとばかりに根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)を目撃してしまったので言い訳すら通じません。

 二人して第十位階まで使えますからね。せめて隠蔽の魔法を使っておくべきだったと反省してます。

 

 しかし、バレたのはある意味好都合でした。ドワーフの国から持ち帰ったルーンの技術書、そして私の刻印魔法(ルーンマジック)について相談、研究出来るのがフールーダだけだからです。

 あ、ルーンの技術書に関しては勝手にドワーフの国の重要機密を持ち帰ったとしてジルクニフにカンカンに怒られました。

 国際問題になったらどうするんだって言われてもあの都市フロスト・ドラゴンの住処になっているんでナザリックが転移してくる四、五年後までは絶対バレない自信があるんですけど……。

 

 後、フールーダに弟子にしてくれと縋りつかれましたが、私の場合教えることが出来るか微妙なところ……身体で覚えさせようにもフールーダは年齢が年齢ですし、うっかり加減を誤ったら殺してしまいそうですし……。

 若い人たちなら問題なく死ぬ手前まで追い込めますが。

 

 なので、弟子にするのは断りましたけどいくつか魔法を披露しました。

 ジルクニフや他の魔法省の人を連れて帝国郊外の地に赴き、〈隕石落下(メテオフォール)〉を皮切りに〈流星群(メテオシャワー)〉や〈暴風雨(テンペスト)〉、後……密かに習得していた最強の魔法を一つ。

 この魔法に関しては魔力の消費が桁違いな分、とんでもない威力を発揮するので使うとしたらここぞという時だけにします。

 現に〈流星群〉なんて比じゃないぐらいの被害を出したので、ジルクニフにこの魔法だけは絶対に帝国で使うなと念押しされました。

 しかしまあ、この魔法扱いが難しすぎる上にある程度魔力を確保してないと撃てないので改良の余地は十分ありそうです。

 

 ちなみにですが、数々の魔法を見たフールーダは狂喜していましたが、ジルクニフや高弟の人たちは唖然としてました。その内の一人の女の子がこちらを見て青い顔をしていましたが大丈夫でしょうか?体調が悪いなら日を改めて披露したものを……。

 

 とりあえず、今後フールーダとは予め日を決めて魔法の講義や研究なんかをすることにしました。毎日迫られたら仕事とか進みませんからね。不安は多いですが仕方ありません。

 ついでと言っては何ですが、他の魔法詠唱者に関しては私がいくつか口出ししても良いという事になりました。こちらも日程と時間が決められており、かつての遠征のようなことができないのが非常に残念です。

 私だって前回の反省を活かして魔法詠唱者の人たちのために遠征内容を考えていたのに、その前にトーマスに止められてしまったのが誠に遺憾です。

 

 

 さて、あんなこんなで慌ただしい日々を送っていましたが、ジルクニフから新しいお仕事をいただきました。

 どんな仕事かと言えば、後宮の警護だとか。つまり、側室?妾?の方々とそのご子息を守ればいいと。

 正直、ジルクニフのそういう相手のことは何一つ知らないので失礼にならないように気を引き締めないといけません。

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 後宮にたどり着き、警護に就くことになったので挨拶を……と思いジルクニフに聞いたこの後宮の主人だというロクシーさんに挨拶に来ました。

 

「待っていましたよ粛清騎士。……いや、この場ではアレーティアと呼んだ方がいいですか?私はロクシーといいます。」

 

「初めましてロクシー様。本日より警護に就くアレーティアと申します。呼び方はどちらでも構いません。お好きな方でお呼びください。」

 

 ロクシーさんに会った第一印象は……そうですね、母性的という感じでしょうか。

 顔立ちは前世でいうところの一般人によくいそうな顔立ですが、目元が柔らかいからか、それとも彼女の雰囲気がそう感じさせるのか分かりませんが母性を感じました。

 

 そういえばジルクニフに奥さんと子供を大事にしないと許さないと言ったことがありました。

 それを踏まえたうえでの人選でしょうか?とにかく良い判断だと思います。流石はジルクニフ。

 

 すると、ロクシーさんは私の顔に手を伸ばし顔隠しのバイザーを剥がしてしまいました。

 抵抗しようにも相手は警護対象なのでうかつに手を出すわけにもいけません。

 

「あら、ジルクニフに聞いてはいたけど本当に奇麗な顔ね。隠さなければいいのに。折角の容姿が台無しよ?」

 

「顔を隠しているのは訳ありでして……少なくともまだ陛下に外す許可を貰っていないので返していただいても?」

 

「そうね……折角だからこの後宮にいる間ぐらい外してもいいですよ。あなたの素顔、もっと見ていたいわ」

 

 うーん、ちょっと困りましたが後宮だけならまあいいんじゃないでしょうか?

 一応低位の探索魔法にはかからないようにマジックアイテムを身につけていますし、直接でもない限りバレることはないでしょう。

 

「かしこまりましたロクシー様、この場でのみ外させていただきます」

 

「言葉遣いが硬いわね、いいのよ?″様″なんてつけなくても。あなたとはもっと知り合いたいから呼び捨てでも結構よ?」

 

「いえ、そういうわけには……」

 

 ひえええ、押しが強い!困ってしまいます。こういう相手は初めてですし、同性との付き合いは四騎士のルミリアぐらいしかありませんので……。

 しかも立場的には私より上ですし面子というものもあるでしょう。

 

「気にしないで?私自身貴族としての位は低いですし、陛下と付き合いが長いのはあなたの方。それに帝国で今最も重要視されているのもあなた。陛下もアレーティア無くして今の帝国は無いって言っていたわよ」

 

「へ、陛下がそんなことを……」

 

 思わずにやけてしまいます。ジルクニフが私を褒めるなんて!

 普段怒られることの方が多いので間接的にでも褒められていたと分かると嬉しいですね!

 

「もしかして、あまり褒められたことはないの?」

 

「あ、いえそんなことはないんですけど……普段どちらかというと私が陛下に迷惑をかけることが多いので……」

 

「あの男本気で娶るつもりあるのかしら……ご機嫌取りもできないでどうするの」

 

「何か言いました?」

 

「いいえ、気のせいよ。それにしても、これが無いだけで大分印象が変わるのね。昔にあなたを見た時はもっと怖い人だと思っていたわ。今はとっても可愛らしいわ」

 

「可愛らしい……」

 

 元男でも可愛いと言われると嬉しいです。顔から耳まで真っ赤になっているぐらいに熱くなっているのを感じます。

 あのクソ親父に褒められても生理的嫌悪しか感じませんでしたが、ロクシーさんに褒められると全然違います。

 なんでしょう……母親に褒めてもらう感覚に近いというか、温かいものを感じました。

 

「いいのよ、もっと素直になっても。ここにいるのは私とアレーティアの二人だけなんですから」

 

「は、はい……」

 

「まだ固いわよ。ほら、ロクシーと呼んで頂戴?」

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 ジルクニフはこの日の政務を終え後宮へと向かっていた。

 理由は二つあり、一つは何人かいる妾と夜を過ごし次代の皇帝を作ること。

 そしてもう一つが、後宮の主人であるロクシーに会うことだ。

 

 アレーティアが半年の間いなくなった時、ロクシーに色々と相談した結果一度直接会って話してみたいという要望をされていた。

 元々、一度は後宮の現状をアレーティアに見せ、子も妾も蔑ろにしていないという意思表示をするつもりでもあったため丁度いいと後宮警備の仕事を与えロクシーと対話する時間を設けたのだ。

 

 時間にしておよそ半日。そろそろ時間的にはアレーティアも警護の時間を終え自室へと戻っているだろうと思い、ロクシーの部屋に入った。すると、そこで思いもよらぬものを見た。

 

 

「ほら、やっぱり似合うわよ。まるで空に輝く星のよう」

 

「こ、これが私、ですか……?」

 

 

 ジルクニフは見た。この部屋にいるはずのない者の姿を。

 

 その人物は普段顔を隠しているバイザーを着けておらず、代わりにその顔は化粧で彩られている。

 化粧は濃いわけでも薄いわけでもなく、元々の素材の良さを引き出す程度のものだったが、それでいて尚目を奪われる魅力にあふれていた。

 服も本来ならば鎧を身につけており騎士然とした出で立ちをしているが今は違う。

 そう、彼女はスパンコールが散りばめられた夜空を思わせる色をしたイブニングドレスを纏っていた。

 普段見えない素肌──肩や胸元が露出したノースリーブになっており、胸元にはロクシーに着けられたのかドレスによく合ったネックレスが輝いていた。

 

 ──美しい。

 これ以上の言葉が出てこなかった。身内贔屓で言えば王国の王女「黄金」ですら霞むのではないかと思わせる美貌を持つその人物は誰か。

 答えは至極簡単、アレーティアだった。

 

 

「私、あまりこういった格好は好みではないんですが……」

 

「ええ、勿論強制はしないわ。でも覚えておいてほしいの。こういう格好が似合うっていう事も。折角女に生まれてそれだけの美貌を持って生まれてきたんだから、着飾らなきゃ損ですよ?」

 

「そうかもしれませんけ…ど……」

 

 

 目が合った、合ってしまった。

 ジルクニフは想像もできなかった光景に動くことすら出来なかった。ただただ見惚れてた。

 アレーティアもまさかこの場にジルクニフが現れるとは思っておらず慌てふためいている。

 そうして最初に出てきた言葉は──

 

 

 

「……森の妖精とエルフは言われるそうだが、そんな言葉では収まらんな。よく似合っているぞアレーティア」

 

 

 

 褒め称える言葉だった。

 

 それを聞いたアレーティアは数秒固まった後、顔を赤くして逃げるように部屋を後にした。

 

 

「……なんで勝手に入って来たんですか。すごくいい感じになっていたのに」

 

「…すまなかった」

 

「すまなかったで済むと思っているんですか?大体ですね──」

 

 

 

 この後、しばらくの間ロクシーのジルクニフへの非難が止まなかった。

 

 そして、当のアレーティアは自室に転移しひとしきりドレス姿を姿鏡で堪能した後、備え付けのクローゼットに大切にドレスを収納した。

 

 





オスク──武王のオーナー。帝国の最重要人物である粛清騎士の来訪のため、アポ無しで即対談した。リスクは高いもののリターンを期待して話に乗った。見返りにルーン武器を貰えて滅茶苦茶喜んでいる人。

ゴ・ギン──闘技場最強の武王。武王がんばれええええええ!!と応援されたウォートロール。実はアレーティアと面識があり、闘技場を貸し切って騎士とのトレーニングに付き合っていた設定あり。
アレーティアからの好感度は高い。

アレーティアの最強魔法──超位魔法ではない、といえば恐らく伝わるあの魔法。

ロクシー──原作では名前なしセリフなし。web版で登場しているジルクニフが口出しを許している妾。
アレーティアから全幅の信頼を置かれることになる。



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アレーティアと戦争 ~王国攻略作戦会議編~


ありのまま起こったことを話すぜ!
私は帝国ルートを書いているはずなのに気づいたらエルフ国ルートの導入を書いていた。
何を言っているのか分からないかもしれませんが、私も何が起きたのか分からなかった……。


という更新遅れた言い訳です。
3000文字ぐらい書いてからエルフ国ルート書いているのに気づきました。何やってるんでしょうね(苦笑)


 

 

 ロクシーさんにドレスを着させられてから幾日かが経ちました。

 

 …今まで女らしい格好をするのに正直躊躇いがありました。

 理由としては前世が男であったため、心のどこかで未だ自分は男だと思っていた自分がいたのだと思います。

 帝国でも周りが男だらけの生活でしたからね。顔も基本隠してましたし自分を女と思うこともあまりなかったのもあります。

 例外はルミリアや一部の女性騎士や司書ぐらいです。

 

 後、最大の理由としては……クソ親父ですね。言わずもがな諸悪の根源です。

 かつてクソ親父にベッドに入り込まれ身体を弄られたことは絶対に忘れられないし、絶対に許しません。

 アレがキッカケであまり肌を見せるような格好はしなくなった気がします。

 

 そんな私ですが後宮、貰った屋敷の中限定ですが多少おめかしするようになりました。

 ロクシーさんがもっと身嗜みに気を使わないと、いざという時に困ると窘められました。

 いざという時がどういう時なのかは理解出来ませんでしたが、ロクシーさんが貴族教育に当てはめて教えてくれたので助かりました。

 

 例えるなら王国のアダマンタイト冒険者である蒼の薔薇のリーダー、ラキュースは貴族令嬢であり冒険者でもある人物でしたが、そんな彼女はラナーと会う際は冒険者ではなく貴族令嬢として相応しい格好──ドレスを着ていたことを思い出しました。

 

 それに比べて私は基本的に今までは支給された装備しか着用しておらず、私服と言っても動きやすい格好やワンピースなんかを好んで着ていました。

 私は貴族ではないとはいえ果たしてこれはジルクニフの、皇帝の隣に立つものとして相応しい格好なのかと問われると首を横に振らざるを得ません。

 今までそう言ったことにまで気を回したことは無かったので気づかせてくれたロクシーさんには感謝の念しかありません。

 問題はこのバイザーが外せないことですが、フールーダに協力してもらって新しく日常生活用に認識阻害の眼鏡を作ってもらいました。

 これなら目元をバイザーほど隠さずに済みますし、自然と素顔を晒せます。

 ジルクニフにあのラナー王女より上と言われたこの顔を出し惜しむことなく使えます。主に怪しい夜会なんかに行って寄ってきた馬鹿な貴族をターゲットに狩ってやりましょう。

 いわゆるハニートラップというやつです。

 

 しかし、まだ人前であの格好をするのには抵抗があるのでジルクニフとロクシーさんに頼んで少しずつ慣らしていこうと思います。

 

 

 さて、そんなこんなで今日は後宮ではなくジルクニフの私室に招集されています。

 来てみれば帝国四騎士の面々や将軍と言った軍務に関わる人たちが集められていました。何事でしょう?戦争でもする気ですか?

 

「アレーティア、待っていたぞ」

 

「遅れてしまい申し訳ありません。先ほどまで武器製作に勤しんでいたもので」

 

「それは例のルーン技術とやらで作られた物か?」

 

「もちろんです。とりあえず、騎士団全員分の支給武器に簡素ですがルーンを二文字ほど刻み鎧などの防具は軽量化と耐久力が向上するように、武器は組み合わせを変えて刻んだので騎士達で話し合って支給してください」

 

「粛清騎士殿の配慮に頭が上がらないばかりです。いつもいつも騎士達のために申し訳ない」

 

「お気になさらず、これも陛下より受けた命ですので。それに、よりよい装備を支給されれば騎士達はその力をより大きく振るってくれるでしょう」

 

 将軍の一人が申し訳なさそうに頭を下げてきますが、そこまで大したことはしていないので下げられると困ってしまいます。

 

 確かに帝国でルーン工匠を名乗れるのは私だけですし、騎士全員分の武具全てをルーン技術で作れと言われたら流石に厳しいですが、やりようはいくらでもあります。

 武具は基本的に私が作るのではなく、一般的に普及しているものを買い集め、その後で〈刻印魔法(ルーンマジック)〉で一気にルーン文字を付与していきます。〈刻印魔法〉本当に便利ですね。通常なら一つ作るのにそれなりに時間が必要ですが刻印魔法を使えば一瞬ですからね。命名するなら〈刻印魔法付与(ルーンエンチャントマジック)〉、なんてどうでしょう?

 唯一難点を上げるとすれば、私がまだ未熟なせいかこの方法で刻めるルーン文字の種類は低位かつ種類が少ない点ですね。後は刻印魔法そのものの効果に耐えられる素材が少ないのが残念です。

 ミスリルぐらいならどうにかなりそうですが、騎士全員分となると絶対足りなくなるのでまたアゼルリシア山脈に掘りに行かねばなりませんね。

 

「それで、今日集まった理由をお聞かせください陛下」

 

「ああ、そうだな。本来ならお前が姿を消した半年前にはこの話をするつもりだったが、もう事は起きているからな。確認も含めて改めて話そう」

 

 

 さて、ここでされた話は──王国との戦争でした。

 原作でも幾度となく行われていたカッツェ平野での小競り合いですね。いつから行われていたかは定かではなかったですが去年……いえ、聞く限りだと私がいない間に始まっていたようですね。

 初戦では四騎士陽炎トーマス率いる帝国軍が王国軍との戦いののち、一時休戦。しかしこちらの被害は軽微であり、むしろ王国軍を後退させ拠点を作る基盤を獲得したとのこと。

 流石はトーマス、四騎士一の働き者ですね。後で日頃の労いも兼ねてルナリアと一緒に何か企画してあげましょう。

 

「それでだ、これより数年をかけて王国の収穫の時期を狙い戦争を起こす。これにより王国は収穫の時期に農民たちを戦争に駆り出さねばならず、収穫量は落ち国力は低下していく。そして、弱り切ったところで王国全土を帝国へ併合する、という長期計画だ。後は帝国の貴族の大部分の無能共からは戦争費用を捻出させることにより最早欠片ほどしか残っていない余力を削ぎ落し、貴族の大粛清はようやく終わりを迎えるという事になる。ここまでで聞いておきたいことなどは……なんだ?ものすごく嫌そうな顔をしているなアレーティア」

 

 はっ!しまった!露骨に戦争への嫌悪感が全面的に出てしまってました!反省。

 とはいえ……この戦争割と反対なんですよね。勿論、原作のことを思えば戦争を継続させておよそ五年後のナザリックが表に出る辺りで終結するのが望ましいですが、帝国にデメリットが多すぎるんですよね。

 まず、帝国四騎士が二人……原作通りならトーマスとルミリアが死ぬことになります。そしてその穴埋めとしてニンブルとレイナースが加入することになるのですが、私としてはこの二人に死んでほしくはないんですよね。四騎士でなくなるぐらいなら許容出来ますが死ぬとなると……。

 ちなみにですがもうニンブルとレイナースの二人は次期四騎士の候補筆頭としてピックアップされています。

 うーん、これが歴史の強制力というやつでしょうか?気のせいだと思いたいですね。

 

 また、最後の戦争でのアインズによる超位魔法、〈黒き豊穣への貢ぎ(イア・シュブニグラス)〉による黒山羊たちの出現とその殺戮規模で騎士たちがジルクニフから離れようとしてしまうのもよろしくないです。

 まあ、私がいる限りそんなことはさせませんが。私と黒山羊、どっちが強いか分からせてやります。

 

 少々脱線しましたが後は個人的理由です。

 

 

 

 

 

──もう戦争とか正直懲り懲りなんですよね。

 

 

 

 

 エイヴァーシャー大森林にいた頃のスレイン法国との戦争は本当に地獄でした。戦う相手が常に格上、私が王の娘と知ってからか敵からの殺意は尋常じゃありませんでした。中には私を殺せば莫大な賞金が出る、なんて言っていたヤツもいました。そいつは私の〈土竜叩き〉で二度と地面から出てこないように潰してやりましたが。

 

 この戦争はそういった事態にはならないでしょう。何せ相手も違い、環境も違い、何より感情も違います。言ってしまえば王国帝国間の戦争は小競り合いと言われる程度のものですが、エルフ国とスレイン法国は一部を除いて全員が本気で殺し合う本気の戦争です。面構えが違いますから。

 ですが、戦争は戦争です。それを後五年もダラダラ続けるのかと思うとうんざりしますね。戦争歴六年は伊達じゃありません。なので…

 

 

「陛下、やり方が生ぬるいです。王国のことですから、年々戦争を続ければ何も考えず兵を派遣して国力を低下させ続けるでしょう。しかしですね、これは帝国が侮られていると同義だと思うんです」

 

「しかし、一度の敗北で王国が膝を折るとは思えん。だからこそ、毎年王国の収穫の時期を狙って戦争を起こし無能な貴族や王家の力を削いだ後に帝国のものにするという計画を立てたのだ。今侮られても構わん。最後に勝つのは我々なのだから」

 

 ジルクニフが不敵な笑みを浮かべてますけど残念ながら原作のままなら最後に笑うのはアインズ・ウール・ゴウン魔導国なんですよ。

 ん?最後に笑うのは魔導国なら過程は違えど結果が同じならそれで良いのではないでしょうか?

 

「いえ、それで構わないならいいんですが……数年もかけてあげるなんて鮮血帝の名が泣くのでは?」

 

「フッ、その鮮血帝の剣である粛清騎士が何を言うか。だが……お前は数年戦争を行うよりもっと容赦ない手を打ちたいということか?」

 

「はい、どうせなら──次の戦争で完膚なきまでに王国軍を壊滅させエ・ランテル近郊の土地を割譲するように要求します。」

 

 周りのからの視線が驚きに包まれる。壊滅なんて荒唐無稽な話をされれば驚かずにはいられないでしょう。とりあえず周りの目を無視して話を続けます。

 

「エ・ランテルは王家の直轄領地だったはずなので、恐らく割譲までに時間がかかるものと思われますが、その間に王国の貴族で有能な者を選出し帝国に協力させ派閥間での内乱を起こし内側からボロボロにしてやります。そして、疲弊が見えたところでトドメの戦争を仕掛けます。名目は……そうですね、エ・ランテルの割譲が遅ければそれを理由に。もしくは王国の裏社会の組織″八本指″から帝国に麻薬の密輸が貴族によって行われているのを見過ごした、というのはいかがでしょう?」

 

 誰もが黙ってしまいました。呆気にとられるというのはこういうことを言うのですね。とはいえ、これでも物足りなく感じます。

 正直今後厄介になる″八本指″は今のうちに根絶したいので各部門のトップが集まったあの会議場を土地ごと吹き飛ばしたいですね。〈隕石落下(メテオフォール)〉で。

 

「あ、相変わらず容赦が無さすぎるよな粛清騎士サマ。思わず王国に同情しちまったぜ……」

 

「いや、アレーティア様のやることですから当然では?微力ながらこのルミリアがお力添えを」

 

「絶対にやめてください!!あなたと粛清騎士殿が一緒に事を起こすと毎回頭を抱えることになるんです!」

 

「落ち着けトーマス。まだそうなるとは決まっていない。最終的な判断を下すのは陛下だ。だからそんなに頭をかきむしるな、禿げるぞ」

 

「ナザミさんはいいじゃないですか!基本皇城の守衛を任されてるだけなんですから!大体の後始末任されるの私なんですよ!?ルミリアと粛清騎士殿の後始末に駆り出される身にもなってくださいよおおおお!!」

 

 何故かトーマスが荒れ狂ってます。ここしばらくは私は何もしてませんよ?精々ドラゴン連れて帰ってきたり、魔法使えることバラしたり、後宮の警護の任務に任命されたぐらいでこれと言った問題を起こした覚えはないんですが……。

 随分前にはルミリアと謀反を企んでいる貴族の屋敷を襲撃して、偶々やりすぎてしまい近隣に多大な被害を出したり、どこぞの貴族の息子が騎士になりルミリアが女だからとナメた態度をとってきたので、二人で叩きのめして全身の毛を剃ってピカピカの状態で土下座させたりとちょっとやり過ぎたことなど色々ありましたがアレは過去のことですからそんなに荒れなくても……。

 

「あー、あれだなトーマス。すまなかった、お前の苦労分かったつもりでいたがここまでとはなぁ……今度飲みに行こうぜ?色々聞いてやるから、な?」

 

「ルミリア、お前しばらく粛清殿とは一緒に仕事するな」

 

「何故だ!?ようやくアレーティア様と戦場に立てるのに!?私が何をしたというんだ!」

 

「「「「どの口がそれを言う!?」」」」

 

 ジルクニフまで口を揃えて大声上げてます。ま、まあルミリアは単純と言うか、言い方を変えれば頭が残念なので……でも一緒にいると気楽で楽しいんで個人的には付き合いやすいんですけどね?

 

「トーマスの慟哭については後々話を聞こう……それでだ、アレーティア。お前の案は悪くないとは思うがどうやって王国軍を壊滅させるつもりだ?お前の魔法ならば容易く壊滅させられるとは思うが、それをすれば間違いなく周辺国──スレイン法国はお前を、いやお前だけでなく帝国も危険視するだろう。そうすれば法国は王国に手を貸し更なる争いが起こる可能性は十分にある」

 

「魔法を使って壊滅させるならフールーダ様やその弟子達で十分かと。もしくは、前回……私は参加していないので知りませんがその時と同じだけの軍を出撃していただければ、後はそこに私が参戦します。勿論、魔法抜きでも私は強いので使用しなくとも問題ありません。仮にスレイン法国も魔法さえ使わなければ、使った時より警戒されることはないのではないでしょうか?

それがダメならサフォロンに乗ってドラゴンライダーとして、竜騎士として突撃します

 

「最後のは絶対に却下だ。」

 

「なんでですかぁ!?」

 

「フロスト・ドラゴンを従えている人間の方がよっぽど脅威に思われると自覚しろ!!」

 

 くっ!私のさり気ないドラゴンライダー計画が却下されてしまいました。この流れならイケると思ったのに!

 

「とはいえ、そうだな。アレーティア、お前の案自体は良いものだ。後でこの計画における案を纏めて提出してくれ。詳しい内容は再度吟味しよう。」

 

「え……書類書くんですか?また半年ぐらいかかると思うんですけど」

 

「後ほど書記官を向かわせるから今度は案を出すだけでいい。……頼むからまた遠征の時のような暴走はしてくれるなよ?」

 

 そんなに警戒しなくても一月戦争を延ばしたりなんて地獄みたいなことはしませんよ。むしろナザリックが来る前に戦争関連は終わらせたいですね。

 

「では──粛清騎士を筆頭に帝国四騎士ナザミ・エネック、ルミリア・リイル・アーチゾルテ、トーマス・アルトランドの三名、及び帝国騎士団に命ずる。次の王国の収穫時期に起こす戦争で帝国に勝利を捧げよ」

 

 

 

 こうして王国との二度目の戦争に向けて慌ただしい日々が始まるのでした。

 

 

 

 






・ルミリア
優秀だけどどこか残念な女性。アレーティアと組むとスーパー脳筋になる。テンション上がると生まれながらの異能の影響もあってか周りが見えなくなる。


・トーマス
アレーティア&ルミリアの後始末を不運にも任されることになる被害者。二人のせいか髪が抜けやすくなったことがある可哀そうな人。でもジルクニフのことは尊敬しているし、アレーティアのことも仕方が無いと受け入れつつ事故報告書なんかを書いてくれていたりするすごくいい人。実はもうすぐ結婚する。


・アレーティア
遂に女を受け入れ始めるが、ジルクニフとそういう関係になったりしない。
眼鏡属性を手に入れる……が、オーバーロードに眼鏡キャラって多分ユリしかいないよなと思ったり(作者談)

・ラキュース
アダマンタイト級冒険者で貴族令嬢のハイスペックレディ。
蒼の薔薇ルートではカッツェ平野でアレーティアを勧誘し仲間になる。



この度UAが遂に25万を突破しました。こんなに読んでもらえて嬉しい限りです。
完結目指してこれからも書いていきますのでよろしくお願いします。



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アレーティアと戦争準備 〜人の顔見て吐くとか失礼では?〜


遅くなり申し訳ありません。
何度も書き直して内容も変えたら週一更新出来ませんでした。


 

 

 王国に布告官を送り戦争をすることが正式に決定してからしばらく経ちました。

 この頃には私の屋敷も完成し、私の鍛冶場も正式に稼働しました。日々ジルクニフからの無茶振りに応えて武具に順々にルーンを刻んでいきます。流石に全ての武具に刻むのは私でも無理があるのでそれぞれの部隊に合ったルーンを最低限刻む程度に済ませています。

 今回の戦争では主に自動回復効果を持ったルーンを刻み死傷を避ける方向で進めています。まあオーバーキルされてしまっては意味がないのですが無いよりマシでしょう。

 

 そんな忙しい中ですが、遂にフロスト・ドラゴンとラーアングラー・ラヴァロードを使った武器が完成しました!

 嬉しいことにそれぞれ過去最大の十文字ルーンを刻むことが出来ました。あの二体には感謝しないといけませんね!特にフロスト・ドラゴン……名前は残念ながら忘れてしまいましたが、彼のお陰で防具も新調できたので大満足です。

 ただ、武器の方はお披露目はまだ先になりますね。少なくとも戦争には使えません。何故かって言えば現地の武器にしては強すぎる部類なので迂闊に使おうものなら警戒されるってジルクニフに言われてしまい断念。機会はまだあるので待つしかありませんね。

 防具の方は許可は貰えたので戦争に問題なく使用出来ます。今回は全身鎧なのでバイザーは不要になりました。ジルクニフたちがドラゴンライダー計画を一向に認めてくれないので、せめて気分だけでもと竜を思わせるようなデザインになっています。当然、フロスト・ドラゴンの素材を惜しみなく使っています。持ち帰った分じゃ足りなかったのでサフォロンたちに少々協力してもらいました。(意味深)

 

 戦争準備も慌ただしくも順調に進んでいます。最近では騎士たちに発破をかけるため訓練にも参加して手解きしてあげています。

 ただ、悲しいことに訓練が終わった後の騎士たちの目が化け物を見る目なのはどうしてでしょう……?身体で覚えさせるために最大限手加減して武技をお見舞いしてあげているだけなのに。これで武技を使える騎士が増えているのは事実だというのに。不思議です。

 

 そういえば今回の戦争には参加しませんが、魔法省にも何度も顔出ししていて魔法の研究に協力しています。魔法を使う度、フールーダがものすごく興奮するので諫めるのが大変です。

 ただ、この魔法を目にして研究出来る、と言うのが良かったのかフールーダが第七位階魔法を使える様になったのは驚きでした。やはり暗中模索するよりも、こうして手本があると習得するスピードも違うんですかね。これを見習って他の三十人の高弟たちや他の弟子たちにも頑張ってもらいたいですね。

 

 ただフールーダがあまりの嬉しさにはしゃぎ過ぎて腰をやってしまったのはどうなんでしょう。もう歳なんですから……。

 

 さて、今日の用事はそのフールーダからの相談でした。

 相談内容は自分と同じ生まれながらの異能(タレント)を持っている弟子が突然弟子を辞めると言い始めたので引き止めるのを手伝って欲しいとのことでした。

 フールーダ曰く、若くして第二位階魔法を習得し第三位階魔法ももう習得目前だというのにここで辞めてしまうのは人財の喪失になると早口で捲し立てられました。なにより、自分と同じ生まれながらの異能を持っているからか、どこか過去の自分を投影しているのかもしれませんね。もしかしたら、諦めてしまった自分の姿があれなのかもしれない、と。

 

 ともあれまだ辞めるという話で止まっているので、どうして辞めたいのか事情を聞かなければいけません。

 例えば魔法省内でのいじめだとか、貴族間のやっかみならば私が介入すればなんの問題もありません。今の帝国は力ある者たちが手を取り合い、力なき者を引き上げる時代です。足を引っ張るような真似をする無能は必要ありません。クビにしてやります。

 経済的な理由ならば帝国が支援してあげればいいんです。その辺の採択はジルクニフに頼めば下ろしてくれるでしょうし。最近は金銭的なことでは頭を痛めていないようですし懐は暖かいはず……。

 そんなことを考えながら時は過ぎていきました。

 

 

 

 

 後日、フールーダ同伴で事情を聞くことになりフールーダにその弟子を連れてきてもらいました。さて、どんな人でしょうか。

 

「お待たせしましたな。こちらが件の弟子です」

 

「はじめまして、アルシェ・イーブ・リイル・フルトと申しま……!??」

 

「ようこそ、アルシェ・イーブ・リイル・フルトさん。どうぞ、そちらの席にお掛けください」

 

「は、はい……なんで粛清騎士が……!?

 

 はい、辞めたがっていたのはまさかのアルシェでした。WEB版ではシャルティアのペット、原作では悲しき末路を辿ってしまったあのアルシェです。妹たちがアルシェが死んだことを知らずに帰りを待つシーンは胸が痛くなりましたね……。つまり辞めたい理由はそういうことでしょう。

 そういえば以前魔法を披露した時に青い顔して気分悪そうにしてたのってこの娘だったんですね。気づきませんでした。

 ただ、今は戦士化しているので魔力は無いはずなんですが、なんで今にも吐きそうな顔しているんですかね?部屋に入る前はそんな顔色していなかったのに……。

 

「どうしました?体調が優れない様に見えますが……」

 

「い、いえ!そんなことはありません!はい!!」

 

「そうですか?では、本題に入らせてもらいますね?どうして急に弟子を辞めるということになったのでしょう?フールーダからも将来有望な弟子の一人で目を掛けていたと聞いていたのですが何か理由があるのですか?」

 

 体調を気遣って優しく、優しく問いました。すると逆にもっと震えだしました。本当に大丈夫ですかね??

 

「ア、アレーティア嬢、あまり問い詰めないでくだされ。アルシェが怯えておりますので……」

 

 え?怯えてる?……怯えてるんですか!?なんで!?

 私今回ばかりは何もしていませんよ!?むしろ気遣った方なんですが!?

 

「そ、そうですか。すいませんアルシェさん、そんなつもりはなかったのですが……」

 

「はぁ……はぁ……こ、こちらこそすいません。し、しかし先に一つだけお願いがあります。どうか聞いてはいただけませんか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「わ、私と両親はどうしてもらっても構いません。ですが、妹は!妹たちだけはどうか見逃してください!!」

 

 ……え?あれ?どうしてでしょう?

 ありのまま起こったことを話します。アルシェさんが意を決してお願いを口にしたと思ったら涙目で土下座をしていた。

 何を言っているのかサッパリ分からないかもしれませんが、私が一番分かってません。どうしてこうなったんでしょうか??

 

 するとフールーダが助け舟を出してくれました。

 

「何か勘違いしているようじゃなアルシェよ。今回ここにアレーティア嬢がいるのはお前を……元貴族であるフルト家を粛清するためではない。ワシが呼んだんじゃ。だからそうアレーティア嬢を困らせるようなことをするでない」

 

 ……ああ、そういうことですか。

 アルシェは私に粛清されると勘違いしていたわけですか。

 貴族に恐れられている自覚はありましたが、まさかこれ程とは思いませんでした……。

 これはアレですね。アルシェの心情的には原作でセバスが審問されている時に近いものがあったのではないですかね?下手なことをしたら処分されるという恐怖が。

 私ももう少し気を遣えばよかったですね。粛清騎士の装いではなく、もっと俗っぽい装いをするべきでした。

 こういう時にロクシーさんの教えが身に染みて分かります。

 

「その通りです。現在私は騎士団、魔法省にそれなりのポストを貰っていて才ある者たちを育てるべく動いています。そんな中、帝国魔法省主席のフールーダ・パラダインが気にかけている者が何も告げずにただ辞める、とだけ告げようものなら何かあったと思うのは自然ではありませんか?」

 

 私は席を立ち土下座の姿勢でいるアルシェに手を差し伸べ話を続けます。

 

「何があったのか言ってみなさい。それが私の力で解決出来ることなら手を貸しましょう。」

 

 すると、安心したのかアルシェが泣き出してしまい……

 

 

オエエエェェェ……

 

 

 ……えぇ?どうして吐いたんですか……?(困惑)

 何か込み上げるものでもあったんでしょうか。それにしたって目の前で吐かないでもらいたい……。でも、元を正せば私が悪いから何とも言えないのが……。

 

 

 

「し、失礼しました。お手を煩わせてしまい大変申し訳ありません」

 

「いえいえ、スッキリしたようで何よりです。先ほどより顔色も良くなったようで安心しました」

 

 吐いた後、アルシェと周りを綺麗にして話を聞きました。

 話は原作通り、実家が没落して貴族でなくなっても親の浪費が止まらず、後ろ暗いところから借金を重ねてしまい学院に払える金がなくなってしまい泣く泣く辞めてワーカーになろうと思っていた、ということでした。

 

 あの父親ホントどうしようもないですね。私のクソ親父といい勝負ではないですか?もう処すしかないのでは?

 

 

 手始めに両親を処そうと思いましたが、思えばまだアルシェの妹は生まれて一年ほどらしく親亡きアルシェでは育てきれるか分かりません。

 ロクシーさんに預けるのも一つの手ですが、ロクシーさんの仕事はあくまでジルクニフの子供と妾を預かるものなので赤の他人の子をお願いしますとは言えません。

 なので、ジルクニフに相談してこうすることにしました。

 

 

 

 

 

 

「は、はなせ!私が何をしたというんだ!?」

 

「詳しい話は詰所で聞きます。連行しろ!」

 

「おいやめろ!私は貴族だぞ!?騎士如きが私に触れるな!」

 

「ちっ、黒粉の密輸に関わっておいて何を言ってやがる。さっさと馬車に放り込め!!」

 

 

 はい、王国の八本指から流れてきている麻薬「黒粉」の密輸に関わっていたとして捕縛しました。

 そんな事実はありませんが、彼の親類が近しいことをしていたので半ばこじつけですが関係者として連行しました。後はジルクニフが上手く処理してくれるので父親の浪費はこれにて解決。

 

 後の金銭問題は借金と屋敷の維持費や使用人を雇う金銭が無いとのことなので屋敷は帝国で買い上げそこから捻出し、使用人の内何名かは他の貴族への紹介状を書いてそちらに勤めてもらい、残りの雇える最低限の使用人と母親、アルシェと妹二人で暮らせる家を紹介しそこで生活するように促しました。

 後は学業に専念出来るだけの資金援助。原作では諦めた夢をこちらでは叶えてもらいたいです。

 

 そんな感じで無事、アルシェは借金から抜け出せ貴族生活とまではいきませんがそれなりに幸福な生活を送れるようになったと思います。

 

 ただ……アルシェがワーカーにならないことによってフォーサイトが結成しなくなる可能性が濃厚になってしまいました。どうしましょうね?

 まあ、ワーカーは他にもわんさかいますし、きっと大丈夫でしょう!

 

 




アルシェ、アレーティア初遭遇時──見たことないオーラを見て吐き気を催す…がまだ吐かない。披露された魔法を見て絶対に逆らってはいけないと認識。

アルシェ、アレーティア事情聴取時──父親が絶対何かやらかした。このタイミングで辞めると言いだした私もきっと疑われている。間違いなく殺されるがせめて何も知らない妹だけでも助命して貰おうと涙ながらに訴える。思いの外アレーティアが優しく、恐怖とか混乱とか安心とか様々な感情がごっちゃごちゃになった結果吐いた。
その後は母親がやらかさない限りは幸せに暮らせるはず。

フールーダ──原作では理由も聞かされずに辞めていったアルシェを惜しむ気持ちがあった。
アレーティアがいるためもっと多くの人に魔法を広めたい一心で才能あるのに辞めようとするアルシェを勿体ないと引き止めようと

サフォロンたちフロスト・ドラゴン──むしり取られた。

アルシェの父──個人的にフィリップと同格レベル。ほぼ冤罪でぶち込まれるもクソ親父だから仕方ない認定。オバマスのイベントで更に評価が下がった。

アレーティア──ドラゴンライダー計画が白紙になってしまったので、せめて鎧を新調。バイザー不要の全身鎧に早変わり。
デザインはツアーの鎧を黒くして、モンハンワールドのドラケン装備っぽくしたものと想像してもらえれば。


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アレーティアと帝国四騎士 〜チェンジで〜


 タイトルに帝国四騎士と書いてあるのに一切出番がない件について()


 

 

 王国との戦争が決まり、場所の指定もカッツェ平野ということで合意し、いよいよ戦争の時が近づいてきました。

 そんな中、ジルクニフに呼び出されました。何事でしょうか?まだ何もしてませんよ、多分。

 

 

 

「よく来てくれたアレーティア、そこに掛けてくれ」

 

 最早来慣れたジルクニフの私室の座り心地の良いソファーに座ります。割と気に入ったので貰った屋敷に持って行こうとしたら怒られたので仕方なく新品のソファーを買いました。今では日当たりの良い場所に置いて本を読んだり、昼寝をするのに使っています。

 

「今回呼んだのは四騎士のことで相談がある。単刀直入に言えば──四騎士を何人か交代させる」

 

 四騎士の交代ですか。正直予想外でしたね。このタイミングでそんな話が出るとは。確か原作だと何回目かの戦争でガゼフ・ストロノーフによって四騎士の内二人が討ち取られてしまったため、新しく人員が補充されたはずですが。

 

「突然どうしたんですか?ナザミもバジウッドもトーマスもルミリアも誰も死んでいませんし、四騎士候補との入れ替え戦でも負けていないでしょう?」

 

 そうです。四騎士は帝国騎士団で最も優れた四人が選出されています。ですが、いつまでも同じ四人というわけにはいきません。

 四騎士候補生には年に二度四騎士への昇格を賭けた決闘権を与えています。四騎士から一人指名し、その人物と戦い勝てばそのまま四騎士に昇格します。

 この制度により四騎士を目指す騎士たちがこぞって鍛錬をし、四騎士もその座を守れるよう研鑽を積むという向上意識を持たせるようにしていました。

 初代である今の四騎士は私が手ずから育てただけあって現地人では無類の強さを誇ります。四人揃ってアダマンタイト級と言っても過言ではないでしょう。

 バジウッドはああ見えて周りがよく見えており気配りが出来る男です。連携を取るのも上手く、大剣を振るえば四騎士では最大の攻撃力を誇ります。

 トーマスは持ち前の頭脳と武技、魔法を駆使して様々な状況に応じて戦える万能の騎士です。先の戦争ではガゼフがいないこともあり王国に比肩する実力者がおらず彼一人で十分な戦果を得られました。

 ルミリアは軽やかな動きに加え、持ち前の生まれながらの異能を活かし一度攻め手に回れば延々と武技が繰り広げられる超攻撃型の騎士です。ちなみに例の全身の毛を剃って土下座させる案を出したのは彼女です。私はその無駄に高い鼻っ柱を叩き折ってやっただけです。

 そして、ナザミはその大盾二枚を使った防御を主体とした戦闘、また決して退かず向かい続けるその様は帝国最高の騎士と呼ばれるのに不足はないでしょう。現に他の四騎士三人を同時に相手取れるぐらいには強くなっています。

 そんな四騎士に勝てる候補生は現れず早数年……挑む騎士は昔に比べて格段に減りました。

 

 

「今の四騎士が悪いとは言わないが、停滞も良くない。なので、お前がいない間に四騎士には己の後継を育てるように命じた」

 

 そんなことしていたんですか。ですけど一理あります。フールーダの時も然り、誰かに教えを得ることで一皮剥けるということもあります。ナザミなんて原作と二つ名変わっていますから原作より強いのは間違いありませんよ。

 ……原作で声や出番すら碌になかったなんて言ってはいけません。禁句です。

 

「そして、今回だが……トーマス・アルトランドがこの戦争を期に四騎士を退くことにした」

 

「……なんですって?」

 

 え?トーマス四騎士辞めるってよ?なんでです?

 

「お前も驚くのも無理はないか。理由としてはトーマスは近いうちに結婚することが決まっていてな、これから出来る家庭を大切にしたいということで騎士としては現役を退き文官として働いてもらうことにした。後釜などを正式に任命するのは戦争後になる」

 

「結婚ですか……バジウッドは確か四人ぐらい奥さんがいましたよね?兼任できないんですか?」

 

「今は増えて五人だ。ちなみに妻にしているのは一人で後は愛人だ」

 

「陛下と同じですね、多くの女性を囲ってるところは。だから最近仲がいいんですか?」

 

「そういうことじゃない!それに私はまだ正妃を決めてはいないぞ!」

 

「ロクシーさんがいるじゃないですか。あんなに良い女性はいませんよ?」

 

 あれ?ジルクニフがムッとした顔をしています。気に触ることを言ってしまったかもしれません。

 

「……話を戻すぞ。トーマスは元々文官としての技能もあり、しばらく手が回っていなかった文書の作業なども任せていた。正直言えば今も人手が足りておらずトーマスほどの男がそちらに従事してくれるならこちらとしては大歓迎と言ってもいい。一時的に戦力は低下するかもしれんが、今の騎士団からしたら微々たるものだ、問題はない」

 

「ちなみに次に任命される騎士は決まっているのですか?その様子だと選定も終わっていますよね?」

 

「ああ決まっているとも。ニンブル・アーク・デイル・アノックという男だ。トーマスが太鼓判を押すほど有能な男でな」

 

 おお、ここで出て来るんですか!と、なるとレイナースの加入も近いですね。しかし……トーマスが引退するのは分かりますけどルミリアはどうなんでしょう?彼女は私と戦場に立つのが楽しみで仕方がないと言っています。そんな彼女がいなくなる要因……やはり原作通りガゼフに負けて死んでしまう運命なのでしょうか。

 

「それともう一人、こちらはルミリアが鍛えていた後継の一人にレイナース・ロックブルズという女騎士がいる。この女騎士だが、少々問題がある」

 

 そんなことを考えていたらレイナースの話になりましたね。

 聞けばルミリアに鍛えられていく中でルミリアを通してジルクニフに相談した様で、それこそが彼女の実家であるロックブルズ家と婚約者によるレイナースへの冷遇でした。

 レイナースは元々辺境の貴族令嬢で騎士になってからはその腕で領民のためにモンスターと戦っていたそうですが、ある日倒したモンスターから何やら呪いを受けてしまい顔の右半分から膿が止まらなくなる呪いがかかってしまったといいます。そのせいで実家から追放されてしまい婚約者からは捨てられ、生きる術として帝都で四騎士を目指し実家と婚約者に復讐すべく研鑽を積んでいたとのことでした。

 

「なるほど、そういうことですね?分かりました、直ちにロックブルズ家の粛清に向かいます。婚約者の名前も教えてもらっても?」

 

「落ち着け、すぐに粛清しに行こうとするな。頼むからこれ以上俺の胃を痛めてくれるな」

 

 おや、止められてしまいました。しかし、粛清しない粛清騎士っている意味あるんでしょうか?分かりません。

 

「その件はもうこちらで対処している。レイナースの望む復讐をしてやったとも。それで本題だが……彼女の顔の呪いについてだ。既に神殿の神官たちにも診せたが解ける者は誰一人としていなかった。余程厄介な呪いなのか、それともそもそも解呪出来ない類のものなのかも分からん。フールーダに聞いても分からなかったからな」

 

 確かに、レイナースの呪い自体は作中でも多くは語られませんでしたね。私は原作を読んでいた頃顔の半分が爛れていてそこから膿が出ているものだと思っていましたが、実際は容姿はそのままで膿が止まらない呪いの様でした。嫌な呪いですよね、よくもまあそんな呪いをかけられるモンスターがいたものです。

 しかし、その呪いのお陰かカースドナイトというレアな職業を習得しています。これが呪いによって失われるのかどうか気になるところですがどうでしょうね?

 

「そこでだ、最後の望みとしてお前に相談するに至ったわけだ。何か解呪する方法を知らないか?」

 

 呪いの解除方法ですか……。思いつかないこともないこともないのですが。

 

「残念ながら、現状信仰系の魔法は勉強出来ていないのでそれほど強力な魔法は使えません。それに呪いを解くという魔法も私は知らないので、その辺りを学ぶ必要があります」

 

 いつだか神殿に学びに行こうと思ってはいましたが、そのタイミングで別件の任務を与えられたので機会を逃していたんですよね。それでも使えないことはないのですが。

 後思いつくのは……。

 

「一つ、もしかしたらというものはあります。トブの大森林の奥地には超希少薬草が生えているというのを聞いたことがあります。呪いに効くかどうかは不明ですが、膿になら効くかもしれません。ただ、最後に採取されたのは大分前のことなので今も自生しているかは不明ですが……」

 

 そう、原作でイビルアイがガガーランに語ったアダマンタイト冒険者チーム『漆黒』の偉業の一つで語られた超希少薬草の採取です。()()()()()()()()()()()()、超希少というぐらいなのでこの世界基準でも高い効果を持っている可能性はあります。呪いに効けば御の字ですね。

 

 

「なるほど、賭けてみる価値はあるか。トブの大森林について詳しいのは冒険者か……しかし帝国の冒険者はアテにならんな」

 

 そうですね、原作でも帝国の冒険者の地位は元々低かったですが、誰のせいか分かりませんが騎士たちが率先してモンスターを狩っていくので冒険者の食い扶持が減って仕事が薬草採取や護衛などの細々としたものしか依頼がなく、冒険者を辞めて騎士を目指すかワーカーになるという様な事案が増えています。

 なので、今の帝国の冒険者組合は閑古鳥が鳴いている様な状況で今いるアダマンタイト級冒険者チームも何処ぞの大商人と契約して護衛や希少アイテムの獲得のために奔走しているという話を聞いた覚えがあります。

 中には名前を売るために闘技場に参加する冒険者チーム、ワーカーチームも多くなり闘技場は連日大賑わいだそうで。

 余談ですが今の闘技場には二人の武王がおり、それぞれ『巨王』と『凍王』と呼ばれ鎬を削っているそうです。いずれ唯一の武王を決めるための決戦が行われるそうですが、これまでの戦いでも決着は着かなかったそうなのでどうなるでしょうね。

 

「冒険者もワーカーもアテにならないなら騎士たちを派遣……ああ、戦争前だからあまり動かせませんね」

 

 全軍動かすわけではありませんがそれでも個人のために軍を動かすとなればそれなりの理由は必要ですからね。レイナースのため、となると少々難しいでしょう。

 そうなれば動けるのは私ぐらいですか。

 

「では私がトブの大森林に向かいましょうか。転移の魔法も使えますし騎士を大勢派遣するよりも私一人の方が気楽に動けますから」

 

「待て、それでまた何ヶ月も帰ってこないなんてことないよな?流石に戦争も近いからそれだけは勘弁して欲しいんだが」

 

「大丈夫ですよ。今回は一通り探して見当たらなければすぐ帰ります。それにあの森には一応知り合いがいますから、まずそいつから当たってみます」

 

 あまり期待はしていませんが〈愚か者()〉に聞くだけ聞いてみましょうか。もしくは西にいるリュラリュースを探して聴き出すのもありですね。あちらは〈愚か者〉と違って話が分かるはずですから。

 

 

「そうか、ならば任せるぞ。それと、伝え忘れたがルミリアもこの戦争後四騎士を退く」

 

「え!?なんでですか!?」

 

「ルミリアはレイナースに敗れてな、それ故の措置だ。退いた後は……お前の下に就きたいと懇願されているが、現状は保留だ。ルミリアは実家のこともあるからな、もしかするとこのまま引退することになるかもしれん」

 

 そういうことですか。ルミリア負けたんですか……レイナースを私が鍛えた覚えはないので自力でここまで登ってきた騎士がいると思うと胸が熱くなりますね。そういう騎士は可愛がってあげたくなります。

 ルミリアは……もう戦争が一緒にする最後の仕事になるかもしれませんからね。せめて戦争では共に盛大に花を咲かせましょう。騎士を続けるのであれば後進の騎士を育てさせるのもいいですね。どちらにせよこの件はジルクニフの決定を待つしかありませんね。

 

「ルミリアとトーマスとの最後の仕事……この戦争で二人のためにも華々しい結果を残してみせますね」

 

「待て、頼むからそんなに張り切るな!お前が張り切ると碌なことにならん!!」

 

 ジルクニフがなんか言ってますがよく聞こえませんでした。

 ともかく戦争前に薬草探しを頑張るとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この時私はまさか戦争前にあんな激戦をすることになるとは思ってもいませんでした。

 ()()()()()()()()w()e()b()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






補足:アレーティアは原作書籍、Web版、漫画版を知っていますがドラマCDは聴いていません。
なのでザイトルクワエのことは知らないという設定です。


トーマス──四騎士引退予定。しかしその前にはガゼフが立ちはだかっている。四騎士を辞めたかったのはアレーティアにこれ以上振り回されたくないとかそういう事ではない……はず。


ルミリア──レイナースに敗北したため席を譲ることに。貴族令嬢なのでこれを機に結婚させられるかもしれない。しかし当の本人はアレーティアの部下になろうと画策中。


レイナース──地味に強化されている原作四騎士。呪いを解くためなら何でもする覚悟。


ナザミ──フルアーマーガゼフと同等ぐらいには強い。クレマンティーヌ相手なら漆黒聖典時代だと敵わない。


ジルクニフ──正妻にしたい相手がいるらしい。しかし結ばれないし、むしろ他の女性を推される。


アレーティア──戦争前に野暮用を済ませようとした結果、人生最大の敵と遭遇することになった。


次回、戦争前なのにトブの大森林決戦という謎の事態。



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帝国ルート ザイトルクワエ編
アレーティアとドライアド 〜世界を滅ぼせるやべーやつ〜



OVAでこの『封印の魔樹』と『プロローグ上下』を作ってくれないだろうかと願いながら書いてます。


 

 

 はい、私アレーティアは現在トブの大森林に来ています。

 足元をご覧ください。ズタボロにしてやった〈愚か者()〉を足蹴にしています。

 コイツは本当に懲りませんね。久々に会って話を聞こうとしたところ、怒り立って攻撃してくるとは。力の差を忘れている様なので返り討ちにしてやりました。

 

「力の差、思い出しましたか〈愚か者〉」

 

「グウウウゥゥゥ!!その名で俺様を呼ぶなァ!!」

 

「痛みが足りないらしいですね、〈炎斬〉」

 

「ギャアアアアアアア……ッ!!!」

 

 この感じだと仮に薬草の生えている場所を知っていても忘れていそうですね。期待は然程していませんでしたが損した気分です。

 とりあえず半身燃やして死ぬ寸前まで痛めつけてやります。殺すつもりはありませんが、逆らうことは許しません。その貧相な頭に私という強者の存在を刻みつけてやります。後ろでガタガタ震えているトロールやオーガの方が分を弁えている分賢そうに見えますね。いつの間に部下を集めたんでしょうか。

 

「や、やめろぉお!!」

 

「やめろ、じゃなくてやめてくださいでしょう?〈殴打(スマッシュ)〉」

 

「ぶげえぇぇっ!?」

 

 

 

 

 

 さて、〈愚か者〉に無駄な時間を割いてしまったので〈観測衛星(オブザベーション・サテライト)〉を駆使してトブの大森林全体を探知していきます。魔力消費量は多いですが目当ては薬草なので探す場所は多そうです。一先ず奥地へと向かいそれらしい薬草の生えている場所に向かいましたが、どれも違いました。

 こういうアイテムを探す時に〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉は便利ですね。片っ端から薬草を摘んでは鑑定していきます。しかし超希少というだけあって見つかりません。困りましたね、やはりもう存在しないのでしょうか?そんなことを考えながら森の奥へ奥へと向かっていると樹々が枯れ果てている場所に辿り着きました。

 枯れ果てているのは木だけでなく草も土も何かに栄養でも奪われたのではないかというぐらいに枯れ果てています。森の中に荒野が広がっている様に思えます。

 ただ、少し異様なのはその先に何らかの薬草が自生しているのを〈観測衛星〉で確認しているのと同時に一本の──全長百メートルは超えていそうな巨大な樹が生えているということでしょうか。もしかすると、超希少な薬草は周囲一帯を枯らして栄養を独り占めして生えるタイプの物なのですかね?そう考えると超希少というのも納得出来ます。今後薬草を研究して養殖出来ないかと思っていましたが、そういう類なら無理そうですね。

 一先ず、その巨樹へ向かいましょうか。ここで時間を潰している暇はありません。薬草が無いなら無いでさっさと帰って神殿で神官に呪いに関する本や魔法について学んだ方が率がいいです。

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと声をかけられます。

 

「おーい、そこの人!ちょっとちょっと!」

 

 はて?アレは……ドライアド、でしょうか?エイヴァーシャー大森林でもたまに見かける種族です。こんな枯れたところにいるのは想像していませんでしたが。

 何はともあれコミュニケーションを取ることは大切です。友好的に接しましょう。

 

「私に何か用でしょうか?」

 

「そうそう、君に用があったんだ!この先は危ないよ!この先には世界を滅ぼせる魔樹がいるから!」

 

「世界を滅ぼせる魔樹?」

 

 そんな存在いましたか……?薄れつつある原作知識を必死に思い出しますが、それらしい存在が思い当たりません。

 ネーミング的にヤバそうな破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)ぐらいなら思いつきますが、魔樹であって竜王ではありませんからね。きっと違うでしょう。

 

「そうさ!私が生まれてなかったずっと大昔なんだけど、突然空を切り裂いて幾多の化け物が大地に降り立ったことがあったんだってさ。その化け物たちはドラゴンたちの王様と互角の力を持っていたらしいんだけど、結局全て倒されてしまったら死んだけどね」

 

 ふむふむ、これは俗に言う百年の揺り返しの影響でしょうね。ユグドラシル産のモンスターやギルドのNPC、プレイヤーのことを指しているんでしょう。

 最も有名な八欲王でさえ空を貫くほど大きいなどと誇張されているぐらいですからね。流石にそんなに巨大なキャラクターを使っているプレイヤーはいないでしょう。……いませんよね?

 とはいえ、この感じだとあの魔樹と呼ばれたものがユグドラシル産のモンスターであることは確定ですね。名前は……聞いてみますか。もしかしたらヒントがあるかもしれません。

 

「ちなみにあの魔樹には名前はあるんですか?」

 

「え、えーっとなんだっけな……ザイトロ……じゃない、そうだ!ザイトルクワエだ!ザイクロなんちゃらの一種なんだってあの人が言ってた!」

 

「あの人?」

 

 ザイトルクワエですか。名前に全く覚えがありませんね。しかしあの人とは……?

 

「そうそう!私が約束した人!私が生まれて沢山太陽が昇った頃、ザイトルクワエの一部が目覚めて暴れ出した時に現れて退治してくれたんだ!名前は……聞いてなかったな。でも若い人間の三人、大きい人が一人、歳をとった人間が一人、羽の生えた人が一人、ドワーフが一人の七人組だったのは確かだよ」

 

 七人組で種族混合のパーティですか。人数こそ合いませんがこれって十三英雄のことでは?そう仮定すると大体二百年前でしょうか?

 彼が名前を覚えていて、リーダーの名前が『リク』なら多分確定なんですけど……。ただ人数的に合いませんがこれはまだ結成して間もない頃だから、と考えます。

 なにせこの十三英雄というのも、原作のイビルアイ曰くもっと多くの者がいてスレイン法国が意図的に人間以外の種族の伝承を消しているということを話していた気がします。

 本当にあの国人間のことしか考えていませんね。もっと協調性を身につけてください。

 

「それでその七人組のリーダーがザイトルクワエって名付けていたんだ。その時に魔樹が目覚めたら倒すって約束をしたんだ。君、もしかしてだけどこの七人組が今何処にいるかって知らない?」

 

「いえ、全く……そもそも生きているかどうかすらも怪しいのでは?」

 

「ええ!?皆死んでしまっているのかい!?」

 

「そりゃあ話を聞いている限り二百年も生きていられる長命種でもなければ生きているとは考えにくいでしょう」

 

「にひゃくねん?それって太陽が何回昇った頃?」

 

「……魔樹が目覚められるぐらいに栄養を蓄えられるだけの長さ、と言ったら伝わります?」

 

 この手の例えは苦手なので伝わるといいんですが……。

 

「ええーっ!?そんなに経ったのかい!?大変じゃないか!!」

 

 伝わったみたいです。助かります。

 しかし、このピニスン中々長生きしているのでもしかしたら薬草のことを知っているかもしれません。ダメ元で聞いてみましょう。

 

「ところで話は変わるのですが、この森にすごく珍しい薬草が生えていると聞いて探しに来たんですが何か知ってますか?」

 

「え、ああ薬草ね。確かね……ああそうだ。あの人たちが言っていたんだけど、ザイトルクワエに珍しい薬草が生えてるって言っていたよ」

 

 まさかの薬草ユグドラシル産ですか!?

 となるとあの魔樹を起こさずに採取する必要がありますね。中々強そうではありますから。

 

 確かに私も強いという自覚はありますが、油断は禁物です。

 目覚めていないとはいえ目の前にいるのはユグドラシル産の、ましてや原作知識に無いモンスターです。レベル百の可能性もあります。そうなったらいくらなんでも勝ち目は薄いです。切り札はいくつかありますがそれが通用するかどうか……。

 とはいえ薬草があるのであればそれだけサッと回収して帰れば問題ないでしょう。なにせ原作では登場していないということは現状目覚めはしないということですから。仮にその一部が目覚めたとしても初手で最強化した魔法を二重三重にして放てば相当なダメージを与えられるはずです。

 

「教えてくださりありがとうございます。では私は薬草を採りに行くのでこれで」

 

「ま、待ってよ!危ないって!まだ目覚めてないとはいえ、いつ目覚めるか分からないんだよ!?近寄らない方がいいって!せめてドラゴンの王様たちを呼んできてからにした方がいいよ!」

 

「ドラゴンの王様……ねぇ……」

 

 一人……いや、一匹心当たりがありますけどアレが戦力になるかといえばどうでしょう?始原の魔法も使えないし傲慢だし、最近では妃三匹に物理的に抑えられているあの情けない王様しか……。

 もしくは八欲王のギルド武器を守護していて鎧しか動かない白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)か……まあこちらは会おうにも会えませんからね。どうにもなりません。

 他にも七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)やその子孫である竜王国の女王も思いつきますがこちらも知っているだけなのでダメですね。

 

「一先ず、まだ眠っている様なら薬草を採る程度なら問題ないはずです。現に……貴方でいうところの太陽が何度も昇る前に一度別の人物があの薬草を入手出来ていますから」

 

 薬草を採るぐらいなら問題ないはず……仮にその程度で目覚めてしまうなら原作でも『漆黒』が超希少薬草を入手した際の戦いがあった的なことが語られてもおかしくないはず。

 それに、採るたびに目覚めていたら何度世界が滅んでいることか。

 

「そ、それならいいんだけど……本当に大丈夫?」

 

「大丈夫ですって。それに私も強いのでいざとなったら戦いますから」

 

 心配するドライアドを振り切りいざ魔樹へ!探知の魔法で何処に生えているかは確認済み。さっさと採って帰りましょう。

 

 

 

 

 ……ォォォオオオオ

 

 

 

 

 ……え?なんか聞こえた気がします。

 

 

 

 

 

 ……ォォォオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 

 バキバキ、メキメキと音を立ててその巨大な身体を動かし、獣の様な声を出して──

 

 

 

 

 

 ──世界を滅ぼせる魔樹、ザイトルクワエがここに目覚めた

 

 

 

 





ドライアド──本名ピニスン・ポール・ペルリア。推定二百歳。原作、WEB版それぞれに存在するが色々異なる点がある。
なおアレーティアは存在を覚えていない。

アレーティア──今回に関して一級フラグ建築士。次回、レベル的には互角の敵との激戦。

ザイトルクワエ──推定レベル八十〜八十五。体力は測定外。ドラマCDでは守護者全員に袋叩きにされた挙句アインズの魔法で装飾され派手に散った。
ちなみに本来なら目覚めるのはまだ先。リザードマン編辺り?
目覚めた理由はアレーティアが目覚めない目覚めないとフラグを立てたから。
次回、アレーティアと激戦を繰り広げる予定。

オラサーダルク──竜王なのに弱いとアレーティアに言われてしまう悲しきフロスト・ドラゴン。最近余計なことをしてアレーティアに処理されない様に必死な妃三匹に物理的に抑えられている。流石に妃には手荒な真似はしないらしい。

白金の竜王──もっと簡単に紹介すれば名前はツアー。原作では白金の鎧を遠隔操作してアインズ(パンドラズ・アクター)と激戦を繰り広げた。制限無しなら世界最強らしい。
アレーティアに関しては既に存在を察知しているが、まだ様子見。


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アレーティアとザイトルクワエ 〜世界を滅ぼす魔樹〜


遅れました。戦闘描写難しいですね……分りづらかったらすいません!

今回、ザイトルクワエに大分独自設定盛り込んでいるので苦手な方は注意してください。




 

 

 ォォォオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 私まだ何もしてません。何もしてませんよぉ!?

 何もしてないのに、近づいただけなのに目覚めたんです!ホントなんです!!

 こちらのことなど露知らず目覚めたザイトルクワエは六本の触手──全長三百メートル──を振り回して辺りにある樹々を掴み、その巨大な口へと放り込んで捕食しています。栄養が足りなかったのでしょうか?こちらに気づきながらも一心不乱に樹を貪っています。

 

 

 ……ってそんな落ち着いている場合じゃないですね。マジでヤバい状況です。何せ相手はユグドラシル産のモンスター。過去の竜王が滅ぼしきれてないところからかなりの高レベルなのは容易に想像出来ます。

 この前カッツェ平野で捕まえた伝説(笑)のデスナイトとは格が違います。

 

 ともあれ食事中の今がチャンスです。ルーンで可能な限り強化した魔法で先手を取ります。

 

「〈刻印魔法最強化(ルーンマキシマイズマジック)隕石落下(メテオフォール)〉」

 

 虚空にルーンを刻み最強化した第十位階魔法〈隕石落下〉。通常ならこの一撃で大抵の敵は倒せますが果たして……。

 落下した隕石は標的であるザイトルクワエに直撃するも……これはどうでしょう?当たりはしましたが苦しんでいる様には見えません。これはほぼほぼ効いていないのでは……?

 そんな心配を他所にザイトルクワエはついに臨戦体制に入ってしまいました。六本ある触手のうち四本を順々に私目掛けて叩きつけてきました。かなりのスピードです、三本目までは躱わせましたが四本目はマトモに食らってしまいました。あの速さにこの一撃の重さ……正直言ってかなり厳しいです。早速新調したばかりの鎧に亀裂が入ってしまいました。

 ともかくあの触手をどうにかしなければなりません。

 

「〈上位筋力増大(グレーター・ストレングス)〉〈上位敏捷力増大(グレーター・デクスタリティ)〉〈上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)〉──」

 

 先ずは知りうる限りの支援魔法を自分にかけます。そして戦士化し改めて武技による自己強化をします。

 

「〈能力向上〉〈能力超向上〉〈不動〉〈超加速〉──」

 

 武技は魔法と違って幾らか集中力を要するので必要最低限に。しかし、魔法詠唱者から戦士に切り替えても支援効果が消えないのは非常にありがたいことです。

 〈無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)〉から二振りの剣──フレイム・オブ・アゼルリシアとフロスト・オブ・アゼルリシアを取り出します。

 出し惜しみなし、とりあえずはあの触手を一本ずつ伐採してやります。

 少なくとも相手は格上ですが、私は格上と戦うことには慣れています。──これがあのクソ親父のお陰だと思うと嫌な気分になりますが今だけは感謝しましょう。

 まずは手始め!ザイトルクワエは見ての通り木のモンスター……トレント系であると仮定します。なので右手に握るフレイム・オブ・アゼルリシアによる追加効果、魔力消費による火属性攻撃強化での大ダメージを期待します。

 再び向かいくる触手に〈炎斬〉で迎撃。今回は刻んだルーン十文字全て起動しているためバカにならない攻撃力が発揮され触手を焼き払います。

 どうやら、この触手自体は本体がいるからか攻撃力こそ高いですが耐久力はあまりない様です。この一撃だけで一部を斬り飛ばせました。

 続けて二本目──同じく〈炎斬〉で斬り払い、三本目は──流石に間に合わないので、ここで左手に握っていたフロスト・オブ・アゼルリシアを振るい〈大空斬〉を放ちます。

 この〈大空斬〉はどこぞのエルフ奴隷にとっての天敵が使っていた武技の強化版でアレとは比にならない威力を誇ります。また、ここにフロスト・オブ・アゼルリシアによる追加効果、冷気による追加ダメージが付与されているため三本目の触手を切り裂きながら凍結させ速度を落としフレイム・オブ・アゼルリシアで迎撃。三本目の触手も凌ぎ切りました。

 四本目が迫る中、武技〈流水加速〉を発動し触手を躱し──触手に沿って縦に回転し切り裂きながら本体へと向かっていきます。俗にいう『リ◯ァイ斬り』と言えば伝わるでしょうか?モンス◯ーハンターでも双剣を使っていた人はきっと分かるでしょう。

 かなりの距離を切り裂きながら辿り着くは本体。空中でやや不利ではありますがここまで来れば関係ありません。この状態で出せる最高威力のスキルを叩き込みます。

 

「〈風斬〉」

 

 凄まじい音を立ててザイトルクワエの本体に風属性で強化された斬撃を与えました……が、あまりに巨大過ぎてこの一撃が効いているのかどうか非常に分かりづらいです。この一撃で真っ二つ、ないしは半分ぐらいぶった斬れれば良かったのですが、やはりユグドラシル産のモンスターは格が違います。この時、運良く薬草を切り落とせたので回収出来ました。

 

 さて、こちらもたった一撃かまして終わるわけにはいきません。フレイム・オブ・アゼルリシアには炎属性攻撃を強化する以外にももう一つ特殊効果があります。それは周囲一体に溶岩を発生させ地形ダメージを発生させるというもの。体が樹であるザイトルクワエにはさぞ堪えることでしょう。

 これを初めて起動させた時にうっかり皇城の一部を溶岩に変えてしまいジルクニフに烈火の如く怒られたのは記憶に新しいです。

 早速溶岩を発生させ……うーん、巨大過ぎて効いているか微妙ですね。それでも無いよりはマシ。触手による攻撃が再開する前に出来る限り攻撃を与えていきたい所存です。

 

 故に、武技を使わず追撃──もといルーンを刻んでいきます。刻印魔法は空中に魔力で刻むだけでなく、こうして物理的に刻むことでも発動出来ます。条件としてはルーン武具でなければいけない制約がありますが、あってない様なものです。炎に関する高位、中位の文字を三文字刻みます。フレイム・オブ・アゼルリシアにも刻んでいる″(アンサズ)″、″(ケン)″、″(ウル)″の炎を司る三文字です。刻み込んだ文字が輝きその効果を発動、刻んだ付近を炎や爆発が包み込みました。

 

 

 ォォォオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 流石に堪えたのかザイトルクワエから悲鳴のような声が聞こえます。

 それと同時にザイトルクワエの枝から何かが飛んできて……イイッ!?

 飛んできたのは私の頭の大きさほどの種子。それも数えるのがバカらしくなる数が飛んできます。そんな遠距離攻撃があるとは……当たればひとたまりもありません。〈超回避〉を発動し種子の雨を躱し、すかさず武技〈重爆一閃〉を使い攻撃をしていきます。

 種子の雨による攻撃を凌ぎきれば今度は再び触手による追撃。休む間もありませんね……いい加減触手の一本でも斬り飛ばして使えないようにしなければこちらのスタミナが持ちません。なのでここはフロスト、フレイムによるコンビネーションアタックで確実に一本は破壊します。

 

 フロスト・オブ・アゼルリシアに魔力を込めその能力である氷属性魔法を発動。この魔法はルーン文字により再現されており位階魔法に含まれるかどうかは怪しいですが、威力だけならフロスト・ドラゴン十八番の冷気のブレスをも上回ります。これにより触手の大部分──五十メートル程──を凍てつかせ、フレイム・オブ・アゼルリシアによる炎属性強化の一撃〈炎斬〉にて凍った部位を砕き粉々に。ようやく一本目の触手の破壊に成功しました。

 続く二本目、三本目は……一本目の破壊に余力を使ってしまったため躱わす、受け流す、弾くという行動で対処してしまい、すかさず〈不落要塞〉を発動しましたが……

 

「ぐぶぅっ!!」

 

 それを上回ってきました。腹に直撃しそのまま後方に吹き飛ばされてしまい……四本目の触手がトドメとばかりに受け身の取れていない私目掛けて叩き落とされました。

 最早鎧は原型を留めておらずボロボロになってしまい所々穴──その下には素肌とインナー──が見えてしまっています。

 流石に五本目、六本目まで受けてしまってはマズいので、痛む体に鞭を打ち攻撃の届かない位置に退避します。

 

 無限の背負い袋からポーションを数本取り出し傷にかけ、飲み込み傷を癒します。

 ここで更に触手が二本同時に追撃してきました。回復中の攻撃ほど鬱陶しいものはないですね!ポーションの瓶を投げ捨て即座に剣を構え……とある武技を模倣します。原作では剣一本で放ちましたが私は剣二本でこれを再現します。

 

「──〈双剣・六光連斬〉」

 

 そう、あのガゼフ・ストロノーフが使ったオーバーロードでも武技と言えば最初に名前が上がる〈六光連斬〉。使えるようになってから今か今かと出番を待ち望んでいました。

 本当は戦争でガゼフと対峙した時に六光連斬のぶつかり合いとかやりたかったんですけどね。命がかかっているんで出し惜しみは無しです。

お陰で触手二本輪切りに出来ました。残る触手は後三本、全て斬り飛ばしてや……る……!??

 

 

 ……その時、私は見てしまいました。正直、私はこれを全く予想していませんでした。

 植物系モンスターであるなら、ある程度警戒して然るべきそれを想像出来ずこのような状況を作ってしまいました。

 

 

 あんなことになるなら……先にあの種子全てを燃やし尽くしたというのに。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ──かつて、ユグドラシルをプレイしていたプレイヤー達はこぞって運営会社を糞運営と罵っていた。

 理由は数多く、世界級アイテム──主に二十と呼ばれるアイテム──や理不尽な力を持ったボスモンスター、あまりにも未知なことが多すぎるという要因が大多数を占めている。

 その中でも今回、アレーティアが直面した出来事はこれに匹敵するだろう。

 

 アレーティアが見たもの、それは──

 

 ザイトルクワエに似た植物モンスターが大量発生している風景だった──。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ミギャアアアアアア!ミギャアアアアアア!

 

 

 

 落ち着け、落ち着きましょう。現実を受け入れるんです。前方から聞こえる精神を削るような不快な音、声を耐え忍びます。

 目の前には数を数えるのがバカらしくなるほどのザイトルクワエの……種子が発芽し成長しています。

 あの種子による攻撃がそのままモンスターが湧くことに繋がるとは……流石はユグドラシル産のモンスター、クソですね。とりあえず、新しく現れたザイトルクワエは眷属と仮称します。

 

 一瞬、撤退する案が浮かびましたが即却下です。なにせ、あの眷属たちは恐ろしいことに根を器用に動かして移動を開始しています。見たところ弱そうですがとにかく数が多い。もしも森から出て被害が拡散すると考えれば……なんとしてでもこの場で倒さねばなりません。

 ……まさかですけどザイトルクワエも動き出したりしませんよね?流石にそうなったらマズイどころではありません。ガチで世界が原作始まる前に終わります。

 後ろからドライアドの絶叫が聞こえますが無視です。むしろ私がこの状況に叫びたい。

 撤退不可、孤立無援、しかも相手は良くて私と同等、悪くて格上。故郷の森にいた頃を思い出しましたが、あの時でもここまで絶望的な状況はなかったでしょう。

 

 まずはあの眷属から……うわ、うじゃうじゃと湧きすぎて気持ち悪い!SAN値が!SAN値が下がる!!

 一先ず、これ以上は戦士化では対処出来ません。なにせ私の戦士としての経験上一対一を最も得意としていて多数が相手──雑魚相手なら雑に倒せますが──となると正直手数が足りません。

 ならば、魔法詠唱者化して高位の魔法を叩き込み眷属を一掃し、魔力が尽きたら戦士化し戦えばいいです。

 無限の背負い袋からセブンスター・ルーンを取り出し魔法の詠唱を──えっ!?なんで魔法が使えな───

 

 魔法が使えないと気づいた時にはもう遅く、その隙を逃さなかったザイトルクワエの触手が再び私の身体を捉え、叩きつけ、それを防ぎ、横から薙ぎ払われ、防げず、追撃の叩きつけを連続で受けてしまい──

 

 

 あ、これ死───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グシャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ザイトルクワエ──現状触手が一本焼かれ、一本使い物にならなくなり、二本輪切りにされている。無事なのは残る二本だけ。
原作では触手を叩きつける、種を飛ばすなどあまり見せ場が無くナザリックに滅ぼされたが、今回はギミックが発動しまくっている。
体力が一定量減ることにより飛ばした種から同種の植物系モンスターが湧いてくる。(種が飛べば飛ぶほど増える)
この湧いたモンスター……眷属の叫び声を聞いてしまうと一定時間魔法が使えないデバフがかかる。他にも毒、麻痺など様々な状態異常を与えるスキルを使用する。レベル推定四十。
多分これぐらいならユグドラシル運営は平気でやると思います。


アレーティア──経験不足による不手際で予想外の一手を受けた。
ザイトルクワエと一対一の勝負と考えてしまったのが最初の失敗。むしろ最初から魔法をガンガン使うべきだったが長期戦に備えて温存してしまった。






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アレーティアとザイトルクワエ 〜世界を滅ぼすお前を滅ぼす〜


お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません。

初シリアス回になるのかな?そうじゃあないかもしれません。

本当はクリスマスにザイトルクワエをクルシメマスツリーにしようとも思ったんですが、アレーティアは〈時間停止(タイムストップ)〉使えないんで断念。
あれができるのはアインズ様ぐらいです。



 

 

 ……あれからどれくらい時間が経っただろうか。数日?一日?それとも数時間か数分か。どれほどかは分からないけど気を失ってしまった事だけは確かだった。

 魔法が使えないことに動揺した私は情けないことにその隙をつかれ、今まさに死にかけている。なんて無様。

 恐らく、初撃の〈隕石落下(メテオフォール)〉は問題なかったことから、あの眷属の叫び声か何かが魔法を封じる効果を持ったスキルだったに違いない。

 

 微かに見える視界には夜空とザイトルクワエの眷属が私に群がってきている光景が。恐らく、トドメを刺しにきたか死んでいるはずの私から養分とかそういうのを奪いにきたのでしょう。

 このままだと死ぬ……間違いなく、誰にも知られず死ぬ。

 

 帝国のみんなは今どうしているだろう?王国との戦争準備?戦争における作戦会議?ああ、ジルクニフなら後宮でロクシーと話しているか妾の女性と一緒に過ごしているかもしれない。

 バジウッドは?奥さんと四人の愛人と仲良く過ごしているのかもしれない。ナザミは?彼は意外と甘いものが好きだから何か食べているかもしれない。ルミリアは?彼女は貴族令嬢でもあるからもしかしたらどこぞのパーティに出ているかもしれない。婚約者はいないと言っていたから、ルミリアほどの美人なら候補者も多いだろう。トーマスは?もうすぐ結婚予定の女性と二人の時間を大切にしているかもしれない。

 

 多くの可能性。それは平和な帝国だからこそ思い浮かべることができる。けど、ザイトルクワエが復活してこの眷属が、ザイトルクワエが世界各地に、帝国に攻撃してきたらそんなこともできない。眷属はどうにかなるかもしれないけれどザイトルクワエは無理だ。文字通り格が違う。そうなれば誰も彼もが夢を叶えることなく死んでいってしまう。……それだけはダメだ。

 

 ボロボロになった身体に鞭を打ちながら起き上がる。ザイトルクワエはまだ気づいていない。状態異常を回復するポーションを飲み込み転移魔法で一度ここを離れる。転移先はあのドライアドのところだ。

 

「あ、無事だった!?どうやって助かったのさ!?」

 

 ドライアドの甲高い声がちょっとうるさい……傷に響く。

 全身に浴びるほどポーションをかけ傷を癒していく。とはいえ低級の代物だから全て使い切っても全ての傷がいえるわけではなかった。

 次に……私お気に入りの竜騎士を模した全身鎧(フルプレート)がグシャッとボコボコ、ボロボロにされてしまい原型すら保っていない、辛うじて身につけられるゴミと化してしまった。まあ今の状況ならこの程度の装備では役に立たないだろう。

 

「うわぁ、これは酷いね……。もう使えなさそうなのが私でも分かるよ。それにしてもザイトルクワエ……こんなにヤバいやつだなんて思いもしなかったよ……」

 

 それは本当に同意ですね。原作でもユグドラシル運営と製作は散々糞だと言われていたのにそれをどういうことかよく理解せずに漠然とヤバいとしか認識していなかったのが敗因の一つ。

 もう一つは私の慢心だ。どうして私はあの時戦士化して戦ってしまったのか。取れる手段なら魔法詠唱者(マジック・キャスター)の時の方が圧倒的に多い。魔力を惜しんだとかそういう理由ではない。

 ……ああ、私は何と愚かなんだろう。思い当たったのは二振りの剣、フロスト・オブ・アゼルリシアとフレイム・オブ・アゼルリシアだ。この剣が出来上がり、無意識ながら振るう相手を私は求めていたんだろう。そして、私が、私が作った武器がユグドラシル産の、過去の竜王たちでも倒せなかった魔樹を倒すんだと思いあがっていたようだ。こうして死にかけてから冷静になった頭で思い返すと過去の自分を殺したくなる。

 

 

「本っっっ当に馬鹿みたいだな私……少し考えればわかるだろうに……」

 

「本当だよ!あの人たちが戦って苦戦した一部じゃなくて本体だよ!?それも一人で勝てるわけないじゃないか!!」

 

「……となると本当に出し惜しみなしで持てる全てをぶつける必要が……ジルクニフには使うなって言われてるけどアレを使うしか……いや、ここ帝国じゃあないしいいか」

 

「聞いてるの!?なんかすごい速さで動けるならここから逃げて竜の王様とかあの人たちを探して連れてきてよぉ~!!」

 

「……ごめんなさいドライアドさん。」

 

「なんだい!?もう私は助からないけど最後だし何でも許すよ!?」

 

「そう?じゃあ……ここら一帯ザイトルクワエごと滅ぼすから巻き込んでしまったらごめんね

 

「……へ?」

 

 

 

 さあ第二ラウンドの開幕だ。まずは装備を見直そう。全身鎧はもう役に立たないし、この程度の性能では──ルーンで強化してもあの触手の一撃には耐えられない。

 

 

 なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……あの当時は装備出来ないのにクソ親父から盗み取ってきたユグドラシル製の、それも伝説級(レジェンド)の装備を取り出し身につける。

 その名は極光の装衣(アウローラ・ローブ)精霊の指輪(リング・オブ・エレメンタル)。それぞれ魔法詠唱者時にしか身につけられない装備だ。

 だが、これでも足りない。あのザイトルクワエに勝つには持てる全てを出し尽くす必要がある。……私はまだこの身に宿った生まれながらの異能(タレント)を理解していない。それでも、幾度となく私を助けてくれたのはこの生まれながらの異能だと確信している。でなければ初めて戦場に立ったあの日、魔法を習ったことがないのに、使ったことがないのに身についた理由にはならないだろう。他にも私が助けを必要とした時、助けてくれたのはいつだってあのクソ親父ではなく『私自身』だった。

 

 

 

 

 

 だから──私に力を。あの世界を滅ぼす魔樹に負けない力を、私に与えてください。

 

 

 

 

 

 

 空に流れる星に願う様に己に祈る。そうすることが正しいと不思議と思えた。

 

 

 

I wish(私は願う)……!!」

 

 

 

 すると、どうだろうか。私の身体の癒えきらなかった傷は瞬く間に癒えていき、身体は今までかけていた武技や支援魔法の強化がなんだったのかと思うほどの力が、魔力が漲ってきている!

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 そう、アレーティアはここまで生まれながらの異能を持ちながら知ろうとしなかった。だが、無意識ながら使い方を知っていた。

 

 

 自らが願い、それを叶える。簡単に言えばそれだけの生まれながらの異能。

 

 

 アレーティアの生まれながらの異能とは──即ち、超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)の劣化版であり、自身の願いを叶えるものだったのだ。

 

 例えばそれは魔法の使えない身に魔法を扱える職業への転向が叶うスキルを与えたり

 

 例えばそれは自らが早く強くなりたいという願望を叶え

 

 例えばそれは自らが危機に瀕したときにそれを無効化するという形でその身に発現し

 

 例えばそれは自らが欲した鉱石を根こそぎ山脈から掻き集め面白いぐらいに発掘出来るようになったりと多くの場面でアレーティアを助けていた。

 

 そして、それを意図して使えば──自らのステータスをザイトルクワエを倒せるだけのものに変えることも容易なことだった。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 自身の能力が強化されたことを確認した私はセブンスター・ルーンを手に〈飛行〉で空を飛び、魔法の詠唱に入る。まずは眷属を一掃する……!

 

 

「よくもやってくれましたね……!お返しです。〈魔法最強化(マキシマイズマジック)大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)〉」

 

 大地が割れ吹き出した溶岩が容赦なく眷属たちを飲み込み焼き尽くしていく。時折眷属の悲鳴が聞こえますが今の私にはもうその状態異常は通じません。

 一体残らず溶岩に飲み込まれ、やがて割れた大地と共に溶岩も消え去りました。残すはザイトルクワエただ一体。

 

 ザイトルクワエの触手が迫りますが、今の私からすれば少し早い程度。空を飛ぶ私を叩き落とすことは叶いません。

 触手は無駄と悟ったのか再び種子を雨の様に発射してきましたがこれも……

 

「〈重力反転(リバース・グラヴィティ)〉……その種からもう仲間が増えることはありませんよ。〈隕石落下〉」

 

 もう油断はしない。種もこうしてしまえば発芽することもないはず。後で本体ごと破壊してやりますが。

 さて、ここで私一人では手数が足りないので特別ゲストを召喚します。

 

「〈根源の星霊召喚(サモン・プライマル・スターエレメンタル)〉」

 

 これが戦士化状態でも使えればもっと楽だったんですけどね!戦士化状態でも何かしら召喚できる様に後々スクロールの研究でもしてみますか。ともかく、まずはこいつを滅ぼしてから。

 

 根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)が私の意思に応え触手を相手してくれます。……心なしか戦士化した私よりも触手の捌き方が上手いんですが。おお、触手六本全て重力魔法で使えなくしていますね。これは負けていられません。

 

「その動かせない触手ごと切り飛ばしてやります〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティスラッシュ)〉」

 

 原作でもアインズ様が使っていた第十位階最高威力の魔法!見事に全ての触手を切り飛ばしただの樹にしてやりました!こうなればもう木偶の坊と……言いたいところですが油断は禁物、魔力もまだ余裕があるのでガンガン攻めていきます。

 

 

 ォォォオオオオアアアアアアッ!!!!!

 

 

 ああ、やっぱり一筋縄ではいきませんね。ザイトルクワエが姿を変えていきます。こういう時に攻撃しても無駄骨に終わるやつですね、分かります。変身してる時にダメージが入るのは稀なことですから。

 

 姿が変わったザイトルクワエは……そうですね、触手の代わりに無数の枝が絡み合い竜の口を模したかの様な形状になりそれが触手と同じ六本。更には今まで根元付近にあった巨大な口が上へと移動し竜に近い姿へと形を変えました。

 どこかで見たことある気がするんですよねこの姿。ビオ◯ンテ?

 

 グオオオオオオオ!!!

 

 なっ、まさかのブレス攻撃!?枝の口と本体の口から放たれたそれは非常に毒々しい色をしています。見るからに状態異常を与えるやつです。絶対受けたくありません。

 

「〈魔法効果拡大化(ワイデンマジック)台風(ハリケーン)〉」

 

 巻き起こした風でブレスを吹き飛ばし、災害の如き台風の猛威をそのままぶつけてやります。

 

 すると今度は枝の口が伸び私に噛みつこうとしてきます。触手より断然早いですが今の生まれながらの異能で強化された私なら避けられます。逆に強化されてなければまともに受けてましたね。

 根源の星霊に枝六本全部相手にしてもらう様に命ずると「え?無茶振りすぎません?そういうのは土のやつの仕事なんですが??」という声が脳裏に聞こえましたが根源の星霊は出来る子なのでやり遂げてくれますきっと。

 

 私は私でザイトルクワエを少しでも滅ぼしやすくするための準備をします。これはまあ運任せになるんですが。

 

「〈魔法三重化(トリプレットマジック)彗星落下(コメットフォール)〉」

 

 僅かに発動する可能性がある状態異常に期待をして〈彗星落下〉を三重詠唱。ダメージはそこそこ、追加効果は……見たところザイトルクワエ全体の動きが止まったので麻痺か時間停止か睡眠かの状態異常が発動しましたね。もし睡眠状態ならご愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 お前が二度と目覚めることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 ザイトルクワエの体力はまだ十分に残っているでしょう。相手はあの白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と同格だろう竜王ですら滅ぼせなかった規格外。しかし、物事には全て例外がある。それがこの魔法だ。

 

 

 ──滅ぼせ

 

 

 

 

大厄災(グランド・カタストロフ)

 

 

 

 

 

 

 

 顕現した大厄災。帝国に来てしばらくして最強の魔法ってなんだろうと、使えば勝ちみたいな魔法があればなぁと思った矢先、魔力の消費量が増え代わりに威力が跳ね上がったのを実感した時、同時に習得した魔法──厳密にはスキル。

 

 私の魔力の半分以上を消費するものの、その力はジルクニフに帝国では絶対に使うなと厳命されるほど。あのお披露目では平原一つを完全に破壊し尽くし地形すら変え、その余波で見物人全員が巻き込まれかける事態に陥ったのをよく覚えている。

 

 世界を滅ぼす魔樹を、ザイトルクワエを破壊の嵐が飲み込んでいく。その身体は破壊されまいと耐えている様だが大厄災は容赦なくその外皮を削り、剥がし、砕いていく。

 

 

 グオオオオオオオアアアアアアァァァァ……!!!!

 

 

 ザイトルクワエの断末魔すら大厄災は飲み込み──

 

 後に残ったのはかつて世界を滅ぼす魔樹と呼ばれた残骸だけだった。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「ああ、疲れた……もうクタクタ……」

 

 ザイトルクワエを無事倒し、地面に腰を下ろして休息をとります。

 実に数年ぶりの激戦でした。出来れば二度と戦いたくはありませんがこの戦い学びは多かったです。

 戦士状態の弱点が明確になり、また戦法などを見直す必要があります。ぷにっと萌えさんを見習わなければ……。

 

 ああ、ザイトルクワエの残骸は……あの巨体だったからか、それともあれだけの強さゆえか〈大厄災〉を受けて尚いくらか残っていますね。塵すら残すつもりはなかったんですが、その場合は素材が手に入らなくて困ることになりそうですね。結果オーライです。一度帝国に帰って休んでから回収しに来ましょう。生まれながらの異能での強化も終わったのか身体が重いんですよね。

 

 

「あ、あの」

 

 ん?ああドライアドですね。巻き込まれずに済んだみたいです。よかったですね。

 

「ほ、本当にあのザイトルクワエを倒したの?」

 

「……夢じゃなければ目の前の光景が全てですよ」

 

 

 そう、ザイトルクワエの残骸の周りは酷いことになっています。枯れ果てた大地は文字通り消滅し、底が見えない程度の大穴となってしまいました。周りの森にも大分被害が及んでいますね。強力すぎて逆に使いづらいですね……今後の改良に期待です。

 

「そ、そうだよね!私も見てたはずなのに信じられなくてさ!あはは、あはははは!!」

 

 

「そうですね、でもあれを滅ぼしたという実感は残っていますよ」

 

 さて、後で戻ってくるとはいえ早く帰ってレイナースに薬草を届けてあげましょう。立ち上がって転移の用意をします。 

 

「あ、あの!名前を聞いてもいいかい!?あの時、あの人たちの名前を聞いていないから教えてあげられなかったけど、今日のことは語り継いでいこうと思うから!」

 

 お、おお、なんだかドライアドの熱量がすごいです。眼をキラキラさせています。

 名前を教えるぐらいなら……まあ大丈夫でしょう。

 

「アレーティアです。よければあなたの名前も聞いても?」

 

「アレーティアさん……うん、覚えたよ!私はピニスン・ポール・ペルリア!」

 

「ではピニスン、私は一度帰りますがザイトルクワエの残骸を回収しに戻ってきます。なので……また会いましょう」

 

「うん!待ってるよアレーティアさん!」

 

「ではまた。〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 

 

 こうして、ただの薬草探しから始まった世界の命運を賭けた戦いは人知れず幕を下ろしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレーティアがザイトルクワエを回収してから数日後のとある部隊ととあるドライアドの会話

 

 

「アレーティアって()()()()()()()()()()()()()()()あの魔樹を滅ぼしたんだ!」

 

 

「白髪の眼の色が違うエルフ……だと!?」

 

 

 






アレーティアの生まれながらの異能(タレント)

簡単に言えば流れ星の指輪(シューティングスター)。もしくは超位魔法、〈星に願いを〉の劣化版。一日に三回まで使用可能。
他人に使う場合は経験値を消費する。リキャストタイムは無し。
このタレントの存在を知ったらアインズは絶対に欲しがる。もしくは全力で排除にかかる。
アレーティアがこの生まれながらの異能の詳細を知り使いこなせれば更なる強化が見込める。
ザイトルクワエ戦では一時的にステータスが軒並みレベル百に近い状態になった。挙句体力、魔力共に全回復している。
生まれながらの異能というよりスキルという方が近い。


伏線としてヒントは色々散りばめていましたが、最大のヒントはアレーティアの誕生日でした。

父デケムの誕生日がラビット・14日だったのでこのラビットを十二支の順番に当てはめると4月になるのでそれに当てはめてアレーティアはオックス(2月)7日にしました。
この日はとあるアニメ映画作品の公開日でその作品の主題歌の名前が……。



ザイトルクワエ──体力残量が三割切ると形態変化してビオ○ンテみたいになる。
この状態なら破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)に見えても多分おかしくない?
一応ステータスが上昇しレベル九十相当になり、スキルも増えたはずだがお披露目機会なく散った。
飛ばした種や残骸は全てアレーティアが回収予定。


大厄災(グランド・カタストロフ)〉──職業ワールド・ディザスターを最大レベルまで上げると使用可能になる。威力は超位魔法をも凌ぐ。ただし、最大魔力の60%を消費するため使いどころには注意しなければならない。
特典小説「プロローグ下」にてウルベルトさんが使用。ナザリックのボスが召喚した根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)レベル九十に加え
根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)
根源の水精霊(プライマル・ウォーターエレメンタル)
根源の風精霊(プライマル・エアエレメンタル)
根源の土精霊(プライマル・アースエレメンタル)レベル八十七を一撃で倒す威力を誇る。



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アレーティア、帰国する 〜私の能力っていうのは、私自身が…龍玉になることだ〜


前回、多くのコメントありがとうございました。
多分過去一でコメント貰っていたんじゃないかな?ものすごく嬉しかったです。

後、突発的に行ったアンケートも多くの投票をいただきありがとうございました。


 

 

 はい、ザイトルクワエとの激戦を終えた私は今!

 

 

「ぐわあああああ!!」

 

「あ、陛下ごめん、転移場所ズレた」

 

「へ、陛下あああああ!!」

 

 

 

 ジルクニフの真上に転移しました。他意はありません。絶叫を上げているのはトーマスですね。もうすぐ四騎士を退くとはいえこういった事態を未然に防ぐのが──いや、こんなの気づけるの私ぐらいでしたね。そもそも転移魔法を使えるのは本当にごく一部の強者たちだけですからね。帝国では私とフールーダぐらいです。

 どうしてこんなことになったかと言えば、生まれながらの異能による強化が終わり、疲れが限界でとりあえず報告も兼ねてジルクニフの私室に転移すればいいやって雑な思考で転移した結果、偶然ジルクニフを下敷きにしただけです。ワタシ、ワルクナイ。

 

「あ、陛下報告です。なんとか薬草見つけて採ってきました。後色々と報告したいことが山ほどありますです」

 

「その前に俺の上から降りろおおおおおおおお!!」

 

 おっといけない、下敷きにしたままでした。反省。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 はい、恒例の正座でお説教スタイルでの事情聴取です。慣れたものです。いや、慣れちゃいけないんですけど。

 

「それより全身鎧(フルプレート)はどうした?顔隠しが出来ていないが誰かに見られたか?」

 

「いえ、全身鎧については後程まとめて説明しますので。顔については……その場にいたドライアドには見られてしまいましたが、そこから私に繋がることはないでしょう」

 

 ドライアドの言うことですし、直近とはいえそこまで特徴を捉えたとしてあの場所までたどり着くのも中々難しいはず。それに名前も伝えてしまいましたが私の存在が粛清騎士と結びつくことはないはず。粛清騎士はフルネームを大々的に広めていませんからね。問題ありません。

 

「それと、こちらが例の薬草です。ただ、残念ながらもう採取できません。これが最後です。」

 

「何故だ?まさかだが薬草の生えた場所を消し飛ばしたなんて言わないだろうな?」

 

「まあそうなんですけど」

 

 そんな冗談で言ったのに本当にそれが起きてて「何やってくれてんのコイツ」みたいな目で見ないでくださいよ。ちゃんと理由があるから!最後まで聞いてそれから怒るか怒らないか決めてください!

 

「順を追って説明します。ことの経緯は──」

 

 こうして私はこの激闘のことをなるべく簡潔に説明しました。

 かつて世界を切り裂いて現れた世界を滅ぼせる魔樹ザイトルクワエに病を癒す薬草が生えていたこと。採取しようとしたら目覚めてしまい世界のために戦ったこと。一度死にかけたこと。その時全身鎧が見るも無残なことになってしまった事。使うなと言われた〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉を使ったこと。そうしてザイトルクワエを倒したこと。余波で周囲一帯に底が見えない大穴が出来たこと。

 

 隠さず全部話しました。そうしたらものすごく顔が青ざめていました。何故?

 

 

「……よもや無敵だと思っていたお前が死にかけるとは、世界を滅ぼせる魔樹ザイトルクワエ、それほどの強敵だったか」

 

「無敵は流石に言いすぎです。私が勝てない相手なんて案外いるものですよ」

 

 例えば白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)本体とか。鎧は原作で弱点らしい属性は分かっているのでやりやすいと思います。

 

「粛清騎士殿でそれなら私達では相手にすらならなかったでしょうね……」

 

 本当ですね。最後形態変化して移動出来る様に見えたので〈大厄災〉を叩き込んだのは正解でした。多分根源の星霊(プライマル・スターエレメンタル)がいてもあのまま戦っていれば大森林への被害はもっと大きかったと思います。

 

「そういえば陛下、ここからは出来れば二人だけで話したいことがありまして……」

 

 そうするとジルクニフとトーマスは目を合わせ小さく互いに頷きトーマスが退室していきました。アイコンタクトが出来るとは素晴らしいものです。

 

 

 

「で、なんの話だ?二人きりとなるとお前の何かしらの秘密に関してだと思うが」

 

「その通りです。実は私は生まれながらの異能(タレント)を持っていまして、ただその能力が分かっていなかったんです。今回、それがなければ間違いなく負けていました。なので、これを機に自分のことを熟知しなければと思いまして……」

 

 チラリと顔色を伺えばジルクニフの表情は真剣そのものでした。今ジルクニフの頭の中ではきっと色々な可能性を考慮して何が最善かを導き出しているのでしょう。流石は帝国の頭脳、歴代最高の皇帝です。

 

 

「条件が二つある。一つは生まれながらの異能を調べる際、私とフールーダが立ち会いどの様な能力であってもその場の人間のみの機密とすること。もう一つは……今まで避けていたがお前の身の上話を聞かせてくれ。それを踏まえた上で今後の対策を考える」

 

「勿論構いません。陛下の寛大な心遣いに感謝を」

 

「よせよせ、普段通り楽にしろ。むしろそう畏まられると寒気が走る」

 

「なんてこと言いやがりますか陛下」

 

 これでも最大限感謝の意を伝えたつもりなのに!

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 さて、翌日時間を空けて貰い、私の生まれながらの異能調査を始めるため帝国魔法省に来ました。勿論ジルクニフも一緒です。

 全身鎧は壊れてしまいましたが以前使っていたバイザーが残っていたのでそちらを今は装着しています。鎧は着けずに動きやすい格好をしています。まあ、これ一つ一つがマジックアイテムなんですけど。

 イジャニーヤから奪った……もとい、回収したアイテムの中にあった変装グッズの一つだとか。便利なものもあったものですね。その内量産して暗部とか作りたいです。

 

 

「以前よりもフールーダの弟子が増えているか……?」

 

「フールーダさんも第七位階に到達してそれに触発されたのか弟子の人たちも一層気合を入れて学習しているみたいですから。」

 

 第七位階を使える人間は限られていますからね。もう十三英雄はきっと超えていると思いますが、当の本人が死の騎士(デス・ナイト)を支配することを目標にしているので認めてません。

 あ、デス・ナイトですが原作通りカッツェ平野に現れたのを私が少し前捕獲してきました。フランベルジュを叩き折って盾をもぎ取り、後は〈重力反転(リヴァース・グラビティ)〉で持ち帰りました。今では魔法省の奥で原作通り鎖でグルグル巻きにしています。

 

「あ、粛清騎士さ……ま!?」

 

「アルシェさんですか、お久しぶりです。その後はどうですか?」

 

「い、いえ、お陰様で平和に暮らせています。それよりも粛清騎士様、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

「ええ、構いませんよ?」

 

 すると辺りを見渡してからアルシェは私の耳元でとんでもない爆弾を落としてくれました。

 

「もしかしてですけど、第十一位階魔法とか使えるようになりましたか?以前よりも視えるオーラが増しているのですが……」

 

 

 

 げっ、バレた。バレてしまったので正直に言います。あのザイトルクワエとの戦いを終えてからその感覚はありました。例えるなら殻が一つ破れたような、限界を一つ越えたような。その時とある名前の魔法──聞き覚えはあるけれど使われたことはない──が頭の中に浮かびました。これが恐らく超位魔法なのだろうと漠然としながら受け止めました。

 ただ、生まれながらの異能のほうが重要だったので後回しに……と思っていたのが裏目に出てしまいましたね。魔法省に来ればアルシェとフールーダにその眼でバレてしまうことを失念していました。

 とりあえず、この場は誤魔化さねば……!

 

「アルシェさん」

 

「は、はい!」

 

 ここで無詠唱化した〈伝言(メッセージ)〉を発動。この世界では〈伝言〉が原因で滅んだ国があるので信用度は低いですが目の前にいる相手からなら疑う余地はないでしょう。

 

『アルシェさん、目の前にいる私です。この件は絶対に秘密にしてください。後々陛下とフールーダさんには伝えますが国家機密になる可能性が高いので。いいですね?』

 

『ひっ!わか、分かりました!!!』

 

 

 

「一体何のことでしょう?私には覚えがありませんけど……」

 

「いえ、すいません。私の思い違いだったみたいなんで、気にしないでください。」

 

 

 ヨシッ!これでアルシェからバレることはないので後はフールーダの口を塞ぐだけですね、少なくとも私とジルクニフと三人でいる時にその話はして欲しいです。

 

 

 それから、高弟の一人に──この人が生まれながらの異能を調べる魔法を使えるらしい──案内されフールーダの部屋に来ました。

 

 

「邪魔するぞ爺」

 

「これは陛下、それにアレーティア嬢もよく来られ……んん!?アレーティア嬢、も、もしやもしやもしや!!」

 

「その話は後でしますから落ち着いてください!!目が血走っていて怖いですから!!」

 

 ほんの一瞬前まで普通だったのに私見た途端にこれですか!?ああもうこんなことなら戦士状態で来るべきでした!戦士状態なら魔力隠せたのに……このアレーティア一生の不覚です。

 

 

「……おや?オーラが視えなくなりましたな?魔法を封じましたかな?」

 

「へ?いやまだ魔法使える状態ですよ?そんなはずは……」

 

 ……またよく分からないうちに何かが起きているらしいですね。さっさと済ませましょう。

 

「では、始めさせていただきます。まずは生まれながらの異能があるかどうかから一応確認させていただきます。〈異能鑑定(アプレイザル・タレント)〉」

 

 おお、人に使う鑑定魔法ですか。〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉を彷彿とさせる魔力光がその手に現れています。

 

「やはり生まれながらの異能の反応はありますね。では続けてどういった能力なのかを調べさせていただきます」

 

「その前に爺、アレを」

 

「既にこちらに用意して御座います」

 

 フールーダが取り出したのは……マジックアイテムの様ですね。占いでよく見る水晶玉みたいですね。これは一体?

 

「これは目の前にいる相手の言葉の真偽を判断するマジックアイテムだ。嘘をつけば水晶玉の色が赤く光り真実ならば青く光る。それでその言葉の信憑性を裏付ける。まあ、それだけのアイテムだから然程重要視されるアイテムではないが裁判や尋問では時折使われることがある」

 

 なるほど、嘘発見機みたいなものですか。

 思えば原作では魔導国は犯罪に対して精神を操作する魔法で調査を行う、と書いてあった。これは〈支配(ドミネイト)〉や〈魅了(チャーム)〉などで犯罪をでっち上げて犯罪者を作り出したり濡れ衣を着せたりできるため、その様な魔法で審判を行うことは野蛮であり劣っているとされていたはず。

 そういう手段より真偽を判断するマジックアイテムの方が重宝されるのはそうしたことを防ぐためなのでしょう。誰も彼もが善人な訳ではありませんからね。

 

「では改めて……〈異能効果探知(ディティクト・タレント)〉」

 

 さあ、これで私の生まれながらの異能の能力が遂に判明します。一体どういう能力か……全く想像できませんが果たして?

 

 

 

 

 ……あれ?固まって動かなくなってます?どうしたんでしょう?

 

 

 

 

 

「どうしたんじゃ?能力が分からなかったのか?」

 

「い、いえ!その様なことは!ただ……こんな能力初めて見ました。思わず何度も疑ってしまうぐらいに。間違いなく大陸で誰も持ったことがないタイプの能力です」

 

「そこまでか。では……どういう能力だ?」

 

 ゴクリ、と高弟が唾を飲み込む様な音が聞こえました。それぐらいに緊張している、ということですね。

 

 

「粛清騎士様の能力、それは──一日に三度ほど願いを叶えられる能力です

 

 

 

 へえ、願いを叶える能力ですか。それは珍し……い………。

 ん?どこかで聞いたことがある様な気が?願いを叶える?

 あ、ジルクニフもフールーダも信じられない、という様な顔をしています。多分私も同じ様な顔をしているのでしょうね。高弟がちょっと笑ってます。何わろてんねん!

 

 

「願いを叶える……だと?!」

 

「なんと、その様な能力……知れ渡れば危ういことになりますぞ!」

 

 確かに、願いを叶える能力とだけ聞けば物凄く都合がいい能力。ただそうした能力には何かしらの欠点があるはず……。

 

「この能力のデメリットなどは分かりますか?」

 

「い、いえ、申し訳ありません。そこまでは……」

 

 恐らく魔法ではそこまで分からないのでしょうね。これは検証が必要です。なので……

 

I wish(私は願う)……私にザイトルクワエを倒した時の力を」

 

「アレーティア、お前何を!?」

 

 するとあの時の力が漲る感覚が全身に表れました。ステータス等が見れないのが残念ですが、あのザイトルクワエを倒せるだけの支援効果(バフ)が掛かっているのは間違いないです。

 では次に……

 

I wish(私は願う)……」

 

「待て待て待て!勝手に事を進めるな!!」

 

 ジルクニフにインターセプトされてしまいました。残念、ジルクニフの体調を整えてあげようと思ったのに……。

 

「ダメですか?私の能力なんですから色々試そうかと」

 

「いきなりやるやつがあるか!一言相談してからやれ!」

 

「そんなに怒らないでくださいよ、将来禿げますよ?」

 

 あ、そうだ。ジルクニフの頭髪の安全だけは保ってあげたいですね。ナザリックが来て振り回された結果ストレスで禿げるのが確定しているらしいので。

 

「……む?あ何かしたか?頭に何か違和感を感じたが……」

 

「へ?」

 

 今私は何も願っていな……あれ、もしかして?

 

「陛下、もしかしたらこの能力……私の意思を読み取って自動で発動する可能性があります」

 

「……ちなみにだがお前は声に出さず何を願った?」

 

「将来陛下が禿げなければいいな、と」

 

何故私が禿げること前提なんだ?!歴代の皇帝に禿げた皇帝はいなかったぞ、なあ爺?」

 

「ええ、歴代皇帝に仕えていますが禿げた方はおられませんでしたぞ?」

 

 また髪の話してる……。

 でもこれで願いが叶っているのならジルクニフの頭髪の未来は安泰ですねきっと。

 

「まあ禿げないと思うんで大丈夫でしょう。さて次は……あれ?」

 

 体感的にもう今日は願いが叶わないのが分かります。でも叶った願いは二つだけのはず。

 ……あれ?もしかしてアレも?

 

「フールーダさん、今私魔法を使える状態なんですけどその眼で見えます?」

 

「……いいや、未だあのオーラは見えぬよ。まさかじゃが」

 

「ええ、恐らく私の魔力が能力で見えなくなっています。しかもこれ、そうだったらよかったのに、と思ったぐらいで取り分け願った訳ではないんですよね……」

 

 これは非常に扱いが難しい能力ですね……任意、自動で発動する生まれながらの異能。確かにこれなら能力を自覚していなかったあの頃でも使えるわけです。魔法が急に使える様になったり、クソ親父が教える魔法を片っ端から覚えられたり、急速に強くなったりと例を上げればキリがありません。

 ただ、意識してないと自動で私の願いを叶えてくるんでいざという時に使えない可能性もありますね。

 

「アレーティア、その能力知ったからには必ず制御……もとい自分のものにしろ。お前に私の願いを叶えてもらおうとは思わんが、その能力は誰もが欲しがるものだ。だから気をつけろ。そして、この能力については先程通り国家機密扱いとしこの四人のみで留めろ」

 

「「「ははっ!!」」」

 

 

 こうして一先ず、私の生まれながらの異能についての調査は終わりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ ダイジェスト風味

 

「ところでアレーティア嬢、最後に視たあのオーラ……」

 

「多分超位魔法……もとい第十一位階魔法です。私も使うのは初めてなのでまた開けた場所に行きましょう。何が起こるか分かりません」

 

「ではこの前騎士団が捕まえた邪教集団のアジトを的に使いましょう。あそこなら比較的開けた場所にありますし人里もありませんからな」

 

 

 

〜移動中〜

 

 

 

「では発動」

 

「おお、これは一体!?これほどの魔法陣が展開されて……それもどれもがすぐに形を変えてしまう……すごい、すごいぞおおおおおお!!」

 

「もしかしたらこの発動時間も能力で短縮出来たりするのかな……今度調べてみましょう。さて、発動しますよ。超位魔法──」

 

 

〜発動後〜

 

 

「アレーティア嬢これは……」

 

「フールーダさん、これバレたら怒られますかね……?」

 

「いや、あの〈大厄災〉よりも被害はないから大丈夫だとは思うが……」

 

「でもまた地形変えちゃってるんですよね……まあ、名前からしてこうなることを予想しておくべきでした……宇宙兵器とはよく言ったものです」

 

 

 

 

 

 





異能鑑定(アプレイザル・タレント)
異能効果探知(ディティクト・タレント)〉──オリジナル魔法(?)。原作にあると明記されているのでこんな感じかなと命名。

アレーティアの生まれながらの異能(タレント)──自動発動もしてしまう。ただそのお陰で自覚が無い時何度も助けられている。
詳しくはキャラクター紹介で書く予定。

アレーティアの超位魔法──原作で名前も出ているので察しがいい方は気づけるはず。


年内に王国との戦争出来るのだろうか……?
先に番外編出すかもしれません。


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【番外編】もしもアレーティアが番外席次として生まれていたら


お待たせしました、番外編です。

今回かなり独自設定が強めでガバガバなところもあるので人を選ぶと思います。

それなりにシリアスなので、それらが苦手な方は本編更新をお待ちください。
























 

 ああ、今日も朝が来てしまった。

 

 私がこの世界に生まれてからはや数年。私は眠りから覚めて朝を迎えることがこの世で一番嫌なことになっている。

 

「起きたのね。じゃあ支度しなさい、今日はもっと厳しくしてあげる」

 

 ああ、コイツ、コイツのせいで私は朝を迎えることが、明日を迎えることが心底嫌になっている。

 コイツとは誰か?世間体に言うなら私を産んだ女。蔑称で呼ぶならクソババアだ。

 クソババアはファーインと言いこの国の、スレイン法国の漆黒聖典最強の英雄らしい。しかし、エルフの王に騙されて捕まり、犯され、私を孕み産んだとか。

 この話を人伝に聞いて、あ、オーバーロードにこの話あったなと前世の記憶が蘇ったのを思い出した。

 つまりだ、私はオーバーロードの世界でスレイン法国の番外席次として生まれた様だ。私の記憶では番外席次の名前はまだ判明していなかったが『アレーティア』というのが私の名前らしい。……まあこの名前を呼んでくれる人間なんて、この世の何処にもいやしないが。

 

 朝食はそこそこに、家の使用人らしきお婆さんが用意してくれる料理は……きっと美味しいんだろう。ただ、私はここ数年味覚というものを感じていない。極度のストレスのせいだろうか、ここしばらくの食事は味わうという食事の行程を一つ省いたただの栄養補給と化していた。

 言うなれば車にガソリンを補給する様な。はははっ、私は人ですらなく自動車か?笑えるけど笑えないな。

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 朝食を終えればすぐ訓練。ただ、私はこの訓練をただの虐待だと思っている。

 

「何を這いつくばってるの?立ちなさい、立て、寝るな」

 

 棍で叩き伏せられた私の白髪を掴み強引に立ち上がらせ──そのまま棍による突きが鳩尾に入り息が出来なくなる。そうでなくともクソババアの容赦ない追撃が、まだ幼い私の身体を痛めつける。

 

「ぐ、ぐうぅぁぁ……」

 

「〈中傷治療(ミドル・キュアウーンズ)〉ほら、傷は癒えたでしょ?早く立ちなさい」

 

 身体の傷は癒えても心までは癒やされない。魔法って思ったより役に立たないんだな。疲弊して擦切った心まで癒してくれれば……いや、そんなこと思っても無駄か。

 今日も日が暮れるまで痛めつけられて、置き去りにされ続きは明日と告げられる絶望の日々。どうして私は生きているのか。

 過去一度殺されたことがあるが蘇生されたこともある。どうしてあの時私は蘇生を拒否しなかったのだろう。こんなにも生きることは苦しいのに。

 

 ……ただ、そんな私にも好きなことが一つある。私はこの満天の星空を眺めることが好きだ。原作でアインズ様が言っていたキラキラと輝く宝石箱の様な星空が唯一、私の心を癒してくれていた。この国の人間が私の存在を認めない中で、唯一私を星が見守ってくれている気がした。

 そんな夜空に流れ星が見えた。前世では流れ星が消えるまでに願い事を三度唱えればその願い事が叶う、なんて迷信もあったっけ……。

 

「……誰よりも強くなれれば、あのクソババアから解放されるのかな?」

 

 ふと思ったことが声に出ていた。正直もう限界だ。まだ十二歳の私には──前世も入れればもっと上だが──とても耐えきれない。クソババアは勿論、周りの神官も神官長も使用人も誰も彼もが敵だ。誰も助けてくれない。

 人間至上主義の国で人間ではない私にはきっと人権なんてない。それでも、私が自由に生きるためには力が必要だ。何者にも縛られない圧倒的な、それこそ超越者の力が。

 

「流れ星よ、もしも私の願いが叶うなら私を強く……誰よりも強く、あの超越者(オーバーロード)の様に強くなりたい。私が自由に生きるために……!」

 

 叶うはずのない、もしくは遥か先の未来で得るであろう力を知りながら私は星に願った。

 その願いは──

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 あれから五年の月日が流れた。相変わらずクソババアとの訓練は続いている。

 

 五年前と何が変わったかといえば……クソババアとの力関係だろう。今の私は成長しレベルアップし、クソババアと少しは渡り合えるぐらいには強くなっていた。

 それでも足りない。およそ十七年、このクソババアは訓練と言い私を虐げてきた。

 この十七年、誕生日も祝われず、碌な言葉も交わさず、ただただ憎しみだけを受けてきた。その憎しみはエルフ王と私に向けられているが、私は生まれてきただけで何も悪くない。ただの八つ当たりをずっと受けてきた。いつか、絶対にやり返してやろうと心に決めながら私は耐え忍び生きている。

 

 

 

 そんな中、珍しく訓練ではなくとある神官の元に連れて行かれ何らかの魔法を受けた。取り分け私に害は無いようだから無視したが一体何の魔法だったのだろうか。

 

 

 

 それから数日して、珍しくクソババアが私を相手せず何処かに行ってしまった。本当に珍しい、よって今日は何年か振りの休日だ。とはいえ休日だからといって私には親しい友人もいなければ通っているお店があるわけでもない。出来ることといえば身体を休めることぐらい……いや、まだあるな。探索だ。

 基本的に私はこの訓練所と自室を行き来するだけの生活。それ故にこの国のことを何も知らない。原作でも謎が多かったし、折角何もないのだから気晴らしに探索でもしてみようと思う。

 とりあえず守衛やら聖典なんかにバレると面倒なので()()()()()()()()()()()()()()()()()は発動しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この日、もしも私が探索をしなければ、私の未来はきっとここで閉ざされていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は聞いてしまった、あのクソババアとクソ神官共の会話を。

 

「アレの生まれながらの異能(タレント)は“望んだ願いを叶える”というものだったわ」

 

「なんと……その様な異能は聞いたことが」

 

「ええ、私も驚いたわ。ここ数年で驚くほど成長してる……私を何度か打ち負かすぐらいに、ね」

 

「そ、それでどうなさるつもりで?その様な力があるならば人のために使って欲しいものだが」

 

「そう、そこよ。アレを魔法と生まれながらの異能を使うだけのアイテムにしてしまおうと思うの」

 

「な……まさか叡者の額冠を使い巫女姫にするおつもりか!?」

 

「そうよ。神人として生まれて、人のためにその身を捧げ罪を償う……そうしてアレはようやく許されるの。下手にこれ以上力をつけられても厄介だしね……協力してくださる?」

 

 

 

 私は底無しの悪意というものをこの時初めて知った。前世でもこんな残酷な目に遭いそうになったことはない。

 叡者の額冠……原作でクレマンティーヌが法国から盗み出した秘宝の一つ。適応者は百万人に一人しかいないが、適応すれば自我は失われ高位魔法を使うだけのアイテムとしてしまう、ユグドラシルでは作ることの出来ないこの世界独自の技術で作られた悪魔の様な非人道的なアイテムだ。

 無理に外せば発狂し、最後は漆黒聖典による介錯でその一生を終える……だったか。それを私に使う…か……。

 それに私の生まれながらの異能についても正直驚きを隠せない。私の願いを叶える、なんてものは聞いたこともない。さながら超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉の様な能力だ。

 

 恐らく、近いうちにクソババアは私を巫女姫にするために策を講じるだろう。だが、そんなもので終わってたまるか。私は未だこの世界を知らない。今が原作から何年前でいつナザリックが転移してくるかすらも不明だ。それなのに、こんなところで終わってたまるか───!!

 

 

「生まれながらの異能よ、もしも私の願いを叶えることが本当に出来るのなら──」

 

 

 私は私に出来ることから始めよう。まずは自分を理解することから。

 

 

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 それから一月ほど経ったある日、遂にその日が来た。

 

「来なさい。役目を果たす時が来たわ」

 

 捉え方によっては何かしらの仕事を割り当てられるとも取れるが、そうではないことを私は知っている。遂に来たのだ、私が道具になる日が。

 ただ私もこの一月ただ無為に過ごしていたわけではない。ここからが正念場だ。

 

 

 クソババアに連れられて案内されたのは洗礼室と呼ばれた場所だった。その名の通り身を清めるための水場があり、今着ている衣服を入れるための籠がある。

 

「これから行うことの前に、まずはその汚れた身を清める必要があるわ。全部脱いで身体の汚れを払ったらこっちの服に着替えなさい」

 

「分かりました」

 

 とりあえずは従うしかない。今はまだ耐える時だ。さて、服を脱ぎ全裸になって水場へ……冷たっ!?冬場の水道の水並みに冷たい!こんなの浴びたら風邪引くって!

 気合いと根性で沐浴を済ませ着替えようとすると用意されていたのは……何?このスケスケの衣装?防寒もクソもないんだけど?さっきまで着ていた服は……もうないな、洗濯に出されたか必要ないものとして処分されたか。これを着るしかないんだろうけど、ある意味裸より恥ずかしいかもしれない。着てるのに全部見えちゃってるし。

 

「着替えたわね。じゃあこっちよ、グズグズしないでさっさと来なさい」

 

 このクソババア他人事と思いやがって!だがまだだ……まだ耐えるんだ。

 そうして連れてこられたのは……なるほど、ここが巫女姫の部屋か。今の私と同じような格好をした少女を初めとした年代がバラバラの巫女姫が五人が鎮座している。そして、これから私はここに仲間入りすることになるはずだった。

 

 

「感謝なさい、罪人の種から生まれた忌むべき子には勿体ないぐらいの待遇よ」

 

「……どういうことですか?私はこれから何をするんですか?」

 

「お前に名誉な仕事を任せることになったの。巫女姫として人のためにその身を捧げる尊い仕事よ。まずはこの額冠を被りなさい。そうすれば巫女姫としての仕事ができるようになるから」

 

 これ何も知らなかったらそのまま額冠を着けてBAD ENDだ。でもそうはならないように私は能力を使ってきた。

 

 

「でもあの人たち動きもしないし話もしないしなんだか不気味なんですけど……」

 

「ええそうよ、彼女たちはその身全てを捧げて法国に尽くしてくれているのだから。だから……お前もそうなさい」

 

「い、嫌です!あんな……あんな風になりたくない!なってたまるか!!ぐぅっ!?」

 

 後ろに回り込まれ動けないよう地面に押さえつけられる。……この場面だけ見たらどこぞのエロシーンみたいだと他人事のように考えた。

 なんでこんなに余裕があるかと言えば、これも全部この生まれながらの異能のお陰だ。この能力のお陰で私は安全だと確信を持って言える。

 

「馬鹿ね、丸腰で私に勝てるとでも?神官長、やって頂戴」

 

「うむ、では……」

 

「うぐっ!や、やめろ……やめろおおおおおおおおお!!!」

 

 そうして私の頭に叡者の額冠が被せられ私の意識は消滅──しなかった。

 

 

 

 

「これで終わりね。清々したわ」

 

「彼女の生まれもこれで許されたでしょう。後はその異能ごと世のため人のため活用させてもらおう」

 

 

 

 

「……誰が許されたって?」

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

 ネタバラシもクソもないが、あの叡者の額冠の意識消失から免れたのは勿論私の能力のお陰だ。この一月近く、私はこの願いを叶える異能についてずっと調べていた。

 願いを叶える条件、回数、聞き届けられる願いの範囲、レベル──生命力の消失など多岐に渡り調べた。

 まあ、調べたといっても毎日意識してこの能力を使ってみただけだけど。その甲斐あってか多くの恩恵を受けたことは間違いない。その一つの願いが『私が装備するマジックアイテムのデメリット効果を無効化して欲しい』というものだ。これはこの叡者の額冠を着けられるのを前提に真っ先に願った。その結果は見ての通り。見事生まれながらの異能は私の願いを聞き届けていた。

 さて、ここからは演技の時間だ。

 

「ふふふ、このマジックアイテムで私をあんな風にしようとしたんだろうけど上手くいかなかったみたいだね?代わりに……こんなことが出来るようになったよ。〈魔力上昇・爆発(オーバーマジック・エクスプロード)〉」

 

 私の目の前で爆発が起こる。今の私はこんな魔力上昇なんて使わなくともこの程度の魔法なら容易に使えるが敢えてこうしている。

 この爆発に巻き込まれたクソババアと神官長はそれなりに離れた場所にいたため多少傷を負った程度で済んだようだが──巫女姫はそうはいかない。

 

「みんな死んでしまいましたね。しかし、これで彼女たちも解放されたことでしょう」

 

「な、なんということだ……巫女姫が!」

 

「まさかこんなことになるなんて……よくもやってくれたわね……!!」

 

「私はああなることを拒絶したし、それでも無理矢理これを着けたのはあんたたちじゃん。私は悪くない」

 

 あ、クソババアのこめかみに血管が浮き出てる。相当キレてるわ。まあ、こっちはもっと怒ってるんだけど。

 

「……もう一度殺して身の程分らせてやるわ」

 

「やれるものなら……やってみろよクソババア!!」

 

 槍と拳が激突する。本来ならば槍は拳を貫き私の胸を穿つだろう……が、そうはいかない。

 

I wish(私は願う)!我が身に力を!」

 

「なっ!?槍が刺さらな……!」

 

 能力を使用。簡素な願いを口にしたが能力は私の思考を読み取り、望んだ形で願いを叶えてくれた。私が望んだのはクソババアを上回る支援効果(バフ)。これにより強化された身体は槍をも弾くほどの強度を得た。

 

「歯ぁ食いしばれクソババア!!」

 

 私の振り抜いた拳がクソババアの顔に迫り──ギリギリ片腕で防がれてしまったが──そのまま殴り飛ばした。飛ばされた先の壁をも破壊しクソババアの姿は見えなくなった。しかし、それでも生きている。すぐさま行動に移さないといくら強化されていても他の聖典が集まってきて不利な状況を作り上げてしまう。

 まあ、今の私の前に聖典が何人集まろうと敵じゃないんだが。

 

 とりあえず次の行動を起こす。ある意味ここが一番重要だ。

 

「あ、ああ……ファーイン殿があんなにあっさり……!く、来るな化け物!!誰かー!!誰かおらんのカバァッ?!」

 

「うっさいな……聞きたいことがあるんだが答えてもらってもいい?」

 

「があぁぁぁ……お、お前などに答えることなどない……!」

 

「……まあ、それでもいいか。確か三回質問したら死ぬんだっけな……それまでに欲しい情報は吐かせられるといいな」

 

「な、なにを!?」

 

「じゃあ永遠にさようなら神官長。支配(ドミネート)

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 神官長から欲しい情報を聞き出し、今私は宝物庫にいる。あの六大神の秘宝が揃っているというあの宝物庫にだ。中にはユグドラシルで作られたアイテムが数多く眠っていた。

 ほぼ真っ裸もいいところだった私の服を探しに宝物庫に着た……というのは建前で法国の秘宝を奪ってやろう、という考えでここまで来た。原作が崩壊する、なんて心配は一切しない。私という異物が既にいるのだからどう転んだところで原作通りにはならない。ならば私もこの世界で悔いなく、自由に生きたい。

 

 

 ──その為には力が要る。

 

 

 私の異能は世界屈指だろうが、見ての通り今持っているものはこの叡者の額冠とスケスケの衣装だけ。これだけでこの世界を生き抜けるとでも?無理だ。

 なので、生きる為に必要なものはこの国から拝借する。虐げられていた可哀そうな私のために使われるなら六大神もきっと本望に違いない。

 宝物庫を護る守衛はどうしたかって?私の足元で全員永遠に寝てるよ。

 

 

 あ、あれは、あのチャイナドレスは……!

 

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 

 

「随分と遠くまで飛ばしてくれたわね……!」

 

「思ったより遅いお帰りだね、クソババア」

 

 宝物庫で装備を一通り揃えてその場を後にしようとしてみればクソババアがようやくご帰還。思ったよりダメージも入っていたっぽい。

 

「そ、それは六大神の……!」

 

「あ、気づいた?いいでしょうこの白いドレス。将来育った私にも相応しいものだと──」

 

「この背信者がァッ!!そのマジックアイテムは六大神が人のためにと残された秘宝!それを人でもないお前なんかが身につけていいわけないだろうがぁ!!」

 

「残念だけど、これはもう私のもの。取り返したかったら……私を殺してごらん?」

 

 第二ラウンド(先ほどは二撃で終わったが)開始だ。先ほどと違うのは今の私は宝物庫から奪った装備で更なるパワーアップをしたこと。

 最早クソババアなど相手にもならない。

 

「武技〈五月雨〉」

 

「おっと……これは流石に再現されなかったかな?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僅かながら私の身体に傷が出来る……が些細なことだ。すぐに治せる。

 

「ではこちらも反撃〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

「温い!〈魔法盾(マジックシールド)〉」

 

 放たれた火球が魔法の盾で防がれるが、所詮小手調べ。本気を出せば一撃だしね。

 

「じゃあこれはどう?〈魔力上昇・不死の軍勢(オーバーマジック・アンデス・アーミー)〉」

 

 あのエ・ランテルでの悪夢をここに再現。神の国に顕現する死の軍勢、その数は千を超える。

 制御するつもりなど最初から無い。ただただクソババアとこの国への嫌がらせだ。

 

「こ、これは……なんて恐ろしい魔法を!」

 

「これも全員あんた達がくれたこのアイテムのお陰。自分たちで与えたアイテムでこんなことになるなんて、墓穴を掘るってこういうことを言うんじゃない?」

 

 ここでまた演技……というか嘘情報ですね。叡者の額冠は確かに高位の魔法を使える様にするアイテムだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 しかし、あえてこの叡者の額冠のお陰、という嘘情報を与えることで一種の希望を与える。そう、この叡者の額冠さえどうにかすれば高位の魔法が使えなくなる、と思わせることが重要です。それに、漆黒聖典であるクソババアは巫女姫を最期始末する仕事をしているので、額冠を無理に外した時に発狂するということを知っているはず。そうなれば、ほぼ無抵抗になった私を殺せると思い込ませ一つの希望を残してあげています。

 

 

 

 

 

 ──まあ、そんな希望なんてあるわけないんだが。

 

 

 

 

 

「〈聖なる光線(ホーリーレイ)〉武技〈五月雨〉〈一閃〉」

 

「〈中位アンデッド創造〉出でよデス・ナイト」

 

 流石漆黒聖典だけあり呼び出したアンデッドなぞ相手にならず次々に倒されていく。デス・ナイトも呆気なく散った。しかしそれでもこの額冠だけを死守する振りをする。

 

「デス・ナイトすら呆気なく……!」

 

「頭数だけ増やしやがって……けどこれで終わりよ!〈能力向上〉〈能力超向上〉〈聖なる加護〉」

 

「マズイ……防御を」

 

「遅い!〈神槍〉」

 

 その一撃は過去一番速く、手に持った大鎌でギリギリ狙われていた心臓部を逸らしたがその手には額冠が握られていた。

 そう、クソババアの狙いは私を仕留めることではなくあくまで額冠だったのだ。

 

 

「手こずったけど……これで終わり」

 

 

「あ、あああ……キエアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 ──計画通り。

 

 

 

 

 

 

「これを外せば発狂する。背信者に相応しい末路ね」

 

 そう言いクソババアは勝ち誇った。

 

 

 しかし私は発狂することなんてなく──

 

 

「な、なんで!?どうやって発狂を防いで…!!」

 

 

 普通に、笑顔で近づいて──

 

 

「なっ!?何が起き……う、腕が、腕があああああ!!」

 

 

 額冠を持つ手を大鎌で斬り落とし──

 

 

「ファーイン様!ここにおられましたか!!な、そ、その腕は!?」

 

「あれは六大神の秘宝!?何故アレが身につけている?!」

 

「お、お前たち!この場を離れ──」

 

 クソババアの背後に集まった聖典数十人目がけ魔法を放った──

 

 

 

「〈獄炎(ヘルフレイム)〉」

 

 

 

 放たれた黒炎はクソババアを素通りしそれ以外の悉くを焼き尽くした。絶叫は一瞬、その絶叫すら肉体が瞬時に燃え尽きたことにより消え失せていった。

 

 唖然とするクソババア。今でも何が起こったか理解していないだろう。

 

 

「バカだなぁ。本当にバカ。額冠による人格消失が起きていないのに、外した時に起こる発狂が起こるとでも思った?」

 

「な……にが……」

 

「残念でした、私はそれがなくても最初から……一月も前から第十位階まで魔法が使える。あんたが額冠さえなければ私が魔法を使えなくなると勘違いしてくれたお陰で邪魔なものはまとめて始末できた」

 

「どうしてこうなったかといえば……人間が強欲だったから……かな?私の生まれながらの異能を知り、それを利用しようとしたところまではいい。ただ、巫女姫にして道具として使うなんてバカなことを考えなきゃ少なくともこんな状況には……多分ならなかったんじゃない?」

 

「私の……せい?」

 

「そうだね。もしもがあれば……少しでも私に愛を注いでいれば、少しは変わったんじゃないかな?もう遅いけど」

 

 呆然としたクソババアに向き直り斬り落とした腕から額冠を奪い、そして──

 

 

「……お前はなんだ?何者なんだ……?」

 

 

 

 

 

 

超越者(オーバーロード)だよ、お母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 その頭に額冠を被せた。

 

 

 

 

 

 どうやらクソババア──ファーインにも巫女姫としての素質はあったらしい。流石は神人……とでも言おうか。今は呆然と額冠を着けて立っている。もしダメなら能力で無理矢理にでも装備させるつもりだったが手間が省けた。

 このまま放置するのも一興だが変に使われても後で困る。

 なので、ここはナザリックの教義に従おうと思う。一応私を産んでくれたという恩はあるからせめて最期は安らかに。

 

 

 

 

 ──ナザリックにおいて、死はこれ以上の苦痛を与えられないという意味で慈悲である。

 

 

 

 

「〈真なる死(トゥルー・デス)〉」

 

 

 こうして私は今世の母に別れを告げた。

 

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 

 さて、これからどうしようか。

 

 巫女姫は全員死に、額冠も全て破壊してきた。その上、宝物庫からはこの大鎌や鎧、そしてこの世界級(ワールド)アイテムであるケイ・セケ・コゥク……もとい傾城傾国を貰ってきた。

 最早スレイン法国はしばらくは何も出来ないであろう。国力は果てしなく低下しているし仮に再び聖典と鉢合わせても見過ごされるだろう。

 

 今の私に勝てる敵はほとんどいない……と思いたいがきっとそうではない。この世界には真なる竜王という始原の魔法を操る竜王たちがまだいる。如何に私が強くなろうと勝てる確証はない。

 

 だがそれは別としてこの世界を見て回りたい気持ちはある。原作前とはいえ、にわかだった私がそれなりに愛したオーバーロードの世界だ。楽しまなければ損だ。

 

 

「そうなるとまずは資金が必要……かな?宝物庫にはそう言った金目のアイテムはなかったからなぁ……失敗、失敗」

 

 そう口ずさみながら私の声は弾んでいた。

 もう私を縛る鎖はどこにもない。自由気ままに世界を旅して……そうしていつか、原作の日までこの世を謳歌しようと心に決めた。

 

 

 

 





アレーティア──レベル七十五。
このルートでは〈天賦の才〉を獲得しておらず、冒頭の願い……超越者=モモンガの職業レベルやスキルを得ている。超位魔法は未修得。レベルが上がれば習得していく。種族レベルはそもそも人間種なので無理。
タレントを早い段階で理解しているため本編より扱い慣れている。そのお陰で本編より強力なスキルを持っている可能性あり。
六大神由来の装備を身につけられるだけ奪ってきている。まさかの傾城傾国すら奪ってきた。本編合流まで百年ほど時間があるので更に強くなれるだけの余地がある。

このルートはこの後存在に気づいた竜王が次々喧嘩売ってきてガチの殺し合いをすることになるスーパーハードモードになるかもしれない。


スレイン法国──このルートだと甚大な被害を受けすぎて滅びはしないけれど国力の回復が絶望的になっている。
まさに傾城傾国。その内暴動とか起きるかも?


ファーイン──本来の番外席次の母親。かなり独自要素強め。教育方針は本編デケムとは違い愛さないし、殺すし、ひたすら痛めつける。
憎しみのあまり、独断に動きまくった結果法国にとんでもない被害を出すことになってしまった愚かな女。最期は彼女にとって救いになったかどうか。


神官長──〈支配〉で宝物庫の場所を吐かされて死んだ。


巫女姫たち──全滅。


スルシャーナの従者──アレーティアの生まれながらの異能でこの事態に干渉出来ないようにされていた。


デケム・ホウガン──全ての元凶。頭エルフ。当作本編で殺されなかったのは、まだアレーティアが若く弱かったのと、歪ながらも愛されて育てられたから。





番外編初めて書きましたがいかがでしょうか?
帝国ルートとは違ったIFの話ですが正直ここまで長くなるとは思わず時間がかかってしまいました。
二分割にするべきだったかな……次への教訓とします。

次回は帝国ルートに戻ります。今年中に投稿できたらいいな……。



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帝国ルート 戦争編
アレーティアと戦争前夜 〜待遇を良くすれば部下は成果を出してくれるって誰かが言ってた〜


 

 

「うーん……」

 

「どうした、そんな難しい顔して。明日はいよいよ開戦だというのに何を悩んでいる?」

 

「いや、鎧が全損してしまったので新しい鎧はどんなデザインにしようかなって……」

 

「そうか、聞いた俺が馬鹿だった」

 

「流石に辛辣すぎませんか!?」

 

 

 

 月日が経つのは早いものです。いよいよ王国との戦争が明日になりました。既にトーマス、ルミリア、ナザミと騎士団の内二軍はカッツェ平野へ向かっており準備を進めています。

 そんな中私は何をしているかといえば、装備の考案です。

 

 ザイトルクワエとの戦いで竜騎士風全身鎧が使い物にならなくなってしまったので、今は以前使っていたバイザーを着用し四騎士にも支給している私が作ったルーンを刻んだ鎧を着ています。

 とはいえ、所詮は量産品なので今まで着ていた全身鎧より性能が落ちるのが残念なところ。

 

 

 そしてもう一つ、私の生まれながらの異能(タレント)についても関わってきます。能力が判明してからいくつか願いを叶えてみようとして『私の今の強さを知りたい』と願ったところ、脳裏というか頭に直接膨大な情報が叩き込まれた感覚に襲われました。余りの情報量に気を失いそうになりジルクニフに心配されたのはここだけの話です。てっきりユグドラシルとかよくあるゲームみたいにステータス画面的なものが現れると思ったらそんなことはありませんでした。

 

 この願いにより判明した私のスキルの一つ〈天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)Ⅲ〉が今まで私が無意識に使っていた職業変更のスキルだと判明し、その効果を理解した上で今後の戦い方をいくつか決めていました。

 このスキル、知れば知るほど奥が深く検証に時間がかかります。あらゆる職業に成ることが出来るというメリットがありますが、職業は山のようにありそれを全て理解して最適な職業選択をする……なんていうのは時間がいくらあっても足りません。それに日に使える回数も一応限られていますし。

 ただ、ある程度この職業は欲しいと思いながらスキルを発動すればその職業に合った最適な職業選択をしてくれるのでそこはありがたいところでした。いずれは全て自分で選べればいいんですけどね。

 

 今の私はザイトルクワエ戦での反省を生かし戦士としても魔法詠唱者(マジック・キャスター)としても戦えるスタイルになっています。魔法戦士と言えば聞こえはいいですね。とはいえ流石に〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉を使えるワールド・ディザスターなどは魔法詠唱者特化でなければ使用出来ませんが、戦士のみの、格上との戦いにあまり慣れていなかった職業選択よりは強みは増しています。今ならザイトルクワエとももう少し余裕を持って戦えるでしょう。〈根源の星霊召喚(サモン・プライマル・スターエレメンタル)〉の代わりになるあのスキルも手に入れましたし。

 

「今回の戦争には間に合わなさそうなので諦めるしかありませんね」

 

「本来ならお前の身に合った装備を用意するべきなんだが、そうなると難しいな。例の魔樹の素材は使えないのか?」

 

「使えるんですけど、扱いが難しいんですよ。一応アダマンタイトなんかよりずっと硬くて魔力もありますし。ただ、それに見合う他の素材が見つからないんですよね」

 

 そう、ザイトルクワエからは──半分は〈大厄災〉で消し飛ばしたとはいえ──大量の木材や牙、種子などを入手出来ました。

 早速、これらを使って色々作ろう……としたまでは良かったんですが、流石はユグドラシルの高レベルモンスターだけあって現地の素材ではザイトルクワエの素材に遥かに劣ってしまい調整が上手くいきません。ルーンで強化すれば……とも思いましたが結果は芳しくなく断念。

 軽く非常に丈夫なのでこれを防具に使いたかったのですが断念。

 またアゼルリシア山脈に鉱石掘り掘りしに行かないといけません。

 ただ、この前行った時にいつもより採れず脳裏に″この辺りにはもう無い″という言葉が浮かんだのでもしかしたら掘り尽くしてしまった可能性が……。ドワーフの皆さんやクアゴア達に申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたけど、言わなければ誰も不幸にならないので黙秘することにしました。

 余談ですが試しにこの木材で机や椅子などの家具を作ってみたところ、大変出来が良いものが出来上がりジルクニフが大層気に入ったのでプレゼントしました。私の屋敷にも幾つか作って置いてあります。

 

「木なんで鎧などには向いてませんし、作るのであれば木の盾や杖、もしくはああいう家具なんかが最適ですね。牙は削りだせばそこらの剣より上の物は出来そうですけど」

 

 グルメバトル漫画の八体いる王の内一体の牙みたいに。一先ずは魔法詠唱者編成の時に使える杖を作ることを目指しましょうかね。目標はマーレが持っていたシャドウ・オブ・ユグドラシルですね。アレは神器級(ゴッズ)なんでそこまでは無理でしょうけど伝説級(レジェンド)は目指したいですね。レッツ撲殺⭐︎

 

「仕方ないので防具は戦争が終わり次第アゼルリシア山脈に行ってフロスト・ドラゴンの鱗を貰って作るとします」

 

 フロスト・オブ・アゼルリシアや竜騎士鎧を作るのにあのドラゴンの死体の鱗は全て使い切ってしまったので、また貰う必要があります。鉱石掘りに行くついでにオラサーダルクたちから貰うとしましょう。代わりに金鉱石でも幾らか置いていけば快く譲ってくれるはずです。

 後は骨はまだ残っているので加工して鉱石と合わせれば前と同じ程度かそれより強い鎧が作れるはずです。

 

「そんな気軽にフロスト・ドラゴンから鱗を貰うなんて言えるのはお前ぐらいだろうな……まあ、その辺りはお前に任せよう。それとあの種についてはどうするつもりだ?」

 

「種ですね、沢山あるんで色々実験したいんですけど、私以外であの眷属に勝てるのがフールーダさんぐらいなんですよね」

 

「ああ、万が一の抑えがいないのか。それも対応するのは戦争後になりそうだな」

 

 そうそう、種も数で言えば百近くあります。ただ取り扱いに気をつけないとあらぬ被害が出る可能性があります。今は発芽しないように防護の魔法をかけていますが、土に触れたりすれば恐らくそのまま眷属になるので細心の注意を払う必要があります。あの眷属は今言った通り単独では私かフールーダぐらいしかアレは抑えられないでしょう。もしかするとゴ・ギンとサフォロンの武王タッグなら勝てそうですが。四騎士は……難しそうです。

 ……あ、そうだ。

 

 

「逆に一つ発芽させて騎士達の訓練相手にするのもいいんですけどどうです?私が立ち会うので」

 

 

「絶対にやめてやれ!せめてやるならハードルをもっと落としてやれ!!」

 

 

 却下されました。ぴえん。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 日も暮れて夜が明ければいよいよ戦争が始まります。内心めちゃくちゃ嫌なんですけど、これも無駄な戦いをもうしないためです。必要なことと割り切ります。

 前夜なので今回の戦争において重要な立ち位置にいる私が不在というのもあまり良くないので転移して今はカッツェ平野の前線基地にいます。

 騎士達に基地の外に机や椅子を用意させ、魔法で快適な環境を整えちょっとした晩餐の用意を進めます。

 今私は食料品を大量に持ち込み騎士達に料理を作っています。今回の戦争、王国には申し訳ないですけど完膚なきまでに負けてもらいます。手抜きも無しです。なので今の私の職業は料理人を主とした構成になっています。ここでしか味わえない──ジルクニフにすら食べさせたことがないがロクシーさんには食べてもらった──美食で英気を養って貰いましょう。

 

 用意したのは貴族によく好まれるワインやエールなどの酒類。それに加えてチーズやベーコンなどの塩気の効いた酒に合うつまみ。甘いものが好きな騎士や女騎士もいるのでケーキやクッキーといった甘味など。そしてメインの品……

 

「ほ、本当にこんなもの俺たちが食っていいんすか……?」

 

「こういうのって普通陛下が食べるような高級品なんじゃないか……?」

 

「信じられねえ……夢みたいだこんな食事!騎士になって良かった、貴族ですらこれは滅多に食えねえだろ!!」

 

 

 騎士達の前に用意されたのはステーキ。ただし、その辺の牛や豚肉などではありません。

 これはドラゴンの肉です。あのフロスト・ドラゴンの不要になった肉で作ったステーキです。保存の魔法をかけて腐食を避けていたので全て振る舞いました。

 ただ、残念ながら一人一枚行き渡りはしましたがおかわりはないので仕方なくギガントバジリスクの肉やフォレストリザードなどの肉を用意しています。意外と美味しいんですよね。

 全員に行き渡ったところで食前の挨拶といきましょう。

 

 

「さて、全員こちらに注目。……よし、目の前の料理に目が釘付けになってしまっている獣はいませんね?いたら隣の者は人に戻してあげるように」

 

 騎士達からは少しばかりの笑い声が聞こえる。小粋なジョークが効いたようで何よりだ。

 

「皆さん知っているでしょうが改めて、私は粛清騎士。今回の戦争の指揮を皇帝陛下から一任されています。明日からは王国との戦争です。調べでは王国は今回兵を十五万用意したらしいですが対してこちらは二万弱……数の差は圧倒的です。去年の敗北を踏まえて王国は頭数を揃えてきました。しかし……帝国が誇る騎士達が所詮は寄せ集めの王国の一般兵に質で劣るでしょうか?答えは否。ハッキリ言いましょう。貴方達は強いと」

 

 ここで〈天賦の才Ⅲ〉で将軍、指揮官、先導者などの士気向上に繋がりそうな職業に変更し口調も威厳のありそうなものに変えます。

 

「明日は諸君らの活躍に期待している。敵はたかが寄せ集めの十五万の烏合の衆の王国軍。対して、我らの隣には誰がいる?その卓の隣にいるのは戦友であり同士であり信頼できる仲間である誇り高き帝国騎士団。寄せ集めではなく、私が認め陛下が頼りにしている諸君らだ。今宵は酒を飲み肉を食い言葉を交わし存分に英気を養え。そして──帝国に勝利をもたらすのだ」

 

 言い切るとしばらくその場が静寂に包まれ、そう時間も経たないうちに喝采の声が上がった。扇動は成功しました。

 

 

「長くなったが諸君らのために用意した美酒に美食、存分に楽しんでくれ!私からは以上だ。最後に乾杯の音頭を取る。──帝国に勝利を

 

「「「「「「帝国に勝利を!!」」」」」」

 

 

 そうして晩餐が始まりました。いいですね、こういう雰囲気。嫌いじゃありません。

 この中の何人が明日の戦争で死ぬことになるのか、正直言って分かりませんがそれでも出来るだけ死人は出てほしくないものです。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「アレーティア様!こんなところにいらしたのですね!」

 

「ん、ルミリアですか。一緒にいるのは……レイナースですか」

 

 

 晩餐の最中、あまり目立たないところでケーキを食べているとレイナースを連れたルミリアが訪ねてきました。顔合わせと紹介ですかね?

 

 

「……私のことをご存知なのですか?」

 

「ええ、それは勿論。ルミリアを負かして四騎士の座を勝ち得た唯一の騎士の名を知らないわけがないですよ」

 

「ありがとうございます、粛清騎士様。四騎士になってもより一層勤めを果たさせていただきますわ」

 

 深々と頭を下げるレイナースを見てとふと疑問に思ったことが。あの薬草はジルクニフに渡したままでした。あれからどうしたんでしょう?まだ聞かされてないのかな?

 

「ところで、レイナースは陛下と何か取引をしたと聞きましたが……」

 

「はい、実「それは私から説明させてください。レイナースは……とても可哀想なやつなんです!」

 

 まさかのルミリア、レイナースの言葉を遮ってまで彼女の過去を語り始めました。

 まあ、大体ジルクニフから聞かされていたことと変わりはありません。ただ、そこにルミリアの主観が入り……

 

「そう、私はこんな呪いを受けた程度で手のひらを返す様なバカな婚約者もロックブルズ家にも腹が立ち!陛下に直談判して私が襲撃したんです!」

 

 襲撃したのルミリアだったの!?もしかしてそのせいであの時『これ以上俺の胃を痛めてくれるな』って言ってたわけですか!

 

「私の四騎士としての最後の大仕事でした……思い切り全員ぶん殴ってやりました。後はレイナースの好きなようにと。ところでレイナースは気が晴れたか?」

 

「ええ、もちろんですわ。私のことを気色悪いだとか醜い女だとか罵ってきたので全員顔を半分焼いて放逐してやりましたわ」

 

「そうか」

 

 そうか、で済ませていい話でもない気がしますが生きているので優しい方でしょう。生きていればどうにかなるでしょうし。最終的に神殿に行けば治るはずですしね、レイナースのは治りませんが。

 

「そういえばルミリアはこの戦争の後どうするつもりなんですか?陛下からは引退を示唆されていましたが」

 

「そのことですか。私も一応は貴族令嬢ですし年齢的にもそろそろ結婚しないといけないが……実は陛下にこの戦争で手柄を立てたら一つ願いを叶えてもらえるよう約束してるんです」

 

「約束?一体何の?」

 

「それは……秘密です」

 

 そう言いルミリアは頬を僅かに赤め笑った。普段見せる笑顔とはまた違った何かを隠すような笑い方でした。

 

「明日は作戦通りに彼らと挑みますよ。王国最強の戦士に。その首持って帰りますとも」

 

「期待していますよルミリア。戦争が終わったら食事にでも行きましょうか」

 

「ええ、是非」

 

 

 

 

 





次回からようやく戦争編開始です。これが終わればようやく原作に入れる……はず。


投稿してかれこれ四ヵ月になります。UAも約35000になりお気に入り数も5000に届きそうで感無量です。

感想や高評価、誤字脱字報告などありがとうございました。

引き続き拙作をどうぞよろしくお願いします。


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アレーティアと戦争part1 〜開戦、対峙する騎士と戦士〜


あけましておめでとうございます。

今年初の投稿になります。
ただ、私自身陣形とか戦争に詳しいわけではないのでかなりご都合主義というか無理矢理なところがありますのでご注意を。




 

 朝がやってきました。そう、開戦の朝です。

 私は一度帝国に転移しジルクニフと神官を何人か連れて前線基地へと再び転移しました。神官を連れてきた理由?そりゃあ決まってます。

 

「ううっ……飲み過ぎた……うっぷ」

 

「あんまりにも楽しいもんだからつい飲み過ぎてしまった……」

 

 はい、こういうバカな騎士がいるからですね。酔い覚ましに解毒の魔法を使える神官を神殿に依頼して何人か派遣してもらいました。まさかこんなことで呼ばれるとは神官達も思いもしなかったでしょうね。元凶私なんですけど。

 

「なあ、アレーティア。これはどう言う状況だ?」

 

「今日から戦争なんで英気を養ってもらおうと酒にフロスト・ドラゴンやギガントバジリスク、フォレストリザードの肉や甘味など盛大に振る舞った結果、調子に乗って飲み過ぎてバカになってるヤツが何人かいる、そんな状況です」

 

 今飲み過ぎて使い物にならなくなっている連中は酔いを回復したら最前線に叩き込んであげましょう。楽しんだ分働いてもらわねば。

 

「ちょっと待て。私ですら食べたことのないものが振舞われているのだが?それに誰がそれを作った?皇城の料理人でないことは違いないが……」

 

「私に決まってるじゃないですか」

 

 バッと周囲の騎士達がこちらを振り返る。ジルクニフもはぁ?って顔をして私を見ている。

 

「あ、あの料理全て粛清騎士様がお作りになられたのですか…!?」

 

「そうですけど何か問題がありましたか?腕を振るったつもりですが」

 

「いやいやいやいや待ってくれ。私はそんな話聞いていないんだが!?食べたことすらないんだが!

 

「そりゃあ今までロクシーさんにしか食べてもらったことないですし当然かと」

 

 あれはまだスキルのことも分からず料理人にもなれるのかと試していた時ですね。折角貰った屋敷にキッチンがあったので色々試してみたところそれなりに美味しいものが作れたのでロクシーさんに食べてもらおうと包んで持って行ったことは記憶に新しいです。

 最初は遠慮してましたけど一度食べ始めたら静かに、それでいて上品に完食してくれました。その後、私が作ったと告げたところ

 

『本来ならそういったことは料理人がすることですが……とても美味しかったですよ。それと、これだけの美食が作れるなら陛下の子供にもお菓子を作ってあげてもらってもいいかしら?』

 

 そうして私は更に料理の腕を上げ、子供の喜ぶお菓子作りにも目覚めました。それによりジルクニフの子供達からも慕われる存在になり後宮では充実した時間を過ごしています。

 ……こういうことをしているのはもしかしたら死んでいった名前も知らない姉妹たちへの贖罪かもしれませんが、子供には今を楽しく生きて欲しいというのは本心です。

 さあ、そんな子供たち、もとい帝国の明るい未来のために王国には犠牲になってもらいましょう。原作開始後に皆殺しにされて滅ぼされるよりはマシなので安心して欲しいですね。超位魔法で黒山羊を召喚したりしないので益々安心です。

 

「ぐうっ……後で詳しくロクシーから問いたださねば……」

 

「何をそんなに悔しがっているんですか。陛下だって昔は毒盛られたりしてましたけど今では美味しい食事を安全に召し上がられるようになったじゃないですか」

 

「それとこれとは話が別だッ!!」

 

 変なスイッチ入ってますね。これ以上長引かせても面倒なので早々に切り上げるとしましょう。職業をまた変更して……

 

「さて、陛下は放っておいて騎士団の諸君に告ぐ。間も無く開戦だ。昨日は存分に楽しんだだろうか?それなら結構、中には楽しみ過ぎて使い物にならなくなった馬鹿者もいる様だが、そいつらはその分働いてもらうとしよう。また、この戦争が終わり勝利した暁には今度は帝国で戦勝会を開こう。残念ながら今回食べたフロスト・ドラゴンの肉などは無いが、それでも帝国有数の美酒美食は約束しよう」

 

 おおおおおおっ!!と騎士達からは賛同の声が上がる。やはり待遇が良ければ人間というのはそれに見合った努力をしてくれるものです。

 前世の上がらない給料や劣悪な職場を思い返すと嫌な気持ちになりますね。反面教師にしてこの世界ではそれに見合った褒賞を出してより上を目指して欲しいです。褒賞を出すのは私ではなくジルクニフですけどね。

 

「今回の戦争は皇帝陛下もご覧になる。王国軍を下し勝利を捧げるのだ!」

 

 よし、士気向上はこんなものでいいでしょう。程よく強化もされているので余程の手練でなければ負けはないはず。ガゼフ・ストロノーフとかは無理そうですけど。

 

「では、開戦の合図が出次第作戦通りに。特にナザミ、ルミリアの二人には重要な箇所を抑えてもらうことになる。任せましたよ」

 

「「ははっ!」」

 

 準備万端、やれることは全てやりました。後は私の仕事をするのみです。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 遂に戦いが始まった。

 此度の戦い、王国は前回の敗北から学び頭数を揃えることを是とした。その数十五万。そこに去年はいなかった新たな戦力、王国戦士長という地位についた周辺国家最強と名高いガゼフ・ストロノーフが加わり今年こそは帝国に一矢報いるのだと王国貴族の士気は高かった。

 

 しかし、ガゼフはこの戦争の始まりから不安を抱えていた。それはかの帝国にいるとだけ伝えられている粛清騎士という存在にだった。王国貴族でもその存在を知るものは少なく噂話程度にしか耳にしていなかった人物だ。

 

 曰く、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが即位して間も無く現れた存在であり鮮血帝と恐れられる要因となった騎士。

 曰く、皇帝に刃向かう貴族達を全て粛清し貴族達の死神と恐れられる存在。

 曰く、その強さは帝国ではあのフールーダ・パラダインすら遥かに凌ぐ。

 

 そんな王国の誰も知らない秘匿されていた存在を帝国は今回の布告状で大々的に主張してきた。

 

 

 元々、エ・ランテル近郊はバハルス帝国が占領していた土地であり、リ・エスティーゼ王国は不当に占拠している。

 そのため、本来あるべき形に戻すべく返還を求める。

 従わないのであれば、王国に侵攻を開始し鮮血帝が誇る最強の剣が裁きを下すだろう。

 

 

 

 当時の宮廷会議でも最強の剣が粛清騎士と結びつかず何らかの比喩かと思われていたがブルムラシュー侯が帝国にこんな騎士の話があると言い出してから最強の剣が粛清騎士だと断定するに至った経緯がある。

 しかし、王国では皇帝がその存在をでっち上げてこちらを脅そうとしている程度にしか取り合わなかった。それもそうだ。それだけの力を持つ人物なら否応なしに目立つはず。なのに帝国にはその名は轟いているが周辺国家にはそれほど通っていない人物など所詮は取るに足らない人物だと決めつけていた。

 

 しかし、ガゼフは違った。戦士としての直感か、それとも人としての本能が何かを警告している。

 

 

 ──あの先に自身を遥かに上回る何かがいる、と。

 

 

「気を引き締めなければならないな」

 

 王より与えられた王家の至宝を装備し、かのアダマンタイト級冒険者リグリット・ベラスーカウラウから貰った戦士としての技量を上げる指輪を嵌めガゼフは戦場へと降り立った。

 

 

 開戦と同時にボウロロープ侯の突撃の合図が王国軍に伝わる。王国兵達は一斉に槍を持ち、馬で駆け突撃していく。数は圧倒的で帝国から見れば人の波が押し寄せてくるようだった。

 しかし、帝国騎士団はこの程度では臆することはない。無策の突撃など恐るるに足りないからだ。

 

 

「迎え撃つのだ帝国騎士団第二軍よ!粛清騎士殿の突撃に比べれば大したことはない!迎撃陣形を取れ!」

 

「「「「「ははっ!!」」」」」

 

 迎撃陣形を取った騎士達による反撃がただただ突撃してきた王国兵を大盾で阻み背後から突き出される剣や槍で蹴散らしていく。

 数で圧倒している王国兵は数で押し潰す腹づもりだったが、何人で押しかかろうとも騎士達はビクともしない。それもそのはず、大盾を扱う騎士達は武技〈要塞〉を使い耐久力を上げているのだ。

 そして何より──彼らが身につけている装備は総じてアレーティアによる様々な強化がされており、更に言えば昨晩の晩餐での料理の支援効果、扇動士気による強化が入りそれぞれが冒険者で言う白金級程度の力を発揮しているのだ。

 それがなんの強化も受けていない、ましてや付け焼き刃の訓練しかしていない王国の一般兵が敵うわけがない。

 

 

「ば、バカな!?何故あれだけの数をたった数十人で押し留められる!?」

 

 驚愕する王国貴族たち。彼らは何が起こっているか分かっていない。正しく現状を理解しているのは両手の指の数程度だろう。

 突撃した兵は騎士たちによって返り討ちにあい次々と崩れ落ちていく。そして、徐々に徐々に、真綿で首を絞めるが如くゆっくりと帝国軍は侵攻している。

 そんな中、現状を理解したガゼフは即座に行動を起こす。

 

「アレでは兵を無駄死にさせるだけだ!兵を一度後方に下げ陣形を組み直すべきです!」

 

「黙れ!平民風情が我等に意見など」

 

 だが、傲慢な貴族たちはそれを取り合わない。このままでは大敗する……そう思ったその時、予想もしてなかったところから手が差し伸べられる。

 

「いいえ、その通りにすべきかと!今年の帝国は何かが違います!去年に比べ強さがまるで違う!」

 

 ガゼフの言を後押ししたのはレエブン侯だ。彼もまたこの事態を理解し即座に対処すべきだと判断したのだ。

 

「指揮をとっているボウロロープ侯に告げよ!前線は戦士長率いる戦士団が引き継ぐと!一度兵を下がらせ体勢を整えるべきだと!」

 

 なんの相談もなく前線を任されたガゼフだったが、それが正解だと彼も理解していた。アレに対処出来るのは現状戦士団だけだと。

 

「行くぞお前たち!」

 

「「「「ははっ!!」」」」

 

 

 ガゼフと戦士団が馬に乗り撤退していく兵たちとは逆へ、帝国騎士団の元へ向かっていく。剣を抜きいつでも戦えるように武技を使い駆けてゆく。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「戦士長が出てきた。では、作戦通りに……」

 

「行くぞ」

 

「ああ、私の最後の晴れ舞台だ。存分に踊ってやるとも」

 

 迎撃陣形を取っていた騎士団が道を開けるように散開しその先に立ちはだかるは一般の騎士とは異なる鎧を纏いし二人の騎士。

 一人はその身と変わらないほど巨大な盾を両手に持ち仁王立ちしている。

 もう一人は細身の剣を二振り、それぞれ両手に持ち今か今かと突撃するが如く構えをとっていた。

 

 

「私は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!帝国騎士よ覚悟!!」

 

「……帝国四騎士が一人、“勇猛”ナザミ・エネック。王国最強よ、お前の相手は私と──」

 

「この私だ!帝国“元”四騎士が一人“乱舞”ルミリア・リイル・アーチゾルテ!粛清騎士様の命によりその首貰い受ける!」

 

 

 王国劣勢の中、それぞれの戦力の最高峰がここに激突した。

 

 





現状簡単まとめ

ガゼフvsナザミ、ルミリア

戦士団vs騎士団一部

王国兵──撤退中、兵士たちは地獄を見た、貴族たちは大多数が現実逃避

騎士団──追撃中、ただし巻き込まれないように深追いはしない

アレーティア──粛清準備中(対象〇〇〇〇)

トーマス──ジルクニフの護衛、結婚前だからという気遣い

????──遠方、現地から同時に監視中、特に粛清騎士の素性

全体の戦いはザックリしか書かない(書けない)のでこんな感じぐらいに留めてもらえれば。




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アレーティアと戦争part2 〜王国の悲劇、来たる絶望〜


お正月だからか筆が進んでます。

しかし休みが終われば頻度は元に戻ります……休みが続けばいいのに……。




 

 

 戦争が始まり数時間、王国の劣勢は続いていた。

 本来ならば一時的にガゼフ率いる戦士団が前線を維持するため殿を務め体勢を整えるはずだった。

 しかし、現状は芳しくなく戦士団は押されていた。

 仮に騎士と戦士、実力が同等でもアレーティアによる強化をつけているかどうか。これだけで均衡は簡単に崩れる。最早その差が余ることはなく戦士団ですら防戦一方だった。

 だがここには王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフがいる……が、残念ながら戦士団の支援には向かえない。

 

 

「〈四光連斬〉」

 

「無駄だ〈南山不落〉」

 

「ぐうっ!?何故レイザーエッジで斬り裂けんのだ…!」

 

「そんなことを考えている余裕があるか?戦士長よ、目の前の脅威に対処する方が先ではないか?」

 

「その通りだ!!奥義〈超速乱れ斬り〉」

 

「ぐっ……〈即応反射〉」

 

「甘いな戦士長。そんな雑な反撃を俺が許すと思うか?」

 

 

 そう、ガゼフはガゼフで過去最大の敵と対峙していた。

 ナザミ・エネック、ルミリア・デイル・アーチゾルテの二人。帝国四騎士を名乗る最高峰の騎士二人を同時に相手取るだけで精一杯だった。

 当然、この二人もアレーティアによる恩恵を受けており、特にナザミに関しては素質を開花させたこともあり英雄の領域へ至っている。そんな彼がアレーティアによる強化を受ければ現地では逸脱者を除けば敵はいないのではないかというほどの制圧力を保持していた。

 大盾二枚という守備に徹した戦いだが、その防御を崩すことは困難極まる。そこに加え──

 

「とはいえあの奥義を凌ぎ切るとは思わなかったな……。では次だ。今度は連続で行こう」

 

 

 帝国四騎士の座を奪われはしたものの手数だけなら四騎士で最速を誇ったルミリアが加わる。

 彼女は武技の連続使用を得意としている。その秘密は彼女の生まれながらの異能に理由があり、武技を放つ際の集中力が増すと言うものだった。これにより彼女は常人より多くの武技を同時に扱うことが出来る。それにより多くの武技をアレーティアに学び、身につけ組み合わせることで多様な奥義を生み出していた。

 

 そんな二人を同時に相手にしているガゼフは戦士団に加勢したくとも加勢出来ない状況に追いやられていた。

 

(状況は圧倒的不利……せめてどちらかだけでも倒すことが出来れば……!)

 

 攻めに回ればナザミに防がれ、隙を見せればルミリアによる高速攻撃が迫り武技を発動させる間もない。これがアレーティアによる作戦の一つ、その名も『鉄檻作戦』。

 この作戦により帝国はガゼフを抑えることに成功していた。

 

「戦士長!ぐわっ」

 

「余所見できる余裕があるのか?その程度で我等帝国騎士団を退けられると思われていたとは心外だな」

 

「お、おのれせめて一撃だけでも……ぐふっ」

 

「すまんな、本当にすまん。これも相手が悪かったと諦めてくれ」

 

 次々と倒れていく戦士団。その光景は王国にとって、ガゼフにとって絶望的なものだった。

 

(どうにか……どうにか一度距離を取らねば!)

 

 ガゼフはどうにか一度距離を取り武技〈能力向上〉〈能力超向上〉による強化を狙っていた。成功すればこの現状を打破できると信じて。

 だがそれを許さないのがルミリアだ。一度距離を取るべく後方に退くと即座に剣先をこちらに向け一言。

 

「距離を取ろうと無駄だ──起動〈火球〉」

 

「な、何ィィィッ!?」

 

 ルミリアの剣に刻まれた文字が輝きそこから放たれたのは魔法。二振りの剣はそれぞれが一日に三度ルーンによる魔法が発動出来るような作りになっている。

 まさか剣がこの様なマジックアイテムだと想定していなかったガゼフは思わぬダメージを負ってしまった。

 

「すまないな戦士長。去年と今年の帝国は文字通り戦力が違うのだ。この通り、王国は魔法が劣っていると知っているのでな。粛清騎士様の言う通り効果覿面だった様でなによりだ」

 

 痛む身体に鞭打ちなんとか立ち上がる。ガゼフは魔法詠唱者や魔法に疎かったがこの一件で魔法に対する見識を身につける必要があると心に刻みつけた。とはいえ、それは遅すぎたのだが。

 

「もう動けまい。せめてもの情けだ、その首素直に差し出すのなら他の戦士団は見逃してやってもいいぞ」

 

 ルミリアの傲慢な提案にガゼフは悔しながらも一度考える。

 決断次第では部下である戦士団だけは助けることは出来る。しかし、他の兵たちは?見逃すのは戦士団だけ……ならば、出す答えは決まっている。

 

「──断る。俺は王国戦士長!この国を愛し守護する者!王から受けた恩義に懸けて、この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかあああ!!」

 

「そうか、では──その首置いて逝け!奥義〈剣舞〉」

 

 ガゼフにルミリアの剣撃が迫る。傷ついた身体でこれを凌ぐのは困難だ。だがやらねばならない。剣を持つ手に力を入れ──

 

 

「戦士長おおおおおお!!ぐがあああああ!!」

 

「なっ!?」

 

 〈剣舞〉がガゼフに届こうとした時、間に誰かが割って入ってきた。それは決死の覚悟でガゼフの助けになろうと駆けて来た戦士団副団長だった。

 

「お、お前……!!」

 

「せ、戦士長……ご無事で……よか」

 

 最後まで言い切ることなく副団長は死んだ。しかし、彼の犠牲は無駄にはならなかった。

 その証拠にルミリアが動けなくなっている。彼女はその異能の特性ゆえか周囲の警戒を怠ってしまう欠点があった。それにより副団長の乱入に気づくことが出来ず〈剣舞〉を防がれてしまった。

 〈剣舞〉は四つの武技から成る必殺奥義。ルミリアの二つ名であり、とっておきだ。それと同時に他の奥義と比べて高い集中力を必要とするため使用後は数秒集中力が切れ動けなくなってしまう欠点があった。

 今、その時間が訪れている。ガゼフはそんな欠点を知る由も無いがここしかないと副団長の死を惜しみつつ即座に〈能力向上〉〈能力超向上〉の武技を使用。そして──

 

「しまった!」

 

「ルミリア、急いでマジックアイテムを使え!」

 

「遅い!武技──〈六光連斬〉

 

 王国最強の戦士による必殺の武技がここに炸裂し──

 

 

 ルミリアは血飛沫を上げ倒れた。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 同時刻、王国陣営では急ぎ体勢を立て直すべく懸命な指揮が飛び交っていた。

 しかし、まるで敵わなかった帝国軍に恐れをなし逃げ出そうとする一般兵があまりにも多かった。

 

「ええい逃げるな!戦え、戦うのだ!今より逃げ出す者は反逆者とみなす!」

 

「なんだってこんな……勝てるわけないだろ……」

 

「死ぬ前にせめてシンディに告白しておくべきだったなぁ……どうして俺は大丈夫だなんて思ったんだ……」

 

 無理だ、勝てない、死にたくない、そういった負の感情が一般兵たちを支配している。このままでは勝てる戦も勝てないだろうという重苦しい空気が。

 そんな矢先にとある報告が聞こえた。

 

「報告、報告です!王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが帝国四騎士を一人討ち取りました!」

 

 降って湧いた吉報、今の王国にとって希望の光が差し込んだ。

 そう、いかに帝国軍が強大でも王国にはガゼフ・ストロノーフがいる。周辺国家最強とも言われる戦士長がいればまだ戦える。勝てる見込みがある。その一つの希望が力に変わった。

 

「聞いたか諸君!戦士長殿は我らのために殿を勤めている!今度は我等が戦士長を救うのだ!」

 

 僅かながら士気が上がり各々が再び武器を手にする。そうだ、俺たちがこの国を守るのだと。戦士長だけに全てを押し付けるなと。

 

 

 

 

 

 

「……帝国軍がこれほどまでに強いとは」

 

「正直、我々も驚いています。帝国では冒険者組合がほぼほぼ解散状態とまで言われていますが、その理由の一端が分かった気がします。あれは下手したら白金級冒険者並みには強いのではないですかね」

 

 冒険者でも白金級まで届く者はそう多くない。その国全体で白金級以上が二割いれば上等だ。ただ、今の帝国軍はその常識を嘲笑うような強さを個々が手に入れており、更にその数が最低でも今回参加している二軍隊──二万だと考えるとその勢力は圧倒的だ。周辺国家最強ともいわれるスレイン法国ですら上回るのではないかと疑ってしまう程に。

 

「それほどまでか、君たちなら勝てるか?」

 

「恐らく……ですが、四騎士は無理です。一人は戦士長が倒した様ですがもう一人、あの大柄の騎士は最低でも戦士長と互角かそれ以上だと思います」

 

 陣営に戻り話しているのはレエブン侯と引退したオリハルコン冒険者チームのリーダー、ボリス・アクセルソンだ。

 帝国軍の強さを冒険者視点で語っており、そういったことに疎いレエブン侯にとっては非常にありがたい存在だった。その彼がガゼフと互角とまで言うあの騎士は一体どれほどの強さを持っているのか。ガゼフで勝てるのかという不安がよぎるがレエブン侯はどうにかそれを顔に出さないよう必死だった。

 

「我々も戦士長へ加勢に向かいます。このままだと戦士長の負担が大きすぎます。レエブン侯はどうか後方にお下がりください。お子さんが生まれたばかりでしょう?」

 

「しかし仮にも六大貴族としてその様なことをすれば周りに面目が……」

 

「そうですよ、レエブン侯お下がりください。貴方は優秀でこれから先帝国のために働いてもらうんですから」

 

 

 自然と二人の会話に割って入った人物がいた。バッと振り返ればそこには()()()()()()()()

 ここにはレエブン侯とボリスの二人しかいなかったはず。しかも誰かが入ってくれば親衛隊として周囲を警戒して回っている他の元オリハルコン冒険者のメンバーが気づくはずだ。それにも関わらず、何者かがこの場に現れた。

 

 

「……君は、いやお前たちは誰だ?何処から入った?」

 

「私たちですか?誰だと思います?レエブン侯」

 

 その人物は顔半分を隠すバイザーをしており、白金の髪が背中まで伸びている。鎧は黒に近く、かつ一目でマジックアイテムだと分かるだけの存在感を放っている。これほどの品をボリスは見たことがない。

 更にその背後には男女それぞれ一人ずつ、同じ鎧を身につけている。

 そして何より……纏うマントには帝国の紋章が刻まれていた。

 

「ま、まさか……本当にいた……のか!?」

 

「レエブン侯、つまりこいつが!」

 

「そう、まずはご挨拶から──」

 

 

 

「私は粛清騎士、アレーティア。こちらは次期帝国四騎士に任命されるレイナース・ロックブルズとニンブル・アーク・デイル・アノックです。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下より今回の戦争における全権を預けていただいています。そして陛下の命により──王国軍に裁きを下しにやってまいりました」

 

 

 ──王国の絶望は終わらない。

 

 

 





アレーティア──レイナース、ニンブルを連れて掟破りの本丸に転移して襲撃。王国は泣いてもいい。

ルミリア──致命傷。

ナザミ──ここからガゼフと一騎討ち。

ガゼフ──圧倒的不利な状況でルミリア撃破。しかし、後方の本陣ではもっとヤバいことが起きている。

王国軍──希望が見えたと思ったら絶望がやってきた。心境的にはバラモス倒したと思ったらゾーマがそのまま襲撃してきた感じ。

帝国軍──むしろここから負ける方が難しい。

????──予想以上に帝国軍が強くなっていたので正直驚いている。現地側はアレーティアを捕捉できていないため帝国軍本丸にて待機中。アレーティアに見つかったら即処されるため割と本気で命懸け。



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アレーティアと戦争part3 〜王国貴族の大粛清〜

 

 

 戦争が始まり数時間が経ちました。どうやら作戦通りに行っている様です。

 

「去年は目にすることがなかったが、本気でことを構えればここまで圧倒的とはな……」

 

「いえ、本来ならもう少しは苦戦しますよ?今は私が手を加えているのでより強くなっているだけなので」

 

「何?一体何をしたんだ?」

 

 見ただけじゃ分かりませんよね。なのでジルクニフに説明しましょう。

 

「まず昨日の晩餐で振る舞ったのは私が作った料理です。あの料理は食べると消化されてから半日程度食べた人間の力を増す様に愛情をたっぷり込めて作りました。その結果、本来発揮出来る力以上の力が出せるわけです」

 

「愛情」

 

「そうです。そしてダメ押しに開戦前の私の演説です。一応魔法の様なもので、私の言葉を聞いた騎士たちの闘争心を煽ることで精神力などを強化しました。これによって恐怖に怯えることなく戦うことが出来ます」

 

「……なあアレーティア。その効果が切れることはないのか?」

 

「少なくとも今日中は大丈夫です。生まれながらの異能(タレント)でそういった効果時間を引き伸ばす様に願ったので」

 

 一応生まれながらの異能の話になるのでジルクニフにしか聞こえないぐらいの声量で答えました。スパイとかいたら面倒ですからね。

 

「……それを聞くとなんでもありだなその異能」

 

 もう使えるものは全て使いました。騎士たちの装備も一人最低一つはマジックアイテムを持たせていますし、四騎士にはそれぞれ武器を与えて、ザイトルクワエの素材から作ったとあるアイテムを一つだけ渡しているので使えば死ぬことはないでしょう。

 アレはそう大量に作れるものではないので人数分用意出来ないのは仕方ないです。

 

「お、どうやら全軍下がるみたいですね。では手筈通り進行はゆっくりと圧をかけるように」

 

 王国の一般兵程度では今の騎士団には間違いなく勝てませんからね。何も王国を滅ぼしたいわけではなくて王国を滅茶苦茶にすることが目的ですから。

 ……あの見覚えのある鎧姿はもしや。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフが出陣した様ですね。ナザミ、ルミリア予定通り任せましたよ」

 

「ああっ!アレーティア様に任された大任、必ず果たしてヤツの首を落としてやります!」

 

「なるべく暴走しない様に抑えますのでご安心を」

 

 

 そう言い二人は馬に乗り出陣して行きました。原作ではガゼフが帝国四騎士を二人討ち取りそれをジルクニフがスカウトしに行く、というエピソードがあったはずですがそこはもう無視します。

 こちらがガゼフにぶつけるのは原作より強い四騎士が二人。中でもナザミの強さは信頼している。トーマスからは私とルミリアは暴走しがちと何度も注意されたので抑え役としてナザミは適任のはず。

 

 ナザミたちの無事を祈り、こちらはこちらで仕事の準備に取り掛かりますか。

 

「ニンブル、例の物に目は通しましたか?」

 

「ええ、先程拝見しました。しかし、この情報何処から手に入れたので?」

 

「王国の大貴族、ブルムラシュー侯に大金を送ったら快く教えてくれましたよ?元々大金持ちで王派閥の貴族なのにあれっぽっちの金でこんな重大な情報を売ってくれるのですから助かりますね」

 

 ニンブルに用意させたもの、それは今回の戦争に出陣している貴族たちのリスト。

 これから王国戦士団を程よく疲弊させた後、王国の本丸に転移して襲撃を仕掛けようという作戦です。え?卑怯じゃないか、ですって?勝てばよかろうなのです。勝ったものが歴史を作るってアインズ様も──いや、これはアルベドだったかもしれない──言ってました。

 その襲撃の際、併合した時に必要のない無能な貴族を排除しようと考え、元々王国の情報を幾らか売っていたブルムラシュー侯を利用してリスト化しジルクニフに相談した上で排除する貴族は決まりました。

 まあ、これでも後継やこの戦争に出陣していない貴族もいるので大した影響は与えられないかもしれませんが、帝国にとっての邪魔者を大っぴらに処理できるこの機会を逃すわけにはいきません。

 

 リストに目を通しニンブルとレイナースにも覚えさせる。私一人でも十分ですが、こうした経験も新しい四騎士には必要だと思い今回連れ出すことにしました。現場研修です。

 

「では陛下、行って参ります。トーマスも守備は任せましたよ」

 

「ああ、朗報を期待している」

 

「どうぞ陛下のことはお任せください」

 

「レイナース、ニンブル、こっちに集まってください。そうです、なるべく離れない様に……〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 はい、到着です。目の前には何か相談している見覚えのある二人がいます。

 

「我々も戦士長へ加勢に向かいます。このままだと戦士長の負担が大きすぎます。レエブン侯はどうか後方にお下がりください。お子さんが生まれたばかりでしょう?」

 

「しかし仮にも六大貴族としてその様なことをすれば周りに面目が……」

 

 レエブン侯と……名前覚えてませんけど親衛隊の元オリハルコン級冒険者のリーダーですね。どうやら劣勢の戦士団に支援に向かう様です。ナザミとルミリアがいるんでそれだけで戦況が崩壊することはまずないでしょうけど念には念を入れて、邪魔はさせない様にしましょう。

 

 

「そうですよ、レエブン侯お下がりください。貴方は優秀でこれから先帝国のために働いてもらうんですから」

 

 いい感じに驚いた様で同時にこちらに振り返りました。まあ、二人しかいないはずの場所に突然音も無く三人も武装した人間が現れれば驚きますよね。ドッキリ大成功のプラカードでも用意すればよかったでしょうか?

 

「……君は、いやお前たちは誰だ?何処から入った?」

 

「私たちですか?誰だと思います?レエブン侯」

 

 さあレエブン侯、そして王国よ。今まで帝国のみで語られてきた私が……

 

「ま、まさか……本当にいた……のか!?」

 

「レエブン侯、つまりこいつが!」

 

「そう、まずはご挨拶から──」

 

 

「私は粛清騎士、アレーティア。こちらは次期帝国四騎士に任命されるレイナース・ロックブルズとニンブル・アーク・デイル・アノックです。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下より今回の戦争における全権を預けていただいています。そして陛下の命により──王国軍に裁きを下しにやってまいりました」

 

 

 王国の大掃除にやって来ましたよ?

 

 

 

 

 

「さて、早速始めるとしますか」

 

「くっ……レエブン侯お下がりを!ここは私たちが食い止めます!」

 

「おいどうした!一体何が……」

 

「敵襲だ!敵は粛清騎士を名乗る騎士と四騎士が二人、なんとしてでも食い止めるぞ!」

 

「そういうことか!だったら早く逃げ……」

 

「させるとでも?〈集団人間種捕縛(マス・ホールド・パーソン)〉」

 

 私の手から現れた魔法陣がレエブン侯を含むこの場に入って来た六人を拘束する。元オリハルコン級冒険者と言えど私レベルの魔法詠唱者の魔法に対抗することは困難と言ってもいいでしょう。故にこの状況は必然。

 

「こ、これは……!?」

 

「バカな?!う、動けない…!」

 

「き、聞いたこともない魔法です!あのフールーダ・パラダインを上回るという噂までもが本当だというのか……!」

 

 ふふーん、と胸を張って誇りたくなりますが我慢我慢。

 一先ず拘束しましたが、魔法効果が切れると面倒なので物理的拘束もしていきます。

 

「ニンブル、レイナース、この縄で全員拘束を。ああ、後そこの長身の男はどうやら盗賊の様なのでマジックアイテムの類は没収しておいてください。ああ、後手荒な真似はしないように。彼らはこの後必要になる優秀な人材なので」

 

「了解しました」

 

「分かりましたわ」

 

 これでこの場における障害は全て取り払われたと言っても過言ではないでしょう。ガゼフはナザミとルミリアが抑えていますし、戦士団もそれどころではない。後は文字通り烏合の衆です。

 

「き、貴様たちの目的はなんだ!?王の首か!?」

 

 必死の形相でレエブン侯が尋ねてきます。まあ、今のところ王の首には興味ありませんね。第一王子なら別ですけど。

 

「そんなこと聞かずとも分かるでしょうに……愚かにも帝国に刃向かった王国を粛清しに来ただけですよ。行きますよ二人とも。ここより先は戦場ですから気を緩めないように」

 

「「ははっ!」」

 

 後ろから待てっ!という悲痛な声が聞こえますが待つわけありません。これは戦争、降伏すれば命まではとりませんが戦い続けるというならそれに応えるまでです。

 だからこそ戦争が嫌いなんですけどね。

 

 

「な、何もぐあっ……」

 

 躊躇いなく剣を振るい相対する王国貴族と思わしき男の命を絶ちます。

 続いて咄嗟に槍を向けてきた近衛を、周りを固めていた兵士たちを剣でスキルを使いながら蹴散らしていきます。

 

「て、敵襲!敵襲ーッ!!敵は三人!本陣に襲撃してきました!!」

 

 見張り台に立っていた兵士が鐘を鳴らし大声で叫んでいます。気づいたところでもう遅いのですが、この見張り台は〈殴打〉で根本から破壊して後にします。

 

「ここから二手に分かれます。基本的な狙いは例のリストにあった貴族たちです。後ブルムラシュー侯は処分対象ですが、この後とあることに使うので殺さないように。一般兵たちは……武器を捨てて投降したり逃げ出したら見逃して結構です。無駄に命を奪う必要はないので」

 

「よろしいのですか?下手に戦力を残せば反抗される恐れが……」

 

「そこに関しては大丈夫です。簡単に心を折る方法があるので」

 

 そんなドン引きした顔しないでくださいよニンブル。私をなんだと思っているんですか……。あ、レイナースもちょっと引いてます。しょぼん。

 

「んんっ、とりあえず二人は連携して任務を果たしてください。四騎士は全員で行動することもあります。しかし、まずは新入り同士が連携を取れなければいけません。そこからナザミとバジウッドと合流して各々が阿吽の呼吸で動けるようになるのが最終目標です」

 

 原作はどうか知りませんけど私は少なくとも強者同士が手を組むことは必須だと考えています。

 ここはオーバーロードの世界。レベル差があれば勝てないのが道理ですが、レベルが僅差なら下剋上出来る可能性があります。ザリュースとイグヴァの戦いのように。エントマと蒼の薔薇の戦いのように。ならばその下剋上を確実にするために必要なことが何かといえばそれは協力プレイです。冒険者がチームを組んで強敵と戦うように四騎士も、騎士たちもそう言ったパーティでの戦いが今後必須になる時期が間違いなく来ます。具体的には五年後ぐらいにですが。

 目標と言えば原作では四騎士総出でも勝てるか分からないデス・ナイトを倒せるぐらいは目指したいところですね。

 

 

「幸い、戦士団はおらず強敵と言える相手もいませんが数だけはいます。これらを二人で全て対処し任務遂行してください。無理なら無理だと言ってください。ただ、見事任務を果たせたなら私から陛下に──」

 

「任せてください粛清騎士様。必ずや任務果たしてみせますわ」

 

 食い気味にレイナースが答えてくれました。多分何かしら呪いを解除する方法を得たという情報は手に入れているのでしょうね。そうでなければ、ここまで食いつきはしないでしょう。

 

「では、健闘を祈ります」

 

 さあ、戦いたくもない人間が戦わざるを得ないくだらない戦争なんてさっさと終わらせましょう。

 平和が一番、そして平和に犠牲はつきもの……死んでも恨まないでくださいね?

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 とある兵士の一幕

 

 

 

「うわああああああ!?」

 

「た、助け……」

 

「な、なんじゃこ……りゃ……」

 

「何が……一体何が起こったんだぁぁあ!!」

 

 王国の兵士たちは何も理解出来ていなかった。いや、この拠点に帝国の騎士が襲撃してきたことは理解出来ている。だが、どう考えても理解出来ないことがある。それは──

 

「どうして、どうしてヤツが剣を振るだけでこんなことがぁぁぁ……」

 

 とある帝国騎士──通称粛清騎士による圧倒的武力だ。

 

 あの騎士が一度剣を振るえば同時に雷が落ち、多くの兵士がそれに巻き込まれ感電死した。

 再び剣を振るえば今度は大地を斬り裂けるほどの斬撃が一直線に放たれ、範囲内にいた兵士が真っ二つになり裂けた大地に消えていった。

 挙句、なんとか一矢報いるべく接近した兵士は返す刃で斬られ、斬った箇所から凍りついていきそのまま氷像と化した。

 他にも語れる現象は多々あるが、どれもこれも常識を無視した攻撃がこちらが理解する前に殺しにくる。何が起きたのか理解する前に兵士も、貴族も、関係なく皆死んでいく。

 ああ、自分の人生がまさかこんな理解出来ないことが原因で死ぬことになるとは思ってもいなかった。

 きっとアレはそんな理不尽を押し付ける死神なのだろうと漠然と思ってしまった。

 そんな中、とある貴族の嘆願する声が聞こえた。

 

「こ、降伏する!降伏するからやめてくれぇ!!」

 

 するとこの惨状を作り上げた騎士は攻撃の手を止め貴族に向き直った。どうやら対話は出来るらしい。

 

「な、何を勝手に、王国貴族としての誇りはどうした!」

 

「うるさあああああい!!私は助かりたいんだ!死にたくないんだ黙ってろおおおおお!!」

 

 平民の俺でも分かる。貴族にあるまじき暴言と大声。平民である俺でも咄嗟にこんな大声が出るだろうか?いや、俺の場合はきっと今のように震えて声も碌に出ないだろう。そう考えると声が出せるというのは羨ましいと思えてしまう。

 

「ど、どうか見逃してください!私に出来ることなら何でもします!帝国のために滅私奉公の精神で仕えます!なのでどうか…どうかこの通りッ!!」

 

 貴族の土下座なんて初めて見た。私は見たことないが貴族の中には税を納められない人間に土下座を強要させた挙句、金目になるものを全て奪い去っていったという話を聞いたことがあった。果たしてこの死神はどうするのだろうか。

 

「……貴方の名前は?」

 

「は、はい!アルチェル──」

 

「あ、ダメですね。お前は絶対殺さないといけない対象でした」

 

 瞬間、貴族の首が宙を舞った。その顔は驚愕に包まれていてやがて顔面から地面に激突して動かなくなった。

 隣の貴族も同時に首を刎ねられていた。次は……きっと俺だろう。

 ザッ、ザッとこちらに近づいてくる死神の足跡が聞こえる。この音が聞こえなくなった時、俺は死ぬのだろう。

 

 ああ、せめてもう一度村に残してきた娘に会いたい。こんな戦争かなぐり捨てて帰って娘を抱きしめて、目一杯愛して、そして幸せになるところを見届けたい。そんなささやかな願いも、あの剣の一振りで絶たれてしまうだろう。

 そう思うと手に持っていた槍が手から離れた。身体は無意識に抵抗することを諦めたらしい。それもそうだ、アレにはどう足掻いても勝てないのだから。

 半ば生きることを諦め死の瞬間を待った。足音は段々と近づいてくる。やがてその音はもうすぐそこまで迫っていた。

 

「……死にたくねえなぁ」

 

 思わずその言葉を口に出していた。とはいえアレにはそんなこと関係ないだろう。そうして足音が止み、目の前の人影を見ることなくただただその瞬間を待ち続けそして──

 

「さて、こんなものですかね。大多数は処理出来ましたし幕を引くとしましょう」

 

 そんな言葉を残して死神は目の前からいなくなっていた。

 

「……生き残った……のか?」

 

 信じられない。何故死神は俺の命を刈り取らなかったのか理解出来なかった。ただ一つだけ言えるのは──俺は見逃されたということだ。

 周りを見渡せば見えるのは平野に無造作に転がっている死体の群れ。その中には自分と同じく無傷で生きている兵士がちらほらと見える。ただの討ち漏らしだろうか?いや、あの死神はそんな甘いやつじゃない。それでも生かされたのには何か理由があるのだろう。

 しかし今はもうそんなことはどうでもいい。

 ──生きて帰れる。この事実だけで十分だ

 

 

 





アレーティア──スキル使いまくり、一切容赦しない。無能な貴族絶対粛清ウーマンになっている。特にバルブロ、アルチェル、フィリップは絶対処理しないといけない。

ニンブル──次期トーマス枠、やりすぎな気もするが毎年戦争するよりはと割り切っている。

レイナース──呪いを解きたいのでルミリアぐらい張り切っている。ジルクニフが超希少薬草を持っていることを知っている。

生き延びた兵士たち──とある兵士はアレーティアが目の前に迫った時には武器を手放し傍観していたため生き延びれた。他の生き残りも似たようなもの。

アルチェル──お前は何があっても生かしちゃいけない。やらかしが王国を窮地に追い込むきっかけになっている。

フィリップ──同上。しかしやらかしによる被害がとんでもない。戦場にはいないが多分後々何らかの方法で処される。

バルブロ──カルネ村に話を聞きに行くだけなのに頭の悪いことをした第一王子。こいつ推してる貴族バカじゃないかな?(アレーティア談)
見つかり次第高確率で処される。今回の戦争には参加していない。

あと一、二話で戦争編は終了です。次回は少し時間いただくかも?


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アレーティアと戦争part4 〜剣と盾〜

 

 

「うおおおおっ!!」

 

「ぬぅぅぅん!!」

 

 剣と盾が激しく激突する音が戦場に鳴り響く。この剣と盾の応酬は決着がつかず延々と続いていた。

 剣を持つは王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。盾を持つは帝国四騎士“勇猛"ナザミ・エネック。互いに一歩も引かない戦いが続いていた。

 再び剣と盾が交差し火花を散らす。しかし、一つガゼフにとっては理解し難い事が起こっている。

 ガゼフの持つ剣、名をレイザーエッジと言い王国に伝わる五秘宝の一つ。その切れ味は凄まじく鉄程度ならばバターの様に斬れるという効果を持っている。それにより例え相手が持つ防具が鉄以上の硬度でも、仮にアダマンタイトであってもいずれは斬り裂くことが出来るだろう。

 しかし、現実はそうはいかなかった。先ほどから何十、もしくは百を超えた攻防の中、レイザーエッジと対する一対の盾は傷一つなくレイザーエッジによる一撃を防ぎきっている。

 

「その盾……中々の代物だな。ここまで斬っても無傷とは」

 

「……以前のものなら容易く斬り裂かれていただろうが、この武装はそうはいかん。戦士長よ、お前がルミリアを倒したところで俺という壁を越えることは出来ん」

 

 ──来る!今まで防御に徹していた男が突如として攻撃の態勢になった。何かがあると思わせるその素ぶりにガゼフは警戒の色を強める。

 

「教えてやろう、何故俺が"勇猛"という二つ名を授かったのかをな。〈猛突撃〉」

 

 瞬間、ナザミは2枚の盾を前に構えそのまま突撃した。ただ一直線に向かってくるなら回避は容易いはずだったがナザミは〈流水加速〉により攻撃スピードが増しており避けるに至らなかった。

 

「ぐ、うおおおっ!?」

 

 武技〈猛突撃〉、それは言ってしまえばただの突進だが武技であるが故に一つの技へと昇華している。その迫り来る姿は黒い鎧、盾が相まってか黒い鉄球の様であった。

 ただでさえ重装備のナザミがスピードを得て突進すればそれだけで十分な攻撃力を持った攻撃になる。それが武技により更に強化され──ガゼフは後方へと吹き飛ばされた。

 

(な、なんという一撃だ!耐えきれず吹き飛ばされるとは)

 

 地面に落下し、少しふらつきながら立ち上がり──

 

「〈投擲〉」

 

「なっ!?」

 

 目の前には武技によって投げられたあの巨大な盾が迫っていた。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「ナザミ、貴方の戦い方は守るだけですか?」

 

 とある日、四騎士の合同訓練中に粛清殿からそんな問いを投げかけられた。

 四騎士で唯一盾を武器にした俺は守ることに徹した。無論、剣が出来ないわけではないが、かつて見たあの盾を使った戦士への憧れを捨てることが出来ず真似事ではあったがここまで上り詰めることが出来たのは幸運だった。

 盾の役目とは何かと問われれば誰もが防御のため、守るためという答えを出すだろう。盾で攻撃するという奇特な答えを返す者もいるかもしれない。確かに武技の一つに〈盾突撃〉や〈盾強打〉というものがあるのは知ってはいるがそれが戦いにおいて決定打になることはない。……少なくとも俺はそう思っていた。

 

「この大盾二枚を持ち、更には全身に鎧を纏う貴方の欠点はその重量による速さ。でもそれも〈流水加速〉などを使えば十分に補えます。ただ、それでは不十分だと思うんです」

 

 そう言い粛清殿は俺の盾を手にバジウッドを模擬戦相手に選んで実戦でそれを見せてやると言った。

 

「あ、あのー粛清騎士様?ど、どうかお手柔らかにお願いしたいんですが……」

 

「ああ、大丈夫ですよバジウッド。耐えればいいんです

 

「そりゃあ無茶ですって!ナザミの盾なんて持って何する気ですかい!?」

 

「見ればわかりますよ。さてナザミ、盾は守るだけでなくこういう使い方もできます。行きますよ〈投擲(スローイング)〉」

 

 瞬間、凄まじい速さでバジウッドに向かって盾が投擲された。流石のバジウッドもまさか投げられるとは思ってもおらず──それでもその大剣で防御に成功していた。

 しかし、粛清殿は盾を投げただけでは終わらない。投げたと同時に走り出し、防がれた盾目掛けドロップキックを叩き込んだ。

 

「ぐえええ!?」

 

「この様に盾は投げて不意をつくことも出来ますし、防がれてもこのサイズなら視界を封じることもできます。今のバジウッドは盾を防ぐことに精一杯で防いだ後のことを考えていなかったからこのザマなんですけど」

 

「ちょっ、粛清騎士サマ!?お、降りてください!く、苦しい!!」

 

「他にも盾を持ったままでもこれを二枚持って突撃すれば十分な攻撃力を発揮できます。攻撃は最大の防御という言葉がありますが場合によっては防御力が攻撃力に転じることもあるんです。他にもこうして盾を押し付けるだけで相手を押さえ込むことが出来ます」

 

「ぐえええええ!!しゅ、粛清騎士サマ!?アンタ小柄なのにどうしてこんなおもっ……」

 

 瞬間、バジウッドの意識が刈り取られていた。きっと重いという言葉が地雷だったんだろう。……体重を気にするということは粛清殿は女性なのだろうか?いや、触れてはいけない。

 

「と、この様に盾には守るだけでなくこうした攻めにも運用出来ます。他にも、これはある意味例外ですがとある冒険者が円盾の縁を鋭く磨いていざという時はそれを相手に叩き込むことで刃物としても扱う、なんて戦い方をしていた人もいたみたいですよ。

 ナザミはこの盾を投げるところから始めましょうか。的はそこのデリカシーのない四騎士がしてくれますから」

 

 俺はバジウッドに同情しながらもその教えに従った。そして盾を使った戦い方というのをこの時初めて理解したと思う。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

「ぐはぁっ!」

 

 ナザミによる盾による投擲を回避出来ず、そしてそのまま追撃──もう一つの盾を構えたままの突進──を受けてしまった。

 

「……俺は帝国最硬の騎士だ。帝国のため陛下のため真っ先に身体を張るのが俺の仕事だ。それは防御においても、攻撃においても同じだ。命を賭け常に最前線に立つ、そうしている内に勇猛と呼ばれる様になった」

 

 投げた盾を拾いゆっくりとガゼフに近づいていくナザミ。ガゼフは持っていたポーションを急いで身体に掛け少しでも傷を回復させ備えた。

 

「ルミリアはしくじったが俺はそうはいかない。さあ構えろ」

 

 ナザミの射抜く様な視線にガゼフも覚悟を決めそれに応える。

 互いの視線が交差し、再び動き出したその時──

 

 

 

 ドォォォオオオン!!という轟音が突如鳴り響いた。

 ガゼフが振り向けば本陣から煙が上がり、兵たちが宙を舞っている異常な光景が見えた。

 

「ぎゃああああああ!!」「な、なんなんだあれは!」「た、助けてくれええええええ!!」「燃えてる!俺の身体が燃えてるぅぅああああ!!」「し、死にたくないうわああああぁぁぁぁ!!」

 

 突然の事態に戦いの手は止まる。ガゼフは本陣に襲撃があったと察して。対するナザミは遂に作戦の最終段階に入ったことを察して。

 

「な、なんだこの音と声は!?」

 

「……どうやらここまでのようだ戦士長。俺たちの役目も終わった」

 

「なんだと?どういうことだ!」

 

「全ては皇帝陛下と粛清騎士の作戦通りというわけだ。尤も、アレを起こしているのは粛清騎士殿だがな。それと……その傷であまり無理をするなルミリア

 

 瞬間、ガゼフの背筋がゾクッと冷えた。間違いなく今背後から自分の命を絶とうとする何かが迫っていた。

 即座に武技〈回避〉を発動し、続けて〈即応反射〉で反撃する……が、防がれる。だが、凌いだ。

 下手人の姿を見れば先程斬り伏せた女騎士の姿がそこにはあった。傷は癒えている様だがそれでも今の攻防がやっとの様だった。

 

 

「あ~……死ぬかと思った……」

 

「ギリギリ間に合っていたか。無事で何よりだ」

 

「無事じゃない……本当に死にかけた……碌な手柄も立てられないで終わるとは不甲斐ない……」

 

「お前の奮闘ぶりは陛下に伝えておいてやる。それより早く下がるぞ」

 

「そうだな、流石に私もアレに巻き込まれたくはない……けど、粛清騎士様と同じ戦場には立ちたかったなぁ。いいなぁニンブルとレイナース」

 

「そんなことを言うのはお前ぐらいだぞ……。あの二人も相当無茶振りされているに違いない」

 

 目の前で呑気に会話をする二人の帝国騎士を見てガゼフは憤りを憶えた。なにせもう終わったと言わんばかりの雰囲気を出しているのだ。直前まで命懸けの戦いを繰り広げていたのに、もう相手をする必要すらないという程に空気が弛緩しきっている。

 

「もう勝ったつもりか!?俺はまだ……」

 

「戦士長よ、俺たちに構っていていいのか?今に粛清騎士が──王の首を奪いに向かっているぞ?」

 

 その言葉に最悪の事態が脳裏に浮かぶ。自分の敬愛する王が討ち取られる。それだけはあってはならない。

 

「今ならまだ間に合うだろう。生きている戦士たちを連れて戻るといい。安心しろ、これ以上俺たちは追撃はしない」

 

 言葉だけなら強者の驕りにもとれるがナザミはそんな男ではないのをガゼフはこの戦いの中で理解していた。剣を収め背中を向ける。

 

「……礼は言わんぞ」

 

「構わん。さて、お前たちも下がるぞ。ここにいては巻き込まれる」

 

 ナザミの号令に従い帝国の騎士たちも戦いの手を止め戦線を離脱していく。それを横目にガゼフたち戦士団も──半分以上数は減ってしまったが──最低限の傷をポーションで癒し王国本陣へと向かっていった。

 

 その先に更なる絶望が待っていることを知らずに。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「ひいいいい!?」

 

「逃げられる、とでも思ったんですか?残念でした、粛清騎士からは逃げられないんですよ!」

 

「ま、待ってく──」

 

 はい、たまたま逃げようとしていた貴族──アニメで見たことある数の差で楽勝とか言っていたヤツ──を見つけたのでついでとばかりに処分しました。えーっと確か……リットン伯でしたっけね?リストにそんな名前があったはずです。

 そんなことを思い返していると馬に乗ってレイナースとニンブルがやって来ました。馬なんて連れて来ていなかったのにどうして……と思いましたがよく見れば王国の紋章が刻まれた鞍に跨っているので奪ったのに乗ってきたようです。

 

「粛清騎士様、こちらなんとか片付きました。しかし、もう少し騎士を連れてきても良かったのではないですか?いくら相手が雑兵とはいえ二人だと少々キツ「キツくなんてありませんわ。むしろもっと任せてください」レイナース!?」

 

 どうやらレイナースは無事順応したみたいです。ニンブルは……見た目細めなんで体力がまだ足りないのかもしれませんね。帰ったら体力作りをさせないと。

 それにしてもレイナースは手柄を上げて呪いを解きたいからか張り切り具合が違います。彼女には今後も頑張ってほしいですね。

 

 

「では、行きましょうか。この戦争の幕を下ろしますよ」

 

「「ははっ!!」」

 

 さてさて、ランポッサ三世は何処に行きましたかね?恐らくこの現状では護衛によって逃がされていると思うのですが……あ、見つけました。案の定、護衛に囲まれてこの場を離脱しようとしていますね。逃しませんけどね。

 

「レイナース、後ろに乗せてください。あそこにいる王を追いますよ」

 

「分かりましたわ」

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「くっ、見つかった!」

 

「お前たち、王を任せたぞ!うおおおお!」

 

 最早王国の敗北は確定、それだけの被害が確認出来た時点で王を取り巻く臣下は即座に敗走へと手筈を進めた。

 王であるランポッサ三世はそれを一度拒みはしたものの、ここで王が死ねば間違いなく国が割れ帝国にいい様に支配されることになるという説得のもと合意した。

 兵たちにも持ち場を離れ撤退──敗走せよと命を出したが、現場は混乱の渦に飲み込まれそれが伝わらず次々と死んでいった。

 

 攻め入って来たのは粛清騎士。今回の戦争についての王国の宮廷会議でも議題に上がり、ただの帝国の脅し文句の一つだと脅威にも思わなかった人物。それが今、王国に真の脅威として迫っていた。

 

 王の逃走時間を僅かでも稼ぐべく飛び出していった護衛騎士たちは馬に乗ったまま剣を振り、当たってもいないのに騎士たちの身体は真っ二つに裂け地に落ちた。稼げた時間は僅か一秒にも満たず、粛清騎士の前にはその程度では時間稼ぎにすらならないと思い知らされた。

 

 迫る、迫る、迫る──徐々にではあるが確実に距離を詰められている。後ろから迫る馬の駆ける音と鎧がぶつかり合う金属音が死神の足音に聞こえる。

 そして───突如地面が隆起し馬がバランスを崩してしまい、王を含む護衛たちは落馬してしまった。あの粛清騎士が何かしたのだろう、地面には光り輝く何かの文字が見えた。

 

「初めましてランポッサ三世。私は粛清騎士、皇帝陛下の命によりあなたの身柄を拘束するためやってきました」

 

「……拘束だと?あれだけ殺しておいて私は殺さないのかね?」

 

「ええ、国の王まで殺しては落とし前のつけどころが難しくなると思いませんか?後は貴方を連れ帰り拘束、捕虜として扱わせていただきます」

 

 この戦争の勝敗は最早明確だ。帝国の勝利は揺るぎない。この後の戦後交渉も帝国の要求をほぼほぼ呑む形になるだろう。

 しかし、王が捕虜にされたとなれば話は変わる。王の身柄を返却する代わりに元々要求されていたエ・ランテル近郊の地だけではなく、より多く要求を呑まざるを得なくなる。

 屈辱だ。多くの者が死んでいったというのに王だけは捕虜として扱い戦後の交渉に使うと言われているのだ。

 

「では、ニンブル。拘束してください。そのまま拠点に連れ帰ります」

 

「了解しました。では、失礼しますよランポッサ三世」

 

 ニンブルが縄を持ちランポッサ三世を拘束しようとしたその時──

 

 

 

「陛下ああああああ!!」

 

「来ましたねガゼフ・ストロノーフ!」

 

 

 ──王国と帝国の頂点が遂に接敵した。

 

 






ナザミ──最早原作の面影すらないぐらいに強化されてる人。アレーティアのバフ効果でフルアーマーガゼフより強くなっている。正直ルミリア要らないぐらい。この状態なら漆黒聖典所属のクレマンティーヌ相手でも勝てるかもしれない。

ルミリア──致命傷でもザイトルクワエ製アイテムのお陰でギリギリ生存。しかし瀕死。

ガゼフ──ナザミにボコられる。次回、アレーティアと決戦。

アレーティア──王国民から総じて死神と呼ばれた。その内死神騎士とか呼ばれそう。呼ばれても喜びそうではある。今回のキルスコア断トツ一位。万単位で処してるが七万まではいっていない。精々半分程度。左翼、右翼は騎士団に任せているためノータッチ。



次回で戦争自体は終わらせてあと数話入れたら原作に……入りたいなぁ(願望)


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アレーティアと戦争part5 〜英雄死す〜



更新遅れて申し訳ない……。

忙しかったのと、この話の展開を四つぐらい書いてどれにするかですごく悩んでました。



 

 

 待ってましたよぉ!この瞬間(トキ)を!!

 ガゼフ・ストロノーフ。オーバーロード作中で私の知る限りアインズに最も気に入られた人間の一人だ。それに周辺国家最強の戦士としても名が広まっている。

 彼の人柄は素晴らしいと思う。カルネ村を救った時に現れた怪しげな魔法詠唱者であるアインズに馬上からではなく地に足を着けて感謝の気持ちを伝えられる。王国民のために命を張り投げ出せる。下手したら帝国の騎士たちよりも高潔な精神を持っている。

 また、平民出身で傭兵として戦い腕を上げ今では王の片腕にまで成り上がった功績も持つ。

 王国の貴族のボンクラ共からしたら面白くない、平民風情がなどと思うだろうけどこの世界に生まれた私は彼の偉業を称賛する。

 

 

 そして──だからこそ叩き折りがいがある。

 

 

 そんな経歴を持つ彼がそれを上回る圧倒的実力者に敗れたら?

 王国で彼に憧れていた国民たち、なんだかんだ武力だけは認めていた貴族たち、最も信頼を任せていた王たち全ての心をへし折ることができる。

 

 

 ……いや、一人だけ動じなさそうな人がいましたね。あの人には正直敵に回られたら面倒なので早々に抱き込むか処理したいところなんですけど。

 

 

 彼を倒せば後は簡単だ。最早王国に帝国に勝てる戦力は冒険者を除けば現状無い。王国は実質帝国にはもう歯向かえない。

 ランポッサ三世を捕虜にしようがしまいが結果はもう変わらない。

 

 おっと、そんなことを考えていたらガゼフが走って跳躍して……おお、届いた!?

 

「〈斬撃〉!」

 

「ニンブル下がりなさい!〈重要塞〉」

 

 まさかのレイナースが間に入り槍であのガゼフの攻撃を防ぎましたよ!?しかも〈重要塞〉まで使える様になっているとは……教えたの誰でしょう?ルミリアは使えないはずなのでナザミ?それとも自前?

 

「くっ、やはり手強い!陛下、御無事ですか!?」

 

「戦士長……!私は無事だとも。しかし、私のために多くの者たちが……」

 

「陛下、申し訳ありませんが悲しむのは後です。今はこの窮地を脱することだけお考えください」

 

 後から追いついた戦士団も──大分数が減っている様ですが──王の守りに入りましたね。

 

「陛下ー!!」

 

 ……ん?あれはレエブン侯?それに親衛隊の元冒険者チームまで。拘束していたはずでは??

 

「レエブン侯、一体どうやって抜け出したのですか?」

 

「へへっ、盗賊を甘く見てもらっちゃあ困る。マジックアイテムが無くても縄だけの拘束ならどうにかなるってもんさ」

 

 すごく得意げに盗賊……確かロックマイアーが言ってきますが、生きてればいいのでまあそんなにって感じですね。それに、彼らが所持していたマジックアイテムや装備は没収しているので脅威度もそこまでないです。

 さて、この場には現状王国の重要人物、最大戦力が集まったことで舞台は整いました。なので始めるとしましょうか。

 

 

 

「では改めて自己紹介させていただきます。私は粛清騎士、皇帝陛下より王の身柄を捕らえるべく参りました」

 

「そうか、私はリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ。先程戦った四騎士だったか……一人は倒したが二人とも凄まじい強さだったぞ」

 

「一人は倒したんですか……」

 

 恐らくルミリアですね。負けてしまった様です。それを避けるべくナザミとセットにしていたのですが、上手くいかないものですね……。

 ああ、ルミリアの訃報にニンブルもレイナースも流石に驚いている様です。

 

「なんですか?ルミリア様を倒したから私も倒せるとでも言いたいんですか?舐めないでほしいですわね……!」

 

 苛立った様子でレイナースが槍を構えています。やる気があるのはすごく評価高いんですけどどうでしょうね?まだガゼフ相手は厳しいんじゃないかな……?とはいえ攻撃力の高さなら新旧四騎士で最高みたい(ナザミの防御力の方が上)なのでワンチャンあるといえばありますが、ガゼフにそれが通じるかと言われれば微妙です。

 

「粛清騎士様……コイツやってしまっても構いませんわよね?」

 

「レイナース落ち着いてくれ!勝手に交戦するな!」

 

 とか考えてる間に滅茶苦茶好戦的になってるんですけどどういうことです??戦う分には構わないんですけどせめてニンブルと組んで挑むべきでは?

 ……はっ、それはダメでした。ガゼフは私が相手をすると決めてました。

 

「レイナース、今回は私がやりますので下がってください。この戦いがこの戦争の幕引きになりますので」

 

「……承知しましたわ」

 

 レイナースを下がらせて私も武器──マジックアイテムでも何でもない奪い取ったミスリル製のメイスを無限の背負い袋から取り出し戦闘態勢に入ります。何故メイスかと聞かれたら一番加減がしやすいからですね。ルーンも刻んでませんし、下手に相手を殺すことも──当たり所さえ悪くなければ──ないはずです。

 思えばかつてカッツェ平野で……ナイトリッチでしたっけ?結構強めのアンデッドを潰れたトマトのようにしてしまった記憶がありますが、あれは例外です。はい。

 

「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ、貴方に鮮血帝の剣であるこの粛清騎士が一対一の決闘を申し込みます。──この戦争最後の戦いを」

 

 ここでスキル〈威圧〉を発動。精神面に負荷をかける……みたいなスキルです。〈絶望のオーラ〉より安全なので相手にプレッシャーを与えたい時は便利なスキルです。

 そこらの兵なら気絶するか震えて動けなくなったりするのですがガゼフは果たして?……おお、歯を食いしばって耐えましたね。流石精神力は最高峰、どこかの岩で出来た椅子をぶん投げられてビビって戦意喪失していた女戦士とはそこが違いますね。

 

「おっと、決闘を受けていただく前に対価について提案があります」

 

「提案だと?」

 

「はい、これより私とガゼフ・ストロノーフによる一対一の決闘で、もしそちらが勝てばエ・ランテル近郊を割譲するだけでそれ以上の要求はしないと約束しましょう。無論、王国にしばらく……期限はそちらで決めてもらって構いませんが、その期間は帝国が侵攻しないことも約束します。

 ただし負けた場合は……これ以上侵攻はしませんが、こちらの要求を全て呑んでいただきます」

 

「ふざけるな!そんな条件呑めるわけないだろう!?」

 

 レエブン侯が叫びます。アニメでラナー王女に「ダメだ!」と叫んだ時ぐらいには大声でしたね。でもこればかりはどうにもならないんですよね。

 

「しかし、この条件を呑んでいただかないとこのまま王国軍を蹂躙してその足で王都まで侵攻することになりますけどそっちの方がいいですか?」

 

「なん……だと……?」

 

「その場合はこの場にいる貴方たちも捕らえて捕虜にしないといけません。後は……分かりますね?」

 

 これは提案という名の脅迫です。拒否権なんて最初からないんです。拒否すればそれ以上の惨劇が待っているのですから。

 それに気づいた王やレエブン侯はガゼフに全てを託すしかない訳でして。

 

「……その決闘受けて立つ!」

 

「戦士長!」

 

 そして、ガゼフもそれに応えるしかない……この時点で実質詰みですね。私に負けはないので。

 

 

「ありがとうございます。お礼と言っては何ですが能力強化の時間ぐらいは待ってあげます」

 

「何?貴様はいいのか?」

 

「ええ、理不尽な脅迫をした罪悪感はあるのでそれぐらいは譲歩しますとも」

 

「……ではお言葉に甘えさせてもらうぞ。武技〈能力向上〉〈能力超向上〉──」

 

 やはりバフ盛りは必須ですよね。ガゼフも私が自分より上と認識しているのか強化系のポーションも飲んでこれでもかと備えてます。

 それに対して私は敢えて何もしていません。料理バフも扇動スキルによるバフもありません。しかし、今の私からすればガゼフ程度ならそんなことをしなくとも相手出来ます。むしろバフ盛りしたらワンパンしてしまうので強化はしない方がいいです。

 

 

「準備は万端みたいですね」

 

「ああ、お陰様でな」

 

「では──始めましょうか」

 

「行くぞ粛清騎士!」

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 二人の戦士と騎士が互いに剣を取り向き合う中、それをこの場に残ったランポッサ三世、レエブン侯、親衛隊の元オリハルコン間冒険者チーム、そして生き残った戦士団の面々は固唾を呑んで

 

「果たして……戦士長殿は勝てるのだろうか」

 

 ポツリと、それでいて全員の耳に入る程度の声が思わず出てしまいレエブン侯は急いで口を噤んだ。だが気持ちは分かると誰もが納得はする。なにしろあの騎士──万を超える兵たちを殺し尽くした死神──は到底理解出来ない攻撃の数々を繰り広げていた。

 剣を振るえば雷が、氷が、炎が兵を襲い挙句聞いたこともない魔法で容易に自分を含め経験豊富な親衛隊すら無力化した強大な敵。それを相手に不安を抱くななどとは誰も言えない。

 

「正直分かりませんが……もしかすると可能性はあるかもしれません」

 

「どういうことだ?」

 

「はい、冒険者の中にたまにいるのですが魔法詠唱者だった者が急に剣を取り戦士としての技量を身につけようとして失敗する、ということがあります。

 確かに魔法を扱え戦士としても戦えるのであればあらゆる状況に対応出来る……まさしく英雄と呼ぶに相応しい強さを得ていることになります。

 大抵そういう物語の英雄に憧れた駆け出しがやりがちなことですが、結局は中途半端に終わり大成しない者がほとんどです。それならば一つのことに特化した方がより強くなれます。もしも粛清騎士の力が戦士としてのものではなく魔法詠唱者としての力ならもしかするとそういうこともあり得ます。

 そして……あれだけ猛威を振るった魔法の数々を使って魔力が減っていないわけがありません。大分消耗していると考えるべきでしょう」

 

「なるほど、戦士としての力はそれほどでもない可能性があるということですね」

 

「ええ。無論これは噂にあったフールーダ・パラダインを上回る実力、というのを前提に考えた希望的観測ですので……」

 

 とはいえこの説明にはこの場にいる全員が僅かに希望を抱いた。

 どうかその話の通りであってくれと神に祈る。どうか戦士長に勝利をもたらしてくれと。

 その祈りが通じたかは不明だがガゼフのコンディションは激戦の後で疲労は残っているものの数時間前よりそのステータスは向上していた。

 手強い強敵──ナザミとルミリアとの戦いは確実に彼の力になり、今の彼は指輪の力がなくとも英雄の領域に立つ力を持っているだろう。更に武技による身体能力の向上により彼は更にその先に立とうとしていた。

 そして遂にガゼフが剣を上段に構え粛清騎士へ向かい──

 

 

 

「武技〈土竜叩き〉!!」

 

 

 

 

 ──その瞬間、粛清騎士の姿がブレてガゼフの姿が消えた。遅れてドオオォォン!という轟音が地面から大気へと響き渡り、地面が粛清騎士を中心にクレーターのように陥没した。

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 誰の声だったろうか。そんなことを誰も気にしていられない。ただ目の前の現実が理解出来なかった。

 そこからガゼフの姿が消え、そこには粛清騎士が()()()()()()を振り切った姿のみが残っていた。

 ただ、前方には先程はなかった底が見えない穴が発生していた。

 

「い、一体何が……!?」

 

「せ、戦士長はどこに!?さっきまであそこにいたはずなのに何処に消えた!?」

 

「まさか魔法!?そんなことも可能なのか!?」

 

 ざわめく王国の見届け人達を見た粛清騎士は淡々と事実を口にする。

 

「さて、私の勝ちですね。ああ、ガゼフ・ストロノーフなら……この穴の中です」

 

 粛清騎士の指差す穴の大きさは凡そ人が一人入れる程度の大きさしかない。

 

「せ、戦士長おおおおおおお!!!」

 

 思わず戦士団の何人かが埋められたガゼフへ絶叫を上げる。ランポッサ三世とレエブン侯もガゼフの無事を願いたいが現状それは許されない。

 何故なら新たに武器を取り出した粛清騎士が既に目の前に迫っていたから。

 

「彼の安否が気になりますか?ご安心ください、生きてますよ。王国の宝物に守られていなければ死んでいましたね。早く掘り出して治療を受ければ命に別状はないはずですよ」

 

 ガゼフはこの一撃をもって死んでもおかしくない攻撃を受けたが、生きているのは王国五宝物の一つ守護の鎧(ガーディアン)に付与された致命的な一撃を避けるという能力によってだ。これによりガゼフは即死を免れた。また、ポーションよりは遅いが不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)により僅かではあるが少しずつ傷は癒えていく。追撃さえなければガゼフが死ぬことはないのだ。

 それを知りランポッサ三世は安堵の息を吐く……がそうも落ち着いてはいられない。

 

 

「決闘は私の勝ちです。なのでランポッサ三世、近日中に改めて使者を送りますので我々の要求を全て呑んでいただきますね。ああ、そんな絶望的な顔をしないでください。少なくとも王国を滅ぼす、ということは今の帝国はしませんので」

 

 そう、負けた。負けたのだ。戦争も決闘もなにもかも。これから先の王国の未来を思うと少なくとも明るい未来は見えないなとランポッサ三世は思わず自嘲する。全ては王国が出した誤った判断で民を苦しめてしまうことに胸が張り裂けそうになっていた。

 

 

 粛清騎士は他の二人の四騎士を連れこの場を立ち去っていった。

 

 

 

 そうして王国と帝国の戦争は終わりを告げた。

 結果は明白、王国の惨敗、そして帝国の圧勝。同時に周辺国家に王国軍十五万の内およそ四万を単騎にて滅ぼしたという粛清騎士の名が轟いた。

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

「あ~やっと終わりました。思いの外スムーズに終えられて良かったです」

 

「……なんというか、王国民には同情します」

 

「これが戦争ですからね。個人の意思ではなく、国の思惑で望まなくても戦わなければいけない最低の戦いです」

 

 戦争を終えて思わず愚痴ってしまいましたが忌々しい戦争も計画通りに進み、後処理はジルクニフに丸投げすれば万事解決──ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。日を改めてそれは行うとしましょう。

 

 転移の魔法で戻ってくるとジルクニフや他の騎士達が駆け寄って来て……ん?なんだあれ?

 

「アレーティア、よく戻「陛下、ちょっとそこどいてください」

 

 真っ先に駆け寄ってきたジルクニフを押し除けて違和感を感じた場所にフレイム・オブ・アゼルリシアを振りかぶると……

 

 

「……うおおおおおお!??」

 

「なっ!?何者だ!?」

 

「透明化か!さては暗殺者か!!」

 

「陛下お下がりを!」

 

 

 見知らぬ人物──頭から指先、爪先まで全身を全て覆い尽くした不審者が姿を現しました。

 こんなやつ原作にいましたっけ……?イジャニーヤの暗殺者より隠蔽に優れているのでかなりの実力を持った暗殺者なのは間違いないですね。見た目不審者ですけど。

 よし殺そう。雇い主が誰かは一度殺して生き返らせてから吐かせればいいんです。生まれながらの異能(タレント)で〈真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)〉は習得済みなので問題ありません。

 

 

「くっ、聞こえるか!?今すぐ撤退す──」

 

「遅い」

 

「ぐわあああああああ!?」

 

 如何に手練れだろうと私の方が上ですね。敢えて背後に回ってフレイム・オブ・アゼルリシアを背中から腹にかけてブッ刺してやりました。これでもう逃げられません。

 

「ではさようなら。スキル〈爆裂剣〉

 

「や、やめ───」

 

 

 フレイム・オブ・アゼルリシアが真っ赤に輝き爆発し確実に不審者の命を消し去りました。フレイム・オブ・アゼルリシアに刻んだルーンで威力も上がっているので過剰攻撃にも程がありますがジルクニフの安全を考えると仕方ありませんね。

 今残っているのは身体のいたるところが焦げついた死体だけです。

 ただ、身につけている装備は割と無事なので後で脱がせて回収して牢に叩き込みましょう。中々レア度が高そうですし役立てそうです。

 

 

「おお、流石粛清騎士様……我々が気づけなかった暗殺者をあんな簡単に……」

 

 騎士達からは称賛の声が上がっていますがそこはどうでもいいです。むしろこの不審者が誰と連絡を取っていたのか、そこに興味があります。

 

「陛下、この不審者は帝国に持ち帰り蘇生した後尋問して情報を引き出します。場合によっては王国、もしくは他国の間者の可能性もありますので結果は随時ご報告いたします」

 

「あ、ああ任せる。しかしこんなに近くにいたのに誰も気づかないとはな……」

 

「も、申し訳ありません陛下!私がいながらこの様な輩を……」

 

「いや、アレーティアでなければ気づかない程の暗殺者だ。イジャニーヤより上ならば仕方ない……とは言い難いがそう思うしかあるまい。それよりコイツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこが気になるな」

 

「とりあえずトーマス、他の四騎士と共に厳戒態勢を。近くにいるかもしれない仲間がこの不審者を回収しに来ないとも限りませんから」

 

「ははっ!」

 

 

 さあ、戦後処理もしないといけませんね!もうひと頑張りしましょう!

 

 

 






????→漆黒聖典──遠方から第七席次『占星千里』が、現地では第十二席次『天上天下』がこの戦争を監視していた。
 監視理由はついに表舞台に粛清騎士が出てきたため。そして、トブの大森林奥地にて破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)もといザイトルクワエを滅ぼしたのがアレーティア=粛清騎士なのかの確認。
 アレーティアに見つかる前に離脱していたら助かったのに、顔を確実に確認するために残っていたらバレて処された挙句死体諸共装備まで回収された。
 タイトル副題の英雄死すは彼のことである。
 余談ですがアレーティアが彼のことを全く知らない理由は原作では喋ってもいない上に僅かしか出ていなかったため印象に残っていなかったから。


ガゼフ──結果的に原作では超えていなかった英雄の領域に入門。しかし相手が悪かった。殴られて埋まった。王国の五宝物を装備していなければ即死だった。

王国の皆様──王国軍十五万の内、およそ五万人が死亡。有力貴族も多くが死に、ネームドで生き残っているのはガゼフ、ランポッサ三世、レエブン侯、ブルムラシュー侯、ぺスペア侯。ウロヴァーナ辺境伯は高齢のため不参加。
 更にアレーティアに脅迫され全ての条件を呑まなくてはいけなくなってしまいお先真っ暗。内部が荒れるのは確実。

アレーティア──脳筋なりに全てを能力と暴力で解決した我らが主人公。王国は泣いてもいい。
 地味に蘇生魔法を習得済みだが現状使う機会が一切ない。
 メイスが折れたのはアレーティアのパワーに耐えられなかったのと守護の鎧の方が硬かったから。
 〈土竜叩き〉の上位武技〈星砕き〉があるがこちらは未使用。こっちだったらガゼフがミンチになっている。




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私はアレーティア辺境侯である 〜爵位なんて要らなかった〜


お待たせしました。ホントに待たせてしまって申し訳ない。
活動報告の通り仕事に忙殺され、体調崩してと散々でした。
皆様も体調管理にはお気をつけて。

遅れた理由のもう一つに法国の会議入れたら頭の良い会話が思いつかなかったというのもあったり……矛盾点などあったら教えていただけると幸いです。

後、私事ですが遂にUA400000、お気に入り数5000を突破しました。正直めちゃくちゃ嬉しいです。応援ありがとうございます。



 

 

 王国との戦争からはや一週間。

 この辺りでようやく戦後の処理が終わりました。一部を残して軍の大部分は帝国へ帰還。戦勝パレードが開かれ帝国の未来は明るいと帝国民に知らしめることができました。

 

 この戦争での帝国軍の負傷者は全体の一割に満たない程度で死者もルミリアを除けば──ああ、ルミリアは無事生還しましたね。なので0と言っても過言ではありません。

 

 ルミリアはガゼフに敗れ六光連斬で死ぬ目に遭ったらしいですが、なんとかマジックアイテムの発動が間に合い生き延びられたとか。

 そのアイテムはザイトルクワエ製、例の薬草が生えた箇所──コブ部分から作った短杖(ワンド)です。

 

 興味本位で全ての病を癒す薬草を生やすのであればその周辺部位、もしくは樹液なんかにもなにかしらの効果があるのではないかと思ったので色々魔法で調べた結果、コブ部分自体には傷を癒す効果があることが分かり、それを利用して作ったのがこの短杖です。

 

 残念ながら一日に一度しか使用出来ないものの魔法で言う〈生命力持続回復(リジェネ―ト)〉に近い効果を発揮します。

 ルミリアはこれによって生還したというわけです。まあ、回復量を上回る攻撃でもされれば死んでいたのでガゼフが追い討ちをしなくてよかったです。ルミリアもしばらく気を失っていたそうですし。

 

 そしてこの短杖、これまた残念なことに三本しか作れなかったんですよね……。何故かって?ザイトルクワエの大部分を〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉で消し飛ばしてしまったからですね。もうコブの部分も僅かな量しか残っていません。

 何故あの時〈大厄災〉なんて使ってしまったのかと深く後悔しましたが過ぎたことなので仕方ないです。

 

 

 さて、短杖の説明をしたところで私が今何をしているかと言うと、今行われている戦勝会に参加しています。

 戦争の前に騎士達にやると言った集まりです。ジルクニフが選出した貴族達も混ざっていますが、基本的には今回の戦いに参加した騎士達を労う、また褒賞を授けると言ったところが強いです。

 

 ちなみに今回は祝いの場なので鎧は着けず、バイザーに騎士達に支給されている制服を着ています。ドレス?こんな公共の場で着るわけないでしょう?むしろ粛清騎士の素性は誰にも──付き合いの長い四騎士達にも──明かしていないので仮に着れたとしても着ませんが。

 

 お、早速始まりましたね。

 まずはレイナース。今回の戦争で多くの武勲──貴族狩りを成し遂げたことから望み通り例の超希少薬草を使い作られたポーションを一瓶与えられていました。いつの間に作ったんでしょう?とりあえず普段あまり笑うことがない様に見えたレイナースの表情が笑みを浮かべているのを見ると知らなかった一面を見れてちょっと嬉しいですね。

 最悪膿が止まらなかったら私がマジックアイテムを作るか解呪の魔法を会得するとしましょうね。

 トーマスは子爵位と屋敷が与えられ新婚生活は問題なさそうですね。ただこの後戦後交渉や諸々の事情から働き詰めが確定しているのですけど。どうか強く生きて欲しいです。

 バジウッドは現金を大量にと与えられていました。奥さんが沢山いますから何かと入り用になりますもんね。今は確か……五人でしたっけね?ジルクニフまでとは言いませんが中々のハーレムですね。前世の私なら羨ましがっていたかもしれません。

 ニンブルはその前から伯爵位を与えられていたので今回は見送りだとか。

 ルミリアは──あれ?呼ばれませんね?どうしてでしょう?ガゼフに負けたのがダメだったんですかね?いや、でもそれまでの仕事は方々に迷惑かけまくりましたけど私も二人で多くをこなしてるはずなんですが……。

 

 その後、将軍を始め戦争で多くの敵を屠った騎士やそれ以外で何らかの功績を上げた騎士達へ続々と勲章が授与され一先ずこれでお終いですかね。

 

「さて、最後になってしまったがもう一人、叙勲しなければならない人物がいる」

 

 ん?なんか流れ変わりました?私は予め何も要らないと伝えてあるので大丈夫だと思うんですが……ああ、ルミリアですか。彼女を最後に呼ぶなんてジルクニフったら何を──

 

 

「私が最も信頼する騎士、その名は帝国民であれば誰もが聞いたことがあるだろう。そう──粛清騎士よ、壇上へ」

 

 

 

 

 

 

 ……………へ?私?

 

 

 とりあえず言われるがまま壇上へと上がっていきます。

 

 

 

 

 

「我が騎士、粛清騎士には此度の戦争の功績、及びこれまでの帝国への貢献を合わせた褒賞として王国より割譲されるエ・ランテル近郊の地を与え──新たなる貴族位である辺境侯の爵位を与える」

 

 

 おおおおお!!と騎士と貴族達から声が上がりますが私はそれどころではありません。

 

 いつの間にかエ・ランテルの領主になり辺境侯になってしまいました……。

 ドウシテ……ドウシテ……?

 

 

 で、ルミリアですが──

 

「そしてこの度四騎士を退任することになったルミリア・リイル・アーチゾルテには今後のエ・ランテルにおける政務を補助するべく、粛清騎士直属の補佐官の任を与える」

 

「改めてよろしく頼みますアレーティア様」

 

「アッハイ」

 

 私直属の部下になりました。後から聞いた話ですがそれがルミリアの願いだったとか。

 まあルミリアは地頭がいいですし、何より信頼出来る相手なのでありがたいんですが……

 

「ルミリア、結婚の話はどうしたんです?」

 

「ああ、その話なら蹴ったんです。元々継ぐ気がない家だったし、最初から結婚する気はサラサラなかったのでお気になさらず」

 

 だそうです。結婚が全てとは言いませんけどいいのかな?貴族のそういう事情には詳しくないけれど今逃すと行き遅れとか言われるんじゃ……いや、そうならない様にいざとなればジルクニフに受け入れてもらえる様に頼みましょう。

 ルミリアはかなり美人ですしジルクニフ的にもきっとOKなはずです。

 

 

 話を戻します。私が辺境侯になってしまった話です。

 この事が発表されてすぐ多くの貴族に話しかけられて──全員ビクビクしながら祝いの言葉を言ってきましたが──一通り挨拶を終えた後ジルクニフを捕まえてとっちめます。

 

 

「陛下!私何も要らないって言ったじゃないですかぁ!!」

 

「お前な……少し考えてみろ。今回の戦争だけでなく、ここ数年多大なる被害と共に多くの手柄を上げたお前に私は公に何の褒美も与えていないわけだ。お前との契約で互いに利用し合う……Win-Winだったか?そういう関係でいるというのに私はお前から与えられるだけで返せていない。それに他の騎士達にも勲章や望みの物を与えているのに最大の功労者に何も与えない私を見て騎士達、貴族達がどう思うか考えてみろ?」

 

 

 なるほど……無欲も罪ということですね。

 しかし……

 

「だからと言って貴族位と領地を与えるのはやり過ぎでは?ただでさえ帝国の一等地に屋敷ももらっているのに」

 

「アレは別だろう。半年無断でいなくなったとはいえ、持ち帰った財やルーンの技術などを鑑みれば本来アレでも足りん。

 それにだ……今後もエ・ランテルは王国と隣接し、法国の人間も利用する重要な都市になる。そんな土地を誰に任せられるかと聞かれれば──俺にはお前しか浮かばなかった」

 

 ……ほほう?続けてどうぞ?

 

「間違いなく王国も法国も何らかの干渉をしてくる。生半可な者にはとても任せられない。だがお前なら出来るだろう?出会ってかれこれ十二年程か、その間に多くの問題を引き起こしもしたがそれは全て俺を守るため、帝国のためにと行われたことばかりだった。

 そんなお前にだからこそ、あの地を任せたい。お前なら全てを引っ掻き回した上で綺麗に出来るだろう」

 

「それ褒めてるんですかね?」

 

 なんだか最後の方はちょっと嫌味を言われている感じがしましたね。

 ……とはいえ、少し考えれば悪いことではない気がしてきました。

 少なくとも、私が今回この戦争で原作破壊をしたためナザリックとのファーストコンタクトがどの様な形になるのかが全く分からなくなってしまいました。毎年戦争なんて馬鹿げたことをしたくないという個人的願望からこのような結果になってしまったとはいえ原作知識が役立たなくなるのは少々痛手です。

 しかし、私がエ・ランテルの領主になれば少なくとも領内付近にナザリックが現れるのはほぼ確実、原作と違い陽光聖典が派遣されて村々が焼かれるということも起こらないはず。そうなればある程度出現する箇所を絞りこちらから接触することも可能……?

 色々な案が浮かんでは消えていきますが段々頭が痛くなってきました。難しいことを考えるのは苦手なんです。

 

「……分かりました。納得いかないところもありますが辺境侯の件、お受けいたします」

 

「そうか!まあ断らせるつもりもなかったんだがな。ロクシーもお前がどのようにエ・ランテルを治めるか楽しみにしている。後宮警護の任は解くが時折顔を見せてやってくれ」

 

 ロクシーさんが期待してくれてる!?頑張らなければ!!

 

 

 

 この後は沙汰なく戦勝会は終わりを迎えました。

 

 そしてこの日からしばらくして──王国より正式にエ・ランテル近郊の割譲が行われ、私は粛清騎士辺境侯として忙しい日々を過ごすことになるのでした。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

「では、今回の議題──バハルス帝国の粛清騎士、及びかの竜王……世界を滅ぼせる魔樹、ザイトルクワエを滅ぼしたと言われるアレーティアと言う王の相を持つエルフについて」

 

 

 スレイン法国の最奥──神聖不可侵の部屋にて幾度となく行われてきた会議が開かれた。

 議題は勿論、今最も法国が注視しなければならない存在に対しての今後に関してだった。

 

 粛清騎士──本名、年齢、性別、いずれも不明。法国がその存在を知り得たのはバハルス帝国の皇帝が変わった矢先だった。詳しく調べようにもその当時帝国は貴族と皇室による大政争が行われており迂闊な真似が出来ない状況だった。下手に手を出して帝国が割れ王国のように堕落してしまうのを恐れてのことだった。

 結果、現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが武力に物を言わせ刃向かう貴族達を、無能だと判断した貴族達を粛清して行き鮮血帝と恐れられるようになった……が、ここにもう一人名を連ねたのが粛清騎士という存在だ。

 王国が得ていた情報以外にも法国はその存在を察知してから巫女姫や聖典を動かすことでより多くの情報を集めていた。

 曰く、皇帝の身辺を完全に守り抜き、あのイジャニーヤすら──六色聖典には劣るが──太刀打ち出来ず最終的には拠点ごと潰したという。

 曰く、この度の戦争に参加した騎士たち全てを鍛え上げ帝国の国力を底上げするのに尽力していたという。

 曰く、民を虐げていた領主を摘発し屋敷ごと葬り去ったというなど、帝国内では話題に欠かない人物だったようだ。

 また、今回の戦争において目まぐるしい活躍をした四騎士、及び騎士団の訓練などにも携わっており要所から絶大な信頼を勝ち得ているらしい。

 ただ情報がこうして不確かなのは、この粛清騎士という存在について帝国では存在のみが恐れられ、他国にはそういう騎士がいるとしか伝わっていないからである。帝国が粛清騎士という存在を他国から隠そうとしていることは明らかだった。

 

 しかし、今まで隠してきたその粛清騎士が遂に表に出てきたとなれば法国としても情報を正確に把握するため動かずにはいられなかった。

 何故なら()()()()()()()使()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()だ。その為、この度の戦争で遠方からの監視を漆黒聖典第七席次『占星千里』が、現地での監視を第十二席次『天上天下』が執り行っていたが……最後の最後、最高位の暗殺者である『天上天下』を粛清騎士が捕捉してしまい、下手人と勘違いされ殺されてしまい亡骸まで確保されてしまうという事態に陥ってしまった。

 

 

「よもや皇帝を狙う暗殺者と思われ殺されてしまうとは……今回の王国の被害も合わせると粛清騎士の強さは英雄の領域を遥かに超えているのは間違いないな」

 

「『天上天下』を派遣したのは間違いだったのでは?これなら風花聖典か水明聖典を動かした方がよかったと思うのだが」

 

「あの時の会議で多くの人員を動かして勘づかれるのを避けるため『天上天下』一人に任せるということになったではありませんか。彼が国のため命懸けで情報を集めようとした行動に対して間違いなどどいうその様な発言は慎んでいただきたい」

 

 元漆黒聖典第三席次であるレイモンの厳しい言葉が発せられる。確かに『天上天下』は深入りしすぎてしまい、このような残念な結果に終わってしまったが情報を得るためにやむを得ずああして潜入するしかなかったのだ。『天上天下』の隠蔽スキルは漆黒聖典でも見破ることができるメンバーは二、三人ほどしかいないためまさか気づかれるとは思ってもいなかっただろうが、あの時点では最善手だっただろう。

 

「失礼した。その様なつもりはなかったのだが」

 

「たられば話を続けていても何の進展もしまい。それで、粛清騎士の情報についてはどうなんだ?」

 

「では、改めましてお手元の資料をご覧ください。『占星千里』による報告が主になっていますが──」

 

「王国軍十五万の内五万人が死亡……しかもその内三万以上は粛清騎士によるものだと?」

 

「重点的に王国の有力貴族が狙われて殺されているようですね。これは一体……?」

 

 今回の戦争における粛清騎士単体が出した被害は甚大、その気になれば王国軍全てを殺し尽くせるだけの余力を持っていたはずだ。しかし言い換えれば被害は大きいもののこの程度で済んでいるとも言えた。

 

「これは周辺国家への示威行為では?最早帝国に敵あらずといった具合に戦力を持っていることをアピールしているとすれば」

 

「それなら何故王国にそのまま攻め込まなかった?王国軍と帝国騎士団ではこの報告書を見ても実力に雲泥の差がある。時間はかかってもそのまま王国を支配するなど造作もないことだというのに」

 

「……いや、帝国はそれが出来なかったのではないか?確かに戦力は揃っているが内政となると話は別だろう。王国を併合したとして、そこを任せられる人材も育てきれていない場合国が乱れる可能性は十分にある」

 

「なるほど、それならば手始めにエ・ランテルを割譲させたのも納得だ」

 

 いきなり併呑するのではなく時間をかけて王国を呑み込む方針を取った帝国に気づいたこの場にいる面々は、流石はあの優秀な皇帝だと手放しで褒め称えた。時間はかかるがこれで本来の目的だった堕落した王国が良いものになるだろうと。

 

「そうなるとあの地を誰が治めることになるのでしょう?」

 

「未だ不明ですな。王国より割譲された日にお披露目を兼ねて凱旋が行われるとのことですのでその時に正式に発表されるものかと」

 

「では直ちに聖典の派遣を急ぎましょう。これだけの被害を出されて王国も長々と交渉を続けることもないでしょう。早ければ年内に割譲されることも念頭に置き行動すべきです。そして──法国は帝国と矛を交えるつもりはないということを伝えるべきだ」

 

 その発言に対して誰もがその通りだと頷く。元々弱き人間同士手を取り合い人類を脅かす脅威に団結して立ち向かうべきなのだから。

 

「そうすると『天上天下』のことは諦めざるを得ないか?」

 

「やむを得まい、万一我々が仕向けたとバレてしまえば国家間での軋轢になりえる。非情な決断だが……幸いと言っては不謹慎だが帝国には蘇生魔法の使い手はいない。我々の手の者だと明確にバレることはないだろう」

 

「惜しい者を亡くしたな……粛清騎士、ヤツは神人なのか?それとも──」

 

「もしかすると『神』の降臨である可能性も否めません」

 

 その言葉にこの場の空気が張り詰める。来るべき時が来たと。

 法国の上層部にのみ伝えられている百年の揺り返し。六大神や八欲王といった真なる竜王すら上回った強さを持ったぷれいやーという存在が遂に降臨したのではないかという疑惑に誰もが身を固くせずにはいられない。

 

「口伝からおよそ二百年か?多少前後するだろうが確かにその可能性は大いに考えられる」

 

「此度の神が粛清騎士だとすると納得するところもあるが、もしそうなら皇帝はよく神を御し得たな。これは偉業だ」

 

「ならば『占星千里』や巫女姫の情報系魔法が通じないのも頷ける。相応のマジックアイテムを身につけているに違いない」

 

「と、なると……かの魔樹、ザイトルクワエを滅ぼしたのは粛清騎士なのではないか?」

 

 シーンと誰もが言葉を発さなくなった。

 会議のもう一つの議題、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ある日、巫女姫からの報告でトブの大森林の奥地で凄まじい魔力による破壊が確認された。遂に破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が目覚めたかと漆黒聖典に出動命令を下したが──その場に赴けば残っていたのは破壊の跡。かなりの範囲にその傷跡が残されており破滅の竜王はこの地を去ったかに思われたがここで現地で全てを見ていたというドライアドを発見し接触。そして恐ろしい事実を話した。

 

『アレーティアって白髪の眼の色の違うエルフの人があの魔樹を滅ぼしたんだ!』

 

 アレーティアという名前に覚えはない。しかし、白髪、眼の色が違うというのが問題だ。その容姿を持つエルフはこの世におそらく二人、そして名前が分かっていないアレーティアと呼ばれるだろう存在は一人しかいない。

 

 

「かの破滅の竜王──いや、世界を滅ぼせる魔樹ザイトルクワエを滅ぼしたアレーティアなるエルフは……あの忌々しいエルフ王の娘の可能性がある、だったか?」

 

「はい、エイヴァージャー大森林に移住したとされるダークエルフは元々はトブの大森林の北部に住んでおり、なんらかの脅威から逃れるために抜け道を作り脱出したと捕らえたエルフの伝承に残っていると。ただし、今ではその方法は失伝しているようですがあの娘ならそれを再現し森同士を移動することも可能かと」

 

 語られるエルフ王の娘、即ち王女である王の相を持った女エルフ。存在が確認されてから幾度となく抹殺、もしくは捕えるべく精鋭を送り続けたが悉くを上回りついには陽光聖典すらも軽くあしらって逃亡している。しかし、陽光聖典との接触を最後に長年姿を見せていなかった。

 

「つまりだ……あの王女はあのエルフ王と同等かそれ以上の力を身につけたと」

 

「厄介な……エルフ自体はどうでもいいがあの二人だけは何としてでも仕留めなければならん」

 

「問題は漆黒聖典で対処出来るかだがその前にだ……この粛清騎士と王女が同一人物かどうかが問題だな」

 

 そう、これこそが今回最大の議題。粛清騎士=エルフ王女であるか否か。

 

「王女が姿を見せなくなった時期と粛清騎士が現れた時期は一致する。これはもう確定なのでは?」

 

「いや、そう決めつけるのも早計だろう。それだけで同一人物と断定するのは難しい」

 

「しかし王の相を持ったエルフならやはり──」

 

「降臨された神──粛清騎士が偶然エルフで王の相に近い容姿をしている、という線もあるのではないか?」

 

「うーむ……顔や容姿が確認出来れば判断しやすかったのだが……」

 

 誰もが思慮に耽る。もしも、たられば話になるがそれもあり得なくはないのだ。

 ただ、心のどこかで粛清騎士とエルフ王女を結びつけたい気持ちがあるのも否定は出来ない。

 ここでこの場にいる十二人の内一人が報告書を目にしながらポツリと呟く。

 

「いや……やはり違うか」

 

「何か気づかれましたか?」

 

「ああいや、一度情報を整理しようとしていたのだが改めて見るとやはり粛清騎士とエルフ王女は同一人物と言い張るのは難しいと思ってな……。

 まず、この二人は戦い方がまるで違う。エルフ王女は精霊を使役する森祭司(ドルイド)であったが、対して粛清騎士は武技と思われる広範囲攻撃を多数使用している。これを魔法と受け取ることも可能ではあるがそれでも結びつけるのは難しいのではないか、と思ったのだ。

 それにだ……もしも、エルフ王女が粛清騎士だったとした場合、何故かの竜王が動かないかが不思議でならん。宝物庫を守るあの子ですらやつに感知させないためにあの場に留まってもらっているのに何故やつは自由に動けるのかともな」

 

 その考えを聞き確かにそうだと同意の声が上がる。

 確かに結びつく実力者であることに間違いはないが、戦い方からは目を逸らしていた。確かに魔法を使える戦士も法国にいないことはないが、余程の実力者──英雄やそれを超えた逸脱者、神人でもなければどちらも同等の、それも竜王クラスの敵を倒せるほどの強さを持つことは不可能だろう。

 それにあの白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)が動かないのも不可解だ。そのまま放置しているのはどういうことなのか。

 

「……やはり粛清騎士とエルフの王女は別人ではないか?」

 

「かもしれんな。それにもしも同一人物なら何故帝国にこれだけ手を貸すのかが不明だ。エイヴァージャー大森林とカッツェ平野で法国を挟み撃ちという線も考えられるがそれはいくらなんでもあり得まい」

 

「どちらにせよ警戒は必須だ。トブの大森林に現れたのならば今後あの地を治める帝国に恐るべきエルフの王女の情報を共有して対策すべきだ」

 

「何としてでもかの方の恨みの一つでも晴らさねばならないからな。彼女のためにも──」

 

 そうして思い浮かべるのは宝物庫を守護する彼女──番外席次だ。

 この場にいる誰よりも年齢は上だが、外見上子供のように見えるためどうしてもそのように扱ってしまう節がある。

 

「しかし良いのか?母こそ違うだろうが腹違いの妹になるあの王女を殺すことになって」

 

「だから極力捕らえて彼女に判断を任せようということになったではないか。半分とはいえ血が繋がった姉妹なのだから。例え忌々しいあのクソ野郎の血を引いていたとしても」

 

「だが捕えるのはもう難しいでしょう。もし捕捉することが出来たら、彼女を直接向かわせるか、もしくは──ケイセケコゥクによる支配を念頭に入れるべきです」

 

 ケイセケコゥク。その実態は世界級(ワールド)アイテムであり、あらゆる耐性を──世界級アイテムを所持している相手には効かないが──無視して魅了することが出来る六大神が遺した秘宝だ。

 これを扱える人間は限られており現在はカイレという老婆がこれを身につけている。

 

「では、今後トブの大森林にも警戒網を敷きエルフの王女については発見次第、漆黒聖典及びカイレを出動させるということでよろしいでしょうか?」

 

「……異議はないようですね。では決定ということで」

 

 

 こうして、この議題は終わり次なる議題へと移って行った。

 

 

 その後エ・ランテルの割譲が行われ、統治者が粛清騎士と知った法国は頭を抱えることになってしまった。

 

 

 

 

 






アレーティア──辺境侯になってしまった。部下にはルミリア。後は分かりますね?
短杖の名前は未定。作者が思いつかなかった()

ルミリア──念願叶ってアレーティア直属の部下になった。実は実家は既にジルクニフによって没落しており、親が復権のため政略結婚させようと躍起になっているだけでルミリアはまるで興味が無い。何故なら領民から搾取してきた悪しき貴族だった実家と縁を切りたくて騎士になったから。

ジルクニフ──爵位をアレーティアに与えて身分上ならアレーティアと結ばれても問題ないように策を練っていた裏設定。ただしルミリアと組ませてしまったのでしばらくは胃痛に苦しむことになる。策士策に溺れるとはまさにこの事。ロクシーから一周回って馬鹿なの?とか言われてそう。
何度も言いますがナザリックが来る世界線でジルクニフとアレーティアが結ばれることはありません(無慈悲)

スレイン法国──粛清騎士=エルフ王女(アレーティア)まで迫ったのに少し遠のいてしまった。まあ仕方ない。
帝国に蘇生魔法を使える者がいないからと安心しているがアレーティアが使えるため安心できない。むしろこれから帝国との間に軋轢が生まれる可能性大。

番外席次──アレーティアの腹違いの姉。心境は複雑。会っても即効殺したりは多分しない。


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帝国ルート エ・ランテル編
アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part1 〜人手が足りない!だったら他所から借りてこよう!まずはアゼルリシア山脈から!!〜



アニメ観ながら、完全設定資料集眺めながら書いてて思ったのは……


もしかしてこの世界、大砲が存在しない?




 

 

 私、アレーティアは今エ・ランテルの元都市長邸宅の執務室でとある計画を練っていた。

 先日正式にこの地が帝国のものになり凱旋と共に私が領主であると大っぴらに発表した。エ・ランテルの住民は青褪めた顔をしていたけど悪いようにはしません。

 私が治める領地ですからね、なんだったら帝都アーウィンタールより発展させてやると意気込んでいます。

 

 さて、そんなことより少しばかり困ったことがあります。

 

 そう、圧倒的に人員不足です。

 

 まず騎士団の見習いや騎士団四軍、五軍辺りの騎士達を千人ほど借り受け、文官も十名ほど派遣してもらいましたがそれでも足りない。このままでは私がデスクワークをしなければなりません。

 ん?何か変なことを言いましたか?デスクワークは私の仕事ではないので何もおかしいことはありませんね。ルミリア達に押しつけます。

 

 まあ、私がフリーで動けてもやはり手が足りません。

 そもそもどうして手が足りないかと言えば、やりたいこととやらないといけないことが同時にやって来ているからですね。

 原作でもあのアルベドですら仕事で手一杯になりうんざりする程でしたから。まああちらは私にはない最高の頭脳と無数のアンデッドを使うことで諸々を解決出来ていますが。

 

 そんな私がやりたいことを簡単にまとめれば

 

●共同墓地にあるズーラーノーンの拠点の破壊、及び改築

●ブレイン・アングラウスが所属している傭兵団の征伐、捕縛

●インフラ周りの整備、及び改造

●魔術師組合を取り込みエ・ランテル全体への魔法技術の普及

●教育施設を作る

 

 こんなところでしょうか?まだまだやりたいことは山ほどありますが一先ずはこれらが最優先事項です。

 

 ああ、そう言えば王国の片付けないといけない件は片付けてきたのでこちらは一安心です。()()()()話が分かる人で助かりました。

 後は戦後交渉で王国が帝国の要求を全て呑む形になっているので、ジルクニフにあれこれ頼んでそれで解決です。

 その内の一つに関してはジルクニフが「これは絶対に無しだ」とか言ってきましたが、これに関しては退くことが出来ないので交渉が続いてます。

 この件ばかりはどうしても時間がかかってしまってますね。

 建前上呑まないといけないけど呑みたくない王国と無理にでも呑ませる帝国の舌戦です。飲み会かな?

 

 ああ、中にはガゼフが負けたせいにする馬鹿な貴族もいたようですが、その条件破棄してもいいけどそれならこれから王都に攻め込むぞと脅しをかけたら黙りました。口だけならなんとでも言える無能は引っ込んでいてください。

 

 後は計画通りに行けば数年後には綺麗に整備された王国が手に入りますね。彼女を味方に引き入れることが出来て本当に良かったです。

 

 

 さて、話を戻します。やりたいことが多くある中、どれもこれも人手が足りないのです。

 

 

 

 ……あ、そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 よし、難しいことを考えるのはやめましょう。とりあえず人手に関してはどうにかなりそうです。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 

 はい、思い立ったら吉日、その日以外は全て凶日という言葉があるように私は即座に思いつきを行動に移しました。

 

 まずはアゼルリシア山脈から。

 

 

「おお!神匠様!神匠様がいらしたぞおおおお!!」

 

「お久しぶりですゴンドさん。……というかその神匠様って私のことですか?」

 

「その通りだとも!貴方のお陰でルーン技術の復興が進み、より効率的にルーン武具を生産出来ないか研究を進めているところじゃ!これも全てあの時貴方がルーン技術を会得し高みを見せてくれたからじゃ!故に、ルーン工匠の多くは貴方のことを神匠と呼んでおるんじゃ」

 

 私、いつの間にか神になっていたようです。とはいえ嬉しいものですね。原作とは違う形ですがルーン工匠の方々が生き生きとしているようでなによりです。

 

「それで、神匠様は何用ですかな?ただ顔を出しに来たわけでもないでしょう?」

 

「ええ実は最近とある領地を治めることになったのですが、路上や街道の整備、城壁の強化などを行う人手が足りず困っていましてね。もしも手が空いている方がいましたら手伝ってもらえないかと思いまして。勿論その間の生活の面倒は勿論、報酬などは色をつけて支払わせていただくつもりです」

 

 まずはダメ元でドワーフの手を借りたいと思いました。魔導国の時もそういった事にドワーフが携わっていたので力を借りられれば百人力なんですが。

 

 

「なるほど……神匠様の頼みなら快諾したいところじゃが、少々困ったことになっていての。少しばかり難しいかもしれん」

 

「一体何に困っているのです?」

 

「いやのう、クアゴアという亜人が鉱石を求めて度々ワシらを襲撃してくるんじゃよ。ワシらでさえ最近ミスリルすら見つけられたら御の字だというのに困ったもんじゃい」

 

 ああ、そういえばクアゴアとドワーフはバチバチにやり合ってたんですね。確かにそれだと難しいかもしれませんけど……そうだ、クアゴアの王であるリユロとは知った中ですししばらく侵攻を止めてもらうようお願いしてみましょう。

 ついでに久々にフロスト・ドラゴン一家にも会いに行って何匹か借り受けましょう。運搬に便利ですからね。

 

「……しばらく時間をいただければクアゴアの方はなんとかしてみせるので摂政会の方に話をしていただいてもいいですか?答えをいただけるまで待ちますので」

 

「なんと!?神匠様が手を貸してくれるのか!?あのラーアングラー・ラヴァロードを倒せるだけの力を持つ貴方が力を貸してくれるなら百人力……いや、千人力じゃな!少し待っておいてくれ!すぐに摂政会にこのことを伝えよう!」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 さて、待っている間少々暇なのでルーン工匠の方々に挨拶でもしてきましょうか。

 

 

 

 

 

 

「よくぞ来てくださった神匠様よ!」

 

「どうか!あなた様の作られたルーン武器を見せて欲しい!もう少しで何かが掴めそうなんじゃ!」

 

「いや、どうか我らに改めてご指導ご鞭撻を!何卒、何卒おおおおお!!!」

 

「うわ……」

 

 

 熱量がすごい。出会って数秒でこれとは()

 もうフールーダ化してますね。なんということでしょう。職人というかその道一筋の人ってこういう人ばかりなんでしょうか?だからこそ前へ前へと進めるんでしょうが。

 

 とりあえず現状の最高傑作であるフロスト&フレイム・オブ・アゼルリシアを取り出し披露しました。

 そして全員号泣しだしました。情緒不安定すぎて怖いんですけどもう!?

 

 

「さ、流石神匠様じゃ。ワシらがこうも手古摺っている間に更に先へと進んでいらっしゃる!それに対してワシらのなんと不甲斐ないことか……!!」

 

「これほどの一品に出会える機会はそうそうないぞ……ああ、この美しい造形に彫り込まれたルーン文字の神々しさたるや……」

 

「十文字じゃぞ十文字!ワシらでも四文字が限界だというのに、流石は神匠様じゃ!」

 

 

 以前見せたセブンスター・ルーンを超えた剣ですからね。まあ、妥当な反応かなと。しかし突然泣き出すのは本当にやめてほしいです。

 とりあえず、行き詰まっている彼らにアドバイスというか体験談を話しましょう。それがきっかけでまた新たな発見があるかもしれませんし。

 

「この剣たちは素材に鉱石だけでなくフロスト・ドラゴンの鱗やラーアングラー・ラヴァロードの皮や骨を使って加工しています。なので普段使っている鉱石よりもルーンを刻む魔力に耐えられるのではないかと」

 

「なるほど、モンスターの素材か。ワシらは金属を主に使うからそういうところは盲点じゃったな……」

 

「とはいえワシらは所詮はルーン工匠でしかない。そういった素材に関しては外部を頼らねばならんな」

 

「では、後ほどいくつか帝国でも流通しているモンスターの素材を提供しましょう」

 

「よ、よろしいので?」

 

「はい、私も多忙の身でしてそこまで手が回っていないので色々検証していただけると助かります」

 

 余談ですが、現状ルーン文字を最も刻める素材はザイトルクワエの素材です。やはりというかユグドラシル産のモンスター素材は格が違いますね。試しに適当に刻んでみたら()()()()()()()()()()

 今はこの素材を使って最強の杖を作ることを目標としていますがかなり時間がかかりそうです。素材もできるだけ良いものを使いたいので。

 

「「「「お任せください!我らルーン工匠一同、必ずや神匠様のご期待に応えてみせますとも!!」」」」

 

「頼りにしていますよ。では、まだゴンドさんも戻ってきそうにないですし、少しばかり私の技術(スキル)をお見せしましょうか」

 

 

 ルーン工匠全員からおお!と歓喜の声が上がりました。

 まあ、造るのはルーン武器ではないんですけどね。?

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

「戻ったぞい!……ってなんじゃあこれは!?」

 

「ああ、お帰りなさいゴンドさん。どうでしたか?」

 

「あ、ああ、そうじゃ。摂政会は詳しい話を聞かせて欲しいと神匠様を連れてきて欲しいと言われての。すまんが一緒に来てもらいたいんじゃが……」

 

「そういうことですか。構いませんよ、今すぐ向かいましょう。」

 

 思いの外反応が早くて助かりました。原作のようにまだこの地(フェオ・ライゾ)を捨てていないのでそこまで切羽詰まっていないから断られる可能性も視野に入れていただけに、これは嬉しい反応です。

 ゴンドさんに連れられて摂政府へと向かいました。

 

 

「……なあ神匠様、先程のアレは一体?」

 

「アレですか?ルーンではありませんけど今後アレにルーンも組み込めればいいと思って作ってみたんです。万が一断られたとき、アレを量産して数を補おうかと」

 

 アレを造るスキルは人手が足りないから増やせばいいという発想から生まれながらの異能(タレント)が仕事をして会得しました。一日に四回までという制約がありますが、数なら後は精霊を召喚するなりして補えばいいでしょう。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()のでスキルではない造り方も知っておかないと後々苦労するのは間違いありません。

 こういうスキルを会得するとアインズ様が毎日のように使っている〈中位アンデッド作成〉が羨ましいですね。アレ死体があればずっと存在できるの割と手軽で便利ですよね。

 もしかすると、アレと同じように触媒的な何かがあれば増産出来るかもしれません。

 

「なるほどのぉ、もしアレが量産できるのであればドワーフもクアゴアなんぞに怯えずに済むかもしれんの」

 

「ふふっ、今後はこういうところに力を入れるのもいいかもしれませんね。ドワーフの魔法詠唱者(マジック・キャスター)にはああいう物を作る魔法を持つ人はいないんですか?」

 

「いや、おらんな。そもそもがドワーフでそういう魔法を使える者は希少なんじゃ。森祭司(ドルイド)も中々おらんしな」

 

 ああ、そんな話もありましたね。確か空気を綺麗にする魔法は森祭司を習得していると使えるんでしたっけ?それが少ないから薪や石炭は主流ではなかったとかいう話があった気がします。

 確かに地下暮らしの中で物を燃やして空気が薄くなって一酸化炭素中毒なんかになったら目も当てられませんからね。

 

 そんな話をしていると見えてきました摂政府。ゴンドさんがいるからか顔パスで通れました。いいですね顔パス。ただこの世界だと幻術で騙せる可能性もあるのでその点は注意しないといけませんが。

 

 

「ルーン技術局長ゴンド・ファイアビアド、神しょ……アレーティア殿を連れて参った!」

 

 中に入り案内された部屋には八人のドワーフが。

 魔法全般を管理する大地神殿長。

 軍事警察関係を管理している総司令官。

 鍛治以外の生産物、食料品などを管理する食糧産業長。

 内務全般を管理する事務総長。

 酒造りの管理をしている酒造長。

 鉱山の発掘などを管理している洞窟鉱山長。

 現状有名無実化した外務の仕事を担当している商人会議長。

 そして、鍛治などを主とする生産関係を管理している鍛冶工房長の八人が──あれ?

 

 以前会った鍛治工房長と人が変わってます?あれれ?

 

「ゴンドさん、以前お会いした鍛治工房長はどちらに?」

 

「ん?ああ、そういえば言っておらんかったな。アレーティア殿がいなくなってからルーン技術に革命を起こした貴方のことが都市に知れ渡ってな。その時貴方を無下に扱ったとして多くの工匠の非難を浴びて引退したんじゃよ」

 

 ええ!?まさかそんなことになっているとは……。かつての鍛治工房長には悪いことをしてしまいました。もしまた会うことがあれば謝らねば。

 

「ようこそおいでくださったアレーティア様。私は軍事を預かっております総司令官です。率直にお聞きしますが今行われているクアゴアとの抗争、こちらをなんとか出来るとお聞きしてお招きしたのですが」

 

「ええ、彼らの侵攻を止めることは容易です。クアゴアを治める王であるぺ・リユロとは個人的な付き合いがありまして。私の頼みなら快く聞いてくれるものかと」

 

「おお、そうですか。しかし、貴方とクアゴアの王にどの様なお付き合いがあったんですか?」

 

「そうですね、あれは私がこの都市に来て鍛治を習い始めた頃です。鍛治をするのにも鉱石が必要で当時は何も持っていなかったので、鉱石を求めて探索していたところクアゴアの集団に出会いまして。クアゴアはどうやら鼻で希少な鉱石を嗅ぎ分けられるらしいので、全員叩きのめして案内させたところリユロと出会いまして、いくつかの鉱山を紹介してもらったことがあります」

 

 懐かしいですね。もうこの山脈で欲しい鉱石が掘れないのは残念ですが、まだクアゴアで持っている希少鉱石があれば譲ってもらいましょう。まあ欲しいのはアダマンタイトやオリハルコン辺りですけど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな話を聞いた摂政会の面々は「はぁ?」と思わず声を出しそうな顔でこちらを見つめてきます。確かににわかには信じられませんよね。

 

「な、なるほど。しかし、その関係だけではクアゴアを止めることは難しいのでは?」

 

「すまん、発言よろしいか?」

 

 すると後ろからゴンドさんが出てきました。

 

「アレーティア殿はかの王都への三つの難所の内の一つ、溶岩地帯に潜むあのラーアングラー・ラヴァロードを単独で倒すだけの実力を持っておる。アレよりクアゴアの王が強いなら話は別じゃが儂にはとてもそうは思えん。ならばアレーティア殿はその力を持ってクアゴアを説得出来ると言っているのではないか?」

 

 そういえばゴンドさんには私の強さの一端を見せていましたね。ナイスフォローです。

 

「ええ、リユロ相手なら何の問題もなく下せます。それを察知してか向こうも私との交戦は避けている様子がありましたので」

 

 それを聞いてか安心した?様子を見せてくれました。

 

「では、クアゴアの件どうかお願い申し上げます。対価としてですが、工匠を借り受けたいとのことですが」

 

「ええ、もう聞いているかもしれませんがこのアゼルリシア山脈から南のトブの大森林を抜けたさらにその先にあるエ・ランテルという都市を治めることになりまして。お恥ずかしい話、人手が圧倒的に足りておらずその道の達人たちが集うドワーフの皆様に力を貸してもらえないかと思いやって来たのです」

 

 どれぐらい貸してもらえるかは分かりませんが三十人も借りられれば御の字ですかね。後はエ・ランテルの貧民街で日々の生活に困っている人たちにも手伝ってもらいそのまま手に職を身につけて貰えれば一石二鳥なんですが。

 あ、そうだ。どうせなら交易都市としての利点も加味してみましょう。

 

「加えて、私の治める都市とドワーフの国で貿易が出来ないものかと思いまして。こちらからは木材や食料品、酒など多様なものを提供出来ます。対してそちらからはドワーフ製の武具や酒類などを仕入れられればと。こちらはまだ草案ですので検討していただく程度で構いません」

 

「分かりました。ではその話は今回のクアゴアの件が落ち着き、派遣する工匠たちの話を聞いてからでもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、勿論です。では交渉成立ということで」

 

 

 こうして無事摂政会との交渉を終えることができました。概ねいい反応を貰えてよかったです。

 

 また、派遣される工匠については希望者を募ってその中から国の運営に損なわない程度の人数を派遣してもらえるとのこと。

 一体何人集まるか……まあ、あのスキルの検証が済めば数は補えそうですからなんとかなるでしょう。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「と、いうことで侵攻やめてもらえません?」

 

「わ、分かった!すぐに兵を引き上げる!だからこれ以上は勘弁してくれ!俺たちも鉱石が集められずに困ってるんだ!もう献上できる貢ぎ物すらギリギリなんだ!」

 

 リユロは話が早くて助かります。私がシャルティアじゃなくて良かったですね。

 ん?貢ぎ物?

 

「貢ぎ物ってなんです?」

 

「あ、ああ。フロスト・ドラゴンの奴らがここ数年ほどしきりに要求してくるんだ。お前たちを使ってやってるんだから定期的に貢ぎ物を出せってな。お陰でお前が分けてくれた鉱石も大半がなくなってな」

 

 ……オラサーダルクそんなことしてたんですね。逆を言えばアイツのところにいっぱい鉱石があると、これはいいことを聞きました。後で拝借しに行きましょう。

 

「……なあ、アレーティアさんよ。アンタ、あのフロスト・ドラゴンより強いんだろう?どうだ、俺たちを使う気はないか?」

 

「ん?どういうことですか?」

 

「正直、あのドラゴンたちに仕えるのも限界が近い。ここしばらく鉱石が掘り尽くされたのか遠征してやっと幾らか程度の鉱石が集まる程度。奴らに貢ぎ物が贈れなければ俺たちは間違いなく見捨てられる。その程度のものだ。

 だがアンタは違うだろ?アンタなら俺たちを、クアゴアをもっと上手く使って繁栄させてくれる。そうだろう?」

 

 ……なんで私の評価こんなに高いんですかね??

 確かにそこそこ迷惑はかけたものの、それなりに良い付き合いは出来ていたとは思いますが。

 

「どうだ?……いや、どうですか?」

 

 思えば私がアゼルリシア山脈の希少鉱石を根こそぎ掘り尽くしてしまったのが原因ですからね……。

 それに太陽光下でなければ普通に生活出来ることも考えれば私のバイザーのような、サングラス的なアイテムを渡せばクアゴアという種族が力になってくれるのは頼もしいことです。

 とはいえ私だけで判断していいものでもないでしょうけど。

 

「そうですね、大変魅力的な話ですけどこの場で即決するのは難しい話です。なので、少しばかり時間をいただいても?」

 

「勿論です。良いお答えをお待ちしてます」

 

 その声はなんとも切実さを感じさせました。本当にギリギリなんでしょうね。可哀想になってきました。

 

 なのでちょっと灸を据えてきましょうか。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

「き、貴様!?」

 

「元気でしたか?オラサーダルク」

 

 相変わらず集めた財の上で寝そべるのが大好きなんですね。ベッドか何かと勘違いしてません?

 

「あの時と同じと思うなよ!?お前を倒すため私は更なる力を──」

 

〈土竜叩き〉

 

 先手必勝、静かになりましたね。ピクピクと痙攣しているので生きていますね。問題なしです。あ、ちょっと鱗剥ぎ取っておきましょう。後爪も。こんなのでも霜の竜の王ですからね。素材としては貴重です。

 

「よ、ようこそおいで下さいましたアレーティア様!此度は何用でございますか!?」

 

「えーっと確かキーリストランでしたか?久しぶりですね。最近コイツが横暴でクアゴアが困ってるって聞いたから灸を据えに」

 

 すると身震いしながら身体と頭を地に伏せた格好になりました。確かドラゴンにおける最大の敬服のポーズでしたね。人間で言うところの土下座でしょう。続けて他の二匹の妃も同じポーズをしています。

 

「も、申し訳ありません!貴方様に敗れて以来、オラサーダルクは心の傷を癒すためと財宝にこだわり続けており、そのため……」

 

「あー、なんとなく理解しました。とりあえず、この辺りの鉱石半分ぐらい貰って行っても?」

 

「ええどうぞ!お持ちください!」

 

 許可は得たので遠慮なく貰って行きます。お、意外と金や宝石類が多いですね。欲しいのはアダマンタイトやオリハルコンといった鉱石ですけど、それも十分にありますね。助かります。

 とはいえ貰いっぱなしも良くないですし、貴族向けに作った金の装飾品でもプレゼントしておきましょう。そうすればクアゴアに八つ当たりすることもないでしょうし。

 

「代わりと言ってはなんですけどこれをあげます」

 

「こ、これは!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()、それを加工して使った数々の品です。一応魔化しているんで貴方たちでも身につけられますよ」

 

「あ、ありがとうございます!ほら、貴方達も礼を言うんですよ!」

 

「ああ、結構ですよ。交換みたいなものなんで。では、また来ますね」

 

 

 とりあえず、この山の一件はこれで解決ですかね。

 再び宝物庫の扉を開き借りてた技術書なんかを元に戻してから私はドワーフの国へと転移しました。

 

 

 





・ドワーフ国
原作と鍛治工房長が変わっている。また、ルーン技術の研究が盛んに行われ始めた。
最近希少鉱石が掘れずに困りがち。
エ・ランテルへの派遣は九割の工匠が名乗りを上げたため抽選になった。

・クアゴア
希少鉱石が掘れずに割と本気で滅びかけ寸前だった。
フロスト・ドラゴンより話が分かる強者のアレーティアに乗り換えようと画策。
アレーティア的には八万も手数が増えるなら有りだけど、地上で活動させるにはそれ相応の用意と亜人種と人間での価値観などを示し合わせないといけないので即座の採用は難しいと思っているが、考えとしては前向き。親友が早く出来るかもしれない。

・フロスト・ドラゴン
オラサーダルクは屈辱的敗北(炎斬、宝物庫の開閉)から傷ついた心を癒すためクアゴアに財となる物を集めさせまくってた。
また、敗北をバネにして鍛えた結果オラサーダルクのレベルは四十六から五十を超えた。でも勝てない。
その後はアレーティア謹製の金の装飾品を身につけて複雑ながらも献上された物だと思い込むことで一応落ち着いた。ちょろい。

・アレーティア
ドワーフ工匠の手を借りに行った結果、八万のクアゴアが手に入りそうになった。今後ジルクニフに丸投げする予定。
さり気なく新スキルを会得済み。詳細はその内。
王国でやりたいことは一先ず済ませた。その際に大量のミスリルや金を入手したためしばらく金銭に困ることはない。

・ジルクニフ
アレーティアのとある要望を個人的感情から却下しようとしている。
なお、ただでさえ忙しいのにこの後アレーティアから多くの仕事を押し付けられる予定。
胃が悲鳴を上げる。




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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part2 〜黄金と白金〜


日付時間ゾロ目投稿したくなり、この時間にしてしまったので初投稿です。
去年なら年までゾロ目だったのにと少々残念。



 

 

 ドワーフの国から帰って来てルミリアに諸々を任せて一休憩しています。

 いや、まさかクアゴア、フロスト・ドラゴンの対応を終えて戻ってみれば工匠たちで大騒ぎしてるとは思ってもおらず……摂政会も抑えるのに必死だったあたりかなり大事になっていたようで。

 聞けばフェオ・ライゾにいる工匠の九割が名乗りを上げ、誰もが──特にルーン工匠が──一歩も引かず乱闘間近になっていたとか。

 原因と言えばやはり私で、ドワーフの国に現れた天才が治める都市に行けば何か掴めるかもしれない、私が鍛治をしている姿を見れば何か得るかもしれないなどの希望、期待、羨望から希望者が殺到したとか……。

 

 なんていうか、その、熱狂って怖いですね。

 一先ず落ち着いてもらい、誰も辞退する気は無いようなので摂政会との話し合いの上一月に一度他の希望者と交代する形で希望した全工匠をお借りする流れになりました。

 頭を痛めていた摂政会には申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 後、新しい鍛治工房長がさり気なく希望者に混ざってるのどういうことですか。それでいいのか摂政会。

 何はともあれ、ドワーフを借り受ける話は丸く収まったようで良かったです。

 

 

 さて、今度はクアゴアの話をジルクニフにしに行かないといけません。

 オラサーダルクを叩きのめして制裁を加えたものの、あのドラゴンはその内また無茶振りをするでしょう。するとそれに応えられないクアゴアはどうなるかと言われれば答えは明白です。なので、帝国で受け皿を作ってあげて少しずつ乗り換えていく方向で話を進めていこうと思います。流石に帝国も突然八万という数を受け入れるのは難しいですからね。とはいえ数は力ですから、ジルクニフも上手いこと扱ってくれるでしょう。

 

 

「ということでお任せしてもいいですか?」

 

「ダメに決まってるだろ?!さてはお前その件を俺に押しつけに来たな!?」

 

「何を言っているんですか。ちゃんと報告、連絡、相談してますよ?ただ思いつきで始めた案件が思いの外手広くなりすぎて困ったから一部お願いしようとしているだけで

 

「思いつきで始めるからこんなことになったんだろうが!!八万も亜人種を俺に押しつけるな!いくらドワーフ、エルフに寛容になったとはいえ亜人種となれば国民の理解も必要だ。そう易々と受け入れることが難しいことはお前も分かるだろ!?」

 

 うーん、正論ですね。評議国ならきっと問題ないんでしょうけど基本的に亜人種は敵と見做されていますからね。理解を得られないと民として受け入れるのは難しいと。

 

「兎も角、一度会って話だけでも聞いてあげてくださいよ。きっと仲良く出来るはずですから」

 

「……お前なぁ、私がどれだけ今忙しいか知っているか?戦後処理や交渉の内容についての議論、王国にかける圧力、内政、今後の通商における取り決めなど山ほど政務が立て込んでいるんだ。そんな中でお前の持ち込んだそのクアゴアという種族の受け入れなどやる間がない。これが現状だ」

 

 そこまで言われたら仕方ないですね。一旦諦めましょう。

 それならそれでクアゴアたちの特性を活かした仕事をしてもらうことにします。

 それともう一つ確認しないと……

 

「ではこの件は一旦引き上げます。もう一つの件ですが例の「ダメだ。許可しない」

 

 まだ何も言っていないのに。まあ分かりきっている反応なんですけど。

 

「もう契約しちゃってるんですよ。双方納得のいく契約ですし、彼女が帝国に協力してくれればオーガに金棒、いやウォートロールに金棒という方が正しいですかね?とにかく内政的にも非常に助かるんでメリットしかないんですよ」

 

「……だからと言ってアレを認めろと?それなら他の有力貴族の──」

 

「それだと彼女の望みが叶わないのでダメです。この契約は私と彼女だからこそ成り立つものなので。現にもう彼女は早速王国を上手い具合にまとめてくれてます。無能と有能を上手く扱い、明確な汚点を暴き、綺麗に整えてから王国を帝国に併呑させる計画は多分陛下か彼女しか出来ませんよ?」

 

「だが「個人的な感情で物を言わないでください陛下。この案はロクシーさんも納得してくれていますし」なんだと!?」

 

 なんでジルクニフはこんなにこの件を受け入れてくれないのか甚だ疑問でしかありません。

 

 

 

 

 ラナー王女と私が婚約するだけですよ?帝国になんのデメリットもありません。

 

 

 

 

 そもそも、どうしてこんな話になったかというと少々時を遡ります。

 そう、あれは戦争を終えて王国でブルムラシュー侯からその命を奪わない代わりに金鉱山とミスリル鉱山や金品を巻き上げてから王都に向かった時のことです。

 

 あの日は実に夜空が綺麗でした。星がキラキラと光って宝石のような……。いや、この世界だと普段の夜と変わりませんね。

 そんな日に『黄金』と称される王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと出会いました。

 

 

 

 

「土足で失礼」

 

 〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉の魔法を使い窓からラナーの部屋へ侵入しました。

 流石のラナーもこれは想定外だったのか、あるいは気を抜いていたのか呆けた顔をしていました。深夜なのもあって着ている服もアニメなどで見たドレス姿ではありませんでした。

 

 とはいえ、流石はあのデミウルゴスやアルベドと互角とまで言われる頭脳を持つ彼女はすぐに状況を理解したのか、それとも僅かな情報から私のことを知っていたのかは分かりませんが見事に切り返してきました。

 

「こんばんは、名も知らぬ騎士様。いえ、粛清騎士と言った方がいいですか?」

 

「粛清騎士で構いませんよ。夜分遅くに、窓から訪れてしまい申し訳ありませんね。しかし、こうでもしないと貴女と二人きりで話すということが困難なことをご理解いただけると幸いです」

 

「ええ勿論です。それで……こんな時間に私に会いに来た理由を聞かせていただいても?暗殺などということは無いでしょう?そんなことをしなくても貴方なら正面から堂々と城に攻め込み全てを滅ぼせるでしょう?

 ──あのトブの大森林で確認されたらしい破壊の嵐を使って

 

 

 正直、この切り返しは予想してなかったので驚きました。いきなりぶっこんでくるとは。

 今回の戦争で私は攻撃系の魔法は一切使っていないのにも関わらず、いきなりそこにたどり着くとは……カマをかけているだけかもしれませんが実際目の当たりにすると不気味というか末恐ろしいというかなんというか。

 とはいえバイザーで顔を隠している私の動揺は隠されていたので伝わってはいなかった……はず。多分、きっと、めいびー。

 そして私も少し反撃しましょう。これも交渉材料になり得ますからね。

 

「おや、お気づきになられていましたか。あの地では少々手強いモンスターと激戦を繰り広げましてね。当時の私は未熟だった故にあの様な目立つ魔法を使ってしまいました」

 

 さあどうだ!?どう返してくる!?心臓バックバクですが大人しく答えを待ちます。

 

「やはり貴方の仕業でしたか。知り合いの冒険者から依頼でトブの大森林奥地で発生した異常を調査した話を聞かせて貰い、そこから僅かに流れてくる帝国の粛清騎士様のお話を聞いてもしや、と思ったのですが正解だった様でなによりです」

 

 ああ〜優雅!実に優雅な返しです!これが本当の王族かと格の差を見せつけられましたね。

 私なんて所詮片田舎の頭エルフクソ親父に育てられたなんちゃって王女なのでこうして比べてしまうと見劣りしてしまいますね。

 私に足りないものは、それは! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!速さだけなら物理的に勝ってるんでなんとかなりませんかね?

 ともかく話を続けましょう。

 

「さて、そこまで私の強さを理解していただけているなら私がここに来た理由も薄々理解しているのではありませんか?

 ……単刀直入に言います。貴女が欲しい。帝国の更なる繁栄のために」

 

「何故私なのですか?私は王族の中では最も立場が低い者。王位継承権も持たない私を欲する理由は?」

 

「何を言いますか。こうして会話を交わすだけで分かります。その頭脳、知略は恐らく我らが皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスをも上回るでしょう。しかし、貴女はそれを察せさせないために敢えてどこか抜けている演技をしている。違いますか?」

 

「………」

 

「沈黙は肯定と受け取ります。勿論ですが帝国に協力してくださるなら相応の御礼をさせていただきます。例えばそうですね──貴女の最も叶えたい願いを叶えて差し上げる、というのはどうでしょう?」

 

 するとラナーの表情がアニメで見たハイライトのない眼に歪んだ、醜悪な笑顔へと変わりました。どうやら腹を割って話をしてくれる気になってくれた様です。

 

「私の願いを知っているのですか?」

 

「ええ、貴女に付き従う彼と結ばれることでしょう?違いますか?」

 

「……その通りです。私はクライムと結ばれれば……うーん。ついでにクライムを鎖に繋いで、どこにも行かないように飼えればもっと幸せかもしれません」

 

「なるほど、愛には様々な形がありますからね。彼もきっと受け入れてくれるでしょう。その願いを聞いた上で私はこう答えましょう。──その願い、私なら叶えられます

 

 ラナーの輝いていないその青い瞳がこの言葉を聞いた瞬間キラキラと、まるで夜空に瞬く星の様に輝き出したのを私は忘れられません。

 

「取引しましょう?多くの無能が、それでいて権力だけは握っていた多くの貴族が死に混乱の坩堝にある王国を帝国に併呑出来るなら……確かクライム、でしたか?彼と結ばれる様にしてあげます」

 

「乗りました」

 

「即答ですね。こちらとしては助かります。では、王国の件はお任せしますが何か助けが必要ならこれを使って私に連絡を」

 

 私は無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)から私謹製のマジックアイテムを取り出し、それをラナーへと渡しました。

 

「これは?」

 

「私が作ったマジックアイテムです。それを使うと一日に四度、私に〈伝言(メッセージ)〉が届きます。連絡手段として使ってください。ああ、〈伝言〉とは違ってそのマジックアイテムは登録者同士でしか起動しないので私と貴女だけの専用アイテムになりますのでその点は安心してください」

 

「分かりました。ところで、私とクライムをどうやって結ばせてもらえるのか聞かせてもらってもいいですか?」

 

「分かりました。簡潔に言ってしまえば──私と婚約していただきます。ですがご安心を、私は例え貴女と結婚しても子を成せない理由がありますので」

 

 そう言って私はバイザーを外し、着ている鎧もスキルで脱ぎロクシーさんから貰ったお気に入りのドレスへと速着替えします。このスキル本当に便利で助かりますね。

 こうして私の素顔と種族と性別を知った彼女は数秒の間、まるで宝石に目を奪われたが如く見惚れた後になるほどと呟きました。

 

「そういう訳でしたか。人伝に聞いたことはありますがそれがエルフに伝わる『王の相』というものなのですね」

 

「ええ、言ってしまえば私はエルフの王族。そして存在がバレれば法国は間違いなく黙っていないでしょう。なので限られた人物にしか私の秘密は知らせていません。これを見せるということは貴女を信頼してのことです。

 私は今後割譲されるエ・ランテルを治めることになりました。そして新たなる爵位として辺境侯という位を与えられます。そんな私が貴女と婚約することに何の問題がありましょうか?王国は既に戦争、決闘で帝国には刃向かえない。貴女は帝国へ人質として送られる悲劇の王女。それに付き従うのは貴方の想い人。そして……私と貴方は同性故に本来なら子を残すことは叶いませんが、後は分かりますね?」

 

「ええ、ここまでお膳立てされて分からないはずないじゃないですか……!!」

 

「では、今後ともよろしくお願いします。私の花嫁」

 

「ええ!こちらこそどうかよろしくお願いします!私の旦那様?」

 

 

 こうして真夜中の密談は終えました。

 

 元を辿れば戦争前にラナーを仲間にしようと思い立った私はメチャクチャになった国をまとめられるのはレエブン侯かラナーだけだと考えていました。

 レエブン侯は後々脅すとしても、正直生まれたばかりの子供を人質にするのは気が引けます。

 となるとラナーしか候補がもういません。そして、彼女に関してはナザリックが来ていない以上、現状最高の条件を提示出来るのは恐らく私だけ。

 なので戦争後王国でやるべきことの一つとして彼女に接触しました。王国を帝国に併呑させ今後の協力を条件として見返りに私との婚約を取りつけました。当初はジルクニフに嫁がせてロクシーさんと一緒にラナー王女を監視しつつ協力してもらうつもりでしたが結果オーライですね。

 

 私は今のところ結婚する気が無いので丁度いいですし、ラナーは願いが叶い、王国は帝国のものになる。誰も損しない、私にしてはよく考えた計画です。

 なのに、な・の・に!!理由もなく却下しまくるのが我らが皇帝ジルクニフ。普段は先ほどのクアゴアの件の様に理由を教えてくれますが、こちらは教えてくれません。見るからに私情マシマシで却下してやがります。何してくれてるんですかねぇ?

 

「そもそもいい加減教えて欲しいんですが、この案の却下理由はなんですか?ロクシーさんにも話しましたけど良い案だと認めてくれましたし何処がダメなのか具体的に教えて欲しいんですが??」

 

「そ、それは……」

 

 珍しく答えに困っていますがここらでハッキリさせておかないといけません。ラナーを抱き込めるか抱き込まないかで今後の私の計画にも支障が出るんですから!主にナザリックの件で!!

 もうこの原作無視ムーブをしてしまった時点で色々と修正しないと後がマズイ気がするので頭脳だけならナザリック首脳陣に引けを取らないラナーを味方にして早々に被害が無い状態で降伏するつもりなんですから!

 もうこうなったらこの手で行きますか。

 

「ではこうしましょう。私が結婚するのは無しにします」

 

「そ、そうか、それなら」

 

「代わりに陛下の正妃として迎えてください」

 

「それはダメだァッ!!!」

 

 どうしろと?原作でも確かに嫌いな女ランキング一位とか言ってましたけどここまでとは。

 仕方ないです。最後の手段を使います。

 

「二つに一つです。これ以上は退きません。もし呑んでいただけないならもう私出ていきますよ?」

 

「うぐぅ」

 

「一つ言っておきますけど婚約すると言っても形だけです。矢面に立つ際はそういう風に見せますけど、裏を話すとラナー王女には愛する人が既にいるのでその相手との子供を私の後継にするつもりです。もしくは陛下と婚約して正妃として迎えられた場合も同様です。まあこの場合は陛下の血が流れていないんで子供は後継者にはなれませんけど……」

 

 実際どうでしょうね?ラナーの子供なんでその知能を受け継いで生まれることも考えられますから。知能、頭脳に関しては職業やレベルなんかは全く関係ないステータスですし。

 

「……条件を出す。それを受け入れるなら許可する」

 

 今にも血涙を流しそうなぐらい険しい表情見せてるんですけど、そんなに嫌ですか。

 とりあえず条件とやらを聞きましょう。

 

「婚約する粛清騎士の名をアレーティアとしてではなく別名義にしろ。あの女と結ばれる男としての粛清騎士。限られた人間しか知らないアレーティアとしての粛清騎士。要は今後アレーティアという存在を許可なくこの場以外で出すことを禁ずる。それを呑めるのであれば……受け入れよう」

 

 ふむ?つまりは私一人で二役演じろということですか。男の私と女の私がいると。そんなことする意味があるんですかね?

 元々素性は隠していますし、公で本名を明かしたこともないので問題ありませんね。

 

「それぐらいなら構いませんよ?」

 

「よし、ならば戦後交渉にお前の希望を受け入れるとしよう。後……あの女にあまり好き放題させるなよ?取り返しのつかないことになる気がする」

 

「分かりました。では私はエ・ランテルに戻りますので何かあればマジックアイテムでお知らせください。ではまた二日後に」

 

 これでようやく王国関係も進みそうです。やれやれです。

 

 さて、ちょっと頭を使ったので今度は肉体労働でもしましょうか。これもクアゴアのためです。クアゴアが有能だということを証明してジルクニフに紹介するためのアピールポイントを稼がねば。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「あ、アレーティア様、お帰りなさいませ。早速ドワーフの方々と貧民街の住民たちを街道の整備に当たらせ、一部の者は近隣の村々へと移住を薦めたが……」

 

「ルミリア、ちょっと体動かしません?具体的には墓地の地下神殿に」

 

「行きます!私も政務が忙しくて体を動かしたい気分だったんだ!」

 

「それは丁度良かったです!では騎士たちに伝え隊列を組ませて地下神殿から敵が逃げ出さないように配備してください。この地図に抜け道が載っているので」

 

「任せてくれ!久々のアレーティア様との仕事……腕が鳴るな!!」

 

 

 






アレーティア
結婚に現状興味なし。誰のせいと言ったらクソ親父。
ラナー王女勧誘ガチ勢。蒼の薔薇ルートでも手を組むことになる。

ジルクニフ
アレーティアが結婚するとか言い出して絶対に認めたくなかったが、アレーティアを逃がしてしまうよりは対外的に粛清騎士とアレーティアを別人に仕立て上げて後々結ばれればいいと思っている。
何度も言うがナザリックが来る世界線でジルクニフとアレーティアが結ばれることはない。
結ばれるIFは需要があれば書くかもしれないし、後書きで断片的に語るかもしれない。

ラナー王女
現時点で最強の後ろ盾ができた上、自分の夢を叶えてくれる存在が現れたことに内心大歓喜している乙女。
王国併呑RTAが始まっているかもしれない。


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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part3 〜相手の効果の対象にならない?じゃあ選んで発動します〜


もうすぐ原作!と言っておきながら中々原作にたどり着けないジレンマ……。

今回、独自要素多めなのでご注意を。


 

 

 とある夜、エ・ランテル共同墓地にある霊廟。そこから更に隠された道を行くと地下神殿へと辿り着く。

 この場にいるのは秘密結社ズーラーノーンの高弟が一人、カジット・デイル・バダンテールとその配下、そして多くの死体だ。

 

 カジットはとある目的を果たすため、『死の螺旋』と呼ばれる魔法儀式を行う準備に取り掛かり始めたばかりだった。

 手始めにこの共同墓地に発生するアンデッドを討伐するために巡回している冒険者を秘密裏に殺し、〈不死者創造(クリエイト・アンデッド)〉で意のままに操ることが出来るアンデッドへと変貌させる。そんな彼の計画だったが早くも終わりを迎える時が来た。

 

 

「カジット様大変です!この地下神殿に襲撃が!」

 

「なんじゃと?一体誰だ、こんな場所にわざわざ攻めてくるからには入念な下調べが必要なはずだが」

 

 即座にカジットはどの冒険者たちが攻めてきたのかを模索する。

 妥当なところで言えば、エ・ランテルのでは最高位のミスリル級を誇る冒険者チーム三つ。『虹』、『天狼』、『クラルグラ』に絞られる。

 

 仮にこの三チームが襲撃してきたとしてもカジットは恐れることはない。懐から取り出した死の宝珠と呼ばれるマジックアイテムがあるからだ。このマジックアイテムがあれば最近ズーラーノーンの幹部に仲間入りした、あの人格破綻した女にも勝てる見込みがある。故にそう恐れることはないと思っていたのだが……。

 

 

「粛清騎士です!あの粛清騎士が多数の騎士を引き連れ襲撃してきました!」

 

「な、なんじゃとぉ!?」

 

 

 流石に相手が悪い。いや悪すぎた。

 粛清騎士、最早帝国、王国だけにとどまらずただ一度の戦争で周辺国家にその力を知らしめた人物だ。その異名の由来ともなった帝国での無能──国民を虐げてきた貴族の多くを粛清、更にはかの有名な暗殺組織イジャニーヤをも滅ぼしたとされる、裏で生きる存在が最も警戒しなければならない敵だ。

 この死の宝珠の力も通用するか分からない。

 

 カジットもこのエ・ランテルでの儀式の準備を始めた矢先に粛清騎士がこの地を治めることになったと聞いた時には流石にマズイと場所を変えようとしていた。だが、死の宝珠を持っていた安心か慢心がまだあったのか……この共同墓地に手を出すのはまだまだ先だろうと考えもあった。故に、本格的な儀式の準備は他の都市で行おうと計画していたのだが、まさかここまで早くこの共同墓地へ手を出してくるとは思いもしなかった。

 

「お、おちおちおち落ち着け!う、あうう狼狽えるな!」

 

「カジット様!貴方様が一番落ち着いていません!」

 

「うるさいわい!逃げるのだ!隠し通路を──」

 

「報告しますカジット様!全ての隠し通路の先に百名を超える騎士たちが待ち構えているとのことです!」

 

「な、何故?何故何故何故何故……何故じゃああああああ!??」

 

 もう訳が分からなかった。何故隠し通路の場所がバレている?仮にバレていたとしても全ての通路を抑えられるとは思いもしなかった。

 退路は絶たれ後は──狩られるのみ。

 

 

 コツン──コツン──。

 

 何者かが霊廟から繋がる通路を歩いてくる音が空間に響き渡る。

 来たる招かれざる客人は足音からしてたった一人。しかし、その足音がズーラーノーンの面々に恐怖を与える。

 

 

 コツン──コツン──。

 

 

 その音は徐々に徐々に近づく。近づいてくる。辺りが凍りついたかのように静まり、その足音が聞いている自分が処刑台に歩を進めているように錯覚させた。

 

 

 コツン──コツン──。

 

 

 もうすぐそこまで、ソレは迫っていた。そして──

 

 

「む?私が一番乗りか?」

 

 

 現れたのは粛清騎士ではない、女の騎士だった。

 

 

「な、何者だ!?貴様が粛清騎士か!?」

 

「ん?ああ私は粛清騎士様ではないよ。お初にお目にかかる、秘密結社ズーラーノーンの高弟が一人、カジット・デイル・バダンテール。私はルミリア・リイル・アーチゾルテ。粛清騎士様の片腕だ」

 

 現れた女騎士は粛清騎士ではなかった。しかし、纏うオーラは強者そのもの。少なくともこの都市の冒険者個人では決して敵わないと推測した。

 

「この度、主人である粛清騎士様はお前たちの存在を知り、真っ先に対処せよと命令を下された。いくら秘密の抜け道を作って脱出経路を作ろうと無駄だ。あの方の前にそういった小細工は通用せんよ」

 

「……ふん、そうか。しかしお前程度ならワシの力でどうとでもなる。お前を殺しアンデッドに変え正面から逃亡するとしよう」

 

「そいつは出来ない相談だ……なっ!!」

 

 瞬間、目の前の女騎士──ルミリアの姿がブレた。そして気づけば目の前まで接近しその剣はカジットの身体を──

 

「バカめ」

 

 ガキィン!とルミリアの双剣が現れた骨の巨腕に遮られる。そうして一度後方に引いたルミリアの前に地面から現れたのは──骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。魔法が効かないと恐れられるアンデッドだ。

 

 カジットはほくそ笑んだ。この女相手なら勝てると。

 

 実際この骨の竜相手に斬撃、刺突といった武器は効果が薄く、ハンマーなどの殴打武器の方が効果的だ。対してこの女が持つ武器は二つの直剣。なんらかのマジックアイテムなのだろうが魔法が効かない骨の竜には大した効果を発揮しないと予想した。

 即ち、ミスリル級冒険者チームでなければ相手にもならない骨の竜相手にこの女一人で勝てる道理はないのだと。

 

 ただ、それを過信してはいけない。何故なら物事には全て例外というものが存在するのだから。

 

「骨の竜、か。まあ丁度いい実験材料になるな」

 

 元帝国四騎士の一人『乱舞』ルミリア・リイル・アーチゾルテ。元ではあるが現在の四騎士に劣るかと言われればそうではない。むしろ帝国騎士の中では上から数えた方が早い実力を未だ保持している。

 そして彼女の手にあるのは、戦争で使った剣とはまた異なるルーンが刻まれた剣。ドワーフがこの都市に来てから作られた剣で、ルミリアはアレーティアからとある実験を頼まれていた。

 

 

「実験材料?フン、骨の竜に魔法など効かん。貴様はこれからこの骨の竜に無惨に殺されるのだ!〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉、〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉、〈死者の炎(アンデッド・フレイム)〉、〈盾壁(シールドウォール)〉」

 

 骨の竜に多くのバフがかけられ、従来の骨の竜を上回る強化が完了した。

 

「なるほど、骨の竜に魔法は効かないはずだがそう言う害を与えない魔法は通じるのか。フールーダ様が喜びそうな情報だな。武技〈能力向上〉〈流水加速〉」

 

 対してルミリアも武技による自己強化を済ませる。

 そして──

 

「やれぇ!!骨の竜よ!あの女を殺し道を切り拓くのだぁ!!」

 

「舐められたものだな。元とは言え帝国四騎士の力量、ここで見せてやろう。──奥義〈疾風斬撃〉」

 

 

 目に捉えられない早技、〈疾風斬撃〉はカジットに届かず骨の竜の身体に阻まれる。カジットはそれを見てはほくそ笑み、骨の竜に叩き潰すよう指示を出す。

 だが、そんな現状に一切焦りを見せることなくルミリアは、ただ一言言葉を発した。

 

 

「ルーン起動、″(ユル)″!」

 

 

 するとルミリアの剣に刻まれたルーン文字が幾つも光り輝き───骨の竜の身体が弾け飛んだ。

 

 

「ば、バカな!?な、何故骨の竜にマジックアイテムが通じて!?」

 

 

 身体の大部分を失った骨の竜の姿がそこにはあった。

 辛うじて残っているのは、剣が触れていない側面と顔ぐらいだ。アンデッドだから動けているが、生きていれば致命傷だろう。

 

「おお、流石ルーンの力だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その辺りは検証が必要だな……」

 

「こ、答えろ!何をした!」

 

「……答える訳ないだろう?態々手の内を晒すようなバカなことをするか。さて、投降しろ。今なら五体満足で捕らえてやるぞ

 

「ふ、ふざけおってええええ!だが、それだけ強力なマジックアイテム、一日に何度も使えるものではあるまい!ならば死の宝珠よ!そして……〈負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)〉」

 

 〈負の光線〉を受けた骨の竜の身体が修復されていき、更に死の宝珠による何らかの効果を与えられた骨の竜の威圧感は、先程とは比べ物にならないほど増していた。

 地下神殿に絶大な負のオーラが満ちていく。死の宝珠の力なのか神殿の地面からアンデッドが、スケルトン、動死体(ゾンビ)食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)など数多くの下級アンデッドが次々に湧き出てくる。

 

 この光景にカジットは驚きの表情を浮かべるが、すぐに笑みに変わる。このままアンデッドが多発すれば、それを囮に逃亡し態勢を取り戻せる。そしてオマケに幾らか死の宝珠に力を補充出来る。まさに一石二鳥。

 

 それに対してルミリアは慌てることなく剣を構える。

 

 

「頭数だけは揃ったみたいですね。まあ無駄ですが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ねえ、粛清騎士様?

 

 

 

 

 

 

「ええ、その通りです。〈神聖なる波動(セイクリッド・ウェーブ)〉」

 

 

 瞬間、放たれたのは神か天使かが降臨したかの如き、神聖な光の波紋が地下神殿全体を伝い──骨の竜を含む全てのアンデッドを消滅させた。

 

 

「……は?」

 

「すいませんねルミリア。少し遅れました」

 

「いえいえお気になさらず。それよりこの剣、骨の竜にかなりのダメージを与えられました!これはアンデッドに対して革命的なマジックアイテムなのは間違いありませんよ!」

 

「そうですか!試しに作ってみたまではいいですけど思わぬ収穫でしたね。ただルーンを最低でも六文字刻まないといけないので課題は残りそうですね」

 

 

 呆然とするカジットを置き去りにして現れた、黒い鎧を纏った粛清騎士──もといアレーティアとルミリアの会話が始まった。

 ちなみにだが、アレーティアの参戦が遅れた理由はクレマンティーヌを警戒してのことだった。流石にクレマンティーヌ相手では、ルミリアだと相手が悪い。故に戦争の時と同じ轍を踏む可能性があると思ったアレーティアは、地上にて〈観測衛星(オブザベーション・サテライト)〉を使用し捜索していたのだ。

 結果、どうやらこの時期はここにいないらしく処理することは出来なかったが。

 

 

「さて、じゃあ後はゴミ掃除ですね」

 

「ええ、こいつも投降を拒否したし覚悟は出来ているだろう」

 

「ま、待て、貴様ら何を」

 

「何って、私の治める都市にお前たちのような組織は不要です。貴方はまだ殺しはしませんけどズーラーノーンなんて組織、潰して当然では?」

 

「わ、儂をどうする気だ」

 

 すると粛清騎士は空間から剣を取り出し──

 

「〈四光連斬〉」

 

 

 瞬間、一度に放たれた四つの斬撃によりカジットの手足が胴から切り離された。

 あまりに突然のことに声すら出ない。痛みすら感じない。それだけの速さがあった。

 

「ルミリア、騎士たちに突撃の指示を。他に隠し部屋などないか徹底的に探させてください。その後、ここを()()に明け渡すので」

 

「分かりました。直ちに」

 

「ああ、カジットさんでしたか? 貴方は今後手足はそのままに、ズーラーノーンのアレコレを吐いてもらいます。抵抗は無駄ですから。死んでも蘇生しますので、早めにゲロった方が楽だとだけ伝えておきますね?」

 

 

 この時を持って、やがてズーラーノーンが滅ぶことが確定した。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「あー、消化不良です」

 

「確かにアレーティア様は地上でもう一人を捜索していたんでしたね。見つからなかったんですか?」

 

「いや、いましたけど……現状ここに手を出せる場所にいないから放置したんです。そうなると今からもう一人捕まえに行こうか……」

 

 クレマンティーヌ探しをしていたら、ついでに探していたブレイン・アングラウスも捕捉出来たのでいつでも捕まえに行けます。何なら今からでも。

 

 しかし、しばらくはお預けです。とりあえずカジットとその配下の身柄を帝国に護送して拷問官たちに引き渡して、ダメならあの漆黒聖典と同じ方法を取ります。

 ああ、あの捕まえた不審者──漆黒聖典の第十二席次は拷問官が〈魅了(チャーム)〉を使っても何も話さなかったので私直々に色々吐かせました。

 私の素性暴きとかやめて欲しいですね。

 とりあえず特定状況下で三つの質問をすると死ぬ呪いなんかは異能(タレント)で解除して、死んだ直後に即生き返らせて、生と死の間を何度も行き来させたら素直に全部話してくれたので助かりましたね。今は死んでますけど。死体は保管していざという時の法国との交渉材料にしておく方針です。

 

 カジットが何も吐かなかった場合、これと同じことをするか母親のネタで強請るぐらいしか思いつかないんですよね。まあ、気長にやりましょう。ズーラーノーンの本拠地などが分かり次第法国に情報流して向こうに処理してもらいましょうか。

 私がやるのは時期的にあまりよろしくないですからね。アンデッドを使う組織を潰したなんてことをナザリックに知られてみなさい?即敵対になるでしょう?それは避けたいんですよ……。

 

「ところで、共同墓地の管理は彼らに任せるんですか?」

 

「一先ずお試しでですけどね。クアゴアたちに地下神殿に住まいを使ってもらい日中はそこで生活してもらって、夜間は墓地を巡回してアンデッド狩りをしてもらえればそこを雇う冒険者の代金が浮きますから」

 

 

 そう、今回のズーラーノーン掃討作戦はクアゴアのために行ったことです。

 彼らは太陽の下では視界が利きません。なので元々地下暮らしですから放棄されてる地下神殿を与えて管理してもらい、先に言った通り夜間の巡回をしてもらいます。そうして少しずつ人間の生活なんかを知ってもらえればなという考えです。

 いきなり八万は無理なんで場合によっては地下神殿を拡張しなければいけないので手始めにリユロに選抜隊を選んでもらってからになりますが。

 

「しかし、このままだとどんどん冒険者の食い扶持が無くなっていきますが、大丈夫でしょうか?」

 

「カッツェ平野のアンデッド狩りがありますし、他にも仕事は減りつつありますがまだあります。それに、街のインフラ整備のためにそう言った魔法を使える魔法詠唱者や肉体労働をしてくれる冒険者には、割りのいい依頼を出しているので当面は下級冒険者は大丈夫でしょう。

 ミスリルなどの上位の冒険者がどう動くかは分かりませんけど、数年後にはとあるアダマンタイト冒険者チームが来ることになりますので」

 

 

 その辺りは期待してますよ花嫁さん? まあ、来なければ来ないで構いませんけど。

 

 

 






アレーティア
スキルで聖騎士状態で参戦。〈神聖なる波動(セイクリッド・ウェーブ)〉は〈負の爆裂(ネガティブバースト)〉の逆バージョン。アンデッドは死ぬ。
ストレス発散しきれていないのである意味危険な状態。

ルミリア
骨の竜?アレーティア様謹製のマジックアイテムに勝てるとでも?で骨の竜を瀕死にした。カジットのバフが無ければ一撃で倒せていた。
(ユル)″は死と再生を意味するルーン文字なのでアンデッド特攻という形で採用。文字の位階的に言えば多分中位か上位。


カジット
今回最大の被害者。戦闘経験があまり無いからか後手後手に回って最終的に全てを失った可哀そうな人。ズーラーノーンの情報を全部吐かされる運命にある。

死の宝珠
回収済み。ナザリック貢ぎ物倉庫にIN。

相手の効果の対象にならない?じゃあ選んで発動します
コンマイ語。詳しくは決闘者(デュエリスト)が答えてくれる。



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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part4 〜私が暴力、貴女が智力で最強に見える〜


オバマスの新実装のラナーのデザイン凄く好き……。

今回アンケートありますのでポチッとしていただけると嬉しいです。


 

 

 早いもので私が辺境侯になってから二年が経ちました。しかし、それでも仕事が減ることなく多忙な毎日です。

 とはいえ、エ・ランテルは以前とは比べ物にならないほど発展しました。まだ完全とまでは行きませんが路上の整備は終わり、現在はラナーを迎えるために今のままの邸では少々見劣りするということで改築してもらっています。ドワーフの腕がいいので、より良いものが出来ると踏んでいます。今から楽しみですね。

 

 共同墓地の方もクアゴアによって大分安全になったんじゃないでしょうか。

 地下神殿は元からこの都市にいる神官の方々に確認を取った上で長らく放棄されていたので自由に使っていいという確認が取れたのでクアゴアの居住区として利用しています。

 昼間は人間との意思疎通や認識を共有するための講座として私が立ち合い、今後同僚になる帝都から派遣された騎士や魔法詠唱者、神官との交流をしています。

 当然、今はまだアゼルリシア山脈にいるリユロも招き、士族王から更に全体へと人間との付き合い方を広めてもらっています。

 

 なお、ここにはドワーフも招いています。当初は過去の諍いから険悪な雰囲気になりましたが、バカなことをしでかそうとしたクアゴアを一体素手で地面の染み(注:生きてる)にしてやってからリユロが頭を下げている姿を見てからと言うものの、友好とまではいきませんがそれなりの付き合いができるようになりました。

 やはり暴力、暴力は全てを解決する……!

 

 そして夜間は以前計画していた通り、共同墓地に発生するアンデッドの処理を任せており、見事にその仕事を果たしています。

 斬撃には強いものの殴打系の攻撃は普通に通るクアゴアですが、共同墓地で発生する下級アンデッド程度ならどうにでもなります。仮にデス・ナイト級のアンデッドや太刀打ち出来ない死霊(レイス)などのアンデッドが発生した場合は即座に夜間待機している騎士や魔術師、神官に連絡が行くようになっているので万全な態勢が整っています。

 

 今後、上手く融和が進めば夜の都市の警備もクアゴアに任せたいです。そうすれば日中は騎士たちが、夜はクアゴアが警備することで治安が守られますから。

 とは言え、課題が多いことには変わりないので時間をかけて進めるべき案件ですね。まだ二万程しか受け入れられてないので。

 

 

 ドワーフに関しては……仕事に関してはバッチリ。それに作業員不足があっても、インフラ整備の際に貧民街の住民を起用した事もあり、そのまま鍛治や彫刻、建築などの仕事を教えてくれていて、何人かはそのまま弟子入りしたという話を聞きました。

 この件に関しては、ドワーフの技術が受け継がれたという事で大変ありがたいことなので今後もお願いしたいところですが……。

 

 問題はここから、クアゴアとの対立なんかではなく私への接し方です。

 具体的には私の事を、鍛治神とか呼び始めた事ですね。神匠ならまだいいんですけど、鍛治神はやめて頂きたい……私ヘファイストスじゃないんですから。

 キッカケは……私の鍛治の姿を見てからですね。どのドワーフも──鍛治工房長も含め──私の技術を見逃すまいと瞬き一つしないまま見学し、その末に誰もが涙を流し私を讃え崇め始めました。本気でやめて欲しいです。

 その時作ったのはミスリル製の直剣。ルーンを五文字刻んだ一品でルーンを起動すれば風属性の追加攻撃が発生する代物で、私からすればまあまあな剣。

 今度クライム君にでもプレゼントしようか。……なんて考えていたところ、鍛治工房長からドワーフの国で是非買い上げたいと打診を受けたので売り払いました。

 その後も武具を作り続け一日を終え、ドワーフの感想会というか質疑応答の場を作り色々答えました。

 しかし、どれもこれも今のドワーフの技量を超えているので、全く参考にならなかったと思いますが……逆にそれが職人魂に火をつけた様で熱狂してました。

 そこから果ての頂に立つ存在、故に鍛治神と呼ばれる様になってしまった訳です、はい。やめて頂きたい。(二回目)

 

 正直、スキルでの職業レベル置換で身につけられた技術なので、本職の人に申し訳ない気持ちでいっぱいです。まあ、それはそれとして利用出来るものは利用するんですけど。

 それにユグドラシルのプレイヤーのガチ勢に比べれば雲泥の差ですからきっと!私データクリスタルとかユグドラシルのレア素材持ってませんしね!

 そんな後三年もしたらお役御免になりそうな称号ですが、もういいやと投げやりになってます。それでドワーフのモチベーションが保たれるならいいんです。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 某日、リ・エスティーゼ王国 レ・ロンテ城

 

 この日、宮殿会議が行われたがその空気は非常に重苦しいものとなっていた。

 理由は一つ。帝国の要求を呑まざるを得ない状況になってしまったからだ。

 

 エ・ランテル近郊を既に引き渡しているが、ここからは粛清騎士とガゼフの一騎打ちの結果要求される戦後交渉だ。

 なんとか不利な要求は呑むまいと抵抗していたが、遂にかの皇帝から『そこまで要求を呑みたくないなら仕方ない。不本意だが粛清騎士を筆頭に再び王都に向け侵攻しなければならないな』と言う書面が届いてしまい泣く泣く呑まざるを得なくなってしまった。

 当然、この事に負けたガゼフに責任を取らせるべきだと糾弾する貴族もいたが、そもそもガゼフを排斥したところであの死神──粛清騎士はどうにもならない。只々、王国の戦力を削ぐことになるだけだと当時の会議は荒れ、最終的に王の一声でガゼフへの処分はなくなった。

 

 帝国からの要求は多く王国政治への介入。帝国に何らかの被害を王国が及ぼした場合、帝国の人間が調査するための協力。交易における税の増加など多岐に渡り、どれも王国がやがて不利になる様に──賢しい者にしか分からない様にされているが──なっている。

 そして最後に書かれた要求。これがある意味で最も王の心を痛めることになった。

 

 

 第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフとエ・ランテルを治めることになった辺境侯との婚約。

 

 

 辺境侯という新たな爵位に就いた人物は誰か? 答えはあの粛清騎士。つまり、元々王族でも貴族でもない平民に王族を下賜しろと言う。この王国を侮辱する要求に王派閥、貴族派閥問わず怒りの声が上がった。

 

 ──だがその実態はと言えば……アレーティアの要求に、ジルクニフが折れただけ。そこまで考えが至っていなかっただけなのであるが。

 

 しかし、これを突っぱねたところで待っているのは破滅しかない。これには王も、断腸の思いでラナーを嫁がせるしか選択の余地はなかった……。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「と言う事で私はかの騎士……いえ、辺境侯の下へ嫁がなければならなくなりました」

 

「そんな……」

 

 

 ラナーの私室ではラナーを含め、七人の男女の姿があった。

 一人はこの部屋の主人であるラナー王女、その近衛であるクライム。

そして──ラナーの友人でありアダマンタイト級の冒険者チームである『蒼の薔薇』のメンバー五人。

 その最も親しい仲であるラキュースの顔は悲痛なものに変わっている。

 

「いくら何でも横暴すぎるわ。仮にも王族なのに、皇帝へ嫁ぐならともかく爵位を与えられた一介の騎士に嫁げだなんて……」

 

「……推測ですが逆を言えば、帝国は私を彼に与える事で忠誠を誓わせたいのでしょう。自分で言うのもなんですが、『黄金』と称されるだけの評判がありますから」

 

「ハッ、違いねえな!お姫様ぐらいの美人を与えられりゃ、そこらの男なんざより一層帝国のために働くだろうな。もしも王族の血が絶えれば必然的にお姫様と辺境侯……だったか?その間に出来た子供が王位を得ることも出来るだろ?帝国にとっては美味い話しかないね」

 

 戦士ガガーランの発言にラキュースは心を痛める。あの皇帝ならばそこまで考えているだろうと。

 このままだと王国は帝国に呑み込まれる。ただでさえ戦後、多くの貴族が死ぬことで貴族間のパワーバランスが崩れている。それに加え、六大貴族の一人ブルムラシュー侯の裏切りが発覚、他にも裏切り者がいるのではないかと躍起になっては、誰も彼もが粗探しをしている真っ最中。

 加えてそこに次期王位継承権を賭けた第一王子バルブロ、第二王子ザナックの権力争いまで加わり、上層部は地獄と言っても過言ではないだろう。

 

「ラナー様がその様な扱いをされる……!?」

 

「可能性は高いぜクライム。少なくとも今の王国じゃ帝国に逆らうことは出来ない。……いっそお前が攫っちまうってのはどうだい?なんだったら協力するぜ?」

 

「ちょっとガガーラン!」

 

「なんだよラキュース、冗談に決まってるだろ?……とは言え、これも一つの案だ。どうだいお姫様?」

 

 その眼は真剣そのもの。ガガーランなりにラナーに助け舟を出したのだ。

 ラキュースもそれを理解しているからか咎めはするものの止めはしなかった。

 

「そうですね……大変魅力的な案ですけどお断りさせて頂きます。これでも王族ですから、民のためにこの身を捧げなければいけません。私一人の犠牲で済むなら、それに越したことはありません」

 

 カップに注がれた紅茶を飲み、口を潤したラナーは少し困った様な、人によっては諦めた様な顔をしていた。

 それを見たクライムは、ラナーにより一層の忠義を尽くそうと心に決めた。例え帝国に利用されることになろうとも、ラナーの未来を必ずや守り抜こうと。

 

「ところでなんですけど、皆さんは私と婚約する辺境侯──粛清騎士様についてはどれだけの情報を持っているのですか?」

 

「そうね、私たちが聞いた話だと皇帝の右腕。貴族に対してなんらかの恨みを持っている、後は一人で帝国騎士団全軍に匹敵するとか言う……眉唾な話は耳にしたわね。

 他は貴女も知っている様に戦争での虐殺、戦士長ガゼフ様を一蹴出来る実力者、何らかの理由でマジックアイテムで素顔を隠しているとか……後、一番有名なのは暗殺組織であるイジャニーヤと、エ・ランテルに潜伏していた秘密結社ズーラーノーンの掃討ぐらいかしら?」

 

「改めて聞くとやべえな。イジャニーヤなんて特に」

 

 チラリとラキュースたちがティア、ティナへと視線を移すと少しばかり青ざめている姉妹の姿が目に入った。

 この姉妹はかつてイジャニーヤに所属し、ラキュースを暗殺すべく襲撃を仕掛けた敵だった。だが、その末に敗れ説得を受けた後、蒼の薔薇に加入した経緯を持つ。

 残るもう一人の姉妹はイジャニーヤの頭領として残留していると言う話は聞いていたため、この話を聞いて以来気には掛けていた。

 

「鬼ボス、アレと敵対するのは絶対にやめた方がいい」

「同意、暗殺出来ない」

 

「貴女たちがそう断言するってことは」

 

「少し前ティラから手紙が届いた。正直生きてるとも思ってなかった」

「内容は今は帝国の諜報部隊のリーダーを任されているって近況報告。それと──」

 

 

「「粛清騎士だけは絶対に敵に回すなって」」

 

 

「……お前達、すげぇ青褪めてるぞ。その手紙に書いてあったのってそれだけか?」

 

「……手紙にはイジャニーヤの拠点に襲撃してきた粛清騎士について書かれていた。多分バレたらティラの首もやばい」

「書かれていた事は詳しくは話せない。でも断言出来るのは粛清騎士の前に暗殺、潜伏は無意味。この前の戦争でも、騎士達に囲まれた皇帝を狙った暗殺者を誰もが気づかない中、一人だけ当たり前の様に見つけて殺したって話もある」

 

「だから敵対するなって事ね。……全く、戦争が始まる前に欲しかった情報ね……」

 

 この話を聞く限り、アダマンタイト級冒険者である蒼の薔薇でも粛清騎士には敵わないだろう。

 ──ただ一人を除いて。

 

「イビルアイ様はどうですか?何かご存知なことはありますか?」

 

「………」

 

 蒼の薔薇のイビルアイ、血のように赤いローブに仮面で素顔を隠した魔法詠唱者。その強さはこの場にいる全員を相手にしても問題なく──リグリットなどがいたら別だが──勝てるだけの強さと技量を持つ。

 そんな彼女が重々しく口を開く。

 

「私も、お前達が持っている情報以上の事は知らない。しかし、強さに関しては恐らくだが"神人"なる存在ではないかと思う」

 

「"神人"ですか?」

 

「ああ。かつて"ぷれいやー"なる存在がいたらしく、その血を引く者の中に時折強大な力を覚醒させるものがいた。法国では六大神の血を引き覚醒させた者を神人と呼ぶらしい。それだけの強さを持つならば十分考慮するに値する」

 

「因みに良い機会だから聞いておきたい。イビルアイなら粛清騎士に勝てる?」

 

「……実際に相対しないと分からない。だが聞く話だけなら〈飛行(フライ)〉の魔法で距離を取り、魔法を連射し続ければ勝てない事もないとは思うが」

 

「うわ、えげつない」

 

「リグリット達と囲んで、私をボコったお前たちが言う事か?」

 

 どっちもどっちでは?それがこの話を聞いたクライムの感想だった。

 その後しばらく歓談が続き、ラナーは最後にそもそもの目的であった事柄を口に出した。

 

「それで、一つ依頼したいことがあるんです」

 

「依頼?一体何の依頼かしら?」

 

「はい、実はもう来月にはエ・ランテルへ旅立つ事になりまして……国を出てからエ・ランテルへ辿り着くまで護衛をお願いできませんか?」

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 ──深夜の密談

 

「起動──粛清騎士様、今よろしいですか?」

 

『ええ、大丈夫ですよ。何かありましたか?』

 

「はい。王国の方は後一年程あれば、ゴミ掃除を終えれば綺麗にお渡しできるかと。もう私が裏で舵を切る必要もありません。後は暴走に身を任せるだけです。

 邪魔な『八本指』も拠点は掴みましたし、黒粉や奴隷もエ・ランテルへ密輸すると言う情報も得ましたので、後で書類を取りに来て頂けると」

 

『分かりました。頃合いを見て転移して例の場所に取りに行きます。それにしても流石ですね。貴女が本気になればこうも容易に場を整えられるとは』

 

「それはもう!私の願いが叶うんですから本気になるのは当たり前じゃないですか!それで、新居の方はどうなっていますか?」

 

『現在、ドワーフや建築家の力を借りて急ピッチで作成中です。()()()()()()()も用意出来ましたから安心してください』

 

「わあ! 嬉しいです! これでクライムとあんな事や、そんな事を……うふふ、毎日が楽しくなりそうで仕方ありませんね……!」

 

『流石に少し待ったを掛けさせてもらっても? クライム君も、私と貴女でそう言う関係にあると信じてもらうぐらいには信頼関係を築きたいので……』

 

「あ、いけませんね。ついつい欲望に身を任せてしまうところでした。それでは来月、蒼の薔薇の方々をお連れして、そちらへ嫁ぎに向かいますので宜しくお願いします」

 

『分かりました。来月を楽しみにしていますね』

 

「ええ、それでは」

 

 愛しい旦那様との〈伝言(メッセージ)〉が切れ、ラナーは天にも昇る気持ちになっていた。

 この二年間()()()()()()()()()()()()()結果、王国の派閥争いは貴族派閥が優位に立ちつつ、数だけは多い無能どもによって食い荒らされようとしている。

 その原因は戦争での敗北だけではなく、王派閥であったブルムラシュー侯の裏切りだった。それが発覚してからと言うもの、御し切れていなかった王派閥を攻める口実となっていた。

 ブルムラシュー侯は処刑され爵位、土地資産を剥奪。だがそれにも関わらず、アレだけ財をなしていたはずの領地には価値あるものは残っていなかった。オマケに領地の財源となっていた筈の、保有していた鉱山すら掘り尽くした後だったと言う話だ。

 ラナーは知っていたがこれは粛清騎士──アレーティアによって引き起こされた事態であり、王国の人間は誰もこの事実を知らない。

 これを引き金に、貴族派閥に必要のない貴族たちをメイドなどを使って誘導し次期王位をバルブロへと押し上げた。当然、ザナックやレエブン侯、王派閥の貴族がどうにか収めようと奮闘するも、勢いには勝てず日に日に追いやられていくしかなかった。

 

 更に裏組織『八本指』も、王国の支配を完全なものにすべく貴族派閥により深く関わり始めた。結果、今の王国は奴隷売買、麻薬の栽培販売などが横行してしまい、民がいたずらに傷つけられる悪しき時代へと突入しようとしていた。

 

 ──しかし、それも長くは続かない。

 

 近いうちに帝国と粛清騎士による、かつて行われた鮮血帝の粛清をも超える被害を出す大粛清が行われるのだから。

 

 自分の望みを叶えるために、対価として王国を差し出す。その王国が長い間民が苦しめられるのをかの騎士は望まない。

 なので短い間に最大の痛みを国民に与え、王国から帝国へと心を傾ける様にした。自分達を救ったのは、王国ではなく帝国だったのだと。

 

 

「うふふ、こんなにもやり甲斐があることは今まであったかしら?」

 

 かつては国のために様々な案を出してきたが、どれも誰にも理解されず心が死んでいくだけだった。

 それが今はどうだ?クライムというかけがえのない存在を手に入れ、自分という存在を認知し共に歩んでくれる理解者(同類)を得た。

 

 

 

 ああ、私は今満たされている──!!

 

 

 

 自分しかいないこの部屋で、ラナーはくるくる、くるくると回りながら踊り出した。

 

 





アレーティア
鍛治神になった(大嘘)
暴力は全てを解決した。ラナーの手腕に内心驚いていると同時にこれと同等の知能を持つアルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクターが数年後に現れることに改めて危機感を抱いている。
ラナーとの仲は非常に良好。

クアゴア
暴力で分からされた。力ある者に従うのは当然だよな!と思うことで種族の思考の統一を図った。
一先ずフロスト・ドラゴンのパワハラはどうにか回避できそうな雰囲気。
ドワーフとはそれなりの仲に。夜間の地下墓地巡回の際は帝国の紋章が入った腕章を着けた上に月の光で光る染色剤で身体に何本かのラインを引いている。

ドワーフ
アレーティア様マジ神!パネェ!?
クアゴアとか諍いがあったけどそんなことはどうでもいい。鍛治神の導きの下に。

エ・ランテル
ドワーフの影響か芸術、彫刻、建築、鍛治と多くの分野で働く人材が増えた。その内交易都市としてだけではなく、そういった面でも名を知らしめることになる。

ラナー
本気モード。願いを叶えるためならなんだってする。
アレーティアの意図も汲み取り最短、かつ最速で処理できる様に手を回したスーパーガール。
アレーティアという自分を理解してくれるある種の同類と出会えたのでものすごく喜んでいる。
なお、この世界線では奴隷売買禁止の法律は作っていない。

リ・エスティーゼ王国
末期。最早世紀末。
まともな貴族も残っているがバカと無能の声が大き過ぎるのとラナーのバックアップでどうにもならなかった。
バルブロが王になる一歩前。



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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part5 ウェルカム・トゥ・エ・ランテル


アンケート回答ありがとうございました。


エ・ランテル編は予定では後二、三話で終え、王都粛清編を終えた後にようやく原作合流する……はず(ガバガバプロット)




 

 さあ!遂にこの日がやって来ました!ラナーをエ・ランテルに迎える日です!

 かつての城を改築し、それなりに見栄えも良く、住みやすい物件になりました!お代の方は如何程かって?

 ドワーフには私の鍛治指導とお酒です。他の生活は元々面倒見てるんでそこまでって感じですね。

 他の作業員には勿論金銭を支払ってます。金払いだけはかなり良い方だと自負しています。

 

 

 とりあえず、ラナーを迎える前にやるべきことをやっておきましょう。

 

「各員傾聴!」

 

 私の号令で集めた騎士達、及び関係者一同が聞く姿勢になりました。

 これから迎える相手の説明に入ります。

 

「よろしい。これからアダマンタイト級冒険者チーム蒼の薔薇の護衛の下、王国より私の婚約者ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが来訪し、私の城に住むことになります。

 正式な婚姻はまだ先になりますが、私の婚約者ですので丁重にもてなす様に。

 それと同時に、王女達ての希望で王国から警護の兵士を一人迎えることになりました」

 

 この報告に騎士達に少しばかりの動揺が走りました。

 これより帝国の民となる元王女の警護は自分たちに任せてもらえるはずだった……と任される筈の仕事が、奪われてしまう事に対する憤りの様なものを感じました。

 

 確かに今の帝国騎士達の士気は高く、成果を上げれば上げるほどより給金も待遇も良くなり、私や四騎士、ジルクニフからの覚えも良くなれば次期四騎士も夢ではありません。

 この私の婚約者であるラナーの警護の任に選ばれれば、私からの覚えが良くなり出世に繋がると考えた騎士は多かったことでしょう。

 しかし、この様にラナーは専属の警護としてクライム君を連れてきてしまい、その希望が泡となって消えてしまいました。これは騎士達にとっては面白くありません。

 

「納得していない者が多いようですが、これは決定事項です。

 専属護衛を希望してのことですから、無下には出来ません。

 そしてここからが重要なんですが、その兵士を下に見る、バカにする、侮ると言った行為を発見し次第、その者は男女問わず『丸禿げの刑』に処すものとします」

 

 丸禿げの刑とは、私とルミリアがかつてボンクラ貴族の騎士に行った刑であり、文字通り一つ残らず全身の毛を毟り取り、衣服を剥いだ上で公共の場に放り出す尊厳の破壊を主とした刑罰です。

 私としては上から三つ目ぐらいに厳しい罰ですね。過去四度ほど行いました。

 

 それを知っている騎士達は一斉に「ええっ!?」という声を出していましたが、一体何に驚いているのか。

 逆にボコボコにされた方が嬉しいんですかね?

 

「理由を話せば──その兵士もこれより帝国の民となり、今後は兵士としてではなく騎士としても学んでもらうことになります。

 つまり貴方達の後輩になるのです。

 そして、全ての騎士の育成を任されている身としては──そう言った外部から来た者を排斥するような騎士は不要だなと

 

 ここで少しばかり〈威圧〉を発動。騎士達に殺気と間違えかねない圧力を与えます。

 

「勿論、贔屓しろとは言いません。新入り、見習いの騎士達に接する様な、ごく普通の当たり前の接し方をすれば問題ありません。いいですね?」

 

「「「「「「「りょ、了解しました!!」」」」」」」

 

 これで一つ懸念すべき点が無くなりました。

 仮にクライム君をラナーの前で貶したりしたら、間接的に死に追いやられますからね。それに比べたら尊厳を失う程度可愛いものです。

 

 それに今後、王国を併合した後の事や人間種以外との付き合いも出てくるので下手な偏見はここらで捨ててもらわねば。

 

 後は態々、この為だけに生まれながらの異能(タレント)を使ってまで得た魔法で──。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国の王家の紋章が施された、豪奢な造りの馬車がエ・ランテルに向かう街道を走る。

 その周囲には二人の姉妹ティアとティナ、上空には仮面を着けた魔法詠唱者イビルアイがおり警護を務めている。

 馬車の中には四人。護衛対象であるラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフとその従者であるクライム。そして、同じく中から周囲を警戒するのはこの護衛の依頼を引き受けた、アダマンタイト級冒険者チームである蒼の薔薇。そのリーダーであるラキュース・アルベルン・デイル・アインドラと戦士であるガガーランがそこにいた。

 

 

「いよいよエ・ランテルに近づいてきたみたいね。……ねぇラナー、今ならまだ」

 

「いいんですラキュース。ここまで来て逃げ出すわけにはいきません」

 

 最後の提案もあっけなく断られる。ラナーの決意は固く、ラキュースも引くしかなかった。

 馬車の中の空気が重いものに変わり、誰も口を開かない。

 そんな空気を嫌に思ったのか、それとも少しでも話題を変えようとガガーランが口を開く。

 

「……それにしても帝国領になってからエ・ランテルに来るのは初めてだな。あの粛清騎士が治める交易都市……一体どんな風になってるのか」

 

「そうね。あまりにも情報が手に入らなさすぎて不気味だったわね。

 まるで誰かが意図的にエ・ランテルの情報を封鎖している様に思えたわ」

 

 蒼の薔薇のメンバーはそれぞれラナーの依頼を受けてからと言うものの、エ・ランテルの情勢を掴むべく商人や、エ・ランテルに親類を持つ家庭、冒険者組合も含めて聞き込みや調査を独自に行なったものの、地下神殿に潜伏していたズーラーノーンと、野盗と化した傭兵団『死を招く剣団』の掃討と言った情報程度しか入手出来なかった。

 冒険者組合に至っては、エ・ランテルでの仕事が軒並み無くなったからと王都に移動してきたミスリル級冒険者チームが二つ訪れていた。しかしながら、王都の状況を見て再び別の都市へと出て行ったと言うニアミスがあったぐらいだ。

 

 よって、今のエ・ランテルがどういう政治が行われているのか全く分からない状況だ。

 もしかすると、粛清と言う名目で民を虐殺し弾圧している……なんて悪い想像をしてしまう。……いや、あくまであの戦争での被害とは関係ない筈だと、ラキュースは頭を振っては思考を飛ばした。

 

 そうしている内にエ・ランテルの城壁が見えてきた。自分たちの知識にあるエ・ランテルとはあまり変わっていない……かに思われた。

 

「な、なんだいあれは!?」

 

 馬車から身を乗り出しガガーランが声を上げる。

 見えた城壁は自分が知っている物とは、明らかに姿が変わっていたのだった。

 

「恐らくだが、城壁全体に何らかのマジックアイテムを大量に設置しているのだろう。

 ……一体どれだけの数を用意したんだ? アレだけの数、作るにも用意するにもとんでもない額の金が必要だぞ?」

 

 思わず思考が乱れる程度には驚いたラキュース達。イビルアイですら驚きを隠せなかった。

 その城壁には槍や弓の様なマジックアイテムの数々が設置されており、どの様に使われるかは不明だった。だが、エ・ランテルに攻め込むモノなら、アレらが一斉に起動して迎撃戦が始まるのは言うまでもないだろう。

 良く言えば有事に備えている。悪く言えばあまりにも過剰な戦力が常に外へ向いている。

 

 思わず身を固めてしまうが、それらが起動することはなく無事門へと辿り着いた。

 検問の手順なのだろう、騎士達が駆け寄っては馬車の紋章とラナーの顔を確認し、駆け寄った騎士達の一人が誰かに報告しに行く。『大変申し訳ありませんが、ここでしばらくお待ちください』そう別の騎士が声を掛けた後、馬車から離れていった。

 しばらく待つと、軍服を纏った女性が現れた。

 

「お待ちしておりましたラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ様。私、辺境侯より居城への案内を任されております。補佐官のルミリア・リイル・アーチゾルテと申します」

 

「初めましてルミリアさん。こちらは護衛を務めて下さった冒険者チーム蒼の薔薇の方々と、私共々お世話になる兵士のクライムです。どうぞよろしくお願いします」

 

「初めまして、クライムと申します」

 

「ああ、クライム君。これから同じ都市で働く間柄だ。よろしく頼むぞ」

 

 ルミリアとクライムが固い握手を交わす。蒼の薔薇のメンバーはこれを見ただけで、いくつか帝国への偏見はなくなった。

 何故かと言えば、王国ならクライムと──平民と握手をする様な人物はいなかったからだ。しかし、目の前の人物は名前から分かる通り間違いなく貴族の生まれだが、何の迷いもなく握手をした。

 これだけで、帝国に身分だけで偉ぶる様な人間はいないのだと感じてしまう。

 

「では、宜しければ蒼の薔薇の方々もこちらへ。辺境侯の下へ案内します」

 

「ええ、是非お願いするわ」

 

 

 

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 ◯

 

 

 

「おぉ……」

 

「凄いわね……ここまで活気があるなんて。今の王都とは大違いよ」

 

 ラキュース達は、八本馬(スレイプニール)の引く馬車に乗り辺境侯の住まいである居城へと向かっていた。

 八人乗りの大人数だが、用意されていた大型馬車は窮屈さを感じさせない造りになっており、少々手足を伸ばしても問題はない程度の空間が確保されていた。

 道中、馬車の窓から外を覗けば、人間だけでなくエルフやドワーフと言った他種族の姿も多く見られる。

 建物の建て替えのためか建築の音が聞こえてくるが、その音はこれからエ・ランテルが生まれ変わるのを祝福しているかの様にも聞こえた。

 道も綺麗に整備されており、揺れる馬車も造りがいいからか、それとも道がいいからか、殆ど揺れることなくスムーズな走りをしていた。

 また、住民達の表情に曇りはなく、とても活き活きとしていた。

 時折聞こえる声も弾んだものが多く、生活が充実している様にも感じられ、何だか心が洗われる様な気持ちになる。

 

「簡単に説明させていただきますと、現在のエ・ランテルでは交易だけでなく建築や鍛治、芸術などの文化にも注目が集まっています。

 中でもドワーフの方々へ弟子入りした者も多く、良い装備が手に入ると言うことで冒険者も多く訪れます」

 

「へぇ、良い装備ねぇ。あの城壁に設置されているマジックアイテムも売っているのかい?」

 

 ガガーランは少しばかり探りを入れる。

 情報は力だ。如何に知っておくかが冒険でも生死を左右するかを良く知っている。

 マジックアイテムは特に重要で、用途によっては窮地を脱することも可能なものがあるため、そう言うアイテムの情報は特に重要だ。

 

「ご覧になりましたか。城壁のマジックアイテムについては販売はしていませんが、あれらは全て辺境侯の手で作られたものです」

 

「なん……だと!?」

 

 蒼の薔薇だけでなくクライムも驚きの表情を浮かべる。唯一驚いていないのは──驚いている振りはしているが──ラナーだけだ。

 そもそもマジックアイテムはそう簡単にホイホイと作れるものではない。強力であればある程、作るのに時間がかかる。それ故に高価で取引され、重宝されるのだ。

 それを作れることに驚きはしないが、驚くべきはその作成量と速さ。三年程度でアレだけの数のマジックアイテムを作れるのは普通ではない。異常だ。

 イビルアイは特に二百五十年以上の時を生きているだけあり、その異常さをなおのこと感じている。かつて戦った仲間達にも、ここまで出来るヤツはいなかったと断言してもいい。

 

「驚きの様ですね。それも当然です。辺境侯は文字通り格が違うのです。それこそ一つ程度では足りません。あのフールーダ様でさえ、この速度でマジックアイテムを作ることは適いませんから。

 ……もしも辺境侯の作られたマジックアイテムをお望みなら、近日中に行われる競売会にて一品、目玉商品として出品されるそうなので参加してみてはいかがでしょう?」

 

「競売会……ですか?」

 

「はい。十日に一度、多くの職人や技術者などが自身の作品を公の場で発表し、それを商人達や冒険者が幾らで買うか金額を提示し合い、その額を競い合う販売会のことです。

 この場では様々な分野の物が売られます。そして、この場で買われたものは注目を浴び、場合によってはそこから商人と契約したり、仕事の依頼のキッカケになるので多くの方がチャンスを狙って参加します。

 この会のお陰で切磋琢磨する職人達が多く、新たな技術が生まれることもあり、職人達の集いはいつも賑わっています」

 

 クライムは内心興奮していた。今の王国では見られなかった賑わいがそうさせているのか。それとも、平民が公で活躍する場があると言う事実がそうさせているのか。

 どちらにせよ、この都市は平民にも優しい。まるでラナーの理想を体現した様な都市で既に居心地の良さを感じている。

 

「素晴らしい会ですね。しかし、その様な会でトラブルが発生することはないのですか?」

 

「ああ、それについては絶対にありません。まず参加するのに身元をハッキリさせないといけないので後ろ暗い者などはそもそも参加出来ません。

 万が一、窃盗、強奪、もしくは出品者への妨害など違法行為が行われれば……」

 

「行われれば?」

 

「私ら騎士か、もしくは辺境侯──この場合は粛清騎士が裁きにやって来ますので」

 

 ああ、と全員が納得する。

 あの戦争で万を超える兵士を殺し尽くしたかの騎士……辺境侯を誰が敵に回したいか。敵になれば間違いなく死ぬ。生きたければ不正を行わなければいい。

 その名と存在が抑止力となり、治安の向上にも繋がっているのを改めて実感した。

 

「他にも紹介したい場所など多くあるのですが、申し訳ありません。まもなく到着しますので、ご準備を」

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 辺境侯の住まいとされる居城に到着し、一行は入城後にルミリアの案内の下、廊下を進んでいく。

 廊下は大理石の様な鉱物で作られており、高級感を感じさせる作りになっている。その端々には、精巧な白磁の肌を持った人と見間違える出来の石像が飾られている。

 

「元々あった城を改築……というよりこれはもう新築だな。どこもかしこも魔法的守りが施されている」

 

「それだけじゃない」

「正門以外からじゃ侵入しづらい設計になってる。それに仮に入れたとしても……」

 

「そこの石像が動き出す、と言うところか?」

 

「その通りです。それも辺境侯が作られたゴーレム。下手をすれば私でも勝つことは困難な強さのゴーレムが侵入者を排除する様になっています」

 

 とてもゴーレムには見えないと思わせる程の精巧な造りだ。このまま動き出しても確かにおかしくはない。

 そして、目の前の女騎士──ルミリアを上回りかねない強さを持つ、と言うのはにわかには信じ難いが。

 

「……辺境侯は一体何者なんだ?騎士としての圧倒的実力、マジックアイテム作成、それにゴーレムまで……。いくら才能があってもそれが理由にはならないな」

 

 イビルアイの脳裏に"ぷれいやー"と言う存在が浮かび上がる。

 かの神人をも上回る存在ならばもしや……?

 思考の海に沈もうとしているイビルアイを見たラキュースは咄嗟に肩を揺すり意識を浮上させた。

 

 これから会うのは王国でも悪評しか流れていない危険人物。都市を見て半ば悪人ではないと感じているが、もしもの時に備えて──。

 

 そして、目的の場所へと辿り着き扉が開かれる。

 

 

「失礼します辺境侯。婚約者であられるラナー様と従者であるクライム殿。そして、アダマンタイト級冒険者である、蒼の薔薇の方々をお連れいたしました」

 

「ご苦労」

 

 

 ──そこに辺境侯を名乗る()がいた。

 白金の髪を肩まで伸ばした長髪に、目元を隠す怪しげなバイザーを着けている。

 身に纏う衣服は貴族の着る様な豪奢なものではなく、騎士達を率いるに相応しい風格を備えた軍服を身に纏っており、非常に似合っている。

 

 

「では挨拶を。私が辺境侯……いや、粛清騎士。

 ()()()()()()()()()だ。どうぞよろしく」

 

 

 

 






アレーティア
丸禿の刑の考案、実施者。下の毛も毟った。
居城の廊下に飾ってある石像はアレーティアのスキル〈中位ゴーレム作成〉で作られたゴーレム。
ギリシャ彫刻を思わせる出来栄えのゴーレム。詳細は後のキャラクター紹介で。
なお軍服を着ている理由は今後のため。主に動く黒歴史を作った人の心を射止められないかなー程度の願望。


アルス・ティアーズ
一体何ーティアなんだ……?


ラナー
計画通り(ゲス顔)
もうすぐ夢が叶うと内心はしゃいでいる。


蒼の薔薇
驚きの連続。次回、ラキュースに中二病の魔の手が迫る。


エ・ランテル
この時点で最早原作とは比べ物にならないぐらい発展している。
下手したら帝都を超える活気がある。
あまりにも発展しすぎてジルクニフは驚きで思考停止した挙句、山のような事後処理を押し付けられた。文官がもっと欲しいと胃痛と戦いながら、彼は今日も頑張る。



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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part6 〜庭園に蒼の薔薇を添えて〜


なんだか書くたび書くたび文字数増えていってる気が……。

話ごちゃついている感じがするんで後で修正するやもしれません。




 

 

 どうも、アルス・ティアーズです。

 

 ……はい、嘘です。アレーティアです。

 なんで男になってる……というよりTS転生してるんで前世からすると元に戻ってると言うのが正しいのでしょうかね? 今世ではかれこれ二十年程、女として生きているので最早男としての自分なんて忘れ果てていましたが。

 男になっているのは生まれながらの異能(タレント)で得た魔法、〈性転換(トランス・セクシャル)〉の効果ですね。

 効果は魔力を消費し続けている間、性別を反転する魔法です。〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉に似ていますが、こちらはあくまで性別を変えるだけの魔法なので、アレとは違ってデメリットは魔力が消費され続ける以外ほぼありません。強いて言うのであれば、性別指定の装備は身につけられなくなるぐらいでしょうか?

 

 なんで態々こんな事をしているかと言われれば、以前ジルクニフに男としての粛清騎士とアレーティアとしての粛清騎士を分けろと言われたからです。そこで、ダメ元で生まれながらの異能を使ったところ『性別そのものは変えられないが、一時的に異性に成る魔法を会得した』……と言う、答えが何処からか〈伝言(メッセージ)〉の様に聞こえてきて使える様になりました。

 余談ですが、ロクシーさんに披露したところ「男の状態で子を残す気はない?」と聞かれたのですが、あのクソ親父の様に種をばら撒くだけばら撒くみたいな無責任なことはしたくないのでやんわりお断りしました。

 そもそも今世の私の性別が女なのに男になったところでデキるんですかね?検証すれば分かりそうですけど、そんなことを検証したくないので永遠の謎になりそうです。

 

 そんなこんなで今は男として、もといラナーの婚約者としてのアルス・ティアーズとして帝国外部の人間とは接することにしました。

 

 あ、ラナーも少し驚いた顔をしていますね。以前会った時とは姿形だけでなく声も元の声よりは低くなっているので、大分印象が変わっているからですかね? すぐに表情を戻してしまったので、周りの人間は誰一人として気づいていない様ですが。

 

 

「王都よりよくぞ無事に辿り着かれました。今の王国は相当治安が低下していると聞いているので、心配していましたよ」

 

「ふん、心配していると言う割にはここまでの護衛を遣さなかったとはな」

 

 お、イビルアイが噛みついてきましたね。噛まれたら吸血されるんでしょうか? でも、イビルアイは普通の吸血鬼とは違うんでしたっけ……? よく覚えていませんが、今は関係ないので良しとしましょう。

 

「いえ、遣いを向かわせても良かったのですが、何しろ王国からすれば私は脅威そのもの。そんな人物の遣いをそう易々と受け入れることはしないのでは?」

 

「む、確かにそうだが……」

 

「それに、蒼の薔薇の方々とラナー様は個人的なお付き合いがあると聞いていたので、聡明な頭脳を持つ彼女なら貴女方を頼るだろうと思っていました。

 ああ、報酬金の方は私の方から支払わせていただきます後で冒険者組合の方に届けさせますので」

 

「いえ、それには及ばないわ」

 

 イビルアイに下がる様、片手で指示を出したラキュースが前に出てきました。

 アニメで見たドレス姿、正直言ってめっちゃ好きでした。冒険者としての姿も凛々しくていいんですけど、ドレスを着ている姿はまた違った雰囲気を感じさせて気の良いお嬢様って感じがして良いんですよね……。バニー服とか着てくれませんかね?え?それは別媒体で既にある?

 おっと、脱線してしまいました。

 

「ティアーズ辺境侯、その報酬金の代わりにと言ってはなんですが、いくつか聞きたいことがあるので答えていただいても?」

 

「……いいでしょう。ルミリア、彼女達を庭園まで案内してください。私も後から向かいます」

 

 何を聞きたいんですかね?エ・ランテルの情勢のことは多分ラナーに情報封鎖でもされていたから知りたいことが山程ある感じでしょうか?

 とりあえず、小難しい話になりそうなんで、どうせなら景色のいいところで話しましょう。

 

 

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 蒼の薔薇、ラナー、クライムが案内されたのは城を出て少し離れた場所に作られた庭園だった。

 なんでも、城を改築する際についでに周囲を取り壊した上で整備し、アルス自ら帝国やトブの大森林などから持ち込んだ樹々や花々を植えて管理していると言う。

 剪定された木々が並んだ並木道を通り、色とりどりの薔薇で作られたアーチのトンネルを抜けた先には、圧巻の美しさを誇る庭園があった。

 庭園の中心には円卓があり、先触れがあったのかエルフのメイド達が茶会の用意を整えていた。

 

「これはすごいですね。宮殿にも庭園はありましたけど、ここまで見事なものは……」

 

「もう何もかもに驚いてしまうけど、特にこの場所には力が入っている様に思えるわね……」

 

「お気に召していただけましたか?」

 

 唐突に背後から聞こえるこの場にいなかった人間の声に振り返れば、この場にいなかったはずのアルス辺境侯がそこにいた。

 

「驚きましたか?」

 

「そりゃあ、驚くだろ……さっきまでいなかった相手の声が後ろから聞こえればよぉ……」

 

「ふふっ、それでも即座に警戒態勢に入る辺り流石はアダマンタイト級冒険者ですね。

 さて、茶会の前に少し環境を整えますか……」

 

 アルス辺境侯が両手を上げれば突如、空にあった雲が一斉に霧散する。それだけでなく辺りの空気が心地よいものに変わる。

 

「これは……〈天候操作(コントロール・ウェザー)〉か? いや、それよりも上位の魔法か?」

 

「それって確か……」

 

「ああ、森祭司(ドルイド)が使えるという第六位階の魔法だ。つまり……」

 

 蒼の薔薇の面々は信じられない様な表情でアルス辺境侯を──粛清騎士を見つめる。騎士ではなく森祭司なのかと困惑の表情を浮かべ、もしも森祭司としてだけでなく騎士としての腕もあるならば戦争の活躍はおかしくないと思案する。

 それでも、最低でも第六位階の魔法を行使出来るという事実に只々、打ちひしがれる。

 粛清騎士は最早、英雄や逸脱者など遥かに上回っている。

 

 "神人"、"ぷれいやー"、かつてイビルアイが口にした存在こそ、彼に相応しい称号だと感じた。

 

 

「少々驚かせてしまった様ですね。いやはや使い勝手の良い魔法なのでついつい使ってしまいます。

 ささ、用意は整った様なのでどうぞお掛けください」

 

 アルス辺境侯は最初に卓に着き、隣に婚約者であるラナーを招き寄せる。席はルミリアとクライムを含めた人数分用意されていたが、クライムは身分が違う相手と同じ卓に着くのは失礼に当たるのでは、と躊躇った。

 それを見越してなのか辺境侯は口元に笑みを浮かべ──

 

「クライム君と言いましたか?貴方も掛けなさい。この度は無礼講です。それに──私は元々騎士故に身分などには囚われていませんから、安心してください」

 

「そ、そういうことでしたら、失礼します」

 

 ラナーの隣の席に着いたクライム。ようやく全員が卓に着き、頃合いを見計らってメイドエルフ達がティーカップを運び、それぞれの前に並べる。

 

「こちら、エ・ランテル領内の村で栽培されている茶葉を使用しています。お好みで砂糖とミルクをお入れください。また、軽食も用意しましたのでよろしければお召し上がりください」

 

 そう言いメイドエルフ達はアルスの後ろへ控える。

 警戒を解くためかまず先にアルスが、続いてルミリアがティーカップに手をつける。するとアルスは顔を顰めミルクと砂糖を躊躇いなく投入する。

 

「辺境侯……相変わらず口がお子様で」

 

「うるさいぞルミリア。私は甘いものが好きなだけだ」

 

 どうやらアルスは甘党らしい。そんな情報を何気なく手に入れてしまったラキュースはもし次来ることがあれば、何かしらの手土産に甘味を持ってこようと決めた。

 

「まだ警戒されている様なので、雑談でもしましょうか。

 この庭園、私の自信作なんです。帝国の一等地に屋敷を持っているんですが、そちらでは少々立地と屋敷の使い方からしてこうした庭園を作るのが難しくてですね。こうしてエ・ランテルを任されて城を改築する時にどうせならと、庭先を整備して作り上げたのがこの庭園です。

 あの辺りに咲いている花は、トブの大森林の奥地にいる森妖精(ドライアード)から貰った種から咲いた花なんです。香りも良く、香水なんかに使えば喜ぶ令嬢もいるんじゃないかと思うんですよね。

 ああ、蒼の薔薇の皆さんも女性ですし良ければ一人一本、お試しでお使いください」

 

 そうしてアルスは控えるメイドエルフに指示を出し香水を持って来させた。

 ラナーの分も含めて六本用意された香水はラキュース達に配られた。

 貴族令嬢であるラキュースは香水に馴染みがあり、どんな香りがするのか少し気になり少し振り撒く。

 すると、とても甘い、それでいて爽やかな香りがラキュースの鼻を通り抜けた。

 

「とてもいい香り……王国でも嗅いだことのない種類の花ね」

 

「トブの大森林の奥地まで行けるのは、それこそ貴女達アダマンタイトか最低でもミスリル程度の実力がなければ難しいですからね」

 

「それにしても森妖精って言ったか?ありゃモンスターだろう?どうやって仲良くなったんだ?」

 

「モンスター……確かにそうですね。しかし、彼らは獰猛なモンスターとは違い明確な知性がありました。なので人に接する様にごく普通に話しかけたところ、友好関係を築けたんです。

 今では彼らの知り合いである森妖精やトレントを、大森林近くの村に移り住むよう頼んでは協力してもらっています。

 お陰でこの二年で農作物の収穫量も大分増えたのはありがたいことです」

 

 冒険者であるラキュース達からは想像も出来ない話だった。

 確かに意思疎通が取れるモンスター──エルダーリッチなど──もいるが、大体は人間とは相入れず敵対関係になってしまうことが多い。

 そんな中で彼は友好的な関係を築き、あまつさえそれを利用し都市の繁栄に役立てている。とても王国では考えられない、いや冒険者でも想像すらしなかった話だ。

 

「彼らは日当たりのいい土地と新鮮な水を好みますので、水源が豊富な村で暮らしてもらってます。

 勿論、村の住民にも理解を得た上で暮らしてもらっています。

 後は……ああ、ちょうどあそこですね。この庭園の管理を任せている森妖精の一人があそこにいますよ」

 

 アルスの指差す方を向けば、確かにそれらしい小さな小人の様な影が見える。

 その影はこちらに気づくと手を振って挨拶し、消えていった。

 

「冒険者である皆さんに理解していただくのは難しいかと思いますが、帝国の方針として『有能なものは平民でも取り立てろ』と言うものがありまして、私はそれを拡大解釈しているだけです」

 

 この話を聞いたクライムは、まるで電流が走ったかの様な感覚に襲われた。

 有能なものは平民でも取り立てろ。言葉にするのは簡単だが、実行するとなると難しいことをクライムは知っている。自分が敬愛する主人、ラナーぐらいしかそんなことは出来なかった。

 

 しかし身分の影響で王宮では貴族出のメイド達、同じ兵士たちから嫉妬と侮蔑の視線を、時には嫌がらせを受けてきた。

 ラナーと宮殿を去る時、ようやく目障りな奴がいなくなったと陰口を叩かれたのも聞いた。

 これから帝国の一部となったエ・ランテルに来て自分がどの様な目に遭うのか想像しなかったわけではない。またあの様な扱いをされるのか、それとももっと酷い扱いをされるのか。

 クライムはラナーによって拾われた平民だ。やはり、帝国でも自分の存在は面白くはないだろうと思っていた。

 だからこそ、自分はどうなろうとラナーの安全だけは──たとえ辺境侯、粛清騎士に刃向かうことになろうとも、この身を挺して守ろうと決めていた。

 

 ──だが、現実は違った。

 エ・ランテルに生きる民は皆幸せそうだった。王国の、王都に住む民と違い活き活きとしていた。

 騎士達は自分の様な存在を受け入れた。自分より間違いなく身分が上の補佐官も「これからよろしく頼む」と言い握手まで交わしてくれた。

 クライムが生きてきた中で初めての体験だった。

 そして、平民でも取り立てろと言う、国のためならば身分すら問わないその考えにクライムは感銘を受けた。それを実現し平民だけでなく、人と敵対するモンスターにさえ手を差し伸べる辺境侯を信頼出来ると判断した。

 

 (ラナー様の婚約者がこの様な方で本当に良かった……)

 

 クライムは心の底から思った。

 もしかすると、この都市……帝国でなら、ラナーの理想が叶うかもしれない。

 同時にそれはクライムの夢でもあった。平民にも分け隔てなく優しい国。自分の様な、親のいない子供が生まれない国が、この場所でなら!

 

 

「クライム君?」

 

「ハッ!? な、なんでしょうか辺境侯様!?」

 

「いや、難しい顔をしている様だから、何か心配事でもあるのかと思って声をかけたんですが……その様子だと何か考え事をしていた様だね」

 

「も、申し訳ありません。この様な場でそんな」

 

「謝る必要はありませんよ。何せ私と言う存在は戦争に出るまで帝国外に情報が漏れない様、徹底して隠されていましたからね。

 そんな相手との茶会だ。何を考えているのか、どうしたら主人を守り通せるか、なんて考えをしていたんじゃないですか?」

 

「……正直に申しますと、それに近い考えをしていました」

 

「構いませんよ。まだ信頼も何も築けていないのですからお気になさらず。とはいえ、私の妻になるラナーの身辺警護を任せることになる君とは早めに打ち解けたいところですが」

 

 そう言う辺境侯は、まるで純真無垢の少年の様に笑った。

 

 

 ◯

 

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 ◯

 

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。何かお聞きしたいことがあるのでしょう?私の素性に関しては……申し訳ありませんがお答え出来ません。顔を隠しているのはイビルアイさんが顔を隠しているのと同じ、とでも思っていただけると幸いです」

 

 世間話から始まり、都市の運営、異種族との共存化などの話を終えようやくこの時が訪れた。

 蒼の薔薇は聞きたいことが山の様にあった。最も聞きたいことの一つであった彼の素性については前もって断られてしまったが、知られたくない理由が──今まで存在すら他国には隠されていたことから国家機密なのだろうと推測し──あると納得した。

 その上で、最低限聞きたいことを各々が問うという形に収まった。

 

「早速聞きたいんだけどよ……あのマジックアイテム、城壁に配備されたのを作ったのは辺境侯だって聞いたぜ?見たところ相当な代物だ。

 ……でだ、そんなアンタが競売会とやらで出品するマジックアイテムってのは、どんな物なんだい?」

 

 最初の口火を切ったのはガガーランだ。それはこの都市に着いてから道中の馬車内でルミリアが言っていた件について、ガガーランは気になっていた。

 マジックアイテム。それは冒険者にとって、生命線の一つだ。たった一つのアイテムが生死を左右することもある程に。

 それ故にガガーランは──他のメンバーもそうだが、辺境侯が月に一度出品すると言うアイテムに興味を持っていた。

 

「そうですね。買えるかどうかは他の方次第ですからお答えしましょうか。

 今回私が出品したアイテムは……ただの木刀です」

 

「……は?」

 

「ただの木刀です。魔力付与すらしていない、ただの──いや、素材自体はかなり希少性が高い木刀です」

 

「なんだそりゃ……マジックアイテムですらないのかい……」

 

 あまりにガッカリしてしまったが、それも仕方ない。

 いくら希少と言っても所詮は木製。精々訓練で使える程度のものだ。それにマジックアイテムでもないと言う。

 確かに刀という武器は南方にあると言う国から流れて来ない限りは入手困難な上、かなり強力な武器であるが木製という時点で劣ってしまう。

 これは期待出来ないな……と思ったところで辺境侯の手元を見れば、それらしい木刀が握られている。

 

「これがその木刀ですが……一足先に実演してみましょうか」

 

 そう言うと辺境侯は徐に立ち上がり、同時にメイドエルフ達とルミリアが動き出す。ものの数分で試し斬りに使われる石柱や盾、金属製の剣などが用意された。

 

「この木刀はただの木刀ではない……と言えばお分かりでしょうか?特にラキュースさんが食い入る様に見てますから」

 

「うぇっ?!」

 

 辺境侯──アルス、いやアレーティアは見逃さなかった。

 木刀を見た瞬間、その瞳をキラキラと輝かせたのを。アレは前世の──そう、修学旅行先の土産屋で売っている木刀を見た時の、少年の様な瞳だった。

 その瞳をアレーティアはよく知っている。自分もそうだったからだ。

 なので……

 

「……良ければラキュースさん、試しに持って振ってみますか?」

 

「えっ!?え、ええっと……その……いいかしら?」

 

「ええ、どうぞこちらへ」

 

 促されたラキュースは、少し顔を赤らめながらも辺境侯から木刀を受け取る──そして、その木刀の凄まじさを理解した。

 

 ──重い。下手な金属製の武具よりもずっと。

 魔剣キリネイラムを駆使して戦うラキュースにとってはそこまででもないが、木製とは思わせない程の重さがある。

 更に言えば非常に手に馴染む感覚がある。まるで昔からこの木刀を振って来た様な不思議な感覚に陥る。

 

「ではまずこの石柱から、その木刀で叩き斬ってください」

 

「お、おいおい木刀で石柱をってのは、武技でも使わないと流石に無茶じゃ……」

 

「行きます……ハアッ!!」

 

 ──スパンッ!!

 ラキュースが袈裟斬りに振った木刀は石柱に阻まれることなく、真っ二つに断ち切った。

 その切り口は、まるで名刀で斬ったかの様な鮮やかさを残している。

 斬った本人であるラキュースも、思わず「おおっ!」と声を上げてしまう程だ。

 

「う、嘘だろ!?」

 

「す、すごい!木刀なのにあの石柱を斬れるとは、流石アダマンタイト!」

 

「いやクライム。アダマンタイトでも流石に木刀で斬るのは無理があるから勘違いすんなよ!?」

 

「驚くのはまだ早いです。続いて、その盾と剣も」

 

 続けてラキュースは、盾と剣を構えるルミリアに向けて木刀を振りかぶる。

 一撃──盾がゴシャッと言う音を立てて潰れる。

 二撃──受けた剣が容易にへし折れる。

 

 ──唖然。この木刀を振るったラキュースが一番驚いている。下手をすればキリネイラムよりも、単純に攻撃力が優っているのではないかと思わせるだけの強さが、この木刀にはあった。

 

「す、すごい……木刀だと言うのにこんなに強いの?」

 

「私がとある伝手から入手した木材を加工して作った一品です。更に……魔化をしていないのは、この品を競り落とした人物の意向に合わせた作りにするから、と言えばお分かりになりますか?

 その人だけの、最強の木刀が出来上がるわけです」

 

 その話を聞いてなるほど、と納得する。

 ある意味冒険者にとって専用武器と言うのは夢だ。

 もしも競り落とせた場合、あの辺境侯自らが要望に合った魔化をしてくれると聞けば多少無理をしてでも手に入れたくなるだろう。

 そしてそれはラキュースも同様で──

 

「この木刀欲しいわ! いくらで落とせるかしら!?」

 

「ラキュース!?」

 

 見事、この木刀に魅入られてしまった。とある病持ちにしか効かない類の魅了である。

 

「この木材を原料とするアイテム持ちは、帝国ではある種のステータスになっています。故に、それなりに高額になるとは思いますので……ここではなく、懐と相談してから入札をお願いしますね」

 

 木刀をラキュースから回収し、後片付けをメイドエルフ達に任せ各々は席へと戻った。

 

「さて、そろそろいい時間ですしお開きにしたいと思うのですが……」

 

「最後にいいか?」

 

 口を開いたのはイビルアイ。ここまで静かに静観していた彼女は、ここまで辺境侯を観察した上でどうしても確認しておきたいことがあった。

 

 

「何でしょうか?」

 

「お前は……"ぷれいやー"か?それとも"神人"か?」

 

 一瞬、空気が凍りつく。

 聞いてはいけないことだったか。それとも核心に触れてしまったか。どちらにせよもう後戻りは出来ない。

 この確認はイビルアイにとって必要なことだった。少なくとも神人ならば何かしら法国と繋がりがあり、帝国に派遣されている戦力……それこそ六色聖典の一つ、英雄部隊の漆黒聖典の一員の可能性もある。

 もしそうだとしたらイビルアイの存在はバレればマズイことになる。確実に排除されるだろう。それだけはどうしても避けたい。

 答え次第では即座に動ける様に〈転移(テレポーテーション)〉の用意をする。

 そして──

 

「いいえ、違いますよ」

 

 あっけらかんと答えた。何を言っているんだと言わんばかりに。

 

「私はただ願っただけですから。誰にも負けないぐらいに強くなりたいと」

 

 そう答えた辺境侯のバイザーに隠された眼は真剣そのものだったと、不思議と思えた。

 

「さて、ではお開きにしましょうか。ああ、まだ宿が決まっていない様なら我が城へどうぞ泊まって下さい。部屋は余っているのでご安心を。

 それとルミリア、ラナーとクライム君を居室まで案内してください」

 

「かしこまりました」

 

「それではまた、競売会の日に会いましょう」

 

 

 

 こうして、茶会は終わりを告げた。

 

 

 

 

 





アレーティア=アルス・ティアーズ辺境侯
まあ分かりきっていた正体ですね。
TSを更にTSさせる暴挙。とはいえ性別変えてるだけなんで生殖機能はありません。
庭園はアレーティアのお気に入りの場所。自分で直接管理するし、庭師を雇い監理をドライアドにも任せている。
余談ですが仮に男として生を受けていた場合はエルフ国から出ずにデケム暗殺からのエルフ国統治ルートになります。そして法国を退けながらエルフハーレムを築くために奮闘するハードモード。

ラキュース
木刀の魅力に取り憑かれた。
ちなみに作者は木刀を買わなかった。でもドラゴンの剣と盾のアクセサリーは買った。
なお次回も競売会で厨二心を刺激させる予定。

木刀
素材はザイトルクワエの素材の端っこ。
ぶっちゃけただの在庫処理。でも素材が素材で、作ったやつが作ったやつなんでかなり強い。
ブレインやエルヤーの刀を受けて折るぐらいのポテンシャルはある。
装備時のボーナス効果はすごい。


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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part7 〜競売会と商人と蒼の薔薇〜



王国粛清編早く書きたい反面、エ・ランテル編ちゃんと書いておきたい気持ちがせめぎ合ってる……。

あ、今更ですけど章タイトル小分けにしてみました。これで読みやすくなるかな?


 

 

 蒼の薔薇は競売会が開催される日までの数日、この都市を散策することにした。まだこの都市の全てを知らないので、なるだけ多くのことを知っておこうと言うことだった。

 

 まずは冒険者組合に顔を出した。

 組合の依頼の数はそれほど多くないが、一つ一つがこの都市のためになる依頼で依頼人が辺境侯名義で随時募集となっている。

 仕事の内容は主に清掃や建築の手伝いなど、冒険者らしくないモンスターと戦わないものだが、それでも冒険者を目指す者には金銭を稼ぐと言う意味では良い依頼だろう。

 

 上位の依頼を見れば主に商人の護衛やモンスターの生捕り、特定の植物の採取などの依頼があり、中でも商人に関する依頼が非常に多い印象を受けた。

 聞けばエ・ランテルは現在商人達がこぞって集まり、市場や競売、路上販売などで多くの利益を得ているらしい。その仕入れの為、道中の護衛を依頼する商人が後を絶たず、上手い関係が築けた場合はそのままその商人がスポンサーになることもあると言う。

 ただこれは現状、この都市最高位のミスリル級冒険者チーム『虹』に限った話であり、他の冒険者はそこを目指して活動していると言う話だ。

 

「なんと言うか、冒険者組合は大分商人や職人に重宝されているみたいだな……。素材の収集や護衛の依頼が非常に多い」

 

「多分、モンスター退治自体は騎士団が受け持ってる」

「定期的に領内をいくつかの隊に分かれて見回りをしているらしい。それだけじゃなくて村一つにつき騎士や魔法詠唱者が数名常駐しているとか」

 

「王国じゃ絶対考えられないことね……。そんなことが出来るぐらいに人材は潤っている、と言うことかしら」

 

「いや、そうでもない様だぞ。これを見ろ」

 

 イビルアイが指差す方を見れば、それは依頼とは違い随時募集中と書かれた羊皮紙だった。

 手に取ってみれば『文官募集中!』と銘打ってあり、読み進めれば条件に合えば、という枕詞が付くが中々の高待遇で採用する……と書かれている。

 

「恐らく、戦力的には充実しているのだろうが、こう言った関連の手は足りていないらしい。こう言ったことは主に貴族や教養のあるやつがやることだったんだろうが、その数を減らしすぎてしまったらしいな」

 

 これはこの場にいる者は知らないことだが、アレーティアから更に仕事を押し付けられ、休む間が全くない程の忙しさに襲われていたジルクニフは『無能は無能なりに使い道があったな……。こうした面倒事を押し付けられたと言うのに』と遠くを見ながら言ったそうだ。

 流石に悪いと思ったのか、ジルクニフが兼ねてより希望していたアレーティアの手料理を食べて()()()()()()()()()()

 料理の支援効果のお陰で不眠不休で働き、効果が切れた頃にぶっ倒れたという。合掌。

 

「その穴埋めかは分からんが、平民向けの教育施設を建設中らしい。これは帝国にあると言う魔法学院の様なものだろう。ここから学のない者に知識を与え頭角を表せば引き上げる、と言う計画なのだろうな。

 そう言う面でも、王国とは平民の扱いが天と地ほどの差があるな」

 

 今の王国での平民の扱いはかつてないほどに酷い。貴族や八本指などの裏組織にいい様に使われては売られ、捨てられるディストピアと化していた。

 その現状をどうにかしようと、ラナーと共に奮闘したが結果は……。

 

「とりあえず競売会の日までは各々で散策しましょう。宿は……」

 

「黄金の林檎亭でも構わねぇけど、その競売会でどれだけ金が必要になるか分からねぇからな。ここはあの辺境侯さんの好意を受けて、城で寝泊まりするのも有りだぜ?」

 

「しかし借りを作ることになるぞ?」

 

「報酬の一つとして受け取ったって言えばいい。それなら借りを作ったことにはならねぇだろ。……尤も、あれだけの力を持つ相手が俺たちの力を欲するかどうか微妙なところだけどな。それにラキュースもお姫様の安全確認もしやすいだろ」

 

「ガガーラン、あなたそこまで考えて……」

 

 ラキュースがガガーランの心遣いに感激している中、同じく動揺していたティアがここで一言。

 

「脳味噌まで筋肉だと思ってたのに意外」

 

「おいティア!そいつはどう言うことだ!?」

 

「人の血は流れていないものかと思ってた」

 

「生まれてからずっと人間だよッ!」

 

 台無しである。

 とは言え、こうした冗談を交わせるのも彼女たちの仲が良い証拠なのだが。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 そして迎えた競売会当日。会場となる場所には多くの人が集まり列をなしていた。

 並ぶ人は高名な冒険者に始まり、周辺諸国でも力を持つ商人、更にバハルス帝国であの皇帝から重宝されている有力貴族など様々な人が見て取れる。蒼の薔薇もその中の一つだった。

 

「すごい人の数ね。皆競売会目当てなのかしら?」

 

「そうみたいだけど、それだけじゃない」

「入口で身元確認をしている。かなり徹底してる」

 

「ここまで徹底しているのは、犯罪組織などにここでの商品が流出しない様にしている、とか言っていたか?

 帝国は八本指と言った組織も警戒していると見ていいな」

 

 そうして待っていると列は進み、受付に辿り着いた。

 受付は数名いる様で、冒険者組合の受付と同じ様に女性職員が対応している。それだけでなく受付カウンターの手前には騎士が二人──街を巡回している騎士とは違った装いの鎧を身につけている──側に控えている。

 

「お待たせしました、蒼の薔薇の皆様。辺境侯様、及びルミリア様から話は聞いています。念の為、冒険者プレートの提示をお願いします」

 

 先にもルミリアが言っていた様に、この競売会には参加条件として幾つかの決まりがある。

 一つは身元の確認。冒険者であれば等級プレートとチーム名、個人の名前が必要だ。商人であれば商業許可証の提示と名前。貴族であれば貴族位の証明が出来る物と辺境侯からの招待状が必要だ。

 出品者だとまた提示する物は異なるが、この場では割愛する。

 

「これでいいかしら?」

 

 ラキュースが首に掛けているアダマンタイト級冒険者の証を見せれば「確認しました」と受付の女性が羊皮紙に何やら記入していく。

 

「では、会場に入場する前に入場料を頂きます。お一人につき銀貨五枚になります。ただ、今回蒼の薔薇の皆様は五人ですので入場料を割引きさせて頂きます」

 

 二つ目に入場料。入場するのに一人銀貨五枚の支払いが必要で、団体になると割引される。蒼の薔薇だと五人なので銀貨二十五枚──もしくは金貨一枚と銀貨五枚必要だが、一人分割り引かれて金貨一枚で済んだ。

 この入場料は後に、都市の治安維持や周辺の村々への支援金などに運用されると言う。

 

「お支払いありがとうございます。では、会場に入りましたら二階奥にあるVIPルームへお向かい下さい。

 そして、最後にいくつか会場での注意事項を説明させていただきます」

 

 ここまで来てまだ何かあるのか?と思いながら、これだけ厳重にする必要があると判断してのことだろうと納得し、説明を受ける。

 

「まず、会場内での魔法の行使、武器を抜くなどと言う行為は原則禁止です」

 

 ごくごく当たり前の注意だ。魔法に関してはあまり聞かないが、恐らく精神系魔法による妨害を懸念してのことだろう。

 

「競売会が始まり商品の説明や出品者の紹介の最中に、何かしらの妨害や野次を飛ばすと言う行為が確認された場合、こちらの判断で会場から強制退場していただく場合があります」

 

 これは商品にケチをつけて価格を下げると言った行為を防ぐためだろう。出品者も自分が作った商品、もしくは売る商品にケチつけられて値が下がったらたまったものではない。

 

「また、会場内で犯罪行為が行われた場合、その場で裁かれる可能性があることをご了承ください」

 

「ん? その場で裁かれるって言うのはどういうことだ?」

 

「この場には多くの有力者が居られますので、安全確保の為そう言った輩は即処すべし、と言う辺境侯様の命令です」

 

 ああ、と納得した。あの人物ならそう言いかねない。そう言う確信があった。

 

「本日は辺境侯様も出品者におりますので、その様なことは無いとは思いますが念の為です。

 後は競売時、当然ですが提示する金額は必ず払える金額内で提示してください。以前、なりふり構わず高額値を叩きつけて払えない、と言うことをした愚かな方がおりましたので念の為。

 問題がなければどうぞお進み下さい」

 

 ここに来てラキュース以外のメンバーは、あの木刀にいくら出すのか不安になりつつも、その時は自分たちが止めようと決意を新たにした。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 案内されたVIPルームはVIPと呼ばれるだけあり、商品が並ぶであろう舞台を一望出来る場所にあり、高価な調度品が用意されていた。

 各々が席へ着けば、スタッフが番号札を持って現れた。

 

「蒼の薔薇の皆様、本日は競売会へお越しいただきありがとうございます。わたくし、競売会の競売について説明に参りました。ティーチ・オークショナーと申します。まずはこちらの番号札をお持ちください」

 

 手渡された番号札には『06』と書かれていた。

 

「商品の説明が終わり、競売人が競売開始の合図を出した後、その番号札を掲げその商品に幾ら支払うかを提示していただきます。他のお客様と支払う金額で競っていただき、最後最も高い金額を提示した方がその値で落札、商品の購入という流れになります。

 また、受付でもご説明がありました通り、ご自身の懐財産を上回る金額を提示するのはご遠慮ください。

 大まかな流れは以上ですが何かご質問など御座いますか?」

 

「……一応確認しておきたいのだけれど、支払い金額が足りない場合は後払いでも構わないのかしら?」

 

「おいラキュース!?」

 

「い、一応よ!?流石にそんなことはないとは思うけれど一応ね!?」

 

 あたふたと慌てる素振りを見せるラキュースに、疑惑の視線が突き刺さる。正直言って今のラキュース程信用出来ないものは無いだろう。

 流石に自制出来るだろうとは思っているが……。

 

「そうですね、蒼の薔薇の皆様はアダマンタイト級冒険者と言う肩書きに加え、辺境侯婦人となられるラナー様と親交がありますので、辺境侯から支払いをお待ちいただける可能性は十分にあります。念の為確認して参りますので少々お待ちいただいても?」

 

「お、お願いします……」

 

 顔を赤らめ小さくなるラキュースを微笑ましい物を見たティーチはその場を去っていった。

 

「鬼ボス、そんなにあの木刀が欲しいの?」

「アレは凄い木刀だけど、鬼リーダーに合うとは思えない」

 

「そ、そうなんだけど……」

 

 それとなくティアとティナに諌められるが、それでも諦められない魅力があの木刀にはあった。

 アレを初めて見た時の高揚感が忘れられない。

 アレを握り振るった時の感覚がどうにも忘れられない。

 あの木刀に珍しく、年頃の少年少女の様にラキュースは執着していた。彼女自身もどうしてここまで欲するのか理解出来ていないが、理解せず感じるのがこの病気の特徴の一つである。

 

 

「おや、もしや貴女方はアダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇ですか?」

 

 振り返れば、そこには従者を二人、ラビットマンのメイドを連れた恰幅の良い、地肌が見える頭が特徴の男がいた。

 

「そうですけど、貴方は?」

 

「これは申し遅れました。私、帝国でしがない武器商をしているオスクと申します。高名な蒼の薔薇の皆様に会えて光栄です」

 

「蒼の薔薇のリーダーをしています。ラキュースです。ところで貴方も何か狙いの商品があるのですか?」

 

 ラキュースはこのオスクと言う男が武器商を名乗った時点で最大限警戒していた。もしかすると、木刀を狙ったライバルになるかもしれない、と。

 

「ええ、今日はあの辺境侯が作った武具が出品されると聞いて来ましてね。他にも高名なドワーフの工房で作られたルーン武器が並ぶとも。我々の様な商人には堪らない日になりそうです」

 

 和やかに答えたオスクを見据えたラキュースは、この時点で彼を競売会における最大の敵と見做した。

 

「ふふふ、今日はお互い良い日になれば良いですね?」

 

「ええ、本当にそう思います」

 

 

「……な、なあイビルアイ。お前見えるか?」

 

「……にわかには信じ難いが、それぞれの背後に鬼と巨人が見える

 

「流石鬼リーダー」

「流石鬼ボス」

 

 そうして互いに挨拶を終え、ティーチが『条件付きで支払いを一ヵ月程度なら待つ』と言う回答を持ち帰ってきた。

 ラキュースはとても良い笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 その後、開催までもうしばらく時間がかかるということだったので、ここ数日各自で集めた情報交換をすることになった。

 

 

「俺は市場で色々と見て回ってきたんだけどな、ルーンとか言う聞いたことのない技術で作られた武具が結構な値段で売られてたぜ。

 買いはしなかったが、少し興味を持ったな。イビルアイはこれについて何か知ってるか?」

 

「ルーンか。確かドワーフに伝わる技術だな。ルーン文字と言う魔法文字を刻むことによってその武器を強化する……所謂魔化の様な物だ。十三英雄の一人であるドワーフがその技術で作られた大地を激震させるハンマーを持っていたと聞いたことがあったな」

 

「そりゃあ、すげぇハンマーだな! そんなハンマーがあれば俺も欲しいもんだ」

 

「あのハンマーがどうなったかまでは知らないが、かつてはルーン武具が流通していた様だがある時を境にピタリと出回らなくなったらしい。その技術がこの都市で見られると言うことは、ドワーフの国との国交が再び始まったと言うべきか。あそこを見てみろ。VIP待遇のドワーフがいる」

 

 イビルアイの言う方を見れば確かに豊かな髭を蓄えたドワーフが数人、酒を飲みながら競売会の開始をまだかまだかと待ちわびている姿が見えた。

 服を見るに中々高価な物を着ているので、それなりに身分の高い人物なのだろう。

 

「彼らの国はアゼルリシア山脈の何処かにあると言うが、一体どうやってここまで来たのか……」

 

「それについては私たちが調べたけど、月に何度かドワーフたちが入れ替わると聞いた」

 

「入れ替わる?」

 

「そう。ドワーフに酒を奢って聞いたけど、この都市に移住したドワーフ以外は定期的に本国に帰るらしい。そして、帰ったドワーフと同じ人数がこの都市でまた働くって聞いた」

 

「なんでそんな無駄なことを?」

 

「ドワーフの国ではエ・ランテルでどうしても働きたい理由があって、その一つが辺境侯」

「辺境侯が武具やマジックアイテムを作るのを間近で見た上で、色々教えてもらえるらしい。神にも等しい腕を持つ辺境侯に、その技術を伝授して貰いたい工匠があまりにも多いから、定期的に交代しているとか言ってた」

 

 ここに来て新たな事実。どうやら辺境侯の技術は最早ドワーフの更に上を行くらしい。

 その情報にイビルアイはますます混乱した。確かにマジックアイテムを作ることが出来るとは言っていたが、まさかそこまでとは思ってもいなかった。

 この前の質問に、辺境侯は自らを神人でもぷれいやーでもないと断言したが、そんな訳ないと考えている。

 そうでもなければ、最低でも第六位階の信仰系魔法が使え、魔法無しの武技のみで万を超える兵を殺し、ドワーフをも超える鍛治の腕を持つなど信じられない。

 イビルアイはあまりにも底が知れない辺境侯に対し恐怖に近い感情を抱いた。

 

「イビルアイ大丈夫?」

 

「ん……ああ、大丈夫だ」

 

「なら良いんだけど。今度は私ね。私はあの後、この都市にある騎士たちの訓練場へ案内してもらったわ」

 

 エ・ランテルのとある一角は騎士たちの詰め所になっていた。そこからそう離れていない場所には帝都にある闘技場に近い建物が建築されており、ここが訓練場とされている。

 中に入れば騎士たちが鎧を着ながらひたすらに走っている姿や、武技を習得するための特訓、集団で二組に分かれて模擬戦などをしている光景があった。

 このエ・ランテルにいる騎士達は()()()()()()()への加入を夢見て、全騎士を預かる身である辺境侯──この場合は粛清騎士の下で研鑽しているということだった。

 

「それでルミリアさんに、『別途で報酬を支払うので良ければ手合わせ願えませんか?』って頼まれたから──」

 

「受けたのか?」

 

「ええ。ルミリアさんと模擬戦をして、その後は希望する騎士達数人とも。それで分かったのは、この国の騎士たちはそこらの冒険者なんか目じゃないぐらいに強いってことね。ルミリアさんなんかは特に」

 

「まさか負けたのか?」

 

「いいえ、負けはしなかったけれど……正直危なかったわ。彼女が攻撃に回っている間は防戦一方で、まるで何人もの戦士に同時に攻撃されている様だったわ。

 結果的に連撃が途切れたタイミングで〈太陽光(サンライト)〉を使って視界を奪ってからの反撃でどうにか倒せたけれど……。

 後は一般の騎士も、冒険者で言えば最低でも銀級。中には金級、もしくは白金級の実力を備えた人もいたわ。」

 

「そりゃあ、この都市の冒険者の数が減るわけだわな……」

 

 冒険者の強さは概ねその等級ランクで判断出来る。

 冒険者の大半は新人の銅級。それなりに強い鉄級。そして、訓練された一般の兵士と同格とされる銀級。一国の精鋭兵と同等ともされる金級。ここまでが冒険者の大半を占める。

 ここから上位に白金級、ミスリル級、オリハルコン級、アダマンタイト級があり、この四つに当たる冒険者は全体で見て二割いるかいないかとも言われている。級だけに絞って見ればアダマンタイトなどチーム数で見れば両手で数えられる程度しかいないだろう。

 

 そんな中、帝国の騎士の強さは白金に手が届きかけている者がいる時点で、相当に高いものと推測出来る。

 そんな騎士たちがこの都市を巡回し、都市外でも定期的に村々を巡り、モンスターを適度に討伐しているため、冒険者のモンスター討伐依頼は減少の一途を辿っていると言う。

 

「それと……辺境侯とも手合わせしたわ」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

 ここに来て更なる爆弾が投下される。辺境侯とも戦ったと言う、とんでもない爆弾が。

 

「丁度、ルミリアさん達と手合わせを終えて、そろそろ離れようかと思っていたんだけど、そこに辺境侯が現れて……」

 

「で、手合わせしたと。はぁん、そりゃあ運が良いのか悪いのか……。で、どうだったんだ?」

 

 するとラキュースは悔しそうな表情を浮かべ、ギュッと両手を握っていた。無意識なのか、ラキュース自身はそれに気づいた様子はない。

 

「……相手にもならなかったわ。私が何度も、幾度となく攻撃をする中であの人は傷一つ負わずに防ぎきったわ。その上、私は彼の剣が見えなかった……。気づいたら後方に吹き飛ばされてたわ」

 

 ラキュースは強い。英雄級の実力を身につけ、法国の特殊部隊の隊長を相手にしても退けられる程に。

 しかし文字通り相手は格が違った。それ故に起きた悲劇だった。

 

「しばらく呆然として……思わず泣いてしまったの。そのせいかしら、周りの騎士達が慌てふためいてたのは」

 

 その光景を想像する。

 外部から来た英雄に近い強さを持った人物が、頼まれて模擬戦をした後に、真打ち登場とばかりに絶対に敵わない相手と戦わされ、せめて胸を借りるつもりで自分の持つ全てを出し切った結果掠りもしなかった挙句、一撃で倒されてしまったのだ。

 ここまでされたら、大抵の人物は心がへし折れるのではなかろうか?

 それを危惧した騎士達はどうにか持ち直してもらおうとフォローに徹した。あのルミリアでさえも。

 

「そうしたら、辺境侯が私の首根っこを掴んで立たせて……もう一度吹き飛ばされたわ

 

「「「「なんで!?」」」」

 

「根性が足りないって……それでもアダマンタイトかって……」

 

 それからラキュースが語ったのは、今日に至るまで騎士達と共に辺境侯の指導を受けていたからだと言う。

 時に投げ飛ばされ──時に叩きのめされ──時に吹き飛ばされ──時に暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)を弾き返され──時に地中へと埋まったりもしたが、良い経験だと思い込んだ。思い込まないとやっていられない地獄だった。

 しかし、確実に地獄を耐えた分の実りはあった。

 

「貴方達も時間があったら訓練を受けてみると良いわ。

 なんて言うか……一つ限界を超えた様な、そんな感覚があったわ」

 

「そ、そうかい。次の機会があったら考えておくわ……」

 

「……もしかして鬼リーダー、進化した?」

「これからは鬼ボスじゃなくて悪魔ボスと呼ぶべきか……」

 

「どう言うことよ!?私は神に仕える神官戦士よ!」

 

 

 そんな一幕があり、イビルアイが自分の報告をしようとしたタイミングで──

 

 

 

「お待たせしました。本日はお忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。

 本日、競売人を務めさせていただくソーリィ・ホライゾーと申します。

 今日も新たな職人、新たな商品との出会いを楽しみながらご参加ください!」

 

 黒髪の嗄れた声を上げる男、ソーリィが開催の挨拶を終えいよいよ競売会が始まった。

 

 

 

 






ラキュース
鬼!悪魔!ラキュース!!
訓練場に行ったが運の尽き……騎士たちと同じ地獄を体験した。
その結果、レベルアップして英雄の領域に完全入門した。
シレッと仲間を地獄に引き摺り込もうとしている。
木刀のためなら大金も惜しくない。


イビルアイ
辺境侯、コワイ。
後に語られるが、蒼の薔薇のメンバーで唯一クアゴアに接触している。


オスク
武王のオーナー
武器商人かどうかは不明だが武器も扱うということで何卒……
アレーティアと直接交流があるのでエ・ランテルにおける物流の三割程を任されていて、かなり大儲けしている。
ちなみに闘技場の方は巨王と氷王が武王の座をかけて激戦を繰り広げていることで有名。決着は未だに着かない。

ティーチ・オークショナー
ソーリィ・ホライゾー
オークション編のみの登場オリキャラ。
覚えなくても問題なし。

騎士達
受付に控えていたのは帝国騎士団ではなく、アレーティア直轄の鮮血騎士。アレーティアの訓練を受けた後、とある適性を見出された者が所属する。(例:ルミリア、レイナース)
それ以外は帝都の騎士団目指して研鑽を積んでいる。
アレーティアの扱きが地獄だが、逆に期待されている証拠とされているため案外耐える者が多い。
ある一定のレベルまで強くなると都市外の巡回を数名で組んだチームで行い、モンスター狩りを行い経験を積む様になる
そしてその中で優秀な者は村に派遣され駐在騎士となる。一部は飛ばされたと比喩されるかも知れないが、むしろ栄転でここで成果を上げればゆくゆくは爵位を与えられ土地も与えられると言う話。


アレーティア
キリネイラム欲しい。
それはそれとして、ラキュースをボコった上に強化した張本人。
まだマウント取って顔面ボコボコに殴ったりしないだけ温情がある。……温情とは?
騎士団が八軍から十軍に増えているのは領土が広がって以前の数では足りないと判断したため。
エ・ランテルにいる騎士たちが実質九軍、十軍に当たる。
粛清騎士団については少数精鋭とだけ。在籍しているのは騎士だけではない。

余談ではありますが、仮にアレーティアが王になった時の優秀度は部下に恵まれている状態でジルクニフ以上、ラナー未満。
部下に恵まれていないとドラウディロンと同等かザナックより上ぐらいの設定。
魔法とタレントでゴリ押し脳筋政策が始まります。


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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part8 〜蒼と青の邂逅~


通算UAが遂に五十万突破しました!
ありがとうございます!

今後もコメントや高評価などいただけると励みになります!



 

 

「これ以上はいませんね?……では、金貨三十枚で落札です!」

 

 競売会が始まり、競売人であるソーリィ・ホライゾーの商品紹介や話の上手さ故か、次々と商品が落札されていく。

 美術品に始まり、武具やマジックアイテム、調度品や中にはこんな物何に使うんだ?と言う珍妙な品もあったが、それも巧みな話術で魅力を引き出し、入札者が後を絶たない。

 

「……やはり彼は上手いな」

 

「ご存知なんですか?」

 

 思わず隣のVIP席にいるオスクの呟きが気になり声をかけてしまう。

 

「ええ、彼は元々帝国で魔法詠唱者として上を目指していたそうなんですが……どうやら才能が無かったらしく、魔法省を去ってからは腐っていくのを待つ日々だったそうで。

 しかし、元々ああ言う会話が上手い人で、それを活かして商人として生きていくことを決めたそうなんですよ」

 

 よくあることだ。自分の目指す夢が、理想が、自らに才能が無いが故に諦めざるを得ず、そして腐っていく。もしくは足掻きに足掻いて、そして現実を突きつけられるか。

 そんな中で、現実と折り合いをつけて活躍出来る人がどれだけいるだろうか。ソーリィ・ホライゾーはそうして這い上がることが出来た数少ない人間なのだろう。

 会場での彼は拡声魔法で会場全体に声を届け、商品に関しても幻術を使い多くの人の目に映る様な工夫がされている。

 如何に才能がないと言われようと、自分に出来ることを最大限活用する彼の姿は誰よりも眩しく感じた。

 

 

 

『続きまして……おや、これはエ・ランテルでは知らない方はいないでしょう。現在、カルネ村へと住まいを変えられたンフィーレア・バレアレさんからの出品です!』

 

 予想もしていなかった有名人の登場に会場が盛り上がる。ンフィーレア・バレアレ、彼はエ・ランテルでポーション作りに勤しむ薬師であり、その生まれながらの異能は彼の名以上に知られている。

 そんな彼が一体どんな品を出品したのか誰もが興味が尽きない。

 

『さて、ようこそンフィーレアさん。早速ですが最近ご結婚なされたとか?』

 

『は、はい……念願叶って……その……』

 

『これはめでたい!めでたいですよ〜!私からもお祝いを……と思ったんですが、あいにく私のポケットには銅貨どころか塵すら入っていないのでお渡し出来ないのが歯痒い……!

 その代わりと言っては何ですが、競売の方を頑張らせていただきます。それで、お持ちの商品は?』

 

『あ、はい。これです』

 

 ンフィーレアが取り出したのはポーション。しかし、ただのポーションではなく、色は淡いピンクでどことなく蠱惑的な印象を受ける。

 

『おや?これは綺麗な色のポーション、ですかね?皆様ご存知か分かりませんが、元来治癒のポーションは青い色と相場が決まっていますが、このポーションをご覧ください。そう、色が違うんです!ピンク色のポーションは見たことありません。これだけでどんな効果があるのか、おじさん気になっちゃいます』

 

 ソーリィの語りに観客は目の色を変える。蒼の薔薇もそうだ。ポーションは冒険者にとっても生命線の一つになる。治癒のポーションが最もポピュラーだが、他にも身体能力を強化するポーションなどもある。

 そして明かされたそのポーションの効果は──

 

 

 

『えっと……精力向上効果が……』

 

 

 

 蒼の薔薇のポーションへの興味は消え去った。

 反対に会場内は大いに湧き立った。

 

『せ、精力向上ですか!?ひょっとして男女問わず効く……?』

 

『あ、はい。元々は僕用に作っていたんですけど……』

 

『あー、なるほど!これは幸せのお裾分けですね!実に羨ましいです!』

 

 

「……あんな物も売られるのね」

 

「競売会的にはアリなんだろ……貴族連中は欲しがるぞ。だからここで商人たちもンフィーレアとなんとしてでも繋がりを持ちたいから落札する気満々だろうな」

 

 貴族は自分の家の血を残す義務がある。その為、ああ言う精力剤などには目敏い面がある。子孫が残せなければ家が無くなってしまう恐れがあるからだ。

 ──尤も、この都市には子孫を残そうとも、後ろ暗いことをしようものなら容赦なくその家を物理的に潰す死神たちがいるのだが。

 

『ただ、作るのに特別な素材が必要で数に限りがありますので、今回は僕が使った残りの二本を出品させていただきます』

 

『特別な素材……これは秘匿情報ですねぇ。ちなみに今後は出品するとしたら何本出品になるご予定で?』

 

『そうですね……素材の入手周期と製作時間なんかを込みで考えると、大体四ヶ月毎に最大十二本になるかと思います』

 

『なるほど!貴重な情報ありがとうございます。では、このポーション二本の入札開始値は……金貨十枚から!さあ、皆さんの夜の生活を彩ってくれるかもしれないポーションに、貴方はいくら出しますか!?』

 

 

『金貨十五!』

『金貨二十枚だ!』

『三十出すぞ!』

 

 あっという間に開始値から三倍もの金額に跳ね上がる。更に値が上がっていき六十枚まで駆けて行った。

 金貨六十枚からはしばらく声が上がらず、ここで打ち止めかと思われた。

 

『金貨六十枚!現在【69】の札の方が最高額です!他の方いませんか?もう締め切りますよ〜?』

 

 

 

 

 

 

『金貨百枚』

 

 

 

 

 

 

 

 空気がざわついた。ここに来て一気に突き放す金額を提示したのは──『92』の札を持ったラナーだった。

 

 

「ラナー!?」

 

「アイツあんな所にいたのか。あそこはVIP席ではないんだろう?」

 

「あそこは基本的に辺境侯が利用する席でございます。この会場を上から全て一望出来る特等席でして……」

 

「ああ、なるほどな……」

 

 イビルアイはティーチが言わんとすることを大体察した。辺境侯は恐らく会場全体を俯瞰することで犯罪行為や違反行為を見逃さない様にしているのだろう。下手なことをしようものなら即座に降ってくる。

 あの場所にいると言うことはラナーは公的に婚約者として認められ、入籍することが確定したことを示す意味合いもあるのだろうと解釈した。

 

 

『き、金貨百枚!これ以上はいませんか!?……いない様なので金貨百枚にて落札!おめでとうございますンフィーレアさん!』

 

『あ、ありがとうございます!』

 

『さあ今回買えなかった皆様も、次の出品に備えて金貨を貯めておくことをオススメしますよ。あ、今日使う金貨は抜いていってくださいね?』

 

 会場が笑い声で僅かに震える。ソーリィの小粋なジョークはこうした空気を弛緩する役割を果たし、続く商品へと移る。

 

 

「それにしてもラナー大丈夫かしら?持って来たお金から捻出してるんじゃないわよね……」

 

「流石に辺境侯が出してるだろ……夫婦間での問題だぜ?」

 

「それにしたってこんなに早くから精力剤なんて、あの王女様意外と大胆」

「辺境侯って意外と淡白なのかもしれない」

 

 思わぬところで辺境侯への風評被害が生じるが、辺境侯──アレーティアは元々女性なので実質ノーダメである。

 

 

 そうして幾つもの商品が売れて行き、その中には冒険者にとって有用なアイテムもあったのでガガーランやイビルアイが落札した。

 そして──ラキュース目当てのアイテムが遂に舞台に現れた。

 

 

『お待たせしましたぁ!!皆様、本日の目玉商品であるエ・ランテル領主であるアルス・ティアーズ様が作りし至高の作品が今ここに!』

 

 会場がこの日一番の熱狂に包まれた。誰もがこの時を待っていたのだとばかりに歓声を上げる。

 過去、何度か競売会に出た辺境侯の商品はどれも既存の物を遥かに上回る物ばかりだった。マジックアイテムも、調度品も、武具も、芸術品も何もかもが。

 中でも一際際立ったのが水晶で出来た花束だ。茎から葉、花弁にかけて全てが水晶で出来ており、一つ一つの花の種類は異なっており、それでいて本物と見間違うほどの精巧な造りだった。

 一体どんな手法で作られたのだと疑問に思わずにはいられない程の出来映え。水晶で出来ている為この花束は永遠に枯れることなく、その場を彩り続けることだろう。

 この花束の競売は荒れに荒れた。商人も貴族も関係無く互いに金貨で殴り合う様な熾烈な競売だった。結果的に個人で購入するのではなく、幾人かのグループで集まり資金を出し合うことにより、この花束はなんと()()()()()で落札された。

 それからと言うもの、辺境侯の出す品々は全て最低でも金貨百枚で落札されている。辺境侯の素晴らしい作品を買えば他の貴族への自慢になるのと同時に、逆らう気はないと言う恭順の証にもなるとは言ったものだ。

 

 

『この度の作品は……こちら、木刀です!』

 

 

 しかし、今回はある意味想定外の品だった。熱狂した会場が一瞬シンとする。現状興奮を隠せないのは内情を知っているラキュースぐらいだ。

 

『皆様、こちらの木刀はそこらの木刀とは違います!この木刀の元になっている木材は帝国でも希少と言われている入手困難なザイクトロル樹より作られております!この木材で作られた長机や椅子は以前この競売会でも金貨百二十枚で取引されたのは記憶に新しいです』

 

「えっ!?そんなに!?」

 

 思わず焦るラキュース。それだけの素材で作られているのだから、あの木刀もそれぐらいか、それ以上の値がついてもおかしくはない。

 念の為、ラキュースは今持てるありったけの金貨を持っている。その数およそ二百枚。実家に帰ればまだ自分が自由に使える金はあるが、この場にはない為、辺境侯に借りを作ることになるが支払いを待ってもらうしかない。

 

「そして、こちらの木刀ですが私が振らせていただきましょう。この木刀を使えば……せいっ!」

 

 ソーリィが木刀を木剣へ叩きつける様に振れば木剣はバキン!という音を立ててへし折れる。

 観客はその光景に目を剥いた。何せ木刀を振ったのは元魔法詠唱者で現在商人のソーリィだ。戦士の様な屈強な肉体を持っているわけでもなく、むしろ肉体的には一般人と何ら変わらないはずにも関わらず、木刀は木剣を難なく叩き切ったのだ。

 

『ご覧ください!見ての通りこの硬さ、この木刀には傷一つ付いていません!それだけではありませんよ!今度はこの石柱も……よいしょっ!』

 

 これもラキュースの時同様、呆気なく砕き割る。ラキュースの時スパッと切れたのは戦士職を持っていたからだろう。

 しかし、デモンストレーションとしてはこれ以上ない効果を見せた。

 

『石よりも硬いこの木刀、護身用にも持ってこいです!アルス様からの紹介によれば、熟練の戦士にもなれば鉄をも断つとのこと!しかし、刃は付いていない為手入れは不要です!

 そしてなんと!この木刀、まだ魔化されていません!アルス様より、落札した方の要望に応えた魔化をさせて貰うと言うお言葉をいただいております!そう、貴方のための、貴方だけの木刀になるのです!』

 

 これには大歓声が──ほぼほぼドワーフによるものだが──上がり、会場内のボルテージは最高潮だ。

 対してラキュースは顔が真っ青になっている。落とせないかもしれないと。

 

「……ね、ねぇ皆。ちょっとだけでいいから」

 

「ラキュース、その先を口にすれば私はこのチームを抜けるぞ」

 

 言い切る前にイビルアイからバッサリと切り捨てられる。ガガーランもティアもティナも口にはしないが、同じ気配を漂わせている。

 ラキュースも流石に自分の我儘でチームが崩壊するのはゴメンだと思い、何よりそう言わせてしまった自分を激しく叱責することとなった。

 

「ごめんなさい、私冷静じゃなかった……」

 

「気にするな……と言いたいところだが、敢えて言うのであればもう少しリーダーとしての自覚を持ってくれ」

 

「ええ……」

 

 

『それでは、これから入札を開始します!では金貨五十枚から!』

 

「金貨二百枚!!」

 

「おいラキュース?!」

 

 しかし欲しいものは欲しいのだ。持ちうる金銭全てをオールインしたラキュースにもう退くと言う考えはなかった。

 あるのはあれが欲しいと言う欲望だけ。神官騎士としてどうなのだろうか、と思わずにはいられないが若気の至りと言うやつに違いない。

 

『おおーっと!『06』の番号札を持つ方がいきなり金貨二百枚の提示!さあ、他にはいらっしゃいませんか!?』

 

「金貨二百十」

 

「なっ!?」

 

 ラキュースが声の方を見れば、VIP席ではない席で『35』と書かれた札を掲げた男がいた。青いボサボサした髪に無精髭を生やした男──身体つきをを見るにかなりの腕を持った剣士がラキュースの木刀を奪おうと立ちはだかった。

 

『今度は二百十枚!これ以上はいませんか?』

 

 ラキュースは悩む。欲しい、あの木刀が喉から心から欲しい。しかし、ここで無理してまで手に入れる必要があるのかと一瞬冷静になった頭が思考する。

 どうする?もう時間がない。ここで声を上げれば木刀は間違いなく私の──いや、あの男が更に金貨を出す可能性はある。確実ではない。ではどうするべきか?諦めるか?しかし──。

 

 ラキュースの脳はフル回転し一秒が数時間にも感じられた。そして何度も何度も考え考え抜いた末に──。

 

 

 

 

 ラキュースは木刀を諦めた。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

『競売会も終わりの時がやって来ました。この度も様々な品に出会えた方、そうでない方もいるかもしれません。しかし、この出会いがやがて──』

 

「お、おいラキュース泣くなよ。な?手に入らなかったものは仕方ないだろ?」

 

「ひっく、ひっく……うぅ……」

 

 ここだけの話だが、辺境侯に叩きのめされた時以上に泣いている。それだけ欲しかったのだろう。

 あまりにも子供っぽい泣きざまにイビルアイも何も言えない。むしろ、こんなのにボコられたのか……なんて思っていたりする。

 

 競売会が終わり会場を後にする。目的であった競売会も終え目ぼしいアイテムは購入出来た。ラナーの護衛の依頼も終えた今、この都市に留まる理由はなく王都へと帰ることになる。

 しかし……

 

「……良い都市だったな。今の王国なんかよりもずっと」

 

 思わずそう言ってしまうぐらいにはこのエ・ランテルは過ごしやすく、居心地がいい場所だった。それは今活動拠点にしている王都と比べてしまったからかは分からない。

 

「そうだな。私もそう思うぞ。王都のゴタゴタが片付いたらこっちに拠点を移してもいいと考えるぐらいにはな」

 

 あのイビルアイですらそう考えるだけの都市。ここまで活きた都市を見ると王国に魅力を感じなくなるが、それはそれだ。王国はラキュースの故郷でもあり、彼女も貴族令嬢としての生活もあるため、そう簡単に拠点を変えるわけにはいかないのだが。

 陽が落ち月が昇ろうとしている。出発は明日にして今日は休もうと部屋を借りている辺境侯の城へと歩を進めた。

 

 

 

 

「お、アンタか『06』のVIPさん。顔合わせるのは初めましてだな」

 

「あ、貴方は──!!」

 

 更に辿り着けば、そこにはラキュースにとって因縁深い相手──木刀を落札したあの青髪の男がいた。

 先程とは違い武装している辺り、同業者かと思ったがラキュースに思い当たる人物はいなかった。

 

「アンタ、王国の御前試合で見たな?確か戦士長と互角に渡り合ってた……ブレイン・アングラウスだったか?」

 

「ほう、知っているのか」

 

 ブレイン・アングラウス。かつて王国で行われた御前試合にて、決勝で王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角の戦いを繰り広げ敗れた戦士だ。あの戦いは伝説と呼ばれ語り継がれている。

 

「アンタ程の男があの御前試合の後姿を消したって聞いて、何処で何をしていると思ったら、まさかこんなところで出会うとはねぇ」

 

 ガガーランもあの御前試合には参加していた。ガゼフとの戦いで敗れてしまった為、直接の対決はしていないがその実力は十分に知っていた。そして、目の前にいるブレインはその頃よりもかなり強くなっていることが見て取れた。

 

「いや何……思いがけない出会いがあってな。今はここで雇われているって訳だ」

 

「雇われている……?まさか!」

 

「そう、俺は今アレ……アルス辺境侯に雇われてる訳だ。色々条件込みでな」

 

「ブレイン、戻っていたのですね」

 

 城の中から辺境侯が姿を現す。傍にはラナーとクライムもいた。

 

「ああ。仕事帰りだ。帰りがてら競売会に参加して……アンタの作ったコレ、落としたから俺専用に仕上げてくれ」

 

 片手で持っていたソレを辺境侯へ手渡す。気安い間柄のような話し方をしているが、それを咎めるようなことを辺境侯は言わない。

 少し驚いた様に見えた辺境侯はソレを受け取り、虚空から何やら道具を取り出す。

 

「仕様は?」

 

「アンタに砕かれた刀以上で頼むよ」

 

「ああ、あの刀。望みならあの刀以上の大業物でも作ってあげるというのに」

 

「そいつも良いかもしれないが……今はこれでいい。これ以外にも貰った武器があるからな」

 

 そう言うブレインの腰にはマジックアイテムと思われる直剣がぶら下がっている。その魔力量は恐らくキリネイラムを上回っている。

 

「はい、終わりましたよ」

 

「え?もう?」

 

「私を誰だと思っているんですか?」

 

 そう言った辺境侯の手には先程とは明らかに違う木刀があった。存在感が増しており、魔化された影響か強大な魔力を感じる。この木刀は最早木刀と呼ぶことすら痴がましい程に。

 

「名付けるのであればそうですね。魔樹の根(ルート・オブ・イヴィル)などどうでしょう?」

 

「随分物騒な名前だが……まあいいだろう。って、なんだぁ!?」

 

 魔樹の根を受け取ったブレインを凝視──否、羨望の眼差しを向けたラキュースがそこにいた。それはまるで、商店で売られている宝剣やマジックアイテムを見つめる冒険者志望の子供の様な姿だった。

 

「……いいなぁ、魔樹の根」

 

「いい加減にしろラキュース。お前にはキリネイラムがあるだろう」

 

「でも「いいなぁキリネイラム…」えっ!?」

 

 今度はキリネイラムをジッと見つめる辺境侯がそこにいた。それはもう、羨ましそうに。

 

「アルス、そろそろ」

 

 そんな辺境侯をラナーが窘める。少しばつの悪そうな顔をして目を伏せてから、んんっと咳払いをした。

 

「すいません、少々欲望が前面に出てしまいました。さて、蒼の薔薇の皆さんも競売会が終わったことですし近日中にはこの都市を去られるのでしょう?

 折角なので食事を一緒にと思ったのですが、いかがでしょう?()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうかしら?しばらく皆にも会えなくなってしまいますし……」

 

 嘆願する様にラナーが見つめてくる。

 確かに、数日この城に滞在したがラナーと顔を合わせるタイミングはほぼ無く、明日旅立とうとしている身としては今日が最後のチャンスであることは確かだった。

 王国の今後を考えれば次この都市に来れるのはいつになるか分からない。ならば、友人の願いを無碍にせず受け止めるべきだと判断した。

 

「そうね、ご一緒させて貰おうかしら?皆は?」

 

「いや、俺は遠慮しておくぜ。友人同士の語らいを邪魔する気はないよ」

 

「私たちも遠慮しておく」

「同意」

 

「そうだな、私もまだ少し行きたい場所があるからな」

 

「そうですか。ではラキュース様、案内させますのでどうぞ」

 

 後から現れたメイドエルフ達が先導し、案内されるままにラキュースとラナー、クライムの三人は城の中へと消えていった。

 残ったメンバーもそれぞれ別行動を取り、夜が更けていった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「それで、目標は達したんですか?」

 

「そりゃあ俺がここにいることが証明だろ?苦戦はしたが……なんとかなった。ティラのヤツにも感謝しないとな。俺だけじゃああのイカれ女は仕留め切れなかった」

 

 私はブレインとティラと数名の部下にズーラーノーンの拠点への襲撃を任せていました。

 〈観測衛星(オブザベーション・サテライト)〉で居場所は丸分かりだったので、後は人員と襲撃のタイミングを合わせるだけの簡単なお仕事です。(アレーティア談)

 

 ブレインが何故ここにいるかというと、以前エ・ランテル近郊を根城にしていた野盗に落ちぶれた傭兵団こと死を招く剣団を掃討した時に出会ったからですね。シャルティアが襲撃を仕掛けた時と同じ様に。

 

 ようやく見つけた将来の有望株ですから、念入りに叩きのめしました。

 〈領域〉と〈神速〉を合わせた奥義〈秘剣虎落笛〉を指先で押し止め、〈八光連斬〉を叩き込み刀を砕いた後はボコボコにした上で強制的に連行しました。隠し通路なんて使わせません。

 

 その後の野盗はルミリア含む騎士団に任せました。性欲処理用の女がいると教えれば、その場にいる女騎士達も怒り心頭で全員捕らえた後に股間を踏み砕いたり、刺したり、火炙りにしたりと中々過激なことをしたと報告がありましたが自業自得と言うやつです。なんならその後、拠点の洞窟が再利用されないようにと、私の作ったマジックアイテムで徹底的に破壊して地形が変わったという報告もありましたが些細なことです。

 

 そんなこんなでブレインを連行した後は、私がガゼフより上だと言うことをこれでもかと言うぐらい身体に教え込み服従させました。

 ただ私も鬼ではありません。ブレインのガゼフを超えたいという想いは知っているので、私が師になり鍛えることを条件に部下になると言う形になりました。ガゼフとヴェスチャーのような間柄ですね。

 

 そして、今回与えた任務はズーラーノーンの掃討ですが……この拠点にはあのクレマンティーヌがいました。クレマンティーヌと言えばあのガゼフを超える強さを持つ戦士。本来のブレインならば良い勝負が出来ても勝てる見込みは無いはずでしたが、今の彼は私がみっちり鍛え上げただけあり、見事勝利して帰ってきた様です。

 

「よくやりました。……そろそろ挑むのですか?」

 

「いいや、まだだ。まだアンタから教わっていないことは山ほどある。それを自分のものに出来てから……俺はアイツに挑むさ」

 

「そうですか。では私は厨房に行きますので、しばらくは自由にしていてください」

 

「はいよ。折角だし俺もあのガガーランとか言う戦士と話してみるかね。もしかすると、何か掴めるかもしれないな」

 

 向上心のある人は好ましいですね。原作であのコキュートスに認められたブレインはこれからどう成長していくか。

 ……今度は原作同様にクライム君に関わらせてみようかと悩みながら、厨房へと向かいました。

 

 ちなみに出した料理は大好評でした。

 あのラナーも目を見開いて無言で味わうほどに。フッ、勝ったな。胃袋は掴んでやりました。

 

 





ンフィーレア
原作より早くエンリと結ばれた。
描写していないものの、アレーティアと知り合い神の血と呼ばれる赤いポーション作成に力を入れている。
カルネ村に生息するドライアドやトレントなどの植物系モンスターから採取出来る素材で今回のポーションは出来上がった。
夜はいつも負けてる。

ラキュース
木刀買えなかった。でも諦め切れない。
キリネイラムと引き換えにアレーティアが新しい武器をくれると言われたら、多分死ぬほど迷う。
蒼の薔薇ルートだとキリネイラムをアレーティアに貸してあげたりする微笑ましい光景が見れたりする。

オスク
木刀に入札しなかったのは抱えている剣闘士に合う武器ではなかったから。彼が欲しい武器は実際に使われた武器なのでコレクションでも使われなければ買わないのではないかと言う作者の解釈。
ガガーランのファンなのに絡みが無かったのは推しの前だと委縮してしまうタイプのファンだと思ってください。

ラナー
その精力向上ポーション誰に使うの?と聞かれればアレーティアには『二人』とだけ答える。

ブレイン
原作から超強化。現時点でズーラーノーンクレマンティーヌと互角。つまりノーマルガゼフは超えている。
シャルティア相手に心折れたのに、アレーティア相手に折れていない理由は相手が人間種だから。この身でもあの高みに届くと信じて彼は今日も剣を振るう。
鮮血騎士のメンバーの一人。

魔樹の根
元木刀。ブレイン専用仕様になっていて、更にルーンまで刻まれた。起動すると伸縮する。

クレマンティーヌ
枠外で死んだよ!
強化ブレインと天上天下武装ティラの前には敵わなかった……と言うより天上天下の装備見た瞬間に、法国にバレたと内心焦りまくった結果の敗北でもある。死体はティラが帝国に持ち帰っている為、蘇生されることはない。

アレーティア
地味に錬金術師の職の経験のため、ンフィーレアとも交流を持っている。カルネ村への移住を薦め、村の発展のため結構な額を投資した。
水晶の花束についてはWEB版にこんなのあったなと思い、趣味がてら作った。あまりにも高く売れたので次は宝石で作ろうと考えている。
ちなみに木刀はラキュースが落札すると思っていたので、ブレインに渡された時は素直に驚いた。
食事を振る舞った後にラキュースに、剣に巻き付いた竜をイメージして作った金製のアクセサリーをプレゼントしている。ぶっちゃけ土産屋で売ってる少年の心を掻き立ててやまないアレ。



忘れかけていた中二心を取り戻そうと、「陰の実力者になりたくて!』を全話見た結果、どハマりしたので次回更新遅れるかも……?
アトミックと〈大厄災〉どっちが被害としては上かな……とか考えたりしてます。


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アレーティア辺境侯のエ・ランテル統治part9 〜闇夜に輝く黄金と白金、朱の雫と○○〜 【改訂版】


前回の粛清騎士団→鮮血騎士へと変更しました。

4/5 追記 内容加筆修正しました。文字数大分増えてますのでご注意を。今後はこの様なことがない様に努めます。




 

 

 蒼の薔薇の皆さんが王都に帰ってしばらくして、私とラナーは夜の寝室で対面していました。

 

 

「概ね計画通りと言ったところでしょうか」

 

「そうですね。それにしても、まさか粛清騎士様が性別を変えられるとは思ってもいませんでした」

 

 〈性転換(トランス・セクシャル)〉はかなり便利な魔法です。顔は王の相のせいで晒せませんが性別を偽るだけでも法国の目は誤魔化せます。奴らの目は節穴ですからね。

 

「仮にも夫婦になる関係なんですから粛清騎士などと他人行儀な呼び方ではなくアルス、二人きりの時はアレーティアと……まあ呼びやすい様に呼んでください。

 それと、この〈性転換〉はあまり何度も使用したくはないんですけどね。本来の性別時より等身が変わって調整が面倒なので」

 

 具体的に言えば男の時の方が身体がやや大きく、筋肉質になるんですよね。不思議と軽戦士職の動きが馴染む感覚もあり強化される反面、慣れすぎるとあまり良くないと感じてます。

 

「でもそのお陰で貴方も表立って動けるようになった。そうではないですか?」

 

「全くその通り。とは言え、変わらず顔は晒せませんけど」

 

「面倒ですね。その辺りは……法国が無くならないと無理ですか?」

 

「多分……少なくともあのクソ親父が討たれるか、法国がエルフを目の敵にしなくなるまでは難しいでしょうね」

 

 最近も法国の息がかかった人間をチラホラ見かけます。その都度、元イジャニーヤこと帝国暗殺部隊に調査させた上で始末してますけど。

 中でも元頭領、現暗殺部隊隊長兼鮮血騎士(ブラッド・ナイト)の一員のティラにあの不審者こと漆黒聖典十二席次の装備を貸し出してみれば、見違えるほどに隠密性が増してかなりの成果を上げてくれました。

 流石は法国のアイテム、とここだけは褒めてあげます。

 

「……いっそ、内乱を起こして滅ぼしてみます?」

 

 あ、これマジで言ってますね。情報を与えたら直ぐにでも取り掛かりそうな勢いを感じます。

 デミウルゴスやアルベドに匹敵する頭脳ですから、数年で滅ぼせそうなのが怖いですよね。ナレーションで滅んでそう。

 多分、百年の揺り返しのこととか話したら周辺諸国にその情報ばら撒いた上で国民に扇動家を仕向けて……とかやりそうです。

 いや、私程度の頭だとこれぐらいしか浮かびませんが、ラナーならもっと水面下で動いて気づいた時にはもう……みたいなこともありそうですね。

 

「まだやめておきましょう。法国には残りのズーラーノーンの拠点を潰してもらいたいですし、帝国としては法国に対して強く出られる切り札を何枚か握っていますから。そのうち、ジルクニフが行動を起こすでしょう」

 

 法国への交渉材料として、一つは漆黒聖典十二席次の死体。

 二つ目に十二席次の装備。

 三つ目に法国の裏切り者のクレマンティーヌの死体。

 四つ目に盗み出された叡者の額冠

 五つ目にズーラーノーン高弟の一人であるカジット・デイル・バダンテールの身柄。

 ざっと思いつくだけでも、これだけの手札があります。しらばっくれようにも、どれも法国にとって始末、もしくは回収したいものばかり。特に装備と額冠に関してはなんとしてでも回収したいでしょうからね。

 これを回収するために六色聖典を派遣しようものなら私自ら撃退する手筈になっています。

 額冠と死体が保管してある場所は帝国魔法省の地下、デス・ナイトを捕らえてある階の更に下の階層。いざとなればデス・ナイトを解放して戦わせるのも有りですが……そう言えば最近フールーダが支配に成功したと泣きながら報告してきましたね。アレを使うのは極力避けましょう。フールーダに恨まれたくありませんから。

 

「皇帝ですか。私としても彼は優秀だとは思うんですけど、今は多忙ではないですか?文官も足りていない様ですし、この前は遂に倒れたと聞きましたけど」

 

「それは半分私のせいだからなんとも言えないんですよね……」

 

 アレは本当に予想外でした。支援効果付きの料理を振る舞ったら丸一日ぶっ通しで政務してぶっ倒れるなんて誰が思うか。支援効果も丸一日保つものじゃなかったのに……。

 

「なのでラナーも手伝ってくれません?私書類仕事苦手なんで」

 

「さり気なく私に押しつけようとしていませんか?」

 

「いや、私がやりたいことを確実にやるなら、私より頭が良い人に任せれば安心じゃない?」

 

 なんのためにラナーを味方に引き入れたと思ってるんですか。こういう面倒ごとも全部やってもらうために決まってます。

 

「最初に言ったじゃないですか?帝国の繁栄に協力してもらう代わりに貴方の願いを叶えてあげるって」

 

「王国を帝国に併呑出来るなら、と言われた記憶がありますが?」

 

「その前に貴方を欲した理由を加味した上で貴方は乗ったでしょう?同意したも同然ですよ」

 

「それは……もうっ!」

 

 ラナーが頬を捲れて怒ってますね、可愛い……じゃなかった。

 でもこれ演技ですね、分かります。世界最高峰の頭脳を持つ彼女がこんなことに気づかない訳ありませんし、私のことを試して遊んでいるんだと思います。

 

「はぁ……分かりました。私は貴方の妻になる女ですから、この都市も、帝国になる王国のことも貴方のやりたい様にやるのをサポートしますよ。

 でも、分かってますよね?私の願い」

 

「話が分かるようで助かります。ではこの鍵を渡しておきます」

 

 取り出したのはとある一室の鍵。何が起きても誰にも感知されない様にと作った隠し部屋への鍵です。これはラナーの要望だったので頑張りました。一体何に使うんでしょうね?(知らんぷり)

 

「あ、一応言っておきますけどクライム君とまぐわうのはもうしばらく待ってください。彼との信頼関係を築き、同僚になる騎士達にも受け入れられる様になって、王国との戦いで手柄を立ててからにしてもらいたいです」

 

 クライム君に私の代わりに子供を作ってくれと言うのは簡単ですが、そこに信頼関係がなければ、ただただ不審なだけでラナーを蔑ろにしているとしか思われません。

 あの純朴なクライム君とは良好な関係を築いた上で、手柄を立ててもらい「君だからこそ頼みたい」と真摯に頼めば受け入れてくれるはずですから。

 

「そうですね、先日の競売会で思わずこのポーションを買ってしまいましたけど、少しばかり早すぎましたね」

 

「アレはちょっと驚きましたよ」

 

 競売会で精力向上ポーションが金貨百枚と言う超高額で売れたのをンフィーレアとソーリィから聞いた上で落札者がラナーだと聞いた私の衝撃と言ったら……。性急過ぎだと思わずにはいられませんでしたね。まあ、原作でも王国滅亡してからすぐにお互いの初めてを交換しましょうね、なんて言う女なんで納得と言えば納得なんですけど。

 

「ちなみに粛清騎士様はご経験はお有りで?」

 

「無いの知ってて聞いてます?」

 

「いえ、男になれるのならもしかしてそっちの方は──」

 

「すいませんラナー、この話題は禁句で。あまり気分がいい話題ではないので」

 

 あー、嫌なこと想像しちゃいました。ロクシーさんの時はそう言うのは無かったんですけど、どうしてでしょう?

 多分ですけど、無意識下でそう言うことがクソ親父に結びつくんですよね。

 いくら男になれた……もとい戻れたとしても、自分の子供を幸せに出来るのか。自分が子供を持ってもいいのか。

 そんな思考が頭の中を支配して……死んでいった名前も知らない姉妹たちが私に手を──

 

 

「アレーティア様?いかがなされました?顔色が……」

 

 気づけば目の前にはラナーの顔が迫っていました。私ともあろう者が、動転して警戒すら出来ないとは……。

 

「ああ、すいません。この話題には少々敏感でして。出来れば避けていただけると助かります」

 

「……知らなかったとはいえ、何かトラウマに触れてしまった様ですね。こちらこそ、少々無遠慮でした」

 

 意外なことにラナーは気遣いが出来るみたいです。一応ザナックにも救いの手をさり気なく差し出すぐらいのこともしてましたしね。人の心が無いわけでは無い様です。

 

「とりあえず、今後やりたいことを話しておきますか。夜もまだ長いですから。……ところで、夜更かしは美容の大敵と言う言葉があるのですが、長くなっても大丈夫ですか?」

 

「そんな言葉があるのですね。しかし生まれてからずっと美容関連で困ったことはないので問題ありません」

 

 おおう、こんなところで美容チートの様な何かを見せつけられることになるとは……。

 ちなみに私も特にそう言うケアはしていませんが、肌荒れなどはしていません。ストレスのない生活を送っているからでしょうか?

 ジルクニフは最近目の下の隈がすごかったのは覚えています。いくら忙しいからって睡眠疎かにしたら死んでしまうんですが……?

 いざとなれば蘇生魔法を使えばいいんですけど、死ぬまで頑張るより死なない程度に頑張ってくださいよ。

 

「では、まずクアゴアやドライアドなどの亜人、意思疎通の可能なモンスターとの共存に関して──」

 

 

 この後、私のやりたい事をラナーは黙って聞いてくれました。全てを聞き終えた後、いくつか草案を出してくれて、正式に政務に取り掛かる際に実行出来るように少しずつ動いてくれる事を約束してくれました。

 本人曰く、暗躍しなくて済む分人手さえあればなんとかなるとか。流石はラナー、私に出来ない事を平然とやってのける。これでエ・ランテルはきっと安泰ですね。

 私は私でクライム君の訓練なんかを考えておかねば。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 ラナーがアレーティアの下に嫁いでから半年後。

 リ・エスティーゼ王国の歴史上、最大の事件が巻き起こった。

 

「ザナック殿下、お逃げください!ここは我らが食い止めます!」

 

「し、しかし!」

 

「殿下!アイツらの献身を無駄にしてはいけない!せめて、我らだけでも生きてこの状況を打破しなければ!でなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ザナックとガゼフを襲っているのは武装した傭兵集団──八本指の手の者によるものだった。

 事の始まりは何処だったかと言われれば、戦争の後の派閥間の争いだろう。王派閥だったブルムラシュー侯が帝国に情報を売っていた事を皮切りに、貴族派閥──バルブロ王子を王に推す貴族たちが暴走を始めた。

 王派閥は最早ガタガタで貴族派閥へと鞍替えする者も少なくなかった。それでも幾人かの貴族がなんとか諌めようとしていたが、焼け石に水と言う言葉の如く無駄に終わった。

 遂には裏社会を支配する八本指が貴族派閥を後押しし、表すら牛耳ろうとしている始末。最早王派閥どころか、ランポッサ三世ですら収拾がつかない泥沼へと浸かっていた。

 そして今日起こった決定的な事態──ランポッサ三世とザナックへの襲撃。クーデターをバルブロが起こしたのだ。

 誰かがバルブロの背を押したのかは不明だが、それでも彼が肉親の命を断ち、王の座に着こうとしたのは事実だ。

 ランポッサ三世を護衛していたガゼフ・ストロノーフは懸命に襲撃犯を撃退していたが──ここに八本指が所有する最高戦力である『六腕』が参戦してしまい、奮闘するも数の暴力には勝てずランポッサ三世の命は奪われてしまった。

 しかし、ランポッサ三世は命尽きる直前に自分が最も信頼する男に最期の任を与えた。──ザナックを護り、この国を救ってくれ、と。

 ガゼフは己の不甲斐なさに血の涙を流しながら、王の遺体をそのままに逃亡。同じく襲撃されていたザナックを間一髪救出し、戦士団と共に敗走した。

 

 

 

「ククク、やはり私の方が上だった様ですね。周辺国家最強は私にこそ相応しい」

 

「フン、『六腕』としての責務は果たした様だな。ではお前はこのまま王子の守りにつけ。()()()()()()()()()()()()

 

「勿論ですとも。向かってくる兵は殺しても?」

 

「ああ、構わんさ。これで王国は八本指が裏から表を支配し、思うままに仕事が出来る。いい時代が来たものだな」

 

「ええ、全くです」

 

 『闘鬼』ゼロと、新たに六腕に加わった新顔『天武』エルヤー・ウズルスは不敵な笑みを交わし、その場を後にした。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「それで我が領地まで逃げてきたと言う事ですか。私が王都から離れた隙にそんなことが起きようとは……」

 

「すまんなレエブン侯。俺にはもう、貴方以外に信用出来る相手が思いつかなくてな……」

 

 なんとか王都を脱しザナックとガゼフ、戦士団数名はレエブン侯が治める領地エ・レエブルまで辿り着きレエブン侯と接触することに成功した。

 この地に来るまでに数日ほどしか経っていないが、襲撃されたショックと慣れない野営などでザナックは薄汚れ、見るからにげっそりと痩せてしまっている。あの太々しい容姿の見る影もなかった。

 幸いと言っていいのかは分からないが、この襲撃にレエブン侯が関与しておらず、撃退した襲撃者曰くレエブン侯もターゲットの一人だったと言うことで数少ない味方だと判別できた事だろう。

 しかし、不利過ぎる状況は変わらない。唯一、頼りになる戦力であるアダマンタイト級冒険者チームである『朱の雫』は評議国へ依頼に出てから帰ってきておらず、連絡が取れない。『蒼の薔薇』も同等の襲撃にあったと言う情報を掴んだがその後の安否は不明。状況は絶望的だ。

 

「一度状況を整理しましょう。王は弑虐され、多くの兵が死に王の座にバルブロ王子が──いえ、バルブロが着いた。そのクーデターの首謀者はバルブロであり、犯罪組織八本指とその息がかかった貴族たちですね?」

 

「そうだ。誰がこの筋書きを書いたかは分からんが、随分派手にやってくれた。お陰でもう王国は終わりだ。王家ではなく犯罪組織が支配する国へと早変わりだ。兄上はそんなことにも気づかないだろうがな」

 

 現状にザナックは憂いた。この国をもっと良い国にしたかった。だがもうそんな夢も理想も泡と消え、残ったものは虚しい現実だけだった。

 どうにかしようにも、こちらが所持する手札はレエブン侯と元オリハルコン級冒険者チーム、ガゼフを含む戦士団数名、協力してくれるかもしれない王派閥だった貴族達。

 これだけではバルブロの持つ戦力や八本指にすら敵わない。更に言えば八本指にはアダマンタイト級冒険者に匹敵すると名高い『六腕』の存在もある。

 せめて朱の雫か蒼の薔薇がいればどうにかなったかもしれないが、無いものを強請っても仕方がない。冒険者の『国の政治や戦争への不干渉』と言う規約があるため、実際のところ協力は難しいと推測出来るが。

 どうしようもない現状に抱える頭もなく、何もない空中をボーッと見つめることしかできない……が、ここで一人の身内を思い出した。

 

「……なあレエブン侯。一人、もしかしたらこの状況を打破するキッカケになる相手を思いついたんだが」

 

「相手にもよりますが一体何方ですか?正直王国にこの状況を打破出来る相手は──」

 

「王国にはいない。だが──帝国にはいるだろう?

 

 ハッと、この場にいるかつての戦争に参加した面々の脳裏に浮かぶ人物。そしてその騎士に、辺境侯へ嫁いだのは──。

 

「妹に……あの化け物ラナーに頼るしかもう道は無い。あの女ならアイツも帝国も動かせるだろうさ」

 

「し、しかし王子それは!」

 

「分かっている。これを実行すれば王国は帝国に刃向かうことが出来なくなる。下手をすれば王国そのものが無くなるだろう。だが、それでもこのまま腐り落ちる王国を黙って見ているぐらいなら──ッ!」

 

 ザナックの瞳には覚悟があった。その瞳は決死の状況でも諦めずに立ち向かったガゼフのそれに似ていた。

 

「これよりエ・ランテルへと亡命する。そこでなんとしてでも帝国の協力を仰ぐ。王国を救うために、どうか協力してくれ」

 

 覚悟の決まったザナックへの返答は無かったが、それは無視したと言うことではなく跪くと言う形で行われた。

 

「陛下をお護り出来なかった私が言ったところで信用に足るか分かりませんが……王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ、殿下に忠義を誓います」

 

 そうして、ザナック達は休息を取った後にエ・ランテルへと向かった。

 全ては王国を、国民を救うために──。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 アーグランド評議国、某所

 

 朱の雫のリーダーであるアズス・アインドラはとある存在と対面していた。

 それは竜だった。白金の鱗を持ち、その相貌には長い年月を生きてきただけの貫禄がある。御伽話にもある八欲王とも戦い、六百年以上の時を生きてきた竜王。始原の魔法を操る真なる竜王の一人──ツァインドルクス=ヴァイシオン。またの名を白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)がそこにいた。

 

「ツアー、王国の現状を知っているか?」

 

「王国で大きなクーデターが起きた様だね」

 

「ああ、だがそれだけじゃない。クーデターを起こしたのは第一王子のバルブロだが、その背後には裏社会を支配する犯罪組織八本指の影があった。奴らはバルブロを担ぎ上げて傀儡の王にしようとしている。このままだと王国は周辺国家における犯罪の……巨悪の温床になる」

 

 アズスは一つ一つ言葉を選びながら発言する。相手は人ならざる存在で長く生きている分価値観も異なる。そんな相手の協力を得るために全神経を集中している。

 

「それで、私にどうして欲しいんだい?長い年月を生きてきた私としては、国が滅びる光景を幾度となく見てきたからね。非情な事を言うがこの件に介入する気は無いんだが……」

 

 ツアーとしての見解は、そう言った国は長く続かず、やがて滅びる運命にある事を知っている。如何に王国でその組織が動こうが、ツアーからすれば真の巨悪──八欲王や悪しき"ぷれいやー"、"えぬぴーしー"などに比べれば可愛いものだ。

 

「ああ、アインドラ家としてもバルブロには就かずに、抵抗するつもりらしい。俺も武力的に言えばあの(パワードスーツ)がある以上、八本指自体はどうにかなる。

 政治的には……生き残ったザナック殿下を探すか、王族の血を引いている親戚筋を新たな王にすることになるだろうな。

 だがなツアー。俺が懸念しているのはそこじゃない。

 俺が思うに、この混乱を機と見た帝国は何かと理由をつけて攻め込んでくると踏んでいる」

 

 ここで一度言葉を切った。帝国は先の戦争で王国にとって不利な要求を呑む代わりに、十年間王国へ侵攻しないという約定を取り付けているため、実際攻め込んでくる可能性は低い。

 仮に攻め込んで来たとしても、周辺国家に帝国は約定も守れない野蛮な国という印象を与えてしまうことになるため、あの皇帝はそれを避けて行動に出ると読んだ。

 しかし、この存在は別だ。かの戦場で音もなく二人の騎士──後の帝国四騎士──を引き連れて現れたあの死神は。

 

「あの国には粛清騎士がいる。ヤツが出てくれば軍を動かす必要すらない。一人で王国を蹂躙することだって可能だろう。そうなったら俺でも……アダマンタイト級冒険者でもどうすることもできないだろう。あのガゼフ・ストロノーフを一撃で倒すほどの実力だからな。……だから、ツアー。粛清騎士が王国に現れたら、アンタに抑えてもらいたい」

 

 粛清騎士。その存在はツアーも知っている。

 ある日突然現れた"ぷれいやー"を彷彿とさせる力を持ったエルフの少女。顔を隠し、なんらかの方法で情報系魔法に引っかからない様にしている様だが、始源の魔法には敵わない。

 そして、その顔と気配がかつての八欲王の一人を彷彿とさせた。この世界を歪め、汚し、犯した最低最悪の存在に。

 ただ、血筋に罪はあれど、あの娘は血を引いているだけだ。その身に宿る力で世界を汚す気が無いのなら、現状は監視に留めておくつもりだった。

 

「確かに粛清騎士は相当に強い。だからと言って私が手出しをする程のことでもないと思うが」

 

 ツアーはアズスを窘める様に、言い聞かせる様に言う。確かに粛清騎士は強い。自身もアレの強さを把握出来ている訳ではないが、この世界の存在で最上位に近い強さを持っているのは理解している。

 それに、国に仕える騎士となっている以上、おいそれと手出しするわけにもいかないだろう。

 だがアズスは引かない。粛清騎士の起こしたあの戦争の悲惨な末路を知っているが故に、それが再び王国を襲うのではないかと言う恐れを抱いているがために。

 そう、恐ろしかったのだ。あの在り方が。たった一人で何万と言う人の命を奪っているのに、まるでなんとも思っていない、アンデッドの様なその精神が。

 エ・ランテルへ行き粛清騎士と対峙したと言う姪──ラキュースには会えておらず、あの都市の情勢は未だ不明のまま。

 ラキュースに会えていれば、また違った判断を下せたのかもしれないが『蒼の薔薇』も何者かの手による襲撃を受けたと聞いた。今でも連絡は取れず無事を祈ることしか出来ない。

 

「アンタから見たらそうなのかもしれない。だけどなツアー。俺が真に恐ろしいのはヤツがどれだけの力を持っているのか分からないところだ。

 戦争では武技と思わしき技で王国軍本陣を壊滅させ、貴族の首を一つ一つ確認しながら落として行ったと聞いた。

 そんなヤツが王国に攻め込んで来たら、どれだけの被害が出るか想像もつかない。

 それだけじゃない。戦士団のヤツからも聞いたが妙なことが起こったとも聞いた」

 

「妙なこと?」

 

「なんでも、王を護衛して逃走する中で背後から迫ってきた粛清騎士は地面に何やら文字を書いたらしい。すると文字が輝き地面が隆起し、足場が不安定になったことで全員落馬することになったらしい。

 ……少なくとも俺はそんな魔法も武技も聞いたことがない。マジックアイテムって線もあるが、それにしても、文字って言うところが引っかかる」

 

「ふむ……」

 

 文字を書くと地面が隆起する。それはかつての仲間の一人が持っていたハンマーに刻まれたルーンと言うものではないかとツアーは推測する。

 しかし、当時聞いた話によればあくまでそれは武具に魔法文字を刻み強化する技術だったはず。その様な使い方は出来ないはずだ。

 であれば、別のユグドラシルなどにあるマジックアイテムによるものか?八欲王の子孫ならば、その様なアイテムを持っていても──大半のアイテムはかのエリュエンティウに存在するが──おかしくはない。

 それとも、新たに始原の魔法とも位階魔法とも異なる魔法の類を身につけているのか。様々な可能性が浮かんでは消えていく。

 

 ツアーは考える。百年の揺り返しは近い。いたずらに戦力を失うようなことは出来るだけ避けたい。

 しかし、今後目の前に現れるかもしれないあの強者と一度接触する必要があるとも考える。どんな人物で、どんな力を所持していて──世界に対して協力的かどうか。

 

「……分かったよアズス。もしも粛清騎士が来たら私が対処しよう。ただし、条件がある」

 

「なんだ?俺に出来ることなら出来る限りのことはするつもりだが……」

 

「何、簡単なことさ。粛清騎士とは一対一で話したいからね。場所は変えさせてもらうよ。それと、私自身は王国の事態には関わらない。それが条件だ。どうだい?」

 

「ああ、それでいい。アイツを抑えてくれるだけで大いに助かる」

 

 こうして、アズスは白金の竜王の手を借りることに成功した。

 ツアーは遠くで動かしている自身の白金の鎧を操作し、リ・エスティーゼ王国へと進路を変えた。

 出会う場は恐らく戦場。ツアーはアレーティアの事をあまり詳しくは知らないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それがどう言う事態を引き起こすことになるのか。それは今はまだ分からない。

 





アレーティア
アルスの時に子供作れネタは基本禁句。ロクシーかジルクニフぐらいしか許されない。
ついでに法国は基本的に塩対応。

ラナー
二人発言の一人はクライム。もう一人はアレーティアだが、現状は厳しい。ちなみにポーションはアレーティアには効かない。
ジルクニフ同様にこのままナザリックが来ないならワンチャンあった。

リ・エスティーゼ王国
ラナーの裏工作など諸々が発動した結果、クーデター勃発。
原作より早くランポッサ三世が死んでしまうし、国そのものが八本指の手に落ちたも同然。当然バルブロは気づかないし、貴族たちも美味しい思いが出来るから気にしない。

ツアー
鎧が王国へ向け動き出した。



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キャラクター紹介 アレーティア・ホウガン(帝国ルートpart3)



前回の後半部分加筆修正してます。

モチベーションが上がらないのか、それとも単純に体調不良のせいか分かりませんが、全然続きが書けておらず二週間以上音沙汰無いのもアレだと思ったので現状のアレーティアのプロフィールをまとめました。

抜けがあったらすいません。

次回楽しみにしている皆様、もうしばらくお待ちください。
今月中には投稿出来るように頑張りますので……!



 

アレーティア・ホウガン

 

人間種──エルフ

 

年齢──19歳(43話時点)

 

役職──エルフ国王女→バハルス帝国"粛清騎士"、アルス・ティアーズ辺境侯

 

住居──エルフ国王城→バハルス帝国内アレーティア邸、皇城後宮の一室、エ・ランテル

 

誕生日──オックス・7日

 

趣味──自己鍛錬、勉強、花々や小動物を愛でること

 

職業レベル(戦士時)──ファイター、マスターファイター、ウェポンマスター、ガーディアン、戦姫、ケルティックウォリアーなどから合計95レベル

 

職業レベル(魔法詠唱者時)──ドルイド、ハイ・ドルイド、ルーン・ドルイド、サモナー、エレメンタリスト(星霊系)、フォレスト・メイジ、ウォー・ウィザード、スター・パニッシャー、ワールド・ディザスターなどから合計95レベル

 

職業レベル(生産職時)──ウェポンスミス、アーマースミス、アイテムスミス、ルーンスミス、スーパースミス、マスタースミス、ルーンマスター、鍛冶師などから合計95レベル

 

職業レベル(魔法戦士時)──■■■■■■/■■■■■■■、クレリック、ハイクレリック、ウェポンマスター、ルーンマスターなどから合計95レベル

 

 

 

 

生まれながらの異能(タレント)──簡単に言えば流れ星(シューティング)の指輪(・スター)。もしくは超位魔法、〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉の劣化版、変異版。一日に三度まで使用可能。

他人に使う場合は経験値を膨大に消費する。

経験値を消費する条件は『他人の願いをアレーティアが叶えること』

 

例)レイナースの呪いを解く、という願いをレイナース自身が持っているためアレーティアが代わりに願ってもレイナースの願いとして受理され経験値が消費される。

 

このタレントの存在を知ったらアインズは絶対に欲しがる。もしくは全力で排除にかかる。

アレーティアがこの生まれながらの異能の詳細を知り使いこなせれば更なる強化が見込める。

願いの叶えられる範囲は超位魔法より小さい。

余談ではあるがアレーティアが〈星に願いを〉を習得した場合、タレントとの合わせ技で経験値消費無しで〈星に願いを〉を使用出来る。

 

叶えられる願いの力関係

永劫の蛇の指輪(ウロボロス)>>>越えられない世界級の壁>>>星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>>>>>アレーティアタレント

 

 

 

所持スキル

 

天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)

タレントによって六歳の初戦闘時に得たスキル。簡単に言えば全ての職業レベルをジーニアス化(?)…総入れ替え出来る。

これによって戦士、魔法詠唱者の職業を得ることが出来ている。

デメリットとして職業選択によっては使えないスキルや魔法が生じてしまう。

しかし、それぞれの自己強化(バフ)はそのまま引き継がれる。

生産職にも置き換え可能。アレーティアが無意識に使用していたが、今では自分の意思でも好きな職業になれる。

ただし、ワールド・チャンピオンにだけは絶対になれない。

一日に四度まで使用可能だったが、使用頻度が多くスキルの熟練度(?)が上昇しレベルⅢになり一日に十回使用可能に変化している。最大レベル。

無意識時に使っている時の職業選択は自動だが、任意にすることで自分の好みのビルドにすることも可能。

 

余談だが戦士職が当初はメインで魔法職は生まれながらの異能で身についたので本職は戦士。デケムも魔法で戦士職を得ているのを知っていたのでそこを伸ばそうとしていた。

 

●経験値取得増大(大)

タレントによって得た常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。文字通り経験値取得率が上がる。その為かアレーティアは成長が早い。

スキルを得る原因はデケムの教育から一歩でも早く逃れたかったから、早く強くなれればいいのにと思ってから発現した。

 

なお、デケムは娘の成長の早さにとんでもなく喜び、寧ろ教育がよりハードになった。なんなら一度ベヒーモスで殺しかけている。流石にこの時はやり過ぎたと反省している。アレーティアからは決定的に嫌われた原因の一つ。

 

根源の星霊召喚(サモン・プライマル・スターエレメンタル)

魔法詠唱者時のみ発動可能。デケムのベヒーモスに対抗して身についたスキル。レベル九十の根源の星霊を召喚し使役する。

これを初めて見て止めたデケムは自分の才能を引き継いでいるアレーティアを更に溺愛した。アレーティアの目は死んだ。

たまにこれを使って訓練したりしている。

 

■■■■■の■(■■■■■■■)

魔法戦士時に使用。能力的には■■■■■■/■■■■■■■のためか■■■■■■の使う物には劣る。

 

●〈大厄災(グランド・カタストロフ)

アレーティア最大の切り札。魔法詠唱者ワールド・ディザスター習得時のみ使用。残存魔力の六割を消費して超位魔法をも上回るダメージを与える。

ゴリ押し戦法として〈大厄災〉発動→タレントで魔力全快→〈大厄災〉再発動というムーブも可能。相手は死ぬ。ただし、周囲に与える被害がとんでもないことになる。

 

 

●状態異常無効(毒、麻痺、即死など)

森での戦争中に身についたスキル。本当に死にかけたのでこのスキルが身についた時は飛んで喜んだ。

基本的には命に関わる状態異常が無効になる。

しかし、それ以外の状態異常は効いてしまう可能性が高い。

アインズの心臓掌握(グラスプ・ハート)は無効化出来る。

 

●刻印魔法Ⅱ

ルーンマジック。ルーン文字を刻み魔法を行使するスキル。一日の使用回数はないが一時間に最大四十文字まで使用可能。

魔法の強化に関しては文字数が多ければ多いほど強化されるが反発する文字、同じ文字を多数使用しても効果はなくルーン文字への理解が必要。

経験値を消費することで魔法の効果が大きくなる。

魔法ではなくスキル扱いなので戦士時にも使用出来る。使用した文字に適応した効果を発動する。

また、ルーン文字のみを複数同時使用した特殊スキルも存在する。

 

●概要

エルフ国王女として生まれた前世男の転生者。

前世では色々な作品を嗜んでおりオーバーロードも好きな作品の一つだった。ライト層といえば伝わるだろうか。

生まれたばかりの頃はファンタジーな世界に転移したな、と思い優しい父(当時)の下で穏やかに暮らしていた。

しかし6歳の頃、戦場に放り出されてそこから人生は一変。生きるか死ぬかの戦場に出ることを強要される生活が始まる。この時この世界がオーバーロードの世界だと気づいてしまう。

元々温厚な性格だが、この生活のせいで色々壊れてしまった一面がある。

例えばデケムに近親相姦宣言をされてから自分に色目を使う男を全力で殺しにかかったり、デケムに就寝時ベッドに侵入され身体を弄られた時、キスされた時に身を震わせるほどの恐怖を感じたことから無意識に抵抗しないとヤられると思い過剰防衛する傾向になったことなど。

元男である為そういう感情には割と敏感。

ジルクニフは同年代かつ互いに利用する仲なのでこの対象にはならないが…。

ロクシーとの生活で大分落ち着きを取り戻しており、女性であることを受け入れるようになっていく。オフの時、後宮にいる時は女性らしい格好をしていることが多い。

しかし、ジルクニフは数えられるほどしかその姿を見ることが出来ていない。

ラナーと完全に二人きりの時は、ラナーの要望で着せ替え人形が如く様々な衣装を性別問わず着替えている。

性別を反転させるスキルを会得したが、この世界での生活で女に成り切ってしまったので男の姿には違和感を感じている。

 

無意識に手に入れたスキル経験値取得増大で強くなるスピードが上がり過ぎたせいで常に格上を用意されてしまう。そして勝って強くなってしまうの繰り返し。常に死が目の前にある生活に嫌気がさし12歳の時、陽光聖典との戦闘中のドサクサに紛れてエイヴァージャー大森林を脱走。運良くカッツェ平野に流れ着きバハルス帝国へと招かれる。

 

口調は幼少時から王族であると知って丁寧な言葉遣いを心がけている。時折、イラついた時など乱雑な口調になる。

原作を知っているはずなのにそれを度外視した行動をとるのは、最終的に原作通りになるはずだから先に帝国の物にしても最終的には同じだろうという根拠のない考えから。

なお、既に多数やらかしているため当然全て原作通りとはいかない。

WEB版でアインズがなるはずの辺境侯になってしまい、もう原作のことなんて考えるなと言わんばかりに活動し、エ・ランテルが第二の帝都と呼ばれるまで発展させた。

 

 

●容姿──身長152cm、B76W53H79(17歳時)

白に金色が薄らかかったセミロングヘア。

どこかあどけなさを残す大人しめの顔をしている。王の相と呼ばれるオッドアイを持つ。(戦士時と魔法詠唱者時で眼の色が変わるという裏設定があった)

基本的には帝国製のバイザーを着用し目元と耳を隠している。

戦闘時はアダマンタイトで作られた鎧を身につけ、なりふり構わない本気の戦闘時は伝説級のユグドラシルアイテムを躊躇いなく使用するようになっている。

普段着はワンピースや男装など動き易い格好を好む。仕事中は軍服を着ている。

ロクシーの勧めで後宮では女性らしさを引き立たせるドレスなどを着ている。あまり肌の露出は好まないタイプ。

ラナーとドレスを買いに行く際にちゃっかり自分の分も買っていたりする。

 

●夢──とりあえずは原作開始後も生き延びる事。

可能であれば平穏に争いのない場所で暮らしたい。

 

 

●人間関係

デケム・ホウガン──もう絶対私の方が強い。覚悟しとけよクソ親父。(お礼参りに行った場合、帝国ルートからエルフ国ルートに切り替わる)

 

ジルクニフ・ルーン・ファーロード=エルニクス──同年代だからか陛下と敬いながらもどこか友人感覚でいる。

毎回やらかすのを悪いと思いながらこの関係を好んでいる。

惚れられているのを知らない。

 

フールーダ・パラダイン──帝国に誘ってくれた恩人。第七位階が使える様になり更に様々な研究を共同でしている。

アプローチを変えた結果、遂にデスナイトを支配することに成功した。

現在は生活魔法の発展に尽力しつつ、第七位階の更に上を目指し研究中。

 

新旧帝国四騎士──信頼厚い同僚。ただし訓練の時は容赦しない。愛ゆえに。

 

スレイン法国──クソ親父が何したかザックリしか知らないけど、何も知らないエルフまで巻き込むのやり過ぎじゃない?

相手から仕掛けてきたらとりあえず反撃はするが、こちらから関わることはない。天上天下?誰それ(帝国ルート)

 

ラナー王女──同性ながら婚約者の立場に収めた相手。クライムと結ばせることを引き換えに良好な関係を築いた。

様々なことにおいて頼りになる相手。

エ・ランテルに作った庭園で一緒に花々を愛でたり、二人で食事や買い物をするぐらいには仲がいい。

ラナーからはクライムの次ぐらいに想われている。

 

名前も知らない姉妹たち──かつて死んでいった名前も知らない姉妹たち。デケムを嫌う最大の原因であり、救えなかった罪の象徴。

来世があったなら平和な世界で生きて欲しいと願っている。

実は庭園の何処かに慰霊碑の様な物を作っている。

 

●所持装備

 

・セブンスター・ルーン──ルーンが七つ刻まれてた剣。長さは五十センチメートルほど。アダマンタイトやオリハルコンなどの希少金属を惜しみなく使って作られた。

戦士でも魔法詠唱者でも使えるため何かと重宝する。魔力量的にはレベル50程度なので仮にアインズと戦うことになればこの剣では傷をつけることは敵わない。

この剣で刻印魔法を使うとボーナス効果として威力が上昇する。

レアリティ的にはユグドラシル基準で最上級。

 

・フロスト・オブ・アゼルリシア──フロスト・ドラゴン、トランジェリットと希少金属から作られた双剣の片割れ。ルーンが十刻まれている。氷を思わせる青みを帯びた剣。刻まれた文字には″(イス)″、″(ラグ)″、″ᚺ″(ハガル)を主とした氷や水属性を付与するルーンが刻まれており、凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)と同じく冷気による追加ダメージを得ているが、本質はそこではなくこの剣に魔力を込めて最大起動すると半径五十メートルを凍てつかせる氷属性魔法を放つ。その威力はフロスト・ドラゴンが得意とするドラゴンブレスを遥かに凌ぐ。

 

 

・フレイム・オブ・アゼルリシア──ラーアングラー・ラヴァロードと希少金属から作られた双剣の片割れ。ルーンが十刻まれている。刻まれた文字には″(アンサズ)″、″(ケン)″、″(ウル)″を主にした炎属性特化の剣。より大き目で肉厚な刃を持っている。こちらはフロスト・オブ・アゼルリシアとは違い炎属性の追加ダメージはないものの魔力を使うことによって炎を纏った強力な攻撃を放つことが可能。オンオフが効くので基本は冷気で相手の動きを鈍らせてから強力な一撃を見舞う。また、こちらは地面に突き刺すことで周囲一帯に一定時間溶岩を発生させることが可能。

 

この双剣の魔力量はレベル的には58程で仮にアインズと戦うことになれば傷をつけることは敵わないが、刻印魔法によるバフが入った時は共にボーナス効果で魔力量が一定時間増加するためダメージを与えられる。

レアリティ的にはユグドラシル基準で遺産級(レガシー)

 

・その他、ルーン武器作成時の試作品多数(内何点かは四騎士に供給)

 

・エルフ国の宝物庫から盗んできた最高レアリティ伝説級(レジェンド)の装備数点

 

極光の装衣(アウローラ・ローブ)

伝説級の装備。

 

 

精霊の指輪(リング・オブ・エレメンタル)

伝説級の装備。

 

 

 

 

●使用武技

 

殴打(スマッシュ)

 

〈連撃〉

 

投擲(スローイング)

 

〈土竜叩き〉

 

〈星砕き〉──オリジナル武技。名は体を表すと言わんばかりの威力を誇る……がその威力故に弱い武器だと使った後に壊れる。低レベルの武器では十全な威力を発揮出来ないが、当たりさえすれば〈隕石落下〉相当のダメージを与えられる。

 

 

〈不動〉

 

〈炎斬〉

 

〈閃光〉

 

〈雷光〉

 

〈流水加速〉

 

〈能力向上〉

 

〈能力超向上〉

 

〈即応反射〉などなど

 

 

 

●使用魔法

 

・超位魔法

 

〈⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎〉

 

〈⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎〉

 

〈⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎〉

 

 

・第十位階

 

観測衛星(オブザベーション・サテライト)

 

隕石落下(メテオフォール)

 

現断(リアリティスラッシュ)

 

 

・第九位階

 

彗星落下(コメットフォール)

 

完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)

 

暴風雨(テンペスト)

 

真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)

 

 

・第七位階

 

激流(レイジング・ストリーム)

 

連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

 

・第三位階

 

飛行(フライ)

 

 

 

・第二位階

 

衝撃波(ショック・ウェーブ)

 

 

 

・位階不明

 

上位の水精霊召喚(サモン・グレーターウォーターエレメンタル)

 

道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)

 

伝言(メッセージ)

 

台風(ハリケーン)

 

性転換(トランス・セクシャル)〉──オリジナル魔法。性別を反転させる。使用している間常に魔力を消費する。

女から男になっても子供を作ったりは出来ない。とある〈世界級(ワールド)〉アイテムがあれば可能になる。

 

神聖なる波動(セイクリッド・ウェーブ)〉──オリジナル魔法。〈負の爆裂(ネガティブバースト)〉の逆バージョン。

 

 

 

 

 



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帝国ルート 王国粛清編
アレーティアとエルフと亡命者たち 〜ギルドごと転移したプレイヤーの気持ちがなんとなく理解出来た日〜



通算UA55万突破&評価者数300人突破ありがとうございます!



 

 

 蒼の薔薇がこの都市を離れてから数ヶ月程が経った頃。

 私は庭園でのんびりとした時を過ごしていました。

 クアゴアの受け入れ態勢が整い、夜間の警備、巡回を一任出来るようになったため騎士達の夜間の仕事が軽減されました。夜は羽を伸ばせる事でしょう。

 休みというのは人間にとって重要なファクターの一つです。この世界では毎日働いて当たり前みたいな風潮がありますが、転生者である私は違います。そう、休みたい。サボりたい。この精神が常に心のどこかにあるのです。

 なので、私も仕事をしない日を定期的に作りリフレッシュしています。当然、部下である騎士、文官もその例に漏れません。

 文官は一時私が休むことによって生じる諸問題に悲鳴を上げていたようですが、ラナーがここに加わることで解決し、更に彼女の手腕でこうした事務作業がかなり円滑に進むようになったとか。出来る女は違いますね……一応同じ王女なのにどこで差がついたんでしょう?

 

 休みと言えば、メイドの扱いに関してすごく困っています。

 ご存知かもしれませんが、私の雇っているメイドは全員エルフです。何故かと言えば素顔を見せれば絶対の忠誠を誓ってくれるからですね。裏切りもしないし、仕事も皇城のメイド達と比べても遜色無いレベルにまでなっているので非常に有用です。

 王の相ってこういう時に便利ですね。初めて有り難みを感じました。

 なのですが、彼女達は休めと言っても休まないのです。

 理由を聞けば『奴隷となった私達を救って下さった王女様に恩を返させて欲しい』や『王族である貴方様に仕えるのは当然の事。名誉な事です』と言った返答ばかり。

 確かに、私のメイドエルフ達は元々帝国のクソ貴族が買っていた奴隷エルフ達でした。当時、丁度粛清対象だった貴族を取り潰すついでに解放したのをよく覚えています。

 切り落とされた耳も治し、森に帰ってもまた狩られるだけになってはいけないと思い、どうせなら皇城で働かせようとジルクニフに教育を任せ、私が屋敷を貰った時に引き取ってそのまま……と言う流れでした。

 この時に彼女達を安心させる意味で素顔を見せて同族だと教えたところ、前述した通りになったというわけです。

 

 あの返答を受けた私は、これがナザリックの支配者の気持ちなのか……と身を以て思い知りました。

 王の相って滅茶苦茶不便ですね。こんな我が身を顧みない忠誠心は要らないんですよ。レイナースぐらいに留めて……いや、彼女も今は……。

 

 まあ、休まないのが欠点とは言えメイドエルフ達はよくやってくれています。他にも男エルフで執事をしている者や、文官になった者もいて非常に助かってはいます。全部で三十人ぐらいでしたっけね?

 

「アレーティア様、ご報告が」

 

 おっと、噂をすればエルフの一人がここに。彼女の名前は……確か赤いボーイッシュな髪が特徴のアセロラですね。彼女はメイドではなく、私が鮮血騎士の座を与えている武闘派エルフです。

 鮮血騎士とは言ってしまえば私が新設した組織です。帝国騎士団とは別であくまで私の手勢、私兵扱いです。

 仕事としては騎士団では手に負えない様な事態を未然に防ぐ為行動する……法国で言う六色聖典に近い仕事をしています。

 この前のズーラーノーンの拠点の掃討などがそれに当たりますね。この戦いでブレインがクレマンティーヌを討ち取ったのは記憶に新しいです。

 鮮血騎士の強さと言えば、一部は四騎士に匹敵するか上回ります。最低でも精鋭騎士以上四騎士未満ですね。アセロラは互角と言ったところでしょうか。流石にナザミには敵いませんが。

 

「どうかしましたか?」

 

「はい、どうやら北の検問所の方にリ・エスティーゼ王国のザナック第二王子を自称する一団が現れたと。ラナー夫人との面会を希望している様なのですが、先触れもなく現れ、身分を証明出来る様な物も持っていなかったので、王国で面識があったクライム殿が向かって本人確認を行うとのことです」

 

 私……ではなくラナーを訪ねに謎の集団が現れたそうです。

 ラナーを訪ねに来るという事は相手はザナックでほぼ間違いないでしょう。王都はラナーの仕掛けた爆弾が爆発する頃だと聞いていますし。

 いや、ホント彼女有能過ぎて怖いですね。要らない貴族やら勢力を本当に一纏めにしてくれたんですから。後は処分するだけです。

 同時に敵に回したくもありませんね。早くクライム君と結ばれる様にしなければ……。

 

「クライムから身元の確認が済み次第、城に案内してあげてください。それと、ラナーにも報告を。私も向かいます」

 

「畏まりました」

 

 さて、原作が始まる前の大仕事と行きますか!

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 エ・レエブルから数日かけて無事エ・ランテルへと辿り着いたザナックとガゼフ率いる戦士団数名は検問所で足止めを食らっていた。

 理由としては先触れもなく王子を名乗る人物が現れ、その名を騙る偽物なのではないかという疑いがあったからだ。

 ザナックもそう言った教育を受けてはいたが、ガゼフと言う存在がいるとはいえ襲撃に備え護衛を減らすことが出来ず、この様な事態を招いてしまった。

 レエブン侯の私兵を借り受けることが出来ていれば、避けられた事態ではあったが、レエブン侯も八本指の手勢に狙われているため──何より愛する息子を危険に晒さないために借り受けることが叶わなかった。

 とはいえ、それは仕方ないとザナックは割り切った。愛する者が危険に晒されるのを益々見逃すことは出来ないと理解したからだ。

 それに、この都市には妹の寵愛を受けたあの男がいる。あの男に出会えれば身分の証明は可能だ。

 

 そうして待っていると、お目当ての男が現れる。クライムだ。

 

 

「これは……お久しぶりですザナック殿下」

 

「久しいなクライム。手間をかけさせてしまってすまなかったな」

 

 少々驚いたような反応を見せたクライムを見てザナックは何に驚いたのかと思い──ああ、と思い当たる。

 何せ数日身を清めることも叶わず、食事も簡素なものしか摂っていない。ストレスもあり髪も乱れ、痩せたのか頰も欠けている。かつての自分を知っていれば驚いてもおかしくないだろう。

 尤も、こう言った野外での活動に慣れているのかガゼフと戦士団にはそう言った変化は見受けられないが。

 

「クライム殿。こちらの方々はリ・エスティーゼ王国のザナック第二王子と王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの一行で間違いないか?」

 

「間違いありません。通していただいて問題ないと思います」

 

「了解した。わざわざ呼び出して済まなかったなクライム殿」

 

 気安く肩を叩き合うクライムと騎士の二人を見て一行は驚く。

 かつて、王城でクライムがあの様に誰かと気安い関係を築けていただろうか?答えは否。

 生まれが平民──ましてや、孤児だったと言う過去もあり、王城では兵士だけでなくメイドにすら蔑まれていた。

 それが今はどうか。帝国の騎士達は生まれなど関係ないとばかりに距離が近い。人間関係が良好なことを知ったガゼフはこのことをとても喜ばしく感じた。

 

「では、入場を許可します。長々と拘束してしまい申し訳ありませんでした」

 

「いや、構わないとも。それが諸君らの職務だからな。……ところでクライムよ。妹と面会したいのだが可能か?」

 

「今の時間は辺境侯の仕事の手伝いをしているはずなので少々難しいかと……。ですが、約束を取り付けることは可能です。宿でお待ちいただければ、会う日取りを取り付けてきますが」

 

「そうか、ではよろしく頼む。俺たちは黄金の輝き亭にしばらく滞在するつもりだ。誰かしら人は残すから、分かり次第伝えてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 こうしてザナック一行はエ・ランテル入りを果たした。

 彼らが真っ先に向かったのはエ・ランテルで一番の高級宿である黄金の輝き亭だ。

 幸い、資金はレエブン侯から借り受けることが出来たため、現状金に困ることはないが無駄遣いは避けたい。

 本音を言えば最高級の宿でなくても構わないのだが、王族がそこらの宿においそれと泊まることなど出来るはずもなく、面子のためにもこの宿にしたのだ。

 馬を泊め、受付をし部屋へと案内され、ザナックが一番最初にしたことは入浴だ。慣れない野宿をしたせいで体の至る所が汚れており、こんな格好でラナーに会うわけにはいかない。

 追われている身ではあるが、腐っても王族。身嗜みを整えるのは当然のことだ。

 しかし、王都にいた時は側仕えの侍女たちに介助を受けていたが、この場ではそういった人物はいない為、少々手間取ったことをここに記しておく。

 

 

 身嗜みを整え、数日振りの豪勢な食事に舌鼓を打ちザナックの心には少しの余裕が出来た。

 あのクーデターから激動の日々が続き、追手にも警戒しなければならない毎日に神経を擦り減らすような感覚を抱いていたが、今はそれもない。

 本来ならば敵地へと赴いているので周囲を警戒しなければならないだろうが、不思議とこの都市に来てからは心が安らいでいた。

 それは、この都市にレエブン侯と共に化け物と称したあの妹がいるからか。それとも、かの戦争で圧倒的な力を披露したかの粛清騎士こと辺境侯が治めている地だからか。どちらとも言えないが、何かしらの要因があるのだろう。

 

「殿下、先触れが来まして明日ならば面会が叶うとのことです」

 

「そうか。直近の日が空いていたことに感謝すべきだな。なら、お前達も今日は休め。本当の決戦は明日になるぞ」

 

 明日の面会、ここでなんとしてでもラナーの……帝国の協力を仰がなければならない。

 決意を胸に、ザナックは眠りに就いた。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 翌日、朝食を終えた頃にクライムが迎えの馬車と共に現れた。

 馬車には帝国の国家とは違う紋章が付けられており、この紋章が辺境侯のものだと理解するのに時間は掛からなかった。

 馬車に揺られ、辺境侯の邸宅である城へと向かう。

 馬車からは王都とはまるで違う、生き生きとした元王国民達やドワーフ、エルフと言った種族の姿が見られる。

 王国では他種族の姿があまり見られないが、帝国ではドワーフとエルフの二種族が法によって守られているので、このエ・ランテルだけでなく帝都アーウィンタールでも時折姿が見られるようになったと言う。

 

「今の王都に比べて、この都市の民はとても生きているな。羨ましい限りだ」

 

「……王都はそこまで酷い状況なのですか?」

 

 クライムはラナーと共に王国を出る際、王都が、王国がどうなるのか思わずにはいられなかった。エ・ランテル──帝国に来てからはその暮らしに慣れるのと、騎士たちとのコミュニケーションや訓練、勉学などを共にしており、かつて暮らしていた王国のことを段々と思い出さなくなっていた。

 それでも、王国から馬車にも乗らず馬で駆けてきたところを見ると、何か悪いことが起こったのを感じずにはいられなかった。

 

「……そうだな。詳しくは着いてから話すが、端的に言えば国王陛下が弑虐され兄が王になった。そして、俺は兄に命を狙われていると言うことだ」

 

「なっ!?そ、それはつまり……ラナー様も危ない!?」

 

 どうしてそうなる。お前の主人はこの国で最も強い人物と結ばれているだろうが。と思わず口に出しそうになったがザナックはグッと言葉を飲み込んだ。

 

「可能性は無きにしも非ずだが、王位継承権は王子にしか存在せん。それに今は嫁いで帝国民になっているから、そう心配することはなかろう」

 

 仮に、もしもあの兄が自分だけでなくラナーの命まで狙ったら、それこそ王国は終わりだ。あの死神の様な騎士の怒りを買えば、帝国が本腰を入れて攻め入り滅ぼされるだろう。

 ザナックは戦争に参加していないが、戦士団の生き残りとガゼフはその身を持って帝国の強さを理解している。それ故に絶対に敵対することだけは避けてくれとも進言されている。

 当然、敵対するつもりは微塵もないが相手がどう出るか分からない。

 なので、まずはラナーだ。ラナーに現状を聞かせて、そこから帝国へ協力を取り付ける。あの賢い妹が──内心化け物と呼んでいるが──上手い案を出してくれると信じている。

 仮にこの面会に辺境侯が参加しようと問題はない。寧ろ手間が一つ省けるし、皇帝の片腕とも言われる人間だ。より確実に帝国の協力を得ることが出来るかもしれない。

 勿論対価として、代償としてラナーにも帝国にもメリットのある交渉をしなければならないが、それはいくつか候補はある。

 それを提示し、それでもダメなら──王国そのものを差し出す覚悟だ。

 

 

 会話を終え、しばらくすれば目的地である城へと辿り着いた。

 ここからが一世一代の大勝負。ザナックは深く深呼吸を何度か繰り返し──

 

「行くぞ」

 

 ただ一言、護衛として、家臣として後ろを着いて歩くガゼフ達へと告げ入城した。

 

 

 そして──

 

 

「お久しぶりですね、お兄様。それとこちらが──」

 

「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありませんザナック殿下。改めまして……この都市近郊を治めています。アルス・ティアーズと申します。どうぞ、お見知りおきを」

 

 

 出迎えたのはラナーだけではなく、辺境侯──粛清騎士も同時だった。

 

 





アレーティア
ナザリックの支配者の気持ちを僅かながら理解した。
鮮血騎士は騎士団から選んでいるのではなく、アレーティア自らがスカウトした者ばかり。普段は別の仕事をしている者が多い。

メイドエルフ達、元奴隷エルフ
元奴隷なので職業レベルにスレイブが存在する。
それはそれとしてメイドとしては有能。ナザリックとまではいかないが、かなりハイレベル。文官や騎士、レンジャーになった者もおり、アレーティアのために努力し高い技能を得ている。
全員救われた際にアレーティアの素顔を見ているし、事情も説明されている。秘密を絶対に守るため、アレーティアは望まなかったが全員特定条件下でアレーティアに対するあれこれを聞かれた場合に死に至る魔法がかけられている。
アレーティアへの忠誠心は皇帝よりも遥かに高い。
なお、デケムに関しては軽蔑の対象になっている。やってることがある意味法国とクソ貴族と大して変わらない。

鮮血騎士
アレーティアの私兵。強さや種族だけで選ばれてはいない。
メンバーに関しては後ほど。

アセロラ
鮮血騎士の一人。元奴隷のボーイッシュなワイルドエルフ。
明るい赤のショートカットで全体的に筋肉質。胸はデカい。
強さ的には四騎士と同等〜ナザミ以下。ルミリアより強い。



改めて、感想や高評価などいただけるとモチベーション向上に繋がるはずなので、どうぞよろしくお願いします。


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アレーティアとザナックの交渉 〜頭を垂れてつくばい、平伏する〜


前回更新から高評価沢山付いて嬉しい…嬉しい……!

総合評価も10,000pt達成しまして、感無量です。嬉しさのあまり小躍りしました(笑)

本当にありがとうございますm(_ _)m


 

 

「こちらこそ挨拶が遅れてしまいました。リ・エスティーゼ王国第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフです」

 

 目の前には少々やつれたものの、アニメや漫画で見たザナック王子がそこにいた。

 一世一代の大勝負とばかりにその目には決意が宿っているのを感じます。詳しくは知りませんが今の王国、かなり末期と言う話は聞いていますからね。

 

「いえいえ、お気になさらず。それで今日はどの様なご用件で? 報告ではラナーとの面会を希望していたとか。御兄妹で積もる話もあるでしょうし、席を外しましょうか? 異性の相手と妻を二人きりにするのは本来なら避けるべきことですが、御兄妹なら問題ないでしょうし」

 

「い、いえ、お構いなく。それに元々ラナーを通して貴方と会うことも目的の一つだったので」

 

「それなら私に会いたいと言ってもらえれば……ああ、仮にも王国最大の障害でもある私粛清騎士に会うと言う噂が立てば、王国での風聞が悪くなりますね。察しが悪くて申し訳ない」

 

 このタイミングでメイドエルフ達が入室しお茶の用意を始めました。

 確かアニメでザナック王子は紅茶が苦手で砂糖をガバガバ入れていた記憶があったハズ。そこで最近、領内の村でドライアドの協力の元栽培された林檎に似た果物を使って作った果実水を用意させました。

 私もよく好んで飲んでいますし、なんなら直接実を齧っていることもあります。

 ジルクニフにはしたないと言われましたが、ジルクニフしか見てないんだからいいじゃないかと返せば、しばらく黙ってから『俺の前以外ではやるなよ?』と念を押されましたが、既にロクシーやラナーの前でもやっているので気にしません。

 まあ、こう言うことをする際の相手は選んでいるつもりなので大目に見て欲しいです。

 あ、果物自体はジルクニフのお墨付きを貰えたので、その村は人員を派遣して更に収穫量を増やすべく土地開発をしている最中です。

 

 そんな果実水を出すとザナックは躊躇いもなく一口飲み──そのまま一杯飲み干してしまいました。そんなに喉が渇いていたのかと驚く中、メイドエルフに目をやりお代わりを注いでもらいます。

 二杯目も半分飲んだところでようやく気を取り直した様です。

 

「我が領内で収穫された果物を使った果実水ですが、お口にあった様で何よりです」

 

「……エ・ランテル領内にこれほど美味い果物があったのか」

 

「いえ、それが出来上がったのは最近です。帝国にいた森祭司の魔法で果実を実らせる魔法や木を生やす魔法があったので、それを参考に魔法省で研究を重ね、実際に存在する果物を品種改良したものです。

 他にも多くの作物をより美味しく、より多く栽培出来るかどうか研究しています」

 

 目を丸くしていますね。後ろに控えているガゼフ達も『魔法でそんなことが出来るのか』と顔に書いてあります。

 そもそもが王国は魔法を軽視していましたから、こう言ったことが出来ることすら知らなかったんでしょうね。レエブン侯なんかはその辺り理解していそうな気はしますが、その辺りは教えていなかったのかもしれません。

 

「お兄様、折角ですし実も召し上がっては?」

 

 ラナーの合図でカットされた果実がサーブされる。一瞬戸惑うが、誘惑には勝てずカットされた果物──ウサギの形をしている──を口へ運びシャキッと言う音が辺りに響く。

 続いてガゼフともう一人が果物を食べ、しばらく果物を咀嚼する音だけがしていました。誰も一言も言葉を発せず無言で食べ進める姿は、その美味しさを余すことなく味わっているのだと思わせるものでした。

 

 

 

 

 そうしてしばらくザナックの癒しの時間が過ぎて、いよいよ本来の話題へと移行しました。

 

「王都でクーデターが?」

 

「ええ、お恥ずかしい話ですが兄であるバルブロが手勢を率いて国王であるランポッサ三世を弑虐し、実権を握りました。

 それを脅かす存在である私も同時に狙われており、クーデターの最中ガゼフ戦士長に救われ命辛々王国から逃げてきた次第です」

 

「確かザナック王子もバルブロ王子も専属の兵は持っていないはずですよね?一体どこからそんな手勢が?」

 

 ここでガゼフの身体にグッと力が入るのを確認。敬愛していた王が殺されたともなれば自責の念に襲われても仕方ないですね。

 しかし……うん、どう言うわけかガゼフ弱くなってますね。見たところ肉体的に衰えたり、戦争で私が与えたダメージの影響で弱体化した訳でも……ああ、そう言うことですか。

 とりあえずこの件は後にしましょう。

 

「兄は……バルブロは王国裏社会を支配する組織『八本指』と通じていた様で、そこに組する勢力を味方につけた様なのです。

 戦士長も王を護るべく懸命に戦ったものの……『六腕』と呼ばれるアダマンタイト級冒険者に匹敵する猛者たちが参戦してしまい……」

 

「『八本指』に『六腕』ですか……。ラナーは何か知っていますか?」

 

「はい。『八本指』は王国最大の犯罪組織で昔、蒼の薔薇の皆さんに麻薬の密造をしている村を焼き払ってもらったり、調査をお願いしたこともあります。八つの部門に分かれていて『六腕』はその部門の一つである警備部門の最強の六人を指す通称のことです。裏社会のアダマンタイトとも呼ばれていますね」

 

 あの原作で碌な活躍もなく死んでいった悲しい奴らですね。一応王国内では有数の実力者ですが、帝国から見れば大したことありませんね。

問題なく四騎士で制圧出来ます。

 

「このままでは王国は実質的に『八本指』に支配されることになってしまう。兄は『八本指』を利用しているつもりでしょうが、傀儡にされているのに気づいていないだけです。

 私は王国を守るため立ち上がらなければならない。しかし、私の協力者はこの通り、戦士長に加え戦士団の生き残り数名しかいません」

 

 ザナックが再び果実水を飲み、舌で唇を湿らせました。ここが一番の勝負どころですからね。口が回る様にと言う考えかもしれません。

 

「そこでですが、帝国の協力を仰ぎたいのです。兄と『八本指』を討ち、元の……とまではいきませんがより良い、民を傷つけない様な国に戻したいのです。どうか、協力を願えませんか? 確約は出来ませんが、出来る限りの要求を呑む覚悟は出来ています」

 

「お兄様それは……」

 

「察しがいいな妹よ。そうだ、この一件が解決したとして、王家への信頼は最早無いにも等しいだろう。民を散々苦しめる様な事しかしてこなかったからな。

 それでも俺は王族だ。民を導く立場にある。そして……より良き統治者がいるのであれば、膝を折ろう」

 

 ザナックから王族としての立場と覚悟を感じさせます。

 あのバルブロは割と勘違いしている王子ですからね。私が思うに、立場に甘えて威張ってるだけの無能です。だからこそ、ラナーが利用したんでしょうけど。フィリップとかアルチェルに比べればまだ操りやすいと言うか、制御しやすいかもしれません。

 対してザナックは無能の皮を被りながらも、陰ながらレエブン侯と共に出来ることを積み重ねてきた人です。実際、原作でバルブロが死んで次期王位継承が確定してから、その優秀さを発揮していてナザリックの手駒となった八本指も、ナザリックとの繋がりを悟られない様に情報を流すことに苦労していたはずです。

 そんな彼が、王になって国を良くしたかった王子が、国を売ってでも民を救おうとしている。

 

「ティアーズ辺境侯、貴方は皇帝陛下とも親しい間柄だと聞いております。どうか、この話を帝都に持ち帰り検討してはいただけないでしょうか? ……この通りです」

 

「で、殿下!?」

 

 ガゼフともう一人の護衛が慌ててザナックに近寄りましたが、ザナックがそれを手で制します。

 

 

 

 何をしたかと言えば──土下座です

 

 

 

 

 国を代表する王族ともあろう人物が、地面に頭を擦りつけて乞い願っているのです。

 ラナーもまさかここまでするとは思わなかったのか驚いています。近くに控えていたクライムなんかはもっと驚いていますね。王宮での関係は良くないものだったはずですが、これを見た彼はどう思っているのでしょうか。

 

「今の私には差し出せるものが何もない。それ故に、こうして頭を下げることしか出来ません。どうか、どうか……!」

 

「殿下……ティアーズ辺境侯、かつての戦場での決闘の取り決めを守ってくださった貴方に私からもお願い申し上げます。どうか我が国を、民をお救いください」

 

 土下座をするザナックを起こすのをやめたガゼフ達も後に続いて土下座をしました!

 目の前には土下座をする男の姿しかありません。

 ここまでされて『協力しません、お引き取りを』なんて言ったら人でなしでは?いや、私エルフなんですけど。

 良心を待つ人がこの光景を見て断るのは難しい──いや、ジルクニフはメリットが無ければ切り捨てますね。今回は明確なメリットがあるので断らないでしょうけど。

 

「……頭を上げてください殿下。分かりました。早急にこの件を陛下に伝えることをお約束します」

 

 バッと顔を上げるザナック。その目には涙が、歓喜の表情が浮かんでいました。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ。かつては敵同士でしたが、今後友好な関係を築けるのであれば、救いの手を差し伸べるのは当然だと思いますので。

 しばらくはこの城に部屋を用意させますので、こちらに滞在してください。黄金の輝き亭も良い宿とは思いますが、長期滞在となるとかなりの出費になるでしょう?

 義兄ともあろう方に、路銀が尽きて野宿する羽目になったなんてことにはしたくないので」

 

 ガゼフがちょっと顔を顰めていますね。……ああ、ここまでの道中できっと野宿したんですね。ごめんなさい。

 

「ではラナー、支度をしてください。帝都に向かいますよ。クライムは他の鮮血騎士を全員召集してください。彼等にも動いてもらうことになりますので」

 

「了解しました」

 

 さて、各地に散っている……と言うか本職に忙しい面々を待つ間に、出来ることをやっていきましょう。

 ラナーもやる気満々ですからね。ちゃんとクライムが活躍出来る舞台を用意するぞと意気込んでます。……頼むからあまり酷いことはしないであげてくださいよ?

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 面会が終わり、一度宿へ戻りザナックは椅子へと座り込み深い溜息をついた。

 内心やってしまったと思っている。土下座などしなくとも、相手に協力するメリットを提示すれば動かせたかもしれない。

 しかし、そんな悠長なことは言っていられなかった。王国の民を思えば時は一刻を争う。ならば、王族としてのプライドなど捨ててしまえと──平民もいる前で土下座をしてまで懇願したのだ。

 ザナックには人を惹き寄せるカリスマがない。人望では父に、威風では兄バルブロに、知恵では妹ラナーに劣る。自分に秀でた才はない。

 そんな無力な自分にいま何が出来るかと言われれば、真摯に訴えかけることだけだった。国民を救うため全てを差し出す覚悟を示したのだ。

 

「……戦士長、俺の行動は王族としては間違っていたと思うか?」

 

「いえ、たとえ誰がなんと言おうが、立派な姿だったと思います」

 

「そうか」

 

 ガゼフは平民だ。

 かつて、まだ傭兵として、戦士として活動していなかったただの村人だった頃、何度も思ったことがある。

 村での生活は貧しいもので、死と隣り合わせだ。モンスターに襲われ多くの犠牲が出ることも珍しくはない。他にも賊と化した犯罪者の襲撃により作物や家畜、場合によっては若い娘が攫われることもあった。

 そんな厳しい現実の中、助けを求めた時に、現れる貴族や力を持つものが手を差し伸べてくれるのを期待しなかったことはなかった。

 しかし、ここでも厳しい現実は期待を裏切る。誰も手を差し伸べることはなかった。

 今の王国はほぼ全ての領地で、都市で助けを求める者が多くいる。むしろ、この国を治める──玉座を簒奪した──王バルブロは八本指の傀儡と化し、国民を更に虐げようとしている。

 しかし、同じ王族であるザナックは無力の身でありながら……国と民を想い、土下座と言う王族であれば本来してはならない事をしてまで救おうとしている。

 元々平民だったガゼフは、ここまでしてくれる王族がいるのかと改めて感激し、その姿に王の──ランポッサ三世の姿を見た。

 

(陛下、ご子息は……ザナック殿下は貴方の意志を継いでいます。このガゼフ、必ずや殿下をお守りします)

 

 決意を新たに、ガゼフは今度こそ守ってみせると意気込み、厳しい自己鍛錬を課すことを決めた。

 

 

 





アレーティア
アルスとして面会。ザナックに土下座されてビックリした。

ラナー
こちらもビックリした人。初手で全てを差し出そうとしてくるとは思わなかった。
クライムが活躍出来る様に手筈を整えようとしている。

クライム
ザナックの代わり様に一番驚いている童貞。

ザナック
王国のためなら土下座でもなんでもする精神。
原作でもランポッサ三世が後継でザナックがいるとはいえ、己の首を差し出すという提案をしたので、この世界線のザナックも首は差し出さないまでも、土下座+国を差し出すぐらいはするんじゃないかと。
下手に渋って協力を得られなければ、頼れる先が無いに等しいので。

ガゼフ
レベル的には下がったりはしていないが、ランポッサ三世を守れなかった負目から少々弱体化している。
近いうちに地獄を見る(アレーティア・ブート・キャンプ)

ジルクニフ
思わぬ風評被害だが、実際やりそう。
次回、アレーティアとラナーのコンビに胃を痛めることになる(予定)
と言うより多分脳も破壊されるのでは?(BSS的な意味で)


感想や高評価などいただけるとモチベーション向上に繋がりましたので、どうぞよろしくお願いします。


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アレーティアとロクシー、ラナーとジルクニフ 〜大好きな相手〜


先月末、弟とカラオケに行き休憩中に日刊ランキングを見たら13位にいて、お気に入り登録者数が怖いぐらい伸びていた件()
もしかしてこれがGW効果……ってコト!?

変な声出て喜びました。ありがとうございます(笑)


余談ですが今回難産でした。
頭の良いキャラの会話書くの難しいんだ……。

これデミウルゴス出すことになったらもっと難産になるやつじゃ……!?




 

 ザナックとの面会後、やたら気合を入れておめかしをしたラナーを連れて帝都アーウィンタールへと転移しました。転移魔法は本当に便利ですね。いつも帝都に行くたびに思います。

 そして流れる様にジルクニフに謁見しました。ジルクニフも私が来た時は基本的に何事も後回しにして応対してくれます。

 

「…と言うわけでして」

 

「と言うわけじゃない!! 裏でそんなことしてたのか!?」

 

「だって、ジルクニフが王国が欲しいって言うから……ラナーに協力してもらって策は任せただけで」

 

「それが一番の問題だろ!? なんでこの女を野放しにした!? せめて逐一報告は上げるべきだろう!」

 

「野放しだなんてそんな。報告はちゃんと受けてましたよ。ただ、こちらに実害がないので陛下に報告しなかっただけで

 

「尚のことタチが悪いわァッ!!」

 

 ジルクニフと会ってから、ここまでに至った経緯を全て話しました。

 バルブロに八本指が近づいてクーデターが勃発したのも、朱の雫が長期他国に依頼に行っているのも、蒼の薔薇が依頼で遠方に行った矢先襲撃にあったのも全部、ぜーんぶラナーの仕業です。末恐ろしいですね。

 どんな手を使えばこうなるのかって? 聞いたけど理解出来なかったので割愛します。ジルクニフはそれを聞いて青褪めてましたけど。

 

「……ですので、なるべく早めにこの事態を解決すれば国民の心は帝国に傾くのは間違いありません。後は間者を使ってバルブロお兄様や八本指の各部門の長を誘き出せば、文字通り一網打尽に出来ます」

 

「……王国には同情するな。この二人を敵に回したら勝てる気がせん」

 

 豪華なソファーにどかっと座り天を仰ぐジルクニフ。お望みの王国がもうすぐ手に入るところまで来ているのに喜んでくれません。

 

「なので、各地に散っている私の手勢の鮮血騎士が集まるまでに……」

 

「ちょっと待て! 鮮血騎士とは一体何だ!?」

 

「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 

「聞いていない!聞いていないぞ!なんだその鮮血帝から取ったような物騒な名前の騎士は!?」

 

 粛清騎士も鮮血帝も物騒な名前だと思うんですけど。

 

「私が直接勧誘した騎士と言う名の私兵です。メンバーには帝国騎士もいれば神官や流浪の剣士、魔法詠唱者(マジック・キャスター)や他種族まで幅広い層を集めたなんちゃって六色聖典です」

 

 全員集まれば、小国程度なら落とせるぐらいには強いです。

 ちなみに私は単騎で王国を滅ぼせる自信があります。やりませんけど。

 

「彼らには私が必要な時に協力してもらう契約をしてまして、今は主にズーラーノーンの残党の処理やトブの大森林、カッツェ平野の強力なモンスターの処理などを頼んでいます。勿論、個々で可能な範囲でですけど。

 以前出した成果だと、ズーラーノーン高弟の一人をブレイン・アングラウスとティラが討伐しましたね」

 

 鮮血騎士の()()()()()()()()、ブレインが一番強いですね。二人がかりとは言え、「英雄の領域に踏み入った、人外」と自称するクレマンティーヌを倒したことは賞賛に値します。

 ちなみに鮮血騎士最強はゴ・ギンかサフォロン辺りになりますね。サフォロンは元々私預かりですけど、ゴ・ギンに関してはオスクさんと交渉し、本人が納得した上で協力関係を結べました。

 この両名はそうそう動かせないんですけどね。闘技場の試合の関係なんかで。それでも今回は鮮血騎士は全員召集するので集まってもらいますけど。

 正直サフォロン一匹、もとい一人でも六腕全員倒せると思うんですけどね。氷のブレスで凍らせて後は砕くだけの作業です。

 

「ブレイン・アングラウスとティラか。ティラに関しては例の装備を貸し出してから、目覚ましい成果を発揮するようになったのは覚えている。

 ブレイン・アングラウスについては、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角の戦いを繰り広げたと言う話を聞いたぐらいだな……」

 

「今のブレインは、四騎士でも勝てるのはナザミぐらいですよ」

 

 四騎士最強のナザミも英雄の領域は超えているのでガゼフより強いです。今も研鑽を続けていて"勇猛"の他に"絶対防御"なんて言う風に呼ばれているとか。

 今度、私の殴打系最強武技〈星砕き〉を耐えられるか試してあげましょう。

 ナザミとブレインが戦った場合ですが、ブレインの〈領域〉がナザミに通用するかどうかが明暗を分けると思います。

 ナザミの鉄壁の防御を掻い潜り、鋭い一撃を与えられるのなら勝機は十分あるでしょう。

 後はブレインはガゼフ超えしているのに気づいていないので、その内ガゼフもテコ入れしないと……。

 

 

「なんと言うか、私より人材集めるの上手くないか?」

 

「いや、そんなことないですよ? 全体的に見れば、陛下の周りの方が優秀な人が多いです。私の周りには特化した才能を持つ者が多いだけで」

 

 帝都の方も文官が育って増えたからか、それとも一度ジルクニフがぶっ倒れたのを体験してからか政務が少し落ち着いたらしいです。

 ちなみに私は出来そうな人を探して、有り余る資金をチラつかせて働いてもらってます。

 特に文官志望の方は知識がある人が多いので、もう少ししたら稼働させる予定の教育施設の方も任せたいですね。この件はラナーに一任しているので報告が楽しみです。

 

「とりあえず、エ・ランテルの騎士を動かすと王国にバレるかもしれないんで帝都に駐在している帝国第一軍をお借りしたいんですけど」

 

「それに関しては構わない。それと王国についてだが──」

 

「あ、その辺りはラナーと話し合ってもらっていいですか? この一件は、基本的にラナーによる立案がほとんどなので」

 

「ダニィ!?」

 

 なんのためにラナーを連れてきたと思ってるんですか。この為ですよ。

 うわ、すっごい嫌そうな顔してる。そんなに嫌いですか。

 それはそれとして、ラナーはラナーで満面の笑みを浮かべているんですよね。なんででしょう?

 

「では私は後宮でロクシーと会ってくるので、終わった頃に呼んでください」

 

「お、おいアレーティア待て!」

 

「まあまあ、ジルクニフ皇帝陛下。ここからは私が引き継ぎますので──どうぞ、よろしくお願いしますね?」

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ジルクニフとの会談を終え、私は後宮へロクシーとジルクニフの子供達に会いにやってきました。

 最低でも月に一度は顔を出すようにしていますが、やはりここは落ち着きますね。ロクシーといる時間が心地いいと言うかなんと言うか。

 

「それにしても、本当にここまで上手くいくなんて驚きましたわ」

 

「これも全部ラナーや優秀な部下たちのおかげです」

 

「それでも、その人材を集めたのは貴女でしょう? もっと誇ってもいいと思うわ。今の帝国は陛下と貴女がここまで大きくしたと言っても過言じゃないのだから」

 

 手放しにこうも褒められると嬉しくなってしまいますね。思わず頬も緩んでしまいます。

 ロクシーの前では私はただの子供になってしまいますね。なんと言うか、以前も言った気がしますが溢れんばかりの母性を感じます。ついつい甘えたくなってしまうんですよね。

 森にいた頃は、割と早々に母親と離されてクソ親父と生活してましたから。アイツ褒めてくれるのはいいんですけど、毎回私より強い格上ばかり相手にさせてくるから嬉しくもなんともなかったんですよね。毎回死ぬような目に遭わせやがって……! ……と言うのが本音でした。

 

 

「あ、アレーティアさんきてたの!?」

 

「おや、エクセレフ君ですか」

 

 現れたのはエクセレフ君。ジルクニフの子供の一人で最年長の男の子です。既に頭角を表していてロクシーや教師達からは大変優秀と言う評価を得ています。

 しかし、まだ四歳で遊びたい年頃なのか──時折、私が後宮に来ると授業を抜け出すとか。悪い子ですね。まあ、可愛げがあっていいかなと思いますが。

 

「ひさしぶりですね! きょうはいっしょにあそんでくれるの!?」

 

「こら、エクセレフ。貴方授業はどうしたんですか。まさかまた抜け出したんじゃ……」

 

「そ、そんなこともうしません!」

 

 流石にロクシーには頭が上がらないですね。育ての親ですし仕方ないですね。とは言え、日頃頑張っているのは聞いているので今日ぐらいはいいでしょう。

 

「なら、久々に遊びましょうか。それとも物語でも話してあげましょうか?エクセレフ君がやりたいことをしましょう」

 

「いいの!? じゃ、じゃあ、チェスをしよう! ぼく、これとくいなんだ!」

 

「ええ、いいですよ。折角ですし持ってきた果物を食べながらやりましょうか」

 

 ロクシーが困った顔をしていますが、なんだかんだで折れてくれました。エクセレフ君だけでなく、まだ幼いジルクニフの子供たちへの鞭はロクシーや教師達、ジルクニフが担い、飴は私が与えればいいでしょう。飴に関してはロクシーも与えるでしょうけど、私はいつもいるわけではありませんからね。

 それに……

 

「えへへ、アレーティアさんだいすき!」

 

 こんな天使の様な微笑みでこんなことを言われたら、嬉しいじゃないですか。

 ちなみにチェスですが、この世界では六大神が広めた遊戯として知られている様です。貴族も嗜む遊戯だとか。何処の世界でもそこは変わらないですね(偏見)

 

 それからしばらく、三人でチェスを楽しみ、ラナーとジルクニフの話し合いが終わるまでのんびりとした時間を過ごしました。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ところ変わってジルクニフとラナーは早々に会議を終えていた。

 この世界最高峰の知能の持ち主とその次点に準ずる二人が話し合えば、今後の王国についてなど早々に──本来はザナック達を交えてじっくり話すべきだが──片付いた。

 

 しかし、こうも早く片付いたのには理由がある。主にジルクニフにだ。

 ジルクニフはとにかく、ラナーと二人きりの空間にいることが耐えられなかった。

 ラナーは優秀……いや、それ以上だった。直接話してみて、自分を上回る智者であることを理解させられた。

 だからこそ味方となった今は心強いが、それでも腹に一物以上のナニカを抱えていそうな不気味な女だ。本心から帝国に協力しているとも思えない。

 

 そして何よりも、嫌いな女ランキング一位を不動のものにした原因──アレーティアと形だけとは言え結ばれたこと。

 これがこの場に二人きりでいる事に耐えられない最大の理由だ。

 

 ジルクニフからすれば想い人を取られたも同然。何度も何度もこの打診を拒絶し続けたのは、アレーティアが誰かのものになることが耐えられなかったからだ。

 ここまでしてこの女の協力を得るぐらいなら、王国など要らんと突っぱねる気でもいたが……アレーティア自身がかなり乗り気かつ、拒絶すれば最終手段を取ろうとするぐらいに、この女に入れ込んでいたことを知った。

 

 ──何故だ?

 俺ではダメなのか?

 ずっと一緒に居たじゃないか。

 

 そんな感情がしばらく──少なくとも一月以上──己の中で渦巻き、胃の痛みと抜け毛に苦しめられた。

 最終手段を取られた際に、せめてアレーティアとは別の存在として結ばれることを条件にアルス・ティアーズ辺境侯と言う存在を生み出させた。

 これにより、精神衛生が整ったからか少しばかり胃の痛みからは解放され、手につかなかった政務も滞ることなく進めることができた。

 

 

 そして今、ここに目の上のたんこぶが如き女が正面にいる。

 話も終わり、これ以上話すこともない。後宮に出向いたアレーティアを呼び出そうと──

 

「陛下、宜しければ私の旦那様のことで少しお喋りしませんか?」

 

 それをこの女は許さなかった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 そもそも、今回ラナーを連れてきたのはアレーティアだったが、今回は無理にでも着いて行くつもりだった。

 理由はジルクニフと直接話すため……と言うのは建前で、アレーティアのことを聞くためだった。

 

 ラナーはアレーティアと生活をしており、寝所で定期的に一緒に過ごして欲しいと願えば最低でも二日に一度は共に夜を過ごす仲だ。

 他にも食事や庭園の散歩、政務や領地の見回りなど、願えば快く叶えられる限りのことをしてくれていた。

 そして、目下最大の願いであるクライムと結ばれること。これを叶えるための条件として王国を捧げることに全力を注いでおり、今回の会議で擦り合わせや今後の王国についての草案など、帝国に多くのメリットを与える案を出し──王国では終ぞ誰からも見向きもされなかった案の数々──認められ、後に実施することとなった。

 

 ラナーは今とても満たされている。

 もうすぐ、愛しいクライムと結ばれることが出来る。

 エ・ランテルにいる文官や騎士達はクライムを馬鹿にしないし、私の言うことを妄言だとも薄気味悪いとも言わない。

 目の前の皇帝は私の案を全て吟味した上でやる価値があると──憎々しい表情を浮かべながらも受け入れた。

 

 王国では得られなかった全てをラナーは享受出来ていた。

 そして何より──自分とは違う同類との、アレーティアの出会い。これが私の全てを変えた。

 

 今までクライムがいれば満たされていたラナーはアレーティアの下に来たことで、完結されていた世界が少しばかり── ()()()()()()()

 

 そして気づいた。クライムと違い、アレーティアのことを断片的にしか知らないことに。

 エルフの王族。帝国に来た経緯。その強さ。その目的など、本人から聞いたことや周りの人間の言う体験談から多くのことは推測出来た。

 ()()()()()()()()

 彼女のことを知るには情報が足りなさすぎるのだ。

 

 なので、最も付き合いが長く、アレーティアを知っている人物──即ちジルクニフと話したいと思ったのはごく自然なことだった。

 

 

 

 

「……と言うわけで、旦那様のことをお聞きしたいなと」

 

「その旦那様と言うのをやめろ。不愉快だ」

 

「あら、ごめんなさい。アレーティア様の──」

 

「お前の旦那はアルス・ティアーズだ。アレーティアではない」

 

「……陛下は辺境侯の過去をご存知なのでしょう? 私、あまりそう言う話を聞いたことがないので、この機会に是非──」

 

「断る!」

 

(この女、アレーティアのことを根掘り葉掘り聞いてどうするつもりだ!? 利用する気か!?)

 

 ジルクニフはアレーティアの情報──もとい、過去の思い出話を守るのに必死だった。

 下手なことを言えば、弱みを握られる事にもなる。

 そして何より──

 

(俺とアレーティアの日々をこんな奴に教えてたまるか!!)

 

 私情が勝っていた。

 

 しかし、ラナーも負けてはいない。

 

「では私の話でもしましょうか。先日、寝所を共にした時の話なのですが──」

 

「な、何ィイイイッ!?!?」

 

 こうかは ばつぐんだ!

 ラナーはほくそ笑んだ。──計画通り、と。

 

「ど、どういうことだ!? し、寝所を共にしただとぉッ!? お、俺でさえそんな……ッ!!」

 

「あら、長い付き合いですのにそう言ったこともしたことがなかったのですね。それでなんですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

「ここからは秘密です」

 

 

 

 

 

 

 プチッと何かが切れる音がした。

 

 

 

「き、貴様アアアアアアッ! 一体何をした!? 吐け!さもなくば……」

 

「落ち着いてください陛下。そんなに知りたいのであれば、陛下も辺境侯の昔のことを話してください。そうしたら、私も口が緩むかもしれませんよ?」

 

 

 ラナーに浮かぶは勝者の笑み。対してジルクニフは視線で射殺さんとばかりの形相だ。

 しかし、ジルクニフは冷静になって考える。このままただ昔話をしてもこの女は口が緩むだけで語るつもりがないかもしれない。

 もしそうなら話すだけ無駄になることになる。それを避けるため条件を──泣く泣く提示した。

 

 

 

 ジルクニフは負けたのだ。ラナーにではない。己の好奇心にだ。

 

 

 

「条件だ。お前が一つ話す代わりに、俺の知ることを一つ話す。ただし、話す内容はこちらで決める」

 

「……まあいいでしょう。この辺りで折れてあげましょう。可愛い可愛い陛下?」

 

「やめろ。ゾッとする」

 

「フフフッ。では、寝所で何があったかと言うと──」

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

「さて、そろそろ終わった頃ですかね?」

 

 思った以上に会議が難航している様で、後宮に声がかかることがありませんでした。

 まあ、その代わりにエクセレフ君だけでなく、他の子とも時間を作って戯れられたのですが。

 みんな可愛いですね。優秀な者がジルクニフの跡を継ぐことになりますが、そうでなくても幸せになれる道へと導いてあげたいですね。

 ラナーとクライムの子も勿論、対外的には私の子供として扱うので……まあ、こちらはラナーが率先して教育するでしょうから、私はそのお手伝いぐらいが丁度良いかもしれません。

 そんな幸せな未来に行く為には、ナザリックをどう対処するかにもよるのですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうすれば……おっと、考え事をしていたらもうジルクニフの私室に着いてしまいました。

 

 護衛の騎士達に声を掛けてから中に入るとそこには……

 

 

「何故だ……何故アイツはお前とはそんなことを……」

 

 

 何故か真っ白に燃え尽きてるジルクニフがいました。何があったんでしょう??

 

「あ、旦那様!」

 

「ら、ラナー? これは一体?」

 

「王国の今後の課題や併呑方針などを話し合って、後はザナックお兄様に呑んでもらえれば問題ないところまで話を詰めていたんです。休憩無しでずっと話していたので、陛下も流石にお疲れになってしまったのかもしれません」

 

 改めてジルクニフを見る。うーん、とてもそうには見えません。

 どっちかと言うと打ちひしがれてる様な……?

 

 ……ああ、きっとラナーと知恵比べでもして負けたんでしょう。ジルクニフも今まで自分を上回る智者と出会ったことがなかったはずなので、初めて敗北を知った感じなのでは?

 

「そうなんですか。とりあえず、今日のところは帰りましょうか。ザナック王子にも報告しないといけませんし」

 

「ええ、お兄様に吉報を持ち帰ることができてよかったです。……あ、旦那様。今晩も……」

 

 今晩も……ああ、同衾ですね。

 正直、一人で寝て欲しいのですが周りの風聞を考えると、定期的に夜を共にしないと不仲を疑われると説得されましたね。

 私もそれで納得した記憶があります。それに、仮に寝ても即座に目覚めることはできますし、今のこの世界に私の寝首を掻ける相手もそうそういないので問題ないでしょう。

 

「分かりました。では、諸々が終わり次第と言うことで」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言ったラナーは私に──誰かに見せつける様にして──抱きついてきました。

 スキンシップがいつもより激しい……どうしてでしょう? 一応ジルクニフの目もあるんで程々にして欲しいんですけど。

 

「陛下? 陛下〜? 今日のところは私たち帰りますので、また後日報告しに来ますね?」

 

「……ああ」

 

 心ここに在らずのジルクニフが少し心配なので、後でロクシーさんに〈伝言〉で話を聞いてもらう様にしましょう。

 

 こうして、ジルクニフとの会談は終わりました。

 

 

 





エクセレフ君
ジルクニフの子供の一人。オリキャラ。
今いる子供たちの中では一番優秀。
アレーティアのことが大好き。ロクシーも好き。ジルクニフはそんなでもない。

ジルクニフ
今回最大の被害者。
知らないうちに王国の裏でとんでもないことが進んでいるのを知らされ、知らない組織が生まれていて、憎たらしくて仕方ない女がマウント取ってボコボコにしてきた。泣いてもいい。
抜け毛に関しては原作と違いアレーティアの異能を受けているため直ぐに生えてくるから安心。
しかし、胃はどうにもならない。
この後ロクシーに泣きつくことになる。
需要があればアレーティアに恋心を抱いた回を番外編で書くかもしれない。多分それなりに重い。


ラナー
ジルクニフ相手に様々な面でマウント取ってボコボコにした女。
エ・ランテルでの生活が楽しくて仕方がない。色々欲を抱き始めた。
アレーティアとの仲は非常に良好。初めてを一つ奪っていて、それがジルクニフにトドメを刺した。

「初めての相手はジルクニフではない!このラナーだーーッ!」


アレーティア
無自覚にジルクニフのあれこれに大ダメージを与えた天災。
ラナーもジルクニフも狙っているが、ナザリックが来る世界線で結ばれることはない。
ラナーが初めてを一つ奪っているが、本人は知らない。補足すると純潔のまま。
ちなみに好みの相手は包容力のある、もしくは甘えさせてくれる人物。
ナザリックだとセバス、ペストーニャ、ユリ辺りが該当する。


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アレーティアと鮮血騎士 〜粛清騎士の愉快な仲間達〜


通算UA60万突破しました!ありがとうございます!

今回は鮮血騎士のメンバーをダイジェスト風味に紹介回です。



 

 

 帝都アーウィンタール、闘技場

 

 この日もまた、帝国最強の剣闘士──武王の座を賭けた闘いが繰り広げられていた。

 闘技場の中心には二つの巨大な影があり、一方の巨人はその手に持つ棍棒を振るう。対するもう一方の竜はそれを躱し、尻尾に取り付けられたテイルブレードが巨人に迫る。それを武技で受けながら果敢に攻め続ける巨人。

 二体の王──巨王ゴ・ギンと凍王サフォロンの激戦は迫力満点で、闘技場ではこの試合が組まれると観戦券を賭けた熾烈な争いが起きる。

 その為、この二体が戦う試合はそれから常にシークレットとされていた。

 今日の試合でもエキシビションマッチとしてこの試合が組まれたため、観客は大盛り上がりだ。

 

 この試合に何故ここまで人気があるかと言えば、神話の如き戦いをこの目で愉しめるからだろう。

 ただでさえ、ドラゴンが闘技場で戦うなど今まで前例もなく、冒険者でさえ討伐したと言う話は──一部の弱いドラゴンや幼体などを除いて──無かった。

 

 そんな試合も佳境に差し掛かり、凍王が切り札であるドラゴンブレスの体勢に入る。

 対して巨王は棍棒を構え、自らの持つ最高の武技による迎撃を試みる。

 そして互いの一撃がぶつかり合おうとした瞬間──!!

 

 

「はい、そこまで」

 

 

 間に現れた人影が巨王の棍棒を、凍王のドラゴンブレスをそれぞれ片手で防いだ。

 

「「なっ──!?」」

 

 二人の目に映ったのは自らの師であり、真に帝国最強の座を持つ人物──粛清騎士の姿がそこにあった。

 

 

 

「久しぶりですね二人共。楽しそうだったのでつい乱入してしまいました」

 

「しゅ、粛清騎士様。ご無沙汰しております」

 

「アレー……ゲフンゲフン。ご主人様お久しぶりです。今日は何用でございますか? まもなく私の勝利で決着が着くところだったのですが」

 

「何を言うか。今回こそお前のブレスを、俺の奥義〈剛撃無双〉にて破り勝利を収めるはずだったのだ」

 

 

 この二人、普段は仲が良いのですが向上心故か、それともライバル心かは分かりませんが、試合になると途端に不仲になるんですよね。

 どちらも負けず嫌いの様です。

 このまま言い争われて時間だけが過ぎていくのも無駄なので、話題を変えましょう。

 

 

「二人とも、喧嘩もいいですが程々に。今日来たのは鮮血騎士としての仕事があるからです。詳しくは後で話しますが……このままだと二人とも不完全燃焼だと思いますので、私がここから相手をしてあげましょう」

 

 

 無限の背負い袋からフロスト&フレイム・オブ・アゼルリシアを取り出し構えます。

 大丈夫、闘技場で死人が出るのはよくあることですが、私は殺さない様に加減してあげますから! 精々半殺しで済むはずです。

 

 

「サフォロン、分かっているな?」

 

「と、当然です。本気で抗わないと……!」

 

「準備はいいですか? では……!!」

 

 

 そうして私とゴ・ギンとサフォロンは闘技場で観衆が見守る中、闘技場全体を震わせるほどの激しい戦いが繰り広げられました。

 勝者? 当然私です。二人とも強くはなっていますが、あくまで単体の強さなので今後は連携して戦うことも教えなければいけませんね。

 

 

 

 後に、この戦いを観た観衆は語った。

 

 

『真の武王は粛清騎士なのでは?』

 

 

 異論はなかったという。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 エ・ランテル領内、とある農村

 

 

 その男は畑仕事に精を出していた。

 体格に恵まれた心優しい男はこうした農村を定期的に周り、人手が足りない農作業などの力仕事を率先してこなしていた。

 

 しかし、彼の本職は農家などではなく神官だ。

 

 元々、善良だった彼は神殿の考えに疑問を抱いていた。

 救う術を持っているのに対価が無ければ無闇に他人を癒してはならないことや、それぞれが信仰する神に関しての諍い。他にも多くのしがらみがあり、この男はそれに嫌気が差して神殿を辞めてワーカーとなった。

 

 しかし、ある時を境に冒険者もワーカーも仕事が激減した。原因は騎士団の勢力拡大による治安の向上により、モンスター退治などもカッツェ平野を除けば微々たるものになってしまった。

 

 それでも、そこそこ名が売れていた彼は食うに困らなかった。

 気の合う他のワーカーとチームを組み、カッツェ平野のアンデッド退治を主に行い、その間に受けたリスクは高いが実入りの良い仕事で生計を立てる日々を送っていた。

 

 そんなある日、突如としてソレは現れた。

 

 

「これから先、貴方の様な心優しき神官が必要です。どうか私の手を取ってはくれませんか?」

 

 現れたのは帝国で知らぬものはいないであろう粛清騎士。

 当時、ワーカーとして名を上げていた彼は、何らかの理由で粛清されるのではないかと心穏やかではなかった。

 だが、話を聞いているうちに、段々とその手を取りたくなって仕方なかった。

 

 

「神官が人を救うのに対価を支払わなければならない。これは仕方のないことですが、日々生きるのに精一杯な人々が高額な金銭を払えるとは思えません。そこで、貴方の様な無償で人を救いたいと願う人達に声をかけています」

 

「そもそも、支払えないのであれば領主である私が払えばいいのです。そういうことは、我々の様な力ある立場にある者がやればいい。人は簡単に補充できるものではありませんし、何より──神の愛は有償だと思われたら嫌でしょう?」

 

「貴方は強い。その手腕を私の下で発揮してみませんか? 当然待遇も保障しますし、今よりも力をつける気があるのなら私自ら鍛え上げてもいい。どうでしょう?」

 

 この申し出自体、男にとっては非常にありがたいものだった。何故なら自分の想う理想の神官になれるのだから。

 更に詳しく聞けば、神殿も既にこの件に関して了承しており、そちらの目を気にする必要も無くなった。

 

 共に過ごしてきたワーカー仲間の──ヘッケランとイミーナには悪いが、この男ロバーデイクは最終的に粛清騎士の手を取り鮮血騎士の一人として迎え入れられた。

 

 

 時は今に戻り、ロバーデイクは畑仕事を終えた後の汗を流し、自身の好物である甘味で腹を満たす。

 この土地に来てもう一つ良いことがあったと言えば、生活が豊かになり食文化が花開いたためか多くの新しい料理が生まれ、既存の料理もより美味しくなっている。

 エ・ランテルでは、時折品評会と称した料理人達による新作料理対決などが行われているらしいが、その恩恵をロバーデイクも受けている。

 ……とは言え食べ過ぎは良くない。うっかり食べ過ぎて腹回りの肉を増やそうものなら、かの辺境侯から地獄の訓練が再びやってきてもおかしくはない。

 

 そんなことを考えていると、手持ちのマジックアイテムが起動した。

 このマジックアイテムは全鮮血騎士に支給されており、登録した人物がマジックアイテムで連絡のやり取りが出来る物だ。なので、必然的に相手は同僚ということになる。

 

「なるほど。では、少し時期を見合わせてエ・ランテルへ向かうとしましょう。でもその前に……」

 

 ロバーデイクは更に甘味に手を出す。彼は仕事中は縁起を担いで、好物である甘味を一切摂らないようにしている。

 その為、その前にはなるべく多くの甘味を食い溜めすることにしている。

 

「この新作のドウナッツ、でしたか? フフッ、美味しくてついつい多く食べてしまいますね」

 

 後日、腹回りの肉が少し増えて訓練に勤しむ彼の姿があったとか。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 アゼルリシア山脈、某所

 

 ここではドワーフの国との国交をより円滑にするため、山道の整備、及び新たな坑道を作るべく、日夜多くのドワーフやクアゴア、そして──

 

「オラァ! もっと腰を入れんか! そんなんじゃいつまで経っても進まんぞ!?」

 

「ひ、ひぃっ!? す、すいません! すいません!」

 

「おいお前さん、何サボっておるんじゃ? そんな暇があるなら、この岩を運んでくるんじゃ」

 

「ま、待ってくれ……もうへとへとなんだ、少し休ませ……」

 

「甘っちょろいこと言うんじゃないわい! お前さん達はここでの労働刑に処されたんじゃろ!? なら、罪を贖うべく休まず日夜働くんじゃ!」

 

「ひええええ!!」

 

 

 そう、ここで働く人間は主に帝国で処刑とはならなかった重罪人達──主に貴族や野盗──が連れてこられる流罪地でもあった。

 余談だが、一応ドワーフ基準で休みも与えられるし、食事も出る。しかし、種族が違う上に貴族など肉体労働をしたことがない者たちにとっては地獄そのものだった。

 

 また、労働はここだけではなく木が貴重とされるドワーフのため、アゼルリシア山脈麓に生えている木を伐採し、運搬する業務もある。

 こちらは護衛が着くとはいえ、時折モンスターに襲われる為危険度は差して変わらない。

 

 

「ふぅ、これで後は山道を整理すれば……む? これは……召集か?」

 

 そんな中、現場を預かる身であるクアゴア氏族王ぺ・リユロは渡されていたマジックアイテムを取り出し、内容を確認した後溜息を吐いた。

 

「リユロ様どうなされ……ああ、また召集ですか?」

 

「ああ、まただ」

 

 実のところ、リユロは割と頻繁に鮮血騎士として召集を受けていた。

 主に面倒事で。

 

 オラサーダルクに仕えていた頃よりはずっとマシな待遇だった。

 新たな住処を用意され、仕事を与えられ、対価も有益な物を与えられている。

 とは言え、何かと自分に多岐に渡る仕事を押し付けるのはやめて欲しかった。

 リユロは元々多忙の身だ。エ・ランテルに移住するクアゴア達の統治、人間達との付き合い方の教授。人間世界における様々な知識の収集に加え、こうしてアゼルリシア山脈での山道整備の責任者として多くの事柄に関与している。

 そこに鮮血騎士と言う更なる仕事が舞い込む。正直に言えばリユロは頭を抱えた。

 しかし、それと同時にこの鮮血騎士というのはアレーティアから信頼足りえる者にのみ与えられる立場という話をされ、少々気を良くして受け入れた。

 

 結果──ただでさえ多忙だったリユロは更なる激務に追われた。

 これは裏話ではあるが、アレーティアはリユロを原作通りジルクニフの友人にしてあげたかった為、現状気にも留めていないジルクニフの眼に留める為、多くの功績を積ませようとしているのだが、リユロにとってはいい迷惑だった。

 

 とはいえ、良くしてもらっているのは事実。同僚たる他の鮮血騎士とも上手く付き合えている。

 もう一度深く息を吸い込み、一気に吐き出す。そうして気持ちを切り替える。

 

「ヨオズよ。しばらく現場を任せるぞ。何かあればドワーフや帝国騎士に相談しろ」

 

「かしこまりました。ご武運を……」

 

 そうして、リユロは支給された太陽光を遮るマジックアイテム──サングラスをかけ、鮮血騎士専用の待機場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 帝都アーウィンタール、皇城

 

 

 先日のラナーによる精神ダメージからなんとか立ち直ったジルクニフは、再び政務に取り掛かっていた。

 そして政務がひと段落した中、唐突に背後から声をかけられる。

 

「陛下、少しよろしいでしょうか?」

 

 今日護衛として就いているレイナースだ。

 かつて、呪いに犯された顔半分を髪で隠していたが今は隠しておらず、その美貌をさらけ出している。

 あの時、褒美に渡したポーションは残念ながら効果はあまりなく、最終的にアレーティアによって解呪されたと報告があった。

 

 そして、これから何を言われるのか少々身構えながら──恐らく四騎士を辞めたいと言われるだろうが──聞く姿勢を整える。

 

「どうした?」

 

「はい。実はしばらく休暇をいただきたいのです」

 

 想定していたのとは違うことを言われたため、少しばかりホッとする。

 ()()()()()()()()()()()()()()()レイナースを手放すには惜しく、引き止めるための弁舌を考えていたがどうやら杞憂に終わった様だ。

 

「休暇? 急だな。他の四騎士には了承を得ているのなら構わないが……」

 

「勿論、ナザミ、バジウッド、ニンブルの三人は説得しました。一月程ですが、最終的に了承してくれましたわ」

 

「そうか……は? 一月!?

 

 突然の一月の休暇にジルクニフは戸惑う。

 休むこと自体は構わないのだが、流石に長すぎやしないかと思った。

 確かに、レイナースの穴を埋めることは今の帝国なら容易だ。騎士団の層も厚くなり、四騎士候補の最精鋭の騎士達もいる。これを機に四騎士としての職務を体験させることだって可能だ。

 だが、あまりにも突然過ぎるのだ。不審に思っても仕方がない。

 

「確認するが、どう言う理由での長期休暇だ?」

 

「いえ、粛清騎士様から鮮血騎士として召集が」

 

 

 ジルクニフは思わず天を仰いだ。

 

 ──レイナース、お前もか。

 

 脳裏にそんな一言が無意識に浮かぶ。

 

 鮮血騎士のメンバーの一部は教えられたが、まさか四騎士にまで鮮血騎士がいると誰が思ったか。

 と言うより、勝手に任命しないで欲しいのが本音だ。

 

「そ、そうか。しかし、お前も鮮血騎士だったとは……」

 

「はい。とは言え、基本は四騎士としての仕事をメインに、有事の際に手伝って欲しいとのことで」

 

「……最初から四騎士を動員すればいいんじゃないか?」

 

「ええ、元々呪いが解けたら早々に四騎士を辞めて粛清騎士様に仕えようとしていたのですが、四騎士辞めるぐらいなら兼任して欲しいと言われたので……」

 

「……そうか」

 

 ジルクニフは内心、よく引き止めたとアレーティアを褒めた。

 

「正直、ルミリア様が羨ましいです。私も専属の部下になれれば……」

 

「俺の部下では不服か?」

 

「不服です」

 

「なんでだ!?」

 

「陛下に恩義はありますけど、私が忠誠を誓っているのは粛清騎士様なので」

 

 ジルクニフは思った。

 契約は果たされたとは言え、ぶっちゃけ過ぎだろ、と。

 

「私の忌まわしい呪いを解いてくれた上に、御礼をしようとしても気にするなと。()()()()()()()()()()()()()()()()だと、私の夢を叶えなさいと告げてくださった粛清騎士様に忠誠を誓うのは当然のことでは? 陛下にも感謝していますが……粛清騎士様は別格です」

 

 ああ、とジルクニフは頭に手をやる。

 どうやら呪いが解けたと同時にアレーティアに傾倒してしまったらしい。それもかなり重めの。

 

「分かった。お前が休んでいる間に次期四騎士をこちらで選定する。その後、エ・ランテルへ追加の増員としてお前を送り出そう。それでいいか?」

 

 すると、恐るべき速さでレイナースはジルクニフの両手を取り──

 

「陛下……初めて陛下に恩義以外のものを感じたかもしれません

 

「失礼にも程があるだろ」

 

 ジルクニフは、レイナースをアレーティアに押しつけることにした。

 今まで散々押しつけてこられたのだ。これぐらい良いだろうと無理矢理納得して、レイナースの休暇を承認した。

 

 

 






ゴ・ギン
鮮血騎士最強格その一
難度的に言えば110より上。
アダマンタイト級冒険者を凌ぐぐらいに強い。
〈剛撃無双〉はサフォロンのドラゴンブレスを相殺できる程度には連続で攻撃ができる。

サフォロン
鮮血騎士最強格その二
難度的に言えば110ぐらい。
レベル的なことを言えば種族レベル的には幼年(ドラゴリング)若年(ヤング)青年(アダルト)で合計23レベル。
残りはグラディエーターなどの職業レベルで構成されている。
武技も使えるのでその内オラサ―ダルクは超えられる。

ぺ・リユロ
苦労人。アレーティアのお節介でめちゃくちゃ多忙。
アレーティアは基本優秀な相手に仕事を丸投げする癖があるので、よく仕事を任される。
とは言え、そのお陰でオラサ―ダルクに仕えていた頃よりも良い生活は送れている。
この王国粛清編の後に王国の山岳地帯を一つ与えられる予定。

ロバーデイク
スカウトされた元ワーカー。
今の実力はオリハルコン級。
アレーティアの記憶に運良く残っていたため採用された。
ちなみにエ・ランテルの神殿勢力はアレーティアが毎月かなりの額を納める代わりに、領民の医療の無償化を実現させている。

レイナース
呪いが解けておりカースドナイトの職業がブレッシングナイトに変わっている。
祝福を得た神官騎士と言うカースドナイトとはまた違う職業。
アレーティアに返せないほどの恩を感じ、自分が納得がいくまで仕えるつもりでいる。
割と狂信的になるのでアレーティアも軽く引いた。


アルシェ
鮮血騎士に勧誘されたが、夢のため、妹のために断った。


残りの鮮血騎士
アレーティア、ブレイン、ティラ、ルミリア、クライム、アセロラ、○○○、○○○○○、元奴隷エルフ数名



このメンバーと戦う予定の八本指と六腕です。
彼らには頑張って欲しいですね!





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アレーティア・ブート・キャンプ 〜今こそ成長した姿を見せる時〜



前回後書きに素でティラを書き忘れたことを全国のティラファンに謝罪します。

今回はザナックのダイエット回です(大嘘)

難産だったのと、他作品にどハマりして読み専になっていたことをここに告白します。
これもコミックガルドで始まった新連載が面白かったせいなので、どうか許してください。


 

 

 それは、ザナックとラナーが今後の打ち合わせをしている時に起きた出来事だった。

 

 

「ザナック殿下。ダイエットの時間です」

 

「…………はい?」

 

 

 拒否は認められなかった。

 

 

 

 

 

 と言うわけで、ザナックとのダイエット……もとい、強化計画です。

 一時期痩せていましたが、それはストレスと飢えによる一時的なもので今では元通りのシルエットになっています。これはいけません。

 

 今後、王国は帝国に併呑……もしくは属国化することが決まっており、その辺りはザナックとラナーで詰めた上で、ジルクニフが認めれば決定となります。

 しかしながら、私は思うのです。ザナックはこのままでいいのかと。

 仮にも王族ではありますが、容姿がパッとしません。悪く言えば王族であるだけのデブです。ロイヤルおデブです。

 ロクシーも言っていました。人はまず見た目からと。それ故にジルクニフの妾は容姿が整った美人ばかりです。ロクシーも私は好きな顔ですが、ロクシー曰く『自分の子供だと容姿が優れない場合がある』とのことで、子作りはしていないとか。

 私としては愛があればいいじゃないかと思いましたが、ロクシーの仕事は次代の皇帝を育てること。厳しい話ですが、国の顔ともなろう人物は容姿が整っていなければならないのです。

 

 余談ではありますが、この話をした後にロクシーにまた着せ替え人形が如く、化粧をされたり新しいドレスを贈られて着飾られたりしました。

 そこにジルクニフも現れ、以前の様にしばらく固まってしまいました。

 そして、夜会のダンスの練習に付き合ってくれと言われたので、数時間月光が後宮を照らす中二人で──指導にロクシーを交えて──踊りました。

 ラナーとも踊ったことはなかったので、今後のことを考えると良い練習になりましたね。まあ、披露する機会があればの話ですが。

 

 

 話を戻します。ザナックの件です。

 要は今のザナックでは国の顔にはなれないなと思ったのです。

 正直に言えば容姿はラナーはともかく、あのバルブロにも劣っています。まあ、あちらは救いようもない程度の知能しかないのでどっこいどっこいですが、それでも風格と言うものがあります。

 これは確かザナックも気にしていたことですね。兄には……威厳で劣る、でしたか?

 

 なので、ザナックにはダイエットをしてもらい、最低限の威厳を手に入れてもらおうかと。

 仮にもラナーの兄ですから、痩せればそれなりに良い男になるでしょう。

 

 

 

 

 場所を変え、エ・ランテル領内のとある場所に来ています。

 

 ここは私と鮮血騎士が訓練を行う場所です。

 何故エ・ランテルにある訓練場を使わないのかと言われれば、あの場所だと被害が出るからですね。主にテンション上がった私のせいで。

 

 反省はしてるんです。でもついつい力が入ってしまうので、なら被害が出てもいい場所にと作ったのが此処です。

 見立て東京ドーム一つ分ぐらいの広さの平野を魔法で整備して、種族問わず使える様に作った休憩所……いや、合宿所と言った方が分かりやすいですかね? 鮮血騎士を鍛え上げるべく、様々な施設を用意しました。

 

 

 さて、今回連れてきたのはザナックとついでにガゼフ。

 残りは鮮血騎士のメンバー、ゴ・ギン、サフォロン、クライム、アセロラと……

 

「ラナー様、どうかお下がりを。訓練となると……その」

 

「大丈夫よクライム。辺境侯と結ばれた時からこうした荒事には慣れないとって思っていたの!」

 

 はい、我が妻であるラナーです。()()()()()()()()()()()()()()()()

 非戦闘員ではあるんですが。全体指揮を任せることになっています。

 なので、今回連れてきたのは鮮血騎士の強さなどを把握してもらうためです。口頭で伝えるよりも、実際に見てもらった方が作戦を立てやすいかなと。

 ちなみに、彼女の作戦を実行するのが楽しみですね!って言う話をしたら「アレーティア様は大雑把に作戦をお伝えしますので、どうぞご自由に心ゆくまで暴れてもらって構いませんよ?」と返されてしまい複雑な気持ちです。デミウルゴスに作戦内容言えないよ!って言われたセバスもこんな気持ちだったんでしょうか?

 まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを披露することは……多分ないでしょう。

 

 

「一先ずアセロラ。殿下のダイエットのサポートを頼みます。いきなり本格的なことをすると身体を壊す原因になるので、軽く、長く続けられることをする様に」

 

「かしこまりました」

 

 ザナックは非戦闘員ですからね。普段の少ない運動を長時間やればいいでしょう。死にもしないし、命の危険もない。ただ、段々とキツくなっていく真綿で首を絞める様なトレーニングですから。

 食事制限は敢えてしません。多分、最初のうちは食べ物も喉を通らないぐらいに疲弊すると思っているので。

 

 

 ザナックは任せましたし、私たちはこちらも叩き直すとしますか。

 

「では、ガゼフ戦士長。来るべき決戦の日に向けて、貴方を鍛え直してあげましょう。随分鈍っているようですからね」

 

「……鈍って見えるのは私が……いや、俺が陛下を守り通せなかったからだろう。アレは俺の未熟が招いてしまった結果だ。二度と……もう二度と、あの様な無様は晒せない。辺境侯、どうかよろしく頼みます」

 

 頭を深々と下げていますが、その姿からは悲痛な思いがひしひしと感じられます。

 もし、私がジルクニフを守れなかったら……こんな風になっていたかもしれません。私の場合はこの生まれながらの異能(タレント)が解決してくれたかもしれませんが。

 

「ガゼフ戦士長」

 

「敬称は不要です。ガゼフと呼んでもらって構いません。ところで、以前から少し伺いたいことがあるのですが」

 

「なんでしょうかガゼフ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ああ。〈性転換(トランス・セクシャル)〉で今は男になっているので、あの時は使えなかったから別人だと思ったのかもしれませんね。

 

「ええ、同一人物ですよ。……これでどうでしょう? この姿なら、以前相対した時と変わらない姿だと思いますが」

 

「なっ!? いっ、一体何が!?」

 

「事情があって魔法で姿を偽っていたのです。まあ身長を伸ばしたり、雰囲気を変える程度ですが。これで納得して頂けましたか?」

 

 性別を変えていることまでは言いません。言ったところで無駄ですしね。ガゼフも魔法の知識がからっきしだったはずなので、これだけで十分でしょう。

 

「なるほど……魔法というのはそんなことまで……」

 

「ガゼフ、貴方はこれからザナック王子を護るのに魔法の知識が無いのは痛手です。 魔法と言うのは戦士と違い武器が無くとも容易に他者を傷つけられるのですから、そう言った場合の対処法も学ぶべきです。

 エ・ランテルに滞在する間、魔術師協会に話を通しておくのでそう言った知識も身につけてください」

 

 王国は魔法に無頓着すぎるんですよね。脳筋の集まりだからダメになったんですかね?あの六腕も魔法詠唱者(マジック・キャスター)は不死王(笑)デイバーノックしかいませんし。

 私も人のことは言えませんけど魔法は使えるんで。便利ですよ? とりあえず隕石落とせば大体解決しますから。被害が尋常じゃない点を除けば。

 

 

「では、ガゼフ。これより貴方の訓練を始めます。手始めに──ラナー、クライム」

 

「は、はい!」

 

「なんでしょう?」

 

「折角ですから貴方の成長ぶりを彼に見せてあげなさい。今から行うのはルール有りの模擬戦です。制限時間は十分。その間にラナーを守り切ればクライムの勝ち。ラナーに何かしらの負傷を与えられたらガゼフの勝ちとしましょう。

 ああ、勿論戦闘不能と判断した場合は当然負けになるので」

 

「なっ!? そ、その様な──」

 

 何をそんなに驚いているのか。クライムは王国にいる時からラナーを護る騎士としてずっと側にいたんですから、差を見せつけるには十分な相手です。

 仮にラナーが傷つこうと、その前に止めればいい訳ですから。

 

「クライム、出来ますよね?」

 

 そう問えばクライムは目を閉じ、深く深呼吸をして──

 

「出来ます。いえ、出来なければなりません!」

 

 絶対に護り抜くと言う決意を宿した眼を見せてくれました。

 クライムには戦士としての才能はありませんが──出来ることを増やしてやればどうとでもなります。

 レベル差で言えばクライムは絶対に勝てませんが、どうなるか。

 

「クライム、どうか私を守ってくださいね」

 

「──はい!」

 

 あ、さり気なくラナーが支援効果(バフ)かけてます。ズルいけど、相手にバレなきゃいいんで良しとします。

 

 

 

 決戦の準備は整いました。

 ラナーを背後に剣を構えるクライム。

 さあ、私が叩き込んだ『勝てばよかろうなのだ戦法』を披露する時が来たのです!

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 目の前の男、クライムへと剣を構える。

 王国をラナー王女と共に去り数年。あの頃は才能のない凡人と言う評価を下していた。

 どんなに頑張っても戦士としての芽は出ないと。

 それが今はどうだ?あの頃と比べると目覚ましいほどの成長を感じさせた。この数年の努力が実を結んだのだろう。自分の予想を超えて強くなった。

 だが、まだ俺には敵わない。戦士としての技量はまだまだ俺の方が上だ。

 それはこの場にいる誰もが──戦士ではないラナー様は分からないが──分かっていることだった。

 だがそれでもアルス辺境侯が、あの粛清騎士が敢えてクライムに、この場では足手纏いになりかねないラナー様を護りながら戦わなければならない。どう考えても不利な条件での模擬戦をさせるのには意味があるのだろう。

 この戦いを通して何が自分に足りないのかを見定めることにもなる。何せ俺は陛下を守り通せなかった負い目がある。

 ならば、この戦いで掴んでみせよう。自分に足りない何かを。

 

 

「では──模擬戦開始」

 

 

 辺境侯の合図が出たと同時に突貫する。

 対してクライムは最初の一撃を受けずに躱し、ラナー様の手を取り後方へ跳んだ。

 それと同時に何かを放り投げて───

 

 

「ぐわあああああ!?」

 

 

 ──視界が真っ白に染まった。

 なんだ!? 一体何をされた!?

 突如として視界を奪われ混乱したが、なんらかのマジックアイテムを使ったのだろう。初手でこちらの目を潰しに来るとは思わなかった。

 

 しばらく眼は使い物にならないだろう。下手をすればこの模擬戦の最中も。

 だが、解決策はある。

 

「〈可能性知覚〉〈能力向上〉」

 

 視覚を潰されたのであれば、他で補えばいい。

 身体能力を高め、第六感に身を任せる。そうすれば自ずと相手の取る行動が解る。

 

 すると足元が急にぬかるみ、沈んでいった。

 これは一体!? まさか……!

 

「これは魔法か!? クライム、お前いつの間にそんな」

 

「いいえ、これは私ではなく巻物(スクロール)によるものです。まだまだいきますよ!」

 

 思わず構える。足場はぬかるんで動きづらいが、それでも動きを完全に封じられたわけでは無い。

 五感と第六感をフルに働かせ、経験を元に次なる手を読む。

 視界と動きを封じたのであれば、近接ではなく──

 

「〈投擲(スローイング)〉!」

 

「やはり!」

 

 なんらかの武器が武技による補正を受け投擲された。それを空気の動きで感知し、即座に剣で叩き落とす。

 跳んできた方向から大凡のクライムの居場所を推測し、脚に力を入れ泥濘から飛び出す。

 

 一歩、二歩、三歩と駆ければ二つの気配を感知する。であれば──

 

「〈流水加速〉」

 

 最早手は抜かない。〈流水加速〉により更に加速し、二つの気配に接近し、その両方へ同時に六つの剣撃──即ち。

 

 

「〈六光連斬〉」

 

 

 己の持つ最高の武技を持って二つの影を斬った。

 これならば攻撃範囲も広く、回避は難しいだろう。

 

 しかし放った〈六光連斬〉の手応えは人を斬った感触ではなく、大木を斬った様なものだった。

 

「何!? まさか偽物か!?」

 

「騙されましたね!」

 

 動揺の中、背後からその声と共に目当ての男は現れた。そして──

 

「〈斬撃〉!」

 

 マズい。完全に背後を取られた。しかしその程度では俺は負けない。

 

 

「甘い! 〈即応反射〉ッ!!」

 

 

 少々無理な体勢になったが、それでもこの一撃は凌いだ。後はこのままクライムを打ち倒すだけなのだが。

 

 

 

 

 ──視えない視界の先で、クライムが笑ったように感じた。

 

 

 

 

 

「ストロノーフ様、お覚悟を。──起動」

 

「あぐぁっ!?」

 

 突如として全身を激痛が駆け巡った。耐えられない程ではないが、それでも全身が硬直し致命的な隙を晒した。

 一体今度は何をされた? 否、今度は何をされる!?

 視えない視界の先を、恐怖を視ようと懸命に足掻いた。しかし、それは叶わず──

 

「〈斬撃〉!」

 

 

 上段から放たれたであろう、見事なその一撃をこの身で受けた。

 そして──

 

 

「そこまで。勝者──クライム」

 

 

 俺はこの戦いに敗れた。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「よくやりましたねクライム。ラナーを安全な場所に退避させた上で、相手に何もさせずに翻弄したのはとても良かったですよ」

 

「ありがとうございます! これも全て辺境侯の教えがあってこそです!」

 

 さて、クライムが勝ちましたが……正直に言えば、一対一の戦いでクライムがガゼフに勝てるかと言えば不可能です。

 しかし、それはあくまで原作のクライムがです。

 私の鍛え上げたクライムは、帝国の精鋭騎士並みに強くなりました。その上で私は、クライムに護衛としての心得を教えました。

 私もかつてはジルクニフの身辺警護を請け負っており、何度も何度も暗殺者や襲撃者、イジャニーヤなどの組織を返り討ちにしてきた実績があります。

 その経験を踏まえた上で、クライムに出来そうなことを叩き込みました。

 

 そして、策として与えたのが数々のマジックアイテム。要はクライムに盗賊としての技能を教え込んだのです。

 私は言いました。正々堂々戦い、負けて全てを失うぐらいなら、卑怯な、姑息な手を使ってでも勝てばいいと。

 つまり──どんな手を使おうが、勝てばよかろうなのだと。

 いや、この場合は過程や方法なぞどうでもいい。結果だけが全てと言う方が正しいかもしれませんね。

 

 その結果、数多くのマジックアイテムを巧みに操るクライムが誕生したのです。

 更に、私からだけではなくラナーもクライムが強くなるならと、守られる立場からのマジックアイテムの使い方について相談し合ったそうです。

 二人きりで話し合いをしたラナーの機嫌は、とても良かったことをここに記しておきます。

 

 今回使ったアイテムは対象の視界を数分奪うアイテム。〈泥沼〉の魔法が封じられた巻物。ザイトルクワエの種から作った使い捨ての身代わり人形。そして、雷系統のルーンを刻んだ直剣。

 

 まだまだ手札はありましたが、これだけでガゼフを倒せた訳ではありません。

 そう、ラナーによる弱体化デバフを受けていました。それが結果的に敗北に繋がった訳です。

 ラナーは護られる対象ですが、護られる人間が何もしないとは言っていないので、この戦いは元から二対一と言うガゼフにとっては不利な戦いでもあったんですよね。二人ともそれには気づいていないんですけど。

 

「すごいわクライム! あの戦士長を倒してしまうなんて!」

 

「ありがとうございます、ラナー様。

 しかし、これは模擬戦です。実戦であれば、まだストロノーフ様は戦えたでしょう。そうなっていた場合どうなっていたか分かりません」

 

「もう、こう言う時は素直に喜んでいいのよ? 少なくともクライムの実力は王国最強にも通じたんだから!」

 

 褒め方が上手いですね。クライム嬉し泣きしそうですよ。

 対して──ガゼフは己の不甲斐なさに頭を抱えていますね。まさか負けると思ってもいなかったでしょうし。

 

「ガゼフ、どうでしたか?」

 

「……返す言葉もない。油断していたなどと言い訳も出来ないな」

 

「そうですね。貴方は心の何処かでクライムを侮っていたでしょう? その油断がこの結果を招いたんです」

 

 ガゼフの顔は己を責める気持ちでいっぱいですね。相手を侮って返り討ちにあったのですから尚更です。

 

「ここから先、そんな慢心が出来ないぐらい必死に鍛えてもらいますのでそのつもりで」

 

 すると、ガゼフは顔を両手で何度か叩き気合を入れて立ち上がり、その足でクライムのもとへ向かいました。

 

「クライム」

 

「ストロノーフ様」

 

「ガゼフでいい。腕を上げたな……本当に見違えた。

 そして、すまなかった。俺はお前を侮っていた」

 

「スト……ガゼフ殿、頭を上げてください。私が勝てたのは純粋な実力ではありません。それに──」

 

「いや、負けたのは事実だ。俺が驕っていた。

 だがお前は俺を倒すためにあらゆる手を使い勝利した。この事実に変わりはない。

 ──本当に強くなったな、クライム」

 

 クライムがまた泣きそうになってますね。自分が過去尊敬していた人にこうも褒められたらそうなりますよね。

 

「次は負けないぞ。俺は必ず強くなる。

 そして──今度こそ殿下をお護りする」

 

「ガゼフ殿、私も協力します! 共に頑張りましょう!」

 

 そうして二人で固い握手を交わしました。

 男の友情っていいですね。少年漫画の王道的展開と言う感じがして、とても好きです。

 ただ、その背後ですごく恨めしそうな顔をしているラナーさん。お願いだから即死魔法とか使わないでくださいよ? 使えるかどうか知りませんけど、そんな真っ黒なオーラ出してたら使えるかもって思っちゃうんで。

 

 




クライム
簡単に言えば戦闘スタイルはゴブリンスレイヤーみたいなもの。
アレーティアとラナーにより割とエゲツないマジックアイテムの使用をしてくる。
ちなみに対暗殺者訓練にはティラや元イジャニーヤのメンバーが協力している。
残念ながらレベル的にはここで打ち止め。

ラナー
まさかの鮮血騎士が一人。前回の◯◯◯はこの人。
アレーティアがジーニアスの職業を持っているのを知っているので、ちょっと教えたら自覚して扱うようになった。
結果、割となんでも出来る女になってしまった。
職業レベルは原作より高め。

ガゼフ
クライムに負けてしまった王国戦士長。
模擬戦だから負けになったが、実戦ならあの場面から勝ちに行ける。
この後ゴ・ギン、サフォロン、アレーティアの三人衆との地獄の訓練が待ち構えている。

ザナック
犠牲者。
余談ではありますが作者もダイエットを始めました。

ジルクニフ
回想でアレーティアとダンスをしていたことが判明。
ちなみにジルクニフとアレーティアが結ばれることはナザリックが来る世界線では無いと言ったものの、一つだけ、特殊な状況下でのみ可能性があるが帝国が亡くなることが確実とだけここに書いておく。

アレーティア
思考が悪の帝王、柱の男、蛮族と化した。
クライムに数々のマジックアイテムを支給している。
「護衛の心得ですか?そうですね、まずは相手に何もさせないようにしましょう。私の場合、食事の時に暗殺しようとしていたメイドをフォークとナイフと皿で返り討ちにしたこともありましたね。
 他にもとりあえず陛下が殺されなければいいんで、廊下ごと階下に叩き落として一網打尽にしたり、吹き矢で毒殺しようとしたヤツにはその矢をそのまま投げ返して毒殺したり、事故を装って殺そうとしてきた奴はそのまま帰らぬ人にしてあげたこともありました。
 そう、奴らは卑怯なんです。正面から堂々と殺しに来ればいいのに、裏からコソコソと殺そうとするなんてどうかしています。
 なので、こちらも卑怯な手を使いましょう。え?騎士として正々堂々戦うべき?何を言ってるんですか、勝たなきゃラナーが死ぬんですよ?ラナーより正々堂々戦う方が大事なことですか?
 ……よろしい。そう、それでいいんです」



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アレーティア・ブート・キャンプ 〜必ず死ぬと書いて必死、だから死ぬような目に遭っても仕方ないよね〜


最近めっきりゲームをしなくなった……。
原神も魔神任務進めてないし、デイリーと樹脂を消化して終わる毎日。
マスターデュエルも同じ感じだし、ゼノブレイド2も買ったけどやってないし……。
昔はずっとやっていられたんだけどなぁ。

そんな訳で今回はブレイン回になります。



 

 

 ガゼフとクライムの模擬戦から数日が経ち、召集をかけていた鮮血騎士が続々と集まって来ました。

 

 しょっちゅう呼び出しているリユロに私の片腕でもあるルミリア、理想の神官としての務めを果たしているロバーデイク、元イジャニーヤ頭領のティラ、そして──

 

「ガゼフ・ストロノーフ……」

 

「ブレイン・アングラウスか……?」

 

 遂に出会ってしまいました。ガゼフとブレイン。

 因縁の再会ですね。まだ戦わせるつもりはありませんけど。

 ラナーとクライム、アセロラはエ・ランテルに一時的に戻っています。

 ラナーは行方が分かっていない蒼の薔薇の居場所に心当たりがあるらしく、そこへアセロラに手紙を届けさせるそうです。

 ちなみに私も蒼の薔薇の居場所は知りません。ひょっとすると評議国なんかにいるんですかね?朱の雫は評議国内にいるらしいですけど。

 

 

「よそ見してる暇があるとでも?」

 

「うおおおおおおっ!?」

 

 ほら、目の前の相手に集中しないと死にます……と言うか殺しますよ?死んでも蘇生出来ますし。

 たとえ蘇生を拒否しようと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「相殺してみなさい。出来なければ手脚が失われますよ〈六光連斬〉」

 

「ぐっ……〈六光連斬〉!!」

 

 ギリギリ相殺出来てますね。及第点を出してもいいでしょう。

 でもガゼフ・ストロノーフ。貴方の力はそんなものじゃないでしょう?

 

「では次です。〈六重連斬〉

 

 この〈六重連斬〉は言わば〈六光連斬〉の別種とも言える、私が作った武技です。

 〈六光連斬〉は一度に六度の斬撃を与えますが、この武技は一度の攻撃で六回の斬撃を与えます。

 某グルメ漫画の釘を打ち付けるパンチの様な感じです。防いだと思いきや二度、三度と斬撃が発生し中途半端な防御では六度目の斬撃で両断されることでしょう。

 

「ごはっ……」

 

 流石にガゼフも受けきれずに、腹から夥しいほどの血を流して今にも倒れそうになっていますが、私は容赦しません。

 何故ならこの男は、ガゼフ・ストロノーフと言う男は新たなる主人であるザナックを死んでも護り抜くと誓ったのですから、死にかけた程度で訓練を取りやめるなどする筈がありません。

 

 

「相変わらず容赦がありませんね……。アレは癒さなくてもよろしいのですか?」

 

「不要。むしろ、死んでも主人を守り通すと豪語したのだから、死ぬほどの傷を受けても戦い抜かなければ、あの方は認めない」

 

「四騎士の訓練を思い出すな。あの頃の粛清騎士様は今より容赦無く、四騎士全員を死の寸前まで叩きのめされたのは懐かしい思い出だ」

 

「いや、おかしいですってそれ。やりすぎでしょう」

 

「粛清騎士様から言わせれば、皇帝陛下を護る最強の盾であり、最強の矛である我々が死を恐れてどうすると──」

 

「いや、ルミリア様。今は流石にそこまでの訓練はしていませんよ」

 

「おおレイナース!久しぶりだな!お前まで集まるとは思わなかったぞ!」

 

「それはもう、大恩ある粛清騎士様のためなら四騎士としての立場だって捨てますわ」

 

「皇帝陛下に仕える四騎士として、マズイ発言なのでは?」

 

「陛下なんて粛清騎士様と比べたら石ころも同然ですわ。そもそも、あの時下賜されたポーションも元を正せば──」

 

 鮮血騎士達が各々話し合ってますね。この訓練を脇目も振らずに見つめ続けているのはゴ・ギンとブレインぐらいですね。

 もう大体主要メンバーも集まりましたし、そろそろ祭りを始めてもいいかもしれません。

 

 その前に目の前のことを片付けましょう。

 テンション上げていきましょう。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 訓練が終わり、その場で血に塗れ倒れた男──ガゼフ・ストロノーフの姿を見たブレイン・アングラウスは少しばかり昔を思い出していた。

 

 あの頃、俺は知らなかった。俺をあの御前試合で破ったガゼフ・ストロノーフをも超える戦士がいることを。

 ──粛清騎士。帝国最強の存在であり、その存在はかつて秘匿されていた。それ故に俺がその存在を知ったのは王国が戦争に負け、エ・ランテル近郊を割譲した頃だった。

 そして、同時にガゼフ・ストロノーフが一騎打ちで負けたと言うことも、その時に知った。

 

 それを知った俺はエ・ランテル領内に留まった。

 傭兵団へ加入し、生活費を稼ぎながら機会を待った。

 見てみたかった、憧れを、宿敵を倒したその騎士を。

 そして、叶うならば俺が──。

 

 

 その時は思ったより早く訪れた。

 領主となった粛清騎士が部下の騎士達を連れ、傭兵団を潰しに来たのだ。

 それも当然、この傭兵団『死を招く剣団』は半ば野盗と化しており、それ相応の被害を出していた。新たな統治者となった粛清騎士が、それを見逃す訳がなかった。

 騎士達の士気は高く──傭兵団は呆気なく蹴散らされた──特に、女騎士達の活躍によって。団長も隠し通路から逃亡を図ったが、そこもすでにバレており逃げ場など何処にもなかった。

 俺も応戦したが、何処から情報が漏れたのか……俺のことを知っていたらしい騎士達は、防御に専念していて碌に被害を与えられなかった。

 そして──

 

「見つけましたよ、ブレイン・アングラウス」

 

 俺の前に粛清騎士が現れた。

 待ち望んでいたその時が来た。

 

「俺を知っていたみたいだな。お前が粛清騎士で合ってるな?」

 

「ええ、その通りです。この度エ・ランテルを治めることになったので、こう言った不穏因子を排除しているところです。

 ……で、ブレイン・アングラウス。貴方はどうしますか?私に抗うか。それとも投降するか」

 

「……俺はお前を探していた。あのガゼフ・ストロノーフを倒したって言う話を聞いてからずっとだ。

 ようやく挑める機会が来たんだ。お前を倒して、騎士達を退けて堂々と逃げさせてもらうとするよ」

 

「それはそれは……いいでしょう。全力でかかってきなさい」

 

 俺は全力で戦った。ガゼフを倒すべく生み出した奥義〈秘剣虎落笛〉を繰り出した。

 だが……()()()()()()()()()()()()()()

 思わず目を疑った。ありえない。正面から神刀の鋒を親指と人差し指で摘まれて止められた。理解出来ない。こんなことが、人間に可能なのか?

 

「この程度ではないでしょう?貴方にはまだ先があるはずですよ。持てる全力を出しなさい」

 

 剣を抜き戦闘態勢に入った粛清騎士を見た俺は、その姿を見て悟ってしまった。

 

 

 

 ──勝てるわけがない。文字通り格が違う。

 

 

 

 そこからは死に物狂いで抗った。

 

 あらゆる武技を使った。〈斬撃〉、〈空斬〉、〈縮地〉、〈神速〉、〈領域〉、〈能力向上〉、そして──〈四光連斬〉

 だが、どれも届かなかった。頂きは遥か遠くにあった。俺がいた場所は高みなどではなかった。

 

「なるほど、貴方の実力は十分に分かりしました。

 では、これが最後です。私の武技を耐えて見せなさい」

 

 初めて防御以外で剣を振おうとした粛清騎士を目にして、死を感じた。ストロノーフとの戦いでも感じなかった、濃厚な死の気配を。

 

「──〈八光連斬〉」

 

 それは、あの〈六光連斬〉を上回る武技だった。

 それを俺は──

 

 

 

 

「お見事です」

 

 

 

 

 気がつけば、俺の身体はボロボロになっていた。神刀は中程で砕けたように折れている。

 だが、なんとかあの武技を無意識ながら凌ぐことは出来たらしい。

 

「やはり凄まじい才ですね。独学でここまで至っているのは感嘆するに値しますよ」

 

 粛清騎士は傷だらけの俺に、何処からか取り出したポーションをぶっかけてきた。傷は癒えたが、どう言うつもりなのかがサッパリだった。

 

「……何故だ? 何故殺さなかった?」

 

「ブレイン・アングラウス。私の下に付く気はありませんか?」

 

「なんだと?」

 

「貴方は独学で、その才能だけでここまで上り詰めた。しかし、ここから上を目指すのならば指導者が必要です。

 貴方が目指したガゼフ・ストロノーフも、元アダマンタイト級冒険者であるヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンに御前試合の後に弟子入りしています。

 そう、貴方もガゼフを追うのなら誰かの教導を受けるべきではないですか?」

 

 魅力的な提案だった。

 詳しく聞けばなんらかの仕事は任される事になるようだが、それでも俺もこうも子供扱いする強者に教えを受けられるのは悪くない。

 無論、悩みはした。俺は頂きに立ちたかったが、その頂きはあまりにも高過ぎた。だが──

 

「俺はアンタを超えられるか?」

 

「さあ、どうでしょう?超えさせる気は毛頭ありませんが……貴方の奥義を指で抑えられないぐらいにはなれるのでは?」

 

 目元こそ見えなかったが、唯一見える口元は笑みを見せた。

 そして俺は──

 

「分かった。俺はアンタについていく。だから──」

 

「よろしい。ではブレインと、そう呼ばせてもらいます。私のことは粛清騎士、もしくは辺境侯でもアルスでも構いません。好きに呼んでください」

 

「最後まで言わせてくれよ! ……まあ、なんだ。よろしく頼むぜ、アルス辺境侯」

 

 

 

 

 

 それから、しばらくして直に訓練を受け──

 

 地獄を見た。

 

 一切の容赦が無かった。今目の前で倒れ伏せているガゼフ並に何度も血の池を作り、そこに沈み、生死を彷徨ったか分からない。

 だが、確実に掴めたものはあった。

 独りで鍛えるよりも手応えを感じた。

 

 そして、この前下された仕事。

 『ズーラーノーンの拠点を一つ潰して来い』なんて依頼を受け、騎士団に混じって拠点を襲撃した。

 正直、慢心していた。強くなった自信があった。

 だが、上には上が──同格以上の存在とは思わぬところにいるものだと思い知らされた。

 

 

 

 

「ブレイン・アングラウス。確かに王国で私と戦える強さを持つ戦士だけどさぁ。

 英雄の領域に踏み込んだ──このクレマンティーヌ様が負けるはずがねーんだよぉ!!」

 

 

 

 その女──クレマンティーヌは強かった。もしかすると、ガゼフ以上に。

 繰り出される一撃一撃が強く、鋭く、そして疾い。

 何よりも場数慣れしているのか武技の扱いが俺以上に上手かった。

 

 だが、俺も黙ってやられてはいなかった。

 訓練の結果、かつてより広い空間を知覚出来るようになった〈領域〉──もとい〈神域〉を駆使し、致命傷を避け、与えられた神刀に代わる──神刀を上回る剣で応戦する。

 〈神域〉の中でなら、この女の動きは把握出来るようになり、徐々にではあるが押し始めた。

 だが、決定打を放つには時間が足りない。クレマンティーヌもそれを承知の上で、手数で押し切ろうとしていた。

 

 そんな時だった。救いの手がやって来たのは。

 

「ブレイン・アングラウス。援護しに来た」

 

「なっ!? ま、まさか……!?」

 

 鮮血騎士の同僚であるティラと名乗る暗殺者が参戦してから状況は大いに変わった。

 何故か分からんが、ティラを見たクレマンティーヌは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()

 しかし、逃すわけにはいかなかった。逃したらアルス辺境侯からどんな仕打ちがあるか分からないからだ。

 

 〈神域〉の中にいるクレマンティーヌの動きは捉えられている。〈神域〉の外からティラの飛び道具が放たれ、クレマンティーヌは俺とティラを同時に相手取らなければならず──ティラと何かから逃げようと必死になっていて──やがて致命的な隙を晒した。

 

 俺はその隙を逃さず、持てる最強の奥義〈秘剣指切り〉でクレマンティーヌの生命を絶った。

 俺一人では勝てない戦いだった。正直に言えば一人で勝ちたかったが、俺もまだまだだと思い知らされた戦いでもあった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 そして時は戻る。

 目の前の男、ガゼフ・ストロノーフはかつての自分の様だった。

 今なら勝てると言う確信もある。

 だが、それでは意味がない。強くなったストロノーフを倒すことで俺の本懐は果たされる。

 

 気を失ったストロノーフが、ロバーデイクに運ばれ退場していく。

 そしてアルス辺境侯──いや、アレーティア様がこちらを見ている。

 

 

「さて、祭りの時間です。鮮血騎士もこれだけのメンバーがこの場に集まるのは久々ですからね。

 では、どれだけ強くなったか私直々に見てあげましょう!」

 

 

 (あ、ヤバい。これ死ぬやつだ)

 

 

 俺たち鮮血騎士の心はこの時一つになったと思う。

 

 

「最初は武技だけで相手をしてあげます。魔法も解禁するので死に物狂いで抗ってくださいね?」

 

「いやいや、待ってくれ!武技に魔法は流石に無茶……!」

 

「諦めろブレイン。私たちには死に物狂いで戦うしか道は残されていない」

 

「そうだぞブレインよ。せめて今度こそ一太刀浴びせてやるぐらいのことは言うべきだ」

 

「な、なんでこんなことになるんだよ!こんなことするぐらいなら、現場に戻りたいんだが!?」

 

「リユロ殿、今の私たちは鮮血騎士だ。現場のことなど忘れて、訓練に勤しむべきだぞ」

 

「〜〜!!アンタとレイナースぐらいだろ!?こんなことされても喜ぶ変態は!」

 

「変態とはなんだ!? この生きるか死ぬかの訓練を終えた後に実感する、高揚感が堪らないのではないか!」

 

「ルミリア様はともかく、私はあの方の期待に応えるためならなんだってしますわ」

 

 

「準備万端みたいですね? では行きますよ~?」

 

 

 

 

 

 数時間後、全員が地に伏せることになったのは言うまでもなかった。

 

 





ブレイン
英雄の領域に入門している。ズーラーノーン所属クレマンティーヌと互角に戦えるぐらいには強い。
もう少し戦っていたらギリギリだけど勝てていた。
武技は全体的に強化されていて〈秘剣指切り〉はアレーティアの指に傷を付けられた奥義。〈秘剣爪切り〉より上?
魔樹の根を抜くと〈神域〉外にも武技が届くようになる。
アレーティアの本名と素顔は指を切ったその日に知らされた。

クレマンティーヌ
敗因はティラの装備を見て、この場に漆黒聖典が来ていると勘違いして焦ったため。
ブレインの〈領域〉〈神域〉とクレマンティーヌは相性が悪いんじゃないかと思ってる。
死体はバハルス帝国魔法省の地下に保管されている。

ガゼフ
強化中。
英雄の領域には到達したものの、ズーラーノーン所属クレマンティーヌにはまだ勝てない。

アレーティア
テンション上がって鮮血騎士相手にやらかす。
とは言え、死ななければかなりの経験になるので程々に手は抜いている。

作者
筋トレしたら腰というか背中を痛めた雑魚。
息を止めたりして筋トレしていたので、多分今まで無意味なことしてた。
無駄に力みやすい。


次回、蒼の薔薇サイドの話を書いて、いよいよ王都粛清に入る……予定です。
予定通りに行くといいなぁ(遠い目)


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蒼の薔薇と希望 〜ユグドラシルでは〈伝言(メッセージ)〉は電話感覚で使われていたって言うから〜


執筆スピードが落ちてる……。
何か息抜きをするべきなのかなと思ったり。

今回短めです。



 

 

 時は少し遡る。

 蒼の薔薇は冒険者組合からの依頼を受けた後に、その依頼が八本指による罠で待ち伏せによる奇襲を受けてしまった。

 

 総勢百程度のならず者──暗殺部門や警備部門の者達──が襲いかかり、中には六腕と呼ばれていた『幻魔』サキュロントの姿までもあり、八本指が本気で蒼の薔薇を潰しに来たことが見受けられた。

 

 多くの罠もあり、幻魔と呼ばれた男の戦法に苦しめられもした……だが、イビルアイの機転で戦況を覆し、勝利することが出来た。

 イビルアイがいなければ、負けはしなかっただろうが更なる苦戦は免れなかっただろう。それに加え、ラキュースがエ・ランテルで鍛え上げられて実力を伸ばしていたのも大きい。

 

 

 

 そして現在、安全と言えるであろうアインドラ領へと身を隠し、情報を集めた結果──

 

 王都で起こったクーデターにより、ランポッサ三世の崩御。第二王子であるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ、及びガゼフ・ストロノーフもその時死んだと言うこと。

 そして、その首謀者は第一王子であるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。事実上の王位の簒奪だった。

 それに加えて、この一件にはバルブロが持ち得ない程の戦力が投入されたと言う。

 これはつまり、何者かの勢力が介入していることを示していた。即ち──王国の裏を支配していた八本指の勢力がバルブロを利用したのだ。

 

 

「王国はもう終わりだ。ランポッサ三世が死に、ガゼフ・ストロノーフすらいなくなった。逆らえる者はもういないだろう。精々六大貴族ぐらいか」

 

「そんな……」

 

 ラキュースは善人だった。この荒んでいく一方の王国を、その元凶たる八本指をどうにか良くしようとラナーと協力し行動を起こしてきた。

 それが全て水の泡と化してしまったのだ。最早王国は救えない、と。

 

「これからどうする?王都には帰れまい。八本指も私たちを警戒しているからこそ、王都から離れているうちにクーデターを実行し、襲撃までしてきた。王都に戻ればまた何かしら手を打たれるだろう」

 

 蒼の薔薇に暗雲が立ち込める。

 今後の方針として考えられたのはホームを王都から別の国に移す事。

 候補としてはアーグランド評議国、バハルス帝国の二つになる。

 しかし、ラキュースは冒険者ではあるが王国の貴族令嬢としての姿も持つ。国を捨てると言う行為が出来るはずもなかった。

 となると、取れる手段は一つ。

 

「皆はホームを移して冒険者を続けて。私は……一人でも戦い続けるわ」

 

 ラキュースは戦うことを選んだ。領民を、友人ラナーの国を救うために。

 そして、ラキュースの発言を読んでいた他のメンバーはと言うと……

 

 

「ったく、言うと思ったぜ。おい、ラキュース。お前俺たちがそんなに信用出来ないか?目の前で虐げられている人間を見捨てるようなヤツだと思ってるのか?」

 

「同感、悪魔ボスらしくない」

「私たちは五人で蒼の薔薇。一つ花弁が欠けた薔薇はとても歪」

 

 ガガーラン、ティアとティナが迷うことなくその手を取った。

 私たちは一蓮托生だと、言葉と行動で示した。

 そして最後の一人であるイビルアイは──

 

「……全く、お前達というやつは……。私はお前達に負けた身だ。仕方がないから付き合ってやる」

 

「イビルアイ……」

 

「ツンデレ?」

「うん、そう」

 

「お前達黙れ」

 

 緊迫していた空気が少し緩む。

 一人で戦うことを決意していたラキュースもチームメンバーが協力してくれるとあってか、僅かではあるが安堵の表情が見て取れる。

 

 

「で、どう動くつもりだ?流石に私たちだけで戦うにも戦力が足りんぞ」

 

「まず、八本指が王都を抑えたとは言え、全ての貴族がそれに従っているわけではないわ。

 王派閥だった貴族達がこの件で黙っている訳がない。彼らの協力を取り付けて連合軍を作り、反抗作戦を……」

 

「それは八本指も想定内だろう。恐らくだが、既に元王派閥の貴族達には圧力が掛けられている可能性が高い」

 

「そうなると厳しいな……朱の雫、お前の叔父さんの力は借りられないのか?」

 

「連絡を取ろうにも、下手に今接触しようとすれば勘付かれるんじゃないかしら?それに、叔父の居場所は知らないわ。評議国の何処かにいるとは思うのだけど……」

 

「組合を通してって言うのも難しいな」

 

 この襲撃の一件で、冒険者組合にも八本指の手の者が混ざっていることは明白だ。迂闊に顔を出すわけにもいかない。

 

 

「外部からの協力を得るべき」

「同感。もう王国内だけでどうにか出来る問題じゃない」

 

「でも、何処の国に?評議国と法国の手を借りることは難しいし、何より提示するだけのメリットが……」

 

「帝国はどうだ? お姫様が嫁いだ国だし、王位継承権は……王女だから無いか」

 

「それが出来れば一番手っ取り早かったのだけどね……」

 

 リ・エスティーゼ王国では女性の立場が低い傾向にある。それ故か王国では女王が統治したことは一度もない。

 その為、王位継承権を持たないラナーを担ぎ上げるという行為は認められないだろう、という見解だ。

 

「それに帝国は王国には数年は侵攻しないと戦後交渉を交わしている。これを侵略行為と見られれば、周辺国家からの風当たりは強くなる」

 

「そうなると、帝国が動くのは難しいか……」

 

 ここで全員の脳裏に一人の人物が浮かび上がる。

 個で軍を凌駕する程の圧倒的な実力を持つ絶対強者を。

 

「……帝国がダメなら、粛清騎士……アルス辺境侯個人の協力は得られないかしら?

 戦力は難しくても彼が保有する、もしくは作り出すマジックアイテムをこちらの勢力が持てば……」

 

「それならギリギリ可能かもしれんな。あくまで買っていると言う体でなら誤魔化しも利くかもしれん。

 だが、今度は王国内でどれだけ協力者を募れるかだ。

 冒険者は余程のことがない限り、政治には関わらないし、王派閥の貴族にも期待は出来ないからな」

 

「改めて考えると困難ってレベルじゃねえな。半ば詰んでるだろ……」

 

 再び重い空気が生まれる。今の王国はたとえ英雄とも呼ばれるアダマンタイト級冒険者でも、どうにも出来ないと言う現実に阻まれているのを再認識してしまった。

 それでも、この状況を見過ごすわけにはいかない。

 出来ることを一つ一つ探していこうと、悪い考えを振り払うように頭を振り前を向くと──

 

「やはりここにおられましたか」

 

 見覚えのない、真っ赤な短髪の似合うエルフが現れた。

 その身につけている装備はどれも一級品、もしくはそれ以上。漂わせる風格も強者のそれだ。下手をすればラキュースと同じぐらいの実力を持っていると感じさせた。

 そしてなりよりイビルアイも、暗殺者であるティアとティナもそこにいることに気づけなかったが、即座に警戒態勢を取る。

 相手は八本指の刺客である可能性もあるため、少しでも怪しい動きをすれば全員で取り押さえるか逃げられるように──と、考えていたが、目の前のエルフは両手を上げ戦意がないことを示した。

 どうやら刺客ではないらしい。

 

「突然の来訪失礼しました。私、ラナー様よりラキュース様へ手紙を預かって参りました。アルス・ティアーズ辺境侯直轄の鮮血騎士が一人、アセロラと申します」

 

「なんですって!? ラナーから!?」

 

 懐から出された手紙を受け取ったラキュースはすぐさま読み始める。

 そこには蒼の薔薇が手に入れられなかった様々な情報が書かれていた。

 

 ザナック第二王子、ガゼフ・ストロノーフの存命。エ・ランテルで保護していること。

 襲撃に遭った蒼の薔薇の居場所を予測して、辺境侯の配下を此処に向かわせたこと。

 そして──ザナック第二王子からの要望で、アルス辺境侯とその配下である鮮血騎士と呼ばれる精鋭、それに加え帝国騎士団を派兵すると書かれていた。

 

「正直、帝国が手を貸してくれるのはありがたいのだけど、さすがに話が美味すぎると思わない?」

 

「ええ、そうです。今回の一件が解決し次第になりますが──リ・エスティーゼ王国はバハルス帝国に併呑されることになっています

 

 ラキュースは言葉が出なかった。確かに王国を救うためには帝国がメリットを感じるようなものを差し出さねばならない。

 だが、まさか国全てを、他の貴族の相談も無しに差し出すとは思ってもいなかった。

 

「リ・エスティーゼ王国は無くなりますが、国民は救われます。

 ザナック殿下は我が主人に土下座をして、王族の最後の務めとして罪なき国民を救って欲しいと懇願しました。

 それを見て、懇願を聞き届けた主人は協力を約束したのです」

 

「土下座……」

 

 王族たるもの頭を下げることは基本的に避けるべき行為だ。何故なら王族は国を背負った存在であり、王族が頭を下げるということは、国が頭を下げるということに等しい。

 更に言えば、土下座という地に伏して頭を下げるような行為をしてまで、あのバカ王子──ザナックがするとは思えなかった。

 

「それに、併呑したとしてもその『八本指』やバルブロ第一王子に関わりのない貴族は、そのままその土地を治めることを認めるそうです。

 細かいことは、事が済み次第擦り合わせが行われることになりますので」

 

「それならまだ貴族達の反発はマシになると思うけど……」

 

「どちらにせよ、こんな状況で快と悦に浸っているような愚か者は帝国にも王国にも不要ですので。

 民を想う貴族だけ残っていれば良いのです」

 

 そう言うとアセロラは懐からマジックアイテムを取り出した。

 見た目はただの板状の黒い板だが、何らかの魔化がされているのか、見たことのない文字が刻まれている。

 

「それは主人から預かった連絡用のマジックアイテムです。一日に四度までですが、使えばラナー様が持つ同じマジックアイテムが起動し〈伝言(メッセージ)〉のやり取りが出来ます。

 ああ、通常の〈伝言〉とは異なりこのマジックアイテムを通したやり取りなのでその点はご安心を」

 

 〈伝言〉という魔法は非常に便利ではあるが、過去にこの魔法を頼りすぎてしまい、三つの虚偽情報で内乱が起き、様々な不幸が重なり滅んだ国があった。

 その為、〈伝言〉を過信しすぎるものは愚か者とまで言われる風潮があり、仮に使用したとしても裏を取る必要があるとされている。

 それを踏まえた上で、このマジックアイテムはこのアイテムを持つ相手とのみ〈伝言〉のやり取りができると考えればある程度の安心感がある。

 何より──

 

「やっぱり、これを作ったのもアルス辺境侯なのかしら?」

 

「ええ、その通りです。勿論、登録者を増やすことも可能ですが、今回はラナー様だけで十分だと判断しましたので。

 では、私はこの辺りで。詳しいことは後程ラナー様から連絡があると思いますので」

 

 そう言い残し、アセロラは去っていった。

 残されたのはこの板状のマジックアイテムとラナーからの手紙だけ。

 しかし、これだけで先程のどうしようもない空気からは脱することができた。

 

「……私たちも備えましょう。一先ずは、ラナーと連絡を取るところから」

 

 マジックアイテムを起動するとプルルルルという音が鳴る。そして──

 

 

只今、相手が〈伝言〉を出来る状況ではありません。しばらく時間を置いたうえで、もう一度使用してください

 

 

 聞き覚えのない女性の声が聞こえ、マジックアイテムは沈黙した。

 

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 

 アレーティアの作ったこのスマートフォンもどきは、この世界にはまだ早すぎたらしかった。

 

 

 





サキュロント
死んだよ!六腕から失脚して蒼の薔薇を倒せば『六腕』に戻れると奇襲したものの、相手が悪かった。
それなりに善戦した。

蒼の薔薇の皆さん
お留守番サービスは時代が早すぎた。誰一人として理解していないし、半ば騙しやがったと思っていたものの、数時間後にラナーから連絡があったので一安心。
ちなみに蒼の薔薇への襲撃の元の原因はラナー。

アセロラ
元々はエイヴァーシャー大森林のとある村で戦士をしていた。
法国の襲撃で敗れ捕らえられ、帝国の貴族に買い上げられ苦しむ日々を送っていたが、アレーティアによって解放され、忠誠を誓い、目覚ましい成長を遂げた。
蒼の薔薇に気づかれなかったのはアレーティア謹製のマジックアイテムのお陰。
以前語った強さで言うとナザミ、ラキュース、アセロラ、ルミリアの順に強い。

スマートフォンもどき
アレーティア開発の〈伝言〉用アイテム。不特定多数に連絡できる〈伝言〉より、登録した相手同士しか連絡できなければ安全じゃない?と言う安易な考えから作られた。
ジルクニフ非認可である。

六腕の皆さん
サキュロントがやられたか。だが奴は所詮六腕落ち。我々の中でも最弱よ!

ラナー
連絡が来たときはザナック、ジルクニフ、後から合流出来たレエブン侯の四人で会議中だった。




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アレーティア・エンペラー・ドラゴン 〜終焉の使者〜



多分効果はエラッタ前より強い(妄想)

今回場面転換が多いので、もしかすると読み辛いかもしれません。


 

 

「いよいよですか」

 

 鮮血騎士たちとガゼフの鍛錬を終え、エ・ランテルに帰ってきた私はラナーと夜のテラスで話し合っています。

 話題はと言えば王国のことです。

 鮮血騎士も全員──一体を除いて──集まり、帝都からも騎士団を一軍動かすだけの準備も整い、後は王国の八本指の手にかかっていない貴族達を纏め、ザナックを旗頭に襲撃すればいいだけです。

 

「ええ、レエブン候には他の貴族への説得に回ってもらうことになりました。お兄様も納得されましたし、後はゴミを処理するだけです」

 

「蒼の薔薇はどうするんです?いてもいなくても変わりませんけど」

 

「彼女たちには合流し次第、住民の避難に協力してもらおうかと思ってます。後は、手が空き次第、王都にある他の八本指の拠点を襲撃してもらおうかなと」

 

「ほぼほぼ鮮血騎士たちだけで十分だと思いますけど、仮にもアダマンタイトですし、役に立たない訳ありませんからね」

 

 改めて戦力差を考えると圧倒的ですね。

 王国は数こそいるものの、質が悪い兵士や騎士。裏社会最強の"六腕"に八本指の配下たち。

 

 それに比べてこちらは、騎士団一軍総勢一万に加え、万が一に備えて神殿勢力から高位の神官含む神官達に、最精鋭である私の鮮血騎士たち。また、ここにレエブン候の親衛隊に蒼の薔薇が加わり、極め付けに私がいます。

 正直やりすぎな気もしますが、これぐらい圧倒的な戦力で叩き潰さないと、王国の民からの信頼を勝ち取れないと思うんですよね。

 まあ、この辺りはラナーとザナックがどうにかする予定なので任せてしまいましょう。

 

「それで、王都への移動に関してですけど」

 

「ああ、それについてはもう決まってます」

 

「え?」

 

「実は──」

 

 私はもうウッキウキで()()()()()()()()()()をラナーにニッコニコで話しました。

 ジルクニフなら却下していたでしょうけど、ラナーならOKしてくれると信じてますから!

 一通り話し合えると、ラナーが一度深呼吸しました。

 背景に一瞬宇宙が見えた気がするのはきっと気のせいでしょう。

 

「なるほど……分かりました。後は私やお兄様、レエブン候で指示を出せば、ある程度の不備は解消出来るかと。

 それでなんですけど……クライムはどうするのですか?」

 

 ここでクライムの事を話題に出すのは、ある意味でこの作戦が一番手柄を挙げられる場面だからですね。私がどうクライムに手柄を上げさせるのかを気にしているんですね。

 

「ティラが潜入して得た情報によれば、バルブロが王に即位した記念パーティの様なものが開催されるそうで、八本指の手がかかった貴族の大部分が集まるそうです。

 それに加えて、八本指の長達も堂々と王城で会議を行う予定だとも。

 なので王城へ襲撃した際に、貴族達はともかく八本指の長達は間違いなく真っ先に逃げ出します。

 逃げる場所は──()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──なるほど、そういうことですか」

 

 ラナーがデミウルゴスみたいな事言ってます。

 ということは、全て理解してくれたでしょう。安心ですね。

 

「そういうことです。なのでクライムに関しては先に──」

 

「分かりました。その様に伝えておきますね。

 そして、これが終われば──」

 

「ええ、貴女の願いを叶える土壌は整うことになります」

 

 もうラナーが待ちきれないとばかりに眼を──アイドルみたいに輝かせてますね。

 夢が叶う直前でもありますし、そうなっても仕方ないですね。

 

「後はラナー次第です。あの部屋にしばらく呼んでまぐわうのも自由になりますが、あまり情事に耽りすぎないでくださいね?」

 

「当然です!ああ、でも何からしようかしら?まずは初めての交換から──」

 

 完全に自分の世界に入ってしまいましたね。もう表情がだらしない笑みになってるんですよ。ほら、口から涎が垂れてる……。

 

「ラナー? ラナー? おーい、空想に耽るのもいいんですけど、そろそろ戻ってきてください」

 

「……お恥ずかしいところをお見せしました」

 

 ホントですよ。中々見られない表情が見れた点については、ファン冥利に尽きますが、正直イメージぶっ壊れましたね、はい。

 でも、原作書籍十四巻のあの表情程の衝撃とまではいきませんでしたね。

 アレはちょっと震え上がりましたね。ブラクラを思わせると言うか何というか……。

 

「ところで、その時になったら是非ご一緒しませんか?」

 

「へ?何でです?」

 

「いえ、どうせなら三人で初めてを交換し合うのも──」

 

「ラナー、貴女疲れてるんですよ。そろそろ休みましょう?」

 

 何が悲しくてクライムとラナーの三人でベッドインしないといけないんですか……。

 元は男ですから、そういうことに興味がないのかと言われれば、二人の情事に興味がないことはないですけど、そこに混ざれと言うのは……。

 本人ラナー公認みたいですけど、見る人によってはカップリングに間男打っ込む暴挙ですからね?地雷案件でしょう。

 

 と言うか、何で突然そんなこと言い出したのか……。

 やはり、仕事を振り分け過ぎたせいですかね。仕事減らしてあげたいのは山々なんですけどねぇ……。彼女の代わりはジルクニフぐらいしかいないので……。

 

 そんな事を考えながら、今日はラナーと寝所を共にする日なので、仲睦まじく(?)就寝しました。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 リ・エスティーゼ王国

 

 この日、バルブロ王子が正式に王に即位した事を示すための式典が行われた。

 国民達は歓声を上げたものの、その声音には希望や期待と言ったものは感じられず、覇気がないものだった。

 それもそのはず。王国は──特に王都は八本指や貴族達の横暴な振る舞いや悪政により国民達は疲弊し切っており、王が変わったところで何が変わるわけでもなく、反乱を起こす余力すらなかった。

 

 そんなことも露知らず、王になったバルブロは自室になった──かつてはランポッサ三世が使っていた部屋で、酒を楽しんでいた。

 

(やっとだ。やっと俺は王になれたんだ!)

 

 王になったと言う満足感がバルブロを満たす。今日ほど心躍った日はないだろう。

 ──あの日、八本指からの接触を受け、王位を簒奪すると言う提案を受け、確実に王になれると言うただ一点のメリットを飲み、クーデターを起こした。

 父と弟、そして忌々しい平民である王国戦士長ガゼフも仕留められたと報告を受け、最早己の覇道を阻むものは王国内に何もないと言えた。

 父は頑なに俺を認めなかった。

 弟は憎く、そして目障りだった。

 戦士長は平民の分際で、この王宮を闊歩していた。

 全員、自業自得だ。ざまあみろ。俺は全員殺して、王位を掴んだのだ!

 協力者である八本指からは見返りを求められると思ったが、意外にも俺の側に仕えさせてくれればそれでいいと奴らは言った。欲のない奴らだと思ったが、有能なことに変わりはない。俺の力になるのであれば、まあ多少目溢ししてやってもいいだろう。

 

 この後は即位した記念のパーティーが開かれる。多くの貴族が、俺の即位を祝い、忠誠を誓う場所だ。

 この場も八本指が全て準備を整えたと言う。働き者の部下を持つことが出来て気分がいい。

 なんだったら働きに応じて貴族位をくれてやってもいいかもしれない。

 

「失礼します、バルブロ王。準備が整いましたので、どうぞ」

 

「そうか!」

 

 ああ、気分が良い。今日は最良の日に違いない。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ロ・レンテ城の会議室。ここはかつて、王と貴族とで国の方針を決めるべく、幾度となく答弁が行われていた場所だったが、今から行われるのは同じようで全く異なる会議だ。

 

 そこに集まった九人──八本指の各部門の長と議長が席に着いた。

 各々が自らの護衛を背後に控えさせていて、それぞれが王国でも有数の実力を持っていることが見て取れる。

 中でも、八本指の警備部門の長である"闘鬼"ゼロは別格の強さを持っているが、今の彼はこの八本指でも急成長した部門と言える。

 先日のクーデターで活躍したエルヤー・ウズルスを始め、帝国から流れ着いた多くの請負人(ワーカー)が八本指の配下に加わったのだ。

 バハルス帝国は冒険者、請負人の仕事の大部分を占めるモンスターの討伐を騎士団だけで補えるほどの勢力を抱えており、最早冒険者組合は最低限しか機能していないと言える。

 それにより仕事を失った冒険者はいくつかの選択を強いられた。

 生活の安定を求め騎士団を目指すか。

 それとも故郷に戻って畑を耕したりする生活に戻るか。

 魔法学校に入学して教養を身につけ文官を目指すか。

 帝国を離れ、他国の冒険者組合にホームを移すか。

 請負人となり、大金を稼ぐか。

 

 元々帝国に多かった請負人達は、悪行を許さないとされる粛清騎士を恐れ他国に移動するか、引退して元の生活に戻る者が多かったが、ゼロはこれを利用して請負人達を取り込み、一気に勢力を拡大させた。

 結果として帝国の情報を得ることも出来たので、今のゼロの立場は八本指でも一つ頭が抜けていると言っても過言ではないだろう。

 とはいえ、八本指も一枚岩ではないので他部門からの妨害を警戒する必要があるが、現状それはないと判断出来る。

 

 ──リ・エスティーゼ王国の完全支配。

 裏を支配していた八本指が王国の混乱に乗じて、バルブロ王子を唆しクーデターを成功させた事により、八本指が手を出せる場所が一気に広がった。

 それにより、各部門での仕事が増えることが確実になったため、一度示し合わせをするべく今回の会議が開かれたのだった。

 

「ヒルマ、あの王子──いや、王のご機嫌取りはどうだ?」

 

「問題ないよ。目の前に美味しい餌をぶら下げてあげれば、喜んで飛びついてくる。後はその内薬を盛って、女を使って操り人形にしてやればいい」

 

 麻薬部門の長であるヒルマ・シュグネウスは元高級娼婦だ。男の扱い方に関しては理解しており、その経験を活かして相手を欲望の海に溺れさせることなど造作もない。

 

「そうか。お前が一番肝心な部分を担っているんだ。失敗は許されないぞ?」

 

「分かってるよ。だから邪魔だけはしないで欲しいね」

 

「安心しろ。なんだったら六腕を常に控えさせてやる」

 

「それで私からふんだくろうって魂胆かい?要らないよ」

 

 目論見を見抜かれたからか、ゼロはその後は何も言わず目を閉じた。

 

「あら、そうしたら私の方に力を貸して欲しいわ」

 

 発言者は奴隷売買部門の長であるアンペティフ・コッコドールだ。

 彼もこの事態に乗じて大きな力を手に入れようと画策していた。

 

「最近六腕になったって言う彼、出来れば貸して欲しいのよ」

 

「ほう?」

 

「エルヤー・ウズルスだったかしら?彼の連れてるエルフの奴隷、かなり便利だって聞いたのよん。だから、裏ルートで大量に仕入れようと思っているの。

 多分、彼も売り場には詳しいと思うから」

 

「なるほどな。いいだろう。だが……」

 

「分かってるわよん!取り分はちゃんと支払うわん」

 

 こうして王国の闇はますますその力を増し、王国そのものを飲み込まんとばかりに膨らもうとしていた。

 

 しかし──

 

 

 ドオオオオオオンッ!!!!

 

 

「!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「……襲撃か?今更?」

 

 

 その闇は轟音を合図に、鮮血帝の剣によって祓われることになることを彼らはまだ知らない──。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 案内された会場には、既に多くの貴族が集っている様だった。

 この場に義父であるボウロロープ侯がいないことが惜しまれるが、近々息子が当主を引き継ぐと言うらしい。亡き義父も安心出来るだろう。

 

「皆様、これよりリ・エスティーゼ王国の王に即位された、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ様が御入場されます」

 

 扉が開けば、煌びやかな光景が目に映る。普段使われる時と差異はないはずだが……。

 

(ああ、そうか。俺が王になったからか)

 

 王になるとどうも見える世界も変わるらしい。父も同じ世界を見ていたのだろうか?

 ──いや、違うな。父と俺では違う世界を見ているはずだ。

 なにせ、俺は父を超えるのだから。

 その為の策は色々考えてある。手始めに冒険者共を徴兵し帝国へと攻め込むのだ。

 あの戦争では粛清騎士とか言う身分も不確かな奴に大敗した様だが、それは兵の質が悪かったせいだ。

 あのクーデターの時に、あのガゼフ・ストロノーフも腕のいい戦士と何名かのエルフに囲まれ倒されたと聞く。

 ならば、一般の兵より強いとされる冒険者を徴兵出来れば、王国の軍事力はグンと上がるだろう。

 それと、エルフだったか。王国ではあまり見ないが、アレは法国で取り扱われている奴隷が多いと言う。八本指にその手の伝手を持つ奴がいたから、そいつに集めさせて部隊を作るのもいいかもしれんな。

 

 思案を巡らせ、これからの王国を思い描く。それは素晴らしい光景になるはずで──

 

 

 

 ドオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

「なっ、なんだ!?何事だ!?」

 

 突如鳴り響く轟音。それは会場の壁、天井を崩しながら現れた。

 

 

 ──それは人では敵わない存在だった。

 人となど比べるまでもなく、大きな姿をしていた。

 見える首は長く、規則正しく揃った鱗がアイスブルーの輝きを放つ。

 顔や腕には冒険者が身につけるような防具が特別に作られたのか、本来ならば身につけていないであろうそれを纏っている。

 そして、極めつけは翼だ。人には無い、空を駆るための大きな翼。

 

 ──このロ・レンテ城にドラゴンが突撃してきたのだ。

 

 あまりにも突然の事態に誰も動けない。声を上げることもできない。

 やがて、突撃された際に生じた煙が晴れ──

 

「し、死ぬかと思った。死ぬかと思った」

 

「だから大丈夫だって何度も言ったじゃないですか」

 

「そう思えなかったんだ!インパクト重視だとしても勘弁してくれ!!」

 

 ドラゴンだけでなく、人影が複数現れた。

 全員が血を思わせるような──一人を除いて──真っ赤な鎧を着けている。

 

「さて、初めまして王国貴族の皆様方。

 

 私は粛清騎士。王国より割譲されたエ・ランテルを治めています。

 今日この場に来た理由は──我が領土に亡命して来たザナック殿下にお力添えするためです。

 これより──革命を起こします」

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国最後の日が始まる。

 

 





アレーティア
ドラゴンライダーダイブ!
待望のドラゴンライダーに成っている。その為、突入時に若干のバフが掛かっている。
日に日にラナーのイメージが崩れていくのが悩み。

ラナー
もうすぐ願いが叶う元王女様!
初夜からそういうプレイをしようとする辺り、中々にふしだらな女でもある。
初めての交換会では何を交換する気だったのか……。
だらしない顔は四期のリリネットみたいな感じだけど、あそこまでは酷くない。

バルブロ
王になった。ただそれだけ。

八本指
勢力的には大分強化されている。朱の雫、蒼の薔薇だけではどうにもできないぐらいの影響力は持った。

ザナック
被害者。無理矢理サフォロンに乗せられて急降下ダイブジェットコースターを体験して死ぬかと思った。


感想や高評価などいただけると、生きる活力になりますので、どうぞよろしくお願いします。




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王国の長い夜 その1 〜対峙する最強と最強〜


更新遅れました。
単純に忙しかったのと、しばらく読む専してました。
後、最近この小説を書くキッカケになった作品が久々に更新されたので感無量でした。私も頑張らないと。

今更ながら、五十話超えていたんですね。
逆に言えば五十話書いてるのにまだ原作に合流していないと言う……。
あと少し!あと少しだから!


……多分。



 

 

 どうも、アレーティアです。

 いやー、念願叶ってドラゴンライダー……もとい、竜騎士ごっこが出来て感無量ですね!エ・ランテルから飛んで来た甲斐がありました。

 

 サフォロンの背に鮮血騎士であるアセロラに元奴隷エルフ達。そして、ガゼフにザナックを乗せて突撃しました。

 ドラゴンに乗って襲撃なんて、元でも男心を刺激する一大イベント。興奮しないわけがありません。

 ガゼフは乗り気でしたけど、ザナックはそうではなかったのが不思議でなりませんね。それでも乗せましたけど。

 

 他の鮮血騎士や帝国騎士達は〈転移門(ゲート)〉で既に王都に忍ばせてあります。魔力めっちゃ使いましたが生まれながらの異能(タレント)で回復出来たのでチャラです。

 確か魔力は基本的には自然回復しかしない……なんてシステムがユグドラシルにはあった気がしますが、私はプレイヤーではないのできっと当てはまらないのでしょう。

 

 それと同時期にレエブン侯が他の元王派閥でもあった有力貴族達をまとめ上げ、王都を包囲する手筈になっている……とラナーが言っていましたね。

 ここで帝国の手勢だけが手柄を上げてしまえば、王国貴族達は何もしなかったから領地没収……なんて脅しをかけたとか。

 王国貴族からしたら、王国の民でもない者に王国を好きにされてたまるかと奮起しました。何もしなければただの腰抜けに成り下がりますからね。

 それに、今回レエブン侯が声をかけたのは間違いなく優秀な──恐らく原作十四巻でも生き残った──貴族達です。ちゃんと仕事をしてくれれば領地も爵位もそのままにすると約束しているみたいです。

 

 思えばレエブン侯には滅茶苦茶警戒されましたね。

 なんせ化け物(ラナー)化け物()が手を組んでいる訳ですから。何を企んでいるのかと。

 なので、ちゃんと話し合いをして蟠りは無くなったと……いいなぁ。

 いや、ラナーがレエブン侯の大事な大事なリーたんを人質にだなんてそんな……ははは。

 

 

 さて、そろそろ目の前に話を向けましょうか。

 目の前にあるのはバルブロに逃げ惑う王国貴族(粗大ごみ)

 私の後ろにはサフォロンと鮮血騎士とガゼフ。

 隣にはダイエットに成功して凛々しくなったものの、ドラゴンライダーダイブの影響で泣きが入っているザナック。

 中々に愉快な場面ですね。

 

「革命だと……!?」

 

 バルブロが理解出来ないとばかりに狼狽えているのが見えますね。

 ほら、ザナック。貴方の出番ですよ。え?心が落ち着かない?仕方ないですねぇ。〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉使ってあげますから、頑張ってくださいな。

 

「お久しぶりです兄上。いや、バルブロ陛下とお呼びするのが正しいですか」

 

「き、貴様、ザナックか!?生きていたのか!?」

 

「生きていたのは私だけではありませんよ。この通り、ストロノーフ戦士長も存命です」

 

 そう言えばガゼフは鮮血騎士達と同じ鎧を着ています。剣もレイザーエッジ程ではありませんが、私が打った剣を渡しているのでそれなりに強化されたはずです。

 私の見立てなら指輪の力込みならブレインと互角でしょうか?

 

「なんだと!?クソッ、話が違うではないか!!

 ……だがまあいい。俺は王になったのだからな。

 そして、アルス・ティアーズだったか。お前達の行為は立派な侵略行為に他ならない!あの戦争で交わした契約には『王国への侵攻を禁ずる』というものがあったはずだ!それを無視したこの様な暴挙!許されるはずがない!」

 

 バルブロの演説(笑)に合わせて他のこの場に残った貴族達も何やらギャーギャー言ってますが気にしていません。だってこの契約って……

 

「ええ、その通りですね。しかしながら──その項目は私とガゼフ・ストロノーフとの間で交わされた決闘の決まりでして

 

「……は?」

 

「なので今の王国にはガゼフ・ストロノーフがいないので、それを守る義理がないんですよ。記録に書いてませんか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──とか」

 

 多分、交渉の記録にも残っていないでしょうね。あれだけの惨敗を喫して、せめてもの希望のために、帝国が王国への侵攻はしないと言った私の言葉だけを都合よく解釈したんでしょう。

 まあ、ガゼフがいてもいなくてもアプローチの仕方が変わるだけなんで、結果は変わらないんですけどね!

 

「つまるところ──あなた方が毛嫌いしていたガゼフ・ストロノーフは、王国を帝国の侵攻から防ぐ城壁という役割を果たしていたんですよ。

 それを理解せずにクーデターを起こして王位を簒奪……実におめでたいですね」

 

 嘲笑と共に拍手してあげます。まあ笑っても私の目元はバイザーが覆っているので口元しか見えないでしょうが。

 お、煽られたのが分かったのか顔を真っ赤にしていますね。すぐに真っ青にしてやります。

 

「兄上、終わりです。貴方に王国は任せられない」

 

「何を言うかと思えば!舐めるなよ!確かにドラゴンは恐ろしい存在だろう!だが──こちらも戦力を隠していたのだから!」

 

 すると、会場に武装した兵達──いや、アレは兵ではありませんね。八本指の手勢です。それが会場に流れ込んで来ました。

 全員そこそこの強さはあるみたいですが、騎士団の方が上です。

 むしろ六腕がいないのが謎ですね。拠点でも守っているんでしょうか?

 

「〈転移門(ゲート)〉」

 

 私の前方に転移門を開けば、四騎士候補の精鋭騎士を筆頭に帝国一軍の騎士達が現れます。

 これにはバルブロも驚いたのか冷や汗をかいています。顔も青白くなってきていますね。よしよし。

 

「帝国騎士団、鮮血騎士に命ずる!これは戦争にあらず。狂った王国を救うための聖戦と知れ!愚王バルブロと八本指、それに連なるものに鉄槌を下せ!」

 

「「「おおおおおおッ!!!」」」

 

「なんのこれしき……!迎え撃て!生かして返すな!!」

 

 強気なこと言いながら逃げる準備してるんじゃありませんよ。情けない。

 とりあえず、この合図を機にバルブロ率いる八本指とザナック率いる革命軍withバハルス帝国の戦いが幕を開けました。

 

「ではアセロラ。これより貴方がこの場のリーダーとなり、王城をくまなく探し、捕えられている者や奴隷がいないか探してきなさい。

 それと、()()()()()()()()()()──」

 

「承知しました。あの男に関しては特に念入りに地獄を見せてやります」

 

 これでよし。アセロラ率いる鮮血エルフ騎士達は八本指の手勢をものともせず、会場を後にしました。

 ザナックとガゼフは……。

 

「辺境侯、私は兄を追います。ただ一つお願いしたいことが……」

 

「バルブロを殺さず捕えることですか?それなら構いませんよ。

 今回の一件、革命を成功させて終わる話ではありませんからね。ケジメをつける人間が必要です」

 

 元から今は殺す気はなかったので丁度いいです。

 この一件が終わったら、公開処刑するつもりなので。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「後、可能であれば宝物庫の確認を。どさくさに紛れて盗んで逃げようとする愚か者がいるかもしれませんから。それ以前に既に引き出されてる可能性もありますが」

 

「今の兄ならそうなっていてもおかしくありませんね……。では、そちらには戦士団を幾人か向かわせるとします。では、いくぞ戦士長」

 

「ははっ。粛清騎士殿、ご武運を」

 

 ガゼフも転移してきた戦士団と合流し、バルブロを追っていきました。

 今の彼らならザナックを任せても大丈夫でしょう。ガゼフもまだ甘いとはいえ英雄の領域には入門しましたし。

 

「サフォロンは上空で待機。指示はラナーから届くはずなのでそれに従ってください」

 

「わっかりましたぁ!!」

 

 サフォロンも元気いっぱいに飛んで行きました。

 流石にサフォロンを暴れさせる様な真似はしません。正直サフォロン一匹でも十分すぎる気もしますが、あくまで帝国はドラゴンをも従えていると言う事実をアピールしているだけですので。

 スレイン法国辺りが色々口出しして来そうな気がしますからね。

 

「さて、私も動くとしますか──」

 

『残念だが、そうはいかないよ』

 

 

 

 は?私の後ろに誰かいる?

 ──まさか!?

 

 

『着いてきてもらうよ、世界移動』

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 時は少し遡る。

 ツアーとアズスは王国郊外から遠見の魔法で、これからやって来るであろう粛清騎士を警戒していた……のだが、予想外の事態が起きていた。

 

「おいおいおいおい!ドラゴンに乗って堂々と襲撃してくるとは聞いてねえぞ……!?」

 

『まさか霜の竜(フロスト・ドラゴン)を従えているとはね。過去にドラゴンを従えていた"ぷれいやー"はいたが、この世界の出身でそれを成し遂げた人物を見たのは初めてだよ』

 

 アズスとツアーの予想では、粛清騎士は軍を率いて堂々と王都に攻め込むか、転移して襲撃するかのどちらかだと考えていた。

 だが蓋を開けてみれば、既に軍は王都全域に転移しており、王都を包囲する様に王国軍が配備されている上、目的の粛清騎士は凄まじいまでのスピードでドラゴンを駆り、王城に突撃するとは思ってもいなかった。

 これでは粛清騎士を分断するのは困難だろう。

 

「どうする……?」

 

『約束通り機を見て粛清騎士は抑えるよ。君は君のすべきことをするといい』

 

「……すまないなツアー」

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 粛清騎士が一人になったタイミングを見計らい後方へと転移し、不意をつき、そのまま王都郊外へと転移させた。

 遂に対峙した。この世界における異分子(イレギュラー)に。

 見れば目元こそ見えないが、驚愕した表情を浮かべている。

 

『世界断絶障壁』

 

 始源の魔法による大結界。これによって粛清騎士は世界の守り──世界級(ワールド)アイテムを所持していなければ、この場から逃れることは出来ない。

 つまり、彼女が王国との一件に手を出すことは、この鎧(ツアー)が敗れない限り不可能となった。

 

「これは──」

 

『この結界からは逃れられない。すまないね、出来ればこのまま大人しくして貰えると助かるんだが……』

 

 これは本心だ。彼女はあの八欲王に連なる血筋の持ち主ではあるが、他の竜王は兎も角、ツアーとしては味方につけることが出来れば心強いと思っていた。

 なので、手荒なことをしてしまったことをまず詫び、そこから対話する流れに持っていこうとしていた……のだが。

 

「……〈魔法最強化(マキシマイズマジック)隕石落下(メテオフォール)〉」

 

『──なっ!?』

 

 粛清騎士が発動した魔法は、かつての"ぷれいやー"も使っていた第十位階魔法に相違なかった。

 それを躊躇いもなく使い、隕石が結界と衝突する。

 凄まじいまでの轟音が周囲一帯に鳴り響き、隕石は結界を破ることなく砕け散った。

 

「──チッ、魔法も弾くのか。原作にはそんなこと書いてなかったよな……」

 

 憎々しげに呟いた粛清騎士はこちらに向き直り、何かを呟くと身に纏う装備が変わっていた。

 顔を隠すバイザーは取り払われその相貌──王の相とも呼ばれる左右で異なる色の瞳が頭部を覆う兜と共にこちらを見据えている。

 鎧も際ほど着けていた鎧よりも魔法の力が込められた鎧が、指には指輪が。どれもこれもが明らかにこの世界で作られた物でないと思える程の魔力を秘めている。

 そして、両手に握る青と赤の双剣はかつて見たことがあるルーン文字が刻まれており、ツアーから見ても中々の代物だ。あれらはユグドラシルのアイテムなのか?と考察はしつつ、交戦の意思がないことを告げようと──

 

「私が大人しく殺されるとでも思ったか、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)?」

 

『なっ──』

(何故知っている!?まさかインベルンの娘が話したのか!?)

 

 困惑するツアーを置き去りに粛清騎士は言葉を続ける。

 

「法国と言い、遂には貴方まで私を殺しに来るとか……あのクソ親父相当やらかしたんだな……。私自身恨まれるようなことした覚えがないっていうのに。

 まあ──全部返り討ちにするけど

 

 すると、粛清騎士の姿が二つになる。

 新たに現れた粛清騎士は造られた存在故か装備や肌、髪や目に至るまで全てが白く染まっていた。

 

 これはツアーも知らない。かつて戦った"ぷれいやー"に、この様な能力を使う相手はいなかった。

 

「〈死せる勇者の魂(エインヘリアル)〉。

 行きますよ、昔手を抜いて死にかけたことがあったんで、出し惜しみは無しです」

 

『待っ──』

 

 エインヘリアルと呼ばれた白き虚像がツアーに向け接近し、すかさずそれを浮遊する武器の一つである大剣で受け止める──が、あまりに重いその双剣の二振りによる一撃は大剣を弾き飛ばし、そのまま鎧にダメージを与えた。

 

『ぐぅ……ッ』

 

 そのまま防御する暇も与えないとばかりに白き虚像はツアーに肉薄する。浮遊する武器を二つ手に取り、なんとか応戦するも手数の速さはどうやら虚像の方が上の様で耐え忍ぶのが精一杯だ。

 

 そして──ツアーの目に信じられない現象が映る。

 

 後方に待機している粛清騎士を中心に、ドーム状に魔法陣が幾つも展開され、常に形を変えて渦巻いている。

 これはツアーも知っている。恐らく、かつての戦いで"ぷれいやー"と戦った真なる竜王ならば誰もが知っている──この地では第十一位階魔法と呼ばれているそれを、粛清騎士は発動していた。

 

(まさか彼女は"ぷれいやー"なのか!?いや、そんなことは──)

 

 そんな思考がツアーの頭をよぎるが、それはあり得ない。

 何故なら彼女の出生は知っているからだ。忌まわしき八欲王の孫に当たる彼女はエイヴァーシャー大森林にいるエルフ王より血は薄いはず。

 それに"ぷれいやー"の血を引いて、神人としての力を発揮する者は数あれど、第十一位階に至った者は過去一人としていなかった。

 

 だが、そのツアーの知識を、記憶を嘲笑うが如き存在が目の前にいる。

 

「〈天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)〉は世界断絶障壁に通じないでしょうから、こちらで確実に貴方を倒します」

 

 白い虚像による足止めをツアーは掻い潜ることが出来ず、第十一位階魔法──超位魔法の発動を許してしまう。

 同時にツアーは深く後悔した。接触の仕方を間違えた、と。

 

 

 

「超位魔法───

 

 

 

指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉」

 

 

 

 





アレーティア
ツアーが十四巻の如く殺しに来たと勘違い。初手隕石はご愛嬌。
ザイトルクワエ戦の反省から、もう油断はしないと〈死せる勇者の魂(エインヘリアル)〉+〈指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉とか言うアインズ様も真っ青な鬼コンボを叩き込んだ。
指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉については次の戦闘描写で詳しく。
ちなみにキャラクター紹介で伏せられていた職業はワルキューレ/オールマイティ。武器特化していないのでシャルティア等には劣る。
この日のタレントの使用残数は二回。

最近思ったのは攻撃手段と言うか、とりま〈隕石落下〉使う辺りONE PIECEの藤虎とどっこいどっこいなんじゃないかと訝しむ作者(笑)

ツアー
鎧で参戦。完全にタイミングが悪かったし、世界断絶障壁を使ってしまったのが運の尽き。〈次元封鎖〉なら許されてた。
本人に交戦意思はなく、隔離した上で話し合いをしようとしていたものの、完全に裏目に出た。
正体まで見破られた上にプレイヤーじゃないのに超位魔法使ってくるアレーティア相手に軽くパニックに陥っている。
アレーティアの存在が情報の暴力過ぎる。
この後アレーティア+エインヘリアル+〈指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉を相手にするとか言うクソゲーが始まる。

キュアイーラムvs鈴木悟戦とどっちがマシだろうか……。

余談ではありますが、世界断絶障壁さえ使わなければ話し合いはしてくれたアレーティア。


世界断絶障壁
原作に結界外の魔法がどうなるかは明記されていなかったので、内部、外部からの魔法も断絶すると言う設定にしました。
鳥カゴより多分マシ。

感想、高評価いただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。


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王国の長い夜 その2 〜side レイナース&ロバーデイク〜


今回、結構なキャラ崩壊があるのでご注意を。

……まあ、今更な気もするんですけどね?




 

 

 ロ・レンテ城での戦いが始まった同時刻。

 王都のとある場所で一人の騎士が怒りに燃え上がっていた。

 

 彼女の名前はレイナース・ロックブルズ。元帝国四騎士が一人。現鮮血騎士の一員である。

 

 少し、昔話をしよう。

 彼女は元々は治める領地で、領民を守るために戦う貴族令嬢だった。

 女でありながら男顔負けの腕前で、彼女自身もそれに誇りを持っていた。

 

 だが、ある日遭遇したモンスターを討伐した際に、長きに渡って彼女を苦しめることになる呪いを受けてしまった。そこから、彼女の人生が音を立てて崩壊した。

 

 見た目に変化こそないものの、顔の右半分からは常に膿が湧くと言う呪いによって、彼女の美貌が失われた。

 更にそのせいで家からは「風聞が悪い」「これじゃあ政略結婚にも使えない」と言われ追放されてしまい、最後に縋った婚約者からも「お前の様な呪われた女など必要(いら)ない」と見捨てられた。

 

 絶望の中何度も自殺しようと短剣を握り、喉へ──忌々しい呪いを受けた顔へと突き立てようとしたが出来なかった。

 やがて、絶望の中で彼女の中で黒い炎がメラメラと燃え上がった。

 自分を捨てた家族と婚約者に報いを与えてやる。その想いで彼女は立ち上がった。

 同時に、もしも呪いが解けたらやりたい事を空想したり、書き綴ったりもした。神殿の高位の神官でも解けなかった呪い故に、もう解けないものだと受け入れ始めたが、空想するだけでも多少の慰めになった。

 

 そんな中、僅かな伝手を辿り帝国騎士へと入団した際に、とある噂を聞いた。

 新たに粛清騎士と言う、皇帝陛下が自らの剣とまで言った騎士がいると。

 その騎士はあの帝国最高の魔法詠唱者フールーダ・パラダインをも上回る魔法を使えると。

 

 この噂を聞いたレイナースに希望が生まれた。

 もしも、皇帝に騎士としての腕を認められ、粛清騎士に近づけたのなら──この呪いが解けるかもしれない。

 

 そこから彼女は鍛錬に励んだ。

 元々それなりに腕はあったが、呪いを受けてから益々自身の攻撃力が上がっているのを理解し、それを活かせる様に鍛え上げた。

 やがて、皇帝ではないが帝国四騎士の一人であるルミリア・リイル・アーチゾルテに認められ、次期四騎士候補にまで上り詰め、そして──遂にはルミリアを倒すにまで至った。

 

 そうして四騎士の座を勝ち取り、皇帝へと謁見する事に成功し──手始めに家と婚約者への復讐を果たした。

 そして、もう一つの目的である呪いの解呪を望んだ。

 

 

「なるほど、分かった。アイツに話はしておこう。

 だが、これから王国との戦争が近い。しばらくはそちらに専念してもらうぞ」

 

 

 王国との戦争。

 前回は四騎士であるトーマス・アルトランド率いる騎士たちの奮闘により勝利したと聞いた。

 それにより今回は王国も数を揃えて来るだろうと警戒していると。

 

 少なくとも戦争が終わるまでは呪いの件についてはお預けになってしまったが仕方ない。

 同時にチャンスでもある。ここで武勲を上げれば皇帝と粛清騎士の覚えもよくなるはず。そうすればきっと──。

 

 

 そして、王国との戦争を直前に控えたあの日。

 ルミリアに連れられて来たのは、あの粛清騎士のいる場所だった。

 

「アレーティア様!こんなところにいらしたのですね!」

 

「ん、ルミリアですか。一緒にいるのは……レイナースですか」

 

「……私のことをご存知なのですか?」

 

「ええ、それは勿論。ルミリアを負かして四騎士の座を勝ち得た唯一の騎士の名を知らないわけがないですよ」

 

 粛清騎士──アレーティアと名乗った騎士は、思ったより恐ろしい人物ではなかった。むしろ、付き合いやすい人物だと感じた。

 そして自分の名前を知ってくれている事に内心ほくそ笑んだ。後は武勲を上げれば──!

 

 しばらくルミリアを交えて談笑した後、これから四騎士になる相手だからとアレーティアは普段隠しているその顔をレイナースに晒した。

 聞けば帝国四騎士とフールーダ、皇帝とごく一部の人間にのみ素顔を見せているという。

 その素顔は、レイナースよりも美しく、可憐だった。正直に言えば、嫉妬してしまうほどに。

 

 何故素顔を隠してしまうのか。私は呪いのせいで隠さざるを得ないのに何故?

 

 その理由が気になった私は思わず聞いてしまった。

 すると、粛清騎士様は己の出自を語った。エルフの王族であること。法国に命を狙われていること。皇帝との関係や顔を隠すに至った理由を。

 それを聞いたレイナースは己を恥じた。自分よりもずっと重い理由で素性を隠さざるを得ないというのに、それに比べて私は──。

 

 自責の念に駆られるレイナースを見たアレーティア様は微笑み、震える手を取った。

 

「気にしないでください。別に何とも思っていないので。

 それよりレイナース、貴方の方が大変だったでしょう?よく頑張りましたね」

 

 優しかった。ただひたすらにそこには無償の愛があった。

 あの日からずっと身を削る様に生きて来て、呪いが解けていないのに何処か報われた気がした。

 それと同時に、この人の役に立ちたいと、打算なく思った。

 

 

 戦争が終わり、アレーティアに追従したレイナースは多くの貴族の首を討ち取り、十分以上の武勲を上げた。

 それにより、呪いに効くかもしれない超希少薬草から作られたポーションを褒賞として与えられた。

 戦勝会が終わり早速そのポーションを浴びる様に顔に振りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 ───呪いは解けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、私は立ち直れなかった。

 ここまでやったのに。どうして。

 

 望みが絶たれ、もう戻ることのないこの膿の湧く顔は絶望で彩られているだろう。

 この報告を受けた陛下は驚いた顔をして、後に新たな手段を模索すると言ったが、もうどうでもよくなってしまった。

 

 数日、四騎士の仕事を休みただただ無為に時間を過ごした。

 酒を飲み、少しでもこの現状を忘れたかったが、どうしても振り切れないあたり、相当に堪えたらしい。

 

 そんな時──再びあの方は現れた。

 

 

「レイナース。生きてますか?」

 

「ああ、こんなになってしまって。綺麗な顔が台無しですよ?」

 

「え?醜い?何を言っているんですか。──ああ、なるほど。解けなかったんですね、呪いが」

 

「そうですか。辛かったですね。──それはそうと、私が尊敬する人物がこんな事を言っていたんです。『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』だって」

 

「だから、私がレイナースを助けてあげましょう。顔を上げて──ほら。鏡を見てみなさい?」

 

 そうして鏡を見れば、少し痩せた自分が映り、呪われた顔半分からは膿が──あれ?湧いて、いない?

 思わず何度も、何度も手を当て、布を当て、鏡を見つめる。

 膿はもう湧いていなかった。

 

「呪い、解けたでしょう?」

 

 呪いが解けた。

 ああ、この一言でどれだけ救われたか。

 もうこの身を苦しめた呪いはなくなった。

 心なしか身体も軽い。歌って、踊って、泣いて、笑いたい。

 だが、それをする前にすべきことがある。

 

 

「アレーティア様。心より……心より感謝申し上げます!!」

 

 

 アレーティアはそれを微笑みで返した。

 アレーティアはただ呪いを解いただけだと思っているだろうが、レイナースにとっては、もう解けないものを解呪してくれた恩人だった。

 

 レイナースはお礼にと、ありとあらゆるものを捧げようとしたが、アレーティアは全てを拒んだ。

 

「先程も言った通り『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』なんですよ。だから、私への感謝は不要ですよ。

 だけど、どうしても何かを返したいと言うのなら……私が困った時に手を貸してくれればそれでいいです」

 

 

 ──ああ、この人は。いや、この方は、アレーティア様は女神に違いない。

 元より六大神を信仰していないが、今日この時より、レイナースはアレーティアを我が女神と信仰を始めた。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 そして現在。

 レイナースは鮮血騎士として与えられた任務を執行していた。

 

 王都に複数存在する八本指が経営する奴隷娼館の摘発、それがレイナースと鮮血騎士の同僚であるロバーデイクに与えられた任務だった。

 指揮する部隊として、騎士団二百名に加え、奴隷娼婦がどの様な目に遭っているか不明な為、最悪の場合を想定して神殿より神官達を二十名、そしてレエブン侯の親衛隊であり元オリハルコン級冒険者であるロックマイアーが罠対策のため加わり、総勢二百二十三名の部隊が任に当たった。

 

「態々こんな扉をそんなに慎重に開錠しようとするなんて、はっきり言って時間の無駄ですわ」

 

「じゃあどうやって突入する気なんだ?罠があるかもしれないのに?」

 

 同行しているロックマイアーが鍵開けのための用意を始めたところ、レイナースは「そんなことする必要ありますか?」と尋ねた。

 入口は二つあり、ロバーデイクと二手に分かれ逃げ道を塞ぐ布陣になっている。

 客を迎える入口ならば罠が仕掛けられている可能性は低いだろうが、何かしらの合図を必要とする罠も稀にあるため、慎重になるべきと答えたが、それに対してのレイナースの返答が先ほどの会話である。

 

「敬愛すべき粛清騎士様は、こう言った場合こうすべきだとおっしゃいました──

 

 

 

 

 

 罠なんて全て作動する前に破壊してしまえば何の問題にもならないと!

 

「待て、その理屈はおかしい」

 

 ロックマイアーのツッコミは最もだった。しかし、レイナースは止まらない。神格化しつつある粛清騎士──アレーティアの言うことは絶対なのだ。

 

「では、突入しますわ。後続の騎士、神官騎士達は扉を破壊し次第突入。ロックマイアー様は罠があるか探知してください。全て破壊しますので」

 

 レイナースは血のように真っ赤な槍を構え──武技として投げ放つ。

 

「武技──〈真槍重爆〉ッ!!」

 

 投げ放たれた槍は鋼鉄で出来た扉を破壊しながら内部へと侵入し──

 

 

 

「「「ギャアアアアアアアアッッッ!!!!」」」

 

 

 

 中にいたであろう従業員達の悲鳴と共に爆発した。

 

 レイナース・ロックブルズ、彼女はアレーティアに傾倒しすぎたあまり、脳筋の系譜を受け継いでしまっていた。

 

「突入!」

 

「は、ははっ!!」

 

 正直、この場にいたレイナース以外の全員が今の一撃でこのフロアに居た敵勢力は全員無力化されたのではないかと訝しんだ。

 突入してみれば中は大惨事。従業員と言う名の八本指勢力は今の〈真槍重爆〉で全員瀕死になっていた。

 元よりレイナースの攻撃力は四騎士最強と称され、鮮血騎士でも上位を争う。その攻撃力、破壊力と言ったら、同じ鮮血騎士である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことから相当なものだ。

 

「な、なんだ今の音は!?襲撃か!?」

 

「クソが!こっちはようやくおこぼれに与れたってのによぉ!!」

 

 二階から武装した傭兵──請負人(ワーカー)たちがぞろぞろと降りてくる。

 発言を見るに()()()()()()()()()()()()()が、レイナース達には関係がない。

 

「ああ、今ので全員処理出来たと思ったんですが、思ったより虫ケラの数が多かった様ですわ」

 

「テメェ!俺たちを虫ケラだと!?」

 

「ええ、お前達のような人を餌としか思わない輩など虫ケラで十分ですわ」

 

「この野郎!そこの騎士共も生きて帰れると思うなよ!!やるぞお前らぁっ!!」

 

 二階から降りて来た請負人達の数はおよそ二十人。よく見れば、帝国でもかつて知られた名前の請負人の姿も見られる。

 レイナースの記憶ではミスリル級冒険者程度の実力者だったとある。

 しかし、相手が悪かった。

 

「──フッ!!」

 

 瞬間、レイナースは請負人達に肉薄しその槍を正面の相手の胸目掛けて貫く。同時に背後にいた敵の顔面をも貫き、槍が抜ければ穿たれた二人はドサッと音を立てて崩れ落ちる。

 次いで何が起こったのか理解していない他の請負人達を武技〈一息・連突〉で顔や首、胸と言った急所目掛けて四連続の突きを見舞う。

 

(アレーティア様なら四連続程度ではなく、もっと多く突けるはず……私もまだまだですわ)

 

 そんなことを思いながらレイナースはこの数秒で六人の請負人を始末した。

 この事実に遅れて気づいた他の請負人達は怯えた表情で一歩、二歩と後退していく。

 恐らく始末した誰かがこの中のリーダー格だったのだろう。リーダーが討ち取られた事により戦意が失われていく。

 ただレイナースは容赦しない。容赦してはいけないと、敵は徹底的に叩き潰せと言う啓示(教え)を受けているため、追撃の指示を出せば騎士達が制圧の為〈盾突撃〉の波状攻撃で次々と請負人達を無力化していく。

 

 こうして、呆気なく敵戦力を無力化する事に成功した。

 

 

 娼館の戦力を無力化した後、まずは二階から捜索すれば見つかったのは虫の息ほどの奴隷娼婦が数人、床に転がっている現場だった。

 どうやら、これから処分する奴隷娼婦を最後に楽しもうと、ちょっとした宴の最中だったらしい。

 他の騎士達や神官たち──娼館と言う場所を考慮して大部分を女性が占めている──もこの光景を目にして請負人達や八本指に隠しきれない怒りを感じていた。

 特に、心優しい神官でも知られているロバーデイクは一際険しい顔をしており、握った拳からは流血するほど力が込められている。

 とはいえ、これはまだごく一部に過ぎないため、未だ客の相手をしていると思われる奴隷娼婦の救出が急がれた。

 

「で、他の奴隷達は何処に?」

 

「そ、その地下への隠し扉を開けた通路の先だ!」

 

「そうですか。じゃあ貴方がその扉を開けなさい」

 

「うぇっ!?」

 

「罠を解除するのが面倒なので貴方が開けて、貴方が罠に掛かれば殺す手間も省けるし罠も私たちに被害なく突破出来る。

 実に効率的ですね」

 

「ふ、ふざけ」

 

「なら死になさい」

 

 レイナースに一切の慈悲はなく、請負人の一人の生命が此処に散った。

 それを見た残りの請負人達は血相を変えた。このままだと理不尽に殺されると。

 請負人の多くは内面がおかしいと称される者が多いが、請負人達から見てレイナースの方がよっぽどイカれていると思わざるを得なかった。

 そしてその恐怖故に、依頼主を裏切ることを躊躇わせなかった。

 

「お、俺は知ってるぜ!この館の罠はマジックアイテムで管理されているんだ!俺を助けてくれるなら場所と使い方を教えてもいい!」

 

「おいテメェ汚ねぇぞ!!」

 

「待ってくれ!俺もどこに罠が仕掛けられているか──」

 

 

 こうなれば誰も彼もが命惜しさに情報を吐き出す。その足掻きっぷりに呆れたもののレイナースは部下の騎士たちに命じ、順当に娼館の罠を解除し地下へと向かった。

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

「おらぁっ!どうした!?もっと悲鳴を上げろ!!」

 

 娼館の地下の一室、全身に贅肉をこれでもかとつけた醜悪な豚男──スタッファン・へーウィッシュが己の欲望を奴隷娼婦にぶつけていた。

 この男は高い嗜虐心を持っていて、役人であるため金銭にも困らず奴隷を買って発散していた。

 しかし、運悪く奴隷を全て使い切ってしまい、いたぶり甲斐のない奴隷を買う気にもなれず、悶々とした日々を過ごしていたが、主人である貴族からこの娼館を紹介され、こうして発散していた。

 八本指のために権力を行使することになってしまったが、今や八本指は王国全土を支配しかけていることを知っている。そんな組織に力を貸せば後々にもっと良い女を用意してくれるかもしれない。そんな下卑た欲望から、彼は八本指に従うことに何の抵抗もなかった。

 

「あ~、あの女……″蒼の薔薇″のラキュース。あの小娘をぐしゃぐしゃに痛めつけられたら、どれだけ、気持ちがいい、だろうなぁ!!」

 

 今や八本指から懸賞金が掛けられているアダマンタイト級冒険者チーム″蒼の薔薇″のリーダーであるラキュース・アルベルン・デイル・アインドラ。

 その美貌はかつて王国にいた″黄金″ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフには及ばないものの、それとはまた違った美貌がスタッファンの嗜虐心をくすぐる。

 殺さず捕えて、あの顔をこの拳で歪められたらどれだけ気持ちがいいだろうか。

 

 (もしもそうなった場合、高い金を出してもいいから楽しませて欲しいと頼んでみるか)

 

 そんな妄想に耽り、目の前の奴隷娼婦を思う存分いたぶり、そして最後に性欲を発散させようと──

 

 

「何を、しているのですか」

 

 

 振り向けば見知らぬ男がそこにいた。

 真っ赤な全身鎧を装備し、如何にも騎士と言う風貌を持つその男の声には怒気が含まれていた。

 

 

「き、貴様、何者だ!?」

 

「質問を質問で返すな!!何をしているのかと聞いているんです!!」

 

「ひぃっ!」

 

 男は顔を真っ赤に染め、憤怒の表情を浮かべている。あまりの恐ろしさにスタッファンは後ろに退き──男、ロバーデイクの目に映ったのは暴力の限りを尽くされ今にも死にそうな女の姿だった。

 

 

「──貴様ぁぁああッ!!」

 

「うぎゃああああッ!!」

 

 スタッファンの顔面にロバーデイクの拳が叩き込まれ、あまりの威力に部屋の外へと飛ばされるほどに。

 そして飛ばされた先には──

 

「……こんな所に肥え太った豚がいるとは思いませんでしたわ」

 

 レイナースがいた。

 ただ、レイナースだけでなく、この娼館を利用していた他の客もスタッファンの様に騎士達の手により部屋から引き摺り出されている。

 

「こ、これは……」

 

「えー、貴方方はこれより帝国における法に則り、逮捕させていただきますわ。

 王国の法では許されている様でしたが、今日よりリ・エスティーゼ王国はバハルス帝国に併呑されることになりましたので、帝国の法を遵守させていただいてます。どうか、ご納得していただける様に」

 

 レイナースの見下す様な視線にスタッファンは怒りを覚えた。

 何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。ただ奴隷で楽しんでいただけではないか。他の客にも同じ様な感情が浮かんでいるのが見て取れる。

 

「帝国に併呑だと!?何を勝手なことを言っているのだ!それが本当なら貴様らは戦後交渉の不可侵を破った蛮族ではないか!

 そもそも、そんなことを王家が許すわけあるまい!周辺国家も許すはずがない!」

 

「そうだ!第一、平民など──奴隷などどう扱おうと我らの勝手ではないか!平民などいくらでもいるだろう!?」

 

 スタッファンを筆頭に各々が身勝手な言い分を口に出して喚いている。その光景に多くの騎士や神官は顔を歪ませ嫌悪感を示している。

 同時に王国はここまで落ちぶれていたのかと幻滅してもいた。

 民を消耗品の様に使い捨てるなど、帝国でやろうものなら物理的に首が飛ぶ事になる。アレーティア基準なら裁判無しで即殺案件だろう。

 そして──

 

「……レイナースさん」

 

「ええ、構いませんわ。どうせ処刑する事になりますし」

 

「しょ、処刑!?な、なな、何故私がそんなぁ!?」

 

「……感謝します」

 

「何かの間違いだっ!!私は何も──ぶぎゃあっ!!」

 

 スタッファンの顔に今度は拳ではなくモーニングスターが叩き込まれる。頬を砕き、棘により片目が潰れる。あまりの激痛にスタッファンは地面にのたうち回る。

 それを見たレイナースは嫌悪の表情を浮かべる。彼女もまだ乙女であり、いくら仕事でもこんな贅肉でパンパンに膨れ上がった豚男が全裸でのたうち回る所など見たくもないだろう。

 

「いいいいじゃい!!いばあああああ!!」

 

「痛いでしょう。ですけどね……お前が殴っていた彼女はもっと痛かったんですよッ!!〈土竜叩き〉ッ!!」

 

「ぐぺぇあっ!」

 

 再びロバーデイクは怒りのあまり、モーニングスターでアレーティア直伝の〈土竜叩き〉をスタッファンに繰り出し、文字通り頭部を叩き潰した。

 目の前にあるのは頭が潰れた死体だった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……お見苦しいところをお見せしました。神に仕える身でありながらこの様な……」

 

「粛清騎士様ならもっと凄惨に苦しめていたでしょうから、ロバーは優しい方ですわ。

 ……さて、残りの客は──いいことを思いついたので痛めつける程度に済ませて、一時的に牢へ。

 奴隷達は神官達に引渡し、ラナー様へ報告。次の指示があるまでこの娼館を隅々まで調べ尽くしなさい」

 

「「「ははっ」」」

 

 

 こうして、八本指奴隷部門が経営していた闇の娼館は制圧。

 その後に小規模拠点などが追撃され多くの奴隷が救出されたのであった。

 

 その中には、とある貴族に拐われ、飽きて売られてしまった女性(ツアレニーニャ)の姿もあった。

 

 





レイナース
アレーティア教の敬虔なる信徒。一緒に行動したらルミリアより被害がデカくなるのは確実。
強さ的には四騎士時はノーマルガゼフ未満。鮮血騎士時は英雄の領域に突入。
今回はそれに加えてアレーティアの飯バフがあるのでフルアーマーガゼフ超え。

ロバーデイク
心優しい神官。なので今回の任務を与えられ、あまりの惨状に怒った。
〈土竜叩き〉はアレーティア直伝。強さ的にはアダマンタイト級冒険者程度。第四位階の神聖系魔法を扱える。

ロックマイアー
出番のほとんどがレイナースの脳筋行動で無くなってしまった上に振り回された悲劇の人。
ロバーデイクと行動するべきだった。

スタッファン・へーウィッシュ
頭が潰れて死んだ。
原作とは違い、奴隷売買が禁止されていないのでラナーに対する悪感情はないが、代わりにラキュースにそれが向いていた。
多分四期の例のシーン見たら興奮する。

奴隷娼婦たち
この後皆助かる。原作と違って処理されないからご安心を。



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王国の長い夜 その3 〜決戦六腕!〜


UA70万突破しました!ありがとうございます!

皆さんお待たせしました、六腕戦です。

王都粛清編も後三、四話で収められたらな〜と思ってます。



 

 

「クソッ!面倒な事になった……!」

 

 八本指警備部門の長である"闘鬼"ゼロは配下である警備部門の元請負人達に指示を出し、帝国からの襲撃に対応していた。

 よもやドラゴンに乗って襲撃してきた挙句、第二王子ザナックと王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの生存。更には残った反抗勢力である元王派閥の貴族達が手を組み王都を取り囲む様に自領の兵達を動員している。

 ハッキリ言って詰みの盤面だ。しかし、だからと言って何もしないのは論外だ。

 ゼロは今回招いた貴族達や他部門の長達を逃すために前線に立つ必要があり、逃げる時間を稼ぐことが求められた。

 同時に程々のところで自身も逃亡し再起を図る必要がある。

 この時点でゼロ自身は八本指を捨て、他国へ逃げる方へ算段を立てた。

 直属の部下に資産や物資を非常時に避難するために用意した隠れ家へ移すように命じた。

 六腕である自身を除く五人には帝国騎士を蹴散らし、ある程度被害を出したところで撤退しろと伝え、自分も戦場へ立った。

 

「ヌゥンッ!!」

 

「ぐあぁっ!」

 

「クッ!〈要塞〉!」

 

「その程度で俺を──"闘鬼"ゼロを止められると思うなぁッ!!」

 

「ぐぶうっ!?そ、そんな〈要塞〉が──」

 

 ゼロは強い。王国裏社会最強の六人と称される六腕のリーダーでもある彼の実力はアダマンタイト級冒険者に引けを取らない。

 いくらアレーティアによる強化を受けていても並の帝国騎士では刃が立たなかった。

 

「雑魚共がいくら群がろうと、この俺を倒すことなど出来ん!

 この俺……"闘鬼"ゼロこそが王国最強なのだから!」

 

 ゼロが再び何もない空に拳を放てば、衝撃波が帝国騎士達を襲い、耐えたとしても追撃に倒れていった。

 相対していた帝国騎士達が倒れ伏し、この辺りで一度退くかと考え始めた時──

 

 

 自身の足元から鋭いナニカが自身の顔を目掛けて飛来した。

 

 

「なっ!?〈回避〉!」

 

 咄嗟の判断で武技を併用し奇襲を避け、ジッとその下手人を見据えた。

 

(コイツは……強いな)

 

 ゼロが見たのは人間ではなく、亜人。

 凶悪な顔をしていて、全身に生えている体毛は白磁の如く輝いていて、何らかの塗料で塗られたであろう二本の線が夜闇の中でもハッキリ見える。

 そして、腕には帝国の紋章が描かれた腕章の様なものが巻かれており、何らかの部隊の一員であることを思わせた。

 その亜人は油断することなくゼロを視認し、足元に転がる倒れた騎士達へ声をかけた。

 

「お前達、意識はあるか?あるなら一度撤退しろ。この場は俺が取り持つ」

 

「あ、貴方は……!」

 

「口が利けるのならサッサと動け。粛清騎士様が後で怖いぞ」

 

「は、はい……っ!!」

 

 痛みに耐えながらゆっくりと、それでいて迅速に倒れた騎士達は亜人の掘り進んで来たであろう穴へと消えていった。

 

「さて、待たせて悪かったな。八本指の者よ」

 

「いいや、構わんさ。あんな雑魚どもがいなくなろうがどうでもいい。

 それよりも、お前だ。一体何者だ?見たことがない種族だが」

 

「申し遅れたな。私はバハルス帝国の配下に加わったクアゴア氏族の王──またの名を鮮血騎士が一人、ぺ・リユロである」

 

 クアゴア。本来ならアゼルリシア山脈にのみ生息している亜人種の為、ゼロが知らないのは無理もない。

 分かるのは目の前の相手──ぺ・リユロは油断ならない強さを持っているということだ。ゼロとしても負けるつもりは毛頭ないが、余計な消耗を避けるために交渉に出る。

 

「そうか。聞くがリユロよ、俺の部下にならないか?

 見ただけで分かる。お前は相当な強者だ。お前が望むものをくれてやろう。どうだ?」

 

 ゼロは強者には寛大だ。それがたとえ人間種でなくとも、話が通じれば懐に受け入れるだけの度胸がある。実際、六腕の一人"不死王"デイバーノックは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と言う強大なアンデッドであり、魔法技術の教授と仕事に見合った報酬を対価に配下に置いている。

 それにリユロをこの場で引き入れられれば、より逃亡が楽になる。先程現れた時の様に地中を掘り進み移動が出来る種族ならば、これから逃亡に使おうとしているルートより安全に逃げることも出来ると言う打算もあった。

 

「悪いが断らせてもらう。俺は──いや、我らクアゴアは粛清騎士へ忠誠を誓った。受けた恩もまだ返していないのでな」

 

「そうか。ならば──死ね」

 

 交渉は決裂。ならば殺しあうのみ。

 先手を打ったのはゼロだった。ゼロはシャーマニック・アデプトと言う職業に就いている。これには動物の霊魂を自らの肉体に憑依させ、その優れた身体能力を行使する特殊技能スキルがある。一日の使用回数に限度があるものの、使用すればその獣の優れた身体能力を発揮し、人にして獣という領域にまで到達する。

 目の前にいるのは人間よりも肉体的には強固である亜人。ゼロがこの特殊技能を使うことに躊躇いはなかった。

 

足の豹(パンサー)、武技〈剛脚〉!」

 

 足に刻まれた豹の刺青が輝く。これにより豹の如く強化され、速度が増した武技がリユロを襲う……が、リユロはこれを回し蹴りで迎撃。相殺した。

 

「なんだと!?」

 

「中々の威力だ。そして、お前も俺と同じ修行僧(モンク)だとはな……!」

 

 リユロは修行僧としての構えをとる。同じ修行僧同士の戦いではあるが、互いに譲らぬものがあった。

 しかし、肉体的にはリユロの方が上。それ故に本来一つしか起動しない特殊技能を惜しみなく使う。そうしなければ押し切られるのではないかと言う凄みを感じたからだ。

 

「ならば……腕の犀(ライノセラス)!でぇいっ!!」

 

 腕の刺青が輝き、強化された腕による正拳突きを空に放ち衝撃波を発生させる。並の相手ならばこれだけで十分すぎる一撃だが、リユロはこれを真っ向から受け、なんの痛痒も感じていないかの様にそのまま前進。お返しに突きを放ち、これをゼロが寸前で回避する。

 

(は、速い!足の豹で強化していなければ間に合わない程に!)

 

「どうした?その程度ではないだろう?」

 

「抜かせッ!!」

 

 ゼロが自身を侮られたと憤慨し残りの背中の隼(ファルコン)胸の牛(バッファロー)頭の獅子(ライオン)を全て発動。更にマジックアイテムや多種の修行僧系職業の特殊技能も発動し、爆発的な力が溢れ出す。

 ここまでするとゼロ自身制御が難しく、ここから繋げる技は正面から踏み込み、全力で殴りつけるという攻撃手段に特化するからこそ、何とか技として成立する一撃。ゼロの誇る単純にして無敵の技。これを持って目の前の敵リユロを撃ち破ろうとした。

 

 それを見たリユロは焦ることなく構えを取る。左腕を高く、右腕を低く、不動の状態を保ち待ち構えた。

 これはアレーティアから叩き込まれた防御の構え──曰く、天地を統べる構えなのだと、何度も何度も身につけるまでボコボコに殴られたのはリユロの記憶に新しい。

 

「ぬぅわああああああっ‼︎‼︎」

 

 そうして、遂にゼロが踏み込み、正拳突きが繰り広げられた。

 圧倒的な速さ。そして、それにより生み出される全てを破壊する一撃がリユロに迫り──

 

「くぅあああああああっ‼︎‼︎」

 

 その一撃は低く、地に構えられた右腕によって防がれ、そして──高く、天から飛来した左腕による一撃でゼロの腕が叩き斬られた。

 

「なっ!?ば、バカなあああああッ!?」

 

 自分の最強の、無敵を誇った技が敗れた。その事実をゼロは信じられなかった。否、信じたくなかった。

 しかし、現実はそれを理解しろとばかりに事実を叩きつけていた。失われた腕から滴り落ちる血液と床に転がる腕を見ながら、思わずその場に尻もちをついてしまった。

 ゼロは折れてしまったのだ。王国裏社会最強の六腕のリーダーである自負も、王国外からやって来た強者によって粉々に砕かれてしまった。

 

 余談ではあるが、リユロはアレーティアによる地獄の訓練を受けたものの、上限レベルに達していたのかそこまで目立った強化はされなかった。

 しかし、技術や知識を身につけたリユロの強さは見えない強さとして発揮され、対人戦ならば鮮血騎士でも上位の実力を得たのだった。

 

「……良い一撃だったが、俺の方が強かったようだな。

 次はその一撃を連続して出せる様にするといい。──次があれば、だがな」

 

 そうしてリユロは鋭い爪を露わにし、呆然とするゼロの胸元へ向け──心臓を刺し貫いた。

 八本指警備部門の長、六腕が一人"闘鬼"ゼロはここに果てた。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「これでターゲットは一人処分と。さて、この後は……他の六腕も倒した方がいいか?その方がウケもいいだろう」

 

 リユロはゼロの亡骸からマジックアイテムを回収し、アレーティアから渡されている無限の背負い袋へと投げ入れる。

 リユロ達鮮血騎士に与えられた主な任務は、基本的に一般の騎士達では歯が立たないであろう六腕との交戦だ。

 アレーティア曰く、鮮血騎士であれば多少手こずることはあっても負けはないと言う判断と信頼から、この任務が与えられた。

 現に、自分が相対した六腕最強である"闘鬼"ゼロを倒した感想としては、これぐらいなら鮮血騎士の上位陣なら負けはないなと安心していた。

 

(一先ず、ラナー様と連絡を取って指示を仰ぐか?いや、それよりもここで手柄を多く上げれば、褒賞はもっと期待出来るかもしれんが……)

 

 この革命が終わった後に、リユロには王国にある山岳地帯を一つ領地として与えられることになっている。

 これには正直リユロも驚いた。なにせ、元々住んでいたアゼルリシア山脈に、エ・ランテルにある地下神殿を新たな住処として与えられ、そこに加えて更に領土を貰えるとなればクアゴア氏族は益々繁栄するだろう。

 無論、そこに至るまでに多くの苦労が──主にアレーティアからの無茶振り──あるだろうが、それでも傲慢でケチだった霜の竜王(オラサーダルク)に仕えていた頃よりよっぽどやり甲斐があった。

 なので、ここで更なる忠誠を示し、結果を残せば更なる躍進が期待出来るとリユロはあるかもしれない未来に内心ほくそ笑んだ。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 同時刻、王宮の別の場所では招かれた貴族達を逃すために六腕である"千殺"マルムヴィスト、"踊る三日月刀(シミター)"エドストレーム、"空間斬"ペシュリアン、"不死王"デイバーノックの四人を殿に、請負人達が護衛にまわり、脱出を企てていた。

 しかし、押し寄せる騎士達は自分たちより弱いと言っても、数は多く満足に戦えない。

 騎士達の連携によって中々道が拓けないために、彼らは苛立ちを感じ始めていた。

 

「チイッ!"天武"はどうしたんだい!?」

 

「あの野郎、こんな状況なのに指令を無視しやがった!アイツとあの奴隷エルフがいればまだ何とかなっただろうに!」

 

「無駄口を叩く暇があるのなら手を動かせ!〈雷撃(ライトニング)〉!!」

 

 デイバーノックの〈雷撃〉が炸裂し、直線上にいた騎士達が悶絶して倒れていく。しかし、死んではおらず、倒れた者を他の騎士が後方へと押しやり、騎士達の壁は崩れない。

 

「……こうなれば〈火球(ファイヤーボール)〉を連発して打った方が良さそうだな」

 

「ああ、アレか!そりゃあいい!」

 

「……やれ」

 

 デイバーノックは人間ではなくアンデッド。それも死者の大魔法使い(エルダーリッチ)であり、更に言えば八本指という組織に身を置いていたことにより、強大なマジックアイテムによって自然発生した死者の大魔法使いよりも強化されている。

 元々がモンスターのため、魔力の量も人間とは比べ物にならない。かつて所属していた傭兵団では〈火球〉を連発してしまったことから正体がバレてしまったが、六腕で彼がアンデッドであることを知らない者はいないため、この場では心置きなく魔法を使うことが出来る。

 

 

 ──ただしそれは、余計な横槍がなければ、だが。

 

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「ば、化け物だ!?」

 

 突如、請負人達の悲鳴が上がった。

 何事かと六腕のメンバーは後方を振り返る。もしや、デイバーノックのことを言っているのか?と訝しんだがそうではなく──

 

 

 そこには巨大な黒い騎士がいた。

 赤い血管の様な紋様があちこちにあり、所々に鋭い棘のついた全身鎧を身につけて、ボロボロのマントを靡かせている。

 頭には悪魔の角の様な装飾がされた兜を被っており、その手には身の丈ほどの大きさのタワーシールド、凄まじい斬れ味を思わせる(フランベルジェ)が握られている。

 ただ、普通の騎士と違うのは──眼窩は落ち窪み深淵の如く黒く、その肌には肉はなく骨だけで動いている。人間ではない、アンデッド──否、騎士の姿をした化け物がそこにいた。

 

 

「あ、あれはフールーダ様の支配されたアンデッド!」

 

「全員退避!フールーダ様が支配されているとは言え危険だ!この場は()()()()任せるぞ!」

 

 先程までいた騎士達が続々とその場を見事な速さで脱していく。つまるところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気づいたのはこの時だった。

 なにせ既にそのアンデッドから与えられる重圧(プレッシャー)はデイバーノックの比にならない。この場にいる四人全員で掛かっても倒せるかどうか。

 見たところ骸骨(スケルトン)系のアンデッドなので、剣や刺突と言った攻撃は効果が薄い。更にはあれだけの武装をしているため、そもそもどれだけダメージを与えられるかも怪しい。

 で、あればやはり要になるのはデイバーノックだが……

 

「あ、あれは俺よりも上位のアンデッド……だと!?」

 

「お、おいデイバーノック?」

 

「アレを帝国は使役している……?ならば相当な魔法知識を持った存在が……」

 

「何をブツブツ言っている!?やるぞ!俺の『空間斬』でまず──」

 

「……〈火球〉」

 

「なっ!?」

 

 デイバーノックが放った〈火球〉は目の前のアンデッド──死の騎士(デス・ナイト)ではなくペシュリアンに直撃、炎上した。

 

「で、デイバーノック、アンタ!?」

 

「ぎゃあああああ!!お、お前!お前ええええええ!!」

 

「裏切ったっていうのか!?」

 

 突如行われた凶行にエドストレーム、マルムヴィストは驚愕し、ペシュリアンは自らを焼く炎を消そうとのたうち回りながら非難の声を上げた。

 ここにきて突如裏切るとはどういう了見なのか。聞かずにはいられないが、状況がそれを許さない。

 今にも死の騎士はデイバーノックに襲い掛かろうとし──デイバーノックを無視してペシュリアンを剣で突き刺した。

 

「ぐげえっ!?何故お「悪いなお前たち。〈火球〉」」

 

 ペシュリアンの言葉を遮り、トドメの〈火球〉を直撃させ──ペシュリアンは沈黙した。

 その光景を見た二人はジリジリと後退する。最早デイバーノックを仲間とは思わない。アレは──人を、生者を憎むアンデッドだと再認識させた。

 

「このアンデッドは俺よりも高位のアンデッド。それも伝説級と称される死の騎士だ。コイツ一体で一国を滅ぼすことすら可能な強大なアンデッドだ。これが意味することが分かるか?」

 

「……つまり、帝国が何らかの方法でソレを使役しているってこと?」

 

「そうだ!そしてこのアンデッドはゼロなどより遥かに強い!請負人共が束になっても勝てやしないさ! だが!俺は違う。俺はアンデッドだ。コイツの標的にはならない。

 それにだ……これだけ強大なアンデッドを支配できる魔法詠唱者(マジック・キャスター)が帝国に居るのは間違いない! ならば!お前たちの首を手土産に俺は帝国へと跪き、更なる魔法の深淵へ向かうのだ!!」

 

 デイバーノックの目的は多くの魔法の習得であり、ゼロとの契約で魔法技術の教授と仕事に見合った報酬を対価に配下になった。

 しかし、この状況では最早それすら困難であり、帝国に滅ぼされるのが目に見える。

 そんな時に、目の前に現れた死の騎士を見てゼロを──六腕を裏切ることにしたのだ。全ては自分の目的のために。

 

「ではさらばだお前たち。せめて、お前たちの死体は有効活用させてもらおう」

 

「この……クソアンデッドが」

 

 マルムヴィストとエドストレームは最早ここまでと覚悟を決める。だが、せめて目の前の裏切り者は殺すと決意し、向き直る。

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デイバーノックは死んだ。

 後ろにいた死の騎士の剣で真っ二つになって。

 

 

 ──そう、確かに通常なら死の騎士は同じアンデッドであるデイバーノックを襲うことはないだろう。

 しかし、この死の騎士はあくまで使役された存在であり、使役者の命令に従うのは当然のことであり、そこを失念していた。

 死の騎士に与えられた命令は一つ。『八本指に与するものの粛清』だったのだから。

 何故先にペシュリアンを殺したかと言えば──単に死にかけていたから一番最初に殺そうと思ったに過ぎない。

 

 

「……ははっ。ざまあみやがれデイバーノック」

 

「最後にいいもの見れた気がするよ。ペシュリアンは見れなくて残念だったろうが」

 

 死の騎士が前進する。『次はお前たちだ』と言葉に出さずとも行動で示している。

 そうして二人と一体は衝突し──

 

 

 

 

 

 後に残ったのは焼死体(ペシュリアン)とデイバーノックの残骸。

 

 そして──

 

 

「あ″あ″……」

 

「う″う”……」

 

 

 数分前まで六腕だったマルムヴィストとエドストレームの成れの果て──二体の従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

sideバルブロ with 六腕

 

 

 

「さて、宝物庫は何処でしょう?バルブロ王」

 

「な、何故そんなことを聞く!?まさか貴様……」

 

「あはは!勘違いしないでくださいバルブロ王。私は貴方を守るため馳せ参じましたが、確実に帝国の者を殺すには──王家の宝物を装備した私がいれば事足ります。

 陛下も覚えていらっしゃるでしょう?あのクーデターで誰が、あの戦士長を退けたかを!」

 

「そ、それは……確かにそうだが」

 

「ご安心を、事が済めばお返ししますので。……どうか、ご決断を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。それでいいのです」

 

 

 

 





リユロ
レベル的には四十を超えたあたりで上限に達した。
その為、技術や知識を身につけ補っている。
天地の構えの元ネタはアレで概ね合ってる。でも武技ではない。
なおアレーティアがやるともっと容赦ない。

ゼロ
相手が悪かった。
最強と驕ったのが最大の失敗。

ペシュリアン
多分一番可哀想な死に方をしたけど、アンデッドにはならなかったのでまだいい方。

マルムヴィスト
死んでスクワイア・ゾンビになった。この後はフールーダの実験に使われる。
死因は心臓を一突き。

エドストレーム
死んでスクワイア・ゾンビになった。この後はフールーダの実験に使われる。
死因は首をタワーシールドでへし折られた。

デイバーノック
本質は多分フールーダと変わらないという設定。
裏切ろうとしたら、裏から斬られた。

デス・ナイト&フールーダ
鮮血騎士最後の一人……もとい一体。
フールーダは現地に来ておらず、帝国からデス・ナイトを支配し動かしている。
今回はアレーティアによる協力の元、スクワイア・ゾンビはゾンビ以外のアンデッドの発生源になるかの実験材料集めも兼ねている。
一応、デス・ナイトが暴走しないか常にフールーダが監視している。

エルヤー・ウズルス
命令無視して暗躍。
フルアーマー・エルヤーになろうとしている。


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王国の長い夜 その4 〜明けの明星〜


評価者数400人突破しました!ありがとうございます!

皆さんお待ちかねのアレーティアVSツアー鎧戦後半戦です。

独自要素多めなのでご注意を……って言うのも今更ですね。

解釈違いなどありましたらすいません。




 

 

 王都のとある場所──八本指の拠点の一つに五人の女性の影が見えた。

 彼女達はアダマンタイト級冒険者チーム蒼の薔薇。先日、アインドラ領から王都へイビルアイの転移の魔法で秘密裏に帰還し、レエブン侯らと合流し、ラナーたちとも再会を果たした。

 そして、八本指の拠点を襲撃する依頼を直接引き受けた。

 

「これで全員?」

 

「ああ、八本指に下った請負人(ワーカー)達はここにいる奴らで最後だ。後は王女……じゃなかったな。辺境侯夫人(ラナー)の依頼通り、王城に向かい残る八本指の勢力と加担した貴族、六腕を捕らえに行くとしよう」

 

「それにしてもよぉ。帝国と言うか……辺境侯が抱える戦力はとんでもねぇな。フロスト・ドラゴンを従えているのにも驚いたが、あの闘技場の巨王まで従えているとは思わなかったぜ」

 

 ここに来る途中、八本指警備部門の隠れ家を制圧していた″巨王″ゴ・ギンと遭遇した蒼の薔薇は僅かだが彼と言葉を交わした。

 その際にいずれ手合わせをしようと約束をしたが、正直全員で挑んだとしても勝ち目が薄いと判断した。それだけ、彼の武は練り上げられており、未だ成長している。

 ラキュースも英雄の領域に突入しているとはいえ、まだ成長の最中でその差は歴然。まともに戦えるのはイビルアイぐらいではないかと思うほどの強者の雰囲気を感じた。

 そして、それを従えるあの辺境侯の手腕には脱帽しかない。金で雇ったのかと思えば、巨王の口から語られるのは辺境侯に対する尊敬の念。

 辺境侯はその実力を持って巨王を従えていることを理解し、同時に辺境侯の底知れぬ力に僅かながらに恐怖を覚えた。

 辺境侯の人となりは実際に会って話しているため、その力を私欲のために振るったりする人物ではないことは知っているが、それとこれとは別である。

 

「辺境侯の抱える戦力は周辺国家でも最強格だろう。恐らく、スレイン法国の英雄部隊である漆黒聖典と比べても勝るとも劣らないだろうな」

 

「そうね……前に戦った陽光聖典だったかしら?あれより上なのは間違いないわね」

 

「スレイン法国からしたら辺境侯と言うか、エ・ランテルは目の上のたんこぶもいいところだよな。何せ今は人間以外の種族とも手を取り合って共存してるんだからよ」

 

「そこが恐ろしい。この事が露呈したら、多分法国の敵意は辺境侯に向く」

「そうなったら起こるのは戦争。帝国と法国で血みどろの争いになる」

 

「……そうなって欲しくないわね」

 

 もしかするとありえるかもしれない今後の事を話しながら、それでいて迅速に王城へと向かうと──突如背後から猛スピードで何かが接近している事に気づく。

 即座にラキュースが先頭に立ち、各々が即座に動けるように陣形を整えた──が、それは杞憂に終わった。

 猛スピードで接近していた何かの首元には冒険者プレート、それも自身らと同じアダマンタイトであり、ここまで来れば誰か分かる。

 

 接近した何かは()()()()()を身につけ、低空飛行していた。そして、ラキュース達の目の前で静止し、鎧の中からラキュースが見知った顔が現れる。

 

「よう、ラキュー。無事で何よりだ」

 

「叔父さん!?評議国に行っていたんじゃ……?」

 

 現れたのは同じアダマンタイト級冒険者チーム朱の雫のリーダーであるアズス・アインドラ。ラキュースの叔父に当たる人物だった。

 

「馬鹿言え。王国がこんな大変な事になっているのに評議国でのんびりしている訳ないだろ?今しがた、俺たちが調査した八本指の拠点を潰してきたところだ。

 それよりお前達はどうしたんだ?聞いた話じゃ依頼に行ったっきり消息不明だと聞いていたんだが……」

 

「それについて詳しく話すわ。それと──私たちが今受けている依頼についても」

 

 そうしてラキュースはこれまで起こった事を順々に話した。依頼で八本指の罠に掛かり、アインドラ領で息を潜めていた事。王国で起きたクーデター。ザナック王子とストロノーフ戦士長の生存。帝国の力を借り、現在ラナーの指揮の下で八本指とそれに加担した貴族達の粛清が始まっている事など。

 そして、帝国の力を借りたと言う辺りでアズスの表情が変わる。

 

「帝国の力を借りたのか?ザナック王子が人質に取られたのではなく?」

 

「ええ。むしろザナック王子が助力を願ったそうよ。ラナーもその場に立ち会ったって言っていたし、辺境侯も快く手を──」

 

「辺境侯、か。お前達、アレを信用するのか?」

 

 アズスからの冷たい視線が蒼の薔薇の面々に突き刺さる。

 ラキュース達、蒼の薔薇からすれば何故そこまで冷たい目で見られなければならないのか理解に苦しむが、続く言葉を待った。

 

「ヤツは王国の敵だろう?あの戦争で起きた事を知らない訳がない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?どう考えてもまともじゃない。何故信用出来る?」

 

「それは……実際に会って話して、彼が信用に足る人物だと判断したからよ。

 友人であるラナーのことも大切にしているし、クライムも邪険にしなかった。それに今、辺境侯が治めているエ・ランテルも、今の王国の民よりも活気に溢れていたわ。

 もし、彼が人の心がなかったら今のエ・ランテル領はそんな活気のある都市にはならない」

 

 ここでアズスとラキュースの認識の差が浮かび上がった。

 あくまでアズスは戦争時点での辺境侯の強さとその精神しか知らないのに対して、ラキュース達はそれに加えて治める領地を見て、住民の声を聞いて、本人とも対話し、ラキュースに至っては少ない時間ではあるものの、訓練を受けている。

 真に邪悪な者ならそんな事をしないと、神官騎士でもあるラキュースは辺境侯を信頼出来る人物だと評したのだ。

 それを聞いたアズスは信じられないと言った顔をしながらも、ラキュースが下らない嘘を言う様な人物ではないと知っているため、信じざるを得なかった。

 そうなると、過去に頼んだとある依頼が失策だったと悟ってしまった。

 そんな時だった。

 

 

 

 

 

 ──王都の郊外で見たこともない、幾多の輝ける魔法陣が展開されたのは。

 

 

 

 

 

 

「あれは一体……?」

 

「ツアー……!」

 

「あっ!叔父さん!?」

 

 アズスは鎧を再び装着し、低空飛行で魔法陣のもとへ向かった。

 それを見た蒼の薔薇も只事ではないと、アズスを追った。

 

 

 

 

 ──その先では神話の如き戦いが繰り広げられているとは知らずに。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 王都郊外の平原で発動された超位魔法〈指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉。

 その効果は同じ超位魔法〈天軍降臨(パンテオン)〉と似通った物であり、とある天使モンスターを五体召喚する効果を持つ。

 しかし、〈天軍降臨〉よりこの魔法の習得条件が厳しい為、比較的条件が緩い〈天軍降臨〉の方が採用率が高い。

 

 しかし、条件の厳しさ故に召喚される天使の強さはレベル八十の神の国の戦乙女(アースガルズ・ワルキューレ)が四体、レベル八十五の神の国の戦女神(アースガルズ・ブリュンヒルデ)が一体。

 ユグドラシルに存在する九つある世界の内の一つ、アースガルズのとあるエリアに存在する高位の天使を召喚出来る。

 

 神の国の戦乙女は人間の様と同じような見た目だが、どこか創られたものを思わせる美しい少女の姿をしている。そんな少女たちが──戦乙女が身につけているのは羽飾りのついた兜に、神々しさを感じさせる甲冑。そして──他の同名モンスターと異なり、一体一体の容姿が異なっており、所持している武器も剣や槍、弓、盾とそれぞれが全く異なるものを身につけている。

 神の国の戦女神はこの戦乙女たちを大人にしたような見た目をしており、その装備も一段、もしくはそれ以上の物を身につけている。

 

 そして、厄介なのがこの神の国の戦乙女で、ユグドラシルにおいてこのモンスターは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()

 何故かと言えば──

 

 

『更に……増えた、だと!?』

 

 

 ツアーの目の前には粛清騎士と同じ姿をした発光した虚像(エインヘリヤル)と、神の国の戦乙女四体に加え、戦乙女達と同じ姿をした発光した虚像が四体。そして、神の国の女戦士。粛清騎士と合わせて合計十一体もの相手をしなければならなくなってしまった。

 

 神の国の戦乙女が恐れられている理由は──〈死せる勇者の魂(エインヘリヤル)〉を使用し、一体で二体の相手をしなければならなくなるからである。複数で遭遇した場合は更に倍に増える。

 特に、神聖属性に弱点を持っている異形種のプレイヤーからすれば、出来るだけ戦いたくないモンスターである。

 

「行きますよ──数分保つといいですねッ!!」

 

 粛清騎士の号令と共に神の国の戦乙女とエインヘリヤル達が一斉に襲いかかる。

 ツアーも長年生きているが、これだけの数の同格の強さを持った相手を同時にしたことはない。自身に加え、浮遊する武器を加えたとしても襲い来る相手は倍以上。ツアーが如何に強者だとしても流石に無理がある。

 

 しかし、ツアーも長年生きていた経験からなんとか九体の敵の猛攻を凌ぐ。

 始原の魔法を行使し、耐久力と速度を上昇させることで対応し、浮遊する武器をフルに稼働させ一度に戦う戦乙女の数を絞り込む。

 これによりなんとか拮抗した状況を作り上げるが──

 

 

 

 

 

 

 

「私も入れてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐうぅっ!?』

 

 ここに粛清騎士が参戦することにより、呆気なく均衡は崩れる。

 粛清騎士の手にはツアーも目を見張るほどのモーニングスターの様な武器が握られている。

 

 余談ではあるが、この武器は粛清騎士──アレーティアが心血を注いで作り上げた最高傑作。

 ザイトルクワエの牙を材料にアダマンタイトやとある霜の竜王(オラサ―ダルク)から毟り取ったり、抜いたり、斬り飛ばして入手した鱗や牙、爪、骨などを惜しみなく使ってルーン文字を実に三十文字刻んである一品。刻んだ文字も、耐久力と攻撃力上昇という様な『物理で殴るのが一番強い』がコンセプトとなっているため、脳筋気質のアレーティアにはある意味ピッタリの武器になった。

 

 その武器の銘は──″明けの明星(ルシファー)″。ちなみにアインズ・ウール・ゴウン至高の四十一人の一人である『るし☆ふぁー』とは一切関係はない。

 

 ブゥンッ!とソレを振るえば、その勢いで大気が揺れ地面が捲れ上がる──が、世界断絶障壁の影響が地面にまで及んでいるのか、粛清騎士が想定していたよりも被害は及ばなかった。

 そしてこれが「手加減しなくてもいい」と粛清騎士──アレーティアにそう判断させてしまうことになり、自身の最強の武技をこれに叩き込んでストレスを発散しようという、ツアーにとっては最悪の決断に至ってしまった。

 

 

「アインス、フィーアは魔法であの鎧を追撃。ツヴァイとドライはあの浮遊する武器を近寄らせない様に。ブリュンヒルデはそれぞれに支援魔法を」

 

「「「「「了解、我が主人(イエス、マイマスター)」」」」」

 

 着々とツアーを追い込む布陣が整っていく。その事に気づいていてもツアーは──この鎧はどうにも出来ない。少なくともこのまま世界断絶障壁を使い続けるのはマズイと判断し、世界断絶障壁を解除することで体力の消費を僅かでも減らした。

 そして、始原の魔法である聖衣を発動する。聖衣は受けるダメージを大幅に減少出来る効果を持つため、これで一時的にこの場を凌ぎ、世界移動で一時離脱する腹積りだ。

 しかし──

 

「〈聖槍(ホーリーランス)〉」

 

「〈聖なる一撃(ホーリーレイ)〉」

 

 それを神の国の戦乙女達が許さない。エインヘリヤル達ごと攻撃し、魔法の行使を許さない。

 防ごうと浮遊する武器達を動かすが──

 

主人(マスター)の命ですので、悪く思わないでくださいな。〈弓矢の雨(アローレイン)〉」

 

 空から雨のように降り注ぐ矢がそれを阻害し、更になんらかの魔法効果なのか武器達が遠くへと離れていく。

 そうしてツアーは完全に丸腰になり、そんな隙をアレーティアは見逃さなかった。

 

「これでお前を守るものは無い」

 

『ぐうっ!?』

 

「よくも邪魔してくれたな……私がいなくても作戦に支障はないとはいえ、不愉快な事に変わりはない」

 

 モーニングスターという武器は柄頭を輝く星の形を見立てている。それはこの武器も同じ。

 ″明けの明星″は煌めく星の如く輝く。そして光り輝くソレは宇宙そらから飛来する隕石を幻視させた。

 

(こ、これは……!直撃は避けなければまずいことになる!)

 

 ツアーは世界移動に使用しようとした体力を、急遽防御系統の魔法へと変更した。

 聖衣だけでは耐えきれず、世界移動では間に合わない。このまま受ければこの〈(からだ)〉は跡形もなく砕け散ると判断したからだ。

 そして、その判断は正しく──ツアーはこの時は判断を間違えずに済んだ。

 

「容赦はしません。武技──」

 

 

 

〈星砕き〉

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 アレーティアの放った武技〈星砕き〉。

 曰く、アレーティア最強の殴打武技だが、実際にはスキルに近い。

 

 きっかけは〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉。

 ザイトルクワエ戦での反省を活かし、魔法職以外でもこのレベルの攻撃が出来れば、攻撃面において困ることはないだろうと生まれながらの異能(タレント)を駆使して作り上げられた武技だ。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 理由は明白。この武技の一撃に耐え切れる武器が存在しなかったからだ。

 元々、オリジナルである〈土竜叩き〉でも手加減しなければ、今のアレーティアの実力に並の武器ではその一撃に耐えきれず、十全な威力を発揮する前に壊れてしまう。

 このお陰で、かつての戦争で対峙したガゼフは生き残ることが出来たものの、アレーティアとしてはこの事態の克服は急務。

 この一撃に耐えられる武器として作られたのが"明けの明星"だった。

 

 そうして遂に日の目を浴びた〈星砕き〉。

 アレーティアの想定では世界断絶障壁によって結界内に威力は止まると思われたが、既に結界は解除されており──

 

 

 

「えぇ……?」

 

 

 

 後に残ったのは自身らを中心に捲り上げられ、陥没した平原。そして、下半身が粉々に消滅した鎧の残骸だけだった

 無事なのはアレーティアと"明けの明星"、そして後方に支援の為待機していた盾を持ったツヴァイと弓を持ったドライと呼ばれた神の国の戦乙女と神の国の戦女神だけであった。

 

 あまりの威力に流石のアレーティアもドン引きしている。全力でこの武技を振るったのは初めてだったのだ。

 よもや召喚した神の国の戦乙女を含め自身のエインヘリヤルまで消滅させてしまうとは、思いもしなかった。

 

「……えーっと、半身無くなりましたけど、生きてます?白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)?」

 

『………』

 

……多分生きてるなこれ。 一応今回の件で私の実力の一端は分かったと思います。

 その上で貴方は私のことを警戒するんでしょうけど、これだけは言っておきますね。

 

 私はこの世界と敵対する気はありませんし、数年後にやってくる脅威になりかねない存在と対峙するための用意をしています。

 興味があれば次はちゃんと本体とお話しさせてください

 

『……あ……そ……せて……もら……』

 

 アレーティアがそう言い残せば鎧の頭部の光が点滅し、消えた。

 どうやら持てる始原の魔法の力を使い切ったらしいが、伝言は伝わった様だった。

 

 そうして残った残骸を見たアレーティアは満足げな表情を浮かべた。

 あの白金の竜王が使っていた鎧故に、何かしらの秘密があるに違いないとワクワクを隠しきれなかったのだ。

 

 その時、アレーティアに〈伝言(メッセージ)〉が届き──とある報告が来たため、急いでその場を後にした。

 

 残されたのはこの場を任されたワルキューレ二体、ブリュンヒルデとツアーのなれの果てだけだった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「何だったの一体……?叔父さん、無事?」

 

「あ、ああ。すまないなラキュー。まさかこれを着ていて吹き飛ばされるとはな……」

 

 アズスとラキュース達が先程の魔法陣が展開された場所まで辿り着こうというタイミングで、とてつもない衝撃波が一行を襲った。

 あまりの衝撃に誰もが耐え切れず、一番小柄なイビルアイは遠くへと吹き飛ばされてしまう程に。

 

 そして、衝撃波が収まり目の前に映った光景は──破壊され尽くした平原。まるで何か巨大なものが落下して出来たと思ってしまう規模のクレーターが出来上がっていた。

 その中心には下半身が消滅し、傷だらけで倒れたアズスの知り合いの姿があった。

 

「……ツアーが、負けた、のか?」

 

 アズスの震える声が空を彷徨う。

 信じがたい現実が目の前にあった。

 ツアーはこの世界でも最強に近い存在。本体ではないが、彼の操る鎧の強さをアズスはよく知っていた。

 それだけに、彼が敗れるとは思ってもいなかった。少なくとも、足止めをする程度で、こんな事になろうとは。

 

「あれは……!何故こんなところに!?いや、それ以前に負けたのか!?」

 

「イビルアイ、アレは知り合い?」

 

「……あまり話せることは多くはないが、あそこにいるのは二百年前に起こった魔神との戦いで活躍した英雄の一人だ」

 

 イビルアイから語られた事実に誰もが──アズスを除く──驚愕した。

 まさか、あそこで倒れているのがそんなビッグネームだとは思わなかったのだ。

 それと同時に、そんな英雄を討ち取った人物が王国にいるという事が危機感を駆り立てた。

 

「叔父さん、ここで何が起きたのか知っているの?」

 

 ラキュースは先ほどから様子がおかしい叔父に、明らかにここで起きた何かに関することを知っているはずだという確信を持って尋ねる。

 相手によっては蒼の薔薇、朱の雫だけでは対処出来ない程強大な何かが王国にあるのは間違いない。

 もしも、それが八本指の手の者なら──対処出来るのは恐らく自身が知る限り最上位の存在、アルス・ティアーズ辺境侯だけだろう。

 尋ねてからしばらくして、アズスは震える口をなんとか抑えて語り出した。

 

「……ああ、知っている。むしろ、俺が頼んだことだ。

 ──粛清騎士が王国に手を出したら事態が収まるまで足止めして欲しいってな」

 

「ッ!?じゃ、じゃあこれは……!!」

 

「間違いない。あの見たこともない魔法陣の数々も、粛清騎士が起こした現象だろうな」

 

 語られた真実に、この惨状を生み出したのが敵でなく味方である方に安堵しつつも、改めて──否、実際に初めて粛清騎士の、その異常なまでの強さを理解した。

 かつての戦争で王国兵三万を単騎で殺し尽くし、王国戦士長すら歯が立たなかった粛清騎士の強さは十分に理解しているつもりだったが──見通しが甘かったらしい。

 粛清騎士の強さは天井知らずとか底なしと言った表現の方が正しいだろう。

 

「……叔父さん、少なくとも私たちが知る粛清騎士──ティアーズ辺境侯は人を殺す事に快楽を覚える様な破綻者ではないわ。

 だから……」

 

「ああ、分かってる。俺が間違っていた。

 ……ちょっと焦りすぎちまったな」

 

 アズスの声には後悔の念が込められており、それを聞いた誰もアズスに声をかけることが出来なかった。

 

 

 





指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)
天軍降臨(パンテオン)〉が防御系統に優れた天国の門番(ケルビム・ゲートキーパー)を六体召喚できるのに対して、攻撃性能に優れた神の国の戦乙女(アースガルズ・ワルキューレ)が四体と神の国の戦女神(アースガルズ・ブリュンヒルデ)を一体召喚する。
習得条件が厳しいという設定。多分職業構成とカルマ値が関係してくる。

神の国の戦乙女(アースガルズ・ワルキューレ)
レベル八十。ユグドラシルのアースガルズに存在する天使モンスター。
特徴として〈死せる勇者の魂(エインヘリヤル)〉を使用し、一体で前衛、後衛を兼ねることができる。
持っている武器は剣、槍、弓、盾と別れており、〈指輪の戦乙女たち(ニーベルン・Ⅰ)〉で召喚された場合、ランダムに召喚されるため、武器が被る場合もある。
武器によって使用するスキルも異なる。
また、一体一体のデザインがランダムで生成されており、ユグドラシルでは一部のプレイヤーがワルキューレの写真集を作り販売していた。


神の国の戦女神(アースガルズ・ブリュンヒルデ)
レベル八十五。ユグドラシルのアースガルズに存在する天使モンスター。
死せる勇者の魂(エインヘリヤル)〉を使用しないものの、味方全体に強力な〈支援魔法(バフ)〉をかけることが可能。
〈騎獣召喚〉を使用し、騎乗した状態での接近戦は苦戦必至。
更には炎属性、神聖属性の魔法を使用し、〈神炎(ウリエル)〉はカルマ値が低いプレイヤーにとっては脅威となる。


武技〈星砕き〉
アレーティア最強の武技……と言う名のスキル。(扱いは武技)
魔力を消費しない圧倒的破壊力を秘めているものの、伝説級以上の武器で無ければ威力は半減するし、武器も壊れる使い所の難しい武技。
威力は〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉には劣る。〈小厄災(ぷちカタストロフ)〉程度。


明けの明星(ルシファー)
アレーティア渾身の一作。モーニングスターのメイス。
レアリティ的にギリギリ伝説級(レジェンド)に到達した。
刻まれているルーン文字は大半が上位文字で、現状扱えるのはアレーティアのみ。
地味に追加で神聖属性、星属性の追撃が入るためアインズ様にとっては割と刺さる武器。
ただし、データクリスタルやユグドラシル由来のアイテムなどを使用していないため(ザイトルクワエを除く)、ユグドラシルの同格のアイテムにはどうしても劣る。


アレーティア
囲んで殴って何もさせなかった。
自身最強の武技〈星砕き〉のあまりの威力にびっくりしていた。
大厄災(グランド・カタストロフ)〉を参考に作ればそうなるに決まってる。
ちなみにワルキューレ達をドイツ語数字で読んだのは格好いいから。
ん?軍服、ドイツ語?何か引っ掛かる……。
なお、次回登場時には〈性転換〉はしていないものの、伝説級装備などからは着替えている。

ツアー
ある意味今回最大の被害者。
鎧や武器(共に半壊)はアレーティアに回収されてしまった。
次は正面から会いに行く予定。

アズス
やらかした人。
低空飛行して移動していたのは、空を飛ぶサフォロンを警戒していたため。
仲間と八本指の重要拠点を一つ落としている。

蒼の薔薇
無事ラナー達と合流して住民の避難や拠点襲撃のお手伝いをしていた。
その後、アズスと合流しとんでもないものを見てしまった。
イビルアイなんかは受ける衝撃は大きそう。
なお、この後ワルキューレとブリュンヒルデと対面するラキュースのパートがあったものの、本筋には関係ないのでカット。


多分後二、三話で終えられるはず……!
感想欄で惨たらしい死を望まれているエルヤー君がまさかの締めになります。

感想や高評価などいただけると大変励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。


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王国の長い夜 その5 〜国王失格〜


今回、妙に筆が捗りました。

何処が、とは言いませんが。

なお、本番は次回です。(何が?)


 

 ─王城 宝物庫─

 

 元請負人(ワーカー)で、現六腕に登り詰めた男──エルヤー・ウズルスは最高に気分が良かった。

 

 今身につけているのは王国の至宝。その中でもこの剃刀の刃(レイザーエッジ)は、自分の持っていた刀を遥かに上回る逸品。それがこうも簡単に手に入れば心が躍るのも仕方がない。

 

 そんなエルヤーの足元には切り伏せられた戦士団の人間と──バルブロがいた。

 

「き、貴様……ッ!」

 

「案内ご苦労様でした国王陛下。これらの宝物は、今後私が有効活用してあげますよ」

 

「ふ、ふざけ……るな! それは、王家に伝わる……ぐわああああ!!」

 

 バルブロが食いついてくるのが煩わしかったのか、エルヤーは手に取った剃刀の刃で試し斬りをした。

 剃刀の刃の斬れ味は噂通り凄まじく、足元に縋りついてきた腕を綺麗に斬り落とした。

 

「ふふふ、優れた剣というのは剣が人を選ぶと言いますが、あながち嘘ではない様ですね。

 この剃刀の刃は私に振られるためにあったと!そう思わざるを得ませんからねぇッ!!

 

「ぐうぅ……ッ!貴様は俺の護衛だったはず……!何故、何故裏切った……ッ!」

 

「それは当然でしょう?元々八本指には強い相手と斬り合えると言うから手を組んだんです。ゼロも私に見合ったマジックアイテムを用意してくれる約束をしていたんですが……新参者である私には中々支給されなかったんですよ。

 しかし、貴方の護衛に就くことになり──王国の至宝のことを知った私は、機を伺いそれを手に入れようと考えたのです」

 

 面白いほど上手く行きましたよ、とエルヤーはせせり笑う。

 

 バルブロという男は王でも愚かしい方の王だ。自らの地位や面子のためなら、なんでもする様な。

 結果、八本指の様な王国の闇を司る組織を利用した……と思い込み、今後も使ってやろうなどと甘い考えをしていた結果、ここにきてようやく自分が都合のいい様に利用されていることに気づいたのだった。

 

「さて、この国ももう終わりです。八本指にもう用はありません。次なる新天地を目指すとしましょうか。

 次は何処に行きましょうかね……聖王国か都市国家連合か……」

 

エルヤーは自身の今後について思案を巡らせる。王国からの脱出は比較的容易だろう。王族しか知らないとされる地下通路を使うよりも、侍らせている奴隷エルフに魔法で穴を掘らせて、誰も知らない道から逃げれば見つかることはあるまい。

 その後は聖王国か都市国家連合か。それとも評議国に──いや、汚らわしい亜人が蔓延る評議国はありえない、などと考える。

 

 聖王国はアベリオン丘陵という場所に住まう亜人種からの侵攻に追われているとも言う。ならば、請負人としての需要もあるだろう。

 エルヤーとしては、そういった殺し合い──自分が気持ちよく勝てる戦い──を好む。

 自分の力は既に周辺国家でも最高峰だという自負もある。更に、王国の至宝を手にした結果、この至宝から伝わる力は自身を更に高みへと導いた。

 この力があれば、クーデターで破った元周辺国家最強の戦士と謳われたガゼフ・ストロノーフも最早敵ではない。そう確信出来た。

 

「いくぞ、そいつは放っておけ」

 

「ま、待て……!」

 

 追従する()()()()()()()()を引き連れ、エルヤーは宝物庫を去り、バルブロは出血が原因で意識を失った。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 しばらくして、ザナックとガゼフと戦士団数名は逃げたバルブロを追っていた。

 恐らく逃げる先であろう王族専用の避難通路はとある鮮血騎士が既にその場所を押さえているため、そこからの逃亡の可能性は低い。

 現に、そこへ来たという連絡は来ていなかった。

 しかし、見つからない。当然ながらバルブロはザナックよりも長く生きており、もしかするとザナックも知らない逃走経路があるのかもしれない、と考えながらチッと舌打ちを打つ。

 現状、即座に思いつく場所は既に探した。元バルブロの居室、亡き父の──現国王部屋、酒蔵、中庭などを見回ったが、何処にもいない。

 そうして最後に、革命開始時に辺境侯との話題に上がった宝物庫へと向かう。

 そして辿り着いた先には──

 

「こ、これは!?兄上!」

 

「お、お前達まで……ここで一体誰が!?」

 

 目にしたのは血の海に沈んだ戦士団の仲間達とバルブロだった。

 

 (逃げるよりも先に王国の財を優先するほど、我が兄は愚かだったのか?)

 

 思わずそう思ってしまったザナックだったが、ここでバルブロに死なれるのは困る。

 念の為に、と渡されていた赤いポーションを振りかける。戦士団の方は残念ながら間に合わなかった様だが──

 

「ううっ……これは、傷が!?」

 

 幸いにもバルブロは生きており──斬り落とされた腕はくっつきそうにないが──ポーションが間に合った様だった。ザナックは心の底から安堵した。何せバルブロが死んでいた場合、少々面倒なことになったからだ。

 そんなことも露知らず、目覚めたバルブロは傷が癒えたことに喜ぶが、同時に怒りが込み上げてきた。

 信用していた相手に裏切られて殺されかけた挙句、王国の至宝を奪われたのだ。しかも相手は平民。王族である──王である自身をこれ以上ないほどに貶されたのだ。これ以上ない侮辱であり、蔑まれた行為だった。

 

「おのれ……あの六腕め!」

 

「おはようございます兄上。どうやら、目覚めは最悪の様ですね」

 

「お、お前はザナック!?何故ここに!?」

 

「何故って、兄上を捕らえるために決まっているでしょう。

 クーデターを引き起こして、革命が起こされないなんて思ってもいませんでしたか?どちらにせよ、王国は終わりです」

 

(終わる?俺が?俺の王国が?)

 

 バルブロはザナックが言うことを理解できなかった。

 そもそもまだ始まってすらいない。これからなのだ。今日を終え、明日から自分が王として王国を統治し、輝かしい未来へと歩き出すのは。

 それが終わるだと?

 

「ふ、ふざけるな!革命など起こしやがって!これから俺が王としての第一歩を歩もうとしたところに!!

 負けたお前が、今更出てくるんじゃない!!」

 

 バルブロは吠えた。まるで自分の玩具を取り上げられて怒る子供の様に。

 その態度にザナックは心底苛立ち、唇を舐め語気を強めて返答した。

 

「……兄上。何故、私──いや、俺が革命を起こしたのか分かるか?

 いや、理解出来ないだろうな。王としての立場にしか興味がなかった貴方には。

 もしも、本当に国を想うのであれば俺も身を引いただろう。父上とまではいかずとも、国と民を想う気持ちがあれば。

 しかし、王国に潜む巨悪である八本指と手を組み、父すらその手にかけ、血塗られた玉座に座した貴方は『王』と言う立場にしか興味がない。

 そんな貴方に、この国を任せるわけにはいかない。だから──俺は帝国を頼ったのだ。王国を救うために」

 

 確かに、自分のした行いは結果的に王国を帝国に売り渡す売国奴と蔑まれても仕方のないことだろう。

 しかし、あのまま王国を放置して亡命し続けることは、王族として生まれた者として許せることではなかった。

 だから、せめて自らはどうなろうと、どう言われようともせめて民だけは救おうと行動を起こしたのだ。

 それに対して兄はどうだ?民を苦しめる八本指と手を組み、クーデターを起こし王位を簒奪した後は更に民を苦しめ、王国を八本指とそれに連なる貴族が好き勝手する無法地帯へと姿を変えた。

 これが王の行う統治なのか?いいや、違う。

 父とて強い政策を取れずに八本指の台頭を許してしまってはいたが、それでも民を想い常に行動してきた。

 良い例が平民であるガゼフ・ストロノーフを拾い上げ、彼のために騎士団とは別に戦士団と言う新しい枠組みを作り上げたことだろう。

 

 しかし、こういったことをバルブロは理解しなかっただろうなと、ザナックは少しばかり憐れみを抱きながらバルブロを睨みつけた。

 当のバルブロはかつてのザナックとはまるで変わった姿を、威風を見せつけられ萎縮してしまっていた。そう、まるで格が違うのを分からされたかの様に。

 

「……このまま問答を続けていても仕方ない。兄上、聞きたいのですが……宝物庫から王国の至宝や金目の物を奪って行った賊は誰で、何処へ逃げたのですか?」

 

「……八本指から護衛として側に置いていた『六腕』のエルヤーと言う男だ。

 ヤツは俺を確実に守るためと至宝の貸し出しを申し出て……それを許可した。その結果、斬り伏せられて……逃げた先は分からん。ただ、王族の避難通路の方ではないことは確かだ」

 

 バルブロが言葉を発する中、ザナックの後ろに仕えていたガゼフはある人物の名前に反応する。

 

 

 ──エルヤー・ウズルス。かつてのクーデターで五人のエルフを引き連れ、ガゼフを出し抜きランポッサ三世を殺した大罪人だ。

 そして同時に、ガゼフがなんとしても倒さねばならない敵。

 

 ザナックもそれを察したのか、ガゼフに向き直り──

 

「戦士長、追え」

 

 ただ一言、そう告げた。

 

 一度は護衛を任された立場で、護衛対象から離れることを躊躇ったが──ザナックの目は「父の無念を晴らせ」と語っていた。

 

「──ははっ。戦士長として必ずやその大任果たして見せます」

 

 そうしてガゼフは駆ける。討つべき敵の場所へと。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「見つけたぞ」

 

「んん?」

 

 逃亡を図るため移動していたエルヤーの下に何者かが現れる。

 

(追いつかれましたか。少々面倒ですね)

 

 振り返ればそこにいたのは──赤髪短髪のエルフの女戦士。背に大剣を担いでおり、身につけている防具も見るだけで相当高価なものだと分かる。

 そして、鎧越しにも分かる胸の大きさにエルヤーは少しばかり劣情を抱いた。自分の奴隷にはいないタイプなので──売りに出されている巨乳のエルフはより高価なため手が出せなかった──そう言った感情を抱いても仕方がないとエルヤーは自分を納得させた。

 

「エルフ風情が私に何の用ですか?あいにく、先を急ぐ身ですので──ッ!!」

 

 腰から剃刀の刃ではなく、愛用していた刀を抜き急接近。所謂、抜刀術と呼ばれる類のものだ。しかし先手の一撃は寸前で躱された。

 

「速いな。だが、それだけだ」

 

「言ってくれますね。ともあれ、エルフ風情では人間である私に及ばないことを……身をもって教えてあげましょう!!」

 

 エルフの女戦士──アセロラは主人へ『対象を発見。これより交戦』とマジックアイテム──鮮血騎士専用スマートフォンもどき──を使い一報を入れる。

 これで分かれた別の鮮血騎士たちも集まるだろう。そして──目の前の相手にとっての死神も。

 

「鮮血騎士が一人、アセロラ。いざ参る!」

 

 

 

 

 

 アセロラは純粋な戦士職であり、魔法は使えない。

 奴隷の経験からかスレイブという職業を習得しているため、少しばかり劣る面もあるが、それはマジックアイテムにより補えているため、大きな問題にはならない。

 そして、アセロラは日々の弛まぬ努力により英雄の領域には突入していないものの、アダマンタイト級冒険者に引けを取らない強さを持っている。

 しかし──

 

 

「ば、馬鹿な……」

 

「ふふふ、今の私に!勝てるわけがないでしょう!!」

 

 

 アセロラは敗れた。実際、アセロラはエルヤーよりもレベルは上だ。ステータスも上回っている。しかし、何事にも例外がある。

 エルヤーの習得している職業にはスレイブホルダーというものがある。

 これはとある常時発動型特殊技術(パッシブスキル)を獲得出来る職業で、パーティ内にスレイブの職業を持つ者がいる場合ステータスが向上する効果を持つ。

 これによりエルヤーには常時支援効果(バフ)が掛かっており、この差を打ち消すどころか僅かに上回った。

 極めつけに──スレイブという職業の欠点として──隠し要素ではあるが──スレイブホルダーなどの職業を習得している敵と相対した場合、ステータスが減少してしまうというものがある。

 これによって、本来の強さが逆転するという事態が起こってしまった。

 

 

「さて、そろそろ行かなくてはなりませんが……」

 

 エルヤーは血を流し倒れたアセロラへと近づき、強引に鎧を脱がせようとし──そのままだと梃子摺ると判断し、剃刀の刃を鎧へと向け斬り裂いた。

 

「なっ……!?」

 

 そうして鎧を脱がせば、現れたのは山の如き双丘。インナー越しとはいえ、エルヤーは劣情を抱いたモノに対面することが叶った。

 

「実力は私に及びませんでしたが──中々良いモノを持っている」

 

 そうして片方を最初は感触を楽しむ様に揉みしだき──ギュウッと握りしめる。すると、目の前の女エルフは苦悶の声を上げる。エルヤーはこれを奴隷エルフにも好んでする。己の中の嗜虐心が満たされるのだ。

 握るそれが大きければ尚更だ。

 

「ああ、良い声を出しますね!とても良いですよ!

 これに懲りたらエルフの分際で人間に刃向かうなんてことを二度と考えないように……ああ、そうだ。良いことを思いつきましたよ」

 

 握りしめていた片胸を手放すと、今度はそのままエルフの特徴である長い耳を掴み取った。「ぐうっ!」とアセロラの声が響き、それが奴隷エルフ達のトラウマを刺激する。

 

「二度と人間に刃向かえないように、奴隷商人に代わって私が──人と同じぐらいにまでその耳を切り取ってあげましょう。

 まあ、多少痛むでしょうが、この剃刀の刃ならスパッといけるのでご安心ください」

 

 これを聞いて一体何を安心しろというのか。

 アセロラが恐怖の感情に支配される。かつて、法国の人間に捕らわれてから受けた調教や教育という名目の拷問。耳を切り落とされ、お前達は人間以下の存在だと鞭を振るわれた記憶。

 買った貴族にされた尊厳を破壊するような行為が脳裏をよぎり──それが現実として再び目の前に襲い掛かろうとしている。

 剃刀の刃が耳元に迫る。抵抗は出来ない。正確にはトラウマが蘇り、恐怖で動けないのだ。

 

 エルヤーの奴隷エルフ達も過去のことを思い出してか、痛ましい表情を浮かべている。それだけはやめてあげて欲しいと訴えようとも、主人であるエルヤーが止まることはない。

 自分たちに意見する権利など無いのだと改めて思い知らされる。

 

 そして剃刀の刃がいよいよ耳へとその刃を沈めようとし──

 

 

 

「だ、誰か助けて──」

 

 

 

 アセロラは震える声で助けを求めた。

 誰でもいいからこの剣を止めてくれと。

 恐怖に囚われた私を救ってくれと。

 

 そして──。

 

 

 ガシッとエルヤーの腕が誰かに捕まれるのと同時に、何者かが廊下を全力疾走し駆け抜けて──

 

 

「〈閃光烈斬〉ッ!!」

 

 

 

 音をも置き去りにする一撃がエルヤーを襲った。

 

 

「グゲアァッ!?」

 

 

 

 左肩から右腰にかけて〈閃光列斬〉はエルヤーを斬り裂き──しかし、身につけている王国の至宝の一つ守護の鎧(ガーディアン)によって致命傷は避けられたが──確かなダメージを与えた。

 

 そしてもう一人、エルヤーの腕を掴み離さない人物がいた。

 その人物を見てアセロラは込み上げる涙を抑えることが出来なかった。

 

 

 ──ああ、貴方様はまた私を救いに来て下さったのですね。

 

 

 

「アセロラ、無事ですか?」

 

「ア、アレーティア……様。わ、私は……私は……ッ!!」

 

まさかこんなことになっているなんて……急いでよかった。

 もう大丈夫ですよアセロラ。何故かって?

 

 

 

 

 

 ──私とガゼフが来た!

 

 

 かくして、六腕最後の男"天武"エルヤー・ウズルスと王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。そして──粛清騎士アレーティアの三名がこの場に集った。

 

 

 




バルブロ
愚王。その内アレーティアに頭の出来は愚か者()と同列とか言われる。
死んでたらちょっと困ったが、死んでても蘇生されて最後の仕事をやらされることに変わりはない。

ザナック
エ・ランテルに行って一回り以上成長して帰ってきた。
ガゼフとはアイコンタクトで意思疎通できるぐらいにまで打ち解けた。

エルヤー・ウズルス
現六腕"天武"。八本指入りしたお陰で資金が潤沢にあったため、その金で奴隷エルフを追加購入している。
結果、スレイブホルダーと言う職業を得ていた。
フルアーマー化しており、強さ的にはハムスケに勝てない程度。
なお、ゼロからマジックアイテムを支給されなかった理由は、単純にマジックアイテムより先に金をせびって奴隷エルフを買ったせい。要は無駄遣い。

アセロラ
職業的相性で負けてしまった。普通に戦えていれば、腕ぐらいは斬り落とせた。
スレイブの派生職業のリベレーターを習得していれば勝ち目があった。
奴隷時代がトラウマ。

ガゼフ・ストロノーフ
個にして最強の武技疑惑のある〈閃光烈斬〉を初お披露目。
どんな武技かはオバマスを参照。

アレーティア
私が来た!!
スキルに〈天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)〉があるからシナジーあるなと思ったのでついやってしまった。
アセロラが負けることは全く予想していなかった。


感想や高評価などいただけると大変励みになります。次回でエルヤーが分からされる予定なので、どうぞよろしくお願いします。


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王国の長い夜 その6 〜剣の天才と王国最強〜


皆さま、お待たせしました。

エルヤー戦です。




 

 

 粛清騎士──アレーティアが現れたのは、アセロラの耳が切り落とされようとする寸前だった。

 アセロラの許へと転移したアレーティアは状況を把握し、その剃刀の刃(レイザーエッジ)を握る腕を掴み、へし折ろう──としたところで思い止まった。

 理由は明白。ガゼフの気配を感じたからだ。

 ハッキリ言えば、このままエルヤーの命を断つことは赤子の手を捻るぐらいに容易だ。しかし、それはしてはいけない。

 アレーティアはエルヤーを殺すつもりでいるが、()()()()()()()()

 だからこそ、この場はガゼフに預けようと考え、止めることで済ませた。

 

 その結果──

 

 

「グゲアァッ!?」

 

 

 ガゼフが間に合い、放たれた武技〈閃光烈断〉がエルヤーへと炸裂した。

 エルヤーが身につけている王家の至宝の一つである守護の鎧(ガーディアン)が致命傷を避け、即死を免れる。

 悶絶しているエルヤーを尻目に、ガゼフは辺りを見渡し現状を把握した。

 

「アセロラ殿、無事か?」

 

「は、はい。ストロノーフ様も駆けつけてくださったんですね。

 ご心配をかけてしまい申し訳ありません……」

 

「いや、無事で何よりだ。

 それと辺境侯、謹んでお願いしたいことが──」

 

「ガゼフ、それは少し待っててください」

 

 そう言うとアレーティアは徐に目元を覆っているバイザーを外し、のたうち回るエルヤーの背後に控えている奴隷エルフへと微笑んだ。

 それを見た奴隷エルフたちは信じられないものを見たとばかりに目を見開いた。

 

 "王の相"を持つ女エルフ──故郷の森に、あの侵略者であるスレイン法国の兵と何度も戦い、そのすべての戦いに勝利し、森に住まう大魔獣をも退けたと言う噂を持つ、エルフ達にとっての英雄がそこにいたのだ。驚くのも無理はなかった。

 なお、当然アレーティアはこの噂話を一切知らないのを、ここに記しておく。

 

 

「皆さん、助けに来ましたよ。遅くなってしまい、申し訳ありません」

 

 その途端、奴隷エルフ達は涙をボロボロと流し始めた。

 五人の奴隷エルフ達はスレイン法国に囚われてから、地獄の日々を送ってきた。

 耳を切り落とされ、尊厳を辱められ、まともな食事は摂れず、心を折るような調教を繰り返し繰り返しされ──従順にならざるを得ないところまで追い込まれ、金で売られた。

 売られた先では、人としてではなく物として扱われ、売られる前と変わらぬ日々を送り、諦観した。

 

 ただ、心の片隅であの噂話に聞いた王女様が助けに来てくれないものかと希望を抱いたこともあったが、そんな希望は調教される最中に失われた。

 

 

 そんな、失われたはずの希望が、英雄が目の前にいるのだ。自分たちを助けに来たとハッキリ告げて。

 こんなに嬉しいことは無い。冷め切った心は希望の光に触れて、温かく火を灯し感情として蘇った。そうして流れた涙だった。

 

 

「お、お前たち……何をしているッ!!治癒だ!治癒魔法をよこせえええええええッ!!」

 

「ひいっ!?」

 

 しかし、まだ忌々しい主人が生きていることを失念していた。

 恐怖の感情は再び心を冷たく包み込む。お前たちは奴隷だと。一生このままだと、かつての調教師たちが影となって過去の記憶から襲い来る。

 

 恐怖に駆られ治癒魔法を主人に掛ければ、苦悶の表情を浮かべながら主人であるエルヤーは立ち上がった。

 

 

「ぐうぅ……もっと治癒を寄こせ!この役立たずが!

 ……お前たちはッ!?」

 

 ようやく起き上がったエルヤーは悪態を吐きながら前を見て──以前破った敗者(ガゼフ・ストロノーフ)と──圧倒的強者(粛清騎士)を同時に目撃した。

 先程まで素顔を晒していたアレーティアは既にバイザーを着けなおしており、エルヤーはその顔を拝むことは出来なかったが、その風貌はかつて帝国にいたため知っており、自身では決して勝てない相手と悟ってしまった。

 

(こんなところで遭遇してしまうとは!他の六腕は何をしているんですか……あの無能共がああああああ!!)

 

 自分のことを棚に上げ、もう死んでいる同僚に心の中で罵倒を浴びせながらエルヤーはどうやってこの場を脱しようか懸命に考える。

 奴隷を盾にして逃げる?いや、その程度で足止めできるとは限らない。

 では、あのエルフを人質に……既に粛清騎士の背後にいる為不可能。

 ならば──

 

 幾多の考えが浮かんでは不可能という現実に消されていく。

 

(ガゼフ・ストロノーフはどうとでもなる!だが、粛清騎士はどうする!?王国の至宝を纏った私なら──いや、無理だ!私の中の剣士としての勘が言っている!アレは化物だと!

 では、どうすれば──)

 

 時間にして数秒悩み抜き、エルヤーか決断する前に、救いの手が差し伸べられる。

 

 

「エルヤー・ウズルス、でしたか。かつては帝国でも名の知れた請負人(ワーカー)だったとか」

 

「!! え、ええ、そうですね。闘技場での試合は負け知らずでしたよ」

 

「かつては形は違えど帝国民のために働いていた貴方に提案してあげましょう。

 貴方の奴隷、全員私に引き渡すのであれば見逃してあげてもいいですよ?

 

「なっ──」

 

「無論、引き渡さないのであれば、私が剣を抜くことになりますが。

 どうします?」

 

 ガゼフが声を上げて抗議しようとするのを手で制し、アレーティアは返答を待った。

 そしてエルヤーは悩む。本来、悩むまでもなく引き渡すべきだが、高い金を払って買った奴隷達だ。()()()()()()()()()()()()()、全員となると話は変わる。

 命は惜しいが、全員手放すのも惜しい。理性と欲望がせめぎ合っていた。

 なので、思わず愚かなことを口走ってしまった。

 

「よ、四人なら……」

 

「なるほど!では殺し──」

 

「わ、分かりました!全員引き渡します!」

 

 エルヤーはアレーティアの提案を受け入れた。

 そもそも、エルヤーに交渉の余地など無かったのだが。

 

「くっ……行けお前達」

 

 そうして奴隷エルフたちはようやく解放された。

 エルヤーから駆け足で奴隷エルフ達は離れていく。無事、アレーティアのもとへ辿り着けば安堵からか涙が再び溢れ出していた。

 

(チッ……私の奴隷をよくも。

 ……まあいいです。王国の至宝については何も言われませんでしたし、宝物庫から幾らか金目のものも奪いました。

 この金で新しい奴隷を買いましょう。次はもっといい奴隷を)

 

 気に食わないものを見たエルヤーはその場をさっさと離れようとし──

 

「では契約成立です。私と帝国は貴方を見逃しましょう。

 ただし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフ・ストロノーフが見逃す、とは言っていませんが

 

 

「エルヤー・ウズルス!!覚悟ォォォオオオッ!!」

 

 

「──な、何ィィイイッ!?」

 

 

 エルヤーの背後へと駆けたガゼフの上段からの一撃を辛うじて防ぐことが出来たエルヤーだったが、咄嗟に抜いたのは剃刀の刃ではなく、刀だった。

 刀はガゼフの渾身の一撃を受け止めたものの、あまりの威力に刀は耐え切ることが出来ず、バキンッという音を立てて折れた。

 

「バ、バカな!?神刀が!?

 そ、それに話が違うじゃないですか!私を見逃すと言ったではないですか!!」

 

「……辺境侯は嘘など言っていない。現に辺境侯もアセロラ殿も動いていない。

 だが!この俺が……陛下を弑逆した張本人であるお前を見逃すと思ったかッ!!」

 

 ガゼフは激昂していた。かつてこれほど怒りを感じたことがあったかと思うほどに。

 目の前のこの男はどうにかクーデターから逃れようとしていた自身と陛下──ランポッサ三世を八本指の配下と奴隷と共に追い込み、あまつさえ殺害した。

 その時の自分の未熟さには今でも腹が立つ思いだ。だが、それよりも怒りを覚えたのは──死したランポッサ三世の死体を足蹴にし、嘲笑したこの男エルヤーの姿だった。

 

『チッ、仕留め損ねましたか。よくも邪魔してくれましたねッ!』

 

『老い耄れ風情が私の輝かしい勝利を妨げるとはッ!後少しだったというのにッ!』

 

『エルヤー様、それぐらいに。まだ追えば間に合います』

 

『……もういいです。あれだけの傷を負った相手に勝ったところで嬉しくもなんともありませんから。

 とはいえ、これで周辺国家最強の座は私のものです』

 

 

 その姿を夢にまで見た。何度も何度も。これは一種のトラウマだろう。

 しかし、そんな誰もが忘れたいと思うであろう記憶を、ガゼフは己への罰として、戒めとして受け入れた。

 そしてその怒りを胸に秘め、己を鍛え直し遂にこの日この時を迎えた。

 遠目にアセロラが敗れた姿を見た時、二度と繰り返してなるものかと、最強の武技と呼ばれた〈閃光烈斬〉を使用し──一撃で仕留めるつもりで叩き斬った。

 

 そして現在、一度はアレーティアの発言に耳を疑ったが即座に抗議をやめたのは、やはりアレーティアの魔法によるものだった。

 

 

『ガゼフ、奴隷エルフの引き渡しが済んだ後は、その剣を思う存分に振るい、その無念を晴らしなさい。

 それと──』

 

 

 〈伝言(メッセージ)〉による念話がガゼフの耳に届き、隙を窺う。何事も都合良く考えているこの男に情けは無用。どんな手を使っても引導を渡すと決めたのだ。

 

 

 その時はすぐに訪れ──刀をへし折りガゼフは再び因縁と対峙した。

 

「おおおおおおおッ!!」

 

「ぬっ!?ぐっ、ああああああッ!!」

 

 

 ガゼフの怒りに身を任せたとは思えない程、研ぎ澄ませた剣技はエルヤーを圧倒していた。

 王国の至宝を身に纏い強化されているものの、ガゼフの実力はそれを上回る。

 

(何故だ!?何故ここまで圧倒される!?あの時はここまで……!)

 

 エルヤーはクーデター時のガゼフしか知らない。あの時のガゼフは防具を身につけることも出来ず、剣一つでランポッサ三世を護りながらの戦いだったため、かなり不利な状況下での戦いだった。

 それに勝ったと思い込んでいるエルヤーは慢心し、研鑽を怠った。その上で奴隷を買い足し己の欲を満たすことしか考えない日々を過ごしていた。

 対して、ガゼフはその日から研鑽を怠ることはなく、むしろアレーティアによる死ぬと何度も思うほどの訓練を積んできた。

 それ故にこの差が生まれてしまった。

 

 エルヤー・ウズルスは確かに剣の天才だ。通常習得できないレベルで武技〈能力超向上〉を習得しており、研鑽を積めばより上に、英雄の領域にすら届いただろう。

 しかし、天は彼に二物を与えなかった。剣の才能を得た代わりに、その精神性は幼稚なものになり、その才能に溺れ他者を見下すことに満足感を得ていた。

 その結果、その天に与えられた才能も腐らせてしまったのだ。

 もしも彼に向上心があり研鑽を積み続けていれば、この様に一方的に追い詰められる結果にはならなかっただろう。

 

「な、舐めるなぁぁぁあああッ!!〈能力向上〉、〈能力超向上〉!!」

 

 追い詰められたエルヤーは〈縮地改〉で後方へ下がり体勢を整えた後、自身の切り札でもあり自慢の武技を使用する。この武技によって今まで多くの困難を乗り越えてきたのだと自らに言い聞かせ奮い立たせる。

 対してガゼフは武技による能力強化を一切行わなかった。まるで()()()()()()()()()()と暗に告げているようなその姿にエルヤーは苛立ちを覚えた。

 

「〈空斬〉!」

 

 接近戦では勝てないと判断したエルヤーは中距離戦へと移行した。

 

(今のままでは勝てない。ならば……連続の〈空斬〉で牽制し機を伺い〈縮地改〉で急接近し全力でこの剃刀の刃で斬り倒せば──)

 

 勝機が生まれたことにエルヤーは少し余裕を取り戻す。

 〈空斬〉を全て剣で払い除けるガゼフを見据えながら、粛清騎士の動向を伺う。ここでアレが動き出したら全てが台無しになると警戒する。

 すると──

 

「おい、どこを見ている」

 

「なっ!?」

 

 気がつけばガゼフが目の前に迫っている。いつの間に!?と驚く間もなく、エルヤーの顔面にガゼフの渾身のストレートが叩き込まれる。

 当然、身構えることも出来ずまともにストレートを受けたエルヤーは「ぶぎゃああああっ!」という悲鳴を上げながら殴り飛ばされた。

 

「俺を相手しながら余所見とは、舐められたものだな俺も」

 

「こ、このわ゛だじのがおをよ゛ぐもおおおお!!」

 

 殴られたエルヤーの鼻は折れてひしゃげており、両穴からは血が止まらない。

 

「いい顔になったじゃないか。なんなら、もう一発いっておくか?」

 

「ほざけえええええ!はああああああああ!!」

 

 激昂したエルヤーは先程不利だと判断したのにも関わらず、接近戦を仕掛けた。怒りのあまり、思考がガゼフを殺すことしか考えられていないのは誰の眼から見ても明白だった。

 それを見たガゼフは両手で剣を構え──

 

 

「武技──

 

 

 

 

 

〈両断〉

 

 

 

 

 新たなる武技で迎え撃った。

 その武技はエルヤーの両腕を根本から斬り飛ばす。腕を失ったことによりバランスを崩し、勢いよく倒れた。

 

 

「は?」

 

 エルヤーは何が起こったのか理解できず、しばし呆然とし──腕からあふれ出る大量の血液を見て何が起きたのかを理解した。

 

 

「う、腕がああああああああああッ!!」

 

 

 地面には剃刀の刃を持ったまま転がっている自分の腕。なんとかくっつかないかと腕に縋るも、治癒魔法を使えないエルヤーの腕が元に戻ることはない。

 

「ち、ちゆを!ちゆちゆちゆちゆちゆちゆちゆちゆちゆちゆをはやくぅ!!」

 

 半狂乱になりながら、奴隷エルフ達に命じるが──奴隷たちは従わない。何故かと言えば彼女たちはエルヤーから既に解放されているからだ。

 代わりに奴隷エルフ達からは満面の笑みが返された。

 血が失われていく。身体が重くなる。寒い。死が段々と近づいてくるのを感じた。

 ガゼフは死にゆくエルヤーにトドメを刺さず──アレーティアの命令もあったため──剣を収めた。

 

「勝負あり、ですね」

 

「辺境侯……ありがとうございます」

 

「いえいえ。では、後はこちらで処理しておきますので、貴方はザナック殿下のもとへ戻ってください」

 

「ははっ」

 

 無事敵を討ったガゼフは主人のもとへと戻っていった。

 新たなる主人であるザナックに勝利の報告をするために。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

「さて、もうすぐ死にますが気分はどうですかエルヤー・ウズルス?」

 

「う、うで……」

 

「ああ、腕ですか。くっつけて欲しいんですか?」

 

 コクリとうなずく。最早、声を出すことすら苦しい。

 すると、粛清騎士は腕から王国の至宝である活力の籠手(ガンドレット・オブ・ヴァイタリティ)を外し、エルヤーの腕の切断面へと近づけ──

 

 

 

 

 グシャリ

 

 

 

 

「──は?」

 

「ああ、ごめんなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 目の前には見るも無残な姿になった数分前までは自分の思い通りに動いた腕がただの肉塊へと形を変えていた。

 助けてもらえると思った矢先、絶望を叩きつけられたエルヤーは呆然と目の前のかつての腕を見続けている。

 

 

「ところで……貴方を見逃すと言いましたが、あれは嘘です

 

 何を言っている?

 

「貴方には聞きたいことが山ほどあるんですよ。なので……帝国へと連れ帰ります。

 ただ、暴れられたりすると面倒なので……一度死んでもらおうかと」

 

 何をしようとしている?死んでもらう?今にも死にそうなのに?

 

「とはいえ、この状態だとあまり楽しめませんよね?仕方ありませんね」

 

 粛清騎士がエルヤーに手をかざすと傷が癒えていく。失った血が戻り顔色が良くなる──が失った腕はそのままだった。

 

「なにを──」

 

「さあ、皆さん。後はご自由に。

 武器も……この通り多く用意しておきましたから、好きなものを使ってください。

 魔法でと言うのもいいですね」

 

「ま、待て!一体何を!」

 

「だから、貴方を殺すんですよ。一度死んでもらうって言ったじゃないですか?

 ただ、あのまま死ぬよりは──貴方の元奴隷に今までの鬱憤を晴らしてもらった方がいいよなって思ったんで」

 

 粛清騎士が見やる方を見れば、そこには武器を手に、或いは拷問で使う様な道具を持った五人の元奴隷エルフの姿が。

 

「あ、逃げられると困りますので両脚には枷を付けておきますね」

 

 そう言い足枷を付けられれば、途端に凄まじい倦怠感に襲われる。自身のあらゆる機能が低下しているのを体感し、同時に恐怖する。

 今の状態ではロクな抵抗も出来ないと。

 

「や、やめろ……!」

 

 エルヤーは後ずさりするが、それと同時にゆっくりと元奴隷エルフたちは微笑みながら迫りくる。

 

「く、来るな!あっちへ行け!」

 

 壁にぶつかり、周囲を囲まれる。逃げ場はなくなった。

 

「あ、ああ……!!」

 

 エルヤーはこれからされるであろう行為を想像し、震えることしかできない。抵抗しようにも腕が無い。

 スレイン法国に伝わる言葉にこんなものがあった。「調理場の食材」という、なすすべもない状態を例える言葉が。

 この状況を嘲笑うが如く、奴隷エルフたちは一歩、二歩と更に詰め寄る。

 そして、

 

 

 

「わ、わたしに……

 

 

 

 

 

 

 

 私に近寄るなああああああああああああああッ!!

 

 

 

 数秒後、エルヤーの絶叫が廊下に響き、やがて消えた。

 

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

「うわ、すっごい悲鳴。まあ、五人もいれば当然ですか。……ん?」

 

 エルヤーの絶叫が響く中、鮮血騎士専用の連絡用のスマートフォンもどきが起動しました。

 相手は……クライムですね。持たせた巻物(スクロール)は役に立ちましたかね?

 

「クライムですか?そちらの首尾は?

 ……おお!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!これは大戦果ですよ!

 ええ、こちらも六腕は全員討伐成功しています。バルブロの身柄も捕らえました。後は貴族を捕え、各拠点を根こそぎ潰してお終いですね。

 人をやりますので、クライムもそちらと合流してください。ええ、では」

 

 

 どうやら、無事クライムに花を持たせることに成功しました。

 これでラナーとの契約も果たされたので一件落着ですね!

 

 

 

 こうして、長かった王国の一夜は明け、新しい朝を迎えたのでした。

 

 

 

 

 




エルヤー・ウズルス
剣に関しては間違いなく天才。しかし、英雄としての素質はなかった。
内面が子供なのが最大の原因。もっと高潔な精神を持っていれば、英雄になりえたかもしれない。
なお、この後はもっと酷い目に遭う。具体的には死んでも何度も蘇生されて拷問される。
どこかのマフィアのボスみたいに終わりに辿り着けない可能性大。
何がとは言いませんが元ネタはDRとボス。
書いてる途中でなんかアミバみたいなやつと思い始めてしまった。

ガゼフ・ストロノーフ
アレーティア・ブート・キャンプの末、徹底的に鍛え直した。
結果、英雄の領域は突破。指輪の力を使えば逸脱者に至る。フルアーマーでなくともハムスケを倒せる程度には強い。漆黒聖典クレマンティーヌにも勝てる。
無事にランポッサ三世の無念は晴らせた。
現状、ブレインの方が上。

アレーティア
ボツ案では奴隷エルフたちに強化魔法をかけさせたエルヤーに対抗して、ガゼフに〈上位筋力増大(グレーター・ストレングス)〉、〈上位敏捷力増大(グレーター・デクスタリティ)〉、〈上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)〉、〈鎧強化(リーンフォースアーマー)〉、〈盾壁(シールドウォール)〉、〈竜の力(ドラゴニックパワー)〉等々、数多くのバフを盛ろうとする話もありました。
大人げない……。
なお、大森林で英雄視されていることは本当に知らない。
ラナーとの約束は果たした。

奴隷エルフたち
この後めちゃくちゃ血祭りした。

クライム
裏で八本指の各部門長を全員捕縛という大戦果。いやー、一体誰の手引きなんでしょうね?
とある巻物を渡されている。
本来巻物を使えないクライムが巻物を使えるのは盗賊職を収めていて、とあるスキルを使っているため。

巻物
アレーティア謹製の巻物。
詳細は次回以降。少なくとも、スレイン法国で作られている巻物を上回る。

感想や高評価などいただけると大変励みになります。どうぞ、よろしくお願いします。


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【一周年記念番外編】もしもアレーティアの見た目が至高の四十一人の妹君と瓜二つだったら

祝☆一周年!

皆さまいつも応援ありがとうございます。二年目もどうかよろしくお願いします。


今回の話はあったかもしれない完全IFの世界線なので、本編とは一切関係ありません。

どうぞ軽い気持ちでお楽しみください。




 

 

 どうしてこうなったのだろう……。

 

 私、アレーティアは今現在──

 

 

 

 

「……似ているな」

 

「そうですよね!この人形とも瓜二つなんです!」

 

「ぼ、僕もそう思います!」

 

「それはなんだアウラ?」

 

「はい!この人形のモデルになったのは──」

 

 

 ナザリック地下大墳墓にいます(白目)

 

 それも、第十階層の玉座の間に。目の前には守護者全員と……アインズ様のお姿が。

 

 

 はい、どうして私がナザリックへと連行……もとい招待されているのか、疑問に思った方も多いと思います。

 

 正直に言います。

 

 

 

 

 

 

 身に覚えがありません。どうしてでしょう?私が知りたい。

 

 えーっと……何故こうなったかを説明する前に、私の生い立ちを話させてもらいます。

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 

 私、アレーティアが生を受けたのは()()()()()()

 エイヴァージャー大森林と呼ばれる場所にあるエルフの国に生まれました。

 生まれた時から前世の記憶があり、所謂異世界転生をしたという訳です。前世ではなんの変哲もない社会人として生活していた……はずです。

 今世ではエルフとして生まれ、父と母三人でのんびりとした生活を続けていました。

 

 母はなんでも出来る人で、剣を握ればそこらの大人やモンスターでは相手にもならず、割と原始的な生活を送っているエルフにしては勉学にも詳しく、時間さえあれば色々と教えてくれました。

 教え方もとても上手く、学校で教え方が上手い先生ってこんな感じなんだなと前世のことを思い返しながら、多くの知識を身につけました。

 

 そして、たまに御伽話を──何かを懐かしむ様に話してくれました。

 九つから成る世界を旅したこと。

 気の合う仲間と共に他集団と争ったこと。

 その世界を創ったという存在に『糞運営!』と罵っても仕方ない様な出来事に何度も遭遇したこと。

 姉と友人がいて、全員種族が異なれど良好な関係を築けていたこと。

 そんな姉が所属していた集団が大規模な敵の侵攻をたったの四十一人で返り討ちにしたことなど。

 どの話も聞いていてハラハラドキドキしたり、笑ったりと多くのバリエーションがあり、飽きさせないもので私はこの話を聞くのが大好きでした。

 特に熱がこもっていたのは、姉について話している時でしたね。私からだと伯母に当たる人物です。

 母は伯母が大好きで心から尊敬しているらしく、ここしばらくは会えていないと……少し悲しげにしていたのが印象に残っています。

 

 そんなある日、母は旅の支度をし始め『友人達を探しに行く』と言っていなくなってしまいました。

 いなくなる前に私をギュッと抱きしめて

 

「姉さんと──昔の友人を見つけたらきっと帰ってくるわ。

 それまで元気でね?何かあったら、あの袋に入れてあるマジックアイテムや金貨は自由に使って構わないわ。

 ……アレーティア、貴女を置いていってしまう私を、どうか許して」

 

 そう言って去っていってしまいました。

 父も母からその話を聞かされていたらしく、エルフの寿命は長いが友人がそうでないなら急いだ方がいいかもしれない、と後押ししたらしいです。

 

 それから十五年程経った頃に父に「母を探しに旅に出る」と説得して森を飛び出しました。

 この頃には私も母ほどではありませんが、この辺りを支配するモンスターをも下せる様になり強さには自信があったので、比較的説得は容易でしたね。

 何年かに一度は、もしかしたら帰ってきているかもしれない母とすれ違わない様に帰郷しているので、父と疎遠になることはありません。

 母は一度も帰ってきていないのがますます心配なんですが。

 

 それからは帝国や王国など人間の生活圏で旅をしながら、冒険者として生計を立てていました。

 母がいなくなる前に置いていった物の中にはマジックアイテムが多数あり、その中から自分でも使えそうな武器、防具、アクセサリーを身につけて──駆け出しの頃はやっかみを避けるため装備は控えていましたが──活動し、マジックアイテムと母から鍛え上げられた戦士の才もあってか、ソロで初のアダマンタイト級冒険者になることが出来ました。

 まあ、ソロなので依頼を受ける時は他の冒険者チームと組んで行動することが多いんですけど……。

 いや、でも厳密にはソロじゃないんです。召喚系魔法で騎獣を召喚して戦ったりするので!だからぼっちとか言わないでください!

 

 少し話が逸れてしまいましたね。話を戻します。

 この冒険者活動をしている中で国の名前や魔法、武技など聞き覚えのある名前を耳にして、ようやくこの世界がオーバーロードの世界だと確信するに至った訳です。

 それと同時に、周りの冒険者と比べて私がかなり強かったのは恐らく、母がユグドラシルプレイヤーでその血の影響を受けた神人だからなのだと理解したのもこの頃です。

 今思うと、一緒に生活していた頃に話してくれた御伽話はユグドラシル時代の話や、現実世界での話だったんでしょうね。

 

 

 

 さて、原作知識を思い出した私はその当時、頭を抱えました。

 オーバーロードの世界と言えばモブキャラクターに厳しく、ネームドキャラクターであっても容赦なく死ぬダークファンタジーの世界。

 そんな世界に一般エルフとして生まれたのは悲劇か、それとも喜劇か。

 まあ、エルフなのでナザリックも率先して殺す様なことはしないだろうと踏んでいますが、何が起こるかは分かりません。

 例えば、私が知る限りの原作14巻までで最大のやらかしをした──フィリップ……でしたっけ?()()()()()()()()と昔の記憶が──前世の記憶含む──大分薄れていますが、このキャラクターがやらかして王国が滅ぶ原因になったのは覚えています。

 つまり、見知らぬエルフのやらかしのせいで連帯責任背負わされて死ぬ可能性があるという訳ですね。いやー、クソゲーですねこれ。流石にそんなことしないと思いたいのですけど。

 

 そんなことを考えながら生活を送っていたものの、知っているキャラクターと一切出会うことなく、もしかしたら原作前の時間軸なのでは?と言う考えに至り……にわかファンでもあった私には原作前の時系列など把握出来ている訳もなく、原作知識を当てにすることもなくなってきました。

 

 そして長い年月が経ち、王国の辺境で見たこともない遺跡を見つけてしまい、周囲を探索していたら……

 

 

「あ、あの、ここは入っちゃダメで……す!?ええええっ!?

 お、お姉ちゃーん!!」

 

「何よマーレ!一体何が……うえええええ!?

 ちょっ、待っ、あああアインズ様にご報告を!!」

 

 マーレとアウラに発見され、しばらくして私はそのまま遺跡内──ナザリックへと連行されたのでした。

 

 ……なんで気づかなかったんだと言われれば、アニメや漫画を読んだのが前世含めて百年以上前なので忘れていたから、としか言いようがないですね。

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 さて、回想は終わりましたが目の前で守護者withアインズ様による話し合いが続いています。

 どうしましょうか。時期的にどの辺りなのかサッパリ分かりません。

 転移したばかりならまだいいんですけど。多分。

 

 原作でも周辺国家で大きな話題になった王都の悪魔騒動も起きていませんし、エ・ランテルで王国三つ目のアダマンタイト級冒険者チーム漆黒の誕生の一報も入っていません。

 記憶が曖昧ですが、アインズ・ウール・ゴウンを名乗っているのであれば……スレイン法国の陽光聖典を返り討ちにしたところは終わってそうですね。

 その次だと……シャルティアだったかな?彼女が洗脳されて大騒ぎになった気がします。

 とりあえず、どうにかして確認する必要が……。

 

……そうだな、少し希望が見えたかもしれないな。

 さて、突然招待した挙句、お待たせしてしまって申し訳ない。私はこのナザリック地下大墳墓が主人アインズ・ウール・ゴウンだ。

 貴女の名前を聞かせて貰っても良いだろうか?」

 

 あああ!話しかけられた!お、おお落ち着け私!Be cool …… フラットになれ私……!

 

「あ、アレーティアと申します。えーっと、アインズ様とお呼びした方がいいですか?それとも──モモンガさんって呼んだ方がいいですか!?

 

 

 瞬間、その場の空気が固まってしまいました。

 

 

 はい、やらかしました。やっちまいました……テンパったからって元の名前まで口走るとか何やってるんでしょうねーッ!?

 ほら、守護者全員が「何故その名を知っている!?」とばかりに──アルベドは特に強い感情を出して──私を見つめています。

 アインズ様からも緑色の光──確か精神を鎮静化するエフェクトが何度も起こっています。

 

 私の人生もここでお終いですか……そもそもナザリックに目をつけられた時点でダメでしたね。まあ自分から飛び込んだんですけど。

 さながら蜘蛛の巣に引っかかった羽虫の様な気持ちです。

 恐怖侯のところよりはマシ……でしょうか?せめてそう思いたいですね……。

 

 

「……一つ質問したい。その名前を何処で聞いた?嘘偽りなく答えよ」

 

 ん?どうやら問答無用という訳ではないようです。

 しかし、回答を間違えてヘッケラン達みたいにあの恐怖侯みたいな名前の──餓食孤蟲王の巣にはなりたくない……。

 

「えーっと……ずっと昔に私の母が昔の知り合いにアンデッドでそう言う名前の人がいたって聞いたことがあった気がしたので、もしかしたらな〜って……やっぱり違いました?」

 

 私の母の話にユグドラシルに通ずる話はいくつかあった……はず。

 四十一人で大規模な敵を撃退したというのは、原作でアインズ・ウール・ゴウンの悪名?を知らしめた千五百人の傭兵NPC含むプレイヤー集団を返り討ちにした伝説的エピソードのことでしょう。

 それら関連でその四十一人の話も聞かされて、その中に全員のまとめ役の昔存在した動物と同じ名前のアンデッドの話もありました。

 これがモモンガさんのことですね。

 ただ、他の話には聞いたこともない名称がいくつもありましたけど……この辺りは母が所属していたであろう別ギルドの話かな?

 

 

 目を見開いた──骸骨の顔なので表情は変わっていないが──様に見えるアインズ様は小声で「まさか……本当に?」と呟いているのが聞こえています。

 うーん、アインズ様……もといモモンガさんの記憶に該当する様な人物いましたっけ?

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は四十一人全員が異形種なので、エルフの私は関係ないはず……?

 いや、でもあのアウラが抱いてるぬいぐるみでなんらかのエピソードがあった気がしなくもないんですが……どうにか今から原作確認出来ませんかね?無理ですか。

 

 

「一応だ、一応確認しておこう。

 ……母の名前は何と言う?」

 

ヤマセアケミと言います」

 

 こっちの世界では珍しい名前でしたね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この世界の住人からすれば変わっているでしょう。だからこそ、プレイヤーだろうと推測できたんですが。

 

「なっ!?」

 

 その声はアインズ様から発せられ、同時に守護者たちはアインズ様へと視線を向け、何か知っているであろう主人の言葉を待っています。

 

 えっ?まさかの知り合いなんですかね?少なくとも、原作にこの名前無かったと思うんですけど……。

 

「アインズ様、ヤマセアケミなる人物のことをご存知なのですか?」

 

「……その通りだデミウルゴス。私はほぼ確信しているが……もう一つ確認させて欲しい。

 そのヤマセアケミには肉親がいるか?いるのであれば名前を教えて欲しい」

 

 肉親……母が語った姉なら名前は確か──

 

「姉がいると言っていました。確かヤマセマイコと言う──」

 

「やまいこさんか!?」

 

「ひえっ!?」

 

 あまりの剣幕に思わず飛び退いてしまいました。

 え!?母の姉ってやまいこさんだったの!?至高の四十一人の!?

 

「居場所を知っているのか!?いや、この世界に来ているのか!?」

 

「ア、アインズ様!落ち着いてください!」

 

「お気持ちは分かりますが、御客人が驚いていますので何卒玉座へお戻りに……!」

 

「これが落ち着いて……!!

 ……鎮静化されたか。すまない、少々気焦ってしまった」

 

「い、いえお構いなく……」

 

 まさかそのまま立ち上がって迫って来るとは思いもしませんでした……。

 想像してみてください。ものすごい剣幕で迫って来るアインズ様のことを。

 ちょっとしたお化け屋敷なんかよりも迫力があって、この状況も相まってめちゃくちゃ怖いです。おしっこちびりそうでした。

 止めてくれたアルベドとデミウルゴスにはこの時だけは感謝したいですね。あのまま迫ってきたら多分気絶してました。

 

 玉座に座り直したアインズ様は守護者達に「取り乱してすまなかった」と告げ、一先ずその場は落ち着きました。

 

 

「アレーティアよ。いや、この場合ヤマセ・アレーティアと呼ぶべきか? それともアレーティア・ヤマセと呼ぶべきか?」

 

「アレーティアで結構です」

 

「そうか、ではお前に問う。そもそも、この地へはどういった理由で訪れたのだ?

 我々ナザリックもこの地へ転移してきてまだ短いが外部からの干渉を警戒していた。そんな中、この地を訪れたのには何か理由があるのではないか?」

 

「……少々長くなりますがよろしいですか?」

 

「構わないとも。可能であればお前の母の話も聞きたい」

 

「承知しました。ではまず──」

 

 

 ここからは先程の回想で語ったことと変わりはありません。

 付け足すならば、母との会話を少し増やしたぐらいですかね。

 

 

「──そういう訳で、出ていったまま帰ってこなくなってしまった母を探しに旅をしていて、偶然この墳墓を発見しましたので探索に来たところで」

 

「アウラとマーレに見つかったということか。なるほど……」

 

 アインズ様は何度も何度も私が語ったことを反芻しているようでした。

 そして、ようやく飲み込めたのか、アインズ様は静かにこちらを見据えて話始めました。

 

「アレーティア、君は母であるヤマセアケミを……あけみさんを探して旅を始めたと言ったな?」

 

「はい、その通りです。現状手掛かりすら掴めていませんが……」

 

「それは我々も同じだ。私もこの世界に来ているかもしれないかつての仲間たちを探すべく動こうとしているが、この世界に来たばかりの私達では捜索に時間がかかってしまう。

 だが君はこの世界において大きなアドバンテージを持っている。

 最高位冒険者という肩書もあれば、少なくとも百年近くの周辺国家についての情勢や地理についての知識もある。

 しかし、君は一人だ。一人ではこの世界を虱潰しに捜索しても遥かに時間がかかるだろう。

 そこでだ、我らナザリックが──アインズ・ウール・ゴウンが力を貸そう」

 

 

 アインズ様がそう言うと何やら目配せをし、アルベドが「()()()()()()()、こちらへ」とアインズ様のもとへ来るように手を差し出してきたので、その手を取り玉座の前へとエスコートされました。

 そして──

 

 

「アレーティア、君にこれを授けよう。我がギルド──『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーの証であるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを」

 

 私の手には赤い宝石にアインズ・ウール・ゴウンの紋章が刻印されたあの指輪が……え?いいの?

 

「君の母であるあけみさんはナザリックのメンバーであるやまいこさんの妹でな。昔、この地に何度も遊びに来たことがある。

 ただ、当時のナザリックは彼女をメンバーとして受け入れることが出来なかった」

 

 それを聞いた守護者の何人かは「悲シイ話ガアッタノデスネ」「姿が違っただけでナザリックの一員になれなかったんだ。悲劇的な話だね」「やまいこ様に妹君がおられたとは知らなかったでありんすね」など各々が小さく呟いていました。

 私も知らなかった──正確には憶えていなかった──けれど、ユグドラシル時代なら仕方ないですね。確かスパイとかが横行していたんでしたっけ。

 

「私は、今だからこそ受け入れるべきだと考える。あけみさんは他のギルドに所属していたが、彼女一人でいたのならばギルド拠点がない可能性が高い。ならば、我がナザリックで受け入れたいと思う。

 ナザリックの一員となれば第九階層の……それこそあけみさんが使っていた部屋があったな。そこを与えよう。

 他にもやまいこさんが残したマジックアイテムも多くある。それの使用も許可するとも。それに──」

 

 うわあ、なんかもう至れり尽せりだ(白目)

 これがヘッドハンティングってやつなんですかね?条件良すぎて逆に警戒しちゃいます。

 それに重い。アインズ様のかつてのギルドメンバーに対する思いは並々ならぬものがあるとは知っていましたけど、ここまでとは……。

 

「どうだね?受け取ってはもらえないだろうか?」

 

 

 ……ここまでされて、断った時が恐ろしいですね。逆に断れる人がいたら見てみたいです。

 

 

「分かりました。ありがたく頂戴します」

 

 そうして、私は左手の人差し指にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを嵌めました。

 左手ならそんなに邪魔になりませんからね。まあ、外に出る時は外すことになるんですけど。

 

 すると、アインズ様が玉座から立ち上がり──

 

 

「これよりアレーティアをナザリックの一員として迎える。異論があるものは?」

 

「ございません。アインズ様のお言葉こそナザリック地下大墳墓の法でございます」

 

 アルベドがそう言い、守護者全員から拍手が送られました。満場一致の様です。もう逃げられませんね。わあい。

 

「アルベドよ、ナザリックにいる全ての者に伝えよ。新たなる仲間が加わったと」

 

「ははっ!」

 

「セバス、アレーティアをあけみさんが使っていた部屋へと案内せよ。突然のことばかりで気苦労をかけてしまったからな。少し休んでもらおう」

 

「畏まりました。ではアレーティア様、こちらへ」

 

「は、はい……」

 

 

 

 これからの私、一体どうなってしまうのでしょう?

 

 何はともあれ、ナザリック生活スタートです。

 

 






アレーティア
至高の四十一人のやまいこさんの妹である、あけみちゃんの娘という設定。本編ほど強くはないし、生まれながらの異能(タレント)も異なる。アダマンタイト級冒険者。
レベルは70相当。マジックアイテムで召喚した騎獣に乗って戦う。
ソロで活動しているので手数を補うためにマジックアイテムや召喚系の魔法、スキルを多数習得している。
ナザリックに侵入しファーストコンタクトがマーレだったのに奇跡的に生き延びた例外中の例外。
容姿はあけみちゃんのアバターにそっくり。
アルベドを除いた守護者とはそれなりに良好な関係を築ける。
この後は至高の四十一人+あけみ捜索隊の責任者になり、補佐にアルベド、パンドラズ・アクターが就いて大陸中を駆け回ることになる。
お付きのメイドはユリとシズ。

あけみ
やまいこさんの妹。本名、山瀬明美
やまいこさんの本名は山瀬舞子
ナザリックに何度も遊びに来てやまいこ、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもちの三人とよく第六階層で女子会をしていたため、アウラとマーレは容姿を知っていた(という設定)
この世界線ではユグドラシルサービス終了日にログインしていて、そのまま一人で転移してしまった。具体的には二百年前。
旅を続けるうちに心が疲弊してしまい、そんな折に父エルフに出会いそのまま結婚し、子を授かった。それがアレーティア。
アレーティアと父エルフに対する愛情は本物だったが、それでも心は満たされず、アレーティアに思い出を聞かせることで自分の心も慰めていたが、次第に「もしかしたら、姉も他の知り合いもこの世界に来ているのかもしれない」と考え、アレーティアたちを置いて再び旅に出た。
現在は消息不明。

父エルフ
どっかの頭エルフと違って真っ当な愛を以てアレーティアと生活していた。
多分カルマ値400ぐらいあるめっちゃ善人。
その内ナザリックに招待される。

デケム・ホウガン
多分アレーティアが森を出たぐらいにファーイン拉致して孕ませてる。
あけみに手を出したら死んでた。

スレイン法国
原作と特に変わらないが、アダマンタイト級冒険者のエルフにはあまりいい感情を持っていない。

アインズ様
時系列的には陽光聖典を滅ぼした辺り。
これからナーベラルを連れてエ・ランテルに行こうと考えていたぐらい。
そんな時にアウラとマーレから「あけみちゃんが来てる!」という報告を受け即座に囲んだ。
本人の子供と聞いて、もしかすると本当に他の仲間(ギルドメンバー)も来ているかもしれないと大歓喜。
多分、エ・ランテルの騒動も起こらないし、ゲヘナも起こらない。
代わりにスレイン法国と激突する可能性大。
この後、アレーティアにもっと色々な話を聞きに行って、二人きりだと普通にモモンガ呼びを許す。
アルベド大敗北。

アルベド
脳が破壊されてる。なお、被害妄想の模様。
一応、仕事はするけど敬愛するモモンガ様を取られるんじゃないかと、アレーティアのことを内心敵視している。



帝国ルートより先に原作キャラと合流させてしまいましたが、如何でしょうか?
ナザリック勢書くのは初なので解釈違いなどあったら申し訳なく。
続きはまたどこかで書くかもしれませんし、書かないかもしれません。

感想、高評価どうぞよろしくお願いします。


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王国の夜明け 〜皇帝、大激怒〜


通算UA80万突破!ありがとうございます!

番外編の続きなどについては活動報告に書きましたので、よければご覧ください。

なお、今回も独自要素強めになっております。



 

 

 無事に革命を終え、私は一足先に帝国へと帰還しました。

 エ・ランテルではなく帝国へ帰還した理由はジルクニフへの報告のためです。

 革命の後処理はザナック達に任せています。ラナーもいるので何の問題もありませんね。

 決して後処理が面倒くさくて押しつけたわけじゃありません!本当です!信じてください!

 

 さて、帝国へは一人で転移したわけではなく、それぞれ回収すべきものを連れて来ています。

 

 一つはデス・ナイト。

 フールーダが支配した伝説級アンデッドを今回の革命で実験的に動かしたので、その成果となる従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)達も全て回収済みです。

 この世界だと下手をするとデス・ナイトだけで一国を落としかねない危険な存在なので、役目を終えた後は早々に退去させました。

 万が一暴走しようものなら、私が直接支配しても良かったのですが、それをするとフールーダが絶望しかねないのでやめておきましょう。

 

 二つ目は八本指の各部門長と議長です。

 クライムが私が作った巻物の〈集団人間種捕縛(マス・ホールド・パーソン)〉で無傷で捕らえてくれたので連行しました。

 本来ならザナック達に引き渡すべきですが、こいつらはそれなりに有能で多くの裏の情報を抱えているので、それらを聞き出した上で後は奴隷の如く永遠に働いてもらおうと思います。

 私にはナザリックの様に恐怖侯の眷属にお腹の中から食べてもらうなんてトラウマを植えつけることは出来ないので、先ほどの従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)を裏切り者の末路として見せるか、エルヤーの拷問風景を鑑賞してもらおうと考えています。

 

 ああ、三つ目はそのエルヤーです。

 コイツからは奴隷の購入ルートを聞き出さないといけないのと、元奴隷エルフの鬱憤がまだ晴れていないはずなので、しばらくは何度も何度も死んでもらおうと思います。

 死んでも蘇生すればまた苦痛を与えられますから。与えた以上の苦痛をその身で味わうことでしょう。

 とりあえずはその粗末なブツに石を捩じ込むところから始めましょうか。

 もう二度と使えない様にしてあげます。

 

 そして四つ目。今回の私の最大の戦果である白銀の鎧。

 半ば粉々になっていますが、私の手にかかれば素材さえあれば修繕可能です。

 ただ、この鎧は始原の魔法の研究にも使えるのではないかと考えています。

 ツアーはこの鎧を遠隔で始原の魔法を用いて操作していましたから、何かしらの痕跡が残っているはずです。

 なので、修繕しながらフールーダと魔法省と共同で始原の魔法についての研究を始めようと思っています。

 きっとフールーダも半狂乱で大喜びするでしょう。何せ私も始原の魔法は使えませんからね。使えたら世界級(ワールド)アイテムも不要なんですが。

 

 とりあえずはさっさと報告を済ませてしまいましょうか。

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 ジルクニフの私室。

 今この場にいるのは私とジルクニフ、帝国四騎士のナザミとバジウッド、ニンブル。そして……

 

「こ、これがあの十三英雄の『白金』の鎧……!それも始原の魔法ですとな!?す、素晴らしい!素晴らしいぞぉぉぉおおおおッ!!!

 

「爺、落ち着け!まだ報告の最中だろうが!」

 

「これが落ち着いていられますか陛下!

 始原の魔法!始原の魔法ですぞ!?あの竜王国の女王か真なる竜王しか行使出来ないあの魔法を浴びたあの鎧がここにあるのです!

 魔法の深淵を覗こうとする者ならこれ以上ないと言っていいほどの一品なのです!」

 

 フールーダです。案の定暴走しています。一番最後に白金の鎧のお披露目をして良かったと思いながら、ジルクニフがフールーダを宥めてる姿を冷めた目で見続けています。

 ほら、バジウッドとニンブルはともかく、あの基本無表情のナザミですらドン引きした顔をしています。

 半壊した鎧をスリスリしたり頬擦りしたりしています。それ後で私が直して着る予定なので、出来ればそういうのはやめて欲しいんですけど。

 

「ええい、いい加減にしないか!フールーダ・パラダイン!

 今はその鎧よりも王国の顛末の方が重要だ!公私混同するな!」

 

「……お見苦しいところをお見せしましたアレーティア嬢」

 

「い、いえ。私も先にこれを出したのがいけなかったので……」

 

 ようやくフールーダが冷静さを取り戻したので、他の話題へと移るとしましょう。

 

「とりあえず、報告は以上です。併呑計画は成功しましたので後はラナーが上手く纏めてくれるはずなので安心ですね」

 

「安心出来る要素が何一つないんだが!?何故全部あの女に任せた!?」

 

「だって王国のことをこの国で誰よりも理解しているのはラナーですし、何よりも総仕上げは自分の手でやりたいって言うから……」

 

 少なくとも知能があのアルベドとデミウルゴス、パンドラズ・アクターに匹敵するラナーが失敗するとも思えませんし、それに例の契約のこともありますから、帝国に不利益が出ることもないでしょう。

 なのにジルクニフが警戒しているのは……うん、単に嫌いだからでしょう。

 流石ジルクニフ嫌いな女ランキング不動の一位を獲得しているだけあります。最早殿堂入りでは?

 でも原作と違ってわざと失敗したりしていないので、何でそこまで嫌っているんでしょうね?私にはよく分かりません。

 

 

 

 

 

 この後の話になりますが、ラナーの手腕によって王国は何事もなく帝国に併呑されることになりました。

 バルブロ王が処刑され、併呑されることにより王という存在は無くなりました。

 同時に八本指の手にあった貴族たちの爵位、領地、資産の全てを没収し、余罪次第で処刑かアゼルリシア山脈での労働刑が課せられることになりました。

 革命に協力した貴族たちは爵位、領地、資産はそのままに。ザナックは旧王都を治める侯爵としてその地を収めることになりました。

 ただ、苦しめられた国民からの元王家への厳しい視線はあるものの、補佐に就いたレエブンやぺスペア侯、そして──新たに騎士爵がガゼフ・ストロノーフに与えられ、晴れてガゼフも貴族の仲間入りを果たしました。

 一応帝国四騎士の空いた枠にとも考えましたが、ガゼフが仕えるのはザナックだと心に決めている様なので今回は退きました。

 なのでガゼフは新たに編成される帝国騎士団の将軍として迎え入れ、元戦士団の戦士たちも配下の騎士団へと加入し戦力は向上したと言えるでしょう。

 

 今後は各地のインフラ整備や復興、八本指の被害に遭った奴隷や村人の支援などの課題が残されていますが、その辺りは私たちも協力する予定なので、かつての王国よりも繁栄するのではないでしょうか。

 

 それと──この奴隷の一件で私が求めていたとある人物が手に入るのはまた別の話です。

 

 

 

 

「それで、報告にもあったがあのアンデッドは使えたのか?」

 

「ええ。問題なく運用出来ました。従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)に関してもデス・ナイト経由で今のところは」

 

「あのアンデッドですかい?ナザミがいればどうにかなるとは思うんですがねぇ……どうか制御を誤らないで下さいよ?」

 

「儂を誰だと思っておる。そんなことにはならん様に十分に注意しておるとも」

 

「まあ、万が一があってもアレーティア様がいれば難なく制御出来るでしょう」

 

「じゃあ私がいなくても抑えられる様に現四騎士には今後デス・ナイト相手に訓練してもらいますかね」

 

「げぇっ!?」

 

 デス・ナイトはこの世界基準で言えばかなり上位のモンスターですが、だからと言って倒せないわけではないですからね。

 〈飛行(フライ)〉で空飛んで〈火球(ファイヤーボール)〉の弾幕でも張れば攻撃に当たらず一方的に倒せるでしょう。

 近接戦闘でも最低でも英雄の領域に到達した人間で囲んで殴れば多分勝てます。

 ああ、そもそもそのレベルをこの世界で要求するのが困難でしたね。失念してました。

 まあ、あのデス・ナイトは制御済みですし殺される心配はないので、胸を借りるつもりで頑張ってもらいましょう。

 

「今後は従者の動死体はアンデッド発生の要因になり得るかの実験も同時進行しましょう。アンデッドの自然発生のプロセスをどうにか理解出来れば、カッツェ平野のアンデッド発生を抑制出来るかもしれませんからね」

 

「そうだな……お前の例の魔法でもダメだったのか?」

 

「〈天地改変(ザ・クリエイション)〉でもアンデッド発生はどうにもなりませんね。

 一度熔岩地帯に変えた時は発生した先から燃え滓になりましたけど」

 

 カッツェ平野のアンデッド発生に関して、帝国はかなり警戒しています。

 なにしろ、私が帝国と関係を持つキッカケになったのは千を超えるアンデッドの大群が帝国近くで発生したからです。

 まあ、どれも大したことありませんでしたけど、あの当時の帝国では少々手に余ったのではないかと思います。

 今なら難なく対応出来るとは思いますが、万が一に備え研究、調査することは大事なことです。後手に回ってはいけません。

 万が一、億が一でも野生の死の支配者(オーバーロード)なんかが出現したら、それこそ終わりでしょう。

 まあもう少しでもっとヤバい真の死の支配者(アインズ・ウール・ゴウン)がやってくるんですけどね?

 

「そういえば、あのハゲは役に立ちました?一応アンデッドに関してはかなりの知識を有してると思うんですけど」

 

「ああ、彼か。残念ながらもう聞き出せることはなさそうですな。

 ズーラーノーンの本拠地も割れはしたものの、攻め込むとなるとアレーティア嬢の力を借りなければならないと思うのじゃが……」

 

「やってもいいんですけど、別件でしばらく忙しくなりそうなんでちょっと難しいんですよね……」

 

 多分、近いうちにこの鎧の本体が何かしらのコンタクトを取ってくるはずなんで、場合によっては本体と決戦……なんてこともあるかもしれません。

 そうなった場合、縛り無しならこの世界最強の白金の竜王とガチバトルすることになるんですが……うーん、勝てる気がしませんね。だからと言って負ける気も無いんですが。

 とはいえ、倒したら八欲王のギルド武器が手に入ると思えば──いや、それは絶対に手放さない様にするでしょうから割に合わないですね。

 それだったらまだ他のものが欲しいですね。

 

「なんだ?また何か企んでいるのか?!

 やる前に話せ!今ここで!!」

 

「何怒ってるんですか陛下。まだ何もしてないじゃないですか」

 

「これからするんだろう!?やる前に吐け!」

 

 ジルクニフが血相を変えて怒ってます。私何もしてないのに……。

 

「それはまた後ほど話しますよ。大した話でもありませんし」

 

「有耶無耶にするなよ?後で絶対話せよ?」

 

 どんだけ信用ないんですか私。

 

「それより、ズーラーノーンの件ですけど……これはもうスレイン法国にぶん投げようと思うんですけど」

 

「法国にか?確かにズーラーノーンの存在は脅威だが法国が動くほどの──ああ、そういうことか」

 

 ジルクニフは気づいた様ですね。他の面々はどういうことだ?と顔に書いてあります。

 

「あのズーラーノーンの幹部である二人の死体は帝国の魔法省で管理しています。調査の結果、二人とも出身が法国なのが明らかになってます。

 要は法国の民が我々に迷惑かけたんですから、その分働いてもらおうってことです」

 

 報告に対しては幾つか手札を持ってますからね。

 ズーラーノーン幹部のカジットと元漆黒聖典のクレマンティーヌの死体。

 クレマンティーヌが持っていた叡者の額冠。

 漆黒聖典第十二席次の死体と装備。

 

 パッと思いつくだけでこれだけあります。中でも叡者の額冠と第十二席次の装備は何がなんでも取り返したい代物のはず。

 なので、返して欲しけりゃズーラーノーンの壊滅と引き換えに考えてあげましょう。

 

「だが、そうした場合神殿勢力がどう動くかが不明だな。

 法国の動き次第では離反される可能性がある」

 

「その前に金で買収しましょうか?エ・ランテルはそうやって掌握しましたから」

 

「あの件か……正直、聞いた時には実現にはまだ早いと思っていたが、思いの外上手くいっているようだな」

 

「ええ、なので村人の病や怪我が原因での死者の数がグッと減ったので、その分税収も増えていってます」

 

 現在、エ・ランテル──と言うより私が治める領地では神殿に係る金銭が無償になっています。

 ロバーデイクをスカウトする際に、思いつきで始めたことですが、ラナーの協力もあって──クライムへのアピールにもなるからか──上手く形になりました。

 現状は払う金額の方が上回っていますが、年単位で見れば医療が充実したことによって人が増えていくので、税で十分回収できるというラナーの見解です。

 

「帝都でもその噂を聞いた者たちがエ・ランテルでは出来ているのに何故そうしないのだと囃し立てているが、実際のところ神殿が首を縦に振らなければ土台無理な話だというのを理解してほしいものだが」

 

「ラナーに相談してみます?」

 

「それだけは絶っっっ対に嫌だ」

 

 そんなに嫌なの……?

 

「究極的には、私が神官たちの前で最上位天使でも召喚すれば従ってくれますかね?四大神に認められたものとして」

 

「それだったら蘇生魔法の方がよっぽど効き目がいいだろう。帝国にお前以外に蘇生魔法を使える者はいないからな」

 

 蘇生魔法……あ、そういえば

 

「陛下、大変申し訳ないんですけど、報告していないことがですね」

 

「……なんだ?言ってみろ」

 

「そんなに身構えなくても……こちらなんですが」

 

 無限の背負い袋から取り出したのは数枚の巻物(スクロール)

 そう、クライムにも二枚ほど渡している切り札でもあります。

 

「実はですね、私の魔法を込められる巻物の作成に成功しました」

 

「なん……だと……!?」

 

 これにはフールーダも驚愕の表情を浮かべています。

 なにせこの世界の巻物は第三位階の魔法を込めるのが限界でした。

 確か、ナザリックでもこの世界の巻物に魔法を込めるのはかなり困難で、デミウルゴスが持ち込んだ皮で第三位階まで込めることが可能になったんですよね。

 そうなると、この巻物は原作をも上回る一品になったと言っても過言ではありません。

 ……ただまあ、あまり作りたくないのが現状なんですけど。

 

「念のため、魔法が込められているか確認してもらっても構いませんよ」

 

「では失礼して……〈道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)〉〈付与魔法探知(ディティクト・エンチャント)〉」

 

 フールーダが二つの魔法を行使し、数秒後

 

「な、なんと!本当にこの巻物には第九位階の魔法が……!す、素晴らしい!!素晴らしいですぞ!!」

 

「ただ、現状()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()ので、今後要研究になるとは思いますが一応報告だけでもと」

 

 本当は魔封じの水晶を作り出せたらよかったんですけど、あれに関しては作り方がそもそも分かりませんし、もしかするとユグドラシルでしか入手できない素材、もしくは課金アイテム関連の可能性もあるので現状は不可能ですね。

 ……スレイン法国なら知っているんですかね?ニグンが持っていましたし。

 

「またとんでもないものを作ったな。第三位階の魔法の巻物でさえそう数がないというのに……。

 お前とフールーダにこの巻物に魔法を込めさせて、他の魔法詠唱者に使わせることが可能になったということか」

 

「そういうことです」

 

「これが量産できれば……いや待て。巻物(これ)の素材は何を使った?従来の巻物作成に使う物とは違うんだろう?」

 

 あっ、やっぱり気づきましたね。

 ただなぁ……これ言うと絶対怒られるんですよね……。だから、この巻物に関してはラナーはおろか他の鮮血騎士にも素材に何を使っているか教えていません。

 

「……聞きたいですか?」

 

「何をそんなに渋っているんだ?もしや、素材は例の魔樹か?」

 

「いや、ザイトルクワエの素材は使ってません。

 アレは貴重なのでおいそれと実験に使えないので」

 

「ではなんだ?第九位階が込められるとなると相当の物を使っているのだろう?」

 

 ええい!ままよ!!

 

「私の皮膚です」

 

「は?」

 

 

 この部屋の時間が止まったかの様に誰もが静止し微動だにしなくなりました。

 それだけのことを言った自信はあります。

 だからあまり作りたくないんですけど……。

 

 

「……聞き間違いか?もう一度聞くぞ?

 何を使って作った?」

 

「私の皮膚です」

 

「…………」

 

 あ、ジルクニフの眼から光が消えましたね。ハイライトオフしてます。

 バジウッド達は明らかにドン引きした顔をしてますし、フールーダはなんだか感心してます。

 ジルクニフはその手に持っていた巻物を丁寧に机に置いてから立ち上がり、深呼吸すると──

 

 

「なんて物で作っているんだお前はァァァアアアアアッ!!」

 

 

 私に雷を落としたのでした。

 

 

 きっかけはクライムが巻物を使える様になったと言うラナーからの報告を受けた時に、私の魔法を込めた巻物を作れたら強化出来るのでは?と思いついたのが始まりでした。

 

 勿論、最初はザイトルクワエの素材で試したんですけど、どうやら巻物には向いていない素材らしく早々に断念。

 どうしたものかと悩んだ結果……原作でデミウルゴスが()()()()()()()を使って巻物を量産していたことを思い出しました。

 

 ここで、私なりの考察をしてみたのですが──あの皮を使って作った巻物は第三位階を込めるのが限界でした。

 おそらくですが、その動物の習得出来る魔法の限界が第三位階程度だったのが原因ではないかと考察したのです。

 ここでふと私の皮膚ではどうなのかと思ってしまったのがよくありませんでした。

 仮にも私は第十位階、超位魔法まで扱えるスーパーエルフ。そんな私の皮膚から作った巻物ならもしかしてと考え、出来上がったのがこの巻物です。

 しかしながら欠点として……作る時にめちゃくちゃ痛いんですよね。

 そりゃあ自分で皮を剥いでいるわけですから、側から見たらイカれてますよね。いくら魔法で回復出来るとはいえ、痛いのでやりたくありません。とはいえ、十枚ほど作りましたが。

 

 

「一体全体どうしてそんな狂気的な方法に至った!?他にやりようはあっただろ!?」

 

「いや、モンスターの皮でも物によっては作れるって聞いたので、人ならどうかなと思ったので、まずは自分で実験をと」

 

「いや、その発想はおかしい!」

 

「あ、あの、アレーティア様?アンタ一応女だろう?もっと自分の身体を大切にだな……」

 

「あ、ええ、そうですね」

 

 まさかバジウッドに諭される日が来ようとは……。まあこればっかりはそう言われても仕方ないですね。

 

「……この件はあの女とロクシーにも報告しておこう。うん、それがいい」

 

「ゲッ!?へ、陛下、ラナーはともかくロクシーには言わないでくださいよ!!」

 

「馬鹿者が!これは自分の身体を大切にしないお前への罰だと思え!

 ロクシーにも叱られてこい!」

 

「そ、そんな……ま、待ってください陛下!陛下ァァァァ!!」

 

 ロクシーは普段は優しいお母さんみたいな女性ですけど、怒るとものすごく怖いんです!勘弁してください!

 一度エクセレフ君や他の子供達と羽目を外しすぎて遊んだ時に怒られたのが地味にトラウマになっているんですから!

 

 

 ……結局、私の願いは聞き届けられず、ロクシーに報告されてしまい大体一時間ほど説教されました。

 同時に、この巻物については二度と同様の手で作らない様にと製法は闇に葬ることになりました。

 

 

 あ、まだ報告してないマジックアイテムがいくつかありますけど、それはまたの機会にしましょう。

 

 

 

 

 





アレーティア
功労者なのにとんでもない爆弾を投下して滅茶苦茶怒られた主人公。
巻物製作に自分の皮を使った狂人でもある。
現場を見られていたら、自分を慕うエルフ達は間違いなく卒倒する。
なお、まだ報告していないことがいっぱいある。

ジルクニフ
巻物に想い人の皮が使われていると知って怒りが天元突破した。
自分が言うよりも懐いている相手に叱られた方がダメージが大きいと判断しロクシーへ報告。
ついでに嫌がらせもかねて渋々ながらラナーにも報告書を送りつけた。
この後、併呑した後の政策なんかで多忙になる。ズーラーノーンに関してはスレイン法国に打診する予定。

フールーダ
始原の魔法に関する代物が手に入ってかつてないほど興奮している。
巻物に関しては、そういう製作方法もあるのかと感心している。

クライム
巻物に関しての一件を一切知らない。
与えられた巻物を見て「辺境侯はすごい!」ぐらいに思ってる。

ラナー
ジルクニフから報告書を送りつけられ、帰ってきたアレーティアにハイライトの無い眼でニッコリ笑ってお説教コース。軽くホラー。
それはそれとして巻物は大事に保管している。

ロクシー
アレーティアが絶対に歯向かえない数少ない一人であり、第二の母とも呼べる存在。
ただ愛するだけではなく、ちゃんと怒って叱ることが出来る。
なのでアレーティアにも愛を以て叱りつける。





更新ペースが落ちてしまっていますが、エタることはないのでどうか気長にお待ちください。

感想や高評価など大変励みになっているので、どうぞよろしくお願いします。





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蒼と朱と辺境侯 〜私は許そう、だがコイツが許すかな!?〜


お待たせしました。

遅れた原因は活動報告にて。

今後も更新遅れる時は活動報告にて状況報告しますので、よろしくお願いします。

今回結構キャラ崩壊あるのでご注意を。



 

 

 皇城での報告会を終え数日が経ちました。

 私は一度リ・エスティーゼ王国旧王宮の元ラナーの私室にいます。

 今日何をするかというと、また対談です。

 とはいえ、また知った顔なんで気負う必要はないので安心です。

 ……一名、こちらが一方的に知っている相手がいる点を除いては。

 

 

「アルス辺境侯、お忙しい中お時間を取っていただきありがとうございます」

 

「いえいえ、構いませんよ。ラナーの友人でもあるラキュースの頼みなら融通を利かせましょう」

 

 そう、相手は蒼の薔薇の皆さんです。

 今回の革命でも多くの八本指の拠点を潰すことに協力してくれたので、私としても今後とも良い関係を築いていきたいですね。

 あ、報酬には当然多額の金銭を用意しています。相場の五割増しで。

 

「それと、改めてご紹介します。

 こちらは同じくアダマンタイト級冒険者チーム『朱の雫』のリーダーであり、私の叔父の──」

 

「アズス・アインドラだ。どうぞ、よろしく頼む」

 

「はじめましてアズスさん。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、もう一人。この女だらけの空間に一人だけ混ざっている男こそ、アズス・アインドラ。

 先日まで連絡が取れなかったとのことですが、革命の日には彼らも合流し独自のルートで探った八本指の拠点を私たちより先に潰しまわっていたとか。流石はアダマンタイトと褒めてやりたいところです。

 

 さて、ここで何故蒼の薔薇の皆さんとアズスと対談することになったのかを話す必要があります。

 それは革命の夜明け、八本指の全勢力の制圧が終わり鎧の残骸を回収しに戻った際に、その場に蒼の薔薇の面々が揃っており、念の為に警護を任せていた神の国の戦乙女(アースガルズ・ワルキューレ)たちと向かい合っていました。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「──つまり、貴女方はアルス辺境侯に喚ばれて降臨されたのですか?」

 

「その通りです。主人(マイマスター)は我ら戦乙女(ワルキューレ)を統べるに相応しいお方。喚ばれれば馳せ参じるのは当然のことです」

 

「故に、神に仕えし神官騎士とその一行よ。それ以上近づけば我々も対処しなければならない。

 主人からはこの残骸を守り通すよう命じられているので」

 

 これは私も知らなかったんですけど、召喚者がいないと召喚されたモンスターは基本的に危害を加えられないと攻撃しないみたいです。

 今回の場合は恐らくラキュースが神に仕える職業を習得しているからか、少し友好的にも見えました。

 

「え、ええ分かりました。私たちも事を構えるつもりはありませんので。

 ……あの、個人的に幾つか戦乙女である貴女方にお聞きしたいことがあるのですが──」

 

「……敵意はないようなので我らに答えられる範囲であれば構いません」

 

「それじゃあ──」

 

 与えられた命令次第でしょうけど、こうしてラキュースと普通に対話するのは意外でしたね。モンスターによって知能の差もあると思うんですけど、神の国の戦乙女(アースガルズ・ワルキューレ)神の国の戦女神(アースガルズ・ブリュンヒルデ)は高い知能を持っている様でした。

 

 

 

 

「なあイビルアイ。アレ一人とお前、どっちの方が強い?」

 

「……あまり言いたくはないが、向こうの方が上だ。一人に対して私たち全員で挑んでも敵わないだろう。

 私の見立てなら二百年前に単騎で魔神を葬ったという最高位天使をも上回っている。それに()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんなにかよ……。辺境侯っていったい何者なんだ?本当に神様とかそういう存在なんじゃないか?」

 

「あまり詮索しない方がいい。辺境侯──粛清騎士と言う存在自体、私たち最高位の冒険者ですら素性を一切掴めない程に国によって隠されていた存在だ。

 正体を知れば私たち(蒼の薔薇)が帝国に取り込まれることもあり得るぞ」

 

「そうですね、賢明な判断ですよイビルアイさん」

 

 ここで私がこの場に帰還しました。

 タイミング的にはエルヤーが一度死んで、王国の残存戦力にバルブロと八本指の部門長たちを捕らえたから降伏しろと告げて革命が収束した辺りです。

 後始末をラナーに任せて鎧の回収に来たわけです。

 

 いきなり現れた私に驚いたのか蒼の薔薇はそれぞれが臨戦態勢へと移行して──相手が私だと気づいてすぐに気を緩めました。

 もしもそのままでいたら、今にも攻撃を仕掛けそうな戦乙女たちが皆殺しにしていたでしょうから、流石の判断です。

 

「アルス辺境侯、お久しぶりです。 革命の方は──」

 

「無事に収束しました。バルブロは拘束し、八本指の各部門長も全員……一人死にましたが残りはクライムが捕らえました。

 最大戦力である六腕も全員倒しましたし、最早王国に脅威と呼べるものはありません。革命は成りました」

 

 本当は六腕全員私が潰そうと思っていたんですけど、思わぬ邪魔が入ったんで断念せざるを得ませんでした。

 まあ結果的に鮮血騎士の実力の再確認ができたのと、このツアーの残骸が手に入っただけでもお釣りがくるレベルの戦果を得られたので良しとしましょう。

 

「なので依頼の方は達成と言うことで構いません。後ほど報酬をお渡しするので冒険者ギルド……はダメですね。八本指の手にかかっていた場所は信用できませんね。どうしましょうか、手元にすぐに渡せるものは……」

 

「そ、それならアルス辺境侯。実は貴方にお話ししたいことがあるので、宜しければ時間を取って話せる機会をいただけませんか?報酬もその時で構いません」

 

 

「話したい事?今この場で聞いても構いませんけど」

 

「いいえ、出来ればこの場にいる者だけで話したいと……」

 

 辺りを見渡せばこの場には私と蒼の薔薇のメンバーと神の国の戦乙女たちだけ……あれ?あの赤い全身鎧ってもしかして?

 

「分かりました。確かアセロラから伝言板(スマートフォンもどき)を受け取っていますよね?貸してもらっても?」

 

 伝言板を受け取ると、〈伝言(メッセージ)〉相手に私を追加します。

 

「はい、これで私の登録が完了しました。空いてる日時が分かり次第こちらから連絡しますので、それは肌身離さずお持ちください」

 

 数日後──即ち今日ですね。時間を作ることが出来たので連絡し、こうした場を設けることが出来たわけです。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 元ラナーの私室は比較的和やかな雰囲気に包まれている。蒼の薔薇とアズスにはとても都合の良い状態だ。

 この場を用意してもらったラキュースの目的は大きく分けて二つ。

 一つは叔父の勘違いによって起きてしまった革命の妨害についての謝罪。

 これについては早々に謝罪しなければ目の前の相手がどう動くのか一切分からない為、なるべく時間が経たないうちに済ませた方が傷は小さく済むだろうという考えから。

 無論、アルス辺境侯への謝罪の他に何かしらお詫びをしなければならないだろうが、そこからは叔父がするべきこと。血は繋がっているが、共に冒険者チームを率いる身だからこその判断だ。

 

 そしてもう一つ。あの破壊され尽くした平原について。

 こちらは望み薄だが、確認だけはしたい事情がある。

 かつて、トブの大森林奥地で何らかの異常が発生し、組合から依頼を受けて王都から調査へ向かったことがあった。

 辿り着いた先には何か巨大なものがあった痕跡と、その周りを底が見えないほどの大穴が囲っていた。

 周囲を探索するも何も発見出来ず、分かるのはこれを引き起こしたモンスター、もしくは人物がトブの大森林か周辺国家に存在すること。

 イビルアイは当初、竜王の手によるものではないかと疑っていたが、それならあれだけの巨体が目撃されないはずがないということでその考えは取り消された。

 組合にはあるがままを報告し、念のためトブの大森林の奥地へは最低でもミスリル級冒険者でなければ危険なため近寄らない様にと発表された。

 

 

 そして先日のあの場で、それに似通った現場を目撃してしまった。

 つまり──トブの大森林奥地の惨状はアルス辺境侯が引き起こした可能性が高いとラキュースたちは考えている。

 如何なる魔法や武技を使用したかまでは聞けずともやったかどうかの確認さえ取れればそれでいい。認めればアルス辺境侯の強さの指針が少し分かる。認めなければ、アルス辺境侯と同等かそれ以上の存在があることの裏付けになる。

 

 

「さて、皆さんに紅茶は行き渡りましたし、そろそろお話というのを聞かせていただきましょうか?

 王国に二つしかないアダマンタイト級冒険者が態々私にだけ話したい内容が気になりますし」

 

 卓に着いた私たちの前にはメイドのエルフによって淹れられた紅茶が並べられている。メイドエルフたちはアルス辺境侯によって退室させられたのでこの場には七人の姿しかない。

 口火を切ったのはアルス辺境侯。ティーカップを手に取り優雅に紅茶を飲む姿は余裕が見て取れる。

 ここであまり待たせるのは心象に良くないとラキュースがそれに応える。

 

「それでは、まずは感謝の言葉を送らせてください。

 貴方が──帝国が動かなければ、王国は今も八本指や無能な王に支配された独裁国になっていたでしょう。

 王国民を代表して、またアインドラ家の令嬢として感謝を」

 

「何もそこまで畏まらなくても構いませんよ。公の場でもありませんし、私も所詮騎士上がりの貴族ですから礼儀には疎いんです。

 それに、あのまま王国が腐っていくのを見るのも心苦しいものがありましたから。王国を愛していたラナーを想って動いたとでも思っていただければ。

 ああ、朱の雫の皆さんにも協力してもらったので満額とは言えませんが報酬は用意させていただきますね」

 

「……ありがとうございます、辺境侯。しかしながら、それを受け取る事は出来ません」

 

「何故でしょう?依頼をしていないとはいえ、アダマンタイト級冒険者チームを二つもこの革命に協力してもらったのですから、払うものを払わなければこちらの面子に関わりますので受け取っていただきたいのですが……」

 

 アズスが報酬の受け取りを拒否する姿を見て、アルス辺境侯が困惑すると同時に、何かを察知したらしい。視線をラキュースに移し「どういうこと?」と目で語った。

 その問いに答えたのはラキュースではなくアズスだった。

 

「実のことを言えば、この場で話があるのは俺──いや、私です」

 

 ここで一度間を置き、呼吸を整える。これから口に出すのは自分の勘違いから起こしてしまった革命作戦への妨害の謝罪の言葉。

 既に起こってしまったことは変わらない。故に求められるのは誠心誠意謝罪することだけ。

 

「先の革命で王宮にいたはずの辺境侯があの場に飛ばされることになった要因ですが……実は私が──ッ!?

 

 

 瞬間、この部屋にいる全員に殺気が濁流の如く押し寄せた。

 殺気を放ったのは言うまでもなくアルス辺境侯からだ。

 

「へぇ……()()を仕向けたのお前だったのか……」

 

 地獄の底から響くような声を発したアルス辺境侯が取り出した袋──無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)から出てきたのは、あの日見た見るも無惨な姿になったツアーの白金の鎧。

 先程までの丁寧な口調が乱れていることから、余程腹に据えかねていたのだろうと他人事の様にイビルアイは思った。

 

「アズス・アインドラ……よくもやってくれたな。お陰で私はあの日六腕を一人も倒せなかったと言うのに。

 六腕全員の首を討ち取ってやろうと意気込んでた私の邪魔をした罪は重い──が、弁明があるなら聞かせてもらおうか?」

 

 アンタあの日そんなこと考えて参加してたのか、などと言う思考はアルス辺境侯の怒り、苛立ち、憎悪といった感情が殺気へと形を変え重圧(プレッシャー)となり思考の海の底へと沈められた。

 この重圧の中、誰一人として動くことなどできなかった。動けば即座に殺されると錯覚さえしていた。

 あのイビルアイでさえも、二百年前の戦いで感じた魔神との戦いでの重圧を上回っていると戦慄し、改めてその強大さに畏怖の念を抱いた。

 同時に、この殺気を正面から浴びているアズスは生きた心地がしないだろうなと同情した。

 さながら気分は処刑台で刑の執行を待つ罪人と変わらないだろう。

 

「──ッハァ……ハァ……弁明をさせて……いただきたいので……その殺気を収めてはもらえないだろうか辺境侯……?」

 

「………これは失礼。激情のあまりスキルを使ってしまった様です。

 では、弁明をどうぞアズス・アインドラ」

 

 室内を支配していた重圧が解かれたことにより、各々が安堵の息を吐く。

 しかし、アズスはここからアルス辺境侯へと弁明をしなければならない。下手なこと言えばパワードスーツを纏っていない今、呆気なく首を落とされることも容易に想像出来る。

 

「実は──」

 

 そうしてアズスはツアーと交わしたやり取りをありのまま話した。

 粛清騎士と言う万を超える王国の兵を虐殺し、それを何とも思っていないようなその在り方が恐ろしく、王国の混乱に乗じて攻め込んで来て王国を滅ぼすのではないかと言う恐怖心に駆られたこと。

 万が一に備えて粛清騎士が襲撃した場合、知り合い(ツアー)に被害の拡大を防ぐために抑えてもらうように頼み込んだこと。

 その知り合いが元々この案に乗り気ではなかったことなど、自身が語りえる全てを話し切った。

 

 

「後にラキュースから聞いた話から私が辺境侯のことを誤解していたことが分かり、こうして謝罪しに来たという訳です。

 改めて辺境侯、申し訳ありませんでした」

 

 語り終え、謝罪の言葉と共に頭を下げたアズスの額からは汗がとめどなく流れている。

 言えることは全て話した。後はどういう処断が下されるのか。

 事によっては仲間に迷惑をかけることになってしまうと心の中で侘びながら辺境侯の動きを待つ。

 そして──

 

 

「……なるほど。それなら仕方ありませんね。

 アズス・アインドラ、貴方の罪を許しましょう」

 

 

 バッとアズスが顔を上げれば、先程までの不機嫌さはなくなり──それでもやや不快感は残っている様だが──表情を和らげているアルス辺境侯の姿があった。

 

「これもある意味では私の悪名が原因でもありますからね。殺すことはやめましょう。

 ただ……当然ですが、謝罪の言葉だけで済ませる訳にはいきませんので、二つほど要求を飲んでいただきます」

 

「……私に出来ることであれば」

 

「では、まず一つ目。貴方が所有するあの(パワードスーツ)をしばらく貸していただきたい」

 

 いきなりの要求に思わず息を呑む。

 アズスの鎧はこの世界のものではなく、朱の雫における最大戦力の一つだ。それをおいそれと貸し出すわけにはいかないが、逆に呑まなければ関係に亀裂が入るのは違いない。

 

「あの鎧……鍛治師(スミス)としても魔法詠唱者(マジック・キャスター)としても、とても興味深いので一度色々と調べさせて欲しいんです。

 勿論、何かしらの依頼があるのならばそれを優先してもらって構いません。

 ただ、じっくり調べたいので可能なら数日を通して貸していただきたい」

 

「……了解した。 チームメンバーと相談して貸し出す日取りを決めさせてもらいます」

 

「よろしい。 では二つ目ですが……その評議国にいる私を抑えようとした知り合いに一度会って話したいと伝えてください。

 可能であれば直接本人に会いたいですが……それは叶わないでしょうから、コレ()と同じ様なものがあるならそれでも構わないと」

 

 辺境侯が望んだツアーとの会談。恐らく、ツアーは直接顔を合わせることは躊躇うだろう。それに一度敗れたことで更に慎重になっているはず……そんな中で会うことを良しとするかどうか分からないアズスは内心頭を抱えた。

 いざ戦闘になった場合、鎧ではなく本体が戦えば負けることはない──とは最早言えない。そう思わせるほどの力を辺境侯は持っている。

 なので苦し紛れに返せる言葉はこれだけ。

 

「……伝えはしますが、いい返事が返ってこなかった場合は?」

 

「そうですね、それならそれで構いません。

 ハッキリさせたいのは、私が別に積極的に敵対する気がないことなので。()()()()()()()()()友好的に接したいとは思いますが、叶わないならそれはそれで構いません」

 

 割り切った答えが返ってきたことにより、少しばかりアズスの心が軽くなった気がした。

 これで間に立って交流の仲介を頼まれていたらアズスはその責任の重大さからストレスに苦しめられることになっただろうが。

 

「では、謝罪は済んだということで。ああ、報酬の件は別なのでそれはちゃんと受け取ってくださいね?」

 

「あ、はい」

 

「ではお待たせしてしまい申し訳ありませんね、蒼の薔薇の皆さん。

 何か話したいこと、聞きたいことがあるのでしょう?全てに答えられるとは限りませんが……」

 

「…………」

 

「おや?どうしました?」

 

 この時、蒼の薔薇のメンバーは全員同じことを思っていた。

 下手に地雷を踏む様なことを話したら、またさっきの様な殺気、重圧が発せられるのではないかと。

 アダマンタイト級冒険者である彼女たちは偉大な先人であるアズスのやらかしから辺境侯への警戒度を跳ね上げた。主にこの後聞く内容についてだが。

 

 

「実は、先日のアルス辺境侯の戦った跡を見てどうしても確認したいことがありまして」

 

「確認したいこと?……あの天使──戦乙女たちのことですか?」

 

「それも私個人としてはものすごく聞きたいところなんですが、今回は別件です。

 実は数年前、トブの大森林の奥地で何かしらの異常が起こったらしく、調査に向かったことがあるんです」

 

 ピクッと何かに反応を示した様子の辺境侯。何に反応したのかは定かではないが、反応から見て現状不興は買っていないと判断し話を続ける。

 

「そこで私たちが見たのは──何か巨大なものがあった痕跡と、その周りを底が見えないほどの大穴が囲っている破壊の痕跡でした。

 その巨大なものが一体何だったのかまでは判りませんが、それでもあれだけ大規模な何かを成したモノがいるということしか分かりませんでした……。

 そして、先程のアルス辺境侯の戦った跡。それがトブの大森林の惨状と非常に似ているんです。

 ……聞きたいことはもうお分かりだとは思いますが、トブの大森林で起きた異常は──貴方が引き起こしたものですか?」

 

 

 聞いた。遂に聞いてしまった。

 

(後はアルス辺境侯が不機嫌にならずに答えてくれればそれで──)

 

 ラキュースは様々な感情に襲われながら、回答を待ち──

 

「ああ、私ですねそれ」

 

「ええ!? そんなあっさり認めます!?」

 

 先程とは異なり、実にあっけらかんとした態度で認めた。これにはラキュースたちもアズスも驚きを隠せない。

 何せ聞いていると言いつつも、その実疑っていたのだから不快になっても仕方ないだろうと──先程の重圧がまた発せられるのも覚悟していたのにこの始末。困惑するのも無理はない。

 

 

「帝国の上層部なら知っている国家機密なので──あ

 

 場が凍り付く。コイツ、国家機密を堂々とバラしやがった!と悪態を吐きたくなる気持ちを押し込み──

 

「な、何か聞こえたかしらガガーラン?」

 

「い、いいや、おれは何も聞いてねえぜ?なあ?」

 

「「うん、そう。 私たちなーんにも聞いてない」」

 

「……すまない、少し耳が遠くなっていたようだ」

 

「す、すまないな辺境侯。 俺も聞いてなかった」

 

 流石はアダマンタイト級冒険者、何も言わずとも連携が取れている。国家機密を知ったとなれば、政治に関わらざるを得ない場面が出てくるかもしれないので、自由を求める冒険者としては何としても回避しなければならないと団結した場面であった。

 

 

「……えーっと、そうですね。まあ、私も悪いんでお気になさらず。

 それで、今回の戦闘で使ったのはトブの大森林で使った魔法を基に編み出した私の最強の武技ですね」

 

「最強の武技……あのヴェスチャーが編み出した最強の武技は余裕で上回ってるよな……」

 

「名は〈星砕き〉。とはいえ、あれほどの威力を出すには相応の武器も必要なので、おいそれと使えないのが欠点ですが。

 あ、ガガーランもこの武技を使える武器系統ですし、伝授しましょうか?」

 

「い、いやぁ、遠慮しておくぜ……」

 

 

「そうですか。まあいいでしょう。 それで聞きたいことはそれだけですか?」

 

「……ならば私から。 率直に聞く。辺境侯、貴方は一体どれほどの魔法を行使出来る?正直言って戦士としても、魔法詠唱者としても貴方は異質で異常だ。」

 

(──私たちのリーダーを上回るほどに)

 

 かつての仲間の姿を思い浮かべながら──イビルアイはあの白金(ツアー)を打ち破った辺境侯のその強さを知るべく見据えた。

 そして──

 

 

「魔法ならば第十位階を超えた──第十一位階、もとい超位魔法までなら行使できますよ?

 例の戦乙女たちもその魔法で召喚したので」

 

 ──絶句。誰もがその事実に衝撃を覚えた。

 第十位階。あるのは知られているが誰もその領域にまで到達できなかった神話の領域にある魔法。更にそれを上回る第十一位階を行使できるとなれば──。

 

「……化け物、か」

 

 思わず口に出してしまいイビルアイはハッとなり「すまない、失言だった」と謝罪する。

 

「化け物と称されてもまあ仕方ありませんね。今のところ私に匹敵する存在と相対したことは──帝国に来てからは一度しかありませんので。

 ああ、勿論ですがこの話はこの場に留めてください。さもなければ──

 

「も、もちろん口外するつもりはないわ! ねえイビルアイ!?」

 

「あ、ああそうだとも」

 

「それならよかったです。 さて、聞きたいことはお終いですか?」

 

「え、ええ、もしもトブの大森林での惨状が辺境侯でなければ警告するつもりだったので」

 

「ああ、なるほど。そういう話だったんですね。 では、これから報酬をお持ちするので此処でもうしばらくお待ちください」

 

 そう言い残し、アルス辺境侯はこの場を後にした。

 残ったのはアルス辺境侯の真の力の一端を知ってしまったアダマンタイト級冒険者たちだけだった。

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

 ──スレイン法国──

 

 

「皆様、緊急の招集に応じていただきありがとうございます」

 

「今回、招集をかけたのはレイモンだったな。一体何があった?」

 

「……王国で起きた革命の一件はご存じでしょうか?」

 

「ああ、一度は介入を考えたが納まるところに納まってよかった」

 

「その革命時、偶然でありますが風花聖典が額冠を奪った裏切者を追っている中、王国郊外にて──

 

 

 

 

 

 

十三英雄が一人、白金と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 






アレーティア
パワードスーツを調べるチャンスを得て内心ウキウキ。
なお、アズスとツアーの所業は寛大な心で許したものの、謝りに来なかったらボコボコにしてた。
うっかり国家機密をばらすお茶目なところも(ポンコツ)

ラキュース+蒼の薔薇
とんでもない事実を知ってしまったため、後々ラナーにマークされてホームが旧王都からエ・ランテルに移る。
余程の筝がない限り処分されたりはしない。

アズス
正面からアレーティアのガチ殺気を受けてしまったので寿命が縮んだと思われる。
パワードスーツは貸し出した後、ピカピカになって返ってきた。

スレイン法国
エルフの王女を見つけた。見つけてしまった。



今回ちょっと詰め込みすぎたなと反省。
次からは5、6000文字ぐらいに収めたいですね。
書くにつれて段々一話一話の長さが伸びちゃってるのが難点ですね。


感想や高評価いただけると大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!
内心、平均評価8.50になったのめっちゃ喜んでます。




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アレーティアととある姉妹 〜再会〜


今回、ちょっとだけ残酷というか不快に思う表現があると思いますのでご注意ください。



 

 

─現バハルス帝国 旧リ・エスティーゼ王国王都─

 

 

 かつての王都の神殿には多くの人が集っていた。

 今ここには八本指によって奴隷に落ち、娼館で働かされていた多くの女たちが身体と精神の治療のため療養していた。

 

 その中にツアレニーニャ・ベイロンもいた。彼女のいた娼館は暴力による性的嗜好を満たすための場所で、救助された時には他の奴隷も含め酷い有様だった。

 鮮血騎士であるロバーデイク主導の下、多くの神官により身体の傷は癒えたものの、精神はそうもいかなかった。

 男によって振るわれた暴力が心的外傷トラウマになり、助けてくれた相手だと分かっていても恐怖を憶えてしまう。

 他の奴隷もそうだった。恐怖を紛らわせるために爪を齧り続ける女もいれば、ふとした拍子に泣き始める女、自傷することで精神を保とうとする女など、誰もが心の闇に囚われていた。

 この光景に神官たちも影響を受けてか精神を病んでしまう者も少なくなかった。

 神官は精神を癒す魔法を行使出来るものの、一般的に精神系魔法は使用が躊躇われる。精神に触れることでその者の人格にまで影響を及ぼす可能性があるためだ。

 

 そうして数日が経ち──とある人物がやってきた。

 

 

「初めまして皆様。本日より貴女方の治療に参りましたアレーティアと申します」

 

 

 アレーティアと名乗った()()()は数人の女エルフを連れており、今まで従事していた男の神官たちは入れ替わるようにいなくなった。

 ただ、ツアレニーニャ──ツアレはこの日から療養所内の空気が変わったのを憶えている。

 

 

 

「うううう〜〜〜アアアアアアアアアアアアッ!!

 

「大丈夫ですよ、ここに貴女を傷つける人はいませんから」

 

「アアアアアアアアアアアアッ!!うわあああああああ!!」

 

「よしよし、大丈夫、大丈夫ですよ」

 

 アレーティアはとても優しい神官だった。発狂する様な女がいても前いた他の神官がたじろぐ中、臆することなく抱きしめた。

 発狂した女も次第に落ち着きを取り戻し、そのまま眠ってしまった。

 そんな場面を度々目にした。

 

 共に来た女エルフもとても良くしてくれた。聞けば彼女たちも元々奴隷で、アレーティアに助けてもらったという。

 

「わたくしはアレーティア様に救われました。 ならば、私は救われた恩を別の誰かを救うことで返したいと思ったのです」

 

 ロータスという白髪のエルフはそう語り、過去に恐怖する私たちに寄り添ってくれた。

 

 

 

 やがて一人、また一人と心身が癒えた奴隷たちは日常へと帰っていった。話を聞けば私たち奴隷の家族を探してくれていたらしい。

 ツアレは村に残してしまった妹を想う。あの子は今どうしているのだろう、と。

 会いたいと思うと同時に会いたくないと思ってしまうのは、過去を切り離せないからか。ここしばらくは穏やかに過ごせているが、ふとした拍子にやはり過去は襲ってくる。

 ある夜のことだった。ツアレは夢を──悪魔を見た。

 

「うっ……ううう……うああああ……」

 

 まただ。村での貧しい生活、貧しくとも妹と仲良く暮らしていた幸せな記憶──それを奪ったあの貴族に弄ばれた記憶が夢となって襲いかかってくる。

 今すぐ目覚めなければと、夢の中を必死に泳ぎ続けるが過去は実体を持ちツアレの脚を掴みそのまま悪夢の中へと引き摺り込む。

 

 

 ──やめて!やめてやめてやめてッ!!

 

 

 散々弄ばれた。純潔を奪われ、動物の様なことをさせられ、鞭で打たれ、食事ではなく餌を与えられ、やがて飽きられ──

 

 

 

 ──嫌!思い出したくない!誰か……!

 

 

 

 売られた先では更なる地獄が待っていた。殴られた、骨を折られた。悶え苦しんだ。それを見た男は笑いながら苦しむ私を犯し汚した。

 それだけでは飽き足らず、最低限の治療をされ他の男がまた──

 

 

 ──誰か……私を助け──

 

 

 

「ツアレさん?」

 

「ハッ──!!」

 

 目が覚めた。汗をびっしょりとかき、息は荒い。気づけば目からは涙が止まらない。感情が抑えられない。

 

「ううううぅぅぅぅあああああああ!!」

 

 抑えきれない感情が声となって夜闇に木霊する。

 そんなツアレをアレーティアは自身の胸元へと顔を埋めさせ優しく抱き留める。

 

「〈静寂(サイレンス)〉今は思う存分泣きなさい。迷惑だなんて考えず、吐き出せるものを全て吐き出しなさい」

 

 そうしてツアレはアレーティアの胸元で泣き続けた。アレーティアは嫌な顔一つせず、母の様に受け止めた。

 一通り泣き続け、やがて泣き疲れたのかツアレはそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 翌朝、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ベッドの横を見ればアレーティアが本を読みながらツアレの手を握り続けていた。

 

「おはようございます、ツアレさん。ご気分の方はどうですか?」

 

「あっ、えっと、その……昨夜はご迷惑をかけてしまい……」

 

「気にしないでください。貴女たちはそれだけの目に遭ってきたんですから」

 

 アレーティアは微笑みながらツアレの手を取る。

 思えば夜の間つきっきりで看てくれていたのなら、眠っていないのではないかとツアレは心配になった。

 

「あの……アレーティアさん、夜は……」

 

「ええ、ずっと起きていましたよ。でも大丈夫です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最後の方はツアレは何を言っているのか理解出来なかったが、それでも自分に気をかけてくれていることだけは分かった。

 そうしているとアレーティアは少し真剣な顔つきになった。

 

「ツアレさん、実は──貴女の家族と連絡が取れました。近日中にこちらに来られるそうなのですが……」

 

 妹が来る。

 それは吉報であり、凶報でもあった。

 

 昨夜の夢が蘇る。ツアレは思う。今妹──セリーシアと再会しても素直に喜べるだろうか。果たして笑えるだろうか。

 逆に過去のことを思い出してしまうのではないかという恐れの方が強い。

 息遣いが荒くなってきたところでアレーティアが再び口を開く。

 

「ツアレさん、家族との再会は辛いですか?」

 

「そ……そんなことはない……はずなんですけど……その……」

 

「……奴隷時代のことを思い出してしまう、ということですね」

 

「はい……」

 

 本来ならば生き別れた家族との再会は喜ばしいものだろう。しかし、昨夜の様に過去が呪いの様にツアレを蝕む。

 

「ツアレさん、一つ提案があります。 勿論、これを受け入れるかはツアレさん次第ですが──」

 

 そんなツアレを救ったのはアレーティアによるこの提案だった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 数日後、王都の神殿にとある冒険者チームが姿を見せた。

 彼らは『漆黒の剣』、駆け出しの冒険者四人で結成された冒険者チームだ。

 

「ニニャ、ここにお前の姉さんがいるのか?」

 

「ええ、そういう話なんですが……」

 

「王国ではなく帝国からの捜索であるからな。 おそらくは無事だったのであろうが……」

 

 チーム内の空気は重い。メンバーであるペテル、ルクルット、ダインの三名はニニャの事情を聞いていたため、ニニャの姉の生存を聞いて喜んだものの、どういう状態かが一切不明なため不安もあった。

 

「まさかだけど治療費を請求されたりしないだろうな? そんなもん要求されたら俺らじゃ多分払えねえぜ?」

 

「それはそうですね。 しかし、まずはニニャのお姉さんの状態を把握しなければいけません」

 

 

 そんなことを話している内に一行は神殿の中へと入る。

 そうして、奴隷被害者の家族だと神官に告げた。

 

「お待ちしていました。ツアレニーニャ様の妹であらせられるセ──ニニャ様でよろしいですね?」

 

「は、はい」

 

 どうやら本名はバレているらしく、それでも偽名を使って活動していると察してくれたのか神官は自然な流れで偽名へと言い換えてくれたことにニニャはホッと一息吐く。

 

「ではご案内しますが……大変申し訳ありませんが、ご家族の方以外は別室でお待ちいただくことになります」

 

「それは──」

 

「被害者の多くは男性に対してとても過敏になってしまいまして、最低限の人数しか案内出来ないのです。ご理解のほどお願いします」

 

 そう言われ頭を下げられてしまえば、彼らも従わざるを得ない。

 ペテル、ルクルット、ダインを残しニニャは神官に連れられて姉のもとへと向かった。

 

 

 

「こちらでございます」

 

 いよいよだ。この先に姉がいる。

 ニニャは固唾を呑み部屋へと入る。そして──

 

 

 

 

 

 

「姉、さん」

 

「……久しぶりね、セリー」

 

「───あ」

 

 姉がいた。領主である貴族に弄ばれ、売られ、行方が分からなくなった姉が、傷もなくあの日の面影を残して座っていた。

 

(やっと会えた──)

 

 思わず駆け寄りそのまま抱きしめる。ツアレはそれに少し驚き、前にしてもらった様にニニャ──セリーを抱きしめ返す。

 

姉さん……姉さん姉さん姉さんッ!!

 

「セリー、元気だった?」

 

「うん……!姉さんも……無事でよかった……よかったよぉぉぉ!!」

 

「私も、セリーにまた会えてよかったわ……!」

 

 数年越しに再会した姉妹の間に言葉は少なかったが、この抱擁で十分だった。

 

 

 

 

 しばらく抱擁を交わした後、姉妹は語り合った。

 セリーはツアレの過去について触れることはしなかった。神殿にいるのも心身の療養のためと伝えられていたので、そういったことに触れない方がいいと判断したからだ。

 他愛のない話をしてしばらく、第三者が入ってきた。

 

「初めましてニニャさん。 私はアレーティア、臨時でこの神殿で働いている神官です」

 

「こ、こちらこそ、姉を助けていただきありがとうございます」

 

「いえ、これも神官としての務めですので。

 ここからはこれからについてお話しさせていただきます」

 

 アレーティアが着席し、折角なのでと果実水を運んでもらいそれぞれに配膳されてから話が始まる。

 

「現状、ツアレさんの治療はほぼ完了しています。 なので、元の生活に戻ってもらっても問題ありませんが……おそらくニニャさんの方が用意が出来ていないと思います」

 

「その通りです。 おっしゃられた通り、私は冒険者の駆け出しで稼ぎも十分とは言えませんし、村を出てしまったので住まいもありません」

 

「そこでなのですが、我々から一つ提案があります」

 

「提案ですか?」

 

「はい。聞けばニニャさん、貴女には生まれながらの異能(タレント)がありますよね?確か……魔法適性でしたか」

 

「ど、どこからその話を?」

 

「それは秘密とだけ。 それでなのですが、そのことを知った帝国魔法省がニニャさんのことをスカウトしたいという話がありまして。

 勿論、スカウトにあたって住居も用意し、給金も相場より多めに支払うとのことです」

 

「それ、は……」

 

 条件としては破格だ。冒険者として細々と稼ぐよりも安定していて、かつて村にいた頃よりもずっと裕福な暮らしが送れるかもしれない。

 しかし、甘い話には裏があると賢いセリーは知っていた。

 

「……何が目的ですか?」

 

「と言うと?」

 

「これでは私たちに条件が良すぎます。姉を盾に私に魔法省に入ることを強制している風に思えます」

 

 並の人間ならこの話に飛びつくだろうがセリーはツアレを過去失った経験から警戒する。また引き離されるのではないかと。

 あの領主と同じ様に今度は私のことを思うままにしようとしているのではないのかと。

 

「……なるほど、こちらの配慮不足でした。申し訳ありません」

 

「あ、アレーティアさん!頭を上げてください!」

 

 すると、アレーティアは頭を下げて謝罪する。

 それを見たツアレは慌てて立ち上がり、頭を上げる様に促した。

 数秒後に頭を上げたアレーティアだったが、少し落ち込んでいる様に見えた。

 

「いえ、話を受けて説明したのは私ですし、そういう考えに至らなかった私の想像力不足です重ねて申し訳ありません」

 

「そんな……アレーティアさんは私たちにとても良くしてくれたじゃありませんか……」

 

「そう言ってもらえるだけありがたいです。

 後、今回の奴隷被害者の方には見舞金として高額の金銭が旧王国の国庫から支払われることになります。 後々手続きがありますので、それはあちらにいるエルフの神官のロータスへお聞きください」

 

「分かりました」

 

「では、一通り説明は終えましたので私はこれで。

 あ、元の生活に戻るかどうかは今日中に決めろということではありませんので、お二人でじっくり話し合った後に話していただければ結構です。 では失礼します」

 

 

 そうしてアレーティアはその場を去っていった。

 後に残されたのは姉妹だけ。

 

 

 

「……セリー、これからどうするの?」

 

「姉さんこそ、どうするつもりなの? 私としては一緒に暮らしたいと思っているんだけど……」

 

「そうね……一つ、夢が出来たの」

 

「夢?」

 

「ええ、私たちを救ってくださったアレーティアさんの様に私も誰かの救けになれたらいいなって」

 

「それってつまり……」

 

「神官を目指そうと思うの。神殿に入って、魔法を覚えて……どれぐらい時間がかかるかは分からないけれど」

 

「……いいんじゃないかな。 姉さんは神官を目指して、私は──十三英雄が持っていた漆黒の剣を発見できるぐらいの魔法詠唱者(マジック・キャスター)を目指すよ」

 

「あら、じゃあさっきの話──」

 

「そうだね、少し話し合って──冒険者としても両立できないか相談してみる。 それで、姉さんが良ければ──また一緒に暮らそう?」

 

「……勿論よ」

 

 

 こうして、再会した姉妹は帝国魔法省のスカウトを受け入れ、スカウトの条件を相談した結果、帝国で最も治安が良く安全なエ・ランテルに住居を貰い、同都市に築かれる予定の魔術師組合を取り込んだ魔法省支部へと籍を置くことが決まった。

 セリーは自身の秘密を仲間に打ち明け、最初は戸惑われたものの受け入れられ冒険者として経験を積みつつ、高名な魔法詠唱者を目指す日々を送ることになる。

 ツアレはエ・ランテルの神殿に見習い神官となり、とある女エルフの指導の下、信仰系魔法の習得を目指し修練を積んでいる。

 

 彼女たち姉妹はようやく日常を取り戻すことが出来たのだった。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

「お勤めご苦労様でした、アレーティア様」

 

「あ~、ルミリア久しぶり。 元気だった?」

 

「ええ、エ・ランテルの方は特に問題ありません。 むしろ今は旧王都の方が大変なのでは?」

 

「そっちはラナーが全面的に対応しているから問題ないですよ。 しかしまあ、今回の一件は少しばかり疲れましたね」

 

 

 私、アレーティアは一ヵ月程旧王都の神殿で働いていました。素顔を晒して女神官という建前で。

 何故かと言えば……鮮血騎士であるロバーデイクからどうにもならないと報告を受けたからです。

 

 駆けつけ報告を受ければ、外傷は癒えたものの精神に負ったダメージが癒えておらず〈獅子ごとき心(ライオンズ・ハート)〉でも一時しのぎにしかならないと。

 それに、仮に精神操作系の魔法を使えば人格にどのような影響を及ぼすか分からないと泣きつかれてしまいました。

 こればっかりは仕方がないと私が一肌脱ぐこととなり──職業編成を全て神官系統へと変え、長丁場になることを予測しエ・ランテルの神殿で勤めている元奴隷エルフ達を呼び寄せサポートを頼みました。

 

 そして、生まれながらの異能で不眠不休で動ける特殊技能(スキル)を獲得し、現場へと臨みました。

 

 そこでツアレを発見したので、同時にニニャの捜索をティラに依頼し、後々鮮血騎士に引き込むためにフールーダに紹介し魔法省での教育の約束を取り付けました。

 

 後は多くの奴隷に寄り添い、さり気なく体に触れながら無詠唱で〈女神の接触(タッチ・オブ・ゴッデス)〉を使用し精神を癒していき、順次奴隷たちを快復させました。

 ただ、何人か──ツアレを含む奴隷は酷いトラウマになっており、ふとしたキッカケで精神の異常が再発するという事態も起きたため、苦肉の策で〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉と生まれながらの異能を併用することでその人物の記憶を封印するという措置を取り解決しました。勿論、本人の同意を得た上でやっているので、そこは安心です。

 

 なにはともあれ、これで奴隷の方は大体解決しました。珍しくちゃんと仕事した気分になりましたね。いや、いつも仕事はしてるんですけど!?

 

 

「それと、こんな書状がアレーティア様宛に届いていたぞ」

 

「ん?私宛に?」

 

 一体誰からでしょう?心当たりが……あっ。

 

「アズスからじゃなくて、そっちからアプローチしてきたか……」

 

 

 差出人の名前は──

 

 

 

 

 ツァインドルクス=ヴァイシオン。

 

 それは現代最強の竜王である白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)からのアポイントの依頼だった。

 

 

 

 

 





アレーティア
今回素顔を晒して女神官として奴隷の心を癒すまるで聖女様として活躍。
素顔を晒しているのは自身が女性であることを証明し、奴隷たちを傷つける相手ではないと認識させる狙いがあった。なお、ジルクニフの許可は当然取っていない完全独断。耳だけは隠している。
この為だけに習得した魔法がいくつかある。
女神の接触(タッチ・オブ・ゴッデス)〉は〈不死者の接触(タッチ・オブ・アンデス)〉の逆バージョンという設定のオリジナル魔法。
さり気なくアインズ様でも出来ない〈記憶操作〉のやり方をしている。
ニニャに言われたことが割と刺さって、もっと想いやった提案をするべきだったと反省している。


ツアレ
救われた奴隷の一人。
アレーティア同意の下、奴隷時代の辛い記憶は封印してもらったため、封印が解かれない限り思い出すことはない。
原作と違いメイドではなく神官を目指す道に入った。

ニニャ
本名はセリーシア・ベイロン。愛称はセリー。
時期的には多分師匠と出会って魔法を教えてもらい、冒険者となって活動し始めてそれなりの頃。
今後は冒険者として活動しながら、魔法詠唱者として高みを目指す。
原作でも生きていればフールーダの近くまで到達できるほどの器があると明言されているため、今後に期待。

ロバーデイク
自分の力で奴隷の女たちを救うことが出来ず、無力感に苛まれた。
この後、こんなことがあってもどうにかできるように精神系魔法の研鑽に勤しむ。

ロータス
元奴隷エルフ。オリキャラ。
アセロラたちと同じタイミングで救われた女エルフで、救われた恩を別の人間を救うことで返そうと考えた善人。
エ・ランテルの神殿勢力では大きな力を持つに至っている。その内神官長の座をもぎ取る。
他にも神官になったエルフもいる。


ツアー
次回、いよいよ接触……?


アズス
連絡がすれ違ってしまったために、何回か評議国と帝国を行き来することになってしまう悲しいおじさん。



感想や高評価もらえるとモチベーションが上がります!
平均評価前回の更新から0.03上がってて嬉しかったです!どうぞよろしくお願いします!



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Re:皇帝の大激怒 〜容赦無いボディーブローが炸裂!効果は抜群だ!〜



更新遅れました。詳しくは活動報告にて。


前回から評価がグーンと上がって満面の笑みは浮かべていました(笑)
お気に入り数も7000を超えて嬉しい限りです。

読者の皆様、ありがとうございます。



 

 

 

「だから、なんでお前は毎回毎回面倒ごとを持ってくるんだァァァァアアアアアアッ‼︎‼︎」

 

「へ、陛下落ち着いてください!」

 

「これが落ち着いていられるか!? ああッ!?」

 

「陛下、ガラが悪くなってますよ」

 

「誰のせいだと思ってる!?」

 

 

 開幕早々ジルクニフが激昂していますが、私は元気です。

 

 まず、何故ジルクニフがこんなに怒っているのか説明しなければなりません。

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)からアポイントの依頼を受けた私は一先ずジルクニフに報告すべく、皇城へと転移しました。

 一応、ツアーは評議国の永久評議員という名前だけなら会社の会長みたいな役職についているので、建前上こっち(帝国)のトップにも知らせないとマズいよなと思った次第で。

 手紙には「出来れば一対一で話したい」という旨が書かれており、万が一の事態があってもまたぶちのめせばいいかと考えていたので、それを伝えました。

 

 そこまでは良かったんですが、この報告を聞いたジルクニフは顔を真っ青にしていて「俺も行くぞ。お前だけに任せておくと何があるか分からん」と言い出す始末。

 

 更にここに新たなる爆弾が投下されました。

 法国の野郎共です。書状を送ってきてやたら小難しいことが書いてあった様ですが、要約すると──

 

 

「王国で起きた革命の夜。聖典がエルフの王女と白金の戦いを目撃。

 その戦いに勝利したエルフの王女について情報共有がしたいので、会って話がしたい」

 

 

 こんな感じの内容でした。

 それを読んだジルクニフが私を見ると同時に、私は目を合わせない様に──バイザーをつけているので目元は見えませんが──顔を逸らし、そして冒頭へと戻るわけです。

 

 

 

「そもそも何故法国にバレている!? お前に情報系監視の魔法の類は通じないはずだろう!?」

 

「多分ですけど目撃って書いてあるんで、あの戦いの場の近くに聖典がいたんじゃないですかね?」

 

「何故それでバレる? いつもの様に顔は隠して──」

 

「いや、バイザーを外してかつてのザイトルクワエとの戦いの様に本気で戦ったんで──あ、これ言ってませんでしたね

 

 十三英雄の白金こと白金の竜王と戦った報告はしましたが、顔を晒して戦ったとまでは言いませんでした。 うっかりしてましたね、反省。

 あ、ジルクニフが石になったかの様に固まってしまいました。

 同時にこの場にいた四騎士(現在三名)とフールーダも「やりやがったなコイツ」みたいな顔をしてこっちを見てきます。そんな顔で私を見るな。

 

「お、おま、お前……!」

 

 ジルクニフが怒りすぎて震えてます。

 ここは神殿の治療院でも使ったコレの出番ですね。

 

「陛下、とりあえずこちらを。 これの匂いを嗅げば少しは落ち着きますから」

 

「……なんだこれは?」

 

「私の領地の村で生活している、とある植物系モンスターから採取出来る素材で作った精神を安定させる香を放つマジックアイテムです。 効果は神殿で元奴隷の女たちで実証済みですのでご安心を」

 

 簡単に言えばアインズ様みたいに昂った感情を抑制してくれるタイプのマジックアイテムです。まあ、あそこまで強力ではないのであくまで気休め程度ですが、現場ではかなり役立ちましたね。

 

「……神殿?元奴隷?なんだその話は?」

 

 あ、やべ、神殿で素顔晒して仕事したこと報告してないですわ。

 

「……えっと、怒らないで聞いてくれます?

 

「内容による。 話せ、早く」

 

 ええい、ままよ!

 

「えーっとですね。 王国の娼館で働かされていた奴隷たちが身体は治療できたけれど、精神の方がどうにもならないと神殿勢力から鮮血騎士のロバーデイクに報告があり、私と神殿に勤めてるエルフを連れて一月ほど治療のお手伝いをですね……」

 

「顔や身分は?」

 

「身分は隠しましたが顔は素顔でやっちゃいました! あ、耳は隠しましたよ?」

 

 ジルクニフが両手で顔を覆いながら上を見上げ、そのまま動かなくなってしまいました。

 やっべえですね。ものすごく怒られる自信しかありません。

 

「……この際だ他に何か隠していること、報告していないことがあれば今すぐ言えさあ!!

 

 息つく暇もないぐらい早口で再起動したジルクニフが迫って来ました。目が血走って怖いんですけど!?

 

「あ~、その、隠していたわけじゃないんですけど、報告し忘れたことがそれなりにいっぱい……」

 

「~~~~ッッッ!!!!」

 

「へ、陛下落ち着いてください! 報告忘れはアレーティア様のいつものことではありませんか!? それよりも何を報告していないのかを吟味するのが先決かと!」

 

「そうですぜ陛下。 今更怒ったところでアレーティア様が変わらないのはご存知でしょう?」

 

 割と辛辣なことを言われてますが、ニンブルとバジウッドがどうにかジルクニフを抑えてくれました。

 ナザミとフールーダは静観してますね。いや、フールーダは新しいマジックアイテムに興味津々なだけでしたわ。

 

 一先ず二人の尽力で落ち着きを取り戻した(?)ジルクニフへ報告していなかったあれこれを話しました。

 

 中でもと言うかスマートフォンもどきには興味津々ですね。

 

「このマジックアイテムで特定の相手とだけ〈伝言(メッセージ)〉のやり取りができるなら、今後の諜報活動において他の追随を許さないレベルになるか?

 だが──」

 

「ガテンバーグの二の舞にならない様、使用には細心の注意が必要ですな陛下」

 

「ガテンバーグってなんですか?」

 

「なんだ知らなかったのか? 三百年程前にあった国で〈伝言〉による情報網を敷いていたが三つの嘘の情報で内乱が起き、不幸なことに他種族の侵攻が重なり滅んだ国だ」

 

「それ故に〈伝言〉を過信する者は愚か者と言われているのです。 今でも〈伝言〉を利用して一般の民を騙すという犯罪行為も一部確認されております。

 ……ですが、このマジックアイテムは素晴らしい。 登録した者同士でのみやりとりが出来るのならば虚偽の情報を流される可能性はグッと下がりますからな」

 

 あー、そんな話ありましたね。アインズ様は便利だからと〈伝言〉を多用していたけれど、フールーダと……確かアインザックでしたね、この二人にはあまり信用されずに合言葉を使ったやり取りなんかをしていて便利なはずなのに逆に不便になっていました。

 それだけこの世界では〈伝言〉を過信するのは危険だという常識となっているのでしょう。とはいえ〈伝言〉が便利な連絡手段なのは周知の事実。このスマートフォンもどきでそれが解消されれば……と思いましたけど、まだ少し早かったみたいです。

 

「問題は現状私しか作れないことですよね。 サンプルをいくつか渡すので魔法省の方で作れないか研究してみてください」

 

「おお、これはありがたい。 早速弟子たちに命じて量産に向けて研究させますが──アレーティア嬢が作り方を教えてくだされば良いのでは?」

 

「多分無理ですよ。 今まで私が作ったマジックアイテム、どれか一つでも作り方を教えて作れた魔法詠唱者がいましたか?」

 

 そう言うとフールーダが悔しげな顔をして俯いてしまいました。ただ、こればっかりは仕方ないと思うんですよね。 何せ私と帝国の魔法詠唱者では文字通りレベルが違いすぎるんですから。

 それでも私の指導のお陰か、はたまたフールーダが第七位階へ到達したからかは分かりませんが、高弟の中から限定的にではあるものの第五位階に到達した者が出たとか。

 その内の一人はエ・ランテルに頻繁に来るのでよく覚えています。 確かゾフィと言いましたね。今はカルネ村を中心としたモンスターと共生する村々で研究を重ねつつ魔法詠唱者としての技量も磨いているはずです。

 

「課題はまだあるとはいえ、これは朗報と言えよう。 これを量産し帝国の諜報部隊に持たせて各地に散らせば──帝国は周辺国家の情勢をいち早く獲得出来る

 

 ジルクニフが悪い顔をしています。 まあ帝国の強化に繋がりますからね。基本的には物理的手段──手紙などのやりとりが一般的ですし、それが全て魔法的手段に切り替えられればその恩恵は計り知れません。

 

「この件はエ・ランテルに魔法省の支部が出来上がってから続きを進めるとしよう。 でだ、話を戻すぞ」

 

「何の話でしたっけ?」

 

「白金の竜王と法国の先触れについてだ。忘れるな」

 

「ああそうでした。 まあ、白金の竜王には私一人で会ってくるんで、陛下は法国を顎で使ってズーラーノーンを始末させる方向へ誘導してくださいな」

 

「だから白金の竜王とは私も会うと言っているだろうがッ!!」

 

「いやだって……」

 

「なんだ?何か言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

 どっかの鬼の祖並みの威圧感出してくるんですけど、正直に言っていいんですかね?

 

「ぶっちゃけると……邪魔だなって

 

「…………」

 

「無言の圧を飛ばさないでくださいよ……。だって考えてみてください? 仮にも相手は始原の魔法(ワイルド・マジック)という真なる竜王しか行使出来ない魔法を使う相手ですよ?

 そんな相手と会って話すのに陛下を守りながらというのは正直無理があります」

 

「……一度その白金の竜王が操る鎧を倒したのだろう?なら」

 

「あの鎧程度なら問題ありませんが、あのレベルの鎧を操れる時点でそれより強いのは確定じゃありませんか。

 それに仮に交渉が決裂した場合、その場で血を血で洗う決戦になること間違いなしなので。 躊躇いなく私〈大厄災(グランド・カタストロフ)〉撃ち込みますよ?陛下そのレベルの戦いの衝撃に耐えられます?」

 

 〈大厄災〉を使うのを躊躇わないと言った時点で場の空気が凍りつきました。 まあ、私がそれを使うということは以前戦ったザイトルクワエ以上の強さは確実というのを理解出来たのでしょう。

 正直言えばツアーと戦うことになった場合、私でも勝てるかどうか分かりません。

 単純なステータス上の話なら生まれながらの異能(タレント)でバフ盛りして、特殊技能(スキル)で職業を唯々変えながら戦えば大抵の敵は倒せると思います。 しかし、相手は未だ詳細が多く語られていない世界級(ワールド)アイテム無しには対抗出来ないであろう始原の魔法を使う上に、何かしらの縛りをかけていて縛りなしなら世界最強という肩書きを持つツアーです。

 鎧とアインズ様(偽物)との戦いでも偽の情報を掴まされていたとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。油断は禁物です。

 なので、その場にジルクニフがいると護りながら戦わないといけないので集中できないんですよね。 護衛用のモンスターでも召喚すればいいとも──クソ親父が好んで召喚しているベヒーモスみたいなのを──思いましたが、それをするぐらいなら私のサポートに回したいんですよね。

 

「そういうわけで私一人で会うことにします。 評議国との国交関連の話になった場合は私には手に負えないので、後々書状を出してもらうことにしましょう。 その時はよろしくお願いしますね」

 

「……分かった、最早この件については何も言うまい。 ただ一つ言わせてくれ」

 

「なんでしょう陛下?」

 

「……死ぬなよアレーティア。 必ず生きて帰ってこい」

 

「ええ勿論。 万が一、なんて事態にならない様に精一杯努めてまいります」

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

 アレーティアが話は終わったから帰ると転移した後、ジルクニフの私室ではそのまま法国への対応をどうするかの検討会が行われた。

 結果、エルフの王女については知らぬ存ぜぬを通し情報を全て聞き出したうえでエルフの王女──アレーティアと敵対するような話を持ち掛けられた場合、表向きには協力するふりをしつつ協力しないという方針に決まった。 逆に敵対ではなく友好を築くためという話ならば論外だ。人間至上主義国家のスレイン法国が、エルフの国と長い長い戦争を続けている様な国がいきなりアレーティアと友好関係を築きたいなどと口にしようものなら間違いなく裏がある。 どちらにせよスレイン法国は現状警戒するに越したことはない。

 そして何よりも当のアレーティアがスレイン法国のことを毛嫌いしているので、いい返事をすることなど余程のことがない限りないのだが。

 

 

「後はアレーティアが無事に帰ることを願うばかりだ」

 

「……陛下、前々から伺いたいことがあったのですが、お聞きしても構いませんか?」

 

「この場には私とお前たち(四騎士とフールーダ)しかいない。 多少の無礼も許そう。何が聞きたい?」

 

「何故アレーティア様をあれほど自由にさせているのですか? 正直申しますと……今の帝国において下手をすれば陛下よりもアレーティア様の方が影響力が大きいと愚考します。

 エ・ランテルにも何度か伺いましたが、あの都市の発展具合は最早帝都アーウィンタールに比肩する……いえ、今後のことも考えれば上回るでしょう。 更に言えばあの方が抱えている戦力も我々四騎士……ナザミさんは別としてもそれらを上回る者を多く揃えている例の鮮血騎士と言い、武力、経済でも敵うとは思えません。 ならば、せめて陛下の威光を示すためにも何かしらの枷を付けておくべきではありませんか?」

 

 ニンブルの発言に場の空気がシンと静かなものになる。 確かにアレーティアが抱えている人材もマジックアイテムも優秀を通り越して逸脱しているものがほとんどだ。

 仮にアレーティアが反旗を翻した場合、ジルクニフ及びバハルス帝国の敗北は必至だろう。 だからこそ、ニンブルはアレーティアのことを上司として敬いつつ警戒していた。

 それに対してジルクニフの回答は──

 

「アレーティアに枷をつけようとしても無駄だ。寧ろ反感を買うだろう。

 逆に自由にやらせて後始末をしてやった方が恩を感じて従ってくれる。

 それに──アレーティアが裏切ることなど決してない」

 

 アレーティアに対する絶対的信頼だった。

 長く仕えているナザミとバジウッド、そしてジルクニフと同等の付き合いがあるフールーダはアレーティアという人物のことをよく理解している。

 しかし、ニンブルは比較的付き合いはまだ浅い方でエ・ランテルにアレーティアが本拠地を移してからは接する機会が大幅に減ったことがこの疑念をもたらしたのだった。

 

「確かに、アレーティア個人が有する力は間違いなく帝国そのものを上回る。より強固になったエ・ランテルの三重城砦も正直過剰じゃないかと思ったりもしたが……それには必ず意味がある」

 

「意味があるっていうのはどういうことですかい? 俺はアレーティアサマの趣味趣向でエ・ランテルはああいう風になったと思ってたんですが」

 

「その可能性も……ないとは言い切れないが、アレーティアはああ見えて本当に無駄なことはしない女だ。

 愚かな旧時代の遺物である貴族たちの粛清に始まり、帝国騎士の武具の調達にドワーフ国との国交、霜の竜(フロスト・ドラゴン)を三匹従えた上にマジックアイテムの開発、王国の併呑など功績を上げればキリがない。

 それでなお満足せずエ・ランテルを発展させているのは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これから来る何か……ですかい?」

 

「そうだ。 ここ数年──特にエ・ランテルを与えてからそれが顕著に見えている。 忌々しいあの女とも話したが、明らかに数年以内に何かがあるのは間違いない。

 それが一体何なのかは分からないが、ソレと場合によっては激突する可能性があると考えているのだろう。

 だからこそ、私は──いや、俺はアレーティアを自由にしている。 それが帝国に利益をもたらすと判断したからだ」

 

 ジルクニフはアレーティアを絶対的に信頼していた。十年近い付き合いの中で振り回されることも多かったが、それでもただの一度もアレーティアは裏切ることなく側に仕えてくれていた。支えてくれていた。

 ジルクニフは少し思い返す、アレーティアが来る前のことを。

 

 ──アレーティアが来るまでは護衛がいても日夜気を張り続けていた。

 ──アレーティアが来るまでは食事の時間すら毒に怯えなければならなかった。

 ──アレーティアが来るまでは歳の近い友人などいなかった。肉親は皆処刑したから。

 ──アレーティアが来るまでは味方は騎士とフールーダしかいなかった。

 

 それがアレーティアが来てからはどうだったか?

 

 彼女が終日身の回りを警護することで、この身に傷がつくことは一度もなかった。

 食事の時間も共にし、さり気なく彼女が自分の皿と私の皿と取り換えていたのを後から知った。

 彼女に毒は効かないからと毒のある皿を自分に移していた。

 執務の時間、彼女は警護をしながら自分と友好を築こうと勉学に励みながら、さり気なく質問という体で会話を試みてくれていたことも知っている。

 一度は騎士たちとの間に軋轢が生じたが、彼女が動いたことでその軋轢はなくなり、むしろ騎士たちとの関係もよりよくなった。

 

 多くの迷惑をかけられたこともあったが、逆に多くの恩も感じている。

 

(だからだろうか、無意識にアレーティアに惹かれていたのは)

 

 かつて、アレーティアが置手紙を残し半年ほど姿を消した際には激しく動揺した。思わず後宮でロクシーに愚痴ってしまったほどには。

 そして、ロクシーに告げられたのは「自分の気持ちに気づいていないのか」という問いかけ。

 それをきっかけにアレーティアへの感情を理解し、受け入れた。

 

 

「そこまでおっしゃられるなら、私からはこれ以上言うことはありません。 出過ぎた真似をしてしまいました。申し訳ありません」

 

「構わんさ。 お前の言うことも尤もだからな。

 ……さて、私たちも出来ることから始めようか。 まずは法国との会談からだな」

 

 惚れた(アレーティア)に負けないよう、今日も皇帝(ジルクニフ)は政務に励む。

 

 

 






アレーティア
ここぞとばかりにジルクニフの胃にストレートを叩き込んだ張本人。
ジルクニフが荒れるぐらいには効果は抜群。怒られて反省はする。するだけ。
なお、公にはサフォロンと卵から孵ったフロスト・ドラゴン二匹を支配下にしているがアゼルリシア山脈のオラサ―ダルク一家を支配していることは教えていない。
次回いよいよ……?

ジルクニフ
胃にストレートどころかボディーブローを叩き込まれて滅茶苦茶キレた。報連相は大事。
一応アレーティアのことはラナーより理解している。していると言え(脅迫)
なお、アレーティアを自由にやらせている最大の理由は貴族教育で一度逃げられたのが相当堪えたから。
それから仕事は任せるけど、基本的に縛るようなことはさせていない。
今回割と重めのアレーティアへの感情を零したが、何度も何度もしつこく書くようでジルクニフには大変申し訳ないが、ナザリックが来る世界線でアレーティアと結ばれることはありません。
仮にナザリックが来る世界線で結ばれるとしたら、条件としてまず帝国が滅んで、アレーティアが大切なものを全て失った場合。 原作のラナーとクライムとはまた違う感じ。
書くとしたらバッドエンド(ビターエンド?)番外編。

ニンブル
アレーティアを尊敬しつつも、あまりに自由にやっているのをずっと疑問に思っていた。
疑問は解消されたものの、これから来る何かについて考えることに。

バジウッド
もう早く告っちまえばいいのにと温かい目でジルクニフを見守っている。
奥さんたちとの仲は良好。

スレイン法国
「あの忌々しいエルフの王女が白金の竜王が操る鎧を倒したと報告が!」
「アレを退けられるとは……いよいよ本格的に我々もヤツを排除しなければならなくなったな」
番外席次(あの娘)を含む漆黒聖典を動かすか?」
「いや、それよりもまず先にヤツが現れた場所を統治することになった帝国に接触してヤツのヤバさを共有しよう!」
「もしかすると粛清騎士を動かして処理してくれるかもしれんし」
ザックリこんな感じの会議をしていた。
カイレを含む漆黒聖典が動く用意は出来ている。番外席次は現状お留守番。
なお、粛清騎士=エルフの王女には気づけていない。
理由はドラゴンに乗って粛清騎士が王宮に突撃してから動きを見せていないため、王宮にいて指揮を執っていたと勘違いしているため。
まさか拉致されていたなんて思いもしない。

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アレーティアと白金の竜王 〜今明かされる衝撃の真実〜


予想以上に筆が乗ったので更新。

感想でバラしてしまったので、ここでもバラします。

ジルクニフがアレーティアとナザリックが来る世界線で結ばれる為には、ナザリックにアインズ様が不在であることがまず第一条件です。
第二に、悪魔の襲撃でエ・ランテルが崩壊することが第二条件。
第三に、帝都まで悪魔が襲撃してきていよいよ国が滅ぶって時にジルクニフを部下である騎士たちやロクシーに託されて亡国することになるのが第三条件です。
要は亡国の吸血姫ルートですね。 これが一番のバッドエンドかな?


今回、オリジナル要素かなり強めですのでご注意を。


 

 

 白金の竜王ことツアーとの対面の日、アズスが態々迎えに来て──諸々の事情で私とツアーとの便利な連絡役になっていました──対面の場へと案内するとのことで、先導させていたのですが……。

 

「アズス、遅いです。 もっと速く出来ないんですか?」

 

「無茶言わないで貰えないか? これでも鎧パワードスーツの最高速度だぞ?それに着いて来れる速度の〈飛行(フライ)〉が出来るあなたがおかしいと思うんだが……」

 

「パワードスーツもその程度の速度しか出せないんですか、少々ガッカリですね」

 

 どうせなら幾つかのパーツをパージして真っ赤になって三倍の速度で動けたりしたらロマンがあって大変よろしかったのに。

 いや、これから作ればいいんです。ツアーとの対談が終わり次第、アズスからパワードスーツを貸してもらうことは決定しているので、ドワーフ達と研究するのが楽しみで仕方ありません。

 その為にはまず無事に生きて帰る必要がありますけどね。

 

「アズス、ちょっと失礼しますよ」

 

「えっ?お、おい辺境侯何をッ!?」

 

「私が貴方を抱えて飛ぶんで、ナビゲートお願いします」

 

「ちょっ、待ってくれ! 抱えてるんじゃなくてそれは襟首を掴んで──」

 

「行きますよー? 〈噴出移動(ジェットムーブ)〉」

 

「どわあああああああぁぁぁぁぁぁ…………ッッ‼︎‼︎」

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「ようやく着きましたね。 途中でアズスが根を上げなければもっと速く着いたんですけど」

 

「勘弁してくれ……あのスピードに長時間耐えられるのはアンタぐらいだろ……」

 

 何を言ってるんですかね?パワードスーツ着てるんですから、アレぐらい耐えられないとダメ──そういえば耐久面はそんなに高くないんでしたっけ? アルベドパンチで結構なダメージ負って豆腐みたいに脆いって言われてましたもんね。

 仮に私が明けの明星(ルシファー)使って武技無しで全力で殴ったらどうなるんでしょう?原型留めますかね?

 

 おっと、そんなことを考えている場合ではありませんでした。

 着いた場所は旧王国と評議国の国境付近の山脈にある渓谷でした。

 

「悪いが案内はここまでだ。ここから先は道なりに沿っていけば着くらしい。

 ツアーは一対一で話したいって言っていたからな。俺がいたら邪魔になるだろう」

 

「本当に一対一ならいいんですけどね」

 

 某ロボットゲームみたいに『騙して悪いが』なんてことがないことを願うばかりです。

 まあ、そうなった場合命尽きるまで暴れまくりますが。

 というか、アズス以外の迎えを出してくれません? むしろお前が来いって今更ながら思ってしまいました。

 

 とりあえず、渓谷を進み辿り着いたのは何かしらの拠点の様な場所でした。よく観察すると何らかの魔法による防御が──隠蔽も兼ねてる──施されています。

 アニメでもこんな場所に見覚えはないんですけど、ここにツアーがいるんですかね?

 

『ようこそ、私たちの隠れ家へ』

 

 現れたのは──あれ?私が破壊したあの鎧? 私の無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入っているはずでは?

 

『驚いているようだね。 なに、私が操る鎧は一つではないということさ』

 

 ……え?あの鎧他にもあるんです? 初耳なんですが?? もう鎧もないだろうし本体とご対面だと思ってたんですけど。

 ──いや待て、逆に考えましょう。ここでアレを今度は半壊しない程度に体力を削り切れば丸々私のものになるのでは?

 

『……一応言っておくんだが、君と争う気は無いんだ。 だからその「今度こそ倒してやる」っていうその姿勢をやめてもらえると助かるんだが……』

 

「いやだって、一対一で会いたいって言う割には鎧で来ますし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この場所は貴方が用意した場所ですし、てっきり今度は私を囲んで叩こうって寸法かと」

 

『そこは申し訳ない。だが私本体は諸事情であの場を動けなくてね。この様な対談になることをどうか許してもらえないだろうか?

 勿論、まずは君への労いへの対価としてこちらを差し出そう』

 

 すると、どこからともなく大きな宝箱がやってきました。 私の目の前に鎮座した宝箱は独りでに開き、その中身を披露しました。

 中にはかなり純度の高い宝石類がギッシリと積められていました。〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉を無詠唱で発動し更に〈看破(シースルー)〉を併用し罠がないかを確認。

 ……一先ず罠はなさそうですが、正直言ってそんなに嬉しくないんですよね。精々贈り物に使うかマジックアイテムの装飾に使うかぐらいしか使い道が……。

 

『あまりお気に召さなかった様だね』

 

「そうですね。宝石類よりも欲しいものは沢山ありますから。 でも、貰えるものは貰っておきますね」

 

『そ、そうかい……。 さて、立ち話もなんだろう?よければ掛けてくれ』

 

 誘導された方には円卓と幾つかの椅子が鎮座しています。私とツアーは対面になる様に椅子に腰掛け、いよいよ対談が始まりました。

 

『まずは謝罪から。 先の革命で私とアズスが君に対して大変無礼なことをしてしまったことをお詫びする。

 ただ、先も言った様に君と事を荒げるつもりはなかったことは、どうか理解して欲しい』

 

「その話はアズスからも聞きました。貴方があまり乗り気でなかったことも。

 ……ただ、いきなり背後に現れて拉致して脱走出来ないように監禁するのは些かやり過ぎだったのでは?

 

『返す言葉もない。 あれは私の判断ミスだった。結果的に君の怒りを買ってしまい、取り返しのつかない事態を招いてしまった』

 

 取り返しのつかない事態? ……ああ、鎧が見るも無惨なことになったことですね。

 ツアーとしても予想外だったんですね。

 

『その件の君個人への詫びの品を考えたんだが……先程の品があまりお気に召さなかった様だし、何か希望のものはあるかい?』

 

「……なんでもいいんですか?」

 

『……ああ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんかすごい意味深な言い回しですね。ここで私のことを見極めようとしてます?

 んー、ツアーが持ってる欲しいものと言えば、まず一番に彼が守ってるギルド武器ですね。まあ、これは絶対渡さないでしょうし口に出した途端に敵対ルート待ったなしです。

 次に欲しいものと言えばツアーの操る武器鎧一式です。目の前にある鎧の様にスペアがあるなら一つ貰いたいですね。

 そして最後、正直これが本命です。

 

()()()()()()()()()──」

 

『──ッ!!』

 

 え?なんです?そんな身構えて?やっぱり私を殺そうと?

 

「突然身構えてどうしたんですか?」

 

『……すまない。続けてもらっていいだろうか?』

 

「いきなり襲いかかってきたりしないでくださいね?

 私が欲しいのはかの八欲王の最後に残した都市エリュエンティウにある超級のマジックアイテム。 十三英雄だけが持ち出すことを許されたと言いますが、貴方なら持ち出すことが出来ますよね?」

 

 これぐらいなら許されるでしょう。 エリュエンティウは間違いなく八欲王のギルド拠点。そこにあるアイテムはほぼ間違いなくユグドラシル由来のもの。使い物にならなくてもこれから来るナザリックへの贈り物として使える可能性も十分にあります。

 エリュエンティウには世界級(ワールド)アイテムと思われる〈無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)〉もありますが……これは無理でしょうね。万が一得ることができた場合、最大の切り札になりそうですけど、同時に争いの種にもなりそうです。

 

『……君は自分の出自を知らないのか?』

 

「はい?私の出自?」

 

 なんで急に私の身の上話に?

 

「……私はこの通り、エイヴァージャー大森林にあるエルフ王の血を引いたエルフですよ。 父と同じく、王の相というものを受け継いで生まれましたが」

 

 バイザーを外し、素顔を晒した私はツアーをジッと見据えます。相手はあくまで鎧なので反応は窺えませんが、それでも私からの視線は感じているはずです。

 

『知っているのはそれだけかい?』

 

「ええ、後知っているのは祖父が凄まじい強さを誇った軽戦士だったというぐらいですね」

 

 祖父の話をする時はあのクソ親父も童心に帰ったかの様にキラキラとした顔で語っていた。余程すごい人物だったらしいのですが私の原作の記憶にはそう言った人物の存在は無いので、もしかすると今後の続刊で──確か次の副題が『半森妖精の神人』だったのでそこで語られたのかもしれません。

 

『そうか──どうやら杞憂だった様だ。重ねて失礼な態度をとってしまって悪かったね。 ただ──エリュエンティウにあるマジックアイテムは渡せない』

 

「とりあえず無理なのは分かったんですけど、そういう態度をとった理由を教えてくれませんか?

 一々何かに警戒しながら話すのも面倒なので」

 

 一応謝罪される立場なのにどうしてこうも警戒されるのか。私がプレイヤー並みの力を持っているから警戒するのは分かるんですけど、どう見てもそれだけじゃないんですよね。

 

『……いいだろう。どの道、君には話さなければならないことだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ん?他の竜王が?どういうことでしょう?

 

『君の祖父であるエルフは──五百年前、この世界に現れ世界を歪め、汚し、一度は大陸を支配した悍ましい存在。 即ち、八欲王と呼ばれる者の一人だ

 

「……………は?」

 

『その驚き方は本当に知らなかった様だね。 そういう訳で八欲王の血を引く君に彼らの拠点であるエリュエンティウの品を渡すことが出来ないんだ。

 もしもあの都市にいる彼等に君の存在を知られたら……分かるだろう?』

 

「ちょっと待ってください。頭の中を整理しますんで」

 

 は?私が八欲王の子孫!?嘘でしょ!?直系なの!?

 でもクソ親父は祖父のことをエルフの大英雄だって──あー、語る者が違えば中身も変わるってやつですか。なんてことをしてくれやがりましたか。クソ親父が祖父は八欲王と呼ばれてとか言ってくれていたらもっと早く気づけたじゃん!私の存在自体ツアーとか他の竜王からしたら厄ネタそのものじゃん!

 ん?つまり、クソ親父の血を引いてるであろう腹違いの姉の番外席次も八欲王の血を引いていることになるってこと? 確か六大神って八欲王に殺されたんじゃ──あー、だから当時冷遇されてたみたいな話を神官長たちがしてたんですね。 そりゃあ、私のことも率先して殺しにきますわ。宗教上の最大の敵みたいなものじゃないですか。

 知りたくなかったけど、この場で知れてよかったと思うべきか……。

 

『だ、大丈夫かい?』

 

「はい、大丈夫です」

 

 正直とんでもない情報の爆弾を投げつけられた気分です。

 あ、これがジルクニフの気持ちか。言葉ではなく心で理解しました。次からはもう少し優しくしてあげましょう。

 

『私はエイヴァージャー大森林にその子孫がいることを知っていたが──あの森の中で暮らすなら見逃してもいいと考えていた。

 罪を犯したのはあくまで八欲王だからね。 私はそう割り切ったが……他の竜王はそうはいかない。特に“ぷれいやー”や“えぬぴーしー”を嫌う竜王はね』

 

「その穢らわしい血の一滴も残さないって考えであってます?」

 

『その考えで構わない。 そして、私は君が大森林から抜け出してから定期的に監視していた。“ぷれいやー”の血を覚醒させた君がこの世界に何をもたらすのかが気になってね。

 結果的に君は帝国に収まり、人のためにその力を振るっていた。無闇矢鱈にその力を振り翳したかつての八欲王とは違うと判断した。

 だから、今まで手出しすることはなかったんだが、先の革命で接触する機会を得た。 そこで君を見定めようと思ったんだが……』

 

 それはツアーが悪い。 わたし、わるくない。

 突然拉致されたら誰だってそうしますから。 しますよね?

 

『結果として手痛い反撃を受けてしまったが、君の実力と人となりはある程度把握出来たし、最後に君が残した言葉がまだ敵対関係まではいっていないと受け止めた。

 だから、かつての魔神戦争で私たちが使っていたこの隠れ家に案内したんだ』

 

 ここ十三英雄たちの隠れ家だったんですね。イビルアイとかも知ってるんでしょうか?

 

「理由は分かりました。 エリュエンティウ関連の品を渡せない理由も。

 とはいえ、そうなると別のものならいいってことですよね?」

 

『そういうことになるね。 さあ、何を望む?』

 

 そういうことなら武器鎧一式が欲しいんですけど……ああ、そういえばああいう品もありましたね。

 

「始原の魔法で作られたアイテム……なんてありますか?」

 

 そう、原作ではガゼフが持っていて最終的にクライムが着けていたあの指輪みたいな始原の魔法によって作られたマジックアイテム。

 レア度で言えば下手するとユグドラシル由来のアイテムより高いはず。

 

『あるとも。 ただ数はそんなにないから全て欲しいと言われても困ってしまうな』

 

「では、二つでお願いします。両手に一つずつということで」

 

『ああ、分かった。少し待ってくれ──〈道具転送〉』

 

 なんらかの始原の魔法を発動したツアーの手には六つの指輪がありました。

 赤、青、黄、紫、白、黒とそれぞれ別の色の宝石が輝いている指輪です。緑がないのは──ああ、確かアニメであの指輪は緑でしたね。

 二つ貰えるのでどれにしましょうか。とりあえず〈道具上位鑑定〉で性能を──

 

『どれにする?』

 

「では……この二つで」

 

 そうして超希少アイテムである二つの指輪を得ることが出来ました。いやもう、これだけで大満足ですね。 この後にはパワードスーツの研究も待ってますし、内心ウハウハです。 私の生まれのルーツなんてどうでもよくなりました。

 

『それは竜の秘宝。同じものを作るのはもう難しくてね。 丁重に扱ってくれ』

 

「分かってますよ! ……それで、これでお終いではないでしょう?」

 

『……そうだね。ここからが本題だ』

 

 少しばかり空気が引き締まったのを感じました。ここまではあくまで私に対する謝罪でしたが、ここからは恐らく……

 

『君とは今後とも良い付き合いをしたいと思っている。

 君のその力、是非世界のために使って欲しい』

 

「つまるところ、貴方の協力者になれということですね」

 

 正直、私は現時点でこの世界でも最上位の強さを持つと自負しています。ツアーを退けられる程度には強いのは確実ですし、プレイヤーしか使えない超位魔法に加え、現状私しか使い手がいない刻印魔法(ルーンマジック)もあります。

 そんな相手を実質野放しにしておく訳にはいかないのでしょう。

 

『そういうことなんだが、どうだろうか?

 勿論、協力してくれるというのなら私も色々と便宜を図れる。

 例えば、他の竜王と何かしら不利益が生じた際には私が間に立とう。 他にも私は多くの地で組織運営の実験をしていてね、その地における特有のアイテムや技術なども提供出来る』

 

 

 正直、悪くない話だとは思います。

 ツアーは世界各地に拠点を持っていると最新刊に書いてありましたし、私が知らない場所にある素材や技術が得られるのであればこれ以上ないアドバンテージを得られます。

 ただ、協力する代わりに何をさせられるかが気になるところです。

 

「悪くない話だとは思いますが、私に何をさせるつもりですか?」

 

『君は普段帝国で騎士として、貴族として働いているのは知っているからね。 世界を巡ってくれともいう気はないさ。

 主に私のサポートをお願いしたいのと……ここ数年で起こるかもしれないとある事象が起きた際に、八欲王の様な存在が現れた時に一緒に戦って欲しいんだ』

 

 ごめんなさいツアー。あと二年しない内にナザリックがやってきます。なんだったら世界征服する気満々にNPC達が動き出します。

 私がナザリックと戦うってなったら敗北不可避では?一対一ならなんとかなっても、ナザリックに勝てるかと言われれば……。

 やっぱり、あのタイミングで出会うことが必須ですね。毎日〈星に願いを〉でもしてタイミングが合いますようにとでもお願いするしかない気がしてきました。

 

「……万が一の場合は私は私の事情を優先しますけど構いませんか?」

 

『ああ、それで構わない。 君という個人が味方になってくれるなら、これ以上ない頼りになる』

 

「分かりました。 今から私たちは協力者です」

 

『ああ、共に世界のために協力し合おう』

 

 そうして私とツアーは握手を交わし、その後はルーンについて聞かれたり少しばかり情報交換して事なきを得ました。

 ジルクニフにも今回はちゃんと一報を入れたので安心ですね。

 

 さあ、アズスを連れて帰ってパワードスーツの研究に入るとしましょうか!

 

 

 

 





アレーティア
遂に自分が八欲王の血筋だと知ってしまう。流石に予想外過ぎたとは本人の談。
だからといってやることに変わりはない。いつも通り。
ついでと言わんばかりに超希少アイテムである始原の魔法の指輪を手に入れている。何色でどんな効果かはまたいずれ。
この後、アズスとツアーを振り回すのは確定事項。

ツアー
思いっきり下手に出て、あえて超希少アイテムである指輪を二つも渡すことで、勧誘を断りにくくした。
結果的に特大戦力を得ることに成功したが、この後アレーティアに散々振り回されることになる。
どこかの皇帝「ようこそ、こちら側へ」

十三英雄の隠れ家
オリジナル設定。二百年前の戦いの際に作った拠点の一つ。ツアーやリグリットが管理しているという設定。

ツアーの鎧
この作品ではツアーの鎧が複数あることとして、その数は一パーティ分=六体とします。
なお、始原の魔法製なのでこれ以上は作れないし、ついでに言うとツアーでは直せない。
他の物作りに特化した竜王か神匠アレーティアぐらいにしか修繕できない。
(原作でもシャルティアのスポイトランスで刺された箇所が直っていなかったため)


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アレーティアのしょうもない絶望 〜ああ、これはそういう反応になるわ〜


今回でようやく数十話に渡る伏線っぽいものを回収出来る……。

あ、今回特に独自要素強めです。
詳しくは本編をどうぞ。

アンケートもありますので、回答いただけると助かります。


 

 

 

 

 

 

 

 突然ですが私は今絶望しています。

 

 

 

 

 

 

 ツアーとの対談を終え帰国し、スマートフォンもどきで思いついたようにツアーに連絡し各地方にある鉱石を根こそぎ集めてくれと頼み、ツアーの軽く引いた声を聞きながら私はアズスのパワードスーツと向かい合っていました。

 

 前世が男だった私の心をくすぐるパワードスーツ。 なんとしてでも、私の専用機を作ってやろうとありとあらゆる箇所を調べ、フールーダやドワーフたちの協力を得て──時折フールーダが何かの皮で何かしているのは見ないふりをして──データ取りから素材、構造などを調べ上げ出た結論。

 

 

 

 ──ユグドラシルの素材無しにはパワードスーツの作製は不可能という、信じたくもない現実が突きつけられてしまったわけです。

 

 

 

 当然、生まれながらの異能(タレント)による解決も試みたものの、某作品のように『それは無理な願い。異能で叶う範疇を超えている』という追い討ちが脳内に虚しく響きました。

 ならばならばと超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉まで使用し──経験値消費は異能(タレント)で経験値消費を補填して──これならばと期待したものの『それは無理な願い。叶えるならば()()()()()()()()()()()()()()』というどうしようもない現実を叩きつけられてしまいました……。

 

 私はかつてない程の無力感に襲われました。

 どんな困難も乗り越えてきて、ルーン技術から刻印魔法(ルーンマジック)という私にしか使えない技術(スキル)まで手に入れたというのに、パワードスーツを作ることは不可能という理不尽には抗えなかったのです。

 私の出自とかもうどうでもよくなってしまいました。 とりあえず報告したジルクニフたちが驚愕の表情を浮かべて、色々聞きたそうにしてるのをガン無視してパワードスーツに向かい合ったというのにこのザマです。

 

 とりあえず、パワードスーツのメンテナンス自体は出来たのでアズスを呼び出して返却するとしましょう。

 ついでにツアーから鉱石を受け取って来いとも付け加えて。

 私が取りに行くのが一番手っ取り早いんですけど、今は何もしたくない……いや、こういう時こそ何かに打ち込むべきなのか?

 手っ取り早く鮮血騎士を呼び出して稽古で鬱憤を……ダメですね、これじゃただの八つ当たりになってしまいますね。

 ではトブの大森林の──ああ、丁度いい癒し枠がいましたね。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

「姫〜!お久しぶりでござるな!」

 

「久しぶりですね『森の賢王』。 お元気そうで何よりです」

 

 はい、やって来たのはトブの大森林。ここに来る途中に襲いかかって来た〈愚か者()〉を〈土竜叩き〉で犬神家したことは置いておいて、オーバーロードにおける癒し枠である『森の賢王』ことハムスケ──まだ命名してませんが──に会いに来ました。

 

 彼女との出会いは王国との戦争が終わってからですね。

 トブの大森林近くのカルネ村は、今後色々な意味で重要拠点となる可能性が高いため、出来るだけ森の中を安全にしておきたかったので緊急避難用のエルフツリーを植えて育てたり、危険度が高いモンスターを騎士を派遣して訓練がてら退治させていました。

 しかし、ある日森に向かった騎士たちが帰って来ないと派遣していた魔法詠唱者(マジック・キャスター)から報告があり、現地へ向かえばそこには死んだ騎士たちの姿が。

 ここで私はようやくハムスケのことを思い出し、この辺りが縄張りだったことを完全に失念していたことに気がついたわけです。

 

 

『侵入者でござるな!? 目元を隠しているようでござるが、驚愕した様子までは隠せてはいないでござるな!』

 

『あ、私はこんな顔をしてますよ』

 

『なんと!エルフでござったか! だが、関係ないでござる!侵入者よ、命の奪い合いをするでござる!』

 

 

 と、こんな感じで接敵し──

 

 

『ひぃいいい……! そ、それがしの負けでござる!なんて強さでござるか……手も足も出なかったでござる……』

 

『いや、尻尾は出てましたよね?』

 

『それはものの例えというやつでござるよ』

 

 

 結果はもう想像通り、私が勝ちました。

 それでも〈愚か者〉より強いですね。アイツただの脳筋ですし、学習能力ありませんし。ゴ・ギンとどこで差がついたのやら……種族的にはゴ・ギンが異端なのは分かってるんですけどね。無いもの強請りというやつです。

 

 話が少し逸れましたが、これが私と森の賢王──ハムスケとの出会いです。

 それから命乞いをされたので、基本的に私に従うことと、帝国の紋章が刻まれた鎧や腕章を持つ人間は襲わない様に命じました。

 ハムスケはやはりというか〈愚か者〉より賢く

 

『了解でござる! それがしは今後、姫に従う忠臣になるでござるよ!』

 

 こんなにあっさりと主従関係が築かれました。強さのヒエラルキーというやつですね。一応獣なので強い相手には逆らえないというか……。

 

 それから、度々会いに来てはちょっと疲れた時や癒しが欲しい時に戯れています。見た目デカいハムスターなんで目の保養にもなりますからね。

 

「ひ、姫〜くすぐったいでござるよ〜」

 

「ああ、柔らかい……癒しです……」

 

 もふもふ、もふもふ……ああ、お腹が柔らかくて気持ちいいですね。

 毛もふさふさしています。今使ってるベッドより寝心地はいいですね。このまま寝れるまであります。(個人差があります)

 

「姫、何かあったでござるか? なんだかいつもより落ち込んでいる様に見えるでござるよ?」

 

 ハムスケは勘がいいですね。前世でもペットを飼っていると落ち込んでいたり、病気になっていたりすると側にいてくれたりするらしいので、それに近い物なんですかね?分かりません。

 

「いや、今まで挫折したことがなかったので、落ち込んだというか……」

 

「おお、そうでござったか。 それがしにはあまり分からないでござるが、あまり気にしすぎても良くないと思うでござるよ?」

 

「そうですねぇ……もふもふ」

 

 こうしてハムスケのお腹に顔を埋めて一度精神を癒してから今までのことを振り返ると、逆に今までが順調過ぎたのだと思えてきました。

 

 そりゃあ、エルフ国にいた時は毎日がデスゲームみたいな日々でしたけど生き残れましたし、帝国での生活基盤を築けたのも幸運にもフールーダと出会えたから。

 原作でルーン技術の扱いを知っていたからこそ、先んじて学び利用して私しか使えない刻印魔法を習得しました。

 他にもザイトルクワエとの戦いで一度は死にかけましたが、生きて帰れたのはこの異能のお陰です。

 ずーっと順調に物事が進んでいたので、いつの間にか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これはいけませんね。

 なにせ、ここはオーバーロードの世界。慢心や油断一つで命が容易く失われる異世界であり、今の私の現実なのですから。

 

 

「うーん、やはり悩んだ時はこうして癒されるに限りますね。 お陰で少し気持ちの整理が出来ました」

 

「姫が元気になった様なら良かったでござるよ!」

 

「よし、じゃあ少し遊びましょうか」

 

 この後めちゃくちゃ遊びました。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 ハムスケに癒され、遊ぶ事で無力感とおさらばしてから数日。

 ツアーから鉱石が届いたと連絡があったので、取りに向かいました。 アズスに取りに行かせるつもりでしたが、量が量なので断念。しかし、飛んで運べばよかったのでは……?

 残念ながら、そんなに珍しい鉱石はなく──アダマンタイトは十分珍しい分類なのですが──目新しい物はありませんでした。

 ともかく、現状帝国付近の山からは鉱石をほぼほぼ掘り尽くしてしまったので、無いよりはある方がありがたいんですけどね。

 鉱石自体値上がりしてしまっているので、ドワーフの皆さんがやりくりが大変だと言っていました。

 錬金術師の職業なら鉱石も錬成出来るのではないかと思ったものの、こちらは不可能でした。まあ、これが出来たのならユグドラシルでもレアな鉱石を時間をかけて増やすなんてことも出来たでしょうし、鉱山を奪い合うなんてことも起きなかったでしょう。

 

 とりあえず、鉱石も集まったので気晴らしに新しい武器でも作ろうかと思い、鉱石を保管している倉庫へ向かうと……目を疑う様な光景が私の目の前に広がっていました。

 

「………は? 鉱石がない??」

 

 そう、少なくともこの倉庫に保管していた鉱石を一日で消化し切るのは私でも無理です。倉庫の半分を占める程の量があったというのに、根こそぎ奪われたかの様にすっからかんになっています。一体何が……?

 

 そう思った矢先、倉庫の中心にぽつんと一つだけ残されている鉱石を見つけ──それが妙に存在感があると気づいたのはこの時でした。

 近づいてみればその存在感は増していき──そして、その鉱石に触れると()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさか……ね?」

 

 念の為に〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉を使用し、これが何なのかを鑑定すると──

 

 

 

 

 

 

熱素石(カロリックストーン) 世界級(ワールド)アイテム

 

 

 

 

 

 

 

 ……ええ?(困惑)

 これ世界級アイテムなの?なんだか有り難みもクソもない気がす──いやいや、どう考えても嬉しいんですよ?ただ現実を理解できないというかなんというか。

 確かこの熱素石の入手方法ってユグドラシルの超希少鉱石を大量に保有して、一定数消費したら入手出来るとかじゃなかったかな?

 そうなるとこれがここにあるのはおかしいんですけど……まさかですけど、ユグドラシルとは入手方法が違うか変わったのかな……?

 というかこれどうしよう……。ツアーにバレると厄介なことになるのは違いありませんし。

 

 

「……とりあえず、隠し持っておくことにしましょう」

 

 世界級アイテムであることには変わりないので、持っておくに限ります。

 これで法国の世界級アイテムも始原の魔法も警戒度がグッと下がりますから。

 とはいえ……根こそぎ鉱石が失くなった件、どう報告すればいいでしょうか?

 

 

 この後、めちゃくちゃ怒られました。 ラナーに。

 しばらくは補填するためにツアーにもっと鉱石を頼むのと同時に、ツアーの抜け落ちた鱗だとか爪を要求しつつ、私は私で評議国から幾らか鉱石を枯渇しない範囲で盗く──拝借してくることでことなきを得ました。

 ツアーには事後報告しましたが、その程度ならまあ……と目溢ししてもらったので万事解決ですね。

 なお、鱗や爪なんかは今後生え変わることがあれば譲ってもらえるそうなので、今後は竜王の素材で出来た武具も作れそうで楽しみが増えましたね。

 

 そうして、しばらくの間平和なひと時が過ぎていきました。

 

 

 

 

 

 

 

* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚ ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、前日譚は終わり物語は幕を開ける。

 

 

「素晴らしい──素晴らしいぞ!守護者たちよ! お前たちならば私の目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間、強く確信した!」

 

 かつての仲間が去り、『YGGDRASIL(ユグドラシル)』のサービス終了と共にギルド拠点(ホーム)ナザリック地下大墳墓と共に転移した鈴木悟ことモモンガは、かつての仲間の面影を残した──作り上げたNPCたちが自由に動き出した。

 

(過去の遺物などではない……皆がここにいる……。

 皆の想いの結晶は──今もなおここにある!!)

 

 骨の顔は変わることはないが、眼窩に宿る輝きは綺麗な赤みを強く宿していた。

 そうして、各階層守護者たちから異常がないかを聴取し──

 

「モモンガ様、至急お知らせしたいことが」

 

 セバスが小走りで向かって来る。姿を見せたセバスはモモンガの元まで来ると、他の守護者と同様に片膝をつき跪く。

 

「どうしたセバス。周囲の状況以外にも何か異常があったのか?」

 

「はい、実は──侵入者と思わしき人物がナザリック地下大墳墓の正面におりまして。

 ただ、こちらに敵意はない様でこの地の支配者であられるモモンガ様と話したいと……」

 

 

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 どうやらモモンガの異世界生活は波乱から始まるらしい。

 

 





熱素石(カロリックストーン)
世界級(ワールド)アイテム。原作での入手方法は七色鉱を大量に集め、それら全種を一定量消費することで入手可能だったが、この世界では入手方法が変わったという設定。
入手条件はこの世界で採掘される多種多様な鉱石を集め消費することに変更されている。
一見容易に見えるものの、消費量がとんでもない量になっている。具体的には初めてプレイヤーがこの世界に降臨してから誰一人として入手することが叶わなかったことから、その難易度は計り知れない。
これをアレーティアが入手出来た理由は、簡単に言えば漁夫の利。
六百年で消費された鉱石量に加えて、アレーティアが鍛治で鉱石を大量消費したこととドワーフを含む鍛治師が一気に増えたことで消費量が一気に増大し、ようやく消費量が入手条件に達した。
後はアレーティアがツアーから得た鉱石に加えて、元々保有していた鉱石が必要量に達した為、熱素石へと変化した……というのが真相。
余談ではあるがアレーティアはアゼルリシア山脈と旧王都周辺の鉱山は一部を除きタレントで掘り尽くしてしまっているため、鉱石の入手に少しばかり手間取ってしまっている。その内、スレイン法国へ不法侵入して掘り尽くしてやろうと検討中だとか。

プレイヤーが熱素石を入手出来なかった&入手できない理由
『アダマンタイトが最高? ユグドラシルの鉱石の方がレア度高いし、そんなの使わんわwww』
『七色鉱じゃないと熱素石は手に入らないしな……アダマンタイトはこの世界だとレアだけど、うーん……』
大体こんな感じ?


アレーティア
初めての挫折を味わい、初めての世界級アイテムを入手する。
現状、熱素石の使い道は世界の加護を得る程度に留まっている。というより、熱素石を使ったアイテムを作るにしろ、それに見合ったレア度の素材がないため加護を得るぐらいしか用途がない。
ハムスケは癒し。

ジルクニフ
とんでもない厄ネタをぶん投げられた上、当の本人が別のことに夢中になってしまったため法国との会談の話が出来なかった。
なお、法国には暗に粛清騎士を動かせた言われたので、適当に検討すると告げた上で逆にカジットとクレマンティーヌと言う手札を使ってズーラーノーンを掃討してこいとあしらった。

スレイン法国
実は国民が亜人やモンスターと共存しつつあるエ・ランテルに対して良い感情を持っておらず、不穏な空気が漂っている。
首脳陣は一応抗議の声明を出してはいるものの、粛清騎士を怒らせる事態だけは避けようとしている。

森の賢王
ジャンガリアン・ハムスター。トブの大森林におけるモンスター狩りを担っている。アレーティアの癒し。
地味に原作より強くなっている。フルアーマーガゼフに勝てる。

ツアー
早速振り回されている。物資的なアレで。
ついでに爪やら鱗まで寄越せと言われた彼の心境を答えよ。
【解答例】
自分に置き換えて髪の毛やら皮膚をくれって言われたらどう思う?それと同じだよ。

なお熱素石のことは何も知らされていない。知ったら尚更アレーティアが手放せなくなる。



これにて、原作前完結です。
ようやく原作合流です。長かった……!
もうちょっと色々書けたんですけど、長すぎるのもあれなのでカットしました。
総UA数も遂に90万突破!100万まで後少しですね!
ありがとうございます!

これからも拙作をどうぞよろしくお願いします。


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帝国ルート 原作合流 はめつのほうこく編
おいでませ、アインズ・ウール・ゴウン 〜第一印象で大抵のことは決まるらしい〜



お待たせしました。

一度書いたものを書き直して、プロットもどきを見直して、ACⅥにのめり込んでいたらこんなに遅れてしまい……。

原作が絡むと中々難しいですね。キャラも増えますし。

気づけば総合評価点も15000を突破してました。皆様応援ありがとうございます。

並びに、新作短編という名のオバロ×AC風作品を書いたりしたので、よろしければどうぞ。
https://syosetu.org/novel/330309/1.html





 

 

 どうも、アレーティアです。

 

 今私は何をしているかというと──

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック大捜索をしています。

 

 

 

 

 

 

 

 時期的にそろそろなんですよね。ただ、何時来るのかは明言されていなかったので、余裕そうに見えて割と必死です。

 何せタイミングを誤れば世界征服真っしぐらなのでね。ジルクニフが禿げてしまいます。いや、もう禿げはしませんけど心意気的な問題で。

 

 私がアインズ様──もといモモンガさんに会いたいタイミングは大きく分けて三つ。

 

 一つは転移直後の夜空を観て「キラキラと輝いて……まるで宝石箱の様だ」と呟くシーンですね。

 モモンガさんを楽に殺せるタイミングもここです。 デミウルゴスも共周りにいますけど、この時のモモンガさんは鎧を着ているので魔法が数えられる程度しか使えません。なので、速攻でデミウルゴスさえ戦闘不能にすれば、後はモモンガさんを追撃して叩きのめせばクリアです。その後、確か無条件で復活効果を持つ指輪が発動するので復活しちゃう上に異常を察知したナザリック勢がやって来るんですけどね。無理ゲーです。

 

 こんなことを考えましたが、敵対するつもりはさらさらありません。守護者と一対一なら私もどうにか出来ると思いますが、ナザリックという組織を相手にするとなるとどう足掻いても私一人では敵いません。

 この世界の強者を集結させても無理でしょう。1500人の侵攻を跳ね除けたあの難攻不落のナザリックには少なくとも有効な世界級(ワールド)アイテムを所持していて、かつ対抗出来るだけの組織力が無いと厳しいでしょう。

 そういう意味では私も八欲王の血筋という切り札を切れば、かの浮遊都市エリュエンティウを利用することは可能かもしれませんが、それは同時に真なる竜王たちを敵に回すことにもなるんで基本却下ですね。本当に切羽詰まった時はツアーに相談しますけど。

 

 

 話が逸れましたが二つ目の説明です。

 二つ目はカルネ村ですね。原作通り法国が帝国騎士に扮して村人たちを虐殺してガゼフの抹殺を企めば、やがて虐殺の光景とセバスを見てたっちさんを想起したモモンガさんが義憤に駆られ現れます。アルベドが共周りにいますが、ガゼフの様に村人を救ってもらったことを感謝しつつ、友好な関係を築ければ安心出来るかもしれません。

 ただ、この案は既に潰れています。今更法国がガゼフを暗殺する必要性がありませんし、何より騎士に扮して村人たちを虐殺しようものなら()()()()()()()()()

 一応、領地の村々には将来有望な──後に騎士爵位を与え王国の領土を与えようと思っている──騎士を常駐させていますし、なんなら魔法詠唱者や神官も重要度が高い村には配備しています。

 なにかしら不測の事態が起きた場合は私やルミリア、アセロラたちエルフにも即座に連絡が行く様にしてあります。備えは万全です。

 そんな状況で村を襲うなんて暴挙に出たら、大体は返り討ちに出来ます。まあ、余程愚かでない限りはこんなことするはずはないでしょうけど。

 

 

 そして三つ目は冒険者デビューをしようとしたモモンを捕まえることですね。

 ナザリックから最も近い都市はエ・ランテル。私の本拠地の一つです。このためにエ・ランテルは今や帝都アーウィンタールを凌ぐとも言われるほど発展させてきました。近々、魔術師組合を吸収して建設される帝国魔法省の支部も出来上がります。

 ……まあそういう建前でフールーダがこの都市に入り浸れる様に準備をしているみたいですが。 いやまあ、別にいいんですけど、帝都のこともジルクニフのことも忘れないであげてくださいね?

 なお、当然ですが冒険者組合も実質私の支配下に入っています。何せ、元々帝国では騎士たちが率先して危険なモンスターを倒して治安を維持してきました。それこそミスリル級以上でなければ勝てない様なモンスター以外は基本的に騎士たちが倒してしまうため、冒険者組合は閑古鳥が鳴くくらいには仕事がありません。

 そして、このエ・ランテルにおいては近隣のトブの大森林は森の賢王(ハムスケ)愚か者()、西の魔蛇という森の支配者を既に配下に加えているのと、カルネ村や周囲のモンスターと共存している村である程度の安全性は保たれているので薬草採取の護衛程度しか仕事がありません。

 平原に現れるモンスターなんかも定期的に騎士たちが巡回して狩っていますし、ミスリル級以上でなければ対応出来ないモンスターも鮮血騎士、もしくは私が直々に排除しに向かうので冒険者の食い扶持はほぼないですね。 精々カッツェ平野でアンデット狩りかエ・ランテルから帰る商人や貴族の護衛ぐらいじゃないですかね?

 そんな状況で組合長であるアインザックから泣きつかれて、ラナーやジルクニフ、ザナックや引退した冒険者を親衛隊として雇用しているレエブン侯を交えて協議し、結果冒険者組合は新しい形を取ることとなりました。

 

 

 これこそ、アインズ様が魔導国でやろうとしていたこと──未知の発見です

 

 

 真の冒険者として活動させるべくエ・ランテルを拠点として活動し始めた蒼の薔薇の方々に教導をお願いして若手の冒険者志望たちを育てているところです。

 私やジルクニフなど国の上層部は私が〈観測衛星(オブザベーション・サテライト)〉を用いたマッピングで高低差をかなり正確に把握した帝国周辺(旧王国含む)の地図を持っています。しかし正確なのはあくまで地表部で、地形などは判ってもそこに何があって何が生息していているかなどは把握出来ないため、こうしたところを埋めていって貰うのが目的です。

 場合によってはユグドラシルの遺産やそれに通ずるものの発見にも繋がる可能性があるので、ツアーにも支援させています。むしろしろって脅しました。 そうしたら今度、教導として知り合いのアダマンタイト級冒険者を紹介してくれるそうなので、楽しみにしています。

 

 そんなこんなで、原作においてモンスター退治専門の傭兵と言われ「夢がない」とアインズ様に失望されていた冒険者という職業は、多少夢がある仕事になったのではないかと思います。なので、アインズ様の琴線に触れるのではないかと期待もしています。

 とはいえ、やはりこのケースもカルネ村の一件があってからこそ、ナザリックがこの世界に対する情報収集兼この世界での金銭集めのために行われることであって、原作通りに進むか分からないので不確定なんですよね。

 

 ままならないなぁと思いながら星降る夜空を背景に〈飛行(フライ)〉の魔法でカルネ村から離れた平原を今日も飛んでいます。

 現れるならこの辺りのはず……毎夜毎夜転移しては夜が明けるまで〈観測衛星〉で周囲の地形に変化がないかなどを調べながら──あれ?

 

 少し離れたところに二つの人影が見えました。 こんな夜遅くに出歩いているのは何者でしょう?燕尾服を纏った老人とメイドが……って!?

 

 セバスとナーベラルじゃないですかアレ!? え、転移して来たの今日ですか!?

 おっかしいですね〜、今さっき使った〈観測衛星〉には何も引っかからなかったんですけど……もしかして、ナザリックってこういう魔法に対する防御とかされてます?なら仕方ないですね。

 一先ず、ナザリックの場所まで分からないので二人を尾行します。ただ、バレると不味いのでアインズ様お得意(?)の〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉を使って尾行します。

 そうして尾行を続ければ……見えてきましたナザリック地下大墳墓!

 

 「ああ、遂にこの時が来てしまった」と思うと同時にあのナザリックをこの目で見ることが出来るという感動が押し寄せてきます。 さて、ここからは実質行き当たりばったりになりますがここまで来てしまった以上、最早退くことはあり得ません。 全ては明るい未来のためです。

 〈完全不可知化〉を解除し、〈性転換(トランス・セクシャル)〉も解除。ありのままの私で──顔はバイザーで隠していますが──臨みます。

 

 

「こんばんは、良い夜ですね」

 

「むっ?……こんばんは。 何者かは存じ上げませんが、この地へ何の用でしょうか?」

 

 うーん、第一印象は悪くないと思いたいのですが、警戒心バリバリですね。そりゃあ異常事態に巻き込まれてすぐに現れた不審人物を警戒するなっていう方が無理ですけど。

 ほら、後ろでナーベラルが「セバス様、殺しますか?」なんて小さい声で話しかけています。 いきなり殺すっていう発想はやめてくださいよ。私でもしないのに。ホントですよ?

 

「申し遅れました。私はこの辺り一帯の領地を治めているアレーティアと申します。 この地を訪れたのは先日までは何もなかった場所に突如現れたこの墳墓が何かを確認しに来たのですが……執事にメイドがいるということは、貴方たちが仕える御方がいるのではありませんか?」

 

「その通りです。私はこのナザリック地下大墳墓で執事の任を与えられているセバス・チャンと申します。 そして此処、ナザリック地下大墳墓を治めるのは至高の四十一人のまとめ役であるモモンガ様に他なりません。 それで、この辺り一帯を治めているという貴女はこのナザリックまでもが貴女の物……などと言うわけではありませんね?」

 

 ギロリ、とセバスのこちらを射貫くような視線を飛ばしてきます。 ここで原作──あれはWEB版でしたかね?アルチェルの様な態度、発言をすれば即終了ですが、私はあんな馬鹿とは違います。

 

「もちろんです。 先日まで無かったものを私の物だなんて言うほど強欲な人間に私が見えますか?」

 

「いいえ、どうやら貴女は清き方のようですね。不躾な態度を取ってしまい申し訳ありません」

 

「いえいえ、お気になさらないでください。 ……それでなんですが、どういった事情でこの墳墓がこの地に現れたか、また今後のことについて話し合いをしたいのでこの墳墓を治める方とお話しさせていただくことは可能でしょうか? 勿論、日を改めろというのであればそうさせてもらいますが」

 

 セバスが考える姿勢になりました。 現地の住民である私はナザリックにとって現状最大の情報源です。一刻も早く多くの事柄を知りたいはず。ならば、アポイントメントが無いとしても悪いようにはされないはず……。

 しばらくして、セバスがようやく口を開き──

 

「分かりました。私の方からモモンガ様にお会いできるように掛け合ってみます」

 

 ヨシッ!これでアインズ様と一対一で話せる!

 

「ですが、条件として貴女を武装解除した上で一時的に拘束させていただきます。 どうやら貴女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()モモンガ様の安全を確保するため、ご協力願えますでしょうか? 勿論、事が済み次第武装はお返しいたします」

 

 ああ……そうなりますか……。まあ、当然と言えば当然の対応ですね。 それよりもセバスから同等の強さ判定をされたことが驚きです。私のレベルは百だった……?でも行き詰った感じがしないのは〈天賦の才(オールマイティ・ジーニアス)〉の影響でしょうか?分かりません。

 とりあえず、この条件を呑まないことには対面……もとい謁見が叶わないのでやむを得ません。

 

「……分かりました。こちらも敵対する意思が無いことを証明出来ますから。 ただ、こちらも不安なのでせめて武装解除した後に殺す……なんてことはしないと誓っていただけますか?」

 

「当然でございます。 貴女が武装解除した後、危害を加えないと至高の御方たちに──たっち・みー様に誓って約束しましょう」

 

 おお、その名を出してまで約束してくれるのであれば安心ですね。最初に会えたのがセバスで良かった……。

 

 

 それからナザリック地表部にあるログハウスへと案内されて、そこで武装解除し簡易的な拘束を受けました。 精々手錠をされる程度で、この手錠にも魔法的な効果は無い様です。本当に簡易的で少し安心しました。

 

「では、この場でしばしお待ちください。 ナーベラル、監視は頼みましたよ」

 

「かしこまりました、セバス様」

 

 そうしてセバスが報告のためいなくなり、ログハウスにはナーベラルと二人っきりの状態です。

 

「………」

 

「………」

 

 き、気まずい……!相変わらずバリバリの警戒オーラを発していますし、ナーベラルは人間を──というよりナザリックのNPCたちは基本的に人間をムシケラ程度にしか考えていないので、私に対して嫌悪感を抱いているのが分かります。

 は、早くアインズ様来てーッ!!

 

 そんな心の叫びが届いたのか、それから五分ほどして──

 

 

「お待たせしてしまい申し訳ない。 私がこのナザリックを支配する者──アインズ・ウール・ゴウンだ

 

 

 遂に原作主人公との対面を果たしました。 顔には例の嫉妬マスクを着けて、腕や胸元も隠しています。

 でもあれ?この時ってまだモモンガを名乗っていませんでしたっけ……?

 

 

 





アレーティア
実は大体行き当たりばったり。一番の狙いはデミウルゴスを伴っていた時に接触することだったが、結果オーライ。幸運は高い。某運命作品的に言えばタレント含めて幸運A+ぐらいあると思う。

セバス
原作屈指の善人。残念ながらこの世界でツアレとの出会いはない……とは言い切れない。
地味にアレーティアの実力を見抜いている。

ナーベラル
人間、ナザリック以外に対しては辛辣。
セバスがいる手前黙っていた。

モモンガ
原作主人公。この時点で既にアインズ・ウール・ゴウンを名乗っている。


感想、高評価いただけるとモチベーションが上がりますので、よろしくお願いします!


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アインズ・ウール・ゴウンとアレーティア 〜舌戦ってなんだかやらし(略〜


最近11年ほど続けていたアプリがサービス終了しました。
最期の瞬間までログインしていましたがそのアプリの世界には転生出来ませんでした。当たり前ですね(笑)

今回死ぬほど難産でした。 原作キャラ再現出来てるといいな……。解釈違いなどあったらすいません。




 

 

 さて、状況を整理しましょう。

 

 現在、ログハウスにて私は武装解除をした状態で手錠をされています。

 それを見たモモンガ──アインズ様は仮面で顔が見えませんが「えっ?」って言葉が漏れています。 おい支配者ムーブはどうしたんだ。これぐらいのことで動揺してたらこれから先やっていけないぞアインズ様。

 同時に、恐らくアインズ様の身辺を警護するためにセバスに加えてアルベド、コキュートスまで来ています。 流石にこの時点ではヴィクティムまでは連れて来ない様ですね。第八階層は色々と物騒らしいので、転移したばかりでいきなり動かすことは出来なかっただけかもしれませんが。

 

「お待たせしてしまい申し訳ない。 私がこのナザリックを支配する者──アインズ・ウール・ゴウンだ

 

「………」

 

「……どうされましたか?」

 

「いえ、セバスさんからはこの墳墓を治めているのは『モモンガ』様と聞いていたので……代理の方でしょうか?」

 

 あ、アインズ様が固まってしまいました。 多分、セバスも主人の自己紹介を終えていたことを報告していなかったんじゃないですかね? ましてやこの時点でアインズ・ウール・ゴウンを名乗るだなんて思ってもいなかったでしょう。見事なすれ違いですね!

 アインズ様の後ろで近衛として来ているだろうセバスがばつの悪い顔をしています。そりゃそうでしょう。

 アルベドはセバスを睨みつけて「何モモンガ様に恥かかせてくれてるんだコラ」みたいな顔してます。 怒った時のラナーと同じぐらい怖いんですけど。

 コキュートスは……よく分かりません。だって表情が変わらないんですもん。

 

「……ああいや、そう言うわけではないのです。 確かに私の名はモモンガと言いますが、このアインズ・ウール・ゴウンという名は……このナザリック地下大墳墓を共に築き上げた全員を指す名前なのです。

 つまるところ──アインズ・ウール・ゴウンこそが、このナザリックを統べる者として相応しいと思い、そう名乗らせていただいたのです」

 

 ……なるほど。流れこそ違いますが、概ね原作通りですね。 カルネ村で名乗りを上げた時もこんな感じだったと思います。

 

「そういうことなのですね。分かりました。

 私はアレーティアと申します。この地──エ・ランテル近郊をバハルス帝国皇帝陛下より賜り治めている者です。此処に来たのは何もなかった草原に突如現れたこの墳墓の偵察に来ていました。その時の話はセバスさんからお聞きになっているとは思います。

 ……ところで私はモモンガ様、アインズ・ウール・ゴウン様、どちらの名前でお呼びすれば良いのでしょう?」

 

 多分モモンガ呼びはアルベドがブチ切れますよね……。 EDの和訳がかなりヤンデレしてるって話でしたし。

 

「ではアインズ・ウール・ゴウンでは長いのでアインズと呼んでくださいアレーティア殿」

 

「分かりました、ではアインズ様と呼ばせていただきますね。 それでは早速話を──」

 

「その前にセバス、アレーティア殿の手錠を外せ」

 

「ア、アインズ・ウール・ゴウン様!?それは──」

 

「お前たちもアインズで構わん。 お前たちの言いたいことも分かるが……ここは話し合いの場だ。

 アレーティア殿は侵入者ではなく客人として扱う。そうなると、場においてアレーティア殿が拘束を受けたままというのはな……」

 

 アルベドが抗議の声を上げましたが、アインズ様によって諌められました。 意図としてはこの世界がユグドラシルではないことはセバスの報告によって把握している中で、初めて接触した私を拷問、尋問するよりも友好関係を築いた方が利になると判断したからでしょうか? 序盤の内はかなり──いや、元々慎重なアインズ様ですから、あまり敵を作りたくないというのもありそうですけど。

 

「……アインズ様がそう仰るのであれば。 セバス、御客人の手錠を外して差し上げて。 ただ、武装の方は話し合いが終わり次第……ということで構いませんね?」

 

「ええ、それで皆様が納得していただけるのなら勿論構いません。」

 

 現状武装を取り戻したところで、アインズ様、アルベド、コキュートス、セバス、ナーベラルの四人を相手にして勝てるとは全く思いませんからね。ナーベラル以外全員レベル百ですし、装備も私より上のものばかりです。

 ……()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

「承知しました。 では、失礼します」

 

 手錠が外されて腕が自由になりました。

 前世でも経験したことのない体験をしただけに、罪を償って出所した人間の気持ちが僅かに理解出来た気がします。 実際、留置所で手錠が掛けられたままなんてことはないんですけどね。多分。

 

「ありがとうございます。 ではまずこちらをご覧ください」

 

 そう言って私が取り出したのは自作の地図です。帝国全土ではなく、あくまでエ・ランテル周辺のですが。 流石に帝国全土の地図をいきなり見せる訳にはいかないので、最初はこの周辺だけでも分かればナザリックにとっては十分な収穫でしょう。

 

「この地図の中心にあるのが私の治める城塞都市エ・ランテルです。

 ここから……この墳墓があるのが大体この辺りになります。少し離れた場所にトブの大森林、更に北にあるのがアゼルリシア山脈で──」

 

 大雑把に周辺地理を説明し終え、ふぅと息を吐き一仕事終えた気分になりました。

 少なくとも周りにこちらを警戒している守護者たちがいるので緊張しました。 下手なことをしてなければいいんですけど。

 

「それでなんですけど、この墳墓がある場所には元々何もない平原だったはずです。 それなのに今日突然この墳墓が現れた……何か心当たりはありませんか?」

 

「……アインズ様を疑っているように聞こえるのだけど?」

 

「いえ、そのようなことは。 ただ、こうした情報は共有した方がよいと思ったので」

 

 地雷を踏みぬきそうになりましたがセーフ!セーフです!!

 

「やめよアルベド。 正直なところ、我々にも原因が分かっていないのが現状です。 私たちの認識では墳墓の外は毒の沼地だったはずなのです。だというのに、外に調査に行かせたセバスからは見渡す限り草原が続いていると」

 

「なるほど、つまりこの墳墓ごと別の場所に転移してしまった──という認識で構いませんか?」

 

「そういうことになりますね。 ちなみにですが──『ユグドラシル』という言葉に聞き覚えはありませんか?」

 

 ──おお、まさかアインズ様から切り出してこようとは。 タイミングを窺って私から切り出すつもりでしたが丁度良かったです。

 ここからは原作知識と都合のいい後ろ盾(ツアー)の存在を使い乗り切ってみせましょう!

 

「ええ、知っていますよ。 ということは貴方達は『ユグドラシル』の世界から来たということですね?」

 

「……何故そう思ったのですか?」

 

「私の知り合いに『ユグドラシル』を知っている者がいるからです。 とある国の口伝では百年に一度、異世界から神が降臨するという伝承まで残っています」

 

「神……ですか?」

 

「その国では神と呼ばれているようですが、私の知り合いは"ぷれいやー"や"えぬぴーしー"と呼んでいましたね」

 

 この言葉にアインズ様は明らかに動揺した様子が見受けられました。 転移したのが自分たちだけではないということを理解した上で、今後どうするべきかを考え始めているのでしょう。

 確かこの頃──少し先だった気がしますが、アインズ様はかつての仲間の面影を残すNPCたちのために、プレイヤーの集まりがあるのなら仲間に入れてもらおうとしていたはずです。

 それが逆にこうしてプレイヤー関連の情報を持つ相手と早々に遭遇できたのは運がいいと思うか、それとも話が出来すぎていると思うかのどちらかでしょう。

 

「……アレーティア殿、お聞きしたいのだが……その神と呼ばれる存在は今どうしているのでしょう?」

 

「私の知る限りですが、全ての神が姿を隠しています。 有名な名前では八欲王と六大神と呼ばれた方たちですね」

 

ユグドラシルでは聞いたことがないな……。 ちなみにですが、我々は今後どういった扱いになるのでしょう? もしその八欲王、六大神という存在が私と同じ世界から転移してきたのなら──」

 

「そうですね、ではここで一つ警告を。 知り合いの話によれば降臨した"ぷれいやー"や"えぬぴーしー"はこの世界にとって味方になるか、敵になるかで分かれると言います。

 前例を挙げるのならば八欲王は敵になり、六大神は味方になったというのが分かりやすいですね」

 

 ここで六百年前に降臨し人類を救った六大神の話と、五百年前に降臨し世界を歪め悪逆の限りを尽くし大陸を支配して、最後は互いのものを奪い合って滅びた八欲王の話を語りました。

 この話を聞いてアインズ様は何を思ったでしょう。世界征服なんて面白そうとか思わないで欲しいんですが。

 

「つまり、今後の動向次第でどちらにもなりえるということです。

 ……この世界に生きる私としては是非とも我々と手を取り合って生きていただきたいのですが」

 

 これは本音です。ナザリック地下大墳墓のNPCは大半がカルマ値がマイナスに偏っていますが、主人であるアインズ様はこの時点ではまだ『鈴木悟』という人間が占めています。 時期が経つにつれて──世界征服発言とシャルティアの洗脳を機に支配ムーブに移行しますが、現状そのどちらも起きていません。

 なので自分たちがどの様な存在なのかを先に伝えることで、軽率な行動を慎んで貰えればそれだけで被害はグッと減るでしょう。

 

「……と、いきなりこんなことを言われても困ってしまいますよね」

 

「い、いえ、そんなことはないです。 ただ──幾つか懸念点が」

 

 するとアインズ様は嫉妬マスクを外し──素顔である骨の顔を露わにしました。同時にガンドレッドも外し、肉の無い骨の腕までも。

 

「私はこの通りアンデッド……この場にいるアルベドは悪魔、コキュートスは見ての通り蟲人。他にもこのナザリックには人間以外の異形種が数多く存在します。 そんな我々が、受け入れられるものなのでしょうか?」

 

 ああ、この質問は尤もですね。 ユグドラシルでは異形種は人間種のプレイヤーにPKされてもPK扱いにならず、忌み嫌われていたんでしたね。丁度いい経験値稼ぎにもなっていたとか。

 それを嫌ったたっち・みーさんがアインズ様──モモンガを救い、集まった九人で立ち上げたのクランがアインズ・ウール・ゴウンの前身でしたね。

 つまるところ、この世界でも異形種はそういった扱いをされるのではないかという懸念があるのを心配している様です。

 しかしながら、私はそれに対する用意をしてきました。 私の領地であるエ・ランテル周辺の村々ではそれぞれ知性あるモンスターたち──トレントやドライアド、亜人に分類されるゴブリン 、オーガなどと共存に成功した村が幾つかあります。 お陰で十分以上の労働力を確保でき、豊かになる村が増えています。

 これはアインズ様が原作でやろうとしていたことの先取りにはなりますが、共存出来るという証明にもなりえます。

 

「正直に言えば難しい話でもあります。 この世界では神が降臨するまでは人間は他の種族にとっての獲物でしかなかったそうです。それ故に全ての亜人やモンスターを排斥する人間至上主義を掲げている国もあります。

 ただそれと同時に他種族と共存している国家もあります。 私が仕えているバハルス帝国では現在、ドワーフやエルフといった人間種からゴブリンやオーガ、クアゴア、ウォートロール、果てにはドラゴンまで共存出来る環境を整える様な政策をしており、その実験としてエ・ランテルをはじめ、他の村々でも共存に成功している実績があります。 勿論、まだまだ課題はありますが」

 

 ここで私は一度言葉を切り、大勝負に出ます。 吉と出るか、凶と出るかは分かりませんが、このために私はこのエ・ランテルを発展させてきたのですから、臆してはいけません! いざ!

 

「百聞は一見にしかず、と言います。 よろしければ私がエ・ランテルとその村々を案内させていただきますが、如何でしょう? 護衛が必要ならばこちらで手配します」

 

 さあ、どう来る!? 平静装ってますけど心臓バックバクです! 色良い返事をどうか……どうかッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大変魅力的な提案です。 私としても、この世界をこの目で直に見てみたいと思っていたところです。 アレーティア殿、こちらからも是非ともお願いしたい」

 

 ……や、やったーーーーッ!!

 勝った!第三部完ッ‼︎!

 

「お待ちください、アインズ様」

 

 あ、あれ?風向きが変わった?

 

「その調査……我ら守護者も同行させていただけないでしょうか?」

 

 ………………え?

 

「理由を聞こう、アルベド」

 

「はい。 御客人の提案通り、この世界を知る意味でも領内を案内していただくまではいいのですが……アインズ様の安全が保証出来ません」

 

「セバスからアレーティア殿はお前たちに匹敵すると聞いているが、彼女が共をするのは不服か?」

 

 あ、そんな報告まで受けていたんですね? 守護者と同等の実力評価をいただいていたみたいです。 となると、私のレベルは百なんでしょうか? 嬉しい反面、これで強さが打ち止めになるのは寂しくなりますね。もっと上を目指したかったんですが……ってこんなこと考えて現実逃避している場合じゃありません。 成り行きを見届けなければ。

 

「はい。 失礼ながらご客人とは初対面。アインズ様を任せられるほどの信用がありません。

 御身の安全を考えるのであればせめて護衛として守護者か僕を共にお連れください。 守護者を最低一人、しもべであればレベル八十以上のものを複数選出します」

 

 げぇっ!? 人数増やすの!?正直やめて欲しいんですけど!?

 百歩譲ってアウラ、マーレあたりならエルフだしなんとかなりますけど、これでシャルティアを連れて行くなんてことになったら、ヤバいことが起こりそうで嫌なんですけど!? 具体的には世界級アイテムに支配されそうで。

 少しばかり抵抗を……。

 

「護衛なら私一人でも大丈夫だとは思いますけど……心配でしたらアルベドさんもご一緒にどうでしょう? それならアインズ様の安否もその場で確認出来ますし……」

 

「それは…………………そうね、素晴らしい案ね。アインズ様と二人で視察、これは最早デートなのでは?くふーっ!!

 

 あ、私情に流されましたね。やったぜ。

 正直アルベドはデミウルゴス並みの知能を持つので遠慮したいんですけど──ああ、そうだ!アルベドの対応はラナーに任せましょう!それがいい! 天才には天才をぶつけるんです!そうすれば、私はアインズ様に専念出来ますから!

 

「では、決まりということで。 早速案内を──と思ったのですが、こんな時間です。 急な話でもありますし、一度日程を見合わせましょう。 アインズ様の予定は如何でしょう?」

 

そうだな……ナザリックの設備や他にも確認したいことがあるのを考慮して……三日後の昼間はどうでしょう?」

 

「三日後ですね、承知しました。 その時になりましたらこの墳墓の方に迎えを出しますので、取次をお願いできますか?」

 

「分かりました。 ではこのログハウスにメイドを常駐させておきますので、そちらにお願いします」

 

 

 こうして、話し合いは概ね穏やかに終わり、装備していたものも取り上げられることもなく普通に返してもらえました。 まあ、装備していたのはそこまでレア度の高くないものだったので警戒する必要もなかったかもしれませんが。

 

「見送りまでありがとうございます」

 

「いえ、お気になさらず。 しかし、ここからどうやって帰るのですか? 何もない平原ですし、街道もありませんが……」

 

「ああ、心配には及びません。 ()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 今の私は戦士状態なので魔法は使えません。 もしかすると〈魔力の精髄(マナ・エッセンス)〉などでMPなどを調べられている可能性もありますからね。 うっかり魔法を使うわけにもいきません。

 なので文字通り跳んで帰ります。

 

「ではアインズ様。 三日後にまた会いましょう」

 

 足に力を籠め──武技を併用し一気に地面を蹴り跳躍すればあら不思議! ナザリックが一気に小さくなり、かなりの距離を跳びました。その勢いで空気を蹴り、ある程度離れたところで魔法戦士化し転移の魔法でエ・ランテルへと帰還しました。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

「アレーティア様、こんな深夜に何処へ行かれていたのですか? ラナー様が怒っていましたよ」

 

「ああ、ルミリア。 明日から忙しくなりますよ──って、え?マジ?

 

「はい。 今夜は子供はクライム殿が面倒を見てくれるから、久々に付き合ってくれるって言ったのに……と、笑顔で言っていたので間違いないかと。 アレーティア様、心当たりは──あるみたいだな」

 

「……ねえルミリア。 一緒に──「あら、旦那様?」 ひいっ!!」

 

 恐る恐る後ろを振り返れば、そこには満面の笑みを浮かべたラナーの姿が。 満面の笑みを浮かべていますが騙されてはいけません。あれは割と本気で怒っている時の顔です。

 

「ねえ旦那様、アレーティア様? 私、約束していたはずなのだけれど」

 

「えっと、その、ラナー? 忘れてたわけじゃないんですよ?本当に。 ただ、そう、世界の命運がかかった戦いに乗じていただけで」

 

「……………」

 

「……すいませんでした」

 

「………まあ、いいですよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんか察してくれたっぽいです。もしかして心まで読まれてるんじゃないですかね? 私がラナーに知恵で勝てるわけがないので素直に降参します。全面降伏です。

 

「く、詳しい話はこれからするんで助けてもらっていいですか?」

 

「ええ、勿論ですとも。 この生活を守るためですもの、クライムのため、貴女のため、私は全力を尽くしますよ」

 

 本当にラナーを味方につけて良かったと心の底から思います。これからのことを思うと頼もしすぎます。

 後は裏切ったりしない様に願うしかありませんね。 要求は大体叶えているので不満は……無いといいな……結構仕事を押しつけている感はあるので、反省しなければいけません。

 そんなことを考えながら、ラナーと一緒に私室へと向かって行くのでした。

 

 





アレーティア
結構必死だった。アルベドとデミウルゴスはある意味天敵。(作者にとっても)
パンドラズ・アクターは割と打ち解け合える気がしている。
ラナーとロクシーには頭が上がらなくなっている。でもジルクニフとツアーは振り回す。

モモンガ──アインズ様
原作主人公。アインズ・ウール・ゴウン……ううっ、素晴らしい響きだ。とは流石に言わない。
アレーティアを警戒しつつも、この世界の情勢などを知るために外に出る決心をした。
なお、最初に会った現地人がアレーティアというバグのため、またユグドラシルプレイヤーが存在するのがこの時点で確定したためかなり慎重に事を薦めようとしている。

アルベド
愛するモモンガとのデート(部外者多数有)が確定。
この後シャルティアを煽って喧嘩しそう(偏見)
書く前に原作を読み返して、くふーっ!って言わなくなったなと今更気づいた。

ラナー
子供が一人産まれた。相手は言わずもがな。 ジーニアスを有効活用して搾り取ってる。
それはそれとしてアレーティアとの時間も大切にしている。
アレーティアとの最後の会話から大体の事情を察した。



今年は後1、2回は更新出来たらなと思っています。

感想、高評価などいただけると励みになりますので、よろしくお願いします。



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アレーティアとナザリック対策会議 ~ジルクニフの初恋は実らないことが確定した模様~


ジルクニフ、ドンマイ……。
お前がアレーティアと結ばれるには障害があまりにも大きいし多すぎるのだ。



 

 

 

「……ということで、エ・ランテル領内を案内して上手いこと帝国へと組み込めないかなと」

 

「……これで全て繋がりました。アレーティア様がエ・ランテルの発展にここまで力を入れてきたのか。他種族を受け入れられるだけの環境を整えようとしていたのかも。 あの白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)もそういった情報をもっと──」

 

 はい、今私はベッドに腰掛けるラナーの前で正座をし、ナザリックに関する情報共有を済ませていました。

 え?構図が説教を受けている子供みたいだって? その通りです。さっきまで約束は守るものだと怒られていました。ごめんなさい。

 当然ながら情報の入手先も問われたので、全てツアーと漆黒聖典の捕虜(一人は元漆黒聖典)から得た情報だと誤魔化しました。原作知識とか前世の記憶とか言ったところで信用出来るものではありませんからね。

 

「で、アレーティア様、そのナザリック地下大墳墓と戦って勝てる見込みは?」

 

「無いですね。ゼロ、虚無、可能性のカケラもありません。 まだ一対一なら私が全力で戦えば倒せるとは思いますけど、万が一でも倒したらエゲツない報復が待ってます」

 

「なるほど……だから懐柔したかったわけですね。 しかもその上で私並みの智者が複数いるとなると……」

 

 流石のラナーも苦々しい表情をしています。 正直ナザリックと敵対するなら原作で天敵だったらしい『セラフィム』とかいうギルド拠点でも持ってこないと対抗出来ないと思うんですよね。

 二十を含む世界級アイテムを十一個保有している時点で文字通り格が違うんですよ。私ですら運良く一つ手に入りましたけど、この世界で私が知る限り他にある世界級アイテムは八欲王の居城エリュエンティウにある推定世界級アイテムの無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)とスレイン法国の傾城傾国(ケイ・セェケ・コゥク)ぐらいですからね。私の熱素石(カロリックストーン)含めても三つなのに四倍近い差がついてる時点でどうしようもないと思うんですが。

 その代わりに始原の魔法がある?その使い手が私の知る限りツアーしかいないんでダメですね。

 

「一応確認なのですけれど、そのナザリック地下大墳墓の主人は見た目こそ異形……アンデッドであるものの、中身は凡人という認識で大丈夫ですか?」

 

「厳密には魔法の知識だったり、特殊な知識は持っていますが精神は一般人そのものですね」

 

 アレを凡人と言っていいのか分かりませんが、概ね間違っていないでしょう。福利厚生なんかはしっかりしてましたし、帝国でメイドを雇った時は……確か週休二日制度を採用していました。 まあ、アレはブラック企業に勤めていたヘロヘロさんの影響が大きかった気もしますが、他のプレイヤーへのアピールも兼ねていたんでしたっけね?魔導国もその一環だったはずですし。

 

 なお、前世持ちの私はそう言ったところをどうしているかと言えば、騎士団については四日に一度休日を設けています。給金も帝国での基準より上の額に設定してますし、日頃の成果──武技の修得率や相応の実力を身につければ──次第では色をつけて支払ってます。

 ついでに言えば新たな武技を開発し、それが有用ならばその武技の教導職を与え追加報酬を支払っています。なので、騎士たちはこぞって武技の研究……研鑽を続けている次第です。 最近の例だとナザミの〈南山不落〉なんかがそうですね。〈不落要塞〉の更に上の武技で、私の通常攻撃でも耐え切れるほどの性能を誇っています。まあ、本気でやれば突破出来るんですけど。

 

「それならまだやりようがある……アレーティア様と同程度の価値観を持っていると仮定して………」

 

 おっと、話が逸れましたね。 こうして見るとラナーもかなり本気で取り掛かってくれている様で安心します。

 

「……後は直接会って話してみないと分かりませんね。 エ・ランテルに招待するのはいつなのですか?」

 

「三日後の予定ですね。 最初はエ・ランテルを巡ってもらって、後にモンスターとの共存に成功した村々を見学してもらおうと思ってます。

 そうすれば、労働力の貸し出しという形で友好的な関係を築くきっかけになるかなと」

 

 アインズ様はアンデッドなら疲労しないからとやたらと推してきますけど、出来ればアンデッドは人のいない地域で──それこそ、アゼルリシア山脈のドワーフ国とエ・ランテルを繋ぐ坑道を掘るのに手伝って欲しいんですよね。あそこは罪人だらけなので別に気にする必要もありませんし。

 後は偽のナザリックを作る時に悪魔だったりゴーレムなんかは借りられればとても役立ちそうです。ゴーレムは私も創れますけど、多分あっちの方が性能は上でしょうから。

 

「三日後……分かりました。その時は私も同行させてもらいます。

 それと……今回のことは流石に私たちだけで対応するわけにはいきません。皇帝陛下と例の協力者とも連携をとるべきです」

 

 ……まあそうですよね。報連相は社会人の基本ですから、しないといけませんね。特にジルクニフからは念押しされてますから。

 例のスマホもどきを取り出し、とりあえずツアーに連絡しましょう。 ジルクニフはラナーを連れて直で会いに行った方が早いです。

 

「もしもツアーズ?」

 

『む?これが鳴るということは……君か。一体何の用だい? 君の鎧の件のことなら、私ではあれ以上の強化が出来ないから他の竜王に協力を──』

 

「時間が惜しいんでざっくり説明しますね。 プレイヤーとギルドが私の拠点近くに現れたんで、私がミスったら対応お願いします」

 

『………………は?ちょ、ちょっと待っ』ブツッ

 

「これで良しと」

 

「本当に良しとしていいんですか……?」

 

 いいんですよ。ツアーだって私を上手いこと使って鎧全部バージョンアップさせたんですから。ついでに言えば鎧の他にツアー専用の武具としてルーンの杖も沢山作ったんですから、これぐらい雑に扱ってもいいはずです。

 まあ、代わりに私の理想の鎧も出来上がったんで、いずれお披露目しようと思います。本音を言えばパワードスーツを作りたかったんですけどね。妥協してます。

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 そして翌日、ジルクニフに連絡を取り国を揺るがす大事態が起きたと緊急会議を開くことになりました。

 参加者は私とラナー、ジルクニフにフールーダ、その高弟たち。四騎士であるバジウッド、ナザミ、ニンブルの三人。そして帝国騎士団の総まとめ役である将軍に、ジルクニフが重宝している有力貴族と中々にメンバーが揃っています。

 

「早速だが、会議を始めよう。 ではアルス、何があったかを話せ」

 

 普段なら元の性別で参加する会議ですが、今回は騎士以外もいるのでアルスモードです。ジルクニフからのアルス呼びって中々新鮮ですね。癖になりません。

 

「先日の夜中、エ・ランテル近郊の平原にとある人工建造物──墳墓が何の前触れもなく現れました。

 墳墓から執事、メイドと思われる男女二人が現れ、周囲一帯を何やら調べている様だったので接触し、その墳墓を治める人物と対談をしました」

 

「墳墓に執事にメイド? そんな趣味のわる──ッ!!?」

 

 貴族が馬鹿な事を言う前にスキルで威圧し黙らせます。

 お前誰がこの場の話聞いてるか分からないのに不用意なこと言うんじゃねえ!!うっかりアインズ様が聞いてたらどうするつもりなのさ!? 念の為、そういうことがないようにスキルで盗聴やら覗き見を防止するための魔法を強化しているとはいえ、絶対じゃないんだからな!!

 

「失礼、相手に聞かれている可能性もあるので不用意な発言は避けてください。 私も相手の怒りを買いたくないので」

 

「……この部屋はアレ……アルス殿自ら魔法で防御していると聞いておりますが」

 

「正直、それでも足りないと思っています。

 先に言ってしまいましょう。その墳墓の主人であるアンデッド──名をアインズ・ウール・ゴウン。 多くの異形種──所謂モンスターを従えているアンデッドです。恐らく私でも勝てません」

 

 そう言えばこの場にいる私と事前に話を聞いていたラナー以外の全員が戦慄しました。

 帝国最強の個人、粛清騎士ですら勝てない存在が急に現れたなどと言われても俄かには信じられないでしょうが、それを言うのが私なのでより深刻さが伝わるという……ラナーの策です。

 

「お前でも勝てない……だと?」

 

「はい。更に絶望的な情報を叩きつけると、最低でも私と同格かそれ以上の強さを持つ者があの墳墓には十名ほどいます」

 

「はあッ!?」

 

 ジルクニフが冷静さを失っています。 四騎士や将軍、フールーダの高弟たちも顔を引き攣らせています。貴族たちはと言うと……驚愕というより唖然とした顔をしてますね。しっかりしてくださいな。

 

「ここで、かつての王国との戦争で捕らえた法国の特殊部隊に所属していた暗殺者と白金の竜王から提供された情報を共有させていただきます」

 

 ここで『百年の揺り返し』についてと、六大神や八欲王の情報を共有します。法国でも上層部にのみに──一度は大衆に伝えて暴動が起きたらしいですが──口伝として伝え続けられてきたことなので、帝国の上層部で共有しても問題ないでしょう。漏れたら揉み消します。

 ああ、私が八欲王の子孫ということは黙っておきます。こっちは色々と面倒なので。

 

「神、か……」

 

「なので、現状敵対した場合まず間違いなく帝国は滅びます。 その対策を──」

 

「対策……出来るものなんですかい?そんな相手に」

 

 恐る恐るバジウッドが私に問いかけてきました。 まあ、不安ですよね。私以上の強者が突然何人も現れて敵対したら勝ち目がないとか悪夢そのものですし。

 

「敵対するのならば、不可能です。いくら周辺国家で手を組んで挑もうが一蹴されます。

 ただしこれはあくまで敵対するならば、の話です」

 

「……帝国に抱き込むつもりなのか?」

 

 お、流石ジルクニフですね。話が早くて助かります。

 

「そのつもりです。 幸い、アンデッドとはいえ話が通じる理性的な人物でした。現状、人間を弄ぶ様なことはしないでしょう。

 ただ、それでも相手はアンデッド。油断ならない相手に違いはありません。 なので……万が一のことがあれば私が持てる全てを使って押し留めます」

 

 私の言葉にザワついた空気になりました。

 粛清騎士()の実力は帝国最強で解釈一致していますが、全力となるとそれを完全に把握している人間は()()()()()()()()()()()()()()。その私が、帝国最強が全力を出すとなれば慄くのも無理はありません。

 

「し、しかし先程粛清騎士殿は勝てないと……」

 

「誰が戦うと言いました? ただまあ、それはあくまで最終手段です。勝てはしないものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 単騎でナザリック攻略なんて二十クラスの世界級アイテム持ってないと無理ですから。確か世界意思(ワールド・セイヴァー)でしたっけ?全メンバー揃っていた頃のナザリックでも単騎で攻略可能とかいう話があったと思います。

 それはそれとして、そんな世界級アイテムはありませんが、私には原作知識という最大の武器がありますから勝てないまでも追い詰めること(嫌がらせ)ぐらいは出来ると……思いたいですね。 隠し玉であるルベドとか第八階層のあれらとか判明してない事柄が多いので完全ではないんですよね。それでもやる時はやりますが。

 

「なので、しばらくは私とラナーで彼らを帝国へと帰属する様に行動します。 詳しい話はラナーからしてもらいます。ラナー、後は任せましたよ」

 

「はい。お任せください旦那様」

 

 後はラナーに任せます。 私がやりたいことを思いついて、ラナーが計画、立案して実行する。完璧ですね。

 後は私もナザリックの目を惹く様なものを用意して……あ、フールーダにも個別で話をしないといけません。 アインズ様に会ったら帝国を裏切るかもしれないので、今のうちに念押ししておかなければ。まあ、裏切ったら殺せばいいんですけど。

 

「待て待て、何処へ行く気だ?」

 

「へ?」

 

「お前が一番の大役だろうが。会議に参加しろ。面倒だからと抜け出そうとするな」

 

 バレテーラ。 だからと言ってこの場を離れることを私はやめません。何故なら私にはエ・ランテルでやることが山ほどあるので!騎士団やらモンスターと共存している村とかカルネ村とか色々と!

 

「私には使命があるのでッ!〈転移〉!」

 

「おい待て!逃げるな!逃げるなァァァアアアッ!!

 

 

 ジルクニフの叫び声を尻目に私はエ・ランテルへと転移しました。

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 会議を後にしたアレーティアはエ・ランテルに戻り、ルミリアと共にアインズ達を案内する場所や施設を選定し、予め訪問があることを伝えたり、モンスターと共存する村々へ現地を任せている騎士や神官、魔法詠唱者へ視察に行くことと注意事項を伝えるなど、慌ただしい時を過ごしていた。

 これもそれもアインズ達ナザリックと敵対しないため。なんだったらこのエ・ランテルを明け渡してもいいとも考えていた。

 

 

 しかし、アレーティアは失念していたことがある。

 原作ではナザリックが転移して数日後に、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを誘き出し抹殺するためにスレイン法国の特殊部隊、六色聖典が一つ陽光聖典が動き出すことを。

 

 ただ、この世界において既に王国は帝国に併呑されており、その様なことをする必要もなく、それ故にアレーティアも警戒していなかった……のだが、ここでアレーティアが介入したことによって生じた法国の不安要素が爆発した。

 

 

 原作において、超位魔法〈黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)〉による大虐殺が行われた先の会議にて法国自身が王国を併呑しなかった理由として、評議国と隣接することで民意が評議国を滅ぼすという方向に動きかねないという危険性と多くの要因からそれは避けられた。

 法国では人こそが神に選ばれた種族で、他種族は殲滅すべしという理念を掲げているため、数多の亜人族が暮らす評議国とは関係は悪い。

 王国を挟むことによって隣接を避け民意を抑えることが出来ていた……のだが、ここでイレギュラーが生じてしまった。

 法国の目と鼻の先でもあるエ・ランテルの領主がアレーティア──粛清騎士アルス・ティアーズ辺境侯になってから、多くの改革が行われ目覚ましいほどの発展を遂げた。

 その中の一つ──モンスターと共存する村というのが法国の民の目に触れてしまった。更に言えばエ・ランテルでは人間ではない亜人やエルフ、ドワーフまで人間に混じって生活しているという。

 それは法国の理念では決して許されないことである。

 

 勿論、法国上層部は粛清騎士の怒りを買いたくないため、しばらくは様子見し後々帝国との交渉で不可侵条約を取り付ければ良いと判断していた。 しかし、民意は違った。そういう判断を下さなかった。

 

 それ故に──アレーティアも帝国も知らないところで悲劇が起きてしまった。

 そして、それが──法国の破滅の始まりだった。

 

 

 





アレーティア
ナザリックを接待するため大忙し。贈り物はルーンのマジックアイテムかザイトルクワエの木材にしようと考えているが、それどころではない事態が近々発生する。具体的にはアレーティアがマジギレする。

ラナー
アレーティアの頭脳担当。彼女に任せておけば安心。
ナザリックが来ない世界線だと……。

ジルクニフ
【悲報】ジルクニフルート消滅のお知らせ。
厄ネタがやって来るわ、アレーティアはいつも通りだわで振り回されるのは変わらず。
ただ、禿げにはならないからそこだけは温情。胃は近々激痛が走ることになる

スレイン法国
陽光聖典が来ない代わりに、民意が暴走。やらかす。


今年も拙作を読んでくださり、ありがとうございました。恐らく今年最後の投稿になります。
よいお年をお迎えください。

感想、高評価などいただけるとお年玉を貰えた子供の様に喜びますので、どうぞよろしくお願いします。



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エ・ランテル観光 〜破滅の序章〜


新年最初の投稿です(激遅)

遅れた理由は活動報告にて。ついでに今後書きたいと思ってる作品なんかもちょこちょこ語っているので興味あればご覧ください。

そして総UA数100万突破しました!皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします!



 

 

 私がナザリックと接触して三日……つまり、約束の日が来ました。

 

 今回は送迎に転移魔法は使いません。今のところ私は戦士としての技量のみを披露しているので、魔法が使えることは伏せておくことにしています。いずれバレることなんですけど、自分のステータスを簡単に教えるとか中々に愚かではないかと思ってのことです。

 敵対するつもりは微塵もありませんが、私という個人に関しては考察の余地を残しておけば軽率に戦うなんてことにもならないと思いますから。原作でもツアーの鎧の全貌を暴くためにパンドラズ・アクターに影武者やらせて観戦して、二度目の敗北も良しとするぐらい慎重ですからね。

 

 話を戻します。転移魔法は使わないので今回は立派な馬車を用意しました。勿論、自作です。

 他の馬車とは比べ物にならない高級感に、魔法効果が多く付与されている上に、有事の際はマジックアイテムによる外敵の迎撃機能まで付いてるおまけ付きです。現状私が持っているのと、ジルクニフにプレゼントしたのとオークションで売りに出した三つしか存在しない代物です。これなら同伴するアルベドも満足して……くれるといいなぁ。 ちなみにオークションでは金貨千枚で売れました。

 更に言えば、この馬車を引いているのは私自ら育て上げた八足馬(スレイプニール)です。そこらの八足馬とは文字通り馬力が違います。持久力、速度共に申し分ありません。

 

 

「お久しぶりですアインズ様。 お迎えに参りました」

 

「アルス殿、今日はどうぞよろしくお願いします」

 

 よし、今のところ関係は良好です。

 アインズ様は原作通り胸元をローブを閉めて隠し、腕はガントレットで、顔は以前と同じく嫉妬マスクで隠してます。

 ……ふと思ったんですけど、この嫉妬マスクって毎年配布されていたんですかね?そうなると初期からプレイしていたプレイヤーは十枚持っていることになるのでは?となると、アインズ様は十枚持っていると……いや、仕事でログイン出来なかった可能性もあるので本人の名誉のためにも一枚しか持っていないということにしておきましょう。

 でも、いっぱい持っているのなら一枚ぐらい欲しいですね。記念的なアレで。

 

「それと……ご紹介します。私の妻です」

 

「初めましてアインズ・ウール・ゴウン様。 妻のラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ティアーズです。お会いできて光栄ですわ」

 

 今回の私のメインウェポンです。ラナーがアルベドを抑えてくれると信じて……!

 

「これはご丁寧に……ご存知かと思いますが私はアインズ・ウール・ゴウンと申します。 そして、こちらが今日私の共周りを務めるアルベドです」

 

「ご紹介に与りました、ナザリック地下大墳墓守護者統括アルベドと申します」

 

 アルベドが大人しい……?いきなり下等生物発言しないかなとヒヤヒヤしてましたが、そんなことはなかったみたいです。

 ちなみにアルベドは完全武装しています。ぱっと見、真なる無は持っていないようですが……。正直デートだからおめかしして来ると思ったんですが。

 

「折角アインズ様と二人でデートなのに……いいえアルベド、これはチャンスよ。アインズ様を完璧にお守りしてシャルティアと差を──」

 

 めっちゃ小声で自分に言い聞かせてますね。

 多分名義上護衛だからおめかし出来なかったんですね。仕事ですし仕方ありませんね。

 後、補足するならば()()()()()()()()()()()()()。 まあここで指摘することでもないので流しておきましょう。気づいてるの今のところ私とアルベドだけでしょうし。

 

「本日は同じ女同士、よろしくお願いしますねアルベド様」

 

「……ええ、どうぞよろしく」

 

 アルベドがどこかお堅い印象が……もしかすると、この時点ではラナーの情報を一切得ていないので『下等生物風情が』とか『折角のアインズ様とのデートなのに余計な虫が増えた』とか思っているのかもしれません。

 まあ、アルベドはラナーに任せてアフターフォローはアインズ様にしてもらえればいいので、私は気にしない、気づいていないことにします。

 

「では、こちらの馬車へどうぞ」

 

 話もそこそこに馬車へとご案内。同伴です。

 席は私とラナー、アインズ様とアルベドに分かれ対面するかたちになりました。正面には当然アインズ様がいます。 全員乗り終わったので御者に声を掛けて出発します。

 

 

「さて、これよりエ・ランテルへと向かいますが、最初にこちらをお渡ししておきます」

 

 そう言って私が取り出したのは金貨、銀貨、銅貨がたんまり入った袋とお手製のエ・ランテルパンフレットです。 パンフレットは当然自作で、この日のためだけに作りました。当然ですが、この世界の文字はあの片眼鏡のマジックアイテムがないと読めないのを見越して、全て日本語で書いてあります。

 

「こ、こんな大金受け取るわけには……」

 

「お気になさらず。 アインズ様方はこの世界の通貨をお持ちではないでしょう?なので、こちらで用意させていただきました。

 エ・ランテルはそちらのパンフレットを読んでいただけると分かりますが、元々交易都市ということもあり物流が盛んなのです。それに伴ってありとあらゆる商品が市場に並んでいます。

 そんな場所へお連れするのに、金が無いからただ商品を眺めるだけというのもつまらないと思いますので、そちらの金貨を使って気になったものを購入していってくだされば」

 

「し、しかしですね、こんな大金を受け取っても我々には返せるものが……」

 

 この頃のアインズ様は腰が低いですね。というより慎重なのか。 出会って間もない相手にあれこれ善意を振る舞われると何か裏があるんじゃないかと疑う感じに近いんでしょうか。

 

「でしたら、これは私たちからの友好の証の一つ、もしくは献上金とでも思っていただければ。 その方が気兼ねなく使えるでしょう?」

 

 多分、献上金の方が守護者たちからのウケはいいんですよね。至高の御方に献上するのは当たり前という考えもありますから。

 

「そういった形でも受け取れませんか?」

 

「…………いや、そういうことならありがたく受け取らせていただきます。『友好の証』として

 

 お、こうして明言して貰えるのは非常にありがたいですね。 アルベドは今は兜をつけていないので素顔が見えているのですが、そこには少しばかり驚きの表情が浮かんでいます。とはいえ、何かに納得したのかすぐに表情は元に戻りましたが。

 

「そう言ってもらえて幸いです。

 では、改めてパンフレットを読んで気になったところから順に案内させていただこうと思います」

 

 こうしてしばらく馬車の中ではパンフレットをじっくり読むアインズ様と、それを横から眺めるアルベドの姿があるのでした。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 同時刻、エ・ランテル領内にて。

 

 

「皆、用意はいいな?」

 

「当然です。 この日のために備えてきましたから」

 

 彼らはスレイン法国のしがない若者たちだ。そんな彼らは今、法国を離れとある行動を起こそうとしていた。

 

 六大神信仰において人間以外の異種族は全て排除すべきという教えが流布されている。その為、法国と戦争を続けているエルフ国などはそれに当たり、捕えられたエルフなどは同じ人間種ではあるが人間ではない為、奴隷として扱われる。ドワーフも土地的にはアゼルリシア山脈で生活している為、ほぼほぼ奴隷として流れてくることはないが扱いは恐らく変わらないだろう。

 そして近年、スレイン法国の目と鼻の先でエルフやドワーフといった異種族が我が物顔で生活しているという話が市民に商人伝いで流れてきた。

 国民の多くはそれに嫌悪感を抱いたが、帝国でもそれらの種族は普通に生活しているという話は聞いている、知っている為そこまで重くは捉えなかった。

 しかし、次に流れてきた話によってそれは覆った。

 

 

 

 現バハルス帝国、エ・ランテル領では異種族だけならず、モンスターや亜人といったものまで隣人として生活していると。

 

 

 

 これには法国民の大多数が異を唱えた。神に愛されし人間が排除すべきものと手を取り合っているのを許していいものか、と。

 

 法国内は次第にエ・ランテルへと攻め込め、異教徒を許すななどの声が上がり、敵意が帝国──エ・ランテルへと向いていた。

 これに気づいた法国上層部は即座に会議を行い、即座に行動に移した。 各神官長たちがエ・ランテルに関しては手出し不要というお触れを出し、外交にて改善を図るという建前でどうにか抑えることになった。

 法国上層部はエ・ランテルの支配者であり、恐らく揺り返しにより降臨した神であろう粛清騎士を絶対に敵に回したくなかったため、かなり厳しく信徒たる国民には言い聞かせたのだった。

 これにより、一時的にとはいえ暴走は落ち着いた……かのように見えた。だが、黄金の策略からは逃れることはできなかった。

 

 

 エ・ランテルから帰ってきたとある武器商人はこの状況を商機と見たのだ。不満が溜まっている法国の若者たちに声をかけ

「このままでいいのか?」

「教えに反した異教徒たちがのさばっているのを見過ごしていいわけがない」

「道を誤った人間を正すのは我々法国民の使命だ」

「神官長たちは耄碌している。目を覚まさせるのは新しい時代を築き上げる君たち若者だ。是非とも支援させて欲しい」などと耳触りのいい言葉を聴かせ集め、反抗組織たる過激派を作り上げたのだ。

 そして数年かけ、それなりの規模になった過激派は遂に行動を起こした。武器を手に取り、馬に乗り、目指すはエ・ランテル領内。

 

「我らに信仰の加護を!」

 

「「「「信仰の加護を!!」」」」

 

 それぞれが六大神へと簡易的にではあるが祈りを捧げ──カッツェ平野を超え、やがてエ・ランテル領内へと侵入した。

 

 そうして辿り着いた村で──

 

 

「異教徒を皆殺しにしろ!」

 

「やはりいるな……モンスターやエルフなどの穢らわしい存在と生活を共にするなど許せぬ!」

 

「火矢を放て!火を持って浄化するのだ!」

 

 

 許されざる暴虐が行われようとしていた。

 





アレーティア
ナザリックへのおもてなしに尽力中。他にも色々用意しているが、一度に全部渡したりはしない。現状は計画通りというか想定通り。
裏で起きていることはまだ知らない。

ラナー
裏で起こっていることの全ての元凶。ただし、このタイミングでそれが起こるのは全くの想定外。フィリップみたいなやつがいたに違いない。
動機はアレーティアのため。

アインズ様
貢がれた人。友好か献上かで友好を選んだのは鈴木悟としての人間性の影響か……それとも?


アルベド
デートという名の護衛。やたら美人な人妻下等生物が現れて警戒していた。
ただ話してみると頭がとてもよく、割と楽しかったから下等生物から有用な人間にまで格上げした。
アレーティアに対する評価は決して油断出来ない大敵。アインズ様が友好関係を築いて、後に処理するつもりだろうという結論に行き着いた。

法国民の皆さん
ラナーの遠隔操作で暴走した若者たち。
エ・ランテル内でやらかす。

法国上層部
国民がやらかしたのを巫女姫からの報告で把握。
まだ間に合う!聖典を派遣してなんとしてでも止めるんだ!(間に合わないし、止まらなかった)


今回短めでした。次回以降から長くしていきたいですね。

感想、高評価などいただけるとモチベがぐんぐん上がると思いますので、よろしくお願いします。


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エ・ランテル観光その2 〜マリア・ローゼ・シーナ〜


エルデンリングやったり、書くにあたって調べ物したり、溜めてたアニメ一気見したり、マレニアにフルボッコにされたり、ファルムアズラの極悪さに苦しめられたり、色んな作品読んだりしてたら更新が遅れる始末。

でも、良いインスピレーションは受けています。
作品に反映出来たらいいなぁと思いつつ更新です。

今回はあとがきの設定解説が地味に過去最長です。



 

 

 ナザリックへアインズ様を迎えに行ってから数時間、無事何事もなくエ・ランテルへと到着しました。

 

「あれが私の治めている城塞都市エ・ランテルになります」

 

「あれが……アルス殿、城壁に等間隔に設置されているあれは何でしょう?」

 

「あれは迎撃用のマジックアイテムですね。日に何度も使えませんが、周辺国家が攻めてきたところで返り討ちに出来るであろう想定で設置してあります。

 ──あ、アルベド様、一ついいでしょうか?」

 

「なんでしょうかアルス様」

 

「恐らく供回りで着いてきている僕の方々にはここまでだと伝えていただきたいのですが」

 

 お、アルベドが固まってしまいましたね。多分見抜かれていているとは思わなかったんですかね?

 実はナザリックを出てからずーっと姿を隠しているナザリックの僕がいました。──名を八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)。ナザリック御用達の護衛モンスターですね。十五体ぐらいでしょうか? カサカサカサカサと着いてきているのが私にはハッキリ見えていました。

 

「……アルベド?」

 

「……万が一に備えて八肢刀の暗殺蟲を十五体追従させていました。 アインズ様の許可なく(しもべ)を動かしてしまい申し訳ありません」

 

 十五体で合ってたみたいです。 やったぜ。

 

「いいや、守護者統括として私を守るためにしたことだろう? ならば構わないとも。

 ただし、次からは事後報告でも構わないから一報を入れてくれ」

 

「アインズ様! ああ、勿体なきお言葉!」

 

 アインズ様は余程致命的なミスをしない限りは基本的に寛容ですね。 あのフィリップのやらかしの責任を押し付けられそうになったヒルマを許したぐらいですし。

 まあ、あれは特殊な事例だった気もしますけど。

 え?アルチェル?あれはミスじゃなくて、自分から進んで地雷を踏んだからああなったわけで……。

 

「ところで、何故八肢刀の暗殺蟲に気づいたのか聞いてもいいですか?」

 

「私はかつて皇帝陛下の直属の護衛をしていまして、その際にとある暗殺組織がこういった隠蔽を得意としていたので見抜ける様に鍛え上げたのです。

 一応、その八肢刀の暗殺蟲でしたか? それらが不用意な行動をすれば即座に対処できる様にはしていましたが」

 

 確かレベル的には五十ぐらいだったはず。オラサーダルク程度なら一蹴出来ますね。それに……

 

「そしてエ・ランテルに入る前に声をかけさせてもらった理由なのですが、この都市でそういった隠蔽能力を持つものが発見されると防衛装置が作動する様になっていまして……」

 

「……それは我々に話していいことなのでしょうか?」

 

「この程度なら構いませんよ。では、その八肢刀の暗殺蟲がこのままこの都市に入ろうとした場合についてお答えしましょうか。

 まず、この第一城壁の一部のマジックアイテムが起動し、隠蔽を暴きます。 次に迎撃用のマジックアイテムが起動し、敵を殲滅します。ここまででドラゴン程度なら撃退、もしくは討伐出来るのは確認済みです。

 これを突破された場合、次に第二城壁の防衛機構が作動します。申し訳ありませんが、ここからは秘密ということで」

 

 なお、第二城壁については発動すると割と取り返しのつかないことになるのであまり発動したくないんですけどね。

 私と同じ世界出身の人がいたら『地鳴らし』で大体伝わると思います。流石にあれ程の規模ではありませんけどね。

 

「なるほど……防衛にはかなり力を入れているのですね」

 

「ええ。元々このエ・ランテルは難攻不落とされていましたが、万が一ということもあるので。 人によっては過剰だと言うでしょうが、多くの種族が暮らすこの都市ではこういった力が抑止力になるんです」

 

 余談ですがエ・ランテル内の治安はめちゃくちゃいいです。 それもこれも全部ラナーによる采配が大きいですが、細かなところはクライムを始めとした騎士達が治安を維持しているからですね。クライムがラナーの夢が叶ったと喜んでいたのが懐かしいです。 最近は搾り取られたり、子供の世話をしたりとで忙しそうですが。

 

「というわけで、八肢刀の暗殺蟲の方々はここまでで、後は我々にお任せいただければと」

 

「まあ仕方ありませんね。 アルベド、ナザリックへ帰還するまで八肢刀の暗殺蟲には待機を命じよ」

 

「かしこまりましたアインズ様」

 

 そうして八肢刀の暗殺蟲はエ・ランテル外にて待機となりました。 本来、あらゆる種族を受け入れると謳っているのならば受け入れるべきなんですけど、今回はあくまでエ・ランテルの観光がメイン。異種族を受け入れるにあたっては理解が必要なので誰でも受け入れるというわけにはいけないのが世知辛いですね。

 まあナザリックの僕達は基本的に知能が人並み以上にあるので受け入れても問題はないとは思いますが、ナザリック至上主義なところがあるのでそこだけ……。

 

 気を取り直して、エ・ランテルへと入ります。 本来ならば、検問所で様々なチェックを受けないといけませんが、この都市の主人である私には不要なので顔パス……というより馬車で誰か分かるので素通り出来ます。

 馬車はそのまま私の城へと進んで行き、何事もなく到着しました。

 一応道中でアインズ様が気になりそうなところを走っていたので、この後はパンフレットと合わせて気になっていそうなところを重点的に案内しましょう。

 

「着きました。ここが私が暮らしている城です。 まずは私共の自慢の庭園にご案内させていただきます」

 

 まず、モンスターや亜人と共存しているという現場を見せることが大切です。

 今は陽が登っているので太陽下では視力が無くなる亜人のクアゴア達は基本的には昼間は表に出ていません。この時間帯は暗所──地下神殿へと繋がる避難経路を警備してもらっています。

 地下神殿はかつてカジットらズーラーノーンによる拠点となっていましたが、現在は掃討済みでクアゴアの住居になっているのと、地下を拡張し万が一に備えての避難所も兼ねています。

 一応神殿なので神官なんかがいたらいいなと思い、リユロにそういうことに興味がありそうな配下を集めさせて神官としての職を得られないかを実践中です。

 そして、肝心の庭園ですがこちらはドライアードやトレントなどのモンスターによって管理されています。ナザリックの第六階層では確かそういったモンスターが多くいるはずなので、共通するものとしてはいいかなと。

 

「ほう……管理が行き届いている様ですねこの庭園の管理をモンスターがしているのでしょうか?」

 

「その通りです。勿論、人の手も入っていますが大部分は森精霊(ドライアード)の力で管理されています。 例えば、あの辺りの花なのですがこの辺りではあまり見られない品種だったのですが、森精霊の力を借りることによって栽培に成功し、こうして庭園を彩ってくれています」

 

 ナザリックからすれば第六階層あたりでやっていそうなことですけどね。いや、まだこの時点ではしていないんだったか……?記憶が朧げですけど些細なことです。 こうしてモンスターと共存出来ている光景が大切ですから。

 ほら、アインズ様も顎に手をやって何やら思案しているみたいです。もしかしたら、原作通りに他のプレイヤーに会った時にこういうことをしていると喧伝出来れば敵対は防げると考えているのかもしれません。

 

 すると、ラナーが森精霊に声を掛けて幾つか花を摘んで貰った様です。何に使うんでしょう?

 

「アインズ様、よろしければ見るだけでなく触れて香りなどを楽しんでみては如何でしょう? あちらにテーブルを用意してますので小休憩を兼ねて是非」

 

「……ええ、そうさせていただきましょう」

 

 この感じは多分「俺に花についての知識も無いけど大丈夫かなぁ」という感じですね。まあ気持ちは分かりますし、アインズ様の現実世界のことを思えばまあそうだよなと思わざるを得ません。

 確かディストピアな世界でアーコロジーにしか草花は咲いていないんでしたっけ?ガスマスク付けないと出歩けないぐらいに大気も汚染されているとかだった様な……この辺りはかなりうろ覚えです。

 ただ、ユグドラシルではその辺りが再現されているはずですが、そういうジャンルに手を出すことはなかったのでしょう。ぶくぶく茶釜さん、餡ころもっちもちさん、やまいこさんの女性たちはもしかすると詳しかったりするのかもしれませんが。

 

 場所は庭園中央にあるテーブルへと移り、席へと着きます。 念の為、メイドエルフ達にお茶を用意させました。アインズ様は飲めませんが、こういうのは心遣いが大事です。原作でアインズ様もザナックと対談した時に自身は飲まないのに自分の分の水も用意していましたからね。

 とはいえ、今回用意した茶葉も領内にある村で森精霊が栽培に協力しているものなので無関係ではありません。

 さて、テーブルには籠に摘まれた花々が幾つか置かれています。どれもこれもこの庭園で育ったものばかり……ではありませんね。幾つか領内の村でのみ栽培しているものもあります。

 

「現在、この庭園で育てている花はこの辺りですね。 それぞれ手にとってみてください。 アルベド様もどうぞ」

 

「それでは、まずこれから……(うーん、やっぱり何も分からん!)」

 

 なんか副音声が聞こえた気がしますがここはスルーで。

 

「……私が使っている香水より香りは弱めのようね。でも不思議と心が落ち着くというか……」

 

「そちらは植物系モンスターから採れる花ですね。 あの辺りに森精霊と一緒にいるのがそうです。危機に瀕すると辺りに高濃度の匂いをばら撒きます。それを嗅ぐと一時的に思考が鈍くなるので、そこを狙って攻撃するという生態なのですが、森精霊を介すことによってそういった事態を防いでいます。

 また、この匂い自体も高濃度でなければ日常生活では害をもたらすほど強いものではないので、精神を落ち着かせる効果を持つ芳香剤としても使われています」

 

 ラナーは詳しいですね。私はそこまで知りませんでした。

 ただ以前神殿で元奴隷達の精神を落ち着かせるのに使ったマジックアイテムに使われていることだけは知っていましたけど。

 

「ふむ……香りは良いのですが、そういった状態異常は我々には効かないのでなんとも……」

 

「あくまでこの香りにはそういった効果があるとされているだけなので、気休め程度に受け取りください」

 

 それからラナーによる花の紹介を幾つかした後、アインズ様が個人的に気に入ったという花の香水と種を渡してこの場での案内は終わりました。

 余談ですが、この香水をプレゼントする案自体は私の発案です。 原作でもアルベドの香水の匂いは悪くないと言っていたので(ベッドの香りと同じとは気づいていませんでしたが)飲食を楽しめないのであれば、せめてこういった嗜好品があってもいいのではと思ったので、森精霊との協力を取り付けた後にそれなりに力を入れて開発しました。

 私はこういうことに詳しくはないので、レイナースを始めとした女騎士やエルフ、ロクシーにも色々と助けてもらいました。 最終的にラナーがそれらをまとめ上げてくれたんですけどね。これが真の天才かと。

 

 あ、さり気なくラナーがアルベドに何か手渡していますね。 え!? しかも握手まで交わしてる!? 何が、何があったの!? この短時間でそこまで距離を縮められるものなの!?

 

「アルス殿、よろしいでしょうか?」

 

「んえ? あ、はい、少しぼーっとしてました。 なんでしょうか?」

 

「実はここに来る途中の……パンフレットでいうところのこの辺りにある商店の並びが気になりまして。 次はここを見てみたいと思うのですがよろしいですか?」

 

「ええ、もちろん構いませんよ」

 

 アインズ様が指差した場所は生活に役立つマジックアイテムが多く並んでいます。

 冒険者などが好む系統のマジックアイテムはもう少し奥に行かないとありませんが、この辺りのマジックアイテムはユグドラシルにはない類のものが多いので気になるのでしょう。

 

 ラナーとアルベドも話を終えた様だったので、次なる場所へと案内を始めるのでした。

 

 

 

 この裏で私の逆鱗に触れる事態が起きているとは知らずに。

 

 

 

 

 ◯

 

 ◯

 

 ◯

 

 

 

 

 巫女姫からの報告でスレイン法国上層部は火の付いたような喧騒に襲われていた。

 

 それは一部過激派の若者達が決起し、エ・ランテルへ武装し侵入したという報告だった

 それは同時に帝国と粛清騎士への宣戦布告にもなる。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 以前、王国での革命騒動の際に目撃されたエルフの姫のこともある。皇帝に謁見し、事の重大さを伝えはしたがあまり深刻には捉えられなかった。 むしろ、返ってきた反応は何故かとても冷ややかなものだった。

 逆に皇帝からは秘密結社ズーラーノーンの幹部たる高弟を捕らえ本拠地を突き止めたため、法国で対処しろと言われる始末。

 法国がそれを断れなかったのは高弟の一人が漆黒聖典の裏切者である第九席次であり、更には叡者の額冠すら帝国の手に渡っていたためである。 裏切者を切り捨てても構いはしなかったが、叡智の額冠は別だ。 法国の秘宝の一つのため、可能であれば回収したい。 なので、これを受理し漆黒聖典を動員し先日それらが解決したのだった。

 その矢先に今回の騒動が察知された。 あまりにも時期が悪すぎると頭を抱えるしかない。

 

「あの愚か者達が出立したのは二日ほど前とのこと……。 今から追っ手を出してもとても間に合うとは……」

 

「この際仕方あるまい。 転移による移動で先回りし愚か者共を仕留めるしかない」

 

「動かす部隊はどうしましょう?」

 

「風花も水明も帝国からは離れている。 火滅は元よりエルフ国への侵攻に出ている。ならば──」

 

「今動かせるのは陽光聖典のみ。 竜王国への支援から帰ってきたばかりで悪いが彼らに向かってもらうしかあるまい」

 

「事は迅速に運ばなければ。 帝国にも謁見を求め万一に備え弁明するべきであろう」

 

 こうして法国も自国の失態を防ぐべく動き出したが、動き出すのが致命的に遅かった。 これがあと一日でも早ければまた違った結果があったであろうが、最早手遅れだったことに気づかず、また悪手を指してしまったことにも気づけなかった。

 

 

 

 





エ・ランテル
アレーティアの魔改造により、防衛面に関しては周辺国家最高クラス。帝都アーウィンタールを鼻で笑えるレベル。
都市の周囲を三重の城壁で囲っているのは原作と変わらないが、第一城壁には外敵を阻む機構が備え付けられたマジックアイテムが多数配備されており、オラサーダルクなどの竜王が攻めてきたとしても突破は困難。欠点は冷却時間が長いため、波状攻撃には弱い。
なお、第一城壁はあくまで時間稼ぎであり、その間に住民達をクアゴアが住居としている地下神殿へと避難させるのが目的。
住民の避難が済んだところで第二城壁の機構が発動する。城壁の大部分が巨大なゴーレムと化し、騎士団や魔法省が合流し数と質で圧倒する。
この時出てくるゴーレムの最低レベルは二十五。最高で五十相当。更にルーンで強化されている。
そして、第三城壁はただ単に頑丈。アレーティアが本気で殴ってようやく崩れるぐらいに頑丈に強化されていて、上空からの侵入に備えて結界系統のマジックアイテムが配備されている。文字通り最後の砦。
第二城壁が起動した時点で全ての通路が封鎖されるため、その頑丈さも相まって侵入は困難極まる。
この時点でアレーティアや鮮血騎士が集結出来る様になっているが、おそらく第一城壁の段階でアレーティアが一人で全てを片付けてしまうため、あくまで保険である。
万が一、第三城壁まで突破された場合は都市内の至る所に設置してある防犯用のガーゴイルやゴーレム、クアゴア氏族や冒険者などが襲いかかってくる。
恐らく、デスナイト三百体ぐらいなら対応出来る。ゲヘナ、聖王国クラスだと厳しい。〈隕石落下〉されたら第二城壁ぐらいまでは一気に壊れるため、即アレーティアが出張ることになる。

ラナー、アルベド
アレーティアの気づかないところで握手するぐらいに親交を深めている。
なんでそうなったかは、多分その内語ります。
シレッと状態異常が効かないことをアインズから聞き出せている。

アレーティア
ええ……?私の嫁頼りになり過ぎなんですが……。

アインズ様
エ・ランテルのパンフレットを見ながらあれもこれも気になって仕方ない。 心境的には多分初めて遊園地に来た子供みたいな。

スレイン法国
急いで事態の解決を図ったが遅すぎた。何故なら既に被害が出ている。

陽光聖典
亜人集落の殲滅などが主な任務の特殊部隊。
この事態で一番動かしてはいけなかった部隊。


感想、高評価などいただけるとモチベーションが上がりますので、よろしくお願いします!



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エ・ランテル観光その3 〜原作前倒しでの邂逅〜

狭間の地から帰ってきました。

ELDEN RINGもネタは出来たんでその内何か書きたいなぁ……。
でも他にも書きたいと思ってるやつがあるから妄想で終わりそう。



 

 

 はい、今度はアインズ様の要望通りマジックアイテムの市場に来ています。

 先程述べた通り、この辺りは生活に関するマジックアイテムを揃えてあります。 例えば一日に六度、一定量のお湯を生み出すマジックアイテムや、家庭用の食物の鮮度を保つ箱型のマジックアイテム。子供でも使える使用者を傷つけない魔法が込められたマジックアイテムなど様々な物が並んでいます。

 この辺りの品はドワーフの下で修行中の職人見習いや、帝国魔法省で認可され作られたものばかりですね。 冒険者にも物によっては役立つ物があるとか。

 

「どれもユグドラシルにはないアイテムばかり……ん? これは……」

 

「これは帝国魔法省で作られているものですね。 一度きりの使い切りアイテムですが一定時間服や装飾品の色を変える効果があります」

 

 アニメでクライムが鎧の色を変えていたあのスライムみたいなのとは違うスプレーみたいなアイテムです。 オシャレをもっと気軽に楽しみたい庶民や、ドレスの色違いが欲しいと騒ぐ我儘令嬢を黙らせる手段として人気みたいです。

 

「色変えアイテムか……ユグドラシルにも似たアイテムはあったけど、これは効果があるのか検証を……」

 

 そうしてアインズ様は色変えアイテムを十個ほど購入していました。 その時に金銀銅貨の支払いであたふたしてたのは見てて面白かったです。はじめてのおつかいを見ている気分でした。

 他にもいくつか気になるアイテムを買って、大体一時間くらい見て回りました。

 

「この辺りはこんなものですね。 次にどこか気になる場所はありますか?」

 

「では、この競売会場と言うのは?」

 

 お、やっぱり食いつきましたね。

 

「その競売会場ではこうした市場には出回らない職人の自信作や、冒険者が発掘した過去の遺物など様々なものが出品される場ですね。

 生憎、今日は開催されていませんが開催されると多くの商人や貴族がこぞって集まり、多額の金銭が動きます。

 この場はまだ名もない職人たちも名前を売る大きなチャンスであり、ここで貴族や商人がパトロンになり後々の仕事に繋がる、という場でもあります」

 

「なるほど……ユグドラシルでも使わなくなったアイテムのオークションなんかがあったけど、それと似たようなものか

 

 この競売会でユグドラシルのアイテムが出品されたことはありませんけど、仮にあった場合とんでもない額になるのは間違いありませんね。

 あの『小鬼将軍の角笛』でもとんでもない額になるのがこの世界ですから。

 余談ですが、私制作のマジックアイテムは基本私の言い値になっています。強力過ぎて値段がつけられないとか。 精々市場に流すのは遺産級(レガシー)程度なんですけど、それでもこの世界では破格です。

 今のところ私が作ったアイテムを鑑定して出来が最も良かった物でも伝説級(レジェンド)が最上ですね。神器級(ゴッズ)には残念ながら届きませんでしたが、代わりに竜王級(ドラゴンロード)と表示された物がいくつか。 なんか新しいレアリティが生まれていたんですけど、もしかするとユグドラシルの隠しレアリティ的な物なのかもしれません。その内アインズ様に聞いてみましょう。

 

「競売会で名の売れた職人たちの品が並ぶエリアもあるので、今度はそちらを案内しましょうか」

 

「是非ともお願いします」

 

 割と食い気味でした。今のところ楽しんでもらえているようで何よりです。

 特に次のエリアにはアレがあるので、間違いなく興味を持ってくれるはずです。

 

 

 

 

「おお、これはティアーズ辺境侯殿。 私の店に何用でしょうか?フロスト・ドラゴンの幼体の件でございましょうか?」

 

「突然の訪問申し訳ありませんオスクさん。 今日は私の友人を案内していまして、貴方の店に並ぶ品々やコレクションなんかを見せてもらえればと」

 

 やってきたのはオスクの経営する店でした。

 原作では帝都で商売をしながら武王ゴ・ギンのオーナーとして闘技場を盛り上げていた一人ですね。 彼は現在闘技場だけでなく、競売会で人材を発掘し多くの職人のパトロンにもなっています。特に武具関連にに力を入れていますね。

 

「なるほど、辺境侯殿の御友人ですか。 私、しがない商人をやっておりますオスクと申します」

 

「私はアインズ・ウール・ゴウンと申します。こちらは私の護衛を担当しているアルベドです。どうかお見知りおきを」

 

「ほほう……見たところあなた方は相当腕が立つようですね。 果たして辺境侯殿とどちらが強いでしょうか。

 おっと、立ち話も何ですから早速我が商会の取り扱っている品々を紹介させていただきましょう」

 

 こうしてオスクの商会で取り扱っているアイテムを職人を交えて紹介、案内してくれています。 アインズ様もアイテムにばかり目がいっていた様でしたが、作り手と会うことによってその人物にも若干の興味を持った様です。

 ユグドラシルではプレイヤーが作ったアイテムが売買されたりしていたと思うんですけど、誰が作ったというのはあまり重要視されていなかったんですかね? 有名なプレイヤーとかいそうですけど。

 ナザリックのNPCたちも「至高の御方に与えられた〜」と言っていましたが、それを創造者が作ったアイテムとは言っていないんでどうなんでしょうか? そもそも〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉では製作者までは分かりませんし、そもそもそういう物なのかもしれませんが。

 

「ん? これは……ルーン文字?」

 

「おお、ご存知でしたか。 この武器は現在エ・ランテルにあるドワーフ工房で作られた一品でして、現状当商会の目玉商品となっております」

 

 あ、気づけば遂にルーン文字と対面していました。 思えばめっちゃ早い出会いですよね。本来ならば魔導国が誕生してからこの世界にルーン文字が存在することを知るわけですから。

 

「ドワーフ工房ですか。 ちなみにルーン文字を使ったアイテムはこの他には?」

 

「ここにはその一点しかありませんが、私のコレクションになら数点ございます。 是非ご覧になっていってください」

 

 そうして今度はオスクのコレクションルームへと案内されました。

 ちなみにですがオスクはコレクションを別々に分けているらしく、帝国にある本邸では闘技場で使われた品々を。エ・ランテルの別邸では精魂込めて作られた職人の傑作の数々を飾っている様です。

 また、自分の推しの剣闘士にはここのコレクションを貸し出すこともあるとか。 オスクは元々使い込まれた武器が好きなので、使われないより使ってもらった方がより愛着が増すのかもしれませんね。 例えるならば、推しのアイドルに贈った物を何かの企画で使ってもらってるのを知った喜びという感じでしょうか?

 

 コレクションルームには競売会で見られた武具の他にも、お抱えになった職人に作らせたであろう物も見られました。

 ……あ、あれは。

 

「どれも素晴らしい品ばかりですね。

 ところでこの台座に刺さっているこれは……」

 

「やはり目が行きましたか。 それはこの私が持つコレクションの中でも随一の物です。

 かの競売会で貴族やライバルの商人たちをなんとか退け落札に成功した──ティアーズ辺境侯自らが打った名剣、名を“勇者の剣”。

 この剣を抜くことが出来た者は勇者としての素質がある者だと名された剣でございます」

 

 あー、やっぱり。そんな剣を割と本気で作りましたね。 例の鎧が完成したし、明けの明星(ルシファー)と同等の剣が欲しいとツアーにねだって幾つか素材を見繕ってもらって出来た剣です。

 某作品に似せて作ったのですが、私の異能(タレント)がこの時仕事をしてしまい私でも扱いに困ったので売りに出した次第です。

 いや、ちゃんと台座から抜けるんですけど条件があるから抜けないというか……これ使ってる間は特殊技能(スキル)で縛りが出るみたいなので……。

 一応、この反省を生かして、新たな剣は作れたので問題なしです。

 

 ちなみに落札価格は白金貨五百枚──金貨にして大体五千枚になりました。過去一の落札価格でしたね。元は取りました。

 競り負けたドワーフ工房の方々は血の涙を流していたという話もありますが、彼らには定期的に私が鍛治指導しているのでそれで満足して欲しいですね。 競売会にも出してない武具沢山提供しているんですから。

 

「ティアーズ辺境侯、よろしければまた抜いてはいただけませんか?

 あの美しい剣身の全てを再び見たいのです。 勿論、台座に刺さったまま選ばれし者にしか抜けないというのも大変ロマンがあっていいのですが……」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 私が特殊技能を使って職業を変更すればアッサリと──台座から抜けると同時に剣身が眩い光を放ちながら──抜けました。

 まあ、作った本人が抜けない剣とか割と産廃なんじゃないですかね。

 

「おお……おお!! この抜ける瞬間の輝きッ!露わになった剣身のなんと美しいことかッ!!」

 

 オスクのつぶらな瞳からは涙が溢れています。

 私はそのまま勇者の剣をオスクへと手渡しました。

 

「ああいう剣はたっちさんが好きそうだな……」

 

「アインズ様、どうかされましたか?」

 

「ああいや、少し昔を懐かしんだだけだ」

 

 あー、たっちさんは確かに好きそうですね。ヒーローとか特撮とか好きだったのなら、勇者とかも好きそうです。

 そうなるとセバスもこの剣が好みの可能性がありますね。

 

「ささ、アインズ殿も手に取ってください。 この感動を分かち合ってくだされ」

 

 オスクがアインズ様へ剣を手渡し、ジッと観察し始めました。お眼鏡に叶えばいいんですけど。

 

「失礼、オスク殿。 少しばかり魔法を使って調べさせていただいても?」

 

「その剣が傷ついたりしたりしなければ構いません。

 もっとも、仮にそうなったとしてもこの場に直せる方がおりますので」

 

「単に私が剣を打つところを見たいだけなのでは?」

 

「はっはっはっ、そうかもしれませんな」

 

 笑って流されました。 まあ、この後ドワーフたちの工房へ案内する予定なので構いませんが。

 そんな会話をしているとアインズ様は〈道具上位鑑定〉を発動して勇者の剣を解析している様です。

 

「なるほど……こういう仕様なのか」

 

「何かお分かりになられたのですか?」

 

「どうやらこの剣は特別な資格を持つ者にしか扱えない様になっています。

 だから私でもこの剣を台座から引き抜くことは出来ない。 今はこうして台座から離れているが、仮にこれを資格無き者が振るおうものならその真価は発揮されない作りになっている」

 

「なんとも不敬な剣ですね。 この世で最も尊き御方であらせるアインズ様に抜かれることを拒むとは……」

 

 ごめんて。 ほら、オスクも反応に困った顔してることに気づいて。

 

「しかし、このレベルの武器が流通しているとなると……」

 

「アインズ様?」

 

「いや、なんでもない。 ところでアルス殿にお聞きしたいのですが、この剣にも刻まれているルーン文字というのは一般的に使われているものなのですか?」

 

「いいえ、ルーン技術は一般的に普及されてはいません。元々はドワーフ独自の技術で、数年前まで廃れた技術でしたが、とあるキッカケで盛り返して今ではドワーフと帝国魔法省で研究が続けられています」

 

「そういえばこの都市にもドワーフをちらほらと見かけましたね」

 

「ええ、帝国とドワーフ国は国交を結んでいまして、この国にいるドワーフは全てドワーフ国からの移民、もしくは派遣されてきた者ばかりです」

 

 現状首都フェオ・ベルカナはオラサーダルクたちフロスト・ドラゴンの住処になっているのは変わっていません。 しかし、クアゴアとの対立が無くなり外敵がある程度いなくなったのでフェオ・ライゾは放棄されていないので生活圏は縮小されず、むしろ帝国に派遣された職人の話を聞きつけて帝国へと移住する者も増えました。

 ただエ・ランテルに移住希望がめちゃくちゃ多く、乱闘になるぐらいの騒ぎになったことがありました。 鍛治工房長までエ・ランテルに骨を埋めようとしていて議会からどうにかしてくれと泣きつかれたので、私もラナーに泣きついたのは記憶に新しいです。

 

「ユグドラシルにルーンは存在しなかったのですか?」

 

 一応知らない体で話しておきましょう。 現に私はプレイヤーじゃありませんからね。

 

「いや、ルーン文字という知識はあるのですが、あくまで装飾として存在していた程度ですね。 確か……この剣のように」

 

 そう言ってアインズ様が虚空から取り出したのは原作でも取り出していたルーンが二十文字刻まれた剣でした。

 一応私もルーンに魔力を込めずにただ装飾として刻もうとはしてみたのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()失敗に終わりました。もしくは私がルーンに関するスキルを持っているのも影響していそうですが。

 

「お、おお!これは素晴らしい剣ですな! 辺境侯の作られた剣に勝るとも劣らない……! ゴウン殿、よろしければそれを──」

 

「オスク」

 

 アルベドが斧を取り出して牽制しようとしていたので、その前に封殺します。 オスクも理解したのかすぐさま引き下がり謝罪の言葉を口にしていました。

 

 ちょっとした諍いが起きてしまいましたが、結果オーライということで。

 オスクと別れ、次の場所へと向かうのでした。

 

 行き先はドワーフが集う職人街です。

 

 

 





勇者の剣
アレーティア作の伝説級装備……なのだが、ユグドラシルに存在する伝説級と比べると大幅に劣る。
この世界では最高峰に近い。見た目はどこかで見たことのある伝説の剣。 マスターなソードかもしれないし、どこぞの王様が抜いた剣かもしれない。 はたまた全宇宙を統べる神が封印されていた剣かもしれない。
当然の如くルーン技術が使われており、全ての攻撃に神聖属性が追加される上に、一日に三度まで第九位階相当の魔力攻撃を放てる。魔力を消費して威力を高めて放つことも可能。ただしコスパは悪い。第十位階の魔法を使ったぐらいの魔力を消費してしまう。
アレーティアが制作時に悪ノリして『伝説の剣がモチーフだから台座に刺さってないとそれっぽくないよね』と台座を制作した結果、異能が無駄な仕事をしてしまい職業に勇者関連のものがなければ使用出来ない制限が生まれてしまった。なお、装備時には台座が変形し鞘になる仕組みになっている。
一応台座に刺さったまま使用することも可能ではあるが、そんなことをするなら別の武器を使った方がマシなレベルで弱くなる。
アレーティアが自分で作っておきながら使いづらいと売却に至った。
現状、この剣を抜けるのは現地勢ではアレーティア、ラナー、漆黒聖典第一席次、ンフィーレアの四人だけ。 ラキュースは残念ながら抜けなかった。血涙を流して悔しがった。
プレイヤーなら十三英雄のリーダー、たっち・みー辺りなら抜ける。

竜王級装備
アレーティア最強装備。性能的には伝説級以上神器級未満。
竜王級装備と称されているが、実際は伝説級。アレーティアがこれを竜王級と言ったのは〈道具上位鑑定〉のフレーバーテキストに『竜王級』と書かれていたから勘違いしたのが真相。
ツアーに協力させて作り上げた最高傑作。これ自体は二つ存在しているが、全性能を引き出せるのはアレーティアだけ。
性別で見た目が変わる仕様になっている。


次回は襲撃されている村の回をやる……予定です。そっちが思いの外長くなってしまったので。
ちょっとした挑戦でこの時裏ではこんなことがみたいなことを数話やっていましたけど、やっぱり難しいですね。もう少し早く更新出来るように頑張ります。
感想、高評価などいただけるとレアドロップした時並に喜びますので、よろしくお願いします。


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エ・ランテル観光その4 〜火を点けろ、燃え残った全て(情熱)に〜


例のごとく遅れた理由は活動報告にて。

今回ルーン文字についてかなりのオリ要素があります。
後、鍛治などについても。

というか作者が鍛治やルーンについて詳しくないので、調べながら妄想で書いてます。
本職の方がいたら申し訳なく。
ただ、オーバーロード本編でもドワーフが武器打ってる描写がないから……(言い訳)




 

 

 

「おおっ! 皆の衆手を止めよ! 鍛治神が……鍛治神がいらしたぞおおおおおッ!!!」

 

 

 

「「「鍛治神ッ! 鍛治神ッ!! 鍛治神ッ!!!」」」

 

 

 

 

 

「「「うわぁ……」」」

 

 はい、要望通りドワーフの鍛治工房へと案内を進めたのですが……私が来るたびにこの熱狂する感じどうにかなりませんかね?

 ほら、アインズ様もアルベドもあまりの熱気にちょっと引いてます。

 ラナーはなんとも無さげに見えるのはどうしてでしょう? 何故か誇らしげですし。

 

「これはこれは辺境こ……鍛治神様ようこそおいでくださいました!」

 

「ゴンドさん、辺境侯でいいんですけど? なんで鍛治神って言い直したんですかね?」

 

「はっはっはっ! この場では辺境侯の名より鍛治神の名の方が強いのでな! 申し訳ないが受け入れていただきたい」

 

 スケールが!スケールがデカすぎる! 私なんて特殊技能(スキル)で職業変更してルーンで性能誤魔化してるに過ぎないんですから鍛治神とか本職にしているユグドラシルプレイヤーに失礼すぎます!

 この場にアルベド以外の守護者がいたら「至高の御方を差し置いて神を騙るとは不敬にもほどがある」とか言い出しそうです。 でもナザリックに生産職メインの人っていたっけな……?一人いた気がしなくもないんですけど、忘れてしまいました。

 

「そちらの方々は?」

 

「紹介します。私の友人、アインズ・ウール・ゴウンさんとアルベドさんです。 エ・ランテルへ観光に来たので案内していて、ドワーフの仕事とルーンについて気になった様だったのでこちらに来たわけです」

 

「おお!ルーンについてか! それなら任せてほしい……と言いたいんじゃが、ルーンに関してはワシらよりも最早鍛治神様の方が詳しいのでは?」

 

 くっ、余計なことを……まあ、いずれバレることですし私は全てのルーンを扱えても知識があるわけではないのでその辺りはルーン技術研究家のゴンドさんに任せるべきでしょう。

 

「私はあくまで扱えるだけですし、ルーンに関して熱心に研究されているのはゴンドさん達ルーン工匠の方々ですので、そのお株を取るわけにはいかないでしょう」

 

「むぅ……()()()()()()()は鍛治神様でも理解出来ておらんのですか?」

 

「……あのルーン文字に関して私がいうのもアレですけど、例外中の例外です。 アレが多分裏文字とか神位文字に値すると思うんですけど、刻める素材が無い以上研究しようもありませんからね……」

 

 ルーン文字に関しては謎が多いです。 前世でも存在は知っていましたけど、その実態に関しては全く知りませんでしたからね。割と手探りで模索していました。

 その中でもあの文字だけは異端です。 理解出来ても理解出来ない、そんな文字です。

 悔しいことにどんな武具にも現状刻むことすら出来ず、素材そのものが耐えられないためユグドラシルの高位の素材でもなければルーン武具としては扱うことすら出来ないでしょう。

 ……いや、熱素石(カロリックストーン)を使えば間違いなく刻むことは出来るんですが、流石に勿体なさすぎるので、使っていません。 今も肌身離さず持っていますが。

 

「さて、考察はそこまでにしてゴンドさんよろしくお願いします」

 

「おお、そうじゃった。鍛治神様のご友人をこれ以上お待たせするわけにはいかんからの。

 自己紹介が遅れて申し訳ない。 ワシはゴンド・ファイアビアド。ドワーフ国から来たルーン技術研究局長じゃ」

 

「はじめましてゴンドさん。 私はアインズ・ウール・ゴウンと申します。こちらが私の護衛であり腹心のアルベドです。

 早速ですが、ルーン技術で作られた武具に興味がありまして……どの様に作られるのか教えていただけますか?」

 

「そうじゃな……ではまず普通の魔化されたものとルーンが刻まれたものの違いの説明から入ろうかの。 まず──」

 

 ここからの説明や質疑応答は基本的には原作と変わりないですね。この場にいるのがアウラとシャルティアではなく、アルベドという違いがある程度でしょうか。

 

「──そんな廃れつつあったルーン技術を復興させ、更なる先へと至ったのが鍛治神様なんじゃ」

 

 ん?気づけば私に話題が移っていました。

 

「ほほう……アルスさんがどの様にして鍛治神とまで呼ばれる様になったのか気になりますね」

 

 お、おいやめてくれアインズ様! 鍛治神は自称しているわけじゃなくて他称なんですから! ガチ生産職のユグドラシルプレイヤーとアイテム製作勝負したら負ける自信しかないのに!

 

「そうじゃろうて、そうじゃろうて! ですので鍛治神様、ご友人もおられることですし是非その腕前を我らの前で披露してくだされ!」

 

「それが目的でしょうあなた達」

 

 ほら、ドワーフとここで働く弟子達が全員手を止めてしまいました。 こうなると私が何かを作るまで動かないので……仕方ないか。

 本当ならもう使っていないセブンスター・ルーンやフロスト&フレイム・アゼルリシアを見せてお終いにするつもりでしたが、私の腕がどこまで現役ユグドラシルプレイヤーに通ずるかも気になるところですから、いい機会と割り切りましょう。

 

「仕方ありませんね……では少々着替えて来るので私の鍛治工場まで案内を頼みます」

 

「おおっ!言ってみるもんじゃな! 皆の衆!鍛治神様が槌を振るうぞッ!! 御客人方を最前列へ案内して差し上げろッ!!」

 

 

 

「「「おおおおおっ! 鍛治神ッ! 鍛治神ッ!! 鍛治神ッ!!!」」」

 

 

 

 だからその鍛治神はやめて……ッ!!

 

 

 

 

 さて、不本意ではありますがこうして武器を打つ事になってしまいましたが、やるからには本気でやります。

 私が武具、マジックアイテムを作る時は着替えをします。 何故かというと、ボーナス効果を持つ装備を持っているからです。名を〈金屋子神(かなやこかみ)の衣〉と言います。名前からして和服です。聞いたことはない神様ですけどね。ついでに言えば神の名を持っているのにレアリティは伝説級(レジェンド)です。

 これは私がエルフ国……クソ親父からパクって来た──拝借してきたもので、装備時にステータスが若干低下するものの製作したアイテムが完成した時に通常通り完成したものより強化される仕様があります。

 

 

 着替えを済ませてから私が使う鍛冶場へと向かえば、ほぼ全部ドワーフのルーン工匠とその弟子で観覧席は埋め尽くされていました。最前列にはゴンドさん、アインズ様、アルベド、ラナーの順に座っている始末。 実にやりづらいですね(遠い目)

 そんなことも言っていられないので、さっさと始めましょう。 武具を打っている間に髪が邪魔になるといけないので、服装に合うように鉢巻を巻きます。 バンダナでもいいんですけど、こっちの方が合うとドワーフ達から猛プッシュされたので。

 

 

「おお……見よ!! 白金の髪に照らされ輝いている鉢巻をッ!! まさに鍛治神ッ!!!」

 

 

 そんなことを言うバカはどこのどいつ……声の方を見れば鍛治工房長じゃないですか!? アンタ今はドワーフ国で待機の番でしょう!?下に示しがつかないんで勝手なことやめて欲しいんですが!?

 

 とりあえず湧き立つドワーフ(バカ共)が多いので黙らせてから始めるとしましょう……。

 口元に人差し指を当てて「シィーッ」と発すればあれだけうるさかった鍛冶場に静寂になりました。 なんでしょうね、この無駄な統率感。ある意味では騎士団の統率を超えてると思うんです。

 舞台も整ったので炉に火を入れて始めるとしましょう。 材料はこの世界基準で最高の鉱石であるアダマンタイトをメインにミスリル、ザイトルクワエの眷属の牙を使っていきます。ついでに職業を生産職に変えるのも忘れずに。

 

 炉に鉱石を入れ熱していきます。 しばらくすると教育番組なんかで見るように熱されて紅く光るので、その辺りで金床へと取り出し金槌で叩きながら鉱石を鍛えていきます。この時に、職業の恩恵なのか鉱石が自然と一つになります。 他のドワーフでも同様のことが起きるので、ユグドラシルでもそうなんだろうなと思っています。そういうのがなければもっと時間がかかるんじゃないですかね?

 そんなことを考えながら叩いても仕方ないので、雑念を振り払うが如く金属を叩く、叩く、叩くッ! ガキィンッ!ガキィンッ!と金属が叩かれる鍛えられる音が心地良いのはどうしてでしょう。職業病というやつでしょうか? 一時は帝国騎士団の武具を全て打ち直したりしていたんで、短期間ではあれどそこらの武具職人よりも多くの武具を使った自信があります。

 これはまた別の話ですが、エ・ランテル領内にある村を治めることになった騎士達には特別に彼等専用の装備を作ってあげました。将来有望な彼等彼女等には今後も頑張って欲しいので気合を入れて作りましたね。

 

 さて、何度か熱して、叩いて、鍛えてを繰り返した後、ここでザイトルクワエの眷属の牙を取り出し、これを鍛えた金属へと加えます。 すると金属と牙が一体化し、武器の形へと姿を変えます。

 ここで一度手を止め、ルーンを刻みます。 ここでワンポイントなのですが、ルーン文字とは文字であるので意味のある言葉を表すことが出来る組み合わせで刻み込めば……

 

 

「「「「おおっ?!」」」」

 

 

 この通り、ルーン文字の真の効果を表すことが出来ます。 ちなみにルーン文字を刻むには時間がかかるため、同じ効果を発揮するのに時間がかからない魔化が主流になってしまいましたが、私ほどのレベルになるとルーン文字を刻むのもあっという間です。 なんらかの常時発動効果(パッシブスキル)が作用している可能性もありますが。

 おそらくですが、過去作られた六文字のルーンが刻まれた大地を激震させるハンマーというのは、そう言った言葉を示す文字が刻まれていたのではないかと思います。Groundとか。

 なので今回は〈ᛓᚱᛁᛖᚾᛞᛚᛇ(FRIENDLY)〉この八文字を刻み込みます。 私とナザリックの今後の関係への願掛けですね。

 

「あれほどの文字数をあんな短時間で……」

 

「神業じゃ……」

 

「あれぞ、まさに鍛冶神ッ!!」

 

「あれはそんなにすごい技術なんですか?」

 

「ああ、ゴウン殿には伝わりにくいかもしれんが──」

 

 

 外野が騒がしいですが終わりも間近なので無視しましょう。 解説もゴンドに任せます。

 ルーンを刻み終えた後は砥石で刃を研いで磨きあげて……

 

 

「完成です」

 

 そう告げれば鍛冶場には拍手の音だけがパチパチと響き渡りました。 アインズ様とまさかのアルベドまでがスタンディングオベーションしているのを見た時はちょっと驚きました。アインズ様はともかくアルベドにそんなことをする心があったとは……。

 

「素晴らしい仕事ぶりでした」

 

「ありがとうございます。 そう言ってもらえて何よりです。

 良ければこちらは差し上げます」

 

 そう言って私は完成したばかりの直剣をアインズ様へと差し上げ──献上します。 周りのドワーフ達が物欲しげな顔をしてますが無視です無視。今まで作ったもので満足してください。

 

「い、いいのですか?」

 

「ええ、勿論。 ルーン武器が気になっているのであれば、私の作ったものが一番という自信がありますので」

 

 とはいえ、性能はユグドラシル基準で言えば微妙な域でしょう。鑑定しないと分かりませんがレアリティ的には遺産級(レガシー)でしょうか。特別な素材も使っていませんからね。

 

「……ではありがたく受け取らせていただきます。 ちなみにこの剣の名前は?」

 

「そうですね……では、ウィンクルムというのはどうでしょう?」

 

 ウィンクルム(Vinculum)。ラテン語で確か絆を意味する単語だったはず。この剣の能力的にもピッタリな名前のはずです。

 

「ウィンクルム……良い名前ですね。

 ところで、ひとつ頼みたいことがあるのですが……」

 

「なんでしょうか?」

 

 この場面で頼まれることって一体なんでしょう? ……もしかしてユグドラシル素材で何か作ってくれとか?

 

「実はアルスさんの腕を見込んで、この素材を使って作ってみてもらいたいものがあるのですが──」

 

 おお、まさかの予想通り! それもユグドラシル素材をアインズ様の提供で!! これは嬉しいですね!腕がなるってもんで──。

 

 

「アルス様!ここにおられましたか! 御客人との御歓談中に申し訳ありませんが緊急事態です!!」

 

 

 突然、鍛冶場に通ずる扉をけたたましい音を立てて開けて飛び込んできたのは……領内の通信網を──スマートフォンもどきを利用した領内騎士での連絡網──管理している一人ですね。 確かに今日は余程緊急の事態が起きない限り取り次ぐなとは伝えてあったので、飛び込んでくるということは相当の事態が起こったのでしょうが一体何が……?

 

「何事ですか?」

 

 一瞬呆気に取られた隙にラナーが代わりに返答してくれました。 

 

 

「じ、実は数時間程前、辺境騎士アンドレから緊急の連絡が届きまして! エ・ランテル領内に賊が攻め入ってきたとのことです! それからアンドレからの連絡は途絶え──落とされたものと推測されます!」

 

 

 

 この時、私の中の堪忍袋の緒がブチブチッという音を立ててちぎれていくのを感じた。

 

 

 

 





金屋子神
日本に伝えられる鍛冶に関する神。女神とも男神とも伝えられている。
天目一箇神(あまのまひとつかみ)と同一、もしくは何らかの関係があるとされている神。(wiki調べ)


あまのまひとつ
至高の御方。生産職メインのプレイヤー。円盤購入特典プロローグにて登場。書籍版巻末の至高の四十一人紹介もされている。
出番が僅かなためアレーティアの記憶に残っていなかった。
ナザリックにあるパワードスーツは多分彼の引退品? ペロロンチーノに挑んで撃墜された苦い記憶がある。

アレーティア
鍛冶神と書いてゾクガミと読まない。 でもドワーフ達はああなってしまった。
王国戦争編でアレーティアが首を飛ばしまくっていたのは、作者がその時『忍者と極道』にハマっていたからという裏話。
ルーン技術をほぼ完全に復活……どころか向上させている。ゴンドは嬉しくて泣いた。
次回からは修羅になる。

ゴンド・ファイアビアド
ルーン研究の第一人者であり研究局長を務める。
現在はアレーティアが作ったルーン武具の研究を進め、文字一つだけでなく単語として発揮する効果についての研究も並行して行っている。
余談ではあるが、ドワーフに研究用に渡しているルーン武具の存在をジルクニフは一切知らない。知らされていない。

アインズ様
ルーンというユグドラシルにはない技術に興味津々。
アレーティアが剣を打っている姿を見てかつての仲間である、あまのまひとつのことを思い出し懐かしんだ。彼がこの世界に来ていたら、一体どんなものを作っていただろうかと。
アレーティアにユグドラシル素材を渡してどのレベルの物まで作れるのか調べようとしたところで問題勃発。

ウィンクルム
ラテン語で絆を意味する。他には靭帯や紐など切れてはいけないという使い方をされる単語。(友人調べ)
装備効果は敵を倒した際に生じる経験値などが増加する。




ルーン設定
刻印魔法に関しては以前記述した通り。もう少し付け加えるのであれば使うルーン文字の位階(下位、中位、上位)によって再現出来る魔法の位階が異なる。
アイテム製作に用いるルーンについては、刻印魔法の制限にとらわれない。制限されるのはあくまで戦闘におけるルーン文字の使用。

今回語った通り、ルーン文字を無作為に幾つも刻むよりも一つの言葉として刻む方がボーナス効果は高くなる。
ただし、素材によって刻み込める文字数は異なる上にルーン文字について理解がないとここには至れない。
勿論、意味もなく刻んで強化することも出来るが、強さはあくまで魔化されたものとあまり変わらない程度の力しか得られない。この辺りがルーン技術が廃れた原因。
かつての魔神戦争の際に、これらに詳しいドワーフの王族と技術が失われたためルーン技術は衰退の道を辿ったが、アレーティアによって掘り起こされ現代に蘇った。
なお、アレーティア自身理解しているのではなく、その職業に成っている時に出来る気がするという感覚で完成させた感覚派なので、これからの技術の復興はゴンドたちに掛かっている。

例のルーン
作中で語った例のルーン文字の設定だけ語るのなら、全てのルーン文字に成ることが出来る“何も刻まないルーン文字”。通称、運命のルーン。
他には原初のルーン、死のルーンなどがある。
なお、アレーティアは原初のルーン、死のルーンは扱うことが出来ない。(種族的な問題で)

アニメでオスクが持っていた件に刻まれていたのはᚦᛟᚱᚾの四文字。アルファベットで表記するとThORN、即ちThornとなる。これは一文字目のᚦが元々ソーン、スリサズと呼ばれるルーン文字のため、この文字を補強、もしくは引き立てるために四文字刻まれたものだと考えられる。
なお、アインズ様が持っていたユグドラシル製の剣に刻まれていた二十文字はᛏᚢᚨᛈᛁᛉᛋᛗᛲᚷᛗᛞᛚᛇᛖᛒᚲᛩᛃᛓ(作者調べのため作者が間違えている可能性大。 あくまで参考程度に)


なお楽しい観光はここまで。次回から割とシリアスな展開になります。
それに伴い、法国に対するアンチ要素が増えるんで、アンチ・ヘイトは念のためのタグを外したことを報告しておきます。 大分今更ですけどね(苦笑)

感想、高評価いただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします!



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辺境騎士アンドレ


書いてたら文字数一万超えてた……。

今回でようやくオーバーロードっていう作品を書けた気がしますね。

そういうわけで今回は鬱回になりますので、苦手な方は次回を待つか、あとがきまで飛ばしてください。



 

 

 アルス・ティアーズ辺境侯が割譲されたエ・ランテルを治めてから領内に存在した村での生活は大きく変わった。

 まずはそれぞれの村に騎士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)が派遣された。そして騎士が中心となり村全体を治めることになったという。 これには元々村を治めていた村長が反発したが、この地を治める貴族──アルス・ティアーズ辺境侯からの遣いであり命令でもあったため聞き入れられることはなかった。

 しかし、彼ら村人達の生活が脅かされることはなく、逆に安心した生活を送れる様になった。

 派遣された騎士や魔法詠唱者は実力者で時折現れる亜人──ゴブリンやオーガ、モンスターは悉くが蹴散らされた。

 それだけでなく、辺境侯の意向で定期的に神官が訪れるため病に倒れ死んでいく者が減少し、村の人口の増加に繋がることとなった。 また、村を治める騎士からは自衛の手段を教えられ、冒険者とまではいかないがそれなりに戦える男達も増えていった。そうした力強い男に女達は自然と惹かれ一時結婚する者が増えたという話もある。

 

 またしばらくして、今度はモンスターや亜人を受け入れて欲しいという辺境侯からの命が届いた。 これには流石に多くの村人達が反発した。村にモンスターを受け入れて、襲われたらどうするのだと。

 確かに村の男衆は自衛する手段を得たが、戦えるかどうかと言われれば話は別だ。隣人として受け入れられるとは思えない。

 しかし、そんな不安はアッサリと払拭されることとなった。新たな隣人としてこの村に来たのは森精霊(ドライアード)とトレントと呼ばれるモンスターだった。 森精霊は子供ほどの大きさしかないが、普通に言語が通じた。そして大木のモンスターであるトレントとは言葉は交わせなかったものの、森精霊を介することで簡易的にだが意思の疎通をすることが出来た。

 そうして隣人が受け入れられたのを機に、新たな計画が発表された。 それは森精霊の協力による新たなる作物の育成。及び、今まで育てていた作物の増産だ。

 聞けば森精霊は植物の管理に長けており、彼らの協力を得られれば多くの作物が育てられるという。これが成功した暁には税の支払いを減らしてもいいという辺境侯からの依頼を断ることはなかった。

 結果的に計画は上手くいき、作物の収穫量は例年よりも増加し村は豊かになった。飢える者はなく、モンスターと手を取り合い生きていくことの素晴らしいことか。 十年も経てば、この村も村ではなく町として発展出来るかもしれないと、その村を治める騎士は朗らかに笑った。

 

 そんな矢先だった。 この村が亜人でもモンスターでもない『人間』に襲われたのは。

 

 

 

 

 

「異教徒を抹殺するのだ!」

 

「穢らわしいモンスターや亜人を優先的に狙え!」

 

 突如現れた六大神の紋章を掲げた集団は馬を駆り、その手に持った凶器で森精霊(ドライアード)へと斬りかかった。

 

「や、やめろぉッ!」

 

 間一髪、農具を持った村人がそれを防ぐ為に森精霊の前へと躍り出る。 こうして咄嗟に人ではないモンスターである森精霊を守るために体を張れるぐらいには、森精霊はこの村に受け入れられてきた。

 しかし、庇い初撃を凌ぐことは出来ても続く攻撃を防ぐことは出来なかった。斬りつけられた村人はそのまま地面へと倒れ伏してしまった。だが息はまだある。

 それを見た襲撃者は忌々しいものを見たとばかりに憎々しい表情を浮かべ──

 

「モンスターなど庇う異教徒に慈悲などない! 死ねい!」

 

「ぐふぅっ」

 

 村人はそのまま胸を刺し貫かれ絶命した。あまりにも呆気ない最期だった。

 

「そ、そんなっ!? どうして、どうして彼を殺したんですか!?一緒に生きていただけなのに!!」

 

 目の前で親しくなった隣人を失った森精霊はたまらず叫ぶ。 別に悪いことをしたわけでもない。 ただこの村で人と手を取り合って生きていただけだと涙ながらに訴える。

 

「……モンスター風情が人と同列になったつもりか? 思い上がりも甚だしいッ!」

 

 そんな森精霊の訴えもこの男たちには通じなかった。 彼らの教義では人こそが神に選ばれた種族であり、それ以外の全ては殲滅すべきというものがある。 それ故にこの森精霊の訴えもただの不快な鳴き声にしか聞こえない。彼らは教えを疑わなかった。だからこそ、この様な暴挙を起こしたのだ。

 

 再び剣が森精霊へと向けられ、振り下ろされる。 森精霊は逃げられずその剣によってもたらされる結末を受け入れようとし──

 

 

 

 

 

「私が任された村でこの様な蛮行……許せぬ!」

 

「りょ、領主様!」

 

 間一髪でその結末は防がれた。

 現れたのはこの村を任された騎士アンドレである。 そしてその後ろには魔法詠唱者が一人。彼はアルベリヒ、この村で騎士の補佐を任された人物だ。

 

「モンスターを庇うだと? 異教徒めが……その罪、この剣で贖ってやろう!」

 

 構わず再び剣を振るう襲撃者だったが、この村を任されたアンドレには遠く及ばず──

 

「武技〈流水加速〉」

 

「あがっ!?」

 

 あっという間にその肉体を三つに斬り分けられてしまい絶命した。

 

 

「後ろは任せたぞアルベリヒ! それとエ・ランテルに緊急の連絡を! もしかすると他の村も襲われているかもしれん!」

 

「応とも! 〈鎧強化(リーンフォース・アーマー)〉、〈下級筋力強化(レッサー・ストレングス)〉 武運を祈るぞアンドレ!」

 

 

 エ・ランテル領内において、村に派遣された騎士や魔法詠唱者はアルス・ティアーズ辺境侯によって実力が認められ、その村を上手く治めることが出来れば新たに領地と一代限りではあるが爵位が贈与されることが皇帝ジルクニフの認可のもとで決まっている。

 認められる条件は幾つかあるが、その一つに最低限度の強さを持つこと──冒険者でいう白金級程度の実力が求められている。 かの帝国四騎士や辺境侯の集めた精鋭鮮血騎士の様に一騎当千とまではいかないが、雑兵程度なら軽く蹴散らせる。 更に厳しい訓練に耐えた彼らは数多くの武技を扱うことも出来るため、下手な冒険者よりも腕が立つ。

 

「オオオオッ! 武技〈斬撃〉!」

 

「ぐぎゃあっ!?」

 

 アンドレの武技が襲撃者の鎧ごと体を両断する。 アンドレの持つ剣は村を任される際に辺境侯から贈られた自分専用のものだ。鎧もマジックアイテムも全てそうだ。

 

『あなたには期待していますよ』

 

 帝国最強の存在が自分を──このアンドレの活躍を期待してくれている。 それだけでアンドレのこれまでの苦労が報われたというものだ。

 

「く、くそっ! こいつ強いぞ!」

 

「焦るな!数では我々が勝っているのだ!囲んで叩け!」

 

「その程度で俺を倒せると思うな! 武技〈回転斬り〉!」

 

「「「ぎゃああああっ!!」」」

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

 騎士アンドレは平民の出だった。騎士に憧れ、帝国最強の騎士を目指し日々鍛錬を積んできた。

 しかし、その壁は高く分厚かった。騎士にはなれたがそれまでだった。彼は凡庸だったのだ。

 彼に転機が訪れたのは数年前のことだった。皇帝ジルクニフが即位し、それと同時に現れた粛清騎士という()()()。話によればカッツェ平野に現れ、帝国へと侵攻していたアンデッドの大群を一人で殲滅し、皇帝陛下により騎士へと──それも騎士団を差し置いて側近とした。

 アンドレは突如現れた粛清騎士が気に入らなかった。陛下に気に入られただけで側に置かれたあの存在が。他の騎士たちも同様だった。

 ただ、その認識はすぐに覆されることとなった。

 

 

 

『その程度で国を守るとかナメてます?私のいた森だったら死んでますよ?』

 

 

 

 粛清騎士による帝国騎士団との交流を目的とした模擬戦。参加した騎士、将軍全てを蹂躙することで、その強さをこれでもかと思い知らされた。

 

 

『あなた方には覚悟がない。命を捨ててでも帝国を、陛下を護るという覚悟が。だから私から逃げるのです。もし私が陛下の命を狙ったとしたらどうするのですか?陛下を見捨てて逃げるのですか?答えは不要、行動で示しなさい』

 

 

 それから陛下の介入によってこの騒動は幕を閉じた。同時にアンドレを含む多数の騎士に畏敬の念が生じたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 それからまたしばらくして、四十人ほどの騎士たちが選抜され粛清騎士による強化訓練へと赴くことになった。

 新たなる階級──粛清騎士を除いた皇帝直属の四騎士を選抜するための訓練にアンドレは選ばれた。

 訓練は過酷なものだった。 いや、過酷ではなく地獄だった。

 予定していた訓練内容を無視していきなりギガントバジリスクと戦わされたり、疲れ果てた矢先に粛清騎士と一対一の訓練。 一度は予定通りの訓練に戻ったかと思いきや、闘技場の武王と同じ種族の“愚か者()”なるモンスターと戦わされたり、森の中で奇襲してくる粛清騎士を相手取ったりと滅茶苦茶なものばかりだった。

 挙句、本来一ヶ月の予定が半月ほど延長することになったと決まった時には「誰かあれを止めてくれ!」と願わざるを得なかった。

 

 とはいえ、この訓練を乗り越えたことでアンドレだけでなく他の騎士たちも腕を上げたのは事実だった。

 しばらくして四騎士が選出されたが、残念ながらアンドレが選ばれることはなかった。 悔しく思う気持ちはあったが、選ばれたのはあの訓練の中でも頭角を表していた者ばかりだったので妬むことはなく、寧ろ俺の分まで頑張れという清々しい気持ちだった。

 

 

 

 それから数年が経ったある日のことだった。 皇城で四騎士の一人であるナザミとバッタリ出会い、酒でもどうだと誘われたのは。

 実のところ、アンドレはナザミのことが苦手だった。 ナザミはあまり多くを語らない寡黙な騎士だ。それに帝国有数の英雄の一人でもある。

 同じ四騎士であるバジウッドはその逆で多弁だ。あの鮮血帝にも軽口を聞いたりする。どう考えてもバジウッドの方が付き合いやすい。

 ナザミはアンドレから見て多くを語らない孤高の存在、遠い存在でありそれ故に苦手意識を持っていた。

 そんな相手とサシで酒に誘われるとは思ってもいなかったが、憧れでもあり誇りでもある帝国四騎士の誘いを断るわけにもいかず受け入れたのだった。

 

 場所は変わり騎士達が愛用する酒場へと足を運び、個室へと案内された。

 この酒場は皇帝ジルクニフが即位してから騎士たちの慰安にと用意された施設の一つだ。店の雰囲気もよく、給仕も若いエルフばかり──エルフは見た目が若々しいので実年齢は分からないが──で目の保養にもなる。それに加え、市場では少し高めの酒を手頃な価格で楽しむことが出来ると騎士の間ではよく話題に上がっている。

 

「ナザミさん、四騎士になってからどうです? 相変わらずあの方に振り回されているんですか?」

 

「……ああ」

 

「自分も四騎士になったらそうなるのかと思うと、ちょっとだけゾッとしますね。 あの方は強いが故に滅茶苦茶ですから。

 そういえば、少し前にルミリアと一緒に貴族の粛清に向かって屋敷ごと真っ二つにしたとかいう話を聞きましたけど──」

 

「いや、それは間違いだ」

 

「なんだ、間違いだったんですか。 ならアレは陛下が誇張して──」

 

「テンションが上がったアレーティア様が、全力で武技を使って周辺地域にまで被害を出した上で屋敷を全壊させた」

 

「真っ二つの方がマシだったんですが!? てか、なんでそうなったんですか!?」

 

「……ルミリアがアレーティア様の最強の武技を見てみたいから煽てたら満面の笑みで披露してくれたらしい。 ただ、アレーティア様曰く失敗に終わったらしいが」

 

「それで失敗なんですか……あの方はつくづく底なしだな……」

 

 相変わらず粛清騎士──アレーティア様は話題に事欠かないと内心苦笑いをしながら再びグラスを口へと運ぶ。

 

 アンドレとナザミはそのままポツポツと会話を交わしながらグラスの酒を飲み干していく。

 先日行われた王都における八本指の掃討戦での話は武勇伝と共に虐げられてきた王国民に対する同情の言葉が多く出てきた。

 

「王国の裏にあんなドス黒い邪悪が蔓延ってるなんて思いませんでしたね。 俺も一つ拠点を落としましたけど、その中にいた奴隷たちの扱いの酷いこと……大半が八本指に与していた貴族どもの領地出身だったみたいですけど、領民をあんな扱いをするだなんて呆れてものも言えませんね」

 

「……王国にも陛下のような御方がいればよかったのだろうがな」

 

「崩御したランポッサ三世も聞けば悪政を敷くような王ではなかったそうですが、平民からすればああいう貴族をのさばらせている時点で何をしているんだって思ってしまいますね。

 それに比べて帝国は恵まれていますよ。 鮮血帝、粛清騎士と貴族たちからは恐れられていますが、民を想うならこれ以上ない存在ですから。

 そんな方々のために働ける俺たちは幸せかもしれませんね」

 

 少し気取ったことを言ってしまったとアンドレは顔を酔いと共に赤くしながら新たに酒を給仕に頼んだ。 新たな酒が届き、グラスを手につけたところでナザミが口を開いた。

 

「アンドレ、今日誘ったのには訳がある」

 

「……一体なんの話ですか? 貴方が俺を誘うなんて珍しいこともあるんで、何かあると思っていましたけど」

 

 一度グラスを置き、真剣に話を聞く姿勢を整える。 いくら酔おうとアンドレは騎士だ。ベロンベロンに酔っ払っていざという時に戦えないといった失態を犯さないような心構えは常日頃からしている。

 

「レイナースが四騎士を辞することになった」

 

「……なるほど。そうなると四騎士にまた空席が出来るわけですね」

 

「そこでだアンドレ、俺はお前を四騎士に推したい」

 

「……は?」

 

 何を言っているのか理解出来なかった。 目の前の男、ナザミは帝国騎士で〈勇猛〉の名を持つ最高の騎士だ。 現にナザミを除く他の四騎士、バジウッド、ニンブル、レイナースの三人を同時に相手取っても勝利し、王国との戦争では周辺国家最強と謳われていたあのガゼフ・ストロノーフをも圧倒したという帝国の英雄だ。

 そんな英雄が、自分を次の四騎士にと推す理由が分からなかった。

 正直に言えば、四騎士にはなりたいが同じ四騎士候補の中には自分より優れている者がいることも知っていた。だからこそ何故自分が選ばれたのかを聞き出さずにはいられなかった。

 

「……何故俺なんですか? 他にも四騎士候補とされている騎士はいるじゃないですか。 それこそ──」

 

「ああ、簡単なことだ。 俺がお前が四騎士に相応しいと思ったからだ」

 

「俺が、ですか?」

 

「……確かに四騎士候補には実力的に言えばお前より優れたものはいる。 だが、それでも俺はお前を推すだろう」

 

「……何故?」

 

「お前は四騎士に選ばれずとも研鑽を重ね続け、出来ることを増やしていた。 最近はトーマスに文官としての仕事を学んでいるのも知っている」

 

「なっ!? トーマス……ッ!秘密だって言ったじゃないか……ッ!」

 

「勘違いするな。アイツは何も言っていない」

 

「ならなんで……」

 

「俺がお前を見ていたからだ。 四騎士に空席が出来ると決まった時に陛下とアレーティア様に呼び出されてな。次の四騎士は俺が選んだ騎士にしようということになった。 しばらくは四騎士候補たちを見回り、指導して腕のいいやつを選ぼうと思ったんだが……そんな時に鍛錬を終えたお前を見つけた。トーマスと一緒にいるお前をだ。

 一度は何かよからぬことを企んでいるのかとも思ったが、聞き耳を立てれば何やら文官としての仕事を教えてもらっている様だったからな。それ以上は聞かないことにした。

 それに、お前がやっているのはそれだけじゃないだろう? 時折、魔法省を出歩いているとも聞いた。魔法の知識を得ようとしているのか?」

 

 アンドレ自身、それらのことは隠れてやっていることだった。

 魔法が使えずとも、どんな魔法があるかを知っておけば後に対策を立てることも出来ると、魔法省へと出向いてフールーダの高弟などと親交を深め魔法に関する知識を身につけている。

 学がなくとも、自分たちとは違うところで戦っている文官たちの仕事をひとつでも理解出来れば、後に役立つこともあるだろうと四騎士から文官へと転向したトーマスに教えを願った。

 他の騎士ならそんな時間があるなら鍛錬をするべきだと言うだろうが、アンドレは自分はこれ以上伸びないと限界を感じていた。だからこそ、悪あがきではあるが何か別のことを身につけようと躍起になっていたのだ。

 

「お前は出来る男だ。 きっと四騎士になればその立場に相応しい活躍をしてくれると思っている」

 

 ナザミはアンドレの眼を見据える。その瞳からは真剣にお前に任せたいという思いが視線を通じて伝わってきたのをアンドレは感じた。 帝国の英雄がここまで自分を評価してくれているのに、ここで引き下がってしまってはこの英雄の面子を潰すことになってしまう。 それはいけないとアンドレは決心しそれを受け入れることにした。

 

「……こんな俺で良ければ、その話受けさせてください」

 

「自己評価が低いのは難点だが、そこは追々どうにかしてもらおう。

 すまない、あの酒を──」

 

 ナザミは給仕に何やら注文をし──少しして運ばれてきたのは、高級感があるボトルに入った酒と専用のグラスが二つ。 アンドレは後から知った話だが、この酒は祝い事があった時に振舞われるものの中でも最上位に値するものだ。

 給仕からそれを受け取りグラスへ並々と注ぎ──

 

 

「昇進祝いだ。 遠慮なく飲め」

 

「ありがたく頂戴します、ナザミさん」

 

 二人は共に酒を飲み交わし、その後しばらく酒の席は続いた。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 それからは激動の日々だった。 四騎士に選ばれたことが広まり、他の精鋭騎士たちからはやっかみを受けたものの最終的には祝われた。

 四騎士として箔をつけるために粛清騎士が治めるエ・ランテルのとある村を治めることになり、この村で領地経営を学んだ後に四騎士の座と爵位と領地──余っている旧王国領──を与えられるという話になっている。 補佐として友人でもあるアルべリヒが共に赴任することとなり、アンドレは慣れないながらも少しずつ村人たちやモンスターと心を通わせ村を豊かにしていった。

 粛清騎士──アルス・ティアーズ辺境侯からは「他の村を任せている騎士たちよりもよっぽどいい成果を出している」という高評価を貰い、同時に()()()()()を提示されたがアンドレはこれを断った。 断りはしたものの、辺境侯は「それがお前の選択ならば仕方がない。今後も期待している」という言葉と、幾らかの金銭──村ひとつを一年養えるほどの額──を与え去っていった。

 「今後も期待している」この言葉を受けたアンドレは嬉しさのあまり涙した。 あの英雄(ナザミ)だけでなく、帝国最強の存在までもが自分を認めてくれた──それだけでアンドレの今までの努力が報われたというものだ。

 

 

 だからこそ、今回のような蛮行を許すわけにはいかない。 アンドレは剣を振るい襲撃者を次々に討ち取っていく。

 襲撃者の数は多い。 正直に言って余裕はない。村に被害が出ることは間違いないが、最悪それは仕方がないとアンドレは割り切る。

 この場において最も重要なのは村人たちとモンスターの命だ。村が焼き払われようと、また作ればいいが人やモンスターはそうはいかない。特にモンスターは元々人と敵対している存在であり、友好関係を築けたモンスターが失われれば、また友好を築くまでにかかる時間のことを考えれば絶対に守り抜かなければならない。 なにより、辺境侯から預かったモンスターだ。失っていいはずがない。

 

「おおおおおおッ!!」

 

 だからアンドレは最前線に立った。俺が脅威だと敵に印象付けるために。

 狙いは上手くいき、襲撃者の多くは自分へと向かってくる。それを次々に斬り伏せる。 次第に襲撃者は恐れをなし、後退していっている。

 

 ただ有象無象がばかりではなく、腕の立つ者も賢しい者もいた。

 

「何をしている! 我々の目的はその騎士を倒すことではない!我らが教義に反する異教徒を断罪することにある! 非戦闘員を狙え!」

 

「何を勝手な……させるものかよッ!」

 

 アンドレは指揮官であろう人物へと突撃する。 剣などは持っておらず、高価そうな法衣を纏っていることから信仰系の魔法詠唱者だろうと当たりを付ける。ならば、こいつを倒せば後の襲撃者は雑魚同然と判断する。

 〈能力向上〉を使用し身体能力を上げ、敵指揮官へと向かい──

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に天使たちが立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 アンドレは知らないことだったが、この指揮官はかつて法国の六色聖典の隊員──それも亜人殲滅を主な任務としていた陽光聖典の一員であり、過激な思想から除隊されたという経歴を持っていた。

 そして、その司令官の周りにいるのも同じような存在であり、この一団では際立った実力を持っていた。

 

 

「天使たちよ、悪しきものに裁きを」

 

 

 召喚された炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がアンドレに襲い掛かる。その数五体。それに加えて召喚者である魔法詠唱者が五人。アンドレは圧倒的不利な状況にあった。

 

「クソッ! 武技〈嵐の──」

 

「させんよ。〈衝撃波(ショックウェーブ)〉」

 

「ぐうっ!?」

 

 武技を放とうとすればその隙に天使が、魔法詠唱者による妨害が入る。かといって、目の前の敵を対処しようにも足止めとばかりにヒットアンドアウェイを繰り返してくるため、倒すのも難しい。

 そうしている間に後ろから村が燃やされる音が聞こえる。 村人の声は聞こえないがアルべリヒは皆を無事に避難所へと非難させることが出来ただろうか?そんなことを不意に考えてしまい隙が生まれてしまう。 当然敵はその隙を見逃さない。炎の上位天使の一撃がアンドレの片目を奪う。 あまりの激痛に悲鳴を上げる。敵の嘲笑の声が聞こえる。

 

 

(ああ、このまま死ぬのか俺は?)

 

 

 アンドレは残った片目の視界に自分の死の気配を感じ取った。 死ぬのは怖くない。この命は帝国に捧げたものであり、帝国を──村人を護るために使えたのであれば本望だ。

 だが、それは守り切った上での場合、アンドレはまだ村人たちの安否を確認できていない。

 

 

(諦めるにはまだ早い。 もう少ししたら、エ・ランテルから応援が来るかもしれない。 予定ではそろそろ見回りに来るはずのロバーデイク様が駆けつけてきてくれるかもしれない。 それまで倒れるな……俺が村を守るんだ)

 

 心を奮い立たせ、剣を握り隻眼で敵指揮官を睨みつける。 そうすると敵指揮官は〈火球(ファイヤーボール)〉を発射し、そこに他の天使たちを追撃させることで逃げ場を塞ぎ確実にダメージを与えてきた。

 

「最早死にかけではないか。 もう時間稼ぎも十分だろう。後ろを見てみろ」

 

 そう促され、前方に警戒しながら振り返れば──そこにあったのは燃え盛る村の姿だった。 燃やされているのは判っていたが、想定以上──全焼しているとは思わなかった。

 これでは村人たちの存命も絶望的──そう思った時だった。 燃える村から武装した村人たちが雄たけびを上げ駆けつけてきたのは。

 

 

「領主様を援護しろ!」

 

「「「うおおおおおおっ!!」」」

 

 

 やってきた村人の多くは中年に差し掛かった者ばかりだった。 この村はアンドレがおらずとも最低限戦える程度の自衛の手段を与えられており、敬愛するアンドレのために命を捨てて駆けつけたのだ。

 同時に駆け付けたのはアルべリヒ。 彼も村人とモンスターの避難を終え援護すべく魔法を放ち、村を焼いた襲撃者たちを仕留めていった。

 

「アンドレ! 避難は終わった!エ・ランテルにも連絡済みだ! もう少ししたら援軍が駆けつけるはずだ!それまで持ちこたえるぞ!!」

 

「……ああ! 後ろは任せたぞ!!」

 

 

 アンドレはアルべリヒから投げ渡されたポーションを浴び、最低限の傷を癒した。片目の欠損はポーション程度では癒えなかったが、体の痛みがマシになっただけでも十分だと判断した。

 そして再び敵と向かい合い名乗りを上げる。

 

「バハルス帝国四騎士が一人、アンドレ。 参る!!」

 

「チッ! 増援が来るとは……だが問題ない。 貴様ら異教徒はここで死ぬのだからなッ!!」

 

 そうして、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。 ()()()()()()()()どれほどの時が経っただろう。

 

「はぁ……はぁ……手古摺らせやがって……!!」

 

 

 

 

 立っていたのは全員襲撃者──スレイン法国の者だった。

 何があったかと言えば簡単な話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 これにより数の暴力でアンドレたちは押しつぶされ敗れた。

 しかし、アンドレたちもただでは死ななかった。文字通り死力を尽くして元聖典の魔法詠唱者五人の内三人を討ち取り、部隊に相当な損害を与えた。 それにより、この日予定していた他村への襲撃は中止となり、被害はおさまることとなった。

 アルべリヒも魔力が尽きるまで〈飛行(フライ)〉による空中からの魔法攻撃による支援を行っていたが、魔力が尽きた後に殺害された。

 

「指揮官殿、一先ずこの場を離れましょう。 こいつらは何処かに連絡したと言っていましたし、騒ぎを聞きつけた異教徒共が駆けつけるやもしれません」

 

「……そうだな、そうするとしよう。 だがその前に……!!」

 

 指揮官は憤怒の形相を浮かべ、物言わぬ死体となったアンドレを踏みつけた。何度も、何度も。 彼は計画的に物事が進まないと苛立つ性格だった。アンドレたちによる被害がなければ、このままもう幾つかの村を浄化出来るはずだったと苛立つ気持ちを死体にぶつけ発散した。

 

「余計な被害を出しやがって……! おい!こいつらの死体の首を斬り落として晒し上げろッ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ははっ!」

 

 

 しばらくして、襲撃者たちは一時態勢を見直すため焼けた村を後にした。

 その村にはアンドレ、アルべリヒを含む十四の首が晒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは酷い」

 

「…………」

 

「アルス殿、この村は……」

 

「他の村と同様に襲撃されたようですね。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 目が開いたまま晒されたアンドレの首をアルス──アレーティアは手に取り手を当て瞼を閉じた。 他の首も同様にし、分かたれた身体へと運んで行った。

 

「……ラナー、エ・ランテルに常駐している全ての騎士と鮮血騎士全員に連絡を」

 

 

 

 

 

 

 

「全員生かして返すな」

 

 

 





アンドレ
平民出身で国を守る騎士に憧れて騎士団に入団。地道に研鑽を重ねて四騎士候補まで上り詰める。
その後も自分に出来ることをコツコツと積み重ねて、文官としての仕事をトーマスに教えてもらっているところをナザミに目撃され、後に見出される。
その後、王国の八本指掃討戦での功績も兼ねてエ・ランテルの村を一つ任されて、ある程度経験を積んだ後に四騎士の席と共に領地と爵位を授与されるはずだった。
四騎士になった場合付けられた二つ名は『百錬』。

彼はただ地道に己を鍛え磨き続けた。磨き上げた原石はあと少しで宝石になり得たが、その前に無惨に砕かれてしまった。
砕かれた原石は火種となり、やがて法国を滅ぼす業火へと転じた。


アルべリヒ
帝国魔法省に所属する魔法詠唱者。第三位階まで行使できる。
村人とモンスターたちを避難させた後に自警団を伴ってアンドレを助けるべく参戦し、死亡した。


ナザミ
寡黙というか無口な帝国の英雄。最近では巨王と良い勝負が出来るようになったとか。
アンドレの死に一番悲しむのはこの人。


ルミリア
アレーティアと組むと度々やらかしていた元四騎士、現鮮血騎士。
やらかすことになった原因は大体アレーティアをヨイショするから。それに乗っかったアレーティアが実行するから大惨事になる。

例)最強の武技見たい! → よっしゃ!見せてやる!〈星砕き〉!!
  これってどうすればいいですか? → こうやってドーンってすればいいんだよ! → なるほど!こうですね!
大体こんな感じ。
ちなみにエ・ランテル在住だが、カルネ村を受け持つ騎士の一人でもある。


法国過激派
アンドレの村だけでなく、他の村にも同時襲撃していた。
部隊のメンバーには何人か聖典崩れが存在している。


アレーティア
次回、ガチギレ。
「アインズによろしく」を100とすると、120ぐらい。しかも精神が抑制されないため、更に上昇する。死んでも許さない(ガチ)
余談ではあるが、殴打系最強武技誕生の経緯はまさかのルミリアが原因だったりする。〈土竜叩き〉をもっと強化したら隕石ぐらいのクレーター作れるんじゃない?という思いつきで出来た武技。ジルクニフの胃にも穴が空きかけた案件。ちなみに素手でも撃てるが、威力が落ちる。(小規模の地割れが起きる程度)



展開が展開なので、次はもっと早めに更新できるようにしたいですね。ダークソウルⅢに手を出す前に書き上げられるかな……?頑張ります。

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