異次元の寂しがり屋 (逆しま茶)
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クラシック級
異次元のメイクデビュー


この作品はフィクションであり、ウマ娘のアニメ、アプリと同様に現実のレースなどとは勝ち馬などが異なります。


 

 

 

 

 

 

 どこまでも続く、誰もいない景色。

 大好きだったそれに怖さを感じたのは、お母さんが入院した時だった。大きな病院に入るために地元を離れることにもなって。

 

 寂しくて、怖くて。

 代わりにと引き取られた叔母さんの家には私よりも小さな子供がいたから、なんとなく馴染めなくて。

 

 

 

 だからずっと、ずっと一人ぼっちで待っていた。お母さんを。

 待っていればきっと、迎えに来てくれる。怒りながらも、ちょっと安心したような顔をして。いつものように。

 

 

 でも、暗くなった公園にはお母さんどころか誰もいなくて。

 怖くて、寂しくて。でも、なんとなくここを離れたらお母さんに会えないんじゃないか、なんてよくわからないことも考えたりして。

 

 

 

 

 

 そんな時だった。

 近所にいた年上の男の子に初めて出会ったのは。その日は一緒に星空を眺めて話をして、いつの間にか叔母さんの家で寝かされていた。

 それで次の日からは、近所の綺麗な景色を教えてくれるようになって。一緒にみた景色はとても綺麗で。帰りを待ってくれるお母さんや、お兄さんがいるから一人の景色が楽しいのだと気づいた。

 

 

 すごく立派な桜のある家だとか、都会とは思えないような雑木林だとか。なんでもないような場所でもとにかく走り回った。

 うれしくて、楽しくて。それでも一人になるのが怖くて泣く私を、お兄さんは根気よく面倒をみてくれて。

 

 

 むしろ甘えるとにやりと嬉しそうなのが印象的だったかもしれない。

 この人は甘えていい人なのだ、と幼心に感じるまで時間はかからず。お昼寝、夜のお泊り、お風呂、トイレと徐々にエスカレートしていくのを自分でも駄目なことだと分かっていながら止められなかった。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「トレーナーさん……どこぉ…!?」

 

 

 

 ガシャーン、と派手な音と共に何かが倒れた。

 半泣きで部屋を荒らすウマ娘がテーブルの下に潜り込んだのかもしれない。

 

 馬というのは繊細で臆病な生き物であり――――個性によっては、超寂しがり屋で誰もいなくなると発狂したように暴れる馬もいる。

 

 そんなウマソウルを色濃く受け継いだ、困ったウマ娘が一人。

 

 

 

 

「いや、ワキちゃん待とう。トイレにいるから! すぐ行くから!」

「――――! はい。じゃあ、私も――――」

 

 

 

 ガチャガチャ。

 なんで普通にトイレに入ろうとしてくるんですかこの娘は。

 

 

 

「トレーナーさん? どうして鍵を…?」

「いや普通かけるよね」

 

 

 

 

 昔はかけなかったような気もするが、トイレに突入してくる年頃のウマ娘がいるならかけるしかない。しかもこの子、別にうまぴょい()とかの意識とかもなさそうだし。単純に死ぬほど寂しがり屋で、甘えん坊なだけである。

 

 

 

 

 

「そんな……昔は一緒に入れてくれたのに……」

「無理やり入っただけなんだよなぁ!? というかそれワキちゃん3歳とかだよね!?」

 

 

 

 大号泣するし、一緒に入らなかったら外で大洪水したので、止む無く見守ることになった(見ていない)だけである。

 

 

 

 

「いえ、小学――――」

「よし分かったその話はやめよう」

 

 

 

「じゃあせめて顔だけでも……テレビ通話しましょう」

「人を特殊性癖に目覚めさせようとするんじゃありません」

 

 

 

 トイレでテレビ通話は新手のプレイか何かでは。

 

 

 

 

「でも、一人で狭いトイレにいると寂しくなりませんか…? 誰かの顔がみたくなったり」

「トイレくらいは一人でしよう、な?」

 

 

 

「私はお兄さんに見てもらったほうが……」

「やめろ。やめるんだ。マジで俺がタイホされるから」

 

 

 

 

 ワキちゃんの保護者代わりである叔母さんからも、入退院を繰り返しつつも徐々に元気になってきているお母さんからもなんか実質身内として扱われている気はするけれども。それはそれ。これはこれ。

 俺は一人のトレーナーであり、彼女は生徒なのである。一応。

 

 

 

 

「合意の上なら逮捕されないんじゃ…?」

「そうだけど! 世間体ってものがあるの! 人様の子どもを預かる以上はルールを守れる大人じゃなきゃいけないの!」

 

 

 

「お兄さんは私の自慢のトレーナーさんですから、大丈夫ですね!」

「あ、うん」

 

 

 

 なんかすごくいい笑顔を浮かべているのが分かるようだ…。

 実際のところは幼馴染……妹分? に性癖を破壊された哀れなトレーナーだが。

 

 

 

 

 

――――中央トレセン学園。そこは国内トップクラスのウマ娘と、トレーナーが集う場所。

 

 

 中央競馬と地方競馬がそうであるように、ここにも“差”がある。

 それは走りそのものであったり、設備だったり、賞金額や熱気など多岐にわたる。

 

 どちらが面白いなどという比較は無意味だが、少なくとも給料が良いという意味では目指すべきは中央トレセン一択であった―――というか、そうでないと意味がないのだが。

 

 

 

 何故なら――――地方競馬の有名馬なんて、メイセイオペラとかしか知らないから。

 

 

 

 

 

 この世に生まれてはや二十数年。

 幼少期に見たシンボリルドルフ(ウマ娘)のレースを見て、何故か隣にいたトウカイテイオーと一緒になって大はしゃぎしたのはもはや黒歴史。

 

 美人揃いのウマ娘たちの、命を燃やしているかのような鮮烈な輝きのレースは現地でなければ味わえない興奮と感動があり――――トレーナーになりたい、と幼心に誓った。

 

 幸いにも前世の記憶が断片的に残っていたので、名前を聞けば勝つウマ娘かどうかは(有名なら)判別できるし勉強も楽だった。

 

 

 

 

 だが、問題は――――あまりにも、多かったのだ。ウマ娘が。

 

 

 

 

 1年に生まれる競走馬は多い時で万を超え、近年のブーム縮小でも7千近い。そしておそらくウマ娘もそれに準ずる数は生まれている。

 その中から、幼い少女の個人情報である名前を調べる? 無理である。事案である。

 そして有名になったということはすなわちレースに出ているわけで、レースに出るくらいならもうトレーナーはいる。(もちろん伝手があればデビュー前からある程度の情報は入るが、もちろんそんな有名ウマ娘には実家の関わりのあるトレーナーとかがいるものである)。

 

 

 

 というかしがない新人トレーナーに有力バをスカウトできるような伝手があるはずもなく。ワキちゃんと一緒にいたらなんか強そうなチームのトレーナーに目を付けられ。ワキちゃんが発狂……駄々をこねたお陰でサブトレーナーかつワキちゃん専属として入れてもらえることになったのでワキちゃんには頭が上がらないのだが。

 

 

 

(サブトレーナーとして経験を積むのが一般的だが、業界に伝手がないと零細チームのサブトレーナーにしかなれず、結果的に零細トレーナーにしかなれないという負のループがあるのだ)

 

 

 

 

 

「というかシンボリルドルフにミスターシービー、エアグルーヴにナリタブライアン、ヒシアマゾンにフジキセキ、マルゼンスキーにテイエムオペラオー、タイキシャトルとか厨パだよな…?」

 

 

 

 ウマ娘はともかくウイポでもなかなかお目にかかれない厨パである。すごい。総賞金額いくらになるんだろうか。独占禁止法違反では?

 

 そんな中にスカウトされるワキちゃんとは一体。

 確かサイレンススズカの母馬がワキアだった気がするが、十数回走って5勝ちょっとくらいの短距離馬だったような。

 

 綺麗な栗毛、小柄、レースになると狂暴なので割とサイレンススズカ要素は持っている。やっぱり親戚かもしれない。

 

 

 そんなわけでトイレから出ると、スッと落ち着いたワキちゃんが丁寧に書類を取り出して渡してくる。

 

 

 

「お兄さ―――トレーナーさん。契約書類は書いておいたので、ご確認お願いします」

「あ、うん(急にまともになられると若干ついていけないんだが)」

 

 

 

 

 えーと。

 契約書類ね。チーム加入……いやこれ俺もまだ扱ったことないけど。まあ誤字脱字がないかチェックしておハナさんに渡せばいいかな。

 

 

 

 うん、サイレンススズカと。

 偶に一個スが足りないとか記入ミスすることもあるけど、本人なら間違えないか。

 他も特に問題はなさそう――――。

 

 

 

「んんん!?」

「? お兄さん、どこかミスでも…?」

 

 

 

「サイレンススズカ!?」

「あ、はい。サイレンススズカです」

 

 

「メンコは!?」

「? つけたことないですね。無い方が風が気持ちいいかなって……」

 

 

「ワキちゃん!?」

「はい。親戚にスズカが沢山、サイレンスもいて……不便なので、叔母さんがそう呼んでくれて」

 

 

 

 なんで!? サイレンススズカのどこからワキちゃんが!? 母馬から!? もしかしてシンボリルドルフ=ルナみたいな幼名!?

 

 

 

 

「レースで抑えて中団に控えるのとかってどう思う!?」

「……えっと、全然気持ち良くなさそうだなって……」

 

 

 

「そういえばよく左に回ってるよな!?」

「そうですね、なんとなく落ち着くというか」

 

 

 

「スズカじゃん!?」

「はい。スズカですよ…?」

 

 

 

 そんな……ワキちゃんはサイレンススズカだった…?

 泣き虫で寂しがりで大人しくて、トイレが怖いから一緒に入ってと大洪水(決壊)する系小学生だったワキちゃんが…? ウソでしょ……。

 

 気が付くと左旋回してたり、レースだと控えることができなくてガンギマリの先頭民族で、仕方がないのでサイレンススズカを参考にして息を入れさせることにして、飴と鞭でなだめすかしてようやくそれを覚えたワキちゃんが…?

 

 というか昔『サイレンススズカになるんだ』とかご本人様に向かって言ってしまったような気がするんだが。

 

 

 

 あれ。この娘もしかしてジュニア級にして既に某天才ジョッキー搭載型サイレンススズカなのでは。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

『サイレンススズカだけが、既に第四コーナーを曲がって直線に入りました――――差は縮まらない、いや、更に差が開いていく!? なんという走りだ! 強い、強すぎるぞサイレンススズカ! 圧勝、大差のゴールです!』

 

『メイクデビュー戦とはいえ、すさまじい走りを見せてくれました! 次のレースが今から楽しみです!』

 

 

 

 そんなワキちゃ……スズカの走りを、リギルの新人メンバーとおハナさん、そして俺は観客席から眺めていた。

 

 

 

「成程、英才教育ってわけ。まあ普通はそうそう中央に入れるくらいの才能の持ち主なんてものは転がっていないわけだけれど――――逃げて差すですって? しかも大逃げで? 末恐ろしいことをしてくれたわね」

 

「いやその、俺じゃないというか、ウマ娘のおじさんが……」

 

 

 

 俺は悪くねぇ! ウマ娘おじさんが! ウマ娘おじさんが覚醒させるから!

 結末がどうあれ、あれほどに人の心を惹きつけるようになったのはやっぱりあの出会いのお陰だと思うのである。

 

 

 

「? レース実況の武さんのこと? そういえばあの人、スーパークリークとかのトレーナーだったわね…」

「アッ、ハイ。もうそれでいいです……スズカ本人の気持ちを考えると、好きに走らせて適当なところで息を入れたほうが消耗も少ないかなと」

 

 

 

「…………そうね。あの気性難っぷりを考えると、それしかない、か……一応、出遅れ対策も兼ねてバ群での練習は入れるわよ?」

 

「ええ、是非お願いします」

 

 

 

 今もこっちに向かって駆け寄ってきたかと思うと、ニッコニコで頬擦りしてくるあたり寂しがりと人懐っこさは筋金入りである。

 

 

 

「そういうわけだからスズカ、今度はバ群でのトレーニングメニューも入れるわよ」

「………はい」

 

 

 

 小さく頷いたものの、本当にちゃんと聞いているのかは若干不安だ。

 

 

 

 

「寂しがりなのに、バ群は嫌なんだもんなぁ……」

「あっ、トレーナーさ―――お兄さん」

 

 

 

 頭をなでると、気持ちよさそうに耳がぴこぴこ動く。ついでにもふもふした耳もカリカリと掻いてやると、へにゃりとスズカの顔が蕩けて―――。

 

 

 

「ちょっと、もう諦めたからせめて人目が無いところにして頂戴……」

「なんかいかがわしいことみたいに言わないでください!? レースで暴走しなかったからご褒美でやってるだけで―――――こうでもしないとレースで大暴走するんですからね!?」

 

 

 

 サクラバクシンオー並みの暴走特急なのである。コイツは。

 レースでちゃんと息を入れたらご褒美、入れられなかったら罰としてご褒美抜きくらいしないとコイツにはそんなペースなんて守れないのである。

 

 

 

「あっ、あっ……お兄さん、きもちいいです……そこ……もっと、つよく……」

「ワキちゃ……スズカァ! いまちょっと誤解されかけてるから!」 

 

 

 

「………焦らさないで…下さい」

「やめろ、お前声がいいんだからほんとやめて」

 

 

 

 

「スズカばっかり羨ましいデース! 私にもお願いしマース!」

 

 

 

 といって出てきたタイキシャトル。その胸部は豊満であった。

 小さい頃から下着を替えてあげたりしてきたワキちゃんならともかく、他の子の痴態を眺めて平静でいる自信はない。

 

 

 

 スズカと目を合わせる。

 

 

 

 

(スズカ、なんかうまい断り文句ない?)

(わかりました、私に任せてください)

 

 

 

 

「タイキ、お兄さ……トレーナーさん……サブトレーナーさんの手は一杯なの。でも、おハナさんは」

「空いてマース! おハナさん、是非私にもお願いしマース!」

 

 

「はい!? いや、ちょっと――――」

 

 

 

 

 結局、その後タイキに押し切られたおハナさんは何故か観戦に来た全員(もちろんリギルに限る)の耳をカリカリしていた。さすがの人望、大人気である。

 

 こっちの方はレース後でピリピリしているスズカを慮ってか誰も来なかったので、延々とスズカの耳をカリカリしていた。ウイニングライブが妙に艶っぽかった気がするが、多分元々の声質のせいである。きっと、おそらくメイビー。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな私だけれど、一応ウマ娘としては走りが速いほうであると思う。

 掛かって暴走して、お兄さんには「サイレンススズカになれ」、つまるところ「私らしく走れ」と言われてしまったけれど。

 

 そうしてレースだからと緊張しすぎず、私の走りに徹した結果。選抜レースでもぶっちぎりの大差勝ちを飾り。名もなき新人トレーナーに私を任せられない、などと(既にお兄さんの指導を受けているので)よくわからないことを言う人たちと違い、話の通じるおハナさんにお兄さんと一緒に引き取ってもらうことになった。

 

 

 

 自分でいうのもアレだけれど、お兄さんがいないと発狂するウマ娘を引き取っても意味ないのでは…?

 

 

 

 お兄さんが別のウマ娘を担当したりしたら、断固として勝ちに行くというか絶対に負けないけれど。

 

 

 

 

 

「トレーナーさんが信じて下さるから……私も、自信を持って自分の走りを貫きます」

 

 

 

 

 

 

 勝って、勝ち続けて。

 先頭の景色と、喜ぶトレーナーさんの顔が見たいから。

 

 

 

 

 あと、ご褒美も楽しみだから。

 最近お兄さんに耳をやってもらわないと満足できないので、これがテクニシャンというものなのだろうか、なんてことを考えていた。

 

 

 

 

 

 




変態(レース的な意味で)



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弥生賞前 / なんでもない練習日

 


タイキシャトルの口調良くわからない問題が…。



ちなみにここのスズカはアニメのあたりに合流するまでは初期PVの小柄スズカとします。


 


 

 

 

 

 

 

 

―――――メイクデビューで大差勝ちしたウマ娘がいる。

 

 

 トゥインクルシリーズはトレセン学園の中だけでほぼ完結している、狭い業界である。それだけ噂が出回るのも早く、圧倒的な走りを見せたサイレンススズカの噂はすぐに広まっていた。

 

 なんといってもチームリギル。

 現在の生徒会役員が集結する最強チームの新メンバー。

 

 来年度のクラシックを全て持っていかれるのではという声さえも聞こえてくるくらいにはレベルの違う走りだった。

 

 

 

 が、肝心の本人は特に自慢するでもなく、周囲に溶け込むでもなく、ぽやっとした雰囲気で外を眺めているか、部室に直行するかというストイックと天然を反復横跳び……掛け持ちするような独特の性格を醸し出していた。

 

 それゆえに、まあ浮いていたわけだが。

 

 

 

「むむむ、スズカさん! 今日は友人の運勢を占うと吉と出ました! ので、どうかご協力を!」

「えっと……いいけれど。今日は何の占いなの?」

 

 

 

「今日は、水晶玉占いです!」

「あっ、思ったより普通なのが来たわね……」

 

 

 

 おしるこ占いとか言われるよりはまだなんとなく受け入れが容易い。

 割と何が飛び出てきても受け入れるおおらかさ? 天然ぶり?がスズカにはあるがそれはそれとして。

 

 

 

「むむむ………ふんにゃかはんにゃか―――――出ました! 凶です! 大事な勝負の前のうっかりミスに注意! ラッキーアイテムは安心できる人物です!」

 

「うっかりミス……落鉄とかかしら……?」

 

 

 

 

 別段、スズカも付き合いが悪いというわけでは(走りに行きたい時を除いて)ない。ので、スズカと同じように同世代の上澄みかつ押しの強いフクキタルは友人と言っていいポジションに落ち着いていた。

 

 

 

「スズカさんの安心できる人物というと――――」

「トレーナーさんですね」

 

 

 

「そ、即答ですね……相性占いもしておきましょうか?」

「………あいしょううらない」

 

 

 

 なんとなくフクキタルの言葉を反復したスズカは、兄妹みたいなものだからきっと良い結果になるだろうな、となんとなく考えて頷いた。

 

 

 

「そうね。じゃあお願いしようかしら」

「お任せください! ―――――むむむ!? これは! 相性100%! まさに運命の人! 日ごろの感謝の気持ちを伝えると良いでしょう!」

 

 

 

「感謝……あっ」

 

 

 

 そういえばいつもいつもべったり張り付いているのに、ちゃんと感謝を伝えていなかったことに気づかされる。

 

 

 

「……どうしましょう。何かお礼とか……」

「にゅわー! それもこの私にお任せを! ――――出ました! 手作りのお弁当を渡すと愛が深まるとのこと! ラッキーアイテムは……調味料?」

 

 

 

「……あいがふかまる」

 

 

 

 正直なところ、スズカとしては自分の思いがどうこうというのはイマイチ実感がわかない。が、もしもっとトレーナーさんが構ってくれるのなら、と想像するとものすごくやる気が出てきた。

 

 

 

「調味料ですか……味付けがポイントということでしょうか……」

「あじつけ」

 

 

 

 スズカも自分が食べるものくらいは作れるし、栄養素はアスリートとして気を使っている。――――が、素材の味100%なそれをうっかり渡しかねないことに気づかされる。特段占いに頼りたいとも思わないが、フクキタルの善意であるので有難く受け取っておくスズカであった。

 

 

 

 

「ありがとう、フクキタル。やってみるわ」

「ええ! 何かお困りごとがあればいつでもご相談下さいっ!」

 

 

 

「あっ。じゃあトイレで寂しくならない方法とか……あるかしら?」

「えっ?」

 

 

 

 トイレにトレーナーを連れ込む方法、と聞かないあたりスズカにも最低限の理性はあった。とはいえ実際のところはその手段を期待していたわけなのだが。

 

 

 

 

「トイレで寂しくならない方法とか……」

「わ、わかりました! シラオキ様……――――出ました! しばらくその願いは叶わないでしょう…。誕生日プレゼントが吉です!」

 

 

 

「ウソでしょ……(解決できないなんて)」

「嘘みたいですね(そんな突飛な願いでもシラオキ様なら!)」

 

 

 

 

 微妙に考えが食い違ったまま二人は気づかず、そのまま授業が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 数日後。

 

 新人トレーナーの仕事というのは、意外にも多い。

 ベテラントレーナーがチームの仕事、指導方法、出走ローテーションなどを考える分だけ諸々の雑用は新人に回ってくるためである。

 

 特にチームリギルともなれば――――まあ、意外と戦績の割には少人数の精鋭チームであるのだが、トレーナーが実質おハナさんのワンマンであるため、急遽チームに入った俺の仕事はけっこうハードである。

 

 

 練習場の申請とか、器具のチェックとか、スポーツドリンクなどの手配とか。

 そんな風に仕事をしていると、いつものように授業を終えてお昼休みに入ったスズカがこっそり部室に入ってくる。

 

 流石に仕事をしていても気づくのだが、なんとなく背後を無言で左旋回して仕事が終わるのを待っているスズカを仕事だからと追い返すのもアレなので、急いで区切りをつけてから振り返る。

 

 

 

 

「お疲れ、スズカ」

「――――! お疲れ様です、トレーナーさん。あの、お仕事終わりましたか…?」

 

 

 

「まあ、ある程度はね。あとは外でもできる」

「――――じゃあ、その……いいですか?」

 

 

 

 喜色満面、耳はピコピコ動いているし、尻尾も高い位置でぱたぱた動いているし、これで断ったらどうなるのだろうと少し考えて―――――以前それで背中にセミのように張り付かれて取れなくなったのを思い出して止めた。

 

 

 

「行こうか」

「はいっ!」

 

 

 

 

 走るのは大好きだけど、それはそれとして誰もいないのは嫌。

 そんなワキちゃんことスズカだが、見守っている保護者がいれば本当に楽しそうに走る。なんなら他のウマ娘でも(知り合いなら)いいのだが。

 

 ある意味、群れで生活する馬に原点回帰しているというかなんというか。

 

 

 

「スズカ! 並走で勝負しまショウ!」

「……ええ。負けないから」

 

 

 

 と、乱入してきたタイキシャトルと唐突に芝マイルでの並走が始まるが――――なんかあの二人、どう考えても新馬戦終えた直後くらいの能力じゃないのでは。

 下手をすれば夏終わりのクラシック級ウマ娘すら蹂躙しそうな二人に軽くドン引きしつつ仕事をしていると、不意に耳元に暖かい息を感じた。

 

 

 

 

「――――お兄さん…?」

「うおわぁっ!?」

 

 

 

 背後に感じる熱は、疾走した直後のウマ娘の高い体温だろう。

 というかしっとり湿った体操着の感覚すらある気がするあたり、まだこのスズカに乙女心なんてものは実装されていないらしい。

 

 

 

 

「見ていてくれました?」

「………仕事をしていました」

 

 

「むぅー」

「ごめんって」

 

 

 

 あふれた感情が前掻きで地面をゴリゴリ削っているあたり、けっこうご立腹のようである。たびたび止めろと言っているのに耳に声を吹き込んでくるし。

 

 

 

「私の走りより、まだ仕事の方が魅力的ということですね」

「いやだって、仕事終えてから何の憂いもなくスズカを見ていたいし……」

 

 

 

 

 あと多分、揺れるタイキシャトルの胸とか見てたらスズカがキレる。胸どうこうじゃなく、スズカじゃなくタイキを見ていたことで。

 しかしあんなに揺れていたら男の目は惹きつけられるのである。

 

 

 

 

「まだまだ走るだろう?」

「……走りますけど。はい」

 

 

 

 差し出されたのは、可愛らしい草花柄のお弁当。

 ウマ娘用にしては妙に小さいそれに、首をかしげているとスズカは密着していた身体を離しつつ言った。

 

 

 

「その、お礼です。いつもありがとうございます、トレーナーさん」

「いつもお昼なんて後回しにするスズカがお弁当……だって?」

 

 

 

「いつもだって、ちゃんと食べていますよ…? 食べないと力が出ないですし」

 

 

 

 ただちょっと授業で我慢させられた分、先に走りたくなるだけではあるが。

 自分用の弁当箱(大きい)も取り出したスズカは、ずいっと距離を詰めて隣に密着しつつパソコンを奪った。

 

 

 

 

「俺の愛機が!?」

「ずきゅんばきゅん奪い取り~。お弁当、たべてゆ~く~よ?」

 

 

 

 ウソでしょ……ワキちゃんに変なネタを仕込んだせいでスズカのノリが良い…。

 と、スズカは奪ったパソコンを見て、自分の走りより優先された仕事とトレーナーを見比べつつ言った。

 

 

 

「……ところで、愛機より愛バの方が良くないですか?」

「やめろワキちゃん! なんかミシミシいってるから!?」

 

 

 

 

「トレーナーさ~ん! スズカ、強すぎマース!」

 

 

 

 と、スズカの反対側から遠慮なくハグしてきたタイキシャトル。いや体操服でその胸でハグはいかんでしょう。

 

 

 

「ま、待とう。落ち着こう。な?」

「ノー! 私もスズカに勝ちたいデース! ヒント、ヒントプリーズ!」

 

 

 

「分かった。わかったから!」

「……お兄さん」

 

 

 

 

 むぎゅーっと逆から抱き着いてきたのはスズカ。

 若干ムスっとしているのは渾身のお弁当をスルーされているからだろうか。正直微笑ましいので落ち着く。

 

 

 

 

「とりあえず、スズカに関しては大逃げからの差しっていう駆け引きさせない走りなわけで。これに勝つにはスズカより速く走るしかないわけだ。けど、スズカは短距離走並の速度で中距離まで走れるから、よほど強烈な末脚でもないと勝負にならない」

 

 

 

 あのエルコンドルパサーでさえも後塵を拝するあたり誰にも止めることはできない。負けるとすれば怪我か出遅れくらいのものだろう。

 

 

 

「ムムム。つまりスズカ最強ということデスか…?」

「調子の良いスズカに1800~2000で勝てる馬……ウマ娘がいたら見てみたいな。とはいえ、タイキシャトルの走りも割と常軌を逸している」

 

 

 

「そうなんですか?」

「そうなんデスか!?」

 

 

 

 がばっ、と顔を上げて若干離れるタイキと、腕を独占して満足気なスズカ。

 スズカも離れてくれないかな、と若干頭の片隅に思いつつもスズカにパソコンを示して一旦返してもらう。

 

 

 

 

「これが良馬場でのタイキシャトルと、……えーと、こうやって。タイキシャトル以外のリギルの平均タイム。あ、ジュニア期のやつね」

 

「ふむふむ、平均よりは上回ってマスね」

 

 

 

 平均より上くらいで満足しないデス。と顔が語っているが…。

 

 

 

 

「で、こっちが不良馬場。あとダート」

「ワォっ!?」

 

「……速い、ですね」

 

 

 

 

 そう、タイキシャトルは速い。ダートだろうが不良馬場だろうが良馬場だろうが速い。なんなら海外でも勝てるくらいには環境を選ばない。

 

 

 

「出れば勝つ、そんな絶対性を秘めた『最強マイラー』と呼ばれるようになれるかもしれない大器が君だよ」

 

 

 

 満面の笑みになったタイキシャトルに、ついでにもう一個データを出しておく。

 

 

「そしてこれがテンション低い時のスズカ」

「トレーナーさんっ!?」

「oh…」

 

 

 

 急にトイレに行きたくなって席を外したら、それに気づいたスズカのテンションがガタ落ちした結果なのだが……まあタイキシャトルを励ますのにちょうどいいので使わせてもらう。

 

 

 

「――――Yes! サンキューです、トレーナーさん! 張り切って走ってきマース!」

「お昼はちゃんと食べるようになー」

 

 

 

 

 元気よく走っていくタイキシャトルを見送ると、ぷくーっと頬を膨らませたスズカは言った。

 

 

 

「……わたしの方が速いです」

「はいはい。俺にとっての最強バはお前だよ」

 

 

 

 

 なんとなく釈然としてなさそうなスズカはさておき、貰った弁当を食べる。

 不思議と好みの味付けがされたオカズは美味しくて、それを伝えるとようやくスズカも絞っていた耳を立てた。

 

 

 

 

「スズカ、お前料理上手だったんだな……凄い美味しいよ」

「そうですか…?」

 

 

 

「うんうん。定型文で言うなら良いお嫁さんになれる的な」

「およめさん」

 

 

 

 

 なんとなく男女差別がどうとかとか言われそうな気もしなくもないが、もし料理が上手な男がいたらいい旦那になれると言うので許してほしい――――そんな脈絡のないことを考えてた俺は、妙にその単語を噛みしめているスズカに気づかなかった。

 

 

 

 

 



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弥生賞 / 不運とご褒美と

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ、いよいよ始まります。GⅡ弥生賞! 今年もクラシック一冠目の皐月賞を目指し、新進気鋭のウマ娘達が集います! 注目はやはりサイレンススズカ、今日勝つようであればクラシック大本命と言って良いと思われます』

 

『メイクデビューでは凄まじい大逃げを見せましたが……マイルから2000mに延びて、しかも力のいる中山で勝つようであれば本物でしょう』

 

 

 

 

『さあ、各ウマ娘ゲートに入っていきます。――――おおっと!?』

『ゲートの下を潜りましたね。……サイレンススズカです。どうしたんでしょうか。何か探しているようですが。今、慌ててトレーナーが駆け寄っていきますね』

 

 

 

 

 

「…………あっ、お兄さん」

「スズカ……」

 

 

 

 もともと白い顔を更に青白くして、ゲートを潜って落ち着かない様子のスズカに声をかける。その目元にははっきりとクマがあり――――。

 

 

 

「………すみません、レースなのに」

「いや、いい。こっちの管理不足だ」

 

 

 

 

 完全に『寝不足気味』となったスズカは、寝ぼけた状態で誰もいないゲートにいることに気づき、寂しくなって出てきて、そこでレースだったことを思い出したらしかった。

 原因は明らかであり、慣れない寮生活で寂しがり屋を爆発させたスズカが、しかも同室のウマ娘がレースを引退して一人部屋になったので眠れなくなったのであった。

 

 

 

 

 

「お兄さんのにおい……」

 

 

 

 すぅー、と穏やかな呼吸でそのまま立ち寝に入ろうとするスズカ。

 チラリと振り返るとおハナさんはどうにもならないと首を横に振っている。

 

 

 

 

「一応、一つ試してみていいですか」

 

 

 

 

 少し声を張れば、おハナさんの隣にいたタイキシャトルがウマ娘の聴覚で聞き取って通訳。そのまま大きく手でマルを作ってくれた。

 

 

 

「なぁ、スズカ。ご褒美」

 

 

 

 

 ピクリ、と耳が動いた。

 

 

 

「なんでもいいぞ」

「………いいんですか?」

 

 

 

 馬と違って鞭を入れるわけにもいかないので、飴。

 スズカは爛々と輝くような目で、弾むように言った。

 

 

 

「じゃあ、今夜からトレーナーさんの部屋で――――」

「俺を(社会的に)抹殺する気か!?」

 

 

 

 寮生活前は入り浸っていたけれども。

 というか完全にそれが原因で一人寝ができていないような気がする。

 

 せっかく目覚めたスズカの目がスンッ、と落ち込む。というか瞼が半分落ちた。どんだけ一緒に寝たいんだ。

 

 

 

「……今、なんでもいいって」

「社会通念上問題のあるご褒美は受け付けておりません」

 

 

 

「………一週間でもいいですよ」

「寝かしつけてやるから部屋は駄目。せめて部室な」

 

 

 

 

 人目があるところならギリセーフ……セーフか?

 まあ部屋に連れ込むよりはセーフなはず。

 

 

 

「じゃあ添い寝してください」

「…………添い寝は、頑張った時だけな。今日はこれで負けたら無し」

 

 

 

 

 

 こうでも言えば発奮するかな、と思ったのだが。

 無言で耳を絞ったスズカは、まるで絶対勝つと誓ったGⅠレースに赴くかのような気迫で大外(ゲート潜ったので大外になった)に入る。

 

 

 

 

「――――勝ってきます」

「ゴールで待ってる」

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

『さあ、今度こそ出走の準備が整いました――――GⅡ弥生賞……スタートです!』

 

 

 

 

『ポンと飛び出したのはサイレンススズカ! 大外出走もなんのその、ぐんぐんと速度を上げて早くも先頭! 続いてスーパーマック、ポールブライアン。サイレンススズカに競りかけていこうというところか――――』

 

 

 

 寝ぼけたスズカでは大幅に出遅れていただろうが、幸いにも気合は入ったらしい。

 しっかりとスタートを切り、そしてサイレンススズカが自由に走った結果圧勝したメイクデビューをチェックしたらしい他のウマ娘が好きにはさせじと競りかけて――――スズカがキレた。

 

 

 

 

「譲らない――――――先頭の景色(添い寝)は、誰にも…ッ!」

 

 

 

 

 ズドン、と踏み込みの音が聞こえるような錯覚すらある。

 軽やかなフォームが唸りを上げ、しなるように振り下ろす脚は無駄を感じさせない動きでスズカの身体を押し出していく。

 

 

 

 

 

「「む、無理ィ~!?」」

 

 

 

 

「掛かったわね」

「スイッチ入りましたね…」

 

 

 

 おハナさんから見ても掛かってるようにしか見えないらしい。

 

 鬼が宿ったライスってあんな感じなのかな、という気迫での爆走ぶりのスズカにみるみる距離を離されていく競りかけた二人。単純に掛かったというより、スズカにとっては一応馬なりの範疇なのが恐ろしいところである。エンジンが掛かったとでも言うべきか。

 

 

 

 速度は普通の大逃げから、他ウマ娘を潰すレベルの超ハイペースに。

 なまじ前走で逃げて差すレースをしているだけに、不安に駆られた後続集団もペースが乱れている。

 

 

 

 

『速い速い!? サイレンススズカ、後続をグングン引き離していく! これはハイペース、間違いなく超ハイペースと言っていいでしょう! これは掛かってしまっているか! 本当に最後まで持つのか!? しかしこれは後続もペースが乱れているか!?』

 

 

 

 

 どう見てもハイペースで飛ばしまくっているようにしか見えないのだが、あれで一応息を入れているようなのである。異次元の逃亡者と天才ジョッキーの面目躍如というか、芸術的すぎて未だによくわからないのだが。

 

 

 

「あれ、本当に持つ?」

「一応そのはずです」

 

 

 

 

『さあ第四コーナーに入って後続との差は――――十バ身以上あるか!? 二番手と後方の差は詰まってきていますが、サイレンススズカは悠々の一人旅! 中山の直線は短いぞ、後ろの娘たちは間に合うのか!?』

 

 

 

 

 さすがに顔色の悪い(ような気がする)スズカが最後の直線に入り。

 なんとなくスズカと目が合ったような気がした。

 

 

 

 

 で、なんかこっちに向かってきた。

 すごい勢いで。

 

 

 

 

『―――――おおっと、サイレンススズカ大きく外にヨレながら坂を登る!』

「戻れ、戻れーッ!」

 

 

 

 

 酸欠で思考能力が低下しているのか、大声で呼びかけてもスルーして大外に突っ込んでくるが、一応速度は落ちず。

 

 

 

 

『サイレンススズカ、更に加速した! これは決まったか!? 圧勝、大楽勝です! サイレンススズカ、今――――ゴールしました!』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あら?」

「起きたか」

 

 

 

 なんとなく落ち着く匂いとぬくもり。

 最近色々と理由をつけて引き離されていたそれに遠慮なく顔をうずめると、擽るように温かな手が耳に触れた。

 

 

 

「……!? ウソでしょ、寝てる間に添い寝されてる……」

「そりゃ添い寝なら寝てるだろうな」

 

 

 

 そんな……これは最近のお兄さんのいじわるなパターン…? これで知らぬ間にご褒美終了!?

 断固反対の意志を込めてしがみつくと、苦笑の気配を感じる。

 

 

 

「添い寝は眠るまでが大事だと思います」

「いやスズカが勝手に抱き着いたまま寝始めたから。あとウイニングライブ、もうちょっとで始まるからな」

 

 

 

「…………ライブ」

「スズカの重賞初勝利のライブ、楽しみにしてるからな」

 

 

 

 

 ……そんなことを言われたら、流石に断れない。

 もちろん、寝不足くらいでもライブはしっかりやれるけれども。お兄さんに、元気ももらったし。

 

 

 

「………ズルいです」

「大人だからな」

 

 

 

「ほら、さっさと着替えて係の人に化粧直してもらえ」

「着替えさせてください」

 

 

 

 スッと手を挙げてアピールすると、頭をはたかれる。

 

 

 

「スズカ、いいか。淑女には恥じらいが必要なんだ」

「一人で着替えるの、寂しいです」

 

 

 

 

 これは本当。

 お母さんが急に倒れた時みたいに、自分の見ていないところで何か悪いことがあるんじゃないかという不安。気が付くと独りぼっちになってしまっているのではないかという恐怖。

 

 

 恥ずかしくないわけではないのだけれど、それでも傍にいてほしいだけ。

 寂しい気持ちを伝えたら、お兄さんが優しくしてくれるからついつい甘えてしまっているのも無くはないけれど。

 

 

 

 

 

 

「………さっきの添い寝、ノーカンにしておくから」

「重賞初勝利……ですよね?」

 

 

 

 実際のところ、重賞を勝てるウマ娘は一握りだ。

 なんとなくGⅠが神格化?されている影響でGⅡは軽く見られがちだが、決して軽く見れる勝利ではないのである。

 

 ついでにメイクデビューからいきなり重賞、それもGⅡに殴りこみ。そして勝利するのはけっこう凄いことのはず。

 

 

 

 

「…………うん。そうだな、サイレンススズカが弥生賞に勝つのは正直凄い」

「???」

 

 

 

 なんとなく含みのある言い方に、小首をかしげつつも素直な気持ちを言葉にしていく。

 

 

 

 

「なら、トレーナーさんのお陰です。いつもありがとうございます」

「………あーもう、分かったよ! 何か考えておくから、ライブの準備しろ!」

 

 

 

「……照れましたか?」

「照れるわ! 正直、俺がサイレンススズカのトレーナーなんて力不足もいいところ――――」

 

 

 

「えいっ」

「なんで脱ぐ!?」

 

 

「なんとなく腹が立ったので」

「なんとなくで脱ぐな!」

 

 

 

 だって、そんな悲しそうな顔なんてしてほしくない。

 

 

 体操着を脱いで、ライブ用の衣装に着替えていく。

 即座に出て行こうとして、扉を開けるわけにもいかず。仕方なく扉に張り付いているお兄さんをなんとなく勝ち誇った気持ちで眺めながら着替えを終えて。

 

 慌てているのを見るとちょっぴり申し訳なくはあるけれど、やっぱりお兄さんが悪い。

 一番最初に今のわたしを見つけてくれたのはお兄さんなのだから、このわたしにとっての一番はお兄さんなのだ。それを貶めるのは、お兄さんでもちょっと怒る。

 

 

 

 

「終わりましたよ、トレーナーさん」

「………お前さ、危険意識ってものが無いよな」

 

 

 

 そんなことを疲れた顔で言うお兄さんだけれど、別にみられても減るものはないって聞く気がするし。心拍数は増えそうだけれど。

 

 

 

 

「………トレーナーさんなら、いいですよ?」

「良くないっ! ライブ楽しみにしてるからな、ちゃんと準備万端にしてから来い!」

 

 

 

 

 顔を赤くして慌てるお兄さんを見ていると、胸に暖かいものがこみあげてくる。

 これで抱きしめてくれたらいいのにな、なんてことを考えて。そんな積極的なお兄さんを想像してなんとなく顔が熱くなる。

 

 

 

 

「……お嫁さんになったら、してくれるんでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 そんな益体もない考えは、流石にちょっと直接伝えるには恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 



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皐月賞

 
今更ですが、アプリのそれと同様に史実勝ち馬が敗北することがあります。

 


 

 

 

 

 

 

「――――で、なんとかなりそう?」

「思ったんですが」

 

 

 

 ウイニングライブを終えて、車で爆睡しているスズカの抱き着きからジャケットを犠牲にして脱出。気を使って運転してくれているおハナさんに感謝しつつ満足気に寝ているスズカを見て、昔実家にいた犬を思い出す。

 

 

 

「もしかして匂いのついたものがあれば安心して眠れるのではないかな、と……」

「………大型犬か何かかしら」

 

 

 

 スズカの寂しがり屋がウマソウル由来なら可能性はあると思うのだが。おハナさんには胡乱な表情をされつつも、ジャケットを抱えてご満悦なスズカに二人で目を見合わせる。

 

 

 

「……ともかく、次はクラシック一冠目――――まあ、本人的にはそう思い入れはないみたいだけれど」

 

「そうですね。まあ将来を考えたら勝たせてやりたいですが……」

 

 

 

 

 クラシックで勝ったウマ娘ともなれば再就職とかにも有利だし、多分だがこのスズカは長距離適性もある……気がする。三冠……それも無敗ともなればそれこそゲームでしかお目にかかれないくらいの夢だ。

 

 それが、今のサイレンススズカなら十分な可能性がある。

 正直、欲が無いとはいえない。スズカが三冠を取れたのなら、俺もいる意味が……スズカにとって居てもいい存在になれるのではないかと。

 

 

 

 

「それで無理するようなら出るべきじゃないわ。まあ、言うまでもなさそうだけれど」

「安全第一、本人の希望が第二、本人の為になることが第三、くらいでいいですか?」

 

 

 

「二と三は逆ね。……まあ、そう簡単に割り切れはしないからそのままでも良いけど」

 

 

 

 

 そう、本当は分かっている。回避するべきは秋の天皇賞の怪我で、アメリカに送り出しさえすればスズカはきっと世界でも活躍できる。

 

 

 

 

「そういえば、ちゃんとスズカの希望を聞いたことなかったですね…」

「はぁ。ちゃんと聞いておきなさいよ、私はもうリギルの入部の時に聞いてるから」

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

『―――――目標、ですか?』

『そうね。貴女の走りならダービーでも天皇賞でも、海外だって目指せるでしょう。まあクラシックでもティアラ路線でもなんでもいいわ』

 

 

 

『……その、私は走るのが好きなだけで。目標とかは、あまり……』

『そう。なら欲しいものでもいいわよ、賞金でも、名誉でも、強敵とのレースでも』

 

 

 

 

 困ったように眉根を下げるサイレンススズカは、走っている時と違って覇気がないというか、そういう印象だった。けれど、どこか遠くを見るように目線を上げたサイレンススズカに感じたのは、シンボリルドルフと向き合った時に感じるような底知れない何かで。

 

 

 

 

『――――景色が、見たいんです。誰もいない、私だけの景色。静かで、どこまでも続いていて………笑顔のお兄さんが待ってる、そんな景色を』

 

 

 

 

 つまり二人きりでイチャイチャしたいということだろうか。おハナさんはちょっと頭が痛くなった。

 

 

 いやまあ、真面目に考えれば強敵相手でもぶっちぎって勝利したい。追いつかれるどころか迫られるのも嫌。でもゴールにお兄さんはいないと嫌。ということだろう。

 

 レースのローテーションが本当に悩ましい。

 とりあえず強敵と戦いたいのならクラシック三冠路線にするとして。適正によっては海外挑戦した方がいいのかもしれない。

 

 

 

『本当に好きなのね。幼馴染、だったかしら』

『はいっ。……勝つための走りじゃなく、私のための走りでいい……そう、言ってくれたんです』

 

 

 

 

 管理主義、正攻法で戦うおハナさんからすればスズカの大逃げは常識外としか言いようがないのだが―――それと同時に、あの大逃げに秘められたペース配分などは新人トレーナーが考えたとは思えない運命的な『何か』を感じる。

 

 それを引き出す指導。脳裏に腐れ縁のバカの顔が浮かび、何やら活動を再開したらしいという噂を思い出してわずかに頬が緩む。

 

 

 

 

(ま、いいわ。あのバカと違って指導そのものは突飛じゃない。本人の雰囲気も真面目だから生徒たちの受け入れも悪くない。――――さしずめ管理主義の皮をかぶった放任主義ってところかしら)

 

 

 

 生半可な策なら却下する気だったが、誰も歯が立たないあの走りを前にしては何も言えない。ただ、本当に通用するかどうかは――――。

 

 

 

(――――勝負に、絶対はない)

 

 

 

 あのルドルフですら負けた。

 ナリタブライアンでさえ、無敗の三冠には届かなかった。

 

 

 

 異次元とも言える走りは、本当に世代最強に届くのか――――答えは皐月賞で出る。

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 朝起きると、布団を被ったまま洗面台で顔を洗う。

 そのままパンを焼いて飲み物を準備し、ベーコンと卵を適当に火にかける―――前に、流石に布団を名残惜しくもベッドに戻した。

 

 

 

『スズカ、何か一つ持っていっていいからそれで寝るように』

 

 

 

 弥生賞の次の日、お兄さんはなんと久しぶりに部屋に入れてくれて。

 重賞制覇記念に何か持ち物をくれるという。……匂いで落ち着くんじゃないか、とのことである。ウソでしょ……動物扱いされてる。

 

 

 

 

 と、思ったのだが。すごくよかった。

 容赦なくお兄さんのお気に入りの布団を奪い、流石に止めようとするお兄さんに前にお揃いで買った緑の布団(自分が使っていたやつ)を押し付けた。

 

 

 

 すると、なんということだろう。

 ――――お兄さんの匂いがするから抱きしめられているような気分で寝れるし、お兄さんからは自分の匂いがするのである。とてもいい。

 

 

 羨ましがるタイキにちょっぴり優越感というものを知った。

 もう寝不足どころか二度寝の心配が必要なくらいで、左旋回する代わりにお布団にくるまってゴロゴロしていれば満足だった。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「――――というわけで、次は枕を下さい」

「何がというわけでだ!? 嫌だよ!」

 

 

「代わりに私の枕をあげますから」

「俺が落ち着かないの! スズカの枕とか絶対いい匂いするだろ頼むから止めてくれ」

 

 

 

 年下の幼馴染の枕で寝るとかどういうシチュエーションなのか。今の布団交換だけでも相当に意味不明かつ悶々とした夜を過ごしているのに。

 

 

「皐月賞……ご褒美……」

「お前クラシックをなんだと思ってるんだ……」

 

 

 

 泣くぞ。これまでにクラシックで負けたウマ娘たちとやっとの思いで勝てたウマ娘が。

 完全にご褒美をもぎ取るチャンスとしか思ってないだろ。

 

 

 

 

「そういえばお兄さん、サイレンススズカが弥生賞で勝つのは凄いって……」

「お前、あんなに眠そうだったのによく覚えてるな」

 

 

 

「皐月賞は凄くないんですか?」

「……いや、凄いよ。すごいけどさ」

 

 

 

 そもそもサイレンススズカは皐月賞には出なかった。

 そしてダービーに出て、サニーブライアンの逃げ宣言を受けて控えて負けた。

 

 

 

 皐月賞バ、サイレンススズカ。

 それはなんというか、すごくいい響きだ。

 

 そのためなら枕も差し出せ―――――いや、うん。

 

 

 

 

「……わかったよ。じゃあクラシック一冠で枕な」

「……! じゃあお兄さん、走りに行きましょう!」

 

 

 

「今は仕事中だからトレーナーな」

「トレーナーさん、走りに行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 運命の、皐月賞当日。

 

 

 

 

 一番人気は要らない。ただ一着だけが欲しい。

 生涯で一度しか得られない栄光。ここで勝つためだけに力を蓄えてきた。弥生賞で手ごたえを得た。

 

 

 勝てる、とは言えない。

 けれど勝つために必要なものを用意できたと思う。

 

 

 

(――――けど、それは)

 

 

 

 最大の障害になる、と思わされるウマ娘。サイレンススズカ。

 小柄な体躯と、レースでの苛烈なまでの闘志。ゲートを潜る幼さを見せたかと思えば既に異次元とまで言われる走りで弥生賞を制覇し、何人かのウマ娘が絶望するほどの差をつけられた。

 

 

 本当は逃げ宣言をして、サイレンススズカが控えなければ退くくらいのつもりだった。けれど、それで本当に“アレ”が倒せるかというと怪しい。

 

 

 

 

 必死の雰囲気を漂わせる他のウマ娘を尻目に、腑抜けた顔でトレーナーにべたべたしている。それがなんとなくこちらを嘲笑っているように思えてしまって。

 

 

 

 

「……今日は、私も逃げます。負けないから」

 

 

 

 

 返ってきたのは、猛烈なまでの戦意。

 大人しそうな顔はどこへやら。気性難としか言いようのないその気配に、びりびりと背筋が震えるような気さえする。なんでこのトレーナーは、こんな猛獣のようなウマ娘を子ども扱いできているのか。

 

 

 

 

「――――先頭は、誰にも譲りません」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『――――さあファンファーレが鳴り響いて、ゲート入りが始まります! 注目の一番人気は弥生賞で異次元の逃げを見せたサイレンススズカ! 対抗するように逃げ宣言をしたサニーブライアンがいますがやはり大逃げを見せるのか!? 二番人気はメジロブライト! 三番人気はランナーゲイルとなっております!』

 

 

 

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整い――――皐月賞、スタートしました!』

 

 

 

 

『各ウマ娘まずまずのスタート! やはり行った、サイレンススズカ! 大外から一気にサニーブライアンも加速する! メジロブライトは後方からか!?』

 

 

 

 猛烈な向かい風の中、それをものともせずサニーブライアンが一気に加速する。

 大外の不利を差し引いても自分より前に出た、しかも悠々とした余裕さえ感じさせるサイレンススズカに、根性で食らいつく。

 

 

 

 

『さあ一気に後方を引き離そうというサイレンススズカ――――だが食らいついていくサニーブライアン! その後ろから来たテイエムオーキング! 一気に前に出ようというところですが――――サイレンススズカとの差がじわじわと広がっている! メジロブライトは最後方だ!』

 

 

 

 前に来たウマ娘をこれ幸いと風除けにし、末脚を溜める。

 結果的に二人がかりと言ってもいいかもしれないが――――勝ちたい。泥臭くても、力勝負では勝てなくても。それでも、根性で負けているとは思わない。

 

 

 

 

 

「くっ、これでも追いつかない……なんてっ!」

「(―――――貰っていく!)」

 

 

 

 

 スリップストリーム。オーキングを交わして四コーナーに向かう。

 超ハイペースに付き合わされこそしたものの、それでもサイレンススズカより有利な条件で走れている。

 

 小柄な背中は、妙に遠いようにも思えるが届かない距離ではない。

 

 

 

 

『さあ第四コーナーを回って――――サイレンススズカが先頭! だが詰め寄ってくるのはサニーブライアン! サニーブライアンだ! メジロブライトは間に合うのか!?』

 

 

 

『これはもう前二人の争いになるのか!? サイレンススズカの後方一バ身、二バ身ほどにサニーブライアンがまだ食らいついている! 直線に入って最後の争い! 中山の直線は短いぞ!』

 

 

 

 

 

(届く! 届け――――届けぇッ!)

 

 

 

 

 先頭を奪い取って、そのまま粘り勝つ。

 もう肺が破れそうなくらいに息が苦しくて、酸素の足りない脳はガンガンと警報のように痛みを発する。

 

 中山はこんなに直線が長かっただろうか。

 でも、これなら届く。あと一バ身まで栗毛に詰め寄ったその時、“ソレ”は見えた。

 

 

 

 

 

 

 どこまでも続く草原――――そこを軽やかに走っていく、栗毛のウマ娘と四本足の影。

 速さと、孤独を感じる景色。そんな未知の現象を前に、それでも諦めずに首を上げて。

 前にいるそのウマ娘が獰猛な、心底楽しそうな笑みを浮かべているのを、見るでもなく感じ取った。

 

 

 

 

 

 

「―――――これが、私だけの――――景色っ!」

 

 

 

 

 

 

 

『加速した! サイレンススズカ、更に加速! 超ハイペースとは思えない末脚! サニーブライアンとの差が開く! これは決まったか! メジロブライトは大外から上がってくるが三着争い―――――』

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカだ! 着差以上の実力を見せた、見事な勝利です! 2着はサイレンススズカの逃げに見事に食らいついたサニーブライアン。メジロブライトは4着!』

 

 

 

 

 

 

 



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皐月の風 / 無敗の二冠

 

 

 

 

 年頃の少女に対する誕生日プレゼントというのは難しい。

 欲しいものが分かっているのなら救いもあるが、それがアレなものだとやっぱり難しい。

 

 金銭的に高い? それは確かに大変だ。

 希少すぎて手に入らない? それは確かに難しい。

 だが、それよりもっと困る要求もある。

 

 

 まあ、つまり。毎日一緒に寝たいと言われる(寂しさ的な意味で)のはうれしいが、相手が未成年なら事案でしかないのである。社会的に不可能問題というわけだ。

 

 

 

 そんなワキちゃんの希望を蹴っ飛ばす以上、何かしら満足してもらえるプレゼントを用意しなくてはならない。

 

 

 

 確かウマ娘アプリのタイシンがクリスマスにトレーナーにウマ娘の尻尾リンスなるものをプレゼントしていたので、そういう感じのものは多分ありなのだろう。

 

 というわけで街に繰り出し、ウマ娘用品のショップへ。

 当然のように女子しかいない空間に凄まじい居心地の悪さを感じつつも、リンスのコーナーに入り――――何か見覚えのあるウマ娘が真剣な顔で匂いをチェックしているのに気づいた。

 

 

 

 

「……あ、メジロドーベル」

「だ、誰っ!?」

 

 

 

 

 どぼめじろう先生……はネットミームというか再翻訳ネタだったか。

 そういえば男嫌いだった、と少し慌てたがメジロドーベルはごくわずかに鼻を動かしたかと思うと少し緊張を緩めた。

 

 

 

 

「………もしかして、スズカのトレーナーの…?」

「あ、ああ。そうだけど」

 

 

 

「あ、やっぱり。その、いつもスズカが自慢してるから…あと、なんだかスズカの匂いが」

「………へ、へー」

 

 

 

 スズカの布団のお陰か……安心していいのかどうなのか微妙である。

 不審者扱いされない代わりに事案扱いされそうなような。

 

 と、そういえばドーベルは香水を選ぶのが得意という特技があった気がする。確かスズカが「スぺちゃんがお腹が減って可哀そうだから、お腹が減らなくなる匂いはないか」みたいな感じのことを聞いていたような。

 

 

 

「そうだ。実はスズカの誕生日プレゼントを探してるんだけど……何かこう、選んじゃいけない匂いとかスズカの嫌いそうな匂いってあるかな」

 

 

 

 一応、プレゼントなので最終的には自分で選びたいが駄目なもののヒントはほしい。そんな心意気はドーベルにも伝わってくれたのか、少し表情が緩んだ。

 

 

 

 

「あ、それなら……一応、ここにあるウマ娘用のなら選んじゃいけないのはないと思いますよ。嫌いな匂いは……ちょっと分からないですけど」

 

 

 

「あ、気持ちが落ち着く匂いとかは……」

「それならこっちの――――」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 よし、これでスズカの誕生日プレゼントは大丈夫だ…。

 ついでに、これでスズカの匂い依存がもうちょっと健全な方向になってくれれば言うことなし。

 

 

 と、そこでなんとなくメンコ……もとい、イヤーキャップが目に入る。

 むしろサイレンススズカならお馴染みと言っていい緑色のそれ。そういえばサイレンススズカも弥生賞時点ではメンコを付けていなかったか。そのせいもあって余計にスズカとワキちゃんが一致しなかった……というのは言い訳になってしまうが。

 

 なんとなく運命的な何かを感じる……買っておこう。

 

 

 

 

 

 というわけで残った仕事を終えるべくリギルの部室に戻り――――仕事の定位置であるソファで、人のジャケットを抱えて眠っているスズカに気づいた。なんか室内でスズカが左旋回したらしき痕跡が残っているが。

 

 

 

 

「寝るなスズカ、夜眠れなくなるぞ」

「……お兄さん?」

 

 

 

 

 寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こしたスズカは、何やら怪訝そうにこちらを見て。

 それから耳を絞って拗ねた声を出した。

 

 

 

「……どこに行ってたんですか?」

「買い物」

 

 

 

「……むぅー」

 

 

 

 バシバシと尻尾がソファを鞭打ってるが、ご機嫌斜めらしい。

 まあ置いていったらそうなるだろうと思ったけれども。

 

 むっすー、とした顔で尻尾が無くてもありありと不満げなスズカは言う。

 

 

 

「……お兄さん、女の人と会ってきたんですか?」

「え?」

 

 

 

 ああ、リンス置き場の匂いか……。となんとなく察した。

 が、プレゼントを暴露するわけにもいかないので、仕方なく話題を逸らすことにして。

 

 

 

「ああ、偶然メジロドーベルに会ってな。少し話したんだが、その時の売り場の匂いかな」

「そうなんですか」

 

 

 

「そうなんだよ。さて仕事仕事……」

「……お兄さん、桐生院さんとも仲が良さそうでしたからね」

 

 

 

 

 うっ。どうした急に。

 いや、正直に言おう。――――だって、桐生院さん可愛いじゃん! あれが職場の同期で、なんか親しくしてくれるからワンチャン無いかなーと思ってしまうのは悲しい男の性。

 

 だって年下の幼馴染も可愛いけど、未成年だし……職場の同期なら合法だし。

 ワキちゃんが受験勉強で忙しい時に二人でカラオケ行ったら大分ご立腹で、子泣き爺ばりに張り付いて耳元で囁くという拷問?をしてきたりしたこともあった。

 

 

 

 

 今は――――ワキちゃんならともかく、サイレンススズカは沈黙の日曜日を絶対に回避しないといけないのでそんな色恋に現を抜かす余裕はないが。

 大事な幼馴染の選手生命が、下手すると命が掛かっているのだ。

 

 

 

 

 とはいえ某国立最難関大学並の難易度の中央トレセンのトレーナーにそんな冷たい視線に立ち向かえるほど女性経験があるわけもなく。……いやまあ、フラッシュのトレーナーとかライスのお兄さまとかは別格だが。

 

 

 

 

 

 ……まあ。

 なかなか見られない頬を膨らませて拗ねてるスズカは正直可愛い。

 

 

 

「なあ、スズカ」

「……なんですか?」

 

 

 

「ダービーに向けてスタミナを強化したい。おハナさんにも話したから、明日からプール練習増やすぞ」

「え、走らないんですか…?」

 

 

 

 

 がーん、とまるで食事制限を宣告されたスぺちゃんの如きショックの受け方に少し笑ってしまうが、一応昔からプールトレーニングは取り入れている。

 いくら息の入れ方が上手いとはいえ、結局のところサイレンススズカの強みは馬なりでの速度の速さと、それを維持し続けるスタミナだと思っている。

 マエストロあってもスタミナなかったらあんまり意味ない……というとアプリ脳すぎるだろうか。

 

 あと坂路。アプリでもちょっと出てきた山登りも夏休みで実家に帰ったときとかにワキちゃんは昔からこなしている。人間のアスリートもよくやる高地トレーニングの効果(酸素が少ない場所での運動による赤血球の増加)を狙ったものだが、しっかりとその効果は出ている……と思う。

 

 

 

 

 

「もっと気持ちよく走るためだからな」

「……むぅー」

 

 

 

 

 とりあえず納得してくれたらしいスズカは置いておいて、仕事を再開し―――。

 

 

 

 

「トレーナーさん。私、楽しかったです。皐月賞で、あの娘と走って。もしかしたら追いつかれてしまうかもって思って………でも、まだ走れるって思ったんです」

 

 

 

 今まで一度だって追い詰められたことのなかったスズカにとっては、自分との戦いが全てで。それはきっと今でも変わってはいないけれど、先頭が脅かされたことで逆に闘争本能が刺激されたのかもしれない。

 

 

 

「もっと先に。もっと速く。誰も届かなかった景色が、見えそうだなって」

「……見れるさ、サイレンススズカなら」

 

 

 

 

「――――だから、ゴールで待っていてください。トレーナーさん。私、必ず一番に会いに行きますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく、持っていた鞄からイヤーキャップを取り出してスズカの耳に被せる。

 突然の感覚に目を白黒させたスズカだが、物を把握するとへにゃりと表情を崩した。

 

 

 

 

「少し早いけど、誕生日プレゼントだ。……いつもありがとな、スズカ」

「……お兄さん、プレゼントならそう言って下さい」

 

 

 

 先ほどまでの不機嫌はどこへやら、表情はゆるゆるだし尻尾もご機嫌にこちらに絡んでくるしもう諦めてもう一つの包みも渡してしまう。

 

 

 

「あとこれ、尻尾リンス。スズカに合うかと思って」

「………! お兄さん、塗って下さい!」

 

 

 

 いや、尻尾に!?

 昔はそりゃ背中届かないから洗ってあげてたけどさ……。

 

 

 

「ダービー勝ったらなー」

「じゃあ、代わりに耳かきしてあげますね」

 

 

 

「はいはい、ダービー勝ったらな」

「あとベッド半分もらいますね」

 

 

 

「はいはい、ダービー……なんて?」

「ベッド半分もらいますね?」

 

 

 

 

 布団、枕からベッドの流れかと思ったらこれ一緒に寝るって意味では。

 

 

 

 

「いや、スズカお前な……調子に乗ってるとサニーブライアンに負け……」

「私の方が速いです」

 

 

 

 

 調子に乗っている? いや、とんでもない。目を見ればわかった。

 スズカは初めて自分を脅かす相手に出会って、勝利して。もしかすると初めて勝負の楽しさを知ったのかもしれない。

 

 前は単純にご褒美が欲しかったからねだっていた。

 今は、多分違う。

 

 それが自分の闘志を燃やせると感じているから、貪欲に勝利を求めている。自分をより走らせるものを。欲望を燃やして更なる速さを求めている。

 

 

 

 サイレンススズカをサイレンススズカたらしめるもの。

 彼の馬が父から受け継いだ苛烈なまでの本能を、彼女も確かに受け取っている。

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 スズカが燃えているという予感は間違いではなく。

 苛烈なまでにトレーニングに励むスズカ。そんなスズカを徹底的にプールで苛め抜き(走らせないという意味で)、週に一度は良いライバル関係であるタイキに併走を頼む。

 

 時にはダートで抜かれ、短距離で善戦し、マイルで全力を出し尽くし……。

 

 

 

(いやなんで短距離で戦えるように…?)

 

 

 

 いつの間に因子継承したのだろうか。

 確かに全く勝ててなかったので、タイキの加速(たぶんヴィクトリーショット)を見て自分なりにアドバイスしたが。

 

 

 これはもしかして「その時、ふと閃いた! このアイデアはサイレンススズカとのトレーニングに活かせるかもしれない」というやつだろうか。

 あるいはスぺちゃんもタイキとの併走でピッチ走法を身に着けてウンスに勝ってたし、タイキから短距離適性でも貰ったのかもしれない。

 

 まあもともとサイレンススズカは短距離馬としてはただの一流、なんて言う人もいたみたいなのでできないわけではないのかもしれない。ただ、スペックで殴り倒しているだけな感じはある。素人目で馬体だけ見ると短距離馬じゃないどころかステイヤー気味にも見えるし。サイレンススズカ、性格以外はステイヤー適性ある説。

 

 

 

 

「ということは、フクキタルと走れば長距離が得意になる…?」

 

 

 

 ワキちゃん時代からスタミナにはかなり気を使っていたが、長距離の走り方そのものは実践できているとは言い難い。本当は長距離大逃げのできるパーマーとかウンスが良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同じくただ一つの勝利を求めるサニーブライアンも限界まで己を追い込んでいるとの噂が聞こえてきた。

 

 超ハイペースに対抗するべく坂路を爆走しているとか、流石にライバル陣営なので詳しい情報は入ってこないがかなり追い込んでいるようである。

 

 

 

 

 

「お兄さん。イヤーキャップ、ありがとうございます」

「おう」

 

 

 

 

 緑の勝負服に、緑のメンコ。

 これでこそサイレンススズカ、というその姿になんとなく感慨深いものがある。何故かレース前なのにいつもより落ち着いてる感じはあるが。

 

 

 

 

 

「これを付けていると、お兄さんに耳を塞がれてるみたいで……すごく落ち着くんです」

「いや耳ふさいじゃ駄目だろ」

 

 

 

 外聞が悪すぎる。

 というか耳塞がれたいみたいな言い方は不味いだろうに。

 

 

 

「そうですか?」

 

 

 

 そう言いながら、スズカの手が耳を覆ってくる。

 ……いやまあ、それは反則では。そういうのはウマ娘がやったら反則なのである。

 

 

 

「……どう、ですか? 気持ちよくないですか?」

「やめろ耳元で囁くんじゃない」

 

 

 

「私はお兄さんの声、すごく聞きたいんですけど……」

 

 

 

 

 いやまあ、よかれと思ってやってくれてるのかもだが。

 世の中には囁き声の破壊力がありすぎるウマ娘もいるのである。

 

 

 

「好きだからやめて欲しいんだよ……」

「え? お兄さん、今なんて…?」

 

 

 

 ふと閃いた! これはサイレンススズカのやる気調整に役立つかもしれない! というか立って欲しい。

 いやむしろ効果ありすぎというか、ご飯を目の前にしたオグリみたいな目の輝きになっているんだが。

 

 

 

「今、好きっていいましたよね?」

「言ってねーよ」

 

 

 

「イヤーキャップで少し聞きにくかったんです」

「じゃあ外せよ」

 

 

 

「私の声、好きですか?」

「はいはい。好きだから。センターで歌ってくれ」

 

 

 

「………はいっ」

 

 

 

 

 最高の笑顔でレースに向かうスズカを見送り、ゴール付近に集まっているリギルの面々のところへ。別に席取りしているわけではないのだが、威圧感のあるルドルフやブライアンがいるので自然と人が避けている。

 

 

 

「やあ、サブトレーナー君。サイレンススズカの調子はどうだい?」

「すこぶる快調ですよ。ルドルフ会長」

 

 

 

「そうかい調子が良いのは会長としても鼻が高い。―――――まさか、君とこうしてダービーを見ることになるとは思っていなかったが」

 

 

 

 微笑むルドルフに、思い出すのはクソガキテイオー、もといトウカイテイオー。

 何故か一緒にルドルフの前に引っ張り出されたので、なんとなく空気に負けて『トレーナーになって貴方と同じ無敗の三冠ウマ娘を育てて見せます』とか吐いてしまったのである。若さゆえのアヤマチ……ワスレテ……ワスレテ。幸い社会経験のないガキンチョの言ったことなので微笑ましく見られただけだと思う。

 

 

 

 あっ、というかあの時まだルドルフ無敗の二冠だったじゃん……。

 いや好意的に見れば発破をかけた的な…?

 

 

 

 

「……私は、テイオーと君が無敗の三冠を取ると思っていたんだが」

 

 

 

 おや、何か寒気が。

 

 

 

 

 

 

『―――――さあ、遂に始まります! 無敗の二冠を賭けた大一番! 東京優駿、日本ダービー! 果たして異次元の逃亡者が逃げ切るのか、あるいは二番人気メジロブライトが差し切るのか!?』

『サイレンススズカは4枠8番ですね。逃げウマ娘の中では内枠の方を取れています。果たして2400を逃げ切れるのでしょうか』

 

 

 

『7枠15番、メジロブライト。やや外ではありますが囲まれない分だけに自分の走りに徹することができるかもしれません』

『皐月賞では惜しくも4着でしたが、距離の延長はメジロ家のウマ娘にとって良い影響がありそうです』

 

 

『8枠18番、サニーブライアン。私イチオシのウマ娘です。逃げ宣言の皐月賞では惜しくも2着となりましたが、今回は大逃げ宣言をしていましたね』

『この日に向けて厳しいトレーニングを積んできたとのことですが、素晴らしい仕上がりですね』

 

 

 

 

 

『果たしてサイレンススズカとどちらがハナを奪っていくのか、ペースはどうなるのか。サイレンススズカと共にレースのカギを握るウマ娘になりそうです』

 

 

 

 

 

 

 

「東京優駿の行われる東京2400mはその距離もさることながら高低差のある200mの坂が特徴的だ」

「どうした急に」

 

 

 

「これまで、逃げでダービーに勝ったのは初代ダービーウマ娘のワカタカと、狂気の逃げウマ娘カブラヤオー、アイネスフウジンのたった三人だけ。府中の勾配のある長い直線は後方からが有利なんだ」

「つまり、サイレンススズカは勝てないってことか」

 

 

 

 

「ほら、言われてるよトレーナー」

 

 

 

 なんかどこかで聞いたような会話が、と思っているとどっかで聞いたような声がする。

 このいかにも元気っ子なポニーテールと特徴的な高い声は…。

 

 

 

「ゲッ、テイオー」

 

 

 

「げっ、とはご挨拶じゃない? この無敵のテイオー様にさー」

「ハッ、無敵ってのはそこの現会長みたいな限界超越したウマ娘を言うんだよ。無敗の二冠すら取ってないウマ娘には気が早すぎる」

 

 

 

「フゥーン。へぇー、じゃあスズカならカイチョーとも戦えると思ってるんだ?」

「一年後の秋、芝1800から2000ならスズカが勝つ」

 

 

 

 

「ほう」

「へぇ」

 

 

 

 鳥肌立つのでオーラを収めてくれないだろうか、この会長。

 やっぱり親子だろこいつら。仲良すぎる。

 

 

 

「良いよ、じゃあカイチョーと戦う前にボクがスズカに勝っておくから」

「お前、あの走りだと怪我して終わるぞ」

 

 

 

「ワッカッテルヨー! 『勝ち続けたいなら、ルドルフみたいに必要な分だけで勝つことを覚えろ』とか偉そうにしちゃってさー! スズカなんてブレーキ壊れてるじゃん!」

 

「だってあれがスズカのマイペースだし……抑えたら余計に疲れるし」

 

 

 

 

 というかコイツ、子どもの頃にしたアドバイス?と言っていいのかすら微妙なヤツを覚えていたのか。クソガキのくせに意外と律儀なヤツ。

 

 

 

 

 

「スズカは勝つさ。例え世界レベルのウマ娘でも、強くてかっこいいウマ娘が相手でもな」

 

『東京優駿、日本ダービー。全ウマ娘体勢が整い――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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東京優駿 / 日本ダービー

 

 

 

 

 

 

 

『さあ先行争い! 行った行った、サイレンススズカが飛び出して、大外からは一気にサニーブライアンが競りかけてくる!』

『どうやらハナを奪わせない作戦のようですね』

 

 

 

 観客席からは悲鳴と歓声がどちらも上がる。

 特異なマイペースで走るスズカに対して、オーバーペースのサニーブライアン。その軍配はどちらかに上がる、ということもなく。

 

 わずかにサニーブライアン有利で競り合ったままコーナーに差し掛かる。

 

 

 

「どうやら乾坤一擲、スタート直後のスパートで抑え込むつもりかな」

「キョウエイボーガン……いや、まだか」

「フーン。大丈夫なの、トレーナー?」

 

 

 

「わからん」

「ぇぇ~?」

 

 

 

 流石のサニーブライアンでもあのペースでは持たない。が、スズカが掛かるようであれば最終的に逆噴射してスローに持ち込んだサニーブライアンに抜かれる可能性もある。一応、抜く練習はタイキシャトルとの併走で鍛えられている……とは思うが。

 

 

 

 

 

 不気味なほど落ち着いて走るスズカを徐々にサニーブライアンが引き離し、斜行を取られないよう十分に距離を取ってから前を塞ぎにかかる。

 

 

 

 

『さあ、ハナを奪ったのはサニーブライアン! サイレンススズカはわずかに控える形。フジノビザン、ダイサンデー、マチカネフクキタルも前から行った! メジロ、メジロブライトはやはり後方から!』

 

『ここからスローペースに持ち込もうというところでしょうか』

 

 

 

 

『さあ、サニーブライアンがサイレンススズカを封じ込めようというところ! サイレンススズカが加速する素振りを見せますがサニーブライアン行かせません!』

 

 

 

 わずかにサニーブライアンが減速した、その瞬間だった。

 スズカが僅かに加速するような素振りを見せ、サニーブライアンは慌てて加速しなおし――――フリだけで抜きにかからなかったスズカに、サニーブライアンは歯を食いしばる。

 

 そうして再度サニーブライアンが速度を緩めた瞬間――――スパートをかけたスズカが外から一気に交わした。

 

 

 

「――――おおっと! 今度は行った! サイレンススズカ、サニーブライアンを交わして先頭に立つ!」

「掛かってしまったかもしれません。少し息を入れるタイミングがあればいいですが」

 

 

 

 

 

 

(……このっ! ダメだ、完全にもってかれた。抜き返せない!)

 

 

 

 本当はもっと消耗させるはずが、速度を緩めた瞬間の気のゆるみを狙われた。

 それでも必死に食らいつき、有利な内側を死守する。ここなら進路妨害を取られないようにそうそう内には来れないはず。

 

 

 

 

『サイレンススズカ、ハナを奪い返した! だがまだ先頭争いは続いている! 二番手集団は大きく離れて固まった状態! ブライトの位置は後方三番手!』

 

『前二人はかなりのハイペースですね。最後まで持つのか心配です。対して後方はややスローでしょうか』

 

 

 

『三番手にはフジノビザンが上がってきています! ブライトが中団まで上がってくる! さあ四コーナーに入って直線コースに入る! サイレンススズカが先頭を奪いましたがサニーブライアンも一歩も退きません!』

 

 

 

 

『さあ、直線コースに入った! 前二人は苦しい! 後方から一気にメジロブライト! 外からシルクジャスト! サイレンススズカここまでか!』

 

 

 

(負けない。このために、ずっとこの時のために――――私は!)

 

 

 

 

 サイレンススズカの走りを研究し、その息の入れ方を真似た。同時に息を入れれば、最後に物をいうのは根性。全てを賭けて走るのなら、競り勝てると信じて。

 

 

 

 

『―――――ここでサイレンススズカとサニーブライアンが加速した! 両者一歩も譲りません! わずかにサイレンススズカ前に出た! 後方からはシルクジャストが抜けた! だがまだ離れている! 前二人に追いつけるのか、最後の争い! 残り400を切った! 高低差200mの坂! 試練の坂だ! 坂を登る!』

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 先頭が見えないのはひどく窮屈で、もっと前に、先に、誰もいない場所まで一息に駆け抜けていきたいと本能が叫んでいる。

 そんな中、脳裏を過ったのは数週間前のトレーナーさんの顔。

 

 

 

 

『いいか、スズカ。サニーブライアンが勝つにはなんとしてもハナを切ってスローペースに持ち込むしかない。俺たちにとっては最悪の展開だな』

『……えっと、じゃあ抜かされないように…?』

 

 

 

『いや、あっちからするとスズカにハナを奪われたら勝ち目がない。超ハイペースが得意にも見えないし、死ぬ気で競り合ってくる。そうしたら共倒れだ』

 

『………どうしましょう』

 

 

 

『とりあえずハナは譲る。で、適当に引っ掛けてから抜き返す』

『引っ掛ける、んですか…?』

 

 

 

『頭脳戦とか絶対スズカにやらせちゃ駄目なヤツだが、今回は展開が分かり切ってるからな。中盤で抜くフリをして気が緩んだところを一気に抜き返す。講師はタイキで』

『Yes、任せてくだサーイ!』

 

 

 

『後は勝負根性だ。そのあたりサニーブライアンも自信があるところみたいだが――――まあとにかく今はこの言葉を贈ろう「我慢した方が気持ちいい景色が見れる」ってな』

 

 

 

 

 なるほど。

 確かに雨とかで走らなかった後に走るとすごく気持ちが良いし、朝お兄さんに会うと会えてなかった分だけ嬉しくなる。

 

 

 

 

『今までずっと、プールやら山登りやらやってたのはこの時のためだ。枕でも尻尾リンスでもいいから、辛くなったら楽しいことを思い出せ』

 

 

 

 

 最終直線、最後の力を振り絞る瞬間。

 脳裏に浮かぶのは思い出の草原。どこまでも続く緑の中、遠くで手を振っているあの人を目掛けて――――。

 

 

 

「見えた――――静かで、どこまでも綺麗な――――私の、私だけの―――」

 

 

 

 

 瞬間、地面が揺れているように思うほどの大歓声が静かに感じられ。

 観客席で叫んでいるトレーナーさんの姿が、はっきりと見えた。静かに輝く、私だけの――――。

 

 

 

 

『―――――ぶちかませ、スズカッ!』

 

「先頭の景色は――――譲らないッ!」

「ま、けるかぁ―――ッ! 一着だけが、欲しいんだァ!」

 

 

 

 

『―――――ここでサイレンススズカとサニーブライアンが加速した! 両者一歩も譲りません! わずかにサイレンススズカが有利か!? 後方からはシルクジャストが抜けた! 前二人に追いつけるのか、最後の争い! 残り400を切った! 高低差200mの坂! 試練の坂だ! 坂を登る!』

 

 

 

(もっと、もっと、もっと――――――速く! 一歩でも、先に!)

(こ、んのおォ! なんで、なんで垂れない!? あれだけ飛ばして、なんで加速できる!?)

 

 

 

 

 

『サイレンスまだ逃げ! サニーブライアンは伸びが苦しい! 後方喘いでいる感じ!』

 

 

 

 

(見ていてください。トレーナーさん。これが、私たちだけの――――!)

(あっ)

 

 

 

『抜けた! サイレンススズカが抜けた! サニーブライアン失速! だがこれは二着は確保できるのか!? シルクジャストと二着争い! サイレンスだ、サイレンスだ! サイレンススズカ、今ゴール! 異次元の逃亡者、見事に無敗の二冠達成! 秋の京都へ伝説は続いていきます!』

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 辛うじて三着を確保し、違和感を覚えた左足に目をやって、溢れてきた涙が地面に落ちる。

 

 

 

 

 

「…………走れ、なかった…っ、こんな、こんなところで――――」

 

 

 

 

 最後の瞬間、左足に覚えた違和感。

 もしサイレンススズカに引き離されなければ、1着が取れそうならそのまま駆け抜けていただろう。しかし結果は三着。

 

 これ以上力を入れれば取り返しがつかないことになるという直感に、死力を尽くしても二着しか取れないだろうという冷たい現実に、最後まで全力を出し切ることが叶わなかった。

 

 

 

 

「サニー、お前足が…!?」

「ごめん、トレーナー。勝ちたかった。勝ちたかったのに。……こんな、負け方…っ」

 

 

 

 駆けつけたトレーナーに支えられて、足を浮かせても感じる違和感。

 

 

 

「バカ、そんなこと言ってる場合か!? 俺にとっては、お前の身体が一番大事だ!」

「私は勝ちたかった! 脚が折れても! それでもダービーの一着が欲しかったのに!」

 

 

 

 

 心を折られた。圧倒的な加速に、ハイペースの消耗を見せない走りに。

 トレーナーに抱きしめられて、胸の中で涙を流す。

 

 

 

「……かちたかった、よぉ」

「ごめん。ごめんな。次は絶対勝たせてやるから」

 

 

「うん。…………あきらめないから」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「―――――お兄さんっ!」

「スズカぁ!?」

 

 

 

 軽やかに観客席に飛びこんで、スズカが抱き着いてくる。

 火照った身体はかなり暑苦しいものの、レースの勲章だと思えば気にならない。

 

 

 

「帰ったら、ご褒美……下さいね」

「いや、あのなスズカ。とんでもなく目立ってるから後で……」

 

 

 

「……褒めて、くれないんですか?」

「――――よく頑張ったな、スズカ」

 

 

 

「はいっ」

 

 

 

 

 嬉しそうに笑うスズカに、じわじわとダービー勝利の実感がわいてくる。

 なんとなく二人で笑い合い、もう一度抱き着いてきたスズカが顔を埋めてきた。

 

 

 

 

「これが――――私の欲しかった景色」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 サニーブライアンの脚は軽傷だったらしい。

 本来ならば骨折からの屈腱炎での引退だったはず。運命は変わった。変えられる。

 

 やはり、一番可能性が高いのは―――。

 

 

 

 

「秋天で、スズカの大逃げを阻止する」

 

 

 

 強制的にペースを落とせば、骨折しないかもしれない。

 そんなことができるかもしれないのは、やはりウマ娘世界では外国馬問題のないエルコンドルパサーくらいか。

 

 なんとなく、そんな乗り替わりみたいな真似をしてスズカが調子を崩したりしたら目も当てられないが。

 

 

 

 

 それに、とりあえずは菊花賞か。

 多分ペースを調整すればなんとか3000も走れないことはない……はず。

 

 現実逃避気味にそんなことを考えていると、スクール水着を着たスズカが尻尾リンスを手に脱衣所から出てきた。

 

 

 

 

「お兄さん、はい」

「………はーい」

 

 

 

「~♪」

 

 

 

 鼻歌……うまぴょい伝説? を歌いながらご機嫌のスズカに連れられて、風呂へ。

 と、何故かスズカがこちらの服に手をかけた。

 

 

 

「お兄さん、お風呂はちゃんと服を脱がないと……」

「知っとるわ! というかまず男女一緒にお風呂に入らないからな!」

 

 

 

「? 昔から入ってますよね?」

「お前な、自分の年を考えろ……もうお子様じゃないんだぞ」

 

 

 

「お兄さん、恥ずかしいんですか?」

「恥ずかしくない方がおかしいんだよ! やめろ、脱がすな! ベルト外すな!」

 

 

 

 

 とりあえずゲート難の馬と同じように尻尾を引っ張って風呂場に誘導する。

 何故かまんざらでもなさそうなスズカに、温度を調整したお湯をかけてから丁寧に尻尾をシャンプーしていく。

 

 

 

 

「そういえばお兄さん」

「何だー?」

 

 

 

「うまぴょいってなんですか?」

「………なんだろうな!」

 

 

 

「うまだっちは…?」

「分からんなぁ!」

 

 

 

「すきだっちは分かるんですけれど……」

「へ、へー」

 

 

 

 

 さらさらしたスズカの尻尾を丁寧に洗って、リンスをつける。ご機嫌すぎて妙に腕に絡んでくるのが洗いにくいが、耳を見ていれば気持ちいいのかどうかすぐわかる。

 

 

 

「お兄さん、どうですか。私の尻尾」

「えっ、綺麗だけど……」

 

 

 

「匂いですよ。せっかくお兄さんが選んでくれたのに」

「ああ、そっちね……」

 

 

 

 

 嗅げと申すか。

 スズカ……いや、ワキちゃん。

 

 

 

 

「まあ、スズカに合った匂い……だと思うんだが」

「はいっ。私も好きです」

 

 

 

 

「それで、お兄さん」

 

 

 

 急に真面目な顔で(スク水だけど)振り返ったスズカに、一応表情を引き締める。

 

 

 

 

「今日、一緒に寝ましょう?」

「帰れ」

 

 

 

「ウソでしょ……お兄さん、私、無敗の二冠ウマ娘なのに…?」

「お前、学生。俺、教師」

 

 

 

 むしろ何故いけると思ったのか。

 そっちのほうがウソでしょである。

 

 

 

「じゃあ添い寝でも良いです」

「何も変わってないが」

 

 

 

「膝枕でも」

「何が変わったんだ」

 

 

 

「じゃあ、無敗の三冠ウマ娘になったら好きなご褒美…くれますか?」

「…………公序良俗に反しない範囲で」

 

 

 

「じゃあ、今回は枕で我慢します」

「………あっ。待て、本気で俺にスズカの枕を使えと…?」

 

 

 

 眠れなくなる気しかしないんだが。

 が、スズカはイイ笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

 

「はい。……それとも、臭いですか?」

「……無いけど」

 

 

 

 

 なんとなくお兄さま(ライスのトレーナー)とかお兄ちゃん(カレンチャンのトレーナー)もこんな苦労してるのかな、と遠い目になる。

 

 

 

 

「お兄さんだと思って、大事にしますね」

「………はぁ」

 

 

 

 

 

 そして、最後の一冠。

 クラシック最終戦、菊花賞に向けた合宿が始まる―――。

 

 

 

 

 

「強敵揃いではありますが。来年は私も必ず頂点を――――」

 

「はんにゃか、ふんにゃか………フンギャロ――――菊花賞は大吉です! 負けませんよ、スズカさん――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 新たにリギルに加わったグラスワンダー。

 菊花賞に向けて飛躍するマチカネフクキタル。

 

 

 

 

「必ず、もう一度這い上がってみせる……」

「……長距離、そしてメジロの悲願である天皇賞……負けるわけには、参りませんわ~」

 

 

 

 

 負傷しつつも復帰を誓うサニーブライアン。

 人気を得つつもここ暫く勝ちに恵まれないメジロブライト。

 

 

 

 

「無敗の三冠……カイチョーと同じ、強くてカッコいいウマ娘になるんだ!」

「次のご褒美……どうしましょう」

 

 

 

 

 それぞれの想いは交わり、舞台は夏へ――――。

 

 

 

 











誤字報告頂いたので一応。
東京レース場に高低差200mの坂はありませんが、誤字でもないんです…




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夏合宿に向けて

 

 

 

 

「―――――はぁ。ちょっと、スズカのことどうにかして頂戴……」

「なんですか、おハナさん……スズカ何かやらかしました?」

 

 

 

 今日も今日とてリギルの部室で書類仕事をしていると、げっそり疲れた顔のおハナさんがやってきた。

 

 

 

「合宿よ」

「あ、はい」

 

 

 

 もうなんか察しがついた。

 同じ部屋にしろと騒いだのだろう。ちなみに男と一緒だと危ないとか説得しようとするとワキちゃんが怒る場合がある。いや普通に俺と一緒に寝るのは理性が危ないのでその謎の信頼は捨てて欲しい。

 

 

 

「とりあえず貴方に問題があるなんて言ったらどうなるか分からないから、迷惑がかかるという方向で押してみたんだけど」

「おお」

 

 

 

 俺が「迷惑だから来るな」とか言ったら何が起こるか恐ろしすぎるので、正直頼りになる大人から言ってもらえるのは助かる。

 

 

 

 

「で、なんて言ったと思う?」

「えっ……『お兄さんがいないなら合宿いかない』とか」

 

 

「最初に言ってたわね。でも貴方は合宿に来てもらうから」

「『合宿に参加しないけどお兄さんと一緒にいる』とか」

 

 

 

「……そうなのよ」

「駄々っ子か!?」

 

 

 

 多分、練習にも参加せず背中に張り付いているつもりなのだろう。コアラかな?

 

 

 

「何とかして頂戴……」

「まあ実際、あいつ一人じゃ眠れないですからね……タイキシャトルに説得してもらうとか」

 

 

 

「何故か三人で寝るって盛り上がってたわ……」

「タイキィ!」

 

 

 

 あの胸で同衾は……まずいですよ!

 とりあえず一刻も早くワキちゃんを説得せねば。

 

 走ってリギルの使っている練習場まで行くと、何故かサマードレスっぽいものを着たタイキとスズカが並んでいた。

 

 ピンクの服に半ズボンっぽいもので普段より露出の減ったタイキと、薄手のブラウスに薄緑のスカート、いつものタイツだけどなんとなく涼し気なスズカ。

 

 

 

 

「ハロー、トレーナーさん!」

「あっ、お兄さん」

 

 

 

「なんか可愛い服着てるところ悪いが、夏合宿の件で話がある」

 

 

 

「お兄さんが私の部屋で寝るか、私がお兄さんの部屋で寝るかですね」

「ンー、やはり此処はトレーナーさんの部屋が良いと思いマース!」

 

 

 

 

 コイツら…。

 とりあえず話を聞く気がなさそうなので、まず聞く気にさせるしかない。

 

 

 

「スズカはいつも可愛いが、今日は涼し気で健康的だな。綺麗だ」

「……あの、お兄さん?」

 

 

 

 ピクピク小刻みに耳が動いている。満更でもなさそうだ。

 とりあえずこれで聞く気にはなったはず。

 

 

「でも残念だな、スズカのためだけに合宿のメニュー組んだんだけどな……」

「………そ、その。でも、お兄さんと一緒に……」

 

 

 

 

「やっぱりトレーナーとして信頼されてないのかな……別にスズカ一人でも勝てるしなぁ……」

「そ、そんなことないです!」

 

 

 

 

「やっぱりトレーナーやめようかなー、自信なくなっちゃったなー」

「ウソでしょ……!? わ、私のトレーナーはお兄さんだけですから…!」

 

 

 

「じゃあタイキと二人で寝て?」

「……ぅぅ~っ!」

 

 

 

 すごく睨まれているが、所詮は先頭民族……口でトレーナーに敵うはずもない。

 フハハハ、恨むのなら君のチョロさを恨むのだな!

 

 

 

「仕方ありまセン……じゃあスズカ、二人で恋バナしまショウ!」

「こいばな」

 

 

 

「Yes! 意地悪なトレーナーさんをギャフンと言わせちゃいマス!」

「ぎゃふんと。そうね、それもいいかも……」

 

 

 

 

 猛烈に嫌な予感がする。

 なんやかんやで駄々っ子の域を出ないスズカだが、妙な知識を仕入れて手に負えなくなったらどうすればいいだろうか。こんなんでも見た目は文句なく美人だし。性格もまあ、寂しがり屋でなければ常識の範囲内だし。

 

 

 

「ま、待てスズカ。ごめん、冗談だ。携帯で寝るまで一緒に話そう。な?」

「……むー。お兄さん、そう言っていつも『時間だから』って切っちゃいますし」

 

 

 

「ちゃんと消灯時間まで話すから……」

「なら、消灯時間まで一緒にいてください」

 

 

 

 

 ぐっ、手ごわい…。

 まあ確かに、消灯時間までは出歩くのはルール上問題ない。

 

 つまり、ルールで問題ないことをさもこちらが折れたように見せることで向こうに譲歩させるチャンスということではある。

 

 

 

 

「分かったよ……消灯時間まで一緒にいるから」

「本当ですか!? ありがとう、タイキ!」

 

「ユアウェルカム! スズカ、ファイトデス!」

 

 

 

 えっ、ちょっと待って。

 ウソだろ……なんで普通にスズカと二人きりで消灯時間まで過ごす流れに…!?

 

 お目付け役のタイキシャトルは!?

 

 

 

 

「お兄さん、一緒にたくさん話しましょうね♪」

「………は、嵌められたっ!?」

 

「何をしてるのよ全く…」

 

 

 

 おハナさんには呆れられたが、一応ルール内なので許された。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 他の子と親しくなると、大体はお兄さんとの関係を知ると皆冷やかしてきたり『どうして好きになったの?』とか『どこが好きなの?』とか聞かれることが多い。

 

 フクキタル以外。

 タイキ、ドーベル、サニー、パール、ブライト。

 

 そう言われても、いつ好きになったのかは自分でもよくわからない。

 

 

 

 

 お母さんを待って夜更けの公園で一緒に星を見た初対面のあの時かもしれないし、その少し後の走りを見てもらった時かもしれない。

 

 

 

『楽しそうに走るな。いい走りだ』

『えへへ、すごい!?』

 

 

『凄いぞー。俺の一番好きな走りはな、逃げて差す――――自由に走って、誰も近づけないサイレンススズカの走りなんだ』

『???』

 

 

 

 なんだかよくわからないけど、わたしの走りが好きだと言われた。

 お兄さん、わたしが好きなんだ! そんな単純な思考で、ちょっぴり意識していた幼い日々。

 

 

 

 お兄さんは走るのもけっこう(ヒトにしては)速くて、優しくて、トレーニングメニューも考えてくれるし、走りも褒めてくれるし、あんまり話が得意じゃない私の話も嬉しそうに聞いてくれる。

 

 結局のところアレがどういう意味なのかはよく分からなかったけれど、お兄さんが信じてくれるから無謀でも常識外れでも、自分の走りを貫くと決めた。

 

 

 

 

 

 それで将来はお兄さんのお嫁さん、なんてことを思っていた小学校低学年時代。

 お母さんの病状はやっぱり安定しなくて、入退院を繰り返していた一番寂しいころ。

 

 

 

 寂しくて、怖くて、心細くて。

 そんな時、いつだって傍にいてくれて。本当に困ったときには嫌な顔一つせず優しく頭を撫でてくれるし、抱きしめてもくれる。眠れるまでずっと傍にいてくれた。

 お兄さんは絶対に待っていてくれると思えたから、いなくならないと思えたから。誰もいない景色の美しさを、そこで走る楽しさを思い出させてくれた。

 

 

 

 だから、お兄さんは私が支えたかった。

 

 お母さんが元気な時には料理を教えて貰ったし、お兄さんの家に通ってお義母さん(お兄さんのお母さん)にも料理を教わった。

 

 お兄さんが勉強している時はお菓子を作ったり、掃除してみたり、お兄さんの背中に張り付いてみたり、脚のマッサージの実験台になったり。

 

 

 

 それで「ありがとう」って言ってくれると胸が暖かくなったし、此処にいていいんだなって思うことができた。

 

 お兄さんの好きだと言ってくれた走りはどんどん洗練されて、二人で作った走りは誰も追いつけないものになり。それを嬉しそうに見るお兄さんを見るのが好きだった。

 

 

 

 

 

 勝って、勝って、勝ち続けて。もっと私とお兄さんだけの景色を見たい。

 お兄さんが好きだと言ってくれた、サイレンススズカの走りで。きっといつかまた、好きだと言ってくれると信じて。

 

 

 

 

 

――――でも、お兄さん。私、控えるのは苦手なんです。

 

 

 

 

 無敗の、三冠。

 シンボリルドルフ以外誰も成しえなかったそれを成し遂げられれば、お兄さんも自分の凄さを実感できる……らしい。

 

 無敗の二冠でも十分に凄いらしいけれど。

 まあお兄さんの自己評価が厳しいのは昔からなので、仕方ない。そこは私がカバーするべきところ。

 

 

 

 ファルコン先輩とのちょっとした関わりはあることを教えてくれた。

 『恋はレースと同じ』『先手必勝』だ。

 

 私らしく、大逃げして、差す。

 

 

 好きです、って……伝え………つたえ………ちょっと恥ずかしい。

 いや、きっとお兄さんが告白してくれるはず。無敗の三冠を取るくらいの、お兄さんが一番好きなサイレンススズカの走りなら。お兄さんが、自分に自信を持ってくれれば。

 

 

 合宿は、きっとその一歩になる。

 

 

 

 

 

 

 

 必ず強くなると信じてくれたお兄さんは、昔からひたすらに長距離に慣れるためのトレーニングを組んでくれていた。

 ここからだ。お兄さんと、私。二人の努力で必ず勝つ。

 

 

 

 私たちだけの、長距離を逃げて差す走りで。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 菊花賞で勝った逃げ馬といえば、セイウンスカイを思い浮かべるだろう。で、3馬身以上差をつけたのは確かセイウンスカイとスーパークリーク、ビワハヤヒデ、タイトルホルダー、あと7馬身差をつけたナリタブライアンあたり。

 

 97年の菊花賞は、タイム的には翌年のセイウンスカイより4.5秒くらい遅かったり、1馬身差だったりとそこまで特筆する数値はない。

 

 

 

 が、それでも菊花賞のフクキタルが強いことに異論はないのではないだろうか。

 純粋に強かった、という言葉を聞いた覚えがある。強烈な加速、大きなストライド。最終直線で力強く抜け出してそのまま勝つ。

 

 そんな強い勝ち方が、着差以上の実力を感じさせるのだろう。

 

 

 

 

 

 そんなフクキタルに勝つための作戦は――――。

 

 

 

「結局のところ、身体を3000mに慣らすしかないんだよなぁ」

 

 

 

 馬と違ってウマ娘は思考する余地があるので、頭バクシンオーじゃなければペースを落とすことができる。頭サイレンススズカなのはかなりの不安要素だが。

 

 いつもよりちょっとスローなマイペースで走って、スタミナを温存して差す。

 そんな子どもでも考え付くような簡単な作戦が、逆にサイレンススズカにとっては必勝の策になり得る。

 

 

 

 

 

 そして朗報というか、大発見があった。

 

 どこぞの沖野トレーナー同様に原付を使用。60kmくらいの速度でスズカと併走する。

 

 すると、頭サイレンススズカなスズカも割とペースを落として走ってくれるのだ。

 あのスズカが、ペースを、落としてくれるのである! 頭サイレンススズカなのに!

 

 

 

 

 しかもストレスをためている様子もなく、極めてご機嫌に。

 某レジェンドが連れて歩きたい馬だと言っていたらしいが、その気持ちが分かった気になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 何分マイペースが特殊なだけなので、少し緩めることができれば十分に大逃げすることができる……はず。

 サニーブライアンの復帰が何時になるかはかなり影響しそうだが、競合する逃げウマ不在であれば勝率は一気に上がる。

 

 

 あのスプリンターであるミホノブルボンが菊花賞でライスシャワーの2着になったように。

 

 マイラーとされるサイレンススズカが、菊花賞を走れないとは限らない。

 頭サイレンススズカじゃなければ…。

 

 

 

 

「ご褒美で、釣るか……?」

 

 

 

 

 

 何なら喜ぶのだろう、そんなことを考えて。

 ふと浮かんだのはウマ娘アプリのアレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:栗毛の怪物 / 未来の総大将


いつも誤字報告ありがとうございます。

 


 

 

 

 

 

――――チームリギル。

 

 

 無敗の三冠ウマ娘、シンボリルドルフを筆頭に現在のドリームリーグとトゥインクルシリーズを牽引する最強チーム。

 故に、怪物とも言われるグラスワンダーがその選抜レースに出場するのも自然な流れだった。

 

 一つには、最も自分を高められる環境を手に入れるため。

 一つには、純粋にそこに集うであろう世代最強を目指すウマ娘たちと競うために。

 

 

 

 そして集められたレース場にいたのは、トレーナーであるおハナさんの他にリギルの中核メンバー。シンボリルドルフを筆頭にエアグルーヴ、ナリタブライアンの生徒会メンバー。そして特に注目を集めたのはシンボリルドルフ以来の無敗の三冠に挑むウマ娘であるサイレンススズカ――――。

 

 

 

 

「さ、サイレンススズカ先輩! 菊花賞、応援してます!」

「……あっ、はい。ありがとうございます」

 

 

 

 独特の雰囲気のある人だった。

 走りからは想像できない深窓の令嬢のようで。何故かサブトレーナーらしき男性にべったりくっついていたが。

 

 

 

「流石リギルの入部希望者、粒ぞろいだな」

「トレーナーさん?」

 

 

「おお、あそこの栗毛の子とかかなり速そう………」

「お兄さん…?」

 

 

 

 と、目が合った。

 たおやかに笑って返すが、意味深に笑うそのサブトレーナーになんとなく何かを見透かされたような気分になる。

 

 

 

「スズカと同じ気配だな」

「………私のほうが速いですよ?」

 

 

 

「いや、闘争心的な……」

「そうなんですか」

 

「スズカ君は相当、痩身とは思えなさそうな闘争心を秘めているからね」

 

 

 

 

 スッと現れたのはシンボリルドルフ。

 確かにサイレンススズカの線は細い。その点、短距離屋なウマ娘とは少し違う。

 

 

 

「ルドルフ。生徒会の仕事はもうせんのかい?」

「ああ。私もリギルの、一員だからね。なんとか仕事の波を乗り切るのを、一意専心してなんとか時間を捻出したよ」

 

 

「むぅー…」

 

 

 

「俺にできることがあれば相談してくれ。そう段取りが狂うこともないかもしれないが」

「そうだな。だが有難い、君ならば相談なんでもしやすい。そう旦那にでもしたいくらいだ」

 

「!?」

 

 

 

 

 びっくーん! とサイレンススズカの尻尾が跳ね上がり、更にその場で高速の左旋回を始める。

 ハハハ、と楽しそうに笑う二人はそんな様子に気づくこともなく、後日リギルのサブトレーナーはシンボリルドルフとただならぬ仲説が出回ることになるが今はまだ知らない。

 

 

 

 

「あなたたち……遊んでいないで仕事しなさい」

「え。でもおハナさんが選ぶわけですし。というか余程の……同着でもない限りは勝った子では?」

「生徒として分は弁えていますよ」

 

 

 

 しれっとした顔でのたまう二人に、おハナさんは呆れ顔を隠さず言った。

 

 

 

「少なくとも、貴方はサブトレーナーなのだからしっかり見ておきなさい。今は無敗の三冠が掛かっているから仕方ないとしても、落ち着いたらもう一人は持ってもらうわよ」

 

「うっ」

「えっ…」

 

 

 

 

 愕然とした様子のサイレンススズカの様子からして、新人のサブトレーナーがサイレンススズカの専属として一緒にリギルにスカウトされたという噂は本当だったらしい。

 

 育成経験一人で、その一人が無敗の二冠ウマ娘というのはかなり劇的である。

 なんとなく熱い視線がそのサブトレーナーに集中し、しかしそれを気にした様子もなく、おろおろと旋回していたサイレンススズカを落ち着かせるように言った。

 

 

 

 

「別に担当が増えても一緒にいるから。俺がそんなに薄情に見えるか?」

「お兄さん……」

 

 

 

 

 なんとなく仕事を抱え込んでつぶれちゃいそうな人だな、とは思った。

 そんなこんなで、リギルの選抜レースは始まり。見事な差し切り勝ちを決めた私を、おハナさん達が出迎えた。

 

 

 

 

「とりあえず私が最初は指導に入るけど、菊花賞後からはサブトレーナーにメインで持ってもらうつもりよ」

「はい」

 

 

 

 

 

「世代最強のウマ娘の座――――容易くはないけれど、ウチのメンバーと切磋琢磨するのは大きな経験になるでしょう。とりあえずは顔合わせからね」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 リギルに入部して少しした頃。

 一つ上の先輩であるスズカさん、タイキさんの影響というのはやはり大きいもので。

 

 必然的に、その二人といつもいるサブトレーナーさんとも話す機会は多い。

 

 

 

 

「結局、スズカのトレーニングで一番気を遣うのは怪我なんだよなぁ」

「怪我ですか…」

 

 

 

「極端な話、脚が速いほど負担も増える。グラスワンダーもそれだけ走れるなら脚の負担は大きいと思っていい」

 

 

 

 

 と、言いながら撮影した動画をスローで再生してコーナリングのところで止めた。

 

 

 

「とりあえずコーナリングとスパートだな。コーナリングはスズカの動画が分かりやすいから後で説明するとして、踵から足部前方へのロッカー機能を活かしつつ脛骨への負担を最小限にするために足部の柔軟性とTA……前脛骨筋の強化。足趾のグリップも鍛えたいから裸足でダート走るか。トモの感じから見ても四頭筋は十分ありそうだし、後はバランスを微調整する」

 

「……な、なるほど…?」

 

 

 

 

「後はプールな。なんかスズカと同じでオーバーワークしてそうな気がするし」

「……そう、でしょうか?」

 

 

 

 やはり見透かされている気がして、なんとなく抵抗してみるがサブトレーナーさんは生暖かい目で言った。

 

 

 

「だってさ、休養日はともかく、他の娘が練習している時に練習しないでのんびりするのって許せる?」

「……許せません」

 

 

 

「じゃあプールな。大丈夫だ、オーバーワークにならないように体力だけ削ぎ落すから。そのへん俺は慣れてる」

 

 

 

 

 

 

 スパルタだった。

 延々とプールを泳がされたかと思うと、何故か犬かき(しかも高速)で泳ぐことを要求されたりもした。

 

 意味不明な速度で犬かきするスズカさんはかなり衝撃的だった。

 

 

 

 

「いいか、今のグラスワンダーには体力休息技術息継ぎ根性スタミナ――――それらで成り立つ継続した速さが足りない!」

 

 

「絶対的な能力ではグラスワンダーはつおい……強い! だがオーバーワークで怪我するなんてのは避けられる怪我だ! 怪我予防のトレーニングでは勝てないかもと不安か!? 甘い! 走ることしか頭にないスズカは、そのトレーニングを中心にして無敗の二冠ウマ娘になった! 走らないのは論外だが、脚は消耗品だと思え! 沢山走りたいなら、少しでも脚に負担がかからない場所で走れ!」

 

 

 

「ほらどうした、スズカはもう倍は泳いでるぞ! グラスワンダーはそんなものか!? レースの時とどっちが苦しいか考えてみろ! レースでも止まるのか!?」

 

 

 

 

 なんとなく自主トレというと走るのが中心になっていたからだろうか、慣れないメニューでくたくたになった身体をタイキ先輩にストレッチで引き延ばされる。それもなかなか容赦のない、というか普段伸ばさない場所をしっかり伸ばすストレッチで。

 すごい笑顔でサブトレーナーさんにストレッチしてもらっているスズカ先輩が異質な存在にしか見えない。

 

 

 

 

 

 

「で、結局トレーニングを見たわけね」

「どう考えてもオーバーワークだったので……」

 

 

 

 部室でも大和撫子の如くありたい、などと取り繕う余裕もなく瀕死のままタイキ先輩に身体を伸ばされていると戻ってきたおハナさんがこめかみに手を当てていた。

 

 

 

「はぁ。まあいいわ、とりあえず今度からオーバーワークしたら罰としてサイレンススズカのメニューに付き合うように。それが嫌ならきちんと休むのね」

 

「……いえ、是非正式に参加させてください」

 

 

 

 

 なんとか身体を起こし、そう言葉にしたのは完全に意地だった。

 サブトレーナーさんに髪を乾かしてもらってご満悦なスズカ先輩を見る。おハナさんは忙しい。それこそ一人当たりに割ける時間というのは多くないのだ。

 

 その点、実績があり時間もあるこの人の指導に興味があった。

 

 

 

(何より、この方も何か隠していそうですし……)

 

 

 

 あの人が度々語る「グラスワンダー」という言葉には、何か明確なヴィジョンがあるように思えるのだ。まるで、何故か私が怪我をすると予期しているかのような。

 

 

 

 ぐきっ

 

 

 

「ひぃやぁ~!?」

「Oh!? グラス、すみまセーン!?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 スペシャルウィークにとって、ウマ娘とは遠い世界の憧れだった。

 北海道の、殆ど家もない地域で育ったこと、お母ちゃんが二人目のお母ちゃんだったこと。一応テレビはあるので、トゥインクルシリーズはいつも見ていたが、憧ればかりが募っていく。……ウイニングライブは、現地に行くか有料のケーブルテレビでもないと見られないし。

 

 そんなスペシャルウィークだが、最近のレースでの注目はやはりというかサイレンススズカだった。

 

 

 

 圧倒的な速さで先頭を奪い、そのまま加速して誰も寄せ付けない。

 まさに異次元の逃亡者に相応しいその走りに、ついに我慢できなくなってトレセン学園への編入が決まったりもした。

 

 

 

 

「サイレンススズカさん……会ってみたいなぁ」

 

 

 

 

 

 駅を間違えたのでせっかくだからとレース場に行ったら休みの日で、トレセン学園ではいきなり変な人(いちおうトレーナーらしい)に脚を触られるし、都会の恐ろしさを味わいつつもなんとか這う這うの体で寮にまでたどり着き。

 

 

 

 寮長のフジキセキさんには笑われちゃったけど。

 なんとか無事に言われた部屋に入ると、小柄な栗毛のウマ娘さんが布団にくるまって枕を抱きしめて鼻を埋めていた。

 

 

 

 

「こ、こんにちは!? し、失礼しました!?」

「あっ。もしかして、編入してきた…?」

 

 

 

 が、そんなちょっと何か声をかけにくい空気感を全く意に介さず、枕から優美(スペシャルウィークにはそう見えた)に顔を離すと、はんなりと微笑んだ。

 

 

 

 

「サイレンススズカです。これから、よろしくね」

「す、ススススペシャルウィークです!? ―――――さ、サイレンススズカさん!? ど、どうして此処に!? え、同じ部屋ってことですか!?」

 

 

 

「ススススペシャルウィークさん、落ち着いて…」

「あああ違うんですスペシャルウィークです!? すみませんっ!? 言い間違いなんです!?」

 

 

 

「うふふ、ごめんなさい。からかっちゃった」

「………ふわぁ」

 

 

 

 

 や、優しい…。

 謎の落ち着きと包容力のある姿に、これが都会のウマ娘さんなのかぁ……と呆然としていると、ふと布団を被って枕を抱きしめているサイレンススズカさんのエキセントリックな姿が気になりだす。

 

 

 

 

「あ、あのー。ところで、どうして布団を…? もしかして、具合が良くないとか……」

「? あ、ごめんなさい。つい癖で……寂しい時は、枕を抱きしめることにしていて……布団はその、こうしていると抱きしめられているみたいで」

 

 

 

 

(……か、可愛いっ!? 何かサイレンススズカさんと別の匂いもしますけど、もしかしてご家族さんとか…? 私もお母ちゃんから何か借りてくれば良かったかも…!?)

 

 

 

 

 いやでも流石に恥ずかしいかな、と思ってしまったスペシャルウィークである。が、そんな恥ずかしいことを平然とやってのけているサイレンススズカはその雰囲気からか何故か神秘的に見えるのが不思議である。

 

 

 

 

「これが皐月賞の、こっちがダービーのお祝いなの」

「あのダービーの時の! テレビで見てました! サニーブライアンさんとの熱い競り合い……サイレンススズカさんの走り! カッコよくて、綺麗で……素敵でした!」

 

 

 

「ありがとう。トレーナーさんと作った走りだから…」

「サイレンススズカさんのトレーナーさん……きっと、素敵な人なんだろうな」

 

 

 

 

 どんな人なんだろう。

 そんなことを考えていると、スマホで写真を見せてくれた。

 

 

 今より少しだけ小さいサイレンススズカさんが、若い男の人に抱き着いていて二人でトロフィーと指を一本掲げている。特段イケメンというわけではないが、清潔感のある人である。地元にはあまりいない、いかにも勉強頑張っている感じの。

 

 

 

 

「これ……皐月賞ですか!?」

「ええ。ダービーの時は……サニーの怪我もあって、そんな空気じゃなかったから」

 

 

 

「へぇー、優しそうな人ですね……」

「ふふ。ありがとう、スぺちゃん」

 

 

 

 

 スぺちゃん……スぺちゃん!?

 これが、ニックネーム!? はっ、こういう時はこちらも何か――――。

 

 

 

 

「あ、ありがとうございます、スズカさんっ!」

「これからよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 そうして、憧れのスズカさんとの生活が始まった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 






スぺちゃんの編入が早まった(2月?→夏前)ので、スズカさんはまだワキちゃんサイズ(初期PV)です





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夏合宿、始動!


感想100件ありがとうございます記念、1日2話投稿です

 


 

 

 

 

 

 

 

『む、むむむ! 大吉ですっ! ラッキーアイテムは、一番親しい女性! 運命的な幸運が舞い降りるでしょう……』

『救いはあるのですね~!』

 

 

 人物をアイテム扱いしていいのかは謎だけれども。

 なんとなく気になって受けてみたが、運命的な何かを感じる。

 

 

 

『もしかして、福引とかも……?』

『それが運命ならば――――勝ちます! たぶん』

 

 

 

 

 そんなこんなでスズカを誘った。

 

 

 

「スズカー、ちょっと買い物に付き合ってくれ」

「はいっ。帰り道に寄りますか? それとも帰ってから…?」

 

 

 

 いやまあ確かに制服の女子を連れまわすのはよろしくないが、福引に行くだけなので大丈夫だろう。

 

 

 

「商店街までだし、そのままでいいよ」

「? じゃあ帰りにご飯作りますね」

 

 

 

 

 そんなこんなでやってきました商店街。

 いつも来ているだけあって、有名人のスズカは口々に声を掛けられている。

 

 

 

「おや、ワキちゃん。今日は旦那さんとデートかい!? いい鰻が入ってるよ、精が付くやつ!」

「おばさん……そうですね、お兄さんには元気でいてほしいですし」

 

 

 

 ちょっと恥ずかしそうなスズカの反応に、ヒューヒューと無駄に囃し立てられる。

 それうまぴょい的な意味と、夏バテ的な意味ですれ違ってない…?

 

 

 

 

「じゃあその、鰻を……」

「はいよ、サービスしとくからね! あとこれ、福引券。ペアの温泉旅行もあるから、沢山買って引き当てて、旦那をしっかり捕まえとくんだよ! まだ出てないからね、今がチャンスだと思うわよ!」

 

 

 

「あんたたち、ワキちゃんに精の付くものと福引券を!」

「おうとも! ほら小僧、財布出せ!」

 

 

 

 俺の扱い雑じゃない…? と思うが、まあスズカは可愛いので仕方なし。

 スズカのお陰で財布も潤ってるので、特に文句もなく支払っていく。なんか普通よりかなり盛って福引券を渡されてる気がする。

 

 

 

「温泉……」

 

 

 

 ちらり、と上目遣いに窺ってくるスズカ。だが実は狙い通り。

 

 

 

「三冠のお祝いにいいかもな、温泉」

「………いいんですかっ」

 

 

 

 そんなわけでけっこうな枚数の福引券を押し付けられ。

 下手な鉄砲なんとやら。いくつかのティッシュを受け取った後、転がり出てきた金の玉に盛大にベルが鳴った。

 

 

 

 

「………み、耳が……」

 

「大当たり~! 野郎ども、ワキちゃんが当てたぞ~!」

「っしゃあ、小僧を胴上げするぞ!」

「ちゃんと部屋の温泉つきにしといたからね!」

「いやー、まさか本当に当てるとはなー」

「おら年貢の納め時だぞ!」

「ワキちゃん泣かせたら東京湾に沈めるからな」

 

 

 

 騒ぎが大きくてよく聞こえなかったが、何か凄いこと言ってる人もいたような…。

 

 で、宣伝のために写真が撮られ。

 何故かスズカのサインが特賞の代わりの目玉として設置されることになった。ある意味温泉よりも宣伝効果あるかもしれない…。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 チームリギルの合宿場――――それは海辺にあるリゾートホテルである。

 三冠ウマ娘を擁するチームリギル、そして国民的エンターテインメントであるトゥインクルシリーズの中心たる中央トレセン学園ならではだろうか。

 

 

 

 そこに行くまでには、メンバーが多いこともあり観光バスで行くのだが。

 当然のように隣り合わせで座っているスズカがおり。おハナさんは諦観の籠った目で言った。

 

 

 

「ちょっと、完全に負けてるじゃない」

「いやその、ははは」

 

 

 

 だって、なんか大人の女性と並んで座ると緊張しない? しないか……。

 おハナさんもなんやかんや美人なので、正直ワキちゃんの方が気楽だったりするのである。別にワキちゃんがいないとなんとなく寂しいとかそういうわけではない、はず。

 

 

 

「お兄さんの隣は譲りません…!」

「ドヤるな」

 

 

 

 が、正直言われて嬉しくないわけではない。

 なんとなく肩に寄りかかってきてご満悦なスズカのシートベルトをちゃんと締めてやる。

 

 

 

「ほら、もし万が一事故でもあったら困るからな」

「……はい」

 

 

 

「あの、お兄さん」

 

 

 

 

 ちょい、ちょい、と手で裾を引っ張ってくるのは手を繋いでほしいアピールか。

 しょうがないので手を繋ぐと、安心したのかすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 というわけで、俺以外はスク水に着替えて集合。

 

 さて、アニメでスピカトレーナーこと沖野Tが海で全然海が関係ないトレーニングをさせているシーンがあったがあれもまあ全く間違っているわけではないと思う。

 

 そもそも砂浜は全く芝と状態が違うので、まず慣れることが大切であり。そのためにはあえて普段通りの動きをしてみて差を感じてもらうというわけだ。

 

 

 

 

「――――というわけで、これが目標タイムだ」

 

 

 

 持ってきたホワイトボードに描かれたのは、三段階の目標タイム。

 それぞれ「これくらいはできてほしいタイム」「できたら満足なタイム」「高めの目標タイム」の三つだ。

 

 おハナさんに一部指導を委任されたのは、スズカの他にタイキとグラス。お目付け役としてシンボリルドルフも加えた超豪華メンバーである。短距離から長距離まで制圧できそう。

 

 

 

「砂浜を目標タイムでクリアできたら、ご褒美がある。まずこれ、罰ゲーム回避。その上のタイムまでクリアしたらスイーツバイキング参加。更に上のまでできたら夏祭りに連れて行ってやる」

 

「夏祭り……」

「スイーツ……」

「罰ゲーム、ですか」

 

 

 

 

 一応、クラシックとジュニアで目標タイムは分けてある。

 罰ゲームはとても健康にいいクソまずドリンクことロイヤルビタージュースである。

 

 

 

「お兄さん」

「なんだスズカ」

 

 

「浴衣……」

「貸し出しあるらしいぞ」

 

 

 

 さっそくやる気になったらしいスズカは軽く足元を確かめ、何度か左旋回してからビーチサンダルを脱いで裸足になる。

 

 ……脚細いなー。しかし張りがいい。ガラスの脚と言われるだけあって芸術品のようである。つい視線がスズカの脚に向いてしまうが、どこぞの妖怪トモ撫でトレーナーよりは無害だと思いたい。

 

 

 

 

「お兄さん」

「……な、なんだ?」

 

 

 

「触りますか?」

「…………触んねーよ!?」

 

 

 

「そうなんですか? スぺちゃんが、知らないトレーナーさんに脚を触られたって……」

「不審者かな」

 

「ふむ、厳重に注意しておくとしようか」

 

 

 

 既におハナさん繋がりで犯人に心当たりのあるらしいルドルフが怖い。

 

 それでトレーナーは脚を触りたいものだと思ったのか。

 まあ怪我した後とかは熱感や腫脹を確認するために触らせてもらうが。脚のマッサージとかやるとなんかこう……うん。なんでウマ娘の脚ってあんな脚力なのにしなやかで柔らかいんだろうね。

 

 というか普通に脚を見ていたのは気づかれていたらしい。

 一応、トレーナーとして見ていたのも半分くらいはあるので許してほしい。

 

 

 

「いえ。お兄さんのマッサージはむしろ好きですし……最近してくれないから」

 

 

「トレーナーさん! スズカのご褒美に脚のマッサージも追加しまショウ!」

「あらあら」

 

 

「いやそれは流石に――――」

「行ってきますね!」

 

 

 

 なんとなく顔が赤い気がするスズカが、凄い勢いでカッ飛んで行った。

 咄嗟にストップウォッチを作動させると、タイムは既にスイーツバイキング基準までは来ていた。

 

 それを見送ったグラスの目も闘志が燃えている。

 

 

 

「……速い、ですね」

「あれが無敗の二冠ウマ娘だからな。まあ、幼少期から砂で鍛えさせてたし」

 

 

 

「努力の結果……ということですね。私も、行ってまいります」

 

 

 

 

 芝と変わりなく爆走するタイキシャトルがいきなり目標タイムを全クリアするのを見送ってから、グラスも走る。砂に脚を取られて加速が得られていないし、足趾のグリップもまだ弱い。

 

 

 

「逆説的に、まだまだ伸びしろがあるってところだな」

 

 

 

 末恐ろしい。これが栗毛の怪物。

 ハイペースの維持と、そこから何故か繰り出されるハイレベルな末脚が特徴的なスズカと比べてすさまじい切れ味の末脚に特化した走り。

 

 グラスの特色である徹底マークと組み合わせれば大抵の相手は成すすべなく切り払われるだろう。

 

 

 

 

 怪我さえなければ毎日王冠で、エルコンドルパサーと共にスズカに追従できるかもしれない。

 と、凄まじくスズカ贔屓な自分を自覚してため息を一つ。トレーナーとしてはきちんと平等に見なくては。

 

 

 

 

「でもなぁ、ホントはワキちゃんでサイレンススズカに勝つつもりだったし……」

 

 

 

 

 見知らぬ原石のウマ娘を育てて本人に勝つつもりだったので、割と笑えない黒歴史である。若さゆえの過ち。サイレンススズカ並の逸材というかサイレンススズカなんだよ。

 

 

 ともかく三冠、菊花賞の長距離は未知の道のりという他にない。

 いつもの中距離よりは抑えたペースになってしまうので他のウマ娘に競りかけられたらピンチだし、あの時のフクキタルは本当に強い。

 

 

 

 幸いにも砂浜なら比較的脚への負担も少ない。

 疲れるまで走らせてから、次は波打ち際。水の抵抗を存分に感じてもらいつつ推進力を鍛えてもらう。

 

 

 

 今日はもう午後なので、あまり練習時間は取れないがそれでもがっつりと鍛えさせて貰おう。

 

 

 

 もちろん水分補給は大事なのでリギル特製スポーツドリンクも用意しておく。

 そうして夕食前まで徹底的にトレーニングし、バテて動けなくなったタイキとグラスにロイヤルビタージュースを与えて復活させ。

 

 二人が飲まされる姿に何を思ったのか、スズカも動けなくなったフリでビタードリンクを飲むなんてこともあったが、とりあえず元気そうである。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さん、遊びに来ちゃいました」

 

 

 

 

 そんなわけで、夕食後。

 風呂上りのスズカが浴衣で押しかけてきた。

 

 一応、消灯時間までは一緒にいるという約束だったので仕方なくドアのチェーンを開けるとこんな場所でもプレゼントした尻尾リンスは使っているらしいスズカの香りになんとなく気恥ずかしくなる。

 

 

 

「お兄さん、仕事ですか?」

「そう。タイムまとめて今日の反省点から明日のメニューの調整をな」

 

 

 

 パソコンでちゃんと管理しておかないと、しっかり効果が出ているのか判別が難しい。間違ったトレーニングを続けるリスクを減らすためにも大事なことだ。

 

 

 

「コーヒー、買ってきますね」

「……ありがと。財布やるから何か好きなの買ってこい」

 

 

「はい」

 

 

 

 そんなわけでスズカのタイムに満足したり、タイキの万能っぷりに戦慄したり、徐々に良くなっているグラスのタイムに手ごたえを感じていると急に耳元に吐息が。

 

 

 

 

「お兄さん、好き―――なコーヒーありましたよ」

「お、おう」

 

 

 

 多分ウマ耳があったらバレているくらいには破壊力がありすぎる。

 そういえばさっき部屋に入れたので鍵を持って行ったのだろう。

 

 しっかりいつも飲んでるコーヒー、ついでにあったかい方なのによく見てるなと感心する――――んん?

 

 

 

 

 スズカが手に持っている派手派手しいピンクの缶のジュースには、『うまぴょいドリンク』なる謎の名前が。

 

 

 

「ちょっと待て、ワキちゃん」

「はい?」

 

 

 

 

「なにそれ」

「うまぴょいドリンク……みたいです」

 

 

 

 

 みなぎる活力! 精力芝4000! ノンカフェイン! 精力剤だコレ!?

 一体何の自販機で売っていたのか。というかなんでそんな怪しい自販機がこんな立派なホテルに!? 完全に名前で買ったな、と半目でワキちゃんを見るが。

 

 

 

「ホテルにお兄さんの好きなコーヒーが無かったので、昼間見かけた隣の民宿の前の自販機から買ってきました」

 

「……今夜だから、次外に出るときは必ず呼ぶように」

 

 

 

 俺のせいでした。

 

 

 

「変な人がいたら逃げ切りますけど……」

「ワキちゃんはもうちょっと自分が美人なことに自覚持とうな」

 

 

 

 熱心かつ執念深い変態がいてもおかしくはない。

 変態なら対ウマ娘に特化した変態もいるかもしれないし。

 

 そこはかとなく納得してなさそうなので、もう一押し。

 

 

 

 

「一緒に歩くのが嫌なら別にいいけど」

「お兄さんと外の景色見たいです」

 

 

 

「じゃあ明日な」

「はい……」

 

 

 

 

 カシュっ、とちょっと忘れかけていたうまぴょいドリンクの音。

 瞬間、スズカが鼻を押さえて急激にバックした。

 

 

 

 

「――――!? お、お兄さん、くひゃいです……」

「あ、うん。そうかもな」

 

 

 

 

 成分表記を見るとずいぶん色々入ってるみたいだし。

 えーと、何々。絶対負けない夜のレースを走りぬく活力。ナイターで長距離レースはないと思うよ。

 

 

 

 激臭で鼻がやられたのか、勝手に俺の荷物に顔を突っ込んですーはーしているワキちゃんはともかく、この劇物はどうしたものか。

 

 なんとなく、捨てるのは駄目という一般常識が俺たちにはあった。

 

 死にそうな顔で人のバックに入ってたティッシュを鼻に詰めて飲む準備をしようとするスズカに、仕方なく一気で飲み干す。

 

 

 

 

 こんな味わいはー、はーじめてー…。

 

 ロイヤルビタージュース並のゲロマズ具合にやる気が下がった。そして無駄に身体の底から湧き上がってくる元気的なもの。

 

 

 

「よし、結果オーライ。これなら仕事は捗る」

「お兄さん……」

 

 

 

 

 申し訳なさそうなスズカが気にしないよう、努めて明るい声でパソコンに向かい。さりげなくコーヒーを飲んで口直し―――――いやこれ飲み合わせ悪いな!?

 

 ぐつぐつと燃えるような熱を仕事に昇華させ、目とかがギンギンになったのを意識しないように……と、ふいにさらさらした尻尾が鼻の前に。

 

 

 

「その、せめて臭いだけでも……」

「……あ、ありがとな!」

 

 

 

 尻尾リンスの香り……爽やかなハーブ系のそれに合わせて、何故かちょっと甘い匂いがするような気がする。

 

 

 

 掛かってしまっているかもしれません。

 少し息を入れるタイミングがあればいいのですが。

 

 

 

 

「お、お兄さん? 何だか顔色が……少し休んだ方が」

「いや元気が有り余ってるんだ、ここはやっぱり仕事しかない」

 

 

 

 

 鋼の意志、鋼の意志…ッ!

 なんとしてでも目的を、この娘をあらゆる困難から守って夢を叶えさせる。それが、この娘に夢をもらった俺の返せるものだ。

 

 ライスのお兄さまさん、カレンのお兄ちゃんさん、俺に意志を貫く力を――――ッ!

 

 

 

 

「……あの、本当に大丈夫ですか…? お兄さん、やっぱり横になった方が」

「いや、急にトイレに行きたくなった」

 

 

 

 

 

 気が付くと俺は、スズカの尻尾の匂いをすーはーしていた。

 超能力とか、そんなチャチなものじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 

 

 ので、トイレに行った。

 あの謎ドリンクが悪かったのか、それともコーヒーと一緒に飲んだのがダメだったのか。

 

 

 

 

 そうして少しすっきりした俺は、部屋に戻ると何故かベッドでスタンバイしているスズカに気づいた。

 

 

 

 

「お兄さん、消灯時間ですね」

「ん? ああ、約束の時間だな」

 

 

 

 

 消灯時間まで一緒にいる。そういう約束である。

 ………なんで残ってるのかな?

 

 

 

 

「消灯時間なので、帰れません」

「…………ァァン?」

 

 

 

 わざとドスドスと足音を立てて近寄ると、自信ありげだったスズカの耳がへにょりと萎れる。

 

 

 

「か え れ」

「そんな………私、眠れないです」

 

 

 

「俺が眠れないから帰れ」

「………私、そんなに寝相悪いですか…?」

 

 

 

 いや、悪くはないけど。ウマ娘が寝相悪かったら一緒に寝たやつ死ぬぞ。

 

 

 

 

「俺、教師。お前生徒。さあ帰れ」

「で、でも――――」

 

 

 

 

 ぴんぽーん。

 部屋のベルが鳴った。

 

 思わず凍り付いた俺は、そういえば消灯時間後に軽くおハナさんと明日のメニューだけ確認する約束をしていたこと思い出し。

 

 咄嗟にスズカをベッドに、布団の中に押し込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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合宿の夜に

 

 

 

 

 

「―――――で、何飲んでるのよ」

「えー、さっきスズカに貰って……」

 

 

 

「精力剤じゃない」

「精力剤ですねぇ……」

 

 

 

 気づいてなかったみたいです、と目で訴えると理解してくれたのかため息を一つ。

 

 

 

「とりあえずその謎ドリンクもあるし窓開けるわよ」

「あ、はい。開けます開けます」

 

 

 

 そんなこんなでパソコンに向き合うが、背後の布団のふくらみ(大人しい)が気になる。よくよく見るとちょっぴり尻尾の毛がはみ出していることに気づいて心臓が早鐘を打つが、お陰で頭は冷えた。

 

 

 

「とりあえず今日のタイムはこんな感じです。グラスのタイムも良くなってますが」

「そうね。なら、今度は坂かしら」

 

 

 

「坂?」

「まず砂を掘って坂路を作って、それを走る感じね」

 

 

 

「……変わった練習ですね」

 

 

 

 

 足腰を鍛えた上、走りにくい砂の坂路であればより効率的な走りを身に着けられる…ということだろう。

 

 なんというか、沖野さんが好きそうなような。もっと言えばリギルっぽくない。

 と、おハナさんは露骨に目を逸らした。

 

 

 

「足腰も鍛えられるし、坂路もできるし合理的なのよ!」

「あ、はい」

 

 

 

 多分なんかしらのエピソードがありそうだったが、地雷だろう。

 

 

 

「まあいいわ。とりあえず明日はこっちチームとも合流して坂路を作ってから練習しましょう」

「了解です。同時に使うよりは別メニューと交互に…?」

 

 

 

 多分、全員で使うほどの坂路を作るのは大変すぎる。

 

 

 

「そうね、例年通りなら遠泳と交代ね。距離とコースは纏めておいたわ」

「なるほど……」

 

 

 

 手渡されたメニューを有難く頂戴し、頭の中でスズカたちの体調と合わせて負荷量を考えるが問題なさそうである。

 

 

 

 

「さてと、今日は私ももう戻るけれど――――節度は守るように」

「うっ」

 

 

 そう言うおハナさんの目線の先には、どう見てもスズカの尻尾。

 

 

 

「大方、消灯時間まで残って粘られたんでしょう? なんとなく予想つくわよ、あの場所にいて話は聞いていたから。それで話し合いの場所を消灯時間直後のこっちにしたわけだし」

 

「………お、御見それしました」

 

 

 

 

 

 布団を引っぺがされたスズカは、特に抵抗することもなく。

 チラチラとこっちを見ながらも大人しく連行されていった。顔は真っ赤だったが。

 

 

 

 

 

「………ちょっと待て、なんか俺が押し倒したみたいになってるじゃん」

 

 

 

 

 

 いや、押し倒して布団に入れたんだが。

 完全に慌て損というか、なんというか……。

 

 

 

 え、ウソでしょ…。俺どんな顔してスズカに会えばいいの?

 

 

 

 

「うおおお………寝るか」

 

 

 

 

 

 無駄に目がさえてなかなか眠れなかったが。

 なんとか、眠りに―――ねむ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄さん』

 

 

 

 ふと気が付くと、スズカがいた。

 というか、ギッチリと抱きしめられていた。

 

 腕どころか脚も動かない、そんな状態でスズカの顔が目の前にあり―――。

 

 

 

 

 

『……す、スズカ?』

『好きです。お兄さん――――』

 

 

 

 え。いや、ちょっと待って。

 莫迦な。人恋しさと走ることしか頭にないワキちゃんがそんな告白とかしてくるわけが。

 

 

 

 

『ずっと、私と一緒にいてくれますか?』

『いや、あの――――』

 

 

 

 

 それは言いそうだけど、いや待て。これは罠だ。

 というか夢――――。

 

 

 

 

 そのままスズカの顔が近づいて――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおああああ!?」

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 ……いや、まあ。押し倒してる夢とかじゃなくて良かったが。

 

 

 

「自己嫌悪だ……」

 

 

 

 

 ただでさえ夢を見させてもらっているんだ。これ以上押し付けるべきではないし、そもそもそういう関係でもない。

 結局のところトレーナーになれるのはトゥインクルシリーズと関係がある家ばかりで、中央に入るウマ娘もオグリキャップなんかの例外を除けば大体そうだ。

 

 トレーナーはあまりにも狭き門で、そこらのウマ娘と関わりがあったところで大半のウマ娘は中央に入れないし、入れたところで勝てはしない。

 

 

 

 

 いわゆる名家のウマ娘たちがトゥインクルシリーズを、重賞の勝利を独占し、その家と関わりのあるトレーナーが勝てるウマ娘を育てる。

 ある意味当然だ。ノウハウが限られているのだから、それを持っているトレーナーにウマ娘は託される。

 

 

 

 だから、トレーナーは狭き門なのだ。

 普通に入ろうとすれば最難関の国立大学よりも難しい。が、既にトレーナーとしてのノウハウを人脈から得ている名家のトレーナーにそんなことは関係ない。筆記試験はまあ難しいが。

 

 

 強いウマ娘との関わりなくトレーナーライセンスを取れるのはほんの一握りの天才だけで、そうでない人間がもしトレーナーになっても普通のウマ娘たちと涙を呑むだけの日々。

 

 

 

 

 

 

 

 だから、俺を信じてくれたあの子にどうしても応えたい。

 トレーナーとして必要な伝手も、経験もない。ただのトレーナー志望の凡人を信じてくれた。疑わず、ともに駆け抜けた。ずっと、誰よりも先頭を走るために。

 

 あの日君に感じた、夢を信じてここまで来た。

 あの子に、望み得る最大の栄光を授けたい。

 

 

 

 

「無敗の三冠、そして世界最強の称号を」

 

 

 

 

 夢だ。あの子の走りなら、日本どころか世界すら追いつけないという夢。

 世界の全てのトゥインクルシリーズファンに、『唯一抜きんでて並ぶものなし』と認めさせる。彼女が求める『景色』は、きっとそこにある。

 

 皐月賞、日本ダービー。

 ようやく自分だけの走る意味を見出しつつある彼女なら、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ほら、飲みなさい」

 

 

 

 差し出されたのは、ハーブティー。

 なんとなくおハナさんはそんなことしないイメージだったけれど、丁寧にティーカップから淹れてくれるあたり実は育ちがいいのかもしれない。

 

 

 

「……あの」

「別に怒ってないわよ。惚れた腫れたなんてトレーナーとして経験を積んでいけば嫌でも味わうもの。まあ、スズカは見る目はあるみたいだし」

 

 

 

 

 

 

 レースだけに情熱を注いできたお嬢様が、街で出会ったちょいワルな不良と仲良くなって色々あって引退、なんて悪夢でしかない。

 その点、スズカのために控える判断ができるサブトレーナーはかなりマトモな方だ。という話を聞かされながらハーブティーを飲んでいく。

 

 

 

 

「………私、お兄さんが一緒に寝てくれなくなって。寂しくて……」

「そういうものよ、大人になるって。やるべきことだけが積みあがって、やりたいことはできなくなって。……しがらみだったり、世間体だったり、お金だったり時間だったり」

 

 

 

 

 お兄さんが困っているのは分かっていた。

 別に、嫌われているわけではないことも。

 

 でも寂しかった。いつも一緒にいてくれたのに、我儘だって許してくれたのに。

 

 

 

 

 

「大人になると、どうして一緒に寝れないんですか?」

「………そ、そうね。子どもができたら困るから、とか」

 

 

 

「………子ども」

 

 

 

 お兄さんとの子ども。

 お兄さんに似た小さいウマ娘と一緒に走り回って、三人で並んで眠る姿を思い浮かべる。なんとなく頬が緩んだ。

 

 

 

 

「あー、あとアレよ。そう、こっちの方が大事だったわ。教師は生徒を導く立場だからそういうのは禁止なの。――――つまり、ドリームトロフィーリーグよ」

 

「???」

 

 

 

 

「アレは一応トレセン学園の生徒ではあるけど社会人みたいなものだから、トレーナーと結婚するのが割とよくあるわ。タマモクロスとか」

 

「社会人になったら、大人なんですか?」

 

 

 

 

「……まあ、そうね。少なくとも文句を言われる筋合いは無いわね」

「……………お兄さんも、そうでしょうか」

 

 

 

 

 本当は、我儘ばかりで嫌われているんじゃないかと思うことがある。

 そんな私を、おハナさんはそっと抱きしめた。

 

 

 

 

「まあ、好きなだけなら一緒に寝ることもあるかもしれないわね。けど、貴方達は色々なものを積み重ねて来たから、それを守りたいから……少し足踏みしてるのよ」

 

「おハナさんも、そうなんですか?」

 

 

 

 

「……私は別に――――いや、まあ。腐れ縁ってやつだけど」

 

「お兄さんに、一緒にいてほしいんです」

 

 

 

「ええ」

「抱きしめてほしいんです」

 

 

 

「そうね」

「一緒に、景色を見たいんです」

 

 

 

「どんな景色を?」

「………お兄さんが、誇りに思えるような」

 

 

 

 

 寂しかったあの日、感じた優しさを。

 走りたいだけだった私に寄り添ってくれた。勝つための走りじゃなく、私が楽しいと思える走りで勝つために必死で頑張ってくれたのを知っている。

 

 いつだって傍で見てきた。

 レースを見に行った日、数少ないトレセン学園に入れる日は必死に練習を覗いて、専門書を読み漁り、偶然出会った名家のトレーナー……桐生院さんに頼み込んで知識を得ていたりもした。

 

 

 

 

 勝つためなら、普通の作戦がいい。

 それが一番安易な道だ。先行が駄目なら逃げで。自分で言うのもあれだけれど、逃げならばそこそこに勝てただろう。

 

 

 

 

 その先に何があるかも分からない大逃げに賭けたのは、結局私がそうしたかったから。

 

 

 

 

『ワキちゃん。その先に何が待っていても、それでも見てみたい?』

 

 

 

 頷いた私に、ちょっと困った顔で。それでも力強く頷いてくれたのを今でもはっきりと思い出せる。

 

 

 

『分かった。なら、俺も全力で支える――――君が、栄光を迎えられるように』

 

 

 

 

 あの日、貴方に感じた何かに名前はまだないけれど。

 ただ、誓った。この人に、私が見ている景色と同じものを感じて欲しい。サイレンススズカの走りが好きだと言ってくれたこの人に、最高の走りを。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 過酷なトレーニングは続いていた。

 リギルが、シンボリルドルフまで動員してシャベルで海岸に坂路を造営しているのはなかなかシュールな光景だった。

 

 

 

 

「シャベルを動かしながらしゃべるのは、少し辛いな」

「では会長、代わりましょうか」

 

 

 

 エアグルーヴがダジャレに気づかず、少し後でやる気を下げたり。

 

 

 

「あら~、意外と扱いやすいですね……」

 

 

 

 グラスの構えたスコップが凶器にしか見えなかったり。

 タイキの胸の凶器が弾んでいたり。

 

 

 

 

 

 そんな苦労して造った坂路は、走るのも一苦労だった。

 なにせ砂だから崩れる。上手く正確に力を籠めなければ滑り落ちるその高低差2mくらいありそうな坂を必死になって登り。修理して、また登る。

 

 

 

 

 

 ついでに休憩中に呼吸筋を鍛える器具を渡して普段鍛えにくい筋肉まで苛め抜く。

 午後は遠泳。この日のために練習した水上バイクで監督しつつ、全身の筋を使わせてスタミナを鍛える。

 

 

 もちろんスズカとタイキ、グラスを競わせることで更に効果を押し上げるのも忘れない。

 そうして全身くたくたになった三人はしかし、スイーツを元気に食べると浴衣に着替えて夏祭りに繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「お兄さん、どうですか?」

 

 

 

 そう言ってウイニングライブ仕込みのターンを決めるのは白と緑、いつものカラーを基調にした浴衣のスズカ。線が細いからか、浴衣は良く似合っていた。結わえた髪の下から覗く白いうなじがどこか艶めかしい。

 

 

 

「ああ、可愛いな」

「転んじゃいそうなので、貸してください」

 

 

 

 すっ、と引かれた手を差し出すと腕ごと抱き寄せられる。

 胸が当たっているかは定かでないが、なんとなく柔らかいような気がする。

 

 

 

「……あの、ワキちゃん?」

「ダメ、ですか?」

 

 

 

 ダメだけど。

 寂しそうな顔を見ていると、なんとなくこっちが悪い気がしてくる。

 

 歩きにくいし、周囲の視線は痛いし。

 

 

 

 

 

「トレーナーさん、私。勝ちますね」

 

 

 

 

「相手が誰でも、どんな距離でも。私たちの走りが一番だって、証明してみせますから」

 

 

 

 

「――――だから、温泉。楽しみにしておいて下さいね」

 

 

 

 

 

 

 夜空に大輪の花火が咲く。

 ほんの刹那の輝き。人の心だけ色鮮やかに残り続ける光。

 

 そのどれよりも綺麗に輝くこの子の笑顔のために。多くの夢が夢のままになった運命の日までに、まだ俺に何かできることがあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 



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神戸新聞杯 / 菊花賞 二人だけの景色

 

 

 

 

 

 

 

 ヒリつく空気。

 GⅡにも関わらず押し寄せた観客たちが求めているのは、伝説。

 

 菊花賞に続く伝説を見守るために、あるいはその伝説を打ち破るものを見るために。

 

 

 

 

 

 だが、そんな異様な熱気の中でも異彩を放つウマ娘が一人。

 今年最大の夏の上りウマ娘がいるとすれば、彼女しかいないだろう。

 

 

 

 

「スズカさん……今日は、勝たせていただきます!」

「………フクキタル。こうして走るのは、ダービー以来かしら」

 

 

 

「むむむ。あの時は手も足も出ませんでしたが………前と同じと思ってもらっては困ります! 私の運勢は今が大吉! 例えスズカさんでも逃がしません!」

 

「逃げ切って見せるから」

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、注目すべきはやはりこのウマ娘でしょう! 7枠8番――――4戦4勝、無敗の二冠ウマ娘! “異次元の逃亡者” サイレンススズカ!』

『菊花賞前のステップレース、ここでも圧倒的な走りを見せてくれるのでしょうか』

 

 

 

 

『さあ、大歓声に迎えられて11人のウマ娘がゲートに集います! 無敗の三冠に挑むサイレンススズカがその強さを見せつけるのか、はたまた夏の上りウマ娘が待ったをかけるのか! GⅡ 神戸新聞杯――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

(シラオキ様の導きによると……私は、私のレースに徹します!)

 

 

 

 ダービーでは好位につけて、そのまま前には引き離され。後ろからは差された。

 が、それはあくまでもあの時の実力。夏で更に本格化したと言ってもいいフクキタルは、普通のウマ娘に負けはしないとトレーナーも太鼓判を押してくれている。

 

 そう、普通の相手には。

 明らかに尋常ではない気配の、無敗の二冠ウマ娘。レース前になり、ビリビリと肌が粟立つようなプレッシャーを放つサイレンススズカに勝てるとすれば―――。

 

 

 

 

(本番は、菊花賞! ―――今は、どこまで迫れるか――――運試しです!)

 

 

 

 

 ゲートが開き、一人だけ既に一歩先に出ているサイレンススズカのスタートの良さ。

 内から競りかけようと試みるナムルキントウンをものともせずに引き離し、早くも大逃げ態勢に入る。

 

 

 

 

『さあ行った行った! やはり行きましたサイレンススズカ! 今日も大逃げ! 二番手をぐんぐん引き離して4バ身、5バ身とリードを取った!』

『菊花賞に備えてペースを落とした走りを試してくるかと思いましたが……このままのペースで行ってしまうのでしょうか』

 

 

 

『注目の二番人気、マチカネフクキタルは最後方から! 先頭サイレンススズカと二番手のナムルキントウンとの差は早くも7バ身くらいはあるでしょうか。1000メートルを通過してタイムは……58秒4! これは、今までのサイレンススズカよりややペースを抑えているのか!?』

 

『速いことに変わりはないですが、少し余裕を持って走っているように思いますね』

 

 

 

 

 

(くっ、スズカさんのペースの落とし方が上手い!? これだと前が―――)

 

 

 

 

 なまじ最初は普段と変わりない超ハイペースだったために、じわじわと速度を落としたサイレンススズカにつられて全体のペースが普通のハイペースに戻ってきている。それによりむしろ掛かったナムルキントウンを見て、後方はスローに近づいてすらいるかもしれない。

 

 

 

 

 

『さあ行った行った、ナムルキントウンがサイレンススズカとの差を詰める! だがこれは掛かってしまっているのでしょうか!? 5バ身、4バ身と詰め寄って第三コーナーのカーブに入る! 後方は大きく離れている! 後ろの娘たちは間に合うのか!?』

 

 

 

 

 

 

(くっ、仕掛けないと――――けどこれは)

 

 

 

 スローになり、バ群が詰まったことで外に広がり。

 先に外を捲っているシルクジャストもいるために道が無い。

 

 

 

 

 

(いえ、今こそシラオキ様のご加護を!) 

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカが最後の直線に入る。詰め寄ってきたナムルキントウン、外からシルクジャスト!』

 

 

 

 

 

「――――先頭の景色は、譲らない!」

 

 

『サイレンススズカ、ここで更に引き離した! 強い強い、4バ身、5バ身と再度リードを取る! さあ拍手に送られてサイレンススズカが先頭! これは強い! 後方ではシルクジャストが上がってきている。――――おおっと、バ群を割って内からマチカネフクキタルが強襲! 凄まじい加速!』

 

 

 

「―――――まだです!」

 

 

 

 

『サイレンススズカ、脚色は衰えない! だがマチカネフクキタルも凄まじい勢いで差を詰めに掛かる――――リードは4バ身、3バ身――――今、ゴール! やはり強い、サイレンススズカ! しかし最後一気に詰め寄りました、マチカネフクキタル! これは菊花賞が楽しみです!』

 

『そうですね、今回はサイレンススズカが大逃げから比較的自由にスローなペースに持ち込みましたからね。本番、競りかけるウマ娘がいれば勝負は分かりません』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スズカさん」

 

 

 

 

 強い。超ハイペースを封印し、あくまで長距離に合わせた走りでこそあるものの、本来の持ち味であるマイペースの速さを活かした攪乱。この展開なら後方に勝ち目はないと思わされるが――――。

 

 

 

 

「次は、私が勝ちます」

 

 

 

 強い戦法。けれど、怖さはない。

 本来ステイヤーでないスズカさんが勝つためには妥当な戦術なのだろう。トレーナーのために妥協したのかもしれないけれど、長距離で常識的な走りならば――――今の私の方が強い。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「スズカ、脚の調子は?」

「はい。それほど飛ばしてないですから……その、少し走ってきても…?」

 

 

 

 

 菊花賞に向けての抑えた走り――――やっぱり欲求不満になったらしいスズカは、なんとなくすっきりしない顔で。もう少し詰め寄られればトップギアになって多少満足したかもしれないが。

 

 本音を言えば、レースを走ったのだから少しでも休ませたい。

 いつもの大逃げほどは消耗していないとはいえ、汗の量だって凄いし体温も高い。

 

 

 

 

「そうか。別にいいけど――――大阪デートは」

「デートにします」

 

 

 

 と、間髪入れずに笑顔でスズカは言った。

 

 

 

「あ、うん」

 

 

 

 いいのか……。

 半分冗談だったので、ちょっとそうあっさり選ばれるとなんというか……もにょる。

 

 

 

 

「いいのか、走らなくて」

「いいんです。今走ってきましたし……今は走るより、お兄さんと一緒に歩いて、知らない景色を見たいので」

 

 

 

 

「じゃあシャワー浴びてこい」

「お兄さん、一緒に――――」

 

 

 

「捕まるわ! レースに出たウマ娘用のシャワールームなんだし自重しろ。あとウイニングライブ忘れるなよ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

『―――――さあ、遂にこの日がやって参りました。クラシック最終戦、菊花賞! 京都レース場には多くのファンが詰めかけています。果たしてシンボリルドルフ以来、無敗の三冠ウマ娘は誕生するのか!? これまでのレースを全て大逃げで制覇してきた異次元の逃亡者、無敗の二冠ウマ娘! 5枠10番 5戦5勝! サイレンススズカ! 一番人気です!』

 

 

『前走の神戸新聞杯ではいつもよりペースを落とした走りでレースを支配していました。あの走りが長距離でもできるのであれば十分に勝利を狙えますよ』

 

 

 

 

 大歓声に迎えられ、パドックに現れるスズカを見守る。

 なんとなく観客席に目をやっているので、手を振ると笑顔で振り返してきて。先ほど控室で顔を合わせた時の言葉が脳裏を過る。

 

 

 

『―――――お兄さん。私、思ったんです』

『スズカ…?』

 

 

 

『いつもトレーナーさんにお世話になっているのに、何も返せていないなって』

『いや、俺は十分すぎるくらい――――』

 

 

 

『だから、このレースで勝てたら。私からもご褒美があるんです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この評価は少し不満か!? この夏最大の上りウマ娘、2枠4番。マチカネフクキタル! 二番人気です!』

『今最も勢いのあるウマ娘ですね。サイレンススズカの三冠を阻むとすればこのウマ娘ではないでしょうか』

 

 

 

『そして実力は負けていません、三番人気 7枠14番メジロブライト! ここ最近勝ち切れていませんが長距離の名家、メジロ家の意地を見せるのか!?』

『誰もが未知の距離である3000メートルですが、彼女ならば恐らく問題にしないだろうという予想が人気に影響していそうですね』

 

 

 

 

 

 無事にゲートインしていくウマ娘たち。

 毛並も、トモの張りも、絶好調と言っていいスズカ。

 

 だから、トレーナーにはもう祈ることしかできはしない。

 

 

 

 

 これまで積み重ねて来た全てで、彼女が夢を掴むことを信じる。

 

 

 

 

 

 

『GⅠ菊花賞―――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 心は落ち着いていた。

 勝負服を着てレース場に立つ“サイレンススズカ”の隣には、いつだってトレーナーさんがいる。

 

 背中を押されるようにスタートを切り、後続を引き離して逃げに入る。

 他の逃げウマ娘が競りかけようとする気配を感じるものの、すぐにトップギアに入った加速に追いつけずに引きはがされていく。

 

 

 煩わしい何もかもを振り切って、ぐんぐん加速する。

 

 

 

 

『さあやはり行った、サイレンススズカ! 今日も大逃げ、後続との差を4バ身、5バ身と取りましたが後続も食らいついていく! マチカネフクキタルは先団4番手、メジロブライトは中団から!』

『ここまでは神戸新聞杯と同じ展開ですね。ですがスローペースにさせないよう後続が早めに上がっていきます』

 

 

 

『二番手はテイエムトップラン! サイレンススズカとの差を詰め――――詰まらない! むしろ離されています! 後続集団も戸惑った雰囲気! サイレンススズカ、これは掛かってしまったのか!? 7バ身8バ身とリードを広げていく!?』

 

『これは……大変なことになりましたね』

 

 

 

 

 

 

 

『1000mのタイムは57秒9!? 神戸新聞杯よりも早い超ハイペースです! さあオーバーペースを悟ったウマ娘たちが徐々にペースを落とそうかというところ』

 

『ですが既に相当な体力を消耗しているでしょう。サイレンススズカに限らず、最後まで持つのでしょうか』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 会場を包むどよめきの中で、祈るようにスズカを見つめる。

 既にバ群は消耗した体力を無駄にしたくないために迷うウマ娘と、少しでもペースを取り戻したいウマ娘とで分かれてめちゃくちゃになっている。それに巻き込まれてズルズルと後ろに下がっていくマチカネフクキタルとメジロブライトを見て、ひとまず作戦が成功したことに胸をなでおろす。

 

 

 

 けれど――――間違いなく一番苦しいのは、この長距離でなりふり構わぬ大逃げを繰り出したスズカだった。例えそれがマイペースでも、3000mという距離はそう甘いものではない。

 

 

 

 

『さあサイレンススズカが悠々の一人旅! 現在のリードはおよそ15バ身くらいあるでしょうか!? まだ広がっているようにも見えますが、本当に最後まで持つのか!?』

 

『隊列が乱れ切っていますね。この超ハイペース、長距離が初めてのウマ娘にはかなり厳しいものになりそうです』

 

 

 

 

 

『さあそのリードに焦ったウマ娘たちが数名上がっていきます。掛かってしまったか!?』

『これでは無理もないですね。メジロブライト、マチカネフクキタルは落ち着いているように見えますが離れています』

 

 

 

『さあ前半終了してタイムは1分29秒5! なんと1分29秒台です! サイレンススズカ、少しペースを落としているか。ですが依然として超ハイペース!』

『先ほどまでよりは落ち着きましたが……』

 

 

 

 

 それ以上に最初の大逃げに付き合ってしまった先団の消耗は激しいのかペースダウンを悩んでいたウマ娘たちは失速し、差はずるずると開いていく。

 

 

 

 

「さあ坂を登って、これから下っていきます! 依然としてサイレンススズカと後方の差は15バ身以上あります! 早く追いかけなければいけない! メジロブライト、マチカネフクキタルが後方から追い上げてくるが大きく外に持ち出しています!」

 

 

 

 ズルズル後退する垂れウマを回避するべく、普段よりも大きく外に出るしかなかったブライトとフクキタルにも余裕はない。

 しかし完全にペースを壊し、他の逃げウマを潰し、それでもなお止まらない。

 

 

 

 

 

『さあ無敗の三冠を、シンボリルドルフ以来の称号を賭けてサイレンススズカが、サイレンススズカだけが早くも最後の直線に入ろうかというところ! だが後方一気に詰め寄ってくるのは――――マチカネフクキタル、マチカネフクキタルだ! さらにメジロブライトが後方追走! シルクジャストは既に一杯か!?』

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ走ることが好きでも、限界はある。

 いつまでも好きな速度で走れるから、マイルから中距離が好きだった。

 

 だからきっと、サイレンススズカに長距離は走れないのだろう。

 

 

 

 

 好きな速度で走っていれば体力が持たない。

 抑えて走れば、結局力を発揮できない。

 

 結局、サイレンススズカというウマ娘は走ることが好きだから、好きに走れるから強い。けど、だからこそ。

 

 

 

 

 

 乱れた呼吸を整える。

 いつも通りの大逃げで走った1000mから、トレーナーさんと走った“流し”のペースへ緩やかに移行する。

 

 原付を使って並走してくれたお兄さんの、真剣なまなざしを思い出す。

 苦しくは――――ない。

 

 

 

 息を入れる。

 お兄さんと走るのが、苦しいはずがない。

 走るのが好きなのと同じように、どちらか選べないくらいに好きなのだから。

 

 それでも肺は限界を訴えて、脚は重くなる。

 後方からは足音が聞こえないくらいに離れているけれど、きっとフクキタルは来る。

 

 

 

 

 

 酸素が足りないからか、耳が少し遠くなる。

 視野は多分いつもよりも狭まっている。

 

 隣にいるお兄さんを置いていかないようにペースを維持する。まだ、まだだ。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカに詰め寄ってきたのは外、外! 白とブルーの勝負服! マチカネフクキタルが差を詰めていく! メジロブライトは伸びが苦しい! さあ最後の直線勝負! サイレンススズカ、リードは残り4バ身、3バ身!』 

 

 

 

 

 風を切る音、芝を抉るほどの踏み込みの音がすぐ背後まで迫ってくる。

 それでも――――。

 

 

 

 

 

「――――フンギャロォォォッ!」

「譲らない――――」

 

 

 

 

 苦しさにフォームが崩れそうになる。

 それでも顔を上げて見据えたゴール、その間近で叫ぶ姿が見えた。

 

 

 

 

『――――スズカッ!』

「私の、私たちだけの――――景色ッ!」

 

 

 

 

 だからきっと、これは証明だ。

 お兄さんがいたから勝てたのだ、と胸を張っていうための。

 

 サイレンススズカでは届かない勝利を、胸に灯った想いを燃やして駆け抜ける。どんなに長い距離でも、貴方がいれば駆け抜けて見せるのだと。

 

 

 

 

 

 

『―――――サイレンススズカ、ここからリードを開いていく!? 2番手マチカネフクキタルだがリード3バ身! メジロブライトはまだ来ない!』

 

 

 

 

 全く酸素を取り込んでくれていないようにすら思える肺に必死に空気を送り込みながら、ただひたすらに脚を動かす。視界に映るあの人に、最高の走りを見せるために。

 そんな余裕なんてないはずなのに、どうしてかトレーナーさんが泣いているのがはっきり見えて。もうどこにも残っていないと思っていた力で、力強くターフを蹴った。

 

 

 

 

『サイレンススズカだ、サイレンススズカだ! マチカネフクキタル届かない! ――――――三冠達成ッ! シンボリルドルフ以来、史上二人目となる無敗の三冠が此処に誕生しました! タイムは3分0秒8! 破格のレコードタイムです! まさに異次元の逃亡劇! 3000mを超ハイペースで逃げ切りました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「スズカ、よく頑張ったな」

 

 

 

 そう言って抱きしめてくれるお兄さんに、ようやく勝った実感が湧いてくる。

 優勝トロフィーを掲げて撮影したときより、ゴールした瞬間よりも、こうして久しぶりにお兄さんから抱きしめてもらうのが一番うれしいことに、自分でも少し可笑しく思う。

 

 

 

 

「お兄さん、私―――勝ちました。ずっと一緒に頑張ってくれた、お兄さんのお陰です」

「莫迦、お前そんな――――くそっ、このタイミングでそれは卑怯だろ」

 

 

 

 

 また泣いているこの人に、胸にあたたかなものが込み上げてくる。

 その熱に押されるように、あらかじめ考えていた『ご褒美』のため、そっと顔を寄せて。

 

 勝利の女神、ではないけれど。

 その頬に、万感の想いを込めて口づけた。

 

 

 

 

 

「ワァオ」

「あら」

「ふむ」

「……スズカ」

「ハァ……」

 

 

 

 

 

 思いっきりお祝いに来てくれたリギルのメンバーの目の前だった。

 

 手で口元を抑えているタイキ、アルカイックスマイルのグラス、シンボリルドルフ会長にエアグルーヴ、そしてナリタブライアンさん。おハナさんは見なかったことにしてくれるつもりなのか、視線を逸らしていたけれど。

 

 

 

 

 

「ス、ズカ……?」

トレーナー(お兄)さん、これからも――――よろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 きっと、これまでで一番の笑顔ができて。

 そうして無敗の三冠ウマ娘として、取材やらなにやらに追われる日々が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(メイクデビュー~弥生賞)

掲示板に興味があったので…。
(オマケなので本日2話目の投稿です)


【期待の】ウマ娘サイレンススズカちゃんを応援するスレ【大逃げ】

 

 

1:名無しのファンさん

というわけで期待の新人について語っていくぞ

ワイのイチオシはサイレンススズカちゃん

 

 

2:名無しのファンさん

イッチの推し、イチオシか……

 

 

3:名無しのファンさん

さっむ

 

 

4:名無しのファンさん

ルドルフ会長を見習え

 

 

5:名無しのファンさん

え? それはギャグか…? 突っ込めばいいのか?

 

 

6:名無しのファンさん

お前らサイレンススズカちゃんの走りを見なかったのか?

今年のクラシックはこの娘で決まり!

 

 

7:名無しのファンさん

いやー(大逃げでクラシックは)キツイでしょ

 

 

8:名無しのファンさん

レース後のトレーナーインタビュー

『脚への負担が大きいため、最低限のレースだけ出ていく。直近の目標は弥生賞』

 

 

9:名無しのファンさん

で、どこのトレーナーよ。知らん名前だが

 

 

10:名無しのファンさん

新人かな。大逃げさせる新人とか切り安定では

 

 

11:名無しのファンさん

弥生賞直行は芝

 

 

12:名無しのファンさん

お前ら知らんのか、あのリギルにスカウトされた超大物新人サブトレを

 

 

13:名無しのファンさん

リギル……だと

 

 

14:名無しのファンさん

え、待って。つまりあの娘もリギル?

あの王道を征くリギルが大逃げ?

 

 

15:名無しのファンさん

おハナさんの目は一流。これは間違いなく逸材

 

 

 

16:名無しのファンさん

お前らもっとメジロ賛歌聞け

 

 

17:名無しのファンさん

ブライトちゃんはほら……激ズブだから……

 

 

18:名無しのファンさん

ハァー!? お前それあの「ほわぁ」聞いた後でも言えるか!?

クソカワだぞ

 

 

19:名無しのファンさん

とりあえずメイクデビューだけじゃあな……まあほどほどに期待してる

 

 

20:名無しのファンさん

掛かりすぎだからあれじゃ2000持たないぞ

 

 

21:名無しのファンさん

でた、距離が長いおじさんだ!?

 

 

22:名無しのファンさん

恒例行事だからな。正直素人には距離適性とかわからん

 

 

23:名無しのファンさん

お前らサイレンススズカちゃんの可愛さについて語ろうぜ…

 

 

24:名無しのファンさん

>>23いや、なんというか。

トレーナーと親戚か何か? 距離近くね?

 

 

25:名無しのファンさん

なんやて工藤

 

 

26:名無しのファンさん

せやかて工藤

 

 

27:名無しのファンさん

>>24は? 待てよ……新人ちゃんはまだトレーナーとベタベタしてないから俺らにもワンチャンあるんじゃないかなっていう初々しさがいいんだろうが…!

 

 

28:名無しのファンさん

>>27掛かってしまっているみたいです。少し息を入れるタイミングがあればいいのですが。

 

 

29:名無しのファンさん

>>27 ほい【画像】

 

30:名無しのファンさん

あっ、これは……

 

 

31:名無しのファンさん

めっちゃ笑顔でトレーナーにくっついてるやん。シニア期のタマモクロスを思い出すで……

 

 

32:名無しのファンさん

ダメみたいですね

 

 

 

33:名無しのファンさん

ちょっと横になるわ……

 

 

34:名無しのファンさん

ダメージ受けすぎてて芝

 

 

35:名無しのファンさん

いやよく考えろ。好きになったアイドルに後から男が発覚したら嫌だが……別に良くね。ただのメイクデビューウマ娘だぞ

 

 

 

36:名無しのファンさん

ただの(メイクデビュー大差勝ち)とは

 

 

37:名無しのファンさん

笑顔可愛いな。レースの気性難っぽい姿と全然違うやん

 

 

38:名無しのファンさん

【朗報】新たなトレーナーガチ勢ウマ娘爆誕【期待の新人】

 

 

39:名無しのファンさん

まあウマ娘とトレーナーからしか摂取できないてぇてぇ需要はある

 

 

40:名無しのファンさん

確かにな……俺の推しのスマートファルコンちゃんは男なんていないし

 

 

41:名無しのファンさん

>>40おっとこれは

 

 

42:名無しのファンさん

>>40ダメみたいですね

 

 

43:名無しのファンさん

えっ、ファン一号

 

 

44:名無しのファンさん

貴様~! ファン一号先輩を愚弄するな! あの方はそんな下劣な存在ではない!

 

 

45:名無しのファンさん

もうこれファン一号さんガチ勢では?

 

 

46:名無しのファンさん

>>44ファル子がファン一号が良いって言ったらどうするん?

 

 

47:名無しのファンさん

>>46は? 祝福した後で横になるが? タルマエちゃんも可愛いよな

 

 

48:名無しのファンさん

なんか芝

 

 

49:名無しのファンさん

これが乗り換え上手ですか……

 

 

50:名無しのファンさん

サイレンススズカちゃんの次走、【弥生賞】確定!

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

【大逃げ】期待の新星サイレンススズカちゃんを応援するスレ【爆逃げ】

 

 

1:名無しの先頭民族

というわけで弥生賞を応援していこうぜ

 

 

2:名無しの先頭民族

来ちゃったか……芝2000によ

 

 

3:名無しの先頭民族

なんか顔色悪くね

 

 

4:名無しの先頭民族

徹夜明けの俺みたいな顔してるんだがこれもうダメでは?

 

 

5:名無しの先頭民族

ハーッ! トレーナーが無能だからよー!

 

 

6:名無しの先頭民族

完全にお兄さんに手を引かれるお眠な妹で芝

 

 

7:名無しの先頭民族

トレーナーってゲートまで付き添うことあるのか

 

 

8:名無しの先頭民族

新人だと稀に良くある。気性難とか

 

 

9:名無しの先頭民族

大丈夫かなー、不安しかない

 

 

10:名無しの先頭民族

あっ

 

 

11:名無しの先頭民族

え、何事

 

 

12:名無しの先頭民族

ゲート潜った!?

 

 

13:名無しの先頭民族

なんでや!?

 

 

14:名無しの先頭民族

33-4

 

15:名無しの先頭民族

阪神関係ないやろ!?

 

 

16:名無しの先頭民族

レスポンス速すぎて芝

 

 

17:名無しの先頭民族

で、何事。テレビだと良く分からん。現地民おしえて

 

 

18:名無しの先頭民族

サイレンススズカがゲート潜った。今トレーナーが駆け寄ってる

 

 

19:名無しの先頭民族

何、ケガ!?

 

 

20:名無しの先頭民族

いやなんか迷子の子にしか見えないんだが

 

 

21:名無しの先頭民族

怪我じゃなければなんでもいい

 

 

22:名無しの先頭民族

なんかトレーナーに抱き着いてお眠ですね……

 

 

23:名無しの先頭民族

あ、待てい。レースに来たはずでは…?

 

 

 

24:名無しの先頭民族

ダメみたいですね

 

 

25:名無しの先頭民族

いや、なんか起きたぞ。耳が立ったし

 

 

26:名無しの先頭民族

めちゃ嬉しそうに何かをねだってるように見えるサイレンススズカちゃん

 

 

27:名無しの先頭民族

トレーナーのリカバリー成功? あ、なんか大外出走になるって

 

 

28:名無しの先頭民族

残当

 

 

29:名無しの先頭民族

ゲート入り一回目と別人すぎませんかね…

 

 

30:名無しの先頭民族

とりあえず無事にスタートできそうで良かった

 

 

31:名無しの先頭民族

さあスタート

 

 

 

32:名無しの先頭民族

ポンと飛び出したのはサイレンススズカ

 

 

33:名無しの先頭民族

スタート上手いな…さっきのゲート難だったのは何だったんだ

 

 

 

34:名無しの先頭民族

大逃げ! 大逃げです!

 

 

35:名無しの先頭民族

マジでやるのか……芝2000だぞ

 

 

36:名無しの先頭民族

しかもメイクデビューで大逃げ成功したから競りかけられてるぞ

あと会長は仕事してて

 

 

37:名無しの先頭民族

あっ、加速した。なにあれ

 

 

38:名無しの先頭民族

速いな。カブラヤオー思い出す

 

 

39:名無しの先頭民族

掛かってるだけじゃね…?

 

 

40:名無しの先頭民族

差が広がる広がる。10バ身はあるか

 

 

41:名無しの先頭民族

中山の直線は(ry

 

 

42:名無しの先頭民族

あっ、これは

 

 

43:名無しの先頭民族

最終直線で勝ち確信の走り

 

 

44:名無しの先頭民族

勝ったな、風呂入ってくる

 

 

45:名無しの先頭民族

いや、ちょっと待て。中山の2000でこのタイムは……皐月勝つんじゃね?

 

 

46:名無しの先頭民族

去年の皐月賞より速くて芝

 

 

47:名無しの先頭民族

なんてこったパンナコッタ

 

 

48:名無しの先頭民族

いや強いわ。なんぞこれ

 

 

49:名無しの先頭民族

気のせいじゃなければ最終直線で加速してない?

 

 

50:名無しの先頭民族

してる気がする

 

 

51:名無しの先頭民族

なんであそこから加速するんですかね……

 

 

52:名無しの先頭民族

前のおっちゃん笑い出すレベルの走り

 

 

53:名無しの先頭民族

笑うしかない

 

 

54:名無しの先頭民族

これ大逃げか? マルゼンと一緒でただ速いから逃げてるように見えるだけじゃね?

 

 

55:名無しの先頭民族

ありそう

 

 

56:名無しの先頭民族

おっとお前ら勝利インタビューだぞ

 

 

57:名無しの先頭民族

ニッコニコでトレーナーさんに張り付いて引きずられてくるの芝

 

 

58:名無しの先頭民族

保護者さんかな?

 

 

59:名無しの先頭民族

なんかスズカちゃんにお兄さん呼びされてるぞ

 

 

60:名無しの先頭民族

「ほらスズカ、インタビューあるから」

「……お兄さんも」

 

「ダメ」

 

 

61:名無しの先頭民族

ご馳走食べちゃダメって言われたオグリみたいな顔ワロタ

 

 

62:名無しの先頭民族

露骨にテンション下がったサイレンススズカちゃんのインタビューが始まるぞ

 

 

63:名無しの先頭民族

「なんでゲート潜っちゃったんですか?」

「気が付いたらお兄さん……トレーナーさんがいなかったので」

 

 

64:名無しの先頭民族

はー

 

 

65:名無しの先頭民族

拗ねた顔可愛い

 

 

66:名無しの先頭民族

トレーナーさんが悪い、と言いたげな顔サンクス

 

 

67:名無しの先頭民族

あちゃー、と頭を抱えるお兄さんに芝

 

 

68:名無しの先頭民族

「眠そうでしたが大丈夫でしたか」

「お兄さんが一緒に寝てくれないので」

 

 

69:名無しの先頭民族

 

 

70:名無しの先頭民族

ここまでくると清々しいな。

 

 

71:名無しの先頭民族

あっ、お兄さん逃げたぞ

 

 

72:名無しの先頭民族

サイレンススズカ行った! 捕獲! はっや

 

 

73:名無しの先頭民族

33m-4m

 

 

74:名無しの先頭民族

くっそ速いスタート。俺でも見逃しちゃうね

 

 

75:名無しの先頭民族

トレーナーさんの釈明会見(強制)が……

 

 

76:名無しの先頭民族

「十数年前から家族同然の付き合いがあったので…」

 

 

77:名無しの先頭民族

ウチとトレーナーは家族や、家族!

 

 

78:名無しの先頭民族

これが最新のタマモクロスちゃんですか

 

 

79:名無しの先頭民族

つまり幼馴染…ってコト?

 

 

80:名無しの先頭民族

家族(意味深)やろ

 

 

81:名無しの先頭民族

はーっ、こんな可愛い子と一緒に寝るとか犯罪では?

 

 

82:名無しの先頭民族

家族なら仕方ない

 

 

83:名無しの先頭民族

トレーナーさんの顔色めっちゃ悪くなってて芝

 

 

84:名無しの先頭民族

あ、おハナさんが助けに来た

 

 

85:名無しの先頭民族

「当然ながら学園においてはしっかりと節度とルールを守っております」せやな

 

 

86:名無しの先頭民族

まあ教え子に手を出さなければいいんじゃないですかね…。

 

 

87:名無しの先頭民族

あんなに大好きアピールされてるのに手を出せないのか……俺なら出してるな

 

 

88:名無しの先頭民族

つ ドリームトロフィーリーグ

 

 

89:名無しの先頭民族

やめろ、ドリームトロフィーリーグは婚活会場じゃないんだぞ!?

 

 

90:名無しの先頭民族

>>89せやな。結婚発表の場や!

 

 

91:名無しの先頭民族

婚活会場:トレセン学園

結婚発表:ドリームトロフィーリーグ

 

 

92:名無しの先頭民族

あれ、会長って結婚してたっけ

 

 

93:名無しの先頭民族

>>92(∩∩)死にたいらしいな…

 

 

94:名無しの先頭民族

会長はエアグルーヴとだルォ!?

 

 

95:名無しの先頭民族

ウマ娘はウマ娘同士…

 

 

96:名無しの先頭民族

実際俺らがウマ娘とどうこうなることはないので、てぇてぇと可愛い分を供給してくれれば……

 

 

97:名無しの先頭民族

悲しい

 

 

98:名無しの先頭民族

やはりウマドル。ウマドルで、みんなに笑顔を……

 

 

99:名無しの先頭民族

とりあえず次は皐月賞だな

 

 

100:名無しの先頭民族

アイネスとカブラヤオー以来の逃げダービーウマ娘あるのか…?

 

 

 



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温泉に行こう!

 

 

 

 

 皐月賞、東京優駿、菊花賞。

 6戦6勝、全て大逃げで無敗の三冠を成し遂げたサイレンススズカ。

 

 ジャパンカップ、有マ記念への出走がどうなるか注目される彼女は今――――休養のためトレセン学園を離れていた。

 

 大分マスコミも騒いでいるし、休養のために温泉に行くのは一般的なのですんなりと許可してもらえた。

 

 

 

「……えっと、次の駅で乗り換えですね」

「はいよ」

 

 

 

 二人で荷物を抱え、スズカが自分で頑張って調べたルートを確認しながら電車で向かう。

 車でも良かったのだが、何故か電車にしようと提案されたので受け入れた次第である。

 

 

 

 

『お兄さん、温泉ですけど……行き方とか、私が調べてみてもいいですか?』

『……頼むから、走っていくとか言わないでくれよ?』

 

 

『ウソでしょ……お兄さん、いくら私でもお兄さんにそんな無茶させませんから』

 

 

 

 

 そんなウキウキで耳も楽し気なスズカを、穏やかな気持ちで見守る。いやもう、かつてないほど穏やかである。

 

 温泉――――うまぴょい温泉とも呼ばれるそこは、本来であればURAファイナルズを制した豪運トレーナーと愛バがたどり着く到達点。

 

 そこで見られるのは何処視点なのか謎の、バスタオルでお風呂に入るウマ娘。あとキャラごとの絆を感じるエピソードである。

 

 

 

 

 普通に考えて混浴はしていない。

 が、ワキちゃんのことなので添い寝は間違いなく要求される。無敗の三冠を取れば公序良俗に反しない要求には応えると言った俺は――――あらかじめ徹底的に煩悩を吐き出しておいた。

 

 

 別にワキちゃんもうまぴょい(動詞)したいわけではないので、何も憚ることはない。

 もうなんか行く前から疲れ切っているような気もするが。

 

 

 

 

「お兄さん、なんだか疲れてないですか…?」

「えっ。……やり切った感があるから、かな」

 

 

 

「お兄さんは、もう勝ってほしいレースはないんですか?」

「………あるぞ? ジャパンカップ、有マ記念、ドバイ、凱旋門、BCとか」

 

 

 

 やっぱり日本だけじゃなく、世界レベルだというのを見せつけて欲しい。タイキシャトル、シーキングザパールとちょうど97世代は海外で飛躍していた。アメリカで活躍するサイレンススズカというのは、一つの大きな夢だ。

 

 

 

「アメリカ……なんとなく、楽しそうですね」

 

 

 

 やっぱりウマソウルの関係なのだろうか、アメリカには心惹かれるものがあるらしい。

 かのサンデーサイレンスがアメリカのダート覇者であったので、多分アメリカのダートなら走れないことはないと思われる。

 

 

 

 

「世界は広い。……ジャパンカップでそれを感じてみてもいいのかもな」

 

 

 

 スズカ世代のジャパンカップは――――ヤツか!?

 女帝エアグルーヴすらも圧倒した、アレとか走りとかブツとか……一言でいえば、うまだっち。ウマ娘だとどうなるんだ…?

 

 もしかしなくてもワキちゃんの教育によろしくない存在の可能性が……。

 

 

 

 

「あっ、お兄さん。着きますよ。乗り換えましょう」

「おっけ」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 到着したのは、なんというか立派な旅館だった。

 スズカは凄まじい額の賞金を稼いでいるし、俺もトレーナーとして特別手当が出ているが二人して走ることばかりであまりお金を使うタイミングがなかったりする。

 

 

 

「それじゃあ、チェックインですね」

「チケット持ってる?」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 

 若干挙動不審になりながら(あまり人と話すのが得意でない)受付するワキちゃんを見て成長を感じる。以前なら絶対俺に任せきりだったのに……。

 

 ……なんだろうか。嬉しいハズなのに、寂しく感じる。

 そうだ。俺はこうして、ワキちゃんが独り立ちするのを望んでいた。けどもしかすると、それと同時にいつも隣にいることを疑っていなかったのかもしれない。

 

 

 

 

「では、お部屋にご案内いたします。お荷物、お持ちしますね」

「はい、お願いします」

 

 

 

 ウマ娘の従業員さんが軽々と荷物を持ち上げ、案内されたのは上の階でも奥の部屋。これはもしかしなくてもかなりいい部屋では。十二分な広さと、何故か部屋の奥に温泉が見えていたりする。

 

 

 

「では、何かあればお申し付け下さい」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 そうして従業員さんは去っていき。

 ……あれ。

 

 

 

「……そういえば、同じ部屋だな」

「お兄さん、ペアチケットですよ…?」

 

 

 

 いやまあ確かにペアチケットで二部屋も取れたら意味不明だが。

 ちょっと待て、この空気感で一緒の…?

 

 

 

「一緒に寝ろと…?」

「はい」

 

 

 

 

 いい笑顔だった。可愛い。

 い、いやまだだ。こんな時のために煩悩退散してきたのだ。多分座禅と精神統一をして過ごせば、なんとでもなるはずだ!

 

 

 

 

「じゃあお兄さん、温泉に入りましょう」

「うん?」

 

 

 

 そんなことを考えている間に事態はさらに進んでいて。

 するりとスカートを脱ごうとするワキちゃんの手を掴んで阻止。

 

 

 

「……あの、お兄さん?」

「ちょっと待て。なんでここで脱ぐ」

 

 

 

「だって、温泉が」

「部屋の温泉使うならあっちで脱げ! その間にトイレに籠ってるから!」

 

 

 

 ダッシュで逃げようと試みるが、ウマ娘からは逃げられない。

 細い指のどこにそんな力があるのかというくらいにがっちりと手を掴まれ、拗ねた顔のワキちゃんと至近距離で見つめ合う。

 

 

 

「――――お兄さん、私、無敗の三冠ウマ娘ですよね?」

「いや待て。ちょっと待て」

 

 

 

「混浴って、公序良俗に反するんですか? そういう仕組みなのに」

「待って、頼むから待って」

 

 

 

 耳は絞るどころか萎れているが、それが逆に怖い。

 もし泣かれでもしたら全面降伏するしかなくなる。

 

 

 

「分かった、入る。入るからバスタオルは巻いてくれ」

「………はいっ」

 

 

 

 よかった……急に大人になったような気がしたが、中身はワキちゃんだった。

 仕方がないのでワキちゃんに背を向けてさっさと脱いで先に入ってしまおう。要は甘えたいだけなので、お風呂でどうこうではないはず。

 

 

 

「エアグルーヴとも話して、可愛い下着を選んだんですよ」

「何の話!?」

 

 

 

「タイキが、好きな人と旅行するなら下着もちゃんと選ばないとダメデースって」

「そ、そうか。で、なんでエアグルーヴ?」

 

 

 

 エアグルーヴと可愛い下着が謎のチョイスすぎる。

 なんとなく聞いていいのか謎だが、気にはなる。

 

 

 

「最初はタイキと話してたんですけど……胸が大きいと可愛い下着がないらしいんです」

「お、おう?」

 

 

「だから、とりあえず近くにいたフクキタルにも聞いたんです」

「フクキタルの扱い雑だな……」

 

 

 

 いつも通りとも言う。

 

 

 

「そうしたらフクキタルが、『可愛い下着で大切な人との関係が深まります』って……」

「ちょっと待って。今ヤツのトレーナーにアイアンクローを依頼しとくから」

 

 

 

 『お前の担当が人の担当に下着で誘惑するようにアドバイスしたんだが』っと。

 あ、すぐに返信が返ってきた。

 

 

 

『処しとくから許して。あと終わったら飯でも奢る』

『じゃあいつもの店』

 

 

 

 これでよし。

 と、メールを打つのに夢中になっていた俺は、背後から近づく担当ウマ娘に気づかなかった。

 

 

 

「……お兄さん、可愛いですか?」

 

 

 

 

 勝負服カラーであった。

 いや、うん。全く恥じらっていない相手を見ると自分もちょっと落ち着くかもしれない。

 

 

 

「可愛いよ。でもなんでエアグルーヴ?」

「フクキタルの言う可愛さが良くわからなかったので……」

 

 

 

 あっ、はい。

 招き猫柄のパンツとか穿いていそうな偏見がある。

 

 

 

「お兄さんにどうしたら可愛いって思ってもらえるかなって」

「お、おう?」

 

 

 

 まあエアグルーヴなら詳しそうかな……。

 

 

 

 

「―――同じ無敗の三冠ウマ娘のシンボリルドルフ会長に相談してみたんです」

「何してんの!?」

 

 

 

 

 突然押しかけて来た無敗の三冠ウマ娘(後輩)がトレーナーを誘惑できる下着について相談しにきた時の皇帝の心情…。

 いや、前ダジャレを言い始めたきっかけは親しみやすくなりたいとかそんな感じだったから、もしかすると女子トークができて喜んでる可能性が……それにしても内容エグいな!?

 

 

 

「それに、シンボリルドルフ会長はお兄さんと仲が良さそうでしたし……」

「いや確かにエアグルーヴよりは仲いいけど」

 

 

 

 ダジャレ的な意味でだが。

 そしてそれ絶対おハナさんにも筒抜けになるヤツ!

 

 

 

「そ、それでルドルフはなんて…?」

 

 

 

 もはや怖いもの見たさだが、ワキちゃんは軽く頷いてから言った。

 

 

 

「『一撃必殺の覚悟で立ち向かうのであれば、トレーナー君に選ばせろ』って…」

「殺意が高すぎる…っ!?」

 

 

 

 確実に仕留めるための作戦か何かでは。

 なるほど、それでエアグルーヴが仲裁してくれたというわけか。

 

 

 

「えっと『あのたわけなら察して逃げるでしょうから、今回はスズカらしい色でいいのでは』って」

「あ、うん。そうだね逃げるね」

 

 

 

 今回は…?

 なんか不穏だが、とりあえず――――。

 

 

 

「スズカ、身体が冷えるからそろそろ風呂に――――」

「はいっ」

 

 

 

 

 寒いからとばかりにひしっと抱き着いてきたスズカに、無言で温泉に向かう。

 そのまま全速力で服を脱ぎ捨てると、かけ湯だけしてお湯に滑り込んだ。

 

 

 

「あっ、お兄さん!?」

「ああいい湯だなー!?」

 

 

 

「待ってください、ズルいですよ!?」

「ズルくな――――ぶっはっ!?」

 

 

 

 すぽぽーん、と下着を脱ぎ捨ててそのまま突入してくるワキちゃんに咄嗟に視線を逸らし。そのまま抱き着かれてお湯に沈む。

 

 くっ、こいつ完全に昔の感覚でいやがる…。

 人の気も知らないで、と若干の怒りを覚えつつも、仕方ないので持っていたバスタオルを押し付けた。

 

 

 

「ほら巻け。お前には羞恥心が足りない」

「……えー」

 

 

 

「モロ見えよりチラ見えの方が好きだ」

「……」

 

 

 

 黙ってタオルを巻き始めた。ちょろい。

 と、スズカは突然言った。

 

 

 

 

「お兄さんもおっぱい好きなんですか」

「何!? 急に何!? フクキタルか!?」

 

 

 

 おのれフクキタル、この借りは必ず返す。

 と、思っていたが。

 

 

 

「ドーベルが、男はみんな変態だから胸が好きなんだって。トレーナーさんも時々チラチラみてるらしいです」

「いやそれ暗黙の了解というか、なんというか……」

 

 

 

 教えはどうなってんだ、教えは!?

 なんで女子トークがそんなエグいんだよ。男のバカ話の方がバカなだけで平和な説あるぞ。

 

 

 

「……私、なんというか……子どもっぽいんでしょうか」

「えっ、あ、うん」

 

 

 

 

 裸で突撃してくるヤツは子ども認定でいいんじゃないだろうか。

 そう言うと拗ねてお湯に顔を鎮めてブクブクし始めるワキちゃんだが、夏ごろからか少し身長も伸びてきている。

 

 

 

 

「恥ずかしさを覚えたら大人なんじゃないか」

「……別に、はずかしくないわけじゃ、ないです」

 

 

 

 

 振り返ると、お湯から顔だけ出したワキちゃんの耳は恥ずかしいからか萎れていて。仄かに赤く染まった頬と、潤んだ瞳が何故か普段よりも綺麗に見えた。

 

 

 

 

「………ただ、私がお兄さんと近くにいたらうれしいから。少しでも触れていたいから。同じようにお兄さんも、喜んでくれるのかなって」

「……」

 

 

 

 

――――ああ、もう。

 

 

 嬉しくないはずがない。それだけ想われて。

 ただ、あまりにも一緒にいすぎたから。独りでも歩けるようになって、別の選択肢も選べるようになってほしいと思う。

 

 この娘の可能性を縛り付けるような真似はしたくない。

 だから、もう少し。もう少しだけこのまま―――。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「はい、お兄さん」

「お、おう?」

 

 

 

 お兄さんはあんまりお酒が好きではない。

 弱いから飲みたくない、とのことだが――――商店街のおばさん曰くトレーナーさんにお酒を飲ませると本音が聞けるのだという。

 

 飲みやすいお酒を教えて貰ったので、それをお兄さんに注いであげる。

 ……可愛い女の子に注がれたら飲むしかないと肉屋のおじさんが言っていたのだが、どうなんだろう。

 

 

 

 

 ……なんとなくお兄さんの視線が浴衣の襟とか脚とかに向いているので、多分酔っている。

 

 

 

 

「スズカ、ちょっと―――」

「はい、お兄さん。これが皐月賞の分です」

 

 

「うっ」

「はい、ダービー」

 

 

「ちょっ、待っ」

「菊花賞です」

 

 

「………」

「メイクデビューの時の」

 

 

 

「………ひっく」

「無敗の三冠の時の」

 

 

 

「無敗の三冠、良かったですよね」

「そう、だなー。あのスズカが、長距離だもんな……」

 

 

 

「お兄さん、私のこと……嫌いですか?」

「……好きだから困ってるんだろー?」

 

 

 

「………そう、なんですね」

「当たり前だろーが。何を今更……うっぷ」

 

 

 

 顔を真っ赤にしてお水を飲むお兄さんは、なんだか可愛い。

 そんなこんなで食事を終えて部屋に戻る。千鳥足のお兄さんを支えながら部屋に戻ると、布団が敷いてあった。

 

 

 

 

 うん、聞けて良かった。

 満足したのでもうお兄さんも寝かせてあげよう。

 

 

 が。気が付くと私は布団に寝かされていて、その上からお兄さんが―――。

 

 

 

 

「あ、お、お兄さん…?」

 

 

 

 ウマ娘なら押し退けることも難しくはないが、おもむろに抱きしめられるとそんな気持ちもどこかに消えてしまう。

 

 

 

「………あの?」

「無自覚に誘惑しやがってー……。………俺だってなー、抱き枕にしてーんだよぉ……」

 

 

 

 

「お兄さん…?」

「俺だってうまぴょいしてぇよぉ……」

 

 

 

 

 これは……酔っ払い!

 お酒くさい!

 

 自分がガバガバ飲ませたせいなので文句は言えないのだけれど。お兄さんの手が変なところまでまさぐってくると、くすぐったさに負ける。

 

 

 

「お、お兄さんっ!? くすぐったいですよ!?」

「……すやぁ」

 

 

 

「寝てる……え。ウソでしょ……もしかしてこのまま……?」

 

 

 

 

 

 

 結論、お酒を飲ませすぎてはいけない。

 でもなんだかんだと久しぶりに密着して寝れたので大満足なのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(皐月賞~東京優駿)

 
 お気に入り5000件ありがとうございます記念、本日2話目の投稿です




【大逃げ】サイレンススズカを応援するスレ【皐月賞】

1:名無しの先頭民族さん

さあ一番人気

 

 

2:名無しの先頭民族さん

タイム見れば順当だが……大逃げだからな

 

 

3:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンも逃げ宣言だってよ

 

 

4:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンis誰?

 

 

5:名無しの先頭民族さん

メイクデビューでいい感じに勝ったけど、その後4戦凡走。今8戦して2勝

 

 

6:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカと勝ち数同じやん

 

 

7:名無しの先頭民族さん

8戦2勝と2戦2勝(GⅡ弥生賞圧勝)を比べるのはちょっと…。

 

 

8:名無しの先頭民族さん

やっぱ対抗バはメジロブライトでは?

 

 

9:名無しの先頭民族さん

ランナーゲイルに期待

 

 

10:名無しの先頭民族さん

激ズブのブライトにスズカの超ハイペースの相手は無理。少なくとも2000ではな

 

 

11:名無しの先頭民族さん

スズカに2000は長…くないのか。弥生賞勝ってるし。

 

 

12:名無しの先頭民族さん

あるとしてもサニーブライアン何某が競りかけてペースを崩した二人をまとめてブライトが差し切るとかでは

 

 

13:名無しの先頭民族さん

まあ無くはないか

 

 

14:名無しの先頭民族さん

見た目あんまり強くなさそうだからなサニーブライアン

 

 

15:名無しの先頭民族さん

でも他に逃げ宣言してるのいないし…。

 

 

16:名無しの先頭民族さん

カギを握るのは逃げウマ娘だろうしな

 

 

17:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカ陣営のインタビュー

『お兄さんにお布団もらったのでよく眠れてます』とのこと

 

 

18:名無しの先頭民族さん

尽くすなぁ、お兄さん…。

いい布団ってけっこう値段すると思うが

 

 

19:名無しの先頭民族さん

なんで布団…?

 

 

20:名無しの先頭民族さん

布団乾燥機に拘るウマ娘とかもいるしな。体調管理の一環でしょ

 

 

21:名無しの先頭民族さん

スンとした顔からお兄さんの話で急にニコニコするの可愛い

 

 

22:名無しの先頭民族さん

お兄さん褒めたら笑顔見せてくれそうで芝

 

 

23:名無しの先頭民族さん

見せてくれたぞ

 

 

24:名無しの先頭民族さん

試したのか……。

 

 

25:名無しの先頭民族さん

ゲート入り始まるぞー

 

 

26:名無しの先頭民族さん

おっと、もうゲートは潜らないか

 

 

27:名無しの先頭民族さん

落ち着いて……るようには見えないけど、まあやる気十分か。

 

 

28:名無しの先頭民族さん

さあ体勢整いました

 

 

29:名無しの先頭民族さん

スタート

 

 

30:名無しの先頭民族さん

やっぱり行ったサイレンススズカ!

 

 

31:名無しの先頭民族さん

そうでなくっちゃ

 

 

32:名無しの先頭民族さん

加速エグいな

 

 

33:名無しの先頭民族さん

お、サニーブライアンが競りかけてく

 

 

34:名無しの先頭民族さん

外からテイエムオーキングも来てるぞ。まさかの逃げ?

 

 

35:名無しの先頭民族さん

まあ自由にさせたらどうにもならないのは弥生賞で確定的に明らか

 

 

36:名無しの先頭民族さん

やばい。逃げウマが追い付けないスピード感見てて楽しい

 

 

37:名無しの先頭民族さん

これ捕まえるならスプリンター連れてこないと無理では…?

 

 

38:名無しの先頭民族さん

確かにあそこだけ1200くらいのレースに見える。

 

 

39:名無しの先頭民族さん

お、二人諦めたか。

 

 

40:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカがリードを広げる!

 

 

41:名無しの先頭民族さん

いや、サニーブライアン上手いぞ。テイエムを風除けに使って脚を溜めてる

 

 

42:名無しの先頭民族さん

風強いしな

 

 

43:名無しの先頭民族さん

あれ、サニーブライアンの手ごたえよくね?

 

 

44:名無しの先頭民族さん

(前の変態すぎる挙動の大逃げを見ながら)

 

 

45:名無しの先頭民族さん

お、おお? サニブ綺麗に抜け出した。

 

 

46:名無しの先頭民族さん

うわああ、逃げろスズカ!?

 

 

47:名無しの先頭民族さん

まさか穴ウマ!?

 

 

48:名無しの先頭民族さん

ワンチャンあるぞ!? (というか他がない)

 

 

49:名無しの先頭民族さん

え。なにそれ

 

 

50:名無しの先頭民族さん

なんか加速したー!?

 

 

51:名無しの先頭民族さん

一番前に差しウマがいたぞ

 

 

52:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカだ、サイレンススズカ!

 

 

53:名無しの先頭民族さん

なにあれ。なにあれ

 

 

54:名無しの先頭民族さん

マジでカブラヤオーかマルゼンスキーでは?

 

 

55:名無しの先頭民族さん

強いわ。これはダービーあるぞ

 

 

56:名無しの先頭民族さん

前が変態すぎただけでサニーブライアン強くね?

 

 

57:名無しの先頭民族さん

>>56フロックでは

 

 

58:名無しの先頭民族さん

確かに展開は良かったけど、あの手ごたえは地力では?

 

 

59:名無しの先頭民族さん

まあサイレンススズカがいなかったら勝ってただろうな。強かったし

 

 

60:名無しの先頭民族さん

偶にある穴ウマだな

 

 

61:名無しの先頭民族さん

くっ、サニーブライアンが勝ったら最前列ウイニングライブだったのに…。

 

 

62:名無しの先頭民族さん

一着を当てると前の席取れやすいシステムはね……面白いんだけどいつも穴狙いで負ける

 

 

63:名無しの先頭民族さん

手堅いとこしか狙わないワイ、まだ前の方になったことない

 

 

64:名無しの先頭民族さん

複勝ワイ、サニーブライアン前の席を確保

 

 

65:名無しの先頭民族さん

何…だと

 

 

66:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカちゃん一点推しは倍率からして容赦のない抽選…。

 

 

67:名無しの先頭民族さん

お兄さんも踊れよ

 

 

68:名無しの先頭民族さん

トレーナーだから多分普通にうまいぞ、お兄さん

 

 

69:名無しの先頭民族さん

はぁー、スズカちゃんくっそ可愛い。トレーナーさん裏山

 

 

70:名無しの先頭民族さん

っぱWinning the Soulはいいぞ

 

 

71:名無しの先頭民族さん

最近、三冠見ないから期待したい

 

 

72:名無しの先頭民族さん

いや3000は流石に無理だろ

 

 

73:名無しの先頭民族さん

>>72だがもし叶ったなら?

 

 

74:名無しの先頭民族さん

>>73その時はトレーナーとの仲を祝福してやろうじゃねぇか

 

 

75:名無しの先頭民族さん

いやお前は何者だよ芝

 

 

 

76:名無しの先頭民族さん

まあ実際、ルドルフ会長とあの人みたいなベストマッチを見るとな…。なんでくっつかないの?

 

 

77:名無しの先頭民族さん

>>76まだ夢の途中だから

 

 

78:名無しの先頭民族さん

あの人たちはさー、周りのために自分を殺しすぎでは?

 

 

79:名無しの先頭民族さん

ライブ中にお兄さん見つけてくっそ笑顔になるサイレンススズカちゃん

【画像】

 

 

80:名無しの先頭民族さん

撮影は……いやこれスクショか。

 

 

81:名無しの先頭民族さん

かわいい

 

 

82:名無しの先頭民族さん

かわよ

 

 

83:名無しの先頭民族さん

語彙力消えた

 

 

84:名無しの先頭民族さん

前「クール系かな」

今「かわいい」

 

 

85:名無しの先頭民族さん

でも他のファンへの感謝もちゃんとする

 

 

86:名無しの先頭民族さん

まあトレーナーへの感謝が大きいのはどのウマ娘も同じだからな

 

 

87:名無しの先頭民族さん

というかお兄さんの方がサイレンススズカちゃんガチ勢では?

なんでほぼ最前列にいるんですかね…。

 

 

88:名無しの先頭民族さん

これは……ファン一号パイセンと同じ空気!

 

 

89:名無しの先頭民族さん

>>88ヤベー奴認定されてて芝3000

 

 

90:名無しの先頭民族さん

まあ無敗の三冠は無理でも、なんかダービーとかグランプリ連覇とか凄い記録作るとなんか納得する。絆がな

 

 

91:名無しの先頭民族さん

未勝利なのにトレーナーとくっつくと「は?」とは思わないでもない。最後の最後で重賞勝ったみたいな感動エピには弱い

 

 

92:名無しの先頭民族さん

ファン一号先輩、というかファル子報われてあげて…。

 

 

93:名無しの先頭民族さん

つまり無敗の三冠ならトレーナーと結婚してもOK?

 

 

94:名無しの先頭民族さん

あんたほどの人が言うなら…。

 

 

95:名無しの先頭民族さん

皐月だけじゃ足りんぞ。サイレンススズカちゃん可愛いからな

 

 

96:名無しの先頭民族さん

ダービーは最低でも取れ

 

 

97:名無しの先頭民族さん

ダービーとればいいのか最低条件なのかどっちだw

 

 

98:名無しの先頭民族さん

無敗の三冠と凱旋門賞取ったら何してもいいぞ

 

 

99:名無しの先頭民族さん

節度と法律は守って

 

 

100:名無しの先頭民族さん

というわけでルドルフ会長に告白してください、元トレーナー

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

300:名無しの先頭民族さん

遂に来たぞ日本ダービー

 

 

301:名無しの先頭民族さん

一番人気:サイレンススズカ

二番人気:メジロブライト

三番人気:ランナーゲイル

 

 

302:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンis何処…?

 

 

303:名無しの先頭民族さん

いやフロックは二度は続かんし。

 

 

304:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカもいるし、勝てるわけない

 

 

305:名無しの先頭民族さん

ハナを奪えない逃げウマじゃ勝てないからな

 

 

306:名無しの先頭民族さん

ワイはサニーブライアンに全部突っ込んだぞ。複勝

 

 

307:名無しの先頭民族さん

>>306芝。でもたしかに二番手くらいに突っ込んでくる可能性はあるか…?

 

 

308:名無しの先頭民族さん

皐月賞前の負けっぷりを見てないから言えるんだぜ

 

 

309:名無しの先頭民族さん

東京優駿は長い直線の2400、高低差のある坂で前の脚が止まるから後方有利だ

 

 

310:名無しの先頭民族さん

どうした急に

 

 

311:名無しの先頭民族さん

過去ダービーを逃げで勝ったのはカブラヤオーとアイネスフウジンだけだ

 

 

312:名無しの先頭民族さん

つまり、サイレンススズカは勝てないってことか……。

 

 

313:名無しの先頭民族さん

というか今日の実況スプリンターやん

 

 

314:名無しの先頭民族さん

>>313どゆこと?

 

 

315:名無しの先頭民族さん

超速の実況が入るけど途中でバテる。初めて聞くと凄いな、と感動するが慣れるとなんか色々気になりだす。特にマイル以上のレース

 

 

316:名無しの先頭民族さん

マイルでも長いのか…(困惑)

 

 

317:名無しの先頭民族さん

いやスプリントレースは本当に凄いぞ。聞いてみて欲しい

 

 

318:名無しの先頭民族さん

おっと、パドックに来たぞ

 

 

319:名無しの先頭民族さん

はえー、サイレンススズカの毛並凄いな

 

 

320:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンは……まあ、なんだろう。よく分からん。

 

 

321:名無しの先頭民族さん

メジロブライトのお嬢様感がたまらん……

 

 

322:名無しの先頭民族さん

本物のお嬢様だからな

 

 

323:名無しの先頭民族さん

今日はサニーブライアンも大逃げ宣言だって

 

 

324:名無しの先頭民族さん

へぇー。いや大逃げ二人はちょっとやばいのでは?

 

 

325:名無しの先頭民族さん

でもサイレンススズカの大逃げってなんかこう、変態だし

 

 

326:名無しの先頭民族さん

普通の大逃げは後方のペースを乱して、粘り勝ちするものだからな。

ハイペースで逃げて、差しと同じ上りで引き離すのは意味不明

 

 

327:名無しの先頭民族さん

つまり逃げて差すということか

 

 

328:名無しの先頭民族さん

意味不明なのにそうとしか言えなくて芝

 

 

329:名無しの先頭民族さん

さてレースだ

 

 

330:名無しの先頭民族さん

やはり逃げるサイレンススズカ

 

 

331:名無しの先頭民族さん

凄い勢いで詰め寄るサニーブライアン。やば

 

 

332:名無しの先頭民族さん

うおおお!? まって、ハナ譲っちゃうの?

 

 

333:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンがハナを奪った!

 

 

334:名無しの先頭民族さん

これは……ワンチャン?

 

 

335:名無しの先頭民族さん

いやこれ共倒れパターンだろ

 

 

336:名無しの先頭民族さん

徐々にペース落とすのかな

 

 

337:名無しの先頭民族さん

多分そう

 

 

338:名無しの先頭民族さん

落とすしかない

 

 

339:名無しの先頭民族さん

おっとサイレンススズカ抜きに、いかない

 

 

340:名無しの先頭民族さん

いかないんかい!

 

 

341:名無しの先頭民族さん

頑張って加速したのにスカされたサニーブライアンちゃんの顔すこ

 

 

342:名無しの先頭民族さん

あ、嘘行ったわ

 

 

343:名無しの先頭民族さん

今度こそ抜きに行ったぁ!? エグいことしやがる

 

 

344:名無しの先頭民族さん

必死で食らいつくサニーブライアンちゃん。涼しい顔で流してるサイレンススズカちゃん

 

 

345:名無しの先頭民族さん

この子のスタミナどうなってるん? ステイヤーでもあんなペースじゃ持たないでしょ

 

 

346:名無しの先頭民族さん

息を入れるのが上手い…とか

 

 

347:名無しの先頭民族さん

実はステイヤーが本職、とか

 

 

348:名無しの先頭民族さん

多分涼し気に見えるだけで必死だぞ

 

 

349:名無しの先頭民族さん

わかる。めっちゃ楽しそうだから余裕あるように見えるだけだと思う

 

 

350:名無しの先頭民族さん

レース好きなんだろうな

 

 

351:名無しの先頭民族さん

うおおおすげえな実況早口、盛り上がっぞ

 

 

352:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカ加速!

 

 

353:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンも追従!

 

 

354:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカがスパート!

 

 

355:名無しの先頭民族さん

シルクジャスト差せー!

 

 

356:名無しの先頭民族さん

急げブライト! 間に合わなくなっても知らんぞー!?

 

 

357:名無しの先頭民族さん

高低差200mの坂!

 

 

358:名無しの先頭民族さん

え、ごめんなんて?

 

 

359:名無しの先頭民族さん

200m!?

 

 

360:名無しの先頭民族さん

試練の坂だ!

 

 

361:名無しの先頭民族さん

なんだその厳しすぎる試練は!? DBかな?

 

 

362:名無しの先頭民族さん

坂を登る!

 

 

363:名無しの先頭民族さん

サイレンスまだ逃げ!

 

 

364:名無しの先頭民族さん

サニーブライアンは伸びが苦しい!

 

 

365:名無しの先頭民族さん

でも粘ってるぞサニーブライアン! すごい根性

 

 

366:名無しの先頭民族さん

後方からシルクジャスト! サニブを差すか!?

 

 

367:名無しの先頭民族さん

あの、前は

 

 

368:名無しの先頭民族さん

サイレンススズカ、ゴール! 無敗の二冠!

 

 

369:名無しの先頭民族さん

二冠おめでとぉ!

 

 

 

370:名無しの先頭民族さん

げっ

 

 

371:名無しの先頭民族さん

えっ

 

 

372:名無しの先頭民族さん

なんかサニーブライアンが凄い嫌な失速

 

 

373:名無しの先頭民族さん

何事

 

 

374:名無しの先頭民族さん

嘘でしょ。脚庇ってね

 

 

375:名無しの先頭民族さん

待って、待って

 

 

376:名無しの先頭民族さん

泣かないで

 

 

377:名無しの先頭民族さん

あ、ああ。担架だ

 

 

378:名無しの先頭民族さん

い、嫌だー!? なんでダービーで!? なんかダービーの怪我多くね!?

 

 

379:名無しの先頭民族さん

>>378それだけ必死だからな

無事でいてくれ

 

 

380:名無しの先頭民族さん

ウイニングライブまでになんか発表あるかな

 

 

381:名無しの先頭民族さん

何か分かれば多分。軽傷なら言ってくれるはず

 

 

382:名無しの先頭民族さん

まあ分からないと素直に盛り上がれないからな…。

 

 

383:名無しの先頭民族さん

【速報】サニーブライアン、軽傷【朗報】

 

 

384:名無しの先頭民族さん

あっぶねぇ!?

 

 

385:名無しの先頭民族さん

よかった

 

 

386:名無しの先頭民族さん

骨にヒビが入ったため、休養し秋の復帰を目指します

 

 

387:名無しの先頭民族さん

ハラハラさせやがって…。

 

 

388:名無しの先頭民族さん

ヒビならまだ良かった。

 

 

389:名無しの先頭民族さん

繋靭帯炎とか言われたらどうにもならんからな

 

 

390:名無しの先頭民族さん

よし、じゃあ無敗の二冠ウマ娘の誕生を祝うか

 

 

391:名無しの先頭民族さん

いや、大逃げで無敗二冠は意味不明だわ

 

 

392:名無しの先頭民族さん

競りかけられても勝ったしな

 

 

393:名無しの先頭民族さん

サニーブライアン、フロックじゃなくね? 強くね?

 

 

394:名無しの先頭民族さん

最終直線での抜け出しを見るに、死ぬ気でやれば2着取れてたと思う。もちろん命が大事

 

 

395:名無しの先頭民族さん

帰ろう。帰ればまた来られるから…。

 

 

396:名無しの先頭民族さん

あの、ブライトの激ズブはどのくらい距離が延びれば治りますかね…。

 

 

397:名無しの先頭民族さん

これでお兄さんとサイレンススズカちゃんも認められるのか…?

 

 

398:名無しの先頭民族さん

三冠取れ。無敗でな

 

 

399:名無しの先頭民族さん

あと凱旋門賞もな

 

 

400:名無しの先頭民族さん

言いたいことは分かるけど、どんどん要求がエスカレートしてて芝

 

 

 

 

 

 

 

 



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霜月の騒乱

誤字報告ありがとうございます。
更新速度を保とうとすると誤字が…(保てるとは言っていない)


 

 

 

 

 なんとなくグラウンドの坂からスズカの走りを眺めていると、寄ってきたのはトウカイテイオー。

 

 

 

「ねぇねぇ、トレーナー。なに黄昏てんのー?」

「黄昏てるわけじゃないが。菊花賞が終わったからな、次のジャパンカップの戦術について考えてたんだよ」

 

 

 

 もっとも、スズカの場合は戦術もクソもないのだが。

 一応超ハイペースと普通のハイペースで幻惑できるようになったとはいえ、基本的にはスズカの好きに走らせるのが一番だ。

 

 

 

「へぇー。というか他の子はいいの? タイキシャトルとか、グラスワンダーとか」

「あの二人はサブとして見てるだけだしなー。というか二人とも順当に強いから、ケガさえしなければ全く問題ない」

 

 

 

「ふーん。割と放任主義だよね、リギルなのに」

「手取り足取り教えるのは最初だけでも十分だろ。あとはまあ、本人の希望に合わせて必要なメニューと目標タイムを提示するのが仕事だ」

 

 

 

 尤も、スズカの場合は見守ってないと不貞腐れるのでアレだが。

 一応最近は勝手にいなくなっても拗ねるだけで、とりあえず誰かしらがいれば泣きださなくなった。

 

 

 

「暇ならボクのメニューも組んでくれてもいいんだよ?」

「教官の仕事だろ。それか担当の。チームが嫌ならルドルフの元トレーナーにでも頼めばいい」

 

 

 

「それはちょっと違うじゃん。カイチョーに認められたいのに、あの人に助けてもらったらカイチョーに手伝ってもらってるようなものだし」

「ふーん。まあ自分でトレーナーを見つけるのはいい心がけなんじゃないか」

 

 

 

「でしょでしょー」

「俺のお勧めはスピカだが」

 

 

 

「え゛っ、あの妙な看板の…?」

「自由なチームだからな。スズカの後輩のスペシャルウィークも入ったが、けっこう楽しそうだぞ」

 

 

 

 ゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレット、スペシャルウィーク、メジロマックイーン。最低限の人数しかいないが、一騎当千の猛者たちである。

 まあ、テイオーが曇りまくった上に無敗の三冠も、無敗のウマ娘にもなれず曇りまくって奇跡の復活……までは良いものの、その後引退に追い込まれるかもだが…。

 

 そう考えるとスズカとテイオーだけクソ重いな…。

 沖野Tのメンタルも不安である。ただでさえあの人、しばらく休んでたのに。

 

 

 

 俺もワキちゃんの脚がぽっきり逝ったら心が逝く気がする。

 なんか本人の満足する方法で円満に秋天を回避できないものか。

 

 

 

「……ねぇ。やっぱりボクのメニューも見てよ」

「えー。リギルはあくまでもおハナさんのチームだし……」

 

 

 

 別にテイオーに不満があるわけではないが。

 もし史実より悪い成績になったとしたら、と思うと夜も眠れないだけである。その点、ワキちゃん時代は気楽だったが……。

 

 

 

 

「ボクの脚が持たないって、キミが言ったんでしょ? 他のトレーナーは褒めるばっかりでそんなこと言ってくれないしさー。ボクは絶対にカイチョーを超えるウマ娘になるんだ! 怪我してたら無敗の三冠なんて無理だし」

 

「なんでケガするって言ったか、覚えてるか?」

 

 

 

 

「『足の関節が柔らかい分、必要以上にバネが効いてて骨に負担が掛かってる』だっけ?」

「そう。パワーじゃなくバネで走ってるから、筋肉を増やせば怪我の確率は減ると思う。ただ、長所である身軽さを消すことになるだろうな」

 

 

 

 ただの予想だが、そう遠くはないと思う。

 全力で走らなければ骨折しないだろうが、その柔軟性にサラブレッドの脆い脚は持たなかった、のだろう。ウマ娘でも大差はないはず。

 

 スズカの場合、幼少期から細心の注意を払って妙な負担が骨に掛からないように走法と全身の筋肉バランスを整えたので多分怪我しにくいはず。あくまでヒト型だから可能なのであって競走馬なら無理な方法である。人間は色々と臨床データも多いし、人の歩容はともかく、馬の歩様までは詳しくない。

 

 

 

 

「で。キミならどうやって勝たせてくれる?」

「……売り込みつよいなぁ」

 

 

「ふーんだ。ボクはカイチョーに追いつくくらいのウマ娘だよ? 当然だってば」

「絶対怪我しないとは言えないぞ。あと理想は柔軟性を保ったまま筋肉量を増やして、必要があれば二の脚として使えることだ」

 

 

 

「そういう方法あるなら早くいってくれない!? ボク、もう色々試しちゃってるんだけど!」

「自分で考えるのも大事なんだよ。むやみやたらに鍛えるから重くなるが、特異性の原則って知ってるよな?」

 

 

 

 普段はこんなんだが、アスリートだし天才肌だ。

 多分知ってるだろうな、と思ったがやはりあっさりと頷く。

 

 

 

「アレでしょ、ジャンプする筋肉はジャンプしたときに一番鍛えられるってやつ」

「そう、だから推進力を得るための筋肉だけ徹底的に鍛える。そもそもトウカイテイオーの走りはある種完成されてるんだから余計なものくっつけても仕方ないしな。で、サポーターで可動域を制限して走る練習をするだろ。でもサポーターで関節弱くしたら元も子もないからその辺は調整だが」

 

 

「うげぇ……絶対きつそう……」

「だろうな。普通にやれば勝てる皐月賞、ダービーで負けるかもしれない」

 

 

 

 

 そこはかなり重要なポイントである。

 トウカイテイオーは無敗の二冠ウマ娘になれるだけの才能……運命を持っている。サイレンススズカがクラシックで勝てなかったのと逆、勝てない方が問題だ。

 

 

 

「――――でも、勝たせてくれるでしょ?」

「………約束はできないぞ」

 

 

 

「ま、いいよ。じゃあおハナさんに頼んでくるから」

「……お前さ、軽く言うけどリギルがほぼ毎年一人しか獲らないの知ってるだろ?」

 

 

 

「スズカがいるじゃん」

「まあ、そうなんだが」

 

 

 

 タイキが入った後、いろいろあってスズカもスカウトされた。

 選抜レースを大差でぶっちぎって、断固としてスカウト拒否の姿勢だったのを穏便に収めるためにセットで拾ってくれたのだが。

 

 

 

「つまり、同じ方法で余裕でしょ」

「無駄に火種をまき散らさないでくれるか!?」

 

 

 

 ぶっちぎりで勝ったウマ娘が新人トレーナーを指名するのはままあるとはいえ、軋轢が凄いんだからな!?

 

 

 

「えー、ダイジョブだよ。無敗の三冠トレーナー?」

「不安しかない……おハナさんに俺からも頼むしかないか……」

 

 

 

「そうそう、それがいいよー」

「お前、最初からその気だったな……」

 

 

 

 とはいえ本気で困ったことになる前におハナさんに先に相談しておくべきだ。

 スズカが無敵すぎてやっかみを買いまくってるのは間違いないのだから。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「――――はぁ。まさか何処のスカウトにも応じなかったのを、貴方が連れてくるとはね」

「いやぁ、ははは……」

 

 

 

 まあ、シンボリルドルフに頼まれればこっちに来ただろうからおハナさんも何が何でも獲りたいというわけではなかったのだろうが。……正直、自由人気質なトウカイテイオーとおハナさんの指導の相性は謎だし。

 

 

 

 

「まあいいわ。ルドルフもああ見えて喜ぶだろうし」

「……あー、まあ直接的には伝えなさそうですね」

 

 

 

 実際はめっちゃ気にしてるし、ルドルフもテイオー大好きなんだろうなと思ってるが。

 

 

 

「伝えたら調子に乗りそうだしね」

「それについては全く同意です」

 

 

 

 有頂天になって何かやらかす姿が見える…。

 ともかく無事にトウカイテイオーのリギル入りが決まったところで。

 

 

 

「とりあえずタイキは海外挑戦するから私がサポートするわ。グラスはもう本格的に見てもらうから」

「了解です。とりあえず朝日杯を目標に、本人希望でダービーを目指す形ですかね」

 

 

 

 

 グラスワンダーの場合、既に夏から見ているので大きな変更はない。砂浜での特訓で力を逃がさない走法を身に着けつつあるので、多少は怪我しにくいと信じる。

 しかしスズカは…。

 

 

 

 

「すみません、おハナさん。一つだけ相談が……」

「何かしら?」

 

 

 

 

「スズカのことなんですが…。一応、ジャパンカップから疲労を見て有マ、来年はドバイを考えていて。最終的には凱旋門からBCを目指そうかなと」

「………言葉だけ聞くと呆れるような予定だけど、まあ国内は敵なしだものね」

 

 

 

「とりあえず海外のダートに慣れさせたいんですが、何かいい方法はないかなと」

「――――もしかしなくても、設備的な話かしら」

 

 

 

 そう、ウチの理事長なら話せばなんか用意してくれるんじゃないかなと。

 幸いにもトゥインクルシリーズは文句なしの国民的娯楽であるので、競馬よりも予算は潤沢。国際的なレースともなれば国と国の威信のぶつかり合いとなる。

 

 そんな中、無敗の三冠ウマ娘であるサイレンススズカの海外挑戦はあまりにも大きい。勝てるのではという期待もあると同時に、負ければ日本のトゥインクルシリーズ自体が軽く見られかねない。

 

 

 

 

「……スズカの脚は、そう長く無理はさせられません。できれば来年いっぱいでレース自体の少ないドリームトロフィーリーグに移籍させたいんです」

 

「まあ、そうね。海外制覇すれば誰も文句を言えないでしょう」

 

 

 

 

 それは間違いない。あのルドルフでさえ成し遂げられなかった海外遠征に勝利できたのなら、少なくとも国内においては並ぶもののないウマ娘といえる。

 

 

 

 

「まあ、掛け合ってみるわ。少なくともそれなりに人脈はあるし」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 国内のダートと海外のダートでは砂と土でほぼ別物。

 海外遠征が殆どまだ一般的でないことから、これまでは用意できなかったが。無敗の三冠ウマ娘という機運がある。

 

 

 

 ただ、それにはやはり結果を残す必要があるだろう。

 ジャパンカップ――――海外ウマ娘との決戦での、勝利という結果を。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「あ、あのー、スズカさん。併走とかって……」

「いいわよ」

 

 

「いいんですか!?」

 

 

 

 

 

 スペシャルウィークはサイレンススズカのダービーでの走りに心打たれて少し予定より早めに上京した、編入ウマ娘である。その走りは将来を期待させるのに十分なものであり、学力はともかくとしてトレセン学園生徒としては優等生と言っていい。

 

 のだが、同室が憧れのスズカさんだったのでワクワクしていたスペシャルウィークは、そのスズカさんの実態に少しばかり驚くこともあった。

 

 

 

 まず一つ目は、スズカさんは幼馴染のお兄さんにべったりだということ。

 隙あらば一緒にいるし、授業が終われば突撃するし、寮に戻るときは送ってもらって、玄関からは電話しながらだし。部屋に戻ればお兄さんの部屋から貰ってきたという枕を抱いてご満悦だし。

 

 

 こうして思ったのは――――スズカさん、実は可愛い…。

 

 

 最初はお人形さんみたいだし、綺麗だし、話しかけにくかったのだけれどけっこううっかりしていたり、布団から出たがらなかったりと抜けているところが出てきて。

 

 

 

 仲良くなれたかな、と思いつつもやっぱりその神秘的な雰囲気もあって併走なんかは凄く頼みにくかった。のだが、すごく楽しそうに走るスズカさんはやっぱり走るのも大好きみたいで。

 

 

 

 

「ふっ――――!」

「む、ムリィ―――!?」

 

 

 

 

 コーナリングで差をつけられたり、そもそもスタートで差を付けられすぎたり、上がり3ハロンのタイムでも負けたりと色々散々だったりもしたけれど―――。

 

 

 

「いや、それでいい。スぺ、持ち味を活かせ! お前の末脚なら十分に勝負ができる! ……今回はまあ、相手が悪いが!」

 

 

 

 トレーナーさんはそう言って、根性を鍛える階段トレーニングを提案してくれたり。

 後はスズカさんのお兄さんも少しアドバイスしてくれた。

 

 

 

「まあこれはちょっと特殊な例ですけど……スズカの脚、どう思います?」

「ええっと……細くて綺麗だなって」

「トモの張りもいいし、何より無駄がない。左右の差も殆どない。芸術品だよな」

 

 

 

 なんとなくトレーナーさんの感想と比べて恥ずかしくなった私に、スズカさんのお兄さんは言った。

 

 

 

「今回はスペちゃんも沖野さんも正しい。走るため、勝つために徹底的に体調を調整してる。スズカの食事は俺が設定して、学食に依頼して作ってもらっている。晩御飯はまあ、交代でやってるけど」

 

「スぺちゃんはその……食べ過ぎかな、って」

 

 

 

「はぐっ!?」

「うっ、まあ確かに」

 

 

 

 そういえばスズカさんがニンジンをつまみ食いしているところとか見たことないかも…。スイーツも食べないし、あんまり好きじゃないのかなとは思ってたけれど。

 

 

 

 

「正直、管理主義が良いとは言いませんが体調管理だけはしっかりした方が良いですよ。スズカみたいに好みが単純じゃないと大変だとは思いますけど。結局ストレス溜めるくらいなら逆効果ですし」

 

 

 

 なるほど、確かにスズカさんはお菓子よりも…。

 

 

 

「走っていればご機嫌なんで」

「お前さんがいればご機嫌だもんな」

 

 

 

 なんとなく男二人で見つめ合い、それからスズカさんの方を向いていった。

 

 

 

「「正解は?」」

 

「えっと、どちらかなら――――お兄さんですね」

 

 

 

 ですよね。

 なんとなく納得してトレーナーさんと頷き合っていると、お兄さんは本気で驚いたのか天を仰いでました。

 

 

 

「う、ウソだろ……朝から晩まで毎日走ってるのに……」

「お兄さんは1日24時間は一緒にいたいですけど、ずっと走るのは少し無理ですから」

 

 

 

 透き通った笑みでそんなことを言うスズカさんだけれど、どうみても本気なんだろうなぁ。

 

 

 

「………」

「……愛されてるねぇ」

「冗談は髪型だけにしてくださいよ先輩」

 

 

 

「あ、でもお兄さんがいてくれるならやっぱりいくらでも走りたいですね」

 

 

 

 結局走ることは走るんですね…。

 

 

 

 

「あ、そうだ! スズカさん、ジャパンカップ応援に行きますね!」

「ええ、ありがとうスぺちゃん」

 

 

 

「ジャパンカップといえば、来るんだろ? 王室縁のウマ娘が」

「……ええ、そうですね。――――ピルサドスキーが」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ピルサドスキーとは。

 パドックで馬っけ(勃起)をだし、オスのアレをテレビで大公開した馬である。もともと日本で種牡馬になることが決定しており、それにふさわしい戦績もあって一番人気だった。うまだっちするまでは。

 

 牝馬はエアグルーヴしかいなかったので、多分エアグルーヴに馬っけを出し、そしてレース展開としてもエアグルーヴを追いかけるような形のまま勝利。勃起した変態に追われたようなもんである。毎度不憫な目に遭ってるなエアグルーヴ。

 

 

 ちょうど牡馬に秋の天皇賞で勝利した直後で強さを証明していたエアグルーヴに勝利したことでその強さと、うまだっちを印象付けた馬である。

 五本足走法なんて言われることもある。

 

 

 

 

 

 つまり、ジャパンカップにはパドックで発情するピルサドスキーが出没するはずなのだが……どうなのだろうか。見たいような見たくないような。ちなみにウマ娘的にはファインモーションの姉にあたる(とされている)。

 

 

 されているのだが。

 

 

 

 

『ハァイ、素敵ねそこのレディ。このレースの後、食事でもどう?』

「………少なくとも、その声を掛けるのもレースの後にでもしていただきたいですが」

 

 

 

 とりあえずエアグルーヴがやっぱり琴線に引っかかったらしい、なんか独特の雰囲気のお嬢様がいた。めっちゃ嫌そうなエアグルーヴがなんか珍しく見える。

 

 うん、なんというか思ったより全然マトモだった。

 これでめっちゃ勃起してるアレな恰好のアレなウマ娘だったらどうしようかと思ったので。

 

 

 

『つれないね。けどそれでこそ“女帝”と言われるだけのことはある、好みだね。……なら、私がレースで勝ったらどうだい』

 

 

 

 と、なんかスズカがエアグルーヴの方に向かって歩いていく。

 もしかして助けに…?

 

 スズカの成長に感動していると、スズカはおもむろにエアグルーヴの隣に立って言った。

 

 

 

「私の方が速いです」

(喧嘩売りに行った―――!?)

 

 

 

 

 いや助けるためなんだろうが。口下手か…。

 喧嘩売った割には闘志の欠片もないし。

 

 

 

 

『へぇ、噂の日本の無敗の三冠ウマ娘という奴か。どんな猛者かと思ったが、あのシンボリルドルフとやらと比べると劣るな』

「そうですか」

 

 

 

 しかも挑発され返しているし。

 意にも介さぬ、とばかりに気にした様子のないスズカにちょっと毒気を抜かれたのか、困った顔をしたピルサドスキーは糠に釘というか、闘志が全く感じられないスズカをちょっとつついてみることにしたらしい。

 

 

 

『それでは日本のレベルが心配になる』

「はぁ」

 

 

 暖簾に腕押し。

 手ごたえ無し。完全にスルー態勢のド天然スズカに、一応王族としてそれなりに対人経験があるはずのピルサドスキーも困り顔である。

 

 

 

『………そこの麗しの女帝陛下、なんというか、この娘がやる気になるような何かないのかい? ちょっとこれだとせっかくレースに来たのに心配になる。それにここらで挑発に耐性を付けるのも悪くはないだろう』

「レースになれば問題ないでしょう。どうしてもというのなら、あそこのトレーナーに頼めば良いかと」

 

 

 

 

 いやちょっとエアグルーヴさんキラーパスやめて!?

 スズカにやる気出させるのはご褒美が……。

 

 

 

 

『うーん、正直あんまり弱そうな相手は好みじゃない。気を使わないといけないだろう?』

「……お兄さんは弱くないですよ」

 

 

 

 あ。

 ちょっとスズカから剣呑な気配が。

 

 エアグルーヴがジェスチャーで止めるように合図しているが、まあやる気が無さそうな(誤解だが)スズカより怒った方と戦いたいと思ったのだろう。目でこっちに謝罪しつつも、全力で踏み抜いた。

 

 

 

 

『じゃあもし私が勝ったら、君のトレーナーも大したことないということかな……』

「…………」

「いや待てスズカ、ちょっと待て」

 

 

 

 

 耳を絞ったまま、無言でゲートに向かうスズカ。

 慌ててエアグルーヴが宥めようとするが聞く耳持たず。流石にもうここまでくると声を掛けに行くのも難しい。

 

 

 

 いや、あれで冷静にレースやるの無理では…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――サイレンススズカ! なんというハイペース! 序盤から一気に差を開いて先頭! まだ開く! 一体何バ身開いているのか――――本当にこれで持つのか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





歩容:人含む動物の歩き方
歩様:馬の歩き方




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疾走、ジャパンカップ!

誤字報告いつもありがとうございます。


 

 

 

 

 

 

 

―――――心を占めていたのは怒りだ。

 

 

 誰に何を言われようとも変わらない、私たちの走り。

 それを乱しそうになる自分への怒り。

 

 

 

 

(私の走りは、お兄さんと作ったものだから――――)

 

 

 

 勝つことこそが、証明になる。

 掛かりそうになる心を抑えつけ、全て走るための力にする。

 

 なんとなく、挑発して全力でこさせようという意図も分かってはいる。けれど、それはそれとして。

 

 

 

 

(私とお兄さんだけの景色――――見せてあげます)

 

 

 

 

『――――さあ、いよいよ始まります。GⅠ、ジャパンカップ。1番人気はやはりこのウマ娘です! ――――6戦6勝。全てのレースを大逃げで勝利してきた異次元の逃亡者、サイレンススズカ! 今日は果たしてどんな逃亡劇を見せてくれるのか、また参戦した海外勢との熱戦にも期待です! 日本の総大将として、見事な走りを見せてもらいたいところ!』

 

 

『2番人気はこのウマ娘! GⅠを5勝、凱旋門賞2着2回! ピルサドスキー! 果たして海外ウマ娘の実力を見せつけるのか!?』

 

 

『3番人気は秋の天皇賞を制覇した女帝、エアグルーヴ! 10戦7勝、GⅠを2勝した樫の女王は、再びオークスの舞台でその力を見せつけるのか!?』

 

 

 

 

 

『さあ、ゲートに入って体勢整いました。――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 ゲートに漂うのは、重苦しい緊張感。

 かのシンボリルドルフはその威圧感故に併走すら嫌がるウマ娘が続出したとされているが、GⅠを勝つほどのウマ娘でも辛いものなのか―――その答えは分からないものの、同じ無敗の三冠ウマ娘であるサイレンススズカの威圧に、凱旋門賞2着すら経験したピルサドスキーでさえ背筋に冷たいものを感じていた。

 

 

 

 

(――――全く、性格が変わりすぎだろう!)

 

 

 

 来日前にレース映像を見た限りでは完全に気性難ウマ娘。無敗の三冠ウマ娘になり、やる気を失っているのかと思いきやとんでもない。

 レースの時だけ研ぎ澄ました牙を剥く、猛獣……怪物……魔物とでも言うべきか。

 

 

 

(麗しの女帝陛下といい、この国のトゥインクルシリーズも最高だな―――ッ!)

 

 

 

 

 ゲートが開き、真っ先に飛び出したのはサイレンススズカ。冗談のような加速で、スプリンターの如く飛び出して行く。いや、“ような”ではない。もはやスプリンターと遜色がないようにしか見えない。

 

 

 

 

『――――これが、私たちだけの景色!』

領域(ゾーン)だと――――!?)

 

 

 

 

 

 誰もいない草原。

 果て無き星空に輝くただ一つ、孤独な星。

 

 その星に向けてサイレンススズカが疾走する。光の尾を引く流れ星のように。

 

 

 

 ごく一部のウマ娘が到達する一つの頂。

 卓越した走りと想いが周囲に見せる一つの幻想。無論、欧州中距離の頂点を競ってきたピルサドスキー自身も出した経験、出された経験がある。所謂“勝ちパターン”である。

 

 

 自分の得意とする形だからこそ、周囲に風景を幻視させるほど圧倒することができる。最終直線で先頭に迫るとか、先頭で終盤のコーナーに入るとか、厳しい条件があるのが常だ。

 

 

 

 

 それを、こんな序盤で。

 序盤の時点で既に勝ちパターンがある、という恐ろしすぎる現実に笑みがこぼれる。

 

 

 

 

(そうだ。私はこれと――――こんなウマ娘と()りたかった!)

 

 

 

 

 ゾーン自体に周囲を委縮させる効果は(基本的に)ない。

 ただ、ゾーンが発動しているということは発動者がベストな走りをできているということだ。良い走りがゾーンを見せるのか、ゾーンによって最高の走りが出るのか、どちらが真実かは分からない。だが、ゾーンを見せられるというのは敗北を意識させる。

 

 

 

 

 銘を付けるのならば、<Silent Star>。

 限界以上の加速を得たサイレンススズカに追従できるウマ娘は無く――――逃げウマ不在の後続が惑う中、エアグルーヴとピルサドスキーが飛び出す。

 

 

 

 

(掛かり気味、だから垂れるだろうなど。そんな希望的観測が通じる相手ではない!)

(同感だな、女帝陛下! ここで行かなければ勝機など無い!)

 

 

 

 

『―――――サイレンススズカ! なんというハイペース! 序盤から一気に差を開いて先頭! まだ開く! 一体何バ身開いているのか――――本当にこれで持つのか!?』

 

 

 

 猛追するエアグルーヴとピルサドスキーも意に介さず、7バ身以上は引き離してなおも加速するサイレンススズカ。

 

 もし此処に通常の大逃げウマ娘がいれば、それさえ引き離して先頭に立つサイレンススズカがいただろう。それほどまでの走りに歯を食いしばってペースを調整するエアグルーヴと、それをマークするピルサドスキー。

 

 

 

 

(くっ、いいように使ってくれる!)

(何分この国に慣れていないものでね! 便乗させてもらう!)

 

 

 

 

 恐らくは対策を立てているだろう、サイレンススズカに詳しいエアグルーヴが差しに行くのに合わせてまとめて差し切る。一番可能性のありそうな戦術を取るピルサドスキーだが、エアグルーヴからすれば失笑ものである。

 

 

 

(あんな暴れウマを相手にする想定などしているものか! せめて大人しくしているスズカならやりようもあったものを!)

 

 

 

 

 基本的にスズカのたわけトレーナーはスズカの健康を第一に考えている。だから、スズカが望まなければ無茶などさせないだろう。独りでのタイムアタックを楽しんでいるところを一息に差す。それくらいしなければスズカには勝てない。

 

 だが、離されすぎれば差す以前の問題だ。

 

 

 

 

『サイレンススズカが先頭で1000mのタイムは―――――ご、56秒4! これは本当にオーバーペースではないのか?! 先行した二番手エアグルーヴまでおよそ10バ身くらいは離れているでしょうか!? ぴったりマークしているピルサドスキー、そこから更に10馬身ほど離れてツバサシンフォニーらが固まっています! バブルドムフェローは5番手! シルクジャストは最後方2番手!』

 

 

 

 

『さあサイレンススズカ、向こう正面の中間点を通過していく! ここで詰め寄ってくるのはエアグルーヴ! エアグルーヴだ!』

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 いつもの楽しそうな様子は鳴りを潜め、不気味な沈黙とともに走るスズカに詰め寄る。

 極端な大逃げ策は、バ群を嫌うから。普段の性格からして恐らく間違いでないその推測が当たっていれば、詰め寄られたスズカは本来の力を出せないはず。

 

 スパートの力を残す余力はない。

 スズカに張り付き、スリップストリームで僅かでも回復できなければ勝機などない博打に打って出たエアグルーヴはしかし、大欅の向こうを回ったところでスズカが踏み込みを替えたことに気づいた。

 

 

 

 

 

『―――――誰にも、譲らない…っ!』

(領域だと―――!?)

 

 

 

 

 スタートの時に見たものとほぼ同一。

 やはり星空が広がるだけの光景にわずかな違和感を覚える。

 

 恐らくは領域の中心にある孤独な星の光が強くなっている――――。

 

 

 

 

(二連星か)

 

 

 

 答えを得たのは、すぐ背後にいたピルサドスキー。

 領域で会話できることがあるのかすら不明なので、本当にそうなのかは不明だが。

 

 

 

 

(やれやれ、なんとも情熱的だ。こうまで一途でなければ、私もアプローチしたいところだが)

(言っている場合か。もはやどうにもならんぞ)

 

 

 

 

 勝負であるから、死ぬ気で食らいつく。

 が、それはそれとして状況が絶望的すぎた。

 

 恐ろしいことにあのスズカは超ハイペースにしておきながら『自分は脚を溜めて』『息を入れて』『今まさに加速しようとしている』のである。

 

 

 

 

 

――――<Silent Stars>

 

 

 

 二連星を抱きしめ、碧い輝きを纏ったスズカが加速する。

 恐らくはスタートで加速し、詰め寄られるまでの時間が長ければ長いほど息を入れて力強く踏み込む領域。

 

 2400のレースの終盤まで詰め寄れなかった今、その加速は“逃げて差す”と言われるに相応しいものとなっている。

 

 

 

 

 

『さあ大欅を越えて―――――サイレンススズカがスパート! エアグルーヴ届かないか!? しかしその後方からピルサドスキーだ、ピルサドスキーが来た!』

 

 

 

 

 

(私にも意地がある! このまま終われるものかよ!)

 

 

 

 

『ピルサドスキー、凄い脚だ! エアグルーヴを一気に交わして二番手! だが差が縮まらない!? ピルサドスキーの伸びが苦しいのか!?』

 

 

 

 

 前、およそ5バ身くらいだろうか。

 超ハイペースでありながら平然と加速する栗毛に、笑い出したくなるような気分になる。

 

 

 

 

(ハハハ、このペースでその加速だと!? どんな脚をしているんだ!)

 

 

 

 

 スローペース、せめて平均ペースであればまだ追いすがれたかもしれない。

 だが超ハイペースで磨り潰されたスタミナが、重く鈍い脚が、苦しい呼吸がそれを許さない。欧州では、いや世界でも類を見ない絶対的で、孤独な走り。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、サイレンススズカだ! やはり無敗の三冠ウマ娘は強い! サイレンススズカ、圧勝で今ゴールイン! 2着はピルサドスキー、3着エアグルーヴ!』

 

 

 

 

『タイムは――――2分20秒6! レコードを1秒以上縮めての勝利、これは……世界レコードです!』

『2着のピルサドスキーも従来のレースレコードを更新しています。凄まじいレースになりましたね…』

 

 

 

 

 

 レースを終え、大歓声に――――というか、己のトレーナーに向けて手を振ってはにかむサイレンススズカに近寄る。

 降参のジェスチャーで手を挙げながら向かったピルサドスキーに、サイレンススズカはちょっぴり自慢げに微笑んだ。

 

 

 

「これが、私とお兄さんの景色です」

「参ったよ。後で改めて彼にも謝罪させてもらう」

 

 

 

「はい」

「……いやしかし、あれ程のトレーナーになるとむしろデートでも頼んでみたいな」

 

 

 

「えっ」

「付き合っている、というわけでもないんだろう?」

 

 

 

 ちょっぴり意地悪く微笑むピルサドスキーに、スズカはムッとした顔を見せると言った。

 

 

 

 

「……ダメです。お兄さんは譲りません」

「だろうね。まあ、女帝陛下よりは先着できたことだし、ダメ元でデートでも頼んでみるとしよう」

 

 

 

 

 

「……デート」

 

 

 

 なんとなく観客席の方に視線を向けるスズカに肩をすくめ、ピルサドスキーもウイニングライブの準備に向かう。

 

 

 

 

「まあ、引退レースとしては上出来かな。勝てこそしなかったが――――自慢になる敗北、というのもあるようだ」

 

 

 

 レースは欧州の方が優れている、と思われているし欧州の人間にはレース発祥の地としてのプライドがある。

 だが、そこに風穴を開けかねない化け物が……いや、夢の存在が生まれた。

 

 

 

 一人のトレーナーと、一人のウマ娘が願った理想のカタチ。

 

 

 

 

 

「勝てよ、サイレンススズカ」

 

 

 

 

 敗者すらも夢を賭けたくなる、そんな圧倒的なウマ娘に出会って。

 欧州のウマ娘たちが右往左往する姿を想像してピルサドスキーは穏やかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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師走の期待 / 有マ人気投票掲示板

掲示板で嵩増し……上げ底……
オマケで掲示板も入ってます


 

 

 

 

 

 

「お兄さん」

「ダメ」

 

 

「走りたいです……」

「ダメ」

 

 

 

 レースを終えたスズカは褒めて欲しそうにしていたのだが、兎にも角にも学園から持ち込んだ最新機器で脚の疲労を抜くための処置をし――――ウイニングライブを終えてランニングしたそうなスズカを引きずって車に乗せ、寮に送り届けたのだが。

 

 

 

「じゃあ添い寝して下さい」

「寝言は寝て言え」

 

 

 

 甘えモードに入ったスズカ、というかワキちゃんは尻尾をこちらの腕に絡ませて付いてこようとするため、女子寮の玄関前で押し問答を繰り広げ。なんとなく自主練から帰ってきたウマ娘たちの「あ、またやってる」みたいな生暖かい目で見られて仕方なく折れた。

 

 

 

 

「わかったよ、何か希望聞いてやるから今日はもう休め」

「じゃあ添い寝してください」

 

 

 

「……今日だけな」

「今日の私の走り、添い寝一日分だけですか?」

 

 

 

 

 じとー、と視線を向けてくるスズカに溜息をひとつ。

 なし崩し的に部屋に居つこうという魂胆が……あるかどうかは知らないが、結果的にはそうなりそうな気はする。

 

 この子の気持ちがただの依存なのか、淡い恋心なのかは分からない。

 だが、それを知るためには俺も覚悟を決めなくてはならないのかもしれない。

 

 

 

「………何日がいいんだよ」

「えっと。1カ月くらいでしょうか……」

 

 

 

「嫌だ。有マでまた延長する気しかないだろう。せめて半分」

 

 

 

 というかひと月も同じ部屋で暮らしたら襲うぞ。

 なんなら一日でも勘弁してほしいのに。

 

 

 

「じゃあ、二週間ですね」

「……毎日ハグしてやるから減らせ」

 

 

 

「……一週間」

「頭も撫でるぞ」

 

 

 

「ウソでしょ……お兄さん、それは基本セットじゃ……」

「そんなセットは無い。三日間ならハグして頭撫でて添い寝まであるぞ」

 

 

 

「………じゃあ、ハグまででいいです」

「一週間か………」

 

 

 

 

 ジャパンカップの代償が大きすぎる…。

 仕方ないので車にスズカを乗せ、走ること数分。家に到着するとスズカが合鍵で上がり込み。勝手知ったる人の家とばかりに冷蔵庫を物色し始める。

 

 

 

 

「お兄さん、またカレー食べたんですね……」

「男の一人暮らしの夕食はカレーしかないんだよ」

 

 

 

 だって作るの面倒だし。

 スズカのために料理する時は真面目にやるが、スズカが学食で晩御飯を済ます時に備えて自分用のカレーは用意してある。

 

 

 

「……お兄さん、いつか身体を壊しますよ」

「大丈夫だ、多分インド人よりはカレー濃度低いから」

 

 

「ウソでしょ……インド人をなんだと思ってるんですか。というか濃度って……」

 

 

 

 言いながら食材を選んでいくスズカだが、どうやらオムレツか何かを作るつもりらしい。仕方ないので横でサラダの用意を始める。

 

 

 

「お兄さん、卵ください」

「はいよ」

 

 

 

 卵を手渡すと繊細な力加減で打ち付けて丁寧に割っていく。

 スズカなら指の力だけで割れそうだな、と阿呆なことを考えながら野菜を切っているとスズカが調味料の方に目線をやった。

 

 

「お兄さん」

「はいはい」

 

 

 

 どうせ砂糖である。ワキちゃんは甘い卵が好物なのだ。

 ちょっと塩を渡したらどうなるか気にならないでもないが、多分自分に返ってくるので大人しく砂糖を渡して。

 

 

 

「~♪」

 

 

 ご機嫌で鼻歌……ぴょいっとはれるやを歌っているスズカを見てなんとなく牛乳を渡す。オムレツに入れるとちょっとなめらかになるので偶に牛乳入りも食べたくなる。

 

 

 

「スズカ」

「はい」

 

 

 

 そんなわけで隠し味に牛乳も投入され、手際よく完成したオムレツを綺麗にひっくり返す。こんなこともあろうかとスズカの分まで予約炊飯していた米(来なかったら冷凍するつもりだった。決してスズカを連れ込むつもりだったわけではない)をよそう。皿を並べ、スズカがケチャップでハートマークを作るのをなんとなく眺めながらスプーンを用意。

 

 

 

「お兄さん」

「ん?」

 

 

 

「お米、多いですね」

「……そうか? 後で沖野先輩と男祭りを開催しようと思ってたからな」

 

 

 

「………ウソでしょ。なんだかすごく不穏な名前のような…」

「タコパでもいいぞ」

 

 

 

 確かにその名前は無い。

 咄嗟に誤魔化そうとしたからとはいえ、あらぬ誤解を受けかねない。

 

 

 

「たこ焼きはオカズですか…?」

「………オカズだろ!」

 

 

 

 いやタコパに大量の米はない。無いな…。

 せめてお好み焼きなら………やっぱり関西人じゃないから無理だな。

 

 うどんはおかずやぁ~↑ と脳裏にタマモクロスの声がしたような気がするが多分気のせいだ。 

 

 

 

「そうですか」

 

 

 

 何かを察したように頬を緩めたスズカがソファの距離をぐっと詰めてきて。そのまま肩に寄りかかってくる。

 

 

 

 

「食べにくいんだけど」

「…こうしたいんです。ダメですか…?」

 

 

 

 

 ダメではない。ではないのだが…。

 サラサラした髪が腕に当たるし、なんか甘い匂いはするし。

 

 

 

「ケチャップ付くぞ」

「付けたらちゃんと洗って下さいね?」

 

 

 

 ……コイツ、風呂にまで一緒に入る気か。

 流石にそれはアウトだ。絶対ない。

 

 

 

 

 なんとか食事を邪魔しようとじゃれついてくるスズカをやり過ごし、しっかり鍵をかけて風呂に入り。風呂から電話しようとするアホからスマホを没収して過ごすこと暫し。

 

 

 

「お兄さん、どうですか?」

 

 

 

 やっぱり白と緑のパジャマ――――何故か俺の衣装ケースから取り出したやつ――――を着たスズカがくるりと回ってアピールする。

 

 

 

「可愛いけどさ……なんでそこに入れてるのさ」

「お兄さんの匂いが付くので」

 

 

「………」

「あと、お泊りグッズです」

 

 

 

 匂いつけるのがメインになってない?

 ちょっと疑惑の視線を投げかけてみるが、大して気にした様子のないスズカに仕方なく布団を被る。

 

 

 

「ああっ、お兄さん待ってください」

「歯は磨いたか? トイレはOK?」

 

 

 

「はいっ」

 

 

 

 ベッドに飛びこんだかと思うと、スルっと胸元に潜り込んでくる謎の熟練技。約束した通りにハグしてやると、嬉しそうに抱き返してきて。甘える時の癖で顔を胸に擦り付けてくる。

 しかしこうなればこちらのもの。頭を撫でてとろんとしてきたところで背中を優しく叩いてやればすぐ眠りに落ちる。

 

 穏やかな寝息を立て始めたスズカの寝顔は昔と変わらず。

 そのくせ、女性らしくなってきた身体は妙な色気があるので我ながらよく耐えていると思う。胸はないのに。

 

 

 

「胸があったら危なかったな…」

 

 

 

 見た目だけならアドマイヤベガとかが好きである。

 まあ胸があるスズカは何か違うと思うので、スズカはB70気をつけてください――――ワキちゃんは微妙にスズカより身長の発育が遅いのでもっと細いかもしれないが。練習のしすぎで発育が遅れたのか?

 

 

 

 と、今日のスズカは寝相が悪いらしい。

 脚を絡めてきたかと思うと、ギッチリ締め上げてきた。

 

 

 

「いでででっ!? やめろ、締まるっ!?」

 

 

 

 中身が出る…っ。

 寝ているから言っても仕方ないのだが、柔らかな脚の感触とウマ娘の怪力が合わさり天国と地獄。ついでにほぼない胸の感触も密着すると……。

 

 

 

 

「こ、こいつ下着付けてないな……」

 

 

 まあ要らない……のか?

 いややめよう。これ以上考えてはいけない。あらかじめ手は打っているとはいえ、こうまで無防備だとこっちにも雄の本能とか三大欲求とかがあるのだ。

 

 ひとまず寝る前にスマホでネットを開き。

 真面目なことを考えるとする。そこには有マ記念の第一回ファン投票中間結果―――2位のマーベラスサンデーに大差で1位を獲得したサイレンススズカの文字が。

 

 

 

 サイレンススズカ、マーベラスサンデー、エアグルーヴ、シルクジャスト、マチカネフクキタル、メジロドーベル、タイキブリザード。このあたりが有力だろうか。

 

 

 

「まあ、スズカが一番だよな」

 

 

 

 一応ジャパンカップ前の中間結果ではあるのだが、無敗の三冠は伊達ではない。ジャパンカップの5バ身圧勝劇もあり、菊花賞で3000のワールドレコード保持者であることもあり、グランプリもサイレンススズカの独壇場が期待されている。

 

 

 

 

 

――ー――ー

 

 

 

 

 

【無敗】サイレンススズカ、有マ記念出走について語るスレ【予想】

 

234:名無しの先頭民族

ジャパンカップ激走のサイレンススズカ陣営、有マの出走は体調を見て判断

 

 

235:名無しの先頭民族

>>234 JC見れなかったワイ、有マの日に有給入れて絶望

 

 

236:名無しの先頭民族

春は弥生、皐月、ダービーで3レース。もう秋は神戸新聞と菊花賞とジャパンカップで3レース走ってるからな。

 

 

237:名無しの先頭民族

一応怪我はないらしいけどな

 

 

238:名無しの先頭民族

>>236 たった3レースだろ?

 

 

239:名無しの先頭民族

あの走りじゃな……まあ心配になるのもわかる

 

 

240:名無しの先頭民族

実際どうなの? トレーナー知らんから良くわからん

 

 

241:名無しの先頭民族

>>238 担当トレーナー「通常より脚への負担が大きいので出走数は絞っていく」

 

 

242:名無しの先頭民族

ほえー。あんだけ強いんだからガンガン走って欲しいが

 

 

243:名無しの先頭民族

香港行こうぜ! 芝も近いし蹂躙劇見たい

 

 

244:名無しの先頭民族

>>240 リギルだとタイキシャトルとグラスワンダーを見てるとのこと。詳しくは【動画】

 

 

245:名無しの先頭民族

有能

 

 

246:名無しの先頭民族

たすかる

 

 

247:名無しの先頭民族

つよい(確信)

 

 

248:名無しの先頭民族

何このグラスワンダーって子。鬼強くない? 何あの抜け出し方。

 

 

249:名無しの先頭民族

余力あるよな、まだ本気じゃない

 

 

250:名無しの先頭民族

てっきり大逃げ一発屋トレーナーなのかとおもた

 

 

251:名無しの先頭民族

タイキシャトルは言わずもがなだし。なんでクラシック級でマイルCS普通に勝つんですかね…。

 

 

252:名無しの先頭民族

タイキシャトル、マイルならサイレンススズカより強い説

 

 

253:名無しの先頭民族

>>250 お前はまず普通の大逃げを見てこい

 

 

254:名無しの先頭民族

>>251 というか勝ち方強すぎでは? スッと抜け出してそのまま引き離す

 

 

255:名無しの先頭民族

1800までタイキシャトル、2000からサイレンススズカ

これだ

 

 

256:名無しの先頭民族

いや、サイレンススズカはマイラーだろ

 

 

257:名無しの先頭民族

マイラー(3000世界レコード)とは…?

 

 

258:名無しの先頭民族

サイレンススズカに1800は短すぎだろ

 

 

259:名無しの先頭民族

いやなんかバクシンオーと同じ匂いがするし実はスプリントもいけるんでは?

 

 

260:名無しの先頭民族

とりあえず有マ出るのかどうかだけ教えてクレメンス

 

 

261:名無しの先頭民族

1800までサイレンススズカだろJK

 

 

262:名無しの先頭民族

1800ならタイキシャトル。あの胸見ろよ

 

 

263:名無しの先頭民族

胸でわかるかw

 

 

264:名無しの先頭民族

ステイヤーが細くて、スプリンターは胸がある(諸説あり)

 

 

265:名無しの先頭民族

胸……?(サクラバクシンオーを見ながら)

 

 

266:名無しの先頭民族

>>265 アレは頭バクシンオーじゃなければもっと距離走れるだろ…

 

 

267:名無しの先頭民族

>>260 有マはトレーナー次第では? サイレンススズカは走るの大好きみたいだし

 

 

268:名無しの先頭民族

ファン投票一位だし……他に主役居ないし……お願いURA!

 

 

269:名無しの先頭民族

そりゃURAとしても盛り上がりに関わるだろうから出て欲しいだろうが…。

それで怪我したらどうすんの? トレーナーの責任か?

 

 

270:名無しの先頭民族

でもマーベラスサンデーとエアグルーヴの決戦見てもな…

 

 

271:名無しの先頭民族

【速報】サニーブライアン、有マで復帰【朗報】

 

 

272:名無しの先頭民族

今年の主役だからな。でももうJC走ったし…。

 

 

273:名無しの先頭民族

なんと

 

 

274:名無しの先頭民族

なんかファン投票にいるなーとは思ってた

 

 

275:名無しの先頭民族

復帰後ぶっつけのGⅠって…無理では?

 

 

276:名無しの先頭民族

そうか。ススズが来年海外行くから

 

 

277:名無しの先頭民族

勝ったら凄い

 

 

278:名無しの先頭民族

>>276 え。もしかしてラストチャンス?

 

 

279:名無しの先頭民族

来年海外って実際どうなの? 春と秋のシニア三冠は?

 

 

280:名無しの先頭民族

『凱旋門賞を大目標に、ドバイで海外遠征の経験を積みたい』って。月刊トゥインクルのインタビューな

 

 

281:名無しの先頭民族

月間ターフは『春シニア三冠取りつつドバイ行く』って

 

 

282:名無しの先頭民族

>>281 いや三月末がドバイで大阪杯四月の頭だぞ。素人でも無理だって分かるわ。これだからつきまターフは

 

 

283:名無しの先頭民族

月間では…?

 

 

284:名無しの先頭民族

>>283 付きまとうだけでロクな記事ださないから、つきまターフ

 

 

285:名無しの先頭民族

ついでに『月間重箱の隅をつつきまくるターフ』の略でもある

 

 

286:名無しの先頭民族

月間トゥインクルはいいぞ

 

 

287:名無しの先頭民族

サイレンススズカのインタビュー記事、走ることとお兄さんのことしか言ってなくて芝

 

 

288:名無しの先頭民族

好きなもの:走ること、お兄さん、布団

嫌いなもの:走れないこと、お兄さんが勝手にどっか行くこと

 

 

289:名無しの先頭民族

これは……延々と惚気始めるタマモクロスの同類…!?

 

 

290:名無しの先頭民族

食べることしか頭にないオグリキャップの同類…!?

 

 

291:名無しの先頭民族

お前らファル子を見習え!

 

 

292:名無しの先頭民族

勝手にどっか行くのダメなのか…

 

 

293:名無しの先頭民族

知らんのか、お兄さん追ってゲート潜るくらいには寂しがり屋だぞ

 

 

294:名無しの先頭民族

レースと性格違いすぎませんかね…。

 

 

295:名無しの先頭民族

だがそれがいい

 

 

296:名無しの先頭民族

もしかしてお兄さんクソ有能なのでは?

 

 

297:名無しの先頭民族

有能だしクソだぞ

 

 

298:名無しの先頭民族

>>297 スズカ「は?」

 

 

299:名無しの先頭民族

いやそんな怒らな……怒るかも

 

 

300:名無しの先頭民族

ウマ娘の前でトレーナーの悪口っぽく聞こえることを言っちゃダメだぞ。死ぬゾ♡

 

 

301:名無しの先頭民族

蹴られて破裂したわ

 

 

302:名無しの先頭民族

破裂したら成仏してくれ

 

 

303:名無しの先頭民族

とりあえずサイレンススズカが出走したらサニーブライアンのリベンジのチャンスということでOK?

 

 

304:名無しの先頭民族

OK!(ズドン)

 

 

305:名無しの先頭民族

ああ!(ズドン)

 

 

306:名無しの先頭民族

アイ・コピー!

 

 

307:名無しの先頭民族

多分サイレンススズカのローテ

休養→ドバイ→春の天皇賞?→宝塚記念?→ステップレース→凱旋門賞→BC→引退

 

 

308:名無しの先頭民族

春天out、安田記念in

 

 

309:名無しの先頭民族

いやどっか欧州かアメリカのGⅠ行くんじゃね?

 

 

310:名無しの先頭民族

こうだろ

香港→ドバイ→大阪杯→春天→安田記念→宝塚記念→凱旋門賞→BC→JC→有マ

 

 

 

311:名無しの先頭民族

おいおい死ぬわ

 

 

312:名無しの先頭民族

なんで安田?

 

 

313:名無しの先頭民族

春天距離が長すぎるから避けたいとか

 

 

314:名無しの先頭民族

タイキシャトルと最強決定戦だろ

 

 

315:名無しの先頭民族

なんでリギル同士で争う必要が…?

 

 

316:名無しの先頭民族

だって頂上決戦するとリギル対決になるし……

 

 

317:名無しの先頭民族

これからリギルAB対決ができるぞ

 

 

318:名無しの先頭民族

こうか

リギルA:シンボリルドルフ、フジキセキ、エアグルーヴ、ナリタブライアン

リギルB:サイレンススズカ、グラスワンダー、タイキシャトル、トウカイテイオー

 

 

319:名無しの先頭民族

なんか知らん名前もあるが多分そう

 

 

320:名無しの先頭民族

ところでなんで海外行っちゃうんですかね

 

 

321:名無しの先頭民族

日本のウマ娘が世界で通用するところを見せるため…?

 

 

322:名無しの先頭民族

まあスズカで無理なら他も無理だろうな

 

 

323:名無しの先頭民族

国内で走るとこみたい気持ちは正直分かる

 

 

324:名無しの先頭民族

スズカでないならサニーブライアンワンチャンあるのでは?

 

 

325:名無しの先頭民族

サニブ陣営『チャンスがあるのなら全力を尽くす』

 

 

326:名無しの先頭民族

例年なら二冠取ってた逸材だからな

 

 

327:名無しの先頭民族

いや超ハイペースのお陰で突っ込んできたフロックでは

 

 

328:名無しの先頭民族

2回あったらフロックじゃないだろ

 

 

329:名無しの先頭民族

3度目は運命

 

 

330:名無しの先頭民族

エアグルーヴ対サニーブライアン対マーベラスサンデー

 

 

331:名無しの先頭民族

>>330 いやまあ勝敗は気になるが…。

 

 

332:名無しの先頭民族

2度あることはサンデーサイレンス

 

 

333:名無しの先頭民族

やっぱ出て欲しいなサイレンススズカ

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「……出られないこともない、かな」

 

 

 

 

 スズカの脚の負担は、思ったほどではない。

 ただやはり突然の骨折というのは予測できるものではないし、折れれば最悪命に関わるので安易に決めるわけにもいかない。

 

 ひとまず明日、スズカの脚の疲労の残り具合を確認して……。

 

 

 

 

「……寝るか」

 

 

 

 

 やっぱりスズカがいると落ち着く。

 ちょっと熱いくらいのぬくもりを感じながら、目を閉じて。

 

 遠のく意識の中で、何かが頬に触れたような気がした。

 

 

 

 

 

 



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朝日杯FS / 有マ記念に向けて

 

 

 

 

 

 

 

『―――無敗の三冠、サイレンススズカ!』

『ジャパンカップ、圧勝! サイレンススズカが欧州の雄ピルサドスキーに勝利』

『有マ記念出走回避!? ジャパンカップ激走のサイレンススズカ』

 

 

 

 

 新聞も、雑誌も、ニュースでさえもサイレンススズカが独占していた。既に国内に敵なしとされ、海外遠征を明言されたことに誇らしさと同時に悔しさを感じずにはいられない。

 

 骨折した左足が治るまで、徹底的に下肢の筋力を鍛えなおした。

 持久力を鍛えるため、肺活量測定用のマスク(息苦しい)と機械を使って自転車を漕ぎ続け、サイレンススズカの超ハイペースに対抗するためのトレーニングを積んできた。

 

 トレーナーもあのハイペースの化け物に勝つための資料集めからトレーニングメニュー、作戦までひたすらに考え抜いてくれた。

 

 

 

「そもそもハイペースに対応できないと勝負の土台にも立てない。サニーが勝つには、最低でもあのペースで潰されずにロングスパートをかけてハナを奪い続けて気持ち良く走らせないしかない」

 

「普通に考えれば共倒れがイイトコだけど」

 

 

 

「普通にやって勝てる相手じゃないからな。徹底的にマークして、嫌がることをやりぬいてようやく勝ちの目が無くはないくらいだ」

「まあ、そうだよね」

 

 

 

 問題はそこまでやって消耗したところをまとめて差し切りそうなエアグルーヴやマーベラスサンデーがいることだ。……いや、マーベラスサンデーはサイレンススズカとの対戦歴がないのでもしかすると力を出し切れないかもしれないが……期待するべきではないだろう。後はマチカネフクキタルが菊花賞の時の好調を維持していれば最大のライバルになり得る。

 

 

 

「マチカネフクキタルは脚を痛めて多少は末脚が落ちてるみたいだが、骨折してる俺たちがこうして以前よりタイムを縮めていることを考えれば甘く見れる相手じゃない」

「エアグルーヴもスズカとの対戦経験ありになったしね」

 

 

 

 結局、あの度し難いハイペースは実際に走ってみないと分からない。

 必死に走る自分よりも速く、涼しい顔で走っていく栗毛。なんとか詰め寄ったかと思えば後方で脚を溜めていたかのような末脚。あれに対抗できるのは、ハイペースに適応できる純粋に速いウマ娘だけだろう。

 

 慣れていなければ何もできずに置いていかれる。実際、皐月賞からダービーまで必死に鍛えてなんとかハナを奪う事だけはできた。

 

 が、付け焼刃であの走りを模倣しきれるわけもなく、息が切れた自分と平然としているスズカではっきりと明暗が分かれた。

 

 

 

 

「まあ、菊花賞であの走りの謎は一つ解けた。長距離を走り抜けるスタミナと、息の入れ方。あの速さは天性のものだろうが、やったのはアイツだろうなぁ……」

 

 

 

 

 今でも覚えている。

 選抜レースを大差で勝利したサイレンススズカ。同時出走した相手どころか、見ていたウマ娘の心もへし折った怪物。

 

 が、規則で一度は出走しろと言われただけで本人は幼馴染のトレーナー以外選ぶつもりはないという。トレーナーも最初は運がいいだけの奴だと思っていたそうだが。

 

 

 

「マイペースが速いからってそもそも大逃げさせるのが意味わからんが、そのハイペースで脚を溜める才能を持っているのを見抜いたのが一番の謎だ。そしてそれで長距離走るスタミナを乗せて無敵にしてやろうというのは……本当にただの新人か? 先行策ならもっと強い、という奴もいるが駆け引きのいらないアレは実力差のある相手には必殺の策だ」

 

 

 

 普通、もっと速さだけを追求するとかパワーを上げるとか、見た目に分かりやすいとか確実に勝てるところを狙いに行くハズなのだ。スタミナとサイレンススズカの才能さえあれば全て磨り潰せる、などと地味ながら嫌らしすぎる考えにどうして至ったのか。

 あるいは素人考えだからこそだったのかもしれないが、幼少期からトレーニングを見ていたらしいことは月刊トゥインクルのインタビューにも出ていた。

 

 

 

 

「でも、今回のジャパンカップで弱点は見えた」

「ああ。やはり日本ダービーの時が一番勝利には近かった。ハナを奪い―――サイレンススズカ以上のスタミナと根性で磨り潰す」

 

 

 

 問題は、幼少期から長距離を想定してトレーニングしていたらしいサイレンススズカのスタミナの底が未知数なことだ。菊花賞のレコードでも、ジャパンカップの激走の時でさえ、上がり3ハロンのタイムは全く遜色ない。

 

 

 

 

 つまり何も考えずに引き離しているようにしか見えないサイレンススズカだが、実は普通の脚質と同じである程度の可変性があるのかもしれない。詰め寄ったウマ娘はいるが、追い詰めたウマ娘はいないかもしれない。

 

 もちろん、既に限界一杯で隠し玉なんて無いかもしれないが。

 

 

 

 

「あれでまだ全力じゃないとか、考えたくないケド……」

「後はジャパンカップのスタートが良すぎることだな。毎回アレをやられたんじゃ、スタートが得意なスプリンターでも連れてこなきゃハナを奪うのは不可能だ」

 

 

 

 以前ならスプリンターならハナを奪える、と思っていたのだが。

 欧州のラビット対策でスタートを鍛えている可能性もある。そうであれば次善の策。

 

 

 

「そしたら徹底的にマークして死ぬ気でついてく」

「独りで走りたい性質みたいだからな、多少は影響あると思うが」

 

 

 

 何分、これまで練習はともかく本番でマークされた経験は皆無。

 こちらが怪我している間、向こうがどう鍛えてきたのかは分からない。ただ、スズカに勝つためだけに死にもの狂いで鍛えてきた。

 

 

 菊花賞時点でスズカに次ぐ走りを見せていたフクキタルより、ティアラ路線のドーベルより、何を考えているのか分かりにくいブライトより、短距離からマイルの覇者になっているタイキシャトルより、誰より危機感を持っていたのは自分だという自負がある。

 

 

 

「……ま、問題は出走してくるかどうかだけど」

「来なかったらどうしよっか」

 

 

 

 できればそっちの方が楽だけど、と二人で目を見合わせて苦笑いした。

 二人とも隠し切れない闘志を目に宿しながら。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『さあ、いよいよ始まりますジュニア王者を決める朝日杯FS! 注目はやはりこのウマ娘でしょう! ここまで無敗、栗毛の怪物グラスワンダー!』

『実力は間違いなく抜きん出ています。懸念はスタートが得意ではないことくらいでしょうか』

 

 

『二番人気はこの娘、フィーロ』

『ここまで2戦2勝、グラスワンダーに対抗できるとすればこの娘ではないでしょうか。前回の走りはそんな才気を感じさせました』

 

 

 

『三番人気、アグネスワールド』

『同じく2戦2勝、注目のウマ娘です。既にGⅢ、函館ジュニアステークスに勝利している点も注目です』

 

 

 

 

『また、ハイペースな逃げで2連勝中の5番人気、マウントアラシにも注目です!』

『サイレンススズカと違って通常の大逃げに近いですが、今後にも期待できるでしょうか』

 

 

 

 

 阪神レース場では観客席にリギルの面々(引率組と未デビュー組が中心)も集まっている。おハナさん曰く、応援以外に遠征に慣れるためだと言うが。……実は応援したいだけなのでは? わざわざそこそこのメンバーをここまで連れてくるおハナさんツンデレ説。

 

 

 

「ふむ。トレーナー君、どう思う?」

「グラスに匹敵するクラスの相手はいないな。後はスタートをどうこなすか……」

 

 

「確かにな。出遅ればかりは手遅れだ」

「このあたりスズカは天才肌だから役に立たないし」

 

 

 

 

 スタートの悪い大逃げもツインターボとかがいるが、サイレンススズカはスタートから良い。が、本人は反射でやっているだけなので有用なアドバイスは出てこない。

 

 左隣からぐりぐりと頭を擦りつけてくるスズカは適当に頭だけ撫でてスルーし、なんとなく退屈そうなトウカイテイオーを見る。

 

 

 

「テイオー、暇そうだな」

「それトレーナーが言う!? ボクだって早くデビューして走りたいんだけど!?」

 

 

 

 だって本格化(?)しないとデビューできないし…。

 メタ的に言えば2期にならないと。とはいえ1期でデビューだけはしていた気がするので、クラシック級に上がるまでに謎の空白期がある感じだが。

 

 

 

「まあ今のテイオーじゃルドルフにもスズカにも勝てないし」

 

「ムッカー!? カイチョーはともかくスズカには負けないもんね!」

 

 

 

 挑発するとあっさりやる気になったテイオーが真剣な目をゲートに向ける。

 ついでに褒められた(と思った)スズカの密着度が更にアップし、尻尾も腕に絡みついてきたが。

 

 

 

「というか、見た目アレだけど大丈夫…?」

「大丈夫じゃないが!?」

 

 

 

 なんか最近密着度高い…! 

 なんか匂い嗅がれている気もするし、まさか悪化しているのか…? い、いやそんな。布団を犠牲に独り寝にある程度慣れさせたんだ、悪化するはずは…。

 はあ、とため息吐きながらテイオーがスズカに言った。

 

 

 

「ねぇ、スズカ。トレーナー困ってるよ」

「………困ってますか?」

 

 

 

 

 ちらり、と寂しそうな目で見られると「そんなことない」と言いたくなるが、心を鬼にして―――。

 

 

 

「ほら、手つないでやるから。レースに集中しような」

「はいっ」

 

 

「うわぁ……」

 

 

 

 ダメだこりゃ、とばかりに呆れた目で見られているがお前の大好きなカイチョーもあの大先輩の前じゃルナちゃんだぞ。

 

 

 

 

 

『さあ、ゲートに入って体勢完了しました。GⅠ、朝日杯FS――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 そうこうしている間にレースが始まる。慌てて観戦スタイルになり、ビデオも回すとゲートが開いた。

 

 グラスも問題なくスタートを切り、中団につける。

 この時点で9割がた勝利を確信するが、逃げウマ娘のマウントアラシがハイペースの逃げに持ち込んだところでテイオーと顔を見合わせる。

 

 それが、なんとなくスズカのペースに似ていたことで散々併走でぺしゃんこにされたグラスの闘争心を煽ってしまったのである。

 どことなくオーラを纏った気がするグラスが一段ギアを上げる。

 

 

 

 

『さあ、前半800を通過しようというところ――――タイムが45秒台! やっぱり早い、早いこのペースがどんな効果を発揮するのか―――――』

 

 

 

 

『グラスワンダー早めに上がってきた! 上がってきたグラスワンダー! インコースにはアグネスワールド! さあ最終コーナーに入ってグラスワンダーが早くも2番手まで上がってきている!』

 

 

 

 伊達にスズカやタイキと併走していない、とばかりにハイペースにも関わらず素晴らしい抜け出しを見せたグラスワンダーはマウントアラシの背後につけると、そのまま一閃。一瞬で抜き去って置き去りにしていく。

 

 

 

 

『ここからどこまで千切るんだグラスワンダー!? 行った、グラスワンダー完全に抜け出した! 1バ身、2バ身とリードを開いた! これは完全に決まった――――グラスワンダーだ! グラスワンダー、圧勝で今ゴール! 勝ちタイムはなんと……1分33秒1! なんという凄まじいタイム! 文句なしレコードです!』

 

「うわっ、強っ」

 

 

 

 ちょっとテイオーの顔が引きつるくらいには完璧な抜き出し。

 実際、史実でパーマーヘリオスの爆逃げコンビのハイペースに割と散々な目に遭わされている気がしないでもないテイオーにはまだないものだ。が、トウカイテイオー最後の有馬記念からしてパーマーのハイペースから、ビワハヤヒデの完璧にすら思える抜き出しを更に抜き去るだけのポテンシャルはある。

 

 ので、スズカと併走させて強制的に慣れてもらうが。

 

 

 

 

「そうだ、帰ったらスズカとルドルフに併走してもらうか」

「え゛っ」

 

 

「ふむ、確かに私もテイオーの今の走りには興味があるな」

「走っていいんですか?」

 

 

 

 走るのを制限されているスズカもこれにはご満悦である。

 

 

 

「……カイチョーに情けないところ見せられないからね! そう簡単には負けないから!」

「ほう」

「はい」

 

 

 

「……いやその、やっぱり手加減して欲しいカナーって」

 

 

 

 やる気満々の二人にたじたじになりつつも、テイオーなら必ず敗北でも糧にできるだろう。むしろ今のうちに徹底的に打ちのめしておいて分からせたほうがいい気がする。

 

 

 

「スズカ、ルドルフに勝ったらご褒美な」

「……! 絶対勝ちます」

 

「ほう、そう簡単には勝たせるつもりはないよ」

 

 

 

 

 意識がテイオーの実力を見ることから、無敗の三冠対決になりギアが一段上がる。まだジャパンカップ激走後、ルドルフもウインタードリームトロフィーがあるので二人とも本気は出さないというか出させないが。

 と、レースから戻ってきた勝負服のグラスも乱入してくる。

 

 

 

「では、私も参加させて頂きたく」

「ダメ。レース走ったからプールな。そうだな、走る元気があるならいつもより3セット増やすか」

 

 

 

 一応、歩容に乱れはない。

 骨は今のところ平気そうだが、レース直後に走りたがるのはスズカだけでお腹いっぱいである。

 

 

 

「………」

「できるよな?」

 

 

「で、できますよ…?」

 

 

 

 グラスが思わず無言になるくらいにはガチできついプールメニュー(もとはスズカ用)、ちょっと笑顔が引きつっているグラスだが、ロングスパートをかけられるくらいにはスタミナも向上しているので良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにスズカとルドルフの決戦はほぼ互角で最終直線に入り、デッドヒートになりそうなところで強制的に中止になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(神戸新聞杯前後)

投票250件、平均8.00点超えありがとうございます記念
本日2話目です。


【いざ三冠】サイレンススズカの菊花賞を語るスレ【無敗】

1:名無しの先頭民族

というわけで夏休みですね

 

 

2:名無しの先頭民族

夏休み……知らない子ですね

 

 

3:名無しの先頭民族

ほい【画像】合宿場で海を見ながら佇むスズカさん

(タイキのウマスタから)

 

 

4:名無しの先頭民族

ガタッ

 

 

5:名無しの先頭民族

水着は!? 水着はないんですか!?

 

 

6:名無しの先頭民族

水着でお兄さんに抱き着いてる写真なら…。

 

 

7:名無しの先頭民族

犯行の証拠写真か何かか?

 

 

8:名無しの先頭民族

スズカのお母さんらしき人物がウマいねしてて芝

 

 

9:名無しの先頭民族

公認じゃねーか!?

 

 

10:名無しの先頭民族

頑なに上着を手放さないお兄さんに芝

 

 

11:名無しの先頭民族

そりゃ……なあ

 

 

12:名無しの先頭民族

顔がなんか悟りそう

 

 

13:名無しの先頭民族

なんだろう、羨ましいはずなのになんか笑えてくる

 

 

14:名無しの先頭民族

生殺し……ですかね

 

 

15:名無しの先頭民族

とりあえず復帰に向けてトレーニング中のサニブも【画像】

 

 

16:名無しの先頭民族

うわ、うわぁ…

 

 

17:名無しの先頭民族

絞ってきたな

 

 

18:名無しの先頭民族

歓声より引いてて芝

 

 

19:名無しの先頭民族

仕上がりめっちゃ良さそう

 

 

20:名無しの先頭民族

そのころ一方、スズカはお兄さんに抱き着いていた……。

 

 

21:名無しの先頭民族

幼少期からの英才教育 VS 青春を燃やし尽くす乙女 VS ダークライ

だぞ

 

 

22:名無しの先頭民族

お兄さん「あんまり走らせると脚が持たない……ので、スズカのためにぃ~、こちらプールトレーニングになります」

 

 

23:名無しの先頭民族

練習を真似しようとしたウマ娘が脚を攣ってお兄さんに救助された話好き

 

 

24:名無しの先頭民族

アレってそんなにキツイ感じなの?

 

 

25:名無しの先頭民族

一応トレセン生徒だけど、あれでなんで遠泳選手じゃないのか謎なくらいには辛い

 

 

26:名無しの先頭民族

こんなところにトレセン生徒が!? 自力で脱出を!?

 

 

27:名無しの先頭民族

彼女は囚人ではない(無言の腹パン)

 

 

28:名無しの先頭民族

囚人ではないけど、余裕がないのは事実……

中央ってだけで持ち上げられてたけど、実際あんなのに勝てるウマ娘いないし。

 

 

29:名無しの先頭民族

つ シンボリルドルフ会長

 

 

30:名無しの先頭民族

つ シンザン

 

 

31:名無しの先頭民族

つ セクレタリアト 

 

 

32:名無しの先頭民族

つ シアトルスルー

 

 

33:名無しの先頭民族

偉人ばっかり並べないで!?

まあ確かにアレに勝てたら歴史に残るかもだけど、あんまり嬉しくない称号付きそう

 

 

34:名無しの先頭民族

まあ確かに

 

 

35:名無しの先頭民族

刺客とか希代の穴ウマとか

 

 

36:名無しの先頭民族

だが2回デッドヒートして怪我から復活したサニーブライアンなら…?

 

 

37:名無しの先頭民族

えー、海外遠征前に負けるのはちょっと…。

 

 

38:名無しの先頭民族

国内で負けて海外行くとか言い出したら笑う

 

 

39:名無しの先頭民族

そんなわけだけど、サニーブライアン先輩は凄いよ。

ちょっとあんなに頑張れない

 

 

40:名無しの先頭民族

サイレンススズカは?

 

 

41:名無しのトレセン生徒

いつも走ってる…。トレーナーが必ず目の届く範囲にいる…。

それを平然とこなしてるあたり、やっぱり昔から積み重ねてるのは本当なんだなって思う

 

 

42:名無しの先頭民族

さりげなく重バ場にも言及してて芝

 

 

43:名無しの先頭民族

努力した天才 VS 勝つために青春の夏を投げうった一般皐月賞2着ウマ娘

 

 

44:名無しの先頭民族

そんな一般人がいてたまるか定期

 

 

45:名無しの先頭民族

ま、毎年一人はいるから…(震え声)

 

 

 

46:名無しの先頭民族

一着を格上としても毎年二人レベルなんだよなぁ…。

 

 

47:名無しの先頭民族

GⅠウマ娘って凄いんだよな

 

 

48:名無しの先頭民族

既にG12勝してる(4戦4勝)サイレンススズカ…。

 

 

49:名無しの先頭民族

無敗の三冠がシンボリルドルフ会長だけだからな。期待も高まる

 

 

50:名無しのトレセン生徒

まずGⅠに出走できるのが凄い

 

 

51:名無しの先頭民族

というか重賞勝ちの時点で一流では?

 

 

52:名無しの先頭民族

オープンクラスが上位3%とかよく聞くしな

 

 

53:名無しの先頭民族

ググったがGⅠ勝ちが0.3%で、ヒト息子で言うなら全国の高校野球人口のうち甲子園にスタメンで出られる人数くらいの割合らしいな 

(デビューできなかったウマ娘を含めたら0.1%くらいらしいが)

 

 

54:名無しの先頭民族

ヒト息子あれだけいるのに……

 

 

55:名無しの先頭民族

つまりドリームトロフィーリーグは甲子園だった…?

 

 

56:名無しの先頭民族

>>55 甲子園ちゃうで、結婚披露宴や!

 

 

57:名無しの先頭民族

実際、スズカはトレーナーとデキてるの?

 

 

58:名無しの先頭民族

さあ?

 

 

59:名無しの先頭民族

わからん。なんでデキてないのかはわからんが、デキてるにしてはなんかこう、雰囲気が違う

 

 

60:名無しの先頭民族

分かる。兄妹っぽい

 

 

61:名無しの先頭民族

【速報】サイレンススズカ、神戸新聞杯を経由して菊花賞予定

 

 

62:名無しの先頭民族

きたか

 

 

63:名無しの先頭民族

神戸新聞杯の方ね

 

 

64:名無しの先頭民族

本当に出るのか菊花賞

 

 

65:名無しの先頭民族

そりゃ出るだろ無敗二冠だぞ

 

 

66:名無しの先頭民族

まあルドルフも海外遠征の話とかあったし…。

 

 

67:名無しの先頭民族

あの大逃げで3000はどう考えても長い。2400がいいとこ

 

 

68:名無しの先頭民族

>2400がいいとこ

せやな(ダービーの余裕っぷりを見ながら)

 

 

69:名無しの先頭民族

というか大逃げってむしろ長距離でよく見る気がするんだが?

 

 

70:名無しの先頭民族

>>69ペース調整できて、息を入れられるならな。サイレンススズカの脳筋ぶりじゃ持たない

 

 

71:名無しの先頭民族

でもお兄さんだぞ?

 

 

72:名無しの先頭民族

お前はお兄さんの何を知ってるんだ…。

 

 

73:名無しのトレセン生徒

あの走りっぷりを見てると長距離もいけるんじゃないかな、って思ってしまう

 

 

74:名無しの先頭民族

お前ら素人か? あの走りで長距離走れるなら苦労はないんだよ

 

 

75:名無しの先頭民族

よし、無敗の三冠取れたらスズカを娶ってもいいぞ

 

 

76:名無しの先頭民族

>>75絶対無理だと思ってそうで芝

 

 

77:名無しの先頭民族

いやまあ無理だと思うけど

 

 

78:名無しの先頭民族

でも見たいじゃん、無敗の三冠…。

 

 

79:名無しの先頭民族

大逃げで無敗の三冠は地味に伝説だぞ

 

 

80:名無しの先頭民族

>>79ド派手に伝説定期

 

 

81:名無しの先頭民族

秋の天皇賞の方が勝てそう

 

 

82:名無しの先頭民族

これ無敗の三冠には挑戦させられるけど、できなかったら責められるヤツでは?

 

 

83:名無しの先頭民族

それはそう

 

 

84:名無しの先頭民族

あんな可愛い幼馴染にベタベタに愛されるとか許されない

 

 

85:名無しの先頭民族

せめて中山2500とかならな…。

 

 

86:名無しの先頭民族

>>85アップダウンあるから十分辛いけどな

 

 

87:名無しのトレセン生徒

正直、あのペースに付き合わされたら磨り潰される自信しかない。

全員ヘロヘロになって結局サイレンススズカ先輩が勝つ可能性

 

 

88:名無しの先頭民族

ありそう

 

 

89:名無しの先頭民族

アリよりのアリ

 

 

90:名無しの先頭民族

お前らマチカネフクキタルを知らんのか……菊はフクキタルしか勝たん

 

 

91:名無しの先頭民族

なんか最近強い勝ち方したのは知ってる。神戸新聞杯出るんだっけ

 

 

92:名無しの先頭民族

夏の上がりウマかな

 

 

93:名無しの先頭民族

俺なら神戸新聞杯でサイレンススズカに長距離のペースに慣れさせるな

 

 

94:名無しの先頭民族

>>93一理あるが、それやったら本番の時にはバレてるじゃん

 

 

95:名無しの先頭民族

でもぶっつけでやるわけにもいかないしな…。

 

 

96:名無しの先頭民族

一長一短かな

 

 

97:名無しの先頭民族

とりあえず応援するぞ

 

 

98:名無しの先頭民族

見てぇよな、俺もな……無敗の三冠ウマ娘

 

 

99:名無しの先頭民族

シンボリルドルフは見られなかったが、サイレンススズカは……

 

 

100:名無しの先頭民族

頼むぞサイレンススズカ

 

 

 

 

 

~~~~~

~~~

~~

 

 

 

300:名無しの先頭民族

というわけで神戸新聞杯

 

 

301:名無しの先頭民族

一番人気サイレンススズカ、二番人気メジロブライト、三番人気マチカネフクキタル

 

 

302:名無しの先頭民族

割とよく見る並び

 

 

303:名無しの先頭民族

ブライトェ…

 

 

304:名無しの先頭民族

ブライトも弱くないんだけどな。なんか勝ちきれない…。

 

 

305:名無しの先頭民族

相手が悪いよ相手が

 

 

306:名無しの先頭民族

さあ何事もなくスタート

 

 

307:名無しの先頭民族

まあ行く

 

 

308:名無しの先頭民族

いつも通りの好スタート

 

 

309:名無しの先頭民族

ナムルキントウン競りかけ……ないね

 

 

310:名無しの先頭民族

まあ磨り潰されたくないし

 

 

311:名無しの先頭民族

なんかいつもほど大逃げしてない?

 

 

312:名無しの先頭民族

そんなに引き離してないな

 

 

313:名無しの先頭民族

マジで菊花賞のための調整か

 

 

314:名無しの先頭民族

これで負けたらトレーナー替えようぜ

 

 

315:名無しの先頭民族

ナムルキントウンが詰め寄って

 

 

316:名無しの先頭民族

毎度のことながらひやひやする

 

 

317:名無しの先頭民族

行った!

 

 

318:名無しの先頭民族

はい勝ちパターン

 

 

319:名無しの先頭民族

いや、フクキタル来たぞ

 

 

320:名無しの先頭民族

ファッ!?

 

 

321:名無しの先頭民族

お前どこから!?

 

 

322:名無しの先頭民族

今バ群割れなかった…?

 

 

323:名無しの先頭民族

でもこれは届かん

 

 

324:名無しの先頭民族

毎度のことながら差しと上がりが同じくらいの逃げ差し…。

スズカ勝ったー!

 

 

325:名無しの先頭民族

いや、フクキタル強いな

そしてさすがスズカ

 

 

326:名無しの先頭民族

フクキタルの距離適性次第ではワンチャン

 

 

327:名無しの先頭民族

い、嫌だー!? 無敗の三冠ウマ娘見たい!

 

 

328:名無しの先頭民族

それはそう

 

 

329:名無しの先頭民族

今じゃなきゃ次はいつか分からんし

 

 

330:名無しの先頭民族

あのペースの大逃げなら3000あるぞ!

 

 

331:名無しの先頭民族

夢が近づいてきた…!

 

 

332:名無しの先頭民族

いや3000は無理だって

 

 

333:名無しの先頭民族

お兄さんを信じろ

 

 

334:名無しの先頭民族

勝ったら超かわいい幼馴染ウマ娘と結婚していいお兄さんを信じろ

 

 

335:名無しの先頭民族

それ聞くと勝ってほしい気持ちが萎えるんだが

 

 

336:名無しの先頭民族

問題はこれで競りかけられたらどうするかだな

 

 

337:名無しの先頭民族

でも勝ってほしい

 

 

338:名無しの先頭民族

いいなー、可愛い幼馴染の学生嫁

 

 

339:名無しの先頭民族

>>336そうか、スローだからスタミナ消費しにくいけどハナ奪われやすいのか

 

 

340:名無しの先頭民族

ハナ奪われたらピンチやん

 

 

341:名無しの先頭民族

>>339スロー(1000m58秒台)

 

 

342:名無しの先頭民族

スローか…? まあ、普段よりは……

 

 

343:名無しの先頭民族

本番は3000だからもっとスローにするのでは

 

 

344:名無しの先頭民族

ありそう

 

 

345:名無しの先頭民族

逃げウマで菊花賞出そうなのいる?

 

 

346:名無しの先頭民族

いない

 

 

347:名無しの先頭民族

思いつかない

 

 

348:名無しの先頭民族

誰か逃げようぜ

 

 

349:名無しの先頭民族

逃げる(菊花賞から)

 

 

350:名無しの先頭民族

勝てる……勝てるぞ

 

 

351:名無しのトレセン生徒

結局持つのか…?

 

 

352:名無しの先頭民族

サニブいればな

 

 

353:名無しの先頭民族

流石にまだ休養だろ

 

 

354:名無しの先頭民族

菊花賞は応援に行くぞ! ウイニングライブも観るぞ!

 

 

355:名無しの先頭民族

3連単当てればほぼ前で見れるハズ…。

 

 

356:名無しの先頭民族

倍率高ければスペシャルグッズとかもらえるしな

 

 

357:名無しの先頭民族

とりあえず皐月とダービーでほぼ最前列のお兄さんにコツを聞きたい

 

 

358:名無しの先頭民族

お兄さん「スズカしか勝たん」

 

 

359:名無しの先頭民族

まあ言いそうだがw

 

 

360:名無しの先頭民族

スズカ以外の予想が聞きたいんだよォ!

 

 

361:名無しの先頭民族

お兄さん「(俺が一番前でスズカを見たいので)ダメです」

 

 

362:名無しの先頭民族

お兄さんのキャラ付けに芝

 

 

363:名無しの先頭民族

ファル子のファン一号より過激説

 

 

364:名無しの先頭民族

ファン一号はあくまでファンの規範だからな

 

 

365:名無しの先頭民族

菊花賞は(いつもよりは)スローのスズカが逃げ切り勝ちに賭けるぜ!

 

 

366:名無しの先頭民族

スズカ1着予想は当ててもライブ見ることすら抽選になりそう

 

 

367:名無しの先頭民族

関係者席とかないの? ウイニングライブ

 

 

368:名無しの先頭民族

>関係者席

 あるぞ。ただ、最前列じゃなくて少し横のところ。

 

 

369:名無しの先頭民族

つまりお兄さんは最前列で見たいから予想を的中させてわざわざ普通に見ている

 

 

370:名無しの先頭民族

変態かな?

 

 

371:名無しの先頭民族

つまりお兄さんのせいで席が一つ減っている…?

 

 

372:名無しの先頭民族

>>371いや、多分その席リギルの娘がかわりにつかってたぞ

 

 

373:名無しの先頭民族

席が減るのは……まあそれなら仕方ない

 

 

374:名無しの先頭民族

流石に学生相手にはな

 

 

375:名無しの先頭民族

【速報】サイレンススズカ、お兄さんに枕をもらう(月刊トゥインクル)

よく眠れるとのこと

 

 

376:名無しの先頭民族

俺もウイニングライブ見たい

 

 

377:名無しの先頭民族

今度は枕か

 

 

378:名無しの先頭民族

布団→枕→

 

 

379:名無しの先頭民族

じゃあベッドかな

 

 

380:名無しの先頭民族

パジャマ

 

 

381:名無しの先頭民族

下着

 

 

382:名無しの先頭民族

この枕ってもしかしてお兄さんの枕なのでは?

 

 

383:名無しの先頭民族

いや流石にそれは…。

 

 

384:名無しの先頭民族

スズカならやりかねない

 

 

385:名無しの先頭民族

普通に考えて新品では?

 

 

386:名無しの先頭民族

布団でもベッドでもなんでもいいから菊花賞勝って♡

 

 

387:名無しの先頭民族

スロー逃げ切り勝ちと予想

 

 

388:名無しの先頭民族

飛ばしまくって全部潰して勝つ

 

 

389:名無しの先頭民族

勝ったらお兄さんの下着貰っていいぞ

 

 

390:名無しの先頭民族

ベッドもいいぞ

 

 

391:名無しの先頭民族

むしろお兄さん欲しいぞ

 

 

392:名無しの先頭民族

合鍵も貰ってしまえ

 

 

393:名無しの先頭民族

指輪も貰え

 

 

394:名無しの先頭民族

お兄さん、スズカと大阪デート。

タマモクロスとばったり【画像】

 

 

395:名無しの先頭民族

なにしてるんだw

 

 

396:名無しの先頭民族

四人でお好み焼き食ってるじゃねーか!?

 

 

397:名無しの先頭民族

タマモクロスの真似してあーんしてるの芝

 

 

398:名無しの先頭民族

かわいい

 

 

399:名無しの先頭民族

これが次なる無敗の三冠ウマ娘ちゃんの姿か……?

 

 

 

 



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幕間:掲示板(菊花賞)

UA約300,000、お気に入り7000件、感想300件ありがとうございます記念
あとサポガチャ爆死(3天井)記念
本日3話目の投稿です


【いざ三冠】サイレンススズカの菊花賞を観戦するスレ【無敗】

 

1:名無しの先頭民族

きちゃった菊花賞

 

 

2:名無しの先頭民族

現地で応援するぞ

 

 

3:名無しの先頭民族

現地民いいなー

 

 

4:名無しの先頭民族

仕事でいけねぇ…

 

 

5:名無しの先頭民族

日曜に仕事…?

 

 

6:名無しの先頭民族

日曜でも仕事ある人いるだろ、ほら>>10

 

 

7:名無しの先頭民族

理学療法士です

 

 

8:名無しの先頭民族

鍼灸師です

 

 

9:名無しの先頭民族

シェフ

 

 

10:名無しの先頭民族

パティシエ

 

 

11:名無しの先頭民族

主治医です

 

 

12:名無しの先頭民族

通りすがりのライダーだ

 

 

13:名無しの先頭民族

パティシエだったのか…。

 

 

14:名無しの先頭民族

いや違うが!? トレーナーだ

 

 

15:名無しの先頭民族

おっ

 

 

16:名無しの先頭民族

いいところに

 

 

17:名無しの先頭民族

カモが

 

 

18:名無しの先頭民族

解説役が

 

 

19:名無しの先頭民族

後は任せた

 

 

20:名無しの先頭民族

ネギしょって

 

 

21:名無しの先頭民族

布団を嗅ぎながら

 

 

22:名無しの先頭民族

大逃げかます!

 

 

23:名無しの先頭民族

てんでバラバラじゃねーか!?

 

 

24:名無しのトレーナー

仕方ねぇなぁ!俺の解説を聞けー!

 

 

25:名無しの先頭民族

ノリノリじゃねーか!?

 

 

26:名無しの先頭民族

>>24急に歌いそう

 

 

27:名無しの先頭民族

どうした急に

 

 

28:名無しのトレーナー

菊花賞の舞台は京都3000m、淀の坂越えが有名だ。

トレーナーの間でもサイレンススズカは本来マイラー説が有力なので多分普通にやったら勝てない

 

 

29:名無しの先頭民族

ほんとにどうした急に

 

 

30:名無しの先頭民族

うわああ止めて聞きたくなかった

 

 

31:名無しの先頭民族

だが此処に例外が存在する

 

 

32:名無しの先頭民族

そんな、サイレンススズカちゃんは勝てますよね…!?

 

 

33:名無しの先頭民族

【朗報】スズカグッズ完売【悲報】

 

 

34:名無しの先頭民族

待ってまだ買えてない!?

 

 

35:名無しの先頭民族

このスズカキーホルダー可愛すぎでは?

 

 

36:名無しの先頭民族

サイン入り蹄鉄なんてものもネットで抽選販売するってさ

 

 

37:名無しの先頭民族

なんかルドルフもすごかったけどスズカの人気ヤバない?

 

 

38:名無しの先頭民族

勝ち方がド派手だから…。

 

 

39:名無しの先頭民族

普段の気弱そうな感じを見てると応援したくなる

 

 

40:名無しの先頭民族

大逃げだしな

 

 

41:名無しの先頭民族

可愛い(なおレース)

 

 

42:名無しの先頭民族

勝ち方は可愛くないな

 

 

43:名無しの先頭民族

>>28 で、普通じゃなければ勝てるん?

 

 

44:名無しの先頭民族

スズカグッズに流されかけてたわ

 

 

45:名無しの先頭民族

可愛いから仕方ない

 

 

46:名無しのトレーナー

>>43一番無難なのはペースを落とす方法だな。

というか普通はそうする。神戸新聞杯並か、状況を見てもう少しスローにする。差し並の上がりタイムがあるんだから無理する必要ない

 

 

47:名無しの先頭民族

スズカ風イヤーキャップ欲しかった…。

 

 

48:名無しの先頭民族

ウマ娘の子のスズカファンもやっぱいるんだな

 

 

49:名無しの先頭民族

分かりやすく凄いから、ファンは多いよ。

娘もスズカみたいになりたいって言ってたからキャップ買ってあげたかった…。

 

 

50:名無しの先頭民族

>>49仕方ない、定価で譲ろう

 

 

51:名無しの先頭民族

おっ

 

 

52:名無しの先頭民族

これは漢だ

 

 

53:名無しの先頭民族

やさしい

 

 

54:名無しの先頭民族

やさいせいかつ

 

 

55:名無しの先頭民族

やさしいせかい

 

 

56:名無しの先頭民族

やさいせいかつだろ! ……あれ?

 

 

57:名無しの先頭民族

>>50 いいんですか!?

 

 

58:名無しの先頭民族

>>57娘さんがトレセン学園に来たらレース見させてください

 

 

59:名無しの先頭民族

青田買いかな…?

 

 

60:名無しの先頭民族

ところでなんで成人男性がイヤーキャップを購入してるんだ…?

 

 

61:名無しの先頭民族

しっ、いい話ダナー

 

 

62:名無しの先頭民族

これが第二のお兄さんですか…

 

 

 

63:名無しの先頭民族

>>46で、トレーナーさんならどうするんです?

 

 

64:名無しの先頭民族

おっと忘れてた

 

 

65:名無しの先頭民族

そういえばなんか話してたっけ

 

 

66:名無しの先頭民族

スズカがんばれー

 

 

67:名無しのトレーナー

>>63 神戸新聞杯と同じペースで逃げて、途中で息を入れて最後加速する

 結局のところ完成された戦術で殴るのが強い

 

 

68:名無しの先頭民族

まあ妥当

 

 

69:名無しの先頭民族

どうかなー。フクキタル次第な気はする

 

 

70:名無しの先頭民族

というかこの前のレースでテイエムトップランが逃げてたからな

 

 

71:名無しの先頭民族

逃げ対決か。まあ自由にさせるのは不安だよな

 

 

72:名無しのトレーナー

それでようやく勝機がなくはないくらいだからな

 

 

73:名無しの先頭民族

解説も同意見かー

 

 

74:名無しの先頭民族

さあそろそろ始まるぞい

 

 

75:名無しの先頭民族

歴史的瞬間になるのか

 

 

76:名無しの先頭民族

頼む、三冠

 

 

77:名無しの先頭民族

無敗三冠こい!

 

 

78:名無しの先頭民族

伝説を見に来た

 

 

79:名無しの先頭民族

俺たちの伝説になるウマ娘を!

 

 

80:名無しの先頭民族

観客席で腕組みしてるお兄さん発見

 

 

81:名無しの先頭民族

画像は?

 

 

82:名無しの先頭民族

近くにウマ娘いるので(無断撮影は)ダメです

 

 

83:名無しの先頭民族

ウマ娘じゃなくてもダメ定期

 

 

84:名無しの先頭民族

ああ、シンボリルドルフ達リギルと一緒にいるのが噂のお兄さんか

顔はまあ、普通か。

 

 

85:名無しの先頭民族

貶されないということは意外と高評価…?

 

 

86:名無しの先頭民族

イケメンもそれはそれでなんか貶されるけどな

 

 

87:名無しの先頭民族

とりあえずゲート入り

 

 

88:名無しの先頭民族

みんな落ち着いてるな

 

 

89:名無しの先頭民族

春のことを思い出すと感慨深い

 

 

90:名無しの先頭民族

ゲートくぐりとかね

 

 

91:名無しの先頭民族

あったな…

 

 

92:名無しの先頭民族

あれホントに良く勝ったよな

 

 

93:名無しの先頭民族

皐月賞では圧勝し

 

 

94:名無しの先頭民族

ダービーではハナを奪われながらも圧倒

 

 

95:名無しの先頭民族

ダービーで底力を見せ

 

 

96:名無しの先頭民族

神戸新聞杯でスローを見せ

 

 

97:名無しの先頭民族

ちょっと抑える走りも披露して

 

 

98:名無しの先頭民族

いよいよ三冠に挑む!

 

 

99:名無しの先頭民族

お兄さんと結婚するんだるぉ!?

 

 

100:名無しの先頭民族

頑張れ、スズカ

 

 

 

 

 

 

 

101:名無しの先頭民族

さあ菊花賞、スタートしました

 

 

102:名無しの先頭民族

出遅れは…!?

 

 

103:名無しの先頭民族

いいスタート

 

 

104:名無しの先頭民族

ポンと飛び出したのはサイレンススズカ

 

 

105:名無しの先頭民族

安心のスタート

 

 

106:名無しの先頭民族

大逃げじゃあー!

 

 

107:名無しの先頭民族

テイエムトップランも競りかけていく

 

 

108:名無しの先頭民族

 

 

109:名無しの先頭民族

えああ

 

 

110:名無しの先頭民族

お゛っ!?

 

 

111:名無しの先頭民族

うわあああ落ち着け

 

 

112:名無しの先頭民族

おおおお前がおちけつ

 

 

113:名無しの先頭民族

落ち着け、ただの致命傷だ

 

 

114:名無しの先頭民族

掛かった!?

 

 

115:名無しの先頭民族

すごい勢いでサイレンススズカが引き離す!

 

 

116:名無しの先頭民族

無敗の三冠の夢がああああ!?

 

 

117:名無しの先頭民族

このレースは早くも終了ですね()

 

 

118:名無しの先頭民族

差がこれ8バ身近いか

 

 

119:名無しのトレーナー

やばいこれはもう無理じゃね

 

 

120:名無しの先頭民族

場内が悲鳴で騒然としてて芝

 

 

121:名無しの先頭民族

いや、お兄さんめっちゃ落ち着いてるぞ。

ルドルフとなんか話してる

 

 

122:名無しの先頭民族

なに

 

 

123:名無しの先頭民族

読心術は

 

 

124:名無しの先頭民族

独身術

 

 

125:名無しの先頭民族

読唇術

 

 

126:名無しの先頭民族

全然合ってなくて芝

 

 

127:名無しの先頭民族

ルドルフ「ふむ、大丈夫そうかな?」

お兄さん「狙い通りだし、スズカなら問題ない」

 

 

128:名無しの先頭民族

いや流石に無理でしょ

 

 

129:名無しの先頭民族

やはり無能

 

 

130:名無しのトレーナー

いや待て、後方を見ろ

 

 

131:名無しの先頭民族

ん?

 

 

132:名無しの先頭民族

あ、なんかめっちゃ隊列バラけてる

 

 

133:名無しの先頭民族

半分くらい暴走してて芝

 

 

134:名無しの先頭民族

掛かってしまったみたいですね…。

 

 

135:名無しの先頭民族

あ、フクキタルとブライトがバ群に呑まれた

 

 

136:名無しの先頭民族

1000m 57秒9

 

 

137:名無しの先頭民族

これが狙い通り…?

 

 

138:名無しのトレーナー

そんなまさか

 

 

139:名無しの先頭民族

速いっ!?

 

 

140:名無しの先頭民族

3000のタイムか、これが…?

 

 

141:名無しの先頭民族

いやどう考えても無能

 

 

142:名無しの先頭民族

あああ頼む、持ってくれ

 

 

143:名無しの先頭民族

中盤に差し掛かったが…。

 

 

144:名無しの先頭民族

リード15バ身だけど、まあこのペースじゃあね

 

 

145:名無しの先頭民族

差がエグい

 

 

146:名無しの先頭民族

前半タイム 1:29,5

 

 

147:名無しの先頭民族

はやっ!?

 

 

148:名無しの先頭民族

明らかにオーバーペース

 

 

149:名無しの先頭民族

もうダメだ……お終いだ

 

 

150:名無しの先頭民族

一人で坂を登り、そして下っていく

 

 

151:名無しの先頭民族

いや、フクキタルとブライトが外を回させられてる

 

 

152:名無しの先頭民族

ああ、掛かった子たちが邪魔なのね…。

 

 

153:名無しの先頭民族

このロスは大きいか…?

 

 

154:名無しの先頭民族

フクキタル来た

 

 

155:名無しの先頭民族

あああ脚色いいぞ

 

 

156:名無しの先頭民族

やめてくれー!?

 

 

157:名無しの先頭民族

そのままー!

 

 

158:名無しの先頭民族

そのまま!

 

 

159:名無しの先頭民族

粘れー!

 

 

160:名無しの先頭民族

あとリード5バ身!

 

 

161:名無しの先頭民族

4バ身しかないぞ

 

 

162:名無しの先頭民族

まだ4バ身

 

 

163:名無しの先頭民族

3バ身

 

 

164:名無しの先頭民族

もうダメだ

 

 

165:名無しの先頭民族

加速した!?

 

 

166:名無しの先頭民族

そんなはずは

 

 

167:名無しの先頭民族

いやマジだ

 

 

168:名無しの先頭民族

逃げ差しだ!?

 

 

169:名無しの先頭民族

リード開いた!

 

 

170:名無しの先頭民族

4バ身ある

 

 

171:名無しの先頭民族

勝った!?

 

 

172:名無しの先頭民族

これは届かない!

 

 

173:名無しの先頭民族

速い速い!

 

 

174:名無しの先頭民族

ゴール!

 

 

175:名無しの先頭民族

今、ゴール!

 

 

176:名無しの先頭民族

無敗の三冠!

 

 

177:名無しの先頭民族

おめでとー!

 

 

178:名無しの先頭民族

スズカカッター!

 

 

179:名無しの先頭民族

これが見たかった!

 

 

180:名無しの先頭民族

いえーい、お兄さんみてるー!?

 

 

181:名無しの先頭民族

お兄さん泣いてるぞ?

 

 

182:名無しの先頭民族

いやっほおお!

 

 

183:名無しの先頭民族

スズカ最強! スズカ最強!

 

 

184:名無しの先頭民族

テレビに泣いてるお兄さん映って芝

 

 

185:名無しの先頭民族

スズカが抱き着きに行くから……。

 

 

186:名無しの先頭民族

悲鳴と歓声が凄いが

 

 

187:名無しの先頭民族

スズカコールが凄い

 

 

188:名無しの先頭民族

やばい、まだ心臓のバクバクが止まらん

 

 

189:名無しの先頭民族

負けたと思うじゃん普通

 

 

190:名無しのトレーナー

なんであそこからあんなに伸びるんですかね…。

 

 

191:名無しの先頭民族

感動した

 

 

192:名無しの先頭民族

泣いてるお兄さんを慰めるスズカちゃん可愛い

 

 

193:名無しの先頭民族

いや二人とも泣いてね?

 

 

194:名無しの先頭民族

ずっと二人で頑張ってきたんだろうな

 

 

195:名無しの先頭民族

シンボリルドルフに次ぐ新たな伝説の誕生か…。

 

 

196:名無しの先頭民族

仕方ない結婚を認めよう……ジャパンカップに勝ったらな!

 

 

197:名無しの先頭民族

あと凱旋門賞もよろしく

 

 

198:名無しの先頭民族

BCも頼んだ!

 

 

199:名無しの先頭民族

コイツら……

 

 

 

 

 

 



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有マ記念

 

 

 

 

 

 雪景色は好きだ。

 冬は寒いけれど、お兄さんも寒くなると心配してくれて、手を握ってくれるし。くっついても何も言われない。

 

 雪景色に並ぶ、自分とお兄さんの足跡が好きだ。

 今でこそお兄さんと私の走りは独りではないと思えるけれど、あの頃はまだ走っている時は自由と孤独をどちらも感じていて――――それでも、一周は並んで走ってくれるお兄さんの足跡と一緒なら一人じゃないと思えた。

 

 

 

 どこまでだって走れる。

 もっと速く、もっと先に――――。

 

 二人なら、誰よりも速くなれた。

 二人だから、誰より長く走れた。

 

 

 

 

(私、見てみたいんだ。一緒に駆け抜けた景色を――――その先を)

 

 

 

 無敗の三冠。

 

 喜んでいるお兄さんを見た。

 信じて待ってくれているのを見た。

 泣いているのを見た。

 

 

 

 

 ――――シンボリルドルフ会長が成し遂げたことを、私とお兄さんも駆け抜けた。けれどジャパンカップは皇帝でも勝てなかった。

 

 

 

 誰にも届かない記録を―――ターフに、私とお兄さんだけの足跡を残す。

 私とお兄さんにしかできないことを。そして、私の感じているこの気持ちを、お兄さんも感じてくれていればいいと思う。

 

 

 

(もっと一緒にいたい。もっと、触れていたい。もっと貴方を感じていたい)

 

 

 

 最近のお兄さんはトレーナーだからと意地悪なので、全然構ってくれないけれど。

 だからこそ手を繋ぐと幸せだと感じる。お兄さんに抱き着いて眠るのはとても安心するし、キスは……どきどきする。

 

 

 

 

 そのためにも、走る。

 誰もいない景色を、私だけの景色を、その先で待つお兄さんに見せるために。

 

 私だけを見ていて欲しい。

 

 

 

(――――だから)

『スズカ、有マ記念はお前に任せる。脚のコンディションは見ているし全力を尽くす―――だから、お前の走りたい景色を見てこい』

 

 

 

 

 

 

 私は、お兄さんを。

 お兄さんと、サイレンススズカを信じる。

 

 

 

「お兄さん――――私、出ます。有マ記念に」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 ジャパンカップから二週間、駄々をこねるスズカを女子寮に戻し―――ついでに布団を持っていかれた。もともとスズカのヤツなので別に惜しくはないのだが、戻ってきた俺の布団がなんか……完全にスズカの匂いになってたが。

 

 

 なんか最近、スズカの密着度が高い。

 原因は菊花賞でキス(頬)してきたことだと思うが、胸は当ててくるし脚は絡めてくるしやりたい放題である。

 

 身長も伸びて美人としか言えなくなってきたし、妙な色気もあるのでいい加減にしてほしいのだが。なんなの? 新手の拷問なの?

 

 

 

 『お兄さんの匂い…』とか言いながらふにゃっとした笑顔をされるとなんかこう……うん。やっぱり危機感足りないわアイツ。

 

 

 

 

 

 そんなわけで有マ記念の控室。

 何故か応援に来ているリギルの面々は来ない。薄情、というか妙な気を使われているのかもしれない。

 

 

「お兄さん、寒いです」

「暖房ついてるだろ…」

 

 

 

 わざわざ人の膝の上に座り、寄りかかってくる。

 重……くはないが。

 

 

 

「やっぱりこっちの方が……」

「おい何してんのお前」

 

 

 

 よいしょ、と言いながら向きを変えて抱き着いてくるスズカ。

 座高で言えばそんなに凄い差があるわけではないので、顔が近い。肌は白いし瞳の色も吸い込まれそうな蒼色。

 

 

 

 

「お兄さん、あったかいです」

「暑いんだけど」

 

 

 

 

「えー」

「あー、清楚で美人な女の子が好きだなー。恥じらいのある子とか最高だなー」

 

 

 

「………お兄さん、私そんなに単純じゃないですよ」

「そうかぁ?」

 

 

 

 スッ、と自分の席に座り直し。

 それでも我慢できずに手は繋いでくるが、まあそれくらいは必要経費。

 

 

 

「恥じらいの無いお子様は恋愛対象外だから」

「………前にもいいましたけど、恥ずかしくないわけじゃないです」

 

 

 

 ムスっとした顔だし、耳も絞ってるので不機嫌なんだろうが頭を撫でるとすぐ機嫌よく動き出すあたり単純ではありそうである。

 

 

 

「有マに勝ったら、クリスマスデートな」

「………デートっ」

 

 

 

「どこか行きたいところとかあるか?」

「……イルミネーション、見に行きたいですね」

 

 

 

「そっか。じゃあ少し遠出するかな」

「あと、景色の良いところでご飯を食べて」

 

 

 

「ま、偶には贅沢もいいな」

「後はお兄さんとお風呂に入って、お兄さんのベッドで寝ます」

 

 

 

「風呂は一人で入れ」

「じゃあ寝るのは一緒に、ですね」

 

 

 

 まあ、無事に帰ってきてくれるのならそれでもいいが。

 

 

 

「………ゴールで待ってる」

「見ていて下さい、私たちだけの景色」

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあ、遂にこの日がやって参りました――――年末の中山で争われる夢のグランプリ! 有マ記念! 3番人気はエアグルーヴ! ジャパンカップでは惜しくも3着となりましたが、果たして雪辱を果たすことができるのか!?』

『恐らく前回よりも対策を練っていることかと思います。そこに期待したいですね』

 

 

 

 

『2番人気はマーベラスサンデー! ここまで14戦10勝、今年春のグランプリ宝塚記念で優勝し、その実力を証明したウマ娘です!』

『まだサイレンススズカとの対戦経験がないですが、その分だけ可能性があるとも言えますね』

 

 

 

 

 

 

『そして注目はもちろんこのウマ娘でしょう! ファン投票1位、無敗の三冠にしてジャパンカップで堂々の四冠目を掲げた異次元の逃亡者が、前人未踏クラシック級での無敗五冠に挑みます! 7戦7勝――――1番人気、1枠1番、サイレンススズカ!』

 

『綺麗に1が並びましたね。実力は間違いなく抜きんでています。表明している海外遠征に向けて更なる夢を見させてもらいたいですね』

 

 

 

 

 割れんばかりの歓声を浴びて、スズカがターフに現れる。

 軽く手を振って応援に応えると、落ち着いた様子でゲートに向かい。

 

 その近く、ケガから復帰したサニーブライアンがスズカに声を掛ける。

 

 

 

「――――スズカに勝つためだけにこの半年を過ごしてきたんだ。今日は、勝たせてもらうから」

「ええ。いい勝負にしましょう―――――けど、負けないから」

 

 

 

 

 半年なんかでは足りない。

 きっとそれは二人の共通認識で。それでも言葉はもういらない。

 

 努力が足りないのなら、死力を振り絞る。

 怪我の恐ろしさを知って、それでもなおターフを駆ける―――それだけの理由が、ここにはある。

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り響き、ゲートに入る。

 西日に照らされた中山レース場を舞台に、今年最後のグランプリが。

 

 

 

 

『GⅠ、有マ記念―――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 ゲートが開き、スタートする。

 最高のスタートを切れたと確信したにも関わらず、それより半歩前にいるのがサイレンススズカ。

 

 

 

 

 何もない星空、冷たい星の輝き。

 それを切り裂くようなサイレンススズカの輝き―――領域だ。

 

 もうダービーのようにハナを譲る気はないのか、ブレーキが壊れたように、あるいは燃え尽きようとする流星のように速度を上げていく。

 

 

 

 その理不尽さに嘆きたくなるが、同時に「そうでなくては」と思う。

 私がなんとしても勝ちたいと、そう思ったのは誰も追いつけない異次元の逃亡者なのだから。

 

 

 

 

『4番のローゼンカナリー、あまり良い出ではありません。そして当然行く、1番のサイレンススズカ! 続いて競りかけていくのがサニーブライアン! 果たしてダービーの再現となるのか!? その更に外からカナミクロス! 激しい先頭争い!』

 

 

 

 ペースは速い。

 あの菊花賞ですらハイペースの逃げを見せたのだから、それより短い有マがより熾烈な走りになることくらいは予測できている。

 

 

 

 

『四番手にタイキブリザード! エアグルーヴは中団! その後方、アウトコースにメジロドーベル! マーベラスサンデーは後方5番手くらい、その横にシルクジャスト!』

 

 

 

 

『さあ先頭のサイレンススズカが差を開く、そこから1バ身、2バ身くらい離されてサニーブライアンが必死に食らいついている! そこから更に4バ身ほど離されてカナミクロス! その更に3バ身ほど離れてタイキブリザード、エアグルーヴと続いています!』

 

 

 

 

 ここから少しでも早く詰め寄って、息を入れさせない!

 それしかサイレンススズカの逃げ差しを止める方法はない。走れ! 速く、もっと速く!

 

 既に呼吸は苦しい。

 肺が少しでも息を入れたいと悲鳴を上げるが、まだこんなものじゃない。練習の方が、もっと辛かった。トレーナーに訴えて、勝つために限界に挑んだ。

 

 

 

 

(もっと、もっともっと前へ! 一歩でも、0.1秒でも早く!)

 

 

 

 

『さあ向こう正面に入って――――サイレンススズカの後方1バ身ほどにサニーブライアン! そこから7バ身ほど離れてカナミクロス! カナミクロスとタイキブリザード、エアグルーヴの差が縮まってきているぞ!?』

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、ここでサニーブライアンがサイレンススズカに迫る! エアグルーヴも徐々に上がってきているぞ!?』

 

 

(息なんて入れさせない――――私が、勝つ! 人気も、ダービーの栄冠も、海外の栄光もどうだっていい! ただ――――勝ちたい!)

 

 

 

 

 

―――――『唯、必然の勝利だけを』

 

 

 

 瞬間、世界が変わる。漠然とそれが自分の領域なのだという理解があった。

 鈍い灰色の世界に広がるのは、不屈の意志を秘めた夕焼け。

 

 ターフを貫くような斜陽の輝きを踏みしめて、燃えるような力を感じる脚を踏み抜く。

 

 

 

 

 

『サニーブライアンが並んだ! 第三コーナーでサイレンススズカに並びかけたのはサニーブライアン! 両者一歩も譲らぬ熾烈なデッドヒート!』

 

「―――――私たちの景色は、譲らない…!」

 

 

 

 瞬間、二連星を抱き寄せるようにしてサイレンススズカが想いを力に変える。

 加速したサイレンススズカに、しかし領域の加速を得たサニーブライアンが追従する。

 

 

 

――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、ここで加速! サニーブライアン僅かに離れたが食らいついている! さあ最終コーナーを回って直線に入る! エアグルーヴとマーベラスサンデー、シルクジャストが一気に差を詰めているぞ!?』

 

 

 

 

 

 瞬間、踏み込んだスズカが僅かに体勢を崩した。

 

 

 

 

 

『ああっと!? ――――サニーブライアン、先頭! サニーブライアンが先頭! エアグルーヴ、マーベラスサンデーが差を詰める! 内からシルクジャスト!』

 

 

 

(何が――――)

 

 

 

 

 バ場状態の悪い芝に左足を取られた、らしいのはなんとなくわかった。

 僅かにそれに気を取られた瞬間―――。

 

 

 

 

 

 

 ぞくりと肌の粟立つ感覚とともに、見慣れた栗毛が並びかけてきた。

 

 

 

『――――内から再びサイレンススズカ! サイレンススズカだ! 僅かに足を取られたように見えましたが食らいついていく!』

 

 

 

 

『サイレンススズカとサニーブライアン、完全に並んだ! エアグルーヴとマーベラスサンデーは離れている! 外からシルクジャスト! シルクジャスト追いすがる!』

 

 

 

 

 

(――――っ、勝てる! ―――勝つんだ、此処で!)

 

 

 

 

 脚色では劣っていない。

 若干左足を庇うような不自然な走りになっているスズカと速度が同じというのは心底嫌になるが、それでも今しかない。

 

 

 ヒューヒューと空気が漏れるような音がする。ガンガン頭を打ち付けるような痛みも止まらない。なんでこんなに苦しいのに走らないといけないのか――――勝てば、その意味も分かるのだろうか。

 

 

 

 

 

――――――『先頭の景色は――――譲らない!』

(な、んで――――)

 

 

 

 

 領域――――二つ目。

 どこまでも続く芝と、何処かへつながっている道。

 

 庇っていた左足をターフに叩きつけて、サイレンススズカが加速する。

 

 

 

 

「ま、だだ――――ァッ!」

 

 

 

 

 それでも、食らいつこうと前へ。

 そこがゴールだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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静寂 / 宴の後で

 

 

 

 

 

 

 

 レースは終始順調だった。

 結局のところ、スタミナと根性の勝負になれば勝てるという自信があったから。

 

 サニーブライアンがどれだけのトレーニングをしたとしても、10年以上のトレーニングを積んだ私たちには届かない。

 

 

 だから、極端なオーバーペースにならないように抑えて走る。

 ハナを奪っている以上、サニーブライアンも終盤まではペースをある程度抑えて走るしかない。共倒れを狙った走りをすれば話は別かもしれないけれど、彼女も勝ちに来ている。

 

 と、頭の冷静な部分は考えているが関係ない。

 好きなように走れば、それが誰も届かない私たちだけの走りだと知っているから焦らないし、焦る必要もない。

 

 

 

 

 

――――だからそれは、不幸が重なった偶然だった。

 

 

 偶々、バ場の内側が荒れていて。

 ちょうどサニーブライアンが外から抜きに行ったタイミングで外に出るわけにもいかず。

 僅かにできていた窪みに、たまたま足が引っかかった。

 

 

 

(――――っ!?)

 

 

 

 捻った左足に、崩れそうになる体勢を辛うじて立て直す。

 それでも大幅な減速は逃れられず――――。

 

 

 

(――――ダメ。負けたくない)

 

 

 

『怪我をしたら、絶対に無理はするなよ』

 

 

 

 いつかのお兄さんの言葉が脳裏を過った。

 躊躇いが、左足を押しとどめようとする。

 

 それでも足を振りぬいたのは、意地だった。

 失望されたくない。いつだって、最高の走りを見せていたい。情けない走りなんて、絶対に見せたくない。

 

 

 

 

――――この程度で、私たちの走りは負けない!

 

 

 

 

「――――――ぁぁァアアアッ!」

 

 

 

 左足が痛む。けど、まだ走れる。

 走れるのなら、大丈夫。

 

 左足にかける力を最小限に、右の脚で飛ぶように駆ける。

 今まで怪我をして走ったことなんてなかったから、痛みがフォームを狂わせる。

 

 それでも、勝負服に込められた想いは背中を押してくれているような気がした。

 知っているようで、知らない私。

 

 

 

 大きな身体で、でもやっぱり寂しがり屋で、走るのが大好きな―――。

 

 

 

 

 

 

―――――たとえ脚が一本使えなくても、倒れたりなんてしない。絶対に、届けるから。

 

 

 

 

(―――――見えた! “私たち(サイレンススズカ)”だけの――――)

 

 

 

 

 

―――――『■■の日曜日(先頭の景色は譲らない)

 

 

 

 

「先頭の景色は――――譲らない!」

 

 

 

 

 脚は二つしかないのだから、片方を怪我したら走れない。

 そんなことは関係ないのだと言わんばかりの、まるで脚が四本あるかのような不思議な感覚とともに左足を地面に叩きつけて。

 

 

 

 

 

――――― 一緒なら、きっと誰にだって負けはしない。

 

 

 

 

 

 きっと、もう届かない誰かへの想いを受け取る。

 その願いはもう叶わないのかもしれないけれど――――絶対にたどり着いて見せるから。ゴールへ。その先の、あの人が待っている場所まで。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終コーナーでスズカが体勢を崩して、すぐに飛び出しそうになる身体をルドルフが止める。力づくで振りほどこうとして、落ち着いたルドルフの声が響いた。

 

 

 

「まだだ。まだ、レースは終わっていない」

「そんなもの――――!」

 

 

 

「まだ彼女は諦めていないぞ」

 

 

 

 どうでもいい、と叫びそうになって歯を食いしばって走るスズカを前に沈黙する。

 

 

 

「テイオー」

「うん、救急車ね!」

 

 

「ブライアン」

「確かあの荷物だったな」

 

 

「トレーナー君」

 

 

 

 レースが終わればすぐに駆け付けるのがキミの役目だ、とその深い落ち着きと悲しみを湛えた瞳が言っていた。

 誰よりも走るウマ娘の幸せを願う会長が苦しくないはずはなかった。それでもレースで走っている子たちの気持ちを考えて、できることだけをしている会長に、仕方なくいつでもレース場に出れるようゴール付近に移動する。

 

 

 

 

『今、サイレンススズカがゴール! 執念のゴールです! 最終コーナーで失速しましたが、内からサニーブライアンを差し返しました! 半バ身差で2着、サニーブライアン! 3着に入ったのはシルクジャスト!』

 

 

 

 

 レースを終え、ゆっくりと速度を落としたスズカに駆け寄る。

 僅かに庇うように左足を浮かせるスズカだが、とにかくまず左足を地面に付けないようにしなくては。

 

 

 

 

「あっ、お兄さ――――」

「動くなバカ! 左足は地面に付けるな!」

 

 

 

 

 脚を庇う仕草を見るだけで、胸が苦しい。

 が、本人は呑気そうにちょっとだけ耳を萎れさせた。

 

 

 

「あの、多分軽傷で――――」

「五月蠅い!」

 

 

 

 仕方ないので無理やり抱き上げ、静かになったスズカをコース脇に止めてある救急車に向けて運ぶ。テイオーが話を通してくれたらしく、あっさりと救急車に乗ることができたのでそのまま病院へ。

 乗り慣れない救急車に、スズカを抱いたまま座り、扉が閉まる前にブライアンが投げてよこした応急処置キットでとにかく患部を冷やす。

 

 

 

「痛みは?」

「……えっと、動かさなければ無いです」

 

 

「足首だよな? 他の場所は?」

「……なんともないです」

 

 

 

 これはもしかして……捻挫なのでは?

 いや待て、スズカだぞ。左足だぞ。骨が砕けててもおかしくない。

 

 落ち着け、落ち着くんだ。クールになれ。

 とりあえず勝負服のタイツを引っこ抜き――――。

 

 

 

「お、お兄さんっ!?」

「足は――――少し腫れてるか? 直接冷やすぞ」

 

 

 

 慌ててスカートを抑えるスズカはスルーして直接患部と思われる場所に氷嚢を当てる。

 

 

 

 

「……はい」

「スズカ、顔が赤いぞ!? 熱が――――」

 

 

「……ないですよ?」

「よし血圧計もある、流石ブライアン。とりあえずバイタル取るからな!」

 

 

 

「あの、捻挫……」

「くっ、この勝負服じゃ血圧測れない―――――脱げ」

 

 

 

「ウソでしょ!? お兄さん、ちょっと待っ――――」

「待たない! お前に何かあったら俺は――――」

 

 

「あのさ、トレーナー。ボクもいるんだけど?」

 

 

 

 半目で呆れているテイオーに、上着を脱がせようと取っ組み合いをしていたのを止める。

 

 

 

「テイオー、お兄さんを止めて下さい!?」

「テイオー、お前からも何か言ってくれ!?」

 

「普通、捻挫で血圧測る?」

 

 

 

 そりゃまあ、測らないが。折れてるかもしれないし。

 

 

 

「もし折れてたとして、血圧いる?」

「……いらないです」

 

 

 

 じゃあなんで測るのさー、と呆れるテイオーに頷き、脱がされそうになった上着を庇うように抱きしめているスズカに土下座……しようと思ったがスズカを抱きかかえているので無理だった。

 

 

 

 

「ごめんなさい許してください……」

「………えっと」

 

「ダメだよ、簡単に許しちゃ。落ち着いてから好きなお詫び貰った方がいいよ」

 

 

 

 

 うっ……。まあ今回はどう考えても俺が悪い。こんな状況じゃなかったら蹴っ飛ばしてるよー、というテイオーの呆れた視線が痛い…。少し錯乱していたんだ。

 

 と、そこでちょうど近場の病院に到着。

 嫌がられなかったので、横抱きにしたまま診察室へ。

 

 

 

 軽い診察の後、とにかくレントゲンを撮ってみることになり。スズカをレントゲン室に置いていくと凄い訴えるような目で見られたがそれもやむなし。

 

 

 そして――――。

 

 

 

 

 

 

「―――――軽い捻挫ですね」

 

 

 

 結局、膝の上に落ち着いたスズカとしっかり抱きしめている俺を生暖かい目で見ながらどっかで見たような先生は言った。正直「折れてますね」からの注射の流れかと思った。テイオーは白衣が怖いのか後ろで挙動不審になっている。

 

 

 

「レースの映像を見た感じではもっと靭帯を痛めているかと思いましたが、丈夫な足首ですね。これなら安静にして10日もすれば良くなるでしょう。年末を挟んでしまうので、年が明けたらまた来てください。サポーターとか要りますか?」

 

「あ、自前のがあるので……」

 

 

 

 レース見てたのか……いやアニメでも見てたか。

 奇跡の復活の時とか。

 

 

 

「ではとりあえず湿布だけ張っておきます。湿布の方は出しますか?」

「お願いします」

 

 

 

「では、待合室でお待ちください」

「……あ、はい」

 

 

 

 

 

 …………良かった。

 やっと落ち着いたような、なんとなくまだ夢でも見ているような。

 徹底的に足周りの柔軟性と、関節の安定性に必要な筋力を鍛えたのは無駄じゃなかったらしい。

 

 生きた心地がしないとは、こういうことか。

 と、不意にニコニコ笑顔で両腕を広げたスズカが言った。

 

 

 

「お兄さん、動けないので運んでください」

「松葉杖借りてやろうか」

 

 

 

「………勝負服」

「すみませんでした」

 

 

 

 すぐさま抱き上げると、腕を首に絡めてくる。お前元気じゃねーか……!?

 いや、そういえば最初から軽傷だと思うって言ってたけど……けどさ! あんなの心配になるじゃん! 何かあったらどうしていいのか分からないじゃん!?

 

 

 

 と、何故か病院の待合室に戻ると拍手で迎えられる。

 なんとなくスズカの怪我が大したことないのを察したのだろう。……テレビでもなんかスズカが怪我でウイニングライブ中止の速報が流れているので、申し訳ない限りである。

 

 

 

「あ、お兄さんタイツ返して下さい」

「はい」

 

 

 

 持ったままだったので、丁寧に穿かせる。

 

 

 

「お兄さん。ジュース飲ませてください」

「はい」

 

 

 

 自販機にダッシュ、は病院なのでダメだが、急いで買ったオレンジジュースを渡し……何故か介助を要求されたので、クソ飲みにくそうなのは置いといて丁寧に飲ませる。

 

 

 

 

 

「お兄さん……えっと。何か甘やかしてください」

「要求雑だな……」

 

 

 

 なんとなく頭を擦りつけてくるスズカの耳元を撫でる。

 もうなんか疲れた……とぐったりしていると、不意にスズカに頭を撫でられた。

 

 

 

「ごめんなさい、心配かけて」

「……ほんとだよ」

 

 

 

「だから――――泣かないでください」

「………うれし涙だよ」

 

 

 

 嘘である。

 落ち着いたら安心したやら、今更ながら怖くなるやら、勝手に涙が出てきて止まらなかった。

 

 この阿呆、いつも無事に帰ってきてくれればいいとだけ言ってるのに無茶しやがって。自分のためだけに走るなら怒るところだが。

 コイツのことなので俺のため……なんだろうなぁ。自惚れでなければ。

 

 

 

「……もう、怪我するなよ」

「はい」

 

 

「………無茶は駄目だからな」

「気を付けます」

 

 

 

「なあ、スズカ……」

「はい?」

 

 

 

 

 無事に帰ってきて欲しい

 その気持ちを伝えるのに、何が一番いいのだろう。

 

 お前がいてくれないとダメなんだ、と素直な気持ちを伝えればいいのか?

 でも、もう走らないで欲しいなんて俺のエゴで、コイツの走りを――――俺たちが夢見た最高の走りを止めたくはなかった。

 

 

 

 

「…………おかえり」

「はい。……ただいまです」

 

 

 

 

 俺は日和った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスイブの街は色とりどりのイルミネーションに覆われて、普段とは別の世界のようだった。

 前にスズカが行きたいと言っていた、お高いホテルのレストランをあらかじめ予約していたのだがなんとドレスコードがある。

 

 

 

「お兄さん、お待たせしました」

「お、おう」

 

 

 

 良く似合う緑のドレス(もともと年度代表ウマ娘の表彰式用に作った)の上からコートを羽織ったスズカはなんというか美人だ。普段つけているカチューシャも外し、大人っぽい姿はなんというかワキちゃんではなくスズカさんである。

 

 

 

「その、美人……じゃなくて。似合ってるぞ、そのドレス。綺麗だ」

「……は、はい」

 

 

 

 肝心の服装じゃなくてスズカ単体で褒めてどうするのか。

 なんとなく頬を赤くしたスズカに手を差し出すと、そっと握り返される。……しおらしくされると調子が狂うんだが。

 

 とりあえず車までは横抱きで移動し(手を繋いだ意味はなかった)、そこからなんとなく緊張した空気のままレストランへ。

 ウマ娘にも人気だというそのレストランは、量も多いし味も良いのだとか。なんかルドルフのサインすら飾ってあるのが見える。

 

 

 

 

 一番見晴らしの良い席に通され、贅を凝らしたコース料理が運ばれてきた。

 ちゃんとヒト用、ウマ娘用で量を分けてくれているあたりとてもありがたい。

 

 と、ぼーっと、こちらを見ているスズカになんとなく不安を覚える。

 

 

 

「どうした、スズカ。調子悪いのか?」

 

 

 

 ひょっとして走れていないからストレスが溜まっているのかもしれない。一応、歩行の許可は出ているのだが。

 と、スズカは少し困ったような顔で耳を萎れさせた。

 

 

 

 

「いえ、その………少し、お兄さんを見ていただけです」

「そ、そっか」

 

 

 

 そういわれて、なんとなくこちらもスズカを見る。

 露出の最低限なドレスはこちらの趣味のゴリ押しだが、ボディラインが細くて綺麗なスズカには良く似合っている。

 

 なんとなく二人で見つめ合い、運ばれてきた料理を無言で食べる。

 残念ながら満足な女性経験もないので、気の利いた言葉なんて無く。美味しい料理に頬を緩めたり、外の景色を見て楽しそうに耳を動かしたり、目が合って嬉しそうにはにかむスズカを見ているといつの間にか料理はデザートに差し掛かっていた。

 

 

 

「こちら、オーナーからのサービスでございます」

 

「あ、どうも」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 5つの星―――恐らく三冠、ジャパンカップ、有マの五冠を表現しているのだろうそれは、サービスで出てくるにはクオリティが高すぎた。もしかしなくてもトゥインクルシリーズのファンだなオーナー…。

 

 ついでに、砂糖菓子らしきスズカと……何故か俺の人形まであり。

 目を輝かせたスズカが珍しくスマホで自撮り(店員さんに許可を取ったら笑顔で許可をくれた。まあ宣伝になるわな)を連打するくらいである。

 

 

 

「お兄さん、食べていいですか…?」

「なんで俺に許可を取るんだよ……」

 

 

 

「だ、だって! こんなに可愛いお兄さん……食べていいんですか?」

「食べろよ。食べられるのがそいつも本望だろ」

 

 

 

 まあ俺に食われるよりは、スズカに食われる方が本望だろう。

 あー、とかうー、とか散々悩みに悩んだ末、スズカは目を閉じて口を開けた。

 

 

 

「……お兄さん、食べさせてください」

「雛鳥かお前は」

 

 

 

 面倒なのでスプーンでさっさと口に入れてやると、一瞬とても悲し気な顔をしたスズカだったが、すぐふにゃりとだらしのない表情になる。美味しかったらしい。

 

 そのままスプーンを咥えたまましばらく味わっていたスズカだが、しばらくすると残ったスズカ人形に目を付け。スプーンでそれを掬うと差し出してきた。

 

 

 

「……はい、あーん」

「いや食えよ」

 

 

 

「でも、お兄さんに食べられた方が嬉しいと思いますし」

「………」

 

 

 

 なんで二人して似たようなことを考えているのか。

 この笑顔はなんとなく菊花賞の時のかな、なんてことを思いながらデフォルメされても胸はない、などと現実逃避してみる。

 

 

 

 

「『お兄さん、食べてください~』」

「変な声出すな……」

 

 

 

 謎に上手い子どもの時のスズカの声真似(ご本人)なのはともかく、なんかこう……アレだ。スズカの声でそういうことを言われると変な気分になる。

 

 

 

 恥ずかしがって妙に意識してると思われるのも癪なので、無駄に可愛いスズカ人形を食べる。………甘い。

 

 

 

「私の味、どうですか…?」

「………美味いよ?」

 

 

 

 スズカをかみ砕くわけにもいかず、仕方なく舐めてなんとかしようとするのだがそれはそれでなんかアレである。

 口の中に居座ったスズカをなんとかしようと悪戦苦闘する間に、本人は満足げな顔でケーキの大部分を蹴散らし。

 

 オーナーにサインと写真を求められたスズカ(とついでに俺)は快く応じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(トレセン学園匿名) / 様子のおかしいスズカさん


疲れたので少しお休みをいただきます。
余り物で申し訳ないですがどうぞ


【雑談用】トレセン学園匿名掲示板【有マ記念】

 

1:校庭の高低

トレセン学園掲示板利用規則

・愚痴は良いけど悪口はダメ

・規則を守って楽しく雑談

 

 

2:蒲公英

設置、ありがとうございます。

 

 

3:目指せ日本一

サイレンススズカさんの有マ記念、ケガが酷くなくて良かったです~!

 

 

4:ゆる釣り人

>>3そうだね~。私の友達もあの人の大ファンだから、泣いて喜んでたよ

 

 

5:目指せ日本一

>>4そうなんですか!? すごく気が合いそうかも……語り合いたいです!

 

 

6:宇宙一カワイイ

凄かったですよねー。やっぱりあんな風に走れるのってカワイイなって

 

 

7:バクシン!

素晴らしいバクシンぶりでした! 是非学級委員長になって頂き、共に輝きたいですね!

 

 

8:蒲公英

>>5話は合いそうと言いますか…。ともかく、日本のウマ娘として海外挑戦は応援したいですね

 

 

9:一流ウマ娘

やっぱりあんな風に走ってみたいけれど。

あのトレーナー、幼馴染なんですって?

 

 

10:ゆる釣り人

>>9ま~なんというか、二人揃ってるから本当にえげつないタイプだよね

 

 

11:校庭の高低

>>10その認識で間違いないと思うよ。彼女は突出した才能を持つが故に、普通の認識では共に歩めない。理解者が必要なんだ。

 

 

12:目指せ日本一

いいですよね~、お似合いの二人って感じで……。

でも、恋人とかでは無いって……恋愛って難しいですね

 

 

13:世界一カワイイ

>>12本当ですよね! 私のお兄ちゃんも私にメロメロなのに、絶対手は出してくれないですし

 

 そんなところも大好きですけど

 

 

14:名無しのウマドル

>>12うん、恋愛は難しいよ…。どうしたら好きになって貰えるのかなって必死で考えても、実際に好きな人を前にするとできなかったりするし…。

 

 

15:ゆる釣り人

>>14しかも真顔で恥ずかしいこと言ったりしてきますからね! いや本当に卑怯というか!

 

 

16:ワガハイ

>>11理解者かー。欲しいと言えば欲しいけど、なんか甘さで胃がやられそう…。

 

 

17:校庭の高低

>>16 甘いくらいでも あ、まあいいかと思えるくらいの相手がいるといいな

 

 

18:クローバー

>>17うんうん、でもやっぱり好きな物は理解してくれる人がいいなー。ラーメンとか!

 

 

19:蒲公英

>>13 生徒に手を出したら責任は取ってもらわないといけませんからね

 

 

20:ゆる釣り人

>>19ちゃんを怒らせてはいけない…。

 

 

21:世界一カワイイ

>>19大丈夫ですよ、責任感は人一倍ですから! ウエディングドレスならいけるかと思ったんだけどなー。

 

 

22:目指せ日本一

あ、そういえば! 全然関係ないんですけど、サイレンススズカさんって年度代表ウマ娘になりますよね、きっと

 

 

23:ゆる釣り人

>>22だろうねー。というかならなかったら誰?っていう

 

 

24:校庭の高低

 

例年通りであれば

ジュニア(三冠路線):グラスワンダー

  (ティアラ路線):アインプライド

クラシック(三冠):サイレンススズカ

 (ティアラ路線):メジロドーベル

シニア級:マーベラスサンデー

短距離:タイキシャトル

ダート:不明(該当者なし?)

 

年度代表ウマ娘:サイレンススズカ

 

といったところか

 

 

25:クローバー

>>24おおー、凄い! 博識なんですね、校庭さん!

 

 

26:校庭の高低

>>25ありがとう。そう言ってもらえると私も嬉しい

 

 

27:目指せ日本一

>>18ところでおすすめのラーメンとかって……?

 

 

28:クローバー

>>27任せて! 湯切りの良いお店見つけたから! 今度食べに行こう!

 

 

29:ゆる釣り人

あっ(察し)

 

 

30:お腹がすいたな

>>27 いつ出発する? 私も同行したい

 

 

31:蒲公英

あら~

 

 

32:目指せ日本一

あっ、すみません大事なことを忘れてました!

その、スズカさんが年度代表ウマ娘になるということは勝負服が新しくなると思うんです!

 

 

33:ゆる釣り人

>>32確か、ある程度希望を聞いて貰えるんだっけ?

 

 

34:校庭の高低

>>33そうなる。もちろん年度代表ウマ娘という題目なので、それにふさわしいものが望ましい

 

 

35:一流ウマ娘

ということはやっぱりドレスかしら

 

 

36:目指せ日本一

なんというか、悩んでいたので皆さんのアイデアをもらいたいんです!

 

 

37:ゆる釣り人

>>36悩んでいたらしいんだね。いいよー、ちょっとだけなら力を貸しちゃう

 

後で返してね☆

 

 

38:蒲公英

やはり此処はトレーナーさんとの絆を表現するような何かが欲しいですね

 

 

39:クローバー

>>36 うーん、本当にトレーナーさんのことが好きならやっぱりウエディングドレスかなー

 

 

40:世界一カワイイ

>>39あえてウェディングドレスの上から何か羽織るとかどうでしょう。

 大切な人の前でだけ脱ぐ、みたいな

 

 

41:クローバー

>>40 いいね、それ! 採用!

 

 

42:校庭の高低

マント……いや、ケープはどうだろうか。

新たな無敗の三冠ウマ娘に相応しいと思うのだが

 

 

43:ワガハイ

会長に似せるってこと!? いいなー、絶対カッコイイでしょ

 

 

44:ゆる釣り人

うーん、白いウエディングドレスに緑のケープってとこかな?

 

 

45:お腹がすいたな

髪飾りは大事だ

 

 

46:一流ウマ娘

>>45ならティアラね

 

 

47:名無しのウマドル

ただ白いドレスより、薄緑のレースとかでスズカちゃんらしさを出すとか

 

 

48:夕暮れウマ娘

髪飾り、せっかくなら二連星が良いんじゃない

 

 

49:大吉ウマ娘

ラッキーカラーは白と緑です!

 

 

50:香り好きのウマ娘

元々左髪にも飾りがあるし、三冠の三ツ星も似合うと思う

 

 

51:目指せ日本一

わわわ、皆さんありがとうございます!

 

 

52:ハウディー!

スズカが怪我しないように、左足にお守りとかどうデス!?

 

 

53:黄金の浮沈感

よっし、首元ケープで見えないようにペンダント下げようぜ!

中に写真入れてよ!

 

 

54:かっとばせユタカ

普段の勝負服のカラーを意識しつつ、金でエレガントさを演出するのも良いのではないでしょうか

 

 

55:ワガハイ

せっかくだし、ジャパンカップと有マ記念の星もつけようよ

 

 

56:蒲公英

星を意識した意匠はとても良いのではないかと。

 

 

57:目指せ日本一

凄い良い勝負服になりそうです! スズカさんに伝えておきますね!

ありがとうございます!

 

58:ゆる釣り人

一応、匿名なんだけどな~。

まあ、いっか

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズカさんの様子が最近ちょっとおかしい。

 前からおかしかったと言えば……まあその、独特なスズカさんらしさはあったけれど。とはいえ枕を抱きしめたままゴロゴロと布団の上を転がったり、自分の脚を見ながらため息を吐いたりと絶対に様子がおかしい。

 

 ……脚もなんとなく、捻挫を気にしてる様子でもないし。

 

 

 

「……あの、スズカさん。大丈夫ですか…?」

 

 

 

 もしかして走れなくてストレスたまってるのかも。

 そう思ったのだが、スズカさんの返答は

 

 

 

「スぺちゃん、脱がしてもらうのもいいわね」

「……本当に大丈夫ですか!? だんだん小さい子どもみたいになってないですか!? それはそれで可愛いと思いますけど!」

 

 

 

「正直ちょっと恥ずかしいな、って思ったんだけど……思い出すだけでどきどきするの」

「………ああー」

 

 

 

 脱がされたんですか!?

 どういうことなんですか!? 色々と言いたいことはあったのだけれど、どうやらまたスズカさんのトレーナーさん関係らしいと察した。

 

 

 

「普段は手も繋いでくれないし、レースの時くらいしか抱きしめてもくれないし、キスもしてくれないし、あんまり頭も撫でてくれないし、お風呂にも入ってくれなくなったし、ご褒美でしか一緒に寝てくれないけれど……」

 

(けっこう甘やかしてもらってるような…?)

 

 

 

 頭から被ってご満悦な布団も、お兄さんとトレード(2回目)でゲットしたのだと嬉しそうに言っていた覚えがある。多分、お兄さんとスズカさんに出会ったウマ娘はなんとなく色々察すると思う。

 

 

 

 

「あの時、お兄さんも私を大切に想ってくれてるんだなって……」

(タイミング的に脱がすのが愛情表現に……!?)

 

 

 

「だからお風呂に入るとき、足を安静にしていたいからってお願いして脱がせてもらったの」

「スズカさん…!?」

 

 

 

 なんて大胆な!?

 それは流石に色々と進んでしまったのでは…?

 

 

 

「すごく恥ずかしかったけれど――――お兄さんが私だけを見てると思うと嬉しくて」

(それはそうだと思います……)

 

 

 

 逆にどうしてスズカさんが何ともないのか……。

 お母ちゃん、都会には変な人もいるって聞いてたけど、逆に全く変なことをしない人もいるみたいです…。スズカさんとお兄さんの関係は私には良くわからないです……。

 

 

 

 

「お風呂は水着を着ろって怒られちゃった」

「水着で入ったんですね…」

 

 

 

 なんというか、どうして恋人さんじゃないんでしょうか…。

 ここまで来たらキスとかしてそうな――――はっ!? もしかして、お兄さんはトレーナーさんだからキスしたくてもできないのでは!?

 

 と、いうのをスズカさんに伝えると。

 

 

 

「そうかも………じゃあ私から―――――」

「スズカさん?」

 

 

 

「スズカさーん」

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

 

 

 

 反応がなくなったスズカさんに呼びかけると、ぱたりとベッドの上に横になったスズカさんが赤くなった顔を手で覆って、か細い声で言った。

 

 

 

「……スぺちゃん……私、おかしくなっちゃった」

「な、なな何があったんですか!? すぐにお兄さん……救急車呼びますか!?」

 

 

 

「そうじゃないの……あのね、私、お兄さんのことが大好きなの」

「あ、そうですね」

 

 

 

 知ってます…。

 

 

 

「なのに、キスできそうにないの……」

「…………」

 

 

 

 

 これは……羞恥心!?

 スズカさんに恥じらいが……!

 

 よろよろと身体を起こしたスズカさんだが、明らかに顔は赤い。

 

 

 

「むしろお風呂の方が恥ずかしいんじゃ…?」

「…………スぺちゃん、私の身体おかしくないかしら? お兄さんに、ヘンだって思われてない?」

 

 

 

「あっ。全然大丈夫ですよ! スズカさんは綺麗です!」

「………スぺちゃん、前にお兄さんが胸がある方が好きって…」

 

 

 

(何てこと言っちゃったんですかお兄さん!?)

 

 

 

 

 悲し気な顔で自分の胸を見下ろすスズカさんだが、その胸はスラァっと機能的である。

 ぱたり。またスズカさんは横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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帰省

 

 

 

 

 

 

 時は年末。

 有マ記念と、後クリスマスをなんとか乗り越えた俺たちに待っていたのは大掃除と、あと恒例のアレ。

 

 

 

 

「――――スズカ、忘れ物は無いか?」

「はい。大丈夫だと思います」

 

 

 

 

 クリスマスプレゼントとして渡したコートを羽織り、荷物を入れたキャリーケースを引くのはなんとなく距離感がある気がしなくもないスズカ。

 いつもなら腕とかに抱き着いてくるのに……いや、物足りないとかではない。それでもなんとなく袖は掴まれているが。

 

 

 

「よし、じゃあ行くか」

「はい」

 

 

 

 車に乗り込み、向かうのは俺の実家――――去年は帰れなかったが、今年は捻挫の静養も兼ねての帰省(というには近所だが)である。決して『帰ってこなかったらお前の秘密をワキちゃんのスマホに送り付けるからな☆』という親からの脅迫に屈したわけではない。ちなみにご近所なのでウチもスズカの家もどちらも寄る予定。

 車で行けばそう遠くもないというか、トレセン学園近くの商店街に通ってたくらいには近所だったりする。

 

 

 

 

「帰るのも久しぶりだなー」

「そうですね」

 

 

 

 と、なんとなくスズカがぼんやりしていることに気づく。

 

 

 

「スズカ、眠かったら寝とけよ。すぐ着くけど」

「………はい。その、お兄さん」

 

 

 

 珍しく歯切れ悪いスズカに、ちょうど赤信号だったので目を向け――――。

 スズカはちょっと恥ずかしそうに耳を下げて、顔を少し伏せながら言った。

 

 

 

「……その、寝顔……見ないでくださいね?」

「………見ないよ?」

 

 

 

「……約束ですからね?」

 

 

 

 なんでそんな年頃の乙女みたいな……年頃の乙女だった。

 スズカの恥ずかしいポイントは謎だが、嫌がるならしない。何故かちょっとドキドキしてしまったのは不覚だが。

 

 運転に集中していれば問題は無いだろう。

 そんなわけで、スズカは脱いだジャケットを大事そうに自分に掛け。なんとなく目線が合ったので、小突かれた。

 

 

 

 

「……お兄さんの意地悪」

「ごめんって」

 

 

 

 

 ダメって言われると気になるのは人間の心理……真理かもしれない。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 今度こそ運転に集中し―――――。

 だいたい10分程度。短いドライブだが、疲れてたのかスズカはぐっすり寝ていた。夜眠れなかったのだろうか……いつもは二人で寝てるとぐっすり寝てるんだけどな。

 

 

 

「スズカー?」

「………すぅ」

 

 

 

 返事が無い。じゃあ起こさねばならないので仕方ない、というわけで助手席を見ると。スズカはコートを大事そうに抱えてちょっとだらしない顔をしていた。

 さて、どう起こしたものか。

 

 なんとなく湧いてきた悪戯心の命じるまま、スズカの耳元付近を撫でつけてやる。と、更に顔が幸せそうに緩む。

 

 

 

「………んゅ………おにーさん、もっと……」

「……起きろー」

 

 

 

 起きないので、仕方なく耳をカリカリと引っ搔いてやると、気持ちよさそうに表情が惚けていくがやはり起きる気配はない。

 

 

 

「スズカー?」

 

 

 

 と、不意にスズカの腕が広げられ。

 むぎゅっと抱きしめられ、引き込まれた先で頬にキスを受けた。顔を逸らさなかったら直撃していたので、ちょっと残念なような安堵したような。

 

 

 

「えへぇ、チュー……」

「スズカぁ!?」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 ぱちり、とスズカの目がはっきり開く。

 至近距離―――というかゼロ距離で目が合い、後ずさろうとして座席とシートベルトに阻まれたスズカはあわあわしながら言った。

 

 

 

 

「お、おおおお兄さんっ!? どうして…!? ウソでしょ!?」

「いや、起こそうとしたら急に抱き着かれたから……」

 

 

 

 その前に悪戯が原因のような気はするが、ちょっと本気で怒られそうなので黙っておく。

 みるみるうちに顔が真っ赤になるスズカだが、混乱してがっちりと抱き着かれたままなので離れようが無かったり。

 

 

 

「スズカ、とりあえず腕を離すんだ……」

「……あ、あれ、わたし今――!?」

 

 

 

 

 と、そこで車のガラス越しにめっちゃいい笑顔でこちらを見ている俺の母親と、スズカ母を見た。

 

 

 

「――――やっと来たわね!」

「孫の顔が楽しみになってきたわー」

 

 

 

 

 くっ、弱みを握られた…!?

 いや、前からメッセージアプリで抱き合ってる菊花賞の時の写真とか送られてきた時点で大分アレだったが。

 

 

 

「……ぁぅぁぅ」

「スズカー!? 腕、腕離せ!」

 

 

 

 

 体勢的にスズカにべったり密着しているので、こちらから脱出するには手をシートに突くしかない。仕方ないのでスズカの顔の近くに手をついて。ほぼ壁ドン。

 

 なんかもう目を瞑って何かを待つようなスズカの額を軽く小突いた。

 

 

 

 

 

「寝ぼけてないで起きろ。荷物下ろすぞ」

「………えっ? お兄さん、どこまで夢ですか……?」

 

 

 

「全部夢だよ」

「お兄さんが……してくれたのも?」

 

 

 

 ボソッと呟かれたせいで完全に如何わしい感じになってる!?

 何をしたんだ夢の中の俺!?

 

 

 

「何を!?」

「………」

 

 

 

 スズカは恥ずかしそうにコートを被ってしまったので答えてくれそうにもない。

 可愛いけど、今はそれちょっと困るんだが。

 

 

 

 

「黙らないで!? ほら外で誤解してる悪い大人がいるからな!」

 

 

 

 

 で、スズカのお母さんもウマ娘なので車の中の音くらいは普通に聞こえる。

 外で「お赤飯炊かなくちゃ」「お祝いね!」などと盛り上がっているのにげんなりしつつも、スズカを引き離してシートベルトを外し、抱き上げる。

 

 

 

「ほら、捻挫あるんだし降ろすぞ」

「………はい」

 

 

 

 

 なんとなくしおらしいスズカは普段よりも更に小さく感じる―――が、去年よりは成長してるなぁ、となんとなく身長も伸びて、妙な色気のあるスズカを努めて意識せずに車から降りる。

 

 

 

 

「おかえりなさい。子どもの予定があったら教えてね?」

「あるか! 無敗の五冠ウマ娘をなんだと思ってるんだ」

 

 

 

 はっきり言って既に日本のトゥインクルシリーズの至宝である。

 そんなことでレースに出られなくなったら大バッシング間違いなし。

 

 

 

「えー、だってなんか空気が甘酸っぱいしー。ねー?」

「ねー?」

 

 

 指で卑猥なサインを送ってくるスズカ母をワキちゃんに見せないようにしつつ、無視して家に上がる。

 

 

 

 

「で、昼どこで食べるんだ?」

「そうねー、一応ご馳走は用意してあるわ。……お赤飯ないけど」

 

 

 

 無敗の五冠のお祝いだよな。そうだと言ってくれ…。

 むやみやたらと元気な母だが―――俺が子どもらしくなく、手が掛からなかったので無邪気さと寂しがり屋に全振りしたワキちゃんに余計に惚れ込んだと思われるので、若干止めにくい。

 

 ワキちゃん母は入院のこともあって手が掛からないし娘の面倒をみてくれる俺を有難がってたので、結局ないものねだりなのかもしれないが。

 

 

 

 

「早くお嫁に来て頂戴ね、ワキちゃん。この子ったら昔からレースとワキちゃんしか頭にないから、見捨てられたら結婚できなさそうだし」

「余計なお世話過ぎる」

 

 

 

 だって可愛い幼馴染がサイレンススズカ並みの才能があると思ったら育てたくなるじゃん。実質光源氏計画とか言ってはいけない。レース的な意味では合ってる。

 天才ジョッキーが夢見た理想の走り。……まあ、その走りが結果的に本人の希望と合致していたからこそではあるが、それを実現するためにワキちゃんを利用した。ので、なんでもサポートする覚悟はある。あるが、それと自分の欲望は別にすべき。

 

 

 

 

「……お兄さん、好きな女の人とか……」

 

 

 

 そう言ってチラチラ見てくるワキちゃんだが、普段と違って抱き着いてもこないし頬擦りもしてこない。やっぱり調子が狂う――――と思ってると、母親が余計なことまで話し出す。

 

 

 

「いないいない。部屋にあったお宝本も栗毛の美人さんだったわよー」

「何してくれてんだー!?」

 

 

 

 なんで!? ちゃんと机の引き出しの中にうまいこと隠しておいた秘蔵本をなんで暴いてくれちゃってるの!? もっとこう目につくところに置いてあるのもあったじゃん!?

 

 

 

「あっ、来なかったら画像送ってたわ」

「何考えてんの?!」

 

 

「???」

 

 

 

 全然わかってなさそうなワキちゃんに心底安堵するが、この母が一番の鬼門な気がする。どうしてもワキちゃんを娘にしたいと思ってるらしい。もう実質娘みたいなものだろうになんて贅沢な。

 が、ワキちゃん母もばっちりコーディネートしているワキちゃん(ちょっと本気で可愛い)を上下に見ながら言った。

 

 

 

「どうしてウチの子とうまぴょいしないのかしら…」

「こんなに可愛いのに……何が不満なの?」

 

 

「お前らそれでも親か!?」

 

 

 

 

 とんでもないことを推奨するんじゃない!

 というかもっと情操教育とかしっかりしてほしかった! いやまあ病院の入退院を繰り返してたから機会が無かったのは知ってるけど。

 まさかそれでやたらとお風呂入れるのとか寝かしつけるのとか頼まれてた!?

 

 

 

「「だって将来性あるし、性格も相性もばっちりだし」」

 

 

 

 確かにワキちゃんのお陰でリギルに拾ってもらったのでスズカ、グラス、テイオーの怪我さえなければ最強クラスの三人が揃ってるし特別ボーナスで懐も潤ってるけど。ワキちゃんに至っては無敗の五冠でCM依頼とかもバシバシ来ているのでもう一生食っていけると思う。

 

 直近ではオーダーメイドの蹄鉄を作ってもらってた会社とか、シューズの会社とか、何故かいちご大福の会社とか、どこから漏れたのか寝具のCMまである。あとはよく買ってる水のペットボトルのCMか。ブライダル雑誌の依頼はトレーナーの一存で蹴らせてもらった。これが権力の力だ…!

 

 

 

 

「――――義息子よ。私の娘を好きに教育していいわよ?」

「このタイミングで言われるとなんかすごく嫌だ……」

 

 

 

 というかその理論で行くと、原作にない部分――――寂しがり屋で匂い大好きで抱き着いて頬擦りしてきて布団奪って枕スーハーして温泉に全裸突撃してきて抱き着いてチューしてくるのは全部俺の責任ということに―――――俺の責任だわ…。

 

 おかしい。スズカさんはもっとこう……先頭民族でフクキタルに辛辣で何考えてるのか理解不能なだけでクールな美少女っぽく見える先頭民族だったはず……。

 

 

 

 

 

「というかここまで育てたのにぽっと出の男に搔っ攫われていいのかしら?」

「ワキちゃん可愛いし男は放っておかないわよねー?」

 

 

 

 嫌だけど。

 それは死ぬほど嫌だけども、ワキちゃんがちゃんと世間を知って、後悔しないくらいに成長してからでないとフェアじゃないと思うのである。

 

 

 

「……とりあえずご飯食べよう。腹減ったよ」

「あ、お兄さんよそいますね」

 

 

 

 

 どうやらご馳走は本当のようで。……カロリー制限もまあ、今日くらいはいいだろう。チキン、ハンバーグ、オムライス、いちご大福など。とりあえず好きな物並べといたぞ! とばかりの面々だが実際好きである。

 なんとなくいつもの席に着くと、いつも通りすぐ隣の席にワキちゃんが食器を用意し。せっせとお米をよそってくれる。

 

 

 

「サンキュー。箸出すな」

「はい。お願いします」

 

 

 

「「夫婦……?」」

 

 

 

 

 そこうるさい。

 あんたらが食事にしないからせっかくのご馳走が冷めちゃうだろうに。

 

 

 

「ワキちゃん、俺たちの分だけよそえばいいぞ」

「はい」

 

 

「「えー、酷い」」

 

 

 

 しかし素直なワキちゃんはちゃんと二人分だけよそってくれる。かわいい。容赦なく二人で手を合わせて食べ始めるところ(このへんはフクキタル相手と同じ無慈悲さを感じる)で慌てて親二人も参戦してくる。

 

 

 

「よし、食い尽くすぞ。あとで運動すれば実質ゼロカロリー!」

「はい!」

 

 

「いちご大福あるわよ」

「アイスもあるわよ」

 

 

 

「いちご大福!」

「アイス!? 何アイス!?」

 

 

 

 即座に冷凍庫を開けると、何故か鎮座している業務用のチョコレートアイス。馬鹿な……某有名アイス店のヤツでは…?

 

 

 

「あと三冠のお祝いにケーキもあるわよー」

「お高い店で頼んじゃった」

 

 

 

 なんとなくワキちゃんと目を見合わせ、頷き合った。

 

 

 

「ゆっくり食べよう」

「はい」

 

 

 

 決してチョロいわけではない。

 ただご馳走を粗末にしないのが大事なんだよ、うん。

 

 そんなこんなでメインのご馳走をあらかた食べ終え――――とりあえず消費期限の短いケーキから食べることになったのだが。

 

 

 

 

「じゃーん」

 

 

 

 豪華なケーキではある。

 好みに合わせてチョコレートケーキであり、わざわざ二段になってるし飾り付けのフルーツもかなり種類があって美味しそうに見える。のだが。

 

 何故かど真ん中に『お兄さん♡ワキちゃん』と書かれたプレートが。

 いや何それ。小学校の黒板か何かかな。これを頼まれた時、店員さんは親同士が悪乗りして小さい子どもをくっつけようとしてるのを想像したかもしれない。が、立派な社会人(中央トレーナー2年目)と学生(無敗の五冠)なんだよ…。

 

 

 

 

「はい、ケーキ入刀お願いします」

 

 

 

 スッと渡されたのは何故か長い包丁。柳刃包丁…?いや正式名称知らないが。

 

 

 

「あ、プレートは割っちゃダメよ。はい、ワキちゃんこっち咥えて」

「…? ふぁい」

 

 

 

 プレートのお兄さん部分を咥えさせられたワキちゃんはなんとなく頬を赤らめて満足気。そのまま全部食べてくれて一向に構わないのだが。

 スズカ母が何やら不穏な笑みで俺の背中を押した。

 

 

 

「はい、娘のあられもない姿を見た責任をとってお兄さんこっち咥えて」

「嫌ですが!?」

 

 

 

 

 というかいつのこと!?

 残念ながら心当たりはありすぎて反論できないが。マジで鬼門だなこの家! ボソッと『ヤる気ないなら全力で娘を煽るしかないわね』とか聞こえてくるんだけど。何この人こわい。

 

 実際のところ、ワキちゃんに捨て身で攻められて耐えられる自信なんてものはないわけで。

 

 仕方ないので従うしかない。急に接近したことで真っ赤な顔でオロオロするワキちゃんには悪いが、サッと咥えて嚙み砕く。顔が近いし無駄に顔がいい。ついでにいい匂いもする。

 まあスズカそっくりな砂糖菓子に比べればプレートの文字くらいなんてことはない。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 なんかあからさまに愕然としているワキちゃんだが、親の前でポッキーゲームとか罰ゲームにしても悪質すぎる。

 

 

 

「チッ、意気地なしめ」

「甲斐性なしー」

 

 

 

「まじで何なんだこの家は……」

「チュウが……」

 

 

 

 帰ってこなければよかったか…。というか酒でも飲んでるのか?

 なんか名残惜しそうなワキちゃんに吸われているプレートを見て微妙な気分になりつつ、いちご大福を手に取る。

 

 

 

「ほーら、いちご大福だぞー」

「………ちゅー」

 

 

 

 ネズミになってる…。

 まずい。なんかキスに執着し始めている。このままワキちゃんを更なる変態にするわけにはいかないので、軌道修正を試みなくては。

 

 

 

「ほーら、頭撫でちゃうぞー」

「…………むぅー」

 

 

 

 吸いつくされたプレートが噛み砕かれていく。

 なんとなく哀愁を感じる…。というか機嫌が直らないんですが。

 

 

 

「チューしなさいよー」

「責任とれー」

 

 

 

 あんたらが無責任すぎる…!

 くっ、こうなったら走りに行くしかない。

 

 

 

「ワキちゃん、思い出の公園に走る……のはダメだが、散歩に行かないか」

「……公園?」

 

 

 

「久しぶりに二人っきりで行きたいなー?」

「………はい!」

 

 

 

 よし乗った!

 景色関係で大抵の不機嫌は吹っ飛ぶあたり頭サイレンススズカである。

 

 そんなわけで夕方までひたすら散歩に付き合い―――ついでにいつものルートで商店街に寄ったらワキちゃんは小さい女の子にサインを求められ。そつなく応じる姿に成長を感じたのだった。

 

 

 

 

 で。家に帰ると二人で風呂に入れようとしてくる親の攻撃を振り切ってワキちゃんだけ脱衣所に押し込み。笑顔でとんでもない宣言をされた。

 

 

 

 

 

「あ、ワキちゃんの部屋は物置になってるからお兄ちゃんの部屋で寝てね」

「ソファも撤去しておいたから☆」

 

 

「――――なんて?」

 

 

 

 

 もうやだこの家!

 

 

 

 

 

 

 

 



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年度代表ウマ娘

展開の都合上、海外ウマ娘の名前を微修正してます


 

 

 

 

 

 

――――その日、トゥインクルシリーズのファンは皆テレビに注目していた。

 

 

 年度末、その年活躍したウマ娘を讃えるための式典。

 URA賞の授賞式があるためである。

 

 都内のパーティ会場に集まったウマ娘たちはGⅠウマ娘がずらり。カメラなど取材陣も多く入っているが、注目はやはり――――。

 

 

 

 

 緑を基調にしたドレスを纏い、足首のサポーターが痛々しいものの特段庇う様子もなく歩く、栗毛のウマ娘。前人未踏のクラシックでの無敗五冠を達成し、更に同期のサニーブライアンが有マ記念2着とシニアウマ娘相手でも強さを見せつけたことで同世代の弱さという疑念も払拭。いよいよ『皇帝超え』が現実味を帯びてきた異次元の逃亡者。

 

 誰も追いつけないその強さに『最速の機能美』とすら言われ始めたサイレンススズカは、同チーム、同トレーナーであるグラスワンダー、あと同期のタイキシャトルと話しながら入場し。拍手に出迎えられて困惑しつつも、やんわり手を振り返した。

 

 

 

 

「ワオ! 凄い歓迎デスね!」

「やはり大人気ですね~、スズカさん」

「トレーナーさん……いませんね」

 

 

 

 きょろきょろと誰かを探す姿に、ウマ娘たちは訳知り顔、特にリギルの面々はあきれ顔だったりしたが、元々追いかけていた記者たちもそれは承知しているようで。特段気にされることもなく、今年GⅠ勝利を挙げたウマ娘たちが入場してくる。

 

 

 

 

 それを後目に、なにかに導かれるように――――微妙に鼻が動いていたのでグラスは探知犬が頭をよぎった―――スズカは隅っこでこそこそしていたトレーナーを見つけると、走らないように全力で自制しながら突進して抱き着いた。

 

 

 

 

「……お兄さんっ」

「ちょっ、スズカ!?」

 

 

 

 なるべく目立たないように、と隠れていたわけだが。

 まるで長年引き離された恋人のような再会ぶりに、フラッシュ―――はウマ娘が驚くのでダメだが、しっかりと年度代表ウマ娘が確実視されているスズカを追っていたカメラが連写される。

 

 

 

 

「おいスズカ撮られてるから!」

「……あっ」

 

 

 

 スッ、と顔を赤くしてトレーナーの背後に隠れるスズカだが、それはそれとしてやっぱり撮られる。これはもうダメだなと判断したトレーナーは、フラッシュ嫌いで有名なエアグルーヴの近くに退避。完全に呆れた顔をされたが一応追い返されはしなかった。

 

 

 

「こうなることくらいは予想できていただろう、たわけ」

「最近大人びてきてるしいけるかなって…」

 

 

 

 

 あまり抱き着いたり頬擦りしてきたりしなくなったのだが、やっぱりドレスの着替えや化粧を含めて長時間(2~3時間くらい)離されるのは我慢ならなかったらしい。

 

 

 

「着替えが終わるのを待っていれば良かっただろう」

「……いやだって、着替え終わった娘たちが生暖かい目で見てくるから」

 

 

 

 ニマニマした笑みで「あっ、噂のお兄さん」「へぇー、こんな人なんだー」とか言われつつ女子更衣室の前で待ってるのは普通に拷問であった。

 なまじ確実に年度代表ウマ娘ということでメイクも気合が入っているし、なんとなく胸にも詰め物が…。

 

 

 

「たわけ」

「……すみません」

「???」

 

 

 

 目つきが鋭くなったエアグルーヴに注意されてスズカに謝るが、全く分かってなさそうなスズカに安堵する。

 けっこう盛ったな、と思ったのもバレてるようで、エアグルーヴが完全にゴミを見る目になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで式典も始まり、おおよそ予想していた通りに推移―――なおダートに関しては受賞者なしだった――――し、年度代表ウマ娘になったサイレンススズカが壇上に上がった。例年通り、ここからインタビューである。

 

 

 

 

「では戦績を振り返らせていただきます。今年のクラシック三冠、皐月賞、東京優駿、菊花賞を制覇し、更にシニア混合のジャパンカップ、有マ記念を無敗で制したサイレンススズカさん。本年度の戦績は8戦8勝です――――まず、率直に今のお気持ちは」

 

「はい。とても嬉しいです」

 

 

 

 

 基本的にスズカは口下手なので、笑顔で言いたいことだけ言っておけ、と半ばあきらめ半分に送り出したが、まあ顔と声が良いので笑顔があれば大体なんとかなるはず。記者、特に月刊トゥインクルの人とかはスズカが聞かれたことしか答えないのは承知しているので、さっそくとばかりに挙手した。

 

 

 

 

「年度代表ウマ娘になって今感謝を伝えたい人は誰ですか?」

「お兄さ―――トレーナーさんです。10年前から私の走りを信じて、導いてくれて。そのお陰で今の私の走りがあるんだと思います。ありがとうございます、トレーナーさん」

 

 

 

 

 真剣な顔で、しかしほんのり笑みを浮かべて会場側――――こちらに宣言するスズカの不意打ちに、ちょっと涙腺が緩んだ。この前まで一人で風呂も入れなかったのに……立派になって。

 

 

 

 

「今後の展望については、何か考えていらっしゃいますか?」

「怪我が回復し次第、海外への挑戦を目標に練習を再開する予定です」

 

 

 

「これまでのレースで一番厳しかったレースはありますか?」

「有マ記念です。普段からアクシデントに備えていたお陰でなんとか勝てたと思っています」

 

 

 

「ドリームトロフィーリーグへの移籍も考えているのでしょうか」

「まだ考えていません」

 

 

 

 

「現在注目しているウマ娘はいますか?」

「……そうですね。スぺちゃん、スペシャルウィークです」

 

 

 

 てっきり同期かシニア級、あるいは海外のウマ娘だろうと思っていた記者たちが一斉に疑問符を浮かべるが、その子そういう空気読まないから普通に強いライバルとかそういう含みはないし、未デビューの子でも注目してたら普通に挙げるぞ。いや、スペちゃんは一応そろそろデビューだが。

 

 

 

 

「その、スペシャルウィークさんのどこに注目されていますか?」

「……えっと、スぺちゃんは末脚が良くて……あと食事量の調整も頑張ってるので」

 

 

 

 スズカさんー!?

 と唐突に全国にダイエットを暴露されたスぺちゃんが絶叫している姿がなんとなく脳裏に浮かんだ。

 と、空気を読んだトゥインクルの乙名氏記者が次の質問をする。

 

 

 

 

「では、海外挑戦する上で走りに注目しているウマ娘はいますか?」

「……えっと――――あ。トレーナーさんと話したのは、サガミクスさんを」

 

 

 

 

 

 やっぱりまだ来年クラシック級になる、つまり日本ではほぼ無名のウマ娘を挙げたので困惑しきりと言った雰囲気である。

 

 

 

 

「では海外挑戦に向けて意気込みをお願いします」

「はい。……海外でも、私とトレーナーさんの走りが一番だと証明したいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 で。その後何故か要望多数ということでトレーナーの会見まで行われた。

 ニコニコとこっちの横顔を見ながら隣に座っているスズカだが、お前それ全国に流されるんだぞ。絶対分かってないだろ。

 

 

 

 

「トレーナーさん、初めての担当ウマ娘が無敗の五冠という偉大な記録を成し遂げたことについてコメントをお願いします」

 

「そうですね、この子に関しては出会った時から周囲とはまるで違うと感じていました。サイレンススズカ自身の力で成し遂げた功績だと感じていま――――スズカ、ちょっと待ってて」

 

 

 

 

 ぷすぷすと脇腹を突っついてくるスズカだが、どうした急に…。

 

 

 

 

「……お兄さんのお陰です」

「スズカの力です――――ぐはっ!?」

 

 

 

 

 無視したらスズカの尻尾が背中を直撃した。なんでさ。

 しかし本気で不機嫌にならないとこんな攻撃はしてこないので、チラリと横目で窺うと耳が絞られていた。めちゃ不機嫌である。何がそんなに不満なんだ。

 

 

 

 

「……えー、スズカが俺を信じてくれたからこその結果だと思います。大逃げという特殊な走りに彼女の才能があると感じてはいましたが、同時に一般的ではないそれを如何に達成するのか、その部分は彼女の才覚のお陰です」

 

 

 

 

 遠まわしにスズカが凄いよ、と言ったが婉曲すれば大丈夫なようで機嫌は直った。

 ご機嫌になったスズカがまた横顔観察に戻ったのを確認しつつ、次の質問を待つ。なんか記者さんたちの視線が生暖かい気がするのだが。

 

 

 

 

「サイレンススズカさんの魅力についてどうお考えですか」

 

 

 

 

 魅力!? いや、走りのだよな。危ない危ない。これで脚が綺麗とか言ったら完全に事故である。流石マスコミ、引っ掛け技を持ってるな。

 

 

 

「そうですね、やはりその圧倒的な大逃げ―――最初から最後まで先頭を走るその姿、そして楽しそうに走るところでしょうか」

 

「無敗の三冠を達成した時のお気持ちと、サイレンススズカさんにどんな言葉を掛けられましたか」

 

 

 

 

「嬉しかったですね。長距離でも勝つというのを二人の目標にしていたのですが、ただ無事に帰ってきてくれるだけでも本当に嬉しかったです。確かかけた言葉は『凄かったぞ、ありがとう』だったと思います」

 

「『スズカ、凄かったぞ。ありがとう』だったような…?」

 

 

 

 

「ほぼ同じだろ」

「名前……」

 

 

 

 一応テレビだからなこれ…。

 妙なこだわりを見せるスズカはさておき、乙名氏さんが言った。

 

 

 

「海外挑戦における目標についてお聞かせください!」

「そうですね。日本のトゥインクルシリーズの強さを海外に見せることができればと考えていますので、そのためにスズカのサポートに徹します」

 

 

 

「素晴らしいですっ! 公私ともにサイレンススズカさんのために全力を尽くし、世界制覇の暁にはなんでも願いを叶えるということですね!」

「いえ違います」

 

「なんでも……!」

 

 

 

 パァッと顔を輝かせるスズカだが、お前だから全国放送だって。

 

 

 

「いやお前も聞いてただろ」

「お兄さん、チュ――――」

 

 

 

 

「常識の範囲内なら叶えて上げたいですね!」

「………」

 

 

 

 チューは常識の範囲内なのか思案顔のスズカはそっとしておいて。

 そんなこんなで若干怪しいところはありつつも、無事にインタビューは終了し―――。

 

 

 

 

「サイレンススズカさんはトレーナーさんに叶えて欲しいことはありますか?」

「……チュー?」

 

 

 

 チュー、じゃねぇ!?

 まさか言わないよな、と思っていたがこんなこともあろうかとチューで始まる地名を調べておいた!

 

 

 

「………チュービンゲンに行ってみたいんだよな! ドイツの!」

「……あ、はい」

 

 

 

 頼むから頷いてくれ、と目線で訴えるとなんとなく頷いてくれるスズカ。

 ドイツ生まれと言えば……エイシンフラッシュ!

 

 

 

「スズカの友人のスマートファルコンのルームメイトのエイシンフラッシュに教えて貰ったんですが、素敵な場所みたいなのでどうしても行ってみたいと。お城も素敵なんだよな、スズカ」

 

「お城……行ってみたいですね」

 

 

 

 

 こいつ……俺がいない方がマトモなのでは…?

 二人でインタビューになると急激にポンコツ化したスズカに、ちょっと本気で対策を考えないといけないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:スペシャルウィークと友情トレーニング



少し時系列が飛んで、正月明けの話になります。



 


 

 

 

 

 

 

「――――スズカさんのメニュー、私も挑戦してみたいです!」

 

 

 

 サイレンススズカは、スペシャルウィークにとって憧れの先輩であり。その夢である『日本一のウマ娘』に恐らく一番近い――――『皇帝』か『異次元の逃亡者』かと言われるくらいには――――ウマ娘である。普段はなんというか、つかみどころがないが。

 

 そんなわけで、『とんでもなくキツイ』と評判のそのサイレンススズカのトレーニングメニューに挑戦してみたいというウマ娘はそれなりにいる。

 

 で、勝手に見て盗もうとするのもまあ常套手段ではあるのだが。

 チーム『スピカ』の沖野トレーナーは、少し……いや大分頭を悩ませつつも、一つの結論を出した。

 

 

 

 

「うし。じゃあアイツに相談してみよう」

「アイツ…?」

 

 

 

「スズカのトレーナーにな」

「ええーっ!?」

 

 

 

 

 普通そういうのって教えてくれないのでは。とかいろいろ考えるスペシャルウィークだが、沖野トレーナーとしてはそうでもないらしい。

 

 

 

 

「だってアイツも言ってただろ、スズカだからできたってな。結局のところアイツにとって重要なのはサイレンススズカであって、そのスズカを鍛えたメニューじゃない」

 

「???」

 

 

 

 どういう意味だろう?

 全く分からないが、トレーナーさんには何かしらの確信があるらしい。でもとりあえずお兄さんがスズカさん大好きなのはまあ分かる。

 

 

 

「つまり、同じメニューで鍛えてもスズカに勝てないならスズカの方が上だってアピールできるわけだな。メニューが凄いわけじゃないぞ、と」

 

「はぁー」

 

 

 

 つまりスズカさんを盛り立てるためならメニューも惜しくはないし、絶対負けないと思っているということだろう。いやそれいいのだろうか。

 

 

 

「まあ良くはないな。だが結局のところトレーニングメニューなんてウマ娘に合ったやり方じゃないと意味なんてない。あのスタミナの暴力みたいなトレーニングメニューがスぺに意味があるかというと――――」

「言うと…?」

 

 

 

 

 

「――――分からん!」

「ガクッ!?」

 

 

 

 そんな。そこはウソでもあるって言ってほしかったです!?

 とコケるスペシャルウィークだが、トレーナーさんに言わせると、長距離適性なんてものは実際に走ってみないとなんとなくしか分からないものらしい。

 

 

 

 

「長距離はスタミナもそうだが、息を入れるタイミングやら位置取りやらが一気に複雑になる。読み合いの面が強くなるわけだ―――つまり戦略か直感か、どちらかは持っていないと正直厳しい。それこそスズカみたいなハイペースとスタミナの暴力で突破するなら別だが」

 

「……トレーナーさん、私どっちも無いような…?」

 

 

 

「いや、スぺの直感は悪くない。仕掛けるタイミングとかな。後は戦略に引っ掛けられないだけの最低限の知識と、それを押し通すスタミナと根性だな」

 

「根性……」

 

 

 

「日本一のウマ娘を目指すなら、皐月賞、東京優駿、菊花賞のクラシック三冠は避けては通れない。そして、中でも重要視されているダービーは2400m、高低差のある坂もある。ここを突破するのは簡単じゃあない。ミドルディスタンス――――中距離で結果を残すウマ娘はある程度は長距離を走れる、なんて言われる場合もあるが、要はその息の入れ方と仕掛けるタイミングだな」

 

「な、なるほど…?」

 

 

 

 

「――――まあ、要は三冠を達成した先達に意見を求めるのは悪いことじゃあない。……グラスワンダーが同期だから、アドバイスは期待できないが」

「あ」

 

 

 

 

 そういえばグラスちゃんも担当なんでした…。

 ライバルに塩を送るような真似は流石に期待できない。けど、それでも――――!

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

「――――良いですよ。スぺちゃんなら長距離適性もありそうですし。スズカも喜ぶと思いますし」

「「ええ~…」」

 

 

 

 

 軽くOKされて拍子抜けしてしまった。

 プールではスクール水着に着替えたスズカさんと、グラスちゃん、そしてタイキシャトルさん……は、プールサイドで伸びているけど。ともかく、スズカさん達はひたすらにクロールと平泳ぎを交互に泳いでいた。

 

 

 

 

「お前、頼んどいてアレだがいいのか? グラスワンダーとか」

「いや、グラスもライバルがいた方が燃えるタイプですし。正直、皐月賞に関しては最大のライバルはスぺちゃんじゃないと思ってるので」

 

 

 

「ほう」

「……むぅ」

 

 

 

 むむむ。流石にそうまで言われるとちょっともやっとします…。

 と、言いつつもトレーナーさんもどことなく理解はしているみたいな。

 

 

 

「ぶっちゃけてしまえば、素質で一番抜けているのは彼女でしょう――――」

 

 

 

「「エルコンドルパサー」」

 

 

 

 

 トレーナーさんたちの声が重なる。

 エルちゃん…。まだその走りをしっかりと見てはいないけれど、スズカさんのトレーナーさんに言われると何やら重たいものを感じるような――――トレーナーさんが軽いわけでは………あるかもしれないですけど。

 

 

 

 

「エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイロー。そしてスペシャルウィーク。彼女たちが今のところの有力候補ですね」

 

「ツルマルツヨシはどうなんだ? 俺としては彼女もけっこうなもんだと思うが」

 

 

 

 

 そう、ツルちゃん!

 それを聞くと、スズカさんのトレーナーさんはちょっと難しそうな顔で黙り込んでしまった。

 

 

 

「体調のことは不確定要素すぎますからね…。スズカやサニーブライアンもそうですが、突き抜けた走りには怪我のリスクがあります。――――なんとなーく、スぺちゃんやゴールドシップあたりはものすごく頑丈な気がしますが!」

 

 

「ゴルシは……まぁ、そうだな」

「ですね…」

 

 

 

 

「そんなわけで、現時点ではさっきの五人が有力候補でしょう。それも、近年稀に見るくらいの」

 

 

 

 

 

 高い評価に、思わず唾を飲み込んでしまう。

 と、トレーナーさんは少しおどけた雰囲気で言った。

 

 

 

 

「お、じゃあスズカにも勝てると思うか?」

「それにはこう返させてもらいますよ――――サイレンススズカに勝てるのは、想像を絶する末脚の持ち主くらいだ、と」

 

 

 

「想像を絶する、ねぇ。エルコンドルパサーはどうなんだ?」

「速いですが、スズカほど変態じゃないですね」

 

 

 

 

 それ褒め言葉じゃないんじゃ…。

 とはいえ、トレーナーさんもなんとなく「だよなぁ」と納得顔である。

 

 と。スズカさんのトレーナーさんはスズカさんがプールから上がったのを見届けると、トレーナーさんに目を向けて言った。

 

 

 

 

「あ。そういえばトレーニングメニュー見る代わりに、ゴルシに『爆弾みたいな名前した友達いる?』ってメールしてみてもらっていいですか?」

「何だそれ。ちょっと怖いんだが……まあいいか」

 

 

 

 

 ちょっぴり興味が湧いてきたので、トレーナーさんのスマホ画面を横から覗いていると――――。早速返信が。

 

 

 

 

 

『繧ク繝」繧ケ繧ソ繧ヲ繧ァ繧、縺ョ縺薙→縺?繧搾シ溷・エ縺ェ繧牙、ァ莠コ縺ョ莠区ュ縺ァ蜃コ繧後↑縺?°繧峨↑縲ゅざ繝ォ繧キ縺。繧?s縺悟セ後〒辟シ縺阪◎縺ー菴懊▲縺ヲ繧?k縺九i謌第?縺励m繧医↑繝シ』

 

 

「ひいいいっ!? なんですかこれ!?」

「……おい、普通に怪文書なんだが?」

 

 

「あー、駄目か―」

 

 

 

 

 怖すぎますよ!? なんでそんなに軽いんですか!?

 

 

 

「いや、めっちゃ軽く「いるぞ?」って言われるか意味不明なものが返ってくるかどっちかだろうなって」

 

「一体どんな奴を探してるんだよ……」

 

 

 

「スズカに勝てるかもしれない、ハイペースで変態的な末脚を発揮する爆弾ですかね」

「……私の方が速いです」

 

 

 

 

 

 スズカさん!

 ふんす、とお兄さんにアピールするスズカさんですが、お兄さんはちょっと意地悪な顔をして言います。

 

 

 

「ま、詳細不明で対策もできないからな。とりあえずドバイだ」

「……むぅ」

 

 

 

 頭を撫でられて「誤魔化されませんよ?」という顔をしているスズカさんですが、耳と尻尾は凄くうれしそうで。

 

 

 

 

 

「で、現時点のグラスにダービーが勝てるかというと、正直厳しい。皐月賞にエルコンドルパサーが出るかどうかは正直怪しいけど、ダービーはなんとなく出るような気がしないでもない」

 

 

 

「………たとえ、エルが相手でも……負けるつもりは……あり、ません」

「グラスちゃん!?」

 

 

 

 ちょっと顔が青いし、あのグラスちゃんが見るからに疲れ切ってる!?

 と、足にまかれた赤いアンクルになんとなく目が行き――――トレーナーさんが差し出した謎の青くて生臭い液体に目を剝きました。

 

 

 

 

「はい、ロイヤルビタージュース」

「あ、あの………飲まないと、いけませんか?」

 

 

 

「飲め。スズカも」

「はい。―――――んく。お兄さん、苦いです」

 

 

 

「知ってる。でもなー、これ何入れても美味しくならなかったんだよな」

「これでもマシなんですよねー…」

 

 

 

 なんとなく遠い目をしているスズカさんにお兄さん……。

 けどなんだかそんな軽く飲めるものじゃないような。グラスちゃんがあんな顔してるの初めて見たんですけど…!?

 

 グラスちゃんも覚悟を決めた顔で一息に飲んで――――そのまま倒れました。

 そして数秒後に復活。怖い…。

 

 

 

「あ、スぺちゃんはとりあえずこれつけて。スタミナアンクル」

「はい。――――重っ!? これ、すごい重いですよ!?」

 

 

 

 

 足首に感じる、かつてない重量感。

 え、これで本当に泳ぐんですか!?

 

 

 

「溺れそうになったら沖野さん、救助してあげてください。アンクルは外しやすいように紐をつけてあるので」

「溺れる前提かよ…」

 

 

 

 

 なんとなく普段から突飛、というか変な練習ばかりのトレーナーさんも呆れ…というか恐れ気味です。というかそれでお兄さんも水着だったんですね。

 

 

 

「大丈夫、レースと違って死にはしないから」

「レースってそんな物騒でしたか!?」

 

 

 

「大丈夫、レースと違って助けに入れるから」

「……あっ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、私たちの地獄の特訓は始まりました――――。

 恐る恐るアンクルを付けたまま水に入った私は、綺麗に水に沈み。グラスちゃんが鬼気迫るような表情で必死に泳いでいるのを見て、なんとか脚を動かします。

 

 

 

 

「ご、ごんぼぼぼぼ(こ、根性~~!)」

 

 

 

 

 必死で脚を蹴りだすと、なんとか顔が浮き上がって呼吸ができますが―――襲い掛かってきたのは、前を泳ぐグラスちゃんとスズカさんの蹴った水しぶき。

 

 

 

 

「ま゛え゛ばばばばばば(前がああああ)」

 

「さあ泳げ! 前に進むか、沈むか! 真後ろにいたら息ができないぞ! 後ろで息を入れてもいいが、周回遅れはロイヤルビタージュースだ!」

 

 

 

「そ゛れは嫌ですー!?」

「ごめんなさいスぺちゃん、負けられないんです…!」

 

 

 

 

 更にグラスちゃんが鬼気迫る表情に!?

 うん、確かにあれは飲みたくない! でもこれ泳げない!

 

 

 

 

「あ、ちなみに今度は本物のロイヤルビタージュース(原液)だから。さっきの調整済みご褒美ドリンクと一緒だと思うなよ」

「「!?」」

 

 

 

 

 

 

「既に第一線で戦うスズカに負けるのは仕方ない。が、同期に負けたままでいいのか? 答えは――――行動で示してもらおう」

 

「お兄さん、私は……?」

 

 

 

 

 と、余裕そうに立ち泳ぎで浮かびながらお兄さんに話しかけるスズカさん。スズカさんの脚力どうなっているんですか!?

 

 

 

「えー。じゃあ……グラスとスぺちゃんを周回遅れにする度にご褒美ポイントが溜まる。二人は周回遅れにされる度にロイヤルビタージュースのボリュームがちょっぴり増える」

 

「ご褒美は―――――誰にも譲らない!」

 

 

 

 

 

―――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 いえスズカさん、この場合ご褒美がもらえるのはどうやってもスズカさんだけなので頑張らないでくださいっ!?

 

 ドッパーン、と冗談のような水柱を立ててスズカさんが加速。グラスちゃんが思い切り直撃して少し沈んでいきますが、ミサイルみたいに発射されたスズカさんを見ているとそんなことに気を取られている余裕はありません。

 

 

 

 

 何故かプールに星空が見えるような……幻覚?

 とにかく前へ、前へ――――よたよたバシャバシャ泳ぐ私とグラスちゃんの横を、今度はやけに静かに、けれども凄い勢いで抜き去っていくスズカさん。

 

 

 

 

「はい、1周回遅れー。10ml追加なー」

 

「「ひいいいい!?」」

 

 

 

 

 その強烈な臭いが水面から顔を上げただけで!? 実は肥しとかだったりしないですかそれ!? しかしスズカさんは意に介さず、息継ぎしながら器用にお兄さんに話しかけます。

 

 

 

「お兄さん―――――ご褒美は――――!?」

「1周分だと、ブラッシングとかかな……」

 

 

 

 

「全部―――集めると――――どうなりますか――――」

「えー。じゃあ5周でデート。二人は5周回遅れで『不味い、もう一杯』の刑に処す」

 

 

 

「―――――デートっ!」

「「い、嫌ですー!?」」

 

 

 

 

 それ絶対にスズカさんが本気になるやつですよね!?

 必死になって、それでも抜かされて――――3周も差を付けられたところで、ようやく気付く。

 

 

 

 

(も、もしかして――――スズカさんの水しぶきが少ないのは、無駄な力を使っていないから!?)

 

 

 

 

 疲れ切って、今にも沈みそうな身体を、なんとかスズカさんの泳ぎに近づけようと蹴り方を変える。少しだけ水しぶきが小さくなり、前にいたグラスちゃんに並びかける。

 

 

 

 

(こ、根性~~~ッ!)

 

 

 

 

 もう脚も呼吸も限界が近い。

 無駄な動きができる余裕が無い――――だからこそ、だろうか。

 

 スルリと、自分でも驚くほどにスムーズにその泳ぎに近づけていた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、ラスト25m!」

「気張れ、スぺ! 根性だ! 日本一になるんだろ!」

 

 

 

 

「こ、根性ォ――――ッ!」

 

 

 

 前に、進む! 進める! これなら泳げる! 泳ぎ切れる!

 と、そこでスズカさんのトレーナーさんが叫んで。

 

 

 

 

「グラス――――その程度か!? お前の覚悟は、そこで沈む程度のものか!」

「―――――い、いえ。私は―――――勝ちます!」

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 

 

 

 悪寒――――背後に、薙刀を振るうグラスちゃんを幻視する。

 ヌルリ、と研ぎ澄まされた刃のような泳ぎ。並びかけてくるグラスちゃんに負けないように、必死で脚を動かし、腕で水を掻く。

 

 

 腕が重くても、今にも沈みそうでも。

 これがただの練習でも、それでも―――負けたくない。勝ちたい―――!

 

 

 

 

「「はああああああ―――――ッ!!」」

 

 

 

 

 

「先頭の景色は譲らない――――!」

 

 

 

 

 スパッ、と差し切ったスズカさんに思わず無言になる私たち。

 そして、それがちょうど5周目の周回遅れで。

 

 

 

 

 

「はい、ロイヤルビタージュース固め濃いめマシマシ2杯!」

「「ひいいいい!?」」

 

 

 

 

 

 

 飲んだ瞬間、あまりの絶望的な味に二人で悶絶し。

 なんとなくグラスちゃんとこれまでより仲良くなった気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 



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眠れぬ想い

 

 

 

 

 

 

 

――――おかしい。何かがおかしい。

 

 

 普段なら安心して眠れる、お兄さんのベッド。

 いつもの洗剤と、お兄さんお気に入りのちょっとハーブの香りのするシャンプー。ちょっぴりの汗のにおい。

 

 普段なら幸せの気持ちのままぐっすり眠ってしまうスズカだが、どういうわけか心臓はレースの時のように早鐘を打っているし、背中に回されたお兄さんの手がくすぐったいやら心地よいやらで眠るどころではなかった。

 

 

 

(………どうしてかしら)

 

 

 

 抱き着くのも、頬を擦り付けるのも。何故だか恥ずかしくてたまらない。

 そう、キスについて考えてからだ。

 

 漫画でも、ドラマでも。恋人とか、好きになった人たちはキスをする。

 なのにお兄さんはキスしてくれない。ちょっと困った顔で『大人になったらな』とだけ言うのだ。……漫画とかのことを思えば、私の方が大人だと思うのだけれど。

 

 

 

 だから、キスしてみたかった。

 逆に言えば、キスすれば大人ということなのでは? 大好きなんだから、いいんじゃないだろうか。けれど、どうしても決心がつかない。

 

 

 

 もしも嫌がられたら、というのもあるけれど。

 ただ唇を触れ合わせるだけなのに。それがどうしようもなく恥ずかしくて―――でも、どうしてもしてみたかった。

 

 

 

 

「……お兄さん? 寝てますか?」

 

 

 

 

 返事は無い。

 なんとなく幸せそうに眠っているお兄さんに悔しくなる。

 

 

 

(わたしはこんなにドキドキしてるのに……)

 

 

 

 本当に寝てるか試してしまおう。

 そっと頬に唇を寄せて―――そっと触れる。

 

 特段なんてことはないはずの肌の感触。でも、なんとなく特別なことをしているような――――もしかするとお兄さんの味なのかな、なんてことを考えて。

 

 

 

 

「……お兄さん」

 

 

 

 私だけの……。

 とはいえ、なんとなく自分だけこんなに幸せでドキドキしてむず痒い気持ちなのに、お兄さんはぐっすり眠ったまま。

 

 

 

 やっぱり起きてるお兄さんがいい。

 お兄さんにキスしてほしい。

 

 ……むしろ起きてくれないだろうか。そんな思いでさっきより大胆に頬に唇を当てて――――。

 

 

 

 

「……ワキちゃん」

「ひぅっ」

 

 

 

 

 心臓が飛び跳ねたように思えて、尻尾も飛び上がる。

 恐る恐る顔を上げると、ちょっとだらしない顔をしたお兄さんは目を瞑っていて。

 

 

 

「……うまぴょいは……まだはやい……」

「……………お、お兄さん…?」

 

 

 

 ね、寝てる…。

 一体何の夢なのだろうか。でも、起きちゃったのかと思った…。

 

 心臓の鼓動は痛いくらいで、恥ずかしさと緊張と安堵と。ほんのちょっぴり残念な気持ち。

 

 

 

 

 

 

「……寝ましょう」

 

 

 

 こんなに緊張していたら身が持たないかもしれない。

 でもやっぱりチューしたい気持ちと戦いながら、目を瞑って――――。

 

 

 

 

(………ウソでしょ。眠れない)

 

 

 

 

 お兄さんの匂いを嗅いでいるとなんだかドキドキしてきて、眠れなくなってきた。

 そんなはずは。とムキになってみたものの―――。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「スズカ…?」

「……あ。おはようございます……」

 

 

 

 目が死んでる…!?

 目の下にくっきりと隈をつくったスズカは、とんでもなく眠そうな顔で抱き着いてきていた。

 

 

 

「ど、どうした。何かあったのか…?」

「……その、眠れないんです」

 

 

 

「……なんで?」

「……………………だって」

 

 

 

 

 だって何さ。

 とはいえ辛抱強く待っていると、拗ねたようにスズカは唇を尖らせた。

 

 

 

「お兄さんが………チューしてくれないから」

「………えぇ」

 

 

 

 どんだけキスに興味があるんだ…。

 キスにもうムチュー……いや、これはルドルフと話す時のために取っておこう。

 仕方ない。こうなったら荒療治だ。

 

 

 

 

「キスしたら寝る?」

「………え? ……………ぁ、その、えっと………はい」

 

 

 

 

 お前キスされる想定してなかったのか。

 とりあえず動かないように顔の横に手を突き。ぎゅっと目を瞑ったスズカのおでこにキスをした。

 

 

 

 

「はいキス」

「…………お兄さん。私、子どもじゃないです」

 

 

 

 

 一瞬すごく微妙な顔になったものの、耳と尻尾はご機嫌みたいである。

 そのままゆるやかに頭を撫でてやると、よほど眠かったのかすぐに寝息を立て始めて。

 

 

 穏やかに眠るスズカに安堵のため息をひとつ。

 

 

 

 

 原因は、なんとなく分かる――――走れないせいだろう。普段ならとりあえず近くに誰かいて、あと走っていれば満足だったのに、捻挫したばっかりにスズカが欲求不満に…!

 

 

 

 先頭欲、食欲、睡眠欲。

 先頭欲が満たされないので、代わりの欲でも出てきたのかもしれない。

 

 

 

 

 

「……流石に不味いな」

 

 

 

 

 この機会に寝室別にできないだろうか。

 なんでコイツ無防備に寝てるんだよとか、満足そうな顔しやがってとか、いろいろと言いたいことはあるが……ここはスズカに倣って――――走ってくるか。

 

 

 

「煩悩退散…!」

 

 

 

 これ以上此処にいたら何をしでかすか分からないので、逃げるように着替えて部屋を出る。幸いにも、スズカの指導をする上で走りのフォームなど基本的なことは全て勉強してある。結局ウマ娘は走りたいフォームで走るのが一番だったが。

 

 

 

 可能な限りスズカにやってもらう前にトレーニングを確認していることもあり(あとスズカが一緒に走ると喜ぶので)、それなりに体力もある。

 

 そんなわけで、河川敷近くのランニングコースを走っていると。

 

 

 

「――――あら」

「あ」

 

 

 

 

 

 どっかで見たことあるような葦毛。スズカほどではないがスリムなそのウマ娘は……めじょまっきーん……メジロマックイーン!

 なんとなくお嬢様な雰囲気でランニングしているその姿に、つい悪戯心が。

 

 

 

「昨日のユタカ――――」

「――――最高でしたわね! 最終回フルカウントからのカーブを掬い上げる芸術的な――――はっ」

 

 

 

「いや分かる。ユタカ最高だもんな」

「わ、忘れて下さいましっ!」

 

 

 

 

 控えめに言っても面白すぎるのである。ゴールドシップがやたらとマックイーンに構いたがるのも分かる気がする。

 

 

 

「というか、スズカさんはどうしたんですの?」

 

 

 

 普通にセット扱いなのか…。

 まあ確かに別行動する方が珍しいが。

 

 

 

「アイツは寝てる」

「……すみません、お怪我をされているのでしたわね」

 

 

 

 いや、一緒に寝たら寝不足になっただけだが……。

 待てよ。もしかしなくてもメジロ家なら何かスズカの欲求不満を解決する方法があるのでは。

 

 

 

「ところで相談なんだが――――走れないスズカのストレス発散に良い方法知らない?」

「えっ。………貴方がやれば何でも喜ぶのでは…?」

 

 

 

 ……いやまあ。うん。

 でもほら、最近ちょっと色々問題もあるし。

 

 

 

「………最近キスを強請ってくるんだ」

「はぁ。して差し上げればいいと思いますが――――」

 

 

 

 何だかんだと言いながらも考える素振りを見せてくれるマックイーン。やさしい。

 

 

 

「ユタカ以外で頼む」

「分かってますわよ!?」

 

 

 

 

「やはり此処は――――スイーツ食べ放題」

「スぺちゃんならともかく、スズカだぞ…?」

 

 

 

 

 また私ですか!?

 と叫ぶ脳内スぺちゃん。あげません!は実際に見てみたいがテイオーほどうまく想像できない。スぺちゃん良い子だし。

 

 

 

「では……デート、とか」

「デートとか絶対キスしたがる流れじゃん…」

 

 

 

「――――むむむ。仕方ありませんわね、正直あまり得意な分野とは言えませんが。スズカさんのためなら助力も惜しむべきではありませんし」

 

 

 

 

 と、スマホを取り出しコール。

 出たのは聞き覚えのある特徴的な高い声―――テイオーだった。

 

 

 

『マックイーン、珍しいね。どうしたのー?』

「テイオー、少し知恵を貸していただきたいのです」

 

 

 

 

 というわけで事情説明。

 ちょっとジト目になったテイオーは、こちら(画面通話になっている)を見ながら言った。

 

 

 

『大体さー、トレーナーが悪いよね。あれだけ普段から甘やかしてるのに、恋人でもなんでもないんでしょ? 普段から勘違いしそうなことばっかり言ってるし』

 

「うっ」

 

 

 

 だって……スズカが寂しがるから……いや、確かにいつかは突き放すべきだったのかもしれないけれど。本当なら全寮制のトレセン学園に入った時点でそうなるはずだったのかもしれないが、トレーナーだし。一応あれでも最近はスぺちゃんとか、タイキ達同期組とは仲良いみたいだし。

 

 

 

 

「………いっそ俺が恋人でも作れば―――」

「ユタカにバントさせるくらい愚策ですわ」

『もし本当にやったらゴルシに絶対秘密にしてね、って言っとくよ?』

 

 

 

 それ即座に知れ渡るヤツ!

 別に浮気じゃないのに浮気男扱いされそうな気しかしない。

 

 

 

「別に恋人じゃないのに……」

『別に、スズカに不満があるわけじゃないんでしょ?』

 

 

 

 そんなものあるわけない。

 胸がもうちょっとあったら言う事ないが、でもスズカはあれが一番似合うと思うし。つまるところ問題なのは

 

 

 

「年齢」

『………ふーん』

 

 

 

 俺だって男なので、やりたいことの一つや二つある。

 なのでそんな汚物を見るような目で見ないでください。マックイーンはなんとなく分かってなさそうだが。

 

 

 

 

「……年上好きですの?」

「いや、未成年がアウトなだけ」

 

 

 

「男の人は学生を好むと聞いたような覚えもありますが―――」

「でもそれ犯罪だからね」

 

 

 

「では、婚約してしまえばいいのでは?」

「………えぇ」

 

 

 

 

 めっちゃ名家な発想来た。

 確かに保護者と本人の同意は簡単に得られるだろうが、結局のところ現役の間は―――いや、まあ色々手はありそうだけど。

 

 

 

『というか、今はスズカの気分転換の話でしょー?』

「そうだった。なんかこう、ウマ娘的にストレス発散できそうなことは無いかな」

 

 

 

 

 ヒトミミならカラオケとか、酒……はダメだが、プールとかゲームセンターとかか。

 

 

 

 

『カラオケかな』

「ショッピングはどうです?」

 

 

 

「カラオケは俺もちょっと考えてたけど、ショッピングか」

 

 

 

 女子ならではかもしれない。

 スズカとショッピングだと確実にシューズとか蹄鉄になるが、そのへんはスポンサーが提供してくれてるし。

 

 

 

「何を言っているんですの、洋服ですわよ」

『まぁトレーナーに褒められたら機嫌良くなりそうだよね』

 

 

 

「えー。だって冬服持ってたぞ?」

「はぁ」

『全っ然ダメだね』

 

 

 

 そんな馬鹿な。

 いや確かに男女で持ってる洋服の数は違うだろうが。でもアイツ基本的に俺があげたコートとか、後は二人で選んだ服ばっかり……あっ。

 

 

 

 

「……もしかしてもっと買ってあげるべき?」

「今更ですの?」

『まあ、スズカいつもジャージだし分からなくもないケド』

 

 

 

 

 ジャージの理由はもちろん走りやすいからである。

 アプリの私服スズカのあのお嬢様みたいなブラウスは凄まじく似合うと思っていたので、この前買ってあげたのだが。言われてみればお出かけ着は絶対足りていなそう。

 

 給料はかなり貯めこんでいるし、ちょっとやそっと買ったくらいなら痛くはない。

 あげた服をスズカが着てくれるのは正直見たいし。

 

 

 

 

「ありがとう、二人とも! とりあえず誘ってみる!」

「頑張ってくださいまし~」

『変な服選ばないでよねー』

 

 

 

 

 そんなわけで走って帰宅すると――――玄関で笑顔の母親と出くわす。

 猛烈な悪寒に襲われつつ、スルーしようとするが。 

 

 

 

 

「お嫁さんを放って出かけるとはいいご身分ね」

「いやワキちゃんは嫁じゃないし……」

 

 

 

 とりあえずもし結婚することになったとしても嫁姑問題の心配はいらなさそうである。

 代わりに俺の立場は消えそうだが。

 

 

 

「ワキちゃん、お兄さんに置いていかれたって悲しんでたわよ」

「うっ」

 

 

 

 起きるの早くね…?

 とはいえ、一応忠告には感謝。ワキちゃんの機嫌に注意しなくては。

 

 というわけで、扉を開けて――――。

 

 

 

 

 

―――めっちゃ左旋回する布団がリビングに。

 

 

 

 

 

「……ワキちゃん?」

 

「お兄さん……?」

 

 

 

 

 ガバッ、と投げ捨てられる布団と、満面の笑顔――――が萎れるワキちゃん。

 

 

 

 

「………お兄さん、女の人と会ってきたんですか」

「ん? ああ、ランニングしてきたらマックイーンとばったりな。それよりワキちゃん、今日の午後暇?」

 

 

 

「…? えっと、はい」

「じゃあデートしようぜ」

 

 

 

「…………でーと?」

 

 

 

 

 でーと、デート……と何度か咀嚼している間に耳と尻尾が元気になっていくワキちゃんは、最終的にちょっと心配そうな顔で言った。

 

 

 

「……お兄さん、何か変な物を食べたとか…?」

「無いよ?! ちょっとお前と買い物に行きたくなっただけだ。……行かないなら別の――――「行きます」―――はい」

 

 

 

 一瞬、レース中のスズカみたいな気性難(殺気)の気配を感じたような。

 ともかく、そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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相談掲示板


以前、掲示板はオマケでしか出さないと言いましたがマモレナカッタ…。





 

 

 

 

 

――――そう、気づいてしまった。私は、お兄さんとデートしたことがないと…! (温泉や食事は行ったけれどあれはご褒美という認識だし普段のお出かけは一緒にいるのが当然だと思っている)

 

 

 

 けれどデートに誘われたということはもしかして、お兄さんも私のことが……でもお兄さんのことなのでそんなことは全く考えていないかもしれない。

 

 デートといえば、手を繋いで、一緒に買い物とかして………普段通り?

 もしかして普段通り過ごして「これがデートだよ」なんてお茶を濁される可能性があるのかもしれない。

 

 

 

 

「……デート、お兄さん、チュー……」

 

 

 

 どうにかして、お兄さんにチューしてもらいたい。

 そのためには………。

 

 

 

(あっ。そういえば、スぺちゃんから前に……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

トレセン学園匿名相談掲示板

 

 

【相談】お兄さんとチューする方法【募集】

 

1:名無しのウマ娘

お力をお借りしたいです。よろしくお願いします。

 

 

 

2:名無しのウマ娘

えっ。本物……? いやいやそんなまさか

 

 

 

3:名無しのウマ娘

? よくわからないですが、本当にチューしたいです。

 

 

 

4:目指せ日本一

この感じ……ご本人ですね!

 

 

 

5:ゆる釣りウマ娘

>>4ほどのウマ娘が言うならまあ…。でもどうしてこんな場所、もとい掲示板なんかに?

 

 

 

6:名無しのウマ娘

ルームメイトに聞いたことがあったので、書き込んでみました。

私の新しい勝負服をみんなの力で考えてくれたって。

 

 

7:蒲公英

>>4ちゃん、何をしているのですか…?

 

 

8:目指せ日本一

ごめんなさい

 

 

9:ゆる釣りウマ娘

>>6って聞くとなんとなく感動話っぽいけどねー。

 

 

10:名無しのウマ娘

?? えっと、すみません。

何か私のせいで謝るようなことが…?

 

 

11:目指せ日本一

>>10ぜんぜん悪くないです! 大丈夫ですから!

 

 

12:ゆる釣りウマ娘

まあここの掲示板はトレセン内部からしか見られないし、平和だしいいんじゃない?

 

 

13:蒲公英

>>12何かあったら掲示板自体が終わりそうですね

 

 

14:ゆる釣りウマ娘

>>13それはちょっと……せっかく面白、もとい暇つぶしになるのに

 

 

15:目指せ日本一

とりあえず、見やすいように固定ハンドルネーム付けましょう!

やり方は電話で教えますから!

 

 

16:ゆる釣りウマ娘

>>15 ス〇ちゃん……。

 

 

17:世界レベルデース!

スペ〇ゃん……。

 

 

18:一流ウマ娘

>>16>>17貴女たち、真面目にやりなさい!

 

 

19:お布団

どうしてかルームメイトの人が急に電話してきてくれたので、やってみました。

合っていそうですか?

 

 

20:ゆる釣りウマ娘

>>19どうしてお布団に…?

 

 

21:お布団

みなさん好きな物か目標を付けてるみたいなので…。お兄さんってつけると紛らわしいですし。

 

 

22:ゆる釣りウマ娘

(なんとなく疑ってたけどこれ本人だなーという顔)

 

 

23:一流ウマ娘

ま、まあ一流のトレーナーと親しくなりたい気持ちは分からなくもないから協力してあげる!

 

 

24:ゆる釣りウマ娘

うんうん。私の友達のキングヘイローも自分のトレーナーと仲良くなりたそうだし、分かるなーその気持ち。

 

 

25:一流ウマ娘

>>24ちょっと!? 勝手に人の気持ちを捏造しないで下さる!?

 

 

 

26:ゆる釣りウマ娘

えっ、何の事かなー? 大丈夫、きっと一流のキングはこんなところで掲示板見てないし

 

 

 

27:蒲公英

とりあえず、何故キスをしたいという話に…?

 

 

28:お布団

お兄さんにデートに誘われたんですが、どうしたらキスしてもらえるのかわからなくて

 

 

29:目指せ日本一

私もキスなんてしたことないですし…。

 

 

30:世界レベルデース!

>>28 こういう時は、景色の良い場所で抱き着いて告白デース!

 

 

31:蒲公英

>>30 真面目にやりましょうね?

 

 

32:ゆる釣りウマ娘

ヒェッ

 

 

33:ワガハイ

なんかすごいことになってる……。

 

 

34:かっとばせユタカ

>>28ではひとまず、普段と違うところを見せて女の子らしさを意識させてみるなどいかがでしょうか?

 

 

35:世界レベルデース!

>>31至極真面目デース…。でもその、>>1さんくらい綺麗なら正面から勝てるんじゃ?

 

 

36:ワガハイ

いや、にぶトレーナーだし…。

 

 

37:お布団

お兄さんは気が利きますし、鈍くなんてないですよ。

意地悪なので気づいていても無視してきますけど。

 

 

38:ワガハイ

あっ、はい。ごめんなさい。

 

 

39:ゆる釣りウマ娘

>>36>>37この間、わずか10秒

 

 

40:目指せ日本一

タイピングも早いですねー…。

 

 

41:蒲公英

>>34ともかく、服装から意識していただくのは良いアイデアかと

 

 

42:ワガハイ

ちょうどショッピングデートだもんねー。

 

 

43:世界レベルデース!

>>41>>42では、下着を選んでもらいましょう!

 

 

44:蒲公英

>>43急にエルとストレッチがしたくなったので、少し離れますね

 

 

45:世界レベルデース!

急に逃げたくなったので少し離れマース!

 

 

46:お布団

下着……お兄さんに?

 

 

47:目指せ日本一

いやいや>>45さんの言う事は聞かなくてもいいですから!

 

 

48:ゆる釣りウマ娘

>>47いや、でも破壊力はあるよね……。

 

 

49:一流のウマ娘

破壊力しかないわよね!? 貴女たち、自分のトレーナーに下着選んでもらって無事でいられるの!?

 

 

50:ゆる釣りウマ娘

>>49ごめんなさい、無理です

 

51:ワガハイ

でも正直それくらいしないとキスなんて無理じゃない?

 

 

52:ほわぁ

ネグリジェを選んでいただくと、トレーナーさまが少し積極的になりましたわ~

 

 

53:閃光

>>43ですがそれは最終手段です……まずご両親に紹介して外堀を埋めるべきかと

 

 

54:世界一カワイイ

流石に下着を選んでもらったら私のお兄ちゃんも動揺してたし、効果はあると思うなー。

 

 

55:坂路

>>53お父さんと会っていただくのは、関係性の再確認のためにも有用かと

 

 

56:金剛石

>>43 採用です! 素晴らしいと思います!

ではまず私がトレーナーさんに試してみますね!

 

 

57:目指せ日本一

な、なんだか凄い人たちが集まってきたような…?

 

 

58:お布団

>>43下着……。お兄さん、胸が大きい方が好きだって言っていました。

 

お母さんたちは子どもの頃から知っています。

お嫁さんになってほしいと言ってくれました。

 

 

59:かっとばせユタカ

>>58暴言ですわ! ひどいですわ!

 

 

60:黄金の浮沈感

待てよお前ら、あんまりトレーナーを困らせるんじゃあねぇぞ

 

 

61:目指せ日本一

>>60えっ、誰ですか!?

 

 

62:ワガハイ

ゴ〇シ…? いや違うよね…?

 

 

63:硝子の鳥

そうですね、>>1さんなら無理せずとも自然に結ばれそうですし…。

 

 

64:閃光

ですが、きちんとした説明も無く子ども扱いされるのは非常に遺憾なのは分かります。

一度しっかりと機会を設けて、予定を立てておくべきでは?

 

 

65:お助け大将

でもやっぱり、お父さんたちに紹介してしっかり応援してもらえばトレーナーさんも応えてくれるとは思いますけど…。

 

 

66:ラーメン殿下

>>64うんうん、そうだよね。

ちょっとだけ、一緒にアイルランドに来てくれないかなーって思っていたけど、仕事熱心なせいで来てくれなかったし

 

 

67:坂路

>>58なるほど、確認は終わっているようですね。

 

 

68:ほわぁ

トレーナーさまに本日のネグリジェを選んでもらおうと思ったのですが、他の子がいるところでやめろと怒られてしまいましたわ~

 

 

69:金剛石

トレーナーさんに下着を写真で選んでもらおうとしたのですが、はしたないと怒られてしまいました…。

 

でも視線が胸に行っていましたので効果はありそうです♡

 

 

70:お助け大将

>>69いいなー。私なんて頭グリグリされたのに…。

 

 

71:ワガハイ

なんかみんな色々進みすぎじゃない!?

 

 

72:かっとばせユタカ

私も家の関係で最低限の知識はありますが…詳しそうな方に声をかけてみますわ

 

 

73:黄金の浮沈感

正月があんだし、和服で攻めればいいと思いますわ

 

 

74:かっとばせユタカ

>>73本気で誰ですの!? 紛らわしいですわよ!?

 

 

75:ワガハイ

逆にゴル〇っぽいような気もしてきたケド

 

 

76:ほわぁ

>>1さまも、ネグリジェが似合いそうですわ~

お勧めのお店、お教えしますわ~

 

 

77:世界一カワイイ

普通に下着のお店に連れていこうとすると断られるけど、友達とお泊りするのに不安で…とかちょっと困ってるのをアピールすると断られにくいですよー。

 

 

78:ラーメン殿下

>>77さっすが! 私もちょっと試してくるね!

 

 

79:ゆる釣りウマ娘

>>77>>78こ、国際問題…?

 

 

80:金剛石

>>77試してみました! 「全部可愛いよ」って言われましたが、一つ選んでもらえました!

勝負下着にします!

 

 

81:世界レベルデース!

いつの間にか凄いことになっ

 

 

82:蒲公英

>>81捕まえましたー。お騒がせしました。

 

 

83:お助け大将

>>77本当に効果ありますね! ありがとうございます!

親友ちゃんに聞けよ! って怒られましたが、トレーナーさんにしか相談できないですって言ったら勝ちました!

 

 

84:硝子の鳥

>>73さんのおっしゃるように、お正月の和服を選んでいただくというのはどうでしょうか。

 

 

85:ゆる釣りウマ娘

>>77止めておいた方がいいと思いまーす。平然とした顔で「君ならこれが似合うと思うよ」なんて言われてなんか色々打ち砕かれた気分…。

 

 

86:名無しのウマドル

>>77を使いすぎると、下着を見ても平然とするにぶトレーナーになっちゃうよ…。

 

 

87:ほわぁ

>>77トレーナーさまにお願いしたら、新しいネグリジェを買ってもらいましたわ~。

嬉しいですわ~

 

 

88:目指せ日本一

なんだかトレセン学園が大変なことに…!?

 

 

89:お布団

なるほど、お兄さんに下着が選べないとお願いして、あとお正月の和服ですね…!

ありがとうございます!

 

 

90:閃光

>>89まだダメと言われた場合は、何時なら良いのか確認しましょう

 

 

91:世界一カワイイ

>>89恥ずかしくても、ちゃんと自分の気持ちは素直に伝えたほうがいいよー。

 

 

92:金剛石

>>89陰ながら応援させていただきますね!

 

 

93:お助け大将

>>89>>92お父さんと一緒に応援してます!

 

 

94:ラーメン殿下

>>89私も協力は惜しまないよ~!

 

 

95:目指せ日本一

>>89けっぱりましょう! 私にできることなら協力します!

 

 

96:黄金の浮沈感

>>89一肌でも二肌でも脱いでやるぜ

 

 

97:一流のウマ娘

>>89もし今回がダメでも何度でもアタックよ!

 

 

98:ゆる釣りウマ娘

まあ、最終的にはくっつくと思うし。気楽にいこうよ~

 

 

99:坂路

>>89ファイトです

 

 

100:科学者

ふーむ。ちょうど良さそうな試作品があるんだが……どうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さん」

 

 

 何故か家の前での待ち合わせを主張したワキちゃんに従って、買い物の用意を整えて玄関前で待つ。お金はあるし、なんか可愛い服でも……と思っていたのだが。

 

 前に買ってあげた、アプリスズカさんと同じ私服に、クリスマスプレゼントのコート。もう何度か見た組み合わせではあるのだが、やっぱり可愛い。

 

 

 

「うん、やっぱり似合うな」

「そ、そうですか…? ありがとうございます」

 

 

 

 

 なんとなく片手だけ手袋をしていない右手を彷徨わせるワキちゃんが迷子……もとい、万が一走り出したりしないように手を握る。

 とにもかくにも今回はデートでワキちゃんを満足させ、ストレス発散させなくてはならない。

 

 

 

 

 ので、美味しいスイーツの店くらいは調べてある。

 行先がいつもの商店街ではあまりにもアレなので、もちろん別の場所へ。

 

 車に乗り込んだ俺たちは――――。

 

 

 

 

「お兄さん、スぺちゃんたちとお泊り、パジャマパーティーをしたいんですが…」

「おお、いいな」

 

 

 

 

 なんか年頃の女の子っぽい。

 ワキちゃんもやっと人並みの感性が、とかなり嬉しくなったのだが。

 

 

 

「――――下着が分からないので、一緒に選んで欲しいんです…」

「………………母さん、呼ぶ?」

 

 

 

 自分でもどうかと思うが、何が悲しくて幼馴染の下着を選ばないといけないのか。

 しかもあれだろ、年頃の女の子に見られて恥ずかしくない下着を選べと!? 無理でしょ…。

 

 が、やっぱり恥ずかしいのか顔の赤いワキちゃんは目を逸らしつつ言った。

 

 

 

 

「………お兄さんしか頼れないんです!」

「いや、それはさ………むぐぐ」

 

 

 

 

 確かに母さんに若い感性を求めるのはどうかと思うと言うか、そんなこと頼んだ日には結果的に母親とワキちゃんを連れてワキちゃんの下着を選ばされる可能性すらある。

 

 しかも何も助言なしの場合は可愛さの欠片もない実用的な下着か、お子様下着で参戦してしまうワキちゃんが容易に想像できる…。スズカさんならまだちゃんとしてそうなのに……いややっぱり無理かも。

 

 

 

 

 

 

 

―――女性経験ないのに下着は無理では?

 

 

 

 そんなわけで、ワキちゃんの持ってくる下着で一番可愛らしそうなのを選んだ。

 俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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トレーナー掲示板 / 裏

こっちはさっきの更新の正真正銘のおまけです。


トレセン学園トレーナー掲示板

 

 

【緊急】ウマ娘たちによる大規模攻勢【対策】

 

1:校庭の杖

というわけで、急激に広まっている『担当トレーナーに下着を選ばせるブーム』について

対策などある方は早急にお願いします

 

2:青空

何か知らないですが、淡々と応じることで撃退できました。

ウチの子紙装甲なので…。

 

3:名誉お兄さま

ウチの子はまだ何も言ってこないですが、なんとなく浮ついた空気は察しています。

震源とか分かります?

 

4:他称お兄ちゃん

多分、生徒たちが真似して作った掲示板だろうな。

 

5:校庭の杖

>>3>>4生徒たちのガス抜きになればとウチの担当が積極的に整備してくれてましたが、思った以上に広まったみたいで。

普段は匿名(笑)で知り合いなら分かる、本当にバレたくないときは名前変えればいいですし。

 

6:名誉お兄さま

>>5なるほど。ありがとうございます。

不特定多数、かつ身内にだけ使えるのって便利ですからね。実際自分たちもけっこう重宝してますし。

 

7:青空

ウマ娘たちにバレないように周知する時とか、抜け出して夜の店に行くときの相談とかな

 

8:ラーメン屋

助けてください。殿下が下着を選んでくれって。たまたま仕事で出かけていたのでメールで送られてきたんですが、なんて答えればいいですか

 

9:偽称お兄さん

>>8あっ。とりあえず誰か事情を知ってる大人の人に相談するとかは…?

 

10:校庭の杖

なんとか乗り切ってくれないと、アイルランドから要請されている交換研修の同意書にサインすることになります。

 

11:ラーメン屋

い、嫌だ―!? 日本のラーメンが好きなんだー!

というか両親放ってアイルランドに行く覚悟はまだない…!

 

12:青空

>>11と、言いつつ迷ってるのは知ってる

 

13:劇団員

>>11抱け―っ! 抱けーっ!

 

14:東

>>13黙りなさい。

 

15:ラーメン屋

>>9SP隊長に頼んだ。すると殿下の御父上に連絡が行って、雷が落ちた模様。ありがとう…。

 

16:校庭の杖

対応策1:親に報告する

対応策2:大人として諭す

 

17:お祭りトレーナー

>>16対策2をやってみましたが、お泊り会の下着を選んでほしいと押し切られました…。

1をやると多分俺は死にます

 

18:偽称お兄さん

>>17えっ、ウチの子も同じ手を使ってきたんですが…。でも掲示板やりそうもないんですが…。

 

19:青空

>>18それを言うなら殿下もだ。俺たちの想像以上に広まってるぞ

 

20:校庭の杖

どなたか賛同してくれそうな担当がいる方は、少し真っ当な手段を使うように訴えて貰っていいでしょうか。

ちょっとウチの担当だと圧が強すぎるので…。

 

21:硝子の翼

既に動いてくれてますが、流れが強すぎてきつそうです

 

22:東

とりあえず各寮長と、生徒会メンバーには要請しておきます

 

23:劇団員

何故かゴルシが大人しいんだが、誰か何か知ってる?

 

24:偽称お兄さん

>>23あっ、ちょっとゴルシが大好きそうなお方を見つけたのでサインをもらってゴルシにプレゼントしました。

 

25:劇団員

>>24どういうこと!? ゴルシに言う事聞かせられる人とかいんの!? なんでその人トレーナーじゃないの!?

 

26:偽称お兄さん

>>25運命的な何かを感じますね…。

 

27:青空

>>26運命的な何かなら仕方ない

 

28:硝子の翼

>>26それは確かにいつも感じてる。怪我予防だけは絶対にあきらめないけど

 

29:名誉お兄さま

ところで最近、何故かチューを意識するウマ娘が増えてるんだけど

 

30:偽称お兄さん

>>29申し訳ございませんでしたァーッ!

 

31:他称お兄ちゃん

俺はG1勝てたら布団交換する約束させられたんだけど。どういうこと!?

 

32:偽称お兄さん

>>31それは別に俺のせいでは…。

 

33:他称お兄ちゃん

>>32は?

 

34:偽称お兄さん

>>33申し訳ございませんでした。

 

35:北

とりあえずこの騒ぎを収めるのに集中しないとな…。

 

36:一流のトレーナー

俺たちの仕事は、彼女たちの将来を少しでも輝かしいものにすることだからな。

俺の担当はまあ、説得すれば大丈夫なはず。

 

37:宝石

たすけてください……ウチの子がもうなんかダメです…。

 

38:青空

>>37今夜抜け出すか

 

39:お祭りトレーナー

>>38混ぜて! >>34も行かない?

 

40:偽称お兄さん

>>39俺は……やめときます。その、抜け出すとバレるので…。

 

41:お祭りトレーナー

>>40あっ(察し)

 

42:宝石

こういう時、名家のウマ娘は良かったなと思うよ…。他の時はプレッシャーすごいけど。

 

43:パティシエ

>>40流石に同衾はな…。ちょっと不能なのか疑ってる

 

44:偽称お兄さん

>>43止めてくれます!? 小さい頃から知ってるので耐えられるだけですから!

 

45:ラーメン屋

あの……お詫びに食事会に誘われたんですが…。怖いんですが……ダレカタスケテ

 

46:宝石

>>45あっ…。で、でもほら。「うちの子を宜しく」的な普通の挨拶かもだし

 

47:お祭りトレーナー

>>45>>46そうそう。よくあるよくある。強面のお兄さんたちもいるけど優しいし

 

48:他称お兄ちゃん

>>46>>47それ普通か…? 外堀埋められてない?

 

49:宝石

>>48そんな!? 確かになんか家の専属トレーナーがどうとか、メジロ家のトレーナーさんの紹介も受けたけど!?

 

50:お祭りトレーナー

>>48そ、そういえばいつの間にか自宅の住所を把握されていてお歳暮届いた…。

 

51:劇団員

>>49>>50お前ら……達者でな

 

52:パティシエ

いきなり両親に紹介されたけどまだ致命傷じゃない……家庭訪問的なアレなんだ…。

 

53:名誉お兄さま

掲示板の風紀が心配ではありますが…。

 

54:校庭の杖

>>53掲示板の方がこちらも監視しやすいんですよね。一部の管理者は閲覧できるようにしてますし。

スマホアプリでやられると、流石に何も分からないですので。

 

55:偽称お兄さん

親も完全にあっち側に取り込まれてる場合は…?

 

56:他称お兄ちゃん

>>55アキラメロン

 

57:校庭の杖

>>55犯罪になる前に婚約するのも手かと

 

58:名誉お兄さま

>>55介錯はしてやる

 

59:硝子の翼

>>45とりあえず「メジロ家としては有力なトレーナーの流出を深刻に憂慮する」とのことです

 

60:校庭の杖

>>45効力は不明ですが「シンボリ家としてもトレセン学園のトレーナー不足は夢見るウマ娘たちのサポートに支障がある」との声明を出してくれそうです

 

61:ラーメン屋

>>59>>60ありがとうございます! 心強いです!

 

62:宝石

サトノ家も「トレーナーの職業選択の自由は尊重されるべき」とのことです。

じゃあ下着も選ばせないで欲しかった…。

 

63:偽称お兄さん

無敗の五冠ウマ娘もSNSにてシンボリ、メジロに同調して「トレーナーの海外流出ダメです」とのこと

 

64:他称お兄ちゃん

>>63お前それ卑怯だろw

 

65:名誉お兄さま

>>63突然爆弾投下されて驚く関係各所が見える見えるw

 

66:校庭の杖

とはいえ、向こうの言い分はあくまで「交換研修」なので>>61が負けたら守れません

 

67:ラーメン屋

>>62>>63ありがとう。ありがとう…。

殿下に布団がどうこう言われた時は抹殺してやろうかと思ったけどありがとう…!

 

68:他称お兄ちゃん

物騒で芝

 

69:偽称お兄さん

俺は悪くねぇ! だって担当が! 担当が勝手に!

 

70:商店街

ウチの担当も淡々と返されたら落ち着いてました。

焦ると危険みたいですね。

 

71:目白

破壊力ありすぎますが、あらかじめ覚悟していたので耐えられました。

警告ありがとうございます。

 

72:幸運トレーナー

決まり手:アイアンクロー

 

73:キリマンジャロの嵐

自分の場合、淡々とやったら心霊現象が……まあ他は大丈夫だと思いますが

 

74:一歩半

流行りだからとキレながら下着を選ばせようとする担当の破壊力が高すぎるんですが。

誰か何とかしてください

 

75:校庭の杖

>>74好意的に考えれば、それだけ担当と信頼を結べた証です。耐えてください。

 

76:南

うちの子たちすら選ばせようとしてくるんですが、流行りすぎでは?

 

77:校庭の杖

こうなったら発言力のある人に流れを変えてもらうしかないですね。

 

78:劇団員

とはいえ、この流れを変えるとなると……もっと大きいブームか、あるいは説得力のある反対意見か

 

79:青空

>>78トレーナーとうまくいってるイメージが強いウマ娘に「下着は選ばせない方が上手くいく」とか「本番で驚かせるべき」とか言ってもらうか

 

80:偽称お兄さん

>>79とすると、タマモクロスとか?

 

81:他称お兄ちゃん

>>80サイレンススズカ

 

82:名誉お兄さま

>>80サイレンススズカとか

 

83:劇団員

>>80無敗の五冠ウマ娘とか

 

84:校庭の杖

>>80じゃあサイレンススズカさんのトレーナーに依頼出しときますね

 

85:偽称お兄さん

>>81>>82>>83はあああ!? どうしろと!? ウソでしょ!?

 

86:ラーメン屋

>>85いや本当にマジでお願い。人生かかってるから

 

87:宝石

>>85下着じゃなくて、パジャマを褒めればいいんじゃね?

 

88:目白

>>85ネグリジェを推すんだ!

 

89:名誉お兄さま

>>85もこもこした着ぐるみパジャマとか

 

90:一歩半

>>89それなら正直見たい

 

91:青空

>>89見たい

 

92:他称お兄ちゃん

>>89決まりだな

 

93:偽称お兄さん

何を推す>>100

 

94:ラーメン屋

おまっ、ここで、安価だとぉ!?

 

95:目白

しかも近い。ネグリジェ

 

96:劇団員

バニーガール

 

97:商店街

ナース

 

98:お祭りトレーナー

浴衣

 

99:幸運トレーナー

巫女服

 

100:一歩半

断固としてふわもこ着ぐるみパジャマ

 

 

 

 

 



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シニア級
年明けの話 / 初詣


 

 

 

 

 

 

 年末は大掃除したり、デートに行って和服とふわもこパジャマを買ったり、あまりの可愛さに抱きしめて愛でまくったらトレセン学園でも流行の兆しがあるとのこと。

 

 そして、年越しそばを皆で啜って、年末特別番組で今年のレースの振り返りを見たり、年越しした後二人で寝たり。そんな翌朝。

 つまるところ、新年である。

 

 

 

 

「お兄さん―――どうですか?」

 

 

 

 和服が……似合う…。

 緑の振袖姿のスズカは、なんというか大和撫子のようであった。頭サイレンススズカなのに。

 もともと細くて綺麗なボディラインが更に強調され、折れそうな儚さと凛々しさが共存。抱きしめたら折れてしまいそうな、でも抱きしめたくなるこの感覚。

 

 

 

 綺麗だ、とか。可愛い、とか。

 色々な感想が湧いては消えていく。つい抱きしめるように上げてしまった腕を見て、笑顔で飛び込んでくるスズカの重みと、ほんのり甘く感じる香り。

 

 

 

 

「……その、なんだ。すごく似合ってる」

「お兄さんも。やっぱり似合います。……カッコイイ、ですよ?」

 

 

 

 スズカとのデートで寄った和服店で振袖を買うと同時に、スズカに着て欲しいと言われた袴である。少し照れたように言うスズカに、知らず知らずのうちに腕の力が強くなり。

 

 

 

「お兄さん、ちょっと苦しいです」

「うっ、ごめん」

 

 

 

 そう言いながらも、耳が満足そうなスズカである。

 というかスズカの力の方が強いので、下手すると内臓が飛び出そうだが。顔を擦り付けてくるいつもの甘え癖と合わさるとなんとなく心地よいような気もしないでもない。

 

 

 

 

「さ、さて。そろそろ行くか」

「……このまま行きますか?」

 

 

 

 ちょっと悪戯っぽい顔でそんなことを言うスズカ。

 くっ、なんか知らぬ間に手ごわくなって…。

 

 

 

「いきません」

「残念です」

 

 

 

 するりと自然に腕に絡みついてくるスズカに何か言う気にもなれず、とはいえいつもと違う履物で歩きにくいスズカに合わせて少し歩調を緩めて歩く。

 

 

 

「……私がお兄さんに合わせてもらうの、なんだか新鮮です」

「いつも走ってくスズカに合わせて俺も走ってるイメージしかないけどな」

 

 

 

 

 ワキちゃん、というかスズカが俺に合わせてくれたことあったか…?

 スズカもちょっと思案顔になった後、ちょっと唇を尖らせて言った。

 

 

 

「いつも、お兄さんと走る時は手加減してますよ?」

「……そうだったな」

 

 

 

 どれだけだって速く走れる、そんなスズカが一緒にいるのは、やっぱりそういうことなんだろう。腕が強く引かれ、不安げに揺れるスズカの瞳は、それでも綺麗だった。

 

 

 

 

「お兄さんと、一緒に走りたいんです。一緒に歩きたいんです。一緒に立ち止まって、星を眺めたり……眠る時も一緒がいいんです。貴方と、ずっと一緒に景色を見ていたい―――――わたし、我儘ですか?」

 

「本当に、寂しがりだな」

 

 

 

 

 スズカの、スズカだけが見せてくれる走り。その景色を、俺もいつまでも見ていたいから。今は、まだ。

 

 

 

 

「だから――――見に行こう。一緒に、最高の景色をさ」

 

 

 

 

 世界だろうが、凱旋門だろうが、アメリカだろうが。

 サイレンススズカの夢の走りが、全てを叶えたその時には――――。

 

 

 

 

「……お兄さん」

「ん?」

 

 

 

「むぅ~~~~っ!」

「何だよ」

 

 

 

 

 本当は分かっている。

 スズカも、俺も。俺が今、その気持ちに応えられないことも―――スズカにとって、困らせない範囲での精一杯の告白だったことも。

 

 顔を真っ赤にしてぐりぐり頭を擦りつけてくるスズカだが、尻尾は絡んでくるし耳は機嫌よく動いているので怒ってはいないらしい。

 

 

 

 

「……俺の夢は、お前しかいないよ」

「じゃあ、チューしてください」

 

 

 

「油断も隙も無いな!?」

 

 

 

 なんでこの流れでチュー!?

 

 

 

 

「だってお兄さん、グラスともテイオーとも仲がいいですし……桐生院さんとデートしてましたし」

「まだ根に持ってたのか…」

 

 

 

 あの時はスズカはもっとお子様だったし、仲良くなった桐生院さんとカラオケとしゃれこんだのだが、電話で練習は休みと伝えたのに、家から急に電話が掛かってきたと思ったら一人で泣きながら練習していたスズカ。

 

 

 

 

「――――最近教えて貰ったんです、男の人には『責任を取る』というのがあるって」

「あ、うん」

 

 

 

 それ多分、これ以上何もしなくてもかなりあられもない姿を見ている俺には適用されてる気がする。言わないけど。

 

 

 

 

「チューするか、うまぴょい?するかだそうなので――――チューしてください」

「ダメ」

 

 

 

「じゃあうまぴょい?でもいいです」

「もっとダメ」

 

 

 

 

 こんなんだからキスもできないんだよなー、という呆れた目を向けてやると、なんとなく通じるものがあったのか少し怯んだスズカだが。

 

 

 

 

「お兄さん、私に勉強教えてくれたことありましたよね」

「うん、まぁ……」

 

 

 

「うまぴょいも教えて―――」

「ダメ」

 

 

 

「………ケチ」

「阿呆」

 

 

 

 

 もう俺頑張ったよ……。

 コイツが卒業する前に、夜のお店に行って発散してきてもいいのでは? この阿呆に手を出すよりはよっぽど良心的かつ道徳的な気がする。

 

 

 

 

「……チュー…、したいですー……うまぴょい……」

「さーて、そろそろ神社が近いから静かにしろよー」

 

 

 

「……はい」

「さて、まずは参拝してからかな……」

 

 

 

 

 朝早い時間、普段のランニングの時間なので比較的人は(正月の割には)少ない。

 それでもそこそこいる人たちから視線を集めまくるスズカ(とついでに俺)は、応援の声を掛けられたり冷やかされたり(なおスズカが冷やかしに気づいた様子はない)しながら参拝の順番になり。

 

 

 

 

(……スズカが怪我無く走り切れますように)

 

 

 

 とりあえず500円玉を放り込んで真剣に祈る。

 後は一番よさげな健康祈願のお守りも買うとして――――隣で万札を賽銭箱に入れるスズカを思わず二度見した。

 

 

 

 

「……お兄さんがお嫁さんにしてくれますように」

 

 

 

 

「お前……何祈ったの?」

「……ダメです。教えません」

 

 

 

 

 つーん、と珍しくそっぽを向いたスズカ。

 まあレース関係ではないんだろうな、というのは察しがついたので触らぬ神に祟りなし。そのまま健康祈願のお守りを何個か購入し、ウキウキで恋愛成就のお守りを買っているスズカに押し付ける。

 

 

 

「持っとけ」

「はい」

 

 

 

 

 そのままおみくじを引き――――俺は吉、スズカは大吉だった。のだが。

 

 

 

 

「お兄さん……恋愛運が『待たされる』って書いてあります…!? ウソでしょ……大吉なのに!?」

「あ、俺は『好意多し』って」

 

 

 

 他の事は大体良いことが書いてあるのに、恋愛だけアレなのはなんとなく面白い。

 

 

 

「……も、もう一回」

「大吉なんだしいいだろ。ほらここ、『夢かなう』って」

 

 

 

 パアッと顔が明るくなるスズカと頷き合う。

 

 

 

(レースもばっちりだな!)

(お兄さんと……!)

 

 

 

 

 

 

 SNSでスズカは御神籤の結果を投稿し。

 何故か俺が『待たせるな』とかなんとか煽られることになるのだった。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

「――――仕事が終わらん」

 

 

 

 なんでこんなに仕事が? と疑問を抱くが、要は冬期休暇中のトレーニングメニューだったり、予算の関係だったり、年明けのレースの出走申請だったり、海外遠征のために必要な書類だったりする。後はスズカへの取材依頼とか、CM依頼とか。

 休養も大事なのでトレーニングが休みの日に、スズカのストレスと相談しながら予定を立てる。

 

 

 

 とはいえ、CMについては出たいのがあるかスズカの意志を尊重するが……ブライダル系のはあらかじめ省かせてもらうがな!

 それでもGⅠ開催期間なら割と自重してくれている依頼も年末年始ならいいだろ! 休暇中だろ! とばかりに押し寄せてきやがったのである。あのルドルフ会長ですら「すまないが支障のない範囲で出てくれると助かる」と頼んでくる始末。

 

 

 

 まあトレーニングは一般人で週に2~3回、アスリートでも週に5回程度でいいとされている。よって2日は休みがある。

 

 スズカとは主に月曜:芝 火曜:プール 水曜:休み 木曜:ダート 金曜:プール 土曜:休み 日曜:坂路/半休 というようなスケジュールにしている。他に筋トレとか、ストレッチとか、ラジオ波(要は電気で筋肉を温める)とかを織り交ぜるわけなのだが。

 

 

 休みの前日がプールで死ぬほど身体を酷使することになっているので、流石のスズカでもあんまり激しい運動はできない。というかさせない。

 

 筋肉痛でベッドの上でビクビクしているスぺちゃんの映像を心配そうなスズカが送ってきたときには笑ってしまったが。

 

 

 

『トレーナーさん…! スぺちゃんが変なんです……!』

『………ぅぎぎぎ……うごけません……っ』

 

 

「筋肉痛だよ」

 

 

 

 最近ではすっかり「ちょっと痛いかも」みたいな感じになってるスズカも、最初は「うごけないからおぶって(又は抱っこ)!」と大騒ぎだったのだが、すっかり忘れているらしい。

 

 

 

 

「タキオンと開発中の“塗るロイヤルビター湿布”ならあるけど」

 

『なんだか名前からして嫌な予感しかしません…っ!?』

『お兄さん、スぺちゃんが可哀そうなので分けてもらっても…?』

 

 

 

 

 とりあえず身体にいいものを全部詰め込んだ結果、異臭を放つという年頃の少女にとっては致命的すぎる副作用があるのだが、筋肉痛には抜群に効く。これと普通のロイヤルビタージュースで身体の内と外から魔改造するのが主な目的になる。

 

 なお俺のアイデアで、使用者の好きな匂い(例:マンハッタンカフェはコーヒー)に調整して近づけることで使用者の不快感を抑える効果はできたのだが――――周囲にヤバい顔をされたカフェがキレ、タキオンは『お友達』に粛清された。

 

 

 スズカに使ってない理由は、一緒にいる俺が辛いからが一つ。

 あとそこまでスズカを消耗させてないからがもう一つ。

 

 

 というわけで、一応俺の手元にも使っていない『塗るロイヤルビター湿布(スズカ用)』はある。正直、スズカと同室のスぺちゃんに使うならこれしかないんじゃなかろうか。スズカに迷惑だろうし。まあ今のスズカは新学期までウチから送迎してるのであんまり気にしなくていいのだが。

 

 

 

 

「まあ、新学期じゃないからチームメンバーにドン引きされる程度だよ」

『ひええええ!?』

『でもスぺちゃんは今日も練習があるって……』

 

 

 

 だから休みの前日にしとけって言ったのに…。

 というわけでスズカ用のそれをスズカに速達してもらい。

 

 使用法が分からないということで、裸に剥かれたスぺちゃんが映らないように調整したスマホ通話状態で塗ることになった。何のプレイだこれ。

 

 

 

 

『あっ、なんだかお兄さんの匂い……?』

『お兄さんこんな激臭じゃないですよね!?』

 

「なんか深刻な風評被害を感じる…」

 

 

 

 よく考えたらそうなるよなぁ!?

 ターフかいちご大福の香りかな、とか考えていた俺が甘かった。

 

 しかし電話越しのスズカはうっきうきである。

 

 

 

 

『じゃあスぺちゃん、塗るわね!』

『なんでスズカさん楽しそうなんですか――――ふぎゃぁああ!?』

 

「あ、言い忘れてたけどめっちゃ沁みるから」

 

 

 

 

 

 ……でもその臭い、スぺちゃんが付けてたらヤバイのでは? 

 

 

 

 

『ひいいいっ!? 沁みる、沁みます! スズカさん、そこまで塗らなくていいですからぁ!?』

 

『お兄さんのー、においー』

「おーい、スズカー?」

 

 

 

 

『ひぎぃ!? なんだか感じたことないくらいスースーしますぅ!?』

『はい?』

「あのな、筋肉痛で痛いところだけ塗ればいいぞ」

 

 

 

 場所によっては悶絶するほど沁みると思うので。

 

 

 

 

『痛いところ……脚と、あとは、お尻……?』

『待って下さいスズカさん! そこはいいです、いいですからぁ!?』

 

「スズカ、粘膜には塗らないようにな。いや本当に」

 

 

 

 

『……ねんまく?』

「お尻の穴とかの、皮膚が薄い場所な」

 

 

 

『あっ』

「えっ」

 

『~~~~~~ッ!!???』

 

 

 

 

 

 

 結局、スぺちゃんは練習を休んだ。

 次の日、「なんだか釈然としないくらい体調がいいんです……体も軽いですし」と微妙な顔で語ってくれたが。

 

 

 でもなんか普段よりスキンシップが濃密なスズカに構ってもらえたので割と満更でもないような様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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睦月の再起 / 弥生賞

 

 

 

 

 

 

――――ドバイシーマクラシック。

 

 

 芝2410m、本来はまだ国際GⅡにすらなっていないレースであるが―――この世界においては、既に国際GⅠ競走かつ芝のレースとしては世界最高額の賞金となっている。

 故に、本来であれば出走していない昨年のBCターフの覇者、チーフベルハートも出走を表明。

 

 

 

 日本の無敗五冠ウマ娘サイレンススズカ、米国の芝の覇者にしてカナダ二冠ウマ娘のチーフベルハート、実質芝の世界最強決定戦と盛り上がりを見せる世間には関わらず、スズカは落ち着いていた。

 いつもの通りに走って、流して、休む。タイムも落ち着いているし、捻挫も軽傷だったお陰でフォームへの影響もない。いい具合に調整できていた。

 

 

 

「え。タイキもですか?」

「おハナさんから連絡があってな。ドバイターフも獲ってこいって」

 

 

 

 最早国内に敵なしの最強マイラー、タイキシャトルと最強ステイヤー(?)のサイレンススズカ。二人で蹂躙してこいとのお達し…というのは半分冗談である。タイキがやる気があること、あと帯同者がいれば少しは負担も減るだろうという事情もあった。

 そして普通に勝ちそうなタイキシャトルである。こわい。

 

 

 

 

「そうですか」

 

 

 

 

 

 一応、チーフベルハートについても調べてある。脚質は差し、BCターフでは4コーナーで早めに先団につけるとそのまま粘る前を差し切って勝利していた。

 タイムはなんと前年のピルサドスキーの2分30秒2を6秒以上縮めた2分23秒92。現時点でのBCターフのレコード保持者である。

 

 

 ちなみにスズカはレース場こそ違えどもジャパンカップで2分20秒6と頭サイレンススズカな記録を打ち立てており、ちょっと意味不明である。

 

 後方脚質である以上は逃げウマ娘によってペースは左右されるわけで、一概にスズカが上とは言えないわけなのだが。それでも1秒違えば5~6バ身ほどの差になると思われるので、大差ということにはなる。

 

 

 

 

「お兄さん。実質的な芝の世界最強決定戦、だそうですね」

「ん、ああ」

 

 

 

 

 意外だ。全く気にしているようには見えなかったのだが――――と、ご機嫌に耳と尻尾を動かすスズカは言った。

 

 

 

「つまり、ご褒美も最強(唇にキス)―――ですね」

「無いよ」

 

 

 

「うそでしょ…」

「だってお前、まだ凱旋門賞とBCがあるからな」

 

 

 

 

 ドバイでキスしてたら、その次は……なんだろ。ディープキスとうまぴょい? いやそれこっちのご褒美だし、何か考えないといけないが。

 

 

 

 

「むぅ……じゃあ、えっと………何ならしてくれますか?」

「えー」

 

 

 

 別にお子様じゃないのでチューくらいなら別にいいのだが、それ以上になると流石に不味い。けど間違いなくエスカレートするだろうし…。むぐぐ。

 

 

 

 

「……じゃあ、怪我無く勝ったらチューな」

「―――――いいんですかっ!?」

 

 

 

 

 ぱぁっ、と顔を輝かせて喜ぶスズカになんとなく気恥ずかしくなる。そんなに喜ばれるとなんというか、調子が狂う…。むしろこっちが大喜びしそうなご褒美なのだが、手は出せないので拷問としてはパワーアップしている。

 

 

 

 

「とにかく、理事長の厚意でドバイ風の芝も用意してくれてる。しっかり練習して慣れて、レースに備えるぞ」

「……………」

 

 

 

 なぜだろう。返事が無い。

 

 

 

「……スズカ―?」

「――――お兄さん、チューって好きな人にしかしませんよね…?」

 

 

 

 

 それは何か、「私のこと好きですか?」と聞いておられる?

 かつてなく真剣な顔だった。

 碧く澄んだ瞳に映った自分の顔が、この子にはどう見えているのだろう――――そんな埒も無いことを考えて、嘆息した。

 

 

 

 

「どうだろうなー」

「……お兄さんがおっぱい大きい方が好きなのは知ってますけど。でも、私だって無いわけじゃ……」

 

 

 

 いや、手で強調されても普通に困るから…。

 まあ好きだけども。それはそれとして、スズカのおっぱいも好きかと言われたら―――。

 

 

 

 そんなの言えるわけがないだろう。

 もちろんぶっちぎりでウチの担当が一番可愛いのだが! だが!

 

 

 

 

「ちゃんと言ってやるから、絶対無事に勝ってこい」

「……約束、ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「そうだ、スぺ! そのまま一気にいけ!」

「―――根性ぉぉぉっ!」

 

 

 

 弥生賞、そしてその先の皐月賞を想定し、坂路を中心にメニューをこなすスペシャルウィークだが、ここで一つ問題があった――――。

 

 

 

「流石の気迫ですわね」

「そだなー。ま、皐月賞は内を抉ればなんとかなるんじゃねー?」

 

 

「そんな適当なことを言うのは貴女くらいですわよ……」

「言うだけじゃなくて、やって見せるぜゴルシちゃん!」

 

 

 

「これは負けていられないわね……」

「俺たちも早くデビューしてーよなー」

 

 

 

 

――――そう、本格化しているウマ娘がスペシャルウィークしかいないのである。軽いランニングくらいなら良いが、実践的な併走となると少し無理がある。

 

 本当なら、アイツ(スズカトレーナー)とも話した通り、キングヘイローやセイウンスカイを中心に対策を立てておきたい。特に強い逃げウマ娘との対戦経験は是が非でも欲しいものだが―――。

 

 

 

 

 頭に浮かぶのは、スぺのルームメイトでもあるサイレンススズカ。

 が、アレを逃げウマ娘と呼ぶのはかなり問題があるし、ドバイに向けて練習している別チームの、国内最強と言っていいウマ娘に頼むのは流石に―――おハナさん、というかリギルも他に逃げが得意なウマ娘は特にいないしな…いや、マルゼンスキーもいるが、サイレンススズカと同じで技巧系の逃げではない。

 

 

 

「というわけでお前ら、本格化してる逃げウマ娘の知り合いとかいるか?」

 

 

 

 顔を見合わせるスピカメンバーたちは、徐に口を開いた。

 

 

 

「「「「スズカ(さん)(先輩)…?」」」」

「それがちょっと無茶だから悩んでるんだが……」

 

 

 

 

 一体どこに弥生賞のために無敗の五冠ウマ娘を引っ張ってくるヤツがいるというのか。せめて凱旋門賞とかのためなら分からないでもないが。

 

 

 

 

「うっし、ゴルシちゃんに任せときな!」

「とりあえずその頭陀袋はしまってくれ。頼むから」

 

 

 

「ちぇー、仕方ねぇな」

 

 

 

 

 万が一怪我でもしたらバッシングどころの騒ぎじゃないからな。

 ゴルシも本気じゃないのか応じてくれたところで、扉があいた。

 

 

 

 

「……あの、呼びましたか?」

「お邪魔しまーす」

 

 

 

 噂をすればなんとやら。

 ジャージ姿のサイレンススズカと、そのトレーナーが何やら重そうなものを持ってきていた。

 

 

 

 

「おっ、なんだよオメーら。ちょうどいいタイミングで手助けに来るとはやるじゃねぇか」

「別に手助けに来たわけじゃ……無くも無いけど」

 

 

 

 

 わざわざウォーターサーバー?を手に持つトレーナー(スズカが持ちたそうにしている)がそれを机の上に置き、中から怪しげな緑の液体を紙コップに出す。

 

 

 

「というわけで、試供品の『バイタル20』です。濃度20%ロイヤルビタージュース配合、そんなに臭くないしそんなに不味くない、栄養ドリンク風の仕上がりなのでぜひ」

「ぜひ」

 

 

 

 

 ニコニコ顔で勧めてくる二人だが、ロイヤルビタージュースと聞いた瞬間にほぼ全員そっぽを向く勢いである。

 

 

 

「うわあ」

「うっ」

「あっ、急に用事を思い出しましたわ~」

「おっと、ゴルシちゃんカツオ釣り漁船に乗る予定が」

 

 

 

 

 

「はい、スぺちゃん」

「ス、スズカさん………これ、苦いですか…?」

 

 

 

 

 憧れの先輩に笑顔で差し出され、拒否もできずに受け取ってしまったスぺに哀れみの籠った視線が集まる。

 が、スズカは笑顔のまま自分の分をコップに入れると、そのまま呷った。

 

 

 

「青汁みたいな感じかしら…?」

「……わかりました。飲みます!」

 

 

「「「おお」」」

 

 

 ぐいっ、と勢いよくいったスぺに思わず感嘆の声が出る面々。

 スぺは難しい顔で少し悩んだ後、静かにコップを置いた。

 

 

 

「確かに……あんまり苦くないですし、あんまり不味くないですね……。あ、なんとなく元気が出るようなそうでもないような……」

 

「やっぱり効果も2割くらいなのがな…」

「これ以上だと、ちょっと辛いですからね」

 

 

 

 

 なんでこの二人はそんな実験じみたことまでしているのだろうか。

 と、そんな疑問が顔に出ていたのか後輩は自分でも一杯飲みながら言った。

 

 

 

「まあ、怪我予防のためにアグネスタキオンと協力してまして…。医食同源、スズカの骨を食べるものから丈夫にする作戦です」

 

 

 

 どうやら走るためだったらしい。

 納得というか、なんというか……。こいつ、スズカのためなら割となんでもやるな。そのうちタキオンに変なもん飲まされて七色に光り出しそうである。

 

 

 

 

「ちなみに骨に重要なのはカルシウムとビタミンD,Kだからドンキー〇ングは骨が丈夫って覚えるといいぞ」

 

「な、なるほどー」

「お兄さん、栄養学の授業はやらないですよ…?」

 

 

 

 

 

 

 いや、そういうことなら――――。

 

 

 

「なら、協力する代わりにちょっと併走に付き合ってほしいんだが」

 

「「はああっ!?」」

「俺たちを売る気かよ!?」

「酷いわよ、トレーナー!?」

 

 

 

 案の定、非難囂々という感じだったが。

 

 

 

「お前らな、スぺのために一肌脱ぐくらいの心意気はないのか?」

 

「うっ」

「そうは言われても……」

「仕方ねぇな、ゴルシちゃんに任せな」

「……わ、私だって負けませんわよ!」

 

 

 

 

 と、なんやかんや仲間想いのスピカメンバーの協力もあり――――。

 普通にスズカが乗り気だったので、併走することになった。

 

 

 

 

 

 

――――の、だが。

 先頭を取って、超スローペースに持ち込んだスズカに合わせてしまい。

 

 

 

「――――こ、根性ぉぉぉ~~?」

「スぺちゃん、それだと追いつけないわよ」

 

 

 

 

 イマイチ不完全燃焼、という顔で戻ってきたスぺに、まさかの普通の逃げを打ったスズカ。啞然としていると、後輩はちょっと微妙な顔で言った。

 

 

 

 

「まあその、俺に合わせて走るために手加減してくれるようになりまして……絶っ対に追い抜かせてはくれないんですが」

 

「お前それ普通の逃げもできるだろ……」

 

 

 

「スズカが楽しくないのでダメです」

「あ、そう……」

 

 

 

 曰く「お兄さんに追いかけてもらうのは楽しいです」とのこと。

 その後、ペース配分で遊ぶスズカに時間いっぱい翻弄され、ついでにバイタル20もたっぷり摂取させられたスぺなのであった。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

『―――さあ、今年も始まります! GⅡ弥生賞! 皐月賞に向けて、今年も期待のウマ娘たちが集います! 注目は何といってもスペシャルウィークでしょうか!』

『そうですね、あのサイレンススズカも注目している期待のホープです。前走のきさらぎ賞では見事な勝利を飾っています』

 

 

 

 

 春の中山レース場――――昨年はスズカが寝ぼけてゲート潜りをした、割と因縁のあるレースでもある。

 そんなレースに出場するスペシャルウィークを応援しに、俺とスズカは控室を訪れていた。

 

 

 

 

「う、うう……緊張しますー!?」

「スぺ、お前な……重賞ならこの前勝っただろ?」

 

 

 

 これには沖野さんも呆れ顔である。

 なんできさらぎ賞で結構な勝ち方をしているのにこんな緊張してるのか。

 

 

 

「だ、だって今回はセイちゃんとキングちゃんもいますし…! スズカさんも勝ったレースですから、絶対勝ちたいんです!」

 

「スぺちゃん、私はその……あんまり自慢できる感じじゃないというか……」

 

 

 

 まあゲート潜るウマ娘なんて普通いないからな…。

 馬ならまあいないこともないみたいだが。

 

 

 

「スぺ、真似してゲート潜るなよ…?」

「流石に潜りませんよ!? ……あっ」

 

 

 

 微妙な顔になったスズカは、先輩モードを投げ捨ててぐりぐりと頭を擦り付けて甘えてくる。つい可愛さのあまり頭を撫でてしまうのだが、急に止めるとスズカが拗ねるのでこれは仕方ないのである。仕方ない……。

 

 

 

 

「はー、それくらい懐かれるとトモの確認とかも楽そうだよなー」

「まあ触りますが…。先輩は許可取らずに触るのが問題なのでは?」

 

 

 

 

 張りの確認とか、熱感を見たりとか、触診は基本ではある。あんないやらしい触り方はしないが。

 

 いきなり背後から触ったら多分俺でも蹴られる……蹴られるよね?

 視界に入っていれば蹴られはしないと思うが、それはそれとしてセクハラである。話してから触る分にはトレーナーとしての処置だが。

 

 

 

 

「お兄さんなら触ってもいいですよ?」

 

 

 と、尻尾をふりふりと誘うように振るスズカだが、お前がそれをやるとちょっと色気があるので本当にやめて欲しい。

 

 

 

 

「よし、スズカがよろしくない行動を取るたびにポイントを溜めて、5ポイントになったら俺は夜のお店に行くからな」

「ウソでしょ……」

 

 

 

 

 だってお前、最近本当に調子に乗りすぎだからな…!

 俺だって辛いんだよ、マジで!

 

 

 

「ちなみに夜のお店って…?」

「めっちゃ女の子とベタベタする店だな」

 

 

 

 と、店に行ったことありそう(偏見)な沖野さんの割とマイルドにしてくれたコメントである。

 

 

 

 

「……? お兄さん、私がいくらでもベタベタしてあげますよ…?」

「はい1ポイントォ!」

 

「ウソでしょ……」

 

 

 

 確かに普段から割と過激なことしてるけども。

 

 

 

「ふふふ……スズカさんもお兄さんも、いつも通りですね」

 

「そうかぁ…?」

「そうかしら…?」

 

 

 

 

 

 と、スぺちゃんは笑ってくれるが。

 スズカはちょっとアバラがミシミシいってるのでちょっと手加減してほしい。

 

 

 

 

「頑張ってきてね、スぺちゃん」

「―――はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ四コーナーを回ってセイウンスカイ先頭、差が3バ身、4バ身と開いた! 内からキングヘイロー、外からはスペシャルウィークが追う!』

 

 

「このまま――――貰った!」

「くっ、追いつけない!?」

 

 

 

 

 

 最終コーナーを回って、セイウンスカイはスローペースで溜めていた脚で一気にキングヘイローを突き放し―――――瞬間、猛烈な勢いで背後に迫る足音を聞いた。

 

 

 

 

「――――根性ォォォッ!」

「っ!?」

 

 

 

 

 

(そんな、十分ペースは落とした。これでここまで詰め寄ってくるなんて)

 

 

 

 

 作戦は十分に機能していた。

 実のところ、スローペース対策で早めの仕掛けを練習した成果もあるのだが―――それを正面から打ち破ってくるスペシャルウィークの末脚は脅威としか言いようがない。セイウンスカイが自分に足りていないと思っている才能―――実のところ、クラシック二冠を取れるレベルを才能が無いと言ったら世のウマ娘たちが憤死しかねないが―――を、輝かしいばかりに持っているように思える。

 

 

 

『セイウンスカイ先頭! 一気にスペシャルウィーク! スペシャルウィーク来た! 差がまだ3バ身!』

 

 

 

(でも、そう簡単には――――負けないよ!)

(勝つんだ! 勝って、私もスズカさんと同じように――――日本一のウマ娘に!)

 

 

 

 

 

 

『2バ身、1バ身、半バ身、一気に交わした! スペシャルウィーク差し切ってゴール!』

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――嫌になるなぁ、ホント)

 

 

 

 

 少しの落ち込みと、溢れんばかりの悔しさ。

 それを胸に、セイウンスカイは空を見上げた。

 

 

 

 

 

(………皐月賞は、勝たせてもらうからね。スぺちゃん)

 

 

 

 

 

 

 予想よりも、ずっと強いライバル。

 けれど、二度負けるようじゃ、頭脳派の名が廃る。

 

 

 

 

 

 

 






チーフベアハートについて調べてたら全然分からなかったので止まってました…。
BCターフの勝ち方くらいしか参考にならないですねこれは。






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ドバイシーマクラシック

 

 

 

 

 

 

「――――スズカ、荷物は大丈夫か? 一応、水と食料はあらかじめ向こうに送ってあるけど、足りないものを手配するのも大変だからな」

 

 

 

 というわけでドバイシーマクラシックに向けて出発する日。一応、期間は1週間を予定している。

 改めて向こうの気候と芝に慣れておきたいし、本当はもっと長くてもいいのだが。

 

 

 

「はい。シューズと、替えのジャージ、体操服、下着、タオル、枕とお布団も」

「置いていきなさい」

 

 

 なんか妙に荷物が多いと思ったら、なんで布団まで担いでるんだよ!?

 よよよ~とでも言いそうなショックを受けた顔で布団を抱きしめるスズカ。

 

 

 

「そんな……お布団が無いと眠れないのに」

「せめて枕だけで我慢しろ」

 

 

 

 大体、向こうは暑いのに分厚い布団を持っていってどうするのか。

 

 

 

「じゃあ、代わりにお兄さんが一緒に寝てください」

「ベッドは別な」

 

 

 

「………なんでですか!?」

「ポイント貯めるぞ」

 

 

 

 1週間も一緒に居たら俺の限界を超えるからだよ。

 家というか日本ならまだこう、発散する方法もあるけどさ。

 

 

 

「嫌です。お兄さんの匂いを嗅がないと眠れません」

「……お前さあ」

 

 

 

 事実なのが性質悪いのである。

 枕で我慢しろ、というところなのだが。レースに妙な体調で臨まれて怪我でもされては困るのもまた事実。

 

 

 

「寝る前にほっぺにチュー」

「…………おでこにも下さい。あと、眠るまでは一緒にいて下さい」

 

 

 

 それお前意味あるか…?

 まあスズカが寝た後になんとかすればいいのだが。簡単に折れるのもよろしくない。

 

 

 

「せっかくだから、普通に寝室別に――――「嫌です」」

 

 

 

「タイキと――――「お兄さん、私のこと嫌いなんですか…?」―――嫌いだったらそもそもこんな一緒にいないけど」

 

 

 

 

 好きだから距離を取りたいんだよなぁ…。

 耳を萎れさせたスズカだが、しばらく黙り込んだ後言った。

 

 

 

 

「……お兄さん、ご褒美のチューの後に大事なお話があります」

「え」

 

 

 

「大事な、お話が、あります」

「……いや、あの、スズカさん…?」

 

 

 

 もしかしなくても怒ってらっしゃる?

 ちょっと待ってほしい。万が一……という雰囲気でもないのだが、告白なんてされたらどうすればいいんだ。

 

 動揺する俺に対して、顔が真っ赤になっているもののスズカの顔は真剣そのもので。

 これはチューの前に告白してくれないなら私がするということ……なんだよな。

 

 

 

 

 

「とにかく……絶対、無事にレースを終えるのに集中すること」

「はい」

 

 

 

 

 

 苦し紛れに絞り出した言葉に、スズカは拗ねたような顔のまま頷き。

 そのまま無言で没収したスズカの布団を部屋に戻し、荷造りは完了した。

 

 

 

 

 

 

(や、やばい。どうすれば――――俺から告白する? い、いやいや。でも告白されたとしてなんて返せば……『教師と生徒だから』? それならむしろこっちから気持ちだけ伝えて、付き合うとかその辺は有耶無耶にするとか)

 

 

 

 それがいいか? でももし「じゃあ付き合って下さい」とか言われたらなんて返せば? 卒業したら? 

 

 

 

「ほら、忘れ物してるわよ。ワキちゃんもいるんだから、貴方がしっかりリードしてあげなさい」

「あ、ああ、ありがと」

 

 

 

 と、見送りに来てくれた母親に渡された紙に目を落とす。

 『婚約の手順』とプリントされたそれを、思わず握りつぶした。

 

 

 

「婚約は特に書類とかはいらないけど、ちゃんと指輪は用意するのよ!」

「アンタかああああっ!?」

 

 

 

 何で人を絶体絶命の状況に追い込んでおいてその笑顔!?

 殴りたい! 母親じゃなかったら殴ってたかもしれない!

 

 

 

「だってワキちゃん悩んでたわよ? お兄さんチューしてくれないし、一緒に寝たり抱き着くと最近なんだか辛そうだって」

「……うっ」

 

 

 

 スズカも最近ちょっと背も伸びて、いろいろ成長しているし。そりゃあ俺も男なので当然そうなるが…。だからって婚約なんて―――。

 

 

 

「ちなみに、向こうさんのうまぴょい許可も得たわ」

「………えぇー」

 

 

 

「後はワキちゃんの気持ちだけ―――さあ、男になるのよ!」

「ねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

(……ど、どうしましょう)

 

 

 

 お兄さんが最近辛そうなこと、この前少し言っていた話などを総合すると、お兄さんにとっては私とべったりくっついているのが負担になっていて――――。

 でも絶対に離れたくなかったし、お兄さんが他の女の人とベタベタするなんて絶対にイヤで。悩んでいた私に、お義母さんは「じゃあウチの息子貰って?」と言ってくれたのだけれど。

 

 

 

 

(怒ってない、ですよね……?)

 

 

 

 飛行機の中まで、必要な会話以外ほとんど無言。

 表情から探りたくても、顔を見ると恥ずかしくて耐えられそうにもない。

 

 こ、告白……考えておかないと。

 

 

 

 

 お兄さんは優しいけれど、結局のところ意地悪でもあるので『気持ちだけ伝えて付き合うとかは有耶無耶にしよう』とか考えているはずである。

 勘違いできないくらいに、私がお兄さんを大好きなことを伝え――――。

 

 

 

 

 

(……断られたら、どうしよう)

 

 

 

 

 「まだダメ」とかなら、仕方ないとも思う。でもそれは結局、お兄さんがずっと我慢するか、あるいは私が距離を置くことになるわけで。

 

 

 

 

(それは、嫌)

 

 

 

 でもお兄さんを困らせ続けるのも嫌。

 だからお兄さんのお嫁さんになって、ずっと一緒にいるしお兄さんのしたいコトもする――――それが一番幸せなように思えるけれど、お兄さんに言わせると”お子様“じゃダメで。

 

 

 

 でも私だっていつまでもお子様じゃないんですよ…?

 と、お兄さんの横顔を見ようとしてばっちり目が合った。

 

 

 

「―――っ!?」

 

 

 

 すぐに顔を背けたけれど、お兄さんに見られていたと思うと顔が熱い。変な表情をしていなかっただろうか。というか、なんでお兄さんはこっちを見ていたんだろう。……少しは、意識してくれているのかな。

 

 そんな浮ついた気持ちも、いつの間にか長いフライトのうちに眠くなって―――。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 目が覚めると、お兄さんの上に乗っかって全身で抱き着いていた。

 

 

 

「………!?!?」

 

 

 思わず変な声が出そうになったので、お兄さんに顔を埋めて押し殺す。

 座席の意味とは、と考えたくなる状況。絶対に重たいと思うのだけれど、幸いにもお兄さんも苦しそうな様子はなく。ちょっぴり口を開けてすやすや寝ている。

 

 とりあえず慎重に離れようとしたところ、お兄さんの腕ががっちり腰を捕まえているので離れられない。じゃあ離れなくていいですね、と即座に納得。

 

 

 

 

 

 

 

 飛行機にお風呂はないので、なんとなくお兄さんの匂いも濃い。

 寝ているのをいいことに、胸いっぱいに空気を吸い込むと、男の人だなーという感じの臭いもある。ちょっとくさい。

 

 

 

 お兄さん、くさいですよ。

 たぶん、上からのしかかられて暑いからだろうけれどそれは棚上げして。ちょっぴりくさいお兄さんをこうして堪能できるのは私だけ……。

 

 

 

(………あれ。うそでしょ……もしかして、私もちょっとくさい…!?)

 

 

 

 鞄の中に確か制汗剤が―――と、身動ぎしたところでお兄さんの手が尻尾を鷲掴みにした。

 

 

 

「ひぅっ」

 

 

 

 根本は骨があるので、そこそこ敏感だし引っ張られると小指を引かれるような感じで抵抗も難しい。

 

 

 

「………んぁ………ワキちゃん……」

「お兄さん、その、少し優しく………」

 

 

 

 でもこうしていると、何処にも行かないでほしいと言われているみたいで正直嬉しい。

 お兄さんになら、いいかな……そんなことを考えている間に、再び眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ドバイターフをタイキシャトルが普通に快勝し、続いてはドバイシーマクラシック。

 押しかけた日本のファンの他、いかにもな大富豪や世界各国のレースファンが詰めかけたメイダンレース場で、スズカは死にそうな顔をしていた。

 

 いや、レース前にシャレにならない表現ではあるのだが…。

 顔真っ青だし、目は絶対に合わせないし、部屋の隅っこでぐるぐる回っているのでそうとしか言いようがない。

 

 

 

 というか、その新しい勝負服――――白と緑、アクセントで金を使ったドレスはいつもの勝負服と雰囲気こそ似ているのだが、それウエディングドレスでは…?

 一応、上から羽織るケープもあるのだが、付けていない場合はどう見てもウエディングドレスである。

 

 右耳には三冠を示す三つの星に、左耳には寄り添い合う二連星。

 ささやかな胸元はケープがないために少しばかり露出しておりかなり目線に困る。そこに元の勝負服と同じように星の意匠。五冠だからか左胸に追加の星を二つ付け、ウエディングドレスだからか白いタイツ。

 

 そんな表情だとせっかくの新衣装が泣いてるぞ。それでも綺麗だけど。

 

 

 

 ……一応、昨日は添い寝までしてやったのに。

 寝ぼけたスズカがキス魔(ほっぺ)と化して大変だったのに、結局のところ告白するかしないかの一大事の前ではあんまり効果がなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

「スズカ」

「……はい」

 

 

 

 自分で隅っこにいるので、逃げ場がないことはあんまり想定していなかったのだろうか。気性難のウマ娘にやったら蹴り飛ばされそうだが、逃げられないようにゆっくり近づき。そのまま抱きしめた。

 

 

 

 

「………無事に帰ってきたら、大事な話があるから。怪我無く、楽しんでこい」

 

 

 

 不安げにこちらを見上げるスズカを見てしまうと、どうしても甘やかしたくて。同時に、滅茶苦茶にしてやりたいとも思ってしまうわけなのだが……。

 聞こえるか聞こえないかくらいの小声でそっと、スズカの不安を取り除けそうな言葉を呟いた。

 

 

「好きだよ、スズカ」

 

 

「………っ!? お、お兄さん………わ、私も――――」

「ほら行け、サイレンススズカ! 俺たちの夢の走りが、どこまで通じるのか――――夢の続きを見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『――――さあ、タイキシャトルが初の海外GⅠを制覇し後に続くのはやはりこのウマ娘か! 無敗の五冠ウマ娘、芝2400の世界レコード保持者でもありますサイレンススズカ! あるいは米国の芝最強の称号を得たチーフベルハートが貫録を見せるのか!?』

 

『特に菊花賞、長距離の走りが圧倒的だったサイレンススズカですが、ジャパンカップの走りを見ても2410の距離も苦手ではないでしょう。良い走りに期待したいですね』

 

 

 

 

 

 ゲート前にウマ娘が集まってくる。

 英語など、いろいろな言語で声を掛けられるが分からない言葉も多い。一応英語は少し分かるので、軽く挨拶だけ交わしていく。

 

 

 

『貴女が日本の三冠ウマ娘ね。……今日は勝たせてもらうわよ』

『いい勝負にしましょう』

 

 

 

 チーフベルハート。

 鹿毛のウマ娘はやはり気配が違う。そんなことを頭の落ち着いた部分で考え―――そうでない部分は。

 

 

 

 

(お兄さんが告白。お兄さんとチュー。お兄さんのお嫁さん―――!)

 

 

 

 

 告白したらチュー、チューしたらお嫁さん、と若干どころではない飛躍も入っている興奮で、控えめに言っても掛かり気味だった。

 

 

 

 

『サイレンススズカ、先ほどまではあまり調子が良くなさそうでしたが…』

『今度は少し興奮しているみたいですね。あまり見ない姿なので少し心配です』

 

 

 

 

 

『国際GⅠレース、ドバイシーマクラシック日本とアメリカ、世界最強の芝王者の座をかけた決戦がいよいよ始まります』

 

 

 

 

『各ウマ娘ゲートに入って体勢整いました――――スタートです!』

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 ゲートが開く瞬間――――それをあらかじめ察知していたかのように、サイレンススズカが飛び出す。流石に大逃げも有名になったこともあり、そして海外ではラビット……ペースメーカーとして、ハナを奪うためだけに出走するウマ娘もいる。

 

 彼女たちがいる以上、大逃げも容易くないというのが一部の識者の判断だったのだが―――。

 

 

 

 

 

(私たちだけの、景色――――)

 

 

 

 

 誰もいない、誰の足跡もない雪景色。

 ただ星空だけが広がるその場所で、遥か遠くに輝く星―――ずっと見守ってくれている光。その傍へ、隣へ向かうために、心に闘志を燃やす。

 

 誰よりも速く走れるように(サイレンススズカのように)なるかもしれない才能、といつかのお兄さんは言った。

 

 二人で求めた誰も追いつけない走りに、二人で創り上げた誰よりも速い肉体に、誰よりも強い闘志を宿す。

 レースで勝ちたい気持ち、最高の走りをお兄さんに見せたい気持ち、そこにお兄さんに貰った言葉とチュー(イメージ)を投げ込んで爆発させる。

 

 

 

 

 

(誰よりも先に、誰よりも速く、誰よりも―――――大好き)

 

 

 

 

 

 脚が軽い。風を切る感覚も心地良い。灼熱するように燃える闘志と反比例するように、どこまでも冷静な思考が身体を動かす。どう蹴れば一番良いか、反射的に判断しつつも、後方は一切顧みない。その必要もない。だって、私が一番速いのだから。

 

 

 

 

『行った! やはり行ったサイレンススズカ! ポンと飛び出したサイレンススズカの後方、競りかけようとしたサラカムルですが僅かにペースを落とします!』

『ペースメーカーが追い付けない速度は流石としか言えませんね』

 

 

 

 

『さあサイレンススズカが先頭4バ身、5バ身とリードを開いていきます。続いてサラカムル、更に3バ身くらい離れて後続集団がひと固まりになっています。これはサイレンススズカに釣られてハイペースになりそうです!』

 

 

 

 

 

 後方からの足音も遠ざかり、更に気分も良くなったところで適当に速度を緩める。それでも普通の逃げよりは圧倒的にハイペースだとお兄さんは言うけれど。誰よりも前を走るのであまり関係のない話でもある。

 

 

 

 

 

『大きく差が開いて、既に7バ身くらいか!? 1000メートルのタイム56秒! 56秒3です! サイレンススズカ悠々の一人旅! 注目のチーフベルハートはまだ後方4番手くらいでしょうか! さあサイレンススズカが先頭で向こう正面を進み、早くも第三コーナーに向かいます!』

 

 

 

 

 コーナーに差し掛かり、誰かに導かれるように息を入れる。

 残りは多分800mくらい。苦しい呼吸も、最初よりは重い気がする脚も、ゴールで待っているお兄さんのことを考えると自然と軽く感じられる。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ独走! しかし後方から早めに仕掛けるのはチーフベルハート! 一気に三番手くらいまで上がってきました! 凄い脚だ!』

 

 

 

 

 

(さあ、どう出るサイレンススズカ! 競りかけられなければお得意の領域も――――)

 

 

 

 

 

 ピクリ、と耳が動く。

 後方から少しばかり距離を縮めてきた無粋な足音に、スズカは冷静なままキレた。

 

 

 

 

 

 

―――――『先頭の景色は譲らない』

 

 

 

―――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 

(―――――誰にも譲らない…!)

 

 

 

 

 

 

 雪景色にあるのは、一人分だけの足跡。

 誰も届かない、誰も追いつかせない、孤独で、どこまでも自由なサイレンススズカの景色。でも、その下には大好きな芝があって。何処かに続く、見知らぬ道がある。

 

 何処にでも、何処までも行ける。そんな景色に輝く二連星。

 帰る場所―――あの人の隣で輝きたいという願望で、道標。

 

 

 

 

『サイレンススズカがスパート! 速い、速い! 最早独走状態!』

 

 

 

 

 後方のウマ娘たちの走りは、まるで雪道に入ったかのように鈍く見えるが―――実際のところは、前が速すぎるだけ。

 ゴールで、自分だけを見ているあの人に、誰よりも速くたどり着くための領域。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、400を切って先頭! 差が10バ身以上、大きく開いた! 強い、強すぎる! 完全に抜け出した! チーフベルハートも抜けたがこれは届きそうにありません! 後ろからは何も来ない! 圧勝です! 無敗の六冠目はなんと海外GⅠ制覇! これが日本の最強逃げウマ娘だ! 今、ゴールイン!』

 

 

 

 

『勝ちタイムは――――2分20秒5! 10m伸びたにも関わらず、ジャパンカップの記録を更に縮めてきました!』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「えーと、だな」

「はいっ」

 

 

 

 控え室。

 誰もいない、二人きりの空間。

 

 パドックよりうきうきでケープをぶん投げたスズカの白い素肌がなんとなく目にまぶしい。スルスルと近づいてきたスズカに、咳払いしてから言った。

 

 

 

「……最高の走りだったぞ、スズカ」

「はいっ」

 

 

 

 

「―――…走ることが大好きで、一生懸命で。寂しがり屋で。そんなお前のことが、好きなんだ。ずっと一緒にいたい―――――」

 

 

 

 

 そのまま、上を向いて力を抜いたスズカを抱きしめてそっと唇を触れ合わせる。

 目を閉じているので、スズカの表情は見えなくて。でも、痛いくらいに抱きしめてくるその腕が、その気持ちを伝えてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だから、走り終えたその時に。結婚してくれ、スズカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Silent Stars
レース序盤にスキルを多く(4つ)発動するとさらに少し加速する。その後、冷静にレースを運べた場合は競りかけられるまでの時間が長いほど息を入れ、力強く踏み込む。または、終盤で加速する。


毎日王冠(効果1)か金鯱賞(効果2)です。


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弥生の何でもない日常

 

 

 

 

 

 

『――――はい』

 

 

 

 

 

 ドバイシーマクラシックの後の告白。僅かに涙を浮かべつつも笑顔で頷いてくれたスズカ、けれどもトレーナーと生徒という関係は変わっておらず――――帰国した俺たちは普段と変わらない日常を過ごしていた。

 

 自分しかいないベッド。

 部屋に人の気配はなく、一緒に寝させてと駄々をこねるスズカもいない。

 

 なんとなく物足りなさを感じながら顔を洗い、歯を磨き、朝食を用意する。

 二人分取り出したパンをあらかた戻し(当然ながらスズカ用の方が量は多い)、無言でバターを塗りながらスマホを確認。

 

 

 

 テイオーから『皐月賞見に行くの? グラスとも予定合わせる? 二人で行きたいなら先に教えといてよね』とのメッセージが来ていたので、リギルメンバーで集まっていくと返信。

 

 一応、今回の皐月賞にはグラスは出ない。NHKマイルでグラス対エルコンドルパサーというリギル(〇外)最強決定戦のようなものが起きるのだが。それでもクラシック一冠目ということもあり、偵察はする。中山なので京都や阪神ほど遠くないし。

 

 よって史実通りスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローが中心にはなるだろう。ダービーが史実になるかアニメ基準になるかは分からないが。

 

 

 

 

 なんとなくスズカにメッセージを送ろうとして、今までほとんど送ったことがないことに気づく。なんといっても常に一緒にいたわけで。

 

 

 

 

「……いやでも、一応婚約者ってことになる……んだよな」

 

 

 

 指輪まだ渡してないけど。流石に告白もしてないのに生徒に渡す指輪とかどうなの、と思った結果だが、もしかして指輪がないから怒ってる…?

 音信不通、というわけではないけれど。何故か寄ってくる気配のないスズカにちょっと焦りが募る。そんな馬鹿な。まだちょっと半日くらい離れただけなのに。

 

 

 

 

「彼女でも、メッセージくらいは送るよな」

 

 

 

 スズカなら多分喜ぶ、はず……だけど。朝から上がり込んでこないスズカというのがそもそも異常事態なので、何が正しいのか分かりそうもない。

 

 悩みに悩んだ末、とりあえず直接話そうと決心。 

 朝飯を掻っ込んで、着替えて外へ。

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 ウマ娘の朝は早い。

 ウマソウルの影響なのかは分からないが、スズカの場合はだいたい日が昇る前にはランニングを始める。アプリOPだと寝坊寸前のスズカがいるが、少なくともワキちゃんは早起きである。

 

 

 

 

 のだが。

 いつもなら二人で早々に乗り込んで準備していたトレーナー室は電気も点いておらず。独りで電気ケトルなどの用意を整えてコーヒーを淹れた。

 

 

 

 

「……避けられてね?」

 

 

 

 

 こと此処に至り、流石に『嬉しくて寝不足になっちゃったんだろ』などと楽観的なことを考えられる性格はしていない。だがしかし、メッセージで理由は聞きにくいし、呼び出すのも………。

 

 

 

 仕方ないので仕事して待とう。

 というわけでパソコンを取り出して起動。スズカとグラスの走った距離から今日のメニューと負荷量を設定し、ついでに消費カロリーから取るべき栄養を専用のソフトにぶち込んで計算。いつもお願いしている食堂の管理栄養士さんに送信。

 

 後は今日使うスポーツドリンクを調合し、これまでの消費量と、スズカたちの主観的疲労度のデータをレポートにしてタキオンに送信。

 練習で使う設備の使用申請、備品の消耗から補充の申請、レースの登録、ライバルたちのレースデータの収集……と仕事をしている間に始業時間になった。

 

 

 

「……スズカ、来ないな」

 

 

 

 まさか休み…!? い、いやいやそんな。

 とぐるぐるトレーナー室を左旋回するが、スズカが来る気配はない。

 体調は大丈夫かメッセージ送って確認―――いや、授業中かもしれない。

 

 

 

 

 

 よろよろとソファに倒れこみ――――スズカの匂いがするな、と明後日の方向にカッ飛んだ思考を引き戻す。

 

 

 

 

 もう一度、スズカを怒らせるようなことが無かったか思い返す。が、せいぜい心当たりは指輪がないことくらい。スズカがそのくらいで怒るかというと、そんな気はしない。ということは、体調不良の可能性の方が高そうなのだが――――あのワキちゃんが、体調不良程度で会いに来ないし連絡もしないというのはおかしい。

 

 ので、何かしらで避けられているのではと思うのだが。

 

 

 

 

 

「………とりあえず、指輪買うか……」

 

 

 

 

 渡すかどうかはさておいて、買っておいた方がいいだろう。

 実のところ、スズカの誕生石でもありシンボルカラーでもあるエメラルドが使われているのにしようかなと考えていたりはする。

 

 もちろん、平日なので(休日でも働いているが)普通に仕事してからになるが。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで必死に仕事を終わらせて、昼休みになった瞬間に車に乗って都内の宝石店に向かい―――――。

 

 たまたま店長がレースのファンだったので顔バレしており、スズカへのプレゼントだと即バレ。話があれよあれよという間に大きくなって、店長の知り合いの老舗の店からかなり珍しいエメラルドを良心的すぎる価格で譲ってもらい――――帰ってきたころには昼休み終わりギリギリだった。

 

 

 

 

 

 ちょっと学生に渡すには高価すぎるような気もしないでもないのだが、世界最強(かもしれない)ウマ娘に渡すのがしょぼい宝石でいいのか、と言われると頷くしかなかった。

 レースの賞金額のうち、80%は本人。10%はトレーナー、5%はチーム、あとはその他という仕組みになっている。一応、リギルのサブトレだがスズカ専属でもあるので10%適用に(おハナさんが)してくれた。

 

 

 ので、スズカがレース賞金で稼いだお金は約12億、俺も1億5千万くらいは貰っている計算になる。当然、税金で差っ引かれるわけだが。額が高額になると半分くらい税金でもっていかれるので、手元に残ったのが8千万くらい。スズカは7億くらい。

 

 

 スズカはCM出演で軽く億は稼いでいるが、更にグッズ売り上げもある。

 あのオグリキャップはグッズで100億円稼いだとされるが、URAの収入は主にライブとグッズで賄われているので、そこの手取りは1割程度。

 

 グッズだけで無敗の六冠ウマ娘の稼ぎを上回るオグリキャップ…。

 とはいえスズカも大逃げという脚質もあり凄まじい勢いで稼いでいるので、海外戦績次第では追いつくかもしれないが。現状では数十億くらいだろう。

 なので、全部込みで手取りが10億くらいか?

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ圧勝! 世界レコードで海外勢を封殺し、無敗のままGⅠ6勝! 凱旋門賞なるか!?』

 

 

 新聞を見ても大々的に――――例の勝負服のスズカの写真が載っているし、ニュースでも持ち切り。タイキシャトルと合わせて“二強”として、今後の海外挑戦継続も予想されていたりする。

 

 

 

 

 

 つまり俺の軽く10倍くらい稼いでいるのに、まだ先がある。別にスズカを養いたいなんて言わないが、少なくとも気を使われないくらいの収入がほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、クラシック一冠のトレーナー手当が吹っ飛ぶくらいのお値段の指輪を用意してしまったわけなのだが。……やばい。スズカに避けられていることに動揺してヤバイものを買ってしまったかもしれない。

 

 普段は手につけられないので、首から下げてネックレスにできるようにもしてくれたが。普段無駄遣いしないので、これがどの程度の浪費なのかイマイチ分からん。

 

 

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 

 お金を使うとしても、スズカのトレーニング関係とか食費とかだし。家とか、車とか、そのへんの貯蓄はしないとだが……。

 今更ながらスズカがいないと特にお金を使う予定も、他の趣味もない。がっつりスズカに依存した生活になっていた。

 

 

 

 

 とにかくスズカを甘やかしたい。

 避けられてるけど。

 

 

 

 

 朝は一緒に食べるし、朝のランニングを見て、スズカの走りを支えるために働いて、一緒にお昼を食べて、一緒にトレーニングして、二人で買い出しに行って、交代で晩御飯を作って、場合によっては一緒に寝る。

 

 起きている時間のほとんどを一緒に過ごしていたせいで俺もスズカがいないと張り合いが無い。

 

 

 

 

 脳裏で悪魔が「もうアイツが離れられないようにしとけよ」と囁くが、せめてスズカの幸せのためなら身を引けるくらいの……こんなクソ重いプレゼント用意してそれはないな。まあスズカの賞金由来なので、嫌なら売り飛ばしてくれても構わないのだが。

 

 

 

 

 

 ……よし、覚悟を決めよう。

 こっちから攻めてみるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――あのー、スズカさん……?」

 

 

 

 スマホでお兄さんとのツーショット写真を見ながら、ぽけーっとしているのはつい昨日ドバイシーマクラシックでレコード大差勝ちし、世界芝最強ウマ娘の称号を手に入れたスズカさん。

 

 いつもより近く、ウエディングドレス姿でお兄さんに抱きしめられたスズカさんの顔は本当に幸せそうで。今の干からびた魚みたいになってしまったスズカさんは見るに堪えなかった。

 

 

 

 何を思ったのか、愛用の枕と布団を隅に押し込み。普段ならお兄さんに突撃している時間もこうして干物になっていたのである。

 

 

 

「……スぺちゃん。私、思ったの」

「な、何をですか?」

 

 

 

「お兄さんにくっつくと迷惑になるなら……お嫁さんになるまで我慢しないと、って」

「ああ……」

 

 

 

 スペシャルウィークも決して男女のアレに詳しくはないが、男の人は発散しないと辛いし欲も強いらしい。スズカさんはそういう経験無いらしいですけど。

 結婚を申し込まれて――――告白してもらって、ようやく安心したスズカさんは、これを機に自分も頑張りたいらしかった。

 

 

 

「……お兄さんも我慢してるんだもの。私だって……」

 

 

 

 とはいうものの、泣きながら幸せな時(昨日)の写真を見て鼻を啜るスズカさんは既に引き離されて限界が近いようにしか見えない。これで数時間しか経過してないのはスズカさんじゃないけれどウソでしょ……という感じだ。

 

 

 

 

「あの、スズカさん。なら電話とか……」

「電話……! ……あ。でもお兄さんもう寝てるかも……」

 

 

 

「じゃあもう私たちも寝ましょう! 朝起きたらお兄さんとのランニングがあるんですよね!?」

「うん、そうね……」

 

 

 

 

 

 やっぱり泣き止まないスズカさんに、枕を押し付けて布団を被せる。

 もうこの対処も慣れたもので、お兄さん断ちを掲げるスズカさんも即座に敗北して枕と布団を装備。と、ここで普段と違いスズカさんがひょっこり布団から顔を出した。上目遣いの、不安そうな表情で。

 

 こういう時、的確に心を抉る表情をするスズカさんはお兄さんに鍛えられているのか、あるいは天然なのか。そんな埒も無い思考が脳裏を過った。

 

 

 

 

「……スぺちゃん、寂しいから一緒に寝て…?」

「――――……ですね!」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

「―――――…ちゃん。――――スぺちゃん」

「うぅ~ん……スズカさん、ご結婚おめでとうございます……」

 

 

「スぺちゃん!? ……ま、まだ結婚はしていないから……」

「……ぇへへ、結婚式のご飯って美味しいですね~」

 

 

 

 夢の中では、スズカさんが幸せそうな顔でお兄さんに抱き着いていて。

 見たことも無いような光るご馳走を食べて、スズカさんに嗜められて。

 

 

 

 

「スぺちゃん、起きて。遅刻しちゃうから…」

 

 

 

『やっほー、お先に~!』

『スぺちゃん、遅刻ですよ~』

『エルが日本一デース!』

『ちょっと、早くしないと本当に遅れるわよ!?』

 

 

 

「みんな~、置いてかないでぇ……―――えっ、遅刻ぅ!?」

 

 

 

 

 目が覚めると、困った顔のスズカさん。

 私が抱き着いていたせいで起きるに起きられなかったらしい。ということは、お兄さんとの時間も思いっきり妨害してしまったわけで。

 

 

 

「ご、ごめんなさい~!?」

「ふふっ、いいのよ。……お兄さんと子どもができたら、こんな気持ちなのかなって」

 

 

 

 

 なんかとんでもないことを口走るスズカさんだけれど、二人で急いで着替えてパンを口に押し込み、スズカさんが栄養補助ドリンクなる謎の液体を真顔で飲み干し、歯磨きと専用の液体でのうがいをしたところでスタート。教室まで制限時間付きタイムアタック。

 

 

 

 

 なんとか授業に間に合った。

 ギリギリすぎる、とキングちゃんには怒られちゃったけど。

 

 

 

 

 

 そんなわけで授業は真面目に――――寝すぎてちょっと眠かったけれど―――受けて。お昼になったのでウキウキで食堂に向かった私が見たのは、謎の人だかりで。いや、人だかりというよりは、遠巻きにしている感じだったけれど。

 

 

 

 近づくと、マチカネフクキタルさんとメジロドーベルさんが机に突っ伏して泣いているスズカさんを必死に宥めているところだった。

 

 

 

 

 

「――――スズカさん!?」

 

「スぺちゃん……お兄さん、お兄さんいないの……。何処にも……車も無いの……」

 

 

 

 

 完全に泣き崩れる様子は、どう見ても恋人に逃げられた人という感じだが。

 ちらりとドーベルさんに目を向けると小さく首を横に振られた。

 

 

 

「つまり、お昼になって会えると思ってウキウキでトレーナー室に行ったら誰もいなくて――――なんとなく見捨てられた気持ちになった、と」

「……ひっく。ぅぇぇぇ……」

 

 

 

 現実を突きつけられた迷子の女の子のようにボロボロ泣き出すスズカさんに、寝坊した影響があるかもとかなり居たたまれない気分になる。というかスズカさん的には朝練寝坊してお兄さんを怒らせた印象なのでは。

 

 

 

「ああもう泣かないの! ただの急用でしょう!? メールでも電話でもいいから、早く連絡取るの!」

「……ぐすっ、でも、急用なのにメールなんて……」

 

 

 

「じゃあ電話!」

「でも、車の運転……」

 

 

 

 確かに運転中は電話に出られないですよね…。

 

 

 

「スズカさん、大丈夫です! シラオキ様によると運勢は大吉! 会えなかった分だけ良いことがあるとのことです!」

 

「………ホント?」

 

 

 

 

 希望と疑惑が半々くらいのスズカさんだが、ともかく泣き止んでくれた。

 ……スズカさんに子どもができたらきっと可愛いだろうけど――――お兄さんはものすごい大変だろうなぁ、なんて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(~ドバイ)

本日2話目の投稿(おまけ)です。


【無敗】サイレンススズカ達を応援するスレ【五冠】

 

1:名無しのファン

というわけで、JC、有マを制して無敗五冠になったサイレンススズカさん(とお兄さん)を応援するスレです。

(お兄さん)アンチは別スレへ。

 

2:名無しのファン

1乙

 

3:名無しのファン

実際どこまで進んでいるのかは謎の二人

 

 

4:名無しのファン

無敗の五冠、ミスターシービー越えかぁ…。

サニブも二着だし、世代が弱い説は早くも払拭されそうか。

 

 

5:名無しのファン

スズカさんいなかったら下手したら三冠取れそうなサニブさん…。

 

 

6:名無しのファン

とりあえずお正月で和服を着たスズカさん(スズカ母提供)

【画像】

 

 

7:名無しのファン

可愛い

 

 

8:名無しのファン

恥ずかしそうにお兄さんの影に隠れるのは卑怯では? 可愛い

 

 

9:名無しのファン

あ、待てい。サンタスズカさんを忘れているぞ

【画像】

 

 

10:名無しのファン

お兄さんで良く見えないけど、ミニスカでは?

 

 

11:名無しのファン

生足が……お兄さんも顔ちょっと引きつってて芝

 

 

12:名無しのファン

にしてももうドバイだもんな……これで負けたらちょっと立ち直れない

 

 

13:名無しのファン

あの無敵っぷりと、シンボリルドルフの時の事を思うとこれで負けたらもう海外に勝てないのかなって

 

 

14:名無しのファン

>>13ジャパンカップは圧勝だっただろ!

 

 

15:名無しのファン

ホームでも勝てるだけ良いか…。

 

 

16:名無しのファン

ウマ娘って繊細だから、海外は負担が大きいんだよな…。

精神的に図太くないと厳しい

 

 

17:名無しのファン

>>16めっちゃ繊細だけどお兄さんいれば何とかなりそうなスズカさん

 

 

18:名無しのファン

>>17お兄さんいなかったらゲート潜りそう

 

 

19:名無しのファン

>>17お兄さんいなかったら眠れなそう

 

 

20:名無しのファン

お兄さんいないと暴れるってマジ?

 

 

21:名無しのファン

>>20どっかのインタビューで寂しくて探し回ると物壊しちゃうことがあるとかなんとか。

 

 

22:名無しのファン

海外適性皆無(お兄さんいない場合)

というかそれ日常生活大丈夫?

 

 

23:名無しのファン

あんな可愛い子と一緒に寝るとかお兄さんの理性死にそう

 

 

24:名無しのファン

流石にもう行くところまでいってるのでは?

ジュニアの頃はちょっと犯罪臭が凄かったけど、最近なんというか美人だし

 

 

25:名無しのファン

胸があったら即死だった…

 

 

26:名無しのファン

胸無いけど色気はあるスズカさん

 

 

27:名無しのファン

ドバイといえば、BCターフで勝ったチーフベルハートがいるぞ

 

 

28:名無しのファン

>>24お兄さんとくっついてる時の二人の表情からしてまだ何もしてなさそう

 

 

29:名無しのファン

だってもう親公認でしょ? 婚約してれば学生でも犯罪じゃないんじゃね?

 

 

30:名無しのファン

>>27動画見てきたが、強いなチーフベルハート。

 BCのレコードも納得。その後スズカさんのJC見て目が点になった

 

 

31:名無しのファン

>>28出た! 全くあてにならない、うまぴょいソムリエだ!

 

 

32:名無しのファン

>>29犯罪じゃないけど、教師なので…。

 

 

33:名無しのファン

>>27あんな差つけられたら笑うしかないわな。実際、前のおっさんとか笑いながら拍手してたし。

 

 

34:名無しのファン

>>27四コーナーにて勝利確信の大差、からの逃げ差し

 

 

35:名無しのファン

>>34なんでアレで垂れないんですかね…。

 

 

36:名無しのファン

>>35垂れるものがないからな!

 

 

37:名無しのファン

>>35愛じゃよ。

 

 

38:名無しのファン

>>36>>37これは高低差200mの落差

 

 

39:名無しのファン

>>37さて、サイレンススズカが先頭でもう直にレースが終わる。じゃが、最近の出来事も勘定に入れねばならぬの…。

 

 

40:名無しのファン

まず超ハイペースでスタミナが残っていない2番手以下、50点ずつ減点じゃ

 

 

41:名無しのファン

>>40芝

 

 

42:名無しのファン

>>40ひでぇww

 

 

43:名無しのファン

ひどいけどまあ実際そんな感じ

 

 

44:名無しのファン

次いで、コーナーで息を入れたサイレンススズカに50点!

 

 

45:名無しのファン

>>44どうやって末脚を発揮しますか? 息を入れます。

後方の末脚はどうなりますか? ハイペースで磨り潰します。

 

どういうことなの…?

 

 

46:名無しのファン

>>45超ハイペースからハイペースに緩めて息を入れてるんだゾ

 

 

47:名無しのファン

そしてゴールで待っているお兄さんを見てやる気が湧いてきたサイレンススズカに150点!

サイレンススズカのレコード勝ちじゃ!

 

 

48:名無しのファン

マジでやりかねなくて芝

 

 

49:名無しのファン

これは大差勝ちですね…。

 

 

50:名無しのファン

そうか、ウマ娘を英才教育すればいいのか!

で、サイレンススズカちゃん並の才能のウマ娘は何処にいますか…?

 

 

51:名無しのファン

>>50何処にいるんだろうね…。

海外ならそこそこいそう

 

 

52:名無しのファン

今年はスペシャルウィークちゃんが凄いぞ!

 

 

53:名無しのファン

>>52知ってた

 

54:名無しのファン

>>52それもうとっくにサイレンススズカさんっていう有識者が発表してたからな

 

 

55:名無しのファン

お兄さんの見てるグラスワンダーちゃんは?

 

 

56:名無しのファン

>>55アレもなんか、末脚の切れ味がおかしいからな。薙刀かな?

 

 

57:名無しのファン

>>56現段階で『鉈の切れ味』よりありそうなのはちょっと…。

 

 

58:名無しのファン

>>57神のウマ娘、伝説の五冠ウマ娘だからな。

 

 

59:名無しのファン

最近無敗の五冠ウマ娘(大逃げ)とかいう意味不明なのが増えたけど伝説だからな。

 

 

60:名無しのファン

>>55実際、グラスワンダーはリギルに入れるくらい素質あるウマ娘だからな。

どっちかというとお兄さんが拾ってきたトウカイテイオーでは?

 

 

61:名無しのファン

>>60知らんのか、トウカイテイオーは争奪戦の結果、お兄さん逆指名したんだぞ。

 

 

62:名無しのファン

>>61何それkwsk

 

 

63:名無しのファン

トウカイテイオーはシンボリルドルフの推しだぞ

 

 

64:名無しのファン

>>62選抜レースで余裕の走りでぶち抜いて、リギル・シリウスを筆頭に勧誘を受けまくったトウカイテイオーは全部拒否。

いつの間にかリギルに入ってサイレンススズカ、グラスワンダーと並んでお兄さんが指導していた。

 

 

65:名無しのファン

はえー。知らんかった。サンガツ。

 

 

66:名無しのファン

お兄さんはアグネスタキオンと協力して怪我予防の論文いくつか共同で出してるしな。

 

 

67:名無しのファン

>>66ファっ!? なにそれ初耳

 

 

68:名無しのファン

>>66読んでみたけど、結局のところウマソウル次第ってこと?

 

 

69:名無しのファン

っぱお兄さん変態だな…。

 

 

70:名無しのファン

>>68トレーナーとの絆で限界を超えるし、ウマソウルから力を引き出しやすくなる。一部の食品にも似たような効果があって、ニンジンが筆頭だけど青草とかも効果がある。

初対面のトレーナーと一緒に走らせると露骨に能力下がる。

 

 

71:名無しのファン

>>70なんとなーく知ってるけど、迷信だと思われがちなところか。

 

 

72:名無しのファン

タキオンが論文出してるから読んでみ。信じがたいことだけど統計的には明らかに出てる

 

 

73:名無しのファン

いやでも、お兄さん以外のトレーナーの時のスズカさんのタイムはあんまり参考にならないのでは…?

 

 

74:名無しのファン

>>73統計だから、リギルを筆頭に全面協力してるから安心しろ。

 流石にスズカさんだけで結果出されたら誰もアテにしないから。

 

 

75:名無しのファン

>>74 このデータの面白いところは、GⅠ勝ちウマ娘の方がトレーナーが変わったときの効果が有意に大きいんだよな。

 

 

76:名無しのファン

【速報】タイキシャトル、ドバイターフ出走【驚愕】

 

 

77:名無しのファン

で、出たーっ!? 最強マイラーだ!

 

 

78:名無しのファン

他のウマ娘「ウソでしょ」

 

 

79:名無しのファン

げぇ、関羽!? くらいの絶望感

 

 

80:名無しのファン

>>79スズカさんなら?

 

 

81:名無しのファン

ゲッ〇ーロボかな……。

 

 

82:名無しのファン

世界観が死んだ、この人でなし!

 

 

83:名無しのファン

ゲッター関羽とかどう?

 

 

84:名無しのファン

また謎のSD三国志みたいなものを…。

 

 

85:名無しのファン

そんな、タイキシャトルが出走するくらいで大げさな…。

ちょっと勝ち目が皆無なだけだろ?

 

 

86:名無しのファン

ちょっとじゃないが?

 

 

87:名無しのファン

とりあえずスズカさんに勝つなら大逃げウマ娘とハイペースで末脚発揮できる変態をぶつけるって攻略法があるからな。

タイキシャトルはどうすればいいですか…?

 

 

88:名無しのファン

>>87出遅れを祈る

 

 

89:名無しのファン

>>87サイレンススズカをぶつける

 

 

90:名無しのファン

>>87オグリキャップ

 

 

91:名無しのファン

>>87タイキシャトルにはタイキシャトルをぶつけるんだよぉ!

 

 

92:名無しのファン

ハイペース? 関係ないデス!

スローペース? 早めに仕掛けマス!

良馬場? 絶好調デス!

不良馬場? 余裕デース!

 

どうしろと…?

 

 

93:名無しのファン

最強マイラーだからな。

 

 

94:名無しのファン

お兄さん「1800ならスズカが勝つ」

 

 

95:名無しのファン

>>94あんたほどの人が言うなら…。

 

 

96:名無しのファン

逆にお兄さんは何ならスズカが負けると思ってるんだ…?

 

 

97:名無しのファン

月刊トゥインクルのインタビューであるぞ

 

「サイレンススズカに勝つにはどうすればいいと思いますか?」

「超ハイペースで異次元の末脚を発揮するようなウマ娘がもしいたら一番勝ちにくいかと思います」

 

 

98:名無しのファン

>>97 意訳「勝てるわけねぇだろうがよぉ~~!?」

 

 

99:名無しのファン

スズカ最強! スズカ最強!

 

 

100:名無しのファン

流石にスプリントならタイキシャトルかサクラバクシンオーじゃないかな…。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

401:名無しのファン

さてドバイターフ

 

 

402:名無しのファン

芝1800、良馬場か。

正直タイキシャトル以外調べてないけど、一番人気になってて芝

 

 

403:名無しのファン

日本からの応援勢とかもけっこういるからな。スズカさんもいるし。

 

 

404:名無しのファン

日本が本気で獲りに来たって海外でも話題らしいぞ。

ちなみに海外のサイレンススズカの評価:クレイジータイムアタッカー、レコードブレイカー

タイキシャトルの評価:日本最強のマイラー

 

 

405:名無しのファン

>>404スズカさん異次元すぎて海外でもそんな扱いなのかw

タイキは、うん。知らないって幸せだよね。

 

 

406:名無しのファン

>>404スズカさんほど派手じゃないからな。

でもレース見るとどうやっても勝てる気しないのがタイキ。

 

 

407:名無しのファン

そうこうしている間にスタートだぞ。

 

 

408:名無しのファン

出遅れ…なし!

 

 

409:名無しのファン

勝ったな風呂入ってくる

 

 

410:名無しのファン

いやせっかくの歴史的な日本勢初海外GⅠだから見とけよ…。

 

 

411:名無しのファン

ホントに勝てるよね…? タイキでダメならどうすりゃいいの…?

 

 

412:名無しのファン

やめて!? 不安だけど言わないだけだから!

でもほらスズカさんもいるし…。

 

 

413:名無しのファン

さあタイキシャトル好位置につけたまま最終コーナー!

 

 

414:名無しのファン

これは勝ちパターン…!

 

 

415:名無しのファン

銃乱射してご満悦のタイキの幻覚さえ見えるような最高の流れ。

 

 

416:名無しのファン

タイキシャトル抜け出した!

 

 

417:名無しのファン

明らかに手ごたえがいい!

 

 

418:名無しのファン

あっ、あっ、勝てる勝てる!

 

 

419:名無しのファン

抜け出した! 差を広げる!

 

 

420:名無しのファン

よし勝った

 

421:名無しのファン

やったー! 海外初のGⅠだー!

 

 

422:名無しのファン

これは間違いなく最強マイラー

 

 

423:名無しのファン

おめでとう!

 

424:名無しのファン

やったー!

 

425:名無しのファン

そしてウイニングライブ中継(有料)の案内w

 

 

426:名無しのファン

まあ間接的に推しに貢げるからな。今日くらいは買ってやらあ!

 

 

427:名無しのファン

現地勢の大歓声すげー。

 

 

428:名無しのファン

あ、観客席にお兄さんとスズカさんおる

 

 

429:名無しのファン

マジで!? マジだ!?

 

 

430:名無しのファン

二人で仲良く双眼鏡を貸し合ってるの良いね。なんかスズカさん顔色悪いけど。

 

 

431:名無しのファン

あれ、スズカさん勝負服違くね? まあお兄さんがなんとかするでしょ。

 

 

432:名無しのファン

>>431年度代表ウマ娘になったから増えたぞ。でも初めて見た。

 

 

433:名無しのファン

これは……ケープとドレス?

お姫様っぽいな。

 

 

434:名無しのファン

ところでケープの下のドレスなんだが、白いな。

 

 

435:名無しのファン

おや、どこかで見た配色ですね…?

 

 

436:名無しのファン

もしかして:ウエディングドレス

 

 

437:名無しのファン

やっと結婚するのか…。

 

 

438:名無しのファン

知ってた。

 

439:名無しのファン

せやな

 

440:名無しのファン

まあよく耐えたよな。

 

 

441:名無しのファン

で、インタビューだけして次のレースの準備か。ライブは後でなんだっけ?

 

 

442:名無しのファン

全レースが終わってから、一気にライブをやる。

最後は各レースの一着が集まってなんかショーみたいなの始まる。

 

 

443:名無しのファン

今年は日本勢も参加するのは感慨深いなー。

 

 

444:名無しのファン

スズカさんまだ結婚してなかったっけ?

 

 

445:名無しのファン

結婚してもいいけど、まだ凱旋門とBC取ってないからうまぴょいはダメだぞ

 

 

446:名無しのファン

>>445まだダメおじさんが…折れた!?

 

 

447:名無しのファン

だってSNSでお兄さんに構ってもらえなくて寂しそうなスズカさん見てるとな(同期組提供)

 

 

448:名無しのファン

マチカネフクキタル、メジロドーベル、メジロブライト、サニーブライアン、タイキシャトルに加えてスペシャルウィークも早くスズカさん幸せにしろ派だからな。

 

 

449:名無しのファン

スズカさんは景色の写真ばっかりで匂わせないけど、周りが勝手にやってくれるからな。

 

 

450:名無しのファン

というかそろそろ始まるぞ。

 

 

451:名無しのファン

圧倒的一番人気で芝

 

 

452:名無しのファン

スズカさん>>>>チーフベルハート>>その他

 

 

453:名無しのファン

なんかスズカさん調子戻ってきたな。

 

 

454:名無しのファン

というか気迫が凄い。お兄さん何した。

 

 

455:名無しのファン

したのか、チューを!?

 

 

456:名無しのファン

さあゲートイン。

 

 

457:名無しのファン

スタートぉ!

 

458:名無しのファン

はいいつも通り!

 

 

459:名無しのファン

必勝パターンだな!

 

 

460:名無しのファン

ポンと飛び出してそのまま一人でタイムアタック始めるスズカさん

 

 

461:名無しのファン

海外にはね、ラビットっていうハナ取り専門がいるんですよ。苦戦すると思うでしょ?

 

462:名無しのファン

すまん、正直置いていかれたラビットの絶望顔に興奮した。

 

 

463:名無しのファン

>>462ダメだぞ

 

464:名無しのファン

>>462やめとけ

 

465:名無しのファン

さあどんどんリードを開いて早くも……よくわからんバ身!

 

 

466:名無しのファン

これ即座に何バ身か分かるプロってすげーや。

 

 

467:名無しのファン

スズカさんのレース実況する人は普段やらないバ身の復習しとくらしいという噂。

 

 

468:名無しのファン

うわーい。ジャパンカップはエアグルーヴとピルサドスキーが頑張ってたけど、こっちはなんか一人旅で芝2400

 

 

469:名無しのファン

海外の実況『1000m56秒!? クレイジー! なんだこの差は!? 本当に最後まで持つのか!?』

日本の実況『なかなか良いペースですね。これは期待できそうですよ』

 

 

470:名無しのファン

なんか初々しくて芝

 

 

471:名無しのファン

2400でサイレンススズカは垂れないんだよなぁ…。3000走り切るからな

 

 

472:名無しのファン

日本の実況さあ…。

 

 

473:名無しのファン

そして大差のまま第四コーナーへ。詰めてくるチーフベルハート

 

 

474:名無しのファン

流石に強いな、BC勝ってると

 

 

475:名無しのファン

はい逃げて差す

 

 

476:名無しのファン

末脚がチーフベルハートと遜色ないどころか引き離してるように見える

 

 

477:名無しのファン

よっしゃ勝ったあ!

 

 

478:名無しのファン

まだゴールしてないのに勝利宣言する実況ww

 

 

479:名無しのファン

おめでとーう!

 

 

480:名無しのファン

おめでとう! これでチューかな!

 

 

481:名無しのファン

結婚式には呼んでくれよな!

 

 

482:名無しのファン

はいゴール!

 

483:名無しのファン

圧倒的すぎて笑うしかない

 

 

484:名無しのファン

後ろからは何にも来ない! テスコガビー思い出すな。

 

 

485:名無しのファン

誤:日本最強逃げウマ娘

正:世界最強大逃げウマ娘

 

 

486:名無しのファン

まあ大逃げの枠なら世界最強名乗ってもいいか…?

 

 

487:名無しのファン

さあインタビュー

 

 

488:名無しのファン

(見事な勝利でしたが、今のお気持ちは?)

「お兄さんへの感謝の気持ちを込めた勝負服なので、最高の走りをしたいと思っていました」

 

(トレーナーさんにご褒美は何を期待したいですか?)

「チュー……あ。えっと、チュー……チューブ? 新しいチューブが欲しいです…?」

 

(トレーナーさんもキスしたくなりそうな素敵な衣装ですね)

「本当ですか!? お兄さん、唇にはチューしてくれないので、今日のご褒美は楽しみなんです!」

 

(では応援してくれるファンの方に一言)

「いつもありがとうございます、皆さんに最高の景色を見せられるようにこれからも精一杯走っていきたいです」

 

 

 

489:名無しのファン

顔がもう恋する乙女なんだよなぁ

 

 

490:名無しのファン

せやな

 

491:名無しのファン

感謝の気持ち(お嫁さんになりたい)

 

 

492:名無しのファン

感謝の気持ち(チューしたい)

 

 

493:名無しのファン

ヤジでチューしろ、って煽られてて芝

 

 

494:名無しのファン

恥ずかしそうだけど期待に満ちたスズカさんの顔である。

 

 

495:名無しのファン

あっ、お兄さん逃げた

 

 

496:名無しのファン

スズカさん行った! 捕獲!

 

 

497:名無しのファン

恒例行事かな?

 

 

498:名無しのファン

お兄さんのインタビュー、海外の人に「愛らしい花嫁に何か言葉を」って言われてて芝。

 

 

499:名無しのファン

そして英語で「私にとって一番大切な人です」「出会えて本当に良かったし、彼女に感謝したい」と返すお兄さん。?マークのスズカさん。祝福する英語圏の人たち。

 

 

500:名無しのファン

誰か通訳するんだ、早く!

 

 

 

 



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すれ違いの後に / 皐月賞

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 緊張を紛らわすために打ち込んでいた備品発注の仕事だったが、トレーナー室の扉が開いた音で完全に手につかなくなる。

 

 こそこそと入ってくるのは珍しいが、時間的にも扉の開け方的にもスズカっぽい。

 何気ない風を装って背後を振り返り――――何故か怒られる寸前みたいな情けない顔のスズカと目が合った。多分、俺もそんな顔をしていたと思うが。

 

 

 

「……その、ごめんなさい。朝、寝坊してしまって……」

「そ、そっかー。まあ寝坊くらい誰にでもあるから気にするな」

 

 

 

 言いながら、何で家に来なかったのか聞きたくなったものの――――元々一緒に寝ていたのも、なし崩しでそうなっていただけで、こっちから言い出したら普通に事案なので口を閉じた。

 

 

 

 

「あの、お兄さん……お昼は…?」

「あっ」

 

 

 

 

 そりゃあ普段一緒にお昼食べてるのに、何も言わずにいなくなったら心配するに決まっている。……ちょうど朝にスズカがやったのをやり返したような構図である。

 

 

 

 

「ごめん、ちょっと焦って連絡忘れてた」

「そうですか…!」

 

 

 

 心底安堵した様子のスズカに申し訳なくなると同時に、自分も安心する。

 まさか寝坊一つでここまで大騒ぎすることになるとは……。

 

 いやしかし、俺と寝てくれと言うのはあんまりにもアレである。間違いなくアウトである。

 煩悩に悩まされずに済むと思った方がいいのだろう。

 ……散々別に寝ろと促していたのは俺だったし。

 

 

 

 

 

――――原因、俺だわ!

 

 

 

 

 安心したような、気が抜けたような。

 勇み足で用意してしまった指輪が重い……。

 

 

 

「あの、お兄さん……?」

 

 

 

 がっくりと肩を落とした俺に心配そうに近づいてくるスズカ。

 触れそうで触れない、そんなもどかしい距離に負けて、スズカに手を伸ばした。

 

 

 

 

 細い腰に腕を回し、抱きしめるようにソファに引き寄せる。

 流石に驚いたのか尻尾が飛び上がったものの、さしたる抵抗もなく胸に収まったスズカの重みを確かめるように、抱きしめる力を強くして。

 

 

 

 

「………あ、の……お兄さん…?」

 

 

 

 走るために特化したような、しなやかで細くて、でも不思議と柔らかいスズカの身体を勝手に堪能していると、流石に困惑したようにスズカが顔を上げた。

 

 

 

 

「嫌じゃなければこのままハグさせてくれ」

「……嫌じゃ、ないですけど………」

 

 

 

 なんとなく煮え切らないスズカだが、ピコピコとせわしなく動いている耳を見るに機嫌は悪くなさそう。

 

 

 

「お、お兄さん。私、走ったばかりですし……お風呂入ってないですし……」

「………えー。いい匂いだし大丈夫だろ」

 

 

 

 いつものシャンプーと、尻尾リンスの香り。あとまあ芝の匂いと、謎の甘い匂いがするようなしないような。

 

 

 

「どうして嗅ぐんですか…!?」

「お前にだけは言われたくない」

 

 

 

「うそでしょ……そんなイメージなんですか、私」

 

 

 

 それはそう。

 ジャケットとか、ワイシャツとか、隙あらば嗅いでるし…。

 

 そのまま触り心地のいい尻尾を撫でたり、反対の手で耳元を擽ったりすると、うっとりと力を抜いて心地よさそうなスズカが可愛い。

 なんとなくイヤーキャップを外してみると、スズカにジト目で睨まれる。

 

 

 

「お兄さん、たとえばですけれど。勝手に靴下脱がされて、素足を擽られたら嫌じゃないですか?」

「そっか。……外していい?」

 

 

 

 スズカの耳はフサフサで触り心地がいいので。

 勝手にモフモフこりこりと耳を弄ると、尻尾で腕を叩かれる。

 

 

 

「…っ、くすぐったいのでダメです!」

「………ほんとにダメ?」

 

 

 

 惚けた顔のスズカは正直かなり可愛いので、擽りたい。

 そんなに押されると思わなかったのか、ちょっと悩んだ末にスズカは勝ち誇った顔で言った。

 

 

 

「チューしてくれたらいいですよ―――――むぅ!?」

 

 

 

 油断していたスズカの唇に触れ、そのまま直に耳を撫でる。

 顔を真っ赤にしたスズカは、拗ねたような顔のまま機嫌よく耳を動かして言った。

 

 

 

 

「………お兄さん、どうしたんですか…? 寂しくなっちゃいました?」

「そうだな」

 

 

 

「…………本当にお兄さんですか?」

 

 

 

 なんか疑われている。

 スンスン、と胸元の匂いを嗅いだスズカはなんとなく納得していなさそうな顔で言った。

 

 

 

 

「お兄さんがこんなだと、嬉しいですけど……ドキドキしすぎて死んじゃいそうです」

「お前が言うとシャレにならないから止めて」

 

 

 

 

 即座にスズカを引き離して丁寧にソファに座らせる。そのまま離れようとすると、今度はスズカが背中に張り付いてくる。

 

 

 

「お兄さんだけズルいです…! 私だってお兄さんの匂いを嗅いだり、耳をくりくりしたり、ぎゅーってさせて下さい…!」

「え、ヤダ」

 

 

 

「……やっぱりお兄さんですね」

「なんかその納得の仕方は釈然としない」

 

 

 

 耳元に息を吹きかけたり、囁いてきたりするスズカをやり過ごしつつ、とりあえず仕事でもするかとパソコンを開いて――――。

 

 

 

「あむっ」

「――――っ!? お、おまっ!? 耳!」

 

 

「んゅぅー…」

「降りろぉ!」

 

 

 

 人の耳を咥えてもごもごしたり、舐めたりしてドヤ顔するスズカの尻尾を引っ張ってソファに降ろし。そのまま取っ組み合いになった。

 

 

 

「お兄さんだけズルいと思います」

「舐めるのは反則だろうが…! お前の耳も舐めるぞ」

 

 

「だ、ダメです! お風呂入ってないから絶対ダメです…!」

「俺だって入ってないぞ」

 

 

 

「「むぐぐぐ…!」」

 

 

 

 尻尾を持って、マウントを取っている分だけ体勢有利なのだが。本気を出されると勝ち目はないが、じゃれあいなので互いに本気でもない。

 

 

 

 

 で。扉が開いて、頬が引きつるおハナさんと目が合った。

 

 

 

「「あ」」

「……ちょっと貴方達、何してるのかしら…?」

 

 

 

 傍から見ると押し倒しているように見えなくもない。まあスズカもめっちゃ笑顔だが。

 

 二人で顔を見合わせ、とりあえず手を離して並んで座る。

 なんとなくスズカが腕に抱き着いてきたので耳にイヤーキャップをもどした。

 

 

「……えーと。じゃれあってました」

「お兄さんが寂しくなったので、二人で遊んでました」

 

 

 

 俺のせいか。……俺のせいだな。

 おハナさんは頭痛がする、と言いたげに額に手を当てた後言った。

 

 

 

「とりあえず、誰が来るか分からないトレーナー室では止めなさい」

「「はーい」」

 

 

 

 お咎めなし…!?

 二人で顔を見合わせていると、溜息をついたおハナさん。

 

 

 

「ちなみに毎年責任を取らされて結婚する男性トレーナーがいるのは知ってるわよね?」

「……はい」

「…! お兄さん、チューしましたよね。しましたよね…!」

 

 

 

 責任とって! と満面の笑みのスズカに、おハナさんと顔を合わせて苦笑する。キスで責任取らされるのは何処から仕入れた知識なのか知らないが、まあ可愛らしいもんである。

 人間は物理ではウマ娘に勝てないので。

 

 

 

 

「……私のはじめて……」

「のキスな」

 

 

 

 

 もっと言えば大人のキスことディープなキスもあるが。

 まあそうでしょうね、とばかりにあきらめ顔でコーヒーの用意を始めるおハナさん。

 

 

 

 

「もう貴方達は諦めたから、とりあえずバレないようにやって頂戴」

「わー、諦められてる……」

「チューってバレちゃいけないんですね……」

 

 

 

 

 いやまあ心配されてるのはもっと別のことかもしれないが。プロレス的な。

 おハナさんの目線が「とりあえずアンタが責任もって監督しなさい」と熱く語っている。まあ当然、アウトな行為はアウトなわけだが、まあスズカの場合は妙な行為に走ることもないだろうし…。

 

 

 

「貴方達の場合は犯罪行為にならなくても、他への悪影響は考えるように」

「「はーい……」」

 

 

 

「あとスズカが嫌がるような行為は慎むように」

「はい……」

「……お兄さんなら何でもいいですよ?」

 

 

 

 

 ぽわぽわした顔でそんなことを宣うスズカに、おハナさんと顔を見合わせる。

 

 

 

「貴方がしっかり監督なさい」

「はい」

「……? お兄さんにされて嫌なこと……浮気?」

 

 

 

 

 それはそうだろうね…。

 

 

 

 

「浮気したら本気で蹴っていいぞ」

「死んじゃうからダメです」

 

 

 

 真顔で返された。

 まあ確かに万が一浮気したとしてもスズカにそんなことさせちゃダメだな。自らしめやかに爆発四散すべき。

 

 

 

 

「………浮気しても、死んだりしちゃダメですよ…?」

 

 

 

 いやそこは死んでいいんじゃないかな、とおハナさんと目を見合わせて通じ合う。

 とはいえあんまりスズカを追い詰めてもアレなので、頭を撫でて誤魔化しておく。

 

 と、だんだんスズカの耳が絞られてきた。

 

 

 

 

「………お兄さん?」

 

 

 

 あ、やばいこれはガチで怒ってるやつ…。

 

 

 

「そもそも浮気しないぞ」

「………」

 

 

 

 ちょっと口元が緩んだ。

 

 

 

「むしろ俺としてはスズカが可愛いからモテそうで心配なんだ」

「………むぅー」

 

 

 

 

 ちょっと顔がにやけてきた。ついでに耳も戻ったので機嫌も直ったらしい。

 

 

 

 

「俺なんていつでもチューしたいくらい――――」

「え?」

 

 

 

 

「ん?」

「………いいんですか?」

 

 

 

 

 無言で見つめ合い、だんだん喜色に染まるスズカに、ちょっと顔が引きつっているだろう俺。ふにゃっとした顔で目を瞑って顔を近づけてくるスズカに――――。

 

 

 

「ちょっと、そこの二人! 人前では止めるように言わなかったかしら…?」

 

「じゃあお兄さん、トイレに行きましょう」

「なんでお前そこでトイレ!?」

 

 

 

 

 ぐいぐい引っ張ってくるスズカに引きずられて、トレーナー室のトイレ(リギルのトレーナー室は豪勢なのでトイレがある)に連れ込まれそうになり。

 おハナさんに目線で助けを求めた。

 

 

 

 

(すみません助けてください)

(失言の責任くらい取りなさい)

 

 

 

 

 そんなご無体な。

 で、馬と綱引きするようなものなのでウマ娘に勝てるわけも無く。

 

 

 この後めちゃくちゃチューされた。

 いやまあ、一回で満足されたのだが。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 

 

 妙な言質を与えてしまったことで、隙あらばチューしてくるようになったスズカであるが、お陰でご機嫌ではあった。特にこっちが寝ている間はタガが外れるのか朝起きたら頬とか唇とかにチューされてたりする。

 

 

 しかし可愛い。チューして恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにふにゃふにゃしているスズカを見ていると、もうなんか癒し効果が高いのでこれはこれでいい気がしてきた。でも耳とか舐めてくるのはウマソウル的なあれなのか……?

 

 スズカでこれだと、ベロちゃんことエアグルーヴは………。

 

 

 

 

「皐月賞かぁー、僕も早く走りたいんだけどなー」

「この熱気を感じると、やはり感じるものがありますね~」

 

 

 

 テイオーはまあ、憧れのシンボリルドルフを追いかけるという目標があるからな…。

 グラスは本来なら怪我をしているハズだが、プールで余分な力を削ぎ落とす作戦は成功したらしく、無事に怪我無くここまで来れていた。

 

 

 

 

「……あっ、サイレンススズカのお姉ちゃん!」

 

 

 

 通りがかった幼女が声を上げると、ご機嫌なスズカは笑顔で手を振り。

 サインを強請られて快く応じていた。

 

 まあ、そんなことしたらサインの要望が殺到するわけだが。

 

 

 

 

「サイン下さい!」

「次のレースも応援してます!」

「ドバイ凄かったです! タイキシャトルさんと海外初GⅠおめでとうございます!」

「スズカさんの走り大好きです!」

「お兄さんと結婚はいつですか!?」

 

 

 

「いつですか…!?」

「お前も乗るな」

 

 

 

 

 緊迫した顔で迫ってくるスズカだが、ファンサービスに集中して欲しい。

 そう伝えると渋々サインに戻ったスズカ。なんやかんやでこのくらいなら一人で行動できるようになってきているので、テイオーとグラスと一緒に並んで見守る。

 

 

 

「すみません、そろそろレース始まるので……」

 

 

 

 見れなくなると困るので、ほどほどで切り上げて観客席へ。

 子どもにだけはオマケでサインするスズカだが、まあ民度が高いのでそれは許された。ウマ娘の血が混じったおかげで人間も穏やかになってる説。

 

 

 

「さすが、無敗の六冠ウマ娘だよねー。あと一勝でカイチョーと同じだもんなー」

 

 

 

 会長はその頃には無敗ではなかったわけだが、つっつくと喧嘩になりそうなのでそっとしておこう…。

 

 

 

「そうですね。私たちも、スズカさんのように皆さまの夢になれるウマ娘になりたいものですね」

 

 

 

 闘志を燃やすテイオーとグラスだが、そのスズカはいつものポヤっとした顔でスペシャルウィークの心配をしていた。

 

 

 

 

「スぺちゃん、大丈夫かしら……」

「まあ、沖野先輩もいるし大丈夫だろ」

 

 

 

 

 レース結果は大丈夫じゃないかもだが…。

 まあ史実通りセイウンスカイが勝つのか、あるいはちょっぴりダイエット成功したスペシャルウィークが勝つのか、はたまたキングヘイローか。

 

 担当がいないので気楽でいい。

 

 

 

 

『クラシック三冠の第一関門、皐月賞。グレードⅠのファンファーレが中山レース場に響きます。注目はやはりスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローでしょうか。展開はどう予想されますか?』

 

『そうですね、内枠を取ったコウエイテンカイが逃げ宣言をしているので、セイウンスカイは二番手に控える形になるんじゃないでしょうか』

 

 

 

『さあゲートインを嫌っていたセイウンスカイがゲートに入って、最後は大外スペシャルウィーク、落ち着いていますね』

『気合十分、期待できそうですね』

 

 

 

 

 

「お兄さんは、どう思いますか?」

 

 

 

 くいくい、と袖を引きながらスズカが問いかけてくる。

 いや、予想しろと言われても……ある意味カンニングしてるようなものだからな。ウンス、キング、スぺの順になる。が、スズカにカッコつけて妙にハードルをあげられても困る。

 

 

 

「セイウンスカイ、スペシャルウィーク、キングヘイローで」

「………お兄さん、それペアチケットですよね?」

 

 

 

 そう。3連単ペアチケットなので、当たればスズカと二人で最前列。

 是非ともスぺちゃんにはアンクル+プールトレーニングの力を見せて欲しいところだが…。まあ外れたら外れたで別にいい。

 

 と、スズカも見せてくれたのはスぺちゃん単勝のペアチケット。応援チケットかな。

 別にJRAと違って関係者が買っちゃいけないルールはないので問題ない。

 

 

 

 

「二人はどうしたんだ?」

「僕はねー、スぺちゃん、キング、セイちゃん」

「私はスぺちゃん、セイちゃん、キングちゃんですね」

 

 

 

「もし当たったらはちみー奢るぞ」

「ホント!? スぺちゃーん、頑張れー!」

「あらあら」

 

 

 

『さあ、体勢整って――――スタートです! さあ先行争い。やはり行きましたコウエイテンカイ、外の方から少し掛かったようにセイウンスカイが二番手。その後方からキングヘイロー、スペシャルウィークは後方三番手くらいにつけています』

 

 

 

 

 

 なかなかハナを取らせてもらえないセイウンスカイだが、上手く控えている様子。

 そのまま脚を溜めたまま最終コーナーに差し掛かり――――。

 

 

 

 

『さあセイウンスカイ交わして先頭に立つ! その直後にキングヘイロー、キングヘイローが取りついた! 大外からスペシャルウィーク、スペシャルウィーク来た!』

 

 

 

 

 領域――――大海原で待ち構えるセイウンスカイが、大物を釣り上げるイメージとともに最終コーナーで先頭を奪って加速する。

 クラシック初戦から領域、かなりハイレベルな戦いである。が、その後方から今度は別の領域――――流星を力に変えてスペシャルウィークが一気に加速して先頭を目指す。

 

 

 

 スズカの時はフクキタルと神戸新聞杯で戦った時が初の領域対決だっただろうか。

 後に黄金世代と言われるだけはある、と戦慄する。

 

 

 

 

 

『セイウンスカイ逃げる! 逃げ切るかセイウンスカイ! キングヘイロー追う! スペシャルウィーク猛烈な追い上げ! さあスペシャルウィーク、キングヘイローに並んだ、並んだ!』

 

 

 

 

 

 

(くっ、負けるものですか――――ッ!)

(根、性ぉっ!)

 

(ま、だだァ――――ッ!)

 

 

 

 

 

『先頭三人の猛烈な争い! セイウンスカイ逃げ切りか、二人が差し切るのか――――並んだ! 大接戦でゴール!』

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 全く結果の分からない大接戦に、思わず四人で――――というか、レース場が静まり返る。小さなざわめき、「誰が勝った?」「いや、分からなかった」というような声がやけに大きく聞こえる中、表示された『写真』の文字に喧噪が戻ってくる。

 

 

 

 

 

「え、トレーナー分かった?」

「俺に聞くな……微妙にセイウンスカイ有利か?」

 

「私はスぺちゃんが少し有利に見えましたけど…」

「私が見る限りでは、キングちゃんとスぺちゃんは同じくらいでした」

 

 

 

 

 ここで胸差でキングヘイローかな、と言ったら袋叩きに遭いそうだな…。

 とはいえ、分からないものは仕方ないので結果待ちである。

 

 レース場のウマ娘たちも、観客も固唾をのんで見守る中――――。

 

 

 

 

 

 

 一着セイウンスカイ

 ハナ差二着、同着でキングヘイローとスペシャルウィーク

 

 

 

 

 

 

 僅かながら変わり、大筋の変わらなかった史実。

 その運命的な何かに、なんとなく不安になりスズカの手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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東京優駿の前に / NHKマイルC

 

 

 

 

 

「惜しかったなぁー、もうちょっとで勝てたんですけど……でも、日本一になるためには落ち込んでなんかいられませんよね!」

「スぺちゃん…」

 

 

 

 皐月賞の後。

 無理に強がっている感じのするスぺちゃんに、けれど掛けてあげられる言葉が見つからなくて。お兄さんにメールを送ると、快く承諾の返答が返ってきたので今日はスぺちゃんと過ごすことにしたのだが――――。

 

 

 

『お兄さん、スぺちゃんを励ます方法ないですか?』

『悔しい時は泣いた方が良いと思うが。とはいえお前はスぺちゃんの憧れだからな、そういう場合だと吐き出しにくいもんだ』

 

 

 

『そうなんですか?』

『テイオーがルドルフに弱音を吐くようなもんだ』

 

 

 

『それは確かに……じゃあどうしたらいいでしょうか』

『頑張れ』

 

 

 

『お兄さん!? こんな時までいじわるしないで下さい』

『俺に乙女心が分かると思うか?』

 

 

 

『私が大好きなんですから、大丈夫です。もうちょっと自信を持ってください』

『じゃあ俺が大好きなお前も大丈夫だから自信持て』

 

 

 

 

 ちょっぴり背伸びして送ったメッセージに返ってきたお兄さんからの言葉に、心臓が跳ねた。

 

 

 

 

「うぅ~~~っ」

 

 

 

 なんなんですか、最近のお兄さんは……!

 嬉しくて、でも恥ずかしくて、きゅぅっと切なくなるような、チューして抱きしめてほしいような……。

 

 

 

『お兄さん、チューしたいです』

『スぺちゃんはいいのか?』

 

 

 

『チューしに来てください』

『女子寮には入れないからダメ』

 

 

 

『じゃあ明日いっぱいしてください』

『……お前さ、頼むから俺以外にそういうの言うなよ』

 

 

 

『お兄さん以外としないですよ?』

『とりあえず応援してる』

 

 

 

 

 ……? お兄さん、もしかして恥ずかしいんでしょうか。

 ふふふ……ちょっぴりいじわるしちゃいましょうか。

 

 

 

 

『お兄さんとしかチューしないので、寂しがらないで下さいね?』

『スズカのぱかプチめっちゃ可愛い。抱き心地最高』

 

 

 

「お兄さん…っ!?」

 

 

 

 写真付きで送られてきたのは、お兄さんに抱きしめられて笑顔の私――――じゃなくて、ぱかプチ。うそでしょ……浮気!?

 即座に電話。幸いにもお兄さんはすぐに出た。

 

 

 

 

「お兄さんっ!」

『あー、よしよしスズカは可愛いなー。えっ、チュー? 仕方ないなー』

 

 

 

 

「お~に~い~さ~ん~っ!」

 

 

 

 バシバシバシ、と枕をベッドに打ち付けて激情を少しでも発散しようとするけれど、壊れないように気を遣うのであんまり意味も無く。

 そんな優しい感じでチューしてくれるなんて、私には無いのに!

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですかスズカさん…?」

「スぺちゃん、お兄さんが酷いの! 私のぱかプチに浮気してる!」

 

 

 

「それ浮気なんですか…?」

「私の方がぎゅーってしてほしいのに! お兄さんのばか!」

 

 

 

 

 ふんす、とスマホの通話を切って。

 ちょっと苦笑しているけれど、さっきよりは元気そうなスぺちゃんを見てなんとなくむず痒い気分になる。

 

 お兄さんは本当に。頼りになるけど、いじわるで…。

 

 

 

 

「スぺちゃん、慰めて」

「もう、スズカさんったら……」

 

 

 

 むぎゅーっとスぺちゃんと抱き合うと、存在感のある胸になんとなく触れてみる。

 むむむ…。ふにゅふにゅしている……。

 

 

 

 

「これが、お兄さんの好きなおっぱい…!」

「スズカさん!? ちょっ、ダメですよ!?」

 

 

 

 自分の胸を触る。

 ……まあ、無くはない。やわら……か……かた………。

 

 

 

「あ、あのースズカさん…」

「ぬいぐるみの方が、やわらかい………?」

 

 

 

「いやスズカさん、そんなこと無いですから! 大丈夫ですよ、男の人はおっぱい大好きってお母ちゃんも言ってました…!」

「おっきいおっぱいが大好き…?」

 

 

 

「言ってないです!」

「スぺちゃん、おっぱい頂戴…?」

 

 

 

「あげられません!?」

 

 

 

 二人でわーきゃーと騒いで。

 ちょっぴりすっきりした顔のスぺちゃんが、でもやっぱり門限の少し前に抜け出すのを寝たフリをしたまま見送る。

 

 ………やっぱり、私にトレーナーさんが必要なように、スぺちゃんもトレーナーさんとじゃなきゃダメなことがあるのかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――俺の指導不足だぁあああっ!

 

 

 

 皆が叫びたいことを叫ぶ大樹のウロ。

 トレーナーさんと二人で涙を流し、ダービーでの再起を誓って。

 

 そうして話し合ったのは、“領域”のこと。

 どうしてもセイちゃんに勝ちたくて、追いつけそうになくて――――いつも、スズカさんを追いかけている時に感じる”熱“に身を任せた結果、突入できた領域。

 

 

 

 

「まあスズカの――――スペの言ってた領域の複数発動…? は意味不明だが、ダービーでもあの感覚を使いこなすのは最低条件になるだろうな」

「……な、なるほど! それで、どうすれば使いこなせますか!?」

 

 

 

「――――分からん!」

「がくぅ!?」

 

 

 

「だが結局のところ、領域ってのは最大のパフォーマンスを発揮するのためのルーティーンらしい。――――状況からして、セイウンスカイの領域は最終コーナーで抜く、あるいは先頭に立つことのどちらか―――逃げウマ娘、あと本人の気質から後者と考えるのが妥当だ」

 

「……はえー。トレーナーさんがまるでトレーナーみたい」

 

 

 

「トレーナーだからな!?」

 

 

 

 

 

 でもトレーナーさんのイメージって、勝手に脚を触ってくる人ですし…。

 

 

 

「ま、考えるにその領域にもウマ娘それぞれの“想い”があるんだろうな。スズカの場合、『誰よりも先に行きたい、先頭は譲らない』とか。スぺの場合は、日本一に―――スズカに追いつけるように、とか」

 

「……」

 

 

 

 

 日本一のウマ娘に、一番近い人―――。

 ずうっと前にいるスズカさんに追いつくには、途中にいる強敵(ライバル)たちを追い抜いて、もっと前に進まなきゃいけない。

 

 

 

 

「……トレーナーさん、私、なんとなく分かってきた気がします」

 

 

 

 

 

 だから、後はタイミング。私の力が一番発揮できるタイミングで、ライバルを抜き去る。

 ダービーに出てくる誰にも負けない、そんな私なりの輝きをスズカさんにも見てもらいたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「で、スズカ」

「……なんですか」

 

 

 

「動けない」

「………」

 

 

 

 

 せっかくのスズカぱかプチだったのだが、スズカの逆鱗に触れたぱかプチは没収かつスぺちゃんにプレゼントされそうになり。説得の末、スズカがいないときだけ可愛がっても良いという妥協点?でなんとか赦されたのだが。

 

 ぱかプチに嫉妬したスズカを宥めるべく、膝の上でがっちり抱き着いてくるスズカにされるがままになっていた。

 

 

 

「お兄さん」

「はい」

 

 

 

「……どうして私より、ぱかプチに優しいんですか?」

「だってほら、恥ずかしいし……」

 

 

 

 ぬいぐるみはアレだ、スズカへの意地悪という大義名分があったからやったのであって、普段からやったりはしないのだ。ということを懇々と説明して。納得はしてないけど理解はしたくらいの感じである。

 

 

 

 

「……むぅー」

「あ、そうだ。次の出走だけど……宝塚でいい?」

 

 

 

「春の天皇賞とかは出ないんですか?」

「お前、脚の負担考えろ」

 

 

 

 

 流石に3200はスタミナが良くても脚の消耗が心配すぎる。

 なんとなく二人で見つめ合い、それからスズカは少し考えてから、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「じゃあ――――たっぷり甘やかしてくれたらいいですよ?」

「……よし、分かった」

 

 

 

 

 まずスズカのイヤーキャップを外す。

 その時点で嫌な予感がしたのか、逃げようとするスズカの尻尾を掴んで引き止めると、耳を引っ掻いて擽る。

 

 

 

 

「あっ、あっ………くひゅ……お、おにいひゃ……やめ……ふへぅ」

「ほらほらここが良いのか…? ここだな」

 

 

 

「きもちいいですけど、くすぐった…………………ぁふ」

 

 

 

 腰砕けになって腑抜けた顔のスズカは可愛いのだが、それはそれとしてたっぷり甘やかしてほしいらしいので全力で応えねば。馬は耳をけっこうゴシゴシしてあげると気持ちいいらしいことは知っている。

 

 

 

「ひぅぅぅぅ………あっ、あっ、そこ………きもちいい……」

「耳かき持ってこようか?」

 

 

 

「……お兄さんの、爪の方がすきですー…」

「よしじゃあとりあえず30分な」

 

 

 

「――――~~!? お、お兄さん、ちょっと急用が――――トイ――――ふひゃぁ!?」

「たっぷり甘やかして欲しいんだろ?」

 

 

 

 

 

 ふははは、後悔してももう遅い! 

 この機会に無防備に甘えてくるとどうなるか思い知らせてやる…!

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「………んゅー」

 

 

 

 最早人をダメにするソファに寝そべった馬状態のスズカだったのだが、不意に顔を上げた。

 

 

 

 

「…………お兄さん、トイレ」

「え。じゃあ行ってこい」

 

 

 

 

 よろよろと立ち上がったスズカは、真っ赤な顔で振り返り――――気が付くと先ほどまでと逆の姿勢でスズカに捕まっていた。

 

 

 

 

「……………ふふふ。お兄さん、覚悟は良いですか?」

「いや、あの、スズカ? ちょっと待とう?」

 

 

 

「………止めてって、言いましたよね」

「もしかして、ちょっと漏れ――――くはっ!?」

 

 

 

 

 

 瞬間、耳に息を吹きかけてきたスズカに強制的に中断させられる。

 完全に絞られた耳、バシバシと打ち付けられる尻尾。どうみてもキレてるスズカに、とりあえず――――。

 

 

 

 

「……何でもするから許して?」

「お兄さんもお漏らしすれば、なかったことになる……と思いませんか?」

 

 

 

「思わないよ!?」

「お兄さんも恥ずかしい思いをすればいいんです…!」

 

 

 

 何その抑止力的な考え。

 この後めちゃくちゃ擽られた。

 

 が、結局のところいつものじゃれ合いになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『――――エルコンドルパサー先頭! エルコンドルパサー早くも先頭に立つ、残り400! 間からシンコウエドワウ、だが外から――――外からグラスワンダー! 凄まじい末脚!』

 

 

『だがエルコンドルパサーもここで更に加速した! 残り200を切ってリードが3バ身、2バ身―――1バ身、並ぶか!? エルコンドルパサーここまでか! ――――並んで今、ゴール!』

 

 

『皐月賞に続いて、このNHKマイルカップでも写真判定です!』

 

 

 

『結果は―――――エルコンドルパサーだ! エルコンドルパサー優勝! 二着は惜しくもグラスワンダーです!』

 

 

 

 

 

 

 

 敗因は明らかだった――――出遅れである。

 グラスワンダーの明確な弱点。そこはとりあえず置いておいて、長所である末脚の強化に集中したのだが――――今回ばかりは裏目だったかもしれない。

 

 マイルという短めの距離で、相手がエルコンドルパサー。出遅れによる差は致命的なものになり、それでもハナ差まで詰め寄れたのは一重にグラスの才能のおかげ。

 

 

 

「申し訳ございません、トレーナーさん」

「いや、出遅れに関して手を打たなかったのは俺のミスでもある。次までに合わせるぞ――――で、問題はダービーに出るか、あるいは―――安田記念か」

 

 

 

 

 

 中距離かマイルか。

 グラスの適性から言えば安田記念の方が適しているが、タイキシャトルが出走する可能性がある。

 

 

 

 

「………個人的には、ダービーでエルやスぺちゃんたちに勝ちたいです」

「そっか。じゃあそうしよう」

 

 

 

「……いいんですか? そんなに軽く」

 

 

 

 ちょっと不安そうなグラスだが、結局のところトレーナーとは生徒の夢の後押しをする存在である。あれやこれやと押し付けても仕方ないし、何よりダービーは夢の舞台だ。

 エルコンドルパサーに勝つには、出遅れ癖をなんとかするか、あるいは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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とある日の約束

時系列が若干前後し、NHKマイルより前です


 

 

 

 

 

 

 

 

――――皐月賞を終えて、NHKマイルCが近づいた頃。

 

 

 私はいつものようにお兄さんと一緒に過ごしていたのだけれど―――。

 

 

 

 

(最近のお兄さん、少し変では…?)

 

 

 

 ハグしようとしても避けないし、むしろお兄さんからぎゅーっとされるせいでなんだか恥ずかしい。それ以上に嬉しいけれど。

 

 チューだって、お兄さんからしてくれはしないけれど、ダメとは言われないし。

 そう、つまりなんというか……。

 

 

 

 

(………前のお兄さんに戻った!?)

 

 

 

 そう! トレーナーさんになってから意地悪だし構ってくれないしお風呂もトイレも寝るのもダメだしあーんもしてくれないしお出かけもできないし……という状況が1年半くらい続いたので感覚がおかしくなっていたけれど、これが元々だった気がする。

 

 ……なのに。

 

 

 

(……どうしてこんなに胸が苦しいんでしょうか)

 

 

 

 いつも、これで満足していたのに。

 これ以上なんて考えられないくらいに幸せだったのに、もっと、もっとと際限なく湧き上がってくる。“好き”って気持ちだけあればそれで満足だったのに、今はその気持ちに駆り立てられるように、もっともっとずっとお兄さんのことを求めたくなる。

 

 でも、それはなんとなく恥ずかしいような……。

 

 というか流石にお風呂でぎゅーっとするのが恥ずかしいくらいのことは分かってきた。お兄さんにならいいかな、とも思うけれど――――……うん、いっっっぱいチューしてくれるくらいじゃないと、ちょっと無理かもしれない。

 

 

 

 でも、やっぱりお兄さんといるのは嬉しくて、楽しくて。安心して、でもドキドキして――――やっぱりいつまでもこうしていたくて。

 

 

 

 

「お兄さん、今日の放課後は――――」

「悪い、スズカ。そろそろNHKマイルがあるから、グラスの練習をみないと。後、最近走りすぎだから今日は休養日な」

 

 

 

 

 ………。

 正直なところ、働いているお兄さんは好き。いつも頑張っているし、真剣な横顔や、仕事中に目が合った時のちょっと「仕方ないなぁ」という顔も好き。

 

 でもそれを我慢できるかというと――――。

 

 

 

 

 

「お兄さ―――――んっ!?」

「代わりと言ってはアレだけど、明日の金曜の夕方からデートしよう」

 

 

 

 急に抱きしめられたかと思うと、耳元で囁かれる。

 おまけでそっと耳を撫でられると、この前の耳かきを思い出して顔が熱くなる。

 

 

 

「………お、お兄さんっ、イヤーキャップをしてる人は耳が敏感なんですよ…?」

「知ってる。というかワキちゃん前から耳弱かっただろ」

 

 

 

 そのまま耳に手を掛けたお兄さんから逃げ―――…なくてもいいかな。

 くすぐったいのは嫌だけれど、それはそれとしてあの心地よさには抗えなくて。

 

 

 

 

「……だから、その……もっと、優しくしてください」

「―――――えーとだな。よし、また今度な」

 

 

 

「お兄さんっ!?」

 

 

 

 逃げた!?

 そのままグラスのところに行ったお兄さんに、火照った頬とすごくドキドキしている心臓とともに放っておかれた私は、すごく釈然としない気持ちを抱えたまま、頬を膨らませてスぺちゃんに会いに行くことにしたのだった。

 

 

 

 

「あっ、スズカさーん! いらっしゃいー!」

「スぺちゃん!」

 

 

 

 ひしっ。

 体操服姿のスぺちゃんと抱き合うと、仄かに香るにんじんソース。……スぺちゃんらしいですね。なんとなくスぺちゃんも「スズカさんらしいですね」という顔をしていたのでスピカの皆に自慢しておく。

 

 

 

「昨日はお兄さんと寝る前にプロレス?したから、お兄さんの匂いがするでしょう?」

「……えっ!? プロレスしたんですか。いいなー、楽しそうですね!」

 

 

 

「へぇー、いいなー楽しそうじゃねぇか」

「そうね。もしやるなら絶対負けないけど」

 

 

 

「ツッコミ不在ですの!?」

「いやー、ちょっとアレは止められねぇわ……」

 

 

 

 お兄さんは擽ってきたり、負けそうになるとチューで気を逸らしてきたりするのでとっても卑怯だったり。最終的には寝技でお兄さんが降参したけれど。

 

 

 

 

 

「でもお兄さん、NHKマイルがあるからーってグラスばっかり……」

「えっ、普段はスズカさんのことばっかりのような…?」

 

 

 

「それは分かっているけれど……」

 

 

 

 仕事でもお兄さんが他の子のところにいるのは、やっぱり寂しくて。

 でもなんとなくここに来るのを知っていたような反応から考えて、スぺちゃんにあらかじめ話をしてくれていたらしいお兄さんに、ちょっぴり嬉しくなる。

 

 

 

「でもありがとう、スぺちゃん。お兄さんに聞いていたのよね」

「え゛っ」

 

 

 

「あーっ、そ、そうですわ! あらかじめスズカさんが寂しくないように、と!」

「おう、歓迎してやるぜ!」

 

「そ、そうそう! 全然怪しくなんてないからな!」

「も、ももももちろんよ!」

 

 

 

 ……?

 なんとなく隠し事をされているような気はするけれど、お兄さんの浮気に協力はしないと思うし…。

 

 

 

 

「と、ところでスズカさん! お兄さんがスズカさんにって部室にお菓子を用意してくれたんですよ! 手作りのいちご大福とか!」

「―――――行きましょう、スぺちゃん!」

 

 

 

 

 

 半分くらい本気でスタートダッシュを決め、スピカの部室へ。

 スぺちゃんのことだから残してくれているとは思うけれど、お兄さんの手作りお菓子だけは譲らない…!

 

 特別お兄さんのお菓子が上手というわけではないのだけれど。

 でもやっぱりお兄さんの手作りなら嬉しいし、食べれば分かる。そんなわけで絶対にいちご大福だけは一番たくさん食べるつもりだったのだけれど。

 

 

 

 

「いやあの、スズカさん? お兄さん、私たちにもたくさん用意してくれていますから…」

「そんなに焦らずとも……」

 

 

 

 でも、もしかしたら「このいちご大福美味しいですわ! これで決まりですわ! パクパクですわ!」とか「こんなおいしいいちご大福、あげません!」ってなるかもしれないし……。

 

 

 

「流石にそこまで野暮だったらアタシが蹴っ飛ばしてやっからよー」

「って、ゴールドシップさん!? その手の……いちご大福!?」

 

 

 

 言われてみれば、ゴールドシップ先輩もいちご大福を持っている。

 が、凝り性なお兄さんがいつも使っているいちごじゃなさそう。

 

 

 

「普通の市販品、ですよね?」

「………うわぁ。やべえぞスぺ、トレーナーガチ勢だ」

 

 

「最初から知ってますから、変な悪戯仕掛けないで下さいっ!?」

「ふふふ、スぺちゃん達も好きな人ができたら分かるわ」

 

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

(いや、分かると思うか?)

(無理じゃないかなーと)

 

(そんなになるのスズカ先輩くらいでしょ)

(だよなぁ)

 

 

 

 

「そういやトレーナーの初恋っていつなんだろうな」

「………はつ、こい」

 

 

 

 

 

 ちょっと待って。

 確かに私は小さい頃、お兄さんが中学生、高校生の時は離れ離れの時間がけっこうあった。

 つまり、実はお兄さんには好きな人がいた可能性が――――?

 

 

 

 

「――――ちょっとお兄さんに聞いてきます」

「「「!?」」」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さいまし! 今は――――」

「は、はい! ちょっと待って下さいスズカさん!」

 

 

「?」

 

 

 

 

 何故か引き止められると、猛烈にお兄さんに会いたくなってくる。

 もしかしてお兄さん、何か企んで――――。

 

 

 

 

「あ。そうだ、お菓子のお返しくらいはあった方がいんじゃねーの」

 

 

 

 

 

 

 と、ゴールドシップ先輩の言葉にちょっと眉を顰める。

 確かに、いちご大福のお礼は用意したい。せっかくだからお兄さんには喜んで欲しいし、ならお兄さんの好物を作るしかない。

 

 

 

 

「――――ちょっとパイを焼きます。生地から作らないと…」

 

 

「すごい本格的…!?」

「材料の用意は手伝いますわ」

 

 

「スズカ先輩ってけっこう凝り性なんだな…」

「きっと集中力があるのよ。ウオッカと違って」

 

 

「なんだとぉ!?」

「なによ!?」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 そんなこんなでアップルパイを焼いて、お兄さんに振る舞い。

 喜んでくれたお兄さんに満足して色々と忘れた次の日――――の、放課後。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――デート…!」

 

 

 

 

 そう、今日はなぜかデートの日…!

 お兄さんが(特に何のご褒美でもなく)誘ってくれるのはかなり珍しい。

 

 こんな時のために義母さんと新調したお出かけ着を着て、お化粧もいつもより真剣に。

 しっかり準備して家を出ると―――既にお兄さんが車で待っていて。

 

 

 

 

「………お兄さん?」

「スズカ、今日は一段と綺麗だな」

 

 

 

「………」

「あれ、スズカ?」

 

 

 

 

 

 一段と綺麗……?

 褒められたらしい、と認識するのに若干の時間がかかってしまった。

 

 新手の意地悪だろうか、と疑いつつも頬が熱くなる。

 

 

 

「お兄さんも、かっこいいですよ…?」

「ありがとう、スズカにそう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 

 

「…!? だ、誰ですか…!?」

「いや、スズカが間違えるわけないだろ……」

 

 

 

 それはそうですけど…! 

 匂いもお兄さんだし、ちょっと困った時の笑い方もお兄さん。

 

 だけど、なんだかその……。

 

 

 

 

「お兄さんが恥ずかしがらない…!?」

「お前にだけは言われたくないんだよなぁ……でもほら、恥ずかしがるスズカを見るのは正直楽しい」

 

 

 

「……おにーいーさんっ!」

 

 

 

 お兄さんのことは大好きだけれど、意地悪なのは……あんまり好きじゃない。

 でもなんとなく、お兄さんらしいな、とは思う。

 

 

 

 ………お兄さんが意地悪なの、私にだけですし。

 というか、お兄さんもけっこう私のこと大好きですよね…?

 

 なんとなくじとーっとした目を向けると、お兄さんはおもむろに手を伸ばして。

 

 

 

 

 

「じゃあ、行こうかスズカ」

「……はい」

 

 

 

 

 何気なく手を繋いでくれるお兄さんに、いつもこうしてくれたらいいのに、と思いつつ。車に乗って何故か学園へ。

 

 

 

「忘れ物を取りにな」

「……珍しいですね?」

 

 

 

 お兄さんでも忘れ物するんだ、とちょっと新鮮な気持ちで、二人で部室に入り。その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「お誕生日、おめでとーう!」」」」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 パンパンパン、とクラッカーが鳴り響く。

 思わずお兄さんの背後に全力で隠れてしまい、横からこっそりのぞくと、スぺちゃん、グラス、テイオー、タイキ、フクキタル、ドーベル、ブライト、スピカの皆と見知った顔の友人たち。

 

 壁を中心にしっかり飾り付けられていて。

 机には大きなケーキもおかれて、ちょっと癖のあるお兄さんの字で『スズカ、誕生日おめでとう』と書かれていて。

 

 

 

「さあさあスズカさん、どうぞ!」

「こちら、プレゼントですっ!」

 

「おめでとー!」

「おめでとうございます」

 

「おめでとう」

「おめでとうございます~」

 

「おめでとうございますわ」

「おめっとー」

 

「「おめでとうございます」」

 

 

 

 

 

「……お兄さん」

「どうした?」

 

 

 

 

 

 やりきった顔で眺めているお兄さんに抱き着いて、初めて私から―――起きてる時にはだけれど―――チューする。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。大好きですっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――帰り道。車が止まったのは家の前じゃなくて。

 

 

 

 

 

 トレセン学園の近くにある、ランニングコースにもなっている小高い丘の上だった。

 星空の代わりに輝く、無数の建物の灯り。

 

 

 

 

 

「本当は、もっと高級なところにしようかと思ったんだけどな――――なんというか、こっちの方が俺たちらしいかな」

 

「……お兄さん?」

 

 

 

 

 どうしたんだろう、と思ったところで大きくため息を吐かれた。

 

 

 

「お前、気づいてなかったのか……」

「え、何をですか? ……今日あんまり走ってない、とか…?」

 

 

 

「もちろん違う」

「むぅ」

 

 

 

 なんとなく悔しい。

 なんだか小動物でも見るような目で見られるけれど、私はもっと、こう……お兄さんをドキドキさせたいのに。

 

 

 

 

 

「じゃあ、お兄さんが私を大好きなこと…?」

「なわけ――――あるけど」

 

 

 

 

「……え?」

「スズカ、これが俺からの誕生日プレゼント―――俺の気持ちだ」

 

 

 

 

 

 小さな箱。

 そこに光る緑の石と、銀色の指輪。

 

 すごく綺麗で、もっとよく見たいのに。

 どうしてか視界が滲んでよく見えなくて。

 

 

 

 

 

 

「………泣くなよ」

「……………だって」

 

 

 

 あんまりにも普段と変わらなくて、夢だったんじゃないかなって。

 そんな風に怖くなることもあって。お兄さんのことだから、意地悪でいつまでも引き延ばしたりしそうですし…。

 

 

 

 

「……待たせすぎだと思います」

「ごめん」

 

 

 

 

「――――でも、大好きです」

 

 

 

 

 

 これが、私の欲しかった景色。

 一緒に走り抜けて、私たちの走りを皆に認めて貰って。

 

 誰よりも傍で、一緒に歩んでいきたいから。

 

 

 

 

「……結婚式のチュー、楽しみにしてますね」

「…………結婚式は、BCの後かなー。JCか有マ、どっちか出てくれって頼まれそうだけど」

 

 

 

 

 

………あれ?

 

 

 

 

 

「お兄さん、もう結婚ですよね?」

「……スズカ、これ婚約指輪」

 

 

 

 

「……? 結婚指輪ですよね?」

「だから婚約指輪」

 

 

 

 

 こん、やく?

 あれ、この前告白してもらって、婚約したような?

 指輪渡してなかったから、これだけくれたの…?

 

 

 

「――――どうして結婚してくれないんですか!?」

「お前が生徒だからだけど…」

 

 

 

 うそでしょ……お兄さんに騙された!?

 

 

 

「じゃあ私生徒やめます」

「辞めるな。レース走るんだろ」

 

 

 

「私の将来の夢はお兄さんのお嫁さんなので、レースなんて知らないです」

「俺たちの夢だろ、レースは」

 

 

 

 

 

 

 

 お兄さんに抱きしめられる。

 チューくらいじゃ譲らないですよ、とお兄さんを睨んで――――。

 

 

 そう、それこそいっぱい、ずうっとチューしてくれないと。

 そんな気持ちでいたのだけれど。

 

 

 

 

 

 唇が合わさった時、そのまま舌が入ってくる。

 目を白黒させている間に、いいように弄ばれて――――でもお兄さんをこれまでにないくらいに感じられて、気持ちよくて。頭がぽわぽわしたまま、お兄さんに優しく頭を撫でられた。

 

 

 

「…………へふぇ」

「スズカ、レース頑張ろうな?」

 

 

 

「………ふぁい」

「結婚式、今年の冬な」

 

 

 

「………はい」

「じゃあ明日からも練習頑張ろうな」

 

 

 

「……あの。もう一回……チューして下さい」

「ダメ」

 

 

 

 

 

 

 

 うそでしょ……。

 その後、どんなに強請ってもお兄さんはさっきのチューはしてくれなくて。

 でも、左手の薬指の指輪を見ると、自然と笑みが浮かぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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東京優駿 / 黄金世代

 

 

 

 

 

 

 

「――――スズカ、出遅れしないためにはどうすればいいかな」

「………その、私の場合は一番前に出たいなーと思っていると自然と……」

 

 

 

 まあ確かに。

 スズカの凄いところはスタートが抜群に上手いところか。

 

 仮にあの脚があってもスタート下手だと逃げられないだろうし。

 ……ツインターボとかも加速が遅いので徐々に加速していくタイプだったりするが、スズカはそんなこともないし。

 

 

 

 

「グラスのなー、出遅れがなくなると助かるんだけどなー」

「………」

 

 

 

 チラッ、とスズカを見るとスズカは眉根を寄せて少し考えている様子。

 

 

 

「多分ですけど、無理なんじゃ…?」

「……まあね」

 

 

 

 

 そう簡単に欠点が治るなら苦労はない。

 ゴルシもそうだが、ゲート難はゲート難。そのせいで脚質が限定されることもままあるので、長所を伸ばした方が確実なんだが……。

 

 

 しかし、エルコンドルパサーに勝つにはそれしかない。

 あのレベルの戦いになってしまうと、出遅れが致命的になる。

 

 

 

「頼む、スズカ。ダメ元でもいいから一回見てくれ」

「………私、教えるのはあまり……」

 

 

 

 ……だろうね!

 嫌というより純粋に不安そうなスズカである。

 

 

 

「でもスズカが俺の知る限りでは一番スタート上手いし……」

「…そ、そうですか…? でも……」

 

 

 

 

 ちょっと嬉しそうなスズカだが、それでも頷いてはくれない。

 ……仕方ないか。

 

 

 

「じゃあグラスがダービーで出遅れしなかったらご褒美一回で」

「―――! じゃ、じゃあこの前のチュー……してください」

 

 

 

 

 

 ……フレンチキスしろと!?

 もうなんか鋼の意志(笑)みたいになっているのでやめて欲しいのだが。グラスのダービーのため……半分くらいそれを言い訳に俺がしたいだけのような気もするけれど。

 

 

 

「出遅れなかったらな」

「………とりあえず、ゲートの貸し出し手続きお願いします」

 

 

 

 

 

 そんなわけで、スズカによるスタート講座が始まったのだった。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「――――間違っているかもしれないですけど、グラスはやっぱりその……闘志がありすぎるような?」

「それは……そうかもしれません」

 

 

 

 

 何度かゲートをやってみて、スズカの出した結論はそれだった。

 興奮状態のウマ娘の視野が狭くなったり、注意が向かなくなるのは割とよくある話。

 

 

 

 

「なので、まず頭をからっぽにします」

「………えーと、どうしましょうか…?」

 

 

 

「私の場合は、お兄さんの匂いを感じたりとか……」

 

 

 

 流石にそれはグラスには真似できないだろ…。

 と、思ったのでスズカの提案でグラスの好きそうなもの――――抹茶をとりあえず用意。

 

 ゲートで茶をしばくというゴルシばりの奇天烈な練習になってしまったが、とりあえず落ち着きは得られた。

 

 

 

「じゃあ、今度はこれで領域を出します」

「…………すみません、もう一度お願いします」

 

 

 

「今度はお茶で領域を出しましょう」

「………???」

 

 

 

 

 あっ、そういえばこの子天才肌だったわ……。

 スタート、できる。雪に突っ込んだら薙ぎ払うパワーもある。そもそものスピードも速いしスタミナもあるし、根性もある。息の入れ方も芸術的だし、苦手なのは掛からないことくらいで、それも大逃げしてる分には折り合いがつけられる。

 

 

 

 

「そもそも、私の一番目の領域は誰もいない私だけの景色への想いを力にしているんですが………二つ目の領域は、お兄さんへの想いを力にしています」

 

「………」

 

 

 

 真面目な話のはずなのにどんな顔すればいいんだこれ…。

 グラスも完全に困惑顔である。

 

 

 

「一番にお兄さんのところまでたどり着けるようにスタートしますし、お兄さんとの景色を邪魔されないように引き離すための領域です」

 

 

 

 

 誰よりも速く走りたいし、それに重ねて勝ちたい理由があるからもっと速い、ということらしい。真顔で大好きアピールされると流石に照れ臭いんだけど。

 

 

 

 

「グラスの今の領域は未完成ですが薙刀なので……強敵に……ライバルに勝ちたい……とか?」

「―――…そう、ですね。きっと、そうだと思います」

 

 

 

「では、勝負の前にはお茶を飲んで心を落ち着けてください」

「…………は、い?」

 

 

 

 

 

 なんとなく理解できてそうなような、いないような…。

 スズカはちょっと悩んだ末、グラスにゲートに入るように促した。

 

 

 

「……ちょっとお手本を見せますね。お兄さんもゲートに入ってみてください」

「お願いいたします」

 

「俺も見えるかなぁ…?」

 

 

 

 

 流石に無理では? と思うが一応ゲートイン。

 思ったより狭いなーと思いつつ端末の遠隔操作でゲートを開き――――。

 

 

 

 

 

――――瞬間、何か濃厚なチューをしているスズカが脳裏を過った。

 

 

 

 

「ぶっは!?」

「!?」

 

「こんな感じです」

 

 

 

 

 テロい……。こんなの見せられて冷静にスタートするのは無理すぎる…。

 

 

 

 

「やり方は……えっと、それにとにかく集中すること、ですね。領域で周囲をのみ込むには自分に意識を向けさせないといけないですが……」

 

 

 

 

 

 どんだけチューしたいんだ。

 尻尾をばっさんばっさんしているスズカはまあさておいて、あんまりあっさりやられたので、真面目にゲートでお茶を飲み始めたグラス。

 

 

 

 

「効果は……私のやる気が出ます」

 

 

 

 いや多分これ周りを出遅れさせる効果だろ……。

 エアグルーヴとかルドルフとかにぶつけたらどんな反応になるのかは正直見たい。

 

 

 

 

「とはいえ、適当にやっただけなので私とお兄さんのことを知らない人には多分違和感がある程度ですよ?」

 

「……へ、へぇ」

 

 

 

 

 知ってるからこそ、か。

 言われてみれば知ってるウマ娘―――スズカの領域ははっきり見えるし、スぺちゃんとかグラスもまあ分かる。が、過去のシンザンのレース映像とか見ても「なんか領域出た?」くらいにしか分からない。

 

 つまり俺とスズカの関係を知ってる相手にだけ発動するテロ攻撃……知ってたら余計に効果高そうだな…。

 

 

 

 

 

「とはいえ、グラスは普段はおっとりした大和撫子なわけですし」

「領域にするだけの下地はある、のか…」

 

 

 

 自分の長所を領域にするのではなく、普段の自分らしさを領域で引き出す。

 最大の力を発揮するためのルーティーンとしてはどちらも正しいということだと思う。

 

 

 

 

「……とりあえず、やってみるか」

「―――はい」

 

 

 

 

 半信半疑。でもまあスズカにはできるわけで……。

 とにかくやってみることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあ東京優駿、日本ダービーのファンファーレです!』

 

 

 

 来てしまった……。

 皐月賞を終え、約1月。

 

 領域で何やら遊んでいたスズカと対照的に、グラスの領域は難航した。練習ではかなりの確率で発動できるのだが、スズカに言わせると「切っ掛け」が足りないとかなんとか。要は発動条件が曖昧すぎてダメということだろうか。

 

 

 

 

『さあ、1枠2番キングヘイロー! ここまで6戦3勝、皐月賞では惜しくも2着でしたが、その力は誰もが認めるところです! 4番人気です!』

 

 

 

 史実では(鞍上が)掛かって逃げてしまい着外に沈んだキングヘイロー。

 遠目に見ても入れ込みすぎているように見えてしまうのは先入観からだろうか。

 

 

 

 

『注目の3枠5番、1番人気、スペシャルウィーク! 皐月賞では同着の2着となりましたがこの日のために厳しいトレーニングを積んできたと陣営も自信アリ!』

 

 

 

 観客席からでも気迫を纏っているように見えるスペシャルウィークに、隣のスズカも少し楽しそうな雰囲気。やっぱり運命的な何かはあるのだろうか。

 

 

 

「お兄さん、スぺちゃん気合が入ってますね」

「スズカはスぺちゃん応援か?」

 

 

 

「うーん、そうですね……同じチームとしてグラスは応援したいですけど――――」

 

 

 

 ちょっと迷うような仕草を見せつつも、スズカは言った。

 

 

 

「お兄さんに応援してもらうのは羨ましいので」

「……お前な」

 

 

 

 

 ふんす、と拗ねたようなスズカだが、なんやかんやでグラスも応援してくれているのは知っている。あんまり関わりのないエルコンドルパサーには同じリギルでも思い入れがなさそうだが。

 

 

 

 

「………うまぴょい伝説の時、『俺のスズカが』って言ってくれてもいいんですよ?」

「どうした急に」

 

 

 

 ご本人様から妙な許可が……てかそれ公開告白では?

 嫌だぞ、世界三大恥ずかしい告白にカウントされたりしたら。

 

 

 

『4枠6番、セイウンスカイ! 5番人気です! 皐月賞ウマ娘ですが、この人気が展開にどう影響するのか!? 今日もやはり逃げるのか、彼女の作戦にも注目です!』

 

 

 

 

 皐月賞勝ったのに5番人気――――セイウンスカイの実力どうこうも無くはないのかもしれないが、逃げでのダービー不利という考えはやはり根強いのかもしれない。ネットで見たらスズカは例外、または怪物扱いだし。

 静かに闘志を燃やすセイウンスカイは十分に調子が良いように見える。が、それでも人気上位にならないのに納得してしまうくらいには明らかに面子がおかしい。

 

 

 

 

『7枠15番、エルコンドルパサー! NHKマイルカップで鮮烈な勝利を飾り、勢いのままにダービーに挑みます! 2番人気です!』

 

 

 

 手を振って現れるエルコンドルパサー。

 不敵な笑みに相応しい、ただならぬ気配。サイレンススズカ亡き後、国内に敵なしと宣言し、国内レースを走らずに年度代表馬になった“彼”の魂を受け継いだだけのことはあるのだろう。

 

 

 

 

『8枠16番、昨年のジュニアチャンピオン、グラスワンダー! 先日は惜しくもエルコンドルパサーの二着となりましたが、ここダービーで再起を誓います! 3番人気です!』

 

 

 

 

『さあ、早くも“黄金世代”との呼び声も聞こえ始めた彼女たち。スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイロー。今年のダービーは誰が勝つのか全く分かりません!』

『これほどメンバーの揃ったレースは、ダービーであってもそうはないでしょう。果たして夢を叶えるのは誰になるのか、注目です』

 

 

 

 

「グラス、集中できているみたいですね」

「だな」

 

 

 

 

 最早半ば祈る領域。

 ダービーのスペシャルウィークは強い。とにかく強い。

 某レジェンドのダービージョッキーへの執念が宿っているのではないかと思わせるその気迫、仕上がり、断じて容易い相手ではない。

 

 

 が、ダービーと春の天皇賞、ジャパンカップにすら勝利したスペシャルウィークが苦手としたのがグラスワンダー。エルコンドルパサーだけでも容易い相手ではないのに、そこにグラスも加わると軽くイジメな気もするが―――。

 

 

 

 

 

『さあ2400メートル彼方、栄光はただ一つ! 日本ダービー、今スタートです!』

 

 

 

 

 まずまず揃ったスタート。

 出遅れずに飛び出したグラスワンダー――――その領域、正座したグラスがお茶をしばくシュールなものに、エルコンドルパサーが若干笑いのツボに入ったのか微妙に出遅れたもののすぐに立て直す。

 

 

 

 

『誰が行くのか、セイウンスカイは無理にはいかないか! 内からキングヘイロー! キングヘイローが行った! なんとここで逃げますキングヘイロー!』

 

 

 

 

 掛かってしまったのかというくらいの勢いで逃げるキングヘイローに、少しやりにくそうにしながらも控えるセイウンスカイ。皐月賞でも途中まではハナを譲っていた以上は控えるのもできないわけではないと思われるが、やはり得意のトリックは活かしにくいのかもしれない。

 

 

 

 

 

『スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダーは中団! エルコンドルパサーの背後をグラスワンダーがぴったりとマークしている!』

 

 

 

 

 

 スペシャルウィークとエルコンドルパサー、どちらをマークするのか――――正直強さ的にはどちらでもいいのだが、スペシャルウィークの枠順が内であり、エルコンドルパサーが外である以上は実質的に一択。

 

 オーラを漲らせて背後に陣取るグラスワンダーに、エルコンドルパサーの笑みも若干引きつって見える。

 

 

 

 

(ちょっ、グラス!? ――――いきなり笑わせてきたり、容赦なさすぎデス!?)

(エルが強敵なのは分かっています。だからこそ―――――全力で行きます。そして、スぺちゃん、貴女にも勝たせてもらいます)

 

 

 

 

(……とはいえ、これは)

(スローペース、ですね)

 

 

 

 

 

「――――キング逃げ上手くね?」

 

 

 

 

 綺麗に超スローペースに落とし込んでいる。

 これで逃げ向きの勝負根性があれば展開は完璧では。残念ながらウマソウルの方のキングヘイローは逃げに向いてないみたいだけど。

 

 

 

 

「そう、ですね…?」

 

 

 

 

 頭サイレンススズカなスズカには難しすぎたのか、微妙な顔。たぶん「せっかく気持ちよく逃げるチャンスなのに…」とか考えていそうである。

 とはいえこのままではセイウンスカイの思うツボ。そう考えたらしいエルコンドルパサーがペースを上げた。

 

 

 

『ゆったりとしたペース、なんというスローペースでしょうか。キングヘイロー逃げています、何処で仕掛けるのかセイウンスカイ! 第三コーナーを回ってエルコンドルパサーが早めに仕掛けた! その背後にぴったりとグラスワンダー! スペシャルウィークも上手く外に出た!』

 

 

 

 

 

 第四コーナーでキングヘイローにセイウンスカイが並びかけ――――抜き去った瞬間。

 

 

 

 

(――――くっ、そんな!?)

(悪いけど、貰っていくよ――――)

 

 

 

 

 

 

――――――『アングリング×スキーミング』

 

 

 

 

 

 領域――――ダービーという大物に釣り針をかけ、今まさに釣り上げんとするセイウンスカイの小舟。それを、煽るように強烈な突風が吹き荒れる。

 

 巨大な鳥――――コンドルが、優雅に、しかし力強く飛んでいく。

 飛翔するコンドルを胸に宿し、更なる加速を見せるエルコンドルパサーがセイウンスカイの領域を塗りつぶさんばかりに先頭を奪いとる。

 

 

 

 

『さあセイウンスカイがキングヘイローを捉えた――――外からエルコンドルパサー! エルコンドルパサー先頭に立つ!』

 

 

 

 

 

(―――――高く、もっと高く――――どこまでも! エルが世界最強デース!)

 

 

 

 

――――『El Condor Pasa』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さすがですね、エル――――ですがこの勝負――――勝ちます!)

 

 

 

 

――――『精神一到何事か成らざらん』

 

 

 

 

 薙刀のような、必殺の意志と末脚の切れ味でグラスが一気にエルコンドルパサーに並びかける。

 

 

 

 

『グラスワンダーだ! グラスワンダーが更に外からエルコンドルパサーに並びかける! 両者どちらも譲らない! ――――内からスペシャル! スペシャルウィーク! 一気に上がってくる!』

 

 

 

 

 

 

(来ると思っていましたよ、グラス――――けど! 勝つのは私デス!)

 

 

 

 

―――――『プランチャ☆ガナドール』

 

 

 

 

 

 今度はプロレス。ネットを使って更に高く飛翔するエルコンドルパサーの領域とともに、エルコンドルパサーがグラスをじりじりと引き離す。

 

 

 

 

(――――まだです!)

(っ!?)

 

 

 

 

 だが、グラスの根性――――追い比べでの底力は並ではない。

 領域を重ね掛けしたエルコンドルパサーの速さでも引き離せない執念の走りで、半バ身もない差のまま高低差のある200mの坂に差し掛かり――――。

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 スペシャルウィークの目には、半ば力尽きて沈みながらも顔を上げないキングヘイローの姿が見えていた。領域を吹き飛ばされてもなお走るセイウンスカイの姿が見えていた。

 強い、と素直に想う。

 

 

 みんなが夢を諦めたくなくて、最後の一瞬まで全力で駆け抜けている。

 なんのために走るのか――――二人のお母ちゃんのため、スピカの皆のため、憧れのスズカさんに追いつくため。

 

 

 理由は沢山あって、でもそのどれもが正しいとトレーナーさんは言ってくれた。

 

 

 

 

『理由なんて、いくつあってもいいだろ。―――スズカなんて何の理由で走ってても不思議じゃあないしな。あとゴルシ』

 

 

 

 

 

 

――――勝ちたい。ダービーで。

 

 

 スズカさんに憧れ、日本一という称号に近いだろうこの特別なレースで。

 他のどのレースより、全ての他の勝星よりも手に入れたいのだと誰かが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 けれど、遠い。

 

 

 抜け出したと思った先、遥か前方で競り合うエルちゃん、グラスちゃんに本当に追いつけるか―――疑問が、絶望が心を包みそうになる。

 なんとか闘志を奮い立たせるために顔を上げた先、前方の二人の更にその先で―――ゴールでこちらを見つめるスズカさんと目が合った気がした。

 

 

 

 

 

「――――スぺちゃん」

 

 

 

 

 

 追いつきたい――――。

 今はまだ叶わなくとも。あんな風に、誰かに夢を与えられる走りを! 私がそうしてもらったように、私もスズカさんのようになりたい…!

 

 

 

 

(私たちの……お母ちゃん達と、私の夢――――日本一のウマ娘……このレース……この勝負だけは―――――)

 

 

 

 

 

 

 

―――――星が流れる。

 

 

 

 

 夢を叶える流れ星か、あるいは夢そのものか。

 流れ星を見上げ、勝利を誓うスペシャルウィーク――――その本来の領域が“変わる”。

 

 

 

 憧れるだけだった自分から、夢に向かって―――夢と共に駆け抜ける姿に。

 

 

 

 

 

―――――『シューティングスター』

―――――『日本■■■』

 

 

 

 

 

 

『内からスペシャルウィーク! スペシャルウィーク猛烈な追い上げ! エルコンドルパサー先頭だがグラスワンダー一歩も譲らない! エルコンドルパサー! グラスワンダー! スペシャルウィーク! スペシャルウィーク追いすがる! 残り200!』

 

 

 

 

 

「ま、だだぁぁあ――――ッ!」

「ゃあああああっ!」

「――――――はぁあああああっ!」

 

 

 

 

『エルコンドルパサー粘っている! エルコンドルパサー! エルコンドルパサーか!? だがスペシャルウィーク残り半バ身で並――――ばない! スペシャルウィークあっという間に交わした! スペシャルウィーク! スペシャルウィークだ!』

 

 

 

 

 

『夢を叶えたスペシャルウィーク! 此処に新たなダービーウマ娘の誕生です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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宝塚記念

 

 

 

 

 

「――――宝塚かぁ」

 

 

 

 春の三冠、その最後のグランプリ。

 元々、サイレンススズカが唯一勝ち取ったGⅠの勝ち星でもある。

 

 そんなこともあってか、やる気も漲るスズカなのだが…。

 人のベッドに勝手に潜りこんで、ブライトに勧められたらしい透けそうなネグリジェで甘えてくるのはテロでは?

 

 

 

 

「………お兄さん?」

「いや、まあ、なんだかな……」

 

 

 

 本来は騎手に先約があったことで変更になり、大逃げではなく通常の逃げでの勝利になった宝塚記念。そこはかとなく出走回避させたい気がするのは、そのへんの影響なのだろうか。俺が拒否したらおハナさんに頼んで勝手に出走する、とか。代わりにエアグルーヴの面倒を見ることになる的な。

 

 史実ルートならほぼ怪我の心配もいらなさそうだが、そもそもそんなルートが本当にあるのか定かでないし、あったとしてそのルートの最期に待っているのはアレなわけで。

 

 

 

 

「―――大丈夫ですよ。私、勝ってきますから」

「負ける心配はあんまりしてないが…」

 

 

 

 

 史実、覚醒後の負け筋ってつまりアレだけだし…。

 想いの力で乗り越えられると思うのだけれど、確証はないし。

 

 

 

 

「……お兄さん、私、ドバイからレースに出てないんですよ?」

「うん」

 

 

 

 約3カ月。

 春の天皇賞(メジロブライトが勝った)も出れば勝ち負けできただろうし、安田記念(タイキシャトルが出る)も回避した。

 

 とはいえ不機嫌というわけでもなく、大好きなお菓子を買ってくれるのを楽しみにするような顔でスズカは言った。

 

 

 

「―――――出走しないなら、いっっっぱいチューして下さいね? 1Rから宝塚記念が終わるまでくらいで」

「俺の理性が死ぬからマジで止めろ」

 

 

 

 

 コイツ一回男の恐ろしさを思い知らせた方が……いや、余計な知識を与えると何をしでかすか分からないから止めよう。というか親がちゃんと性教育もしてくれるべきでは?

 ……手取り足取り教えろとか、裸で抱き着けば教えてくれるとか吹き込まれて実行しそうだな!

 

 

 

 

 

「……でもまあ、出走かなぁ……」

「はいっ」

 

 

 

 スッ、と手を挙げたスズカに目を向けると、キラキラした目で言った。

 

 

 

「ご褒美のチュー、楽しみです」

「……どっちもキスじゃねーか!?」

 

 

 

「負けたら慰めてくださいね?」

「無敵かお前は……」

 

 

 

 でも慰めるっていうと別の意味にも聞こえるから止めよう。

 

 

 

「お兄さんがいてくれれば、無敵かもしれないです」

「……そっか」

 

 

 

 俺も、グラスを勝たせてやりたかったな。

 スぺちゃんが勝つのは知ってたんだし、スぺちゃんをマーク……いや、内枠だから流石に厳しいし、エルを放置したらそれこそ勝ち目がない。

 

 とりあえず悔しさのあまりオーバーワークしないように水泳とゲート対策の精神統一(という名の強制休息)で調整させているが、次に挑むとすれば……秋天かな。

 まさかスズカの代わりに怪我するなんてこともないだろうが、グラスなら十分に勝利を狙えるはず。菊花賞は流石に長いし…。

 

 

 

 

 と、さっきから密着していたスズカに、いつの間にか頭を抱き寄せられる。

 

 

 

「……お兄さんも、ちょっと頑張りすぎです」

「お前にだけは言われたくないけどな」

 

 

 

 放っておいたらずっと走ってるし、泳ぎでも砂のトレーニングでも、嫌な顔一つせずにやり抜く。テイオーは割と天才肌で練習大好きなわけではないし。

 

 

 

「でもお兄さん」

「……ん-?」

 

 

「こうしてのんびりしてる時まで、他の人のことばかり考えてると嫌です」

「………そっか」

 

 

 

 

 嫉妬!?

 スズカも怒っているというよりは、どこか困ったような顔で腕を回し―――抱き寄せられると、必然的にスズカの胸と顔が密着するわけで。

 

 

 

「……スズカー?」

「お兄さん、ちょっとくすぐったいです」

 

 

 

 

 しゃべるなと申すか。

 そのままどこかのスーパークリークみたいに頭を撫でられる。

 

 

 

「よしよし……こんな感じですか?」

「お前にやられると違和感が凄い」

 

 

 

「うそでしょ…」

「だってお前、何回寝かしつけてやったと思ってるんだ」

 

 

 

 ワキちゃん母が入院している時とか、いつだって安心して眠れるように頭を撫でてやった。不満そうなスズカを優しく抱いてやり、頭と耳の付け根を撫でてやるとそのまま安心したようにふにゃふにゃと脱力していく。

 

 

 

 

「………ぅー、お兄さんはやっぱりズルいです……」

「そのだらしない顔をなんとかしてから言え」

 

 

 

 

 そもそも寂しがり屋の甘えん坊なのになぜ勝てると思ったのか。

 と、耳がへにょったままではあるが、スズカも誘惑を断ち切ろうとしながら(ただし頭を擦りつけて甘えているので全く説得力はない)言った。

 

 

 

 

「……私だって、お兄さんに色々してあげたいんです」

「十分すぎるけどな」

 

 

 

 いつも夢を見させてもらってるし、手料理をふるまってくれたり、甘えてきたりするのも可愛いし、実のところスズカがいないと安眠できないことも発覚してしまったし。

 が、スズカはジト目でこちらを見ながら言った。

 

 

 

「でもお兄さん、メイショウドトウさんとか、スーパークリークさんとかがいるとおっぱいに目が行ってますし」

「…………男だからな!」

 

 

 

 開き直ると、スズカは自分の胸のあたりを見つめながら声を絞り出した。

 

 

 

「………私だって無いわけじゃないのに」

「さーて、宝塚の情報でも調べるかなー」

 

 

 

 

「……その、お兄さん、触ってもいいんですよ?」

「おっ、やっぱりスズカが一番人気かー」

 

 

 

「……うそでしょ、全く興味持たれてない……」

 

 

 

 

 興味はあるけど、見えてる地雷だし…。

 そのまま勢いで行くところまで行って逮捕される未来が見える……いや、親公認の婚約者だけれども。

 

 

 

「お兄さん、これはどうですか?」

 

 

 

 スッ、と生足をこちらに絡めてくるスズカであるが、ついーっと指で擽ると堪らず逃げた。

 

 

 

「ふひゃぁっ?! おーにーいーさんっ!」

「大人しくしないと尻叩くぞ」

 

 

 

「こ、この歳でそれは流石に恥ずかしいですよ…!?」

 

 

 

 

 じゃあ大人しくしていてほしいところ。

 マジで後々結婚でもしたら覚えとけよお前……。

 

 とりあえずスズカをスルーするためネットに集中する。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

【無敗六冠】サイレンススズカ(達)を応援するスレ【宝塚】

 

 

1:名無しの逃亡者

このスレは無敗六冠のサイレンススズカさん(とお兄さん)を応援するスレです。

(お兄さん)アンチは別スレに

 

 

2:名無しの逃亡者

とりあえず宝塚の人気順

1:サイレンススズカ

2:エアグルーヴ

3:サニーブライアン

4:メジロブライト

5:シルクジャスト

6:メジロドーベル

7:マチカネフクキタル

8:タイキシャトル

9:スペシャルウィーク

10:ローゼンカナリー

 

 

3:名無しの逃亡者

っぱ圧倒的だなー

 

 

4:名無しの逃亡者

この面子だと負ける気しないしな。でもダービーのスペシャルウィークは確かに強かったので今後に期待

 

 

5:名無しの逃亡者

エルコンドルパサーだってグラスワンダーにあれだけマークされて2着だからな、強いぞ

 

 

6:名無しの逃亡者

そしてそれをタイム的にはぶっちぎるスズカさん。

大逃げの関係上、展開が関係ないからタイムがそのまま指標になるっていうね。

 

 

7:名無しの逃亡者

ワールドレコード保持者だからな

 

 

8:名無しの逃亡者

スズカさん陣営のコメント

『グランプリに選ばれたことは非常に光栄であり、海外挑戦の関係上、年末のグランプリへ出場できない可能性もありできるだけ宝塚記念には出走していきたい』とのこと

 

 

9:名無しの逃亡者

そっか、凱旋門行くんだもんな……寂しくなる

 

 

10:名無しの逃亡者

スズカさんいないと国内どうなるん? スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイローの黄金世代 VS タイキシャトル、メジロブライト、メジロドーベル、マチカネフクキタル、サニーブライアンって感じ?

 

 

11:名無しの逃亡者

>>10 黄金世代のこの強そうな感じがな。タイキシャトルはまあマイル最強としても、中距離でサニーブライアンにスペシャルウィークが勝てるのか

 

 

12:名無しの逃亡者

でもタイキシャトル相手でもエルコンドルパサーのNHKマイルの走りを見てると勝てる可能性はありそうだぞ

 

 

13:名無しの逃亡者

>>12レースに絶対はないからな。でも最強マイラーはタイキシャトル

 

 

14:名無しの逃亡者

お兄さん「1800ならスズカの方が速い」

 

 

15:名無しの逃亡者

何処でも湧いてくるお兄さんに芝

 

 

16:名無しの逃亡者

>>14そこまで言うなら安田記念で勝負しようぜ!

 

 

17:名無しの逃亡者

>>16それ1600だからな

 

 

18:名無しの逃亡者

1800 だと毎日王冠とか?

 

 

19:名無しの逃亡者

一応、チャンピオンズカップとかもあるぞ

 

 

20:名無しの逃亡者

>>19ダートじゃねーか

 

 

21:名無しの逃亡者

>>20少なくともタイキは走れる

 

 

22:名無しの逃亡者

【速報】スペシャルウィークは出走回避とのこと

 

23:名無しの逃亡者

でしょうね

 

24:名無しの逃亡者

まあ残当

 

25:名無しの逃亡者

流石に菊花賞があるのにサイレンススズカと戦うのはな…。

 

 

26:名無しの逃亡者

クリア前に裏ボスと戦うようなもんよな

 

 

27:名無しの逃亡者

でももしかすると国内での出走最後かもしれないのか…。

 

 

28:名無しの逃亡者

JCか有マのどっちかでもいいから出てくれないかな

 

 

29:名無しの逃亡者

月刊トゥインクルのインタビュー

【引退時期については考えていますか?】

お兄さん『今年いっぱいで考えています。大逃げという特殊な走り、本人の能力の高さに脚の負担が大きいため、より負担の少ないドリームトロフィーリーグへ移籍する予定です』

 

【引退レースについてはお考えですか?】

お兄さん『BCで引退……と、言いたいところですが本人の疲労と希望次第でもう1レースくらいは出れるかもしれませんが保証はありません』

 

【引退したら何かしたいことはありますか?】

スズカさん『そうですね……のんびり旅行とか…』

 

【海外挑戦への意気込みをお願い致します】

スズカさん『応援して下さる皆さんに少しでも良い走りをみせられるように頑張ります』

 

 

30:名無しの逃亡者

ウソだゾ。したいのはお兄さんと結婚式だゾ

 

 

31:名無しの逃亡者

その記事のスズカさん、写真で首から何か下げてね? ネックレス?

 

 

32:名無しの逃亡者

マ? あのスズカさんがアクセサリー……怪しい

 

 

33:名無しの逃亡者

ほんとだ、全く気付かなかった

 

 

34:名無しの逃亡者

自分で買うとも思えないし、誰かに貰うとすれば一択なんだよなぁ

 

 

35:名無しの逃亡者

お兄さんからの誕生日プレゼントじゃね?

 

 

36:名無しの逃亡者

中央のトレーナーって高給取りだろ? ネックレスだけか?

 

 

37:名無しの逃亡者

そっちの進捗も気になる。

 

 

38:名無しの逃亡者

ところでこの前のドキュメンタリー見た?

 

 

39:名無しの逃亡者

どこまで進んでるのやら

 

 

40:名無しの逃亡者

>>38 ああ!

 

41:名無しの逃亡者

>>38病気で倒れたお母さんの代わりに面倒見てくれたとはな……当時まだ学生だろ? すげーわ

 

 

42:名無しの逃亡者

なおついでにレースの指導もしちゃった模様

 

 

43:名無しの逃亡者

走りたいスズカさんと、トレーナーになりたいから経験を積みたいお兄さんが噛みあう奇跡

 

 

44:名無しの逃亡者

コネがないとロクに指導の経験積めないからトレーナーになるのが難しいとは知らなかった。

 

 

45:名無しの逃亡者

狭い業界だからな…ついでにメニューとかもあんまり気軽に公開してないし

 

 

46:名無しの逃亡者

そもそも一般人だとレース場以外でウマ娘と会ったことないとかもあるしな。

 

 

47:名無しの逃亡者

めちゃ可愛いからお近づきになりたいけど、みんなレースに夢中だしな

 

 

48:名無しの逃亡者

>>47ウマ娘より速く走れたらモテるらしいぞ

 

 

49:名無しの逃亡者

>>48出たな都市伝説

 

 

50:名無しの逃亡者

>>48電車より速く走れたら電車賃要らないみたいなもんだろw

 

 

51:名無しの逃亡者

というかそんなことしなくても売れっ子トレーナーは大体担当にモテてるしな…。

 

 

52:名無しの逃亡者

担当にモテるトレーナー例:

サイレンススズカ

タマモクロス

シンボリルドルフ

ライスシャワー

カレンチャン

エイシンフラッシュ

メジロドーベル

ほか      

 

 

53:名無しの逃亡者

遂にタマモクロス越えたか……早かったな

 

 

54:名無しの逃亡者

子どもまでいるタマちゃんより上なのは芝なんだ

 

 

55:名無しの逃亡者

ドリームトロフィーリーグ、結局オグリキャップと走ったらすぐ引退しちゃったからな。

 

 

56:名無しの逃亡者

まあでも、あんな感じで大好きアピールするスズカさんを必死に抑えてるのはなんとなく分かった

 

 

57:名無しの逃亡者

レースじゃ掛からない(掛かってるようにしか見えないけど)のにな

 

 

58:名無しの逃亡者

もう行くところまで行けよ、とじれったくなるのでアンチスレも止む無し

 

 

59:名無しの逃亡者

アンチ(穏健派) アンチ(発狂) アンチ(はよくっつけ)

の三派に分かれ、争っていた…。

 

 

60:名無しの逃亡者

彩ファンタジア歌ってほしいぞ

 

 

61:名無しの逃亡者

でも実際ドリームトロフィーリーグ移籍会見(結婚会見)でしょ

 

62:名無しの逃亡者

ウェディングドレス着てるし丁度いいな!

 

 

63:名無しの逃亡者

スズカさんの子どもとかめちゃ速そう

 

 

64:名無しの逃亡者

>>63それは正直見たい

 

 

65:名無しの逃亡者

でも引退は待って…。ドリームトロフィーリーグと、世界大会もあるし

 

 

66:名無しの逃亡者

WUC(世界ウマ娘チャンピオンシップ)か。

日本代表はやっぱりサイレンススズカかな。

短距離:サクラバクシンオー マイル:タイキシャトル 中距離:シンボリルドルフ 長距離:サイレンススズカ ダート:オグリキャップ

 

 

67:名無しの逃亡者

つっよ

 

68:名無しの逃亡者

でもシンボリルドルフでも世界大会は勝ててないからね?

 

 

69:名無しの逃亡者

ドバイで勝ったタイキシャトルとサイレンススズカがいるんだよなぁ…。

 

 

70:名無しの逃亡者

こうだろ

短距離:サクラバクシンオー マイル:サクラバクシンオー 中距離:サクラバクシンオー 長距離:サクラバクシンオー ダート:サクラバクシンオー

 

 

71:名無しの逃亡者

>>70 いじめかな?

 

 

72:名無しの逃亡者

こうでしょ

短距離:タイキシャトル マイル:サイレンススズカ 中距離:サイレンススズカ 長距離:サイレンススズカ ダート:サイレンススズカ

 

 

73:名無しの逃亡者

>>72短距離がタイキシャトルなあたりマジで行けそうで芝

 

 

74:名無しの逃亡者

>>72いや流石にダートは無理では?

 

 

75:名無しの逃亡者

お兄さんが凱旋門勝てたらアメリカのダートに殴りこむかもって

 

 

76:名無しの逃亡者

負けたら?

 

77:名無しの逃亡者

そしたらBCターフじゃね?

 

 

78:名無しの逃亡者

>>75そもそもアメリカのダートは土で、日本の砂とは違うからな

 

 

79:名無しの逃亡者

アメリカのダートとなると、シルバーチャームとかスキップアウェイとかかな

 

 

80:名無しの逃亡者

ちなみにスキップアウェイは去年のBCクラシック覇者

シルバーチャームは昨年の米二冠ウマ娘で、ドバイワールドカップで優勝した

 

 

81:名無しの逃亡者

芝でなら勝てるだろうけどな…。

 

 

82:名無しの逃亡者

アメリカの芝は日本のダートと同じでやや地味だからな…。

 

 

83:名無しの逃亡者

芝でもぶっちぎりで強いセクレタリアトさんってのがいてですね…。

 

 

84:名無しの逃亡者

まあ今は芝だと敵なしだろうから、いいのか…?

 

 

85:名無しの逃亡者

で、宝塚記念は?

 

 

86:名無しの逃亡者

スズカさんとサニブ、宿命の対決

スズカさんとエアグルーヴ、リギル対決

スズカさんとお兄さん、ご褒美対決

 

 

87:名無しの逃亡者

なんか変なの混じってる…。

 

 

88:名無しの逃亡者

スズカさん「お兄さん、ご褒美で結婚してください」

 

 

89:名無しの逃亡者

言いそう

 

90:名無しの逃亡者

結婚してそのままの勢いで凱旋門制覇しようぜ

 

 

91:名無しの逃亡者

婚約発表マダー?

 

92:名無しの逃亡者

凱旋門で結婚式か……借りられるのかな?

 

 

93:名無しの逃亡者

勝った後指輪渡して告白するのは?

 

 

94:名無しの逃亡者

レース展開は分かり切ってるからな。

今後の海外遠征に向けての調子の確認かな

 

 

95:名無しの逃亡者

リベンジに燃えるサニブには期待してる

 

 

96:名無しの逃亡者

女帝として、異次元さんはともかくサニブには負けないで欲しいところ

 

 

97:名無しの逃亡者

いやいやサニブ強いぞ。スズカ以外には負けないだろ

 

 

98:名無しの逃亡者

サニブがこうして強いって言われる日が来るとはな…。

 

 

99:名無しの逃亡者

ダービーも強かったし、有マ2着だしな

 

100:名無しの逃亡者

国内無敗のまま海外遠征してほしいけどな

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『エアグルーヴは果たしてサイレンススズカを捉えることができるのか。サイレンススズカはどこまで離して逃げるのか、サニーブライアンは果たして逃げるサイレンススズカとどう戦うのか』

 

 

 

 

 なんとなくこのウェディングドレス衣装を着ているとお兄さんの視線が優しいというか、普段よりも意識してくれているような気がするので今日もこちらの勝負服。

 しっかりとケープを羽織り、パドックで観客席のゴール付近を眺めるとやっぱりゴールのところにお兄さんと、テイオー、グラス達リギルの面々、あとスぺちゃんもわざわざ応援に来てくれているみたいだった。

 

 

 

 サニーはなんだかすごく燃えているので今日は特に話すこともなく、エアグルーヴは「今日は胸を借りるつもりだ。全力で挑ませてもらう」なんて言ってくるので少しばかり困る。

 

 

 

 と、耳に僅かにお兄さんが呼ぶ声が聞こえた気がするのでダッシュ。

 ちょっと苦笑いで手を振るお兄さんだけど、客席の人たちの歓声が凄い。

 

 

 

 

「調子、あんまり良くないか?」

 

 

 

 少し心配そうなお兄さんに胸があたたかく、きゅーっとなる。

 気づいてくれたんだ、という嬉しさで尻尾が跳ねるのを見たからか、お兄さんは頭を軽く安心させるように叩いてくれて。

 

 

 

「スズカ、ちょっと耳貸せ」

「…?」

 

 

 

「(勝ったら今日は好きなだけチューしてやるから、怪我無く帰ってくるように)」

「………いいんですかっ!」

 

 

 

 

 好きなだけ…!?

 つまり家に帰ってからご飯を食べてお風呂に入って寝るまでずぅーっと……?

 

 

 

「……休憩は入れるぞ?」

「……………好きなだけ……」

 

 

 

「スズカ、おいスズカ。ワキちゃん」

「……あっ、はい?」

 

 

 

 

「勝ってこい」

「――――はい」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

『――――スタートしました! 今日も先頭を行きます、サイレンススズカ! 内から競りかけてるのはサニーブライアン――――』

 

 

 

(簡単に逃がしはしないから!)

(―――――私たちだけの景色)

 

 

 

 

――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 一面の銀世界と星空、誰の足跡もない。誰もいない世界。

 誰も踏み込めない、孤独な領域に足跡を付ける。

 

 

 何もかもを見失いそうな孤独、誰よりも自由な場所。

 それでも独りじゃないことを、私は知っている。遠く(ゴール)から見守ってくれている(お兄さん)を目掛けて、一気に加速する――――。

 

 

 

 

 

(――――もっと、もっと速く! もっと前へ! もっと先へ!)

(……そんな、有マよりまだ速くなってる!?)

 

 

 

 

『さあサイレンススズカ早くも先頭! 速い速い、二番手サニーブライアンとの差が二バ身、三バ身と開いた! 内からメジロドーベルが三番手、エアグルーヴは先団につけ様子を見守る!』

 

 

 

 

(これは――――付いていっても潰されるだけ、か)

 

 

 

 

『メジロブライトは後方二番手というところ。先頭は一番人気、一番沢山の人が夢をかけたサイレンススズカが先頭! 7バ身、8バ身とどんどん差を開いていく! サニーブライアンが通常の逃げの位置か! 三番手にエアグルーヴが上がってきます! その後方にメジロドーベル! 最後方シルクジャスト!』

 

 

 

『さあまもなく第四コーナー、サニーブライアンとエアグルーヴが一気に差を詰めようというところ! だがまだ差が開いている! リードが10バ身くらいあります!』

 

 

 

 

 

 

 十分に息を入れ、脚を溜めた。

 背後から競りかける様子がないけれど、それはそれとして。

 

 ゴール(お兄さん)が見えてきたので溜め込んだ脚と想いを爆発させる。

 

 

 

 

 

 

『――――――Silent Stars』

 

 

 

 

 展開した領域、二連星を胸に――――首から下げた指輪に宿して緑の焔に変える。

 星のように輝くエメラルドに力を貰って、流星となって加速する。

 

 

 

 

『さあサイレンススズカがスパート! もはや独走状態! 二番手争いはサニーブライアン、エアグルーヴ! 後方大きく離れました! メジロブライトは最後方! メジロブライト大ピンチ!』

 

 

 

 

『外から一気にステイゴールド! だがサニーブライアン粘っている! サイレンススズカ、今一着でゴール! さあステイゴールド並びかけるがサニーブライアン譲らない! ――――今、ゴール! 二着はサニーブライアン体勢有利か! エアグルーヴは四着となりました!』

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ圧勝! 最早国内に敵なし! 無敗の七冠ウマ娘として、世界の頂点へ―――凱旋門賞へ挑みます!』

 

 

 

 

 

 

 



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宝塚記念のご褒美

 

 

 

 

 

 レースは気持ち良く走って景色が見られて、ご褒美まで貰える。

 ライブはあまり好きではなかったのだけれど――――お兄さんが衣装を可愛いって言ってくれるし、とても褒めてくれるので最近はちょっと好きかもしれない。

 

 

 

 

「おかえり、スズカ」

「――――はいっ。ただいま、お兄さん」

 

 

 

 

 レースから控室に戻ると、迎えてくれるお兄さん。勢いのまま抱き着くと、「危なっ」と言いつつも受け止めてくれる。

 となればもちろんチューである。

 

 

 

 

「お兄さん、お兄さんっ! 約束ですし、チューして下さい」

「はいはい。怪我はないよな? 脚の違和感は? その後はシャワー浴びてライブの準備しろよ」

 

 

 

「はいっ。大丈夫です」

 

 

 

 目を瞑って顔を上向けると、そのまま抱きしめられて。

 お兄さんのぬくもりと匂いを感じながら唇が触れる。少しカサついていて、それでも不思議と尻尾が震えるようなゾクゾクしたものと、正反対の安らぎをどちらも感じる。

 

 手が耳元を優しく撫でて、少しだけあった緊張が抜けたところで舌が口に入ってくる。

 なんとなくお兄さんのいいようにされているのがちょっぴり悔しいような、嬉しいような。それでも自分の舌をお兄さんので撫でられると、誰より近くでお兄さんを感じられるようで。

 

 

 

 

 耳元も弄られると力が抜けて、身を任せつつも舌でちょっとやり返してみたり。二人でじゃれあっていると呼吸が苦しくなってきたところで口が離れた。

 

 

 

 

「…………はふ……お兄さん、もっと……」

「ライブは遅れちゃダメだからな、スズカ」

 

 

 

 

 約束は約束として、ライブはちゃんとしなさい。

 そんな言葉に背中を押されて、仕方なくシャワーに向かう。

 

 

 

「――――ライブの前もチューして下さいね?」

「化粧直すんだからダメだろ」

 

 

 

 

 確かに。

 じゃあもう一回くらい……とターンしようとして、パソコンを取り出してさっきのレース映像を確認し始めたお兄さんに仕方なくシャワーに向かうことに。

 

 

 

 

 

 昔みたいにお兄さんに洗ってもらいたいな、そんな考えが頭を過るけれど、流石に恥ずかしい。でも洗ってほしい。そんな自分の気持ちに少し困惑しつつ、それならお兄さんに決めて貰えばいいかな、なんて考えてみたり。

 

 下着もいつかのアドバイスの通り、可愛いのを選んでいる。

 部屋に居る時とか、たまにお兄さんの視線がスカートの中とかに向いているのでなるほど確かに大切なんだなーと思ったり。

 

 

 

 

 恥ずかしいけれど、それはそれとしてなんとなくお兄さんが見とれているのは満足感がある。恥ずかしいけど。

 ……やっぱり、覗き見するようなお兄さんはお詫びとしてチューしてくれるべきなのでは?

 

 今度言ってみよう、と思いつつも用意されているステージ衣装に着替えて、ドライヤーを持ってお兄さんのところへ。

 

 

 

 

「お兄さん、お願いします」

「はいはい」

 

 

 

 係の人にも頼めるけれど、やっぱりお兄さんがいい。

 時々耳を擽ってくるのはちょっと嫌なような、嬉しいような。でも大体レースの後は優しい。

 

 

 

 

 そんなこんなで後はお化粧だけ。

 なんとなく目線でチューをねだってみるが、黙ってイヤーキャップを付けられたので後でたっぷりしてもらうことにする。

 

 

 宝塚記念はSpecial Record! がライブ曲なので、特に不安もない。……有マでは結局歌わなかったけれど、一応ジャパンカップでも歌っているし。

 

 

 

 

 

 ライブが終わったら、一日中ずっとチュー。 

 なんて素敵な響きだろうか。必然的にお兄さんも一緒にいてくれるわけだし、頭も撫でて欲しいし耳も撫でて欲しい。尻尾も嫌じゃないし…。

 

 そんなわけで、顔がふにゃふにゃにならないようにだけ気を付けつつも、ライブでは声が弾むのを抑えられなかったり。客席にいるお兄さんに、ちょっと恥ずかしいけれど投げキッスしてみたり(こっそりしたつもりだったけれど、歓声が凄かったのでスぺちゃんや客席の奥にいたフクキタルのあたりにもして誤魔化しておいた)。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 で、ライブが終わるとそのまま車に。

 チューは? と目で訴えるけれど、控え室にずっといるわけにはいかないと言われれば頷くしかない。外でするのは流石に恥ずかしいし。

 

 

 

 

 赤信号の時とかいいんじゃないかと思うけれど、スルーされたので後でたっぷりしてもらうので許してあげることにする。

 

 

 

「スズカ、寮に帰――――」

「外泊届、出しておきました」

 

 

 

 お兄さんの家は実質自分の家のようなものなので、実家に帰るということになっているけれどお母さんの許可もある。婚約者であることもフジ先輩は知っているので「ちゃんと気を付けるように」とのお言葉を貰ってはいるけれど外泊していいことになっている。……何に気を付けるのか知らないけれど、お兄さんが気を付けてくれているはず。

 

 お兄さんもなんだかんだでそこは諦めているのか、そのまま家に。

 勝手知ったる(実質)自分の家。広くはない玄関に、お兄さんの普段用の靴と私のランニングシューズ、お出かけ靴、ローファーが並んでいるので私の靴の方が多い。

 

 

 

 

「スズカ、タイマーでお風呂沸かしておいたぞ」

「………チューは?」

 

 

 

「汗くさいぞ」

「………入ってきます」

 

 

 

 うそでしょ……お兄さん、デリカシーなさすぎます。

 尻尾でお兄さんを何回か叩いて怒ってますアピールするが、お兄さんは無視してご飯の用意をしていた。………確かにお腹も空いてますけど。

 

 ライブでもやっぱり汗はかくので、今度はお風呂。

 ちゃんと脇や背中、尻尾の付け根から足の指まで洗って、以前貰った尻尾リンスをしっかりつけて、すすいで。お湯に髪を浸けないように気を付けながら入ると、お風呂を出るころにはご飯も完成しかかっていた。

 

 

 

 流石に火を使っている時はチューをねだると怒られるので、代わりにお兄さんの布団に潜り込んで枕に頬擦りしているとご飯ができた。

 お兄さんが好きで、かつカロリーに対してタンパク質も豊富な鳥のささみ肉を中心にヘルシーだけど量はある料理。立派なにんじんハンバーグも。

 

 

 

「……お兄さん、おっきいですね。にんじん」

「それなんかルドルフにお勧めされたヤツでな。七冠バっていうブランドだって」

 

 

 

 お兄さん曰く、超高級で一万円くらいするんだとか。

 トレセン学園の伝手で買えたらしい。

 

 

 

「お兄さんのにんじんの方が好きですけど……」

「え? ………あー、庭で育ててたやつ」

 

 

 

 

 

 ?

 なんだかちょっとお兄さんが焦ったような。

 

 なんでだろう、とちょっと疑いの目を向けるとお兄さんはハンバーグにナイフを入れると、フォークで突き刺して。

 

 

 

 

「ほらスズカ、あーん」

「!? ……ぁ、ぁーん」

 

 

 

「よしよし、いい子だなスズカは」

「………もうっ、そんな歳じゃないですよ?」

 

 

 

 

 なんて言いつつも、撫でてくれるのは心地よいので勝手に頭がお兄さんの方に寄ってしまう。……はっ、これはチューできるのでは?

 ちょっと期待の目を向けると、笑顔でハンバーグ二口目をくれた。

 

 

 

「美味い?」

「…………(こくり)」

 

 

 

 そうじゃないですけど、でも味は美味しい。

 お兄さんも一口ハンバーグを食べて、口に入るのをなんとなく眺めていると次をくれた。

 

 

 

 

 

 ……やっぱりご飯食べている時はちゃんとしないとですね。お兄さんの手料理ですし。

 そんなわけで、ちょっとお兄さんに頭を擦りつけたり勝手に膝の上に座ったりはしたものの、概ね普通にご飯を食べて。

 

 

 

 そしてお兄さんは歯磨きしてお風呂に行った。

 チューは……?

 

 とはいえ、確かに歯磨きは大事だしお風呂に入らないと思う存分チューできない。

 そのためにご飯もあるので着ていた部屋着から、寝るとき用のパジャマ(ネグリジェ)に着替えてお兄さんのベッドで待機。

 

 

 

 

(お兄さんと~、チュ~♪)

 

 

 

 さっきチューしてもらった唇に触れて、ふにゃふにゃになった顔を隠すように枕に顔を埋めて。なんとなくジタバタとベッドの上で暴れてみる。

 前なら寂しくて寂しくて、お兄さんのお風呂に突撃してみたり外から話しかけたりしていたけれど、この後の楽しみを思うと嬉しいような、声を出して左旋回したいような。

 

 

 

 とりあえず優しくハグしてもらって、耳も撫でてもらって。

 チューしたら私からも舌でしてみようかな、なんて思って顔を熱くしてみたり。尻尾も撫でて欲しいし、ギューっと思い切り抱きしめてもらうのもいい。

 

 

 

(まだかな、お兄さん)

 

 

 

 

 なかなか来てくれない。

 どうしてお兄さんは時々お風呂がすごく長いのだろう……そんなことを思いつつ冷蔵庫にあったスポーツドリンクを飲んで、歯を磨いて、トイレにも行って、スマホでニュースを軽く流し読みして、スぺちゃん達からのSNSでのお祝いメッセージに返事をしたりして。

 

 

 お兄さんがお風呂を上がる音に、耳がピクリと反応する。

 なんとなくベッドの上で女の子座りになり、枕を抱きしめて半分顔を埋め。お兄さんの匂いを堪能しつつ待った。

 

 

 

 

「…………お兄さんっ、ご褒美くださいっ」

「お茶だけ飲ませて……」

 

 

 

 確かにお兄さんの喉が乾いているのは大変。

 飛び起きて冷蔵庫から麦茶を出し、お兄さんが棚から出したコップに注いであげる。

 

 

 

「ありがと」

「はい」

 

 

 

 

 

「スズカ、ちょっとそのまま立ってて」

「? はい」

 

 

 

 

 ちょっと屈んだお兄さんの腕が私の脚、膝のあたりと背中に回されて。ひょいと持ち上げられる感覚に声にならない声をあげた。

 

 

 

「~~~!? お、お兄さんっ!?」

 

 

 

 これは……お姫様だっこ!?

 ドキドキしながら間近になったお兄さんの顔を見つめていると、ベッドに降ろされて。

 

 目を瞑るとお兄さんの唇が優しく触れる。

 そのまま優しく頭を撫でられて、落ち着かせるようにポンポンと叩かれる。

 

 

 

 

「………へふ」

「スズカ、今日もよく頑張ったな。偉いぞ」

 

 

 

「お兄さん……」

 

 

 

 

 嬉しくて、胸がポカポカする感じに身を任せてお兄さんの胸に顔を擦りつける。

 そのままリズムよく優しく頭を叩かれながら耳元を軽く引っかかれると、途端に力が抜けて瞼が重くなってきた。

 

 

 

 

「ぉにーさ………ちゅー……」

「おやすみ、スズカ」

 

 

 

 

 ほっぺに触れた優しい感触、レースとライブの後の心地よい気怠さに身を任せると、そのまま意識は闇に沈んで―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、お兄さんと抱き合っていた。

 いつも通りといえばそうだし、大体私の方が朝は早い。でも今日は、チューしてもいいんじゃないだろうか。

 

 

 お兄さんは寝てるから、あの大人のチューはできないけれど、いくらでもチューしていいんだし。

 

 

 

 

 

 

「ぇへへ、お兄さん……ちゅー……」

「ふんっ」

 

 

 

「へぅっ」

 

 

 

 尻尾を引っ張られ、心臓が飛び跳ねそうなくらいびっくりすると。いつの間にか目を開け、何故か笑顔のお兄さん。

 

 

 

 

「お兄さん、チュー……」

「スズカ、俺が昨日なんて言ったか覚えてるか?」

 

 

 

 

「? 好きなだけチューしてくれるんですよね?」

「『“今日は”好きなだけチューしてやる』って言ったよな」

 

 

 

 

 と、スマホを出して今日の日付を――――え?

 うそでしょ、まさか……!?

 

 

 

「も、もしかして……もうチュー終わりですか!?」

「うん」

 

 

 

「うそでしょ……」

「ホント」

 

 

 

 

 うそでしょ……大人のチューは一回だけ、普通のチューも一回だけ、ほっぺにチューも一回だけ――――。

 

 

 真っ白になった頭に、熱が宿る。

 流石にこれはひどいんじゃないでしょうか。お兄さん、ウソつきじゃ?

 

 耳がかつてなく絞られるのを感じつつ、ベッドを破壊しないように荒ぶる想いに突き動かされる脚を辛うじて抑える。

 

 

 

 

 

「………お兄さん、チューしてくれないんですか……?」

「約束は約束だからな」

 

 

 

 

 瞬間、何かがキレた。

 

 

 

 

 

「――――おーにーいーさん」

「え。ちょっ、ちょっと待てワキちゃん」

 

 

 

 

 

 身体を起こしてドヤ顔していたお兄さんを布団の中に引きずり込み、逃げられないように抑え込んでから―――――脇腹を擽る。

 

 

 

 

 

「くはっ、ちょっ、やめ――――!?」

「チューの恨みです…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、お兄さんが降参して謝るまで擽った。

 チューで許してあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏合宿 / 決戦の地

 

 

 

 

 

 

「――――合宿の予定、ですか?」

 

 

 

 去年も行った夏合宿、何か特別な変更でも――――そんな思いでおハナさんを見返すと、おハナさんは若干不安そうな雰囲気を出しつつも頷いた。

 

 

 

「そう、理事長の計らいで向こう(フランス)のトレセン学園にお邪魔できることになったわ。……なったんだけど」

 

「………ぇへー」

 

 

 

 人の胸元に顔を擦り付けてご満悦なスズカを見る。

 いやもうなんというか完全に腑抜けてるし、馬の方のメイショウドトウか何かだろうか。幸せそうな顔で抱き着いてるスズカは話を聞いてないみたいなので、おハナさんと顔を見合わせる。

 

 

 

「コレはちょっと他所様にお見せできないですね」

「なんとかして頂戴」

 

 

 

 無茶ぶり!?

 

 今朝のチュー以来、何かやばいものでもキメてそうな感じにハッピーなスズカは、果たして合宿中はチュー無しに耐えられるのか……こっそりやるにしても、チューしたらこんな感じになるし。

 

 

 

 

「お兄さん、すきー……チューも好き…」

「なんか言われてるわよ」

「マルゼンスキーの親戚か何かですかね」

 

 

 

 すりすり、すーはー、と授業中分の充電を済ませたらしいスズカは、一応しゃっきりとした顔を取り繕って起き上がった。

 

 

 

「――――お兄さんと新婚旅行…!」

 

「あ、聞いてたのね。じゃあ話は早いわ」

 

 

 

 

 いやおハナさん、諦めないで!?

 まず新婚じゃないし、旅行でもない。合宿だから!

 

 

 

「スズカ、俺はいつもくらいのスズカが好きなんだが……」

「――――はい」

 

 

 

 今度こそぴしっと目を覚ましたスズカ。おハナさんに最初からやれ、という目で見られるが……だって好きとか真顔で言うのはちょっと。

 

 

 

 ………待てよ。俺、もしかしてスズカに滅多に気持ちを伝えてない?

 好きって言ったのも2回くらいなのでは…?

 

 

 

 なんとなく、ぴしっとした顔のスズカと目が合う。

 少ししてへにょりと幸せそうに笑ったスズカの可愛さにやられつつも、ちゃんと気持ちは伝えるようにしないといけないなと思いなおす。

 

 

 

 

「とりあえずフランスでの合宿ですね。向こうの芝にスズカを慣れさせるのは必須だと思いますし、俺は賛成です」

「はい」

 

 

 

「分かってるとは思うけど、節度は守るように」

 

 

 

 逆にフランスの方が慣れない場所で落ち着かないので大人しくなる可能性が。

 スズカはやっぱり受け身というか、なんでもオッケーなところがあるので合宿にも異存はないらしい。

 

 

 

 

「とりあえず期間は8月最初の土曜から2週間の予定ね」

 

「けっこうありますね」

 

 

 

 馬で言うなら短すぎるくらいかもしれないが、ウマ娘としての2週間は大分しっかりした合宿に思える。

 

 

 

 

「無敗の七冠、遂にシンボリルドルフに並んだ日本最強のウマ娘だもの。国の威信もあるし、短いくらいでしょう」

 

「あー」

「……?」

 

 

 

 そういえばコイツ、既に10戦10勝、GⅠも7勝してる化け物だった。

 普段の行いを見ていると全くルドルフに並んだ、超えたかもしれないという実感はないが。一応歴史的に、というか未来ではフランケルが14戦14勝、うちGⅠ10勝というエグイ記録を達成するのだが。

 

 凱旋門のためにフォワ賞で叩いて、BC、有マに勝てたとすれば全く同じ成績になる……フランケルやばいな。

 

 

 

 

 

「スズカは凄いなって話な」

「……ホントですか?」

 

 

 

 耳が嬉しそうなスズカを撫でてやりつつ、とりあえずおハナさんと予定を詰める。

 グラスとテイオーの面倒はしばらく見てもらい、スズカに集中すること。向こうで体調を崩さないようにある程度の食料は送りつけること。そこに追加で、不良バ場の練習のために水撒きしても大丈夫な芝も借りるようお願いしておく。

 

 

 

 

「……田んぼ、あんまり気持ち良くないですよね」

「だろうな」

 

 

 

 よく重バ場は田んぼに例えられるので、余った田んぼを借りてスズカの重バ場トレーニングに使っていたりしたのだが。やっぱり良バ場の方が気持ち良く走れるスズカである。能力的には十分に重いバ場でも対応できるのだが。

 

 欧州の芝で水を撒いたら、一応はそれを想定して練習を積み上げてきている流石のスズカでも苦戦するかもしれない。

 

 

 

 凱旋門賞が凄い重いバ場になるのは確かエルコンドルパサーが挑戦した、今からみて来年のはずだが、覚えていないだけで重バ場になる可能性も十分にある。

 

 まあスズカの領域が芝じゃなく雪景色なあたり、本来よりパワーはありそうなイメージだが。正直、まだBCでアメリカのダートの方がマシなんじゃないかという気すらする。あのサイレンススズカ(馬)の父はあのアメリカダート二冠にしてBCクラシックを勝ったサンデーサイレンスだし全く適性がないとは思えない。

 

 

 

「ともかく、凱旋門賞に集中だな」

 

 

 

「凱旋門賞のご褒美…!」

「まだフォワ賞があるからな」

 

 

 

 今年のフォワ賞は9月13日。凱旋門賞は10月4日。どちらもフォルスストレートで有名なパリのロンシャンレース場、芝2400で行われる。

 

 言うまでもないかもしれないが、同じ距離の同じレース場なのでステップレースとして最適というわけだ。

 

 

 

 とりあえず腑抜けモードから戻ったスズカを引きはがして(謎の愁嘆場みたいな空気にされた)、仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 で。フランスにいる間の仕事をなるべく片づけたり、スズカと一緒に荷物を詰めたり、身長が伸びたからと水着を選ばせようとしてくるスズカに露出が少ないやつを選んだり、色々としている間にすぐ合宿の日は訪れ―――。

 

 

 

「フランスのお土産、楽しみにしてるからねー」

「トレーナーさんもスズカさんも、怪我や病気には気を付けてくださいね」

 

「できるだけ多くのものを掴めるように頑張ってきなさい」

 

 

 

 

 おハナさんやテイオー、グラスたちリギルの面々、あとスズカを見送りに来たスぺちゃんやスズカの同期たちに見送られて飛行機へ。

 

 

「スズカさーん、向こうについたら電話くださいねー!」

「スズカさんの運勢は向こうでも大大吉です! 頑張ってください!」

「私が勝つまで負けないでね」

「頑張って。応援、してるから」

「スズカのレース、楽しみにしてマース!」

 

 

 

 

 

 そんなこんなでちょっと寂しそうなスズカ。

 

 ファーストクラスの席なので、なんと座席も仕切り付き。スズカと別れる――――と見せかけて、手を引いて俺の席―――なんかベッドみたいに広い―――に連れ込んだ。

 

 

 

「あ、あの……お兄さん?」

「スズカ、ちょっとこっち。あと耳貸して」

 

 

 

「…?」

 

 

 

 されるがままに座席に座らされるが、コイツ無防備すぎでは…。

 とりあえず、他にウマ娘がいても聞こえないくらいの小声で耳元に囁いてみる。

 

 

 

 

「婚前旅行、楽しみだな」

「――――っ! はいっ」

 

 

 

 

 現金なもので、即座にやる気と元気がマックスになったスズカに苦笑しつつ、離れ――――られない。がしっ、と四肢で張り付いてくるスズカに顔を向けると、頬を緩めて目を瞑りキス待ちの顔。

 

 

 

「スズカ……一応公共の場だからな?」

「………はーい」

 

 

 

 べしゃっ、と脱力したスズカはふて寝の構え。リクライニングも勝手にかける。

 そこ俺の席なんだけど、と思いつつもまだ離陸までに時間はある。

 

 そんなヤバイ客にも自然な笑顔のCAさんと目が合い。

 

 

 

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

 

 

 メニューを差し出してくれたので、とりあえず自分用にコーヒー、スズカには……バナナジュースでいいだろ。どっかの頭が大きいウマ娘ほどではないが、実はバナナ好きなスズカである。

 

 ウマ娘用ににんじん、バナナ、りんごといった定番どころは網羅されてるらしい。さすがにサービスがいい。後は紅茶に角砂糖もつけられるらしい。

 

 

 

 

「……お兄さん、バナナ」

「はいはい、頼んでおいたから起きろ。俺が座れないだろ」

 

 

 

「私の上でもいいですよ?」

「万が一があったら怖いからほんとに止めて」

 

 

 

 

 仮に膝枕だとしても、脚が細すぎて心配になる。

 ダイワスカーレットとかならアレだが、サラブレッドの脚は基本的に硝子の脚だし。せめて逆にスズカが乗るならまあ。

 

 

 

 

「じゃあお兄さんに座ります」

「離陸前には戻れよ」

 

 

 

 

 わざわざ一度抱き着いてから向きを直して座り直し。とてもいい笑顔のCAさんと目が合ったスズカはゆっくり振り返って「どうしましょう」という顔で見てきた。

 いやお前、割と最初から手遅れだったし……原因俺だけど。

 

 

 

「どうぞ。バナナジュースとコーヒーです」

 

 

 

 頼んだ砂糖もくれたので、一つ投入してかき混ぜる。

 スズカは耳をピクピクと動かして気配を探ってから小声で言った。

 

 

 

「お兄さん、お兄さん。もしかしてもう人前でぎゅーってしてもいいんですか?」

「ダメ」

 

 

 

「ダメなんですね……」

 

 

 

 いや、この後離陸したら気圧の変動とかもあるし、スズカが飛行機嫌いにならないように少しサービスはするけど……

 

 

 

 人の気配がないのを確認してから、後ろから強めに抱きしめてやると幸せそうにバナナジュースを飲み始めるスズカである。

 その後、結局シートベルトが外せない時間以外は密着していたのでスズカは終始ご機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

とあるフランスのウマ娘

 

 

 

 

――――日本から無敗の七冠ウマ娘が来る、と聞いた時には流石にどんなウマ娘なのか気になった。

 

 

 けれど、大逃げだけで勝っているとかレコードを更新し続けているとか、情報を聞くたびに「ああ、またか」という気分になる。

 

 レースの本場は欧州、近代レースは(腹立たしいことに)イギリス発祥とされているが欧州であることに異存のあるウマ娘はいないだろう。

 伝統的な芝、レース場、レース。積み重ねて来たからこその栄光が欧州にはあり、それに真っ向から反するのがアメリカなどの高速バ場であった。

 

 

 

 別にレースは全て欧州の芝であるべき、なんていう風に思っているわけではない。けれど、他所の芝で勝てたからと自信満々に殴り込んでくるのを見ると「そんなに甘くはない」と冷めた目で見るだけ。

 

 

 

 

 

 

 だからだろう。

 その小柄な栗毛のウマ娘を見た時も、さして脅威は感じなかった。

 

 さぞ走りやすい芝を走ってきたのだろう細い脚、お行儀の良い日本のウマ娘らしい覇気のない雰囲気。トレーナーにべったり甘えるところは……まあ羨ましく思わなくもないけれど。それでもいつまでその余裕が続くかと思っていた。

 

 

 

『良ければ併走……いや、模擬レースをしてもらえないかな』

 

 

 

 だからそのトレーナーが片言のフランス語で私のトレーナーに頼んできたときも、まあ厳しさを教えてやるくらいの気持ちでいた。

 もし万が一負けたとしても、実際のレースでは大逃げなんてタネの割れた手品みたいなものだ。ラビットが競りかけ、ペースを崩せば勝手に沈む。

 

 

 

『じゃあ彼女に、僕の担当に決めてもらうよ。どうする?』

 

『いいよ、やってやろうじゃん』

『ありがとう、助かる』

 

 

 

 トレーナーの目は、担当ウマ娘を信じ切っているようだった。

 まあそのあたり、悪いコンビではないのだろう。これで傲慢なヤツなら盛大にあざ笑ってやるところだが、慰めの言葉くらいは考えてやらないことも無い。

 

 

 

 

 だから――――。

 

 

 

 

 

『――――何!?』

 

 

 

 

 スタート直後、感じたのは得体の知れない寒気。

 領域――――GⅠレースの、それも勝敗を分けるような競り合いで見るようなものをポンと出された時に感じた衝撃。

 

 スプリンターのようにカッ飛んでいくその栗毛を見た時に、普段のペースでは勝てないと直感させられる。

 

 

 

 

 

(欧州の、本場の芝だぞ。アメリカのような軽いものじゃない。それでその加速……本当に持たせる気か!?)

 

 

 

 

 大逃げだ、ペースを崩すだけだ――――だが、ヤツはそれでGⅠを7つも制覇した。その事実が、脚を、ペースを速めさせる。

 

 

 だが、気づく。

 十二分に速いと思ったペースが一歩一歩修正されていく。

 

  

 

 

 

「スズカ、もっとだ! 蹴りだし弱いぞ!」

 

 

 

 

 

 領域を発動しているわけでもないのに、寒気がした。

 コイツは、本当にまだ欧州の芝に慣れて“いない”。だが恐ろしい速度で修正してきている。

 

 

 一歩踏み込むたびに蹴りだす力が強くなる。

 1ハロン進む間に余分な力が抜ける。

 1コーナー曲がる間にフォームが補正される。

 

 

 1レース走る間に、少なくとも並のスプリンターに匹敵するくらいの加速力を得て。

 

 

 

 

 

 そして――――私は負けた。

 

 

 

 

 

「雨が降った後の裏山の草にちょっと似てますね……」

「スズカのどこでも走りたい癖が役に立つなんてな」

 

 

 

 

 

 

 何やら真剣な顔で二人で日本語で話していたが、意味は分からない。けれど、それが勝つための会話であることは最早疑ってもいない。

 

 

 大差でこそなかったが、はっきりとした敗北だった。

 バ場状態が良好だったとか、1対1だったとか、あれほどのハイペースが未体験だったとか、考えられる敗因はいくらでもある。

 

 雨が降れば、ラビットがいれば、本番なら、色々と言い訳も思いつく。

 だがもし、本当の意味でコイツが芝に“適応”してのけたのなら。最悪の逃亡者が生まれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 その時初めて、異国からの無謀な挑戦者ではなく――――欧州が迎え撃つべき本物の“化け物”であることを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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掲示板(宝塚記念~フォワ賞)

 

掲示板(雰囲気)
本日2話目、おまけです

 


 

【結婚】サイレンススズカのお兄さんの尻を蹴っ飛ばす系アンチスレ【はよ】

 

1:名無しのファン

というわけでサイレンススズカさんのお兄さんこと、いつまでも責任を取らないトレーナーの尻を蹴っ飛ばすスレです。

純粋に嫌いな人は専用アンチスレに

 

 

2:名無しのファン

【速報】スズカさん、お兄さんに投げキッスする【ウイニングライブ】

【画像】

GIF【画像】

 

 

3:名無しのファン

かわいい

 

4:名無しのファン

ぱぁっと笑顔になった後、嬉しそうに投げキッスして歓声に慌てるまでがセットで可愛い

 

 

5:名無しのファン

この後、慌てて別の場所にも投げキッスするの可愛いぞ

 

 

6:名無しのファン

二回目の投げキッスの近くにいたけど、多分スペシャルウィークちゃんにしてたな

 

 

7:名無しのファン

キマシ…!?

 

 

8:名無しのファン

こねーよ。お兄さんへの投げキッスと比較してみ

 

9:名無しのファン

いやだって、撮影禁止だし…。

 

 

10:名無しのファン

まあ有料放送のスクショが辛うじてグレー…?

動画で出したらまあアウトだけど

 

 

11:名無しのファン

宣伝になるから黙認されてる感ある。

実際さっきの投げキッス可愛すぎて購入画面に来てしまった

 

 

12:名無しのファン

スズカさんもそんなサービスするのな。

なんとなく淡々とライブするイメージあったわ

 

 

13:名無しのファン

握手会とかでも、まあ会話は得意じゃないのは分かる。

 

 

14:名無しのファン

出たな、伝説の左旋回握手会

 

 

15:名無しのファン

話しかけると謎に回りだして、お兄さんが微妙な顔で通訳してくれる握手会か

 

 

16:名無しのファン

『サイレンススズカさん、いつも応援してます! この前のダービーも凄かったです!』

『あ、はい。(くるくる)』

 

 

『すみません、返事に悩んでるんです…。多分、応援してくれることへの感謝と、それはそれとしてダービーもということは他のレースも見てくれててとか考えてます多分』

『いつも応援ありがとうございます。ダービーでは色々と難しい場面もありましたけど、皆さんの応援で私らしく走れたかな、と……』

 

 

17:名無しのファン

通訳いる?

 

18:名無しのファン

多分これ、スズカさんに脳内整理させるために口に出してるんだろうな。カウンセラーとかが使う手法

 

 

19:名無しのファン

頭が真っ白方式じゃなかったか……。

 

 

20:名無しのファン

>>19ネタが古い……古いよな?

 

 

21:名無しのファン

比較つくったぞ。

左:お兄さん 真ん中:スぺちゃん 右:三回目

GIF【画像】

 

 

22:名無しのファン

ぐわああああ可愛い

 

 

23:名無しのファン

左:あっ、お兄さんだ。大好き! 真ん中:ほかに誰か……あ、スぺちゃん発見 右:あのへんにも投げとけ

 

 

24:名無しのファン

いうて全部嬉しいけどな。うっかり素でやってるのも、焦ってるのも

 

 

25:名無しのファン

完全に落ちてる顔ですねこれは…。

 

 

26:名無しのファン

実際どこまで行ってる? ぴょいした?

 

 

27:名無しのファン

してたらこのスレ無くなってるんじゃね。

 

 

28:名無しのファン

うまぴょい伝説ばりの投げキッスされるけど苦笑いのお兄さん

 

 

29:名無しのファン

はー、スズカさんに愛想つかされるぞ

 

 

30:名無しのファン

これで結婚どころか付き合ってすらないってマ?

 

 

31:名無しのファン

そうだよ

 

32:名無しのファン

ところで、スズカさんが下げてるネックレスって指輪なのでは?

 

 

33:名無しのファン

なん……だと……

 

 

34:名無しのファン

そんな、あの朴念仁が…?

 

 

35:名無しのファン

あり得ん……

 

36:名無しのファン

お兄さんは俺が貰うはずでは……

 

 

37:名無しのファン

>>36サイレンススズカ「お兄さんは譲らない」

 

 

38:名無しのファン

>>36サイレンススズカ「私より遅い人には譲りません」

 

 

39:名無しのファン

>>36サイレンススズカ「私の方が速いです」

 

 

40:名無しのファン

こえーよw

 

 

41:名無しのファン

無敗の七冠バが殺意と共に追ってくるの怖い。

というかレスポンス早すぎィ!

 

 

42:名無しのファン

勝てるとしたらシンボリルドルフしかいないか…?

 

 

43:名無しのファン

つ シンザン

 

44:名無しのファン

つ カブラヤオー

 

 

45:名無しのファン

つ マルゼンスキー

 

 

46:名無しのファン

古いよ!?

 

47:名無しのファン

>>46マルゼンスキー「大変遺憾である」

 

 

48:名無しのファン

マルゼンスキー古いか? 古いか…

 

 

49:名無しのファン

いや少なくとも他二人よりは大分新しいから

 

 

50:名無しのファン

で、結局指輪の可能性ある?

 

 

51:名無しのファン

あの平らな胸に指輪があったら目立つのでは?

 

 

52:名無しのファン

ひどい……。

 

53:名無しのファン

スズカさん、指輪なら指につけてドヤるのでは?

 

 

54:名無しのファン

いや流石にお兄さんが止めるだろ…。

 

 

55:名無しのファン

あの唐変木が指輪なんて贈るわけがないぜ(はよ贈れ)

 

 

56:名無しのファン

はやく投げキッスし返すんんだよぉ!

 

 

57:名無しのファン

キスされてふにゃふにゃになったスズカさん見たい

 

 

58:名無しのファン

俺の中では熱烈にチューするスズカさんがいるぞ。

 

 

59:名無しのファン

正直うまぴょい早くしろよと思う。多分めっちゃ幸せそうなスズカさんが凱旋門を蹂躙する

 

60:名無しのファン

ウマ娘ってそういうの興味あるの?

 

 

61:名無しのファン

いや動物なら誰でもあるだろ……子孫残すのは本能だぞ

 

 

62:名無しのファン

そして誰だって愛する相手にしてほしいわけで

 

 

63:名無しのファン

スズカさんの娘とか絶対速いやん…。

 

 

64:名無しのファン

そうとも限らんけど、まあ期待はしてしまう

 

 

65:名無しのファン

娘さんを僕に下さい!(トレーナー)

 

 

66:名無しのファン

>>65それだと育てたいのか恋人になってほしいのか分からんし……。

 

 

67:名無しのファン

>>66両方

 

68:名無しのファン

>>67お兄さん「ゆ゛る゛さ゛ん゛」

 

 

69:名無しのファン

>>68お前ははよスズカさんを幸せにしろ

 

 

70:名無しのファン

なんであんな可愛い子に大好きアピールされてうまぴょいしないんだ…?

 

 

71:名無しのファン

不能だから

 

72:名無しのファン

実は男が好きとか

 

 

73:名無しのファン

幼女しか愛せないとか

 

 

74:名無しのファン

別にホモでもいいけどスズカさんは幸せにしろ

 

 

75:名無しのファン

担当ウマ娘の男性観を破壊した責任はとれ

 

76:名無しのファン

担当というか幼馴染…。

 

 

77:名無しのファン

お兄さん「光源氏して最強のウマ娘を育てたぞ! それはそれとして放置」

 

 

78:名無しのファン

>>77外道の所業

 

79:名無しのファン

キスくらいは流石にしたよな…?

 

 

80:名無しのファン

キス、するかなぁ……。

 

 

81:名無しのファン

無駄に生真面目だからなお兄さん。

めっちゃ挨拶丁寧だし

 

 

82:名無しのファン

でも最近お兄さんとスズカさんの距離近いぞ

【画像】

 

 

83:名無しのファン

うおおおマジだ、比較すると地味に近づいてる

 

 

84:名無しのファン

確かに前より近いな………

 

 

85:名無しのファン

あと前は無邪気な笑顔だったのが、最近なんか艶っぽい

【画像】

 

 

86:名無しのファン

ほんとだw

 

87:名無しのファン

言われたせいかもしれないが確かに見えて芝

 

88:名無しのファン

これはやったか!?

 

89:名無しのファン

いや、そもそも距離はデビュー前はもっと近かったぞ

【画像】

 

 

90:名無しのファン

ちっっか!? というか小っちゃい!? 可愛い!

 

 

91:名無しのファン

幼女スズカさんがお兄さんにだいしゅきホールドしてる…だと……

 

 

92:名無しのファン

幼女(ウマ娘全国レース大会の小学校の部)だったはず

 

 

93:名無しのファン

あー、あれね…。

当時も超早熟なんじゃないかとか話題になってたっけ

 

 

94:名無しのファン

流石に本格化後ほどの差はないんだけど、一人だけ走りがヤバイんよな

 

 

95:名無しのファン

じゃあ証拠動画

【動画】

 

 

96:名無しのファン

既に異次元の逃亡者の片鱗が…。

 

 

97:名無しのファン

まじで異次元で芝

 

 

98:名無しのファン

こんな画像が出回ってるんだからちゃんと責任取って♡

 

 

99:名無しのファン

凱旋門では流石に告白するだろ…。

 

 

100:名無しのファン

誰か結婚の予定の質問してくれねぇかな……流石にないか

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

Parlez du Prix Foy

(フォワ賞について語るスレ)

 

 

 

1:fan sans nom

Prix Foy Longchamp 2400

Tableau de course(出走表)

1cadre : Limnos

2cadre:Silence Suzuka

3cadre:Kashwan

4cadre:Oa Baldixe

5cadre:Majorien

6cadre:Fragrant Mix

7cadre:Predappio

 

 

2:fan sans nom

凱旋門に挑戦する日本の七冠ウマ娘か

 

 

3:fan sans nom

大逃げと言われて強い印象は全くない

 

 

4:fan sans nom

つまり強いラビットということ?

 

 

5:fan sans nom

幼すぎないか? 彼女はレギュレーションを間違えているように思える

 

 

6:fan sans nom

あれでシニア級らしい

 

 

7:fan sans nom

日本人の年齢はさっぱり分からない…。

エレメンタリースクールかと思った

 

 

8:fan sans nom

雨でバ場状態は不良

 

 

9:fan sans nom

これは終わったか

 

 

10:fan sans nom

一応七冠でしょ? フランスどころか欧州でもなかなかいないと思うけど

 

 

11:fan sans nom

とはいえアメリカを始めとした高速バ場、特に日本はガラパゴスと言われるくらいには特異な環境

我々とは違う進化をしたウマ娘

 

 

12:fan sans nom

ドバイで勝ったのは評価されるべき

けど不良バ場でレースになるかというと……。

 

 

13:fan sans nom

レース動画見てきたけど、彼女の走りは凄いね。

現地で見てみたくなった

 

 

14:fan sans nom

そんなに? 私は正直Fragrant Mixに注目してるけど

 

 

15:fan sans nom

日本で人気があるのはよくわかる。彼女はニンジャかもしれない。

 

 

16:fan sans nom

ニンジャ…?! ちょっと調べてくる

 

 

17:fan sans nom

僕はサムライだと思うけどね。どちらにしても日本で最強なのは納得した

 

 

18:fan sans nom

ニンジャなのかサムライなのかはっきりしてほしい。

動画見てくるか…。

 

 

19:fan sans nom

ニンジャだ……なんで彼女はあんなにリードを開いて勝利できるのか

 

 

20:fan sans nom

確かにニンジャだ! ニンジャウマ娘がいるなんて…。

やはり日本は神秘の国

 

 

21:fan sans nom

流石のニンジャでもロンシャンの不良バ場、それも雨では無理だと思うけど

 

 

22:fan sans nom

それでも二番人気なのは日本人の影響かな?

 

 

23:fan sans nom

けっこう大規模に宣伝してるらしいからね。

 

 

24:fan sans nom

凱旋門賞の前に残念なことになるのは申し訳ないけどね。

 

 

25:fan sans nom

さあパドック

 

26:fan sans nom

調べたけど、彼女の勝負服は何故ウエディングドレスなんだい…?

 

 

27:fan sans nom

可愛いけど、なんとなく漂う犯罪臭

 

 

28:fan sans nom

彼女はトレーナーが大好きで、10年以上前から家族同然らしいね

 

 

29:fan sans nom

なるほど、つまり婚約者ということか。

新婚旅行でフランスはハードすぎると思うけど。アメリカの方が得意そうだ

 

 

30:fan sans nom

そろそろスタートか

 

 

31:fan sans nom

一番人気はFragrant Mix

 

 

32:fan sans nom

ニンジャは雨でも走れるのか…?

 

 

33:fan sans nom

さあスタート

 

34:fan sans nom

行った

 

35:fan sans nom

やはりニンジャ

 

 

36:fan sans nom

殆ど泥になっているように見える

 

 

37:fan sans nom

独りだけアスファルトの上を走っているニンジャがいないかい?

 

 

38:fan sans nom

なんてことだ。誰もラビットを連れてきていない

 

 

39:fan sans nom

あの走りで持つとは思えないが……。

 

 

40:fan sans nom

日本でのレースを見てなかったのか。彼女は3000mの世界レコード保持者だ

 

 

41:fan sans nom

これは前が速いのか、後ろが遅いのか…。

 

 

42:fan sans nom

こんな泥の上で走ったら転ぶリスクもある。

前が飛ばしすぎなんだ

 

 

43:fan sans nom

なんて差だ。彼女は何か特別な蹄鉄でもつけているのか?

 

 

44:fan sans nom

もしかするとニンジャ道具かもしれない

 

 

45:fan sans nom

知らないのか、ニンジャは水の上でも走れる

 

 

46:fan sans nom

知らないのか、ニンジャは空も飛ぶ

 

 

47:fan sans nom

なんということだ、ニンジャが独走態勢

 

 

48:fan sans nom

なんて楽しそうに走るんだろうか

 

 

49:fan sans nom

フォルスストレートに入って、差がこれは……10バ身以上か?

 

 

50:fan sans nom

後ろは一体何をしてるんだ

 

 

51:fan sans nom

ようやく追い出したか

 

 

52:fan sans nom

ニンジャの脚が鈍らないんだけど、誰か知ってる?

 

 

53:fan sans nom

日本人は彼女の走りを『逃げて差す』と言うらしい

 

 

54:fan sans nom

それはつまり、ニンジャということでは?

 

 

55:fan sans nom

もう何がなんだか分からないよ

 

 

56:fan sans nom

流石に差も縮まってきたな

 

 

57:fan sans nom

けどこれは流石に……。

 

 

58:fan sans nom

届かないか

 

59:fan sans nom

サイレンススズカが先頭でゴール

 

 

60:fan sans nom

差は2バ身くらい

 

61:fan sans nom

なんで不良バ場でこのタイムが…?

 

 

62:fan sans nom

彼女は日本のウマ娘だって? 日本のレースは一体どうなったんだ

 

 

63:fan sans nom

日本のレースはあのニンジャと、あとタイキシャトルというサムライに蹂躙されてるよ。ジャック・ル・マロワ賞見なかった?

 

 

64:fan sans nom

あー、彼女ね。確かに強かった。

彼女はサムライというかカウガールみたいだけど

 

 

65:fan sans nom

いや、あんなのどうやって止めるんだ?

 

 

66:fan sans nom

ラビットをぶつけるしかないだろう

 

 

67:fan sans nom

とはいえこのくらいの差なら、Sagamixが勝つんじゃないかな

 

 

68:fan sans nom

同じくらい注目されていたFragrant Mixが2バ身差で負けてるけどね

 

 

69:fan sans nom

とはいえ、やっぱり日本でのレースほど圧倒的ではなかったね

 

 

70:fan sans nom

ラビットをぶつけたら勝てるだろうな、という程度

 

 

71:fan sans nom

彼らはこれが不良バ場だということを忘れていないだろうか…。

 

 

72:fan sans nom

Fragrant Mixは不良バ場巧者だからね。

 

 

73:fan sans nom

凱旋門賞のバ場が軽いことなんてほとんど無いからね

 

 

74:fan sans nom

ところでレース後のこのサイレンススズカの顔は可愛い

【画像】

 

 

75:fan sans nom

可愛い

 

76:fan sans nom

KAWAII

 

 

77:fan sans nom

妖精かな

 

78:fan sans nom

つまり妖精ニンジャということか

 

 

79:fan sans nom

Rafale NINJAとかでいいのでは

 

 

80:fan sans nom

これは凱旋門賞が楽しみになってきた

 

 



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凱旋門賞

 
名前考えるの大変なのでやめました


 


 

 

 

 

 

 

「さあいよいよ目前に迫った凱旋門賞――――9月に同じロンシャンレース場で行われたフォワ賞に勝利したサイレンススズカさんのインタビューです」

 

「………こんにちは。サイレンススズカです」

 

 

 

 というわけで、凱旋門賞を目前にしてスズカに日本のTVからインタビューの依頼があった。若干断りたい気もしないでもないのだが、トゥインクルシリーズのために受けてくれとルドルフに言われては断れない。

 

 スズカも若干緊張はしているようだが、顔には出ていない。耳には出ている。

 コイツの場合、本番のレースを走ってる時が一番楽しいからな。

 

 

 

 

「フォワ賞はただでさえ重いと言われる欧州の芝でバ場が不良、殆ど田んぼのような状態でしたが見事な勝利でしたね」

「ありがとうございます。トレーナーさんとも相談して、あらかじめ対策をしていたのが良かったと思います」

 

 

 

 田んぼは走り慣れてますから、なんて発言をしなくて良かった…。

 走ってない時は割と大人しいんだよな、スズカ。たまにアレな発言するけど。

 

 

 

「次の凱旋門賞のバ場状態も悪くなるのではとの予報ですが、自信のほどいかがでしょうか」

「そうですね。……難しいレースになると思いますが、全力を尽くしたいです」

 

 

 

 

 ……優等生かな?

 とはいえ、別にインタビュワーは週刊誌の人とかではないので特に変に突っついてくることもなく。

 

 

 

 

「ありがとうございます。それでは日本のファンの方に何かメッセージをお願いします」

「……えっと、本番でも私らしい走りをお見せできるように頑張りますので、応援お願いします」

 

 

 

「ありがとうございました。サイレンススズカさんでした」

「……(ぺこり)――――お兄さん、どうでしたかっ」

 

 

 

 にっこにこでこっちに来るスズカだが、お前それ……。

 ちらり、とプロデューサーさんの方を見るといい笑顔でサムズアップされた。ダメみたいですねこれは。

 

 

 

「スズカ、それ放送されたぞ」

「………え?」

 

 

 

「カットとか……」

「生放送はカットできない」

 

 

 

 

 

 まあ諦めるしかない。

 幸い?なんかもうネット界隈ではバレバレなので、ちょっとエピソードが増えたくらいだろう。

 

 

 

「……お兄さんも何か……」

「そんな巻き込まれ事故は嫌だ」

 

 

 

 

 とにもかくにも、凱旋門賞だ。

 なんとラビットが普通では歯が立たないと見たのか、スプリンターを連れてくる気合の入りぶり。フォワ賞で流石に不味いと思ったのか、欧州対サイレンススズカの構図になりつつあるのかもしれない。

 

 ……正直なところ、スズカに欧州の芝の適性は無い……わけではないが、日本・アメリカの芝と比べると不利は否めない。

 

 

 

 

 

「スズカー、お久しぶりデース!」

「……タイキ。元気だった?」

 

 

 

 と、ジャック・ル・マロワ賞で普通に勝って、更に凱旋門と同日のGⅠフォレ賞に挑むためフランスに再度殴り込みを掛けに来たタイキシャトル。どちらかというと大逃げの一発屋と思われていなくもないスズカに対して、日本のヤベー侍カウガールという新境地を切り拓いているタイキである。

 

 

 

 

「スズカはお兄さんと楽しんでますかー?」

「ええ。フランスだと公園でチューする人もいて……私もお兄さんも子どもに見えるみたいだから、どこでも楽しいの」

 

 

 

 なんとなくイタリアの伊達男とかがインパクトが強いけど、フランスもイタリアと同じラテン系のくくりになるらしい。学生同士の初々しいカップルに見えるのか周囲の目も甘いので、フランスに染まったスズカのスキンシップが激しい…。

 

 ちゃんと休みの日は走る以外のこともできるように、フランスの観光地巡りをしたのも原因かもしれない。野球の世界大会で、ディズ〇ーランドで遊んでいたメキシコ代表がアメリカにまさかの勝利を飾ったなんて例もあるので適度な息抜きとメリハリは大事。

 

 

 

「オゥ! 素晴らしいデース! あとスぺちゃんからにんじんが届いてマスよー。3箱デス」

「スぺちゃん……嬉しいけど、そんなに食べられないわ」

 

 

「後お兄さんが頼んだバナナもおハナさんに渡されましたネ!」

「お兄さんのバナナ…!」

 

 

 

 まあスぺちゃんの大量のにんじんは凄く助かってるのだが、別のものも無いとレパートリー的には割と厳しい。スぺちゃんはにんじん派だが、スズカはバナナ派なので。

 でもにんじんも好きなので、にんじんとバナナがあればなんとかなる。

 

 

 

 

 

 後は、天気予報からして、いよいよ重バ場になりそうなのに備えるだけか。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

『さあいよいよです! 日本が誇る無敗の七冠ウマ娘、サイレンススズカ! 先にフォレ賞でGⅠ5勝目を挙げたタイキシャトルに続けるか!? 此処で勝てば“皇帝”シンボリルドルフを超えて国内で最多の冠を被ることになります』

 

 

 

 

『対抗するのはクラシック級での凱旋門賞のステップレースであるニエル賞で勝利を飾ったSagamix、そしてフォワ賞で2着となったFragrant Mix。注目はスプリント戦であるモーリスドギース賞にも出走したHayilでしょうか』

 

『サイレンススズカに対抗するべくスプリンターをラビット起用したとも言われていますね。日本国内であれば、スプリンターよりもサイレンススズカの方が速いのは常識ですが……欧州の芝にはサイレンススズカも苦戦しているようですからね』

 

 

 

 

 なんか解説の人の常識がぶっ壊れてる気がするが、誰も止める気配はない。

 

 

 

『やはり欧州としてもサイレンススズカのフォワ賞での勝利は予想外だったんでしょうか』

『これまで多くのウマ娘が欧州に挑み、敗れてきました。しかし今年はシーキングザパール、タイキシャトルと立て続けのGⅠ勝利、ドバイにも勝利して日本の大将格と目されるサイレンススズカはなんとしても止めたい、というところでしょうか。そこからするとやっぱり予想はしてなかったんじゃないかと』

 

 

 

 

『この一戦がやはり世界最強を名乗れるかの分水嶺になりそうですね。そしてまもなく入場、ゲートインになります』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 控え室。

 くるくると左旋回していたスズカだが、目が合うと笑顔で近寄ってくる。

 

 耳を見てもやはり緊張はあるのか、動きの固さがある。

 例のウエディングドレス勝負服にも着替えており、ケープは羽織っていないのでこのまま結婚式にでも行けそうである。

 

 

 

「お兄さんっ」

「もうすぐだな、スズカ」

 

 

 

「はい……楽しんできますね」

 

 

 

 

 どんな時でもレースを楽しめる、それがスズカの強み。だからこそ、あまりにも多くの夢を背負ったこのレースはスズカにとってあまり良い条件ではないのかもしれない。

 10月4日、“あの”秋の天皇賞まで1カ月を切り、BCに出走する関係上、例の日曜日とは全く関係はないはずなのだが――――どうしても意識してしまう。

 

 

 

 もしスズカに何かあったら、考えただけで背筋が凍る。

 だから、運命の日を超えるまでは――――スズカに甘えるのではなく、この子のためにできる限りのことをしたいと思っている。実行できてるかはさておいて。

 

 

 

 

 

―――――必ず帰ってこいとか、無事でいてくれとか。かけたい言葉は無数にある。

 

 

 

 

「スズカ―――ご褒美、何がいい?」

「………そうですね。じゃあ、毎日大人のチューしてください」

 

 

 

 割ととんでもない要求だった。

 理性が死ぬ……コイツがドリームトロフィーリーグに移って、実質社会人になるまでと考えると3カ月くらいか。死ぬわ。

 

 

 

 ……けれど、もう自重なんて放り捨てた方がいいのかもしれない。

 たとえスズカが運命という暗闇に溺れそうになっても、俺の、皆の想いが“サイレンススズカ”に届くように。

 

 

 

「スズカ、指輪貸して」

「………っ!? か、返すのは嫌です……」

 

 

 

 いや、指輪返品要請は流石に酷すぎるだろ…。

 ちょっと心外だ。

 

 

 

「すぐ返すよ」

「…………約束、ですよ?」

 

 

 

 すごく葛藤してからネックレスを引っ張り、胸元に下げていた指輪を出したスズカから受け取り。レース前のスズカの“熱”を感じながらも、不意をついて抱きしめる。

 

 

 

 

「―――――お、お兄さん…?」

 

 

 

 

 小さな、細い身体だ。

 日本で最強を誇り、世界でも唯一と言っていいはずの走りをするウマ娘とは思えない。けれど、ずっと傍で見てきた。

 

 積み重ねた努力も、楽しそうに走る横顔も、併走で負けて悔しがる姿も、いちご大福での笑顔も、独りぼっちの時に流した涙も、星を見つめる透き通った瞳も。

 

 

 

 

 

「――――好きだよ、スズカ」

 

 

 

「お前の走りが、寂しがり屋なところも、実は頑固なところも、全部ひっくるめて好きだ。お前の走る姿をずっと見て来たから言える。スズカの走りが俺の夢だ」

 

 

 

 

 そっと口づけると、感じるのは燃えるような熱さ。それはただの体温かもしれないけれど、俺にとってはこの子に宿ったサイレンススズカの闘志に、魂に思えた。

 

 スズカの手を取り、指輪を右手の薬指に嵌める。

 どうかこの言葉が、指輪が、想いが、わずかばかりでも力になれるように。

 

 

 

 

 

 

「――――スズカの、最高の走りを俺に見せてくれ」

「――――はい。勝ってきますね、トレーナーさん(お兄さん)。貴方の隣に、一番に帰るために」

 

 

 

 

 

 何処かで、聞こえるハズのない何かの嘶きが聞こえた気がした。

 スズカの瞳に星が散るように輝き、風も無いのに髪が靡く。スズカが纏ったように見える薄く輝くオーラは、不思議と小柄な栗毛の、“彼”の姿をしているようにも見えた。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

『GⅠ凱旋門賞、芝2400メートル、前日の雨もありバ場状態は重の発表です。ゲートに入り、静かに瞑目するサイレンススズカ、気合十分か』

『……凄い気迫です。オーラのようなものすら感じられるのではないかという仕上がりですね』

 

 

 

『注目はやはりここまで無敗、ニエル賞を勝利した一番人気Sagamix。ニエル賞での見事な追い込みを見せるのでしょうか』

 

『二番人気は日本のサイレンススズカ。芝の状態、ラビットの存在など決して良い条件ではありませんが無敗七冠の意地を見せてくれるのか』

 

『三番人気はFragrant Mix。フォワ賞での敗戦の借りを返せるのか』

 

 

 

 

 

『―――――15人の体勢完了して、スタートしました!』

 

 

 

 

 

 

 ゲートが開いて、スッと飛び出したのは栗毛―――やはりサイレンススズカ。

 競りかけようとしたスプリンター出身、今回はラビットの役目を得たHayilはしかし、その瞬間に独特の寒気を感じた。

 

 

 

 

 

 

(これは―――――噂のスタート直後の“領域”!)

 

 

 

 

 サイレンススズカ対策で出走するだけあり、Hayilもサイレンススズカのことは調べた。そしてこうして同じレースに出走して、その領域の独特さに僅かに息をのむ。

 

 一面の銀世界を駆け抜けるサイレンススズカと、輝く星。

 少なからずウマ娘の内面が影響する“領域”にしてはずいぶんと物悲しい、という風に見えた。星は綺麗だが、手が届かない。雪の中には自分の足跡しかない。どこまでも孤独で、暗い領域。

 

 

 

 

 レースに情熱を、夢をかけるウマ娘としては異端。

 そんな風に感じつつも、自らのスプリンターとしての意地を通すために加速する。

 

 

 

 

(どんな領域があっても、仕事は果たす――――スプリンターとして、チームを勝たせるために――――追いつかせてもらう!)

 

 

 

 ペースメイクなんてこのブレーキなしで突っ走るロケットが前にいたら不可能だ。後ろを置き去りに、競りかけるべく速度を上げて――――どんなに速度を上げようとしても、近づかない前方の栗毛に目を疑った。

 

 

 

 

(なんで――――この雪景色で距離感をやられた!? 領域が薄暗いせい!?)

 

 

 

 そんなことはあるはずもないのに、雪に脚を取られて前に進めないのではという気すらしてくる。

 

 

 

 

『さあ行きました、サイレンススズカ! 一気に加速して先頭に立ちます! それを追うのがHayil、少し離れて蒼い勝負服のHappy Valentine。Posidonasがその後ろにつけようかというところ――――注目のSagamixはバ群の中団です』

 

 

 

 

 早くも最初のコーナーが近づき、コースとダブって見える領域に辟易しつつもカーブを曲がって――――果てしない銀世界を疾走し、むしろ遠ざかっている気がする栗毛に、ふと空恐ろしい何かを感じた。

 

 

 

 

 

 

(……ちょっと、待って。なんで、なんでまだ領域が見える(・・・・・・)の?)

 

 

 

 

 

 領域とは、それこそ最終直線の勝負所でのみ見られる。極限の集中力によって、他のウマ娘たちにすら見える勝ちパターンの具現化のようなもの。陳腐な言い方をするのなら必殺技みたいなものだ。

 

 スタート直後から、最初のコーナーまで約900mくらい。

 そんな長さで発動するバ鹿げた勝ちパターンも、そんな集中力も、あるはずがないのに。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、全くHayilを寄せ付けません! サイレンススズカ先頭、差が3バ身くらいで最初のコーナーに入ります! そこから一気に10バ身くらい離れてHappy Valentine、その後方ギュッと密集して集団になっています』

 

 

 

 

(そんなの――――あり得ない。絶対に――――)

 

 

 

 

 レースに絶対なんて無い、誰かが嘯く。

 全力で走り続けた脚は既に重く、呼吸は苦しい。それでも前も苦しいはずだと信じて――――コーナーを進み、少しだけゴールの方に目線を向けたサイレンススズカの横顔を見た。見てしまった。

 

 

 

 

 心底楽しそうに、恍惚とした笑みにすら見えるその表情を。

 余裕どころの話ではない。領域を続けたら集中が途切れる? むしろゴールを見て更に深みを増した領域には、雪の結晶すら舞っているように見える。

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、更にリードを開いて7バ身。Hayilは僅かに後退か! さあサイレンススズカの代名詞とも言える殺人的なハイペース。フォルスストレートに差し掛かってもサイレンススズカのペースは落ちない、後方の集団一気に固まって、二番手との差が縮まってきた!』

 

 

 

 

『Happy Valentineが通常の逃げ、Hayilがズルズルと交代し二番手が替わります。その後ろにぴったりとPosidonas、後方からLimpid、Leggera、Fragrant Mixが続きます。外にTiger Hill、Sea Waveが並んでようやくSagamixも追撃態勢!』

 

 

 

 

『サイレンススズカ先頭! サイレンススズカが大きく差を開いて先頭で最終直線に入ります! だが後方も一気に加速してきた! サイレンススズカ逃げきれるのか!?』

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――領域が、レースに懸ける想いなら。私にとっては何だろうと考えたことがある。

 

 

 

 

 誰もいない景色、誰にも届かない速さ。

 常に一番前を走るサイレンススズカの走りはどこまでも自由で、孤独で。

 

 でも、独りではない。

 共に走りを創る心を通わせた相手がいるのなら、二人なら孤独も意味を変える。

 

 

 

 

 

 きっとそれが、お兄さんが告白してくれたことでできた二連星の領域で。

 それが指輪という約束の結晶もあって、遂に本当の意味で完成した。

 

 

 

 

 

 大切な人()を追い求めていた景色は、いつの間にか終わっていて。

 どこかに抱えていた不安も、寂しさへの恐怖も、指輪が―――大切な人がくれた約束が消してくれるから。

 

 星の輝きが指輪に宿り、小さく口づけしたスズカも碧く輝く。

 

 

 

 

 

(――――これが、私の見たかった景色。私たちだけの、景色――――)

 

 

 

 お兄さんを大好きな想いが、たかだか2400mくらい、2分くらいで尽きるはずがない。つまり、レース中ずっとお兄さんへの想いを込め続ければ、それこそが私にできる最大の――お兄さんのための走り!

 

 

 

 

 お兄さんがチューしてくれたおかげで、これ以上なく身体が熱い。

 爆発しそうなくらい熱くて、嬉しくて、幸せで、どこまでも走り抜けられそうで。視界の端に嵌めて貰った指輪が映れば、疲れも吹き飛んで楽しくなってくる。

 

 

 

 

 

(誰にも、譲らない――――!)

 

 

 

 

 

 “異次元の逃亡者”の名を示すように、光と共にスズカが雪景色から姿を消し。暗い星空を、流星雨を超えて――――…一筋の光になって、レース場を駆ける。

 

 

 

 

 

『先頭はサイレンススズカ、リードはまだ7バ身くらいあるか!? 後方からTiger Hillが内に突っ込んでくる! その後方のFragrant Mixは内ラチ沿い伸びが苦しいか!? Posidonasも伸びない! Sagamixもバ場中央で――――バ場中央から追い上げ態勢に入ってくる!』

 

 

 

 

『Sea Waveの外からSagamix上がってくる! サイレンススズカ先頭! その後方からLeggeraがじりじりと差を詰めてくる! 一気にSagamix! SagamixがLeggeraに並んだ、交わした!』

 

 

 

 

 

 

 

 引き離せない――初めての感覚。

 重い芝も、バ場も、ものともせず後方から強烈な足音が迫ってくる。

 

 

 

 お兄さんと二人だけの景色に踏み込まれて、けれどどうしようもできない悔しさに、それでもまだ――。

 

 

 

 

 

 

 

『先頭はサイレンススズカだがSagamixが一気に差を詰めてくる! リード4バ身……3バ身! サイレンススズカ懸命に粘っている!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――スズカァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、更に領域が重ね掛けされる。

 芝を駆けていく、どこまでも自由なサイレンススズカの姿――――だがその瞬間、領域の後押しも得てスズカは日本の芝に匹敵する速度を発揮した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、ここで更に加速した! サイレンススズカが差を開く! サイレンススズカ先頭! サイレンススズカだ、サイレンススズカだ! 今先頭でゴール! 遂に日本のウマ娘として初めて凱旋門賞を制し、世界最強の名乗りを上げました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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凱旋門賞の後に

 

 

 

 

 

 

 凱旋門賞のウイニングライブは、しっとりしたラブソングだった。元々社交の側面の強い欧州のレースならではだろうか。ちょくちょくこっちを見ながら微笑むのはほんとに心臓に悪いのでやめて欲しいのだが。

 

 そんなわけでライブも無事に?終えて戻ってきたスズカだが。

 

 

 

「……おにぃーさんー……つかれたー」

 

 

 

 

 溶けた。

 いや本当に溶けたわけではないのだが。べちゃー、と凭れ掛かってきて、そのまま力尽きた。

 

 

 

「チュー……おにぃーさん、チュー……。だっこもー……」

「いやお前……大丈夫か?」

 

 

 

 もしかしなくても、レース中領域出しっぱなしだったのは勘違いじゃなかったらしい。スズカのテンションを上げれば発動時間が延びるかな、くらいには思っていたが。

 欧州の芝に慣れたスプリンターに競りかけられた苦肉の策だったのだろうが、消耗しすぎて終盤伸びなかった原因になった気がする。

 

 とはいえ、ぶっつけでそれをやり切るあたり天賦の才というか、走ることに関しては本当に素晴らしい才能と身体と勘を持っていると言っていいだろう。まさに最速の機能美。

 

 

 

 

 

「だいじょーぶじゃないのー! チューしてー!」

「幼児退行してるじゃねぇか」

 

 

 

 仕方ないので抱きしめてお望み通りにチューをしてやると、なんかもう理性が弾けているのかスズカの方からも抱き着いて舌を絡めてきた。こちらも人の事は言えないけど技術なんて無くて、でも想いだけはひしひしと感じる。

 

 長距離でも走り切るスズカの息が切れるくらいには熱烈なキスを味わって、満足気に息を吐いたスズカは、一応幼児退行は収まったのだが。

 こちらの胸に頭を擦り付けて甘えつつ言った。

 

 

 

 

「お兄さん、わたし頑張ったんです……だから、いっぱい褒めてください」

「うん、そうだな。偉いぞ、スズカ。お前が世界で一番だ」

 

 

 

 どれだけ褒めても足りないくらいの偉業をやり遂げた。

 もう俺の理性を言い訳にご褒美を出し渋るのも良くないだろう。実際、こんなに疲れ切るまで頑張ってくれているのだし。

 

 

 ただ甘えているだけに見えて脚にもロクに力が入っていないし、今にも寝てしまいそうなくらいには消耗している。

 

 

 

 

 

「――――ありがとう、スズカ。大好きだ」

「私も、大好きです。お兄さん」

 

 

 

 

 笑顔のまま力尽きて、遊び尽くした子どものように眠りだしたスズカを抱え上げる。姫抱きは正直重いので、おんぶで。

 まあ実際、レースのエンジョイ具合を見ると遊び尽くした子どもと同じかもしれないが。

 

 

 

 

 

「あ、こいつ指輪つけたままライブしやがった…………まぁいいか」

 

 

 

 

 もうなんかバレるとかそういう問題じゃなくなってしまったし。

 それでも卒業するまでは耐えるだけの話……たとえコイツが毎日フレンチキスしてきても、一緒に寝た状態で抱き着いてキスしてきても、スケスケのネグリジェでちょっと恥ずかしそうにしてても………。

 

 

 もうゴール(うまぴょい)してもいいかな……。

 いやダメだが。

 

 

 

 

 幸い?にも借りてるホテルは当然のように同室なのでスズカが寝ていても困りはしない。ライブ衣装を脱がせて、座らせた状態で上着を着せて……ワキちゃん時代は楽だったのだが、流石に身長が近くなってくると着替えさせるのも骨である。ちなみにベッドがあれば寝た状態で寝返りを繰り返しさせながら少しずつ着せるのが楽。

 

 

 

 流石に下着を替えるのはアレなので、汗ばんでても諦めて貰おう。

 さて、ホテルに帰るために車まで運ばねば……。と、同じくライブに出ていて着替えを終えたらしいタイキに出会った。

 

 

 

 

「オゥ、お兄さん大丈夫デスか?」

「タイキ。フォレ賞での優勝おめでとう」

 

 

 

 割と僅差ではあったのだが、それでも王道の先行抜け出しで勝ったタイキシャトルの無敵っぷりよ。スズカの消耗を見ると良くわかるその化け物ぶり……は失礼か。

 

 

 

「ありがとうございマース! ケド、ちょっぴりスズカが羨ましいデス――――走ること、勝つこと、楽しむこと―――それに加えて、Loveもばっちりデスね」

 

「……そうかな。俺からすると、まあ……一応トレーナーとして思うところもあるんだけど」

 

 

 

「ノー、スズカにとってはトレーナーさんである前に、大切な人デスよ?」

「………まあ、そうだな」

 

 

 

 だからこそ入学当初のスズカがあれだけ不機嫌だったんだろうし…。

 俺だってスズカに距離を置かれて平静を保つのは無理だったし。

 

 

 

 

「ちゃんとLove、伝えてくださいネ?」

「………ああ」

 

 

 

 

 

 流石にこの流れでスズカを運ぶのを手伝ってもらうわけにもいかないので、背中にスズカの重さと柔らかさを感じつつもホテルの部屋へ。

 

 で。

 果たして汗かいたまま寝かせておいていいものか。

 

 

 

 

「スズカ、起きろ。シャワーだけでも浴びろ」

「………んぅー…ぬがせてー」

 

 

 

 ……はぁ。

 というわけで容赦なく服を脱がせて、下着に手をかける。

 

 

 

「スズカー、脱がすぞー」

「………………んへぅ」

 

 

 

 ここでようやく半目を開けたスズカ。

 

 

 

「おにいさん……すーすーします……」

「そりゃ下着姿だからな」

 

 

 

 たっぷり数秒の沈黙の後、スズカは寝ぼけ眼でこちらを見てふにゃりと微笑み。それからようやく事態に気がついた。

 

 

 

「――――うそでしょ…!? お、おおおお兄さんっ!? 何で服着てないんですか、私!?」

「だから、シャワーくらい浴びろって」

 

 

 

 

 

 はい、とバスタオルを渡すと、スズカはタオルを抱きかかえて真っ赤な顔で頬を膨らませた後、風呂場に逃走。そのままスズカの尻尾を見送ると、顔だけ出したスズカが言った。

 

 

 

 

「……お兄さん、エッチです」

 

 

 

 エッチじゃない男とかそっちの方が問題なのでは?

 などと心の中で言い訳しつつ、これでちょっとは危機感も芽生えるかな、などと思ってみたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて……とりあえず日本のニュースでも、と携帯を取り出すとおハナさんや沖野先輩たち学園関係者からのお祝いメッセージと、母親からは『指輪見たわよ。結婚式まだ?』との催促が。うん、まあ仕方ないか。と思いつつ今度こそニュースサイトを開いて。

 

 

 

 

「うわぁ…」

 

 

 

 流石トゥインクルシリーズが娯楽を席巻しているだけあって、大々的にスズカの凱旋門賞制覇、タイキシャトルのフォレ賞制覇が取り上げられている。

 ついでに急上昇ワードも『凱旋門賞制覇』『サイレンススズカ』『無敗の八冠』『婚約指輪』『フォレ賞制覇』とかになってるし。

 

 

 

 

 ニュースでも特番が組まれたらしいが、そもそも凱旋門賞の解説にシンボリルドルフを呼ぶくらいのガチっぷりだった。全く気付いてなかったけどURA本気出してたな…。

 これで無傷の12戦12勝、敵なしとしか言えないスズカだが一応引退まであと多くて2戦の予定。

 

 

 婚約がついに公になったので手っ取り早く世論を見るが、まあ割と好意的で一息つく。婚約しただけなので犯罪者扱いはされない……と思いたかったのだが、この前のスズカのドキュメンタリーの効果もあったのかセーフのようである。

 と、なんとなく目についた記事を開いてみて。

 

 

 

 

 

【サイレンススズカ、勝利の秘訣は強い絆!?(敬称略)

 ついに日本悲願の凱旋門賞を制覇したサイレンススズカだが、以前からのファンには広く知られているようにトレーナーとの深い絆がある。幼い頃からの幼馴染であり、互いにトレセン学園やレースに関わる前から家族同然に支え合ってきた二人は距離を置こうとして体調を崩すことすらあり(リギルのチーフトレーナー談)、サイレンススズカにインタビューした際は『お兄さんとレースどちらかと言われたらお兄さんが好きです』と笑顔を見せたほどであった(中略)】

 

 

 

 

 チーフトレーナーって、おハナさん!? なんで!? いやこれ裏切りとかじゃなく世論を味方につけるためにやってくれた……んだよな多分。

 あとスズカ、それ普通に『認めてくれないなら走りません』って脅しなのでは。いや実のところだいぶ前に好きなものを聞かれて『お兄さんとレース』と答えたところで強いて言うならどっちが好きかと問われた答えだが。

 

 

 

【無敗の三冠という偉業から、前人未踏の無敗クラシック五冠、海外GⅠ制覇と立て続けの偉業を成し遂げた背景には公私ともに支え合うトレーナーとの深い絆があるのだろう、と同じく無敗の三冠バであり、トレセン学園の現生徒会長であるシンボリルドルフは語る。『我々は、トレーナーと一蓮托生で支え合ってこそ勇往邁進―――実力以上の力を発揮できることがあると考えています。それはとても困難で、そんな出会いができるのは盲亀浮木、ひどく幸運なことです』】

 

 

 

 

 

 

 ………スズカのために、今までずっと頑張ってきた。

 けどそれは、あくまでもスズカのため。あの子が楽しんでくれて、叶うのならあの子にとって、ワキちゃんにとって最高の走りが見てみたい、そんな風に思っているだけだった。

 

 

 三冠を取ったのはワキちゃんの、サイレンススズカの才能と少しばかりの知識のズル。

 無敗の五冠はサイレンススズカ自身の力で。

 

 

 

 

 せいぜい自分を誇れるとすれば、スズカが楽しそうに走れていることくらいだろうか。最終的にはスズカも自分の走りを見つけられるけれど、そこまでの最短距離を創れた。

 

 たったそれだけ。

 でもいつの間にかスズカは日本最強のウマ娘になり、世界最強に手が届き、皆の夢になって。いつの間にか多くの人に支えられて、応援してもらっていた。

 

 

 

 

 

「お兄さん、泣いてるんですか?」

 

 

 

 いつの間にか風呂を上がっていたスズカに抱きしめられる。

 

 

 

「………その、泣かないで下さい」

「嬉し泣きだからな。今日くらい泣かせてくれ」

 

 

 

 

 どうにも涙が止まりそうに無くて、実際問題スズカと一緒にいていいのかという悩みがあったことに今更気づかされる。

 ワキちゃんならまだしも、サイレンススズカだ。異次元の逃亡者とまで言われ、その夢が大きく広がる直前で儚く散ったというプレッシャー。更にトレーナーとして、担当ウマ娘に手を出すのも言語道断。スズカに惹かれていることに罪悪感があった。

 

 

 スズカもお子様だからただの親愛じゃないか、という疑念もあるし。

 

 

 

 

 

 

「……お兄さん、いつもありがとうございます……だから、その……ご褒美、になるといいんですけど」

 

 

 

 

 

 スズカの胸に抱き寄せられ、頬にささやかな柔らかさと心臓の鼓動を感じる。

 こうして生きてくれているのが何よりのご褒美だよ、なんて言うのは流石に恥ずかしくて。

 

 

 

「スズカ、結婚の方も発表とか……してもいいかな」

「………いいですよ?」

 

 

 

「結婚式、いつにしようか」

「………有マ記念が終わったら、そのまま……とか?」

 

 

 

 

 それはけっこうな強行軍なのでは?

 そんな考えが顔に出たのか、スズカはちょっと悪戯っぽい顔で言った。

 

 

 

 

「私らしいですよね?」

 

 

 

 大逃げ、最初から全力全開で突っ走って逃げ切る。

 それに加えて、長距離だって走れる無尽蔵のスタミナもある。

 

 

 

 

「……お兄さんのこと、誰にも譲りませんから」

 

 

 

 笑顔でそんなことを言うスズカが可愛くて。

 キスした勢いでベッドの上を転がって、どちらからともなく笑いあった。

 

 

 

「お兄さん、お背中流しましょうか?」

「それなら俺は脇とか足裏とか洗ってやるぞ」

 

 

 

「じゃあ嫌です」

「えー、残念だなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず風呂でしっかりと精神を落ち着けて。

 ついでに温まったところで部屋に戻ると。スズカもスマホで何やらメッセージを送っていて。こちらに気づくとスマホを置いて両手を広げた。

 

 

 

 

「じゃあお兄さん、今日はチューしてぎゅっとして寝てください」

「……はいはい」

 

 

 

 

 疲れているからか、すぐに満足したスズカはふと思い出したように言った。

 

 

 

 

 

 

「お兄さん……その……お兄さんにも、ご褒美……なんでも言っていいんですよ?」

「そうだな……」

 

 

 

 

 

「じゃあ、BCでもスズカの最高の走りを見せてくれ」

「……………はい」

 

 

 

 

 

 なんでちょっと残念そうなんだ…。

 

 

 

 

 

 



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掲示板(フォレ賞~凱旋門賞)

【実質】サイレンススズカ・タイキシャトルの凱旋門賞ウィークを応援するスレ【日本代表】

 

1:名無しのファン

このスレは日本トゥインクルシリーズから凱旋門賞・フォレ賞に出走するサイレンススズカ、タイキシャトルを応援するスレです。

フォレ賞:GⅠ 芝1400 ロンシャンレース場

凱旋門賞:GⅠ 芝2400 ロンシャンレース場

 

タイキシャトル:12戦11勝 GⅠ5勝(マイルCS、スプリンターズS、安田記念、ドバイターフ、ジャック・ル・マロワ)

サイレンススズカ:11戦11勝 GⅠ7勝(皐月賞、東京優駿、菊花賞、ジャパンカップ、有マ記念、ドバイシーマクラシック、宝塚記念) 

 

2:名無しのファン

1乙

 

 

3:名無しのファン

たすかる。ちょうど不足してた

 

 

4:名無しのファン

こうして並べられると意味不明なまでの最強っぷり。

むしろなんでタイキシャトル1敗してるん?

 

 

5:名無しのファン

>>4菩提樹S(OP)でテンザンストームが完璧な逃げ切り勝ちを決めたから

完璧な展開から完璧な末脚だったな。個人的にはあの敗北からタイキシャトルの走りは完成されたというか、より無慈悲になった印象

 

 

6:名無しのファン

へぇー。そうだったのか……

 

 

7:名無しのファン

で、そこの一度も負けてないお方は…?

 

 

8:名無しのファン

>>7ウマ娘おじさん「先頭で逃げて、一番速い上がりなら勝てる」

  お兄さん「それな」

 

 

9:名無しのファン

>>8言いたいことは分かるが……そんな奴いねぇよ! いたわ!

 

 

10:名無しのファン

いたじゃねぇか……。

 

 

11:名無しのファン

というか11戦のうち7戦がGⅠなのか。残りはメイクデビュー、弥生賞、神戸新聞杯、フォワ賞ってこと?

 

 

12:名無しのファン

弥生賞は皐月賞の優先出走権のため、神戸新聞杯は菊花賞で大逃げ(全力)する布石、無駄なレースが嫌いなサイレンススズカ陣営だが、フォワ賞は…?

 

 

13:名無しのファン

>>12いや、スズカさんは無駄なレースも大好きだから。お兄さんが過保護なだけだから。

 

 

14:名無しのファン

まあ過保護になるのも分かる。あの無敵っぷりを見るとGⅠ、海外に挑戦して欲しいと思う。

 

 

15:名無しのファン

>>14去年の無敵っぷりは清々しかったけど、まあ連続で国内蹂躙されても困るしな。タイキシャトルともども海外に挑戦したのは良い頃合だったのでは?

 

 

16:名無しのファン

日本のトゥインクルシリーズが焼け野原になるのは困るからな!

 

 

17:名無しのファン

欧州「こないで」

ドバイ「もうやめて」

アメリカ「来いよ日本、大逃げなんて捨てて掛かってこい」

 

 

18:名無しのファン

欧州とドバイは焼け野原になっていいんですか!?

 

 

19:名無しのファン

>>18いいよ

 

20:名無しのファン

>>13有マの捻挫は悲鳴上がったからな。そのまま転倒するかと思った。

けど勝つのは流石異次元の逃亡者

 

 

21:名無しのファン

お兄さんがめっちゃ慌ててたけど、正直俺らも必死だったからな。

 

 

22:名無しのファン

>>18いや日本のトゥインクルシリーズにも新たなダービーウマ娘のスペシャルウィークちゃんがいるだろ。

 サイレンススズカさんのイチオシウマ娘だぞ。

 

 

23:名無しのファン

>>12フォワ賞は流石に芝に慣れるためじゃないか?

 

 

24:名無しのファン

>>23そうかなぁ……そうかも

 

 

25:名無しのファン

>>22 スペシャルウィーク以外にも皐月賞バのセイウンスカイ、NHKマイルのエルコンドルパサー、ジュニア王者のグラスワンダー、一流のキングヘイローがいるだろ。

 

 

26:名無しのファン

>>25キングは熱狂的なファン多い印象

 

 

27:名無しのファン

>>25スペシャルウィーク強かったからな…。ダービーでならサイレンススズカに匹敵すると思うわ

 

 

28:名無しのファン

>>27いや迫られてキレるスズカさんには追いつけないだろ

 

 

29:名無しのファン

>>28でもお兄さんに迫られたら喜びそう

 

 

30:名無しのファン

意味が違うんだよなぁ…。

 

 

31:名無しのファン

ゴールじゃない場所にお兄さんを配置すればちょっと弱体化するのでは?

 

 

32:名無しのファン

流石にソラを使ったりはしないと思うが…。

 

 

33:名無しのファン

お兄さんに向かって外ラチ大斜行かました弥生賞

 

 

34:名無しのファン

>>33当時は意味不明だったけど、今ならお兄さんに向かって走ってたのが良くわかる。動画見ても笑顔だし

 

 

35:名無しのファン

無料動画サイトとかでレース見れればいいんだけどな…。

 

 

36:名無しのファン

>>35URA「(貴重な収入源なので)ダメです」

 

 

37:名無しのファン

お、タイキシャトル出て来たぞ

 

 

38:名無しのファン

今日も最高の仕上がり。

これまで正直リギルの専制体制は好きじゃなかったけど、この日のためだったと思えば許せる

 

 

39:名無しのファン

ミスターシービーからシンボリルドルフ、タイキシャトルにサイレンススズカ、完全に厨パだからな。

強いチームにお金を集めて、人材も集める。スポーツ強豪校と同じシステム

 

 

40:名無しのファン

国内だけだとまあ「またリギルかよ」というのも無くはないからな。

でも日本代表を託すなら他にない

 

 

41:名無しのファン

そしてタイキシャトル1番人気!

不敵な笑顔が今日も素敵すぎる

 

 

42:名無しのファン

>>41概ね同意だがタイキシャトルは喜んだ時の無邪気な笑顔が最高派

 

 

43:名無しのファン

俺はスズカさんの透明感のある笑顔すこ

 

 

44:名無しのファン

お兄さんとイチャついてるのを見るとほっこりするぞ

 

 

45:名無しのファン

>>44しないが?

 

 

46:名無しのファン

>>45メイクデビューの時からイチャイチャしてただろ。

というかデビュー10年前からイチャイチャしてるんだよなぁ、俺らが知らなかっただけで

 

 

47:名無しのファン

>>46すまんな、言葉が足りなかった。イチャイチャしてるのは見るが、ほっこりはしない。

 

 

48:名無しのファン

>>47俺も足りなかったみたいですまん。最初からラブラブバカップルだと思ってたからお兄さんとセットで応援してる

 

 

49:名無しのファン

バカップルの語源ってウマ娘とするように熱くイチャイチャしてるカップルってマジ?

 

 

50:名無しのファン

>>49(諸説あります)

 

 

51:名無しのファン

(こいつ、直接脳内に…!?)

 

 

52:名無しのファン

(ファミチキ下さい)

 

 

53:名無しのファン

(やはりお兄さんとスズカさんはバカップルということか…)

 

 

54:名無しのファン

(ファミチキ下さい)

 

 

55:名無しのファン

(お兄さん、チューして下さい)

 

 

56:名無しのファン

(凱旋門賞勝ってください)

 

 

57:名無しのファン

いやもう凱旋門賞勝ってくれるならチューでもうまぴょいでもいいわ

 

 

58:名無しのファン

凱旋門賞はこれまで、スピードシンボリ(遠征大敗後に有マ、宝塚、有マのグランプリ三連覇)、メジロムサシ、シリウスシンボリ(フォワ賞2着から凱旋門賞で14着大敗)が挑んで敗れ去った。

だけどジャパンカップでもカツラギエース、シンボルドルフ、サイレンススズカ以外は日本勢が負け続きのため、そもそも海外と日本には大きな差があるというのが定評

 

 

59:名無しのファン

>>58こうしてみると酷いな…。

 

 

60:名無しのファン

まさか凱旋門賞勝ったらうまぴょいしてもいい、が現実味を帯びてくるとは…このリハクの(ry

 

 

61:名無しのファン

こっちのホームでも負けてるのに、芝が違う向こうで勝てるわけないわな。

 

 

62:名無しのファン

【速報】雨の影響でバ場状態は重【悲報】

 

 

63:名無しのファン

知ってた

 

64:名無しのファン

知ってたけど辛い

 

 

65:名無しのファン

良バ場ならなー! 絶対勝てると思うんだけどなー!

 

 

66:名無しのファン

実際どう? フォワ賞なんて不良バ場でしょ?

 

 

67:名無しのファン

サイレンススズカが苦戦したレースは捻挫の時を除けば圧倒的に今回のフォワ賞だぞ

実は出足も悪いし、末脚が全く伸びない

 

 

68:名無しのファン

ついでにラビットとしてスプリンターを連れてきた模様

 

 

69:名無しのファン

ヤバいやん

 

 

70:名無しのファン

ヤバいわよ

 

71:名無しのファン

流石のサイレンススズカでも欧州の芝、しかも重バ場でハナを奪われたらそのまま沈むしかない気が

 

 

72:名無しのファン

スタートで力を使いすぎたら力尽きるかもだしな

 

 

73:名無しのファン

>>72え、3000走れるのに?

 

74:名無しのファン

>>73芝が重いと加速するのに力を使う。その分疲れる。ドロドロの田んぼみたいなバ場ならなおのこと

 

 

75:名無しのファン

タイキシャトルは大丈夫なんだろうか…。

 

 

76:名無しのファン

月刊トゥインクル(7月号)

 

東条ハナ「タイキシャトルなら欧州のバ場にもまず適応できると考えています」

お兄さん「重バ場でも不良バ場でも、他より上のパフォーマンスを発揮する彼女こそ最強マイラーだと考えています」

 

東条ハナ「その点で言うとスズカの方が心配なのだけど」

お兄さん「スズカは仕方ないので能力でゴリ押ししてもらいます(苦笑)」

 

 

77:名無しのファン

>>76お兄さん素直すぎぃ!

 

 

78:名無しのファン

けっこう赤裸々に話すお兄さんである。でもフォレ賞で対策してたって言ってましたよね?

 

 

79:名無しのファン

まあ対策くらいはするだろ。中身は言ってなかったと思うけど。後フォワ賞な。

 

 

80:名無しのファン

能力でごり押し(それはそれとして対策は完璧にやる)

 

 

81:名無しのファン

これ多分、(タイキシャトルと比べたら)能力でごり押しせざるを得ないってだけだゾ

 

 

82:名無しのファン

あれれ~、お兄さん、タイキシャトルの方が評価してね~?

 

 

83:名無しのファン

スズカ「……はい?」

 

 

84:名無しのファン

あーあ、言っちゃった

 

85:名無しのファン

掛かったら困るからここ以外では絶対言うなよ

 

 

86:名無しのファン

まあ実際、凄い拗ねそう

 

 

87:名無しのファン

さてタイキシャトルのレース

 

 

88:名無しのファン

遂にか…!

 

89:名無しのファン

ドバイを制し、遂に本場の欧州…。

 

 

90:名無しのファン

日本最強から世界最強になる時が来たのか

 

 

91:名無しのファン

やっぱりサイレンススズカとタイキシャトルが同世代ってヤバくね?

 

 

92:名無しのファン

>>91 G1殆ど制覇されたから焼け野原だぞ。メジロブライト、エアグルーヴくらいしか生き残ってなくね?

 

93:名無しのファン

やはり長距離のメジロ

 

 

94:名無しのファン

頼む、勝ってくれ

 

 

95:名無しのファン

タイキで無理なら十年は無理そう

 

 

96:名無しのファン

タイキシャトル並のウマ娘が十年程度で現れるかな…。

 

 

97:名無しのファン

能力:めちゃ強い

芝適性:なんでもいける。ダートもいける

バ場適性:なんでもいける

展開:王道の先行抜け出しだけど逃げもできなくはない

 

 

98:名無しのファン

>>97うん、そうそういねぇわ

 

 

99:名無しのファン

さあゲートイン

 

 

100:名無しのファン

勝利を…!

 

 

 

 

………

……

 

 

 

101:名無しのファン

さあまずます揃ったスタート

 

102:名無しのファン

ラビットが逃げて、いいペースで追いかけるタイキシャトル

 

 

103:名無しのファン

やっぱり日本より競り合い激しいな。身体がっつり当たるし

 

 

104:名無しのファン

しかし余裕顔のタイキシャトル、弾き返してね?

 

 

105:名無しのファン

ペースは普通くらいかな。重バ場にしては

 

 

106:名無しのファン

日本のレースと比べたらゆっくりだな

 

 

107:名無しのファン

割と果敢に攻めてく

 

 

108:名無しのファン

好位はキープできてる!

 

 

109:名無しのファン

タイキシャトル2番手でそろそろ終盤か?

 

 

110:名無しのファン

勝ちパターン……!

 

 

111:名無しのファン

勝ち……勝ち…

 

 

112:名無しのファン

さあタイキシャトル抜け出した! だが後方の手ごたえもいい!

 

 

113:名無しのファン

うっそ

 

114:名無しのファン

引き離せない!?

 

 

115:名無しのファン

そのまま!

 

116:名無しのファン

頼む、そのまま!

 

 

117:名無しのファン

あと少し!

 

 

118:名無しのファン

いけ、いけぇー!

 

 

119:名無しのファン

やったか!?

 

120:名無しのファン

今、ゴール! タイキシャトル体勢有利か!?

 

 

121:名無しのファン

勝った……?

 

122:名無しのファン

勝ったように見える。

 

 

123:名無しのファン

頼む……頼む

 

124:名無しのファン

なお健闘をたたえ合うタイキシャトル

 

 

125:名無しのファン

でも勝ってほしいんだよぉ!

 

 

126:名無しのファン

1着タイキシャトル。タイキシャトル優勝!

 

 

127:名無しのファン

うおおおおおおおお

 

 

128:名無しのファン

やった! やりおった!

 

 

129:名無しのファン

勝ったああああ!

 

 

130:名無しのファン

【速報】タイキシャトル、海外GⅠを3連勝【朗報】

 

 

131:名無しのファン

ちょうどニュースでも速報流れて芝

 

 

132:名無しのファン

危なかった

 

133:名無しのファン

最近のタイキシャトルのレースとしては一番ギリギリだったな

 

 

134:名無しのファン

流石のタイキでも欧州の重バは辛かったのか…。

 

 

135:名無しのファン

なんだろう、めちゃくちゃ嬉しいのに胃が痛くなってきた

 

 

136:名無しのファン

>>135胃薬のめ

 

137:名無しのファン

>>135病院行け

 

138:名無しのファン

>>135現地で応援しろ

 

 

139:名無しのファン

優し…くないの混じってるな

 

 

140:名無しのファン

タイキシャトルであれだけ苦戦する重バ場って、流石のサイレンススズカでも不味いのでは?

 

 

141:名無しのファン

不味いか不味くないかで言えば、かなり不味い

 

 

142:名無しのファン

さあ次はメイン、凱旋門賞

 

 

143:名無しのファン

スズカさんだー!

 

 

144:名無しのファン

今日はウエディングドレス

 

 

145:名無しのファン

珍しく笑顔がないスズカさん

 

 

146:名無しのファン

これはかなりガチモードなのでは?

 

 

147:名無しのファン

他の選手と何か話してるな。誰か翻訳して

 

 

148:名無しのファン

いやそもそも聞こえないし…。

 

 

149:名無しのファン

読唇術によると概ね『いい勝負をしましょう』みたいな話な気がする

 

 

150:名無しのファン

なる、ほど…?

 

 

151:名無しのファン

どこまでガチなのか判断に迷うところ

 

 

152:名無しのファン

>>149じゃあ今スズカさんが観客席に向かって何かつぶやいたのは?

 

 

153:名無しのファン

無茶ぶりじゃねーか

 

 

154:名無しのファン

「お兄さん大好き」

 

 

155:名無しのファン

「チューして」

 

 

156:名無しのファン

「結婚まだ?」

 

 

157:名無しのファン

「ドレス着てスタンバってました」

 

 

158:名無しのファン

最早ただの大喜利じゃねーか

 

 

159:名無しのファン

ん? なんかスズカさん手元みて微笑んだ?

 

 

160:名無しのファン

表情ガチだったのがちょっと緩んだよな

 

 

161:名無しのファン

お兄さんになんか手に付けてもらったとか?

 

 

162:名無しのファン

現地勢ワイ、スズカさんの手に指輪を発見

 

 

163:名無しのファン

!?

 

164:名無しのファン

なん…だと……

 

 

165:名無しのファン

というかやっぱりいるのか現地勢

 

 

 

え、結婚?

 

 

166:名無しのファン

これは……勝った?

 

 

167:名無しのファン

なんだ、ただの結婚式だったか

 

 

168:名無しのファン

おせーんだよ!(歓喜)

 

 

169:名無しのファン

待ちかねたぞ、少年!(歓喜)

 

 

170:名無しのファン

ざわつく現地勢

「勝ったな」

「どうした急に」

 

「サイレンススズカの手に指輪がある。あれはどう見ても婚約指輪だ」

「………勝ったな!」

 

「ああ!」

 

171:名無しのファン

なんだろう、心配するのがアホらしくなってきた(いい意味で)

 

 

172:名無しのファン

足りない分は愛で補え!

 

 

173:名無しのファン

これが石破ラブラブ天驚拳ですか?

 

 

174:名無しのファン

じゃあお兄さんちゃんとゴール直前で告白して。役目でしょ

 

 

175:名無しのファン

>>174確かに加速しそうだけど芝

 

 

176:名無しのファン

ところで右手の指輪ってどんな意味?

 

 

177:名無しのファン

まあ一般的に婚約指輪かな

 

 

178:名無しのファン

婚約発表マダー?

 

 

179:名無しのファン

流石幼馴染を10年待たせてきたトレーナーだ、面構えが違う

 

 

180:名無しのファン

中継にお兄さん映るも、後方腕組みモード

 

 

181:名無しのファン

多分告白の台詞考えてるんだよ

 

 

182:名無しのファン

学生に手を出す10年間連れ添って無敗の七冠ウマ娘を育て上げ、遂に世界最強にまで伸し上げるお兄さんだ!

 

 

183:名無しのファン

最初の部分だけ見ると最低なんだけどな。なんかもういいんじゃないかなって

 

 

184:名無しのファン

というか手を出したわけじゃなくて互いの両親公認の婚約者だしな

 

 

185:名無しのファン

そしてスズカさんゲートイン

 

 

186:名無しのファン

迫力すげぇな、現地だと寒気がする

 

 

187:名無しのファン

スズカさんだけ「結婚式の邪魔はさせない」モード

 

 

188:名無しのファン

周囲のウマ娘たちが落ち着きなくて芝

 

 

189:名無しのファン

でもSagamixは落ち着いてるな

 

 

190:名無しのファン

>>189あー、なんかスズカさん(というかお兄さん)が注目してた…。

 

 

191:名無しのファン

Sagamix ここまで無敗でステップレースのニエル賞を制覇

 

 

192:名無しのファン

やべーじゃん。

 

 

193:名無しのファン

スぺちゃんといい、なんであの二人は……。

 

 

194:名無しのファン

東条トレーナーも大概だし、リギルの気質なのでは?

 

 

195:名無しのファン

さあスタート

 

196:名無しのファン

スタート!

 

197:名無しのファン

サイレンススズカ行った!

 

 

198:名無しのファン

実況「欧州の重い芝をものともせず、サイレンススズカ先頭!」

特別解説(シンボリルドルフ)「素晴らしいスタートですね。これ以上なく集中できているように見えます」

 

 

199:名無しのファン

そっか、副音声で会長の解説つきだ

 

 

200:名無しのファン

マ? 変えるわ

 

 

 

 

 

 



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掲示板(凱旋門賞2)

(一応本日2話目です)


201:名無しのファン

さあスタート

 

202:名無しのファン

っぱサイレンススズカのこのスタートよ

 

 

203:名無しのファン

ポンと飛び出してそのまま先頭

 

 

204:名無しのファン

「さあ展開は分かり切っていますね。サイレンススズカの大逃げです」

「問題はラビットとして起用されたスプリンターにどう対抗するかでしょう。スピードでは負けていませんが、乾坤一擲で望まれればスズカでも危ういかと」

 

 

205:名無しのファン

スタートの良さなら勝ってる

 

 

206:名無しのファン

あれ、若干ルドルフ笑った?

 

 

207:名無しのファン

俺らの目には見えない何かが見えてる会長

 

 

208:名無しのファン

単純に3バ身くらい引き離したからじゃ?

 

209:名無しのファン

「良いペースで走れているみたいですね」

「フフ……失礼。これはどうやら彼女が最後まで走り切れるかどうか、気力の勝負になりそうですが……十分に勝機はありそうですよ」

 

 

210:名無しのファン

どゆこと?

 

211:名無しのファン

トレセン中央のトレーナーワイ、担当バがサイレンススズカさんを見てドン引きしている模様

 

212:名無しのファン

ドン引き(カメラが)

 

 

213:名無しのファン

まさか……領域?

 

 

214:名無しのファン

なんて?

 

215:名無しのファン

>>213知っているのかニシノライデン!?

 

 

216:名無しのファン

それはレース界隈でまことしやかに語られる、名勝負の時に一部のものが目にするという伝説。

なんでも全てを切り払う鉈が見えたとか、玉座で雷撃を放つ皇帝が見えたとか、いわゆる“勝ちパターン”が集団幻覚を見せるとも。

 

 

217:名無しのファン

伝説って?

 

 

218:名無しのファン

ああ!

 

 

219:名無しのファン

ああ!

 

 

220:名無しのファン

それってハネクリボー?

 

 

221:名無しのファン

つまりスズカさんの勝ちパターンに入ったってことか! まだレース中盤に入るくらいだけど

 

 

222:名無しのファン

まあ確かに大逃げはいつもの勝ちパターンではある。

タイキシャトルの好位抜け出しみたいなもんか

 

 

223:名無しのファン

お前ら……。しかし勝ちパターンなら嬉しいぞ

 

 

224:名無しのファン

いやあの、ウチの子「領域出しっぱなしなんて初めて見た」って

 

 

225:名無しのファン

>>224あれかな、霊感強いのかな?

 

 

226:名無しのファン

>>225理屈は分からんがウマ娘とトレーナーは領域見えること多いぞ。

 

 

227:名無しのファン

「サイレンススズカがぐんぐんと他を引き離してリードを取っていますが、このリードは想定よりも大きそうでしょうか?」

「芝の状態にしては大きいですが、雨がなければもっと差は開いていたでしょうね。流石の彼女でも鎧袖一触とはいかないかと」

 

 

228:名無しのファン

現地民ワイ、雪景色を走るスズカさんは綺麗

 

 

229:名無しのファン

一人だけ次元が違う場所走ってるな

 

 

230:名無しのファン

現地民大丈夫か…? 緊張でおかしくなってない?

 

 

231:名無しのファン

現地民だが何も見えぬ……普通に走ってるぞ。差はけっこうつけてるけど

 

 

232:名無しのファン

ともかくラビットは引き離したな!

 

 

233:名無しのファン

前提条件はクリア。スズカさんは楽しそうに走ってる

 

 

234:名無しのファン

ところで観客席のお兄さんがちょっと心配そうなんですが。

身を乗り出してスズカさんを見てる

 

 

235:名無しのファン

だ、大丈夫いつも過保護だし…。

 

 

236:名無しのファン

重バ場にしてはかなりの、というかあり得ないハイペースだからな…。

俺らの感覚がマヒしてる

 

 

237:名無しのファン

さあサイレンススズカが大きく差を開いてフォルスストレート!

 

 

238:名無しのファン

ペースは落ちない

 

 

239:名無しのファン

行けるか…!?

 

 

240:名無しのファン

これはいける

 

241:名無しのファン

「フォルスストレートに差し掛かって、ペースは落ちませんね」

「いえ、いつもの彼女よりはやはり末脚が鈍い。このままではゴール前で捕まるかもしれません」

 

 

242:名無しのファン

ひいい!? 会長やめて!?

 

 

243:名無しのファン

あっ

 

 

244:名無しのファン

やばい差が詰まってきた

 

 

245:名無しのファン

スズカさんから笑顔が消えた

 

 

246:名無しのファン

Sea Waveの外からSagamix上がってくる! サイレンススズカ先頭!

 

247:名無しのファン

やばい、後方の脚色が良すぎる

 

 

248:名無しのファン

マジで捕まる!?

 

 

249:名無しのファン

 一気にSagamix! SagamixがLeggeraに並んだ、交わした!

 

 

250:名無しのファン

やばい、マジで詰め寄られてる

 

 

251:名無しのファン

粘れ! 粘れぇ!

 

 

252:名無しのファン

あと少しだ、頑張れ!

 

 

253:名無しのファン

お兄さんが待ってるんだぞ!

 

 

254:名無しのファン

頼む、あと少しなんだ!

 

 

255:名無しのファン

うまぴょいが待ってるぞ!

 

 

256:名無しのファン

あっ、あっ

 

257:名無しのファン

あんだけあったリードが

 

 

258:名無しのファン

まだ4バ身ある!

 

 

259:名無しのファン

ゴール遠いよ!

 

 

260:名無しのファン

もうダメだ

 

261:名無しのファン

でもまだ

 

262:名無しのファン

ん?

 

263:名無しのファン

あっ

 

 

264:名無しのファン

あれ

 

 

265:名無しのファン

お兄さんが叫んだぞ

 

 

266:名無しのファン

ここで、差したぁ!?

 

 

267:名無しのファン

「力尽きたかと思われたサイレンススズカここで差したぁ!」

 

 

268:名無しのファン

行ったぁ!

 

269:名無しのファン

確定演出かな

 

 

270:名無しのファン

「比翼連理、これが彼女たちの絆の力でしょう」

 

 

271:名無しのファン

うおおお誰も追いつけねぇ!

 

 

272:名無しのファン

リードを開いた!

 

 

273:名無しのファン

そのまま!

 

274:名無しのファン

ぶっちぎれぇ!

 

 

275:名無しのファン

逃げて、差す

 

276:名無しのファン

「日本のレース界に新たな夜明け! タイキシャトルに続いて、サイレンススズカが凱旋門賞ウィークエンドに栄光を刻みました!」

「同じ日本のウマ娘として、誇らしく思います」

 

 

277:名無しのファン

うおおスズカ最強! スズカ最強!

 

278:名無しのファン

勝ったぁあ!

 

 

279:名無しのファン

重バ場にも関わらず、ほぼ純白のウェディングドレスは流石の逃亡者

 

 

280:名無しのファン

まさか死んだふりとはな…。

 

 

281:名無しのファン

世界最強! 後はBCだけじゃ!

 

 

282:名無しのファン

死んだふりというか、蘇生した感じじゃね?

 

 

283:名無しのファン

「スズカぁ!」

「(あ、お兄さんの声!)」

 

 

284:名無しのファン

現地勢だが、お兄さんの声が聞こえた瞬間確かにサイレンススズカの回りに銀世界が見えた気がして鳥肌が止まらん

 

 

285:名無しのファン

一番に来るだろうな、と思ってお兄さんの横でスタンバってました

 

感極まって抱き合う二人【画像】

 

 

286:名無しのファン

ぐわああ可愛い

 

 

287:名無しのファン

てぇてぇ

 

288:名無しのファン

そのままお兄さんのほっぺにチューするスズカさん

 

 

289:名無しのファン

画像は!?

 

290:名無しのファン

ぐわああ見てええ

 

 

291:名無しのファン

現地民だが、ちょっとカメラ向けられない空気

 

 

292:名無しのファン

TVカメラは向いてるぞ

 

 

293:名無しのファン

映った! ぐあああイチャイチャしやがっておめでとう!

 

 

294:名無しのファン

末永く爆発しろ

 

 

295:名無しのファン

絶対幸せにしろオラぁ!

 

 

296:名無しのファン

チュー、頭すりつけ、抱き着きの三連コンボ

 

 

297:名無しのファン

こんなに全身で大好きアピールしてるウマ娘初めて見た

 

 

298:名無しのファン

世界最強だからな!

 

 

299:名無しのファン

勝ちやがったぁあああ! ひやひやさせがってぇ!

 

 

300:名無しのファン

結婚おめでとう!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

401:名無しのファン

まさか鯖が一斉に落ちるとは…。

 

 

402:名無しのファン

最初にメインのスレが落ちて、立て続けに落とされたらしいな

 

 

403:名無しのファン

巻き込まれ事故……でもまあ喜びを分かち合いたいのは分かる

鯖が落ちたら書けるところに殴り込んじゃう気持ちも分かる

でも自分が書いてるとこはやめて欲しかった

 

 

404:名無しのファン

今日くらいはアンチスレはお通夜かな?

 

 

405:名無しのファン

>>404いや、盛り上がってるぞ。遂に指輪渡したって

 

 

406:名無しのファン

アンチスレって何だっけ?

 

 

407:名無しのファン

だってお兄さんに迷惑かけるなら走らない、くらい言いかねないからなスズカさん

 

 

408:名無しのファン

お兄さん>レース これ常識

 

 

409:名無しのファン

正確には お兄さん≧走ること>>>レース なのであって、レースは好きだけど別に走れればなんでもいいスタイル

 

 

410:名無しのファン

にしても遂に世界制覇とはな…。

 

 

411:名無しのファン

弥生賞でゲート潜ってた幼女が大きくなって……。

 

 

412:名無しのファン

幼女だったかな……背は低かったか

 

 

413:名無しのファン

海外の反応

「どういうことなんだ、今度こそラビットがいると聞いたんだが姿が見えない」

「ラビットの前にロケットがいるぞ…」

 

「差せる! 差し切れ!」

「は?」

 

「なんで伸びるんだ!?」

「死んだフリ!?」

 

「オーマイガー!」

「やっぱりニンジャじゃないか」

 

「ラビットもダメ、重バ場でもダメ、無敗のSagamixでもダメ、あんなのどうやって倒すんだ…」

 

 

414:名無しのファン

勝利後インタビュー

 

インタビュアー「凱旋門賞勝利、おめでとうございます! 今のお気持ちは!?」

スズカさん「……えっと、とても嬉しいです」

 

「最後、もう一伸びした際は鳥肌が立ちました。あの時はどのようなことを考えてらっしゃいましたか?」

「お兄さんの声が聞こえて……お兄さんに最高の走りを見せたい、それだけを考えていました」

 

 

415:名無しのファン

公式見解「お兄さんへの愛」

 

 

416:名無しのファン

これ何が面白いって、真面目にインタビューしてるようでスズカさんに離してもらえなくて連れてこられたお兄さんだよな

 

 

417:名無しのファン

本人の惚気を聞かされて、すごく帰りたそうなお兄さん

 

 

418:名無しのファン

「今、一番気持ちを伝えたい相手はどなたですか?」

「お兄さん大好きです!」

 

 

419:名無しのファン

言ったああああ!? ってなったな

 

 

420:名無しのファン

諦め顔で「双方の親の合意の元、結婚の約束をさせていただいております」と婚約発表するお兄さん

鯖は死んだ

 

421:名無しのファン

多分あの瞬間、最初に落ちたのがアンチスレなんだよな。歓声で

 

 

422:名無しのファン

アンチスレにいたが、なかなか面白かったぞ。

自称プランナーから産婦人科医まで現れたからな

 

 

423:名無しのファン

「結婚式のプランナーです。ご結婚おめでとうございます」

「役所の者です。婚姻届の提出はまだですか?」

「産婦人科医です。検診はまだですか?」

「トレセン学園です。お子さんの入学手続きはまだですか?」

「トレーナーです。お子さんをスカウトしたいのですが…」

 

 

424:名無しのファン

気が早すぎワロタ

 

 

425:名無しのファン

婚約者ならうまぴょいしてもいいの?

 

 

426:名無しのファン

いいよ

 

427:名無しのファン

節度を守ればまあ…。

 

 

428:名無しのファン

なんなら通常スレの方が一部阿鼻叫喚だったし…。

 

 

429:名無しのファン

アンチスレってあれお兄さんの尻を蹴っ飛ばすスレだからな。凱旋門賞の大勝利と重なって凄かった

 

 

430:名無しのファン

次はBCかー

 

431:名無しのファン

【速報】タイキシャトル、サイレンススズカがBC出走を表明

タイキシャトルはBCマイル

サイレンススズカはBCクラシック

 

 

432:名無しのファン

ダート挑戦!?

 

 

433:名無しのファン

マジでやるのか……。

 

 

434:名無しのファン

指輪嵌めて貰ったからもう言っていいと思ったらしきスズカさん可愛い

 

 

435:名無しのファン

そうか、指輪嵌めて貰ったからあの気迫だったわけね

 

 

436:名無しのファン

指輪でパワーアップするウマ娘……それがサイレンススズカ

 

 

437:名無しのファン

俺も担当バに渡してみるか……と一瞬血迷ったけど普通に無理だな

 

 

438:名無しのファン

10年くらいの付き合いならいいと思うぞ

 

 

439:名無しのファン

>>437凱旋門賞か、あるいはサイレンススズカに勝ったらいいぞ

 

 

440:名無しのファン

ワロタ

 

 

441:名無しのファン

生徒と結婚してもいいぞ! サイレンススズカに勝てたらな!

 

 

442:名無しのファン

……うーん、無理では?

 

 

443:名無しのファン

お兄さんでもうまぴょいしてないみたいなのに、そのへんのトレーナーがするのはどうなの?

 

 

444:名無しのファン

>>439それドラゴン〇ール7つ集めてきたら神龍の代わりに願い叶えてやるぞ、って言うようなもんでしょ。

そもそもサイレンススズカに勝てるくらいなら多分かなり絆も深まってると思う

 

 

445:名無しのファン

お兄さんの尊敬するトレーナー

カレンチャンのお兄ちゃん

ライスシャワーのお兄さま

スマートファルコンのファン一号

 

 

446:名無しのファン

あっ(察し)

 

447:名無しのファン

鋼の意志を持った猛者たちだ、面構えが違う…。

 

 

448:名無しのファン

この中ではお兄さんがうまぴょい一号になるわけか

 

 

449:名無しのファン

お兄さまもてぇてぇ、カレンチャンはカレンチャンカワイイ、なのでトレーナーが折れたら祝福されそうだが。

なお何故か叩かれる傾向にあるマヤノトップガンのトレーナーちゃん

 

 

450:名無しのファン

なんでだろうね…。

 

 

451:名無しのファン

キャラの方向性なのかね。騙してそうに見えるとか

 

 

452:名無しのファン

お兄さまの悪口はマジでライスちゃんが可愛そうだからな。泣くぞ

 

 

453:名無しのファン

ガチギレしたら短剣抜きそうだけど、そもそも先に泣いちゃいそう。止めてあげて

 

454:名無しのファン

カレンチャンカワイイ! カレンチャンカワイイ!

 

 

455:名無しのファン

お兄さんを褒めると露骨に嬉しそうなスズカさんはやっぱり可愛い

 

 

456:名無しのファン

ウマ娘たちの惚気台詞

「そうですよね、お兄さまは凄く優しくて……カッコよくて…」(照れ)

「宇宙一カワイイ、カレンのお兄ちゃんだもん♡」(カワイイ)

「お兄さん、大好きです!」(新)なおほっぺにチュー付き

 

 

457:名無しのファン

これは剛速球のストレート

 

 

458:名無しのファン

アウトかセーフで言えばアウトを突破した異次元の回答

 

 

459:名無しのファン

レース直後で興奮し、指輪があればイチャイチャしても良いと思ってるスズカさん、落ち着かせようとしたお兄さんに指輪を見せつける

 

 

460:名無しのファン

控えおろう! この指輪が目に入らぬか!

 

 

461:名無しのファン

「(どやぁ)」

「あのな、スズカ。人前でそういうのはダメだからな…」

 

 

462:名無しのファン

(ガタッ)人前じゃなきゃいいんですね分かりました

 

 

463:名無しのファン

「じゃあ後でたっぷりチューしてください……!」

って顔に書いてあった

 

 

464:名無しのファン

知ってた

 

465:名無しのファン

周囲の観客はもちろんご存じなんだろう?状態

 

 

466:名無しのファン

とっくにご存じなんだろ?

これがお前の求めていたスーパーイチャイチャウマ娘だ!

 

 

467:名無しのファン

週刊誌が二人でホテルに入ったとか言ってるけど、普通に宿泊先だし婚約者ぞ

 

 

468:名無しのファン

俺たちを動揺させたいなら子どもができたとかじゃないとな

 

 

469:名無しのファン

浮気したら絶対に許さんが

 

 

470:名無しのファン

スズカさん(学生)とのうまぴょいは許されるけど、他の人(成人)とのうまぴょいは許されないお兄さん

 

 

471:名無しのファン

だって世界一のウマ娘に指輪渡して、生放送で告白させたトレーナーだからな

 

 

472:名無しのファン

レース直後の興奮状態とはいえ、羞恥心からも大逃げをかますスズカさん

 

 

473:名無しのファン

追いつかれなければ無いのと同じだからな!

 

 

474:名無しのファン

速報でサイレンススズカさんが凱旋門賞を勝利の後にトレーナーとの婚約を発表って流れた時は笑ったぞ

 

 

475:名無しのファン

「あれ、まだ婚約してなかったけ?」派と

「やっとかこの野郎!」派と

「末永くお幸せに」派に分かれて争っていた…。

 

 

476:名無しのファン

流石に急上昇ワードには入らなかったけど婚約指輪のところに表示される「大好き」「お兄さん」「公開告白」には笑った

 

 

477:名無しのファン

>>475争うどころか全員祝福ムードで芝

 

 

478:名無しのファン

次はアメリカを焼け野原じゃい!

 

 

479:名無しのファン

タイキシャトルとサイレンススズカの海外遠征コンビ…。

 

 

480:名無しのファン

どっちもリギルだし話が早い!

 

 

481:名無しのファン

アンチスレではお兄さんが告白してないことに不満らしいな

 

 

482:名無しのファン

いや俺らが知らないだけでスズカさんには告白してるでしょ。

 

 

483:名無しのファン

お兄さんも公開告白しようぜ!

 

484:名無しのファン

世界三大恥ずかしい告白に入れてやるからよ!

 

 

485:名無しのファン

さすがにアレに入れるのはちょっと…。

 

代わりに日本三大イチャイチャトレーナーに入れよう

 

 

486:名無しのファン

>>485つまりこういうことか

1,お兄さんとサイレンススズカ(凱旋門勝利してお兄さん大好きです!)

2,お兄さまとライスシャワー(お兄さまのカッコよさを精一杯布教してくれるライス)

3,お兄ちゃんとカレンチャン(カレンチャンカワイイ!)

 

 

487:名無しのファン

>>486日本三大義理兄トレーナーとかでは?

 

 

488:名無しのファン

なんで兄なの?

 

 

489:名無しのファン

>>488 合ってるか分からんけど

お兄さん:幼い頃から家族同然に育ったから

お兄ちゃん:カレンチャンカワイイ

お兄さま:ライスちゃんの好きな絵本の登場人物から

 

 

490:名無しのファン

お兄さんはさー、ちゃんとスズカさんに愛を叫ぼうぜ

 

 

491:名無しのファン

名前呼ぶだけで復活したからな

 

 

492:名無しのファン

愛の力で超ウマ娘に覚醒しそう

 

 

493:名無しのファン

カレンチャンのお兄ちゃんは結局謎なんだな…。

 

 

494:名無しのファン

>>493なんとなくカレンチャンはお兄ちゃんにも言いたくなさそうな雰囲気

 

 

495:名無しのファン

結婚したらお兄さん呼び変えるのかな?

 

 

496:名無しのファン

ダーリン、とか……?

 

 

497:名無しのファン

>>496トレセン学園は婚活会場や!

 

 

498:名無しのファン

>>497言ってない定期

 

 

499:名無しのファン

結婚式はいつですか?

 

 

500:名無しのファン

凱旋門賞のご褒美どうすんだろ

 

 



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聖蹄祭

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 いつかの日の夢を。お母さんが何度目かの入院をして、寂しがる私のために、お兄さんが景色の良い草原まで連れて行ってくれた時の夢。

 

 あの頃からお兄さんはなんでもできる人というイメージだったけれど、よくよく考えてみると今の私よりもあの時のお兄さんの方が年下で。

 

 同じことができるかと思うと少し不安になる。同じこと、するかどうかは分からないけれど……できたらいいな、とは思う。

 

 

 

 

―――――目が覚めて、見知った匂いとぬくもりがあることに安堵する。

 

 

 

 お母さんは急に入院しちゃうし、お兄さんはトレセン学園に入ったら一人で寝なさいなんて意地悪を言うし。お兄さんは私がどれだけお兄さんを大好きか分かってない。

 

 今思えばお母さんにあまり負担を掛けたくなかったので、何でもお兄さんにやってもらっていたし。年上で、優しくて、なんでもできて、走るのを助けてくれるお兄さんは私にとって自慢だった。

 

 

 

 

 

 一人で寂しい時に、いつでも一緒にいてくれた。

 

 走ることくらいしか趣味も、特技もない。

 その走ることもペース配分ができなくて、もっと控えろとか、抑えろとか言われるのが常で。お兄さんが信じてくれたからこそ自分の走りを貫けたわけだけれど。

 

 

 

 

 でもその走りも、今では世界一なんて言われているわけで。

 そんな称号に拘りはないけれど、他の誰の<領域(景色)>よりも私とお兄さんの景色が勝ったことも、勝利の瞬間の景色も、その後のお兄さんのチューもこれまでのどの勝利よりも特別で。

 

 

 今までずうっと私のために頑張ってくれたお兄さんに、お返しができたのではないかと思う。………私ばっかりチューしたいって言うの、少し複雑ですけど。

 

 

 

 

 

 というわけで、胸いっぱいにお兄さんの匂いを吸い込んで。

 甘える時の癖で顔を擦り付けると、一番お兄さんを感じられる。抱きつきながらやるととてもいい。お兄さんが私のものになったみたいで、すごく幸せな気持ちになれる。

 

 

 

 

(……お兄さん、チューしたくないんでしょうか)

 

 

 

 

 その割にはいざチューすると好き放題してくるし、チューした後は手つきとかも優しいのでお兄さんも好きだと思うんですけど。

 

 

 

 そんなことを考えているとチューしたくなってきた。

 

 

 

(……どうしましょう)

 

 

 

 勝手にチューするのも……うーん。

 あ、そうだ。

 

 お兄さんに張り付いたまま、床頭台から指輪を取り。

 口元が緩むのを感じつつ、右手の薬指に装着。指輪をしているということはお兄さんのお嫁さんということである…! つまりチューしてもいい。

 

 

 

 

 とりあえずお兄さんのほっぺにチュー。

 唇にもチュー。おでこにもチューして、それでも目を覚まさないお兄さんにちょっぴり不満。

 

 

 

 

「お兄さん?」

 

 

 

 

 

 ……返事はない。

 むぅ……。お兄さん、大人のチューを毎日してくれる約束なのに…。

 

 

 

 

 八つ当たり気味にお兄さんの首筋に強めにチュー。

 ………起きない。

 

 

 

 

「………ぅぅー」

 

 

 

 

 と、チューしたところに赤い痕がついているのに気づいた。

 なんとなくチューした証みたいで、とってもいい。赤くなってるので、痛くないかは心配だけれど。チューだから赤?

 

 

 

 

「お兄さん、痛くはないですか?」

「……んー……スズカ、どうした? トイレか……?」

 

 

 

「チューしたんですけど、痛くないですか?」

「ふぁ………無いけど……もうちょっと寝させて……」

 

 

 

 …………お兄さんが起きるまでチューしてよう。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きると、スズカが全身で抱き着いてきていた。

 まあいつも通りと言えばそうなのだが…。こちらの目が覚めたのに気づくとフレンチキスをかましてくるのは………うん。けっこう困る。

 

 

 ついでに朝だと男は生理現象でアレがうまだっちするわけで。姿勢的にモロにスズカの太ももあたりに押しつぶされるわけなのである。

 

 

 

 

「………おはようございます、お兄さんっ」

「おはよう…」

 

 

 

 何か言おうと思ったのだが、幸せそうなスズカを見てやっぱりやめる。説明するのも面倒すぎるので耳元を撫でておいた。

 

 

 気持ちよさそうに脱力したスズカを放っておいて、とりあえず顔洗おう……。

 だが。鏡を見たら、首元にキスマークが付きまくっていた。…………いやあの、スズカさん? この後飛行機で日本に帰るんですが? 多分出迎えすごいと思うんだが。

 

 

 

 

「スズカぁ……これは何かな?」

「? ……あ。お兄さんにチューしたらそれがついて……なんだか嬉しくなって」

 

 

 ははぁ。

 本能的に独占欲が満たされたので、いっぱいつけてみたと。

 

 

 

 

「スズカ、これがあるとチューされたのがバレるわけなんだが……?」

「……? はい!」

 

 

 

 

 こいつ……無敵か?

 この恥ずかしさが分からないとは。仕方ないのでスズカにやり返して――――いや、待てよ。コイツそれが狙いか。

 

 耳をピコピコさせて、期待たっぷりの目で見つめてくるスズカ。

 キスマークを付けたが最後、「お兄さんにチューしてもらいました!」とか言って見せびらかす可能性が否定できない。

 

 

 

 

 普通、うまぴょいした時に付けるんだよこれは!

 

 しかしそんなのを言ったが最後、うまぴょいって何ですか? え、愛し合うためのもの…!? お兄さん、うまぴょいしてください! という流れが見える……。

 

 

 

 

 

「……スズカ、そのへんの人にハダカを見せたりしないよな? 恥ずかしいから」

「えっと……はい」

 

 

 

「このキスマークも恥ずかしいから見せないものなんだよ…」

「……!?」

 

 

 

 

 

 愕然としたスズカだが、慌てて抱き着いてくると、キスマークを消そうとゴシゴシしてくる。いやこれうっ血だから擦っても消えないし…。

 

 

 

「こ、このままだとお兄さんが恥ずかしいことに…!」

 

 

 

 そうだね。間違いなく「あいつ学生うまぴょいしたんだ!」「早速いちゃつきやがって」とかいう目で見られるんだろうな…。

 まあでも、涙目で必死なスズカを見ると許したくなってしまうわけだが。

 

 

 

 

「仕方ない、服でなんとか隠すから落ち着け」

「………ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 ずーん、と落ち込む姿はなんというかキノコでも生えそうである。

 仕方ないので頭を撫でてやると一応落ち着くが。やっぱりキスマークが多すぎる。

 

 

 どんだけキスしたんだコイツ。

 それで首筋が何かのアレルギーみたいにぽつぽつ赤くなってたのか。しかしスズカはこちらの呆れた目線にも気づいていないのか言った。

 

 

 

 

 

「なんだかお兄さんが私のものになったみたいで………嬉しいです」

 

 

 

 くっ、コイツは本当に…。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり無敵かコイツ。恥ずかしがるどころか嬉しそうに腕を絡めてくるあたり、ワキちゃん時代の遠慮のなさを感じる……スズカ、一応自重してくれてたんだな。

 とりあえずスズカ用に持ってきていた寒さ対策の緑のスカーフを自分の首に巻いておく。スーツにスカーフは微妙すぎるが、こうすればスズカのプレゼントを気に入ってつけてるバカップルに見えなくもない。

 

 

 

 

 そんなわけで周囲から不思議そうな視線をときどき感じつつ、タイキシャトルと合流して朝ごはんを食べてチェックアウト。日本への帰路に就いたのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――というわけで、聖蹄祭が近い」

 

 

 

 一応、リギルとしても準備はしている。

 アニメで言うと、リギル執事喫茶がそれに当たるのだが。世界一に輝いたばかりのスズカに接客させると大騒ぎになりかねないため、BCへの調整を理由に免除されている。代わりにミニライブをやることになったが。

 

 

 

 

「テイオーはルドルフと一緒に執事」

「うんっ! カイチョー、すごいカッコよかった!」

 

 

「グラスは和服でお茶を点てる」

「そうですね、執事よりはやりやすいかと~」

 

 

 

 本当はスズカにメイド服を着せたかったので執事以外のコスプレもOKにしてもらったのだが。よくよく考えると貴重なメイドスズカを大公開せずに済んだと思うべきか。

 執事タイキシャトルとか似合うのだろうか…? エアグルーヴ、ナリタブライアン、オペラオーあたりは似合いそうだが。

 

 

 

「スズカは……何歌う?」

 

 

 

 スズカのソロだと、七色の景色とかSilent starとかだろうか。

 あるいは二人に協力してもらってmake debut! とか、グロウアップ・シャインとか…。

 

 

 

「……そうですね。うまぴょい伝説、とか……」

「マジで?」

 

 

 

 誰だこんなトンチキなスズカに育てたのは!? 俺だ!

 

 

 

「お兄さん、コーレスお願いしますね?」

「お前それ俺の愛バがって言ってほしいだけだろ」

 

 

 

「……ど、どうして分かったんですか…!?」

「何故か分かっちゃったんだよ」

 

 

 

 分かりやすすぎるんだよなぁ…。

 とりあえずスズカが俺から好意を示してほしいのは察しなくもないのだが、レースのご褒美だけで勘弁してほしい。

 

 

 

 

「俺が聴きたいから七色の景色な」

「はいっ」

 

 

 

 いいのか。

 まあワキちゃん、割と俺からの希望を聞きたいみたいなところがあるからな……。逆にそれであんまり頼まなくなったような気もするけど。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 そんなわけで聖蹄祭。

 俺は執事喫茶で裏方として必死こいて働いていた。

 

 俺、トレーナーのはずなんだけど。文化祭なら生徒が頑張るんじゃないの?

 とは思うが、グラスに応援要請されるとちょっと断れない。テイオーはルドルフに夢中だし、スズカを表に出すとファンが殺到すると思われるので。

 

 このリギル人気はなんなんだ……いやそりゃ人気にもなるか。

 

 

 

 なおあらかじめスズカはライブ以外に出ないと発表しているのだが、割と探されている模様。

 

 

 

 

 

 残念だったな、スズカだったら俺の隣でコーヒー作ってるぞ。

 ……いねぇ!?

 

 

 と、反対側からくいっと袖を引かれる。

 振り返ると、古式ゆかしいロングスカートのメイド服に身を包んだスズカがちょっと恥ずかしそうにしつつも、褒めて欲しそうに立っていた。

 

 

 

「お兄さん、どう…ですか?」

「めちゃ可愛い」

 

 

 

「ほんとですかっ!」

「すごく可愛い」

 

 

 

 

 語彙力は置いてきた。奴はここから先の戦いにはついてこられそうもない…。

 ついこちらから抱きしめてしまうと、スズカは尻尾をばっさんばっさん振りながら言った。

 

 

 

「……お兄さんからぎゅーってしてくれるなんて」

「え、そんなに言われるほど…?」

 

 

 

 

 何度かは俺の方からも抱きしめた……ような?

 スズカの目線が心なしか冷たい。

 

 

 

 

「だって、全然お兄さんからはしてくれないですし…」

「……さーて、仕事に戻るか」

 

 

 

 

 コーヒー完成したし運ばないと。

 だって俺からやったら自制できる自信ないし……。

 

 

 

 

「お兄さん、私も運びましょうか?」

「騒ぎになるから止めろ」

 

 

 

 あとメイド服は見せびらかさなくていいから。

 何かいいたげなスズカに、仕方ないので頭を撫でておく。

 

 

 

 

「ライブ楽しみにしてるから。まだ騒ぎにならないように待っててくれ」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 その後、結局メイド服で七色の景色を歌ったスズカで聖蹄祭は例年以上の盛り上がりを見せ。いよいよ毎日王冠を迎える――――。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

『さあ、注目はやはりこの二人でしょう。NHKマイルカップに勝利し、東京優駿で2着、エルコンドルパサー! ジュニア王者にしてNHKマイルカップ2着、東京優駿で3着、グラスワンダー!』

 

『ここまでエルコンドルパサーの後塵を拝する形にはなっていますが、絶対能力ではグラスワンダーも負けてはいません。東京優駿と同じく出遅れなく自分のペースを保てれば十分に勝利を狙えますよ』

 

 

 

 

 

 

 

『GⅡ、毎日王冠――――スタートしました!』

 

 

 

 

 

 

 

 



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毎日王冠

 

 

 

 

 

 

――――不思議な感慨があった。

 

 

 

 NHKマイル、日本ダービー。

 レースに出走できた時、ライバルたちと競い合った時――――私は、こうしたかったのだと。正直なところ、怪我予防のためにプールトレーニングを織り交ぜる、というかがっつりと泳がされるのは不満がないでもなかった。

 

 

 私は競泳ではなく、レースで走りたいんです。

 それを言わなかった、言えなかったのは、それで強くなったというスズカさんに全く歯が立たなかったからで。

 

 

 

(今思えば、スズカさんには気づかれていたのかもしれませんね)

 

 

 

 自分もそうだけれど、二人で走った時は練習にしてはかなり本気だった。

 自分のトレーナーを、というかあの人を疑われるのは、テイオーさんの前で会長を疑うようなものでしょうし。けれどそんなことにも気づけないくらいには焦っていた。

 

 歯牙にもかけずに蹴散らされて、トレーナーさんには「最低限ハイペースについていけるか、ロングスパートを掛けられないと展開に頼ることになる」と言われた。……スズカさん並みの超ハイペースでなければ勝てる、というのは言い訳にしかならないのは分かっていましたし。

 

 『展開に頼る』という一見するとおかしくないようで、大分おかしなことを言われたけれど、それで自尊心を綺麗に煽られたのは間違いない。

 普通は展開は左右するのが極めて難しいものだし、上手く乗るべきものである。けれどそれを頼る、甘えだと断じられたのは不思議と共感できた。

 

 

 

 

 

 能動的に“領域”を使う。

 領域が出れば歴史的な名勝負とまで囁かれるそれを自在に操るのはスズカさんや、それこそルドルフ会長のような突き抜けたウマ娘でなければ難しい。けれど、ダービーの激戦を経て最低限は使い物になるようになったと思う。

 

 

 

 

 

(もしかすると、私が怪我で出られなかった未来もあった――――のかもしれません)

 

 

 

 

 実際は出て、そしてエルとスぺちゃんに敗れた。

 その敗北を胸に刻み付けて、けれど調子はこれまでになく良くなった。

 

 エルの先行抜け出しからの飛ぶようなストライド。

 それすら差し切るスぺちゃんの爆発力。

 

 

 ならば、それらすべてを切り払う薙刀になる。

 目指すべき頂――――スズカさんにはまだ届きそうにないけれど。それでも皆に勝って、同じ領域にまで上り詰めて見せる。

 

 

 

 

(まずはエル、貴女に勝たせてもらいます)

 

 

 

 NHKマイルと日本ダービー。二度も後塵を拝した。

 三度目は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

『さあ、注目はやはりこの二人でしょう。NHKマイルカップに勝利し、東京優駿で2着、エルコンドルパサー! ジュニア王者にしてNHKマイルカップ2着、東京優駿で3着、グラスワンダー!』

 

『ここまでエルコンドルパサーの後塵を拝する形にはなっていますが、絶対能力ではグラスワンダーも負けてはいません。東京優駿と同じく出遅れなく自分のペースを保てれば十分に勝利を狙えますよ』

 

 

 

 

 

「グラス……今日も勝たせてもらいマス」

「――――負けませんから」

 

 

 

 

 多くの言葉は要らない。

 互いを最強のライバルと認めているからこそ、後は走りで語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さん」

「やばいな」

 

 

 

 怪我が無ければどれほど強かったのか――――そう言われる名馬は数多くいる。

 その中でも怪我後に復帰し、多くの勝利を挙げた馬の一頭がグラスワンダー。それでもジュニア王者に輝き、マルゼンスキーの再来、怪物二世と言われた圧倒的な力を発揮できていたかというと怪しい。

 

 

 毎日王冠でサイレンススズカに詰め寄るも失速し5着、その後有馬、宝塚、有馬とグランプリ3連覇し、中でも宝塚記念ではスペシャルウィークに3馬身差で圧勝しつつも2着3着の差も7馬身とレベルの違いを見せつけた。

 

 

 

 

 だから、怪我さえなければと思ってはいた。

 ちょっと走りたそうなスズカを落ち着かせるように頭を撫でると、「大丈夫ですよ?」とでも言いたげな顔で身体を寄せてくる。

 

 その甘え方は大分走りたい時じゃないかなスズカ…。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

(――――この空気、やっぱりグラスは最高デスね)

 

 

 

 これでこそ、と思わされる。

 ジュニア王者に輝いた、勝てないのではと思わされた初めての相手――――強さ故の孤独を感じないでもなかったエルコンドルパサーが、初めて格上かもしれないと思ったグラスワンダー。

 

 

 

 戦う相手がいなくなれば世界に挑戦、なんて考えていたのに。

 今は勝つために世界で経験を積む、なんて言葉すら脳裏を過る。

 

 

 

 

 

 

『GⅡ、毎日王冠――――スタートしました!』

 

 

 

 

 

 ゲートが開くその瞬間、領域を感じる。

 だが、これは―――――違う。

 

 

 

 スタートの悪さを補うための、付け焼刃だった前のものとは。

 静かにお茶を点てるグラスが、薙刀を手に茶碗を叩き斬る。普段の穏やかさを切り捨て、全てを闘志に注ぎ込んだ覇気に、知らず知らずのうちに笑みを浮かべる。

 

 

 

 

『―――――いざ、尋常に』

「勝負デース!」

 

 

 

 

 

 

『さあ飛び出したのはエルコンドルパサー、ランナーゲイル! 先行争いはエルコンドルパサーとランナーゲイル。グラスワンダーは中団につけました』

 

 

 

 

 

(このグラスの覇気……並の逃げじゃ捕まりマス)

 

 

 

 

 悠々とハナを奪えた。

 ならスローペースに持ち込む? けれど、猛烈な違和感がそれを妨げる。

 

 

 

(何で――――スローでも捕まる…?)

 

 

 

 

 これまで戦ってきた経験が、背筋に感じる刃を当てられたような寒気が、その選択が誤りだと告げている。ハイペースにしてしまえばより後方に控えたグラスが有利になる、そのはずなのに。

 

 

 

(それ、なら―――ッ!)

 

 

 

 

 ギアを一段上げる。

 対サイレンススズカを想定した超ハイペースの消耗戦へ。いっそ、この戦いでこの走りを“領域”にまで昇華させるくらいの気持ちで。

 

 

 

 

『行った! エルコンドルパサー掛かってしまったのか!? エルコンドルパサーが二番手のランナーゲイルを大きく離して先頭! だが後続もサイレンススズカと戦ってきた猛者たちです、即座にペースを上げた!』

 

 

 

(勘が良いですね、エル)

 

 

 

 

 

 末脚、そしてロングスパート。

 徹底的に磨かれた長所は夏を越えて肉体と合致し、違和感なく振るえるようになり。スローだろうと末脚の勝負になればエルが相手でも勝ち切れると確信していた。

 

 打たれて一番嫌な手は、サイレンススズカの大逃げ。

 一般的な対サイレンススズカ戦術とはつまりハイペースで先行しつつ脚を溜めることなので、サイレンススズカがいなくとも実行できるだけのセンスと根性があれば疑似的な逃げ差しが可能。そんなこと、実際にできるのは知る限りではエルくらいだろうけれど。

 

 

 

 

 

(ですが――――逃がしません)

 

 

 

 

『グラスワンダーもスパートを掛けた!? いや、これは―――捲って上がっていく! 残り1000m! エルコンドルパサー先頭、リード5バ身! グラスワンダーが早くも2番手!』

 

 

 

 

(――――グラスッ!)

(どれほど高く飛ぼうとも――――全て切り払うッ!)

 

 

 

 

 

 

 

『前半1000mはなんと58秒台で通過! エルコンドルパサー先頭、グラスワンダーが詰め寄ってくる! ここから千切るのかグラスワンダー! 逃げ切れるのかエルコンドルパサー!』

 

 

 

 

 

 

 

 高く、何処までも飛んでいくコンドル。

 自らに与えられた名の如く飛翔するエルコンドルパサーに、

 

 

 

―――――『El Condor Pasa』

 

 

 

 

 

 焔のような闘志を刃に変え、薙刀を振るう。

 長く、そして鋭い切れ味。

 

 グラスワンダーの本当の走りを示すのにこれ以上はない得物。たとえどれだけコンドルが高く飛べるとしても、飛ぶ前に切り捨ててしまえばいいと。

 

 

 

 

 

 

―――――不撓不屈

 

 

 

 

 

 

 

(―――――くっ!? まだだぁー――ッ!)

立つ(絶つ)のはその――――頂!)

 

 

 

 

 

『逃げるエルコンドルパサー! 外から! 外からグラスワンダー!  エルコンドルパサー粘る! リード4バ身! だがグラスワンダー、ここでスパート!』

 

 

 

『後方はもう喘いでいる感じ! 先頭二人の争いになった! 残り400を切ってエルコンドルパサー先頭! 粘る粘る! だがグラスワンダーの脚色が良い!』

 

 

 

 

 

(――――振り切れないっ!? なら!)

(流石ですね、エル…!)

 

 

 

 

―――――『プランチャ☆ガナドール』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まだ、ここから――――!)

 

(ですが―――――この勝負は、私の勝ちです!)

 

 

 

 

 

 

 鬼気迫るグラスワンダーの領域が、展開されかけたエルコンドルパサーのそれを切り捨てる。霧散した領域に愕然とする間に、一気に並びかけられる。

 

 

 

 

 

『グラスワンダー並んだ! ――――いや、並ばない! あっという間に交わした! グラスワンダー先頭! グラスワンダー先頭で今、ゴールイン!』

 

 

 

 

『二着エルコンドルパサーは僅差でしたが、三着との差は5バ身くらいありました! これがジュニア王者、怪物二世が再びその力を見せつけました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「トレーナーさん。勝って参りました」

「ああ、流石だなグラス」

 

 

 

 久々の勝利、けれど慢心は不要。

 エルなら確実に、次までに勝てるように仕上げてくるという確信がある。

 

 けれど。

 

 

 

 

「グラスらしい、良い走りだった」

「いえ、トレーナーさんのお陰です」

 

 

 

 

 きっと、自分だけではエルに勝てなかった。

 良い走りだった、とは言うものの。何故かその走りを具体的なイメージとして持っていて、そのためのメニューを組んでいたと思われるこの人は……。

 

 

 

 

 

「……色々とお聞きしてみたい気はしますが。今は――――ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 エルに勝った以上、次に目指すはスぺちゃんとセイちゃん、キングちゃん。そして、

 

 

 

 

 

「………(すりすり)」

 

 

 

 トレーナーさんに凭れ掛かって、頭をぴったり付けながら夢見心地な栗毛の先輩。

 世界最強……(のはず)のウマ娘、スズカ先輩。

 とはいえ引退を明言しているので、有マ記念に出る以外に勝負を挑む方法はない。

 

 

 

 人気投票による選出となる有マ記念に出るのであれば、今回のエルへの勝利に加えてできればGⅠの勝利も欲しい。

 

 

 

「有マなら、多分出れるぞ。勝ち方が強すぎるからな」

「……そうでしょうか?」

 

 

 

 どちらかというとその根拠より、心を読んだようなタイミングと内容の方が気になるけれど。

 

 

 

 

「それでも出たいなら……マイルCS、秋天は……あんまり好きじゃないんだよなぁ」

 

 

 

 

 マイルCSはタイキシャトル先輩がBCマイルで不在。秋の天皇賞はサニーブライアン先輩くらい。ジャパンカップはスぺちゃん、エルが出走。

 JC、有マと激戦を繰り広げて全力を出せるかは正直怪しい。去年までなら、一も二も無くJC、有マを走っていただろうけれど、今は。

 

 

 

 

「そうですね、ではマイルCSでしょうか――――あの、そんなに意外ですか?」

 

 

 

 見るからに驚いているトレーナーさんと、あとスズカ先輩。

 

 

 

「だってグラスならライバルと戦ってスズカとも戦いたいって言うと思ってたし…」

「思ってました」

 

 

 

 

 

「どれだけ好戦的だと思われてるんですか…」

 

「戦闘民族…?」

「(こくり)」

 

 

 

 

 すごく不服だけれど、正直去年なら言っていたと思う。

 けれど落ち着いて考えれば万全な態勢でなければスズカさんには勝てそうにない。

 

 

 

 

「ですが――――勝ちに行かせてもらいますから」

「……負けませんよ?」

 

 

 

 

 ちょっぴり嬉しそうなスズカさんからして、きっと彼女にも競う相手として見て貰えたのだろう。

 

 

 

 

「いいなー、ねぇトレーナー。ボクのデビューは!?」

「まだ」

 

 

 

「いっつもそればっかりじゃんかー!?」

「トレーナーさんはいつもそうですが、ようやく私も一理ある……そう思えるようになりました」

 

 

 

 

 少なくとも意味なくウマ娘のやりたいという想いを邪魔する人ではない。……そんなこと、スズカ先輩を見ればすぐにわかることではあるのだけれど。スズカ先輩がチョロいからと言って言葉を尽くさないのはこの人の欠点だとは思う。

 

 

 

「なので、トレーナーさんはスズカ先輩みたいに何でも撫でておけばいいと思わずもう少し説明してください」

「そうだそうだー!」

 

「えっ、ごめん……」

 

 

 

 

 と、スズカ先輩はちょっと不満そうに顔を上げた。

 

 

 

 

「撫でるだけじゃなくてチューも下さい」

「……後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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いざアメリカへ

 

(日本馬は微妙に名前を変えてたり変えてなかったりします)

 


 

 

 

 

 

「――――スズカ」

「はい」

 

 

 

「――――タイキ」

「ハーイ!」

 

 

 

 

 BCまで約2週間。

 今年のBCはケンタッキー州チャールズダウンズレース場で行われる(BCは開催場所が毎年変わる)。温暖湿潤気候で芝が多いらしいので、スズカも喜ぶだろう。

 とはいえこの時期の日本はやはり寒いので、前にあげた緑色のニットの上着と白いスカート、あといつものタイツ姿のスズカである。

 

 

 

 

「というわけでアメリカに出発するわけだが……忘れ物とか無いよな?」

「お兄さん」

 

 

 

「どうしたスズカ」

「朝のチューがまだです」

 

 

 

 そういえば今日は準備のために俺が先に起きたからな。でもタイキの前でそれは普通にダメだと思うので色ボケスズカにチョップを食らわせ、気を取り直してからタイキに向かって言う。

 

 

 

「タイキ、忘れ物はないよな」

「OKデース!」

 

 

 

「(ひしっ)」

「いやスズカ……」

 

 

 

 無言の抱き着き。

 面倒なのでそのまま移動しようとするが、器用に背中側に回るとそのまま背中に張り付いてくる。

 

 

 

 

 

「スズカ、それ後ろからパンツ見えるぞ」

「……お兄さん、スカート抑えてください」

 

 

 

「えー。降りればいいだろ……」

「じゃあチューして下さい」

 

 

 

 コイツ……仕方ないのでスカートを抑えてやり、おんぶの体勢。

 よく恥ずかしくないな、と思わないでもないが。密着するのが好きだからなワキちゃんは…。

 

 

 

 

 ぴったり密着されるので、心臓の音さえも感じる気がする。

 と、温かくて柔らかいものが首筋に触れて、僅かに音を立てた。

 

 

 

「………ちゃんと、見えないところにしておきますね?」

「…………」

 

 

 

 キスマークつけやがったな。スズカのご満悦な笑みが見えないのに目に浮かぶようである。なんでコイツこんななのに、そっち方面の知識無いの…?

 

 

 

 

「……ぇへへ……チュー…」

 

 

 

 

 うああああ、降りろぉぉぉ!

 支えていた手を離して振りほどこうとするが、スズカは暴れ馬に跨るジョッキーのように無駄にスタイリッシュに、こちらの腹に回した脚の力と抱き着く腕で上手いこと背中をキープ。

 お前それレジェンドジョッキーをインストールしてないだろうな…。

 

 

 

 

「……タイキ、こいつをなんとかしてくれ」

「トレーナーさん、キスやハグのコミュニケーションは大事デース!」

 

 

 

 

 ……スズカの味方だった!? 感性がアメリカ人じゃねーか!

 くっ、感性が日本人のグラスなら助けてくれそうなのに。

 

 

 

 

「あ。スズカ、手つないで歩きたいな」

「――――はいっ!」

 

 

 

 チョロい……驚きのチョロさ。

 即座に降りたスズカは機嫌よく手を繋ぎ。なんか納得顔で頷いているタイキはさておき出発せねば。

 

 

 

 

「さて、車運転するから手離して」

「…!?」

 

 

 

 

 そのためにわざわざ空港までのレンタカーを借りてきたのだ。

 まさか走っていかせるわけにもいかないし、耳が良いウマ娘に満員電車はちょっとまずい。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 BCクラシック――――アメリカでのレース振興のために開催されたものであり、ウマ娘世界においてはURAファイナルズと少し性質が似ているだろうか。

 その中でもダート中心のアメリカではダート2000mのBCクラシックこそが最強決定戦であり。そこに殴り込みをかけてきた凱旋門賞ウマ娘、芝世界最強のサイレンススズカに対する注目度は割と高い。

 飛行機に乗りながら眺めるアメリカのレース雑誌からでもそれは割とよく分かった。

 

 

 

「『凱旋門賞で勝利できるくらいのパワーがあるのであれば、ある程度は善戦するのではないだろうか』『芝であれば間違いなく世界最強』かぁ……」

 

 

 

 

 なんというか、適性が疑問視されている…。

 こうして考えると、史実のサイレンススズカは米国二冠にしてBCクラシック覇者の父サンデーサイレンスを持つことで更にアメリカで注目されていたのかもしれない。

 あと凱旋門賞の重バ場、相性の悪い欧州の走りでスズカの実力を低く見積られるのは正直残念だ。

 

 

 

 怪我さえなければスズカは負けない………まあ相手がフランケルとかなら覚悟はするし、ハイペースで凄まじい末脚のジャスタウェイとかは相性悪そうだが。

 

 

 

 

「お。『影さえ踏ませぬレコードブレイカーがダートでも暴れるのか』……『日本が生んだ芝のリトル・レッドがBCクラシックに挑戦』」

 

 

 

 

 まあ適性については疑問視されているが、能力は認められている。

 特にリトル・レッドなんてのはアメリカのビッグ・レッドこと三冠ウマ娘、セクレタリアトの愛称だ。リトルだとビッグに負けてるみたいなのが若干癪だが、まあ確かにスズカは小さいし…。

 

 

 

 

 後の問題は……本来なら例の日曜日がある月のレースということか。来週は例の秋天があるし、BCはその次の週。距離も同じ2000mだし左回り。

 

 

 

 

 

 ……正直、気にしすぎだとは思う。

 けれど、もし万が一があるのなら――――何もせずにいたことを嘆くより、杞憂だったと胸をなでおろしたい。

 

 

 

 ヒントはやはりアプリ版の、想いの力で怪我を回避したスズカだろうか。あるいは史実での「調子が良すぎた」という説も考える必要があるのかもしれないが……。

 

 もしかすると、領域の連続展開がサイレンススズカの脚の限界を超える原因になるかもしれない(凱旋門賞は芝の状態からして領域を使っても速度は出なかったし)。

 

 

 

 

 簡単な方法はスズカに手加減させることだが……その場合、スズカの先頭の景色が見たいという夢を真っ向から邪魔する形になる。大逃げ以外の手法を取るなら、そもそも俺なんて不要なわけで。

 

 

 スズカなら頼めばやってくれるだろうが、それで負けて―――否、勝ったとしても俺はきっとスズカに真っ直ぐに好きだと言えなくなる気がする。もちろん、俺の拘りがどうなろうとスズカが無事なら全く問題はないわけなのだが。

 

 

 

 

 

 どうしたものか――――考えても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『――――さあ、いよいよ始まります。天皇賞秋、注目は1枠1番、1番人気―――サニーブライアン! 二番人気メジロブライト、三番人気はシルクジャスト』

 

『本日は11月1日、ここまで1が並ぶと運命的な何かを感じますね』

 

 

 

『皐月賞、日本ダービー、有マ記念、宝塚記念と惜しくも2着に敗れてきた無冠の王者サニーブライアンですが、その実力は疑いようもありません。遂にその手に栄冠を掴めるのか!』

 

 

 

 

『――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

「………おにぃさん?」

「スズカ、寝てていいぞ?」

 

 

 

 深夜1時過ぎ。

 こっそり起き出してテレビを点けたところで、ものすごく眠そうなスズカが目元を擦りながらよろよろと近づいてくる。

 

 

 

「………ふぁ………レースですか?」

「そうだな、秋天」

 

 

 

「んぅ……」

 

 

 

 もぞもぞと人の隣に座り凭れ掛かってくる。

 そのまま眠るのかと思いきや、やっぱりレースは気になるのか勝手に膝を枕にして観戦するための体勢に。

 

 

 

『ハナを奪っていたのはサニーブライアン! 競りかけていくサイレントハント! 激しい競り合い! 次いでオフサイドトラック、ステイゴールド――――メジロブライトは中団に控えました。シルクジャストは後方4番手くらいです』

 

 

 

 

『さあ最初のコーナーを回ってサイレントハントが先頭に立った! 二番手サニーブライアンだがまだ競り合いは続いている!』

 

 

 

 

 

「―――――……お兄さん、寒いです」

「……はいはい」

 

 

 

 

 まさか大欅と同じタイミングでスズカに何かある―――とは思いたくないが。

 なんならそのタイミングでスズカの傍にいようかと思っていたので正直この状況は少し助かる。姿勢を変えてスズカと抱き合うような体勢になり、手を伸ばして布団を被る。

 

 

 

 

『さあサイレントハントが先頭で大欅の向こう側――――四コーナーを回って直線に入る! ここでサニーブライアン先頭! サニーブライアンが先頭に立った! 後方からオフサイドトラックが詰め寄ってくるが先頭はサニーブライアン!』

 

 

 

 

 

「……スズカ、何ともないか?」

「………? なんとなくですけど、秋の天皇賞も走りたかったなぁって……」

 

 

 

 やめて。

 ほんとに止めて……。

 

 とはいえ秋天の一番人気が予後不良になるわけではなくて安心半分、スズカのBCへの不安半分だろうか。

 

 

 

 

『サニーブライアンだ! サニーブライアン一着! 怪我を越え、距離に苦しみ、そしてこの秋の天皇賞で遂に栄冠を掴みました! 二着オフサイドトラック、三着ステイゴールド』

 

 

 

 

「……大丈夫ですよ、お兄さん」

「スズカ…?」

 

 

 

 布団からひょっこり顔を出し、けれども抱き着くのは止めずにスズカは言う。

 

 

 

 

「――――お兄さんの夢、私たちの夢……必ず叶えましょう」

 

 

 

 

 

 スズカの夢は、最高の景色を見ること。

 俺の、夢は―――…。

 

 

 サイレンススズカの走りを超えたい……いや、本当は見たかったんだ。元気に走り続けるスズカを。途切れてしまった夢の果てに、何があったのかを。

 

 日本最強馬になり、アメリカに、世界に羽ばたく姿を。

 あるいは種牡馬として、その血を受け継いだ子が走り続けてくれることを。

 

 

 

 

 でも、今は。

 気の抜けた顔で、こんなに無防備で。でも走りに関しては誰よりも妥協しなくて、誰よりも走ることが好きで、ちょっと信じられないくらいの寂しがり屋のコイツがいてくれることの方が、大切に思えてしまっていた。

 

 

 

 

 行かないでくれ、そう言えばきっと止まってくれる。

 俺は―――――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

※この先ではアンケート結果により展開が何度か分岐します

 


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BCクラシック

 

 

 

 

 

 

 

 レース当日。

 控え室で、当然のように例のウエディングドレスのスズカのじゃれつきに応えながら、テレビに映るダホス―――2年前のBCマイルの優勝馬のウマ娘であり、史実においては2年の故障休養明けで(一応一叩きはしたらしいが)復活勝利を果たした奇跡の馬だった―――と熾烈な勝負を繰り広げるタイキを見た。

 

 

 

 

『最終直線に入ってダホスが先頭! 2年越しの復活なるのかダホス! だが内からタイキシャトル追走! そして外からは先ほどまで最後方にいたホークスリーヒル!』

 

 

 

 

『ホークスリーヒルの脚色がいい! タイキシャトルがダホスを抜いて先頭! だがダホス粘っている! ダホス引き離されない! ホークスリーヒルが迫ってきたがダホスが粘っている!』

 

 

 

 

『先頭わずかにタイキシャトル! だがダホス差し返すか!? ホークスリーヒルは届かないのか! ゴール前最後の攻防!』

 

 

 

 

『タイキシャトルか、ダホスか―――――日本の最強マイラーか、奇跡の復活なるかダホス! ―――――今、ゴール!』

 

 

 

 

『これは――――写真判定です!』

 

 

 

 

 

 タイキなら勝てると思っていたのだが、凄まじい粘り。流石はアメリカにおける奇跡の復活の代名詞。とはいえスズカは特に気にした様子もなく、靴の具合をもう一度確認していた。

 

 

 

『――――タイキシャトルです! 一着タイキシャトル! ダホス僅かに及ばず敗れました!』

 

 

 

「勝ったみたいですね、タイキ」

「そうだな」

 

 

 

 

 笑みを浮かべているスズカを見ていると、俺の方が無駄に緊張している気がする。

 なんとかスズカが無事に帰ってこられるように、ありったけの想いを込めるつもりだが……足りてるだろうか。

 

 

 

 

「……スズカ、ちょっとこっち来て」

「…? はい」

 

 

 

「ちょっと脚貸して」

「??? はい」

 

 

 

 靴を脱いだスズカの左足を借りて、念入りに触診する。

 ……熱感、なし。腫脹も疼痛も…なさそう。

 

 打診しても別に変な音とかしないし……。

 

 

 

 

「………お兄さん、くすぐったいですよ?」

「一応確認させてくれ…」

 

 

 

 

 

 スズカに頼んでタイツを脱いでもらうが別に異常はない。

 

 

 

 

 

「……足の痛みとか、無いよな?」

「あったら言いますよ?」

 

 

 

 

 そうかな……スズカだしなぁ…。

 でも大丈夫なようなので、後は信じるしかない。

 

 ぽわぽわした顔で寛いでるのを見ると不安でしかないんだが。……スズカってもうちょっと凛々しさなかったっけ? ワキちゃんになって甘えん坊に全振りしたのか。

 

 

 

 

「……スズカ、キスしていい?」

「――――キスしたいんですかっ!」

 

 

 

 なんでそんな嬉しそうなんだお前…。

 と訝し気な目で見ると、スズカも察したのかちょっと拗ねた顔で言った。

 

 

 

「……だって、お兄さんはチューしたいって言ってくれないですし。私だけがお兄さんを大好きみたいで……」

「ああ……」

 

 

 

 

 だって仮にもトレーナーが生徒に言ってたら問題だし…。

 今は、婚約者だし大事なレースの前なので許してほしいけど。

 

 

 

「……キスしたいし、もっと色々やりたいことは一杯あるよ」

「いっぱい…! ……何がありますか?」

 

 

 

 

 えっ。そりゃあ……そうだなぁ。

 

 

 

 

「……休みを作って、二人きりで世界中の綺麗な景色を巡ってみるとか?」

「はい、行きましょう。……でもやっぱりお兄さん、ずるいです」

 

 

 

 

 

 なんで?

 と思いつつも、早くキスしてとせっつくようにハグしてきたスズカの要望に応えるのだった。

 

 キスすると、甘えるように舌を絡めてくるスズカ。……こういうところにも性格出るのだろうか、と益体も無いことを考えてみたり。

 

 

 

 

「………はふ。……お兄さん、今度のご褒美………朝から夜まで、ずぅーっとチューしてたいです」

「口疲れるだろ……」

 

 

 

「………むぅ。でもお兄さん、チューしてると幸せじゃないですか?」

「まぁな。………そんな嬉しそうな顔するな。俺には羞恥心があるんだぞ」

 

 

 

 

 キラッキラした目で見つめてくるスズカは、まあキスしてると幸せなのが自分だけじゃなくて安心したとかそういう感じなのだろうか。

 ……コイツの自己評価の低さって、俺の塩対応のせい?

 

 

 

 

「とりあえずスズカよ。お前は相当な美少女な自覚を持ちなさい」

「………………あの、お兄さん。熱でもあるんですか?」

 

 

 

 ピタリ、と額を合わせてくるスズカ。仕草があざとい…。

 

 

 

「うそでしょ……熱、ないですね」

「そりゃそうでしょ」

 

 

 

 あったら困る。

 スズカに移さないように自主隔離されるところだ。レース前に感冒症状とかシャレにならないし。

 

 

 

 

「スズカが俺を好きなくらいには好きだぞ」

「………? 一緒にお風呂にも入ってくれないのに…?」

 

 

 

「参りました」

 

 

 

 そんなピュアな目で見られるととても辛い。

 一緒にお風呂なんて入ったら自制心が爆ぜる。俺はスズカと比べたら純粋に好きというより、独占欲とか肉欲とかの不純物が多すぎるようだ。

 

 

 

 さて。

 そろそろレース場に向かわないといけないわけだが……。

 

 やり残しはないだろうか。

 スズカの調子は極めて良い。万全と言っていい。

 

 

 

 戦略はいつも通りの大逃げ。

 やはりスプリンターのラビットを用意はしてきたようだが、欧州芝から解放されたスズカを止められるものなら止めてみろ、というものである。

 

 

 

 

 

「――――スズカ。勝って、必ず帰ってこい」

「じゃあお兄さん、いつものお願いします」

 

 

 

 

 いつもの……いや別にいつものじゃないが、スズカが満足するまでたっぷりチューしてから指輪を嵌める。……左手を出されたのをスルーして、右手にだが。

 

 

 

「……お兄さん」

「スズカ、結婚式楽しみだな。日本に帰ったらドレス選びに行こうな」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 チョロい…。

 満面の笑みでドレスに思いを馳せるスズカを強く抱きしめて、二人で歩き出す。

 関係者の立ち入れるギリギリまで一緒に並んで、そこから先はスズカの背中が見えなくなるまでは立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「必ず、貴方のところに帰ってきますから」

「……楽しんで来い、スズカ」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『さあ1枠1番、サイレンススズカ。アメリカでのレースは初になりますが既に12戦して12勝、GⅠを8勝し、凱旋門賞にすら勝利。かのセクレタリアトのビッグ・レッドになぞらえてリトル・レッドとも言われ出している芝の世界王者が、ダートの本場アメリカの最強決定戦に挑みます! 二番人気です。』

 

『タイキシャトルと共に、まさしく日本の誇りと言っていいウマ娘だと思います。芝とダートで無敗の世界最強ともなれば、それこそ世界でもセクレタリアトのような歴史的名ウマ娘に匹敵すると言っていいでしょう』

 

 

 

『2枠、Swain。去年、今年とヨーロッパの中距離において重要な位置づけであるキングジョージⅣ&QEDSを連覇し、更に愛チャンピオンSとGⅠを連勝中のヨーロッパ最強ウマ娘です。本日は5番人気』

『彼女が5番人気であることが、今回のレースの層の厚さを物語っていますね。BC史上最高のメンバーとも言われています』

 

 

 

『3枠はAwesome Again、今期はここまで5戦5勝の負け知らずです』

『素晴らしい調子の良さです。展開によってはかなり怖いウマ娘ですよ。今年Silver Charm、Tail Of The Catを破って無敗というのはかなりの実績です。C(カップリング)4番人気、です。アメリカでは同チームからの出走の場合はこのような表記になります』

 

 

 

『4枠Coronado’s Quest、Awesome Again、Touch Goldと同チームであり、ラビット役と言ってもいいでしょう。ですがなんとハスケル招待H、トラヴァースSと今年重賞を5連勝、GⅠも2連勝しシニア級最強と言われていました。ウッドワードSではSkip Awayに敗れましたが、それでもこのウマ娘をラビットとして出してくるというはかなり本気と言えますね。同じくC4番人気です』

『そうですね、アメリカの威信にかけても負けられないという気迫を感じます』

 

 

 

『5枠Arch、前走GⅢでTouch Goldを破りました。ここまで6戦5勝、シニア級の上りウマ娘です。6番人気』

『彼女が6番人気というのは本当に今回のBCくらいでしょうね』

 

 

 

『6枠Skip Away、今年のBCは彼女こそが主役と言われています。今回3位以内に入りますとシガ―を抜いて彼女が歴代の賞金王に輝くとのことです。堂々の1番人気』

『やはり貫禄がありますね。調子もかなり良さそうです。サイレンススズカが勝利できるかどうか、そこにも大きく関わってくるかもしれません』

 

 

 

『7枠Grand Slam、彼女は本来であればBCスプリントに出走予定でしたが急遽こちらに出走になりました。とはいえ1800での重賞勝利経験もあり、ただのラビットと侮ることはできません。7番人気です』

『果たして誰がハナを奪うのか、注目ですよ』

 

 

 

『8枠Silver Charm、ドバイワールドカップで勝利し、その後は疲れが出て調子を崩していましたがグッドウッドハンディキャップを圧勝し、見事な復活を果たしています。3番人気です』

『例年なら1番人気でもおかしくないポテンシャルです。注目のウマ娘ですよ』

 

 

『9枠Touch Gold。今シーズンは一般戦を1つ勝った後は2つ負けています。C4番人気です』

『チーム出走ですからね、決して無視できるウマ娘ではありません』

 

 

 

 

 

 

 ゲート入り前。

 やっぱり欧州と同じでアウェーな空気は感じる。やっぱりお兄さんがいないのは寂しいな、と思いながらも指輪を撫でて心を落ち着かせる。

 

 

 ……うん、大丈夫。

 まだ、チューしてもらった熱があるような、身体が温かいような感覚がある。

 

 

 

 

『ヘイ、リトルガール。小学校はこっちじゃあないぞ』

『見た目が小さいだけで小学生ではないですよ?』

 

 

 

 皆さん大きいので誤解しますよね、と笑顔で返すとなんだか微妙な顔をされたけれど。

 実は挑発に来たのかもしれない。

 

 

 お兄さんはレースを楽しんで来いと言ってくれるので、とりあえずレースは楽しんでこよう。

 気分を入れ替えて、ゲートイン。

 

 

 

 

『さあ9人体勢が整いました――――BCクラシック、今スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

(先頭の景色も、お兄さんの一番も―――――譲らない!)

 

 

 

 

 

 “領域”を展開―――私の好きな景色、一面の雪景色と、見守ってくれる(お兄さん)。目指すべきものであり、いつでも傍にいてくれる人であるそれを目掛けて駆け抜けるイメージ。

 

 

 

 

『横一線綺麗なスタート! しかしサイレンススズカが真っ先に抜け出した! 競りかけていくのはCoronado’s Quest、Grand Slam! 熾烈な先頭争いですが――――サイレンススズカが徐々に差を開く! 二人が必死に追いますが差が開いていく! 葦毛のSkip Awayは内を行って現在3番手から4番手! その外の葦毛がSilver Charmです。』

 

 

 

 

 結局のところ、大逃げは付け焼き刃でなんとかなるものでもない。スタートの時に極限まで加速するための技術であったり、その加速を維持し続けるためのスタミナだったり、そもそもの走り方だったり。

 

 お兄さんと追いかけ続けた夢の果てが、そんなに簡単に追いつけるとは思わないでほしい。

 

 

 

 

(もっと速く、もっと前に! もっと、もっと――――!)

 

 

 

 

 極限の集中を示すかのようにほぼ白黒の雪景色。

 更に深度を増したそれは、徐々に星空を狭めて暗闇に変えていく。

 

 

 

 

『―――最初のコーナーを回ってサイレンススズカ先頭! ぐんぐん加速して後続を離していく! Coronado’s Questはペースを落とした! Grand Slamまだ粘っているが差が2バ身近いか!?』

 

 

 足音が遠くなる。

 誰も追いつけない景色で、二人で目指したものだけを追いかける。それはとても楽しくて、身体も軽くて。今なら何処まででも駆けていけると思った。

 

 

 

 

『1000mの通過が――――56秒1!? なんというハイペース! だがサイレンススズカの後方3馬身くらいにじりじりっと離されるGrand Slam! その更に後方からCoronado’s Quest、その後方内からSkip Away、外からSilver Charm! 隊列は大きく縦長になっている!』 

 

 

 それでも、お兄さんとの走りを忘れたりはしない。

 わずかにペースを落としてコーナーで息を入れ、息も入れずに並びかけようとしてくる後ろのウマ娘を引き離そうと――――。

 

 

 

 

 

 

(―――――…? あれ?)

 

 

 

 

 

 いつの間にか、銀世界は消えて。

 真っ暗な闇の中に私は一人で立っていた。

 領域、でもない。

 でもレースの景色とも思えない、そんな不思議な場所で。それでも前に進もうとしたところで、左足が動かないことに気づいた。

 

 

 

 

(……なんで…っ!? 動かない………)

 

 

 

 

 左足が、何かに掴まれているかのように地面に張り付いて動きそうにもない。

 お兄さんのところに、行かないといけないのに。

 顔を上げて、星も見えなくなっているのに気づく。

 

 

 

 

(嫌……なんで…っ!? 暗い………怖い……っ)

 

 

 

 

 

(……お兄さんっ)

 

 

 

 声も出ない。

 寒い。

 

 左足の先から、凍えるような寒さがあった。

 その寒さに吞み込まれるように、足先から黒い闇に染まっていく。

 

 

 こんな時でも思い出すのはお兄さんのことで――――初めて会った時、公園で見つけてくれた時のことを思い出す。

 

 二人で見た星空、春は桜と、夏は海で、秋は山で、冬は雪の中。

 そんな思い出が浮かんでは、黒く塗りつぶされていく。

 

 

 

 

 

(私は――――……わたし、は……)

 

 

 

 

 もう、何も動かない。

 

 

 

 

 脚も、手も。

 心でさえも、暗い闇に呑まれて――――。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――ずっと、スズカを見ていた。

 

 

 

 

 とんでもない寂しがり屋で、だけどその分甘え上手で。

 走ることにはものすごく頑固で、でも誰より一途で。

 

 なんでもこなせるくせに男女のことは知らなくて。

 幼いと思っていたのに、いつの間にか少しだけ大人になっていて。

 

 

 

 

 誰よりもスズカを知っているから、その領域もたぶんはっきりと見えていた。

 限界を超えて、黒く染まっていくその果ても。

 

 

 

 

 

 

―――――――どうすればいい?

 

 

 

 

 

 自分にできることなんて、殆どない。

 けれど、それがもし、彼女の助けになれるのなら―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

※分岐の影響が大きい選択肢の得票率が10%以上ある場合、IFルートとして一部書きます(予定)


  


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君と見る景色

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――――スズカ)

 

 

 

 

 闇に呑まれた身体に、熱が点る。

 何も見えない闇の中で、何かが光っていた。

 

 右手の薬指で光る、優しい緑の光。

 

 

 

 

(聞こえているか? 返事はしなくていい。聞いていてくれれば)

 

 

 

 

(なあスズカ、覚えてるか? 初めて出会った日のこと)

 

 

 

 小さな栗毛の女の子が、入院したお母さんを待ってずっと公園で待っていた。

 最初は走ってみたり、景色を眺めたりしていたけれど――――誰もいなくなって、お母さんも来てくれなくて。それでも帰ったらもう会えないような気がして、泣きながら待っていた。

 

 それを、お兄さんがみつけてくれて―――――。

 

 

 

 

 

(本当はさ、諦めようと思ってたんだ。トレーナーを)

 

 

 

 ………え?

 

 

 

(あの時の俺はまだ義務教育の学生だったけど。トレーナーになる難しさを知って、諦めて他の道を進んだ方がいいんじゃないかと悩んでた。ただの一人のファンでいた方がいいんじゃないかって)

 

 

 

 

 テストの難しさ、ではきっと無い。

 悩んで、苦しんではいたけれど。それでも夢のために進むお兄さんは楽しそうだった。

 

 

 

 

(トレーナーになれても、そこに夢なんて無い。生まれ持った才能を覆すだけの力なんて俺には無い。夢破れるウマ娘を支えながら、一つでも勝利を得るために歯を食いしばって上を見続ける――――それに、耐えられる自信が無かったんだ)

 

 

 

 

 

 それは……でもそれは、きっとお兄さんが優しいからで。

 

 

 

 

 

(なかったんだよ。夢なんて……楽して生きていたかった。レースに人生を懸けるなんて、本当の意味では理解してなかった。あのままトレーナーになれても、ウマ娘を支えることなんてできなかった)

 

 

 

 知らなかった。

 私にとってお兄さんはいつだって余裕そうで、楽しそうで。なんでもできる凄い人だった。そんな風に悩んでいたなんて、知りもしなかったのに――――。

 

 

 

 

 

 

(………だから、お前のお陰なんだよ)

 

 

 

 

 ………お兄さん?

 

 

 

(最初は、寂しそうなワキちゃんを放っておけなかっただけだった。でも、楽しそうに……本当に楽しそうに走る君を見て、思ったんだ)

 

 

 

 

 

(………この子がどこまで走っていけるのか、見たいと思ったんだ)

 

 

 

 

 

 それは、でも……。

 

 

 

 

(スズカは、俺が夢を支えてくれていると思っているのかもしれない。一緒に同じ夢を見てると思っているかもしれない)

 

 

 

 

(けど、違う。―――――それは、違うんだ)

 

 

(―――――お前が……ワキちゃんが……スズカが、俺の夢なんだ)

 

 

 

 

 わたし、は……私は……。

 

 

 

 

(だから俺は、お前と出会ってからずっと楽しかったんだ。今までずっと、楽しんで来れた。お前と、駆け抜けてこれた。あの日お前に感じた夢と――――お前と、いつだって一緒だったから)

 

 

 

(……お前が走ってくれることが、お前と一緒にいるのが……スズカと一緒に歩んでいくのが、俺の夢なんだ)

 

 

 

 

 

(スズカ、あの時……指輪を渡したとき、ちゃんと伝えてなかったよな。きっとこれからも、言葉足らずで、お前を寂しがらせるかもしれないけれど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スズカァ―――――ッ! 好きだ―――ッ!」

 

 

 

 

「俺と、結婚してくれ――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、闇は消えていて。

 真っ黒だったものが分かれて七色の光に変わる。同じ光を放つ指輪をそっと胸に抱きしめてから、一歩踏み出す。

 

 その光に照らされた銀世界に、一歩、また一歩と蹄跡を刻む。

 返事はもちろん、決まっていて。

 

 

 

 

 

「―――――はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 黒い“領域”を越えて、その“先”の七色の輝き――――オーロラの中を駆け抜けて。大切なあの人が待つゴールに向けて、地面を踏みしめ。身体を突き動かす“熱”と鋭敏になった感覚に身を任せて、この景色を、夢を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

『―――――サイレンススズカがスパート! サイレンススズカが大きくリードを5バ身くらい開いて第四コーナーを回り直線コースに入ってくる! 速い速い、最早独走状態!』

 

 

 

 

 

 

 身体が軽い、熱い、気持ちいい。

 ゴールで叫ぶお兄さんの顔が見えて、脚の疲れも、重さも、全て吹き飛ばす喜び……大好きな気持ちで最高の走りを。

 

 

 

 

 

 

『さあ拍手と歓声に迎えられてサイレンススズカが先頭! リードを7バ身くらい取ってサイレンススズカ! 二番手Coronado’s Questは伸びが苦しい! 後方Skip Awayも喘いでいる感じ! Silver Charmが二番手に上がってくるがサイレンススズカが更にリードを開いていく!』

 

 

 

 

 

 もっと……もっと、もっと速く!

 お兄さんに、伝えたいことがいっぱいある。してほしいことも、してあげたいことも。諦めかけたことは謝りたいし、まだ言ってくれてないことがないか聞いておきたい。

 

 

 

 

 それに、私がお兄さんの夢なら――――…やっぱり誰よりも速い、世界で一番の私を見て欲しいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカだ! サイレンススズカ! 脚色は衰えないどころか更に加速している! 内から一気にAwesome Againがやってくるがこれは届きそうにありません! サイレンススズカ無敵の13連勝! 重賞は12連勝! 今、大差でゴール! 無敗の9冠にして、芝とダートの世界王者に君臨しましたッ!』

 

 

 

 

 

 

 だから、お兄さん。

 これが私の気持ち――――誰にも負けない、お兄さんへの“好き”を籠めた走りです。

 

 

 

 

 

 

 

『タイムが……1分57秒7! レコードタイムです! これは……ワールドレコードでしょうか! 一瞬静まり返った観客席が歓声で爆発しています!』

『ダート2000mの世界記録が1分57秒8でしたので、そうなりますね……』

 

 

 

 

 

『まさに異次元の逃亡劇! そのままトラックも抜け出してトレーナーと喜びを分かち合っています!』

『何やら場内がざわついていますが――――おおっとこれは』

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さんっ!」

 

 

 

 

 

 外ラチを飛び越えて、お兄さんのところへ。

 そのまま力いっぱいに抱きしめられて、いつもは手加減してくれていたことを知る。

 

 疲れて息も切れているのに、捻じ込まれるような情熱的なチュー。

 少しでも酸素が欲しくて、すごく苦しいのに。お兄さんがそれだけ想ってくれているのが伝わってきて。

 

 

 

 ちょっと意識がどこかに飛びそうになったところで、ようやく離れて。名残惜しさを感じつつもヘロヘロになった私を、お兄さんは抱き留めつつ言った。

 

 

 

 

「………おかえり、スズカ」

「ただいま、お兄さんっ」

 

 

 

 

 と、お兄さんは私がちゃんと立てるようになるのを見計らうと、跪いて私の手を……右手に付けていた指輪を取った。

 

 

 

 

 

 

 

「スズカ、好きだよ。……お前と一緒に見る未来の景色が、俺の夢だ――――結婚しよう」

「………はいっ」

 

 

 

 

 

 左手の薬指に、今度こそ指輪が嵌めなおされる。

 自然と流れてきた涙が、お兄さんに飛びついた勢いでどこかに消えていく。

 

 受け止めようとしたお兄さんがバランスを崩して空いていた席に半ば倒れるように座り込み。それにも構わず十数年分の想いをぶつけるようにチューして、抱き着いて、頭を擦り付けた。

 

 

 

 

「―――――好き……大好きですっ!」

「スズカ――――ちょっ、待て落ち着――――むぐっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

【サイレンススズカとトレーナー、電撃告白によりBCクラシック制覇】

 

 『かねてより婚約を発表していたサイレンススズカとトレーナーだが、BCクラシックのレース中にトレーナーが想いを叫び、それに応えるようにサイレンススズカが加速する様子が一般の観客によりSNSに投稿された。

 

 世界レコードでの勝利後、熱烈なキスの後でトレーナーが改めて求婚する様子は全世界に放送され、祝福の声が関係各所から上がった。

 

 

 

『以前から病気がちな私に代わって、彼が子供の頃から娘の面倒を見てくれていた。娘を託すのなら彼しかいないと思っていた』(サイレンススズカの母)

 

『大人しくて手が掛からない、面倒見のいい子だった。けどいつかやるんじゃないかと思っていてもまったくやらないので、待ちくたびれていた』(トレーナーの母)

 

 

『比翼連理、やはり世界に羽ばたくには掛け替えのない存在が必要不可欠ということでしょう。彼らが今後も支え合って勇往邁進してくれることを祈ります』(シンボリルドルフ / トレセン学園生徒会長)

 

 

『まだ結婚しないのかな、と思っていました。トレセン学園の皆で祝福したいと話しています』(トレセン学園生徒)

 

 

 

 

 結婚式は有マ記念の後に関係者のみで実施されるとのこと。

 また子どもについて質問されると、

 

 

『たとえ婚約者であっても、トレーナーとして彼女が社会人になるまではそういったことはありません』(トレーナー)

『一緒にレースができるくらい欲しいです』(サイレンススズカ)

 

 

 と語ったとのこと(アメリカ〇〇ニュースより)

 またインタビュー中も密着して離れないなど熱愛ぶりを見せつけており――――』

 

 

 

 

 

 

「うわああああ、もう外出歩けねぇ!?」

 

 

 

 テレビをつければBCのスズカの最高の走りと一緒に、レース後のついカッとなってしたキスと告白が大写しになる始末。しかも明らかに俺の方からキスしてるし。

 更にSNSに無許可投稿しやがった現地民により、ご丁寧に字幕までつけられてレース中の告白した瞬間と、スズカの嬉しそうな顔、変態的な加速が取り上げられると、真面目なレース解説者まで「これは……愛ですね」と解説を明後日の方向にぶん投げる始末。

 

 そしてもうその映像を見るたびに思い出してチューしたくなるのか何なのか、熱烈なチューをかましてくるスズカもいるし。

 

 

 

 

「……すきぃ………お兄さんっ、もっと………ちゅー」

 

 

 

 

 

 

 ……つ、辛い…っ。

 自重をぶん投げ、トイレもお風呂も一緒に入れと大暴れするスズカを止めるのは無理なので、仕方なく一緒に入ればチューしながら身体洗ってくるし……なんで俺襲わなかったんだろう? もうなんか空腹を我慢しすぎて分からなくなったような心持ちである。

 

 

 

 さりげなく胸に手を当ててみると、ふにゃけた顔でキスを催促してくる。

 ………うおおおこんなところに居られるか! 俺は日本に帰るぞ!

 

 

 

 

「………お兄さん」

「何かな、スズカ」

 

 

 

「触られるの、はずかしいので……かわりにチューしてくれなきゃ嫌です」

「はい」

 

 

 

 

 唇が……ふやける…っ! 舌の筋肉が筋肉痛になりそう。なんでウマ娘はこんなに丈夫なんだ……ステイヤーだから? 誰だサイレンススズカをステイヤーにした変態は!? 俺だよ!

 

 

 もう動けないくらいチューさせられたのだが、無抵抗になったのをいいことに、あとついでにご褒美の約束を印籠か何かのように掲げて好き放題チューしてくる暴れウマ娘……。

 

 

 

 

 

「……チューしてないと、寂しいです」

 

 

 

 

 ちょっと心配そうな上目遣いの可愛い顔でそんなことを言ってくるが、言ってる内容は可愛くない。朝起きて、顔洗う間以外チュー。ご飯作ってる間はキスマークを量産され、食べ終わったらチュー。むしろ口移しで食べさせろと言いかねない勢いだった。

 

 やっぱりあの黒い“領域”で怖かったんだろうな、と受け入れたのがまずかった。

 ついにこっちからの愛情に確信を持ってしまったスズカはもう俺にも止められない。

 

 

 

 

 

「……頼む、スズカ……休ませて……つらい」

「……………あっ。ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 止まった。

 

 ウソでしょ……頼めばよかったのか……。

 膝枕をしてご満悦だったり、抱きしめられて頬擦りされるくらいならまあ………大人しいか? 大人しいと思うしかねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして色々あって見れなかった、菊花賞のレース映像をスマホで見ることに。

 

 

 

 

 

 レースは先頭に立つセイウンスカイがスローペースに持ち込もうとするが、恐らくは対スズカ用の戦術なのだろう先行策を取るスペシャルウィークがプレッシャーをかけ続け。熾烈なデッドヒートの末、写真判定に。

 

 僅差でなんとか凌いだセイウンスカイが二冠目を取った。

 恐らくスペシャルウィークの敗因は、セイウンスカイの背後で2番手になったことで追い抜ける相手がいなくなり、領域をしっかりと発動できなかったことだろう。それでも僅差だったあたり、末恐ろしいものを感じるが。

 

 

 

 

 

「……スぺちゃん、ちょっと太った…?」

「うっ」

 

 

 

 容赦ねぇ……。

 本人がいなくて良かったと思うスズカの率直すぎる言葉に、とりあえずスぺちゃんを擁護しておく。

 

 

 

 

「多分スズカがいなくて寂しかったんだよ……」

「なら仕方ないですね」

 

 

 

 

 と、そのままチューしようとして踏みとどまり。

 耳を萎れさせながら断念したスズカを、こちらから抱きしめる。

 

 

 

 

「……結婚式の予定、詰めよっか」

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっとまだまだ、俺たちの道は、景色は続いていくけれど。

 それでもスズカと一緒に歩んでいけるのなら、きっと辛い時も、苦しいときでも楽しんでいける。

 

 

 

 

 異次元レベルでの寂しがり屋なのは、色々と辛すぎるけれど。

 それでも、二人なら。きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間:掲示板(BCクラシック)

 

誤字報告いつもありがとうございます。

頂いた感想が1000件超えて嬉しかったので本日2話目です。


【無敗】サイレンススズカ(とお兄さん)のBCを応援するスレ【世界一】

 

1:名無しのファン

このスレは無敗の8冠ウマ娘、サイレンススズカさんとトレーナーにして婚約者のお兄さんを応援するスレです。

お兄さんアンチは別スレへ

 

 

2:名無しのファン

サイレンススズカ:12戦12勝 GⅠ8勝(皐月賞、東京優駿、菊花賞、JC、有マ記念、ドバイシーマクラシック、宝塚記念、凱旋門賞)

お兄さん:チームリギルのサブトレ 担当:サイレンススズカ(無敗八冠)、グラスワンダー(朝日杯FS、毎日王冠)、トウカイテイオー(未デビュー)

 

 

3:名無しのファン

1乙

 

4:名無しのファン

ついに来てしまったか…。

 

 

5:名無しのファン

引くほど強いグラスワンダーでもまだGⅠ1勝って、スぺちゃん世代エグくない?

 

 

6:名無しのファン

エグイ。でも普通にめちゃ強いサニブが全然勝てなかったスズカさん世代よりはまぁ…。

 

 

7:名無しのファン

短距離~マイル:タイキシャトル 中距離~長距離:サイレンススズカ

 

だからな。ティアラ路線に逃げるしかない。海外に逃げた?シーキングザパールもいる

 

 

8:名無しのファン

ティアラ路線はメジロドーベルが強かったけどな。オークスと秋華賞勝ったし

 

 

9:名無しのファン

結論:焼け野原

 

海外には逃げるというかそれ前方への脱出……SHIMAZUか何かか

 

 

10:名無しのファン

だってサニブの出走レースが悉くスズカさんに持ってかれるから……。大阪杯はエアグルーヴだったし

 

 

11:名無しのファン

やっぱり強い女帝

 

 

12:名無しのファン

ところでBCのメンバーどうなの? 強いの?

 

 

13:名無しのファン

>>12めちゃ強いぞ

 

 

14:名無しのファン

>>12歴代最高のメンバーとも言われる

 

 

15:名無しのファン

まずSkip Away、サイレンススズカを上回る一番人気。

去年のBCクラシックで6バ身の圧勝(タイキブリザード5着)、今回3着以内で歴代賞金王に輝く。

今年既にGⅠで4勝、9月までは無敗だったが10月に1敗してる。

 

 

16:名無しのファン

はえー、すっごい

 

 

17:名無しのファン

アメリカの歴史的名ウマ娘の一人だろうな

 

 

18:名無しのファン

言わずと知れたサイレンススズカ、二番人気。

デビュー時から「逃げ差し」とも言われる特殊な大逃げで圧勝、弥生賞から皐月賞に直行し余裕の勝利。ダービーではサニーブライアンにハナを奪われるも抜き返して競り勝つ。菊花賞ではまさかのハイペースの大逃げで周囲の予測を裏切りレコード決着。JCでピルサドスキーを圧倒し、有マ記念では捻挫しつつも貫録勝ち。ドバイシーマクラシックでは初の海外遠征をものともせず圧勝。凱旋門賞では重バ場にも負けず、お兄さんの声に応えて勝利。

そのままアメリカのダート最高峰であるBCクラシックに殴り込み。

 

 

19:名無しのファン

うん? うん……

 

 

20:名無しのファン

宝塚忘れてるぞ

 

 

21:名無しのファン

なんかGⅠいっぱい書いてあってよくわからんな…。

 

 

22:名無しのファン

すまん、素で忘れた

 

 

23:名無しのファン

多すぎて忘れられるGⅠ勝利w

 

 

24:名無しのファン

意☆味☆不☆明の競走成績

 

 

25:名無しのファン

日本の歴史的なウマ娘だろうな

 

 

26:名無しのファン

言わずと知れたサイレンススズカ、無敗の八冠ウマ娘。シニア級1年目。

好きな物はお兄さん、あと走ること。趣味は走ること。特技は速く走ること。幼馴染で家族同然の婚約者がトレーナー。凱旋門賞で婚約指輪を貰った。

 

有マ記念で引退し、ドリームトロフィーリーグに移籍する予定。入籍時期は不明。

 

 

27:名無しのファン

今度はすっきりしたな!

 

 

28:名無しのファン

すっきりしすぎでは…?

 

 

29:名無しのファン

『無敗の八冠ウマ娘』のインパクトがヤバすぎる。

 

 

30:名無しのファン

シンボリルドルフの七冠もかなりやばかったのに…。

 

 

31:名無しのファン

とはいえ真の七冠は国内の王道路線のGⅠ勝ち数なんだろうけど……もっと凄いことしてるからなぁ

 

 

32:名無しのファン

次いでSilver Charm、ドバイワールドカップで勝利した後調子を崩していたが、先のレースで圧勝し完全復活。三番人気。

 

 

33:名無しのファン

復活した映像見るとなんで三番人気なんだろう、と思ったけどサイレンススズカの名前を見て察する。

 

 

34:名無しのファン

むしろなんでスズカさんは一番人気じゃないの?

 

 

35:名無しのファン

だってダート走ったことないし…。

 

 

36:名無しのファン

でもお兄さんがいけるって言ってたし…。

 

 

37:名無しのファン

お兄さん「スズカならいける」

 

 

38:名無しのファン

お前それしか言わねぇな! いけたわ!

 

 

39:名無しのファン

無敗三冠「スズカならいける!」

クラシックで五冠「いける!」

ドバイ海外挑戦「いける!」

凱旋門賞「いけたわ!」

 

 

40:名無しのファン

なんでいけるのか…。

 

 

41:名無しのファン

長距離「お兄さんと特訓したらいけました」

海外「お兄さんと一緒なのでいけます」

欧州「色々走ってたらいけました」

 

 

42:名無しのファン

C四番人気、Awesome Again、今期はここまで5戦5勝の負け知らずで今年Silver Charm、Tail Of The Catに勝利している。Coronado’s Quest逃げができるウマ娘。トラヴァースSと今年重賞を5連勝、GⅠも2連勝しシニア級最強と言われる(ウッドワードSではSkip Awayに敗北)、Touch Gold今のところは特筆するとこなし。

 

 

43:名無しのファン

こうしてみると分かるSkip Awayの強さ

 

 

44:名無しのファン

今季負け知らずは強くね?

 

 

45:名無しのファン

去年から負け知らずのスズカさんは…?

 

 

46:名無しのファン

スズカさんはもう例外の塊だから…。

 

 

47:名無しのファン

スズカさんのここが例外

・大逃げしかしないのに負けない

・逃げなのに何故か差し並に伸びる

・ラビットを絶望させる巡航速度

・デビュー時からお兄さん大好き(幼馴染がトレーナー)

・婚約してる(双方の親公認)

 

 

48:名無しのファン

5番人気のSwainは去年、今年とヨーロッパの中距離において重要な位置づけであるキングジョージⅣ&QEDSを連覇し、更に(アイルランド)チャンピオンSとGⅠを連勝中のヨーロッパ最強ウマ娘(サイレンススズカを除く)

 

 

49:名無しのファン

なんでそれで5番人気なんだ……あ、よく見たらダート初挑戦か

 

 

50:名無しのファン

ダート初挑戦で5番人気は高いな! あれ…?

 

 

51:名無しのファン

ヨーロッパ最強ウマ娘だぞ!

 

 

52:名無しのファン

6番人気のArch、前走GⅢでTouch Goldを破ったここまで6戦5勝、シニア級の上りウマ娘

 

 

53:名無しのファン

7番人気はGrand Slam、BCスプリント出走予定だったが急遽変更。1800での重賞勝利経験もあり。

 

 

54:名無しのファン

ラビットかな……?

 

 

55:名無しのファン

いや違うな、ラビットはもっとこう、パァーって動くもんな…。

 

 

56:名無しのファン

やめたげてよ……ラビットも頑張ってるんですよ!?

 

 

57:名無しのファン

ブラック企業に無茶なノルマを課されたかのような…。

 

 

58:名無しのファン

「サイレンススズカに競り勝て」

「無理です」

 

59:名無しのファン

スズカさんの何が怖いって、ただの大逃げじゃなくて後続の脚を潰すような超ハイペースなんだよな。

 

 

60:名無しのファン

ついでに心も折る

 

 

61:名無しのファン

スズカさんの脚はなんで無事なんだろう…。

 

 

62:名無しのファン

それはこう、お兄さんが良い感じにケアしてるんじゃね?

 

 

63:名無しのファン

スズカさん「温泉連れてってもらいました!」

 

 

64:名無しのファン

あー、なんだっけ。三冠のお祝い…?

 

 

65:名無しのファン

スズカさんの貰ったご褒美シリーズ

・布団

・枕

・温泉

・チュー

・指輪

 

66:名無しのファン

前から気になってたんだけど、スズカさんがそんなに喜ぶ布団ってお兄さんの使用済み布団なのでは?

 

 

67:名無しのファン

いや、流石にそれは……。

 

 

68:名無しのファン

でもスズカさんだよ?

 

 

69:名無しのファン

あー、そう考えると妙にしっくりくるラインナップ

 

 

70:名無しのファン

布団貰ったらよく眠れたって言ってたな。……そういうことかよ!?

 

 

71:名無しのファン

寝具から人生までご褒美に差し出すお兄さん……。

 

 

72:名無しのファン

つまりもううまぴょいしたということ…!?

 

 

73:名無しのファン

流石にしてるだろ。

 

 

74:名無しのファン

してなかったらアンチスレが盛り上がるぞ。はよやれって

 

 

75:名無しのファン

【速報】タイキシャトル、BCマイルに勝利

 

 

76:名無しのファン

知ってた

 

77:名無しのファン

まあ勝つよね

 

78:名無しのファン

めちゃ接戦だったぞ

 

 

79:名無しのファン

いや見てるよ。こっちには書き込んでないけど

 

 

80:名無しのファン

ダホス…おめぇすげぇよ。けどオラの勝ち! じゃあな…!

 

 

81:名無しのファン

ダホスすげぇな。タイキいなかったら奇跡の復活やん

 

 

82:名無しのファン

無☆慈☆悲

 

83:名無しのファン

というわけで、いよいよ芝とダートの世界王者への挑戦か…。

 

 

84:名無しのファン

実況「これほどまでに期待の持てる海外遠征はこれまで無かったですね」

解説「現時点でも十分すぎるほどに素晴らしい記録を残していますからね」

 

実況「恐らく、もっとも多くの日本のレースファンの期待を背負ってサイレンススズカ、二番人気です!」

解説「日本が生んだ異次元の逃亡者、彼女らしいレースを期待したいと思います」

 

 

85:名無しのファン

いよいよゲートイン

 

 

86:名無しのファン

なんかスズカさん話しかけられてるな

 

 

87:名無しのファン

やっぱり海外勢いかつい……そうでもないかな?

 

 

88:名無しのファン

スズカさん童顔だからな…。

歳の差ありそうに見える

 

 

89:名無しのファン

多分こうだぞ

「ようお嬢ちゃん、間違って入ってきちまったのかい?」

「おい、レースしろよ」

 

 

90:名無しのファン

いたって自然な流れ

 

 

91:名無しのファン

スズカさん落ちついてる

 

 

92:名無しのファン

いや、指輪見てニコニコしてるぞ

 

 

93:名無しのファン

回復アイテムかな?

 

 

94:名無しのファン

ウエディングドレスだから指輪が映えるな

 

 

95:名無しのファン

現地民ワイ、隣にお兄さんいて震える

 

 

96:名無しのファン

なん……だと

 

97:名無しのファン

ちょっと羨ましいww

 

 

98:名無しのファン

スズカさんの嫁やん

 

 

99:名無しのファン

>>95スズカさんの調子聞こうぜ!

 

 

100:名無しのファン

>>95うまぴょいしましたか、って聞いといて

 

 

101:名無しのファン

普通にセクハラでは?

 

 

102:名無しのファン

おう始まるぞ

 

103:名無しのファン

さあゲートイン完了

 

 

104:名無しのファン

はじまる

 

105:名無しのファン

緊張の一瞬

 

106:名無しのファン

開いた!

 

107:名無しのファン

さあ綺麗なスタート

 

 

108:名無しのファン

やっぱりスタート上手いスズカさん、あとスプリンター

 

 

109:名無しのファン

Coronado’s QuestとGrand Slamな

 

 

110:名無しのファン

スプリンターはGrand Slam

 

 

111:名無しのファン

新たな犠牲者か…。

 

 

112:名無しのファン

かかってこいよスプリンター!

 

 

113:名無しのファン

いいだろ、サイレンススズカだぜ?

 

 

114:名無しのファン

誰かスズカさんの心配してあげろ…。

 

 

115:名無しのファン

ゴールにお兄さんいるとスズカさんのスタミナ無尽蔵説

 

 

116:名無しのファン

やっぱりハナを奪うサイレンススズカ!

 

 

117:名無しのファン

スプリンターが離されるの何度見ても芝

 

 

118:名無しのファン

パワーが違うぜ、パワーが

 

 

119:名無しのファン

でも今日のラビットは粘るな…。

 

 

120:名無しのファン

スズカさんが3バ身しか離せないなんて

 

 

121:名無しのファン

(割と離れてね?)

 

 

122:名無しのファン

そして徐々に差を広げていくスズカさん

 

 

123:名無しのファン

お、Coronado'Questは諦めたな

 

 

124:名無しのファン

書きにくいからコロちゃんでいい?

 

 

125:名無しのファン

グラちゃんとコロちゃんかな

 

 

126:名無しのファン

グラコロ……。

 

 

127:名無しのファン

スズカ>>グラ、コロ>スキッパー、銀チャ>オーサム

 

 

128:名無しのファン

1000m 56秒1!

 

129:名無しのファン

はっや!?

 

130:名無しのファン

殺人的な加速だ…。

 

 

131:名無しのファン

なんで芝より速いんですかね

 

 

132:名無しのファン

さあ第三コーナー回ってサイレンススズカが先頭

 

 

133:名無しのファン

ファッ!?

 

134:名無しのファン

なんかお兄さんが愛を叫んだ

 

 

135:名無しのファン

は?

 

136:名無しのファン

あ、スズカさん加速した

 

 

137:名無しのファン

あああ置いてけぼりにされたグラちゃんの絶望顔……。

 

 

138:名無しのファン

なんて?

 

139:名無しのファン

ちょっと現地民、こっちには聞こえてないぞ

 

 

140:名無しのファン

「スズカ、好きだ! 結婚してくれ!」

からの、

めっちゃ笑顔で加速するスズカさん

 

 

141:名無しのファン

いやいや、なぜレース中に告白を!?

 

 

142:名無しのファン

速い、サイレンススズカ独走状態!

 

 

143:名無しのファン

後ろはまだわちゃわちゃしてるのに、ロングスパートを掛けるスズカさん

 

 

144:名無しのファン

拍手で出迎える日本勢

悲鳴と歓声が上がるアメリカ勢

 

 

145:名無しのファン

サイレンススズカ独走! これは勝ちましたね

 

 

146:名無しのファン

速い速い

 

147:名無しのファン

後ろが止まってみえるこの加速

 

 

148:名無しのファン

後方と大差の状態で、後方と同じくらいのペースで上がるとどうなりますか?

 

 

149:名無しのファン

それはもう大差勝ち

 

 

150:名無しのファン

圧勝不可避

 

151:名無しのファン

頼む、逃げ切れ! って打っておいたけどこれ要らんな

 

 

152:名無しのファン

つっよ

 

153:名無しのファン

これGⅡとかだっけ?

 

 

154:名無しのファン

超ハイペースで後ろヘロヘロなの芝

 

 

155:名無しのファン

勝ったああああ!

 

 

156:名無しのファン

うおおお世界最強! スズカ最強!

 

 

157:名無しのファン

やった! 勝った! 今夜はうまぴょいだ!

 

 

158:名無しのファン

まだゴールしてない

 

 

159:名無しのファン

実況も勝利確信で芝

 

160:名無しのファン

ゴール!

 

161:名無しのファン

よっしゃあああ!

 

 

162:名無しのファン

はい大差勝ち!

 

 

163:名無しのファン

はいお兄さんの大胆な告白【動画】

 

 

164:名無しのファン

マジで告白してて芝

 

 

165:名無しのファン

はい釣り……じゃないんかい!

 

 

166:名無しのファン

めっちゃびっくりして手振れしてるのと、ちょうどカメラ向いた瞬間に笑顔のスズカさんで芝4000

 

 

167:名無しのファン

おっとレース後観客席に向かうスズカさん

 

 

168:名無しのファン

どこ行くんですかね(すっとぼけ)

 

 

169:名無しのファン

はいお兄さんのとこ

 

 

170:名無しのファン

ああああ俺の隣にスズカさんが!?

 

 

171:名無しのファン

うらやま

 

172:名無しのファン

そっかお兄さんが隣ってつまりスズカさんが隣に来るのか

 

 

173:名無しのファン

サイン下さい…!

 

 

174:名無しのファン

なんかTVカメラもいっぱいきた

 

 

175:名無しのファン

おっ、TVに映った……あああ熱いチュー!

 

 

176:名無しのファン

これは完全に入ってますね

 

 

177:名無しのファン

というかお兄さんから行ったな今の。レアでは?

 

 

178:名無しのファン

めっちゃ幸せそうなスズカさんである

 

 

179:名無しのファン

うわああああ至近距離だと口から砂糖があふれる

 

 

180:名無しのファン

あっ、一瞬携帯弄ってる日本人映って芝

 

 

181:名無しのファン

そっか、ゴールに居たから関係者席じゃないのか

 

 

182:名無しのファン

地味にタイキシャトルも一緒にいるやんけ!

 

 

183:名無しのファン

あああ指輪いったあああ!?

 

 

184:名無しのファン

左手!

 

 

185:名無しのファン

結婚だああああ!?

 

 

186:名無しのファン

スズカさん泣いた!?

 

 

187:名無しのファン

おめでとおおお!

 

 

188:名無しのファン

この瞬間を待っていたんだ!

 

 

189:名無しのファン

グリフィンドォールッ!

 

 

190:名無しのファン

うまぴょい! うまぴょい!

 

 

191:名無しのファン

うまぴょいじゃあああ!

 

 

192:名無しのファン

サイレンススズカ結婚のレコード更新!

 

 

193:名無しのファン

今、ゴール!

 

194:名無しのファン

いや、これがスタートだよ…。

 

 

195:名無しのファン

うおおおおお歴史的瞬間!

 

 

196:名無しのファン

まさかBCで告白と結婚するとは

 

 

197:名無しのファン

なんか後ろにBCウマ娘っぽい青鹿毛いなかった? 拍手してた

 

198:名無しのファン

うおお末永く爆発しろ!

 

199:名無しのファン

とんでもねぇ、待ってたんだ

 

 

200:名無しのファン

幽霊? えっ、怖っ

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

Talk the Breeders' Cup Classic(BCクラシックについて語り合うスレ)

 

1:nameless fan

 

今回の出走表

1:Silence Suzuka

2:Swain

3:Awesome Again

4:Coronado's Quest

5:Arch

6:Skip Away

7:Grand Slam

8:Silver Charm

9:Touch Gold

 

 

2:nameless fan

スレ立てありがとう

 

 

3:nameless fan

あれが日本のセクレタリアトとも言われるウマ娘か

 

 

4:nameless fan

確かに綺麗な栗毛。リトル・レッドか

 

 

5:nameless fan

12戦12勝は確かに強いけど、日本のレースは正直そんなに…。

 

 

6:nameless fan

ドバイシーマクラシックと凱旋門賞も勝ってるよ

 

 

7:nameless fan

正直、セクレタリアトと呼ぶのは過大評価な気はするけど

 

 

8:nameless fan

芝のリトル・レッドじゃないかな

 

 

9:nameless fan

確かに強いけど、ダートではどうかな

 

 

10:nameless fan

噂ではラビットが全く意味が無いらしいね。速すぎて

 

 

11:nameless fan

ラビットより速いのは普通にオーバーペースだと思うけど

 

 

12:nameless fan

写真を見るとトレーナーとの学生カップルにしか見えない

 

 

13:nameless fan

初々しいね

 

14:nameless fan

とはいえCoronado's Questに加えてGrand Slamまで参戦したからね。ラビットはもう十分だと思うよ

 

 

15:nameless fan

でも凱旋門賞とBCを目標に、十数年間一緒にトレーニングしてきたらしいね。

TVでやってたと日本の友人に聞いた

 

 

16:nameless fan

なぜ? 彼はどう見ても新人トレーナーだけど

 

 

17:nameless fan

トレーナーになる前から、病弱な母の代わりに面倒を見ていたらしい。

そこで素晴らしい素質に気づいたとか

 

 

18:nameless fan

なんてことだ。

彼女は日本の名門の血筋ではないのか

 

 

19:nameless fan

サンデーサイレンスを思い出すね

 

 

20:nameless fan

彼女と違って、サイレンススズカは非常にキュートだけど

 

 

21:nameless fan

近年稀にみるシンデレラストーリーだね

 

 

22:nameless fan

まあ今年のBCのメンバーだと流石に厳しいかな

 

 

23:nameless fan

Skip Awayだけならまだしも、Silver CharmにAwesome Againまでいるからね

 

 

24:nameless fan

ところで、もし彼女がダートでも走れる場合どうやって勝てばいいんだい?

 

 

25:nameless fan

ラビットが競りかければ終わりじゃないか?

 

 

26:nameless fan

芝3000mを大逃げして、レコード保持者なんだけど

 

 

27:nameless fan

……なんて?

 

28:nameless fan

つまりこういうこと

・3000m走れるスタミナ

・ラビットより速いスピード

・差しと同じくらいの上り

 

 

29:nameless fan

オーケー、分かった。……どういうことだ?

 

 

30:nameless fan

いやいや、彼女がダートで走るのは初めてだよ? そう上手くはいかない

 

 

31:nameless fan

欧州もそう言って凱旋門で負けたんだけどね

 

32:nameless fan

さてスタート

 

33:nameless fan

揃ったスタートだけど

 

 

34:nameless fan

サイレンススズカが先頭。Grand SlamとCoronado's Questが追う

 

 

35:nameless fan

なんてことだ。追いつけない!?

 

 

36:nameless fan

ラビットの前を走ってるのは一体誰だ? 日本は最強のラビットを連れてきたのか!?

 

 

37:nameless fan

ラビットが消えた

 

 

38:nameless fan

いや、ハイペースになれば後方有利

 

 

39:nameless fan

オーマイガー。なんでラビットが離されていくんだ…。

 

 

40:nameless fan

ペースがあまりにも早すぎる!

 

 

41:nameless fan

だから言ったじゃないか、ちゃんとラビットを連れてこようって

 

 

42:nameless fan

彼女たちは頑張っているが、相手が悪すぎる

 

 

43:nameless fan

トレーナーがいなかったらこれほどの逸材が埋もれていたかもしれないの?

 

 

44:nameless fan

このペースなら流石に持たないんじゃないか?

 

 

45:nameless fan

いつも多くの人間がそう言ってきた。彼女はその全てに勝利してきた

 

 

46:nameless fan

失敗に期待できそうもない。後はSkip AwayやSilver Charmたちの走りに期待するしかない

 

 

47:nameless fan

速い、速すぎる

 

 

48:nameless fan

本当にこれが同じウマ娘なのか…?

 

 

49:nameless fan

セクレタリアトの再来だ…。

 

 

50:nameless fan

待ってくれ、まだ速くなる!?

 

 

51:nameless fan

一体どうなってるんだ!?

 

52:nameless fan

ところで彼女のトレーナーが何か叫んだんだけど。

 

 

53:nameless fan

本当にあれに追いつけるのか!?

 

 

54:nameless fan

日本人の友人がいるけど、愛の告白みたいに聞こえた。

直訳するとI love you

 

 

55:nameless fan

なんてことだ

 

 

56:nameless fan

BCで告白するとはロマンチックだね

 

 

57:nameless fan

私もやってみたいけれど、勝てる自信がないと難しいか

 

 

58:nameless fan

ウマ娘たちはレースに勝つことに真剣だからね。負けたら多分受けて貰えないよ

 

 

59:nameless fan

重賞でやるトレーナーは見たことがあるけれど、BCでは無い

 

 

60:nameless fan

サイレンススズカが独走。拍手で出迎える日本のファンたち。

 

 

61:nameless fan

いや、私も思わずスタンディングオベーションしてしまった。

 

 

62:nameless fan

こんなに愉快な勝ち方をするウマ娘は初めて見たよ!

 

 

63:nameless fan

まだ勝ってないよ

 

 

64:nameless fan

これはもうダメだね

 

 

65:nameless fan

是非このままアメリカ代表として世界大会に出て欲しいくらい

 

 

66:nameless fan

ゴール。サイレンススズカが大差の一着

 

 

67:nameless fan

ああ……

 

68:nameless fan

なんてことだ! マイルどころかクラシックすら敗れるなんて……

 

 

69:nameless fan

一体アメリカのレースはどうなってしまったんだ

 

 

70:nameless fan

確かに彼女は強かった。しかしBCはアメリカのウマ娘に勝ってほしかった

 

 

71:nameless fan

しかしどうやったら勝てるんだ…?

 

 

72:nameless fan

おや、サイレンススズカが観客席に

 

 

73:nameless fan

キス!? おっとしかもフレンチキス

 

 

74:nameless fan

大胆だね。嫌いじゃない

 

 

75:nameless fan

彼女はすごく幸せそうだ

 

 

76:nameless fan

日本から凱旋門、BCに勝って、愛するトレーナーと結ばれたんだものね

 

 

77:nameless fan

ヒュー! 婚約指輪!

 

 

78:nameless fan

おっと今度は彼女の方からか。いやもう祝福するしかないね

 

 

79:nameless fan

見た目的にどうしても微笑ましいけど

 

 

80:nameless fan

日本人は若く見えるからね…。

 

 

81:nameless fan

我々にとって最悪な日だったが、最高に幸せな花嫁は祝福されるべきだね

 

 

82:nameless fan

ところでお子さんがアメリカ国籍を取得する予定はない?

 

 

83:nameless fan

アメリカのレース界も階級制とかを見直す時なのかもね

 

 

84:nameless fan

貴族主義的なレースよりも、彼らの関係はとても美しく見える

 

 

85:nameless fan

これからウマ娘たちの夢はBCで勝利して告白されることになるのか

 

 

86:nameless fan

それだと年に一組しか成立しないけどね

 

 

87:nameless fan

レース中に告白するのは、本当に勇気がいるよ。

負けたらきっと、ものすごく怒られるからね

 

 

88:nameless fan

まあ本来は集中するべき時だからね…。

 

 

89:nameless fan

彼はきっと、告白した方が強いという確信があったね。

 

 

90:nameless fan

おめでとう

 

91:nameless fan

お幸せに!

 



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幕間:恋愛相談掲示板(BC)

 

(若干下ネタ注意?)


 


トレセン学園匿名相談掲示板

 

1:校庭の高低差

この掲示板は一応匿名です。

本名は使わずに利用してください。

 

 

2:蒲公英

スレ立てありがとうございます

 

 

3:ゆる釣りウマ娘

相談者がいないんだけど、どうしたらいいかなぁー

 

 

4:ワガハイ

今の時間だとあんまり書き込む人いなそうだもんね

 

 

5:恋愛相談ウマ娘

あの、相談なんですが…今、大丈夫そうでしょうか

 

 

6:商店街の娘

おおう、大丈夫大丈夫。恋愛相談ね!

 

 

7:ワガハイ

うわー、僕ちょっと役に立てそうもないや

 

 

8:蒲公英

お話を聞くくらいであれば…?

 

 

9:ゆる釣りウマ娘

いやー、まあトレセン学園で恋愛が得意なウマ娘なんてカレンチャンとかくらいでしょ?

 

 

10:恋愛相談ウマ娘

実は、トレーナーさんと仲良くなりたいんですが、方法が分からなくて…。

 

 

11:一流のウマ娘

なんだかすごく真っ当な相談がきたわね

 

 

12:お祭りウマ娘

うーん、私も正直相談したいくらいですけど……でも一緒に色々試しますよ!

 

 

13:金剛石

私も色々試しているので、少しはアドバイスできるかと!

 

 

14:恋愛相談ウマ娘

みなさん……ありがとうございます!

 

 

15:朝はパン派

私でもお役に立てるかな…?

 

 

16:チョベリグお姉さん

じゃあまず、トレーナーちゃんとの関係とかの話からかしら。

 

 

17:ゆる釣りウマ娘

そうですねー。まずトレーナーさんとの契約はどちらから?

 

 

18:恋愛相談ウマ娘

契約は……トレーナーさんが私の練習を見てくれてて、それで選抜レースの後にお願いしました

 

 

19:お祭りウマ娘

おおー、王道ですね! トレーナーさんの担当になってからは長いんですか?

 

 

20:恋愛相談ウマ娘

えっと、2年半くらいでしょうか…。

 

 

21:蒲公英

最初の三年、終わってしまいますね。

 

 

22:朝はパン派

ちなみに、トゥインクルシリーズで走り続ける予定とかは…?

 

 

23:恋愛相談ウマ娘

実は、今年いっぱいでトゥインクルシリーズは引退の予定なんです

 

 

24:朝はパン派

あっ、えっ、ご、ごめんなさいっ

 

 

25:商店街の娘

いや、でも必要な情報でしょ。

つまり引退までにトレーナーさんのハートをがっちり掴みたいと

 

 

26:恋愛相談ウマ娘

がっちり掴みたいです

 

 

27:金剛石

同意です…!

やっぱりこの方しかいないな、っていうトレーナーさんがいますよね!

 

 

28:一流のウマ娘

けど時間が無いのは事実ね。

 

 

29:チョベリグウマ娘

後はトレーナーちゃんの情報ね。恋人とかはいなそう?

 

 

30:恋愛相談ウマ娘

えっと。私以外だと、他の担当が二人いるくらいですね

 

 

31:ワガハイ

うわー、二人はどうなの? トレーナーのこと好きそう?

 

 

32:恋愛相談ウマ娘

仲は良いですけど、そこまではちょっと…。

 

 

33:蒲公英

明らかでないのなら、ライバルだと思っておいた方が良いのかもしれませんね

 

 

34:ゆる釣りウマ娘

トレーナーは何か好きなタイプの情報とか無いの?

 

 

35:恋愛相談ウマ娘

前に他のトレーナーさんと話していたのは、アドマイヤベガさんみたいなウマ娘が好きって

 

 

36:TMオペラキング

成程……! では私に任せてもらおうか!

 

 

37:校庭の高低差

>>36特定のウマ娘の実名を彷彿とさせる名称は控えるように

 

 

38:名無しのウマ娘

すみませんでした

 

 

39:商店街の娘

で、実際>>35ちゃんは自分の可愛さに自信ある?

スリーサイズは?

 

 

40:ワガハイ

スリーサイズが大きい方が偉いと思うなよー!

 

 

41:蒲公英

外見重視ではない男性もいないわけでは…。

 

 

42:恋愛相談ウマ娘

えっと、可愛さはよく分からないですが……前にトレーナーさんが可愛いと言ってくれました。

スリーサイズは70,53,79です

 

 

43:一流のウマ娘

アドマイヤベガさんが好き、というのは性格なのかしら。それとも見た目…?

 

 

44:恋愛相談ウマ娘

見た目みたいです

 

 

45:商店街の娘

これは……うん

 

 

46:ワガハイ

そういえばそのトレーナー、経験どのくらいなの? トレーナー何年目?

 

 

47:恋愛相談ウマ娘

3年目ですね

 

48:朝はパン派

……最初の担当なんですね!

 

 

49:ゆる釣りウマ娘

ちょっと駄目かと思ったけど、希望が出てきた

 

 

50:パティシエール

では好きな食べ物などで攻めるのはどうでしょうか。胃袋を掴むのは大事です

 

 

51:恋愛相談ウマ娘

好きな食べ物は、カレーですね。いつもカレーばかり食べてるみたいです。

お菓子だと、アップルパイ…?

 

 

52:ゆる釣りウマ娘

じゃあ手作りお菓子作戦かな。

練習の時に上目遣いで「いつもお世話になっているお礼ですっ」て可愛く渡す

 

 

53:チョベリグお姉さん

でも>>51ちゃんが可愛い系なのかどうかは大事よ? 綺麗、カッコイイ系もいるから

 

 

54:恋愛相談ウマ娘

トレーナーさんからは可愛いとしか言われないですね

 

 

55:ワガハイ

まあスリーサイズ的にもね……

 

 

56:商店街の娘

最後のレースの予定とかって決まってる?

 

 

57:恋愛相談ウマ娘

はい。決まってます

 

 

58:一流のウマ娘

まさか…?

 

59:ワガハイ

こうなったらレースに勝って告白するしかないね!

 

 

60:蒲公英

いえ、むしろどこまで進みたいのかが大事では?

連絡先さえいただければ、卒業後もチャンスはありますし

 

 

61:一流のウマ娘

ダメよ! 卒業した後チャンスが、なんて言っていたらチャンスは来ない…!

勝ち取るのよ!

 

 

62:商店街の娘

まあ勝てたら告白するのもいいかもねー…。そんなに簡単に勝てたら苦労しないけど

 

 

63:恋愛相談ウマ娘

ところで、おっぱいは無いとダメですか?

 

64:ワガハイ

………どうなの?

 

 

65:蒲公英

分かりません

 

66:一流のウマ娘

そう言われても……。誰かトレーナーに聞けないの?

 

67:商店街の娘

いやー、流石にちょっとキツイでしょ…。

 

 

68:チョベリグお姉さん

やっぱり相手次第かしら。でも身体目当てもそれはそれで難しいところだけれど

 

69:ゆる釣りウマ娘

トレーナーに聞いてみたけど、真顔で「めっちゃ大事だな」って。

ちょっと横になりますね…。

 

 

70:一流のウマ娘

仕方ないわね、私も聞いてくるわよ…。

 

 

71:パティシエール

正直、ふとした拍子に視線は感じますね…。

私のトレーナーは紳士的ですが

 

 

72:金剛石

私のトレーナーさんも胸より性格だと言ってくれますけれど、やっぱり男性はその…。

 

 

73:朝はパン派

わ、わたしも聞いてみるね…!

 

 

74:ワガハイ

あ、でも僕のトレーナー、胸が無い子のこと引くほど大好きだよ

 

 

75:一流のウマ娘

全く参考にならない話来たわね…。

 

 

76:恋愛相談ウマ娘

そうなんですか!?

 

 

77:蒲公英

あの場合は、性格の一致かと…。

甘えん坊と甘やかし好きが良かったのでしょうか

 

 

78:ワガハイ

俺が面倒見てやらないと、みたいな?

 

 

79:一流のウマ娘

私のトレーナー、褒めるばかりで全く参考にならなかったわ…。

 

 

80:朝はパン派

……えっと、お胸の大きさなんて気にしないでいいって。

 

 

81:ワガハイ

あ、うん。なんか>>80ちゃんのトレーナーは言いそう

 

 

82:蒲公英

むしろそう言わなかったら違和感が…。

 

 

83:恋愛相談ウマ娘

つまり、見た目は大事だけれど性格が合えば大丈夫ということでしょうか…?

 

 

84:金剛石

あとは実際、トレーナーさんのためにどこまでできるかですね

 

 

85:お祭りウマ娘

毎日お弁当を作るとか

 

 

86:ゆる釣りウマ娘

手を繋ぐとか

 

87:商店街の娘

キスとか…?

 

88:チョベリグお姉さん

恋のABCね

 

89:恋愛相談ウマ娘

abc…?

 

90:商店街の娘

あー、確か恋の段階を示してるとか

 

 

91:ゆる釣りウマ娘

Aは……手を繋ぐ?

 

 

92:恋愛相談ウマ娘

頭を撫でる?

 

93:朝はパン派

あいさつ、とか…?

 

 

94:金剛石

Aはキスです!

 

 

95:お祭りウマ娘

あれ、ってことは私の恋ってまだ始まってもいない…!?

 

 

96:チョベリグお姉さん

Aはキスね

 

97:ゆる釣りウマ娘

ということは、Bは……ディープキス?

 

 

98:恋愛相談ウマ娘

B、ベロ?

 

 

99:商店街の娘

いや頭文字なわけじゃなかったような…。

 

 

100:お祭りウマ娘

キスしたら次は……そのままうまぴょい…?

 

 

101:金剛石

>>100ちゃん、早いよ…。

 

 

102:チョベリグお姉さん

Bは本番の無いうまぴょいよ

 

 

103:お祭りウマ娘

(半分)合ってた!

 

104:金剛石

そうなんですか!? >>100ちゃんごめんね

 

 

105:恋愛相談ウマ娘

うまぴょいってなんですか?

 

 

106:一流のウマ娘

あっ

 

 

107:商店街の娘

い、いやでも3年走ってるなら私たちより年上の可能性も…!

 

 

108:チョベリグお姉さん

うまぴょいは、子どもができるような行為の隠語としても使われるの

最初はうまぴょい伝説を披露できるほどに深い絆がある、という意味だったみたいだけれど

 

 

109:恋愛相談ウマ娘

結婚するより子どもが先なんですか?

 

 

110:蒲公英

こ、これは……

 

 

111:ゆる釣りウマ娘

いやほら、男の人って色々あるし……子どもは作らないけどーみたいな?

 

 

112:金剛石

どきどき

 

113:お祭りウマ娘

実際どうなんでしょうか、そういうの…。

 

 

114:パティシエール

そのあたりは恋人になるのであれば管理する必要があります

 

 

115:一流のウマ娘

経験者なんていないでしょ!? この話は無しよ、無し!

 

 

116:ゆる釣りウマ娘

でも気になるんでしょー?

 

 

117:チョベリグお姉さん

そういう行為は気持ちよくなるから、子どもができないようにして恋人とすることがあるの。

高校生で5割が経験してるらしいわね

 

 

118:金剛石

中学生では10%程度みたいですね。これは……ジンクス?

 

 

119:うどんはオカズや!

トレセン学園は婚活会場やないで!

 

>>117事実だとしても知らんでええこともあるねん…。

 

 

120:商店街の娘

>>119実際トレーナーさんはおっぱい好きですか!?

 

 

121:うどんはオカズや!

>>120そりゃあもう……って何聞いとるねん!?

 

 

122:ワガハイ

実際、トレセン学園でそういうことする余裕のある人いないよね…。

トレーナーしか男性いないし。

 

 

123:蒲公英

トレーナーさんたちも皆様真面目ですからね

 

 

124:ゆる釣りウマ娘

そうそう。私のトレーナーなんて全然だし

 

 

125:恋愛相談ウマ娘

つまり、トレーナーさんもうまぴょいすれば喜びますか?

 

 

126:一流のウマ娘

>>125はやまっちゃダメよ!?

 

 

127:金剛石

そうですね、まず先ほどのABCを順にやっていくので如何でしょうか。

 

 

128:恋愛相談ウマ娘

Bの、本番が無いって何をすれば…?

 

 

129:商店街の娘

そこまで行ったら>>128ちゃんじゃ美味しく頂かれちゃうんじゃ…?

 

 

130:ワガハイ

……ちょっと気になったんだけど、レース何戦した?

 

 

131:恋愛相談ウマ娘

13戦ですね

 

132:ワガハイ

>>131イッテイイヨー

 

133:蒲公英

もしや…? あの、去年クラシック路線に出てました?

 

 

134:恋愛相談ウマ娘

出てました

 

135:蒲公英

はい。ご健闘をお祈り申し上げます

 

 

136:お祭りウマ娘

? えっ、えっ? なんですかこの流れ…?

 

 

137:金剛石

もしかしてお二人のお知り合い…? あっ

 

 

138:ゆる釣りウマ娘

……えー。もしかしてこの間の日曜日にレース出てた?

 

 

139:恋愛相談ウマ娘

はい

 

140:ゆる釣りウマ娘

うん。もうゴールしてもいいんじゃないかな…。

 

 

141:商店街の娘

えっ、全然分からん…。

もしかしてけっこう勝ってる?

 

 

142:恋愛相談ウマ娘

けっこう勝ってますね

 

 

143:朝はパン派

えっと……SNSで有名人だったり?

 

 

144:恋愛相談ウマ娘

SNSはあまり…。

 

 

145:チョベリグお姉さん

とりあえず本題に戻りましょ。トレーナーと仲良くなりたいのよね?

 

 

146:商店街の娘

そういえばそうだった……。

 

 

147:うどんはオカズや!

まあ、大事なのは気持ちやな。どうしてほしいのかちゃんと伝える、できるだけトレーナーが何をしてほしいのか感じるし、聞く。それが秘訣ってとこやろ

 

 

148:パティシエール

私としては、やはりしっかりと管理するのが大切だと思います

 

 

149:目指せ日本一!

分からないことはトレーナーさんに聞いてみると喜ぶと思います!

 

 

150:一流のウマ娘

ちょっと待って。まさか……有マ記念に出る予定が?

 

 

151:恋愛相談ウマ娘

あります

 

 

152:商店街の娘

え? え? うそでしょ!?

 

 

153:ゆる釣りウマ娘

(初心者かと思ったら最強の人だったけど予想以上に初心者だった)

 

 

154:お祭りウマ娘

あああああ!? え、もう十分仲良しに見えますよ!?

 

 

155:恋愛相談ウマ娘

でも、トレーナーさん何か隠してるみたいで……水着の人の写真集とか

 

 

156:蒲公英

それはその……

 

 

157:チョベリグお姉さん

それは必要なものなのよ…。

 

 

158:恋愛相談ウマ娘

でも水着なら私も着るのに……。

 

 

159:一流のウマ娘

惚気話じゃないの…!?

 

 

 



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幕間:トレーナー掲示板(BC)

トレセン学園トレーナー掲示板

【祝】ブリーダーズカップの日本勢初勝利【世界一】

 

1:校庭の杖

というわけで、本日は祝いです。

堅苦しいことは抜きで盛り上がりましょう。

 

 

2:名誉お兄さま

おめでとう! あと担当が「指輪、いいなぁ」って言いながら悲しそうな顔をするんだが。……お前を〇す

 

 

3:他称お兄ちゃん

おめでとう! あと担当が「私のこと、嫌いなの…?」って言いながら布団交換を迫ってきて負けたんだが。……初めてですよ、私をここまで怒らせたおバカさんは…!

 

 

4:ラーメン屋

た す け て

 

 

5:青空

おめでとう! お前ら……日頃の行いを後輩のせいにするなよ。

「私もあんな告白受けてみたいなー」って言われたら「よし今から全校生徒の前でやるから来い」って言って引っ張れば普通に勝てるから。

 

 

6:偽称お兄さん

>>5先輩…! でもそれ先輩の攻撃力が高いのと、あと担当の防御が低いからじゃないですかね…。

 

 

7:名誉お兄さま

うちの子は多分それ言えば止まってくれるけど、そんな実質告白みたいなことしたら妙なスイッチ入りそうで…。

 

 

8:他称お兄ちゃん

それ、「じゃあSNSで全世界に発信するね!」って言われる気がするんだけど?

世界三大恥ずかしい告白を俺と後輩が二つ埋めることになるんだけど?

 

 

9:青空

……あれだな、適性があるな!

紙耐久のウマ娘にはお勧めだぞ

 

 

10:偽称お兄さん

あと先輩、それガチの告白と受け取られないような普段のキャラ付けも必要かと。

お兄さまがしたら多分担当の子容易く堕ちますよ。

 

 

11:劇団員

うし、>>10も担当にやってみようぜ!

 

 

12:偽称お兄さん

嫌です。もう全世界に生中継しました

 

 

13:硝子の翼

というか遂に負けたのかお兄ちゃん。

寝心地はどう?

 

 

14:他称お兄ちゃん

いいにおいがする。落ち着かない。でもこれで寝ないと悲しまれる……。

 

 

15:偽称お兄さん

>>14ですよね!

 

 

16:他称お兄ちゃん

誰のせいだと思ってるんだオラァ!

お前が……お前さえあんなことしなければ担当が掛かり気味になることもなかった! 

 

17:東

一応お祝いの席なんだし、ほどほどにしておきなさい。

あと今度全員で飲みに行くから予定は空けるように。特に>>15

 

 

18:青空

実際、担当とどこまで行ったんだ>>15

 

 

19:名誉お兄さま

もうこれ以上の火種はないよね?>>15

 

 

20:偽称お兄さん

圧が……圧が強い!

 

 

21:校庭の杖

正直、火種については私も知っておきたいですね

 

 

22:劇団員

>>21最近、生徒会長もなんか燃えてるみたいだしなー!

 

 

23:校庭の杖

ところで今度本を出すのですが、感想が欲しいですね。『皇帝の背』

 

 

24:劇団員

申し訳ございませんでした

 

 

25:東

そういえば、>>20にも執筆依頼が来てたから。

担当か自分か、好きな方が書きなさい

 

 

26:名誉お兄さま

おめでとう?

 

27:他称お兄ちゃん

マジかw 頑張れww

 

 

28:偽称お兄さん

いやあの……ウチの担当に書かせたらとんでもないことになると思うんですが?

 

 

29:硝子の翼

>>15それで、どこまで進んだんですか?

 

 

30:青空

>>15はよ

 

 

31:偽称お兄さん

いや、どこまでも何も……指輪の位置が変わっただけで

 

 

32:他称お兄ちゃん

このクソボケがー!

 

 

33:目白

実際どうなの? ヤる雰囲気にならないの?

 

 

34:宝石

お願いだから止めてください…。

 

 

35:パティシエ

そのあたりは担当の性格が出そう。ウチの子は計画的なので上手いこと諭せばなんとか回避

 

 

36:偽称お兄さん

ウチの子そういう知識ないので。キスして密着すれば幸せなので…。

 

 

37:硝子の翼

うわぁ……。

 

38:青空

お前頑張ってるよ

 

 

39:他称お兄ちゃん

悪かったな。お前も頑張ってるよな…世界一だもんな。

 

 

40:名誉お兄さま

そこまでしての絆の力、私も負けないように己を磨かねば

 

 

41:ファン一号

ファン一号としては無理だが、トレーナーとしてはお前を祝福するぜ…!

 

 

42:他称お兄ちゃん

>>41いやお前別の子のファンなんだから祝福してやれよ

 

 

43:ファン一号

いやうちの子が>>36の担当をウマドルユニットに欲しいって

 

 

44:青空

ウマドル(既婚者)はちょっと…。

 

 

45:モルモット

>>44女性人気はでるんじゃないか? 走りにストイックだし

 

 

46:一歩半

ところでウチの子がBC挑戦を調べ始めたんだけど。どういうことなの?

 

 

47:他称お兄ちゃん

そういうことだよ……もうなんか海外挑戦イコール告白チャンスだと思ってない?

うちの子も短距離強い香港に遠征するつもりみたいだし

 

 

48:宝石

うちの子も「あやかりましょう!」ってめっちゃ目を輝かせてるんだけど。

ねぇジンクスは破るんじゃないの…?

 

 

49:お祭りトレーナー

ウチの子は「有マの後に結婚式って素敵ですねー」ってなんかうっとりしてた。

黒服さんがなんか「分かってんだろうな」って目をしてて怖い。分かってます大事な娘さんに手なんて出しません

 

 

50:校庭の杖

緊急警報 生徒の掲示板で恋のABC

 

 

51:宝石

え? なんです?

 

 

52:東

やってくれたわね…。

 

 

53:偽称お兄さん

恋の段階でしたっけ。

Aは……頭を撫でる?

 

 

54:他称お兄ちゃん

いや撫でねーよ。

ウチならAはSNSで拡散だな……

 

 

55:名誉お兄さま

A:レースに出てくれる

B:お兄さま呼びになる

C:勝ちたいと思えるようになる

 

 

56:青空

大喜利か?

A:釣りをする

B:追い込み漁をする

C:キャッチ&リリース

 

 

57:宝石

A:面接に行かない

B:採用です!

C:いいえ、貴方が私のトレーナーさんです!

 

 

58:モルモット

A:薬を飲みます

B:光ります

C:契約成立

 

59:偽称お兄さん

A:迷子になってるのを保護

B:一緒に景色を駆け抜けて十数年

C:世界一になり結婚

 

 

60:パティシエ

A:走りに一目惚れ

B:アドバイスをする

C:両親に紹介される

 

 

61:目白

A:日向ぼっこするのを見る

B:一緒に日向ぼっこ

C:契約

 

 

62:劇団員

お前らの契約っておかしくないか…?

 

 

63:東

A:選抜レースに出てもらう

B:勝つ

C:契約

 

64:校庭の杖

現実逃避してる場合じゃないですよ。

恋愛相談に来たウマ娘がいて、話の流れでA:キス B:本番無しうまぴょい C:本番

の情報が流れました。管理人がR15指定しましたが、各トレーナーは放バに注意し、なるべく二人以上で行動してください。間違っても人気のない場所で担当と二人きりにならないように

 

 

65:他称お兄ちゃん

うわああああ放バ警報だああ!?

 

 

66:目白

ウチの子見た目じゃ放バしても分からないからな……こわい

 

 

67:モルモット

ははは頑張れー。おっと新薬のテストの依頼が。行ってくる

 

 

68:東

>>67ちょっと!? いやこれどっちなの?

 

 

69:商店街

今中庭にいるんですが近くに誰かいませんか!? 担当が私を探してるんです!

 

 

70:偽称お兄さん

うわぁ、大変そう

 

 

71:名誉お兄さま

なんでこのタイミングで担当から電話が…!?

 

 

72:宝石

やばいやばい。会いに来てもいいかメールが来たんだけど!?

誰か俺と飲み会にいく約束してることにして!

 

 

73:お祭りトレーナー

俺だ! よし飲み行くぞ!

 

 

74:硝子の翼

同行させて

 

75:目白

待って!? 置いてかないで!?

 

 

76:商店街

俺もぉ!

 

77:パティシエ

じゃあ俺も

 

78:青空

襲われそうになったら脅し返せば勝てるぞ。ウマ娘は優しくて臆病だからな

 

 

79:校庭の杖

あと>>70の担当が相談者なので逃げるように

 

 

80:偽称お兄さん

はい?

 

81:他称お兄ちゃん

お前かああああ!?

ぐわああ何故か担当の水着グラビアが送られて来た!? 何!? どういうことなの!?

 

82:青空

なんか水着写真とスク水の写真が送られてきた。(日和ってスク水にしようとして間違えたと見た)

ホクロ可愛いね、って返したら無言になった。勝ったな…。

 

 

83:宝石

うわあああ画像が送られてきた!?

嫌だ開きたくない!?

 

 

84:ファン一号

画像が送られてきてまさかと思ったけど、普通に可愛い画像だった

 

 

85:宝石

嘘つきいいいい!?

 

 

86:ファン一号

いや本当なんだが…。

 

 

87:お祭りトレーナー

こんなの担当のお父さんに見られたら消される…!

 

 

88:偽称お兄さん

なんで……担当が水着と秘蔵の写真集とカメラ持ってきたんだけど。誰かたすけて

 

 

89:他称お兄ちゃん

はははこんなのより私を見てってことね。よかったね可愛いね

 

 

90:名誉お兄さま

担当が「水着とか、見たい…?」って聞いてきて、なんとか誤魔化そうとするも「私のなんて見たくないよね…」になり敗北

>>88お前を〇す

 

 

91:硝子の翼

普通に「綺麗だね」って返したら機嫌よくなった

 

 

92:商店街

これはギルティ

 

 

93:他称お兄ちゃん

お前ちゃんと担当の手綱を握っとけよぉ!

 

 

94:パティシエ

そりゃ担当にグラビア誌見てるところ見つかったらそうなる

 

 

95:偽称お兄さん

だって同棲して同衾してお風呂まで突撃してくるんだもん!

友達と出かけたタイミングにこっそりするしかないじゃん!

 

 

96:青空

もうお前プロポーズしたんだしゴールすれば? と思ったけどその場合のトレセン学園の阿鼻叫喚が見える

 

 

97:劇団員

これまでは「もしかしたら経験者がいるかも」だったのが「間違いなくいる」となったらそうだろうな

 

 

98:ファン一号

つまり逆に、あのBCチャンプでさえ卒業までしなかったとなれば…?

 

 

99:ラーメン屋

お願いします耐えてくださいお願いします

 

 

100:校庭の杖

>>95は全力で耐えるように。耐えられなかった場合、緊急警報を出す必要があるので個人メッセでいいので自白してください

 

 

101:偽称お兄さん

それ警報が出た瞬間に知れ渡るってことじゃないですかー!?

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

―――――お兄さんは、私のことが好きだと言ってくれるけれど。

 

 

 見てしまった。

 私がスぺちゃんとランニングしている間に、ちょっぴりだらしない顔で水着の写真集を、それも綺麗なウマ娘を見ているのを。それは、普通にお兄さんが離れてる時よりもずっと寂しくて。

 

 

 うそでしょ……私とお風呂に入ってる時は全然見ないのに……。

 やっぱりおっぱいが大きいのが好きなのかな、という疑念が出てくるのは当然の帰結だった。

 

 

 

 もっと仲良くなったら、私をもっと見てくれるのだろうか。

 そんなわけで掲示板で相談してみると、それは必要なことなのだと言う。

 

 

 

 つまり――――水着の写真があればいいのね…!

 そんなわけで、この前お兄さんと買ったパレオ付きの水着を着て、カメラとお兄さんの好きな雑誌を手にお兄さんのところへ。

 

 

 

 

 

「……お兄さん、これを」

「えっと、スズカさん…? なんで水着?」

 

 

 

「水着の写真、必要なんですよね? それとも私じゃやっぱり……ダメ、ですか?」

 

 

 

 胸は足りない。

 でも、その……脚はお兄さんがときどき見てるし、お兄さんが寝てるとお尻触られてることもあるし……。私の方が、走るのは速いですし。お兄さんの夢の走りだから…!

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 グラビアともなればポーズも取るわけで。

 胸元を強調して白い肌を赤く染めたスズカは控えめに言ってもとても可愛いわけで。

 

 

 

「いいねー、スズカ。もうちょっと胸元強調して」

「ぅぅーっ、……お兄さんっ!」

 

 

 

 青空先輩、貴方のアドバイスは役立ちましたよ…。

 パレオ没収でビキニ姿になり胸元を強調させられて、谷間……谷間? を見せつけるのはともかく、羞恥に震えるスズカは可愛い。

 

 

 

 羞恥心が爆発し、俺の布団の中に隠れてしまったスズカに勝利を確信。

 ……でもアイツが半裸で入った布団で寝るの? いや同衾しておいて何をって感じだが。

 

 

 

「………お兄さんのばか……へんたい……」

「変態は嫌いかー。残念だなー」

 

 

 

「……嫌いじゃ、ないですけど……本当に恥ずかしかったんですよ…!?」

「お前が言い出したんだろ…」

 

 

 

 黙り込んだスズカは、枕を抱いてぽこぽこと叩いた後言った。

 

 

 

「お兄さん、服……取って下さい」

「はいはい……脱衣所?」

 

 

 

 どうやら恥ずかしさで布団から出られなくなったらしい。

 ……ブラウスとスカート、あと薄緑の下着の上下セット。水着ならそりゃ下着も脱いでるんだろうけどさ…。

 

 とりあえず服の間に挟んでスズカに渡してみるが、流石に気づいたのか頭を引っ込めると尻尾だけ布団の中からバサバサと出しつつ、もぞもぞ着替えだした。

 

 

 

 

 

 いやあの、それ俺の布団……。

 時々生足が見えてるが、なんとか無事に着替え終わったスズカはひょっこり顔を出すと、目が合った俺を涙目で睨んだ。

 

 

 

「……ぅぅ~~っ」

「風呂まで一緒に入ってるんだし、今更だろ…?」

 

 

 

「………それは、そうですね」

 

 

 

 のそのそと布団のまま立ち上がったスズカは、ソファで寛いでいた俺の上に座ると布団ごと抱き着いてきた。……布団の中で抱き合うと、なんか妙に甘い匂いがするような錯覚が。

 

 

 

「……じゃあお兄さん、今度からは私の写真も見てくださいね…?」

「なあスズカ」

 

 

「……? はい」

「ちょっと頼みがあるんだけど」

 

 

 

 

 

 涙目で睨んでくるスズカだが、大丈夫そんなに恥ずかしくはないはず…。

 

 

 

 

 

 

 

「……楽しそうに走るお前の走りが大好きなんだ。だから、卒業までそういうのは無し」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

200:恋愛相談ウマ娘

私が走る姿を見るのが一番うれしいので、これ以上はトゥインクルシリーズを卒業するまではしないと言われました。

 

 

201:世界一カワイイ

うーん、やっぱりそう言われるよねー。私のお兄ちゃんもそんな感じ

 

 

202:朝はパン派

……うん。お兄さま優しいから……。

 

 

203:ラーメン殿下

ちぇー、世界一になった貴女が言うんじゃ私も従うしかないよね。

でも卒業したらいいんだよね♪

 

 

204:ドライカレー

一生とかなんとか言ったら責任は取ってもらわないと

 

 

205:金剛石

残念です……でもドリームトロフィーリーグに移籍したらいいんですよね!

 

 

206:お祭りウマ娘

お父さんがクラシック三冠のどれか取ったらいいって!

 

 

207:パティシエール

もう卒業後の予定は入っているので…。

 

 

208:一流のウマ娘

やっと収まったわね…。

 

 

209:ゆる釣りウマ娘

あのトレーナーなんなの、もうー!

 

 

210:恋愛相談ウマ娘

水着で写真は、恥ずかしいポーズを取らされるのでやめたほうがいいです

 

 



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帰国

 

 

 

 

 

 

「おーい、スズカー」

「…………はい」

 

 

 

 朝起きると、昨日はチューしろチューしろとあれほどはしゃいでいたスズカが、げっそりした顔で伸し掛かってきていた。

 心なしか毛艶も悪いし……ガレ*1てる? もしかしなくてもエグい走りをしたせいで消耗しすぎたのだろうか。

 

 

 

「お兄さん……身体が重くて………どうしましょう」

「食欲は?」

 

 

 

「その……あまり」

「ちょっと待ってろ。ほら、一回離して」

 

 

 

「ぅぅー……」

 

 

 

 こんな時なのに―――だからこそ? 寝間着を掴んで離さないスズカの手をやんわり解いて、とりあえずこんなこともあろうかと持ち込んでおいた高級バナナを……。

 

 

 

「ほらスズカ、バナナだぞー」

「………食べさせてください」

 

 

 

 

 もくもく。

 小っさい口でどこぞの深窓の令嬢みたいに食べるスズカ。乙女かな?

 

 

 

「ぁーぅー……おにぃさん、くちがつかれましたー」

「キスしすぎなんだよお前は……」

 

 

「かめませんー…」

 

 

 

 食欲無いのは本当らしく、バナナのさきっちょだけ食べたところで拒否の構え。

 ……ミキサーとか無かっただろうか。

 

 とりあえず手で小さく潰したのを差し出すと、またちびちびと食べて……そのまま指を甘噛みしてきた。

 

 

 

「……くすぐったいんだけど。スズカ、顎の疲れはどうした」

「…………んー」

 

 

 

 お兄さんは別腹です、とでも言いたげなゆるい顔でかぷかぷと噛んだり、カタチを確かめるように指先を舐めたりしてくるので口にバナナを押し込む。

 

 

 

「おら食え、栄養たっぷりだぞ」

「………んぅ~~ぅー」

 

 

 

 指は吸いついて離さないくせに断固食べる気がなさそうなスズカは仕方なく放置。自分の朝の支度を済まして帰国に備えなくては。飛行機までが……あと4時間くらい。

 

 

 

「お兄さん………おにぃさぁーん」

「ワキちゃん……」

 

 

 

 幼児退行、もとい小学生くらいまで退行してるじゃないか。

 動けないので駄々こねモードに入ったのか、尻尾だけバタバタと動かしてアピールしている。

 

 が、無視してとりあえず歯を磨き。

 パンを焼いてバターをつけ、ベーコン焼いて食べたところでスズカの機嫌が斜めになってきた。

 

 

 

「………お兄さんー…?」

「食べる?」

 

 

 

「食べないので構って下さい」

「いや俺も腹減ったし」

 

 

 

「……構ってー……お兄さん、かまってー」

「食べ終わったら構ってあげるから」

 

 

 

 

 くっ、面倒な。でも甘えた声は正直可愛い。

 バナナを口に突っ込んで黙らせるが、咥えただけで食べる気配のないスズカは置いておいて食事を終え。

 

 頑張って手動で潰したバナナをスポーツドリンクと混ぜてみる。

 

 

 

「ほら飲め、栄養取らないと治らないぞ」

「…………」

 

 

 

 ちびちびと飲んで、「もういいですか?」という顔でこっちを見てくるスズカ。

 中身は1割も減っていないのである。

 

 

 

「スズカ、お前それ飲まないならチュー無しだからな」

「そんな!? 横暴です!」

 

 

 

 

 すごい不服そうに飲んでるスズカだが、やっぱり減らない。

 ……仕方ない。このままガレてるとスズカの健康への悪影響も心配だし……何かないか。あっ、そうだ。ちょっとアホな方法だけど可能性としてはあるか。

 

 

 

「ぅぅ……もう飲めません」

「じゃあそれ貸して」

 

 

 

 

 とりあえずジョッキは置いて、まずバナナを口に含んで。

 軽く解したところで口移しでバナナを食べさせてやると、気分は雛鳥に餌をやる親鳥……? いや雛鳥はこんなにねっとり舌を絡めてこないが。

 

 そんな内心はさておき、うっとりした顔でバナナを飲み込むスズカはすこぶる幸せそうな顔で息を吐いた。

 

 

 

「はふ……………お兄さん、もっと……」

「このバナナ食ったらもう一回な―――はやっ」

 

 

 

 シュレッダーにかけた紙のように、スルスルとスズカにバナナが飲み込まれていく。

 お前やる気ないだけで食えるじゃねぇか!?

 

 

 

「ぇへへ……ちゅー」

 

 

 

 

 とりあえずスズカはバナナを一房は完食。

 ウマ娘としては小食だが……まあ食べないよりはいい。

 

 その後は動く気のないスズカを着替えさせ、背負って空港に向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 アメリカから日本までは半日ほど。

 ファーストクラスでCAさんにチラ見されながら口移しじゃないと食べないと駄々をこねるスズカを宥めすかして*2ご飯を与えつつ、二人で寝たりなんだりして、いつの間にか日本へ。

 

 

 

 やっと自分の脚で立つ気になってくれたスズカに抱き着かれながら、空港の待合に出たところで盛大な歓声と無数のカメラに出迎えられた。……流石にフラッシュ焚く人はあんまりいなかったが。

 

 

 

 

『さあ、劇的な告白とともにBCクラシックを制覇したサイレンススズカさんとそのトレーナーが今帰国しました! 腕に抱き着いています!』

 

 

 

 劇的なのはBCクラシック勝利の方で、告白ではないはず…。

 あとなんでさらっと腕に抱き着いてるのかなスズカ。フラッシュが嫌だから顔を隠したいのは分かるけど、それ全身で密着しなくてもいいよね?

 

 

 

『有マ記念出走についてはどうですか!?』

『既に人気投票で圧倒的な一位が予想されていますが!』

『体調は万全なんでしょうか!?』

 

 

 

「今回のレースの疲労が大きいので、体調を確認してから慎重に判断する予定です」

「(こくこく)」

 

 

 

『BCクラシックでダート2000の世界レコードを出したお気持ちは!?』

「……えっと、お兄さんにとって最高のウマ娘になりたい一心だったので…」

 

 

 

 

 なんでお前そんな燃料投下するの?!

 女性の悲鳴、囃し立てる声や末永く爆発しろとか祝福?されつつ、今度はこちらにマイクを向けられる。

 

 

 

『とのことですが、トレーナーさんからも一言!』

「芝でもダートでも最高のウマ娘だと言っていいと思います」

 

 

『なぜレース中に告白を!?』

「彼女の場合は、その方が最高の走りになると思ったからです。結果はご覧頂いた通りです」

 

 

『サイレンススズカさんを好きになった切っ掛けは!?』

「切っ掛けと言うか……子どもの頃から一緒にいるのが当然だったので、切っ掛けというほどのものはないですね」

 

 

 

『トレーナーさんを好きになった切っ掛けはありますか!?』

「えっと……迷子になっていた私を助けてくれたこともそうなんですが、寂しい時は傍にいてくれて、私の夢のためにいつも全力で助けてくれて、あと本当は優しいところが…」

 

 

 

 

 そのまま無限に語りそうなスズカの手を引いて取材陣から逃れる。

 同じく囲まれているタイキに頼んで蹴散らしてもらう。

 

 

 

「OKデス! すみません、また後程の記者会見でお願いしマース!」

 

 

 

 

 流石の存在感。このあたり普段のスズカには無いものなので、その後ろに続いて上手いこと人混みを割って脱出。

 

 そのまま迎えに来てくれたおハナさん……もいるが、沖野先輩の運転する車で学園に向かう。やっぱりこの二人どういう関係なんだ…?

 

 

 

「よぅ、おめでとさん後輩」

「ありがとうございます先輩」

 

 

「それにしても勝てるかもとは思っていたけれど、流石ね、貴女達」

「ヴィクトリー! おハナさんのお陰デース!」

「はい」

 

 

 助手席に座るおハナさんがスズカとタイキを褒めるが、ぐいぐいと俺の膝の上に座ろうと格闘するスズカを見て溜息を一つ。

 

 

 

「お兄さんの上がいいです」

「事故ったら困るからシートベルトはしなさい」

 

 

 

「私の上からしてください」

「そんなことしたら二人で頭ぶつけあって死ぬから。俺が怪我してもいいのか」

 

 

 

「むぅ……」

 

 

 

 手を恋人繋ぎにしてやるとご満悦のスズカを隣に座らせ、その更に横にタイキ。

 おハナさんは運転しないので暇なのか、こんなことを言いだした。

 

 

 

「それで、結婚式は呼んでくれるのかしら?」

「いや、そりゃ呼ばせていただきますよ。おハナさんはスズカを担当させてくれた恩人ですし」

 

 

「貴方達の場合、そうでもないと退学しかねなかったしね…」

 

 

 

 いや俺は辞めないけど。

 スズカは別の担当とか嫌がりそう、というか寂しさで左旋回して練習にならなそうである。

 

 

 

「俺は?」

「沖野先輩は……スピーチ頼んでいいですか?」

「ちょっと、この男は止めておきなさい」

 

 

 

 

 いやでもこの人盛りあげ上手だし……一番スピーチさせちゃいけない俺の母親という特大の爆弾に比べたら優しいもんである。

 

 

 

「任せときな、最高の盛り上がりにしてやるよ」

「滑ったらゴルシ差し向けますね」

 

 

「待て、早まるな。最近アイツ真面目に走ってたりでちょっとマジで怖いんだからな」

 

 

 

 

 某厩務員さんらしき人のサインの効果よ…。

 今後はもういいから、と言ってサインの恩を一括返済してもらえば多分沖野先輩は死ぬ。何故かマグロ漁船に拉致られる先輩の姿が脳裏に…。

 

 

 

「立派なマグロを釣ってきて下さいね」

「怖えよ!? というかなんで急にマグロ!?」

「オゥ、エキサイティン! 楽しみデスね!」

 

「唐突にゴールドシップみたいなこと言うわね」

 

 

 

 えっ、似てるかな…。

 ちらりとスズカに目をやると、時差ボケで若干眠そうなスズカは少し悩んでから言った。

 

 

 

 

「……実は優しいところは、少し? でもどちらかというと、お兄さんって不思議とウマ娘への理解度が高いですよね。グラスとか、テイオーとか、スぺちゃんとか。ゴールドシップ先輩の考えを予測してるんですか?」

 

 

 

 ぷくーっと頬を膨らませるスズカは不満げである。

 何その「私以外のウマ娘も良く見てるんですね」みたいな顔は。お前そんな嫉妬深い性格じゃないだろうに…。寂しいだけか?

 

 

 

「スズカのお陰で(変わった)ウマ娘の相手は慣れてるからですかねー…」

 

 

 

 負けん気が強いあたりはグラスともテイオーとも似てるし、オーバーワークしがちなところもそっくり。ゴルシほどじゃないが突拍子もないのはスズカも同じだし……人の寝具を奪っていくどころか交換するあたりゴルシでもしないんじゃないのかそんなの。

 

 

 

 

「「ああ……」」

「ハートトゥハート、ですね!」

「じゃあお兄さん、私が今なにを考えているか分かりますか?」

 

 

 

 えー。

 スズカの顔を見る。ガレてるせいか元気はないが、今朝がた……時差のせいであれだがともかく半日前よりは良さそう。耳の動きからして機嫌も悪くない、ということは。

 

 

 

「調子が戻ってきたから軽く走りに行きたいな?」

「……正解です。流石ですね、お兄さん」

 

 

 

 何故か得意げなスズカはさておき、走りに行くならカロリーが足りない。

 

 

 

 

「先輩、どこかこの辺に軽めのご飯食べられるところとかあります?」

「んー、トレセンの近くの和食とかどうだ? 久々だろ?」

「私の行きつけに電話するから、そこにしましょう」

 

「あの……お腹は空いてないんですが」

 

 

 

「「「食べなさい」」」

「……ぅぅ」

「楽しみデース!」

 

 

 

 

 そういうわけでお高いお店にお祝いも兼ねて食事に。

 食べられないとゴネる(というか口移ししてほしそうな)スズカは箸の「あーん」で黙らせ。

 

 

 

「あー、こんな料理が作れるお嫁さんがほしいなー」

「……!? タイキ、そこの和え物もらうわね。ありがとう」

「オゥ……ユアウェルカム」

 

 

「………お醤油がこれくらい……白だし……甘酢?」

 

 

 

 真剣な顔で味付けを考察し始めた。ちょろい。

 代わりに、先輩たちに「うわあ」という顔で見られたが。

 

 

 

「罪な男だなお前も……」

「いや、だって俺もスズカに似たようなことはしてますし…」

 

 

 

 お互いに全力で甘やかすことで酷いレベルでバランスが取れている…?

 こちとらスズカのために添い寝して、朝ごはん作って、ランニングに付き合い、メニューの負荷量を調整し、どこそこの景色が見たいと言われれば出かける準備をして車を運転し、勝手に走り出したらメニューを組みなおし、仕事もして、マッサージもして、買い物は荷物持ちをし、チューを強請られ、お風呂に入れろと駄々こねるスズカと格闘し、一緒に寝ることまでしているのだ。

 

 

 

「お前スズカのこと好きすぎじゃね…?」

「まあ可愛いですからね。手のかかる子ほど可愛い…?」

 

 

「……っ!? お、お兄さんっ、もう一回お願いします!」

 

 

 

 お前ガレてなかったっけ…?

 心からキラッキラした目で抱き着いてくるスズカである。

 

 

 

「手が掛かる子?」

「その前です…!」

 

 

 

「スズカ大好き」

「………っ!? わ、わたしも………その……だいすき

 

 

 

 許容量を超えたのか、もじもじしながら俺の背中側に隠れるスズカ。ぴったり身体を寄せてくるので喜んでいるのは間違いない。……やっぱりチョロい?

 

 

 

 

「ほどほどにしときなさいよ。いつか刺されるから」

「まあそろそろスカウトの時期が近付いてきたからなー」

 

「え。まだ早くないです?」

 

 

 

 

 スカウトは春先、なのでまだ4カ月くらいはあるはずなのだが。

 

 

 

「有望株には声を掛けとくものなのよ。リギルはまあ、選抜レースに出てくれないと採用しないけど、それはそれとして。声を掛けないと自分からはこない変わり者も多いし」

 

 

 

 スズカとかね、と言いたげなおハナさんである。まあ確かに…。

 つまり先に目星はつけておく、と。

 

 

 

「まあ貴方の場合はこれだって子がいればスカウト、リギルの名前で仮内定くらいは出してもいいわ」

「うお、太っ腹だねおハナさん」

 

 

 

「スズカのことも、テイオーのこともあるしね。見る目は間違いなくありそうなのよね」

 

 

 

 それにしてもスぺちゃんの一つ下の世代……つまり覇王世代か。

 テイエムオペラオーは既にリギルに入っているので他、メイショウドトウ、ナリタトップロード、そして――――アドマイヤベガ。

 

 ダービーを勝利するも菊花賞ではナリタトップロードに敗退。その後繫靭帯炎を発症して引退して種牡馬入りするが、胃破裂で若くして亡くなる。

 

 

 

「アドマイヤベガ――――」

「………お兄さん?」

 

 

 

 はっ!?

 振り返るとかつてなく表情の抜け落ちたスズカが、限界まで耳を絞っていた。

 

 

 

「ど、どうしたスズカ。顔が怖いぞ、ほら笑って」

「…………(にこり)」

 

 

 

 目が笑ってない。

 というかハイライトが消えた目ってこういうのを言うのかな…。

 

 

 

「ま、まあ待てスズカ。あくまでレース、走りでスカウトするならアドマイヤベガかなって……胸ならメイショウドトウとか選ぶって!」

 

「……でもお兄さん、純粋に、本当に速さだけで選ぶなら……?」

 

 

 

「えっ? オペラオーかな…?」

「…………(スッ)」

 

 

 

 いやあの、無言で表情消さないで…。

 だってオペラオーはリギルにいるからスカウトできないよ…?

 

 というか、史実通りだと不幸な結末だからアドマイヤベガを見たいってなかなか意味不明なことを言ってる自覚はあるし…。ライスシャワーはお兄さまがいるからなんとかしてくれそうだけど。

 

 

 

 

 

「………お兄さん、何か隠してますね」

 

 

 

 ……まあ、なんとなくバレてるからこうして怒ってるんだろうな、とは思う。

 

 

 

「どうしてアドマイヤベガさんなんですか?」

「……俺が見た方が良い、と思ったからかな」

 

 

 

 

 ジトーっとしたスズカの目と見つめ合うこと数秒、スズカは凄く拗ねた顔で言った。

 

 

 

「……お兄さん、寂しいのは嫌ですよ?」

「担当が増えても、俺の愛バはお前だよ」

 

 

 

「じゃあ、毎日お風呂もいっしょですよ?」

「いやあの、スズカ? おハナさんと先輩もいるから……」

 

 

 

「……あら」

 

 

 

 あらじゃないが。

 というかそもそも、都合よくアドマイヤベガをスカウトできるとも思えないしな。

 

 まずはグラスのマイルCS、スズカとグラスの直接対決になる有マ記念に集中しないと。

 

 

 

 

「ま、やることはちゃんとしなさいよ」

「ちゃんと付けるとかな」

 

 

 

 

 

 先輩はともかく、やるべきことはしっかりやらなくては。

 というかこの二人やっぱり仲良いよな? スズカに目線を向けると、スズカも軽く頷いて。

 

 

 

 

 ともかくしっかりスズカに食事をとらせることに成功したところで、全員でトレセン学園に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
疲労や食欲低下などで体重が落ちた状態

*2
あんなの繰り返してたら理性が持たない



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ジェミニ輝く

 

 

 

 

 

 

 スズカはBC後の調整のために軽めの負荷にしてはいるものの、それでもトレーナーの仕事が減るわけではない。グラスのマイルCSのために着々と準備を進めつつ、テイオーの脚の状態も確認、ケアもして……その後に諸々の雑務をこなしていたので、遅くなってしまった。

 

 

 

「……お兄さん、お仕事終わりましたか?」

「終わってない……けどまあ明日でもいい仕事だな」

 

 

 

「じゃあ、ご飯。作っておきました」

「お、ありがと」

 

 

 

 簡単な調理場があるリギルの部室の豪勢さよ…。

 というわけで、魚の煮つけに、ほうれん草の和え物、みそ汁、ご飯――――って昨日の料亭のヤツじゃねぇか!?

 

 

 

「いやあの、スズカ…? これ大変だったんじゃ……」

「だってお兄さんがあんまり走っちゃダメって言うので」

 

 

 

 暇だったのか…?

 いやでも何となく耳の動きがこちらの反応を窺っているあたりけっこう頑張ったのは間違いない。元々料理はそれなりにやっているし、凝り性なので少なくとも俺よりは上手いが。

 

 とりあえず手を合わせていただきます。

 できたてなのか温かい、とりあえず昨日話に出た和え物から……うまっ!? 優しい塩加減、適度な酸っぱさに、出汁がしっかり効いているこの感じ……料亭と遜色ない!?

 

 

 

 

「う、美味い……何、どうやったんだスズカ…!?」

「……えっと、サインを書いてお願いしたらレシピをくれました」

 

 

 

 

 そういえばコイツ現役なら世界最強のウマ娘、大スターだった…。

 スッとスズカが掲げたスマホを見ると、SNSでスズカがサインと一緒に映っている写真がバズりまくっていた。宣伝効果高そう。

 でもまさかレシピをくれるとは…。

 

 

 

「“私たち”の走りのファン、なんですって」

「………そっか」

 

 

 

 そういうことなら有難いことこの上ない、美味しく頂かせてもらおう。

 うわー、魚も美味い……みそ汁はいつもの味にアクセントを加えたのか、絶妙に好みの味だ。今ならスズカが嫁に来るとこの料理まで付いてくるんです?

 

 

 

「……嫁に来てください」

「もうお嫁さんですよ?」

 

 

 

 

 どやぁ、と左手の指輪を見せられるがそれくらいは衝撃的だったということで。

 でもそうか、婚姻届出したからもう嫁か…。結婚式がまだだからか、若干の違和感はある。

 

 

 

 

「確かに……なあ嫁」

「なんですか、あなた?」

 

 

「ハニー」

「……えっと、ダーリン?」

 

 

「………ワキちゃん?」

「お兄さん」

 

 

「スズカ」

「………旦那様?」

 

 

 

 

 ぐはっ、可愛い…。

 そんなバカップルでしかしなそうなことをしながらもご飯を食べて。いつの間にか無くなったところで二人で洗い物を片付ける。

 

 スズカに割烹着とか着せて旦那様呼びをしてもらいたい。髪色は栗毛だけれど、何故だか無性に似合う気がする。まあ、お兄さん呼びが一番慣れてるが。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、美味かった……」

「ふふっ、お兄さんもうそれ三回目くらいですよ?」

 

 

 

 

 だって美味かったし。

 ニコニコと嬉しそうなスズカに目をやりつつ、何かスズカが喜びそうなことがあっただろうか。

 

 

 

「スズカ、ご褒美とか―――」

「お風呂で洗いっこ―――「ダメ」―――うそでしょ……まだ言い終わってないのに」

 

 

 

 

 そんなことしたら襲う自信があるぞ。

 水着着せてお風呂一緒に入るのも辛いのに…。

 

 

 

「水着引っぺがすぞ」

「……むぅー…お詫びはチューでいいですよ?」

 

 

 

 更に燃料投下してどうする。

 基本的に本気で嫌がることはされないと思っているらしいコイツにどうやったら危険性を分からせることができるのか。

 

 

 

「よし、帰るか」

「誤魔化された…?」

 

 

 

 

 外へ出ると季節的にもう暗くなっている。

 もう11月だからな、と思っているとスズカが身体を密着させつつ手を絡めてくる。基本的に体温が高いスズカがくっついているとこの時期はありがたい。

 

 

 そんなわけで歩いていると、スズカの耳が動いた。

 トラックの方を気にしているらしい。

 

 

 

 

「スズカ、何か聞こえたか?」

「……誰か、走ってるみたいです」

 

 

 

 腕時計を見ると門限ギリギリ。実のところスズカのレコードブレイカーっぷりに無茶な練習をするウマ娘が出ているとトレーナーの間でも話題になっており。その影響でデビューが遅れているウマ娘すらいるらしい。

 少し心配なのが顔に出たのか、目線を合わせるとスズカも頷いてくれたので二人でトラックへ。

 

 

 

 月明りと照明に照らされて、走っているのは鹿毛のウマ娘。

 息が切れたのか、末脚は鈍く、息も荒い。それでも光るものを感じさせるのは、後のダービーウマ娘だからこそか。

 

 

 

 

 

 

「はーっ、はーっ……くっ…」

 

 

 

 

 何か追い立てられるように走り、星を見上げる。

 その何処か儚い姿に、スズカは小さく呟いた。

 

 

 

 

「貴女も……独りなんですね」

「え? ………貴女は、サイレンススズカ……さん」

 

 

 

「………」

「……あの?」

 

 

 

 無言になったスズカは、なんとも言えない微妙な顔で俺の方を向いた。後は任せた、ということらしい。とはいえ天才肌なスズカの所感は多分あってる。

 

 

 

「悪いが俺の担当もオーバーワークになりがちだから気になってな。はっきり言ってそのままで走り切れるほどトゥインクルシリーズは甘くないぞ」

「………平気。いつもやってることだから」

 

 

 

 

 なら、沖野先輩の台詞を拝借するとしよう。

 

 

 

「……君の夢は?」

「…………そんなことを語るほどの関係もないでしょう?」

 

 

 

「別に語る価値も無い夢ならいいぞ」

 

 

 

 

 

 凄い嫌そうな目で見られた。

 無言のアドマイヤベガに、スズカが一歩前に出て。気圧されたように一歩下がったアドマイヤベガは、少し大きく息を吐いてから言った。

 

 

 

 

「………私は、走れなかった妹の分まで走る。それだけだから」

「――――そうか。ならまた今度、話がある」

 

 

 

 

 今日のところはこのくらいにしておくべきだろう。妹の分まで脚を駄目にする気か、なんて言って納得する雰囲気もない。

 挑発されてお世辞にも機嫌が良くなさそうなアドマイヤベガを置いて、スズカの手を引いて家に帰る。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 そんなわけで。

 俺はスズカにグラスの併走を頼み、タキオンの研究室の“隣”に来ていた。

 

 

 

 

「――――…何の用ですか。顔も見たくないと伝えたはずですが」

 

 

 

 ………当たりが、めっちゃ強い…っ!

 漆黒の髪、琥珀色の瞳。不思議な雰囲気のマンハッタンカフェのスペース(タキオンと半分ずつ空き教室を占拠している)に乗り込んだ俺を出迎えたのは、絶対零度の視線だった。

 

 

 

「………実は、お願いしたいことがありまして」

「私は都合のいい霊媒師ではありませんが」

 

 

 

「いやあの、亡くなった妹さんのメッセージとか届けてあげられないかなって……ダメ?」

「帰って下さい」

 

 

 

 ダメだった。

 だがまだだ…! アメリカで買った本場の豆! マンハッタン!

 

 そんな賄賂をそっとお茶菓子とともにテーブルの上に出す。

 

 

 

 

「つまらないものですが……」

「………物で釣ろうと?」

 

 

 

 

 いやまあそうなんだけど……取りつく島もねぇ…。

 仕方なくうっすら見えてる『お友だち』の方に視線で助けを求めるが、肩を竦めて「いや無理だろ」的なニュアンスを伝えてくれる。

 

 

 

「実は毎日オーバーワークしてるアドマイヤベガがな、死んだ妹の分まで走るって言ってて……このままだといつか破綻すると思うんだ。止めるにはやっぱり、妹さんの言葉しかないかなって……」

 

 

 

 と、カフェが『お友だち』の方に目線をやる。多分「叩き出して」的な意味だと思うのだが、『お友だち』は心底嫌そうな仕草とともにコーヒー豆をかっぱらって淹れ始める。

 

 

 

「……ちょっと」

「わ、わー。コーヒー楽しみだなー」

 

 

 

「はぁ………飲んだら帰って下さい」

「いや、その………今回だけでも助けていただけないでしょうか……俺じゃなくて妹想いのウマ娘を助けると思って」

 

 

 

「嫌です」

「じゃあ『お友だち』だけでも……」

 

 

 

 

 返答はめちゃめちゃ不機嫌そうに耳を絞った顔だった。

 お友だちも『俺を巻き込むな』とでも言いたげなジェスチャー。

 

 

 

 

 くっ、こうなったら……。

 やけくそでカフェの頭に手を置き、スズカで磨いた撫で技術を……いや、スズカは耳の中に突っ込まれるのが好きなのに対して、カフェは耳の裏が好きだったか。

 

 

 

「……勝手に撫でないで欲しいのですが。蹴りますよ?」

「すみませんでした」

 

 

 

 ダメでした。

 誰だ、撫でればなんとかなると思わせたのは。スズカだけだよそんなチョロいの。

 

 が、あまりのバカバカしさに怒りもどこかに行ったのか、深ぁーい溜息とともにカフェの耳も元に戻り。いいタイミングでコーヒーとお菓子を持ってきてくれたお友だちのお陰でひとまずテーブルには着けた。

 

 

 

 お友だちの謎の技量により芸術的に淹れられたコーヒーを一口。

 

 

 

「…………おいしい」

「うまっ」

 

 

 

 お茶請けに用意した人気のフルーツタルトも一口。

 ウマ娘が好きそうという印象は間違いではなかったらしく、カフェも口に運ぶと久方ぶりに見た気がする笑顔が―――。

 

 

 

「……何を、見ているんですか?」

「笑顔がいいな、と」

 

 

 

 

 誤魔化しても通じそうにないので素直に答えると、更に深いため息。

 

 

 

 

「……もういいです。協力はするので帰って下さい」

「すまん、助かる……ありがとう」

 

 

 

 ちらりとお友だちの方にも目線で礼を伝えようとしたのだが、中指立てられた。

 何故…?

 

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――何か、用?」

「併走しに来ました」

 

 

 

 

 昨晩現れた失礼な、というよりはお節介そうなトレーナー。

 関係のないものに興味はないけれど、私は走れなかった妹のためにもっと、もっと走らないといけないから。口うるさく言われるのは御免だった。

 

 

 のだが。まさかの担当の方が先に来た。

 この笑顔で何とも言えないオーラを放つ先輩……最早生ける伝説とも言っていい九冠ウマ娘にして、凱旋門賞、BCクラシックウマ娘。芝とダートの世界最強がどういうわけか併走を挑んでくるというのは理解しがたかった。

 

 

 

 ………一応、この人がトレーナーと恋仲どころか夫婦なのは知っている。失礼なウマ娘をぺしゃんこにしてやる、というような性格には見えないが……。何故か連れてこられた、朝日杯FSを勝利し毎日王冠ではエルコンドルパサーに勝利したグラスワンダーも合わせて、普通は併走したくても叶わない最高の相手なのは分かる。

 

 

 

 

「あの~、スズカさん? 私もでしょうか?」

「ええ、お願いね。距離は好きに選んで」

 

 

 

 

 

 都合はいい。とはいえ、私もこの人たちも中距離から長距離まで問題なく走れるが……それなら、一番得意な距離で。

 

 

 

 

「……芝2400で」

 

 

 

 

 

 横並びになり、スタートを待つ。

 サイレンススズカさんがコインを持ち、指で弾く。落下した瞬間がスタート――――。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、私は呑まれた。

 銀世界、満天の星空。果てのない、どこまでも冷たい景色。けれど、そこに感じたのは、猛烈なまでの“熱”だった。

 

 “誰か”のために走る――――。

 この人は、私と全く共通の目的で走っている。

 

 

 

 

 

 

 

―――――羨ましい。

 

 

 

 

 どんどん離れていく背中に感じてしまったのは、そんな言葉だった。

 

 

 

 私だって、妹のために走って……それで、笑顔になってくれたらどんなに良かっただろう。でも妹はもういない。残ったのは、彼女がくれた身体で、彼女が手にするはずだった栄光を代わりに奪って立つ私だけ。

 

 ならもう、走って、走り続けて……たとえ身体が壊れたとしても、相応しい末路にたどり着くのが私のあるべき姿だと思った。

 

 

 

 

 

 決死の覚悟で飛び込むグラスワンダーさんを見ても、心は動かない。

 力の差と、想いの差を見せつけられて、大差をつけられてゴールを通過した私を待っていたのは、二人の併走相手とお節介なトレーナー、そして見知らぬ青鹿毛のウマ娘と、ルームメイトのカレンチャンだった。

 

 

 

 

 

「……何を、しに来たの」

「いや、ちょっと話の続きをしようと思ったらスズカが走ってたから……」

 

 

 

「惚気話は後にして下さい。もうすぐ黄昏時……「混ざり」やすくなるので最適な時間帯です」

「何を……」

 

 

 

 スッ、と青鹿毛の子が指さした先にあったのはいつも見る赤い星。

 妹を感じられるその星を何故知っているのか――――疑問に思う暇もなく、その気配が感じられないことに気付いた。

 

 

 

「――――え?」

「『………お姉ちゃん』」

 

 

 

 

 カレンチャンが言ったのはそんな言葉だった「ふざけないで」と口に出そうとしたのに、何故か出てこない。感じているのは、いつも知っている気配とは違う――――けれど、いつだって傍に感じていたものだったから。

 

 

 

「『お姉ちゃんが、がんばり屋さんなのは知ってるけど。ちゃんと身体は大事にしてね? 辛そうなお姉ちゃんを見るの、嫌だよ』」

 

「………嘘。嘘よ、そんな―――」

 

 

 

 

「『楽しそうに走るお姉ちゃんが好き。勝って嬉しそうなのも、星を……私の方を見て、やさしく笑ってくれるのが好き』」

 

 

 

 

 一歩踏み出す、穏やかに笑う、カレンチャンではない“誰か”。

 ガラス細工に触れるようにそっと手を伸ばし、抱きしめる。言葉も、涙も、意識するまでも無く勝手にあふれてきていた。

 

 だって、ずっと想っていたから。

 ずっと悔やんでいたから。

 ずっと、会いたかったから。

 

 

 

 

 

「……ごめん。ごめん、なさい………走りたい気持ちも、楽しさも、貴女のものなんじゃないかって思って……私の代わりになって、こんなことになってしまったんじゃないかって……」

 

「『……いいよ。でもその代わり、私の分までめいっぱい楽しんでね? 辛そうなお姉ちゃんを見ても、楽しくないもん』」

 

 

 

 

 

 涙と一緒に、心に溜まっていた悪いものが流れ出たような。

 抱きしめた『妹』から流れ込んだ“熱”が、それを溶かしてくれたような不思議な感覚があった。

 

 

 

 

 めいっぱい泣いて、泣き続けて。

 いつの間にかお節介なトレーナー達はいなくなり。そして元に戻っていたカレンチャンに『絶対喋るな』と口止めしつつ寮に戻り。……そして結局のところ、問題だけ解決して現れなくなったお節介なトレーナーからは、特にスカウトも何もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく、ものすごく機嫌が悪かったあの青鹿毛のウマ娘の気持ちを察したアドマイヤベガだった。

 

 

 

 

 

 



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マイルCS

 

 

 

 

 さて。

 スズカが全てをぶっちぎる加速とスプリンターばりの快速を、並のステイヤー以上のスタミナと息の入れ方の上手さでゴリ押しする異次元の先頭民族であるのに対して。グラスワンダーの強さはマークの上手さとロングスパート、そしてとんでもない切れ味の末脚である。

 

 なのだが……練習のためスローペースで末脚を溜めさせたスズカと併走させていたら、そんな場合でも捲って上がってきてそのまま(普通のウマ娘なら)撫で斬りにするヒットマンが生まれてしまった。追いつかれそうになるとスズカのストレスがマッハな(+断固抜かされまいとして消耗する)のであまりたくさんはやってないが。

 

 

 

 

 まだ本格化してないテイオーは、そんなヤベー怪物二人に挟まれて先行策。位置取りと仕掛けのタイミングは芸術的なのだが、いかんせん本格化してないので勝負にならない。

 

 

 

「ゥアアア~、もう、やんなっちゃうよね!」

 

 

 

 

 とかなんとか言ってる割に目がギラギラしているあたり、不屈の帝王の片鱗を感じる。もしかしてヤベー奴にヤベー練習させてる? 走りが更に洗練されてる気すらするのだが、コイツまだ上があるの? ボコられるとパワーアップするとか、お前は戦闘民族なのか?

 

 

 

 

 しかしスズカはワキちゃん時代に全盛期のサイレンススズカを目指させてステイヤーもできるスタミナとスプリンターを引きはがすパワーが増設されたが、大逃げが特殊すぎてイマイチ比較ができない。けどもしかしてワキちゃん、全盛期のサイレンススズカより強い?

 

 グラスは元々怪物二世だったので、身体をしっかりつくらせたことで怪我無く本来の領域に到達できただけだがそれが大分頭おかしい。

 テイオーは最初から叩かれまくって不屈モードに入ったせいでなんか風格が出てきた気がする。無敵のテイオー様じゃなく、緻密な戦略で勝利を目指す不屈にして絶対の帝王……あれ強そう。

 

 

 

 

「……で、ウチの子が妙にご機嫌だったんだけど心当たりは?」

「無いですね」

 

 

 

 

 訪ねてきてくれたカフェトレことトレーナー掲示板のキリマンジャロの嵐、嵐山さん。女性の先輩なのだが、結婚して引退を考えているのだとか。いつぞやはカフェに下着相談されて他の男トレーナーの流れに乗って真顔で淡々と返事をするというボケをかます(女性同士なんだから普通に相談に乗ってあげてください)などの天然ぶりでなんやかんや担当からは愛されている模様。

 

 

 

 

「………うわぁ、相変わらずのクソボケぶりね」

「あっ、嫌いな奴が来なくなってせいせいした……ということですか? 流石にそれはちょっとショックなんですが」

 

 

 

 

 ……うっ!?

 頭に何か当たった!? ゴムボール的なもの! 背後を振り返ると『お友だち』が中指立てていた。……マジで嫌われてね?

 

 

 

「で、私が引退したらカフェのことよろしくね?」

「………いやあの、今でもお腹いっぱいなんですが」

 

 

 

 まずスズカに拘束される時間がアホほどに長いので、ある程度自主トレできるかスズカと一緒に練習できないと厳しい。何故かカフェはスズカといるのを嫌がるので、無理だと思うのだが。

 

 

 

「でもスズカちゃん引退でしょ?」

「……ど、ドリームトロフィーリーグありますし……」

 

 

 

「多分、デビューは再来年くらいになると思うのよね。私も来年までは残るつもりだから……」

「いやあの、話聞いてください。スズカと一緒にいると負担があるみたいなので、カフェのためにならないんじゃないかな、と……」

 

 

 

 

 結局、どちらか優先しろと言われたらスズカしか選べないし。

 なんとも言えない顔をしている嵐山さんは、しかし小さく首を振った。

 

 

 

「ううん。『お友だち』の件もあるからね。私はカフェを信じてるけど、それでも見えないのは同じこと。どうしても本当の意味での理解者にはなってあげられない。あなたも、本当の意味でカフェは支えられないかもだけれど、理解者にはなれるでしょ?」

 

「いや、でも……」

 

 

 

「利益と不利益を秤にかけて、それでもカフェのためになると思うんだ。あと、アオハル杯の噂、聞いてるよね?」

「……マジでやるんです?」

 

 

 

 アオハル杯の復活――――短距離や長距離、ダートの振興のために掲げられたそれは、アプリのそれとはひと味違う。初回お試しでドリームトロフィーリーグとトゥインクルシリーズが入り混じった上で行うとのこと。ハンデとして、ドリームトロフィーリーグの面々は普段と違う距離などを走らされるみたいだが。

 

 

 

 長距離(3000とか)のオグリキャップとか、マイルのシンボリルドルフとか、芝のスマートファルコンとか。ファンとしては面白そうだが、トレーナーとしては頭を抱える案件である。

 

 

 

――――まあマイルを一度も走ってないサイレンススズカという最終兵器がいるんだけどね! うわー、いっかいもはしってないなんて、てきせいがしんぱいだー。

 

 しかし本来の最適距離であり、実際イジメである。でも体つきがステイヤーとか言われてるスズカは泣いていい。

 

 

 

 

「運営側に移るからこその特権ね。ハナちゃんも多分知らないから」

「でも別に俺がやらなくても―――」

 

 

 

 

 普通にリギルにスズカ、テイオー、グラスを合流させればいい気がするのだが。

 

 

 

「リギル一強だと盛り上がらないから絶対やめて。ちょうど理子ちゃんが誰かさんのせいで悪化した風紀を締めなおそうとしてるし、貴方は別チームとして出てもらうから。で、理子ちゃんが勝ったら使えなくなりそうな空き教室を引き続き使うためにカフェも出場するはずだし」

「えぇ……」

 

 

 

 上手いこと扱われてるな、カフェ…。

 でもそうしたところでダート(マイル):サイレンススズカ、マイル:グラスワンダー、中距離:トウカイテイオー、長距離:マンハッタンカフェで普通に足りないのだが。お友だちをダートで借りていいですか? スズカならスプリントでも、サクラバクシンオーとかの超一流以外には負けないだろうし。

 

 

 

「貴方ならいるでしょ、短距離の子の心当たり」

「いやいませんが」

 

 

 

「未デビューでいいのよ?」

「……えぇ~」

 

 

 

 担当がいなそうな短距離というと、ミホノブルボンとアストンマーチャンくらいでは? そもそもスズカしか見てない俺とマーチャンの相性は最悪で、ブルボンはスプリンターじゃなくて三冠を目指しているわけで。……龍王とかどこかにいないだろうか?

 

 ドリームトロフィーリーグの面々はトレーナーもすでにいるし、長距離バクシンオーとか仲間にしても普通に辛いし…。

 

 一応、勝った相手のメンバーを吸収していい(相手が賛同してくれれば)みたいだがそれでも誰かしらは出さないと話にならないし。モブウマ娘を鍛えるのはちょっと片手間にやるにはハードルが高い……ワキちゃん育成とか人生懸けてたからなぁ。

 

 

 

 

 短距離、短距離ねぇ。

 本格化の問題もあるし、二年あれば多分2期が始まる?ので、オペラオー世代かシャカール世代、またはテイオー世代でスプリンター……本格化してなくてもアオハル杯に調整すれば走れなくもないらしいが、まあ覚えておこう。流石に不利に変わりはないだろうし。

 

 

 

 

「最悪、スプリンター志望を捕まえてスズカにスタートを教え込ませて徹底的にスタミナを鍛えます。スパートかけ続ける根性があれば勝てるでしょう」

「………そんなサイレンススズカみたいな子そうそういないと思うけど」

 

 

 

 

 

 こちとら本物のサイレンススズカがいるので、多分スズカならなんとかできる。

 でも短距離といえば巨乳、どこかに巨乳はいないのか…。

 

 ……貧乳しかいなくね?

 

 

 

 

「トレーナー、何処見てるの」

「トレーナーさんもストレッチ、されていきますか?」

 

 

 

 

 すみませんでした。

 でもグラスはアレだし、テイオーも体型ガキンチョだし、スズカはワキちゃんだし。カフェも胸ナーフされてステイヤー体型だし。

 

 ……アヤベさんにトレーナーいなかったら来てもらおうかな。

 いや、現状の方が目に優しいんだけど。タイキが遊びに来たときとか体操服に目が引き付けられるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 というわけで、マイルチャンピオンシップ。

 本来は確かタイキシャトルが勝っていたはずだが、アメリカ遠征していた関係で回避。代わりにグラスが出走するということで、シーキングザパールの1番人気に次ぐ2番人気。

 

 とはいえマイルの絶対王者の不在ということで、サイレンススズカ、タイキシャトルと並んで海外遠征成功者として名前が売れているパール、エルコンドルパサーに勝利したグラス以外は混戦模様のようだ。

 

 

 

 ちなみに場所は京都だが、当然のようにくっついてきているスズカである。もう何人でも同じことなので、(あとグラスが気まずくならないように)テイオーも勉強がてら連れてきている。まあスズカがちゃんと空気を読んで大人しくしてたので、むしろ怪訝そうにされてたが。

 

 

 

 

「お兄さん、私だってレースの邪魔をしないくらいの常識はありますよ…?」

「……そっかあ」

 

 

 

 言いながら尻尾を俺の腕に巻きつけて、胸元に頬擦りしてきてなければ説得力あったかもな…。いやグラスの邪魔はしてないんだけどね。

 

 

 

「あとスズカ、普通に撮られてるからね? ピースじゃなくて」

 

 

 

 撮られてると聞いてにっこり笑顔でピースするスズカだが、そうじゃない。

 めちゃめちゃ恥ずかしいんだよ!

 

 

 

「指輪も一緒にお願いします!」

「はい」

 

 

 

 はいじゃないが。

 仕方ないのでスズカを盾にすると、身長差的に屈む必要があり。その姿勢に何を思ったのかほっぺにチューをかましてきたスズカのせいで歓声(と悲鳴)が上がる。

 

 

 

 

「いや。あのな、スズカ。恥ずかしいからやめよう、な?」

「はい。………すみません、写真は終わりでお願いします」

 

 

 

 

 いちゃつくのは続けるんですね…。

 

 

 

「あ」

「どうした、スズカ」

 

 

 

「お兄さん、トイレ行きましょう」

「行きましょうじゃないが」

 

 

 

 男を連れションに誘うんじゃありません。

 こんなこともあろうかと、というわけでテイオーシールド発動。「ああもう、レース始まる前に行くよ!」とスズカを引きずっていくテイオーの方が年上にしか見えない…。

 

 

 

「うそでしょ。お兄さ~~ん……」

「トレーナーは絶対さっさと責任取るべきだよね」

 

 

 

 

 もう取ってるはずなんだが!?

 そんなわけで退場したスズカ。

 嵐が過ぎ去ったような感覚を受けつつ、近くにいたウマ娘と目が合った。

 

 

 

 

「あら」

「………んんん?」

 

 

 

 低い位置で二つに束ねた鹿毛の長い髪、額の丸い流星。

 落ち着いた雰囲気の私服は、トレーナーなりたての頃に何度か出会った覚えがあった。こんなに胸デカくなかったけど。………ごくわずかにしか大きくなってないワキちゃん…。

 

 

 

「………お久しぶりですね、凱風な方。まさかこのような場所でお会いするとは……八重の潮風でしょうか」

 

 

 

 つまり、こんなところで会うなんて意外でした、という意味…なのか?

 

 

 

「そうかもな。そっちもマイルCSを見に来たのか?」

「ええ。私にとっての初風、あるいは暁風であるかもしれませんので」

 

 

 

 ………うん? まあ意味不明なことをいうゴルシと違って分かりにくいだけっぽいし、風の意味をスマホで調べればまあ…。

 つまり初めて吹いた風、走る切っ掛けということだろうか。

 

 

 

「そうか、それでわざわざ観戦に?」

「ええ。いつか私もあの時のような風に、と。あとテイオーさんにも誘われました」

 

 

 

 へぇー。仲いいのか…。

 でも風ワードが前より減った気がする。コミュニケーションに支障があるくらいは風塗れだった気がするのだが。

 

 

 

「そういえば初めて会った時より風が抑えめだな」

「………あなじのようなところもあるのですね」

 

 

 

 海で航行を妨げるような風、と。

 つまり意地悪と言いたいのだろうか。……スズカにもよく言われるんだよなぁ。

 

 

 

「全部風に巻こうとする君も大概じゃないか?」

「……なるほど、それが貴方らしさであると。凱風かと思えば、舞い風のような方でしたか」

 

 

 

 ちょっと怒って…いや、拗ねてるか。

 まあスズカの走り癖も、グラスのなんか微妙に違う大和撫子も、とやかく言われたら嫌だろうしな。

 

 

 

「谷風もあれば東風もある、ということでどうだろうか」

「……どちらも同じ風ですが、いい意味にも悪い意味にもなる。ご忠告は、ありがたく受け取っておきます」

 

 

 

 つまるところ『良薬は口に苦し』『風は風として、コミュニケーションはちゃんと取れ』というようなことを伝えたいわけなのだが。

 

 

 

「……おや、そろそろ始まるようですね」

「ウチのグラスワンダーも出るからな、注目してくれていいぞ」

 

 

 

「それは恵風でしょうか。ならば風待ちをせねば、ですね」

「恵風というよりは、大嵐な感じもするが……」

 

 

 

 

 ゲート入りで例のお茶飲みから茶碗叩き斬り領域を発動したグラス。なんとなくそのただならぬ気配は察知したらしいウマ娘は、「この風は……」とつぶやいてレースに集中し。

 そこでようやくスズカが戻ってきた。

 

 

 

「――――お兄さんっ」

「あら」

 

 

 

 飛びつきハグから頬にチューまで決めたスズカに、風のウマ娘は少し驚いたような顔をしたものの。

 

 

 

「天津風のような方ですね」

「……そういえば、身体の調子はどうなんだ?」

 

 

 

「ええ。あなじさんのお陰で順調ですよ」

 

 

 

 本当に順調ならそんなにテーピングもしないと思うが。歩き方も若干おかしいし、どこか痛めていると見た。そんなやり取りで何かを察したのか、スズカと、走り出したスズカに置いてかれたらしいテイオーが何かを察した顔になる。

 

 

 

「で、どう。トレーナー?」

「お前……この前の話聞いてたな」

 

 

 

 

 アオハル杯の話から、テイオーなりに短距離の有望株を探してくれたらしい。

 この胴体の詰まり具合、体型だけで決まるわけではないが、そこだけならタイキシャトルに匹敵しそうな感じである。

 

 

 

「まあねー。短距離を走れて、僕としても併走したい相手っていうとやっぱりゼファーかなって」

「………飄風ですね」

 

 

 

 テイオーに褒められてちょっと嬉しそうな推定ゼファー……ヤマニンゼファー? え、マジ?

 

 

 

 

 

『さあ体勢整いました――――GⅠ、マイルチャンピオンシップ。今――――スタートです!』

 

 

 

 

 ハナを奪っていたのは逃げウマ娘二人。そこに3~4バ身離れてシーキングザパール。中団につけたグラスは特段焦る様子もない。

 確かタイキシャトルが圧勝したレースなので、他は突き抜けたウマ娘もいない。

 

 

 ハナの奪い合いがそこそこ苛烈になってペースが上がるが、第四コーナー手前でスルスルと上がっていくグラスワンダーがシーキングザパールに並びかけ。

 

 

 

 

 

 

『――――さあここで上がってきたグラスワンダー! 朝日杯の再現なるか、ここからどこまで千切るんだグラスワンダー!』

 

 

 

「うわぁ」

「鎧袖一触、だねー」

 

 

 

 ルドルフの真似なのか真剣な声音で四字熟語など呟いてみるテイオーだが、たしかにそうとしか言いようがない。本当にどこまで千切るのか、という勢いで最終直線入ってすぐ先頭に立ったグラスがあっさりと後続を引き離す。

 

 

 

 

『これが新世代のマイル覇者か! 怪物再び! グラスワンダー圧勝! NHKマイルでの雪辱を毎日王冠で果たし、世代でのマイル最強を改めてここマイルCSで証明しました!』

『タイキシャトルとのマイル王者対決が実現するのか、気になりますね』

 

 

 

 

 

 そんなレース結果を無言で眺めていたヤマニンゼファー?にテイオーが声を掛ける。

 

 

 

「そんなわけで、僕たちはリギルに反旗を翻して新世代の帝王になる! わけだけど、ゼファーもどう?」

「いや別に反旗は翻さないが」

 

 

 

 強制的に暖簾分けさせられそうになってるだけである。

 それもアオハル杯の名義だけで、まだまだリギルで勉強したいことはたくさんあるし。

 

 

 ゼファーはぼんやりとこちらの顔を眺め。

 テイオーとスズカ、そして歓声を浴びて立つグラスを見て。

 

 

 

 

「かつて私を救ってくれた便風。その求めには応えたくありますが……お断りさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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有マ記念 / 最後の戦いへ

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ」

「あ、じゃないが。オーバーワークは止めろって言っただろ―――妹さんが」

 

 

 

 夜のトラック。

 あまりに無茶な練習っぷりにトレーナーが匙を投げていたらしく、実は担当不在でデビューできていなかったアドマイヤベガ。一応スズカと様子を見に来てみたのだが、まさか本当にいるとは。

 

 露骨に気まずそうに目を逸らす彼女は、妹のことを言われると慌てて否定した。

 

 

 

 

「ち、違うの。別に走ろうと思ったわけじゃなくて……その、どうしても眠れなかったから……」

「……布団が良くないんじゃ?」

 

 

 

 ぽつりと呟いたスズカに、スッとアドマイヤベガの目が見開かれる。

 

 

 

「――――そうなのよ。布団乾燥機が壊れてしまって……」

「……そう、なんですね」

 

 

 

 まあ普通は学生ならお小遣い制なわけで。安物で我慢できるならともかく、良いものを買うならせめてメイクデビューくらいは勝たないと金銭的に厳しいだろう。あんまり自分から何々を買いたいからお金が~とか言いそうにないし。

 

 何だか思っていたのと違う? という雰囲気のスズカだが、少し思案した後こんなことを言った。

 

 

 

 

「――――じゃあ、ウチに来ますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………どんな状況だこれ?

 ベッドの上、ネグリジェ姿のスズカと抱き合う俺。タイキ用のお泊りパジャマを着て真顔のアドマイヤベガが俺を挟んでスズカの向かい側。

 

 

 

 

 いや、ウチってスズカの寮じゃなくて俺の家かよ!?

 よくよく考えたら結婚してるから俺たちの家だけれども!

 

 スズカに促されるがままに何故か三人で同衾する流れにさせられたアドマイヤベガは、顔を赤くしてあわあわしている。

 

 

 

「――――というわけで、お布団とお兄さんが最高です」

「……で、でもふわふわしてないわよ…?」

 

 

 

 

「……お兄さんがいれば、気分がふわふわします!」

 

 

 

 なんでお前そんな絶妙に危ない発言を…。

 じりじりと布団の中で距離を取るアドマイヤベガにプレッシャーを与えないように、とりあえず阿呆(スズカ)を抱きしめてそのまま壁際まで転がる。のだが。

 

 

 

「………というわけで、アヤベさんもどうぞ!」

「どうぞじゃないが」

 

 

 

 まともな感性の女の子はそう簡単に抱き着いたりしないんだよ! むしろセクハラ扱いになるわ!

 との焦りとは裏腹に、背中に触れる温かいぬくもりに心臓が止まりそうになる。

 

 

 

 

「………その、妹のこと……感謝、してるわ……あんな解決法、貴方しかできなかったと思うし………ありがとう」

 

 

 

 

 

 ………うっ。

 これがツンデレ、ないしクーデレの破壊力という奴か……スズカがいなければ即死だった。とりあえずスズカの胸がないようでちょっとある、けどやっぱり無い胸に意識を集中させつつ言った。

 

 

 

「君が妹を、妹が君を想ってたからこそだろ。礼はカフェに言ってくれ」

「……でも、感謝してるのは本当だから」

 

 

 

 

 

「……ところでその、偶にでいいから、話せたりとかは……?」

 

 

 

 それは……いやまあ気持ちは分かるんだが、カフェと、アヤベさんの妹の気持ちに理解があるウマ娘、つまるところ適格者はカレンチャン―――の協力が必要で。

 

 

 

 

「カフェ次第かな……俺、蛇蝎の如く嫌われてるし」

「………そう、かしら」

 

 

 

 何か後ろから白い目で見られてるような…?

 ついでに何故かスズカから首筋をかぷかぷと甘噛みされてるし。

 

 

 

 

「………優しいお兄さんは好きですが。それはそれとして、譲りませんから」

 

 

 

 

「でも、そうね……ふわふわほどでは、ないけれど………なんだか……………わるく、ないかも………」

 

 

 

 

 

 やはり疲れが溜まっていたのか、寝息を立て始めたアドマイヤベガにスズカと二人で目線を合わせて微笑み合う。

 

 

 

 

「………ところで、お兄さん?」

「どうした」

 

 

 

 

 

「…………おっぱい、嬉しそうですね?」

「………………ああ!」

 

 

 

 

 

 この後、強制的にスズカの胸に顔を埋められた。

 何かに目覚めさせられそうになった。アヤベさんがいなければ即死だった。

 

 

 

 

 そしてなぜかアヤベはウチで引き取ることになり。

 メイクデビューを快勝、そのままの勢いでホープフルステークスに挑むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――というわけで、コパノリッキーさん監修で風水的にいい風が入ってくるように調整された東屋がこちらになります。元々は夏場の休憩用なのだが、理事長に話を通したら面白がって許してくれた。

 

 

 

 

「……そんな、この時期にこれほど心地よい微風だなんて……」

「いやー、トレーナー無駄に顔は広いよね」

 

「誰の頭がでかいって?」

 

 

 

 ハヤヒデジョークを織り交ぜてみたが、まだテイオーは会ってないらしく反応はそれほどでもない。

 というわけで、「選抜レースで勝ってから改めてスカウトの話をしてほしい」と言ってくれたヤマニンゼファーを強制的に練習に参加させている。幸いにも短距離から中距離と三階級制覇を目的としているゼファーと、ウチの練習の柱であるスタミナ強化は相性が良い。

 

 

 

「くっ、やはりあなじのような方ですね…」

「よく言われる」

 

 

 

「お兄さんは口だけ悪いですからね…」

 

 

 

 そんなことを言いながら人の膝を枕にしてうっとりしているスズカの耳をカリカリしてやって黙らせる。

 

 

 

「………ぁっ、そこ………へふ………」

 

 

 

 モフモフしてるから実際触ってる方も気持ちいいのである。

 無力化したスズカはさておいて、問題はやはりスズカの引退レースでもある有マ記念だろう。

 

 

 

「え、何か言ったかスズカ~~?」

「……ぉにゅ………ぃじわるぅ……」

 

 

 

 

 それでも指輪に手を出すと死守してくるのだが。

 実際のところスズカが本気を出したら蹴散らされるとはいえ、なんとなくこう……征服欲的なものも満たされるので気分はいい。

 

 

 

 

 

「それほどの恵風であれば、私も風待ちしてみたいですね」

「………!? ら、らめですっ、お兄さん、私のっ!」

 

 

 

 いやそんなに焦らなくても…。

 スズカと同じでけっこうポンコツな香りがするゼファー、テイオーとグラスは諦め顔だが。

 

 

 

「片手空いてるが」

「……両手でしてください」

 

 

 

 お前それ大丈夫か?

 ゼファーは別に気にしてなさそうなので、スズカの両耳をカリカリ……。

 

 

 

 

 

「~~~~~…っ!?」

「えっと、大丈夫か…?」

 

 

「………だ、いじょうぶれすよ?」

 

 

 

 

 いやどう見ても大丈夫じゃないが。

 顔真っ赤にして震えているスズカが、めちゃめちゃだらしない顔をしていたので、スマホで撮影。そして速攻で奪い取られた。

 

 

 

「あっ、こら」

「……だ、駄目ですっ。消しておきますから!」

 

 

 

 

「えー。ちょうだい?」

「………い、嫌です」

 

 

 

 そんなこんなで二人でじゃれ合っているとメールが届く。

 ……どうやら有マ記念の人気投票についてらしい。

 

 

 

 

有マ記念ファン投票 最終結果発表!

順位名前階級チーム名
1サイレンススズカシニア級1年目リギル
2セイウンスカイクラシック級プロキオン
3スペシャルウィーククラシック級スピカ
4グラスワンダークラシック級リギル
5サニーブライアンシニア級1年目ミモザ
6エアグルーヴシニア級2年目リギル
7メジロブライトシニア級1年目カペラ
8メジロドーベルシニア級1年目カペラ
9タイキシャトルシニア級1年目リギル

 

 

 

 やっぱりスズカが一位。とはいえあらかじめ出ないと言っているタイキもさらっと投票されているあたり流石である。

 いや、引退レースが国外になってしまったので、もしかすると出る可能性もあるか…?

 

 なんとなくクラシック級が2位から固まってるあたり、スズカに黄金世代が勝てるのか、という点の注目度が高いのかなと思う。

 スズカの世代だとマイルでタイキが絶対王者やってる以外は、サニーブライアンくらいしか対抗できるのがいなかったわけだし。

 

 

 

 

 そんなこんなでゼファーを実質的にメンバーに加えて、練習メニューの組みなおしと結婚式の準備で忙しくなった12月は瞬く間に過ぎていき――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ、遂にこの日がやってきてしまいました。今年も多くのレース、多くの喜びが、涙が、夢がありました。ファンに選ばれたウマ娘たちが、走り抜ける今年の総決算です―――――』

 

 

『春、ドバイにて初の海外G1勝利を挙げたタイキシャトル、そしてサイレンススズカ。大阪杯を制したエアグルーヴ、春の天皇賞を駆け抜けたメジロブライト、皐月賞を勝ち上がったセイウンスカイ、ダービーで夢を掴んだスペシャルウィーク。安田記念と宝塚記念で再び世界の走りを見せつけたタイキシャトルとサイレンススズカ』

 

『秋、天皇賞で遂に栄冠に輝いたサニーブライアン、菊花賞にて見事二冠を戴いたセイウンスカイ。欧州王者を争う凱旋門賞ウィークとアメリカ最強を決めるBCで世界一の称号を得たタイキシャトルとサイレンススズカ。エリザベス女王杯で新たに戴冠したメジロドーベル。マイルチャンピオンシップを圧倒したグラスワンダー』

 

 

『優駿たちが一堂に会する夢の舞台――――有馬記念

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まずは1枠1番、3番人気! 皐月賞・菊花賞の二冠ウマ娘――――セイウンスカイ!』

『菊花賞で見せた見事な戦略が果たしてまたみられるのか、そして世界最強に通用するのか、注目のウマ娘です』

 

 

 白い穏やかな雲のような勝負服――――セイウンスカイが手を振りながらゆっくりとパドックに現れる。

 

 

 

(枠順は完璧。後は、勝機があるとすれば――――)

 

 

 

 表面上の穏やかさとは反対の荒々しさを秘めた、希代のトリックスターの目線の先に。

 

 

 

 

『1枠2番、1番人気! 説明不要の現役世界最強ウマ娘――――13戦13勝、驚異のGⅠ9勝! 芝を制し、ダートを制し、最早敵う者なしと無敗のままこの引退レースに臨みます――――無敗の九冠ウマ娘、サイレンススズカ!』

 

『全てのレースを大逃げで捻じ伏せてきた、異論なく世界最強のウマ娘ですね。左手に指輪を携え、このレース後の結婚式とドリームトロフィーリーグへの移籍が明言されています』

 

 

 

 

(……結婚式、楽しみね)

 

 

 

 凛々しい顔の下で、さっきしてもらった熱烈なチューを思い出しながら笑みを深めたりしているスズカは、軽く右手を振って歓声に応える。

 

 

 

 

 

『2枠3番7番人気!――――シニア級2年目、下の最強世代にも負けず存在を示した大阪杯! 女帝エアグルーヴ!』

『エリザベス女王杯ではメジロドーベルに惜しくも敗れましたがその存在感は未だに健在。しかしサイレンススズカと共にドリームトロフィーリーグへの移籍を明言しています』

 

 

 

 新女王に冠を譲っても、なお人気で上位に立つのはやはりその覇気と、経験故か。

 女帝エアグルーヴもまた、スズカを見据えながらターフに立つ。

 

 

 

 

(私もこれで引退するが―――タダで負けるつもりはないぞ、スズカ)

 

 

 

 

 

 

『2枠4番、5番人気! 先のマイルチャンピオンシップにて朝日杯以来の冠を戴いた怪物二世! グラスワンダー!』

『夏を越えて覚醒し、未だ底を見せない新世代のマイル王が、ここ中山のグランプリでも躍動するのか。また、急遽出走を決めたマイルの絶対王者タイキシャトルとの直接対決にも注目です』

 

 

 

 

 怪物二世の名に恥じないオーラ。

 青く燃えるようなそれを静かに揺らめかせながら、マークすべき異次元の逃亡者を見つめる。

 

 

 

 

(……今日は、勝たせてもらいます…!)

 

 

 

 

 

 

『3枠5番、12番人気! ここまで勝ちきれないレースが多いですが、その実力は間違いありません。ステイゴールド!』

『人気薄ですが、だからこその大番狂わせもあるかもしれません』

 

 

 

 

 

『3枠6番、2番人気! 当初は回避を表明していましたが、引退レースとして急遽出走が決定! ――――サイレンススズカと共に世界を制したマイルの絶対王者、タイキシャトル!』

『中山の2500での実力は未知数ですが、その絶対能力の高さは疑いようもありません。新世代のマイル王グラスワンダー、絶対王者サイレンススズカとの決戦にも注目です』

 

 

「ハウディー! さあ、勝負デス!」

 

 

 

 

 王者の風格は、長距離であっても衰えず。

 無謀と誰かが言い、それでもこの人気に輝いたのはその実力の高さ故。

 

 

 

 

 

『4枠7番、6番人気! 怪我に悩まされながらも秋の天皇賞にて遂に栄冠を手にした不屈の挑戦者、サニーブライアン!』

『前年の有マ記念でもサイレンススズカの二着になっており、今回も期待できますよ』

 

 

 

(………勝ち逃げなんて、させないから…!)

 

 

 

 

 何度となく敗れ、その度に立ち上がった。

 去年の、これまでの雪辱を果たすために闘志を燃やす。

 

 

 

 

 

 

 

『4枠8番、13番人気! シルクジャスト!』

『ここまでなかなか勝ち切れていませんが、この大舞台に上がれるだけの走りは見せてくれています』

 

 

 

 

『5枠9番、4番人気! 今年のダービーウマ娘、スペシャルウィーク! 昨年サイレンススズカ注目のウマ娘に挙げられ、見事その期待に応えました! この夢の舞台でどのような対決を見せてくれるのか!?』

『菊花賞、ジャパンカップと勝ち切れないレースこそ続いていますが、ダービーで見せた走りはやはり実力の高さを感じさせます』

 

 

 

 

(スズカさん……やっと、スズカさんと走れるんですね!)

 

 

 

 

 

 憧れの存在、夢を見せてくれた先輩。

 その“景色”に足を踏み入れるために、ダービーに負けないほどの闘志を燃やす。

 

 

 

 

 

 

『5枠10番、8番人気! 春の天皇賞を制した長距離の雄メジロ家から出走のメジロブライト!』

『中山の2500、メジロブライトにはやや短いかもしれませんが、十分に勝利を狙えますよ』

 

 

 

 

(長距離三冠、メジロ家として……私にできることを…!)

 

 

 

 

『6枠11番、10番人気! 昨年の菊花賞でサイレンススズカの二着が印象的なマチカネフクキタル!』

『ここまで惜しくも栄冠を逃していますが…あの時の強い走りであれば、と期待させてくれるものがあります』

 

 

 

(スズカさん……私も、今できる最高の走りを…!)

 

 

 

 

 

『7枠13番、11番人気! 黄金世代の一員ながら未だ無冠、しかしその実力は間違いなく一流のウマ娘、キングヘイロー!』

『惜しいレースが続いていますが、彼女の実力も光るものがありますよ』

 

 

 

(……負けてたまるものですか…! 私だって……私が、一流ウマ娘なんだから!)

 

 

 

 

『7枠14番、9番人気! ティアラ2冠にしてエリザベス女王杯で新女王に戴冠したメジロドーベル!』

『エアグルーヴに勝利したその実力がこの大舞台でも発揮できるのか、期待したいですね』

 

 

 

 

(……っ、私だって、実力を出し切って見せる…!)

 

 

 

 

 

 

『さあ、世界最強のサイレンススズカに挑む15人のウマ娘! サイレンススズカがその実力を見せつけるのか、あるいはマイルの絶対王者がここ中山のグランプリでも頂点に立つのか! 今年の二冠ウマ娘セイウンスカイが、あるいはダービーウマ娘スペシャルウィークが、はたまた怪物二世グラスワンダーが新たな時代を告げるのか!?』

 

 

 

 

『ゲートに入って、体勢整いました―――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あなたの夢、わたしの夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――これで最後だと思うと、少しばかりの感慨が胸を突く。

 

 

 

 ひりつくような闘志。自分以外にも8人のGⅠウマ娘と、有マ記念に出れるくらいには実力ある7人のウマ娘たちがいるけれど、その闘志のほとんどが向けられているのを感じる。

 

 

 

『勝ち続ければ、全てが敵になる――――』

 

 

 

 お兄さんの言葉だ。

 まるでどこかでそんな状況を見たことがあるかのようだったけれど、結局のところ私のやるべきことは変わらない。

 

 

 

(誰よりも速く、誰よりも先に――――)

 

 

 

 

 世界最強を手にして、その景色を見た。

 大好きなお兄さんが私のことを好きだと言ってくれて、チューしてくれて、お嫁さんになった。

 

 私よりも末脚が速いウマ娘はいる。長い距離を走れるウマ娘も。

 けれども大逃げに耐えられないのは、それがあまりにも苦しすぎるから、らしい。

 

 天性のスピードと、息を入れる技術。

 誰よりも先頭を走りたいという抜きんでた闘志。お兄さんに先頭民族と言われることもあるけれど。でもきっと、私が勝ち続けられる理由は――――。

 

 

 景色を見ること、お兄さんに最高の走りを見せること、一番にお兄さんの元にたどり着くこと。――――他の子の勝ちたい気持ちよりも、私の気持ちの方が強いから――――!

 

 

 

 

 

 

 あふれた闘志、限界を超えた集中力が景色を変える。

 共にレースに臨む優駿たちにもきっと見えているのだろう。一面の銀世界、そして二連星が。

 

 

 

 

『―――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

(だから―――――必ず一番に、貴方のところに帰りますから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に飛び出したサイレンススズカに僅かに遅れて、セイウンスカイとサニーブライアンが追走する。出遅れはなく、次いで先行するのがタイキシャトル。その外にスペシャルウィーク、内にエアグルーヴ。少し離れてグラスワンダー、キングヘイロー、メジロドーベル。後方にメジロブライト。

 

 

 じりじりと引き離すサイレンススズカに、それでも食いついていくサニーブライアン。その後ろに入って体力を温存しようとするセイウンスカイ。

 

 

 

 

『揃ったスタート。さすが選ばれた16人、優駿です! そしてさあ行った行った! 先頭に立ったのはやはりサイレンススズカ! 内、セイウンスカイ。外にサニーブライアンですが徐々に引き離そうかというところ! その後方にタイキシャトルが二番手集団の先頭に立った。エアグルーヴはその後方に控える感じ、スペシャルウィーク並びかけていく』

 

 

 

 

(やっぱり落ち着くわね、日本のターフ)

(――――くそっ、速すぎる!)

(嫌になる速さだけど――――展開は想定通り!)

 

 

 

 軽やかに駆けていくサイレンススズカに、追いすがる二人を眺めるのはタイキシャトル。

 幾度となく併走したタイキシャトルからするとスズカを気持ちよく走らせたら勝機が無いのは分かっている。上手くトップスピードに乗る前に先頭を奪うしかないが、長距離でそれをやるのは自殺行為。けれど、勝機が0%と1%なら――――。

 

 

 

 

「―――勝負、デース!」

 

 

 

『おおっと!? タイキシャトル、早くも上がっていく!? 掛かってしまったのか、はたまた作戦か!? サイレンススズカから2バ身ほど離れてサニーブライアン、その後方にぴったりマークするセイウンスカイ。そこから更にじりじり上がってくるタイキシャトルまでおよそ2バ身!』

 

 

 

 

(動いた!? ここだ――――!)

(くっ、化け物揃いだな…!)

 

 

 

 

 

『スペシャルウィークも続いて上がっていく! エアグルーヴは控えるのか! しかし釣られるように後方もペースを上げています! 正面スタンド前、大歓声に送られてサイレンススズカが先頭!』

 

 

「スズカ――――っ!」

 

 

 

 

(あっ、お兄さんっ)

 

 

 

 

『サイレンススズカがペースを上げた! サニーブライアン粘っているが徐々に離されているか!? さあセイウンスカイどう出る!? その横からタイキシャトルが並びかけてきた!』

 

 

 

 

(スぺちゃん、続かせてもらいます)

(ペースが……速すぎる!? でも、追いつくにはこれしか―――)

 

 

 

 

『さあグラスワンダーはスペシャルウィークに付いていくのか!? 少し遅れてその外メジロドーベルもじりじりと上がっていく! その後ろからマチカネフクキタル、キングヘイロー!』

 

 

 

 

(……っ、やはりスズカさんに勝つには早めに仕掛けるしか…!)

(―――くっ、キングがそう簡単に音を上げるとでも!?)

 

 

 

 

『さあ1、2コーナーを回って先頭はサイレンススズカ、リードを開いて4バ身ほど! 二番手かわってタイキシャトル、上がっていく! サニーブライアンの後方ぴったりとセイウンスカイ!その後ろからスペシャルウィークとグラスワンダーもじりじりと上がってくる! やはりハイペース、超ハイペースの戦いになった!』

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――――結婚式の景色、楽しみね)

「さあスズカ、勝負デース!」

 

 

 

 

 足音で誰かを察したスズカは、走り方を変える。

 息を入れ、脚を溜める走りからスパート――――全てを燃やし尽くすための走りへ。

 

 

 

 

(まだ少し、遠い。けれど―――――届かせる!)

(ここまでならまだ全力で走れる距離――――あとは、根性デス!)

 

 

 

 

―――――――『Silent Stars』

 

 

 

―――――――『ヴィクトリーショット!』

 

 

 

 

 

『行った! サイレンススズカに競りかけていくのはタイキシャトル! 両者向こう正面の中間でスパート! 僅かにタイキシャトルが前に出たか!? だがサイレンススズカ譲らない! ここでセイウンスカイが抜け出した! その後ろにサニーブライアンが続いて、外からスペシャルウィークとグラスワンダー! これは大変なことになってきました!』

 

 

 

 

 

(っ、ホント、勘弁してほしいけど――――大物、釣りに行かなきゃ勝てないよね!)

(ほんとに最後まで持たせる気あるの!? ……ああもう!)

 

 

 

 

『3,4コーナーに入っても熾烈なデッドヒートは続いている! だがサイレンススズカ先頭! その後ろにタイキシャトル。後ろからセイウンスカイも仕掛けてくるが――――外から! 外からスペシャルウィーク!』

 

 

 

 

 

(スズカさん――――これが、貴女を追いかけてきた私の―――今できる全部! 最高の走りで、追いついて見せます!)

 

 

 

 

 

――――――■■総大将

――――――『シューティングスター』

 

 

 

 

 

 

 いくつもの夢を、流星を束ねてスペシャルウィークが加速する。

 これまで競ってきたライバルたち、憧れた人、支えてくれた人たち。その想いの全てを力に変えて、前へ。

 

 

 

 

 

(全てはこの時のために――――スぺちゃん、貴女にも。そして―――スズカさんにも。たとえそれがどれほど高い頂であっても――――立つのは、私です!)

 

 

 

 

 

 それは、全てを切り払う薙刀の如き切れ味――――。

 『怪物』が本来備えていた驚異的な末脚、それを完全に解放するためだけの領域。だがその鮮烈さは、他の領域すらも塗りつぶす。

 

 必勝を幻視させる勝ちパターンを、理不尽なまでの、暴力的な末脚が切り捨てる。

 

 

 

 

 

 

―――――不撓不屈

 

 

 

 

 

 

『スペシャルウィーク、一気にセイウンスカイに並――――ばない! 交わした! スペシャルウィークが一気に三番手! その背後にグラスワンダー! 後方からメジロブライトも上がってきている! エアグルーヴ、マチカネフクキタルも徐々に進出!』

 

 

 

 グラスワンダーの領域に食いつかれながら、それでも流星を輝かせてスペシャルウィークが駆ける。僅かでも速度を緩めれば、抜き去られる―――。それを根性で捻じ伏せて、なおも前へ。

 

 

 

 

 

 

『さあサイレンススズカとタイキシャトルが先頭で最終直線! 僅かにサイレンススズカが前に出たか!? だが一気にスペシャルウィークとグラスワンダーが上がってきている!』

 

 

 

 

(―――――やるわね、タイキ)

(っ、流石すぎマス、スズカ)

 

 

(――――追いつく、追いつくんだぁ――――っ!)

(まだ、まだぁーーーーッ!)

 

 

 

 

『サイレンススズカ先頭! リード半バ身でタイキシャトル! 後方からスペシャルウィーク、グラスワンダーが一気に詰め寄ってくる! 残り200を切った! 残り200メートルを切った! タイキシャトルにスペシャルウィークとグラスワンダーが並びかけて、交わした!』

 

 

 

 

 

(でもね、タイキ、スぺちゃん、グラスも―――――私は、絶対に――――お兄さんの……私たちの夢は、譲らない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイレンススズカの領域。星々の領域が“深さ”を増す。

 銀世界が闇の中に、黒に沈む。時が止まったようなその暗闇の中で―――。

 

 

 

 

 

 

―――――■■■の■■■

 

 

 

 

 

 

 

 タイキシャトルが、スペシャルウィークが、グラスワンダーが息をのむ。

 限界を超えた、その先―――底の見えない暗闇の領域に呑まれたサイレンススズカは――――。

 

 

 

 

 

 

「スズカぁ! ――――好きだぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 目を見開く。

 脚に、四肢に、身体に、魂に――――“熱”がこもる。

 

 精神は肉体を超越する。

 ちょっとやけっぱちで叫んだお兄さんに不満はあるけれど、それでも。そんな恥ずかしがり屋で、いじわるなお兄さんも大好きだと思う。

 

 

 

 

 

 

――――異次元の逃亡者

 

 

 

 

 

 脚を踏み込む。

 重かった脚が、嘘のように軽い。燃えるように全身にあふれる“(好き)”をこめて、飛ぶように駆ける。

 

 暗闇を抜け、星空の下。

 小さな教会と、大好きな人の姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカが更にスパート! サイレンススズカ先頭! 外からスペシャルウィーク! 更に大外グラスワンダー! だがこれは届かないか!?』

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、完全に先頭! リードが開いた! グラスワンダーとスペシャルウィーク一歩も譲らないがこれは決まったか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! サイレンススズカだ! 無敗のまま先頭を駆け抜けて、今――――ゴール! 凄まじいハイペース、魂を燃やすような消耗戦を制したのはサイレンススズカ!』

 

 

 

 

 

 

『タイムは――――2分27秒3!? レ、レコードです! またしても世界レコード! サイレンススズカが有終の美を飾りました!』

 

 

 

 

『そして今、ウイニングライブならぬウイニング・ラン――――観客席の方に走っていきます!』

 

 

 

 

 

 

「お兄さんっ。これが、私の見せたかった景色です――――」

 

 

 

 

 

 

 気を利かせてくれたファンの人が撒いた花びらに迎えられて、ウェディングドレス勝負服のままお兄さんに飛びつく。慣れた動きで回転して勢いを受け流したお兄さんは、ちょっとあきらめ顔で、そのまま私を抱きしめて。

 

 

 

 

 

 

「…………そうだな。やっぱりお前が一番速くて、一番可愛くて。俺の、夢そのものだよ」

 

 

 

 

 

 どちらともなく寄せ合う唇に、祝福の声が響く。

 世界一のウマ娘で、異次元の寂しがり屋で。きっと、世界で一番幸せな自信のある花嫁は。

 

 ちょっぴりの恥ずかしさと、胸いっぱいの幸せを感じながら言った。

 

 

 

 

 

 

「―――――お兄さん、だいすきっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――あなたはここにいるサイレンススズカを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

 

 

 

 

 

 

 純白の花嫁衣裳に身を包んだスズカに目をやる。

 レースのためではない、結婚のためだけの衣装に身を包んだスズカを見ると、走るためではなくこちらを優先してくれている、と自惚れたくなる。綺麗だし。

 

 ………今まで、この子をこんなに綺麗だと感じることはなかったかもしれない(可愛いとは割といつも思っているけど)。

 

 

 

 

「新婦サイレンススズカ、あなたもこの者――――を病める時も健やかなるときも、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 

「……誓います」

 

 

 

 

 

 何故か一番前で号泣している俺の母親に釣られたのか、ちょっと泣きそうなスズカと指輪を交換し、軽くキスする。

 

 

 

 その後はどちらの両親も泣いていて話にならないし、沖野先輩は「世界一になるだけあって、世界一イチャイチャしている夫婦」などと言っていたのでやはりゴルシを嗾けよう。スズカは喜んでたしウケてたが、俺は恥ずかしい。

 

 なおべったりくっついているスズカが原因のような気もするが、まあスズカだし。

 後はウマ娘用の超巨大ケーキに入刀したり、何を思ったかケーキを口移ししてきたスズカのせいで大いに囃し立てられたりしたが、まあ今は許す。後で覚えとけよ…。

 

 

 

「いいよねー、結婚かあ。僕も結婚するなら無敗の七冠くらい取らせてくれるトレーナーがいいな」

「お前それ割と条件緩いんじゃね…?」

 

 

 

 アプリ的には、テイオーなら余裕だろうし。

 めっちゃ冷たい目で「はぁ」とか深いため息を吐かれたが。

 

 

 

 

「私は、そうですね……やはり互いに公私を支えあい、互いの道を照らし合えるような方でしょうか~」

「グラスと照らし合えるとかよっぽどのトレーナーだろうな……」

 

 

 

「ふふふ、トレーナーさん? どうして私にはそんな感じなんでしょうか~」

「レース関係ならまだしも、グラスと釣り合う男って何さ」

 

 

 

 こんなんでも大和撫子だし、レースも強いし。

 でもなんとなく男の理想は高そうな気がする。

 

 

 

 

 

「………わー、結婚式やっぱりいいなぁ! やっぱり憧れちゃうなぁ……」

「妹ちゃん何してんの」

 

 

 

 

 アヤベさんの顔、というか身体でめっちゃはしゃいでいる妹ちゃん。

 どうやら俺が霊媒体質なせいで、近くにいると上手いこと噛みあってしまうらしい。やろうと思えばすぐに主導権を握り返せるのに、妹が本当に楽しそうなせいで多分止めるに止められないアヤベさんの苦労が偲ばれる…。

 

 

 

「ケーキも美味しいし、お兄さん様々だよー。ぎゅってして眠るとスズカお姉ちゃんの言ってた通り眠れたし」

「……カレンチャンとか抱き着くとたぶん喜ぶよ?」

 

 

 

「あの優しそうなお姉ちゃ――――「ちょっと、変なこと吹き込まないで…!」わっ、ごめんね、お姉ちゃん怒っちゃうからまたこんど!」

 

「ああ。楽しんでこいよ」

 

 

 

 

 手を振って走っていく姿を見ると、なんとなく『ぴょいっと♪ はれるや!』で例の滑り台をしているアヤベさんを思い浮かべてしまう。尊厳破壊スライダー…。

 

 

 

 

「これは、花信風のような……良い風ですね~。幸せな気持ちになれる風、私も風待ちしてみましょうか」

 

 

 

 

 つまりそれは結婚したいな、ということだろうか。

 可愛いからすぐ相手が見つかるよ、というのは流石にデリカシーが無い気がするし、ゼファーの強烈な個性を考えるとスタイル目当ての男もいそうなのがな…。

 

 

 

 

「…………」

「やはりあなじのような方ですね。もちろん今は私の憧れた風を目指すべき時、そのような時でないことは――――」

 

 

 

「いや、それはいいんじゃないか。ゼファーの目指した風は、つまらなそうに走っていたか?」

「……いいえ、そのようなことは」

 

 

 

 

「誰よりも楽しそうだから、憧れる。ああなりたいと思う。そんなものじゃないかな。ゼファーのやりたいことをするのがきっと一番の近道だよ」

「……………凱風な方、ですね。春一番のように時々ですが」

 

 

 

 

 春一番って年に一回くらいしか無くない?

 ねえゼファーさん…?

 

 

 

 

「お兄さま、ライスもあんな風になりたいな………」

「うーん、やっぱりカレンにもウエディングドレスが似合うと思わない? ね、お兄ちゃん」

 

 

 

 なんか一部詰め寄られてるので近づかないようにしよう。

 めっちゃ目線で助けを求められたが、スルーしたら目線で「お前を〇す」と言われたような。よし、スズカのブーケトスであのへん狙ってもらおう。

 

 

 

 で、ここまでずっとスズカが俺に抱き着いていたりする。

 話し通し、立ち通し。

 

 お酒も入ると一部のトレーナーが暴走したりと、トレセン学園らしい騒がしい雰囲気のまま結婚式は終わって。そして――――。

 

 

 

 

 

「じゃあ私たち今日は親同士で飲むから」

「上手くやるのよー」

 

 

 

 

 

 

 

 卑猥なハンドサインなどしつつ去っていく母親二人に、不思議そうな顔のスズカ。

 仕方がないのでスズカと風呂に入り(水着は着せた)、当然のように俺のベッドの上でのんびりと枕の匂いなど嗅いでいるスズカにため息を一つ。

 

 

 

 

「お兄さん、今日は楽しかったですね」

「うん」

 

 

 

「…………お兄さん?」

「なあスズカ……ちょっと頼みがあるんだが」

 

 

 

 

 

 うまぴょいしようぜ! とか言っても通じないだろうな…。

 やはりここはチューからの自然な流れで―――。

 

 

 

 

 

「あなたのお嫁さんですから、何でも言って下さい。……だいすきなお兄さん?」

 

 

 

 

 ちょっぴりはにかむように微笑むスズカは、とても可愛くて。

 

 

 

 

 ああ、今日は――――星が綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 何処かで鳥が鳴いていた。

 そういえばレース直前だったのでクリスマスもロクに祝えてなかったな、なんてことを考えて――――。

 

 

 

 

 

「………ぉー、にー、ぃー、さん……」

 

 

 

 何故かカラオケで徹夜した後みたいな声のスズカが、顔を真っ赤にしながら頬を膨らませていた。ご機嫌斜めである。

 

 

 

 

「………いじわるっ、変態……」

「いやだってお前、何年我慢したと思ってるんだ……」

 

 

 

「………むぅ……チューで許してあげます」

「えっ、もう1レース?」

 

 

 

 

 冷蔵庫から禍々しい色のジュース、本日3本目くらいの『うまぴょいドリンク』を取り出すと、スズカは必死になって毛布に隠れるが尻……というか尻尾が隠れていない。

 

 

 

 

「いやあの、スズカ……本気で傷つくからやめて?」

「お兄さん。私、お兄さんのことは大好きですし、なんでもしてあげたいな、って思ってますけど―――――レースで言うなら3000mを5本くらい走らされた気持ちなんです。もう景色を楽しむ余裕もないんです」

 

 

 

「はい」

「………これ以上はもう、身体が……」

 

 

 

 

 

 すみませんでした…。

 

 

 

 

「じゃあまた明日……今晩な」

「………はい。……はい?」

 

 

 

 

「………お兄さん」

「なんでしょうか」

 

 

 

 

「………今日は、チューだけじゃ、ダメですか…?」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言いつつも、なんやかんやで自分からハグもチューもしてくるノーガードなスズカで。

 少しだけ変わった日々を、変わらない大好きな人と過ごす。そんな景色。

 

 そんな、前から少しだけ変わった俺たちの夢を。

 二人で改めて歩み出したのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ご愛読ありがとうございました。
スズカさんとお兄さんの旅路はこれにてひとまず終了になります。


とりあえず本編で出せなかった話なんかをいくつか出す…かもしれません。
アオハル編はいつかやりたいです。
あとここのお兄さんにハーレム展開させるのはアレなので、やるなら完全新規でやると思います。


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おまけ:掲示板(有マ記念)

【最強】現役世界一のサイレンススズカ、ドリームトロフィーリーグへ【引退】

 

1:名無しのファン

トゥインクルシリーズ最後のレースとなる有マ記念に出走する、サイレンススズカさんを応援するスレです。

お兄さんアンチは別スレへ

 

戦績:13戦13勝 GⅠ9勝(皐月賞、東京優駿、菊花賞、ジャパンカップ、有マ記念、ドバイシーマクラシック、宝塚記念、凱旋門賞、BCクラシック)

 

 

2:名無しのファン

歴代最強の大逃げウマ娘だったな

 

 

3:名無しのファン

ところでドリームトロフィーリーグに移籍すると流石にWDTは走らない? 夏から?

 

4:名無しのファン

>>3そもそもお兄さんが脚への負担を考慮して移籍って言ってるから冬は走らないだろ…。

 

5:名無しのファン

俺はてっきりお兄さんが結婚したいから移籍させたのかと思ってたぜ

 

 

6:名無しのファン

まあ学生結婚はちょっとね(結局有マ直後に結婚するらしいけど)

 

 

7:名無しのファン

ところでお兄さんはもう諦めたけど、他の子たち大丈夫? やだよ推しの子がトレーナーとくっつくの

 

 

8:名無しのファン

>>7推し誰よ?

 

 

9:名無しのファン

>>8エイシンフラッシュ

 

 

10:名無しのファン

>>9お、おう……

 

 

11:名無しのファン

なんだよ、エイシンフラッシュ可愛いだろ!?

 

12:名無しのファン

エイシンフラッシュってトレーナーガチ勢では?

 

 

13:名無しのファン

だってフラッシュさんトレーナーラブ勢でしょ?

 

 

14:名無しのファン

フラッシュって結婚秒読みじゃね?

 

15:名無しのファン

なん……だと

 

16:名無しのファン

トレーナーガチ勢

サイレンススズカ:言わずと知れた。デビュー時からラブラブで、お兄さんを褒めると露骨に機嫌がいい、常に一緒にいるしなんなら密着している、ご褒美に布団をもらう。チューしてほしいと語る、指輪を貰うなどやりたい放題だが互いの親公認。トレーナーことお兄さんは十年来の付き合いで、入院しがちな母親を一人待っていたスズカさん(幼女)を当時小学生だったお兄さんが発見し、面倒を見るように。元々家族同然。海外制覇をきっかけに婚約し、BCで結婚を申し込む。有マ記念後に結婚式。

 

タマモクロス:体調を崩した際など献身的に支えてくれるトレーナーを「家族」と呼ぶようになりいちゃつくようになる。ツッコミのキレが鈍るがそれはそれで可愛いと評判に。ドリームトロフィーリーグに移籍とともに結婚。今では育児をしながらトレセン学園の特別顧問として講師もしている。

 

シンボリルドルフ:ルドルフおじさんこと、『皇帝の杖』と共に初の無敗の三冠ウマ娘の栄冠に輝く。が、おじさんの体調不良とともに初の敗北を喫するなど順風満帆とはいかず。責任を感じたおじさんがトレーナーを引退し裏方に回ったものの共にトレセン学園を支えているのは有名な話。いつ結婚するのかは謎だが、両片思いと囁かれるくらいには互いへの発言が重い。

 

 

17:名無しのファン

こうしてみるとスズカさん露骨すぎて笑う。

タマモも当時バレバレだったんだっけ?

 

 

18:名無しのファン

デレデレしてたからな。叩くファンもいたが、二人の感動エピが明らかになるにつれて認められた。実質トレラブ勢の先駆者

 

 

19:名無しのファン

これからはウマ娘が生まれたらトレーナーを探さないとな…。

 

 

20:名無しのファン

トレーナーって若くても20代だろ? 普通に事案じゃねーか

 

 

21:名無しのファン

トレーナーになりそうな小学生を見つけないとな。………無理じゃね?

特に中央はT大学並とか言われてるのに。

 

 

22:名無しのファン

ルドルフおじさんははよ結婚してあげて

 

 

23:名無しのファン

続き

カレンチャン:SNS最強、宇宙一カワイイ。カレンチャンカワイイ! トレーナーをお兄ちゃんと呼び、なんとなく特別扱いしている気はするが理由は不明。不人気であるスプリンター路線の才能をいち早く見出したトレーナーの手腕は評価されることが多い。

 

ライスシャワー:トレーナーことお兄さまは噂によるとその性格の超イケメンっぷりからトレセン学園でも最上位のモテ男であり、性格が良すぎて嫉妬する気にならないのだとか(自称トレーナー談)。ライスシャワーは走りに悩むあまりレースに出走できず落ち込んでいたところをお兄さまに救われ、走ることを決意したらしい。

 

スマートファルコン:最強ウマドル。最近では砂のサイレンススズカとさえ言われるほどの逃げっぷりで再注目されている。地方巡業とも言われる遠征で地方勢を蹂躙。その無敵ぶりから鬼とさえ恐れられたとか。ダート不人気のなか自分を支えてくれたファン一号ことトレーナーに特別な感情を抱いていそうだが、なんとなく日和ってばかりいる印象。なおファン一号先輩はファンの鑑なので不祥事の気配は全くない。

 

 

24:名無しのファン

まあくっついてもいいけど、最低限無敗の三冠は必要だな

 

 

25:名無しのファン

サイレンススズカに勝てたら免除でも良くね?

 

 

26:名無しのファン

そんな簡単にサイレンススズカに勝てるくらいなら日本はとっくに世界でも強豪になれてただろうな…。

 

27:名無しのファン

続き

エイシンフラッシュ:スケジュールに拘るあまり無茶していたところをトレーナーが助け、両親に紹介したらしい。つまり(フラッシュ側の)両親公認の仲

メジロ家の皆様:メジロ家といえばトレーナーを取り込むことに定評がある。ウマ娘は喜び、トレーナーも働き口があるので割とWin-Winらしい。

サトノダイヤモンド:面接に来なかった新人トレーナーを見初めて逆スカウトしたのはその筋では有名らしい。明らかに愛が重い。

 

 

28:名無しのファン

メジロ家の皆様は芝

 

 

29:名無しのファン

まあまたメジロ家かー、とはなる

 

 

30:名無しのファン

メジロ家スカウトするとそっち狙いなのかなーとかってなる?

 

31:名無しのファン

>>30ないぞ。結局名門でも勝てる子は限られてる

 

 

32:名無しのファン

サトノ家もGⅠ勝てないしな。その分ダイヤちゃんは期待されてるらしいけど

 

 

33:名無しのファン

メジロマックイーン:一心同体

メジロアルダン:比翼連理

メジロドーベル:男嫌い(トレーナー除く)

メジロブライト:似た者同士(激重)

 

 

34:名無しのファン

とりあえずスズカさんの幸せそうな顔は心の健康にいい

 

 

35:名無しのファン

ところでスズカさん強すぎね?

 

 

36:名無しのファン

無敗の三冠:歴史的

無敗の五冠:過去最高

海外制覇:新時代の到来

凱旋門賞:偉業

BCクラシック:すごすぎてよく分からん

 

 

37:名無しのファン

最初のころ冗談で無敗三冠取ったらうまぴょいしていいとか言われてたっけな

 

 

38:名無しのファン

もういいよ、うまぴょいしてもいいよ……お兄さんよく耐えたな

 

 

39:名無しのファン

いや流石にもううまぴょいしてるでしょ? してるよね…?

 

 

40:名無しのファン

フレンチキスまでして、遠征で同じホテルにも泊まってるのに我慢するお兄さん…。

 

 

41:名無しのファン

お兄さんってあっちの人なの?

 

 

42:名無しのファン

いやでも結婚するし…。

 

 

43:名無しのファン

というかうまぴょいしてないってどこ情報よ?

 

 

44:名無しのファン

スズカさんが無防備すぎるのと、お兄さんの発言から。

「トレーナーとして学生の間は節度あるお付き合いをさせていただいている」

 

 

45:名無しのファン

チューはいいのか…? まあアンタほどのトレーナーが言うならいいけど

 

 

46:名無しのファン

流石にこの戦績見せられて文句は言えねぇ…。

お兄さんに好きって言われた時のスズカさんの笑顔と加速がね、もうね

 

 

47:名無しのファン

スズカさんのラストスパート比較動画

【動画】

 

通常:うわ、そんな引き離すんだ

告白あり:うそでしょ……。まだ本気じゃなかったんかい!

 

 

48:名無しのファン

全盛期のサイレンススズカ伝説

1、スプリンターよりずっとはやい!

2、ラビットは置いてきた。努力はしたがハッキリ言ってこのペースについていけない…。

3、怪我をしても勝つ(有マ記念)

4、お兄さんの愛の告白で欧州制覇

5、結婚のためにアメリカ本場のダートも制覇

6、苦しい時はお兄さんの愛の告白で力が出てぶっちぎり勝利

7、芝2400、3000、ダート2000の世界レコード保持者

8、トレーナーに言わせると1800~2000では最強。なのにステイヤーもできる

9、垂れないので後方だとノーチャンス

10、サイレンススズカのタイムを基準にした逃げをしようとして怪我頻発

 

49:名無しのファン

アメリカウマ娘の絶望顔がもうね…。

 

50:名無しのファン

まあ先頭にいる頭おかしいハイペースの元凶が、一番脚溜めてるとかいう意味不明な展開だからな

 

 

51:名無しのファン

×脚を溜めていた

〇愛でパワーアップした

 

 

52:名無しのファン

???「根性もいいですけど、愛が一番ですよね」

 

53:名無しのファン

愛じゃよ…。

 

54:名無しのファン

校長「さて、サイレンススズカが首位でレースも最終直線に入った。……じゃがここで、最近の出来事も勘定に入れねばならぬの」

 

 

55:名無しのファン

2位「おっ、チャンスかな?」

3位「まさか…?」

4位「来たのか!?」

 

 

56:名無しのファン

校長「ハイペースの中で、脚を溜めるのは非常に難しい。それもこの歴史的なハイペースではなおさらじゃ。そんな中、素晴らしい息の入れ方で見事に脚を溜めたサイレンススズカに50点をあげたいと思う」

 

 

57:名無しのファン

知ってた

 

58:名無しのファン

 

 

59:名無しのファン

校長ぅぅぅ、そいつもう先頭に立ってるんだけど!?

 

 

60:名無しのファン

校長「そしてそんなハイペースで脚を溜められなかった2位以下からは50点減点じゃ」

 

 

61:名無しのファン

いつもの

 

62:名無しのファン

校長無慈悲

 

63:名無しのファン

知ってた

 

64:名無しのファン

校長「そして最後に、レースの終盤は限界まで自分を追い込む精神力が必要じゃ。……お兄さんの愛の告白でやる気が漲ったサイレンススズカに、250点! さて、それでは飾りつけは変えなくてもよいが、レコードを祝わねばならぬの」

 

 

65:名無しのファン

2位以下「もうやめて」

 

 

66:名無しのファン

実際そんな感じのレースなのが笑えなくてな…。

 

 

67:名無しのファン

グリフィンドォォールッ!

 

 

68:名無しのファン

これもう愛だけで勝てるくね? 勝てそうだな…。

 

 

69:名無しのファン

どうやったらそんなにウマ娘に愛してもらえるんですかね…。

 

 

70:名無しのファン

人生懸けるんだぞ

 

 

71:名無しのファン

二人以上のウマ娘にあんなに愛されたら刺されそう…。

 

 

72:名無しのファン

スズカさんが二人になったらそりゃ荒れるだろうな。

 

 

73:名無しのファン

というかそろそろ出走だぞ

 

 

74:名無しのファン

1番人気:サイレンススズカ

2番人気:タイキシャトル

3番人気:セイウンスカイ

4番人気:スペシャルウィーク

5番人気:グラスワンダー

6番人気:サニーブライアン

7番人気:エアグルーヴ

8番人気:メジロブライト

9番人気:メジロドーベル

10番人気:マチカネフクキタル

11番人気:キングヘイロー

12番人気:ステイゴールド

 

 

75:名無しのファン

勝ったらうまぴょい! サイレンススズカチャレンジ!

 

 

76:名無しのファン

まるでスズカさんがラスボスみたいに……ラスボスみたいなもんか

 

 

77:名無しのファン

スズカさん未満でうまぴょいするのはおかしいからな

 

 

78:名無しのファン

スズカさんでもうまぴょいしたことないのに…。

 

 

79:名無しのファン

>>75ではもしスズカさんが勝ったら?

 

 

80:名無しのファン

実際、対サイレンススズカを想定してそうなグラスワンダーが5番人気なのはちょっと意外

 

 

81:名無しのファン

>>79お兄さんがうまぴょいできる

 

 

82:名無しのファン

逃げ先行じゃないと対抗できない説あるからな

 

 

83:名無しのファン

タイキシャトルの動き次第か? 併走のマイルなら勝てることもあるらしいし

 

 

84:名無しのファン

何が反則って、お兄さんが叫んだらリミッター解除することでは?

 

 

85:名無しのファン

ヒーローショーとかのアレをリアルにやるからな…。

 

 

86:名無しのファン

「スズカさんが追い付かれちゃう! お兄さん、愛を叫んで!」

 

 

87:名無しのファン

お兄さん「スズカ、好きだぁー!」

 

88:名無しのファン

ファイナル・うまぴょい承認!

 

 

89:名無しのファン

足りない部分は愛で補えばいい!

 

 

90:名無しのファン

ミュージック、ドラーイブ!

 

 

91:名無しのファン

スズカさん「ファイナル・うまぴょい!」

 

 

92:名無しのファン

うまぴょいとは…?(哲学)

 

 

93:名無しのファン

説明しよう!

ファイナル・うまぴょいとは、うまぴょいの果てに行きつく境地!

互いの愛が頂点に達した時に発動し、スズカさんに異次元の逃亡力を授けるのだ!

 

94:名無しのファン

意味不明だが実際スズカさんの走りは意味不明だからな…。

 

 

95:名無しのファン

なんかよく分からんが愛なら仕方ないか…。

 

 

96:名無しのファン

愛じゃよ

 

97:名無しのファン

今日も告白してくれるんですか!?

 

 

98:名無しのファン

お兄さんのいる付近、つまりゴール近辺の人がさりげなくお兄さん気にしてて芝

 

 

99:名無しのファン

スズカさんに勝つには愛が無いとダメ…?

でも勝つまではうまぴょいしちゃダメと。

 

 

100:名無しのファン

さあ始まるぞ

 

101:名無しのファン

スズカさん頑張れ

 

 

102:名無しのファン

お兄さんの告白期待

 

 

103:名無しのファン

今日も絶好調なスズカさん(お兄さんに笑顔+手を振る)

 

 

104:名無しのファン

指輪を握って祈るみたいな動き、なんか神聖さを感じるわ

 

 

105:名無しのファン

ケープ脱いだらウエディングドレスだからかね?

 

 

106:名無しのファン

みんな凄い気迫

 

 

107:名無しのファン

流石にGⅠウマ娘たちは全員絶好調っぽい?

 

 

108:名無しのファン

人が多すぎてドーベルは若干不調かもな

 

 

109:名無しのファン

さあスタート!

 

 

110:名無しのファン

揃ったスタート

 

 

111:名無しのファン

出遅れなし、ヨシ!

 

 

112:名無しのファン

やっぱりスズカさんはえー。

 

 

113:名無しのファン

あのスタートの上手さはなんなんだろうね、天才か?

 

 

114:名無しのファン

先頭はサイレンススズカ!

 

 

115:名無しのファン

やっぱり行くのかサニーブライアン

 

 

116:名無しのファン

セイウンスカイちょっと控えるのか

 

 

117:名無しのファン

スぺちゃん先行策!

 

 

118:名無しのファン

まあ好きに走らせたら勝てないのはアメリカが証明している

 

 

119:名無しのファン

ちょっと待てこれペースおかしくね?

 

 

120:名無しのファン

スズカさんのペースがおかしいからな…。

 

 

121:名無しのファン

やはりスズカさん最強…。

 

 

122:名無しのファン

後方というか、一定以上引き離されたらノーチャンスだろうし

 

 

123:名無しのファン

2500で死ぬほどハイペースなのについていかねば

 

 

124:名無しのファン

うおおお一周目のホームストレッチ!

 

 

125:名無しのファン

スズカさんについていくサニブとウンス…。ハイレベルすぎる

 

 

126:名無しのファン

既に前がめちゃ苦しそうだな。スズカさん以外

 

 

127:名無しのファン

タイキ上がってくるのか

 

 

128:名無しのファン

タイキ早くね!?

 

 

129:名無しのファン

仕掛けなきゃ勝てないってことか

 

 

130:名無しのファン

!? なんか聞こえた気がするんだが

 

 

131:名無しのファン

お兄さん叫んでね?

 

 

132:名無しのファン

いや、スズカさん見れば分かるだろ……加速してる!?

 

133:名無しのファン

お兄さん「スズカぁ!」

スズカさん「お兄さんの声…!」

 

 

134:名無しのファン

もうずっと叫んでればいいんじゃね?

 

 

135:名無しのファン

白タキシードお兄さんを配置すればスズカさん圧勝説

 

 

136:名無しのファン

表情めっちゃ可愛い

 

 

137:名無しのファン

真剣な顔からめっちゃ笑顔になるのいいよね

 

 

138:名無しのファン

後方仕掛けてきた!

 

 

139:名無しのファン

いや早すぎでしょ!?

 

 

140:名無しのファン

前がおかしいから後ろもおかしくなってる

 

 

141:名無しのファン

タイキが二番手!

 

 

142:名無しのファン

ぎゃああ本気で潰しに来た?!

 

 

143:名無しのファン

世界最強対決!?

 

 

144:名無しのファン

スぺちゃん、グラスちゃんも来てるぞ

 

 

145:名無しのファン

スズカさんにスイッチが入った!

 

 

146:名無しのファン

いや流石に遠すぎじゃ

 

 

147:名無しのファン

向こう正面中盤から熾烈なデッドヒート!

 

 

148:名無しのファン

うっそタイキが前に出た!?

 

 

149:名無しのファン

いやスズカさん譲らんぞ

 

 

150:名無しのファン

前塞がれたらやばくね

 

 

151:名無しのファン

共倒れ!? いや、そうでもしなきゃ勝てないってことか

 

 

152:名無しのファン

並んだまま3コーナー!

 

 

153:名無しのファン

うわあああ頑張れスズカさん

 

 

154:名無しのファン

スぺちゃん来た!

 

 

155:名無しのファン

うっそ速い

 

156:名無しのファン

げぇ、グラス!?

 

157:名無しのファン

前門のタイキ、後門のスぺグラス

 

 

158:名無しのファン

残り400!

 

159:名無しのファン

スズカさん若干前で最終直線へ!

 

 

160:名無しのファン

うおおお、勝てえええええ!

 

 

161:名無しのファン

お兄さんなんとかしろ

 

 

162:名無しのファン

叫べ!

 

163:名無しのファン

まだ…?

 

164:名無しのファン

スペとグラスの脚色がいい!

 

 

165:名無しのファン

残り200!

 

166:名無しのファン

タイキ追いつかれた!?

 

 

167:名無しのファン

交わした!

 

 

168:名無しのファン

スズカVSスペ、グラス

 

 

169:名無しのファン

追いつかれる!?

 

 

170:名無しのファン

うああああ!?

 

 

171:名無しのファン

 

 

172:名無しのファン

これは……

 

173:名無しのファン

勝ったな(確信)

 

 

174:名無しのファン

お兄さん「好きだぁ!」

 

175:名無しのファン

エンダァァァアアア! イヤァアアアアア!

 

 

176:名無しのファン

やるんだな、今、此処で!

 

 

177:名無しのファン

愛じゃよ

 

178:名無しのファン

うおおおお、サイレンススズカ先頭!

 

 

179:名無しのファン

そしてあの笑顔である

 

 

180:名無しのファン

後ろが止まって見える加速

 

 

181:名無しのファン

異次元の逃亡者か

 

 

182:名無しのファン

そのまま!

 

183:名無しのファン

逃げ切りっ!

 

184:名無しのファン

サイレンススズカの逃げは世界一ィ!

 

 

185:名無しのファン

リード開いた!

 

 

186:名無しのファン

勝ったな

 

187:名無しのファン

うまぴょいじゃああ!

 

 

188:名無しのファン

おめでとう!

 

189:名無しのファン

お幸せにな!

 

 

190:名無しのファン

そしてお兄さんのところへ

 

 

191:名無しのファン

ウイニング・ランとは言い得て妙だな

 

 

192:名無しのファン

花撒いた人いるんだがw

 

 

193:名無しのファン

ここが結婚式だ!

 

 

194:名無しのファン

レコード勝利ぃ!

 

 

195:名無しのファン

やったあああ!

 

 

196:名無しのファン

これが見たかった

 

 

197:名無しのファン

「俺の、夢そのものだよ」

 

 

198:名無しのファン

音拾ってて芝

 

199:名無しのファン

よかった……おめでとう! 末永く爆発しろ

 

 

200:名無しのファン

「お兄さん、大好きっ」

 

 

 

 



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おまけ:漆黒の幻影

お兄さんの余罪①の馴れ初め


 


 

 

 

 

 

 

「――――いやぁ、それは難題だねぇ……原因不明の骨折の予防? 脚が速すぎるのが原因かもしれない? 同じ個所に負担をかけすぎて骨が脆くなる可能性? 実際にそんな走りをするウマ娘がいないことには―――」

 

「実際、ウマソウルの影響で骨折回避とかってあり得ると思う?」

 

 

 

「……ふぅむ。無いとはいえないが――――」

「足底の圧力検査はやってみたんだが―――」

 

 

 

 

 最近、タキオンさんの研究室が騒がしい。

 ……空き教室を引き続き使うためとはいえ、やはり受け入れるのは少し早急過ぎたかもしれませんね。

 

 コーヒーを淹れ、とりあえず一息。

 と、騒がしい原因でもある若い男の人……新人トレーナーが何やら甘い匂いのする箱をテーブルに置いた。

 

 

 

「悪いな、騒がしくして。お詫びだから気にせず食べちゃってくれ」

「……はい。ありがとうございます」

 

 

 

 

 少なくとも無暗に紅茶を飲ませようとしてくるタキオンさんよりは律儀な人らしい。

 コーヒーにも合いそうなフルーツタルトに少しばかり気分も高揚する。数は……4つ?

 

 

 自分、タキオンさん、後はまあトレーナーさんも食べたいのだとして……1つ多い。

 

 

 

 

「……あの、4つありますが」

「え、だって4人だろ」

 

 

 

「え?」

「は?」

 

 

 

 なんとなくトレーナーさんの目線の先を見ると、席について「俺?」とばかりに自分に指をさす「お友だち」の姿。思わず意外といった声を出してしまった私に対して、かなり本気で愕然としているのはタキオンさん。

 

 

 

 

「双子じゃないのか?」

「………待ちたまえ。どう見てもこの部屋には私、カフェ、そして君しかいないぞ?」

 

 

 

「無視は良くないぞ。……えっ、マジ? うそでしょ……」

 

 

 

 助けを求めるように見てくるトレーナーさんに、少し疑惑の目線を「お友だち」に向けるが無言で首を振られる。

 

 

 

 

『何もしてないぞ』

「そうですか……」

 

「何をしてないんだ…?」

 

 

 

 

 聞こえている…?

 試すように「お友だち」が席を立つと言った。

 

 

 

 

『今日のタキオンのパンツは黒だ』

「ブッハ!? ちょっ、おま、何!?」

「一体何を言ってるんですか……」

 

 

「何も聞こえないんだが……? いや、内容が気になりすぎるぞ。教えてくれたまえ」

 

 

 

 とりあえず「お友だち」のケーキからフルーツを一個没収する。

 しかし本当に聞こえているらしい。そこまでの霊的な才能がありながら、よく無事にこれまで生きてこられたものである。………あれ?

 

 

 

 

「……なるほど、どうやら守護霊がいるようですね」

「なんとかかんとかパトローナム…?」

 

 

 

「大体そんな感じです」

「……そっかあ。というか伝わるのか……」

 

 

 

 意外そうなトレーナーさんだが、私だってもっと小さい頃には有名な児童文学くらいは読んでいる。守護霊の呪文と違ってこの人が何かしているわけではないのだが、よからぬものを寄せ付けない効果はありそうである。

 

 大きくて、四本脚の生き物………なんとなく、私たち(ウマ娘)と似た耳、尻尾があるような気がするけれど。ぴったり背後に寄り添っているので、この人には見えていないのかもしれない。とりあえず害はなさそう。

 

 

 

 

『というかウマソウルじゃないか?』

「………なる、ほど?」

「えっ、ウマソウル!? どこ!?」

 

 

 

 

 トレーナーさんが振り返ると、スッと姿が消える。……器用ですね。

 それはともかく。

 

 

 

「……あの、『お友だち』は身体がないので。これは食べられないかと」

「そうなの?」

 

 

 

 

 

 やんなっちまうぜ、とでも言いたげなオーバーリアクションで頷く「お友だち」を見てトレーナーさんは何やら考え込み。

 

 

 

「……君の身体を借りる、とか? 憑依合体みたいな」

「……………」

 

 

 

 ……それは、できなくも…ない?

 まあ少しばかりどうかと思う点もあるけれど、「お友だち」だけ食べられないというのは彼女がどう思っていたとしても個人的には不満だった。

 

 

 

『できなくもないな。ソイツ、やたらと「向こう」に近いからな、要石代わりにはなる。霊には大層モテそうだ』

「……そうですか」

 

「モテたくねぇ…」

「おーい、私も混ぜてくれよー」

 

 

 

 ……まあ、「お友だち」にならいいかな。

 いつか追いつきたい背中。目標になってもらっているささやかなお礼。

 

 

 

 

「では、やってみましょう」

「お、おう……お友だちとやらもいいのか?」

『………ケーキ食うだけなら』

 

 

 

 

 あ、ケーキ食べたいんですね。

 これは少しばかり本気でいきましょう。

 

 

 

「ではとりあえず……初めてのことなので、確実にいきましょう」

「おう。どうすればいい?」

 

 

 

「まず、私の胸に手を置いてください」

「胸に手を……なんて?」

「おーい、カフェ。私のことを忘れていないかい? おーい」

 

 

 

 

 ちょっとお友だちにケーキを食べさせるのが楽しみになっていたこともあり、動きの鈍いトレーナーさんの手を取って胸、胸骨の上あたりに当てる。そして無言でトレーナーさんの頭をひっぱたいた「お友だち」にもトレーナーさんの手を当てて――――。

 

 

 

 

「『………マジでできたな』口が勝手に動くのは変な感じですが『とりあえず手を離せ痴漢』」

「冤罪…っ!? いてっ!?」

 

 

 

 トレーナーさんは後ろからウマソウルに頭をぶつけられているけれど、気にはならなかった。とりあえずケーキを一口。………あんまり普段と変わらない?

 

 

 

 

「あまり変わりませんね『主導権がある側に感覚もあるのかもな』」

 

 

 

 「お友だち」がケーキを一口。

 するとなんだかものすごくうれしそうな感情がこちらにも伝わってくる。

 

 

 

 

「『うめぇ……お前ケーキ係になれよ』」

「いや、俺ちょっと面倒みてる子がいるからいつもは無理だぞ?」

 

 

 

「『は? カフェに不満があるなら処すぞ』一体何を言ってるんですか『胸だってな、これから大きくなるんだよきっとな』本気で何を言ってるんですか…」

「そういうんじゃないけど、一緒に夢を追いかけてるヤツがいてさ……元々タキオンに協力してもらってるのもそれ関係だし」

 

「……そう! そうなんだよ! 私もいるんだよ! くぅ、今はモルモット君が不在なのをこれほど悔しく思うとは…」

 

 

 

 

 なんだか知らないけれど、「お友だち」とこうしてケーキを食べられたのは本当に嬉しくて。その後研究に戻った二人はそのままに、「お友だち」とケーキについて語り合った。

 

 あの果物はどうだとか、ソースが良かったとか。

 走ること、それ以外は友だちらしいことなんてできていなかった――――そんな当然のことに今更気づいて。

 

 

 

 

 

(……ですが、少し楽しみですね)

 

 

 

 

 

 それから、「お友だち」とコーヒーの話をすることも増えた。

 何が合うとか、何が食べたいとか。

 

 いつもあのトレーナーさんは決まって同じ曜日、同じ時間に来るので、お菓子を用意するのに都合は良かった。

 

 

 

 

 結局タキオンさんとお友だちの大反対により、胸に触れさせるのは禁止になり。代わりに頭に触れてもらうことになった。……胸より、時間が掛かるんですが。

 お友だちとケーキを食べるのを心待ちにしているのが分かってしまうのか、落ち着かせるように頭を撫でられるようにもなり。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 およそ半年後。

 すっかり馴染んだある日のお茶会で、唐突にトレーナーさんが言った。

 

 

 

「すまん、少し相談があって……妙な被害に悩まされてるウマ娘がいるらしいんだ」

「妙な被害…ですか?」

「ああ、ひょっとしてアレかな? 何故か蹄鉄が落鉄する被害」

 

 

 

 

 何やら事情を知っていそうなタキオンさんに目線をやるが、「実は生徒会から調査を依頼されてねぇ。まずは蹄鉄に含まれる――――」説明が回りくどいのでトレーナーさんに目線を戻す。

 

 

 

 

「つまり原因不明の落鉄が相次いでいるんだ。しかも一部のウマ娘、というか特定のトラックだけに」

「……場所が限定されている、というのは怪しいですね」

「そう! それも科学的には証明できない―――」

 

 

 

 

「まあそれで友達が怪我をした子がいてな。なんとか原因を突き止めてほしいって」

「……そうですか」

 

 

 

 けっこうなお人よしですよね、この人も。

 どう考えてもトレーナーの業務外なのに、わざわざいつもより入手困難なケーキを仕入れてくるあたり、損な性分というか。

 

 

 

「……わかりました。ケーキのお礼くらいは協力させてください」

「ありがとうな」

 

 

 

 

 別に今は「お友だち」と入れ替わるわけでもない、頭を撫でる必要はないような…。まあ、別に不快ではないので構いませんが……。

 

 

 

 

 

「――――と、いうわけで現行の科学では説明がつかないんだよ!」

「さっき聞きました。ではやはり夜間調査でしょうか」

「ああ。夜なら大丈夫――――ん、悪い。電話だ」

 

 

 

 

 何かを察したような苦笑―――ちょっと楽しそうだ――――で携帯を取り出し、通話ボタンを押す。なんとなくウマ娘の聴力で会話も聞こえてきてしまうが。

 

 

 

 

「もしもし――――『お兄さん、どこですか…!?』いや今タキオンのところだけど」

『……一緒に帰ろうって言ってくれたのに……』

 

 

 

「え? スズカ、授業はどうした。もう終わったのか?」

『…? トレーナーがいない人向けの面談があるので、はやく終わるって言いましたよ?』

 

 

 

「……あ゛っ。悪い、忘れてた。すぐ行く」

『おーにーい、さんっ! 私の方からも走っていきますね…!』

 

 

 

 

「無駄に全力で走るなよ!? ……くっ、悪いまた後で!」

「はい」

「……ふーむ、あれが噂の」

 

 

 

 

 走って出ていくトレーナーさんを見送り、なんとなく何か言いたげなタキオンさんにジト目を浴びせてからコーヒーを一口。今更ながらケーキを食べ損ねたと「お友だち」が愕然としているけれど、まあ確かに普段は気が利くトレーナーさんらしくはない。いつもなら「お友だち」の分だけ終わらせてから行きそうだ。

 

 

 

 

「カフェ、聞きたいかい?」

「いえ、結構です」

 

 

 

「実は彼はあのチームリギルに急遽サブトレーナーとして就任した。その理由というのが、先ほど電話してきた“彼女”だよ。――――サイレンススズカ。マルゼンスキーを彷彿とさせる段違いの実力を持ちながら、とある新人トレーナー以外の指導を拒否した」

 

 

 

 

 理由は……まあ、先ほどの電話でなんとなく分からなくもない。

 執着、というより好意があるのだろう。

 

 

 

 

「タキオンさん、とりあえずコーヒーが冷めます」

「……はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――それなりに大物でしたね…」

 

 

 

 夜の校庭。あらかじめトレーナーさんが生徒会に連絡してくれたことですんなりと話が通った。ウマ娘を落鉄させるという凄まじく悪質な霊の正体は、どうやら過去に痴情の縺れで解雇されたトレーナーの生霊だった。

 

 どういうわけか全くこちらの攻撃が通用しなかったため危険だったのだが、トレーナーさんが機転を利かせて「お友だち」を憑依させてくれたので、「お友だち」が生霊の核、元担当ウマ娘の蹄鉄を物理的に粉砕した。

 

 

 

「いやぁ、危なかったな……」

「……危険なので近づかないように、とお伝えしたはずでしたが?」

 

 

 

「危険だったのはカフェも同じだろ。勝算もあったし」

 

 

 

 ……まあ確かに、守護霊こと謎のウマソウルが生霊を蹴り飛ばしてくれたので十分な隙はあった。逆に言うとそのくらいの隙しかなかった、のだけれど―――。

 

 

 

「………ところで、胸を触る必要が?」

「――――だって頭じゃ間に合わなかったじゃん!?」

 

 

 

 それはそうですが。

 ……思い切り触れられたせいで、まだ顔が熱いような気がする。

 

 

 

「……せめて一声かけてください」

「いや、だって人命救助だし……緊急避難……」

 

 

 

 と、「お友だち」が怒りのブローをトレーナーさんに叩き込み。

 悶絶するところを冷たい目で見下ろす。

 

 

 

 

「………助かったので、今日は見逃してあげます」

「…………ぐ、おおぉ……全然見逃されてる感じがしない……」

 

 

 

 

 ゲシゲシ、と蹴りを入れる(手加減はしてるはず)「お友だち」を見ながらなんとなくもやもやしたものを感じる。

 

 

 

 

「……ともかく、お疲れ様です」

「…………痛っ、生徒会からお礼があると思うが何がいい?」

 

 

 

 

「……お礼、ですか」

 

 

 

 いつもできるから、自分にしかできないから霊の対処をやっていた。

 報酬があるというのは不思議な気分で、なんとなく浮かんだものを言った。

 

 

 

「……そうですね。この前のケーキに合う、コーヒーでしょうか」

「―――――…」

 

 

 

 そうしてまた皆でケーキを食べて、騒がしいタキオンさん、嬉しそうな「お友だち」、お人よしなこの人と――――。

 

 

 

 

「……? どうかしましたか」

「いや、笑顔だと可愛いな、と」

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 私は、笑っていたのだろうか。

 なんとなく自分の顔に触れると、確かにそんな感じはする。が、なんとなく「お友だち」の蹴りが激しくなった。

 

 

 

 

「いだだだだだっ!? 褒めたのになんでっ!?」

「……笑顔でないと可愛くない、と聞こえますね」

 

 

 

「いや言葉の綾! 神秘的な感じから可愛い系ってだけ!」

「そうですか」

 

 

 

 

 

 

 それからもこの関係は続く―――そんな考えは間違ってはいなくて。

 同時に、ひどく甘いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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おまけ:年度代表ウマ娘掲示板(シニア)

ハーレム適性:Gですねこれはァ……。
全く進まないのであらかじめ書いたのを手直しして出してみました。



【年末】年度代表ウマ娘発表会について【恒例】

 

1:名無しのファン

年度代表ウマ娘について語るスレです。

荒らしはスルーしましょう。

 

選ばれる側のウマ娘への批判はNG

 

 

2:名無しのファン

1乙

 

3:名無しのファン

偶にいるんだよな、選ばれただけのウマ娘側に文句言う過激派が

 

 

4:名無しのファン

毎年代表ウマ娘の議論は白熱するからな。つい勢い余っちゃうんだろうけど、止めようね

 

 

5:名無しのファン

今年は白熱するか?

 

 

6:名無しのファン

年度代表ウマ娘はまあサイレンススズカさんだろうけど。

クラシック級がエルコンドルパサーかセイウンスカイかスペシャルウィークかグラスワンダーか

 

 

7:名無しのファン

クラシック級はこんな感じか

 

エルコンドルパサー:NHKマイル、ジャパンカップ

セイウンスカイ:皐月賞、菊花賞、有マ記念6着

スペシャルウィーク:弥生賞、東京優駿、有マ記念2着

グラスワンダー:毎日王冠、マイルCS、有マ記念3着

 

 

8:名無しのファン

び、微妙……ダービーだけのスぺちゃんよりはセイちゃんの方が上か?

でも有マでは先着してるし、なんなら相手が悪すぎるだけでスぺちゃんがグラスちゃんには劇的勝利してるんだよな

 

 

9:名無しのファン

セイウンスカイ:二冠なので凄い

エルコンドルパサー:NHKマイル、JC勝ってる、勝ち方も強い

スペシャルウィーク:勝ち方が劇的なダービーウマ娘。ダービーでエルコンドルパサーに勝利

グラスワンダー:毎日王冠でエルコンに勝ってる。マイル王者

 

 

10:名無しのファン

うーん、悩ましい

 

 

11:名無しのファン

エルコンドルパサーに勝ったグラスワンダーに勝ったスペシャルウィーク

 

 

12:名無しのファン

スペシャルウィークに二回勝ってるセイウンスカイに先着したスペシャルウィークとグラスワンダー

 

 

13:名無しのファン

ドバイシーマ、宝塚記念、凱旋門賞、BCクラシック、有マ記念で勝ったサイレンススズカ…。

 

 

14:名無しのファン

セイウンスカイが有マで掲示板外に沈んでるのがどう評価されるかだな

 

15:名無しのファン

いやだって有マは先頭民族がいたし…。

 

 

16:名無しのファン

>>13やっぱり並べてみると頭バグるな…。

よほどの逆張りでなきゃスズカさんに投票するだろ

 

 

17:名無しのファン

まあタイキシャトルに投票するなら分からんでもない。

でも有マでスズカさんが勝ってるしなー

 

 

18:名無しのファン

マイルの絶対王者と、芝・ダートの中~長距離世界王者だからスズカさんの方がポイント高そう

 

 

19:名無しのファン

ところで年度代表ウマ娘の新しい勝負服どうするん?

 

 

20:名無しのファン

あー、スズカさん引退だもんな。

引退かぁ……。マジかぁ

 

 

21:名無しのファン

日本が世界で勝ちまくるの楽しかったのに……スズカさんロスが

 

 

22:名無しのファン

まあMAD素材で元気に走ってますけどね。そしてお兄さんは叫ぶ

 

 

23:名無しのファン

お兄さん困ってるから止めてあげろ

 

サブトレ@リギル『スズカがめっちゃ笑顔で俺が叫ぶMADを見せてくるんですが。どうしろと?』

サイレンススズカ『動画のお兄さんはいつでも告白してくれるのに……』

 

 

24:名無しのファン

毎日叫んで欲しいスズカさん VS 普通に恥ずかしいお兄さん VS ダークライ

 

 

25:名無しのファン

スズカァァァッ!

 

 

26:名無しのファン

関係ないところで叫ぶお兄さんも大好きです♡

 

 

27:名無しのファン

スズトレ構文もできたからな

 

『スズカならやれます』

『サイレンススズカ、ここまでか!?』

 

『スズカ、好きだぁッ!』

『これが、私の見たかった景色…!』

 

 

(なんかいい感じの曲)

 

 

 

『高低差200mの坂! 試練の坂だ!』

『――――サイレンススズカだ! サイレンススズカ! 脚色は衰えないどころか更に加速している!』

『後ろからはなんにも来ない!』

『サイレンススズカだ、サイレンススズカ!』

『日本のレース界に新たな夜明け!』

『サイレンススズカが凱旋門賞ウィークエンド栄光を刻みました!』

 

『サイレンススズカ無敵の13連勝!』

『無敗のまま先頭を駆け抜けて、今――――ゴール!』

 

 

 

28:名無しのファン

かぼちゃが踊ってる曲とのMADもありましたね…。

 

 

29:名無しのファン

世界一再生された告白のギネス記録取れそう

 

 

30:名無しのファン

逆にスズカさんはお兄さんの嫌いな所あるの?

 

 

31:名無しのファン

意地悪なところ

 

 

32:名無しのファン

モテモテなところ

 

 

33:名無しのファン

やべー担当ウマ娘集めてるところ

 

34:名無しのファン

巨乳好きなところ

 

 

35:名無しのファン

お兄さんは逆にスズカさんに不満ないのかな

 

 

36:名無しのファン

>>35不満があったら処すが

 

 

37:名無しのファン

最速の機能美なところくらいじゃね

 

 

38:名無しのファン

お胸

 

 

39:名無しのファン

尋常じゃない寂しがり屋って前にインタビューで言ってたからそれでは?

 

 

40:名無しのファン

胸がもめないところですかね

 

 

41:名無しのファン

尻も薄いデース!

 

 

42:名無しのファン

>>39動画で見ると満更でもなさそうだぞお兄さん

 

 

43:名無しのファン

さっきから胸の話しかしてねーじゃねーか!

 

 

44:名無しのファン

スズカさんの唯一の弱点だからな

 

 

45:名無しのファン

は? そこがいいんだが?

 

 

46:名無しのファン

あの……クラシック級最優秀賞の話は? お前ら誰だと思う? 俺はエルコンドルパサー派

 

 

47:名無しのファン

ウマ娘は巨乳な美人が多すぎるんだよな

 

 

48:名無しのファン

セイウンスカイ派

 

 

49:名無しのファン

スぺちゃん派

 

50:名無しのファン

エルコンドルパサー派

 

 

51:名無しのファン

セイウンスカイ派

 

 

52:名無しのファン

エルコンドルパサー派

 

 

53:名無しのファン

スペシャルウィーク派

 

 

54:名無しのファン

グラスワンダー派

 

 

55:名無しのファン

黄金世代ヤバくね?

でもスズカさんとタイキが抜けるのは……。

 

 

56:名無しのファン

エルコンは世界レベルだから(震え声)

 

 

57:名無しのファン

エルコンに勝ったグラスとスぺちゃんは?

 

 

58:名無しのファン

スぺちゃんさんはスズカさんの推しだぞ。

さんを付けろよデコ助野郎!

 

 

59:名無しのファン

マジで誰になるか分からん…。

有識者の意見も聞きたいな

 

 

60:名無しのファン

お兄さん「スズカしか勝たん」

 

 

61:名無しのファン

>>60そうだけれども!

お兄さん的にはグラス推しなのかね?

 

 

62:名無しのファン

どっかで何かコメントしてなかったけ?

 

 

63:名無しのファン

サブトレ@リギル『クラシック級は全く読めないな。一番安定してるのはエルコンドルパサーだと思うけど、ダービーでスペシャルウィークが勝ってるのでややこしい。エルコンドルパサーはセイウンスカイに負けてないし、セイウンスカイは二冠でスペシャルウィークに勝ってるけどエルコンドルパサーには勝ててないし。たぶん誰になっても異論はでそう』

 

 

64:名無しのファン

せやな

 

65:名無しのファン

意外にもエルコンドルパサー推し?

 

 

66:名無しのファン

まあ同じリギルだしな…。

 

 

67:名無しのファン

お兄さんがエルコンドルパサー推し説が流れた翌日のトラック

【動画】

 

68:名無しのファン

スズカさんやんけ!? はっや

 

 

69:名無しのファン

マイル? で置いてけぼりにされるエルコンドルパサーとグラスワンダー……。

 

 

70:名無しのファン

めっちゃご機嫌でお兄さんに抱き着くスズカさん…。

 

 

71:名無しのファン

もう完全に隠してないな

 

 

72:名無しのファン

タイキシャトルに抱き着かれそうになってスズカさん盾にするの芝

 

 

73:名無しのファン

スズカさん真顔になるのちょっと面白い

 

 

74:名無しのファン

トレセン学園の公式ホームページの案内からするとたぶんこれ芝1800だな。

 

75:名無しのファン

なんでマイル区分でマイル王者二人に勝てるんですかねこの世界最強ステイヤー…。

あとこのレース放送して下さい何でもしますからお兄さんが

 

 

76:名無しのファン

ま、まあ言うて一つ下のクラスだし…(震え声)

 

ん?今何でもするって言いましたよね? スズカさんと走りに行きましょうお兄さん♡

 

 

77:名無しのファン

タイキシャトル対エルコンドルパサー、グラスワンダーとかめっちゃ見たい

 

何でもするならスズカさんの娘で世界制覇してくださいお兄さん

 

 

78:名無しのファン

スズカさんとタイキの対決が結局有マだけだもんな。長距離ならそりゃスズカさんが勝つ

 

 

79:名無しのファン

お兄さん「1800ならスズカ、1600ならタイキ有利」

 

俺ら「お前が告白すれば1600でもスズカさんが勝つんじゃね…?」

 

 

80:名無しのファン

スズカさんはなー、禁止カード持ちだからなー

 

 

81:名無しのファン

MAD素材になる謎加速な

 

 

82:名無しのファン

逃げが強すぎると後ろはノーチャンスなんだわ

 

 

83:名無しのファン

で、結局セイウンスカイなの? エルコンドルパサーなの?

グラスとスぺちゃんはGⅠ1勝だけだから外して良い?

 

 

84:名無しのファン

まあより安パイなのはGⅠ多く勝ってる方だろうな

勝った相手がサイレンススズカなら問答無用で最優秀でも良いけど

 

 

85:名無しのファン

まあ勝利数で言えば仕方ないか…。

エルコンはなー、ダービーで負けてるのがなー。セイちゃんには先着してたけど

 

 

86:名無しのファン

まあマイルから中距離までならエルコンの方が強いだろうなとは思う。

 

 

87:名無しのファン

JCで勝ったのは地味に凄い

二冠も地味に凄い

 

 

88:名無しのファン

どっちも派手に凄い定期

 

 

89:名無しのファン

でも二冠は18人くらいいるけど、JC勝ったのはカツラギエース、シンボリルドルフ、サイレンススズカ、エルコンドルパサーだけだぞ

 

 

90:名無しのファン

うーん、バグみたいな面子だな特に三冠ウマ娘たち

 

 

91:名無しのファン

カツラギエースはシンボリルドルフにも勝ってるからな!

 

 

92:名無しのファン

まあ作戦勝ちだよなぁ。幻惑逃げのお手本の一つ

 

 

93:名無しのファン

カツラギエース:幻惑逃げ

シンボリルドルフ:先行・差し

サイレンススズカ:大逃げ・逃げ差し

エルコンドルパサー:先行・差し

 

 

94:名無しのファン

まあ幻惑逃げは逃げの王道と言ってもいいし…。

 

 

95:名無しのファン

逃げ自体が若干邪道な感じあるけどな

というかカツラギエースが逃げたのってレアというか、いつもは確か先行じゃなかったか?

 

 

96:名無しのファン

テレビウマ娘なんて揶揄されたりするからな。

あの頃の俺らにスズカさんの映像見せても日本のウマ娘だと思わないかもしれん

 

 

97:名無しのファン

うーん、確かにジャパンカップ勝利はデカいか…?

 

 

98:名無しのファン

海外に勝つのは確かに凄い。でもクラシック二冠を軽く見て欲しくない気持ちもある

 

 

99:名無しのファン

取りこぼした一冠でエルコンドルパサーに負けてるのと、取った二冠はエルコンドルパサー出てないんだよな…。

 

 

100:名無しのファン

っぱ留学生強いな。エルとグラスはアメリカ出身なんだろ?

 

 

 

 

 

 

301:名無しのファン

さて中継始まったな。

 

 

302:名無しのファン

一番に映るのがお兄さんの腕抱いてるスズカさんというね

 

 

303:名無しのファン

ぐわああ可愛いいいい

 

 

304:名無しのファン

うらやま

 

305:名無しのファン

一般ウマ娘(そのトレーナー分けてくれないかな)

 

 

306:名無しのファン

ちょっと照れてるけど腕は離さないスズカさん可愛い

 

 

307:名無しのファン

横であきれ顔のテイオー

 

 

308:名無しのファン

上品そうにしつつもけっこうな勢いで食べてるグラス

 

 

309:名無しのファン

どっか行ったヤマニンゼファー

 

 

310:名無しのファン

お兄さん言うほど有能か? スズカさんの外付け加速装置かつ精神安定剤なだけでは?

 

 

311:名無しのファン

めっちゃ必要やんけ…。

 

 

312:名無しのファン

腕に抱き着いたら胸が当た……アッ、何でもないです

 

 

313:名無しのファン

あの世界制覇ツアーに必要ならお兄さんは有能でOK

正直もう十分働いたので後はスズカさんといちゃついててもいいぞ

 

 

314:名無しのファン

奇しくもMAD素材になったことで必要性の認知度が上がったお兄さん

 

 

315:名無しのファン

お兄さんの叫びが入らないとなんかこう、満足できねぇよ……。

 

 

316:名無しのファン

だが俺はレアだぜ

 

 

317:名無しのファン

お前にこんなところで満足されて堪るか!

次はテイオーと無敗の三冠ウマ娘だろ

 

 

318:名無しのファン

ルドルフ会長大好きなテイオーが無敗の三冠は夢があるな。

達成したらうまぴょいしていいぞ

 

 

319:名無しのファン

(スズカさんがキレるので)ダメです

 

 

320:名無しのファン

無敗の三冠なんてシンボリルドルフとサイレンススズカしかまだ出てないからな?

 

 

321:名無しのファン

ところでスぺちゃん良い食べっぷりですね

 

 

322:名無しのファン

いっぱい食べる君が好き

 

なお食費(白目)

 

 

323:名無しのファン

スズカさんの子どもが4人くらいいたら食費やばそう

 

 

324:名無しのファン

レースできるくらい欲しい()だもんな

 

 

325:名無しのファン

スズカさんにそんなこと言われたらいくらでも…!

なおお兄さん

 

 

326:名無しのファン

横のお兄さんの顔を見る限りあれ知らない疑惑あるけどな

 

 

327:名無しのファン

ところでそのグリーンのドレス綺麗ですねスズカさん

 

 

328:名無しのファン

髪の毛綺麗だよな。あと声も

 

 

329:名無しのファン

スズカさんいつも緑系統だけど、好きな色なのかな。

あるいはお兄さんの好きな色?

 

 

330:名無しのファン

どっかのインタビューでお兄さんの好きな色緑って言ってたな。

まあスズカさんと一緒にインタビュー受けて違う色言えるかといえば普通は言えないが

 

 

331:名無しのファン

そろそろ発表だぞ。

 

 

332:名無しのファン

クラシック級はマジで誰だ

 

 

333:名無しのファン

スズカさんと楽しそうに話してるスぺちゃん映ったな

 

 

334:名無しのファン

グラスとエル仲良しだな

 

 

335:名無しのファン

セイちゃんと一緒にいるのキングか

 

 

336:名無しのファン

エルコン!

 

337:名無しのファン

エルコンかー

 

338:名無しのファン

あああセイちゃんじゃないのか

 

 

339:名無しのファン

【速報】エルコンドルパサー、クラシック級最優秀賞【確定】

 

 

340:名無しのファン

本人もちょっとびっくりしてるじゃねーか

 

 

341:名無しのファン

笑顔で祝福するセイちゃんとスぺちゃん、そしてグラスちゃん

 

 

342:名無しのファン

っぱウマ娘たちの友情は良いぞ…。

 

 

343:名無しのファン

そしてシニア級はサイレンススズカ

 

 

344:名無しのファン

でしょうね

 

 

345:名無しのファン

違ったら暴動ものよ…。

 

 

346:名無しのファン

まあ本人気にしなそうだけど。

 

 

347:名無しのファン

お兄さんに壇上に行けと急かされたスズカさん、ゴネる

 

 

348:名無しのファン

『お兄さんも行きましょう』って言ってそう。というかそうとしか見えない。

 

 

349:名無しのファン

気性難かな?

 

350:名無しのファン

しょんぼりしながら登壇

 

 

351:名無しのファン

あ、手振ってる

 

 

352:名無しのファン

お兄さんが手を振ってくれたので機嫌が直るスズカさん

 

 

353:名無しのファン

『後輩のスぺちゃんといるときは割としっかりしてるんですが』ってお兄さんがインタビューで言ってたな

 

 

354:名無しのファン

それだけ安心しきってるんだろうなー…。

 

 

355:名無しのファン

『今回、芝とダートで世界一となっての受賞ですが特に印象深いレースはありますか?』

 

 

356:名無しのファン

ちょっと困り顔のスズカさん。チラチラお兄さんの方を見る

 

 

357:名無しのファン

可愛い

 

358:名無しのファン

カメラの方向けって必死にジェスチャーしてるお兄さんである

 

 

359:名無しのファン

『一番印象深いレースは、お兄さんが告白してくれたBCクラシックですね』

 

 

360:名無しのファン

だろうね

 

361:名無しのファン

知ってた

 

362:名無しのファン

知ってた

 

363:名無しのファン

お兄さんも『知ってた』顔なの芝

 

 

364:名無しのファン

『結婚して変わったことなどはありますか?』

 

 

365:名無しのファン

お、おう。それ聞いて大丈夫か?

 

 

366:名無しのファン

さっきより困り顔のスズカさん

 

 

367:名無しのファン

完全に祈ってるお兄さん。これ失言しないでねの祈りか

 

 

368:名無しのファン

『変わったことは……堂々と好きです、って言えるようになったこと……でしょうか』

 

 

369:名無しのファン

そういえばこれまでは言ってなかったっけ

 

 

370:名無しのファン

言ってなかったのか…。

 

 

371:名無しのファン

まあ言外に言ってた

 

 

372:名無しのファン

『ドリームトロフィーリーグに移籍とのことですが、次のサマードリームトロフィーに出走予定ということでよろしいでしょうか』

 

 

373:名無しのファン

???顔のスズカさん可愛い

 

 

374:名無しのファン

まあ子どもいっぱい欲しいとか言ってるから妊娠で回避の可能性もあるわな。タマモクロスみたいに。タマモクロスみたいに!

 

 

375:名無しのファン

さっぱり意味が分かってなさそうなスズカさん、お兄さんに目線で助けを求める。

 

 

376:名無しのファン

『えっと……できれば走りたいですね』

 

 

377:名無しのファン

とりあえず未定かな

 

 

378:名無しのファン

走って欲しいけどなー。会長対スズカさんは見たい

 

 

379:名無しのファン

カイチョーが引退したらスズカさんが後を継ぐのかな?

 

 

380:名無しのファン

似合わねえ……というかスズカさんは子育てで忙しそう

 

 

381:名無しのファン

『次の目標は何かありますか?』

 

 

382:名無しのファン

あー、まあ全制覇した感じあるもんな

 

 

383:名無しのファン

あとなんかあったっけ?

 

 

384:名無しのファン

会長たちドリームトロフィーリーグ面子に勝つことくらい?

 

 

385:名無しのファン

『目標は……たくさん走ることです』

 

 

386:名無しのファン

お、おう

 

387:名無しのファン

あんまり意外でもなかった

 

 

388:名無しのファン

まあスズカさんだしな

 

 

389:名無しのファン

『いろいろな景色を、大好きなお兄さんと一緒に見に行きたいです』

 

 

390:名無しのファン

ぐはっ

 

391:名無しのファン

かわよ

 

392:名無しのファン

笑顔が色っぽい

 

 

393:名無しのファン

そういえば人妻だった

 

 

394:名無しのファン

ぐわああ好き

 

395:名無しのファン

これが日本最強ウマ娘か

 

 

396:名無しのファン

日本さいかわウマ娘では

 

 

397:名無しのファン

『なので、ドリームトロフィーリーグも勝ちに行きます』

 

 

398:名無しのファン

皇帝VS異次元の逃亡者…!

 

 

399:名無しのファン

楽しみになってきたぜ

 

 

400:名無しのファン

またあの走りが見られるのが嬉しい

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――…あの、お兄さん?」

 

 

 時は正月。新たな年を迎え、お日様ぱっぱか快晴な今日この頃。

 現役引退して暇そうなスズカなんて居るわけもなく、選択して授業を受ける大学生みたいな状態になったスズカは必要最低限だけ受講すると後はひたすら走る――――のはトレーナーとして許可できなかったので、傍にいて貰ったのだが。

 

 恥ずかしいのか頬を染めつつも、細い身体に密着する緑のラバー素材。いつもよりか色っぽく見える気がするタイツ。そしてウマ耳はいつもより大きなカバーで覆われて中折れてうさ耳風に。

 

 

 

「うさぴょいっ……」

 

 

 

「―――――カハッ」

「お、お兄さん――――ッ!? お兄さーん!」

 

 

 

 

 ちなみになんでバニーガールが兎かというと、年中発情してるからって説があるらしい。真偽は定かではないものの、そう思うとよりエロく見えてしまうような。

 しかしスズカが着てる分には健全……! 健全かな……? とりあえず可愛いのは間違いない。

 

 

 

 

 

「――――ハッ、危うくアグネスデジタる(尊死する)ところだった」

「うそでしょ……あっ――――うさでしょ?」

 

 

 

 

 かわいいかな。

 ちょっと貧血っぽくなったところを腕で支えてくれたので、触れてくる丸出しの腕がなんというか……いやいや落ち着け。

 

 

 

「と、ところで何故ウサ娘に……?」

「ウサ娘……えっと、お兄さんが忙しそうだったので……」

 

 

 

「うん?」

「その……」

 

 

 

 つまりあれか、お仕事お疲れさまですという―――――。

 妙に恥ずかしがってるスズカは可愛いし、微妙にあるようでない、でもちょっとある谷間に視線は惹きつけられるがそれはそれとして。

 

 

 

「………あの、お兄さん。ウサギさんですよ?」

「兎年だからおめでたいってことかな………いや、走りが速い? そんなイメージないしな……」

 

 

 

「うそでしょ………お兄さん、本当に分かりませんか?」

「うん」

 

 

 

 

 新手の走りにいきたいアピールなのかな、とは思うが。

 まさか――――発情期ということか。

 

 

 

「………えっちなのも良いですよ、ということか…?」

「お兄さん、正座してください」

 

 

 

「あっ、はい」

 

 

 

 スン、と冷めた目になったスズカに正座させられ、その上に座られる。

 こ、これは――――江戸時代の拷問?! いや、石を載せられる代わりにほぼ素肌の薄い尻が乗せられているのは違う意味で拷問だが。

 

 

 

「仕事が忙しいのは分かってますし、トレーナーさんとして頑張ってるお兄さんのことが大好きですけど……」

 

 

 

 くるりと振り返り、尻尾をこちらの腕に絡ませて甘えながら上目遣いに囁いた。

 

 

「………ウサギさんは、寂しいと死んじゃいますからね?」

「お前が言うと洒落にならないんだよなぁ!」

 

 

 

 

 ふとした拍子に死んじゃいそうなウマ娘ランキング一位(俺調べ)が言うと冗談に聞こえない。ちなみに二位はアストンマーチャン。三位ライスシャワー。順位は完全に私情入ってる。

 

 

 ので、全力で甘やかすしかねぇ!

 実際はウサギは構われた方が弱ってしまうとか、スズカの方が断然寂しがり屋だとかそんなことは置いておいて、全力で抱きしめる。

 

 

 

 

 

「ちょっ、お兄さん!? まっ――――」

 

 

 

 

 

 

 このあと滅茶苦茶うさぴょい(構い倒)した。

 

 

 

 

 

 




 

個人的ウマ娘(アプリ)の年度代表(チャンミ)

最優秀22年実装クラシック路線:ミホノブルボン(新衣装)
最優秀22年実装ティアラ路線 :該当なし
最優秀21年実装クラシック路線:オグリキャップ(新衣装)
最優秀21年実装ティアラ路線 :該当なし

最優秀短距離:オグリキャップ
最優秀ダート:オグリキャップ(新衣装)

年度代表ウマ娘:オグリキャップ(新衣装)



こうかな…。
私のアカウントに限定すればスズカが一位ですが

スズカの原案の人の書いたバニースズカさん可愛すぎるので全スズカさん(ウマ娘)ファンに見て欲しいです。見て(懇願)


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おまけ
バレンタイン短編


特にオチもないバレンタイン記念です


 

 

 

 

 

「――――スぺちゃん、最高のチョコって何かしら」

「ど、どうしたんですかスズカさん……いやまあお兄さんのことでしょうけど」

 

 

 

 レース前よりキリっとした……むしろレースの時は楽しそうな分、今の方が真面目かもしれないスズカさんにスペはちょっと遠い目になった。

 

 

 

「一応、フクキタルは身体にチョコを塗ってリボンでラッピングするのを提案してきたのだけれど……流石にちょっと」

「わあ」

 

 

 

 都会のウマ娘さんは変わってるべ……と妙な電波を受信してしまった猫みたいな顔になったスペだが、意外と常識がないようである、ないこともないスズカさんにちょっと安心した。

 

 

 

 

「溶けちゃうから」

「溶けなかったらやるんですか…!?」

 

 

 

「クーラーで寒くするのも検討したけど、風邪をひくってお兄さんが怒る気がするの」

「あ、そうですね」

 

 

 

 

 

 なんかちょっとズレてる気がしないでもないけれど、スズカさんだし……偉大な芸術家もちょっと変わってる人が多いって言うし…。

 

 

 

 

「もしやるとしても水着は着るから大丈夫よ、スぺちゃん」

「あ、はい」

 

 

 

 それ何も大丈夫じゃないような。

 こ、こうなったら何かスズカさんが納得するようなチョコを提案しなくては!

 

 

 

「――――に、にんじんチョコ! とか?」

「スぺちゃん、お兄さんはウマ娘じゃないわよ?」

 

 

 

「うっ、そうですね。じゃあ……」

 

 

 

 お兄さんが好きなのは……スズカさん。

 うっ、確かにスズカさんチョコは喜びそうだけど……そ、それは流石に超えてはいけない一線のような!

 

 

 

 

「ミニチュアスズカさんチョコ人形…とか」

「………うん。ありがとうスぺちゃん、ちょっと型を作ってみるわね。あ、でもドーベル達にもアイデアを聞いてみないと。トリュフも捨てがたいし……」

 

 

 

「任せてください、スズカさん。それなら私が行ってきます!」

「あ、スぺちゃん!?」

 

 

 

 

 それくらいなら私にも!

 というわけで走って部屋を飛び出すと、充満しているチョコの匂い。

 

 ちょっと辟易しつつキッチンに行こうとすると、何やらこそこそしているセイちゃんを発見してしまった。

 

 

 

 

「あれ、セイちゃん?」

「!? うわっ、す、ススススぺちゃん!? どうしたのさ、急に!?」

 

 

 

 尻尾を跳ね上げさせて驚くセイちゃんにちょっと不審なものを感じつつ覗き込むと、何やらドーム状のチョコが。

 

 

 

「え? 別に何も――――あ、美味しそうなチョコ」

「あ。こ、これはちょーっと悪戯で使うからダメかなぁ! こっちの失敗したのは食べて良いから!」

 

 

 

「え、いいの!? やったー!」

「ふぅ……」

 

 

 

「でもセイちゃんもトレーナーさんにあげるんだね」

「うっ、い、いやー、日ごろの感謝を込めて……じゃなくて悪戯するだけですしー。寂しい独り身のトレーナーさんなら見事に引っかかってくれそうですから?」

 

 

 

 

 言いながら失敗作であるらしい方を食べてみると、中はミントになっており。

 ミントは人によって好みが分かれるものの、大抵のものは美味しく頂けるスペによって失敗作はすぐに溶けるように消えた。

 

 

 

「中身の味を変えるのはいいかも……」

「おやおや~? スぺちゃんもあげるんですか?」

 

 

 

「ううん、スズカさんが悩んでて」

「あっ。………もうあの人たちなら何でも喜びそうですけどね」

 

 

 

 

 

 まあ確かに。

 

 

 

「うーん、もう駆け引きも何もないのは私的には燃えないかなあ」

「ううっ、なんか強者っぽい発言……」

 

 

 

 そういうと何故かセイちゃんに目を逸らされた。

 ……なんでだろう。

 

 

 

「と、ともかく。後参考になりそうなのは……あ、キングとかいいんじゃない?」

「キングちゃんは確かに凝ってそう」

 

 

「じゃあ敵情視察としゃれこみますかー」

「うん! あれ、セイちゃんも行くんだ」

 

 

「だって私はもう準備万端ですしー?」

「そっか! さすがセイちゃん」

 

 

 

 やっぱりセイちゃんもトレーナーさんのこと大好きなんだなあ、と生暖かい目で見ていると何か寒気でも感じたのか不思議そうにしていた。

 

 

 

 で。

 

 

 

 

 

「―――――ダメよ! こんなことじゃ、一流のチョコじゃない……私が、私が一流でないと……まだよ! 諦めてたまるものですか! やってみせるわ!」

 

「トライフルだと……!?」

「どうしたの急に」

 

 

 

 

「いやなんだか言わないといけない気がして。ちなみにスぺちゃん、トライフルっていうのはイギリスのお菓子なんだけど、名前の由来に『気ままなおしゃべり』とか『つまらないもの』っていう意味があるらしいよ」

「さっすがセイちゃん、博識だね!」

 

 

 

「そんな意味合いのをプレゼントするなんて流石キングちゃんは大胆というか、なんというか。ある意味奥ゆかしいのかも…?」

「セイちゃん凄い調べてるね……」

 

 

 

 「つまらないものですが」という感じなのだろうか。

 はたまた特にそういう意識はなく、好きなお菓子なのか。真実はキングちゃんのみが知る。

 

 

 

「いや全然調べてないですけど。もともと博識ですけど」

「そういえばスズカさんはトリュフも考えてたんだけど、セイちゃんトリュフは?」

 

 

 

「トリュフは、って言われても……もともとキノコのトリュフに似てるから名前がついたってくらいですよ?」

「そっかあ……」

 

 

 

「あー、でもそのキノコ、媚薬として賞賛されたことがあるとか? まーネットの知識ですし、それを言うならチョコも媚薬ですけど」

「………スズカさんって、けっこう大胆だよね」

 

 

 

 

 

 

 知らないのか、知っててやっているのか。

 多分知らなそうだけれど。スズカさんはそういうのを引き当てそうな気はする。

 

 

 

「あー、そのキング? 男の人って手作りはちょっと不格好な方が喜ぶとかなんとか聞いたことがあるかもなんですけどー」

「……へ、へぇー。ま、まあ私は一流を妥協したりはしないのだけれど!? トレーナーが望むなら多少好みに合わせるくらいは――――」

 

 

 

 

 どうやら問題は解決したらしい。

 実際どうなのだろう、とセイちゃんを見るとちょっと遠い目をしていた。もしかしなくても優しい嘘かもしれない。

 

 私たちはそっとその場を後にした。

 

 

 

 

 その後、弟と妹の分をそっちのけでチョコドーナツをコーティングするドーベルさん(弟の分だと言い訳しつつ、トレーナーさんのを一番綺麗にラッピングしていた)とかタイキシャトルさんはチョコのバーガーという個性的なものを。

 

 

 

 

「むむむ。やっぱり皆さん個性的ですね……」

「まあスズカさんが一番個性の塊のような気もするけどね」

 

 

 

 

 そして、自分の形のチョコを作っているオペラオーさんを発見。

 スマホを取り出して電話。

 

 

 

「スズカさん、オペラオーさんと被ってます……」

『うそでしょ』

 

 

 

 

 個性の塊仲間…。

 とりあえず調査結果を伝えると、少し考えてからスズカさんは言った。

 

 

 

 

『………ありがとう、スぺちゃん。一つ思いついたことがあるから、試してみるわね』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでお兄さん、おめでとうございます」

「ありがとう、というか0時なんだけど……」

 

 

 

 

 さっき「お兄さん……今日は寝ないで下さい」って湯上りのスズカに言われて「!?」となっていたが、普通にバレンタインだった。

 

 

 

 

「……その、お兄さんに一番に気持ちを伝えるのは譲れませんから」

「うんまあ嬉しいけど。寝不足には気を付けてな」

 

 

 

 取り出してきたのは普通の包装。

 思ったより普通っぽいので安心しつつ開けてみると。

 

 

 

「その、ホワイトチョコのトリュフで。私の好きな景色を表現してみたんです」

「お、おお。可愛い」

 

 

 

 ミニチュアのスズカと、まさかの俺。

 笑顔のスズカと、ちょっと照れてる風な自分(妙に美化されている気はする)が並んでいるのは気恥ずかしい―――。

 

 

 

 

 

 

「ずっと一緒に、ずっと先まで……あなたと一緒に歩んでいくのが、今の私の、いちばん大好きな景色です」

 

 

 

 

 

 

 

 




サイレンススズカの
ホワイトトリュフミニチュア人形

故郷の雪も、あなたの隣も。
どちらも大好きな景色だから。
私たちの大切な思い出を感じてもらえるように作りました。
この景色の先へ、これからも一緒に歩んでいきたいです。


あと、お兄さん型のチョコは私が食べたいです。


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バレンタイン後の日常

 

Q.思ったよりバレンタインのワキちゃんが大人しいですね

そんな感じの感想頂いたので特に意味も無い日常回です

A.日頃からイチャイチャしてるので







 

 

 

 

 

 

―――――不意に、何かが欠けているような感覚で目が覚める。

 

 

 例えるのなら枕なしで寝ている時のような、あるいは布団がどこかに行ってしまったかのような。……別に枕も布団も無くなっていないのだが。

 ただそう、いつも張り付いてきているスズカがいないという。

 

 

 

「いや毒されすぎだな……」

 

 

 

 なんとなく布団から顔だけ出して満面の笑みを浮かべるスズカの幻影が見える気すらする。

 

 結婚を機に自重が吹き飛んだのか、以前は気を抜けば走る、隙あらば抱き着く、たまに回るくらいの比率だったのだが。今は常に抱き着く、隙あらば走る、たまに頬擦りしてくるくらいになった。……犬かな? 馬だな。ウマソウルに負けてないか心配になるが、普通の馬はあんなに人懐っこくないか……。

 

 と、噂をすればパタパタとなるべく音を立てない範囲の全力で部屋に戻ってくるスズカの足音が。

 

 

 

「あ、お兄さん! おはようございますっ」

 

 

 

 ちらり、と扉の隙間から覗いて起きていると見るや、パアッと笑顔を浮かべてベッドに飛び乗り、抱き着いて頬擦りしてくる。

 

 

 

「どうどう」

「お兄さん、朝ごはんできていますよ。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……ランニングですか?」

 

 

 

 

 ランニングで、と言ったが最後もう誰にもスズカを止められないのでとりあえずご飯だろうか。そう思いつつ身体は闘争を……もとい、スズカのぬくもりを求める。

 抱きしめると嬉しそうに抱き返してくれるので、もうなんかこのまま二度寝したくなる。

 

 

 

「じゃあスズカで」

「うそでしょ……あの、お兄さん。ご飯できてますよ…?」

 

 

 

 確かにそう言っていた。実質一択じゃねーか。

 

 

 

 

「……だから、その。今はこれで」

 

 

 

 頬に柔らかいものが触れて、照れたようにはにかむスズカ。結婚しよ。してた。

 もうこれはうまぴょいOKなのでは、と思うがスズカに嫌われたらどうにもならないくらいには俺も依存してしまっているので紳士であらねばならぬ。

 

 

 

 

「……うし、着替えるか」

「はい」

 

 

 

 着替えてる時に背中にくっつかれているとまあまあ邪魔だが、かれこれ10年くらいやってるので今更である。ちょいちょいボタンやらなにやらを手伝ってくれたりしつつ、背中に張り付かれたまま歩くと危ないので腕に抱き着いてくるスズカとリビングへ。

 

 

 

 

「―――昨晩はお楽しみだったわね」

 

 

 

 

 と、脚を組みモーニングコーヒーを嗜みつつ母さんが一言。

 

 う、うざい…。

 基本的に優しいし、スズカにも気を配ってくれるのになんでこう母さんはうざいのか。こういう言動さえなければ普通に良い母親なのに…。

 

 

 

「……べ、別にいつも通りだったような…?」

「反応しなくていいぞワキちゃん」

 

「――――昨晩“も”お楽しみだったようね。良いことだわ」

 

 

 

 

「楽しいというか……あ、でも甘えてくるお兄さんはちょっと可愛いかも」

「スズカ、一回離れようか。ちょっと顔洗ってくる」

 

 

 

 にやにやしている母さんが流石にアレなので、一回やんわり腕を振りほどいて顔を洗いに行く。

 

 

 

「……お、お兄さーん!?」

「きゃー!? ちょっとワキちゃん落ち着いて! ちょっ、あっ、ごめんてばー!」

 

 

 

 

 愁嘆場か何かかな。

 おろおろしてから高速左旋回に移行したワキちゃんによってなんか凄い音がするが、多分犠牲になるとしても母さんのモーニングコーヒーくらいなのでまあよしとしよう。

 

 

 

 

 そんなわけで顔と歯を磨いて戻ってくると、ピタリと左旋回を止めたスズカが滑るように背後に来て無言で抱き着く。で。ウマ娘の怪力で締め上げられる。長男じゃない(一人っ子だからある意味では長男だが)けど兄代わりじゃなければ耐えられなかった。

 

 

 

「うっ…。いやスズカ、恥ずかしいから離れたかっただけだからな」

「……それは、まあ。なんとなく分かりますけど。でもお兄さんだって私が怒ったかと思ったら焦りますよね?」

 

 

 

 

 それはもちろん即座に土下座を敢行するかもしれないくらいには焦るだろうけど。

 スズカが怒るってどんな時さ…。

 

 

 

 

「俺が巨乳グラビア写真集を見てた時とか?」

「お兄さん、おっぱい好きですよね」

 

 

 

 なんか生暖かい目で見られた。

 

 

 

「テイオーと楽しく話してる時とか」

「怒らないですけど、寂しいのでくっつきますね」

 

 

 

 にこやかである。

 別に嫉妬とかはないらしい。正直俺はスズカがイケメンと話してたら気が気じゃないかもしれないのだが。……あれ? 俺の方が依存強い?

 

 

 

「スズカが寝てる間に一人でトイレに」

「起きた時にお兄さんがいないと凄く寂しいので起こしてくださいね?」

 

 

 

 スン、と目が冷めたし耳を伏せたのでこれが一番ストレスらしい。

 地雷が……地雷が分からん…。嫁なのに……というか幼馴染で妹的な立ち位置なのに…。

 

 

 

「もし起こさなかったら?」

「……じゃあ、うまぴょい禁止で」

 

 

 

 

 お、おもーい! 罰が重い! 普通のヒトはスズカみたいに頭サイレンススズカな代わりに三大欲求があるのであって。スズカに胃を掴まれ、いないと眠りにくいので既に三大欲求を支配されているという事実に思い当ってしまった。

 

 夜中のトイレくらい一人で行きたいんだが!?

 夜だと寂しさ爆発するので連れション要求してくる系幼馴染である。異性の連れションってそれはもうなんというか……アウトでは。

 こいつの羞恥心は馬並みなのかもしれない。

 

 

 

 

「お兄さん、トイレくらいで恥ずかしがらなくていいんですよ?」

「いやまあ(ワキちゃんの)介護だと思えばそうかもだが」

 

 

 

「あ、私だってお兄さん以外だったら嫌ですからね」

「母さんは?」

 

 

 

「…………お兄さんがいいんですけど」

 

 

 

 じとーっとした目を向けてくる。もうダメかもしれない。

 

 こいつの情緒がちゃんと発達する前に甘やかしすぎたのかもしれない…。

 でも付き添わないと漏らしてたしな……。

 

 いっそ致してるところをガン見して恥ずかしさを自覚させれば――――それでもし変な趣味に目覚められたら致命的すぎるな。やめておこう。

 

 

 

 

「お義母さん、お兄さんになんとか分かってもらえないでしょうか」

「えー。一日離れて生活してみるとか?」

 

 

「「無理です(しょ)」」

「仲いいじゃない」

 

 

 

 

 ……これが人バ一体ということだろうか。

 どっちかというと割れ鍋に綴じ蓋、どんな鍋にもぴったり合う蓋がある、梅に鶯(ウグイス)……ちなみに梅によくいるのはメジロらしいが。

 

 

 

「いやスズカ、一緒にいたい気持ちは分かるがお風呂とトイレは別……いやお風呂は一緒に入るか」

「!? い、いいんですか?」

 

 

 

「夫婦ならお風呂くらいはセーフかもしれない」

「じゃあトイレもセーフですよね、服着てますし」

 

 

 

 

 要介護……。

 スぺちゃんの立派な先輩?だったスズカさんは何処に。

 ちょっと何かいい方策を考えるとして、そろそろ出勤の準備をしなくては。

 

 

 

 

「はい、お兄さん。荷物です」

「お、おう。ありがとう」

 

 

 

 準備のいいことに、鞄を笑顔で渡してくれるスズカにちょっとドキッとしつつ見送られて玄関へ。

 

 

 

「じゃあ、いってきます」

「んー」

 

 

 

 目をつぶって唇を突き出し、何かを強請るスズカ。

 りんごでも欲しいのかな。

 

 

 

「すまんスズカ、今ちょっと餌を持ってなくて」

「うそでしょ……」

 

 

 

 がーん、と効果音が聞こえそうなくらいテンション下がったスズカである。やる気が二段階くらい下がったかもしれない。耳も萎れた。

 

 

 

「ごめん嘘」

 

 

 

 

 だってめっちゃドアの隙間からニヤニヤしてる母さんが見えてるし……。

 身軽に、というか実際軽いのだが首に抱き着いてくるスズカの求めるままキスをして、そのままギリギリまで粘りたい誘惑を振りきって外へ。

 

 

 

 

「いってらっしゃい……あ、あなた」

「い、いってきます。どうした急に」

 

 

 

「だってもし子どもができた時に、『お兄さん』だとおかしいですよね?」

 

 

 

 

 ………いや、まあ。

 でもお前まだドリームトロフィーリーグで走るよね? アオハル杯にも招待されてるんだから頼むよ? 馬でも子どもは引退後だからね?

 

 

 

 

「私の見たい景色……」

 

 

 

 いや俺も見たいけど。

 というかスズカの子どもとか絶対死ぬほど可愛いけど。

 

 

 

 

 

「まあレースの景色は今しか見られないからな」

 

 

 

 花の命短し、選手生命はもっと短いかもしれない。馬なんて大体2年くらいの印象強いし。

 

 

 

「じゃあ、全部逃げ切って見せますから。……お兄さん、覚悟しておいてくださいね?」

「……はい」

 

 

 

 悪戯っぽく微笑むスズカは可愛いだけじゃなく大人びて見えて。

 あと「お兄さんだけは逃がしません」というそこはかとなく重い何かを感じつつもトレセン学園に向かうのだった――――。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お兄さん。忘れ物です」

「いやあの、荷物用意してくれたのスズカじゃん」

 

 

 

 

 

 お昼休み。

 なんかまだ温かいお弁当を持ってきた(どうみても出来立て)最速の宅配者、もといサイレンススズカに明らかに仕組まれた何かを感じつつ受け取る。

 

 配達料代わりに褒めろ撫でろとアピールが激しいのでハグで対応するが。

 

 

 

「一応お前も特別講師なんだから来ればよかっただろ」

「だってお兄さん仕事で忙しくて構ってくれないですし……」

 

 

「あー……」

 

 

 

 

 まあ構ってあげられないんだが。

 でも母さんから『ワキちゃんが暴れてる(左旋回的な意味で)からなんとかして』とSNSでSOSが届いているのだ。

 

 だからそう、決して俺が寂しくて仕方ないというだけじゃないのだが。

 

 

 

 

「えっとだな。……スズカがいないと寂しいから、傍にいて欲しいなー……なんて」

「!? ………っ、お兄さん!」

 

 

「ぐはっ、むぐっ、がはっ、ぐぇっ」

 

 

 

 

 

 

 

 スズカのすてみタックル! てんしのキッス! じゃれつく! しめつける!

 トレーナーは めのまえがまっくらになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なおスズカの手料理を無駄にしないためにすぐに蘇生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






とりあえずリハビリがてらキャラ別に書いてみようかと思うのですが、選択肢が多すぎるので良ければアンケートにご協力ください


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おまけ:ウマ娘の誕生日の話

 

お下品注意



前話投稿後にアンケート追加してしまったので告知がてら

アンケート結果を考慮しつつ、二周年くらいで新作が出るような出ないような





 


 

 

【雑談】最近のサイレンススズカさん【引退後】

 

1:名無しのファン

ドリームトロフィーリーグ所属、サイレンススズカさんの雑談スレです。

お兄さんアンチはアンチ(逃げ)スレまたはアンチ(差し)スレにどうぞ

 

 

2:名無しのファン

建て乙

 

3:名無しのファン

アンチスレ増えてるやん

何が不満だったんだ

 

 

4:名無しのファン

逃げスレはもっと走るところが見たいから邪魔すんな系スレ

差しスレは子どもが走るところ見たいからはよ系スレ

 

 

5:名無しのファン

いやそのくらい好きにさせてあげろ

 

 

6:名無しのファン

まあワイらはお兄さんのこれまでの戦いを知ってるから後方腕組み勢だが

 

 

7:名無しのファン

お兄さんもスズカさんの走るとこは見たいだろ。

ファン一号やぞ

 

 

8:名無しのファン

ファル子「うそでしょ」

 

 

9:名無しのファン

全てのトレーナーはウマ娘のファン一号という風潮

 

 

10:名無しのファン

ファル子が不憫だけどそれが可愛いのでヨシ!

 

 

11:名無しのファン

良くないが?

 

12:名無しのファン

お兄さんはそもそも十年来の付き合いだからファン一号(ガチ)だゾ

 

 

13:名無しのファン

お兄さんよりスズカさんの方が愛が重そうに見える

 

 

14:名無しのファン

嫁が長距離走ってたんだが……飛ぶぞ

 

 

15:名無しのファン

ウマ娘ってさ、皆誕生日が同じくらいの時期じゃん?

 

 

16:名無しのファン

うん?

 

 

17:名無しのファン

おや

 

18:名無しのファン

言われてみれば確かに

 

 

19:名無しのファン

暗黙の了解ってやつ

 

 

20:名無しのファン

ウマソウルの影響って言われてるな

 

 

21:名無しのファン

つまり?

 

22:名無しのファン

そういう、ことだよ?

 

 

23:名無しのファン

つまりうまぴょいは季節行事なんだよ!

 

 

24:名無しのファン

モウヤメルンダッ! トゥ! ヘアーッ!

 

 

25:名無しのファン

いやまておかしい。

うまぴょいとは年中行事では?

 

 

26:名無しのファン

まあ雄は年中発情期だからな

 

 

27:名無しのファン

女性は雄と違うからね。仕方ないね

 

 

28:名無しのファン

女性だって性欲あるけど……まあ、うん

 

 

29:名無しのファン

???

どういうことなんだ、説明してくれ

 

 

30:名無しのファン

やはりそういうことか!

 

31:名無しのファン

伝説って?

 

32:名無しのファン

ああ!

 

33:名無しのファン

ああ! それってうまぴょい伝説?

 

 

34:名無しのファン

↑ここまで多分なにもわかってない

 

 

35:名無しのファン

とりあえずウマ娘の誕生日は偏っている、ということだけ覚えておくんだ。おーけー?

 

 

36:名無しのファン

オーケイ(ズドン)

 

 

37:名無しのファン

オーケー(ズドン)

 

 

38:名無しのファン

死ぬほど疲れてる、寝かせといてやってくれ

 

 

39:名無しのファン

待てよ……それじゃあお兄さんは……

 

 

40:名無しのファン

飛ぶぞ

 

41:名無しのファン

死ぬぞ

 

42:名無しのファン

もう助からないゾ♡

 

 

43:名無しのファン

うまぴょい敗北者じゃけぇ…。

 

 

44:名無しのファン

実際どうなの長距離ランナー嫁の旦那

 

 

45:名無しのファン

ウマ娘のうまぴょい欲は耳のデカさに比例する説もあるぞ

 

 

46:名無しのファン

都市伝説定期

 

47:名無しのファン

そんな……ライスが性欲魔神だって? 訴訟

 

 

48:名無しのファン

そこまで言ってない定期

 

 

49:名無しのファン

俺の嫁は優勝したことない系一般長距離ランナーだが、俺はタフネス30とマカ〇ンビンが手放せないぞ

 

 

50:名無しのファン

なんでそんなピンポイントな……。

 

 

51:名無しのファン

昔某ゲームのラジオで聞いた奴だな

 

 

52:名無しのファン

たぶん、俺のスタミナを1とすると嫁のスタミナが10、サイレンススズカさんは100くらいあるんじゃね

 

 

53:名無しのファン

ライスとスズカさんってどっちがスタミナあるの?

 

 

54:名無しのファン

割と笑えない数値

 

 

55:名無しのファン

タフネス30ってそういう飲み物だっけ?

 

 

56:名無しのファン

あれって深夜30時まで戦闘するための飲み物でしょ?

 

 

57:名無しのファン

 

58:名無しのファン

いや芝

 

59:名無しのファン

死ぬでしょ

……え? うそでしょ?

 

 

60:名無しのファン

はぁ……はぁ……敗北者?

 

 

61:名無しのファン

遅いぞエース! 戻れ!

 

 

62:名無しのファン

とりあえずうまぴょいが年中行事だったら俺はもう死んでるぞ

 

 

63:名無しのファン

ライスシャワーってトレーナーが4000でも短いとか言ってなかった?

 

 

64:名無しのファン

ステイヤーやばいな

 

 

65:名無しのファン

小柄で細い、スズカさんと同じだな!

 

 

66:名無しのファン

どっかのインタビューで、お兄さんが「スズカの性格的に長距離は3000でもすごく辛い」って言ってなかったっけ?

 

 

67:名無しのファン

つらい(世界レコード)

 

 

68:名無しのファン

つらい(満面の笑み)

 

 

69:名無しのファン

つらい(お兄さんの告白なし)

 

 

70:名無しのファン

つらい(周りのウマ娘が)

 

 

71:名無しのファン

つらい(一人タイムアタック)

 

 

72:名無しのファン

とりあえずお兄さんにこう、元気の出るものでも送ってあげるか

 

 

73:名無しのファン

トレセン学園に贈ればOK?

 

 

74:名無しのファン

もうアンチスレから軟質の高分子物質とか精力剤とか送られてるみたいだから止めて差し上げろ

 

 

75:名無しのファン

何送ってんだミカァ!

 

 

76:名無しのファン

宅配でパワーアップアイテムが届く系トレーナー

 

 

77:名無しのファン

確かにパワーアップっておい

 

 

78:名無しのファン

スズカさんの好物ってリンゴ?

 

 

79:名無しのファン

角砂糖じゃね

 

80:名無しのファン

お兄さんのバナナだろ(凱旋門インタビュー)

 

 

81:名無しのファン

言い方ァ!

 

82:名無しのファン

確かに言ったけど

 

 

83:名無しのファン

言ったの!?

 

84:名無しのファン

お兄さんの(持ってきてくれた)バナナだぞ

 

 

85:名無しのファン

ウマ娘ってにんじんが好きなんじゃないの…?

 

 

86:名無しのファン

そうとも限らない

 

 

87:名無しのファン

にんじん派

バナナ派

角砂糖派

 

の三つに分かれ混沌を極めていた……。

 

 

88:名無しのファン

???「ニンニク味噌は…?」

 

 

89:名無しのファン

マイノリティ!

 

 

90:名無しのファン

スペシャルウィーク「ニンニク味噌、好きです!」

 

 

91:名無しのファン

なんで大食い二人が同じもの好きなんだ…?

 

 

92:名無しのファン

スズカさんになんか送れないの?

 

 

93:名無しのファン

ウマ娘は基本的に食べ物受け取らないぞ。

一応、トレセン学園経由で指定された食べ物の中からお金だけ出してプレゼントすることは可能

 

 

94:名無しのファン

最小単位が段ボールひと箱で芝

 

 

95:名無しのファン

お兄さんとかその辺めちゃ気を使ってるしな

 

 

96:名無しのファン

お兄さんVSスズカさんVSダークライ 

ファイッ!

 

97:名無しのファン

なんか参戦させられてウマ娘に蹴られて地獄に落ちる系ダークライ

 

 

98:名無しのファン

やぶ蛇すぎる…。

 

 

99:名無しのファン

とりあえずスズカさんにバナナ贈る?

 

 

100:名無しのファン

「食べきれない分は他のウマ娘に回します」ってなってるから、スぺちゃんかオグリが美味しく頂くのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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おまけ:トレーナー相談掲示板(コミュ編)

【定例】ウマ娘とのコミュニケーションについて語る【相談】

 

1:校庭の杖

というわけで、ちょっとコミュニケーションに難がありそうなペアに強制的に声を掛けてアドバイスしていく定例会です。

本日も司会は私。アドバイザーとして無敗十冠、生涯無敗、凱旋門賞・BCクラシック・ドバイ制覇のサイレンススズカさんのトレーナー、スズトレさんをお招きしています。

 

匿名でも実名でもオッケーなので、呼び出された人以外も気軽にどうぞ

 

 

2:スズトレ

よろしくお願いします。

 

というかあの、スズカが凄いだけなのでほどほどでお願いします

 

 

3:ファン一号

>>2 とはいえ別のトレーナーじゃ制御できないだろうし…。

 

 

4:名誉お兄さま

ウマ娘とのコミュニケーション能力は確かだと思う。

なんというか、理解度が高い

 

 

5:東

ゲートは潜る、夜は不眠、練習中にどっかに走り出す。レースになれば入れ込んで激走

そんな気難しいウマ娘を最強に押し上げた実績があるわね

 

 

6:名無しのトレーナー

さす先輩すごい

 

 

7:宝石

最近担当からの接触が増えた気がするんですが、どうしたらいいですか?

 

 

8:スズトレ

>>7責任を取りましょう

 

 

9:青空

答えになってなくて芝

 

 

10:宝石

無理ですよ!? 担当はまだ中学生だし、でも葦毛のUMAに競り勝つくらいには暴走特急なんです!

 

 

11:他称お兄ちゃん

葦毛……カレン……って一瞬思ったけどUMAなら該当するの一人だけか

 

 

12:南

大分やられてるじゃないですか…。まあ私も担当に関係しそうなワードは反応してしまいますけど

 

 

13:ファン一号

トレーナーなんて皆大なり小なり脳をやられてる

 

レース好きだもの

 

みつこ

 

 

14:青空

それな

 

いや誰だみつこ

 

 

15:スズトレ

>>10じゃあ早めに彼女作って無理ですアピールした方がいいよ

もうお前外堀埋められつつあるから

 

みつこis誰

 

 

16:パリピ初心者

もしかして、みつこがファン一号の好きぴっぴ的な? うける~ トットコ

 

 

17:スズトレ

>>16むしろお前がどうした

え? 相談者お前?

 

 

18:他称お兄ちゃん

こいつは重賞ですね

 

 

19:名誉お兄さま

>>18職業病……。

 

 

20:東

仕事ではやらないでね

 

 

21:青空

GⅢ ファン一号みつこ好きぴっぴ杯  芝1600m

面白いので担当に流しとこ

 

 

22:ファン一号

ちょっ、待てよ

 

 

23:一流トレーナー

玉突き事故がすぎる…。

 

 

24:目白

しかも青空トレの担当とかすぐ話広がりそう…。

 

 

25:スズトレ

それやられたら死ぬやつ

 

いや自分の担当でやられたら死ぬからやめたげてよ…。

 

 

26:宝石

たしかに

 

27:青空

え? そうなの?

うちの子とか多分全然平気だけど

 

 

28:お祭りトレーナー

うわぁ

 

29:名誉お兄さま

>>27平気そうに見えても意外と気にする子が多いのでやめてあげたほうが…。

 

 

30:スズトレ

いや多分、奴は担当が普段やる気ないからモチベーション上げに使ってる。

ファン一号の担当もやる気は上がるはず。

 

最終的にどうなるかはともかく

 

 

31:南

たしかに…。

 

32:パリピ初心者

それな! わかりみ腐海

 

 

33:お祭りトレーナー

そんな深い意図があるなんて……流石です

 

 

34:ファン一号

なるほど……ねぇ最後の一言気になるんだけど。

どうなっちゃうの!?

 

 

35:宝石

さすが二冠の青空トレ

 

 

36:青空

GⅠ お兄さんサイレンススズカ大好き語り杯 居酒屋レース場 ダート3000 重バ場

の映像も提供しておいた

【動画】

 

 

37:スズトレ

いや照れ隠しでもやっちゃいけないことがあるでしょ!?

 

 

38:劇団員

いやこれはダート3000だな間違いない

 

 

39:名無しのトレーナー

「スズカのどこが好きって……いやそんなのわかんないよ。全部好きだし。なんで俺こんなにコイツ好きなんだろうとは偶に思う」

「嫌いなところ? 俺よりレースの方が好きなんじゃないか、って思う時もあるけど、そんなところも好きなんだよな。真剣な顔とか、嬉しそうに走るところとか」

「してほしいこと? いつも通り甘えてくれるのが一番かな」

 

うーん、これは重バ場w

 

 

40:お祭りトレーナー

いよっ、さすが大将!

 

 

41:スズトレ

ちょっと離席

 

42:他称お兄ちゃん

なんか爆走するサイレンススズカさんが見えたような…。

 

 

43:一流トレーナー

これは逃げ切れるのか…?

 

 

44:劇団員

お酒入るとスズカ大好きbotになるからな

 

なお巨乳(一般的な範疇で)好き

 

 

45:鰈

すみません、遅れました!

呼び出されたダイイチルビーのトレーナーですが…。

 

 

46:青空

なぜ鰈……あ、華麗か

 

 

47:名誉お兄さま

たぶんスレ主の校庭さんに合わせたんでしょうね

流石です

 

48:校庭の杖

>>45いえいえ。仕事と自分磨きを頑張ってるのは知ってるので大丈夫ですよ。

アドバイザーが愛バに捕まったので暫くは経緯と近況を教えてください

 

 

49:鰈

では失礼しまして…。

 

その、コミュニケーションというか私の実力不足になるのですが

 

 

50:ファン一号

いや、コミュニケーションは気づかないうちに欠けたり掛け違えたりすることが多いからな

話し合うことで情報が整理されることも多い。仮に無駄なら無駄でそれはそれでいいことだし

 

 

51:名無しのトレーナー

良い話なんだけどなぁ…。

 

 

52:青空

おまいう

 

53:鰈

そもそも私は、新人トレーナーながら分不相応にもルビーの走りに魅せられまして

提示されたテストがあんまりトレーナー業務に関係なかったのでチャンスだと思って受けました

 

そこでルビーがそつなくこなしている姿に並々ならぬ努力を感じ取り、情けないながらこれも学ばせてもらうチャンスだと思い頭を下げて社交ダンスを教えて貰ったりしたんです

 

 

54:名誉お兄さま

誰だって最初は新人だから。

僕だってライスと初めて会った時はちゃんとしてあげられなかったし

 

 

55:お祭りトレーナー

俺よりよっぽどマトモじゃね?

 

 

56:宝石

何も言えなかったのに「採用です!」してもらった身としてはその積極性が眩しい

 

 

57:劇団員

それ、トレーナー業務に関係ないって手を抜いてた奴らがふるい落とされたって話じゃね?

 

 

58:鰈

その後はルビーがトレーナーなしで頑張ってた練習準備とかを勝手に手伝わせてもらったりして…。

でも成績自体はもっと優秀な人がいたからこの生活も終わりかな、と思っていたんです

 

 

59:青空

これは攻撃力高い

 

 

60:パリピ初心者

いや、その熱意はきっと伝わってる

 

マジ天揚げっしょ

 

61:鰈

ところが何故か合格って言われて……ルビーに聞いたら他は全員棄権したって

 

 

62:スズトレ

それだぁー!?

 

 

63:青空

おや? 話の様子が

 

 

64:宝石

??? うーん、なんか違和感

 

 

65:鰈

なので代わりの新しいトレーナーが見つかるまでは精一杯やらせてもらおうと思っています

 

 

66:お祭りトレーナー

うーんこの

 

67:一流トレーナー

自分を高めるのは大事だな

 

 

68:名無しのトレーナー

このクソボケがー!

 

 

69:スズトレ

まず一つ間違いないのは、お嬢様が妥協するわけないってところだぞ。

な、宝石トレ

 

70:お祭りトレーナー

選抜試験に来た全てのトレーナーを不合格にした伝説の逸話

 

 

71:青空

あれは爆笑だったぞ

 

 

72:ファン一号

もっというとそれで欠席だった新人トレーナー(当時)を電撃採用したからな

 

なぜかメジロのパーティーで

 

 

73:他称お兄ちゃん

そのまま親御さんとの強制再試験を受けさせられて合格するやつ

 

 

74:宝石

いやあの、普通に恥ずかしいんでやめてください…。

 

棄権したってそれ、トレーナー側の体裁に配慮した言い方なんじゃ? たぶん普通に、容赦なく落とすし、気に入ったら逃がさないと思う

 

 

75:鰈

いや、でも……ええ…?

全然ダメダメだったし…。

 

 

76:スズトレ

>>75お前の担当がそんな妥協するのか本当によく考えるんだ

 

俺のスズカなんてブチギレてたからな。アイツが本気で怒ったのはあれしか見てない

 

 

77:名無しのトレーナー

俺のスズカ(事実)

 

 

78:ファン一号

俺のスズカ(本音)

 

 

79:他称お兄ちゃん

俺のスズカが!(お兄さん並感)

 

 

80:東

トレーナーは何度も担当を持つけれど、ウマ娘にとっては人生に一人しかいない大切なパートナーよ

 

妥協とかそんなのはあり得ないから

 

 

81:鰈

いやでもそんな………もしかして何か勘違いしてる…?

 

 

82:スズトレ

いやもう聞いちゃえ、「トレーナーを変える予定はありますか? 実力が見合わないのではと心配なんです」って

 

 

83:鰈

いやいやいや

 

84:青空

ちゃんと相手に不満とかはないことも伝えるように

 

 

85:名誉お兄さま

君の走りに見合うだけの働きができてないのではと不安なんだって伝えよう!

 

 

86:宝石

そうそう

 

あのダイヤでもそのへんの不安は抱えてたし、もう素直に伝えていいよ。俺もその方が喜ばれた(なお結果)

 

 

87:鰈

いやなんですか気になるんですけど結果って

 

 

88:お祭りトレーナー

好き好きアピールが凄いことになった

 

 

89:スズトレ

素直な君が見たいんだって伝えたらめっちゃ素直に大好きアピールされるようになった

 

 

90:名誉お兄さま

信頼が深まっただけなので気にしなくていいですよ(笑顔)

 

 

91:他称お兄ちゃん

なんだ、あの程度で生ぬるい……布団交換させられて添い寝要求されてから言えというものだ

 

 

92:宝石

>>91どっちも要求されてるんですけど!? 

 

「はい、こちらサトノグループで開発した最新鋭の布団です! トレーナーさん、疲労をしっかり抜いて頑張って下さいね!」

「なんかいい匂いが……」

 

「えっ(赤面)」

「えっ(蒼白)」

 

 

93:名無しのトレーナー

 

 

94:青空

最新鋭のお布団(新品とは言っていない)

 

 

95:校庭の杖

では皆さんの意見をまとめましょう。素直に聞くのに賛成か反対かお願いします

 

 

96:一流トレーナー

賛成 ここは逃げる時ではない

 

 

97:宝石

賛成 お嬢様は妥協しない

 

 

98:スズトレ

賛成 トレーナーの大事な仕事だから頑張って

 

 

99:青空

賛成 もしダメだったらおごってやるから

 

 

100:ファン一号

賛成

 

 

101:名誉お兄さま

賛成 

 

 

102:他称お兄ちゃん

賛成 聞かないと後悔するぞ

 

 

103:お祭りトレーナー

賛成 ずっと胃痛に苦しむのはダメだ

 

 

104:南

賛成

 

105:東

賛成

 

 

106:劇団員

賛成

 

 

107:校庭の杖

賛成

 

というわけでほぼ全会一致で賛成です。

面談のアポ取っておいたので、じっくり話し合って下さい

 

 

108:青空

アポ取りww

 

109:南

もう逃げられませんね…。

 

 

110:鰈

アポ…!?

え、なぜ!? 忙しいからそんな時間は取れないはずでは……

 

 

111:スズトレ

いやお前のために時間作ってくれたに決まってるだろ

 

 

112:宝石

個人的に、お嬢様って自分が気に入ったものは手放したがらないイメージ

 

 

113:お祭りトレーナー

それはお嬢様に限らず全人類そうだと思うけど

 

 

114:東

これで一安心ね

 

 

115:スズトレ

お嬢(夢に理解があって、熱意もある素敵なトレーナーを選んだのに何故か場繋ぎの代役と疑われている私……)

 

 

116:他称お兄ちゃん

ありそうで芝

 

117:宝石

実際並べてみると積極性凄いからね?

普通自分から手伝いにいけないし、教えを乞えないし、そもそも業務外かつ社交のトレーニングなんて担当でもないウマ娘のためにしない

 

 

118:名誉お兄さま

しかもトレーニングも普通に的確ですし

 

 

119:青空

お前もうちょい自信持て

 

 

120:名無しのトレーナー

また新たなトレーナーガチ勢が生まれるか…?

 

 

121:他称お兄ちゃん

サイレンススズカ(夢に理解があって、熱意もある素敵なお兄さんなのに何故かなかなか結婚してもらえない私……)

 

 

122:スズトレ

もう結婚はしたでしょ

 

 



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スズカの誕生日

推しの誕生日を忘れていくスタイル

(正確には仕事でメンタルをやられた後遺症でまだ5月になることに気づいていなかったスタイル)


やっつけ仕事ですまない




全く同一の部分1-20 がありますが演出上の都合です


――――――――――――――

【相談】トレーナー相談掲示板230501【匿名】

 

1:偽称お兄さん

というわけで、サイレンススズカ並のステイヤーなウマ娘と一日中運動しても大丈夫な方法とかないでしょうか。

 

 

2:他称お兄ちゃん

三行でまとめて

 

 

3:偽称お兄さん

1,担当ウマ娘に「誕生日? 一日中一緒に運動して♡」と頼まれる

2,死ぬから…!

3,アイデア募集中!

 

 

4:青空

一日中? 運動? ほーん

 

 

5:目白

そんなあなたに

 _人人人人人人人人人人人_

 > うまぴょいドリンク <

  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 

6:偽称お兄さん

いや、うまぴょいドリンクそんな万能じゃないでしょ…。

 

 

7:名誉お兄さま

自分の場合はやっぱり道具を使わせてもらってるかな。

そうしないと足腰が持たない

 

 

8:偽称お兄さん

ですよねー。やっぱり脚が持たない…。

 

 

9:ファン一号

シャン〇ス………脚が……!!!

 

 

10:ラーメン屋

シャ〇クス………腰が……!!!

 

 

11:一歩半

お前らワンピ大好きか…?

 

 

12:青空

好きだけど腰やられるシ〇ンクスは見たくないゾ

 

 

13:執事志望

……担当と一日中一緒にいられるとか羨ましい俺……

 

14:イタリア系関西人

これはどこから突っ込めばいいんだ…?

何か食い違ってない?

 

 

15:名無しのトレーナー

お兄様!?

 

16:名誉お兄さま

お兄さまらしいよ。元ネタが子ども用の絵本だから様はちょっと難しいのかと

 

 

17:名無しのトレーナー

お兄様だと別のラノベになっちゃうな

 

 

18:名無しのトレーナー

さすがですお兄様

 

 

19:青空

お兄さまも流石なんだよなぁ

 

 

20:名無しのトレーナー

ライスちゃんと道具を…?

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――スズカにあげるプレゼントが思いつかない。

 

 

 毎年思うのだが、走ることにしか興味が無いウマ娘にあげるプレゼントほど困るものはない。基本的に、その人物が他人にあげるプレゼントを見ればある程度傾向も見えてくるはずなのだが。

 

 

 

 

(クリスマスのプレゼント交換に充電器とガムと塩コショウを持ってくるウマ娘だ。面構えが違う――――まあフクキタル相手だけど)

 

 

 

 

 もしかするとスズカもフクキタルの欲しいものが分からなかったとか、占いの結果それが良いってなったのかもしれないが。

 

 まあワキちゃんはケーキ焼いてくれたり、シューズくれたり、ランニング用の服とか………うん、割とマトモなのでは? なんか一緒に走らせようとしてきてる気はするけど。

 

 

 

 

「――――スズカって何か欲しいものとかある?」

 

 

 

 

 まあスズカなら誕生日とか覚えてないだろ……と思ったのだが、喜色満面で振り返ったスズカは一言。

 

 

 

 

「えっ、好きなだけ一緒に走ってくれるんですか?」

「…死ぬから!」

 

 

 

「そんな……誕生日なのに……」

「えっ、スズカが誕生日を覚えてる…?」

 

 

 

「うそでしょ……私って誕生日すら覚えてないと思われてる…?」

「うん」

 

 

 

 だって頭サイレンススズカだし…。

 というかゲームだと覚えてなかったよね。

 

 

 

「年齢が増えれば子ども扱いされないのかなって、最近は楽しみにしているんですよ?」

「とりあえず欲しい“もの”はないんだな…?」

 

 

 

 

「………そう、ですね。ベッドももう二人のものですし……」

「まあうん」

 

 

「お兄さんの洗濯物はもう私のものですし……」

「おい」

 

 

 

「……お兄さんは私のもの…?」

「概ね事実だがなんとなく否定したい」

 

 

 

 

 持続的な収入、という意味では中央トレセンのトレーナーも良い職だが、レースの賞金に加えてCMやら何やらで爆発的な広告収入を得ているスズカは財布的にも強い。

 幸い元からベッタベタだったお陰で結婚やら何やらの騒ぎがあってもイメージには然程の影響はないので違約金もない。前から思ってたが優しい世界すぎる。

 

 

 

 

 仕方ない、こうなったらダメ元で集合知に頼るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

【相談】トレーナー相談掲示板230501【匿名】

 

1:偽称お兄さん

というわけで、サイレンススズカ並のステイヤーなウマ娘と一日中運動しても大丈夫な方法とかないでしょうか。

 

 

2:他称お兄ちゃん

三行でまとめて

 

 

3:偽称お兄さん

1,担当ウマ娘に「誕生日? 一日中一緒に運動して♡」と頼まれる

2,死ぬから…!

3,アイデア募集中!

 

 

4:青空

一日中? 運動? ほーん

 

 

5:目白

そんなあなたに

 _人人人人人人人人人人人_

 > うまぴょいドリンク <

  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 

6:偽称お兄さん

いや、うまぴょいドリンクそんな万能じゃないでしょ…。

 

 

7:名誉お兄さま

自分の場合はやっぱり道具を使わせてもらってるかな。

そうしないと足腰が持たない

 

 

8:偽称お兄さん

ですよねー。やっぱり脚が持たない…。

 

 

9:ファン一号

シャン〇ス………脚が……!!!

 

 

10:ラーメン屋

シャ〇クス………腰が……!!!

 

 

11:一歩半

お前らワンピ大好きか…?

 

 

12:青空

好きだけど腰やられるシ〇ンクスは見たくないゾ

 

 

13:執事志望

……担当と一日中一緒にいられるとか羨ましい俺……

 

14:イタリア系関西人

これはどこから突っ込めばいいんだ…?

何か食い違ってない?

 

 

15:名無しのトレーナー

お兄様!?

 

16:名誉お兄さま

お兄さまらしいよ。元ネタが子ども用の絵本だから様はちょっと難しいのかと

 

 

17:名無しのトレーナー

お兄様だと別のラノベになっちゃうな

 

 

18:名無しのトレーナー

さすがですお兄様

 

 

19:青空

お兄さまも流石なんだよなぁ

 

 

20:名無しのトレーナー

ライスちゃんと道具を…?

 

 

21:ファン一号

じゃあやはり休憩しながらやるしかないのでは?

 

 

22:偽称お兄さん

>>21うーんまあ確かに。

でもウマ娘に合わせたら結局体力が持たない…。

 

 

23:お祭り男

あわわわわ

 

 

24:宝石

はわわわわ

 

 

25:お祭り男

えっ、うちの子もステイヤーなんですけどやっぱり一緒に運動すると大変ですかね…?

 

 

26:宝石

ステイヤーな上に色々激しそうなんですが…。

 

 

27:偽称お兄さん

だって何しても息の戻りが早すぎるし…。

結婚するなら覚悟が必要

 

 

28:青空

経験者は語る…。

 

 

29:他称お兄ちゃん

スプリンター相手なら余裕だな!

 

そう思っていた時期が私にもありました

 

 

30:どぼめじろう

えっ、何。トレセンの風紀はどうなってるの!?

 

 

31:劇団員

まあ真面目な話、ヒトの体力じゃ持たないからウマ娘も呼ぶしかないな

 

 

32:偽称お兄さん

うーん、でも誕生日だしできる限り俺が相手してやりたいんですが…。

 

 

33:お祭り男

アンタ漢だよ……

 

34:宝石

どうしよう死ぬ気しかしない

 

 

35:イタリア系関西人

EMGY

ディスコミュニケーションで妙な決死行が行われないか心配だ

 

 

36:一歩半

お前担当に大分毒されてない?

 

 

37:青空

割と担当の影響受けるよな。

こっちは完全に攻守逆転してるけど

 

 

38:執事

わかる。

担当のお陰で色々な技術が進歩していることに感謝する俺……

 

 

39:偽称お兄さん

えっ、じゃあ俺かなり頭サイレンススズカになってるのでは…?

 

 

40:一歩半

特殊事例すぎる…。

 

 

41:名誉お兄さま

走ってる担当のことが大好きなだけでは?

 

 

42:他称お兄ちゃん

俺もな―、カワイイ(概念)は好きになってしまったなー

 

 

43:偽称お兄さん

なるほど。さすおに

確かに走る姿は凄く好き

 

 

44:目白

じゃあメジロ特製スペシャルドリンクを分けてあげよう

 

 

45:偽称お兄さん

>>44おお、それは正直たすかる

 

 

46:名無しのトレーナー

メジロドリンクはやばそう

 

 

47:イタリア系関西人

とりあえず納豆は身体に良いよ

 

 

48:どぼめじろう

何が入ってるのかだけでも教えてください。

 

 

49:ラーメン屋

殿下なら詳しいかな……ウマ娘と一日中一緒に運動する方法

 

 

50:名無しのトレーナー

早まるな日本人やめたいのか

 

 

51:一歩半

よし、俺もタイシンに聞いてくるわ

 

 

52:青空

ちゃんと「担当ウマ娘と一日中一緒に激しい運動するのにいい方法はないかな」って聞きなよ?

 

 

53:イタリア系関西人

校庭の杖さん呼んだ

 

 

54:お祭り男

そんな……ごくり

 

 

55:宝石

え、担当に聞いちゃうんです…?

 

 

56:ファン一号

なんか担当に聞いたらフリーズしたんだけど。

大丈夫かな

 

57:名誉お兄さま

ウチの子は快諾してくれたけど…

 

58:名無しのトレーナー

そりゃまあお兄さまだし…

 

 

59:他称お兄ちゃん

担当に言ったらなんか凄い慌てた後に心配された。

なんだったんだ…。

 

 

60:校庭の杖

なんだか絶妙に誤解を招く発言なので担当に言わないようにしてください

 

 

61:校庭の杖

あと青空さんは職員室横の指導室まで

 

 

62:一歩半

いやあの、ちょうど担当にキレられたんですけど

 

 

63:青空

いや頭サイレンススズカなら多分走ることだろうなって分かるかなって

 

 

64:他称お兄ちゃん

そういえばここ一応匿名掲示板だぞ

 

 

65:偽称お兄さん

いや流石に下ネタは書き込まないでしょ……。

 

 

66:目白

変な所で常識人だった

いややっぱり担当の影響受けてると思う

 

 

67:名誉お兄さま

もちろんスクーターでライスと併走する意味ですお間違いなく

 

 

68:ラーメン屋

いやあの、国籍変更の書類とか渡されても困るんですけど!?

 

 

69:ファン一号

俺の担当は分かっていたらしい。さすがすぎる

 

70:名無しのトレーナー

分かっている(そんな都合がいい発言はこない)

 

 

71:名無しのトレーナー

わかっている(にぶちん)

 

 

72:名無しのトレーナー

分かっていた(悲痛)

 

 

73:執事

君と同じくらい動けるように努力するよって伝えたら「不要です」とすげなく断られた俺…。

もしかすると担当を変えるつもりなのかもしれない……

 

 

74:青空

不要(その必要はないわ)

 

 

75:イタリア系関西人

不要(あなたはもう十分頑張っているので、これ以上はやる必要はないとスマートに伝える私……)

 

 

76:偽称お兄さん

いや実際一緒に走って喜ぶのって頭サイレンススズカなウマ娘くらいだと思うし…。

 

 

77:執事

そうですかね…?

 

でも担当が頑張っている姿を見るとこのままじゃダメなんじゃないかって漠然とした不安があって…。

 

 

78:名誉お兄さま

やっぱり担当とのコミュニケーション能力は大事

 

 

79:偽称お兄さん

ところで担当と一日中一緒に運動する方法は…?

 

 

80:他称お兄ちゃん

自転車とか?

 

81:一歩半

ルームランナーで速度に差をつける

 

 

82:校庭の杖

運動することに意味があるのかどうなのか…?

 

 

83:偽称お兄さん

なるほど、確かに運動そのものというより景色が好き……なのかなぁ

 

 

84:イタリア系関西人

結局のところ頑張って考えた答えなら喜んでくれそう

 

 

85:お祭り男

ウォーキングならワンチャン……

 

 

86:宝石

トークでなんとか場を持たせる

 

 

87:偽称お兄さん

なるほど……たすかる

ありがとう

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「………いやあの、スズカ?」

「お兄さん、あと1時間で私の誕生日ですね!」

 

 

 

 

 めっちゃ元気だ……。

 夜の11時も過ぎて、ものすごーく眠そうなのに…。

 

 基本的に馬と違ってウマ娘はけっこうしっかり寝る。

 ワキちゃんなんて健康優良児なので9時くらいには眠ることが多いのだが(なお4時半くらいに起きる)。

 

 

 

 

「普通に寝て起きてからにしない…?」

「………そんな……24時間完璧なスケジュールを組んだのに………がんばったのに……」

 

 

 

 

 

 それ別作品の空の最速の機能美では。

 

 

 

 

 

「ちなみにどんな?」

「まず、優しくチューしてもらって………寝ます」

 

 

 

「寝るのか」

「眠るまでチューして下さいね?」

 

 

 

 

 結局寝るなら今でもいいのでは……?

 

 

 

 

 

「朝起きたら、一緒にシャワーを浴びて……」

「いきなりハード」

 

 

 

 

「ランニングして、シャワーを浴びて。朝ごはんを食べて……お兄さんにデートしてもらって……寝ます」

「あ、うん。とりあえずデートプランは無駄にならなそうで良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、一緒にいてほしいだけらしい。

 

 

 

 

「それだと結局、いつも通りな気もするし……ちょっと遠出して、景色を見に行かないか?」

「……いいですね。どこに行きますか?」

 

 

 

 

 

 

 最終的には良い景色を求めて歩き回ることになるんだろうけれど。

 せっかくなので飛行機のチケットを取っておいた。

 

 

 

 

 

 どこに行っても変わらない、けれども新しい景色へ。

  

 

 

 どこまでだって行けるし、どこでだってきっと楽しい。

 

 

 

 

 

「きっとスズカも気に入ると思うよ」

「………ふふっ、そうですね」

 

 

 

 

 

「スズカ、生まれてきてくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 この旅路の果てがどうなっていても。

 夢を見せてくれた、夢の続きをくれた君に、精一杯の感謝を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄さん、私に出会ってくれて。私の走りを好きになってくれて、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 



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レース応援の話




そんな……レース中に叫ぶのはお兄さんの専売特許ではなかったのか…。



そんなわけで投稿です


 

 

 

 

 

 

「――――今だっ! いけっ、ヒシミラクル!」

 

 

「君ならできる! 期待の新人! 未来の三冠ウマ娘!」

 

 

 

 

 

 とある選抜レース。

 ワキちゃんことスズカに加えてグラス、テイオー、アヤベ、ゼファー、カフェと大分大所帯の担当になってしまった俺だが、偵察はちゃんとやっておけとおハナさんに言われ―――そして自動的にスズカが付いてきて今に至る。

 

 

 

「―――――お兄さん、これです…!」

「いやどれだよ」

 

 

 

 めっちゃキラキラした目でこっちを見てくるスズカ、というかワキちゃん。

 言わんとすることはまあ分かるのだが、一応無駄な抵抗を試みてみる。

 

 

 

 

「お兄さんもあれくらい叫んでください」

「嫌だが」

 

 

 

 

 というかむしろ、あんなに目立っていたのかと思うと死ぬほど恥ずかしい。

 

 

 

 

 

「最終直線だ、頑張れッ!」

 

 

 

 

 ………いや、うん。

 超ズブいヒシミラクルが見事に上がっていっているし間違ってなさそうだけど。

 

 という選抜レース、ここまで9連敗していたヒシミラクルの好走ににわかに観客席のトレーナーたちも色めき立つ。……まあ、あんなに叫んでるトレーナーがいるから担当どうこうの話はないが。

 

 

 

 

「あの調子で行くと愛を叫ぶことになりそうだなー」

「いやいや流石にサイレンススズカにはならないだろ……」

 

 

 

「まああそこはトレーナーも頭サイレンススズカだからな…」

 

 

 

 

 めっちゃ不本意な声が聞こえてくるし…!?

 

 

 

「お兄さんの頭の中が私でいっぱい……ということですか?」

「多分この場合スズカのことしか考えてないとかそういう揶揄になると思うんだが?」

 

 

 

 

 くっ、先輩じゃなければ反撃することも考えなくもないのに…!

 

 

 

「どうしますか? ちょっと走ってきますか?」

「ちょっと締めますかみたいな感じで言うんじゃない……」

 

 

 

 

 だから頭サイレンススズカって言われるんだぞ。言い出したの俺だけど。

 

 

 

 

 

 

「凄いぞミラクル! これで本契約だなっ!」

「ああー、もう――――」

 

 

 

 

 とはいえ、満更でもなさそうなウマ娘と嬉しそうなトレーナーはそう………尊い。

 非常に良いものだ。なんか隣で昇天しかかってるアグネスデジタルがサムズアップしてきたので、同じように返しておく。こいつどこにでも現れるな…。

 

 

 

 

 

「……お兄さん。えっと……カッコイイ! 好き! ………えいっ」

 

 

 

 

 なんか褒めようとして何も思いつかなかったのか、抱き着いて誤魔化そうとしてくるスズカ。それを見てデジタルの魂が更に出てきた。死にそう。もうやめて、アグネスデジタルのライフはもう0よ!?

 

 

 

 

「どうですか、お兄さん。私の好きなところも叫んでくれてもいいですよ…?」

「走りが素敵、とかでいいか?」

 

 

 

「お兄さん、トレーナーさんなのに…?」

「プロ意識煽るのやめてくれる?」

 

 

 

 

 

 しかし、うーん。

 引退しても走るのが趣味なスズカなだけあって全く衰えてないからな。……まあ休養挟んでドリームトロフィーリーグに出るので当然といえば当然なのだが。

 

 

 

 

「いやでもスズカにあんまり褒められた気がしないしなー」

「………そんな。お兄さんのために色々と本で勉強してるのに……。うまぴょいとか」

 

 

 

「外でとんでもないこと口走らないでくれる!?」

「お兄さんって、うまぽい好きですよね」

 

 

 

「えっ? えっ、何? うまぽいって何……? いや待て言わなくていい。後で家で聞くから!」

 

 

 

 とりあえず逃げ安定。

 逃げ切り、この手に限る。

 

 なんか妙に綺麗な笑顔を返されたけど。

 くっ、ただの天然なのか成長して意味深なムーブができるようになっただけなのか分からない…。

 

 

 

 

「よし分かった、とりあえず走りに行こうスズカ」

「……お兄さん、私べつに走ることしか考えていないわけじゃないんですけれど…」

 

 

 

「え? 走らないの?」

「走りますけど」

 

 

 

 びみょーな顔をしているスズカ。

 ええい仕方ない!

 

 

 

 

 

「走ってるスズカが世界一好きだなぁ! 惚れなおしちゃうなぁ!」

「――――行ってきます」

 

 

 

 

 これが最大集中ってヤツかな、という見事なスタートで駆けだしたスズカが選抜レースが終わったコースに殴り込み。

 

 

 

 

「さ、サイレンススズカだー!?」

「サイレンススズカが出たぞー!?」

 

 

 

 

 妖怪かな?

 

 

 

 

「―――よしっ、行けミラクル! 君に決めたッ!」

「いや無理ですけどっ!? 今わたし走り終わったところですけどっ!? というかそもそもサイレンススズカさん!?」

 

 

 

「――――ミラクルならやっと調子が出てきたところ! ここからが君の真骨頂だ!」

「いやいやいや―――!? ああっ、なんか凄い勢いで来てる!?」

 

 

 

 

 うーん、めっちゃ仲いいな。流石未来のGⅠウマ娘とそのトレーナー。

 なんのかんのと言いながら素晴らしい勢いで駆けだしたヒシミラクルを、サイレンススズカが猛追する。

 

 

 

 

「いける! ミラクル、エンジンかかった君なら誰にだって負けない!」

「そんなこと言っても―――!?」

 

 

 

 

 と、めっちゃスズカがこっちをチラチラ見ている。

 というかキラキラした目でガン見してると言ってもいい。ちょっと怖い。

 

 じゃあちょっとダメージ少なそうなやつで…。

 

 

 

 

「――――スズカァ! 俺たちの絆を見せつけてやれ!」

「………」

 

 

 

 めっちゃ不満そうだ!? 速度落ちてるし!

 

 

 

 

「できるできるどうしてそこで諦めるんだ! 今日からお前は富士山だ! もっとライス食べろ! しじみがぶわーって頑張ってるんだよ!」

 

 

 

「どうした急に」

「なんでシューゾーなんだ……?」

 

 

 

 

 

 ………あれ、これなんか愛を叫ぶより恥ずかしいかも…?

 スズカも耳絞ってるし。

 

 

 ………ままよ!

 

 

 

 

 

 

「スズカ―――ッ! 好きだーーー!」

「――――――!」

 

 

 

 語彙力は消えたが気持ちは伝わったのか、完全にギアが入ったスズカが一気にヒシミラクルに迫る。そしてそのまま最終直線に。

 

 

 

 

「ミラクル、君ならやれるーー! もう少しだけふんばれー!」

「スズカー!」

 

 

 

 

「「(君の走りが)好きだ―――!」」

 

 

 

「えっ」

「――――ッ!」

 

 

 

 

 

 かつてない好走を見せたヒシミラクルだったが、トレーナーからの突然の愛の告白?に仰天している間にスズカにぶち抜かれてゴール。

 まあ実際はスタート位置のハンデがあったからあんまり参考にはならないのだが、GⅠ級の素質は見られた気がする。

 

 

 

 

「えっ、あの……えっ?」

「くっ、惜しかったなミラクル………でも凄いぞ、やっぱり君はトゥインクルシリーズで……いや、GⅠで活躍できる!」

 

 

 

「おにーさーん!」

「はいはいよしよし」

 

 

 

「いや、その、トレーナーさん? え? その………え?」

「? まだまだ伸びしろが沢山あるからすぐにはGⅠは出ないけど、君なら絶対やれる!」

 

 

 

「お兄さん、もっとぎゅってして下さい」

「……はいはい」

 

 

 

 

「あの、トレーナーさん……なんて?」

「いや、だからGⅠ……」

 

 

 

 

「お兄さん…?」

「いやスズカ、公衆の面前では駄目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、ヒシミラクルのトレーナーと同類認定されたのは誠に遺憾であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





やっぱりレース中に妙な事叫ぶの良くないかなと思わないでもなかったんですが、ヒシミラクルのトレーナーがついに公式化してくれましたね!

これまでは叫んでも「スぺちゃーん!」くらいでしたし。


やはり愛じゃよ。



あとなんかリーグオブヒーローズもうちょいで始まるんですね。まだスズカさんしか完成してないんですけど。


一応、アヤベさんの個別ルートはちょっと書いたんですがまだお出しできそうにないですね…


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大百科風


感想で欲しいと言われたので…。
ハーレム以外なら割とすぐ書ける(当社比)男、スパイダーマッ!


……どっちかというとスズカさんしか書けない疑惑ありますが


 

 

 

異次元の逃亡者

サイレンススズカ

 

 

 

 

概要


 

 サイレンススズカとは、〇〇〇〇年生まれのウマ娘。栗毛に白いヘアバンドが特徴的な史上二人目の無敗の三冠ウマ娘であり、世界の現役ウマ娘たちを芝、ダート問わず圧倒した。またその特徴的すぎる大逃げ戦法から「異次元の逃亡者」「最速の機能美」「レコードブレイカー」など多数の二つ名を持つ。

 

トゥインクルシリーズ在籍期間3年、通算成績16戦16勝、GⅠ10勝。

主な勝利

 クラシック級:皐月賞、東京優駿、菊花賞、ジャパンカップ、有マ記念

 シニア級:ドバイシーマクラシック、宝塚記念、凱旋門賞、BCクラシック、有マ記念

 

 最優秀クラシック路線ウマ娘、最優秀シニア級ウマ娘、年度代表ウマ娘(2回)受賞。

 トゥインクルシリーズ引退後、担当トレーナーと結婚。現在休養中。

 

 

 

 異次元の逃亡者、サイレンススズカ。

 速さは、自由か孤独か。

 答えはゴールの先にあった。

 

 

 

異次元のメイクデビュー


 5月1日生まれとウマ娘の中ではやや遅生まれであり、過保護 堅実派なトレーナーの方針もありメイクデビューはクラシック級になってからだった。

 彗星の如く現れてデビュー戦を大逃げで圧勝し、そのまま弥生賞でも圧勝するか……と期待されていたのだが、なんとスタート前にゲートを潜るというアクシデント。明らかに不調な様子にもうダメかと思われたがなんと持ち直して圧勝。これでも勝てるなら本調子ならどうなるのか、と軽く騒ぎにもなった。が、なにはともあれクラシック大本命に名乗りを上げた。

 

異次元の逃亡者


 クラシック第一戦、皐月賞でも人気は変わらず。スタートからスルリと抜け出すとそのまま後続を寄せ付けずにゴール。ダービーを競うサニーブライアンがやや差を詰めたくらいで、そのサニーブライアンもフロックだろうと思われるほどの快勝だった。

 

 そして東京優駿(日本ダービー)ではサニーブライアンにハナを奪われ苦戦を強いられる(他のレースではハナを譲ったことが無く、サニーブライアンに並ならぬ才覚があると言われる所以)が、最終直線での壮絶な叩き合いの末にサニーブライアンを大きく引き離して勝利。ダービーに逃げで勝利するのはアイネスフウジン以来であり、それも大逃げでの勝利ということもあり実力は明白。サニーブライアンの離脱もあり無敗の三冠も目前と言われるように。

 

異次元の三冠ウマ娘


 菊花賞の前のステップレース、神戸新聞杯ではやや抑えた逃げを見せ応援するファンもこれで長距離も安心、と思わされたが。そこは異次元の逃亡者、京都3000mにも関わらずまさかの1000m57秒9と神戸新聞杯を上回る超ハイペースで刻む大逃げを見せ、途中からは流石にペースを落としたもののマチカネフクキタルの猛追を凌いで3分0秒8という破格のレコードで勝利した。これによりシンボリルドルフ以来二人目の無敗のまま三冠ウマ娘となった。

 

 ジャパンカップではピルサドスキー、エアグルーヴなど歴戦のウマ娘たちを相手どっても圧勝、その力を見せつけるが有マ記念ではまさかの故障であわや転倒寸前となるが持ち直し、紙一重の勝利となる。

 

 

世界最強の逃亡者へ(なおトレーナーは逃げ切れない)


 復帰初戦はなんとドバイシーマクラシック。海外ウマ娘もラビット(ペースメーカー、ハナ取り専門であり、同じチームの後続が走りやすいペースをつくる)を連れてきてはいたのだが全く寄せ付けずに大逃げを打つ。その蹂躙ぶりは海外掲示板にて「ラビットを連れてこなかったのか」と言われるほどであったという。なおインタビューではトレーナーが英語で愛の告白をしているが肝心のサイレンススズカには通じていなかった(通じないから言ったというのが通説)。

 

 凱旋門賞に向けたフランス遠征の前に宝塚記念に出走するが国内の有力ウマ娘たちを全く寄せ付けずに圧勝。フォワ賞では重バ場ということもあり最後詰められるが勝利。そして迎えた凱旋門賞、大きく引き離して最終直線に入るがSagamixに詰め寄られる。が、ゴール付近で突然叫んだ男が。言わずと知れたサイレンススズカのトレーナーであり、その声に応えて見事な伸びを見せたサイレンススズカが見事に勝利した。

 

 そして迎えたBCクラシック。ダート適性が不安視される中いつも通りの大逃げを決めたサイレンススズカだがまたしても終盤に突然ゴール付近で叫ぶ男がいた。トレーナーである。「スズカァ―――――ッ! 好きだ―――ッ!」「俺と、結婚してくれ――――ッ!」その叫びに応えて後続を引き離したサイレンススズカはなんと大差で勝利。BCで愛を叫ぶ男、それに応えて勝利した興奮のまま大好きアピールに余念がないサイレンススズカとともに伝説となった。

 

 最後のレースとなった有マ記念ではスペシャルウィークとグラスワンダーの壮絶な叩き合いを後目にまたしても愛の告白でパワーアップし勝利した。

 

異次元にして最速の走り


 最速のスタートでロスなくレースを進め、終盤はトレーナーの告白で覚醒して差し並みの速度で引き離すという夢の走り(告白がなくても強いがあるともっと強い)詳細は関連動画を参照。

 日本、欧州、アメリカのダートと圧倒的な走りで制覇したその実力は疑う余地もないがドリームトロフィーリーグでの更なる活躍が期待される。

 

 

トレーナーとの関係


 デビュー時から「妙に距離が近い」「完全にトレーナーガチ勢」と言われていたサイレンススズカであるが、トレーナーとの関係は幼少期にまで遡る。たびたびメディアで取り上げられている通り、母の入院とともに親戚の家で暮らすことになり寂しさを爆発させたサイレンススズカの面倒を見たのが偶然近くに住んでいたトレーナー(当時小学生)だったという。そのため呼び名が「お兄さん」である。

 

 その世話たるや多岐にわたり、月刊トゥインクルのインタビューによると「遊び、ご飯、お出かけ、就寝とどんどんエスカレートしていた」とのこと。そんな二人であるが、当時からお互いに走ることに並々ならぬ熱意を燃やしていたこともあって子どもながらにメニューを組み、逃げて差す、誰も寄せ付けない走りを完成させた(アイデア自体はウマ娘のおじさんに聞いたとか)。

 

 そして弥生賞での体調不良はトレセン学園入学を機に距離を取った結果であったというのは有名な話。徹底的に甘やかされていたからだという意見もあるものの、そもそも幼少期のトラウマ、それも母の体調不良というやむを得ないものが原因と思われること、本人が幸せそうなこともあって世間では同情的である。

 

 そんな公私ともに献身的に支えてくれるトレーナーもあって無敗の三冠を手に入れたサイレンススズカであるが、トレーナーも手に入れたことで恋愛的な意味でも大逃げを決めたと有名。

 普段は物静かで主張しない性格、と言われているサイレンススズカであるがレースの中継しか見ないファンの印象は異なる。特徴的な大逃げや競り合いの激しさから気性難ウマ娘、というファンやレース後のトレーナー大好きアピールから感情表現がストレートなウマ娘だと思っているファンが多いようだ。

 

 トレーナーによると「基本的に言われたことには素直に従うし、悪さなんてしないとても真面目な性格。ただ尋常ではない寂しがり屋なので言う事を聞いてくれないのは主にそのあたり」とのこと。

 

お兄さんの〇〇、だいすきですっ


 そんなトレーナー大好きなサイレンススズカであるが、ご褒美と称して色々な物を貰っていることが有名。判明している範囲で

・布団(トレーナー使用済み)

・枕

・温泉旅行(二人きり)

・指輪

・キス

・トレーナーの人生

 

 となっている。

 なお「お兄さん、だいすきですっ」はBCクラシックでの公開告白への返答であり、彼女のトレーナーガチ勢としての素質を示す定型文として使われ出している。

 

素顔……ですか?


 朝起きて走って、お風呂入って走って、朝ごはん食べて走って登校して走ってお昼ごはん食べて走って晩御飯食べて走ってお風呂入って寝る健康的な生活をしているらしい。が、とりあえずトレーナーことお兄さんは常に一緒にいる。そんな感じで生活していたら無敗の十冠・世界最強ウマ娘になっていた。

 

 トレーナーがいないと泣きながら探し回って色々破壊してしまうこともあるとか。暴れウマ娘はかなり危ないので近づかないようにしよう。

 

 そんな走るの大好き、お兄さん大好きなサイレンススズカであるがどちらか選べと言われたら「お兄さんですね」とのこと。言われたお兄さん曰く「レースに拘りがないので走れるならなんでもいいタイプ」で「走ってればとりあえず上機嫌」とのこと。

 

 ウマ娘の闘争心の代わりに愛を積んだと言われる所以である。結婚前はSNSで景色の写真ばかり投稿していたが、結婚発表を機に幸せそうな写真が増えた。

 

 好きなものはお兄さん。好きな食べ物はお兄さんの(持ってきてくれた)バナナ。趣味は走ること。子どもはレースができるくらいほしい(URAの最低出走人数は5人なので…?)。私服は白や緑を基調に上品な印象だが、基本的にはお兄さんからのプレゼントとのこと。

 

 勝負服は緑と白のものと、白いウエディングドレスに緑のケープを羽織ったものの二種類。クラシック級、シニア級で分かれている。

 

 

お兄さん大好きエピソード


こうして一躍トレーナー大好き勢のトップに躍り出たサイレンススズカだが、公式、非公式問わなければ以下のようなエピソードが挙げられる

 

・弥生賞でお兄さんを探してゲートを潜る(当然ながらゲートを潜るのは危ないので禁止である。大外からのスタートになった)

・優勝インタビューはとりあえずお兄さんを引きずってくる。逃げたら捕獲する

・三冠ウマ娘になった直後、お兄さんのほっぺにチュー(明確に公衆の面前でアピールしたのは初、と言いたいが諸説ある)

・有マ記念で怪我をした後、お兄さんに運ばれる顔が幸せいっぱい

・新しい勝負服はどう見てもウエディングドレス

・ドバイシーマクラシックから指輪らしきものを首から下げている

・凱旋門賞では婚約指輪(右手の薬指)

・レース後のチュー、頭擦り付け、抱き着きの定番三連コンボ

・ウイニングライブで投げキッス

・BCクラシックで告白された瞬間のえげつない加速

・公衆の面前でフレンチキス

・インタビューで子どもはレースできるくらい欲しい発言

 

 

 



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お兄さん(大百科風)

大百科ってこんな感じでいいですかね…。
ネタが思いついたら加筆するかもです


 


サイレンススズカのトレーナー(学生に手を出す10年間連れ添って無敗の十冠ウマ娘を育て上げ、遂に世界最強にまで伸し上げるお兄さん)

サイレンススズカトレーナーとは、中央トレセン学園のトレーナーである。

 

概要


サイレンススズカのトレーナー(学生に手を出す10年間連れ添って無敗の十冠ウマ娘を育て上げ、遂に世界最強にまで伸し上げるお兄さん)とは。中央トレセンに勤めるあまりにも有名な新人トレーナーである。

 

 主にサイレンススズカのトレーナーとして有名であり、学生(婚約者だが)に手を出したのに何故かほぼ批判されなかった人物でもある。(というか口説き落とすだけ落として放置とか、釣ったどころか十年育て上げた魚に餌をやらないと罵倒されていた)。だいたい「学生に手を出す10年間連れ添って無敗の十冠ウマ娘を育て上げ、遂に世界最強にまで伸し上げるお兄さん」という言葉が全てを物語っている。最初はアレだが後半が凄すぎてなんか気にならなくなってくるのである。

 「あんたほどの人が言うなら」とか「お兄さんだからな」など割とツッコミを放棄されることも多い。

 

 

 ちなみにお兄さん呼びなのはサイレンススズカの幼馴染であり、幼少期から病気がちなサイレンススズカの母親の代わりに面倒を見ていたから。

 

 トレセン学園三大兄トレーナーの一人。他はライスシャワーお兄さまカレンチャンお兄ちゃん

 

実績


チームリギルサブトレーナーに抜擢される。

・最初に担当したウマ娘(幼少期から手塩に掛けて育てた)で無敗の三冠。そのまま年間無敗で五冠をとり年度代表ウマ娘、二年目では海外GⅠ制覇(ドバイ凱旋門BCクラシック)だがこのどれか一つでも歴史的な偉業であるが無敗のまますべて取りまたしても年間無敗で五冠、合わせて十冠となる。

・二人目の担当であるグラスワンダーでも平然とGⅠを2勝する。

・有望株な新人を(チームリギル所属とはいえ)次々スカウト。

・サイレンススズカと結婚

 

指導の特徴


・特に素質を見抜くことに長けており、ある程度走りが見えている(それも非常に難しいことだが)中央トレセン学園の生徒はもちろんのこと、幼女(当時未就学児)の才能を見抜く(別に見抜いてはいなかった説もある)など脚質の見極めには定評がある。

・突拍子もない作戦、特にサイレンススズカの大逃げ(誤解されがちだが大逃げは本来読み合いや駆け引きの面が強いものであり、大体はロマンとされる)を容認する、他にもグラスワンダーの好位差しアドマイヤベガ直線一気など多彩な戦術を使用しており、ウマ娘本人の自分らしさを重視していると思われる。

・練習はハード。彼の担当ウマ娘のSNSによるとプール練習は脚を攣るレベルだとか。

・リギルのボスこと東条トレーナーによると指導は型にはまらないが理にかなっており、「リギル全体のバランスで言えばちょうどいいのではないか」とのこと。

 

性格


・基本的に礼儀正しく、インタビューなどでも好青年。が、そもそも優勝ウマ娘のインタビューであり、何故彼がそれに巻き込まれているかというとサイレンススズカに引きずってこられたからである。だいたい彼女の面倒をみるために振り回される苦労性として知られるとともに、なんやかんやで怒る素振りもないので聖人扱いされたり惚れた弱みだとか好き放題言われるのが常。

・そんな彼だがサイレンススズカに布団やら指輪やら温泉旅行やら何かしら強請られてはレースのご褒美として渡していることで有名。ハグやらキス、はたまたディープキスをかましても最早誰も驚かないあたり相当と言える(歴史的勝利の後だったので誰もが興奮しており気に留めなかったという点もあるかもしれない。狙っていれば策士である)。

・ちなみに「背中を蹴っ飛ばす会」なるアンチスレがあることでも有名だが、元々距離感が近かったサイレンススズカが無敗の三冠直後のほっぺにチューを機に明らかに恋愛感情がありそうなのをスルーしていることについて「はよくっつけ」とコールするアンチ(?)スレである(実際に結婚することが分かった時にはあまりの喜びぶりに凱旋門賞実況メインスレとほぼ同時にアンチスレが落ちた、あるいはアンチスレの方が早かったという説もあるがどちらも早すぎて真偽不明である)。

・なお肝心のサイレンススズカからは「意地悪」「あんまり優しくない」「好きな中では意地悪なところはあんまり好きじゃない」「世界で一番好き」「大好き」「だいたい全部好き」など割と場合によって評価が異なる。そのため、直球でアピールするサイレンススズカに対して割と肝心な時しか愛を叫ばないイメージと、割と愛を叫びまくっているイメージが混在している。

 

世界一の舞台で愛を叫ぶ男


 元々サイレンススズカのインタビューに引きずりこまれたりとネタに事欠かないお兄さんであったが、幼少期からの関係が明らかになったり有マ記念の必死な姿など、どう見てもサイレンススズカを大好きすぎることが発覚すると割と世間的にも容認されつつあった。が、あまりにも有名なのはBCクラシックの愛の告白である。

 そもそもBCクラシックはアメリカのウマ娘以外が勝ったことが欧州所属のArcanguesの一度しかなく、ダート世界一を決めるとしつつも実質的な聖域であった。そんなところにダートで全く適性が違うにも関わらず殴り込みをかけた芝の世界王者サイレンススズカの勝利は(主に国外では)疑問視されていたのである。が、結果はお兄さんの愛の告白からぶっちぎっての大差勝ち。最早よくわからない勝ち方に笑うしかない人が続出したという。適性の違いがあるのでその影響と考えるのが普通なのだが、名前を呼んだだけで復活してギリギリ勝利した凱旋門賞の直後だったので多くのファンが「これ愛を叫んだ方が明らかに強くね?」と思ってしまった。そして喜劇は始まった。MAD素材への昇格である。

 

 

スズカァッ! MAD素材だぁぁっ!


 始まりはBCクラシック直後に投稿された「サイレンススズカ、愛の力でBCクラシック勝利」という題の動画であり、お兄さんの叫び声からサイレンススズカの笑顔、えげつない加速が全て映ってしまったものである。

 そこから「〇〇で愛を叫ぶお兄さん」シリーズが投稿され、愛で加速する通称「覚醒スズカ」を色々な映像に合成したMAD動画が出回ってしまった。

 シンボリルドルフのダービーを皮切りにあらゆるレース映像に合成され、愛の告白とともにカッ飛んでいくサイレンススズカ、そして叫んでる本人であるお兄さんのインパクトはあまりにも大きく、すっかり愛を叫ぶ人のイメージが定着したのであった。

 

 

サイレンススズカを好きすぎるお兄さん


 一般的にはサイレンススズカがトレーナーを大好きというイメージが強いが、デビュー時から追っているファンにはそもそもトレーナーがサイレンススズカを好きすぎるという説が根強い。主な根拠は以下の通り

・そもそも面倒を見始めた時は小学生だった。相手は未就学児であり、普通はそんな丁寧に面倒を見れないという意見が多い

・サイレンススズカは極度の寂しがり屋で知られており、特に子どもの頃は親かお兄さんがいないと発狂したように泣いて暴れたという。そんなわけで朝から晩、食事からお風呂まで介護する小学生が爆誕したが普通は無理

・四六時中一緒にいていつでも手を出せる状態だった(特に教師になる前も普通に同棲していたらしい)のに手を出していなかった

・レースは関係者席ではなくゴール前で見る

ライブ最前列を当てて見る

・欲しいものは布団でも指輪でもなんでも渡す

・サイレンススズカのために料理を覚えた発言

・だいたいサイレンススズカを目で追っている

・迷惑なファンへの眼力が「人を殺せそう」と言われるくらいだった

・スマホの待ち受けスズカさん

・ファンクラブ会長にしてファン一号

・クレーンゲームでサイレンススズカのぱかプチを必死で取っている姿が発見される

・サイレンススズカグッズが出ると大体買いに現れる

・写真集の仕事はトレーナー権限で却下

・だいたい仕事中も優しい目で見守っている

・サイレンススズカ曰く「怒られたことはない」

・そもそも思春期なのにかなり年下の女の子の面倒を全く嫌がらずに見て、あそこまで懐かれるあたり余程面倒見がいいか相手のことを好きすぎると思われる

 

 

 

 

 

 

 



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夏合宿編
夏合宿編1話


水着スズカさん実装! 水着スズカさん実装!

イベストのネタバレありますのでご注意ください


 

 

 

 

 

 

(初夏が過ぎて朝の風がもっと暖かくなり――――気持ちよく走れなくなってくる頃。私たちの夏合宿はそんな空気のさなかに、始まる)

 

 

 

 

 

 

 きっとそれは、あまり暑さが得意じゃないウマ娘の性質を考慮していて。

 できるだけ良い状態でトレーニングできるようにとか、そういう意味合いもあるのだろうけれど。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「いやぁ~始まるねぇ! 楽しい楽しい、夏合宿が!」

「はーん? なんか企んでんなぁ、タキオン」

 

「『長期的な集団宿泊活動によるウマ娘の心身の変化』についての研究ですよ」

 

 

 

 

 

「ちょうき…は?」

「本学園において夏合宿とは――――」

「カーフェ! なんだいなぜ君がその機密書類を―――」

 

 

 

「共有スペースの床に落ちていましたが」

「やっぱり妙な事企んでたな」

「待て待て。あくまで私は真面目に夏合宿を楽しむだけだ。が―――ほら、色々と影響がありそうだろう? 彼女とか」

 

 

 

 

 目線の先には、愁嘆場――――らしきもの。

 

 

 

 

 

「――――…いやあの、スズカ? いい加減バスに乗って? お前の席そっちだから」

「嫌ですお兄さんの車で行きます」

 

 

 

 

 ゲート入りをゴネるウマ娘の如く、トレーナーに抱き着いて梃子でも動かぬとばかりの栗毛のウマ娘が一人。

 

 

 

「おいスズカ、遠足じゃなく合宿だからな。集団行動の何たるかを――――」

「でもエアグルーヴ、バスにはお兄さんがいないのよ…?」

 

 

 

「バスにトレーナーの席がないのも、トレーナーの車に生徒の席がないのも当たり前だ。さあさっさと来い」

「うそでしょ……じゃあお兄さんの上に座ります」

 

 

 

「いやそういう問題じゃないから。向こうで合流しような」

「ほら、行くぞスズカ」

「おにいさーん……」

 

 

 

 

 エアグルーヴに引きずられて乗車する無敗の三冠ウマ娘。

 こんな三冠ウマ娘見たことがありません、と脳内で誰かが言った気がした。

 

 

 

 座席に座らされたスズカは、エアグルーヴが隣のウマ娘に話しかけられた隙に窓を開けて――――そのまま脱出! ああっとサイレンススズカ窓から出てしまった!

 

 

 そしてトレーナーの車に乗り込もうとしたところであえなく御用。

 何やら話し合った末、何故か頭にタオルを被せられてしばらく密着した後、タオルは被ったままとぼとぼとバスに戻ってきた。

 

 

 

「……スズカ、いつの間に脱走したんだ…」

「ちょうど窓が開けられたから……」

 

 

「で、そのタオルは?」

「お兄さんがくれました」

 

 

「……で、その顔は?」

「えっ? 何か変かしら……?」

 

 

 

 

 すごーく緩い顔をしたスズカに何があったか凡そ察したエアグルーヴは、頭痛を堪えるように額に手を当てつつもスズカの席を大外……もとい、窓から遠い位置に変更するのを決断した。

 

 

 

「……あれで強いんだから意味分かんねぇよなぁ」

「興味深いとは思わないかい?」

「…………なんというか、悪趣味では?」

 

 

 

 

「カフェも興味津々なのは分かって――――いたたたた!?」

「…悪趣味ですね」

「うわぁ」

 

 

 

 

 

 見えない何かにアイアンクローをキメられているような格好のタキオンに冷ややかな目を向けるカフェと、目に見える心霊現象に固まるポッケ。

 夏合宿はどうやら最初から波乱含みのようだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「はーい、全員到着しましたね。これからは基本的に集団行動となります。普段以上にみんなで協力し合うことを意識しましょう!」

 

「トレーナーがいる子たちはトレーナーの指示に従ってね。というわけで、いったん解散!」

 

 

 

 

 と、先生が言った瞬間スズカはスタートダッシュを決めて駆け出し。

 何故かこちらへ。

 

 

 

「トレーナーさーんっ!」

「よしバス我慢して偉いぞスズカ。じゃあ室長のエアグルーヴのところに行くように」

 

 

 

 帰れ。ゴーホーム。

 一瞬で耳が萎れたスズカは即座に気を取り直すと笑顔で指を絡めつつ手を握ってくる。何この無駄な早業。

 

 

 

「うそでしょ……じゃあお兄さんも来てください」

「いや俺これからミーティングあるから……頑張った分だけご褒美あげるから、な?」

 

 

 

「ご褒美……一緒に走ってくれるとか…? でもそれって普段通りのような……」

「全力で甘やかしてやるから」

 

 

 

「じゃあ夜の自由時間に甘やかしてくれますか?」

「え゛っ………新手の拷問じゃ………いやわかった! 自由時間に全力で甘やかしてやるから合宿に集中してくれ」

 

 

 

 さすがに他の生徒がいっぱいいる中で教育に悪そうなことはできない。

 (この合宿場の夜は)やけに静かですねぇ……まあでもスズカも頑張ってたし! 俺も頑張らないと! 俺たちが止まらない限り、景色は続く――――。

 

 

 

 そんな茶番はさておいて、笑顔でエアグルーヴのところに戻ったスズカを見送りつつこちらも仕事にいかねば。

 

 

 

 

「頼むから大人しくしていてくれ、スズカ…」

「大丈夫よ、エアグルーヴ。私、お兄さんのために頑張るわ…!」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「ほう、ここが今日から我々が共に過ごす空間か――――まずは隅々まで調査、と。見晴らしは……悪くない。ところであれはないのかい、菓子盆は!」

「バーカ、旅館じゃねーんだぞ。おっ、冷蔵庫ある! コーラ入れようぜ! コーラ!」

 

 

「ほら、皆荷物は部屋の隅にまとめておけ。初日といえど忙しいからな、さっさとジャージに着替えるぞ」

 

 

 

 

(こうして、夏合宿は幕を開けたのだけれど――――)

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

 

 

 

 

 

(夏合宿が始まって、まだまだ3日目……なのに)

 

 

 

 

「――――アグネスタキオン、サイレンススズカ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ。以上、207号室は全員揃っています」

 

 

 

(みんなで朝の体操。……普段なら、今頃はお兄さんと一緒にランニングの準備をしている時間で――――)

 

 

 

 

 

「メニューが基本的に一律で決まっているというのはいいねぇ。皆のデータがとりやすくて助かる」

(普段なら、朝のランニングから帰ってシャワーを浴びたりしている頃で―――)

 

 

 

 

 

「な、みんなでトレーニングしねぇ? せっかく同室なんだし、わざわざ相手探す手間も省けるしさ!」

(いつもなら―――…)

 

 

 

 

 

 

 

(………思い切り、お兄さんにくっつきたい。ぜんぜん、足りていない……)

 

 

 

 

 せめて思い切り走れれば気晴らしになるけれど。

 一人で走るのは………それに、勝手にどこかに行くわけにもいかないし…。

 

 

 

 

 

(……でも、ダメ。好き………やっぱり会いたい)

 

 

 

 

 夜、部屋で並べられた布団にとりあえず座ってみて。

 迷惑かもしれないけれど、やっぱり会いたい。

 

 今日は朝ごはんの時に手を振り返してくれたけれど……手も握れていないし。近くにいるのに、声も聞けていない。

 

 ……お兄さんも、きっと嫌じゃない……はず。

 お仕事は忙しいのだろうけれど……。

 

 

 

 

 思い立ったが吉日とばかりに立ち上がり、こっそりと――――。

 

 

 

「――――待て、スズカ。どこに行こうとしている」

 

 

 

「……! そ、その……今からお兄さんのところに行こうかな……って」

「なるほどな。しかしじき、消灯時間だ。今からだと、トレーナーも見回りの準備で忙しいだろう」

 

 

 

「うぅっ、それはその……そう、よね………」

「まったく……合宿の場でも変わらずだな。お前のその性格は」

 

 

 

 

「……早朝ならば走る時間も、トレーナーの指導を受ける時間も取れるだろう。ただ、配膳当番には遅れないよう気を付けろよ」

「……! ありがとう、エアグルーヴ!」

 

 

 

 

「なー、隣の部屋の連中がトランプしないかってさ。お前たちもどうだ?」

「あ……ごめんなさい、私ちょっとお兄さんのところに行ってくるわね」

 

 

 

 今日はとりあえず顔を見てぎゅっとハグするくらいでも…いいかな。

 でもお兄さんは約束なのでチューくらいはしてくれても……続きは朝ね。

 

 

 

 

「結局行くのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

「お兄さーんっ!」

 

「おい呼ばれてるぞモテ男」

「ありがとうございます実はおハナさんとただならぬ仲の沖野先輩」

 

 

 

「いやそれは無いだろ。自慢じゃないがアイツに好かれるようなところが何一つ無い男だぞ俺は」

「うそでしょ……」

 

 

 

 

 何なの? この世界のトレーナーはにぶトレーナーになる法則か何かあるの?

 とかそんな衝撃を受けていると、拗ねて頬を膨らませたスズカがこちらの腕を抱き寄せて―――胸がないので何もあたらないが、それはそれとして暖かくて柔らかい。主に腕とかお腹が。

 

 

 

「お兄さん、消灯時間までいっぱい甘やかしてくれる約束は…?」

 

 

 

 

 それ初日にしたやつだけどやっぱり継続? まあそうだろうなぁ…。

 

 

 

 

 

「まあ今日もよく頑張ったな。……当番とかどうだ?」

「明日は配膳当番なんです。でもお兄さん、早起きすれば朝会えるんじゃないかって、エアグルーヴが」

 

 

「……朝ね。6時でいい?」

「4時くらいがいいです」

 

 

 

 

 早いよ!?

 こっちは見回りとかもあるんだけど!

 

 あとビーチにゴミが落ちてないかとか毎日トレーナー達で確認してるんだけど!?

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

「5時半」

「4時半」

 

 

 

「5時15分」

「5時」

 

 

 

「5時10分……」

「じゃあ起こしに行きますね!」

 

 

 

 

 

 …………俺、無事に合宿乗り切れるかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏合宿編2話

 
※イベスト時空なので特に時系列には関係ないです






  

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった~! やっぱりトランプもみんなでやると面白いね!」

「スズカさんも来ればよかったのに。もしかしてあんまりみんなと一緒にいたくないのかなぁ……」

 

 

「いや、そういうわけじゃない。あいつはなんというか、その……トレーナーのところだ」

 

 

「「ああ~~」」

 

 

 

 ちょっと気まずげなエアグルーヴだが、同室のウマ娘二人は納得しかなさそうな顔で頷いた。

 スズカとトレーナーの仲は全校生徒、というか世界的に有名なわけで。ついでにそのラブラブぶりと、常に一緒にいることくらいは周知の事実であった。

 

 

 

 

 

「いいなぁ……私もスズカさんのトレーナーさんみたいに甘やかしてくれて、仕事ができて、優しい彼氏が欲しいなぁ」

「エアグルーヴさんはどんな人が好きなんですか?」

 

「いや、私は―――」

 

 

 

「コイバナ! 合宿と言えばですよね!」

「ちなみに私はライスシャワーさんのトレーナーさんみたいな人が好きです!」

「はぁ……まあ、私生活がだらしのない男はお断りだな」

 

 

 

 

(((そんなこと言ってダメ男製造してそうだなぁ)))

 

 

 

 周囲から一斉に生暖かい目を向けられて動揺したエアグルーヴは、とりあえず隣にいたカフェに話を振った。

 

 

 

「私だけ語らせるな! カフェはどうなんだ?」

「……私、ですか? ………そう、ですね。気の多い男性はどうかと思います……」

 

 

 

「一途な人がいいんですね! スズカさんのトレーナーさんみたいな?」

「………まぁ」

 

 

「でもせっかくなら好きなところ! いいところで考えましょう! ね!」

「良いところは……人のために頑張れる人、でしょうか」

 

 

 

「あー、スズカさんのトレーナーさんみたいな?」

 

 

 

 割とウマ娘の怪我予防やら何やらで奔走していることが多い男である。

 一人の天然が地雷を踏み抜きにいっている間に周囲は戦々恐々としていたが、特段何か怪奇現象が起こることもなく。

 

 

 

 

「……まあ、そうかもしれません」

「うーんやっぱりいいよねー」

 

「じゃ、じゃあ次! タキオンさん!」

「私かい? そうだねぇ、最新の薬を躊躇いなく飲んでくれる健康的で度量が広い人が良いね」

 

 

 

 

(度量の問題なのかな…?)

(それつまりトレーナーさんなんじゃ?)

(モルモットさん……)

 

 

 

「じゃあ水着で悩殺するんですか?」

「え? いや、水着はほら……肌面積が気にならないかい?」

 

 

 

「え?」

「そんなの気にするんですか?」

「ウマ娘用でない服を平然と着るタキオンさんが、ですか…?」

 

 

 

 

「いや君たち私のことをなんだと――――」

 

「「「(アグネス)タキオン(さん)」」」

 

 

 

 

「流石に風評被害が混じっていないかい!?」

 

 

 

 

 

 そんなわいわいと賑やかな騒ぎに混ざりつつも、エアグルーヴは心ここにあらずだった友人に想いを馳せる。

 

 

 

 

 

(――――普段とはまるで違う毎日だ。好きに走れず、トレーナーとも距離を取らなくてはならない……スズカの気持ちはたぶん理解できる。ただ――――)

 

 

 

 

「……いや、これは私のエゴか」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……すー、はー………。うん、いい空気……」

「おい」

 

 

 

 何やらずっしりとした重みを感じて目を覚ますと、布団の上にジャージ姿のウマ娘が。というかスズカがいた。流石にこちらにも羞恥心はあるので寝間着の臭いを嗅がないでほしい。

 

 外はまだ空が白んできたくらいで、確実に約束の時間ではないはず。なのだが……。

 

 

 

「えっと……眠れなくて。きちゃいました」

「………はぁ。仕方ないな」

 

 

 

 寝た気はしないが、それでもまだ頑張れる。

 いったんスズカをどかして身体を起こし、同室のトレーナーを起こさないようにこっそりと着替えて外へ。

 

 ……目の前で脱がれると慌てて逃げるくらいの羞恥心はスズカにも芽生えたらしい。喜ばしいような、やっとそこかというような……。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(――――ああ、やっぱり心地いい! 走れば走るほど、景色がキラキラ輝いて――――)

 

 

 

 

 

(脚が勝手に前へ前へ進んでいくみたい! どこまででも、どこまででも行けてしまいそう! ふふっ!)

 

 

 

 

「お兄さんっ、どうですか? ――――あら?」

 

 

 

 

 さっきまでアドバイスとか感想とか、あるいは走りに関係のない合宿の雑談をしてくれていたお兄さんは、いつの間にか眠っていて―――。

 木に凭れるようにして眠るお兄さんに、不満半分、心配半分でとりあえず呼吸しているのを確認。

 

 

 

「おにいさーん」

「………ぐぅ」

 

 

「……むぅ~………やっぱり疲れてるのかしら…」

 

 

 

 

 少しばかり早起きしてもらいすぎたかもしれない。

 寄りかかっている木も固そうだし……ということで、なんとなく膝枕。

 

 

 

 

「お兄さん、今なら……二人っきりですよ?」

「……………」

 

 

 

 

 

 返事は無い。ちょっぴり申し訳ない気持ちになり、なんとなく頭を撫でてみたり。

 

 

 

 

 

「…………合宿、かぁ」

 

 

 

 

 集団生活はやっぱり苦手で。

 できればずっとお兄さんと一緒にいて、好きなだけ走っていたい。けれど、それができないのなら―――。

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「…………ん、あれ……?」

「おはようございます、お兄さん」

 

 

 

 

 

 目の前――――本当に目の前にスズカの顔。そして軽く触れ合う唇に、強制的に意識が叩き起こされた。

 

 

 

 

「――――その、おはようございます、のチュー……なんですけど」

「…………おはよう」

 

 

 

 

 朝から破壊力が高すぎるのでは。

 しかも何故か頭の下に柔らかい感触があるし。ジャージを纏った綺麗な平原も見えるのでもしかしなくても膝枕。

 

 

 

 

「……悪い、完全に寝てた」

「いえ、その……ごめんなさい、どうしてもお兄さんに会いたくて、無理を言ってしまって……」

 

 

 

「いや、別にいいよ。俺もスズカと居たかったし」

「………お兄さんって、こういうときズルいと思います」

 

 

 

「なんでさ」

「なんでも、です」

 

 

 

 イマイチ寝ぼけて頭がはっきりしないが、そろそろスズカは配膳当番の時間だったか。俺も朝食を取ったらすぐ仕事にいかないと―――。

 そんなことを考えていると、スズカはぎゅぅっと抱き着いてきて。ウマ娘の力の強さとスズカの寂しがりっぷりをひしひしと感じつつ抱きしめ返す。

 

 

 

 

「お兄さん、私も……頑張ります」

「ん。……無理そうだったら遠慮なく言えよ。すぐ行く」

 

 

 

 

「……その、合宿が終わったら――――…わたしも、お兄さんにご褒美……あげますね?」

「――――」

 

 

 

 

 返事をする隙も無く駆けだしたスズカの背中が遠くなる。

 ほとんど変わらない背丈だけれど。それでも何かスズカが大きくなろうとしているような―――そんな予感を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――あっ、エアグルーヴ」

「む。てっきり間に合わないのではないかと思っていたが――――杞憂だったみたいだな」

 

 

 

「……ぅ。ごめんなさい、心配かけて」

 

 

 

 

 食堂に向かうと、配膳係をすっぽかすことを想定してか準備していたエアグルーヴの姿が。……本当に面倒見がいいというか、申し訳なくなるくらいいい友人だ。

 

 

 

「まあ、スズカを唆したのは私だからな。責任は取ろうと思ったまでだ――――それに、落ち込むスズカを見るのもいい気分ではない」

 

「……ありがとう、エアグルーヴ。ところでその、一つお願い……というか、相談があるのだけれど」

 

 

 

 

「む。………乗りかかった船だ、言ってみてくれ。ここで聞かねば気になって仕方なくなりそうだ」

「実は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏合宿編3話



大逃げ式投稿スタイル

逆噴射しても許して





 

 

 

 

 

 

『――――その、私ももう少し合宿に馴染めるように……頑張ってみようかな、って』

『……そうか。いや、良いことではないのか?』

 

 

 

『でもその……普段からあまり関わらないのに……迷惑じゃないかしら?』

『気にしすぎだ。皆、スズカと話したいと思っているさ』

 

 

 

『そ、それはそれで申し訳ないような―――』

 

 

 

 

 

 そんな会話があり、流石に昼間は練習もあって特に変わらなかったが――――夜。

 あまり夜更かしできないこともあり、毎晩恒例になりつつあるトランプが用意され。

 

 

 

「はーい、じゃあ今日もトランプやる人!」

「やるやる~」

 

「では私も参加しよう」

「……えっと、じゃあ私も……いいかしら?」

 

 

 

「「スズカさん!?」」

 

 

 

 

 反応がスぺちゃんそっくりだったのでちょっと驚いたスズカを他所に、憧れのスター参戦とばかりに大盛り上がりの同室ウマ娘たち。

 

 

 

「いいんですか!? やりましょやりましょ!」

「あの……恋バナ! 恋バナすることになってるんですやりましょう! スズカさんも聞かせてください!」

 

「ええっ!? ……そ、その……お手柔らかに、ね?」

 

 

 

 

(全く、やはり杞憂だったな――――)

 

「おいエアグルーヴ、やらねーのか」

「いえ、恐らく今は……」

「あー、これがトレーナー君の言っていた後方腕組み師匠面というやつだね」

 

 

 

 

 

 そもそも無敗の三冠ウマ娘であるし、生涯無敗な上に海外もドバイ、欧州、アメリカと最高峰のレースを勝利している。威圧感に悩む会長と違って良くも悪くもレース外での威圧感は皆無。むしろトレーナーに甘える姿が世界に知れ渡っている。

 

 それがつい最近までの出来事ということもあり。エアグルーヴとしては非常に複雑な心境であるが、一般生徒からの人気という観点ではスズカの方が会長をも上回るかもしれない。

 

 

 

「……じ、実際その、どうなんですか……うまぴょいとか…?」

「えっ」

 

 

「アブノーマルなプレイもするんですか!?」

「ええっ!?」

 

 

 

 

「え、エアグルーヴぅ……」

「おいお前たち! スズカがお子様――――初心者なことくらいは知っているだろう! あまり過激なことを聞くな」

 

 

「「はーい」」

 

 

「エアグルーヴ!? うそでしょ……」

 

 

 

 

 まあ話題はともかくバ鹿話に興じることは打ち解けるのに悪くはないだろう。

 初心者(既婚者)とは一体…という感じだが、公衆の面前であれだけいちゃつけるスズカにロクな知識がなかったことは周知の事実。

 

 

 

「実際初うまぴょいはいつなんですか!?」

「……け、結婚してから…?」

 

 

「ペースは!? 掛かり気味になったりします!? タイムは!? 何レースくらいするんですか!?」

 

「えっ、レース…? ペースは分からないのだけれど……■レースくらい…? タイムは……■時間とかだったような……」

 

 

 

「「…………それトレーナーさん死ぬのでは?」」

「うそでしょ」

 

 

 

「いやだって搾り取られてる……」

「夜のステイヤー……やっぱりステイヤーはエロいって本当だったんですね。デカ耳ステイヤーのライスさん最強…?」

 

「……私の方を見ないで欲しいのですが」

 

 

 

 

 ステイヤー怖い…。

 そんな目線を受けてすごく嫌そうなカフェ。意味分かってなさそうなポッケ。

 興味深いねーと言いつつ淡白なタキオン。

 

 そんな各々に畏怖の目を向けられてスズカもちょっとキレた。

 

 

 

「お兄さんがしてきたのに!?」

「「えっ」」

 

 

 

 

「審議! 審議です!」

「エアグルーヴさんどう思いますか!?」

 

「いや、どう思うも何も……長年の反動ではないのか?」

 

 

 

 思春期の性衝動を抑え込むくらいには自制しているトレーナーである。

 まあ多少激しいくらいはありそうだが。

 

 

 

「ちょっと尋常じゃないですって!」

「スズカさんサキュバスの可能性が……あっ、エアグルーヴさんもまだ無いのか……」

 

 

「いや、お前たち………」

 

 

 

 

 まあ無意識に甘えてくるスズカに抑えが利かなくなって―――という可能性は十分にある。そして「エアグルーヴさんも身持ち固そうだもんね」みたいな生暖かい目が飛んでくるがいやそんな経験をしているのなどスズカくらい――――の、はずだ。いやまさかあるのか。

 

 

 

 

「だって私彼氏いるので」

「許嫁がいるので」

 

「………」

 

 

 

 

 色々と言いたいことはあるものの、叱るのも違うだろう。というか仮にも女子校(のようなもの)だぞ。普通は出会いも何もないだろうに。

 仕方なく言いたいことは飲み込んで、とりあえず仲間と思われるカフェ、ポッケ、タキオンに目線を向ける。

 

 

 

「………はぁ。私はまあ、そういう相手がいませんので」

「? 好敵手ならコイツらかなー」

「今のところそういった実験の予定はないねぇ」

 

 

 

 

 

 最早トランプ関係なく、好きな男性の仕草やら匂いやら服やら嬉しかった言葉などなど。次から次へと話題が変わりつつも姦しく夜が過ぎていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

(急にポッケに呼ばれたけれど―――場所、ここで合ってるかしら?)

 

 

 

 海辺、砂浜。夏の太陽―――走ったら気持ちよさそうだなぁ、なんてことを考えつつも誰もいないのが気になってつい左旋回してしまう。

 

 

 

「よぉ、スーズカ♪」

「ポッケ……と、その後ろにいるみんなは……?」

 

 

 

「おうおう! ポッケさん、このウマ娘っスね、標的は! ――――なんかめっちゃテレビでみた感じの人なんスけど!? 遠慮しなくていいんですか、本当に…!?」

 

「標的……遠慮……? えっと、なんだか嫌な予感がするのだけど……」

 

 

 

「そりゃあ、決まってんだろ? ――――オラァ!」

「きゃぁっ!?」

 

 

 

 瞬間、取り出される水鉄砲―――けっこう容赦のない水量のそれを、スタート用の急加速で辛うじて回避。そのまま大逃げを打つ―――。

 

 

 

「――――おいコラ逃げんな! 今日休みだろ、水鉄砲で大乱闘しよーぜ! 俺、頭数揃えてきたしさ!」

 

「これスズカさん用の水鉄砲でーす!」

 

 

「あ、ありがとう……じゃなくて! どうして急に……?」

 

 

 

 

 言っている間に放たれた水鉄砲を無駄に洗練されたステップで避けるスズカに、ポッケも笑みを深めて予備の水鉄砲を手に取る。

 

 

 

「ちっ、やるじゃねーか。なら二丁でいかせてもらうぜ―――!」

「お兄さんとよく遊んでいたから……勝てば言う事を聞いてくれるって」

 

 

 

「おっ、いいな。それ採用―――わぷっ!?」

 

 

 

 片方が弾切れした瞬間、方向転換したスズカが一発。ポッケの耳に直撃させ、容赦のなさすぎる攻撃に悶絶するポッケに、ちょっと申し訳なさそうにしつつ水鉄砲を向けるスズカ。

 

 

 

「ええっと……トドメは刺したほうがいいのかしら…?」

「水……耳に水が――――くっそ……上等だ、とことんやってや――――ぐはぁ!?」

 

 

 

 

 バシャ、バシャ、バシャ。

 容赦なさすぎる追い打ちに慌てて周囲からの援護射撃がはいるが、ポッケを盾にして回避したスズカはそのまま逃走。

 

 

 

「この、やるじゃねーかスズカァ! アッハッハハ!」

「私の勝ちね。それで、どうして急に?」

 

 

 

「別にィ? お前とマジんなって遊びてーなって思っただけだよ。そんなんやんねーだろ? 普段はさ」

 

「……ポッケ。えっと、ありがとう…?」

 

 

 

 

「さーて、一発してやられたことだし……おーい、そろそろお前らも交ざれよ! タキオン、カフェ、エアグルーヴ!」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

(そうして、走り回って撃ち合って、全員ずぶ濡れになって、空が茜色に染まっていたことに、誰も気づかないくらいで――――エアグルーヴを海に付き飛ばしたりなんてこともしてしまったりして)

 

 

 

「スズカ、ちゃんと水分は取れよー。君たちもなー」

 

 

 

 途中でスポーツドリンクをサーバーごとお兄さんが運んできてくれたり。

 

 

 

「ほらスズカ、アイス」

「……! ありがとうございます、お兄さんっ」

 

 

 

「あっ……バナナアイス!」

 

 

 

 アイスが好物のバナナ味だったり。

 何故か他にも容器ごと買いこまれていたけれど。

 

 

 

「……これは……どこかの業者ですか」

「いや、車でひとっ走り仕入れてきただけだけど。カフェも食べてくれ、アイス」

 

 

 

「先ほどドリンクも頂きましたが……」

「コーヒー味もあるぞ」

 

 

 

「……別に、アイスまでコーヒー味が好きというわけでは……ですが、ありがとうございます」

「ああ。こっちこそありがとうな」

 

「―…お兄さん、食べさせてください」

 

 

 

 

 何故かカフェさんと話しているお兄さんに構って構ってと寄ってみたり。

 

 

 

「スズカお前汗凄いぞ……しっとりしてる」

「……えっと、嫌ですか…?」

 

 

 

 

 汗とかは気になるけれど。 

 海水で冷えた身体にお兄さんのぬくもりが心地よくて。なんとなく甘えるようにお兄さんの腕に身体を寄せて。

 

 

 

「嫌じゃないけどお前……めっちゃ見られてるぞ」

「え?」

 

 

 

「これが噂の――――!」

「スズカさん最高。推せる」

 

「………できれば人目に付かないところの方が……」

「いやー、これが噂の……興味深いねぇ。是非とも前後でデータを取らせてもらいたいが」

 

 

 

 

 満足気に倒れ伏しているポッケ以外は興味津々といった様子で。

 なんとなくいたたまれなくなってお兄さんの後ろに隠れた。

 

 

 

「スズカ………」

「まあ、ポッケ君の作戦は成功と言えるのではないかな?」

「……」

 

 

 

 

「……そうだな。これで、私の目的も果たせたよ」

「………目的、ですか…?」

 

 

 

「私も、スズカとの思い出が―――いつか思い出せる何かが欲しかったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 星空の下で、みんなで集まって花火で遊ぶ。

 楽しそうなスズカの笑顔が眩しくて、少し離れた場所で念のための消火用バケツを準備しながら眺める。

 

 

 

「よ、しけた面してるなー」

「なんですか沖野先輩。おハナさんのところに行かなくていいんです?」

 

 

 

 

「いや、アイツも俺が来たら気が休まらないだろうが。それよりお前、自分の嫁のことはいいのか?」

「いや、せっかく成長してるところを邪魔しちゃだめでしょうに…」

 

 

 

 一応、教師と教え子という関係でもあったわけだし。

 ……いや、今でもルドルフ会長と同じで半分生徒で半分指導側みたいな微妙な立ち位置なのだが。

 

 

 

「なんだ、寂しくないのかー?」

「寂しいに決まってるでしょうが」

 

 

 

 

 結局毎朝必ず会っているし、すれ違う時は笑顔で手を振ってくれたり抱き着いてきたりするが、ほぼ接触はなし。

 

 

 

 

「よし、じゃあお前も夜の街に繰り出そうぜ」

「また行くんですか……」

 

 

 

 美少女ウマ娘だらけのトレセン学園のトレーナーは、割と行きつけの夜の店があり。

 色々と溜まるものとか堪らない諸々があって人によっては毎晩のように通って高い給料をすり減らしているのだが。

 

 

 

 

「だってお前――――」

「でも、好きな子の笑顔を見る方が大事だと思いません? スズカにとって今しか経験できないことで、俺にとっても今しか見られないものですよ」

 

 

 

「もうお前交じってくれば?」

「嫌ですが?」

 

 

 

 

「―――お兄さん?」

「うおっ」

「どうした、スズカ」

 

 

 

 

 するりと抜け出して隣にやってきたスズカは、にっこりといい笑顔を浮かべて。ついでに何故か花火を用意しながら言った。

 

 

 

 

「何の話をしてるんですか?」

「いや、普通にトレーナーとしての雑談だけど」

 

 

 

 

 性欲のコントロールもトレーナー業務のうち。

 そんな気持ちを込めて言い放つと、スズカはちょっと耳を動かして不満げにした後、花火の持ち手を押し付けてくる。

 

 

 

 

「じゃあ、構って下さい。寂しいです」

「いいけどお前……友達と遊ばなくていいのか?」

 

 

 

 

 

 すたこらさっさと逃げ出す沖野先輩を尻目に、スズカは勝手に背中側から抱き着いてきて。密着する熱を感じながら、二人で花火に火をつけた。

 

 

 

 

「……今しかできないことって、多分あんまりわからなくて―――もしかしたら、あとから後悔するのかもしれないですよね」

「まあ、そうかもな」

 

 

 

 

 過ぎ去って、失ってからしか分からないものもある。

 スズカの鼓動を背中に感じながら、一瞬だけの輝きを見せる花火を眺める。燃え尽きて、火が消えて。灰になって散っていく光。

 

 

 

 

「……でも、私、後悔しませんから。今だけじゃなくて、未来も。これまでの思い出も。貴方がいてくれたから、私の景色はいつだって輝いていて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お兄さんにも、忘れない思い出を沢山作ってもらいますから。だからその……ええっと―――……覚悟してくださいね?」

 

 

 

 

 

 ずっとスズカと過ごしてきた。

 春も夏も秋も冬も超えて、祭りやクリスマス、バレンタインに節分、何気ない日々の思い出も。俺はもう十分すぎるくらいだから、スズカにもっと色々な思い出を、学生らしいものも作って欲しかったのだけれど。

 

 背伸びしたスズカの唇が、頬に触れる。

 そのまま脱兎のごとく駆けだしたスズカを目で追いながら、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「よし、俺も――――ちょっと出かけてくるか。沖野先輩ー!」

「お兄さんっ!」

 

 

 

 

 しこたま怒られた。

 

 

 

 

 

 

 



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夏合宿編4話




感想下さった方ありがとうございます。返信する余裕がなくて申し訳ないです。

短いですが本日2話目です。

 


 

 

 

 

 

「さぁ! グラスを手にとりたまえ! 待ちに待ったBBQパーティ―――否、ビーチパーティだ!」

 

 

 

 

 タキオンの音頭と共にあちらこちらで歓声が上がる。

 ビーチフラッグで遊ぶ子がいれば、パラソルの下で話す子も。

 

 そんな中、普段と違う水着姿のエアグルーヴを見つけて、スズカもゆっくりと近づく。

 

 

 

「エアグルーヴ」

「楽しんでいるか、スズカ」

 

 

「このにんじんは美味くてな。―――お前は今日の立役者だろう、たくさん食べろ」

「お手本がいるから、そんなに凄く大変だったわけじゃない…と思うのだけれど」

 

 

 

 『とりあえず得意な人に振るのが仕事』とはよくお兄さんが言っていることである。

 参謀役の似合うエアグルーヴ、仲間を纏める能力のあるポッケ、心霊方面に限らず知識が深く落ち着いて判断できるカフェ、持ち前の発想力で突破口を開いてくれるタキオン。

 

 そのほか、トレセン学園は頼もしすぎる面々が揃っているので。『みんなが楽しめるように』という理由であれば凄い力が発揮される。

 

 

 

「全くお前という奴は……そういえば、ポッケがビーチバレーをすると張り切っていた。私も誘われたのだが……お前もどうだ?」

「そうね。参加してみようかしら」

 

 

 

「ふっ、そうか。夏合宿に来たばかりの頃のお前からは考えられんな」

「……あんまり思い出さないでほしいのだけれど」

 

 

 

「それは無理な話だな。覚えているか、寮生活にもまた、慣れるまで時間が掛かっていたことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! 何度言えば分かる、夜は門限を守れ! 朝のランニングは早めに戻れ! あとトレーナーを寮に連れ込もうとするな! トレーナー寮にも侵入するな!』

 

『その……お兄さんがいないとどうしても落ち着かなくて……ごめんなさい』

 

 

 

 

『……む。なんだその目の下のひどい隈は……というか部屋の物音が凄いと話が来ているが……』

『―――……少し歩いていると落ち着くからかしら……』

 

 

 

 

 少しか…?

 と、下の部屋の生徒が聞けば思っただろう。ついでに泣いてる声がすると隣の部屋の生徒から心配そうに相談されていたりするので、余計に心配なのだが。

 

 

 

 

『……偶にでいい、寮生と話すようにしてくれ。お前は自由奔放な上に無口だろう。不良だと怖がられているぞ』

『う、うそでしょ……』

 

 

 

 

 どちらかというと心配されているのだが、まあ多少大げさに言っておいた方がよさそうだった。

 

 

 

 

「あの時も私は提案しただけで、頑張ったのはお前だった。時折忘れながらも、時間に気を付け、食事をとり、話しかけられれば、たどたどしくも応じるようになり―――まあ、長電話が酷くなったが」

 

 

 

 

 スマホの使い方を覚えてしまったばかりにずーっとトレーナーと話し込んでいると話題になったものだ。

 

 

 

「定額プランじゃなかったら5万円くらいだったかしら……」

「いや話しすぎだろう」

 

 

 

 

「まあ実は小柄で幼いウマ娘が大好きなお兄さんと離されて涙の夜を過ごしている――――という風に心配されていただけだが」

「うそでしょ!? 道理で不良だと思われてるにしては皆優しいなって……」

 

 

 

「ちなみに皆遠く離れた場所、それこそ海外にでもいると思っていた。まさかトレーナー、しかも担当トレーナーだと思ってるのは一人もいなかったな。私も含めて」

「……ぅぅ」

 

 

 

「それでもお前も少しずつ寮の催しに参加するようになって、雰囲気も明るくなって、嬉しかった。―――まあ、まさかトレーナーの家に転がり込むとは思ってなかったが」

「………ありがとう、エアグルーヴ。いつも気にかけてくれて」

 

 

 

 

「………いや、今回に関しては違う。今にして思えば、半分は自分のためだった」

「エアグルーヴの…?」

 

 

 

 

「……。私の思い出の中に、お前の姿も残したかった。お前と過ごした夏の日々が欲しかったんだ。いつの日か、きちんと思い出せるように―――」

「ふふっ。ううん、ありがとう。―――でも、私は卒業してもエアグルーヴに会いに行くつもりなのだけれど」

 

 

 

 

 不意を突かれたように、エアグルーヴの表情が固まる。

 どんな思い出も、いつかは風化してしまうかもしれない。けれど、一緒に思い出せる仲間がいれば―――きっと、また違う輝きをみせてくれるから。

 

 

 

 

「……やれやれ。卒業後もスズカの世話をするのか、私は?」

「えっと、私とお兄さんの子どものお世話……とか?」

 

 

 

「やめろ。スズカが増えたら手に負える気がしない」

「ふふっ、エアグルーヴなら私より上手に教えられそうだなって」

 

 

 

 

 また、いつかきっと夏が来て。

 その時に思い出す。友人と過ごした大切な日々を―――。

 

 だから、今は全力で楽しんで。

 ビーチバレーで跳びまわり、皆でアイスを食べて。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 人気のない浜辺で、大切な人と向き合う。

 お兄さんに見て欲しくて選んだ水着は、ちょっとだけ大胆に大人っぽいビキニ。下はパレオを巻くけれど。

 

 きっと褒めてくれるとは思いつつも、ドキドキしながらその時を待つ――――もしかしなくても、レースより緊張するかも。

 

 

 

「凄く綺麗だよ、スズカ」

「……お兄さん。私も、夏の思い出が欲しいんです――――」

 

 

 

 

 甘えるように胸元に頬を寄せて。そっと力強い腕で抱きしめられる。

 頷いてくれたお兄さんを連れて―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さん、すごい速いです! 風が気持ちいい――――最高の景色が見られそう!」

「こんなことだろうと思ったよ!」

 

 

 

 

 そう、お兄さんは実はジェットスキーができるんです。

 トレーナーには必須なんだとか。本当でしょうか。

 

 なのでお兄さんにジェットスキーで引っ張ってもらうトーイング?をしてもらうことに。

 

 

 あんまり水の上は走れないですし……。

 あとこれだと常にお兄さんが見えているので、景色としては最高です。

 

 

 

 

 

「私と、お兄さんだけの景色――――」

 

 

 

 

 ちょっと走りたくなってきたので、脚を動かす。

 ジェットスキーの速度が90km/hくらいらしくて、ウマ娘は60~70km/hくらい。でも引っ張ってくれている力を上手く使えば――――。

 

 

 

 

「お兄さーんっ!」

「スズカぁ!? おま、危ないから水面走るな! というか走れるのか!」

 

 

 

 

「追いつけないので、何か叫んでくださーい!」

「ぐ――――ああもう、水着めっちゃ可愛いぞー!」

 

 

 

 

 

 

 波がとても厄介だったのだけれど、なんとか乗り越え。

 さすがに若干減速したジェットスキーに追いついて横から飛び乗るという我ながらけっこう危ないことをしつつ――――救命胴衣越しにお兄さんに抱き着く。

 

 

 

 

「――――頼むから危ないことするな!」

「――――でも、ここからの景色も見たかったんです!」

 

 

 

「そんなことで水面走るなよな……!」

「お兄さんに触れていたいのはそんなことじゃないですよ?」

 

 

 

 

 

 触れているだけで安心して、でもドキドキして。

 ちょっと怖いくらいだけれど、それでももっと触れたいと思ってしまう。

 

 

 

 

「お兄さん。この景色も、私、きっと忘れませんから」

「……見たくなったら、またいつでも見せてやるさ」

 

 

 

 

 だから頼むから危ないことは止めてくれ、とがっくり肩を落とすお兄さんにちょっぴり申し訳ない気持ちになりつつお礼のことはもちろん忘れていない。

 ……忘れていないけれど、お兄さんが喜ぶことってつまり―――。

 

 

 

 

「……どうして男の人ってえっちなことが好きなんですか?」

「それはスズカになんで走るのが好きか聞くようなものだぞ」

 

 

 

 

 どちらも本能だ。とつぶやくお兄さん。

 分かるようなわからないような。

 

 お兄さんに触れると安心するのとか、一緒にいたい気持ちとか。

 本能でひとくくりにされるのはなんとなく嫌だけれど。

 

 

 

 

「ねぇ、お兄さん。私、みたい景色が沢山あるんです」

「……いくらでも見せてやるよ」

 

 

 

 

「海の向こうも、山の向こうも。どこまでも、いつまでも――――だから、ずっと一緒にいてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、二人で水着を着てお風呂に入り―――。

 珍しく二人で朝寝坊することになるのだった。

 

 

 

 

 

 お兄さんも私ほどじゃないけれど寂しがり屋な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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アオハル杯編
理事長代理の憂鬱


 

 

 

 

 

 

『――――さあ、遂にこの日を迎えました。チーム“ファースト”、迎え撃つチーム“リギル”! 一番人気はもちろんこのウマ娘――――公式戦無敗の10冠、世界最強、サイレンススズカ!』

『言わずと知れた日本の誇る“異次元の逃亡者”ですね。アオハル杯でもここまでチームの快進撃を支え続けています』

 

 

 

『二番人気はこのウマ娘――――ビターグラッセ! 普段は中距離を担当しているチーム“ファースト”の二枚看板の一人ですが、ここで“リギル”のエースサイレンススズカにぶつけてきました!』

『ここまでチーム“ファースト”の激闘を考えればこれも無策とは考えづらいですからね。果たしてどんなレースを見せてくれるのか楽しみです』

 

 

 

『三番人気は現役マイル王者グラスワンダー! 言わずと知れた薙刀の切れ味、ロングスパートから放たれる脅威の末脚に注目のウマ娘です!』

『今のところ同チームのサイレンススズカには勝利できていませんが、それでも巧みなマークでチームに貢献し、いざとなれば勝利をもぎ取れるだけの自力があります』

 

 

 

 

「――――行ってくるよ、トレーナー」

「ビターグラッセ……」

 

 

 

「“私たち”なら、きっと――――私が思っている以上のことが、トレーナーが思っている以上のことが、できるから」

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートで待ち受ける栗毛のウマ娘を見据えて、踏み出す。

 リギル専制時代とも言える現状。彼らに一矢報いることができたのならば―――最強のウマ娘、サイレンススズカに勝利できたのなら。

 

 応援の声が聞こえる。

 それは、頑張るウマ娘を応援する、穴ウマを応援するような、あるいは判官びいきのようなものかもしれない。けれども、たしかに“ファースト”が勝ち取ってきたもので。

 

 

 

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました―――――アオハル杯決勝、最終第5レース――――今、スタートしました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――理事長代理、樫本理子には悩みがあった。

 

 

 

 かつての教え子を襲った悲劇、それを繰り返させないためにも“管理主義の徹底”が必要不可欠だと考えている彼女。それに真っ向から対立するような存在がいたからである。

 

 

 

 

(…自主トレーニングの容認、開始時刻の不徹底。休憩時間の他ウマ娘との無駄話の許可――――というかそもそも距離が近い! なぜ休憩時間に抱き着く必要が? というか日々の睡眠時間と睡眠満足度は本当に大丈夫なの…? 学園の自主性を重んじる方針は無責任というべきなのは間違っていない、はずなのに――――)

 

 

 

 

 至極楽しそうにウッドチップのコースを走る、栗毛のウマ娘。

 14戦14勝、GⅠ10勝―――無敗にして世界最強とされる大逃げウマ娘、サイレンススズカ。その、どこまでも管理主義に相容れなさそうなバグキャラ。

 

 そして生徒が引退後即結婚というかなりアレなことをやらかした担当トレーナー。

 

 

 

 

 これで生徒を不幸にしていたらあらゆる手を使って排除してやるところなのだが、何故だか彼女たちは幸せそうであった。

 

 

 

 

 

 マイル王者となり、ライバルである黄金世代との更なる激闘に備える“怪物”グラスワンダー。

 皇帝の後継者ことトウカイテイオー。

 デビューが遅れつつも鮮烈な重賞勝利を飾ったヤマニンゼファー。

 かつては過剰なまでの自主トレーニングをしていたにも関わらず、最近は何故かゆるい顔ではしゃいでいる姿が確認されているアドマイヤベガ。

 

 

 

 

 

 管理主義ではない、が、放任主義というには何かしらの青写真に基づいていそうな彼。

 彼を打倒しなければ管理主義の夜明けは無い――――いや、あれだけの成果を出しているのは認めている。が、それはそれとして他のトレーナーが同じことをできるかというと怪しいし、やはり怪我を防ぎ子どもたちの未来を守るには管理が必要。

 

 

 

(……やはり、実力で彼らを打倒するしかない――――)

 

 

 

 

 正面から打ち勝ち、管理主義の必要性を認めてもらう。

 幸い、意味不明な強さのサイレンススズカ以外は“皇帝の後継者”ことトウカイテイオーと現役最強の一角グラスワンダーくらい。……強すぎでは?

 

 

 

 

 

 

 けれどこちらも粒ぞろいの娘が集められている。

 ビターグラッセ、リトルココン。彼女たちであればあのリギルにも対抗できる――――と、信じている。

 

 

 

 

 

 データを数値化してみれば2000mの中距離と3000mの長距離でレコードを叩きだし、スピードとスタミナを異次元の高さで両立するサイレンススズカ。BCクラシック、ダートで大差勝ちという意味不明なことをやらかしているので油断も隙も無く。

 

 単純に底が見えないシンボリルドルフに対して、何故か『愛の力でパワーアップするウマ娘』とか言われていて、実際限界と見せかけて意味不明な加速をするサイレンススズカは本当にどう解釈すればいいのか分からないのだが。

 

 

 

 

 

(大逃げ故に駆け引きは一切なし、並の大逃げでは競りかけることすらできない巡航速度、競りかけられると発揮される底力、長距離をハイペースで走りきるスタミナ、トレーナーに依存することで常に担保されているメンタル――――)

 

 

 

 

 つまり純粋に速さで勝つしかないけどその速さが頭おかしいという結論になる。

 あの有マ記念でタイキシャトル、グラスワンダー、スペシャルウィークが全員敗れるあたり少なくともダービーウマ娘……それこそ今無敗の二冠であるトウカイテイオーでも連れてこないと勝負にならないとさえ思える。いや本当にどうやって勝てと?

 

 

 

 

 とはいえ、幸い本家リギルとは別チームでの参戦になるのでシンボリルドルフ、ナリタブライアン、テイエムオペラオー、エアグルーヴ、エルコンドルパサー、マルゼンスキー、タイキシャトル、フジキセキ、ヒシアマゾン、サイレンススズカ、トウカイテイオー、グラスワンダーという無法チームの結成は避けられた。

 

 ……いや、本家もえげつなさすぎでは…?

 

 

 

 

 最強の鉾と最強の盾の激突と言えなくもない“皇帝”対“異次元の逃亡者”に巻き込まれるのは堪ったものではないが、それだからこそ勝機がどこかにあるはず…………あるはず…。

 

 

 

 

 

(後は、マイル重賞を走ったことが無い“皇帝”と“異次元の逃亡者”の適性次第か…)

 

 

 

 

 幸い、アオハル杯特別参加のドリームトロフィーリーグの面子には『現役時代に重賞勝利していない条件で参加する』という条件がある。

 早々に芝/マイルでの出走を表明している彼女たちでもまさか長距離もマイルも走れるなんてことが――――あるかもしれない。

 

 

 

 そうなると先に別チームを倒して仲間を増やすしかないが。

 

 ……一番粒ぞろいなのはチームスピカ。スペシャルウィーク、ゴールドシップ、ダイワスカーレット、ウオッカ、メジロマックイーンとチームリギル唯一の対抗バとも目されている。

 

 

 が。彼女たちはむしろ管理主義寄りのリギルと違って放任主義の権化。

 ちょうど怪我に無縁そうな頑丈なウマ娘が集まっているので問題なさそうだが、正直あんまり仲間に入れてもいい結果にはなりそうにない。むしろ彼女たちみたいな癖ウマは沖野トレーナーのような専門家が少数で見るべきであり、管理主義は他の大多数に適応できればいいと思う。

 ゲート潜りや旋回癖など、実のところとびきり問題児なサイレンススズカを見た後だと強くそう思う。

 

 

 

 

 打倒、サイレンススズカとそのトレーナー。

 その先に新しい管理主義と、生徒の笑顔を――。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 ……実際話してみると、サイレンススズカのトレーナーは自主トレーニングは必ず自分の目で見て管理している(いないとスズカが泣く)し、開始時刻は徹底されている(すごくすごい走りたいスズカと脚を大事にしたいトレーナーがぶつかり合った結果)し、睡眠状況も把握している(というか一緒に寝ている)。休憩時間の無駄話もあんまりない(無言でいちゃついているだけともいう)。

 

 

 あれもしかしてこの人管理主義なんじゃ…?

 

 

 管理主義だったかもしれない…。

 

 

 管理主義の究極はウマ娘と結婚することだった…?(錯乱)

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 理事長室―――。

 サイレンススズカ、タイキシャトル、シーキングザパールの海外制覇の波に乗って日本のレースの地位向上を目指す計画の一端のためしばらく海外出張となる理事長のため、理事長代理になることが決まった樫本理事長代理(予定)に、俺はなぜか早速呼び出されていた。

 

 いやまあ心当たりだけなら豊富なのだ。

 現在進行形で隣でニコニコしている栗毛のウマ娘とかな!

 

 

 

 

「――――新しい管理プログラム、ですか」

「ええ。実のところ私は理事長代理として協力してくれる生徒の一部から管理主義を徹底し――――その成果を以て生徒たちが自主的に管理主義を受け入れてくれるのを望んでいます」

 

 

 

 一部どうしても無理そうな子は貴方や沖野トレーナーたちに任せようと思っています、といきなりぶっちゃけた樫本理事長代理(予定)。

 よかった不純異性交遊のことじゃなかった………一応結婚してるからセーフだとは思うが。

 

 

 

 

「けどそれだと特別扱いだと不満が上がるのでは?」

「ゴールドシップやアグネスタキオンを筆頭とするメンバーを見て、一緒に練習したいと思うのであればそちらに移るのも止めはしません。彼女たちも自主的に管理主義に賛同してくれるのが最終的な目標ですが」

 

 

 

 ……まあその、あの面子を見ると……うん。

 

 

 

「今のトレセン学園は『緩すぎる』。怪我の予防、才能の向上、その効果が管理主義にあると知ってもらいたいのです」

 

「……なるほど、"アオハル杯勝利で管理主義撤回”というニンジンをぶら下げてやる気を出してもらう一方で、実のところその管理主義の力を知ってもらいたい、と」

 

 

 

 

 

 

「無論、私は貴方達にも勝たせてもらうつもりですが―――それとは別に、必ず生徒たちのためになる結果をもぎ取らせてもらいます」

 

 

 

 

 こうしてみると運動ダメダメな理子ちゃんには見えない――――とキメ顔をしている理事長代理に失礼なことを考えつつ。こちらも真面目な顔で頷く。

 

 

 

 

「ええ。とはいえその管理主義の詳細というか、ルールみたいなものは完成しているんですか?」

「どうぞ。これがその原案になります」

 

 

「拝見します」

 

 

 

 

 既に渡された時点で嫌な予感しかしない分厚い冊子。

 捲るとそこには睡眠時間から食事内容、休憩時間の無駄口の禁止、練習外での移動・間食・スマートフォンの使用制限などびっしりと細かい規定が。

 

 いや、まずはトレーニング内容と食事内容を管理してゆくゆくは私生活をということらしいが。

 

 

 

「………!? お兄さん、これだと走りにいけないんじゃ…?」

「そうだね」

 

 

 

 練習外でも走りたいスズカみたいな頭サイレンススズカには辛かろう。

 ワキちゃんの場合は甘えてればある程度満足だから朝昼夕と一日三回くらい好きに走れば割と満足しているところがあるけど。……いや本家サイレンススズカさんだいぶやばいな…。

 

 

 

 

 

 

「えっ。トレーナー室でチューしちゃダメなんですか?」

「いやダメでしょ」

 

 

「うそでしょ……」

 

 

 

 もっというと理事長室でべったりなのも普通にアウトだぞスズカ。

 理子ちゃん困ってるからな。スズカへの視線は若干優しいあたり本当に生徒が好きなんだろうなとは思うが。たぶん俺は実績が無かったら蛇蝎の如く嫌われていただろう。

 

 食事内容に関しては練習内容によってある程度融通を利かせられるみたいだが、これだとオグリキャップとかスぺちゃんとかミラ子とか辛いだろうなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 うーん…。

 うん。これミラ子ダメだわ。

 

 というか、ミラ子を筆頭にゆるーい感じで生活している“普通”のウマ娘たちが耐えられないと思う。

 

 

 いわゆるオープンクラス、全体の7%くらいはたぶん耐えられるだろう。やる気にあふれて実力もあり、走ることが楽しいクラス。

 そして彼女たちをしっかり育てることは実際正しい。勝てない子は勝てない。それがレースだし、全員を救済するなんてのは夢物語だ。

 

 

 才能あるけど晩成型でイマイチやる気が無い、そんなミラ子タイプのウマ娘がすごく心配になるが。恐らく施策としては正しい……と、俺は思う。何と言ってもやはりトレーナー不足だ。アプリトレーナーのような完璧超人はなかなかいないし、“原作(こたえ)”を知ってる知識チートも今のところ俺しかいない。

 

 

 そうなるとなんとか安全かつ確実に経験を積み上げるなら管理主義の台頭はあり。というかアスリートなら自己管理は基本。……問題は、ウマソウルのせいか一筋縄ではいかないウマ娘が多すぎることだが!

 

 そして多分、管理主義の影響で辞めていくウマ娘の多くは辞めるべくしてやめるのだとは思う。レースの世界は残酷だ。だが、この人はそれを見て心を痛める。

 

 

 

 

「………どうでしょうか。生徒の安全に十分配慮しつつ最大限実力を発揮できるよう調整したつもりですが」

 

 

 

 

 ……いい人なんだよなぁ、本当に。

 なんでいきなりこんなに胸襟を開いてくれたのか―――まあたぶんスズカの実績のお陰だろうけど―――はさておき。でもなぁ…。

 

 

 

 

 

「―――正直、やる気も才能も覚悟もあるウマ娘を指導するのであれば問題ないと思います。しかしこれでは―――」

「………ですが、徹底しなければ緩みを生むでしょう。それが綻びになり……事故に繋がる」

 

 

 

 

 

 ……分かっていたことではある。

 この人は事故というトラウマを抱えていて、何より自分を信じられていない。自分よりも管理されたルールの方が正しくて、安全で、生徒のためになると思っているからこうしている。管理する自分(人間)を信じられないから、ルールでガチガチに縛っている。

 

 

 

 

「―――取返しのつかない怪我を負うよりは、まだ良いでしょう」

 

 

 

 

 この誤りを正せるのは、きっと彼女の教え子しかいないのだろう。

 

 

 

 

「では軍隊ではないので練習時間以外の制限を減らした方が良いのでは? メンタルケアも重要だと思います。特に彼女たちの年齢では」

 

 

 

 

 隣でめちゃくちゃ頷いているスズカを見ながら、理事長代理は僅かに思案し。

 

 

 

「……一理ありますね」

「では――――」

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、わずかばかり緩和された新しいルールは予定通り発表され。

 大部分のウマ娘とトレーナーたちを阿鼻叫喚の地獄に叩き込むのであった。

 

 

 

 

 そしてスズカはちゃっかり生徒会相談役になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――なんとか仕事も終えて夜。

 

 

 結婚二日目。

 脳内がうまぴょいで埋め尽くされている若い男と、その嫁。何も起きないはずはなく。

 

 

 

 

「……あの、お兄さん?」

「どうしたスズカ」

 

 

 

 晩御飯の洗い物を終え、とりあえずお風呂にお湯をためながらソファに並んで座るいつもの光景、なのだが。

 

 平然と人の上に座ってくる栗毛のウマ娘はどうすればいいですか。

 尻尾さらっさらなんだけど。お尻柔らかいけど細いから骨を感じるんだけど。なんか甘い匂いがするんだけど。

 

 

 

 ……こういう時って、あれか。

 うまぴょいしようや……って誘うか? いや、うまぴょい伝説のイントロを流せばいいのか? いきなりキスとかそういう空気でもないし……。

 

 

 

 

「………あの、お兄さん?」

「どうしたスズカ」

 

 

 

 

 へにゃり、と少し困ったように耳を垂れさせたスズカは振り返って一言。

 

 

 

 

「………その、ちょっと苦しいです」

「ごめん」

 

 

 

 無意識に抱きしめていた。

 

 いやだって、今朝もなんやかんや怒られたばっかりだし嫌がられるかなーくらいは覚悟していたので。ちょっと緊張しつつもいつも通り甘えてくれるのが嬉しかったんだ。

 

 

 

 

「……なあ、スズカ」

「………はい」

 

 

 

 

「…………好きだ」

 

 

 

 

 言いたいことは幾らでもあって。

 この小さな身体で世界一のウマ娘になるまで走りぬいてくれたこと、いつでもこんな俺を信じてくれたこと、割と天然で走ること以外では優しいこと。走るのが好きすぎること。ゲート潜っちゃうくらいには寂しがり屋なこと。

 

 なんでこんなに好きなんだろうと悩むことも無くはない。

 なんでこんなに好きになってくれたのかは全く分からない。

 

 

 

 

 

「……ふふっ」

「いやあのスズカさん? その笑いは…?」

 

 

 

 楽しそうに笑ってくれるのはいいんだけど。

 スズカはそのまま身体の向きを変えて、胸元に顔を寄せて見上げてくる。……触れ合いそうなくらい顔が近づき。

 

 スズカは蕩けるような笑みで、笑った。

 

 

 

 

「………お兄さん。可愛いですね」

「――――…なんで!?」

 

 

 

 

 

「だってお兄さん、いつもなんでも平気そうでしたし……私だけ一方的にお兄さんのことが大好きだと思ってたので」

「いやそんなこと無いが!?」

 

 

 

 頑張って手を出さないようにしてただけだが!?

 本棚に隠してある栗毛ウマ娘のグラビア写真集とか……いやまあ。

 

 

 

「お兄さんも、私がいないとダメですね」

「それはそうだよ。お前が居なきゃ、俺もトレーナーになってなかっただろうし……」

 

 

 

「お兄さん、もうちょっと偉そうにしてもいいと思います」

「スズカももっと偉そうにしていいぞ」

 

 

 

 

 ……。

 俺からすると全部スズカの頑張りのお陰なわけで。

 

 どうにも同じようなことを考えてそうなスズカと見つめ合い、どちらからともなく笑みを浮かべて抱き合って。

 

 

 

 そのまま、溶け合うように唇が触れ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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始動、アオハル杯!

すみませんがファン感謝祭の時期が間違っていたので一部修正しています。
テイオーはまだ二冠取ってないです(どちらにせよ圧勝なのでレース描写はないです)


 

 

 

 

 

 

 

「栄養満点のペナルティドリンク……ってこれトレーナーもよくやってる奴じゃん!? ちょっとこれどういうことなのさ、トレーナー!」

 

 

 

 

 配られた資料を見ながらプンプンという擬音が似合う顔で怒るウマ娘ことトウカイテイオー。いやまあどうもこうも…。

 理事長代理曰く、食事を抜いたり食べ過ぎたペナルティとして栄養補助で使うそうなのでまあ。

 

 

 

「だって提供してくれって頼まれたから…。ちゃんと回復効果はばっちりだぞ」

「ウェーッ!? あんな苦いのヤダよー! 確かに食事は大事だけどさー、はちみーだって大事なんだからね!」

 

 

 

 

 まあ当然、カロリー爆弾なはちみードリンクは禁止対象となる。

 

 

 

 

「……小テスト、ですか」

「ゼファーはテスト大丈夫か?」

 

 

 

 テストで赤点だと週末に補習らしいけど。

 まあその、将来的なことを考えると勉強は大事だよね。

 

 一応、スズカはトレーナーになるための俺の勉強に付き合っていたのでそれなりに得意である。テイオーは天才肌、グラスは秀才。ゼファーは真面目にやればそれなりに。アヤベはまあ優秀。

 

 

 

「この風――――いなさでしょうか…」

「あ、うん。俺も教えるよ…」

 

 

 

 とりあえずゼファーは表情からしてとても心配そうというか俺も心配。

 

 

 

「いえ、そちらではなく…」

「ああ、外出に申告が必要ってやつね」

 

 

「はい。まさか自由に風待ちに行けなくなるなんて……」

(いや多分施行されても平気で探しにいくだろうなぁ)

 

 

 

 

 ゼファーが風関係で我慢できるとは全く思えない。

 というかテスト……まあ一回失敗するのも経験か…?

 

 と、天体観測で夜間の外出が必要なアヤベ的にも申告制度はかなり気になるようで。

 

 

 

「……天体観測の許可、いいわよね?」

「頑張って掛け合うよ…」

 

 

 

 アヤベの目がガチなんだけど…。

 幸い妹ちゃん(霊)がいるので本来よりは大分執着が緩いと思われるのだが、唯一の趣味だからな…。ふわふわ以外。ダメだったらなんかふわふわで許してもらおう。

 

 グラスはレース以外ほぼ大和撫子なので特に問題なさそう。

 

 

 

 

「うーん、私は特に困らないですが……エルは困っていそうですねー」

「まあエルコンドルパサーはなぁ」

 

 

 

 飼ってるマンボとかどうなんだろう。

 まあでもキャラ?はともかく素は大人しいしな、エルコンドルパサー。

 

 ………ところでなんでスズカが俺の膝の上に座ってるのに誰もつっこまないの?

 タマモクロスとか呼んでこないとダメ? という感じでテイオーに助けを求めてみる。

 

 

 

 

「え、トレーナーとスズカはいつもそんな感じだよねー?」

「いや膝は乗ってないぞ!?」

 

 

 

 大体となりにぴったりついてくるくらいだから!

 一応職場で堂々といちゃつかないくらいの分別はあるから! …あったから! 今は無いけど!

 

 

 と、微妙な空気になったチームリギル(二号室)に颯爽と飛び込んでくる葦毛のヤツが。

 

 

 

 

 

「まー、ツッコミ待ちってことだな。ていうかトレーナー、お前が突っ込めばいいんじゃね?」

「あ、ゴルシ」

 

「突っ込むとか言うな。というか何か用か?」

 

 

 

 

 くっ、この種付け大好きUMAソウルを引き継いだ破天荒ガールめ。

 こちとら常に煩悩と戦ってるんだぞ。

 

 思わずツッコミを入れてしまうが、当然の如く周囲から殺到する冷たい視線…。

 いやテイオーとゼファーは分かってないからグラスとアヤベだけか。スズカ? そんな情緒があったら苦労してないのである。

 

 案の定、スズカはめっちゃいい笑顔で振り返って小首を傾げる。

 

 

 

「好きにツッコんでいいですよ、お兄さん」

 

 

 

 

 くっ、この常識未搭載の頭サイレンススズカガールめ…。

 下ネタが似合わないウマ娘ランキング1位の称号を与えよう。

 

 

 

 

「なんでやねん…。絶対意味わかっとらんやろ、たわけ!」

「うそでしょ…!? お兄さんがタマモグルーヴに……」

 

 

 

 何その微妙にいそうな馬名。いやいないか。

 

 

 

「じゃあ、タマモオニイサンとかどうですか?」

 

 

 

 なんか微妙にいそうな気配がして嫌なんだけど…。

 とか思ってたら大喜利が始まってしまった。

 

 

 

「アドマイヤクロスとか…?」

「トウカイクロス?」

「グラス……タマモワンダーはどうでしょうか」

「ではヤマニンクロスで」

 

 

 

 結構冠名多いな!? そういえば全員冠名ありじゃん…。

 微妙にカッコイイ気がするあたり馬名の万能性が光る。スズカの出したタマモオニイサン以外。

 

 

 

 

「んじゃアタシは黄金聖衣(ゴールドクロス)な」

「それもう聖闘士(セイント)じゃねーか!?」

 

 

 

 

 聖闘士(セイント)ゴルシィィィ!

 デレレ~レレと謎のイントロが聞こえてきたような気がする。気のせいであってくれ。

 

 

 

「ゴルシちゃんは何度でも蘇るのだから……」

聖闘士(セイント)お兄さん……なんだか語呂が良いと思いませんか、お兄さん?」

 

 

 

 それ府中じゃなくて立川。

 電車で20分くらいは離れてるから。

 

 

 

 

 聖闘士お兄さァァァン! とスズカの声で叫ぶのが聞こえたような気がするが今度はまあ空耳だろう。

 

 ……いや待てよ。もしや頼めばあんな台詞やこんな台詞も言ってくれるのでは…?

 やばいな。言って欲しい台詞が多すぎる。

 

 

 だがあえて選ぶのなら―――。

 

 

 

 

 

「スズカ、ちょっと試しに『La victoire est à moi(調子に乗んな)!』って言ってみてくれないか……?」

 

「えぇ…? ら、ヴぃくとわーるえたもあ?」

 

 

 

 

「そうそう、良い感じ。今の感じでなめらかに」

La victoire est à moi(調子に乗んな)!」

 

 

 

「スズカさん…!」

「??? ……えっと、お兄さんが喜んでくれて良かったです…?」

 

 

 

「なんでフランス語で勝利宣言…? トレーナーも時々よくわかんないことするよねー」

 

 

 

 なんでテイオーは意味分かってるんですかねこの子…。

 

 

 

 

「満足したか? じゃあトレーナー、ちょいとウチのトレーナーから伝言なんだけどよー」

「えっ。何?」

 

 

 

 大事な話ならふざける前に言ってほしかったけど。

 なにはともあれ、ゴルシは大したことではなさそうに言った。

 

 

 

 

「アオハル杯のエキシビジョンマッチやろうぜー。スピカとリギル二号でよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「感謝ッ! アオハル杯の開催に向けて、エキシビジョンマッチを催したいのだが――――リギルとスピカが恐らく最も盛り上がると思われるからな! そして本戦と異なり好きなチームを編成することでまた違うチームの楽しみもできる!」

 

「申し訳ありませんが、現状チーム“ファースト”は実力も知名度も足りていませんのであなた方にお願いした次第です」

 

 

 

 

 そんなわけで沖野先輩と理事長室に呼ばれて向かうと、理事長と理事長代理(予定)が待っており説明を受けた次第。

 

 あと付け加えるならリギルは強すぎるのでおハナさんと俺で分かれて参加することになったのと。おハナさんのリギルαチームだと強すぎるので、人数が少なくていい感じにアオハル杯らしくなるβチームがエキシビジョンマッチに参加するということだろう。あとスズカの知名度もあるか。

 

 

 

 

「うちの奴らも盛り上がってますからね、喜んで協力させてもらいますよ」

「そうですね、ちょうどスピカにはライバルも多いので喜ぶと思います」

 

 

 

 

 スぺちゃんと走りたいグラスとか、マックイーンと走りたいテイオーとか。

 

 

 

 

「提案ッ! エキシビジョンマッチ故、特に縛りなくメンバーを集めてもらいたいッ! 無論、ドリームトロフィーリーグのメンバーの制限は変わらずだが」

 

「距離区分における重賞勝利なし、ですね」

 

 

 

 短距離、マイル、中距離、長距離、ダート。

 スズカであれば中距離と長距離のレースで重賞勝利しているので参加するのなら短距離、マイル、ダートのどれかになる。

 

 マイル出てないんだよねうちのサイレンススズカ。

 まあ中距離が一番バランスよく強いわけなんだけれども、それでも東京芝1800で斤量の軽いエルコンドルパサーを子ども扱いできるくらいの強さはある。軽くチートである。

 

 もちろんスズカを負けさせる気は毛頭ないのでセコいと言われようと俺はスズカをマイルで出すが。

 

 

 

 

「では、何か疑問点などありましたら私までお願いします」

 

 

 

 

 理事長はそのまま飛行機で出張とのことで。

 あわただしくもエキシビジョンマッチの準備は始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――と、言うわけでエキシビジョンマッチのレースはチームリギルβに決まりましたぁ! ちなみに相手はスピカな」

 

 

 

 いつぞやのファン感謝祭の案内役の外れくじを引いた沖野先輩っぽく言ってみた。

 

 

 

「へぇー、じゃあマックイーンと!?」

「いや多分マックイーンは長距離だと思うけど」

 

 

 

「僕なら長距離でもヨユーだってば」

「そういうのは三冠取ってから言ってくれ。レースに絶対はない。あのルドルフだってジャパンカップで負けてるんだからな」

 

 

「スぺちゃんは……中距離でしょうか?」

「まあスぺちゃんはチーム編成次第だろうな、中距離でも長距離でも強いし」

 

 

 

 

 逆にこっちは中距離にテイオーとアヤベは固定。

 ゼファーが短距離かマイル、グラスがマイルから長距離、スズカがマイルかダートだろう。

 

 

 

 

「とりあえず皆には、友達でも知り合いでもライバルでもいいからエキシビジョンマッチ限定のチームメイトを集めて欲しい。各距離条件とダートマイルで3人ずつ。特に短距離とダートはマジで足りないのでそのつもりで」

 

「お兄さん」

 

 

 

 スッと元気よく手を挙げてくれたのはスズカ。

 にこにこした笑顔は可愛いが多分走ることしか考えてない。

 

 

 

「なんだスズカ」

「私が全部走るのは…?」

 

 

 

「ダメ」

 

「(しゅん)」

 

 

 

 

 続いてテイオーが挙手。

 ワクワクしてるところ悪いが、流石にルドルフはまだ誘わないでほしい。

 

 

 

「チームメイトかぁ。ねぇねカイチョー誘ってもいい?」

「できれば止めてくれ……本番の楽しみがなくなる」

 

 

 

 

 ダメではない。ダメではないが、アオハル杯本番のドリームチーム感が薄れる。エキシビジョンマッチの方が凄かったなーというのはできれば避けたいのだ。

 

 

 

 

「……チーム、メイト…?」

 

 

 

 

 アヤベが友達いない哀しい獣みたいになってる…。

 いやカレンチャンがいるでしょ誘ってきてよ。

 

 

 

「………よい風が吹くと良いのですが……」

「風任せの勧誘…!?」

 

 

 

 

 ソシャゲのガチャより当たらなそう…。

 いや別の風キャラがいればひかれあうかもしれないが、残念ながらゼファーくらいだ今のところ。

 

 

 

「数合わせでしたら、エルを連れてきましょうか」

「数合わせにしては豪華すぎない? いやダート走れるし大歓迎だけど」

 

 

 

「ではエルは引きずってきますね。後は……タイキシャトル先輩でしょうか」

「ダートタイキシャトルは強い。リギルばっかだけどまあいいかな…?」

 

 

 

「はいっ、お兄さん!」

「どうしたスズカ」

 

 

 

 

 むむぅ、と役立ちたい感が出ているスズカだけどお前のコミュ能力壊滅してるの知ってるからな。これでスぺちゃんとか言ったらデコピンしてやろう。

 

 

 

 

「スマートファルコン先輩を呼びます」

「砂のサイレンススズカを」

 

 

 

「私の方が速いですよ…?」

「いや、来てくれるならマジでありがたいから頼んでみてくれ」

 

 

 

「…! 任せてください、お兄さんっ」

 

 

 

 

 止める間もなくニッコニコで走り出したスズカ。

 まさかの徒歩でスカウトに行った模様。

 

 なおグラスはメッセージアプリでエルコンを呼び出している。

 

 

 

 『エル、今すぐリギルの二番部室に来てくださいね』とのこと。

 いや文面怖いが? グラスにこれ送られたら何かやらかしたかと震えあがる自信がある。

 

 一方タイキシャトルには『タイキ先輩、アオハル杯のエキシビジョンマッチに参加していただけないでしょうか。詳しいお話をしたいので、ご都合良さそうな時間がありましたら教えてください』と。いや扱いの違い…。まあ先輩と同期だとこんなもんか……?

 

 

 

 

 

「テイオーは?」

「え。……………うーーん」

 

 

 

 

 そういえば原作の時点でテイオーってけっこう好き嫌い激しいんだっけか…。

 スピカの面々とカイチョー、デュアルジェット師匠とネイチャくらいしか誘えそうなメンバーがいない気がする。師匠とはまだイベント起きてないし実質ネイチャだけか。

 

 

 

 

 

「……ネイチャとか?」

「いてくれると助かる。まあ本人あんまりこういうの好きじゃなさそうだけど」

 

 

 

 

 現時点だと実績もないしかなり嫌がられそうな気はする。

 有マ記念で例の記録を打ち立てる頃には十分な知名度があるんだろうけれど。

 

 とりあえず、メンバーを集めなければ。

 スピカに勝てるくらい。……主人公勢に勝つのってどうすりゃいいのかな…。

 

 

 

 

 

 



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メンバー集め!

 

 

 

 

 

 

『――――とりあえず、理事長がエキシビジョンマッチの勝者に出してくれた報酬が「一カ月スイーツ優待券」な。後は応相談だとさ』

 

「スイーツ、スイーツ!」

 

 

 

 

 スペシャルウィークは歓喜した。必ずやかのスイーツ満漢全席な報酬を手に入れると誓った。のだが。

 

 脳裏に浮かぶのは有マ記念で圧倒的な強さを見せた―――最後まで届かなかった、憧れの背中。

 ドリームトロフィーリーグに行くまでもなくリベンジのチャンスが来たのは、もう一度一緒に走れるのはとても嬉しい。

 

 けれど勝つための作戦どころか勝てるビジョンすら浮かばないのが現実で。

 

 

 

 

「スズカさんに、テイオーさん、グラスちゃんも」

 

 

 

 

 強敵揃いのチームリギル。

 相手に不足が無いどころか、こちらがどれくらい足りないのか考えないといけない。

 

 

 

 

 

 

 そこで急いで友達にメッセージを送ってみたものの。

 出遅れが響いてエルちゃんは既にあっちのチーム。セイちゃんは『えー、ちょっと考えさせて?』とあんまり乗り気じゃなさそうで……キングちゃんはなんとか引き受けてくれたけれど。ツルちゃんはそもそも体調不良……。

 

 

 まだだめだ。

 私たちだけじゃ、きっと勝てない―――。

 

 

 

 

「どうしよう………誰か、頼れる人……」

 

 

 

 

 

 こういう時、同期以外と全然話していなかったことを実感してしまう。

 どうすればいいのか、そんな悩みを抱えたまま歩いていると。不意にそんな不安も振り切ってくれそうな朗らかな声が聞こえた。

 

 

 

「――――どうかしたの? そんならしくない顔しちゃって」

「ああっ――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――長距離ならメジロにお任せ下さいまし!」

「おう、このメジロゴルシちゃんにお任せ下さいまし!」

 

 

 

 

 ドン! と平たい胸を張ってマックイーンが宣言した。

 デデーン! と豊満な胸を張ってわざわざその横でゴルシが宣言した。

 

 沖野トレは頭を抱えた。

 

 

 

 

「ちょっとゴールドシップさん!? なんで名前を変えてるんですの!?」

「ええー、いいんじゃんかー。……ダッテ、ゴルシチャンもまっくいーんとオナジなまえにシテミタクッテ……」

 

 

 

 明らかに泣き真似だが。

 割とマックイーンはお人よしで騙されやすい体質であった。

 

 

 

「わ、わかりました……わかりましたから! ちょっと、泣き止んでくださいまし!」

「うっし、じゃあメジロゴルシちゃんとマックイーンと、あとは……パーマーでいいんじゃね?」

 

 

 

「パーマーなら不足はありませんわね。というわけで、いいですわねトレーナー」

「ああ、オッケーだ。これで長距離は問題ないが―――」

 

 

 

 

 やはりネックはダートと短距離か。

 ついでに中距離の層も厚くしないといけないので、ゴルシかパーマーを中距離に回すの検討する。“あの”サイレンススズカがマイルで出る以上は他の距離はなんとしても制しておきたい。

 

 長距離でマックイーンが後れを取るとしたらトレーナーの責任だと考える沖野は、中距離のエースにスペを置くとして――――適性からウオッカとスカーレットはマイル。

 他のトレーナーに頼むにしても流石におハナさんには借りられないだろうから、ここは――――。

 

 

 

 

 

 

「スイーツ優待券で釣れると思うんだが――――理事長に怒られるだろうなぁ」

 

 

 

 沖野はちょっと胃が痛い気分を味わいつつ、腐れ縁のトレーナーに電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「やっぱり頼むならタキオンさんかしら。すごく頼りになるし」

「やっぱ頼むならギム先輩だよなー。めちゃカッコイイし」

 

 

 

 

「――――やっぱりタキオンさんに決まってるわ!」

「いいや、ギム先輩だね!」

 

 

 

 

 誰に頼むか、ウオッカとスカーレットの意見は割れた――――が、結局のところ二人とも頼めばいいだけの話であり。

 

 割とウオッカとスカーレットに甘いところしかない二人があっさり引き受けたため、中距離はとりあえず暫定的にスペシャルウィーク、アグネスタキオン、タニノギムレットに決まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――――ということは、短距離とマイル、そしてダートですわね!」

 

 

 

 メッセージアプリのグループ機能を使用して、今現在の集まり具合を確認すると暫定で

 

 短距離:キングヘイロー

 マイル:ダイワスカーレット、ウオッカ

 中距離:スペシャルウィーク、アグネスタキオン、タニノギムレット

 長距離:メジロマックイーン、ゴールドシップ、メジロパーマー

 ダート:■■■■■■■、■■■■■■■、

 

 

 

 ということになる。

 

 

 

「とはいえ、メジロは天皇賞制覇を掲げて邁進してきた長距離の家柄―――正直、ドーベルがマイルを走れるくらいでしょうか」

「オッケー、ドーベルに送っとく?」

 

 

 

「……問題は、マイルの相手があのスズカさんということですが」

「あー……最低限勝ち目を作るなら、こっちも爆逃げしないとだよね」

 

 

 

 自由に走らせたら圧勝されるのは恐ろしいことにBCクラシックが証明してしまっている。ということは――――!

 

 

 

 

「ズッ友!」

「ヘリオスさんならマイルも走れそうですわね!」

 

 

 

「すぐ送ってみる!」

 

 

 

 

 そして、数秒後。

 

 

 

 

 

「えっ、『マジごめんお嬢ラブで先約しちゃった』って」

「――――…先手を打たれましたわ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 

 

 

 

 

「――――…おや」

「………」

 

 

 

 

 風の向くまま、ふらふらと歩いていたゼファーが出会ったのは丁度練習後のクールダウンをしていたダイイチルビー。

 秋華賞を終えて、短距離への転向を表明した彼女から感じる“風”。それに好ましいものを感じていたゼファーは徐に声を掛けた。

 

 

 

「――――こんにちは」

「……こんにちは」

 

 

 

「その疾風の如き爽やかな風、お貸しいただけないでしょうか」

「…………」

 

 

 

 瞑目して意味を考えるダイイチルビーに、ゼファーはそういえば「勧誘したい相手がいたらこれを渡せ」とトレーナーに言われていたことを思い出して、紙を手渡した。

 

 

 

「『ファン感謝祭におけるアオハル杯エキシビジョンマッチ協力のお願い』、ですか」

「はい」

 

 

 

「『チームリギルBチームとしての参加』………トレーナー」

「当日の予定は問題ないよ」

 

 

 

 宣伝としても、レース界隈への貢献としても。

 ルビー個人としてもダイイチ家としても大いにメリットがある。現在世界最強と言っていいサイレンススズカと距離は違えど同じチームになることも、ハイレベルなレースに参加できることも、注目を集めるだろうことも。

 

 それを察していたトレーナーは既にスケジュール帳を取り出して予定を確認していた。もう執事か何かじゃなかろうかこのトレーナー。

 

 

 

 

「承知いたしました。ダイイチルビー、お引き受けいたします」

「それはなんとも恵風ですね。ありがとうございます」

 

 

 

「――――ちょっと待ったぁ! お嬢、何かイベント参加するの!?」

「………まぁ」

 

 

 

「ウチも! ウチも参加する!」

「…………とのことですが」

「これは……次々と順風が巡るように―――――」

 

 

 

 

「つまりそれはオッケーってコト!? だよね!」

「―――――はい」

 

 

 

「やっっったぁーー! お嬢と同じチームとかまじアガる!」

「………では、次の予定がありますので私たちはこれで。何かチーム関係の予定がありましたら連絡をお願い致します」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「ってお嬢いないー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……カフェさん? これコーヒーに合いそうなお菓子持ってきたんだけど……」

「………はぁ。今度は何の用ですか」

 

 

 

 

 マンハッタンカフェがアグネスタキオンと半分ずつ使っている部屋――――いつもの如く足を運ぶと、前ほど刺々しくはないものの不機嫌そうなカフェに出迎えられる。

 ついでに「お友だち」にも中指立てられてるし…。

 

 

 

「いやその……アオハル杯のエキシビジョンマッチでさ。長距離走れる子を思い浮かべたらカフェが一番に思いついたというか……他にいないというか」

「………一人くらいはいるのでは?」

 

 

 

 うん、まあ完全にいないわけでもないけども。

 

 

 

「………えーと、俺の知り合いに頼んでライスシャワーを呼んでもらおうかなとは思ってるけど。でも俺が頼むならやっぱりカフェかなって」

 

「………………」

 

 

 

 

 すごいなんとも言えない趣深い表情で黙り込んでしまったカフェをじっと見つめていると、不意に顔を逸らされた。

 

 

 

 

「………あまり見つめないで欲しいのですが」

「えっ、ごめん」

 

 

 

 

 とりあえず考えてくれてはいるみたいなので、「お友だち」が淹れてくれたコーヒーで一服。

 

 

 

「………最近は、学内の霊障も収まってきたようですね」

「カフェと『お友だち』のお陰だよ」

 

 

 

「………まあ、どこからともなく困りごとを集めてくる人もいましたからね」

「……―――俺か!? いえすみませんいつもありがとうございます」

 

 

 

 そんな人をトラブルメーカーみたいに……いやまあアヤベを筆頭にちょっと史実再現に霊障みたいなテイストが入ってる時は全面的にカフェに力を借りてたから間違いないんだけれども。

 

 

 

 

「……そうですね。いつも、眩しいくらいに走り回って………」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、私は―――――そんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあカフェ! 少しいいかな、アオハル杯のエキシビジョンマッチが――――おや」

 

 

 

 

 

 急に入ってきたタキオンは俺の顔を見て、表情が消えているカフェの顔を見て、それからもう一度俺の顔を見て言った。

 

 

 

 

「ふむ。お取込み中のようだね――――」

「……決めました、とりあえずタキオンさんのチームには負けてもらおうと思います」

 

 

 

 

 

 カフェの目に青い焔が見えた気がした。

 なおこういう時いつもタキオンを締めてた「お友だち」も何故か今回ばかりは隅っこで小さくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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メンバー集め!! / ファン感謝祭

 

 

 

 

 

「――――お兄さま、ライスちゃんをエキシビジョンマッチに誘いたいんだけど」

「…………一応聞いておきたいんだけど、理由は?」

 

 

 

 

 というわけでお兄さまに相談に来た。

 背はやや低めであるが、優し気な顔立ちと意外な芯の強さを持った好青年。普通に生徒人気が上位にくるだろう草食系イケメンがお兄さまである。

 

 ちなみに俺がお兄さま呼びするのは最初クソほど嫌がられたがもう諦めの境地である。人が良すぎる。

 

 

 

「ライスシャワーの可愛さを全面に押し出して知名度を上げ、ファンを増やして勝った時にとやかく言われないようにする」

「………うーん、でもライスが嫌がりそうなんだよなぁ」

 

 

 

 お前そんなこと言ってると菊花賞でブーイング喰らってライスが泣くぞ。と言ってやりたいが介入しないとなんとなく原作寄りになってしまう修正力的なものはあるのでその影響だろうか。

 

 

 

「例えばだけど、何も知らない他人に何か悪い事をされたと思ったら、嫌な気持ちになるだろ?」

「……いや事情を調べるけど」

 

 

 

 

 チィ、このスパダリ系お兄さまめ。

 

 

 

 

「普通の人はなるだろ?」

「まあ確かに」

 

 

 

「でも、例えば俺の場合基本的にスズカに何されても笑って許せる。お前もライスちゃんに何されてもまあ怒らないだろ?」

 

「……まあ、ライスが悪意をもって何かしないだろうし」

 

 

 

 

「それを広く知ってもらうことがライスちゃんの不幸を防ぐ、というか誤解を防げると思わないか?」

「………思う」

 

 

 

「じゃあエキシビジョンマッチ誘っていいな?」

「……まあ、誘うのは良いけど」

 

 

 

 

 よし、落ちたな。

 で、問題はあのライスシャワーをどうやって誘うかなんだけど。

 

 ちょうどいいタイミングでにっこにこのライスシャワーが戻ってきた。パタパタとちょっと大げさに手を振るのが可愛い。

 

 

 

 

「……ただいま、お兄さま! あれ、貴方は……えっと、スズカさんのトレーナーさん…?」

「そうそう。ちょっとエキシビジョンマッチに誘いに来たんだけどさ。お兄さまに誘う許可は貰ったから長距離レースに出て?」

 

「いや決めるのはライスだからね?」

 

 

 

 

 いやまあそんなに気にしなくても意外と頑固だからライスはそうそう流されないと思うぞ。今だってめちゃ動揺してそうに見えてちゃんと考えてそうだし。

 

 

 

 

「えっと、エキシビジョンマッチって誰が走るんですか…?」

「とりあえずうちのチームはまだカフェしか決まってない。相手は多分メジロマックイーンはほぼ確定で、あとはメジロパーマーとゴールドシップとセイウンスカイのうちの二人かな」

 

 

「何その面子」

 

 

 

 

 思わず顔を引きつらせるお兄さま。

 ライスは「ふぇぇ」とか言ってるけど委縮してるだけでライスシャワーならいい勝負にはなるだろうに。

 

 

 

 

 

 

「ええっと、その、ライスにはちょっと……」

「ちなみに勝ったチームには一カ月スイーツ優待券がもらえる」

 

 

 

「……スイーツ優待券…!?」

 

 

 

 途端に耳がぴこぴこと動くライス。いや大食いだもんね君も…。

 

 

 

 

「あとまあ、なんだろうな。トレーナーとしてはこう、凄い強敵に打ち勝つウマ娘を見るとこう……キュンと来るというか」

「……え?」

 

 

 

 ピクリ、と耳が動く。

 僅かでも聞き逃すまいとこちらに向いた耳がライスの引き込まれ具合を物語っていた。

 というわけでウマ娘の聴力なら聞こえるだろう小声でつぶやく。

 

 

 

「担当ウマ娘が歴史的な勝利をした時とか、思わず抱きしめちゃったりとか……俺なんて勢い余ってキスしちゃったし……」

「そ、そんな………じゃあ、お兄さまも……?」

 

 

 

 

 

「お兄さまは……ライスがマックイーンさんに勝てたら、嬉しい…?」

「え? 当たり前だろ、僕がライスの一番のファンなんだから―――」

 

 

 

 

 

 

 流れを向けてやればお兄さまはほら、クソボケだから…。

 完全に殺ル気スイッチの入ったライスは、決然とした表情と共に言った。

 

 

 

 

 

「――――ライス、出ます。エキシビジョンマッチに。……勝ちます、マックイーンさんに!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

(――――困ったわね)

 

 

 

 

 

 アドマイヤベガは布団乾燥機を動かしながら悩んでいた。

 ゴウンゴウンと音を立てるそれは、ふわふわを生み出す魔法の機械だがさすがに悩みそのものを取り払ってはくれない。だいぶ現実逃避はさせてくれるが。

 

 

 

 

(オペラオー……はちょっと。結局リギルになってしまうし、トップロードさんなら……いえ、でも私が誘っても……)

 

 

『ねぇねぇ、おねーちゃん。私もふわふわしたいなー?』

 

 

 

 

 声を掛けてきたのは背後霊―――もとい、妹の亡霊。

 カフェさんと、「お友だち」さんのお陰もあり「お友だち」同様の背後霊になった妹は、時折相性バッチリなアヤベの身体を借りて好き放題していた(許可がないと動かせないが、一度借りればちょっぴり強引に何かするくらいはできる)。で、基本妹には甘々のアヤベもなんやかんや許している現状があり。

 

 

 

 

「えっ。……いいわよ、じゃあ少し代わるわね」

 

 

 

 

 で。ふわふわを感じたいなら仕方ないわね、とちょっとポンコツなお姉ちゃんに心配になりつつも妹ちゃんは即座に振り返ってルームメイトのカレンチャンに話しかけた。

 

 

 

 

「ねぇねぇカレンおねーちゃん! アオハル杯のエキシビジョンマッチに出てほしいの!」

「――――うん、お姉ちゃんに任せてっ♡」

 

 

 

 ボス気質―――逆説的に、目下から素直に頼られると引き受けたくて仕方ないカレンチャンは即座に頷いた。

 甘えてくるアヤベさん(見た目)の妹ちゃん(中身)はけっこう反則だった。

 

 

 

 

 

(ちょっと私の口で何を―――!?)

 

 

 

 

 

 即座にSNSで宣伝し始めたカレンチャンはもう止められない。

 諦めの境地に入った姉を放置して、スマホを操作した妹はそのまま姉の友人(たぶん姉はなんやかんや自分を卑下して素直には認めないが)に電話を掛けた。

 

 

 

「もしもーし!」

「え、アヤベさん? どうかしたんですか?」

 

 

 

「アオハル杯のエキシビジョンマッチのメンバーを集めているのだけれど……参加してもらえないかしら(せいいっぱいの姉っぽい声)」

 

「――――任せてくださいっ! ……ところで、それって何をすれば…?」

 

 

 

「長距離レースで走ってもらいたいの」

「………なるほど! 走ればいいんですね! 任せてくださいっ」

 

 

 

 

「おねーちゃん、いいって!」

「え?」

 

 

 

 

(ちょっと!? 代わって!)

(えー、もうー?)

 

 

 

 

「……えっと、とりあえずその……レース、お願い……」

「――――はいっ」

 

 

 

 

 元気よく答えてくれたトップロードにとりあえずホッと一息。

 アヤベは言いにくかったことを言ってくれた妹に感謝しつつも破天荒ぶりと自分の身体でやらかしてくれたことへの羞恥にちょっぴり頭を抱えたくなった。

 

 

 

 

(……もうっ、この子ったら……)

(おねーちゃん素直じゃないんだから)

 

 

 

 

((仕方ないなぁ……))

 

 

 

 

 そして奇しくも二人とも似たようなことを考えているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「――――皆、今回はアオハル杯エキシビジョンマッチのために集まってくれてありがとう。エキシビジョンマッチだから盛り上げることが目的で、必ずしも勝つ必要はない。けど、間違いなく勝ちに行ける最高のメンバーが集まってると思う」

 

 

 

 エキシビジョンマッチ。

 トゥインクルシリーズ、ドリームトロフィーリーグ関わらずレースのファンの心をわしづかみにするためのお祭り。

 

 ファン感謝祭の締めに行われることも決まっており、レース場の都合でそれぞれ別の場所で戦うことになってはしまうが――――幸い、それぞれのトレーナーも来てくれている。

 

 勝てるのか、という不安がないでもない。

 しかしお祭りである以上は楽しむこと――――そして、この子たちなら間違いなく勝てると信じてあげることだろう。

 

 そんなわけで2チームほど画面越しにはなってしまうが、顔を合わせ、声を合わせて心を合わせる。

 

 

 

 

 

「絶対勝つぞ!」

「『「『「オオォーーーッ!」』」』」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ、いよいよ始まります春のファン感謝祭を締めくくるアオハル杯エキシビジョンマッチ! 今回はサイレンススズカを筆頭とするチーム“リギルβ”と、スペシャルウィークを筆頭とするチーム“スピカ”を中心に自由なメンバーで行われます!』

 

『レース順はくじ引きにて決定され―――今回は東京ダート1600レースから!』

 

 

 

 

 

『――――あのサイレンススズカのトレーナーが認めた“砂のサイレンススズカ”! 圧倒的な逃げを武器にこのエキシビジョンマッチでも逃げ切ってしまうのか!? スマートファルコン!』

 

「さ、最強ウマドル―――! スマートファルコンですっ!」

 

 

 

 

 会場内に流れた「あっ、ダートかぁ」というちょっと弛緩した空気にぶち込まれる爆弾。さすがのファル子もちょっと固まるレベルの異様な空気と歓声が上がる中、続けて登場する緑と星の勝負服に更に歓声が高まる。

 

 

 

 

「イェーイ! 最強マイラーのタイキシャトル、デース!」

『続けて登場したのはドリームトロフィーリーグ移籍後初の登場となりますタイキシャトル! 芝でも海外でも、不良バ場でも、あらゆる条件で勝利してきた最強マイラーです!』

 

 

 

 

 

『そしてチームリギルの最終メンバーは――――本家チームリギルαより参戦! 海外挑戦を表明している怪鳥! エルコンドルパサー!』

「世界最強! エルコンドルパサー、デース!」

 

 

 

 

 

 

「―――もしかするとこのアオハル杯、不人気のダートに活気を取り戻す狙いがあるのかもしれない」

「どうした急に」

 

 

「もちろん急に人気になるのは難しい。だが、こうしてスターウマ娘たちが走るのを見れば」

「否が応でも注目してしまうってわけだな」

 

 

 

「うぅ……マックイーンさん……」

「テイオーさんまだかなぁ」

 

 

「ズルいよキタちゃん……」

「だってこっちの方が近かったんだしいいでしょダイヤちゃん」

 

 

 

 

 なんだかレース場が分かれてるせいで涙を呑んでいる将来のスターウマ娘がいる気がするがあんまり気にしないでおこう。一応モニターでライブ中継はするし。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――そしてチームスピカの特別メンバーを紹介しましょう』

 

 

 

 

「―――ハァーィ! ダートでも関係なんてナシナシ! かっ飛ばすわよ!」

『なんと“スーパーカー”マルゼンスキー“が参戦! まさかのチームリギル同士の対面になりましたがこういった光景もアオハル杯ならではと言っていいでしょう!』

 

 

『そしてサイレンススズカが時折ゲスト参戦するウマドルユニット“逃げ切りシスターズ”同士の対面でもあります。リーダーのスマートファルコンは果たして逃げ切れるのでしょうか』

 

 

 

 

 

 なんかファル子いじられてない? 緊張してそうだからか。

 割と固くなって「しゃい☆」してるのもちょっと気になるところだが、ファン一号が駆け寄ってるので多分なんとかしてくれるだろう。

 

 

 

 

 

「そして二人目、高知での活躍も音に聞こえたハルウララが参戦です!」

「わ~い、すっごーい! みんなー、がんばるねー!」

 

 

 

 

 

 

 

――――なんでウララ!?

 

 

 

 いやお前ちょっとそれは流石に……と思ったが、単純にメンバーが集まらなかったのだろう。沖野先輩めっちゃ目逸らしてるし。

 幸いというか、普通に人気があるのでアイドル枠としては失敗しなさそう。呼ぶだけで盛り上げる目的は達したと言えるかもしれない。

 

 

 

 

 

『――――そして、今回は満を持してあのウマ娘も登場です! 32戦22勝、GⅠを4勝――――鮮烈な記憶を残す奇跡の引退レース。笠松レース場から飛び立ち、中央を沸かせた“葦毛の怪物”! オグリキャップ!』

 

「……みんな、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、お前っ………クリスマスオグリはルールで反則だろぉぉぉ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ファン感謝祭掲示板(第1R前)





本日たぶん2話目の投稿です






おまけ掲示板回







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【開幕】アオハル杯エキシビジョンマッチを応援するスレ【熱戦】

 

 

1:名無しのファン

ここはファン感謝祭にて開催されるアオハル杯エキシビジョンマッチを応援するスレです。

特定のウマ娘だけを応援したい場合は別スレ推奨です

 

 

2:名無しのファン

1乙

 

3:名無しのファン

たすかる

 

4:名無しのファン

あのサイレンススズカが出るってだけでもう楽しみが止まらん

 

 

5:名無しのファン

産休育休されても驚かないからな…。どっかのタマみたいに

何レース見れるか分からん。

 

 

6:名無しのファン

最初のレースはダート!

 

 

7:名無しのファン

東京1600かー

 

 

8:名無しのファン

一応、応援の都合上 短距離が中山でマイル・中距離・ダートが東京、長距離が京都ってのは出てるからな

 

 

9:名無しのファン

ダートレースか。今のうちに風呂行ってくる

 

 

10:名無しのファン

スズカさんVSスぺちゃんVSグラスちゃんまた見たい…。

 

 

11:名無しのファン

実際誰が出るんだろうな。リギルの面々?

 

 

12:名無しのファン

スピカも最近快進撃してるからなー

 

 

13:名無しのファン

サイレンススズカに勝つなら皇帝とか連れて来ようぜ

 

 

14:名無しのファン

皇帝、女帝、怪物でどうだろうか

 

 

15:名無しのファン

ダートと言えば……誰?

 

 

16:名無しのファン

やはりサイレンススズカか…?

 

 

17:名無しのファン

いやスズカさんダートで使うのもったいなさすぎでは?

 

 

18:名無しのファン

ダートの有名ウマ娘とか知らん

 

 

19:名無しのファン

なんであんなにダートって不人気なんじゃろ

 

 

20:名無しのファン

ドリームトロフィーリーグの出走制限で重賞勝ちしてる条件だと出られないんでしょ?

じゃあスズカさんは短距離かマイルかダートしかない。(一応今回のダートマイルとスズカさんが勝ったBCクラシックのダート中距離は別らしい)

 

 

21:名無しのファン

ダートの皇帝とか面白そうだけどな

 

 

22:名無しのファン

砂浜を走る水着スズカさんとか見たい

 

 

23:名無しのファン

ダートの似合う女ブライアン

 

 

24:名無しのファン

ダートならマルゼンスキーだろあの叡智ビキニ

 

 

25:名無しのファン

水着スぺちゃんは…?

あの絶妙にあか抜けない感じが可愛い

 

 

26:名無しのファン

なんで既婚者の水着が要望されてるんだ…。

 

 

27:名無しのファン

ダートが似合うなら水着が見れるという風潮…?

 

 

28:名無しのファン

ダートでもカワイイカレンチャン!

 

 

29:名無しのファン

ダートマックイーン………

 

 

30:名無しのファン

既婚者ってもスズカさん幼妻みたいなもんだし……

 

 

31:名無しのファン

まあダートならお通しみたいなもんだよな

 

 

32:名無しのファン

マイルはまだかー! 中距離はまだかー!

 

 

33:名無しのファン

お兄さんがスズカさんの水着を俺らに公開すると思うか? それが答えだ。

 

 

34:名無しのファン

スマートファルコン……って誰!?

 

 

35:名無しのファン

でたー! ウマドルだー!?

 

 

36:名無しのファン

どういうことだ…。

 

 

37:名無しのファン

サイレンススズカのトレーナーが認めた砂のサイレンススズカ!

 

 

38:名無しのファン

砂のサイレンススズカ!?

 

 

39:名無しのファン

いや、ちょっと、待って

 

 

40:名無しのファン

お前ら知らんのか

 

 

41:名無しのファン

逃げシス知らんのはスズカさんファンの中でももぐりよ…。

 

 

42:名無しのファン

二つ名がいかつすぎる

 

 

43:名無しのファン

知らんのか、伝説のウマドルユニット逃げ切りシスターズを!

 

 

44:名無しのファン

センターはサイレンススズカ

 

 

45:名無しのファン

毎回いる特別ゲストのセンター…。

 

 

46:名無しのファン

しゃい☆

 

47:名無しのファン

なんだ今の

 

48:名無しのファン

伝説って?

 

 

49:名無しのファン

ちくわ大明神

 

50:名無しのファン

ああ!

 

51:名無しのファン

どうした急に

 

52:名無しのファン

ああ!

 

53:名無しのファン

ああ!

 

54:名無しのファン

誰だ今の!?

 

55:名無しのファン

タイキきたぁぁあ!?

 

 

56:名無しのファン

スマートファルコン強いのか?

 

 

57:名無しのファン

お兄さんにサイレンススズカ認定された…ってこと!?

 

 

58:名無しのファン

うおおおタイキシャトル来た! これで勝つる!

 

 

59:名無しのファン

勝ちに来たなお兄さん…。

 

60:名無しのファン

スマートファルコンは強いぞ。マジでサイレンススズカ味を感じる

あそこまで条件不問で理不尽じゃないけど

 

 

61:名無しのファン

マイル最強! タイキシャトル最強!

 

 

62:名無しのファン

(たぶん)ダートでも余裕のタイキシャトル!

 

 

63:名無しのファン

うおおスマートファルコンの映像見つからねぇ! 誰か貼って!

 

 

64:名無しのファン

リギル本気出してきたな。やっぱスピカには負けられないか

 

 

65:名無しのファン

タイキの零れ落ちそうなアレがふつくしい

 

 

66:名無しのファン

逃げシスのラブソング歌ってるスズカさんは可愛いぞ。特定のタイミングでめっちゃ特定の場所見てるけど

 

 

67:名無しのファン

エェェルコンドルパサァアアァ!

 

 

68:名無しのファン

エルコン!? ダートで!?

 

 

69:名無しのファン

いやあのエルコンをダート!?

 

 

70:名無しのファン

エルコンきたあああ!?

 

 

71:名無しのファン

アイェエエ!? エルコン!? エルコンナンデ!?

 

 

72:名無しのファン

砂のサイレンススズカは知らんけどタイキがいれば勝てるじゃろ

 

 

73:名無しのファン

エルコンはスズカさんと一緒に出すとか中距離でスぺちゃんにぶつけるんじゃないの!?

 

 

74:名無しのファン

【悲報?】ダービーでスぺちゃんと死闘を繰り広げたエルコン、まさかのダート

 

 

75:名無しのファン

欧州の重い芝はダート適性が―って言われてるし海外挑戦の踏み台とか?

 

 

76:名無しのファン

世界!

 

77:名無しのファン

最強!

 

 

78:名無しのファン

エル

 

 

79:名無しのファン

コンドル

 

80:名無しのファン

ちくわ

 

 

81:名無しのファン

コンドル

 

 

82:名無しのファン

大明神

 

 

83:名無しのファン

パサー!

 

84:名無しのファン

なんだ今の

 

 

85:名無しのファン

天丼かよぉぉぉ!

 

 

86:名無しのファン

チームリギルβ

東京1600ダート

スマートファルコン(逃げ)

タイキシャトル(逃げ・先行)

エルコンドルパサー(先行・差し)

 

 

87:名無しのファン

最強ウマドル、最強マイラー、現役国内最強か…。

 

 

88:名無しのファン

これは勝ったな(確信)

風呂入って……来れるわけねぇだろ!? なにこのドリームレース!?

 

 

89:名無しのファン

ダートだから風呂行くって言ってる奴いたが損してるな

 

 

90:名無しのファン

前目に三人集めてるのかこれ?

 

 

91:名無しのファン

砂のサイレンススズカと、対サイレンススズカの二人ってコト!?

 

 

92:名無しのファン

これはマジで勝ちにきてる編成

 

 

93:名無しのファン

いやこれスピカ終わったな

 

 

94:名無しのファン

スピカってダートいたっけ?

 

 

95:名無しのファン

同じチームでもエルコンとタイキの勝負とか見た過ぎるんだよなぁ

 

 

96:名無しのファン

マイル最強決定戦か

 

 

97:名無しのファン

まあダートだけど

 

 

98:名無しのファン

マルゼンスキー!?

 

 

99:名無しのファン

マルおね!?

 

100:名無しのファン

おま、リギルじゃろ!?

 

 

101:名無しのファン

そうきたかー

 

102:名無しのファン

アオハル杯やべぇ…。

 

 

103:名無しのファン

マルゼンだぁあああ!?

 

 

104:名無しのファン

現役の時ロクなレースに参加できなかったマルおね!?

 

 

105:名無しのファン

マルおねきちゃあああ!?

 

 

106:名無しのファン

マルゼンスキーVSタイキシャトル!?

 

 

107:名無しのファン

ドリームトロフィーリーグでありそうで無いレース!

 

 

108:名無しのファン

リギル最強決定戦じゃねーか!

 

 

109:名無しのファン

よくやったリギル!

 

 

110:名無しのファン

チームスピカの一人目はマルゼンスキー!

 

 

111:名無しのファン

怪物だああああ!?

 

 

112:名無しのファン

これだけでお金払っていいレベル

 

 

113:名無しのファン

普段はリギル同士の対決しないからな

 

 

114:名無しのファン

誰にも追いつけない怪物VS最強マイラーVS現役最強

 

 

115:名無しのファン

熱い……熱すぎる

 

 

116:名無しのファン

ウララちゃん!?

 

 

117:名無しのファン

なんでウララちゃんがここに!?

 

 

118:名無しのファン

自力で脱出を!?

 

 

119:名無しのファン

ウララちゃんは別だ(無言の腹パン)

 

 

120:名無しのファン

お、おう

 

121:名無しのファン

ウララちゃんは可愛いがしかし何故?

 

 

122:名無しのファン

可愛いは正義

 

123:名無しのファン

いやまあ見たいか見たくないかで言えば見たいが…

 

 

124:名無しのファン

どれだけ差が開くのでしょうか(絶望)

 

 

125:名無しのファン

頑張ってゴールまで走るウララちゃんプライスレス

 

 

126:名無しのファン

お前らゴールしたらちゃんと歓声送ってやれよ……

 

 

127:名無しのファン

言われずとも!

 

 

128:名無しのファン

この試合は早くも終了ですね(諦観)

 

 

129:名無しのファン

スピカはさぁ…

 

 

130:名無しのファン

天 を 仰 ぐ 見 事 な 棒 立 ち

 

 

131:名無しのファン

やめやめろ!

 

132:名無しのファン

スピカ問題児しかいない説

 

 

133:名無しのファン

ぐわああ黒歴史ぃぃぃ!

 

 

134:名無しのファン

いや笠松音頭を踊った伝説のウマ娘もいるし…。

 

 

135:名無しのファン

オグリと一緒にしないであげろw

 

 

136:名無しのファン

レジェンドウマ娘やぞ

 

 

137:名無しのファン

まあリギルに対抗できる面子なんてそうはいないからな。

ここはタイキとエルコン、そしてマルゼンのリギル最強争いを見ようぜ

 

 

138:名無しのファン

ウララちゃんの次だしキングとか?

 

 

139:名無しのファン

次誰? スピカだし色物?

 

 

140:名無しのファン

オグリ!?

 

141:名無しのファン

オグリだあああ!?

 

 

142:名無しのファン

右手を挙げたオグリキャップ!

 

 

143:名無しのファン

は?

 

144:名無しのファン

オグリィィィ!?

 

145:名無しのファン

なんでオグリ!?

 

 

146:名無しのファン

うおおおおおおオグリキャップぅ!?

 

 

147:名無しのファン

オグリーーー!?

 

 

148:名無しのファン

何か出たぁぁああ!?

 

 

149:名無しのファン

笠松音頭はフラグ!?

 

150:名無しのファン

は? なして? なしてオグリ!?

 

 

151:名無しのファン

マイル・中距離・長距離勝ってるけど笠松でしかダート出てないから走れるのか

 

 

152:名無しのファン

うわああああやべええええ!?

 

 

153:名無しのファン

超ヤベーイ!

 

154:名無しのファン

オグリ! オグリ!

 

 

155:名無しのファン

なんかレース前からオグリコール起きてるんだけど?

 

 

156:名無しのファン

どういうことなの……ちょっと待って俺も現地行きたい

 

 

157:名無しのファン

うわあああ画面に一人ずつしか映らないよおおおお!?

 

 

158:名無しのファン

ガチガチのスマートファルコン、トレーナーが駆け寄る

 

 

159:名無しのファン

オグリ! オグリ!

 

 

160:名無しのファン

ウララちゃんは可愛いですね……。

 

 

161:名無しのファン

マルおね好きだあああ!

 

 

162:名無しのファン

タイキのアピールかっこよ

 

 

163:名無しのファン

腕組み仁王立ちエルコン強そう

 

 

164:名無しのファン

チームスピカ

東京ダート1600

マルゼンスキー(逃げ)

ハルウララ(差し?)

オグリキャップ(先行・差し)

 

 

165:名無しのファン

ナウでヤングなポーズを決めていくマルおね

 

 

166:名無しのファン

高等部とは…?

 

 

167:名無しのファン

スズカさんと同じ高等部の謎

 

 

168:名無しのファン

スズカさん一応引退してるから(震え声)

 

 

169:名無しのファン

ウララちゃん楽しそう可愛い

 

 

170:名無しのファン

スズカさんをJK幼妻とか言うなよ!

 

 

171:名無しのファン

うおおおこの自然体、オグリが帰ってきた……

 

 

172:名無しのファン

いや偶にドリームトロフィーリーグ走ってるじゃん

 

 

173:名無しのファン

オグリ―! ええいもっとオグリを映せ!

 

 

174:名無しのファン

よく見ろ勝負服だ

 

 

175:名無しのファン

ってこれ有マの勝負服だー!?

 

 

176:名無しのファン

え? なに、マジでこの面子で走るの?

 

 

177:名無しのファン

ダートでこの面子は史上初では?

 

 

178:名無しのファン

最強マイラーにしてドバイ、凱旋門ウィークも制したタイキシャトル

NHKマイル、ジャパンカップを制した国内現役最強エルコンドルパサー

 

かつて制度上の問題で多くのレースに出走できなかった怪物マルゼンスキー

笠松から中央を席巻し、伝説の有マ記念で誰もが認めた最強アイドルウマ娘オグリキャップ

 

え、マジでやるの? 無料で?

 

 

179:名無しのファン

アオハル杯やばいな

 

 

180:名無しのファン

ドリームトロフィーリーグの面々は初回だけの制限取っ払ってくれないかな…。

 

 

181:名無しのファン

夢のレースじゃねぇか!

 

 

182:名無しのファン

待って、これ誰が勝つの?

 

 

183:名無しのファン

うわああやめろ急にライブ席のためのファン投票始めるな!?

 

 

184:名無しのファン

当てたらいい席で見れるゾ☆

いや無理でしょ

 

 

185:名無しのファン

※オンライン配信は回線の都合上、投票正答者を優先いたします

 

 

186:名無しのファン

あああああ!?

 

 

187:名無しのファン

クソが! 府中まで走っていく!

 

 

188:名無しのファン

誰!? 誰が勝つの!? マイルだしタイキ!?

 

 

189:名無しのファン

うおおおオグリしか勝たん!

 

 

190:名無しのファン

ウララちゃんの順位しか分からんが?

 

 

191:名無しのファン

ちょっと待て砂のサイレンススズカって結局強いの?

 

 

192:名無しのファン

分からんがとりあえずオグリ安定なんだよおお!

 

 

193:名無しのファン

知らんのか、マイルのオグリは不敗だ

 

 

194:名無しのファン

マルゼン舐めんな、マルおねが負けるかあああ!

 

 

195:名無しのファン

エルコン頑張れお前ならできる!

 

 

196:名無しのファン

まるで分らんぞ……。

 

 

197:名無しのファン

オグリ! オグリ!

 

 

198:名無しのファン

お前ら落ち着け、プレミアムチケット買えば一応見れるぞ

 

 

199:名無しのファン

だって正答チケットの推し専用カメラみたいのおおお!

 

 

200:名無しのファン

面白くなってきたぜ…!

 

 

 

 

 

 



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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第1R)












本日3話目くらいの投稿です。




お気を付けください(B70)










 

 

 

 

 

 

『さあ一番人気になったのはオグリキャップ! 笠松以来のダートでその圧倒的なまでの強さを見せつけられるのか注目です!』

『先行策か、はたまた後方からかも注目ですね』

 

 

 

『二番人気はタイキシャトル! 最強マイラー、現役での敗北は二着一回のみという圧倒的な強さですがダート初出走が不安視されているのでしょうか』

『しかしながらその強さと、海外の芝をものともしない適応力は間違いありません。この子も注目のウマ娘ですよ』

 

 

 

『三番人気はマルゼンスキー! “怪物”の異名を取る圧倒的なスピードと加速を今日も見せつけられるのか!?』

『チームリギル同士の対決にも注目ですね』

 

 

 

 

 

 

 歓声が聞こえる。

 ダートではこれほどにはならないだろう、と思ってしまう地鳴りのような歓声。ここで勝てれば、良いレースができれば、あるいはダートに少しでも注目してもらえるのだろうか――――。

 

 

 

 

 

(………マルゼンさん、タイキシャトルさん、エルコンドルパサーちゃん………オグリキャップさん、皆、私よりずっとずっと凄い)

 

 

 

 

 

 アイドルの力がファンの数だとするのなら、オグリ先輩の圧勝だろう。迫れるのはハルウララさんくらいか。

 けれどファンで及ばずともマルゼンスキーも、タイキシャトルも、エルコンドルパサーも、芝で圧倒的な実力を誇り、人気を得ている。

 

 ここで場違いなのは、むしろ普段ダートで走っている私の方だった。

 

 

 

 

 

「おいファン一号、なんか激励してこい」

「いや、それは良いんだが……少し言う内容考えてるんだよ……」

 

 

 

「いやもうゲートインしちゃうから今すぐ行け」

「ちょ、ちょっと待て本気で考えてるんだって!」

 

 

 

「スズカなら『ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ』とか」

「ファル子ぉ! ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ!」

 

 

 

 

「え?」

「はい、スマートファルコンさんゲートインお願いしまーす」

 

 

 

「あ、はい……え?」

 

 

 

 

 

 なんだか『ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ!』とか聞こえたような…………え? ちょっと待って!? ウマドルだしそういうのはちょっと困るというか、ダメなんだけど!? もしかして噂になってた一着だとトレーナーが好きなところにチューしてくれるって本当だった!?

 

 

 つまり、つまり――――。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあゲートに入って、体勢整いました――――――今、スタートしました!』

『6人とも綺麗なスタートですね』

 

 

 

 

「―――――しゃぃ☆」

 

 

 

 

『まずハナを主張していくのはスマートファルコン! 素晴らしいスタート! 競りかけていくのはマルゼンスキー!』

 

 

 

 

(へぇ、いいスタート。やるじゃない。でも――――あたしも負けないわよ!)

 

 

 

 

『続いてタイキシャトル、エルコンドルパサーがすぐ後ろ! その更に後ろに1バ身ほど離れてオグリキャップ、最後方にハルウララ!』

 

 

 

 

「みんなが、トレーナーが待ってる!」

 

 

 

 

 

 

―――――『≪キラキラ☆STARDOM≫』

 

 

 

 

 

 砂の海を越えて、大勢のファンが待つライブ会場へ向かう――――そんな希望の具現。 

 マルゼンスキーをも引き離して大胆な逃げを打ったスマートファルコンに、客席がざわつき始める。

 

 

 

 

 

 

「おい、あれって大逃げか…?」

「マルゼンスキー相手に!?」

 

「そんなの――――」

 

 

 

 

 大逃げすると言っても限度がある。そもそものスピードが違う相手に大逃げを仕掛けたところでバテて終わるのが関の山。大逃げとは戦術の中でも奇策でしかないのだ。特にGⅠクラスのレースで大逃げ勝ちできるウマ娘なんて滅多にいない。

 『無理だ』と誰かが呟こうとして、歓声に呑み込まれる。

 

 

 

 

 

「いけーーっ! ファル子――――!」

「お願い、アンタならやれる!」

「ダートウマ娘の意地、見せてやれー!」

 

 

 

 

 

 

 元からスマートファルコンのファンだった男たちが、ダートで共に走ったウマ娘たちが送る歓声に背中を押されるように更に加速していく。

 それに付き合うようにタイキシャトルと、スリップストリームを上手く使うようにその背後につくエルコンドルパサーも上がっていく。

 

 

 

 

 

『さあ後続を引き離して先頭に立ったのはスマートファルコン! 2バ身ほど離れてマルゼンスキー! そのすぐ後ろに上がってきたのはタイキシャトルとエルコンドルパサー! オグリキャップは後方に少し離れた! ハルウララも懸命に走っています!』

 

 

 

 

『スマートファルコン先頭! スマートファルコン先頭で最終コーナーに入る! だがマルゼンスキーが徐々に詰め寄ってきている! タイキシャトルとエルコンドルパサーまだ動かない!』

 

(――――この感じ、不味いわね)

 

 

 

 

 

 レースには“流れ”がある。

 それは例えば不意を突いて大逃げを決めたカツラギエースだったり、菊花賞における幻惑逃げのセイウンスカイであったり。

 

 止めなければ負ける――――だが、仕掛けたところで共倒れになるリスクが高すぎる、それが完成度の高い逃げの厄介な点だった。

 

 

 

 

 エキシビジョンマッチということでそもそもの人数が少なく、仕掛けどころも少ない。このまま逃がせば、それこそ逃げ切り勝ちを許しかねない――――。

 

 

 

 

「―――なら! かっ飛ばすわよ!」

「っ!?」

 

 

 

『マルゼンスキー動いた! マルゼンスキーがスパートを掛けた! 最終コーナーを曲がるスマートファルコンの外、一気に詰め寄ってきたのは赤い勝負服のマルゼンスキー!』

 

 

 

 

 

 モノが違うと称された加速で砂を蹴り飛ばし、一気に加速して後方僅かに外に付ける。いつでも抜きされる位置―――――そう思わせつつも、走り慣れない砂にマルゼンスキーも冷や汗を流した。

 

 

 

 

(思ったより加速がつかない! というより―――この子、速い…!)

 

 

 

 

 

 芝であれば、間違いなく抜き去っていただろう脅威の加速。

 けれど、ここ。ダートにおいては、スマートファルコンこそがこの中の誰よりも――――ウララちゃんは別だ―――走りぬいてきた。泥を浴びて、敗北して、それでも走り続けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ――――!?」

「―――――ぁぁぁああああっ! 負けないっ! 負けるもんかぁあああ!」

 

 

 

 

『スマートファルコン! スマートファルコン先頭! 最終直線に入って、マルゼンスキーを1バ身引き離す! 速い、これは決まったか―――――』

 

 

 

 

 

 まさにサイレンススズカを彷彿とさせる『逃げて差す』走り。

 観客の歓声がより一層高まり、地鳴りのようなそれとともにゴールが見えて。

 

 

 

 振り切った―――そう思ったそのわずかな気の緩みを捉えるように、怪物の足音が響いた。

 

 

 

「掴んでみせる――――みんなの、輝く夢を!」

 

 

 

 

 

―――――『≪聖夜のミラクルラン!≫』

 

 

 

 

 

 

『――――オグリキャップだぁ! 外からオグリ、外からオグリキャップが来た! 更に内からタイキシャトルとエルコンドルパサーも上がってくる! ハルウララは第三コーナーを抜けた!』

 

 

 

『速い! 驚異的な末脚! スマートファルコンも伸びるが―――これは届くか! 高低差のある東京レース場の坂に脚が止まってしまった!』

 

 

 

 

 

(―――――っ、ダメ、まだ―――!)

 

 

 

 

 まだマルゼンスキーに競りかけられていなければ余裕があったかもしれない。

 が、全力を振り絞ってしまった今、東京レース場の坂を登り切り、逃げ切るにはあまりにも後方の勢いが良すぎた。

 

 

 

 

『――――オグリキャップ並ぶか!? 並んだ! 坂を乗り越えて、スマートファルコン粘る! まだ粘る! 日本のダートレース最長の直線、残り200m!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まだ勝負は!」

「これから!」

 

「「デース!」」

 

 

 

――――――『≪ヴィクトリーショット!≫』

――――――『≪プランチャ☆ガナドール≫』

 

 

 

 

 

 

『おおっと内から一気にエルコンドルパサー! タイキシャトルの背後で力を温存していたエルコンドルパサー! タイキシャトルが外に出ると同時に一気に前に出たぁ! そのままオグリキャップとスマートファルコンに並んで――――並ばない! 交わした!』

 

 

 

 

 

(後は任せマシたよ!)

「これがアオハル杯なりの戦い方デース!」

 

 

 

 

 

 スマートファルコンの大逃げでハイペースの消耗戦にし、タイキシャトルの背後で力を温存したエルコンドルパサーが一気に抜き去る――――完全に作戦が嵌った。

 

 

 

 

 

「そうか―――――だが、私も負けられない」

 

 

 

 

 

 想いを背負っている。

 一人大きく離されたハルウララ、チームの勝利のためにスマートファルコンに競りかけ、自らの勝ち目を手放したマルゼンスキー。

 

 

 此処で応えなければ―――――どうして報いられるだろう。

 

 

 

 

「これが、私の…! 全力だ…!」

 

 

 

 

―――――『≪勝利の鼓動≫』

 

 

 

 

「いぃっ!?」

「はあああああぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

『オグリキャップ! オグリキャップが更にスパート! エルコンドルパサー必死に逃げる! ゴールまであと100!』

 

 

 

 

 

『大歓声のゴール前最後の攻防! エルコンドルパサー粘る! 粘る! オグリキャップ並ぶか!? ほぼ並んだ! だがエルコンドルパサーも脚色は衰えないっ! 内エルコンドルパサー、外オグリキャップ大接戦でゴォォール!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは分かりません! 決着は写真判定! 写真判定です!』

 

 

 

 

 

 

 



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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第2R)

 



ゲートに入って体勢~
は馬だと分かりませんが、拙作ではアプリ内の表記に合わせて体勢で統一しようと思います。





本日4話目の投稿ですのでB70気を付けて下さい





 


 

 

 

 

 

 

 

『――――決着は写真判定です! ですが既にレース結果を待たず惜しみない拍手が送られています! そして今、ハルウララも笑顔でゴール!』

『素晴らしいレースでしたね。ほぼ完全に同着にみえましたが…』

 

 

 

 

 写真判定ということもあり、若干固唾をのむ空気はあるものの。

 スマートファルコンの大逃げという期待を上回る部分もあり、熱気冷めやらぬ会場に推しのウマ娘を呼ぶ声が響く。

 

 

 

 

「ファル子―! 良い走りだったぞー!」

「タイキ、グッジョブ!」

「エルコンよくやったー!」

 

「オグリ! オグリ!」

「マルゼンありがとー!」

「ウララちゃーん!」

 

 

 

 

『今回のレースのポイントは一体どこだったと思われますか?』

『そうですね、やはり逃げを打ったスマートファルコンをマルゼンスキーが捕まえにいったこと、タイキシャトルとエルコンドルパサーの協力プレーでしょうか』

 

 

 

『どちらも自分が不利になるものでしたが、チームとしてはそのお陰で有利な展開を得られたというところでしょうか』

『そうですね。恐らくアレが無ければスマートファルコンが逃げ切っていてもおかしくなかったと思います』

 

 

 

 

『ありがとうございます。さてそろそろ写真判定の結果が出てもおかしくない頃ですが―――――出ました! 勝ったのはエルコンドルパサー! チームリギルβ、まずは一勝を手にしました! 会場も割れんばかりの歓声に包まれています!』

 

『この一勝はかなり大きなものになるのではないでしょうか。会場はまだ選手たち全員を讃える声が響いています』

 

 

 

 

 

 

「優勝、快勝、エル最強―――!」

「どちらかというと辛勝デスけどね」

 

 

 

 二人掛かりで負けたらシャレにならないと大分冷や汗を流していたエルだが、勝ったとあって即座にパフォーマンスに移る。

 何分相手が相手なので、それはもう嬉しいわけで。

 

 

 

 

「よ、良かったぁ」

 

 

 

 

 逃げ切れなかった――――ダート本職としての不甲斐なさと悔しさを感じつつも、勝利できたことでなんとか面目は保たれただろうか――――そう思ったファル子に届いたのが、会場からの大歓声だった。

 

 

 

 

 

「ファル子ー! カッコよかったぞー!」

「よっ、砂のサイレンススズカ!」

「“次も”期待してるからなー!」

 

 

「ファル子のファンになりまぁす!」

「ファル子―! いつものはー?」

 

 

 

 

「……っ、ファル子が逃げたらー!?」

「「「追うしかなーい!!」」」

 

 

 

 

 

 一番前の席。そこで叫んでいるダートウマ娘を見て、ファル子は少しだけ涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあ続けて二戦目は――――短距離レース! 中山レースに中継が繋がっています!』

 

 

 

『はい、こちら中山レース場です。こちらでも今の第一Rダートレースはスクリーンで流されていたこともあり会場の熱気は凄まじいものがあります。ほぼGⅠレース以上と言っても良いのではないでしょうか』

 

『こちらも両チームのメンバー発表を今か今かと待ち望んでいます』

 

 

 

 

 

『ファン感謝祭ということもありますので早速紹介していきましょう――――まずは先ほど一勝目を挙げたチームリギルβから、ヤマニンゼファー!』

 

『鮮烈なデビュー勝ちを飾った期待のウマ娘ですね』

 

 

 

 

「――――心地よい追い風ですね…。これまで感じていなかった新しい風」

 

 

 

 

 

 

『続いて短距離への転向を発表も耳に新しい華麗なる一族――ダイイチルビー!』

『これまでマイルから中距離、トリプルティアラの女王路線を進んできた華麗なる一族、その新たな活躍に期待が高まります!』

 

 

「……どうも。勝利のため、微力ながら貢献させていただきます」

 

 

 

 

 

『そして三人目! その可愛さは多くのファンの知るところ! カレンチャン!』

『短距離路線の中ではトップクラスの人気と実力を兼ね備えた彼女も、このエキシビジョンマッチに相応しい存在ですね』

 

「カレンのカワイさ、皆に魅せちゃうよー」

 

 

 

「(ルビーのやる気が漲っている……チームに貢献するとはいいつつも、自分が一位になりたいのかもしれない……)」

 

 

 

 

 

 

 ちょっと先ほどまでの面子がおかしかったので若干空気が弛緩するが、それはそれとしてカレンチャンもいるので人気に不足はない。

 まあスピカもきっと人気のウマ娘を連れて来てくれるだろうと―――。

 

 

 

 

 

 

『チームスピカ、一人目は――――快速の天才少女!』

「ニシノフラワーですっ、よろしくお願いします!」

 

 

 

『ニシノフラワーです! 飛び級によりトゥインクルシリーズに参加する天才少女は果たしてこのエキシビジョンマッチをどう走ってくるのでしょうか!?』

『見た目にそぐわない、素晴らしいスピードを持ったウマ娘ですね』

 

 

 

 

『二人目は――――あの黄金世代の一人。未だ無冠ながらその実力は確かな王者、キングヘイロー!』

 

「このキングの走り、しかと見届けなさいっ!」

 

『短距離挑戦は意外ですが、この選択がどうでるのか注目です―――』

 

 

 

 

 

『そして三人目――――』

「バクシンバクシンバクシーン! 三人目は、この学級委員長ですっ!」

 

 

『――――そして現役短距離最強王者、サクラバクシンオーです!』

『今年の短距離レースを牽引する、間違いなく大注目のウマ娘です!』

 

 

 

 

 

 

 ………。

 いや、なんでバクシンオー!?

 

 えっ、まだドリームトロフィーリーグ行ってないんだっけ? あれれーおかしいなー。いやそうかゼファーがデビューした年に走ってたわ!

 

 

 

 

 

「お兄さん、顔色悪いですよ? 大丈夫ですか、おっぱい揉みますか?」

「いやすまん。ちょっと相手非道すぎないかこれ…? 後誰が教えたそんなの。下品だから止めなさいワキちゃん」

 

 

 

 むぎゅっと座ったこちらの顔に胸を押し付けてくるスズカであるが、まあその……アレだね、心音って心が落ち着く効果があるっていうよね。あと胸骨の良い感じの固さが……。あといい匂いがする。

 

 

 

「トレセン学園の掲示板でこれでお兄さんが喜んで元気になるって……」

「それうまぴょいの誘い文句」

 

 

 

「うそでしょ……」

 

 

 

 スイーっと顔を赤くしつつ背後に下がるワキちゃんだが、まあ今はレースもあるので置いておこう。とりあえずビデオ通話で作戦会議だ。

 

 

 

「もしもしお兄ちゃん」

『お前に兄と呼ばれる筋合いはないが。何だ』

 

 

 

「ちょっとカレンチャンに告白してきてくれない?」

『あのな、俺はトレーナー。アイツは生徒。告白なんてするわけないだろ』

 

 

 

 

 うーん正論。

 でもそれくらいしないと勝てなさそうなんだよなぁ…。まあ本人が乗り気じゃないなら仕方ない。

 

 

 

 

「? でもお兄さん、勝ったら好きなトレーナーさんにチューしてもらえるんですよね?」

「……え?」

『は?』

 

 

 

 

 ビデオ通話越しに見えたのはカレンチャンに目を向けるお兄ちゃん。

 『約束だよっ』と口パクで言いつつ投げキッスしてくるカレンチャン。

 

 

 

 

『いやそんな約束してないがーー!?』

 

「ライスちゃんとテイオーとエルとヘリオスさんが言ってましたよ?」

「あ、ごめんライスちゃんには吹き込んだ覚えがある」

 

 

 

 

『お前かぁー!?』

「いやでもお兄さま限定のはずじゃ…?」

 

 

「エルがなんだか色々言っていたような……」

 

 

 

 

 後でマスク取ってキスするフリしてやろうかあの怪鳥め…。

 と、言いたいところだが今回はまあ。カレンチャンがガチになってくれればワンチャンあるかもしれない。

 

 

 

 

 というかこの面子半分くらい例のスプリンターズステークスじゃね…?

 ゼファー、バクシンオー、フラワー…。

 

 

 

 いやでもアレはゼファーかなり良いところまで行ってたし。ルビーもいるし。カレンチャンも頼りになるし龍王にも勝てる閃光乙女だし……。

 

 

 

 チラリとスズカを見る。

 小首を傾げて「どうかしましたか?」と微笑むスズカは可愛い……じゃなくて、スズカでもこの面子に勝つのは厳しいかもしれない――――そもそも距離適性がアレだけど。

 

 

 

 

 

 こうなったらもう短距離の専門家に任せるしかねぇ!

 

 

 

 

 

「というわけでお兄ちゃんトレーナー後はお願いします…」

『だからお前の兄じゃないっての。……けど、任せとけ。カレンのことならお前にだって負けるつもり無いからな』

 

 

 

「引率役はルビトレだけどな」

『お前一言多いなぁ!』

『ルビーの事なら私も負けるつもりはないですよ』

 

 

 

 

 とはいえ、短距離の専門家というわけではないのでカレンチャンのお兄ちゃんに任せ――――いやルビトレめちゃ短距離の資料集めてやがる!?

 

 

 

 

『踏んできた場数を考えれば、ここはカレンチャンさんをエースにするのが妥当かと。ゼファーさんがサクラバクシンオーさんを、ルビーはニシノフラワーさんをマーク。そして展開に合わせてキングヘイローの爆発力にも対応……それができるのはルビーしかいないと思います』

 

『なるほど、カレンを完全フリーにする作戦か。もちろん相手もマークはしてくるだろうが……もしバクシンオー以外のどちらかがカレンをマークしてきたらどうする?』

 

 

 

 

『ニシノフラワーさんならルビーがカバー、キングヘイローさんならそのまま押し切る方が良いのではないかと』

『………――――』

 

 

 

 正直、キングの末脚がどう出るかが未知数すぎる。

 高松宮のキングヘイローの差し切り勝ちは本当に強い、のだが―――現時点ではまだ短距離を走ってない。

 

 

 

 

「キングヘイローはそもそもマークしてくるより、後方待機で飛んでくるほうがありそうじゃないか?」

『短距離で後方一気か? かなり無茶だな、無茶だが――――この面子でハイペースにならないわけがない、か』

 

 

 

 本当はさっきの勝ちに乗ってエルとタイキと同じ作戦ができればいいのだが―――そもそもあれは二人がリギルとしてある程度連携ができていたからこそで。

 

 

 

 

『分かった、そっちを警戒しよう。まあダービーで逃げるキングがマークしてくるのは考えなくてもいいかもな』

『斜行はダメですが、ルビーなら上手く進路を狭めてくれると思います』

 

 

 

 

 

 

 どっかの皇帝じゃないが、色々と駆け引きができるウマ娘はこういうときに頼りになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ始まります中山1200mの電撃戦! ゲートに入って体勢整いました―――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあまず果敢に前に出たのはサクラバクシンオー! その後方少し空いてヤマニンゼファー二番手。更にその後方にカレンチャン、少し離れてニシノフラワー。その後ろぴったりとつくようにダイイチルビー! なんとキングヘイローは最後方から! これは作戦でしょうか』

 

『彼女の末脚に期待したいですね』

 

 

 

 

 

(作戦はただ一つ! ずばり――――バクシンバクシンバクシン!)

(――――やはり颶風のような、凄まじい走り―――ですが)

 

 

 

(仕掛けるタイミングは――)

(第四コーナーを抜けるところ!)

 

 

 

 

 

 

『さあ緩やかなカーブを下って早くも第四コーナーに差し掛かろうかというところ! 先頭は変わらずサクラバクシンオー! やや開いてヤマニンゼファー。その後ろ、カレンチャン。上がってきたのはニシノフラワー。そしてまだぴったりとマークしているダイイチルビー! キングヘイローはまだ動かない!』

 

 

 

 

(ここで―――っ、マークが…!)

(……させません)

 

 

 

 

 

 ニシノフラワーの飛び出す絶好機―――それを外から競りかけるダイイチルビーがブロックし、ワンテンポ遅れる。

 

 強引にマークを振り切ったニシノフラワーは前に任せ、ダイイチルビーは一気に追い込みをかけようとするキングヘイローが最内を突けないようそのまま内に入りつつ徐々に速度を上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行きますよ! 学級委員長の走りをっ! バクシンバクシィィン!」

 

 

 

 

―――――『優等生×バクシン=大勝利ッ』

 

 

 

(風向きが――――ならば、ここで!)

(動いた! ……なら)

 

 

 

 

―――――『風光る』

―――――『#LookatCurren』

 

 

 

 

 

『ヤマニンゼファー動いた! 内から徐々に距離を詰めていく! その外からカレンチャン! さあどうだ、最後の直線に入る! 先頭はサクラバクシンオー! 内からヤマニンゼファー、外からカレンチャン! そして大外からニシノフラワー! 中からキングヘイロー! キングヘイローとダイイチルビーが競り合いながら上がってくる!!』

 

 

 

 

『ヤマニンゼファーがサクラバクシンオーに並んだ! 外からカレンチャン交わすか!? 更に大外ニシノフラワー! 先頭から四番手まで大混戦! 更に飛んできたダイイチルビーとキングヘイローも加わったが前が塞がっている!』

 

 

 

 

 

『サクラバクシンオー! ヤマニンゼファー! カレンチャン!』 

 

 

 

 

 

 

「――――バク、シィィン!」

「―――くっ」

 

「…………今!」

 

 

 

 

 

(お兄ちゃん、カレンとの運命――――誓っちゃお?)

 

 

 

 キスの件はともかくとして――――でも、一番カワイイ姿をお兄ちゃんに見せるのは、カレンじゃないと嫌。

 誰よりも目立って、誰よりもカワイイを届けて―――誰よりも、お兄ちゃんに相応しい女の子になるために。

 

 

 

 

―――――『One True Color』

 

 

 

 

 

「ちょわっ!? ならば私も――――更なるバクシンを!」

 

 

 

 

―――――『CHERRY☆スクランブル』

 

 

 

 

 

 

『カレンチャンか!? サクラバクシンオーか!? サクラバクシンオーとカレンチャン僅かに前に出た――――! ニシノフラワー僅かに届かないか!』

 

 

 

 

 

『今―――ゴール! これはまたしても写真判定でしょう! ですが僅かにサクラバクシンオー体勢有利か!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






流石にキツイので多分明日は短いか掲示板でお茶を濁すと思いますすみませぬ



 


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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第3R)



まだ本戦は始まってもないという衝撃…。




 


 

 

 

 

 

 

『さあ続いてのレースは――――マイルレースです! 東京芝1600にて行われます。ただいま準備中ですので少々お待ちください』

 

『しかし今回も素晴らしいレースでしたね。最終的にはサクラバクシンオーが地力でねじ伏せる形になりましたが、ダイイチルビーの位置取りやニシノフラワーの末脚、ヤマニンゼファーの抜け出し、カレンチャンとサクラバクシンオーの壮絶な競り合い、キングヘイローの末脚と今後が楽しみな点がいくつもありました』

 

 

 

 

 

 放送を聞き流しつつ、ついに出番の来たスズカたちに目をやる。

 ジャージを脱ぐとウエディングドレス+緑ケープのワキちゃん固有衣装スタイルのスズカ、「お嬢の仇はウチが絶対取る!」と燃えているヘリオス、そして対戦相手を油断なく見据えるグラス。

 

 

 

「……ひょっとしたら最終戦になるかと思ったけど、案外早かったな」

「―――お兄さん、チューはしてくれないんですか…?」

 

 

 

「まだ引きずってたのかスズカ……」

「だって走り終わった時にめいっぱい褒めてもらうと、先頭の景色と合わさってすごく……気持ちよくて、嬉しいんですよ?」

 

 

 

 

 

「はいはい、じゃあ勝ったらしてあげるから」

「――――約束、ですよ」

 

 

 

「じゃあスズカはいつも通り走って貰って、ヘリオスは――――爆逃げでよろ」

「―――おけまる水産! っよーし! 今日だけパマちんには悪いけど、スズちゃんと爆逃げコンビ結成だね!」

 

 

 

「ええっと……でも、私の方が速いですよ?」

「――――ウェイウェーィ! ウチもパマちんと鍛えた爆逃げかますからね!」

 

 

 

 

 並の大逃げじゃスズカの速度にはついてこられず潰れるが――――いやまあ、スズカのテンションが上がるならいいかな。

 

 

 

 

「――――グラス」

「はい」

 

 

 

 

 あっちの面子は―――ウオッカに、ダイワスカーレットに、タニノギムレットか。

 なんか東京マイルにクソ強いウオッカがいるのが気になるが、タニノギムレットは確かNHKマイルで負けてたと思うので…。

 

 

 

 

「スカーレットはスズカとヘリオスに任せる。から、ウオッカのマークを頼む」

「承知いたしました」

 

 

 

 

 

 

「―――では、リギルの皆さんゲート前へお願いします」

 

「行ってきますね、お兄さんっ」

 

 

 

 

 

 スズカはハグを求めるように近づいてくると、軽くジャンプして首に抱き着き――――そのまま触れるだけのキスをして。ちょっと照れたように微笑んでから駆け出した。

 

 

 

 

「え。おま。スズカ――――ゴールで待ってる!」

 

 

 

 

 その不意打ちはちょっと反則じゃなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

『――――さあ東京芝1600、天候晴れ、バ場状態は良――――出走者を紹介しましょう! チームリギルからまずは一人―――現役マイル王者、マイルCSの勝利も記憶に新しい“新たな怪物”グラスワンダー!』

 

『有マ記念ではスペシャルウィークとともにサイレンススズカを猛追し3着でした。ハイペースであっても凄まじい切れ味を誇る末脚は薙刀にも例えられています』

 

 

「――――」

 

 

 

 集中し、オーラのようなものを感じるグラスの目線の先―――ウオッカが何かを感じたのか挙動不審になっている。いややっぱりあれ怖いよな。

 

 

 

 

『二人目はメジロパーマーと並ぶ爆逃げウマ娘! ダイタクヘリオス!』

『未だ実績は少ないウマ娘ですが―――こうした起用が見られるのもアオハル杯の醍醐味でしょう』

 

 

「いくぜ、テンアゲコール! 雑草魂メラメラぽぉ~ん!」 

 

 

 

 

 

 

『―――そしてこのウマ娘を抜きには語れません! 現役無敗、14戦14勝、GⅠ10勝――――日本、ドバイ、凱旋門、アメリカを席巻した希代の大逃げウマ娘――――サイレンススズカ!』

 

『マイルは初挑戦ですが、3000mと2000mの世界レコードを持つ最強ステイヤーにして中距離王者は果たしてマイルでも異次元の逃亡劇を見せてくれるのでしょうか』

 

 

 

 

 割れんばかりの歓声で会場が揺れたように思える中、スズカは気にした様子もなくゲート前へ。

 

 

 

 

 

『そしてチームスピカからは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(――――ふふっ、お兄さん、驚いてましたね)

 

 

 

 

 レースの時はあんまり周囲を気にしすぎると上手く力が出ないので、だいたいお兄さんのことを考えていると丁度良かったり。緊張もぽかぽか温かい気持ちに押されてどこかに消えてしまうし。

 

 

 一応、グラスに差されるとかヘリオスさんに競りかけられるとか、色々本当は気にした方がいいんじゃないかなって思わないこともない。

 

 でも、お兄さんが好きに走ればいいと言ったから。

 自分の背中を任せられる人がいる――――命懸けのレースで、命を預けて良いと思える人がいることの、なんて幸せなことだろう。

 

 

 

 

 

 

(だから、勝ちます。誰よりも私を信じてくれる人のために――――私が、誰よりも信じている人のために。例え、何人が相手でも――――!)

 

 

 

 

 

 

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました―――――』

 

 

(―――――今っ!)

 

 

 

 

 

――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

『―――――今、スタートしました! サイレンススズカ、真っ先に飛び出した!』 

 

「っ!?」

「早いっ!?」

 

 

 

 

 

 星の輝く雪景色―――そして輝く二連星。

 ゲートが開くのとほぼ同時か若干それより早いくらいに展開された“領域”。

 

 あまりに早すぎるその走りに、後続は雪に脚を取られているかのように錯覚してしまうほどの圧倒的な加速。

 

 

 

 

「ま、負けるもんですかっ!」

「――――おしゃおしゃ~! アゲてけぇ~!」

 

 

 

 

 

『ダイワスカーレットとダイタクヘリオスが続いた! そこから大きく離れてウオッカとタニノギムレット、そしてその背後にぴったりとグラスワンダー!』

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

『いいか、スカーレット。スズカの逃げは基本的にどうにもならない。だからもうとにかくお前の走りやすいように走れ! そして後ろから来るウオッカに勝て! もう難しいことを考えるのはナシだ!』

 

『で、ウオッカはスカーレットに勝て!』

 

 

 

『それ、結局スズカさんに勝てないんじゃ…?』

『お前らがそんなこと考えるのは十年早い。とりあえずお前たちの今後の糧に――――』

 

 

 

 

 とりあえずトレーナーはウオッカと一緒に〆ておいたが、言いたいことは分かる。世界最強のウマ娘相手に現時点で勝てると思えるほど思い上がってはいない。ただ、実際に走らなければ分からないことはあった。

 

 

 

 

 

(追いつけない―――っ! 全力で走っているのに……!)

 

 

 

 

 

 非常に癪だが、ウオッカの脚は、強さだけは知っている。

 だから、少しでも逃げを乱せれば――――そういう思いがないでもなかった。

 

 

 

 

(――――スカーレットがああまで離されるかよ…!)

 

 

 

 

 

 故に、その動揺は後方にも伝わる。

 誰よりもよく知るライバルであるが故に、如実に。

 

 そして居ても立っても居られずペースを上げそうになる――――掛かりかけたウオッカを宥めるように、ギムレットが吼えた。

 

 

 

 

「まだだ! ワタシに酔え――――破壊に、禁忌に、このワタシにこそ酔えッ!」

 

 

 

 

 

―――――『霹靂のアウフヘーベン』

 

 

 

 

 

(ギム先輩!?)

 

 

 

 

 無理やりにひねり出した領域で雪景色を塗りつぶす。

 それはほとんど意味のない領域ではあったが――――意味はあった。唯一人にだけ。

 

 故に、本来であればここから一矢報いる未来もあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「――――いいえ。ですが、それも此処までです」

 

 

 

 

 

 背後――――。

 膨れ上がる鬼気に、思わず振り返った二人を撫で切るように栗毛の影が通り過ぎていく。

 

 

 

 

―――――『不撓不屈』

 

 

 

 

 

(たとえ眼前にどんな山々が聳えようとも――――立つ(断つ)のはその、頂―――!)

 

 

 

 

 切り払われ、千切られた領域に思わず失速した二人に興味を示さず駆け抜けていくその背中を、呆然と見た己を叱咤する。

 

 

 

 

(莫迦な!? ワタシの領域を破壊しただと――――だが)

 

 

 

「行け、ウオッカ! “ここで往かねば届かん”!」

「――――っ!? う、おおおおおっ!」

 

 

 

 

 

『最終コーナーを回って先頭は変わらずサイレンススズカ! 1バ身リード! 今日はあまり大きく引き離していない! その後ろにダイタクヘリオスとダイワスカーレットの激しい競り合い! ――――グラスワンダー! グラスワンダーが上がってきた! 更にウオッカもスパート!』

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まだ、まだぁああ!」

「諦める、もんですか―――っ!」

 

 

 

 

『ダイタクヘリオスとダイワスカーレット、必死に食らいつくがその外から! 外からグラスワンダー! これは並ばない! グラスワンダー交わした! サイレンススズカとグラスワンダーの一騎打ちになるのか!? ――――いや、内からウオッカだ! 内を突いてウオッカ!』

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ、ここだあああああっ!」

「っ、やりますね…!」

 

 

 

 

『ウオッカがダイワスカーレットとダイタクヘリオスの間を抜けてグラスワンダーを追う! 先頭サイレンススズカ、リードを保てるか――――』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 条件は整った。

 領域は完成し、自分の奥底から更なる力が絞り出されるのを感じる―――けど、まだ足りない。

 

 

 

 先頭の景色、その先にあるもの。

 誰もいない草原を越えて、あの人と約束した雪景色を超えて。

 

 胸に熱く灯る、新たな想いを――――。

 

 

 

 

 

(――――もっと、もっと先へ―――――――)

 

 

 

(雪も星空も超えて――――彩られていく、景色!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――『先頭の景色は、譲らない』――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪景色と草原が混じり合い、青空と星空が混じる。

 いつしかレース場に戻った景色を切り裂いて、白い流星となったサイレンススズカが駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! サイレンススズカ後続を引き離す! 二番手はグラスワンダーだが離れている! サイレンススズカだサイレンススズカだ!』

 

 

 

 

 

 

 

『――――これが、世界最強の貫禄ッ! サイレンススズカ、押し切った!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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アオハル杯エキシビジョンマッチ(掲示板1~3R)

 



そういえば頂いた感想は掲示板の参考にさせていただいてますね!(事後承諾)





 


 

 

 

 

 

 

【開幕】アオハル杯エキシビジョンマッチを応援するスレ【熱戦】

 

 

201:名無しのファン

さあダート出走

 

 

202:名無しのファン

見せてもらおうか、砂のサイレンススズカの実力とやらを…。

 

 

203:名無しのファン

出遅れはなし!

 

 

204:名無しのファン

スタート、ヨシ!

 

 

205:名無しのファン

流石に出遅れたら砂のサイレンススズカも何もないからな

 

 

206:名無しのファン

スマートファルコンがハナを主張していく

 

 

207:名無しのファン

マルゼンに競り勝てるのか

 

 

208:名無しのファン

マルゼン控えたけどこれは良い位置

 

 

209:名無しのファン

ちょっと待って。ダートウマ娘たちがスマートファルコンに声援送ってる…。

 

 

210:名無しのファン

ここで大逃げかー。流石に無理くね?

 

 

211:名無しのファン

スマートファルコン更に前に出たな

 

 

212:名無しのファン

タイキとエルコンはぴったり合わせて走ってるな。

スピードスケートみたいな

 

 

213:名無しのファン

そっか、ダート人気ないから…。

 

 

214:名無しのファン

オグリは後方からか

 

 

215:名無しのファン

ウララちゃんがんばれー

 

 

216:名無しのファン

純粋なダートウマ娘はスマートファルコンだけか…。

 

 

217:名無しのファン

そりゃ負けられないよな

 

 

218:名無しのファン

ダート娘の意地を見せてくれ…!

 

 

219:名無しのファン

ウララちゃんもいるぞ

 

 

220:名無しのファン

良い感じに息も入れられてそうなファル子

 

 

221:名無しのファン

ダートのために、戦友のために、走れファル子…!

 

 

222:名無しのファン

さあ最終コーナー曲がってスマートファルコン先頭!

 

 

223:名無しのファン

いけるぞファル子!

 

 

224:名無しのファン

ファル子が逃げたら~?

 

 

225:名無しのファン

逃げ切りっ! 逃げ切りっ!

 

226:名無しのファン

追うしかなーい!!

 

 

227:名無しのファン

マルゼン動いた!

 

 

228:名無しのファン

ここで捕まえにいったぁ!

 

 

229:名無しのファン

うわああ逃げろファル子ぉ!

 

 

230:名無しのファン

追いつか……ない!

 

 

231:名無しのファン

根性ぉぉぉっ!

 

232:名無しのファン

スマートファルコン先頭! スマートファルコン先頭!

 

 

233:名無しのファン

オグリ! オグリ来た!

 

 

234:名無しのファン

オグリキャップ! オグリキャップ!

 

 

235:名無しのファン

外 か ら オ グ リ キ ャ ッ プ

 

 

236:名無しのファン

タイキとエルコンも来た!

 

 

237:名無しのファン

エルコン!?

 

238:名無しのファン

エルコン射出された!?

 

 

239:名無しのファン

まさかずっと脚溜めてたのか!?

 

 

240:名無しのファン

スマートファルコン頑張った! オグリキャップ! オグリキャップ! 

 

 

241:名無しのファン

りゃいあん! りゃいあん!

 

 

242:名無しのファン

エルコン来た! これで勝つる!

 

 

243:名無しのファン

エルコン交わした!

 

 

244:名無しのファン

うおおお勝った!?

 

 

245:名無しのファン

オグリきたあああ!

 

 

246:名無しのファン

オグリィィィ!?

 

 

247:名無しのファン

再加速!?

 

248:名無しのファン

残り1ハロンはオグリの距離

 

 

249:名無しのファン

エルコンンンン!

 

 

250:名無しのファン

オグリ! オグリ!

 

 

251:名無しのファン

粘れ! 粘れ!

 

 

252:名無しのファン

差せ! 差せ!

 

253:名無しのファン

粘れぇええ!

 

254:名無しのファン

ゴォォォール!

 

255:名無しのファン

うっわ、えぐ

 

256:名無しのファン

まってどっち?

 

 

257:名無しのファン

待ってオグリエルコンファル子なら3連単当たりなんだけど!?

オグリのライブ見れる?

 

 

258:名無しのファン

3連単あたったらほぼ最前列だな。当たってたら

 

 

259:名無しのファン

同着?

 

260:名無しのファン

まあ写真判定

 

261:名無しのファン

ウララちゃん単勝……

 

 

262:名無しのファン

③スマートファルコン ④タイキシャトル ⑤マルゼンスキー ⑥ハルウララ

 

 

263:名無しのファン

笑顔のウララちゃんに惜しみない拍手

 

 

264:名無しのファン

マルゼンスキー5着かー

 

 

265:名無しのファン

まあチームのためにファル子捕まえに行ったからな

 

 

266:名無しのファン

解説も言ってるが好きに逃がしてたら多分逃げ切ってただろうな。

確かに砂のサイレンススズカも納得の逃げ差し

 

 

267:名無しのファン

サイレンススズカかと言われると微妙だけど、それ以外ではちょっと見つからない

 

 

268:名無しのファン

世界最強クラスと比較される時点で強いのでは…?

 

 

269:名無しのファン

まあマルゼン、オグリ、エルコンに負けて弱いかと言われると弱いわけない

 

 

270:名無しのファン

最後の粘りがえげつなかった。ファル子のファンになります

 

 

271:名無しのファン

ダートもこうしてみると面白いな

 

 

272:名無しのファン

この面子でも面白くなかったら割と致命的だけどな!

 

 

273:名無しのファン

ダートは砂が日本だけなのがな…。

 

 

274:名無しのファン

アメリカ式のダートにはできないんかね

 

 

275:名無しのファン

とりあえず今後はもうちょっとダートも注目しよう

 

 

276:名無しのファン

期待も込めて砂のサイレンススズカ(予定)

 

 

277:名無しのファン

まああの大分アレなお兄さんが砂のサイレンススズカって言うなら多分そう

 

 

278:名無しのファン

スズカさん判定めっちゃ厳しいだろうなお兄さんは

 

 

279:名無しのファン

お兄さんがサイレンススズカって言えば多分サイレンススズカからもサイレンススズカ認定してもらえそう

 

 

280:名無しのファン

大丈夫? 嫉妬しない?

 

 

281:名無しのファン

スズカさん「私の方が速いです」

 

 

282:名無しのファン

勝者エルコン!

 

 

283:名無しのファン

ああああ絶対オグリだと思ったのにいいいい!?

 

 

284:名無しのファン

エルコンすげえええ!

 

285:名無しのファン

あれで残したのか……

 

286:名無しのファン

写真出してくれてるけどほぼ同着じゃん……

 

 

287:名無しのファン

エルコンとタイキのコンビネーションが勝ったか

 

 

288:名無しのファン

ファル子がハイペースにしたのもきっとある

 

 

289:名無しのファン

さすリギル

 

290:名無しのファン

次短距離か

 

291:名無しのファン

短距離かぁ……誰だろ?

 

 

292:名無しのファン

サクラバクシンオーとか

 

 

293:名無しのファン

カレンチャンとか?

 

 

294:名無しのファン

ダイタクヘリオスとか

 

 

295:名無しのファン

おっ、リギルはヤマニンゼファー

 

 

296:名無しのファン

ヤマニンゼファーかぁ……誰?

 

 

297:名無しのファン

お兄さんがスカウトした娘

 

 

298:名無しのファン

風の子

 

 

299:名無しのファン

ヤマニンゼファー:クラシック級 適性:短距離~マイル? 脚質:先行 デビュー戦を鮮烈な勝利で飾ったが体質が弱いのでゆっくり出ていくとのこと

 

 

300:名無しのファン

けっこう強かったぞ

 

 

301:名無しのファン

経験不足はまあ

 

 

302:名無しのファン

お兄さんのとこ体質弱い子多いな

 

 

303:名無しのファン

ダイイチルビー!

 

 

304:名無しのファン

華麗なる一族!

 

 

305:名無しのファン

本当に短距離走るのか

 

 

306:名無しのファン

まあ中距離走れないなら仕方ない

 

 

307:名無しのファン

なんか夢破れた感じで悲しい

 

 

308:名無しのファン

別に短距離が悪いわけじゃないんだけどな…。

 

 

309:名無しのファン

どうしてもダービーとか凱旋門賞とかのある中距離王道が浪漫を感じる

 

 

310:名無しのファン

権威で言うなら長距離だしな。春の天皇賞を大目標にしてるメジロ家とかもいるし

 

 

311:名無しのファン

言うて香港とかだとスプリントが強いし、場所によるよね

 

 

312:名無しのファン

欧州だとそもそも障害競走の方が平地より人気あるらしいし

 

 

313:名無しのファン

障害競走ってパーマーが一時期やってたって聞いたくらいだな

 

 

314:名無しのファン

カワイイカレンチャン!

 

 

315:名無しのファン

カレンチャンやったー!

 

 

316:名無しのファン

カレンチャンカワイイ!

 

 

317:名無しのファン

三人目はカレンチャン!

 

 

318:名無しのファン

カレンチャン人気凄いな……

 

 

319:名無しのファン

スプリント界隈では例外的なカリスマだからな

 

 

320:名無しのファン

情報発信力が違うですよね。あとカワイイ

 

 

321:名無しのファン

うわああカレンチャンが手を振ってくれたああ!

 

 

322:名無しのファン

カメラに向かってポーズ決めてくるサービス精神ありがてぇ

 

 

323:名無しのファン

スピカからはニシノフラワー

 

 

324:名無しのファン

ちっちゃ!

 

325:名無しのファン

可愛い

 

326:名無しのファン

小学生…?

 

327:名無しのファン

トレセン学園あるある飛び級

 

 

328:名無しのファン

お持ち帰りしたい

 

 

329:名無しのファン

おまわりさんこいつです

 

 

330:名無しのファン

キングだあああ!?

 

 

331:名無しのファン

キング!? キング! キングヘイロォォォ↓↘→↗↑!

 

332:名無しのファン

キングだああ!

 

 

333:名無しのファン

私の名前は?

 

334:名無しのファン

キング!

 

335:名無しのファン

キング!

 

 

336:名無しのファン

キングヘイロォォォ↓↘→↑!

 

 

337:名無しのファン

誰よりも強い?

 

338:名無しのファン

勝者!

 

 

339:名無しのファン

敗北者じゃけぇ

 

 

340:名無しのファン

ハァ……ハァ……

 

 

341:名無しのファン

取り消せよ……今の言葉!

 

 

342:名無しのファン

ハァ……ハァ…イボクシャァ……

 

 

343:名無しのファン

その未来は?

 

344:名無しのファン

輝かしく、誰もが憧れるウマ娘!

 

 

345:名無しのファン

乗るなエース! 戻れ!

 

346:名無しのファン

そう、一流のウマ娘といえばこの私!

 

 

347:名無しのファン

サイレンススズカ!

 

 

348:名無しのファン

キングヘイロォォォ↓↘→↗↑!

 

 

349:名無しのファン

カツラギエース!

 

 

350:名無しのファン

キングヘイロー!

 

 

351:名無しのファン

キングヘイロー!

 

 

352:名無しのファン

いやその格ゲーのコマンドみたいなのなに……?

 

 

353:名無しのファン

知らんのか

 

354:名無しのファン

ああ!

 

355:名無しのファン

伝説って?

 

356:名無しのファン

それってハネクリボー?

 

 

357:名無しのファン

知らんのか、キングの良MADを

 

 

358:名無しのファン

キング好きなら見て来いよ…。

 

 

359:名無しのファン

レース後、君たちは知るだろう……キングヘイローの良マッドを

 

 

360:名無しのファン

ところで三人目バクシンオーだけど

 

 

361:名無しのファン

バクシンバクシン!

 

 

362:名無しのファン

バクシンシーン!

 

 

363:名無しのファン

これはもうバクシンするっきゃねぇ!

 

 

364:名無しのファン

短距離のヤベー奴

 

 

365:名無しのファン

模範的学級委員長

 

 

366:名無しのファン

模範的…?

 

 

367:名無しのファン

一流のウマ娘といえばサイレンススズカと言われるとハイとしか言えない

 

 

368:名無しのファン

バクシンオーは強いからな

 

 

369:名無しのファン

スズカさん超一流では?

 

 

370:名無しのファン

言うて割と一般家庭よりじゃなかったっけスズカさん

 

 

371:名無しのファン

ウマ娘は割と名家が多いけど、それ以外という意味では一般かなぁ…?

 

 

372:名無しのファン

お前らキングを知らないからそんなこと言えるんだぞ

 

 

373:名無しのファン

GⅠ勝ってから出直してもろて

 

 

374:名無しのファン

ぐおおおおお

 

375:名無しのファン

GⅠ勝てるウマ娘とか一握りやぞ、超一流やぞ…。

 

 

376:名無しのファン

そもそもオープンクラスなら一流。

ダービー出てるなら世代のトップ20には入るだろ

 

 

377:名無しのファン

出るだけなら意外となんとかなる(ならない)定期

 

 

378:名無しのファン

さてスタートするぞー

 

 

379:名無しのファン

電撃戦だからなぁ

 

 

380:名無しのファン

出遅れ……ナシ!

 

 

381:名無しのファン

バクシンバクシン!

 

 

382:名無しのファン

バクシンオーがやっぱり前に出た

 

 

383:名無しのファン

二番手ゼファーか

 

 

384:名無しのファン

キング後方からか…。

 

 

385:名無しのファン

フラワーをマークするダイイチルビー

 

 

386:名無しのファン

さすがにマークが強い

 

387:名無しのファン

マークするならバクシンオーじゃね

 

 

388:名無しのファン

カレンチャンは前からか

 

 

389:名無しのファン

バクシンオーは逃げも先行もできるからな

 

 

390:名無しのファン

もう最終コーナー

 

 

391:名無しのファン

バクシンオー仕掛けた!

 

 

392:名無しのファン

カレンチャン行った!

 

 

393:名無しのファン

フラワー塞がれた!?

 

 

394:名無しのファン

カレンチャン!

 

 

395:名無しのファン

ゼファー内から!?

 

 

396:名無しのファン

うわあああブロックうめえええ!?

 

 

397:名無しのファン

これが実戦経験の差か

 

 

398:名無しのファン

キングぅぅぅ!

 

 

399:名無しのファン

いけ、いけえええ!

 

 

400:名無しのファン

バクシンバクシン!

 

 

 

 

401:名無しのファン

ルビーうっま!?

 

 

402:名無しのファン

ぎゃああ内塞がれた!

 

403:名無しのファン

前にゼファーとバクシンオーとカレンチャン

 

 

404:名無しのファン

カレンチャン来たか!?

 

 

405:名無しのファン

カレンチャン!

 

 

406:名無しのファン

いける……!?

 

 

407:名無しのファン

うおおおバクシンバクシン!

 

 

408:名無しのファン

バクシンバクシンバクシンバクシン!

 

 

409:名無しのファン

バクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシンバクシン!

 

 

410:名無しのファン

うおおおおバクシンオーつええええ!?

 

411:名無しのファン

どっち!?

 

412:名無しのファン

バクシンオー?

 

 

413:名無しのファン

たぶんバクシンオー

 

 

414:名無しのファン

バクシンオーかな

 

 

415:名無しのファン

ハナ差くらい?

 

 

416:名無しのファン

胸差でカレンチャンは…?

 

 

417:名無しのファン

①サクラバクシンオー ②カレンチャン ③ヤマニンゼファー ④ニシノフラワー ⑤ダイイチルビー ⑥キングヘイロー

 

 

418:名無しのファン

サクラバクシンオー!

 

 

419:名無しのファン

やはりバクシンか

 

 

420:名無しのファン

皆強かった

 

421:名無しのファン

ハナ ハナ クビ クビ ハナ

 

 

422:名無しのファン

すっご

 

 

423:名無しのファン

団子状態でゴールしてるじゃねーか

 

 

424:名無しのファン

こりゃ写真判定も大変だったろうな

 

 

425:名無しのファン

さっきの超きわどいエルコンとオグリよりはマシかな?

 

 

426:名無しのファン

ヤマニンゼファー来ると思わなかった……外した

 

 

427:名無しのファン

バクシン単勝しか勝たん

 

 

428:名無しのファン

バクシン当ててもいい席もらえないんじゃ…?

 

 

429:名無しのファン

バクシンオー複勝ワイ、席抽選のお祈り

 

 

430:名無しのファン

次マイルレースだって

 

 

431:名無しのファン

きたか

 

432:名無しのファン

ダートじゃなかったからスズカさんここだろうな

 

 

433:名無しのファン

最強ステイヤーにマイルを走らせる謎采配

 

 

434:名無しのファン

マイルどうなんだろうなー

 

 

435:名無しのファン

距離が足りない

 

 

436:名無しのファン

スズカさんのスタミナ考えたらせめて中距離欲しい

 

 

437:名無しのファン

謎采配も何もドリームトロフィーリーグのハンデだからな

 

 

438:名無しのファン

まさかサイレンススズカがマイルを走ることになろうとは…。

 

 

439:名無しのファン

言うてデビュー時2400は長いとか言われてたような…?

 

 

440:名無しのファン

2000すら怪しまれてたような希ガス

 

 

441:名無しのファン

でもスズカさんの負けるところはマイルでも見たくない

 

 

442:名無しのファン

せっかくの生涯無敗が……

 

 

443:名無しのファン

レースに絶対はないんだよぉ!

 

 

444:名無しのファン

役者は揃った。伝説は終わりだ

 

 

445:名無しのファン

問題は面子だな

 

 

446:名無しのファン

皇帝連れて来ようぜ!

 

 

447:名無しのファン

レースに絶対はないがサイレンススズカには絶対がある

 

 

448:名無しのファン

まあ少なくとも逃げを打つのは間違いないだろうな

 

 

449:名無しのファン

今日のお兄さんの叫びにも期待

 

 

450:名無しのファン

一人目はグラス!

 

 

451:名無しのファン

グラスワンダー来た

 

 

452:名無しのファン

これはガチで勝ちに来てるな

 

 

453:名無しのファン

現役マイル最強王者

 

 

454:名無しのファン

今日の叫びは「愛してる」に賭ける

 

455:名無しのファン

じゃあ俺「うまぴょい」に賭けるわ

 

 

456:名無しのファン

捻らず「好きだぁああ」じゃね?

 

 

457:名無しのファン

ワイは「スズカァ!」で

 

 

458:名無しのファン

スズカ、好きだ! 愛してるんだ! 愛してるなんてもんじゃない、潰れちゃうくらい抱きしめたいんだ!

 

 

459:名無しのファン

スズカ、好きだぁああ! お前が、欲しいぃぃぃ!

 

 

460:名無しのファン

それただの世界三大恥ずかしい告白シーン定期

 

 

461:名無しのファン

あと一個は?

 

 

462:名無しのファン

スズカ、好きだよ。……お前と一緒に見る未来の景色が、俺の夢だ

 

463:名無しのファン

うまぴょいしようやぁ……

 

 

464:名無しのファン

それただのBCクラシック後じゃねぇか! 

 

 

465:名無しのファン

スズカァ―――――ッ! 好きだ―――ッ! 俺と、結婚してくれ――――ッ!

 

 

466:名無しのファン

それレース中

 

467:名無しのファン

これいつだっけ?

 

 

468:名無しのファン

BCクラシック

 

469:名無しのファン

MAD素材だからすぐわかるw

 

 

470:名無しのファン

くっそw

 

471:名無しのファン

告白がフリー素材なの芝

 

 

472:名無しのファン

じゃあこれは?

スズカぁ! ――――好きだぁっ!

 

 

473:名無しのファン

たぶん有マ

 

474:名無しのファン

有マ記念

 

 

475:名無しのファン

なんでわかるんですかねぇ!

 

 

476:名無しのファン

毎回叫び方がちょっと違うから面白い

 

 

477:名無しのファン

ちょっとやけくそだから有マ

 

 

478:名無しのファン

二人目はダイタクヘリオス!

 

 

479:名無しのファン

おお? ちょっと系統違う

 

 

480:名無しのファン

あー、なんか見たことはある……

 

 

481:名無しのファン

爆逃げウマ娘だぞ

 

 

482:名無しのファン

??? わざわざスズカさんに爆逃げぶつけるの?

 

 

483:名無しのファン

うっわ、エグい

 

 

484:名無しのファン

ガチだなお兄さん

 

 

485:名無しのファン

長距離走れるスタミナあるから、レースがハイペースな方が都合がいいんだろうな

 

 

486:名無しのファン

後続ごと磨り潰す気だぞこれ

 

 

487:名無しのファン

殺 意 高 す ぎ

 

 

488:名無しのファン

「俺のスズカは絶対潰れません」

 

 

489:名無しのファン

だってお前叫べば回復するじゃん! ズルじゃん!

 

 

490:名無しのファン

全然違うじゃん!

言ったよね、サイレンススズカも爆逃げウマ娘と競り合ったら潰れる、前は残らないって! この結果は何?

 

491:名無しのファン

サイレンススズカは愛の力で回復するので3000mでもレコードを叩きだします。……当然の結果です

 

 

492:名無しのファン

もういいよ、私レース投票で大穴狙いやめる!

 

 

493:名無しのファン

愛の力は芝

 

494:名無しのファン

だいたいあってる

 

 

495:名無しのファン

でもこれサイレンススズカ単勝当てても前の席取れないよね?

 

 

496:名無しのファン

ウマ連当てろ

 

497:名無しのファン

サイレンススズカと……グラスワンダー

 

 

498:名無しのファン

手堅すぎる……

 

 

499:名無しのファン

いやサイレンススズカ、グラスワンダーまでは堅いじゃん!

知りたいのは3着なわけよ!

 

 

500:名無しのファン

サイレンススズカ、グラスワンダー、タニノギムレット?

 

 

501:名無しのファン

いやウオッカだろ

 

 

502:名無しのファン

いやスカーレットの根性なら残る

 

 

503:名無しのファン

いや前は残らないだろ(サイレンススズカ除く)

 

 

504:名無しのファン

ヘリオス……

 

505:名無しのファン

スズカさんと競り合って前が残るは希望的観測が過ぎる

 

 

506:名無しのファン

3000のレコードホルダーと競り合いたくねぇ…。

 

 

507:名無しのファン

グラス二着は疑わなくていいの?

 

 

508:名無しのファン

ウオッカかタニノギムレットか

 

 

509:名無しのファン

いやスズカさん以外にマイルでグラスは負けねーわ

 

 

510:名無しのファン

グラスワンダー舐めすぎだぞ。怪物だぞ?

 

 

511:名無しのファン

マイル適性外のスズカさんをグラスが差し切るまである

 

 

512:名無しのファン

うーんこれは難しい

 

 

513:名無しのファン

グラスは有マでも割といいとこ行ってるからな

 

 

514:名無しのファン

ねえもう投票しないとレース始まるんだけど

 

 

515:名無しのファン

あああ時間が短い!

 

 

516:名無しのファン

判断が遅い! 

 

517:名無しのファン

エキシビジョンマッチだからしゃーない

 

 

518:名無しのファン

サイレンススズカ、グラスワンダーのウマ連で

 

 

519:名無しのファン

一番前の席が欲しいぃぃぃ!

サイレンススズカ、グラスワンダー、ダイワスカーレット!

 

 

520:名無しのファン

というかスピカ組の情報が少ない…。

 

 

521:名無しのファン

まあスズカさんにぶつけるならほぼ負けるからな

 

 

522:名無しのファン

さあレース始まるぞ

 

 

523:名無しのファン

一番人気 サイレンススズカ

二番人気 グラスワンダー

三番人気 タニノギムレット

四番人気 ウオッカ

五番人気 ダイワスカーレット

六番人気 ダイタクヘリオス

 

 

524:名無しのファン

そもそも面子が豪華すぎる

 

 

525:名無しのファン

さあ出走

 

526:名無しのファン

スタート!

 

527:名無しのファン

はっや

 

528:名無しのファン

ちょっw

 

529:名無しのファン

何そのロケットスタートwww

 

 

530:名無しのファン

フライングは? ないの?

 

 

531:名無しのファン

スタートで差をつけろ!

 

 

532:名無しのファン

サイレンススズカ先頭!

 

 

533:名無しのファン

い つ も の

 

 

534:名無しのファン

スタートが上手すぎる

 

 

535:名無しのファン

サイレンススズカの強さの秘訣だよな

 

 

536:名無しのファン

出遅れみたことない

 

 

537:名無しのファン

ゲート潜ったのは見た

 

 

538:名無しのファン

安定の大逃げ

 

539:名無しのファン

ある意味究極のフライングだなゲートくぐり

 

 

540:名無しのファン

はいラビットなんて無かった

 

 

541:名無しのファン

ヘリオスぅぅぅ!?

 

 

542:名無しのファン

サイレンススズカ>>>ダイタクヘリオス、ダイワスカーレット>ウオッカ、タニノギムレット、グラスワンダー

 

 

543:名無しのファン

全体が5バ身くらいに収まってるがクソハイペースでは?

 

 

544:名無しのファン

これは前がつぶれる…!(サイレンススズカ以外)

 

 

545:名無しのファン

逃げと先行しかいねぇ

 

 

546:名無しのファン

グラスのマークくっそ怖い

 

 

547:名無しのファン

ウオッカの背後に、背後にグラスワンダー!

 

 

548:名無しのファン

わざと視界に入って威圧してない?

 

 

549:名無しのファン

マーク怖すぎんよー

 

 

550:名無しのファン

くる……くるぞ……

 

 

551:名無しのファン

す……すき……

 

 

552:名無しのファン

さあ最終コーナー回った!

 

 

553:名無しのファン

リード1バ身!

 

554:名無しのファン

うおおヘリオスもスカーレットもすげええええ!?

 

 

555:名無しのファン

あのサイレンススズカに追随するか…!

 

 

556:名無しのファン

さてここから

 

557:名無しのファン

後ろからカッ飛んでくるグラスに笑う

 

 

558:名無しのファン

はっや!

 

559:名無しのファン

超ロングスパート!

 

 

560:名無しのファン

ウオッカも内から来た!

 

 

561:名無しのファン

ウオッカ届くか!?

 

 

562:名無しのファン

ギムレット沈んだ…

 

 

563:名無しのファン

ヘリオスぅぅぅぅ!?

 

 

564:名無しのファン

いい笑顔で沈んでいくヘリオス

 

 

565:名無しのファン

スカーレット粘るが

 

 

566:名無しのファン

グラスが交わした! 

 

 

567:名無しのファン

ウオッカあああ!?

 

 

568:名無しのファン

うっそあそこ通れるの!?

 

 

569:名無しのファン

すり抜けた!?

 

 

570:名無しのファン

なに今の

 

571:名無しのファン

外グラスワンダー! 内ウオッカ! 前サイレンススズカ!

 

 

572:名無しのファン

行ったあああ!?

 

 

573:名無しのファン

逃 げ て 差 す

 

574:名無しのファン

隙を生じぬ二段構え

 

 

575:名無しのファン

あれ

 

576:名無しのファン

まって何か足りない

 

 

577:名無しのファン

お兄さん叫ばなかったんだけど!?

 

 

578:名無しのファン

サイレンススズカ! サイレンススズカ先頭!

 

 

579:名無しのファン

リードが広がったぁ!?

 

 

580:名無しのファン

い つ も の

 

 

581:名無しのファン

実家のような安心感

 

 

582:名無しのファン

グラスワンダーの伸びがエグいけどこれ多分直線長くても追いつけないな

 

583:名無しのファン

どこまで行っても逃げ切りそう

 

 

584:名無しのファン

いつもの叫びは?

 

 

585:名無しのファン

府中より長いとか新潟か?

 

 

586:名無しのファン

これはスズカさんもおこでは?

 

 

587:名無しのファン

笑顔でお兄さんに抱き着いてるから気づいてないかも

 

 

588:名無しのファン

ゴールした後そのままスルっと抜けて観客席に入るの笑う

 

 

589:名無しのファン

そのための着差

 

 

590:名無しのファン

キス待ち顔のスズカさん

 

 

591:名無しのファン

ハグで誤魔化そうとするの芝

 

 

592:名無しのファン

裏に連れ込まれるスズカさん

 

 

593:名無しのファン

この後めちゃくちゃうまぴょいした

 

 

594:名無しのファン

いやさすがにうまぴょいはしない……しないよね?

 

 

595:名無しのファン

いやその、強すぎてレースの感想もクソもないな

 

 

596:名無しのファン

いつものスズカさんじゃねーか!

 

597:名無しのファン

負けるとは思ってなかったけど、想像以上に強すぎでは?

 

 

598:名無しのファン

マイルであれだけ競りかけて息を入れる暇なくてあの末脚って何? なんで残ってるの?

 

 

599:名無しのファン

しかも回復スキル(愛の叫び)なし

 

 

600:名無しのファン

あれ普通にマイルもいけるな?

 

601:名無しのファン

強い……強すぎるんですよスズカさんは…!

 

 

602:名無しのファン

マイルの方が短いから息入れる必要すらない……ってコト!?

 

 

603:名無しのファン

まさかの舐めプ

 

 

604:名無しのファン

マイルのグラスでも勝てないとかもう無理では?

 

 

605:名無しのファン

スズカさんに勝つならグラスしかいないと思ってた

 

 

606:名無しのファン

言うてグラスはチームのためにウオッカを徹底マークしてたし

 

 

607:名無しのファン

レース終わると分かるあのマークの正しさ

 

 

608:名無しのファン

ウオッカのあのすり抜けなに?

 

 

609:名無しのファン

前壁だと思ったんだけどな

 

 

610:名無しのファン

ウオッカ強くね?

 

 

611:名無しのファン

あの末脚は今後楽しみ

 

 

612:名無しのファン

結局お兄さん舐めプってことでOK?

 

 

613:名無しのファン

俺たちの新しいMAD素材が……

 

 

614:名無しのファン

マイルならグラスがスズカさんマークできればワンチャンあるかな…?

 

 

615:名無しのファン

どうしてそんなひどいことを……

 

 

616:名無しのファン

お兄さんは人の心が分からない

 

 

617:名無しのファン

泣いてるスズカさんもいるんですよ!?

 

 

618:名無しのファン

嫁の要望に応えない男

 

 

619:名無しのファン

俺らはともかくスズカさんが可愛そうだろぉ?

 

 

620:名無しのファン

あ、めっちゃ満足気なスズカさんが戻ってきた。

 

 

621:名無しのファン

可愛い

 

622:名無しのファン

なんでもない風を装うお兄さんだがスズカさんの機嫌でもうバレバレなんよ…。

 

 

623:名無しのファン

尻尾腕に絡められてますよ

 

 

624:名無しのファン

うわクソ可愛い

 

 

625:名無しのファン

小さいウマ娘の子がやってる奴やん

 

 

626:名無しのファン

大人でもヤるぞ

 

627:名無しのファン

今からでも良いから叫ばない?

 

 



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アオハル杯エキシビジョンマッチ(幕間)

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さんっ」

「いや、あのスズカ……めっちゃ見られてるからな?」

 

 

 

「……お兄さん、チューは…?」

 

 

 

 コイツ……レースばりの集中力を発動してやがる。

 なんてところに全力出してるんだ。嫌すぎるコンセントレーション。仕方ないので強めのハグで宥めてみるのだが。

 

 

 

「…………んー……」

「どうどう」

 

 

 

 さすがにキス大公開は嫌すぎるので一旦裏手に引っ込むしかねぇ!

 「あいつらうまぴょいしたんだ!」と言われようとも実際見られるより全然いい。これまではスズカの怪我のリスクとか色々追い詰められすぎていたのだ。

 

 エキシビジョンマッチを一世一代のレースと同レベルだと思うなよスズカ…!

 

 

 

 

 

 

 

 ……結局求められれば応えたくなるわけだが。

 周囲から生暖かい目で見られながらなんとか関係者用の通路に連れ込んだスズカの、レースで火照った身体が妙に綺麗に見えたり。

 

 

 

 

 

 

「………んぅ……………はふ。……どうでしたか、お兄さん」

 

 

 

 

 

 たっぷり、なんなら短距離レースより長かった気がするキスを終えて艶っぽい息なんて吐いてみるスズカだが、それはレースの感想でいいんだよな…?

 

 

 

 

「………チューのイメージトレーニング、頑張ったんですけど……」

「レースの話しようぜ……とはいえスタートが完璧だったからあんまり話すことないけど」

 

 

 

 

 多分、まだ本気出してないだろ。

 まあマイルだしそんなに大逃げにならないというか、後ろが追従できてしまうってのはあるんだろうけど。

 

 

 

 

「――――だってお兄さんが叫んでくれないから……」

「なんで…?」

 

 

 

 

 なんで俺の叫びが競馬の鞭みたいな扱いになってるの?

 でもそれなら余計に勝てるなら叫ばなくていいよね?

 

 

 

 

「代わりに私が叫ぶとか……?」

「やめて」

 

 

 

 

 

「ちょっとトレーナー。次は中距離だよ!? 早く来てよね!」

 

 

 

 と、飛び込んできたテイオーに促されて渋々動き出すスズカだが、尻尾が思いっきり腕に絡んでくるんだけど。………もうどうにでもなーれ!

 

 

 というわけで集合場所に行くと、既にメンバーとその関係者は揃っていた。

 やっぱり一部はビデオ通話だが。

 

 

 

 

『えっと……ブルボンさん、頑張ってね!』

「――――ミッション受諾。オペレーション:勝利を獲得のため全力を尽くします」

 

 

 

『アヤベさん! すごくすごいメンバーですけど、アヤベさんなら絶対やれます! 頑張って下さいね!』

「……ええ、そうね………その、ありがとう」

 

 

 

「見ててよね、カイチョー! 無敗の三冠の前に勢いつけちゃうから!」

「ああ、期待しているよ。テイオー」

 

 

 

 

 

 というわけで、今回のメンバーはライスシャワーに引っ張ってきてもらったミホノブルボンを加えてアヤベ、テイオーの三人になる。

 一応長距離とのバランスを取った形であり、恐らく向こうがパーマーとセイウンスカイを呼んで、かつその二人ならマックイーンとの連携を考えてパーマーの方を長距離で出してくる読みである。

 

 

 

 

 一応、こっちのメンバーでは今年クラシック級のテイオーがほぼ原作の全盛期と言っていいだろう。……怪我させないように最新機器も容赦なく導入してるが。

 基本的に、馬用の治療器具なんて人間用と比べたら型落ちみたいなもんである。人間用の方の進化がおかしいんだけど。

 

 

 

 

 

「で、相手のメンバーが――――スペシャルウィーク、アグネスタキオン、セイウンスカイか」

 

 

 

 

 

 うーん………タキオンもウンスも東京2400より中山2000の方が怖いメンバーなんだよなぁ。凄まじくメタ的だが、想いを背負って走るウマ娘でこういう印象は馬鹿にならない。

 

 それでいうとダービー馬であり、ジャパンカップでモンジューに勝利したスペシャルウィークのウマソウルを受け継ぐスぺちゃんはヤバイ。

 

 

 

 

――――こっちはトリプルダービー馬だけどな!

 

 

 能力の差からラップ走で圧殺する坂路のサイボーグ、ミホノブルボン。

 奇跡の帝王、不屈のテイオーことトウカイテイオー。

 ダービーで輝いた一等星アドマイヤベガ。

 

 

 

 一応こっちではまだ未デビューが二人いるとはいえ、デビューに向けて遜色なく鍛えられているので後は実戦経験くらいのものだ。故に、もし負けても美味しい。

 

 

 

 

「三人とも、間違いなく強い――――ダービーを獲れる……どころか三冠目指せる逸材だろう」

 

 

 

 冗談めかして言ったつもりだが、三人とも急に真顔になるのやめてくれないだろうか。

 

 

 

 

「………三冠」

「にしし、トレーナーとも約束したしねー。カイチョーみたいなウマ娘になるって!」

「……トレーナーが言うと、三冠が軽いものみたいね」

 

 

 

 

 軽くはない、軽くはないのだが―――。

 サイレンススズカがクラシック三冠取れたのだ、才能さえあればあとは努力でなんとかなる。

 そして、その一番難しい才能をこの三人は持ってる。

 

 

 

 

「テイオーはルドルフに追いつくために、アヤベは妹に最高のレースを見せるために、ブルボンは……」

「父との約束です」

 

 

 

「ちなみにスズカ」

「……え? ………えっと、どうしてでしたっけ…?」

 

 

 

 基本的にウマソウルの影響で従順なのでレースも景色が見られればいいというスタンスの弊害か。コイツに夢を聞いたら「最高の景色を見ること」とか言うからな。シニア級あたりから夢が「お兄さんのお嫁さん」になりやがったわけだが。

 

 

 

「温泉旅行」

「あっ、ご褒美に温泉旅行に連れて行ってくれるってお兄さんが」

 

 

 

 楽しかったです。とか笑顔のスズカだが、お前全裸で温泉に突撃してきたこと忘れてないからな。つるぺたの癖に無駄に魅力に溢れやがって! 心拍数上がりすぎだったし(社会的に)死ぬかと思ったからな!

 

 もちろん三冠に夢抱いている面子は呆然としているが。

 

 

 

「………温、泉」

「あー、あとあれでしょ。トレーナーの寝具をスズカが貰ってくってヤツ」

「寝具は大事ね」

 

 

 

 

 いや思ったより平然としていた―――!?

 

 

 

「だってトレーナーとスズカってあんまり名誉とか興味なさそうだし」

「俺はあるが」

 

 

 

「名誉とスズカなら?」

「スズカ」

 

 

 

 これでも俺はスズカの隣にいて良い証明代わりとしてスズカにクラシック三冠取らせた割と自己中なトレーナーなのだが。その質問はちょっとズルい。

 

 

 

「名誉のために命を懸けられるヤツもいるが――――結局、自分の大事な人が喜んでくれる方が遥かに想像しやすい。だから力になる」

 

 

 

 テイオーなら、ルドルフが自分を認めてくれて並び立つこと。

 アヤベなら自分のせいで犠牲になったと思い込んでいた妹が喜んでくれること。

 ブルボンは……ブルボンの父親大好き度はよく分からんけど、やっぱり自分の芯になる部分は分かっておいた方が最後の根性に差が出る。

 

 

 

 

 

「……私は、勝ちます。父のためにも」

 

 

 

 まあテイオーもある意味父親(原作)のために頑張ってるようなものだしなー。

 やはり家族か。

 

 

 

 

「……お父さん………ふふっ」

 

 

 

 いやあの、スズカさん? なんでそこでこっちを見るんですか?

 「これからもよろしくお願いしますね?」みたいな笑顔は可愛いけど、テイオーに「うわぁ」って目で見られてるからね?

 

 

 

 

「よし、時間がないから手短にいくぞ。府中の直線はタキオンの脚には長すぎる。このエキシビジョンマッチに選手生命を賭けるほどの理由がなければ、向こうのエースはスペシャルウィークだ。だから――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

『さあ、いよいよ第4Rを迎えましたアオハル杯エキシビジョンマッチ! ここまで2勝し王手をかけるチームリギル! 1勝し後を追うチームスピカ! ここで勝敗が決してしまうのか、はたまた五分に戻すのか―――注目の第4Rは府中の芝2400で行われます!』

 

『長い直線から後方有利とされますが、近年では覆されることも多いですね』

 

 

 

 

『チームリギルから――――目指すは無敗の三冠、若駒ステークスを大勝し皐月賞に備えるトウカイテイオー!』

『同世代でも特に注目のウマ娘ですね。皐月賞の事前投票でも1番人気です』

 

 

 

『受け継がれた星の輝きは、オークスと同じこの府中で輝くのか!? アドマイヤベガ!』

『未デビューながらやはり特に注目されているウマ娘ですね。体質の弱さが不安視されていましたが、改善しつつあるとのことです』

 

 

 

『そしてやはり無敗の三冠を掲げて走る期待の新星、ミホノブルボン!』

『特に短距離の才能があるとされていますが、ここで中距離に出てくるということは、もしかするのかもしれませんね』

 

 

 

 

『チームスピカからは、超光速のプリンセス―――アグネスタキオン!』

『彼女も未デビューですが、特にスピードに関して素晴らしい才能があるようです』

 

 

 

 

『そして黄金世代のトリックスター、セイウンスカイ!』

『言わずと知れた逃げウマ娘です。“彼女”との連携にも期待が高まりますね』

 

 

 

 

『そしてチームスピカのエース! 彼女の府中での走りは疑う余地がありません! エルコンドルパサー、モンジューと強敵に勝利してきた“日本総大将”――――スペシャルウィーク!』

『中距離から長距離まで幅広く走れるウマ娘ですが、特にこの府中の走りは目覚ましいものがありますね』

 

 

 

 

 

『人気投票も締め切りとなりました、まもなくスタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(はぁ、ゲート嫌いなんだよねぇ……)

 

 

 

 スぺちゃんがどうしても、って言うから参加したけどさ。

 なんでエキシビジョンで手の内を見せないといけないのか――――そう思っていたセイウンスカイだったが、少しばかり意識は変わった。

 

 

 

『ええー。いやぁ、セイちゃん的にはエキシビジョンマッチはいいかなぁって』

『そこをなんとか! ねっ? お願いっ!』

 

 

 

『そう言われてもなぁ……あんまり楽しくなさそうだし』

『――――ううん、きっと楽しくなるよ』

 

 

 

 

 根拠はないはずなのに、自信に満ちたスぺちゃんに押し切られたのは良かったのか悪かったのか。

 GⅠやドリームトロフィーリーグと比べても遜色ない盛り上がり。

 

 どうせならオグリキャップ先輩とか、ああいう面子と走ってみたかったという気持ちも無くはない。サイレンススズカ? 走りの相性が最悪なので遠慮したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一番人気はこの子です、日本総大将、スペシャルウィーク!』

『実力も実績も申し分ありませんね。ここはなんとか踏ん張りたいところです』

 

 

 

 

『二番人気はこの子です、トウカイテイオー!』

『間違いなく次世代の中心になると目されている新星の活躍に期待です』

 

 

 

 

『この評価は少し不満か。三番人気はセイウンスカイ!』

『ダービーでこそスペシャルウィークに敗れましたが黄金世代の二冠ウマ娘は伊達ではありません』

 

 

 

 

 

 

(まあ、もうちょっと舐めてくれてもいんだけど――――)

 

 

 

 

 観客が、ではない。

 決然とした表情でこちらを見てくる逃げウマ娘――――ミホノブルボン。そして、それをチームメンバーに抜擢したトレーナーも。

 

 

 

 

 

(でも、そう。逃げウマをぶつけられたくらいで止まると思われるのも面白くない―――かなっ!)

 

 

 

 

 

『――――スタートしました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


実際あんまり文字数とか投稿頻度多いと読むの面倒くさいですよね。
というわけでアンケートにご協力ください。



あくまでも目標なので残念ながら保証はできないのと、アオハル杯が終わったらもう一個のほうも書かないといけないのでこちらは完結になります。


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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第4R)


 ※本日2話目です


 

 

 

 

 

 

 

 

『さあまず前に出たのはセイウンスカイとミホノブルボン! 僅かにミホノブルボンが前だがセイウンスカイが競りかけていった! セイウンスカイがハナを主張!』

 

 

 

(――――まずは小手調べ、かなっ)

(っ!?)

 

 

 

 

 

 

 誘うようにペースを上げるセイウンスカイ。

 並のウマ娘なら引っかかってしまっただろうそれに、ミホノブルボンは僅かに動揺しつつもスルー。

 

 

 

 

(へぇー、なら――――)

 

 

 

 

 それならそれでよし、と更にペースを上げていくセイウンスカイ。

 それを見ながら、ブルボンはチーム結成の後にひたすらやらされた練習を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 とりあえずトレーナーの端くれとして、チームに招集したミホノブルボンに受けてもらいたい練習が一つあった。

 

 

 

 

「ブルボンの強みはラップ走なわけだが、一つ弱みがある。なんだと思う?」

「……純粋に私より速い相手には敵わない、という懸念点でしょうか」

 

 

 

 まあスズカと同じで駆け引きを拒否してるからな。

 が、同じようで全く別物だ。どうあがいても先頭になる先頭民族、スズカはあらゆる干渉を受けない。

 

 だが、ただ一定の高速ペースを刻むミホノブルボンには干渉する余地がある。

 そう――――キョウエイボーガンのように。

 

 

 

 

 基本的に気性に問題があることが多い逃げ馬。

 果たして前を走られて放置できるのか? それもレースの興奮状態で、だ。スズカならキレる。……いやまあ、俺がバイクで前を走って煽ったりと特訓したから、少しは耐えられると思うのだが。

 

 

 

 

 

「というわけで、スズカ」

「はい」

 

 

 

「併走よろしく」

「……えっと、どのくらいにしますか?」

 

 

 

「煽りで」

「……ご褒美………」

 

 

 

「後で好きなだけしてやるから」

「……! じゃあお兄さん、今日は一杯褒めてチューして下さいね?」

 

 

 

 

 

 

 そうして始まったのが、サイレンススズカにひたすら前から煽られる併走?練習だった。

 ハイペースでこれでもかと差を広げられたり、前で少しペースを落として抜きされそうな雰囲気を出されたり。むしろスローペースで前をふさぐような動きをされたり。

 

 ラップ走しかしてこなかったブルボンは逃げの奥深さを知るとともに、その厄介さを知った。釣られたが最後、自分の強みを失うことになると。

 

 

 

 そもそも短距離向きであるブルボンは、どれだけ努力を重ねていても掛かった状態でスタミナを残すことはできない。スパートしないことでスタミナの消費を抑える意味もあるのである。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(――――オーダー再確認。私の今すべきことは―――『チームのために走る』です)

 

 

 

『――――なんと大逃げ! セイウンスカイ、まさかの府中2400で大逃げです! これはジャパンカップのカツラギエース、日本ダービーのサイレンススズカに続く大逃げか!?』

 

 

 

 

(セイちゃんの作戦に引っかからなかった―――――ということは)

(つまりプランBと、想定内ではあるねぇ)

(やんなっちゃうなぁ、もう!)

 

 

 

 

(オーダー継続。作戦に変更ありません)

(大逃げなら僕たち散々一緒に走ってるからねー)

(………勝負は、最後の直線)

 

 

 

 

『先頭、セイウンスカイ。4バ身から5バ身離れてミホノブルボン。その後方2バ身後ろにトウカイテイオー、その後ろにアグネスタキオン。そして1~2バ身ほど空いてスペシャルウィーク、ここにいます。最後方にアドマイヤベガ。全体が10バ身くらいに収まっています』

 

 

 

 

 

 

(ペース、問題なし。さっすがブルボン)

 

 

 

 まだ経験の浅いテイオーとアヤベはペースに関しては不安があった。

 が、ラップ走を得意とするブルボンさえペースを守れれば自然と最適なペースで走れる。つまり、超豪華かつ自分も勝ちに行けるラビットである。

 

 これでセイウンスカイは幻惑逃げを実質封じられたことになるが――――。

 

 

 

 

『さあ隊列は変わらず、大きなリードを開いたセイウンスカイ。少し息を入れたのか少し差が縮まりましたが大欅の向こう側を回っていきます!』

 

 

 

 

『ミホノブルボンが迫ってきた! トウカイテイオーも徐々に進出! マークするようにアグネスタキオン! スペシャルウィーク上がってきた! その外からアドマイヤベガ!』

 

 

 

『さあ徐々にバ群がひと固まりになってきた! 先頭はセイウンスカイ! リードがまだ3バ身あるがミホノブルボン詰め寄ってきた! トウカイテイオー、アグネスタキオンも来ているぞ!』

 

 

 

 

 

(―――――さあ、大物釣りあげちゃいましょうか…!)

 

 

 

 

 

―――――『アングリング×スキーミング』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで負けるようなら、黄金世代で二冠など獲れていない。

 一気に加速したセイウンスカイが着実に詰めて来ていたブルボンを引き離し―――。

 

 

 

 

 

 

「――――さあ、無敵のテイオー伝説っ! いっくよぉーッ!」

 

 

 

 

 

―――――――『究極テイオーステップ』

 

 

 

 

 

 

 

『トウカイテイオーだ! トウカイテイオーが来た! 二番手ミホノブルボンが徐々に差を詰めるが、外からトウカイテイオー! セイウンスカイ、リード残り1バ身!』

 

 

 

 

 

 

 

(セイちゃんも、テイオーさんも、皆、本当に凄い――――)

 

 

 

 

 

 

 

(――――でも、負けない……負けられない! 私が――――お母ちゃんの、応援してくれる皆の――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――『シューティングスター』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――勝ちたい…っ! 勝つんだ!」

 

(――――スズカさんに追いつくためにも! セイちゃんにも、グラスちゃんにも、エルちゃんにも! キングちゃんにも! ブライトさん達にだって!)

 

 

 

 

 

『――――スぺ、お前は―――どんなウマ娘になりたい?』

 

 

「なるんだ―――――みんなの夢に!」

 

 

 

 

 

 

――――――日本総大将

 

 

 

 

 

 

 

 

『スペシャルウィーク! スペシャルウィークが来た! 内から間を割ってスペシャルウィーク! 並ばない! あっという間に交わした! スペシャルウィーク先頭! 外からトウカイテイオー!』

 

 

「――――っ!? まだまだぁあああっ!」

「根性ぉぉぉぉっ!」

 

 

 

 

 

『内スペシャルウィークわずかに先頭! だが外トウカイテイオーも一歩も譲らない! 三番手争いはミホノブルボン―――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 そして先頭争いから離れた後方。

 アグネスタキオン(真面目には走っているが必死では走ってない)はさておき、スパートをかけたにも関わらず前に追いつけないアドマイヤベガは歯を食いしばって必死に脚を動かしていた。

 

 

 

 

 

(――――…前が、遠い!)

 

 

 

 

 

 得意な距離のはずだった。

 有力な逃げが二人いて、ハイペースになるから有利だと思っていた。

 

 その悉くを覆して、圧倒的な加速で前に出たスペシャルウィークと、スピードで対抗するトウカイテイオー。

 

 

 

 

 

 

 

(私は――――)

 

 

 

 輝く星にも、大切な妹の夢にもなれないの…?

 

 

 

 

 

(ねぇ、お姉ちゃん。本当はこういうのダメなんだろうけど……。トレーナーさんがね、エキシビジョンマッチならいいんじゃないかって)

 

(え………?)

 

 

 

 

(……私も、お姉ちゃんの力になりたい。……一緒に、走ってみたい)

(……………そっか。そうね――――本当はダメかもしれないけれど)

 

 

 

 

(私も、貴女と一緒に走りたい)

 

 

 

 

 

 

 二人の想いが、溢れるように身体を蒼と碧のオーラが覆う。

 右と左、異なる色の焔を宿したアドマイヤベガは、二人で一筋の流星となってターフを駆けた。

 

 

 

 

――――――『ディオスクロイの流星』

――――――――『ジェミニの双流星』

 

 

 

 

 

 

 

 

「『―――――ハアアアアアッッ!』」

 

 

 

 

 

『スペシャルウィーク先頭! トウカイテイオー追いすがる! ―――外から! 外からアドマイヤベガ! アドマイヤベガが一気にトウカイテイオーに並びかける! 交わすか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――そっか。これがレース――――レースに絶対は無い)

 

 

 

 

 

 死力を尽くしてなお、勝つことができない大舞台。

 どうやっても勝てないかもしれない強敵。

 大きすぎて届かないのではと思わされる憧れ。

 

 およそ天才ともてはやされてきたテイオーが、知らなかったもの。

 

 

 

 

(でもそんなの今更だよね)

 

 

 

 

 サイレンススズカ。

 どうやっても追いつけないと思い知らされた、トレーナーが全てを懸けて育て上げた怪物。

 

 けど、そんなことで諦めると思わないでほしい。まあトレーナーがまな板好きな変態なのはそれはそれとして。

 走りに関して負けるつもりはない。本当に見るべきが誰の走りか――――それを思い知らせるまでは!

 

 

 

 

 

(負けない……負けるもんか! 負けたことが無い? 届かない悔しさなんて、いつも味わってきた…!)

 

 

 

 

 

 

 

――――『絶対は、ボクだ』

 

 

 

 

 

 

 

 不死鳥の如く再加速し、アドマイヤベガを一瞬だけ差し返す。

 そして、その一瞬さえあれば十分だった。

 

 

 

 

 

(――――だから、借りるね。カイチョー!)

 

 

 

 

 

 

 

――――『汝、皇帝の神威を見よ』

 

 

 

 

 

 

 本家本元、カイチョーのような凄まじい威圧感なんて無い。

 それでも身にまとった雷光が、誰よりも憧れた光が他の何よりも力をくれる!

 

 

 誰よりも焦がれた、二人で見たあの日の輝きを!

 この輝きを、見逃させたりなんてしない!

 

 

 スぺちゃんも、アヤベも、全部出し尽くしたよね?

 作戦も、位置取りも、スタートも領域もコースも。もう関係ない。

 

 

 あとは、純粋なスピードと根性の勝負!

 ゴールまで、誰が意地を張り通せるか―――。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――さあ、勝負だぁあああああっ!」

 

 

 

 

 

「はああああああああっ!」

「『あああぁぁ――――ッ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

『内にスペシャルウィーク、中トウカイテイオー、外アドマイヤベガ! 残り100m最後の攻防だ! 三者とも全く譲らない! 誰が前に出るのか!? トウカイテイオー僅かに前か!? スペシャルウィーク差し返す! アドマイヤベガも譲らない! ――――今、一直線でゴール!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは―――全く分かりません! やはり決着は写真判定!』

 

 

 

 

 

 

 







 


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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第5R)

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――今、判定が出ました! トウカイテイオー! 一着はトウカイテイオー! 二着は……同着です! 二着にアドマイヤベガとスペシャルウィーク! ゴール前の激闘を制したのはトウカイテイオー! タイムは2分21秒3!』

 

 

 

『天高く拳を突き上げたトウカイテイオー! 場内は割れんばかりの大歓声です!』

 

 

 

 

(まだ0冠だけど――――まあ、いい経験にはなったかなー)

 

 

 

 皐月賞は指一本の予定だから、まだこれは始まる前の0本。

 笑顔で拍手しているスぺちゃんと、なんだか楽しそうなアヤベを見てるとボクだけ必死だったの? という気持ちになるけど。

 

 なんとなく先頭の観客席から憧れの目を向けながら声援をくれている小さな黒髪のウマ娘の子に手を振ってあげる。

 

 

 

 

「――――さて、勝ったよ。トレーナー!」

 

 

 

 

 別に愛を叫べとは言わないけれど、何か気の利いた一言くらい欲しいものである。

 そんな気持ちでドヤ顔と共に勝利宣言し。

 

 

 

 

「ああ。良い走りだった――――やっぱり皇帝を超えるならお前だろうな、テイオー」

「―――――」

 

 

 

 

 全く、このトレーナーは。ボクがどれだけカイチョーに憧れてるか知ってるはずなのに。調子の良い事いっちゃって、と言いたくなる。

 

 なのに。

 何故か、まるで何か“皇帝を超えたかもしれない姿”を見ているような――――そんな、何かを明確に思い浮かべたような目をされると何も言えなくなってしまう。

 

 

 

 

「……まだ、追いついてもいないんだけど?」

「別に追いつかなくても追い越せるさ。まあテイオーからすればルドルフの偉業をなぞるのが大事なんだろうけど」

 

 

 

 

「ボク、たまにトレーナーの頭の中身覗きたくなるよ」

「なんでさ」

 

 

 

 

「で、スズカの走りとどっちが良かった?」

 

 

 

 

 

 ピクリ、とトレーナーの背中に顔を埋めていたスズカが動く。

 

 

 

 

「いやお前それ聞く? ……んー、個人としてはスズカの走りに惚れてるからスズカ。観客としてならスズカは塩だからテイオー。トレーナーとしては―――まあ、今戦えばスズカが勝つだろうな、と」

 

「へぇー……」

「……! お兄さんっ」

 

 

 

 

 ぐりぐりと頭を擦りつけて甘えるスズカを宥めつつ、まあ納得する。

 今ならスズカが勝つ―――今回のセイウンスカイの幻惑逃げもそうだけれど、スズカの絶対的な逃げへの対策がまだない。

 

 個人としてスズカの走りに惚れているというのがなんとなく腹立たしいけれど、ボクも別にトレーナーにボクが一番凄いって分からせたいだけだし。別にいいし。

 

 まあそりゃああれだけ絶対的な戦術を作ったら自慢にもなるよね。うん。

 

 

 

 

(………とりあえず、スズカに勝てそうな条件から探そうかなー)

 

 

 

 まずこちらの土俵で、最終的にはトレーナーの鼻っ柱をへし折って分からせるつもりで。

 

 

 

 

 

(だって、皇帝を超える帝王になるなら―――何よりも、認めさせないとね)

 

 

 

 

 

 あの日、共に皇帝に焦がれた同士に。

 

 

 

 

「絶対にボクの走りを認めさせてあげるから、覚悟しておいてよね。トレーナー!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 京都――――レースを映像で見ていたメジロマックイーンは、既に敗北が決してしまった事実を受け止めつつも抜かりなく準備を整えていた。

 

 

 

 

「分かってはいましたが――――いいえ、分かっているつもりでしたが。やはり、強いですわね」

『ああ、ったく。いいようにしてやられちまった』

 

 

 

 沖野としてはこれだけのメンバーを集めた以上は、スズカはともかく他は勝てるのではないかという思いがないでもなかった。しかし指導方針もあり自由に走らせているのだが、まさか向こうが対策をしてくるとは。幻惑逃げをラップ走法で潰してくるのはどういう読みをしてるのかと愚痴りたくなる。

 

 こっちは伝手をフルに活かしてなんとかかき集めた面子なのに、それぞれの戦法やら何やらを把握されている気がしてならない。

 

 だが、それでもここは負けられない。

 

 

 

 

「ですが、ここ―――長距離では負けられませんわ」

「うんうん、メジロといえば長距離だしねー」

「いやー、タイ焼き機の準備に手間取っちまったぜ」

 

 

 

 

 名優、メジロマックイーン。

 メジロが生んだ長距離爆逃げウマ娘、メジロパーマー。

 そして、タイ焼き機?を担いだゴールドシップ。

 

 

 

 

(……くっ、無視……無視ですわ!)

(なんでタイ焼き機…?)

「待ってろよ、びんちょう鮪!」

 

 

 

 

 

 スピカの誇る長距離エースと、頼もしい助っ人、そしてなんやかんやスピカ最古参のゴールドシップも信頼して……信頼……している。たぶん。

 

 

 

(不安要素は――――向こうの面子か)

 

 

 

 

「――――よしっ、私も負けていられない…!」

 

 

 

 素晴らしい仕上がりのナリタトップロード。

 は、まだいい。分かりやすく普通に強そうなだけだ。

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 蒼い焔のようなオーラを纏い、普段の大人しそうな雰囲気はどこへやら。獰猛な肉食獣のようなライスシャワー。

 

 

 

 

「……いいえ、貴女も分かっているはずでは…?」

 

 

 

 なんか虚空に話しかけてる、普段の5割増しでヤバそうなマンハッタンカフェ。

 

 

 

 

(なんかナリタトップロード以外おかしくねぇ!?)

 

 

 

 

 こっちは落ち着けているのが二人とゴルシが一人。

 向こうはやる気満々の一人に、殺ル気満々のが二人。

 

 

 

 

『さあスタートの準備が整いました! 一番人気はこの娘、メジロマックイーン!』

『春の天皇賞を制した実力は疑う余地がありません。彼女の走りが、間違いなく今回のレースでも鍵になるでしょう』

 

 

 

『二番人気はライスシャワー』

『デビュー前ではありますが、その気迫はなんら劣るものではありません』

 

 

 

 

 

 

『三番人気、マンハッタンカフェ』

『彼女もただならぬ雰囲気を漂わせています。果たしてどんなレースを見せてくれるのか期待しましょう』

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ、京都の芝3000m。アオハル杯エキシビジョンマッチ最終戦―――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(―――――よし、スタート大丈夫! 爆逃げキメる…っ!)

 

 

『さあまずまず揃ったスタート! ハナを主張していくのはメジロパーマー。それに続くのはメジロマックイーン、その後ろライスシャワー。少し離れてナリタトップロード、マンハッタンカフェ。ゴールドシップは最後方から!』

 

 

 

 

 

 

(張り切ってますわね、パーマー。私も負けていられませんわ……!)

(ついてく、ついてく……)

 

 

 

(ペースはやっぱりパーマーさんだけ速い――――マックイーンさんは少し遅い)

(…………)

 

 

(さーて、どっから仕掛けっかな……)

 

 

 

 

『第三コーナー回ってメジロパーマー、更にリードを大きくとります。大逃げ、またしても大逃げです! 5バ身くらい離されてメジロマックイーン、その後ろぴったりとマークしているのがライスシャワー! 少し離れたところでナリタトップロードとマンハッタンカフェ追走。ゴールドシップはまだ動く気配がありません』

 

 

 

 

 

『さあ更に差が広がる広がる! 先頭メジロパーマー、15バ身くらいのリードを取りました! これは後方の子たちは大丈夫か!?』

 

 

 

 

 

 大きなリードにざわつく観客席。

 そんな空気を感じ取って、ナリタトップロードはちらりと前方のライスシャワーに目線をやった。

 

 

 

(こ、これって……もしマックイーンさんがスローで抑えたら――――)

 

 

 

 

 誰も届かず、そのまま敗北という事にもなりかねない。

 

 メジロパーマーを勝たせるための戦略なのでは―――そう考えてしまうが。

 沈黙したままのライスシャワーに気を取り直して背後に注意を向ける。

 

 

 

 

(ダメだ、ダメ! ライスちゃんが信じてるんだもの、私も信じなくちゃ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

(……っ、全く動じてくれませんわね…!)

 

 

 

 一方のマックイーンは僅かにペースを緩めてみたり、背後にマークしているライスシャワーの動揺を誘おうとしてみるものの――――尻尾を食いちぎられるのではというほどのプレッシャーで逆に精神をすり減らされている気すらする。

 

 

 

 

 

 

 そんな前方の駆け引きを意に介さず。パーマーが淀の坂に差し掛かるまで大人しくしていた葦毛が遂に動いた。

 

 

 

 

「――――っしゃあ! 面白くなってきたぜ…!」

 

 

 

 

 

―――――『不沈艦、抜錨ッ!』

 

 

 

 

 まるで錨を振り回すような、破天荒すぎるゴールドシップの領域が背後から迫るのを感じてマンハッタンカフェとナリタトップロードも動く。

 

 

 

 

(――――来たッ!?)

(――――……勝負、ですね)

 

 

 

 

 

―――――『アナタヲ・オイカケテ』

 

 

 

 

 

 漆黒のオーラを纏ったマンハッタンカフェがペースを上げ、奇しくもゴールドシップと全く同じ捲り戦法でスローになっているマックイーン目掛けて距離を詰めていく。

 

 

 

 

 

 

『さあここでゴールドシップが動いた! マンハッタンカフェも上がっていく! 先頭、メジロパーマー!』

 

 

 

 

 

 

(このままペースを保てばもしかしたら楽に勝てるかもしれない、けれど逆に向こうの末脚に敵わず負けるリスクもある――――ならば!)

 

 

 

 

 

 

『メジロマックイーン、動いた! メジロマックイーンがスパートを掛けた! 先頭メジロパーマーに一気に詰め寄っていく! しかしライスシャワーぴったりと背後に追従!』

 

 

 

 

 

 

(メジロのウマ娘として――――正面から打倒してみせますわ! ――――参ります!)

 

 

 

 

 

―――――『貴顕の使命を果たすべく』

 

 

 

 

 

(―――――……このペース、マックイーンさんのスパート………届く。届かせる…!)

 

 

 

 

 

(ま、だ……まだあああっ! 逃げ切って見せる…っ!)

 

 

 

 

『メジロパーマー早くも最終直線に入った! メジロマックイーンとライスシャワー、競り合いながら一気に距離を詰めてくる! 更に後方からマンハッタンカフェ! その後方にナリタトップロードと外を回ってゴールドシップ!』

 

 

 

 

 

「―――――っ、っとぉ! まだまだぁ!」

「そう簡単に―――行かせません!」

 

 

 

 

 捲っていくゴールドシップが内に入れないよう絶妙な距離を保つトップロードだが、ゴールドシップは意に介さずぐんぐんペースを上げていく。

 

 

 

 

(でもまだ……オペラオーちゃんの方が速い…! アヤベさんはもっと鋭い…! 私だって、負けていられないんだっ!)

 

 

 

 

 絶対に内には入れないという気迫のナリタトップロードにゴールドシップは笑みを深め、競り合いながらマンハッタンカフェを猛追する。

 

 

 

 

 

『メジロパーマー先頭! 一気に詰め寄ってくるメジロマックイーン――――外から! 外からライスシャワー! 内からマンハッタンカフェ! 後方から突っ込んでくるナリタトップロードとゴールドシップ!』

 

 

 

 

 

 

 

(――――お兄さま)

 

 

 

 

 いつだってライスのことを優しく見守ってくれているお兄さま。

 物語のお兄さまみたいに優しくて、素敵な人で――――ライスなんかにはもったいないくらいの人だけれど。

 

 

 

 

『誰が相応しいかは――――ただ、勝利だけが認めさせる』

 

 

 

 

 スズカさんと結婚したトレーナーさんは言っていた。

 強い相手に教え子が勝つことが何より嬉しいって。……そして、ウマ娘にトレーナーが相応しいか、トレーナーにウマ娘が相応しいかは勝たなければ証明できないって。

 

 

 勝って、勝って、勝ち続けて。

 そうしてあの人とスズカさんは皆に祝福されて結婚した。

 

 

 それはとても素敵で、本当に物語みたいで――――スズカさんは本当に幸せそうで―――――ライスも、ああなりたいって思った。

 

 

 

 

 

 

(ライスだって――――咲ける…っ!)

 

 

 

 

 

――――――『ブルーローズ・チェイサー』

 

 

 

 

(ライスだって――――お兄さまにとっての主役(ヒーロー)になりたい…っ! なるんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

『メジロパーマーここまでか!? メジロマックイーン交わした! しかしここでライスシャワーが並びかける!』

 

 

 

「――――はぁあああああっ!」

 

 

 

 

『ライスシャワー交わしたっ! ライスシャワー先頭!』

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……追いつきたい………アナタに…!」

『―――――』

 

 

 

 

 

 トウカイテイオーの宣言は、気持ちの整理をつけようとしてたカフェとしても気になるものだった。

 

 恋人、男女の関係はもう先約がある。

 でも、ウマ娘とトレーナーとして――――誰がもっとも優れた愛バか。それを争うことは問題がない。たぶん。

 

 

 

 

 そして一人だけ、カフェには心当たりがあって。

 『お友だち』ならば、あるいはスズカさんにも勝てるのではないか―――と。

 

 アドマイヤベガの走り―――妹と力を合わせたそれは、カフェにとっては大きな衝撃だった。力を借りる。それは、きっと――――。

 

 

 

 

 

 

 前を走っていた幻影――――『お友だち』がこちらに僅かにペースを緩めた気がした。

 

 

 

 

 

―――――どうする?

 

 

 

 

 

 問いかけるような、挑発するようなそれに、小さく息を吐いて、思い切り芝を蹴ることで応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

(私は――――私も、自分の力で認めさせたい。……あの人、だけは)

 

 

 

 

 

 

 

 今はまだ、届きそうにないけれど。

 

 蒼い焔を総身から漲らせて走るライスシャワーを猛追する。食い下がるメジロマックイーンすら追いつけなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「――――はあああぁぁっ!」」」

 

 

 

 

 

 

『ライスシャワー! ライスシャワー完全に先頭! メジロマックイーンを交わしてそのままゴール! ――――ライスシャワーが勝ちました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エキシビジョンマッチ後

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…やはり、届かなかった。

 

 

 

 壮絶な競り合いの末勝利したライスさんと、マックイーンさんを遠巻きに眺めながら乱れた息を整える。

 パーマーさんが沈んだ以外は1から5着まで大混戦ではあったのだが、さらっと3着に紛れ込んでいるゴールドシップさんにも負けて4着。モチベーションさえあればあれほどまでに強いのか、と彼女を過剰なほど警戒していたトレーナーさんの謎の慧眼に何とも言えない気分になる。

 

 

 

 

 才能、という面では恐らく自分も恵まれているのだろう。

 けれど体質的に無理はできない上にスズカさんやテイオーさんが持つスター性という面では劣ると、頭の冷静な部分で考える。

 

 

 勝利は勝利。

 でも実際に勝ったライスさんや、ゴールドシップさんを抑えたトップロードさんと比べると私は――――。

 

 

 

 

 

 

『良い走りだったぞ、カフェ。カフェの捲りのお陰でマックイーンも動かざるを得なかったし、あれならもしマックイーンがスローで抑えてても勝ててた』

 

 

 

 

 

 ………。

 いや、本当に、この人は…。

 

 別にトレーナーとして当たり前のことをしているだけで、特別なことではない……と、思うけれどこうして私の手柄にするほどでもないと思うのだが。

 

 

 

 

「………まあ、トレーナーさんの指示のお陰ですし…」

『やれと言われるだけで出来たら苦労しないだろ。レースは水物だし、トレーナーは走らないんだし』

 

 

 

 

 ……そんなに、優し気な目をされると困ってしまう。

 ただでさえ『お友だち』筆頭に怪異のこともあってトレーナーの人たちとあまり意思疎通をとるのが得意ではないというか、慣れていないのに。

 

 

 

 

『ともかく、三人ともよくやってくれた。ゴールドシップを抑えてくれたトップロード、マックイーンを動かざるを得なくしたカフェ、そしてマックイーンを差し切ったライス。ばっちり作戦を完遂してくれた3人が掴み取った勝利だ―――ライブ、期待してる』

 

 

 

「――――……あの、トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

――――…私の走りは、わずかでも、貴方に届きましたか。

 

 

 

 

 まだ、自分でも満足できない走りではそんなことは聞けないけれど。

 何も言わずに待ってくれているトレーナーさんに、問いかけた。

 

 

 

 

「……皆の勝利、ということですね」

『ん? そうだな、もちろん』

 

 

 

 

「―――…では、ご褒美は期待しています…」

『……え゛っ』

 

 

 

 ちらり、と喜びのあまりトレーナーさん(お兄さま)に抱き着いてしまい動揺するライスさんと、そんなライスさんを優しく抱き留めて撫でているトレーナーさん(お兄さま)を画面に映しつつ催促。

 

 

 

 

「―――…ライスさんに、勝ったらトレーナーは感極まってキスすると……伝えましたね?」

『………キスは言ってない! ハグ!』

 

 

 

 

「――――……なるほど、ハグですか。では、帰ったらお願いします」

『あの、カフェさん!? テイオーはなんで両手を広げてるのかな…!? いやあの、スズカ、ヘルプ!』

『……? お兄さん、ご褒美のハグは大事です』

 

 

 

『お前ちょっと寛容過ぎない!? 俺スズカが男にハグしてたらめちゃくちゃ動揺する自信あるけど!』

『……? 痴漢は締め落すより蹴る方が安全なような……?』

 

 

 

『痴漢相手じゃなく』

『……あの、お兄さん。ウマ娘がハグするのは大事な人か絞め落とす時ですよ…?』

 

 

 

 

 そもそもパワーが違うから危ないです。

 と、急にマトモなことを言い出したスズカさんにちょっと驚いた風のトレーナーさんは一拍置いて、ハグの構えのテイオーに何かを恐れるような視線を向けた。

 

 

 

 

『……待って、テイオー。それはどっち? ちょっ、笑顔が怖いんだけど!?』

『えー。ちょっとトレーナー、勝者に対して扱いが酷くない?』

 

 

 

 

 

『ぎゃああライブ楽しみに待ってぐおおおおおお!? ギブギブギブ! 胸当たってるぞテイオー!』

『―――――当たってないけどぉ!? ボクの胸は腕と大差ないってことかー!』

 

 

 

『いでででで!? いや違うそう言ったら放してくれるかなって……スズカ! スズカヘルプ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『――――あなたたちなら、アオハル杯の優勝も夢ではありません』

 

 

 

 

 樫本トレーナーが、あぶれ者、はみ出し者の私たちを集めて言った言葉だった。

 管理主義―――無駄に仲良くする必要なんて無く、ただひたすらにアスリートとして自分を磨く日々はこれまでの苦しさが噓のようで。

 

 

 

 生ぬるいお遊びで走っている面々になんて絶対に負けないとさえ思えた。

 それだけタイムは伸びていたし、それだけに働きづめる樫本トレーナーのことが心配だった。

 

 

 

 

『――――これが、私のやるべき仕事ですので』

 

 

 

 そんなことを言って、私たちの体調や睡眠時間、タイム、その他の問題全てを考慮したメニューに調整してくれているトレーナー。

 ウマ娘と比較するまでもなく身体の弱いトレーナーを誰からともなく心配するようになって。でも不思議と以前のような息苦しさや居心地の悪さはなかった。

 

 

 

 私たちは互いをそれぞれプロの卵として認識しているし、妙な連帯感のために無理に周りを巻き込まないだけの過去の経験があって。トレーナーを心配するのは全員が無理なく賛同できる内容だったから。

 

 

 

 

 

『確かにドリームトロフィーリーグに出るような人たちが強いのは分かります。けど、重賞勝ちしたことない条件で出走というハンデなんですよね? さすがにそれなら―――』

 

『……私もそう思っていました。ですが、彼女は違う―――ある意味で管理主義の究極……私にはどうすることもできない』

 

 

 

 

 

『そんな!? 樫本トレーナーでも……?』

『ええ。………人生全てを管理に捧げたトレーナーがいます』

 

 

 

『人生全て!?』

『わ、私たちだってアスリートとして人生を走りに捧げるくらいは―――!』

 

 

 

『あ、いえその……結婚、です』

『『『『あっ』』』』

 

 

 

 

 

 ぶっちぎりのヤベートレーナーとウマ娘。

 トレーナーと結婚するために引退したとか、生徒と結婚を認めさせるために世界を制した男とか色々言われている夫婦である。

 

 

 

 

『まさかマイルでもあれほどまでに走れるとは……あれは最早、長距離も走れるマイラーと考えるべき存在です』

『世界最強ステイヤーなのにですか!?』

 

 

 

『……世界的な大レースは2000から2400に集中していますが、日本では言うまでもなくクラシック三冠が最大の栄誉―――それに合わせてトレーニングを積んだのでしょう』

『ちょ、ちょっと待ってください。ということは、長距離よりもマイルの方が強いってことじゃ……?』

 

 

 

 

 

『―――その可能性が、十分にあります』

 

 

 

 

 

 それは、樫本トレーナーが必死になるのも無理はないというか……。

 無理では?

 

 

 

 

『それはもう、マイル以外で勝った方が楽なんじゃ……?』

『戦略としてはもちろんそれもいいでしょう。ですが教え子を負けにいかせる指導者など私は認めません。まだ距離が短い分だけ可能性はあると思いますし………それに、もし勝利できたなら管理主義の力をこれ以上なく広めることが……』

 

 

 

 

 

 

 悩む樫本トレーナーのため、皆で集まって考えたのは一つの作戦だった。

 一度は拒絶され、諦めてこっそりやろうとしたら例のトレーナーが『樫本トレーナー説得するならパワポ使えば?』なんてことを言ってきたのでダメ元でやってみたら何故か説得に成功してしまった。

 

 

 

 

 ………いやあのトレーナー何者…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――――……なんとなく、スズカさんが夢中になる気持ちも分かった気がします」

「いや、あの。カフェさん……?」

 

 

 

 

 ご褒美ハグを要求され、謎にスズカ公認でハグすることになってしまったのだが、てっきりテイオーばりに締め上げてくるかと思いきやむしろ遠慮がちに普通のハグをしてくるカフェに動揺してしまう。

 

 

 

「………いえ。ありがとうございます」

「こちらこそ…?」

 

 

 

「……では、私はこれで」

 

 

 

 

 

 

 ……カフェのマンハッタン要素でハグに寛容…?

 とかアホなことを考えていると、スズカはいつも以上に甘えてくるし……。

 

 

 スズカ曰く『今、反動が来てます』とのことだが、乙女心はさっぱり分からん…。

 

 

 

 

 

 ちなみにテイオーはあっさりと皐月賞を勝利。

 ルドルフのパフォーマンスに倣って指一本を掲げた。

 

 春天はメジロマックイーンが圧勝。

 ネットではマックイーンに勝ったライスが一体何者なんだと話題になっているので、これで間違っても菊花賞で勝ってヒール扱いはされまい。むしろマックイーンに勝ったライスが負ける方が問題まである。

 

 

 

 

 むしろテイオーのダービー後の怪我が怖かったのだが、

 

 

 

『つまり全力じゃなくて勝てるだけの力で勝てばいいんでしょ?』

 

 

 

 なんて言いつつルドルフばりの1バ身差で勝利。

 なんで一生に一度の大舞台でそんな調整ができるんですかね。心臓に毛が生えてるのかコイツ……。

 

 

 

 

 

 余裕綽々のその風格に『新たな三冠ウマ娘現る!』と世間も大盛り上がりである。

 ルドルフ以来じゃなくスズカ以来の無敗三冠か!? となっているので無敗三冠そのものの期待は下がった気がするのだが、スズカの活躍から早くもテイオーの海外挑戦が囁かれ始めている。

 

 

 

 

『皇帝の果たせなかった無念を晴らすのか!?』

『日本の帝王は海外に通ずるか』

『サイレンススズカ、シンボリルドルフとの無敗三冠対決は』

 

 

 

 まあそれだけ期待されていると言えるが、けっこう好き勝手書かれている。

 とりあえずスズカの秋天(出てないけど)以来の心配がなくなったのは非常に嬉しい。そんなこんなしていると6月末に行われるアオハル杯の一回目の予選に向けて各々で結成したチームが発表された。

 

 

 

 全20チーム。ランダムでトーナメント式に振り分けられ、とりあえずチーム数を削っていくことになる。

 

 6月末の1回目で10チーム、12月末の2回目で5チーム、ここで奇数となり一番評価の高かったチームはシードとして免除して4チーム。6月末に本戦を行って2+1チームまで絞ったら最後12月末に3チーム入り乱れて決勝戦をするらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――が、まあさすがにリギルやスピカが相手でもないと負けるわけがないわけで。

 

 

 

 

 

 

 初戦、二戦目であっさりと勝利。

 テイオーは無敗の三冠を獲り、ジャパンカップに勝利して春の天皇賞でのTM対決へ。

 そしてミホノブルボン世代がデビューする中で、遂にアオハル杯本戦が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 俺たちのアオハル杯はこれからだ―――!

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
※テイオーの個別やっちゃうと向こうで書くことないので…。

本戦と決勝だけ真面目にやります。
そもそも本編完結してるのに無駄にだらだらやろうとするからエタるのだと気づきました。

次回はスズカさんと季節もののイチャイチャをする予定(願望)です

この戦いが終わったらIFルートの方書くんだ……。



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夏祭り





 

 

 

 

 

 

――――結局のところ、引退しても生活はそうそう変えられないわけで。

 

 

 

 

「お兄さん、今日はどこを走りましょうか」

「……ウッドチップかなぁ」

 

 

 

 

 脚の負担を考えると芝よりダートやウッドチップにしてほしくて、なんならプールの方が良くて。どうしても粗食……ならぬ粗景色になってしまうわけだが、文句も言わず楽しそうに走ってくれるスズカに頭は上がらない。

 走る量は制限してるが、朝走って、昼走って、夕方走って。夜もレース。

 

 地方競馬よろしく夜間のレースに不慣れだったスズカも、コツを掴んでからは…………ステイヤーって怖いね。言うまでもないがヒト息子じゃウマ娘には勝てない。

 

 散々桐生院トレーナーがネタにされてるように、そもそもこの世界ではウマ娘との交配が進んでいるからかヒトも身体能力が高いのだが――――短距離クラスの速度を中距離で維持できるというおかしな才能持ちをステイヤーにするとヤバいというのを今更ながら実感した。

 

 

 

 

 

 

「………あの、お兄さん。大丈夫ですか……? はい、飲み物です」

「ん、ありがと……」

 

 

 

 

 夏バテだろうか。

 馬で夏?バテといえば、種牡馬として大人気になったキタサンブラックは元気だろうか。人間不信になったスペシャルウィーク、絶倫と噂のサンデーサイレンス………そっかぁ、そういやSSって絶倫だったか………。

 

 

 

 

 何気なく口に入れた飲み物の、なんともいえない臭みに思わず手元を見ると、いつかどこかで見たような無駄にけばけばしいピンク色の缶。

 

 

 

「うまぴょいドリンクだこれ!?」

「えっと……お兄さん、足りてないのかなって…」

 

 

 

 まあ確かに滋養強壮に効果があるんだろうけれども…。

 ちょっと恥ずかしそうなスズカさんであるが、最近昼間も薄着でスキンシップしてくるあたり慈悲はなかった。前から隙だらけではあったんだけど。

 

 

 

「大丈夫です、今晩は鰻にしますから」

「何も大丈夫じゃない……」

 

 

 

「……すっぽんもつけますか?」

「うん……そうだね」

 

 

 

 

 しかしこっちにも男の子の意地があるのである。

 スタミナ勝負で勝てないなら駆け引きで勝つ……マジでレースかな?

 

 割とあっさり偽知識に騙されてくれるワキちゃんが妙な詐欺に引っかからないかは心配だが、基本的に俺(9割)か同期かスぺちゃん(1割)に張り付いているから大丈夫なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 朝にはしゃっきり回復して走りに行くスズカはつやっつやで、より一層美人になったと母さんもニヤニヤしている。スズカのお母さんは今からベビー用品を母さんと選んでいる。買わないだけ分別があるのかもしれないが、気が早いにもほどがある。

 

 

 

 

 ……引退した翌年度から種牡馬として活動と考えると普通なのが恐ろしいが。

 

 

 ところでなんで子育て雑誌読んでるのかなこのドリームトロフィーリーグ一年目は。にこにこ笑顔でウマ娘の赤ちゃんの写真とか見せられても困る。こいつ俺がこの世界では最初のサイレンススズカの走りのファンだってこと忘れてない?

 

 

 

 

「見てくださいお兄さん。可愛いですよ…?」

「それはそうだな」

 

 

 

「………」

「………」

 

 

 

 

「あっ、そうだ。お兄さん、これ行ってみたいです」

「ん?」

 

 

 

 言われ、取り出されたのは夏祭りのパンフレット。

 そういえば最近は行けてなかったっけか。なんというか普通に何の変哲もない近所のお祭りである。昔通ってた小学校でやってる。

 

 

 

 

「ところでスズカ、お前世界的なスターなわけだが」

 

 

 

 夏祭りになって出没したらパニックにならない?

 

 

 

「………大丈夫です、お義母さんと作戦を考えました!」

 

 

 

 

 言ってはなんだが相談する相手間違えてると思う。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「―――と、いうわけで今回協力して下さるサイレンススズカ軍団の皆さんです」

 

「スズカフェニックスです」

「ラスカルスズカです~」

「スズカコーズウェイですっ」

「……シアトルスズカ、です」

「フライトスズカだよぉー」

「ファントムスズカ……」

 

 

 

 親戚?呼びやがった…!?

 しかも皆でサイレンススズカコスプレをしているという徹底ぶり。

 

 木を隠すなら森の中、スズカを隠すならスズカの中ということか…?

 

 

 

「よくこんなに集めたな…」

「お兄さんに指導してもらえると聞いてみんなすぐオッケーしてくれましたよ?」

 

 

 

 

 えっ。

 ………いやその、この中だとスズカフェニックスくらいしか知らないんだけど!? いやラスカルはアレか、菊花賞三着だっけ?

 

 よしテイオーにも助力を求めよう。

 スズカ……ワキちゃんもそうだが超一流ウマ娘と併走するなら十分お礼になるはず。

 

 

 

 

「……じゃあお兄さん、着替えてきますね?」

「おう、待ってる」

 

 

 

 

 

 

 が、しかし。

 母さんに「あんたも着替えるのよ」と男用の浴衣を用意されてしまったので仕方なく着替えるのだった。モデルとかならともかく、男が着ても何も面白くないと思うのだが。

 

 

 

 

 

 スズカの浴衣かー。

 久しぶりだけど、まあ可愛かった思い出があるから楽しみだな――――。

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

――――長い栗毛を結い上げ、露になった細い首筋と白いうなじ。

 

 うっすらと施された化粧に、浴衣とセットと思わしき薄手のメンコ……もとい耳カバー。

 水色の布地に可愛らしい花をあしらった浴衣はワキちゃん本人の華奢さも相まってそれこそ一輪の花の如く――――まあ端的に言うとめちゃめちゃ似合っているのだが。

 

 

 

 

「……どう、ですか? お兄さん」

 

 

 

 

 色気が――――すごい。

 間違いなく可愛い系の浴衣のはず。なのにはんなりと微笑むワキちゃんの手にかかれば肉のないところにこれほどの色気を……と戦慄したくなる。

 

 めちゃ美人なのである意味変装になるかもしれないが、これ絶対目立つよね。

 

 

 

 そんなことで若干思考がフリーズしてしまったが、なんとか再起動。

 なんか褒めねば。

 

 

 

 

「………えっと、凄く、綺麗だ」

「――――っ」

 

 

 

 

 なんかもうちょっとボキャブラリー無いの? とセルフダメ出しをしたいところだが、幸いにもお気に召したようで。

 想定外に機敏な動きで抱き着いてくるワキちゃんに動揺しつつ、腕に抱き着いてご満悦なワキちゃんの頭を撫でておく。

 

 

 

「いやマジで大人っぽくなったな……これなら変装いらないかもだけど、目立つのは変わらないかもな」

「お兄さんもカッコイイですよ? あと、私はもうオトナなので」

 

 

 

 

 めちゃめちゃ艶やかな栗毛は目立つのだが、そこらへんはスズカの親戚サイレンススズカ軍団のお陰でまあなんとかなるだろう。

 

 

 

 

「というかその履物で良く動けるな。……いや、ビーチサンダル?」

 

 

 

 下駄かと思ったら何か違った。

 スィーっと目を逸らすワキちゃんの襟を覗き込――――たまたま見えてしまったのだが、何故か下にビキニ……じゃなくて水着。

 

 

 

 

「―――ってそれ夏合宿の時の勝負服水着じゃねーか!?」

「えっ、浴衣の下は勝負服って聞いたんですけど……?」

 

 

 

 

 

 走りやすくていいですよね、なんて頭サイレンススズカなことを言っているがそれ勝負下着の間違いでは?

 まあ昔みたいに素直?にノーパンでこないだけいいかもしれないが。

 

 

 

「似合わないですか…?」

「まあ万が一にも外で脱げたりしないのは安心だな」

 

 

 

 レースできるくらいには丈夫だし。

 時々噂になるくらいにはレース前に漏らすウマ娘もいるらしいので、耐水性もばっちりだし。

 

 

 

 

「じゃあお義母さん、行ってきますね」

「うんうん、楽しんでくるのよー? あとその浴衣ちゃんと買ったヤツだから汚れても大丈夫よ!」

 

「いやワキちゃんでもそうそう汚したりしないだろ」

 

 

 

 買い食いはするだろうけど、まあがっついたりはしないし。

 言った瞬間母親からは「何言ってるんだコイツ」という目を向けられたものの、ワキちゃんが腕を引くので黙って従うことに。

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

「おっ、すげー。サイレンススズカがいっぱいじゃん。胸あるけど」

「めっちゃ美人揃いだな」

「誘ってみるか? いやでもあの人数だと……」

 

 

 

 

 幸いというかなんというか、仮にも世界一になったサイレンススズカのコスプレ?をするウマ娘が沢山いても違和感は少ないらしい。

 そもそもこの小規模な祭りならほぼ地元の人間しかいないから果たして変装が必要だったのかは分からないが。

 昔から知ってる地元の人たちはこっちに意味深な目線を送ってくるのだが、そういう人たちはあんまり気にする様子がないので問題なし。

 

 

 

 

「チョコバナナ……! お兄さん、チョコバナナ食べたいです」

「はいはいいつものね」

 

 

 

 

 見慣れた商店街のおっちゃんと奥さんのウマ娘(見た目は若い)がやっている屋台に行くと、ちらりと俺の方に目を向けてから頷いた。

 

 

 

 

「おー、ワキちゃん。びっくりしたぜ、今回はなんかワキちゃんがいっぱいいるからよ」

「親戚の皆にお願いしたんです。こっそりお祭りを楽しみたくて」

 

 

「あらあら物凄い美人になったから驚いちゃったわ」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

 

「協力してくれてるんなら全員にサービスしねぇとな。だがとりあえず―――一番いいのを用意しといたんで貰ってくれや」

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 

 

 普段割と上品に食べているワキちゃんが笑顔でバナナを咥えこむ姿になんとなく風情となつかしさを感じつつ、代金を払う。

 

 

 

「坊主はビール飲むか? とりあえずサービス券ならやるぞ」

「いや酔っぱらってエスコートできなくなったら嫌だし遠慮しときます」

 

 

 

「酔った勢いってことにしてヤらねぇのか?」

「いや普通でいいでしょそういうのは……」

 

 

 

「カーッ、ラブラブで羨ましいねぇ」

「まあそれほどでもありますが」

 

 

 

 そんな下世話な話をしていると、チョコバナナのお替りを食べ終わったワキちゃんが戻ってきて手を握る。

 

 

 

「お兄さん、あそこ的当てがあります!」

「ん、行ってみるか。じゃあおっちゃんと奥さんまた今度」

 

「おう、いいバナナ仕入れとくよ」

 

 

 

 

 

 そんな感じでかき氷や焼きそばなんかを食べつつ水ヨーヨーを手に入れて二人でなんとなくぶつけ合ってみたりと遊んでいるとどこからか聞いたことのある声が。

 

 

 

 

「――――あっ、あそこにスズカさんが…っ!」

「いやスズカさん多すぎじゃない…?」

「いえ、どうやらご本人では?」

「あっ、お兄さんじゃないデスか」

「ちょっと人が多すぎてわからないわよ」

 

 

 

 

――――黄金世代だー!?

 

 

 えっ、この超庶民的なお祭りになんで黄金世代が? 特にキング。

 クソほど目立っているが、流石に黄金世代全員で楽しんでいるところに割り込む猛者は今のところ現れていないらしく。

 

 しかしながら偽スズカ軍団に騙されなかったらしいスぺちゃんが機敏にこちらに近づいてきた。

 

 

 

 

「……やっぱりスズカさん! 今度こそスズカさんです! お兄さんいますし」

「ごめんなさい、私はワキちゃんなので」

 

 

 

 えっ、と目ん玉かっぴらいてるスぺちゃんには悪いが浮気じゃなくて変装の一種だぞ。大声で言いふらされると困るだけで。

 

 

 

「こんなところに超有名人のスズカさんがいるわけないでしょ!」

 

 

 

 フォローしてくれるキングだが、お前が言うな。

 

 

 

「俺はお兄さんじゃなくコイツの彼氏なので」

「お嫁さんですよ?」

 

 

 

 ぷっくー、と頬を膨らませるワキちゃんだが明らかに十代で栗毛で美人なウマ娘の嫁はサイレンススズカ要素しか無さすぎて目立つんだが!?

 そんなわけで暫し見つめ合い。

 

 

 

 

「旦那です」

「お嫁さんです」

 

 

 

 

 負けました。

 

 スぺちゃんは混乱している様子だったが、ようやく正体を隠していることに気づいてくれたらしい。

 

 

 

「……えっと、ワキちゃんさん、もお祭りですか?」

「ええ。スぺちゃんは……皆で来たのね」

 

 

 

「えっ、もしかして本物…?」

 

 

 

 

 あっ、キングさん本当に別人だと思ってたのね…。

 

 

 

「だってここスズカさん多すぎなのよ! てっきり流行りだと思うじゃない…!」

「私がスズカさ―――ワキちゃんさんを間違うわけないですよ!」

 

 

 

「ケッ? さっき間違えてマシたよね?」

「エル、黙っていてあげなさい」

 

 

 

 

 間違えたんだな…。

 完全に図星を突かれた様子のスぺちゃんだが、一応言い訳している。

 

 

 

「……うっ。でもお兄さんがいないのは変だなーと思いましたし」

「お兄さんと一緒にいないのは断食するスぺちゃんくらい珍しいと思うけど……」

 

 

「断食…!? したことないです……」

「そうなのね……それくらい辛くて寂しいのよ、スぺちゃん」

 

 

 

 考えただけで悲しそうなスぺちゃんを慰める?ワキちゃんだが俺は食料品扱いなのか…。

 考えようによっては自慢っぽい台詞に聞こえなくもないのだが、独りのワキちゃんのポンコツぶりは周知の事実なので皆生暖かい目をしている。

 

 

 

「ごはんとお兄さんならお兄さんを取ります」

「いやご飯はちゃんと食べてくれ」

 

 

 

 

 とりあえず買っておいたりんご飴をワキちゃんに差し出すと、小さな口で必死に舐めているのが可愛い。これは羨ましそうなスぺちゃんにとりあえず日頃お礼として一つ献上。

 

 

 

 

「じゃあ日頃ワキちゃんが世話になってるお礼な」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 

 

 

 一瞬「あげませんっ!」って言ってみたくなったがワキちゃんの前で優しいお兄さんでありたいのでやめておく。

 と、何故か目の前に差し出されるりんご飴(たべかけ)。

 

 

 

 

「どうしたワキちゃん」

「……あーん」

 

 

 

 いやこれあーんできる類の食べ物じゃなくない!?

 仕方ないのでスズカが齧ったらしい部分の近くを食べて―――。

 

 

 

「美味しいですか?」

「……うん、美味い。あと甘い」

 

 

「~♪」

 

 

 

 何故かご機嫌になるワキちゃん。

 

 

 

「美味しかったです! あの、スズ――――ワキちゃんさん、あとオススメはありますか!?」

 

 

「えっと……(イチゴ味の)かき氷とか」

「かき氷」

 

 

「(そこで売ってるおいしそうな)焼きそばとか」

「焼きそば!」

 

 

「お兄さんの(持ってるチョコ)バナナとか…」

「お兄さんのバナナ!?」

 

 

 

 あれ? という顔でスぺちゃんを見返したワキちゃんはこっちをチラリと窺いながら一言。

 

 

 

「………お兄さんの、バナナ…?」

「いやワキちゃんの自爆だからな」

 

 

 

「だって、お兄さん――――んむぅ!?」

 

 

 

 とりあえず口にチョコバナナを突っ込んでやると何故かちょっと恥ずかしそうなような、若干潤んだ目でこっちを見てくるが濡れ衣である。何かとんでもないこと口走りそうだったしコイツが悪い。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 その後、黄金世代の皆と別れて。だいたい食べたい屋台を全部回って。

 最後にくじ引きをしてみることになったのだが――――。

 

 

 

 

「―――わぁ、お兄さん。花火……当たっちゃいました」

「けっこうデカいな……」

 

 

 

 

 パーティ用の花火、500本入りとかなんとか。

 こんなにいっぱい要らないし、そもそもこの都心で花火をやっても問題にならない広い土地なんてなかなか―――――あるわ。

 

 

 

 

 

 賄賂としてフジ寮長に花火の大部分を寄贈。

 理事長に「栗東みんなで花火する会」を提案したところ追加の花火と許可がもらえたので、リギルの二号部室の近く――――人気のないそこで、スズカと二人で花火に火をつけた。

 

 

 

 

 

 

「わぁ…っ。お兄さん、みてくださいっ! 綺麗ですねっ」

「うん。お前がな」

 

 

 

 スズカの白い肌と鮮やかな栗毛が花火で照らされてとても眩しい。というか笑顔が可愛い。黙っているとクールビューティーなんだが……。

 

 

 

「えっ…?」

「ん? ああ、花火綺麗だな」

 

 

 

 

 なんとなく二人で並んで明るい黄色の光、赤い光を眺める。

 

 

 

 

「………お兄さん、何色が好きですか?」

「スズカの緑かなー」

 

 

 

「………お兄さんって何色なんでしょうか…?」

「俺? 俺か……うーん、緑…?」

 

 

 

「……ふふっ、似合いますね」

「そうかな」

 

 

 

 

 なんとなく二人とも緑の花火を選んでみたり、色ごとに誰の勝負服がーなんて話をしながら最後に残った線香花火を眺める。

 

 

 

 

 

「………ねぇ、お兄さん」

「んー?」

 

 

 

 

「お願いがあるんですけど……」

「………なんだ?」

 

 

 

 

 

 線香花火が、ひときわ大きく光って、落ちる。

 花火の残骸をバケツの水に片づけ、甘えるように抱き着いてくるスズカを受け止める。ねだるような、悩んでいるような、そんなスズカは―――。

 

 

 

 

 

「お兄さん、私――――が欲しいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夏休みのある日

 

 

 

 

 

 

 

 まだ夏合宿が始まる前の休日、朝の自主トレを終えて。

 なんとなく冷房の効いた部屋、特に理由もなく密着してくる(たぶん安心するとかそんな理由だろうが)スズカと二人でレース映像を見ながらのんびりしていたらふとトイレに行きたくなり。ぴったり膝上に陣取っているスズカに声を掛ける。

 

 

 

 

「――――スズカ、ちょっとトイレ」

「あ、はい。どうぞ」

 

 

 

 くるり、とこちらの首に抱き着いて背中側に回るスズカ。子泣き爺か何かかな? 引っ張って降ろそうとするが、当然力で勝てるわけもなく。なんでウマに背中に乗られてるんだろうか俺は。

 以前はなんとか言い聞かせてトイレの前で待たせていたのだが―――。

 

 

 

「スズカ――――」

「お兄さん、よくトイレって怪談でも出てくるじゃないですか。花子さんとか」

 

 

 

「まあそうだな」

「だから、不安なんです。ふと目を離した瞬間に、お兄さんがどこかに行ってしまうんじゃないかって―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あとお兄さん、前にトイレに行くって言って桐生院さんとカラオケに行きましたよね?」

「それもう5年くらい前だぞ」

 

 

 

 

――――死ぬほど根に持たれてる!?

 

 

 

 

 だって桐生院さん可愛いじゃん!

 当時中学生くらいだったワキちゃんを連れて行くわけにもいかないし……カラオケとか実質デートじゃん? 実情はアレだけど。

 

 

 

「スズカ、普通トイレは恥ずかしいものなんだぞ……」

「お兄さんこの前お風呂に一緒に入りましたよね?」

 

 

 

 

 くっ、男のトイレに付いてきて何が楽しいんだ……いや目に見える範囲にいないと寂しさ大爆発するだけで特に深い意味もないんだろうけど。原作スズカだってここまでじゃない――――としたら原因は俺になるわけだが。

 

 

 

 

 

――――蘇るのは、さびしいと泣くワキちゃんを甘やかして連れまわし、幼少期ならまあセーフか……とトイレまで一緒に行ってしまった記憶!

 

 

 

 

 

 

 原因は俺だった。

 というか勝手にそんなことになるわけはないので、残念ながら当然であった。

 

 

 

 

 

 

 ……背負ったままで用を足すのは無理があるのでトイレに座り。その膝上に我が物顔で座るワキちゃん。コイツ……だが何にも考えてなさそうな無邪気な顔を見てると怒るに怒れない。無限に走りにいくサイレンススズカさんとどっちが厄介かは人によるなこれ…。

 

 しかしなんて管理主義と相容れなさそうな――――……あれ?

 

 

 

 

 

 アニメのスズカさんはアレだけど、ワキちゃんってもしかして管理主義適性高い?

 むしろ寂しがり屋過ぎて管理されたい…のか?

 

 

 

 

「スズカってもしかして管理されるの苦じゃない?」

「お兄さんになら別にいいですけど……そもそもお兄さん、私の嫌がることしないですし」

 

 

 

 

 

 そうかな………いや、そうかぁ?

 割と好き放題してる気がするんだけど……普段の甘やかしはともかく。練習の時だってスズカが怪我しないようにかなり制限してるし。

 

 

 

 

「練習の時は、お兄さんが私だけ見てくれてるからすごく好きです」

「好きなレースにも出させてやれないし……」

 

 

 

 本当は秋天とか出たかったのは知ってるんだぞ。

 話を聞く限り、史実での出走レースには不思議と感じる『運命的な何か』、逆らい難い強制力というか、魅力があるらしいし。

 

 

 

 

「じゃあお兄さん、代わりにいっぱい告白して下さいね?」

 

 

 

 

 そっちの方が嬉しいです、と微笑むスズカ。

 なんでコイツこんなに優しいんだろう、なんてことを思っているとスズカは静かに抱き着きながら言った。

 

 

 

 

「……私も、いつも思ってますよ。お兄さん、どうしてこんなに優しいのかなって」

「―――…スズカが好きだから、かな」

 

 

 

 

 好きな子に見栄を張りたいとか、笑顔でいて欲しいとか、色々と理由は浮かぶけれど。

 結局のところスズカが好きだから、なのだろう。

 

 

 

 

「――――はい。私もです」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――新婚なんて三年くらいで冷え込むってマジなんだろうか」

「とりあえず学生時代からずっと惚気を聞かされてるんだけど……」

「お前の場合実質同棲で何年経ってるんだよ」

 

 

 

 

 というわけで実はトレーナーとしては同期のお兄さま、お兄ちゃんと三人で飲みに来た(アプリのお兄ちゃんとお兄さまとの共通点が多いので心の中では先輩扱いだが)。

 ちなみに飲み会をスズカに話したら「じゃあ今日はうまぴょい禁止です」と無慈悲な宣告をされたが許してくれた。……実のところそれでこっちが折れると思ってた節があるが、俺がいない間は寮でスぺちゃんと過ごすらしいのできっと大丈夫だろう多分。

 

 

 

 

「えっ、なんやかんや昔から一緒に寝てたし……十数年くらい?」

「お前それもうほぼ妹みたいなもんじゃん……」

「業が深いよねー」

 

 

 

 だって俺の場合前世の関係であんまりこっちの幼少期関係ないし…。

 

 

 

「むしろ子どもができたら愛情が移るって言うよね。まあまだ関係ないだろうけど―――」

「おいなんで固まってんの? おい」

 

 

 

「いや全然大丈夫だが? 今後の家族計画を考えてただけだし」

((こいつやってるな……))

 

 

 

 

「まあお前らの場合、お前が浮気しなければ当分熱々なんじゃねーの?」

「そ、そうだよな……!」

 

 

 

「うん、日ごろの感謝を忘れずにね」

「それはもちろん」

 

 

 

 

 

 

 というわけでお酒が進む。

 正直お酒には弱いのだが、飲まないとやってられない。

 

 

 

「で、お兄さまはいつ結婚すんの?」

「いや普通に生徒と結婚させようとするな」

 

 

「いや俺誰とは言ってないけど」

「……え? あっ、嵌められた!?」

 

 

 

 

 ふはははは! お兄さまと呼ばれればライスを想像するしかあるまい! だがそれをライスがどう思うかな?

 

 

 

「お兄ちゃん」

「お兄ちゃん言うな。悪く思え、俺がターゲットにされないためにはこれしかなかったのだ」

 

 

 

 

 スッ、と取り出されるのはボイスレコーダー起動済みのスマホ。

 瞬時に取りに来るお兄さまだが。

 

 

 

「悪いが既にクラウドに保存しちゃった」

「あまりにも非人道的すぎる……! くそっ、何が望みだ!? 奢りならお前金あるだろ!」

 

 

 

 

 確かに自慢の愛バたちが次々とGⅠ勝利を叩きだしているのでちょっと目を疑う金額が振り込まれている。CMに出まくっているスズカには勝てないが、それはそれとして。

 

 

 

 

「仲間ふやしたい」

「犯罪者予備群仲間かな?」

「(カレンの攻勢を考えると正直もう一人くらい生贄がいると助かるんだよなぁ)」

 

 

 

 

「よし、ライスちゃんに送りつけよう」

「おっけー」

 

「やめ……ヤメロォ! ライスの前では優しくてカッコイイお兄さまでいたいじゃん! ライスの夢を壊すとかお前ら人間じゃねぇ!」

 

 

 

 

((いや多分喜ぶと思うけどなぁ…))

 

 

 

 とんでもない性癖を大公開されたとかならともかく、普通に結婚相手として意識されてるくらいなら喜ぶと思う。

 

 

 

 

「じゃあ公開しない代わりに性癖教えろ」

「そうだそうだ」

 

「くっ、こいつら……じゃあライトハローさんとか」

 

 

 

 

「……(割とガチなのがきた)」

「……(割とライスと遠いのが来た)」

 

 

 

「おい黙るな。というかそっちも語れ!」

 

 

 

 

 仕方ない。

 向こうが真面目に言ったのなら、こちらも応えねば無作法というもの。とは思ったが先にお兄ちゃんが言った。

 

 

 

「じゃあ俺。むっちりした巨乳」

「……(また微妙にカレンチャンが困りそうなのを)」

「……(なんかダイワスカーレットが頭に浮かぶんだが)」

 

 

 

 

 性癖と担当は一致しないということだろうか。

 まあ一致してたら困るけど。仮にも生徒とトレーナーなんだし。

 

 

 

「で、お前は……まあ絶壁貧乳甘えん坊の妹か」

「無邪気で寂しがり屋な年下義理の妹でしょ」

 

 

「いや俺常識の範囲内で巨乳の方が好きなんだけど」

 

 

 

 アヤベさんくらいが一番好き。

 それ以上ってなるとなんだろう……なんか違うというか。

 

 

 

「いや……え? なに、それ大丈夫なの…?」

「お前のうまぴょいが心配だよ俺は」

 

 

 

 

 いやでもワンチャン、元々のスズカさんより走る量が少ないだけ胸あるかもしれないし。どっちにしても貧乳に変わりないけど。

 でもワキちゃんの場合可愛いは正義。

 

 

 

 

「令和の光源氏も胸はどうしようもなかったのか……」

「なにその嫌すぎる称号」

 

 

「自分好みの走りと性格に仕上げた新時代の光源氏系トレーナーって」

「いやもとからあんな感じだからな!?」

 

 

 

 

 確かに結果的には寂しがり屋を助長させた気もするけど!

 ……いや、俺が居なければスズカさんになったと思えば全面的に俺が変態にした…?

 

 

 

 

「やっぱり俺って存在していて良かったのか不安になるな……」

「いや急に凹みすぎだろ………迎え呼んどこうぜ」

 

 

 

 

 酒が入ったからだろうか。

 あるいは気の置けない友人といるからかもしれないが、普段言えなかった不安がぼろぼろとこぼれる。

 

 

 

 

「個人的にはスズカが怪我なく元気に走ってくれればって思ってたんだよ……でも欲が出て……」

 

「え、性欲?」

 

 

 

「クラシック三冠」

「あ、真面目な方か」

 

 

 

 

 マジで人の事をなんだと思ってるのか。

 

 

 

 

「スズカなら……ワキちゃんなら、勝てるんじゃないかって……サイレンススズカを超えて、誰も手が届かないような――――」

 

「とりあえず水飲め」

 

 

 

 

 ジョッキで出された水を一気飲みして、テーブルに控えめに叩きつけつつ言った。

 

 

 

「でもなぁ! サイレンススズカだぞ、俺がいなくたってスズカなら三冠くらい取れらぁ!」

「お前のそのサイレンススズカへの凄い信頼はなんなんだ……」

「すぐ来てくれるってさ」

 

 

 

 

「じゃあ世界一になったらな、俺のスズカだーって言えると思ってたんだよ」

「いやお前の愛バだろ実際」

「そこは誰も否定しないと思うけど」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

「でもなあ、サイレンススズカだぞ……」

「いや、またリピートしてるぞ」

「完全に酔っぱらってるね」

 

 

 

 

「サイレンススズカなら世界一くらいなぁ、とれらぁ……!」

「トレーナーは大事だぞ」

「はい氷水」

 

 

 

 

 

 でもスズカだし……。

 たとえ俺なんかがいなくても、怪我さえなければどこまでも逃げ切れる。それくらい、あの走りは心に残っているんだ。

 

 終わってしまった夢の続きを見られたのは嬉しい。

 けど、そのおこぼれを手柄にして、可愛い嫁を貰って……。

 

 俺は、俺は、怪我を防げた以外はあいつの成長を妨げただけなんじゃないだろうか。もう必要ないんじゃないかって、そう思う。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、レースが無かったら私は要りませんか…?」

「―――んなわけあるか! スズカが居なかったら俺なんて寂しくて死ぬわ! 寂しい時に頭を擦り付けて甘えてくるのが最高に可愛くて――――――…え?」

 

 

 

 

 

 ちょっと待って。

 なんか今スズカの声が聞こえたような――――。

 

 

 

 ちょっと驚いた顔のスズカが、何故か隣に座っていた。

 ………あれ、俺いま何喋ってた?

 

 一気に酔いがさめた気がするところで、じわじわとスズカの顔に喜色が広がっていく。かわいい。じゃなくて。

 

 

 

「俺今なんか言った?」

「スズカがいないと寂しくて死んじゃうって言ってました」

 

 

 

 

 むぎゅっと嬉しさを表現するように抱き着いてくるスズカ。かわいい。じゃなくて。

 

 

 

 

「気のせいじゃないかな……」

「じゃあちゃんと言って下さい。……私のこと、どう思ってますか?」

 

 

 

 

「かわいい……じゃなくて」

「じゃないんですか…?」

 

 

 

 

 

 う、ぐぬぬ…。

 とはいえここまで聞かれたからにはもう言うしかない。

 

 

 

 

「幼気なワキちゃんを騙して嫁に貰ったというか…」

「………否定はしませんけど。……でもお兄さんは忘れちゃったかもしれないですが、私は覚えていますよ」

 

 

 

 

 え?

 何を?

 

 

 

 

「お兄さんが、私を見つけてくれたこと。私が気持ちよく、楽しく走れるように頑張ってくれたこと。私を育てるために悩んで、試行錯誤してくれて――――ずっと、寄り添ってくれたこと」

 

 

 

「私がここまで走れたこと、くじけずにゴールを目指せたこと、私が今、とっても幸せなこと――――私は、貴方のお陰だと思っていますから」

 

 

 

 

 

 

「だから――――これからも、よろしくお願いしますね。お兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ワキちゃんの日々

 

もしチャンミで水着スズカさんが勝てたら投稿速度が上がります

なお一緒に出してる逃げリッキーが強すぎて勝てない模様



 


 

 

 

 

 

 

――――お兄さんがどんな存在か、一言で言うのは難しい。

 

 

 一心同体……ちょっと違う。

 所有物……お兄さんはモノ扱いとか嫌いだし違う。

 

 誰よりも傍にいて、誰よりも私を大切にしてくれて、誰よりも一緒にいてくれて、近くにいてくれるだけで安心できる大切な人。

 

 

 

 あえて一言で言うならそのまま「お兄さん」というわけだけれど。

 旦那様でもあるし、けっこうえっちだし、意地悪だし、そこそこ捻くれてるから自分のことはあんまり語ってくれないし。

 

 

 

 

 そんなお兄さんとの――――子どものことだ。

 お兄さんは走って欲しいというし、私も走ることに異存はないのだけれど。……それよりお兄さんの赤ちゃんは絶対可愛いと思うわけである。お義母さんも「孫ができたら息子に似るのかしらねー」と言っていた。

 

 

 

――――お兄さん似の子ども! 絶対かわいい!

 

 

 

 お兄さんが二人に増えて、しかも好きに可愛がっていいなんてもうそれが楽しみで楽しみで仕方がない。

 

 

 

 だいたい子どもがいても走れるし。

 タマモクロスさんも子どもを育てながらコーチの仕事をしているらしいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私としてはお兄さんのお陰で寂しくないし、好きに走れるし、世界一になった景色も見られたし、あとはお兄さんが幸せそうなら満足なのだけれど――――お兄さんがうまぴょい大好きなことが発覚したのでそれもほぼ解決。

 

 

 普通に甘えたいのにすぐえっちな感じにしようとするのはちょっぴり不満なのだが、仕方がないので許してあげることにしている。意地悪な以外は嫌じゃないし。

 

 お兄さんが望むなら、少しくらい……それなりに、お兄さんが喜んでくれそうなことを頑張ってみたいとも思う。

 でもお兄さんの持ってる本はちょっと過激すぎてまだ半分も読めてなかったり。

 

 

 

 

 そういうのが好きなら頼んでくれればいいのに、そういうわけでもないし。

 普段何も言わなくても私の好きな物を用意してくれるお兄さんの凄さを感じてしまう。それはそれとして頼まれないならやらない。やらないったらやらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど最近思うのだ。私はお兄さんがいないと寂しくて夜も眠れないどころか常時掛かり気味みたいなものなのに、お兄さんはズルいと。

 

 

 

(お兄さんだって、私がいないとダメになってくれてもいいのに)

 

 

 

 

 

 

 今日だって「トレーナー仲間と飲み会に行ってくる」って……。 

 私だってそういう仕事の付き合いとか、お兄さんのお友だちとか、大事なことだってわかってる。だから我慢はするけれど―――それはそれとして、気が付けばくるくると同じ場所を回ってしまっている。

 

 

 お兄さんには脚に負担がかかるからダメと言われているけれど、お兄さんがいないのが悪い。

 

 

 

 

 ……やっぱりこんな時、お兄さんの子どもがいてくれれば寂しくないのでは?

 いやお兄さんはどちらにしてもいないとダメだけど。

 

 

 仕方がないのでスぺちゃんに電話してみたり。

 

 

 

 

『スズカさん! こんばんは!』

「こんばんは、スぺちゃん。今大丈夫?」

 

 

 

『もちろん大丈夫です! ちょうどお母ちゃんから届いたにんじんを―――あっ』

「スぺちゃん……食べ過ぎないようにね?」

 

 

 

 

 度々太ってしまって困っているのに、スぺちゃんは割といつも何か食べているイメージがある。大丈夫だろうか。お兄さんに言わせると「スズカがやたら走りたくなるようなもの」とのことで、それならまあ仕方ないと思うけれど。

 

 

 

『今日はお兄さんはどうしたんですか?』

「実はね――――…」

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

『なるほど、飲み会ですかー。トレーナーさん達って飲み会好きですよね。私のトレーナーさんもよくおハナさんと飲んでるらしいですし』

 

「お酒、美味しいのかしら」

 

 

 

 

 

 お酒はあんまり匂いが好きじゃない。

 でも酔って甘えてくるお兄さんはとても……とても良い。

 

 力いっぱい抱きしめられると、なんというか………胸がきゅうっとなって、ぽかぽかして、ずうっとそのままでいたくなる。酔ってる時のお兄さんは意地悪じゃなくて、素直なのだ。

 

 

 

「ねぇスぺちゃん、お兄さんの子どもってきっと可愛いと思うの」

『……えっ? スズカさん、子どもできたんですか!?』

 

 

 

「まだだけど……。お兄さんが『ドリームトロフィーリーグも少し走ってからにしないか』って言うの。でもお兄さん、飲み会とか仕事とかでいないときがあるから……」

『な、なるほど…? ところでスズカさん、その………子どもってどうやってできるかって―――』

 

 

 

 

「うまぴょいして、ずきゅんばきゅんすると…?」

『――――たぶん合ってますね!』

 

 

 

 たぶん…?

 ちょっと気になるところではあるのだけれど、私もつい最近まで知らなかったので仕方ないだろうか。

 

 

 ともかく、お兄さんの子どもは絶対可愛い。

 なんとか説得したいのだけれど…。

 

 

 

 

『もうやっぱりスズカさんの素直な気持ちを伝えるしかないような……?』

「そうね……。ありがとう、スぺちゃん。お兄さんにお願いしてみる」

 

 

 

 

 

 なんて言おうか悩ましい。

 と、ちょうど電話が掛かってきたのでスぺちゃんに断ってそちらに出る。……えっと、お兄さんの電話?

 

 

 

 

「お兄さんっ?」

『あー、ごめん。ライスシャワーのトレーナーだけど……君の旦那がその、だいぶ出来上がっちゃってて――――迎えに来てもらえないかな? 店は―――』

 

 

 

 

 

 お兄さん……。

 そんなお迎えが必要なくらい酔うのは珍しい。けれど、ウマ娘のパワーなら背負って帰るくらいは余裕なので、絵面はともかく大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 というわけでひとっ走りトレセン学園近くの居酒屋まで。

 ちゃんと個室のあるところで、トレセン学園のトレーナー行きつけのお店なので私も顔パスで通れる(お兄さん曰く逆にスズカの顔知らなかったら驚くとのことだが)。

 

 すると完全に出来上がったお兄さんが水を飲みながら何やら悩んでいた。

 

 

 

 

 

「だってさぁ……あんなに可愛いんだぞ? 子どもの頃からお兄さんお兄さんってついてきてくれてさ……望みは叶えてやりたいさ。でもなぁ……まだドリームトロフィーリーグ入ったばっかなのにさ……ワキちゃんが悪く思われないかなってさ……」

 

「はいはい、水飲んで水」

 

 

 

「世界一は取った! もうこれ以上ない。でもな、スズカならもっと夢を見せてくれるんじゃないかって思うファンの気持ちがわかるんだよ! 俺が一番のファンだから! もっと夢を見たいんだよ………これ以上ないと思うけど……」

 

 

 

 

 

 

「でもなあ、サイレンススズカだぞ……」

「いや、またリピートしてるぞ」

「完全に酔っぱらってるね」

 

 

 

 

「サイレンススズカなら世界一くらいなぁ、とれらぁ……!」

「トレーナーは大事だぞ」

「はい氷水」

 

 

 

 

 

 一番のファン…。

 嬉しい。きっと前までだったら一番嬉しい言葉だった。

 

 ……でも、今は――――最強のウマ娘じゃなく、ひとりの女の子として見て欲しいと、そう思う。

 

 

 

 

「じゃあ、レースが無かったら私は要りませんか…?」

「―――んなわけあるか! スズカが居なかったら俺なんて寂しくて死ぬわ! 寂しい時に頭を擦り付けて甘えてくるのが最高に可愛くて――――――…え?」

 

 

 

 

 驚いたような、間の抜けた顔のお兄さんを見て『ああ、きっとこれがお兄さんの本音なんだろうな』と思う。

 

 

 

 

「俺今なんか言った?」

「スズカがいないと寂しくて死んじゃうって言ってました」

 

 

 

 

 

 ついつい嬉しくて抱き着くと、お兄さんも恥ずかしそうにしつつも抱き返してくれる。

 

 

 

 

「気のせいじゃないかな……」

「じゃあちゃんと言って下さい。……私のこと、どう思ってますか?」

 

 

 

 

「かわいい……じゃなくて」

「じゃないんですか…?」

 

 

 

 

「幼気なワキちゃんを騙して嫁に貰ったというか…」

「………否定はしませんけど。……でもお兄さんは忘れちゃったかもしれないですが、私は覚えていますよ」

 

 

 

 

 まさかお兄さんがこんなにえっちで、色々と我慢していたなんて知らなかった。

 一緒に寝たり、お風呂に入るのを嫌がったのはそれが理由だったのだろう。そう言ってくれれば、私も―――…たぶん、流れでそういうことをしないように教えてくれなかったのだろうけれど。

 

 

 

 

 

「お兄さんが、私を見つけてくれたこと。私が気持ちよく、楽しく走れるように頑張ってくれたこと。私を育てるために悩んで、試行錯誤してくれて――――ずっと、寄り添ってくれたこと」

 

 

 

 

 私をここまで育ててくれた恩は、感謝の気持ちは、返したい。

 

 

 

 

「私がここまで走れたこと、くじけずにゴールを目指せたこと、私が今、とっても幸せなこと――――私は、貴方のお陰だと思っていますから」

 

 

 

 

 

 

 だから―――私のぜんぶをあげるから、貴方のぜんぶを私に下さい。

 一緒に目覚める朝を、共に駆け抜ける昼を、愛を交わす夜を。春も、夏も、秋も、冬も。あなたと共に、二人の蹄跡を刻んでいきたいから。

 

 

 

 

「だから――――これからも、よろしくお願いしますね。お兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっとまだ知らないことは沢山あって。

 けれど、それでも。お兄さんと二人なら乗り越えられる。お兄さんのためなら頑張れる。

 

 

 貴方のためなら、運命だって超えていける。

 

 

 一番大好きな人に愛を教えてもらった、世界で一番幸せなウマ娘だから。

 世界で一番速いウマ娘にだって、なってみせる。

 

 

 

 

 

 

 そっと、触れ合うだけの口づけ。

 お兄さんに身体を寄せて――――くしゃり、と頭を撫でられた。

 

 

 

「とりあえず家に帰るか」

「あっ」

 

 

 

「「ご馳走さまです」」

 

 

 

 

 ……そういえばお兄さんの同僚の人がいたんだった。

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 二人、手をつないで並んで夜の街を歩きながら話をする。

 今ならきっと、素直な言葉が聞けそうだったから。

 

 

 

 

「……お兄さん、子どもは嫌いですか?」

「そんなわけない。……子どもが、いてくれればなぁ。夢が繋がる――――いや、そうか。サイレンススズカ産駒……」

 

 

 

 さんく? Thank…?

 

 

 

「お兄さんにそっくりの子どもとか」

「……そこはスズカ似がいいなぁ」

 

 

 

「じゃあ目元がお兄さんにそっくりなウマ娘とか」

「性格はワキちゃん似で」

 

 

 

 

 私が言うのもアレだけれど、それはかなり面倒な子どもなのではないだろうか。

 お兄さんがいないと泣き喚く自信がある。

 

 

 

「面倒くさくは、ないですか…?」

「可愛いぞー。ママ、ママって甘えて後ろをついてくる子どもを想像してみろ」

 

 

 

「―――絶対可愛いですね」

 

 

 

 

 現実はきっと、大変なことばかりだけれど。

 

 走れば置いてけぼりにしてしまう私も、歩けば歩幅が広くて先に行ってしまうお兄さんも。不思議と並んで歩けていて。

 

 

 

 並んで歩くことが、意外にも難しくて―――こんなにも自然にできることを、今更ながら不思議に思えた。

 

 

 

 

 

 

「…………すき。私、好きなんです――――こうしてお兄さんと、一緒に歩くのが」

 

 

 

 

 

 手を繋ぐのも、腕に抱き着くのも。

 抱き着いて困らせるのも。そのどれもが、大好きな人の優しさとぬくもりを感じられるから。

 

 

 

 

「走るのとどっちが好き?」

「あなたとなら、どちらでも―――――…でも、私は速いですよ?」

 

 

 

 

 わたしたちの描いた、夢の走りだもの。

 誰にも追いつかせない。でも、共に駆けるあなただけは。

 

 

 

 

「――――ぜったい、付いてきてくださいね?」

 

 

 

 

 背中にしがみついてでも、一緒にいてほしいから。

 きっと――――命を懸けても惜しくはないくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ワキちゃんのうまぽい大作戦

 

 

 

 

 

 

「――――わぁ…。お兄さん、見てください! すごく綺麗……この海の先には、どんな景色があるんでしょうか」

 

 

 

 

 

 車の窓ガラス越しにはしゃぐワキちゃんの、白ワンピースが日差しにまぶしい。

 

 車を飛ばして一路海まで。

 俺たちは都心から少しだけ離れた、とある海辺の旅館に向かっていた―――。

 

 

 

 まあ端的に言えば浴衣だと俺が積極的なことに気づいたワキちゃんにより誘惑作戦が行われているのである。持ってくれよ俺の理性……! 鋼の意志とはなんだったのか。

 

 

 

 最近テイオーとかに相談してる様子もあったし、妙に大きく感じる旅行鞄の中身が気になる。こっそり覗いたら負けな気はするし。

 

 

 

 

「ところでワキちゃん。何見てんの?」

「これですか? お兄さんの好きそうな下着です」

 

 

 

 

 スッ、とスマホを掲げるワキちゃん。

 画面に映っているのはスケスケの白いネグリジェであった。……うん、思ったよりはマトモというか、正直好きです。

 

 

 

 

「ブライトがお勧めしてくれて」

「ブライトが」

 

 

 

「お兄さんの場合、胸元に隙間ができた時とか凄く見てますし。そういう見えそうなのがいいんですよね?」

「………」

 

 

 

 いやだって……見えそうじゃん。気になるじゃん。

 じとーっとした目でこちらを見てくるスズカに耐えられなくなり、赤信号に早く青になれと念を送る。

 

 

 

「お兄さん、おっぱい好きですよね」

「…………好きだよ」

 

 

「やっぱり大きい方が好きなんですよね」

「………いやありそうで無いけどやっぱりちょっとあるのも大変エロいと思う」

 

 

「……………………お兄さん?」

「はい、大きいのが好きです」

 

 

 

 

 スズカの胸に限っては一番綺麗だと思うけど流石に恥ずかしいので言えない。

 

 

 

 

「大きいと走る時邪魔だろ?」

「………それは、そうなんですけど。でもお兄さんにとって一番の女の子でいたいですし」

 

 

 

 

 そんなもの恋のダービーで最初から最後まで大逃げかましているワキちゃんが気にすることでもないような気がするのだが。

 

 

 

「逆にワキちゃん好きな男のタイプとか無いの?」

「え? ……………いじわるしない人?」

 

 

 

 

 それ俺完全にアウトでは。

 

 

 

 

「あといつでも一緒にいてくれて。頭を撫でる手が優しくて、走っているのを見守ってくれて、一緒に寝るときにぎゅうっとしてくれる人ですね」

 

 

 

 それ普段の俺。

 でもそうじゃなくて。

 

 

 

 

「顔の好みとかさー、身長とかさ、筋肉は多い方がいいとか」

「……?」

 

 

 

 スッ、と俺を指さすワキちゃんだがそうじゃないんだ…。

 

 

 

「じゃあお兄さん、顔だけで選ぶならどんな女の人がいいですか?」

「スズカ」

 

 

 

「えっ」

「なんで意外そうなのお前」

 

 

 

 ちょっと話し合いが必要なのかもしれない。

 なんだと思ってたの? 俺、そんなにタイプじゃない子と結婚したと思われてる? 度々好きだって伝えたと思うんだけど……。

 

 

 

「――――お兄さん、私の顔好きなんですか…!?」

「性格と声も好きだけど」

 

 

 

「うそでしょ」

「いやこっちがうそでしょだよ」

 

 

 

 特に人が良いから面倒ごとに巻き込まれて「うそでしょ……」してるところとか。

 丁寧に見えて意外とフクキタルとかの扱いは雑なところとか、寂しがり屋で頭サイレンススズカなところとか。

 

 

 

 

「……じゃあどうして今まで何もしなかったんですか?」

「だってお前、トレセン入学前の身長いくつよ」

 

 

 

「……ひゃくごじゅうくらい?」

「147cmほら写真」

 

 

 

「………えっと、そういえばこんな感じでしたね」

 

 

 

 完全に絵面が大きいお兄さんに甘える妹なんだ。

 ロリロリしいワキちゃんに手を出すほど俺の鋼の意志は弱くなかった。それはそれとしてこう、色々見えてしまう時はあったけど。

 

 

 

 

 

 

「あの、お兄さん」

「ん-?」

 

 

 

 

「………だいすき」

「……………おう。俺も大好きだぞ」

 

 

 

 

「じゃあ――――旅館についたらぎゅっとしてチューして下さい」

「……はいはい」

 

 

 

「あと、お兄さんの好きな衣装も用意しておきましたから」

「……え。何、俺の好きな衣装って」

 

 

 

 まさか、勝負服―――いやそれは無いかな。

 この前の浴衣か?

 

 

 

「……ふふっ、ないしょです」

 

 

 

 なんで顔がちょっと赤いの?

 そんな過激な衣装あったか…?

 

 

 

「あ、お兄さん信号青になりましたよ」

「うお、ありがと」

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無駄に心を乱されつつも――。

 事故なく到着した高級旅館では丁寧な出迎えを受けつつ一番景色の良い部屋に案内され―――そわそわしているスズカを気遣ってか簡単な説明を受けると部屋で二人きりに。

 

 

 

 

「―――お兄さん、お菓子が…! お菓子があります! いちご大福が!」

「うわすごい」

 

 

 

 偶然なのか、知っていたのか。 

 お着き菓子として置かれていたお高そうないちご大福を見て目をきらっきらさせるワキちゃんはさっそく食べ始めて。

 

 

 

 

「はい、お兄さんあーん」

「……おう」

 

 

 

 2個あるけどあえて半分に切って食べさせようとしてくるのは何の意図か分からないが、ありがたく頂戴する。……うーん、美味い。いいイチゴ使ってやがる…。

 

 

 

 

 ……と、何故かむぎゅっと抱き着いてきたスズカを見ると、にっこりと微笑んだ。

 

 

 

「お兄さん、今日は私へのご褒美……ですよね?」

「まあな」

 

 

 

 世界一になって無敗のまま劇的に引退したサイレンススズカだが、実のところCMやら取材やらで結婚してから二人きりでのんびりできていなかった。

 新婚旅行も行くが、それはそれとしてとりあえず海で遊びたいというスズカのために企画された慰安旅行であった。

 

 

 

 

「でも私からするとお兄さんへのご褒美でもあるので――――」

 

 

 

 

 ばさっと脱ぎ捨てられる白いワンピースに、思わず振り返ろうとするが「ダメですよ」と何か白いものを顔に掛けられて阻止される。このなんか甘い香りとちょっぴり汗のにおいがする布は……いやその、脱いだ服で視界を塞がれると色々と気になるんですが。

 

 

 

 

「……………あのさ、ワキちゃん」

「……はい?」

 

 

 

 

「この後温泉に入るんだしこのまま――――」

「……せっかく用意したからダメです」

 

 

 

 

 ごそごそとけっこう大がかり?な着替えを終えたらしいワキちゃんの手によってワンピースがどけられ。

 

 すらりと細い体躯を包む濃紺のワンピース、眩しい白のエプロンドレス。

 鮮やかな栗毛を彩るホワイトブリム――――クラシカルで飾り気の少ないメイド服に身を包んだワキちゃんは微笑みながら軽く頭を下げた。

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、旦那さま」

「お、おぉ……」

 

 

 

 

――――メイドさんだぁああ!?

 

 

 

 しかもコスプレのペラい感じが全くないというか、普通に高級そうなんだけど…!?

 

 

 

「え、どうしたのソレ」

「……はい、旦那さま。テイオーさんのお家からの頂き物です。一着くらいならイイヨー、と」

 

 

 

 

 そういやアイツもお嬢様だったか…。

 いや、マジで?

 

 

 

「旦那さま、マッサージはいかがですか?」

 

 

 

 ………いや、一瞬そっちの意味かなーと思ったけど表情からしてこれ普通のマッサージだわ。でもせっかくなのでお願いしてみるか。

 

 

 

「じゃあ交代でマッサージするか」

「……えっ」

 

 

 

「その、私はメイドなので……」

「ご主人様の言う事は?」

 

 

 

「………ぅぅ……お兄さんがしたいなら……」

「したい」

 

 

 

 「はい」と消えそうな細い声で言ったワキちゃんだったが、座布団を並べて横になると腰のあたりをぐいぐいと押してくれる。

 

 …………おお? なんか期待してたより全然気持ちいい……。

 

 

 

 

 

「……お兄さん、私のマッサージはよくやってくれますけど……かたい、ですよねっ」

「あー、まあパソコンでの仕事も多いしなー」

 

 

 

 と、ずっしり来る重さと共に背中に柔らかい感触が―――。

 

 

 

「………重く、ないですか?」

「ちょうどいい感じ……」

 

 

 

 そういえば昔はよく足で踏んでマッサージしてくれたっけ。

 なんとなくそんなことを思い出していると、ワキちゃんがショックを受けたような声をあげた。

 

 

 

「うそでしょ……なんだか微笑ましそうにされてる」

「いやまあ。でも嬉しいぞー」

 

 

 

「……絶対気持ちいいって言わせて見せますから…!」

「いや気持ちはいいぞ」

 

 

 

 

 

 ただちょっと、それ以上に可愛さにあふれてるだけで。

 そんな内心を察したのか、ワキちゃんは今度は俺の上に腰を下ろして言った。薄いお尻がむにゅりと押されてむしろ臀部の骨を感じる…。

 

 

 

 

「……どうですか?」

「いやどうって言われても……」

 

 

 

 改めて考えても華奢だよなぁ、としか。

 

 

 

「……? 男の人はお尻が大好きって聞いたんですけど……」

「まあ確かに」

 

 

 

「………えっちな気持ちになりましたか?」

「え? ……………可愛いなぁ、と」

 

 

 

 普段お前がやってるスキンシップが過激すぎてこのくらいじゃ何ともないんだが…。

 連れションに比べたらノーマルだよ、ノーマル。

 むしろさっきの脱いだ服で視界を塞いできた方がやばかった。

 

 

 

 

「お兄さん、メイドさんですよ…?!」

「うん、めちゃ似合ってる。すごく可愛い」

 

 

 

「…………お兄さん、どうしたらうまだっちするんですか…?」

「お前のメイドさんへのイメージよ」

 

 

 

 

 可愛いのは嬉しいのか、照れつつも予想外のものを見る顔のワキちゃんである。

 というかお前、普段がアレすぎて逆にアピールしようとするとお可愛いのは面白いぞ。

 

 

 

 

「頑張れワキちゃん、お前の思ううまぽいを見せてくれ」

「うまぽい…!? え、えっと……」

 

 

 

 

「じゃ、じゃあお兄さん、こっち……向いてください」

 

 

 

 とりあえず見えないと始まらない。

 高級旅館の座布団に座って向き合ったワキちゃんは、顔を真っ赤にしながら両腕で胸元を強調するように身体を屈めて言った。

 

 

 

………あ、あはーん、うっふーん

「…………………」

 

 

 

 

「お兄さん!? 無言でスマホ出さないで下さい! 撮らないで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 



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掲示板:トレーナーを篭絡する100の方法

 

最近ちょっと運気が悪すぎるのでちょっとお茶を濁させてください…。


 


 

 

 

 

【相談】トレーナーさんを篭絡する100の方法part68【募集】

 

 

1:名無しのウマ娘

※この掲示板はルール(法律)の範囲内でトレーナーさんと添い遂げたいウマ娘のためのものです。

ルールを守って楽しくうまぴょい

 

・匿名推奨

・犯罪行為、もしくはそれを助長する言動の禁止

・あくまで平和的に

 

 

2:名無しのウマ娘

1乙

 

3:名無しの釣り人

最近このスレも流れが速いねー

 

 

4:名無しの閃光

まあ例の方がいますからね。

電撃結婚、そして引退。我々の理想を体現していますし

 

 

5:名無しの帝王

走りで魅了したいんだけど、そういう感じでもいい?

 

 

6:名無しのウマ娘

正直我々としては恋バナできるならなんでもいいです

 

 

7:名無しの普通ウマ娘

私のトレーナーさんがプールに駆り立ててこないように篭絡できませんか!?

 

 

8:名無しのウマ娘

あっ(察し)

 

 

9:名無しのウマ娘

>>5とりあえず帝王さんはトレーナーさんとどのような関係で!?

 

 

10:名無しの帝王

えー。仕方ないなぁ……。

 

あれは僕が子どもの頃、憧れのシンボリルドルフ会長のレースを観た時のことなんだけどね。

その感動を分かち合ったのがその時まだ学生だったトレーナーなんだよねー。

 

 

11:名無しの釣り人

へぇー。けっこう付き合い長いんですねー。

 

 

12:名無しの閃光

なるほど、それで魅了してお付き合いしたい…ということでしょうか

 

 

13:名無しの普通ウマ娘

いいなぁ。私のトレーナーさんもオトナで優しい人が良かったなぁ。

 

 

14:名無しのウマ娘

担当トレーナーいるだけで割と恵まれてるよ(血涙)

 

 

15:名無しのウマ娘

担当がいるのに普通か……いやいいんだけど。

 

 

16:名無しの帝王

いや僕の担当結婚してるし。

 

でもほら、せっかく会長を超えるって誓ってアドバイスとかも貰ったわけで。

なんか悔しいじゃん! 会長の次くらいに僕の走りを認めさせたい相手なんだよ

 

 

17:名無しの釣り人

うんうん、あるよねー。

やっぱりトレーナーさんにはこう、走りを一番に評価して欲しいというか

 

 

18:名無しの閃光

それはその……まあ、昇華できるのは良い事ですね

 

 

19:名無しのウマ娘

ちなみにそのトレーナーの奥さんってウマ娘?

 

 

20:名無しの帝王

そう

 

 

21:名無しのウマ娘

じゃあもう走りで勝つしかないのでは?

 

 

22:名無しの帝王

まあそうだよねぇー。うーん、強敵

 

 

23:名無しのウマ娘

これは……解決でいいの?

 

 

24:名無しのウマ娘

微妙だけど他に手段がないまである。

篭絡して略奪うまぴょいとか言われても困るし…。

 

 

25:名無しのウマ娘

じゃあ次>>7の人

 

篭絡してプールに行きたくない……。知らん、泳げ

 

 

26:名無しの普通ウマ娘

そんなご無体な?!

 

ウマ娘の身体は浮くようにできてないんですよ!

 

 

27:名無しの帝王

ええー。

泳ぐの楽しいじゃん。逆に泳げるようになれば解決じゃない?

 

 

28:名無しの閃光

あとは泳がされる理由にもよりますね

 

 

29:名無しの普通ウマ娘

えっと、確か「ステイヤーとしての才能がある!」とかなんとか…?

 

 

30:名無しの布団

水泳は心肺機能の強化をしつつ、怪我のリスクも低いので私のトレーナーさんもいつも泳がせてきますね

長距離レースなら沢山泳いだ方がいいかもしれません

 

 

31:名無しの普通ウマ娘

いやあああ!? やっぱり長距離レース出ない―!

 

 

32:名無しのウマ娘

トレーナーと仲良くできてないんです?

 

 

33:名無しの普通ウマ娘

いや仲悪いとかじゃないんですけど……

 

すごい期待してくれるトレーナーさんに応えたくはあるし……でも私って結局そんな才能とか覚悟とか無いわけで

 

 

34:名無しの布団

>>33でもそういうものだと思います。

私だってトレーナーさんに「世界一になれる!」って言われてなんとなくレースに出てましたし

 

 

35:名無しのウマ娘

なんとなく……

 

 

36:名無しの釣り人

いやー、流石というか

 

 

37:名無しの閃光

目標レースとか無かったんですか?

 

 

38:名無しの布団

目標は……トレーナーさんが、弥生賞に勝ったら凄いって言ってたので出てみたりとか

皐月賞に勝ったら凄いって言われて出てみたりとか

ご褒美くれるって言われてダービーに出てみたりとか

 

 

39:名無しの普通ウマ娘

す、すごい親近感…!

そう、そうなんですよ! できる、期待してるって言われるとついつい出ちゃうんですよね!

 

 

40:名無しのウマ娘

お、おう……。

 

 

41:名無しのウマ娘

なんかヤバい人と親近感出してるけど…?

 

 

42:名無しの釣り人

勝ったら凄い(なお結果)

 

 

43:名無しの普通ウマ娘

そう結果! 結果なんですよ!

……結果はー、伴ってないんですけど。でもその、だいぶいい感じなのかなーとか

 

ところで布団さんってやばい?んですか? ごめんなさい何か失礼とかしてないでしょうか

 

44:名無しのウマ娘

いや危ない人とかじゃないから

 

 

45:名無しの釣り人

うんうん、でも知らない方がいいこともあるかもー?

 

ないかも

 

 

46:名無しの普通ウマ娘

ど、どどどどどっちなんですか!?

 

 

47:名無しの布団

どどどどどどーすんの?

 

48:名無しのウマ娘

ドドドード・ドードド

 

 

49:名無しの釣り人

ドードリオ?

 

50:名無しの帝王

ドードドのOPみたいなOP

 

51:名無しの喫茶店

トレセン音頭ですか……

 

 

52:名無しのウマ娘

あれは本当に踊りながら歌えっていうの正気を疑う

 

 

53:名無しの帝王

ステップが独特だしねー

 

 

54:名無しの布団

酸素もってこーい、で本当に持ってきてくれるトレーナーさん

 

そして何故か酸素の後にもう一本差し出されるヘリウムガス

ウマウマウマウマ ナンデワラッテルンデスカ⁉ ウソ、コエガヘン⁉

 

 

55:名無しの喫茶店

※ウマ娘でも訓練されたステイヤーでもないと危ないのでやめましょう※

 

 

56:名無しの帝王

あー、あれねー

ひどいよねー

 

面白かったけど

 

57:名無しの大和撫子志望

もうこれ身内ネタじゃないですか…。

 

 

58:名無しのウマ娘

なんかすごいトレーナーさんの集まりいますね…。

 

 

59:名無しの普通ウマ娘

あれ、実は私のトレーナーさんって優しい…?

 

いやいやそんなはずは

 

 

60:名無しの布団

でもトレーナーさんって、最初の担当か、さもなければ悪い人でもないとあんまり大きいことは言わないらしいですよ。

負けた時辛いってトレーナーさんが言ってました

 

 

61:名無しの普通ウマ娘

そ、そんな……じゃあもしかして私には遅れてきた秘密兵器で世代最高の才能が…?

 

 

62:名無しの釣り人

……けっこう盛られてる?

 

 

63:名無しのウマ娘

それは果たして普通のウマ娘なのか?

 

 

64:名無しの閃光

とはいえGⅠレースに出走できるだけでも世代の最高峰と言っていいですし

 

 

65:名無しの普通ウマ娘

あ、そうだ!

結局のところトレーナーさんを篭絡してプールに行かないためにはどうすればいいですか!?

 

 

66:名無しのウマ娘

えー、でもそれなら、えっちな水着を着て強制終了とか?

 

 

67:名無しの普通ウマ娘

持ってないですよそんなの!?

というか、その、着れないです!

 

 

68:名無しの釣り人

じゃあもうレースに勝ってプール練習でなくて良くするしかないかなー

 

 

69:名無しの閃光

結婚してレースに出なくて良くするとかですか?

 

 

70:名無しの布団

オペラとかどうですか?

 

 

71:名無しの釣り人

オペラ…?

 

72:名無しのウマ娘

いや、ええ……?

 

 

73:名無しの普通ウマ娘

いやいやいや、流石にオペラじゃ鍛えられないですってばー

 

 

74:名無しの布団

フランスに遊びに行った時に、お兄さんが考えてくれた練習なんですけど…。

 

 

75:名無しの閃光

これは……審議ですね

 

 

76:名無しの大和撫子志望

恐らく合っているかと

 

 

77:名無しの帝王

やっぱりトレーナーの練習かなりアレだよね

 

 

78:名無しの喫茶店

オペラ……ですか?

 

79:名無しの普通ウマ娘

ええー。流石の私でもオペラで鍛えるなんて騙されませんよー?

 

 

80:名無しのウマ娘

落ち着いて聞くのよ普通子、布団さん嘘つかない

 

 

81:名無しの釣り人

トレセン学園最強の感覚派三傑

・布団の人

・わかっちゃった人

・マベ子

 

82:名無しの普通ウマ娘

なんですか三傑って!?

そんなすごい人なんですか!?

 

 

83:名無しのウマ娘

すごい

 

84:名無しの帝王

とてもすごい

 

 

85:名無しのウマドル

すごいよねー…。

 

 

86:名無しの布団

そういうわけでもないんですけど……どちらかというとトレーナーさんの方が

 

 

87:名無しの普通ウマ娘

ええー……。

 

じゃ、じゃあちょっとオペラ練習もトレーナーさんに掛け合ってみますね、一応

 

 

88:名無しの布団

凱旋門賞とか取ってみて下さい

 

 

89:名無しの喫茶店

そんなお土産みたいな……。

 

 

90:名無しの普通ウマ娘

がいせんもんしょう、って読みますよね?

グレードどのくらいのレースですか…? オープンクラス…?

 

なんだか最近ニュースで聞いたような気はするんですけど

 

 

91:名無しの帝王

凱旋門賞ってそんな気軽に行くところだっけ…?

 

 

92:名無しのウマ娘

まさかすぎる伏兵

 

 

93:名無しの布団

でもオペラ練習するのに凄くいいんですよ?

 

 

94:名無しの閃光

あくまでそちらが主題なんですね…。

 

 

95:名無しの釣り人

グレードは国際GⅠだねー

 

フランスの凱旋門賞

 

 

96:名無しの普通ウマ娘

いやいやいやいや!?

いやいやいやいやいやいやいやいやいや!?

 

実は1勝クラスくらいに凱旋門賞記念とかないですか?!

 

 

97:名無しのウマドル

ないよ☆

 

98:名無しの閃光

ありませんね

 

99:名無しの釣り人

弥生賞サイレンススズカ記念とかならできるかも?

 

 

100:名無しの布団

さすがに語呂が悪すぎるような…

 

 

101:名無しのウマ娘

ぜったい弥生賞としか言われないヤツじゃないですか

 

 

102:名無しの普通ウマ娘

凱旋門賞ってサイレンススズカさんしか勝ってないですよね!?

無理、無理です!

 

ちょいちょい! さてはクロウトだな!?

 

 

103:名無しの布団

でもフランスのご飯も美味しいですよ?

 

 

104:名無しの普通ウマ娘

いや、私はもうふつーのお好み焼きでいいです。お好み焼きがいいんです

 

 

105:名無しの釣り人

でもそれなら泳がなくていいんじゃない?

 

 

106:名無しの閃光

あちらの水質を考えると泳がない方が良いかと

 

 

107:名無しの普通ウマ娘

え? 泳がなくていいんですか?

それはちょっと……かなり心惹かれるような……

 

 

108:名無しの布団

お兄さんに聞いたら「フランスの練習メニュー? ほしけりゃくれてやる! (凱旋門賞遠征スタッフを)さがせ!」

とのことでした

 

 

109:名無しの釣り人

わーい

信頼と安心の凱旋門賞遠征スタッフ(サイレンススズカが制覇済み)

 

110:名無しの普通ウマ娘

泳がなくていい……フランス……

一度は行ってみたい芸術の都……

 

 

111:名無しのウマ娘

観光気分だ―!?

 

 

112:名無しのウマ娘

普通子ってばけっこう神経太いね

 

 

113:名無しの帝王

凱旋門賞に挑む普通のウマ娘かぁ……

最近の普通って発達してるよね

 

 

114:名無しのウマ娘

で、トレーナーさんの篭絡はどうするの?

 

 

115:名無しの普通ウマ娘

う、うーん。

トレーナーさんかぁ………いや、いい人なんですけどね?

 

 

116:名無しの釣り人

ほう、その心は?

 

 

117:名無しの閃光

やはり自分の気持ちを確認しておくのは大切かと

 

 

118:名無しのウマドル

気持ちが分からないと、いざという時に困るもんね!

 

 

119:名無しの普通ウマ娘

まあその、私なんかに期待してくれた、してくれてるのは正直嬉しいというか。

 

レース中にまでおだててくるのはちょっとやりすぎじゃないかなーとは思うんですけど、でもやっぱりトレーナーさんがいないとダメかも……

 

 

120:名無しの布団

え、レース中に告白してくれるんですか?

 

 

121:名無しの普通ウマ娘

いや告白とかじゃないですけどね!?

 

その、私ならできるーって励ましてくれるというか、発破をかけられるというか……

 

 

122:名無しの布団

いいですよね!

 

そういうの、すごくいいと思います。

私もレースだとトレーナーさんに叫んでもらって元気が出るので

 

 

123:名無しの普通ウマ娘

そうなんですか!?

 

まさかこんなところに仲間がいるなんて…!

 

 

124:名無しの釣り人

なんか意気投合してる……

 

 

125:名無しの帝王

うんうん、良かったねー

 

 

126:名無しの閃光

これは本当に凱旋門賞行くのでは…?

 

 

127:名無しの布団

他人の気がしません。

是非私のトレーナーさんと普通ウマ娘さんのトレーナーさんで話してほしいです。

 

そしてもっと叫んで欲しいです

 

 

128:名無しの帝王

もう普通ってなんだっけって感じだけどね

 

 

129:名無しの布団

ちなみにレースに勝った後、応援してくれたお礼にハグとかするといいですよ

 

 

130:名無しの普通ウマ娘

ハグ!?

いや、それはちょっと………大胆すぎません?

 

 

131:名無しの帝王

GⅠならいける

 

132:名無しの閃光

ダービー後とかどうですか?

 

133:名無しの釣り人

叫ぶタイプのトレーナーさんなら勝った勢いでいけそうだけどね

 

 

134:名無しの布団

ハグ、チューと段階を踏むと良いですね

 

 

135:名無しの普通ウマ娘

最近の恋愛事情って進んでるんですね!?

 

 

136:名無しの喫茶店

……恐らく、普通ではないかと

 

 

 

 



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おまけ:寝起きの話

 



オチも何もない没話の供養です
10カ月くらい熟成されてる……



 


 

 

 

 

 

 

――――目が覚めて最初に感じたのは、えもいわれぬモフモフ感であった。

 

 

 幸せそうな、かつだらしのない顔で寝ているスズカ……というかワキちゃんの生耳が腕に当たるのが妙にこそばゆい。

 どこもかしこも折れそうなくらいに細いのに、あれほど速く走れるのはサラブレッドの、ウマソウルを引き継ぐからこそなのだろうか―――。

 

 

 

(いやでもヒシミーことミラ子もいるしな)

 

 

 

 うん、ウマ娘=細いではない。QED.

 

 やっぱり最速の機能美だからかもしれない。

 学園にいると、ゲームみたいに常に理想の状態というわけにはいかないので休暇明けなんかは太り気味のウマ娘たちがあふれて悲惨なことになるのが割と毎年恒例。

 オグリは最早ギャグとしか言えない太り方をするので逆に気にならない(あくまで他チームで関係ないし)が、太ったスぺちゃんとか悲しみしかない。

 

 ファンとしても、トレーナーとしても頭を抱える事態だろう。

 ウチだとグラスは油断するとヤバいか。

 

 

 

 

 でもワキちゃん太らないな……。

 密着しているせいでしっかり感じてしまうすべすべのお腹に、悪いとは思いつつも手を伸ばしてちょっと触れてみる。

 

 

 

 

 ふにふに。

 

 

 

 

「………うーん、柔らかいのにしなやか」

 

 

 

 スラァ、とか薄いなぁという感想しか浮かばないお腹であった。

 なんでこんなウエスト細いの?

 

 

 

 

「………んん………んぅ、おにいさぁん……?」

「あ、おはよう」

 

 

 

 

 とろーんと眠そうな目を開けて、スズカは自分のお腹をふにふにしている俺の手を見て、それから甘えるように頭を擦りつけてきながら言った。

 

 

 

「はふ………そこ、おっぱいじゃないですよ…?」

「いや知ってるけど。ワキちゃん太らないなぁって」

 

 

 

「えっ、おっぱいが太らない……? うそでしょ」

「いや言ってないけど。というかおっぱいは太るって言わないと思う」

 

 

 

 

 

 まあ太るって言葉はやっぱりマイナスイメージあるよね。

 でもやっぱりワキちゃん太らないけど。

 

 

 

 

 

「だってお兄さんが栄養は計算してくれてますし……むしろちゃんと食べないと体重が落ちちゃいますよ…?」

「まああれだけ走ればそうもなるか……ん? ちょっと待てスズカ、お前黙って走ってないよな?」

 

 

 

 

 一緒に居る時の走った量は計算に入れているので、学園での仕事中スズカが友人たちと駆けまわってなければカロリー計算は合っているはずなのだが。

 

 

 

 

「……えっ。あ、その………タイキたちと、少しだけ……」

 

 

 

 

 しゅん、としょげるスズカだが、別に黙ってなければ怒ったりはしないんだが………走ったら教えて欲しい。カロリー調整するから。まあ今回は自白?してくれたから許そう。友達とも走るようになってきたのは若干嬉しいし。

 

 

 

 

「……次からはちゃんと言うように。そういえば胸から痩せるって聞いたことあるな」

「うそでしょ」

 

 

 

 

 男からすれば浪漫のかたまりでも、生物的には無用の長物ということなのだろうか。

 

 

 

 

「………お兄さん、おっぱい大きいと嬉しいですよね?」

「それ割と俺が急に高身長になるくらい無理筋では?」

 

 

 

 別に身長が低いわけではないが、平均としか言えない値である。

 ちなみにワキちゃんはウマ耳分だけ公開プロフィールの身長を盛ってる。

 

 

 

「嬉しいんですよね?」

「いや正直分からん。巨乳を触ったことないし」

 

 

 

 こっちの世界では。

 そんな余分な心の声を感じたのか、なにやら怪しむようなジト目で見られたが嘘はついていない。

 

 

 

「別にそんなの関係なくワキちゃんが一番好きだけど」

「それは―――……その、信じてますけど。でも、できることならお兄さんを喜ばせてあげたいですし」

 

 

 

 

 あっ、別に浮気の心配とかではないのね。

 よかったよかった。

 

 もし疑われているようならもっと真剣に気持ちを伝えられる方策を考えないといけないところだった。

 

 

 

 

「それは遠慮します。お兄さん、大体えっちなことにつなげますし。普通に甘やかしてください」

「だって普通に甘やかすとワキちゃん無防備すぎるし……」

 

 

 

「………無防備…?」

 

 

 

 

 パーソナルスペースなんて知らないとばかりにぴったり甘えてくるし、見られてもあんまり気にしないし密着することに躊躇が無いし。

 

 うん。

 とりあえず服着ようか…。

 

 

 

 

「服着てない時点で無防備だと思う」

「……結婚したら一緒に寝るときは脱ぐんだよって言ったのお兄さんですよね?」

 

 

 

 

 言った。確かに言った。

 でもそれはほら、夫婦のあれこれだし…。

 

 

 

「………着ててもいいんですか?」

「脱がすけど」

 

 

 

「ダメじゃないですか」

「嫌ならやめるけど」

 

 

 

「………むぅ。別に嫌というわけじゃ……夜だけなら」

「むしろ脱がしたい」

 

 

 

 「えぇ……」とちょっと引き気味のワキちゃんだが、真剣な眼差し?に何を感じたのかへにょりと耳を垂れさせた。

 

 

 

「お兄さん?」

「はい」

 

 

 

「そういう時はあらかじめ言って下さいね? 可愛い服を着ておくので」

「善処します」

 

 

 

「それ守らない時の返事じゃないですか」

「うん」

 

 

 

「うぅ……私もなるべく可愛い服しか着てないですけど………大体そういう時のお兄さんは意地悪ですし」

 

 

 

 割と常に意地悪なつもりなのだが。

 

 

 

「でもお兄さん車に乗る時とか必ずエスコートしてくれますし。エレベーターとか必ず扉を開けておいてくれたりとか、食事の時もお金払ってくれますし……」

 

 

 

 

 お金に関しては共用の口座に恐ろしいほどお金入れてくるワキちゃんには言われたくないんだけど。

 CMの出演料とか躊躇なく入れてくるよね? 億単位だと完全に勝ち目がないというか、実質ワキちゃん口座なのでなるべく使わないようにしてるけど。

 

 

 

 

「私の使うお金ってシューズと洋服くらいですし…。あ、でもお兄さんと二人で寝られるおっきいベッドが欲しいです」

「ウマ娘を駄目にするクッションでも買うか」

 

 

 

 

「CMに出たら試供品くれるらしいですよ? クッション」

「マジか。じゃあベッド買うか」

 

 

 

 子どものことを考えるとそのうち実家を出ることも考えねば。

 いやまあ近所に空き地があったらそこに建てればいいような気はするけど。なんやかんやどっちの母親ともワキちゃん仲良しだし。都内で府中にけっこう近いので土地は高いが。

 

 

 

 

 

「自分の家ってちょっと良いよな。母さん放っておくのは心配だけど」

 

 

 

 

 

「お兄さんって実はけっこう子どもっぽいところありますよね」

「………ワキちゃんに言われるなんて」

 

 

 

「どういう意味ですか…!?」

 

 

 

 

 

 だってスズカさんと比べて中身お子様だし…。

 でもクソほど寂しがり屋で甘えん坊になり、外面クールビューティーなスズカさんから頭サイレンススズカなワキちゃんになっただけか。

 

 競走馬が5歳児並みの知能らしいので残念ながら当然の結果。

 

 

 でも男もいくつになっても多分ガキなんだよね。少なくとも二十代になっても子どもの頃とまるで変った気がしない。

 

 

 

 

 

 

「昔はお兄さんって優しくて、カッコ良くて、いつでも落ち着いてて、すごく大人だなーって思ってたのに……」

「それお前大分昔から俺のこと好きだな」

 

 

 

「……確かに」

「あっ、そこは頷くのか」

 

 

 

 

 恋愛なにそれ美味しいんですか、状態だったワキちゃんは走った先の景色と、あと家族と一緒にいることにしか興味無さそうだったが。

 

 

 

「だって別に恋人なんて関係なくずっと一緒でしたし…。チューとうまぴょい以外は大体一緒にしてたじゃないですか」

 

 

 

 

 まあね。

 お風呂一緒に入って一緒に寝て、なんなら髪を乾かしたり頼まれて結んであげたり、服着せてあげるのも割と日常茶飯事だった。

 

 

 

 

「お兄さんの事は昔から大好きでしたけど、そういう意味では今思うと――――…三冠でお兄さんが泣いてる時に『あっ、お兄さんも私がいないとダメなんだな』って思って。それからでしょうか」

 

「うそでしょ」

 

 

 

 

「お兄さん好き好きだったのが、私もお兄さんに色々してあげたいなって」

「………あー、言われてみれば確かに?」

 

 

 

 

 

 まさかの切っ掛けだった。

 かなり恥ずかしい……が、それで可愛い嫁がもらえたなら意味はあった……と、思いたい。

 

 

 

 

「じゃあ泣いてなかったら?」

「…………でもお兄さんが他の女の人に構ってばかりになったら気持ちに気づきそうですよね」

 

 

 

 

 いや気づくか? ワキちゃんだぞ。

 そんな表情に気づいたのか、ワキちゃんもちょっと考えて、それから少し眉をひそめた。

 

 

 

 

 

 

「お兄さん、けっこうカフェさんとかテイオーのことも好きですよね」

「カフェは………いやその、でも正直最近まで嫌われてると思ってたんだけど」

 

 

 

 

 めちゃいい子だとは思っていたけど。

 なんかめっちゃすげなくあしらわれるし嫌われてると思うじゃん?

 

 

 

 

「………お兄さんって、実はけっこうにぶトレーナーさんですよね」

「ぐはっ」

 

 

 

「テイオーなんて……いえ、これは言わないでおきます」

「え、何。気になるんだけど教え――――あ、いえなんでも」

 

 

 

 

 にこり、と微笑んだスズカだがその耳は寝ていた。つまりちょいキレていた。

 ……ワキちゃんでもキレることあるの…? たぶんいきなりお尻引っぱたいても怒らなそうなのに……。

 

 

 

 

「お兄さん、なんですかその目……」

「ワキちゃんならいきなりお尻引っぱたいても怒らなそうなのにっていう目」

 

 

 

 

「お尻叩かれたら流石に怒るんじゃないですか…?」

「よく考えたら叩いた方が精神的ダメージを負いそう」

 

 

 

 

 何が悲しくてワキちゃんに暴力を振るわねばならんのか。

 それなら自分を叩く。

 

 

 

 

「でもお兄さんに叩かれたら確かに怒るより先に困惑しそうですね。……何があったのかなぁって」

「何があったらいきなりお尻叩くんだよ……」

 

 

 

「……虫が止まってたとか?」

「よほど凶悪な虫だったんだな」

 

 

 

 

 

 蜂とか?

 それならもう攻撃しないでなんとか追い払いたいが。

 

 

 でもよくよく考えると、自分で勝手にぐいぐい前に行くサイレンススズカって鞭入れられたことほぼないのでは?

 

 なんとなく手綱引きっぱなしだったり、あとは某レジェンドとマイペース(?)で逃げてる印象しかない。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでテイオーの話は有耶無耶になり。

 ランニング用のシャツとズボンに着替えたワキちゃん、もといスズカと一緒に元気よくランニングに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 命日の投稿がこれでいいのかという思いは正直あるんですが、色々あってダイヤちゃんの二次創作してたらこんな時間でした……




 


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おまけ:格付けチェック

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さて、今年もこの時期がやってきました…。年末有マ記念の激闘も記憶に新しいですが、ウマ娘の格はレースのみにあらず! 『ウマ娘格付けチェック』のお時間です!」

「今年はなんとあのウマ娘も参戦していますからね。結果が楽しみですよ」

 

 

 

 

「それでは早速ですが、出走者を紹介しましょう! まずはこの方です! ――――生涯無敗、世界最強ウマ娘――――サイレンススズカさん! そしてそのトレーナーさんです!」

 

「えっと、よろしくお願いします」

「ヨロシクオネガイシマス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

【新春】ウマ娘格付けチェック雑談スレ【恒例】

 

 

 

1:名無しのファン

一流ウマ娘たちがチームを組んでさまざまなチェックに挑み、間違える度に一流→普通→二流→三流→そっくりさん→消滅とランクダウンしていく格付けバラエティ

 

 

今回の出走者

・???(特別ゲスト)

・スペシャルウィーク、キタサンブラック(初)

・エルコンドルパサー、グラスワンダー

・サトノダイヤモンド(初)、ゴールドシップ

・ライスシャワー(初)、ミホノブルボン(初)

・???(ゲスト)、トウカイテイオー

・キングヘイロー、ハルウララ

 

 

2:名無しのファン

キター!

 

 

3:名無しのファン

建て乙

 

4:名無しのファン

ゲスト楽しみ

 

 

5:名無しのファン

特別ゲストにサイレンススズカ来るか…?

 

 

6:名無しのファン

皇帝シンボリルドルフ会長は?

 

7:名無しのファン

まあ普通に考えたらルドルフ・テイオーペアだが…?

 

 

8:名無しのファン

無敗記録の皇帝陛下は来るでしょ

 

 

9:名無しのファン

キタサン初参戦か

 

10:名無しのファン

ライス遂に参戦かぁー

 

 

11:名無しのファン

盆栽問題で間違えてから盆栽に詳しくなった皇帝

 

 

12:名無しのファン

さてゲストくるか

 

 

13:名無しのファン

サイレンススズカだぁああ!

 

 

14:名無しのファン

マジで来た

 

15:名無しのファン

ってお兄さん!?

 

 

16:名無しのファン

お兄さんナンデ!?

 

 

17:名無しのファン

スズカさんがニッコニコで抱き着いてるので特定余裕でした

 

 

18:名無しのファン

お兄さんの顔よww

 

 

19:名無しのファン

既に顔が死んでる

 

 

20:名無しのファン

どうしたお兄さんw

 

 

21:名無しのファン

スズカさん格付け大丈夫?

 

 

22:名無しのファン

いつも通りで芝

 

 

23:名無しのファン

ほんとに来たか―

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「皆さんご存じチームリギル所属のサイレンススズカさんは14戦14勝、GⅠを10勝、ジャパンカップ、有マ記念、ドバイシーマクラシック、凱旋門賞、BCクラシックと日本と世界の名だたるレースを制覇し国際レーティング世界一位を獲得しています。そして引退と共に担当トレーナーさんとご結婚され、現在ではトレセン学園の特別顧問をされている一流ウマ娘です」

「一流というか、最早世界を制した超一流のウマ娘ですね」

 

 

「そしてトレーナーさんですが……なんと初の担当ウマ娘がサイレンススズカさん。幼馴染として指導を行い10年以上も公私に渡って支え続けてきました。そして更にチームリギルのサブトレーナーとしてグラスワンダー、トウカイテイオー、アドマイヤベガと次々GⅠウマ娘を送り出している一流のトレーナーとなります」

 

 

 

「えっと、一流ウマ娘のサイレンススズカです。一流のお嫁さんになりたいです」

「そして俺が一流のトレーナーです。スズカの隣にいて恥ずかしくないよう頑張ります……」

 

 

 

 

「今回も最終問題を正解しますと1ランクアップとなりますが、特別に『超一流』ランクをご用意しております」

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

24:名無しのファン

まあ一流ウマ娘ですよね

 

 

25:名無しのファン

超一流にこんなことされていいのか…?(建前)

 

いいぞもっとやれ(本音)

 

 

26:名無しのファン

天然入ってそうなスズカさんは大丈夫なのか……

 

 

27:名無しのファン

トレーナーは大丈夫なん?

 

 

28:名無しのファン

いや中央のトレーナーは化け物しかいないゾ

 

 

29:名無しのファン

一流ウマ娘(控えめな表現)

 

 

30:名無しのファン

一流トレーナー(中央なら当然)

 

 

31:名無しのファン

まあ実際問題勉強漬けだっただろう中央トレーナーがどこまで芸能や食事に精通してるか

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ではまず一問目、にんじんジュースです」

「未成年の皆さんに配慮しまして、最高級のにんじんジュースをご用意しております。お酒よりは値段の開きはありませんが、正解は一本6000円の北海道産にんじんジュース。そして不正解はこちら。自販機で売っていた紙パックのにんじんジュースですね」

 

 

 

「これはまあ、一流ウマ娘の皆さんであれば当然正解できると思います」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

39:名無しのファン

まずはキング・ウララペアからか

 

 

40:名無しのファン

まあキングはね

 

 

41:名無しのファン

一流!

 

42:名無しのファン

はい分かれました

 

 

43:名無しのファン

「どっちもおいしかった!」

「これはAよ!」

 

 

44:名無しのファン

はいAになった

 

 

45:名無しのファン

まあキングは間違えないでしょ。普通の問題なら

 

 

46:名無しのファン

たまーにポンコツ化するけど(ボソッ)

 

 

47:名無しのファン

次はエルコンとグラスか

 

 

48:名無しのファン

武士みたいなアイマスクwwww

 

 

49:名無しのファン

「グラスのアイマスクが武士デース!」

 

 

50:名無しのファン

くっそw

 

51:名無しのファン

これは芝

 

52:名無しのファン

言っちゃうのかww

 

 

53:名無しのファン

「エル、正解しなかったら……分かってますね?」

 

 

54:名無しのファン

怖いが?(震え声)

 

55:名無しのファン

グラスちゃんを怒らせてはいけない(byセイちゃん)

 

 

56:名無しのファン

普段温厚な人ほど怒ると怖いからね仕方ないね

 

 

57:名無しのファン

「Aデース!」

「Aですね」

 

58:名無しのファン

割れなかったか

 

 

59:名無しのファン

「普通にAの方が美味しかったデス」

「Aの方がまろやかに感じましたね」

 

 

60:名無しのファン

まあまだ一問目だからね

 

61:名無しのファン

たぶん簡単なのから始まってる

 

 

62:名無しのファン

次はライスとブルボンね

 

 

63:名無しのファン

ブルボンってこういう系のクイズどうなんだろ

 

 

64:名無しのファン

なんとなく強いか弱いかどっちかな気がする

 

 

65:名無しのファン

「えっと……ライスが好きなのはA、かなぁ……?」

「Aの方が糖度が高く、酸味が控えめです。よって高級なものはAではないでしょうか」

 

 

66:名無しのファン

うーん、つよい

 

 

67:名無しのファン

これはつよつよブルボン

 

 

68:名無しのファン

自信なさげなライスちゃんも可愛い

 

 

69:名無しのファン

まあダイヤちゃんはね、普通にAだね

 

 

70:名無しのファン

ゴルシはCの札どっから出した…?

 

 

71:名無しのファン

匂いだけでA選ぶテイオーwww

 

A飲んだらBは要らないカイチョーww……いや強すぎでは?

 

 

72:名無しのファン

うーん、これは一流のウマ娘たち

 

 

73:名無しのファン

今回はガチ面子なんか?

 

 

74:名無しのファン

で、注目のスズカさんか

 

 

75:名無しのファン

果たして一流の舌なのか、馬鹿舌なのか

 

 

76:名無しのファン

割と庶民育ちらしいけどどうなん?

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず恒例の変なアイマスクを付けさせられて、にんじんジュースを一口飲む。

 ……いやまあ、美味しいんだろうけどよく分からないのが本音である。

 

 お高いぶどうジュースとかならまだ分かりそうなのものなのだが。

 

 なんとなく美味しかったAを選ぶと、スズカもAを上げて。

 

 

 

 

 

「お兄さんが前にご褒美で買ってくれたので……Aですね」

「えー、私が紙パックのご褒美を与えてなければAが正解のハズです」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

77:名無しのファン

 

 

78:名無しのファン

紙パックのご褒美もらう世界一のウマ娘とは…?w

 

 

79:名無しのファン

まあスズカさんならそれでも喜ぶだろうけど

 

 

80:名無しのファン

全チームAか

 

81:名無しのファン

まあ最初だからね

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「次の問題は……ファンファーレです」

「やはり一流のウマ娘たるもの音楽にも詳しくあってほしいものです。正解の演奏は天皇賞でもお馴染みの自衛隊の方々が特別に協力してくださいました。不正解は大学生の演奏となります」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

82:名無しのファン

ライブもあるし、ウマ娘は音楽も詳しくなくっちゃね!

 

 

83:名無しのファン

「一流は……Aよ!」

「Bがね、すっごくたのしそうだったの!」

 

 

84:名無しのファン

ウララちゃんが楽しそうでなによりです

 

 

85:名無しのファン

まあ回答者ウララちゃんなので不正解なんですけどねキングさん

 

 

86:名無しのファン

ま、前にウララちゃんは盆栽当てたから……

 

 

87:名無しのファン

あれなー、皇帝が間違えたのをウララちゃん当ててたのは芝生えた

 

 

88:名無しのファン

ときどき光る異彩のウララちゃん。なお普段

 

 

89:名無しのファン

まだ不正解とは決まってないし(震え声)

 

 

90:名無しのファン

次はスぺちゃんとキタサンか

 

 

91:名無しのファン

「うーん、これは……Bですね!」

「Aです! ……ってウソォ!?」

 

 

92:名無しのファン

はい割れました。そしてスぺちゃん回答者

 

 

93:名無しのファン

スぺちゃん……

 

 

94:名無しのファン

なんでそんな自信満々なんだスぺちゃん

 

 

95:名無しのファン

「Bはですね、春を感じました」

 

 

96:名無しのファン

これはダメですね(諦め)

 

 

97:名無しのファン

まあ仕方ない。切り替えていこー!

 

98:名無しのファン

仕方なし

 

 

99:名無しのファン

で、次スズカさんなのか

 

 

100:名無しのファン

スズカさん音楽大丈夫…?

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 当然ながら、中央トレーナーは音楽もしっかり仕込まれている。

 が、今回の回答者はスズカ。

 

 そこはかとない不安はあったのだが。

 

 

 

「これはA、だと思います」

 

 

 

「音楽はウイニングライブしか分からないですけど……ファンファーレは目覚ましにしようとしたこともあって、好きなんです………お兄さんが嫌がるから止めたんですけれど」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

101:名無しのファン

スズカさんww

 

 

102:名無しのファン

「一緒に寝てるお兄さんに配慮しました(ドヤぁ)」

 

 

103:名無しのファン

頭を抱えるお兄さんに芝

 

 

104:名無しのファン

「なるほど、お熱いですね」

 

MCも半笑いじゃねーか

 

 

105:名無しのファン

ファンファーレが目覚ましはレース好きすぎでは?

 

 

106:名無しのファン

うーん、まあスズカさんらしいね

 

 

107:名無しのファン

いや待て、これだとお兄さん>レースだぞ

 

 

108:名無しのファン

まあお兄さんの方が走るスズカさん大好きだからね

 

 

109:名無しのファン

キングはあっさり正解か

 

 

110:名無しのファン

そしてあえて不正解のBの良かったところを挙げていくキング

 

 

111:名無しのファン

これは一流

 

112:名無しのファン

少な目に改善点も指摘してあげる一流(普通ウマ娘)

 

 

113:名無しのファン

こんな一流の上司が欲しかった

 

 

114:名無しのファン

「貴方達ならまだ上を目指せるはずよ」

 

115:名無しのファン

はえー、これがキングかぁ

 

 

116:名無しのファン

今のところ

一流

・サイレンススズカ、お兄さん

・エルコンドルパサー、グラスワンダー

・サトノダイヤモンド、ゴールドシップ

・ライスシャワー、ミホノブルボン

・シンボリルドルフ、トウカイテイオー

普通

・スペシャルウィーク、キタサンブラック(初)

・キングヘイロー、ハルウララ

 

 

117:名無しのファン

うーん、今回の面子強くね?

 

 

118:名無しのファン

まあ問題がまだ簡単よな

 

 

119:名無しのファン

ファンファーレとか俺らでも分かるし…。

 

 

120:名無しのファン

次の問題は……チャーハンか

 

 

121:名無しのファン

正解はミシュラン、不正解は冷凍チャーハン、絶対ダメは相方が作ったチャーハンとな?

 

 

122:名無しのファン

スズカさんがチャーハン作ってるー!?

 

 

123:名無しのファン

料理できたのか…。

 

 

124:名無しのファン

カニっぽいもの、エビっぽいものって具材が

 

 

125:名無しのファン

これ下手したら美味しいのが出てくるのでは?

 

 

126:名無しのファン

いやまあそれくらい見極めろってことだよな

 

※回答者は誰が作ったのか知りません

 

ファッ!?

 

 

127:名無しのファン

「わざと不味く作れば簡単にはなりますが、メシマズの烙印を押されます」

 

つまり不味い不味いと連呼したら相方が出てくるってコト?

 

 

128:名無しのファン

悪質ゥ!

 

129:名無しのファン

チャーハン調理組

サイレンススズカ、スペシャルウィーク、キングヘイロー、ゴールドシップ、ミホノブルボン、シンボリルドルフ

 

回答者

お兄さん、キタサンブラック、ハルウララ、サトノダイヤモンド、ライスシャワー、トウカイテイオー

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さんなら、きっと私のチャーハンは分かってくれると思います」

 

 

 

 すっごいキラキラした笑顔で微笑むスズカであった。

 

 

 

「さあこれは楽しみになって参りました。一流ウマ娘サイレンススズカさんの作ったチャーハンに、一流のトレーナーは気づくことができるのでしょうか」

「まあ奥さんの手料理である点で他チームより有利だと思います」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

130:名無しのファン

ハードル上げていくゥ!

 

 

131:名無しのファン

「奥さんの手料理」そういやそうだな…。

 

 

132:名無しのファン

変なアイマスク付けたお兄さんをすっごい笑顔で見守るスズカさんになんか笑える

 

 

133:名無しのファン

恋する乙女かな?

 

 

134:名無しのファン

さて一口。

 

135:名無しのファン

Aはミシュランかー。

 

 

136:名無しのファン

特に反応なし

 

137:名無しのファン

Bはスズカさんの手料理ね

 

 

138:名無しのファン

めっちゃ首を捻るお兄さんww

 

 

139:名無しのファン

「え? えぇ…?」

 

 

140:名無しのファン

これどっちだ?w 不味いの?w

 

 

141:名無しのファン

「料理人にウチのスズカがいませんか?」

 

 

142:名無しのファン

 

 

143:名無しのファン

キッショ。なんで分かるんだよw

 

 

144:名無しのファン

「あいつミシュランとかに載ってないよな……?」

 

何その心配

 

 

145:名無しのファン

奥さん好きすぎでは?w

 

 

146:名無しのファン

そしてめっちゃ笑顔のスズカさん

 

 

147:名無しのファン

うわー、嬉しそう

 

 

148:名無しのファン

「Cはなんか食べたことのある味ですね。偶に食べます。Bは一番私好みの味ですが味付けに覚えがあるので多分違います。Aは食べたことないので正解だと思います」

 

 

149:名無しのファン

出た庶民特有の消去法

 

 

150:名無しのファン

次はスぺちゃんのチャーハンを食べるキタサンか

 

 

151:名無しのファン

キタサンって舌どうなんだろ

 

 

152:名無しのファン

Aを食べてしきりに頷くキタサン

 

 

153:名無しのファン

おや?

 

154:名無しのファン

なんでだろう。あのアイマスク付けてると全部ダメな方に見えてくる

 

 

155:名無しのファン

Bを食べてちょっと首を捻るキタサン

 

 

156:名無しのファン

スぺちゃんの料理って美味しいのかなぁ

 

 

157:名無しのファン

分からん……シュレーディンガーのメシマズ

 

 

158:名無しのファン

ナチュラルにメシマズ扱いで芝

 

 

159:名無しのファン

Cのチャーハンで耳がぴょこぴょこするキタさん可愛い

 

 

160:名無しのファン

おっとこれは

 

161:名無しのファン

「えっと、なんだか全部美味しかったんですけど……」

 

 

162:名無しのファン

どうだ

 

163:名無しのファン

「Cはトレーナーさんが普段食べてるのと同じ匂いがしました」

 

 

164:名無しのファン

スピカトレーナーwww

 

 

165:名無しのファン

急に流れ弾飛んでて芝

 

 

166:名無しのファン

「Bも美味しかったんですけど、Aはお父さんと食べに行った時の味に似てるので……Aで!」

 

 

167:名無しのファン

キタサンのお父さまはそりゃね

 

 

168:名無しのファン

うーん、それはそう

 

 

169:名無しのファン

これでBの店に行ってたとか言ったら爆笑だったけど

 

 

170:名無しのファン

「スペシャル軒開店ですね」

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 Aの部屋で待っていると、入ってきたのはキタちゃん。

 一応おハナさんと沖野トレの関係もあってそれなりに付き合いもある。

 

 

 

「いらっしゃい」

「あー、良かった! お兄さんいるなら安心ですね! 多分Aだとは思うんですけど……絶対ダメが分からなくって」

 

 

 

「俺の問題だと、Bがスズカのチャーハンみたいな味だったんだけど」

「ええっ!? じゃ、じゃああたしの時ももしかして…?」

 

 

「それか相方のチャーハンかもな」

「あっ、スぺ先輩の……あり得る」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

171:名無しのファン

さてキングのチャーハン……美味そう

 

 

172:名無しのファン

というかお兄さん察してて芝

 

やっぱ中央トレーナーは化け物では?

 

173:名無しのファン

「手を抜くつもりはないけれど、あえて濃いめの味付けにすることで分かりやすくしてみたわ」

 

 

174:名無しのファン

まあ高級店はそうね

 

 

175:名無しのファン

待てキング、回答者はウララだぞ!?

 

 

176:名無しのファン

あっ(察し)

 

177:名無しのファン

「Bがいちばんおいしかった!」

 

 

178:名無しのファン

あっ(尊い)

 

179:名無しのファン

天を仰ぐキング

 

 

180:名無しのファン

どこかその顔は満足げであった

 

 

181:名無しのファン

「当然よ、この一流のキングのチャーハンだもの!」

 

 

182:名無しのファン

←なおすでに普通ウマ娘(更に2ランクダウンが決定)

 

 

183:名無しのファン

無慈悲なテロップ!

 

 

184:名無しのファン

くっそw

 

185:名無しのファン

次はダイヤちゃんか

 

 

186:名無しのファン

まずAで自信ありげに頷くダイヤちゃん

 

 

187:名無しのファン

まあお嬢様だからね……

 

 

188:名無しのファン

そしてB

 

189:名無しのファン

おや…?

 

190:名無しのファン

「え? あれ…?」

 

 

191:名無しのファン

めっちゃ動揺してるwww

 

 

192:名無しのファン

おいゴルシ何をしたw

 

 

193:名無しのファン

Bそっかゴルシチャーハンかww

 

 

194:名無しのファン

Cを食べて小刻みに頷くダイヤちゃんww

 

 

195:名無しのファン

「Cはないです」

 

 

196:名無しのファン

第一声ww

 

 

197:名無しのファン

いやまあそれが不正解だけれどもw

 

 

198:名無しのファン

「ちょ、ちょっと待ってくださいね。実は不正解もミシュランのシェフだったり……しない? 本当ですか? ウチで雇えますか?」

 

 

199:名無しのファン

ゴルシww

 

200:名無しのファン

「ゴルシちゃんの給料は高いぜ。120億くらい」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「AもBも完成度はほぼ互角……Aの方が食材が良いものに思えたので、Aで……」

 

 

「やっぱこれ相方のチャーハンじゃね」

「ゴルシ先輩……」

 

 

 

 こっわ。キタちゃんとなんとなく見つめ合って「相方がゴルシじゃなくて良かった」とか考えているとダイヤちゃんが扉を開けて入ってきて。

 そのままの勢いでキタちゃんに抱き着いて喜びあった。

 

 

 

「キタちゃん!? 良かったぁ……Bのチャーハンも全然わからなくて……キタちゃんはどうしてAに!?」

「あたしは、えっと……Bは普通のチャーハンだったからなぁ……」

「俺は多分Bがスズカのチャーハンだった」

 

 

 

「ということは……ゴルシさん!?」

 

 

 

 

 

 

 






とりあえずタイムリーに出せる分だけ

体調を崩してるので後半は無いかもしれません


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おまけ:格付けチェック(中編)







本日2話目です


なんかできあがったでのご査収ください。







 

 

 

 

 

201:名無しのファン

「辛っ…!?」

 

 

202:名無しのファン

ごふっと噴き出しそうになるグラスちゃんw

 

 

203:名無しのファン

セーフ! セーフです!

 

 

204:名無しのファン

「なんですかこのエルが作ったみたいなチャーハンは」

 

 

205:名無しのファン

激おこw

 

206:名無しのファン

「オゥ……」

 

207:名無しのファン

爆笑してたのに急に耳が萎れるエル

 

 

208:名無しのファン

辛すぎて味が分からなくなったグラスはCを選択

 

 

209:名無しのファン

これはひどいw

 

 

210:名無しのファン

グラスちゃんを怒らせてはいけない……

 

 

211:名無しのファン

グラスちゃんの方が踏んだり蹴ったりなんだよなぁ

 

 

212:名無しのファン

「電子機器を使わない調理には自信があります。任せてください」

 

 

213:名無しのファン

ドヤ顔ブルボン

 

 

214:名無しのファン

「お、美味しい…!?」

 

 

215:名無しのファン

あっ(察し)

 

216:名無しのファン

【悲報】ブルボンのチャーハン美味すぎる

 

 

217:名無しのファン

ご機嫌でBを選んでしまったライス……

 

 

218:名無しのファン

せめてブルボンが作ってると知ってれば避けられたろうに…。

 

 

219:名無しのファン

これがウラライスですか

 

 

220:名無しのファン

「あっ、ウララちゃん……」←何かを察する

「わーいライスちゃんだー!」←誰か来てくれて嬉しい

 

 

221:名無しのファン

そして真顔(ちょっと唇が赤い)グラスちゃん

 

 

222:名無しのファン

くっそw ひでぇ絵面ww

 

 

223:名無しのファン

さあ今度はルドルフチャーハンVSトウカイテイオー

 

 

224:名無しのファン

テイオーはどうだろ

 

 

225:名無しのファン

ご機嫌でAを食べるテイオー

 

 

226:名無しのファン

さて問題のB

 

227:名無しのファン

「あれぇ~? ……あれぇ…?」

 

 

228:名無しのファン

自信がなくなってきたwww

 

 

229:名無しのファン

くっそw

 

230:名無しのファン

「Cはないかなぁ」

 

 

231:名無しのファン

これもう絶対ダメがCでいいのでは?

 

 

232:名無しのファン

まあ最近の冷食は美味しいし…。

 

 

233:名無しのファン

「Aはなんというか、普通に美味しいんだよね。Bが一番好きな味なんだけど………えぇ? ちょっと急に難しすぎない!?」

 

 

234:名無しのファン

テイオー、キレた!w

 

 

235:名無しのファン

まあそれはそう

 

 

236:名無しのファン

ダイヤちゃんもキレていいぞ

 

 

237:名無しのファン

ライスもな

 

238:名無しのファン

「実はマヤノが作ってるとか……無いかぁ。あっ、ゴルシチャーハンとか!?」

 

 

239:名無しのファン

くっそww ルドルフの顔w

 

「私はゴールドシップじゃないよ、テイオー(しょんぼり)」

 

240:名無しのファン

ションボリルドルフww

 

 

241:名無しのファン

ゴルシは皇帝だった?w

 

 

242:名無しのファン

「……あれ? もしかしてカイチョー? カイチョーかなぁ……もう一回B食べてもいい?」

 

 

243:名無しのファン

ダメですw

 

 

244:名無しのファン

「回答してからでいいから! ね? 答えは……あれ? カイチョーのチャーハン当てればいいんだっけ?」

 

 

245:名無しのファン

というかサラっと察してるしw

 

 

246:名無しのファン

「カイチョーのが不正解とかひどくない? こんなにおいしいのに……」

 

 

247:名無しのファン

それはそう(キングを見ながら)

 

248:名無しのファン

それはそう(ブルボンを見ながら)

 

 

249:名無しのファン

チャーハンもってAの部屋に入ってくるテイオーwww

 

 

250:名無しのファン

くっそ芝3200m

 

251:名無しのファン

「は? 俺も欲しいが?」

 

 

252:名無しのファン

キレ気味のお兄さんに芝

 

 

253:名無しのファン

「スズカ、ちょっとチャーハン頼む」

 

「えっと、お願いします…?」

 

 

254:名無しのファン

出前かな?w

 

255:名無しのファン

いそいそと運んでくるスタッフwww

 

 

256:名無しのファン

くっそw

 

257:名無しのファン

特別ゲストつええw

 

 

258:名無しのファン

つよつよゲスト

 

 

259:名無しのファン

「これスズカのチャーハンだな」

「この真っ赤なヤツなんですか…?」

「これです! これ! ゴルシさんどうしてこんな上手なんですか!?」

 

 

260:名無しのファン

なんか試食会始まったけどw

 

 

261:名無しのファン

なんでエルコンのデスソースチャーハン混じってるの?w

 

 

262:名無しのファン

「これは……スぺちゃん?」

「家庭の味ですね」

「素朴で素敵ですね」

 

 

263:名無しのファン

くっそw

 

264:名無しのファン

「普通」ってことだろうなw

 

 

265:名無しのファン

【朗報】スぺちゃんメシマズじゃなかった

 

 

266:名無しのファン

「これゴルシの美味くね?」

「えぇ……いやこれ分からないですよね? ダイヤちゃんどうしてわかったの?」

「この具材がちょっと変わった味だったから……なんとか」

 

 

267:名無しのファン

そうこうしているうちに正解発表

 

 

268:名無しのファン

はいA

 

269:名無しのファン

しょんぼりライス(二流)

しょんぼりウララ(三流)

 

キレてるグラス(普通)

 

 

270:名無しのファン

まああれはキレる

 

 

271:名無しのファン

チャーハン赤すぎて芝枯れる

 

エルはしばかれる

 

 

272:名無しのファン

テレビじゃなかったら吐いてたよねきっと。

 

 

273:名無しのファン

ちょっとお米飛んでたしなw

 

 

274:名無しのファン

一流

・サイレンススズカ、お兄さん

・シンボリルドルフ、トウカイテイオー

・サトノダイヤモンド、ゴールドシップ

 

普通

・スペシャルウィーク、キタサンブラック

・エルコンドルパサー、グラスワンダー

 

二流

・ライスシャワー、ミホノブルボン

 

三流

・キングヘイロー、ハルウララ

 

 

275:名無しのファン

今回は割と強いな

 

 

276:名無しのファン

ゴルシがあんまりふざけてないぞ(今のところ)

 

 

277:名無しのファン

黙ってれば一流とか言われるだけのことはある

 

 

278:名無しのファン

子どもへのファンサービスだけはガチだろゴルシは

 

 

279:名無しのファン

ふざけて良い相手を分かってるゴルシ

 

 

280:名無しのファン

このまま一流でいられるのか

 

 

281:名無しのファン

次は演奏か…

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「続いての問題はオーケストラです。正解は世界でも活躍する東京ウマ娘交響楽団の方々。不正解は東京ウマ娘学芸大学の吹奏楽部の方々です」

「不正解の方も学生としては日本トップクラスの実力者たちです。これはハイレベルな演奏に期待できますよ」

 

 

 

 スズカって楽器とか大丈夫なんだろうか。

 ちょっと不安になって目線を合わせると、米くいてー顔を返された。

 

 これはダメかもわかんね。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

282:名無しのファン

貴重なスズカさんの米くいてー顔です。ご査収ください。

 

 

283:名無しのファン

走りは世界一、料理上手、純愛一途なスズカさんにも弱点が…?

 

 

284:名無しのファン

空気読めないところが弱点では?

 

 

285:名無しのファン

それはそう

 

286:名無しのファン

でも愛嬌でもあるし(震え声)

 

 

287:名無しのファン

フクキタルVSスズカさんはなんというか……うん

 

 

288:名無しのファン

お兄さんには雑に好き好きアピール

フクキタルは単純に雑

 

 

289:名無しのファン

雑にというか常にというか

 

 

290:名無しのファン

割とゴーイングマイウェイだからなスズカさん

 

 

291:名無しのファン

超一流特有の自我の濃さ?

 

 

292:名無しのファン

お兄さんに言わせると「基本的に人の言う事をよく聞くので我は弱い。走り以外」とのこと

 

 

293:名無しのファン

走りはそう

 

294:名無しのファン

大逃げするヤツのキャラが薄かった試しはないからな

 

 

295:名無しのファン

超怖がりとか、自分の前を走るのが許せないとかな

 

 

296:名無しのファン

「私とお兄さんの間に入るなんて……許せません」

 

 

297:名無しのファン

さあ演奏始まるぞ

 

298:名無しのファン

ほーん(わかんね)

 

 

299:名無しのファン

上手いがしかし

 

 

300:名無しのファン

これは……どうなんだ?

 

301:名無しのファン

スズカさんは特に反応なし

 

 

302:名無しのファン

Bも上手いねぇ……

 

 

303:名無しのファン

これは……どっち?

 

 

304:名無しのファン

わからん

 

305:名無しのファン

俺はAかな

 

306:名無しのファン

俺はAに春を感じたぜ

 

 

307:名無しのファン

スぺちゃん……

 

 

308:名無しのファン

早速ネタにされてて芝

 

 

309:名無しのファン

スズカさんは……B

 

 

310:名無しのファン

「どちらも上手だったので、細かな抑揚が心地よかった方にしました」

 

 

311:名無しのファン

なる、ほど…?

 

 

312:名無しのファン

ちなみにお兄さんもBの模様

 

 

313:名無しのファン

なかよし

 

314:名無しのファン

非回答者側

お兄さんB

テイオーB

キタサンA

ウララB

グラスA

ダイヤB

ライスB

 

315:名無しのファン

えぇ……なんか変な割れ方したな

 

 

316:名無しのファン

ウララちゃんはBだ

 

 

317:名無しのファン

実際なんか難しいな今回

 

ウララちゃんを外れ発見器みたいに言うな。難問ほど当ててるんだぞ

 

 

318:名無しのファン

「素晴らしい演奏だった」

 

 

319:名無しのファン

カイチョー褒めとる

 

320:名無しのファン

でも札は迷わずB

 

 

321:名無しのファン

さすカイチョー

 

 

322:名無しのファン

これはBかな?

 

323:名無しのファン

エルコン迷わずA!

 

 

324:名無しのファン

「良く分からなかったので好みの方デース!」

 

 

325:名無しのファン

あかん(アカン)

 

 

326:名無しのファン

自分もAなので何も言えないグラスちゃん

 

 

327:名無しのファン

そしてブルボンB

 

 

328:名無しのファン

「音程の正確性がより高い方にしました」

 

 

329:名無しのファン

これはつよつよウマ娘

 

330:名無しのファン

つえーなブルボン

 

 

331:名無しのファン

まああってそう

 

 

332:名無しのファン

ちなみに正解はBとのこと

 

 

333:名無しのファン

すご

 

334:名無しのファン

ブルボンこえー

 

 

335:名無しのファン

やはりサイボーグでは?

 

 

336:名無しのファン

そしてスぺちゃんはドヤ顔でB

 

 

337:名無しのファン

Bかぁ……あれ?

 

 

338:名無しのファン

合ってる!?

 

339:名無しのファン

スぺちゃんどうした

 

 

340:名無しのファン

悪いものでも食べたのか

 

 

341:名無しのファン

「どっちの演奏も良かったので……Bです!」

 

342:名無しのファン

理由は語らないww

 

 

343:名無しのファン

分かってなさそうな顔で芝

 

 

344:名無しのファン

くっそw

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「あっ、スズカさん!」←すごく嬉しそう

「スぺちゃん……えっと、いらっしゃい?」←ちょっと不安になってきた

「いらっしゃいませ」←余裕そうな無表情

 

 

 

「良い演奏だなって言えんそうだな」←真面目な顔でダジャレの練習

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

345:名無しのファン

カイチョーが別室だからな。不安にもなる

 

 

346:名無しのファン

カイチョー特別室でダジャレ呟くの芝

 

 

347:名無しのファン

面子だけ見ると外れてそう

 

 

348:名無しのファン

そしてゴルシも迷わずB

 

 

349:名無しのファン

「Aも完成度たけーなオイ」

 

 

350:名無しのファン

カイチョーとゴルシに褒められる大学生しゅごい

 

 

351:名無しのファン

そしてスズカさん耳が萎れて来た

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「あっ、ゴルシさん!」←嬉しそう

「ようスペ」←余裕そう

 

「……いらっしゃい?」←すごく心配そう

「いらっしゃいませ」←全く動じてない

 

 

 

 

「これは……エル独り勝ちの可能性が…!?」←ありません

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

352:名無しのファン

独りぼっちで冷や汗流してるエルに芝

 

 

353:名無しのファン

面子だけ見るとB不正解でも驚かないけどな

 

 

354:名無しのファン

なお正解はB

 

355:名無しのファン

さあキングの番だ

 

 

356:名無しのファン

さあどう出る

 

357:名無しのファン

「これは……どちらも素晴らしい演奏だったわ! けれどこのキングが選んだのは―――……」

 

 

358:名無しのファン

選んだのは?

 

359:名無しのファン

止まったが?

 

360:名無しのファン

【お使いのTVは正常です】芝

 

 

361:名無しのファン

相変わらず容赦なくて芝

 

 

362:名無しのファン

お手本のようなぐぬぬ顔

 

 

363:名無しのファン

これはどっちだ?

 

 

364:名無しのファン

三流か?

 

365:名無しのファン

「Bよ!」

 

366:名無しのファン

これは一流

 

367:名無しのファン

さすキング

 

368:名無しのファン

これは一流(三流)

 

 

369:名無しのファン

三流の中の一流かもしれない

 

 

370:名無しのファン

たまーにポカやらかすキングなんておらんかったんや!

 

 

371:名無しのファン

なお過去の放送

 

 

372:名無しのファン

現在の状況

一流

・サイレンススズカ、お兄さん

・シンボリルドルフ、トウカイテイオー

・サトノダイヤモンド、ゴールドシップ

 

普通

・スペシャルウィーク、キタサンブラック

 

二流

・エルコンドルパサー、グラスワンダー

・ライスシャワー、ミホノブルボン

 

三流

・キングヘイロー、ハルウララ

 

 

 

373:名無しのファン

キング踏みとどまったぁ!

 

 

374:名無しのファン

さすキング

 

375:名無しのファン

スぺちゃん今回調子良くね?

 

 

376:名無しのファン

いつも早々に落ちまくって相方に怒られてるのに…。

 

 

377:名無しのファン

珍しく落ちてるグラスちゃん。まあ激辛チャーハンのせいか

 

 

378:名無しのファン

ブルボンチャーハンとかいう罠

 

 

379:名無しのファン

ブルボンチャーハンが混じってるって分かってれば回避できそうなのになー

 

 

380:名無しのファン

それはそれでミシュランをブルボン扱いしそう

 

 

381:名無しのファン

スズカさんって走りだけのド天然じゃなかったのか

 

 

382:名無しのファン

いやド天然だぞ。育ちが良いだけ

 

 

383:名無しのファン

化け物な中央トレーナーが丹精込めて育てた箱入りお嬢様だぞ

 

 

384:名無しのファン

で、次の問題は?

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「次の問題は、『ペース判断』です! 一流ウマ娘の皆さんであれば、恐らく映像を見ただけでペースが早いか遅いか判断できると思います。今回は特別にウマ娘の頭に特別なカメラを装着。一人称視点でのレースを見てペースが早いか遅いか当ててください。ちなみにAハイペース、Bが通常、Cがスローペースの三択です」

「これは実際に見ていただくと分かりますが、非常に難しいですよ」

 

 

 

 

「なおこの問題は中央トレセン学園の理事長に監修していただいています」

 

 

 

 

 そんなわけで、ジョッキーカメラ?を使った映像問題が始まった。

 何故か逃げウマとしてサイレンススズカが参戦しているのだが。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

385:名無しのファン

ファッ!?

 

386:名無しのファン

いや分かるかこんなん!?

 

 

387:名無しのファン

前で見覚えのある栗毛のウマ娘が爆走してるんですが……。

 

 

388:名無しのファン

くっそw

 

389:名無しのファン

情報にノイズが混じるw

 

 

390:名無しのファン

えぇ……いや、前はくそハイペースなんだろうけど

 

 

391:名無しのファン

飛ぶように走ってますねぇ

 

 

392:名無しのファン

サイレンススズカ>>>>逃げウマ娘>>先行>カメラ>>他

 

 

393:名無しのファン

分からん!

 

 

394:名無しのファン

お兄さんCのスロー

 

395:名無しのファン

即答かぁ

 

 

396:名無しのファン

「スズカを入れてくれたのはサービス問題ですね」

 

 

397:名無しのファン

漂う強キャラ感

 

 

398:名無しのファン

これで間違えてたら面白いんだけど

 

 

399:名無しのファン

「スズカがゆっくり目に走ってるのにこの開きは明らかにスロー」

 

 

400:名無しのファン

ゆっくり目…? どこが……?

 

 

 

 

 



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